思ったより、このデスゲーム攻略は悪くない (形右)
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~プロローグ~


 二作目の投稿です。

 ではまずはプロローグからどうぞ。


 

 

 

 彼は一人だった。

 だからこそ、誰よりも「信頼」や「愛情」を欲した。しかし、世界は彼に甘くなかった……故に彼は諦めた。人の好意を拒絶した。与えず、与えられることもしないと――

 

 だがそんな彼に神は気まぐれに幸運…と呼べるかわからないが『チャンス』を与えた。

 

 一人の少女のペットを助け、氷の女王に出会い、彼女たちの心を知る。

 彼女たちとの出会いが、彼に久しく忘れていた感情を思い出させる。三人でいるその時間が彼に久しく失っていた『居場所』をもたらした。

 しかし、彼にチャンスを与えたはずの神は非常に気まぐれであった。

 

 小さなことがきっかけとなり、彼ら彼女らはすれ違う。そこから彼は手に入れたと思っていた『居場所』を失いそうになってしまう。

 皮肉にも、そのきっかけとは…自分を大切にすることを〝忘れていた〟ことから始まり、そのきっかけは彼の〝やさしさ〟から始まるものだった――――

 

 

 

 一人の少女を問題に向き合わせるためにまた犠牲になって解決させた。

 

 リア充な奴らの関係を保ちたいという依頼のためまた自分を犠牲にした。

 

 あざとい後輩を説得し『居場所』を守るために自分を曲げてしまった。

 

 

 

 〝傷つくことなんて慣れている、『この』やり方が最も効率がよかった……そうだろ?ほら、見てみろよ。『誰も傷つかない世界』は完成し、『関係の継続』はなっただろうに〟

 

 

 ――――しかし、そう語る彼を彼女たちは否定した。そのやり方を認めたくはない、と……。

 

 すれ違い、ぶつかり合う。

 

 そんな繰り返しの中で、彼は一つの考えに至る。

 

 言わなくてもわかるなんて言うのは幻想に過ぎない、結局は本当の意味での信頼など存在しないのかもしれない。

 しかし、それでも……もしも、偽物だらけの世界に『本物』と呼べるものがあるのだとしたら―――それが、欲しいのだと彼は二人に告げた。

 

 

 

 その言葉を受け、再び関係が修復されていく。

 

 彼女らは、彼を受け入れた。

 

 『本物』と呼べるもの、を欲した彼を再び『居場所』に導いた。

 

 こうして幾度となくすれ違い、道を外れる彼を二人の少女を筆頭とした様々な出会いの中で紡がれたものが彼を支え、導いていく………。

 

 

 本当に様々な出会いがあった――

 

 

 

 

 割と熱血な氷の女王

 優しい心を持ったアホの子

 いけ好かないイケメン

 オカンな炎の女王様

 腐ってらっしゃるお方

 チャラ男

 実行委員長さん…(笑)?

 あざとい後輩系生徒会長

 凄く優しいけど結婚できない先生

 強化外骨格魔王様

 家族思いのヤンキーっぽい川なんとかさん

 天使

 ……中二野郎

 トラウマの根源……(彼女とは再会と言った方が正しいだろうか?)

 

 

 そんな出会いを通して、これまでに彼が失ってしまったものを少しずつ取り戻していく。

 今はもう彼には多くを語らずとも分かり合おうとする人がいて、彼女らはもう彼を孤独になどさせるつもりがない、させてやらない。

 さらには関係を紡いだ人たちもいて、彼はもう孤独などとは言えなくなった。

 

 そう、彼はもう……一人ぼっちなどではなくなっていた。

 

 この物語はそんなひねくれ者の少年が、仮想世界に迷い込んでしまい、やっと手にした『本物』を守り抜こうと奮闘する物語である ―――

 

 

 






 この小説では八幡が、β出身になっています。

 また、八幡にもユニークスキルを与えるつもりです。

 これまた拙い駄文ですが、よろしければ読んでみてください。


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『始まりの街』

 では一話の投稿です!楽しんでいただけたら幸いです。


 

 

 本日午後1時より、世界初のVRMMORPG【Sword・Art・Onlineーソードアートオンラインー】通称SAOの正規版サービスが開始される。

 

 

 それを待ちわびているこの少年、比企谷八幡は千葉県にある総武高校に通う高校生で、このSAOのβテストの経験者であった。そして彼を含めたβテスト経験者、そして他のプレイヤーが待ちわびていた正規版サービスがいよいよ開始される。

 サービス開始まであと10分ほど。八幡は《ナーブギア》と呼ばれるヘッドギアを装着して、ベットに横たる。いよいよ、『剣の世界』に戻れるというところで先日の学校でのやり取りを思い出していた。

 

 ニュースで騒がれるほどのSAOフィーバーの真っ只中なだけあって学校では正規サービスを次の日に控えた総武高校では、SAOの話題で持ちきりだった。

 

 

「隼人くん買った?SAO」

 

「ああ、いよいよだしな。予約に潜り込めたのはラッキーだったよ」

 

「俺もギリッギリで買えたんよ〜ならさならさ!パーティ組もうぜ、パーティ!!」

 

「ああ、いいよ」

 

「戸部運いいよな〜」

 

「くっそ〜俺もあとちょっとだったのにな〜」

 

 このクラスのトップカーストのグループの男子連中、葉山隼人というイケメンと制服の下にパーカー着てる戸部と大柄な大和そして小柄な大岡が話している。するとそこへ金髪の女王的な美女子とメガネのおとなしそうな女子が会話に入っっていく。

 

「隼人ーあーしも入れてよ」

 

「ああ、優美子も買ったのか?」

 

「うん、面白そうだったし、姫奈に勧められたんだよね〜」

 

「いいな〜あたし買えなかったよ〜」

 

 明るめの茶髪の童顔美少女も会話を振られ、その中に入っていった。

 

「結衣残念だったね〜」

 

「はぁ〜でもでも!次の予約には絶対受かるもん!」

 

「じゃあ結衣が来るまでに私たちも強くなってビギナーな結衣をサポートしないとね」

 

「姫奈〜ちゃんと待っててよ〜?」

 

「うん」

 

 とまあこの八幡の所属する2−Fではトップカーストの連中がSAOのことを話しているが、八幡はなんだか嫌だなぁと思った。正直向こうではあいつらに会いたくない、明るめの茶髪の童顔美少女こと由比ヶ浜はまぁ別としても葉山とか戸部そしてあの炎の女王には特に・・・

 

 

 そんなこんなで放課後となり、八幡は自身が所属している部活『奉仕部』の部室へと足を運ぼうとするが、そこへ先ほどの会話の中に出てきた由比ヶ浜結衣がやってきた。

 

「ヒッキー!なんで先行こうとするのさ〜」

 

「まだ慣れなくてな」

 

「むぅ〜あたしはそんなの気にしないのに……」

 

「そのうちに慣れてくさ……。多分だけどな」

 

「…まぁいいけど」

 

 そんな感じで部室に着き、扉を開くと、そこには由比ヶ浜に負けず劣らずの美少女がそこにいた。彼女の名は雪ノ下雪乃、この部活の部長でこの高校の国際教養科に在籍している才女である。

 

「ゆきのんやっはろ〜」

 

「こんにちわ、由比ヶ浜さん、比企谷くん」

 

「よぅ」 

 

 簡単に挨拶をすませると席に座る。ただ、これまでのゴタゴタを乗り越えてきたためか、三人の距離は少しずつ、しかし確実に縮まっていく―――――――

 

 

「そういえばさ〜ゆきのんはSAOって買った?」

 

「いえ、興味はあったけど買うまではしなかったのだけれど……父さんの方のつてでモニターを姉さんとやらされることになったのだけれど、姉さんが辞退したから誰か友人を誘ってこいと言われて……」

 

「ねえゆきのんそれってもしよかったら……あたしでもいい?」

 

「ええ、むしろたすかるけれど……由比ヶ浜さんは買うと言っていた気がして」

 

「いや〜結局予約落ちちゃって……でもそれならゆきのんと一緒にできるね!!」

 

「ええ」

 

「お前らもやるのかSAO」

 

「ヒッキーもやるの!?」

 

「あ、ああ」

 

「やったー!これなら三人でパーティ組めるね!」

 

「由比ヶ浜さん、私は廃人ガヤくんとはパーティを組みたくはないわね」

 

「雪ノ下、酷くないか?いくらβt……あ」

 

「もしかしてあなた、βテスターなの?」

 

「……あぁ、そうだ。前の1000人に選ばれたことがある」

 

「すっごーい!!ならヒッキー、あたしたちにいろいろ教えてほしいな!」

 

「ああ、いいけど……例えば何について知りたいんだ?」

 

「えっとね、使える装備とか?」

 

「武器のことならカテゴリについては結構情報は出回ってるから知ってると思うけど、主に片手剣、両手剣、片手斧、両手斧、片手長柄、両手長柄、短剣、細剣、大剣、曲刀、槍とかそんなところだな。他にもいろいろあるって話があるんだけどな」

 

「長柄と細剣って何?」

 

「えっとな、長柄はメイスって言われるやつだな。細剣はレイピアっていう武器なんだけどな――――――こんなやつな」

 

 スマホでささっと画像を検索してみせる

 

「なんかメイスって金棒っていうか棍棒みたいだね」

 

「ま、その類いだな」

 

「このレイピアってなんだか綺麗だね」

 

「ま、これはSAOのやつじゃないけど結構武器の装飾も豊富だからな期待はしていいと思うぞ」

 

「ふ〜ん」

 

「レイピアは速さを重視する剣で威力は貫通というか連続攻撃が得意な武器でな、速度重視な人にはいいかもな。str要求もそんなに高くないし」

 

「すとれんぐす?」

 

「筋力値のことだ。これが高い武器だと一撃一撃の威力が高くなるんだ」

 

「そうなんだ〜」

 

「比企谷くん、槍なんていうのもあるの?」

 

「ああ、確かあったはずだ。これは近接というよりは中距離での戦闘で威力が高くなる武器だな、体力ないお前には向いてるかもな。あと単純にイメージしやすい」

 

「あ、それはなんかわかる。ゆきのんすごくそういうの似合いそう、どっちかっていうと薙刀?みたいな」

 

「姫武将ってか?」(文庫が違うけどな)

 

 筆者は、十兵衛ちゃんとか義元ちゃん好きです。アニメ二期こないかなぁ~。

 

「姫武将って結局武将なの?姫なの………?」

 

「気にするな、ネタが伝わらなければそれまでだ」

 

「そう」

 

「ま、ともかくさ。ゆきのんとあたしにレクチャーしてねヒッキー?」

 

 その上目図解やめてくださいめちゃ可愛いから、勘違い思想になるから。というかかなり開いてるからそのはち切れそうなのが見えそうなんですが!?(敢えて何とは言わないが)

 

 そんな感じで約束を取り付けられてしまいあったら必ず教えてと言われてしまった。そのまま下校したあとその日の夜に三人からメールが来た。

 一人目は由比ヶ浜で先ほどの内容の続きみたいなものだった。二人目は材木座で予約にあぶれてしまったらしい、あとで貸してくれとか載ってたからまあいいけどと返そうかと思ったがそのあとに中二病全開の内容が載っていたので一言「気が失せた」とだけ返した。するとその5秒後「スミマセンした」と返って来た。全くキャラがぶれすぎだ。

 そして待望の三人目は戸塚で気の毒なことに戸塚も予約から落ちてしまったらしい。神の野郎マジで何してんだよ・・・戸塚と冒険とか俺得すぎるのに!神の野郎マジでくたばれ!!と思ったが戸塚の「あとから買うだろうからその時は教えてね」と書かれていたのを見ると「任せてくれ!」と速攻で返信した。戸塚ってマジ天使、もうトツカエルとかミカエル超えちゃう勢い。

 

 

 とまあそんなことを思い返しているうちに既に時刻は午後12時59分になっていた。いよいよとそのまま八幡は目を閉じ、こう叫んだ。

 

 ――――――リンクスタート!――――――

 

 

 すると目の前を様々なグラフィックが飛び、幾つかのアイコンが表示され、認証→ログイン→βのキャラデータを使いますか?という表示が出たのでYESを押した。(当たり前だがレベルやアイテムは引き継がれない)

 そして次に目を開けた時はーーーー

 

 

 

 

 ――――――――――八幡は始まりの町の広場に立っていた。

 

「ついに戻ってきたな、この世界に……」

 

 すると横にもログインしてきた奴がいてそいつの顔を見ると、なんと知っている奴だった。

 

「キリトか」

 

「ハチか!ひさしぶりだな、β以来か」

 

「そうだな」

 

 こいつの名はキリト。βの一緒に戦っていた奴でなんとなくぼっち気質というかなんというか、俺にしては珍しくあっさり友達になってしまった。こいつは雪ノ下や由比ヶ浜と同じく素直というか純粋な感じで『偽物』ではなきく『本物』の友人というものに位置している。仮想世界とはいえそんな友人ができたのは柄じゃないが嬉しかった。ちなみにここでの俺のプレイヤーネームはハチヤという。所詮は本名のもじりだけどな。

 

「じゃあこれから一緒に狩りに行かないか?」

 

「ああ、いいぜ」

 

 そうして俺にしては珍しく二人で行動を始めた。

  そうして狩り場へ向かう途中、自分らよりも年上の青年プレイヤーに声をかけられた。

 

「その迷いのない動きっぷり、あんたらβテスターだよな?」

 

「ああ、そうだけど?」

 

「俺今日が初ダイブでさ、序盤のコツとか教えてくれねぇかな?」

 

 普段なら断るところな気もするが、此処はゲームの中だし、何よりコツを教わるというならそれは悪いことではない。おんぶに抱っこでいこうというなら突っ撥ねるか無視だがそういう事ならと俺はOKを出す。

 

「ハチにしては珍しく素直だな」

 

「飢えたものには魚ではなく魚の取り方をがウチの部長様のモットーでね」

 

「ふーん」

 

 

 そんな訳で声をかけてきたクラインと共に狩り場へ向かう。そこで一通りスキルについて教えて、実践に移る。まさに実戦で実践だな……スミマセン上手くなんてないよね……

 

「ぐおっ!?」

 

 そんな事を考えているとクラインがMobモンスターのフレンジーボアに吹っ飛ばされてる。

 

「おいおい、何やってんだよクライン」

 

「だってよ、あいつ動きやがるしよぉ」

 

「ま、動くのは当たり前だ。カカシじゃねぇしな、重要なのは初動のモーションだってさ」

 

「モーションつったてよ……」

 

「なんて言えばいいかな……少し貯めを入れてスパーンって打ち込む感じ、かなっ!」

 

 キリトがそこに転がってる石を拾い上げ、構えをとるとソードスキルを発動させてフレイジーボアに投げつける。するとそのイノシシはハチヤに向かって突進してくる。

 

「こんな感じに、モーションさえしっかりと発動させればあとはシステムが技を命中させてくれるよ」

 

「モーション、モーションねぇ……」

 

 するとクラインは手にしている片手用曲剣を構え、いい感じにモーションの構えをとる。それを見てハチヤがニヤッと笑い「いい感じだ、そのまま行け!」とフレイジーボアをクラインに向かわせる為に剣で抑えていたボアに蹴りをいれて方向を変える。

 

「せやぁっ!」

 

 そしてクラインの片手用曲剣の初期ソードスキル「リーバー」をフレイジーボアに向けて放つとHPゲージを吹き飛ばす。

 

「―――――ッ!うぉっっしゃあああ!」

 

「おめでと」

 

「おめでとさん」

 

「ああ!」

 

「でも、今のモンスタードラ●エでいうとこのスライム相当だけどな」

 

「え!マジかよ……俺はてっきり中ボスかなんかかと」

 

「なわきゃねぇだろう?」

 

 ハチヤがフィールドの外の方を指をさすと、そこにはボアの大群がいた。

 

「あがっ……マジかよ」

 

「ははは……」

 

 そんな感じで苦笑しているとクラインがソードスキルの発動のコツがさっきので分かったようで、おさらいのつもりか何度もスキルを発動して感覚を体で覚えているようだ。

 

「おぉ~!」

 

「ハマるだろ?」

 

「まぁな!」

 

「スキルってよ、こういう戦闘系から日常の奴まで色々あんだろ?」

 

「ああ、その種類は無限とさえ言われている位だからな、でも魔法はないけどな」

 

「RPGで魔法なしとは大胆な設定だよな!」

 

「よし次行くか?」

 

「おう!」

 

 こうしてそのあともしばらく狩りを続けているともう日が暮れ始めてしまっていた。

 

「いや~狩った狩った」

 

「もうだいぶ経験値とったな」

 

「ハチもうレベル2行きそうだもんな」

 

「キリトもだろ?」

 

「お前らやっぱり手馴れてるな~」

 

「ま、クラインもはじめてにしては結構いい線言ってるぜ?」

 

「だな、このままいけば最前線のプレイヤーになれるぞ?」

 

「マジ!?」

 

「ああ、俺らが保証してやるよ」

 

「おお、サンキュ!」

 

「しっかし、ここが仮想世界なんていまだに信じられねえよ。作った奴は天才だ……」

 

「そうだな、俺らもβで初ダイブしたときはかなり感動したよ。俺のフルダイブ初体験はβ版SAOだったからな」

 

 そうハチヤが言うとキリトもそれに続けてこう言った。

 

「俺は結構ほかにもやっていたけどSAOに出会ってこの世界のことで頭がいっぱいだったよ」

 

「キリトおめぇ、相当ハマってんな?」

 

 ニヤッとクラインが言うとキリトも笑みを返しながら答える。

 

「ああ、この世界は(コイツ)一本でそこまでもいけるんだ。この先が楽しみで仕方ないよ」

 

「そうか。あ、そういやβん時はどこまで行けたんだ?」

 

「ハチと組んでも2か月かけて9層までだった。でも、今度は1か月で10層まで行ってやる!」

 

「そん時は俺も協力させてもらうぜ」

 

「おう」

 

「そういえばキリト、クラインお前らどうするんだ?俺そろそろ落ちようかと思ってんだよ、飯の時間とか的に」

 

「う~ん、俺はどうるかな……」

 

「俺もそろそろ落ちることにするぜ、腹減ったしな」

 

「そっか」

 

「クラインもしかしてなんか予約したりしてんのか?」

 

「おうよ17:30にアツアツのピザを予約済みだぜ!」

 

「準備万端だな」

 

「ま、そういうわけで俺はいったん落ちるわ。後でまた来るだろうけどな。明日も休みだし」

 

「そうか」

 

「そういやよ、俺ほかのゲームで知り合った連中と街で会う約束してんだけど……どうだ、よかったらそいつらともフレンド登録しねぇか?」

 

「いや……俺は」

 

「……俺はいい、たぶん攻略して上がっていけばいずれ会うだろうしな。それに、いずれ会うならその時にわかるさ。俺は表面上の『偽物』の関係はもういらないんだ。ここは仮想世界だが人が触れ合う以上そこにある『絆』とか『信頼』ってやつは『本物』であるべきだと思ってる。このことを最近になって教えてもらったんだよな、そして気づかされた。傷つくことだけが正しいことじゃないって……」

 

 

 俺のこんな言葉をクラインとキリトは黙って聞いてくれた。本当にこいつらもあいつらと同じにちゃんと人間の根っこをわかってるんだと思う。

 

 

「そうか……ま、ハチの言う通りそのうち会えるだろうしな。じゃあ、また今度会おうぜ」

 

「ああ」  「おう」

 

 そういうとクラインはメインメニューを開きログアウトボタンを探す。それを見てハチヤも「じゃあ俺もいったん落ちる」とキリトにいってメインメニューを開くが―――――――――

 

 

 ――――――――おかしい、メニューにログアウトボタンがない……だと?

 そんなことがあり得るのだろうか?確かに本日はサービス初日でバグという可能性もなくもないと思う。だがこんな今後の運営にかかわりそうなバグなら、サーバーを停止させ一斉ログアウトという対策をとるなりして点検しなければならないはずだ。なのに、何も置きない。クラインも疑問に思ったらしくキリトや俺に聞いてくる。

 

「他にログアウトの仕方ってあるっけか?」

 

「―――――――――――ない。プレイヤーが自発的にログアウトするにはメインメニューを操作するしかない………おかしすぎる」

 

「ああ、こんなバグなら今後にかかわりかねないのに……運営は何もしていない」

 

「考えすぎじゃね?まだ初日なんだしよぉ……?」

 

 確かにクラインの疑問ももっともだ、だがハチヤはこう返す。

 

「初日だからなんだよ、クライン。初日からのこんな致命的なバグは早く直さないとこのゲームの存続自体にかかわってくる、ってくらいの事なんだよ」

 

「……確かにGMコールもさっきからうんともすんとも言わねぇ……これってまさか、ホントになにかあったってことなのか?」

 

 

「わかんねけど俺たちはどうやらもうしばらくは飯にはありつけそうにないな」

 

「?どういうことだよハチ?」

 

「ほら、もう17:25だぜ、クライン?」

 

 するとクラインはやっと気づいたようで顔が青ざめ始める。

 

「俺様のアンチョビピッツァとジンジャーエールがあああ!?」

 

「クライン落ち着け。まぁ、かくいう俺も妹の作った飯が食えないのは不満ではあるんだが……」

 

「そういえばハチも妹いたんだよな」

 

「キリトもだっけ?」

 

「ああ確かハチの妹の2つ下の中一」

 

「そうだったな」

 

「………お前ら妹いんの?」

 

「ああ、だが紹介はしないぞ。俺の妹は誰にもやらん!」

 

「ハチ、おめぇつれねぇなぁ」

 

「何とでも言ってくれ」

 

 そんなことを言っていると突然《始まりの街》の鐘が鳴り響く。その音色はどこか不気味さを帯びていて何かを前兆しているようだった……

 

 そして、その鐘の音と共に三人の体は光に包まれてしまい――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――気が付くと、始まりの街の中央に位置する大広場に転移してしまっていた。

 

「なんだ……何が起こったんだ?」

 

「強制転移みたいだな、始まりの街の広場に飛ばされたみたいだ」

 

 何が起こったか分からない様子のクラインにキリトは状況を確認するように答える。周囲を見渡すと、広場にはハチヤ達と同じように転移されてきたであろうプレイヤーたちがごった返していた。

 この現象は何なのだろう……イベントな類なのだろうか?実際にも似たようなことを考えてる輩もいるようで「なんだよイベントかなんかか?」、「早く終われよな~」などと軽口をたたいているものや、ログアウトできなくなったことから「ここで謝罪してログアウトさせるのか?」等と言う者もいるが……その考えは、次の瞬間に宙に浮かび上がった≪WARNING≫と≪SYSTEMANNOUNCEMENT≫の文字にかき消される。

 その表示が瞬く間に増殖し、空一面を紅く覆い尽くしてしまう。さらにそこから赤黒い血のような液体が漏れ出すように滴り落ちると、それは空中に留まって一点に集まり巨大な何かを形作っていく……

 

 

 そうして現れたのは真紅のローブをまとった影法師のようなアバター、しかしそのローブのフードの中にあるはずの顔は存在していなかった。

 

 そしてそのアバターは空中に漂いながら、大広場の1万人近いプレイヤーたちを見下ろしながら語りだした。

 

 

 

 《プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。現在、この世界をコントロール出来る唯一の人間だ》

 

 このアナウンスに周囲のプレイヤーたちはざわめく、いまだにこれがイベントなのかどうか判断しかねているのだろう。だが、ハチヤはなんとなくこの茅場晶彦を名乗るアバターが彼の手によって動かされていることをなんとなく察していた。

 

 《プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしこれはゲームの不具合ではない、繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、【ソードアート・オンライン】本来の仕様である。今後諸君らは、このゲームから自発的にログアウトすることは出来ない》

 

 その淡々とした口調にハチヤは茅場晶彦という人間の狂気をひしひしと感じていた。それはキリトも同じようで空に浮かぶアバターを凝視している。

 

 《また、外部からのナーヴギアの停止、または解除による強制ログアウトもありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる。》

 

 その言葉のいよいよ戸惑い始めるプレイヤーたち。そしてハチヤの隣に立っているクラインもこの言葉に戸惑っているようだ。

 

「脳を破壊って……たかがゲーム機のナーヴギアにそんなことできるわけ………」

 

「いや……確かにナーヴギアの高出力マイクロウェーブは電子レンジと同じ原理だ。できないわけではない、と思うけど。そんな高出力の電磁波なんて電源を抜いてしまったら使えるわけなし……」

 

 そこまで語ってキリトは絶句する。その電磁波の確保を可能にするものがナーヴギアには搭載されている。

 

「お、おい、まさか……」

 

「………うん、ナーヴギアにはかなり大容量のバッテリーが内蔵されてる。3日は持つとかって話だから、それを使えば、俺たちの脳を焼くくらいはできる……」

 

 その言葉を聞いて驚愕するクラインだが、そんなクラインやほかのプレイヤーたちをお構いなしに茅場の話は続いていく。

 

 《しかし残念ながら、警告を無視してナーヴギアの解除を試みた例が少なからず存在し、既に213名のプレイヤーがこのソードアートオンラインの世界から、そして現実世界からも退場している》

 

 そう言って、茅場は幾つかのウインドウを出現させる。するとそこには、ナーヴギアによる死亡者のニュース映像が流れており、茅場の発言が狂言ではないことを決定づける……。

 

 《様々なメディアが繰り返しこの事実を報道したことを鑑み、これ以上ナーヴギアの強制解除による被害者が出る可能性は低くなった。諸君らは安心してゲーム攻略に専念してほしい》

 

 そのセリフにプレイヤーたちはついに悲鳴にも似た声を上げるものも出てくる。そこへ茅場が告げてくるゲームクリアの条件、つまり解放の条件とは―――――――

 

 《諸君らがこの世界から解放される方法はただ1つ。この始まりの街の存在するアインクラッド第一層から第100層までの迷宮を踏破し、その頂点に存在する最終ボスを撃破し、このゲームをクリアすることだけだ》

 

 その茅場の発言に耐えきれなくなったクラインが茅場に向けて叫ぶ。

 

「第100層だと……?ふざけんな!!βテストじゃろくに上がれなかったんだろうが!!??」

 

 クラインのその発言は正しく、先ほどキリトが述べたようにβでの攻略では2ヶ月で第9層までしか到達できなかったのだ。それを今度は、第100層までクリアしろという。確かに理不尽である、これでは単純に計算しても手練れを集めて1か月10層と考えても10か月かかることに、そこまで計算したハチヤの思考を遮るように茅場のとんでもない条件の上乗せが提示される。

 

 《しかし、充分留意して頂きたい。今後このゲームにおいて、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。プレイヤーのHPが0になりHPゲージが消えた瞬間に、諸君らのアバターはアインクラッドおよびゲーム内から永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊され---現実の世界からも永久に消滅する》

 

 悲鳴を上げるどころか声も出ないプレイヤーたちにせめてもの配慮なのか茅場はこう告げてきた。

 

 《ただ、それ以外のことによって諸君らが死亡することはまずないと言っていいだろう。この事件は先ほども述べたように各種メディアが報道して既に公に認知されている状態だ。諸君らはナーヴギアの回線切断猶予時間となっている2時間以内に各医療施設に搬送され厳重な看護体制のもとにおかれることになるだろう》

 

 しかし、それに反応するものはほとんどいない。むしろここまで一度に怒ってしまったことを受け入れかねているのだ。

 しかし、おそらく奴は本気だ。そうハチヤは確信した。彼は、茅場晶彦は、本当に自分たちプレイヤーに〝本当の命を懸けた〟デスゲームをやらせようとしているのだ……。

 

 《それでは最後に、私からプレイヤー諸君に対するささやかなプレゼントだ。各自アイテムストレージを確認してほしい》

 

 ストレージを確認してみるとそこに書いてあるアイテム名は――――『手鏡』

 

「何だこりゃ……?」

 

 

 茅場によってアイテムストレージに送られたアイテム《手鏡》を手に持ったプレイヤーたちが次々と青い光に包まれ始める……しかし、すぐにその光は消え、そこに現れたのは――――――誰だ、こいつら……。

 キリトとクラインが居たはずの場所には、見覚えのない中世的な顔立ちの黒髪の少年と髭面の男性が立っていた。

 

「誰だお前ら……?」

 

「お前こそって、まさかハチ……か?」

 

「え、じゃあお前は……キリト?」

 

 ということは、こちらの男がクラインということになる。

 

「クライン……歳ごまかしすぎじゃないか?」

 

「大きなお世話だ!!これでもまだ22歳なんだよ!!」

 

「「マジか!?」」

 

 クラインの年齢に驚いていた忘れていたが周りを見ると、俺たちと同じように、先ほどまで存在していた美男美女のアバターが軒並み平凡な顔のアバターへと変化していた。つまりほかのプレイヤーたちのアバターも現実を反映したものとなっているということか……ちなみにネカマも本来の性別に戻されてたのでちょっとばかしおぞましい光景もちらほらと見える。

 うん……嘘はよくないよね?そう1人で納得し、キリトとクラインに視線を戻すと二人はなんでアバターを現実のも姿に変えられたのかについて話している。

 

「たぶん、俺たちのアバターを見る限り周りも同じように現実世界の容姿に変えられたんだと思う。ナーヴギアは高密度の信号素子で顔を覆ってる、だから顔の形を把握できたんだ・・・でも体型や身長はどうやって……?」

 

「確か、ナーヴギアの初期設定でキャリブレーション?とかいうので身体をあちこち触らせられただろ?多分あれで……」

 

「なるほどその時のデータを元に……」

 

 俺たちがそうやって一連の状況を一通り推察して納得していると、再び影法師……茅場が語り始める。

 

「諸君らは今、何故?と思っているだろう。何故、ナーヴィギアの開発者でありソードアートオンラインのゲームクリエイターの茅場晶彦はこのようなことをしたのか、と」

 

 俺達はその言葉に神経を集中させ聞きいる。茅場晶彦のこのテロ行為と言ってもいいほどの仮想世界における一万人ものプレイヤーを監禁した、この一連の行動に目的があるとするのならば、それがいったいなんであるのかを聞かねばならない。

 だが、それに続く言葉は……俺たちの予想を完膚なきまでに打ち壊してしまう。

 

「しかし、既に私に目的は達せられている。この世界を作り、鑑賞するためにのみ、私はこの世界を、《ソードアートオンライン》を作った……」

 

 そう言った茅場は顔は見えないが、非常に満足そうの声で語っているのはわかった。

 

「そして今、その目的は――――――――達成せしめられた……」

 

 そして、最後に締めくくるように茅場は余韻に浸るようにしてから、俺たちを見下ろしながらこういった。

 

「それでは長くなったが……これで《ソードアートオンライン》正式サービスのチュートリアルを終了とする。プレイヤー諸君の健闘を祈る」

 

 言い終えると、茅場のアバターの影法師は耳障りなノイズを立てながらバグに侵食されていくように崩れ去り、それと同時に空を覆っていた紅い表示も一瞬にして消え元の夕暮れの空に変わった……。

 

 

 こうして、俺たちのデスゲームは幕を上げた。

 

 

 そして、その場に残されたプレイヤーたちはもう大パニックを起こしており「ここから出せ!」という声や「嫌あああああ!」という叫び声が轟く。

 

 

 しかし、俺たちは呆然と立ち尽くし、この空間から隔絶され遠くから聞こえる始まりの街の市街地BGMだけが耳に聞こえるような気分だった。

 しかし、これは仮想世界での出来事ではあるが《現実》の事だということを認識せざるを得ない。俺たちは広場の群衆から一旦離れ、路地裏に移った。

 

「二人とも、わかってると思うけど。さっきの茅場の言葉が真実なら、この世界で生き残る為にはひたすら自分を強化していくしかない。その強化のために必要な金や経験値も、ゲーム内のリソースには限界があるから、始まりの街周辺のモンスターは他のプレイヤーたちにすぐ狩り尽くされてしまう。この状況でより多くのリソースを得るためには次の村を拠点にしたほうがいい。俺やハチなら危険なポイントも安全なルートも全部知ってるから今レベル1の俺たちでも安全にたどり着ける」

 

 キリトの言葉はおおむね正しいが、厳密に言えば、単に生きる〝だけ〟なら経験値も金も必要ない。ゲーム内なら餓死することはないし、野宿すれば宿代もかからないからだ。とはいえ現実問題、空腹が再現されているこのゲームの中でそれにひたすら耐えるのは難しいだろうし、様々なリスクを考えると野宿も控えた方が賢明だ。

 ゆえにキリトの言っていることは正しいが……。

 

「今日は別行動だったけど、オレは他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜でこのソフトを買ったんだ。あいつらを置いてはいけねぇよ……」

 

「……その知り合いっていうのは、何人居るんだ?」

 

「3人だ」

 

 キリトの顔が少し曇る。仮に俺とキリトが同行したとしても、クラインを含めた4人の初心者を連れての行動はかなり厳しい。交戦的(アクティブ)モンスターを倒しながら4人守るのはかなり難しい。そして、守り切れなかった場合のことを考えると一緒に街を出ようなどとは軽々しく言えない。

 そんなキリトの様子を察したのか、クラインは少し硬いが笑みを浮かべるとキリトに首を横に降るとこういった。

 

「いや、これ以上お前らに迷惑をかけるわけにはいかねえよ。お前らに教わったテクでどうにかして見せるさ。これでも、前のゲームじゃギルドの頭張ってたしな。」

 

「……そうか」

 

 キリトはいまだに表情が曇ったまま俺にもこの後どうするかを聞いて来た。

 

「ハチはこれからどうするんだ?」

 

「…俺も少しだけ確認したいことがあるが、たぶんすぐに次の村に行く。その時にまた会おう」

 

「分かった……」

 

 こうして、三人は別れることになった。そして控えめにキリトが「それじゃあ、な……」という言葉を引き金にしてそれぞれ別れを告げそれぞれの行く場所へと歩を進める。

 

「キリト、ハチ!……えっと、な」

 

「取り敢えずありがとな……」

 

「ああ」  「おう」

 

「あ、あとキリト、おめぇ、案外かわいい顔してんだな。結構好みだぜ?あとハチよぉ、おめぇイケメンすぎて羨ましいぜ!爆発しろ」

 

「お前もその野武士面のほうが10倍にあってるよ!」

 

「誰がイケメンだっての、現実じゃ目が腐ってるとかって言われてるぼっちに爆発する隙なんてねぇよ!(最近はまぁ……少しだけましになったけど、な……)」

 

 こうやって、三人は冗談を飛ばし合いながらそれぞれの目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 そして、広場に戻ったハチヤは〝彼女たち〟がここにいないことを祈りながら広場を見回る。

 すると、喜ぶべきなのか、はたまた絶望すべきかは迷われるが……〝彼女たち〟はそこにいた――――

 

「――――由比ヶ浜、雪ノ下……」

 

 二人はその場にへたり込んで下を向いていた・・・彼女たちは芯の強い女子達ではあるのに、その彼女たちもこのデスゲームを前にして希望を見失っている。だからハチヤは、彼女たちにもう一度立ち上がるためのきっかけを作るべく声をかけた。

 

「ヒッ、キー……?」

 

「比企谷くん……」

 

「やっぱり、来ちまってたんだな……」

 

 二人を見て、俺は尋ねた。

 

「単刀直入に聞くぞ、二人とも、これから俺はこのゲームをクリアするために先に進まなくてはならない。お前たちは、どうする?」

 

「……」

 

「俺は、先に進む。もし、ついてくるなら俺がその……できる範囲でなら、まぁ守る。でも、ホントは……その―――――」

 

 

 ――――危険にさらしたくない。

 

 この言葉は実際に口に出されることはなかったけど。二人は察したのだろうか…それとも、初めから……言葉を聞く前から答えは決まっていたのかもしれない。

 

「あたし達は……行くよ」

 

「当然ね」

 

「お前ら……」

 

「もう一人で抱え込ませてあげない。抱えるならみんな一緒がいいから……だからもう、ヒッキーを一人でなんて絶対にさせないよ」

 

「由比ヶ浜……」

 

「そうね、由比ヶ浜さんの言う通りにもうあのやり方は、させない。させてあげないわ」

 

「雪ノ下……」

 

「まぁ、そのことよりも、『ここ』を出る方が先決かもしれないけどね」

 

 誰かさんは随分と詳しい要だから、ね?、と勿体ぶったようにいう雪ノ下を見ながら八幡は答える。

 

「ああ、じゃあこの街を出て先に進む。この次の村を拠点にして行動する。このVRMMORPGという世界は出現するアイテムや経験値、金は限りがある。だから、それをなるべく多く獲得することで自分を強化することで生き抜いていくしかないこの状況では、より多くの経験値を得るためには誰も手を付けていないエリアを抑える必要がある」

 

「なるほど……」

 

「分かったけど、次の村に行くのって……やっぱり難しい?」

 

「安全なルートは知ってる。でも気は引き締めておいてくれ、この世界では絶対にHP0になれない。俺は……絶対にお前たちを連れて《現実》に帰りたい。だから、その――――――なんていうか、付いて来て、くれるか……?」

 

「「うん/ええ」」

 

 こうして二人を連れて次の村を目指すことになったが、二人を連れてここから次の村まで行くのはかなりの負担になる。だが、それでも……。

 

 根拠のない自信だが、それでも俺は信じたかったし、信じていた。以前の自分が今の俺を見たらおそらく卑下し軽蔑するだろうが……それでもいい。

 その俺があって、今の俺がある。だから、初めて奉仕部に行ったときに言ったように今までの自分を否定しないことにしよう。

 そう、今はただ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――このどこまでも広がる仮想世界を脱出し、もう一度現実に戻る為に……。

 

 

 

 

 

 

 こうして、俺たちのデスゲームは本当の意味で≪始まった≫のだった……。

 

 




 これからもどしどし投稿していこうと思っていますのでよろしくお願いしますね。


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『トールバーナ』

 もう一作の方を先に投稿しとこうと思って書き上げた後、こちらの方も書き直し部分を色々と直していたところボス攻略のアニメでいうところの二話の部分を一気に一話まとめようかと思ったのですがなんだか書き直すべき部分が多いので二話構成にすることにしました。


 

 

 SAO正規サービス開始からおよそ1か月が経過した。

 しかし、このデスゲームが始まってからおよそ1ヶ月が過ぎた。にもかかわらず、未だに誰も―――――――第一層すら突破できていない。

 

 βテストの連中はこの1か月で死んだプレイヤーの中でかなりの割合を占めている。慢心や傲慢が彼らの命を縮めてしまった。

 だが、その他にも悲観や脱出を試みた故に自殺で命を落としたプレイヤーも多い。

 

 結果として、この1か月のうちに2000人ものプレイヤーが命を落とした。

 

 

 

 しかし、ハチヤ一行はしっかりと自分たちを強化し、生き残っていた。そして本日、この浮遊城≪アインクラッド≫の全プレイヤーの希望をのせて―――――――――

 

 

 

 ―――――――――ここ、トールバーナで第一層ボス攻略会議が開かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 《トールバーナ》

 

 

「ここで攻略会議が開かれるのね?」

 

「ああ」

 

「それにしてもやっぱりこのゲームって難易度高いんだね……」

 

「まぁ、そうだな。ここがβなら死んでも戻れるから無理やりにでもボスのパターンを解き明かしながらソロで突破も可能っちゃ可能なのだが……このゲームにはそれができない、なにせ《HP0=死》なんだからな。ゆえにこのゲームにおいてボスにおいてはソロ攻略なんてのは不可能に等しい、それこそ何かこう反則級のスキルでもあれば別だけどな。だからソロプレイで経験値稼いだとしてレベルを上げまくっても、それじゃあ一人でボスを突破にはつながらない」

 

「そうね、経験値を集めてもそう都合よくボスを突破できるわけではないという事なのね」

 

「ま、そのためにこのトールバーナに来たわけだしな」

 

「そうだね!私たちもだいぶ強くなったし、ヒッキー……。あ、ハッチーだった。ハッチーのサポートもちゃんとできるもん」

 

「ああ、でももうだいぶ戦えるはずだ。ガンガン攻めていこう、それでも注意は怠る事のないようにな」

 

「うん」

 

 そう、この1か月俺は雪ノ下と由比ヶ浜―――――――っとキャラネームはユキとユイの二人のレベリングとスキルの熟練度を上げていた。二人の武器はユキが槍、ユイが細剣。

 二人のレベリングの指導をしてボスに挑める程度のレベルには仕上げた。

 

 

 そして今、俺たちはここトールバーナにて第一層攻略会議が開かれる広場にいるのだった。

 

 

 

 

 

 広場にて――――――――

 

 

 ―――――――――そこには約20人近くのプレイヤ―達が集まっていた。

 

「ずいぶんたくさんいるのね……」

 

「そうだね、みんな怖くないのかな?」

 

「まあ、怖いのはみんな同じだろうな」

 

 だけどたぶん俺を含めて、それ以上に……―――――

 

 

「――――――遅れるのが怖いんだろうな」

 

 ユイとユキノが不思議そうな顔をするのでハチヤはその意味を答える。

 

「ここは、ゲームなんだ。たとえ命を懸けていても、現実とリンクしていても、それでもあくまでもここはゲームの中なんだ。だから怖い。≪最前線≫から遅れることが」

 

 そう、俺を含めゲーマーなら大体はそう思うだろう。ゲームの攻略をほかの誰かが進めてそいつが自分より早くクリアしてしまうことが怖いのだ。

 

「そういうものなのかしら?」

 

「要はみんな負けず嫌いってこと?」

 

「そうだな、まそういうことだな」

 

 

 そんな他愛のない話をしていると、青髪のプレイヤーがこの場にいる全員に声をかける。

 

「皆!今日は集まってくれてありがとう。俺はディアベル、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 その冗談の入り混じった好感の持てる自己紹介に少し硬かった周囲のメンツから割り声が聞こえ始める。なんだか葉山を思い出させるような奴だな、声は材木座に似てるけどな。

 そういや、あいつらもこのゲーム買ったとかって言ってやがったな。まさかいたりするのか?

 だったらただなぁ……。とそんなことを考えていると―――――

 

「こうして最前線にいる皆はこのSAOにおいてのトッププレイヤ―だ、そんな皆をここへ呼んだ理由はもう言わずもがなだよな」

 

 そういってディアベルは一呼吸おいてから真剣な声色で本題に入った

 

「今日、俺たちのパーティがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した!」

 

 その報告にその場に集まっていた者たちがとざわめく。ついにこの時が来た、このデスゲームにおける最初の関門。このゲームの果てへの最初の階段、第一層のボス攻略。

 

「俺たちはボスを倒し、このデスゲームにきっと終わりがあるんだということを≪始まりの街≫で待っている皆に伝えなくちゃならない。それが、今このSAOにおける俺たちトッププレイヤーの義務なんだ、そうだろ!皆!!」

 

 ディアベルのその言葉にほかのプレイヤーたちは士気を上げ熱気がこの広場を覆う。喝采の漂うこの広場において俺はこのディアベルという男はこのプレイヤーたちとまとめ上げたことに素直に感心していた。

 βの俺にとってなかなか難しいことだが、ディアベルはこの場に集まった全員をまとめた。ここは彼に向かって拍手の一つも送ってやるべきなのか、と思っていると――――――

 

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

 ―――――――――1人のプレイヤーがこの場に割り込んできた。そいつは小柄な関西弁をしゃべるトサカとサボテンを合わせたようなとげとげ頭の変ったプレイヤーだった。そいつの乱入で拍手は止まり、この場に緊張した空気が戻りこの場を覆いつくす。

 

「君は?」

 

「ワイはキバオウゆーもんや」

 

 キバオウと名乗ったその男は広場に乱入してくるなり、なにやらこの広場にいる俺たちに何か言いたいようだった。

 

「仲間ごっこの前にこいつだけは言わしてもらわんと気が済まん」

 

「積極的な発言は歓迎さ。で、なにかな?」

 

「こん中に、今まで死んでいた2000人に詫び入れなアカン奴らがおるはずや」

 

「……君が言っているのは元βテスターたちの事かな?」

 

「そや、こん中にも5人や10人いるはずやで」

 

 そういうとキバオウは粉の広場にいる全員を再び品定めでもするように眺め見ると、再び喋り始める。

 

「β上がりどもはこんクソゲームが始まったその日にダッシュで始まりの街から消えてうまい狩場やらボロいクエストを独り占めにしてジブンらだけぽんぽん強なってその後もずーっと知らんぷりや。そいつらに土下座さして溜め込んだ金やアイテムを吐き出さしてからでないと命を預けられんし預かれん!」

 

 そういうとキバオウはフンと鼻を鳴らし、腕を組むと名乗りでてくるのを待っているようだった。

 それに対する周りの反応は「そうだそうだ」という賛同の声や「んなこと言ったら出てくるかよ」という否定的な意見だが結局どちらもβに対する反感の類であることに変わりはない。そんな感じで周りを見渡してると視界の端にかつて共にβを戦った相棒の現実の方の顔が映る。キリトもやはりここに来ていたようだ、その相棒の青ざめた表情を見て俺は気づくと既に立ち上がっていおり広場中央に足を運んでいた。

 

「ん?なんや小僧、ジブンβ上がりか?」

 

「ああ」

 

 その肯定の言葉に周りがざわめたつ。しかしそんなことは気にしない、今は自分の意見を言うことの方が先だ。

 

「そうか、ならこれまでにズルした分きっちり吐き出せや、そしてこれまでに死んだ2000人に侘びも入れなアカンし土下座してもらおか」

 

「嫌なこった」

 

「なんやと!?ガキやと思ってちょーしのりおってからに!!」

 

「ひとつ目にいうが何故俺が侘びを入れる必要が有る?」

 

「はあ?なに言っとるんや、そんなもんお前らがビギナーを見捨ててったからに決まっとるやろうが」

 

「その理屈はおかしいだろ」

 

「どこがやねん」

 

「そいつらが死んだのを俺のせいにされても困る。だってそいつらが死んだのはそいつらの慢心のせいだろ?俺たちに責任取れっていうところじゃない」

 

 俺のその言葉に言葉が詰まってしまったキバオウはなにかを言おうとしているがそれを無視して続ける。

 

「それにお前は知ってるのか?このゲームの2000人の死者のうち約40%は『βテスター』なんだぜ?」

 

「なっ!?」

 

 その事実に周囲は再びざわめき立ち、俺の言葉に全員が真剣に耳を傾ける。実際この情報は嘘じゃない、βの時の知り合い『鼠』こと、アルゴからの情報だ。つーかあの野郎、俺の呼び方βんときからずっと『ハッチ』だし、俺はどこぞのみなしごかっての!だいぶ腹が立つ、あのキャラもだが……。

 とはいえ、あいつは貴重な情報屋だからな手を出せないことがだいぶ悔しい。クソ、あの鼠野郎。

 

「そして二つ目に、あんたは俺たちが色々と独占したと言ったが、まぁそれはある意味で正しいかもな。しかし、それだってお前らは知ることができたはずだ」

 

「ど、どう言うことや!」

 

「これは知ってるか?」

 

 そう言って一冊の冊子を取り出す。俺と同じ元βテスター、アルゴの作ったこのゲームのガイドブックだ。

 

「そのガイドブックがどないしたっちゅうんや」

 

「では、ひとつクイズをしようか」

 

「クイズゥ〜?おいおいそんなくだらんこと……」

 

「まぁ聞け。さて、あなたはこのゲーム関するβ時の情報を持っています。さて独占するとするなら何でしょうか?」

 

 1.金

 2.アイテム

 3.情報

 

「なんのことかさっぱりわからん。こんな謎かけ遊びになんの意味があるっちゅうんや」

 

 キバオウはそんなことに何の意味があるのだとイラついた声で返してくる。

 

「では正解。正解は『情報』だ」

 

 この場にいたものは大体?を浮かべているだろう。強力な武器で先へ進めばいいじゃないか、金でより良い装備を揃えれば、など様々だろう。

 

「情報やて?」

 

「ああ、このガイドブックは俺たちβテスターの情報で構成されたものだ。ここにはβの時のデータが詰まってる。それを情報屋がまとめたものだ。このゲームにおける情報を金にもアイテムにも変えられるそれを『無料』で提供している」

 

 そう、いきなり全部公開してるわけじゃないが少なくとも重要な情報はかなり乗っている。これを読んでさえいれば少しは死者も減っただろうに……。

 

「これまでに死んだのはこういう情報を得ようともせず、自分の記憶を当てにして突っ走ったβ、そして他のゲームで上位だったからと言って挑んだ実力者気取りのビギナーだ。誰にでも手に入れられたものを得ようともせずに突っ走った奴らの責任はそいつらにあるはずだろ?」

 

「くっ……」

 

「実際にこれはその街や村ごとに情報が置かれ更新されているだろう?βでは最も上がれたもので第9層まで、つまり順々に更新して先に与えた情報だけを鵜呑みにしないようにしてあるんだよ。なにせこれはあくまでもβ時の情報なんだからな」

 

 これで大体言いたいことは済んだ。最後にトドメをさしておこうとキバオウにこう言ってやった。

 

「これで最後にするがこれは俺個人的な質問なんだが、結局あんたの言いたいことは俺たちに死ぬまで面倒みろってことだよな?」

 

「な、そ、そんなわけあるかい!」

 

「そうか、ならよかった。ませいぜい協力しようか、フロアボスに関してはな。遮って悪かったな、ディアベルさん。会議の続きを頼むよ」

 

「あ、ああ……じゃあまずは6人パーティを組んでくれ。個々のパーティではこのボスは攻略不可能だ。オアーティを束ねたレイドを作るんだ!」

 

 しかし、このセリフがちょっと俺の体をこわばらせた。この場にいるのは47人。6パーティに5人パーティ1つ。というかSAOでは6人で1パーティなので結局あまりになる。所詮ぼっちでしたからね!

 かっこつけてもこれは非常にかっこ悪い結末に終わるパターンでは?と懸念していたが、キリトがこちらに寄ってきてパーティにいれてくれというのでその申し出をありがたく受け取る。そして、もう二人せめて一人誰かを見つけないことには、誰か知らないというかめんどくさい奴が入ってきたら困る。

 

「……ん?」

 

 すると、一人先ほどまでのキリトと同じように孤立している一人のプレイヤーがいた。そのプレイヤーはユイやユキに顔を隠せるようにと着せたフードとにたようなものを着ており(ユイとユキに関しては二人とも美少女なので女性プレイヤーの少ないこのゲームでは目立つので目立ち防止にと着てもらった)一人でぼーっと周りを見ているように見える。

 

「……お前、あぶれたのか?」

 

「別に、ただ周りがお仲間同士だったから遠慮しただけ」

 

 それを世間一般ではあぶれたと表現するのではないのだろうか?

 

「………なら、俺たちんとこ来るか?ここにいる人数的にひとつは5人パーティだし、それにβの俺んとこにはもう誰も来ないだろうしな。それに人数がいないと攻略が難しくなるしな」

 

「…………わかった」

 

 そうしてこのユイと同じ細剣使いの、少女?に見えるが……まあ多分そうだろう。声的に。

 彼女にパーティ申請の申し込みを送るとOKが帰ってくる。プレイヤーネームは………Asuna――――――アスナか。

 

「よろしく」

 

「……、」

 

 返事はしなかったがその少女はぺこりとお辞儀をした。

 

 

 

 

 その後、ボスの情報の載った最新版ガイドが発行され、その情報をもとに部隊編成がおこなわれ、ドロップの品の独り占めだの何だのとされると困ると言いがかりをつけられ取り巻きの排除役にされてしまったが、まあそこは別にいい。もっと問題なのは………。

 

 

「スイッチ?……potローって、何?」

 

 その言葉に聞き覚えのないらしいアスナは言葉の意味が理解できないらしい。

 

「もしかして、パーティ組むのって初めてか?」

 

 コクン、と頷くアスナ。そういうわけで大体をかいつまんで説明してあげた後、それを実践して、彼女の武器を《アイアンレイピア》からドロップ品である《ウィンドフルーレ》に変えて、特訓をしていると思ったよりも時間がかかり、特訓が終わったころには既に周りが暗くなってしまっていた。

 

「もうこんな時間か、遅くまで付き合わせたお詫びに晩飯おごるよ」

 

「そんなことしなくても……」

 

「まぁ気にすんな」

 

「……」

 どうやら俺はゲームの中だと多少はコミュ障が治るらしい。そんなことを考えながら街に戻り、アスナに黒パンと小瓶を差し出す。

 

「?」

 

「ま、使ってみろ」

 

 周りでキリトやユイ、ユキがやっているのを見て瓶に触れパンに触れてみるアスナ。

 

「クリーム?」

 

「ああ、この一つ前の村で受けられるクエストの報酬でな。コツ教えてやろうか?」

 

「……いい、美味しいものを食べるためにここまで着たわけじゃないもの」

 

「……。つまりあれか?始まりの街で腐りたくなかった、ってことか?」

 

「―――――ッ!?……そう、私が一秒でも私でいるために……」

 

「でもま、気張りすぎるなよ。今はここで生きてるんだからな」

 

 そういって頭を優しく撫でてやる。するとアスナは思ったよりも素直にそれに応じた。

 

「なんだかな、俺妹いるんだよな。お前と同じくらいの。今中3でな。来年から高校生で同じ学校通えるってはしゃいでたなぁ」

 

「……そう、ですか………」

 

 その後ユイたちの会話に出てきた『お風呂』のワードに食いついたアスナを俺たちのパーティの宿に案内し、俺はキリトの宿に厄介になった。

 

 

 

 

 その夜、キリトの宿にて

 

 

「それにしても驚いたよ、ハチがあんなことするなんて」

 

「あのキバオウって奴の言い方が気に入らなくてな、柄にもないことしちまったな」

 

「でも結構カッコよかったぜ?」

 

「………まぁ、ありがとよ」

 

「なんつーか、ハチってやっぱ年上なんだな」

 

「まぁ、お前は中学生だしな」

 

「そうだな……弟分って感じか?」

 

「……勝手にしとけ、だがな俺はまだ『義弟』はいらん!」

 

「ハチはいつもどおりだなぁ~」

 

 そうやって笑いあって穏やかに夜は過ぎていく……。

 

 

 

 

 その頃、ハチヤ達の借りていた宿にて

 

 

 お風呂に入り満足したアスナとユイとユキが話している。

 

「ふーん、アスナちゃんは中学生なんだ」

 

「はい」

 

「アスナさん色々と気にかかるかもしれないけど、とにかく生きることを考えてみなさい。この世界でも私たちは生きているのだから」

 

「………はい」

 

 アスナはユキの言葉にまだ迷いを振り切れてはいないが、ふと気になったのかこんな質問をしてくる。

 

「あの、ハチヤさんって……お二人のお友達、ですか?」

 

「……そうでもあるし、そうでないとも言えるわね」

 

「?そういうことですか?」

 

「あのね、私たちは現実の世界で高校の同級生で私たちは同じ部活にいて色々なことをしてきたんだ。ハッチーは今はかっこいいけど、前まで目が死んでるってよく言われる変わった人で……不器用でひねくれていて友達がいなくてぼっちだったけど、誰よりも純粋で、誰よりも優しかったんだ」

 

「私たちは彼に救われたの。彼は否定するでしょうけどね?」

 

「……そうなんですか」

 

 色々あってアスナには全部は把握しきれないところもあるけど、あの人は――――――ハチヤという人はなんというかとにかく優しい人なんだということはわかった。

 

 先ほどのやりとりのときなんだか久しぶりに安らかな気分になった自分がいたこと、こんな優しい二人と一緒にいること。キリトくんというあの片手剣使いの自分と同じくらいの男の子と昔のアインクラッドをかけたということ。

 

 言葉ではまだ言い表せないけれど、お兄ちゃんみたいな人だなとアスナはなんだかほんわかした気持ちでいっぱいになった。

 姉のような人たちや兄のような人たちとの出会いがアスナの凍りついていた心をを溶かし、余裕を生み出しこの世界に来てからろくに取れていなかった本当の意味での休息を得たような気分でアスナは夢の中へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日10:00よりついに……。全プレイヤーの夢を乗せ、SAO第一層ボス攻略が始まる。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――この仮想世界における運命というやつが……。動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 





 とりあえず投稿しました。何というか自分の中では二話目のパート1って感じです。


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『イルファング・ザ・コボルトロード』


全開投稿から一か月近くが経過してしまい申し訳ありませんでした……。

学校始って忙しいのと、ちょっと浮気して別の小説をいくつか書いてたので……。


そんなわけで、久方ぶりの投稿は……第一層ボス戦の本編です。

楽しんでいただければ幸いです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一万人ものプレイヤーたちを閉じ込め始まったデスゲーム ――『ソードアート・オンライン』――

 

 

 脱出不能の仮想迷宮に閉じ込められてしまった全プレイヤーの希望を賭けた、脱出への第一歩。

 

 

 

 

 第一層フロアボス攻略が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日の午前10:00 ついに第一層ボス攻略が始まった。

 

 昨日の会議で得たぼすの情報。ボスは、二メートルはあろうかというコボルド。名前は『イルファング・ザ・コボルドロード』と言い、取り巻きに、金属鎧を着てハルバードを携える『ルインコボルド・センチネル』が三匹。こいつらはボスのHPバーが一本減るごとに三袋ずつ出てくる。ボスのHPバーは4本最初の三体を含め合計12体を倒す必要がある。それに加え奴はHPバーが最後の一本になると武器を長柄斧から曲刀カテゴリのタルワールに持ち替える―――

 

 

 ―――と、ここまではβテスト時の情報。この正規版では何かしらの変更点があるはずだ。βのまんまとはいかない、GM、茅場晶彦はそこまで甘くはないはずだ。

 しかし、俺たちはこの層を突破せねば先に進めず現実には帰れない。だからこそ、ここまで来たのだ。

 そう決意を新たにし、ここまで温存しておいた俺の現在持っている武器の中でもダントツの《ソニックセイバー》こいつは先日攻略中に偶然ドロップした剣でキリトの持っている《アニールブレード》にも引けを取らない。

 

(それにしてもいいものを手に入れたな。前は俺もアニールブレード使ってたが、こいつはアレよりも俺向きだ)

 

 そうこの剣は敏捷度がに振りがちな俺にとっては筋力値要求がそれほどでもないにも関わらずなかなかの攻撃力を持っている。これは敏捷型の片手剣使いである今の俺にはかなりうってつけの剣だ。

 

 

 そんなことを考えているうちにディアベルがボス部屋の前に立った一同に向け激励の言葉を駆ける。

 

「いよいよだ、俺から言えるはこれだけだ………勝とうぜ!」

 

 こうして第一層のボス部屋が開かれ、決戦が開始された。

 

「グルルラアアアアッ!!」

 

 

 

 誰もが高ぶり、尚且つ現実への帰還を願った戦いは……―――前半においては()()()()()()調()()()()

 

 

 

 コボルトロードはHPゲージの三段目までは、斧と盾を使うが四段目に突入するとそれらを捨て、腰のタルワールを抜く。そこで攻撃パターンががらっと変わる。こいつがこのボス攻略の最大の難関だが、昨日の会議でも出たようにアルゴの攻略本にはそういったことを含めしっかりと記載されており、最初の斧は勿論、タルワールに切り替わってから放たれるソードスキルの対処法は昨日の会議で明案が確認済み。

 そういうわけで取り巻きのセンチネルの相手をしつつ視界の端でディアベル率いるレイドの闘いの様子を見ていたが、今のところ情報通りで順調に言っている。このまま上手く行けばいいと思いながらも、そう上手く行くものだろうかという疑念が心の中をかき乱していた。

 

 しかし、ここまでのところ順調そのものといっても差し支えないほど上手く行っている。センチネルはハチたちが引き受けているためボスへの攻撃を行っている部隊には、決して邪魔させてはない。

 

 だが――

 

 

 

 ――その嫌な予感は、コボルトロードが武器を持ち替えたその時に、当たってしまう……。

 

 

(あれは、タルワールじゃない!?『カタナスキル』の武器《野太刀》!!)

 

 βとの変更点に気づいたその時、ボスにラストアタックをかまそうとするディアベルの姿が……。

 

「下がれ、俺が出る!」

 

 もう誰もがディアベルの一撃で決まると思っており助けようともしない。

 

「止めろ!ディアベル!!そいつはタルワールじゃない、野太刀だ!!情報と違うんだ!」

 

 キリトの声にようやく周りはそれに気づいたが時既に遅し、ディアベルはモーションを起こしてしまい動けない。そこに狙いをつけてコボルトロードが《カタナスキル》のソードスキルを発動させディアベルに切りかかるその時、ハチヤがその攻撃をギリギリ反応しディアベルを庇い攻撃をはじくが、その攻撃は3連撃でとっさのことに反応しきれず攻撃を受け吹場されてしまう。

 そこへ畳みかけようとするコボルトロードはユイ、ユキ、キリトやアスナが止めてくれているので、スタンが解けた俺は急いでポーションを用意しディアベルにも渡す。

 

「無茶しやがって、俺がいなかったら死んでたぞ?」

 

「……………オマエもβテスターなら、わかるだろ?」

 

 絞り出すように、告げたディアベルの言葉にハチはディアベルも()()()()()()()言うことに気づく。ゆえに、何というべきか……ハチは戸惑った。

 

 確かに、今この男のしたことは――正直言って自分勝手そのもの。おまけにハチが助けに入らなければ、確実に死んでいた……。

 

 だが、ハチは、ここでこの男を攻めることは別に何ら利益をもたらさないことを分かっている。

 それにこいつは、βテスターであるにもかかわらずプレイヤーたちを導こうとした。

 自分も、キリトもやろうとしなかったそれを、この男はやった。そして、それをここまで進めてきた。

 ある意味、こいつはこのアインクラッド……SAOにおいて必要不可欠となっている。

 影にしかい有られないβの連中の中で、唯一上手く一般プレイヤーたちを率いることのできる存在……。

 

 だから、ここでこの男に、自分がかけるべき言葉は……『あの時』に相模にかけたような言葉じゃない。

 

 もう自分は『悪役』(ヒール)にはなれない……と思う。

 

 それに、自分は犠牲にしないようにすること。犠牲何それ?いつでもそれは()()()()()()()()()()とそう思っていた。でも、それで傷つく人もいるんだと、それを――彼女らに教えられた……。

 そうすることが、犠牲だなんて笑わせるが……。それで『心配』ってやつをしてくれる奴らがいる……らしい。だからまぁ……それが何というか約束?なわけだし……。

 俺の選べる道…答えは……、どうやら――一つしかないのだろう……。

 

 過去の自分を肯定できなくて、どうして()()()()()()()なんて言葉がかけられる?

 

「俺は……、自分が嫌いだった」そう思っていたことを思い出すハチ。

 

 だが、なくしてしまった信念が……『誰か』と共有できるはずだったそれを、拾い上げてくれた人たちが何人もいたから。また、前に進めた気がしたのだ。ここで戻るのは、なんか嫌だ。

 

 珍しく感情的な、かつ率直な答えを自分が出したことに自分自身が驚いてるハチだが……きっとそれでいいのだ。

 『悪役』(ヒール)でも、ましてや『英雄』(ヒーロー)でもなく……。今はだたの『挑戦者』(プレイヤー)でいい。

 

 だから、今。この城をを抜けるために必要な英雄様を、腐らせないために、一度したであろう決心を鈍らせないために……。挑戦者らしく、また少しだけ……前に進めればいいと思いながら。

 

 あの時にできなかったことを、口にしよう……。

 

「――LAボーナスか……」

 

 ハチのその呟きに、自分のことを非難・糾弾するだろうと思っているらしいディアベルは……顔を背け、ハチの次の言葉を待つ。

 だが、ハチが抱えた言葉は先程の考えのもとに出されたもの。

 そしてそれは、ディアベルの予想とは全く真逆のものだった。

 

「まぁ……いいんじゃねえの?お前は連中に信頼されてるみたいだし?ここにいるやつらを最初にまとめたのもお前だしな。少しの欲くらいは出るもんなんじゃねぇのか?人間だし、むしろ素直に白状しただけそこら辺の風見鶏よりかはマシなんじゃねぇの?」

 

「………」

 

 何というか、肯定…してるんだよな? と思わず聞き返したくなるようなセリフだが、それもこの男なりの励ましなのだろうと……励まし――だよ、な…………?

 

 そんな感じで、呆然としているディアベルを置き去りにしてハチはさっさと話しを先に進める。

 正直、元コミュ障ぼっちを自称してたハチにとってさすがにこれ以上の会話は柄に合わないようだ。

 

「とにかくだ。とりあえずあれ倒すぞ。ここにいる連中にはリーダーが必要だ。見捨てないリーダーが、だ……。それはお前くらいしかできねぇだろ?罪悪感感じてんなら、それを全六でやればこの罪はチャラになんじゃね?むしろそれしかないまである。悪意が怖いならそいつは……まぁ最悪引き受けてもい――ゴメン今のなし」

 

「どっちなんだ……?」

 

「まぁともかくだ、その悪意なんちゃらは強い奴に回せよ。β()()()()()()()()()()()()()にな……。ここはゲームん中なんだから、そういう意味じゃ現実よりも多少の譲渡はできるんじゃねぇの?」

 

 

 そういってハチヤは早々に立ち上がり、ボスに向かっていく。

 ディアベルが戦線離脱になってしまったような状況で全員呆然となってしまっており、それに代わりキリトやアスナ。ユキやユイがコボルトロードと戦っている。

 

 やれやれ……。白金の星を司ってるか俺様系疑似神様系団長に振り回されるような高校生のように呟くと……。キリトたちに俺も入ると告げ、スイッチする。

 

 キリトやのパリィの隙にアスナとユイのレイピアがボスを射抜き、ユキノの槍が下がったハチたちを庇う。

 

 そこからは、斬撃のラッシュだった。とんでもない速度で相手をかわしながら何重にも重なった斬撃を叩き込むハチ、そしてstrに物を言わせたキリトの重い斬撃。二人のコンビネーション攻撃は、あっという間にコボルトロードを後手へ後手へと追い込んでいく!

 

 そこへ止めとばかりに、ハチとキリトの連携の速度が増し……。もはや雀の涙と言わんばかりに、なけなしになっているコボルトロードのHPバーを容赦なく吹き飛ばす。そんな疾風怒濤の攻撃に耐えきれなくなったコボルトロードは、キリトの単発・ソードスキル《ソニックリープ》とハチヤの二連撃・ソードスキル《バーチカルアーク》により三つにぶった切られてしまい、爆発エフェクトに包まれ粉々のポリゴンとなった。

 

 

 ―――ボスの爆散したところに大きくCongratulation!!と表示され、この層の突破を示している。この勝利は夢ではなく、現実のものであることを……それは示していた。

 

 暫くの沈黙が訪れ、プリゴンが砕け散っていく音だけが響くが……誰ともなしに声が漏れ出し始め、ボス部屋に歓声が響き渡る。

 

 

「よっしゃあああアアア!!!勝ったアーッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 この日―――SAO開始一か月にして……ついに、『アインクラッド』第一層が突破された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 完成が鳴り響く中、キリト・ハチヤの前にはYou Got The Last Attack!!という表示もある。これは例のLAボーナスというやつで、この層のボスから得られるアイテムは―――『コートオブミッドナイト』という防具だった。

 

「コングラッチュレーション!! 素晴らしいチームワークだった、この勝利はあんたたちのもんだ!」

 

 そういってねぎらいの言葉をかけてくれたのは、昨日の会議でも見かけた190㎝ほどはあろうかという黒人男性でプレイヤーネームは「エギル」というらしい。強面だが以外に優しい印象を受ける、なんとも不思議な人だった。

 

「お疲れさま~」

 

「お疲れさま」

 

「お疲れ様です」

 

 ユイ、ユキ、アスナが順にねぎらって来る。というか三人ともフード取れちまって顔むき出しだ。あーあなんか言われなきゃいいが……。

 しかし、美少女を侍らせてるとかの類は言われなかったのだが、代わりにこんな言いがかりを投げつけれた。 

 

「なんでや」

 

「?」

 

「なんで……隠してたんや?」

 

 突然の言われ様に怪訝な顔をして聞き返すとキバオウは

 

「隠す?」

 

「だってそうやろ、自分はボスがどんな技使うか、知っとったやないかい!」

 

 その言葉を受け、キバオウの隣にいる男が「そういえばあいつら、ボスがあのスキル使う前に何のスキルか言ってたよな・・・」という声を漏らすのを口火として周りのプレイヤーたちがざわめき始める。

 

「βのお前が隠しとったせいで危うくディアベルはんは死にかけたんやぞ!」

 

「……」

 

 言いがかりもいいところだ、そもそもそのディアベルを助けたのは俺なのにな?まぁこの程度は予期していたし、来るとも思ってた。その対処法は……何も考えていないけど、その対処は早いとこ口にしないとユキやユイが暴走しかねないな。

 そんなわけでディアベルに静められているキバオウに対し、ハチは言い返しにかかる。

 ついでにちょっと腹が立ってたのもある。いや、ホントにちょっとだよ?ウン、ハチマンウソツカナイヨ?

 

「はぁ、何を言うかと思えば……馬鹿なのか?」

 

「あ゛ぁ!?」

 

「そもそも、その死にかけのナイト様を助けたのは誰だ?お前らが寝ぼけている間にボスを片づけてやったのは?俺たちだろ?」

 

「だ、だからって隠してたことは事実やろ!!」

 

「昨日も言ったが、俺たちはその町や村ごとにそこに対応した情報を解禁している。カタナスキルは本来もっと上の層で出てくるものだからいう必要がなかった。でも正規版のアップデートで、()()()()『カタナスキル』がコボルトロードに実装されていた、それで気づいた。ただそれだけのことだろうが」

 

「――っく……!」

 

「それに、いちいちββってうるさいんだよ。βだからて全員が情報を持ってるかと言えばそうでもない。所詮βの選別は抽選だったんだ、いくらβだからって上までたどり着けてない奴がネタバレを聞くか?それに全員が手練れだと思うか?違うな、本物のMMOプレイヤーなんてそんなにいなかったし、そういう慢心した奴らがこの二か月で死んだ2000人みたいなやつらだ」

 

 俺の言い分に誰も何も言えない、さてこの辺で意識の中に俺の存在を刷り込ませてやる。これは犠牲じゃない。単なる力関係の差を表しているに過ぎない。ただ実力者とか孤高の高みとか……何それカッコいい。まぁそんな感じってだけだ。

 

「俺はそういうやつらとは根本的に違う、俺はあの旧アインクラッドで誰よりも高い層まで登った。いわば本当のトッププレイヤーだ、『カタナスキル』だって実力で登った先で散々戦ったからこそ知ってるんだ。言ってみれば努力の賜物だな、これでもお前は俺のせいだってのかよ?」

 

「……なんだよそれ、そんなの・・・ただのチーターじゃんか」

 

 

 誰かがぼそりとつぶやいたその声が周囲にざわめきを生み、チートやらチーターやらしまいにはβのチーター、《ビーター》なんて声も聞こえてくる。安直だけどなんかカッコいい気がするのは、俺の中二魂がまだ消えてないからかな?……ちっ、気分が悪くなった(平塚先生風)。黒は思い出しちゃいけんのよ?心の奥底に、思い出として取っておくの――――やだ、俺の心のダメージ……高すぎ…?

 

「ビーターねぇ……。まぁ、勝手にしろよ。じゃあそんなチーターらしく俺はさっさとアクティベートして先に進むが……覚悟のない奴は来るなよ。よくいるんだよな、油断して次の層のMob倒される奴とかな」

 

 

 そういってゲートへと去っていくハチの背中を、キバオウはただ茫然と見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 転移門の先に出るとそこには夕日で橙色に染まった草原のフィールドが広がっており、知っていたつもりだったこの世界の美しさを改めて知ったような気分だった。

 

 

 するとそこへ転移門をくぐってハチヤに近寄ってくる人影が4つ。

 

 

「ハチ、どこいくんだよ」

 

「なにって、さっき言った通りだろう。先に進むんだよ、現実に戻らねぇと俺の小町泣いてるかもしれないしな」

 

「……シスコンめ、少しは素直になれよな。つーか言い訳に妹使うなよ」

 

「うっせ……言葉のあやだ」

 

「俺国語嫌いだけど、その使い方が間違ってるのはさすがにわかるぞ……」

 

「………チッ」

 

「なぜに舌打ち!?」

 

「んで?ついてくるのか俺どうやら《ビーター》ってのになっちまったみたいだけど?」

 

「当たり前だろ、駄目って言われてもついてくし!」

 

「そうかよ」

 

 そうやって随分と高ぶってるキリトに対して物静かな女性陣に今度は視線を向けてしゃべりかける。

 

「悪かったな、また勝手に変な役やっちまった……」

 

「うん、すごく怒ってるよ!でも、いつでもそうやって誰かを助けてるの……私たちはちゃんと知ってるんだから!だからついってっちゃうよ、一人にしておくとまた勝手に捻くれちゃうからね!」

 

 ユイはまさに彼女らしくプンプン! とでも擬音が付きそうな感じだが、まぁ許してくれてるようだ。こういう懐の広さも彼女の良さか……。(まぁ、懐が豊か……と言い換えてもいいが。さすが雪ノ下とは壁と山ほどの戦力さ!)あれれ~?おっかしいぞぉ~?なんか仮想世界なのに寒くなってきたぞ~?おかっかしいなぁ~?ここは気温普通のエリアのはずなんだけどな~?

 

 横から発せられる冷気から目を背け、一人で思考の世界に入る八幡。

 

 えーと、ああそうだ。それにしても、ほっとくと捻くれるって何?イヤホンのコードかなんかかよ俺は……それか何しばらくすると糧に曲がっちゃうレアカードとか?何それ俺超希少価値「貴方の場合。希少価値とかいうより、むしろ自分だけなのではないかしら?あら、でもそれでもすごい希少ね一つっきりだもの」あの……めっちゃナチュラルに俺の心読まないでいたただけます?つかお前カードとかわかんのか…「ええ、知ってるかしら?猫だってカード化されてるものもあるのよ?そもそも、あなたたち男の子が遊ぶものだけが、この世界の全てではないことをちゃんと理解してるのかしら?」よ……。

 恐い、怖い、こわいよ雪ノ下さん。「ここで本名出さないでもらえるかしら?」もしかして、最初のを根に持ってたりします?「…………」あ~ぜってーこれだわ……。

 

 もう何も言わない(元々口には出してないけど)そう決めた。

 

「あら、もうお終い?これからもっと面白くなるところだったのに……」

 

 こえええええええぇぇっ!?!?!?←ハチの心の悲鳴(切実)

 

「まぁ、それは置いておいて……今度はついていくわ。あなたに突き放されてもね」

 

 置いといちゃうの?それに突き放すって……バッカお前、俺みたいな――それこそ水面に波を起こして、それを疾走させて吸血鬼と戦えるくらい紳士なこの俺が、女性相手にそんな無礼を働くわけがないじゃないかーイヤダナ~……すいません調子乗りましたごめんなさい。だからその絶対零度の視線止めて!お前何なの?氷タイプなの?なんでダンジョンの第一層…あ、ここもう二層か。いやそれでもなんでこんな序盤でそんな一撃必殺覚えちゃうの!?俺なんかよりもよっぽどチートじゃん!?

 

「……」

 

 あ~これは100%思考読まれてるな……。あ~これもう終わったよ。現実を見ないうちにここでゲームオーバーしちゃうんだな……。

 

「馬鹿なこと考えてないでさっさと先への道を教えてほしいのだけれど」

 

「あ、ハイ」

 

「よろしく頼むわね、熟練者さん」

 

「……それ嫌味入ってるだろ?」

 

「あら、仮想世界でも腐り始めた様ね。目ではないけど」

 

「それは耳が腐ってるのかと聞いてるということでいいんだよな?」

 

「そんな……本人を目の前にして言えないわ。そんな……残酷なこと」

 

 妙に芝居がかった言い方でさらりと言ってのけやがったよこのアマ……。

 

「もういい……」

 

 まぁ、二人とも強い意志のもとについてきている……でいいよな?散々けなされたけども……。

 

 まぁ俺も?彼女たちを信じている………わけだし?俺はもう本当に一人でない。信じられるものが、ちゃんとここにある……よね?(まだちょっと怖い)

 

 そんな感じで二人に一通り話した(?)ハチヤは、先ほどからずっと静かなアスナにも声をかける。

 

「アスナは、どうしてきたんだ?」

 

「……ずっと考えていたの。この世界に来てからずっと………」

 

 アスナはポツリポツリと話し始める。苦悩や不安、そしてここからどうするのか、いや……どうしたいのか、を。

 

「でも、みんなと会ってこの世界で『生きる』事を知った……それに今、目の前に追いつきたい目標が二人できた。それに一緒に近づきたい友達が二人も二人で来た。だから私は、ついていくわ。この『偽物』のはずの世界で見つけた『本物』の仲間と憧れを追いかけるため、そして何より――――自分らしく生きていきたいから」

 

「そうかい、それならいいんじゃねぇの?」

 

 もうすでに彼女の目にかつての死に場所を探そうとするような闇はない。今はただ、この世界の果てにある帰るべき現実を目指す光が宿っているように見える。なぜだかハチヤは彼女はこの世界を照らす光の素質を持っているような、誰よりもこの世界で輝けるような資質を持っているのが、何の根拠もないのになぜかそう分かった気がした。

 

「じゃあ、先に進むか?」

 

「おう!」

 

「ええ……」

 

「うん!」

 

「はいっ!」

 

 そういうと4人はハチヤに続いてこの世界を突破するべく、歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「そういえば、ハッチーに伝言があるって、エギルさんとディアベルさん。あとキバオウさんから……」

 

 伝言?いったい何だというのかね?

 まぁさすがに聞かないというのも何なので、話してくれとユイに言うと話し始める。

 

「えっとね、エギルさんは『次のボスも一緒に倒そう』、ディアベルさんは『ありがとう、俺も自分の責任……役割を果たすよ』って。最後にキバオウさんは『……ワイはお前に負けん、次はワイらがボスのLAもらうで!』だって」

 

「何だそりゃ……」

 

「あははは、手ごわいライバルいっぱいになっちゃうかもね?」

 

「……どうだかな」

 

 

 口には出さないが、これは手ごわいライバルを増やしたかもしれないと思ったハチヤは……わずかな笑みを浮かべ、これからの攻略のメインになるかもしれない彼らの成長をほんの少しだけ楽しみに思いつつ……第二層の先を目指して、歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 さあ、本当の闘いはこれからだ……!

 

 

 

 

 

 





大体こんな自感じでしょうか?

上手くかけているか、分からないですが……。

今後も、とにかく頑張って更新していこうと思います。



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『月夜の黒猫団』



機能に引き続き投稿です。

今回の話は、かなり短いです。シリアスに行こうかと思っていたんですが、どうにもシリアス書くの苦手で……こんな感じになってしまいました。

黒猫団好きな方ホントにすみません。たぶんこの辺りが私の限界だと思われます。

あっさりしすぎていますが……そのあたりをご了承していただければ幸いです。


ではどうぞ



 

 

 

 

 デスゲーム開始からおよそ五か月程度たった頃、俺たちはいったんパーティを分けて経験値稼ぎをしていた。その理由としては、攻略のスピードが第一層を攻略するときに比べて格段に上がったことがあげられる。

 第一層攻略におよそ1か月かかったにもかかわらず、その10日後には第二層攻略という具合に攻略スピードは格段に上がっている。その後も次々とクリアされ続け、現在の最前線は28。それにしても驚いたことに、葉山率いるあの上位カーストの連中が前線に参加してきたことは驚いた。一色、ここではイロハだがあいつも来ていたとは……。確かに教室で買ったとかなんとかだべってたのは知ってたけども。

それにいしても、一しk……イロハのやつ、ちゃっかりフレンド登録させやがって……。

 

 まぁそれはさておき、βの俺とキリトはしっかりとした基礎とでもいいのかレベルを上げまくることで死ぬ可能性を少しでも減らすためにソロプレイで経験値をかき集めようと持ったのだが、一応念のためということで二人、あるいは三人組でプレイに興じるというおことになり、女性陣が実力の確かめがてら挑んでいったので俺とキリトもそれに負けてられないとばかりに勇んで出発した。

 元来、ソロプレイというのは危険度に見合うだけの経験値とアイテムを手に入れることが可能だ、何せ人数が少なければ経験値も素材もアイテムも一度に大量に手に入るのだから。ただし、それはもちろんレベルと情報そして実力が伴ってこそではあるのだが、俺とキリトが指導した以上その点に関しての問題は俺たちには必要ない。そんなわけでしばらく前線で経験値集めに没頭していたのだが―――そんな中、俺とキリトは素材集めに下層に降りてきてその時、そこで一つのギルドと出会った……。

 そのギルドの名前は――【月夜の黒猫団】

 

 

 

 

 

 

 

この日、俺はキリトと一緒に下層に降りてきており二人で素材なんかをそろえていたりした。その時、たまたま近くにいたパーティーがなんだかピンチっぽかったので助けに入り、手助けをしたところ……何故か歓迎会というかお礼がてらということで、食事をごちそうになってしなっていた。おかしい、どうしてこうなった?俺は施しは受けないというポリシーだったハズだが……。いや、養ってはもらいたいんだけどね?

 

「では、我らが恩人、キリトさんとハチヤさんに乾杯!」

 

かんぱーい!とそのパーティーのメンバたちが言うのでそれにつられてハチヤとキリトもつい、「か、乾杯」と言ってしまう。

 

そんな感じにギクシャクしたままに始まったのだが(主にハチとキリトの一方的な気まずさ)……しかし、とっつきにくかったのは最初だけで、キリトとハチヤは徐々にこの空間になじんでいき、会話も弾み始める。

 

そしてしばらく会話が続いた後の事、このギルドのリーダーらしいケイタが一人の少女を紹介する。先ほどからの話を聞く限りではこのギルドのメンバーは同じ高校のパソコン研究会のメンバーとのことなので、年はハチヤと大して変わらない、キリトより一つか二つ上かというところだが、小柄なせいか幼い印象が強い気もする。

 

「こいつサチっていうんだけど、うちのギルド前に出られるのが一人しかいなくてさ。こいつを片手剣使いに鍛えたいんだけど、よかったら二人にコーチをお願いしたいんだ。それで、どうかな……お願いできますか」

 

ハチヤは思った何というか正直この子が戦えるように鍛えるべきかどうかということを。人にはなんでも向き不向きというものがあるといつも思ってるハチヤだが、今日助太刀に入ったときもハチヤはこの子がMobにおおびえていたのを目撃している。

 

「……無理にスタイルを変えるよりも、地道にレベルを上げることを俺は進めたいと思うんだが」

 

ハチヤのセリフに「確かにそれができれば一番かもですね」とケイタはたはは頭をかく。

 

「それに今のうちに一つ忠告しておきたいんだが、俺βテスターだぞ?割と評判悪いし……そんな奴に――」

 

俺の突然の告白に皆戸惑う。しかし、ここでハチヤは別にののしられようが何されようが構わないと思った。仮に追い出されるとするならこの辺の階層でしっかりとレベル上げをしてからゆっくりと上がってくればいいことを説明して、ついでにこの辺のじょうほうをいくつか残しておけばさすがに馬鹿の一つ覚えの特攻や犠牲者の防止にもつながるだろう。と考えていたのだが――――――

 

 

――――どうにも連中の反応は、彼の思惑とは真反対だった。

 

 

「βで名前がハチヤ……ってことは……もしかして、あの《ビーター》のハチさん?」

 

「え?あ、あぁそうだけど……?」

 

その瞬間、ハチヤは周りの反応が自分の予想とはまるっきり異なるものだということを今更認識した。

 

「すげぇー!本物だ!!」

 

「この人があの第一層のボスで解放軍のリーダー救って、そのあとのボス戦でも大活躍してるっていうあの人か!!」

 

「言いがかりとか汚名に真っ向から立ち向かっていろいろなプレイヤー助けて、情報屋にも積極的に情報を提供して下層のプレイヤーにも配慮してるっていう例のヒーローかよ!!」

 

「おまけに早くて、強い。風か影のごとくやられそうになってる仲間の前に駆けつけるっていう!!」

 

あまりの熱狂ぶりにハチヤはタジタジになりながら、いまだ熱狂中の黒猫団の連中に口を挟む。

 

「……な、なんだよその尾ひれどころか背びれ・胸びれまでついてそうな根拠不明且つ過大評価されまくりな根も葉もない噂は…………!?」

 

「アレ?ハチ知らなかったのか?今お前の事みんな噂してるのにさ。なんだかんだ言いつつも優しく強い剣士がいるって、そしてハチがビーターなの隠さないであちこちでいろいろやってるから……今『アインクラッド』でハチの名前、もう相当に有名だぞ?」

 

陰の功労者とか影の支配者とかって呼ばれてるらしいけど………知らなかったのか?と真顔で首をかしげて聞いてくるキリトに、ハチヤはなにやら非常に恥ずかしくなってきた。なんていうか、未だに孤高気取って悪評?そんなもん流れまくっとけの調で動いていたので、こんなことになってるなんて……ぶっちゃけ知んかった……。

 

何ていうか取り敢えず恥ずかしすぎたハチは、とにかく話題を変更しようと咳ばらいをすると話を戻そうとするのだが……。

 

「と、とにかく!まずは基礎を固めること!レベルをもっと地道でもいいから上げてからにしろ。俺はβの時そうやって一番上まで行った、情報をいくつか残していくからわからないことあったら、メッセ飛ばしてくれれば多少は教えてやらんこともない―――」

 

 

 

そんな感じで恥ずかしさからの逃走を図ったのだったが――――

 

 

 

 

 

 

 

「では、よろしくお願いしますね先生!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なんでこうなったんだっけ?

 

 

 

 

 

結果だけ言えば、なぜか月夜の黒猫団のコーチを引き受けてしまい、現在狩場にてフォローしながらレベル上げを手伝っている。

 

 

「そうだ、俺たちに頼るんじゃなくより自分たちの力と敵のパターンを知っていけ!」

 

「「「ハイ!」」」

 

それにしても意外と根性のある連中だ。うちの部長殿が見たらうずうずしそうだな、あいつ意外とこういうの好きだし。

 

そんなわけで1か月ほどコーチをしていたが、ユイハ達からのメッセを受けとったのでそろそろパーティを再結成せねばなと思いそれを告げ、最後に彼らのギルドホームを買うという最終目的の資金稼ぎの手伝いとして彼らのレベルの許容範囲ギリギリの二十四層の迷宮区に足を運んだのだ。

 それにしてもはしゃぎすぎな気がするのだが……。

連中をたしなめつつ、攻略を進めていく。

 

そうしてそうこうしている内に、だいぶ奥の方まで進んできた。

 

――そんな時だ、妙な部屋を発見したのは………トレジャーボックスがある隠し部屋。

 

「お!お宝発見!!」

 

「おい、あんまり不用意に入るな。万が一罠だったらどうすんだ?」

 

「でも確認くらいはしないと、ね!」

 

そういってダッカ―が宝箱を開けて中を見るが……。

 

「アレ?空っぽ?」

 

「ちくしょ~誰かが先に開けやがったんだな!」

 

あ~あ と落ち込む一同だがハチヤは全員に早く部屋を出るように促す。

 

「さて、中身確認したんだから早く出ろ。もしここの部屋にあるかもしれないトラップとかが発動したらどうすんだ?」

 

「へ~い」

 

 

すると、その時だ。部屋の入り口が閉ざされ……『始まりの街』での警告の時のような、赤い警告の表示が出てき宇と思うと……。トラップ発動を告げる、アラームトラップが彼らが罠にはまったことをけたたましく告げた。

 

 

「こいつはやばいな……。全員転移結晶を使え!早くしろ!」

 

「お、おう……。転移『タフト』!」

 

しかし、結晶が《発動しない》……ここは―――《結晶無効化空間》だったのだ。それを理解したわけではないが、結晶がつかえないこと焦った黒猫団のメンバーたちはパニックに陥る。だが、ハチヤはそんなメンバーたちを一括して剣を構える。

 

「パ二くってんじゃねえ!!今一番大事なのは冷静になることだ、死なないためには全力を尽くせ。少しでも生き残るために、全力で生の方向に意識を切り替えろ!!」

 

 ハチヤはメンバーをキリトと自分でカバーするように陣形を組み、敵の出現に備えた。そしてやがて発生してきた敵にキリトと自分で確実にダメージを与え倒していく。ほかのメンバーもそれを見てだんだんと冷静になり、奮闘し始めた。

 だが、決して無茶はしないようにしながら。こうして一時間もたったころ、モンスターのリポップは止まりメンバーは全員急いで部屋の外に出ると、転移結晶で園内に帰った。

 

 

 

 

 そしてその日の夜プレイヤーホームにてハチヤは最後の教訓をメンバーに語った。

 

「今日の事でも分かっただろうが、油断やパニックになるっていうのは非常に命取りになる。だから常に冷静になろうとする志向を忘れるなよ、あとなるべくトラップを警戒して少人数での攻略の時は特に気をつけるように。短い間だったけど、これで俺たちのコーチは終わりだ。これからはお前たち自身の手で駆けあがってこい。じゃねえとホントに死にかねないからな……」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

こうしてハチヤ達は本日のトラップの報酬の半分をギルドに寄付してギルドを去ることになった。

 その帰り道のこと。キリトが少し不安そうな面持ちでハチヤにつぶやいた。

 

「あいつら、大丈夫かな……」

 

まぁキリトが心配するのは無理もない。今日の出来事、あっさり終わったように思えるが俺とキリトそしてギルドメンバーが束になって、ギリギリ抜けられたあんなトラップゾーンが今後も腐るほど出てくるのだとしたら……。と考えると、ギルドの連中を置いてけぼりにしてしまったような気分になる。キリトは、クラインのときことも未だに引きずっているようで今回の件もどこか引っかかっているようだ。

 

「……ま、一度痛い目見たんだ。そう簡単に危険は冒さないだろ………。まぁ――――そのうちまた……、様子でも見いってやろう」

 

「………そうだな!」

 

 

こうしてハチヤとキリトの二人のコンビは再び仲間たちと合流し、この城を抜け出すために最前線へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの後……。この二人の指導を受けた、彼らが攻略組を目指し奮闘していくのはまた……別のお話し―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





黒猫団好きな方々申し訳ございません。

相当にあっさりさせすぎてしまいました。

シリアスに行こうかとも思ったのですが……結局こんな感じにしてしまいました。

シリアス期待していた方、面白くなくてすみません。


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『ビーストテイマー』



今回はスマホより投稿なので、もしかしたら何処かに不備があるかもしれません。
もし、何かありましたらお気軽にご報告下さい。


 

 

なんやかんやとSAO開始から約一年が経った。

 

ハチヤ達は相変わらず最前線で戦っていた……のだが、今日最前線の転移門前で1人の男が必死に何かを訴えているのを見かけて話を聞いてみることに。

 

聞くところによると、なんでもオレンジギルド【タイタンズハンド】に仲間を全滅させられてしまい、敵を討ってほしいという。しかし、決して殺しではなく連中を牢獄にぶち込んでほしいとのことらしい。

 

(殺し、ではなく〝罪を償わせてほしい〟か・・・)

 

その言葉にハチヤはその依頼を受けることに決め、タイタンズハンドの足取りを追いはじめた。(キリトは付いて来た。その場にいなかったために残してきてしまった女性陣は……後日、どうにか「お話し」で了承をいただいた。――その際に見た彼女たちのいい笑顔は……忘れられないほど美しかった…………嘘です、めっちゃ怖かったですハイ)

 

 

そして二人でしばらく捜索を続けた結果、ようやく連中のあしどりを つかむことに成功した二人。

 

その足掛かりをもとに、さらに派生してリーダーの足取りを追う。

 

 

――そして第三十五層にて、ついにそのリーダーの足取りをつかんだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その情報をもとに、リーダーを追ったハチヤ達が第三十五層を訪ねたとき、ちょうどそこで二人の幼j………ゲフンゲフン少女がいて、タイタンズハンドの女リーダーのロザリアを見つけた。

 草がげに隠れている俺たちの聞いた話の内容はビーストテイマーの二人とロザリアがアイテム分配でもめていた。その内容を要約すると、二人には使い魔モンスターである《フェザーリドラ》が回復してくれるのだから回復アイテムは必要ないだろとのことだがいくら何でもそれはと思うような内容だったが、二人は幼さゆえにその挑発にカチンときたのかそのまま怒って森に入って二人で街に帰るつもりらしいが……。

 

「なあハチ、あの二人ちゃんと帰れると思うか?」

 

「…………正直厳しいだろうな。見た感じ、二人ともそれほどレベルが高いってわけでもないっぽいしな」

 

「……追いかけるか?」

 

「…………そうするしかねぇかな」

 

そんな訳で、二人を追いかけようと思ったのだが……。生憎この森は《迷いの森》と呼ばれるダンジョン、出口にたどり着くためのリミット――つまり制限時間があり、一分以内に抜けないと東西が入れ替わる仕組みになっているのだ。

 

ハチヤとキリトなら抜けることなど造作もないが……。迷っている人間を追いかけて脱出、となると話は別物となってくる。どうやらあの少女ら二人はずんずんと先に行ってしまったようで……、この中で迷子になっているらしくなかなか見当たらない。そうこうしているうちに日も暮れ始め、キリトとハチヤは正直めんどくさくなってきて……ダンジョンの木のトラップをぶった切りながら雑に突き進んでいき……やっと見つけた二人がドランクエイプに襲われているのを見つけ、すぐさま助太刀に入る。

 

しかし、少しだけ遅かった……。二人が助太刀に入り、エイプを倒したとき――二人の使い魔だった二匹の小竜は二人を庇い消え去ってしまったところだった…………。

 キリトとハチヤは二人のビーストていまーの少女に近づき声をかけた。

 

「すまない、君達の友達を助けられなくて……」

 

「もう少し早く見つけられたら良かったんだが……すまん」

 

 

二人の少女は涙を浮かべながらも助けてくれた二人の剣士に礼を述べ、場に残っていた使い魔の死んだときに残るアイテム《心》を両手で抱き涙を流していた。それを見て、ハチヤとキリトは一つの手段を提示する。

 

「………そのアイテム、心アイテムって表示されているなら――まだ希望はある……」

 

「…………えっ?」

 

「……どういうこと?」

 

 ハチヤの言葉に、疑問符を浮かべている二人にキリトが補足を付け加える。

 

「実はね……最近見つかったんだけど、第四十七層で使い魔蘇生用のアイテムが手に入るっていう話があるんだ」

 

「本当ですか!?」

 

「ほ、ホント!?」

 

「あ、ああ…………ん?」

 

二人の言った情報を聞き、茶髪の方がキリトに黒髪の方がハチヤに詰め寄る。その際、ハチヤは詰め寄って来た少女の顔を見て……何だか違和感を覚えた。

 

何だか、どこかで会ったことがあるような気がする……。誰だったっけか……覚えてる。覚えてるんだ。確か千葉村とクリスマスイベントんときの……。ただ、名前が出てこないのだ。それこそ川何とかさん並に思い出せない。……そういえば。

 

(あーそういえば確かあいつの妹の……なんつったっけ――ああそうそうけーちゃん。京華だったか…あの子と一緒に劇に出た……――――)

 

「―――あ、もしかして…………留美?」

 

「…………なんで知ってるの?ロリコン?」

 

「いや違うって、お前千葉村とクリスマスイベントって言葉に心当たりないか?あと奉仕部……とか」

 

「…………!もしかして……、は……はち、幡……?」

 

「あ~やっぱりルミルミだったのか」

 

「アレ?ハチ、ひょっとして知り合いだったのか?」

 

「ああ、リアルの方でちょっと色々あってさ……そん時知り合った小学生」

 

「ルミちゃん、この人達知り合いなんですか?」

 

「こっちは知ってるけど、こっちの人は知らない」

 

「あお、じゃあとりあえず自己紹介しとくか……。俺はキリト、こっちのハチの友達だ。よろしく」

 

「あ、えっと……。シリカって言いますルミちゃんと同じビーストテイマーで、友達です」

 

「ルミ……よろしく」

 

「お前よかったな、友達できて」

 

「八幡こそ、ぼっちだったんじゃなかったの?」

 

うっせ、と言いながらルミルミの頭をなでてやると……照れながら頷いた後、ぷいっ! と顔をそらしたのであんまり変わってないんだなと思いなんだかハチヤはホッとした。

 

「ところで八幡はなんでここにいるの?」

 

「リアルネームで呼ぶなって…………まぁ、ちょっとした野暮用だ。お前らこそこんなとこうろうろして……危ないだろ?お子様は帰って寝る時間だ?」

 

ちょっとだけ、本来の目的をぼかしてルミにそう伝えたハチヤだが……ルミは何故か不機嫌になる。

 

「…………また子ども扱い」

 

「まぁ、そういうな……。そのアイテム取りに行くの、俺らが手伝ってやるからよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ、これでも一応攻略組だしな。俺とキリトがいれば四十七層なんてたぶん余裕だ」

 

「……何だか八幡替わったね。あと、目も治ってるし」

 

「…………そうかもな。まぁ俺だって少しくらい変わることもある、ってことだ」

 

「……そっか」

 

「それにルミルミだと分かったなら、まぁ助けねぇわけにもいかんしな……。千葉のお兄ちゃんの悲しい性ってやつだ」

 

「ルミルミいうな!あと…………シスコン」

 

「うっせ、うちの妹天使だからいいんだよ。それに……まぁそのなんつーの?お前も、もう一人の妹みたいなもんだ」

 

「…………妹って………………」

 

ため息をつくルミを見てハチヤは?を浮かべる。しかしそんなルミの気も知らずキリトにも話を振り始めるハチヤ。

 

「キリトだって分かるだろ?なんとなくほっとけない気分とかさ」

 

「まぁ……分からなくはない――とは思う。いや、そりゃ確かにそんな感じだけどさ……」

 

「うむ、それでこそお兄ちゃんというものだ」

 

「……クスッ、ハチヤさんて本当に大好きなんですね妹さんの事」

 

「おうよ、あ……でも最近もう二人、下にこの弟分ともう一人妹分出来たせいかスキル強化されてるな。SAOに兄スキルあったらもうカンストしてるまである」

 

「もう一人の妹分………?誰の事、あの生徒会長?それともけーちゃんの事?それとも――――ほかの女?」

 

 あっ、あれれれ~?ルミルミのハイライトが消えてくよ~?俺なんかおかしいこと言ったけかな~?(冷汗)

 

「まてまてまてまて!おっ、落ち着け!とにかく落ち着け!今は街に帰る方が先決だろ!?」

 

「…………」ムゥ

 

むすぅ っとしてはいるものの、ルミはおとなしく八幡に従い森を脱出することにしたようだ。

 

こうして森を抜け、街に戻った一同。明日、使い魔蘇生のクエストに出向く為にそのダンジョン『思い出の丘』の説明をしようと宿に向かおうとしていたところ……。その途中でロザリアが声をかけてきた。

 

 

「あーら、シリカにルミじゃない。あの森を抜けられたのねぇ」

 

「ロザリアさん……」

 

美人ではあるが、なんとも意地の悪い笑みを浮かべながらシリカとルミの顔を眺めるロザリアは、彼女たちのパ^トナーである二匹のフェザーリドラがいなくなったのを見てこう言ってきた。

 

「あら?あのトカゲちゃんたちはどうしたのぉ~?あ、もしかしてぇ――――死んじゃったぁ?」

 

使い魔は格納も誰かに預けることも不可能なのだ。それをわかって聞いてくるあたり、この女の性格の悪さがうかがえる。

 

「確かにピナたちは死にました!でも!」

 

「必ず生き返らせる。そしてもう一回チルに会うんだから」

 

二人のその言葉に二人の不幸を実に愉快そうに眺めていたロザリアの目がわずかに見開かれるが、直ぐに嘲るような表情に戻り言葉をつづける。

 

「へぇ、ってことは例の《思い出の丘》に行く気なの?でもあんたらのレベルじゃ攻略なんてできるのかしらぁ?」

 

「当たり前だろ」

 

そこへハチヤが口をはさんでくる。

 

「なぁにアンタ、この子らにたらしこまれちゃったロリコン共の1人かしら?」

 

「ろ、ロリコンじゃねぇし!俺はルミ(コイツ)のリアルの顔見知りってだけだ……。それにあの程度のダンジョン、俺たちのアシストがあれば突破できない方がおかしい。むしろ楽勝過ぎるまであるな」

 

「ふーん……。ま、せいぜい頑張ってねぇ~」

 

ロザリアはハチヤの乱入にこれ以上は面倒くさいと判断したのか、会話を切るとさっさと立ち去ってしまう。

 

そのあとハチヤ達は宿に入りシリカとルミに明日出向くダンジョンの説明をし、装備を整えてやるとそのまま眠り翌日を迎えたのだが…………。

 

 

「…………どうしてこうなった?(二度目)」

 

 

ハチヤは正直なぜこうなったのかが分からない。

 

―――――なんでルミとシリカがハチヤの上に載って寝ているのか?将来的には美少女になるだろう二人に抱き枕にされるというのは男としてはやぶさかではないが、べつにロリコンではないため(ここ重要)この困った妹ども(何だろう……最近アイデンティティを侵されまくっているような……お兄ちゃん、いくらゲームの中だからって、ポイント低そうなことやってないよね?ねぇ?【黒笑】)を起こす作業を開始する。その際に悪寒がしたのは内緒だし、それは気のせいだ。寧ろそれしか無い――はずだ。

 

 

「……まぁ、起こすか」

 

なんで入って来たのかはおいておくとして、ともかく起こさねばと二人を揺する。

 

「おい、起きろルミ、シリカ」

 

「……ぅんっ…?…………あ…八幡。おはよう」

 

「ああ、おはよう…………って!?そうじゃじゃないだろうが!?なんで俺のベットに――ってかなんで俺の上に乗ってんだよお前ら」

 

「えっと…………さ、さぁ?」

 

「…………はぁ…もういい、とにかくシリカとキリト起こしてら、さっさとダンジョンに行くぞ」

 

「うん」

 

そのあと急に赤面してあわわわとうろたえだすシリカを落ち着かせ、グースカと眠りこけている馬鹿(キリト)を起こして……。第四十七層、《思い出の丘》を目指し転移門へと向かった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして…………。

 

 

第四十七層 《思い出の丘》

 

 

「うわぁ~!」

 

「……すごい」

 

シリカとルミは歓声を漏らす。ここ第四十七層のゲート前の街《フローリア》は無数の花であふれかえっていた。だが、それはここに限ったことではなく、この第四十七層は通称『フラワーガーデン』と呼ばれており街やその周辺のフィールドからダンジョンに至るまでとにかく至るところすべてが花だらけなのである。

 

「綺麗……」

 

「ホントだねぇ~」

 

「二人とも~その辺でストップだ。残りは帰りにでも見て行ってくれ」

 

「あ、ハイ!そうでしたね」

 

「……ケチ」

 

「おい」

 

そういってふてくされているルミをなだめ、先へと進んでいく一同だったのだが…………。

 

 

 

 

「ふあぁぁ!?た、助けてぇ~」

 

「ちょっ、何なの!?」

 

「落ち着け二人とも、そいつ……」

 

「そうだ落ち着け二人とも。そいつ雑魚だから、スッゲェ弱いから。とにかく落ち着いて、そいつの頭の白くなってるところにソードスキルを叩き込め。そうすりゃ……」

 

 ハチヤとキリトが落ち着けと言ってくるが二人はまさに『歩く花』もっと言えば人を食う『食虫植物』いや、『食人植物』といったところだろうか?ともかくそんな感じのmobにもう大慌て……というか軽くパニックである。…………まぁ、植物のくせに妙にぬめぬめした触手のようなもので、いきなり逆さ吊りにされたら女の子にはちときついかもしれないが。

 

「だ、だってぇ……!」

 

「こいつら気持ち悪い!」

 

「……確かにそうか」

 

確かにこのシチュは、所謂『そっち』系の方々が見たら悶え時にそうなものではあるが………。ぶっちゃけノーマルのキリトとハチヤには幼女二人のこんあシーンそんな長く見ていたくないし、加えて二人なのでステレオでキャーキャー言ってるので何ともいたたまれなくなる。というか、普段無口なルミがここまで喚くとは意外だった。

 そんな訳で、スカートの為思い切って動けない二人を見かねたハチヤが剣を引き抜き二人を助けにかかる。レベルの高いハチヤにとってこの程度の相手など、もはや敵ですらない。彼のフルった斬撃は、たった一撃であっさりとMobをポリゴンに変え……そうやって消えてしまった敵から落っこちてくる二人を受け止める。

 

「さて諸君、さっきので得た教訓は何だね?」

 

キリトはなんだか先生か教官のような感じで二人に問いかけるが……。

 

「えっと……」

 

「…………むぅ」

 

「二人とも油断大敵、勝って兜の緒を締めよってとこだな……。オーケー?」

 

「は、ハイ」

 

「……むぅ…………分かった」

 

ハチヤの言葉に、シリカは素直にルミはまたも不貞腐れたように答えるが……まぁよし、と先へと進んでいく一同だったが……。

しかし、その後も似たような――いや、むしろ気持ち悪さが倍増しているような仕様のMobモンスターたちのの出現に少女二人はタジタジだった……。

 

とはいえ、それでもどうにか自分たちの力で突破しようと足掻き続け、どうにか倒して進んできた。

 そして、ダンジョンも残りあと少しといったところに差し掛かりモンスターもあらかた倒したのだが、ルミがハチヤにじとーっとした目つきで見てくる。

 

「ねぇ、ハチマン。…………もしかしてエッチなモンスターばっかり選んでない?」

 

「ンなことするか!」

 

何度も言うようだが、俺はロリコンではない!(魂の叫び)

 

大体つるペタの幼女がネトネトされてるとこなんて見ても――――何それ超卑猥、むしろ卑猥さしか出てこないんだが……。っていうか、さっきから散々見てるけどね。さきほど散々見たシーンがフラッシュバックし、新たな扉が開きかけた八幡を現実に引き戻したのはそのシーンの元凶その一だった。

 

「…………ねぇハチマンってば!」

 

「はっ!」

 

いけないいけない、思わずトリップしてしまっていた……。ってかルミルミよ、リアルネームで呼ぶなってのに。何度言ったら分かるんですかねぇ?それにしてもやばかった。もう少しで堕ちるとこだった……。幼女とは可愛く、また恐ろしいものだ。

 

そんな感じで、禁断の扉一歩手前ぐらいまでトリップしていたハチヤは無事現実へと帰還した。

 

「……ゴホン、ともかくだ。もうすぐこのクエストのラストだ―――ほら、あそこの祭壇あそこでこのクエストで得られる使い魔蘇生用アイテム《プネウマの花》が手に入る」

 

先ほどまでのことを悟られまいと、わざとらしい咳払いで場を一新する。そして、しばらくまた歩き続けると……。

 

 

――一同は、ついに目的の場所。『思い出の丘』の最深部である、祭壇に辿り着いた。

 

 

その祭壇にビーストテイマーの二人が駆け寄ると……その祭壇から二本の花が咲いた。これこそが、このダンジョンで手に入る限定アイテム且つ彼女たちの目的の品《プネウマの花》である。

 

「これで……あの子たちがよみがえるんですね」

 

「うん、そうだよ。よく頑張ったなシリカ」

 

「えへへ……っ」

 

「…………よかった……」

 

「……頑張ったな」

 

そういってほっとしている二人を静かに見守り、フィールドを引き返してく。使い魔の蘇生は安全な圏内でやった方が確実だからという判断のもとでの行動だ。そして引き返す途中……キリトとハチヤの依頼の目的の連中が4人を見ていた。どうやら、昨日のレアアイテムゲットの情報を聞き……横取りに、いや…そんな生易しいものじゃない。まさに強奪、持ち主である少女たちを殺すことさえ厭わないような奴らだ。

…………この二人の前だが、まぁ仕方ない。タイミングが重要である、なのでハチヤは機会をうかがうことを決めると……キリトにアイコンタクトを送る。それを察したらしいキリトは、小さく頷くと機会が来るのを待つことを了承した。

 

そしていかにもな橋に差し掛かったところで、ハチヤとキリトは二人を手で制し、止める。

 

「二人とも、ちょっと止まってくれ」

 

「キリトさん、ハチヤさん、どうしたんですか……?」

 

「ハチマン……?キリトも……どうしたの?」

 

不思議そうにしている二人には申し訳ないが……わざわざ、こんないかにもな橋で挟み撃ちにされたらそれはそれで多少困る。なら、こちらから仕掛けていくことで相手の出方を崩すと同時にこちらに有利に動くように仕向ける。

 

「そろそろ鬼ごっこは終わりにしないか?ストーカーさん」

 

「まったくだ……いい加減にしろよ、お前らの熱視線なんか受けたくねぇっての…………」

 

すると橋の反対側の方に生えてる木の影から一人の女性が出てきた。その人物はシリカとルミの見たことのある人物でこの一見おそもそもの始まりのきっかけに大きくかかわっている人物であった。

 

「ロザリアさん……?」

 

「なんで……?」

 

「へぇ、あたしのハンティングを見破るなんて……随分高い索敵スキル持ってんのねぇ?」

 

ロザリアは妖艶な笑みとともにハチヤを見てくる。

 

「能書きはいい、俺たちはお前〝達〟を討伐するために来たんだ。それに俺の知り合いにちょっかいかけようとしたことも……今からたっぷり後悔させてやるよ」

 

ぞっとするような瞳でロザリアを見据えているが、ロザリアはそれに気づきもせず、仲間がいる自分にケンカを売っている馬鹿かカモ程度にしか思ってない。

 

「へぇ、ならたっぷり後悔させてもらおうじゃない」

 

数で押している、自分たちの方が有利だ。そんな直ぐに崩れる自信を絶対だと思っているロザリアは、不敵に笑って見せるとパチンッ

と指を鳴らす。

すると木の後ろから十人程度のプレイヤーたちが出てくる。

 

「この人たちは……?」

 

シリカの疑問にキリトが答える。

 

「こいつらは犯罪者……オレンジギルド《タイタンズハンド》の奴らで、そこの女がそのリーダーだ」

 

「で、でも、ロザリアさんはグリーン……」

 

「オレンジギルドって言っても全員がオレンジなわけじゃないんだ、獲物を引き寄せるグリーンが必ず一人二人いるんだ」

 

「詰まる、この前まで私たちのパーティにいたのは……」

 

「まさか……!」

 

「そう、今度はお前たちを狙っていた……という事だ」

 

「そうそう、一番楽しみだったアンタらが抜けちゃったからがっかりしてたんだけど……何だかレアアイテム取りに行くっていうじゃない?だから、ここで狙ってたってわけ」

 

「うそ…………」

 

「…………卑怯者」

 

「は、何とでもいいな。それにしてもアンタらも馬鹿ねぇこのことわかってるのにこの子たちについてくるなんて、ホントにたらしこまれちゃった?」

 

「いや、俺たちはアンタらを探してたんだ―――この間アンタらが三十七層で襲ったギルドを覚えてるか?」

 

ロザリアはたいして気に留めた様子もなく、しばらく考えるしぐさをした後やっと思い出しましたとでもいうようにこういった。

 

「ああ、あのビンボーな連中ねぇ」

 

「そのギルドのリーダーだった男はな……最前線の転移門前でお前らを倒してくれる奴を探してたんだ。回廊結晶を片手に≪お前らを倒して牢獄に送ってくれる≫ようにってな……。お前らみたいな馬鹿にあいつの気持ちがわかるか?わかるわけないよな……人を何の思いもなく殺せちまうような屑に…………わかるわけがない」

 

「はっ!何本気になってんのよ、バッカみたい。そもそもここで殺したからって本当に死ぬかなんてわかんないじゃない。もしかしたら現実に帰ってるかもしれないじゃない?むしろ感謝してほしいくらいだわ」

 

「…………そうか」

 

「そもそも、ここでのことなんて現実に罰せられるわけでもないのに理屈やら倫理やらを持ち込んで正義の味方ぶるやつがあたしは大っ嫌いなのよ!」

 

「……分かった」

 

「あら、随分と物分かりがいいわね?なら金とアイテムとそのガキどもおいてさっさとどっかいきな」

 

「俺が分かったていったのは…………てめぇらが救いようのねぇゴミだってことが、だ」

 

びっくりするほど冷たい声色でロザリアたちをにらむハチヤに全員がひるむ。

そう言いながら、剣を鞘から引き抜き……その射抜く様な視線をロザリアたち《タイタンズハンド》のメンバーたちに向けたまま、キリトにこういった。

 

「キリト、俺一人で十分だ。手を出すなよ?」

 

「……ああ、わかったよハチ」

 

その会話を聞いてタイタンズハンドのうちの一人が怯えた声を上げる。

 

「黒と緑がかったロングコートに盾無しの片手剣……それに―――キリトに…………ハチ?

ハッ!?ろ、ロザリアさん!こ、こいつら攻略組のビ、ビーt……!!」

 

メンバーの一人が、とても決定的な事を気づきそうになるが…それをロザリアは馬鹿馬鹿しいと嘲る様に遮る。

 

「攻略組ぃ~?そんな奴らがここにいるわけないでしょ!それにもしそうでも、レアアイテムもってるカモに過ぎないんだから、この人数に勝てるわけないでしょ?」

 

その言葉にたしかに…と思い直したか、それとも恐怖を払ったのか……果たしてどちらなのかは定かでは無いが、《タイタンズハンド》のメンバーは此方へとゆっくりと歩み寄ってくるハチヤに切りかかっていく。

しかし、ハチヤは反撃もせずにただその攻撃をただ受け続ける。

その様子を見ていたシリカ、ルミの二人は驚きキリトに早く助太刀をしようと呼びかけるが、キリトは二人を落ちつく様に指示する。

 

 

「き、キリトさん!ハチヤさんが!?」

 

「助けないと!!」

 

「大丈夫だよ、二人とハチのHPバーを見てみて?」

 

キリトのその言葉に、二人は慌ててハチヤのHPバーを見る。

そこでは、通常では考えられない事が……起こっていた。

 

「えっ……」

 

「減って……ない?」

 

そう、嵐のような斬撃を受けても全く減っていない…………いや、正確にはほんの少しだけは減少するのだ。だが、少しすると…時間にして10秒足らずで、すぐに満タンに戻るのだ。

その様子に苛立ったロザリアは、いつまでたってもたった一人のプレイヤーを殺すどころか倒す事すら出来ないメンバーに怒鳴りかける。

 

「……あんた達!何やってんだい、さっさと殺しな!!」

 

「はぁ……はぁ……どうなってんだ!?」

 

「10秒あたり500…いや、450ちょいってとこか……生憎だが、その程度のダメージじゃあ俺は倒せねぇな。俺のレベルは79、HPは14800……ただでさえあんたらとはかなりのレベル差だろうな…。そして、それに加えて―――俺にはバトルヒーリングスキルによる自動回復が10秒につき600ある。つまり、どうやってもアンタらに俺は倒せないってことだ」

 

「……そんなん有りかよ…………!?」

 

「有りなんだよ。たかがデジタルの数字が一つ二つ違うだけでここまで無茶な差がつく、これがレベル制MMOの理不尽さってやつなんだ……」

 

そして回廊結晶を取り出してタイタンズハンドのメンバーにこういった。

 

「こいつが何かとか、そんな話はどうでもいいな……テメェらには今すぐに牢獄に飛んでもらうぞ」

 

「チッ!転移―――」

 

ロザリアが往生際も悪く転移しようとしたのをハチヤが高速で移動して剣を首に突きつける。

 

「ぐ、グリーンのあたしを傷つければあんたがオレンジに……!?」

 

「だからなんだっていうんだ?」

 

「!?」

 

「別に抵抗するなら……この場で全員殺してもいいんだがな?俺は依頼人の要望で仕方なくお前らを生け捕りにしてるんだ。べつに俺はお前らのことなんてそうでもいいんだ。それこそ殺してレッドになったら……そうだな、今度はほかのレッドギルドでも信用させて内側からつぶしにでも行こうかな……そんな訳でだ、俺には別にお前を殺すなんてその程度なんだよ」

 

その言葉にロザリアの顔から笑みが完全に消えうせる。

 

「ああ、でもお前は殺されたいんだっけ?そういやさっき、確かこう言ってたよな…………〝この世界で死んだって死ぬなんて証拠はない。むしろ解放してやってるんだから感謝しろ〟ってな…………?」

 

「ひっ!?」

 

「ちょうどいい…………今度はお前が実験台になってくれよ、それで成功したら俺の仲間たちの解放に使うから」

 

「や、やめて!し、死にたくない!死にたくない!!いやぁあああああああああ!!!!」

 

「あ、そう?でもな…………俺がお前の言うことなんて聞くいわれなんてないよな?」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!!?!?!?!?!?!?」

 

ロザリアはじたばたとあちやから逃げ出そうとするが、ハチヤから逃げ出せるはずもなくその姿はひどく醜く見える。

 

「そんなにいやなら殺さないでやろうか?」

 

「!?」

 

ただ付け加え、回廊結晶でゲートを開けその暗闇を見つめながらこうロザリアに告げながら…………。

 

「このゲームのクリアまでの監禁と不自由の日々と引き換えに、な?」

 

「い、いや……ゆ、許し―――」

 

「お間に殺された奴らも……きっと死ぬ前…お前らにそういってたんだろうな…………」

 

 そのまま、ロザリアを牢獄への闇に放り込むと先ほどまでのやり取りに腰が抜けてる連中もまとめて放り込み、最後の一人が消えるとそのゲートも閉じる。

 そしてハチヤはため息を一つつくと三人のもとに戻り、帰ろうと告げる。

 

「ハチ……お前って――――――怖いな……」

 

「悪かったな、あんなろくでなしなんて殺してやろうかなんて思ったがあくまでも依頼だからな」

 

「……照れてる?」

 

「…………ンなわけあるか」

 

 そうして二人はすっかり腰の抜けてしまってる幼女二人組を起こし、二人のホームに送っていく。その道中でハチヤとキリトは二人に囮にしたみたいになってしまってすまなかったと謝った。

 それに対し二人は特に起こった様子もなく二人は―――

 

「別に、気にしてないし。むしろ助けてもらったから……」

 

「そうですよ、お二人は私たちの恩人ですし……それに私たちはお二人が優しいこと……私達はちゃんと知っていますから……」

 

 ―――そう言ってのける。それを聞きキリトとハチヤは恥ずかしそうに笑うと、ありがとうと二人に告げると二人を彼女らのホームまでしっかりと送り届け《プネウマの花》で使い魔たちが蘇生されるところをしっかりと見届けると再び前線に帰っていく。

 しかし、ルミはハチヤの服の裾をつかみ寂しそうにこう聞いてきた。

 

「…………ねぇハチマン。また、会える?」

 

「ああ、フレンド登録したからな……なんか用があったらメッセージ飛ばしてくれ。そうしたらこっち来るからよ」

 

「うん」

 

そういって嬉しそうに笑ったルミとシリカを残し、二人は今度こそ前線へと戻っていく。守りたいものを帰るための原動力を、また一つその胸へとしまうと…………彼らは転移門へと入り姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、アインクラッド編もだいぶ進みました。次回はまた結構シリアスなところなので、頑張って書きます。


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『圏内事件』



今回は、圏内事件の前半です。

とはいえ、事件の本編に入るのは次話からなので……今回は、例のお昼寝シーンが主です。

それでは、どうぞ。


 

 

 

 

 それは――ビーストテイマーの二人との出会いから少し経った頃のことだった。

 

 

 

 

この浮遊城『アインクラッド』における最高の気象設定の日……それは起こった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

ハチヤとキリトの二人はいい天気にかこつけてダンジョン攻略を休憩……平たく言えばサボっていた――そんな時だった。

 

 

「あ〜ハッチー何サボってるし!」

 

「キリト君も、何してるのよ!」

 

「まーそういうなって……こんないい天気の日に働くなんて馬鹿らしいだろう?」

 

寧ろ働いたら負けなまである。

 

「そーそー」

 

完全にやる気ゼロの二人に氷結の女王サマが近づき声をかけてくる。

 

「そう、随分といい身分のようね?」

 

その声を聞くなり二人はビクッ!? となり、その声の主の方へ視線を向ける。

 

「ゆ、ユキ…………」

 

「で、何か言い逃れをいうなら聞いてあげてもいいのだけれど?」

 

「えっと……と、とりあえず、お前らも寝転がってみたらどうだ? 分かると思うんだけ……ど……?」

 

「……それはあなたのとなりで寝ろということかしら?」

 

「へっ?い、いや、別にそういうことじゃ……」

 

するとそこへもう一人の少女が会話に乱入してくる。

 

「はいは〜い!じゃあ私がとなりになりますぅ」

 

「…………なんでここにいんの?」

 

割とマジで。

 

「え〜?別にいいじゃないですかぁ〜先輩にあいたかったんですよぉ」

 

「はいはい、あざといあざとい」

 

「ぶぅ〜先輩のいけずぅ〜」

 

「本当に何の用かしら、イロハさん?」

 

そう、この場に乱入してきたのはハチヤこと八幡や雪乃、結衣のリアルで通ってる高校の後輩『一色いろは』。ここでのプレイヤーネームは【イロハ】、これまた彼らの知り合いの八幡曰く《リア充グループ》こと、葉山隼人――この浮遊城では【ハヤト】率いるパーティのメンバーである。

 

「あ、イロハちゃん。やっはろ〜」

 

「あ、ユイ先輩やっはろ〜です!」

 

「つーか本当なんでここにいんだよ。葉y……ハヤトたちはどうしたんだよ」

 

「あ〜えっとですねぇ……」

 

イロハはココに来た理由をしゃべりだすが、端的に言えば――暇つぶし、だそうである。

 

「……このあざとすめ」

 

「先輩ひどいですよぉ」

 

「…………おい」

 

「はい?」

 

「なんで俺のとなりに来てるの?」

 

 イロハは ごちゃごちゃ言いつつもハチヤのとなりに移動していた。

 正直美少女に近くに来られるのは心臓に悪いというかなんというか…………とにかくむず痒い気がするわけで、離れてもらえるならありがたかなぁ〜くらいの気持ちで言った―――

 

 

―――決して、絶対に後ろにいる二人が正確にはユキとユイが怖いからとかでは断じてない。断じてない。断じて違うからね!? (必死)

 

「え?だって先輩が、俺のとなりに来いって……」

 

「誰がそんなこと言ったんだよ。どっかに仮想の先輩でもいんのかよ、仮想世界だけに」

 

「はぁ、全然うまくないですよ先輩。今のはイロハ的にポイント低いです」

 

「うっせ、つーか俺の妹の真似すんなよ。それを俺に言っていいのは小町だけだ」

 

「相変わらずシスコンですね、まぁ私の答えは『断ります』ですけどね♪」

 

すっげぇいい笑顔でそう言ってのけやがったこの小悪魔系後輩は……これ以上この場の空気をイマジンブレイクしてくれるな。この場の気温が最高の気象設定からマイナス273℃になってるから!まじでやめて‼︎

 

「そう…………そうくるわけね。ユイさんこのセクハラ谷君に調教を…………ってあら?」

 

ユキがそう言ってユイの方を見るとすでに姿はなく、ハチヤのもう片方のとなりを確保している友人の姿だけがあった。

 

「イロハちゃんずるいし!あたしだってハッチーのとなりが良い!」

 

「お、おいユイまで…………!?」

 

「むぅ〜」

 

マジでなぜこっち来るし!?

 

「…………」イソイソ

 

「アスナ?なんで君までこっちくるの?」

 

「え?嫌……だった?」

 

「い、いや全然! む、むしろ大歓迎です!!」

 

「よかった♪」←さりげなくキリトとユイハの間に割り込む

 

「」

 

もはや絶句するしかないユキさんでした。

 

 

 

 

 

そしてそして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――しばらくした後のこと

 

 

「…………やべ、本格的に寝てたな……こりゃあ――」

 

いつのまにか寝てしまたのか完全にお昼寝タイムを満喫していたわけだが、起きようと体を起こしたハチヤは両サイドから何か引っ張られるような感触によって起き上がることができない。

 

「……? なんd――――ナニコレ?」

 

両サイドからユイハとイロハに抱きつかれていた。

 

(あぶねー!? これあれか? 起きるのがちょっと遅かったら抹殺エンドまっしぐらってやつですか!?)

 

 危機一髪(本人談)の所で起きたハチヤはとりあえずそっと二人の腕を離し、木の上にスルスルと登り…周りに人がいないかを確かめる。

 そして一応睡眠PKを警戒して未だに寝ている目の前の仲間たちをもう少し見守ることにした。

 そうして木から降り、そいつらの頭側に座るとぼーっとすることにした。

 

(にしてもこいつらスゲーよく寝てんな……)

 

 寝ているこいつらを端から順に眺めていると、なんとなく目の前にいるこいつらについて少々考えていた。

 まずはキリト。こいつとはこのゲームのβテストの時からの付き合いだが、こいつは俺にとって何か?と考えると、もう一つの形の『本物』で、こんな風に感じているなど昔の自分なら到底考えられないのだろうが……『弟分』と言った所である。

 まぁ確かに、第1層の攻略の時にも俺に付いて来るくらいだからだろうか?ほっとけないというか共に戦う相棒のような感覚だ。そして自分にもう一度、人を信じるきっかけをくれた一人でもある。

 

(まさか一番欲しくないと思ってた弟という存在がこんな形でできるとは……)

 

「zzz」

 

 頭を軽く撫でてやり、続いてそのキリトの腕を掴み安らかに寝ている少女に視線を向ける。

 アスナとは、出会ったのは本当に偶然だった。あの日、あのトールバーナでたまたま出会い、ここまで共に来た。ちょうど妹の小町と年齢が一緒だったためかついつい妹扱いしてしまうような存在、とでも言えばいいのだろうか?だが、彼女は戦闘においても俺は相当頼りにしている。しかし、頼もしすぎでは?などと感じる時もあるのだがね。

 

「……ま、良いんだけどさ」

 

そう呟き彼女の頭も撫でてやる。

 

 さてさて、この辺からが難しい所だ。

 イロハ…………初めて会った時からよく俺のことを振るやつ、という印象が強い。あとあざとい。

 こいつはなんというか、そのまんま後輩キャラ、で良い気がする。今でも仮想世界に来てまで葉山を追っている(とハチヤは思ってる)あたりこいつの根性はすごいと言えるのではないだろうか?

 まぁ、頼りにしてはくれているようだし精々これからも手助けしてやろう。先輩として……な?

 

「ま、精々頼りにしとけ。保証気かねぇけど」

 

こいつも撫でてやる。するとなんだか猫……いやむしろ狐だな。そんな感じに擦り寄ろうとでもしているのか顔を赤らめ擦り寄るような仕草をした。

 

(ったく、こいつは素どころか寝ててもあざといのかよ……)

 

「~~えへへ……///」

 

(可愛く反応するなよ、うっかり惚れちまうだろうが…)

 

そしてさらにその隣にいるユイハに視線を向ける。

 彼女は、一言で言うなら『癒し』とでも言うのだろうか?とにかくなんかほっとするような、とにかくそんなイメージが先行する。

彼女はそんな子だ。とにかく優しい、でも俺は優しい女の子は嫌いだった。勝手に期待してしまうから…………でも本当は違った。結局のところ俺は彼女の根気に負けた、と言えばいいのだろうか?

 突き放したつもりだったのにいつの間にかまたかかわっていた。そして、助けられたりもした。

 そして俺は初めて、優しい女の子という存在とはまた別のところにいる彼女を見ていた。

 

 そして…その気持ちの先には……もしかしたら、自分が気づききれないものがある気がした。

 

 そして最後に何故か頭上に陣取っていたユキに視線を向ける。

 彼女はハチヤ…八幡のあこがれだった。

 嘘も虚言も吐かずにただ美しくある。そんな彼女にあこがれていた。しかし、彼女に完璧でない部分はあった。

 しかし、それゆえに起こった問題の数々はユイ…結衣とユキこと雪乃とハチヤ、八幡の三人で乗り越えてきた。

 この変化に自分自身驚いている。昔の自分が見たらなんというだろうか?とりあえず…リア充爆発しろ!とは言う気がする。

 ともかくそんなこんなの色々を過ごしたことから、八幡が雪乃に抱く像は…彼女に言ったr罵倒されること請負だが、『相棒』といったところだろうか?頼りになるし支えたいようなそんな感じだ。結衣のように守りたいだけじゃない彼女は自分自身で輝ける存在なのだ。だから八幡はサポートに徹するのだ。

 

 大体こんなところだろうか。

 一通りの考察を終えたハチヤはもう一度寝転がり、眠らないように注意しながら静かに時を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、日も傾き気象設定が少しずつ夜型に変更され始めると、クシュン という可愛らしい音と共にユイが起きる。

 

「はれ……?」

 

「おはよ」

 

「あ、うんハッチーおはy……え?アレ、何してたんだっけ?」

 

「お昼寝してたよ~君たちは。注意しに来た割には随分と気持ちよさそーうに」

 

「……はっ!?そうだった!!も~起こしてくれてもいいじゃん!」

 

「いや、なんか忍びなくて」

 

「む~」

 

 そんなやり取りをしているとほかの連中も起き出したようだ。

 

「……?」

 

「ふぁああ〜」

 

「…ほぇ?」

 

「あ〜よく寝た〜」

 

 そうやって起き出してきた残りのメンバーに「おはようさん」と声をかけるとキリトは「おはよ」と返して来たのだが、アスナとユキは少し顔を赤くしながら俯いていた。逆にイロハは頬を膨らませながらあざとく「せんぱ〜い、起きてたならおこしてくださいよぉ…あ、そんなに私のネガを見てたかったんですか?」なんて返してくる。

 そんな、メンバーにそろそろ夕飯時だから飯でも食いに行こうと声を掛ける。

 最近料理スキルを上げているのだがまだ完璧とは良いがたいので仕方なく出来合いの店売りで済ませてしまうことが多い。

そんな訳で近くの街のレストランに入ることになった一同だが…………。

 

 

その時、唐突に響き渡る悲鳴。

 

その声に驚き、外に出る一同。

 

 

 

 

そこで見たのは…………。

 

 

時計塔にキリストの処刑のごとく、刺殺された…………鎧の騎士の姿だった――――

 

 

 

「な……何だ? あれは―――」

 

 

 

そう絞り出すのが精一杯で、頭はいまだに何が起こっているのかを――認識しかねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いかがだったでしょうか?

次回はいよいよ、シリアス突入……ですが、正直自信ありません……。

でも、八幡と棺桶の絡みはぜひ作りたいので、そのあたりをうまくかければ……。

では次回また会いましょう。


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『罪の茨』

遅くなりましたが、圏内事件の第二話です。

何だか思ったよりも長くなってしまい、このままだと全4話恒星くらいになっちゃうのではないかと思い始めています。

ともかく、事件が本格的に開始となります。


それではそうぞ!


三人が、悲鳴を聞き広場に飛び出したところ……そこには、胸を貫かれ時計塔に磔になっているような状態のプレイヤーがいた。

 

なぜこんなことが、起きている?

疑問は尽きない、しかし、ここは『圏内』。

間違っても、プレイヤーに()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだ……。

 

 

だがしかし、これにはとある抜け道が存在する……。

 

 

街中、いわゆる圏内カテゴリに分類されるエリアでも……「プレイヤー・キル」――いわゆる殺人は可能だ。

 

SAOには、【デュエル】と呼ばれるプレイヤー同士でのバトルが可能だ。とはいえ、SAOでは『HP0=現実での死』というのが原則且つ理不尽な掟となっており、誰も好き好んでプレイヤー同士でつぶし合うような真似はしないししたがりもしないだろう。

 

だが、【デュエル】にはいくつかのモード選択が用意されており、通常のゲームでよくみられる『完全決着モード』に加えて、『初撃決着モード』という強攻撃ヒット或いはHP半減で決着といったモードが存在しており身内同士でのいざこざの決着をつける時や、ギルド同士いざこざでもこれを使って決めたりもする。

何よりもこれなら、相手を攻撃してそれがヒットしても()()()()()()()()()()()()()()()。なのである意味これがSAOにおける『対戦プレイ』の基本とも言えよう。

 

しかし、このカーソルの色変化の有無は腐った情熱を追い続けるオレンジやレッドといった犯罪者共の要らない努力を煽ることになる。

 

その一つに『睡眠PK』というのがある。

 

ハチヤが、皆が昼寝をしていたときに周りを警戒していたのはこれが理由だ。

 

寝ている相手に『完全決着モード』のデュエルを申し込み、文字通り寝首を掻く。こんなバカげた殺人方法がこの『アインクラッド』で実際に起こっているのだからいただけない。

 

そんな訳で、今回のこの騒動にもこれが関連していたとしたらとんでもないことになる。何せデュエルの間は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

仮にそんな抜け道を用意した上での犯行だったとしたら……。

 

嫌な予感が頭を駆け巡るが、ともかく今は目の前の状況をどうにかしなければならない。

 

そのためには状況を素早くかつ正確に把握することだ。

 

ハチヤは、問題のプレイヤーを見て彼のおかれている状況を素早く見て取る。

 

かなり大柄なプレイヤーだ。武骨な鎧を纏っているから狩りの帰り…とかなのだろう。

加えて、彼に刺さっているあの武器、あれは所謂短槍(ショートスピア)のカテゴリに属するタイプだ。それに気を取られていたが、彼の首にロープがかかっていることにも気が付いた。しかし、これはここ『アインクラッド』ではどうでもいいことだ。

何せここでは『窒息』の概念が存在しない。窒息死はこのSAOの中では死因にはならない。

 

なら解決すべき問題はやはりあの刺さっている武器だ。実際傷口からダメージの継続を知らせるエフェクトが出ているのだから、これは確定した。あれは間違いなく槍系の武器に存在する《貫通継続ダメージ》だ。

 

あの建物の中に人間はいないのか? と一瞬考えたが、これだけの騒ぎだ。気づかない方がおかしい。ならばこちらから動くしかない。投擲スキルであのロープを断ち切るのも可能だが、狙いがそれたらまずい。

事情と状況はいまだ不明だが、今の状況は()()()()()()()()()()()()()()というもの。万が一を考えれば、これは最終手段だろう。

 

ならば、今するべきことは……!

 

「キリト、下であいつ受け止めろ!」

 

「あ、ああ。分かった!」

 

ハチヤは走り出し、建物の中に入り武器とロープを吹き飛ばすつもりなのだ。

敏捷極振りは伊達ではないと言わんばかりに彼は超速で男の元へと迫る。

 

その最中にも、ハチヤは事態を早く進めるためプレイヤー自身にも呼びかける。

 

「おい! ぼやぼやしてるとホントに死ぬぞ! 死にたくなかったら早くそいつを抜け!!」

 

そう怒鳴ったが、死の恐怖ゆえか男は手に力が入らないらしく…自分からその短槍を抜けない。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちをしながら、教会の二回へと向かうが……このままだとおそらく間に合わない――ならば!

 

何を血迷ったかハチヤは壁を駆けのぼり始めたではないか!壁走り(ウォールラン)と呼ばれるそれは出来るものなどほとんどおらず、尚且つそれは敏捷値が相当高くないとできない芸当だ。

しかし、それをハチヤは本当にやってのけた。

 

そのまま駆け上がり、駆け上がりざまに剣を鞘から引き抜きロープと短槍を弾き飛ばそうとしたが――

 

 

――時既に遅し。

 

ハチヤがあともう一歩で届くところまで来た直後、男の体はポリゴンの塊となって消え失せた。

 

消滅の直後、ハチヤには男が何かを叫んだように聞こえたが……はっきりとは聞き取れず、断末魔の叫びのように思えてならなかった。そのまま、空中で支えを失ったハチヤは地面に落ちるが、確かに〝痛み〟は感じた。

しかしその直後の自分のHPバーを見たが――それはほんの1ドットさえ減ってはいなかった。

 

となると、やはりあれはデュエルによるものだったのかと考えを切り替えたハチヤは痛む体を無理やり起こしながら、キリトたちに怒鳴るように指示を飛ばす。

 

「おい! どっかにウィナー表示があるはずだ! 探してくれ、そこに犯人の名前がのってるはずだ!!」

 

それを即座に理解した仲間たちは、即座に広場中を見渡しシステムメッセージの有無を確認した。何せシステムウィンドウの表示時間はまずか三十秒なのだ、ぼやぼやしていたら消えてしまい、この事件の真相も闇の中だ。

 

 

ハチヤ達は制限時間の三十秒の間、血眼になって探したのだが―――

 

 

 

――結果として、その広場。果ては町全体のどこにもシステムメッセージは、()()()()()()()()()()…………。

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

その後、ハチヤの索敵スキルで教会の中を捜索したが、誰もいなかった。もちろんまだ見ぬ敵が、隠蔽(ハンティング)スキルのアビリティをもつアイテムを使っていないとも限らないが……現在の『アインクラッド』でハチヤ並みに鍛えた索敵をカバーすることは実質不可能だ。

 

それにしても、事件が起こり犠牲者が出てしまったが……事が一応済んだおかげか、ハチヤの頭はより冷静さを取り戻しており奇妙な点がいくつかあることを改めて認識した。

 

「なぁ、キリト。奇妙だと思わねぇか? このロープ」

 

「確かになんか変だ。このロープ、座標固定オブジェクト指定のテーブルにつけられてるけど……」

 

「ああ、これを使った理由が分かんねぇな……見せしめのためにわざわざ首に結んでから槍を指して窓の外に放り出した、なんて……馬鹿げてるとしか言えねぇよな」

 

この妙に芝居がかった演出は何だ? ハチヤには犯人はふざけてるか面白がっているかのどちらかだとしか思えない……。

 

「おまけにウィナー表示も見つからずじまい……。こいつは明らかにおかしい」

 

「圏内なのにダメージを負い、かつウィナー表示がない=デュエルによるものではない……か」

 

おかしなことばかりが今のところの事実としてハチヤ達に突きつけられる。

不謹慎かもしれないが、これではまるで推理小説の登場人物にでもなったかのような気分だ。

 

不可能なはずの殺人。

 

その方法。

 

その理由・動機。

 

行動の意味。

 

と、挙げればきりがないほど〝出来すぎている〟。

 

誰かが考えたシナリオのにおいがぷんぷん漂う。作りこみすぎてどこか荒い印象を受ける。

 

「……こんな三文小説に付き合ってられねぇな。こんなバカな筋書きを書きやがった誰かさん(犯人)には、たっぷりと話しを聞かせてもらおうじゃねぇか……」

 

「は、ハチ……? こえぇぞ? 顔」

 

そんなキリトの突っ込みはスルーして……まるで探偵にでもなったかのような気分でこの《事件》に臨むことになったハチヤだった。

 

 

 

取り敢えず、もっと情報がいる。下で女性陣が聞き込みをやっているから……とにかくそちらの方も聞くとしよう。

 

 

そう思いハチヤが、教会から降りてくると……うちの女性陣に事情を聞かれている一人の女性プレイヤーがいた。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

彼女の名は《ヨルコ》というらしく……先ほど殺された男性、《カインズ》の友人なんだそうだ。

 

何でも昔同じギルドのメンバーだったらしく、今でもたまにパーティを組んだり食事をしたりする仲で……今日もそんなつもりで集まったのだという。

しかし、人が多くて二人は逸れてしまった。

 

それで彼女はカインズを探していたが、結局見つからず広場の方まで足を運んだところで……カインズが先ほどの状況に置かれているところを目撃したのだという。

 

「なんだか急に協会の窓から人が降って来たんです……最初は、ただの悪ふざけか何かでプレイヤーの人が度胸試しとかをやってるのかなって思ったんですが、その人影は途中で急に止まって、それでロープでつるされているのに気づいて…それが――カインズで……私どうしていいか分からなくなって…………」

 

そのまま彼女は泣き出してしまう。それを女性陣(主にアスナとユイ)が慰める。

 

確かに、彼女にしてみれば何が何だか分からない状況だっただろう。

いきなり友人と逸れ、いきなり広場で意味不明・原因不明の光景を目の当たりにした挙句……その被害者が友人であり、おまけに安全なはずの『圏内』で本当に〝殺された〟のだから…………。

それでも、どうにか泣き止んだ彼女は震えながらもハチヤ達の質問に答え状況の捕捉情報を与えてくれた。

 

「じゃあ……カインズの後ろには、人影がいた……と?」

 

「はい……。はっきりと見えたわけではないんですけど……カインズの後ろに一瞬、確かに……人影のようなものがいた様に見えました…………」

 

「なるほど……」

 

「失礼ですが……カインズさんが誰かに狙われるような理由に、心当たりは有りますか?」

 

ユキの質問に、ヨルコは一瞬硬直し、それから首をよこに振った。

少々配慮に欠ける質問ではあるが、これを省略することは出来ない。それをユキも分かっているからこそ、省略することはなかったのだろう。

 

その後もいくつかの質問に答えてもらい、彼女を最寄りの宿に送り届け……この騒ぎを聞きつけてやって来た攻略組のプレイヤーたちに今回の事件の概要を説明した。

未知の殺人ということで、今後の新たなPK対策が必要になるかもしれないということで一度話は打ち切られ、ハチヤ達もとりあえず帰路につくことになった。

 

またその手には、先ほどの殺人に使われたと思われるロープと短槍が握られていたのだが……。

 

「情報が少なすぎる……」

 

「そうね……それに不可解な点が多すぎるわ」

 

「未知の殺人方法、ですか……」

 

「それにしても、なんでこんなことをする気になったんだろ?」

 

「まぁ、それに関しちゃそんな腐った情熱を燃やしてるレッドの奴らにでも聞くのが早いのかもな……『なんで殺人するんですか?』――『楽しいからです♪』みたいな?」

 

「ふざけないでくれるかしら? こんな状況で、よくそんな口が叩けるものね。デリカシーにかけているにもほどがあるわ、人間失格ね」

 

「人を狂った文豪扱いしたいらしいが、俺たちはどちかっつーとその狂ったシナリオの中に閉じ込められているようなもんなんだが?」

 

「シナリオ……ですか?」

 

「確かに出来すぎてはいるけど……『シナリオ』か……まるっきり裏に『暗殺者』(アサシン)でもいそうな雰囲気になっちまうな」

 

「アサシンねぇ……?」

 

何だか話がそれ始めたので、ハチヤはとりあえず今できる確実な情報を確認することから始めようと思った。

 

「とりあえず、この武器を鑑定することからだな。現状、一番有力な手掛かりつったらこれくらいだしな……」

 

「まずは物証……というわけね?」

 

「ああ、そんなわけでだ。鑑定スキル持ちが必要になってくるな……」

 

しかし残念ながら、現在のこのパーティに鑑定スキルの熟練者はいない。

 

「ヒメナにでも頼もうか?」

 

「あ、それいいですね! ヒメナ先輩ならたぶんできますよ」

 

結衣といろはの提案、だが……。

 

「……あいつらんとこ行きたくねぇな……」

 

戸部うざいし、三浦こえぇし、海老名さん腐ってるし、葉山は……どうでもいいか。それに頼るのもなんか癪な気がする。

 

「はぁ……ハッチーわがままだよぉ~いいじゃん簡単だし」

 

「おーい、ほかに知り合いいないかぁ~?」

 

「ガン無視!?」

 

「あ、私の知り合い……っていうか友達が鍛冶屋やってて、鑑定スキル高いです」

 

アスナの発言にそこにしようかなとハチヤが考え出したその時、アスナは何かを思い出したようにはっとした。

 

「あ、でも……今忙しい時間ただからちょっと断られるかもしれないです」

 

「……うーむ候補が完全についえたか……」

 

「いやいや! だからヒメナのとこ行こうよっ!?」

 

「他に当ては……」

 

「無視しないで! お願いだから無視しないでぇ~!!」

 

何か可愛いですね涙目ガハマさん。前泣かしちまった時は気まずかったんだけどね。

 

「せんぱいよっぽど嫌なんですね……」

 

「ああ、じんましんが立つ勢いで嫌だ。しかもマジでだ、仮想世界なのに病気発症するまである」

 

ちなみに病名はリア充感染症。体制のないものがこれにかかると――死ぬ。何それ恐い。それじゃ世の中の3分の2は消滅じゃないか! え? お前だけだろって? そういうお前こそ、いつから自分は大丈夫だなどと錯覚していた? ……ごめんなさい調子乗ってました、お願いだから缶投げないで、蹴らないで!

 

「無茶苦茶すぎるぜ……」

 

「はぁ……」

 

こらこら、キリトさん? アスナさん? 呆れた目で見るなよな。そ、そんな目で、俺を見るなぁあああッ! (迫真)

 

仕方なく、俺たちはそんな俺のわがままに合わせてくれた皆の了解を得て、とりあえずエギルの店に行き彼の鑑定スキルに頼ることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

第50層 《アルゲード》

 

 

 

猥雑な喧騒でハチヤ達を出迎えたこの街の裏通り的な場所にエギルの店はあった。

 

エギルは良い奴なのだが、商売人としては最悪だと言える。悪徳商売上等な人とでもいえばいいのか、だが憎めないのでどうにもめんどくさい。いや、いい人だけどね? でも、ぼったくられた分は許さねぇ。そこだけは絶許リストに追加しよう。

 

 

あとね? 商売の心得というか心情をさ、堂々と語るのはやめた方がいいと思うんだ。

 

 

一に信用二に信用、三、四がなくて五に荒稼ぎ……なんだそうだ。

 

 

初めて聞いたときは、思わず「うわぁ…………」と思った。

 

まぁともかく、俺たちが来ることを知り、お客たちに早じまいを詫びてる巨漢というのはなんともシュールだと思う。だが、エギルはユキやユイ、アスナにイロハを見るなり態度を変え、デレデレしてるように見える。男というのはなんとも難儀な生き物だと思う。

――そういえば確か……エギルって現実で結婚しているって言ってたような…………よし、現実に変えれたらぼったくられた分の復讐はしよう。お宅の旦那さん美少女にデレデレしてましたよ~って。うん、そうしよっと。

 

「? どうしたハチ?」

 

そんなことを考えていた俺の顔をキリトが不思議そうに眺めてくる。

 

「ん? ああ、いや…… ちょっと絶許リストを追加更新してただけだ」

 

「そうか、ならよかt…………って良くねぇ!? ってか何だよ、そのリスト!?」

 

「ハイハイ、ノリツッコミご苦労さん。落ち着こうなーキリト」

 

「いや、俺!? 俺がおかしいのか!?」

 

「うん」

 

「即答かよ!?」

 

「…………そこの二人、馬鹿をやるのはその辺にしなさい。さもないと――」

 

さもないと、何ですか? ねぇ、ユキさん? なんで黙るの? あの、なんでそんな凍えるような目を……視線で人を殺せそうだ。

 

「ハチヤ君、返事はどうしたのかしら? それともあなたはついに返事もできないほどに退化してしまったのかしら? せっかく両生類程度には進化したというのに、また腐った魚に戻りたいのかしら?」

 

どうやら俺は恒温動物にすら値しないらしい。というか――ヤダ、俺の進化ペース……遅ずぎ? というか俺は彼女にとってカエル程度の存在だったのか? ヒキガエル……比企も取れたただのカエルが、腐った眼の魚に逆進化――何それただの退化。

 

そんなことを考えている間にもどんどん周囲の空気は冷えていく、コイツ…………実は《氷結》的なスキル持ってんじゃねぇの?

 

「……」

 

無言怖えぇ!? は、早く返事をしなければ! 返事を、するのだ! 

 

ハチヤはまるで決闘を闇の帝王に挑まれた半人前の英雄のように、無理やり返事をした……いや、させられた。

 

「い、イエッサーッ!」

 

「よろしい、素直は大事よ? ヒキガエルくん」

 

素直なんて、テメェにだけは死んでも言われたくねぇ。と思ったが、これ以上責められるのは嫌なので黙っていた。

 

「さて、じゃあ話も済んだようだし……早速例のブツ二つを鑑定するとすっかねぇ…………」

 

そういうエギルの手にハチヤは「頼む」と言ってロープと槍を渡した。

するとエギルはメインメニューを呼び出し、スキル項目から《鑑定》を選択しロープの情報を探る。

 

「うーん、残念だがロープからは大した情報は見つかりそうにない。こいつは単なる市販品……NPCショップの汎用品だな、耐久値も半分ほど減ってるしランクも低い」

 

「ま、そっちにはたいして期待はしてねぇよ。本命は…………こっちだ」

 

そういってハチヤはエギルに槍の鑑定を促す。

 

「そんじゃ早速……」

 

エギルはその短槍を鑑定し始める。

 

この槍、ランクやレア度でいえば、はっきり言って大したことはない。ハチヤ達の使っている武器や装備に比べれば、単なる一アイテムに過ぎないが…………重要なのは、そこじゃない。

問題は、これが()()()()()()()本物の《凶器》であるということだ。

 

外観は、大したものじゃない。このカテゴリの武器にしては比較的珍しい黒い金属でできているが、ただそれだけだ。確かに1メートル半程度の刀身には短い逆棘があり、これがあの時カインズが簡単に抜けなかった理由である〝引き抜き防止〟の効果を生み出している。

一度刺さると相当に高い筋力値が要求されるだろう。キリトあたりなら楽勝かもしれないが、俺やアスナの様な敏捷型だとかなり苦労するだろう。だったら、抜くよりも破壊したほうが早い気もする。

何せこの世界では、デジタルの数値が1,2違うだけで可能・不可能が『完全』に決定されてしまう。

 

だから、最初に出来なければ、絶対にできない。

ならば必然的に使うのは……使えるのは、別の手段・方法ということになる。

 

まぁ、今はこの話は置いておくとして……。

今は問題の武器、コイツの情報を確認することが先決だ。

 

その時、エギルの鑑定が終わったらしい。

 

「どうだ?」

 

「ああ、情報は出た。こいつは…………《PCメイド》だ」

 

「! 製作者は?」

 

《PCメイド》のアイテムには、必ず製作者の『銘』が刻まれる。それをもとに調べれば、犯人に辿り着くだろう。

 

「製作者は――《グリムロック》」

 

「グリムロック……」

 

「ああ、綴りは《Grimlock》。だが、聞いたことねぇな……少なくとも一級の刀匠によるもんじゃない。まぁ自分の武器を鍛えるためにスキルを上げている奴もいないわけじゃないが……有名なプレイヤーではないな」

 

「そうか……」

 

エギルが知らないなら、俺たちも知っている訳はない。こういったプレイヤーの情報は、商人や情報屋系のプレイヤーの方が知っているだろうから、剣士やってるハチヤ達には到底知りえない情報だろう。

 

「でも、これを鍛えられる程度までソロプレイ、というのは絶対的に無理な筈……たぶん中層か下層の街で手分けして聞き込みをすれば、きっとこのグリムロックという人を知っている、あるいは覚えてる人がいるはずよ」

 

「そうですよね、さすがにソロでここまでレベルを上げられる人なんて……いる訳な、い…………」

 

ユキの言葉にイロハがそう返そうとしたとき、ハチヤとキリトの顔を見てみんなが固まった。

 

「……訂正します。いました、そんなおバカさんが……」

 

「おいコラ」

 

「そーだね、確かにハッチーなら一人でもここまで来られそう……」

 

「おい」

 

「確かに……キリト君とハチヤさんなら……これそうですね」

 

「あ、アスナまで……」

 

「まぁ、そんなチート野郎どもは放っておくとして……」

 

「よしエギル、お前死にたいらしいな……表出ろ」

 

「お、おいおいマジになるなよ!? わ、分かった悪かった! だからその剣を降ろせ!」

 

「怖えぇって、ハチ……」

 

「……ともかく。今は手分けしてこのグリムロックという人を探すしかないわね…………それにこの武器は、明らかに《対人用目的》で作られてるわ。情報を得るだけでも、一筋縄ではいかないだろうことは容易に想像できるわ。ここからは、最低二人組で行動をすることを原則としましょう。どこかのおバカさんたちはソロプレイがお好きなのかもしれないけれどね」

 

「……どーせ馬鹿だよ」

 

そんな感じに不貞腐れていたハチヤだったが、発破をかけられとにかく目的のために動き出した。

 

 

「あ、そう言えば…………武器の固有名はなんていうんだ?」

 

固有名は、はっきり言って役に立たない……。ゲームシステムのランダム命名のものでしかない武器名など何の役にも立たないことは必然だそこに、《人の意志》は存在しないのだから……。

 

――しかし、それでも何かの意味が宿っているような、そんな気がするのだ。

 

これは実証の判断材料じゃない、言うなればそう……心の判断材料と言ったところだろうか。

 

実に馬鹿げた考えだが、そこはまぁ気分的なものだ。とハチヤは割り切った。

 

そんな意味も含めて、ハチヤはエギルにこの短槍の固有名詞を聞くと、エギルはシステムウィンドウに再び目を落とし、情報欄に記載されている銘を読み上げる。

 

「おう、武器名は……《ギルティソーン》。『罪の茨』ってとこか」

 

 

――罪の、茨…………。

 

 

「まったく……どこまでも芝居がかってやがるな…………笑えねぇシナリオだ、駄作の匂いがぷんぷんしやがる」

 

 

そう吐き捨て、ハチヤはエギルの店を出る。それに続くキリトたちはハチヤにまずどこへ向かうのかと聞く。

 

「ハチヤ君、まずはどこへ行くつもりのかしら?」

 

「黒鉄宮。まずは死んだかどうかを確認だ…………」

 

その言葉に、みんな少々腑に落ちない表情をしているが……確かに、まだ本当に『死亡』したかはまだ、分かってない。そのための確認だと、ハチヤは言っているのだ。

 

「さて…………このシナリオは俺達で幕引きにしてやろうと思ったんだが、いいか?」

 

「ええ……」

 

「うん、がんばろ!」

 

「やりましょう」

 

「もちろんだ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

こうして、現アインクラッド最強クラスの布陣が…………動き出した。

 

 

 

 

未知の事件の幕を下ろすために。

 

 

 

 

そして、ハチヤのずっと感じている……その裏に潜む〝何か〟の正体を掴むために…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

暗く深い、アインクラッドのどこか。

 

 

「ハハハッ! 面白そうなのが出てきたなぁ……。えぇ? 【影】(シャドウ)!」

 

 

 

この事件の裏に潜むのは…………もっと深く、暗いものなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?

なかなか進まなくて申し訳ありません。



これからも頑張って書きますのでどうぞよろしくお願いいたします。



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『黄金林檎』



 遅くなって申し訳ありません。

 覚えてらっしゃるか不安ですが、圏内事件の第三話でございます。

 事件の核心へと踏み込んでいくハチヤ達は、一体何を見ることになるのか。

 お楽しみいただければ幸いです。


 第一層《始まりの街》にて――

 

 

 

『圏内PK』

 

 そんなあり得ない筈の出来事に直面したハチヤ達は、その事件の真相――どうにも、その奥に〝何か〟があるようなそんな気がしてならないように感じた彼らはその事件の真相に迫るために、第五十層《アルゲード》の転移門からこの『アインクラッド』の最下層たる《始まりの街》へと降りてきた。

 ここにやって来た目的は、今回の事件における被害者《カインズ》と何かしらの関係者であるだろう刀匠《グリムロック》。この二人の死亡と生存を確認するためにやって来た。

 ここ第一層にある『黒鉄宮』に安置されている『生命の碑』。ここにその二人の名前が有るのか無いのか……、そのための確認に彼らはやって来た。

 

 それを確認しなければ、何もできないだろう。

 

 《カインズ》は本当に、死んだのか?

 《グリムロック》は生きているか?

 

 この二つを確認した上でこそ、この『圏内事件』とでも呼ぶべき事件の真相へと迫れるだろうと彼ら――とりわけハチヤはそう確信している。

 

(……こんな三流の芝居なんて、とっとと幕引きにしてやる)

 

 そんな思いの元、ハチヤ一行は黒鉄宮《生命の碑》の前までやって来た。

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 黒鉄宮――文字通りの黒の鉄柱と鉄板によって作れたそこは……まさに『牢獄』。明らかに外とは温度が違うと、ゲームの中である筈なのに、そう感じさせるほど……そこはとても冷たい空気を湛えていた。

 

 嫌な場所だな……。ハチヤの率直な感想はそんなところだった。それは皆も同じようで、この場に漂う冷たい空気を肌で感じ……いかにも寒そうに擦っていた。

 

 それに加えて……時間が遅いせいか、人気が全くないこともその不気味さを増幅させる一因となっている。ここは普段……というか昼間の時間帯には、大切な友人や恋人を亡くしたプレイヤーがここを訪れ、泣き崩れていることも多いという。

 ゲームの中で何を、などというものもいるが……ここは既に、もう一つの現実となっていて…………大切なものが『ここ』で『生まれる』ことだって、ありえるのだから――

 

 その分、悲しみや嘆きは酷く人の心に積もり積もる。ここからは『逃げられない』から…………逃避も、逃走も許されない。だからそういうとき、人は有るかもしれない希望を捨て……『死』への逃走を図ることになる。

 そんな現状が、ハチヤは嫌いだった。人の弱さをただただ浮き彫りにして、それを放り捨てるようなシステムが嫌いだった。

 だが、そんな世界に……魅せられている自分がいる。この状況に置かれたハチヤは、いつだったかの――答えが見つかるまで悩み、苦しんだ『あの時』とこの気持ちはどことなく似ている様な……そんな気がするのだった。

 

 そんな考え事の合間に、既に黒鉄宮の中に安置された『生命の碑』の前に彼らは行き着いた。

 

 早速確認作業に移ることにしたハチヤ達は、分担して今回確認すべき二者の名を探し出した。

 

「よし……。キリト、アスナ、イロハは《グリムロック》の方を頼む。残りは俺と一緒に《カインズ》の方の名前を探すぞ」

 

「了解」

 

「分かった」

 

「分かりました」

 

「オッケー」

 

「分かったわ」

 

 そして、探すべき人物の名前の綴りの頭文字が並ぶ欄のあたりを手分けして探す。

 勿論《グリムロック》の方はエギルの店で確認した通り《Grimlock》。《カインズ》の綴りも事情を聞いた際に一応ヨルコから確認済みである。カインズ――《kains》とKの欄を探していくと、無情にもその名の綴りには死亡を示す横線が刻まれている。

 死亡時刻、日時、ともに狂いはない。

 これで、カインズの死亡は確定した…………。

 

「間違いねぇな……カインズは、死んでる」

 

「……その様ね」

 

「うん……」

 

 辛そうな顔をするユキとユイ。当然の反応だろう……何せ、本当に人が死んだのだから。

 三人がかなり沈み込んだような雰囲気を漂わせていると、キリトたちの方から声がかかった。どうやら、《グリムロック》の名を発見したらしい。

 

「あったのか?」

 

「はい、せんぱい。ここです……」

 

 そう言ってイロハが指し示したところを見ると、そこには確かに《グリムロック》の名があった。

 横線は――無し。

 

「生きてる……みたいだな」

 

「はい」

 

 ハチヤはそれを見て、これで話を聞く相手は決まったなという確信を得た。

 

「よし……明日になったら早速、このグリムロックっていう鍛冶師を捜索する。見つけ出して『コイツ』を作った理由を聞かせてもらうことにしよう」

 

 皆それに対して、分かったと返事をする。

 

「じゃあとりあえず、今日はこのあたりで解散ってことになる。明日に備えてしっかり休んどけよ? もしかしたら、理由を聞くだけじゃ済まなくなるかもしれないからな……」

 

 ハチヤがそう警告すると皆頷き、決意を固めた様だ。

 口には出さないが、こんなあからさまな《対人専用》の要素を備えた武器をこのSAOというゲームの中で作ったような奴だ。危険度はかなり高くなると言わざるを得ない。用心するに越したことは無い。

 そのあと足早に黒鉄宮を出ると、定宿がある層に転移しようとしたのだが…………。

 

「せんぱーい、一緒に来てくださいよぉ~」

 

「いや、なんでだよ」

 

「えぇ~だってぇ、先輩がたぶんこのゲームの中で一番強いじゃないですかぁ」

 

「んなわけあるか」

 

 他にもいるだろ、ほら……えっと、キリトとか。ほかは、その……あれだ――誰だろう? いや少ねぇよ! ほかにいねぇのかよ! つか知り合いが絶望的に少ねぇなおい!

 そんなセルフボケツッコミをして、やっと一人思い出した。こいつらのパーティが所属してる《最速攻略》を掲げているギルドの団長、プレイヤーネームは――《ヒースクリフ》。

 あいつは強い。何せ、防御力はこの『アインクラッド』で他の追従を許した(ためし)がない。とハチヤはヒースクリフについて考えてみる。

 勿論速度に関しては、おそらく俺もトップの一員であることはそこそこ自負しているが…………。あの防御力を前にするとしたら、俺には()()()()()()()と言っても過言ではないだろうとハチヤは思っている。

 勿論、どこか一点だけを攻撃し続けたり、最近見つけたいくつかの小技や…………『スキルスロット』に()()()()()()()ハチヤのちょっとした『とっておき』があればあるいは…………なんて思ったりもするが、『とっておき』はまだもう少しだけ、隠しておきたいと思っているため、べつに『敵』でもない相手にそれを行使する必要はない。

 思考の海原を彷徨いながら、ようやく思考に区切りをつけたところでイロハにハチヤはその思考をもとにして導き出した答えをかいつまんで語りだす。

 

「ほら、ヒースクリフとかハヤトにでも守ってもらえばいいだろ? 丁度いいんじゃねぇの?」

 

「……ホント、鈍感ですよねぇ……」

 

「はぁ? バッカお前、俺ほど人の感情に敏感な奴なんているわけねぇだろうが」

 

「…………よく言いますね。『本物』云々で散々迷いに迷ってたのに、あれも人の感情ですけどそこのところどうなんですかぁ?」

 

 痛い所を突かれ、ハチヤはググッ、と押し黙らざるを得なくなる。

 そこへイロハは、とどめとでも言わんばかりに顔を近づけこういった。

 

「それにぃ……この『責任』も、しっかりとってくださいね♪」

 

 このって何? とハチヤは思ったが、そういえばまだあの時の分も清算しきれてないんだっけかな? と例の約束を思い出し、ますます反撃の材料を失い、向こうに攻撃の手段を与え続けてしまう。

 イロハはしめしめとでも言いたげに〝良い笑顔〟でハチヤをあざとい上目遣いで見上げている。

 

「~♪」

 

「…………(あの、俺どうしたらいいんですかね?)」

 

 誰か助けてくんない? なんて元ぼっちらしからぬセリフまで出しそうになっているハチヤに助け舟を出したのは、意外なことにユキだった。

 

「その辺にしときなさいイロハさん」

 

「むぅ……はぁ~い」

 

 ユキの一言で、不貞腐れつつも攻撃を一時中止するイロハ。ハチヤは助かった、と胸をなでおろすような気分で安堵した。

 しかし、イロハもそれだけでは面白くないとでも思ったのか……。転移する直前、ハチヤに「じゃあせんぱい? お休みなさ~い。また明日もよろしくお願いしますねぇ♪ 寝坊は駄目ですよ? あ、何なら迎えに行っちゃいますから♪」

 

 それじゃあまた明日、なんて言い残して消えていった。

 ハチヤがそれを聞いて、思ったことは二つ。

(あの、明日も来るの? というか、迎えってなに?)なんで宿を知っているのかは、あえて考えないようにしよう。たぶんユイにでも聞いたんだろう。そうでなくてはおかしい。という思いと――

(イロハさーん? この空気どうしたらいいんです? あなたのせいですよ?)

 ――背後に絶対零度にまで達しそうな勢いで殺気を放つ女性陣を残してったの? という思いだった。

 

「ハチヤさん…………後輩相手に『責任』取らなくちゃならないようなことしてたんですか?」

 

「えっ!? あ、あれはそういうんじゃなくt」

 

「……ハチヤ君?」

 

「は、ハイ!?」

 

「『責任』って何かしら? 私達『本物』という発言以外は聞いたことが無いのだけれど……?」

 

「い、いやそれはあいつが勝手n……」

 

「何を、したのかしら?」

 

 その声は、とてもじゃないが、怖いなんて言葉じゃ表しきれないほど冷たかったという……。

 

「ハッチー?」

 

「ふぁいっ!?」

 

「ねぇ、『責任』なに?」

 

「だ、だからそれはイロハが勝手に……言ってる、だけなんだって………………」

 

「あたし馬鹿だから、すっごぉ~く分かりやすく教えて欲しいなぁ……?」

 

 怖えぇぇぇぇぇ!?!? ハチヤの心の叫びが絶叫した。(意味二重だよ!?)

 とにかくそれくらいの恐ろしさがあったという。キリトはただ「これが修羅場って奴か……」と勝手に感心してただけだけだったが。(お、お前だって妖精とか銃とか地球の裏側とかの世界を回ったら絶対こうなるんだからな!? その時は俺が笑ってやるからな!?)

 バーサクヒーラーに貫かれ(物理)てろ! となんだか変な未来余地がハチヤの中を巡ったが、それでこの追従は止まない。

 

 そのあと、長い長ーい『O☆HA☆NA☆SHI』を終えて、ようやくハチヤは解放された。そのあと暫くハチヤが何だか妙にガタガタ震えていた気がするのは、もちろん気のせいだろう。

 

 こうして、一人の捻くれたフラグ野郎の精神的なダメージがこの世界の一日を飾り、夜がもっと深まっていったとさ。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 そして翌朝――

 

 集まった一同は《グリムロック》の捜索に乗り出すことにした。

 

「さて、じゃあ何から捜査するか……」

 

「そうね、まずヨルコさんにグリムロックという名に心当たりがないかを当たってみるのが妥当じゃないかしら?」

 

 ユキのその提案に一同は頷き、早速ヨルコに会う連絡を取り付け彼女に会うべく彼女の滞在する昨日彼らのいた五十七層へと向かった。

 

「お待たせしましたね、ヨルコさん」

 

「いえ、大丈夫です……」

 

 ユキが代表してそういうとヨルコはそう答えた。

 一同が、昨日のレストランに入り席に着く。そこで早速、話の本題に迫る。

 

「それじゃあ、早速だが……ヨルコさん、カインズは間違いなく死んでいた。それは昨日俺たちが確認したまぎれもない事実なんだが…………」

 

「……」

 

 ハチヤが、告げたカインズの死の情報にヨルコはうつむいてしまうが……ハチヤが告げた二の句がどこかはっきりとしない言い回しだったためヨルコはハチヤの次の発言を待つ。

 

「今回の事件にはなんだか不可解な点が多いのも事実でな、それでアンタにも話を聞いておきたくてな……それで悪いとは思ったがこうして話を聞かせてもらいに来た」

 

「いえ……それで、その…………話って言うのはいったい……?」

 

「ズバリ聞くが、アンタは《グリムロック》というプレイヤーとカインズの関係について何か知らないか?」

 

 そう聞くと、ヨルコの表情に明らかな反応があった。その反応は、驚き半分悲しみが半分といったところだが――ハチヤには、その奥に動揺があったように思えた。

 だが、ヨルコはポツリポツリとつらそうな声で語り始めたので、ハチヤはとりあえず疑念を仕舞い込み、そちらの方に注意を傾けた。

 

「はい、知っています。それは昔カインズと私の所属していたギルドのメンバーです」

 

「そのギルドについて、詳しく教えてもらえますか?」

 

 イロハがそういうと、ヨルコがはいと言って話し出す。

 

 曰く、かつて彼女の所属していたギルド《黄金林檎》でいざこざという程ではないが、こんな出来事があったという。

 

 以前、とあるレアアイテムをめぐってちょっとした口論があった。偶々レアモンスターを運よく倒せた際にドロップした、マジックアクセサリの類に属するそれは、装備することによって敏捷値が二十上がるという超レア物。

 そのレアアイテムが、ある《出来事》――いざこざを引き起こすことになる。

 

 それまでずっと弱小ギルドだった《黄金林檎》は宿代と食事代を稼ぐためだけに活動していた。

 それまでそんな中で仲良くやっていたという。

 だが、この指輪のことで亀裂の様な者が入ってしまう。

 

 売却か、装備。どちらにするか相当もめたらしい。

 

 しかし結局、最後は多数決で売却に決まった。とはいえども、中堅層では超レアアイテムの売買は基本的に無理な為、リーダーである《グリセルダ》がレアアイテムの売却の為に当時の前線の層に出向いて競売屋(オークションニア)に委託を依頼するために向かったという。

 

 だが、しかし――

 

「グリセルダさん…………帰って来なかったんです」

 

 ――グリセルダは……『殺された』。

 

「それは何時頃の話なんだ……?」

 

「大体、半年くらい前です……」

 

 ヨルコはハチヤの質問にそう答えた。

 

「……死因は?」

 

「…………貫通継続ダメージ、です」

 

 それを聞いたとき、ハチヤの表情はよりいっそう曇った。

 

 ――『貫通継続ダメージ』それは、カインズの死因と同じ物である。

 

(つまり、これは…………《復讐》か《制裁》ということなのか?)

 

 やはり人の思惑が隠されていたことが、これではっきりした。この事件は、《黄金林檎》のメンバーに密接にかかわっている。つまり、これは『指輪』をめぐって起こった口論の果ての『殺人』に対する《復讐》か《制裁》だろう。

 恐らく当時のギルメンたちの中に、リーダーである《グリセルダ》を殺したものがいた。それは売却反対派の物だろう。前線に出向いた中堅ギルドマスターがレベルも足りていないのにレアアイテムぶら下げて《圏外》に足を踏み入れることは、まず考えられない。鴨が葱しょってるのと変わらない状態で略奪される羽目になるのがオチだ。

 十中八九誰かが殺したのだろう、《睡眠PK》で。半年前にはまだ《睡眠PK》についてそれほど広まっておらず、公共(パブリック)スペースで寝るものも少なくはなかった。前線の近くは宿代も高いゆえに中層程度のプレーヤーにはかなりの金額になる。鍵無しの公共スペースもまだかなり利用されていた時期であるから、おそらくグリセルダもそこを使ったのだろう。

 

 

 そこを、殺された――ということなのだろう。

 

 

 何者に? 

 

 

『指輪』のことを知っていた《誰か》にだ。

 

 

 結果としてギルドは、解散――というより、『自然消滅』したということだ……。

 

 つまりこの事件の真相というか、根本にある者とは――おそらく、『指輪』の売却に賛成だった者が、それを邪魔し、あまつさえリーダーを殺したであろう売却反対派の者に対する《制裁》あるいは《復讐》と言ったところだろうか? もしくは――――その指輪を奪った者からさらに『指輪』を奪い返したい者がそれを奪った者――つまりは被害者のカインズから《略奪》した……という可能性もなくもないが。(もちろんこれはカインズは反対派であることが前提だが……)

 ともかく、この事件に関係しているのは売却反対派の者であることは明白だ。

 

「ヨルコさん、その言い争いの時……売却に反対したメンバーは、誰ですか?」

 

 嫌な質問だと、自分でも思う。

 しかしこれは、十分あり得ることだ。人間関係なんて、もろいものだ。そしてそうやって起こった出来事は、当事者たちにとっては良いものであれば吹聴し、嫌なものならば消し去る。

 所詮はそんな程度のもである。

 

 ――そんな現実ってやつを、誰よりも知っている。

 

 それはともかくとして、ハチヤの質問に対してヨルコはこう答えた。

 

「反対派だったのは三人で……私とカインズ、そしてシュミットです」

 

 意外なことに、出された名前は…目の前の人物とカインズと……もう一人に至っては攻略組として有名なギルド《聖竜連合(DDA)》のリーダー格のものだった。

 

「シュミットさんって、あのDDA(ディヴァイン・ドラゴンズ・アライアンス)の?」

 

「はい、そのシュミットです」

 

 その人物をハチヤ達はよく知っていた。

 ボス戦の際によく見かけることや、何度か加入の依頼をされたことがある。だが、特に入る理由もないことや彼らのやり方が正直言って気に入らない――というのはやや失礼だが、言ってみればそんなところだ。

 彼らのLAへの執着の激しさや、閉鎖的で自己中心的なプレイスタイルが気にくわないというのがハチヤ達の理由である。

 そんな訳で、丁重にお断りした為あまり友好的とは言えない状態にある。

 まぁ、それはあまり関係ないのだが……。

 

「でも、反対の理由は私と彼らでは違いました。彼らは前衛で自分たちが使いたいからで、私は……その、カインズとお付き合いを始めたばかりだったので…………彼に合わせた、という感じで」

 

 要するに、それほど自分で使いたいわけでもお金が欲しいわけでもなかった彼女は、彼氏の意見に賛成したということだろう。

 それはまぁ、昔のハチヤであれば欺瞞だ偽善だなどと罵るようなものだが、彼女は別に彼氏に印象をということでやったわけではないようだ。もちろんこれは今現在の彼女に対するハチヤの印象なので、当時がどうだったかまでは勿論わからない。ただ今現在の彼女にはこれまで《そういう奴ら》に感じてきた嫌な感じはない為、そうなのかなと思っただけである。

 

「それで、カインズさんとは……そのあとも付き合ってたんですか?」

 

 ユイがそう聞くと、ヨルコは首を横に振る。

 

「いえ、結局ギルドの解散と一緒に自然消滅しちゃいました……。そのあとは、近況報告をしあうくらいで、昨日もただ食事だけのつもりだったんですが…………あんなことになってしまって……」

 

「そうですか…………ごめんなさい、辛いこと聞いちゃって」

 

「いえ、いいんです……。それで、グリムロックさんの方なんですけど…………」

 

「あ、はい」

 

「グリムロックさんは、ギルドのサブリーダーでグリセルダさんの『旦那さん』だったんです」

 

 旦那さん、ということは…………。

 

「リーダーさんは、女性だったんですか?」

 

 そうイロハが聞くと、ヨルコは「はい」と答えた。

 

「グリセルダさんは、とっても強くて――もちろん中堅層での話ですけど……すごくカッコよくて、私も憧れていました。だから……、今でも信じられないんです。あのリーダーが、《睡眠PK》なんて粗雑な方法で殺された、なんて……」

 

「ショックだったでしょうね……。旦那さんも、そんな方法で愛する人を奪われたら……」

 

 アスナがそういうと、ヨルコは頷いてその殺人の後からグリムロックが荒んでしまったことを語った。

 

「二人ともいつもニコニコとしていて、とても暖かい夫婦でした。でも、あんなことがあってグリムロックさんとはあれから一度も会えませんでした。それどころか、連絡すら届かない状況で…………」

 

「……本当にショックだったんだろうね……」

 

「ですね…………」

 

「辛い事ばかりを大勢でしゃべらせてるみたいで悪いんだけど、最後にもう一つだけ答えてほしいんだ。――あなたは、グリムロックさんがカインズさんを殺した可能性はあると思いますか?」

 

 キリトのその質問に対して、ヨルコは小さく盾に首を振り…………嗚咽を漏らすかの様な、小さくそして悲し気な声色でこういった。

 

「…………はい。その可能性は、あると思います。グリムロックさんはもしかしたら、私達三人を殺すつもりなのかもしれません。ただ、何の証拠もないですが……私もカインズも指輪を奪ってはいませんし、リーダーを殺したりなんてしません。でも、もしも本当にグリムロックさんが犯人だとしたら、あの人はやっぱり私達全員を殺すと思います。愛するグリセルダさんの(かたき)として…………」

 

 それ以上は泥沼だと判断した一同は、本日の話はここで打ち切りとしてヨルコに礼を告げると彼女を宿へと送り届けた。

 そして、次にどう行動するべきかを話し合った。

 

「…………何つーか、ますます小説っぽくなってきやがったな」

 

 希少なものの奪い合い、略奪、愛憎、罪科…………。これでは、一体どれが一番正しいものであるかが判断しづらい。

 

「でもさ、やっぱり可哀想だよ……。グリセルダさんも、グリムロックさんも、ヨルコさんも、カインズさんも…………」

 

「ですよね……。愛する人を失ったり、殺されたり。酷い話ですよね…………」

 

 ユイの言葉にアスナがそう答える。

 

「だとしても、何も掴めなけりゃ今度はこの事件がどこに飛び火するか分からないからな…………」

 

 次にどう動くか、これが鍵だ。

 

「……ハチヤ君、この状況では情報を集めたりグリムロックさんやシュミットさんを探して話を聞くのも泥沼でしかないわ。寧ろ今やるのなら、この事件の詳細を明らかにすることだと思うのだけれど」

 

「まぁ、そうだな……。探すつってもこの人数じゃ効率が悪いし、ほかのメンバーが真相を語ってくれるかもわからない。グリムロックにしてもおそらく見つけるのは相当に骨だろうしな…………。まずはユキの言う通り、事件の検証・洗い直しだ」

 

 一旦ホームに戻ろうと皆に呼びかけると、皆それに従う。この事件は思ったよりも、根が深そうだということを再認識した一同は……より気持ちを引き締めた上で、この事件の真相を掴むために動くのだった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ハチヤ達の定宿にて――

 

「改めて聞きたいんだが…………今回の事件について、俺はいくつか疑問が残っている。勿論お前らにもそういうのが残ってるだろうが、それでもあえて聞きたい。お前らはどう思う?」

 

「…………そうね、私も今回の件にいくつか疑わしいと思っている部分はあるけれど、一番の疑問点は――やっぱりそもそもの発端である殺人の方法について、かしらね…………」

 

 ユキがそういうと、ハチヤはそれに頷く。

 

「ああ、やっぱりそこだよな…………」

 

 そう、殺人の方法が未だに不明、不明なのだ。

 そもそもの発端であるこの事件の圏内殺人を可能とした方法、それが分からなければこの事件の解決――つまりはギルド《黄金林檎》の『指輪』云々が解決したところで、この先に起こりうるかもしれない新たな殺人(PK)を防ぐことにも警戒することもできない。

 とはいえ、今回の事件を見る限りでは殺人の理由はおそらく《制裁》か《復讐》。

 それらを解決すれば、この事件は終わらせられるだろう。

 

「今回の事件、何よりも謎なのはそこだ。基本的に――デスゲームなんてものにしては、だが――フェアを貫いているこのSAOにおいて、圏内で殺人というルールを逸脱した行動をとれるわけがない…………んだが――」

 

「それが現実に起こっている、というわけね…………」

 

「ああ」

 

「…………そこを解決しないと、先には進めないってことか……」

 

「そうはいっても、あんなイレギュラーの原因を逆算するなんて…………」

 

「キリト君とアスナちゃんの言う通りだよ……簡単にはいかないよ」

 

「ですね…………でも、それを確かめないことには……」

 

「…………どうするかねぇ」

 

 今必要なのは、何か少しの小さなきっかけ――ただそれだけでいい。

 

(何か、少しでも……少しでもきっかけがあれば、それが……何かのきっかけにつながるはずだ)

 

 そう言ってハチヤは思考を振る展開するが、なかなかいい案が出ない。そもそも、不可能なはずの事柄の抜け道を探したりそれを可能にするイレギュラー(チート)があっては…………そんなことをあくまでもハチヤ達の立場は言ってみれば()()()()()()()つまりは――挑戦者(プレイヤー)なのだ。

 ゲームを完全に知り尽くしてる輩、言ってみればそう…………茅場晶彦(GM)のような存在がいないことにはなんとも―――

 

「あ、そうだ…………()()()に聞こう」

 

「あい、つ……?」

 

 ユイが首をかしげる。

 

「誰のことかしら?」

 

「このゲームの中で、最強の剣士の一人。《ヒースクリフ》に、だ」

 

 その言葉を聞き、一同は納得したように「ああ~」と頷き合う。

 

「でもせんぱい。会いに行くならKoBの本部いかないとだめですけど……?」

 

「は? 何言ってんだお前? 俺が人のとこに出向くような人種に見えんのかよ?」

 

「いえ、まったく」

 

「だろうな、だからメールするんだよ」

 

「あーなるほどぉ……」

 

「お前がな」

 

「なんでですか!?」

 

「ばっかお前、俺が人のメアドそんなに知ってる訳ねぇだろうが」

 

「……悔しいですが、反論できません」

 

「だろ?」

 

「むしろ悲しいのは貴方の方でしょう……?」

 

 うっせ、余計なお世話だ――とハチヤは言ってそのままイロハにヒースクリフにメールを出させた。

 

 それから三十分もしない内に返信が来た。

 

「あ、返信きましたよせんぱい」

 

「…………早えぇな」

 

「いいじゃないですか、その方が動きやすくて」

 

「…………まぁそうだな。で? 返信の内容は?」

 

「あ、ハイ。えぇっとぉ――――」

 

 

 ――――イロハくん、ではKoB団長である私の知る限りの情報をここに記載しておくので、ハチヤ君――《影》君に伝えておいてくれ。あと、君に情報提供ができるとはなかなかに光栄だということも含めてね。

 では本題だが、はっきり言おう。私が言えることは一つ、不可能だ。

 それに加えてハチヤ君、君に私からのメッセージを一言。

『この世界において、幻聴幻覚の類は存在しない。全てはデジタルの信号であるのだから……基本的には公平(フェアネス)を貫いているこのゲームにおいては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――』

 

 

 ――とのことだった。

 

 KoB団長様のありがたーいオコトバを頂戴したハチヤ達だが、どうにも引っかかる気がする。

 

「…………何か、運営に問い合わせた後の定型文て感じがするんだが…………」

 

「そうですか? ウチの団長随分先輩に興味持ってる風ですけど」

 

「知るか気色悪い。俺は男に興味はない」

 

「戸塚先輩に興味は?」

 

「ある!!」

 

「…………戸塚先輩、おとk――」

 

「ばっかお前、戸塚だぞ戸塚! 性別戸塚が存在するまであるだろうが」

 

 イヤ、ホント当然でしょ。戸塚だよ戸塚? あんなかわいい子が男の子なわけがない(ry

 

「じゃあ先輩は逆説的にほm…………いえ、何でもないです(それだと私が……いえ、私たちが困ります)」

 

「…………」

 

「コホンッ そこの腐り目が、脳みそまで腐ったといいなら後でいくらでも調教して叩き直すから……まずはこのメッセージをもとにして捜索をしましょうか」

 

「あの、ユキさん? 調教って聞こえたんですけど、空耳ですよね?」

 

「どうかしらね? 腐った魚さん」

 

 ふふふ、と微笑みを浮かべてハチヤを見る彼女の姿は非常に恐ろしかったという。(怖えぇぇぇっっっ!?!?)

 

「でも、それって性格なんですか? いくら最大大手のギルドの団長だからって……」

 

「いや、まぁその辺はたぶん大丈夫。あいつがこの『アインクラッド』におけるデータベースみたいなもんだから」

 

 アスナの疑問に、キリトがそう答える。

 実際その通りなのである。何故か知らないが、《ヒースクリフ》というプレイヤーは誰よりもこのゲームに詳しい。

 

「アスナちゃん。大丈夫ですよキリト君の言う通り、団長は情報通ですしそれにほら――こんなのも追伸として付いてきましたし」

 

「?」

 

「何が書いてるってんだよ?」

 

 イロハがそう言って先ほどのメッセージの続きを皆に見せる。

 そこに何が書いてあるかというと…………。

 

 ハチヤが言い返してきたときの反論メモの様な者がびっしりと書いてあった。

 

『おそらく、彼のことだからひねくれた返しを散々用意してくれるだろうから先に書いておく』

 

 未知のアイテムやスキルの可能性――無し。

 

 ウィナー表示の不可視――不能。勝敗のメッセージは両者の間に表示され、5メートル以上離れているならば、両者の目の前に表示される。

 

 《ユニークスキル》使いの出現――もしいるなら、寧ろこちらで勧誘済みだろう。

 

 HPバーを一撃で吹き飛ばし、決勝で移動させる――不可能。その武器は決して高級品とも言えない上に、仮にそれを《カインズ》氏相手にするならば、『ヴォ―パルストライク』のクリティカルヒットをするとしても、最低レベル百は必要であり……現アインクラッドの最高レベルは君と私の80である。

 

 ――と、まぁご丁寧にハチヤが思いつく限りの捻くれた意見に対するものであろうそれは本文よりもびっしりと書かれていた。まるでこちらの方が面白がって書いたかのように。

 

「…………くぅぅぅッッッ!!!」

 

 ハチヤ悶絶。

 

「ハッチーそんなに悔しかったの?」

 

「……何だか、凄い……」

 

 あのハチヤをここまでへこませるとは…………。アスナはちょっぴり感嘆の声に近いものを漏らした。

 

「まぁ、そこの馬鹿の言うことは放っておいて…………。〝自分の感じた感覚だけを信じろ〟というなら、あの時の状況そのものに何かのヒントがあるということかしら?」

 

「知るかよ……」

 

「もぉ……不貞腐れないの」

 

「うっせ…………。お前は俺の母ちゃんかよ!?」

 

「なっ!? ま、ママって……なわけないでしょ! そ、それにそれだとその…………(こ、困るというかなんというか……で、でもハッチーがそういうプレイ的なのが好きなら…………が、がんばっちゃうかも――や、やっぱり無し!! そういうの無しだからぁ!!)」

 

 最後の方はぼそぼそと言っていたので聞き取れなかったが、ハチヤとキリト以外はなんとなく察した。

 

「……じゃあ、早速検証を始めましょうか。ほら、早く行くわよ変態谷君……!」

 

「誰が変態だ誰が!?」

 

「あ・な・たよ」

 

 即答だった。誰もが一瞬で凍り付きそうなほどに冷たい、即答だった。

 

 その一言が完全に一同を黙らせ、一同を検証へとひっぱりだす――かと思われたが…………。

 

 その時、メッセージが彼らに送られてきた。

 

 よりいっそう不機嫌なユキの殺気を背に受けつつ、一同はメッセージを見る。

 

 その差出人は、ヨルコであり……その内容とは、シュミットのことを案ずるものだった。

 この件をまだ知らない可能性があるシュミットに会って話がしたい、とのことだが……あんなことがあった後ゆえに、一人で出向く……というのは少々不安である。そういうわけで、付いて来てもらえないだろうか? という内容のメッセージだった。

 

「ちょ、丁度いいじゃねぇか。シュミットにも話を貸せてもらおうじゃねぇか。祖すればもっと《黄金林檎》の全容が…………」

 

「……………………」

 

 ハチヤの口は、ユキの『にらみつける』で完全に凍ってしまう。初期技に氷結効果持たせるとかユキさんマジ氷の女王……「……」ジトッ ……いえ何でもないんです。ごめんなさい――と無言のやり取りののち、ユキはしぶしぶ同意し、一同はヨルコと共にシュミット氏に会いに行くことを決めたのだった。

 

 

 

 

 

 このことがきっかけで、事件は一気に佳境へと向かうのだが――それはまだ、誰も予想だにしていないのだった…………。

 

 

 

 

 






 いかがだったでしょうか? 圏内事件に時間をかけ過ぎな感じもしますが、この量で次話も書けばおそらく次話でこの事件は終わるかと思われます。

 なのでもうしばしのお付き合いをお願い申し上げます。

 次回以降もお楽しみにしていただけるうように、頑張ります。


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『笑う棺桶』

 忘れてしまった人は初めまして。覚えて下さっていた方はお久しぶりでございます。

 ものすごい久しぶりの投稿です。山場故に、書いても気に入らないことが多く、どうにか書き終えることができたので投稿します。
 今回かなり一話の量が長めです(三万文字超えました)。

 それはともかくとして、これでついに《圏内事件》が終わりを迎えます。僕なりに書いたラストをお楽しみいただければ幸いです。

 それでは、どうぞ!


 

 

 

 シュミット氏に会いたいので、それに付いて来てくれないか? というメッセージをいただいたハチヤ達。

 半分逃走手段としてそれを選んだハチヤは、皆を連れてそのメッセージの差出人であるヨルコに一同を引き連れ彼女に会いに行くことになった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 その後、粗相もなくヨルコと合流し、シュミット氏のいるという宿屋を訪れようとしたハチヤ一行。だが、ハチヤは宿屋に入る直前になって、急に足を止めた。

 そんなハチヤを見て、ユイが不思議そうに聞いてくる。

「? ハッチー、どーしたの?」

「ああいや、今更だが、こんな大人数で押しかけてもいいもんなのかと思ってな……」

 割とシリアスな話し合いの場に大人数で押しかけても、あまりいいことはない――と思う。

 まあ、宿屋の前でいきなり立ち止まるほどのことでもないような気もするが……それでも何となく考え付いてしまったものはしょうがない。

 ヨルコにそれを尋ねると、宿屋の広さ的には問題ないだろうということは分かった。それにチーム分けをするとバランス的な問題がと言われた。

 まぁ確かに、ここにいるメンバーはいずれも手練れと呼んで差し支えないほどではあるが、例えばハチヤとキリトを護衛にしてしまうと攻撃力が駄々下がりするし、かといって女性陣を護衛に着ければただでさえ重めの話し合いの場で男性1人というのはシュミットにとって居心地を悪くしてしまうだろう。

 かといって、男女のペアで分けるなら――ハチヤとユキだと残ったメンバーに参謀役が足りない。ハチヤとユイだと咄嗟の事態に対処するのはハチヤの負担が多くなり、残ったキリトたちのスピードメンバーが不足してしまい追跡に戸惑う。かといってキリトを他の女性陣と組ませると、今度は残ったほうの攻撃力――強力なアタッカ―が不足する。もし相手が硬めの武装を使って来たらハチヤ達では決定打には至らないだろう。

 そのためにも、キリトは必須だ。一撃で相手を止めるという点ではどちらにも必要であるし、追跡もハチヤとユイ、アスナという敏捷型がいるにしても……決定打を欠いては意味がない。

 加えてユキとイロハの武器は『槍』と『短剣』。どちらも結構癖がある武器だ。相手が手練れで対人特化なら、苦戦する可能性が高い。

 それに今回の事件、あくまでもまだ解決には至っていない。そもそもの〝原因〟はいまだ不明であるし、グリムロック氏の方もまだ裏付けが取れていない。それに、この事件に《殺人者(レッド)プレイヤー》や未知のスキル・アイテムが――某団長様からは、『無い』というお言葉は賜わったが――用心するに越したことはないだろう。加えてヨルコは、寧ろここまでかかわったのに、その確信たる話し合いの場に席をおかないのもどうかと思うし……何よりハチヤ達の見解も聞きたいと言ったのでハチヤ達は少し強引すぎるような気もしたが、結局全員で話し合いの場に参加することにした。むろん、それなりにこれまでの事情を直談判の場で耳に入れておきたかったというのもある。

 そんな訳で、一行は宿屋に足を踏み入れることになったのだった。

 

 幸いなことに、シュミット氏も全く知らない顔ではないハチヤ達が半ば立会人のような体で参加してくれるということで、少し安心したらしい。突然の、それもかなり不躾ではあり、かつこの件の根本に関しては完全に他人な自分たちではあるが、この立ち合いに関しては寛大に受けいれてくれたので、――ひとまずは事なきを得た――と、いっていいだろう。

 

 そして、話し合い――というよりも半ば議論の様であり、しかし事実確認であるようなこの霞がかった会談は、幕を開けた。

 

 シュミット氏はヨルコの方からこれまでの顛末を簡潔に聞き、次第に顔色が悪くなっていく。その様子に、一同は口には出さないが――彼が、確実にギルド・《黄金林檎》のリーダー、《グリセルダ》の〝殺害〟に関与していることを――それを、確信した。

「――つまり、カインズを殺したのは……グリムロック、なのか……?」

「……分からない。売却反対派を疑っての、犯行なのか……それともGAの売却派の仕業なのかもしれない」

 グリムロックの槍が犯行に使われても、それが証拠にはならない。作られた槍(もの)を〝使って〟、〝殺人〟を行う……なんてことも考えられる。

 いくらここがゲームの中でも、売却できたはずの物の売り上げに価値がないわけではない。確かに、モンスターを狩ることによって『お金』は所謂一般的な『レアアイテム』なんかよりは比較的簡単に手に入る。だが、ここが半ば『現実』となってしまっている現状では、たかがゲーム内通貨の《コル》であっても普通にお金として効果を発揮する。

 何せ、空腹で死ぬことはないが、空腹は訪れ……唯一現実と連動している睡眠にしても、どこでもそれをとるのは簡単であるが、安全や安心感を考慮すれば野宿よりは宿屋やホームをとるだろう。

 

 ――それに、初めにも言ったが……ここは、あくまでも《ゲームの中》なのだ。

 

 当然、『遊び』たくなる。つまり、『戦いたくなる』のはある意味『必然』である。だから、自分を高めたくなる、〝カッコいい自分〟でいたくなる。

 それがこのゲームに集まった大半の人間が抱いている感覚であり、それに当てはまらない人物でも、絶対に心の底では持っている感情。

『プレイヤー』とはそういうものだ。

 だから、こんなゲームの中だからこそ、〝こういうこと〟が、〝普通に起こる〟。

 現実の縮尺の図式が、このゲームの中でも展開されているのだ。人と人の、醜い『欲』のぶつかり合い。それが、今回の出来事を引き起こした――と、言っても過言ではない……。

 その意味は、ヨルコは半ば確信しているらしく……彼女はシュミットに対して、こんなことを言い始めた。

「……でも、もし……。もしも、グリムロックさんが犯人なんだとしたら……あの人には、私達全員を裁く権利があるのかもしれない」

「……何……?」

 シュミットは青ざめた顔のまま、首をもたげてヨルコのブルーブラックの瞳を見つめ返し、ヨルコの方はそのまま言葉を続けていく。

「あのとき、売却云々の話し合いをしたとき……。私たちはギルドの為に、って言って売却に反対した。でも、それが本当にギルドの為かっていうと……きっと、そうでもなかった」

「な、何を……?」

 喘ぐようにして、どうにか言葉をした、かのようなその呟きは……非常に弱々しく……それは、彼の動揺の程をまざまざと示す。

 その動揺にも止まらず、ヨルコの半ば独白と化した言葉は続いていく。

「……あの時、《指輪》を手に入れた私たちは自分の『欲』を捨てきれなかった……。だって、いつかGAを攻略組に! なんて、言ってたのに……結局は『売却』選んだ人が大半だったわ。もし本当に攻略組に入るくらいギルドを強化するのだっていうなら、あの時一番最善だったはずの選択肢があったのに……私たちは『それ』選ばなかった。リーダーに任せる、一番実力のあるリーダーに装備してもらう……考えてみれば一番簡単で単純な事だったのに、私たちは言葉を濁して〝自分の強化〟を選んだ…………」

「ち、違う……!」

「違わないわ……」

 シュミットの言葉を、ヨルコは間髪入れずに否定した。窓際の方へと移動していき……淡々と、自分の続きを語る。

「実際……、売却に反対したのは、貴方とカインズは〝自分が使いたい〟からで、私は……そんなカインズに合わせて、それに乗っただけ……本当に只それだけだった。他の売却派の皆だって、《指輪》を売却したお金で〝何か〟をしたいから……どこまでも、自分勝手な理由だった。でも、そんな中でさえ、グリムロックさんは、その選択をした……」

「「「……!?」」」

 その話は、初耳だった。初めて聞いたその事実に、ハチヤ達は驚いた。

「だからきっと、あの時私欲に流されなかったあの人だけが……、私たちに――愛する人を奪った私達に――制裁を加える権利があるのよ……。私欲を捨てきれなかった、愚かな私たちに、復讐する権利が……」

「……冗談じゃない…………冗談じゃないぞ……っ!! 半年も前の事なんかで、今更……今更…………っ!!」

 シュミットは小刻みに震えながら、譫言のようにぼそぼそとその言葉をつぶやいていく。

「……私……、なんとなくだけど――半年も前だから、なんじゃないかって……思う。今更、って言えばそれまでかも知れない。でも、それでも……殺された方からすれば、能天気にこの半年を過ごしてきたのを見ていて……面白いわけがないもの」

「……じゃ、じゃあ何か? お、お前は、リーダーが化けて出でてきたとでも……ッ!?」

「……ただ、そうかもしれないって、思っただけだけど……。でも、あんがい理に適ってたりして、なんて……思える気もするの。だって――普通のプレイヤーには、()()()()()()()()()なんて、普通じゃあ出来ないもの……」

「あ、有りえるわけがないだろうが……っ! そんな、話が……っ!! だ、大体…… 幽霊なんかに殺されるなんて、お前はいいのか!? ここまで 生き延びてきたっていうのに、そんな風に殺されるなんて……お前は受け入れるって言うのかっ!?」

「――、」

 その半ば叫びのようなその声に、言葉を探したヨルコが、ようやく何かを口にしようとしたその時。彼女の唇が何かを告げよう、と動いたその瞬間……彼女の言葉は極右に消え、代わりに――とん、という軽い音が響き、ヨルコの体がよろめく。

 一同は、一瞬何が起こったのか分からなかった。

 ヨルコの様子が、唐突に変わったのに違和感を感じた致道は何が起こったのかについて、考えを巡らせる。

 

 だが、その答えは――あっさりと示される。

 

 ヨルコが、よろめき……窓辺に手を突いた瞬間。図ったかのようなタイミングで、ヨルコの腰のあたりまでかかっていた長いブルーブラックの髪をなびかせ――彼女の背を白日の下に

 さらす。そこにあったのは、あまりにもちっぽけな物。

 

 ――それは、彼女の背にあった……いや、〝刺さっていた〟。

 

 ちっぽけな、黒い投げ短剣(スローイングダガー)が――ヨルコの背に、刺さっていたのだった…………。

 そしてそれは赤いライトエフェクトを放ち、ちかちかと点滅する光を放ちながら、〝ダメージの継続〟を無音で――しかし残酷に、目の前の皆に告げていた。

 そして、そのゆったりとした点滅に比例するようにして、ゆらゆらと頼りなく揺れていたヨルコの体は――最終的に大きく前に揺れると、そのまま……窓の外へと、落ちて行った……。

 彼女が落ちそうになった瞬間、いち早く正気を取り戻したハチヤは落ち行く彼女を引き戻そうとしたのだが……ゲーム内のステータスに定められた、その移動速度ではヨルコの体が窓の外へと落ち行くのを止めるには、至れなかった……。

「ヨルコさん!!」

 窓から落ちていく彼女にそう呼びかけるが、返事はなく……石畳に彼女の体が叩き付けられる音と、蒼いエフェクトと共に砕け散ったポリゴンの破砕音のみがその場に漂った。

 

 ――それは、人の『死』というには……あまりにも呆気なく、軽いものであり……これが本当に人の『死』だというのかとさえ思わせるような静寂が流れ、砕け散ったポリゴンの中から惚れ堕ちたと思われる黒い短剣が先ほどヨルコの叩き付けられた石畳に転がるカランという音だけが不自然なほどその場に響いたという。

 

 そして窓の外には、ヨルコの命をあっさりと奪ったらしい短剣を、どうやったのかは知らないが……『システムに保護されている宿屋』に、もっと言えば〝圏内にいるプレイヤー〟のヨルコの背にむけて、その武器を当てて〝五秒もかからずに即死〟させたらしき幻影の如き『襲撃者』の姿が、屋根の上に佇んでいた……。

 

 その襲撃者の姿は、まるで……《死神》を思わせるような風体であったという……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 その唐突に起こったその事態に、誰もが対処できずにいた。

 しかし、そんな中でハチヤは、どうにか本来の目的――するべきことの方に無理やり思考を切り替えると、視界の端にとらえた黒いローブの人物を追う為に窓の外へと飛び出した。

「ここは任せたぞ!」

「――ハッ……! だ、駄目だよ! 一人じゃ……!」

 そう言ってハチヤを呼び止めたユイの声を背に受けながらも、彼は窓の外へと飛び出していった。

(逃がすか……ッ!)

 ――逃がしてなるものか。

 その思いだけが、プレイヤーを――つまり今こうして追って側になっている今なら自分を――一撃で即死させる武器を持っているかもしれない相手へと向かって、その足を動かしていた。

 しかし、その襲撃者はハチヤの怒涛の追い上げにも全く動じずに『何か』を取り出した。新たな武器か!? とハチヤは背に装備している剣を抜こうとしたのだが、それは武器ではなかった。

 見慣れたサファイアブルーの煌きを放つ――『転移結晶』が、夕暮れの空を背にした襲撃者の手にしかと握られていた……。

「くそっ……!」

 剣から即座に手を放し、ベルトに備え付けてあるガンマンの弾倉のようになっている投擲用の武器である投げ針(ピック)を引き抜き鋭く投げつける数は一本だが、ここ《アインクラッド》における敏捷型の代名詞たる彼が投げれば恐ろしいほどの速度を発揮し、弱設定のMobモンスター程度なら一撃で仕留められるのではないかという程の鋭い一撃が襲撃者へと放たれる。

 勿論、第二射の用意も忘れてはいない。この攻撃の理由は主に二つ、〝牽制〟と〝阻害〟である。

 詠唱を邪魔するか、攻撃が本当に届くのであればそのまま足止めをする程度である。その間に一気に距離を詰め、そのまま剣の勝負にもつれこんでしまえば……襲撃者を捕らえる事など、ハチヤには造作もない事である。

 しかし、襲撃者に放ったピックは――〝システムの保護〟によって、襲撃者への被弾を拒まれてしまう。

 つまり、これで分かったことが一つ。

 少なくとも今この瞬間においては、〝システムの保護〟は……機能している。

 そのことがどうにも〝分かっていた〟らしい襲撃者は、そのまま場所の詠唱をしようとする。対象とハチヤとの間の距離は約一〇メートル。追いつくにはもう少しかかる。

 ならせめて、場所を聞けばこちらも結晶で対象を追うことができる。幸いなことに、ゲーム内では〝どんな雑音も、プレイヤーが出さない限りは発生しない〟。つまり、今現在――屋根を駆けているハチヤと黒ローブの足音(それもそんなに大したものではない)以外に聞こえてくるものがあるとすれは、それは奴が詠唱した場所名に他ならないはずである――が。

 突如その瞬間、この街にある『鐘』が鳴り響く。

 全ての音よりも、〝システム的に〟上位に設定されているその鐘の音は……その場からすべての音を拭い去った……。

「――、」

 何かを言ったかの様な事だけは認識できたが、現実とは違いシステムによって『完全制御』されているこの世界においては、聞こえないと決まったものは、決して聞こえないのである。

 

 その事実を見せつける様にして、襲撃者はその姿を消した。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ハチヤが再び宿に戻ると……。そこには怯え、がたがたと震えているシュミットの姿があった。

「あ、あのローブは…………《グリセルダ》の物だ! 彼女は何時も街に行くときはあんな地味な格好――あのローブを着ていた……『指輪』を売りに行こうとした時だってそうだ……。あれは、リーダーのグリセルダの幽霊だ……! 俺たち全員に、復讐に来たんだ……!!」

 そするとシュミットは――はは、はははと乾いた声で笑い出すと、こんなことをぶつぶつとつぶやいた。

「ははは……幽霊、幽霊か……そりゃあいい。いっそのことグリセルダに百層のボスを倒してもらえばいいんだ。そうだよ、幽霊なら、何でもアリだ…………それこそHPすらないんだからな――」

 ははは、と壊れたおもちゃの様に繰り返すシュミットの姿はあまりにも痛々しく、とてもじゃないが見ていられない。

 ハチヤはため息をつくと、シュミットにギルドの本部まで送るとだけ告げた。

 シュミットは、こんな状況でその申し出を断るわけもなく、おとなしくハチヤの申し出を受け彼の後に従った。

 

 そしてハチヤがシュミットを『聖生連合』の本部まで彼を送ると、彼は中に入ろうとするシュミットを呼び止め、一言――一応不用意に出歩かない方がいい、とだけ告げると他のメンバーを連れて聖生連合のギルドを後にした。

 しかし、その忠告を受けてなお、忠告をしてきたハチヤの背中を見つめていたシュミットには余裕がない。

 今すぐに、『許し』が欲しい。

 何でもいいから、許しが欲しい。罪を全て吐き出したい。楽になりたい、死にたくない。ここまで生き残って来たのに、『幽霊』なんかに訳の分からない方法で殺されるなんてまっぴらだ。せっかく《聖生連合》の重装盾戦士(ディフェンダー)隊のリーダーにまで上り詰めたのに、ここまで来て死ねるものか!

 ここまで誰よりも硬い――文字通りの《最硬》を手に入れてなお、何かに怯えるなど滑稽だがしょうがないではないか。何せ相手は幽霊か幻影……いや、仮に人間(プレイヤー)でもどうしようもない。完全にゲームロジックを無視してこんなことをしているのだ。

 出来ることなど、謝罪くらいのものだが……仮にここでいくら懺悔しても、それが――今更かもしれないが――『誠意』として届くものなのかどうか…………とそこまで考えて、シュミットは思い至った。

 

 ――そうだ、あるではないか。その懺悔にぴったりの舞台が……。

 

 それを思い出してからの彼の行動は早かった。外に出るなというハチヤの忠告はもっともである。

 しかし、今からとる『外出』の行動の意味は十分にある。自身を今危険に陥れているイレギュラーに対しての『贖罪』なのだ。だから、きっと――そんな都合のいい幻想ではあったが、彼にはそれ以外であれば〝何者だろうと負けない〟自身がある。

 何せ、自分は《聖生連合》のリーダー職に就くほどの硬さを持つ壁騎士。

 

 ――それ以外の『何か』など、恐れるに足らない。

 

 だから彼は、せっかくメンバー以外入れないとシステム的に決まっているそこから、外へ出て――青い結晶を取り出すと、小さくこうつぶやいた。

 

「転移……《ラーベルグ》」

 

 豪胆の筈の騎士の胸の内にあるのは、変更されることの恐ろしさを知っているがゆえの不安が彼を突き動かしたのだ。

 

 それが彼に――死者への手向けを選択させた。

 

 蒼い光に包まれ、シュミットは転移する。

 自身の懺悔の為の……舞台――霧の漂う気高き女剣士の、墓標――へと……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『聖生連合』のギルドホームを後にした後、ハチヤ達は大分暗くなってきたとある広場のベンチに座っていた。

 誰もが皆、無言だった。

 ヨルコを守り切れなかった挙句、さらにまた分からないことが増えてしまった。こんな状況で言葉を発することは出来ない。何と言葉を紡ぐべきか、迷っていると同時に戸惑っているのだ。

 

 現状『敵』値みなすべき相手は、〝システムを掻い潜っている〟のに、此方からの攻撃には〝システムを味方につけて〟対処してきた。

 どうしたらこんな真似ができるのか? 

 ――まさか本当幽霊なのか、とさえ疑いたくなるほどの現状の〝理不尽さ〟に頭を抱えるしかない。

 とはいえ、〝幽霊〟なんてものが存在するのだとすれば……無念を嘆いて出てくるのはグリセルダ一人に留まるわけがない。大体、幽霊なら、実際にあるオブジェクトを使うことなんてないだろうに。

 今回取り逃がしたあのローブの襲撃者にしても、逃走の際に使用するアイテムの『転移結晶』で逃走していた。それに、ヨルコを殺したとされるのだって、あの石畳に落ちていた投げ短剣のはずだ。

 幽霊なら実在の武器なんて使わずに、呪いでも何でも使って殺せばいいものを……なのに、このゲームにおける〝何行かのプログラムコードでしかない〟それを……幽霊が使うだなんて――はっきり言って馬鹿げている。

 かといって、今この状況を説明できる言葉を持ち合わせている者など――誰もいない。

 

 しかし、とこしえの沈黙など――存在しない。

 

 それを破ったのは、ハチヤだった。

 ずっと、ずっと考えていた。いくつかの疑問があった。

 二度起きた殺人、その二回とも手段は〝誰も見ていなかった〟『武器の投擲』によるもの。そして、ヒースクリフのあの発言。

 

 ――この世界においては、目に見えるものだけが真実。

 

 何かが確信に変わりそうなほどに、つながりそうになっているのに……後一歩が、足りない。残り一ピースで埋まりそうなパズルを前にしてそのラストピースが亡くなってしまったかの様な状態に立たされている。

 現状において、確信できることは二つ。

 一つ目は、《黄金林檎》のメンバーのいずれかが、この事件を仕組んでいるということ。これは仮にその黒幕が……仮に本物の『幽霊』だろうが、何だろうが、確定している、完全な決定事項である。その仕組んだ目的はおそらく『復讐』か『制裁』あるいは『口封じ』のいずれかだろう。

 そして二つ目は、見えているものが真実であるのならば――この事件には必ずからくりがある。だってそうだろう? こんな小説の筋書きみたいに都合よく幽霊が現れ、メンバーを殺していく、なんて……あるわけがない。

 何より、不可解なのはあの襲撃者である。ヨルコを殺せたなら、何故シュミットに襲い掛からなかったのか? あの距離で武器を投げて即死させる、なんて芸当ができるなら……シュミットを殺すことだって不可能ではないだろう。それにあの時襲撃者は、窓から顔を突き出していたハチヤには〝()()()()()()()()()()〟のだ。

 ――復讐に関係のない者は巻き込まない、とでもいうのか?

 ――一人ずつ、一人ずつ消して最終的に……おそらく主犯なのであろうシュミットを……恐怖に駆らせて殺す、とでも?

 ならそもそもこんなこと自体が不毛だろう。こんな恐怖の振り分けをするほどの時間があるならば、さっさと殺してしまえばいいだろう。そんなにまで『復讐』や『制裁』を加えたいのであるなら。

 ただ、『口封じ』――であるなら、この恐怖の振り方はかなりの効果を上げるだろう。しゃべったら、殺すと暗示をかけている様なものだ。

 しかし、ハチヤ達がヨルコからの協力を引き受けた時点でシュミットに恐怖を与えておかなくては、『口封じ』の意味をなさない。なぜなら、何か表に出せないものがあるのに、それを恐怖のあまりシュミットがハチヤ達に漏らしたとしたら、今度はハチヤたちまでが襲撃者の対象になる。しかし、このメンバーを相手にすればいかに《圏内殺人》が可能であっても、その()()()()()()とやらはこの城――《アインクラッド》中に広がることになるだろう。

 ――では、何故か?

 何故、そんなにも恐怖をあおり自白を促すような…………『自白』?

「……自白、か……?」

「えっ……?」

「どうしたんだ、ハチ?」

 キリトとアスナがハチヤの微かな呟きを聞き、何といったのかと聞き返した。

「いや、ふと思ったんだが……シュミットが、なんとなくこの事件の前肢となる『指輪騒動』の根幹だっていうのは、なんとなく分かったよな?」

「ええ、おそらく……。グリセルダさんを殺したのは、あのシュミットさん――何でしょうね……」

「はい……あの怯えようだと、完全に黒ですよ」

 ユキとイロハがそう答える。

「だからふと、思ったんだ。今回の事件は、きっと『復讐』や『制裁』あるいは『口封じ』とかなんだろうって……」

 それを聞き、一同は頷く。きっとハチヤの見解はほとんど当たっている、と皆思ったようだ。

「ただ……それなら、と思ったんだ。この事件の効率の悪さ、不毛さについて……」

「効率って……何の……?」

「殺しの、だ……ユイ」

「……、」

 それを聞き、また一同は押し黙る。しかし、今度の沈黙はただ悲しみや自身の不甲斐無さを嘆くだけのものではない。

「――確かに、効率が悪い……というのは分かる気がするけれど、不毛というとそれは何に対するものだとあなたは思っているの?」

「俺の思った不毛さは、『復讐』や『制裁』なら……どうして、一人一人なのかという部分に。『口封じ』だとするなら、恐怖に駆らせるのは確かに効果的な気もするが、これは俺たちに知られたらそれこそ意味がない。故に、シュミットが縋りつきかねない位置に俺たちがいるとあのローブの襲撃者は、今度は俺たちまでターゲットにしなくちゃならない。なのに――」

「――あの時、貴方には何もしてこなかった……と?」

「その通りだ」

 ユキがハチヤの結論を理解した。確かに、投擲武器でプレイヤーを一撃で殺せるならば、わざわざ逃げる必要はない。そのまま迎え撃てばいいだけだ。

 これがハチヤの言ったように『口封じ』の始まりで、自分たちの関わる前に恐怖に駆らせ大人しくさせるなら、確かにこれは効果的だろう。

 しかしだ。

 既に自分たちは、大きくこの件に関わってしまっている。漏らしたくない情報を秘匿するためのしているのであろう行動には差し支えるだろうに……。それなのに、向こうはハチヤに手を出さずに『逃走』を選んだ。

 不自然である。

 それはまるで()()()()()()()()()()みたいではないか――とそこまで考えて一同はその結論を飲み込んだ。

「まさか……」

「あぶり出そうとしていた、ってことですか……?」

「恐らくな……。きっと、ヨルコさんは死んでない。どうやったのかは知らないが、きっとカインズもまだ、死んでいない」

「でも、黒鉄宮の生命の碑には…………」

「ああ、ユイの言いたいことは分かる。でもな、それで本当に死んだか同かは、まだ分からない。例えば……そうだな――――仮に、考えられる可能性としては――俺たちは、カインズの名前が本当に《Kains》なのかどうかは確かめていない……」

 それを言った瞬間、キリトが「あっ!」と声を上げる。

 ゲーム好きな彼なら、すぐに思いいたるだろう。何せ、非常に単純だ。現実世界であっても簡単にできて、かつ誰でも知っているような手法。しかし、案外侮れない上に中々に効果的である。何せ、相手の名前を何もせずに当てるなど――それこそ、退屈しのぎに人間界に降りてきた死神と取引でもしなければ不可能である。

 そしてこれは、『死を確認できる』このゲームの中だからこそ、あっさりと確信として受け入れさせられてしまう。

「……つまり、カインズの綴りが違うってことか?」

「たぶんな……死を偽装するのにコレを利用しようとしたんだ。たぶん、自分たちと同じ読み方の名前を持ってるプレイヤーが《一年前》に死んでいたのが分かったのが、きっとこの事件の始まりだったんだろうな……」

「――ッ! そっか……このアインクラッドに《サクラの月》が来たのは、昨日で『二回目』だったんだ……!」

「ああ、だけどこれは途中までは推測だ。確信に足る証拠も、ロジックも、何もない」

 そう、これは推測。証拠がなければ、これは成り立たない。

 ――証拠……《証拠》か……。

「なぁユイ。お前確か、ヨルコさんとフレンド登録してたよな?」

「え、うん……」

「確かめてみてくれ……」

「う、うん……」

 そう言ってユイがウィンドウを呼び出し、その中にあるに《ヨルコ》の名を探す。

 すると――

「――あ、あった……残ってたよ……!」

「あった、ってことは……」

「ええ、彼女は確実に――――生きてるわ」

 少しホッとする一同と、まだ難しい顔をするハチヤ。

 この事実が出てきた場合、疑念がもう一つ浮上する。それは、何故ヨルコがフレンド登録を拒まなかったか? ということについてだ。

 それについては全員がそう思ったらしく、しばし考え込む。

 何故、こんな――確かめてしまえばすぐにばれそうな細工をするのか……? ということについて。

「たぶん……、『けじめ』――みたいなものなんだと思います」

「『けじめ』……ですか?」

「はい。きっと、カインズさんとヨルコさんは、グリセルダさんを殺した犯人を探るために、動いていた。だから、きっとその過程で出会った私たちを……言い方は悪いですけど『証人』として利用したわけですから、きっと謝罪の意味も込めて……ってことなんじゃないかな……って」

 なるほど、確かにそういうことなのかもしれない。と、自分でも意外なほど素直にそれを受け入れていたハチヤは自分も随分と丸くなったものだと思った。

 幻の、《幻影の復讐者》を作り出した二人は……きっと初めからある程度疑っていたシュミットに狙いを定め――『自白』させる気だったのだろう。実際それは大成功、といえるくらいに成し遂げられた。

 今シュミットは罪の意識に駆られ、一時の欲望のために行ってしまった自身の『罪』に対する呵責で追い詰められている。今の彼には、どんな場所だろうと安全だ、なんて思えないだろう。ヨルコとカインズ、この二人の作り出した《幻影の復讐者》に刻一刻と追い詰められている。これがリアルだとするなら、それこそ墓か教会に走り許しを請う程に。

「……そういえば――SAOに墓って、あったか?」

 その問いかけに一瞬ポカンとする一同。だが、ユイが前に《ハヤト》達から聞いた話だと言って《KoB》の話をする。

「確かKoBの本部には、お墓があるって前にユミたちがいってた……」

「つまりこの世界でも墓は作れると……」

 だとすれば…… シュミットは、十中八九そこにいったのだろう。いや、寧ろ誘導させられたというべきか……。

 彼は豪胆に見えてかなりの小心者だ。それは彼の異常なまでの《硬さ》への執着からもうかがい知ることができる。いつも彼は自身の《硬さ》に、どこかしらの安寧を求めていた。だから何だろうが、ハチヤやキリトのような薄い装甲で最前線に出ている者を見ると彼自身気づいていないだろうが、かなり異常なものを見るような目をしていた。

 そしてそんな小心者の彼は今、自分の自慢の《硬さ》が通じない〟相手を目の当たりにして、どこまでも怯えている。

 事実、先ほどのハチヤの忠告を聞いたときも気持ち半分で聞いていたようだった。

 たいして深いかかわり合いが無いハチヤですら、こんなに分かるのだ。きっと彼と一緒に過ごしていたのであろう二人は、ハチヤ以上にシュミットの性格を熟知したうえでこの計画を進めたのだ。

 ――彼ならきっとくる、ということを確信したうえで……。

 だからきっと、今ヨルコのいる場所が…………《グリセルダ》の墓がある場所なのだろう。

 そしておそらく、そこにはシュミットもいる。

 なんとなくユイにヨルコのいる場所を位置追跡で探ってもらうと、彼女がいるのは第十九層のフィールドにいるらしい。ちなみにそこは圏外、だが――。

「……俺たちの役割はここまで、なんだろうな……」

「……ええ」

「圏外だけど……大丈夫、かなぁ……?」

 ユイの危惧は分かるが……それに関しては、おそらく大丈夫だろう。

「……たぶん大丈夫だろ、シュミットに今更《犯罪者(オレンジ)》や《殺人者(レッド)》になる度胸は無ねぇよ。それに、転移結晶も持ってるだろうし、最悪の結果にはならねぇだろうよ。それに、さっきアスナがいったみたいに〝フレンド登録を残した〟ってのは、あの二人なりの『けじめ』なんだろうからよ……わざわざ邪魔するのは野暮ってもんだ……」

 ハチヤのその言葉で一同は「そうだな」と納得し、事の成り行きを見守ることに決めた。

 そうなると、この事件は理屈は説明できなかったが、一応終わった――ということになる。だとすると、これ以上はハチヤ達にはどうすることもできない。

 そんな状況ですることと言えば、今は――何だろうか?

「……飯でも、食うか」

 そんなつぶやきが出たのは、決して不思議な事でもないだろう。

 それくらいほかにすることが無い。事実、今はちょうど夕食時ではあることも手伝ってか、一同はハチヤのそんな言葉をあっさりと肯定する。

「あ、そうだ……じゃあアレ食べようよ、アレ」

「そうね、そろそろ耐久値も心配になって来たし……」

「ですね。作ったの、今朝方でしたし……」

「? 何の話ですか?」

 イロハは不思議そうな顔をしてユイ、ユキ、アスナに聞いた。といえ、ハチヤとキリトもそれに気づいたのは割と最近なのだから……。

「はい」

 三人がそれぞれストレージから取り出したものは――めちゃうまそうなバケットサンドだった。

「何ですか? これ……?」

「私たちが作ったんだよ~」

「はい、三人で作りました」

「まあ、その通りなのだけど……」

「ほえぇ……」

 イロハは感心したようにそれを受けとり、口に運ぶ。

「あ、すっごい美味しい……!」

「よかったぁ~それあたしが作ったヤツでさ~」

「うえっ!?」

 イロハはその一言を聞いた瞬間、滅茶苦茶狼狽えてしまい……ついついバケットサンドを落としてしまった。

 まぁ、その気持ちは分かる。とハチヤは心の中で独り言ちた。

「あぁ……っ!?」

 ――もったいない……。とイロハがすごく残念そうにしているのを見るとなんともいたたまれなくなる。

 はぁ……とため息をつき、ハチヤは自分の分をイロハに差し出す。

「ほれ」

「ふぇっ?」

 相変わらず素でもあざとい、いろはすであった――と、ハチヤは一人でそう完結させた。

「やるよ、まだ口つけてねーし……」

「あ、ハイ……。ありがとうございます……」

 呆けたままにそれを受け取るイロハ。それを見ていらいらしたユキはハチヤを睨み、ユイは「はいッ!」と余っていたバケットサンドをハチヤに突き出す。

「お、おう……なんだ、余ってたのかよ……」

「そうだし! もうっ!」

「な、何怒ってんだ……?」

「怒ってない!」

 いや、怒ってるでしょ……? とハチヤは思ったが口には出さなかった。誰だって命は惜しいものだろうからということだ。

 何だか起こっている結衣から視線を外したハチヤは、先ほどイロハが落としてしまったバケットサンドが目に留まる。それは、まだ地面に残っており……次第に青いポリゴンへと変わり、砕け散った。それを見た瞬間――ハチヤは何かに至った。

「……!?」

「? どうしたの?」

「どうしたんですか、せんぱい?」

「ハチ?」

「?」

「何をそんなに地面を見つめているのかしら?」

 しかし、それにハチヤは答えない。ただ少しぶつぶつとつぶやき、周囲の情報をシャットアウトしその論理の攻勢を優先する。

「そうか……そうだったのか……」

「だからどうしたんだよハチ」

「……《圏内殺人》の方法が、分かった……」

「え……っ!?」

 ハチヤは皆に説明する。

 先程の光景から推測した、不可能犯罪の方法を……。

「アレはきっと……装備品の『耐久値』を利用したトリックだったんだ」

 そう、あれは……カインズの時は、あの鎧が。ヨルコの時は、おそらくあの厚着の服が。それの『耐久値』をそれぞれの事件の際に現場に残された短剣を使い、貫通継続ダメージを『耐久値』が減る際のエフェクトで演出したのだ。そして、その装備が砕け散る際のポリゴンの奔流に紛れて、『転移結晶』で転移。死亡を演出したのだ……。

「――おそらく、そんなところだと思う……」

「……なるほど……」

 それを納得し、かみしめる。

 こんなトリックを思いつくほどに――いや、思いついたからこそ、この事件を起こした二人に少しの敬意と少しの滞りを感じつつ、一同は今現在行われているであろう『自白』から始まる『審判』を……少しだけ思う……。

 

 しかしまだ、誰一人として――気づけていないのだ…………。

 

 

 この事件は、まだ――決して終わってなどいないことを……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第十九層――《ラーベルグ》 霧満ちる森の中《グリセルダ》の墓標前にて。

 

 墓前にひれ伏し、自分自身の罪を謝罪するシュミット。地面に額を擦り付け、震える声で、ただひたすらに――謝罪する。

「すまない……悪かった……赦してくれ、グリセルダ!」

 聞こえるはずなど無い、と頭の中で声がする気がする。現代人としての『科学的思考』という奴が思考を阻害する。だが、これ以上の方法も、《贖罪》も、思い付きなどしない。

 

 ――だから今は、ただひたすらに謝罪をする。

 

 それが一番である、と……思っているから。事実、彼の謝罪は、心からの物だった。恐怖に駆られてもいる。だが、それでも、どこかで自分の罪を悔いていた部分もあった。だからだろうか……根っからの悪人などいない、とかつて言った者がいた。その者曰く、人間が本当に恐ろしいのは、元が悪だからではなく――〝いざというときに悪に変わるからなのだ〟と……。

 その、一時の気の迷いの……心の弱さに対する……『贖罪』を、彼は今しているのだ。

「あんなことになるなんて…………予想もしていなかったんだ……! 俺は、これっぽっちも――」

 すると、どこからか声が聞こえてきた……。

 女の、声だった……。妙にエコーが掛かったような、不気味な、地の底からはいずり出てくるような――『声』。

 

 

『何を、したの……? シュミット――』

 

 

「ぐ、グリセルダ……なのか……?」

 黒いローブを纏い、片手にこれまでで一番長い、三本目の『逆棘の武器』――所謂、《エストック》と呼ばれる片手用近距離貫通武器の一種――を持ちながら、その『女』は……いや、このときのシュミットにとっては、まさにその女は――『死神』のように見えただろう……シュミットを、その子の見えぬローブの闇の底の奥にあるのであろう顔でシュミットを見下ろす。

 

 

『あなたは、私に――何を、したの…………?』

 

 

「お、俺は…………ただ、メモの通りに…………!」

 シュミットは震える声で、目の前に現れた相手を思わず見るために上げた頭を再び地面に擦り付けながら、自分のしたことを少々つっかえながらも語る。

 

 

『――何を、したの――』

 

 

 ひぃ、と悲鳴を漏らしながら半ば叫ぶようにして短く詳細に、自分のしたことだけを述べる。

「俺はあの時ただ! いつの間にかベルトポーチに入っていたメモの指示通りに――」

 

 

『――誰の指示だ、シュミット……』

 

 

 今度は、男の声だった…………。しかしその声は、先ほどの『女』同様……酷く不気味な、歪んだ声であった。

 シュミットが新たに現れた声の出所へと、再び下げた頭を恐る恐る上げ、そちらへと視線を向けると――そこには黒いローブを来た男が立っていた。最初に現れたグリセルダと同じ、ギルド《黄金林檎》のギルドリーダーの物である黒いローブである。

 二人目の『死神』が、姿を現した。

「ぐ、グリムロック……? あ、アンタも、死んでたのか……?」

 しかし、二人目の死神もまた彼の問いには答えなかった。どちらの死神の発する言葉も、シュミットの返答をせかすものみたいだ。

 

 

『誰の、指示なんだ……シュミット。お前を動かしたのは、一体――誰なんだ?』

 

 

「し、知らない! 本当に分からないんだ!!」

 

 裏返ってしまった声で必死に弁明するシュミット。

「俺はただ、リーダーの宿屋に入り……ポータルの出入り口をセーブしろという指示を……それをすれば指輪の売り上げの半分を約束するという条件で……その、実行しただけで……こ、殺しの手伝いをするつもりなんてなかったんだ! ほ、本当なんだ! 信じてくれ!」

 懇願するシュミット。

 しかし、そのシュミットが次に聞いたのは……不気味な声でもなく、非難の声でも呪いの声でもなく――

 

「録音したわよ、シュミット」

 

 ――その声は、つい最近……それどころか、数時間前に聞いた…………声だった。

 

「ヨルコ……? それに…………カインズ…………?」

 

 事件は、ついに――本当の意味での終焉へと……動き始めた……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『審判』が、佳境へと向かって行った頃――。

 ハチヤ達は、食事を終え……まどろみの時を過ごしていた。そんな中で、アスナがふとこんなことを呟いた……。

 

「――それにしても、愛されてるんですね……グリセルダさんって」

 

 その一言に、皆感慨深げにある物は宙を見上げ、ある物は地に視線を落とす。

 彼女はギルドのメンバーに慕われる、良きリーダーだった。だからこそ、ヨルコもカインズも、こんなにも彼女の死を解明しようと必死になった。

「ホント……愛されてるんだな、グリセルダさん……」

 キリトもそんなことをつぶやく。

「旦那さんも、いい人だったってヨルコさんが言ってもんね。いつも温かい素敵な夫婦だったって……素敵だよね、そういうのって……」

「アスナ、結婚したいのか?」

「な……っ!?」

 キリトの空気を読まない質問に、アスナは顔を真っ赤にする。

 それにしても、キリトも相当の鈍感である。この事件が始まった日のまどろみの時、顔を赤くしてアスナを自身の隣に受け入れたのはコイツ自身だろうに。まったく変なところで鈍感だとその場にいた女性陣全てが思った。

 すると、さらに空気を読まないひねくれ者が口を開く。

「結婚か……人生の墓場を希望するか、アスナ。ならダンナを養えるくらいの――『『なんかいった/かしら?』』――何でもないです……」

「大体、貴方は結婚する相手に求めるものが多すぎるわ。貴方はそのどうしようもなく腐り切った性格をどうにかしないといけないわね。何なら叩き直してあげるのもやぶさかではないのだけれど、やるのかしら?それともやらないかしら? でも、あなたの性格は以前にもう言った通り、強制しないとまずいレベルよ。結婚アンケートの時(OVA及び7.5巻を参照のこと)も相手に求める年収の欄で一千万円以上と書いていたし、そんなことを叶えてくれて、尚且つ女性である確率の時点でとてつもなく低いというのに、それを現実では腐った魚のような目をしている理系絶望の捻くれゲーム廃人高校生を受け入れてくれるなんてあるはずないじゃないの。勿論、そんな女の子がいない、とは言わないのだけれど……例えば、私とか……ハッ、勿論私があなたを養うなんてことあるはずないのだけれど、ヤダそんな期待した目で見ないでくれるかしら腐ってしまうわ。ともかくあなたは身の程を知りなさい、勿論私は貴方を見捨てたりはしないのだけれど、それは別に貴方が特別だとか好きだとではなくて、私は貴方が言ったようにいつも往々にして正しいつもりで生きているから、だたそれだけよ。ええ、私は虚言だけは吐かないと言ったでしょ。忘れたのかしら? 鶏でももう少し位は覚えているわよ? そもそも、奉仕部に貴方が来た時点で受け入れてあげたのはほかならぬ私だということを忘れないでもらえるかしら。それなのに貴方は何時も節操なくそのやさしさで別の女の子をところかまわずひっかけてきて――本当に身の程を知りなさい。そんな貴方が結婚だなんておこがましいわ。どうせするならすべてを受け入れてくれるような子にしなさい。まぁそんな子は一人くらいしかいないだろうけれど、せいぜい足掻きたいなら足掻きなさい。そのくらいの猶予はあげるわ、でもそれで現実を知ると思うのだけれど――はっ、ごめんなさい既に理解していたのだったかしら。残酷な真実を示してしまってごめんなさい。でももし、貴方がどうしてもと―言うなら受けてあげなくもないわ。もちろんそれは私に釣り合いそうな人がいない世界で、貴方の方がまだ気心が知れているからとかその程度の理由でしかないから勘違いはしないでもらえるかしら? まあ、結論を言うなら――結婚できるわけないわ、貴方は」

「…………」

 ハチヤ、珍しく涙目である。いや、勿論よく聞くとただのデレでしかないのだが、彼にそれを理解しろ、察しろというのはライオンを菜食主義者にするよりも難しい。

 いや勿論、ユキもユキだが……。

 ちなみに、彼女のこの長々としたセリフを簡単に要約するとするならば、

『私以外の女の子にいい顔ばっかりして、優しすぎるのよ、貴方は。だから少しは頼りなさい。何時でも私は貴方を思っているのだから……。それに、結婚して専業主婦になりたいなら選択肢は私しかないでしょ? え、姉さん? 貴方は姉さんを怖がっていたでしょ? つまり私しかいないのよ。だから、結婚してほしいのだけれど』

 と、言ったところだろうか?

 勿論そんなことを微塵も察することができない上に、かなり早口でまくしたてられたハチヤは落ち込み地面にのの字を書きながら『……生まれてきてごめんなさい……』と打ちひしがれる。

 そんなハチヤの様子に言い過ぎたと思い内心パニック状態なるユキのんですが、ツンデレな氷の女王様はそう簡単には氷解しないのであって、動けずにいる。そんな訳で、目下のところハチヤをなだめているのはユイとイロハである。

「は、ハッチー元気出して……ゆきのんだって本気じゃないよ」

「そーですよぉ、せんぱ~い。それに何なら私がもらってあげますよぉ? あ、でも専業主夫はだめですよ? 私じゃ養うの無理ですから。でも、罵倒される結婚生活よりはいいですよねぇ?」

「……、」

「ほ、ほらハッチー大丈夫だよぉ! あ、あたしもハッチーなら結婚してもいい…………って思ってるし…………その、えっと……」

「ありがとなぁ……二人とも……気ぃつかってくれて」

 彼にしては珍しく随分と素直である。久方ぶりの罵倒に心が付いていけなかったのだろうか?

「いえいえ~(別に気を使ったわけじゃないんですけど)」

「い、良いよ(ほ、本気……なんだけどなぁ……)」

 何ということだろうか。

 ユキの『結婚して』(注意・要約)は他のヒロインの好感度を上げ、かつフラグを進行させ、彼女らの背中を押すだけに留まるのであった。

 そんな落ち込んでしまったハチヤを見ていたたまれなくなったキリトとアスナは、その落ち込む原因が――いかに、ハチヤの発言がデリカシー不足とは言えども――発端は自分達なので、話題を少しずつずらすために『結婚』をシステム的な方向にシフトさせることに決めた。(アイコンタクトで意思疎通した←この無自覚バカップルが、さっさと結婚しちまえ!)『注意・褒め言葉です』

「そ、そういえばSAOでの結婚は『ストレージ共通化』にもなるんですよね! ねぇキリト君?」

「あ、あぁ。ここでは結婚した二人のアイテムストレージが共通化されて、互いのアイテムを自由に取り出せるようになるって話だからな。例えば片方が迷宮の奥に取り残されて『転移結晶』持ってなくても、もう片方がストレージに『転移結晶』をいれたらそれを使って脱出できるし……あ、ある意味『愛』のシステムだよな! あははは……」

「そ、そういうのってロマンチックだよね?」

「た、多少露骨ではあるけど……隠し事をなくすっていうのも絆の証明だよな……!」

「そ、そうね! なんていうか……そう! ロマンチックだけど、とってもプラグマチックなシステムだよね!」

 そのセリフを聞いて、落ち込んでいたハチヤが顔を上げた。

「アスナ、今なんて言った…………?」

「えっ?」

「ロマンチックの次だ」

「ええと、とっても〝プラグマチック〟って……」

 その言葉を聞き、何かを考え込み始めるハチヤ。

「そうか、とってもプラグマチック……」と、ぶつぶつと何かを考えるハチヤ。一体何を考えているのだろうか? というより、『結婚』が『プラグマチック』に何をそこまで引っかかっているのだろうか? と一同は思ったが、ハチヤは一同の疑問が解消される前にキリトとアスナにこう聞いた。

「なぁ、結婚したとき、ストレージは共有されるんだよな?」

「あ、ああ」

「……なら、『離婚』したときはどうなる?」

「へっ?」

「相手と離婚したとき、相手が側に入っていたアイテムは――どうなる?」

「さ、さぁ? アスナ知ってる?」

「えっと、確か……いくつかのオプションがあるらしいんですけど、詳しくはちょっと……」

「そうか……。じゃあ、ユイかイロハはちょっと試しに俺と――」

「は、ハイ! 喜んで……『何を、する気なの?』……」

「え、いやその……」

 ユキのジト目に見られると何も言えなくなる――

「……実際に結婚してみたらそれがわかるかなぁ、って思ったんですけど――すみませんでした! 軽々しくそんなこと申し込んで本当にすみませんでした!」

 ――はずもなかった。結果、いつもの冷たい目に見られてその迫力に勝てずに、結局ヒースクリフへのメールで確認ということでお開きとなった。

 早速イロハがメールを送ってみたところ、意外とあっさり返事が来た――いつも彼の返事は早い。短いものなら送って一分以内には必ず返信が来るほどである(流石に此間は少々時間がかかったようではあったが)――それで一同が早速そのメールを見てみると、事細かに結婚後のストレージ共通化の概要が乗っており、離婚後についても事細かに乗っていた。

 そしてハチヤは指で上から順にその項目をたどり、ある一転でその指の動きが止まる。その項目は――『離婚後・相手と死別した場合』の項目だった。

「やっぱりだ……」

「……ハッチー、何がやっぱりなの……?」

 ユイがそう聞くと、ハチヤは皆にこういった。

「まだ、終わってなかった……。まだ、終わってなかったんだ……何も……!!」

「…………どういうことかしら?」

「まだ、黒幕がいたんだよ。この事件には……」

「黒幕って……ヨルコさんとカインズさんならもう〝生きている〟っていうのは分かってたんじゃ……?」

「いや、そっちじゃない」

「そっちじゃ、ない……?」

「どういうことだよハチ?」

 キリトはハチヤにそう問い返す。ハチヤの真意を測りかねているのだ。

「なぁ、お前ら。よく考えてみてくれ……。そもそも、『指輪』を奪った犯人は、()()()()()()()()()()()()()と思う?」

 それを聞いて、皆は顔を見合わせる。指輪を奪って、殺したのだろうと……。

「違う、そこじゃない。グリセルダさんは、『結婚』してたんだ……。つまり――」

 

 ――ストレージは、グリムロックと〝共有化〟されていた。

 

 それを聞き、一同は何かに気づいた。

 

 ――そこでようやく、ハチヤ達はもう一つの〝隠されていた〟いや、『気づくことができなかった真実』に……行き着いたのだった……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ヨルコ……カインズ…………生きてたのか……?」

 シュミットは今、信じられない光景を目の当たりにしていた。

 何せ、()()()()()()()()が、そろって自分の目の前に立っているのだから……。

「全部録音したわよ、シュミット……」

「ろく……お…ん……?」

 そう言って、擦れた声を絞り出したシュミットに対して見せつける様にして、ヨルコは懐から録音の為に使われるライトグリーンに光る八面柱型の『録音クリスタル』を取り出した。

 それを見て、シュミットはようやく理解した。

 これは、この二人が仕組んだ……『指輪事件』の犯人をあぶりだすための事件だった……ということを。

「そ、そうか……お前らは……」

 ここまでくると、恐れよりも彼らの執念――どこまでもグリセルダを慕う『心』への、感心だけが残った。

「お前ら…………そこまでリーダーのグリセルダのことを……」

 彼が声に出して言えたのはそこまでだった。

 しかし、そんなシュミットを、彼らは攻めるような言葉を吐くことはなかった。その代わりに、カインズは静かにこういった。

「あんたも、だろう?」

「えっ……?」

「あんたも、べつに彼女を殺したいとまで憎んでたわけじゃ何だろう?」

「も、勿論だ……! 信じてくれ……!!」

 シュミットは彼自身でも驚くほど素直に自らの罪を認めていた。

 この場でこの二人を殺すのは、簡単だろう。この二人は明らかに自分よりも弱い。しかし、力でどうこうする選択肢は、彼の中にはなかった。それをやったら、()()()()()()()()()ことを無意識の内に……分かっていたのだ……。

 だから、彼は先ほども口にしたことをふたたび口にする。

「俺がやったのは……宿屋の、リーダーの部屋に忍び込んでポータルの出口をセーブしたことだけだ……」

「差出人に心当たりがない、っていうのは……本当なの?」

 ヨルコは静かに、しかし厳しくシュミットを問いただす。

「ほ、本当だ! 今でも分からないんだ……。たぶん、俺とアンタらそしてグリセルダとグリムロックを除いた残り三人のうちの誰かだと思うんだが…………ほかに目星をつけていたりはしないのか……?」

 シュミットのその言葉に、ヨルコとカインズは首を横に振る。

「あの事件の後、他のメンバーで、貴方みたいに大型ギルドに入ったりした人は誰もいないわ」

「そ、そうか……」

 他のメンバーで自分と同じように大金を手にしたゆえに、派手な動きはしたものはいないという事実にシュミットは驚いた。なぜなら、彼に支払われた金額は確かに大金ではあったが、メモに乗っていた言葉が真実なら――もちろん真実ではあるだろう。無償で人を殺したがる様な狂人など、ギルドにはいなかった――そのお金を使わずにそのままストレージにしまっておけるとは何という鋼の理性だ、と思った。このゲームにおいて、お金……つまり『コル』のため込みは意味を成さない。別にこの世界には、インフレもデフレもない。お金をため込むだけなど、はっきりいって無駄である。

 なのに、メモの差出人は――一コルも使っていない可能性すら出てきた……。勿論、これから戦わずに大人しく暮らす――なんて言うのなら、きっとそれでもいいのだろうとは思う。しかし、そんな風に考えるような人はあのギルドには……いなかった…………筈――。

 そこまで考えた彼は、ある一つの疑念が頭をよぎった。しかし、それは有りえない。大体、こんな目的のためにそんなことをするのだとしても……動機が軽すぎるし、大体いくらあの『指輪』が高値で売れるといっても…………そんなことの為に動くなんて考え事態が絶対にない。

 確かに、〝彼〟は争うことを好まない補助職のプレイヤーではあった。だが、そんなことをするはずが…………自らの『伴侶』を手にかけ――――

(??? …………なんだ…………っ?)

 ――――そこまで考えた瞬間。その〝考え〟の方に集中しすぎたシュミットはそれに気づくのが遅れた。

 背後から首元に伸びてきた小型のナイフが喉元のあたりにつきたてられた。小型刺武器専用スキル《鎧通し(アーマーピアーズ)》だ。

 しかし、シュミットとて攻略組。培ってきた経験の下に、瞬時に状況に対応――しようとしたのだが……。それがなされることはなかった。

 受けた部位は確かに急所ではあるが、べつにこの世界ではそういった急所を切られたからハイ即死、とはならない。

 勿論、急所ゆえに受けたダメージは大きい。

 しかし、鍛え上げた壁騎士のシュミットの膨大なHP総量からすればそんなものは微々たるものである。

 …………だが、シュミットは起き上がることができなかった…………。

 恐らくこれは『毒』による攻撃。しかし、耐毒スキルを相当に上げているはずのシュミットの体は完全に麻痺状態(スタン)である。自身の耐性(レジスト)を貫通して麻痺させるとは……とんでもないレベルの毒攻撃だ。

 しかし、こんな低層でそんなハイレベルな毒を使えるものなど…………。

 

「ワーン、ダウーン」

 

 そのとき、妙に無邪気な――それこそ少年の様な声が、静寂漂う墓場に響いた。

 シュミットがどうにか視線を上げると、そこには……黒ずくめの男たちがいた。

 先程のヨルコやカインズの姿も『死神』の様ではあったが、この男たちのそれはまさしく地獄からの使者そのものであった。

 するとそのうちの一人、ヨルコとカインズの方にエストックを構えながら近づく、骸骨マスクの赤目の男。そいつは棒立ちになっているヨルコの手から『逆棘の武器』を無造作に抜き取った。

「デザインは、まぁまぁ、だな。オレの、コレクションに、加えて、やろう」

 そいつらを、シュミットは知っていた。いや、ヨルコもカインズも知っているはずだ。仮に知らなかったとしても、こいつらのカーソルを見れば……大体の事情は察せられるだろう。

 見慣れたグリーンではない、鮮やかなオレンジ。

 それだけ見れば、もはや答えとしては十分だろう。

 此奴らは…………このアインクラッドにおける最大の『殺人者ギルド』――《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》、通称・ラフコフ――の連中である。

 しかも、こいつらは……その中でもとりわけ凶悪な……ラフコフの『幹部』プレイヤーである。

 先程シュミットを麻痺させた黒いマスクの毒ナイフ使い、《ジョニー・ブラック》。ヨルコからエストックを奪った赤目骸骨は《赤眼のザザ》。

 こんな連中を相手にするなんて――。とシュミットが思ったその時、()()()()()足音が聞こえた。既にこの中では面倒なシュミットを麻痺させた時点で《忍び足(スニーキング)》スキルはもはや必要ないのだろう。その人物は、この場にいる三人の心にゆっくりと恐怖を刻み込ませるように、じゃり、じゃりっ、と勿体つけた様にして三人の前にその姿を現す。

 シュミットはその足音を聞きながら、冗談地じゃないと思った。殺人ギルドの幹部二人なんてだけでも勘弁してほしいのに、その上……まさか、あいつまできたのだとしたら――

「Wow……確かにこいつは大物だなぁ。《聖生連合》の盾部隊のリーダーさんじゃないか」

 その声を聴き、その人物の姿を見た瞬間…………シュミットは、凍り付いた…………。

「…………《PoH》…………!?」

 殺人ギルドを、作り出したといっても過言じゃない――本物の殺人者。

 なんでこんな下層に、こんな狂人ども三人そろって現れるなど……有りえない筈――。

 だが、現実は非常である。目の前には、その狂人が――いる。

「さて……、イッツ・ショウ・タイム、と行きたいところだが……どうやって遊んだもんかね」

「あれ、あれやろうよヘッド! 《殺し合って、生き残った奴だけ助けてやるぜ》ゲーム! まぁ、この三人だとハンデつけなきゃっすけど」

「ンなこと言って、お前この間生き残った奴も殺したろうがよ」

「あ、ちょっ! それ言ったらゲームになんないじゃないっすかヘッドぉ~!」

 おぞましい、そんなノリでこんなおぞましいやり取りをできるこいつらの神経は本当にどうかしている。その事実を改めて、認識させられ……シュミットは自分の命がここまでなのか、とかこれがグリセルダの復讐なのか、と運命の因果を感じていた。

 

 しかし、シュミットがもはや死を覚悟した――その時だった。

 

 それはPoHの持つ《魔剣》・モンスタードロップ品の大型ダガーの『友切包丁(メイスチョッパー)』がシュミットの首と胴体を分断しようとした、その時――。

 

 その場に馬の蹄が、地面を蹴る音が響いた。

 

 一同がその馬の蹄が響く方に、顔を向ける。

 そこには、二頭の馬の上に乗る二人の騎手――漆黒の騎手と、緑影の騎手――がいた。

 そして、その似たりの騎手は一同から五メートルほどの地点に降りたつ。緑影の騎士はすたっと、漆黒の騎手はドスンと尻餅を突く。

「よう、お前はたしか……PoHだったか?」

「ヒュー! 誰かと思えば、《(シャドウ)》じゃねぇか……!」

「PoH、お前まだその趣味の悪い恰好してるのか」

「それにこっちは《黒の剣士》――ねぇ……。面白れぇ、だがなお二人さんよ? カッコよく登場したのはいいが、いくらテメェらでも俺たち相手に勝てるとでも思ってのかよ?」

「「ああ、勝てる」」

「ほぉ……」

 二人の声が、自身満々に重なるのを聞いてPoHの表情が歪む。

「だけど、さすがに全員守りながら戦うのはキツイんでな、俺たちがお前らの相手をするのは十分だけだ。その間に保護のためにあいつらがKoBのハヤト達辺りでも連れてくんだろ……」

 だから、それで充分だ。

 そう言って不敵に笑うハチヤに対して、ジョニーとザザは二人を睨みつけるが、PoHは短い罵りを口にしただけだった。

「…………suck」

 そう言うと、ジョニーとザザに剣を修めさせる(さすがの彼らも、わざわざKoBの連中とは戦いたくはならしい)すると、彼らは早々にこの場を後にするべく霧の中へと入っていった――。

 しかしその途中で、ハチヤとキリトにそれぞれこう口にしていった。

「いつか、地に這わせてやるよ――同類」

「――テメェと同類になった気はねぇよ……」

「カッコ、付けやがって。次はオレが、馬でお前を、追い回してやるからな」

「……なら練習しとけよ。見かけほど簡単じゃないぜ? まぁ、ハチは結構あっさりやっちまったんだけど」

 そういって霧の――闇の中へと消えていった三人の背中を、ハチヤたちは黙って見送った。

 

 三人の消えた霧の中で、こんなつぶやきがなされていた。

 

「――面白い。《影》、貴様は、《黒の剣士》以上に気にいったぜ。いつか、大切な仲間の血の海で転げまわしてやる……お前は、()()()()の人間だ……。お前は腐りすぎたな、《影支配者(シャドウ・ルーラー)》……」

 

 その言葉は、ジョニーやザザにも聞こえていなかった。霧の中に消えた呟きは、いずれ……大きな波紋を生むことになる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「よく……ここが分かったなキリト、ハチヤ……」

「まぁ、ちょっと色々あってな。ヨルコさんとのフレンド登録を切ってなかったから、この場所が分かった」

「それに、この事件の本当の黒幕にも、用があったからな」

「本当の、黒幕…………?」

 三人は、ハチヤのその発言の意味を分かりかねていた。ヨルコたちは自分たちのことではない黒幕とはいったい何なのか、それが気になたった。

「皆わかってねぇか……」

「まぁ、もうそろそろアスナたちが捕まえている頃だと思うけど……PoH達がいた以上、この近くに必ずいるだろうし」

「ええ、確かにいたよ。キリト君、ハチヤさん……」

「アスナ……と、初めまして、かな? グリムロックさん……」

 アスナたちに連れてこられたのは、メガネをかけた長身の男だった。先に聞いていたイメージとは少々似つかない気がしないでもない。鍛冶屋、というよりはむしろ何かのヒットマンのような風貌である。

「グリムロックさん……」

「なんで、ここに……」

 ヨルコとカインズは驚きの表情である。シュミットに至っては言葉も出せない状態である。次から次へと変わっていく場面展開に付いて行けてないのだろう。

 なんでここに来たのか、それが分からない様子のヨルコたちに、ハチヤは問いかける。

「なぁ、ヨルコさんにカインズさん。二人はこの事件で使ったあの二本の短剣をこのグリムロックさんに作ってもらったんだよな?」

「は、はい……」

「俺たちは、シュミットさんを送った後で、ヨルコさんアンタが生きていることに気づいた。偶然その死亡の演出も推測できたのは幸運だったけどな……。ともかくだ、俺たちは、その推測の中でシュミットさんを問い詰めるために偽装殺人を行った、までは推測で来たんだが……すべてが分かったからあとは当人たちにまかせようと思ったところで一つ、ある疑念が生じた」

「疑念、ですか……?」

「ああ、カインズさん。俺達が抱いたある疑念は――指輪の行く末だ」

「指輪の…………?」

「リーダーであるグリセルダさんが持っていた、『指輪』だが……シュミットさんはその指輪をとったわけではないんだよな?」

「あ、ああ! 俺はメモの指示に会った通りの行動をとったら、売り上げの半分がいつの間にか部屋に置かれていて……」

「つまり、この時点で少々おかしいんだ」

 一体何が、という顔をする一同。それを切りも補足するように説明を紡ぐ

「グリセルダさんが殺された、その手助けをシュミットさんがしてしまった。だが、ここで、グリセルダさんが殺されてしまった時点で、本当なら犯人もシュミットさんも、お金は手に入らない筈なんだ。決して……」

「そう、本来は……グリセルダさんが死亡した時点で、指輪はある場所へと戻らなくてはならない」

 そこで、ヨルコは何かに気づいた。

「ま、まさか……」

「ヨルコ……?」

 カインズの方はまだ分からないらしい。きっと、ヨルコはカインズとギルド時代恋仲だったと言っていた、この様子を見ると本当はずっとそうだったのだろう。だから、彼女は聞いたことがあるハズだ。恋仲であるカインズと、憧れているリーダー夫婦のような関係になれたら、と。

 そしてリーダーも――グリセルダも教えたはずだ。女性同士なら、きっと話も弾むのだろう。憧れの元を持っていたんだろうから。

「〝アイテムストレージの共通化〟――と、ここまで言えば……分かるかしら……?」

 ユキの言葉にカインズもシュミットも目を見開く。

「じゃ、じゃ、あのメモ差出人は――ほ、本当にアンタだったのか!?」

 この発言を聞く限り、彼もなんとなく思っただのだろうか? 漠然とでも、彼が――自らの伴侶を殺したかもしれないという可能性を……。

「ほ、本当なのかグリムロックさん!?」

 カインズは否定してほしいと言った面持ちでグリムロックに尋ねる。だが、グリムロックの方は、ひょうひょうと言った感じで否定する。

「いやいや、私はことの顚末を確かめようとここへ足を運んだだけで、このお嬢さん方にいきなり剣を突きつけられてしまってね、だから誤解を解きたくて大人しく投降したまでだ。何せ私はしがない鍛冶師、こんな風に丸腰の状態で剣を突きつけられて抵抗できるはずのもない」

「なら、なんで隠蔽スキルを使っていたのかしら? 私たちに看破されなければ貴方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 ユキがグリムロックにそう言い放つ。

「私はただ、静かにことの顛末を見届けたかった……ただそれだけだよ。別にシュミットを責める気はなかったが武器を作りこの事件でグリセルダの件を終わりにして……彼女をゆっくりと、そして安らかに眠らせてあげたかった……。だから聞くことに徹すると決め、出しゃばる気などはなかったゆえに隠蔽していた……ただそれだけだ。それに、さっきまでオレンジの犯罪者プレイヤーがいたというのに、何の戦力も無い私が飛び出したところで何ができるというのかね? 隠れていたからと言って責められるほどではないと思うのだが……私だって、命は惜しい」

 しかし、そういたときの彼の瞳には、命を惜しいと思っている様子などみじんも見受けられなかった。寧ろ、破滅を望んでいるかのようだった。しかし、それでも反論はやめないあたり食えないと表現するべきところなのだろうか?

 ともかくだ。アイテムストレージ共通という理屈からは逃れられないはずだ。ハチヤは言葉をつづける。

「確かに、逃げるのは悪い選択じゃない。戦略的撤退は時には最善の選択になる。だが、アンタが指輪を奪ったんだろうことに関しては、言い逃れできないと思うんだが?」

「探偵君、推測自体は非常に面白い。確かにこの流れだと、私はその筋書きにおいて、悪となるだけの材料がそろっているだろう」

「ぬかすなよ、この三文芝居はアンタの作だろうが」

「きみの推理には一つ、足りない点がある」

「何だよ。証拠を求める人種は、必ず犯人だって相場が決まってるんだが、それは自分が犯人だということを示すフリだととらえていいのか?」

「いや、べつに証拠は求めていない。ただ、彼女が『指輪』をとられたとき、何故ストレージの中にあったと分かるのかね? オブジェクト化されていたかもしれないのに」

 その言葉を聞いた瞬間、その可能性を忘れてしまっていたことに気が付いた。確かに、もし万が一つけていたのだとすれば……殺された瞬間、それは殺されたプレイヤーの足元に無条件でドロップすることになる。

 これは手痛い反撃だが、ハチヤはどうにかその反論に特化したひねくれた脳細胞をフルに使い、反論に対するさらなる反論を探す。

「…………既婚者プレイヤーは、指輪が指に自動装備されるはずだ。それに、ギルドリーダーはギルドの証として、印章(シギル)をつけているはず……このゲームの中では指輪アイテムが装備できるのは左右の手に一つずつのみの筈……。なら、グリセルダさんがそれをつけていた可能性はかなり低いと思うんだが……?」

「ふむ、確かにそうだ。私とのきずなである結婚指輪は外せない。ギルドの印章も身に着けている。となるとつける可能性は低い……。確かにその通りだ。だがね、彼女は()()()()()()()()()()()……ちょうど今の君の様にね。そんな彼女が敏捷値を跳ね上げるアイテムを売る前にちょっと使ってみたいと考えることはそれほど不自然だとは思えないのだがね? それに、ギルドのメンバーたちで、大げさに強くなったりしたのはシュミットのみ、だとすると別の外部犯が――それこそさっきのレッドの連中のような者が――襲う可能性だってあるだろう? あの頃はまだそういう睡眠PKが横行していた時代だ。表に出していない指輪には誰も食いつかないだろうが、表に出していたのだとすれば、襲われる可能性が高くなるのでは? ただ、それだとシュミットのメモが説明できなくなるが……そういう可能性だって十分にありうるだろう?」

「……、」

 上手い返しが思いつかない。詭弁なのだろうが、それを完全に覆す方法をハチヤは持ち合わせていないしユキたちも持ち合わせてなどいない。なにせこのトリックや疑念に至ることができたのはほんの三十分前ぐらい。反論の材料がこちらには少なすぎる。

 しかし、その時……ヨルコがグリムロックにこういった。

「ハチヤさんの言っていることの証拠なら、あるわ……」

「ほう、それはいったい……?」

「貴方も覚えている筈よ……グリムロック。グリセルダさんの死んだときのことを、彼女の遺品のことを……」

「…………っ!?」

 そこで初めてグリムロックの顔がかすかにが、動揺に歪んだ。

「グリセルダさんが殺されたとき、殺したプレイヤーはその場に対して価値のないと判断したアイテムを残していった。幸いにも、それを遺品として届けてくれたプレイヤーがいた……勿論覚えているでしょう? それは装備品がほとんどだったけれど、そこには確かに、彼女の剣と――一対の指輪があった……」

「……、」

「そう……あの時、ドロップした品には確かに指輪があった。剣は墓標の代わりにって耐久値が減って自然消滅するようにってことで野ざらしだったけれど、あの指輪は……誰にも言わなかたけど、私埋めたの。ここに《永久保存トリケット》に入れて……私がずっと憧れていた、理想の夫婦だった貴方たちの夫婦の象徴でもある結婚指輪を、ここに……埋めたの……」

 そう言って、彼女は墓の中から銀色の小箱を取り出した。それは土に埋まっていたはずなのに、銀色にキラキラと輝いており……まるで何かを見せつけているかのようでもあり、ずっと消えない絆だと言っている様でもある。

 勿論、この時のグリムロックには、間違いなく前者に見えたのだろうが…………。

「ここに収められている結婚指輪の方には、間違いなく貴方の名前とグリセルダさんの名前が入っている。そしてこのギルドの印章は間違いなく本物。私も、カインズも同じものをまだ持っているから、比べればすぐわかるわ…………これでも、言い逃れできる? 反論できる? グリセルダさんが私体に示していた親愛の情と、貴方に示していた揺るがない信頼と愛の証を! 踏みにじってでも反論できるなら、反論して見せなさいよ!!」

 その言葉に、ひょうひょうとした態度を貫いていたグリムロックもついに折れ、膝を折り地面に手をついてうなだれた。

 そんなグリムロックに、ヨルコは涙を浮かべながら……鋭さも何もない、くしゃくしゃに歪んだ声で、問う。

「どうして、どうしてグリセルダさんを――あなたの妻を、こんな目に! そんなにお金が欲しかったの……ッ!?」

「カネ……金だって? そんなくだらないものの為に、私が彼女を殺したとでも?」

 そういうウィンドウを操作し、かなり大きな袋をオブジェクト化すると一同の前に放り投げた。

「指輪を処分した残りだ……金貨一枚だって減っちゃいない」

「え…………っ?」

 その言葉に、ヨルコは戸惑いの表情を浮かべ、グリムロックの真意が分からないという表情をする。

「金の為など…………笑わせる! そんなくだらないことで、私が彼女を殺すものか! 私は、彼女をどうしても殺さねばならなかったのだ。彼女が《ユウコ》が……()()()()()()()()()()()()……!!」

 そして彼は墓標に視線を向けると、語りだした。彼の抱いた、彼を狂わせた、彼自身ではどうしようもなかった……その、理由を――。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ――私は、彼女を殺さなくてはならなかったのだ。彼女が、私の妻でいるうちに…………。

 

 

 グリムロックは、語り始める。彼の抱いた思いについて――

 

 

 ――金の為にしたのか、と君達は言ったな? そんなわけがないだろう。そんなくだらないことの為に、私が《ユウコ》を殺すなんて……あるわけが無い。

 私が、彼女を殺したのは…………ずっと、彼女に彼女のままでいて欲しかったからだ……。

 

 それに、君達が私たちの何を知っているというのだね?

 《グリセルダ》と《グリムロック》……頭の音が同じなのは、決して偶然などでは無い。

 彼女は私の妻だ。私の妻だったのだよ。

 この世界でそうであるずっと以前から……ずっとね……。

 《ユウコ》は最高の妻だった。夫唱婦随という言葉は、彼女のためのものだとさえいえるほどだった。ただの一度も夫婦喧嘩などしたことも無い、互いに不満も無い。どこまでも満ち足りた……穏やかな日々を過ごしていた……筈だったのに――。

 このデスゲームが始まり、本当の死をもたらすというゲームに私は怯えた。しかし、ユウコは寧ろこの状況を楽しんでさえいた様に見えるほど、メキメキと力をつけギルドリーダーにまでなった。

 そうしてユウコがだんだんと、私から離れて行ってしまった様に見えた。いや、実際彼女はもはや私などは見えなくなっていたのだろう。

 最早ユウコはユウコではなかった……。

 彼女は、愛していた《ユウコ》は最早この世界の、向こうの世界のどこにもいないのだと……そう悟った私の気持ちが、君達に分かるかい?

 それに彼女はこうも言っていた。もし現実世界(むこう)に戻れたら、もう一度働こうと思うと……。いずれ起業もしてみたいと。

 こんな状態のままでは、私など必要としなくなったユウコが離婚を切り出してもおかしくは無い。彼女は最早()()()()()()()()()()()のだから……。

 

 だからこそ、思ったのだよ――――

 

 ――――いっその事……現実でも変わってしまった彼女を見ることになるくらいならば、思い出のままにしておきたいと――私は…………。

 

 ――だから……、殺したっていうの……?

 

 震える声でヨルコが、グリムロックにそう問う。

 グリムロックは答えない。

 ――沈黙は、金という様に……彼の答えはとてつもなく傲慢な思いを、重く…重く……この場に漂わせた。

 

 彼を狂わせたのは愛だと、〝語るもの〟ならばそう口にするだろう。

 

 しかし、それは――違う。

 

 グリムロックは、その思い沈黙に――さらにその傲慢な言葉の比重を、この沈黙の中へと吐き出す。

「語っても、きっと何もわからない。君達には、決してわからない……あの恐怖が、愛するものを失うというあの感覚――「ふざけんなよ」――何……?」

 ハチヤは冷たくグリムロックを見下ろしながら、言葉を続ける。

「ふざけんなって……言ってんだよ」

「何を……っ」

「そんな程度の理由で、お前は……人を殺したのかよ……」

「そんな程度? 違うな、十分すぎる程の理由だよ……。君にもいずれ分かる。愛情を手に入れ、それを失われようとするときの〝恐怖〟を……自分にとっての唯一絶対の……『本物』の消失を……その身に受けることが、どんなものか……を――」

 

「――黙れよ」

 

 ハチヤの声の冷たさがより一層増した。

 

「そんなものを、『本物』だなんて……呼ばせない。アンタがグリセルダさんに、ユウコさんに抱いていたのはただの独占欲だ。でも、アンタはその独占欲の、自分自身の心の醜さから――アンタは、目をそらしたんだ……」

 

 そうだ、俺たちは……ずっと求めていた。言葉でもなく、ぬるま湯の様な関係でもなく……まして同情なんてものじゃないのだと、ハチヤは自分のこれまでを……改めて思い出していた。

 

 ――俺は、ずっと求めていた。醜いものを傲慢なものを。たった一人では成しえないそれを…………ずっと求めてたんだ。

 分かりたいという気持ち、どこまでも醜いそれを……他人と共有したかったのだ……。

 

 あの言葉を告げたときの、あの日の自分の思考は……どこまでも支離滅裂だった。

 

 知って安心したい――それは互いを理解し、理解されることの筈だ。でも俺は誰かに分かられたくなどないと思った、思っていた。

 醜く、他人に懇願する。知られたくないものでるはずの、自分の『醜さ』を、他人見せてまで……懇願したのだ。

 それはきっと、漫画や小説の中の主人公たちが、いとも簡単になせること成し続けていること……。

 自分の意志を貫き通し、自分の傲慢さすら受け入れて、どこまでも他人の為に何かを成せるようなそんな人間になら、きっとできる事。

 

 ――でも、……そんな大層な人間は……あの時の、あの部室のどこにも存在してなどいなかった。

 

 誰もが、自分の道に迷っていた。どこに行くべきなのか、それをずっと探し続けていた。

 ずっと一緒にいてほしいわけじゃなかった。温い関係はいらない、欲しいのはそれこそ極寒の海荒波の様どこまでもただれて、()()()()()()()()()()()()()()()様な関係でよかった。その海の中には穢れがない。どこまでも静寂が漂うだろう、でもそこにある――確かな何かが、何も存在できないようにすら見えるそれの中にある、押し付け合っても……互いを許容できる関係。

 これだけを口にするなら、それは先ほど言ったことに矛盾しているように聞こえるのだろう。でも、それはどうしようも無く求めていた、醜くて、傲慢で、独善的で、ある意味何よりも嫌っていた欺瞞や自己満足のようなものだったのかもしれない。

 

 でも、それでも、止められなかった。

 

 でも、それは……届いた。

 醜さを他人にさらすなんて、腸をぶちまけるなんて、出来るわけない事だった。でも……それが、出来たのだ。

 依存だと、貶されるかもしれない。でもこれは……そんなものじゃ、ない。

 

 決して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 醜くても、それでも互いを――正しく知る事が出来る。腸をぶちまけうることができる。傍目には、毒か何かでしかないもの……。でも、そんな毒でも、『嘘みたいに甘い果実』なんかよりはずっといいはずだ。

 誰もが平等になど、救われない。

 誰かが割を食うことがある。当たり前のことだ、不平等が当然で、そしてどこまでも――『当たり前』なのだ。

 

 だからこそ、自分たちがどこまでも、どこまでも苦しみながら、苦渋だらけの沼から顔を上げるまでに辿った道のりを嘘だとでも言うかのような言い方だけは、決してさせない。

 

「自分の思い通りになるのが『他人』じゃない。夫婦だって、所詮は他人の延長だ。理解できないことだってある。言わなくても分かる事なんてない。でも、言わないことを責めることは誰にもできない。でも、そんな『醜さ』を他人に示したときに……それを、そんな傲慢で、独善的で、どこまでも気持ち悪い感情でしかないそれを――押し付け合いでしかないかもしれにないそれを――それでも互いに許容しあえるなら……、それはきっと…………『本物』と呼べる関係に、なるはずだ……っ!」

 ハチヤは、語った。自分の『醜さ』を吐き出した。

 それは他人に誇れるものじゃない。理解してほしいものでもない。ただ、どこまでも自分が生きてきた『証』を、決して恥じることなど無い、己の道を――目の前の男に……嘗ての自分と同じように逃げ出して……決して帰る事の無かった男に対して、ただ……示して見せたのだ。

 

 ――これが、俺だと……。

 

「もし、お前の言う『本物』が……お前にとって、確固たるものなんだとしたら、アンタはきっとその証を持ってるはずだ。それが、あるのかよ……? 決して捨てなかったものが、アンタにも……それがあるのか!?」

 ハチヤのその叫びにグリムロックは、自身の醜さを噛み締め……右手で左手を掴んだ。きっとそこには、彼の捨ててしまった『証』があったのだ。

 彼の求めた『本物』が、決して捨てることが無かった……その『証』を。彼は自分自身で、捨て去ったのだ…………。

 最早これ以上、言葉は出ないだろう。寧ろ、これ以上の言葉はいらない。

 後に残るのは、自分自身が……これからもそれを信じられるか? という自分自身による、問いかけ――ただそれだけ、なのだから……。

 これ以上は、グリムロックを責める必要も……彼の言葉に反論する必要もない。

 

 ここから先は、彼の、彼自身による心の戦いなのだから……。

 

 そしてグリムロックは、ヨルコとカインズによって連れていかれた。勿論彼らも、グリムロックに『制裁』などはしないだろう。ただ罪を償わせる、それだけで十分だと分かっている筈だ――彼らも、俺たちも、そしてグリムロック自身もきっとそうだ。

 

 間違わない人間はいない。そこからどうするかが、その人となりを決めるのだ。

 

 その様子を見て、ハチヤは思った。

 醜い心を吐き出すのに、あれだけ四苦八苦した自分は物語の主人公たちとは違う。それを、ずっと悪役として認識していたが……それは違う。

 

 自分は、どこまでも――挑戦者(プレイヤー)なのだ。

 

 きっと主人公たち(ヒーロー)が、当たり前に乗り越えていった壁に挑むような挑戦者。どこまでも地をはいずることを強いられた、弱い存在。

 だからこそ、抗おうとするのだ。その定められた場所から。このゲームをクリアしようとするように、主人公たち(ヒーロー)が守った『世界』や、『信念』なんて大層なものじゃない……自分だけの、『本物』を守るため抗う、どこまでも醜く、拙い戦いを、続けよう。その抵抗が身を結ぶその時まで…………。

 

 

 ――これで……事件は、終わった…………。今度こそ、本当に――終わったのだ…………。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ついにこの世界を震撼させた《圏内殺人事件》は、幕を下ろした。その裏側に隠された《指輪事件》も終わったのだ。

 ゆっくりと登りゆく朝日を見つめながら、長い……長い夜が明けたことを実感する一同だった。そんな時、アスナが、キリトにこんなことを聞いた。

「ねぇ、キリト君」

「? 何、アスナ」

「……キリト君は、もし誰かと結婚してから、その人の隠れた――〝別の一面〟に気づいたとき、どうする……?」

「……そうだな」

 その質問に、一同は朝日を眺めながら考えていた。グリムロックが抱いていた『恐怖』とやらに直面したとき……いったい自分ならばどうするか、と。

 キリトは、朝日に照らされた墓標をなんとなく眺めつつ……こういった。

「俺はたぶん――ラッキーだったって思う、かな……?」

「ラッキー……?」

 キリトのその答えに不思議そうな顔をしながら、キリトの顔を眺める。

「うん。だってさ、きっと結婚するってことは、その人のことをとっても〝好き〟になっているから、その新しい面をまた好きになれたら……、きっとその〝好き〟が二倍になるかな……って」

「ふぅん……変なの……。でも、……そうだね。……きっと、そうだよ……」

 アスナは微笑みながらその言葉を何度も反魂して、よりいっそう大切なものとして、しっかりと感じ取るように……胸の奥にその言葉を染み渡らせた様だった。

 そんな二人を見て、ユイはハチヤにも同様の質問をしてみる。すると、ハチヤは怪訝な顔をして「ガラじゃねぇよ」とだけ答えたが、少しだけ間をあけて……小さくこういった。

「――――その〝別の面〟も受け入れちまうのが、俺たちの言う『本物』、のはずだろ……。醜い感情も、何もかもを……互いに許容して、受け入れた先に……有るんじゃねぇの? その、『心』ってやつが、よ……」

「せんぱい……結構カッコいいですよ、そのセリフ……」

「ありがとよ……。で? それは降られる前振り、でいいのか?」

「むぅ……私だって、こんな時に、しかもそんなつもりでお世辞言ったりしませんよぉ。……本心ですよ。まぎれもない、私の――『本物』です……」

「……そうかよ」

「はい♪」

 いつも通りの、穏やかなやり取り……。

(これが、俺が守りたいもの……なんだろうな)

 きっと、ちっぽけなものかもしれない。でも、どうしようもなく心を安らがせるこのひと時を、どうしても、手放せないのだろう。

 捨ててしまった筈だった。要らないのだと、思っていたはずだ。でも、もう一度。望んで、我武者羅になってまで手にしたものだからこそ……どうしようもなく心をかき乱されて、どうしようもなく欲してしまうのだ……。

 そして、一同はこの事件が始ったために食べ損ねた、レストランの品々をもう一回食べに行くために街へと戻ることにした。

 その場を立ち去ろうとしたとき、皆はこの事件が始まってからというもの……。幾度となく目の当たりにしてきた――説明不能の光景――を目にした。

 だが、この現象に関しては……あの死亡偽装すら凌駕するほどの光景だった。しかし、不思議とその光景に対しての不快感はわいてこなかった……。

 だから一同は、こちらに向けられている真っ直ぐな強い意志の込められた瞳と、穏やかな微笑みに対して一言だけ…………告げた。

「これであなたの心配事も消えたと思います。どうか、安らかに……」

「終わったよ……。これできっと前に進めますよ。ヨルコさんも、カインズさんも、シュミットさんも――――きっと、グリムロックさんも…………」

「見守っていてくださいね、私たちの戦いの行く末を……」

「あなたの意志は、引き継ぐよ。きっとみんなを開放して見せるよ、この世界から……」

「だから見守っていてください、グリセルダさん……」

「……どうか安らかに、グリセルダさん……」

 その光景の中に佇んでいた金色の光に包まれた〝彼女〟は……立ち去る彼らの背を見てより優しげに微笑んだのち――。

 囚われていたものから解放されたような、安らかな表情で少しずつ……この場から消えていったのだった…………。

 

 

 

 ――こうして、長かった事件の夜も明け……再び研鑽の日々が始まる。

 城の最上階までたどり着き、現実世界の明日を見るために……足を休めていた『勇者』たちは、再びその足で立ち上がり前へ、より前へと、進んでいくのだった……。

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか?

 圏内事件を書くのは非常に難しかったです。でも、どうにか自分なりにこのラストを書き終えることができました。
 さて次回からいよいよ《アインクラッド編》のラストへと一気に向かって行きます。

 でも、その前に――やはり武器の調達イベントが必要ですよね?
 というわけで、次回はハチヤが武器をにれる話になります。オリジナル武器を考えるのはかなり難しいでしょうから、多分それほど凝った名前とかは無理だと思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

 それではまた次回、またお会いしましょう。



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『風と影の名を冠する剣』

 はいどうもこんにちは形右でございます。
 初めての方は初めまして、覚えてくださっている方々はお久しぶりでございます。
 他の小説いうつつを抜かしていた浮気者ですが、久方ぶりに帰ってまいりました。連載期間半年以上なのにもかかわらず、まだアインクラッドという体たらくでございますが、やっとこさ終盤への足掛かりを書き終えましたので投稿します。
 それはそうと、僕のだらだらしていた停滞の間に、川原礫先生の方はもう本編の方は一応Web版の頃の最終章《アリシゼーション編》まで文庫版でも書き切られてしまって、後は映画と同じころに始まる真の最終章らしき書下ろしが始まるようですが、そのころまでにはこちらもせめて《アリシゼーション》くらいまではいきたいと思っております。他の部のタイトルはもう決まっているんですけどね……生憎と遅筆なもので申し訳ありません。
 ですが頑張って書いていきますので精々ご贔屓にしていただければと思います。

 それでは、本編の方をお楽しみいただければ幸いでございます。





 

 

 あの戦いから、しばらくの時が……流れた。

 

 

 攻略の最前線はついに二つ目のクォーターポイントを突破した。その第五十層のボスモンスターとの戦闘において、キリトが魔剣《エリュシデータ》を手に入れて久しい。

 その剣を手に入れたとき、ついにキリトはまさにこの世界における最高の相棒に出会ったような……いや寧ろ、あれは――。

 

 まるで引き裂かれていた自身の半身を取り戻したかのような……そんな表情だった……。

 

 しかし、もう一つ。

 それと時期を同じくして……もう一本の魔剣がこの《浮遊城・アインクラッド》において、出現(ドロップ)していた。

 

 その魔剣の名は――《ヴェルテカリバー》。

 

 それは、何の因果か……一人の捻くれ者の……この城における、『もう一人の勇者』の手へと渡った。

 

 しかし、これだけでは……まだ、()()()()

 

 二人の勇者の手に収まるには、まだ足りない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第四十七層《リンダース》にて――。

 ここにアスナの友人で、かなり腕利きの鍛冶屋がいるという話で、キリトも昨日ここで一本剣を作ってもらったとのことだ。

 

 確か剣の銘は――《ダークリパルサー》。

 

 その剣は中々の物らしく、キリトも中々に満足げであった。

 それを見て、ハチヤもそろそろもう一本の剣を――と考え、ここにいるアスナの友人を訪ねようかと思ったのだが、あいにくと今は都合が悪いらしい。(基本的に名店らしいので依頼がたまっているとか)

 そこで、ハチヤはあまり気のりはしないがもう一人の〝知り合い〟を尋ねることとした。アスナの友人、確か《リズベット》と言っただろうか? その子と同じくここに店を出しているこれまた中々に腕利きな腐った姫がいらっしゃるのだが……。

 ――正直、あまり気乗りはしない。

 イケメン野郎こと、《ハヤト》のパーティーの一員なので、一応この御方も《KoB》の一員では有るのだが、彼女は自由人な部分があり、戦闘もそこそここなすものの、ここで気ままに店をやってることの方が多いらしい。気まぐれで店をやれるのは、やはり大規模な大型ギルドのサポート要員であることだから、であろうか。《ゲームの中》だからと言って、やはり戦いたがる輩は多い。所以それを積極的に支えてくれるバックアップは必要不可欠である。

 加えて、このゲームの中では当然と言えばそれまでだが、武器の耐久値はしっかりと整備をしておかないと切れて破壊されてしまう。それに強化にしても、やはり腕のいい鍛冶屋の方がNPC鍛冶屋よりは成功率が高い――らしい。

 まあ、細かい理屈は抜くにしても、今の彼にはもうひとつ……できればもう一対……くらいの剣が必要である。

 そんなわけで、ハチヤは腐海の女王様の店の戸を開けたのだった。

 

 カランカラーン、という音を立てて空いたドアを内側へと押して中にいる人物に声を掛けようとしたのだが、向こうから先に声を掛けられた。

「あれ? 珍しいねぇヒキタニ君がここに来るなんてさ」

「まぁ、それに関しては自分でもそう思う。ちょっとした野暮用ってやつだ、というか依頼があるんだけど……つか、リアル割れしそうな呼び方やめてくんない?」

「ええー……別に本名じゃないし、いいじゃん? それに、依頼なら寧ろヒキタニ君の領分じゃないかな?」

 確かに、奉仕部やってたからな……確かに一理ある、とハチヤはなんとなくそう思った。というか呼び方に関しては改定は望めないらしい。しかし、今重要なのはそこではないかと思い直し本題へと話を進める。

「……まぁ、ここはゲームの中だからな。基本的に、依頼は引き受けてねぇよ。俺はギルド入ってねぇしな」

「あははっ、たしかにそーだね」

「ともかくだ、依頼は剣の製作。これと同じ片手剣か……刀のみたいな、スピード系の剣を頼みたいんだが」

「ほぉ~それはまたどうして? 聞いてるよぉ? 確かキリト君と同じく魔剣をドロップしてたって」

 キリトと同じ、のあたりで少しこの人の腐ったセンサーが反応したらしく少々息遣いが荒くなっている。……冷や汗が出そうだ……。

 だが、今ここで乗ってはいけない。今の優先順位は剣の方に傾いている。

「……まぁ、ちょっとな……。必要なんだよ」

「ふーん……。いいよ、それでヒキタニ君はどんなのが好みなのかな?」

「いや、だからスピード系を……」

「高速で攻められるのが好き…………ぐふっ、グフッ、ぐ腐っ☆」

「……、」

 どうしたらいいんだろうか、と悩んでいる間にも彼女の妄想は留まるところを知らずに次々と脳内劇場の場面を五十反転くらいさせながら、腐った妄想の場面展開を繰り広げていく。

「キリト君に責められるヒキタニ君……それを見ながら俺も、とハヤト君がさらに追撃を……そして行き着く先にある団長の『最硬』の矛が皆をつらぬいて――――キマしたわぁ~!!」

「――、」

 帰ろうかな、と本気で思った。もう時間を払っても、《リズベット武具店》の方に依頼したほうがいいのではないかとハチヤはマジで思った。というか、もはや彼は入り口を逆走しようとしている。

「あ、待って! 待ってヒキタニ君! ジョークだよ、ジョーク! やっぱりヒキタニ君は隼……あ、違った……ハヤト君だけに操を――ってホント待ってよ~」

「……剣、ホントに作ってくれるのか……?」

「うん」

 軽い。これ以上ないくらい軽い。しかし、これが海老名さんである。どこか自分と似ていた……クラスメートである。このゲームの中では《ヒメナ》と名乗っている。

 それからはヒメナさんもマジモードに入ったらしく、割とまじめに話を聞いて剣を作る算段を立ててくれた。(それにしても、ルミと言い彼女と言い、ハチマンとかヒキタニとかリアルネーム割れしそうな名前の呼び方はそろそろやめてくんないかな……)

 しかしそんな中、問題が発生。

「うーん……。やっぱり、金属が足りないねぇ。お金の方はまぁヒキタニ君だし、問題ないだろうけどさすがにこればっかりは採ってこないとねぇ……」

「そうか……。なら、取ってくるスピード系の最上位は――」

「例の《クリスタライト・インゴット》と同等の奴だから、確か第五十八層の隠しダンジョンにあるっていう噂の奴なら、たぶん。ただ、マスタースミスがいないとドロップしないかもっていう話もあるからねぇ……」

「第五十八層、か……」

 ステータス的には問題ない。しかし、ヒメナを連れてとなるとどうだろうか? 少々面倒になるのは間違いない。だが、彼女もまがりなりにも《KoB》のメンバーである。過小評価するのは失礼というもの。

「まあ、どうにかなるだろ……」

「じゃ、行きますか?」

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 ここに、随分と奇妙なコンビが成立したのであった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 《第五十八層――風の渓谷・サイクロキャニオン――》にて……。

 

 

 

「うわぁ……風強いなぁー」

 その呟きの通り、まさしくここは暴風地帯。砂埃とかが待っているわけでもないし、ゲームの中なのでそういった小さいゴミの類は特に存在しないしあっても所詮エフェクトなのでそこまで気にする必要もないが……この場所の暴風は正直それで済ませられる程度のものではなかった。

 飛ばされはしないものの、ものすごい風がプレイヤーの行く手を遮らんとし……二人の歩を遅らせていた。

「こんな環境でモンスターと戦わんとならんのか……」

 ハチヤはうんざりしたような声でそう愚痴った。

「でもここぐらいだよ~? 今の最前線で使えるような《魔剣》クラスを作れるようなスピード系のインゴットが手に入るの」

「……そーなんだよなぁ……」

 全く、世の中というのは俺以上にひねくれていやがる、とハチヤは心の中で独りごちた。

 そんな調子ながらも、暴風の中で戦わせるほど運営というか《カーディナル》も悪趣味ではないらしく、VRMMOという《もう一つの現実》の中においては……その創造主と同じく非常に食えないところではあるが……ある程度の人間の《都合》とやらも考慮してくれているらしく、Mobは出現してこなかった。決して、一概に〝理不尽〟ではないのが、この世界を作り出している《創造主(GM)》どもの本当に気にくわない部分である。

 

 そんな訳で――そうこうしているうちに、目的のモンスターの巣穴らしき……風穴だらけの洞窟を発見した。

 このダンジョンが、どうやらそのモンスターの巣であるという設定らしい。

「じゃあ、入るけど……一応転移結晶は用意しといてくれよ。戦闘はこっちでやるから、なるべく危険の無いようには考慮するが、〝念には念を〟の精神で頼む」

「りょ~かい♪」

「……、まぁ戦闘中に飛び出したりしてこなけりゃいいんだけどよ……」

 軽いなぁ……と半ばあきれつつも、とにかくここからは戦闘モードに切り替えなくてはならないと自分に気合を入れなおす。

 兎に角ここのモンスターを倒さなくては……〝色々な意味〟で先ヘは進めない。

「行くぞ……」

「うん……」

 そして風穴だらけの洞窟――固有名は《ホールケイブ》というらしいが――、その洞窟内に入ると先のキリトがリズベットと共に《ダークリパルサー》を作るべく《クリスタライト・インゴット》を手に入れるためにクリアしたというクエスト同様、いきなりボス級のモンスターが目の前に現れる。

 モンスターの固有名を確認する暇もなく、その(ドラゴン)というよりは翼竜(ワイバーン)とでも表現したほうがよさそうな細身の竜型モンスターはその細身に見合った……しかしそれなりの巨体からは有りえないと感じさせる速度で、こちらへと攻撃を仕掛けてきた。

「くっ……!」

 弾き(パリィ)防御でモンスターの鉤爪を受け流し、そのまま流した方向に突き進んでいく翼竜の翼のあたりに、元来の敏捷性に加えてソード・スキルでさらに加速した剣先を叩き込んだ。

 片手剣の上段突進技《ソニックリープ》が黄緑色の軌道を描きつつ、クリーンヒットした。

 その衝撃で敵モンスターの悲鳴のような声が響き、憎悪(ヘイト)値が増加して、完全にこちらを《敵》としてマークした翼竜の方を見ると、やっとこさその名を確認できた。

 《ストームワイバーン》――と、いうらしい。シンプルだが、確かにその名の如き疾風怒涛のような動きに妙な納得を覚えながら、ハチヤは次なる攻撃に備えてしっかりと敵を見据える。

「グゥルァァァッ!」

 鋭い咆哮と共に、ブレス攻撃をしかけてくる。

 それを見て、物陰から見ていたヒメナはスピード系のハチヤはどのようにしてあの攻撃を防ぐのか、と少し興味がわき……その様子に神経を集中する。

 彼女の懇意にしているグループの友人たちならば、リーダー格のハヤトなら盾。ユミなら躱す、盾戦士《タンク》型の《カルトベ》――ちなみに俺はここで初めてこいつの下の名前を認識した。皆はフツーに「トベ」と呼ぶ)――なら盾無しで武器で弾いて突撃……と言ったところだろうか。むろん、自分なら逃げの一手だが。

 そんなことを考えていたが、彼女の予想はどれもハチヤの次の行動には結びつかなかった。

「……、」

 ハチヤは、剣先をブレスへ向けて構える。彼の持つ剣はスピード系の者にしてはそれなりの幅もあるが、それでも大剣という程ではない。それで防ぐのは不可能だと思うのが普通であるが……彼はまるでその幅が足りないことすら何でもないようにすぐさまそれを補う手段をモンスターとヒメナの両方に見せつける。

 ヒュンヒュンと剣を回転させ、まるで光で出来た円盾(ラウンドシールド)のようにしてブレスを受け止める。

 アニメやゲームでよく見られるアレだ――とヒメナは思った。

 ライトエフェクトを伴っているところを見ると、あれもスキルの一つということなのだろうが……しかし、いかにこのSAO(ゲーム)の中とは言え、あんなスキルが存在していたとは知らなった。

 そんな初めて見る剣技に魅せられながらも、そのままハチヤの戦いぶりを見守る。

 だが――。

「くっ……!」

「ヒキタニ君! ……えっ!?」

 剣を弾き飛ばされたハチヤ。だが、その時……ヒメナは信じられないものを見た。

 剣を飛ばされたハチヤは……剣を取りに行くでもなく、スキルの《クイックチェンジ》を使うわけでもなく、ただ普通に武器も持たないままでモンスターに向かって行った。

 それじゃあいくら何でもと思ったが、確か彼は《体術》スキルを持っていたことを思い出し、隙を作り出すために向かって行ったのかもしれないと思い、彼との約束である戦闘の邪魔をしないにもう少しだけ徹することにしたのだが、それは間違いでなかった。

 いや、

「……ここだな」

 ()()()()()()、十分だった……と言い換えるべきか。

 システムウィンドウを呼び出して手早く操作し、ある一つの項目を選び取る。そしてハチヤは……()()()、《クイックチェンジ》を()()()()()モンスターに切りかかった。

「うっそぉ……」

 いきなり現れたのは先程吹き飛ばされたのとは別の剣。片方はドロップ品のようだが……それほどランクは高くなさそうな代物で、もう片方はNPCショップの高ランク品と言ったところだろうか。

 いずれにしても、先ほどまで彼の振るっていた《ヴェルテカリバー》に比べれば劣る品だ。

 だが、注目すべきは……既に武器のランク云々ではなかった。

 

 ――彼は、音と同じくらいのスピードで高速で移動した。

 

 最早モンスターもヒメナも負えないスピードで、移動した。

 彼の姿は見えないが、彼の放ったものらしき剣戟の閃光が煌く。だが、両手で剣を持った状態ではソードスキルは使えない筈だ……いったい、どういうことだろうか?

 そうこう考えている間も、剣戟の閃光は止まない。ズバババッ! というものすごき斬撃音が洞窟の中に轟き渡る。

 だが、どうやってとらえたのか……おそらくほぼ捨て身だろうが……ストームワイバーンはハチヤを吹き飛ばした。

 純敏捷型の彼のステータスはAGI>>STR≧VITと言った感じに振り分けられているとヒメナはユイから聞いているが、その彼があんな高速で動きながら吹き飛ばされたらダメージは相当なものであると思われるが――それは少々早計であり、彼の力を軽視していたともいえるであろう。

 ハチヤは、その攻撃を()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 そして、そのまま右手に《ヴェルテカリバー》を掴み、装備すると……あろうことか空中で体制を立て直し、地に足の着いたそのほんの刹那に――――彼は一気に地面を蹴る。

 するとそのまま、光さえ後からついてくるような速度で影を引きながら……深緑のライトエフェクトを伴った《ヴォ―パルストライク》と同じような……一点集中の突き技系のソードスキルが放たれた。

「……《影閃(シャドーストライク)》……」

 突き抜け、モンスターの方を振り返りもせずに……ハチヤはそう口にした。

 ハチヤのその呟きと共に……ポリゴン片となって《ストームワイバーン》はバラバラに砕け散った。

 それと同時に、ハチヤが先ほどまで使っていた《ヴェルテカリバー》以外の二本は砕け散った。

「……、やっぱり耐えきれないのか……」

 砕け散った剣に対する慈しみにもいた感情からくる言い表せぬ悲しみが、ハチヤのその言葉から読み取れたが……一方先ほどまでの戦いを見守っていたヒメナはというと、その凄まじさにすっかり腰が抜けてしまいしばらく動けなくなっていたのだが、ハチヤが膝をついて動けなくなったのを見て、正気に戻り彼に駆けよった。

「だ、大丈夫?」

「ああ……。この硬直は、このスキルの副作用みたいなもんだからあんまり気にしないでくれ。さっき使ったのは五分くらいだったから、後少しすればまた動ける。……具体的には後二分くらい……」

「そ、そうなんだ……」

 色々な意味での驚きがごちゃ混ぜになり、ヒメナは言葉が上手く出てこない。

 普段から感情面での制御は彼女の得意分野というか、寧ろ特技的な意味でそつなくこなすのだが……そんな彼女ですら、さきほどまでの光景は凄まじすぎた。

 かといって、今動けない相手に、ここで質問攻めにするのはいささか失礼であるし……何より、スキルの詮索は重大なマナー違反である。ゆえに、彼女は大人しくハチヤの言う二分が経過するのを待つかなと思ったが……先ほどまでモンスターのいたところに、いくつかのアイテムがドロップしているのを見つけ、それに駆け寄ってみると――そこには、先程の《ストームワイバーン》の翼と鉤爪が落ちていた。

 インゴットではないのか? という疑問もあったが、何気なくそのアイテムの内、翼の方をタップすると、そこには《インゴット化可能猶予時間終了まであと二五分二六秒です》と書いてあった。

 その警告に驚き、慌ててインゴット化をする。

 確かに噂通り、鍛冶屋《マスタースミス》がいないとこれは成立しないらしく……鍛冶スキルのいくつかを持っていることがこのインゴット化の条件らしく……いくつかの確認工程(プロセス)をしなくては出来ない仕様になっていた。まさにゲームならではの方法だ。現実でこういうことをするなら書類やらなにやらを用意するなり、どこぞへ確認をとる鳴せ寝んばならないが、ここでならプレイヤーデータをその場で読み取れるのだからその必要もなく、かつ制限時間を付けるのに妥当な条件であるともいえる。

(それにしても……翼からインゴットが作れるもんなんだなぁ……)と思ったヒメナだが、素材アイテムなので仕方ないかと割り切る。

 そしてもう片方の鉤爪の方も見てみるが、逆に鉤爪の方は特に猶予時間もないらしく……そのままでも一応《金属(インゴット)》として使えるらしく、《金属》アイテムとしてアイテムストレージに保存された。

 そうして二つのアイテムを保存した後、もう一度ハチヤの方を見てみるが……ようやく動けるようになったらしく、固まった体を少しづつ動かしながら彼はこっちに近づいて来た。

「悪い、待たせた……。それで、インゴットの方は……?」

「うん、大丈夫だよ。ちゃんとゲットできたから」

「そうか……ならよかった。ありがとな、やってもらっちまって」

「なんの、なんの。これは私らスミスがいないとできない奴みたいだからねぇ」

「ああ、あの噂ってそういう意味だったのか……」

 ハチヤはそういって納得すると、硬直が溶かれ始めた体を動かし始める。

「やっと動ける……」

「大変だねー。その《ユニークスキル》」

「……、まぁそうだな」

 肯定……でいいのかな? とヒメナは思いつつ、この剣士様に多少の敬意を払うようなつもりで、せいぜい頑張って剣を鍛えてあげようかなと決心を新たに刻みながら、彼に「じゃあ、帰ろっか?」といった。

 それに対しハチヤも了解の意を返し、二人はその迷宮(ダンジョン)及び階層を後にしたのだった。

 

 

 

 そして再び、第四十九層《リンダース》にて。

 

「ほいっと!」

 再び戻って来たヒメナの武具屋の工房で、なんとも軽い声でヒメナが剣を鍛えていた。

 しかし、それがなんともひょうひょうとして彼女らしいのかもしれないと、ハチヤはなんとなく思った。

「よっ……!」

 そして、ついに――。

「出来ました~」

「おぉ……」

 今現在ハチヤの所持している《ヴェルテカリバー》と非常にそっくりな、緑がかった黒い刀身をした剣が出来上がった。

「ちょっと《銘》を確認するねー。ええと、この剣の《銘》は――――《シャドウゲール》、だね」

「シャドウゲール、か……」

 影、と……ゲール?

 ハチヤはゲール、ゲール……ゲイル? と繰り返しながら、その意味を思い出す。どこかで聞いたことがあるような気がするからだ。

(確か……風だか疾風……とかそんな意味だったか?)

 影と疾風。

 そんな《銘》をこの剣は関しているのか……とハチヤはなんだか(本人的には)柄にもなく、ワクワクしていた。

「……、」

 無言のまま、その剣を持ち上げ……二、三度振る。

 (くう)を切り裂くような音と共に、鋭い切れ味を持っていることをうかがわせるような刃鳴りが聞こえ、ハチヤは大きく頷いた。

「ヒメナさん、ありがとな。良い剣だな…………!」

「そう? ならよかった♪」

「じゃあ代金――」

「要らないよ?」

「は?」

「だって、その剣で……解放してくれるんでしょ? この世界から」

「……ンな事わかるかよ」

 途中で死ぬかもだしな、と自嘲気味に返すハチヤ。

 だが、

「じゃあ、先行投資……ってことにしとくよ。まずは買わなきゃ当たんないしね」

「競馬かなんかよ……」

 本当に、軽い。でも、どこか重い。

 それが心理的な距離を開ける彼女の心から来ているのは分かるが、やはり自分以上に……望んで、隠して、そして求めて、守ってる。

 そんな気がする。

 それが彼女の傲慢さでもあり、停滞でもあり、そして望んだ結果でもある。

 分かりたいから、安心を得たいから。それと大して変わらない。彼女は、知らなくても楽しくいられて、どことなく自分の居場所(ポジション)であるそこに満足している。でも、やはりどこかに憤りを感じて……どこかで心を痛みにさらしている。

 

 ――だから私は自分が嫌い。

 

 そう彼女は以前言っていた。

 そしてハチヤはそれの前だか後に、こういった気がする。「自分のそういうところが嫌いじゃない」と。

 でもそれは嘘だった。

 だが、今は少しづつだが……変わっている。

 周りに変えられるなんてまっぴらだ。流されるだけの自分なんて何の意味も持たない傀儡に過ぎない。だからこそ、「俺は変わらない」。そう考えていた自分の望みは、優しくない世界にさらされて、完璧にはいかなかったけれど……それでも望んだ事は少しずつだが手に入ってきた。

 だからだろうか、ついハチヤはこんなことを聞いた。

「今でも、自分は嫌いか?」

 それに対する答えは、

「うーん前よりましかな? こんな世界にいるんだもん。皆、どこかしら〝変わる〟よ。勿論……《私》も、ね?」

「……そうか。なら、いいんじゃねぇかな

 そんな風に返して、ハチヤは言葉を切った。そして今度は反対に、ヒメナがハチヤに聞いた。

「そういうヒキタニ君の方はどうなの? 何か、見つかった?」

「……ああ。あったのに、気づいた。……この世界で」

「そっか。じゃあ頑張ってね、勇者さん?」

「……柄じゃねぇよ。そんなのはな」

 どこか似ていて、まったく違う二人は……それぞれの道へと戻る。

 シンパシーとも同族嫌悪とも言えそうな矛盾した感覚が、今では多少ではあるが心地いい。

 そう感じながら、二人はそれぞれの役割を果たし続ける。

 

 

 戦い、そして支えるという――《役割》を。

 

 

 そしてそのすぐ後だが、キリトとハチヤが言ったパーティを抜け……急にコンビで迷宮区にしばらく潜るという無茶な宣言をした。

 勿論皆驚いた。

 しかし、二人は真剣だった。だが、ならば付いて行くといったのだが、それを二人は断固拒否した。どうしても経験値と()()()()()のためのその《修行》には〝二人〟でなくてはならないと。

 

 早く帰ってきたいから、そして早く皆で帰還したいからこそ――二人で、行くのだと。

 

 その揺るがぬ決意を抱いた頑固者どもの信念に負け、ちゃんと連絡するようにと説得した上で二人のその無茶な《修行》を許した。

 その間、他のメンバーは安全等の面と知り合いのいるという事も手伝って、現最強ギルドである《血盟騎士団》にしばらく仮所属することになった。

 

 

 そして、いつの間にか三ヶ月あまりの時が流れ……この城での物語は、エンディングへと近づいていく。

 

 

 

 二人の勇者と、世界そのものともいえる好敵手との運命を決める戦いが……始まりを告げる。

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか? 早速急ピッチで次話構想及びアインクラッド編の構想の全体図を固めていこうと思います。
 次回は、多少時間が進みハチヤとキリトが無茶な迷宮修行から帰ってくるあたりからです。パーティ二人で双方ともに《ユニークスキル》持ち――こんなちょうどいい条件ってありませんよね。経験値を稼ぎに片方が何だかもう片方に引きずられるような関係じゃないってのは。
 ま、それはさておき……次回以降も頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。


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『勇者たちの剣舞』

 はいどうもこんにちは、形右でございます。
 久々に早い更新です。
 今回からやっとこさアインクラッド編の後半部分を投稿し始めようと思ったのですが、なんだか書いてるうちに乗っちゃってオリジナルの敵キャラを出してみることにしました。
 PoHと同じくらいの【敵】になるような感じに書いていけたらなと思います。

 ※ そのため、警告タグの方一部修正いたしました。11/13 A.M.11:00

 では、本編の方をどうぞ。



 

 ハチヤとキリトが《修行》にでてから、早三ヶ月が経過した。しかし、二人の不在中も時間は際限なく過ぎていく……。

 

 

 そんなある日、第五十五層《グランザム》にあるKoB本部にて、何人かの女性陣がお茶をしながら談笑にいそしんでいた。

 

「はぁー……それにしても、帰って来ないねぇ……」

「まったく……放浪癖と呼ぶにも限度があるわね」

「あの二人、こういう時は本当に気まぐれですよね。まるっきり猫みたいに」

「……猫……」

「ユキ先輩食いつき過ぎじゃないですか?」

「……ハッ。べ、別に……食いついていたわけではないのよ、イロハさん? ただ私はあの二人の放浪癖が猫に重ねられることに多少の不快感を感じただけで、別にハチヤ君とキリト君が猫だったらなどとかんがえていたわけではないの。ええそう、断じて違うわ」

「……はい、了解です……」

「あ、あはは……」

 そんな話をしているのは、ユイ、ユキ、アスナ、イロハの四人である。この四人は、先の《圏内殺人事件》の際に、ハチヤやキリト達と共に事件を解決に導いたメンバーである。加えて、三人ともにそれなりに手練れであり、最前線においてもそれなりに知名度が高い。

 とりわけその中でも名が売れているのはアスナとユキで、それぞれ《閃光》、《氷結の女王》と言った通り名がついている。ただ、ユイとイロハが実力不足か、というとそういう訳でもなく……彼女達もそれぞれ《博愛(アフェクター)》、《小悪魔(エルフ)》と言った名を冠している(ちなみに、この名の由来はというと、二人の性格がそれぞれ〝優しく〟、〝あざとい〟ものだったことに由来する。アスナとユキとは違い、どちらかというと日常パートでのあだ名と言った感じであるが、いかんせん仰々しいので、本人たちはあまりこのあだ名に乗り気ではなかった)。

 まあ、それはともかくとして。

 彼女らの心配の種二粒は、もう三日間も連絡をよこさない。いったい何をしているのやらよくわからないが、意味のないことをしている……という訳でもないらしく、どうにも怒りずらいがゆえに、余計に彼女らのフラストレーションを煽っていた(余談だが、連絡をくれないことにイライラしているのは彼女らだけではなかったりもする。主に、どっかの黒猫の紅一点とか、どっかのロリっ子テイマーズとか鍛冶屋の少女さん方とか色々)。

「……、果てしなく不満が募るわね。あの二人に関しては」

「「「……、」」」

 ユキの言わんとすることを察した三人は、うんうんと頷く。そして、三人でため息を一つつくと、あの二人に関する話はそこで打ち切りとなった。それに、よく言うではないか、「便りの無いのは良い便り」と。

 そう納得し、半ば女子会風の談笑に移行する。

「そーいえば、ユキ先輩。護衛がハヤト先輩になったっていう話ですけど、本当ですか~?」

「……ええ」

 ユキは少し目を背けながらそう答えた。複雑、と表現するべき感情が彼女の顔に浮かんでいた。

「随分嫌そうですね?」

「……、」

「ま、まあ、護衛なんて立場だと、知り合いの時どう反応していいか……その、分からなくなるよね? あたしだって、ハッチーとかキリト君が護衛だったらちょっと戸惑うと思うし」

「ええ……、どう反応していいかわからない、というのが正しいのかしら。彼も随分と変わった、のだとは思うのだけれど……私は、彼に普通に接する気にはなれないわ。随分と傲慢ではあるけれど」

 両者の確執についてあまりよく知らないアスナとイロハは、ただその彼女の浮かべる表情が、何を指示しているのか……そこまで読み取ることは出来なかった。

 だが、ユキの抱くその感情は、単なる『拒絶』――とは、おそらく違うのだろう……。〝それ〟が指し示すのは、きっと……『嫌い』という感情なのだ。彼のやり方が、取る手段が、これまで辿って来た足跡が――――『嫌い』だ。

 

 以前、ハチヤに対して述べた、〝嫌い〟とは異なる……『嫌い』。

 

 手を差し伸べ、差し伸べられる相手には選びたくない、とでもいえばいいのか。少なくとも、《あの時》……〝彼〟は〝彼女〟の〝ヒーロー〟ではなかったから。また彼女も、それを望んではいなかったから。

 そうして生まれた両者の確執。

 それが、彼が埋めたいと願う〝それ〟を……いっそう深くした。

 だから、未だに『普通』には接することができない。

 きっと……ただ、それだけの事……なのだろう。

 そうして少し暗くなってしまった雰囲気の中でも、それを打ち消すように話は展開し、話は進んでいく。

「まぁ、それはともかく……《護衛》ってなんだか仰々しいですよねぇー。私もヒメナ先輩が鍛冶屋であんまりいないからってトベ先輩が回ってきましたし」

「あー、とべっちだったね。イロハちゃんの護衛って」

「そーなんですよー。どうせならせんぱいがよかったんですけどねぇ~」

「あはは……じゃあ、ハッチーが帰ってきたら頼んでみたら?」

 ユイが苦笑しながらイロハにそういうと、イロハはため息でもつくようにして「頼んだら速攻で却下とかいいそうですけどねー」と言った。

「確かに……」

「ハチヤさんなら、確かにそう言いそうですね……」

 ユイとアスナがイロハの発言に納得の表情を浮かべる。

 が、イロハはその後さらに〝良い〟笑顔を浮かべ――。

「で・も! 責任、取ってもらいますから、大丈夫です♪」

「「……(ビキィィィッ!)」」

「(あわわわッッッ!?)」

 あわや、乙女の戦いに発展しそうというところで……そこに割り込んできた勇者たち(空気読めない)がいた。

「あっれー? いろはすじゃねー?」

「ん? ああ、……ユキさんたち、だな」

「だっしょー! やっべ俺、シカクテキすーち? とかやべぇっしょ! これあれだわー! ボスの弱点心眼とかで把握とかできるやつだわー!」

「あ、ああ……」

 勇者(笑)登場……だろうか? 

『……、』

「(わわわわわわッッッッッッ!!!???)」

 爆発、五秒前。

 そして、爆発の筈だが――何故かその時空気が凍った。

 

「うるさいのだけれど(氷結の目)」

「とべっち……ありえないよ(蔑みの目)」

「トベ先輩ちょっと空気読んでくださいうるさいですよぉ~?(黒笑&悪魔の目)」

 

 その時、まったく助ける気などはないだろうが……女王様(こちらは炎)二人目が登場した。

「ン? あれハヤトじゃん。何してんのー? ……って、トベ何泣きそーになってんだし」

「ユミコ、さん……」

「ユキ……さん。何してんだし」

 二人の女王の身にらみ合いに、勇者トベは既に気絶寸前である。身から出た錆と言えばそれまでではあるが、なんとも気の毒な事である。

「……まぁ、別にいいし。ハヤト、団長が呼んでるし」

「あ、あぁ……。トベ、……いくか?」

「…………うん。……いくしかねーっしょ……」

 そうして去って言った。

「はぁ……やかましい人達ね」

「……さすがにあれは、ねぇ?」

「トベ先輩まさにトベです」

 そのいいように、アスナはさすがに気の毒だと思ってしまった。

 しかし、イロハたちはあのノリに対する対応の姿勢は既に決まっているらしく、そのまままた《護衛》関連の話に戻っていった。

「それにしても、護衛なんて言いだされるほど私達弱くないんですけどねぇ~」

「まぁ、義務で一人つけておけば……独断専行を避けられる、という事なのでしょうね」

「でもでも、だったら護衛じゃなくても、普通にパーティ行動をって義務付ければいいんじゃないでしょうか?」

 イロハは当然の疑問を口にする。それに対し、ユキはこう返した。

「男性が女性を守る、その古びた考え方からいまだに抜け出せていないのでしょうね……それか、ただ単に私たちとお近づきになりたい、なんて軽薄な理由で近づいてくる意見も多かったのかもしれないわね。私達、可愛いから」

 その自信過剰と普通なら言われそうなセリフも、彼女に使われてはそれ本来の価値を持ったままに発せられてしまうから不思議だ。

「あー、確かにアスナちゃんの護衛の《クラディール》さんは、そんな感じしますね。誇らしそうでしたし、まぁ若干ユイ先輩の護衛の《ディート》さんもそんな感じ匂わせてますし。でも、ユイ先輩はまだいいですよね~。けっこうイケメンっぽかったですからねー、ディードさん」

「うーん……。でも、あの人はそんなには。……あたし、なんか苦手かな」

「え、そうなんですか? 結構いい人だと思うんですけど……」

「うん……。いい人、何だけど……ちょっと。怖い――っていうか……」

「怖いって……あの人が?」

 ユキは不思議そうな顔をした。彼女の中にある少ないディートの印象はそこそこ好青年、と言ったもの程度だったからだ。

「なんていうか、その……。ゆきのんのお姉さんに、少しだけ似てる……って言ったら失礼かもだけど、あの人の本心みたいなのがどっか別のとこにある……みたいな、そんな感じがして……」

「そーなんですか?」

「……。まぁ、護衛に関してはいずれ団長の方に申し立てをしましょう。それに、私たちは元々、このギルドに長居するつもりはないのだし」

「えー、いいじゃないですかぁー。私はせんぱいをここにいれるのが最終目標なんですよー?」

「あら、ハチヤ君と居たいだけならいっそ私たちのパーティに来たらどうかしら?」

「あー……確かに。それでもいいかもです」

 イロハが何かギルド離脱という事を決意しそうになり、なんだかまた話が大事になりそうだとこの中で最年少であることも手伝ってよりいっそう慌てそうになったアスナだったが、そんな彼女らに、一件のメッセージが届く。

 それは、彼女らが待ち望んでいた二人からのものであり、四人はそれぞれ嬉しそうに、あるいはちょっとそれを隠しながら……そのメッセージのウィンドウを開く。

 そうして開かれたメッセージウィンドウには、こう記されていた。

 

 

【緊急、手を貸してくれ。…………腹減って死にそう】

 

 

『…………えっ……?』

 予想外過ぎるそのメッセージに、一同は固まってしまった……。

 そしてたっぷり一分後、四人は正気に戻った。そして早速のこのメッセージの真相を確かめるべく、メッセージの下部に追記されていた第五十層《アルゲード》にある、《エギル》のやっている店に行くことになった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第五十層《アルゲード》のエギルの店の二階にて――二人の勇者が地に額をこすりつける勢いで土下座しながら、こめかみのあたりをぴくぴくと痙攣させながら般若のごとく怒りを浮かべた女性陣に対して平謝りをしていた。

 

 ――一体全体、何故こんな状況になったのだろうか?

 

 それを説明するには、少々時間を遡らなくてはならない。時はほんの数十分前。《アルゲード》に超特急で転移してきた女性陣はメッセージに合った通り、エギルの店にいるという二人――ハチヤとキリトの姿を確認するべくやって来たのだが……彼女らが到着したとき、既にそこでは、彼女らの神経を逆なでにする光景が広がっていた。

 だが、まず結論から言うとハチヤとキリトは普通に無事だった。だが、そんな彼らはベッドに突っ伏して爆睡していた上に、その隣には例の《ビーストテイマー》の少女二人と、《鍛冶屋(マスタースミス)》のリズベットがおり、ハチヤとキリトの傍で楽しそうに談笑し、あまつさえルミがハチヤの傍に座って顔を覗き込んでいたのを見て、シリカが顔を真っ赤にしていた。

 その光景に、やって来た女性陣(ヒロインズ)の思考能力は一瞬で凍結し、そしてまた再び動き出した。

 灼熱の煉獄の業火、あるいは極寒の猛吹雪のごとく、怒り心頭の女性陣の《殺気》を感知したハチヤとキリトは、バッと飛び起き……そして、目の前の光景にさらにびっくりしたのち、ここは謝らないと殺されてしまう、下手な弁明も死へのジェットコースターになってしまうと察し、とりあえず土下座した。

『す、スミマセンでしたぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

 だが、

『――ダ・メ♪』

 となり、結果として説教タイムに突入。

 これまでの経緯と、この状況の詳細を説明するように命じられ、ハチヤとキリトは粛々と説明した。

 曰く、迷宮区に潜って三ヶ月《修行》をしていたが、最後の一週間になって漸く終わりが見え始めていたこともあり、疲労募ってヤケクソ気味のアッパーモードに入った二人はその週の間食事もせずに、練習用にと購入しておいたNPCショップの上位武器も使い捨てにして、最終的にはメイン武器までもフル活用し何やらやりたいことを成し遂げられたのだという。

「……で? なんでここに、女の子を侍らせることに繋がるのかしら?」

「疲れて腹減ったから洞窟出てすぐのとこの食えそうなモンスターを二人してゾンビ状態で探して彷徨ってたら何故かいつの間にか下の層に落っこちていつの間にか二人がいたので金のかからないねぐらに行きたかったのでついてくるなら勝手にしてといったらついてきましたはい」

 息継ぎなしで長々とした長文を説明したら、疑わしい目つきで睨んでいた女性陣もまだ弁明として受け止めてくれたようで……どうにか話は聞いてもらえるらしい。

 加えて、

「あ、あの……」

「…………ねぇ」

 シリカとルミも、どうやら弁明というか証言をしてくれるらしく……ハチヤとキリト、二人の容疑(?)はどうにか晴れた。

「……という感じで、いきなりお二人が大量の食材アイテムと一緒に――」

 一体どう状況だと突っ込みたくなったが、どうやら本当らしい。事実、二人のアイテム欄には――

「…………どうしてS級食材がこんなにあるのかしら」

「いや……その……」

 二人のストレージには、それぞれ×10ずつ《ラグーラビットの肉》と《ダンドリーターキーの肉》が保存されていた。

 何方もこの浮遊城における最高ランクの食材モンスターを倒したときにのみドロップする食材であり、この二体は非常に見つけにくいこともさながら、動きも早く遭遇と言えるまでに至らないことがほとんどであるということも手伝い……めったに市場に出回らず、幻のアイテムとも呼ばれている。

 だが、何故か……ここにおいてバーゲンセール状態で一同の目の前にその《幻のアイテム》とやらが飽和状態を越えて析出しまくりである。

「……運がいいんだか悪いんだかなぁー」

「悪運が強いのよ。悪運だけが」

 エギルとリズのコメントに、ますます落ち込むハチヤとキリト。……とはいえ、そう言われても仕方がないのは重々承知している。実際、腹が減りすぎたとはいえ……小動物モンスターを獣のごとく(無論、記憶にはないが)乱獲した……ついでに言うとその場で何匹か焼いて食べた気もするが、それは言わないでおく……なんて状態なので、なんとも言えない。

「……二人に見つかったのが、きっと運の尽きだった。飢えた獣だったんだね、二人とも」

「る、ルミちゃん……そこまで言わなくても」

 ロリテイマーズにまでもそう言われ、ますます傷を抉られた二人は地面に同化せんばかりの勢いである。

「……まぁ、事情は分かったわ。今回は、()()()()()()()()()()()()()

「「は、はは――ッ!」」

 二人は有りがたき幸せ! と叫ぶ一歩手前の状態でひれ伏した。

「あ、あの……質問よろしいでしょうか?」

「何? キリト君」

「料理スキル熟練度の程の確認をと思いまして……いや別に疑っているのではなくてですね? ただちょっと気になったというかなんというか……」

(キリト……そこは言わぬが花だろうに。というか、こいつらの腕を疑う余地あんのか?)

 ユイだけは現実の方が壊滅的なので、若干今でも不安が残らなくもないが……ここに来てからは外れには〝まだ〟……と言ったら相当に失礼だろうが、それくらい彼女の現実での料理スキルのマイナス具合は警戒に値する……あってはいないので、多分大丈夫だとは思う。

 それに、アスナとユキ、イロハもいるのだ。

 よほどのことが無ければ失敗などするはずが――

「ふふーん! 先週みんなでコンプリートしたわ♪」

「「なぬッ!?」」

 ――訂正、期待は確信に変わった……とハチヤは三十秒前の自分を心の中で殴り飛ばしておいてからの、アイテムをキリトと共に女性陣に同時に完全委託した。

「……まぁいいわ。じゃあここにいる全員で、軽いディナーでもしましょうか」

「あ、それいいね! 皆でパーティしよっ!」

「いいですねぇ~食材もたっぷりですし♪」

「じゃあ、サチさんたちとかクラインさんたちも呼びませんか? 前にボス攻略のダイブお世話になりましたし」

 そんな感じで、先ほどまでの空気はあっという間に変わり……いつの間にかパーティームード一色に変わった。

 そして、そして――。

 

 

 

「では、カンパーイ!」

「「「カンパーイ!」」」

「「……、」」

 どうしてこうなった……?

 そうハチヤとキリトは思ったが、それを口に出したが最後――おそらくまた凍えるような視線にさらされることになるだろうし、何より取り敢えず怖い。そんな訳で、二人は大人しく女性陣の腕を振るった料理に舌鼓をうつことに神経を注ぐことにした。

「美味……ッ! さすが料理スキル完全習得(フルコンプ)の実力……」

「それにしても、やっぱりこうまともな飯にありつけるっつーのは、ありがたいこった。迷宮篭りの修行期間はそれすらできなかったからなぁー……」

「だよなー……」

 二人が遠い目をしているのを見て、一同は声には出さなかったが……それでもこう思った。

(((い、一体どんな修行してたんだ、此奴らは……!?)))

 そんな一同だが、しばらくすると気力が復活してきたハチヤとキリトも輪に加わり、話も弾み始めた。

「それにしてもよ、S級食材なんて二年の間に初めて食ったぜ。相変わらず運がいいぜ、オメェらはよぉー」

「ああ、俺らも幸運だったと思うよ。何せ空腹で気が狂いそうになってたとこに、丁度いい具合に兎と鳥(にく)の群れがいてさ……」

「ああ……。ありゃー天の恵みだとか思ったもんなぁ……」

「「思わず乱獲しちまったもんなー」」

『……、』

 このパラペコの悪魔二人と出会ったのが運の尽きだったのか……憐れ《ラグーラビット》《ダンドリーターキー》。とりわけ女性陣はというと、悪魔二人に速度と力で追い詰められ、捕食されたであろう小動物たちの姿を思い浮かべ……そっと涙したという。

 しかし、そんな中でも結局はそのS級食材の美味しさ及び食欲には抗えず皆その数々に舌鼓を打った。

 そうやって楽しいげな話はだんだんと進んでいき、最初に女性陣の話していた《護衛》に関するはなしが話題に上がり始めた。

「えっ、護衛……? 皆さんにですか?」

「ええ、そうなの……全く困ったものよね」

 シリカがそれを聞き、驚いてユキにそうたずねると……ユキもまた困ったように答えた。実際あの護衛たちには参っているのだ。

「それにしても、《アインクラッド》でも最強の一角の三人に護衛とはね~」

 リズは面白そうにそういうが、アスナはそんなリズに「笑い事じゃないよー」と返す。四六時中張り付かれるというのも、ストーカーではないにせよ、なんだかいやだ。

 まぁ、それはともかく……やっと二人が帰って来たのなら、《KoB》を抜けることに躊躇はない。明日にでも退団を団長の《ヒースクリフ》に告げようと三人が決意した。

「明日にでも団長に退団を申し出ましょう。二人が戻ってきた以上、KoBにいる意味はほとんどないわ」

「だね。はー……、やっと堅苦しいのから解放されるね~」

「ですね。でも、やっと元のパーティに戻れるですからその苦労のかいもあったというものですよね」

「だね、アスなん」

「あだ名……」

「時間の流れを感じるな……」

「あははっ、二人とも年寄くさ~い」

「「「はははっ!」」」

 そんな楽しい談笑をしながら、時間は進んでいった。そして、皆が満足した頃合いで、こんな話題が出始めた。

「そういやよ、ボスの討伐っていつだったけか?」

「さぁ……俺達、ずっとこのほかの層の迷宮区をうろちょろしてたからなぁ……」

「つか、クラインたちンとこは迷宮区攻略してねぇのか?」

「いや、明日から本格攻略を……って思ってたとこだ。今日おめぇらが帰ってきてるつー話を聞いて顔見に来たとこだからな」

 実際、クライン率いるギルド《風林火山》のメンバーは全員此処に来ている。他にも、先に行った通り、これまでかかわって来た様々な顔ぶれがここハチヤ達のパーティホームに集っている。

 黒猫団の一同、シリカとルミ、イロハとヨルコとカインズと言った……これまで出会ってきた色んな人がここへ来た(ちなみに、《解放軍》のディアベルたちとハヤトたちはそれぞれ用事とやらで、来られないらしい)。

「ふーん……じゃあ、明日はみんなで攻略といくか!」

「キリト……お前なぁ」

「はははっ! まあいいじゃねぇかハチの字よ。おっしゃ! 明日は朝一集合でみんなして一丁迷宮攻略と行こうぜ!」

「「「おおぉ―ッ!」」」

「えぇ……?」

「さすがクライン……祭りの中心はコイツだな」

 輪の中心になる兄貴分……それがこのクラインという男の性質と人柄がなせる業だ。

 そんな訳で、いつの間にかアッパーモードになった一同。そんな訳でどんちゃん騒ぎとなってしまい、やんややんやと人勧は過ぎ……いつの間にか全員熟睡。

 そして次の日の朝最初に置き出したメンバー(誰が誰やら本人たちも自覚してない)から起き出し、そして全員であくび交じりに転移門まで向かうことに。その道中もまた談笑交じりに割かしいい雰囲気ではあったのだが、そう物事がうまく進まないことを……まだ彼ら彼女らは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「――アスナ様、それにユイ様とユキノ様も……勝手なことをされては困ります」

「我々護衛を付けずに徘徊など、危険ですよ。ラフコフは()()()()()()()()()が、〝残党〟が残っているかもしれませんからね?」

「……、」

 そのようなことを言いながら、現れた三人の血盟騎士団の剣士たち。

 内一人……沈黙している一人に関しては割かしこのメンバー内でも知っている者も多かったが、残り二人に関してはほとんど見慣れない人物であったため怪訝な顔を浮かべる者もいたが、アスナ、ユイ、ユキノの三人は非常に嫌そうな顔をしながら、その三人の《剣士》たち……いや、寧ろ《騎士気取り》達を……見ながらそれぞれの名前を口にする。

「……クラディール……」

「……ディートさん……」

「…………ハヤトくん……」

 

 いつの世も、障害となる壁は……我々の前に立ちふさがるものである。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 第七十一層《セルムブルグ》の転移門前にて、血盟騎士団員三名とハチヤ、キリト、クライン、エギルたちの率いる即席パーティの面々がにらみ合いのような状況に陥っていた。なぜこんな状況になっているのだろうか? と、この状況にいまいち付いて行けていないハチヤはそう思った。

「(――えーと……こいつら誰?)」

「(あ、えっと……《KoB》の副団長になっちゃった三人に――というか、幹部やら女性プレイヤーに《護衛》を付けようっていう方針ができまして、それで先輩方とアスナちゃんの三人の護衛っていうのが……)」

「(こいつら、って訳か……)」

 なるほど、とハチヤは思った。そういう事ならなんとなく職務的に護衛対象に好き勝手されるのは迷惑極まりない……のだろうが、ハヤトはまぁともかくとして、他二人の目が何というかその――〝危険な奴〟な感じがする。人のことを疑ったり、内面をどこまでも信じてなかった頃の……今ではもうずいぶんと薄まった……残り香的な部分が告げている。

 ――何かが〝ヤバい〟のだと。

 〝ヤバい〟などと言っても、それの意味など分かりもしない。というか、何かしらにつけてヤバいヤバいと連呼するのは嫌いだったはずなのだが、そのヤバいとしか表現しきれないその『危険さ』とでも呼ぶべき感覚が襲ってきた。

 だが、それもお構いなしにその連中は二人へ――具体的にはアスナとユイに――手を伸ばそうとしている。ハヤトは、ついてはきたものの〝そこまで〟するのには抵抗があるようで二人を止めるべきかどうかを迷っているように見える。

 別に容認しているわけではないのだろうが……ただそれでも、『何か』彼自身にも引っ掛かりの様なものがあるのだろう――とハチヤは思い、自分以上に目つきの悪い落ち窪んだ三白眼の骸骨っぽい雰囲気の男と、ハヤト以上に腹ただしい雰囲気の金髪イケメン野郎の二人がハヤトを連れてきた理由の何かが。

 そんな事を思っていると、隼人は口を開いていた。

「……あの、お二人とも。今回は彼女たちが〝危険なことをしていないかどうか〟の確認だった筈です。無理やり連れ戻すのは――」

「無理やり? 何を馬鹿な。〝勝手に〟副団長三人を迷宮区へ連れて行こうとする不届きな奴らに《護衛》対象である方々を連れていかれるのは我々の面目に関わる」

「その通りだ。何のために、わざわざ皆様の安全をと思って……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()分からなくなってしまうだろう?」

「「「なっ……!?」」」

 その言葉を聞いた瞬間、女性陣は「ひっ……!?」と言って絶句し……ハヤトハチやキリト、そして勿論クラインたちも驚きで固まった。

 そして、一同のクラディールとディートへの認識が変態度五割増しに変わった。

「て、テメェらそんなことしてやがんのか!?」

 クラインが驚きと怒りが半々な様子で……いや、寧ろ驚きの方が強いかもしれない。真正の変態に出会ったとき、人は驚きで固まってしまうものだ……怒鳴るようにそう言った。

「当然だろう。護衛の役目は、対象の確実なる安全だ」

 言っていることは間違っていないが、どこかしら異常さを隠しているかのような感覚が残る言い方だった。

「……、」

 言っていることのニュアンス()()は、正しいからか……ユキもあまり大げさに反論できないでいる。というより、職務を全うしているだけだと言い張られればそれがどれだけの欺瞞であろうが実際に所属ギルドの団長からの――それもあのヒースクリフだ――命令だと言えばそこで終わりだといっても過言ではない。何せここはゲームの中だ。ここでプレイヤーは確かにここにおいては皆等しく冒険者であり挑戦者だが、それ以上に――また現実以上に――言葉の重みは変化している。正論も反論でなくなり、ギルドやシステムと言った枷によってしばられることもあれば、命が単なるHPゲージによって代行表示されている状況、そしてそれがゼロになった瞬間……誰しもに等しく死が訪れることも、このゲームの中で非常に大きな意味を持つといえるだろう。それがどんな『偽物』であっても、結局『変わりゆく世界の流れ』には勝てない……。

 ――ただ、そうはいっても一つ由良が無そうなことにハチヤは心当たりがある。

 彼女が本気を出したのだとしたら――論争においては目の前の二人がぼろ雑巾同然になるのだろうことは、いつも何かしら彼女に罵倒を浴びせられていたハチヤには想像に容易かったりもしたが……とはいえ、どうやら先方は譲るつもりなど毛頭ないらしく……気乗りでないハヤトさえも急かす様にしてユキも連れて()()()()()としている。

 加えて、クラディールに至っては「無断先行はお控えください」などという綺麗ごとをのたまいながらアスナの手を引き寄せようとしていた。

 しかし、クラディールの手がアスナの手を掴んで引き寄せようとした――その瞬間。

 

「待てよ」

 

 ――別方向から伸びてきた黒い手が、それを制止させ……アスナの手をその手の主の方へと引き戻した。

「な……ッ!?」

「……悪いけど、アンタの言う《副団長》サマは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「キリト君…………っ!」

「(相変わらず、カッコイイことするのに抵抗ねぇよなーこいつ)」

 そんな感想をハチヤが抱いたものの。クラディールの方はというと……キリトのことを見てキリトが、今ではもうだいぶ薄れた(悪評的な意味でも良い方の意味でも)あの《ビーター》であることを見て取ったらしい。

「善人気取りの《ビーター》が……。薄汚い先導者気取りのお前たちなんかに、皆様方の護衛など出来るわけがないだろうが……ッ!」

 その顔には嫉妬や憎悪と言った感情が込められていたが、キリトは怯まなかった。

 当然だ。この程度の《殺気》なら、怒ったときの女性陣の方がよっぽど恐いだろう……なんてハチヤも思った。そしてキリトは、この世界における絶対的な《判断基準》を……クラディールとディートの判定基準からすると……《不足》しているらしい結論の終着点への足掛けと判断材料として提示しにかかる。

「…………なら《剣》で、《デュエル》で決めよう。本当に、俺たちが《守る側》として力不足かどうか……アンタが自分の目で〝見て〟決めてくれ」

 そう不敵に笑いながら言うキリトを見て、ハチヤはゲームでのキリトの英雄的素質とでもいうべき性格を見て、コイツは〝こういうこと〟を自然にできるからモテるのかねぇ……と、〝自分の為〟に立ち上がってくれたキリトに、キラキラとした視線を向けるアスナを見ながら思った(ただ、その後ろでいざとなったらハチヤの後ろに飛び込もうとしている二人の少女の視線に気づかない自称・過敏派であることを自覚してもらいたいものが)。

「フン! 舐めるなよ、小僧。これでも名誉ある血盟騎士団の副団長補佐の役割を賜っているのだからな、お前のようなガキに私以上の護衛が務まるわけがないことをその身に刻みこんで教えてやる!」

「少なくとも、アンタよりはまともに務められるさ。俺は一ヶ月もストーカーしたりなんかしないからな」

 キリトも売り言葉に買い言葉とばかりに挑発する。その挑発を受け……クラディールの顔がより一層歪んだのだが、

「ストーカーではない。護衛任務、だ。そこをはき違えるな《黒の剣士》」

 意外なことに、それに対して答えたのはディートであり、彼はクラディールを手で制し……さっさと《デュエル》をしろとでもいうように目でクラディールを促す。

 どうもディートとクラディールの間には何かしらの上下関係でもあるのか、はたまた単に友人的な意味で逆らえないのかは分かりかねるが……ともかく、キリトとクラディールの《デュエル》が始まった。

 転移門前という事もあり、この〝いざこざ〟の見物人はどんどん増えて……いつの間にかこのデュエルを見物していくことにしたような連中まで集まり、何やら一種の《剣舞》と化してしまっていた。

 しかし、クラディールの方は何がその自信の根拠なのか知らないが……余裕綽々にキリトに《初撃決着モード》のデュエル申し込みのメッセージを飛ばすと、アスナへ向けて「ご覧ください、アスナ様! 私以外に護衛役など務まる者などいないことを証明しますぞ!」といって、妙に芝居がかった動きで剣を鞘から抜き――構える。

 自分で有名ギルド所属というだけは有って、そこそこ構えは様にはなっているし……持っている剣もこれ見よがしの業物だ。ただ、あの豪華絢爛といった自己顕示欲丸出しの装飾からするとモンスタードロップではなくプレイヤーメイドであろうということが見て取れる。別にプレイヤーメイド品がドロップ品のレアアイテムに絶対的に劣るかと言えばそうではないが、ただ……ああいった装飾に凝った品は総じて耐久値が低いのは有名な話だ。

 それに比べるとキリトの持つ剣――魔剣・《エリュシデータ》――は装飾も簡素で、いかにも実用的という感じであるが、かなり頑丈であるだろうというのは、こちらも外観から見て取れる要素ではある。

 両手剣と片手剣の違いはあれども、現時点ではそれらが初撃の絶対的な勝因にも敗因にもなりえない。

 デュエル開始までのカウントが減っていく中、キリトとクラディールは互いに互いの《気配》を読み合いながら……最初に使用するソードスキル――初撃技を決めようとしていた。

 発動した瞬間、システムアシストによって通常よりも加速された速度で剣を振るうことのできるソードスキルだが、レベルの高い技を使うならば……使用後わずかながら事後硬直の時間を要するため、下手に選択すると決定的な隙になりかねない。とりわけモンスターでなく対人戦なら尚更である。

 現状では互いに体の構えから……キリトは下段技か受け身、クラディールは上段技かあるいは一気に距離を詰める突進技、あるいはそれらすべてがフェイントであるなどという事も考えられるが、そのあたりはもはや《勘》の領域であり――互いの技術と経験の粋を集めたその瞬間的な《判断》がデュエルの行く末――――勝敗を分ける。

 

 そして、カウントがゼロになり――【DUEL!!】の文字のウィンドウが弾け、紫の閃光が迸しった瞬間……二人は一気に地面を蹴る。

 キリトが下段の構えだったにもかかわらず突進を選んだためか、クラディールの方がほんの僅かに遅く動き出したが二人の進む方向は同じ線上に並んでおり……二人の剣には、共に選択したソードスキルのライトエフェクトが伴っている。

 クラディールの方はどうやら一気に前へ進み出たことや、剣先のオレンジ色のライトエフェクトから推測するに、両手剣上段突進技《アバランシュ》だと推測される。半端なガードではあっさりと突破され、仮に交わされてもその突進により距離ができるため体制を立て直しやすいモンスターには非常に有効な技である。

 キリトの方はというと、剣先が黄緑色のライトエフェクトを放ちながら突っ込んでいったことから、《アバランシュ》と同じ上段突進技、片手剣用ソードスキル《ソニックリープ》であるだろうと推測される。

 共に剣の軌道は交差する位置にある。こういった《武器同士》による攻撃が交差した場合、通常はシステムに設定された優先度により……《重量》が重い方に有利判定が出されることになっているが――。

 二人のその剣先がぶつかり合う瞬間、見ていた側でさえ一瞬思考が加速し……無論プレイヤーとしての《AGI値》云々も多少関係あるだろうが、それさえも超越するほどに……それくらい緊張した両者の《殺気》のぶつかり合うその刹那に、二人の剣が交差し――火花を散らした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 デュエル開始のカウントがゼロになった瞬間、俺とクラディールはともに前に飛び出した。でも、その際に俺の下段構えのフェイントに戸惑ったクラディルの反応が少しだけ遅かった。最初から片手剣と両手剣のぶつかり合いを剣同士の重量差の優先度で決着(けり)を付けようとしていたらしいクラディールは俺が攻撃の手段を変えたことに、多少なりとも戸惑ったようだったが……俺が《回避》でなく、あくまでも《攻撃》をすることを選んでいるのを見て、クラディールの顔がニタリと醜悪な勝利への確信によってか、狂気の色に歪む。

 確かに、通常通りの武器のぶつかり合いなら……確実に俺の負けだろう。

 だが、

「……ハァッ!」

 最初から、俺の狙いは――クラディール本人じゃない。

 相手の攻撃よりも早く移動を始めた俺は、相手の攻撃に自分の攻撃を合わせる。自分の狙った場所へ――クラディールの持つ両手剣、俺へと向け振り下ろされる寸前にあるその剣の腹の部分へと俺は自身の剣撃を思いっきり叩き込んだ。

 こういった装飾に凝った剣は総じて耐久力に劣る。だから、攻撃をその武器の弱い部分……いってみれば急所の箇所に対して、攻撃の出始め……或いは出終わりに合わせて、攻撃を叩き込めば――――そして、剣先がぶつかり合い大量の火花が散り、すさまじい音が広場に鳴り響いた。

「な……に……っ!?」

 先ほどまで勝利を確信していたクラディールは、目の前で起こった出来事を未だに認識しかねている様だった。確かに、そう思いたくもなるだろう。結果として、俺たち二人の剣撃はどちらにも届かなかった。剣撃が互いに交差した後、回転しながら先ほどまで互いの立っていた位置を交換するようにして駆け抜けて俺たちのぶつかり合いは終了した。

 そして、このデュエルも――。

「……ば……馬鹿な…………ッ!?」

 俺の攻撃は、クラディールの剣――その腹の部分を叩き折り、その折れた剣先は広場の石畳の上に突き刺さった。

 

 これでいいはずだ。これでもう、文句は言わせない。

 俺はわざと、クラディールにより敗北を理解させるために……奴が最初にした様に、少々大げさに剣を振り払ってから音を立てて鞘に納めた。

 

(……何度も決めたんだ。誰かを守るために戦うって……)

 

 それに俺はきっと……自分一人だけだったら、絶対に何度も何度も後悔していた。絶対に、守りたいものを一人じゃ守り切れないから……。俺の力は、〝ゲームの中では強い方〟かもしれないけど、それでも最強って訳じゃない。所詮子供、ちっぽけなガキに過ぎない。でも、そんな俺でもハチやアスナたちと一緒に攻略してきたこれまでの間に……クラインやエギル、サチやシリカ、リズやカインズさんやヨルコさんたちと出会って、自分なりに頑張って来た。そんで、大事な人たちだから……絶対に失いたくないって思った。だから、守り抜く力が少しでも欲しいって思った。

(俺は、これからもパーティメンバーを――大切な友達を――絶対に誰かに奪わせも、失わせたりもしない……!)

 

 ――――その覚悟だけは……何があっても、絶対に貫き通したいから。

 

「――武器を変えて仕切りなおすなら付き合うけど……もういいんじゃないかな」

 俺は、自分の覚悟と……大切な人たちを取られたりなんてしないように、クラディールにそう言い放った。

 するとクラディールは、まだあきらめずに先ほどの両手剣と同じような装飾の短剣をアイテムストレージから取り出すと再び俺に向かって来た。どちらも《降参》宣言をしておらず、おまけに先程の攻撃もまた〝当たる〟どころか掠ってすらいない。

 

 つまり――まだデュエルは終わっていない。

 

 俺は向かってくるクラディールに対して再び剣を抜こうとしたのだが、その時。

「――見苦しいぞ。クラディール」

 ぞっとするような冷たい声で、ディートがクラディールにそういった。その声にクラディールは動きを止め、クラディールのその短剣を弾き飛ばそうとしたのかアスナが腰の《細剣(レイピア)》の鞘に手を掛けており、彼女よりも《AGI(敏捷)》値が高いハチヤは剣を抜き、いつの間にか……俺たちも気づかない程の刹那にクラディール短剣を一秒もしない内に吹き飛ばせる位置まで来ており、短剣の腹にハチヤの剣の刃が触れる寸前でピタリと止まっていた。

「い、いや……ディート殿。こ、これは――「言い訳はいらん」――ッ!」

「……それにしても、《影の支配者(シャドウルーラー)》殿は随分と過保護ですね。弟分を傷つけられるのはそんなに嫌でしたか?」

 なんとも人を食っているかのような言い方をする。聞いていて不快になるほどに馬鹿に丁寧なのだが、とてつもなく無礼な喋り方をする。

「……剣を抜いてない相手に、ダガー突き立てようとしてんなら止めるだろ。……そもそも、フェアじゃねぇこんなんでデュエルが終わっても興覚めだろ」

「なるほど……では、こういうのはどうです? 我々が、このデュエルを引き継ぐ――というのは」

「……ああ、良いぜ。やってやるよ」

「お、おい、ハチヤ……」

「面倒なことになっちまったが……まぁ、もう一回やれば連中も飽きるだろ。あとキリトとクラディール……だったか? デュエルを引き分けにして終わらせろ」

「あ、ああ……」

「……、」

 不満そうにしているクラディールはともかく、俺は大人しくハチヤの言う通りデュエルを取り合えず終わらせた。それを確認すると、ハチヤはディードと向かい合った。

 

(こういうことになると……ハチヤも結構見境ないんだよなぁ)

 

 ハチヤだって、絶対俺の事英雄気質だなんて言えないと思う。やり方がかなりアレな時もあるけど、いつでもこのハチヤっていう男は……優しく生きてる。世界が優しくないことを知っているからなのだろうか……ハチヤは、誰かが本気だったり一生懸命である時、なんだかんだ言いつつも力を貸す。自分でできる範囲で、自分にできることをする。簡単なようで何よりも難しいことをやって来たのがハチヤだと俺は思う。

 ゲームの中――βテストのときに初めて会って、変わった奴だと思ったけど……なんだか分かんない内に……あれは果たして仲良くなった、でいいのだろうかと若干疑問に思わなくもないが。

 といっても、最初の頃は俺が一方的に話しかけてただけだった。

 あの頃の俺はコミュ力絶望的だったけど、なんだか分かんない内に友達いなりたいって思って話しかけてる内に、しつこい俺に呆れたのかどうか分からないけど……だんだん話してくれるようになってたのがなんか嬉しくて、現実にあんまり執着を抱かなくなってのめりこんでいたこの仮想世界で見つけた……もう一つの家族的なつながりが欲しかっただけかもしれないけれど……《兄ちゃん》みたいなハチヤと一緒に冒険するのが楽しかった。

 その冒険は、まだ終わってないし……きっとこれからも終わらない。

 ハチヤの言っていた、『本物』が何なのか……それを俺はあの《圏内殺人事件》の時まで知らなかったけど、あの時聞いて……βの頃ハチヤの苦しんでいた現実の何かが知れた気がして、俺もまたそんな決して揺るがない繋がりが欲しくなった。

 見せかけじゃない、けれど現実だけで作るものじゃない。きっと《魂》と《魂》でつなぐような、そんな《絆》を、この世界でも……いつかこの世界っていう壁も越えて帰る現実でも、もっとたくさん、見つけていきたい……。

 ――この世界で生きた意味と、つないだ絆の輪を広げていくために。

 でも、それはまだもう少し先だ。今はその目の前の壁を越えないといけない。でも、俺は一旦下がらないとな。こっから先は、どうやら《兄貴分》のようだ、《弟分》は大人しく引き下がるとしよう。

「あとは任せた……」

「……ああ」

 パシッ! とハイタッチをして舞台の主役(メイン)は俺からハチヤに変わった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……なんだかキリトの奴が妙な笑みを浮かべていたのが少し気になったが、まぁいい。今はこいつの相手をしなくてはならん。やれやれ、この世界来てからこんな〝柄じゃない〟ことばっかりだな……。

 そう俺は愚痴りつつ、背の鞘から剣を抜く。

「…………」

「フフ……」

 それにしても、このディードとかいう男……何かよくわからないが、妙な感じがする。だがそれが何であるかは俺にはまだよく分からない。いや、別にこれまで会ったりしたことがあるわけでもないから当たり前だが。

(……まあ、今はいいか……)

 今は、とりあえずこのデュエルを終わらせる……それだけを考えていればいい。

 そして先ほどと同様、カウントは減り……【DUEL!!】の文字が弾け飛び、紫のエフェクトが迸った後俺たちは剣先をぶつけ合った。

 だが、その刹那に驚いた。ソードスキルを使ってくると思ったからこそ、今度こそデュエルを確実に〝終わらせる〟為に、自分の敏捷度を生かしてソードスキルを使わずにその攻撃を受け流し……その隙をつくつもりでいたのだが、俺は――()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()ことに驚いた。

 結果、俺たちは下段、上段と先ほどのキリトとクラディールとまったく同じ様に構え、そこから鍔迫り合いへと発展していった。

「……よく分かったな」

「…………そちらこそ」

 そして短く言葉を交わしたのち、互いに距離を取ってから……また再び地面を蹴った。

 剣がぶつかり合う。

 激しく火花が散る。

 

((――――コイツは……強い!))

 

 互いにそう思ったであろうことが、何だか嫌なくらいに分かるほど〝共鳴〟するような感じがして……それを振り払い、もう一度――今度はもっと本気に、自分の全てを賭けるようなつもりで、ぶつかり合う。

 

「ずげぇ……!」

「……なんて速度だよ……」

「……ありゃあ、もう敏捷型の神髄の戦いだな……」

「……強いわね……」

「ユキ、ハチマンは負けない……」

「……そうね、ルミさん」

「……ですけど……凄いですよ。……せんぱい」

「…………だね」

「本当に、すごい……っ!」

 

 そんな《仲間》の声が、聞こえる……。観客の声も聞こえているはずなのに、何故かみんなの声だけがやけに耳に響く。

 〝みんな〟なんて《言い訳》は使えないし言えなかった。友達なんていたことない――はずだった。でも、どうしてだろうか。何の間違いか、俺は今……たくさんの仲間と出会って、こうして今その声に力みたいなもんをもらってしまっている。

 

(――ったく、ほん……っとうに、柄じゃねぇよ……まっ、たく…………なぁ……ッ!!)

 

 また、剣を振るう。

 もっと、……もっと早く……ッ! この戦いも、この世界もぶち抜いて……もっと先へ!

 更に追撃。速度を上げ、何が何でもディードよりも早く……。このラッシュを抜ける、あと少し。あと、……少し!

 そしてついに、長く長い連撃の後、ついにそこで――

「……ッ!?」

 ――俺は反撃のチャンスを見つけた。

(ここだ……!)

 剣先に、光をともす。

 光の尾を引きながら……俺は高速の水平攻撃ソードスキル《ホリゾンタル》を放った。

 突き抜ける様にして放たれたその攻撃は、はっきりとは当たらず……ディードの脇腹を掠めただけではあったが、それでもきちんと躱せたわけではないディードには、その中程度の切り込みであってもしっかりと初撃として判別される〝当たり判定〟がしっかりと出ていた。

 そしてシステムウィンドウには、大々的にデュエル終了を告げる《WINNER Hachiya.》と表示された。

 瞬間、観客の歓声とシステムによるファンファーレが鳴り響く。

 広場はすごい盛り上がり様だった。俺自身、この戦いの中でかなり真剣に剣を振るい……燃えると言っていいくらいに白熱した《剣舞》を繰り広げることになった。その中に多少なりとも楽しかったという感情と、どこかしらホッとしたような感覚が俺の中に混在していた。

 まあ、この際それは置いておくとしても……これで《デュエル》は俺の勝ちで終了の筈なのだが――

「くくっ……いやぁ、さすがにお強い……。まさに完敗、私の負けですよ。これなら……致し方ありませんね。今は諦めましょう。………………………………護衛も、ユイ様のことも」

 ――そう言い、最後に小声でつぶやくと……負けたにもかかわらず、ディートは()()()()()

 あれだけ《護衛》にこだわっていたにもかかわらず、いきなり掌を返したかのように……笑っていた。ただ、俺はその笑みの裏に、現実で最も苦手だった人物の一人……ユキこと雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃さんのことを思い出していた。

 ディードもまた、仮面の様な外面をかぶっている……だと思うが、あの陽乃さんとは何かが違う。怖いというより、先ほどまで……剣を交えるまでに感じていた嫌悪感がより強まったような感覚を感じていた。

 邪悪とでもいえばいいのか、それすらもわからなくなってしまったが……言い表すのならば、そうとしか言えないような……そんな感覚を俺は味わっていた。

 だが、そんな俺のことはもう眼中にないのか、ディートはクラディールに「戻るぞ」と告げさっさと転移門へと向かい転移していく。そのあっさりとした引き下がりように、皆ポカンとしてその背中を見送ることになった。

 だが、しばらくするとそんな異様さに対するもやもやとした感覚も薄れていき……観客たちもそれぞれの目的地やホーム、あるいは迷宮区に狩場と言った場所に散らばっていく。

 ハヤトも、「俺が止めるべきだったのに、結局止められなくて手を煩わせて済まなかった」とだけいって、KoBの自身のパーティーメンバーの元へと帰っていった。

 そしてその場には、俺たちだけが残った。

 そんな風に、一気に普通に引き戻されてしまった俺達は、引き下がったという事はある意味では《護衛》は諦め俺たちが護衛替わりとして動いていいという事だろうことは分かっていたが、あのあっさりとした引き下がり様に、俺たちは何かしらの裏があるような気がしてならないと考えていたが……それをこの時いくら考えてみたところで分かる筈もなく、その〝引っ掛かり〟を覚える〝違和感〟程度のものとして頭に残ったのだが――。

 そんな風にして残った違和感さえも、迷宮区に入ってパーティ―での戦闘をしながら先へ進むという久々の《攻略》に熱が入っていき……その小さな事象は、頭の片隅に追いやられていき、次第に〝気にならないこと〟になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 アインクラッドのどこかにある、薄暗い部屋の一室にて――。

 ディートは、笑っていた。

 部屋の内装の豪華絢爛さとぴったりと合っているはずの、その端正な顔立ちを目いっぱいに歪めながら、彼は笑っていた。

「……いやぁ……面白い。あの《愉快な熊》――あぁ本当は《地獄の王子》だが《悪魔》なんだったか? ……まぁ、そんな事はどっちでもいいか。それにしても、言っていたことは確かだったなぁー……(ニタァァァッ)」

 その笑みの中には、新しい《おもちゃ》を手に入れた子供の様でもありながら……どこまでも穢れた大人が生き甲斐としての《遊び》を見つけたかのような、そんな《笑顔》を浮かべてディートは狂ったようにして笑い続ける。

「いやぁー……あんたが執着するのも分かる気がするよ。最初にあったときは狂人過ぎると思ったけどねぇ~~~? それに……あの娘も――ひひひっ!! あーあ、どうやら〝僕〟もそっち側(クレイジー)になっちゃったみたいだ。――――まあ、ある意味……望むところだけどね?」

 そういって、彼は壁に貼られた二枚の写真を見る。

 一枚は、一人の少女。

 彼が見つけた、汚し……どこまでも貪欲に貪り尽くす様に求めたい存在。穢れないその心を、どこまでもただ優しく、それでいて強く誰かをいつくしめる素質のあるその感情を全部自分に向けさせた上で、汚す様に犯したい。

 ――()()()()()()()()()()()()()……。

 そしてもう一枚の方は、今日新たに追加されたもので……彼が、どこまでも殺し合いたい存在。果ての無い無限の剣戟をとこしえに続けていたい存在。殺すなんてとんでもない。いつまでも生き地獄の中で転げまわりたいくらいだ。

 ――終わりなき、《生》を感じられる戦いを所望したい……。

 

 ――――この二人を、何が何でも手に入れたい。

 

 だが、その機会はもっと先だ……。

 ――その彼に二人を教えてくれたその愉快な誰かさんは〝また〟、《機会》をつくるつもりらしい。それはもう少し先、この層と次の層が攻略された後……だったかな?

 

 

 

 ――――――ああぁ……っ! 早く、欲しい……っ!!

 

 

 

 この『世界(ものがたり)』に、もう一人。

 

 何もかもを壊そうとする、【穢れた復讐者(キラー)】……いや、彼の場合は寧ろ……、

 

 

 

 ――――【強欲な捕食者(グリード)】――――

 

 

 

 だろうか。

 

 

 

 世界は、また大きく傾き始める。

 

 しかし、その歪みが体現するのはまだ……先――――。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 次回、『青眼の悪魔』

 

 

 




 いかがだったでしょうか? 次話以降から一気に《アインクラッド編》のラストへと駆け抜けていければと思います。
 あとは、今回出したオリキャラのサイコっぷりを今後も出せていたらいいかなとは思います。邪悪な敵である人物がもう一人欲しかったので、おこがましいかもしれませんがPoHに並べるような感じのキャラを描けたらいいなと思います。
 では、今回もどうにか投稿が完了いたしましたので、次回の分も頑張って書いて行こうと思います。
 ご感想等がありましたらお気軽にお寄せ下さい。ですが、誹謗中傷等はNGということでお願いします。




 ※あともしかしたらバレバレかもしれませんが、今回のオリキャラはSAOのとある小物の血縁者、というか兄弟であるというのを下地にしてみてから考えて作りました。


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『青眼の悪魔』

 リアルが忙しく、今回は前書きのみとなりますが……とりあえず久方ぶりの投稿です。もうすぐカーディナルスケールが公開されるというのに、アニメ一期のワンクールすら終えられていない駄作者ですが……どうにかして原作の新章開始まではせめてGGOかマザロザくらいまでは行きたいと勝手に思ってます。
 さて、少ないストックを切り出しての投稿です。
 ホント日常が面倒になる今日この頃ですが、どうにか受験生き抜いていこうと思います。あと、感想等に関しては即返信とはいかなくてもそれなりにチェックはしているのでお気軽にお寄せください。

 それでは、久方ぶりの思デスをどうぞ


 世界初のVRMMORPG――ソードアート・オンライン。一万人という膨大な人々が集う超大規模のオンラインゲーム……だったはずなのだが、そこには……このゲームのメインプログラマーにして、このフルダイブ技術を世に発信した天才、茅場晶彦の恐るべき野望が内包されていた。

 

 ――――これはゲームであっても、遊びではない。

 

 その言葉通り、彼は一万人に上る全プレイヤー参加による、このゲームの舞台である《浮遊城アインクラッド》第百層までの完全攻略。しかしここまでならば、単なるゲームの領域を出ないが――その本質は、その先にある。

 

 ――クリアまで、一切のログアウト不可。そしてもし……その途中で、HPが〇になるとき、プレイヤーは《死亡》する。

 仮想世界での命が、そのまま現実の命へと直結する……理不尽すぎるまでのその《デスゲーム》は、その〝本来の仕様〟を《始まりの街》でプレイヤーたちにただ一方的に告げられ……そして始まった。

 

 

 

 誰しもが嘆き、嘘だとその言葉を信じなかった。信じようとはしなかった。だが、それは現実であり……この世界が、本当に生き抜かなくてはならいない現実へと変わった。

 そして、誰もが命を懸けて……この世界を生きなくてはならなくなった。

 その為に、最前線を攻略していく通称・攻略組と呼ばれる最前線の猛者たちが次々と迷宮を駆け抜け、各階層ごとのボスモンスターを退けながら攻略を続けていった。

 

 そして今現在、最前線は第七十四層にまで登り……この浮遊城も約四分の三が攻略され、ついに現実への扉が見え始めた。

 それはこのデスゲームの始まりから、およそ二年後のことであった……。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第七十四層迷宮区にて――。

 

 

 二十人ばかりのパーティが迷宮の中を進んでいた。

 ハチヤとキリト、そしてアスナ、ユイ、ユキ、イロハ。そして、クライン率いるギルド《風林火山》の面々である(リズや黒猫団一同、およびカインズ、ヨルコたちはそれぞれの都合で今日は来ていない)。

 この迷宮に出現するMob、《リザードマンロード》《デモニッシュ・サーバント》。二十人というパーティメンバーの数に応じたのか否かはわからないが、その集団に出くわしてしまった彼らは数人のレイド体制で向かってくる敵モンスターを《スイッチ》をしながら一気に責め立てる。

 モンスターのAIは基本的に急に戦術を変えられると、すぐには対応することができず、一瞬の硬直(フリーズ)が起こる。その隙が生じることで、一気に攻撃を畳み掛けられるのがこの交代攻撃の最大の利点である。

 

「……ハァッ!」

 掛け声とともに、ハチヤの振るった剣撃――七連撃ソードスキル《デットリーシンズ》がデモニッシュ・サーバントへ叩き込まれる。そのソードスキルの硬直時間が襲い来るその瞬間、ハチヤの「スイッチ!」の声と共に、キリトとハチヤが入れ替わる。この交代で、攻撃がヒットしたことに加え、攻撃パターンの変化に即座に対応出来ず、さらにMobのAIは認識が遅れる。この硬直の瞬間、キリトは一気にとどめの攻撃を放つ。ハチヤの放った《デットリーシンズ》同様の七連撃技だが、此方は《体術スキル》もそれなりに持っていないと使えない技《メテオブレイク》だ。

「そらぁ……ッ!」

 キリトは掛け声とともに、最後の上段斜め切りを叩き込むと、デモニッシュ・サーバントはポリゴン片となって砕け散った。

 しかし、そこへさらに四体のリザードマンがキリトへと向かってきた。だが、キリトは今わずかながらほんの刹那の硬直を強いられている。このままではダメージを喰らってしまうのは避けられないかと思われたが、

「キリト、うまく避けろよ……っ!」

「おう!」

 そこへハチヤがキリトの前へ飛び込み、目の前のリザードマンに横一線の剣撃を叩き込む。そしてさらに、そこから振り返るように背後のリザードマンへ一撃、さらに半回転し左、ラストの一撃を右のリザードマンに叩き込んだ。四連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。通常の単発《ホリゾンタル》を四方向へ振り払い、四角形を描くように撃ち放つ連続技である。

 しかし、通常この技を撃つ場合……この技は近くに味方がいるとその味方にまで攻撃が当たってしまいかねないが、そこは反応速度の鬼であるキリト。ハチヤの光速の一線をしかと感じとり、最初の一撃を叩き込んだ後硬直が解けるのを感じるとすぐさま剣撃の死角へ素早く移動し、技の軌道を妨げない位置を取り続けた。見事なコンビネーションと言えるだろう。

「ナイス、ハチ」

「おう」

 二人はそういって、軽くこぶしを合わせる二人の剣士。

 その背後ではパーティメンバーたちの戦闘終了を告げるポリゴンの砕ける音が響く。

 

 今日の《攻略》は、非常に好調のようだ。

 

「にしても、さすがにこれだけ手練れがそろってると攻略がはかどるなぁー」

「だな。にしてもクライン、お前大分レベル稼いだだろ。一撃一撃が前より重くなってるし」

「まあな。それなりにこっちも経験値稼いでたんだよ」

 そんな会話をキリトとクラインがしている間、

「それにしても……なんだかこれだけ人がいると安心感がありますよねー」

「だねーイロハちゃん」

「……そうね、マージンを十分にとっているメンバーがこれだけいればそれなりには進めるわね」

「この調子だと、ボス部屋もすぐ見つかったりしそうですね」

「ぼ、ボス部屋ですか……」

「私たち、そういえば見たことないね。ボス部屋」

 そんな感じの女性陣の会話が成されていた。

 そして、そんなアスナの発言は……すぐに当たることになる。

 

 黒い巨大な扉。迷宮の奥の部分に位置する場所にあった扉。

 これは、どう見ても――。

「…………ここは」

「……ボス部屋、だよね?」

 キリトとアスナがそんな発言をする。

 それにしても、こんなにあっさり見つかるとは……と、ハチヤはそんな風に思った。

「とりあえず、中を確認しましょうか」

「……まぁ、そうだな。見ない事には何も始まらねぇか」

 ボスモンスターは、守護する部屋からは出ない。これはこのゲームの鉄則であるので、中を覗くだけならば問題はないだろう。

「おっしゃ、皆《転移結晶》忘れんなよー?」

 クラインが面倒見のいいところを発揮し、一同に非常脱出手段を用意するように呼び掛ける。

 その声を受け、全員が結晶を用意したところで……いよいよボス部屋の中を確認する作業に入る。

「……それじゃあ、開けるぞ?」

「おう……」

 緊張の一瞬。

 ぐっ、と扉を押すと……ギィィィッという音と共にゆっくりと扉が開いていく。

 全員の身体がこわばり、部屋の中に向ける視線に全神経を集中させる。

 部屋の中で、松明に青白い火が灯っていき……真っ暗闇の部屋の中を照らし始める。すると、その松明の円の中心に佇む、巨大な影があった。

 青い巨人――いや、その青い巨体に乗っている顔は山羊のそれであり、捻じれる角が後方へと突き出している。目の前に佇むそれは、《獣人》というよりは、RPGの定番モンスターである《悪魔》だろう。

 こうして直に対峙すると、その恐ろしさがひしひしと伝わってくる。

 しかし、硬直した身体とは裏腹に、目はその悪魔の上に表示されるカーソルを捉えた。

 そこには――《The Gleameyes.》と表示されている。

 輝く目、という意味であっているだろうか? と、その文字を捉えたボスモンスターである証の固有名を見た者は思ったが……ボスモンスターであり、悪魔然とした個のモンスターには寧ろ、青白く輝く目を持つ悪魔――――《青眼の悪魔》、と言ったところか。

 

 しかし、誰しもが考えることができたのはそこまでだった。

 

『うひゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッッ!?』

 という誰ともつかぬ悲鳴――ここまではどちらかというと大人しめだったちびっ子テイマーズ説が濃厚――を皮切りに、一同は部屋から駆け出して逃げだした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、どのくらい逃げ回っただろうか……一同は一心不乱にダンジョンに設定されている安全エリアを目指して駆けた。

 安全エリアに辿り着くと、荒息をつきながら一同はへたり込むと誰ともなしに「……ぷっ」という笑い声が沸き起こり、その場に笑い声が蔓延する。

「あははは! やー、逃げた逃げた!」

「いやー、こんなに走ったのは久しぶりだよ……」

 キリトとアスナがそういうと、周りも「だよなー」「あんな迫力あるボスも結構久々だよなー?」「こ、怖かったです……!」などと話が続く。

 その中で、ふとこんなことをキリトが言った。

「盾装備の奴が十人は欲しいな……」

「盾装備……ねぇ?」

「な、何だよ、アスナ?」

 キリトが怪訝な顔でアスナを見ると、アスナもまた疑わしそうな目でキリトを見る。

「だって、私キリト君が立て持ってるとこ見たことないもん。普通、《片手剣》の最大のメリットは〝盾を持てること〟でしょ? 団長みたいに。でもキリト君、盾一回も持ってないよね?」

「うっ……」

 その追及にキリトも言葉に詰まる。

「私も盾を持てなくはないけど、細剣のスピードが落ちるからっていう理由だし、ハチヤさんとかユイさんとかもそうだけど……キリト君の場合はどっちでもないよね?」

 更にそう言われると、ますますキリトは言葉に詰まる。アスナの方も何かしら彼が隠しているのだろうことを考えてはいるが……それを分かった上で、からかい交じりに詮索しているのだ。

「ねぇキリト君、リズにもう一本剣作ってもらったんだよね?」

 更に痛い所を突かれるキリト。

「いや、そうだけど……」

 だが、そこまで言えばアスナはもう満足なのか、

「スキル詮索はマナー違反……だけど、なーんか怪しいなぁ」

 アスナは少し含みを持たせつつ、そこまで言うと……「まぁいいわ」と、その話題をいったん終わらせる。

「じゃあ、そろそろお昼にしませんか? Mobとダンジョン攻略の方ばっかりでしたからね」

「そうね、そうしましょう」

 そういってユキもそれに賛成し、ストレージからお弁当を取り出し始める。

「にしても……相変わらずお嬢さん方の弁当はうまそうだなぁー、ハチの字よぉ?」

「そうだな、まったく感服するよ」

 何せ、この《アインクラッド》における味覚再現のデータを解析し、より現実に近づけた《完璧》とさえ呼べるようにな配合区分調査を彼女らは行い、そのリストを作り様々な料理および調味料と言ったものを作りあげているのだから。

「にしても、売り出すだけで儲かりそうなもんだけどよーなんでそうしねぇんだ?」

 確かに、これだけの最限度ならレシピ一つとっても高値が付きそうなものであるが、しかし悲しいかなこの《アインクラッド》で《料理スキル》を挙げているプレイヤーはほとんどおらず、レシピだけでは再現不可能だというのが悲しい現実である。

 しかし、既製品を売り出せば間違いなく儲かるだろうが……そうしない理由はとクラインに問われ、ハチヤは迷うことなく答えた。

「あん? ンなもん決まってんだろ。俺らの分なくなったら困んだろうが」

 あっけらかんと言い放つハチヤに対して一同は呆れながらも、そんな意見を物申したハチヤと同様に食い意地の張ったキリトだけは「うんうん」と頷いている。

 そしてささやかな談笑交じりに食事が始まり、ルミやシリカも《料理スキル》を取得してみたいという話が上がり、ユキたちに特訓してもらおうかという話になったり、クラインがカタナのレア装備が欲しいという話をしていたり、ハチヤがまた少しひねくれたことを言ってユキと言い合いになったりと、色々と楽し気な雰囲気が漂う。

 

 そんな訳で、和やかな昼食タイムとなったのだが……一同のいる安全エリアに、突然の来訪者が現れた。

 無論、安全エリアに人が来るのは珍しい事ではない。だが、そこへやって来た者たちは和やかなパーティという訳でもなく、物々しい雰囲気を放ちながら、それでいて非常に消耗しているような状態である。

 加えて、ハチヤ達は彼らの装備している鎧などから、彼らが《軍》のメンバーであることを確認した。

 どうしてこんなところにいるのだろうか、と誰しもが思ったはずである。

 《軍》とは、嘗て《アインクラッド開放隊》という名称でハチヤ達もよく知っている《ディアベル》と《キバオウ》らの始めたギルドで、アインクラッドで古株中の古株であるだ……ここ最近はあまり前線ではいい活躍ができておらず、先の第六十七層攻略の際多大な犠牲者を出してしまったことから、ディアベルは一時前線からメンバーたちを離れさせ、もう一度組織強化と個々のレベル上げを見直すことにしたという話だったが――と、そこまでハチヤ達が考えていたところで《軍》のパーティの内の一人が話しかけてきた。

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

(中佐と来たか……)とハチヤは、ディアベルが何だか一度前線から離れることを決めてから内部がごたごたしてきて本物の軍隊……それも前世紀的な恐怖政治と独裁にまみれたような状態になりそうだとこぼしていたのを思い出した。そもそも、《軍》は周囲がそう呼び始めたのがきっかけで正式名称ではなかったはずだが、どうやらいつの間にかディアベルがこぼしていた以上に内部は軍隊化し階級までできているらしい。

 そこでハチヤは、そういえば面と向かって名乗られて名乗らないのはさすがに失礼かという事に気づき「ハチヤだ。うしろの奴らはパーティのメンバーで……」と言い、後ろのメンバーたちもそれぞれ自分の名を名乗る。

 それを聞くと、コーバッツは一同にこの先も攻略しているのか? と問う。

 それに対し、ハチヤはボス部屋の前まではマッピングを終えている有無を告げた。

「……うむ。では、そのマッピングデータを《提供》してもらいたい」

「なっ……!? 無料(ただ)で提供しろだとぉ……!? テメェ、マッピングする苦労が分かって言ってんのか!?」

 クラインの怒りももっともであるが、コーバッツはそれを意に介しもしない。それどころか、寧ろ傲慢にも――

「我々は一般プレイヤーにも平等に物資やアイテムを分配し、一刻も早くこのデスゲームから全員を解放するために戦っている! 君たちが我々に対し《協力》するのは、当然の義務である!!」

 ――と、答えた。

 たしかに聞こえはいい。十人が聞けば全員《正義》であり《正しい行い》であると答えるであろう。

 だが、他人のこれまでの積み重ねを、ただ漠然とした《善》のためにだと言って巻き上げていくなんてこと……そんなものの、何が《正義》だというのか。

 しかしそうした《善》を盾に取られた時、人は何時だってその軍門に下ることになる。

 

 どちらが本当に正しいかではなく、どちらの見た目が正しく万人に映るかによって。

 

 そんなことはよく知ってた。

 だから少年は、逆にかまわないとさえ思う。

 この程度の情報を与えることに、最初の向こうの提案通り……単なる《提供》以上の意味など求めるべきではない。

 寧ろ必要ない、そう考えるべきだと少年は経験から悟っていた。

「……ああ、分かった」

 そう答えた。

「は、ハチヤ……」

「別に、この程度でどうこうする気はないだけだ。元々、街へ戻ったら公開する予定だったし……別にこんなもんで商売しようとも思わないからな」

 そういってハチヤはマップデータをコーバッツへ送信する。

 すると、コーバッツは「うむ」と一つ頷き形式的に「協力感謝する」と何の感情も宿っていないような礼句を述べる。このままボスに挑戦する気なのだろうか、コーバッツは連れてきた仲間たちの方へと戻っていく。そんな彼の背に向けて、ハチヤは忠告を述べる。

「ボスにちょっかいかける気ならやめとけよ。今のお前らの状態じゃ、今日中に生命碑に名前が載るのがオチだ」

「それは、私が判断することだ」

「……独りよがりの特攻を《善業》穿き違えるんじゃねぇよ。《勇気》と《無謀》を穿き違えるなって聞いたことねぇのか」

「私の部下たちはこの程度のことで音を上げるような軟弱者ではない!」

 そういうコーバッツは単なる独りよがり以上に、個人的なプライドやそれに近い何かによって独裁的な《船頭》を行っているのだ。こういう馬鹿は、いっても無駄……事実、コーバッツはそのまま迷宮の奥へと戻っていってしまった。

「……、」

 その背中を見届けた一同は、非常に嫌な予感を感じていたことだろう。あの無謀に踏み出そうとしている命知らず達が、本気でボスに挑むのではないかという疑念が、彼らの中には既に深く残ってしまっていたのだから。だから、という訳でもないが……とハチヤは誰に向けての言葉ともせずに、ただ一言「…………見に行くか?」とだけ告げた。そんな彼の様子に、他の一同も頷きハチヤの意見を肯定する。

 

「…………ったく、このお人好しども……」

「オメェもその一人だろうがよ? なぁ、キリの字」

「ああ、まったくだな」

 

 そういってニマニマと笑いかけてくる二人をハチヤはうっとおしそうに少し睨むと、「いいから行くぞ……俺たちのマップデータで死なれたんじゃ、寝覚めが悪ィからな……」とだけ言って、拗ねた様にして先んじて進んでいった。そんな彼の後を微笑みながら付いて行くユイとユキに続き、イロハやキリトとアスナシリカやルミ、クラインたち風林火山の一同も笑いながらあとを追っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 運悪くリザードマンの大群に再び出くわしてしまい、多少時間を食ったものの先ほどのボス部屋のすぐ近くまでは辿り着くことができた。このまま少し進めば先ほどの《グリームアイズ》のいるボス部屋までたどり着く。しかし、ここまでくる間に、コーバッツ達の姿は全く確認できていない。

「ひょっとしたらよ、とっくに連中は転移結晶で帰っちまったんじゃねぇのか?」

 

 ……そうだと良いんだが、と誰しもが思ったであろうその時――その予想を裏切るかの如く、迷宮の()()()悲鳴が聞こえてきた。

 

「……まさか!?」

 と誰しもが口にし、その奥へと駆けこんでいくが……運悪くリポップに当たってしまい、リザードマンが再び現れる。

「チッ……! おい、キリト、ハチヤ! おめえぇら先行け!」

「あ、あぁ! 分かった!」

 そういうキリトと共に、奥へと駆けこんでいくハチヤ。そこで彼の見た物は、まさしく地獄絵図だったといえるほどの光景(もの)であった。

 グリームアイズと対峙している軍のメンバーたちのHPバーはもはや全員イエローに突入しそうなほどに減っている。だがそれに相反するように、グリームアイズの四本あるHPバーは三割ほども削れていなかった。おまけに、どうにも《軍》のメンバーたちの人数が先ほどより減っているかのように見える……脱出したものと信じたいのはやまやまだが――。

「おい、何やってるんだ! 早く転移結晶を使え!!」

 キリトがそう叫ぶが、

「だ、駄目だ……! く、クリスタルが使えない…………ッ!!」

「なッ……! ()()()()()()()だっていうのか……!?」

 《結晶無効化空間》――かつてキリトとハチヤが特訓したギルドである《月夜の黒猫団》のメンバーと訪れた迷宮(ダンジョン)で遭遇したトラップの一つである。だが、《そんなもの》がこれまでボス部屋に付加されていたことは()()()()()()()()

 

  しかし、現に今--この部屋には、それがシステム的に適用されている。

 

 これは非常にまずい、非常にまずい状況だ。

 

 ハチヤとキリトの顔に汗が浮かぶ。

 このままでは、《軍》の面々は全員やられてしまう。だからと言って考えもなく飛び込めば、ハチヤたちもまとめて返り討ちにされかねない。なにせ、今《軍》の一同と交戦している《グリームアイズ》は部屋の入り口の方に背を向け、退路を断つ形で立ちふさがっている。背後から攻撃を仕掛け、注意をそらしている間に《軍》の一同が部屋の外に脱出して、さらにハチヤたちも脱出しなければならないが……今現在いるメンツではとてもではないがボスモンスター相手にそんな真似はできないだろう。ユキたちやクラインたちが合流してくれればまだなんとかなるかもしれいないが、だがみんなはまだ来ない。

 かと言って、目の前でやられそうになっているプレイヤーたちをみすみす見殺しにするわけにはいかない、全滅などもってのほかだ。いかに身勝手な行動で無謀な末路に足をかけていたのだとしても、だからと言ってそんなことが目の前で起こっている惨状を見てなお見殺しにする理由にはならないのだから。

「……キリト、お前のとっておきでいけるか?」

「難しい……だろうな。全部削りきれるかどうか、そこまで確信は持てないよ……いくら習得したって言っても、ボス相手にソロ戦闘なんて想定してないからな」

「ま、そりゃそうだ……でも、行くしかねぇだな…………俺がグリームアイズを引きつける、トドメはお前がやれ」

 ハチヤはそう言うと、ストレージから《もう一本》剣を取り出す。

「まず俺が突っ込む。お前はさっさと《スキル選択》と《二本目》だすのすましとけ」

「わかった……!」

「行くぞ、キリト。……背中は任せた」

「あぁ……」

 

 そう言うと二人はそれぞれの役割(ロール)を全うするべく動きだす。

 

「そらァァァ……っ!!」

 ハチヤが超速でグリームアイズへと切り掛かり、キリトはその間にスキルスロットを操作し《とっておき》の用意をする。

 その間にもハチヤはそとんでもないスピードでグリームアイズへと技を放ち続ける。幾つものライトエフェクトを伴った技がグリームアイズへと放たれるが、それでやはりゲージの減りは小さい。《軍》の面々が戦っていた時に比べれば多少なりとも減るスピードは上がっている。だが、やはり本当の意味での決定打に欠けるのは否めない。

(決定打にはやっぱたんねぇな……でも俺一人じゃ削りきれねぇのはわかりきってる。上位技を使ったらリミットが来た瞬間、俺は動けなくなっちまう。そしたら後ろの連中が逃げ切る前に……それに、キリトまでつなぎきれねぇ!)

 そうハチヤは考え、グリームアイズをほんろうすることによって逃げ道を作ろうとしている。その甲斐あって出口までわずかながらも活路を作ることができた。

「(よし……っ!)おい、お前ら! さっさと逃げろ!」

「ふ、ふざけるな……! 我々《解放軍》に、撤退のふた文字はあり得ない! 戦え! 戦うんだ!!」

「ばっ……!」

 何を考えていたのだろうか。

 それはきっと、そう口にしたコーバッツ自身にもわからないのではないだろうか。人は、動物の中で唯一《心》による感傷で自分自身の行動を歪め、目を曇らせ……自分の描く捩じ曲がった虚空の幻想にまがい物の甘さに酔いしれて――――。

 

「ハッチー!」

「ハチヤくん!」

「キリトくん!」

 

「みんな……!」

 

 みんなでやれば、変えられたはずの結末。

 あと、ほんの少しで届くはずだった現実。

 しかし、運命というやつは……いつだって、どんな時だって――人の思いや願いを軽々と踏みにじって訪れる。

 

 

 そしてそこには、

 

 

「…………あり、得な……い……っ」

 

 

 

 ――――必ずと言っていいほど愚かしい選択の末路という傷跡をこれから先へ進もうとする者たちへ、まざまさと見せつけて。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 誰しもが、こんな状況であっても思考が停止したであろう。こんな時、だからこそ……なのかもしれないが。

 

 愚かな選択ではあったはずだ。

 自業自得と取ればそれまでだ。

 

 だが、そんなもののはずであるそれは……一人の人間の命の結末でもあるのだ。

 守りきれなかったそれは、見ている者にも傷を残して去っていく。

 

 

 仕方のないこと、それで割り切れるのならば……どれだけいいだろう。

 

 

 愚者出会った男の最後を見て、どう思うのが本当に正しいのだろうか?

 

 涙すべきだろうか?

 叫ぶべきだろうか?

 崩れるべきだろうか?

 恐怖すべきだろうか?

 呆然とするべきだろうか?

 ただ受け止めるべきだろうか?

 それとも、立ち上がるべきだろうか?

 

 

 そんなことは誰にもわからない。

 

 

 涙し、その命の重さを痛感してもいい。

 叫び、取り乱してうろたえてもいいだろう。

 崩れ落ち、目の前の出来事を忘れようとしてもいい。

 恐怖し、一歩も動けなくなってしまうのも仕方ないかもしれない。

 呆然とし、虚無の時間にとらわれても誰も文句は言わないし悪くもない。

 静かに受け止め、その尊さを噛みしめると同時に自己の存在を考えてもいい。

 立ち上がり血を沸かせ、英傑のごとく剣を振るいその仇を討つことで示しても何も問題はない。

 

 

 ――――ただ、そもそもそんなことが起こりそのあとに残る選択を迫られるということ自体が、きっと間違っているというだけで……。

 

 

 今自分にできることしかできない。

 

 それが人間だ。

 

 

 だからこそ……。

 

 

「「デェアアアアアアアっっっ!!!!!!」」

 

 

 ――――全力で前に、進む。このボスモンスターを……倒して!

 

 

 

 

 

 

 もはや、何も考えるべきではない。

 

 このままでは、何もかもを失ってしまう。

 

 そんな恐怖に突き動かされる、感情のままの行動は……きっと、無謀だと呼べるだろう。

 

 しかし、それでも……無謀を嘲笑い、無謀のままに散った一人の剣士を殺した《悪魔》を倒すには、きっと御誂え向きだろう。

 

 無謀のままに、その件を振るう。決して死ぬ為でもなく、必ず帰り着きたい場所へと戻る為に。

 

 

 

 二人の剣士が、自身の全てを持って……目の前の《悪魔》を討ち倒す。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

「な、なんだよ、ありゃぁ……!?」

 

 クラインのそう呟いた先には――神速の如き影と、二刀を振るう漆黒の勇者の姿があった。

 

「あ、あのスキルは……」

 

 クラインの視線の先には、背後の戦士たちをかばいながら剣撃を振るう二人の剣士の姿があった。

 

 神速で迫る影の攻撃が悪魔のガードをがら空きに変え、そこへ飛び込む豪剣。

 

「いけ! キリト!!」

 

「……スターバースト・ストリーム……!!」

 

 恒星のフレアのごとき閃光がほとばしり、たった一人の剣士によって……現在(いま)の《アインクラッド》における最上位モンスターのHPを凄まじい勢いで削りとっていく。

 

(もっと……! もっと……、早く……………!!)

 

 グリームアイズはキリトの攻撃を受け、目に見えて後ろへと押されていく。

 

 鬼気迫るほどの猛攻。キリトの瞳には、目の前のモンスターしか見えていない。ただ頭の片隅に残る――――みんなで生きて帰りたい、というたった一つの願いだけが彼を……いや、《彼ら》を突き動かす。

 

「……ぁぁぁああああああ!!」

 

 キリトのエクストラスキル《二刀流》上位スキル十六連撃――《スターバースト・ストリーム》、その最後の一撃がグリームアイズの胸元を貫く。

 

 星屑のごとき、その煌めき。その最後のひと欠片が、叩き込まれる。

 

「グォォォオオオオオオ……!?」

 

 その呻き声は、《悪魔》最後の咆哮。しかし、やつは自分一人で逝く気など毛頭なかったのか……それとも、これが最後の悪あがきというやつなのか、そんなことは奴自身にもわからないのだろうが――奴は、キリトへと最後の一撃をさしむける。

 

「……っ!?」

 

「キリトくん……!!」

 

 キリトへと、悪魔の手が迫る。刺し違えてでも、一人で逝くまいと……その爪を、黒の剣士へと――――

 

「――――これ以上、好き勝手してんじゃねぇよ……! お前は、ここで……終わり……だぁぁぁっっ!!」

 

 

 神速の影が……影が剣に、一閃となり守るための剣撃となった。

 

 

 

 悪魔という呪縛そのものを突き抜けるように、影は一筋の解放への架け橋――――《剣》と、なる……っ!

 

 

 

「――――《神速の影撃(エクストリームスピード)》!」

 

 

 

 …………そうして、戦いは終わる……。

 

 

 

 時間にしてみれば、ほんのわずかの戦闘でしかなかった。

 

 だが、そんな刹那の時間が与えたいくつもの惨劇は……人々の心の中へと深く、深く傷跡を残していった。

 

 

 ――――それでも、彼らは……

 

 

 

「…………おわった、のか……」

 

「…………おわった、んだな……」

 

 

 

 

 

 

「「「ハチヤくん(ハッチー)/キリトくん(さん)!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 …………彼らは、戻るべき世界へと帰還することができた。

 

 ほんの少し、守り抜けなかった後悔だけを残しながらも……それでも彼らは、〝帰り着いた〟のだった。

 

 

 



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『終わりと幕開け』

 はいどうも。

 忘れた方は始めまして、覚えてくださっている方はお久しぶりでございます。

 一ヶ月以上こちらの方を更新できていなかった駄作者でございますが、いけしゃあしゃあと帰ってまいりました。
 どうにかある程度は色々なことも落ち着き、やっとこさ小説ももっと書けるかなと言ったところまで来ました。
 ですが、言い訳を重ねさせていただくとモチベーションが下がっているというのが適切かもしれません。なので、その状況に浸りきらないように、少しでも上げて行けるように頑張ります。
 そんな訳で、今回は前話と次話の間を取り持つお話でございます。
 本当は『オーディナルスケール』が始まる前までにSAO編は終わりたかったのですが、そういかなかったので今後の質をあげながらのペースアップをできる体制を模索していきます。
 というか、書下ろしの『ムーンクレイドル』も始まってしまって、すっかり遅れている感が強くなってしまいましたが、とにかく頑張っていきます。あと今回からやっと時間的余裕もでき始めたので、あとがきを復活と、感想を広く受けられるように非ログイン状態でも可の方に設定しなおそうかと思います。他の作品も順次そうしていこうかと思っていますが、荒らしや誹謗中傷等はご遠慮くださるようお願いいたします。それでも、不快だと思われる場合はブラウザバックでお戻りくださることをお勧めいたします。

 さて、長々と前書きをしてしまいました。

 それでは、本編の方をどうぞ。




 

 

 

 

 ――…………!

 

 

 ――……チーってば!!

 

 

 

(――――だれ、だ……?)

 

 

 ぼんやりとした意識が次第に浮上し、体がその浮上してきた中身をその内に納める。また、同時に視界が取り戻され……あの青白い炎の灯っていた部屋に残っていた光の残滓が目に飛び込んできた。続けて、目の前には薄い桃色っぽい髪の少女顔が視界に入る。

 由比ヶ浜――いや、ユイがそこにいた。

「……ゆ、い……?」

 そう口にすると、彼女はガバッ! と勢いよくハチヤの胸に飛び込んできた。

「よかったぁ……! よかったよぉ……!!」

 涙を流しながら、彼女はハチヤにしがみついている。ハチヤは意識に後追いしてくる頭痛を吹っ飛ばすような正面から感じる柔らかな感触に、心中でパニックのような状態になりつつあるのに、それをどことなく他人ごとに感じるかのような意識が二つに分かれたような感覚にさいなまれつつも、とにかく自分の体の上に乗っている彼女から感じるとても大きな柔らかい何かを押しのけようとするのだが、その言葉を口にする前に彼女が取り出したポーションを口に突っ込まれてしまった。

 口から感じるレモンジュースと緑茶を混ぜたような味を楽しみつつ、今度女性陣にマッ缶の再現を頼んでみようかなどと余分な思考を巡らせつつ、周囲の様子を確認する。

 丁度ハチヤの傍らにはキリトが寝転がっており、アスナに抱き起されている(ように見えるだけで実際は縋りつかれているような感じの状態である)のを見て、とりあえずキリトは無事だというのを確認した。

 そのまま視線を周りにずらしていくと、ユキやクラインたちをはじめとしたここへ来るまでのメンバーも皆無事であることは分かった。

 ……でも、軍の方の被害はまだわからない。

 ハチヤは苦い顔をしているクラインにつぶやくようにして尋ねる。

「……被害は……?」

「…………コーバッツと、後一人……死んだ」

「……そう、か……」

「ボス攻略で被害が出たのは……随分と久しぶり、だな……」

「……こんなのが攻略なんて言えるかよ…………コーバッツの馬鹿野郎が……ッッッ!!」

 キリトの言葉に、クラインは吐き捨てるようにそういった。今回のことを客観的に考えるなら、きっと本当に正しいといえるのはコーバッツの自業自得というのが、本当の事実だろう。しかし、それだけのことを割り切られないのもまた人間であり、加えて……クラインのような面倒見のよい兄貴分気質で、尚且つ誰かの為にここまで本気で心を痛められる人間ならば、割り切る事はさらに難しくなるのは至極当然であり、きっと……とても尊い感情でもあるだろう。

 ひとしきりの沈黙がその場に漂ったが、クラインが何かを思い出したかのようにキリトとハチヤに先程見たばかりの二人の『とっておき』について訊いて来た。

「……って、そりゃそうと――おめェら、さっきのは何だよ!?」

「……言わなきゃダメか?」

「あったりめぇだ! 見たことねぇぞあんなの!!」

 キリトの言葉にクラインが即答。まあ、至極通然と言えばそれまでだけれども、キリトの言い分も現在囚われているSAOという環境――MMORPG、俗にいうところのネトゲでは、基本的にレアな装備およびスキルは秘匿するのが基本。とりわけ嫉妬の対象になる事が多く、加えてSAOは《VRMMORPG》だ。

 ここは、仮想現実のデスゲームフィールド。

 ゲームの中だが、出会えば所持しているアイテムを奪うことができ、嫉妬の果ての殺人(PK)すらもあり得る。故に、あまり大げさに()()()()()()()()()()()()()()()()、或いは吹聴とまではいかずとも()()()()()()()()()()()()ですらあまりいいとは言えない。とりわけキリトやハチヤは《ビーター》という名目の元、慕われることと同時に毛嫌いされてもいる。なので、秘匿をする方が波風を立てることもないという結論に至ったという訳だ。

 だが、ごくごく親しいクラインたちに聞かれたとあっては話さないというのは失礼である以上に心苦しい。それにもともと、時期が来れば話すつもりであったことであるのでこれ以上隠す必要もない。

「アレは……《エクストラスキル》、だと思う」

 そうハチヤが口にすると、周囲にどよめきが起こる。

 《エクストラスキル》とは、通常のスキルとは異なる特殊条件下でのみ取得可能なスキルである。

 ()()()()()()()()()()()というだけで、別段それに分類されるもの自体は珍しいものではない。身近なところではクラインの持つ《カタナ》スキルやキリトやハチマンが昔取得したことのある《体術》スキルもそれに分類される。

 だが、二人の使っているこのスキルはこれまで出現が確認されているどれにも当てはまらないもの。そんなレアスキルを持った二人を前にしてクラインは興味を惹かれた様に「しゅ、取得条件は?」と、聞いて来たが……生憎と二人とも、その出現条件は分からない。そう答えたところ、残念そうにしていたがそれ以上に二人の使ったスキルの概要を説明してほしいと言ってきた。

「で、結局なんだったんだよありゃあ……? 俺らは最後の方しか見てねぇからさっぱり分かんねぇぞ」

「俺のスキルは《二刀流》ってスキルだよ」

「俺のは……《神速》」

「はー……って、何にも情報がないってこたぁよ。オメェら専用――《ユニークスキル》ってことじゃねぇか……!」

 一旦二人の言葉を割るように、クラインがそう感嘆にも似た声を漏らしながら二人にいう。

 そう、こうした《エクストラスキル》の中でも、とりわけ取得条件が分からず持ち得る者がたった一人のようなものを《ユニークスキル》と呼ぶ。今現在、この場において露見した二人のスキルを除けば……このSAOにおいて、これまでの二年間にこれを得た者はたった一人のみ。その者こそ、この言葉の発祥となった人物であると同時に、この世界の最強と呼ばれる男でもある。

 だからこそ、そんな化け物のような強さの男に並びうるようなプレイヤーがここに現れた上に、その二人共が親しい間であるときた。クラインが気になるのも無理はないといえる。

「つか、キリトの二刀流ってのはなんとなくわかるけどよぉ、ハチヤのはどういうのなんだ? 素早く動けるってだけじゃねぇんだろ?」

「あぁ……一応効果の説明はする」

 この《神速》という名のスキルは、キリトの《二刀流》の様に只武器の拡張範囲が増すだけという訳ではないらしく、スキルを発動した瞬間ある種のリスクを背負う代わりにそれ以上のリターンを得るというのが、このスキルの肝である。

 そのリスクリターンとは、《効果を使用した時間》の《倍の時間技後硬直を受ける》というもの。ただし、これは取得した後での条件なので、最初期の頃は制限時間が決まっている(勿論元々の最大の制限時間も決まっているのだが)。

「その技後硬直と引き換えに両手で武器を《クイックチェンジ》できて、武器を取りこぼしてもすぐに手に戻せる。ただその代わりに登録できるのは両手合わせて四本まで、でもそのあたりに落ちてるのを拾ってスキルを使ったりもできなくもないみたいだけどな……」

 ハチヤが以前キリトの剣を使ってそれをやろうとしたら、あまりの重さに動けなくなってしまい、動けなくなったところを結局キリトに助けてもらったりもした。

「一応、制限時間は完全習得後なら三〇分。フルに使って動けるようになるまでの間に一時間ってとこか」

「……使い方を間違うと、本当に命にかかわるわね」

 先ほどまで説明には口をはさんでこなかったユキがそんなことを言った。

「ああ、まったくだ……」

 ハチヤは自嘲気味にそうつぶやく。

 

 それは、使える代わりに、もし使えなくなった瞬間に何もできなくなる。

 一か〇、命を賭けたデスゲームにおいてはなんとも頼もしく、なんとも心もとない力だ。

 《ぼっち》を自称していたものが持つには最もふさわしく、最もふさわしくないものでもあるだろう。誰かと一緒に居なくても最も速く、最も強く在れる力ではあるが……同時に、たった一人きりになった瞬間、他の力の前に――多勢に屈することになるような、その力。

 それが、この世界からハチヤに与えられた力。

 

 逆にキリトの力は、最も王道を行く最強の力。

 全てを切り裂き、全てを護る攻撃を防御に変えるほどの、勇者の力。

 全てを切り開き、全てを繋ぐもの――世界を導く力だ。たった一人でも、どこまでも進んでいき、仲間を得たときその力はさらに強いものへと変わっていく。まるで、思いが伝わっていくかのように、彼の力は人々を集めていく。守るべきものが増えていくごとに、彼は弱くなり、同時に強くなるのだから。

 スキルについての語らいをした後、一同はそれぞれ済ませておくべきことを済ませるべく動き出す。

 《軍》の一同は礼を述べて頭を深く下げると「もうこんな無謀なことはしない」と言い残し本部へと被害等の翻刻の為に戻っていき、クライン率いる《風林火山》とケイタやサチたちのギルド《月夜の黒猫団》は疲弊したハチヤとキリトに変わり転移門のアクティベートに向かい、ユキとイロハはシリカとルミ、そしてリズをそれぞれのホームへと送っていくといい、アスナとユイはキリトとハチヤのことをホームへと連れていくことに。

 そうしてそれぞれが役割を分け、それらを果たすべく動き出した。

 

 

 

 ――その日の夜、ハチヤ達のねぐらにしているパーティホームにて。

「……明日にでも団長に話を付けに行きましょう」

 そうユキは既に寝てしまった男性陣のいないリビングでユイ、アスナ、イロハに向けてそういった。

 それに対し、三人は是非もなく頷く。

 元からそのつもりだったし、こんなことがあった後で《KoB》の方に所属しているからなどという理由であの二人を置いて《任務》に当てられてはたまらない。あんな出鱈目なスキルを、というよりも……この世界での例外的存在の象徴たる《ユニークスキル》使いが二人も生まれていた、などという事が明日から大々的に発表されるであろう。

 クラインたちはともかく《軍》のプレイヤーたちの前でも使ってしまったために、おそらく情報の漏洩は避けられないであろう。

 面倒なことになる前に、さっさとことを済ませなければならない。

 四人の少女たちは危惧するような状態になる前に、以前のような体制を取り戻しておきたいというのが正直なところであったのだが――

 

 ――だが、彼女たちはまだ知らない。

 

 事態は、その抱いた危惧以上に深刻であるという事を。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 第五十五層《グランザム》にその中心たるギルド本部を置くSAOにおける最強と名高い《血盟騎士団》――通称・《KoB》。その総本山であるギルド本部の団長室にて、現在ちょっとした問答が行われていた。

 その原因の一つは、ギルドの最高責任者の椅子に文字通り座っている男の呈したことが原因である。

 その内容は、「――ハチヤ君、キリト君。君たちが我が《KoB》に入団してくれないか?」というもの。

 

 そう発したのは、このギルドの団長であり、尚且つSAO内最強・無敵の代名詞として知らぬ者はいないプレイヤー、《ヒースクリフ》。

 彼は、目の前に立つ五人――とりわけそのうちの二人に向けて――そう言い放った。

 何故こうなったのか、とハチヤとキリトはつくづくそう思った。

 

 そもそも事の始まりは朝方女性陣との会話の一幕から始まる。

 

 彼女らが早速仮所属のような形で所属していた《KoB》に退団の意思を伝えようと言うことになり、女性陣一同は勇んで出て行ったのだが……何故か、拒否された。

 これだけなら単なるギルド側の傲慢な束縛的対応とも言えるかもしれないが、それ以上にそれを口にした人物が先のヒースクリフであったが故に、単なる強制とも取れずにズルズルと彼の口車に乗せられてしまったと言うわけだ。

 彼は、このSAOにおいて最強プレイヤーであり、尚且つ最強ギルドの最高責任者でもあるにも関わらず、普段の彼――ヒースクリフはあまり情勢には口を出さない。ボス攻略でさえあまり口を挟まず、あくまでも保護者的な立場におさまるスタンスを崩すことはない。しかし、彼が単に役割(ロール)分けを他人に任せてそれを淡々とこなす様な惰性的なスタンスをとるだけの人間かといえば、その答えは否だ。

 彼は、その天性のカリスマとでも呼ぶべき人徳により、彼は攻略組のほぼ全員――ひいてはアインクラッドの大多数を占めるプレイヤーたちの心を掌握しているほどで、《最強》の象徴であると同時に、《憧れ》の的であるともいえる。

 そんな彼は先程の述べたスタンスと通り、命令指令といったものはほとんど出さない。

 出さないが、それは与えられたことだけをただこなすということではなく、むしろそれ以上に……寡黙なままであるのに、何処までも、そして誰よりも先頭に立ち、この鉄の城を突き進みながらプレイヤーたちに道を示すその様には敬服という言葉以外は不釣り合いだと思える程だ。

 そんなここSAO――《アンクラッド》では有名すぎる逸話の塊のような彼が、今回に限ってはそのもって余りある強権を発動してきた。

 何故今なのか、何故これについてなのか、その答えはその場で考えても分かりはしない。だからこそ、ハチヤとキリトは女性陣にヒースクリフが託した伝言の「立ち会いたい」という言葉を受けてその真意を確かめに行くことにしたのだが……その返答は、先程の言葉通り。

 キリト・ハチヤ両名に《KoB》に入団してほしい、というものだった。

「いや、なんでそうなるんだよ……」

 ハチヤがヒースクリフにどういうことだ、と言葉を突き返す。

 不満たっぷりなその心境を隠さず告げられた言葉だが、目の前に座っているヒースクリフはその学者か教授と言った風な威厳溢れるその見た目に反する事の無い表情を崩すどころか、寧ろどこか嬉しそうにさえ見えるほど穏やかに、されど鋭く言葉を返す。

「なんで、か……。それはこちらも言いたいところだよ、ハチヤ君。君たちとはボス攻略の旅に顔を合わせていたから、何故私がこんなことを言い出したのか、ある程度は想像がつくのではないかな?」

 何を……、とハチヤやその隣にいるキリトたちもそう思ったが、その思い当たる節がなくもないことに気が付く。

「――戦力、ってことか……?」

 キリトがぽつりと呟いた言葉を聞き漏らすことなく、ヒースクリフは「その通りだ」と肯定する。

 なるほど、なんともわかりやすい。

 思わずそう感心にも似た、称賛が漏れた。

 攻略組最強ギルド、《血盟騎士団》。その名に恥じない戦力を有してはいるが、戦力はほかの勢力にもそれなりに分散しており、規模や統括地域的な意味合いでいえば《軍》の方がその勢力範囲は広いと言えば広い。

 また、ハチヤ達がしばらくの間抜けていたこともあり、ここ《KoB》では副団長という役職にのし上げられたアスナたちの影響力がかなり強く及んでいる。ハチヤたちのいない間の彼女らのしてきたことはクラインたちから聞いたり、どうしても必要な討伐戦で聞いたりしたため、ハチヤやキリトの耳にも届いている。

 そういった意味では、ヒースクリフのいう事も一応分からなくはない。

 要するに、戦力を手放すのは本意ではないというのが一つ。

 だが、元からの所属という訳でもないので引き留めると強要は出来ない。ならば、パーティとして《KoB》に入ってくれ―― 掻い摘んで言えばそんなところだろう。

 確かに、このデスゲームをクリアするためには戦力を一丸としなければならない。如何せんMMORPGはソロや少人数パーティでは土台攻略は不可能だ。

 とはいえ、これまでハチヤたちのパーティは攻略の場にはいつも出ていた。だから本来そこまで言われる必要はないが……ギルドに所属していないステータス値の高いプレイヤーたちを入れようとするのはギルドリーダーの心情であり、同時に最も単純かつ明白な利益計算ともいえるが――。

「……申し出の意味は分かった。けど、その話に関して言えば正直なところ、お断りだ」

 ハチヤはそう言い切る。

「まあ、そう来るとは思っていたよ」

 ヒースクリフも半ばその答えは分かっていたらしく、たいして驚いた様子もない。

「そう来る――それは分かっていたが、それでもあえて言おう。貴重な戦力を、むざむざと手放そうとする人間がいると思うかね?」

 そうヒースクリフがいうと、その場には張り詰めたような空気が漂う。

 何方の言い分も正しいだろうし、決して不自然な事でもない。しいて言うなら、そこに有る者が公的なものを優先するか、個人間(こじんかん)を優先しているかの違いである。一触即発とまではいかなくとも、それでも背筋を抜けるこの感覚は、決して軽いものではない。

 しばしの沈黙、その後に流れを切ったのはキリトだった。

「……貴重な戦力なら、その護衛の人選には気を使った方がいいと思うけど」

 これは勿論、今回ハチヤ達の《ユニークスキル》が公になるきっかけとなったボス攻略に赴く前に起こった、《護衛役》たちとのいざこざについてのことである。

「その件についてはこちらの落ち度だった。そんな訳で、あの二人には現在自宅謹慎を言い渡してある。ハヤト君から聞いた限りだと、どうやら行き過ぎたのは彼らの方であるようだからね」

 至極あっさりとヒースクリフは自身の監督不行き届きを認める。あっさりと認めはしたが、それでも彼はその件があったからと言ってもヒースクリフはハチヤたちの勧誘をあきらめる気などさらさらないらしく、

「その件についてはこちらが謝罪するが、だからと言ってこちらとしてもせっかく副団長として職務を任せる人材を複数人得たというのに『はい、そうですか』と諦める訳にもいかない。それに加えて……目の前に強さを持った人間が現れているのというのに、勧誘をしもしないというのは《KoB》団長として――ひいては一プレイヤーとして、譲れない」

 ヒースクリフの鋼のような光を放つ瞳からは、すさまじい意志の力を感じられた。

 エゴ、と言ってしまえばそれまえでだろうが……そこには、この世界を生きる彼ら彼女らにとって、度し難いほどに根底に存在する感情が読み取れた。

 《剣》の世界。ここでのゲーム、つまりは仮想世界という場所での生を知った人間誰しもが持つ心。そう、結局のところ……こうして攻略組という位置づけに居続けている理由を幾つ並べても、その理由の最終的な収束地点はたった一つしかない。

 ――剣での戦いに魅せられている。

 とてもシンプルな、そんな感情。

 ただゲーム内で本当に起こる《死》の恐怖に駆られていただけの初期とは違い、今ではこの世界に囚われた人間はそれにある程度の折り合いをつけ、それぞれの生きる道を選び取っている。

 まして、こんなゲームの最前線に出ている者などは特にそうである。

 ゲームプレイヤーとしての感情――誰よりも先へ進みたい、そこにいたい。

 他のプレイヤーたちよりも、強く在りたい。

 ただ、それだけ。

 

 ――故に、この世界においての流儀に乗っ取って決めよう、と。

 

 ヒースクリフはそういっている。

 欲しければ剣で、己が持つ最大の力(ユニークスキル)によって示そうではないか、と。

 ごく客観的に考えてみれば、こんなことは茶番だと言えるだろう。

 賭けのような真似をする必要など皆無であり、そもそもの発端はヒースクリフからの提案によるもので、別段ハチヤ達がそれに乗るなどという選択肢をとる意味などないのだが……どういう事だろう。

 目の前にいる男は全く引く気がなく、要求する側であるはずなのにまるでこちらを挑戦者として見ている様にすら感じられる。

 ……引けない。引いてしまったら、何かがそこで終わってしまう。

 自分たちが、挑戦する側(プレイヤー・サイド)としての何かが欠けてしまうと、何の根拠もなく……されど、その場にいる全員がそう感じ取った。目の前の存在に背を向けてはならないと、まるで警告(アラート)の様に脳裏を駆け巡る。

 互いに譲れない事柄であると同時に、互いの利が交錯するが故か――その場を引くという選択が、条件を跳ね除けるだけの行動を縛り付けた。それはある種のカリスマの様でもあり、その大本たる男が持つ《最強》の力にふさわしい神聖さとでもいえる雰囲気を醸し出し、対峙する者たちをくぎ付けにした。

 そして、

「――欲しいものがあるのならば、己が最強たる全力をもって掴むというのがこの世界の流儀だが……君たちの答えを聞きたい」

 その言葉を発せられたとき、この場において最も勇者たる資質をもつ少年は一歩を踏み出して、その男に告げた。

「――いいぜ。あの時、あの二人とも同じことをした。その親玉を倒せば、さすがに完全に納得してもらえるだろうし……俺自身、アンタとは少し戦ってみたかったっていうのも、本音だ。だから、俺は受ける」

 黒い、夜空の様に澄んだ力強い瞳をまっすぐに向けながら、キリトはヒースクリフにそう言い放った。

「ただ、あくまでこれは俺の意思で、この問題は俺だけのものじゃない。だから、みんなの意見も聞いてからでないと決定は出来ない。ここにいる全員の意思を聞いてからじゃないと俺は〝闘わない〟」

 そうキリトが言うと、

「まあ、まず一人にそういってもらえただけでも十分光栄だ。しかし、私の目的はあくまでも君たち全員を我がギルドへ引き入れる事。そして、この場においてあと戦うかどうかを選ぶとするならば……」

 ハチヤに視線が向けながら、ヒースクリフはそのまま言葉を続けた。

「あとは、実質的には君だけだ。ハチヤ君」

 聞きようによっては、女性陣がまるで賭けの景品であるかの様に聞こえる分、かなり失礼であると思えるのだが……このヒースクリフがここまで言った。つまり、仮にこの場において勧誘を断ったところで――最後までその意思を曲げる気も、諦める気も、また手放す気も、譲る気もない、という事でもある。

「……ホント、いい性格してるな、アンタ」

 ギルドの連中の執着心はアンタ譲りなんじゃないか? とハチヤが続けようとした手前でヒースクリフは、

「それは有難う。……それでは、返事を聞こうか?」

 といって、それ以上の引き延ばしを許さない、というかのようにしてハチヤに結論を迫る。

 もはや、選べる選択肢はないに等しい。

 数少ない手札を切る状況は幾度となくあった。だが、この手札切りはあまりにもこれまでとは状況が違ったもので……かえって新鮮かもしれない等という自嘲的な考えを残しつつも、ハチヤはヒースクリフに短く告げた。

「……受けるしかねぇだろ」

 と。

 

 

 

 譲れぬものを賭けた闘いの幕が上がり、物語は加速していき……勇者たちの過ごす鉄の城での日々が、次第に終わりへと進んでいく。だが、その終わりが最果てのものであるかは、まだ誰にも分ってなどいなかった……。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 次回、『紅の殺意』

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 今回からアインクラッド編を本当に佳境へと持って行けるかと思い、この後の話と並行しながら繋げることを意識しつつ書いてみました。本当はアニメでいうところの『紅の殺意』は一本で済ませられるかなと当初の構想では思っていたのですが、実はぶっちゃけると、この作品自体を書いたのが二、三年前で……且つアインクラッドの後半はほとんどプロットに近い状態になってしまい、そのあとの『ALO編』の数話と『GGO編』の数話、『アリシゼーション編』のプロローグ&プロットの方がまだ小説然としているという……なんともわけのわからない状態になっておりまして、加筆中に展開や構成を変えることがしばしばでその分遅くなるという……。
 まあ、もう少しちゃんと書いてから出せよって話ですが、つい投稿を始めたので結構停滞しながら書いてました。特に、『圏内殺人』のあたりが凄く展開に迷いましたね……あそこで少しでもいいものにできるようにと自分なりの全力を注いでは見たつもりですが、それでもかなり至らない点がると思えるのでやはりもっと原作を読んだりしながら文章をより良いものにできるように頑張ります。
 それと、ふだんから誤字が非常に多いのでそこにも気を配らないととつくづく反省しておりますが、もし見つけた方がいらっしゃいましたら教えくださりますと非常に助かります。

 なんだか久しぶりにあとがきを書いたので、なんだか長くなってしまいましたが最後にもう少しだけ書かせていただきます。

 僕はこの作品もですけど、どちらかというと幸せになっている登場人物たちが見れるとほっこりしますし、辛い運命に抗って日常を護れたりするさまに憧れたり感動したり、改心した悪役と分かり合ったり、性根の腐ったキャラクターと意外な形で活躍するようなSSなどでいいなと思ったり、感動したりする単純な人間なので……いくら試練があっても、傷があっても、それでも幸せへの道を探せればなぁと思いながら書いてます。
 もちろん、ただ漠然とその物語を書くだけではめっちゃくちゃになりますし、仮に幸せであるように書いたつもりであっても、きっと何の価値もないものにしてしまうことになるのは痛い程学びましたので、自分なりにそのバランスを崩さないようにと気を配りながらキャラクターたちが笑いあえるような作品になればいいなと思いながら書いてます。
 でもどうしても、悲劇だけで終わったり救いが無かったりするのはもったいないような気がするんです。悲劇の後に何もかもを失っても、それでも何かを愛したり、互いに想い合えたり、意志を貫き通したりできるのなら、その方がいいのではないかなと……。
 なので、悲劇は現実でも作品内でも生きている以上は起こりうるものでありますから、それに少しでも抗ったり受け入れたりして、彼ら彼女らがあるいは自分たちが、その先で友人や家族と言った人たちと笑いあえるようだったらいいなとそう思います。
 『もしも』を作るのが二次創作なので、多分僕やほかの作家さんたちも好きな作品の中で『こうだったら良かったかもしれない』という思いを抽出して作っているような感じなのではないかなと勝手に思っています。

 前書き以上に長々と書いてしまいましたが、今回はこの辺で幕引きとします。

 それではよろしければ次回以降もよろしくお願いいたします。



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