ストライクウィッチーズ Assault Warfare (t5m5k2)
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回収済み機密情報
インテル#1


設定資料です。

【注意】
第1話ではありません。
また、次話かと思われた方、申し訳ありません。



【機密ファイル #1-1】

 

○アレン・ロイド・レスリー

 

NATO連合軍、タスクフォース108所属のアメリカ人。アクイラ(鷲座の意味)隊の「アクイラ1」を努める。アメリカ空軍、タスクフォースを通して階級は少佐。32歳。

 特に変わった性格はない、普通の軍人。周りと冗談を交えながら会話する姿を時々見られている。幼いころ、当時現役パイロットだった父に誘われて何度か見た米軍の展示飛行を見て憧れ、空軍入隊を決意した。

 訓練を重ねるうちに飛行技術を磨き、単独による戦闘スタイルが定着した。というより、味方機と連携して行動することが苦手である。このため、上層部からは良い評価を受けていないが、戦果は必ず挙げるとして数々の作戦へ投入されている。タスクフォース結成時につけられた部隊名は、アレンの戦闘スタイルに合わせてつけられたものだと言われている。

 ウィリアム・ビショップ中佐との面識は、タスクフォース結成時からある。特に、カルースで初めて反政府軍エースのアンドレイ・マルコフと対峙した時、追われていたウォーウルフ2番機、ホセ・ガッツ・グティエレス大尉をビショップが援護した時からの交流は深い。以降、様々な作戦において共同で作戦に当たり、その中で部隊内での連携が必要であることを学ぶ。

 ワシントン奇襲へ向かう反政府軍部隊をマイアミ上空で迎撃した際、マルコフから放たれたミサイルを、ビショップが乗機のF-22ごと体当たりしたことにより助けられる。しかしその結果、ビショップは撃墜される。その後ワシントン防空戦に参加し、ホワイトハウスへトリニティの投下を試みるマルコフとドックファイトを繰り広げる。ホワイトハウスへ投下されたトリニティを破壊するが、その爆発に巻き込まれた。

 

 

 

○搭乗機…F-15SEⅡ サイレント・イーグルⅡ

 

 ボーイング社が開発した戦闘爆撃機。ベースはマクドネル・ダグラス社のF-15Eストライクイーグル、及び、前世代のF-15SE。ステルス性やアビオニクスは前世代の水準を維持しつつ、対艦ミサイル(Harpoon block III)も格納できる大型のウェポンベイによる兵器搭載量の拡充と、推力偏向ノズルによって機動力を強化し、一機でより大きな戦果をあげるよう要求された結果開発された機体。

 開発は遅れる見込みであったが、2011年に紛争が発生。それを機に、アメリカ軍は開発のペースアップを要求し、急ピッチで作業が行われた。2012年に試験飛行が成功し、翌年には実戦配備が決まった。パイロットには、それまでF-15Eに搭乗していた者が選ばれ運用されている。

 




いかがでしょうか。

矛盾点、あり得ない点などありましたら感想やコメントでお知らせください。




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インテル#2

本文を読んで機密情報を入手


【機密ファイル #2-1】

 

部隊名 :新型ネウロイ調査班

管轄 :ブリタニア空軍

上級単位:空軍軍事情報部第5課((A-MI5)

 

 新型ネウロイ(=以降『トリニティ』と表記する。詳細についてはファイル#2-2に記す)の出現を受け、ブリタニア空軍及び連合軍司令部は、このネウロイを最高レベルの脅威として仮認定し、さらなる詳細な情報の収集を決定した。その一環として、501基地へ調査班派遣が実施されている。尚、以上は派遣日に届いた書類からの情報である。

 

しかし真の目的は、ネウロイの調査ではないらしい。先日501基地で発生したF-15SEⅡの機体トラブルへの関与が疑われる。トラブルの原因については、現在パイロットを中心に調査が行われている。その他何点かについて不審な動きがみられている。

 また、空軍の情報部が命令を出していると公表されているが、それ以上の情報はなく、空軍の誰が指揮しているのか等は不明である。

 詳細は後日、調査して明らかにされる予定。

 

調査班メンバー

〇ミック・クロウリー  階級:中尉 元所属:ブリタニア空軍

 

〇キム・ボルトン  階級:少尉 元所属:ブリタニア空軍

 

〇コリン・ハーディング  階級:上級曹長 元所属:ブリタニア空軍

 

〇エドマンド・コノリー  階級:上級曹長 元所属:ブリタニア陸軍

 

〇エッカルト・ユンカース  階級:少尉 元所属:カールスラント軍技術部

 

                             #2-1end.

 

 

【機密ファイル #2-2】

 

新型ネウロイ『トリニティ』についての情報。

 

 一週間前、ドーヴァー海峡上で確認された新型ネウロイ、通称『トリニティ』。第1発見者は、連合軍第501統合戦闘航空団所属のサーニャ・V・リトビャク中尉(原隊:オラーシャ陸軍戦闘機連隊)との報告がある。

 彼女と応援で駆け付けた別隊員によると、中尉による攻撃の直後、ネウロイは巨大な爆発を引き起こし、高温の火球と爆風を発生させたとのこと。実際に、70キロほど離れた501基地でも突風が観測され、これはネウロイの爆発によるものだと考えられる。

 『トリニティ』の名がつけられている兵器は別の世界に実在している。ネウロイの変化は、実在しているものと酷似しているため、記録者自身、妙な感覚である。

 尚、このネウロイに関する調査は現在も続けられており、ブリタニア空軍及び連合軍にて解析中である。また、重要参考人として、501基地所属の『ブリタニア南部方面臨時特設防衛部隊』の隊長、アレン・ロイド・レスリー空軍少佐が招かれている。

詳細が公表され次第、続報として記録する。

 

#2-2emd.

 

 

[情報記録者:ゲイリー・ローチ・サンダーソン上級曹長]

[保存日:1944年〇月×日]

 




しばらく続けて見ようかと思います。



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インテル#3

※閲覧して情報を入手(笑)

ここまでではまだ影の薄い人物ですが、お世話になっておりますので整理しています。




【機密ファイル #3-1】

 

氏名 : ディアナ・ルイス・エンデン

性別   : 女性

年齢   : 28

階級   : 大尉

 

 NATO連合軍タスクフォース108の多目的ヘリコプター部隊、『ノーマッド63』の機長を務める。元々はアメリカ陸軍の第160特殊作戦航空連隊、通称『ナイトストーカーズ』のヘリコプター部隊に属していた。タスクフォース編入後は、5機のMH-60から成るノーマッド隊の3番機として、連合軍とアフリカ反政府勢力及びNRF(新ロシア連邦)の作戦行動ではSEALsやデルタフォース、連合軍とロシアの超国家主義勢力による作戦中にはタスクフォース141の輸送・強襲に携わる。

 当時彼女がまだ5歳だった1991年にイラクで湾岸戦争が勃発し、彼の父もヘリコプターのパイロットとして派遣されたが、作戦中に敵のミサイル攻撃で被弾しヘリコプターが墜落、機体は大破し、戦死した。幼かった彼女は、父をとても慕っていた。その父を失った彼女は、大きなショックを受けた。 成人後、彼女は敢えて父と同じ陸軍、そして同じ部隊への入隊を志願した。結果、若くして『ナイトストーカーズ』のヘリパイロットとして入隊した。

 

 後に搭乗機となったS-70シリーズに限らず、様々なヘリコプターを短期間で自在に操るほどの習得力がある。現在でも、アメリカ製以外のヘリコプターでもすぐに操縦できるほど。自他ともに認める凄腕の操縦技術の持ち主でもあり、特にMH-60は操縦系を手足のように操る。ロシア超国家主義勢力との戦争中、ロシア軍がワシントン周辺に侵攻した際には、撤退する地上部隊へ襲い掛かる2機のMi-28を援護のない中で相手取り、見事に操縦不能に陥らせることにするなどの逸話もある。本人は、『いくら電子化されていても頼っちゃ駄目ね。ヘリの操縦だって五感が大切なのよ』と振り返る。

 

 

【機密ファイル #3-2 (航空機)】

 

種類 : ヘリコプター

機種 : MH-60M

 

アメリカのシコルスキー社が、自社のS-70ヘリコプターを改良して開発した軍用中型ヘリコプター『UH-60』の発展型。UH-60は、1980年代以降、アメリカ軍が関与する戦闘のほとんどに参加してきた。また、多くの改良が行われ、海上運用のSH-60やアメリカ以外でも運用されている。基本型であるUH-60は、乗員2人と、陸軍の歩兵約一個分隊である11人が乗り込める。陸軍特殊作戦仕様のM型には随所にデジタル化が施され、グラスコックピットやフライ・バイ・ワイヤ、大型の戦術情報指示ディスプレイが装備されている。また、武装としてM134D『ミニガン』を最大2門装備できる。

 UH-60ファミリーはもともとUH-1シリーズの後継として採用された。現在は開発から20年がたち、UH-60の後継探しが始まっている。

 

 




批評、誤字脱字報告、矛盾点報告お待ちしています。


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インテル#4

部隊名 : NSG

 管轄 : なし(民間団体のため)

上級単位: なし(民間団体のため)

 

正式名『Neuri Search Group(=ネウロイ調査団)』。団体の本部はスオムスの東部、オラーシャとの国境付近にある。構成員の話によると発足は1930年で、以来長期にわたってネウロイの実態や発生地(=巣)、行動範囲や個体の種類について記録し続けている。この記録は、スオムスはもちろん、カールスラントやブリタニアの正規軍への提供も行われている。

 

発足後は、主にオラーシャ、スオムス、カールスラント北東部を中心にネウロイを調査している。同時に、活動地域内でトラブルを起こしたウィッチの救助も、各国正規軍から依頼されている。因みに救助任務の対象となるウィッチを所属別に分けた場合、最も数が多いのはスオムスのとある部隊らしい。

 

特筆すべき点として、国家正規軍・義勇軍のどちらでもなく民間の団体であるということが挙げられる。陸上戦に特化した地上型が多い地域のため、メンバーが攻撃に巻き込まれるリスクが高い。被害を抑えるため、高軌道の雪上装甲車や戦車をはじめ、対戦車用地雷までも所有している。入手先は明らかにされなかったが、NSGの拠点がスオムスにあるため、この国の正規軍か義勇軍の一部を割かれているかもしれない。

このことに関して、世間からは、『民間団体のレベルとは思えないほどの行動力がある』『軍と比べて情報の公開が広く行われており、信頼がおける』といった声が寄せられている。他団体からの支援が多いのも、その証拠と言える。

一方、『民間団体としては強力過ぎる兵器をそろえており、反乱を起こされては対処に問題がある』『武装の入手先を明らかにしていない点では、信頼がおけない』といった声が、各国の軍を中心に上がっているらしい。これに関しては、NSGのリーダーも声明を出し、ネウロイを殲滅するために誓い、調査をしていると宣言している。

 

最近になって、激戦地である黒海周辺とブリタニア海峡に調査チームが派遣された。特に攻撃力のあるネウロイが出現するため、ブリタニア正規軍の司令部からの直接の要請があった。今回タスクフォース249によって救助されたチームは、ブリタニア派遣隊の一部である。先日501基地のストライクウィッチーズ隊員が遭遇した『トリニティ』型の追加調査にも加わっていた。救助したメンバーは低体温症の恐れがあるため現在は501基地で治療中。翌日には派遣隊のほうへ引き渡される。

 

 

[情報記録者:ゲイリー・ローチ・サンダーソン上級曹長]

[保存日:1944年〇月△日]

 



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第1章
1 , モヒカンと幽霊とGと生物用語


まだCoDMW2とGRFSしか出ません。

若干キャラ変えてしまっていますが、それでもよければどうぞ。


「んぐぅ…?」

「あ、気づきました?大尉。」

「随分寝てましたね。顔に落書きしても起きなさそうでしたよ。」

 

広大な大地の上に、3人の姿があった。しかし、いまいる世界の人間ではない。

 

「ん?おぅえ!?何処だここ?」

「分からないんですよ。」

「どこにも繋がらないし、GPSも反応しない。」

 

そう、彼らはついさっきまで、戦乱のワシントンD.Cにいた。マカロフ率いる超国家主義勢力との決着をつけるべく、奮闘していたのだ。しかし今居るのは、彼らからすればアフリカの自然地帯だ。

 

「あれ?確かナショナル(空港)の防衛戦にいなかったか?」

「そうっす。奴らが投げたフラッシュが爆発したのまでは覚えてるんです。」

「その後、どういう訳やら、こんな平和な所に来てしまったってこところですね・・・。」

 

市民が逃げ遅れたナショナル空港をマカロフの手勢が襲い、襲撃の直前に気付いた彼らは、わずかに早く到着し、互角の攻防を繰り広げた。彼らの名は『タスクフォース141』。イギリスのSASやネイビーSEALsなどから精鋭を集めた部隊だ。

 

「んむむ…。何が何やら。」

「誰か居ませんかねぇ。いくらサバイバリティ溢れる訓練を積んでいるとは言え、何も分からないんじゃ困りますよね。第一、食べ物がない。」

「お前はゴキブリだから問題ないだろ?『ローチ』。」

 

『ローチ』と呼ばれた人物は、なっ!と声を上げて抗議した。

 

「ひどいっすよ『ゴースト』!」

「体を清潔にするには、大尉が一番ですね『ソープ』?」

 

『ゴースト』と呼ばれたバラクラバとサングラスの人物は、モヒカン頭が特徴の『ソープ』と呼ばれる人物にも振った。

 

「何!?俺は石鹸じゃねぇ!じゃお前は幽霊か!」

「怪談話で夜の見張りを安全にしてくれるんですかね?」

 

『ローチ』が呟く。ほぉ、そいつは便利だと『ソープ』。嘘です!すみません!ホラーはダメです!!と『ゴースト』。相変わらず平和な空気に、3人は笑いあった。すると、おお~いと遠くから声が響いた。3人は辺りを見渡す。『ローチ』の視界に、3つの影が入った。豆粒に見えるが、2つの更に小さな1つ。持っていたHK416に着いたACOGサイトを覗く。4倍率のスコープを通して見ると、自分達と似た格好の人影があった。しかし隣にある物体を見て

 

「なんだ?ありゃ。」

 

と声を漏らした。

その声に気づき、『ゴースト』が尋ねる。

 

「どした?」

「いや、あいつが連れてる車?みたいなやつです。」

 

『ゴースト』にACOGを渡す。それを覗き込んだ『ゴースト』は

 

「あれは多分、アサルトドローンの類だな。」

 

 

*****

 

 

しばらくして、走ってきた人物が到着した。アメリカ軍の認識章、持っているのはACRとMP7…おそらくA2だろう。しかし外見のみで分かったのはそれだけだった。ヘルメットにサングラス、首まであるバラクラバ―――さながら『ゴースト』だ。さらに目の前の人物は、アサルトドローンに加えて飛行型のドローンも持っていた(遠くからは見えなかった)。

 

「良かった。独りぼっちじゃなかった。」

 

走ってきた人物は、少し荒い呼吸をしながらそう言った。

 

「お疲れ様…。というか、どちらさま?」

「アメリカ軍っすね。」

 

『ソープ』が問い、『ローチ』が呟く。

 

「はい、アメリカ軍特集作戦群のゴーストチーム所属、ジョン・コザック上級曹長です。」

 

姿勢と息を正し、自己紹介をした。

 

「タスクフォース141所属、ジョン・"ソープ"・マクタビッシュだ。階級は大尉。よろしく。」

「同じく、サイモン"ゴースト"ライリー。中尉だ。」

「同じく、ゲイリー"ローチ"サンダーソン上級曹長です。よろしくお願いします。」

 

4人はそれぞれ握手を交わした。

 

「『ゴーストチーム』?」

「あれ?中尉の名前も『ゴースト』でしたよね。」

 

ソープとローチが首を傾げる。コザックが2人を交互に見る。ゴーストは、頭の上に?マークを上げる2人に説明を始めた。

 

「アメリカ軍内にある、俺みたいな格好した4人組の部隊です。いろんな潜入作戦や極秘任務に充てられる、まさに幽霊達ですよ。」

「へぇ~」

 

ローチがすげぇというふうに答える。するとコザックが口を開いた。

 

「知らないのも無理無いです。ライリー中尉は、以前SOCOMのほうにいらっしゃいましたよね。」

「お?知ってたのか?」

「お話だけ。私共のゴーストリード…ファーガソンから聞きました。」

「あの野郎、チームのリードになったのか。やっぱすげぇな。」

「お二人さ~ん。大尉が、少し話があるって。」

 

ローチが、一応キリを待って入った。ほい、とゴースト。はい、とコザック。

優秀な4人の兵士が集まった。

 




なんともいえないです。展開が下手な気がします。

どんな評価でも受けますので、何でも言ってくださいm(_ _)m


読んでくださってありがとうございます。


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2 , 放浪者と鷲

部隊名を考えていたときは気付かなかったのですが、アクイラ隊って、エスコンのなかで登場していたんですね。AH,X2しかプレイしたことがなくて…。

でも個人的に気に入った名前なのでこのまま行こうかと思います。


1話の4人と残りの2人が出会います


耳障りな甲高い音が、コックピット内に響く。不規則な飛行が続いたことを感知したセンサーが、警告音を発しているのだ。どこかへ行きかけた意識が戻り、パイロットは重い瞼を上げた。

 

「うぇ…?」

 

ぐるぐると回る視界と鳴り響く警告音を認識したパイロットは、乗っている機体が半ば永遠にロールをしていることを知った。サイクリックにかけた右手の小指に力を加える。レバーにいくつも付いているボタンのひとつ、自動操縦を起動したのだ。ロールの速度が落ちて傾きを示すメーターが0になり、下降しかけて下を向いていた機首も水平に戻る。うぅとうめき声をあげたパイロットは、HMDの表示をHUDに切り替えてバイザーを引き上げた。途端に、視野に飛び込んできた光景に絶句する。

 

「どこだここ?!ネバダか?」

 

辺りを見回す。明らかに、つい先刻までパイロットが居た場所ではない。パイロットはさっきまで、大小高低の建物が立ち並ぶアメリカの首都、ワシントンD.Cの上空にいたのだ。眼下には、サファリパークを思わせる光景が広がっている。とにかく連絡をとろうと、パイロットは無線のスイッチを入れる。

 

「マジック、こちらアクイラ1。状況は?オーバー。」

 

彼の指揮官だった『マジック』に呼び掛けるが、返答はない。ザーッという音が響くだけ。『アクイラ1』はもう一度呼び掛けた。

 

「こちらレスリー。マジック、聞こえるか?」

 

しかし、聞こえてくる雑音に変化はない。コックピット内に、高いエンジンの回転音のみが響く。ウソだろ、と一人呟いたアレンは、思い出したようにGPSの呼び出しを行った。コンソールの右にあるディスプレイが点滅する。どこかの地図が出るかと思ったが、何も映らなかった。変だと首を傾げ、次にレーダーを再チェックする。一旦暗くなった画面に『waiting』の文字が浮かぶ。今度こそは、民間機の一つくらい反応するだろう。画面が明るくなる。すると…

 

「2時方向…。ん?ヘリか?一機だけ?」

 

画面の右上、アレンの機体から約50度の方向に出た。味方を示す青色の点の上に、『MH-60』と表示されていた。だが一機だけで居るというのは、何か変だ。立て続けに起こる不思議な事柄は、アレンに、何かが変わったことを感じさせた。アレンは味方のヘリにコンタクトをとるべく、スロットルとサイクリックにかけた手を握り直した。ヘルメットのサンバイザーを下げる。表示が切り替わったのを確認したアレンは、機体を右にロールさせた。青空に甲高い排気音が響きわたる。

 

 

*****

 

 

無線による交信から、例のヘリは、アレンも所属するタスクフォース108のヘリ部隊の一機だと分かった。コードネームは『ノーマッド63』。ワシントンの防衛戦で、ディーレイの攻撃ヘリ部隊と合同で参加していた多目的ヘリ部隊だ。アレンも面識がある。知り合いがいて、アレンは少し安心した。意味不明な出来事が続き、あてもなく飛べば燃料が無くなると考えた2機は、取り敢えず着陸して休むことにした。

 

「システム、マニュアルチェック、着陸準備。…ギア展開、エンジンノズル、フラップ稼働。着陸開始。」

 

スロットルの親指を押し込む。ウインという機械音が鳴り、続いてゴォっとエンジンの排気音が背後で起こった。アレンが乗るF-15SEⅡはV/STOL機能を備えた設計だった。F-35の機能を譲り受けたといえる。さらにアレンは改良を重ねたというが…、今は伏せておこう。

HUDの高度表示が徐々に下がる。0に近づくにつれて、減る速度が遅くなる。着陸作業を開始してから20秒、アレンのF-15SEⅡは大地へと着陸した。各部のチェックを終え、すべての電源を切ったアレンは、ヘルメットを置いて、何時間ぶりかに地面に降り立った。そのすぐ横に、ノーマッド63のMH-60も着陸した。鉄の塊を操る二人は、これからどうしていくかを話し始めた。

 

*****

 

とりあえず理解できたこと。それは、今アレンが居る場所が、2016年の地球ではないことだった。GPSも無線もつながることがないなら、少なからず、衛星やマジックはいない。二人で話し合っている中、ノーマッド63の機長、ディアナ・ルイス・エンデンは無線の周波数を調整し、二度目の探索を行っていた。つながるか否か、アレンは半分期待しつつ待っていた。すると。

 

「あ、ヒットしたわ。これは…、141部隊かしら?」

「なに?141?」

 

正直、アレンは聞いたことが無かった。ただ、ディアナが知っているなら助かる。

 

「知っているのか?」

「えぇ。ナショナル空港で超国家主義の連中から市民を守ってたそうよ。私たちもその援護に向かってたんだけど…。」

 

ナショナル空港――確か、マルコフが最後に放ったトリニティをアレンが破壊したD.Cのすぐ近くにあった空港だ。

 

「で、通信できるのか?」

「多分ね…。やってみるわ。」

 

そう言うと、ディアナはコックピットに置いたヘッドセットを頭にかけ、マイクのスイッチを入れた。

 

「こちら、タスクフォース108のノーマッド63。141、聞こえる?」

 

数秒経ってから、ディアナがうれしそうな表情でアレンを向いた。どうやらつながったようだ。無線機の音声をスピーカーにつなぐ。

 

『こちら、タスクフォース141。マクタビッシュ大尉だ。感度良好。オーバー?』

「良かった…。マクタビッシュ大尉、そちらの位置は分かる?」

『あー、フレアーを打ってみようか?』

 

フレアー―――花火のようなもので、発火すると大量の煙を発生する。主に歩兵が、自分の位置を知らせるマーカーとして使うものだ。昼夜問わず、遠距離から視認できるという代物。

 

「どうする?」

 

ディアナが問う。

 

「無線が入るなら、少なくとも遠くにはいないだろう。上げてもらって、探しに行くべきだな…。」

 

アレンは答えた。そうね、とつぶやいたディアナは

 

「141、聞こえる?今からこちらのヘリを飛ばすから、フレアーを上げて頂戴。拾いに行ってあげるわ。」

『了解した、63。頼んだぞ。オーバー』

「任せて。アウト。」

 

 

*****

 

 

4人と2人は無事に合流した。それぞれの自己紹介を終え、6人でこれからどうするかを話し合い始めた。

 

「(ロ)もしここが何も無いアフリカのど真ん中だったら、まずは食べ物の確保ですね。」

「(ゴ)詳しく言えば、まず飲料だな。」

「(ア)飲み物無いと死んじまう。」

「(コ)どこにありますかね、水…。オアシスとかですか?」

「(ディ)今さっき飛んできたときには見当たらなかったわ。」

「(マ)困ったもんだ…(はぁ)」

「(ゴ)大尉、さっきから『困った』しか言ってないですよ。」

「(マ)だってそうだろ…。それに俺は年取っちまったんだからよ。」

「(ロ)まだまだ30ちょっとですよ?」

「(コ)探せるところまで探しましょう。」

「(ア)そうだな。もう少しフラフラっと飛んでみて、どこかそれっぽいところに行ってみるか?」

「(ディ)そうね、少佐が探して、私たちがついていく感じかしら。」

「(ロ)本当助かりますね、ヘリって。」

「(ゴ)そもそもゴキブリは飯いらないだろ。」

「(マ)そう言う幽霊もだろ?」

「(ロ)またそのネタですか!?もう飽きましたよ(`・w・’)!」

 

141の3人にとっては3度目。コザックと108にとっては2度目のことだった。6人の笑い声が、また草原に響き渡る。しかし突然、アレンのF-15SEⅡのコックピットから警報音が響いた。少し遅れてディアナのMH-60もピーピーという音を鳴らす。明らかに敵、もしくは所属不明のものが接近したことを感知した音だった。6人は笑うのを止め、警報に神経を集中する。機体に駆け寄ったアレンは折り畳みのはしごをおろし、コックピットに飛び込んだ。すぐさまレーダーのディスプレイを入れ、接近する正体を探り当てる。しかし、ディスプレイに映った反応に、アレンは目を疑った。戦闘機や輸送機とは呼べないほどのサイズだった。アレンが何だこれは、と呟いたとき、ローチがあれは!?と叫んだ。コックピットから顔をだし、ローチが指差す方向を見上げる。そこには、さらに信じられない光景があった

 




読んでくださってありがとうございます。


やはり難しいです。

なにかコメントいただけるとうれしいです。


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3 , ゲームの世界

だいたい人物が出そろいました。
CoDMW2のTF141の3人、GRFSのコザック、ACahのTF108の2人と、501部隊が出会います。

あり得ない描写もあるかもしれません。
 シェパード大将>>了解だゴースト、作中に変な描写がないか調べろ。誤字脱字にキャラ崩壊、何もかもだ。


「全員聞こえる?敵は大型の単機よ。装甲は厚いだろうけど、落ち着いて叩いて。いいかしら?」

ミーナが怒鳴ると、追随する僚機から了解の返事があった。

「しっかし本当に大きいなこりゃ。」

「時間かかりそうだね~」

「さっさと終わらせちゃおう。」

 いつもの戦場ね、とミーナは思った。そろそろ、奴―――ネウロイとの交戦距離に入る。さながら航空要塞のようなネウロイは、美緒ら連合軍第501統合戦闘航空団と真正面からぶつかる勢いだった。作戦開始の合図を出そうとした瞬間、ミーナの視界に異色の物体が飛び込んだ。

 

「飛行機―――?」

 

誰かがそうつぶやく。

 

 

*****

 

 

驚いたのはアレンの方だった。なにせ、意味不明の巨大な黒い物体と、これまた理解不能なことに生身の少女らが空を飛んでいるからだ。

 

「おいおいおい、何だこれは!?」

『(ロ)どうかしました~、少佐~?』

『(ディ)さすがにここからじゃ見えないわね。』

 

呑気な…、いや、状況を知らないがゆえに落ち着いているのか、そんな平和ボケした声が返ってきた。

 

『(ゴ)何が居ますか?特にでかいのは。』

「えっと、滅茶苦茶でっかい爆撃機みたいなのがひとつ。それと、女の子!?レシプロ??!」

『(マ)少佐、落ち着いて。爆撃機と女の子だって?!』

『(コ)レシプロって…。ここは1900年代ですか?』

 

とにかく信じられない。でっかい、とにかく大きな黒い浮遊物。それと、それに向かって飛ぶ少女ら。しかも、少女らがどうやって飛んでいるかというと

 

「履いてる…?プロペラが足にくっついてる?」

 

というのだ。再び混乱し始めた思考を整理しようとした刹那、ヘルメットのヘッドフォンがけたたましい警報音を奏でた。目の前で浮かぶ黒い物体から赤い光線が伸びてくる。何かは分からないが、あわててスロットルを全開にする。上を向いたままだったので、HMDの高度を示す数値が爆発的に上がる。それでも警報音が続くので、アレンはスティックを手前に引いた。推力偏向ノズルとフラップが動き、機体が後方へ倒れる。警報が鳴りやむと、黒い物体を正面にとらえることができた。どうやら、警報音を発させた原因は先ほどの光線らしい。

 

「野郎…。確認なしで攻撃するとは良いサービスじゃねぇか。」

 

アレンは素早く兵器コンソールに手を伸ばし、兵装の残弾チェックを行った。AIM-9Ⅹが1つ、AIM-120Dが2つだった。あと、M61A3機関砲が90発。どの程度の厚みを持った装甲かは知らないが、アレンはAIM-120Dを1発撃ち込むことにした。発射ステーションにミサイルのマークをスライドさせる。HMDに目標のカーソルが生まれ、黒い物体に重なる。カーソルが赤くなった瞬間

 

「喰らえ、FOX3!」

 

バシュッという音とともに、白い噴煙が伸びていった。すると、再度の警報音とともに、黒い物体から赤い光線が伸びてくる。

 

「新兵器のご登場だな。まるでどっかのゲームみたいだ。」

 

とつぶやいたアレンは、加速して機首を起こし、向かってくる無数の光線を交わした。ドンという音が響き、先ほど放ったミサイルが命中したのを確認する。同時に光線の雨が止む。スティックを動かして、再び黒の浮遊物に機首を向ける。見ると、浮遊物からもうもうと煙が上がり、物体が不自然に傾いている。どうやら効果があるようだ。

 

「ふぅ…、あのドス赤いのはなんだ?」

『(?)そこの戦闘機。聞こえるかしら!?』

 

突然の怒声に、アレンはびっくりした。

 

「はいっ!何でございましょうか!?」

 

いつのまにか無線が繋がっている。あまりにも唐突だったので、無意識のうちに変な敬語が出た。もしかして味方同士?攻撃してまずかった感じ?

 

『(ゴ)今度はいったいなんですか少佐。』

『(ロ)賑やかですね。』

『(?) あなたはどこの誰かしら?所属と名前は?』

 

随分怒っているように聞こえる。お前こそ誰だと聞き返そうと思ったが、やめた。

 

「NATO連合軍、タスクフォース108所属、アレン・ロイド・レスリー少佐だ。コールサインはアクイラ1。…勝手に手を出して悪かった。」

『(?) なとー?たすくふぉーす?108?どこの部隊かな~。』

『(?) とにかく危険よ、離れてなさい。』

 

むこうは何ら自己紹介しないままだったが、アレンは何も言わずに離れた。そのまま降下し、ノーマッド63のヘリまで近づく。

 

『(ディ)どうだったの?』

「なんか空飛ぶ女の子が10人くらいいた。ミサイル1発撃ったら怒られたけど…。」

『(コ)なんですかそりゃ?レシプロ機ですか?』

「いや、何か足に履いててさ…。小さいプロペラ?みたいなものがついてた。」

『(マ)もしかしたら、俺らから言うトンデモ超兵器の登場のようだな。』

『(ゴ)でっかいのはなんでした?』

「えっと、黒くてとにかく大きな要塞、って言ったほうがいいかな。ミサイル当たったら真っ赤なのが見えた。」

 

ここからは、雲に隠れて少女や浮遊物が見えない。もう一度上昇してみるのも良いが、また怒られるのはゴメンだ。ましてや、

 

「なんかごついライフル持ってたな…。LMGのような…。」

 

といった武器?に撃たれかねない。

しばらく考え込んでいると、思い出したかのように数本の光線が降り注いできた。遠くに見えただけで当たりはしなかったが、さっきアレンがミサイルを当てた物体が、また攻撃を開始したのだろう。

 

『(ク)あれは…?』

「そう、レーダーに映ってる大きな物体が攻撃に使っているであろう光線。どんな兵器かは知らないけどな。」

『(コ)レーザーに空飛ぶ少女か…。』

『(ロ)テレビアニメみたいっすね。』

 

ローチが言ったことは、間違いではなかった。

その時、ヘルメットのヘッドフォンが警報を鳴らした。コンソールに目を走らせると、例の物体が接近していた。左を振り向くと、さっきの下の部分がのぞいている。上空の少女らの攻撃で堕ちてきたのか?しかし、その考えは違った。物体自ら降下している。しばらくして全体の8割が見えたころ、再び光線が伸びてきた。

 

「うぉぇ?!」

『捕まって!回避する!!』

 

幸い距離があったため、あたることはなかった。流れ弾か、または狙われてたか。アレンは攻撃してくる物体を何とかしたい気持ちになった。

 

「奴を墜とす。63、低空に退避しろ!」

『了解、幸運を。』

 

いつものレスリーに戻った。戦場で飛ぶ彼に。

雲より下に来ていた物体は、再び高度を上げて見えなくなった。それを追ってアレンが雲を抜けると、さっき黒煙をはいていた物体が健在だった。対する彼女たちは―――

 

『来るわ、よけて!』

『きゃぁぁぁっぁぁ!』

『また来るわよ!!』

『リーネちゃん!?』

 

予想通りだった。浮遊物の無数のレーザーに対し、彼女らは散り散りになっていた。

 

「くっそ!おい、だれか応答しろ!」

『(?)まだ居たの!?はやくどっかに…』

『(?)中佐、後ろ!!』

 

誰かは知らないが、一瞬だけ答えてくれた。しかしそれもつかの間。新たな攻撃が襲い掛かる。

 

「元気になったのかこいつ…。」

 

そうつぶやいたアレンは、

 

「やってやる。おとなしく餌になれ。」

 

と一人呟いた。

 

 

*****

 

 

アレンのF-15SEⅡには、ミサイル2つと機関砲90発しかなかった。しかし、先ほどの一発でかなりのダメージを受けていた。破壊できるか半々。なら、やってみるしかない。すると、

 

『(マ)少佐、こっちにはタスラムがある。ここからも狙えるぞ。』

 

それは心強い。タスラム―――分類こそ対戦車ミサイルであるが、対地・対空問わずに攻撃可能な万能ミサイルだ。戦車や攻撃ヘリを破壊できる威力なら、目の前の浮遊物にも有効だろう。

 

「そこらにいる御嬢さんたち、巻き込まれたくなければ離れてろ。」

 

文句の一つでも返ってくるかと思ったが、彼女らは黙って離れていった。あるいは引かれたか?

 

『(ロ)少佐、いつでも。』

 

ローチがロックオンを完了する。

 

「分かった…。撃ってくれ。」

 

担いだ発射筒から圧縮ガスによって押し出されたミサイルは、丸1秒開けてから、ロケットブースターに点火した。ヘリから急上昇したタスラムは、目標となる物体目がけて突進する。

レーダーにミサイルのマーカーが映ったのを見たアレンも、ミサイルの発射ボタンを押しこんだ。すぐに発射ステーションを切り替え、また押す。ウェポンベイから2つの噴煙が伸びていく。残るは、機関砲90発のみ。たった90発を残しても意味ないと感じたアレンは、700mに迫った物体に向かって機関砲を打ち込んだ。その時にはすでに2本のミサイルが命中していた。その間にもレーザーが飛んでくるが、レスリーには手に取るように、その弾道が読めた。最低限の回避行動で、機関砲の弾丸が外れないようにする。わずか90発の弾丸は、1秒も経たずに切れた。しかし、これが致命傷となってくれた。連続して爆発が起こり、声とも聞こえにくい悲鳴のような音が響く。どうやら、黒い物体が発しているようだ。数秒後、パッと銀色の花を散らし、黒い物体は消滅した。

 

「ターゲット破壊。」

『(ディ)ナイスキル。』

『(ロ)よっしゃ、グッドキル!』

 

機体を自動操縦で水平に戻す。すると、無線が入った。

 

『(?)そこの戦闘機、協力に感謝するわ。』

 

優しそうだが、どこか怒っている声が入る。

 

「どうも…。そうだ、あなた方は一体誰だ?」

『連合軍第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズの隊長、ミーナ・ヴィルケ中佐よ。』

 

一つ階級が上。やべっ、ため口だった…。

 

「すみません中佐。加勢してまずかったでしょうか?」

『構わないわ。助けてもらったといってもいい。』

 

やっぱ怒ってんじゃないか、とアレンは思った。しかし、そのあとになったアラームが、アレンに最優先任務を伝えていた。燃料が不足している。いろいろと聞きたいことはあるが、とにかく補給しないといけない。

 

「あ…。中佐、燃料ビンゴだ。最寄りの空港へ降りたい。どこか知っている場所はありますか?」

『なら私たちの基地でいいわ。すぐそこよ。』

 

すぐそこというのは、どのような感覚か気になったが、まだ数キロは飛べるはずだ。弾薬を全て撃ちきった状態なら、出撃時よりはるかに長く飛べる。

 

「了解、感謝します。あと、連れのヘリもお願いします。」

『ヘリ?』

 

まるでそれを知らないような答えだった。まただった。この世界が、自分がいた世界ではないかもしれないということだ。

 

*****

 

彼女らの最後尾をついていくのかと思ったら、隊列の前方で飛んでいた。後から撃たれたりしないか警戒したのだろう。しかしこちらの武装は皆無で、攻撃のしようがない。ノーマッド63も同じだった。速度は出せても300㎞/hなので、アレンはいつもより速度を落として飛ぶ必要に迫られた。スティックとスロットルを細かく操作し、ノズルの角度を調整しながら飛行する。ノーマッド63まで飛行隊の中央に置かれたのは、さっきの戦闘で多スラムを撃ったからだろう。

 

(なんだか大変なことになってきたな。)

 

しばらく飛んでいると、雲間から白い建造物が見えてきた。

 

『(ミ)あれが基地よ。』

「滑走路は?」

『見えないの?』

 

なにやら建物から伸びた灰色の板がある。ん…?短くないか?

 

「中佐、滑走路の距離は?」

『大体200mよ。どうかした?』

 

そうか、中佐をはじめとする彼女らはレシプロか。ジェットなのはアレンだけだった。レシプロなら短距離で止まれるだろうし、ノーマッド63はそもそも滑走路が必要ない。おっと、俺もV/STOL機だったか。

 

「なんでもないです。」

『…?まぁいいわ。管制、着陸の許可を願います。あと、航空機が2機いるわ。』

『(管制)了解。501部隊、並びに付随の航空機、第1滑走路への着陸を許可します。』

 

ミーナが手で合図する。先に行けということか?

 

「ノーマッド63もだろうな…。ディアナ、続け。」

『63、コピー』

 

顔を前に向け、滑走路に向き直る。いつものマニュアルどおりに着陸作業に入った。ここに来たはいいが、このあとどうするかな…。どうも今いる場所は、2時間前までいた世界とは違う。何か起こっている。

 




読んでくださってありがとうございます。

今回は少し字数を増やすよう努力しました。とはいっても、ひとつのことを事細かに書いているだけですが…。


ご感想・ご批評、お待ちしております。


《加筆》
AAM-6ⅢをAIM-120Dへ変更


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4 , 初対面が重要

登場するF-15SEⅡですが、これは実在する機体を自分が勝手に進化させたものです。一応、6人は2016年から来た設定なので。

 それではどうぞ。


滑走路の奥にあるハンガーには入らず手前で停止したアレンは、機体の簡易チェックをしてスタンバイモードにした。エンジンを落とし、機器も最低限のものだけにする。もしもの時、すぐに発進できるようにと考えてのことだったが、どうも出番はなさそうだ。ヘルメットを脱いでコックピットの外を見ると、いつの間にか銃を担いだ兵士が出てきていた。銃口はもちろん、自分とF-15SEⅡと向いている。物騒な…というか、ずいぶん古そうだ。風景から考えて、ここは南米の何処かだろうか?いろいろ考えながらアレンは機体から飛び降りた。

 

「手を挙げて、ゆっくり前に歩け!」

 

左のほうにいた兵士の1人が叫ぶ。警備兵のリーダーのようだ。変な所へ連れていかれたり面倒なことになったりするのは嫌だったので、アレンは素直に従った。ゆっくりと両手を上にあげる。銃を構えながら近寄ってきた2人の兵士に身体チェックをされる。案の定、太もものホルスターにあった護身用のグロック17を没収された。どうするのか気になったが、答えてくれそうもないので黙った。

 

「なんだこれ…。拳銃のようだが、見たことないな…。」

「ほうっておけ、どうせこいつはネウロイの人型だ。」

 

ぶつぶつと二人の兵士が黙りながら離れていく。何かと勘違いされているのか。ネウロイって何だろうかと考え始めた。しかし次の瞬間、目の前に立ち並ぶ人間の注意が一瞬にして別の方向に向かった。みんなが向く方向を見ると―――

 

「(ロ)うぅぅぁ、つっかれた~~・・・(欠伸)」

「(ゴ)何時間もヘリで揺られるのは、抱っこ好きな赤ちゃんでもいやだろうな。」

「(ディ)それでここはどこかしら?」

「(コ)懐かしい…気がする。」

「(ソ)腹減った…。」

 

お前ら…。自分たちに向いている銃口を全く気にしていないかのようだ。観光に来たツアー客よろしく目の前に立つ建物を見上げている。特にディアナを除く4人は警戒の的になった。ごつごつしたベストに、黒く光るライフルを持っているからだ。しかもコザックとゴーストに関しては、顔をヘルメットやサングラスやバラクラバで覆っていて見えないときた。基地の兵士が騒然とする。あとから着陸したミーナらも同じだった。硬直―――。

 

「じ、銃を下ろせ!!」

 

悲鳴に近い怒号が響く。ようやく気付いた4人は、一瞬固まったのち、気まずそうな顔をしてゆっくりとライフルを置いた。ディアナもヘルメットを機内に放り込む。そして静かに手を挙げる。自分たちが異色の人間共だということを確認したようだ。恐る恐る兵士らが近寄り、身体チェックを行う。141の3人とコザックはボディーアーマーなどの装備を全て外すよう命令された。装備を全て外してMH-60の機内に置いた5人とアレンは、多くの目と銃口を向けられながら基地内へと連れて行かれた。

 

 

*****

 

 

知らない基地内を歩きながら、アレンは一つのことが気になっていた。前を歩く中佐―――ヴィルケ中佐だったか―――の格好だ。

 

(なんで下履いてないんだよ…。)

 

上には濃い緑色の軍服のようなものを着ているが、ズボンらしきものが見当たらない。こんなことをすれば一発で刑務所行きだろうに、平然としている。当然のように。周りにいる兵士たちも大して驚いた表情は見せない。当たり前ではないはずだ。意識が飛びかけていた間に何か起こったと思ったが、女性がズボンを履かなくなったということも変化の1つだろうか。

 

「あの…レスリー少佐。」

 

後ろからソープが小声で話しかけてきた。

 

「どうした?」

「変だと思いません?それとも異変だと思っているのは自分だけでしょうか?」

 

ソープも同じことを考えていたらしい。

 

「だよな大尉…。俺もそう思う。明らかに変だ。」

 

意識喪失の間に何が起こったのか…。もしかすると、自分の想像を絶する事態になっているのかもしれない。

 

「どうなっているか分からないな…。覚悟しておかないと。」

 

そうつぶやいて、アレンは無意識のうちに拳を握っていた。そうこうするうちに、6人は取調室と呼ばれる部屋についた。控室に入った6人は、まずアレンから別の部屋での事情聴取が始まった。

 

 

*****

 

 

取調控室。タスクフォース141のゴーストとローチの会話。

 

「ゴースト、いくら好きだと言ってもここでは取りましょうよ、それ。」

「やだよ、絶対取らねぇ。」

「なんでですか?」

 

しばらくゴーストが黙り込んだ。あ、まずいこと聞いたかなとローチは思った。だが、その気遣いは全くのムダだった。

 

「特に理由ないけど、これが落ち着く。」

 

気にするなといった感じでゴーストは答えた。

 

「だ~か~ら、印象悪いですって。顔も見せないで取り調べするなんて聞いたことないですよ?」

「お前に素顔見せたことないぞ?」

 

そうだった。ローチが141部隊に召集された時から、この人物には謎がたくさんあったのだ。

 

「このままいろんな作戦に行ったじゃないか。しかも、ここに長居すると決まったわけじゃない。だったら素顔を見せる必要もないさ。」

 

納得できない部分もあるが、ローチは正解な気がした。う~んと唸り、そのまま黙り込んだ。

 

 

*****

 

 

事情聴取はいっこうに終わらない。話がかみ合わなくて、一時中断していたのだ。アレンは再び取調室に呼ばれた。部屋にはさっきと同じ人物がいた。まず、さっき上空でアレンらを基地へと誘導してくれた人だ。赤毛で濃い緑色の服を着た女性、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。18歳と聞いたときは驚いた。自分より年下なのに中佐まで上り詰めたという実力者なのか。その隣には、黒い髪の毛で白い軍服を着た、これまた女性の坂本美緒少佐が座っている。彼女も19歳だとか。しかし2人の格好というものは…と、アレンはさっきも思った疑問を頭に浮かべていた。さらに警備の兵士が4人いる。さっきと変わらずピンと張りつめた雰囲気が漂っている。アレンは心の中でため息をついた。ここまでアウェーな状況は誰でも疲れるだろう。2人と机を隔てて置かれた椅子に座る。机の上には地図らしきものが置いてあった。

 

「ではもう一度聞きます。あなたの所属と名前、出身地は?」

 

赤毛の中佐が切り出す。

 

「NATO連合軍タスクフォース108所属、アクイラ隊1番機、アレン・ロイド・レスリー。階級は少佐。アメリカ合衆国出身だ。」

 

剣を提げている少佐にぶった切られるかもしれないのに、なぜか敬語が抜けている。正直、レスリーも相当疲れたのだ。

 

「それは本当なのね…。でも知らないわ…。」

 

やっぱり、という顔する中佐。半ば諦めたかのように腕を組む。

 

「では、その『あめりか』という国はどこにある?この地図で。」

 

ミーナに代わって坂本が地図を指さしながら聞く。少しだけ身を乗り出しながら地図を見たアレンは、その地図がなんとなく地球を表しているようだと思った。しかしアメリカ大陸がない。あるべき場所には、妙にゆがんだ星が描かれている。他にはヨーロッパとアフリカ、南米が分かる。ユーラシアは、中国とインドの部分が隕石でもあたったかのように丸く海になっている。

 

「これは何の地図だ?」

 

アレンは問うた。指せと言われても指したい場所がない。

 

「何を言っている?これが世界地図だぞ。」

 

さて、困ったことになった。世界観が両者で食い違っている。アレンの記憶する世界地図と彼女らが記憶する世界地図が違う。これだと、取り調べが長引くのも仕方がない。アレンはむぅぅと唸った。

 

「どうした?まさか貴様、世界地図を知らないのか?」

 

馬鹿にするな、これでも戦闘機乗りだぞ、と大声をあげそうになったが

 

「俺はこの地図を使ったことがない。俺が知る地図では、だいたいこのへんだった。」

 

と星形の大陸の周りをぐるぐる囲むように指さした。小さく「リベリオン」と書かれている。

 

「あめりか、というのか?おかしな話だ。そこはリベリオンだぞ。」

 

坂本が鼻を鳴らす。こいつ…。階級が下だと捻り殺していただろう。落ち着いて深呼吸する。

 

「じゃ、この基地がある国はなんというんだ?どこにある?」

 

逆にアレンが聞いた。それにはミーナが答える。

 

「ここはブリタニア連邦よ。地図ではこの位置。」

 

細い指が、イギリスの位置を指し示す。ブリタニアと聞いて、イギリスの正式名称『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』を思い出した。ブリテン、か?

 

「俺の記憶にはないな…。似たような国はあるが。」

 

とここで、アレンは気になっていたことを思い出す。ついさっき交戦した時のことだ。彼女らは足にレシプロのエンジンを履き、敵は真っ黒な胴体を空に浮かべてレーザーを乱射してきた。あんな光景が、現実に起こるのか?起こったのか?一見、人が生身で空を飛ぶのは未来的な感じがする。レーザー兵器も艦載型が開発段階にあるはずだ。ならば自分は未来へとタイムスリップしたか?そして、何らかの理由で地形や国家の名称が変わったか?だが部屋にいる4人の兵士が持っている銃は、アレンが見たことのあるアサルトライフルより古いように見える。坂本という名前から彼女は日本人と推測できるが、彼女が来ている軍服は古い写真でしか見たことがない。日本国自衛隊の制服には、いくつかの記章類がついている。少佐という階級なら尚更だ。なら過去か?一通り考えたアレンは、ふと思いついたように質問した。

 

「今は何年何月だ?」

 

前に座る2人が一瞬固まる。こいつ何聞いているのだといったような顔だ。ミーナが答える。

 

「1944年4月よ。」

 

アレンは開いた口が閉じなかった。1944年?歴史の授業で習った第2次世界大戦中なのか?しかし、第2次世界大戦中の世界地図は、アレンが知っている地図であって、今目の前に広げている地図とは違う。ある国から侵略を受けた国はポッカリと海になり、また連合軍を勝利に導いた国は変形している。さらに目の前には敵国同士のはずである2人が座っている。しかも戦う敵があの黒い物体ときた。ただのタイムスリップではない。だとしたらどういうことか。自分の知る地球とは違うのか?

 

 

*****

 

 

タイムスリップ、しかもたどり着いた場所が異世界かもしれない、という結論をアレンは頭の中で立てた。1944年に人が生身で飛行したこと、黒い浮遊物がレーザーを乱射したことなどという事柄は、アレンが授業で習った歴史の中にはなかった。

 

「あなた方はどうやって空を飛んでいるんだ?」

「ストライカーユニットを使うわ。魔力で発生した飛行魔法を使って飛ぶ道具よ。中には魔道エンジンなどが入っているわ。」

「推進装置はレシプロなのか?」

「そう見えるだけ。あれは飛行魔法のエネルギーが、大気中のエーテルと高速で反応して可視化したものだ。」

 

何も知らない小学生に教える感じで頼む、といっておいたおかげか、わかりやすい説明だった。どうやらこの世界には『魔力』を扱うことができる人間がいるようだ。さまざまな魔力があり、それを持つ人間もいろいろな国にいるという。

 

「じゃぁ、俺が間違って撃った黒い物体は何なんだ?」

「ネウロイ、というわ。異形の軍、とも。1939年に突然現れた正体不明の存在よ。」

「奴が発するレーザーは強力だ。建物や戦艦を一撃で破壊できる。生身の人間では太刀打ちできない。」

「そんな破壊力を持つのか?」

 

戦艦を一撃…。黒海でロシアの大統領救出作戦に参加したアレンは、その作戦の最後に巡洋艦との攻防を経験した。何度も飽和攻撃を仕掛けたが、あの巡洋艦は30分生き残った。対艦ミサイルや誘導爆弾を何発喰らったのか知れない。要するに、アレンの元居た世界では鉄の塊である戦艦を一撃で撃沈することは夢のようでもあったということだ。

 

まだほとんど解明されていないネウロイ。レーザー攻撃に加えて、生物に有害な物質をまき散らすという。それによって生物はその場に住めなくなり、これが原因ですでにいくつかの国家が滅んだそうだ。毎回様々なネウロイが出現し、数や大きさ、速度など多種多様な形態が確認されている。

 

「私たち人類はそのネウロイに対抗すべく、さっき言ったストライカーユニットを開発したの。あれを装備することによって飛行し、魔力で強化した小火器でネウロイを攻撃するわ。」

「見た感じずいぶん近距離だったな。ネウロイの有毒ガスとかは大丈夫なのか?レーザー喰らったら死んじまうだろ?」

「魔力をシールドとして使っているからな。奴らの攻撃はシールドによって防ぐことができる。」

「魔力で攻撃も防御もするのか。そりゃすごいな。」

 

驚きだった。元居た世界では魔力などという力はない。あったのかもしれないが、有名ではない。そもそもそんな能力があるのなら、自分が乗っている航空機などはいらない。鉄の塊を飛ばしあって命を奪い合うことはない。いずれにせよ人同士が殺しあうことは同じなのだろうが…。

 

「そういえば、レスリー少佐が乗っていた飛行機はいったい何だ。」

 

そうだった。元はといえば、迷い込んできた人間であるアレンらの事情聴取だった。こちらがいろいろと質問している。

 

「あれは魔力を使わないただの戦闘機だ。乗る人間は操縦桿を握って機体をコントロールするのみ。」

「エンジンは?」

「プラット・アンド・ホイットニー F100の進化版―――ターボファンエンジンだ。」

「速度はどのくらい?」

「巡航速度が950㎞、最高が…出したことあるのは2000㎞手前。」

 

その瞬間、前に座る二人が驚きの顔を示した。無理もない。レスリーが知る歴史の中でジェット機ができるのは1940年ごろ。まだ開発段階で、実戦への投入は限定的である。

 

「まだ未開発よ。カールスラントでもジェット戦闘機は試験段階と聞いたわ。」

「あぁ…。しかしなぜそんな機体を持っている?」

 

タイムスリップです、などとは言えない。その証拠もないし、言えばどんな目に合うか分からない。少し言葉を探して文章を作る。

 

「俺はもともとあの機体を毎日使っていた。あなた方が敵としているネウロイなんていなかった。人間の敵は人間、という言葉が示す通り、人同士が戦争をしていた。」

 

そう言ったきり、部屋の中が静まった。確信はできないが、おそらくそうなのだ。1944年の世界、人類の敵は異形の軍、その敵に立ち向かう魔力を使う少女―――。すでにもといた2016年の世界ではない。しばらくの沈黙の後、アレンが口を開いた。

 

「どうやら、俺―――いや俺たちは、異世界から来てしまった人間なのかもな。」

 

 

*****

 

 

疑いが残るが、とりあえずアレンの取り調べは終わった。この基地の指令であろうミーナは、2016年からやってきてしまった6人の所属と名前を記録してどこかへ消えた。坂本も去ったらしい。再び6人は取り調べの控室にいた。取り調べで起こったことを一通り説明したアレンは、大きなため息をついた。そうとうな疲労がたまっている。

 

「(レ)ったく、おまえらが変なことするから…。」

「(ロ&ゴ)どうしたんですか?」

「(レ)到着早々変なパフォーマンスするからだよ!」

 

場を弁えろってことだ、と言った。すると、ソープが口を開く。

 

「(ソ)それにしても困ったことになったな。これからどうすればいいんだ?」

「(レ)あぁ、どうみても2016年の世界じゃない。ここの指令だって、1944年だと言うからな。」

「(コ)警備兵が持っているライフル…、あれはドイツのStG44ですよ」

「(ディ)人類の敵が異形の軍ね…。歴史で習った私たちの地球ではないわ。」

 

再び6人は黙り込む。本気で今後を考えなければならない。自分たちがどういう立場で生き続けるのか。そもそも生き続けられるのか。

 

 

*****

 

 

「これは飛行機…?なんか変な形…。」

「さっき突然現れた6人のものか?」

「大っき~~い!」

「ジェットはまだ開発されていないと聞いたんだけどなぁ。」

 

滑走路のハンガーの目の前には、1944年には存在しない航空機2機が止められていた。その2機を、バルクホルン、ハルトマン、シャーリー、ルッキーニが見上げる。1つは大きな翼を広げた飛行機のようなオブジェクト。先端にはガラスに覆われた空間、翼の付け根には黒い空洞、後ろには2枚の垂直尾翼の付け根に丸くてこれまた黒い空洞があった。その機体の隣には、よくわからない乗り物。頭上には4本の薄くて長い板があり、1か所で固定されている。胴体は何とも言えない形で、全体的にずんぐりとしている。側面には何枚かガラスが張り付いており、中が見える。見てみるが…、何が何やら。その後ろには胴体よりは細い構造物が伸びている。垂直尾翼に見えないこともない。

 

「謎ばかりだな…。」

「入れないかな、特にこの…丸っこいの。」

「扉みたいなのあるよ。」

「やめておけ。触っただけでも説教を食らうぞ。」

 

4人は周りを歩きながら見物した。所有者であろう6人は…今も取り調べらしい。この物体はいったい何なのか。早く知りたいという気持ちが、4人に芽生えていた。その4人に後ろから声がかかった。

 

 

*****

 

 

30分後、再びアレンは取調室に呼ばれた。ミーナは特に何も持っていない。ただ先ほど一緒にいた坂本がいないことを疑問に思った。

 

「あなたの機体の性能を確かめたいの。飛べるかしら?」

 

立ったままのミーナはそう言った。

 

「大丈夫だと思います。いつですか?」

「今、お願いできる?」

「えっと・・・、今すぐ、ですか?」

「そう。ぜひ見たいという人がいるの。」

 

誰だろう。ただの見物客かと適当にあたりを付けたレスリーは、

 

「わかりました。」

 

と答えた。残りの5人もということで、6人は警備兵に囲まれながら移動した。

 

 

*****

 

 

F-15SEⅡとMH-60を見ていた4人は、坂本少佐に呼ばれていた。飛行テストをすると説明を受けた。501部隊からハルトマンとバルクホルンが指名され、二人は上空でテストの評価をするよう言われた2人は、準備に取り掛かった。ユニットを履いた2人は離陸し、2機の航空機が離陸してくるのを待った。

 

「しかしここに来たのは6人だろ。たった2機だけなのに、多いんじゃないか?」

「私も思った~。」

 

などと話しながら、二人は基地を見下ろす。数分後、滑走路に数人の人影あらわれ、まず飛行機の方が飛び立ち、テストが始まった。このあと、2人を含めて501基地の全員が、どこからか来た航空機の性能に驚くことになることは、誰も想像しなかった。

 

 

*****

 

 

飛行テストには2機とも出ることになった。1機ずつ交代でテストを行う。パイロットを除く4人はテストの様子を見ることになった。変なことするなよ、と釘を刺したアレンは、滑走路に止めていた自分のF-15SEⅡに乗り込んでシステムを起動した。整備をしていなかったので少し焦ったが、起動のテンポは順調だった。エンジンが回転を始め、次いで姿勢制御、レーダー、火器管制などの機能が作動する。座席の後ろに置いてあったヘルメットを被ったアレンは、ふと頭を挙げた。いつのまにか少女と作業服の人が集まっている。兵士は少ない。銃も下にぶら下げている。警戒はなくなったのかと思っていると、ミーナの声が無線に響いた。

 

『レスリー少佐、聞こえる?』

「はい、感度良好です。」

『離陸したら上空のウィッチと合流して、随時性能テストを始めて頂戴。』

「了解。」

 

アレンはサイクリックを動かして方向転換を始めた。ハンガーを向いたままでは離陸できない。垂直離陸でもできるが、燃料の消費が激しくなる。それに、垂直離陸は緊急用の手段だ。普段から使うのは良くない。スロットルとサイクリックを細かく操作したアレンは離陸直前のチェックに入る。燃料もテスト飛行くらいなら問題ない…。

 

「あれ?なんでだ?」

 

なぜか2時間分が残っている。さっきここに着陸したのは、残燃料が少ないとアラームが鳴ったからだ。システムの不具合か?しかし何度チェックをしても異常なしと出る。

 

「ヴィルケ中佐、燃料の補給をしたのですか?」

『え?何もしていないわ。整備班にも触らないように言ったもの。』

 

なんでだ…?あれだけワシントン上空で飛び回ったのに…と少し疑問を抱きながらチェックを終えた。

 

「アクイラ1、離陸準備完了。発進許可を求む。」

『離陸を許可します。』

「了解。」

 

機体制御コンソールにある『サポート』を『Take Off』にセットする。滑走路がいつもより短いと感じたアレンは、スロットルをマニュアルより高い位置に引き上げた。高くなったエンジン音が響き、機体が徐々に加速する。滑走路が残りわずかになったのを見計らい、サイクリックを手前に引く。下から押し上げるような感覚がアレンを包む。

 

『えぇ!もう離陸?』

 

ミーナの驚いた声が無線に響く。HMDに表示される高度と速度計が順調に上がるのを確認したアレンは、

 

「こちらアクイラ1、離陸成功。これよりウィッチと合流して性能テストに入る。」

『り・・・了解。』

 

と通信を入れた。やはり珍しいのだろうか。アレン自身は、この世界が少し昔であることを理解している。ミーナらにはまだ話していないが、いずれ必要な時が来るだろう。その時になったらだな、と勝手に結論付けたアレンは、前方に意識を向けた。進行方向やや右手。二人の少女が飛行していた。やっぱり生身だよな…。足にはあいかわらず何か履いている。

 

「こちらNATO連合軍タスクフォース108のアレン・レスリー、階級は少佐だ。コールサインはアクイラ1。よろしくお願いします。」

 

先にアレンは口を開いた。

 

『ゲルトルート・バルクホルン大尉だ。機体の性能、見せてくれ。』

『エーリカ・ハルトマン中尉だよ。よろしくねレスリー。』

 

二人が交互に自己紹介をする。見た感じはまだ幼い。少女、という呼び方がまだ似合う年なのか。

 

『ハルトマン、相手は少佐だぞ。少しは礼儀正しくしろ。』

『えぇ~?』

 

そんな会話が聞こえてきた。大尉と中尉だったか。

 

「そんなことは気にしなくていい。こっちは相当年取ってからの少佐だからな。」

『だって~トゥルーデ。』

『と、年上なら尚更だろう?!』

「まあまあ、それはおいといて。早速テストに入りたい。どうすればいい?」

 

話を切り替える。あまり交流していては時間の無駄になってしまう。

 

『とりあえず最高高度からにしよう。適当なところで上昇を開始してほしい。』

「了解した。」

『遠慮しないで飛ばしてね~。』

 

二人に合わせていた速度を巡航速度まで戻す。

 

「じゃ、上昇を開始する。」

『了解。』

 

<Take Off>に入れていたサポートを<Normal>に切り替える。スロットルとサイクリックに集中し、上昇を開始した。スロットルを7割に。サイクリックをHMDの迎角表示が90になるまで引き、固定する。垂直に加速し始めた機体の高度があがっていく。普段このような飛行は、訓練でも実践でも行わない。最高高度は、機体を売り込むときのセールスポイントの一つにすぎないのだ。アレンが参加する作戦も、比較的低空での戦闘が多い。F-15SEⅡの最高高度は16300m。マルチロール機を目指して開発された機体であるため、上昇能力より対地上攻撃時の安定性を重視している。最高高度を目指して飛ぶ訓練といえば、入隊時にGに耐えるカリキュラムであったくらいだ。それ以来、16300mを飛ぼうと思ったことも飛べと言われたこともない。そういう意味では、未経験の領域だった。

 

「10000……12000……14000…………15000……そろそろ限界か。16000m。」

『おぉ…高いなぁ。』

『すっごい!すっごいね~!』

「大尉、次は?」

『次は最高速度だ。ちなみに、どれくらい出せるんだ?』

「出したことあるのは、2000㎞手前。本来ならもうすこし飛ばせる。」

『!?音速を超えるのか!』

「エンジンがエンジンだからな。では次段階へ移行する。」

 

高度を6000まで落とし、念のため燃料の残量を確認する。アフターバーナーを付けても大丈夫なようだ。スロットルを全開位置まで動かす。スロットルの移動を感知したF-15SEⅡのセンサーが、ドスンという衝撃と共にアフターバーナーを点火させた。900㎞/hだった速度表示が瞬く間に上昇する。体全体に重い何かが乗っかる感覚になる。

 

「1800……1900……。2000………2100……。」

『えぇ?2000までじゃないの?』

 

ハルトマンがそんな声を発していた。あくまでその数値は経験である。訂正しようと思ったが、目に見えない力に意識を持って行かれそうになるのでやめた。

 

「2300………2400…………、ここまでだな。2450が限界だ…。」

 

我慢ができないということもあったが、もうすでに初めて見る速度だった。スロットルを巡航位置まで下げる。体にかかっていた圧力が弱まり、アレンはふぅと息をついた。

 

『うわぁすごい…2450って…。』

『マッハ2か…!』

 

はるか後方に置き去った二人の声が無線越しに伝わる。すでに基地からは60㎞近く離れている。下には海が広がっていた。

 

「次はあるのかい?」

『いや、今日のところはここまでだ。基地に戻っていいぞ?』

 

驚いたままのバルクホルンが応答する。

 

「了解。帰投する。…ん?大尉、異様に黒い雲が見えるがあれはなんだ?」

『…!それはネウロイの巣だ。近づくと危ないぞ!!』

「おっとそれはマズイな。急いで帰還する。」

 

サイクリックを倒してロールからヨーに入る。ネウロイの巣―――黒い雲を後方に基地へと向かった。あれが人類の敵、ネウロイの本拠地か…。あれと戦うのが、ここへきて見た少女たちなのかと、アレンは少し不安になった。

 

 

*****

 

 

いままでより短い滑走路に、自慢でもあるV/STOL機能を作動させて着陸する。初めて来たときと同じように停止させると、階級が高そうな軍服の男がいた。ここの基地の司令官だろうか?ヘルメットを座席に置いたアレンは、コックピットから飛び降りた。ミーナが小さく手招きする。そういえば見物客がいるだとか言っていた。この人だろうか。

 

「貴様が、その機体のパイロットか?」

 

随分口が悪そうだというのが、アレンの第1印象だった。言わなくても分かるだろうと言い返しそうになったが、別のことを言った。

 

「あなたは?」

 

少し語調を強めて聞く。勢いで相手を脅すようにも見えたからだ。

 

「私はブリタニア空軍大将、トレヴァー・マロニーだ。貴様の名前はなんという?」

「はぁっくしょん!!」

 

思わず吹き出しそうになったのを堪え、くしゃみで誤魔化した。どっかの国で何かの食品の名称だった。どうでもいいことだったが、なぜか笑ってしまった。マロニーの顔が少し歪み、少し離れたところにいる少女らが驚いた顔をする。口元を隠して笑いを消したアレンは姿勢を正す。

 

「NATO連合軍タスクフォース108所属、アクイラ隊隊長のアレン・ロイド・レスリー少佐です。」

「今のクシャミはなんだ?上官を前にその態度はどういうことだ。」

 

おっといきなり怒らせたようだ。さっきより口調が激しくなっている。

 

「申し訳ございません。少し花粉症体質なので。つい我慢できませんでした。」

 

嘘です。花粉症なんてこれっぽっちもありません。

 

「ふんっ!まぁいい。ところで貴様はどこの世界の人間だ?その格好、後ろの戦闘機といい…この世界の者ではないな。」

 

流石大将だ。鋭い。武装をほとんど隠したままのF-15SEⅡを『戦闘用』の航空機だと見破った。

 

「私の世界には、ウィッチやネウロイといったものは存在しません。私の想像ですが、私たちは異世界の住人です。」

「そうか。やはり別の世界の人間共だな。それがこちらに侵入してきた、と。」

 

妙に『侵入』と強調する。こいつ、何か企んでいるなとアレンは直感した。

 

「貴様はこれからどうする?ここで生きていくのか?」

「このままただ死を迎えるつもりはありません。私は軍人なので、軍人らしい生き方をするつもりです。」

「なら、我々ブリタニア軍に入らないか?」

 

おぅっとビックリ、いきなり引き込むのか、こいつは。滑走路に集まった2人を除く全ての人が硬直した。141の4人もだ。

 

「大将!?それは流石に…!」

「君は口を出さなくていい。」

 

ミーナが焦ったように割って入るが、マロニーが片手で制する。

 

「いいのですか?私が本当の軍人であることを確かめなくても?」

「貴様に戦う気があるなら、我々は受け入れる。」

 

どこから来たかも定かでない戦闘機とそのパイロットをやすやすと受け入れる国家があるのか、とアレンは少し呆れて驚いた。この場でここまで決めるということは、ただ戦力として認めただけではない。何かを裏でつかもうとしているに違いない。ならば…。

 

「わかりました。お願いできますか?」

「簡単なことだ。…ようこそ、ブリタニア空軍へ。」

 

マロニーが手を差し出す。手袋を脱いだアレンも握手する。

 

「早速貴様に仕事をやろう。」

「なんでしょうか?」

「その機体の調査をしたい。」

 

そうくるか。この世界にない兵器、場合によっては今現在存在する兵器の中でトップクラスかもしれない。ネウロイとの戦いを少女らだけに任せるのは荷が重いと考えているのだろうか。もちろん、戦争の早期終結を望むのなら、アレンも協力したい。だが、アレンはその先を考えていた。

 

「それはご遠慮いただきたい。」

 

その答えにマロニーが怪訝な顔をする。

 

「なぜだ?軍人として生きるのだろう?」

「私はこの戦闘機のパイロットです。いつ来るかわからない敵を知っておいて、機体を分解することはできません。」

 

この答えでマロニーが引き下がるのを期待したが、無謀だった。

 

「だが兵器の技術を公表して、全世界で開発を行って量産することも大切だ。今が戦力不足であることを分かっているのか?」

「では、この機体のデータをコピーして作った機体を各国が持つとしましょう。ネウロイを殲滅したのち、残った戦闘機はいかがなさいます?」

「新たなネウロイが生まれるかも知れまい。それに向けて配備するのだ。」

 

当然だと言わんばかりにドヤ顔をする。アレンには、マロニーが何を考えているのか分かった。

 

「嘘だな…。」

「なんだと!?」

「戦争が終結すれば、戦闘機は一時的に不要になるでしょう。しかし、それらを使って何かを始めようとする人が出てくるはずです。」

 

マロニーが黙り込む。隣にいるミーナもわからないといった顔をする。

 

「ネウロイがいなくなったら、次は他国の人間を攻撃するかもしれません。領土か資源か、原因はいろいろですが…。余った戦闘機をもって敵地へ侵攻し、人を傷つけることも可能です。…私がいた世界でもそういったことがありました。私がいた国が他国と戦争を起こしました。相手国の被害者は、当然私たちを恨みます。それがエスカレートしてゆけば…どうなるかお分かりでしょう。」

 

アメリカがボスニアへ侵攻。そこにはある女性、クリスタ・ヨスラフ―――アンドレイ・マルコフの妻がいた。しかし彼女は米軍の爆撃により死亡。以来、マルコフはその恨みを原動力として殺し合いに手を染めた。機体には独特のシャークマウスを施し、連合軍からは『アクーラ(サメ)』と呼ばれて恐れられた。戦争中の彼は凶暴なホオジロザメだったかもしれない。だがもとはおとなしいジンベイザメだったはずだ。自分たちが戦争などを始めなければ、醜い殺し合いも起きなかった、とアレンは思う。

 

「…ふん。仕方がない。なら、この基地で任務に当たればいい。後ろの連中も含めて、貴様らに辞令を出す。ブリタニアの兵として働け。」

「はっ」

 

反射的に敬礼をする。マロニーも敬礼で返す。マロニーは護衛の兵と共に立ち去った。いくぶん機嫌を損ねたようだ。印象悪く映ったか?

 

「ずいぶん格好良かったわね。」

「どうも…。」

 

ふぅと息をついた。ここにきてどっと疲労感を感じた。普段したことのない連続だったこともある。

 

「あなたも認めてもらえてよかったじゃない。」

「そうだな…。改めて、よろしくお願いします。」

「えぇ、こちらこそ。」

 

二人は握手を交わした。丁度ディアナのAUH-72もテストを終え、着陸する。

別世界から来た6人が、正式に501部隊と共同任務にあたることになった。

 

 




お読みくださってありがとうございます。

ずらずら書いていたら、こんな字数に…。すみません。
はなしの展開があっているか不安です。


感想その他、要望等ありましたら是非コメントしてください。
アドバイスや文句でもお願いします(逆に何かコメントがほしいくらいなので…)。


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5 , タスクフォース249

1週間ほど間が空いてしまいました。ストーリーを書ける状態ではなかったので…。




快晴。ローチはその一言しか思い浮かばなかった。驚くほど澄み切った青空が広がり、雲一つない。滑走路の下に広がる海もキラキラと輝く。魔法少女らが空へと舞いあがる滑走路の上には、モスグリーンの半袖Tシャツにカーゴズボンを履いた3人の男が立っていた。一人はモヒカン頭の厳つい中年で、左目に縦に傷跡を作っている。141部隊の隊長、ジョン・ソープ・マクタビッシュ大尉。二人目はサイモン・ゴースト・ライリー中尉。他の二人の服装に加えて、骸骨のバラクラバとサングラスをしている。決してこの2点セットを取らない謎めいた人物だ。そして自分は3人目のゲイリー・ローチ・サンダーソン上級曹長。整った顔だけどどこか子供っぽいと言われる。初めて会う人からは『兵士か?あのSASの?』と言われてしまうこともしばしば。ローチ自身はそれほど気にしていない。その3人を照らす太陽は、空を見上げる3人を穏やかな日差しで迎えていた。さながらリゾート地にでも来たかのような雰囲気だ。4月ということもあって、濃い緑色のシャツから出た腕に当たる日差しが暑く感じる。3人はそろって腕を頭上に掲げ、大きな伸びをした。

 

「こんなに晴れたの、何時振りだったかな…。」

 

ソープ目を細めながら、自分が思ったことと同じ言葉を口にしていた。毎日が戦争に関することばかりで忙しかったこの前まで、部屋の外でのんびり日光浴をすることはなかった。作戦系、書類系、整備系、訓練系…。一日の大半を屋根の下で過ごし、外に出ても空を見上げる暇などなかった。頭の中で日数を逆算すると、大体4か月だということが思い浮かんだ。どこか懐かしいと感じたローチは、もう一度大きな伸びをした。上にあげた腕をブランと下げ、今日は何をしようかと考え始める。こんなに天気のいい日なら、洗濯の一つでも…。

 

「お~い、ちょっと集まってくれ。」

 

そこへ少し低いイケメンボイスが響いた。後ろのハンガーから聞こえる。振り向くと、開け放たれたシャッターの手前で手招きする男がいた。長袖の灰色ジャケットにフライトスーツを着たアレンだった。何かをもう片方の手に持っている。日向ぼっこをしていた3人は少し駆け足でアレンに近づく。駐機しているヘリからは、武器の整備の途中だったディアナとコザックが出てきた。6人が円状に集まったのを確認したアレンは、

 

「この基地を管轄する司令部、ブリタニア空軍から俺たちに辞令が出た。」

 

と切りだした。持っていたA4サイズほどの茶封筒をヒラヒラさせる。それを聞いた5人から形容しにくい声が漏れる。意味はおそらく『そうですか』といったところだろう。

 

「これからは、この世界における人類の敵、ネウロイとの戦争になる。俺達は、この基地の第501統合戦闘航空団と共同で任務にあたる。部隊名は―――」

 

そういって、アレンは封筒から一枚の紙を取り出した。再生紙でも使っているかのように、少し茶色い。

 

「ブリタニア南部方面臨時特設防衛部隊。」

 

ローチは左眉を下に下げた。え?という顔を作る。聞いた瞬間には飲み込みにくい名称だ。その原因は、今まで自分が所属していた部隊の名前がそうだったこともあるのだろう。語尾に防衛部隊とあることから、とにかくネウロイとやらを迎撃することが主な任務なのかとローチはあたりを付けてみた。

 

「ま、そこまで身構える必要はない。部隊として認められたし、ここの規則に従って動けばいいと思う。」

 

そう呟くように言ったアレンは、出していた書類を封筒に戻した。入れ終わってから封筒の口を折ってわきに挟む。ここでゴーストが問いかけるように口を開いた。

 

「その長い部隊名…。なんとかできないかな。」

「同感。俺もそう思った。」

 

アレンがため息を漏らしながら腕を組む。他のメンバーも考え込むような素振りを見せる。ローチも右手をお顎に当てながら考える。今日から正式にこの世界の兵士になるとしたら、先ほどの部隊名で自分は呼ばれる。だがほとんど意味を持たない言葉が多く含まれる名称は、長いだけ無駄である。どうせ呼ばれるのなら、馴染み深い名称がいい。ならば…。

 

「タスクフォースで別名を作れないですか?」

 

ローチは思いついたことを提案してみた。自身がこの前まで一つの居場所と思っていた部隊、タスクフォース141。『タスクフォース』というフレーズが、今とても新鮮に感じられた。5人がローチに振り返り、同時にそうしよう、と言った。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

石造りの廊下をミーナについて歩いていた6人は、扉の横に『ミーティングルーム』と書かれた場所にたどり着いた。彼女が中に入っていくのに続いて入ったアレンは、思わず立ち止まった。想像していたものよりはるかに大きな部屋だった。広さは60㎡ほどだろうか。天井は驚くほど高く感じられる。先ほどまでいたハンガーより高い。壁は一面白で塗られ、大きな窓からは日光が差し込み、床に敷かれた赤いカーペットを照らす。書面の壁には黒板らしき大きな板が張り付けられ、端の方にはグランドピアノが置かれている。部屋には長机が大学の教室のように数十個並べられていた。その机に備え付けられた椅子に、合計10人の少女が座っている。ほとんど全員が、異世界から迷い込んできたアレンらに視線を向ける。すると、振り向いた少女らの大半が驚いた顔をした。隣の人間の腕をつかむ者も。老けた男ばかりでビックリしたのだろうか。アレンはちらと考え、すぐに状況の吸収に集中した。髪の色や来ている服、見た感じの年齢など、一人ひとり違った特徴を持っている。あらゆる国から人員を集められた多国籍軍といったところだろうか。この基地に駐留する501航空団が、魔力を持った20歳に満たない少女らの部隊であることは知らされている。しかし所属する隊員の国まで違うとは、アレンは考えもしなかった。新たに知ったことを頭の中で整理していると、数歩前に進んでいたミーナがこちらに振り向いて声をかけた。

 

「とりあえず前に立って自己紹介をお願いするわ。」

 

口元に小さく笑みを浮かべたミーナは、言い終わると早足に壇上へと向かった。遅れをとるまいと、アレンも足を進める。自己紹介、と聞いて、すぐにセリフを考えた。すぐにその原稿は作り上げられたが、少しアレンは緊張した。人前に立って何か話をすることは慣れている。だが、それは話す相手が自分と同じ、普通の人間だったからだ。いまアレンに視線を向けているのは、何かしら魔法を持っている少女、魔女だ。自分たちがこの世界で異色なものだということがわかりはじめて以来、アレンは少しずつ不安を感じ始めている。子供が幽霊を怖がるのと同じで、アレンも魔力を恐れ始めていた。得体の知らないものと接触することが。その不安を知ることなく、ミーナがミーティングを始めた。

 

「みなさん。今日正式にこの501基地に編入されたブリタニア南部方面臨時特設部隊の6人を紹介します。」

 

ミーナはそう言い終えると目でこちらに合図を送った。前置きそれだけかよ、と内心焦りながら小さくうなずく。ピアノの前から黒板の前の中心に置かれ教壇までゆっくり進み、長椅子に座った少女らに向きなおる。ひとつ深呼吸したアレンは、落ち着けと自分に言い聞かせて話し始めた。

 

「ブリタニア南部方面臨時特設防衛部隊、別名タスクフォース249のアレン・ロイド・レスリー少佐だ。元々は、別の世界で連合軍の戦闘機部隊に所属していた。今日から第501統合戦闘航空団と共にネウロイ殲滅を支援しようと思う。よろしくお願いします。」

 

あらかじめ頭の中で思い浮かべていたセリフを読み上げ、敬礼する。隊員の階級はほとんどが大尉以下、とここに来る前にミーナから説明があったので、敬語は最後だけにした。広い会議室に集まった少女らには、隣と何か確認し合う者、何か思い出すように口をモゴモゴさせる者、腕を組んでそのまま視線を向け続ける者などの反応が起きた。それ以外に目立った反応がなかったアレンは、何か喋らなければなるまいと思い、続ける言葉を探し始めた。するとその時、

 

「たすくふぉーすって?」

 

と質問が出た。この時代には、まだこの呼び名が定着していないのだろうか。手を挙げた黒くて長い髪を2か所で留めた少女を見る。その顔を見て、アレンはまた驚いた。この子何歳?すごく幼く見える。思わず妙な間が生まれる。それを咳で誤魔化したアレンは、単語の説明を始めた。

 

「ある任務だけに編成される部隊のことだ。一つの国だけで組まれることもあるし、いろんな国から精鋭が集められることもある。臨時の部隊、といったら簡単かな。」

 

質問した少女の幼さに影響されてか、アレンは自分の口調が少し優しくなっていることを認識した。

 

「へぇ、精鋭なの?」

 

その隣に座っていた茶髪で赤い服を着た少女が2つ目の質問を投げかける。先の回答でうっかり言ってしまったことを突かれてしまった。

 

「精鋭ばかりではないかもしれない。でも、並みの兵士以上だな。」

 

変な認識を導かないよう、あいまいに訂正する。妙に期待されるのはなきにしもあらず、逆に舐められては困る。発言するときには、わかりづらい表現を使わず明快にせよと言われる。なぜなら、その微妙な隙間を拾われて、自分が不利な方向へ付け込まれるかもしれないからだ。どこかの国では、そのやり合いで国会がボロボロになったこともあったそうだ。しかし、今のアレンのように、はっきりと断言しないことが大切な時もある。

 

「249はなぜだ?1でも良いんじゃないのか。」

 

ミーナの隣に座っていた坂本の声がミーティングルームに響く。

 

「本当は順番や規則に則って番号を決めるんだが、今回は二つの部隊が一緒になったからこうなった。この後紹介する。」

 

そのまま5人の紹介に移る。

 

「取りあえずメンバーを紹介する。みんなから見て左から1人目は、ジョン・ソープ・マクタビッシュ大尉。自分たちがいた世界で、タスクフォース141と呼ばれる部隊の隊長を務めていた。出身地はイギ―――、違った、ブリタニアだ。」

 

ソープが半歩前へ出て敬礼をする。うっかり自分の世界地図で紹介するところだった。目の前に座る少女のうちの数人が、どうした?といった顔をする。アレンはあえて気にしないことにして続ける。原隊のSASのことや141部隊ができた理由も話したいが、ここで話せば長くなってしまう。そう考えたアレンは、早速次へと移った。

 

「次はサイモン・ゴースト・ライリー中尉。彼は―――って、ちょいちょい」

 

今まで気付かなかったが、ゴーストが骸骨のバラクラバとサングラスを取っていない。自分が見たい気持ちもあるが、今は自己紹介の場だ。素顔を見せずに紹介するのはマズイ。不審者扱いで追い出されるかもしれない。そういえばさっきこの会議室に入ってきたときに数人が驚いたような表情を見せていた。その原因はこれだったのか?

 

「ゴースト、バラクラバとサングラス取ろう。」

「良いじゃないですか。こういう人物ってことで。」

 

草原のど真ん中で初めて出会った時と同じだった。言っても聞かないと薄々分かっていたアレンは、再び向き直って続きを話した。

 

「まぁいいや。彼の素顔は俺も見たことないけれど、兵士としての腕は確かだ。マクタビッシュ大尉の部隊で副官を務めている。その前にいた部隊もマクタビッシュ大尉と同じだった。」

 

少女らの視線がソープから覆面男に移動し、少しだけ不気味そうな表情になる。さてゴーストはこの風景を、サングラスによって外から見えない目でどう眺めているのか…。

 

「その覆面を取りたくない理由でもあるの?」

 

金髪でショートヘアの少女が質問した。アレンはゴーストの方を向いてどうなんだ、と問いかけるように手を差し出した。

 

「いろいろある。いろいろ、な。」

 

どうしても話したくないのか、それとも、ただ理由がないのか。アレンは少し考えたが、自分には予想ができない。また別の機会にでも聞けたらいいか、と思ったアレンは、3人目の紹介に移った。

 

「3人目は、ゲイリー・ローチ・サンダーソン上級曹長。彼も141部隊所属で、原隊もマクタビッシュ大尉、ライリー中尉と同じ。ちなみにこの6人の249部隊の中で最年少です。年は言いませんが…。」

 

すこしアレンがからかってみる。それを聞いたローチがこちらを向き、口で『何言ってるんですか!余計ですよ!』と話してきた。そのやりとりを見ていた少女らもくすくすと笑う。

 

「でも年に関係なく優秀な兵士だ。どんな武器でも、手に取れば正確な射撃ができる。困難な状況下でも、小さいときに養われた閃きで戦闘を勝利に導いたと聞いた。上級曹長という階級は低すぎるように思えてしまう。」

 

ニヤけた顔を引き締め、続きを話す。この情報はソープから聞いたものだが、おそらく本当だろう。よくいるタイプだ。普段の暮らしは普通でも、いざ戦場に立つと見間違えるほどになる分類だ。抗議の視線を向けていたローチが『そうだよその通り』といった顔になって視線を前に戻す。さらにアレンは紹介を続ける。口の中に溜まっていた唾をのみこみ、咳払いする。

 

「4人目。ジョン・コザック上級曹長。先のサンダーソン上級曹長と同じ年でおなじ階級だ。地上部隊員。彼はリベリオンと同じ位置にあった国の陸軍にいて、4人だけで様々な作戦にあたる特殊部隊の一人だ。彼も機械系に強く、部隊に支給される無人兵器を使いこなすことができる。今もハンガーに置いてあったっけ?」

 

アレンがコザックに問う。こちらに向いたコザックが頷き、後ででも紹介しようとアレンは決めた。時間があるのかどうかはわからないが。ここで今気づいたが、コザックの顎にうっすら分かるほどのひげが生えている。こいつも年に似合わず大人なんだなとアレンは心の中でつぶやいた。質問を出さないために次に移る。最後の人物紹介。249部隊唯一の女性隊員だ。

 

「5人目は、俺と同じタスクフォース108にいたヘリコプターパイロット、ディアナ・ルイス・エンデン大尉。出身地はバルトランド(2016年世界ではスウェーデン)。戦闘機ではできない兵員輸送や低速での作戦に参加した経験を持つ。地上の兵士達にとっては母親のような存在だな。」

 

だんだんと変な紹介になっていたが、気にしない。そういった感じで部隊の紹介を終えたアレンは一息ついて、少し離れたところに立っていたミーナに振り向いた。どうしましょうか、と無言で問いかける。その問いに気付いたミーナが頷いたのを確認し、アレンは壇上から降りて5人の隣に戻った。戻りながら、昔からの癖で、左腕に着けた某電子計算機メーカーの腕時計を確認する。液晶画面には9時44分37秒と浮かび上がっていた。ただそれを見るだけにして、ピアノのわきに立つ。時間確認の間に、代わりにミーナが壇上に立ち、少女らに話し始めていた。

 

「249部隊の彼ら6人は、この501基地から任務に就きます。いろいろなことにお世話になるかもしれないので、仲よくしてください。」

 

うわぁ、小学校の先生みたい。特に低学年クラスの。アレンはそう思った。言っていることは少し物騒かもしれないが、口調は優しい大人の女性だった。彼女はまだ20歳までいっていないと聞いた。あのような言葉で隊員と話せるのは、おそらく501部隊が結成されてしばらく経ったからなのだろう。彼女自身が501部隊の隊長を任せられ、配属されてきた自分より年下の隊員と接することで身に着けた技なのだろうか。この世界でウィッチと呼ばれるのは、主に純粋な心を持つ20歳以下の少女だと聞いた。しかし、まだ人間の平均寿命の6分の1までしか生きていない少女らに、人類の敵を撃退する責務を負わせなければならないと考えると、アレンは自然に顔をうつむけた。こうとしか決められなかった上層部に同情してしまう。仕方ないとは言え、やるせない気持ちがわいてきてしまう。唇を少し噛んだアレンは、閉じかけていた聴覚に情報が入ってきたのをきっかけに、暗い思考から考えを引きはがした。

 

「なんだ、ネウロイって定期的に襲来するのか?」

 

ローチの小声だった。アレンが黙り込んでいろいろ考えているうちに、何か話が進んでいたらしい。ピアノのわきに立ったままのアレンは、どんな話になったのか隣のソープに自分の口を手で隠しながら質問した。

 

「今何の話?」

「今日の大まかなスケジュール確認です。ネウロイは昨日来たから、今日明日までは来ないんだそうです。基地で待機するように、と。」

 

ソープがすぐに答える。アレンは新たに聞いた情報を整理した。あの黒くて所々に赤い斑点を付けたネウロイは、3、4日おきにこの基地へと向かってくるらしい。昨日性能テストで見た『巣』から…。教壇に立ったままのミーナは、まだ説明を続けていた。また腕時計で時刻を確認すると、9時47分28秒。2分ちょっとの間でどの程度話が進んだのか分からないが、少なくとも、出撃かそれの手前の事態にはならないようだ。なんとなく安心したアレンは、聞いていなかった部分の話を後で誰かに聞こうと決めた。その後、ミーナの終了の挨拶をもって、ミーティングは終わった。501部隊の少女らもそれぞれの行動に入る。249の面々も、気を付けの姿勢を崩して雑談を始める。アレンも、何をしようかと考え始めた。左手を腰に当て、右手を顎に添えて考えるポーズをする。アレンの癖だ。ミーナや坂本がほかの隊員と話し合っているところを見ると、自分たちはとりあえず暇らしい。そうなれば、自分の機体の掃除なり整備なりするか。整備員と話すことも必要かもしれない。適当に行動予定を立てたアレンは、249の5人に自由行動でいいと伝え、自分のジャケットのポケットに突っ込んでいた基地内の地図を取り出し、ハンガーへ向かおうと決めた。いろいろな会話が聞こえるミーティングルームを出て、地図を見ながら廊下を進む。カーペットとブーツがこすれる音が小さく響いた。

 

 

*****

 

 

「例の6人に辞令を出したそうだが、どうするのです?」

 

窓をカーテンで覆った薄暗い部屋に、入り口から向かって右手に座る中将の野太い声が響く。

 

「こちらに引き込むさ。あのままでは、我々に牙をむける狂犬だ。」

 

答えたのは、反対側のソファに座った大将だった。そう答えながら、組んでいた足を組みかえる。

 

「なるほど、忠実な番犬にしなければ、ということですな。」

 

ふふっと中将が鼻で笑いながらつぶやく。ゆっくりと背もたれから起きて、テーブルのコーヒーを手に取る。それを少しすすってまた小皿に戻す。

 

「今は放し飼いにしてやるが、いつかは鎖につないでやる。迷子はおとなしくさせないとな。頼んだぞ、エース中将。」

 

エース中将と呼ばれた男は、ゆっくりと立ち上がって敬礼した。

 

「お任せを、マロニー大将。」

 

 




書きにくい回でした。でもこの部分がないと話が繋がらないと思うと、やらなければならないと…。難しかったです。

ご感想、コメントお待ちしております。


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6 , 交流

更新が遅くなりました。すみません。

戦闘シーン以外は相変わらず苦手で…。
今回はとても苦労しました。
今後の展開にも影響する回なのでよく考えながら書いているとこうなってしまいました。


では、とうぞ。


 

……501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/16 1032 Zulu……

 

始めて歩く施設は、ふつう一度は道を間違える。この501部隊の基地でも同じだった。地図は苦手ではないが、やはり軍事施設であるだけあって通路が多く、一つ曲がるところを間違えば全く別のところへ行きついてしまう。人に聞こうとしても、建物内は驚くほど静かだった。気付けば食堂にいたり、なぜか屋上に出ていたりと、自己紹介したミーティングルームから出てから40分も経ってしまった。腕時計で確認したところ、時刻は10時33分。施設内をうろうろしていたアレンは、ようやっと目的の場所にたどり着いた。ハンガーだ。地図では、司令塔のあたりから北東の位置、地上階にあたるフロアだった。この時気づいたことだが、ハンガーは基地の建物と一体化しており、そこから付け根が膨らんだ短い滑走路が突き出ている形だった。

 

「ここまで時間を食うとは…。しくじったな。」

 

こう自分へ言い聞かせたアレンは、茶色い鉄製の少し重い扉を押し開けてハンガーへと入った。廊下に漂っていた芳香剤らしき上品な香りから一転し、すぐそばにひろがる海からくる潮のにおいがアレンの嗅覚に反応した。60m四方はあろう格納庫は、天井も15mほどあるだろうか。ハンガーと滑走路をつなぐ扉も開け放たている。とにかく大きく感じる。一番最近格納庫を使用したのはワシントン防空戦の前で、フロリダにあるホームステッド空軍予備役基地だ。あの時使った格納庫もこれくらいあったのか。よくは覚えていない。なぜなら、そこまで観察する暇がなかったからだ。タスクフォース108に編成されてから、各地の基地を転々とするわけであり、毎回違う基地の特徴をわざわざつかむ必要がなかった。しかも、作戦から帰投すればすぐに報告や環境に合わせた整備が必要で、それが終わればすぐに休息をとっていたのだ。もともとそういったことを気にしないアレンの性格もあるが…。

 

「大変だったな…。というか、俺の任務は終わったのか?」

 

こちらに来てしまったであろう、意識不明だったあの時間。あの直前の記憶は、推進装置を破壊されたトリニティをマルコフが特攻で投下した時のことだ。ホワイトハウス目がけて落ちていくトリニティにむかって機関砲の雨を降らせたところまで覚えている。あのあと、弾頭はどうなったのか。破壊されて空中爆発したのか。ポトマック川の水中へ没したのか。それとも、ホワイトハウスに直撃したのか。

 

「まさか神様、俺がワシントンを守れなかったからってこの世界に送り付けたのか?」

 

冗談のつもりで呟く。だとしたらなんて短気な神様なんだろうな、とアレンは一人思った。今ここでいろいろ考えても仕方ないと感じたアレンは、出入り口の階段を下りて自分の機体のところへ向かう。出入り口からは、天井を支える柱と事務所の影になっていて、F-15SEⅡの機首にあるグレーのレドームしか見えない。少女らの声が聞こえるが、おそらく彼女らのストライカーユニットとかいう機体の整備をしているのだろう。とりあえず足を進めて自分の機体へ近づく。事務所の角を出ると、居るとは思っていなかった客が先入りしていた。2人。自分が基地内をうろうろ迷子になりかけていた間に来ていたのだろうか。さっきの自己紹介の時、部隊名について質問してきた白い服と長い髪の小学生のような少女と、その隣に座っていた赤い服で茶髪の少女だった。こちらが数秒立ち止まっていた間に、赤毛の方がアレンに気付いた。

 

「よう、あんたがこの機体のパイロットか?」

「あぁ、そうだ。アレン・ロイド・レスリー。少佐だ。よろしく。」

 

咄嗟に自己紹介する。

 

「私はシャーロット・E・イェーガー大尉。シャーリーって呼んでくれ。よろしくな。」

 

そういって、赤毛の大尉が右手を差し出した。アレンもそれに答えて握手する。敬語抜きだが、気にしない。アメリカ人は明るく元気があればいいのだと片付ける。アレンはそう決めている。

 

「えへ、フランチェスカ・ルッキーニ少尉だよ。よろしく~。」

 

この身長と幼さで少尉か、とアレンは驚きながら、彼女とも握手を交わした。改めて、この世界では幼い少女らが戦わなければならないことに胸が絞められる。すこしの間、不自然に間が空く。しかしすぐに気持ちを切り替え、どうかしたのか、と問う。

 

「この機体、音速を簡単に行くんだってな。昨日の飛行テストでデータ見せてもらったよ。」

 

少しだけシャーリーの表情がにやりとする。何を考えているのだろうか。

 

「別に簡単ではないけど…。君たちの機体はどうなんだい?レシプロっぽいからよく分からないんだが…。」

「私が出したことあるのは、だいたい800だ。マッハは目指してるんだけどな。」

 

800というと、単発プロペラ機で最高速度を記録したフォッケウルフTa152の765㎞を上回っている。そう考えれば、十分速い方だ。というより、そもそもプロペラでマッハを超えることは難しく、向かってくる気流にプロペラの回転数が負けてしまう。圧迫されたプロペラは、逆に回転数を落とすことになる。それ以上の速度を出すには、ジェットエンジンが必要になるだろう。

 

「俺の知っているプロペラ機と比べれば、速いと思うな…。」

 

率直な感想を言ってみる。無理じゃないのかとは言わない。単純に聞けばほめ言葉だろうが、シャーリーはなぜか納得していないような顔をする。

 

「もっと早くなりたいんだよ。マッハをどうしても越えてみたい。」

 

腕を組みながらそう言ったシャーリーは、そこで、とつないだ。何を言い出すのか考えてみたが、すぐにシャーリーの口から話された。

 

「少佐の機体に乗っていいか?」

 

先ほどの浮かない顔が一変し、目が輝いていた。経験したことのない領域に入り込むのは、人間の欲の一つだ。800㎞までしか出したことのない彼女が、マッハを超えたがるのは当たり前である。

 

「やっぱりそれ考えてたんだね、シャーリー。」

 

ルッキーニが両手を上下させながらはしゃぐ。もちろんさ、とシャーリーも上機嫌。対するアレンは思考をめぐらすことに必死だった。アレンのF-15SEⅡは、前型のF-15SEが複座だったのに対し、スーパーコンピュータの小型版を組み込むことによってレーダー士官、つまりは後席を作る必要を省いている。ほぼ人工知能に近い技術を用い、自機に迫る脅威の段階別判断、対地攻撃時の適正ルート表示、目標に対して有効な兵装の選択、残弾による兵装使用プランなど、以前は後席に座っている搭乗員が担っていた作業を行っている。パイロットは機体を操縦し、兵装の発射ボタンを押すだけ。機械がなんでもしてくれる世界に移り変わっていく、一つの風景だった。要は、パイロット以外の人間をコックピットに入れる必要がない、ということ。

 

「悪いが大尉、この機体には一人しか乗れない。乗せてやりたいのは山々だが、あきらめてくれ。」

 

この答えに対し、シャーリーはアレンの予想通りの反応を示した。がっくりと肩を下ろし、泣きそうな顔になる。だが、ここでおとなしくなる少女ではないだろう。

 

「なんとかならないのか?コックピットにまだスペースがあるじゃないか。」

 

ガラスで覆われたキャノピーを指さし、シャーリーが最後の望みでもかけるかのような勢いになる。

 

「あそこには座席がない。ただでさえ安定していないのに、マッハを超えれば怪我どころでは済まんぞ。」

 

後席だったところは機械系が詰め込まれている。人一人は入れるが、体を固定するシートベルトさえなければ、機体がロールした際にコックピット内でマラカスの中にある球と一緒になってしまう。こう言ってもなんとか乗りたそうにするシャーリーだが、さらにアレンは言葉をかけた。

 

「マッハの領域に飛び込みたいなら、自分で挑戦するべきだ。それまで、音速は楽しみにとっておけ。ここで音速を経験すれば、楽しみも半分だろ?」

 

自分の力で努力することが、なによりも自分を成長させてくれる。シャーリーにとって、音速を突破することは一つのゴールだ。ゴールに向かう過程にも、彼女を成長させる何かがあるはずだ。彼女はまだ20歳にも満たない子供である。彼女らが戦う戦争を、アレンはよく知らない。ただ機械的に敵を倒すだけなのかもしれない。なら、アレンは、人にあるべきものを教える先生のようになる。もうすでに30歳を超えてしまったアレンができる授業を、この501部隊に所属する隊員たちにすることは、どこかとても大切である気がする。シャーリーはあきらめたようにため息をついた。仕方ないか、と言いたげな顔をして、F-15SEⅡを見上げる。それにつれて、アレンも機体を眺めた。全長約20m、全幅約14m、全高6m。パウダーブルーとライトシアンの2色からなる制空戦闘用迷彩を施している。外側へ10度ほど開いた垂直尾翼には、グレーの投下型爆弾を足で掴み、口先には白いミサイルを咥えて翼を広げる鷲のエンブレム。部隊名『アクイラ』を示すマークだ。タスクフォース108が結成されてからずっとこの名で呼ばれてきたアレンは、再び元居た世界のことをぽつぽつ思い出しながらいた。スラリとしたレドームから徐々に太く伸びる機首には、複座のころの名残で少しだけ余った後部があるコックピットが乗っかり、さらにキャノピーの後方下部には、前から斜め後ろに大きくスライスしたエアインテークが両側に1つずつ。機体中央に設けられた垂直機動用のエンジンがあるため、前型のF-15SEより二回りほど大きい取り込み口になっている。エアインテークは前方から見れば平行四辺形に近く、F-22のようにステルス性能を高めている。この構造は、前型のF-15SEから引き継がれている。インテークから後方の排気口へ伸びる構造物の周りは、内臓式のハードポイント―――今は一発もミサイルを搭載していないウェポンベイが設置されている。胴体下部には9つ、コンフォーマルフュエールタンク横には左右3つずつのステーションがあり、単純に計算すればAIM-9Xを最大15発携行することができる。異常なほどの搭載量だが、マルチロール機への要求として、大型のウェポンベイを設計した結果がこれなのだ。その代償として、機体の大型化を招いた。それでも、地上攻撃任務のための爆弾類、対空戦闘などに対応するミサイル、刻一刻変わる戦況下で確実な戦果を挙げるためには、必要なことなのかもしれないとアレンは思う。そしてアレンが特に気に入っている排気ノズル。後部のエンジン排気口には、上下方向に30度まで稼動する推力偏向ノズルが取り付けられている。排気を操ることによって、エルロンやエレベーターなどで行っていた姿勢変更を可能とし、さらに空中戦闘機動―――クルビットやコブラといったマニューバの実行も容易になった。背後に迫る敵機を躱したりするのに重宝する。

 

「エンジンの排気口なのかこれは…。どうして四角くなっているんだ?」

 

シャーリーが機体の後部に回っていた。アレンもそちらに移動し、排気口を覗く。

 

「もともとは円形なんだが、上下1枚ずつパドルを付けているからな。これで排気を上下させて、機動力を上げているんだ。」

「動翼だけじゃ不満なのか?」

「まぁそういうこと。…ここの基地で整備班の人はいるか?会って自己紹介しておきたいんだが。」

「整備員ならそこの詰所にいる。」

 

そういって、ハンガーの出入り口から見えていた白い詰所を指さす。二人を置いたまま、アレンは詰所の扉を開けて中に入った。汗臭いにおいが漂う。工具棚を横切って部屋を見渡すと、グレーの作業着を着た男が10人ほどいた。休憩中らしく、飲み物を飲んだり、ソファでくつろいでいたりする。アレンが恐る恐る声をかけると、一番手前で椅子に座りながら新聞を読んでいた男が振り返った。

 

「あ、もしかして昨日くらいにあの飛行機で来た人か?」

「あぁ、タスクフォース249所属のアレン・ロイド・レスリー少佐だ。」

 

少佐という階級を聞いてか、こちらに向いていた整備士がこけそうになりながら慌てて立ち上がる。

 

「すみません、ため口を聞いてしまいました!この基地で整備班の副長をしております、ゲイブリエル・ベイリー曹長であります!」

 

驚くほどきれいな敬礼を決める。アレンも少しびっくりする。その大声に、部屋にいた残りの整備士もこちらに振り向く。

 

「あ、いや、そこまでしなくても。気にしないでくれ。」

 

それでもしばらく直立不動の姿勢を取っていた曹長は、アレンがもう一度言葉をかけて敬礼を解いた。やっと本題に入る。

 

「俺の機体の整備を頼みたいんだが、お願いできるか?」

「しかし、あの機体はまだ見たことないものでして、流石に我々だけでは無理なのですが…。」

 

曹長が困った顔をする。それは確かだろう。機体には触らないように指示されていたものの、周りを見ることはできる。そこから、あの機体が『見たこともない』機体だと判断したのだ。もちろんその予測は間違っていない。

 

「構わない。こっちも一緒に整備するから。」

 

親指を立てた右手で自分の胸を指す。それを見た曹長は、了解しましたと返事をして、濃茶色の作業時の上を着こみ、数人の整備士を連れて向かってきた。アレンも詰所の出入り口から外へ出る。再び機体の傍へ向かうと、新たな客がいた。

 

「お、少佐、早速整備か?」

 

詰所の影から出たところで、まずレドームに右手で触れていた坂本と目が合う。あぁ、とだけ答えて足を進める。柱を通り過ぎると、グレーのすその長いコートを着た少女、バルクホルンが腕を組みながら立っていた。

 

「これこそ軍人だ。奴も見習ってほしい。」

 

奴ってだれだろうかとアレンは少し考えた。だが、それほど501部隊の隊員を知らないアレンには、考えても答えの出しようがない問だった。その思考を頭の片隅に追いやる。

 

「みなさん見学ですか?今から点検で少し危険なこともするから、気を付けてください。」

 

危険という言葉を発してから数人がこちらを向くが、あえて気にしない。何を想像したかはわからないが…。後ろから工具類を担いだ整備士4人が出てきたのを確認し、アレンはキャノピーの付け根に格納されていた梯子を下ろして、コックピットに乗り込む。キャノピーをゆっくりと開き、スペースに体を滑り込ませる。とりあえず、エンジンの整備を考えて、機体を滑走路に出さなければならない。

 

「尾翼から後ろに回らないように!丸焼きになるぞ!」

 

あわててコックピットから身を乗り出して叫ぶ。特に、先ほどエンジンを見ていたシャーリーらに向けての注意だ。周りを見渡し、全員が離れていることを確認し、エンジン系統の起動スイッチをONにする。続いて電子機器の電源をいれて、すべての機能を作動させる。エンジンのタービンの回転音が次第に大きくなり、コックピットに振動が伝わり始める。座席に座りこんだアレンは、まず機体全体のメンテナンスチェックを走らせるため、コンソールの左下に緑色の下地に黒い字で『system check』と書かれたボタンを押しこむ。すると、一度すべてのディスプレイが表示を消し、10秒ほどたって再びそれぞれの表示を点らせた。警告の音も響かず、機体の備わるすべての機能の状態が正常であることをアレンに伝えた。

 

「これからどうするんだ?」

 

下でこちらを見上げていた整備班のベイリー曹長が、F-15SEⅡのエンジン音に負けじと声を上げる。ルッキーニがシャーリーにしがみついているのは、大きすぎるエンジン音に対して驚いたからだろう。

 

「とりあえず滑走路に基地を動かす。それから始めたい。」

 

顔だけコックピットからだして答えたアレンは、機体の前後から離れるようにジェスチャーをした。離れたのを再度確認し、スロットルを動かす。少しだけエンジン音が高くなり、機体が前方へ動き出す。HUDの速度表示とエンジンのパワーを見極め、時速6キロに固定した。サイクリックも操作し、右にあるハンガーの出入り口を目指して移動する。ゆっくりと人が歩く速さで移動したF-15SEⅡは、ハンガーの影から日向に出て、広がった滑走路に描かれた円の外に停止した。タイヤのロックをかけ、エンジンをアイドリングまで落す。そこまで終えたアレンは、コックピットから乗り出して、灰色の滑走路へ飛び降りた。

 

「改めてみると、大きいですね。」

 

ついてきたベイリーが、機体を眩しそうに見ながら問う。全長20メートルは、この時代にあったレシプロ機と比べると倍くらいはある。大きいと感じるのも無理はない。そうだな、と答えて、アレンは本題に入る。

 

「いろんなことがあるんだが、まず燃料に関してだ。ここの基地にジェット燃料ってあるのか?」

「軍用のJP-1が燃料庫に貯蔵してあります。」

 

ベイリーの右後ろにいる帽子をかぶった整備士が答える。飛行機が飛ぶのに必要なもの1つめ、エンジンを動かす燃料。これがなければ、飛行機もただの鉄のオブジェクトだ。飛ぶことのできない飛行機は、その名前で呼ばれることはできない。F-15SEⅡで使われているジェット燃料の規格は軍用の『JP-8』。1990年から使用されている陸・空軍統合ジェット燃料である。それ以前に1951年から使用されていた『JP-4』より安定性が増え、有毒物質の含有量も抑えられている。一方今存在するのは、最初の軍用規格のジェット燃料である『JP-1』。2016年にはすでに使われていなかった遺産だ。話には聞いていた過去の燃料が、いま最も最新の航空機燃料なのか。アレンはそう思い、果たしてこのF-15SEⅡで使用できるのか考え始めた。国連の軍用規格として開発、精製されている燃料だということを考えれば、JP-1を使用できないわけではない。1944年のエンジンと2016年のエンジンの構造が大きく変わったわけではない。しかし、精製度から考えると、F-15SEⅡのプラット・アンド・ホイットニー F100が100パーセントの能力を発揮できるかはわからない。しかも一度に消費する量も、このころのレシプロに比べて数倍も多く、下手して飛び続ければ、他の航空機が飛べなくなるのも考えなければならない。249部隊には、F-15SEⅡに加えてAUH-72も所属している。両機の運用を考慮すると、飛行回数は抑えるしかない。アレンは約1分かけてじっくり考え、結論を出した。

 

「元居た世界では進化版を使っていたが、まぁ無いもの強請りはできない。使っていいか?」

 

口に当てていた手を腰に移し、ベイリーに振り返る。

 

「自分だけでは判断しかねますが…、どのくらいの量を一度に使います?」

「多分だが、内臓するだけでもこの基地にある機体の4、5倍は消費すると思う。」

 

その瞬間、その場にいたアレンを除く7人が絶句した。さらにアレンは続ける。

 

「そんでもって、正規燃料だと飛べる距離は2000キロちょっと…。JP-1だと1500くらいしか無理かもしれない。」

 

完全に凍りついたベイリーらは、30秒そのままだった。いつまで待っても動かなかったので、アレンが大丈夫か?と問いかける。

 

「いやいや、大丈夫なわけないだろ、驚くよ。」

 

坂本が、なおも驚いたままの表情で答える。実際のところ消費量や使用可能かはアレンもよく分からないが、これ以上良い条件下での運用はあまり期待できない。向こうにいるとき、整備員に任せっきりにしないでもう少し勉強しておけばよかったな、とアレンは唇をかんだ。

 

「こっちもやたらに出撃することはやめる。燃料のことは中佐にも話さないといけないな。司令部にも相談してみないと…。」

 

そういって、アレンは燃料の話を終えた。このまま燃料の話だけでは終わらない。戦闘機一機を飛ばすには、まだほかにも必要な点検項目がある。次は機体の大部分を覆っている装甲の類。

 

「じゃ次良いか?装甲類の話をしたい。」

「お、お願いします。」

 

話題を変えるアレンにベイリーが答えた時、ハンガーの方向から男性の声が響いた。その場にいた全員がハンガーに振り向く。機体の影で何かわからなかったアレンは、数歩右に移動してハンガーを注視した。そこには駆け足でこちらに来るローチの姿があった。作業着に着替えているらしく、グリーンのシャツとカーゴパンツをはいている。

 

「レスリー少佐、補給物資が来たそうです。確認しますか?」

「もう来たのか?早いな。」

 

アレンは本気で驚いた。一昨日この基地に来て辞令が下りたのはつい2時間ほど前だ。普通ならこちらから要望を出すのが先である。なのにそれをせず、しかもこの短時間に向けてくる司令部って…。

 

「どこにあるって?」

「もうハンガーまで来ています。」

「早すぎるだろ!」

 

想像を超えるとは、まさにこのことかとアレンは思う。ローチが手招きするので、アレンも駆け出す。ブリタニアの司令部がどういった仕組みになっているのかまるで分からない。いくらなんでも大将が直接見に来たからと言って信頼するのか。大将一人が物資調達を決めても、それを幹部にどうやって説明したのか。立った1日で説得させるということは、それほど権力を持っている大将なのか?この時代ならあり得るのかと気付き、アレンはその思考にピリオドを打った。結局のところ、自分たちは異世界の住人とされる。珍しくもあり、得体のしれないものでもある。戦力が必ずしも十分ではない軍部がすることは予想ができる。使えそうな兵器や兵士はとりあえず取り込む。取り込んだものはすぐに戦力として戦地へ投下し、疑問を払拭させる。いわば兵士はチェスの駒。こうして素早く補給物資を送りつけて戦争へ加えさせようとしているのかとアレンは考え、結局人間はみんな同じなのかと思った。物を考えるとつい足が止まる癖を抑えるために、走る力を強くする。自分を照らす日差しが、妙に新鮮で強く感じられた。

 

 




お読みくださってありがとうございます。

風景描写をがんばってみたのですが、どうでしょうか?
登場するウィッチなどは、作者の独断で選んでいます。

またご感想、ご批評お待ちしておりますので、よろしくお願いします。


≪なんとなく次回予告≫
未来から過去へと転移してしまった6人。魔女らと交流する中で、自分たちが何をすべきかを考える。そして、鷲は大空へと飛び上がる。


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7 , 交流 ⅱ

見ていただいたかは分かりませんが、前回の最後に書いた予告通りにいきませんでした。すみません。これから気を付けます。


前回の続きみたいなものです。
キャラクターの登場がMW2やACahに偏っているのに気付いて、なんとかバランスよく登場させるように努力しています。


では、よろしくお願いします。


 

……第1ハンガー、501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/16 1120 Zulu……

 

ハンガーの中に入ると、AUH-72の隣にグレーの鉄製コンテナが置かれていた。高さ2m、奥行き20mくらいの海上輸送用コンテナで、横には大きくブリタニアの国旗らしきマークが描かれている。自分たちへの物資で間違いないようだ。コンテナの周りには249部隊員や運んできたらしい作業員の姿があった。傍に運搬用の大型トレーラーがあることを見ると、届いたばかりです、といった感じだ。近くまで来てコンテナ全体を見る。丁度一人の作業員がコンテナの扉を解放した。重い金属音が響き、ゆっくりと開け放たれる。閉まらないようにロックしたところで、まず最初にコザックがコンテナに入り込んだ。アレンも扉に近寄り、中を見渡す。暗くて何があるか分からない。

 

「何が届いてる?」

「箱のサイズからして、まず歩兵用銃弾です。まだ奥にもあるみたいですが…。とりあえず出します。」

 

そういってコザックが近くにあった木箱を抱え上げる。両腕に抱えられた箱は、だいたい60㎝四方の木箱。続いて入った作業員も似たような木箱を出す。自然にバケツリレーが始まったので、アレンも列に加わって運ぶ。木箱を受け取るたびにずしりとした重量が腕にかかる。あまりライフルを扱うことのないアレンにとって、弾薬箱は少し重く感じられた。そのリレーは20箱くらいを運んだところで終わった。運び出した中には、やや大きな木箱もあった。何が入っているのか気になったが、作業員が直接アレンを呼ぶので、疑問を後回しにしてコンテナの奥に入る。薄暗いコンテナ内でははっきりと判断できないが、何かの台車に積まれたそれは、わずかに差し込む光できらりと輝いた。近づいてそっと触ると、ひんやりとした金属の感触があった。こちらに向かって先端が細くなっている。ミサイルだ。後ろにいた作業員に声をかけ、台車を引っ張り出す。大の大人4人でゆっくりと引き出した台車には、白とグレーの円筒形の物が横に4つ、縦に3列乗っていた。それぞれが鉄のフレームで区分けされ、ミサイル同士が触れ合わないようにしている。ヘリの傍まで台車を移動させてどのミサイルかを確認しているうちに、2つ、3つ目の台車も運び出された。白い筒状の物体が露わになる。その様子を見ていたバルクホルンが、台車を指しながら問いかける。

 

「それはなんだ?」

「ミサイルだ。ジェットエンジンを積んだ誘導機能付き爆弾、という説明だな。」

「誘導爆弾?敵に向かって飛んでいくのか?」

「そのとおり。構造はごちゃごちゃしていて説明しにくいけど、一言でいえば敵が出す熱を捉えて追いかけるって感じだ。」

 

バルクホルンがやや腑に落ちなさそうな顔をするため、アレンは初めてネウロイへミサイルを放ったときのことを説明に持ち出した。

 

「5日くらい前、俺が初めてここへ来た日、あの機体から白い煙が出たのを見ていたと思う。」

 

そういいながら、滑走路上に止めたままのF-15SEⅡを指さす。

 

「あぁ、何か飛び出ていったのを見た。あれがこのミサイルとやらか?」

「そう。同じもの。」

 

今度はなるほど、という反応を示した。代わりに坂本から質問が出る。

 

「あの一発でネウロイを破壊したが、あの威力はすごいな。特殊な徹甲弾なのか?」

「先端には爆薬が仕込まれている。敵に触れて起爆し、その爆発力で目標を無力化するんだ。」

 

少し前までは、それこそ機関銃の攻撃だけで敵機同士を落としあっていた。しかしエンジンがジェット化したり、機体を覆う装甲が強化されたりと、第2次世界大戦にあったような戦闘機は姿を消した。その結果、高速で飛翔して敵を追い落とすためのミサイルが登場した。勝つためには手段を選ばなくとも、戦争の後には醜いがれきの山しか残らないようになった。人間それぞれが生き残るために編み出した技術の結晶ともいえる。一方で、人同士が戦うには無駄に強力な兵器である。ウィッチたちにミサイルの話をしながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。それからしばらく公に出してはいけない情報以外でウィッチたちに説明していると、不可解なことが思い浮かんだ。

 

「ちょっと待った。AIM-120Dだよなこれ…。」

 

独り言。この時代にいる人間には決してわからないこと。アレン一人の疑問だ。初代AIM-120が開発されたのは1980年代。再び妙な現象が起こっている。

 

「あれ?そう言えば今何年?NATO弾なんて存在しないだろ。」

「40×46㎜弾まで…。どうしてだ?」

 

ローチやソープも何やら呟いている。おそらくアレンの疑問と同じ意味合いを持った言葉だろう。

 

「坂本少佐、この物資は一体誰が送ってきた?」

「ブリタニアの司令部だ。そのほかはあまりない。」

 

イギリスでもなければアメリカでもない。存在しないはずの兵器が、なぜ時代をさかのぼってここにある?アレンたちがここに飛ばされたと同時に、この世界にも存在するようになったのか?だとすれば、自分たち以外にも2016年の世界からこちらに来てしまっているものがあるかもしれない。う~んとアレンは唸った。想像する限りでは思いつかないことになってしまっている。

 

「レスリー少佐、何か手紙があります。」

「て、手紙?」

 

いつも通りバラクラバ姿のゴーストが、コンテナから白い封筒を持って出てきた。それを受け取り、止めてあるシールを剥がす。中からは二つ折りになった紙が出てきた。広げて見ると、10行ほどの文章が書かれている。上から読もうとするが

 

「―――、ロシア語?」

「え、マジすか。」

 

全く読めない。

 

「コザック、読める?」

 

木箱を開けたり閉めたりしていたコザックに紙を渡す。彼の両親はロシア人であるため、彼自身もロシア語が話せる。野原であった時に聞いていた。数秒待つと、コザックが内容を要約して話した。

 

「送り主はよく分からないですが、普通の人間ではなさそうです。今回は249部隊用の機銃弾類全般、それと少佐のF-15SEⅡ用ミサイルを送ってきたようです。今回は第1弾で、1か月後に第2弾を送ってくる、とあります。」

 

詳しい内容も読み上げる。ミサイル類として、AIM-120Dが10発、AIM-9Xが12発。対空戦闘任務での標準兵装2セット分にあたる。機関砲用の20㎜弾も届いた。歩兵用銃弾に関して知識があまりないアレンはよく分からないが、ソープやローチの反応からして、十分な量があるようだ。

 

「送り主は神様か?笑えるな、そりゃ。」

 

ゆっくりと立ち上がったソープが呟く。もう何が何だが。アレンはもう一度深く唸った。自分が何かの拍子に過去へタイムスリップしたことはわかる。そしてこの世界には魔力が存在し、地球にはネウロイと呼ばれる集団がいて人間との攻防を繰り広げている。しかしこれだけでも理解しがたい状況なのに、立て続けに不思議なことが起こる。存在するはずのない兵器が調達され、人間かどうかわからない存在から手紙が送られる。向こうでは一種の息抜きとして、とある国のアニメとかいうテレビ番組を見ていたことがある。充実したストーリーときれいな作画は、アレンも見入ってしまった経験がある。ストーリには魔術だの超能力だのといった架空の世界があった。架空の世界だからこそ、その中で夢を膨らませることができ、それがアニメの面白いところである、と誰かが言っていたのも覚えている。しかし、架空だと思っていたことが今目の前で起こっている。

 

「少佐、何考え込んでいるんですか?」

 

黙っていた時間が長かったようで、ソープが声かけてきた。

 

「この世界、ずいぶん神様の好き勝手になってるような気がするな…。」

「は?」

 

ソープは理解不能だったが、アレンは特に説明することもしなかった。なんでもない、と一言言って、補給品を片付けようとミサイルが積まれた台車に手をかける。ハンガーと隣接する弾薬室にミサイルの台車を運び込み、集まっていた基地の人間が散らばっていくのを見ながら、ベイリーらとF-15SEⅡの整備をする。一通りの点検項目をレクチャーし終えたのは、丁度13時過ぎになっていた。

 

 

*******

 

……マロニーの執務室、連邦軍司令部、ブリタニア連邦……

……1944/4/16 1520 Zulu……

 

 

木製の扉がノックされる音が響いたのを聞き、マロニーは回転イスに座ったまま「入れ」と声をかけた。ドアノブが回転する音と扉のヒンジがすれ合う音が小さく響き、外から二人の人影が入ってきた。それがエース中将と執務補佐官だと分かると同時に、マロニーは立ち上がって机の前に歩み出た。補佐官が扉を閉めてこちらに振り返ると、二人そろって敬礼をした。マロニーも答礼する。お互いに手を下ろすと、エースが話し始めた。

 

「以前調査依頼が出ていました件について報告に来ました。」

「ほう、どうだったかね?」

 

マロニーが答えると、エースの隣にいた補佐官がバインダーを見ながら答えた。

 

「実験用“フローズン・フレイム”を無事に確保しました。現在、“エコー・リマ”にて保管中です。今のところ安定しており、本国周辺に目立ったネウロイの反応は確認されていません。」

 

さらに紙を数枚めくって報告を続ける。

 

「並行して行われている“プロジェクト・エアクラフト”ですが、現在情報の収集と研究が行われています。1週間後には試作機の建設に入ると技術部から報告がありました。」

「つまり、計画に遅れはない、ということだな。」

「はい。」

 

取りあえず安心し、マロニーはふむとため息をついた。マロニーをはじめとするブリタニア空軍の一部で行われているとある計画のことだ。“凍った炎”と“新しい航空機”による一連の計画を成功すれば、現在ヨーロッパを中心として世界に広がりつつある戦争を勝利へと導くことができる。マロニーの身内にも、敵によって亡くなっていった人間が何人もいる。それこそが、今の彼を動かす力だった。最強の兵器を戦争へ投入することは、結果として恐るべき敵から自分たちの生命、地球市民の生命を守ることになる。マロニーはそう考え続けている。そして副次的な繁栄ももたらすだろう、と。

 

「よし、報告ご苦労。補佐官、下がっていいぞ。」

「失礼します。」

 

右手で促し、連日徹夜に近い仕事にあたっている補佐官を退出させたマロニーは、部屋に入ってから一言しか話していないエースに向いた。

 

「正直、ここまでうまくいくとは思いませんでした。」

「良いことではないか中将。」

 

扉が閉まる音が響くと同時に、エースから話しはじめた。立ったまま話をするのも疲れると思ったマロニーは、ひとまず部屋の中央にあるソファーを勧めた。二人同時に座り、話を続ける。

 

「問題はこれからですよ。いえ、今この時と言った方がいいのか。」

「情報部のことか?」

「ええ。501へ送ったチーム『ガイスト』たちが、うまくいってるかどうかです。」

 

ソファに深く沈み込んだエースが軽くうつむくのを見ながら、マロニーも頬杖をついて天井を見つめる。通称『ウォーロック計画』を構成するプランⅠ期Bは、別の世界―――今マロニーたちがいる地球の未来に近い世界―――から来た人間が持ち込んだ先進技術を調査することである。つまり、アレン・レスリーが搭乗する、高速飛行が可能な戦闘機に使われている技術をコピーするということだ。ウォーロックの飛行速度は存在するどの航空機よりも速く、現在使用されている機体設計では空中分解を起こす可能性がある。丁度良いタイミングで、もともと高速飛行を前提として作られた機体を見ることができたマロニーは、もちろん黙っているわけではなかった。理屈からすれば機体の強度は変えずとも、ウォーロックは高速で飛行することが可能だと言われている。なぜなら、動力であるエンジンには“フローズン・フレイム”という“ネウロイのコア”を使うからだ。それを拡張させることにより、ネウロイ自己修復能力を利用できれば、機体が分解しかけてもその部分を修復させることが可能である。このウォーロックというのは、極端に言えば人間がコントロール可能なネウロイなのだ。強いものはなんでも吸収して使う。ただ、敵本体をそのまま味方にするのは特殊であるが。

 

「タスクフォース249の戦闘機の技術をどこまで吸収できるか不安です。チーム員はトップクラスのスパイですが、完全ではありません。」

「なに、戦闘機を整備する人間に化けさせたんだ。最も情報を抜き出しやすい立場だ。怪しまれることもない。」

 

そうですな、とエースが答える。しばらく二人で話し込んだマロニーとエースは、夕食の時間になり、執務室を後にした。

 

 

*******

 

……第1ハンガー、501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/16 2135 Zulu……

 

 

「いやぁ、ゆっくりと愛銃を点検するなんて何時振りだろうな。」

「なに新入社員みたいなこと言ってんだ。クリーニングなんて当たり前だろ?」

「こいつ仕事終わったらさっさと寝てましたから。」

 

一部だけつけられた電灯の下で、70年先の技術が盛り込まれたライフルを手に取る人影があった。元タスクフォース141の3人だ。木箱に腰掛けながら部品を外して清掃をしたり、サイトを覗き込んで構えの練習をしたりしている。

 

「にしてもこれからどうするんですか。」

「おうちに帰りたいか?」

「正解なような、不正解なような。」

 

ローチが曖昧な返答をしたので、ゴーストはどっちなんだよと突っ込みを入れる。その時、消されていた照明が点き、ハンガー内が明るくなった。3人とも同時に天井を見上げて、何が起こった、と思考をめぐらす。しかしその答えはすぐに出た。ぎぃと何かがこすれる音が響き、3人は音のする方向へ振り向く。ハンガーと廊下を結ぶ出入り口が開き、中から二人の人影が出てきた。

 

「お?」

「あ…。」

 

双方から声が漏れる。上下とも白と黒2色の服装をした少女と、水色の上に白いタイツを履いた二人だった。

 

「え~と、誰だっけ?」

「さっきも紹介しただろ!覚えロ!」

「そうですよ、ゴースト。リトビャク中尉とユーティライネン少尉ですよ。」

 

人の名前は覚えにくい、とはなから覚える気もしないゴーストだが、すでに5回以上同じことをしている。その都度エイラが起こり、ローチが教え、ソープはあらぬほうを見つめ、サーニャは小さくうつむく。傍から見ればコントのワンシーンにもなりそうだ。すまん、とゴーストが答える中、ソープは座ったまま首を2人に向けて問うた。

 

「どうかしたのか?」

「これから夜間哨戒です…。」

 

ちらちらとこちらを伺いながら答えるサーニャに、ソープは彼女が恥ずかしがり屋なのかとあたりを付けてみる。すると、横でくすくすと笑う声が起こった。何かあったのかと振り返ると、ゴーストとローチがそれぞれ腹と額を抑えていた。

 

「大尉、怖がられてますよ。」

「そのモヒカンで今の声掛けはアウトです…!」

 

そのまま笑う2人をうるさいと叱り、話を戻す。

 

「夜間哨戒か。がんばれよ。」

「はい…。ありがとうございます。」

「でも二人だけなのか?」

「いえ、一人です。」

 

3人は固まった。扉の向こうに広がる夜空へ、一人で飛び出すのかと。二人でも心細いだろうに、不安ではないのだろうか。いや、そもそも目の前には2人の魔女がいる。エイラは何のためにここにいるのだ?

 

「少尉はいったいなぜここに?」

「見送りダ。」

「?…一人だけ?」

 

ローチは一人呟いた。単機出撃なら、他の隊員も見送りに来てもいいのではないかと考える。

 

「毎晩毎晩みんなに来てもらうのは少し悪いかなって…。」

「サーニャはいっつもみんな思いだからな。」

「毎日なのか?」

 

エイラがサーニャをほめるのをよそに、ローチは思わず声を大きくした。

 

「ナイトウィッチは、この基地で私だけなので。」

 

サーニャが静かに呟くのを聞き、ローチは開いた口がふさがらなかった。まだ501部隊の戦闘を見たことがないが、一人で出撃することはないと思っていた。むしろ、思いもしなかった。司令部に対する若干の怒りも浮かんだが、今自分がいる世界が元居た場所とは違うことを思い出し、冷静に考える。数日前にアレンとマロニー大将が話をしていた時のことを思い出し、ウィッチらが現状で不足していることを振り返る。この状況下ならば仕方のないことなのかと心の中でため息をついた。

 

「すみません、私はもう出ますので…。」

「あぁ、すまない。声かけて悪かった。」

 

遠慮がちな声が掛けられ、それに対してソープが明るい声を出す。一礼してストライカーユニットへ向かうサーニャと、その手伝いをするエイラを見て、3人は散らかったライフルの部品を集めた。彼女が発進するさいの風で飛ぶかもしれないからだ。HK416CのアンダーバレルにM320を取り付ける作業をしていたローチに、ゴーストが話しかける。

 

「なぁ、あの仲の良さって、もしかしてあれなのか?」

「へ?“あれ”ってなんすか?」

 

何を思いついたのか分からない。ましてや彼がそんな話をすることが、ローチにとって疑問だった。ローチの頭が疑問の解決に必死になっている間に、ゴーストが続ける。

 

「特にユーティライネンの方、リトビャクのこと好きじゃねぇの?」

「急に何を言い出すかと思えば、そんなことか…。」

 

隣でネジや小さな部品を片手に集めていたソープが割って入り、早く片付けろとばかりに手を払う。ローチとゴーストも黙り、部品の回収を急ぐ。すべてをまとめたと同時に、ハンガー内に高速で連続する破裂音が響いた。音の発する方を見ると、サーニャが足に履いたユニットを起動させているのが見えた。その下に青白い光を発する円形の魔方陣が現れ、やがてサーニャのユニットは固定台から離れた。サーニャはゆっくりと前進し、灰色で箱型のロケットランチャーらしきものを抱え、3人に軽くお辞儀をしてから飛び立った。加速した機体がふわりと路面を離れ、赤と水色の航空灯が徐々に高度を上げていくのを見送る。裸眼では見えないくらい小さくなった頃、不意にゴーストが話し始めた。

 

「ところでユーティライネン少尉。」

「なんだ?」

 

ゴーストが表情の分からない顔面をエイラに向ける。何度も見て慣れたのか、エイラは驚くそぶりも見せない。ローチは、やはりその話をするのかと内心呆れた。そんなはずはないと思っているのだ。ゴーストが話し出す。

 

「リトビャク中尉のこと、好きでしょ?」

 

普通なら、平然と『え?何のこと?』だとか『何言ってんだ。』と答える。もちろん、ローチもエイラがそうすると思っていた。こんなに小さな少女が、もう同性を好きになるとは考えられない。一種の偏見かもしれないと思うが、どうしてもそう感じてしまう。よほどのことがない限りそんな感情は浮かばないだろうし、エイラがそう言った分野の感情を抱くようには見えないのだ。少し離れて天井を見ていたが、なんとなくエイラを向いた。しかし、そこには予想外の光景があった。エイラの頬が少し異常でないくらいに赤くなっている。

 

「な…!そんなわけないだロ!」

「じゃぁ毎日リトビャク中尉を見送りに来ているのははぜ?」

「べ、別に変じゃないだろ!」

 

必死になって弁解しようとするエイラだが、頬の赤さはさらに増している。誰でも見てわかるほどテンパっている。それでもゴーストは容赦しない。

 

「いっつもリトビャク中尉と一緒にいるとこ見ると、怪しいなぁ~。」

「うるさい!したくて一緒にいるんじゃないぞ!その…、なんていうか…。」

 

妙なタイミングで勢いが弱まるエイラを目の当たりにし、ローチは本当なんだと確信した。理由は何にせよ、エイラがサーニャを好きであることは間違いない。

 

「ゴースト、やめておけ。もう遅い時間だ。少尉も戻ろう。」

 

二人のやり取りを黙って見ていたソープがついに口を開いた。それに従い、エイラとゴーストも会話を終えた。赤い顔のままエイラがハンガーから出ていくのを見送り、3人もライフルの組み立てを終えて武器庫へ仕舞い込んだ。それから、ハンガーなどがある棟とは別棟にある男性宿舎へと向かった。

 

「ゴーストってあんなこと聞くことありましたっけ?」

「別に。なんか面白そうだったから。」

 

そんな会話をしながら彼らが部屋についたのは、夜の10時30分を過ぎたころだった。

 

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


最後の締め方…練習不足かもしれません。
途中の部分もですが…。


ご意見・ご感想お待ちしています。


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8 , 新たな戦場

更新が遅れてすみません。

勉強の合間を縫って、休憩時間に話を考えているのでなかなか進みませんでした。


それでは、どうぞ。


……ミーティングルーム、501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/18 0931 Zulu……

 

 

「今日は前回のネウロイ襲来から4日目です。周期からして今日はネウロイが出現すると思われます。みなさん、いつも通りの警戒をお願いするわ。」

 

朝礼というような一日全体のブリーフィングというか、とにかく朝食後に開かれるミーティングでミーナが短い伝達をする。同じ基地に配属される戦闘部隊員として、アレンらタスクフォース249部隊も、部屋の後ろの方でそのミーティングに参加していた。ミーナに続いて坂本も壇上に上がって話し始めるが、特別緊急なことでなかったこともあり、アレンは席に座ったまま通路を挟んで向こう側にある窓を向いた。窓の外に見える空には少しばかり雲が浮かんでいるだけで天気は良い。こちらに来てから雨に降られていないことを思い浮かべ、何気なく欠伸が出ていた。戦争や紛争を扱ったテレビドラマやゲームでは、戦闘シーンになると天気が悪くなる描写が多い。アレン自身も、戦闘中に天気が良かった時と悪かったときは半分ずつくらいだ。しかし今アレンが見る窓の外の天気は、少女らがネウロイと戦い続けている世界を感じさせないようだった。ミーナは今日のどこかでネウロイが仕掛けてくるだろうと話したが、それも嘘のように感じられた。後で日光浴でもしようかと顔を前に向ける。すると、さっき壇上から降りていたはずのミーナが再び立っていた。

 

「言い忘れていたけど、今日からレスリー少佐たちの部隊も出撃することになります。空の上でもよろしくお願いします。」

 

何を言い出すのかとぼぅっと聞いていたアレンだが、それを聞いて「ぅえ!?」という変なリアクションをしていた。前に座っていた少女らが何事かと振り返る。あまりに突然であるし、なにより説明なしに戦線へ放り込まれることに驚いた。

 

「いきなりですか?」

「初めて、ではないはずよ。少佐たちが初めて来たときがあったじゃない。」

 

確かにそうですけど。いきなり飛び込んで勝手にやっつけちゃいましたけど。観戦か偵察くらいしちゃだめですか? と考えながらミーナを見つめるが、大丈夫でしょ、という視線を送ってくる彼女の何かを理解し、アレンは

 

「了解しました。」

 

と力なく答えた。タスクフォース108として毎日のように空を飛んでいたが、その時は敵がどのようなものかほとんど理解していたからだ。ネウロイなどという得体のしれない敵に向かっていくのとは別である。残りわずかなミサイルをぶっ放したことはあったが、あの時は少なくとも気分が高揚していたからだ。恐怖が消え失せていたがゆえに、初めてでも撃墜することができた。

 

「安心してレスリー少佐。501部隊との共同だから。」

 

当たり前だろ、とアレンは心の中でつぶやいた。結成から間もない部隊から単独出撃させるなどあり得ない。出撃して死んでこいと言っているようなものだ。その話を最後に、今日の朝のミーティングは終了した。アレンは早速ハンガーへ向かい、先日届いたミサイルの搭載作業へ向かった。

 

 

 

*******

 

……第1ハンガー、501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/18 1011 Zulu ……

 

 

サイレンの重低音が体全体に響きわたる。それがネウロイ出現のサインだとアレンが理解したと同時に、ハンガー内が慌ただしくなった。木箱に腰掛けていたアレンも立ち上がり、このタイミングのよさというのは何事かとアレンは思う。濃いグレー服を着た作業員と数名のウィッチらがハンガー内に現れ、台車に乗せられたライフルや彼女らが乗るストライカーユニットが準備されていく。朝礼の時かけられたミーナの言葉を思い出し、アレンもフライトスーツに着替えるべくハンガー据え付けの更衣室に入った。久しぶりに着込むスーツは、誰かが洗濯してくれていたようで、きちんとたたまれていた。ありがとうございます、と小さくつぶやき、それを手早く着る。他にも金具やベルトの類を身に着けてから外へ出て、急いでF-15SEⅡへ向かう。格納式の梯子に手をかけた時、ふと声をかけられた。

 

「レスリー少佐!あなたは501部隊の後に離陸してくれ!」

「了解だ!」

 

ユニットを履いて待機していた坂本が叫ぶのを聞き、アレンもその言葉を素早く呑み込んで返事をする。梯子を駆け上ってコックピットに体を滑り込ませ、計器類やエンジンを始動させる。その間にもウィッチたちの準備は完了し、やがて離陸が始まった。彼女らが出撃するのをちらと見つつ、各々が抱えるライフルが重そうだと感じた。改めて、少女らの活躍が確かなのかと思ってしまう。全員が離陸し終え、出撃待ちがアレンだけになった時、

 

『レスリー少佐、聞こえる?』

 

装着していたヘルメットに内蔵されているスピーカーが音を発した。

 

「感度良好です。どうぞ。」

『出撃と言っても、今回は遠距離からの観測でも良いわ。どんな戦法か、ネウロイがどのようなものか…。あなたの目で確かめて。』

 

さすがヴィルケ中佐、理解が速いです。

 

「了解です。」

 

そう答えたアレンは、セットアップの完了したコンソールを端から端まで確認し、両方から突き出たサイクリックとスロットルをつかんだ。ゆっくりと倒し、F-15SEⅡの機体を動かす。ふと気づくと、一人の作業員が両腕を上げて誘導を取っていた。キャノピー越しからその顔が見える。ベイリーだ。彼の腕の動きを見つつ、それにしたがって滑走路へ侵入する。機体全体が影から出たところで、アレンは一度機体を止めた。最終チェックをする。

 

「システムオールグリーン、準備完了。管制塔、離陸許可を請う。」

『レスリー少佐、離陸を許可します。』

 

てっきりコールサインで名前を呼ばれると思っていたアレンは、名字で呼ばれたことに戸惑った。管制塔でマイクを取っているであろうミーナに話しかける。

 

「中佐、コールサインは“アクイラ1”で頼みます。」

『分かったわ。』

 

よし、準備完了。ふうと一息ついたアレンは、ヘルメットのバイザーを下ろして前をじっと見た。そして

 

「アクイラ1、離陸。」

 

とつぶやいた。

 

 

 

*******

 

……グリッドD088C037、連合軍共通作戦地図上、ブリタニア連邦……

……1944/4/18 1032 Zulu……

 

 

アレンが離陸してから20分ほど。少女らとネウロイの戦闘が始まっていた。アレンはミーナから言われた通り、少し離れて戦闘の様子を見ていた。HMDのズーム機能を作動させ、赤いレーザーと青いシールドがぽつぽつと現れる風景をキャノピー越しに眺める。再び、正体不明の敵を前に少女らが戦えるのかという疑問を思い出し、それが本当なのか確かめているのだ。坂本は偵察型との交戦は基本的に訓練の一環だ、と話した。戦争であるのにかかわらず、訓練だと言い切った坂本を変な奴だとアレンは思った。気を抜けば殺されかねないはずなのに。基地で行う標的が相手なのとは違う。彼女がそれほど自信を持った人間なのか、或いはただのバカか。

 

『5機目!』

『こっちもだ。』

『ルッキーニ、左方向からだ。』

『任せて!!』

 

おそらく前者なのだろう。ふと飛び込んできた無線を聞き、アレンは肯定する。実際、ちらつくレーザーの数も減りつつある。それが証拠だ。

こちらに来てから、ネウロイと戦うのに魔女たちだけで大丈夫なのかと思っていた。一種の偏見かもしれないが、どうしても考えにくいことだった。しかし、今見ている空戦からして、彼女たちがこの世界でヒーローのような存在であることが分かる。ふぅんとアレンは鼻を鳴らした。

 

「安心できるな、不思議だ。」

 

その独り言は、高鳴るエンジン音と機体が空気を切り裂く音にかき消されていた。

 

 

 

*****

 

……第1ハンガー、501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/18 1527 Zulu……

 

 

昼食を済ませて機体を見ていると、背後から声をかけられた。茶色の軍服を着たミーナだった。珍しいなと思いつつ対応する。

 

「午前中の出撃、どんな感じだった?」

 

アレンに並んでF-15SEⅡを見上げながらミーナが問う。

 

「どんな感じと言われても…。戦闘機よりは手ごわいのではないかと。」

「理由は?」

「レーザー攻撃です。後ろに向かって攻撃してくる敵機とは会ったことがないので。」

 

厳密に言えば『全く』ではない。1機だけ経験している。中東のドバイでの防空戦だ。アフリカにあったカルースが破壊された後、諸地域が反政府組織に屈しないために出撃した時のことだ。ブルジュ・ハリファなど高層ビルが立ち並ぶ都市上空で戦闘機や爆撃機と交戦し、その最後にTu-95を撃墜したのを覚えている。この1機のみ、機尾に設置された機銃を撃ち散らしていたのだ。

 

「そうね。爆撃機ならまだしも、戦闘機には後方警戒用の機銃なんてつけてない。」

「レーザー兵器さえ躱せれば問題ないだろうというのが結論だ。」

 

アレンがそういうと、ミーナもわかったわと答えた。それからミーナはハンガーから立ち去り、アレンはF-15SEⅡの点検に入った。ベイリーやその他の整備員を連れて損傷や摩耗がないか調べる。木箱に腰を下ろしながら点検する。

 

点検作業をしながら、アレンはこれから自分がどうなるのか考えた。ミーナが501部隊の戦闘の感想をアレンに聞いたところから、おそらく明日以降、作戦行動へ投入させられる。元居た世界同様、敵を見つけてミサイルの発射ボタンを押すことになる。今まで通りだと分かるが、やはり正体不明の連中と交戦するのは不安が残る。しかし、戦闘機に乗って初撃墜を経験した時を思い出したアレンは、その時と同じ気持ちなのだろうと思う。始めてミサイルの発射ボタンを押したとき、アレンは少しばかり戸惑った。それをF-14Dの後席で見ていた当時アレンの上官だったとある中尉は、ある言葉を投げかけた。『戦争とは勇気で覆い隠された恐怖である』と。意味の捉え方は様々だが、その中尉は、自分が生き残るためには敵機を落とす勇気を育てろと言った。それからアレンは、自分が生き残るためではなく、同じ部隊の仲間や自国の国民を守るために、と考えていた。今もそれは変わらない。そして今、アレンは再びスタートラインに立っている。『自分が生き残るため』に出撃するのだと。何らかの理由で世界を飛ばされたが、いつか必ず元の世界へ戻る。そのためには簡単に死んではいられない。何もせずただ待つだけでは、ネウロイの赤いレーザーで焼き殺される。ならどうするか。自分の手で自分の命を守るしかない。

 

前輪脚を点検してから、次に点検項目に移る。朝から続く晴れの天気は、一日中曇ることがなかった。

 

 

 

*****

 

……射撃演習場、501基地、ブリタニア連邦……

……1944/4/18 1630 Zulu……

 

 

「コザックが一番だな。」

「やっぱすげぇ。」

 

四方を4mほどの土の壁で囲まれた射撃場に、21世紀の歩兵用装備を身に着けた4人の男の姿があった。

 

「んでローチが最下位だ。」

「うぅ…。」

 

4人が見ていたのは直径50センチほどの射撃用の標的だ。白い下地に赤い円が描かれた的には、丁度4つの穴が開いていた。4人で的当て競争をしたのだ。コザックがほぼ中心を撃ち抜き、次いでゴースト、ソープ、ローチの順位となった。

 

「こんなに外すけど、なぜか実践になると、驚くほど当てまくって自分以外の仲間の獲物奪うんだよな。」

「タスクフォース141の七不思議のひとつだ。」

「それ褒めてんすか?それとも馬鹿にしてるんすか?」

「どっちでもあって、どっちでもない。」

 

はははと笑い声が起こる。つぎは単発ではなく10発連射で比べようと話し始めた時、新たに4人の人影が演習場に入った。

 

「お?249部隊か?」

「少佐。お疲れ様です。」

「ちょうどいいな。宮藤たちも彼らから射撃の腕を教わったらいいだろう。」

 

坂本と一緒にいたのは、宮藤とリーネ、ペリーヌだった。

 

「いやまさか。何を教えられるか分かりません。」

「なんでもいい。細かいことでもためになるだろう。」

「頑張ってみます。」

 

無言で『撃ってみろ』と坂本の視線がソープに向く。やっぱり日本人って怖いなと思いつつ後ろへ振り向く。

 

「じゃ一番へたくそのローチから。」

「理由が知りたいっすよ。まぁいいや。」

 

ぶつぶつ言いながら白線の手前でHK416を構えるローチを見る。

 

「単発で5つ。連射で10発撃ってみろ。」

「了解…。」

 

30メートル先に立っている的をにらむ。ローチが射撃を開始した。無煙火薬の爆発音を聞きながら、黒い穴が開く的を見続けた。連射を終えてローチがマガジンを外すのを確認し、的を取りに走る。わきに置いてある新しい的を鉄製の柱に括り付けて、元居た位置へ戻る。それを見せながらつぶやく。

 

「連射の制御はうまいんだよな。弾が散らばってない。」

「なるほど。上級曹長は接近戦が得意なのか。」

「狙撃が苦手なだけっす。」

 

ローチが苦笑する。

 

「じゃ次はゴーストとコザック。二人同時だ。」

 

無言で頷いた二人がそれぞれのコースに入る。射撃場に再び発砲音が響く。二人の射撃が終わり、再び的を取りに行く。

 

「さっきとそれほど変わらないな。」

「連射はローチが一番だな。」

「3人とも同じくらい上手に見えるんですが…。」

「その少しの違いでも、戦闘では生死を分けますわ。」

 

この上品そうなメガネ、分かってるな。いや、この小っこいのが分かってないだけか?

 

「今撃った3人は、それぞれどんな役目をしているんですか?」

 

茶髪でおさげの少女が問う。

 

「最初に撃ったローチが、さっき少佐が言ったように近接戦。ゴーストはどの距離でも当てることができて、コザックは狙撃といったところだ。」

「では、今の結果はそれぞれの分担の特色が出ているってことですな。」

「鋭いな!そのとおり。」

「すごいね、リーネちゃん!」

 

褒められたリーネは、少しだけ頬を赤くした。

 

「それじゃ、場所を開けよう。少佐、どうぞ。」

「すまない。」

 

4人は後ろに下がり、宮藤らの射撃を観察する。小柄な体に、少女らが持っているライフルは大きく映った。リーネに関しては大きな狙撃銃を構えている。

 

「おいおい…狙撃銃にスコープ無しは厳しすぎるだろ。」

「彼女は固有魔法によって視力を上げられるんだ。1キロ先の目標だって狙える。」

「んな…!」

「いえ、まだ命中力は高くないです。」

 

坂本の説明に硬直する4人。そんな奴はあまり聞いたことがない。当たり前だけど。居るとすれば、タスクフォース141に1人だけいたのを覚えている。訓練中、ワンパターンな訓練に飽きて『ネタだネタ!』と言いながらMk14のスコープを取ってアイアンサイトを取り付け、ピットでそれを振り回したのだ。反動が強いうえに見にくいサイトで、普段なら40秒で突破できるコースを、彼はたっぷり1分かけてゴールした。彼自身、接近戦を考慮されていないライフルを乱射したおかげで肩と頬を痛めるという結果に終わった。それだけでは収まらず、撃ち抜かれた的の多くは、強烈な弾丸によってポッカリと穴が開き、さらに命中しなかった弾丸は土嚢やコンクリートまで大きく抉っていた。訓練の教官に怒られた挙句、的の修理までさせられるダブル…いや、怪我まで含めればトリプルパンチを食らっていたのを、ソープは記憶していた。

 

「でも本当にアイアンサイトで狙撃してるならすごいな。俺たちはせいぜい100メートルくらいが限界だ。」

 

しゃがんで対戦車ライフルを構えるリーネを見ながら、ローチが呟いていた。

 

「あ、そういえばこの時代にダットサイトってあるのか?」

 

思い出したようにローチが疑問を漏らす。

 

「狙撃用に4倍率があったらしいが、アサルトライフルにはまだ無かったはずだ。アイアンだな。」

「なら、連射での命中力は落ちるな。」

 

写真でしかStg-44を見たことがないが、おそらく照準はピープかゴーストリングだろう。2016年の世界で使われているM4やローチが持っているH&K416も、アイアンサイトにはゴーストリングがある。しかしアイアンサイトの弱点は、光学照準器に慣れた人にとって、エイムを付けるのに時間がかかってしまうことだ。前後に設けられる穴を覗き込み、ふたつが完全に一致するところで発射しなければ、弾丸は思い通りの位置へ飛ばない。さらに、マズルフラッシュによって目標を見失いやすいということもある。光学照準器でも克服されたわけではないが、より銃身に近い位置にあるアイアンサイトでは、視界が完全に覆われてしまうことが多い。

 

「俺たちはレッドドットやACOGに慣れてっけど、出来立てのライフル持ってた人間は、苦労したんだろうな。」

「敵も同じ条件だったはずだ。ライフルそのものの命中力も低かっただろうし。」

「むしろ、犠牲者が増えているのは、俺たちがいた世界の方かもしれん。」

 

敵に勝つために新技術を導入する。それは確かに相手を超えるために役立った。しかし敵もその技術を手に入れ、条件は同じになる。さらに勝つためにと進歩するが、それは敵も同じ。威力を限界まで増やした弾丸、遠距離の敵を狙う照準器、投げるだけでは届かない場所を狙うためのグレネードランチャー。さらには、命中した目標内で爆発を起こす弾薬、遠隔操作でミサイルや機銃を撃つ無人機まで開発され、研究も現在進行形で進んでいる。各地で起こる戦争の犠牲者の遺体は、年を重ねて技術が進歩するごとに、その悲惨さを増している。

 

「生き残ろうと技術を開発することが、結果として人々の悲しさを増している、と…。皮肉なことだ…。」

 

ソープは小さくつぶやいた。

 

 

 

*****

 

……??????、???、???????……

……1944/4/18 ???? Zulu……

 

 

己の体の中に、熱い何かがあった。それがゆっくりと振動を起こす。一定のリズムを維持したまま、その振動は続いている。これはなんだろうか。そのほかの情報ははっきりとせず、ただボウッとしている。次第に体全体の意識の光が灯り始める。何かが映っているが、とても暗い。よく分からない。そして冷たい空気に包まれている。気が小さくなりそうだが、体の中で止まらずに動いている熱いものが励ましているようだ。次に現れたのは、熱い何かから下の部分にあった。今度は冷たくひんやりしている。こちらはジッとかたまっている。これも何かわからない。

 

(行ってくる。やつらを必ず殺してくる)

(待ってるぞ)

(頑張れよ)

 

これは会話?意識の中に飛び込んでくる。殺すという単語が出ている。何が起こっているんだ?

 

(お前はまだ早い。ここにいていい)

(明日まで待てばいいさ)

(何せお前は、俺たちの切り札だからな)

 

自分のことを言ってるのか?何かを、誰かを殺しに行くのか?切り札って?……分からない。

 

その次に意識が現れたのは、体の一番端。そして体全体。固い何かで覆われていて、さらに下の方には穴が開いた何かを『履いている』。しかし、それまで分かった後は、何も起きなかった。ただ時間が過ぎていった。自分にかけられる言葉もなく、こちらから問いかけることもなかった。ただ薄暗い映像と、時間だけが過ぎていった。

 何もせずにいる間に、ひとつ知らせがあった。自分たちに別れを告げて旅立った仲間が死んだ、と。周りからは、彼を惜しむ声、殺した相手を恨む声が上がった。だが自分だけは、黙って何も言わず時間が過ぎるのを待った。

 

 

…自分はいったい何なんだ、と思い続けながら――……。

 

 




出てきてない登場人物がいる…。
早く出さねば。


ここで皆様(特にMWシリーズ、又はACah経験者へ)に質問です。
 AC-130対地攻撃機を登場させようと思いますが、MW3の『ハンマー1』かACEahの『スプーキー01』、どちらが好きですか?
 理由もあればお願いします。


読んでくださった方に感謝いたします。
なるべく早く更新するように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。


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9 , 夜間哨戒

更新期間をあけるのはよくない…と思い、文字数は少ないですが9話です。


 

 

*****

 

 

 

資料室に、紙をめくる音と何かを書きつける音が響く。黒いインクで記された文字を延々と読み取っては、白いメモ用紙に要点を書きこむ。少し薄暗い明りのもとでは、徐々に目が重くなっていく。

 

動かしていたペンを置き、アレンは目頭を指でつまんだ。決して眠くなっているわけではない。疲れてくるのだ。

 

夕食を終えてから、かれこれ2時間半は資料室に籠って調査をしている。左腕につけた腕時計を見下ろし、午後11時に差し掛かろうとしている短針を眺める。時計は何も知らずに針を動かし続けている。そして夜と朝のサイクルも変わらずにめぐっている。購入した時から一度も調整をしていない腕時計であることに気付き、アレンはすごく不思議な感覚になった。世界を飛ばされても、1分、1時間の長さに変わりが無い。偶然なのか、それとも当たり前なのか。

 

「向こうはどうなったんだろうな…。」

 

夜も遅くなり、そろそろ寝ようと片付けを始めた時、不意にそんな言葉が漏れた。半世紀以上差がある元居た世界を思い出す。

 

僚機は、タスクフォースは、戦争は。さまざまなことが知りたくなる。途中で途切れた時間がどうなるのか。突然消えた戦闘機を、マジックや軍はどう処理しているのだろうか。

 

爆発によって蒸発したと判断し、KIAになったのだろうか。それとも、残骸の一つも見当たらないとしてMIAか。それとも、UFOやブラックホールだとか得体のしれないものに巻き込まれたとして報道されているのか。親父が昔からUFOの話を面白がっていたし、それかもしれないとアレンはひとり苦笑いする。

 

物思いにふけっている間、片付けの手が止まっていたことに気付いたアレンは、急いで本を棚に戻した。資料の要約文を書き留めたノートと筆記用具を掴み、資料室を出る。部屋の扉を閉めて廊下の窓に振り返る。

 

月は昇っておらず、きれいな星空が広がっている。21世紀の汚れた大気とは違い、まだまだ澄み切った空には、たくさんの星が輝いている。すごいもんだと思いつつ眺めていると、その視界にパッと何かが映った。黒い空に、オレンジ色のとても小さい花が咲く。花火にしては、一色だけというのは不自然だ。間隔をあけてひとつ、ふたつと花が咲く。何だろうと考えながら、アレンは自室へ向かった。

 

これをウィッチとネウロイの戦闘だとアレンが気付くのは、この10分後のことだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 夜間哨戒中だったサーニャは、数分前に出現したネウロイを追跡していた。その姿は、魔導針はもちろん、サーニャ自身の視界にもあった。

 

「目標1体、中速で移動中。これより交戦します。」

『分かったわ。気を付けて。応援を送ったわ。』

『サーニャ、待ってろヨ!』

 

 ぶら下げていたフリーガ―ハマーを肩に持ち上げ、畳んでいたサイトを起こして覗く。ネウロイのサイズは小型。直撃まさせることは難しいが、ネウロイの体が小さい分、衝撃だけで撃破することもできる。

狙いをネウロイの進行方向のさらに先に定め、一発目を打ち込む。飛び出したロケットが煙の尾を引いてネウロイへ突進する。

ロケットに気付いたネウロイが回避したため、一発目はネウロイから少し離れた空間で起爆した。

 外れたことに焦らず、2発目を発射する。大丈夫、訓練通りにすればいい、と静かに言い聞かせる。その2発もネウロイの傍で爆発する。

2発目を回避したところで、ネウロイがサーニャへ向いた。レーザーが来ると予想し、開いている左手を前に出して構える。だが、ネウロイはサーニャの頭上を飛び越えていくだけで、攻撃はしなかった。

変だなと思いつつ、再びフリーガ―ハマーを構えなおして発射する。エイラが来れば、一網打尽にできる。それまで、サーニャはネウロイとの距離を保ちながら警戒し続けた。

 

 

 

*****

 

 

 

(あれは敵か)

 

 巣を出る前に仲間から伝えられた方向に向かって直進していたネウロイは、向かっている方向から現れた飛行物体に気付いた。その正体は夜間懲戒中のサーニャだが、生まれたてで何の知識もないネウロイには、それが人であることさえも分からなかった。

ぶつかってしまうと判断したネウロイは、向きを逸らして衝突を避けようと試みた。その時、向かってきていた何かから、小型の物体が切り離された。さらに高速で突っ込んでくる物体に驚いたネウロイは、慌てて上へと上昇した。

すぐ下を飛んで過ぎていった物体が、突然破裂する。初めて経験した爆発だった。そこから生まれる衝撃が、自分の身体を揺さぶる。小さな胴体が悲鳴をあげた。

さらに2発、3発と数が増える。ネウロイは速度を上げて、なんとか逃げようとした。しかし数が増えるに連れて、その物体が爆発する距離が近づく。

 

(こいつはなんだ?)

 

 ミシミシとなる胴体全体に、疑問が浮かぶ。しかし、生まれたてで知る事柄などないネウロイにとって、答えが出るはずがない。空っぽの知識の中にあるものは、その疑問と、目的だけ。胴体の中に収めてある冷たい物体を、破裂させなければならない。同時に、タイミングは知らない。巣を出る前、誰かから『任せる』と言われている。いつでもいいというのか。

 再び、ドスンと衝撃が生まれる。もうすぐそこだった。そろそろ悲鳴が最高潮に達してしまう。身体が持たないと判断したネウロイは、物体を破裂させる準備に入った。

 

(先端にある出っ張りを押し込めば…)

 

これも、仲間から伝えられた通りの手順を思い出す。すると、そこからネウロイ自身の意思を介さず、破裂が始まった。

 

 

 

*****

 

 

 

「?」

 

全速力で回避行動をとっていたネウロイが、急に足をゆるめて直進を始める。魔導針の反応と目でネウロイの姿を捉えていたサーニャは、不意に背中がゾクリとした。寒いのではない。疲れたわけでもない。ならばこれは―――。

何が起こるのかは予想せず、サーニャはシールドを張った。厚く、大きく。それと同じタイミングで、ネウロイが爆発した。

 突然太陽を直視したような光が生まれ、サーニャは思わず目をつむった。一泊遅れて、音とは呼べないほどの轟音と、経験したことのない爆風が襲い掛かってくる。シールを支える腕に、ズシリと見えない力が圧し掛かった。

もしシールド張っていなかったら、爆風で吹き飛ばされていただろう。もっとひどければ、からだを引き裂かれていたかもしれない。衝撃が収まるとどうじに目を開く。そこに広がった光景に、サーニャは絶句した。目の前に巨大な火の玉が浮かんでいたのだ。気付けば周囲がだんだんと暖かくなり、それを超えて熱ささえ感じ始めている。一瞬だけかいた冷や汗も、すぐに乾いていく。

 

「これは…!」

「サーニャ!サーニャ!!」

 

 声がする方向をむく。しかし、声の主は見えなかった。さっきまで見えていた夜空は、周りをぐるりと囲んでいる雲によって遮られていた。火球に照らされ、白い綿のように輝いている。爆発によって生まれた雲だろう、とサーニャは判断した。

 

「大丈夫よ、エイラ。」

「あぁ…よかった。間に合わなかったと思ったんダゾ。怪我はないカ?」

「うん。」

 

雲の中に、エイラが姿を現す。ほっとした表情を浮かべるのもつかの間、すぐに火球へ視線を移す。

 

「これは…?」

「ネウロイが爆発したの。」

「火の玉が残ってるなんて…。すごい爆発だナ。」

「急いで中佐へ連絡しましょう。早く帰らないと。」

「あぁ、そうダナ。」

 

 雲から脱出した二人は、高度を上げてその全体を見下ろした。雲一つなかった海上に、爆発でできた雲は不自然だった。その形はキノコとよく似ている。

 

『サーニャさん、エイラさん、大丈夫!?』

「あぁ大丈夫ダヨ、中佐。サーニャも。」

『すごい爆発だったようね。ここまで爆発の衝撃が来たわ。早く離脱して、帰還して。』

「了解です。」

「さ、帰ろう。」

 

 ミーナへそう答えた二人は、基地へ針路をとった。見えなくなるまで、サーニャは何度も雲を振り返った。過ぎたことであるはずなのに、なぜか不安ばかりが残っていた。

 




予定を削って持ってきました。いきなりでスミマセン。

さて、爆発を起こしたネウロイは一体何だったのか?
新たなる脅威となるのか、それとも…?



*****


意見や感想などなど募集中です。


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10 , 招かれざるモノ

第9話の直後からです。

どうぞ。


 

*****

 

指令室を兼ねる管制塔の中は、5分ほど前から喧噪に包まれていた。突然、静まり返っていた夜の基地全体を突風が吹き抜けたからだ。基地周辺の天候は快晴で、自然に吹いた風ではない。夜間警戒についていた兵士に加え、緊急の電話や情報収集のために走り回る兵士たちの足音が指令室中に響く。

書類の片づけを終えて寝ようとしていたミーナは、ベッドへは行かず指令室に来ていた。一段高くなった舞台のような場所から全体を見渡す。すぐ下で指揮を執っている兵士に気付いたミーナは、手すり越しに

 

「基地の被害は?」

 

と聞いた。振り返った兵士は、片手に持ったバインダーに挟んだ紙をめくりながら

 

「兵舎で休憩中だった兵士の中に、何人かケガをしたものがいるそうです。」

 

と答えた。

 

「原因は?」

「いえ、特に大したものでは。驚いてベッドから落ちただけとか…。」

 

その報告に、緊急事態であるにもかかわらず、ミーナはクスッと笑った。

 

「他には?」

「基地施設への目立った被害は確認されていません。」

「ありがとう。念のため、基地全体に第2種警戒配置を伝達。司令部へも連絡してください。」

「了解。」

 

兵士との会話を終えると、指令室の扉がノックされた。

 

「入って頂戴。」

 

確認せずとも、誰かは分かる。

 

「遅かったわね。」

「あぁ、レスリー少佐が忘れ物をしていたらしい。」

「申し訳ない。」

 

開いた扉から姿を見せたのは、坂本とアレンだった。謝るそぶりを見せるアレンの顔は、少し焦っているようにも見えた。

 

「本題は、サーニャさんとエイラさんが帰ってからなんだけど…。」

「そうだな。しかしすごい衝撃だったな。弾薬庫の火薬が誘爆したのかと思ったぞ。」

 

ぼそりと冗談を漏らす坂本。もしそうなら、今頃はもっと騒がしくなるだろう。

 

そんな冗談がある意味で本当だとは、ミーナや坂本は考えもしなかった。

 

 

 

*****

 

 

サーニャとエイラが帰還すると、左官3人はミーナの執務室へ向かった。ネウロイと遭遇した2人を部屋へ招き、事後報告会を開く。

 

「では、ネウロイについて細かく説明をお願い。」

「はい。全長5メートルほどの――」

「ちょっと待ってくれ。」

 

サーニャが説明を始めようとすると、そこでアレンが待ったをかけた。持っていたノートとペンを差し出す。

 

「イラストを描いてくれるか?」

 

言葉だけで済むとサーニャは思っていたが、アレンの真剣さに気圧され、ノートを受け取る。ミーナや坂本も、言葉だけで想像するつもりだった。サーニャが描いていくネウロイを見るアレンの顔は、そのペンが進むにつれて真剣さを増していったという。

 

数分後、書き上げられたイラストと説明を読み直したアレンは、小さくありがとうと呟いた。

 

「何か引っかかることでも?」

「あぁ。話しにくいことだが、事実だとすれば受け入れなければならない。」

「説明してくれ、少佐。」

「新種のネウロイだ。脅威レベルは最大かもしれない。」

 

70キロも離れた基地まで到達する爆風と、巨大なキノコ雲を発生させる熱という二つの特徴は、核弾頭でも可能な事象である。歴史通りなら、アメリカが開発した核爆弾が日本へと投下される。人間が生み出した戦車や航空機をネウロイがコピーしている事例は、つい先ほどまで調査していた資料の中にも書かれていた。つまり開発された核をネウロイがコピーし、それが数分前、サーニャの目の前に現れたということとなる。

しかし仮にそうだとするならば、今アレンの目の前にあるイラストは存在していないはずだ。サーニャが被ばくし、怪我一つない状態ではいられないはずなのだ。いくらシールドを張れたとしても、爆発でまき散らされた放射能に晒されているだろう。

また、姿が現れていないものを模倣することは、ネウロイであっても無理である。

実際に、サーニャは何事もなく隣にいる。放射線をまき散らす核弾頭ではなかったということだ。だとすれば、残った可能性は一つのみ。

 

「サーニャ、このイラストに間違いはないよな?」

「細かいところまでは、覚えていません。」

「シルエットはこれでいいか?」

「はい。」

「間違いない。こいつは、俺たちのいた世界からきたやつだ。」

 

―――それが答えだった。

 

「なんだと…少佐の世界にある兵器か?」

「特殊弾頭『トリニティ』搭載巡航ミサイル…それが俺たちの呼び方だ。直径500メートルの空間は、爆発によって発生する4000度の熱で焼かれる。」

 

聞きなれない単語にキョトンとする4人だが、すぐに付け加えられた説明を聞くと、その表情が驚きへと変化した。

 

「何だッテ!?じゃぁ、もしサーニャが少し近づいていたら…!」

「おそらく、火傷では済まなかったかもしれない。シールド…か?それを張ったことで無事だったんだな。」

「レスリー少佐の説明からすれば…、その熱と共に爆風も生まれたのね。」

「爆風だけでも、生身で直径1キロ内にいれば即死だろう。どこまで届くか分からない。」

 

デルベント上陸作戦が完了した直後、都市上空へ発射されたトリニティを撃破したとき、マジックは爆発を核と勘違いした程である。

アレンが一通りの説明を終えると、静寂が舞い降りた。話を聞いて考え込む者、目の前で起こった現象を振り返る者。しばらくして、ミーナが尋ねる。

 

「その兵器は、どれくらいの数があるのかしら?」

「確認されたのは…6発だ。」

 

アフリカのセトルメントで最初に確認され、次いでラベル・ハイドアウト、カルース、デルベント、モスクワ、最後にワシントン。

使用されるごとに、本当は核弾頭ではないのかという報道も多発した。しかし毎回行われたIAEAによる調査では、すべての機会において放射線量は0だったと報告されている。

 

「…そうとは言っても、こちらで同じ数が出現するとは考えにくい。」

「つまり、増えるかもしれないということ?」

 

肯定を、アレンは無言で頷いて伝えた。

 

「分かったわ…。4人とも、遅くまでありがとう。対処法は今後考えましょう。司令部にも連絡しているし、近いうちに応援が来ると思うわ。」

 

ミーナのその言葉に、部屋にいた全員が了解と答え、各々の部屋へと戻った。

 

 

 

*****

 

 

「大将。501基地から新型ネウロイに関する情報がありました。」

「またか?特徴は。」

「大規模な爆発を起こし、周囲を熱と爆風によって制圧する種類です。249部隊の連中が来たという異世界にも、酷似した兵器があったそうです。」

「新型の出現、最近頻発しているな」

「はい。スオムスやアフリカ方面でも目撃されていまして、今月に入ってからはすでに10種を超えています。」

 

補佐官の報告を聞いたマロニーは、大小の雲がちらほらと浮かぶ空を眺めていた目を細めた。

 

「…分かった。」

「501位置へ向かわせる人員はどうしましょうか?」

「新型ネウロイ調査隊員のリストだ。これを基に集めて、明日には出発させろ。」

「了解しました。」

 

A4サイズの茶封筒を受け取った補佐官は、一礼するとマロニーの執務室から姿を消した。

その背中を見送ったマロニーの顔には、険しい表情が刻まれていた。

 

「異世界人に新型ネウロイめ…。まだ完成していないというのに…。」

 

何かを恨むと同時に、その声には焦りが混じっていた。しかし、その言葉を聞いて理解するものは、言った本人のマロニー以外にいなかった。

 

 

 




トリニティついに現る。
この世界に、何をもたらすのか。


*****

意見などなどありましたらお寄せください。

*****

タグを少し変えました。
すみません。


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11 , 飛翔

良いサブタイトルが思いつかなかった。


*****

 

 

新型ネウロイ―――アレンが言うトリニティ―――が現れた翌日。

そのネウロイの調査のため、新たな人員が501基地へと派遣された。

 

「ミック・クロウリー中尉以下5名、ネウロイ調査のためこれより501基地にて任務に当たります。」

 

グレーの軍服に見を包み、きれいな敬礼をして見せるクロウリー中尉。アレンと同じくらいの身長でややほっそりとした体格は、軍帽さえかぶっていなければそのままオフィスにでもいそうに見える。

 

「501基地司令官、ミーナ・ヴィルケ中佐です。それから、こちらがアレン・レスリー少佐。彼は―――」

「異世界からやってきたジェット機パイロットですか。聞きましたよ。会って初めての大将に向かって、いろいろなことを言ったとか。」

「…。」

 

アレンを呼んだ理由を説明しようとしたミーナを遮り、クロウリーが喋る。穏やかな表情とは裏腹に、口をついて出てくる言葉は油断できなかった。敬礼しようと踏み出そうとしたアレンは、足を止めて代わりにため息をつく。

 

「ですが、大将は不満ではないようです。例のジェット機の解析も求められていますよ。」

 

逸らしかけた目線を、クロウリーに向けなおす。語尾と共に向けられた軽蔑するかのような表情を、真正面から睨みつけた。

 

「なんだって?」

「少佐が乗っている機体の解析をするということです。」

「以前にも無理だと大将に伝えたが?」

「それは知りません。我々は、大将から言われた通りに任務をこなすだけですので、どうぞ気になさらずに。それでは中佐、失礼します。」

 

そそくさと部屋を後にするクロウリーを、二人は呼び止めることなく見送った。会話を聞いていたミーナは、床に落としていた視線をアレンへ向けた。

 

「どうするの?」

「俺には阻止することしかできない。もし技術を盗み出せば、この世界は血に染まる。」

 

そう答えたアレンをしばらく見ていたミーナは、思いついたように話題を切り替えた。

敢えて、言葉の意味を理解せずに。

 

「少佐の作戦参加に関してだけど、配置を決めたわ。当分はスクランブルに入ってもらうけれど。」

「非公式だけど、正式な戦闘部隊として出動しろということか。」

「そう。何もしないままでいるのも、退屈なんじゃないかしら。」

「何時でも飛べる状態だ。で、配置は?」

「これが新しい配置。みんなにも配ってあるから、一緒に飛ぶ隊員と顔を合わせて。」

「了解。」

「よろしくね。」

 

割り当てが書かれた紙を片手に部屋を出る。とりあえずいちばん近い担当を確認すると…

 

「今日からか。他は…」

 

 

*****

 

 

射撃訓練を終え、ソープとローチはハンガーに作られた部屋で銃のクリーニングをしていた。アレンと見慣れない服装の兵士数人が、F-15SEⅡの前でなにやら話し込んでいる姿が見える。少しばかり大きな声からして、穏やかなやり取りではないことは分かる。

 

「少佐は3rdイーグル(F-15SEⅡ)の技術を隠そうと必死だな。」

 

クリーニングを終えたACRを机の上に静かに置いたローチは、背伸びしながらつぶやいた。もう10分ほど続いている外のやり取りのことだ。時より聞こえるF-15SEⅡの名前から、そう推測した。

 

「他人事じゃないぞローチ。俺達だって油断できない。」

 

ソファに座って手記をつけているソープが相槌を打つ。

 

「まさか…。アサルトライフルを、とでも?」

「ちゃんと管理しとけよ。もしパクられたら、それこそ人同士が殺し合い始めたら、戦争はグロイものになっちまう。」

 

何気に手元のACRに視線を落とした。はたして本当なのだろうか。

 

「でもこの世界だってバカじゃない。技術が進歩するのは必然だし、自然に生まれてくる気がしますよ。俺たちが居ても、居なくても。」

 

ふと思ったことをローチは言ってみた。すると一瞬、手帳に書き込むソープの手が止まったのを、ローチは見ていた。そして小さく、それもそうだなとソープは呟いた。

 

 

*****

 

 

ネウロイ調査隊のクロウリーと喧嘩腰の議論をしていると、基地にサイレンが鳴り響いた。

 

「敵襲なのか!?」

 

まるでサイレンを初めて聞いたような反応を見せるクロウリー。訓練でのみ聞いたのか、それとも前線はもっと昔のことなのか。

 

「早速か!」

 

配置が書かれていた紙を思い出したアレンは、言われたその日にということに偶然ではない気がした。それでも、戦闘機パイロットとしてこの世界と関わることを決めた身としては、今更出ませんというのもできるわけがない。

 

焦っているクロウリーに整備兵にどうするか聞けと言ったアレンは、F-15SEⅡに向き直った。整備兵がF-15SEⅡの車輪止めを片付け、エアインテークに掛けていたカバーを外していた。それを見たアレンは、ありがとうと一言叫ぶと、コックピットへと身を滑り込ませた。

エンジンや計器類のスイッチを入れ、セットアップを始める。

 

「フラップ…スラット…ラダー…問題なし。兵装…カウンターメジャー…確認。よし」

「少佐、準備できたか?」

 

機体の確認を終えると、ストライカーを履いたシャーリーとルッキーニが待機していた。声をかけられ、振り向く。

 

「大丈夫だ。出られる」

「んじゃ先に行っとくよ」

「にゃはは~~!」

 

言い終えるやいなや加速して飛び出す二人を見送る。

 

「エンジン回転数良好。タワー、こちらアクイラ1。離陸する」

『ラジャー、アクイラ1。離陸を許可する』

 

ハンガーから姿を現したF-15SEⅡは、やがて大きなエンジン音を立てながら大空へと飛び立った。

 

 

*****

 

 

「やはり交戦は機関銃の射程に入ってからだな?」

『これ以外武器無いからね。』

 

当たり前といえばあたり前。だがアレンは確認だけはしておきたかった。固有魔法とやらで、長距離攻撃ができる隊員がいるのかもしれない。シャーリーの返答に、やはり攻撃の主体は機関銃なのだと認識する。日本のアニメのようにビームを出す魔女ではないのだ、と。

 

ネウロイとの距離は約120キロ。レーダーに現れた光点を、自機を中心に描かれた同心円を基に計算する。単純に計算すれば10分足らずで接触する。ウィッチならその10分後に、機関銃の銃口が火を噴くのだ。

 

しかしアレンにとってみれば、近くても70キロ前後から交戦開始となる。中・長距離空対空ミサイルによる視程外攻撃から始まるのだ。

 

「すまんが第1撃は俺から撃つ。どうも戦闘機じゃ、ネウロイとキスするかもしれん。」

『あ、ミサイルとか撃つってこと?』

「そうだ。二人が撃ち合ってても、外から横槍しか入れられない。あらかじめ許してくれ。」

『構わないよ、少佐。』

『大丈夫だよ~~!にゃは!』

 

横で並行して飛ぶ二人の優しさに、アレンは酸素マスクで覆われた口元が緩んだ。すぐに、あれ、なんでニヤけてんだと気持ちを切り替える。

 

「よし…。アクイラ1、交戦開始まで1分。」

『りょうかーい!』

 

すでにAIM-120が打ち出されるのを待機している。HMD上にはネウロイの熱を探り当てたシーカーの情報が映し出され、四角い枠が4つ浮かび上がる。

アレンらとネウロイの距離が徐々に縮まり、ついにAIM-120のロックオンが完了した。ピーという電子音がヘッドフォンから鳴る。

呼吸で乾きかけていた口を開き、コールする。

 

「アクイラ1、ミサイル発射!」

 

 

*****

 

F-15SEⅡの下面ウェポンベイが開き、トラピーズが稼働して4本のAIM-120が大気中に現れる。パイロンから切り離されたミサイルは、1秒ほど滑空したのち、内蔵するロケットモーターに点火した。加速してF-15SEⅡから離れていく4本のAIM-120は、まるで狭い檻から解かれた猛獣のように疾走する。

ウェポンベイに格納されている間に入力された目標の情報を基にしばし慣性で飛び続けたAIM-120は、やがて本体の先端に収められたレーダーを起動した。ミサイルにとっての目を開いたのだ。見開かれた目には、空間に浮かぶ物体が映っていた。熱を発する個体は4つ。ミサイルはそれぞれに与えられた目標を見定めると、各々の方向へと飛行した。

生物よりも単純に、それでいて間違いを起こさず命令を実行するその姿は、しかし生き物のように見える。ついにAIM-120がネウロイへと突入していった。

 

*****

 

ネウロイが敵の攻撃から逃れる術としてあるもののうち、より確実なのは攻撃をしてくる対象を破壊することである。攻撃そのものをさせなくすることで、自身の防御を行い、さらに敵を無力化する。ネウロイにはないが、人間の言葉を借りるならば一石二鳥とでもいうのだろうか。

 

しかしこの方法を説明するには、『これまでは』という文句がいるだろう。すでにその前提は崩れ、別の手段への移行を強いられている。

また人間が、新しい邪魔ものを作り出したらしい。以前までは人間自身が空を飛んでいた。もっと近くに、それもはっきりと分かる距離で戦っていた。

だが今、向かってくる邪魔者との間には2つの距離があった。人間と飛行機が遠くに。そして何かが、ものすごい速さで間近に迫っている。こちらから攻撃をして物体を破壊するには、時間が足りない。

 

第2の防御方法は、進路変更による接触回避である。突っ込んでくる物体を躱すのは、それが最も有効な手段である。

 

ネウロイ達は、第2の手段へ打って出た。横一列で飛行していた4体のネウロイは、それぞれ進行方向に対して斜めに向かって進路を変えた。突っ込んでくる物体は、しかし避けたはずの自分たちへと向かってきた。

 

理由を考える前に、3体が爆散する。触れると同時に向かってきた物体が弾け、熱と無数の破片がネウロイの身体へと突き刺さった。コアも一瞬のうちに食い破られた。

 

残った一体は、すぐ横を飛びぬけて行った物体を映像に捉えていた。細長く、横に何本か突き出した三角形の薄いもの。そして尾部から何かをまき散らしながら桁外れの速度で飛んでいく。分からないことだらけで、ネウロイは理解ができなかった。

 

考えようとして、無意味だと気付くころには、すでにコアが蜂の巣にされていた。

 

 

*****

 

 

『ラスト~!』

『いぇ~~ぃ!!』

 

無線機からそんな声と銃声がともに響く。

 

『こちらシャーリー、ネウロイ全機撃墜を確認!』

 

大きく円を描くように周りを飛んでいたアレンは、空中に制止する二人を見つけていた。

 

ミサイル発射後に離脱していたアレンも、基地との無線を開く。

 

「こちらアクイラ1。こちらでも確認した。目標の破壊を確認。」

『こちらミーナ。3人とも、お疲れさま。帰投して。』

 

ミーナの言葉に従い、3人は交戦空域から離脱した。

空にはまだ、ミサイルの爆発で生まれた黒煙が残っていた。

 

 

*****

 

 

「無事だったか…」

 

スクランブルから帰投した3人を見ながら、一人の男が呟いた。

 

「さすがに通常のスクランブルではうまくいかないでしょう。そもそも、まだ手を加えていない」

 

すぐ横にいた、少し背の低い男も、頷きながら答える。

彼らの視線の先には、ようやくエンジンを切ったF-15SEⅡの姿があった。コックピットからパイロットの少佐が梯子を降りているところだった。

 

「アレの、次の出撃予定は?」

「4日後です。」

 

背の低い男の手には、ミーナが配っていたはずのスクランブル配置表があった。

 

「よし、それまでに例の物を設置しておけ。」

「了解。」

 

会話を終えると、二人の男はハンガーから姿を消した。

 




ミサイルとネウロイの視点で描いた部分だけです。自信あるのは(汗)
書いてて面白かったので勢いのままです。

意見・感想・誤字報告などなどお待ちしております。

*****

活動報告を初めてあげました。
アンケートをしているので、メッセージ・活動報告のコメント欄へ回答してください。


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12 , ザ・ピット

モダン組しか出ない回です。


ベスト何秒だったっけ…?




*****

 

 

穏やかな晴れ空の下、この日も501基地の基地兵訓練場で訓練が行われていた。

 

501基地の北側に位置する訓練場の一角に、演習の風景があった。ピットと呼ばれる、四方を土の壁で囲まれた銃撃訓練を行う場所である

コース内に設置された的を撃ち抜きながら走り抜け、スタートからゴールまで何秒で走りきったかを競うものだ。

 

「何秒で走ったんだ、ビル?」

「俺はStg44で44秒だったぞ。お前はどうだ、スティーブ?」

 

戦闘用の装備一式を身に着けた一人の兵士が、同じ服装の仲間に問う。ビルと呼ばれた兵士が問い返す。

 

「勝ったな。俺は40秒丁度だ。」

「あぁ、クソ。ジョンソン、お前は?」

 

悔しそうな表情を浮かべ、隣にいた別の兵士に問う。

 

「俺は37秒だ。」

「本当か!?早いな!」

 

スティーブの40秒という記録は、501基地にいる兵士の中では早い方である。それを3秒も上回るジョンソンの記録に、ビルとスティーブは驚いた。

 

「ま、カバメントだけどな。」

「何だ、それでか。」

 

しかしその後に付け加えられた言葉に、二人は思わずズッコケていた。

 

「じゃ今回もまた、スティーブが勝ちのようだな。流石だぜ。」

「俺の方が早かったぞ?」

「当たり前だろ。だが拳銃とアサルトライフルじゃ違いがありすぎる。」

 

拳銃で出した記録について議論が始まる。だがその議論はすぐに中断された。3人の視線が、再びピットに向けられる。

 

「ポスウェル中尉が来たぞ。」

「あれ?後ろの連中は誰だ?」

「確か、未来から来たって言う奴らじゃなかったか?」

 

ビルたち3人以外の兵士も、異色の兵士が現れたことに気付き、自然と噂話が巻き起こる。

 

「見ろよ真ん中の奴。骸骨の仮面にサングラスだ。」

「何のつもりだよ。」

「未来から来たなんて…ネウロイの間違いだろ?」

「基地司令、なんで許可したんだ。」

 

 

 

*****

 

 

 

廊下を歩いていてすれ違う基地の兵士たちは、ローチたちを見ると珍しそうな視線―――疑いと言った方が良いかもしれない―――を向けてくる。馴染むことができるかと思っていたローチは、無理だろうとあきらめかけていた。それでも、今自分たちと対話している兵士は、ローチの不安を取り除くきっかけになりそうな人物だった。

アイザック・ポスウェル中尉。ブリタニア陸軍の尉官で、基地兵たちの副指揮官を務めている。その彼から、今日はある要望があった。

 

「私の部下たちは、どうにも上達が進まない。コツを教えてやってくれないか?」

 

呼び出されてついていった場所は、演習場の一角にあるピットだった。監視塔に上がってピット全体を見渡す。丁度、一人の兵士がスタートしたところだった。時間短縮を狙っているのか、合図の直後から全力で走っている。

 

「評価基準は?」

 

同じく演習風景を見ているマクタビッシュが尋ねる。

 

「合図からゴールまでの時間、撃ち漏らしの数の2つを見ている。」

 

ネウロイを敵としているためか、民間人の的が無い。

以前訓練していたSASのキリング・ハウスや、アフガニスタンでの任務で立ち寄ったフェニックス砲兵基地では、両方とも民間人の的があり、それを撃つと減点される形だったのだ。

 

『撃ち漏らしだ!周りをよく見ろ!』

 

土の壁に付けられたスピーカーから、警告のアナウンスが流れる。

 

「なるほど。じゃ中尉、具体的にどうしたらいい?」

「とりあえずこのピットが主要な訓練でもあるし…。一度走って見せてくれないか?」

 

論より証拠か、とローチは心の中で呟く。

 

「分かった。よし…ローチ、いけるか?」

「的に当ててゴールまで走るだけですね?」

「そうだ。頼んだぞ。」

「了解。」

 

もう一度、監視塔の上からコース全体を見下ろし、大まかな的の位置を把握する。それが終わると、木製の梯子を下りてスタートの位置まで進んだ。

 

「変なところ見せるなよローチ。」

「い、言わないでください!プレッシャーになる!」

 

上からゴーストに声をかけられ、思わずびっくりしてしまう。

深呼吸をして、すぐに準備に取り掛かる。担いでいたACR両手で持ち、各部を点検する。

 

ふと、このACRを何か月使っているのかと考える。マカロフの隠れ家を襲撃して以来、まともな支給の無い中では弾薬類しか手に入れられなかった。レッドドットやホログラフィックとは違い、ACOGを使っているため電力を使用することのないカスタマイズではあるが、レシーバーやバレルの交換は定期的に行うのが基本である。その点からすれば、銃器に対する心配がないわけではない。

 

そして今いる世界は、時間を大きく巻き戻されている。ゆえにスペアパーツはなく、満足に整備することができない時間が伸びることになっているのだ。

 

「ローチ、準備できたら言ってくれ。」

 

一人で考え込んでいると、監視塔の上からマクタビッシュに掛けられた。

途中で手が止まっていたかもしれない。だがこれ以上時間をかけるのも、無駄な心配をかけられてしまうと思ったローチは、行けます、と答えてスタートラインに立った。

 

「始めるぞ。よーい…スタート!」

 

ポスウェル中尉の合図で走り出す。監視塔の上から見た全体図を思い出し、最初の何もない10メートルを直進する。背丈より高く積もられた土の壁を曲がると、最初の的が視界に入った。通常の野外戦闘を想定しているらしく、ドラム缶や薄めの壁などの複数の障害物と、その後ろに設けられた的が5つ。赤と白の2色で塗られた的が、よく目立った。

 

『最初のエリアを確保しろ!』

 

ポスウェル中尉の声がスピーカーから流れる。

ACRを持ち上げ、すばやくACOGの中心に的を定める。一番近い的に狙いを定めたローチは、トリガーを素早く引き込んで2発発射する。発砲と同時に跳ね上がるACRを、アンダーバレルに装着したM203ごとガッチリ掴んで支える。

撃たれた的が弾着で割れるのを確認する前に、狙いを変えて次の的を撃つ。あっというまにすべての的を壊し終えたローチは、ACOGから目を離して次の目標を見つけた。

 

『次のエリアだ!』

 

野外戦闘コースを抜けると、その向こうにコンクリート造りの建物が見えた。1階部分に2つ、2階部分にも2つ。ここも外すことなく突破する。

 

『次へ進め!坂を上るんだ!』

 

コンクリートの壁の根元から右へ入り、小さめの坂を駆け上がる。そこでは再び、最初のコースと似た配置があった。4つの的を撃ち抜いてクリアし、最後のコースへと入る。

 

『最後のコースだ!走り抜け!』

 

急かすようにポスウェル中尉の声が響く。高くなった土の台から飛び降りる。飛び降りながら発砲した数を思い出す。そろそろマガジン1つ分を消費するころだ。そう判断したローチは、着地と同時にACRを背中に回し、USP.45に切り替えた。

アイアンサイトゆえに狙いを定めづらいが、細い銃の幅と軽さのおかげで、的を壊すには十分だった。両手でしっかりとUSPを構え、足を止めずに残りの的を撃つ。最後の的を撃ち抜き、ゴールラインへと走り込む。

 

ローチの記録は…

 

「さ…34秒…。」

 

ポスウェル中尉の表情は、驚き一色だった。腕時計に釘付けになった視線は、そのまましばらく離れなかった。

 

「ここの兵士たちの平均タイムは?」

「40秒前後だ…。いや…早いな。驚いた。」

 

走り終えたローチに視線を移したポスウェルは、ローチの顔を直視する。

 

「実際、感触はどうだ?」

 

普段から見慣れているマクタビッシュは、当然なにも驚くことなくローチに聞いた。

 

「全部が標的だから走りやすかったですね…。撃ってはいけない的や、移動する的があれば、もうすこしかかったかもしれない。」

 

なるほどな、とゴーストが納得しながら頷く。そのゴーストに、それはどういう意味かと尋ねるポスウェル。

 

「俺たちは、戦闘地域で民間人が逃げ遅れることを想定している。つまり、コース内に民間人の的を設置して、それを撃ったら評価を下げる仕組みをとっている、ということだ。」

「民間人が…?どうしてそんなことが?」

 

ゴーストがポスウェルに説明する。しかしポスウェルは、民間人という想定を作る理由が分からず、さらに聞く。

 

「ネウロイみたいに、正面突っ切って飛び込んでくる奴らだけが敵じゃないからだ。テロリストくらい、いるだろ?」

「あぁ。でも、わざわざ想定するのか?」

「宣戦布告して開戦することなんて、両手で数えられるほどまで減った。テロ行為の方が圧倒的に多い。前触れなく起こるから逃げ遅れる人だっている。そう考えてるんだ。」

 

ゴーストに代わってマクタビッシュが続きの説明をする。ようやくポスウェルが納得した。

 

「やっぱり…、ネウロイがいなかったのは本当か。」

 

とポスウェル。

 

「あぁ。人間同士、救われない戦争ばかりだ。」

 

ローチが小さく答える。

 

集まった4人に、静寂が舞い降りる。

それぞれ、なぜかシリアスになってしまった空気を払いのけようと考えをめぐらす。

再び口を開いたのは、マクタビッシュだった。

 

「…よし、訓練にするか。ポスウェル中尉の部下と一緒にだ。」

「あぁ、よろしく頼む。」

 

それにポスウェルが答える。

この後、ピットでの訓練はまる1日を使って行われた。

 

…その夜、何度も走らされたローチが筋肉痛を残したのは、本人以外知らなかった。

 

 

 

 




(余談)
スペシャル・オプスの星3つはもちろんとってます。
トロフィー(20秒クリア)はどうだったかな…。


12話でした。ありがとうございました。
次話もご期待ください。

『次回予告?聞いたことがありません』



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12.5 , BLACK TUESDAY

CoDMW3 act1-1より。

※前回に引き続き短いです。


 

―――2016年8月―――

―――ニューヨーク証券取引所付近―――

 

 

*****

 

 

「…!…フロスト!」

 

自分の名前を呼ばれ、フロストは目を覚ました。横倒しになったハンヴィーの中で、張り巡らされた配線の何本かがショートを起こし、火花をちらつかせる風景が浮かび上がる。

 

「目を覚ませ!脱出する、いまだ!」

 

自分に向かって叫ぶのは、メタル隊隊長のサンドマンだった。脱出の単語に反応し、自分を今なお座席に固定するシートベルトをナイフで切り裂く。自由になった体を動かし、転がったM4小銃を掴んでハンヴィーから出る。上を向いたドアを開いた瞬間、そびえ立つビルに光線が突き刺さり、爆発の衝撃でがれきが降ってくるのを見たフロストは、思わずドアを閉めた。直後にハンヴィーを揺らす衝撃が起こり、再び外を伺うと、目の前数メートルの場所に鉄筋が転がっていた。

 

「フロスト、早くしろ!行くぞ!」

 

先に出ていたサンドマンが手で招く。ハンヴィーから飛び降りてM4の弾倉を確認してチャージングレバーを引く。準備が終わると、サンドマンが話しかけてきた。

 

「ジャマーは証券取引所の上にある。ここからは徒歩で進む。前進!」

 

サンドマンのゴーサインで走り出し、敵に応戦しているストライカーの影に身を隠して様子をうかがう。交差点のあたりに黒い物体が浮遊しているのが見え、フロストは舌打ちした。

 

「奴が目標か!」

「あぁ、そうだ!」

 

ストライカーのエンジンとM2重機関銃の音に負けないように大声を上げる。花壇の影でM4の弾倉を交換しているトラックが、同じく大声で答える。

俺達より先にレーザー兵器の実用化ができたのか、と皮肉を返そうとしたフロストは、その瞬間、影にしていたストライカーから何かが蒸発するような音が鳴り、エンジン音とM2機関銃の音がピタリと止んだ。普通なら、自分や周りの兵士の奏でる射撃音の音で気付かないだろうが、この時ばかりははっきりと異変に気づいていた。

地面を思いっきり蹴り、体重を前方に総動員させて立っている場所から飛び退き、窪んだコンクリートの穴に転がり込む。一瞬遅れてストライカーが爆発を起こした。パネルやタイヤなどの残骸が高速で吹き飛ばされ、周辺にまき散らされる。

 

「クソ!ストライカーがやられた!」

「やつもレーザーを持ってる!身を隠せ!」

 

いきなり爆発したストライカーを確認し、もう一度交差点の方を見やる。

もう少し逃げるのが遅れていれば、或いは異変に気付かずにいたら、今頃フロストは丸焦げになっていたかもしれない。そう思うと、フロストは全身から冷や汗をながした。

時々頭上を流れていていくレーザーを睨みながら待っていると、ついにグリンチが耐えられなくなったのか隊長につかみかかっていた。

 

「隊長!突破は無理だ!」

「仕方ない、建物に入れ!右側だ!」

 

サンドマンの指がさす建物―――ウォール・ストリート・エクスピリエンス。

玄関はないが、窓をたたき割って中に入り込む。黒い物体が追尾してくるかと思ったが、流石に建物の中に来る様子はなく、フロストたちはそのまま建物を突っ切って反対側の通りまでたどり着くことに成功した。

宝石店の横にポッカリとあいた穴から周囲を警戒しながら外へ出る。すると、通りを突破してきた味方の兵士と出会った。

 

「味方だ!撃つな!」

「撃つなって言ってんだろ、グリンチ。」

「聞こえてる。」

 

ブロードウェイを通ってきた部隊と合流し、フロストたちは証券取引所への道を急いだ。

 

「ミッドタウンの状況はどうだ?」

「敵のジャミングが残っていて航空支援が受けられない。ジャマーをなんとかしないと!」

「なら急ぐぞ!」

 

お互いを障害物越しに掩護しながら前進していく。すると、通りを塞ぐように装甲車が立ち往生しているのを発見した。ロシア軍のBTRだと誰かが呟き、全員の緊張が再び跳ね上がる。ゆっくりと進んでいくと、やがてBTRが破壊されて捨てられている物だと分かった。壊れたBTRの向こうには目的の証券取引所がそびえ立ち、フロストらは進む足を速めた。

ロシア兵が残っていると想定していたものの、フェデラルホールの前には、ロシア軍の車両が火を噴いたまま頓挫していた。周りにもロシア兵の死体が転がっている。

 

「おい、これは一体…。」

「何故だ?別の連中がジャマーの破壊に向かっているのか?」

 

誰かが切れ悪くつぶやき、その場にいた全員の疑問をグリンチが呟く。

 

「分からん。だがジャマーの破壊を確認するまで帰ることはできない。屋上を目指すぞ。」

 

サンドマンの指示で米兵らは取引所の玄関口から中へと入った。

 

「俺たちはここで警戒しておく。ジャマーを頼む。」

「了解だアンヴィル。メタル隊、始めるぞ!」

 

 

*****

 

 

ディスプレイやコンピュータの並ぶ取引所を通り抜け、屋上につながる梯子を上る。上りきると、上部にアンテナを生やした鉄塔が目に移った。

 

「あれだな。」

 

空を飛び回るヘリなどに見つからないように身をかがめて進む。しかし、後数メートルのところで発見されてしまった。

 

「追ってきたのか!?」

「見てないで隠れろ!」

 

下からヌッと現れた物体に一瞬呆然となり、慌てて身を隠す。直後、下の通りで遭遇した時のレーザーではなく、機関砲の音と無数の弾丸が頭上を通り抜けた。

複合型の兵器か、とフロストは下で見たレーザーを思い出す。

 

「支援は?」

「ジャマーの直近だぞ!使えるわけないだろ!」

 

グリンチの的外れな問いに、フロストは半ば呆れて返す。

 

「隊長、どうする!?」

 

選択肢は少ない。ジャマーを破壊するか、攻撃してくる物体を破壊するか。

尋ねられたサンドマンは、しばらく黙り込んだ後、フロストに向き直った。

 

「…フロスト、俺たちが援護するからその隙にテルミットを張り付けてこい!」

「…相変わらず危ない命令だな、隊長。」

 

どちらにせよ危険ではあるけど、とフロストが小さく付け加える。隣で聞こえていたグリンチが苦笑するのを聞き流す。

 

「さっさと行け!グリンチ、トラック!」

「大丈夫だ!」

「3、2、1、撃てぇ!!」

 

M4やM14の発砲音が鳴り響くと同時に、フロストは身をかがめて走り出した。エアコンの室外機の影から飛び出し、そびえ立つ電波塔に向かって直進する。ちらりと左側を見ると、黒い物体がサンドマン達の射撃から逃げるように高度を下げていくのが見えた。物体が見えない間に鉄塔の根元にたどり着き、腰に下げていたテルミット爆薬―――TH3焼夷弾の束と起爆装置をテープで縛り合せた即席爆弾―――を据え付ける。

 

「設置した!」

 

鉄塔の足元に爆弾を張り付けたフロストは、急いで退避しようと方向転換する。その先を阻むように赤いレーザーが駆け抜けるのを見たフロストは、しかしその足を止めることはせずに障害物の影へと転がり込んだ。

 

「起爆しろ、フロスト!」

 

サンドマンが叫ぶのと同時にスイッチのレバーを握る。

バンッと弾ける音が響き、テルミット爆弾が起爆した。内部でテルミット反応を起こす爆薬が、簡易的に建てられた鉄塔の細い足を焼き焦がす。一気に4000度まで加熱された脚部のステンレスは、やがてドロリと溶けだし、ブツッと切断された。4本のうち1本の支えを失った鉄塔は、上部に乗っている発信機の重みに耐えられなくなり、倒れ始めた。支えのワイヤーもはじけ飛び、大きくバランスを崩す。そのまま折れていく鉄塔の下には、サンドマンらを攻撃する物体も居り、避ける前に派手な音をあげて衝突した。中心で真っ二つに折れて落下していく物体を見下ろし、4人は歓声を上げた。

 

「よし、やったぞ!」

「オーバーロード、こちらメタル0-1。ジャマーを破壊した。聞こえるか?」

 

サンドマンが無線で司令部に呼びかける。それと同時に、様々な回線で呼びかけをする他部隊の通信も聞こえ始めた。

 

『至近距離に……――を降らせろ!』

『…解だ、ジュリエット6。攻撃を…』

『通信が回復。誰か応答してくれ!』

 

どの回線にも、通信の復旧で活気づく声が聞こえていた。まだテルミット爆薬の火が残る鉄塔跡に振り返り、フロストは安堵のため息が出た。

 

『了解だ、サンドマン。戦域内の通信が回復。航空支援が可能になった。敵部隊への反撃に出られる。全員よくやってくれた、素晴らしい戦果だ。』

「楽勝だったよオーバーロード。サンドマン、アウト。」

 

 

*****

 

 

証券取引所のジャマーを破壊したことによって通信が回復したアメリカ軍は、接近が可能になった航空部隊の支援も加わり、マンハッタン全体に出現したロシア軍、及び新兵器と思われる物体の排除に成功した。

 

『こちらODA-F!ロシア軍が後退中!しっぽを巻いて逃げてくぞ!』

 

多大な損害を出しつつも、ロシアの侵略から本土防衛に成功したのであった。

 

なお、突如現れた新兵器については、オーバーロードを中心に、全部隊から寄せられた情報から割り出しが行われている。

 

 




今回はなぜか急いで書き上げたので、雑になってしまいました。
でも投稿したいのでそのままで。

本編の捕捉で、なおかつ書きたかった回でもあります。
作者の欲が出てしまっただけかも。

アドバイス・コメント・評価、よろしくお願いします。


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13 , 不穏

******

 

 

―――1944年春―――

 

穏やかな北海の上空を、軽快なプロペラ音を奏でる4人のウィッチと、それをかき消すような轟音を響かせる1機の戦闘機が飛び過ぎていく。

F-15SEⅡのコックピットでレーダーディスプレイを注視していたアレンは、反応が出たネウロイを確認し、無線のスイッチをオンにした。

 

「アクイラより報告。敵機が11時より低空で接近中。数は6、タイプは不明。」

 

『わかった。全員、戦闘用意。始まるぞ。』

 

それに答えるように、すぐ右で飛んでいる坂本が指示を出す。

 

「会敵まで、およそ5分。おっと…敵機散開、2機ずつ3グループに分かれた。」

 

『よし。私と宮藤は右を。バルクホルンとハルトマンは左、少佐は正面を頼む。いくぞ!』

 

「「「了解!」」」

 

左右のウィッチらが散開するのを確認したアレンは、コンソールに触れて武装解除のボタンに触れた。画面上に『MASTER ―ARM―』の文字が浮かび上がり、被るヘルメットのHMDに円形のターゲットシーカーが現れる。その中には、まだ肉眼では見えないネウロイを表す四角いマークも映し出され、捕捉可能のサインが出ていた。

もう一度兵装コンソールを操作してAIM-120D―――AMRAAMを発射体制に移行させる。

 

『コア発見!すべての機体にある。タイプは…いつもの偵察型だな。』

 

『う~ん…できるかな…。』

 

『いくぞ、ハルトマン!』

 

『そんなに急がなくていいじゃん…。』

 

坂本の報告をきっかけにポンポンと弾む会話を聞き流し、アレンはネウロイのマーカーが変わるのをじっと待った。

そしてマーカーが点滅し、ピーという電子音が鳴った瞬間、サイクリックレバーの発射ボタンをぐっと押し込んだ。

 

「FOX3、発射。」

 

座席の下からゴトンとミサイルが離れる振動が伝わり、一瞬遅れて2発のミサイルが飛び出していく。噴煙を確認したアレンは、爆発の破片をインテークで吸い込まないように、機体を上昇させる。まっすぐ突っ込んでくるネウロイは、音速以上のミサイルに気付いたものの、よけきれなかった一体が消滅した。

座席の下からミサイルが爆発する衝撃を感じ取ったアレンは、コンソール上のマーカーが『HIT』の文字を表示するのを確認した。だがもう一発のミサイルは『LOST』を表示していた。

 

「外したか…。」

 

ネウロイの頭上を通過してしまったアレンは、やや大きな弧を描いて追撃に入った。

 

『一機撃墜!』

 

『じゃ、2体目はもらうよ~っと。』

 

『宮藤、落ち着いて狙え!』

 

『りょ、了解です!』

 

ネウロイがどうやってミサイルを回避したかは分からないが、それを考えるのは後回しにする。体にのしかかる力を堪え、ネウロイをHMD越しに睨みつける。アレンのF-15SEⅡに気付いたのか、ネウロイの先端がこちらを向く。その光景をみたアレンは、旋回する機体を降下させ、海面ぎりぎりまで高度を落とした。直後、レーザーがF-15SEⅡのいた空間を切り裂く。

急激な機体の降下を感知したコンピュータが『Pull Up』と警報を発する。その時には、アレンは再びネウロイを通り過ぎてしまっていた。

 

(ちょこまかと…!)

 

いくら高機動の第5世代戦闘機と言えども、ジェットエンジンによって生み出される速度と機体の重量は、第2次世界大戦の零式艦上戦闘機やF6Fなどといったプロペラ機と比べれば2倍や3倍も多い。つまり失速速度もジェット戦闘機の方が高止まりし、結果として、最低旋回半径も大きくなる。

もしアレンの駆るF-15SEⅡとレシプロ戦闘機が機銃による格闘戦を行うと、十中八九レシプロ機が勝利する。かつて太平洋でゼロ戦とF4Fが戦ったとき、旋回性能で長けたゼロ戦が多くの勝利を収めたときがあったように。

ネウロイもまた、第2世界大戦で登場した兵器のコピーが多い。格闘戦は不利であることは、容易に理解できる。

 

(だが…)

 

ここで性能を発揮しなければ、生きていくことができない。自らの力を示さなければ、ネウロイに、同じ人間に食われてしまう。

 

『レスリー少佐!大丈夫か!?』

 

「問題ない。任せろ。」

 

追い縋るネウロイのレーザーを回避しながらバルクホルンの呼びかけに応答したアレンは、ひとつ深呼吸をしてから、レバーを握る手に力を込めた。

 

(後方、右上…至近距離…)

 

 キャノピーのフレームに取り付けられた鏡でネウロイの位置を把握する。

再びネウロイのレーザーがすぐ脇をかすめ、すぐ下にある海面に突き刺さって海水を蒸発させる。

 

(振り切ってもレーザーで焼かれたらお終いだ)

 

そう考えたアレンは、機首を引き上げて高度を取り、回避の準備に入る。ネウロイもF-15SEⅡを追尾してくる。ネウロイが背後に回るのを確認したアレンは、息を詰めてスロットレバーを押し下げ、同時にサイクリックレバーを引き上げた。

後方への推力カットと逆噴射、急激な機首上げによって、F-15SEⅡは一瞬空中に制止―――コブラ・マニューバを繰り出した。急減速したF-15SEⅡのすぐ下を、機動についていけなかったネウロイが通過する。

 再びスロットルを元に戻して推力を回復させたアレンは、ネウロイの追撃へ入った。急旋回して戻ろうとするネウロイの背後に迫り、機関砲を打ち込む。高速で飛び出す弾丸でネウロイに穴が開き、コアを粉砕する。一瞬光ったネウロイが結晶化するのを確認したアレンは、ウィッチ4人のもとへ戻った。

 

 

 

「目標2機、撃墜。」

 

『こっちも完了だ』

 

『同じく、撃墜。』

 

すでに合流している4人の隣へ機体を滑り込ませる。

 

『無事か、みんな。』

 

『なんともないよ。』

 

『同じく。』

 

『大丈夫です。』

 

『少佐も無事か?』

 

追いかけられたところを見られていたらしい。

 

「無傷だ。」

 

『それはよかった。よし、帰還しよう。』

 

坂本が安堵の表情を作り、5人は基地への空路を進んだ。

 

 

 

*****

 

 

(マロニー大将の部下達…いったい何を考えているのかしら)

 

管制塔で出撃したアレンや坂本たちの帰投を待っていたミーナは、ふと思った疑問について考えていた。数日前、501基地にやってきたクロウリー中尉ら6名のことだ。

着任報告の際にクロウリーがアレンに向かって放った視線が忘れられなかった。必ず聞き出してやる、と表面には出さない意志が込められていた。あれほどまで挑発するかのような態度をとっておきながら、今はまだ何も行動を起こしていない。

 

(何もせずに帰るわけはないわ…)

 

ミーナを始め、ウィッチという存在を毛嫌いするマロニーである。そんな時にやってきた未来の戦闘機とパイロットは、マロニーには好都合だろう。

 

遅かれ早かれ、レスリー少佐本人に接触するはず。どんな手を使ってくるのか。

 

渡そうとしない少佐たちを無理やり黙らせて強引に機体を解析する?

戦争に勝つためだとうまく吹き込む?

 

マロニーがとりそうな手段をあれこれと考えていく。考えるだけで鳥肌が立った。どれもあり得そうで、ミーナは思わず身震いした。

同時に、レスリー少佐と戦闘機という2つで1つの存在が、想像以上にもろくて崩れやすいものであることに気付く。

 

ウィッチがネウロイと交戦する距離、つまりは機関銃の射程距離以上から攻撃できるミサイル。

音速を超える速度を軽々とたたき出すエンジン。

二つ目の頭脳とも呼べる高度なコンピュータ。

 

あの戦闘機があるかないかで戦況が大きく変わることは、誰にでも分かる。数が多ければ多いほど、ネウロイを壊滅させられるかもしれない。

ただ一方で、魔力も持たない人間が操る戦闘機が投入されれば、ウィッチという存在はどうなってしまうのか。仮にウィッチが不要となれば、その後自分たちはどうすればよいのか。

決して魔力の無い人を見下している訳ではない。すべての人が平等になれれば問題ない。世界のウィッチたちが、ただの女性にもどったら、世間はどんな視線を送ってくるのだろうかと、ミーナは不安を覚えた。

 未来から来たパイロットが、どちらに微笑むのか。無意識のうちに、机の上に乗せた両手が握られていった。

その時、目の前の通信機器のスピーカーのランプが灯った。出撃したアレンたちからの通信だ。

 

『こちら坂本。敵部隊の撃墜に成功。これより帰投する。』

 

 

*****

 

 

『少佐、もうネウロイには慣れたか?』

 

平行して飛ぶ坂本が、こちらを向いて問いかけてくる。

 

「問題ないくらいに。」

 

アレンはバイザーと酸素マスクを外して答えた。

 

『そうか。まだ2、3回目だと言うのに、流石は少佐だ。』

 

『慣れが速いのは、やはり実戦での経験がそれなりにあるからか?』

 

今度はバルクホルンが尋ねた。

 

「多分そうだな。パイロットになって10年くらいたつか…。いろんな作戦に参加したし、毎回同じ敵がくることはないからな。」

 

経験が実力を証明する。誰かが言ったその言葉通り、こういった戦闘も、簡単には測れない経験値という物があるのだろう。

 

『さっきの急減速さ、すごかったけど、敵に後ろ取られた時はいつもしてたの?』

 

ハルトマン―――なぜかゆるやかなバレルロールを続けている―――が尋ねる。

 

「いや、やっぱり後ろは取られないように努力している。まぁ、取られた時は仕方なくしてるな。」

 

『一々後ろは取らせないの?そうした方が簡単じゃん。』

 

簡単だと言う根拠がどこにあるのか…相変わらずのほほんとした顔のハルトマンに聞きたかった。代わりにバルクホルンが口をはさむ。

 

『ハルトマン…そんなわけがないだろ。危険すぎることが分からないか?』

 

『あぁ、そっか…。』

 

「毎回同じことしてたら、敵だって先手を打つようになる。そのためにも、なるべく接近戦は避けてるんだ。」

 

『回避の技は、さっきの機動だけなのか?』

 

腕を組んだ坂本が問う。

 

「もちろん他にもある。さっきのはコブラって言う機動。他にもループやクルビットとかも使うが…。」

 

『どんな飛行なんですか?そのループとかクルビットって。』

 

キラキラした目を向けてくる宮藤が眩しい、と思った。期待に応えてやりたいが、あまり期待に無理をさせたくもない。

 

「見せたいけど…すまないがまたの機会にしてくれ。戦闘に出れば見れるかもしれないな。」

 

『実践ですか?』

 

「何もないところでしたら機体にガタが来てしまうからな。」

 

 わかりましたと宮藤が答える。実戦ということは戦闘中だと言うことだが、彼女はそれを分かったのだろうか?楽しみに思っているのか、彼女の口元が緩んでいるように見えてしまう。

 

「実戦や慣れと言えば…少佐や大尉たちも、これまで多くのネウロイを撃墜してきたのでは?」

 

ふと思ったアレンは尋ねた。

 

『私の場合は1937年からだから、7年と少しくらいだ。レスリー少佐の言うことと似て、多くの作戦に参加したな。』

 

『私も…そうだな。撃墜数はもう250機を超えているし…。ハルトマンも200機を超えている。』

 

カールスラント出身の二人の撃墜数を聞いて耳を疑うが、それが彼女らがエースである証拠なのだ。『へぇ』と感心したように声を漏らす宮藤に、自分はどうなのかとアレンは問いかけた。

 

『わ、私ですか?あ、私は、その…。』

 

『宮藤はまだ入ったばかりでな。まだ10機に届いたかどうかといったところだ。』

 

そうだったのか、と驚き半分の声を出す。というより、ほとんど経験のない宮藤を出撃させて良いものなのかと疑問に思う。まさか『兵士は戦場で花開く』というんじゃないだろうな。いや、ヤマトナデシコである少佐なら―――

 

『まぁ宮藤はこれから伸びるだろう。訓練も大切だが、実戦も訓練の内だ。ウィッチは戦場で開花するものだ!ハッハッハ!』

 

やっぱり言うんだ、とアレンは心の中で呆れた。軽快に笑う少佐と、なにやら冷や汗のようなものを流す宮藤。その光景を、カールスラントの二人も見ていたようだ。不意にバルクホルンが宮藤へ声をかける。

 

『あまり邪魔ばかりはするなよ、新入り。』

 

『え、あ…。すみません…。』

 

『トゥルーデ、怖いよ~。』

 

あまりに暗い声色に、アレンはびっくりしてバルクホルンに振り向いた。宮藤もおろおろとする。自信を出させるために励ましの言葉でもかけるのが流れだと思う。相棒であるハルトマンの反応にも、まるで興味などないというようにうるさいとだけ答える。

何をもって宮藤にきつく当たったのかとアレンは考えた。帰ってから話でも聞くか、と結論を出したアレンは、残る基地までの空路を4人と共に飛んだ。

 

 

*****

 

 

帰投したウィッチたちが滑走路へと滑り込む。ミーナはそれを静かに見守っていた。しばらくして、坂本から無線が入る。

 

『ミーナ、着陸完了だ。レスリー少佐に伝えてくれ。』

 

「分かったわ。お疲れ様。」

 

坂本からの無線を聞いたミーナは、回線を切り替えてアレンへ話しかけた。

 

「レスリー少佐、準備できたわ。着陸を許可します。」

 

『了解。マニュアルチェック…ギア、ダウン(ピ―――)。おっと?』

 

着陸前のチェックらしい、とミーナが思った瞬間、無線の向こうで警報が鳴った

 

「どうしたの?」

 

反射的に問いかける。F-15SEⅡの構造などほとんど知らないが、妙に耳に刺さる警報は、不安を感じさせる音だった。

無線の向こうで何かを操作している様子のアレンは、しばらくしてぽつりとつぶやいた。

 

『主脚が故障した…?』

 

 




書きたい話まで到達せず…。まだまだ時間がかかりそう。
ですが!もう少し待っていただけたらと思います!



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14 , 帰投

本当にストライクウィッチーズとのクロス小説なのか、と思ってしまいそうな今回です。




*****

 

 

警告のアラームが鳴るF-15SEⅡのコックピットで、アレンはコンソールに埋め込まれたディスプレイをタップするのに追われていた。

 

次々と表示されるウィンドウに触れては消し、再び現れるものも消していく。そんな作業が続いていた。

 

そして、何度システムチェックを走らせても、同じ答えだけが示された。機体のCG図の一部だけが、赤く点滅している。

またダメかと唇をかんだアレンは、最後にディスプレイをタップして警報音を止めた。

 

故障したのは着陸脚。それも、左後輪。3本しかない着陸脚の1本でも失えば、胴体着陸でもしない限り降りることはできない。

 

『主脚が故障したの?』

 

管制塔のミーナが問いかけてくる。

 

「そのようだ。そちらから、機体が見えるか?できるなら確認してほしい。」

 

時刻は午後5時をまわったころ。すこし薄暗くなりつつある。その中で、501基地の誘導灯などの明かりがはっきりと見えていた。

 基地との距離がもうないことを意味していた。

 

『…見えたわ。…ん~、左の後輪かしら?2本しか出ていないわ。』

 

ディスプレイの情報に間違いがないことに少し安心しつつも、やはり今起きている機体の異常に、アレンは唇をかんだ。

 

 原因は何にせよ、早く地上に降りたい。燃料の残りは半分をきり、なによりアレン自身も疲労がないわけではない。

 

『少佐、今第2滑走路を解放したわ。胴体着陸するしかないと思うのだけれど。』

 

「了解…。」

 

『消火班と救護班への出動要請も出したところ。いけそう?』

 

基地では、自分の着陸に備えた準備が始まっているらしい。もう滑走路は見え始めている。タイミングを逃すのは良いと言えない。アレンはしばらく考えこんだ。

 

手段を絞られた中で取られる胴体着陸。航空機と乗員が地上に降りるときに最終的にとられるこの方法は、航空機の歴史でも多く起きてきた。

 

普通の航空機とパイロットなら、今の状況であればそうしただろう。

 

 ただし―――

 

「中佐、頼みたいことが。」

 

―――『普通』の航空機ならば。

 

『…。なにかしら?』

 

「航空機用のジャッキを滑走路に用意してもらいたい。」

 

 

*****

 

 

着陸時の衝撃に耐える航空機の車輪は、その性質上、部品に少しでも不備があれば大事故につながりかねない。そのため、定期的に取り外して徹底的な検査と整備を行う。

 

その間、足を取った航空機を地べたに放置するわけにはいかなかったため、車と同じようにジャッキが開発されたのだ。

 

サスペンションや展開・格納のための機械が詰められている航空機の主脚は、車とはちがってある程度の高さがある。その代わりをするだけあって、ジャッキの重量も大きさも相当なものとなる。

 

 これまでジャッキをウィッチのストライカーユニット用として使うことが多かった501基地では、ウィッチたちが利用する第1格納庫に保管されていた。一方の第2格納庫は、航空機の整備が行われていないため置いていない。

 

それを、今日は500メートル離れた第2滑走路まで運ぶことになった。

 

「早くしろ!第2滑走路まで運ぶんだ!」

 

ハンガー内に、整備班班長ベイリー軍曹の野太い声が響く。

さぁストライカーユニットと戦闘機の整備に入るかとのんびり準備をしていた整備班の面々は、つい先ほど掛かってきたミーナの電話を機に、慌ただしく走り回っていた。

 

「用意できました!」

 

別の整備兵がベイリーに呼びかける。そこには、台車に乗せられた一つのジャッキがあった。

 

「よし、急いで持っていくぞ!あのジェット機が使うんだ!」

 

「なんで急に第2(滑走路)なんですか?」

 

「知らねぇ!俺に聞くな!」

 

問うてきた一等兵に無駄口叩くなら足動かせと付けたし、台車を力いっぱい引っ張る。同時に、一等兵の言うとおり、なぜ第2なのかと考える。

 

なぜ少佐はジャッキを要請したのだろうか。前回の出撃同様、第1格納庫前にある第1滑走路に着陸すればいいはずだ。

 

…中佐に、これからは第2を使うように頼まれたのだろうか?だとすれば、ジャッキなんて要らない。

 

「まさか…。」

 

「?何か言いました?曹長。」

 

「いや、なんでもない。」

 

無意識のうちにつぶやいたベイリーに気付き、一等兵が尋ねる。それを誤魔化し、考え続ける。

まさか―――故障を起こしたのか?それとも被弾した?

 

格納庫から外の道へ出る。その時、頭上を例の戦闘機がパスしていった。

ベイリーは、その巨大な機体を不安でいっぱいなまま見送った。

 

 

*****

 

 

ウィッチ用の第1滑走路とは建物を挟んで反対側にある第2滑走路。第1よりはるかに長く、横幅もかなりある。なぜなら、ウィッチではなく輸送機などが利用するからだ。普通の民間空港並みの規模はあるだろう。

 

艦船による物資補給もあるが、軽量であったり急を要するものも届けられる。司令部の連中もたびたびこの基地を訪れてくる。

 

ミーナにとっては、司令部への報告のために利用することがある滑走路だ。

 

 その滑走路上に人だかりができ、真ん中には、アレンの要請を受けて準備された航空機用ジャッキの姿もあった。

 

『整備班のベイリーです。航空機用ジャッキ、配置完了です。』

 

覗き込んでいた双眼鏡を机に置いたミーナは、ベイリー曹長からの電話を取った。

 

「分かりました。待機してください。」

 

一度受話器を戻してから、アレンへの無線に切り替える。

 

「少佐、ジャッキの用意ができたわ。」

 

『了解。着陸する。スタッフは退避を。』

 

早口で、ほぼ単語のみでの答えが返ってくる。無線の向こうが、無線に応答するのも困難なほど忙しくなっているのだろうかと想像する。

 

とにかく、彼には無事に着陸してほしい。ジャッキを要請したりする理由は分からないけれど、きっと考えがあるのだろう。そう信じるしかない。

 

 無意識のうちに両手がキュッと握りしめられていることに、ミーナは気付かなかった。

 

 

*****

 

 

1972年の初飛行から40年が経ち、もうすぐ半世紀の歴史を飾ろうとするF-15シリーズ。多くの兄弟を持つ戦闘機でもあり、その数は1200機に上る。

 

基本型だけでも、初期量産機のA型、複座のB型、生産数最多のC型、C型の複座タイプとなるD型、日本輸出版のJ型などがある。

 

10数年後には派生型も登場した。戦闘爆撃機であるE型のことだ。実験機S/MTD型も開発されたことがある。

 

派生型はE型で止まらず、進化したSE型が開発された。F-15E譲りの多様性を生かしつつ、敵からの発見を避けて作戦を遂行するための改造が行われたのだ。『Silent Eagle』の名が示す通り、F-15へステルス性能の追加が施されたSE型は、2013年に実戦投入され、すでにいくつかの戦果を挙げている。アレン自身、NRFとの作戦中に見かけたこともある。

 

そして最新型が、今アレンの乗るSEⅡである。これ以上発展させる余地があるのかという疑問の声が、議会や国防省の一部、さらにはメーカーであるボーイングの内部でも聞かれたという話は、アメリカの内外問わず有名となってしまっている。

 

それでも空軍の要望は折れ曲がることなく、SE型の開発中から、SEⅡの構想は出来ていたと言われる。

 

タスクフォース108のカルース空軍基地がトリニティ弾頭によって壊滅したことを受け、滑走路の無い場合でも運用ができるS/VTOL性能の付加が施されている。

 

そして、人員削減とパイロットの負担軽減という、どこか矛盾していそうな理由から、本来火器管制士官の乗る後席には、高度な計算と処理を行うコンピュータが設置されたのだ。

 

それらの技術が、今この時、フル活用されようとしていた。

 

「着陸チェック…よし。」

 

垂直着陸の準備を終えたアレンは、滑走路の軸線上へと進入した。いつもよりゆっくりと流れる風景をしり目に、滑走路上に小さく見えるジャッキを注視した。

 

(降りるまでおとなしくしてくれよ…)

 

 着陸した状態でジャッキに『履き替える』のが普通である。その手順を飛び越え、そのままジャッキに『着陸』するなど、今までにした人物がいただろうか。胴体着陸せずに、かつ無傷で着陸する。その考えから思いついたのがこの一つだけだったことに、今更、他にはなかったのかと後悔する。

 

未知の領域に足を突っ込んだ今、手が震えだすのを必死に堪えた。

 

しかも、片足の無い状態で飛ぶF-15SEⅡは、機体下面に生まれる気流が普段とは違うせいで、いつもより不安定だった。サイクリックを握る手を震わさず、かつ細かく操作する。機体が少しでも揺れると、失速したのかと全身一度カッと暑くなり、いやな悪寒が走った。

 

自分の技量だけでは心細い。運を天に任せる気持ちは、こんなものなのかと、サイクリックレバーを操作することに精神を尖らせながら思った。

 

HUDの速度表示は、時速300キロまで低下していた。そして、機体は海上に設置されている誘導灯の上を飛行している。ここだと決め、スロットルレバーを奥に押し出し、VTOLへの移行を開始する。

 

 一瞬、エンジンの回転音が抑えられたが、代わりと言わんばかりにコックピットの背後にある特設の排気口が唸りを挙げる。

 

速度が一気に低下し、200を切る。それでも、高度表示だけは変わらなかった。VTOLモードが正常であることを確認したアレンは、思わずふぅとため息をついた。

 

「誰かジャッキと機体の位置を知らせてくれ。」

 

コックピットからは主翼の影になって見えないジャッキを、下で待機している兵士に聞く。

 

『よ、横は大丈夫です!』

『正面ですが、もう少し左へ!』

 

言われた通りに機体をスライドさせる。

 

『大丈夫です!真下にあります!』

 

サイクリックレバーをしっかりと固定し、スロットルレバーを握る手に力を入れる。少しずつエンジンの出力を絞り、ゆっくりと機体が降りる。

 

数秒後、機体全体の揺れがピタリと止まり、正面の兵士が両手を上に突きあげた。

それを見たアレンは、大きなため息をついて脱力した。

 

「着陸完了…。ふぅ…。」

 

 座席に沈み込んでハーネスを一本ずつ丁寧に外す。ヘルメットを取った時、自分の額に汗がこびり付いていることに気付いたアレンは、心の底から疲れたと感じた。

 

 降りるためにキャノピーを開くと、少しひんやりとした外気が流れ込んできた。

すでに日は傾き、着陸前はまだ明るかったのにもう暗くなったのかと、驚いた。

こんなに集中していたのは何時振りだろうかと、空を見上げながらアレンは思った。

 

 

*****

 

 

アレンがコックピット内で物思いにふけっているとき、その姿を見つめる者がいた。

 

「さすがは未来の戦闘機…。」

 

滑走路から少し離れた林にすっかり紛れた格好をした人物は、手にした物体を覗き込みながらつぶやいた。

 

 十字線の中心にパイロットの顔面をとらえ、その表情を凝視する。普通の欧州人の顔立ちだが、この人物には、とても憎らしいものに映った。

 

 消してしまいたい。そして、はやく仕事を終わらせたい。

 

 そう思いながら、影に隠れて見えなくなるまで、パイロットをクロスヘアの中心にとらえ続けた。

 

 

*****

 




いやひどい。


アレン「元の世界に返せ。」

作者「もう少し!もう少しだけ待って!」

ア 「次々話までこの調子だったらトリニティでぶっ飛ばす。」

作 「善処します…。」


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15 , 動き出す影

前回から間が開いてしまいました。
そしてとても短いです。すみません。


 ※機密情報を未入手の場合は、【目次】で確認


*****

 

 

「くそっ!なんだったんだ、あれは!?」

 

501基地のとある一室で机をたたいたのは、ブリタニア司令部から派遣された調査班の班長、ミック・クロウリーだった。叩いた衝撃で、カップに淹れられた紅茶が波を立てる。

 

「落ち着いてください中尉。ばれますよ。」

 

それを彼の部下であるキム・ボルトンが宥める。

 

最後の方は部屋の外に聞こえないようにつぶやいた。

 

「落ち着いてなどいられるか。やっと次に進めるところだったんだぞ。」

 

「わざわざ見せてくれと頼まずにイイものが見られたのです。」

 

ノートに何かを書き込みながら、凄い戦闘機だ、と感心しているボルトンを睨み、クロウリーはため息をついた。

 

「感心してる場合じゃないぞ、少尉。」

 

「分かってます。だから私たちがこうしているのでしょう?」

 

ボールペンを挟んでノートを閉じたボルトンが、複雑な笑みを浮かべてクロウリーを見返す。

 

「まぁ…そのとおりだ。」

 

今回この基地へ自分たちが派遣された理由―――表向きには新型ネウロイの調査とされているが、本当の目的は別にあった。このことを知っているのは、派遣された5人と、この5人に命令を下した司令部の人間、あと何人かの技術者だけなのだ。

 

本当の目的は、『501基地に飛来したジェット戦闘機の情報を抜き出すこと』という、表向きの物とは大きく異なるものだった。

 

『未来からやってきた』戦闘機のうわさは、軍の内外、基地周辺の市民まで広がりつつある。ネウロイに対する決定的な手法を持たない連合軍やブリタニア軍が、この機会を逃すはずがないのだ。

 

「とにかく、失敗したことは仕方ない。次の手を考えないと…。」

 

起きてしまったことを今から変えることはできない。ならば、次なる手段で目標を達成するまで。

 

「パイロットの私物を漁ってみるのは?取説の代わりみたいなものもあるかもしれません。」

 

「そうだな。…よし、ハーディング上級曹長。」

 

数秒、考える素振りを見せたクロウリーは、同じ部屋にいた別の部下の名を呼んだ。

 

「は、はい。」

 

緊張しているのか、ソファなのに背を伸ばしたまま座っている若い兵士が答える。

 

その様子を見たクロウリーは、一言落ち着けと声をかけてから指示を出した。

 

「ジェット機のパイロットの部屋を漁って、機体に関する情報を探して来い。気付かれるんじゃないぞ。」

 

「…分かりました。」

 

クロウリーの班に配属されて間もないハーディング上級曹長は、少し間を開けて答えた後、調査班の部屋から出て行った。

 

「何故一番若い彼を?緊張して失敗しそうです。」

 

扉が閉まるのと同時に、ボルトンが問いかける。

よっこらせと椅子に座ったクロウリーは、当然だというような顔で答えた。

 

「大丈夫だ。元の部署でも仕事はできていたらしいからな。それに…。」

 

耳を寄せろとボルトンに合図して続ける。

 

―――こういった仕事は、下っ端がこなすことだ―――

 

その言葉に、ボルトンはやれやれと言うような笑みを浮かべた。

 

 

*****

 

 

「それにしても、差し迫った作戦もないっていうのは久しぶりですね。」

 

「こうしてのんびりしてるなんて、とても考えられなかったからな。」

 

夕食を終えたローチとゴーストは、男性兵士宿舎の廊下を並んで歩いていた。

外はすっかり暗くなり、まだ電灯がついていない廊下の窓からは、きれいな半月が見えていた。

 

ピット突破を披露して以来、元タスクフォース141のメンバーは、基地の兵士達への指導役を受け持つようになった。指導に加えて実施の記録などを付ける仕事も発生したが、こちらに来る前と比べれば、ずいぶんと時間に余裕ができた。

 

「狂った大将やロシア野郎のおかげで毎日振り回されていたころが懐かしい。」

 

「と言っても、こっちに来てからまだ2週間経ってませんけどね。」

 

その2週間前、ローチたちは第3次世界大戦とも呼べる戦争の真っ只中のアメリカにいた。

 

ロシアの空港での虐殺事件から、世界各地に飛び火した戦火を潜り抜け、最後はアメリカ本土へ上陸したロシア軍と戦ったのだった。

 

途中、連合軍の指揮を執っていたシェパード大将からも命を狙われたこともあり、おちついて食事もとれなかったことも少なくなかった。

 

そんな状況を生き残ったローチやゴーストは、その経験があるからこそ、この瞬間の生活に若干の戸惑いさえ感じていた。

 

「まぁ、ここが汚れきった人間の世界じゃないということは言えそうだ。」

 

ゴーストが呟く。

 

ローチもそうだなと思った。

 

同じ人間同士なのに、なぜ傷つけ合い、殺し合うのか。

口で話せるというのに、なぜそれを使わず力を示しあうのか。

 

それには、人の中に潜む様々な欲や意志が混ざり合った何かが関わっている。2人は、なんとなくそう考えていた。

 

色々と話しているうちに自室までたどり着いたローチは、ゴーストが先に部屋に入った後に続いた。

しかし、片足を踏み入れたところでピタリと動きを止めた。

 

「どうした?」

 

「シッ!」

 

固まったローチに気付いたゴーストが声をかける。それに対して、ローチは人差し指を口の前に当てた。

 

ゴーストが立ち止まるのと同時に、ローチは脇の机に置いてあったUSPを取って部屋から出た。

音を立てずに向かったのは、すぐ隣にある部屋―――アレンの部屋だった。

 

ローチが気付いたのは、その部屋から、明かりもついていないのに人の気配がしたからだ。ごそごそと、何かがこすれたりひっくり返されたりする音が響く。

 

少佐が寝ているのかと考えたが、それにしては物音が断続的に続いている。

しかも、少佐は今日の機体トラブルで夕食にも顔を出していない。ハンガーに行っているとマクタビッシュが言っていたのを思い出した。

 

ならば、別の誰かが部屋にいるとしか考えられない。そして、その人間の所属によっては、面倒なことになる可能性がある。

 

しばらく物音を聞いて様子をうかがっていたローチは、意を決してアレンの部屋へ突入した。

USPのフラッシュライトを点灯させ、片手で構える。後ろにいるゴーストに合図を出してから、ドアノブに手をかけたローチは、足の筋力を総動員してドアを開いた。

 

ギッと蝶番がこすれる音が一瞬響いた直後、照明の灯っていない部屋をライトの輪が隅から隅まで舐めるように動く。同時に一際大きな物音が響き、続いて何かが倒れる音と人のうめき声が聞こえた。

 

床をライトで照らすと、一人の兵士が転がっていた。明るいライトが兵士の顔を照らし出す。

 

その姿を認めたローチは、兵士を取り押さえようと飛びかかった。仰向けのまま後ずさりする兵士の上から馬乗りの形でのしかかり、逃れようとする両腕を足と左手腕で拘束する。

 

兵士はそれでも、抵抗する。フラッシュライトだけの暗闇なら顔がばれないと思って、何としても振り払おうと暴れだす。拘束の手を強くしようとローチが力を込めた丁度その時、部屋の電灯が明かりを放った。ゴーストがスイッチを入れていたのだ。

 

部屋全体が明るくなると、抵抗した兵士も諦めたようにおとなしくなった。

 

「誰だ、お前?」

 

一息ついたローチの問いかける声が、静かになった部屋に響いた。

 

 

*****

 




次話で頑張ります。 多分…。



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16 , 変化 ―序―

*****

 

 

第2滑走路に片足が出ないまま―――正確には片足を支えてもらって―――着陸したアレンのF-15SEⅡは、その日のうちに故障原因が発見された。今は主脚も正常になり、その機体は格納庫の屋根の下にたたずんでいた。

 

カタログで公表されているF-15SEⅡの空虚重量は16トン弱。そこにミサイルや機銃弾、燃料を搭載すれば、20トンを軽く超える。そう考えると、今こうして駐機しているだけでも、3本ある主脚には相当な力が働いている。着陸時には倍以上の重量が掛かっているとも言われる。

 

自機の傍らにいたアレンは、ポツリポツリと考えた後、F-15SEⅡを見上げながらVTOLで着陸して正解だったと痛感した。今更ながら、嫌な冷や汗が垂れそうになる。

 

次にアレンは、後ろにいたベイリーに振り返った。彼が持っているトレーに乗せられた物体を見る。

 

「この箱状の物が、脚部を展開・格納する際に作動するアームにとりつけられていた、と…。」

 

その箱状の『異物』は、各辺10センチ程度の箱だった。

 

「そうです。」

 

アレンが確かめるようにつぶやき、ベイリーが静かに答える。

 

「アームとアームの間に挟まるように取り付けられていたので、物理的に展開ができないようになっていました。」

 

「それをセンサーが異常だと感知して作動しなかったのか…。」

 

ベイリーと共に点検をした一等兵が、ジェスチャーを交えて付け加える。アレンは深いため息をついた。

 

ネジもなく中は開けられず、異物は頑丈な作りだった。しかしきちんとした箱ではなく、ただ粘土をまとめたような雑な外見でもある。

 

「コードやボタンもないみたいだし、爆発物でもなさそうね。」

 

ノーマッド63機長こと、ディアナ・エンデン大尉も異物を眺めながら言う。

 

「時限式や無線式も考えにくいわ。どの国でも、まだ導入された話はないし…。」

 

報告のため、と見に来ていたミーナが呟く。

 

コードや配線、スイッチの類もなければ、爆発物とも考えにくい。遠隔操作式だとしても、この時代に遠距離から任意で起爆させられる装置があるかも微妙だ。

 

「中身が何なのかも知りたいが…。」

 

「誰が仕掛けたかも解明しないと。狙いは何にせよ、危険だわ。」

 

アレンの言葉を補うように、ミーナが呟く。いつになく厳しい表情のミーナを見遣り、アレンもそうだなと肯定する。

 

その直後、

 

「少佐ぁ!コソ泥がいたぞ!」

 

と、勢いよくハンガーの扉が開かれた。同時に男の声が響く。

 

その場にいた全員が振り向くと、大股で歩いてくるゴーストと、濃い茶色の服を着た兵士、そしてその兵士の肩を掴んだローチがいた。

 

「どうした?」

 

「この兵士が、少佐の部屋に忍び込んでいました。」

 

アレンの問いかけに、ローチが興奮気味の声で答える。

 

「ブリタニアの軍服じゃないか。」

 

連れてこられた兵士が、ローチの拘束から解放され、床に転がり込む。その姿を見ていたベイリーが、来ている服がブリタニア軍の物であることに気付いた。

 

「少佐の金を取ろうとしていたんだ。部屋まで帰ったら、たまたま見つけました。」

 

「ち、違う!そんな―――グフッ!」

 

ローチの説明を否定しようとする兵士の腹に、ゴーストの蹴りが入る。

 

「よしよし黙ってろ。ローチ、発電機とコード、それと金属片二つ、持ってきてくれ。」

 

「いや、そりゃダメ。その方法でロハスを半殺しにしたら、何も言わなかったこと覚えてないんですか?」

 

「じゃ手加減してやるさ。」

 

二人の会話から、どうやら拷問でもして本当のことを言わせるつもりらしいと気付く。

 

アレンは、言われたものを取りに行こうとしたローチを引きとめた。

 

「痛めつけなくったって大丈夫だろ。」

 

「嘘を言うかもしれませんよ?」

 

「嘘でも本当でも、今更取られて困る物なんか置いてない。」

 

「いやぁ、少佐は甘すぎる。」

 

こいつ…自身を含めた自分達6人が特殊な人間なこと忘れたか?

アレンはグッと顔を近づけてローチにささやいた。

 

(変なことしてみろ。周りの兵士からどんな反応が返ってくるか分からんぞ。)

 

(…。)

 

まだ完全な信用を受けているとは言えない。そんな時に、もし何もしていない兵士を拷問などで傷つければ、基地の兵士に限らず、司令部から何が返ってくるか分からない。

 

ローチが踏みとどまったのを確認したアレンは、連れてこられた兵士に向き直った。

先ほどローチから突き飛ばされた時と変わらずに座り込んでいる。

 

「とられて困る物はないはずだったが…。一応俺の部屋だし、何の用があったか聞くぞ。」

 

「…。」

 

「まず、お前の所属は?」

 

一般的なヨーロッパ人の顔立ちの兵士の顔には、まだ幼さが残っている。兵士は、一瞬だけアレンの顔を見、すぐに俯いた。

 

やっぱり電撃拷問が必要だ、とゴーストが呟く。やめろ、ともう一度釘を刺したアレンは、兵士の前にしゃがみこんだ。

 

「隠さなくてもいいだろ、別に命とるわけじゃない。それとも、どうしても言えないのか?」

 

「…。」

 

とはいいつつ、兵士がなぜ部屋にいたのかは大体予想がつく。黙り込んでいる兵士から視線を外し、兵士を睨んでいたミーナを見上げる。

 

「中佐、俺達の部屋がある士官宿泊棟は、基地の兵士たちが入れなくなってるはずだったか?」

 

「えぇ、そうよ。入るには、連絡通路の警備に顔を見せないとならないわ。」

 

501基地内の宿泊棟は、大きく3つに分けられている。1つは言わずと知れたウィッチ用、2つ目は基地に勤務する兵士用、最後は短期的に派遣される兵士や士官が泊まる臨時用だ。ウィッチ用宿泊棟は、誰もが予想できる理由で、残りの2つとは遠い位置にある。当たり前のことだ。2つ目3つ目の棟は、ほとんど一体化してはあるものの、間は3つの通路でつながれているのみであった。ミーナの言う警備とは、その3本の連絡通路すべてに配置されている。

 

「仮に警備にあったとすれば、連絡が俺のところに来るはずだが、それは一切なかった。俺が部屋にいなかったとしても、連絡は俺のもとに来るはずということだ。」

 

この基地に来てから2週間弱。短い新仮住まいでの暮らしではあるが、それくらいのことは覚えている。

 

「しかし実際にはなんに連絡もなかった…。そうすると、誰にも知られず部屋に入れる人物はかなり絞られてくる。…つまり、同じ宿泊棟に寝泊まりする人間だけだ。」

 

一通りの推理を立てたアレンは、再びミーナに視線を戻した。

 

「今日の臨時宿泊棟の利用予定は?」

 

「少佐たちタスクフォース249の6人ね。それと司令部から派遣された新型ネウロイ調査班の5人よ。」

 

確認するつもりで訊いたアレンは、ミーナの言葉を聞いてしてやったりという顔を見せた。

 

「249部隊の一員なら、俺とゴースト、ローチの誰かが気づいてる。しかし誰も知らない。ということは…お前は調査班の人間ということになる。」

 

決定的な証拠を示し、自分の知るものではないと断言したアレンは、もういちど同じ問をした。

大鷲に狙われたウサギのように、兵士は深くうつむいた。

 

「もう一度聞く。お前の名前は?」

 

「コリン・ハーディング…上級曹長です。」

 

その口から小さく蚊の鳴くような声で、兵士は答えた。

 

「調査班に所属している、これも事実だな?」

 

「はい。」

 

事件をある一定の解決まで持ち込んだアレンは、安堵とともに事の厄介さを感じていた。

 

アレンの部屋に調査班のメンバーが忍び込んだことが明らかになったということは、F-15SEⅡのトラブルに、クロウリー達が関わっていることが濃厚になったということを意味するのだ。

アレンは、クロウリーと初めて顔を合わせた時のことを思い出して、唇をかみしめた。

 

(あの大将、相当欲が深いやつだな…。)

 

遅くとも早くとも、この世界の人間が、異色の兵器であるF-15SEⅡを模倣、あるいは入手しようとしてくるとは思っていた。この基地に来て数日のうちに、ブリタニア空軍の司令官、マロニー大将が視察に来た時も予感していた。だが…

 

(こんなに早く来るとは。)

 

と、対策を打たなかったことを後悔していた。どうやって機体の情報が流出しないようしなければならないのか…。

 

「ところでお前、なんで少佐の部屋に入ってたんだ?」

 

ひとりで深く考え込んでいたアレンをよそに、いつの間にか拷問用具を揃えていたゴーストが尋ねる。金属片の先端をこすり合わせて火花を散らしている姿を見たアレンは、思考を中断してゴーストから道具を奪い取った。アホか、ローチも何で手伝ったんだと注意したアレンは、しかしゴーストの問いに対する答えは、重要なものだと思った。機体情報を盗み出したかったのだろうが、部屋には着替えくらいしかない。

 

「パイロットの持ち物に、設計図などがあると思ったので…。」

 

とコリンは答えたが、アレンは唖然とした。

 

「それは誰の命令で?」

 

「ミック・クロウリー中尉です。」

 

この時代のパイロットはそれぞれの持ち物に機体の取説を張り付けているのかと聞いてやりたかった。

不正解、持っていないよ、という気すら失せてしまった。

 

その後、いくつかの質問をコリンに投げかけていたアレンだったが、調査班や目的を詳しく聞き出すことができず、コリンへの聞き取りを中断した。

日が変わりそうだったということもあったが、それより重要なことが絡んでいたのだ。

 

「少佐、明日の午前中、ブリタニアの司令部から監査官が来ることになったわ。午前9時、到着するそうよ。」

 

一度ハンガーから姿を消していたミーナは、戻って来るや否や、そう告げた。

 

「俺に?何を調べるって?」

 

「わかるでしょう?機体のことよ。マロニー大将が直接手を打ってきたのかもしれないわ。」

 

そう言うミーナの顔は、大丈夫なの、という言葉を声に出さずに表していた。

またしてもアレンは苦虫を噛み潰したような顔をした。最悪ともいえる状況になりつつある、と直感したのだ。

 

調査班までなら、新型のネウロイは出ていない、いったん帰れと誤魔化すことはできる。しかし、明確にアレン自身の調査を目的とされれば、逃げる場所はない。アレンやF-15SEⅡだけでなく、元141のメンバーやAUH-72までも調べられるかもしれない。そして最終的には、F-15SEⅡの設計データの受け渡しなどが待っているはずだ。

 

もしデータを渡せば、何が起こるかは言うまでもない。世界が終る、と言っても過言ではない。

 

「…わかった。」

 

明日、自分の身に何が降りかかるかを、想像したくなくても想像したアレンは、低い声でそう答えた。

 

 

*****

 

 

―――翌日―――

 

ミーナから予告された通り、司令部の監査官が到着した。

 

午前9時ちょうどに正門に到着した高級セダンをにらみ、プレゼントをもらうときだけ大人しくなる子供そのものだと思った。

 

停車したセダンから背広姿の男が降りてくる。アレンの180センチある背丈より高く、背広の上からでも肉付きの良さが見て取れる。監査官にしては十分すぎる体格の良さに、アレンは監査官がボクシングの選手ではあるまいかと疑った。

 

「ブリタニア軍司令部より来ました、ベネティクト・オリバーです。」

 

立派なもみあげと横に長い髭が特徴的な顔に、敬意と共に敵意も秘められていると感じた。

差し出された右手をミーナが先に握り返す。それに続いて、アレンも名乗りながら握り返した。

 

「タスクフォース249の隊長、アレン・レスリー少佐です。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ。」

 

二人はお互い目を見て握手を交わした。それぞれ、負けまいという静かで見えない火花が散ったかもしれない。

 

しかしその直後、監査官の言葉によって、アレンは一気に劣勢に立たされた。

 

「早速だが少佐。君にはネウロイとの共謀を図った疑いがかかっている。今回はこのことについて詳しく話を聞きたい。」

 

アレンは絶句した。隣でミーナが両者の顔を交互に見たのは、気のせいだっただろうか。

勝負は、まだ始まったばかりのはずだった。

 

 

*****

 




次話もなるべく早く投稿します。


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17 , 変化 ―続―

更新が遅れました。すみません。

急いだので誤字脱字などが多いかもしれません。
見つけてくださったら、何かしらの方法で教えてください。


 

*****

 

 

いきなりの質問に、アレンは両足が硬直するのが分かった。

 

「中佐、基地の取調室を借りたいのだが、案内してくれるか?」

 

アレンの様子を見たのか見なかったのか、それを特に気にすることなく、監査官のオリバーはミーナに振り返った。その表情を見たミーナは、目の前の監査官が何をするか察し、オリバーの許可を取り下げようと切り出す。アレンに良くないことが起こる、と感じたのだ。

 

「それはき…。」

 

しかし、続く言葉が出てこなかった。言いたいことを忘れたわけではない。監査官の後ろに、新たにもう1人の人影があったからだ。ほぼ無音で、車から現れたのだ。黒くてスポーツモデルのサングラスを掛けた部下を見て絶句したミーナを見たオリバーは、

 

「?…あぁ、この2人か? 彼らは私の部下だ。気にしないでくれたまえ。」

 

と不気味な笑みを浮かべて告げた。その顔に刻まれた笑みからは、彼らがただの監査官などではなく、彼ら自身の欲望を満たすために出向いてきた軍人であることが、はっきりと分かった。

 

 

*****

 

 

数分後、アレンとオリバーは、基地の南東にある取調室にいた。その部屋は、奇しくもアレンが初めてこの基地に来てから最初に連れていかれた部屋と同じだった。簡素なパイプ椅子に座り、鉄格子からブリタニア海峡の海面を見る風景まで、同じだった。

 

一瞬だけ久しぶりだと思ったアレンだが、今回は事情が事情であるがゆえに、そんな思い出にふける余裕はなかった。

 

アレンの中では、突然の問いに対して絶句した後から、監査官が自分に嘘の罪を着せて何を企んでいるのか必死に思考が繰り返されていた。しかし、大方の予想はすぐについていた。昨晩、コソ泥を働いたネウロイ調査班のメンバーを縛り上げた時から起こらないでくれと願っていたこと。

 

『未来の兵器の早生まれ』だった。

 

 同じ結論しか思い浮かばないことに苛立ちを感じ、アレンは思わず舌打ちした。それと同時に、背後の扉の鍵が解除され、さびかけた蝶番がギィとなった。

 

「本当なら、こんな埃くさいところで話すことではないのだがね。」

 

入ってくるなり、オリバーの湿り気のある言葉が背中に刺さる。

 

「どういうことだ?」

 

振り向きもせず、腕を組んだアレンは聞き返した。

 

「ブリタニア司令部は何度も出頭要請を出していたのだよ。君宛にね。」

 

「なに?見たことが無い。」

 

嘘ではない。自分宛に来たものと言えば、こちらに来てすぐに送られた部隊命名の書類くらいだ。

ゆっくりと歩き、机を挟んで向かい側にある椅子へのそりと座ったオリバーは、にやけた表情を崩さず答える。

 

「そうだろうね。部隊命名の書類以外は、封を開けられたうえで全て廃棄処分されていたよ。」

 

「そいつは初耳だ。」

 

アレンは少し驚いた。

 

「此処の指令が勝手に捨てたのだろうな。けしからん事だよ。まぁ、あとで文句の一つでも言っておくんだな。」

 

「ふん。むしろ感謝の言葉を伝えてくるよ。」

 

オリバーがミーナの仕業だと言ったのに対し、アレンは鼻で笑いながら皮肉を言ってやった。すると、オリバーのにやけ顔が少し曇った。壁に当たっていた視線が、ギロリとアレンを捕える。

 

「君が言葉を発することができるか、よく考えておくことだ。」

 

「あぁ覚えておこう。さっさと本題に入れ。理由を言ってみろ。俺に容疑を掛けた理由を。」

 

あごでしゃくってオリバーを煽る。彼らの思惑が目に見えているなら、そのすべてを片っ端から潰していく以外に道はない。

足を組みかえると、静寂に包まれた取調室に、椅子のきしむ音がいやに大きく響いた。

 

「君自身でもわかるのだろう?あんな航空機を誰に許可を取ることもなく運び込んで来ておいて。」

 

椅子に背を預けてふんぞり返っているアレンとは対照的に、オリバーは机の上で両手を組み、身を乗り出して語りだした。

 

「我々がどれだけ苦労したか分かっているか?突然の未確認機の目撃情報、轟音による被害、レーダー施設と各地方の警戒部隊の混乱…。司令部は対応に追われたよ。果てにはマロニー大将までがどれだけ動かれたか。」

 

「被害や混乱って…。普段から何の訓練をしてんだ?ただ声張り上げて怒鳴り散らしてるだけか?」

 

「市街地の上を無断で飛んだと聞いたが?ブリタニアでは、軍用機は許可を得たうえで飛行が許されている」

 

「知ったことか。俺達だって来たくて来たわけじゃない。歴史としては知らないこともないが、細かい規則なんざ覚えた事がない。」

 

「未来から来たということをまだ言うのか?いい加減、嘘をつくのはやめたまえ。」

 

「ほかに事実が無いんだから仕方ないだろ。それとも何か?俺たちの出どころでもわかるのか?」

 

アレンがそう言い返すと、オリバーの口元がぐにゃりとゆがんで笑みを浮かべた。

何か変なことでも言ったか、とアレンは考えたが、すぐにオリバーの口が開かれた。

 

「よく聞いてくれた。そのことについて言いたかったのだよ。…君がどこから来たか、私たちは証拠と共に結論を出した。」

 

秘密を打ち明けたがる子供のような、しかし下衆な笑顔のまま、オリバーは続けた。

 

「アレン・レスリー少佐。君は人の皮をかぶったネウロイだ。」

 

 

*****

 

 

「目の前の敵だけに気を取られるな!敵が複数いるとわかったらすぐに身を隠せ!」

 

監視塔からピットを見下ろしていたソープ・マクタビッシュが声を張り上げる。ほぼ日課となった基地の兵士たちへ指導は、彼らを束ねる指揮官からすれば確実にその成果が出ていると言われている。まともな訓練指導の経験が無いソープからしてみれば、不安の連続だったが、指揮官のみならず、訓練を受けている兵士たちからも前向きな声が聞こえることに安堵を覚え始めている。

 

「様子を探りながら、一人ずつ敵を撃て!隠れることを忘れるな!」

 

丁度今、ピットに入っているスティーブという一等兵は、ソープたちが来る前は40秒の記録を持っていた。その彼も、訓練を重ねるうちに、タイムアタックで33秒まで短縮している。この記録は、初見だったローチの記録を上回る速さだ。伸び悩んでいた記録が大幅に更新されたらしい。

 

「よし、エリアの最後だ!次へ進め!」

 

「お疲れ様です、マクタビッシュ大尉。」

 

背後から声を掛けられ振り返ると、白い軍服に身を包んだ扶桑人、坂本が上がってきていた。

 

「少佐。珍しいですね。」

 

階級は彼女の方が少佐と一つ上だが、年齢の関係もあり、自然とお互いに敬語で話すようになっている。

 

「いや、兵士たちの練度が上がっていると聞いたものですから。」

 

「えぇ、確実に向上しています。タイムアタックなどの記録も、その証拠です。」

 

今走っている彼も、と付け足す。

 

「大尉たちには感謝しています。」

 

「え?待ってください。我々こそ感謝しています。いきなり踏み込んできたのを受け入れてくださって。」

 

70年も差がある未来から来たと言い、こちらの住人からしてみれば奇怪なものであるヘリと戦闘機で押しかけられれば、どんな仕打ちを喰らうか知れたものではない。しかし、少なくともこの基地にいる人たちからは、温かく受け入れられている。

 

その思いで返したソープだったが、さらに坂本は頭を下げた。

 

「私たちがピンチだったとき、救ってくれたのはマクタビッシュ大尉やレスリー少佐です。本当にありがとう。」

 

そう言われると、ソープは返す言葉が無かった。ガリガリと後頭部を掻く。その姿を坂本が見、ふふっと吹き出す。連られたソープも苦笑いを浮かべた。

 

 

*****

 

 

「何だって…?」

 

予想だにしなかった言葉に、アレンは思わず聞き返していた。無意識のうちに、組んでいた足を解き、体が椅子から離れる。

 

もう少しで掴みかかりそうになったが、オリバーの後ろで控えていた黒服の男がStg44の銃口をアレンに向け制止された。

 

「聞こえなかったか?君がネウロイだ、と言ったんだ。」

 

笑みを浮かべ、楽しげな表情のオリバーがゆっくりと繰り返した。

 

一瞬何を言われたのか分からなかったアレンは、数日前にF-15SEⅡで交戦した黒い物体のことかとすぐに思い出した。

 

「ネウロイって、あのでかくて黒い飛ぶ奴だろ?」

 

「とぼけても無駄だよ『少佐』。自分の仲間のことだろ?」

 

「とぼけてるだと?ふざけるな。ボケてんのはあんた等だろ。」

 

やれやれと言うジェスチャーをするオリバーは、証拠もあるのだよ、と続けた。

 

「君の乗っている戦闘機…あんなものは我々では到底作ることのできない代物だ。高性能で安定したジェットエンジン、特異な機体形状、発射速度の高い機銃に、敵を追尾できるロケット…。これらが人の手によって作られるものだとは、まったく想像もつかないね。」

 

「だから言っただろう、70年後になr…」

 

「その話は飽きたと言っているだろう?もはや見苦しくなってきているぞ。」

 

会話が途切れ、監査官がため息をつく。アレンに注いでいた視線を初めて逸らし、壁に埋められるように粗雑にはめられた鉄格子の向こうに広がる海を向く。しばらくそのまま黙っていた監査官が、向き直る。

 

「私も忙しいのだ。いちいち食い下がるような真似はするな。」

 

急に命令口調になった口からその言葉が漏れ、アレンは無意識のうちに表情を険しくした。彼は今までよりも鋭い目つきでアレンを睨む。

 

「我々にとって敵である君は、ここにいる時点ですでに多くのことを知りすぎただろう。ならば―――」

 

言葉の途中で、オリバーが背広の懐に右手を突っ込む。再び現れた手には、黒く光る筒が握られていた。

丸い棒に短い取っ手のようなものは、それが何か、アレンには分からなかった。しかし、先端がこちらに向けられると、それがサプレッサーの銃口だと判断できた。

 

「人間を甘く見た罰だ。よく目に焼き付けて置け、ネウロイ。」

 

咄嗟に立ち上がって抵抗しようとしたが、その時にはオリバーの指が銃の引き金を引いていた。

 

「あ…!?ガッ…!!」

 

音は無かった。鈍い痛みが右腕に走る。そのせいで、音があったかなど、分からなかった。咄嗟に衝撃が走った部分を手で押さえる。場所を確認しようと視線を移すが、その途中で、2つ目の激痛が左肩に生まれた。

 

「…!」

 

前に屈めていた上体が、弾丸の運動エネルギーによって肩を中心に起こされる。2、3歩後ろに下がる。顔が苦痛でゆがむのが分かった。

 

「人間は素晴らしい知能を持っている。音もなく他の生物を殺めるすべだって得ているのだ。それが、この拳銃『ウェルロッド』だ。」

 

痛みによって視界がぶれはじめていた。そのぶれる視界の中に、オリバーの気味の悪い笑みを認める。

 

さらに2発が左右の腿を貫き、悲鳴を上げる暇もなく、アレンはその場に倒れ込んだ。痛みが全身に広がり、それが熱い塊になる感覚が分かった。

 

「……!ッ…ッ…!」

 

体のコントロールが奪われ、ただ荒い呼吸だけができた。

 

「さて最後のコアだが…。どこにあるのかな?心臓か?脳みそか?」

 

痛みで意識が薄れ、つぶれかけた聴覚に、オリバーの声が割り込む。首を動かしてその方を見ると、しゃがみこんで銃口を頭に向ける男がいた。

 

「クッ…!」

 

「はは、無様だな。」

 

顔が不気味な笑みを浮かべる。狂ってやがる。

 

「此処に誰が来ても、君がネウロイである―――いや、『であった』ことに変わりはない。悲しむ人はいないよ。安心すればいい。」

 

トリガーにかけられた指がゆっくりと織り込まれていく。最後の抵抗さえできずに死ぬ自分を思い浮かべ、その敗北感に頭が飲み込まれていく。異世界に飛ばされ、未来から来た人間ということを信じてもらうことができず、最後は敵であるネウロイと断定されて殺される…。

腐った世界もあったもんだ。何度もクソ野郎とこころのなかで呟き、しかしその意識も薄れかけていく。特に何を目指してきたわけでもない。だが、どこかで生きなければと思っていた。築き上げてきた人生が、まるで砂で作った城のように崩れる。

家族も、仲間も居ない。誰にも悲しまれずに消される。この世界は、ファンタジーか何かの世界だったか?

せめて、死ぬなら…戦った仲間と、ともに…!

 

(生きたいと思うその決意、聞き入れたぞ。力を、貸してやる。)

 

視界が真っ暗になりかけた時、不意に頭の中で声が響いた。

 

(誰だ…?)

 

問い返す。

 

(生き続けろ、貴様のために。)

 

声が終わった瞬間、視界が一気に明るくなった。男はまだ引き金を引ききっていない。手足がしびれている感覚が戻ってくる。だらりとしていた手を、ぐっと握ってみる。

 

「おぉ?なんだまだ元気なのか。」

 

それに気づいたオリバーがつぶやく。

 

「…。」

 

「楽しみがまた増えたと思ったが、でも忙しいからな。さらばだ。」

 

「忙しいなら、てめぇの仕事、片付けてやるよ。」

 

はっきりと、口が動いた。

 

何だと?と男が返した瞬間、アレンは床に投げ出していた右腕を動かし、一瞬のうちに男の首を掴み上げていた。

 

「な…!貴様……!!」

 

あわてたオリバーが、ウェルロッドの銃口を向ける。しかし、体勢を立て直して引き金を引くより早く動いたアレンの右手が、バレルを掴んでもぎ取っていた。

 

不思議と、撃たれた両腕と足は、何事もないかのように言うことを聞いてくれた。

 

「安心しろ、営倉にでも放り込んで仕事から解放してやる。それとも―――地獄に行くか?」

 

左手でオリバーの首を掴み、床に押さえつける。

 

同時に、数秒間呆然としていたオリバーの護衛が、Stg44の銃口を向けてくる。そのしぐさを捕えていたアレンは、奪ったウェルロッドを、護衛の顔面に投げつけた。普通の拳銃より重いと感じたのは、単に重量があるからだろうか?そう一瞬思ったが、すぐに忘れた。数メートル飛翔したウェルロッドは、目の前に迫るそれを見つめた護衛の顔にクリーンヒットし、護衛は鼻から血を出しながら後ろに倒れ、壁に沿ってずるずると崩れ落ちた。

 

「本当に監査官様の護衛か?雑魚すぎないか?」

 

アレンがブツブツとつぶやくと、左手で押さえていたオリバーがじたばたと暴れ出した。グッと力を加え、顔を近づける。

 

「楽にしてやるから大人しくしてろ。」

 

そっと耳元でささやいたアレンは、開いた右手を回し、オリバーの腹に鉄拳を見舞ってやった。グフッという息の抜ける音がオリバーの口から洩れ、されきり監査官はぐったりとして動かなくなった。

 

「ふん…目標、沈黙。」

 

聴く者のいなくなった部屋で、アレンは一人つぶやいた。

二人の男が倒れこんだ取調室は、少し前まで起こっていた取っ組み合いが無くなり、埃が舞い上がっていた。静かになった部屋に差し込む日光が、埃に反射して光線のように見える。

 

さて、この監査官はどうしてやれば良い?俺を撃った傷害罪だと裁判所に届けるか、司令部にこのままの状態でデリバリーするか。それとも、ここで二度と生き返らないように処分するか?

 

そこまで考えたアレンは、最後の方法が最も良いと思ってしまった。考える余地は失せ、無意識のうちに、それを実行することだけに意識が移った。

 

部屋を見渡し、殺傷できる道具は無いかと探す。すぐに、オリバーが持ち込んだウェルロッドが視界に入った。護衛の男の脇に転がったウェルロッドを拾い上げる。当然使ったことはなく、見るのも初めてだ。

 

「サプレッサーか…バレることもないな。」

 

『ウェルロッド』は使ったことが無くとも、護身用の拳銃程度なら経験がある。所詮拳銃の構造など、70年のうちに変わることもない。上部にあるアイアンサイトを覗きこみ、オリバーの眉間を狙う。下に突き出した短いグリップに、小さくなってつけられた引き金に人差し指を充てる。そして、一瞬の躊躇という沈黙の後、引き金を引きこんだ。

 

…しかし、カチンという乾いた音が響くのみで、発砲時の反動や、眉間から噴き出るであろう鮮血も現れなかった。

 

「弾切れか…?5発しか入らないのか。」

 

グリップの下にあるつまみを引き出す。弾倉には弾丸が込められていなかった。

ウェルロッドを諦めたアレンは、オリバーが着た背広の陰、ズボンのベルトにホルスターがあるのを見つけた。それを強引に引きちぎり、おさめられていた拳銃を取り出す。

 

「今度は…よし、入ってるな。」

 

自動式拳銃だった。今度は射つ前に弾倉を確認する。上まで弾丸が詰まっていた。それを戻し、コッキングレバーを引く。

 

今度こそ、と両手でしっかりと拳銃を握りこんだアレンは、先刻と同じ要領で狙いを定めた。

 

人を殺めることに抵抗を感じなくなっている自分は、どうかしてしまったのか。戦闘機に乗って居る時とは違う。目の前で、人の生死が決まろうとしている。それを、どう思っているのか。この時だけは、沈黙が長かった。

 

そうしていると、背後の扉の外側、廊下から、複数の足音が近づいてきた。慌てて拳銃の狙いを外す。そのタイミングで、扉が勢いよく開かれた。

 

「レスリー少佐!?」

 

振り向くと、肩で息をするミーナと坂本、さらにソープと基地の兵士が立っていた。

 

「どうかしましたか」

 

アレン自身でも驚くほど、落ち着いた声が出ていた。

 

「ッ…どうしたの、その傷は!?」

 

アレンの服にシミがあることに異変を感じたミーナが、アレンの全身を凝視して叫んだ。

 

「…監査官に撃たれました。尋問中に。」

 

嘘ではない。ただ、これを信じてもらえるのか、と言った後で思う。

アレンを人間でないと思っているのは、同じように迷い込んだマクタビッシュ達以外の全員である可能性がある。今倒れているオリバーが言ったことが本当であれば、なおさらアレンたちは危険な目にあう。

 

坂本が何かの指示をだし、ミーナがアレンに向かって何か呼びかけてる。

やはり、ここに居るべきではないのだろうか。さっさと死んでしまった方が良いのだろうか。

 

そう思った瞬間、アレンの両膝から力が抜け、崩れ落ちた。視界が反転し、最後にブラックアウトした。

 




批評・感想、お待ちしています。


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18 , 変化 ―決―

 

*****

 

 

この世界には、古くから魔力が存在する。ヨーロッパでは古代ローマ、扶桑では安土桃山時代に記録が残されている。その魔力を自在に操り、普通の人間にはできない能力を発揮して人々を助けてきた存在が居る。それがウィッチ―――魔女―――である。

 

そして20世紀に入った近代、突如として現れた異形の敵『ネウロイ』に立ち向かうべく、世界中のウィッチが活躍している。

人類は、ウィッチが持つ魔力を増大させる魔道エンジンを搭載した飛行装置『ストライカーユニット』というものを発明した。これにより、ウィッチは航空機のように空を飛び、重量のある銃火器を持ち、敵の攻撃を防ぐシールドを張ることができるようになる。

 

その姿は、救われる人々からすれば、まさに『魔法使い』そのものだった。

 

今日も、毎日のように出現し襲い来るネウロイから愛する地球や人々を守るために、ウィッチは出撃している。

 

 

*****

 

 

「古代ローマと言われてもなぁ…。」

 

午後8時を回った501基地の一室で、ベッドに座った姿勢のアレンは項垂れながらつぶやいた。

 

(自慢じゃないが、俺は歴史の授業が嫌いだった。古代史なんてもっての外だ)

 

ミドル・スクールのテストでクラス最低点を取った過去が思い出され、寝起きで酸欠による頭痛が残る頭を、さらに追い打つように頭が痛む。

 

うぅ、本当に痛い。頭痛薬がほしい。そう思いながら、思い頭を抱えた。

 

「大丈夫?」

 

ベッドの脇にいたミーナが尋ねる。

 

「大丈夫じゃないな。はぁ…。で、“アクイラ”と言ったか?俺の理解は正しいか?」

 

アレンは空間に向かって尋ねた。しかし、その相手はミーナではない第三者。

 

頭を押さえながら、部屋の隅に視線を向ける。ミーナも同じ方向を見た。

 

「大方、正解だ。」

 

灰色の羽毛に身を包んだ鷲が答える。

 

ここで鳥が人間の言語を理解して話している。十分奇妙な光景だ。

目を覚ました直後に、開け放たれた窓から飛来した鷲が、唐突に『具合はどうだ』と聞いてきた。もちろん、アレンは驚いた。その拍子に全身の筋肉が硬直したせいで傷口が痛みを発し、数分間悶絶していた。

こいつは何者だとミーナに説明を求めれば、それが使い魔であるという。

 

先ほどの話で出てくるウィッチという少女たちには、魔力を発動するサポートとして使い魔が宿るという。まさにその使い魔が、この鷲であるというのだ。正確には、この鷲が自らをそう呼んでいる。そう、『自称:使い魔』なのだ。

 

「で、お前は何か用があって現れたのか?」

 

アクイラと名乗ったその鷲に問う。

 

「此処まで説明してきて、まだ察せないのか?―――思考も撃ち抜かれたか。」

 

表情こそ分からない―――鳥の表情を理解できたら、それこそ目を撃ち抜かれている―――が、後半は明らかに挑発のこもったものだ。

確かに起きたばかりで頭はボーっとしている。だが、人間の思考であれば正常である自信はある。

 

「俺にしてみればこの状況自体がどうかしてる。俺の常識では鳥が口をきくなんて有り得ないからな。」

 

「まだ夢だとでも言うか?一体何日ここに居る。いい加減に素直になれ。」

 

「何だと?」

 

今の言葉を聞いて『あぁ、そのとおりだ。』とは答えられない。

 

今いるところが特殊であることを頭ではわかっていても、反射的に口答えしていた。

 

「両方とも落ち着いて。」

 

ミーナが間に入る。代わりに説明すると、と繋ぎながらミーナが続ける。

 

「まずアクイラが使い魔であることは、私のクラヴァッテで確認したわ。」

 

「クラヴァッテ…中佐の使い魔か。」

 

「そう。宿り主が少佐であるということも本当よ。」

 

ミーナが諭すように、静かに説明する。

黙って聞いていたアレンは、どこか納得がいかないけれども、他に説明できるものがなかった。

最近は魔法やウィッチ、ネウロイといったものへの疑問は薄れつつある。アクイラがさっき言ったように、ここはもう夢の世界ではない。どこかでそう思っている自分は、相変わらず周りを受け入れようとしていない証拠なのかもしれない。

 

「さっきは口が悪かった。だが事実は事実だ、アレン。」

 

しばらくの沈黙の後、ゆっくりとアクイラが話し出した。

 

「論理的、科学的、物理的にも、お前たちからは考えられないことだと思う。だが、今いるここも…一つの世界だ。」

 

世界、という単語が明瞭に聞こえた気がする。

無意識のうちに、視線を布団の上に落とす。

「同時にアレン、お前は兵士であり、この世界でも活躍できる人間だ。人のために飛ぶことができる。俺が言うのも無責任かもしれないが、あとはお前の意思次第だ。」

 

「それはつまり…俺がまた飛ぶか、それとも地に戻るか、ということか。」

 

今度は黙ったまま、アクイラが頷く。隣にいるミーナが、一瞬息を飲んだのが分かった。

 

ウィッチの仲間入りをし、ネウロイの侵略から二つ目の世界を守るか。

それとも、空に舞い戻ることを諦め、世界を拒んで飢え死にするか。

アレンには、この二つが残されている。しかし、どちらを選べばよいのか。今決められるものではない。

 

「アレン。繰り返しになるが、これはお前の意思で決められる。答えは待つ。」

 

そういうと、アクイラは窓のふちに飛び移り、外へと飛び出していった。

 

残されたアレンとミーナは、それぞれ黙りこんだ。別種の重い空気が、部屋を満たしていた。

 

 

*****

 

 

アレンと使い魔のアクイラが話し合っていたのと同じ時間、別の部屋での出来事。

 

「ふんん…。」

 

部屋に備え付けられた2段ベッドの上段で寝っころがっていたローチは、ふと聞こえた深いため息に、手すりを乗り越えて下段を覗きこんだ。

そこには、新聞紙を手にしたゴーストが座っていた。

 

「何かありました?」

 

「読んだか、この記事―――『ネウロイの利用』ってとこ。」

 

「ばっちり読みました。あのデカブツを、民間人が弄り回してるって話でしょ?」

 

「そうだ。危険なんじゃないのか?」

 

「あのジャパニーズ・レディによれば、彼女らでも最近知ったとか。」

 

坂本少佐のことか、とゴーストが確認する。そもそも、ここでジャパンという言い方があっているのかは分からない。『フソウ』と呼ぶのか、『ジャパン』でいいのか。

 

「ウィッチだけだから近づけるわけだろ。本当なのか?」

 

「どの程度の『民間人』なのかが微妙な気がする。もし―――」

 

突然、壁にかけていた固定電話がベルを鳴らす。

そういえば、まだこの基地の電話はベルを物理的に鳴らしているんだな、とローチはぼんやり思った。世界大戦を主題とした映像作品などで見られるタイプだ。

 

下段にいたゴーストがベッドから這い出て受話器を取る。『はい、サイモンだ。』と応答し、それからは電話をかけてきた人物の伝言に耳を傾ける。

その光景を見ていたローチは、調子よく頷いていたゴーストの首が次第に静止していくことに気付いた。

 

何かよろしくないことが起きている。ローチがそう思った直後、ゴーストは受話器を戻した。そして、

 

「ローチ、緊急だ。すぐに出るぞ。」

 

と告げた。口早にそう言ったゴーストは、衣装棚の扉を勢いよく開けてベストを引き出し、すぐそばに置いてあったM9を手に取る。ベッドから飛び降りたローチも、手すりに引っ掛けていた上着を着込んで机に並べて置いたUSPとマガジンを仕舞い込んだ。

 

ゴーストが電話を切ってから30秒もたたないうちに、二人はハンガーへ向かうべく部屋を飛び出した。

 

そしてハンガーへ着くなり、マクタビッシュが手招きする姿があった。

 

「急ぐぞ!早く乗り込め!」

 

すでにハンガーの巨大な扉から外に移動して、ローターを勢いよく回しているMH-60を目指す。

エンジンの爆音と襲いくるダウンウォッシュをこらえながら、身をかがめてキャビンに飛び乗る。座席のベルトを締めるや否や、すぐに機体が持ち上がり、離陸した。

 

「それで、内容は?救助任務だとか。」

 

座席の下に保管していたACRを手に取り各部点検をしながら尋ねる。

 

「あぁ、海上でクルーズ船が航行不能になったらしい。乗船している民間人を救出する。」

 

同じようにACRを手にしていたマクタビッシュが、コッキングレバーを引きながら答える。

 

「さらに不運なことに、ネウロイまでお出でになってるそうよ。必要あれば、ネウロイを叩き落として。」

 

更に補足の説明が、耳に装着したヘッドセットから、パイロットのエンデンから伝えられる。

 

「なるほど…了解。」

 

とは言ったものの、正直ローチは不安で仕方がなかった。

 

民間人の救助は問題ないだろうが、後者のネウロイとの交戦する可能性については置いておけなかった。

見たこともないネウロイが襲い来る風景を想像しただけで、掴んでいるACRを落としてしまいそうになる。それだけ緊張するのだ。

 

『ノーマッド…63だっけ?エイラだ。今晩は、ヨロシクナ。』

 

『サーニャです。よろしくお願いします。』

 

ヘッドフォンが、無線に入った二人のウィッチの声を拾った。

一人で冷や汗を流しているローチの左の空間に、その二人の姿が現れる。一人は、暗くてもわかるほどの水色の服を着た銀髪のエイラ。もう一人は黒を基調とした装備のサーニャだ。

 

「お、あの時のお姫様達か。」

 

妙に落ち着いた―――いや、いつも通りか―――ゴーストが話しかける。

 

『そうダ。…サーニャの邪魔はするんじゃないゾ。』

 

「二言目がそれか。それなら、お前も邪魔するなよ?近づきすぎるとミンチになるからな。」

 

『!?そんなに危険なもの飛ばすナ!』

 

「冗談よ。」

 

機体を操るエンデンが答える。

 

『エイラ、驚きすぎ…。』

 

エイラにヘリから庇われるような格好になったサーニャがつぶやく。

 

「おい、いいか?ちょっとは気を引き締めろ。ローチ、ドアガンは任せたぞ。」

 

「ラジャー。」

 

手練れのウィッチ二人が居ることに若干の勇気をもらいつつ、ローチはゆっくりと機内を移動した。

 

ローチがカーゴドアの前に設けられたガンナー用の席に着いてからは、光を漏らす基地を背に、ただひたすら真っ暗な、三日月の照らす海上を3機で飛翔した。

 

 

*****

 

 




前半と後半という、読みにくい形になりました。
それぞれそのまま、後に続きます。

誤字脱字の報告、批評お待ちしています。


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19 , 初めての悪夢、始まりの悪夢

申し訳程度に投稿したインテル#4から一か月…

○○かぜ<おっそーい!

なーんつってね。



ではどうぞ。


 

 

*****

 

 

視界に映像が浮かぶ。そこは、F-15SEⅡのコックピットだった。

 

キャノピーの外を流れていく雲と風景をしばらく眺めていたアレンは、何か妙だなと思った。

 

無理もない。その映像は、アレンの記憶であり、今起こっている現実ではないからだ。

 

( これは・・・夢か・・・? )

 

異変をそう判断したアレンは、しかし目を覚まそうとはせず、映像を見続けた。

 

しばらくすると、頭にかぶったヘルメットと酸素マスクの触感や、グローブ越しのスロットルとサイクリックレバーの感触、シートから伝わる機体の振動までもが、アレンの感覚に再現された。

 

そして、体の各部位が、戦闘において各々に課せられた任務を果たそうと動き出す。

 

夢の中のアレンがサイクリックを少しだけ左へと倒すと、機体がわずかにロールした。慣性に従った機体は、横に滑り出し、徐々に進路を変え始める。コンソールに埋め込まれたレーダーのディスプレイ上で、方位磁針を模した矢印が上を向く。北を向いたのだ。

 

( 北・・・まさかこの夢は・・・ )

 

記憶を頼りに、夢が現実に起きたことだと気付く。眠るアレンの思考がその答えを出す前に、夢の中で答えが出された。

 

『マジックよりウォーウルフ。マイアミ・ビーチに接近中の機影あり。―――』

 

夢の中で頭にかぶっているヘッドフォンから、音声が流れた。

 

( やっぱり・・・ )

 

『―――交戦を許可する。撃破せよ。』

 

この夢は、数日前にあった戦闘だった。まだ、記憶に新しい。

 

『ウォーウルフ1、了解した。』

 

さらに、証拠を突きつけるように、聞き覚えのある声が鮮明に再現された。

 

『アクイラ隊、こちらマジック。ウォーウルフの支援に入れ。同じく、交戦を許可する。』

 

自分が何を言ったのかはわからなかった。夢の中にいる自分が何を言っているのか、それはわからないことのほうが多い。

しかし体だけは動いている。左手でつかむスロットルを押し上げ、見え始めたマイアミの市街地に向けて加速する。

 

HUDの表示をHMDへと切り替え、兵装の簡単な確認を済ませる。するとすぐに、アレンは戦闘に突入した。

 

『隊長、正面にバンディッツ。フランカー、2機。』

 

正面に現れた機影がマークされる。これまで何度も見てきた、ロシアの大型制空戦闘機だ。

 

「了解だ、アクイラ2。追撃するぞ。」

 

『ラジャ。』

 

「3と4はペアで迎撃に当たれ。」

 

『了解です。』

 

『4、コピー!』

 

機体を加速させ、内陸にあるスタジアムを目指すSu-27を追う。恐らく、避難が完了していないスタジアムの市民を狙うのだろう。ミサイル一発でも撃ち込まれれば、どれほど大きな被害が出るか分からない。

 

「2、急ぐぞ。スタジアムから追い払うんだ。」

 

『分かりました。』

 

しかし、すぐに手を出すことができない。なぜなら、未だに機関砲の射程に入っていないからだ。短射程ミサイルAIM-9Xのロックオンはできるが、発射したとしても命中する確率が低い。もし前のフランカーがフレアを放出すれば、発射したAIM-9Xがどこへ飛ぶか分からない。市街地へ直撃したり、そうでなくとも内蔵する燃料を尽かせて落下することもある。

 

(脅すしかない)

 

そう判断したアレンの右親指が、サイクリックに備えられたボタンを二度押し込む。発射待機のマーカーが変わるのを確認して、人差し指に力を込めた。AIM-120のシーカーを作動させたのだ。

 

ロックオンを示す高い電子音が、スピーカーを通って耳に響く。複数ロックオンが可能なAIM-120のシーカーマーカーが、HMD上の四角で表されたSu-27に重なる。恐らく、ロックオンされた2機のSu-27の機内では、パイロットが慌てていることだろう。

 

すぐに2機の敵機が回避行動に入る。

 

「俺が右を墜とす。」

 

『左を遣ります!』

 

その間にも距離を詰めたアレンとアクイラ2も分散した。上昇と共に加速を開始するSu-27をロックオンマーカーの中心に捕えたまま追尾する。

 

AIM-120のシーカーをミサイルの発射ボタンに乗せた親指を押し込まずに保持しながら、フランカーが海上に出るのを待った。上昇と下降、旋回を繰り返しながら、目の前を逃げるフランカーのパイロットは、味方が来るのを待っているのかもしれない。

 

その彼にどんな命令が出されているかの真相は分からないが、離陸前にはマイアミ市街地へ被害を出すことを支持されているだろう。ただ、今の状況でそれを遂行でき得るのか。

 

ロックオンされた警告音が響き、運が悪ければ被弾した機体の爆発に身を焼かれる。運よく脱出したとしても、着地してからは、彼にとってどんな地獄を味わうか分からない。そんなことを、必死に逃げながら考えているはずだ。

 

しばらく追撃を続けていると、遂にフランカーがビスケーン湾上に出た。その瞬間を逃さなかったアレンは、AIM-120からAIM-9Xに切り替え、『FOX2』の掛け声とともに親指をボタンに押し込んだ。

 

シュッとAIM-9Xの噴煙が飛び出していく。そして、ターゲットのフランカーがアフターバーナーの炎を見せた直後、ズンと衝撃が機体を揺らした。

 

「敵機、撃墜。」

 

 

 

『アクイラ隊、ウォーウルフ隊がマイアミ・ビーチの東海上にて敵部隊と接触する。支援に回れ。』

 

「了解だ、マジック。すぐ向かうと伝えてくれ。」

 

他のアクイラ隊機が合流するのを待ちながら、レーダーを確認する。AWACSから送られる情報は、通信もレーダーも同じだった。

 

『ウォーウルフ、敵機の交戦距離まであと1分。アクイラ隊が到着するまで持ちこたえろ。』

 

『レスリー少佐、2から4、合流です。』

 

「よし、アクイラ隊各機、東へ移動してウォーウルフ隊を支援する。」

 

『了解。』

 

サイクリックを倒して進路を東に向ける。指示された方角を向くと、HMDに数個のマーカーが灯った。

 

(ウォーウルフが4機…敵が7、8機か。)

 

ウォーウルフに対して敵が多い。数的不利だ。

 

『ウォーウルフ1、交戦する。』

 

『ウルフ2、FOX2発射!』

 

アクイラがたどりつく前に、遂に爆煙が上がった。敵機の反応が一つ消える。

 

「アクイラ3、牽制しろ!」

 

『了解、FOX1!』

 

隊員に指示しながら、アレンも加速して敵機に迫る。

 

「ビショップ中佐、支援に来ました!」

 

『アレンか、心強い。頼むぞ。』

 

短い支援到着の報告を入れ、すぐさまマークされていない敵機を探し出す。眺めていると、織り交ざっていた集まりから、3つのマークが飛び出て行った。

 

『3機逃げた!』

 

ウルフ2、ガッツの野太い声が響く。

 

『アクイラ、頼めるか?』

 

続いて、ビショップの問いかけが響く。それに対し、アレンははっきりと返した。

 

「任せてください、ウィル。」

 

先ほど通り過ぎたばかりのマイアミ・ビーチに沿って、北へ向かって飛ぶフランカー。それを追って降下し、AIM-120のシーカーを作動させ、HMDの円内にとらえてロックオンする。

 

「FOX3!」

 

3本のミサイルが一斉に打ち出され、次々と起爆し、フランカーを叩き落としていく。

 

これで最後だ。殺虫剤を撒かれて落ちていくハエの如く落下していくフランカー。それらがまき散らす煙を突き抜けた途端に、コックピット内に警報のアラームが鳴り響いた。

 

そこでアレンはハッと気づいた。

 

( ―――違う―――! )

 

自分が経験したことのフラッシュバックだと思っていた夢が、そうでないということに。

 

前方に制空迷彩を施したSu-37が現れる。そこから何かが切り離され、まっすぐとこちらに直進してくる。だんだんと大きくなるミサイルが当たると思った直後、視界から映像が消失した―――――

 

 

*****

 

 

「―――うぁ!!」

 

上半身が異常な速さで持ち上がった。寝ていたベッドが揺れを吸収し、ギシギシと軋む音が響く。蹴り上げられた布団が宙を舞い、半分ほどベッドからズレ落ちた。

 

腰から上が直角を移動すると同時に、全ての感覚が覚醒した。

 

直後、急激な筋肉の伸縮を行った身体が痛んだ。まだ完治していない撃たれた傷も含めて体中からあがる悲鳴を、悶絶と共に受け止め、おさめるまでには数分かかった。

 

やがて落ち着いたアレンは、まだバクバクとなっている心臓を、いつの間にか着替えているパジャマのような服の上から手で押さえた。

 

「くそ…ひどいな…。」

 

そうつぶやいたアレンを、少しだけ開いた窓から吹き込んだ風が包む。悪夢のせいで汗びっしょりとなっているアレンは、思わず身震いした。額に手をやると、マラソン直後のような量が滲んでいた。汗に触れた手を見つめたアレンは、服の襟をつかんで汗を拭った。

 

「違う世界なら…記憶も変えてくれればよかった…。」

 

そうつぶやきながら、アレンは起こしていた上半身を再び横たえた。

 

―――いや、正確に言えば変わっていた。最後、目を覚ます直前のシーンは、アレンの記憶にないのだ。マイアミでの防空戦で、アレンは確かに生き残った。そして、ワシントンへと急行し、マルコフと一騎打ちを繰り広げたのだ。

 

しかしそうだとしても、マイアミでどう戦ったのか、本当の記憶が残っていない。思い出せないのだ。

 

( ・・・全く違う気もしない・・・ )

 

さっきの夢に、見覚えがある気がする。

 

天井の一点を見つめてそう思ったアレンは、ふと壁にかけている時計に目をやった。

 

午前3時。日が変わってから少し経っている。

 

それから再び視線を天井に向け直したアレンは、夢ではない本当の記憶を思い出すために目を閉じた。

 

 




終わり方の上手いアイデアが浮かばない(前も言った気がする。勉強不足か)


評価・感想、お待ちしています。


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20 , 尋問と取調べ

今回は早く書きあがりました。



 

 

*****

 

 

5メートル四方の監獄の個室には、簡素なベッドと便器だけが置かれている。錆が出ているベッドは、その上で寝返りを打つたびにギシギシと鳴る。

 

壁や床に使われているコンクリートは、天井からつるされた電灯の光を吸収するように黒く、中に入れられた人間から、地上の明るさを忘れさせるかのようだ。さらに、ひんやりとしたその表面は、空気中の熱を吸収し、部屋の温度を下げている。外がどんな天気か分からないが、地下となれば天気の良し悪しに関わらず、暖かさを感じられない。

 

監獄のある場所は、501基地。統合戦闘航空団、つまりストライクウィッチーズが駐留する基地だった。

 

そして監獄にいた男の首と左手首には、何者かの手で掴まれた跡が痣となってクッキリと残っている。さらに来ているシャツに隠れている腹にも、殴られた跡が残っている。

 

普通の痣なら数日で治るはずだが、この男の痕は、実に一週間もはっきりとしたまま残っている。ベッドに座ってそれらを眺めていた男は、やがてふぅとため息をついた。

 

「いつまでこんなクソ溜めに放置するつもりだ…?」

 

コンクリートの壁に吸収され、野太い声は思ったより反響しなかった。上体を起こして頭上の電灯を見上げると、その人物の顔が明かりに照らされた。老けてしわが出てきたが、まだまだ現役である男だった。

 

彼の名は、ベネティクト・オリバー。ブリタニア軍司令部の情報戦担当部に勤める監査官で、丁度一週間前に、この基地へとやってきた。

 

任務は、この501基地に最近配属された謎の戦闘機と、新設の部隊について調べ上げる事。必要があれば、メンバーを尋問することさえ許されていた。

 

そして司令部を発ってから、オリバーは一つの事がずっと気がかりだった。渡された資料に書かれていた戦闘機の特徴―――レーダーに映りづらいことや、使用するロケットにある誘導能力など―――が、明らかに現実離れしていたのだ。その技術・技法が、なぜ人間が持っているのか。そう思ったのだ。

 

考えても、彼にはその戦闘機のテクノロジーが信じられなかった。事象としてはあり得る者の、人間の手によるものではないと信じた。故に、オリバーは、彼を―――アレン・レスリーという男を、人間だと信じられなくなった。

 

ならばどう考えるか。玄関で立ち会ったとき、アレンと名乗ったものは、人の成りをしていた。そして男だった。しかし疑いを持ったままだったオリバーは、あの時ようやく、目の前の男がネウロイではないかと思ってしまったのだ。

 

もし、アレンと対面した時に彼をネウロイだと思わなければ、どうしていただろう。狭くて涼しい部屋にいる今であれば、その頭で冷静に考えられた。

 

再び状態を前に傾けて考えようとしたとき、鉄のドアの外から足音が響いた。すぐにオリバーの部屋の前までやってきたそれに、鍵を解除する音が加わる。そして扉が開かれ、ブリタニア軍の陸軍兵士が姿を現した。

 

「ベネティクト・オリバー、取調べを行う。」

 

二人の兵士が中に入り、手錠を見せる。強引につかみ出されるようなことはなく、オリバーは内心ホッとした。スッと立ち上がり、大人しく両手を差し出す。手錠をするのがお決まりの筈だからだ。

 

「いや、拘束はしない。そのまま来い。」

 

思わず下に向けていた顔を上げ、そう言った兵士を直視した。なぜ、とは言わなくとも、目で訴えた。しかし兵士は答えようとはせず、部屋から出るよう促すだけだった。

 

拘束されない理由を探ろうとしたものの、それを聞くのも気が引けたため、オリバーは促されるまま部屋を出た。するとそこには、また別の格好をした男が二人いた。ひとりは不気味な骸骨が描かれたマスクをかぶった人、もう一人は整った顔つきに茶髪の若い男だった。

 

部屋から出ながら二人を見ていると、茶髪の男が声を掛けた。

 

「貴方がどんな人間なのか、本当のことは知らない。だがそれなりの『予習』はしてきた。」

 

言いながらそっと近づき、肩に手を置かれる。名前を知らない目の前の男は、さらに続けた。

 

「拷問は好きじゃないが、嘘をついたときにはそれをする準備があることだけは覚えていてくれ。」

 

言い終わると、少しだけ微笑み、励まされるように肩を叩かれた。しばし男の顔を見ていたオリバーは、やがて基地の兵士に促され、廊下を歩き始めた。

 

取調べは、もっと拷問に近いものだという認識が、オリバーにはある。それは、オリバー自身が尋問をする人間だからだ。だが今こうして付き添われている兵士や話しかけてきた男の態度から、自分がこの後うける尋問が、本当に尋問なのかと思った。

 

しかし不安がなくなるわけではなく、オリバーは宙を見つめていた視線を再び下げて廊下を進んだ。

 

 

*****

 

 

「『予習』か。」

 

オリバーを見送ってからゆっくりと廊下を歩いていると、ゴーストがポツリとつぶやいた。

 

「受験勉強よりハードだった自信がある。」

 

それに対し、ローチは少し間を開けてから、比較対象を引き出して答えた。

 

「受験したことないくせに。」

 

「ふぅん…なら、カザフで凍りそうな中、ロシア兵の大群から逃げるくらい大変だった。」

 

「居なかったから実感が沸かねぇな。」

 

咄嗟に思いついた経験も、ここでは使い物にならない。

 

「…囚人救出作戦で四方から撃たれた時くらい余裕が無かった。」

 

「俺はその時コントロールルームで回線を弄り回してたな…って、きれいに俺のいなかったことを例えに出すんだな、お前は。」

 

「要はゴーストが居る作戦は有利に進むってことだ。」

 

「ほぅ、言ってくれるようになったか。」

 

「俺の給料が下がっちゃったから、微妙な気がしてましたよ。」

 

自信ありげな鼻息をゴーストが漏らす。お兄ちゃんうれしいよ、と冗談をつぶやく横顔に、ローチは冷めた答えを返してやった。

 

「ケッ、可愛くねぇな。」

 

「こんなごつい体した弟に『ちゃん』付けで呼ばれたら引くでしょ?」

 

「そうだな。」

 

ついさっきまであったオリバーの尋問については何も触れず、二人で話を続ける。やがて目的の取調室に来ると、そこにはマクタビッシュやエンデンの姿もあった。

 

この基地に来て最初に案内された部屋と同じだった。ここで、アレンはオリバーから尋問されたらしい。そのことを思い出したローチは、その部屋をもう一度、改めて見渡した。

 

鉄格子の向こうの部屋には、先ほど前を歩いて行ったオリバーと兵士二人が待っている。オリバーは椅子に腰かけ、相変わらず暗い顔をしたままうつむいている。

 

「レスリー少佐は?」

 

肝心の男が居ないことに気付いたローチが尋ねる。しかし誰かが答えるより早く、部屋の扉が開かれ、アレンが姿を現した。

 

「あ、俺が最後だったか。」

 

「そのようですね。」

 

後には坂本とミーナもいた。

 

「主役の登場だ。」

 

話によれば撃たれてしばらく意識がなかったらしいアレン。その彼に、もう無事なのかと聞くことを兼ねて声をかける。

 

「何言ってんだ、ローチ。お前がヒロインになるか?」

 

「勘弁してください。」

 

「しかし、本当に大丈夫なのか、少佐。体調は。」

 

ジョークを交わすと、今度はマクタビッシュが問うた。

 

「問題ない。それに、彼からの話は大切なものだ。直接聞いておきたい。」

 

アレンは鉄格子の向こうのオリバーに視線をむけながら答えた。

 

「では、取調べを始めますね。」

 

会話が終わるのを見計らっていたミーナが切り出す。アレンが代表してOKを伝えると、ミーナは取調室へと入った。妙に分厚い資料のファイルとペンがあまりにもアンバランスなことに違和感を感じつつ、ローチはオリバーに視線を戻した。

 

彼への取り調べで何が得られるのか。指令部所属のオリバーを探れば、およそ司令部が考えていることも吸い上げることができる。そのなかに、TF249についての情報があるか否かで、命に関わる問題になる。

 

つい先ほどまで冗談を言い合っていた彼らの間には、いつのまにか緊張と身長の空気が満たされていた。

 



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21 , 涼しさ

 

 

*****

 

 

ベネティクト・オリバー―――自身を、ブリタニア軍司令部に勤める監査官だと名乗ったことは事実だった。さらにミーナが問い詰めると、空軍が管轄する情報機関、A-MI5の幹部であることが分かった。以前アレンのF-15SEⅡの後輪が破壊された事故に関わった、『新型ネウロイ調査班』も、同じくA-MI5に所属していた。オリバーの口から語られる証言を聞いていると、未だに彼らの事件を解決していないことを思い出した。

 

事件後、彼らはまだ501基地で監視されたままになっている。機体のメンテナンス―――部品を取り換えることはなく、無事に飛ぶことができた―――を続けているうちに時間を浪費してしまったため、ミーナも坂本もアレンも、彼らを尋問することができていなかったのだ。

 

司令部側は、調査班のメンバーからの連絡がなかったことを受けてオリバーを送りだしたという。帰ってこない愛犬を探しに行く飼い主と同じだと、アレンは聞きながら思った。調査班を送りだした時期には、アレンや249のメンバー、501基地のメンバーに気づかれずに機体を調べ上げるつもりだったらしい。確かに、リーダーのクロウリーをはじめ、わざわざネウロイの調査が目的だと言って乗り込んできていた。今となってはネウロイの調査はまともにしておらず、その目的が偽りだったことが立証されている。

 

対するオリバーはそんな姑息な真似をせず、正面切って聞き出しに来た。それが何故かと聞くと、オリバーは、自身の上官がそう指示したと答えた。

 

ブリタニア軍の軍人が語る上官―――特にオリバーのような監査官が支持を受けるとなると、考えられる人物は限られる。部屋の外で聞いていたアレンは、その顔を思い出し、心の中で、苦いものでも食べたかのような顔をした。

 

「おっと、思い出したか?」

 

 ふと、隣にいたゴーストがつぶやいた。本当の表情は変化していないと思ったアレンは、思わずゴーストの顔に振り向いた。

 

「中佐が、だ。」

 

 言われて再び部屋に視線を戻すと、露骨に嫌なものを見る表情のミーナが居た。いつもは温厚で笑顔を崩さない表情が、珍しく拒絶するような顔を作りだしている。間違えてオイルを舐めてしまったような顔だ。

 彼女が想像したのも、おそらくアレンが思った人物と同じだろう。

 

「トレバー・マロニー大将ね…。」

 

 部屋を仕切っている窓の向こうでミーナが呟く。

 

「やはり彼だったの―――」

 

「いや、違う。大将じゃない。」

 

「え?」

 

ミーナがため息とともに呟いたが、その言葉をオリバーが遮った。同時に、話がガラリと変わる。あきれ顔が、驚きの顔に変化する。アレンも同じだった。

 

「なら、誰から指示されたの?」

 

「ヒューバート・エース中将だ。」

 

将官か、とゴーストが呟く。ある意味予想通りだが、それでも階級がかけ離れた人間が相手になることに落胆した。軍隊であろうと民間企業であろうと、中階級以下の人間は、上司・上官の不正に気付いても正せない。アレンにとって、それが今回初めて遭遇する事態だ。

 

「そう…。中将から何を支持されたの?」

 

手元のノートへ記録を残しながら、ミーナが問う。

 

「例の戦闘機について、何でもいいから分かるものを知らせろと。調査班のメンバーが失敗した代わりだった。」

 

「方法の指示はあったのかしら?」

 

「特になにも。自由にしろと言われた。だから…、あんなことを…。」

 

 オリバーの言葉の語尾は、少し震えていた。淡々と前を向いていた視線が、膝の上で組まれた手に落とされる。アレンに撃ったことを振り返り、後悔しているのかもしれない。しかし同時に、わざわざ殺してまで情報を盗み出そうとするか、と考えた。

 

 日が浅いと言っても、基地の兵士や501部隊のメンバーとも顔を合わせている。異世界から来た未来の戦闘機パイロット、と呼ばれているあたり、かなり有名になっている。この基地の人間が普通であれば、噂のパイロットが死んだとなれば、犯人捜しを始めるはずだ。

 

 オリバーがアレンを殺したとして、その後の犯人捜しをどうやって掻い潜るのか。いくら司令部の人間であろうと、それは不可能に近いはずだ。

 

 アレンの中で疑問が膨らむが、ミーナが次の質問を始めようとしたのに気付き、慌ててドアをノックした。ミーナの隣で腕を組み黙り込んでいた坂本が立ち上がり、ドアを開けてくれた。

 

「何かあったのか?」

 

開き際に、坂本が訊いてくる。頷いて答えながら部屋に入り、オリバーに向き直る。

 

「手段は自由と聞いて、あんたは俺を殺すことしか考えなかったのか?」

 

 俯いたままの男に聞くと、姿勢を変えずに答えを絞り出した。

 

「…ここへ来る前、お前に会う前から、私はお前がネウロイだと思い込んでいたのだ。」

 

「それは、あんた自身でそう思っていたのか?」

 

「そうだ…。その通りだ…。」

 

 オリバーの答えが、頭の中で反芻される。問うた時に見せていたジェスチャーの腕をゆっくりと下ろしながら、特に意味もなく部屋を見渡す。彼の答えが、一体何を意味するのか。それを考えたのだ。

 

「分かった。ありがとう。」

 

その場にいても、ミーナの尋問の邪魔になると気付き、部屋から出た。後ろ手にドアを閉めつつ、隣の部屋に戻る。

 

「何か、新しい発見でもしたの?」

 

「この世界の人間は、俺たちがネウロイだと思い込んでいる。前線に出れば出るほど、撃たれるかもしれないな。」

 

フライトスーツのままのパウラが問うてくる。とにかく周りからいつ殺されるか分からない、ということを伝えると、再びミーナとオリバーのやり取りに意識を戻した。より一層険しい顔に戻り、オリバーが発する言葉に聞き入った。

 

 

*****

 

 

その日のうちに、ずっと放置したままだった新型ネウロイ調査班のメンバーへの調査も行われることになった。アレンがマクタビッシュを連れて先に立ち去り、残されたゴーストとパウラ、ローチが聞き取りに協力することになった。

 

 何だか近頃、ひたすら調査の記録を取っている気がする。

 

最新で言えば、洋上で漂流していたところを救助したNSGについて(インテル#4 参照)。彼らはすでに基地から去り、その後のことは分からない。無茶をせずに、ネウロイの調査をしていると信じたいと思う。

 

これから対面する調査班の記録も、ローチが書いている(インテル#2 参照)。そのファイルを資料室に取りに行き、ついでにコツコツと記録しておいたネウロイに関する情報をまとめた手帳も部屋から持ち出す。

 

 必要なものを取りそろえ、急いで地下へ向かう。待ち合わせの監獄へ向かう。クロウリー達も、オリバーと同じように取調室に来ていた。事前に供述することの打ち合わせをさせないために、一人ずつ、別々の部屋で行うことにしている。彼らとはあまり接点のない坂本は宮藤とリーネの訓練へ向かい、さらにパウラも、その訓練に付き合うため離脱した。

残された3人で聞き取りをすることになった。

 

「助かるわ、手伝ってくれて。」

 

合流して目的の取調室に行きながら、ミーナが穏やかな笑みを浮かべて振り返った。基地のトップである彼女は、戦闘での出撃より、執務での書類を裁くことの方が多い。それは、何度か彼女たちと交流した中で、彼女自身が漏らした愚痴からわかっていた。

 

「普段の激務に加えて今回の調査だ。むしろ、任せてくれても良かったぞ。」

 

隣のゴーストが答える。

 

「でも、基地の中で起こったことよ…。束ねる私が居ないのも、変な話よ。」

 

「なるほど。…なら、調べた後のことは任せてほしい。」

 

「そうね…。さっきの監査官の話から察すると、あなたたちは敵同然の見方をされてる。油断できないわね。」

 

 ミーナの言葉の最後を聞いて、ゴーストとローチは、何も言えなかった。わずかにゴーストがため息をついただけだった。

 

 ミーナの表情からも笑みが消え、焦燥とも悲観とも見える表情になっている。若くてかわいらしい顔がもったいないなと、自分のことを棚に上げて思ってしまう。

 

「…でも、この基地だけは安全だと信じてほしいわ。」

 

 最初に助けてくれた彼女達―――というよりはこの基地しかないのだ。再び振り向いた彼女に向かって頷く。

 

 やがて取調室に到着した3人は、交代で記録と尋問の役目を担い、5人のメンバーを一人ずつ調べ上げた。それが終わったのは、太陽が西にある山へ隠れるころだった。

 

 

*****

 

 

 調査尽くしだった一日が終わろうとしている。椅子に座って尻が痛み、速記のために紙とすれて手は擦り傷のようなものができた。

 

 戦闘にもいかずにここまで疲労するのは、訓練以外では経験が無かった。オリバーに加えて調査班の5人。記録の保存や調査班の処遇に関する手続きまで手伝った結果だ。達成感もあるが、ローチの口からはため息しか出なかった。

 

 夏に近づき、基地の中は日に日に暑くなってきている。自室のやわらかいベッドに転がるのも良かったが、そこへは行かずハンガーへ向かっていた。そこなら静かである上に、海から吹いてくる風で涼めると思ったのだ。案の定、空気のこもった建物より、穏やかな風が吹いている外は涼しい。

 

 MH-60の機内に保管しているACRを眺めながら、ハンガーで寝るのも有りかもしれないと考える。しかし、昼の一件を思い出し、それがはたして安全なのかと思う。

 

「この基地だけは安全だと信じてほしい・・・か。」

 

 中佐が呟いた言葉を反芻する。そうであってほしいと願う。それしかない。

 

「あ、軍曹。」

 

 不安がっている背後から、おっとりした声を掛けられた。立ち止まってその方向を振り返ると、いつもの水色の服を着たエイラの姿があった。

 

「少尉…こんな時間にどうした?」

 

「サーニャを見送って、今から戻ろうとしてたとこダ。」

 

 そういえば、いつも眠そうな中尉と仲良しだったなと思い出す。

 

「軍曹はどこか行くのカ?」

 

「ハンガーに行って、涼むつもりだ。」

 

「それは良いナ…。ワタシも行っていいカ?」

 

「あぁ。多分、暇になるぞ。」

 

 拒む理由は無い。先日もNSGのメンバーを救出した時に一緒だった。他のウィッチよりは親しくしている。会話が続かずに退屈するかもしれないと教えるが、構わないと言い切ったエイラと一緒にハンガーへと向かった。

 

 ハンガーの扉を、音を立てて開く。駐機しているMH-60に近づき、パウラから預かった鍵を使ってカーゴドアを開く。

 

「レスリー少佐の戦闘機もそうだけど、この機体も未来のなのカ?」

 

「そのとおり。あと30年すれば開発されるはずだ。」

 

 感心したような声を漏らすエイラ。その間に自分のACRを取り出し、分解を始める。各種のロックを解除しながら、ストックの伸縮や、マガジンキャッチの詰まり、ACOGのズレ、バレルの煤を確認する。

 

「これが弾倉…軽いナ。」

 

 振り向くと、木箱に座って並べた部品を眺めていたエイラが、ACRのマガジンを手に取っていた。空になっているから当たり前だが…。

 

「プラスチックで出来てるからな。」

 

「へぇ~。」

 

 黒塗りの弾倉を珍しそうに眺めるエイラ。15歳の少女が持っているそれには、弾丸が込められていない。言ってしまえば、ただの箱にしか見えない。だが、その弾倉に5.56ミリ弾を30発も込めれば、どう見えるだろう。彼女の顔を見ていると、そんな疑問がふつふつとわいてくる。

 

 もし、今自分が持っているアサルトライフルを彼女が手に取り、自分に銃口を向けたら。彼女は引き金を引くだろうか。少女と言えど、兵士である以上銃の使い方は分かっている。教えなくても、撃つことはできる。

 

 そんな架空の話を作り上げてしまい、思わず手が止まり、視線が固定される。再び組み立てたACRと5、6発装填している弾倉を両手に持ちながら。すると、見飽きたらしいエイラがこちらに振り向いた。

 

「何だヨ、どうした?」

 

「いや…別に…。」

 

誤魔化すために慌てて立ち上がる。しかし、足まで硬直していたのか、バランスを崩して木箱ごと後ろに倒れこんだ。

 

「大丈夫か!?」

 

「…問題ない。」

 

 自分で、自分が何をしているのかとため息が出る。無駄に心拍が高まっている自分に落ち着けと言い聞かせ、ゆっくりと膝をついて立ち上がる。さっさと取り出したACRを片付けて宿舎に戻ろう。そう決めて、落としたACRを拾おうとする。しかし、落ちたはずのアサルトライフルが見当たらなかった。ヘリの下に滑り込んだのかと除くが、見当たらない。

 

「やっぱり軽いナ~。」

 

突然、エイラの声が背後で響いた。思わず、背中に悪寒が走る。頭に向かって、ACRのフラッシュハイダーが突きつけられている気がする。まさか、ここで殺されるのか。

 

 ―――基地だけは安全だと信じてほしい―――

 

 昼間に聞いたミーナの声が頭の中に響く。あれは嘘だったのかと、身体を冷たい空気が覆う。

 

 そのまま、どれだけそうしていたのかわからなかった。

 

「なぁ、どうしたんダ?」

 

再び声を掛けられ、ようやく視線を上げた。そこには、少し得意げな表情でACRを持っているエイラの姿があった。

 

「どう、似合って…すごい汗だゾ?風邪ひいたか?」

 

 何かが首をツゥッと流れる。咄嗟にそれに触れると、それが汗だと分かった。もう一度、大丈夫だと伝え、エイラからACRを受け取る。

 

 自分でも驚くほど緊張し、驚いていた。忘れもしない、初めての実戦の時と同じ疲労が沸きあがった。シャツは嫌な冷や汗で湿っている。手には、ACRを滑らせてしまうのではないかと思うほどの汗がにじみ出ている。いつもよりゆっくりと、丁寧に元の場所へ戻したローチは、カーゴドアのロックを何度も確認してから、ハンガーを後にした。ACRを手渡したときから、エイラは不思議そうな顔で覗き込んでくる。何度か、特徴的な口調で「大丈夫カ?」と聞いてきたが、大丈夫だ、なんでもない、と答えるだけだった。

 

 部屋に戻ってから、何のためにハンガーへ行ってまで涼もうとしたのかと思い出した。冷静になるまで、しばらく時間がかかった。ようやく眠りについたのは、エイラと分かれて1時間は立っていた。

 

 




今回は長く書けました。

評価・感想、お待ちしております。


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第2章
1 , 口の堅さは?


前回までの話は第1章です。今回投稿するのは『第2章の1話目』です。

そして第1章はまだ終わっていません。

中途半端ですがどうぞ(汗)


 

 

*****

 

 

速度を落とし、ホバリングに移行したMH-60Mのドアから、ローチは真っ黒の海面を覗き込んでいた。上弦の月の放つ僅かな光だけが、暗闇を照らす。

カーゴドアの横に備えらえた手すりを掴む手に、無意識のうちに力が込められる。黒く染まった海面が、底なしの谷か、それに似た―――強いて言えば、二度と戻れないような―――ものに感じられたからだろう。

手を覆っているグローブの中に、嫌な汗がにじみだすのが分かった。

 

「唯でさえよく落ちることで―――」

 

「ゴースト、うるさい。」

 

すぐ隣で、同じ格好をして海面を覗き込んでいたゴーストが何事か言い出したが、言い終わる前にその言葉を遮った。いつものようにからかってくるゴースト。何を言いたいのかはわかる。だが言わせはしない。

 

「…なんだよ、別にお前が、とは言ってないだろ?」

 

「例として俺を挙げてる時点で変です。」

 

落ちたくて落ちているわけではない。だから今も、自然と手すりを握る手に力がこもったのだろう。

 

彼は、時には異常なほどまでいじってきて面倒事になることもある。しかしこの時は、暗闇を前にして緊張していた気持ちが、楽になるきっかけになった。

そのまま何度か冗談を言い合いながら、海面に浮かぶものが無いか捜索した。

しばらくすると、離れて捜索に当たっていたエイラとサーニャが戻ってきた。

 

「見つかったか~?」

 

傍まで来てホバリングするエイラが尋ねる。

だが、30分ほどの捜索では何も見つかっていない。

 

「いや、見つからない。そっちは?」

 

「こちらも見当たりませんでした。」

 

その場にいるメンバーに、無理か、という空気が流れる。

要請を受けた以上、さっさと撤収しましょうというわけにはいかない。

しかし考えてみれば、クルーザー一隻が行方不明、という情報を受けてからすでに1時間が経とうとしている。船体に受けた損傷の程度にもよるが、救難信号を発するほどの事態であれば、転覆までにかかる時間は長くはないはずだ。

 

「大尉、どうする?」

 

しばらく唸っていたゴーストが、コックピットの方を振り返って尋ねる。

 

「あぁ…。いや、待て。2時方向、何かあるぞ。」

 

答えの代わりに、マクタビッシュが何かを見つけたような声を上げた。

 

「2時ね。向かうわよ。」

 

エンデンがそれに答え、ヘリの機体が機首の方向へ傾き、前進する。ドアから乗り出して海面を注視すると、わずかな光の中でちらりと何かが浮かんでいるのが分かった。

徐々に大きくなるその浮遊物は、確かに船の一部のようだった。ヘリに備えられたサーチライトが灯され、光の輪が海面をなめるように移動する。

 

「これらしいな。」

 

ローチが少し面倒なものを見るような声でつぶやく。

 

「そーだナ。」

 

すぐそばで飛んでいるエイラも、同じような声色だ。

 

明るく照らされた海面には、大きな白いペイントが施されたクルーザーが転覆していた。この周辺から行方不明者を探し出さなければならない。海へとダイブする必要はないが、まだしばらく地上に降りることはできない。そのことを察して、自然と不機嫌な気持ちになったのだ。

 

しかしわがままだけを言っていては何も進まない。仕方ないかと気持ちを切り替える。サーチライトの輪が大きく広がり、周囲まで照らし出す。すると、他の浮いている物資や船体に、合計で4名がしがみついているのも確認できた。

 

「サーニャかエイラ、どちらでもいい。基地に連絡してくれるか。」

 

マクタビッシュがキャビンに移動してきて、二人に呼びかける。

 

「分かりました。私がします。」

 

するとすぐにサーニャが答えた。

 

「サーニャはしなくて大丈夫だゾ。私がするから。」

 

と、その横からエイラが口をはさむ。

 

「そう?お願いするわ。」

 

その会話の弾みように、改めて仲の良さを見せつけられる。

 

「ミーナ中佐、聞こえるカ?」

 

『聞こえるわ、エイラさん。見つかったかしら?』

 

共有された無線の音声が、頭に掛けているヘッドセットのスピーカーから流れる。

 

「通報通り、海上で転覆したクルーザーを発見した。合計で4人が海上に取り残されてる。これから救助でいいのカナ?」

 

『わかりました。えぇ、お願いするわ。』

 

最後にエイラが『了~解』といつもの余裕な口調で締めくくる。それから、救助活動が始まった。最大11人まで乗り込むことのできるMH-60Mが、下で漂っている4人の回収を担当する。エイラとサーニャの二人は、周辺の空域でネウロイが出現していないか警戒するために離れていった。

MH-60Mの機体が空中をじわじわと移動して、浮遊物の真上に達する。その横面にあるカーゴドアから、ハーネスと安全器具の一式を身に着けて吊り下げられたゴーストがゆっくりと下りていく。ローチはドアガンに取りついたままその姿を眺め、横ではマクタビッシュがホイストの昇降装置を操作している。お互いに水面との距離を確かめながら、装置の速度を調整する。

絶え間なくメインローターが引き起こすダウンウォッシュは、その下に広がっている海面を白く波立たせる。海面からの高さは40メートルほど。下で引き上げられるのを待っている彼らにとって、上空から絶えず強風に押し付けられるのは、初めてのことだろう。また、押し沈められないように必死になる過酷な時間だろう。なにせ、彼らからするこの世界には、まだヘリコプターという航空機は一般的に見られるほど数があるものではないからだ。

 

『一人目、準備良し。』

 

ようやく4人のうちの一人目が引き上げられた。案の定海水にさらされていたその乗組員は、特に下半身をびっしょりと濡らしていた。

 

「ふぅ…助かった。」

 

エンデンに指示され、ローチは救護用の毛布を取出した。キャビンの天井に埋め込まれるように設置されている収納から引きずりおろし、一人目の救助者に手渡す。

 

「すまないが、毛布しかない。これで冷やさないようにしておけ。」

 

キャビン後方へと、体を支えながら男を誘導する。引き上げた男がバランスを取るのに苦労しているのは、海水で冷えて寒いからなのか、初めてのヘリコプターに乗ったからか。

 

「ありがとう。なぁ、これはなんていう航空機だ?あんたらは?」

 

腰を下ろしながら、男は問うた。

対するローチは、一瞬だけ返答に戸惑った。説明して素直に『そうか』といってもらえるはずもないからだ。

 

「…それは後で基地に戻ってから答えてやる。今は大人しくしておけ。」

 

そう答えると、男は何かを察したのか、追及してくることもなく『分かった』と答えた。

 

その返事を背中に受け止めながら、再びガンナーシートに戻って引き上げられる乗組員を見守るローチ。その頭の中では、救助した彼らがこの後どうなるのか、彼らをどうしなければならないのかという思考が飛び交っていた。

 

『タスクフォース249』という部隊名を決めたあの日、アレンが持っていた部隊命名の書類には、自身らが機密扱いであると記されていた。ブリタニア軍に限らず、各国の軍にとって、F-15SEⅡやMH-60M、その他の武装・火器は、十中八九手に入れておきたい代物に違いない。感じ良く言えば、今の人類とネウロイの間にある戦局を、人類側に傾けるために大きく貢献するだろう。別の言い方をすれば―――将来的なことで断定はできないが―――各国がコピーを保有して量産すれば、ネウロイそっちのけで国同士の戦争だって始まりかねない。

 

たまたまブリタニアの基地に転がり込んだローチたちは、自然の成り行きでブリタニア軍所属となった。リベリオンやオラーシャ、カールスラントや扶桑へ兵器の情報が流れることを恐れたであろう司令部は、それを防止するために、早い時期に部隊命名と機密扱いの印を送ってきたのだ。

 

そんな中での今回の救助任務。可能性として考えれば、救助した彼らが唯の民間人でないこともあり得る。『あくまで』可能性の範囲だが、ローチたちからすれば、彼らは『ただ夜景を楽しもうとしてクルーザーで乗り出した観光客』でもあるだろうし、『観光客を装い、わざと基地に近い海域でクルーザーを破壊して遭難したように見せているスパイ』とも捉えられる。

 

その点では、今回の救助任務でMH-60Mを出撃させたのは間違いだったのかもしれない。可能性の後者で考えれば、今乗るヘリの情報を持ち出されてしまう。それを防ぐには――――彼らを生きて返すわけにはいかない。

 

(もしそうなら、大尉や中尉はどうするんだろうか。)

 

ぼんやりと海面を見つめる。かなりの長い思考過程だったが、どれくらいの時間がたったのだろう。その答えはすぐに分かった。

 

気づいた時には、最後の四人目の乗組員が引き上げられ始めていた。視線をキャビンに向けると、そこには救助されて毛布にくるまっている乗組員の姿もあった。

 

彼らの、こちらを見上げる視線が、自分の瞳をとらえている気がして、ローチは視線を何もない夜空に向かってそらしてしまった。

 

ガンナーシートから見える夜空を直視する。相変わらず黒い闇が占拠していた。

救助した男たちがスパイだと決まったわけではない。しかしローチの中には正体のわからない不安が漂っていた。本当に、なぜ不安になっているのか、ローチにはわからなかった。

 

キャビンではマクタビッシュが救助された乗組員たちを介抱している。隣では、昇降用のホイストに結び付けていたハーネスを取り外す作業をしているゴーストが。

二人も、自分と同じようなことを考えているのだろうか。そう思って視線を移そうと知ったとき、ずっと黙り込んでいたヘッドセットのスピーカーがハウリングのノイズを奏でた。ビクッとなって、すぐにスピーカーを耳に密着させる。すると、緊張したエイラとサーニャの声が響いた。

 

『こちらエイラ!ノーマッド63、聞こえるか!?』

 

『サーニャです。ネウロイを補足しました!』

 



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2 , 新しい世界

 

*****

 

 

二人のウィッチからネウロイ発見の報告を受けて1分後。

 

真っ黒に染まった海上でホバリングを続けていたノーマッド63ことMH-60Mは、しばらくしてゆっくりと上昇を始めた。

その機内では、ローチとゴーストが救助者に対して最低限の処置を施していた。とはいっても、濡れた体を毛布で包み、冷やさないようにするだけだった。さらに頭上数メートルで奏でられているエンジン音で耳を悪くしないために、ヘッドフォンを掛けさせた。

 

「機内では立ち上がるな。転んで怪我されちゃ困るからな。それと、戦闘になっても騒がずおとなしくしていること。わかったな?」

 

そう告げたローチは、後をゴーストに任せてガンナーシートに戻った。

市民なのかスパイなのかは分からないが、どちらにせよ戦闘に慣れていることは無さそうだ。仮にその状況に陥ればどう反応するか分からない。

 

案の定、狭い機内に動揺した空気が充満する。すぐに男たちが泣き言を言い始めたのだ。

 

「なぁ!本当に、ネウロイか!?」

 

一人が不安そうな声で尋ねる。防音用とはいえ、近距離での会話程度ならできる。

 

「落ち着け。黙って静かにしていろといっただろ。」

 

ゴーストがそれに答えを返す。

 

「やだ、死にたくない!」

 

「お前のせいだぞ、レイモンド!どうしてくれるんだ!」

 

何が始まるかと思いきや、口論だった。毛布をしっかりとつかみながら、それでも互いの顔をにらんで文句を言い合う。

 

少しでも期待した自分が馬鹿だったと、どこぞのヒーローが言うようなセリフを思い浮かべ、まさにその通りだと頭を抱える。そもそも民間人を救出して戦闘を行うなど、今までに例のないことだ。救助機が武装していることでさえ普通はあり得ない。その点を考えると、自分は男たちに期待してはあらなかったのかもしれないとローチは思った。

 

しかし考えている場合ではなかった。このまま狭い機内で男たちが取っ組み合いでも始めれば、たまったものではない。人間より大きくて質量もあるヘリコプターといえど、人が飛び跳ねればバランスを崩す。

 

もしかしたら墜落するかもしれない。様子を見ながらそう思ったローチが、ついさっき座ったばかりのシートから立ち上がる。しかしそれより先に、ゴーストが『黙れ!』の一喝とともに、ホルスターから引き抜いたM9を発砲した。パン、という乾いた破裂音が機内に響く。一瞬中腰のまま硬直したローチは、ゴーストが乗組員を撃ったのかと思った。答えを見つけるべく視線を走らせる。しかしその銃口は、大きく開かれたカーゴドアの外を向いていた。

 

威嚇射撃だったことに安堵の息を漏らす。お互いに手を突き出していた3人は、銃声にビクッと体を震わせた後、ゴーストが持っているM9の銃口を認めた。ゆっくりと、外を向いていた銃口が向けられる。その光景を見た途端、危ないものから逃げるように、男たちは機内の隅へ仲良く集まって固まった。

 

「もしまた騒ぎ出したら、このドアから突き落とすからな。」

 

一歩前に出て、低い声でゴーストが宣言する。男たちがはっきりと頷くのを見届けたローチは、再びガンナーシートに座り込んだ。

 

『こちらサーニャ。接触まで間もなくです。時間にして2分ほど。』

 

同じタイミングで無線が鳴る。

 

『63、了解。数は分かるかしら?』

 

『2つです。偵察型なので、それほど速くはありません。』

 

『さて、どうするか…。ドアガンはあるから迎撃はできるが…。』

 

ヘッドフォンからマクタビッシュの会話を聞き取ったローチは、M134が載せられたマウントのロックに手を掛けた。これを解除すれば、発射可能となる。

 

しかし、月も陰った夜の海上には、ほとんど光がない。窓の外の空を見たローチを不安が満たし始める。自然と、手が震えた。

 

『なら、私とサーニャで撃墜するゾ。』

 

エイラの声がヘッドフォンから流れる。すると、ロックに掛けられていたローチの手から震えが消える。

 

『お願いしていいかしら?』

 

『はい。ノーマッド63はいち早く基地へ向かってください。』

 

サーニャの心強い声に押されるように、ノーマッド63はぐるりと機体を回転させ、進路を変更した。ローチも、ふぅと息を漏らした。

 

『63、了解。これより戦闘空域からの退避行動に入る。』

 

機体が若干前に傾き、加速に入る。リズムの良いエンジン音が一際大きくなり、やがて巡航速度に達したノーマッド63は、基地への帰路を急いだ。

 

 

*****

 

 

ノーマッド63が去った空域では、しんがりを選んだ二人のウィッチが、ネウロイが来る方向をにらみ、ホバリングしていた。

 

「ノーマッドの離脱を確認…。」

 

角のように生えた魔道針でヘリを追っていたサーニャが告げる。

 

「じゃ、片づけるカ!」

 

隣にいたエイラが、携えていたMG42を抱え上げる。ストライカーユニットが奏でる羽音に混じり、コッキングの音が響く。

 

「絶対に逃してはいけないわ。もしそうなったら、ノーマッド63が攻撃されてしまう。」

 

「見た感じ、あの“へりこぷたー”には武装が一つも無かったからナ~。サーニャの言うとおりダ。さ、行くカ!」

 

「…えぇ。」

 

サーニャもランチャーを肩に担ぎあげる。ふたりが準備を終えるのと同時に、ネウロイが雲から飛び出した。

 

「交戦―――!」

 

「―――開始ダ!」

 

そして二人も、加速してネウロイへと向かった。

 

 

*****

 

 

その後、501基地にヘリコプターが降り立ち、そのさらに数分後、エイラとサーニャの二人が帰投した。沈没船救出とネウロイ迎撃の任務は無事に終わったことを示す証拠だった。

 

サーニャとエイラの二人はいつも通り戦闘記録の報告書を書く作業に入った。日付や敵の種類、会敵した地点、被害と成果を書き込むだけの手続きを済ませ、足早に休息に入った。

 

対するローチたちは、救助した男たちの身柄を一時的に預かり、翌日、引き渡しをすることになった。その間の世話をミーナから任せられたのだ。

海水に浸かっていたせいで低体温になりかけていたため、全員を基地内の医務室へ運び込み、ついでに身元や遭難の原因を聞きだした。そして、彼らが民間の団体であるということなどが判明した。

 

病床にて、マクタビッシュや坂本があれこれと質問するのに対し、男たちは淡々と答えを述べ連ねた。その記録を取ったローチは、すべてをまとめ終え、しばらく書き込んだ内容を眺めた。

 

(軍に限らず、ここでは民間のグループまでもが敵と戦ってる…)

 

何度も男たちが繰り返し、強調していたこと。それは、彼ら自身が軍属ではないということだった。

 

(市民も含めて一致団結していると捉えれば良いのか―――)

 

(―――それとも、正規軍並みの力と資金が在るのを恐れればいいのか…)

 

二つのとらえ方には大きく差がある。自分はどう考えるべきなのか、と思いつつ、ローチは記録したノートを閉じた。

 

今後、彼らの活動は世界に影響を表すだろう。それが、明るい平和な世界なのか、或いは恐怖の世界なのか。ふと部屋の外の夜空を見たローチは、後者である気がしてしまった。

 

「まさか、なっちまうのか…。」

 

 

******




近いうちにローチが記録した報告書をアップします。

『回収済み機密情報』の章に挙げるので見てください。


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