とある鎮守府のお話 (coffee(微糖))
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初の秘書艦
体内時計が朝を伝える。ゆっくりと目を開け、窓に目をやる。まだ暗いが直に太陽が昇り明るくなることだろう。長年の習慣は素晴らしいもので一度目を開け体を起こしたら眠気は何処かへ飛んで行ってしまった。時計を見ると時刻は朝の4:30。いつも通り、いつもの朝である。私は大きく体を伸ばし一気に力を抜く。心地よい感覚が脳に良い刺激となって伝わり、一日のスイッチが入る。
「さて……。今日も頑張りますか」
時刻は5時。トイレと洗顔、歯磨きを終え朝食は何にしようかと悩んでいたらノックの音が静かな朝の部屋に響く。
「Admiral、私だ。失礼する」
そう言って入ってきたのは最近我が鎮守府に着任したGraf Zeppelin級1番艦 正規空母 Graf Zeppelin(グラーフ・ツェッペリン)だ。運よく、海域攻略中に彼女の艤装を発見することができた。
「おはようグラーフ。今週からは君が秘書艦だな。よろしく」
「こちらこそ、秘書艦としてベストを尽くそう」
「それは頼もしいな。ところで少し来るのが早くないか?それとその荷物は何だ?」
我が鎮守府は6時起床、6時15分点呼を含む集会となっている。だが秘書艦を担当する艦娘はその前に、5:30に執務室に来るようになっている。その日一日のスケジュールを確認してもらうためだ。
それに何も持ってくるものなど指定しておらず疑問が浮かぶ。
グラーフは少し得意げな顔をして私に言った
「初めての秘書艦だから気合が入ってしまってな。目が早く覚めたのだ。だからAdmiralの朝食を作ってやろうと思って……迷惑だったか?」
心配そうな顔をして問いかけてくる。
迷惑だなんてとんでもない。朝から料理は正直気が進まない。その手間が省けるし何よりグラーフの手料理を食べられるのだ。グラーフが持ってきた荷物はその食材といったところだろう。
「むしろ嬉しいくらいだよ。ただでさえ早いのに有難う。それじゃお言葉に甘えてゆっくり準備させてもらうよ」
グラーフは照れたような素振りを見せたがすぐいつものクールな感じを装う。だがそれは声までは行き届かなかったらしく
「任せておけ!Admiralはその間にシャワーでも浴びてくるがいい!」
と気合の入った声で返事をし、所持していたエプロンをつけ帽子をとり簡易キッチンの前まで小走りしていった。
「可愛いなぁ……」
幸せを噛み締めながら私は脱衣所へと入って行った。窓からは眩しいくらいの光があふれていた。
シャワーを浴び終わり、着替えを終えて戻ってみるとグラーフがエプロンを解いているところだった。その仕草はとても魅力的で思わず見とれてしまった。
「Admiral出来たぞ。カイザーロール、チーズとハム。熱いコーヒーもある。召し上がってくれ」
「おお!美味そうだ。………グラーフ」
「どうした?何か気になる点でも…」
「……一緒に食わないのか?座ったらどうだ?」
「一艦娘の私が提督と食事をとるなど…」
「何言ってんだか。そんな事いつもしてる。自分の分も作ってあるのだろう?冷めてしまうから早く座って一緒に食べるぞ」
グラーフは少しムッとしたがすぐ嬉しそうに笑い、キッチンに置いていた自分の分の食事を持ってきて座った。帽子を置く場所探していたので預かり、ソファの上に置く。
「それじゃあ遠慮なく……」
「「いただきます!」」
楽しい食事が終わり6時が迫る。集会場所にそろそろ向かわなくてはならない。
「グラーフ。そろそろ行くか」
「了解した」
執務室の扉を開け、集会場所に向かうべく歩き出す。グラーフは私の隣をついてくる。
近づくにつれ少しづつ声が聞こえてくる。朝の世間話、誰かが誰かを起こす声、笑い声、叱りつける声。それを聞くと鎮守府の一日が始まったと感じる。顔が少しにやけてしまいそれをグラーフに見られてしまった。グラーフは何かを言ったりせず、ただ意味深な笑顔を向けてくる。わざとらしく咳をし、気にしていないふりをして集会場所に向けて歩を進めた。
「川内」
「いるよー」
「妙高」
「全員居ます」
「長門」
「問題ない」
「赤城」
「揃っています」
「グラーフ」
「………よし、大丈夫だ」
点呼は終了。全員揃っているようだ。
「皆おはよう。早速だが今日の大まかなスケジュールだ。まず出撃は無し。朝食後の遠征は阿武隈旗艦、暁、響、電、雷、瑞鳳で近海の哨戒。旗艦天龍、若葉、初春、子日、初霜、三日月で燃料、鉄を確保。その他は各自演習だ。今日は俺が見て回る。以上解散」
そういうと、皆は朝食を取りに食堂に向かった。
そんな中私に声をかけてくるのがいた。
「提督、今日は弓道場に顔を出してくださいませんか?加賀さんも待ってます」
赤城からの誘いだった。分かったというとご機嫌そうに食堂に向かっていった。すると機をみはかっていたのか、後ろからタイミングよく声がする。
「あの提督…、今日お手合わせしてもらってもよろしいでしょうか?」
神通が遠慮がちに聞いてくる。こちらも分かったと返事すると顔に笑顔を咲かせ、待たせていたのか、川内、那珂と一緒に食堂へ向かっていった。
「グラーフ。君も遠征組を見送った後弓道場へ来るか?きっとためになるぞ」
「そうだな。是非、行かせてもらおう。私も早く強くならねば」
「頼りになる先輩たちがいっぱいいるから、落ち着いてゆっくり学べばいいよ」
頭をポンポンと軽く叩いてやると恥ずかしそうに目を伏せる。
「俺もいる。な?」
「……ああ、そうだな。頼りにしているぞ、Admiral」
「ああ、任せろ」
そうして、私達は新しい書類を片付けるため執務室へ向かうのだった。
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