アブソリュート・デュオ〜銀狼伝〜 (クロバット一世)
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プロフィール

主人公のプロフィールです


名前 : 天峰悠斗(あまみね ゆうと)

 

誕生日/星座 : 12月21日/射手座

 

身長 : 178センチ

 

体重 : 70キロ

 

髪型 : 銀髪ウルフカット

 

目の色 : 金色

 

好きなもの : 甘いもの、肉、可愛い動物、沢田のママンの料理

 

嫌いなもの : 辛いもの、茄子、お化け

 

所属 : ボンゴレファミリー守護者

 

炎属性 : 雪

 

焔牙 : 長槍

 

絆双刃 : 穂高みやび

 

位階 : 推定Ⅳ

 

 

 

 

 

概要

ボンゴレファミリー雪の守護者。イタリア人の母と日本人の父の間に産まれた。しかし、両親はすでに他界。

その後、スラム街で父から教わった槍術を使いチンピラたちから金を奪って生活していたが、成長した後は用心棒の仕事をして生計を立ててきた。しかし、ある日ボンゴレの敵対マフィアの依頼で沢田綱吉の命を狙ってきたが、死ぬ気モードのツナに返り討ちにある。その後、ツナと仲良くなるが、敵対マフィアの報復がツナやその仲間に及びそうになった時に一人で向かおうとしたが、ツナたちが助けに来て結局力を合わせて敵対マフィアを倒す。その後、ヴァリアー戦で雪の守護者になる。

 

ツナと会うまでは暗いキャラだったがツナの守護者になってからは今の性格になった。ツナのことは尊敬しており、忠誠心は本物(獄寺の次くらい)。しかし、同時にツナのことをダチとしてみており一切遠慮しない。

 

好きな女性のタイプは家庭的な女性とのこと。なお、甘いお菓子が好きでたまにランボとお菓子の取り合いをする。

ランボやイーピンの世話もよく行っており、ランボからは「ライバルだもんね」とのこと。

 

獄寺とはよくツナへの態度で文句を言われている。しかし、仲が悪いわけでは無い。

沢田のお母さんに懐いており、死んだ母と重ねている。

 

お化けがガチで駄目で、その理由は「触れないから襲われた時に打つ手が無いから」らしい。

過去にロメオの亡霊に襲われた時は涙目になっていてツナよりもビビっていたとのこと。

 

スピードにおいてはボンゴレ随一と称されており、自身も絶対の自信を持っている。そのスピードからボンゴレの『銀狼』と呼ばれてきた。

本人もその二つ名をかなり気にいっていて、自ら名乗っている。

 

死んだ兄とそっくりだとかでミルフィオーレのブルーベルにめっちゃ懐かれていて「お兄ちゃん」と呼ばれている。

 

九十九朔弥とはある任務の時に出会い、その出会いがきっかけで《醒なる者(エル・アウェイク)》に目覚め、朔弥にスカウトされる。学園では圧倒的実力で周囲からもその強さを認められており、「一年生中最強」などとも言われるようになっている。

絆双刃のみやびにはかなり世話を焼いているようで、周囲からも「付き合っているのではないか?」などと噂されているが、当の本人は自覚が無い。

普段は少しチャラチャラしているが、一度スイッチがはいると、とてつもない感の鋭さを発揮する。

人から恋愛対象にされることに慣れておらず、18話でみやびに告白されるが、取り乱してしまい結果として彼女を傷つけてしまった。その後、みやびへの自身の想いに気づき、28話で自分からみやびに告白し、みやびと恋人関係になる。その後はみやびとラブラブであり、とてつもなく幸せな顔をしている。

 

煉業:「天に咆えろ《覇天狼(ウールヴへジン)》」

能力解説

常時発動(パッシブ)型。

自身の肉体と本能のリミッターを解放することで身体能力と野生の感を強化することができる。雪の炎の力も上昇し額から雪の炎が出る。

所謂天峰悠斗専用の《死ぬ気モード》。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




簡単にまとめてみました。
話が進むごとにどんどん更新していくつもりです。


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プロローグ

勢いで書いてしまいました。
続くかどうかわかりません。

ただみやびが好きなのでつい書いてしまいました。
良かったら読んでください。


アブソリュートデュオ〜銀狼伝〜

 

『願わくば、汝がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へ至らんことを』

 

ここは日本某所に停めてあるリムジンの中そこには2人の少年少女が向かい合っていた。

 

「久しぶりですね、天峰悠斗」

 

そう言うのは十歳程度と思えるほどの幼い容姿の少女

彼女の名は九十九朔夜

このような姿だが、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》の異名を持つドーン機関に所属する遺伝子工学者である。

 

「私は、今日という日が来るのを今か今かと待ちわびていましたよ。」

 

「…俺はまさかこんなことになるとは思わなかったな。」

 

そんな彼女にそう言い返すのは銀髪のウルフカットに金色の瞳が印象的で首に白い宝石がついた狼をかたどったチョーカーを付けた十代後半ぐらいの少年である。

 

彼の名は天峰悠斗(あまみね ゆうと)

 

イタリアのマフィア、ボンゴレファミリーの守護者の1人である。

なぜ彼が九十九朔夜と一緒にいるのかというと、これから彼は、彼女が理事長を務める学園に入学するからである。

 

「貴方が我が校に来てくれたおかげで私の悲願の成就にまた更に一歩近づきました。沢田殿にも感謝しなければなりませんね。」

 

 

朔夜はそうこの場にいない悠斗の所属する組織の若き十代目に感謝の言葉を言う。

 

「まぁ俺もこの力を知りたいし、ツナにも無茶はしないっていってあるしな、えーと《超えし者》だっけ?」

 

「いいえ、貴方のそれは《醒なる者》。いわば天然の原石です。」

 

「どちらでもいいよ。名前なんて些細なことだ。それより…なんか不穏分子も幾らかいるそうじゃねぇか?」

 

悠斗はそう彼女に聞いてみると、

 

「構いません、降りかかる火の粉は払うまで、それに…いざとなっても貴方がいれば問題無いでしょう。」

 

そう、自信を持って言った。

 

「まぁ、たとえどんなやつが来ようと」.

 

 

悠斗はそう言うとニヤッと笑って

 

「闇を白く染め道を照らす道標の六花」

 

「その使命にのっとってやっていくだけだ。」

 

自信を持ってそういった。

 

それに対して、九十九朔夜は

 

「期待していますよ。天峰悠斗、いや…《銀狼》

 

 

 

願わくば、汝がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へ至らんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある家の一室

 

「いよいよ明日入学式…」

 

小さい頃から何もできず、そんな不甲斐なさに縛られてきた自分が嫌だった、だけどこれからは違う。

 

「強くなるんだ。絶対に。」

 

そう自分に言い聞かせ、彼女は自分の荷物をまとめた。

 

これは、裏社会で《銀狼》と呼ばれる少年と強さに憧れる少女の物語




勢いに任せて書きました。
初投稿なので文章力が無いのが凄く感じます(~_~;)

作者はアニメしかほとんど知識がありません。

色々矛盾などがあるかもしれませんがよろしくお願いします。



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銀狼入学編
1話 入学式





原作突入です!!









昊陵《こうりょう》学園。

一般の高校と違い、特殊技術訓練校という面がある。

この学校で教わる特殊技術とは、戦闘技術。 平和な日本において、日常必要としない術を教えるという非常に特異な学校だ。

この昊陵学園は東京湾北部、懸垂型モノレールでのみ立ち入ることの出来る埋め立て地に存在する。

周囲を巨大な石壁に覆われ、そのサイズに見合った門が唯一の入口となっていて、敷地の中央には学外からも望むことの出来る巨大な時計塔がそびえ立っていた。

校舎や学生寮など内部の建造物は馴染みのない西欧風で、学校と言われると少々違和感を覚えてしまう。

俺はそんな学校の桜並木を歩いていた。

 

「やっぱり桜はいつ見ても良いもんだな…」

 

俺は季節としては冬が好きだ、しかしそれとは別にやはり桜を美しいと思うのは父親の日本人の血が流れているからなのだろう。

 

「…?」

 

ふと、自分の歩く先を見るとその先に、二つの人影が見えた。

一人は自分同様の色の銀髪を腰まで伸ばし、透き通るような白い肌と深紅の瞳が印象的な少女

もう一人はそんな彼女に見惚れている同年代の少年であった。

 

「このまま一人で講堂まで行くのもつまんないし声かけてみよ。」

 

そんなことを考えながら俺は、少年の方へと向かっていった。

 

「なぁ…」

 

「うぉっ!?」

 

どうやら俺がいきなり声をかけたもんだからビックリしたらしく、少年はそんな声をあげた。

 

「あ〜悪い驚かせて、良かったら一緒に講堂まで行かねーか?」

 

「なんだそういうことか、それなら良いぜ。俺の名前は九重透流、これから三年間よろしくな。」

 

「天峰悠斗だ。こちらこそよろしくな」

 

そんなことを話していると

 

「ちょっとあんたたち、早く行かないと遅れるわよ」

 

「ん?」

 

ふと後ろを振り返ると茶色い髪をポニーテールにした少女が立っていた。

 

「あぁ、悪い」

 

「良いわ気にしなくて、私は永倉伊万里これからよろしくね」

 

「俺の名前は天峰悠斗、んでこいつが九重透流」

 

「よろしく」

 

そして俺たちは講堂へと向かっていった。

 

講堂へ着き、俺たちは席に座った。

 

「隣失礼」

 

俺が隣の新入生にそう言うと

 

「ん、おう」

 

と、黒い逆立った短髪の体格の良い新入生が答えた。

 

「なんか銀髪ってスゲーな。あっ俺は本郷勝元(ほんごう かつもと)よろしく」

「天峰悠斗だ、こちらこそよろしくな。それと銀髪ならえーとああいた、ほらあそこにもいるぞ」

俺はそう言うと先ほど見かけた銀髪の少女の方へ指をさした。

 

「うぉっ!?スゲー可愛い!!!後で声かけてみよ!!」

 

そんな風に駄弁っていると

 

『あ、あ……』

 

というマイクテストの声が聞こえる。

 

『一同静粛に。まもなく、入学式を開始します。進行は私三國が行います』

 

壇上へ続く階段の脇に立った二十代後半と見られる男性教師らしき人物が、『静粛に』ともう一度口にすると、それに伴って講堂内のざわめきが小さくなっていく。

 

『ただ今より、昊陵学園高等学校入学式を始めます。まず最初に、当学園理事長より新入生の皆さんへ式辞をお贈りします』

 

 

進行役の三國の言葉を受け、壇上へと上がる朔夜。

 

 

『昊陵学園へようこそ、理事長の九十九朔夜ですわ』

 

(朔夜の目的は《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》とか言う領域に《越えし者(イクシード)》を至らせること……。その為に罪のない人たちを傷つけるようなら俺たちボンゴレが許さないぞ…)

 

 

壇上で年齢からは想像できない程堂々と式辞を述べる理事長を悠斗は見つめていた。

数年前にドーン機関が開発した《黎明の星紋(ルキフル)》と言う名の生体超化ナノマシンを投与され、人間の限界を遙かに超えた身体能力と超化された精神力により《魂》を《焔牙(ブレイズ)》と呼ばれる武器として具現化させる能力を得た人間を《越えし者》と呼び、その《適性(アプト)》を持つ者は千人に一人とされている。そしてこの《超えし者》の最終到達点が《絶対双刃》であると悠斗は朔夜から聞いている

 

 

 

『貴方達はこの昊陵学園にて様々な技術や知識を得ることになるでしょう。しかしそれらはすべて、より高みを目指すためのものであると常に念頭へ置いてください。それこそが当学園の校訓、十全一統となりますの。……それでは最後に、この言葉を贈らせて頂くことで式辞を終わりとさせて頂きますわ』

 

 

朔夜はそこで一度言葉を止めると、新入生全体を見渡し、そして告げる。

 

 

『願わくは、汝がいつか《絶対双刃》へ至らんことを』

 

 

締めの言葉を告げ終えたが壇上から降りる気配がなく、その場に留まり続ける朔夜に透流が首を傾げる。

 

 

「どうしたの、透流?」

「いや、理事長が……」

 

 

不思議に思う透流に答えるように、朔夜は再び口を開く。

 

 

『これより、新入生の皆さんには当学園の伝統行事《資格の儀》を行って頂きますわ』

「伝統行事?」

「進行表には書かれてないけど……」

 

 

本来の予定ならば次は在校生代表による歓迎の挨拶の為、透流や伊万里はもちろん辺りからは動揺する新入生が数多くいた。

 

『それでは《資格の儀》を始める前に、貴方達にはして頂くことがありますわ。隣に座る方を確認して下さいませ。その方が此よりの儀を行うに当たり、パートナーとなる相手ですの』

 

悠斗は右隣に座る勝元を、勝元は左隣に座る悠斗を、透流は自身の右隣に座る伊万里を伊万里は自分の左隣の透流を見る。

 

「パートナーっていったい何をするの?」

 

伊万里が首を傾げながら呟く。そしてそれは伊万里だけではなく、あちこちから聞こえてきた。そしてその答えは朔夜の次の言葉で理解する事となる。

 

『これより貴方達には決闘をしてもらいます。』

 

行事の内容を伝えられた瞬間、そこかしこで驚きの声が上がった。

 

『此より開始する伝統行事《資格の義》は、昊陵学園への入学試験ということになりますの。勝者は入学を認め、敗者は《黎明の星紋》を除去した後、速やかに立ち去って頂きますわ』

 

新入生たちの驚きとは正反対に、涼しげな顔で理事長がとんでもないことを口にする。

やがて言葉の意味を理解すると、新入生がざわめきだした。

 

「じょっ……冗談でしょ……!?」

「どうりですんなり、入学式に出られたわけだ」

 

どうやら伊万里は納得がいかなかったようだ。

 

「今更、入学試験って……《黎明の星紋》の《適性》があれば、誰でも入学できるんじゃなかったの……!?」

 

その問い掛けに対して答えたのは、理事長ではなく進行役の三國と言う男だった。

 

『入学試験が存在しないなどとお伝えたした覚えはありません。《適性》があれば、当学園へ入学資資格があるとお伝えしただけです』

「この入学に落ちた者から学園内の情報……《黎明の星紋》のことも、洩れてしまうことは考えていないのか? そのリスクを負ってでも、半数を落とすつもりかっ……」

『当学園の内情に関しては、様々なかたちで情報規制がされています。心配はありません』

 

薄い笑みを浮かべる三國の表情に、いま聞かされたことが真実だと肌で理解する。

困惑と動揺でざわめく講堂内。

 

『……ご理解を頂けましたら、試験のルールについて説明いたしますわ』

 

けれど壇上に立つ黒衣の少女は、特に気にした様子も無く、淀よどみない口調で残酷なルールについては話し始めた。

 

『この決闘は基本的に何をしようとも自由……つまり武器の使用制限はありません。もちろん《黎明の星紋》による《魂》の具現化武器《焔牙》の使用も許可します。決闘が嫌ならば逃げ出して下さっても構いませんわ。決着はどちらかの敗北宣言もしくは戦闘不能と判断された場合、また、10分以内に敗北が決まらない時は……どちらも不合格。―――これは、何処にもある入学試験ですわ。他人を蹴落として自分が生き残る単純なルール』

 

そこに命が懸かってなくても、負ければ道は閉ざされるのだから、理事長の言っていることは間違いは無い。

間違いは無いのだが、それで全員が納得できるわけじゃない。

 

「だからって……どうして決闘なんですか! 普通に試験じゃ……」

 

伊万里が問いかける。

それは大半の新入生の代弁と言えるものだった。

 

『いつか必ず……貴方達には闘う時が訪れますわ。《超えし者》として、ドーン機関の治安維持部隊へ所属後……時には命を懸けた闘いも……こんな事よりも厳しい決断の時が必ず……やって来るのです』

「つまりこの入学試験は、学園側から俺たちへ贈る最初の決断ってわけか」

 

透流の言葉に理事長が笑う。

 

『……それでは、開始前にひとつ……《焔牙》について補足説明をさせて頂きますわ。《焔牙》とは《魂》を具現化させて創り出した武器……故に、傷つけることが出来るのもまた《魂》のみですの。―――よく聴きまして……《焔牙》の攻撃は相手の精神を疲弊させるだけのものであり、肉体を傷つけ命を奪うことはありません。……つまり、制圧用の武器なのですわ』

 

これがどれ程どこの場の新入生を安堵させ、迷いを揺さぶるものだっただろうか。

ざわりと動揺が広がる様が目に見えてわかる。

次いで一人、また一人と意思を固めていく様子もまた。

 

「……すみません。ひとつ……」

 

透流が手を上げ、理事長へと質問を投げる。

 

「パートナーの変更……は……」

 

彼は僅かばかりの期待を込めて問うも―――

 

『―――できませんわ。貴方は受験で数学が苦手だから得意の教科で評価してくれと言えますの?』

 

返ってきた無慈悲な言葉へ、彼はその後を続けることが出来なかった。

おそらく過去に同じような要望を問い投げ掛けた者がいたのだろう。

しかし、理事長は容赦無く歯車を動かしてしまう。

 

『闘いなさい。天に選ばれし子(エル・シードら)よ!! そして己の未来をその手で……掴み取るのですわッ!!』

 

鋭い声、同時に講堂のみならず学内すべてに鐘の音が響き渡る。

一瞬だけ間を置き…

 

「うわぁああああああっ!」

 

誰かが発した叫びが本当の合図となった。

 

そして―――この試験を、決闘を受け入れ、闘う意思を持った者が《力ある言葉》を口々に叫び、あちこちで紅蓮の《焔》が発せられる。

 剣、槍、弓―――視界に映る幾多の武器、それを手にすると試験相手へ向けて振るう。

 講堂内へ喧騒が、剣戟が響く。

 

「構えろ悠斗」

 

気づくと勝元が俺の前に立っていた。

 

「わりーが俺も手加減する気はねぇ本気でこい。」

 

「俺も手は抜かねーよ」

 

そして二人はふっと笑うと

 

「「焔牙!!!」」

 

それぞれの焔が煌めき、武器の形となった。

 

勝元の焔牙は《大剣》

そして俺の焔牙は《長槍》であった。

 

「行くぜ!!!」

 

勝元は大剣を上段から振り下ろした。

俺はそれを難なく避けるが次々と斬撃が繰り出される。

 

「どおした悠斗ォ!!避けてばっかじゃ勝てねぇぞ!!」

 

勝元はそう言いながら剣を前に突き出してきた。

 

「ただ振れば良いってもんでもねぇ」

 

次の瞬間俺は勝元の大剣を交わしながら懐に入り、

 

「狼王一閃!!!」

 

勝元に渾身の突きを放った。

 

そしてそのまま勝元は吹っ飛び…

 

 

 

 

 

 

 

ヤンキーっぽい新入生の一人を巻き添えに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

…こんなの聞いてない

 

いきなり始まった闘い、しかも自分の相手はいかにもガラの悪そうな自分が特に苦手なタイプの男だった。

 

「…女に手をあげる趣味はねぇけどよぉ」

 

そう言うと男は自分の武器の鉈の焔牙に振り上げ、

 

「ちょっと眠ってろ」

 

そう言いながら鉈を振り下ろした。

 

ごめん、お母さん、お姉ちゃん…私やっぱり弱いや

 

 

 

 

 

 

「ぶへぇ!!!!」

 

 

すると、突然そんな声がして目を開くと…

 

 

 

 

 

 

 

気を失った男の下敷きになって先ほどの男が少し離れたところで伸びていた

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

私がそんな声を上げていると

 

「あー悪い。捲き込んじまった」

 

そう言いながら銀髪の少年がこっちに来た。

 

「立てるか?」

 

そう言いながらこちらに手を差し伸べる少年から…

 

私は目が離せなかった。

 

 

 

 




文字数多かったですがここまで書きたかったので悔いなし!!!

悠斗の焔牙のモチーフはマドマギの杏子の槍を黒くした感じだと思ってください

…多節棍にはなりません

感想待ってます。


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2話 仮の絆双刃

いよいよクラス決めです。
主人公に衝撃展開が…


「大丈夫か勝元?」

 

目を覚ました勝元に俺はそう聞いた。

 

「まあな。にしてもお前強えな。まさか一撃でやられるなんて思ってもみなかったぜ。」

 

「なんて事はないよ。単に突きを見切って相手の懐に入って渾身の一撃を放っただけだ」

 

「いや普通やろうと思って出来るかあんなの?」

 

勝元はそう呆れながら笑った。

 

「あーなんか悔しいな。でも負けちまったのはしゃーねーし。じゃーな悠斗、縁があったらまたどっかで会おうぜ」

 

勝元はそう言いながら講堂を去っていった。

 

「…なんつーか残念だなぁ。良いやつだったから…ちょっとチャラい奴だったけど」

 

ふと周りを見てると透流が伊万里を強烈な拳の一撃でふっ飛ばしていた。

 

「スゲーな透流のやつ。それにあの焔牙は…」

 

悠斗はふと朔夜が入っていたことを思い出す。

 

 

 

 

 

『そうそう、悠斗さん学園ではあなたの他にも優秀な新入生がいますが…異能(イレギュラー)という存在は覚えておいてください』

 

『異能?』

 

『えぇ。本来魂を武器の形にする焔牙でありながら彼の焔牙は『楯』、つまり防具の焔牙ですのよ。フフ…面白いと思いません?』

 

『確かに面白そうだな。どんなやつなんだろ』

 

…あいつ、確かに強えな。だけど…気のせいか?なんか抱え込んでいるようにも見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資格の儀の後、俺たちは教室へと向かっていった。

 

 

「ぐっ…」

 

「どうした?」

 

透流が腕を抑えながら小さく呻き声をあげたので聞いてみる。

 

「ん?あぁさっきちょっと大技出したんだけどあれは本来ならかなりの筋量を必要としている技なんだけど、中肉中背の俺は無理をして使ってるんだ。だから一度放つだけでも体にかなりの負荷がかかってる。絶対的な破壊力を持つ反面、日に二度も放てばマトモに動けなくなる諸刃の剣なんだよ」

 

「なるほど。つまりは未熟者か。」

 

そんな声がしたのでその方向を見ると

 

「…っ!トラ!?」

 

「やっと気づいたか愚か者」

 

背の低い眼鏡の少年が呆れながらそこにいた。

 

「ええと九重、そいつは?」

 

「ん?ああこいつは虎崎葵。俺の昔からの友達だ」

 

「誰が友達だ。互いに顔と名前を知っていて、それなりの親交があるだけだらうが」

「……それを友達って言うんじゃないのか?」

「う、うるさいっ。だいたい貴様は昔からいつもいつも「まーまー落ち着きたまえ虎崎君それより早く教室行こうぜ」

 

「ム…そうだな」

 

そんなことを言いながら俺たちは教室へと向かった。

 

教室に着くと席はもう張り出されていた。

 

「じゃあ俺はあそこの席だから。そんじゃ」

 

「おう。また後でな」

 

そう言いながら俺は席に座ると

 

「あっ…」

 

そんな声が聞こえ隣を見ると

 

資格の儀のとき、自分と勝元の戦いの巻き添えになったヤンキーっぽい新入生と戦っていた少女がいた。

 

「あれ?たしか君ってあの時の…」

 

「あの…さっきはありがとう助けてくれて」

 

「気にすんな。こっちこそ戦いの邪魔して悪かったな」

 

「ううん。私…怖くて何も出来なかったから。あっ私は穂高みやびっていうの、よろしくね」

 

「天峰悠斗だ。よろしくな」

 

そう言いながらニカッと笑うと

 

「あ…うん」

 

そう言いながら顔を赤面させうつむいてしまった。

 

(あれ?男苦手なのかな…)

 

少し避けられたような気がして少しショックだった。

 

ガラガラッという音で顔を上げた悠斗はそのまま目の前の光景に言葉を失う。

 

 

「ハロハロー♪あーんど試験お疲れさまー☆あーんど入学おっめでとー!」

 

 

突然窓から侵入してきた女の子が静まり返った室内で、教壇に立ち、ポーズを取っていた。

 

「はっじめましてぇ、月見璃兎でーす♡みんなの担任だから一年間よっろしくー!親しみを込めて、うさセンセって読んでねーっ☆」

 

やたらとハイテンションな璃兎とは対象的にクラス全員反応がなかった。正直なところどう反応していいかわからないのだろう。

 

 

「……ありゃりゃん、どしたの?」

 

 

きょとんとした表情を浮かべ、自称担任と口にする璃兎が教室内を見渡す。

ぱっと見悠斗達と同年代と言われても違和感のないくらい若く、その上メイド服にウサギ耳のヘアバンドと教師とは思えない格好の璃兎に誰もが呆気に取られたまま硬直していた。

 

しかし、悠斗は最初こそ驚いたが

 

(この人…なーんかやな気配がすんな。用心しとくか…)

 

なんてことを考えてた。

 

「はっ!?もしかしてアタシの可愛さに見惚れちゃってたりする?いやー、そういうのは結構慣れてるつもりだったけど、さすがに新入生全員がってのは嬉し恥ずかし照れまくりだよ〜♪」

 

「いや、引いてるだけだが……」

 

「なーんだ、引かれてただけなのねーーって、ええええっっ!!見惚れてたんじゃなかったのぉ!?」

 

透流の発言への璃兎の返答でクラスでこの人が担任で大丈夫なのかと言う不安に思わなかった者はいないだろう。

 

 

「月見先生、あまり新入生を不安にさせないで下さい」

 

 

このクラス全員の気持ちを代弁したのは、普通に扉から入ってきた三國だった。その整った顔立ちと長身から女子達からは溜息に似た声が漏れていた。

 

「あっれー?三國センセってば、どーしてここにいるんですか?」

 

「新人教師の監督です。あまりふざけているようですと、別の方に代わって頂きますよ」

 

果たしてそうして下さいと思った生徒は何人いただろうか。

 

「だーいじょぶですって。泥船に乗ったつもりで任せて下さいな♪」

「沈みます」

「さーて、それじゃ改めて自己紹介いっちゃうよー☆」

「…………」

 

三國のツッコミを完全にスルーし、璃兎が喋り出す。

 

 

「というわけでどもども月見の璃兎ちゃんでーすっ。この春、昊陵学園を卒業したばかりのうら若き乙女なので、至らないことはたーっくさんあると思いますが、精一杯やってくつもりだからよろしくねーっ!」

 

「月見先生は昨年の卒業生の中でも特に優秀な成績を修め、本年度の特別教員として抜擢されました。人格はともかく、技術や能力に関しては申し分ありませんのでご安心を」

 

三國によるフォローを聞き、安堵の溜息があちこちから洩れる。

 

 

「何かすごくトゲのある言い方だったけど、みんな気にしないでサクサク進行しようねー。……と言っても今日は初日だから、自己紹介と今年度のスケジュールをさくっと説明するくらいだけど☆」

 

「その前にまず《焔牙》についての注意事項です」

 

「あ、そーだったそーだった♪えーっと《焔牙》は学園側の許可無く具現化しちゃダメだよ?勝手に出したらすーっごく怒られるからね。以上っ☆それじゃあ自己紹介を始めるよー♪」

 

三國のおかげで、無事にHRが動き出す。

透流がボヤッとしていて注意された上に《異能》だと伝えられた時と、入学式前から目立ってた銀髪の少女・ユリエ=シグトゥーナが流暢な日本語で自己紹介したことでざわめいた以外は特に問題無く、自己紹介が進んでいった。

そして悠斗の番になった

 

「そんじゃ次の子行ってみよー」

 

「天峰悠斗。母親がイタリア人で父親が日本人のハーフです。これからもよろしくお願いします」

 

そう言うと俺は席に着いた。

 

「それじゃあ次の人どーぞっ!」

 

璃兎が次の生徒に自己紹介を促す。そのあとは自己紹介が進んでいき、最後の生徒が終えると生徒手帳と学生証、寮生活のしおりが配られた。

 

「全員に行き渡ったかなかな?校則、寮則については後ほど空いた時間で各自目を通しておかないと、めっだからね♪あと、学生証はクレジットカードとして使えるから無くさないように注意するんだよー」

 

学校案内に書いてあった生活費支給はこのような形で行うとのことらしい。

限度額月々十万円にかなりの生徒が色めき立つ。

 

 

「はいはーい。気持ちはわかるけど静かにー。最後にうちのガッコの特別な制度と、寮の部屋割りの話をしたら今日は終了だから、騒ぐならその後でーってなわけで、まずは特別な制度について話をするけど、すーっごく大事なことだからきちんと聞くんだよー♪」

 

手を叩きつつ璃兎は特別な制度について話し出す。

 

「うちのガッコには《絆双刃(デュオ)》っていうパートナー制度が存在するのね。パートナーってことからわかるだろうけど、二人一組になって授業を受けたりするわけ」

 

「どうしてですか?」

 

璃兎の説明にすかさず質問がされる。それに対して璃兎が答えていく。

 

「うちを卒業すると、機関ドーンの治安維持部隊へ配属するって話は知ってるよね。そこの任務は常に二人一組ツーマンセル、もしくはそれ以上のチームで任務を遂行してもらってるの」

 

「……卒業後にいきなりチームで行動しろと言われても無理だろうから、学生のうちに慣れさせておく、ということですね?」

 

「その通りっ。わかってるね、橘さん♪」

 

凛とした声で璃兎に確認したのは長い黒髪の真面目そうな女子であった。

 

「さてさて、《絆双刃》についてなんだけど、さっきも言った通り二人でいろんな授業を一緒に受けてもらうわけね。で、その関係上、ちょーっと駆け足で悪いんだけど今週までに正式な相手を決めて貰うんで、明日からの授業で自分に合ったパートナーを頑張って見つけてねってことで。ふぁいとっ、おー☆……あ、もし決まらなくてもこっちで勝手に決めるから安心していいよー♪」

 

(透流かトラにでも声をかけてみるか)

 

そんなことを考えていると

 

「で、本題はここからなんだよねー。実はうちのガッコって《絆双刃》を組んだ後は、お互いをより深く知り、絆を強くするためにもできる限り一緒の時間を過ごせーって校則があるのね。まー何が言いたいのかっていうとぉ……寮の相部屋になるってことなんだけど♪」

 

長い時間を共に過ごすことで信頼を深めるという理に適った校則に悠斗は少し感心していた。

 

「あの、質問があるんですけど」

「はいはーい、《異能》九重くん、なんでしょー?」

 

「週末までに《絆双刃》を決めろって言いましたけど、それまで寮の部屋割りはどうなるんですか?」

 

「ふふぅ、ナイス質問。そこに気づくなんてうさセンセちょー嬉しい〜♡いい子いい子してあげよっか?」

 

「お断りします」

 

「ぶぅ〜、残念。……さてさて気を取り直して、九重くんの質問への答えも含めて、寮の部屋割りの話をするよ〜♪」

 

笑顔を浮かべ、璃兎は生徒に向かってビシッと指を指し、答えを口にした。そしてその答えは透流と悠斗にとってろくでもない答えだった。

 

「週末までは、今隣の席に座っている人と同居してもらいまーす♪」

 

「「……は?」」

 

「つまり仮の《絆双刃》ってことだね。これは校則なので、拒否は無駄無駄ダメダメ不許可だよ☆ねっ、三國センセ♪」

 

胸の前で手を交差してバツを作る璃兎へ、溜息を吐きつつ無言で頷く三國。

 

「「ちょ…それって」」

 

「良かったね、九重くんに天峰くん♪」

 

俺たちに親指をたてる璃兎。

 

「イエス!!!九重くんの同居人は銀髪美少女のユリエちゃん、天峰くんの同居人はアレが大きいみやびちゃんです。いやー席決めの時後半からめんどくなってテキトーに選んでたらそーなっちゃったんだよね。ま、もう決定しちゃったからね。きゃー、らっきー♡……あ、そうそう。不純異性交遊をすると退学になっちゃうから気をつけるよーに。わかりやすく言えばここで口にするのは躊躇うようなことをシて、三人めの同居人がデキ」

 

「「するかあああああっっっっっ!!!!」」

 

勢い良く怒鳴りながら立ち上がる俺と透流。

直後俺たちの絶叫で我に返ったクラスメイトで大騒ぎになった。

 

 

「マジかよ!?」

 

「あの子とか、いいなぁ……」

 

「きゃーっ、同棲よ同棲!!」

 

「ま、待ってくれ!いくら校則だからって常識的に考えていろいろマズイだろ!」

 

「そ、そうそう!!ダメだって」

 

「……入学式の最中に入試、しかもリアルファイトを行う学校がマトモだと思う?」

 

「「…………」」

 

色々と言いたい放題騒ぎ立てられている中で慌てて透流が抗議するも、璃兎から返ってきた言葉に言葉を失う。

透流が隣の席のユリエとよろしくと言い合ってる時、俺の隣のみやびは…

 

 

 

 

 

 

 

顔を真っ赤にしながら下を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからどーなんだろ…マジで

 

 

 

 




というわけでいよいよ同居人が決まりました。
因みに巴ちゃんの同居人はオリキャラを出す予定です。
この組み合わせは自分がずっと考えてた組み合わせなのでこうして書けたことがとても嬉しいです。
それ以上に俺の小説にお気に入りしてくれる人がいたことがとても嬉しかったです。
みなさんありがとうございます。
それと感想書いてくれると嬉しいな。


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3話 ラッキーすけべ

悠斗に苦難勃発


俺たちは今、危機に瀕している。

 

学園の強大な陰謀によって俺たちは居場所を失いかけているのだ。俺たちは我が身を守るため、仲間に救いを求める…しかし人生とは、残酷だ。なぜなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男なら覚悟を決めて行ってこい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな残酷な言葉で俺たちを女子と同じ部屋に向かわせようとしているのだから。

 

 

「男だからいけないんだろうが!?」

 

「もうあんただけが頼りなんだよトラさん!!!」

 

「喧しい!!!もう消灯時間だ!!!」

バタンッ!!

 

そんな音と共にドアは閉められてしまった。

 

 

 

 

 

「…透流、お前の友達って冷たいな」

 

「奇遇だな。俺もそう思っていたよ」

 

そう言うと俺たちはため息を吐いた。

 

「はあ…腹をくくるしかないか」

 

「…そうだな」

 

「そんじゃ部屋に戻るか…」

 

「だな。そんじゃ俺はこっちだからじゃーな。」

 

「おやすみ」

 

そう言うと俺たちはそれぞれの部屋に向かっていった。

 

 

 

俺は部屋に着くとなんとも言えない緊張感に包まれた。

 

「さて、どうしたものか…いや、変に考えても無駄だ。ここは俺の部屋でもあるんだからな。堂々と入るか」

 

そう言うと俺は部屋のドアを力強く開いた。

するとそこには…

 

 

 

 

 

バスタオルを巻いただけの格好の俺のルームメイト穂高みやびがそこにいた。

 

 

「…え?」

 

「あっ…」

 

 

一瞬何が起こったか分からず静寂が空間を包む。そして…

 

 

 

 

 

「キャァァァァ!!!」

 

 

彼女の悲鳴が周囲に響いた。その時、

 

つるん

 

そんな音と共に彼女は足を滑らせ後ろに倒れていった。

 

「危ねぇ!!!」

 

そう言って手を掴むもバランスを崩し俺も倒れてしまった。すると

 

 

 

 

むにゅん

 

 

 

 

俺の手に柔らかいナニカがあった。

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!ゴメン!!!」

 

俺は慌てて瞬時に飛び起き、彼女に謝った。

 

「ううん、こっちこそゴメンね。助けてくれたのに」

 

みやびはそう言うと、顔を真っ赤にして縮こまってしまった。

 

「…ごめん、私中学まで女子校だったから今まで男の人と接したことなくて」

 

その後、可愛らしいパジャマを着たみやびとジャージ姿になった俺が部屋で向かい合っていた。

 

「いや、気にすんな。俺も悪かった。」

 

俺はそう言うと

 

「そ、そんな天峰君は何にも悪くないよ。私が…」

 

 

そこまで言うとみやびは再び顔を真っ赤にしてアレを思い出してしまってた。

そんな穂高を見て、俺も顔が真っ赤になった。

 

「と、とにかく今日はもう遅いし寝るか」

 

「えっ、あっうんそうだね。おやすみ」

 

「おやすみな」

 

そう言うと俺たちはそれぞれのベッドに入っていった。

 

「すぅ…」

 

すると、みやびは疲れていたらしくすぐに眠ってしまっていた。

 

「…さて、報告は明日でも良いか」

 

俺もすぐに眠ることにした。

 

 

 

 

次の日、俺たちは朝食の為、食堂にいた。食堂はビュッフェ形式で多くの料理が並んでいた。

 

「んじゃ食べるとするか…」

俺たちはそう言いながら食事をとり、席に着いた。

すると、

 

「おはよう悠斗。そっちは昨日大丈夫だったか?」

 

「…透流か。それに関してはあまり言わないでくれ」

 

俺たちの会話の隣でみやびは顔を真っ赤にしていた。

 

するとさらに

 

「相席良いだろうか?」

 

そんな声が聞こえ、そっちを見ると

 

「ええと、確か…誰だっけ?」

 

「橘巴だ。そしてこっちがルームメイトの不知火梓(しらぬい あずさ)だ」

 

「…よろしくお願いします」

 

腰まで届く黒髪の凛とした女子と黒のセミロングの髪と赤い縁の眼鏡が特徴的な女子がいた。

そして席に着くと俺と透流の皿の料理を見て

 

「なぜ君たちの料理はそんなに偏っているのだ?」

 

「…肉好きなもので」

「右に同じ」

 

「それはダメだ。いくらビュッフェだからってバランスをとらないと。私の野菜を分けてやる」

 

そう言うと橘は俺たちの皿にどんどん嫌いなセロリと茄子を乗せてきた。

 

「それでは雑談も適当なところで、そろそろ食事にしよう」

 

「そうだな、食べるか」

 

そう言うと俺たちは食事を始めた。

 

「ときにユリエ、みやび。その……こういう言い方は九重と天峰を前にして申し訳無いが、週末までとはいえ同居生活は大丈夫そうか?」

「ヤー。大丈夫です」

「えっあ…あの」

 

ユリエは問題なさそうだがみやびはあんなことがあったからな…

 

「九重、天峰、今ので気分を害したらすまない。大きなお世話だとは思ったが、やはりキミたちは年頃の男女であるわけで何事か問題が起こらないかが心配でな……」

 

こほんと咳払いしつつ、その問題とやらを想像してか頬を僅かに赤らめる巴。

 

 

「いや、いいさ。そう思うのも無理はないしな」

 

「それなら……。しかし、もし困ったことがあったらいつでも言ってくれ。必要とあれば内密に私たちの部屋で過ごして貰っても構わないぞ。なぁ梓」

 

「はい、私達は二人とも大歓迎です。」

 

「お気遣い感謝します。……ですが本当に大丈夫です。トールは優しい人ですので」

 

「わ、私も…」

 

「みやび、無理はしなくて良いぞ」

 

「う、ううん。私は大丈夫。昨日は、ビックリしただけだから。」

 

「そうか。ならいいんだが」

 

(意外だな。みやびなら橘達に頼むと思ったんだが)

 

そんなことを考えてると。

 

「昨晩も、トールは先に眠ってしまった私を優しく抱いてくれましたから」

 

「「「「ぶーっ!?」」」」

 

透流と巴が味噌汁、みやびが牛乳、悠斗がコーヒーを吹いた。

そしてなぜか梓だけは平然としていた。

 

「ユリエ!?」

「なっ、ななっなっ!?」

「ユユユ、ユリエちゃん!?」

「透流、お前!?」

「ーー?」

 

激しく動揺する四人に対し、鈴の音を響かせてユリエが小首を傾げる。

つーか透流お前そんなキャラだっけ?

 

「橘、穂高、悠斗!今のはーー」

「こ、九重!!ななっ、なんということをしているんだ!!しかもっ、ねっ、眠っている相手にだと!?そんな破廉恥な男とこれっこれ以上同席しているなど不愉快だ!!私はこれで失礼する!!」

 

ユリエの発言を「そういう方向」に受け取った巴は激昂したまま食堂を出て行った。

 

「いやーん九重君のえっちー」

 

すると無表情の梓が棒読みでそんなことを言いながら巴の後を追っていった。

一方悠斗は一度激しく動揺したもののすぐ冷静さを取り戻し、ユリエがまだ時差に適応しきれずベッド以外で寝てしまい、透流がユリエを抱き上げてベッドに運んだ可能性を導き出した為、担任に突き出すのは詳しい事情を聞いてからでも遅くないと判断していた。

 

 

「……騒々しい。何をしているんだ、貴様たちは」

「ちょっとな……」

 

 

そこに現れた葵に、厄介なことになったもんだと思いつつ透流は溜息を吐いていた。

詳しい事情を聞き、自身の予測があっていた事を確認すると、食事を摂り始めたばかりの葵と彼に付き合う気の透流とユリエに先に行くと伝えて、悠斗とみやびはは食堂を後にした。

 

 




オリキャラ登場ー!!!
今回は若干短いですがこの辺までとします。
次回は特訓、その次は早ければ絆双刃の決定までやりたいと思っています。
果たして悠斗の絆双刃は誰に…(本当は決定してるしみんなわかってると思うけど。)

これからも更新できる限り早めにします。




それと感想書いて欲しいな…


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4話 誓いの言葉


いよいよ授業と絆双刃が決まります!!!!














「さあさ、それじゃあ記念すべき最初の授業をはっじめるよー♪」

 

 

朝からハイテンションな璃兎が、両手を広げて授業開始を宣言した。

悠斗は欠伸を噛み殺しながら授業に耳を傾ける。

本日の授業内容は初日ということもあり、《黎明の星紋》についてだ。自身の能力に関係する内容の為、真面目に聞いておかなければならないと少しばかり気合を入れ直す。

 

 

「ーーというわけで《黎明の星紋》による身体能力超化は、掛け算みたいなものだから、訓練で体を鍛えれば鍛えるほど効果が高まるんだよー☆ここまでオッケー?」

 

 

昨日は不安に思えた璃兎もウサギ耳ヘアバンドにメイド服という格好を除けばなかなか教師らしく見える。

性格はともかく、技術と能力に関しては心配ないという三國の言葉に偽りはないようだ。

 

 

「で、《黎明の星紋》は《位階》って呼ばれるランク付けがされてるのよね。みんなは昇華したばかりだから《位階1》ってわけ。これは学期末毎に《昇華の儀》ってのをやってランクアップさせて行くの。《位階》がそのまま成績になるから、一年間まったくランクが上がらないと見込み無しとして除籍処分、つまり退学になっちゃうので日頃から心身ともに鍛えるんだぞっ☆」

 

 

璃兎の話によると上のランクに昇華するためには、より強靭な肉体と精神力が必要になるとのことで、今学期は特に体力強化を重点的に行っていくとのことらしい。

 

 

(ようは努力の分だけ強くなるってわけだな。心身ともに鍛えるの究極系だな。)

 

そんなことを考えながら悠斗はフッと笑った。

 

午前の授業を全て受け、学食で昼食を摂った後の午後の授業、いよいよ初めての体力強化訓練が始まるということで、新入生一同は体操服に着替えて校門前へと集合していた。

体力強化とは言われているものの、その内容は明らかにされておらず、どんな内容の訓練をやらされるのか期待と不安に胸を躍らせていた者も多かった。

 

 

「さてさてさてーっ☆今日からしばらくは体力強化ってことでマラソンだよー♪」

 

 

だが、璃兎の宣言で殆どの人が嫌な表情を浮かべた羽目になった。

とはいえ、体力強化するにあたり、もっとも単純かつ効率がいいのは走ることなのは確かでもある。

 

 

「ま、しばらくは軽めにいこっか。ってなわけで学園の周りをじゅっしゅーう♪」

「……十周って、結構距離がないか?」

「ふんっ、一周四キロといったところだな」

「十周で四十キロ。ほぼフルマラソンってわけだ」

 

透流の問いにトラと悠斗で答えると、透流はげんなりしていた。

フルマラソンの距離に加えて、学園の外周はアップダウンも激しく、海に面した埋め立て地という土地柄吹き付ける風が強い為、相当キツイ事は容易に想像できる。

 

 

「よ、四十キロも走るの……?」

 

 

三人の会話を耳にし、透流の隣にいたみやびが不安そうに呟く。

 

 

「もしかして長距離が苦手なのか?」

「えっ?あ……う、うん……」

 

 

透流の顔を見て一瞬表情を強張らせるみやび。

軽くショックを受けつつも、みやびが女子校出身で男が苦手なことを思い出し、しょうがないと思う透流だった。

 

 

「走るの、苦手だから……。得意なことなんて無いけど……」

 

 

か細い声で言った後、みやびは大きく溜息を吐く。

 

 

「どれくらいきついかはわからないけど、《黎明の星紋》で基礎体力も上がってるんだし、これまでの自分を基準に考えなくてもいいんじゃないか?」

 

「そうかな……?」

 

「ああ。それに四十キロが軽めって言ってるわけだし、今の俺たちでも十分走りきれる距離ってことじゃないか?もし今日は走りきれなかったとしても、これからしばらくは毎日走らされるみたいだし、そのうち慣れて完走できると思うぜ」

 

「慣れる、かな……?」

 

「ああ、絶対に慣れる。人間だれだって最初から得意なもんなんてたかが知れてんだから」

 

「そっかぁ……。そうだよね、……が、頑張ってみる」

 

 

悠斗の励ましで多少なりとも気持ちが前向きになったのか、胸元でぐっと両手を握るみやび。

悠斗はそんなみやびを見て、フッと笑っていた。

その日のマラソンは悠斗を除いた全員が完走できず、新入生が二人、退学届けを提出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学三日目の一時限目は新入生全員分の写真と名前、武術もしくはスポーツ経験の有無や具現化する《焔牙》について記されているリストが手渡され、それをチェックし《絆双刃》を組む候補を上げておけというわけだ。

 

 

「ふんっ、この中で僕のメガネに適う者がいるといいんだがな」

「トラが言うとそのままだな」

「ナイスギャグ。10点」

「ギャグではないっ!」

 

 

悠斗と透流がトラの発言の揚げ足を取り、笑い合う。

 

 

 

「ま、それはともかくトラさえよかったら、俺と組まないか?」

「む……?」

 

 

一通り笑った後、透流がトラに提案を持ちかける。

 

 

「知らない仲じゃないし、悪い話じゃないと思うんだが……」

 

 

「良いんじゃねえの?俺としてはお前らのどちらかと組むより、組んだお前ら二人と闘ってみたいって気持ちの方が大きいからさ」

 

「悠斗はそう言ってくれてるけど、トラはどうなんだ?さっきも言ったけど、悪い話じゃないと思うんだが……」

 

「悪いだと?むしろ……ーーっ!!ふ、ふんっ。貴様がどうしてもと言うのなら考えてやっても構わないがな」

 

 

予想通りの反応に透流は内心で苦笑していた。

 

 

「それに、いい加減こいつと同室はうんざりだからな」

 

 

隣の席で突っ伏して寝ている男子を指し、葵はボソッと呟く。

この男はタツと言って、葵曰く体がでかくて筋肉バカで、体育会系の暑苦しい筋肉バカとのこと。人の話を聞かない大雑把なやつで、細かい性格の葵とは初日から噛み合わないらしい。

 

 

「《絆双刃》決定おめでとう透流。」

 

「土曜日に学園側に申請するまでまだ時間があるけど、ありがとうな。ところで悠斗はどうするつもりなんだ?」

 

「現状維持を狙って誰にも申請しない方向だな」

 

 

完全に学園神頼みの悠斗に苦笑を浮かべる透流だった。

 

 

「ユリエはどうするんだ?」

 

 

透流は自分の現在の仮《絆双刃》に話を振る。

 

 

「何人かに声をかけてみるつもりです」

 

「いい相手と組めるといいな」

 

「ヤー。ありがとうございます」

 

「みやびはどーすんだ?」

 

「私は巴ちゃんと組みたいなっておもっているけど…」

 

「そっか、いい相棒と組めると良いな」

 

「…うん」

 

 

この後、三、四時限目に運動能力測定を行い、午後から昨日に引き続き体力強化訓練を行って一日が終わった。

 

 

 

 

「とまあこっちはこっちで充実した学校生活を送っているよ」

 

『そっか、元気そうでよかったよ天峰君』

 

授業が終わったのを機に俺は人気のない場所で並森の高校に通いながらボンゴレボスとして日夜奮闘している沢田綱吉に電話していた。

 

『そういえば月見先生だっけ?その人はどんな感じなの?』

 

「お前のような《超直観》じゃないから断言できないけど、なんつーかやばい気をかんじたな」

 

「そっか、オレもできる限り調べてみることにするよ」

 

「おうよ、そんじゃよろしくな」

 

そういって俺は電話を切って部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

入学四日目からは《無手模擬戦(フィストプラクティス)》という自由組手の授業が始まった。

素人の多い新入生に最初から怪我の可能性がある組手を行わせている理由は技術は教わるだけでは意味が無く、使用してこそ身につくという学園側の方針があるからだ。

その模擬戦で昨日の運動能力測定で目立っていたとある女子二人が周囲の注目を浴びていた。

橘巴とユリエ=シグトゥーナ。

二人の組手は見る者に驚きと感嘆の声を上げさせていた。

まるで舞うような動きで息も吐かせぬ連撃を見せる巴。

それに対しユリエは接近と後退を繰り返すヒットアンドアウェイを主体に自身の速さを有効的に使って対抗する。

 

 

「ユリエの動きもすごいけど、橘も負けてないな……」

 

 

手数の多さで攻めるユリエとそれらをほとんど捌きながら一瞬の隙をついて攻防を入れ替える巴の互角の攻防に透流も感嘆の声を上げる。

 

 

「動きからして古武術のたぐいだな。」

 

「なんだ貴様らは、橘流を知らんのか?」

 

「橘流?」

 

「古武術を主体に様々な武芸に通じている流派だ。有名だぞ。」

 

「そうなのか。俺は初めて見る」

 

「昨日のリストに書いてあっただろう。何故読んでいないのだ、貴様らは……」

 

「《絆双刃》はトラと組むわけだし、別に他のやつをわざわざチェックしなくてもいいかなぁと……」

 

 

苦笑いをしつつ透流が答え、トラが頭を抱えた。

そこで組手終了のホイッスルが鳴り響く。

 

 

「はいはーい。そこまでー。三分休憩の後、今度は相手を変えてねー♪」

 

 

その宣言にユリエと巴は一礼して、一言二言交わして組手を止める。

どちらも決定打は与えられなかったようだ。

 

 

「それじゃあ透流やるか」

「そうだな」

 

 

ユリエと巴に分かりやすく触発された悠斗と透流が静かに距離を開ける。

そんな二人に対し、トラは先を越されたと何処か悔しがりながら二人から離れる。

トラが十分離れたのを確認した二人はゆっくりとした動作で拳を掲げ、笑い合う。

 

 

「「……ーーっ!!」」

 

 

一瞬の静寂、そして二人は拳を交わし動き出す。

悠斗はバックステップで距離を取ろうと床を蹴るのに対し、透流は距離を取らせない為に突撃チャージする。

すると悠斗は低い体勢で透流との距離を一気に詰め右の中断突きを繰り出した。

それを往なし、反撃に転じようと右手を握り締めた透流だが、外から回り込むように鋭く飛んでくる左手に気付き、それを右手で防ぐ。

左フックを防がれた悠斗だがそのまま左手を強引に振り切り、透流の上体を崩すと同時に透流に背を向ける。振り切った勢いを殺すこと無く体を捌いた悠斗は左脚の回し蹴りを透流に放つ。

だが透流は崩された上体を戻そうとはせずにむしろその流れに乗って距離を取ることで回し蹴りを回避し、反動で体勢を立て直しきれていない悠斗に攻勢を仕掛けようと距離を詰める。

勝ったと透流は思った。だが次の瞬間それが間違いだったことに気付いた。

悠斗は空を切った左脚でそのまま踏み込み、右の正拳付きを打ち込む。そして透流の鳩尾に当たる直前で寸止めしてニヤリと笑みを浮かべた。

 

「なかなかやるな透流」

 

「俺の負けだな悠斗」

 

 

振り被った拳を開き、顔の高さに上げることで降参の意思を示した透流の鳩尾から拳を離し、手を差し出す悠斗。

それに答え、透流はその手を握り返して笑みを浮かべる。

 

「すごいね天峰くんは」

 

透流との試合の後、みやびが俺に話しかけてきた。

 

「みやび、もしよかったら次は俺と練習しないか?」

 

「えぇ!?だ、だめだよ私なんか天峰くんの相手になんかならないよ」

 

「簡単な防御の方法とかを教えるからさ、ちょっと練習してみようぜ」

 

「う、うん…じゃあよろしく」

 

そういうと、俺とみやびは練習を始めた。なぜ俺がみやびに練習を持ちかけたのかというと、マラソンの時から、みやびは自分に自信を持てていなさそうだったので力になりたかったからである。

 

「まず、相手がこんなふうに中段の突きを打ってきたら…あいてのこぶしの勢いを利用しながらこうやって住なすんだ」

 

「ええっと…こう?」

 

「そうそう、こんな感じ。それで次は…」

 

「天峰君…ありがとね」

 

「なんだよ急に?気にスンナ」

 

「…うん。そ、それと私のこと…名前で呼んでくれるかな?」

 

「ん?別にかまわないぞ。じゃあ俺のことも名前でいいよ」

 

「うん…分かった、ゆ…悠斗君」

 

「よろしくな、みやび」

 

そんなことを言いながら、授業は終わっていった。

 

 

 

「ではでは《絆双刃》のパートナー申請は、今日の夕方六時までに事務局へ届け出ること。それを過ぎたらよっぽどの理由がない限り卒業まで変更ができないから、パートナーとは仲良くやるよーに。うさセンセとの約束だぞっ☆」

 

 

五日目の金曜日は特に変わりの無い一日を過ごして迎えた土曜日。

SHRショートホームルームでの最後の通達が終わり、放課後を迎えると、パートナーを見つけている人達は組むと決めた相手とともに続々と教室を後にしていた。

 

 

「さーて、俺はどんな奴と組むのかな?」

 

俺は特に希望が無い為、学校が選んだ相手と組むことになるだろう…そんなことを考えていると前から、知っている二人が向かって来た。それは…

 

「橘と不知火?」

 

「ん?ああ天峰か、どうした?」

 

たしかみやびは橘と組もうと思っていたはずだ…しかし彼女の隣には彼女のルームメイトの不知火梓がいた。

 

「なあ橘、みやびのやつがお前のとこに来なかったか?」

 

「ああ、たしかにみやびとあとユリエにもデュオを頼まれたんだが…梓がまだ周囲とうまくなじめていなかったようでほっとけなくてな、二人には悪いが断らせてもらった。」

 

「…そっか」

 

そのとき、俺はなぜかみやびの悲しそうな顔が浮かび、それが頭から離れなかった。

そして、

 

「なあ橘、みやびがどっちに行ったか分かるか?」

 

「あ、ああみやびならたしか教室のほうに行ったと思う」

 

「そっか、サンキューな」ダッッ!!

 

俺は教室に向けて全力で走っていた。

 

 

 

 

 

(ガラっ)「みやびっ!!」

 

 

俺がそういって教室のドアを開けると窓の近くにみやびがいた。彼女はこちらを驚いたような目で見つめ

 

「ゆ、悠斗君どうしたの?」

 

そう聞いてくる彼女にどんどん近づくと彼女の手を握り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みやび!!俺と絆双刃になってくれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそうみやびの目を見ていった。

 

 

 

 

「え…えぇ!?だ、だめだよ私なんか、悠斗君はもっと強い人と組んだほうが…」

 

俺の突然の誘いにみやびは戸惑いながら断ろうとしたが

 

 

「なんつーかさ、絆双刃ってやっぱり信頼できる奴と組まないとダメかなってちょっと思ってさ、それならみやびと組もうって思ったわけ」

 

「だ、だけど私ほかの人より運動神経なくて…この間のマラソンでもみんなより遅れてたし…やっぱり私なんかより」

 

「心配すんな、俺がみやびを強くしてやる!!」

 

そういうと、俺はみやびの顔を真正面から見た。

みやびはすこし顔を赤く染めながら

 

「私でいいの…?」

 

と、俺に聞く。そして俺は

 

「みやびが良いんだ。」

 

と答えた。するとみやびは顔をさらに赤く染め、

 

「…よ、よろしくお願いします」

 

と答えた。

 

 

 

 

 

 

夕日が赤く染まる空に互いの《焔牙》を重ねる。そして告げる。

絆を結ぶ魂の契いの言葉を

 

 

 

 

 

 

「「絆を結びし者たちは能う限り同じ時をともにせよ」」

 

 

 

 

 

 

「「喜びの時も」」

 

 

 

 

 

「「悲しみの時も」」

 

 

 

 

 

「「健やかなる時も」」

 

 

 

 

 

「「死が二人を分かつその日まで」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だれだよこの言葉考えたの

 




やっとここまで書けました。



自分なりにかけたと思っています。




それと自分の作品をお気に入り登録してくださった皆様ありがとうございます。




これからも感想お待ちしています。


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5話 新刃戦にむけて

今回は新刃戦の発表と特訓の回です


週が明け、月曜日の朝。

HRの時間となり、やたらとハイテンションな璃兎が教室に入ってきた。

 

 

「おっハロー♡みーんな無事に《絆双刃(デュオ)》が決まってよかったねー♪うんうんっ☆

さてさて、パートナーが決まったことで今日から心機一転、席も《絆双刃》同士の並びに変更しよっか♪……ん?おやおやぁ?仮同居のときとパートナーが変わって無い人もいるみたいねー?九重くんも天峰くんも結局以前と同じ絆双刃だし〜」

 

「相性がよかったんです」

 

「わわっ!どんな相性?どんな相性?」

 

「性格」

 

「同じく」

 

「ちぇー……」

 

面白い答えが出てこなくて璃兎はつまらなさそうにしている。

 

「じゃあ九重くんの前の席に座る仲良しコンビは?」

 

「誰がこの筋肉バカと仲良しだ!」

 

トラの《絆双刃》はタツとなっていた。最終的に《絆双刃》申請を行わなかったのはトラ、タツの二人だった為、学園側が仮《絆双刃》をそのまま正式な《絆双刃》にしたと悠斗は聞いていた。

…虎と竜か、案外いい組み合わせかもな。

 

「んもー、トラくんってばセンセーへの口の聞き方がなってないよ。めってしちゃうぞ☆」

 

「断る!」

 

「ほんっとなってないなぁ。……まぁいっか。さてさて話を続けるけど、《絆双刃》も決まったことだし、早速来週に《焔牙(ブレイズ)》の使用を許可した模擬戦ーー《新刃戦(しんじんせん)》を行っちゃうよー♪」

 

その発言に生徒が驚きと戸惑いで騒めく。

《焔牙》の使用が許可された模擬戦が行われるという話は聞いていたが、これほど早くに行われるとは誰も思っていなかった。

 

「うんうん。みんなの言いたいことはよーくわかるよ。アタシも学生時代に同じこと思ったもん♡いきなり何を言い出すのよこのクソメガネーって。……あ、今の三國センセにはないしょね」

 

学生時代の担任は三國だった事が判明した。

 

 

「それじゃあ《新刃戦》のルール説明するから、耳を立てて聞いておくんだよー☆」

 

 

そう告げて頭の上で手を立てて、うさぎの耳っぽいアクションを取る璃兎。

 

「まず日程だけどー、来週の土曜日ーーつまりGWの前日ね。誰かが病院送りになってもいいように休み前にやるってわけ♪」

 

つまりは毎年病院送りになる生徒がいるという事だ。

 

「開始は十七時、終了は十九時までの二時間ってことで、時計塔の鐘が合図だからねー。場所は北区画一帯になるよー」

 

「北区画ってことは、ここーー校舎の中も有りってことですか?」

 

透流が口にした疑問に璃兎は親指を立てて頷いた。

 

「答えはイエス♡《焔牙》にはそれぞれ特性があるわけだし、それに合わせて正面から闘うも良し、戦略を練るも良し。地形を考慮して、いかに自分が有利な状況で闘うかも重要ってわけ♪」

 

(どうやら相当実践的な内容だな。みやびとの連携も大事になるな)

 

悠斗は璃兎の言葉を聞きながら今後の対策を考えていた。

 

「さーてさてさて、お楽しみの対戦相手について……ななななんとー♪」

 

璃兎は満面の笑みを浮かべ、指を立てて楽しそうに言った。

 

「全員、敵♡」

 

その言葉に、悠斗は思わず笑みを浮かべた。

 

その日の昼休み。

悠斗、みやび、透流、ユリエ、巴、梓、トラ、タツの八人で昼飯を学食で食べていた。

そして食事の合間に出される話題は当然《新刃戦》の事だった。

 

「はぁ……。まだ《絆双刃》が決まったばかりなのに……」

 

「決まったばかりだからだと思うぞ、みやび」

 

「俺も悠斗と同じだな。この時期だからこそ、意味があるんだと思う」

 

悠斗の言葉に、透流も同意した。

 

「どういうことなの?」

 

「早くから実戦形式の戦闘を経験させておきたいからだろ。授業の座学と実戦とじゃ得る経験値が違う。聞くだけのただの知識ではなく、経験として蓄積させ実感させることで本当の知識として理解させたい。簡単に言えば習うより慣れろってことだ」

 

みやびの質問に悠斗が答えた。

 

「ふんっ。時間帯や範囲の広さ、バトルロイヤルというルールからしても、不確定要素を高くし、より実践的な状況を用意してくれているしな」

 

「時間帯?そういえばずいぶん遅くにやるよね。それはどうして?」

 

「開始から三十分程度で夕暮れ、終了三十分前になれば日没で視界不良。視界の悪さが戦況に大きな影響を及ぼすことも経験させておきたいんだろ」

 

「そっかぁ。いろいろ理由があるんだね……。理由はわかったけど、もっと《焔牙》に慣れてからでもいいと思うのになぁ……」

 

これまで《焔牙》を扱う授業は無く、そしてこれから《新刃戦》まで《焔牙》を扱う授業は無い。

 

「みやび、今回は入試と違って負けても終わりというわけでは無いから、背伸びをせずにいけばいい。今日の放課後からは《焔牙》を使えるのだから地道に慣れていこうじゃないか。もちろん俺も手伝うしさ。」

 

確かに授業は無いものの悠斗の発言通り、本日から《新刃戦》までの期間は申請さえすれば、放課後に学園内のみだが《焔牙》の使用許可が下りる。

そしてほぼ確実にクラス全員が今日の放課後から《焔牙》の訓練を始めるだろう。

だが、ここで一つ考えなければならない事がある。

 

「まぁあまり手の内をさらし過ぎないようにもしんないといけねーけど。」

 

説明で伝えられた事を思い出しながら悠斗は言った

《新刃戦》に向けて《焔牙》を使用する事は許可されるが、《焔牙》を使った訓練を他の《絆双刃》に無許可で見学されてしまう事だ。

いわゆる諜報行為が学校側から許可されている。

誰がどのような《焔牙》を持つのかは既に情報として与えられている。

だが同じ武器でも戦闘スタイルは人によって違い、それによって武器は様々な変化をする。

この二つが揃って初めて対策を練る事が出来るようになる。

その情報を集めるところから、つまりこの時点で既に《新刃戦》は始まっていることになる。

 

「まったく、厄介な話だな……」

 

「ふんっ、顔はそう言っていないぞ、透流」

 

「トラも透流の事言えないと思うんだが……。まぁそれを言ったら俺もか」

 

やはり、強敵との本気の手合わせがこんなにも早く叶うとは思ってもおらず、悠斗は楽しみで仕方がなかった。

 

「こ、九重くんもトラくんも悠斗くんも、すごいやる気いっぱいだね……。やっぱりあの賞与があるからなの……?」

《新刃戦》で優秀な成績を収めた《絆双刃》には、特別賞与という名目で学年末を待たずに昇華の機会が与えられる。

必ず一度で《位階昇華》できるとは限らない為、《昇華の儀》は少しでも多く受ける事に越したことは無いというのが普通の考えだろう。

この三人は賞与以外にも理由がある。

 

「賞与があるからってわけじゃないんだけどな。もちろん、それも理由の一つだってことは否定しないけど」

 

そうみやびに返しながら、透流は悠斗の方を見た。

 

「次は負けないからな、悠斗」

 

「面白え、返り討ちにしてやる。」

 

不敵な笑みを向け合い、軽く拳を交わす。

 

「え、えっと……」

 

「ふふっ、みやびの絆双刃はやる気十分だな。君も頑張らないとな。」

 

「う、うん……。でも、わたしじゃ足手まといに……」

 

「大丈夫だ。俺がサポートするからな。これは一対一じゃなくって、《絆双刃》による勝負なんだからさ」

 

みやびの不安を和らげる為の言葉を紡ぐ悠斗。

その言葉にみやびは少し安心したような表情をした。

 

「みやびと悠斗は中々うまくいっているみたいだな。私たちも負けてられないな梓。」

 

「…そうですね。誰であろうと容赦しません。」

 

巴の言葉に梓がそう返していた。梓は初めは周りに壁を作っていて一人でいることが多かったが今ではだいぶしたしくなれたと巴が言っていた。

 

「ーー《絆双刃》か……」

「どうかしましたか、トール」

「いや、《絆双刃》で思い出したんだけどさ、以前、理事長が言ってた《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》って何のことだったんだろうなって……」

 

「ふむ、あれか。私も気になってパンフレットを見返してみたが、そのような言葉は載っていなかったな。語感から《絆双刃》と関係することに思えるし、わざわざ理事長が我々のいずれかが《絶対双刃》に至ることを願うといったことを口にしている以上、何か重要なことではあるのだろうが……」

 

「ふんっ。彼女にとって僕らが有益な実験体モルモットと認識されたときにでも明らかになるんじゃないか?」

 

「…まぁ今はあまり気にしなくていいと思うぞ。いつか分かるだろうし」

 

悠斗は透流たちの言葉に耳を傾けながらそう言った。

 

「それにしてもモルモット、ですか……」

 

先程のトラの皮肉めいた言葉を思い出し、ユリエが眉を顰める。

 

「まぁ、そういう言い方に気分が悪くなるのはわかるよ、ユリエ」

 

「ナイ。そうではなくて……」

 

「そうじゃなくて?」

 

「私はハムスターの方が好きなので、そちらの方が……」

 

何ともズレたユリエの言葉に全員が苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

それから悠斗とみやびは人気のない場所で『焔牙』の特訓をした。

 

「まず自分の武器の特性を知らないといけないな。みやび、《焔牙》を出してくれ」

 

「う、うん。分かった。」

 

俺の言葉にみやびはそう返すと

 

「《焔牙》!!!」

 

そう言って己の《焔牙》を出した。

すると、自分の体の何倍もの大きさの《騎兵槍(ランス)》

が出現した。

 

「ふむ…みやびの武器は俺の槍みたいに手数や貫通力よりも一撃の破壊力と攻撃範囲の広さを活かした闘いが得意そうだよな。それなら俺の槍で相手の動きを制限して…」

 

「凄いね悠斗くん…色々詳しくて。私、力になれるかな…」

 

「…みやび?」

 

「…私、勉強のスポーツも得意なこと何も無いから。そんな私が悠斗くんみたいに凄い人と絆双刃になれたんだから迷惑かけないように頑張ろうとしてたんだけど…やっぱり私じゃ悠斗くんの力に…」

 

「なれるさ、俺だって苦手な相性はある。互いの苦手をサポート出来るからこそ絆双刃なんだ。」

 

自信なさげに言うみやびに悠斗はそう返した。

 

「…それに、俺の知り合いに勉強もスポーツも全然ダメで挙句の果てにはチワワにビビるってダメダメなやつもいるぜ…でもそいつには誰にも負けない長所がある。それと同じようにみやびにも俺より凄い長所が絶対あるさ」

 

悠斗は自分のボスにして、裏社会に染まっていた俺に友達と言ってくれた親友のことを思い出した。

 

「だから、期待してるぜみやび(ニッ)」

 

「…ありがとう悠斗くん、頑張るよ」

 

「よし、その意気だ」

 

 

 

それから一週間という時間はあっという間に過ぎ去った。

それぞれの《絆双刃》が知略を巡らし、己が実力刃を研ぎ上げるには短い期間だっただろう。

準備が十分かと聞かれれば、殆どの者が否と答えるだろう。

だがそれでも幕は上がる。

夕闇と剣戟に彩られた《新刃戦》が今始まる。

 




書き終わりました!!!

次はいよいよ新刃戦です!!!

これからもよろしくお願いします。


感想も待ってますのでよろしく!!!


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6話 新刃戦開始

いよいよ新刃戦開始です。


(そろそろか……)

 

 

学園内のどこからでも見る事のできるあの時計塔を見つけながら悠斗は内心で呟く。

《新刃戦(しんじんせん)》当日の夕刻、悠斗はくじ引きで決まった場所で待機していた。

周囲は木々で囲まれており、視界としてはあまり良いとは言えない。

 

「みやび、今回の闘いは講堂と違って地の利を利用した闘いもある。油断は禁物だ」

 

「うん…気をつけるよ」

 

俺の言葉にそう返すみやびの声は少し震えていた。

そんなみやびに俺は

 

ぽんっ

 

「ふぇ?」

 

軽く頭を撫でた。

 

「心配すんな。みやびはこの数日で『焔牙』の扱いもだいぶ上達してたし毎日のランニングでスタミナもついてる。だから自信を持てって。それに、いざという時は俺がいるんだし」

 

「悠斗くん…ありがとう、頑張るよ」

 

「その意気だ」

 

そんな会話をしていると、

 

リーンゴーン……リーンゴーン……リーンゴーン……。

 

「行くぞみやび!!」

 

「うん!!」

 

塔の鐘が《新刃戦》の開幕を告げる。

その瞬間悠斗とみやびは駆け出した。

鋭く開かれたその瞳で周囲を見回しながら、敵となる《絆双刃(デュオ)》探して。

 

 

しばらく森の中を走っていると、茂みの中から

 

「おりャァァ!!」

 

「くらえぇぇ!!」

 

斧とハンマーの形をした《焔牙》を振りかざした二人組が襲ってきた。…しかし悠斗は

 

「バレバレだ」

 

と、長槍を高速で振るい、二人を一蹴した。

 

「よしっ行くぞ」

 

「あ…うん」

 

みやびは悠斗の声を聞くとそのまま悠斗の後を追った。

 

しばらく歩いていると、

 

「まっまってくれ!!相棒が急に苦しみ出して…」

 

「わ、悪い…医務室まで連れてってくれ…」

 

腹を抱えながら苦しむ男とそれを介抱する男の二人組がいた。

 

「ゆ、悠斗くん…早く医務室まで連れて行かないと」

 

「…そうだな、立てるか?」

 

と、男の側に近寄ると

 

「ハハッ甘えよ!!」

 

いきなり腕からナイフ型の《焔牙》を出すと悠斗に斬りかかった。しかし悠斗は片手でそれを掴むと

 

「…その手の小細工は、もっと演技が上手くなってからやったほうがいいぞ」

 

そう言って男を手刀で意識を奪うと、

 

「ついでにあんたも」

 

そう言って、もう一人も槍で倒した。

 

それからも様々な手段を使う連中を倒していき、十八時を回った頃には、辺りに他の敵が見られなくなっていた。

 

「ふぅ、この辺りの敵はあらかた片付いたな」

 

「悠斗くん、これからどうする?」

 

「そうだな…今まで探してなかった校舎のほうを探しに行くか」

「うん、分かった」

 

悠斗とみやびはそう言うと校舎へと目指した。

 

 

 

校舎に入り、廊下をしばらく走っていると

 

 

「来たな悠斗、みやび」

 

声の方を見ると、そこには巴と梓の二人がそれぞれの《鉄鎖(チェイン)》と《大鎌(デスサイズ)》を手にして待ち構えていた。

 

「校舎に入っていきなりお前たちに当たるのか」

 

「時間が時間なだけにキミと手合わせするのは無理かと諦めかけていたが、こうしてその機会を得た事を嬉しく思うぞ」

 

「それはこっちの台詞だ。だから最初から全力で来い。俺の方も加減なんて出来そうにない」

 

「違いない…梓!!準備はいいな?」

 

「はい、いつでも構いません」

 

「行くぞみやび!!」

 

「うん!!」

 

そして闘いが始まった。

巴の鉄鎖が俺に向かって飛んできた。鎖とはただ相手を拘束するだけの武器ではない。しならせた鎖本体の一撃は骨など容易く砕いてしまう。しかし、同時に扱うのは至難の技だが、巴はそれをまるで自分の体の一部のように使いこなしていた。俺はその鎖をなんとか避けるが、そこに梓の大鎌が迫ってきた。

 

「うぉ!?あぶねっ!!」

 

そう言って大鎌を回避するが、そこに再び鉄鎖が迫ってきて、俺の肩をかする。そのまま梓が上段の一撃を与える。

 

巴の鉄鎖で俺の動きを封じ、梓の大鎌の強力な一撃を負わせる。見事なまでのコンビネーションだった。

 

 

「悠斗さん、私たちだけではなく、周りも見たほうが良いですよ。」

 

梓のそんな言葉を聞いて見てみると、そこは廊下の袋小路になっている場所だった。

 

「こんだけ狭かったらもう槍も上手く振るえないでしょう?私たちの勝ちです。投降しますか?」

 

と、梓が自信を持ってそう言ってきた。しかし、俺は

 

「悪いな、俺には諦めるって単語は無いんだよ。だから…もうちょっとだけ付き合ってもらおうかな?」

 

「…そうですか、なら容赦しません。巴さん、やりましょう」

 

「そうだな、すまんな悠斗、これで終わりだ!!!」

 

巴と梓が左右から俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

それに対し俺は、

 

 

「なあお前ら、誰か忘れてねえか?」

 

「「っ!!!」」

 

俺の言葉に二人があることを思い出した。そう、この場所にさっきまでいた彼女がいないことに

 

 

「今だみやび!!!」

 

すると、轟音とともに横の壁を壊しながらみやびが自身の《騎兵槍(ランス)》を超化された腕力で抱え、突撃してきた。

 

「巴ちゃん、梓ちゃん、覚悟ーーっ!!」

 

「しまっ…!」

 

とっさに梓は自身の大鎌でガードするが、みやびの騎兵槍を防ぎきれず、巴を巻き込んで吹き飛ばされた。

 

「「うわぁぁぁ!!」」

 

吹き飛ばされた二人はそのまま戦闘不能になり、俺たちの勝利となった。

 

(いい一撃だ!)

 

内心でみやびに称賛の言葉を送る。

みやびが毎日走っていた事を悠斗は知っていた。雨が降っていようが一日も休む事なく走っていたみやび。そんな彼女の努力と積み上げてきたものへの自信がこの重たい一撃を生み出している。それを悠斗は知っていた。だからこそみやびに憧れ、彼女の力になりたかったのだ。

 

「や、やったよ悠斗くん。勝ったよ!」

 

「みやびのおかげだよ」

 

「…え?」

 

「今回の作戦はみやびの存在があったからこそ出来たんだ。本当にありがとう」

 

「悠斗くん…」

 

みやびは俺の言葉に頬を少し赤くして微笑んだ。

 

「二人とも大丈夫か?」

 

俺たちは戦闘不能になった巴と梓に聞いた。

 

「ああ、なんとかな。しかしまんまとやられたよ」

 

「はい、まさか私たちの罠を逆に利用されるとは思ってもみませんでした。…互いの弱点をそれぞれの強みでカバーする、良い絆双刃ですね」

 

「当たり前だ。みやびは俺が選んだ絆双刃だぞ」

 

その言葉に、みやびはさらに顔を赤くした。

 

「そんじゃ俺たちは先を行くよ。じゃあな」

 

「ああ、頑張れよ」

 

「…応援しています」

 

そして、俺たちは先を急いだ。残っている中で特に厄介なのはあとはトラとタツの絆双刃と透流のユリエの絆双刃である。どちらにせよ油断できない。そんなことを思っていた時だった

 

 

 

「ぐっ……があぁあああああああああああああああっっっ!!」

 

 

上階よりトラの絶叫がひびいてきた。

悠斗とみやびは一度視線を交わすと二人は駆け出し、巴たちも声に気付いたらしくこちらに向かってきていた。

四人で上階を目指して駆け出す。

 

「悠斗、今のは!!」

 

「分かっている!!急ぐぞ!!」

 

俺たちが階段に近づくと

 

「なっ、これはどういう事だよ……」

 

一番近い階段は無惨にも破壊され、上の階に登る事が不可能となっていた。

 

「悠斗!!次に近い階段はこっちだ!」

 

苛立ちを顕にしている悠斗に巴が声をかける。

破壊された階段を一度睨んだ悠斗は巴と梓、そしてみやびの後を追うように駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多少の遠回りをしつつも三人は最上階の廊下へと到着すると同時に床に倒れ込んだ二人の影を見つけていた。

 

 

「酷い傷だな……。今から手当をするからみやびも手伝ってくれ」

「う、うん」

 

血たまりのできた床に倒れ込んだ二人ーートラとタツの傷を見て巴が忌々しげに呟くも、すぐさまみやびに声をかけ、二人の手当を開始する。

呆然と立ち尽くしていたみやびも悠斗の言葉で我に返り、悠斗の手伝いに回る。

その時、悠斗は暗い廊下の奥から聞こえてくる声と金属音、そして確かな殺気に気づき、《長槍》を顕現して、

 

「橘、梓、後を頼む」

 

「悠斗?」

 

「奥で誰が闘ってる。俺はそっちのヘルプに行くけど、何かあったら大声を出してくれ。すぐに戻る」

 

「二人の手当と悠斗が駆け付けるまでの時間稼ぎは任せてくれ」

 

「き、気をつけてね、悠斗くん!」

 

「幸運を祈ります」

 

 

 

頼もしい巴の声と心配するみやびの声と無事を祈る梓の声を背に、悠斗は戦闘が行われている方へと駆け出す。

悠斗が戦闘の傷跡の残る暗い廊下を突き進んでいるとその突き当たりに徐々に見えてきたものがあった。

扉のない教室。その中で背中を預け合う《絆双刃》。そしてその《絆双刃》の銀色の少女にも劣らない速さでその二人に襲い掛かる影。

一瞬で悠斗の中のスイッチが切り替わる。模擬戦から実戦へと。

銀色の少女が教室の角へと吹き飛んだその瞬間に教室へと飛び込んだ悠斗は《長槍》を影へと全力で撃ち込んだ。

影の手に持っていた武器が偶然悠斗の突きと影の体の間に入り込み、運良く一撃を防御するが盛大に銀色の少女とは逆の方へと吹き飛んだ。

 

 

「透流、ユリエ、無事か!?」

「俺は何とか……。ユリエは!?」

「ヤー、私も透流と同じです」

 

 

全身に擦り傷を負っているが、致命傷に繋がりかねない深い傷は負っていなかった透流とユリエは悠斗の言葉に頷きつつ答えた。

 

「くはっ全然接近に気付けなかっぜ。天峰 悠斗いや『銀狼』と呼ぶべきか。流石はイタリア最大のマフィア、ボンゴレファミリーの守護者なだけあるなぁ」

 

「月見……璃兎」

 

巻き込んだ机を吹き飛ばしながら立ち上がった月見璃兎が《牙剣(テブテジュ)》を肩に担いで凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「やっぱりてめえ、裏の人間だったか」

 

「…その様子じゃある程度は睨んでいたようだな」

 

「テメェから裏社会の匂いがしたからな。それで、どうしてあんたが二人を襲ってる?」

 

「仕事だ仕事。有望そうな新人を始末するだけの簡単なお仕事さ」

 

「なるほどな……。雇い主について喋る気は?」

 

「あるわけねぇだろ」

 

「なら遠慮は要らないな」

 

「ああ、遠慮は要らないぜ!!少しでも長くアタシを愉しませてくれよっ!!」

 

「愉しませる気はねぇよ…」

 

悠斗は怒りの形相を浮かべ璃兎に向ける。

 

 

 

 

 

 

「テメェは俺が倒す!!!」

 

 

 

 

 

 




いよいよ次回、VS璃兎です。
なんかお気に入り登録してくれる人がどんどん増えているのがとても嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いします。

感想待ってます。


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7話 死ぬ気の炎

いよいよ璃兎戦です。


暗闇の中で月見璃兎と天峰悠斗は対峙していた。

月見 璃兎は、凶暴な肉食獣を彷彿させる凶悪な笑みを浮かばせていた。

 

「透流、ユリエ、お前たちはみやびたちと合流しろ」

 

「なっ…バカを言うな悠斗!!いくらお前でもひとりじゃ危険だ!!俺たちも協力する!!」

 

「ヤー、私たちもまだ戦えます」

 

「気持ちは嬉しいけどよ、この狭いフィールドじゃむしろ複数は危険だ。それに、やばくなったら俺も退却するから大丈夫だ」

 

悠斗はそう言って二人の顔を見た。

 

「アタシを倒すダァ?やれるもんなら…やってみろやぁぁぁぁ!!!!」

 

その叫び声を合図に璃兎が床を蹴って正面から突っ込む。

《Ⅲ》の全速力は、殆どない両者の間合いを一瞬で詰めた。首を狙い《牙剣》を薙ぎ払う璃兎。

それを『長槍』を用いてガードするが、圧倒的差のある膂力で押し切られそうになり、長槍を斜めに傾けて薙ぎ払いを受け流す悠斗だが、切っ先が頬を擦り血が流れる。

 

「気をつけるんだ悠斗!《焔牙》は人を傷つけるという強い意志を持つ事で相手を傷つける凶器に変わるんだ!」

 

「そうかよ…もしかしたらとは思ってたんだがな」

 

「へぇ〜……。予想はしてたわけか」

 

「まぁな、木々や壁をぶっ壊すだけの力を持つ代物が肉体は傷つけねぇなんて都合が良すぎるもんな」

 

「くはっ、そりゃそうだわな《銀狼》!!そんじゃアタシから特別レクチャーだ!!!」

 

圧倒的パワーとスピードでどんどん攻め続ける璃兎と、璃兎の攻撃を紙一重で見切りながらカウンターを打ち込もうとする悠斗、互いに膠着状態が続いていた。

 

「《黎明の星紋(ルキフル)》にはお前らが知らない超重要機密事項がある。機密事項その一ぃ!!《焔牙》が人を傷つける事のない武器が真っ赤な嘘だってことだ!」

 

「なるほどな、入学式での理事長の宣言は制御暗示(セーフティーロック)だったってわけか」

 

「その通り!そしてその暗示ロックを解除する為には事実を認識する事だ。そして《焔牙》で人を傷つける為に必要なのはもう一つ、敵意、害意、殺意といった人を傷つけるという強い意志を持って《焔牙(こいつ)》を振るう事だよ!機密事項その二ぃ!!《焔牙》を破壊されると、少なくとも丸一日は気絶して目を覚まさねぇっ!まあ《魂》がぶっ壊されてその程度で済むなら御の字だろうがよぉっ!」

 

「…それでトラたちは意識を失っていたのか」

 

「まぁな、あいつらは思っていた以上に大したことなかったがなぁ」

 

「トラたちが弱い?どうやらその目はとんだ節穴みたいだな月見 璃兎」

 

「…さっきから言ってくれるんじゃねぇかテメェ…その憎たらしいツラァすぐにぶちのめしてやるヨォ!!」

 

そう言うと璃兎は悠斗に向けて更に攻撃を畳み掛けた。

 

「早く行け!!もしこいつに仲間がいたらみやびたちが危ない!!」

 

「…わかった、すぐにみんなを連れて戻るからな!!」

 

「悠斗、気をつけて」

 

そう言って二人はみやびたちの方へと向かっていった。

 

「そんじゃあ続きと行こうか月見 璃兎。テメェはゼッテーにぶちのめす!!」

 

「大した口ぶりだけど、その割にはアタシに全然決定打を決められてないようだけどな。まぁ無理もないけどな…何故だか分かるか?」

 

月見 璃兎は凶悪な笑みを浮かべながら悠斗の顔を見て言った。

 

「それはな、単純にレベル差ってヤツだ。今のアタシは《Ⅲ》、あんたは《Ⅰ》。だった二つレベルが違うだけでこの差だ。てめえじゃアタシには勝てねぇってことだ。」

 

「レベルだけが全てじゃねぇだろ。あまり俺のことをなめんじゃねえぞ」

 

悠斗は怒りをあらわにして璃兎をみた。

 

「…まあ確かに今のままだと少しばかりキツイな、だからちょっと本気出す」

 

「…ハッタリか?」

 

「自分で考えな」

 

悠斗は長槍を構え、集中力を高めた。

 

「…いくぜ」

 

すると、長槍の先端に白い炎が灯り、周囲の空気が冷え始めた。

 

「なっ…なんだその力は!?まさか煉業?いやっ《Ⅰ》のテメェがありえねぇ!!っ!まさかそれが噂に聞く《死ぬ気の炎》ってやつか!!だけどそんな色の炎は聞いたことがねぇぞ!!!」

 

「…どうやら《死ぬ気の炎》については知ってるけど詳しくは無いようだな、こいつは『死ぬ気の炎』の中でも特に希少で未だ全てを解明しきれていない第0の炎、《雪の炎》だ」

 

悠斗は長槍を振り回しながら

 

「行くぞ、月見璃兎。こっからは俺のターンだ」

 

その瞬間璃兎は大きく後退した。

それに悠斗はついていき、その距離はそこまで開く事はなかった。

璃兎は悠斗に攻撃を仕掛けるが、悠斗はそれをいとも簡単に防ぐと一気に攻撃を畳み掛けた、

 

(冗談じゃねぇ…力もスピードのさっきと桁違いだ。さっきまでは本気じゃなかったってことかよ)

 

「考え事は構わないが少し自分の体を心配した方がいいんじゃないか?」

 

「?…っ!何だこれは!?テメェなにしやがったぁ!!」

 

璃兎か悠斗の言葉を聞いて、自分の体を見ると、両足と剣を持つ手が凍り始めていた。

 

「俺の《雪の炎》の特性は《凍結》、あらゆるものを凍らせる。まぁいわば冷気を操る力だ。なんでも初代ボンゴレボスはこの炎をヒントにして奥義を編み出したとかっていうけど今はその話じゃねぇ。まぁつまり…詰み(チェックメイト)だ」

 

そう言うと悠斗は、一気に璃兎に近づいた。

 

「な…めんなぁぁぁぁ!!!」

 

璃兎は怒りをあらわにして悠斗に剣を振るうが、

 

「狼王弦月!!!」

 

悠斗の渾身の一振りによって、璃兎の《牙剣》は粉々に砕け散った。そして、轟音と細かい瓦礫が吹き荒れる中、月見 璃兎は気を失って倒れた。

 

「ふぅ、まさかこんなところで炎を使う羽目になるとは思ってもみなかったよ。」

 

悠斗はそう言いながら倒れている璃兎をみていると、

 

「悠斗!!大丈夫か!?」

 

透流たちがみやびたちを連れて戻ってきた。

 

「良かった、お前たちも無事だったか」

 

「おかげでな、しかしまさか月見先生を倒してしまうとは、君は本当に只者ではないな、しかし!!!今度からは二度どこんな無茶はするな!!!自分がどれだけ危険なことをしたか分かっているのか!?」

 

「そうだよ悠斗くん!!もし悠斗くんにもしものことがあったら…」

 

「いくらなんでも無茶しすぎです」

 

巴、みやび、梓の三人にこっぴどく怒られていると、合流してきた透流たちによって学園側へ連絡され、悠斗たちの手当てが行われた。

手当が終わった頃に駆けつけた三國達によって璃兎は拘束され、五人は今回の件は他言無用と念押しされて解放された。

そうして《新刃戦(しんじんせん)》の幕が閉じた

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜の校舎裏

 

「はい、予想外の事態が続けて発生し…ですが、今後の計画には支障は出ません。しかし、天峰 悠斗には用心するべきかと…はい、分かっています。私はあの人の悲願の達成に全てを捧げるつもりです。《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》殿にもそう伝えてください。では」

 

 

 

 

〜某施設内の研究室〜

ここに白衣を着た老人と金髪の好青年がいた。

 

「学園内に潜り込ませたスパイの報告によればどうやらトラブルがあったようですが計画には問題ないとのことです。」

 

「そうかそうか、あの子はとても優秀じゃからな…信用しても良いじゃろう」

 

「それと…天峰 悠斗には用心したほうが良いと」

 

「ふむ、さすがはボンゴレファミリーの幹部といったところか…しかし幾らボンゴレだろうと儂を止めることは出来ん。それに…いざとなってもあいつがおる。そうじゃろう?…《シェード》」

 

そう言うと部屋の奥から漆黒の『装鋼(ユニット)』を纏い、顔を仮面で覆った男が現れた。

 

「ドウデモイイ、オレハ『ヤツラ』ニフクシュウデキルノナラバカソレデイイ」

 

《幽霊(シェード)》と呼ばれた男は仮面越しにそういった。

 

 

 

悠斗たちにさらなる脅威が迫っていた。

 

 




今日はここまでとします!!!


最後に出てきた《幽霊(シェード)》はかつてボンゴレと戦った敵キャラです!!誰が出るかはお楽しみってことで



感想待ってます。


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8話《楯》の意味

今回は一部オリジナル展開を入れました


あの夜から三日ほど経ったとある夜。

 

 

「ーー以上が《新刃戦(しんじんせん)》の記録です」

 

 

悠斗によって《牙剣(テブテジュ)》を砕かれ、月見璃兎が倒れ伏したところで男ーー三國が映像を停止した。

 

「くはっ。わざわざ動画を見せてまで皮肉らなくても、結果報告だけでいいだろーが」

 

悪態を吐いたのは、先程の映像で透流やユリエ、そして悠斗と闘っていた璃兎だった。

 

「百聞は一見に如かず、というものです。何より君の報告は大雑把過ぎですからね」

 

「へいへい。わるーございましたっと」

 

まったく悪びれずウサギ耳を揺らす璃兎に三國は溜息混じりに首を振る。

 

 

「それにしても、本気で殺しにかかるとは……もしものことがあったら、いったいどうするつもりだったんですか」

 

「……構いませんわ。私が現場の判断にお任せすると言ったのですから」

 

 

ここで初めて口を開いた主へと、三國と璃兎は視線を向ける。

その先で座すのは漆黒の衣装(ゴシックドレス)を身に纏った少女ーー昊陵学園理事長・九十九朔夜だった。

 

 

「過酷な環境で芽吹く種子(シード)こそ、美しき花を咲かせると私は考えていますわ。それに彼が参加している限り死者が出る事は万が一にもありえませんもの」

 

「…随分信頼してんだな、天峰悠斗のことをよ」

 

「天峰悠斗と言うよりボンゴレファミリーをですわね。ボンゴレは元をたどれば自警団が始まりだった組織。沢田 綱吉はその頃のボンゴレに今のボンゴレを戻そうとしている。そんな彼の守護者が目の前で傷付く仲間を見殺しにするはずがありませんもの。」

 

朔弥はそう言うと再び笑みを浮かべ、

 

「まぁ確かに、天峰悠斗には期待していますのよ。彼ならばおそらく《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へと至るとね」

 

かつて《新刃戦》を前に、自分に任せると気分次第では殺してしまうかもしれない、と笑みを浮かべた璃兎。その際、朔夜が口にした言葉を一言一句違い無く口にされ、三國は頭を下げて謝罪した後、話題を先程までの映像の件に戻す。

 

「しかし、驚きましたね。まさか《Ⅲ》を倒してしまうなんて」

 

 

三國の驚きも無理はない。

通常、《位階(レベル)》は一つ上がると数倍の能力超化される。

故に2ランクも差がつけば、一人はもちろん二人掛かりだったとしても絶望的な戦力差が生じる。

 

「それに関しては当然でしょう。天峰悠斗はこの学園に来るより以前から生死を分けた闘いをしてきたのだから。それに彼の《死ぬ気の炎》はボンゴレの中でも希少な《雪属性》なのだから」

 

「そうだった。なんだ《雪の炎》って。アタシも聞いたことがねぇぞ」

 

「…《雪の炎》とは《死ぬ気の炎》の突然変異とされておりますが、そのほとんどが未だ解明されていない未知の力ですのよ。只分かるのはボンゴレ一世の奥義はこれをヒントに編み出したとされているということですわ。」

 

「…よく分かんね〜」

 

朔弥の言葉に璃兎は欠伸をしつつ悪態をついた。

 

「……さて、これでアタシの仕事は終わったわけだがーーこれからどーすりゃいい?」

 

張り詰めた空気がようやく弛緩し始めた頃、璃兎が朔夜に問う。

 

 

「ご自由に、ですわ。璃兎、貴女の望むままに……」

 

「自由ねぇ……。くはっ、それならーこのままでいいか」

 

「わかりましたわ」

 

「……よろしいのですか?月見君を残すとなると、我々との繋がりに彼らが、特に天峰くんが気付く可能性もーー」

 

「理由などどうとでもなりますわ。彼らには確かめる術などありませんのよ、三國。天峰 悠斗の勘は確かに良いけど勘付いたところで確証のない段階ではどうもしませんもの」

 

くすくすと朔夜は妖しく笑う。

その笑みに、決定に、これ以上の意見は許されないことを知っている三國は頷くだけだった。

 

 

「ではそのように」

 

 

やがて気配を一つだけ残し、室内は静寂に包まれる。

闇の中、唯一残った少女は、豪奢な椅子に深く体を沈ませていた。

長い沈黙の後、朔夜は僅かに口角を上げる。

すべてが動き出した事を悟り、その中に自身の席がある事を感じて。

 

 

「宴の始まり、ですわ……」

 

 

その宴の終焉がどのような結末を迎えるのか、それは人の遺伝子を操作するという禁断(神)の領域に存在する朔夜にもわからない。

人である以上、未来などわかるわけがない。

故に黒衣の少女は呟く。

 

 

 

「願わくば、我が道が《絶対双刃》へと至らんことを」

 

 

 

 

「悪いな透流、急に呼び出して」

 

「悠斗か、どうしたんだこんな時間に?」

 

深夜、悠斗は透流を連れて夜の校舎の屋上に呼び出していた。

 

「ちょっとお前に聞きたいことがあったんでな」

 

悠斗は買っておいた缶コーヒーを透流に渡すと自分の缶コーヒーを開けて飲み、

 

 

 

 

 

 

 

「透流、お前ひょっとして…誰かに復讐でも考えてんのか?」

 

 

「…!!!」

 

悠斗の言葉に透流は驚きを隠せずにいた。

 

「なっなんでそれを…」

 

「なんてことはねぇよ、只そんな気がしただけだ。…お前の中になんか憎しみみてーなもんが一瞬見えたからだよ。」

 

「…ハハッ、すげーな悠斗。」

 

そのまま透流は悠斗に自分の過去を話した。

数年前に妹の音羽と同じ道場に通う門下生をある事件で失い、その事件の主犯である鳴皇 榊を恨んでおり復讐しようと胸に誓っていることを。

 

 

悠斗は彼の話を聞き終わると、

 

 

「透流、復讐なんかやめろ」

 

 

透流の復讐を否定した。

 

 

「…なんだと?」

 

「復讐なんかやめたほうが良いって言ってんだ透流」

 

「…なんでお前にそんなことを言われなきゃいけねーんだ」

 

悠斗の言葉に透流は怒りを露わにした。

 

「…俺は復讐に身を投じた奴らを沢山知ってる。マフィアの非道な実験の実験動物にされた奴に真実を隠され続け運命を知り怒りに身を投じた奴、愛するものを失った憎しみから仲間を裏切った奴。俺はそんな奴らを知っている」

 

悠斗は過去に戦ってきた連中のことを思い出していた。

 

「…そいつらにはそいつらなりの信念があったし、それを否定する気はない。」

 

「…だったら!!!」

 

「でもお前に復讐なんて合わない」

 

「…え?」

 

「お前は自分が思っている以上に優しい奴なんだよ。そんなテメーに復讐なんか似合わない」

 

悠斗は透流の目を見ながらそう言った。

 

「悠斗…」

 

「だいたい《楯》でどうやって復讐すんだよ」

 

「…それはどういうことだ?」

 

悠斗の言葉に透流は疑問を浮かべた。

 

「透流、テメーに宿題だ。なんでお前の焔牙が《楯》」なのか考えてこい。それが分かればお前の本質が嫌でも分かるからよ。じゃあな、おやすみ」

 

そう言うと、悠斗は部屋に戻っていった。

 

「なぜ《楯》なのか…か」

 

透流のそんな声が星空の下に聞こえた。

 

 

 

「…それで隠れているつもりか?」

 

「…っ!?」

 

悠斗は柱の後ろに隠れているその影に向かって言った。

 

「…気づいていましたか」

 

「まあな、それで俺になんかようか?」

 

「ヤー、さっきの透流との話を聞きました」

 

「…それで?」

 

「私もトールと同じーー《復讐者(アヴェンジャー)》です」

 

ユリエの言葉に悠斗はため息をつくと、

 

「ユリエ、話を聞いてたならあえて言わない。只もっと周りを見ても良いと思うぞ。少なくとも二人もお前のことを絶対に助けてくれる奴がいるんだからよ」

 

「悠斗…」

 

「そんじゃ俺はもう寝るよ。また明日。」

 

「…おやすみなさい」

 

こうして悠斗は寝室へと戻っていった。悠斗が空を見上げると、綺麗な月が見えた。そして、

 

「なんつーか、らしくねーことしたかな?けど、やっぱりほっとけねーよ」

 

 

 

『キミはもうオレの友達じゃないか!!だから…関係ないとか言うなよ!!』

 

 

 

「あいつも、多分同じことを言うだろうしな…」

 

裏社会の人間として、一人でなんでも解決しようとしていた昔の俺、そんな自分を友達と言って絶望から救ってくれた『彼』のことを思い出していた。

 

 

 




第一章完結です!!!

悠斗の過去をほんの少しだけ書いてみました。

それと…復讐に身を投じた奴ら、リボーンを読んだ人なら分かると思います。



これからも応援してください。



感想待ってます。


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生存闘争編
9話 特別


新章スタートです!!!


GW明けの朝、悠斗とみやびは早朝トレーニングを終えて朝食を摂るために食堂に来ていた。

ちなみに早朝トレーニングとは、みやびが毎日走っているのを知ってから、より鍛えられるようにと悠斗が考えたプログラムであり、主に体力作りを集中的に行っている。

 

「だいぶ体力もついてきたなみやび。この調子なら練習メニューももう少しレベルをあげても良いかもな」

 

「そうかな?悠斗くんの教え方が上手いから…」

 

「いや、みやびが頑張っているからだよ。みやびは自分が思っている以上に凄いんだから」

 

「悠斗くん…。ありがとう」

 

みやびは少し顔を赤く染めて嬉しそうに頷いた。

そんな会話をしながら二人は食事をし始めた。

 

 

 

 

 

骨折数ヶ所、全身の至るところに裂傷、打撲は数えきれず、《超えし者(イクシード)》の治癒力含めて全治一ヶ月。常人なら全治数ヶ月はくだらない。

虎崎葵が《新刃戦(しんじんせん)》の裏で有望な新人ルーキー狩りをしていた月見璃兎によって負わされた怪我の診断結果だったはずだ。

 

 

 

「なんでトラが教室ここにいるんだ?」

 

 

 

モーニングコーヒーを飲み終えた悠斗とみやびが教室に向かっている途中で合流した九重 透流が教室に入ると同時に、見慣れた小柄な男子が机に突っ伏して寝ているのを見つけて呟いていた。

 

 

「……退院してきたからに決まっているだろう、このバカモノ」

 

 

透流の呟きに耳聡く反応した葵は欠伸をしつつ伸びをした。

 

 

「…確か退院まで後十日はあるって聞いてたんだけど?」

 

 

「ふんっ、いつまでも休んでなどいられるか」

 

 

GW中に一度学園敷地内にある病棟へみんなで見舞いに行ったが、門前払いを食らった為、看護師に怪我の状態と退院予定日を聞いていた。だがトラは聞いていた予定よりも早く強引に退院してきたらしく、その事を悠斗が確認の意を込めて問うと簡潔な答えがトラから返ってくる。

 

「お前なぁ…無理して怪我が悪化したらどーすんだ?大人しく寝ておけって。それに、寝てねーと一生そのサイズで終わるかもしんねーぞ。よく言うだろ?寝る子はなんたらって」

 

「誰がちっこいか!!」

 

悠斗のおちょくりに対するトラの叫び声に後ろで聞いていたみやびが驚き、怯えるように悠斗の後ろへと隠れる。

 

「トラ、そんな怒鳴んなって、みやびが怖がってるだろ」

 

「あっ…スマン」

 

悠斗の言葉にトラは謝った。

 

「大丈夫だみやび。今のは俺に突っ込んだだけだから」

 

「う、うん…」

 

怯えるみやびに悠斗はみやびに優しく声をかけた。

 

 

「しかし本当に大丈夫なのか?彼女にやられたキミの傷は相当なものだった。天峰の言う通り、無理はしないほうが身のためだと思うぞ」

 

「その言い草からすると、お前も事情を知っているということか?」

 

「俺、みやび、巴、梓、後は透流とユリエが知ってる」

 

トラの問い掛けに悠斗が頷いた。

悠斗が月見 璃兎を倒した後、トラとタツの応急手当を終えた三人とその三人に合流した、透流とユリエが合流した。その時全ての事情を話していた。

 

「そうか、僕に応急処置を……。橘、穂高それに梓も、助かった。感謝する」

 

トラが頭を下げた。

 

「…………」

 

「……透流。その顔は何だ?」

 

「驚いてる」

 

「どうして驚いているのですか、トール?」

 

「いやあ、トラが人に頭を下げてるから……」

 

「その程度で目を丸くするなっ!僕だって本当に感謝をするときは頭くらい下げる!」

 

「だってトラだぜ!?」

 

「貴様の中で僕はどんな扱いだっ!!」

 

「トール、トラ。ケンカはよくありません」

 

「くすくす、ケンカじゃないから大丈夫だよ、ユリエちゃん」

 

透流達の言い合いにみやびは小さく笑い、「そうなのですか?」と尋ねるユリエに頷く。

だがよくわからないと首を傾げたユリエ。

そんな会話をしていると、チャイムが鳴りみんながそれぞれの席へと戻っていった。

 

 

その時、悠斗はあることに気づく。

 

 

(そーいや俺たちの新しい担任ってだけだ?)

 

璃兎は捕縛されいる為、担任の任は外されているはずである。

悠斗の頭の中で一瞬三國の存在が過った時ーー

「おっはよーん♡GWは楽しかったー?まさかと思うけど遊びすぎて課題をやってこなかったイケナイ子はいないよねー?いるんだったらすぐに手をあげなさーい♡」

 

「ーーっ!!」

 

 

鳴り終わったチャイムを合図に教室へと入って来たウサ耳を目の当たりにして、透流、ユリエ、巴、梓、悠斗、みやび、トラ、タツは立ち上がる。

それぞれが己の胸に手を当て、《力ある言葉》を口にしようとした刹那ーー

 

「授業が始まります。席に座りなさい」

 

璃兎に続いて教室に入って来た三國の言葉に、思い留まらざるを得なかった。

 

 

「聞こえなかったのですか?九重くん?他の七人も。授業が始まりますよ」

 

 

再び着席を命じられた為、八人は困惑しつつも腰を下ろした。

 

あの襲撃が嘘だったかのようにこれまでと変わらない脳天気そうな笑顔でHRを始める璃兎。

そしてただただ困惑する透流達と様々な可能性を頭に浮かべて溜息をついた悠斗であった。

 

「さてさて☆連休直前に行った《新刃戦》についてだけど、見事に勝った人も残念ながら負けちゃった人もみんなお疲れさまぁ♪ちょーっとハッスルし過ぎて怪我をしちゃった人も何人かいたみたいだけど、今のみんなの力を見せて貰えて先生大満足だよっ♡」

 

数名ほど怪我をしたの部分で反射的に誰のせいだと口を開きかけた者がいるものの璃兎はぱちりと片目を瞑りつつ口元へ指を当てる。

あの襲撃の件は秘密、ということらしい。

 

「ーーと言うわけで事前に説明していたとーり、成績の良かった《絆双刃(デュオ)》は特別賞与として《昇華の儀》を土曜日に受けることが出来るから。えーっと、受けられるのはーー」

 

そうして璃兎によって告げられた《絆双刃》は透流&ユリエ、悠斗&みやび、巴&梓、トラ&タツ、他ニ組の《絆双刃》だった。

どうやら三勝以上が特別賞与の目安との事。

本来なら《昇華の儀》を受けられる事を喜んでいるはずだ。だがそれどころではないというのが八人の共通意識だった。

その後は今後の授業の事や下旬に二年生と行う交流試合、七月には臨海学校がある旨を伝えられ、チャイムを合図に璃兎は教室を退室し、入れ替わりに入ってきた一般科目の教師が授業を始めた。

 

 

 

 

 

「あれはどういうことだと思う、九重、天峰」

 

 

休み時間になるとあからさまに戸惑った表情を浮かべ、巴が話しかけてきた。

その横には梓が、俺の隣にはみやびが、前の席からはトラとタツが振り向いて悠斗と透流に視線を送る。

 

「ここでは誰かに聞かれる。ひとまず廊下で話すぞ」

 

悠斗はみんなを廊下へと促し、念には念を入れ、教室から多少離れた場所へと移動し、口を開いた。

 

「なぜ月見が俺たちの前に再び現れたか。考えられる可能としては雇い主を変えたか、もしくは…」

 

「くはっ、流石じゃねぇか」

 

悠斗がありえそうな可能性を話していると、唐突に話題主の声が乱入してきた。

驚きと共に声の聞こえてきた窓へと視線が集まった。

諒逹の視線に応えるかのように底意地の悪い笑い声が響き、何故か逆さまで璃兎の顔が現れた。

 

「おら、窓を開けろよ。中に入れねーだろ。お前らの疑問に答えて欲しかったらとっとと開けろっつーの」

 

悠斗はそんなことを言う璃兎の言葉に渋々従い、窓を開けると璃兎が入ってきた。

 

「なら答えて貰おうか。さっき流石って言ったよな?」

 

「あぁ」

 

「つまり雇い主を学園側に替えたって認識で間違いじゃないな」

 

「そーゆーこった。こうして教師を続けているのが何よりの証拠ってわけだな」

 

「…………。俄には信じ難いけど、状況を見るにそうなんだろうな」

 

「だぁめだよ、九重くん☆先生にはきちんと敬語を使わないとねっ♡」

 

「……もう少しで殺されそうになった相手に無理を言うな」

 

「くはっ、死ななかったんだから堅苦しいこと言うなっての」

 

「だったらあんたも敬語を使えなんて堅苦しいこと言わないでくれ」

 

「っ!まったくだ!!いいセンスしてるよ、《異能(イレギュラー)》!!くぁーっはははは!!」

 

 

一瞬、透流の返しに目を丸くしたかと思うと、腹を抱え膝を叩いて璃兎が笑う。

やがてその笑いが収まると、愉しそうな表情を浮かべ腕を組み壁に寄り掛かる。

 

 

「……ならば僕からーー」

 

「依頼主の詮索なら辞めとけトラ。どうせ守秘義務とかで名前なんざ教えてくれないさ。どうせ正義を掲げる国とかって曖昧な回答しか返ってこねぇよ」

 

悠斗の言葉にみんなが驚きを隠せずにいた。

 

「流石だな《銀狼》」

 

「まさか……そんなバカな。国家が出てくるような話だと言うのか……」

 

「くはっ、覚えておきな。どこの国にも暗部ってもんが存在する。そしてそれはこの昊陵も同じーーつまりこの学園は日本という国の暗部なのさ。でなけりゃ秘密裏とはいえ、ナノマシンで化け物制作っつー非人道的行為なんて出来るわけねーだろ」

 

巴の言葉に戯けるように肩を竦めた璃兎。

 

「ま、どこまで信じれるははおめーらの好きにしてくれや。……さてっと、そろそろ休み時間も終わっからまた後でな。授業には遅刻すんじゃねーぞ」

 

ひらひらと手を振り、璃兎は悠斗達から背を向けて去って行った。

 

「……今の話、どこまで信じていいと思う?」

 

「月見璃兎がこっち側の人間だって事だけだ。もちろん警戒はすべきだが」

 

透流の疑問に悠斗がそう答える。

悠斗の言葉に残りのメンバーは頷いた。

 

《昇華の儀》が行われる土曜の朝。

HRが始まり、璃兎が転校生を紹介すると口にした直後、教室の空気が止まった。

教室に入ってきたのは黄金色の髪イエロートパーズ

と蒼玉の瞳サファイアブルーを持つ外国人の美少女だった。

髪と瞳以外にも出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んだ海外女優顔負けの魅惑的なスタイルには、男子のみならず女子までもが溜息を吐いた。

加えて気品と色香を漂わせており、赤い紅を差した唇がそれをより強調させていた。

 

「あんたが《異能》ーー九重透流ね」

 

そんな彼女が片手を腰に、もう片方の手を透流の机に置いて発した第一声がこれだった。

 

「あ、ああ九重 透流は俺だけど」

 

急に顔を近づけられて透流は顔を赤くしながらそうか答えた。

 

「オッケー。九重透流、ちょっと付き合いなさい。」

 

返答に満足気に頷いた黄金の少女は命令口調で告げ、自分の意思が通る事が当たり前だとばかりに、踵を返して歩き出した。

 

 

「お、おいっ。いきなり付き合えって言われても今は…」

 

「…二度も言わせないで」

 

 

透流の戸惑いの言葉に足を止め、振り返って一言。

 

 

「あのー、まだHRの途中なんだけど……」

 

静まり返った教室で、最初に口を開いたのは璃兎だった。

 

「特別に許可して貰えるわよね、月見先生」

 

「……どうぞー☆」

 

一瞬、額に筋を浮かせつつも、璃兎は黄金の少女の勝手を許可した。

 

「…透流に用があるならここで良いだろ」

 

しかし、トラは彼女の態度に納得がいかないのかそう言い返した。

 

「貴方には関係ないことよ。私はノイズのないところで話したいの」

 

「くっ…」

 

「…分かったよ。ユリエ、ちょっと行ってくる。後でノート見せてくれ」

 

その言葉を聞いて仕方がないと思ったのか透流は立ち上がり、少女の後に続いた。

 

「と、その前に…」

 

すると彼女は一度立ち止まって

 

 

 

 

 

 

 

「イギリス校から転校してきたリーリス・ブリストルよ。ファーストネームで呼ぶことを貴方たちに《特別》に許可するわ」

 

と他の生徒たちに向けて言った。

 

 




今回は少し長くなりました。少し中途半端だったかな?

少しずつですがお気に入り登録が増えてきていて嬉しいです。これからも応援よろしくお願い。


感想もよろしく!!


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10話 狼と紅茶

遅れてすみません

投稿です


透流少女にが連れてこられた場所は校舎と寮の間にある庭園だった。

花と緑の映える季節ということもあり、庭園は色とりどりの薔薇で覆い尽くされている。

充満する薔薇の香りの中を彼女は石畳の細い路みちを迷い無く進んでいく。

その足の向かう先には西洋風あずまや(ガゼボ)があり、中で執事姿の女子が待機していた。

その執事は黄金の少女姿を確認すると恭しく頭を下げる。

ガゼボの中央にあるテーブルには鮮やかな刺繍の入った白いクロスが掛けられ、その上にはティーセットが置かれていた。

そこへリーリスと透流が席に着くと、執事姿の少女が紅茶を入れ二人に差し出した。

 

「あ、ありがとう…」

 

「(ギロッ)……」

 

透流がお礼を言うと何故か執事姿の少女は透流を睨みつけた。

 

(な、なんでだ…)

 

透流はこの少女が何故自分に敵意を向けるか分からないまま紅茶を一口飲んだ。すると、

 

「っ!スゲー美味い」

 

「でしょ?サラの紅茶は絶品なんだから」

 

「ありがとうございます」

 

その紅茶の美味しさに透流とリーリスは素直な感想を言い、リーリスの言葉に対し、サラは感謝の言葉を述べた。

 

(…ユリエにも飲ませてやりたいな)

透流は今この場所にいない自身のデュオの事を思っていた。すると、

 

「さて本題。九重透流、今日からあんたは私の絆双刃よ」

 

突然、リーリスが透流に向けてそう言ってきた。

 

「は…?今…何て?」

 

「二度は言わないわ」

 

「言わないって…ちょっと待ってくれリーリス。俺にはもう他の絆双刃が…」

 

リーリスの突然の言葉に透流はユリエのことを伝えようとしたが、

 

「知ってるわ、でも関係ない。だって私は《特別(エクセプション)》なんだもの」

 

「エクセプション…?何だよそれ?」

 

初めて聞く単語に透流は疑問を持ち、リーリスに聞いてみた。

 

「…イギリスで異能(イレギュラー)の存在は聞いていたわ。それでわざわざ転校してきたんだから感謝しなさい」

 

「感謝しろって言われても…て言うかまさか!?俺と組むためだけにわざわざイギリスから転校してきたってことか!?」

 

「ええそうよ、あんたは私と同じ唯一無二(アンリヴァルド)。故にあんたは私の絆双刃に相応しいのよ」

 

あまりの事に透流は驚きを隠せなかった。しかし…

 

「ちょっと待ってくれ…そもそも校則じゃ絆双刃の解消は認められてないんだぞ」

 

しかし、リーリスは

 

「それが何?私はそんな規定に縛られない。思うがままが許される。故に《特別》なんだから」

 

リーリスの言葉には一切の躊躇いがなかった。

 

「…一応返事は、聞かせてもらうわ、考えるまでもないと思うけど」

 

どうやらリーリスにとってはもう透流が絆双刃になることは決まっているようだ。

 

「…確かに考えるまでも無いな」

 

「決定ね」

 

「ああ」

 

透流の言葉にリーリスは満足がいったような笑みを浮かべた。しかし、透流の返事は彼女の予想を裏切るものだった。

 

「俺はリーリスと組む気は無いし、今の絆双刃を解消する気も無い」

 

「なっ…!?」

 

透流が断るとは思ってもいなかったのかリーリスは驚きを隠せずにいた。

「ご馳走さん。お茶、美味かったよ」

そう言うと透流は席を立ち、教室へと戻ろうとした。

 

「まっ待ちなさいよ九重透流!!あんた今…何を言ったか分かってんの!?」

 

我を取り戻したのかリーリスは立ち上がり、透流に問い詰めた。

 

透は足を止めるとリーリスの方を振り返り、

 

「君の言葉を借りるなら…『二度も言わせないでくれ』。答えはNOだ」

 

そう言うと透流は去って行った。

 

 

 

 

透流が去ってしばらくした後、リーリスは背の高い垣根の一角を見て、

「盗み聞きとは良い趣味ね。天峰悠斗」

 

そう言うと、垣根から悠斗が現れ

 

「流石に気付いていたか、イギリスで有名な企業であり、ドーン機関の出資元の一つでもあるブリストル社。そこのトップの孫のリーリス・ブリストル」

笑みを浮かべながらリーリスに皮肉を言った。

 

「まさかこの学校にあんたみたいな大物がいるなんて思わなかったわ。ボンゴレファミリーの雪の守護者さん」

 

「…買いかぶりすぎだよ。俺のボンゴレの地位なんてたかが知れてる。今の俺はこの学校に通う高校生だよ。…まああんただって十分大物だけどな。」

 

悠斗のリーリスは互いを見定めながらそんな会話を続けた。

 

「…しかしまぁ透流を自分のデュオにするためにわざわざイギリスから来るなんて大したもんだが諦めな。透流はあの様子じゃデュオを変える気はねーよ」

 

「一度断られたくらいじゃ私は諦めないわ。まだ時間は十分あるもの」

 

そう言うとリーリスはサラに紅茶を入れさせ悠斗に差し出した。

悠斗はそれをためらわずに飲むと、

 

「なるほど、確かに美味い」

 

どうやら紅茶が気に入ったらしく一気に飲んだ。

 

「まぁあれだ、俺の目の黒いうちはあんまりなんか企むなよ」

 

「姑息なことはしないし、する必要もないわ。だって私は《特別》なんだから」

 

「そーかよ。まぁ悪さするときは俺が相手になるって忘れんなよ」

 

そう言って悠斗は去って行った。

 

 

 

 

「そんなわけでリーリス・ブリストルの方は今んところ敵意無し。月見璃兎もとりあえず保留って感じだ」

 

『うん、報告ありがとう天峰くん』

 

悠斗は学校裏で再び沢田綱吉に報告を入れていた。

 

『ところで、九重くんだっけ?彼の方はどう?』

 

「ん?あぁ、今んところは問題無いよ。ちょっと宿題出したけど」

 

『宿題?』

 

「まぁ自分の本心を知れってな感じだ」

 

『そっか…あ、そうそう天峰くん実は『10代目〜書類まとめてきました〜って電話でしたか?』』

 

ツナが何か言おうとした時電話越しに悠斗と同じ守護者の一人であり、《10代目の右腕》獄寺隼人の声が聞こえてきた。

 

『あ、獄寺くん。天峰くんから今電話があって…』

 

『天峰ぇ!?あの野郎どのツラ下げて…ちょっとだけ借りますね』

 

そう言うと獄寺はツナから電話を取ると、

 

『天峰オメェ!!守護者でありながら10代目のお側を離れたと思ったら何の用だ!?』

 

「…別にボンゴレ守護者は必ずファミリーについてなきゃいけないって縛りは無いし良いだろ…それに俺が昊陵に入ったのは調査もあるって聞いてねえのかよ?」

 

『うぐっ…とにかくテメェも守護者なら10代目のピンチの時まで雲雀やアホ牛みてぇにサボったりバックれたりすんなよ!!』

「ハイハイ、分かってんよ。それよりツナと代わってくれ、俺になんか言いたいことあるみたいだし」

 

『チッ…分かったよ。10代目、どうぞ』

 

獄寺は悠斗の言葉に渋々ツナに受話器を渡した。

 

『ごめん天峰くん、獄寺くんも悪気があるわけじゃ無いんだ』

 

「分かってるよ。それで?なんかあったのか?」

 

『うん…なんでも最近僕たちが未来で戦ったヤツらが数名門外顧問の監視から行方をくらましたんだ』

 

「…マジか?」

 

『うん、それで…もしかしたらそっちの方にも近いうちに来るかもしれないんだ。だからもし何かあったらすぐに連絡して』

 

「《超直感》か…分かった。なんかあったら連絡するよ。それじゃあ報告は済んだし切るな」

 

『分かった。気をつけてね』

 

そうして俺は電話を切ると校舎の方へと戻って行った。

 

 

 

その日の夜

 

「よーしっ後残り10周な」

 

 

 

俺たちは月見璃兎に授業をサボった罰として走らされていた。

 

「フザケンナ!!一周4キロだぞ!!今からフルマラソンとかあんた鬼か!!!」

 

「鬼じゃないもん♪兎だぴょん♪くはっあのお嬢様はしゃーねーがテメェらは授業サボった罰を受けやがれ」

 

「大丈夫だ透流!1秒でもタイムが遅れたら手榴弾とか投げてくる俺の中学時代の家庭教師よりはマシだ!」

 

「どんな教師だよソイツ!!」

 

「殺し屋だ!!」

 

「なんで殺し屋が教師やってんだよ!!てゆーか悠斗!お前も授業サボってたのか!?」

 

「オメェらの会話が気になってつけてた!!」

 

「じゃああの話きいてたのか!?てゆーか悠斗!!オメーこいつの正体見抜いていたし暗部のことも詳しいみたいだけど何もんなんだ!?」

 

「ソイツは今に話すけどすまん、今は言えねー」

 

「チクショー!!なんか色々理不尽だー!!」

 

そうして夜が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜流石に疲れたわ」

 

「お疲れ悠斗くん。大丈夫だった?」

 

悠斗が部屋に帰ってくるとみやびが心配そうに話しかけてきた。

 

「なんつーか、いろいろと疲れる一週間だったな…」

 

「そうだね、何が何だか分からなかったよ」

 

俺の言葉にみやびがクスリと笑いながら答えた。

 

「あ、そーだみやび」

 

「何?悠斗くん」

 

 

 

 

そんな中俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度の休み、俺とどこか行こうか」

 

 

 

 

 

「…え?えぇぇぇ!?」

 

 

俺の言葉にみやびは顔を真っ赤にして驚いた。

 

 

 




ここまで書きました!!

本当不定期ですいません。

これからも更新少しずつですが頑張りますのでよろしくお願いします。




感想欲しいな(チラッ)



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11話 ショッピング

皆さん、名前の書き方なんですが、今迄苗字と名前の間に空欄を作っていましたが自分で書いてて違和感があったので直します。


「準備は良いか?ユリエ」

 

「ヤー。いつでも来てください、私も負ける気はありません」

 

「面白え!!返り討ちにしてやるぜ!!」

 

合図と同時に、悠斗とユリエが互いに一気に距離を詰めてそれぞれの武器をぶつけた。

 

今、悠斗とユリエは互いの実力を測る為決闘を行っていた。思えば『新刃戦』では月見璃兎の襲撃によってユリエと透流とは戦えなかったので悠斗自身もこの決闘を待ち望んでいたのだった。

 

「いくぞ!!」

 

悠斗は向かってくるユリエに《長槍》で中段突きを放った。

ユリエは自身の《双剣》が悠斗の《長槍》を往なし、そのまま悠斗の懐に入ろうとする。

しかし、悠斗はすぐさま蹴りを放ってユリエを遠ざける。

その勢いを利用して、悠斗がユリエに3連突きを放つがユリエはそれを見切り、一気に間合いを詰めた。

悠斗は《長槍》でユリエの《双剣》をガードをすると、そのまま距離を離そうとした。

しかしユリエはそのまま悠斗に《双剣》で続けざまに斬撃を放った。

悠斗はその全ての斬撃を打ち払うと再び渾身の突きをユリエに撃ち込んだ。

しかし、ユリエも読んでいたらしく《長槍》を見切り、完全に悠斗の懐に入り込んだ。

 

「チェックメイトです」

 

ユリエが斬撃を悠斗に繰り出そうとする。誰もが決着かと思った。

 

「いいや、まだだ!!」

すると、悠斗は目にも留まらぬ速さで自身の《長槍》を引き戻し、先端近くの柄を握ると、ユリエの《双剣》をガードした。

 

「…っ!?」

 

ユリエは防がれるとは思っていなかったらしく、一瞬取り乱した。

悠斗はその隙を逃さずユリエの首元に《長槍》の先端を添えた。

 

「覚えておくと良いぞユリエ。長槍の最大の利点は間合いが長いんじゃない。間合いを操れることだ。」

 

「ヤー、覚えておきます。今回は私の負けです」

 

決着が着くと、周囲で観ていた観客たちはその次元の違う戦いに拍手を送っていた。

 

 

「スゲーな悠斗のやつ」

 

「全くだ。あそこまで槍を自在に操るなど生半可な訓練では出来ん。本当に奴は何者だ?」

 

悠斗とユリエの戦いを観ていた透流とトラは悠斗の実力に賞賛を送っていた。

 

 

 

(凄いな、悠斗くん…)

 

私はは自身の絆双刃の悠斗くんの強さに驚きを隠せずにいた。

 

彼は自分とは比べ物にならない程の実力を持っていた。

クラスでもズバ抜けた実力を持つユリエちゃんをも打ち破る実力をたった今発揮していた。

 

「私も…強くならないと」

 

自分も負けてはいられない。悠斗くんの特訓のお陰で少しずつだがスタミナがついてきている。だからこれからも頑張ろう。

 

自分を選んでくれた彼の為に…

 

 

(そ、そうだ…今度の休日は悠斗くんとショッピングに行くんだ…)

 

みやびは昨日の彼との約束を思い出し、顔を真っ赤にした。

 

 

 

〜回想スタート〜

 

「今度の休日、俺とどこか行こうか?」

 

「え…えぇぇぇ!?そ、そんないきなりデートだなんて心の準備か…」

 

「いやな、俺この辺りの街とかあんまり詳しくなくてさ、それで、今度の休日に色々周ろうかと思ってたんだけどそれならみやびも一緒にどうかな?って思ったんだけどどうだ?」

 

「えっ、そ、そういうこと?う、うん良いよ。」

 

「決まりだな。それでさ、なんかオススメスポットとか無いかな?」

 

「それならショッピングモールの《あらもーど》がオススメかな?」

 

「そっか、じゃあ今度一緒に行くか」

 

「う、うん。(こ、これってもしかしてデートなのかな?)」

 

 

〜回想終了〜

 

悠斗との約束を思い出し、みやびは顔がどんどん熱くなってきているのを感じていた。

すると

 

「なあ、みやび今度のショッピングなんだけどさ、何時から行く?」

 

突然悠斗が声をかけてきた。

 

「ゆ、悠斗くん!?わ、私は何時からでも良いよ」

 

「そっか、じゃあ9時ごろ出かけるか」

 

そういうと悠斗は透流達の方へと戻っていった。

 

「みやびさん、今のはもしかしてデートの約束ですか?」

 

突然後ろから梓が声をかけてきた。

 

「あ、梓ちゃん!?ち、違うよた、ただちょっとショッピングに誘われただけで…」

 

「私の記憶が確かならそれを人はデートと呼びます」

 

なぜか梓はグイグイ聞いてきた。

 

「みやびさん、天峰さんとはどこまで行きました?キスはもうすませましたか?」

 

「キ、キキキキス!?そ、そんな付き合ってないんだし…」

 

「…なんですか、面白くないですね」

 

そういうと梓は少しがっかりした感じて去っていった。

 

(そ、それにしてもデートかぁ…やっぱりそう見えるのかなぁ?)

 

みやびは少し顔を赤く染めながら考えていた。

 

 

 

 

 

「いや〜晴れてよかったな」

 

「そうだね悠斗くん」

 

そして休日、悠斗とみやびはショッピングモールを歩いていた。すると、

 

「ねぇ、あの人超カッコ良くない?」

「ホントだ、銀髪の超イケメンじゃん」

悠斗に見惚れる女性客達の声が聞こえてきた。

確かに、悠斗は銀髪のトップを短くし、襟足を少し伸ばしたウルフカットに金色の瞳でさらには人に好かれそうな明るさを持っているので周囲からよくモテるのがよく分かった。

 

「そんじゃあどこ行こうか?オススメのとこってどこかある?」

 

「え、ええと…悠斗くん見たいものとかってある?」

 

みやびが悠斗に聞いてみると

 

「そ、それじゃあ一か所行きたいところがあんだけど…」

すると、悠斗は少し顔を赤くすると、みやびの耳元でその場所を言った。

悠斗の言葉にみやびは少し驚いたが微笑み悠斗の行きたい場所へと案内した。

 

 

 

 

 

「はぁ〜♡やっぱり可愛いな〜♪」

 

悠斗とみやびがいる場所はペットコーナーであった。

悠斗はそこで一匹の仔犬を抱っこしていた。

話を聞くと、悠斗はどうやら可愛い動物が好きらしく、中学時代もこうやってペットショップに行って仔犬達と戯れていたそうだ。

 

「みやびも抱っこしてみろよ。可愛いぞ」

 

「う、うん。じゃあ…」

 

悠斗はそう言うとみやびに自分が抱っこしていた仔犬を差し出した。

みやびはその仔犬を抱くと、仔犬はみやびの方を向き鼻をヒクヒクさせていた。

 

「ふふっ可愛いね」

 

「だろっ?」

 

二人はその後も仔犬達と戯れていた。その後、お昼頃になり、食事をとるため喫茶店に入ることにした。

 

一方その頃二人の近くでは

 

「あ、梓。あの二人は本当に付き合っているのか?」

 

「いえ、おそらく天峰さんのアレは無自覚でしょう。どーせみやびさんにこの辺りのことを教えて欲しいとかって言ったんでしょうね」

 

橘巴と不知火梓が二人のあとを尾行していた。

すると、

 

「あれ?悠斗と穂高じゃないか?」

 

「どうしたのですか?」

 

悠斗達がそんな声が聞こえたので振り返ると透流とユリエがそこにいた。透流の手にはたくさんの服が入った袋があったのでおそらく服でも買いに来たのだろう。

 

「透流にユリエか。いやなに、ちょっとこの辺りの散策と少し仔犬と戯れていただけだ」

 

「…?」

悠斗の言葉に透流は少し疑問を持ったがあまり気にしなかった。

 

「こ、九重さんとユリエさんまで…これはとくダネかもしれませんね!?」

 

「あ、梓…あれは不純異性交遊か…?い、いやしかしせっ、性的逸脱行為ではないから……」

 

透流とユリエの登場に梓はさらに興奮し、巴は同様を隠せずにいた。すると、

「キミたち、二人だけ?」

 

「え……?」

 

振り返れば四人の男が立っていた。言うまでもなくナンパである。

 

「よかったら俺らと一緒に遊ばね?」

 

「二人とも可愛いね。高校生?どこのガッコ?」

 

「…なんですか貴方たち」

 

「わ、私たちは、こ、昊陵だが……?」

 

「コーリョー?」

 

「俺知ってるわ。近くにあるブドーが盛んなとこだ」

 

この男の昊陵学園に対する知識はさして間違っていない。全寮制の私学校、武道に力を入れている、卒業後は提携のシークレットサービスへ就職。しかしルキフルやブレイズの存在が噂されたとしても、荒唐無稽な絵空事と思われるのが関の山だ。

無論、外出する生徒たちにもその意識を徹底させるため、外出届を出す際には外でトラブルを起こさない、ブレイズを具現化させない等々、念を押されての外出となる。それらの原則を破った場合、厳しい罰則が与えられるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ透流…」

 

「ああ、分かってる」

 

悠斗と透流はナンパに絡まれている巴と梓を見つけると、互いに頷き、

 

「「やめろ、お前らっ‼︎」」

 

男たちの前に立ちはだかった。

 

「梓、巴、大丈夫ですか?」

 

「巴ちゃん、梓ちゃん、大丈夫?」

 

透流の元へユリエとみやびが加わると

 

「すっげ。マジ可愛いんだけど……」

 

「この子らもこいつらの連れ?」

 

「ハーレムってやつ?」

 

「なんかムカつく」

 

「どうする?」

 

「当然___ 」

 

とリーダー格が喋ると同時に、男たちは僅かに腰を落とす。

 

「軽くボコっちまおうぜ!」

 

「___ッ‼︎」

 

同時に男たちが動く。

 

(仕方ないこうなったら…)

 

(軽くいなして)

 

(そのまま逃げるか)

 

悠斗と透流は互いに合図をおくり、身構えた次の瞬間

 

タァン……‼︎遠くから乾いた音___銃声がハーバーストリートへ響いた。ほぼ同時に、透流へ殴りかかった男の一人が弾かれたように倒れる。

 

「え……?」

 

誰かが呆気を取られて呟いた。しかしその場の全員が何が起こったのかを理解するよりも早く次なる銃声が響き、またしても男が一人崩れ落ちる。

 

「なっ……⁉︎」

 

「トール、あれは……‼︎」

 

ユリエの視線を合わせた先、百メートル以上離れた三階のバルコニーに立つ、銃声の主を透流は目にした。

長く、煌びやかに輝く黄金色の髪を持つ少女の姿を。その手に握られるのは…長銃身の黒き《銃》。

 

(リーリス⁉︎それにあれは…《焔牙》⁉︎)

 

透流が驚愕に目を見開く中、リーリスは三発目、四発目と間髪を容れず引き金を引き、男たちは全員が崩れ落ちた。

周囲の視線が突然倒れた男たちへ向けられる中、透流たちは黄金の少女へ、彼女が持つ《銃》へ釘付けとなっていた。脳裏に甦るのは、以前、授業で教わった話だ。

 

『《焔牙》は複雑な構造を持つ武器として具現化は出来ない』

 

その話に嘘はなく、本来ならば《銃》の《焔牙》など有り得ない。けれど透流たちの視線の先に映る《焔牙》は、間違いなく《銃》であった。

リーリスがライフルを消し去り、踵を返す。黄金色の髪がバルコニーの奥へと去る様を見つめる中、透流は呟いた。

 

「《特別》……」

 




ハイ!!今回は少し長くなりました!!

ですがキリの良いところまで書きたくて書いたらこんな風になりました。

色々未熟ですが、これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。


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12話 咬竜戦

いよいよ咬竜戦です


翌日の昼休み終了間際

 

 

透流たちが体力強化訓練のために校門へ向かう途中、透流はふと金色の輝きが視界の端に映り足を止めた。

 

「トール?」

 

先を歩いていたユリエが、チリンと鈴を鳴らして振り返る。

 

「悪い。ちょっと先に行っててくれるか?」

 

ユリエが頷くと、透流は光が見えた場所、寮のバルコニーへと向かっていった。

 

「一人で大丈夫か?」

 

悠斗も気づいたらしく、透流に聞くと、

 

「大丈夫だ。それに、あのままじゃあいつが浮いちまうだろ?」

 

確かに彼女は今までちゃんと授業に出ていない。このままでは透流の言う通り周囲から浮いてしまうだろう。それを透流はほっとけないのだろう。

 

(なんつーか…こういうお人好しなところってこいつ本当にツナと似ているな)

 

悠斗は彼のその性格にツナを重ねていた。

 

「…分かったよ。でも今度は一人でマラソンしろよな」

 

「あれはお前が勝手についてきたんだろ?」

 

「確かに」

 

悠斗と透流はそう言いながら笑みを浮かべ、透流はバルコニーで紅茶を飲んでいるリーリス・ブリストルの方へと向かっていった。

 

「それじゃあ俺たちは行くか」

 

「悠斗くん、透流くんは大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だと思う。別になんかされるわけじゃないだろうし」

 

そうして、俺たちは校門へと向かっていった。

 

 

 

 

「ご、ゴール…」

 

「お疲れさん、前よりタイムも速くなってるぞ」

 

今日の体力強化訓練は初日同様マラソンであり、初日では走りきれなかったみやびも俺とのトレーニングの成果があってか以前よりも速いペースで走れるようになっていた。

俺とのトレーニングでもみやびは弱音を吐かずにしっかりとついてきており、悠斗自身も感心していた。

ただ、一人で走っていたりもしていて少しオーバートレーニングなところもあり悠斗もそこは注意していた。

 

「スゲー体力ついてるな、日頃の鍛錬の成果がでてる。」

 

「う、うん。私も少し自信がついたかな」

 

「その意気だ。あっ、これ飲むといいよ。水分補給はしっかりとしなきゃ」

 

そういうと、悠斗はみやびに二つあるスポーツドリンクのうちの一つを差し出した。

 

「あ、ありがとう…」

 

「気にすんな。脱水症状になったらシャレにならんしさ」

 

みやびは顔を赤く染め、悠斗からスポーツドリンクを受け取った。

 

「悠斗さん…そういう時は自分の飲みかけを差し出すシーンなのに…」

 

それを見ながら梓がなんか言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、校舎裏

 

「…分かりました。では計画が出来次第、準備に取り掛かります。リーリス・ブリストルの確保は必ず…はい、もう一つの目的の方もある程度候補を絞れました。近いうちに必ず一人に絞れるはずです。本命もおりますし、《彼女》は博士の研究の完成に相応しいと思います」

 

『よろしくお願いしますよ。《装鋼の技師》も貴方には期待しております。くれぐれもあのお方の期待を裏切るようなことはしないでくださいよ』

 

「大丈夫です《K》隊長。全ては我ら《神滅部隊(リベールス)》の悲願のために」

 

そういうとその影は電話を切り闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

「お疲れさん、どうだった?」

 

「まぁリーリスと色々話せたのは大きかったかな」

 

結局透流は夜まで帰ってこず、学園に戻ったのは門限を過ぎた頃だったそうだ。

 

「リーリスは本気で透流をデュオにしようと思ってたんだな」

 

「ああ、でも俺は今の絆双刃を変える気は無い」

 

「そうかよ、だと思った」

 

そう言っていると、

 

「さーて、交流試合のことを憶えてる人はどれだけいるかなーっ☆」

 

そう月見璃兎が聞いてきたので悠斗は手を挙げた。

同様にクラスの大半が手を挙げた。無論、大半であって全員ではない。

 

「……九重くん。ど・お・し・て、憶えてないのかな〜?」

 

営業用スマイルのまま、月見が透流の額を指先で何度もつつく。

 

「今、聞いて思い出しました」

 

「殺すぞ」

 

一瞬だけ素に戻り、ぼそりと呟くと再び笑顔の仮面を被る月見。

 

「さてさて、先生の話を憶えてなかったとーっても残念な人がいるみたいだから、もっかい説明するよ♪今月の下旬に二年生との交流試合を行うの。その名も《咬竜戦》☆オッケー?」

 

「《新刃》』のようなものですか?」

 

「そそっ。ただし今回は《絆双刃》での勝負じゃなくて、学年対抗になるの。一年生対二年生の選択メンバーって形でね♪」

 

「せんせー質問でーす。二年生はどうして選抜メンバーなんですか?」

 

「だってフツーに一年生全員対二年生全員をやったら勝負にならないでしょ?」

 

女子の一人の質問に月見は軽い口調で、けれど厳しい現実を言って返す。二年生へ進級するには《 II 》へ昇格することが条件だ。自分自身の超化の度合いから考えるに、数で勝っているとはいえ二年生全員が相手ともなれば戦力差は絶望的だろう。

続けて月見はルールの説明をする。大雑把にまとめると以下のような内容だった。

 

「だってフツーに一年生全員対二年生全員をやったら勝負にならないでしょ?」

 

女子の一人の質問に月見は軽い口調で、けれど厳しい現実を言って返す。二年生へ進級するには《 II 》へ昇格することが条件だ。自分自身の超化の度合いから考えるに、数で勝っているとはいえ二年生全員が相手ともなれば戦力差は絶望的だろう。

続けて月見はルールの説明をする。大雑把にまとめると以下のような内容だった。

 

 

○一年生は全員、二年生は選抜された四組の《絆双刃》。

○《焔牙》の使用可。

○制限時間は一時間。

○場所は格技場。

○時間内に中央へ設置された旗を倒せば一年の勝利。

 

 

「……つまり棒倒しと思っていいのですね」

 

身も蓋も無い言い方をしたのは橘だ。

 

「いえすっ♪」

 

 

 

 

 

 

あの後、クラス全員で格技場へと移動しすると中央の闘場では既に二年生がメンバー選出のためのバトルロイヤルを開始していた。透流たちは観客席に座ってその光景を観察していた。

 

(…やっぱりレベルが高いな)

 

悠斗は《新刃戦》の時よりもレベルの高い二年生達の戦いにさらに胸を高鳴らせていた。

 

「___さーて、それじゃあ二年生のメンバーも決まったし、みんなは教室へ戻って作戦会議しよっかーっ☆負けたらみんな、ぶっとばしちゃうぞー♡」

 

(月見が言うと冗談に聞こえないな……)

 

と思いつつ、透流が席を立ったときだった。

 

「あ……」

 

外への通路から格技場へ入ってきた黄金の少女を目にし、足を止めた。

 

「リーリス……」

 

「………………」

 

黄金の少女は透流の姿を認めると、キッと鋭い視線を向けるも、声を掛けてくるでもなく、そのまま闘場へと降り立った。

 

(何をする気だ……?)

 

その疑問は透流だけに留まらずクラスメイトである一年生のみならず、選抜メンバーとして決定したばかりの八人の二年生もリーリスへと注視する。当然だ。

一年生にとっては初日のHR以来、教室にまったく顔を出さない謎の転入生。

二年生にとっては見たことのない生徒、しかも外国人の美少女が突然現れたのだから。好奇の目が集まる中、リーリスは闘場の中央で立ち止まると、耳を疑うようなことを言い出した。

 

「選抜メンバーが決まったばかりで悪いけど、今から《咬竜戦》を行って貰えないかしら。ただしそちらの疲労を考慮して、あたし一人がお相手するわ」

 

「なっ…⁉︎」

 

格技場に驚きが駆け巡る。提案された内容が内容だけに、大半の者は呆気に取られてリーリスへ視線を送るばかり。だが最初に我に返った二年の男子、選抜メンバーの一人が呆れたように話し掛ける。

 

「おいおい、突然出て来て何言ってんのさ。《咬竜戦》とか一人で相手するとか、意味わかんねーっての」

 

「……だったら、その体に教えてあげる」

 

「は?いま何て……」

 

「二度は言わないわ」

 

代わりに、行動で示される。

 

「《焔牙》 」

 

《力ある言葉》に呼応して《焔》が舞い散り、《無二なる焔牙》が具現化される。

 

「そ、それって……」

 

存在しないと聞かされていた《銃》の《焔牙》。その銃口を向けられた男子が…いや、ほぼすべての生徒が目を疑う。

直後、乾いた銃声が響き、男子は一瞬体を震わせた後に倒れた。その姿を見つめたまま、リーリスは手元で《銃》をくるりと回す。しばしの沈黙、次いて怒号

 

「何しやがる‼︎」

 

「ちょっとどういうつもり⁉︎」

 

「ケンカ売ってんのか‼︎」

 

殺気立つ二年、固唾を呑んで見守る一年。視線を一身に集める中、涼しげな笑みを浮かべてリーリスは来賓席へ顔を向けた。

 

「どうにも丸く収まりそうにないし、《咬竜戦》の許可を貰えるかしら、理事長?」

 

自ら作り上げた状況で、ぬけぬけと言い放つリーリス。

 

「……随分と唐突な話ですのね。理由をお聞かせ頂きたいですわ」

 

「終わったらでいいかしら」

 

理由を口にするつもりが無さそうな黄金の少女。

 

「まったく……。貴方の気まぐれは本当に困ったものですわね」

 

九十九朔夜は小さく嘆息し…。

 

「わかりましたわ。今から《咬竜戦》を行うことを特別に許可します」

 

「感謝するわ、理事長。さて、それじゃあ許可も出たことだし…」

 

ぱちりとウインクをし、リーリスは選抜メンバーの顔を見回す。

 

「《咬竜戦》、スタートよ‼︎」

 

 

 

 

そこからは殆ど一方的な殲滅であった。リーリスの《銃》が向かってくる二年生達に向けられ、次々と討ち取られていき、ものの一分で全滅してしまった。

 

 

「ジャスト一分ってところかしら」

 

リーリスは不敵に笑い___。

直後《咬竜戦》の終了を知らせる銃声が格技場に響き渡った。

 

「残念ながら一分と六秒ですわ」

 

「あら、それは残念」

 

むしろ愉しげに返すと、リーリスは(銃》を《焔》と化して四散させた。その様を来賓席から見下ろしたまま、漆黒の少女がリーリスへ語りかける。

 

「《咬竜戦》とは、一年生にとって戦略次第では格上の相手と互角に闘うことが出来ると___ときには倒すことすら可能だということを経験させるためのものですの」

 

「ええ、知っているわ」

 

こともなげに返す黄金の少女に、理事長は眉をひそめる。

 

「ならば何故このように貴女一人で、しかも本来の日程を崩して《咬竜戦》を行うことを希望したのか、約束通り教えて頂きたいですわ」

 

「パーティーを開きたいのよ」

 

「……どういうことですの?」

 

「クラスメイトと親睦を深めるためのパーティーを開きたいって言ってるの。それも大々的に」

 

 

「それがいったい《咬竜戦》とどのような関係がありますの」

 

「だってしょうがないじゃない。会場を借りようとしたら、《咬竜戦》の日程と被ってたんだもの」

 

「……つまり貴女は個人的な理由で《咬竜戦》を早くに済ませたかったのですわね」

 

「ご明察。話が早くて助かるわ」

 

ぱちりとウインクをするリーリスへ、理事長は嘆息する。

 

「まったく……困ったことをしでかしてくれましたわ……。後日改めて同じ内容のものを行うか、それとも別の何かを用意するか……。頭が痛い話ですわ」

 

「それなら問題ないわ」

 

いったい何がだろうかと、格技場内にいる誰もがリーリスの言葉に耳を傾ける。

 

「あたしの実力は見ての通り、彼ら二年生の選抜メンバーを凌いでるわ。戦略次第では格上の相手を倒すことも可能と言うのなら……それを見せてくれないかしら?」

 

「……なるほど。つまり貴女はダンスパーティーを催すということですのね」

 

「ええ、そうよ。あたしたちは踊るの。着飾るは《焔牙》で、流れる楽曲は剣戟となるダンスをね」

 

「くはっ、とんだじゃじゃ馬お嬢様だな」

 

小さく口にした言葉とは裏腹に、笑みを浮かべる月見。

 

「そうね、曲名は___ 」

 

「ちょっと待ちなリーリス・ブリストル」

 

リーリスが何か言おうとした瞬間、観客席から悠斗が闘場へと降りてきた。

 

「ゆ、悠斗くん!?」

 

突然のことにみやびは驚きを隠せずにいた。

 

「何かしら、天峰悠斗」

 

「随分と舐めたことをしてくれたな…」

 

「舐めたこと?」

 

悠斗の言葉にリーリスは疑問を持った。すると、

 

「二年生との闘いスゲー楽しみにしてたんだぞ!!スタンドプレーも大概にしろぉぉ!!」

 

その怒りの言葉にリーリスは一瞬ぽかんとしたがその後、クスリと笑うと

 

「その謝罪ならさっき言ったダンスパーティーでしてあげるわ。それに、貴方とは闘いたいと思っているのは事実だし」

 

「…俺を含めたクラス全員を倒すってのか?」

 

「そのつもりよ」

 

悠斗はリーリスのその自信を持った言葉に少し納得がいかない様子だったが

 

「…良いぜ。その喧嘩敢えて買ってやるよ。俺たちの力見せてやる」

 

「見せて貰うわ。そうそう、さっき言いそびれたけど曲名は…

 

 

 

 

 

「《生存闘争(サバイブ)》」

 

 

闘いのタイトルが決まった。

 




生存闘争始まります。


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13話 生存闘争

生存闘争始まりました


(生存闘争ねぇ………)

 

悠斗は月見璃兎の講義中にそんなことを考えていた。

今の悠斗は咬竜戦をメチャクチャにされた怒りよりもツナからの警告のことを思い出していた。

 

(もし生存闘争の最中に敵が襲撃してきたら透流達だけではおそらく敵わない。やっぱり正体がバレてでも俺が動くべきだよな…)

 

透流たちの強さは知っている。しかしそれでも透流たちは裏社会の連中との戦闘経験は殆ど無い。これまで闘ってきた自分だから分かるが、ただ戦闘力があるだけでは奴らは倒せない。奴らは時には相手を殺す気でやってくる。そんな奴らにいくら《超えし者》である彼等でも危険である。

 

(もし俺よりも格上の相手が来たら…いや、絶対にこいつらは守ってみせる…)

 

「悠斗くん…」

 

そんなことを考えてると、隣からみやびが話しかけてきた。

 

「ん?あぁみやびか、どうした?」

 

「大丈夫?何か考えてるみたいだけど…」

 

「大丈夫だ。悪いな心配かけて、問題ねぇよ」

 

「無理しないでね。私もなにか手伝えることがあったら…」

 

「分かってるよ。サンキューな」

 

悠斗は笑みを浮かべながらみやびにそう返した。

 

(無駄に考えてもダメだな。今は目の前のことに気をつけないと)

 

自滅してしまっては意味が無い。悠斗は再び気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜深夜 校舎裏〜

 

「はい、それでは《生存闘争》の開催地、時間帯、周囲の警備状況はそちらに送った情報通りです。ですので九重透流や天峰悠斗、リーリス・ブリストルらが潰し合いで疲弊した後なら簡単に制圧できるかと…」

 

『ご苦労様です。それではそのまま引き続き潜入を続けてください。貴方の素性はバレてませんね?』

 

「はい、大丈夫です。今のところ正体はバレていません。このまま潜入を続けます。」

 

『ならば問題ありません。そうそう、《装鋼の技師》殿から《素材》の方は目星はついたかと聞かれているのですが?』

 

「それならもう本命を見つけました。《彼女》ならば確実に上手くいくかと…」

 

『分かりました、貴方を信じましょう。それでは、今後もよろしくお願いしますよ』

 

「分かりました《K》隊長。それでは…」

 

そうして影は電話を切ると、

 

「…かならず成功させる。でなければこの身に意味など無い」

少し悲しそうな声で去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

〜生存闘争当日〜

悠斗たちはモノレールに乗り駅に停めてあった専用バスに乗りながら生存闘争のルールを振り返っていた。

生存闘争ルール

○一年生全員VSリーリス一人

○制限時間は一時間

○場所はあらもーど北館

○一年生チームの勝利条件は次の二つのいずれか。

A.全滅(全員が気絶)をしないこと。

B.リーリスが胸元につけている薔薇の花を散らすこと。

 

変わったのは三点

 

まず相手。

二年生選抜からリーリス一人に変わったが、

リーリスは二年の選抜メンバーをあっさりと倒したリーリス。透流たちと同じ《 II 》だが、眼前で見た実力からするに遥かに格上だと考えた方がいいだろう。

 

次に場所。

あらもーどが会場に選ばれたのは、二つの理由からだった。

一つ目は遮蔽物のある場所にしなければ、一年生チームが圧倒的に不利となるだろうとのこと。これは格技場の一戦を見ている限り、非常に納得のできる話だ。遮蔽物のある場所なら学園の敷地内でもいいのでは?という疑問への答えが二つ目の理由だ。

学校よりもショッピングモールで闘った方が面白そうだから(リーリス談)らしい。ちなみにあらもーどには、大企業のお嬢様が自主制作映画を作る…永遠に未完成とのこと、という理由で貸し切らせて貰ったとのことだ。

 

最後の勝利条件。

これは透流たちにとっては極めて有利だった。

最悪、制限時間まで生き残ればいい透流たちと違い、リーリスは一年生全員を制限時間までに倒さなければならない。中でも一年生の中では現在最強と名高い悠斗も制限時間までに倒さなければならないのだ。彼女の立場になってみればそれがどれだけ大変かは容易に想像出来る。

 

二つめのリーリスの胸の薔薇を散らせば勝利というのは、とても彼女らしい。普通に闘えば負けることはないという自信の現れ故に、ハンデを自分に課したのだ。それでもあの黄金の少女は、自身の勝利が揺るぎなきものと考えているのだろう。

 

(その自信の源こそが《無二なる焔牙》、《銃》か……)

 

「悠斗、もうすぐ着くぞ」

 

悠斗が考えていると巴が話しかけてきた。

 

「ん?あぁ悪いな」

 

悠斗は今回、流石に自分たちだけではキツイと考え、透流&ユリエ、トラ&タツ、巴&梓達と共闘することにしていた。

悠斗一人でもリーリス相手に遅れをとることはまず無いだろう。しかし、悠斗はそれでも一緒に闘いたかったのだ。

この学園で知り合った仲間達と…

 

すると、車種はわからないが黒塗りの高級そうな車が、陽射しを反射しつつ屋上駐車場へと姿を見せる。車はゆっくりと透流たちの乗ってきたバスの隣へと停車し、リーリス・ブリストルが降りてきた。

 

「主催者の登場か」

 

その背後から黒衣の少女が妖艶な笑みを湛えたままに姿を見せる。彼女らに息を呑む者が多い中、透流たちの引率としてバスに乗っていた月見がぶつぶつと呟く。

 

「ったく、なんでアタシだけガキのお守りなんだよ……」

 

「騒がしいから一緒の車に乗せたくなかったとか?」

 

「確かに先生たちの疲れがさらに増しそうだな」

 

「潰すぞ。……主に三大欲求の一つを」

 

「やめてくれ……」

 

本気でやりかねない相手なので、悠斗と透流は念のため一歩下がって距離を取る。

 

「皆さん、これより理事長よりお話があります。静かにするように」

 

三國先生が進行を始め、全員の視線が九十九理事長へと集まった。

 

「皆さん、ごきげんよう。既に存じているとは思いますが本日は本来ならば《咬竜戦》を行うはずでした。けれど… 」

 

理事長が隣に立つリーリスと無双を紹介するように手を向けると、黄金の少女と漆黒の少年はすっと頭を下げた。

 

「当学園の兄弟校であるフォレン聖学園から転入してきました、こちらのリーリス=ブリストルさんたってのご希望もありまして、予定を変更し親睦会《生存闘争》を行うこととなりましたわ」

 

予定変更と言っても、《咬竜戦》の目的である格上の相手へ戦略を以って挑むということは《生存闘争》において変わりはない。故に、透流たちが如何様にしてリーリスと闘うのかを楽しみにさせてもらう、と理事長は語る。

 

「この《生存闘争》が貴方たちの良き経験となるよう、心から祈り願っていますわ」

 

理事長の挨拶が終わると、三國先生からルールについて改めて説明される。特に変更があるわけでもなく、俺たちが先に館内へ入り、十分後にリーリスと無双が入ったところで開始とのことだった。説明が終わり、親睦会の名を借りた《焔牙模擬戦》を始めるために、続々とあらもーど館内へとクラスメイトが入って行く。けれど透流はみんなを尻目に、その場を動こうとはしなかった。

 

しばらくすると、透流が戻ってきた。悠斗は透流の顔を見ると、

 

「話は済んだか?」

「まあな。悠斗、絶対勝つぞ」

 

「勿論だ」

 

悠斗と透流は互いに勝利を誓った。

 

「全力でぶつかりあえば認め合える___まるで子供ですわね」

 

呆れたように言う朔夜へ、リーリスは何も答えない。

 

「朔夜様。周辺配備の確認が終了しました。いつでも始められて問題ありません」

 

「ご苦労様、三國」

 

三國はかつての教え子たちに指示を出し終え、朔夜へと報告する。貸し切っているとはいえ公共の場で《焔牙模擬戦》を行うということもあり、あらもーど周辺はドーン機関より派遣された《超えし者》によって警備されているのだ。

 

「そういうことですので、そろそろ始めますわよ」

 

「ええ、わかったわ。一時間ほど楽しみましょうか。……ま、唯一の脅威と言えるのは天峰悠斗ただ一人。その天峰悠斗も対策は十分調べた。負けることは万に一つと無いわ」

 

館内入り口へ顔を向けたリーリスへ朔夜が話しかける。

 

「同じ《唯一無二》であり、同じではない《焔牙》を持つ、同じ退けし者たちの闘い……。楽しみに拝見させて頂きますわ、リーリス・ブリストル」

 

「ご期待に添えられるように祈ってて。」

 

「…それと、あまり天峰悠斗を甘く見ないように」

 

「ええ、分かっているわ。天峰悠斗には最新の注意を払って闘うわ。逆に言えば天峰悠斗以外は問題無いわ。九重透流も問題無いしね」

 

リーリスは自信を持って言うと、リーリスは会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

悠斗とみやびが指定位置で待機していると《生存闘争》開始の合図とも言える銃声が聞こえ、二人は透流たちに合流するためにショッピングモール内を走っていた。

 

「みやび、リーリスの銃は遠距離からの攻撃はもちろん接近戦も完璧だ。油断するなよ」

 

「う、うん…」

 

みやびは緊張しているらしく、少し体が震えていた。悠斗はそれを見ると、

 

「大丈夫だみやび、俺がついてる。それに、みやびもあれから強くなってきてる。自分を信じろって」

 

そう言ってみやびの頭を優しく撫でた。

 

「悠斗くん…ありがとう、頑張るよ」

 

みやびは顔を真っ赤にした。すると、

 

 

タァァァン

 

 

すぐ近くから銃声が聞こえてきた。

 

「みやびっ!!」

 

「う、うん!!」

 

悠斗とみやびは銃声の聞こえた方向へと向かっていった。

するとそこにはリーリスが数人の生徒を倒していた。

 

「あら、まさか貴方にいきなり会うなんて意外だったわ」

 

リーリスは自信の《焔牙》である《銃》を回しながら悠斗の方を向いた。

 

「御託はいい。《咬竜戦》を台無しにされた恨み、しっかりと晴らされて貰うぜ!!」

 

「良いわ、全力で倒させてもらうわ!!!」

 

そう言うと、リーリスは《銃》を構えると、悠斗に向けて発砲した。しかし悠斗はその銃弾を自身の《長槍》を振るって弾いた。

 

「驚いたわ…まさか本当に銃弾を弾いてしまうなんて」

 

「こんなの銃口の向き、角度、銃弾の速度を計算すれば簡単だ」

 

「普通計算出来ないと思うんだけど…それならこれはどうかしら?」

 

そう言うとリーリスは再び《銃》を悠斗に向け、発砲した。

 

「同じことだ!!」

 

悠斗はそれを完全に見切り交わしたが

 

カキンカキィィン

 

銃弾が周囲の壁を跳弾し悠斗に再び襲ってきた。

 

「悠斗くん!!」

 

「うぉ!!あぶね!!!」

 

悠斗がそれを間一髪でかわすとリーリスの《銃》からさらに銃弾が放たれ跳弾が悠斗へと襲いかかってきた。

 

「く…そっ!狼王満月!!」

 

悠斗は(長槍》を超高速で振るって竜巻を生み出し、銃弾を防いだ。

 

「さすがね、天峰悠斗。やっぱり貴方はメインディッシュにとっておくべきね…だけど、だからこそ解せないわ」

 

「…なにがだ?」

 

「貴方の絆双刃のことよ。こういうのは彼女に対して失礼だけどやっぱり貴方と実力に差がありすぎるわ。武器の相性も良好ってほどじゃ無いみたいだし」

 

「…っ」

 

リーリスの言葉にみやびの体は震えだした。みやびも少なからず感じていたのだ。自分と悠斗の実力の差に。だからこそ、それを指摘されてしまったことに反論出来ずにいた。

 

 

「聞き捨てならねぇな、リーリス・ブリストル」

 

しかしそれを悠斗は否定した。

 

「みやびは俺が認め、俺が選んだ絆双刃だ。それを否定するってことは俺を否定するってことだぜ」

 

「…どうやら言いすぎたようね。ごめんなさい、だけどやっぱり貴方との実力差は事実よ」

 

「…だったら証明してやる。みやびの凄さを」

 

「…それじゃあ期待して待っているわ」

 

リーリスはそう言うと二人の前から去っていった。

 

「悠斗くん…」

 

「みやび、リーリスを見返してやろーぜ。みんなの力で」

 

「う、うん」

二人は再び透流たちに合流するために走り出した。

 

 

 

 

 

「《装鋼の技師》殿。準備が出来ました。」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、では行こうか《魔女》殿も元へ」

 

「では『シェード』。リーリス・ブリストルの方は頼みました。」

 

「…ワカッタ。ダカ《ボンゴレ》ハ《オレ》ガタオス。ワスレルナヨ」

 

「もちろんです。天峰悠斗は貴方に任せます」

 

脅威がすぐそこまで迫ってきた。

 




今日はここまで!!

次回、リーリス戦決着&VS装鋼軍団です!!


そして、次回あたり、ボンゴレキャラをさらに登場されるつもりです!!


…誰かは次回のお楽しみってことで、

それと、主人公のプロフィールを載せます。随時更新していく予定です。



感想ほしいな


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14話 幽霊

次話投稿です


「てな感じでリーリスと戦ったわけだ」

 

リーリスとの初戦後、悠斗とみやびは透流たちと合流した。透流たちもリーリスの実力をあらためて実感した。

 

「分かってはいたがやはり、一筋縄ではいかない相手だな…」

 

「全くだ…まさか悠斗が苦戦する相手とはな。悠斗、勝機はあるか?」

 

「正直一対一だとちょっと厄介だな…そこで今後の展開について皆で話し合いたいんだけど」

 

悠斗はパンフレットを開くとマップを皆に見せた。

 

「さっき銃声が聞こえた方向から察してリーリスは現在この《空の広場》のあたりで交戦していると思う…そこでリーリスを追撃するかもしくは待ちに徹して迎え撃つかだが…」

 

「もちろん追撃だ」

 

「ふん、僕にも否は無い」

 

「フンッ(ビシッ)」

 

「わ、私も頑張る」

 

「我々も賛成だ」

 

「はい、追撃あるのみです」

 

「…私もトールたちに賛成です」

 

「だと思った、それでなんだけどな、リーリスはおそらく後数分もしたら俺たち以外は倒しちまうと思う。リーリスの武器は連射、射程範囲、威力においても俺たちの武器を上回っている…更に接近戦も得意ときている。そこでだ…まずは二手に分かれよう。《空の広場》への道はちょうど二つある。俺とタツ、透流とユリエが大通りから、みやび、トラ、巴と梓が迂回路を使って来てくれ、一番有効なのはやっぱり周囲を囲むことだ、それでだな…」

 

 

悠斗の指示どおりのチームでそれぞれ『空の広場』へと向かっていった。悠斗たちが《空の広場》に着くと、思っていた通り、自分たち以外は全滅していた。

 

「皆気をつけろよ…どこから撃ってくるか分からないからな。例えば……

 

 

 

 

 

そこからとか」

 

その瞬間悠斗が後ろへ槍を振るうと、悠斗に向かって銃弾が飛んできた。悠斗はそれを即座に弾いたが、更に銃弾が放たれ、そのうちの一発がタツに当たり、タツはそのまま倒れた。

 

「タツ!!…くそっ」

 

「よく分かったわね…擬態は得意だったんだけど」

 

すると、倒れていた生徒の一人が起き上がってカツラを取り、リーリスが姿を現した。

 

「一瞬気配を感じたんだ。俺、勘はいいから」

 

悠斗は透流たちと共にリーリスへとそれぞれの『焔牙』を向けた。

 

「透流、俺の合図と共に作戦開始だ」

 

「あぁ、分かった。俺たちに任せてくれ」

 

「ヤー、悠斗もお気をつけて」

 

悠斗はそのまま息を吸うと、

 

 

「行くぞ!!!」

 

リーリスに向かって走り出した。

 

「はぁ!!」

 

悠斗はリーリスへと接近し、槍の大振りの一撃を放った。

 

「無駄よ」

 

しかし、リーリスは《超えし者》の身体能力を活かして空中へと避けた。

 

「悪いけど、私は兎狩りにも全力を出す主義なの。それに、天峰悠斗の方も対策済み、後はもう貴方たちくらいだわ。」

 

そう言うと、リーリスは再び悠斗たちに向かって《銃》を放った。悠斗たちはそれを柱に隠れてやり過ごすと、再び悠斗がリーリスに向けて攻撃を繰り出した。

 

「同じことよ!!」

 

リーリスはさっき同様に空中へと避け、悠斗に向けて銃口を向けた。

 

それに対し悠斗は

 

 

「今だ橘!!」

 

 

すると、突然《鉄鎖》がリーリスの足へと絡みついた。

 

「____っ!?」

 

リーリスも突然のことに同様したがすぐさま鎖から抜け出し、《鉄鎖(チェイン)》を放った橘へと銃口を向けた。しかし、

 

「無駄だ!!」

 

リーリスの背後からトラが自身の『印刀(カタール)』で奇襲をかけてきた。

 

「なっ…!?まさか、伏兵がもう一人…」

 

「いいえ、私もいます」

 

トラへ気を取られたリーリスへと梓が『大鎌(デスサイズ)』を繰り出した。強力な大鎌の一撃がリーリスの胸の薔薇へと放たれたがリーリスはとっさに体を捻り、紙一重で見切った。

しかし、そこに悠斗が《長槍》を振るって更に追撃をした。

 

「く…まさか、もうすでに潜んでいたなんて…」

 

「言ったろ?《俺たち》の実力を見せるって」

 

悠斗は作戦開始の時、はさみ打ちの他に、もう一つ作戦を伝えていたのだ。それは、トラたちには先に動いてもらい、リーリスを見つけても攻撃せず、彼女に気付かれない距離から監視して、自分たちと交戦し始めたら彼女に接近し、自分の合図と共に畳み掛けてほしいと連絡したのだ。

 

「まさか、集団戦をしてくるなんて…」

 

「俺は本来一人より皆と戦った方が実力を出せるんだ」

 

悠斗はリーリスに接近して言った。

 

「リーリス・ブリストル、覚えておくといい。ボンゴレの真骨頂は《個》の能力じゃない。仲間との《連携》にあるんだ」

 

「くっ…でも、これくらいならっ!」

 

「俺たちを忘れるな!!」

 

リーリスが悠斗と鍔迫り合いをしていると、透流とユリエがリーリスへと接近する。

 

「これで終わりだリーリス!!」

 

「チェックメイトです」

 

透流たちがリーリスの胸の薔薇めがけて攻撃を繰り出す。だが…

 

「甘いわ」

 

リーリスは悠斗の《長槍》を逃れると、すぐさま上の階へと回避した。

 

「惜しかったわね、あと一人くらいいればちょっと危なかったけど」

 

「じゃあその一人はどこにいるでしょう?」

 

「____っ!!しまっ」

 

「ヤァァァ!!」

 

リーリスの逃げ込んだ階にはみやびが《騎兵槍》をリーリスに向けて突進してきた。

 

「くっ…だけど彼女一人なら」

 

リーリスはみやびに『銃』を向けるが

 

「させねえよ!!」

 

悠斗が自身の《長槍》をリーリスの方へと投げつけた。

『長槍』はリーリスの《銃》へと当たり、リーリスの手を離れた。

みやびの《騎兵槍》がリーリスへと向かっていき、リーリスはとっさに見切ったが《騎兵槍》はリーリスの胸を掠め、薔薇を貫いた。

 

 

「よしっ!この勝負…俺たちの勝ちだ!!」

 

悠斗がガッツポーズをとり、勝どきを上げた。

 

「…まさか、ここまでやるなんて思わなかったわ」

 

「リーリス・ブリストル、オメーの敗因は俺だけに警戒を絞ったことだ。他の奴らの実力を甘く見たな」

 

「…どうやらそのようね。悔しいけど私の負けよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ナカナカオモシロイ《チャバン》ダッタゾ」

 

突然声が聞こえ、そっちを向くと、口元しか見えないヘルメットを被り、戦闘服の上から胸部や腕を装甲で覆い、手には突撃銃を持つという物々しい姿をした連中が現れた。

しかし、真ん中の男は口元までも隠したヘルメットで手には大型のナイフと明らかに他の奴らと違っていた。

 

「貴方たち、人のダンスパーティーに土足で入ってきて何の用かしら?」

 

「オマエガモクテキダ《リーリス・ブリストル》、オレタチトキテモラオウカ」

 

リーダー格の男はリーリスにナイフを向けてそう言った。

 

「お断りよ!!貴方たちの様な無礼な輩のエスコートなんて誰が…」

 

ダァァン!!

 

「うっ!!」

 

突然銃声が聞こえ、リーリスはフラついた。

「《装鋼の技師》カラハ、タショウイタメツケテデモツレテコイトイワレテイル」

 

「テメェ!!」

 

悠斗の怒りの声と共に、悠斗、透流、ユリエ、トラたちが連中に攻撃を仕掛けた。

悠斗の攻撃にリーダー格の男が自身のナイフで攻撃を仕掛けてきた。

 

(…!?こいつ、強い!!)

 

悠斗も敵の強さに気付き追撃するが、

 

「イイノカ?オレバカリコウゲキシテ?」

 

「…っ!!みやび逃げろォ!!」

 

「きゃあっ⁉︎は、離してぇっ‼︎」

 

「ククッ……。こんなのでも《越えし者》ってことか。なかなか力はあるみてぇだが、俺たちにとっちゃただの小娘ってことに変わりねぇな」

 

敵の一人の男はみやびの首に腕を回して拘束すると、頭へ拳銃を突きつけた。

 

「ひっ……⁉︎」

 

「うるせぇから叫ぶな。その頭に風穴開けるぞ‼︎」

 

男は引き金に手をかけた。つまり勝負はこの時点で決まった。

 

「待ちなさい‼︎」

 

その手を止めたのは、誰であろうリーリスだった。

 

「……あんたたちに大人しくついていくわ。だからそれ以上、あたしのクラスメイトに手を出すのはやめて貰えるかしら」

 

「…イヤダトイッタラ?」

 

「あたしを殺さないように連れて帰るのがあんたたちの役目なんでしょう?」

 

そう言ってリーリスは、ガラス破片___先が尖ったそれを自らの喉元へ突きつけた。

 

「その子から汚い手を離しなさい」

 

「…ソイツハモウイイ、トットトハナセ」

 

リーダー格の男はみやびを人質にとってる男に命令した。

 

「分かりました…」

 

リーダー格の男の命令に男は渋々みやびを離した。

 

「アアソレト…」

 

リーダー格の男はリーリスに、近付くと___ぱぁんっと乾いた音がリーリスの頬を打つ。

 

「オレハ、ウルサイオンナハキライダ」

 

「…以後気をつけるわ」

 

「…ツレテイケ」

 

リーリスの背中に銃を突きつけ、男たちは「空の広場」を立ち去ろうとする。

 

「り、リーリス……‼︎」

 

透流が呼びかけるがリーリスは

 

「…………。また、いつか会えたら……会いましょう」

 

それだけを言って、リーリスは男たちとともにこの場を立ち去る。そのリーリスの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい……わたしが、捕まらなければ……う、ぐすっ……」

 

大粒の涙がみやびの瞳から零れ落ちた。

 

「我々も何もすることができなかった……っくそ‼︎」

 

皆が自分の無力さに苛立っていたそのとき___

 

「みやび、もう泣くな」

 

「で、でも、でも……わたし、が、……ううっ……」

 

「いい。誰もお前を責めたりなんかしない。俺の方こそ守れなくてごめんな…それにリーリスは俺が助ける、だからもう泣かなくて大丈夫だ」

 

そう言うと悠斗はみやびを優しく抱きしめた。

 

「皆…ちょっと行ってくる」

 

「え……?ひ、一人じゃ無理だよ……!わ、わたしも___ 」

 

「大丈夫、あの手の奴らは俺の得意分野だ。それに、さっきのお礼もしないとな」

 

「俺も行くぜ」

 

悠斗の言葉に透流も立ち上がった。

 

「俺もリーリスを助けたい、今度は文句を言っても無理やり行くぜ」

 

「透流…ったく本当にそーゆーとこだけはツナと同じだな」

 

「誰だツナって?」

 

「俺の友達だ」

 

「そっか…んじゃあ行くか」

 

「無茶すんなよ」

 

そう言うと、悠斗と透流は共に連中の消えた方角へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

別動隊

 

「どうやらうまくリーリス・ブリストルを確保できた様だな」

 

「思ってたより楽な仕事でよかったぜ。それじゃあ俺たちも本隊と合流するか」

 

 

「ねぇ」

 

「!?」

 

突然聞こえた声に男たちはその方向へ銃を向けると、そこには一人の少年がいた。見たところ制服も昊陵学園のものではなく、『超えし者』ではないと判断し、

 

「おい貴様、ここは立ち入り禁止だ。とっとと失せろ」

 

銃を向けて軽く脅して追い払おうとしたが彼らは知らなかった。

 

「何僕の前で群れてるの?」

 

確かにその少年は『超えし者』ではなかった。しかし、それ以上の化け物であるということを

 

そして、彼は群れることを誰よりも嫌っていることを、そして、『風紀』を乱す奴を誰よりも嫌うことを

 

 

 

 

 

 

「咬み殺す」

 

 

 

 

 

 

数秒後、男たちはその少年に一蹴されていた。そして彼はそのまま《あらもーど》の中へと歩いて行った。

 

会場に怪物が放たれた。

 




敵急襲!!

そして…《奴》が来た!!

次回2章終了です!!


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15話 因縁+孤高の浮雲

第2章完結です


悠斗と透流はリーリスを救うため敵が去っていった方向から予測できる場所へ先回りするために走っていた。

すると、

 

 

 

 

「ヤハリキタカ」

 

先ほどの敵のリーダー格が2人を待ち伏せていた。

 

「クソッ待ち伏せられてたか…」

 

悠斗と透流はそれぞれの《焔牙》を構え、男の方を向いた。

 

「透流、ここは俺に任せてお前はリーリスを助けに行け」

 

「悠斗…大丈夫なのか?」

 

「心配すんな、すぐに追いつく。それに…奴は俺が目当ての様だしな」

 

「……悠斗、以前はなんかうやむやにしてたけど、お前の正体についてこの戦いが終わったらしっかり聞かせてもらうからな。仲間同士で隠し事は嫌だからさ」

 

「…分かったよ、ちゃんと話す。だから早くリーリスを助けに行け」

 

「勿論だ!!」

 

そう言うと透流はそのまま男の横を通り過ぎてリーリスの元へと向かっていった。

 

「…透流を見逃したのはわざとか?」

 

「オレノモクテキハアクマデオマエダ『アマミネ ユウト』ソレニ…カリニオイツイタトシテモ、ヤツヒトリデアノカズヲアイテニスルノハムリダ」

 

「透流の強さを舐めんなよ。それと、テメェ俺と因縁があるみたいだけど何者だ?」

 

「オレノコトハ《シェード》トデモオボエテオケ。ソシテオレノモクテキハオマエジャナイ。セイカクニハオマエタチジュウダイメボンゴレファミリーニウラミガアル」

 

「…ボンゴレだと?」

 

「オマエタチノセイデオレハスベテヲウシナッタ。ダカラオマエタチヲタオス」

 

「…何者か知らねえが、俺もやられるつもりはねぇ!」

 

悠斗は再び《長槍》を構えると、《シェード》に向かって突進した。

しかし、《シェード》は自身の大型ナイフでそれを防ぐと、次々と斬撃を繰り出してきた。しかもその一つ一つが確実に悠斗に向かって放たれており、悠斗はその技量に驚きを隠せなかった。

 

「…正直ここまでやるとは思ってなかったぜ。だから…出し惜しみは無しだ!!」

 

そう言うと、悠斗は槍の先端に《雪の炎》を纏わせ攻撃を更に繰り出した。

しかし、《シェード》はその攻撃にすぐさま対応し、悠斗に反撃を繰り出した。

 

「コノテイドカ?」

 

「いいや、まだだ!!!」

 

悠斗は更に炎の炎圧を上げ、さっきよりも速い斬撃を繰り出した。

 

「……!!マダハヤクナルノカ!?」

 

さすがの『シェード』もこれには驚き、悠斗の渾身の一撃を喰らって吹き飛んだ。

 

 

「…クソッ。ヤハリミチョウセイノオモチャデハコノテイドカ」

 

《シェード》は再び立ち上がると、再びナイフを構えたが

 

ドカァァン

 

奥の方から大きな爆発音が聞こえた。それを聞くと《シェード》は、

 

「…ドウヤラニンムハシッパイシタヨウダナ」

 

「言ったろ?透流を舐めんなって。それで?このまま続けるか?」

 

「イヤ、キサマヲタオスノハツギニスル。ダガ、オボエテオクトイイ。ツギニアウトキハキサマノサイゴダ』

 

そう言うと、シェードはそのまま去っていった。

 

 

 

 

「ふはははっ。さすがは『超えし者』。未調整では話にならんようじゃなぁ」

 

周囲でうめき声を上げて倒れている部下たちを見て、『装鋼の技師』は笑い声を上げる。彼らの相手をした三國の体には傷どころか汚れ一つついておらず、寸前に行われた闘いが闘いとは呼べない一方的なものであったことを示していた。

 

「下に向かった物も応答がありませんね。おそらく《シェード》がしくじったのでしょう…それに、別動隊からの連絡もさっきから途絶えている様ですし、おそらくやられていると思われます。報告によると、他の乱入者がいる様ですしね」

 

凄まじい轟音が途絶えた後、通信に応答が無いことで『K』は肩を竦める。

 

「ふむ。まさか学生を相手に敗北とはのう。いやはや……。随分と優秀な生徒をお待ちのようじゃな」

 

「特に今年は有望な生徒がいるおかげで、将来がとても楽しみですのよ」

 

下に向かっていった連中を倒したであろう人物を思い出して朔夜は小さく笑った。

 

「さて、この後はどうしますの?そちらが退かれるのであれば、こちらもこれ以上の手出しは致しませんわ」

 

「ほう、ありがたい話じゃ。では《操焔の魔女》殿のお言葉に甘えるとしよう。《K》くん、動ける者に指示を出して下の者の回収をしてくれるかの」

 

言外に見逃すと言われ、恥じることなく受け入れる《装鋼の技師》。やがて悠斗に倒された部下を回収し終え、《K》たちの撤退準備が整う。その後、《シェード》がヘリに戻ってきて何も言わずにヘリに入っていった。

 

「それでは我々はこれにて。《操焔の魔女》殿___いずれ、また」

 

「どうぞ、ご自由に」

 

こうして束の間の遭逢は終わりを告げた。去っていく大型ヘリを見つめつつ朔夜はぽそりと口にする。

 

「……《装鋼の技師》様。私たちは似ているようでいて異なりますの。だから貴方と私の道は決して交わらぬものですわ」

 

呟きは誰の耳に届くまでもなく、そのまま風が連れ去って行った。

 

 

 

 

「悠斗くん!!」

 

悠斗たちが戻ってくると、みやびが悠斗にいきなり抱きついてきた。

 

「うぉっ!?ど、どうしたみやび?」

 

「よかった…悠斗くんが無事で…本当によかった…」

 

みやびは涙を流しながら悠斗をきつく抱きしめていた。

 

「俺は大丈夫だよみやび。それと…少し苦しいんだが」

 

「え…?………っご、ごめん!!」

 

みやびはようやく自分が今何をしていたのかに気づき、顔を真っ赤にして慌てて悠斗から離れた。

 

「…あの2人、恋仲なのかしら?」

 

「いいえ、2人は付き合っていません。みやびさんは間違いなくホの字だと思うのですが悠斗さんはまったく気づいてない様で…」

 

悠斗とみやびの様子を見てリーリスが率直な質問をすると梓はそれに答えた。

 

「それじゃあ悠斗…約束通り教えてくれないか?お前の正体について」

 

「…分かった。これから先こんな風な事件に巻き込まれる可能性があるからな。教えておいたほうが良さそうだ」

 

そう言うと、悠斗は自分の所属しているボンゴレファミリーについて説明した。

 

 

 

「…ってなわけだ。これが俺の話せる全てだ」

 

「…驚いたな。まさかそこまで大きな組織だったとは…」

 

透流は悠斗の説明を聞いて、予想を超えるほどのスケールに驚きを隠せなかった。

 

「みんな…すまん、黙っていて…」

 

悠斗はこの学園で知り合った友人たちに謝罪した。それに対し透流たちは

 

 

 

 

「まぁでも悠斗が悪い奴じゃなくて良かったよ」

 

「ヤー、悠斗は私たちのことをいつも第一に考えてくれていました」

 

「わ、私も…悠斗くんが悪い人だなんて思わない」

 

「まぁ隠し事をされたのは少し腹立たしいが…そっちにも事情があった様だしな」

 

「…フンッッッ(びしぃっ)」

 

「うむ、私も悠斗のことを信じよう」

 

「私も信じます」

 

「……皆」

 

悠斗は彼らの言葉にホッと安心した。すると、その時

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ。天峰悠斗」

 

突然漆黒の影が悠斗に襲い掛かった。

 

「悠斗!!」

 

透流がとっさに反応し、《楯》でガードをすると、トンファーによる強力な一撃に透流が吹き飛んだ。

 

「透流!!…ってめえは!」

 

悠斗もその正体に驚きを隠せずにいた。

 

「雲雀…なんでてめえがここに!?」

 

「…君がここにいるって聞いてね…咬み殺しに来た」

 

そこには自身と同じボンゴレファミリーの守護者であり、ボンゴレ守護者最強と名高い雲雀恭弥がいた。

雲雀の言葉に悠斗は顔を真っ青にして

 

「お、お前まだあの日のこと根に持ってるのかよ…もうずっと前から謝ってるだろ!!」

 

「関係ないね。君は絶対に咬み殺す」

 

悠斗の言葉に聞く耳を持たず、雲雀は更にトンファーで追撃した。

 

「な…何者だ奴は!?あの武器は《焔牙》ではない!!まさか…生身で《超えし者》と対等に張り合っているとでも言うのか!?」

 

トラはあまりの光景に驚きを隠せずにいた。

 

「トール、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。それより悠斗の援護に行かないと…うっ!」

 

透流は悠斗の元へと行こうとしたが、先程までの傷に加えて、雲雀に吹き飛ばされたことでダメージを更に負っていた。

 

「君は休んでいろ。私たちが向かう」

 

「ヤー、悠斗は絶対に守ります」

 

そう言うとユリエたちは全員《焔牙》を出して悠斗の元へと向かい、雲雀のトンファーを防いだ。

 

「…まさか、僕の前で堂々と群れる奴がいるなんてね」

 

「舐めるな!!それ以上悠斗に手を出すなら私たちが相手だ!!」

 

巴は《鉄鎖》で雲雀に追撃するが、雲雀はその攻撃を難なく躱し、蹴りを放った。

 

「危ねぇ!!」

 

悠斗はとっさに巴を守り、蹴りを防いだ。

 

「…雲雀、それ以上俺のクラスメイトに手を出すならもう容赦しねぇ」

 

「…やっとやる気になった」

 

雲雀は悠斗の顔を見てまるで肉食獣の様な笑みを浮かべ、構えた。しかし、

 

 

 

『み〜ど〜りたな〜びく〜な〜み〜も〜り〜の〜♪』

 

 

 

突然雲雀の携帯から着メロが聞こえ、雲雀はとっさに電話に出た。

 

「もしもし…何?不祥事?…チッ」

 

雲雀は電話を切ると悠斗を睨み

 

「天峰悠斗、どうやら邪魔が入った様だ。今日のところは引くとするよ。でも覚えておくといい、君はいつか咬み殺す」

 

そう言うと雲雀は外へと去っていった。

 

「…ほんとあいつしつけーな」

 

 

 

 

施設内の一角

 

「申し訳ありません。まさか乱入者が現れて別動隊が全滅するとは思ってもいませんでした」

 

『構わんよ。こっちの使った《装鋼》は未調整品。ボンゴレの守護者相手では力不足じゃったわい。それより次のプランの準備は?』

 

「はい。準備はできてます」

 

『そうかそうか、では次こそはしっかりと頼むぞ』

 

そして、電話が切れると…

 

「…くそぉ!!!」

 

影は壁を思いっきり殴り、再び闇の中へと消えていった。

 

数日後、学園内病棟

 

「暇だ…早く体を動かしたい」

 

透流はリーリス救援の時に深手を負っていたらしく、更に雲雀の一撃を楯越しとはいえもろにくらったためしばらく絶対安静となっていた。

 

「ナイ。体を休めないとダメです」

 

「そうだ。いくらなんでも無茶しすぎた。雲雀の一撃をモロに食らったんだからな」

 

「雲雀ってあの男か?」

 

「まあな、奴は俺と同じボンゴレの守護者雲雀恭弥だよ」

 

「どおりで…強いと思った」

 

「まあな、実力ならボンゴレでもトップクラスだ。下手すりゃ俺より強いかもしんねー」

 

「…マジか」

 

すると、

 

コンコンッ

 

突然ドアがノックされリーリスが入ってきた。

 

「よう、リーリスどうした?」

 

「な、仲間のお見舞いに来るのは当然でしょ?」

 

リーリスは顔を赤くしてそう言ったので皆驚きを隠せずにいた。

 

「なによ!!違うっていうの!?全力でぶつかったら仲間って言ったくせに!!…あと…それと…助けに来てくれて…ありがと」

そう言うとリーリスは顔を真っ赤にして透流に手を差し伸べた。

 

「あ、ああ」

「それと…あの時はほっぺ叩いてごめん。痛かったでしょ?」

 

「いや、気にすんな」

 

そう言って透流はリーリスの手を掴み握手した。そして橘たちの方を向くと

 

「貴方たちも見くびっていたことを謝るわ」

 

彼女たちにも謝罪をした。

 

「いや、こちらもいい経験をさせてもらった」

 

「はい。勉強になりました」

 

「ふん、まあな」

 

「フンッッッ(びしぃっ)」

 

そしてみやびの方を向くと、

 

「何より今回のパーティのMVPは貴方だわ。あの時はゴメンね」

「う、ううん。私は…」

 

「あと、天峰悠斗と上手くやんなさいよ」

 

「え、えぇぇぇぇ!?そ、そんな私は…」

 

「ふふ、悪いけどバレバレよ」

 

みやびは顔を真っ赤にしてリーリスと話していたが悠斗はその内容に気づいていなかった。

 

「それで、九重透流。やっぱりあの話はダメなのよね?」

 

「悪いな。俺にはもう大切な絆双刃がいるからさ」

 

「分かったわ…でも、気が変わったらいつでも言いなさいよ」

 

「…トールは私の絆双刃です」

 

ユリエはリーリスの言葉に反応したのか透流の腕を掴みリーリスに反論した。

 

「ふふっ怖い怖い。ああそれと、大事なことを言うから、二度は言わないから聞き逃さないでよ」

 

「あ、ああ、わかった。___って、え……?」

 

さらに大事なこととやらを口にする寸前、リーリスは透流に顔を近付けてきて___赤い紅を差した唇が透流の頬に触れた。

 

『っっっっっ⁉︎』

 

その行為にそこにいた全員が驚きを隠せずにいた。

 

「アンタのこと、未来の旦那様にするって決めたから♪」

 

「「「「「「「「え、えぇぇぇぇ!?」」」」」」」」

 

その言葉に全員が更に驚愕した。

 

「トール…やっぱりその人と…」

 

「こ、九重くんのエッチー!!」

 

「は、破廉恥な!!」

 

「さ、三角関係…キマしたコレ!!」

 

「ち、違う!違うんだー!!」

 

「ふっ…」

 

「それじゃ、また後で来るから今は失礼するわ。……あ、そうそう」

 

扉の前で振り返り、リーリスは指で銃を形作ると___

 

「絶対にその気持ちを射止めてみせるわよ、透流♪」

 

バンッと言いつつ撃つ仕草をし、今度こそリーリスは病室を出て行くのだった。

 

 

 




第2章完結です!!!
書ききりました!!!そして!いよいよ強敵との闘いに身を投じていきます!!!まだ続けるつもりなので乞うご期待!!!


感想待ってます。


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臨海学校編
16話 芽生える想い


いよいよ臨海学校編スタートです!!!


「…というわけであいつらに正体を教えたってわけだ」

 

「そっか…そういうわけで…」

 

悠斗の報告にツナは少し納得いかないような反応をした。

いくら《超えし者》として超化されている彼らとはいえ裏社会の物事に巻き込んでしまったことを悔いているようだった。

 

「…分かってるよツナ。けどあいつらの覚悟を見ちまったからさ。ハルや京子のときミテーにな」

 

以前未来での戦いの際、御堂春と笹川京子がマフィアの真実に勘付いて自分たちに説明を求めた時もそのことでかなり揉めたことがあった。その際悠斗は「半端に隠すよりは安全だ」とツナたちに真実を話すべきだと言ったことがある。今回もこれからのことを考えて、今だからこそ言うべきだと判断したのである。

 

「うん、分かっているよ。悠斗くんがそれが一番良いって思ったんならオレも信じるよ。何かあったらすぐ言って」

 

「サンキューなボス」

 

そう言うと悠斗は携帯をしまい、ベットに横たわった。

 

「…必ずあいつらは守る。それが俺の責任だ」

 

 

 

深夜、シャワールーム

少女_____穂高みやびは異性が苦手だった。

子供の頃から消えないトラウマがある……というわけではなく、単にもともとが人見知りであり、恥ずかしがりな性分であっただけだ。その上、姉と同じく女子のみが通う中学へ進学したことも牽引した理由の一つだ。しかしながら、苦手と言っても恋愛に興味を持たないわけではない。

故に、自分もいつかは誰かと___などと想像くらいはしていた。そんな中、彼という存在に出会った。

最初の出会いは衝撃的だった。自分の対戦相手を彼自身が戦っていた相手もろとも吹き飛ばして腰を抜かしていた自分に手を差し伸べてきたといったものだった。

その後隣の席になったばかりか同じ部屋になり、最終的には自身の絆双刃になっていた。

それでいて彼は強かった。明らかに格上であった月見先生を打ち破り、今や同期の中ではトップの実力を持っていた。実際彼は試合で素人の自分でもわかるほどの強さで同時に心を奪われていた。

何より彼は優しかった。何の取り柄もない自分を絆双刃に選んでくれて、それどころか私のトレーニングをサポートまでしてくれた。そして彼のおかげで最初は走りきれなかったマラソンも今では完走出来るようになっていた。

そして彼の笑顔に惹かれていた。彼の笑顔はとても優しく、見ているだけで心を奪われていた。

彼が巨大マフィアの幹部と知った時もそんな優しい彼を知っていたから恐れることはなかった。

彼のことは初めは面倒見の良い優しいお兄さんのように感じていたが、それは変わり始めていた。

 

シャワールームから出てくると悠斗はもうすでに眠っていた。ふと彼の顔を見ると、

 

「zzz…」

 

そこには世界に名を轟かす巨大マフィアの幹部としての彼も、学年最強と名高い彼のどちらでもなくただ1日の疲れから眠っている少年がそこにいた。

 

「フフッ悠斗くん…寝顔可愛いな…」

 

みやびはそっと彼の顔を見て微笑んだ。

そして、少しずつ彼の口へと近づいていき____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…みやび?」

 

ふとみやびが目を開くとそこには目をかすかに開いた悠斗がいた。

 

「ゆ、ゆゆゆ悠斗くん!?ご、ゴメンもしかして起こしちゃった!?」

 

「ん?ああいや、大丈夫。どうやら寝落ちしていたみたいだな」

 

悠斗はふとベットから起き上がると緑茶を2つの湯のみに入れて

 

「ホイ、みやびも」

 

そう言ってみやびに湯のみを渡した。

みやびがそれを飲むと緑茶の香りと温かさが自分の体を包み込んだ。

 

「…美味しい」

 

「そっか、そりゃ良かった。本当はエスプレッソの方が淹れるのが得意なんだけどもう消灯時間だから眠れなくなるとマズイと思ってね」

 

そう言うと悠斗はニカッと優しい笑顔をみやびに向けた。

 

「…………!!」

 

みやびはその笑顔を見た途端、再び胸の鼓動が激しくなった。

 

「そんじゃあもう遅いしおやすみ」

 

「う、うん…おやすみ」

 

ベットの中に入ってもみやびは胸の鼓動は治らなかった。

 

 

『あと、天峰悠斗と上手くやんなさいよ』

 

『ふふ、悪いけどバレバレよ』

 

 

 

突然、リーリスの言葉がみやびの脳裏をよぎった。

その言葉を振り返ってみやびはようやく自身の気持ちに気づいた。

 

 

 

「そっかぁ…

 

 

 

 

 

 

私、悠斗くんのことが好きなんだ…」

 

 

 

気づいてしまった気持ちにみやびは顔がどんどん熱くなり、彼という存在をどんどん意識してしまった。

 

 

 

 

 

「どうしよう…」

 

こうして___穂高みやびは、己の初恋を自覚する。

 

 

 

 

同時刻、校舎裏

「では、決行の日時は変わらずということで、それで、《装鋼》の方は?」

 

『うむ、ついさっき調整を終えたところじゃ。あとは『素材』さえ揃えば完璧じゃわい。お前さんの送ってくれた《素材》のデータも見てみたがなかなか良い《素材》になりそうじゃないか』

 

「ありがとうございます。…では次の任務の内容は《魔女》と《素材》の確保ということで?」

 

『うむ、もっとも最悪《素材》だけでも問題ないんじゃがな』

 

「…わかりました。全ては貴方様の悲願のために」

 

『うむ、頼むぞ。』

 

「それと博士、1つ聞きたいのですが」

 

『何じゃ?』

 

「《シェード》の事です。奴は信用出来るのですか?」

 

『あぁそのことか、心配いらん。奴はボンゴレにしか興味がないようだからな』

 

「…わかりました。貴方様がそう言うなら間違いないのでしょう。」

 

「おいお前!!そんなところで何をしている!?」

 

「…!!すいません。また後ほど連絡します」

 

『うむ、気をつけてな』

 

見回りの教師に見つかりそうになり、影は慌てて電話を切りすぐさまそこを去っていった。

見回りの教師もおそらく夜更かししていた生徒と思い、特に気を止めなかった。

 

 

 

 

 

数日後、船上

 

「う…ぷっ……マジで酔った」

 

少々重めの扉を開いて外へ出ると、日差しに目が眩んで細まる。それと同時に、強い潮の香りを持つ風が鼻腔をくすぐった。外の景色へ目を向けると___青。

天地ともに、一面青だった。どこまでも続く大海原が、視界の先に広がっていた。悠斗たち昊陵学園の一年生は、今日から一週間の臨海学校を行うため、船に乗って南の島へ向かっているのだ。

しかし、悠斗は船酔いにやられ、酔いを和らげようとデッキに出たのであった。

 

「潮の香りがすごいなぁ…それに、空も海も真っ青だ」

 

デッキへ足を踏み出すと、より一層潮の香りが濃くなったように感じた。そこに腰を下ろし、風を感じながら、しばらくじっとしていると、

ガチャリ、と音を立てて船室とデッキを隔てる扉が開く。姿を見せたのは悠斗の絆双刃、穂高みやびだった。

 

「みやび?どうしたんだ?」

 

「え、ええと…悠斗くんがなかなか帰ってこないから心配になって…さっきもちょっと様子が変だったから」

 

「あー悪い、実は俺船酔いが酷いんだよ…昔からバイクとか車での公道は平気なんだけど船と山道のクネクネしたとことかは一向に慣れなくて…」

 

「フフッ、悠斗くんにも苦手なものってあるんだね」

 

「な、何だよ。俺だって苦手なもんくらいあるって。敢えて言わないけど」

 

「そうなの?」

 

「むしろ苦手なもんがない奴のほうが少ないって」

 

悠斗とみやびははそんな会話をデッキの上で続けていた。

 

「…ねぇ悠斗くん、1つ聞いてもいい?」

 

「なんだ?」

 

「…悠斗くんって好きな人とかいる?」

「好きな人?それって『LOVE』の方?」

 

「う、うん…」

 

みやびの突然の質問に悠斗は少し考えて

 

「…考えたことないな。悪い、大した答え出せなくて」

 

「う、ううん。こっちこそごめんね、急に変なこと聞いちゃって」

 

みやびは顔を赤くして悠斗に謝るが、悠斗はみやびの頭を撫でると

 

「気にすんなって。それに、俺たちは絆双刃なんだからさ、余計な壁を作るのは無しだ。他にも聞きたいことがあった時はいくらでも聞いてくれよな」

 

悠斗の言葉にみやびは少し微笑み、小さく頷いた。

 

 

その後は2人で軽く日向ぼっこをしていたのだがふと悠斗が気付くとみやびは悠斗の肩の上で眠ってしまった。

 

「…………」

 

温かい。触れている部分から、みやびの体温が伝わってくる。

 

「……可愛いな。」

 

そして、思っていた以上に気を許してくれていることが悠斗は嬉しかった。異性が苦手ということを感じさせないくらい、友人として仲良くなれたことが嬉しかった。

 

 




書いちゃいました!!!

甘く出来たでしょうか…?



感想よろしく


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17話 臨海学校

悠斗に変化が…


「さーてっここで大発表ー♪」

 

悠斗たちは月見璃兎に呼び出され船の甲板に集まっていた。他の一年生も皆集まっていた。

 

「この船は間もなく目的の島にとーちゃくしまーす☆で、船がもうすぐ停まるから降りる準備をするよーに♡」

 

『…………?』

 

璃兎の言葉に周囲が何を言ってるのか分からなかった。

…何故なら

 

「…先生、陸がありません」

 

悠斗が全生徒の思いを代弁する。

無理もない。確かに目的地となる島は見える。……遠く数キロ先に。

 

「泳げってこと♡」

 

「泳ぐって…マジで言ってるのか「ギロッ!!」…それは本気で言ってるのですか?」

 

透流はとっさに璃兎にタメ口で聞こうとしたが、璃兎に睨みつけられて慌てて敬語を使った。

 

「もっちろん♪あっ、特訓も兼ねてるから制服着たまま泳いでね♡《超えし者》なら、それくらいこなさないとね♪」

 

璃兎の言葉に皆が騒ぎ出したが、悠斗はふとこちらを見下ろす九十九朔夜を見つけた。

 

(…なるほど、自分のモルモットの生態をじっくり見ようってんのか…)

 

こちらを笑みを浮かべながらこちらを見る彼女を睨みつけていると、トラも彼女の企みに気付いたらしく、同様に彼女を見ていた。

 

「最終目的地は島の中央にある合宿所の建物だよ☆それじゃあ行ってみよ〜♪あっそれと、この間学期末の『昇華の儀』があったけど、レベルアップした子はともかく、レベルの上がらなかったダメッ子動物は絆双刃の足を引っ張らないようにね〜♪」

 

「…………っ」

 

璃兎の言葉に、みやびは悠斗の隣で少し顔を俯かせた。

みやびはこの間の《昇華の儀》ではレベルが上がらず《Ⅱ》のままだったのだ。そのことに彼女は落ち込んでいて、ここのところ元気がなかったのである。

 

「みやび…」

 

悠斗はそんなみやびに何か声をかけようとした瞬間

 

ガシャンッガシャンッウィィィン

 

突然甲板が揺れ出し、開き始めた。

 

「こ、これって…まさか…」

 

悠斗は何か察したが時すでに遅く、

 

「そんじゃ、とっとと行っちゃいなさーい♪」

 

皆まとめて海の中へと落とされた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!?』

 

生徒たちは突然のことになすすべもなく海へと落ちていった。

 

「ぷはっ…ホントこの学校やることが滅茶苦茶だ!!俺たちじゃなかったら下手すっと死ぬぞ!!」

 

「び、びっくりした…」

 

悠斗とみやびは海に落とされ海面でそんな文句を言っていた。

 

「そんじゃみやび…とりあえず島の方へ進むか」

 

「う、うん…」

 

悠斗とみやびはそのまま島に向かって泳ぎだした。

島までは果てしなく遠かったが、今の悠斗たちには泳ぎきれる距離であった。

悠斗はもともとボンゴレとして鍛えられていた身体にさらに《醒なる者》として目覚めたことで悠斗の身体能力は格段に上がっていた。そのため悠斗は難なく泳いでいたがみやびは身体能力は《超えし者》として超化されていたがそれでも悠斗に比べて劣っており、悠斗自身もみやびに合わせてゆっくり泳いでいたが、

 

「痛っ足が…」

 

突然みやびが溺れ出した。どうやら足を攣ってしまったようだ。

 

「みやび!!」

 

悠斗は慌てて溺れるみやびの元へ行き、彼女を助けると、

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

「あっ…」

 

みやびの顔がすぐ近くにあった。

突然、悠斗は顔が急に熱くなってきた。

 

「わっ悪い……安静にした方が良いから岸まで俺がおぶるよ」

 

「あ…ありがとう」

 

「お、おう…」

 

それからは悠斗はみやびと何も会話せずに岸まで泳ぎだした。

 

(なんだ…?今顔が急に熱くなった…?こんな症状今まで無かったぞ…?)

 

悠斗も自分の反応の意味がわからず戸惑っていた。

 

 

 

 

 

その後、悠斗とみやびは島にたどり着き、合宿所へと向かっていった。みやびの足も浜辺で休んだ際に治ったらしく普通に歩けるようになった。

 

「大丈夫かみやびー?もう少しだぞー」

 

川の岩場を歩きながら悠斗は後ろからついてきているみやびへと声をかけた

 

「う、うん…なんだか私、悠斗くんの足を引っ張ってばかりで…」

 

「ははっ何言ってんだよ。そんなわけ「きゃあ!!」…っ!みやび…うわぁ!!」

 

ドッポーン

 

突然みやびが足を滑らせ、悠斗は助けようとしたが、バランスを崩し、みやびと一緒に川へ落ちた。

 

 

「うへぇ〜ビショビショだなこりゃ」

 

悠斗は岩場へ腰掛け、濡れた制服を絞っていた。

 

「…みんな、もう到着しているかな…?」

 

「どうだろうな、まあ俺たちは俺たちのペースでいけば良いって」

 

みやびは悠斗の足を引っ張ってる自分が嫌であった。

彼一人なら、もっと早いペースで目的地へと着いてるだろう。しかし、自分に合わせているせいでかなり時間が掛かってしまっているのだ。

 

「ゴメンね悠斗くん…私「ストップだみやび」…えっ?」

 

「みやびは俺の絆双刃だ。みやびが自分を否定するってことは俺を絆双刃の俺を否定することにもなるんだぜ」

 

「そ、そんなつもりは…」

 

「前にも言っただろ。みやびは俺が選んだ絆双刃だって。だから…自分に自身持てって」

 

悠斗の言葉にみやびは少し嬉しかった。

 

(やっぱり悠斗くんは優しい。私はそんな悠斗くんのことが好きになったんだ…)

 

「ちょうど良いや、ここで海の塩を洗い流そうぜ」

 

悠斗はそういうと、顔や腕に川の水をかけ始めた。

 

 

 

悠斗たちは目的地の近くまで来た頃には空も赤くなりだし、日が沈み始めていた。

 

「もう少しで目的地だみやび、頑張れ」

 

「う、うん。」

 

「よし、その意気…っ!!止まれみやび!!」

 

突然悠斗がみやびを止めて前方に警戒した。

 

「悠斗くん…?」

 

「そこに隠れているやつ!!出てこい!!!」

 

すると、周囲から複数の黒装束の集団が現れた。

 

(以前の奴らじゃない…?)

 

すると黒装束たちの周囲に、《焔》が舞った直後に。《焔》が形を成し、武器と化した。

 

「《焔牙》…!?」

 

「みやび、来るぞ!!」

 

すると黒装束たちが一斉に悠斗たちへと襲いかかってきた。悠斗はすぐさま《長槍》を使って黒装束へと攻撃を仕掛け、数名を薙ぎ払った。

 

「んなっ!?こいつ強い…!!」

 

「数でたたみかけろ!!」

 

黒装束の一人の指示で複数の黒装束が一斉に悠斗めがけて襲ってきた。悠斗は

 

「そのセリフ…大抵やられ役のセリフだぞ」

 

《長槍》を高速回転させて、全て薙ぎ払った。しかし、

 

「フッ…甘い!!」

 

吹き飛ばされた黒装束の一人がいつの間にか持っていた糸を引くと悠斗の足にワイヤーが絡まってきた。

 

「悠斗くん!!」

 

「しま…っ」

 

その隙を逃さずに黒装束たちが悠斗めがけて襲ってきた。

悠斗もすぐに立ち上がって槍を構えるがワイヤーを引っ張られているので思うように踏み込めずにいた。

それに加えて周囲が岩に覆われていて足場が悪いのに対し黒装束はその足場で自在に動いていた。

 

「くそっ地の利は向こうにあるってことか…」

 

悠斗が《長槍》で攻撃を仕掛けようとするが、足のワイヤーを引っ張られてバランスを崩し、その隙に攻撃を次々と仕掛けられてきた。

悠斗も《長槍》で防ぎつつあるが相手の攻撃はどんどん繰り出されて、悠斗もどんどん追い込まれていた。

 

(どうして…どうして動かないの…!?)

 

みやびは恐怖で動けずにいる自分が許せなかった。悠斗が必死で戦っているのに自分が動けない。《生存闘争》の時も自分のせいでみんなの足を引っ張ってしまった。自分はそれが許せなかった。

 

『みやびは俺が選んだ絆双刃だ』

 

『だから…みやびも自分を信じてくれ』

 

その時、みやびは悠斗の言葉を思い出した。いつも自分を応援して支えてくれた彼の事を思い出し、自然と口が動いていた。

 

「《焔牙》!!」

 

そしてみやびは自身の《騎兵槍》を振るって黒装束たちへと攻撃を仕掛けた。

 

「ヤァァァァァ!!」

 

「なっ……ぐわぁぁぁ!!!」

 

突然のみやびの攻撃に黒装束たちはなすすべもなく吹き飛んでいった。

 

「サンキューみやび、助かったぜ」

 

悠斗はみやびに感謝の言葉を述べ残った最後の一人の方を向くと、

 

「さて…これで残りはあんただけだ。降参するか?」

 

しかし、黒装束は手に持っている《大剣》を構えると悠斗にめがけて斬りかかってきた。悠斗も《長槍》でガードし、そのまま反撃するが、《大剣》でガードされ、カウンターをしてきた。

 

「なかなかやるな、だけど…俺のが強え!!!」

 

悠斗は《長槍》で《大剣》の柄近くを突き、相手の『大剣』を弾いた。

 

「これで終わりだ…あんたたちの正体と目的を言いな」

 

「くそっ…以前より強くなってんな」

 

「…?」

すると、黒装束が自身の顔の布を剥がすと、

 

「…っ勝元!!」

 

そこには、入学式で悠斗と闘い敗れた本郷勝元がいた。

 

「久しぶりだな悠斗」

 

 

 

「ようこそ、昊陵学園分校へ‼︎入学式やら本日の《焔牙模擬戦》とやらといろいろあったけど、その辺りは水に流すと言うかお肉と一緒に飲み込んで、今日から一週間よろしくお願いします‼︎」

 

みんなに向かって永倉伊万里がそう演説すると、周囲から笑い声が聞こえ拍手をした。

 

「驚いたな…まさか分校があったなんて」

 

「俺も最初は驚いたぜ、なんでも《資格の儀》で敗れた生徒も希望があればこの分校への入学が許されたんだ。ま、環境も訓練もスゲー過酷だけど、毎日が充実してるぜ」

 

「そりゃよかった、どおりで以前より腕が上がってると思った」

 

「オメーが言うなって。あんなに強くなりやがってよ〜」

 

「フッまぁこっちもいろいろ修羅場をくぐってきたからな」

 

勝元の軽い文句に悠斗は笑いながら答えた。

 

「クッソ、テメェに復讐できると思ったんだけどな…」

 

そんな言葉が聞こえ後ろを振り向くと、髪をオールバックにしたいかにもヤンキーって感じの男が話しかけていた。

 

「誰あんた?」

 

「うぉぉぉい!?俺を忘れたのかよ!!お前に本校入りを絶たれた猿渡大輔(さわたり だいすけ)だよ!!」

 

「いや知らん。それに俺の対戦相手は勝元だし人違いじゃねーの?」

 

「忘れんなー!!ほら、お前と勝元の攻撃に巻き込まれた奴だ!!」

 

「あ…お前か」

 

「チクショー!!今ので思い出すのかよ!?」

 

俺の言葉に猿渡は悔しそうに地面を叩いた。

 

「悪いな、こいつあの日のことスゲー悔しかったみたいでな、『臨海学校であいつにあったらゼッテー復讐してやる』って意気込んでたんだよ」

「まあ気づかないうちに倒してたみたいだけどな」

 

「ハハッ。にしても驚いたな、まさか女子と絆双刃になってたなんてさ」

 

「まあな、みやびはスゲー奴なんだぜ。あいつの活躍で何度助けられたことか…」

 

「まぁ確かにさっきのは凄かったな。スゲー強力な一撃だったぜ」

 

「ま、まぁ俺と闘った時よりはやる様になったんじゃねーの?」

 

勝元と猿渡はみやびの実力に素直な答えを述べた。

「さて…肝心のみやびは…」

 

「さっきの闘い凄かったです!!」

 

「さすが本校の生徒ですね!!」

 

するとみやびは分校の生徒数名に先ほどの闘いについて関心されていた。

 

「そ、そんな…私はそんなに…」

 

「当たり前さ、みやびは俺の絆双刃なんだぜ」

 

悠斗はみやびを褒めながらその一団に混ざると

 

「え…絆双刃って男子?」

 

「しかも凄いイケメン!!」

 

「まさか二人は…キャー♡」

 

なんだか急に分校生徒の女子が盛り上がり出した。

 

「え、えぇぇぇぇ!?そ、そんな違うよ…(ツルンッ)キャッ」

 

慌てたため、みやびは足を滑らせてしまった。

 

「みやび!!」

 

悠斗は咄嗟にみやびを抱きかかえると

 

 

 

 

ムニュン

 

悠斗の左手が運が良いのか悪いのかみやびの胸をしっかりと掴んでしまっていた。

 

「………っわ、悪い!!」

 

「う、ううん、こっちこそゴメンね…」

 

悠斗とみやびは顔を真っ赤にしてしばらく黙っていると

 

『キャァァァァ♡』

 

なぜか女子たちがさらに騒ぎ出した。

 

「み、みやび…ここは一度離れるぞ…」

 

「う、うん…」

 

みやびと悠斗は顔を真っ赤にしてその場を離れた。

 

(…どうなってんだ?今までこんな事一度もなかったのに…俺の身体…どうしちまったんだ?)

 

悠斗は自分の中に芽生えた感情に戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

 

 

「準備は出来ました。あとは《神滅部隊》をお迎えするだけです」

 

『うむ、ご苦労じゃったな。やはりお前さんに任せて良かったわい』

 

「ありがとうございます。これで貴方の悲願は間も無く達成するかと…」

 

『うむ、後はこの最新型を《素材》に纏わせばもうこっちのものだ…それに、いざとなっても《シェード》が残っている。儂に敗北はあり得んよ』

 

「勿論です。それではまた何かあったら連絡します」

 

『ご苦労』

 

そう言って影が電話を切った。

 

「これで…全てが終わる…」

 

闇夜の中、影の声が静かに溶けていった。




如何だったでしょうか!?
悠斗がみやびを意識し始めました!!
少し強引だったでしょうか…?でも後悔はありません!!これからもよろしくお願いします!!


後、感想欲しいな…


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18話 海+襲撃

お気に入り登録が思った以上にされていて自分感激です。
これからも頑張っていきます


東京より百八十キロほど離れた南東の海上に、一般人の立ち入りを禁じられた島___

そこで迎える臨海学校の朝。

 

「う…ん…もう朝?」

 

みやびは陽の光を感じて目が覚めた。すると、なぜか身体が思う様に動かない…徐々に意識が覚醒していくと、

 

 

 

 

 

 

「zzz…」(ギュッ)

 

自分の身体が悠斗にしっかりと抱きしめられていた。

 

(え…えぇぇぇぇ!?ど、どうして悠斗くんに私抱きしめられてるの!?ど、どうしたらいいのかな…)

 

みやびは好きな人に抱きしめられている喜びと恥ずかしさでどうしたらいいか戸惑っていると…

 

「う…ん?」

 

悠斗が目を覚まし、みやびと目が合った。

 

「あ……え…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピギャァァァァァ!!!!!!」

 

瞬間、悠斗の顔が燃えているかの様に真っ赤になり、なんとも言えない叫びをあげた。

 

「ゴ、ゴゴゴメンみやび!!!そんな…やましい気持ちはこれっぽっちも…と、とにかくゴメン!!」

 

「う…ううん…ちょっとビックリしただけだから…」

 

みやびも顔を真っ赤に染め、しばらく静寂が続いた。

 

「…とりあえずテントから出るか…」

 

「う…うん…」

 

(お、おかしい…最近の俺はちょっとおかしい…みやびの顔を見るとなんかドキドキしちまう…新手の風邪か…?)

 

悠斗は自身の気持ちに戸惑い続けていた。

 

 

 

 

臨海学校五日目___訓練がつつがなく終了した。強化合宿は本日まで。

六日目の明日は完全自由行動で、島外へ出ることは敵わないまでも、生徒たちがどのように過ごそうとも構わないのであった。

 

「お疲れ、合宿頑張ってたなみやび」

 

「う、うん…きっと悠斗くんのお陰かな…」

「え?」

 

みやびはボソリと小さな声で呟いたが悠斗はよく聞こえなかったらしい

 

「う、ううん。悠斗くんは明日予定決まってる?」

 

「いや、決まってないけど?」

 

「そ、それなら私たちと遊びに行かない?巴ちゃんたちと一緒に…悠斗くんが良ければだけど…」

 

「あ…ああ良いぜ。でも…遊びに行くってどこ行くんだ?この辺りって遊び場とかってないだろ?」

 

「え?海…だけど…」

 

「海?」

 

みやびの言葉に悠斗はポカンとした。

 

「…そういえば、海って遊べるんだった…すっかり忘れてたぜ」

 

「…プッ、フフフ」

 

「な、なんだよ笑うことないだろ」

 

「だって…悠斗くんってばフフッ」

 

「なんだよ…ハハッ」

 

悠斗の反応にみやびはおもわず笑い、悠斗もつられて笑ってしまった。

夕日の中、二人の笑い声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

「…では計画実行は明日の夜ということで?」

 

『うむ、お前さんの潜入もそれさえ済めばそれで終わりじゃ。ご苦労じゃったな、やはり念を入れてお前さんを学園に送り込んで正解じゃったわい』

 

「ありがとうございます。私も貴方が神を殺す力を完成させる日が来るのが待ち遠しいです。後の障害は天峰悠斗ですが…」

 

『それも心配いらん。《シェード》の専用機と奴のために作った特殊武装も調整が済んだ。幾ら天峰悠斗と言えど奴には勝てんよ。それに…奴には《アレ》がある』

 

電話越しに《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーは自信を持って答えた。

 

『ただな…お前さんの武装は《シェード》の武装に時間がかかってな、最新型は作れそうにないわい。』

 

「用意出来るものの中で構いません。メインとなるのはあくまで《彼女》なので…」

 

『そうしてくれ』

 

「それでは…そろそろ戻らないと怪しまれそうですし、失礼します」

 

『うむ、それではな』

 

電話が切れ、影は月を眺め…

 

「これで任務は完了、以前の名誉挽回にはなったはず…私にとって失敗したら存在する価値はない…私は…駒なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

六日目、この日は完全フリータイムなので悠斗たちは海へと向かっていた。どうやら透流たちも参加している様だが、トラは寝ていて、タツも筋肉神に捧げる修行(なんだ筋肉神って?)でいないらしい。そこまでは良い、問題は…

 

 

 

 

 

 

「ちょっと…梓ちゃん…やめっ…ひゃうっ!」

 

「………なんなんですかこの大きさ…ていうかでかい上に柔らかいって嫌味ですかっ…」

 

「そんなこと言われても……ひゃあああっつ、摘んじゃ、めぇ…」

 

「なぁ透流…」

 

「…なんだ?」

 

「あいつら俺たちがいるの分かってんのかな?」

 

「奇遇だな、俺も今そんなこと考えてた。」

 

俺たちは洞窟前にいた。その洞窟は奥は十メートルほどで止まっており、その奥で女子一同が着替えており、俺たちは見張りに来ていたのだ…だが、女子たちはどうも男にとっ毒な事をしており今に至っている。

 

「良いですね大きいって、さぞや多くの男たちを落としてきたんでしょうね…《持ってる人》って良いですよね…ところでブラのサイズっていくつですか?ワタクシトッテモキニナリマス…」

 

「…それはちょっと…」

 

「…言わないならもっと攻めます」

 

「ひぁっひぁぁぁぁぁっ…い、言う、言うからぁ、え、Fだよぉ……んくぅううんっ‼︎はぁ、はぁ……はふぅ……」

 

「………っ!!?」

 

悠斗はみやびたちの会話を聞き、おもわず顔が真っ赤になってしまった。

 

(み、みやびは《F》…ファンタジーの《F》…いや、そういうことじゃなくて!これじゃただの変態じゃねえかっ‼︎)

 

 

「……っ!!《F》…?なんですか《F》って!!どうせ私は《B》ですよ!!!大きい方が正義なんですか!?」

 

「そ、そんなの知らな…ひゃうっ!」

 

「変ですね…柔らかい胸のはずなのに段々硬くなってきている部分がありますね… 」

 

「そ、そんな、私は…ひゃうっ!______っ!!ヤダよぉ…」

 

「そこまでだ梓!!」

 

「っ!?」

 

「それ以上暴挙に走るのなら、私が相手だ!!」

 

「(ピクッ)それは揉むなら私を揉めってことですか…考えたら巴さんも良い身体してるんでしたっけね…」

 

「えっ…梓?ちょっ…まっ…いやァァァァ!!」

 

どうやら梓のターゲットはみやびから巴に変わったらしい。それからも梓の怒りは燃え上がっていた…

 

 

 

 

 

 

数分後、海岸

 

「いや〜可愛い女子と海なんて良いよなぁ〜」

 

一緒に行くことになっていた勝元が俺の隣で鼻の下をのばしていた。悠斗と透流はあの後、流石に耐えられなくなりこちらに避難したのだ。

 

「お前なあ…もうちょっと節操を持てって」

 

「はぁぁぁ!?お前馬鹿!?ゲイなの!?」

 

「ちげーよ!!!」

 

「ハハッお前ら仲良いな。」

 

二人の口喧嘩に透流は少し笑っていた。すると、

 

「お待たせ〜透流♪」

 

透流が振り向くと女子たちが水着姿で立っていた。

 

「どうですか?トール?」

 

「見惚れる気持ちもわかるけど…」

 

「なんか言うことあるでしょ?」

 

ユリエとリーリス、伊万里に感想を求められ、透流は少し戸惑いながらも

 

「ユリエはスゲー可愛らしいし、リーリスは華やかって言葉が合うよな、伊万里はスポーツ選手としてスゲー魅力的な身体をしている、橘はやっぱり綺麗だよな」

 

「梓はクールって感じだな。みやびは…」

 

と、みやびを見たが、みやびは上からパーカーを着ていて見ることが出来なかった。

 

「こーら、みやび。そんな野暮ったいもの脱ぎなさいって」

 

「で、でもわたし、泳ぐの苦手だし、みんなみたいに似合ってないから…

 

「えーいうるさーい、こんなもの、こうしてやる!」

 

そう言って伊万里はみやびのパーカーを引き剥がすと

 

 

 

 

 

黄色いビキニタイプの水着で彼女の大きな胸がこれでもかと強調されていた。

 

「………っ!!」

 

悠斗は突然顔が燃える様に熱くなり、思わず目をそらしてしまった。

 

「ゆ、悠斗くん…どう?」

 

「あ、ああ…すごい可愛いな」

 

「あ、ありがとう…」

こうして悠斗はなんとかみやびの顔をまっすぐ見て感想を言った。

 

 

「よしっ俺たちも泳ぐか…」

 

「だなっ」

 

「…ていっ(ドカッ)」

 

「「グエッ!!」」

 

突然月見先生が悠斗と透流に蹴りを入れた。

 

「何すんだてめー!!」

「いや〜ウサ先生だけ放置プレイなんて、天峰くんドSなんだから♪」

 

月見璃兎の水着はもはやバニーガールとしてしか見れなかった。

 

「どうかなどうかな、このビーチ仕様♪どーんと感想言っちゃいなよ、YOU♪」

 

「イインジャナイカ?サマニナッテルゾビッチ仕様」

 

「(ガシィっ)うふふ♪ありがとう☆嬉しくってぶち殺しちゃいたいなこのクソガキ〜♡」

 

「てめリベンジなら徹底的にブチのめしてやるからな…」

 

 

 

 

 

 

 

悠斗は海をとことん満喫した後、温泉で身体を癒した。

 

「はぁ〜癒されるなぁ」

 

「だな、こんな温泉に入れるなんてスゲーな」

 

悠斗は合宿の疲れを温泉に浸かって癒してた。

 

 

 

「…なぁ勝元、」

 

「なんだ悠斗?」

 

「実は折り入って相談が…」

 

悠斗はそう言うと、最近の自分の身体の違和感を相談した。すると、

 

「ほぉ〜お前が、なんだなんだちゃんとスクールライフしてんじゃん」

 

「お前、この症状の意味が分かんのか?なら教えてくれないか?」

 

「ダメだ、これはテメーで考えなきゃいけない問題だ」

 

そう言うと勝元はそのまま温泉の中へと潜っていった。

 

 

温泉からの帰り道、

 

「俺が考えなきゃいけない問題か…なんなんだ、一体…」

 

「きゃあ!?」

 

ドサッ

 

音が聞こえたので振り返ると、みやびが足を滑らせた様で尻餅をついていた。

 

「みやび、大丈夫か?」

「う、うん…足をちょっと捻っただけ…」

「油断しちゃダメよみやび!!ちゃーんと検査するまで動かさない方が良いわ!!ってなわけで、おぶってあげてよ悠斗♪」

 

「俺がか?別に構わんが…」

 

「そうだな!!女の子をおぶってやれるのは力のある男の仕事だし、絆双刃なんだしさ!!…おっといけない!!今日は俺たちが食事当番だったっけ!!てなわけで、行くぞ透流!!みんなも!!」

 

「そうね、早く行きましょうみんな」

 

そう言うと勝元と伊万里は互いを見つめ(ナイス)とアイコンタクトをして、透流たちを連れて行った。

 

 

 

 

「…大丈夫かみやび?」

 

「うん、ありがとうね悠斗くん」

 

悠斗とみやびは夕日の中、ゆっくりと合宿所までの道を歩いていた。

 

「…そういえばさ、前に言ったよな、俺がマフィアの人間だって」

 

「…うん」

 

「あの時な、正直怖かったんだ。みやびたちに軽蔑されるんじゃないかって、でもみやびも透流もみんな受け入れて今までと同じ様に接してくれた。…ありがとな」

 

「そ、そんなっ私は悠斗くんが悪い人じゃないって分かってただけだから…」

 

悠斗の突然のお礼にみやびは顔を真っ赤にした。

その時、ふと、海の方を見てみると真っ赤な夕日が沈んでいた。

 

「…綺麗」

 

「これは凄いな…」

 

その美しさに二人は驚きを隠せずにいた。

 

「…悠斗くん、おろしてくれる?」

 

「…構わんが、足はもう良いのか?」

 

「うん、もう平気みたい。」

 

「なら良いけど…無理すんなよ」

 

「うん…」

 

悠斗とみやびはそのまま浜辺を歩いていた。悠斗は夕日を見ながら勝元の言っていた問題について考えていると、

 

「ねえ、悠斗くん」

 

突然みやびが話しかけてきた。

 

「…?どうしたみやび?」

 

「いっぱいいっぱい…ありがとうね、もし悠斗くんがいなかったら…今の私はいなかった…」

 

「みやび…」

 

「あのね、その…わ…私…ゆ、悠斗くんのことが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好き…大好きなの」

 

波の音が響く中でも、はっきりと届く告白。まっすぐな想いとともに、不安に揺れる瞳を向けられる。

 

 

悠斗は驚きを隠せなかった。すぐ側にいたというのに彼女の気持ちに全く気づけずにいたのだ。

しかし、それ以上にまさか自分の様な男を好きになるやつがいるなんて思ってもいなかった。天峰悠斗は裏社会において《銀狼》と恐れられる存在だ、そんな自分を受け入れてもらえただけでも嬉しかったのにまさか告白されるなんて思ってもみなかった。だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…その…えっ…と…」

 

言葉が纏まらず、戸惑ってしまった。

刹那___思考が顔に出た。出てしまった。不安を抱えて尚、俺を見つめ続けていたみやびは、その一瞬を見逃さなかった。

しまったと思ったときには、既に遅く__みやびの表情は、みるみるうちに泣き出しそうなものへと変わり___それでも精一杯に、笑った。

 

「あ……。あは、は……。やっぱり、そう……だよね……。わたしなんかに好きって、言われても……迷、惑……だよ、ね……。ご、ごめんね……!」

 

「みやび………!!」

 

砂浜を駆け出すみやび。その名を叫ぶも、俺は足が動かなく、追いかけることが出来なかった。

 

「みやび……」

 

夕暮れの海岸で立ち尽くしたまま、小さくなっていく背中を見つめ、呟く。その姿が岩陰の向こうに消えた後、

 

「何…やってんだよ…俺…」

 

その時、みやびの笑顔が浮かんできた。いつもみんなに慕われる優しくて、明るいみやび、

 

あの笑顔を、俺が壊してしまった。

 

「くそっ……!」

 

悠斗は自分の過ちに酷く後悔した。しかし、事実は決して変わらない

 

 

 

日が落ち、月が出ている空を砂浜に寝転びながら見ている。

 

(……はぁ、これからどうやって声をかけりゃいいんだよ……)

 

今の時間帯だと広場では夕食を準備している頃だろう。俺は今もみやびのことを考えていた。

 

すると、「ドゴォン‼︎」と、凄まじい爆発音が耳に入ってきた。俺は直ぐに体を起こし、爆音の方を見ると、それは広場の方からで、広場からは炎と黒い煙がもくもくと立っていた。

 

「な…こんなとこまで攻めてくんのかよ!?」

 

悠斗は怒りを覚えながら、炎の方向へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「始まりましたか…これで任務は達成したも同然…」

 

岩の上から、炎を見つめ影が呟く。

争いの火蓋が切って落とされた




今日はここまで、悠斗…答えを出せず!!これがこの後どうなっていくのか…そして影の正体は…(もう分かっている人はまだ言わないで)



感想待ってます。


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19話 欺いてこそ霧

今回はバトル回です。

奴の正体が判明します


「すまない!遅れた!」

 

「もう、何やってたのよ⁉︎みやびはどうしたの?」

 

悠斗は急いで広場へ行くと、そこには戦闘服を着た連中と戦っている伊万里達がいた。

 

「先に来てないのか⁉︎___っ!それにしてもなんだ、あれは……?」

 

広場で闘う、巨大な環状の刃が目に入った。

 

「あれは月見の《焔牙》の真の能力だそうだ。なんでも《焔牙》は《Ⅳ》になると真の力を解放できるらしい」

 

透流が悠斗と合流しながら説明した。

 

「透流っ!無事だったか!?」

 

「まあな、みやびが見当たらないけど…」

 

「…っそれが」

 

「悠斗、透流!無事だったか!?」

 

そのとき、巴が悠斗たちと合流した。

 

「橘か、梓がいない様だけど…」

 

「ここにいます」

 

草むらから梓がでてきた。

 

「梓!!よかった、無事だったんだな!?」

 

「すいません、心配かけました…途中ではぐれたとき、敵と遭遇して…」

 

ドカァァァン

 

そのとき、洋館の方で爆発が起き、辺りに破片が散った。

 

「トラ…あの洋館に誰かいるか?」

 

「理事長とブリストル、あとあの執事がいたと思うが…」

「クソッ!」

 

「透流、そっちは頼めるか?…俺はみやびを探しに行ってくる」

 

「私も行くわ!島に詳しい人がいた方が良いでしょ?」

 

「伊万里…すまん、俺一人で行かせてくれ…頼む」

 

「悠斗…」

 

伊万里は悠斗の様子から『もしかして』と思った。そして自分のおせっかいが余計なことをしてしまったのではないかと思った。悠斗はそのまま森の方へと向かおうとした

 

「悠斗!!」

 

そのとき、勝元が悠斗を呼び止めた。

 

「詳しくは聞かねぇけどなぁ…しっかりあの子と向き合え…『答えを出さねえ』ってのが一番相手を傷つける行為なんだからな」

 

「勝元…わかってる…」

 

悠斗はそのまま森へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ…みやび…何処にいるんだ。」

 

悠斗は草や枝を掻き分けながらみやびを探していた。途中で《装鋼》を纏った敵と接触したが悠斗は全て一撃で倒していた。

森の奥まで探していると、

 

 

 

「マタアッタナ」

森の奥から他の《装鋼》と明らかに違う《装鋼》を纏い、仮面をつけた男が立っていた。

 

「お前…《シェード》か、随分以前より良い装備つけてんな」

 

「コレハ《センヨウガタ》ダ。コイツデオマエヲタオス」

 

そう言うと、背中から近未来武器を連想させるフォルムの両刃剣をだし、悠斗へと向けた。

 

「…なあ、良い加減お前の正体について教えてくんねーか?正体もわからねーのに復讐とか言われてもどう返したら良いのかわかんねーしよ」

 

「…ソウカ、ソレモソウカ…イイダロウ、カメンヲトッテハナシテヤル」

 

そう言うと、《シェード》は仮面に手をかけ、

「ヨクメニヤキツケルガイイ…コノ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の顔を」

 

「……っ!!!………テメェは…」

 

そう言って仮面を外した《シェード》の顔を見て悠斗は驚愕した。そう、悠斗はその顔を知っていた。何故なら、その男はかつて未来でボンゴレが戦った敵なのだから、悠斗自身は《奴》とは戦っていない…彼と戦ったのは八年後の雲雀恭弥とボンゴレ雨の守護者山本武、そして自分たちのボスである沢田綱吉だけであるからだ。しかし、彼のことはよく知っている。何故なら《奴》はその時代において最強の剣士と呼ばれていたのだから…その男の名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻騎士…」

 

 

幻騎士、未来で巨大な勢力を誇っていた《ミルフィオーレファミリー》で霧の六弔花となっていた剣士である。その力は六弔花の中でも高い実力を持っており、リボーンですら、『体技においては雲雀に匹敵する』と言わしめた男である。

 

 

「どうなっている…何故テメーがここに…」

 

「俺がここにいるのは全てのボンゴレを滅ぼすために、まずはお前を倒すためだ天峰悠斗。俺の協力者の標的がいる学園にお前がいたからな」

 

「…ボンゴレを倒すってんのはどういうことだ?白蘭の敵討ちってわけでも無さそうだしよ」

 

「…白蘭様に心酔していた俺は未来の俺であろう?…まあ、正解に近いってところだが…」

 

「…?ますますわかんねーぞ、白蘭のことじゃねーんなら何だってんだ、」

 

「…貴様らが白蘭様を倒したあと、その時代の記憶が過去の本人たちにも伝わった…そう、俺がファミリーを裏切ったという記憶もな」

 

幻騎士は怒りの形相で悠斗を睨みつけた。

 

「貴様らのせいで、俺はジッリョネロでの居場所を失った…だからお前たちを倒す!!」

 

「…なるほど、テメーの動機は分かった。だけど俺は殺されるつもりはねぇ!!俺自身も今虫の居所がわりーからな、手加減しねーぞ!!!」

 

悠斗は白い炎を帯びた《長槍》を構え、幻騎士に強烈な突きを繰り出した。しかし、幻騎士はそれを両刃剣で防ぐと、両刃剣に藍色の炎を纏わせ、巨大な剣撃を放った。

 

「うおっ!?」

 

悠斗がそれを何とかかわすと、背後の大岩がいとも容易く真っ二つになった。

 

「…チョイスのときよりもやけに強くなってるみたいだな…」

 

「あのときの俺を基準にするな。もう俺に油断などは無い。完膚なきまでに叩きのめしてやる。」

 

「…どうやらそうみたいだな、だから本気出すぜ…こいっ銀牙!!」

 

悠斗の首にかけてあった《雪のチョーカーver.X》に銀色の光が輝くと、そこから白銀の毛並みにあちこちに装飾をつけた狼、《雪狼(ルーポ・ディ・ネーヴェ)ver.X》こと、銀牙が現れた。

 

「頼むぞ、銀牙」

 

「ガルルル…」

 

「…それが貴様のVG(ボンゴレギア)か…面白い、見せてみろ」

 

そう言うと、幻騎士は自身の匣兵器に霧の炎を注入し、自身の匣アニマル《幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)》の幻覚空間を作り出した。

 

「くらえっ!!!」

 

幻騎士な合図とともにミサイルが出現し、悠斗へと発射された。しかし、悠斗たちはそれをいとも容易く避け、幻騎士へと攻撃した。

 

「今度はこっちの番だ!!」

 

と、言いながら幻騎士に突きを放つが、幻覚で姿を消し、死角から攻撃を繰り出してきた。しかし、悠斗も反応し、幻騎士の剣を掴むと、槍を幻騎士に向けて

 

「くらいやがれ!!」

 

渾身の突きを繰り出した。しかし、幻騎士の両刃剣から大量の炎が一気に放出され悠斗も思わず吹き飛んでしまった。

 

「死ぬ気の炎をチャージして一気に放出する…厄介な剣だなそれ」

 

「…こいつは《幻影剣(イッルジオーネ・スパダ)》と言ってな…《装鋼の技師》が俺専用に作った特殊武装だ。性能は未来の俺が使っていた《幻剣(スペットロ・スパダ)》をはるかに凌駕する」

 

「…そうかよ、確かに破壊力はトンデモねーようだけどな」

 

「…俺は貴様を倒す。この新たな力でな」

幻騎士は自身の剣を悠斗の前に向け、そう宣言した。

 

「わりーが俺も負ける気は無い…だから…これで終わりにする」

 

そう言うと悠斗は息を思いっきり吸い、

 

「銀牙、GO!!」

 

すると、銀牙は超スピードで走り出し、幻騎士に攻撃を繰り出してきた。しかし、幻騎士はそれを容易く見切っていく。

 

「…これでもう終わりか?」

 

「ああそうだ、テメーの負けだ」

 

「…っ!?」

 

突如上から悠斗の声が聞こえ、幻騎士が上を向くと悠斗が空中を走りながら幻騎士へと攻撃を繰り出していた。

よく見ると、空間に無数の氷の道が出来ていた。

 

(これは…あの狼の能力か!?)

 

悠斗の匣兵器《雪狼》は走りながら高密度の雪の炎を放出し、空間を凍らせる。それによって悠斗は空間全てを使った立体機動を可能としたのだ。

 

「狼王一閃!!」

 

悠斗の渾身の一撃が幻騎士へと当たった。そして、幻騎士はそのまま意識を失った。

 

「よし…早くみやびを探しに行かねーと」

 

 

 

 

 

「…なるほど、確かに良い一撃だったな…当たっていれば」

 

「っ!?」

 

声の先には先ほど倒したはずの幻騎士が平然と立っていた。

 

「霧の幻覚…でも全く気づかなかった、幻覚の精度が以前と全く違う…」

 

「力を手にしたのはお前たちだけでは無い。俺は、お前たちの戦った未来の俺よりも遥かに強くなっている…このまま貴様を倒したいところだが…終了のようだ、帰らせてもらう」

 

すると幻騎士手にある無線機から連絡が入っていた。

 

「…このまま逃すと思っているのか?」

 

「ああ、そのつもりだ…いや、もう逃げさせてもらった」

 

すると、幻騎士の身体が徐々に消えていった。

 

「幻覚…!?っまさか、もうここには…」

 

「欺いてこそ霧…この様子なら、次に会う時に貴様を殺すのは訳無さそうだな…ではまた会おう天峰悠斗、次に会うときは貴様の最期だ」

 

そのまま幻騎士は姿を消していった。

 

 

 

「完全にしてやられた……くそぉ!!!」

 

悠斗は怒りながら近くの木を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コッコッコッ

 

暗い廊下を二人の影が歩いていた。

一人は白衣の老人《装鋼の技師》エドワード・ウォーカー、もう一人は悠斗の絆双刃穂高みやびだった。

 

「…本当に強くなれますか?」

 

「ああ、己の弱さを知る者こそ真に強くなれる素質を持つ…このわしが保障しよう」

 

みやびの問いに《装鋼の技師》は当然のように答えた。

そして、奥にたどり着き、目的のものをみやびに見せ、

 

「お嬢さん、そなたにきっかけを与えよう…心の底から強くなるためにな…」

 

みやびはその《悪魔の囁き》を聴き、《それ》を見つめ、

 

(強くなれば…悠斗くんは…)

 

偽りの力を求めてしまった。

 

 




はい!!《シェード》の正体は幻騎士でした!!
幻騎士の登場はこの小説を書く頃から決めていたので登場させられて良かったです!!!
そして、悠斗とみやびはどうなっていくのか…

今後もお楽しみください!!


感想待ってます


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殺破遊戯編
20話 自分の気持ちを



悠斗は自分の気持ちを振り返ります


 

翌朝___分校組との別れがやってきた。波止場に立ち、船を見送る分校組。彼らの判別がつかなくなって来ると、船尾デッキから十人近くいたクラスメイトが一人、また一人の次々に船内へ入っていく。最後まで残ったのは悠斗だけであった。透流たちは少し離れたところからその様子を見ていた。

 

「みやび…」

 

悠斗は自分が不甲斐なくて仕方がなかった。絆双刃のみやびを傷つけてしまったばかりかその行方もわからず、悔しさ以上に情けなかった。

 

「何がボンゴレの守護者だよ…ちくしょぉ…」

 

「悠斗さん…そろそろ…」

 

すると、背後から梓が声をかけてきた。

 

「みやびさんは分校の皆さんが全力で探してくださるそうです…大丈夫ですよ。必ずみやびさんにはすぐ会えるはずです」

 

島の方は伊万里たち分校組が捜索するそうだ。学園の方でも捜索するらしい。

 

「……分かった。悪いな」

 

「気にしないでください。私もみやびさんが心配ですから」

 

悠斗は梓と共に船に乗り、そして船が出港した。

 

 

 

 

臨海学校から戻ってきて最初の土曜日を迎えた。時期的に世間はすっかり夏休みムードだが、昊陵学園において関係の無い話だ。最低限の一般教養の授業に加え、昊陵ならではの技能教習___戦闘技術の訓練時間を考慮して、夏休みはお盆を中心とした一週間にも満たない連休があるだけだ。そういったわけで七月下旬の今日も、学校へ向かった。

 

教室へ入ると、始業間近だというのにクラスメイトは退学者を除いても七割程度しか登校していなかった。進退を悩んでいる奴らが、不登校気味となっているためだ。

俺は室内にいるクラスメイトを見回し、その中に自身の絆双刃の___みやびの姿が当然のように見当たらないことで、ため息を漏らす。

それもそうだ、みやびは未だに見つかっていなかったのだから。

 

 

『好き、大好きなの』

 

まっすぐに俺へと向けられたみやびの告白、しかし俺はそれに答えられなかった。

俺はボンゴレの守護者になる前は裏社会で傭兵まがいなことをしており、裏社会の連中から怖れられていた。そんな俺のことを理解した上でみやびは俺に『好き』と言った。

俺はそのことに戸惑い、結果、彼女を傷つけてしまった。

 

「みやび…何処にいるんだよ…」

 

 

 

今日は臨海学校以来となる格闘訓練が行われることとなった。臨海学校で負傷した生徒が二桁を越えたため、先週は座学中心となっていたので体を動かす訓練は久しぶりになる。訓練は打撃や投げという格闘術の基礎修練を主とし、《無手模擬戦(フィストプラクティス)》が終わり、本日の最後の訓練は、一対一の《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》を行っていたが___

 

「はぁ!!」

 

「くっ…」

 

悠斗は橘と戦っていたのだが、橘の動きに翻弄され、思うように戦えていなかった。

 

「どうした悠斗!?君の実力はこんなものではないだろ!?」

 

「くっ…」

 

悠斗も反撃するが動きにキレがなく、すぐに橘に翻弄されてしまった。そして、一瞬の隙を突いた橘が《鉄鎖》で悠斗の足を縛り橘の勝ちとなった。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

悠斗が訓練所の外でスポーツドリンクを飲んでいると…

 

「隣良いか悠斗?」

 

横から橘がペットボトルのお茶を持って話しかけてきた。

 

「橘…別に良いぜ」

 

橘は悠斗の隣に座るとお茶を飲みはじめ、

 

「今日の訓練は雑念だらけだったな悠斗」

 

「…すまん」

 

橘の言葉に図星だったのか悠斗は謝った。

 

「気にしなくて良い…しかし悠斗、あまり自分を責めるな。君一人の所為では「違うんだよ!!!」っ悠斗?」

 

突然怒鳴ってきた悠斗に橘は驚きを隠せなかった。

 

「…悪い、急に怒鳴って…でも違うんだ…そうじゃないんだよ…」

 

「悠斗…?」

 

「俺…お前たちと別れた後……みやびに告白されたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?えぇぇぇぇぇ!?」

 

悠斗の突然の言葉に橘は驚愕した。

 

「な…そ…その…こ、告白?それってつまり…みやびが悠斗に…」

 

「ああ、好きって言われた…」

 

「そ…そうか…それで…なんて答えたんだ?」

 

橘は取り乱しながらも悠斗に聞いてみた。

 

 

 

「…答え…られなかった…」

 

「…………!!!」

 

その返事に橘は悠斗の顔を見た。

 

「俺は…裏社会で傭兵まがいなことをしてきて…裏社会でも怖れられてきた…そんな俺のことを…みやびは好きって言ったんだ…俺は…それに取り乱しちまったんだ」

 

「………………」

 

「俺は…その結果みやびを「…の…」…え?」

 

「この大馬鹿ものがぁぁぁ(バッチーン)「ってぇ!?」」

 

突然橘が悠斗の顔を思いっきり殴った。

 

「な…なにを…?」

 

「お前は…それがどれだけみやびを傷つけたのかわかっているのか!?」

 

橘は悠斗へ怒りを露わにした。

 

「橘…?」

 

「悠斗…私はな…幼い時から恋愛というものをした事がない…しかしな…それでも告白というものをするのがどれだけ勇気が必要かはわかる…みやびはその時…とても勇気を振り絞ったんだと思う…だから!!悠斗がその告白に答えを出さなかった事が許せない!!」

 

橘は許せなかったのだ…女だからこそ好きな人に気持ちを伝える事がどれだけ勇気がいる事が分かった…だからこそ、それに答えを出さなかった悠斗が許せなかったのだ。

 

「…分かってる…勝元にも言われたよ…『答えを出さねえ』ってのが一番相手を傷つけるって…だけど…なんて答えりゃ良いんだ…」

 

「決まっているだろ」

 

「…え?」

 

「君の本心を伝えるんだ」

 

「俺の…本心…」

 

悠斗は橘の言葉を繰り返し、自分の気持ちを振り返ってみた。

 

恥ずかしがり屋だけど、優しく可愛らしいみやび。そんなみやびと絆双刃になり、いつの間にかそんな彼女に心を許していた。そして気づけば彼女のことになると胸が苦しくなるようになった。

そうか…

 

「俺の気持ち…ハハッ…考えるまでもなかったな…」

 

悠斗は自分の気持ちに気づいた。穂高みやびへの気持ちに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…みやびの事が好きなんだ」

 

そう、考えるまでもなかった。自分はみやびが好きだったのだ。気づいた途端、自分の中の何かが吹っ切れた

 

「ありがとう橘…おかげで吹っ切れた」

 

悠斗はそう言うと立ち上がり歩き出した。

 

「悠斗、何処に…」

 

「ちょっと用事ができた」

 

そう言うと、悠斗は目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

〜理事長室〜

 

「…まさか貴方の方から来るとは思いませんでしたわ」

 

理事長室には九十九朔夜の他に悠斗がいた。

 

「あんたに聞きたい事がある」

 

「《焔牙》の真の力のことですね?」

 

悠斗の問いを聞くまでもなく朔夜は聞き返した。

 

「…お見通しってことか。なら話が早い…教えてくれ…俺はどうすれば真の力を解放する事ができる?」

 

悠斗の問いに朔夜は笑みを浮かべた。

 

「貴方は《醒なる者》。《黎明の星紋》を投与された《超えし者》とは違いますからね。…ですが心配いりませんわ。貴方が強く力を求めた時、それは目覚めます」

 

「…そうかよ、そんじゃとりあえず信じてみるよ。必ず手にしてみせる」

 

そう言って悠斗は部屋から出て行こうとすると、

 

「天峰悠斗、貴方には期待していますのよ…貴方が《絶対双刃》へ至る日を」

 

朔夜の言葉を聞き教部屋を去っていった。

 

 

 

幻騎士はもともと歴史あるマフィア、ジッリョネロファミリーのメンバーの一人であった。しかし、ある地震のあと、突然周りから裏切り者と蔑まれるようになった。その後、徐々にその理由が分かった。自分は旅先で未知の病に罹り、その地獄から救ってくれた白蘭にねがえったことに。

その後、俺はファミリー内での居場所を失った。その後は俺は世界を放浪した。しかし、自分も裏社会では名の知れた存在ゆえ、何度も命を狙われた。たいていの敵は倒すのは容易かったがそれでも徐々に精神は疲弊していった。

なぜ自分がこんな目にあうんだ。未来の俺だって命の恩人であった《彼》に忠誠を誓っただけじゃないか。なぜ…………そうか、ボンゴレの所為だ。奴らが余計なことをした所為だ。だから自分がこんな目にあったんだ。憎い…にくい…ニクイ…ボンゴレガユルセナイ…

 

『ちょっと良いだろうか?』

 

ある日、自分に白衣の老人が訪ねてきた。

 

『儂は《装鋼の技師》じゃ。幻騎士よ…儂と手を組まんか?』

 

《装鋼の技師》…裏社会でもヴェルデ、ケーニッヒ、イノチェンティ同様名の知れた技術者であった。幻騎士はその男の突然の申し出に興味を持った。

 

『…何が目的だ?』

 

『いやなに、儂の発明した《装鋼》をお前さんに纏って欲しいんじゃよ。無論ただとは言わん。お前さんの要望には出来るだけ答えよう』

 

《装鋼の技師》の言葉に幻騎士は興味を持った。もしその装備が強力ならボンゴレに復讐する良いチャンスだ。うまいこと利用出来る。

 

『…なら俺の復讐に協力しろ』

 

その言葉に《装鋼の技師》はニヤリと笑い

 

『良いだろう、交渉成立だ』

 

 

幻騎士がふと目を覚ますとそこはアジトの研究室の部屋の隅であった。

 

「…夢か」

 

幻騎士は最近見ていなかった夢に溜息をつくと

 

「さて…《装鋼の技師》は何処に…」

 

ドコオォォン

 

「…?」

 

突然近くから大きな音が聞こえ、その場に向かうと…多数の《装鋼》を纏った《神滅部隊》が最新の《装鋼》を纏った少女に倒されていた。

 

「なんだこれは?」

 

「ついに我らの研究が完成したんですよ《シェード》…いや、その顔の時は幻騎士と呼ぶべきですかね?」

 

すると、背後から金髪の青年《K》が現れた。

 

「…名前などどうでも良い。それより《装鋼の技師》は何処だ?奴に用がある」

 

「儂ならここじゃ」

 

幻騎士の問いに《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーが現れた。

 

「どうじゃ幻騎士?《彼女》こそ儂の研究の成果じゃ…なかなか見事じゃろ?ただの少女でさえこれだけの力を発揮する…儂の部隊にこの力を加えればもはや恐れるものはない」

 

「…確かに面白くはある…実際に使っているしな…貴様には感謝している。おかげでボンゴレを倒せそうだ」

 

「それは何よりじゃ」

「だからこそ確実に倒したい…《アレ》の使用を認めてほしい」

 

「構わんよ」

 

「ボンゴレは俺の手で…っ!?」

 

ガキィィィン

 

突然少女が幻騎士に攻撃を仕掛けてきた。幻騎士は咄嗟に剣を抜き防ぐが、強力な一撃に後ろに下がった。

 

「貴様…何の真似だ?」

 

「駄目だよ…悠斗くんを傷つけるなんて…許さないよ…」

 

少女の目は虚ろであった。おそらく洗脳の類で操られているのだろう

 

「フォッフォッフォッすまんな幻騎士…どうやら彼女は天峰悠斗にご執心のようじゃわい…天峰悠斗は彼女に譲ってくれんかの…他のボンゴレなら構わんから」

 

「貴様…ふんっまあ良いだろう…その時はボンゴレはその程度であったということだからな」

 

幻騎士とエドワードの会話の中、少女は虚ろな目で

 

「待ってね悠斗くん…私…こんなに強くなったんだよ…」

 

愛しい彼の名を呼んだ。

 





ハイ今日はここまで!!ついに悠斗が気づきました!!
悠斗…少しメンタル弱かったでしょうか…でも後悔はしていない!!


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21話 殺破遊戯

殺破遊戯スタートです


「《七芒夜会(レイン・カンファレンス)》ねぇ…」

 

現在学園の外には昊陵学園の卒業生で現在はドーン機関所属の護綾衛士(エトナルク)が周囲を警護しており、一般生徒は外出禁止、《Ⅲ》に至っている生徒は警護の手伝いをしていた。その理由は《七曜(レイン)》と呼ばれる七人の宴《七芒夜会》が開かれるからだ。悠斗は他の護綾衛士とともに持ち場で警護をしていた。

 

(それにしても…ボンゴレ以外にも巨大な組織があるって改めて思うな…正直ボンゴレが最も巨大な組織って思っていたからな。それに…《死ぬ気の炎》の他にも未知の力が存在するみたいだし…あの未来もあくまで《死ぬ気の炎》が力を持っただけの一つの可能性の世界なのかもしれないな…)

 

「表情が固いぞ、後輩」

 

悠斗が考えていると護綾衛士の一人が話しかけていた。

 

「気を張るのもほどほどにしとけよ、もしことが起きても俺たちに任せておけ、良いな?」

 

「…はい、ご指導よろしくお願いします」

 

「まぁ何事もないのに越したことはないがな…」

 

「そうですね、平和なのが一番ですよ」

 

悠斗は護綾衛士の言葉に表情を柔らかくして返答した。

 

(無駄に気を張っても仕方がない。落ち着いておかないとな…)

 

 

 

 

 

 

 

「同盟…?」

 

「左様、良い話じゃろ?」

 

《装鋼の技師》の言葉に朔夜はもちろん、他の《七曜》も驚きを隠せずにいた。

 

「素晴らしい(トレビアン)。まさか《七曜》の中より、手を取り合おうという意見が出ようとは」

 

華やかな軍服の青年、《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》クロヴィスが感心の声をあげた。

 

「そいつぁ興味深いね。たしかに爺さんの《装鋼(ユニット)》と、嬢ちゃんの《超えし者(イクシード)》は相性がいいかもしれんしなぁ」

 

「噂で耳にしましたよ。貴方がかねてより口にしていた《装鋼》が、もう完成まじかと」

 

「ふははは、さすがに耳が早いのう」

 

どこから得た情報かと問うたとしても、《裁者(ジャッジス)》ははぐらかすだろうことをわかっているからこそ、《技師(スミス)》も追求せずに笑う。

 

「それで、先ほど話をした同盟についての答えを頂けるかの」

 

改めて答えを求める痩躯の老人へ、朔夜は告げた。

 

「お断りしますわ」

 

「…………ほう?」

 

「以前、《装鋼の技師》様は仰いましたわね。私たちと貴方は近い、と……。たしかにそのとおりですわ。《黎明の星紋》も、《装鋼》も、外的要因にて人を超えさせる___その一点においては同じでしょうね。……ですが、それだけですわ」

 

ここで朔夜は見る者の背筋がぞっとするような冷たい笑みを浮かべた。

 

「それに___私、気付いていますのよ」

 

「気づくじゃと?いったい何にじゃ」

 

「貴方の真意、ですわ」

 

朔夜の一言に、エドワードの眉が僅かに動いた。

 

「《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様。貴方は十二年前、私の祖父《操焔の魔博(ブレイズ・イノベイター)》に敗北していることを。《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》を知り、祖父は至る道を、貴方は滅する道を選び___結果、貴方がブリストル様たち機関三頭首(バラン)に切り捨てられたということを、過ぎし日の野望を実現させようとしているようですが、そんな世迷言に付き合ってられませんわ」

 

朔夜の言葉に周囲は沈黙し、《装鋼の技師》もしばらく沈黙していたが

 

「フハハハハこれは手厳しい。魔女の言葉には毒があるというが…これほどの猛毒とはな…しかし、ここまで侮辱されてはこちらも引き下がるわけにはいかん。そこでどうじゃ?ここはひとつゲームで決着をつけんか?」

 

「…ゲーム?」

 

《装鋼の技師》の提案に朔夜は興味をもった。

 

「なに、簡単なゲームじゃよ。儂の《神滅部隊(リベールス)》にこの学園を強襲させ、お前さんの部隊がそれを迎え撃つ。相手を全滅させた方が勝ちというゲームじゃ。なに、要は《殺破遊戯(キリング・ゲーム)》じゃ」

 

《装鋼の技師》のゲームの誘いに朔夜は微笑み

 

「良いですわ。相手になりましょう…」

 

「決まりじゃな」

 

ゲームへの参加を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!!《神滅部隊》がもうすぐここに!?…今から10分後!?なんでそんなことが…《殺破遊戯》!?どういうことだ!?」

 

その慌てた発言により、護衛のため待機していた俺たちは驚いた。

 

(どうやら中でなにかあったみたいだな……)

 

そう思っていると___

 

「___っ‼︎」

 

突如、凄まじい風と騒音が頭上を通り過ぎる。巨大な輸送型___かつて《生存闘争(サバイヴ)》の際に見たヘリが再び目に入る。

 

「あれは《神滅部隊》のヘリ…上等だ!!」

 

そしてヘリからは《装鋼(ユニット)》を装着している《神滅士(エル・リベール)》達が降下して来る。それに対迎え撃つのは、総勢二十九名の護陵衛士(エトナルク)と、悠斗、トラ、透流、ユリエ、橘、リーリスの六人だけだ。そして、最後に《K》と幻騎士が降りて来る。しかも、数人の護陵衛士がいるだけだ。

 

「テメェら…」

 

「お久しぶりですね九重透流、そして初めまして天峰悠斗。私は《神滅部隊》の隊長《K》と言います」

 

「天峰悠斗か…思ったより早く再会したな」

 

幻騎士は背中に以前は無かった大型のケースのような物を背負っていた。

 

「テメェら…何の用だ」

 

「そう怖い顔をしないで頂けますかね。今日はあなた達が探していた人を連れてきたのですよ」

 

「え……?」

 

《K》のその言葉に俺たちは唖然となった。

 

「ほら、あちらに居ますよ」

 

指を指した方を見ると、そこには__

 

臨海学校の際、島で行方が分からなくなっていた悠斗の絆双刃穂高みやびがいた。

 

「みやび!!」

 

悠斗は一瞬みやびのもとへ行こうとしたが、

 

「まて悠斗!!何か様子がおかしい…」

 

そして、みやびが《神滅部隊》と俺たちの間に立つ。

 

「ねえ、見て、悠斗くん……」

 

すると、胸元につけているアクセサリーらしき物から、黒い粒子のようにも見える何かが溢れ出し、全身へと絡みついていく様が目に映る。腕、指先、足、つま先が厚く覆われていき、やがて放出が止まった。

 

「み、みや、び……?」

 

黒い粒子が消え、現れたみやびの姿を見て、かすれた声を出したのは橘だった。

黒を基調とした戦闘服は全身にフィットし、体のラインをはっきりと出して女性らしさを強調する反面、手足は無骨な装甲で覆われている。そして頭にはヘッドギアを装着している。

 

「さあ、望みを叶える刻がやってきましたよ。存分に彼へ見せてあげなさい。___貴女の手に入れた、神殺しの《力》を‼︎」

 

「《K》!お前みやびに何をした!」

 

「私は何もしておりませんよ」

 

すると、みやびが俺の前に立つ。

 

「わたし……強くなったんだよ、悠斗くん……」

 

どこか虚ろな瞳でそう言った。

 

「見て……これが生まれ変わった私の姿だよ」

 

「下がっていろ後輩!!」

 

敵と判断したのか護綾衛士数名がみやびを取り囲んだ。

 

「一斉に制圧するぞ!!」

 

『はっ!!』

 

「待ってくれ!!彼女は…」

 

悠斗が護綾衛士を止めようと声をかけた瞬間

 

「……《焔牙》」

 

みやびが自身の《騎兵槍(ランス)》を手にした。

護綾衛士たちは自身の《焔牙》を手にし、一斉に飛びかかるが

 

「…邪魔だよ」

 

しかし___一蹴。

 

彼らの牙は届くことなく、一度《騎兵槍ランス》が振るわれた結果、全員が吹き飛ばされ地に倒れ伏した。

 

目の前のみやびが現実のものとは思えず、俺は唖然と佇ん

でいた。

 

「ふふふ…見てくれた悠斗くん?…私、こんなに強くなったんだよ」

 

「……もう一度聞くぞ《K》、みやびに…何をした?」

 

「与えただけですよ…天をも穿つ、神殺しの力をね…」

 

怒りに震える悠斗の問いに《K》は笑みを浮かべて答えた。

 

「彼女こそ《装鋼の技師》殿の研究の極致、《超えし者》と《装鋼》の完全融合体です!…彼女の協力によって完成したんですよ」

 

「行くよ…悠斗くん…」

 

次の瞬間、みやびが目にも留まらぬ速さで悠斗に攻撃を仕掛けてきた。

 

「…っ危ねぇ悠斗!!」

 

その瞬間、透流が咄嗟に悠斗を突き飛ばすと、悠斗がいた場所の地面が《騎兵槍》を叩きつけた衝撃で粉々に砕けた。

 

「っ透流…スマン、助かった。」

 

「いや、気にすんな。それより…」

 

「九重くん…邪魔をするの?」

 

みやびが透流を恨めしそうに睨んできた。

 

「あぁ、穂高が悠斗を傷つけるっていうなら…」

 

『《焔牙》!!』

 

透流たちは自らの《焔牙》を手にした。

 

「どうやら彼女は貴方たちはお呼びでないようですね…

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方の出番ですよ、梓」

 

 

 

 

「了解しました」

 

《K》の命令に姿を見せたのは…みやびや《K》、幻騎士の《装鋼》というより、他の《神滅士》のものに近い《装鋼》を纏い、眼鏡を外した梓が現れた。

 

「な…梓!!何故君がそっちに…それに…その着ているものは…」

 

「梓、貴方には天峰悠斗以外を相手にしてもらいます。頼めますね?」

 

そう言いながら梓の肩に《K》が手を置いた。

 

「梓から離れろ!!」

 

橘は自身の《鉄鎖(チェイン)》で《K》に攻撃をするが、《K》はいともたやすく避けた。しかし、梓から離れ、橘は梓の元へと駆けて行った。

 

「梓!!何故君がそこにいる!?あの者たちにみやびと一緒に脅されているのだな!?だが案ずるな、私たちが君を守る!!」

 

「…相変わらず、肝心なところで理解が遅いですね…」

 

「離れなさい巴!!」

 

リーリスが叫んだ次の瞬間、

 

「…《焔牙》」

 

梓は自身の《大鎌(デスサイズ)》を出し、橘に斬りかかった。

 

「…これでもまだ私を信じれるんですか?」

 

「橘!!大丈夫か!?」

 

「あ、ああ…なんとか…痛…え?」

 

橘がなんとか立ち上がろうとした時、腹部に激痛が走り、梓に斬られた腹部に手を当てると、そこから血が流れていた。

 

「な…なんで…」

 

「…そんなの決まってるじゃないですか…殺意を込めて斬ったからですよ」

 

動揺を隠せない橘をあざ笑うかのような笑みで梓が答えた。

 

「…みやびさん、貴方は周りに気にせず悠斗さんに力を存分に見せてあげてください」

 

「…ありがとう、梓ちゃん」

 

「巴、おそらく二人は洗脳の類をされているわ…」

 

「否定はしませんね、彼女に渡した《装鋼》には、願望を強め、正常な判断を曇らせる機能が備わってますからね…ただ、梓はそんなもの、必要がありませんよ…だって……

 

 

 

彼女はもともとこちらの手駒なんですから」

 

「…そういうことだったのね」

 

「リーリス?」

 

リーリスは何かに気づいたようだった。

 

「《生存闘争》の時も、臨海学校の時も、明らかにこっちの情報が漏れていた…だから…おそらく内通者がいるとは思っていたけど……貴方だったのね梓」

 

リーリスの言葉に梓は微笑むと

 

「ふふ、正解ですよ《特別(エクセプション)》。《生存闘争》の時、こちらの警備の数、日にち、特記戦力の情報を《装鋼の技師》殿に流したのはこの私です!!私は博士の命で学園に生徒として入学し、この日のために使えそうな《素材》を探していたんですよぉ!!そこでみやびさんを見つけた時は天恵かと思いましたよ!《超えし者》としての強靭な肉体とはアンバランスな脆い精神、それでいて力を求める。彼女こそ、博士の研究の完成に相応しいと思いました!!…まあ決定的だったのは…貴方のおかげなんですけどね、悠斗さん。貴方がみやびさんを袖にしたことで彼女の力への渇望はより高まったんですから」

 

「…っ!!何故それを…」

 

何故彼女がそれを知っている…あの時あそこには俺たちしかいなかったのに…

 

「貴方たちは常に監視されてたんですよ」

 

「……やめろ」

 

「…本当、アレは最高でしたよぉ、あんな告白、リアルであるんですねぇ「やめろ」まるで青春映画のワンシーンみたいで「やめろって言ってんだろぉぉ!!!」…どうやらおしゃべりが過ぎたみたいですね、みやびさん、お待たせしました…どうぞ存分に悠斗さんに見せつけてあげてください」

 

梓の言葉にみやびは悠斗の方を向き、

 

「くすっ、やっとだね。やっと悠斗くんに、見せてあげられる。いっぱいいっぱい《力》を見せて強くなったことを信じてもらえたら___これからは、わたしが悠斗くんを護ってあげるんだから」

 

みやびは再び歪んだ笑みを浮かべ、言った。

 

「素晴らしいショーですね……ですが、遊びはここまでに致しましょう」

 

「ふん、さっさと終わらせるとするか…」

 

すると、《K》と幻騎士が他の《神滅部隊》を率いて立ち去ろうとした。

 

「待てよテメェら…どこに行く?」

 

「ゲームの途中ですが、部隊の代表として《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》にお会いに行かなければなりません」

 

「理事長を狙う気か⁉︎」

 

「あの頭脳と才能の持ち主です、さぞ良い素材となるでしょう。……では、失礼。皆様はどうぞゲームをお楽しみ下さい」

 

「天峰悠斗…俺を倒したいのならさっさとその女を倒すことだな」

 

そう言いながら彼らは学園に向かっていった。

 

「…みんな、みやびは俺に任せてくれ」

 

「悠斗…お前…」

 

「これは俺の不甲斐なさが招いたことだ!!それに…俺はみやびの絆双刃だ…頼む」

 

悠斗の目には迷いがなかった。それを見た彼らは

 

「…分かった、お前に任せる」

 

そう言って《K》たちの後を追い始めようとすると、

 

「分かってませんねぇ貴方たちは私が倒すって言ってるでしょ?」

 

梓が《大鎌》をこちらに向けてきたが、橘が《鉄鎖》で梓の動きを拘束した。

 

「みんな!!梓は私に任せてもらおう!!」

 

「橘!?」

 

「私は梓のことを何もわかってなかった…こんな時に向き合えずして…何が絆双刃か!!!…頼む、彼女は…」

 

「橘……信じていいんだな?」

 

「…無論だ」

 

「…分かった。行くぞみんな!!」

 

透流はそう言うと、《K》たちの後を追っていった。

 

「貴方一人で…私に勝てると思っているんですか…私も舐められましたね…良いですよ、絆双刃だった情けです…相手になってあげますよ…」

 

「来るがいい梓…君の目を覚ましてみせる!!」

 

「…《神滅部隊》構成員、不知火梓…行きます」

 

「橘巴!!行くぞ!!」

そうして二人は戦いながら林の奥へと消えていった。

 

「…そんじゃあみやび、俺たちも始めるか…」

 

「うん、私を見て悠斗くん…邪魔の入らないうちに見て、見てよ、もっとわたしを見て…私の力ぁ!!」

 

そう言いながらみやびは悠斗へと向かってきた。

 

「みやび…お前を助ける…そして、俺の気持ちを伝えてみせる!!」

 

そして、悠斗は《長槍》を振るってみやびと対峙した。

自分の想いを伝えるために

 




今日はここまで書きました!!
少し長くなってしまいましたがキリのいいところまで書きたくて書いていたらこうなりました。
橘と梓、悠斗とみやび、二人の戦いの結末は…これからに期待してください



感想待ってます


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22話 悪人を演じるもの

遅れてすいません!!

更新します。


「はぁっ!!」

 

巴は自身の《鉄鎖》を梓に向けて放った。《鉄鎖》は梓に向かっていき、梓の腕を拘束しようとした。しかし、

 

「無駄ですよ」

 

「がはっ…」

 

梓はとてつも無い速度で巴との距離を詰めると自身の《大鎌》を振るい刃の側面を巴に叩きつけた。

 

「どうですか巴さん…私の《装鋼》は《K》隊長やみやびさん、幻騎士さんの纏っている《装鋼》の一世代前のものななので性能は若干最新型よりも落ちますけど…貴方程度にはこれで十分ですよ」

 

梓は自身の《大鎌》を回しながら笑みを浮かべた。

 

「でもこれで分かったでしょ?私は貴方たちの敵です。殺す気で来ないと………殺されますよ?」

 

《大鎌》を巴に向けて梓は彼女を睨みつけた。

 

「…梓、私も分かったことがある…」

「…何ですか?」

 

突然巴がそんなことを言ったので梓は聞いてみた。しかし、それは彼女が予想していなかった言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…君は、嘘が下手だ」

「…え?」

 

 

 

 

 

 

不知火梓は家族を知らない。物心ついた頃には彼女は暗い部屋で同じくらいの子供たちと一緒にいた。

彼女がいた場所は幼い子供たちをあらゆる手段で『集めて』スパイや暗殺者として育成し、派遣する組織であった。そこでは彼女たちは人として扱われず、唯の駒として育成されてきた。そんな中で同期たちは次々と任務で死んでいき、自分もいつかは死ぬと割り切っていた。

 

…しかし、私は同時に世界を憎んでいた。自分たちが血に染まった世界で生きているのに自分と同じくらいの子供が家族に囲まれて幸せそうに生きていることが許せなかった。こんな理不尽が神の意志であるのなら…私は神を許せない、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い目をしておるな、お前さん…儂の部隊に入らぬか?」

 

そんな時、一人の依頼人が私に問いかけてきた。

 

「…私をですか?…何のために…」

 

「お前さんの目が気に入ったわい…神を許せないという憎しみに染まった目じゃな」

 

その言葉に私は少し驚いた。まさか見透かされるとは思っていなかったからだ。

 

「どうじゃ?儂の部隊は神を滅する力を目指しておる…お前さんも神が憎いのだろ?儂にお前さんの力を貸してはくれんかのう?」

 

その言葉に私は喜びを隠せなかった。自分が欲した力を手に入れられるかもしれないからだ。まさに願っても無い話であった。

 

「…分かりました。引き受けます」

 

こうして私は《神滅部隊》に所属した。

 

 

 

 

 

 

 

「昊陵学園…ですか?」

 

「うむ、そこで探して欲しい人材があるんじゃよ」

 

ある日、私は《装鋼の技師》に呼び出され任務の依頼をされた。内容は昊陵学園というドーン機関が運営する学園に生徒として潜入し、今後の研究に必要な《素材》の捜索、そして、学園に《神滅部隊》が強襲する際の手引きというものであった。

 

「…分かりました、引き受けます。」

 

「うむ、頼むぞ」

 

そして、私は学園に潜入した。

そこでは平和な環境で育った人たちが表面だけの平和を楽しんでおり、私にとっては嫌悪の他に何も無かった。しかし、

 

 

 

 

「梓、君は小食過ぎる。もっと食べなければ体が持たんぞ」

 

「………(またこの人は…)」

 

自分のルームメイトとなった橘巴は何かにつけてお節介をしてきたのだ。本当は周りとはある程度離れて行動しようと思っていたのにお陰で迂闊に情報収集もできない始末であった。

 

「梓、何か困ったことは無いか?もし良ければ私も協力しよう」

 

「…いえ、大丈夫です(…だったらいちいち私に構わないでください…はぁ…この人あれ?世話焼かないと生きてけない人?)」

 

 

「梓、聞きたいことがあるのだが…」

 

「(やれやれ、またですか…しょうがないですね)何ですか?」

 

 

「梓…」

 

「はい、どうしました?(…ふふっ来た来た)」

 

気づけばそれは習慣になり自分も満更でもなくなってきた。そして…

 

 

 

 

 

「梓、もし相手がいないなら…私と組まないか?」

 

「…はい、よろしくお願いします」

 

それからは毎日が楽しかった。巴さんを通じて他にも沢山の仲間が出来た。幼い頃、自分が密かに願っていたものが今になって手に入ったのだ。それが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しかし、楽しい時間は終わってしまった。

 

 

『梓、《装鋼の技師》殿から計画の開始が言い渡されました。今後の情報連絡を頼めますね?』

 

「…はい、分かっています」

 

 

そう、分かっていたことだ…自分のやらなければいけないことを、自分の宿命には抗えないことも、

 

私が裏切り者だと知ったら…みんな許してくれないだろうな……そうだ、だったらもういっそのこと始めから利用していたってことにして悪人になってしまおう…そうすれば…割り切っちゃえば…苦しまなくて済むから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…何を言っているんですか…?」

 

梓は巴の言葉に同様を隠せずにいた。

 

「梓…私には、君が本当の悪人には思えない」

 

「は…?」

 

「今の君は、まるで悪人というより、悪人を演じているように見えるんだ。自分が悪人だと言って私たちに嫌われようとしているみたいにな」

 

「ち…違…私は…」

 

「ではさっきの一撃…何故刃で斬らなかった?」

 

さっきの一撃は刃ではなく、刃の側面を叩きつけたのであって、刃で斬っていれば巴の体を切り裂くのは容易かったはずだ。

 

 

「あ…その…そ、それは貴方を痛めつけるために…」

 

「即答できなかったということは図星だったようだな…それに…君の太刀筋には迷いが見える」

 

巴は梓の目をまっすぐ見ながら言った。

 

「君が本当に全力で迷いなく斬っていれば私はこうやって立っていない…どれだけ悪人振っても本心までは騙せない…なぁ梓、君は本当はこんな事をしたくは無いはずだ。君が今まで私に見せていた笑顔は…噓いつわりの無いものだったはずだ」

 

梓は巴の言葉を唯黙って聞いていた。そして…

 

 

 

 

「…だったらどうすれば良いんですか?」

 

 

梓の目から涙が流れていた。

 

 

「梓…」

 

「仮に私に迷いがあったとしても…私は仲間を裏切ったんですよ!!もう戻れないんですよ!!だから…こうするしか…悪人になるしか無いんです!!」

 

「それは違う!!!!!」

 

巴は声を張り上げ梓の言葉を否定した。

 

「私は梓、君を助けたい…何故なら…君が苦しんでいるからだ!!」

 

「巴さんに私の何が分かるっていうんですか!?」

 

「…確かに、私は君が今までどんな過去を背負ってきたのか知らない…だけど!!君が苦しんでいるということだけは分かる!!…だから、君を助けたい!!それだけだ!!…君が自分のしたことを悔いているのなら…謝ればいい!!簡単なことだろう!?」

 

「無理ですよ!!私一人が謝ったところで…みんな許してくれませんよ!!」

 

「なら私も一緒に謝ってやる!!!君一人に重荷を背負わせるものか!!」

 

橘巴は諦めない。苦しんでいる自分の絆双刃を救うために

 

「…どうして?どうして私なんかのために…」

 

「そんなの…決まっているだろう…私は…君の絆双刃なのだから」

 

そう言いながら巴は梓の方へとまっすぐ歩き出した。

その目はまっすぐと梓の目を見ていた。そして、一切の迷いがなかった。梓が気付いた時には、巴は梓の目の前に立っていた。

 

 

「先に謝っておくぞ梓」

 

巴はそう言うと梓の目をしっかりと見つめた。

 

「私は不器用でな…友の目を覚ませる方法を『これ』しか知らない」

 

そう言うと自身の右手を平手にして振り上げ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歯を…食い縛れ!!!」

 

 

パァンッ!!

 

 

それは《焔牙》でも橘流でも無い…唯の平手打ちであった。しかし、確かに梓の頬に打たれ、梓は倒れた。

 

 

「はは…何ですかこれ…唯の平手打ちじゃないですか…唯の平手打ちなのに…なんでこんなに痛いんですか…」

 

梓の目から涙がポロポロこぼれていった。巴は梓に近づきそして、優しく抱きしめた。

 

「梓…すまなかった。君が一人で苦しんでいたのに気づけなかった。だけど…やっぱり君を助けたい…助けさせてくれ」

 

その言葉に梓は我慢の限界であった。涙がさらに流れてきた。

 

「…なさい…巴さん…ごめんなさい…う、うわぁぁぁぁ!!」

 

巴は泣き噦る梓を優しく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜某所〜

 

ここに、七人の影が集まっていた。その中には以前《生存闘争》の際に乱入してきた雲雀恭弥もいた。

 

「10代目ー準備出来ました。何時でも出れます」

 

「うん、ありがとう獄寺くん」

 

「いえいえ、にしても天峰のやつ…勝手に揉め事持ってきやがって…」

 

「ははっ、あいつらしくてイイじゃねーか」

 

「極限に燃えてきたぞ!!」

 

「ランボさんも暴れちゃうもんね!!」

 

「ボス…そろそろ行かないと…」

 

「…………」

 

彼は一見どこにでもいる少年少女だ…だか彼らを侮れなしない…そして彼らは、仲間のために戦い、仲間を決して見捨てない。

 

 

 

 

「よし…行こう!!」

 

 

 




今日はここまで!!
そして…ボンゴレファミリー出動!!





感想待ってます


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23話 絆双刃の絆

最近大学のほうの用事で書けませんでした。ごめんなさい
そんなわけで投稿です


ガキィィィン

 

誰もいない中庭で《長槍》と《騎兵槍》のぶつかる音が響いていた。そこでは悠斗とみやびが互いの《焔牙》を撃ち合っていた。

本来、単純な実力では悠斗の方が上である。しかし、現在みやびは《装鋼》の力で本来の戦闘力を凌駕し、さらに洗脳によって一切のためらいもなく《騎兵槍》を振るってくるのだ。まともに食らえばいくら悠斗といえど無事ではないだろう。

 

「くすっ凄いでしょ…クラスで一番強い悠斗くんをここまで追い詰めることができるなんて…この力ならわたしはもっと強くなれる…弱いわたしから解放される…」

 

虚ろな瞳で微笑みながらみやびは自身の《騎兵槍》を頭上で回していた。

一方の悠斗は自身のスピードでみやびの攻撃を回避しているが、《装鋼》の能力なのか徐々に悠斗の動きを捉え始めていた。

一撃一撃が相手を破壊しかねない攻撃はかすっているだけでもかなりのダメージであった。

 

 

 

「ねぇ悠斗くん…もっとわたしを見て。わたし、こんなに強くなったんだよ。生まれ変わったわたしの力…もっと、もっともっともっとぉ!!見て…欲しいんだから」

 

「みやび…」

 

自身の不甲斐なさゆえにここまで彼女を追い詰めてしまった、そんな自分が許せなかった、そして同時に『それ』が許せなかった。だからこそ、悠斗はみやびに向かって言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなった…か、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺には弱くなっているように見えるよ」

 

 

「……………え?」

 

悠斗の言葉にみやびは、身体が硬直した。

 

 

「俺にはお前が強くなったようには見えない…少なくとも、以前のみやびの方が強く見えるよ」

 

悠斗はみやびの方を見ながら言葉を続けた。みやびはその言葉を聞いていたが、

 

 

 

 

「…酷いよ悠斗くん」

 

顔を歪ませながらみやびは悠斗を見た。

 

 

「なんでそんなこと言うの?わたし、悠斗くんのために強くなったんだよ?どうして……?悠斗くん、どうしてわたしを見てくれないのかな?こんなに強くなったのに、どうして?どうしてどうしてどうしてぇえええええっっ‼︎」

 

 

みやびはそのまま悠斗に向かって《騎兵槍》を突き出し突進してきた。

 

悠斗はみやびの一撃を防ぎながらみやびに向かって言った。

 

「良いかよく聞けみやび!!どんなに強大な力も強力な武器も《正しい心》をもって使わなければ唯の《暴力》だ!!そんなものは誰からも認められない!!」

 

 

そして、みやびに告げる。

 

「それを教えてくれたのは___みやび、お前だろ?」

 

「わた、し……?」

 

名を呼ばれたみやびが反応し、俺は頷く。

 

「毎日毎日走ってたよな。今日よりも明日、少しでも速くなるために……。最初は走りきれなかった距離も、走りきれるようになった。だから、《II》になることが出来たはずだ。……けど、《III》には届かなかった」

 

「…………」

 

みやびの表情が曇るも、構わず続ける。

 

「……でも、な、みやび。今、お前が手にしている《力》はなんだ?そんな借り物の《力》を、偽物の強さを俺に見せたかったのか⁉︎」

 

「う……あ、ああ……わた、しは……わたし、は……」

 

「偽物なんかに頼るな!速く走れるようになりたくて、頑張って毎日走っただろ!その努力で手に入れた《力》を信じろ‼︎努力を続けることの出来た心の強さを信じるんだ‼︎」

 

「ち、から……欲し、い……つよ、く……強く、なりた……見せ……」

 

「俺は信じる‼︎みやびの心の強さを‼︎」

 

弱さ故に悪魔に魅入られ、陥れられてしまった少女を。

けれどその弱さを越えられる、本当の強さを信じて。

 

「俺も負けられないって思った心の強さを取り戻してくれ、みやび___っ‼︎」

 

願う思いは叫びとなり、空気を震わせ___みやびの《魂》を震わせた。

 

「悠斗、くん……わた、し……」

 

空虚だった瞳に、光が戻る。

 

「みやび……」

 

だが___

 

「う、ううっ……‼︎あぁあああああ______っっ‼︎」

 

それも一瞬だった。胸元のアクセサリーのような何かが明滅したかと思うと同時、みやびは苦しそうに叫んだ。

 

「あっ……んっ、あ、ああ……ゆ、うと、くん……」

 

「みやび、大丈夫か⁉︎」

 

「わたしを……見て……」

 

「___っ⁉︎また、戻ってしまったのか⁉︎」

 

みやびが、苦しそうな表情を浮かべたまま、腰だめに《騎兵槍》を構える。

穂先は、まっすぐに悠斗へと定められていた。

 

「行く、よ……ゆう、と……くん……!」

 

みやびが、地を蹴る。

 

「偽物の《力》なんかに負けるな、みやび_______っ!!」

 

迫り来る刺突進を前に微動だにせず、みやびを信じ、天峰悠斗は真っ直ぐに見つめる。

刹那、視線がぶつかり合い________

 

みやびの表情が苦悩と困惑の入り乱れたものとなった直後、彼女は目を閉じ、咆哮した。

 

「うわぁああああああ___________っっ!!」

 

一瞬、穂先の勢いが僅かに鈍るも______

 

ズグン!!《騎兵槍》が悠斗の胸を深々と突き刺した。

 

「か、はっ……」

 

槍が悠斗の体を貫いたところで、動きが止まった。

 

「あ……」

 

自らの手が行ったことに対し、みやびの顔に戸惑いが浮かび______

 

「ああ、あ……悠斗、くん……いやぁあああああああああっっっ!!!」

 

悲鳴が響き渡る。

 

「悠斗くん!!わた、し…わたしは、なんてことを……や、やだ、やだよ、死なないで、悠斗くん、悠斗くぅううううん!!」

 

みやびは後悔と悲鳴の叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっ…たな、みやび……」

 

しかし、悠斗は顔を上げて、みやびに向かって優しい笑みを浮かべた。

 

「え……?悠斗くん…生き、て……?」

 

「そうだ、みやびが偽物に勝ったからこそ……俺はこうして生きている」

 

刺突進は止められなかったが、みやびは確かに、自分の意志を取り戻し、殺意を封じ込めたのだ。

 

「悠斗くん______あっ……」

 

その時、みやびの胸元の卵型の何かが明滅していた。

 

「みやび……?」

 

「う…ダメ、体が勝手に……悠斗くん、逃げて…!!」

 

みやびは突然《騎兵槍》を抜き、再び悠斗へと狙いを定めた。

 

(そうか、お前か、お前がみやびを好き勝手してたのか…それなら________ぶっ壊してやる!!!)

 

悠斗は自身の《長槍》を構え、みやび…正確にはみやびの胸元のディバイスに向けて構えた。

 

「みやび……いま、助けるからな!!」

 

《騎兵槍》が悠斗を再び貫こうと突きが放たれたその刹那、《騎兵槍》を躱してみやびの懐に入り込み、槍を構えた。

 

「みやび、俺を信じてくれ……絶対に______助ける!!!」

 

「う、うん……わたし、信じるよ。悠斗くんがわたしを絶対に助けてくれるって信じてる!!」

 

それを聞き、悠斗は優しく頷き、そして放った。自身の愛する、大切な人を救うための一撃を

 

「狼王一閃!!!」

 

その一撃は確かにみやびの体を傷つけず、ディバイスだけを粉々に砕いた。

 

「ゆ、悠斗くん…」

 

「もう大丈夫だ、みやび……」

 

「……ありが、と……悠斗くん……わたしを助けてくれて……」

 

ぐらりと体がくずおれるみやびを、抱きしめる。

 

「当たり前だろ、みやび。いつだって___いつでも困ってる時は絶対に助けるよ…だって俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、やはりそいつではお前の相手にはならなかったか…」

 

 

「______っ!?」

 

 

突如声の聞こえた方向を見るとそこには最新型と思われる《装鋼》を纏い、《幻影剣(イッルジオーネ・スパダ)》をその手に持った幻騎士が立っていた。

 

「幻騎士……悪いが今回は負けてやれそうもねぇ…最初から全力でこないと…すぐ終わっちまうぞ?」

 

「安心しろ、もとより全力で行くつもりだ…」

 

すると幻騎士は突如腕のボタンを操作すると、背中のケースが突然開き、中からパーツが現れ全身をどんどん覆っていった。全てのパーツが装着されるとその姿はまるで未来で幻騎士が見せた《大戦装備》のそれを彷彿させた。

 

「天峰悠斗…俺は全てのボンゴレを滅ぼす。貴様はその手始めだ。貴様は俺のこの新たな力で完膚なきまでに葬り去ってやる」

 

「幻騎士……てめえは絶対に倒す!!」

 

 

 

 

 

因縁の戦いがいま始まる。

 

 




みなさん、お待たせしました。銀狼伝、更新です!!


大学、大変です。ですがこれからも不定期にはなりますができる限り投稿していきますので応援よろしくお願いします!!




感想もよろしくね


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24話 霧VS雪

久しぶりの投稿です。


「……意外とあっけなかったですね」

 

九十九朔夜は嘲笑うかのように《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーへと話しかけた。

 

「貴方の最高傑作と言うからどんなものかと思って見てみれば《雪》の炎を使わない天峰悠斗に敗れる程度。これでは期待外れも良いところですわ」

 

朔夜の言葉にエドワードはしばらく黙っていたが、

 

「フハハハハ、確かに天峰悠斗の相手は彼女には荷が重かったようじゃな。残念じゃわい」

 

しかし、エドワード・ウォーカーは平然と笑っていた。

 

「……?随分と余裕ですね、完全融合体が敗れたというのに」

 

「確かに、彼女は儂の技術の成果と言える…じゃが、それでも天峰悠斗の強さはそれ以上、特に《死ぬ気の炎》の力は未だ解明されていない部分もあるからのう…なら、《死ぬ気の炎》には《死ぬ気の炎》をぶつければ良い。」

 

「…つまり、最初から幻騎士を天峰悠斗にぶつけるつもりであったと?」

 

「まぁ、そういうことになるな」

 

朔夜の問いかけにエドワードは笑みを浮かべて答えた。

 

「もちろん彼女が倒してくれれば御の字ではあったが彼女だけでは天峰悠斗相手は難しい、《死ぬ気の炎》での戦闘に精通している幻騎士を仲間に引き入れ、力を与えたというわけじゃ。奴のように憎しみに飲まれているような奴は扱いやすいからのぉフハハハハッ、ちょっと奴の憎しみを煽ってやったら一発だったわい」

 

エドワードは大きな声で笑い出した。彼にとって幻騎士さえも利用対象であったのだ。

 

「まぁ幻騎士相手でも天峰悠斗に勝てるとは思えませんが」

 

「…相変わらず言ってくれるのぉ魔女殿……じゃがな、残念じゃが幻騎士には勝てんよ、奴には儂の研究の集大成が込められておるのじゃからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それが、てめえの隠し玉ってやつか」

 

幻騎士の纏う《装鋼》の各部位に更にパーツが加わり、まるで騎士の鎧を機械にしたようなものへと変わっていた。

それはまさに未来における幻騎士の最強の武装《大戦装備》のそれとよく似ていた。

 

「……行くぞ、ボンゴレ」

 

幻騎士は剣を構え突撃した。

一瞬で間合いを詰めると悠斗に剣撃を放った。

 

ズガァァン

 

一撃で地面が大きく割れた。まともに食らえば無事では済まないだろう。

 

「ほらよっ!」

 

悠斗は自身の《長槍》を振るい幻騎士に反撃した。

 

「無駄だ」

 

しかし、幻騎士は既に幻覚を創り出しており、《長槍》は空を切った。しかし悠斗はすぐに体勢を立て直すと殺気を感じ咄嗟に体を捩ると剣撃が放たれた。

 

「やっぱりチョイスの時より強くなっている…それだけじゃねぇ、炎の剣撃の威力も桁違いだ」

 

幻騎士の炎の属性は《霧》。《霧》の炎は《構築》という特殊な力がある分8つの《死ぬ気の炎》の中では特に攻撃力が低い。しかし、幻騎士の剣撃の破壊力はかつて未来での白蘭とのチョイスで見せた剣撃よりも遥かに威力が高かった。

 

「その《装鋼》…《死ぬ気の炎》の力を高める能力があるのか」

 

「正解だ、この《装鋼》には俺の肉体とリンクし装着者の潜在能力を解放する機能が備わっている。ブースターになるパーツを取り付けることでその機能は更に強化される。奴はこの機能を《ダンタリオン》と名付けていたな」

 

「はっ、《ダンタリオン》か…幻術使いにはピッタリの名前じゃねーか」

 

悠斗は幻騎士の言葉に精一杯の皮肉を言ったが内心は焦っていた。

幻騎士の戦闘力は予想以上に向上していたことであった。

それだけではなく、悠斗自身も先のみやびとの戦闘の際、《騎兵槍》が体を貫いたことによって体に大きなダメージがあった。いくら肉体を傷つけないと言っても全く負担がないわけではなく悠斗自身もかなり無理していたのだ。

 

「だからって負けられないしな……来い、銀牙!!」

 

そう言うと悠斗は《長槍》に炎を纏わせチョーカーから《雪狼》銀牙を出した。

 

「行くぞ銀牙!!一気に攻めるぞ!!」

 

「ガウ!!!」

 

悠斗の言葉に銀牙は大きく吠えて答えた。

 

「はぁ!!」

 

悠斗は銀牙の作り出した氷の道を駆けて幻騎士に攻撃を繰り出した。

 

しかし、悠斗の動きは鈍く幻騎士に悉く防がれた。

 

「…随分と消耗しているな、あんなつまらん女一人に深手を負うなど…本当に甘い連中ばかりだな、貴様たちボンゴレは」

 

「…何だと?」

 

幻騎士の言葉に悠斗は怒りの顔をだした。

 

「そうだろ?ただ男に見て欲しいなどという浅ましい願望で《装鋼の技師》のモルモットにされる様な女を愚かと言わずに何と言う?まぁその女を救うために深手を負い俺に苦戦する様なやつも」

 

「………いしろ…」

 

「……なに?」

 

「撤回しろ!!」

 

悠斗は怒りの目で幻騎士を睨みつけた。

 

「みやびは俺の大事な…自慢の絆双刃だ!!あいつがいつも頑張ってきたから俺も負けられないって思えた!!そして…あいつのおかげで…生まれて初めて恋というものを知ることができた!!ただ憎しみで動いている奴が…俺の大好きな人を馬鹿にするなぁ!!!!」

 

悠斗の怒りの言葉に幻騎士は嘲笑うかのような笑みを浮かべた。

 

「くだらんな…そんなものにうつつを抜かしていた様な奴には俺は負けん、格の違いを教えてやる」

 

幻騎士はそう言うと剣を振り上げ炎を刀身にチャージしだした。

 

「我が新たな必殺の剣撃を喰らえ…《幻影剣ノ断罪(コンヴィンツィオーネ・イッルジオーネ・スパダ)!!》」

幻騎士の剣から巨大な剣撃と《幻海牛》のミサイルが悠斗に向かって放たれた。

 

「なっめんなぁぁぁぁ!!!」

 

悠斗は《長槍》に纏わせた炎の炎圧を高め迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかがかな魔女殿?儂の切り札の力も中々じゃろ?元々高い能力を持っていた幻騎士に儂の開発した死ぬ気の炎強化型装鋼《ダンタリオン》、死ぬ気の炎を刀身にチャージし解放することで強大な破壊力の剣撃を生み出す《幻影剣(イッルジオーネ・スパダ)》、この二つを纏うことで炎の力を何倍にも強化するだけでなくより幻騎士の戦闘スタイルに適したものへと進化させた儂の《神滅装備(アルマメント・エル・リベール)》の力は見ての通りじゃ……先の同盟の話、考えは変わったかの?」

 

その頃、エドワード・ウォーカーは満足そうな笑みで朔弥に向かって同盟の答えを再び求めた。

エドワードは幻騎士が天峰悠斗を追い詰めていることに満足らしく、これなら目の前の少女も此方の要求に応じるだろうと確信していた。

 

「……そうですね、これから忙しくなりそうですね」

 

「うむ、そうかそうか」

 

朔夜の言葉にエドワードは此方の要求を受け入れるのだと確信した。しかし、彼女から放たれた言葉は予想していないものであった、

 

「まずは内通者たちの掃討とこれからの警備強化を急いだ方が良いですね、女生徒を良からぬ目的で監視する様な御老人がいる様では、学校運営に支障をきたしますから」

 

「わははっちげえねぇ」

 

「フッ…」

 

「クスクス」

 

王城の笑い声を皮切りに他の《七曜》も笑い始めた。

 

「………………(ギリッ)」

 

その空気に初めてエドワード・ウォーカーは怒りを顔に出した。

 

(……そんな態度をとれるのは今のうちだぞ小娘…儂と貴様の血筋との因縁もこれで終わりにしてくれる)

 

九十九朔夜は冷静な態度で紅茶を飲み、己が生まれて初めて興味をもち、行く末を見てみたいと思った一匹の銀狼のことを考えていた。

 

(天峰悠斗、貴方はそんなところでは終わらないはずですよ…でなければ私は貴方を此処には連れてきていませんのだから)

 

そう、本来なら彼は自分の目的には必要ない存在だった。それでも彼女が学園に彼を迎え入れたのは彼という存在がどの様な道を見せるのか見てみたかったからだ。だからこそ九十九朔夜は本来の目的を少し曲げてまで彼を迎え入れたのだ。

 

(さて…《彼ら》もそろそろ来る頃ですね、これなら《今回は》特に犠牲者は出なさそうですね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっとまずいかもしれないわね…」

 

「クソッ……あと何人いるんだ」

 

リーリスとトラは周囲を取り囲む《神滅士》の軍勢を見ながら悪態をついていた。

敵の数は思っていたよりも多くいくら倒してもキリがなかった。彼らは度重なる戦闘でかなりの負担となっていた。

 

 

 

 

 

 

「クソッ…キリがないぞこいつらは…」

 

「くっ…」

 

その頃、巴と梓たちも他の《神滅士》たちの強襲に苦戦していた。

 

「ふんってこずらせやがって…まぁこれでもうこいつらも終わりだな…とっとと小娘と裏切り者を始末するか」

 

《神滅士》の一人が言うと、彼らは銃を構えて二人に向けた。

 

「巴さん……」

 

「クソッ…万事休すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時雨蒼燕流…攻式八の型

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠突く雨」

 

その時、鋭い斬撃が《神滅士》に繰り出されて複数の《神滅士》が吹き飛ばされた。

 

 

 

「………えっ?」

 

「な…何が?」

 

 

突然のことに二人は何が起こったのか分からなかった

 

 

「なっなんだこいつ…と、とにかく撃…」

 

「させるかよ!!《赤炎の矢(フレイムアロー)》!!」

 

すると、さらに赤い炎が《神滅部隊》へと放たれ、《神滅士》たちは吹き飛ばされた

 

「…たくっ口程にもねぇ奴らだな」

 

「なぁ獄寺、パワードスーツってなんかかっこいいな」

 

「何のんきな事言ってんだ野球バカ!!」

 

その二人は戦場だというのにまるで日常の会話をしている様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極限太陽(マキシマムキャノン)!!!」

 

 

ドコォォォン

 

 

「グワァァァァア!!」

 

「つ、強い…」

 

「何者だ奴らは…」

 

一方リーリスとトラの元には短髪の男がおり、複数の《神滅士》を吹き飛ばしていた。

 

そして、

 

「ガハハハッ行け牛丼〜」

 

牛柄の服を着た子供が雷をまとった牛に乗り《神滅士》へと突進していた。

 

 

 

 

 

 

 

格技場

 

「く…くそ!!なんだよこれ!!幻覚か!?こんなもの…」

 

「無駄」

 

「ガッ………」

 

一人の少女が幻覚で《神滅士》を撹乱し三又の槍で意識を奪い倒していた。

 

その近くでは、雲雀恭弥が平然と歩いておりその背後には多くの《神滅士》が伸びていた。

 

 

 

 

 

校門前

 

「クソッ気をつけろ!!絶対に見逃すな…グハッ」

 

「この…ガッ」

 

此処では多くの《神滅士》がたった一人の少年に倒されていた。

 

その少年は額と両手からオレンジの炎を纏い、手刀で《神滅士》の意識を奪っていた。

 

「あ…貴方は一体…」

 

あまりの光景に《護綾衛士》の女性はその少年へと問いかけた。

 

 

 

 

 

「心配するな、誰も死なせはしない」

 

 

 

 

 

 

「な…なぜ奴らが此処に!!」

 

エドワードは彼らの登場は想定外だったらしく激しく動揺した。

 

「やはり来ましたか…まぁ当然ですね」

 

朔夜は笑みを浮かべ紅茶を口にした。

 

 

 

 

 

 

いつも眉間にしわを寄せ、祈る様に拳を振るう

 

それがボンゴレⅩ世 沢田綱吉

 

そして彼が率いるボンゴレ10代目ファミリー

 

 

 

 

「……!!この気配は…沢田綱吉と山本武!!それだけではない…ボンゴレファミリー全員がいるのか!?」

 

その頃、幻騎士は突如感じた気配に気づいていた。

 

 

「丁度いい!!このまま奴らを殲滅しに行くか!!」

 

 

「おい…テメェの相手はこの俺だぜ…」

 

 

突如背後から声が聞こえ振り向くと傷だらけになりながらも悠斗が立ち上がっていた。

 

「たくっ…来るのが遅えよ…ま、いいか、間に合ったみたいだし…そんじゃ、使うか…」

 

 

すると、悠斗は目を閉じ、息を吸い、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀牙、形態変化(カンビオ・フォルマ)」




お待たせしました!!
最近本当に忙しい……………
これからも不定期ながら投稿しますのでよろしくお願いします!!


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25話 神速の咎人

ついに悠斗の本領発揮!!


(……奴の《死ぬ気の炎》が上昇していく……この感じは覚えがある…山本武との闘いで奴が見せた形態変化(カンビオ・フォルマ)とかいうやつだな…一気に勝負に出る気か……)

 

悠斗から溢れ出てくる《死ぬ気の炎》の炎圧がどんどん上昇していく中で幻騎士は警戒を強めた。

 

「貴様……やっとその力を出したな、まぁ当然だ。その力でなければ俺を倒すことは出来ん、最も…その力でも俺を倒すことは出来んだろうけどな。俺は既に貴様らのその形態変化(カンビオ・フォルマ)の力の凄まじさを学習している…もうその力に油断し敗北することは無い。全力で排除してくれる。」

 

「………山本の能力の一部を見ただけでもう俺たちのことを攻略したつもりなのかよ……そう思っている時点でテメェは俺たちのことをなめてんだよ幻騎士。」

 

悠斗は幻騎士のことを睨みながら呆れたように言葉を返した。

 

「言っておくが……《こいつ》も俺の全てってわけじゃねーからよく覚えておけ、テメェのその余裕を全力で叩き潰してやるよ。」

 

悠斗はそう言うと呼吸を整え、目を開き

 

 

 

 

 

 

「銀牙、形態変化(カンビオ・フォルマ)、モードI世(プリーモ)。」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、

 

「アオォォォォォォォン……」

 

悠斗のボンゴレギア、銀牙が遠吠えをあげたかと思うと、光となって悠斗の両足を包み込んだ。

 

光が消えると、悠斗の足には銀色に染まった鋼の分厚い装甲が取り付けられていた。

 

「それが貴様のボンゴレギアの初代の武器とやらか……」

 

「どうだろうな……自分で考えてみろよ。俺だって手の内を全部敵に教えるほどお人好しじゃねーからな。」

 

そう言うと悠斗は、自身の《長槍》を構え、

 

………いくぜ。」

 

 

 

ドガァァァァン!!!

 

 

 

そして、悠斗が足を地面に踏み込ませたその瞬間、巨大な音とともに地面が揺れ大地が抉れ、悠斗の体は宙を舞っていた。

 

 

 

「ドリャャャャァァァァ!!」

 

 

 

幻騎士は咄嗟に剣を前に出し、悠斗の蹴りを防ごうとしたが、しかし、悠斗の蹴りはそのガードをも撃ち破るものであり幻騎士へと直撃した。しかし、それは幻騎士の幻覚であり、すぐに消え、少し離れた場所へと幻騎士が現れた。

 

「なるほどな……この破壊力、流石はボンゴレギアというだけの事はあるな……だが、ただ破壊力が凄まじいというだけでは俺には勝てんぞ、やれっ!!幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)!!!」

 

幻騎士の声に従い、幻海牛のミサイルが現れ悠斗へと向かっていった。

 

「なっめんなって……言ってんだろぉがぁぁぁ!!!」

 

悠斗は《長槍》を回転させ、それによる斬撃で周囲のミサイルを破壊した。

 

「甘いな。」

 

しかし、ミサイルが爆発し、周囲に煙が包まれた隙を幻騎士が逃すはずもなく悠斗の背後へと周り斬りかかってきた。

 

「ちぃっ!!」

 

悠斗も咄嗟に身を躱し蹴りを放つが幻騎士は軽やかに躱してしまった。

 

「興ざめだな……」

 

突如、幻騎士が声をあげた。

 

「確かに貴様のボンゴレギアの武装の破壊力は目を張るものがある、しかしパワーに特化しすぎたせいでスピードも以前より遅くなっているどころか身のこなしも鈍くなっている。これでは以前の方がまだ手応えがあった。」

 

幻騎士の言葉には軽い失望があった。しかし、悠斗は気にすることなく平然としていた。

 

「やれやれ、俺も舐められたもんだな。だけどまぁ《足枷》じゃあ相性も悪いみたいだし……本命を使ってやるよ。」

 

悠斗はそう言うと足の炎の力を高め、そして

 

 

 

 

 

 

「拘束解放(キャストオフ)。」

 

その瞬間、悠斗の足の装甲のパーツが弾けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい嬢ちゃん、あのボウズの武装にゃあまだ隠し球があんのかよ。」

 

《冥柩の咎門(グレイヴ・ファントム)》の王城は悠斗をモニターから見ながら《操炎の魔女(ブレイズ・ディアボリカ)》九十九朔夜へと問い出した。

 

「ええありますよ、と言うよりはあの形態は彼のいや、初代雪の守護者の一面でしかありませんわ。」

 

「初代守護者だあ?」

 

「そう言えば、聞いたことがあります。」

 

すると、華やかな軍服の青年、《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》クロヴィスが何かを思い出した。

 

 

 

 

 

「初代雪の守護者はかつて戦場で多くの人間を殺し、その後、仲間に裏切られ無意味な殺戮の罪を着せられ監獄で死刑の日が来るのを待ち続けるだけの罪人であったとされています。しかし、I世に命を救われボンゴレの一員となった彼はI世に忠誠を誓い、己の罪の戒めとして常に足には足枷をつけていたと言われています。」

 

「そうですわ。しかし、ファミリーに危機が訪れた時には己の足枷を外し、誰よりも速く戦場を駆け抜けたと言われています。」

 

「なるほどなぁ、だから初めは《足枷》ってなわけか。」

 

朔夜たちの説明に王城は納得したような態度をとった。

 

「そう、あの武器の真髄は《足枷》の頑丈さによる一撃ではなく、それを解放した際の速さにあります……あの武器こそが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇を切り裂き、白く照らす吹雪と謳われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《シルヴァの神速脚》。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ………二段階解放の《形態変化》だと!?そんな力、見たことがないぞ!!」

 

突如足の装甲が外れ、白銀の鉄靴へと変化した悠斗の《シルヴァの神速脚》を見て幻騎士は驚愕した。

 

「だから言ったろ? 俺を舐めんなって。」

 

「………………。」

 

悠斗の言葉に幻騎士は黙り込み、暫くすると、

 

「なるほど、貴様の奥の手とやらどんな力か分からぬが兎に角危険そうだな、だからこそ、俺も全力でいこう。」

 

すると幻騎士は霧を纏った凶悪な怨霊を彷彿させるリングを取り出した。

 

「……ヘルリングか。」

 

「思い知れ、これで貴様の勝利は無くなった。」

 

その瞬間、リングから炎が現れ幻騎士の体を包み込んだ。

 

「ぐっ……ウオァァァァァァァァァァ!!!!」

 

幻騎士の叫びとともに炎が膨張し、目の前に全身が骨へと変わっただけでなく、体格も巨大になり、凶暴な形相の幻騎士がそこにいた。

 

 

「ハァァァァァア、どうだ!!これが俺の真の力だ!!ヌゥゥゥゥウ、力が何倍にも増大していく…………しかし何故だ、何故これほどの力を持つ俺が、こんな惨めな思いをしなければならないのダァァァァア!?」

 

「……っ!!」

 

変貌を遂げた幻騎士が突然叫びだした。

 

「未来の俺だって、己を絶望から救ってくれた白蘭様に忠誠を誓っただけじゃないかァァァァ!!!何故それを蔑まれなければならない!?何故俺ほどの男が、裏切り者の烙印をおされなければならんのダァァァァ!?何故この俺がこんな目にあわなければならんのダァァァァ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだぁ?急にペラペラとしゃべりだしたぞ?なんか一人で怒ってるミテーだしよぉ〜。」

 

「おそらくあれは……ヘルリングによる能力強化によっておこる精神汚染でしょう。」

 

幻騎士の突然の変貌に対する王城の疑問に《洌游の對姫》(サイレント・ディーヴァ)ベアトリクス・エミール・イェウッドは答えた。

 

「ヘルリング……死ぬ気の炎が発見される以前より存在した、6種類の「霧属性」最高ランクの呪いのリング。そのレア度は5ツ星。それぞれが別の呪いを宿しているとされ、使用者との契約により強大な力を享受するとされています…しかし、その力を得るための必要な契約とは地獄との契約であり、その力を受けたものは代償としてリング自身に己の精神を食わせることとなるそうです。使用者の中には理性を失い人格が変わってしまう者もいると言われています。温厚だった人物が凶悪な独裁者になった裏にはこのリングが関係していたとされるなど、曰く付きのリングであるとされています。私も実際に見たのは初めてですが、おそらく幻騎士のあれはヘルリングに精神を食わせたことによって理性を失いつつあるのでしょう」

 

「ふはははは、残念じゃったな魔女殿、幻騎士がああなっったらもう天峰悠斗に奴は倒せんよ。ただでさえ強化されていた幻騎士の炎がさらに何倍にも膨れ上がったのだからなぁ……」

 

《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》エドワード・ウォーカーは更に機嫌を良くし、朔夜へと話しかけた。

 

「果たして……そう上手くいくでしょうかね?」

 

しかし、それでも朔夜は余裕な表情で笑みを浮かべていた。彼女は確信していたのだ、あの程度の力にぁ天峰悠斗が、己の認めた男が敗北するとこはないと、

 

 

 




VS幻騎士もいよいよ大詰め、今後の展開を楽しみにしてください!!!


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26話 狂気に堕ちた騎士VS天狼の戦士

今回は少し早めに書けました。

そしてVS幻騎士決着です!!!


「……チョイス以来だけど、やっぱり恐ろしさを感じるよな……。」

 

悠斗は目の前の空中に立ちはだかる狂気の騎士を見ながら《長槍》を構えた。ヘルリングは悠斗自身もかつてチョイスで見たことがある。あの時は自身の仲間の山本武のボンゴレ匣《朝利雨月の変則四刀》と彼の《時雨蒼燕流》になす術もなく敗北した。しかし、今の幻騎士はその時よりも遥かに戦闘力が上がっているだけでなく一切の油断も存在していなかった。

 

「天峰悠斗!!俺は今虫の居所が悪い!!ギッタギタにしてやるから覚悟しろ!!……それと、一つ良いことを教えてやろう!!お前が死んでも一人では死なさないから安心しろ!!!なぜなら、沢田綱吉は勿論、ボンゴレファミリーの奴らも、この学園の生徒も、それからお前の惚れている女もみんなまとめて後を追わせてやるからなぁ!!!」

 

幻騎士は邪悪な笑みを浮かべながら悠斗の方を向いて笑い出した。しかし、悠斗はそれに動じず、

 

「そうかよ……じゃあ尚更負けてやれないな、もうそんなことが言えなくなるくらいにテメェをぶちのめしてやる。」

 

「ヌゥゥゥゥウ!!!!まだそんな事を言うだけの余裕があるのかァァァァ!!!!良いだろう!!ならば貴様に俺の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやる!!!!」

 

悠斗の態度に怒りを覚えたのか、幻騎士は怒りを露わにして剣を振りかざした。

 

「俺の真の力を思い知れ、天峰悠斗!!《幻影剣ノ断罪(コンヴィンツィオーネ・イッルジオーネ・スパダ)》!!!」

 

幻騎士が剣を振り下ろすと、炎に包まれた巨大な剣撃と《幻海牛》のミサイルが放たれた。剣撃は悠斗のいた場所へと直撃した。煙が晴れると悠斗の姿はなく、崩れた瓦礫しか見当たらなかった。

 

「しまったァ!!!天峰悠斗の首を沢田綱吉に見せつけてやろうと思ったのに……これでは肉片一つ残らないじゃあないか!!!……まぁ仕方が無いなァ、それだけ天峰悠斗が弱かったということなんだからなァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どこ向いてんだよ幻騎士。俺は其方にはいねーぞ。てゆーか、みやびが巻き込まれたらどーすんだよ」

 

その時、幻騎士が声に気づき、そこを振り向くと瓦礫から離れたところにみやびを抱き抱えている悠斗が立っていた。

 

「っ!!?な、ナニィィィイ!!天峰悠斗ぉ!!貴様、何故そこにいる!!!いつの間に、どうやって躱わしたァァァァ!!!」

 

「どうやってだぁ……?そんなの普通に足を使って避けただけだぞ。」

 

 

 

瞬間

 

 

 

「こんな風にな。」

 

「ぐゔっ!?」

 

悠斗が一瞬で幻騎士の目の前にあらわれ、渾身の一撃が幻騎士へと直撃した。

 

「貴様ぁぁぁぁ!!俺を舐めるなぁァァァァ!!」

 

幻騎士は怒りながら悠斗へと斬りかかるが、悠斗は再び消え、少し離れた場所に現れた。更に幻騎士は《幻海牛》のミサイルで悠斗を攻撃しようとするが、悠斗は凄まじい速さ手間その攻撃を全て躱してしまった。

 

「これは……速い!!いや違う、それどころじゃない……速すぎる!!!俺が認識するよりも速く移動しているのだ!!!」

 

これが天峰悠斗のボンゴレギアの武装その1、《シルヴァの神速脚》の能力、《超高速移動》である。

戦場において《誰も捉えることも、逃れることも出来ずに命を刈られる》と恐れられた初代雪の守護者シルヴァ、悠斗はこの《シルヴァの神速脚》を纏うことで超高速移動を実現させたのである。この能力はただ高速で移動するのではなく、周囲の大気を渦巻かせ冷気の竜巻を纏い風に乗ることで超高速移動を可能としたのである。

 

「ヌゥゥゥゥウ!!!舐めるなぁァァァァ!!!それならば更に10倍の剣撃で逃げる場所を与えなければ良いのだァァァァ!!!!」

 

そう言うと、幻騎士は己の体を分裂し幻騎士の数は10人になった。

 

「この俺に刃向かった、その愚かさを悔いながら死ね天峰悠斗ぉ!!《究極幻影剣ノ断罪(エクストラ・コンヴィンツィオーネ・イッルジオーネ・スパダ)》ァ!!!!」

 

10人の幻騎士が繰り出した10の巨大な剣撃は全てを斬り刻まんと悠斗へと襲いかかった。そして、

 

ドコォォォォォン

 

幻騎士の剣撃によって地面は抉れ、巨大なクレーターへと変貌していた。

 

「ハァ…ハァ…終わったな、如何に天峰悠斗と言えど…この剣撃をくらって無事ているはずがない……俺の勝ちだ……」

 

幻騎士は確信した。天峰悠斗を倒したと、己の絶技をくらって無事でいるはずがないと、自分は天峰悠斗を倒したのだと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうセリフと吐くって時はなぁ!!!!大抵倒せてねえ時なんだよ幻騎士ぃ!!!よく覚えておきな!!!」

突如声がした方向へ幻騎士か振り返ると、天峰悠斗は宙を浮いていた。《シルヴァの神速脚》は前述したとおり、足の周囲の冷気の竜巻を生み出し、それを纏い風に乗ることで超高速移動を可能とする。そして、その力によって空を駆けることも可能なのだ。

 

「っ!?ば、馬鹿なァ!!!……あの剣撃の嵐をどうやって躱したと…」

 

「……躱してねぇよ。躱せなかった分の剣撃は全部薙ぎはらったまでだよ。」

 

そう、躱すだけでは無理と判断した悠斗は躱せない分の剣撃を《長槍》によって防いだのである。

 

「止めだ幻騎士。」

 

悠斗は空を蹴り超高速で幻騎士へと向かっていった。

 

「真正面とは愚かな!!!そのまま貴様を斬り刻んで……っ!?か、体が動かん!!!何故だぁ!!?」

 

幻騎士が悠斗へ剣を構えようとしたその瞬間、幻騎士は己の体が動かなくなってきていることに気づいた。

幻騎士は己の体をよく見てみると

 

「っ!?しまったァァァァ!!!いつの間に俺の体に雪の炎ガァ!!体がどんどん凍っていく!!!」

 

「正解だ幻騎士。それがお前の敗因だよ幻騎士。さっきまでのお前ならこんなトラップすぐに気づいていただろうな。ヘルリングは確かに巨大な力をお前に与えたよ…けどなぁ…お前の真骨頂はその剣の腕と相手の自分の有利な展開に引き込むところにあるだろ?だけど今のお前は怒りに身を任せてただ力任せに攻撃しているたけだ!!そんな攻撃じゃあ俺は倒せねぇ!!テメェはそのリングで自分の最大の強みを殺しちまったってことだ幻騎士!!!」

 

悠斗はそのまま幻騎士へと《長槍》を構えた。そして、

 

「くっ……くそぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」

 

「狼王一閃!!!」

 

渾身の突きが幻騎士へと繰り出され幻騎士は地面へと落下した。

 

「よし、はやくみやびを安全な場所に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻騎士side

 

何故だ……何故俺はまた敗北した?

沢田綱吉の時みたいに《眼》に惑わされることもなかった。

山本武の時みたいに油断も慢心もなかったはずだ……

なのに何故奴を倒せない……何故俺が敗北する?

嫌だ……負けたくない……奴らに復讐を……

 

◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎…………

 

突如声がした。その方向を見てみると、

 

ヘルリング……

 

邪悪な力を秘めた呪いのリングが輝いていた。

 

……力を貸してくれるのか?

 

◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎…………

 

いいぞ、そのためなら…奴らを倒せるなら…俺は、人間を捨ててやる!!!!

 

side out

 

 

「◾︎◾︎◾︎…◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎っ!!!!!!!」

 

「……っなんだ!?」

 

突如聞こえたこの世のものとは思えない「ナニカ」の叫びが聞こえ、その方角へ振り返ると、

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎っ!!!!!!!」

 

「幻騎士…なのか?」

 

そこにいたのは先ほどよりも更に巨大になり、禍々しい炎に包まれた幻騎士がいた。

 

「まさか…ヘルリングにその身を完全に食わせたのか!?そんな…そこまでして…人間を捨ててまで俺たちを倒したかったのか!?」

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!!」

 

幻騎士は悠斗へとなんの躊躇もなく攻撃を繰り出した。その一撃は先ほどとは桁違いの威力であり、それによって建物の一部が切り裂かれた。理性を完全に失った幻騎士はもはや殺戮マシーンと言ってもいいだろう。

 

「っ!?あれをまともに食らったらヤベェ…とにかく一旦距離を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゆ…悠斗…くん…」

 

その時、そこへふらつきながらみやびが近づいてきた。戦闘の音を聞き、力を振り絞ってここまで来たのだろう

 

「っ!?みやび逃げろぉぉぉ!!!」

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!!」

 

みやびの存在に気づいた幻騎士がみやびへと剣を振りかぶった。

 

ドガァァァァン!!!

 

幻騎士の剣撃によって地面は抉れた。

 

「ハァ…ハァ…大丈夫かみやび?……っ!!」

 

「ゆ、悠斗くん!傷が……」

 

幻騎士の剣撃は直撃こそしなかったが悠斗の体に深い傷を負わせた。そこから赤い血がみるみると流れてきた。

 

「ご……ごめんなさい悠斗くん!!私の…私のせいで…わ、私……やっぱり悠斗くんの足を引っ張ってばっかりで……」

 

 

 

 

 

 

 

「みやび……泣くな、お前のせいじゃない。」

 

 

涙を流しながら謝るみやびの涙を指で拭いながら悠斗は優しく微笑みかけた。

 

「ゆ、悠斗くん…でも…私が…」

 

「ちげーよ、この怪我は俺が勝手に転んでつけたようなもんだ。みやびは何も悪くない。」

 

悠斗は優しくそう言いながら立ち上がると

 

「みやび、俺を信じてそこで待っていてくれ。必ず死ぬ気で勝つ。」

 

「え……っ!!や、やだよ!!!悠斗くん…死ぬなんて言わないでよ!!悠斗くんが死んじゃったら…私…」

 

「死なねえよ。」

 

眼に涙を溢れされながら止めようとするみやびに悠斗は優しく微笑みかけた。

 

「死ぬ気で勝つって言っても本当に死ぬつもりはねえよ…だって…死んだらまた一緒に特訓も、ショッピングも出来ねえだろ?だから死ぬ気で《生きる》って意味だ…必ず帰ってくる。だから…みやびも俺を信じて待っててくれ。」

 

悠斗はみやびの頭を撫で、再び微笑んだ。

 

「悠斗くん……うん…分かった。私、悠斗くんを待ってる。だから…またいっしょに遊びに行こうね。」

 

「ははっ、意地でも帰ってくるよ」

 

悠斗はそう言うとこちらを睨みつけている幻騎士の方を向いた。そして、自身の《焔牙》を、《長槍》を見つめた。

 

 

 

 

(なぁ…お前が俺の《魂》だってんなら…俺に力を貸してくれ。あいつを倒すための、そして……俺の大切な人を守るための力を!!!)

 

その時、悠斗は己の中から力が溢れてくるのを感じた。

そして、天峰悠斗はその力を解き放つ《力ある言葉》を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天に咆えろ____《覇天狼(ウールヴへジン)》!!!」

 

すると、悠斗を白銀のオーラが包み込み、額から同色の炎が現れた。

 

「これが…俺の《焔牙》の真の《力》…」

 

いかなる時も倒れず、仲間のために死ぬ気で闘う。それこそが天峰悠斗の《長槍》に眠っていた真の《力》だった。

 

「◾︎◾︎◾︎…◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎______!!!!」

 

本能でそれが危険だと判断したのか幻騎士は剣を振りかぶって悠斗へと攻撃を仕掛けた。

しかし、悠斗はその剣撃を容易く躱して攻撃を繰り出した。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎_______っ!!!」

 

幻騎士はその一撃に吹き飛ばされ、壁に衝突した。

幻騎士は立ち上がると、幻覚を使い姿を消し、悠斗へと剣撃を放った。しかし、

 

 

「そこだぁ!!!」

 

 

悠斗は幻騎士の居場所を容易く見つけ、《長槍》による突きをはなった。

 

悠斗の煉業《覇天狼(ウールヴへジン)》は自身の肉体のリミッターを解放し、戦闘力を強化する能力。そして、自身の本能を解放し、相手の攻撃を予測することも可能とする。

言うなれば天峰悠斗専用の《死ぬ気モード》である。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎_______!!!」

 

幻騎士は剣を振りかぶり、炎をその剣にチャージし始めた。この一撃で終わらせるつもりのようだ。

悠斗は《長槍》を構え、炎を先端に纏わせた。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎______!!!!」

 

幻騎士の剣を振るって巨大な剣撃が悠斗に放たれた。しかし、悠斗は逃げない。そこにはみやびが、彼の愛する少女がいるのだから

 

「天狼斬月!!!!」

 

悠斗の《長槍》の斬撃が幻騎士の剣撃を斬り裂いた。

 

「うぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

悠斗はそのまま幻騎士へと接近し懐へと入り込み、そして

 

 

 

 

「天狼一閃!!!!!」

 

 

 

悠斗の一撃が幻騎士へと繰り出され幻騎士は吹き飛ばされ、そしてその禍々しい体は崩壊し、人の姿へと戻った。

 

 

天にかける銀狼が邪悪な騎士を討ち破った。

 

 

 

「勝った…俺の勝ちだァァァァ!!!」

 

 

 

悠斗はふらつきながらも勝鬨をあげた。

 

 

 

 

「天峰……悠斗……」

 

すると、幻騎士が悠斗へと話しかけた。

 

「何故……俺はお前たちに勝てない……俺は…どうすれば良かったのだ…」

 

よく見ると、幻騎士は泣いていたのだ、泣きながら悠斗へと問いかけていた。悠斗は幻騎士を見つめながらその問いに答えた。

 

 

「そんなの…決まってんだろ……仲間を頼れば良かったんだよ…1人で悩まないでさ…仲間に助けを求めれば良かったんだよ。」

 

「………そうか……」

 

そのまま幻騎士は意識を失った。

悠斗はみやびも元へと近づき、

 

「…勝ったぜ、みやび。」

 

「うん…良かった…悠斗くんが無事で本当に良かった…」

 

「みやび…」

 

その時、遠くから赤い光と爆発する轟音が聞こえた。

 

「…みやび、ちょっとまた用事ができた。すぐ戻る。」

 

「え…で、でも悠斗くん傷が…」

 

「大丈夫だ、ぜってー戻る。それに、透流たちを助けに行かねーとさ。」

 

悠斗は優しくみやびの頭を撫で、幻騎士を縛っておくと透流の元へと向かっていった。

 

 

遂に最後の闘いが始まる。

 

 

 

 

 




遂にここまで書いちゃいました!!!
書きたいシーンまで書いてたら文字数予定より多くなってしまいました。ですが満足です!!
そして次回は透流たちを助けに行きます!!!
お楽しみに!!!


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27話《楯》と《長槍》

ラストバトル開始です!!!


「はぁ……はぁ……くそ、体が重い……でも急がないと……」

 

悠斗は赤い光と爆発のする方へ急いで向かおうとするが、幻騎士との戦闘の傷が思ったよりも深く、体が重いことから思ったよりも早く走れなかった。出血は《雪》の炎で傷口を《凍結》することで止血出来たが、《装鋼(ユニット)》をまとったみやび、《神滅装備(アルマメント・エル・リベール)》を纏い、さらにヘルリングによって狂化された幻騎士との連戦は予想以上に悠斗の体にダメージを残したのである。しかし、それでも悠斗は見殺しには出来なかった。この学園で出会った大切な仲間たちを。周囲の《神滅部隊(リベールス)》は援軍に来たツナたちがいるので問題ないであろう。

 

「………ふぅ~よしっいくかっ!!!」

 

悠斗は息をめいっぱい吸い再び走り出した。

しばらく走ると、少し離れたところに透流たちの姿が見えた。しかし、ユリエは傷だらけになって気を失っており、その近くには《神滅部隊》隊長《K》が背中に四枚の翼を背負い、宙に浮いていた。

 

「透流!!!」

 

「っ!!悠斗か!?無事だったのか!?」

 

「まあな、みやびも何とか無事だ、ほかの敵は俺の仲間たちが援軍に来たから時間の問題だと思う。それよりユリエは?」

 

「……とりあえず命に別状は無いけど……あいつの翼状の銃の光弾で攻撃されて……」

 

透流は傷だらけで気を失っているユリエを抱きかかえて悠斗へと状況を説明した。

 

「これはこれは天峰悠斗。その様子だと、幻騎士はあなたに負けたようですね。彼には期待していたのですが……まあ仕方がありませんね、あとは私の手によって終わらせましょう」

 

突如、《K》が凶悪な笑みを浮かべて悠斗を見た。

 

「おい《K》。ずいぶんと変わった装備を持ってるな。それも《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》の作った武器か?」

 

「その通りですよ天峰悠斗!!!これこそが《神滅士》の外部兵装___《死化羽(デストラクション)》!!!この力であなたたちに引導を渡してあげましょう!!!」

 

そう言うと、《K》は赤い翼をこちらに向けると、突如二枚の翼から二枚のトリガーの付いたグリップが現れ、翼が銃へと変化していた。トリガーを引き、光弾が放たれる。

 

「くっ……‼︎牙を断て___《絶刃圏(イージスディザイアー)》‼︎」

 

しかしそれを、透流は何やら防御障壁のようなものを展開してそれを防いだ。

 

「なるほどな……それがお前の《焔牙》の真の《力》ってなわけか。」

 

「まあな、気をつけろ悠斗、あの武装、いろんな形態になってかなりやっかいだぞ。」

 

「だろうな、幻騎士の使っていた武装とはまた違った厄介さみたいだな……」

 

悠斗は眼の前の敵を見つめながらそうつぶやいた。

 

「くくく、この《死化羽》の力は幻騎士の《神滅装備》にも匹敵すると自負しています!!!手負いのあなたたちを倒すには十分すぎると思いますねぇ!!!!」

 

《K》は悠斗たちへと銃口を向け、凶暴な笑みを再び浮かべていた。

 

 

 

 

 

「……透流、あの野郎に俺たちの力を思い知らせてやろうぜ。」

 

「……俺はもとよりそのつもりだけど…お前は大丈夫なのか?ひどい傷じゃねーか。」

 

「そのセリフ、菓子折り付きでお返しするぜ。」

 

どちらも先の戦闘で大きなダメージを負っており、まさに満身創痍と言えた。

 

「………この闘い、こいつを倒さねーと終わらねえ………それに、お前も俺が前に出した宿題の《答え》を見つけたみたいだしな。」

 

悠斗の言う《宿題》とは、以前、悠斗が透流へと問いかけた『なぜお前の《焔牙》が《楯》なのか』という問いである。その言葉に透流は小さく頷いた。

 

「俺は……あいつに復讐すること以上に……これ以上大切な仲間たちを失いたくなかった。大切な仲間を《護れる力》が欲しかった……だから俺の《焔牙》は武器の形じゃなくて《楯》……防具の形になったんだ……」

 

「……なるほどな。だと思ったよ。」

 

「だけど悠斗……やっぱり俺はあいつへの憎しみを完全に消すことはできない……いつかあいつをこの手で倒すことになると思う……」

 

「それでいいよ、俺だってお前の憎しみを全部無くせると思っていないし俺にはそんな資格はない……それを決めることが許されるのはお前だけなんだからな……」

 

悠斗は透流にそう言うと、再び《K》のほうを向いた。

 

「勝つぞ透流。勝って皆のところに帰るぞ。」

 

「そうだな悠斗。こんなところじゃお互いぜってー死ねないよな。」

 

そういうとお互い顔を合わせて笑みを浮かべた。

そう、絶対死ねないのだ。天峰悠斗にはまだやらなければならないことがある。

彼女と約束したのだ。また二人で遊びに行くと。そして、まだ彼女に思いを告げていない。それまでは、何があっても絶対に死ぬわけにはいかない。九重透流は《楯》と拳を、天峰悠斗は《長槍》を、互いに構えて《K》に対峙した。

 

「そろそろお話は良いでしょうか?では、最後の闘いといこうじゃないですかぁ!!」

 

「来やがれ《K》!!!俺たちの力、てめぇに骨の髄まで叩き込んでやる!!!」

 

そして、透流と悠斗は《K》へと向かっていた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!!」

 

悠斗の《力在る言葉》と共に悠斗は銀色のオーラに包まれ額から白銀の炎が現れた。

《K》は銃から剣へと型(モード)を変化させた《死化羽(デストラクション)》で一気にこちらの間合いへ潜り込んでくる。その突進による速度は、悠斗にも匹敵しうるものであったが、

 

「無駄だぁ!!!!」

 

悠斗は《長槍》によって剣の一撃を防ぎ、そのままカウンターの突きを放った。

 

「っ!?………ちぃっ!!!」

 

《K》は悠斗に攻撃を防がれたことが予想外だったのか、一瞬取り乱し、舌打ちしながら間合いを取り、剣から銃へと型(モード)を変化させ銃口を悠斗たちへと向けた。

しかし、

 

「透流!!!強力な一撃が来るぞ!!!回避しろ!!!!」

 

「なっ………!?」

 

《K》の放った一撃、赤色光束砲(エーテルカノン)を悠斗にばれたことにはさすがに動揺したが、《K》は途中でやめるわけにもいかずそのまま発射したが、透流は難なくそれを回避し、放たれた赤色光束砲(エーテルカノン)も悠斗が作り出した氷の壁によって逸らされてしまった。

 

「な……なぜだぁ!!!?なぜ私の攻撃がことごとく読まれるのだぁ!!!?」

 

《K》は現実に起こっていることが理解できないのか激しく動揺していた。

悠斗の煉業(イヴォルト)《覇天狼(ウールヴヘジン)》は身体能力や炎の力だけでなく、悠斗に眠っている野生の本能までをも開放することが出来る。それによって自身に降りかかる危険や相手の行動を察知することが出来るのだ。その力は、戦闘面においてなら、ツナの《超直感》にも引けを取らないであろう。

 

「こ……のぉ!!!!こうなったらぁ!!!!《死化羽(デストラクション)》に秘められし最後の《力》を見せて差し上げましょう!!!」

 

二枚の翼が《K》の言葉に呼応して組み合わさる。《K》はそれを___ニ連装の巨大な銃を手に取り、腰だめに構えた。

 

「これぞ《死化羽(デストラクション)に残された最終兵装___双連赤光束砲(ツインエーテルカノン)。》二門同時に放つことで、これまでの赤色光束砲(エーテルカノン)の倍以上に威力が跳ね上がるとっておきですよ……!!」

 

「なるほどな……確かにやばそうだが……当たらなければ意味が無え。」

 

「そうだな、むざむざ俺たちが当たると思ってるのか?」

 

回避に集中すれば、躱すかとができる。しかし《K》は、二人の考えなど想定内であるとばかりに薄く笑った。

 

「いいえ、貴方たちに避けることは出来ません。銃口の向きを考えればわかると思いますよ。《お友達思い》の貴方たちならね……」

 

『____っ!!』

 

その一言で二人は《K》の狙いを察した。

 

銃口は二人に向けられている。___しかし、その数百メートル先には寮があった。

つまり、躱せば寮のみんなを見殺しにしてしまう。

 

「さあ、最後はシンプルに《暴力(ちから)》と《魂(ちから)》の真っ向勝負といきましょうか。」

 

嗜虐の笑みを浮かべ、《K》が告げる。

 

「透流、俺を信じて全力で防壁を張ってくれ、俺が全力でサポートする。」

 

「悠斗……分かった。ゼッテー勝つぞ悠斗。」

 

ふたりは互いの拳を合わせて笑った。

 

「くくく、まさか躱すことも防ぐことも出来ない圧倒的な《暴力(ちから)》に折れないとは……ここまで来ると憐れみを覚えますよ……」

 

「なめんなよ《K》……俺たちの《魂(ちから)》は、てめーの《暴力(ちから)》なんかには絶対に負けねえ!!!」

 

「終わりです九重透流!!天峰悠斗!!」

 

ニ連装の銃口に集められた殺意と悪意の牙が、巨大な赤色の光と化して放たれた。

 

「《K》!!最後に一つ教えてやる!俺の《絶刃圏(イージスディザィアー)》は一か所にしか展開できないが___同時に展開出来ないわけじゃない!!」

 

透流は残るすべてを一気に開放し、吼えた。

 

「牙を断て___《絶刃圏・參式(スリーフォールド・イージス)》!!」

 

「《雪の防壁》最大防御!!」

 

一箇所へ集中して展開された重なる結界に《雪》の炎のコーティングがされた。

 

「なっ!?結界を重ねる!?___しかも…死ぬ気の炎で強化だとぉ!?」

 

『俺たちを……なめるなぁぁぁぁぁ!!』

 

ふたりの咆哮びと共に、結界に阻まれて蓄積し続けた光が___大きく爆ぜた。

やがて土煙がはれ____悠斗と透流は立っていた。

 

「バ、バカな……何故……なぜ生きている……なぜだぁぁぁぁあ!!」

 

怒りに身を任せて《K》は《死化羽(デストラクション)》の銃口を向けようとした瞬間、目の前に透流の姿が現れた。

 

「なっ……いったいどこにそんな余力が……っ!?天峰悠斗ぉぉぉお!!」

 

悠斗が透流の肩を支えながら残った力と《シルヴァの神速脚》を振り絞って《K》の眼前へと超高速移動したのである。

 

「最後はお前が決めな透流。」

 

「ありがとな悠斗。」

 

悠斗に感謝を述べながら九重透流は拳を振るった。

この闘いを終わらせる最後の一撃を。

 

「終わりだ《K》_____っ!!」

 

「九重透流_______っ!!」

 

瞬間___透流の《雷神の一撃(ミョルニール)》が《K》に打ち込まれ、《K》はクレーターの中心で倒れており、《装鋼(ユニット)》は完全に破壊され、《死化羽(デストラクション)》も粉々と化していた。

 

「はは……あいつ、やっぱりやるじゃねえか…………」

 

悠斗は透流を称賛し、度重なる戦闘の疲労が闘いの終結とともにピークに達しそのまま意識を失った。

 

 




完・全・決・着!!!!!

やっとここまで書きました!!!


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28話 想いを伝える銀狼の戦士

タイトル通りの話です。


「ん……ここは…?」

 

悠斗が目を覚ますとそこは医務室のベットの上であった。

どうやらあの後悠斗は倒れたまま眠ってしまっていたらしい。しかし、あれだけの戦闘のダメージで《眠っていた》だけで済んだのは悠斗の頑丈さもあるのだろう。

 

「あ…………。」

 

ふと声がしたので隣を見ると、そこには目を真っ赤にしてこちらを見つめる自身の絆双刃、穂高みやびがいた。

 

「悠斗くんっ!!」

 

「んなっ!?み、みやび……く、苦しい…離れ…っ!」

 

突然みやびに抱きつかれた悠斗はどうすればいいのか戸惑っていたが、ふと、みやびが泣いていることに気づいた。

 

「良かった……本当に良かった……悠斗くんが死んじゃったらって思ったら……わたし……」

 

その時、悠斗は彼女にさらに心配をかけてしまったことに後悔し、そのままみやびの頭を優しく撫でた。

 

「悪かった……少し心配かけ過ぎちゃったな……でも大丈夫だよみやび、言ったろ?絶対に帰ってくるって。」

 

「うん……でも……悠斗くんが目覚めなかったらって思ったら怖くなっちゃって……」

 

ガラッ

 

「悠斗!!目が覚めたか!!」

 

声を聞きつけたのか巴たちが病室へと入ってきた。透流も手に包帯を巻いているが無事のようだ。

 

「みんな、悪いな迷惑かけて」

 

「まったくだ……貴様は本当に筋金入りのバカだな。ここまでくると勇敢を通り越してバカだぞ。」

 

「そう言うなよトラ、悠斗のおかげで俺たちも無事で済んだんだから。」

 

トラは呆れたように悠斗を叱り、それを透流がなだめていた。

 

「悠斗、みやびに感謝するんだぞ。君のそばで一晩中看病していたんだからな」

 

「そうなのか?ありがとなみやび。」

 

「う、ううん。わたしにはこれくらいしか出来ないから…」

 

「あ、あの……悠斗さん……。」

 

するとみんなの後ろから梓が現れ、ビクビクと怯えながら悠斗の前に出てきた。

 

「梓………」

 

すると、梓は決心した顔を見せ、

 

「すみませんでした!!!わたしのせいで皆さんを危険に晒しただけでなく…みやびさんまで……許してもらえるとは思っていません!!でも……この罪を償わせてください!!でないと私……」

 

「……そうか…それじゃあお前に罰を与えるとするか……」

 

「なっ…悠斗!?」

 

突然悠斗の口調が重くなり、透流は慌てた。

 

「まっ…待ってくれ悠斗!!梓も心から反省している!!私も謝る!!だからどうか…」

 

「そ、そうだよ悠斗くんっ!!わたしももう大丈夫だから…」

 

巴とみやびは悠斗を止めようとするが、悠斗は梓を無言のまましっかりと見つめ、そして

 

 

 

「せいやぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

スパァァァァン!!

 

 

 

悠斗はどこから出したのかハリセン片手に梓に綺麗な一撃を繰り出した。

 

 

 

「え………?悠斗さん……なにを……?」

 

「許す!!!」

 

きょとんとする梓に悠斗は大きな声で一言言った。

 

「橘やみやびが許しているんだ…それに他のみんなも許してるみたいだがからな…だけどそれでもお前がみんなを騙していたことの示しはつけなきゃなんねぇ…だから、ハリセン一発、これでお前を許すって決めた。」

 

悠斗は梓に笑顔でそう言った。その言葉に梓はポロポロと涙を溢れさせた。

 

「悠斗さん……あり…がとう……ございます…わ…わた…し…う…ウワァァァァァア!!!」

 

我慢の限界だったのか梓は泣きだしてしまった。

 

「梓…良かったな…」

 

「梓ちゃん…」

 

「巴さぁん…みやびさぁん……ごべんなさぁぁい」

 

梓は巴とみやびに思いっきり抱きついた。

 

ムニュン

 

その時、みやびと巴の胸が梓の慎ましい胸を圧迫した。

 

「巴さぁん…みやびさぁん…うううう…ゔゔゔゔゔ…ごれでがぁったと思うなよぉぉぉぉお…」

 

「急に怒りだしたぞ!?」

 

「しかもマジ泣き!?」

 

梓の突然の変貌に透流とトラは驚愕した。

その時、

 

 

 

ガラッ

 

 

 

「天峰くん!!大丈夫?見舞いに来たよ!!」

 

「けっ、騒がしいと思ったら…」

 

「ははっ、元気そうだな。」

 

「極限に見舞いに来たぞ!!!」

 

「ランボさんが来てやったんだもんね!!」

 

「……大丈夫?」

 

突然扉が開きツナたち10代目ボンゴレファミリーが入ってきた。

 

「な、なんだ貴様らは!?」

 

「あ〜落ち着けってトラ、紹介するよツナ、こいつらが俺のこの学校でのクラスメイトだ。みんなにも紹介するよ。こいつはツナ、俺が所属しているボンゴレファミリーの10代目ボスだよ。」

 

 

 

 

『え……えぇぇぇぇぇぇえ!?』

 

悠斗の言葉に透流たちが驚愕した。

 

「ボ、ボンゴレのボスって俺たちと同い年だぞ!?俺…てっきりスーツ姿でダンディな髭のおじさんかと…」

 

「典型的なボスのイメージだな透流。」

 

「わ、私は龍の刺青で和服姿で腰に匕首を刺した人かと…」

 

「いやそれマフィアじゃなくてヤクザだから橘。」

 

ツナが少年という事にみんなは驚愕した。

 

「ところで沢田さん、確か他にも雲雀とかいう男がいたと思うのだが…」

 

「え、えーと…雲雀さんは呼んだんだけどどこか行っちゃって…」

 

「そうか…あの男には少し因縁があったのだが…」

 

巴は以前の《あらもーど》での騒動を思い出しながらため息をついた。

 

「そーだったおいツナ!!雲雀の奴こっちの方まで俺を咬み殺しに来たんだぞ!!お前ボスだろ、なんとかしろ!!」

 

「えぇぇぇぇっ!?オレのせいなの!?」

 

「おい天峰ぇ!!オメェ10代目の所為にしてんじゃねぇ!!」

 

悠斗の言葉に獄寺は怒りながら悠斗を睨みつけた。

 

「うるせぇタコ頭!!」

 

「なんだとアホ狼!!」

 

『ウギギギギ…』

 

「ちょ、ちょっと2人とも」

 

ガン飛ばしあいしだした2人ツナは慌てて止めようとしていた。

 

「なんか…マフィアって言うよりクラスメイトって感じだな」

 

そんな彼らを見て透流は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツナたちは後始末をするために一旦学園を離れた。

悠斗は体のダメージも了平が《晴》の炎で治癒したこともあって大分回復していたので手伝いに行こうとしたがツナが『悠斗くんは休んでいて』という言葉に従いくつろいでいた。その時、

 

ガラッ

 

「ゆ、悠斗くん…体は大丈夫?」

 

みやびが心配そうに入ってきた。

 

「あぁ、問題ねぇよ。ある程度はもう治ってるから出かけても大丈夫だよ。」

 

「そ、それじゃあ、夜六時に、校門前に来てくれるかな」

 

「校門前?別にいいぜ」

 

「じゃ、じゃあよろしくね。」

 

みやびはそう言うと病室を去って行った。

そして、午後6時前、悠斗は校門前に来ていた。

 

「少し早かったか、な……」

 

藍色へと変わりつつある空の下を歩いていく。外灯は敷地内の至る処に設置されているが、日が沈んだ後が薄暗いことには変わりない。

 

(話、か……)

 

《装鋼(ユニット)》の件、告白の件、そして今後の事について、話すことになるだろう。

ならばちょうどいい、俺も彼女に話さなければならないことがある。

やがて守衛所前を通り___正門を抜けると___そこに、彼女は居た。

 

「よっ、みやび。早いな」

 

「こ、こんばんは、悠斗くん」

 

「こんばんは___って、みやび、その格好どうしたんだ?」

 

みやびは浴衣姿だった。

 

「あ、こ、これ?えっと___お、思い出作りと言うか、その……昼間、巴ちゃんと梓ちゃんに付き合って貰って買ってきたんだけど___もしかして似合ってない、かな……?」

 

「いや、すごい似合ってるよ。よく似合ってて可愛いぜ。」

 

「か、かわっ……⁉︎そ、そんな、お世辞なんか言わなくても……」

 

「ん?いや、お世辞じゃなくて、思ったことをそのまま言っただけなんだが」

 

「あ……。そ、そうなんだ……。えっと、あ、ありがと、悠斗くん……」

 

少しうつむき加減で、みやびが礼を言う。

 

「しかしどうして浴衣を___あ、それより、話をするんだっけ?」

 

「う、うん……。でも話をする前に、少し時間を取らせて貰ってもいい?」

 

「ん、ああ、それは構わないけど何かあるのか?」

 

「……じ、実はね。今日、近くで開催される花火大会に行こうかなって。それで、悠斗くんさえよかったら……い、一緒に行ければって思って、その、つまり___ 」

 

「花火大会?」

 

不思議そうに聞き返すと、みやびは、こくりと頷いた。

 

「ゆ、悠斗くんと……デート、したいなって……」

 

「え……?」

 

重めの話をすると思って気を高ていたが、まさか、デートをしたいと言われるとは。

 

「ダメ、かな?」

 

「___い、いや、いいよ!えっと、オッケーだ」

 

「あはっ、よかったぁ」

 

途端、みやびに笑顔という花が咲く。

 

(やべぇ…すげー可愛い…思わずドキッとしちまった。)

 

「……だけど、俺、こんな格好だし、それに外出届も出さないとダメだよな……」

 

上はTシャツ、下はジーパンという格好。それに外出届出さないと駅の改札を通ることが出来ない。

 

「そ、それだったら、ちょっと待ってて……」

 

そう言い残し、カランカランと下駄の音を立てながら、みやびが正門をくぐって守衛所へと駆けていき、警備隊の人と何事かを話したみやびが、戻ってくる。

 

「外出届出してきたよ。」

 

聞けば守衛所でも外出届は出せるらしい。

 

「まじか…全然知らなかった。」

 

「クスクス。生徒手帳に書いてあるよ。悠斗くん。」

 

当然のごとく悠斗は読んでない。

 

「そ、それじゃあ悠斗くん…デ、デート、行こうか」

 

「あ、ああ。そうだな。」

 

意識している女の子と今から一緒に花火大会へ行く。

 

 

デートをする。

 

 

そして、悠斗たちは駅へと向かった。

 

「「 ………… 」」

 

モノレールに乗り込むが、この時間帯から出かける生徒はほとんど居らず、車内には悠斗たち以外に一組しか乗っていない。向こうもデートのようではあるが、こちらと違って会話が弾んでいるのが分かる。とりあえず、この無言状態をなんとかしようと、話題を振ってみる。

 

 

「もうすぐ出発だな」

 

「う、うん、そうだね……」

 

「「 ………… 」」

 

会話終了。苦悩していると、今度はみやびが頷いたままに話し掛けてきた。

 

「私ね、男の子とデートするのって初めてで…前に悠斗くんと出かけた時は、デートって言うより買い物って感じだったし…何を話したらいいかわからなくて…」

 

「確かに俺も…デートは初めてだな。」

 

「え……?悠斗くんも……初めてなの?」

 

意外そうな顔で訊いてくる。

 

「ああ、うん、まあ、な……」

 

「わたしが、悠斗くんの初めて……」

 

噛みしめるように呟いた後、みやびは嬉しそうに笑った。

 

それからすぐに、駅へと到着する。電車が止まると立ち上がり___みやびへ、手を差し出した。

 

「あ……。ありがとう、悠斗くん」

 

おずおずと手を乗せ、みやびも立ち上がる。が、話はそこで終わらなかった。

 

「……あ、あのね、悠斗くん。このままでも、いい?」

 

「このまま?」

 

「手、このまま繋いでいたいなって……」

 

「ん、ああ、いいよ。デートだからな」

 

うんっ」

 

はにかみつつも、きゅっと繋いだ手を少しばかり強く握ってくる。

 

 

 

電車を乗り継ぎ、目的の駅に近付いてくるにつれ、花火大会へ向かう人の姿が増えてきた。やがて駅に到着して外へ出て、悠斗たちは会場へ向かう人たちの流れに乗って進み始める。

 

「出店が結構出てるな」

 

「先に何か買って食べちゃう?」

 

「それがいいかもな。会場に着いたら、出店で買い物もする余裕があるかどうか怪しいしな」

 

いつもなら夕食時ということで、先に食べておくことに決めた。手はここで離し、悠斗はりんご飴と焼きとうもろこし、みやびはツナサラダクレープ、そして二人揃って大判焼きを一つずつ購入して、会場へと向かいながら食べ始める。

 

「あ、悠斗くん。」

 

「ん?」

 

「えっと……」

 

悠斗の顔を見て、みやびが何か言いたげな様子を見せて逡巡し___

 

「とうもろこし、ついちゃってるよ」

 

と言うなり、俺の頬に手を伸ばしてきて取ってくれる。___しかも、そのままぱくりと食べた。

 

「あ……」

 

「え、えっと……は、恥ずかしいね、これ……」

 

「そ、そうだな」

 

と、そのとき___ドーン、と大きな音が聞こえて空気が震えたかと思うと、夜空に大輪の花が咲いた。

 

「わぁ、綺麗……。それにすごく大きいね……」

 

打ち上げ場所が近いからこそ迫力のあるサイズに、みやびと俺は見入る。

 

「すげーデカイな。こんなに近くで花火を見るのは初めてだ。」

 

「ふふっ、わたしもだよ。すごい迫力だよね」

 

「ああ。だけど上を見て歩くのも危ないから、しっかりと見るのは会場まで我慢しよう。」

 

「うん、そうだね」

 

道端にあるゴミ箱へゴミを捨てて、再び会場目指して歩き始めると___みやびがそっと、遠慮がちに手を重ねてくる。

 

「人も多いし、離れないようにしとかないとな」

 

そう言って、みやびの手を握ると___

 

「うん。ありがとう、悠斗くん」

 

みやびは笑みを浮かべ、握り返してきた。そして会場に到着したのはいいのだが、次第に会場は混雑を増していく。あまりの人の多さで自然とスペースは狭くなり、だんだんみやびとの距離が近づいてきたところまでは、まだセーフ。

しかし、その先___みやびのボリュームがあり過ぎる胸が悠斗の腕に当たった辺りから、何かがおかしい方向に。場所を変えたくとも次から次へと人が詰めてきて、もはや移動するどころの騒ぎじゃ無い。次第にみやびの胸が俺の腕に押し付けられ、形を変えていき___何とかしようと体を動かした結果、事態はより深みに嵌まった。

 

___というか、腕が胸の間にすっぽりと嵌まった。いや、腕周り三百六十度が完全にマシュマロの如き柔らかさに包まれた。

 

「……み、みやび。あの、もろ挟まってるというか……」

 

それに対して、みやびは恥じらいに加え、暑さと息苦しさで頰を真っ赤にして荒い呼吸をし、悠斗を見上げてくる。

 

「ん、はぁっ……ふは、ぁ……ご、ごめん、ね、悠斗くん。わたし……んっ、んんっ!」

 

「い、いや、謝るのは寧ろこっちの方だって。事故というか、この状況じゃ仕方ないというか……」

 

結局、花火大会も終盤になるまで続いた。終わりが近づき、周囲で帰路に就き始めた人たちが動いたおかげでようやく体が離れると、悠斗たちは土手を下りて街中へ向かうルートに入ったところで、ようやく一息をついた。

 

「………か、帰るか」

 

「う、うん、そうだね……」

 

帰りの電車では、ほとんど会話は無かった。やがて学園前にモノレールが到着しても最低限の会話しかしていない。外灯に浮かび上がる巨大な門をくぐり、寮への道を無言で歩くその途中___

 

「悠斗くん…ちょっと寄り道良いかな?」

 

分かれ道で、みやびがそんなことを言い出した。異論は出ず、寮へ向かわずに別の道を歩き始めた。しばらくしてライトアップされた噴水の近くでみやびが足を止め、数歩先に進んだところで悠斗も止まって振り返る。

 

「ここで、少しお話ししてもいいかな……?」

 

「……ああ」

 

悠斗の返事を聞くと、みやびが無言で頷き___しばしの間を置いて静かに語り始めた。

 

「今日は___ううん、入学してから今日まで、本当にありがとう。悠斗くんはわたしが大変なときにいつも助けに来てくれて、それがすごく嬉しくて……すごく申し訳なくて……」

 

「気にするなって、俺はみやびの役に立ってるなら、それで嬉しいんだよ」

 

すると、みやびが、ぽつりぽつりと口を開く。

 

「わたしね、悠斗くんが私の絆双刃になって…少しでも悠斗くんに近づきたくて…でも、足を引っ張ってばっかりだった。…でも、それでもわたしは悠斗くんに近づきたい。悠斗くんみたいに強くなりたい…だから…

 

 

 

わたし、退学(や)めないよ」

 

小さく、けれど力強く、みやびは答えを口にした。

 

「ああ、みやびが辞めないでくれて、俺は___嬉しいよ」

 

「あ……ふふっ、そう言って貰えるとわたしも嬉しいな」

 

みやびは悠斗に小さく微笑んだ。そして、悠斗は自身の頬が熱くなり、心臓の鼓動がさらに速くなった。そして、目を閉じ、何かに、決心すると再び目を開き

 

「みやび、俺からも一つ良いか?」

「……えっ?」

 

みやびは少し驚きながら悠斗の方を向いた。

 

「悪いな、これはどうしても俺から言いたいんだ。」

 

そう言うとみやびの前に立ち、そして_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みやび、お前が好きだ。」

 

 

次の瞬間、みやびの中で止まっていた時間が動きだした。

 

「…………え?」

 

悠斗の言葉が、ゆっくりとみやびの中へと浸透して来る。

 

悠斗くんが、好き? わたしのことを?

 

「え…ゆ、悠斗くん?それって…」

 

「みやびが好きなんだ。」

 

みやびは信じられなかった。本当なら、ここで自分から告白するつもりだったのだ。それがどのような結果になろうと、しかし、まさか悠斗の方から告白してくるとは思ってもいなかった。そして、目から涙が溢れてきた。

 

「わ、わたしも…」

 

意を決するように、みやびは今まで胸の内に秘めて来た全てを言葉に乗せて差し出した。

 

「わたしも、悠斗くんのことが好きです。わたしに絆双刃になって欲しいって言ってくれたあの日から、大好きです!!」

 

それは、2人の思いが通じあった瞬間でもあった。

 

「ありがとう…それじゃあ、俺の…恋人になってくれないか?」

 

「はい、わたしを…悠斗くんの恋人にしてください」

 

そして、2人はそのまま互いを抱きしめ、上気した顔で見つめ合い、そして、唇を重ねあった。

 

空は満天の星空であり、それはまるで、2人を祝福しているようであった。

 




いよっしゃぁぁぁぁ!!!

ついにこのシーンを書いたぞオラァァォ!!!

祝!!カップル成立!!!


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29話 雲との因縁

『あいつ』が再び登場です


昊陵学園の医務室へと続く廊下にて

 

ザッザッザッザッザッ

 

「な…何だあいつら…」

 

「リーゼントに学ランって…ちょっと時代錯誤が…」

 

周囲の学生たちの言うとおり、廊下をリーゼントに学ランの厳つい顔の男たちが医務室へと向かっていた。

そして、その中心には黒い学ランの腕に《風紀》の文字が書かれた腕章をつけた少年、雲雀恭弥が歩いていた。

 

「恭さん、この先が医務室だそうです。おそらくそこに天峰さんはいると思いますが…できる限り守護者同士の喧嘩は…」

 

口に草を加えたリーゼント頭の老け顔の少年、草壁哲矢は雲雀へと戦闘を控えるように進言するが、

 

「草壁、僕はあいつを咬み殺すって決めたんだ。邪魔をするなら…幾ら君でも咬み殺すよ。」

 

しかし、雲雀はそんな忠告には耳を傾けず、まっすぐに医務室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、悠斗くん…はい、あーん。」

 

「あーん♪」

 

みやびの言葉とともにうさぎの形をした林檎が差し出され、悠斗は満面の笑みでそれを口にした。

悠斗とみやびが恋人になったことは花火大会の後、みんなに発表した。その時、みんなから祝福された時はとても嬉しかった2人である。そんな公認のカップルになった2人はこのように甘い空気をしているのである。悠斗に至ってはボンゴレが誇る《銀狼》の面影は無く、恋を満喫している幸せな少年にしか見えなかった。

 

「まったく…相も変わらず幸せそうなやつだな。」

 

そんな悠斗の顔にトラは呆れながらそう呟いた。

 

「ああ、幸せだぜトラ。俺は今幸せな時間を満喫してんだ」

 

「貴様を見ていると本当に貴様がマフィアなのか疑わしくなってくるぞ。」

 

トラの言葉は本当にもっともである。それだけ悠斗の顔は緩んでいた。

 

「失礼だなトラ。ツナの親父さんだって奈々さんとこれくらいイチャイチャしてんぞ。」

 

悠斗はそう言いながらかつて自分がまだ《銀狼》として活動しており、ツナを依頼で抹殺しようと自宅に近づいた時に『ツーくんの友達』と思ってケーキをご馳走してくれ、悠斗の心を癒してくれたツナの母親、沢田奈々のことを思い出した。

 

(そういや、今並森はどうなってんのかな?今度みやびたちも連れてみようかなっと…)

 

その時、

 

 

 

ガラッ

 

 

 

「ここにいたのか天峰悠斗。」

 

 

 

そう言いながらリーゼント頭に学ランの厳つい連中を連れて雲雀恭弥が入ってきた。

 

「げっ!?雲雀…何でお前がここに…まさかと思うけど…お見舞いに来てくれたって感じじゃないよね?」

 

そう言いながら悠斗は草壁の方を向いたが

 

「すいません、さっきから止めようとしたんですが…」

 

「僕がここに来た理由なんて…君を咬み殺しに来たしかないよ。」

 

そう言いながら雲雀はトンファーを両手に持って悠斗へと攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「…………《焔牙》。」

 

 

ガキィィン

 

 

しかし、悠斗は《長槍(ロングスピア)》でそのトンファーを容易く受けとめ、先程のニヤけた顔では無く怒りに染まった顔で雲雀を睨みつけた。

 

「雲雀……お前いい加減にしろよ……」

 

「………へぇ…」

 

雲雀は突然自分に向けられた敵意に笑みを浮かべた。

 

「人がみやびと甘い時間を過ごしていたのに邪魔しやがって……テメェは俺に攻撃する日を間違えたな雲雀。今日の天峰悠斗さんはちょ___________っとバイオレンスだぜ……今日は特別に全力で相手になってやるよ……後悔すんじゃねーぞオラァァ!!」

 

私怨100パーセントの怒りであった。

 

「ゆ、悠斗くん…?」

 

みやびは心配そうに悠斗へと声をかけると

 

「大丈夫だぞみやび、ちょーっとだけ出かけてくるから。」

 

そう言って『優しく』微笑みながら電話をかけ、

 

「朔夜…ちょっと闘技場を使わせろ…あと誰もこないように人払いしといてくれ」

 

『良いですわよ天峰悠斗、ですがくれぐれも闘技場を壊さないようにしてくださいよ。』

 

「『できる限り』そうするよ。」

 

そう言うと悠斗は電話を切り、

 

「表出ろや雲雀…広い場所で相手してやるよ。」

 

「良いよ、じゃあそこで咬み殺してあげるよ。」

 

そう言うと2人は医務室を出て行き、闘技場へと向かっていった。

 

「ハァ〜やっぱりこうなってしまいましたか…」

 

草壁は顔に手を当てため息を吐いた。

 

「あの〜一つ聞きたいんですけど…」

 

そんな草壁に透流は話しかけた。

 

「何でしょうか?」

 

「何であの雲雀って人は悠斗にあんなに敵意を向けてくるんですか?」

 

「…………わかりました、貴方たちになら話しても大丈夫でしょう…」

 

その質問に草壁は少し考えたが、透流たちに話し出した。

 

 

「あれはもう2年前の事なんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年前、並森中応接室もとい風紀委員室にて

 

ガラッ

 

「雲雀〜いるか?っていねーのかよ。あいつに声かけるようにツナから言われていたのにな〜」

 

風紀委員室へと入ってきたのはサイダーとコーヒーの缶を右手に持った悠斗であった。並森中の応接室は雲雀の指揮のもと風紀委員が確保もとい強奪し風紀委員室となっているのだ。悠斗はここへツナに頼まれて雲雀に声をかけに来たのだが偶然雲雀は留守にしていたのである。

 

「ったくあいつどこへ行ったんだか……にしてもさすが応接室を使っているだけあって豪華だなぁ…っとこれは何だ?」

 

悠斗が手にしたのは並森中での風紀活動の報告書であった。悠斗は飲んでいた缶コーヒーを机に置いて報告書を読んでみた。

 

「へぇ〜結構いろんなところで活躍してんだな…ちょっとしたやりすぎなところもあるっぽいけど。」

 

 

そう言いながら悠斗は報告書を読んでいたがその時、

 

 

 

グラグラッ

 

 

 

「おっと…地震か?」

 

突然地震が起こった。といってもそこまで大きな揺れでもなかったしさしずめ震度2ぐらいだろう…

 

コトン

 

「………コトン?」

 

突然聞こえた音の方へと振り返ると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠斗の置いた缶コーヒーが溢れて机の他の報告書を茶色いコーヒーが濡らしていた。

 

 

 

「…………いけね…」

 

 

 

悠斗はとっさに近くにあった『黒い大きな布』でコーヒーを拭いたがすでに濡れて脆くなっていた紙がボロボロになってしまった。

 

 

「ヤベェ…どーしよ……っそうだっ!!『コレ』を置いて謝罪文を書けばいくらあいつでも許してくれるだろ!」

 

 

悠斗はそう言うと、早速行動に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後……雲雀と他の風紀委員が戻ってくると、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロになったコーヒー色の報告書、

 

コーヒーの匂いがついた雲雀の学ラン、

 

そして、『ごめんなサイダーby天峰』と書かれた紙の上に置かれた缶のサイダーがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ……

 

この時の雲雀はそれはもうお怒りだったそうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけです。」

 

「いや……それは怒るだろ……」

 

「何をやってるんだあの馬鹿は…」

 

流石に透流もこれにはそれしか言えなかった。

 

「……悠斗さんも後になって流石に不味いと思ったらしくその後しっかりと謝りに来たのですがもう後の祭りで……恭さんもそれから目が合うたびにあんな風に…」

 

「ふむ…しかし、それでも悠斗はそのあと何度も謝ったのだろ?なら、もう許してあげても良いのではないか…何故あの男はそこまで許さないのだ?」

 

橘は悠斗が何度も謝っているということから雲雀ももう許しても良いのではと言ったが、

 

「恭さんは一度舐めた相手には一切容赦しませんからね…もう謝ったぐらいじゃダメだと思いますよ。」

 

草壁もため息を吐きながらそう答えた。

 

「と…とにかく俺たちも闘技場へ行こう、悠斗が心配だ」

 

「ヤー。」

 

「やれやれ、仕方がない。」

 

「悠斗くん…大丈夫かな…」

 

そう言いながら透流たちは闘技場へと向かうと、

 

 

 

 

 

 

 

 

「天狼斬月!!!」

 

「無駄だよ。」

 

一部が氷で覆われたり、抉られたりした闘技場で《シルヴァの神速脚》を纏い《覇天狼(ウールヴへジン)》を解放した悠斗と改造長ランを纏い、トンファーで迎え撃っている雲雀が衝突していた。

 

「くそっ……本当にお前は厄介だな雲雀!!てゆーかあれはちょっとおふざけが過ぎただけだって!!てゆーかもう何度も謝ってるだろ!?良い加減許してくれたって良いだろうガァ!!」

 

「君が何度謝ろうが関係ないんだよ、並森中の風紀を乱した君を咬み殺す。それだけだよ。」

 

悠斗の訴えに雲雀は聞く耳を持たなかった。

 

「あーそうかよ!!それならぶちのめしてもうこんな真似出来なくしてやろうか!!」

 

悠斗は怒りながら雲雀に強力な一撃をお見舞いしようと炎をチャージした。

 

「わお、面白そうだね。」

 

雲雀は笑みを浮かべ、周囲にハリネズミ型匣兵器《雲ハリネズミVer.V(ポルコスピーノ・ヌーヴォラ バージョンボンゴレ)》の無数の球体を浮かせ、

 

「球心体だよ、ロール。」

 

球心体を悠斗へと突撃させようとした時、

 

 

 

 

 

「み〜ど〜り〜たな〜びく〜な〜み〜も〜り〜の〜♪」

 

 

突然雲雀の携帯から再び《あらもーど》の時に聞こえた《並森中校歌》が聞こえた。

 

「(ピッ)……何?」

 

どうやら並森に置いてきた風紀委員からのようだ、

 

「……またあの変な薬?……ちっ……」

 

そう言うと、雲雀はくるりと悠斗に背を向けた。

 

「どうした?」

 

「……君には関係ないよ。用ができた。君を咬み殺すのはまた今度になりそうだ…行くよ」

 

そのまま雲雀は風紀委員を引き連れ立ち去ろうとした時、

 

「待て雲雀恭弥!!」

 

突然雲雀を呼び止めたのは橘であった。

 

「私が貴様らにこんな事を言うのは野暮かもしれないが…余計な因縁があったらいざという時に仲間同士に亀裂が生じるぞ!!」

 

橘の言葉に雲雀は暫く彼女を見つめていたが、

 

「…君には関係ない。」

 

そう言って立ち去ろうとした。

 

「待て雲雀恭弥!!まだ話は終わって…」

 

「うるさいよ。」

 

一歩も引かない橘に苛立ったのか雲雀はトンファーのチェーンで橘に攻撃を仕掛けた…しかし、

 

 

 

 

 

 

橘はそれを躱し、一気に間合いを詰め、雲雀の手を掴んだ

 

「悪いが鎖は得意なんでな、躱し方も心得ている。」

 

「……咬み殺す。」

 

そう言って雲雀は攻撃を仕掛けようとしたが、

 

「恭さん!!ヘリを待たせてあります!!今日はこの辺で…」

 

草壁の言葉を聞き、橘の手を振りほどくと、

 

「君…名前は?」

 

橘の名前を聞いた。

 

「…橘巴だ。」

 

「へぇ…君、中々面白いね…覚えておくよ。」

 

そう言って雲雀は立ち去っていった。

 

 

 

 

 

「痛て…さらに傷が増えちまったな…」

 

悠斗はその後、病室でみやびに介抱されていた。

 

「ダメだよ悠斗くん…せっかく怪我が治ったんだから。わたしだって心配するんだから…」

 

「…悪い、今度から気をつけるよみやび。」

 

ぎゅっ

 

そう言って少し悲しそうな顔をしたみやびを抱きしめた。

 

「…それにしても、橘も無茶しすぎだ。雲雀にあんな事を言うどころか戦闘までするなんて」

 

「いや…すまん…少し堪忍ならなくてな…」

 

「しかし、あいつ、お前に興味を持っていたな。珍しいぞ、あいつが人を評価するなんて。」

 

「そ、そうなのか?…雲雀恭弥、あの男…変わったやつだ…」

 

そう言って橘はため息を吐いた。

 

「ゆ、悠斗くん…そろそろ…離してくれる?…は、恥ずかしい…」

 

「……?……っ!!す、すまん!!!」

 

みやびの言葉で我を返すと、みやびを抱きしめたままだったことに気づき、慌てて顔を真っ赤にして離した。

 

 

 

 

「…やれやれ、本当に熱々だな。」

 

それを見て、トラはため息を吐いた。




雲雀との因縁!!

悠斗やっちゃいましたね!!

そして、雲雀の方も何か事件に巻き込まれつつありますね…まぁそれはいずれ明らかになります!!


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狂化戦士編
30話 仙伐戦


オリジナルストーリー開始です!!


「さてさて皆さん大発表_______♪来週、スペシャルイベント、その名も仙伐戦(せんばつせん)を急遽開催することになりました_________☆」

 

悠斗の傷も完治し、授業が再開し、再び学園に平穏が戻りつつあった頃、突然授業終了後、月見璃兎が何の前触れもなく突然そんな事を言い出した。

 

「何なんだ?その…仙伐戦って?」

 

「私も初めて聞きました。どういった行事なんでしょうかね?」

 

「この学校の行事だからな、どのみちロクな物ではないだろうがな」

 

透流と梓、トラはこの学校のイベントなものだからもう慣れたようであった。

 

因みに梓は、あの後、ボンゴレファミリーが身元を預かる形となり、学園に残ることが許されたのであった。しかし、彼女は悠斗が授業に再び戻ってみると、セミロングだった髪をうなじまでのショートヘアにしており、メガネも外していた。コレは悠斗が気付いたらこのような髪型にしており、何でも『日本古来からのケジメのつけ方』と、裏社会に浸っていたこともあってかなり間違った日本を学んでしまっているようであった。なお、本当は丸坊主にしようとしたらしいのだが橘が血相を変えて全力で阻止したらしいがそれはまた別の話である。

 

「何でもこの間の様な事態に備える形にするためとかで、《超えし者(イクシード)》の強化を促すためとかで、全学年の《Ⅲ》以上の《超えし者(イクシード)》での一対一のトーナメントをやるらしいみたいなんだってー♪だ、か、ら♪《Ⅲ》以上の生徒たちは全員参加だから準備しとくよーに☆因みに同じクラスのことも闘うかもだから☆気をつけないとねー♡」

 

「………良いねぇ。今からスゲー楽しみだぜ」

 

璃兎の言葉に悠斗は歓喜の笑みを浮かべながらウキウキしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー♪全学年でのトーナメント戦か〜。今からスゲーワクワクするぜ♪」

 

その日の昼休み。

悠斗、みやび、透流、ユリエ、橘、梓、トラ、タツの八人で昼飯を学食で食べていた。

 

この日の悠斗の食事はカルボナーラの大盛りでのあり、それをクルクルと綺麗にフォークに絡めて食べていた。

 

「確かに、それに一対一っていうのも考えてみたら《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》ではやってるけど上級生との闘いは初めてだよな」

 

「そうそう、透流の横で紅茶飲んでるそこのお嬢様の所為でな」

 

そう言いながら悠斗はジト目になって微笑みながらサラの紅茶を飲んでいるリーリスを見た。

 

「もう、あの日のことはもう済んだんだからもう言わないで欲しいわね。ねちっこいと貴方の自慢の彼女に嫌われちゃうわよ」

 

「んなっ!!?」

 

リーリスの言葉に悠斗の顔は真っ青になった。

 

「み、みやびに嫌われる…そんな……お、俺はど、どうしたら…」

 

悠斗の体は震え、この世の終わりの様な顔をしていた。しかし、

 

「ゆ、悠斗くん…落ち着いて、わ、私は絶対に悠斗くんの事を嫌いになったりなんて絶対にないから…」

 

「みやび……」

 

みやびのその発言に悠斗の顔は一瞬で笑顔を取り戻し、周囲に明るい光のオーラが見えた。

 

「全く……相変わらずのバカップルだな……天峰、恋愛にうつつを抜かしてこの俺に敗北など止めろよ、貴様は全力の状態で倒したいのだからな」

 

トラは溜息を吐きながら悠斗にそう言ったが、悠斗はトラへと先程までの緩みきった顔ではなく、キリッとした顔で

 

「安心しなトラ、全力で闘うからさ。だからオメーも本気で来いよ。お前もな透流。お前の《絶刃圏(イージスディザイアー)》と俺の《覇天狼(ウールヴヘジン)》、どっちが勝つか楽しみだしな」

 

「そうだな、今度は絶対に勝つからな悠斗」

 

「僕ももとよりそのつもりだ」

 

そう言いながら透流とトラは悠斗へと笑みを浮かべた。

 

「む!?梓、君のその料理は今朝君が食べていた物と同じ料理ではないか!!」

 

そんな橘の声が聞こえたので梓のお盆を見ると、

 

 

 

 

皿いっぱいのキャベツと鶏肉、そして大きなジョッキにタップリと注がれた豆乳があった。

 

 

 

 

 

「………これは……私の後の輝かしい未来のためにも必要不可欠なメニューなんです。だから譲れません…」

 

「ダメだ梓、何より以前の少食と打って変わって食べ過ぎな上に偏り過ぎだ。過度な量は体を壊す。何を目指しているのか知らんが健康な体はもっと大切だ」

 

そう言いながら橘は梓の鶏肉を少しとって焼き魚を少し梓に分けようとすると

 

ガシッ

 

「待ってください巴さん。大丈夫です、私自身の健康は自分が一番分かっています。なので私の悲願のためにもその鶏肉を返してください」

 

「ダメだ。健康を害してまでやるべき悲願など存在しない」

 

「おねがいします巴さん!!私の悲願のためにぃ……《豊乳(我が理想の体)》の為にもぉォォォォォオ!!!」

 

もはやそこにはかつて悠斗さえも欺いた《神滅部隊(リベールス)》から送られてきたスパイの原型が崩壊していた。

 

「何故そこまで抵抗するんだ梓!?私は君の心配をしているだけであってだな…」

 

「ううぅ……《E》の巴さんに《B》の気持ちなんてわかりませんよぉ……」

 

「大丈夫ですか梓?」

 

涙を流す梓にユリエが問うと梓はユリエを見つめ、

 

ギュ……

 

「ユリエさん……私の心を救ってくださるのは貴方くらいですよ……」

 

梓はユリエを泣きながら抱きしめた。

そんな感じでお昼は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……それじゃあ今日からは俺の槍術をみやびにも教えるよ」

 

「うん、いつでも大丈夫だよ悠斗くん」

 

校舎裏の林の中で悠斗とみやびが特訓をしていた。悠斗はみやびの要望から、自身の槍術の中からみやびの《騎兵槍(ランス)》に合ったものを教えていくことになったのである。

 

「よし、それじゃあまずは…やっぱりこの技かな?」

 

そう言うと、悠斗は《長槍(ロングスピア)》を構え、

 

 

「狼王一閃!!!」

 

 

空へと渾身の突きを放った。

 

「これが俺の槍術の基本技で俺の得意技でもある《狼王一閃》だ。単純な突きを相手に叩き込むって技だけど基本だからこそ一番重要な技だ。これを特訓していこうと思う。

まずは静止した状態からやってみよう…」

 

「うん、ええと……ハァッ!!!」

 

みやびは悠斗に言われた通りに《騎兵槍(ランス)》を構え、空へと突きを放った。

 

「うむ……やっぱり踏み込みが足りないな……みやびの《焔牙》はスピードは必要だからその分踏み込みも大事になる。まずはそこを集中的に特訓するか」

 

「うん、頑張るよ」

 

そう言いながら2人はその後も特訓を続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜その日の夜〜

 

「さてと……先ずは誰から対策を考えるか…」

 

悠斗はみやびが寝た後も《仙伐戦》に向けて相手の情報を探っていた。これまでで分かっている情報を纏めた資料を机に置いて一つ一つを見ていた。

 

「トラの《焔牙》は《印短刀(カタール)》…リーチは俺の方が有利だけど…逆に間合いを詰められると厄介だな…そうなるとやっぱり強力な一撃を相手の射程範囲外から撃ち込むべきかな…橘は古武術の使い手、技に頼りきっていたら間違いなくやられる…なら橘との闘いは大技はここぞという時以外は控えるようにした方が言いな…ユリエの場合は俺と同じスピードや身のこなしでくるだろうから…スピードで上回って一気に仕留める形かな?そして…透流は俺と同じで《焔牙》の真の力を使える。あいつの《絶刃圏(イージスディザイアー)》と《雷神の一撃(ミョルニール)》」の組み合わせは脅威だな…それなら……」

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

「むにゃ…もう朝?」

 

悠斗が目を覚ますとそこは机であった。どうやらそのまま寝落ちしてしまったようである。

 

「……?」

 

すると、背中に何かが掛けてあることに気付くと、それは毛布であった。そして、机には

 

 

 

 

 

 

「悠斗くんへ 無理して体を壊さないでね。みやびより」

 

と書かれた手紙が置いてあった。

ふとみやびの眠っているベッドを見ると、みやびがスヤスヤと眠っていた。

 

「ありがとなみやび…すげー元気でたよ」

 

悠斗は優しくみやびに微笑み、そして、自分が本当に彼女のことが好きなんだという事を改めて実感した悠斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

「ボス、準備は出来ました。いつでも出発出来ます」

 

「……そう、ご苦労さま、下がっていいわよ」

 

女は部下の報告を聞くと、そのまま下がらせ、スクリーンに映された銀髪の少年をうっとりとした顔で見つめていた。

 

「……6年ぶりね、《銀狼》。貴方という戦士に出会ってから私は世界を回って様々な動物を見てきたけど…貴方に勝る戦士はいなかったわ…けど、今の貴方は余計なものが混ざってしまって完全じゃない…だから…私が貴方をかつての《至高の戦士》に戻してあげる…」

 

その部屋には無数の剥製があった。そのすべての剥製が、ライオン、トラ、ヒョウ、サメなど鋭い牙を持つ猛獣の剥製ばかりだった。そして、一つだけ何も入っていないクリアケースには《銀狼》と書かれたネームプレートが貼ってあった。

 

「待っていてね…私の…私だけの…《銀狼》」

 

凶悪な笑みを浮かべて顔を赤く染めた影が笑った。

悠斗たちに不穏な影が近づいていた。

 

 




オリジナルストーリースタートです!!!

自分なりに考えてみたので良かったらこれからも読んでください!!

最後に出てきたキャラはオリジナルキャラクターです


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31話 少女の覚悟

今回はみやび強化計画の第一歩です


 

「悠斗くん……仙伐戦大丈夫かなぁ……」

 

みやびは今回、大型ショッピングモール《あらもーど》で買い物に来ていた。本当は巴と梓も一緒に来るはずだったのだが梓は急遽理事長と共にドーン機関へ事情聴取に向かい、巴も付き添いに向かっているのである。悠斗もボンゴレの仲間に呼び出されている。なので、みやびは仕方なく1人、モール内をまわっていた。

 

「悠斗くんもどんどん強くなっている…わたしも頑張らなきゃ、悠斗くんに頼ってばかりじゃダメ…わたし自身も心から強くなれるようにしないと」

 

そう心に改めて刻み込み、みやびは再び歩き出そうとしたそのとき、

 

 

 

 

 

バタンッ

 

 

 

 

 

「………?」

 

みやびの近くで何かが倒れるような音が聞こえ、振り返ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

グギュルルルルルルルルルルルルルルルルルゥ~……

 

 

「そ…そこに居るお主よ………た…頼む……ワシにめ…飯を……」

 

ブカブカの白衣に身を包んだはちみつ色の長い髪の12歳ほどの少女が倒れていた。

 

「えっ…と…大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

「ガツガツムシャムシャバリバリモシャモシャ…」

 

「えっ…と…貴方はどこから来たの?」

 

謎の少女を拾ったみやびはショッピングモール《あらもーど》のフードコートで沢山の料理にかぶりついている少女を見つめながら聞いてみた、

 

「うむ、ワシは最近ちょっと部屋に閉じこもりっぱなしだったのだが流石にこれ以上引きこもっていたらいかんと考えて街をで歩こうかなと思って出てきたはいいが財布も持たずに出歩いてた上に空腹、それもここ数日芸術探求にうつつを抜かしていたから何も食べてなかったがゆえに倒れてしまったというわけじゃ」

 

「…えっ…ええっと…その……」

 

みやびは12歳ほどの少女が引きこもりということに戸惑いつつも苦笑いを浮かべた。

 

「だがしかぁし!!お主よ、今回は死にかけておったところを救われた!!お前さんという見ず知らずの聖女どのには感謝しかない。このワシという天才がこの世から消えるということはこの世界そのものの損失と言っても過言ではないからの、本当にありがとな娘よ」

 

その少女の言葉には一切の迷いがなく、まっすぐとみやびに向けられていた。

 

「そこでだ、そんなお主に折り入って相談がある。お主、今日1日、ワシに付き合ってくれんか?無論相応の謝礼はするぞ?というかしてくれ」

 

「え、ええっと…」

 

「うむ、ワシはこれからの作品のためにも材料となるであろう景色を見つけなければならない、だがこのあたりはワシは全然詳しくないからのぉ…お前さんに案内して欲しいんじゃ、な?頼む」

 

少女はまっすぐとした目でこちらを見つめ、みやびの手を握って頼み込んだ。その目には偽りがなく、真摯に頼み込んでいるのがわかった。

 

「う、うん。良いよ。わたしは芸術は詳しくないから上手く案内できるとは思ってないけど…それでも良いなら…」

 

「そうかっ!!礼を言うぞお主!!お主には孫の代まで感謝するぞ!!」

 

みやびの言葉に少女は喜びながらみやびへと抱きついた。少女喜ぶ姿は年相応の少女のものであった。その姿にみやびは優しく微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

「うほぉぉぉお♡この仔犬はかわいいのぉ〜♡ほれほれここか?ここが良いのか?素晴らしい!!本当に素晴らしいぞ〜♪」

 

みやびと少女はフードコートを離れ現在ペットコーナーで仔犬と戯れていた。そこで少女は仔犬を見つめて大喜びをし、他にも子猫やフェレットと可愛い小動物と触れ合っていた。

 

「おいお主!!なんだあれは!?次はあっちの方に行くぞ!!」

 

「ええっと…良いですよ」

 

その後も少女とみやびは一緒に動物や花、海などを見て回り、気付けばもうすぐ夕刻であった。

 

「いやはや、本当に今日は良い1日じゃった。お主に出会えて本当に良かった、これもなかなかの味じゃしな」

 

展望台でソフトクリームを舐めながら少女はみやびの方を見て満面の笑みでそう答えた。

 

「ふふっどういたしまして」

 

みやびもその無垢な笑顔に優しく微笑み答え、お互いに笑った。

 

「よし、これはワシからのお礼じゃ。貰ってくれ」

 

そう言うと少女は懐から黄色い石がついた指輪を取り出すとみやびに渡した。

 

「ありがとう。大事にするね」

 

そう言うと、みやびはその指輪を指につけた。

 

「実を言うとワシはな、友と言えるような連中はほとんどいないんじゃ」

 

「えっ?」

 

突然そう言った少女にみやびは首を傾げた。

 

「知り合いたちとはたまには協力したりもするが普段は技術を競い合っている商売敵といった感じだしな…ワシに近づく連中もワシの頭脳を狙って媚を売ってくる馬鹿な連中ばっかりじゃからな…じゃが、お主はそいつらとは違う、心から信頼できる。そんな奴じゃった。ありがとな」

 

頬を赤く染め照れながら少女はみやびに向かってそう言った。

 

「ううん、こっちも楽しかったよ。また良かったら一緒に遊ぼうね」

 

その言葉に少女は一瞬パアッと笑顔になり、そして、少し恥ずかしがりながら

 

「な……なぁお主……も…もし……お主が良ければなんだが……その…ワシと……友に…なってはくれんかのう?」

 

少女の言葉にみやびは一瞬ぽかんとしたが、優しく少女に微笑み、

 

 

「もちろん良いよ。わたしは穂高みやび、よろしくね」

 

 

みやびの言葉に少女は満面の笑みを浮かべ、

 

「本当か!?本当にワシと友達になってくれるのか!?」

 

「うん、良いよ。ええっと…名前は……なんて呼べば良いのかな?」

 

「……?ああワシの名か?うむ、ワシの名は……」

 

 

と、少女が自身の名を名乗ろうとした時、

 

 

ざっ

 

 

突然、みやびと少女の周りを黒服の男たちが取り囲んでいた。

 

「っ!!誰ですか……貴方たち……?」

 

みやびは男たちに警戒していると、

 

「ちっ……こんな時にまで来るとは……礼儀も何にもない愚かな連中ばかりじゃな……」

 

少女が怒りに震えながら男たちを睨みつけていた。

 

「大人しく我々と来い、貴様の技術が我らに必要だ」

 

男たちのリーダー格と思われる男が白衣の少女に向かって言った。

 

「断る!!お主たちの様なふざけた連中にワシの可愛い作品たちをくれてやるつもりは無い!!」

 

「そうか……なら多少痛めつけてでも連れて行くとするか」

 

リーダー格の男がそう言うと、部下たちに合図を送り懐から小型の匣を取り出すと、男たちの手についた指輪に様々な色の炎が灯った。

 

(あれって……悠斗くんの炎に似ている…?)

 

そして、指輪を匣の穴にあて、炎を注入すると、中から炎を帯びた剣や棍棒、斧や槍といった武器が出てきた。

 

「かかれっ!!」

 

リーダー格の男の合図で黒服の男たちが2人へととびかかってきた。

 

「っ!!こっち来て、はやく!!」

 

みやびは咄嗟に少女の手を握って走り出した。

 

「くそっ……追え!!」

 

「は…はっ!!」

 

リーダー格の男は慌てて部下たちに命令し、黒服の男たちは慌てて2人を追いかけた。

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……ここまで来れば…大丈夫?」

 

「うむ……すまんなみやび、お主を巻き込んでしまって……」

 

みやびを巻き込んでしまったことを悔やんでいるのか少女の口調はどこか重かった。

 

「わたしは大丈夫だよ。だから元気だして」

 

「みやび……」

 

「なんとか悠斗くんに連絡がつくと良いんだけど…」

 

そう言いながらみやびは携帯電話を開こうとしたが、

 

「いたぞ!!あそこだ!!」

 

黒服の男たちが追いついてきた。みやびは咄嗟に少女を連れて逃げようとしたがすでに周囲を囲まれ追い詰められてしまった。

 

「手こずらせやがって……おい、さっさとそいつを連れて来い!!」

 

「もう1人の女はどうしますか?」

 

部下の男がそう聞くと、

 

「そんなもん決まってんだろ?見られたからには始末しろ」

 

「はっ」

 

そう言うと、黒服の男たちは各々の武器を手に2人に斬りかかってきた。

 

「《焔牙(ブレイズ)》っ!!」

 

みやびは咄嗟に《力在る言葉》を叫び、自身の《騎兵槍(ランス)》を出して黒服の男たちの攻撃を防いだ。

 

「んなっ!?こいつ《超えし者(イクシード)》か!?」

 

「くそっ…厄介だな……」

 

黒服の男たちはみやびの正体に警戒し、身構えた。

 

「狼狽えるな!!いくら《超えし者(イクシード)》でもこの数相手ならこっちが有利だ!!数で制圧しろ!!奴の獲物は破壊力重視…複数でかかれば倒せる!!」

 

「はっ!!」

 

黒服の男たちはリーダー格の男の言葉通りに多方向から一斉に攻撃を仕掛けてきた。黒服の男たちは戦闘力はみやびよりも弱かった。しかし、数が多くみやびの《騎兵槍(ランス)》でも捌ききれなかった。みやびの攻撃を躱して

背後の少女に攻撃を仕掛けようとし、みやびはそれをなんとか防いでいた。しかし、

 

「今だ!!終わりだ小娘ぇ!!」

 

一瞬の隙をついて男が斧の一撃をみやびに仕掛けてきた。

その時、

 

「ニャァァァァ!!!」

 

「いだだだだだっ!!なっ…何だこの猫は!?」

 

突然男の顔に灰色の毛並みで赤い炎を耳から発している子猫が引っ付いて顔をひっかいていた。

 

「みやびに手を出させんぞ!!」

 

声の方を見ると、少女が匣を手にし、こちらに向けていた。

 

「このガキィ…大人を舐めんじゃねぇ!!!」

 

「ガァッ!!」

 

その時、顔を引っ掻かれた男が背後から少女を蹴りあげた。

 

「おい!!あんまり乱暴にするな!!死なれるとこっちが困るんだぞ!!」

 

「うるせぇ!!殺さなきゃ良いだろうが!!」

 

男は怒りが収まらないらしく、少女の顔を蹴りあげようとした。

 

 

 

 

 

 

(どうしよう…このままじゃあの子が…)

 

みやびは蹴られた衝撃で気を失っている少女がさらに蹴られそうになっているのに気づいた。

このままでは彼女が…自分が弱いせいで…それが許せなかった。自分が弱かったせいで大好きな人に刃を向けてしまった…傷つけてしまった…もうあんな思いは嫌だ…

 

 

 

 

 

(わたしは…あの娘を守りたい…だって…友達だから!!)

 

 

 

 

 

その時、少女が自分にくれた指輪が光り、黄色い炎が現れた。

 

 

 

 

「ハァァァァア!!」

 

「なっ…ぐわぁぁぁあ!!」

 

少女を蹴りあげようとした男はみやびの突然の一撃に吹き飛ばされた。

 

「なっ…こいつ…《死ぬ気の炎》を!?」

 

「あの色は…《晴》の炎か!?」

 

みやびの《騎兵槍(ランス)》に纏われてる炎に周囲の男たちは激しく取り乱した。

 

「う…狼狽えるな!!炎を纏ったところでこの数を相手にできるわけがない!!一斉に攻撃するぞ!!」

 

「は…はっ!!」

 

男たちはそれぞれの武器を手にみやびに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

『良いかみやび、どんな武器での攻撃でも《足の踏み込み》は大切だ。そのコツは《足を地につけること》じゃい《地を蹴る》ことだ』

 

悠斗との特訓の時に悠斗が教えてくれたコツを思い出した。

 

「地を…蹴る…」

 

その言葉を繰り返して足に力を入れて、そして…

 

 

 

 

「狼王一閃!!」

 

 

 

みやびの渾身の一撃が黒服の男たちを一蹴した。

 

「で…出来た…」

 

悠斗の槍術と比べたらまだまだだが、それでも確かに成功した。みやびはその喜びで包まれた。

 

「そ、そうだ…あの娘のほうへ…」

 

「この…小娘がァァァァ!!!」

 

突然の声に後ろを振り向くと、リーダー格の男が剣を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

「狼王…一閃!!!」

 

瞬間、男に銀色の閃光が衝突し、男を吹き飛ばした。

 

 

 

「ゆ…悠斗…くん?」

 

「みやび!!大丈夫か!?」

 

「悠斗くん!?どうしてここに?」

 

「どうも嫌な予感がして急いで戻ってきたんだ…ってその炎は《死ぬ気の炎》!?えっ…どういう事?」

 

「え…?えっ?この炎って…えっ?」

 

みやびの《騎兵槍(ランス)》に纏っている炎を見て悠斗は驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

 

昊陵学園医務室

 

「…なるほどな、気づいたら炎が出ていたと」

 

「うん…」

 

お互いに落ち着いたのか2人は状況を整理した。ちなみに少女は医務室で介抱されている。

 

「…どうやら炎の使い方も教えていくべきみたいだな」

 

「うん…ごめんなさい…」

 

「なんで謝るんだ?」

 

「え?」

 

悠斗の言葉にみやびが顔を上げると悠斗は優しく微笑んでいた。

 

「《死ぬ気の炎》を灯すのに必要なのは強い《覚悟》、みやびの少女を助けたいって想いは間違ってない」

 

「悠斗くん…」

 

「だからこれからは炎の使い方も教えていくよ。勿論学校では公にはできないけどね」

 

 

 

ガラッ

 

「みやび!!大丈夫か!?」

 

すると、医務室のドアが開き、少女が慌てた顔で出てきた。

 

「すまん!!ワシのせいでみやびを危険に巻き込んでしまって…なんと謝れば良いか…」

 

「謝らなくても大丈夫だよ、それよりあなたが無事でよかった」

 

「う…うむ、気を失ってただけだからな…なあマタタビ?」

 

「うにゃ!!」

 

すると、少女の肩に先ほどの猫が乗っかっており鳴き声を上げた。

 

「そういやお前は何者なんだ?みやびが持ってたリングを調べてみたけどあれランクA以上の石が使ってあったぞ。そんなもんただの子供が持ってるわけねえ…」

 

「うむ…まずはそこから話すとするか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワシの名はイノチェンティ!!科学者にして天才芸術家じゃ!!」

 

 

 

 

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」

 

少女ことイノチェンティの自己紹介に悠斗は驚愕した。

 

「イノチェンティってヴェルデ同様匣兵器を作った3人の1人じゃねえか!!こんな子供だったのか!?」

 

「まあな」

 

悠斗の驚愕が嬉しかったのかイノチェンティは得意げに答えた。

 

「まぁそういうわけなんじゃが…みやび、ワシのこと嫌いになったか?」

 

しかし、みやびの方を向くと心配そうにみやびにそう聞いた。しかし、

 

「ううん、これからも友達だよ、ええと…イノチェンティちゃん?」

 

「そ…そうか!!恩にきるみやび!!あっ…それと呼びにくかったらイノと呼んでくれ!!」

 

「うん、わかったよイノちゃん」

 

みやびがそう言うと、イノチェンティは嬉しそうにみやびに抱きついた。

 

「あっそうだ、それなら友達の印としてこれをみやびにあげよう。大事にしてくれ」

 

イノチェンティはそう言ってポケットを探ると黄色い太陽の装飾が描かれた匣を取り出してみやびに差し出した。

 

「ありがとう、イノちゃん」

 

みやびがそう言うとイノチェンティは再びみやびに抱きついた。

 

その後イノチェンティは部下と思われる者たちが迎えに来たので笑顔のまま去っていった。

 

 

この日、みやびに天才の友達が出来た。

 





イノチェンティ紹介プロフィール

年齢:12歳
国籍:不明
性別:女
属性:嵐
匣兵器:嵐猫プロトタイプ《ガット・テンペスタ・プロトタイプ》

ヴェルデ、ケーニッヒと一緒に匣兵器を作った3人の1人。
3人の中では最年少(ヴェルデは呪いで赤ん坊になっていて実年齢は遥かに年上)ヴェルデのことを《ヴェル坊》と呼んでいて弄っている。ケーニッヒとは仲が悪い。本人曰く《あいつの作っているのは芸術性が全くない》とのこと
精神年齢は高いがそれでも子供ということもあり心から許せる親友を欲している。

こんな感じです!!
少し長くなってしまいましたがきりの良い形に出来たと思っています!!これからも応援よろしくお願いします。




感想も待ってます


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32話 仙伐戦開幕+迫り来る脅威

ついに仙伐戦スタートです


天才発明家イノチェンティをめぐった騒動から数日後、昊陵学園ではほとんどの生徒が格技場に集まっていた。その理由は本日から開かれる《Ⅲ(レベル3)》以上の生徒たちによって開催される《仙伐戦(せんばつせん)》がはじまるからである。悠斗たちのクラスからは悠斗、トラ、リーリス、橘、梓、ユリエ、透流たちが出場することになっていた。

 

「やっぱり上級生たちになると《焔牙》の扱いが1年に比べて上手いよな」

 

「あぁ、だがやるからには全力で勝たなければな。貴様も勝手に負けたりするなよな。貴様とは早く戦いたいしな」

 

「そうだな、考えてみたらあんまりトラとは戦ってないっけな。今からスゲー楽しみだ」

 

トラの言葉に悠斗は笑いながらそう返した。

 

「それに、今回は2年だけじゃなくて3年もいるからな。3年は全員が《Ⅲ(レベル3)》だからな。戦闘経験も多いし強敵になるだろうな」

 

今回は以前の《咬竜戦》で戦えなかった2年だけでなく3年までもが出場する。おそらく簡単には倒せないであろう。

いくら悠斗が《Ⅳ》クラスの実力があると言っても《位階》だけで実力が決まるわけではない、その《焔牙》をいかに使いこなせるか、それらが勝利の鍵となる。

 

「そっちは準備万端って感じみたいだな悠斗」

 

するとそこへ、透流とユリエが近づいてきた。

 

「透流か、そう言うお前の調子はどうだ?」

 

「まあ問題なしだな。今から楽しみでしょうがないぜ」

 

「まあな、お前と戦うのはやっぱり決勝あたりかな?」

 

「今日とは限らないと思うわよ」

 

すると、背後から声が聞こえ、そちらを振り向くと黒髪のショートヘアに縁のないメガネのいかにも優等生らしい少女が立っていた。おそらく3年生と思われる。

 

「えっと……どちら様?」

 

「ごめんごめん、自己紹介がまだだったね。私、本校3年の正堂院律(せいどういん りつ)っていうの。貴方たちが1年で《Ⅳ(レベル4)》になったと言う九重透流と天峰悠斗で間違いないの?」

 

「あ…あぁ、天峰悠斗は俺です。こっちにいるのも九重透流で間違いありません」

 

「ど…どうも」

 

2人が答えると、正堂院は笑みを浮かべ、

 

「そうかしこまらなくてもいいわ。私もただ貴方たちに挨拶したかっただけだから」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、同じ《Ⅳ(レベル4)》として戦うだろう相手を警戒するのは当然だわ」

 

正堂院は凛とした態度で笑いながらそう答えた。

 

「…驚いたな、俺たちの他に《Ⅳ(レベル4)》がいるなんて」

 

「3年生の中にはやっぱり実力の高い人の中には《高位階(ハイレベル)》の《超えし者(イクシード)》がいるわよ。もっとも、私たちの学年だと私の他には2人しかいないけど」

 

「つまり合計で3人か、そりゃ楽しみが増えたな」

 

悠斗は喜びの笑みを浮かべると正堂院はふと微笑んだ。

 

「そういやさっき今日とは限らないとか言ってたけどどういうことですか?」

 

悠斗は先ほど彼女が言っていたことを思い出し彼女に聞いてみた。

 

「トーナメントは予選トーナメントと決勝トーナメントの2つをやることになってるの。今日やるのは予選トーナメント、その一週間後に決勝トーナメントをするのよ」

 

「そうなんですか、ありがとうございます。できれば早く当たりたいですね。先輩と戦うのがすごく楽しみですよ」

 

「ふふっ、私も貴方たちと戦うのがすごく楽しみだわ。ぶつかった時はお互い全力で戦いましょうね」

 

悠斗がお礼を言うと彼女はそう言って手を差し伸べてきた。

 

「勿論ですよ、お互い悔いのない試合にしましょう」

 

「よろしくお願いします」

 

そう言うと、悠斗と透流は正堂院の手を握り返した。

 

「それじゃあ私はこれで、また会いましょ」

 

そう言うと彼女はそのまま去って行った。

 

「強敵がいるみたいだな透流」

 

「そうだな、ますます燃えてきたぜ」

 

突如現れた強敵に2人は笑みを浮かべあった。

 

「貴様ら…僕を忘れてないだろうな」

 

すると、無視されたことに怒ったのかトラが睨みながら2人に話しかけた。

 

「忘れてない忘れてない」

 

「お前も全力で来いよ」

 

「ふん、無論だ」

 

2人の返答に少し不機嫌ながらもトラは怒りを鎮めた。

 

「あぁここにいたのか、3人とも探したぞ」

 

「何を話していたんですか?」

 

「緊張でもしてたのかしら?」

 

「緊張ですか2人とも?」

 

「ふん!!」(ビシィッ!!)

 

「大丈夫?」

 

すると、そこへ同じく《仙伐戦》に出場する橘、梓、リーリス、ユリエ。そして、応援のタツとみやびが来ていた。

2人はさっき出会った3年生の正堂院律のことを話した。

 

「ふむ……その正堂院という先輩…相当の実力なのだろうな」

 

「はい、《焰牙(ブレイズ)》の真の力を扱うことができる使い手はそれだけでも並の《護綾衛士(エトナルク)》よりも実力が高いですからね」

 

「しかも正堂院先輩の他にもあと2人いるみたいだからな…面白くなってきたぜ」

 

橘と梓の言葉に対し、悠斗は強者との戦いが楽しみらしく、興奮を隠せずにいるとそこへ

 

「準備は良いですか天峰悠斗?」

 

護衛の三國先生を連れて九十九朔夜が来た。

 

「朔夜か、俺は文句無しで準備万端だぜ。透流たちといい3上級生たちといい強敵が沢山いて今からワクワクしてしょうがないぜ」

 

「……そうですか、それと天峰悠斗、分かっているとは思ってますけど《死ぬ気の炎》の使用は禁止なのでそのつもりでお願いしますね。まあ貴方なら炎を使わなくても決勝トーナメントまでは確実に行けるでしょうね」

 

「分かってるってぜってー優勝してやるぜ」

 

「ふふっ…貴方ならそう言うと思っていましたわ……貴方の力、存分に見せてもらいますわ」

 

悠斗の言葉に朔夜は微笑みながらまっすぐと悠斗を見つめていた。その時、

 

 

 

 

 

 

Prrrrrrrr________

 

 

 

 

突如三國の携帯が鳴った。三國がそれに出ると、

 

「もしもし、どうしましたか?………なに?」

 

どうやら警備の《護綾衛士(エトナルク)》らしかった。しかし、なにやら緊急の知らせらしく三國の声が少し重くなった。

 

「どうしましたか?」

 

朔夜が三國に問いただすと

 

「参加予定のない部隊がこちらに向かっているらしく…しかもその部隊が…あのエルザ・バードウェイの部隊らしいんです」

 

その言葉に朔夜はピクリと眉を震わせた。

 

「そうですか…《鮮血の戦姫(ブラッド・ヴァルキュリア)》が動き出しましたか…良いですわ、迎えに行きましょう。天峰悠斗、九重透流ちょうど良いので貴方たちも来なさい」

 

「っ!!」

 

朔夜の言葉に突如梓が身体を強張らせ身体を震わせた。

 

「分かった…行くよ」

 

悠斗たちが朔夜に連れられて格技場の入り口に着くと、そこには複数の《護綾衛士(エトナルク)》がおり、朔夜はその先頭にいる腰まで伸ばした黒髪の赤い瞳の美しい女性へと声をかけた。

 

「お久しぶりですわエルザ・バードウェイ。貴方の部隊は今回の護衛には呼んでいないはずでしたけど…どういった御用ですの?」

 

「…久しぶりね小さな魔女さん、残念だけど今日は貴方には用がないの、貴方の学園にいる《彼》を連れてきてくれないかしら?」

 

しかし、エルザ・バードウェイと呼ばれた女性は朔夜へと軽く返答するとそのまま周囲を探ろうとした。

 

(……なんだあの女?どこかで見たことがあるような……)

 

悠斗がそう思いながら彼女を見ていると、ふと目が合った。その瞬間_____彼女の頬が赤く染まり、歓喜の笑みへと変わった。そして、すぐさま悠斗の元へと駆けつけると、突然

 

 

 

 

ギュッ

 

 

 

 

悠斗を抱きしめた

 

「んなっ!!?」

 

「_____________________っ!?」

 

悠斗は突然のことに動揺し、みやびも一瞬身体が固まった。

 

 

「あぁ…あぁ、あぁ、あぁ!!久しぶりだわぁ…私の…私だけの《銀狼》…」

 

「っ!?」

 

愛おしそうに悠斗の頬を撫でながらエルザ・バードウェイは悠斗を見つめていた。しかし、悠斗は彼女が自身を《銀狼》と呼んだ彼女を前に一気に戦闘態勢に入った。

 

「……あんた誰だ…なぜ俺の2つ名を知っている?」

 

「おい貴様!!エルザ隊長にその態度はなんだ!?」

 

悠斗の態度に対し、部下の1人が怒りを覚え、悠斗へと掴みかかろうとしたその時、

 

 

 

 

 

 

ドコォォォォォン!!!!!

 

「黙れ、そして彼に触るな」

 

 

 

 

 

 

エルザ・バードウェイの裏拳が部下の男に直撃し、男は百メートルほど先の壁に激突した。

 

「ねぇ…」

 

「はっ…はい!!」

 

そして彼女は他の部下の1人に声をかけ、

 

「あとでさっきの馬鹿に伝えておいてくれる?彼は貴方程度が触って良いような《戦士》ではないって…彼こそが私が3年間追い続けていた愛しい人なんだから…」

 

「わ…分かりました!!しっかりと伝えておきます!!」

 

氷のような視線で見つめてくる彼女に命じられた部下は声を震わせながら返答し、吹き飛ばされた男を運んでいった。

 

「ごめんなさい《銀狼》、私の部下が礼儀知らずで…今躾けておいたから」

 

そして、再び悠斗を見つめると、先程とは打って変わって顔を赤く染め微笑みかけた。

 

「……さっきの質問の答えは?」

 

「あぁ、そうそういけない、すっかり忘れてたわ。ごめんなさいね…私がなぜ貴方を知っているかって質問だったわね?それはね、私と貴方は6年前会っているのよ?イタリアの貧民街でね♪」

 

彼女の言葉に悠斗は顔を強張らせた。

 

 

「あっ、あの…悠斗くんが困っています…だから…」

 

悠斗の様子を見て、みやびが彼女に声をかけた。その瞬間、

 

 

 

 

 

「貴方程度の雑魚が誰の許しで彼を名前で呼んでるの?」

 

エルザ・バードウェイの表情が怒りに染まった。

 

「死にたいみたいね」

 

そう言いながらみやびに近づこうとし________

 

 

 

 

 

 

 

「みやびに近づくな」

 

 

 

 

 

 

悠斗が彼女の肩を掴み睨みつけた。エルザ・バードウェイは少し悲しそうな顔をすると、

 

「そう……こいつが貴方を縛り付けているのね……」

 

そう言うと先程まで放っていた殺意が消え、

 

「また出直すわ…その時は…貴方を再び《至高の戦士》に戻してあげる」

 

そう言って部下を連れて去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだったのだあの人は…悠斗の知り合いか?」

 

「そうみたいだが…あいつのことは覚えてないな…」

 

エルザ・バードウェイが去った後、橘が悠斗へとそう聞いたが悠斗は彼女に覚えがなかった。

 

「彼女はエルザ・バードウェイ、護綾衛士(エトナルク)の部隊長の1人である女ですわ…少し性格に問題がある人ですが…彼女の位階は《Ⅵ》、現在の最高位の位階は《Ⅶ》、護綾衛士の中でもトップクラスの実力は本物ですわ」

 

そんな彼らに朔夜が説明した。それに梓が続けて説明した。

 

「……以前、《装鋼の技師》が彼女を仲間に引き抜こうとしたことがありました…しかし…」

 

 

 

 

 

 

 

1年前、とある個室に3人の人影があった。1人は《装鋼の技師》エドワード・ウォーカー、もう1人は不知火梓、2人は目の前にいる3人目の影の正体、エルザ・バードウェイと交渉に来ていた。彼女の手にあるパソコンには《装鋼の技師》が作り出した《装鋼(ユニット)》のデータがあった。

 

「如何かな?エルザ・バードウェイ殿?これはまだ開発段階のものだが…改良を加え、さらに外部兵装が完成すれば《完全なる兵隊》が…」

 

「くだらないわね」

 

「なっ……!?」

 

そう言うと彼女はつまらなそうにパソコンを放り投げた。

 

「く…くだらないじゃと!?儂の発明のどこがくだらないんじゃ!?」

 

彼女の答えにエドワードは怒りながら問いただした。

 

「だって…貴方が目指しているのって《個》の力じゃなくて《群》の力でしょ?」

 

「当然じゃ!《個》より《群》が勝るなど当然のことじゃないか!!歴史がそれを…」

 

「ぷっ…くくく…おめでたい頭ね、そんなことを本気で思っているなんて…」

 

エドワードの言葉にエルザは蔑むように笑った。

 

「良い?真の《戦士》の前には《群》なんて意味をなさないの。全ての敵を薙ぎ倒す絶対的な力、それこそが私が追い求めるもの。《彼》をそこへと至らせるのが私の悲願。貴方とは違うのよ」

 

そう言うとエルザは席を立ちドアへと向かい

 

「悔しかったら《彼》に勝ってみなさい。もっとも…貴方には無理だと思うけど」

 

そう言って天峰悠斗のことが書かれた資料を床に撒いて立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

「…あの人は悠斗さんを《至高の戦士》とやらにいたらせようとしています。それが何かはわかりませんが…」

 

梓は怯えながらそう告げた。

 

「そっか…悪いな梓、教えてくれて」

 

悠斗はそう言うと少し顔を強張らせた。

 

「悠斗くん…」

 

ふと声の方を見ると、みやびが心配そうに悠斗を見つめていた、

 

「大丈夫だよ、わたし…怖くないから」

 

みやびの目はまっすぐと悠斗を見つめていた。悠斗はそんなみやびをしばらく見つめると、

 

 

「やっぱり……俺はみやびのことが好きなんだな」

 

 

「………っ///////!!ゆ、悠斗くん…」

 

突然の悠斗の一言にみやびは再顔を真っ赤にした。

 

「悪い、声に出てた」

 

その時の悠斗の顔は先程とは全く異なる優しい笑顔であった。

 

「全く…本当に熱々だな…」

それを見ながらトラは呆れていた。




オリキャラ登場!!

これからの展開に期待してください


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33話 銀狼の狂信者


ほとんどエルザの話です。


 

ーーーーー彼は私の運命を変えてくれた。

 

私の生まれ育った場所は貧民街の中でも特に治安の悪い場所として知られていた。

両親は絵に描いたような外道であった。

父親は朝から酒を飲み『酒が無い』と言っては私や弟を殴り蹴る。『ギャンブルに負けた』と言っては殴り蹴る。『なんかイライラする』と言っては殴り蹴る。そんなクソみたいな男であった。

母親はほとんど家には帰ってこず、外で他の男と遊んだりして、たまに帰ってきても何かと因縁をつけては自分たちを殴り蹴り、時にはタバコの火を体に押しつけてきた。

自分たちが寝る間を惜しんで稼いだ金もすぐに《奴ら》の酒代や男への貢物として無くなった。

どれだけ自分たちが頑張っても《奴ら》のくだらない娯楽のために失い、その日の食べるものもろくなものが無かった。

ある日、弟が風邪を拗らせ寝込んでしまった。私は《奴ら》にせめて薬だけでも買って欲しいと頼み込んだ。すると、彼らは少し話し合ったと思ったら弟を抱えだと思いきや

 

『病院に連れて行く。だからお前は安心して仕事をしていろ』

 

と言った。私は嬉しかった。こんな両親でもまだ人の心があったのかと思い、弟を両親に託し、仕事に励んだ。

その日はいつも以上に頑張った。そしてその日の給料を手に急いで家に戻った。薬を飲んで元気になった弟が

 

『おかえり、お姉ちゃん』

 

そう言って私を迎えてくれると信じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、私を迎えてくれたのは弟ではなく、ただの《絶望》だった。

 

そこには弟の代わりに自分の給料とは比べ物にならないほどの札束が重ねられていた。

 

『あの子はどこにいるの?』

 

と私が父親に聞くと、

 

『ん?あぁあいつ?もうダメっぽかったから売ってきたよ。餌代が減る上に金が入って一石二鳥だよな』

 

何食わぬ顔でそうかえした父親の言葉に私は硬直した。

 

弟は確かに《病院》に連れて行かれた。しかし、それは『治す』ためでは無い。『中身』を『売られる』為だったのだ。自分たちの子供の命を事もあろうに金に変えたのだ。

私は泣いた。声をあげて泣くと両親に『うるさい』と殴られるので声をあげずに泣きじゃくった。泣きながら謝った。

 

『ごめんなさい、貴方についていればよかった。ごめんなさい、私が貴方を連れて行けばよかった。ごめんなさい、あんな奴らを信じなければよかった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……』

 

泣きじゃくりながら私はそれからも稼いだ。そうしなければ次は自分かもしれないからだ。生きなければならない。自分が殺してしまった弟の為に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数年後、私は14歳になった。仕事も以前より出来る仕事が増え、給料も増えて、自分の取り分も少しだけだが手に入るようになった。服もある程度のものは買ってもらった。以前よりも出来ることが増え、両親も自分に暴力を振るわなくなってきた。それどころか風邪をひいたときは何も言わずに風邪薬を差し出してくれるようになった。信用はしなかったがそれでも感謝した。

ある日、私は両親に連れられて街に来ていた。どういうわけか私に今まで自分が買えなかったような綺麗な服を着せられて連れて行かれた。

 

『この部屋で待っていろ』

 

ある個室に連れて行かれると、私は1人で待たされた。

しばらくすると、ガラの悪そうな男が入ってきた。

 

『ほぉ〜こいつかぁ…思っていた以上にいい女じゃねぇか…』

 

下卑た笑みを浮かべながら私を見つめる男の言葉に私は何が何だか最初はわからなかった。しかし、するに察した。

 

私は売られたのだ。今度は弟のように『中身』を『売られる』のでは無い、私は『躰』そのものを『売られた』のであった。成長してから殴られなくなったのは傷を作らないようにする為であった。綺麗な服を着せたのは見てくれをより良くする為であったのだ。

 

男は私を『品定め』と称して押し倒してきた。私は抵抗した。悲鳴をあげ、泣きじゃくりながら抵抗した。しかし、14歳の少女の力で大の男を振りほどく事などできなかった。服を引きちぎられそうになりながら私は思った。

 

この世はなんて理不尽なんだろう

 

こんなものが世界の理なのか

 

なんで私が…弟がこんな目に遭わなければならなければいけないのか…

 

 

 

 

 

 

その時、銀色の影がドアを突き破って現れた。

そこを見ると、10歳程の銀髪の金眼の少年が純白の長槍を手に立っていた。その少年に男は瞬間、恐怖に顔を強張らせた。

 

『んなっ…お、お前は《銀狼》…っ!!待ってくれ!!約束を反故にしたことは悪かった!!契約金も倍にして払う!!だからどうか…』

 

『黙れ、お前は俺を騙してうえに契約を破った。契約を破ったことの落とし前はつけてもらう……死ね』

 

瞬間、少年は男を目にも留まらぬ速さで通り抜け、男の躰を袈裟斬りにした。男は身体から鮮血を飛び散らせそのまま地面に倒れそのまま息を引き取った。

私を凌辱しようとした《抗えない力》をそれ以上の《力》でねじ伏せてしまったのだ。私はその少年から目が離せなかった。すると、少年は私の視線に気づき、こちらに近づくと、

 

『あんたもこいつらの仲間?』

 

少年は長槍をこちらに向け私に聞いてきた。

 

『………違います』

 

『………あっそ』

 

そう言って少年は興味を無くしたように立ち去っていった。

 

『……………綺麗……』

 

私はその銀色の少年に見惚れてしまった。ときめいてしまった。この世の不条理をそれ以上の力でねじ伏せてしまったその少年の生き様に、その銀色の少年の美しさに、恋い焦がれてしまった。

 

まるで神を喰らった狼の様に現れて、圧倒的な《力》で私を救ってくれた………

そう、彼は私の焦がれた《至高の戦士》……………私だけの《銀狼》…………私だけの《銀狼》…………

 

嗚呼…なんて美しいのだろう…私も彼のようになりたい…彼に近づきたい…彼に愛されたい…彼に…壊されたい…

 

私は彼のように力が欲しい、力を持って彼に近づきたい…彼の力をもっと見てみたい…彼に壊されたい。

 

その後、私は両親を殺した。父親は酒に酔っていて眠っていたので簡単だった。母親は父親の亡骸を見て錯乱し、その瞬間を逃さずに殺した。風の噂でドーン機関の存在を知った。家の残った金を奪って出て行った。その後、港に向かい貨物船に乗って亡命した。その後、私は裏のブローカーを使って戸籍を買ってドーン機関の《黎明の星紋(ルキフル)》適性検査をうけた。結果は文句なしの合格であった。その後、15歳になった自分は昊陵学園に入学し、卒業時には《Ⅳ(レベル4)》に到達した。護綾衛士(エトナルク)になってからも力を求め、敵を斬り、殺し、ねじ伏せた。そして_______気づいた頃には《Ⅵ(レベル6)》に至った。

しかし、彼女はまだ足りなかった。彼はまだ成長段階のはず…ならば彼はもっと強くなっているはず。だからもっと力が必要だ…

 

 

ある日、偶然目に入った資料に目が離せなかった。

 

ボンゴレファミリー。イタリアが誇る最強のマフィア。

そこには《銀狼》がいると書かれていた。

私は歓喜した。間違いない。《彼》だ、私を絶望から救ってくれた《彼》に違いない。

私はすぐに日本の並森に向かった。彼を迎えに、彼に壊されるために…

 

 

 

 

 

 

 

 

並森に着いた私が見たのは絶望だった。

そこには同年代の少年たちと笑いながら登校している《彼》であった。

 

これは夢なのか……?ならばこれは悪夢だ。もう嫌だ。見たくない…違う…そうじゃない。あなたがいるべきは…私が焦がれた私はそうじゃない。隔てるもの全てを蹂躙する絶対的な力…それがあなたのはずだ。

 

許さない…彼を堕落させたもの全てが…だから私が元に戻そう…いつか彼を私の手で…そのためには準備が必要だ…彼を目覚めさせる準備が…

 

 

 

 

2年後、彼が昊陵学園に入学が決まった。ついにこの時が来た…待ってて私の《銀狼》…私が元に戻してあげる…私が焦がれた《至高の戦士》に…

 

 

 

 

「……………夢……だとしたら嫌な夢ね…」

 

エルザ・バードウェイが寝室から起き上がった。彼女は今躰に纏うものを一切纏っておらず美しい躰と豊満な胸がはっきりとわかった。

 

「エルザ隊長、《狂化戦士(ベルセルク)》部隊準備が整いました。」

 

部下が寝室に入ってきた。

 

「そう…わかったわ。すぐ向かう。」

 

エルザはベットから起き上がると《彼》の写真を愛おしそうに眺めながら呟いた

 

「待っていて…私の《銀狼》…貴方を必ず解放してみせる」

 





今日はほとんど過去編でした…エルザと悠斗の出会いはこんな感じです。

次回もお楽しみください。









感想欲しいな…


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34話 初戦開始

仙伐戦スタートです



 

 

 

「……………。」

 

控え室では悠斗がただ黙って椅子に腰掛けていた。

理由は先ほどのエルザ・バードウェイの一言である。

 

『私と貴方は6年前会っているのよ?イタリアの貧民街でね♪』

 

『貴方を再び《至高の戦士》に戻してあげる』

 

間違いない。奴は俺がまだ裏社会に染まりきっていた時に会っていたんだ。そして奴は俺をあの頃の俺に戻そうとしている。あの頃の、血で染まりきっていた頃の俺に……

 

「…………冗談じゃない」

 

俺はツナ達に会って仲間を得た。そして今度はこの学校でさらなる仲間と、そしてかけがえのない恋人を手に入れることが出来た。嫌だ、失いたくない、もう二度と、あの頃の俺に戻りたくない……

 

コンコンッ

 

「悠斗、そろそろお前の試合だぞ」

 

ガチャリ

 

ノックと共に扉が開き、クラスメイトの透流が入ってきた。

 

「透流……スマン、今行く」

 

悠斗は呼吸を整え席を立ち扉へと向かっていった。

 

「気にしているのか?あのエルザとかって人の言葉」

 

透流も悠斗の反応から察したのだろう悠斗の肩を掴んでそう聞いてきた。

 

「……まぁな」

 

「悠斗……」

 

「笑っちまうよな……みやびのことをどんな奴が来ても守るって腹決めた直後に俺の過去の因縁ミテーな奴が俺の前に現れて、挙げ句の果てに俺を昔の俺に戻すとかって言ってきやがった……俺の過去が俺の大切な奴らに牙を剥いてきた……怖いんだよ……俺の過去が、お前達を傷つけるって思うと……」

 

そう、怖いんだ…自分が傷つくこと以上に大切な仲間が傷つくことが、おそらく奴はそれを知っている……

 

「悠斗、1人で抱え込むなよ」

 

突然、透流が悠斗にそう言った。

 

「透流……?」

 

「お前の苦しみががどれだけお前を苦しめているのか、俺にはわからない…だけど…それでもさ、俺たちは仲間だろ?だから…俺たちにも一緒に戦わせてくれよ」

 

その目はまっすぐと悠斗の目を見ていた。

悠斗はそのまっすぐと自分を見つめる目に思わず笑ってしまった。

 

「……ハハッ、ありがとな透流、やっぱりお前ってツナとおんなじだよ。仲間のピンチや問題とかに黙ってられないところがさ…おかげでスッキリしたよ」

 

そう言うと悠斗はまっすぐと扉へと向かっていった。

 

「必ず勝ってくる」

 

悠斗のその目に迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格技場

 

『ただいまから、1年《Ⅳ》天峰悠斗対2年《Ⅲ》石田光実の試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』

 

三國のアナウンスを聞き、悠斗と対戦相手の石田光実という茶色い短髪の少年が格技場中央に来た。

 

『なお、《Ⅳ》の天峰悠斗は《煉業》の使用は禁止ですのでご了承ください』

 

今回のルールは

・一対一

・どちらかが倒れるか降参するかで勝敗を決める

・片方が《高位階》の場合、その選手は《煉業》の使用を禁止する。

・両者が《高位階》の場合は《煉業》の使用は許可

・戦闘区間は格技場内のみ

 

といった具合である。

 

「天峰悠斗くんだっけ?悪いけどこっちも勝ちを譲る気は無いよ。こっちはあのリーリスって1年に当たるまでは負けられないからね」

 

突然、光実がこちらへ話しかけて来た。

 

「リーリスですか?」

 

「そうさ、こっちはあの女のせいで《咬竜戦》をメチャクチャにされた借りを返さなくちゃいけないんだ。いつか彼女にリベンジするために訓練を重ねて遂に《Ⅲ》になったのさ!!レベルアップした俺の強さを思い知らせてやる!!」

 

光実は怒りを含んだ声でそう叫んだ。

 

「なるほど、確かに俺も《咬竜戦》は楽しみだったので気持ちはわかりますよ。でも、すいませんが俺も負ける気は無いんで勝たせてもらいます」

 

「おもしれぇ!!《Ⅳ》だか知らないが上級生の実力を見せてやる!!」

 

どうやら向こうも楽には勝たせてはくれないようだ。

 

『それでは両者《焔牙》を出してください』

 

三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。

 

「「《焔牙》!!」」

 

2人か掛け声とともに焔が形を作り《長槍》と《鞭》の形になった。

 

『両者、試合開始!!』

 

三國の合図と共に悠斗は猛スピードで光実へと攻撃を仕掛けた。

しかし、光実の鞭が悠斗へと迫り、悠斗は瞬時に身を躱した。

 

「あっぶね〜思ってたより早いですね」

 

「やっぱり当たってくれねーか、今ので倒れてくれたら助かったんだけどな」

 

鋭い目でこちらを見つめながら光実は己の《鞭》を振るった。

 

「知ってるか1年!!達人の振るう鞭の先端の速度は音速だと言う、それを《超えし者》の俺がやればその一撃は音速を超える!!」

 

光実はそう言いながら《鞭》を更に振るい悠斗へと攻撃を繰り出した。悠斗も接近しようとするも、《鞭》の連撃によって迂闊に近づけなかった。

 

「どうしたどうした1年!!逃げてばっかじゃ俺には勝てねえぞぉ!!オメェを倒したらあのリーリスって女もぶちのめして俺たちの受けた屈辱を叩き込んでやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強いなあの先輩……」

 

「うむ、それに鞭という武器も悠斗の槍と相性が悪いな。悠斗の戦闘スタイルは槍のリーチと自身の素早さを合わせた攻撃だ。だが鞭はリーチと速度、どちらでも悠斗のそれを上回っている……何よりあの変幻自在の攻撃は回避し辛いしな…」

 

「でもあんな先輩いたかしら?私覚えてないのよね」

 

「キミは自分の倒した相手の名前くらい覚えておいたらどうだ…」

 

透流とトラは悠斗の試合を観ながらそう呟き、リーリスは光実のことを思い出そうとしていて橘はそれに呆れていた。

 

「でも悠斗さん、確かに厳しいですよ。さっきから自分のリーチに全然近づけていません…」

 

「……悠斗…」

 

その横では梓とユリエが悠斗のことを心配していた。

 

「大丈夫だよみんな」

 

しかし、みやびは心配していなかった。悠斗がここで負けるとは思っていなかった。

 

「悠斗くんはまだ諦めていない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたもう終わりか?まぁそうだろうな。これはいわば鞭の結界、防御こそ最大の攻撃ってなこの動き回る鞭の中に突っ込めばお前はたちまちおしまいだからな!!」

 

悠斗は現在鞭の連撃の外から静かに光実を見つめていた。

しかし、その目は一切の迷いがなく、確実に光実を倒すために静かに闘志を燃やしていた。

 

(あと少しだ…もう少しで…『慣れる』)

 

「そんじゃ、そろそろ終わりにされてもらうぜ…お前にはもう逃げ道はねぇからなぁ…」

 

ふと悠斗が周囲を見るとそこは格技場の隅で光実の鞭の結界と挟まれ逃げ場が無かったからだ。

 

「終わりだ1年!!」

 

そう言うと光実は鞭を振り回しながら悠斗へと突っ込んできた。

 

 

 

 

 

「上、下、右上、左下、右、左、上…いまだ!!」

 

すると、悠斗も光実へと突っ込んできた。

 

「馬鹿め!!自ら死地に向かうなんてな!!終わりダァ!!」

 

光実は確信した。自分の勝利を。しかし、彼は知らなかった。悠斗が、天峰悠斗が光実をはるかに超える実力の鞭使いを知っていることに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狼王一閃!!」

 

「グハァッ!!」

 

 

悠斗の一撃は光実の鞭を容易くすり抜け光実の懐に強烈な一撃を叩き込んでいた。

 

「ば……馬鹿……な……いったい……どうやって……あれだけの鞭を…」

 

「あんたの鞭の攻撃パターンを読んだのさ。あんたの攻撃にはパターンがあったからその中で1番あんたの守りが薄くなるタイミングで攻撃したってわけだ」

 

「な……なんだよ……それ……む……無茶苦茶だ……ちくしょぉ……」

 

光実は悔しそうな声をあげてそのまま倒れた。

 

『それまで!!勝者天峰悠斗!!』

 

ワァァァァァ

 

三國の言葉で試合は終結し歓声が響いた

 

「ま、中々強かったぜ。でも悪いな。俺も簡単に負けたらあの殺し屋教師に殺されちまうんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「やったな悠斗、まずは一勝だな」

 

悠斗の初戦が終わり、透流たちが悠斗の周りに集まっていた。

 

「まぁな、お前らも頑張れよ」

 

悠斗がそう言ってると

 

「なにカッコつけてんだテメー」

 

ドカッ

 

「いでっ!?」

 

突然黒い塊が悠斗にぶつかったと思ったらそれは小さな赤ん坊だった。

 

「ちょっと来てみればあんぐれーの相手にあんな時間かけやがって…訓練が足りねーな」

 

「っ!?あ…あんたは…」

 

「だ…誰だ貴様は!?」

突然の赤ん坊にトラは驚き、その赤ん坊に質問すると、赤ん坊はニヤリと笑い

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャオっす。俺の名はリボーン」

 

 

 

世界一の殺し屋が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々に投稿しました。

これからもよろしくお願いします!!


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35話 世界最強の殺し屋


久しぶりの投稿です!!


 

「ちゃおッス、俺の名はリボーン。」

 

全身に黒いスーツを纏い黒い帽子に緑色のカメレオンを乗せた小さな赤ん坊は悠斗を蹴り飛ばしたあと、何食わぬ顔で名乗った。

 

「な……なんだこの赤ん坊?赤ん坊がこんなにペラペラ喋るものなのか?第一なんでスーツ姿なんだ?」

 

突如現れたこの赤ん坊に透流は恐る恐る近づいた。すると、

 

ダァンッ

 

「赤ん坊赤ん坊ってうるせえぞ、頭に風穴開けられてえのか?」

 

透流の顔すれすれを銃弾が通り過ぎた。

 

「な……え…?えぇぇぇえ!?な…なんで赤ん坊が拳銃なんか…」

 

ダァンッダァンッダァンッ

 

「だから赤ん坊赤ん坊ってうるせえぞ」

 

続けて3発もの銃弾が透流すれすれのあたりに炸裂した。

 

「うおぉぉぉい!?何やってんだリボーン!!頼むから透流を殺さないでやってくれ!!」

 

「だって〜ムカついたんだも〜ん」

 

と可愛子振るリボーン

 

「その喋り方やめろ!!めっちゃウザい!!」

 

「ゆ…悠斗…その赤…じゃなくてその子は一体…」

 

透流は恐る恐る悠斗に聞いた。

 

「はぁ……こいつの名前はリボーン、俺のボスの家庭教師(かてきょー)兼殺し屋だ」

 

「えぇぇぇえ!?ま…まさか前に言ってたランニングで1秒でも遅れたら手榴弾投げつける教師(10話 狼と紅茶参照)ってその人のことなのか!?」

 

「まあな、こんな姿だけど絶対侮るなよ。何たって世界最強の殺し屋なんだからな。俺より強いと思った方がいいぞ」

 

ドガァァンッ

 

突然悠斗の頭にハンマーが叩きつけられ地面に頭が埋まった。形状記憶カメレオンのレオンが変身したのである。

 

「俺より強いとはひよっこの分際で随分偉そうになったな悠斗、俺とお前じゃ天と地ほども差があるぞ。どっちが強いかって比べることすら生意気だ」

 

「がふっ…いきなりハンマーで殴るんじゃねぇ!!っていうかリボーンお前一体何の用で来たんだよ?」

 

悠斗地面から顔を出してリボーンを睨みながら問いただした。

 

「大した用じゃねえよ。お前がどんな様子が見に来てやっただけだ。最近大怪我したってツナから聞いてたが鍛錬が足りねーな、そんなんじゃ今に野垂れ死ぬぞお前」

 

「わかっているよ。だから特訓し直してるっての。今の俺は死ぬ気の炎の力に頼っているところがあるからな。一刻も早く《焔牙(こいつ)》を使いこなせる様にしねぇと」

 

「ふん、何が足りねーかぐらいはわかってる様じゃねーか。その点はツナよりはマシだな。にしても…」

 

突然リボーンは透流たちの方を見た。

 

「どいつもこいつも悪くねー素材だがまだまだ粗い削りだな」

 

「久しぶりね、Mr.リボーン」

 

リボーンにリーリスは近づき挨拶した。

 

「なんだ誰かと思ったらリーリス・ブリストルか。確かイギリスの学園にいると思っていたが」

 

「訳あってこっちの学校に通っているのよ。この間はボンゴレファミリーに助けてもらったわ。ありがとう」

 

そう言ってリーリスはリボーンに頭を下げた。

 

「気にするじゃねえ、ツナ達にとっても良い勉強になっただろうからな。特にこいつにとっては良い薬になっただろ」

 

そう言いながらリボーンは悠斗の頭をポカポカ殴った。

 

「とりあえず俺は九十九 朔夜のところに行ってくる。あいつにこのあいだのことで話があったからな」

 

そう言うとリボーンは悠斗を殴るのをやめてトコトコ去って行った。

 

「……なんか凄い人だったな…」

 

「全くだ…悠斗が瞬殺とは…世界最強の殺し屋というのは伊達では無いということか」

 

「…ツナは昔は何をやってもダメダメなダメツナって言われてたけどそれをボンゴレのボスにしちまったのは他でも無いあの人だからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな朔夜、悠斗を学園に送る時以来か?」

 

リボーンは理事長室にて朔夜と対峙していた。側には月見 璃兎と三國がいた。

 

「久しぶりですわね《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》リボーン。わざわざお越しいただきありがとうございますわ。それで?本日はどう言ったご用ですの?」

 

朔夜は笑みを浮かべながらリボーンに話しかけた。

 

「このあいだの《殺破遊戯(キリングゲーム)》、幸いにもこちら側は怪我人こそいたが犠牲者は0人だった…だけどそれは俺たちがいたからこそのことだ。なんで警備の数をたったあれだけにした?お前が相手の戦力を見誤るはずがねぇ。わざとだろ?」

 

その時、先ほどのフザれていた時の顔とは異なる鋭い目つきでリボーンは朔夜を睨みつけた。その時、三國は朔夜の前に立ちふさがった。

 

「…過酷な状況下で芽吹く種子(シード)こそ、美しき花を咲かせると私は考えていますわ。全ては我が道が《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至るためですわ」

 

「……そうまでしてその《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》とやらに至りてぇってのか…」

 

「おかしなことを言うものですね。《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》ともあろうものが」

 

朔夜は冷酷な笑みを浮かべながらつぶやいた。

 

「私は祖父、九十九 月心(つくも げっしん)より《操焔(ブレイズ)》を受け継ぎし《魔女(ディアボリカ)》…《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至ることこそが私の使命であり…生きる意味ですわ。」

 

「……覚えておけ九十九 朔夜。もしこれから先、ボンゴレに喧嘩を売る様な真似をする様なら、俺が黙ってねーぞ」

 

そう言うとリボーンはいつの間にか抜いていた拳銃をしまって部屋を去って行った。

 

「…ハハッ、やっベーなあいつ。あれが世界最強の殺し屋にして《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》リボーンってか…銃を抜いているのに全く気づかなかった」

 

「長年の呪いが解けたことによって力が全盛期に少しずつとはいえ戻りつつあると言うことですわね…」

 

冷や汗をかきながら机に腰をかけた璃兎とは対照的に朔夜は顔色一つ変わっていなかった。

 

 

 

「願わくば______我が道が《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へと至らんことを」

 

 

 

「…ってなわけであいつはツナの家庭教師をやっているってわけよ」

 

「へぇ〜なんか凄い意外だったな…綱吉さんってマフィアのボスって言うから始めから凄い人なのかと思ったけど」

 

リボーンが去った後、悠斗は透流たちとリボーンの話をしていた。

 

「あいつがボンゴレのボスの血筋だって自覚したのは2年前だからな、それまでは平凡な中学生だったってさ」

 

「そういや悠斗と綱吉さんの出会いってどんな感じだったんだ?」

 

「ん?あぁ、あいつと俺の出会い?殺し屋と標的(ターゲット)」

 

「………マジで?」

 

「色々あったんだよ。まぁ今はあいつとは友達(ダチ)だけどな」

 

悠斗は懐かしげに呟いた。

 

「何感傷に浸ってんだテメー」

 

ドガァァンッ

 

「グハァッ!!」

 

リボーンがとてつもない勢いで悠斗の顔面に飛び蹴りをお見舞いした。

 

「ったく相変わらず油断しやがって…っとそれよりお前、ちょっと来い」

 

「……え?」

 

リボーンはみやびの方を向くと手招きした。

 

「ちょ…おいリボーン!?お前みやびに何を…」

 

「心配すんな、ちょっと話がしてーだけだ」

 

「…わかったよ。みやび、何かあったらすぐ俺を呼べよ」

 

「うん、ありがと悠斗くん」

 

そう言うとみやびはリボーンとその場を後にした。

 

「……みやび…」

 

 

 

 

 

 

「そ、それで…なんの話ですか?」

 

みやびはリボーンと格技場の裏にいた。そこにはリボーンとみやびしかいない。

 

「お前に頼みたいことがあってな」

 

リボーンは少し声を低くしてみやびに話しかけた。

 

「悠斗のやつは俺たちといた時もどこか闇を抱えたところがあった。ツナもそのことに気づいていたがあいつは幼少期からかなり過酷な人生だったからな、完全に闇を払ってはやれなかった…でも今日来てあいつは昔よりかなり笑う様になってる。間違いなくお前の影響でな」

 

「わたし…ですか?」

 

「お前に悠斗がベタ惚れなのは見てわかるからな、だからあいつがもし壊れそうになっちまった時は、お前が助けてやってくれ」

 

リボーンはまっすぐとみやびを見つめてそう頼んだ。

 

「…言われるまでもありません。わたしは悠斗くんが好きですから」

 

それに対しみやびはまっすぐとリボーンを見つめ返した。

 

「そうかよ、それがわかってるなら良い。話はそれだけだ、じゃあな」

 

そう言うとリボーンはそのまま去って行った。

 

「…悠斗のやつ、良い女を見つけたな」

 

 

 

 

「悠斗くん、ただいま」

 

「みやび、大丈夫だったか?リボーンに銃を突きつけられなかったか?」

 

みやびが帰ってくると悠斗は心配そうにみやびに近づいて来た。それを見つめたみやびはくすりとわらって

 

「悠斗くん、好きだよ」

 

そうはっきりと言った。

 

「///////みやび……俺もだよ」

 

悠斗は顔を真っ赤にしてそう答えた。

 

「そういや次の対戦相手って誰だっけ?」

 

悠斗はふとトーナメント表をみると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦

《位階Ⅳ》一年 天峰 悠斗vs.《位階Ⅲ》一年 リーリス・ブリストル

 

次の相手は強敵の様だ

 




久しぶりの投稿です

感想待ってます


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36話 銀狼対黄金の麗人

リーリス戦開幕です


「ふんっ!!はっ!!せいやっ!!」

 

《仙伐戦》の昼の休憩時間、誰もいない一室で悠斗は《長槍》を振るっていた。

その目は鋭く真っ直ぐであり集中しきっていた。当然である。なにせ次の対戦相手はリーリス・ブリストルなのだから。彼女の《焔牙》である《銃》は遠距離近距離どちらも優れている、さらにリーチも悠斗の《長槍》を遥かに凌駕するためいくら《位階》が悠斗の方が上でも油断ならない。

 

「……《生存闘争》の時は俺はあいつの《銃》を攻略できなかった…あの時は透流たちとの連携で勝てたけど…今度は一騎打ち…全力で行かないとな…」

 

悠斗は再び《長槍》を振るい始めた。それはまるで銀色の狼の舞の様でありとても美しかった。

 

コンコンッ

 

すると、ドアがノックされた。

 

「……?どうぞー。」

 

ガチャリ

 

「悠斗くん、調子はどう?」

 

「みやび…」

 

入って来たのはみやびであった。

 

「お茶持って来たよ。悠斗くんそろそろ休んだら?」

 

「…そうか、もうこんなに時間が経ってたのか…そうだな、休憩するか」

 

悠斗はそう言うとベンチに座った。みやびは悠斗の隣に座ると水筒のお茶とおにぎりの入った包みを開いた。

 

「ありがとなみやび、いただくよ。」

 

そう言うと悠斗は包みを開きおにぎりを食べた。おにぎりの中には一つには梅干し、もう一つにはおかかが入っていた。

 

「うん、美味い。」

 

「えへへ、良かった。」

 

悠斗の感想にみやびは嬉しそうに頬を赤く染めた。

 

「悠斗くん、調子はどう?」

 

「まぁボチボチってところだな…リーリスはかなりの実力者だからな、全力でいくつもいだぜ。」

 

「ふふっ、悠斗くんすごい嬉しそうだね。」

 

「まぁな、前回の《生存闘争》では遅れをとっちまったから今日リベンジ出来るのが楽しみで仕方ねぇ。」

 

悠斗の口には笑みが浮かべられていた。悠斗の戦士としての本能が震えていたのである。

悠斗はお茶を飲むとふうっと息を吐いて落ち着いた。

 

「よしっ、少し休んだらまた練習するか。」

 

「食べてからすぐの運動は体に悪いからちゃんと休まないとダメだよ?」

 

「わかってるよ。ここだけの話、対リーリスにはちょっと《秘策》を考えているんだ。多分うまくいくと思うんだけどな…」

 

悠斗の言う《秘策》…それがうまくいけば間違いなくリーチの差を埋められると悠斗は確信していた。

 

「頑張ってね悠斗くん。わたし、応援してるから」

 

みやびの真っ直ぐな言葉に悠斗は笑みを浮かべだ。

 

「ありがとなみやび、絶対に勝つから。」

 

そう言うと悠斗は優しくみやびの頭を撫で、立ち上がった。

 

「あっ…」

 

「ん?どうしたみやび?」

 

「う…ううん、なんでもないよ…」

 

頭から手を離した時、みやびが少し名残惜しそうであった。

 

 

 

 

 

『ただいまから、1年《Ⅳ》天峰悠斗対1年《Ⅲ》リーリス・ブリストルの試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』

 

昼の休憩時間が終わり、練習を終えた悠斗は三國のアナウンスを聞き、リーリスとともに格技場中央に来た。

 

『なお、《Ⅳ》の天峰悠斗は今回も《煉業》の使用は禁止ですのでご了承ください』

 

先ほど闘った石田光実もけっして弱い相手ではなかった。しかし、それでもリーリスは《Ⅲ》の中では屈指の実力者である。いくらレベルが上でも必ず勝てるとは思ってはいけない。

 

「そういえば…貴方と一対一で闘うのってこれが初めてだったわね。でもまさか二回戦でいきなり闘えるなんて楽しみだわ。お互い、全力を出し合いましょ♪」

 

「そうだな、俺もお前との闘いはずっと楽しみだったから期待してるぜ…最初から全力で行ってやる。」

 

というよりリーリス相手では最初から全力で行かなければ一気にやられてしまう。悠斗は息を整え持ち場に着いた。

 

『それでは両者《焔牙》を出してください』

 

三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。

 

「「《焔牙》!!」」

 

2人の掛け声とともに焔が形を作り、悠斗は《長槍》を、リーリスは《銃》を手に構えた。

 

『両者、試合開始!!』

 

三國の試合開始の合図の瞬間、リーリスが悠斗へと《銃》

を発砲した。

 

「おっと危ない」

 

しかし悠斗はそれを難なく躱し一気に間合いを詰めてリーリスに斬りかかった。しかし、リーリスも《銃》で《長槍》の一撃を防ぐと再び距離をとり《銃》を発砲した。

それを今度は《長槍》で防ぎ今度は強烈な突きをリーリスに放った。

 

銀色の少年と黄金の少女の闘いに観客たちは魅了されていた。

 

「すごいな2人とも…」

 

「あぁ、悠斗は《煉業》が使えないとはいえどちらが勝ってもおかしくない闘いだ…どちらも相手の間合いを作らせていない…」

 

トラの言う通りであるようにリーリスは《銃》が確実に攻めるには間合いが近すぎて悠斗は《長槍》の射程範囲より遠すぎる。この勝負はどちらが自分の間合いに持っていくかが勝敗を分けるようである。

 

(悠斗……強いとは思ってたけど…やっぱりあいつはすげぇな…俺もあいつに負けてられねぇぜ…)

 

「トール…どうしました?」

 

透流が悠斗の闘いぶりに震えていると隣に座っていたユリエが話しかけていた。

 

「ユリエ?あぁ悠斗がすげえと思ってな…俺もあいつとあたったら全力で挑まねえとってさ」

 

「ヤー、私も悠斗とぶつかったら持てる全てを発揮します。そのための準備をしてきました。」

 

ユリエの目はまっすぐと悠斗を見つめていた。

 

「そういやユリエは悠斗と一回闘ってたんだったな。」

 

「ヤー、あの時は私の完敗でした。ですので今度こそは絶対に勝ちたいです。」

 

「そうだな、まぁもしユリエが負けても俺が代わりに悠斗を倒すよ。」

 

「ナイ、勝つのは私です。抜け駆けは卑怯ですトール。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…本当にすばしっこいわね…全然あたってくれないなんて…」

 

「そっちこそ…なかなか間合いに入ってくれないじゃねえか…」

 

試合は後半になるにつれて悠斗が優勢になりつつあった。

 

リーリスも善戦しているがスタミナで悠斗が圧倒的に有利であったため、リーリスは徐々に息が切れ始めた。

 

(やっぱり悠斗相手に持久戦はマズイわね…早い所終わらせないと…それなら…)

 

リーリスは悠斗を見つめながら《銃》を構えた。

 

「…いくぜ」

 

悠斗はまっすぐとリーリスに向かっていき渾身の突きを放った。

 

(…もらった!!)

 

リーリスは悠斗の突きをギリギリで躱して悠斗の顔の目の前に銃を向けた。

 

「この距離から躱せるかしら?」

 

タァンッ

 

その音を聞いて観客の全員がリーリスの勝利を疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠斗くん…」

 

みやびを除いては

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

「ふぁんとかまにあっふぁようだな(なんとか間に合ったようだな)」

 

一瞬銃弾を受けて呂律が回らないのかと思ったが違った。

リーリスは一瞬思考が停止した。なぜなら悠斗は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれた銃弾を歯で受け止めていたのだから。

 

「せいやぁぁぁぁぁ!!!」

 

そのまま悠斗は咥えていた銃弾を離し《長槍》で下から上に振り上げリーリスの《銃》に叩きつけた。

 

(このまましゃ弾かれる_______!!)

 

《銃》を失えば自分に勝ち目はない、そう判断しリーリスは振り上げられる《長槍》の勢いを利用して空中へと逃げた。

 

「チェックメイトよ悠斗!!」

 

そう言ってリーリスは悠斗へと銃口を向けた途端、悠斗が笑ってるのに気づいた。

 

「それを待っていた。」

 

そう言うと悠斗は《長槍》をリーリスに向けて思いっきり投げつけた。

 

(投擲…でもそれくらいなら!!)

 

リーリスは体をくねらせ向かってくる《長槍》をなんとか躱した。そして悠斗へと再び銃口を向けたがすでにそこに悠斗はいなかった。

 

(_______!!悠斗はどこに…?)

 

「ここだよ」

 

突然真上から悠斗の声が聞こえて振り返るとそこには悠斗がいた。悠斗は槍を放った後、持ち前のスピードと身体能力で格技場の壁を走りリーリスの真上に飛び向かってくる《長槍》を掴んだのだ。

 

「狼王顎(ろうおう あぎと)!!」

 

そして、渾身の一撃がリーリスへと振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

「勝負ありだな」

 

砂埃が晴れ、そこには仰向けに倒れるリーリスとリーリスに《長槍》を向ける悠斗がいた。

 

「悔しいけど…完敗ね…あの時のヘッドショット…心臓にしとけばよかったかしら…」

 

「あれはほとんど一か八かだった。心臓だったら絶対に無理だったと思うぞ」

 

「そうね、確かにあなたの心臓(ハート)を射抜いていいのはあの子だけだったわね」

 

「そう言うことだ」

 

そういうと、悠斗は《長槍》をリーリスから離した。

 

『それまで!!勝者天峰悠斗!!』

 

ワァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

三國の言葉で試合は終結し先ほど以上の歓声が響いた。

 

 




悠斗三回戦進出!!




感想待ってます!!


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37話 3年生の実力

久々に投稿しました!!


「せいやぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

現在格技場には2人の生徒が試合を行なっていた。1人は手に《三叉槍(トライデント)》を持ち相手に攻撃をし続ける2年の生徒、もう1人は手に《大鎌(デスサイズ)》を持ち相手の攻撃をかわし続けている梓であった。一見相手の選手の方が攻めているようであったが…

 

「このっ…なんで当たらないの…!?」

 

梓は相手の攻撃を冷静に見切りながら間合いの外でかわしていた。それだけでなく、時折特殊な動きで相手の視界から外れたり《大鎌(デスサイズ)》を使い地面の砂で目くらましをして相手を翻弄したり、時には《大鎌(デスサイズ)》で相手の攻撃を払ったりしていた。不知火梓は幼少期より隠密部隊にいた。常に危険な世界にいた彼女は格上の相手との戦闘も避けられない場合があった。故に彼女は『どうすれば生き残れるか』、『どうすれば格上を倒せるか』そういったことを考えなければいけなかったのだ。故に彼女はこと『相手を倒す』ことにおいては並の人より遥かに上であった。『相手が自分と同じかそれ以上の実力の場合、自分の得意な場面にする』それが彼女の鉄則だった。

 

「貴女は強いです…でも、私の方がもっと強いですよ」

 

そう言って梓は相手に急接近して《大鎌(デスサイズ)》の一撃で相手を斬り裂いた。その瞬間、勝敗は決した。

 

『それまでっ!!勝者、不知火梓』

 

ワアァァァァア!!

 

試合が終了し、観客の歓声の中、梓の相手を翻弄する巧みな技に一部の手練れは興味深く観ていた。

 

「なかなかやるじゃねえかあの1年、今年は結構『当たり』が多いみてえだな」

 

そう言って金色に染められた長髪を後ろで纏めた鋭い目つきの3年、兵藤仁哉(ひょうどう じんや)が笑いながら見つめていた。

 

「えぇ、次の私の対戦相手よ。今から楽しみでしょうがないわ」

 

そう言うのは先ほど悠斗と透流と一緒に話していた黒髪のショートヘアに縁のないメガネの少女、正堂院律であった。

 

「んだよテメェの相手かよ。せっかく楽しめると思ったのに闘えねぇじゃねえか。しかもその後の相手って確か同じ1年の《能力持ち》じゃねえか…俺と変われよ」

 

「ごめんなさいね仁哉、感想文3000文字で渡してあげるから」

 

「要らねえよそんなもん!!嫌がらせか!?」

 

「まぁまぁ落ち着きなよ2人とも、他にも強そうなやつらはいるみたいだし、決勝トーナメントで闘えるよ」

 

口論になりかけた2人を仲裁したのは茶髪で長身の温和な少年、獅子戸王貴(ししど おうき)であった。

 

「ケッ、まぁいいや。決勝にあがってくる奴らはどいつも手練れだからな、さらに《能力持ち》なら本気が出せるときた…理事長様様だぜ」

 

「確かに…そういえば正堂院くんは九重透流と天峰悠斗の2人と話したそうだが…どうだった?」

 

「どっちも強そうだったけど…どちらかと言うと天峰悠斗の方が強いわね。相当場数を踏んでるわ」

 

「そうか…いずれにせよ相手にとって不足はない…全力でいこう」

 

そう言う王貴の顔は笑っていた。

彼らこそ、この昊陵学園の3年にして《Ⅳ》の《超えし者》である3人である。彼らの強さはこの昊陵学園でもトップクラスであることは言うまでもない。

 

「若鳥たちに3年の壁を教えてあげようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったな梓」

 

「当然です」

 

戻ってきた梓を巴たちが迎えると得意げに梓が微笑んだ。

 

「悠斗さん、私が次勝てば貴女と当たります。お互い全力で闘いましょう」

 

梓はまっすぐと悠斗を見てそう言った。

 

「もちろんぶつかったら全力で闘うさ。でも気をつけろよ梓、次の相手は3年、しかも《能力持ち》だ。」

 

「わかってますよ、だから全力を尽くします。」

 

そう言って梓は笑った。

 

 

 

 

 

 

そして試合開始直前

 

「…はぁ…はぁ…」

 

梓は壁に手を当てて深呼吸していた。

 

対戦相手は3年の明らかな格上、悠斗たちの前では平然としていたが梓は緊張で押しつぶされそうであった。

 

「…まさか…この私が緊張してしまうなんて…でも障害物やトラップが使えない以上視線誘導や小細工では限界がある…」

 

間違いなく今回の相手は今までのようなやり方では勝てない…そう思うと体が震えだしたのだ。

 

ガチャ

 

「梓、もうすぐ会場に行かないと…ってどうしたんだ梓そんなところで?」

 

「巴さん…」

 

「もしかして…緊張しているのか?」

 

扉から巴が出てきて梓の様子に気づいた。

 

「はい…すいません、さっきまでカッコつけてたのに…蓋を開けてみればこんなに震えて…今までは…暗部にいた頃は平気だったのに…体が震えるんです…」

 

梓は涙目になりながらそう呟いた。

 

「心配するな梓、私が付いている。」

 

巴はそう言うと優しく梓を抱きしめた。

 

「巴さん…」

 

「私の昔から緊張などよくしている。大事な試合なら尚更な、だけど落ち着いて呼吸をするんだ。大丈夫だ、自分を信じるんだ。」

 

巴のまっすぐとした言葉が梓に響いていた。自分のことをここまで心配してくれる巴に梓は感謝しきれなかった。

 

「…ありがとうございます巴さん…もう大丈夫です。」

 

その時の梓は迷いのないまっすぐな目であった。

 

 

 

 

格技場

 

『ただいまから、1年《Ⅲ》不知火梓対3年《Ⅳ》正堂院律の試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』

 

三國のアナウンスを聞き、梓と対戦相手の律が格技場中央に来た。

 

『なお、《Ⅳ》の正堂院律は《煉業》の使用は禁止ですのでご了承ください』

 

両者の目はまっすぐと互いを見つめていた。

 

「梓さんでしたよね?お互い全力で闘いましょう。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。3年の力見せていただきます。」

 

互いに笑みを浮かべ臨戦態勢に入った。

 

『それでは両者《焔牙》を出してください』

 

三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。

 

「「《焔牙》!!」」

 

2人か掛け声とともに焔が形を作り《大鎌(デスサイズ)》と《洋弓(アーチェリー)》の形になった。

 

『両者、試合開始!!』

 

三國の合図とともに梓は一気に間合いを詰めた。

律の《洋弓》は先ほどの相手の《三叉槍》と違い間合いを詰めなければこっちがやられる。

ならば間合いを詰めて矢を射らせなければ良い。そうすればこっちの方が有利だ。そう思いながら梓は間合いを詰めて律に斬りかかった。矢を構える隙も与えない…

 

決まった_______!!

 

そう思いながら《大鎌》を律へと叩きつけようとした。

 

 

 

ガキィンッ

 

 

 

「なっ……」

 

金属音とともに梓の《大鎌》が律の《洋弓》によって防がれた。そう、律は梓の《大鎌》の一撃を自身の《洋弓》だけで容易く防いだのだ。普通弓で大鎌を防げば弾き飛ばされるだろう…しかし、律の《洋弓》は強力な《大鎌》の一撃を防ぐだけの頑丈さを持っていた。そして、何よりその強力な一撃を防いで一歩も下がらず踏みとどまった律の膂力もかなりのものであった。

 

「いい一撃ね…並みの相手なら今ので終わっていたかもしれないわ…だけど…1つだけ言わせてもらうわ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Ⅳ》をなめるな」

 

鋭い言葉とともに梓は蹴り飛ばされた。

 

「ぐっ…!!」

 

とっさに片手でガードしたが体が後ろに下がってしまった。

 

(いけない…距離を離したら…)

 

ふと律の方を見ると律はすでに矢を構えていた。

 

シュッ!!

 

風切り音と共に矢が梓へと向かっていった。

 

「っ!!」

 

梓は咄嗟に躱すと先ほどまでいた場所に矢が5本刺さっていた。あの一瞬で5本も同時に射る技量は並みの実力者では無い……それも当然である。正堂院律は1年で《Ⅲ》へと到達し、その後、2年の終わりに《Ⅳ》になってからも更に過酷な訓練をし、時には任務として危険な戦地にも赴いているのだ。戦闘力、経験値、知略、そのどれを取っても彼女は並外れた実力者なのだ。更に、この学園のトップ3は伊達ではないということだ。

 

 

 

 

 

「これが……3年生……《Ⅳ》……強い……」

 

その時の梓の顔はは笑っていた。

 




久しぶりに書きました!!

これからもかなり更新が遅いかもですがこれからも書いてきますので今後ともヨロシクお願いします!!


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38話 悔しい

梓VS律決着です


 

 

 

「梓のやつ、良い調子だな。律先輩相手に自分のペースで闘えてる」

 

「そうだな、試合開始の時はかなり緊張していたみたいだったがだいぶ落ち着きを取り戻したようでよかった。」

 

観客席では悠斗と橘が梓の試合を観ていた。

 

「だがあの律先輩という人…確かに相当の実力だな…」

 

「あれは実戦弓術だな、より戦に適した構え方で矢を続けていることが出来ている…」

 

悠斗は素直に正堂院律という先輩の力量に驚いていた。

悠斗自身も彼女はどの弓術の使い手は滅多に見たことがない。狙撃といえば間違いなく《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》の1人であるコロネロを、銃でいうならヴァリアーのボス、XANXUSを思い浮かべた。だが弓矢ではどうだろうか、同じ守護者の獄寺は形態変化で弓矢を使うが彼の得意とするのは爆弾術だ。純粋な弓術では彼女ほどの腕前を持つ人間は見たことがなかった。

 

「しかもあの先輩…もしかしたら…勝負は短期決戦にした方が良いかもしれない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつやっぱりやるじゃねえか、律の五連撃を躱しやがったよ」

 

観客席の別の場所では仁哉が笑いながら王貴と一緒に梓と律の闘いを観ていた。

 

「にしても律のやつ初っ端から本気で向かってやがるな。あいつもスイッチ入ってるのかねえ…」

 

「そうだね、いつもより集中しているね。やっぱり今年は優秀な1年がいるみたいだからかな?あの梓って娘もなかなかの実力だね。足の運びをみる感じだと…あれは暗殺術の足さばきだね。相手の死角から音もなく攻撃する。相当訓練された動きだねぇ…」

 

王貴は2人の闘いを観ながら梓のことを分析していた。

獅子戸王貴は3年の中の《高位階(ハイレベル)》の中ではダントツの実力である。常にみんなの中心におり、そして、人を見る才に関しては人一倍であった。

 

「うん、あの娘…良い腕だよ。ちゃんと律と互角に闘っている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近接格闘(クロスレンジ)ではね」

 

 

「中々やるわね、正直ここまでやるとは思わなかったわ」

 

「先輩こそ…やっぱり強いですね」

 

梓は律の強さに冷や汗をかいていた。

 

(…この人、やっぱり強い。さっきから私の攻撃を全部弓でガードしている……遠距離戦闘だけじゃなくて近距離戦闘にも長けている。)

 

基本的に弓兵の弱点は接近戦である。間合いを詰められれば矢を構えて放つといった動作が必要になる弓術は不利になるのは至極当然であろう。だからこそ梓は試合開始早々間合いを詰めて一気に畳み掛けているのだ。

しかし、相手の正堂院律は距離を詰められても弓を使って梓の《大鎌》をしっかり防ぎ、さらには弓を使ってのカウンターを仕掛けてきた。

 

(さすがは3年生…近接対策もしっかりこなしているってわけですか…でもこの程度なら対処はできる。接近戦に持ち込めばまだ勝機はあるはず…)

 

梓がそう思いながら《大鎌》を構えて律を見つめた。

 

「さて、そろそろこっちも全力で狩らせてもらいますか」

 

そう言うと、律は鋭い目つきになり息を整え《洋弓》を構えた。

 

「…!!させません!!」

 

直感で何かを感じた梓は律に《大鎌》で斬りかかろうとした。

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

梓の一撃は空を切りその視界から律の姿が消えていた。

 

(見失った?でも何処に…)

 

その瞬間、背後に寒気を感じ梓が身をよじると後ろから矢が放たれた。後ろを見ると、律が矢を構えてそこにいた。

 

(なっ_______!?いつの間に背後に……!?)

 

慌てて梓は律に接近して距離を詰めようとした瞬間、律は梓の突進を容易く避けて再び矢を放った。

 

「ぐっ…」

 

矢はかわしきれず梓の肩をかすめた。それからも梓は距離を詰めようとするものの、中々距離が縮まらず苦戦し始めた。

 

 

 

 

「一体どうしたというのた?…急に律先輩の動きが良くなったぞ?」

 

「たしかに…急に梓の攻撃が見切られるようになった…」

 

観客席でも急に律が梓の攻撃をかわすようになったのを見てトラと透流が不思議がった。

 

「多分、律先輩は梓の攻撃パターンを読んでるんだ。」

 

そんな中、悠斗は律の急な反撃の謎を分析した。

 

「さっきまでの闘いを観てた時、少し違和感があったんだ。まるで、梓のことを観察しているような感じだった……多分、律先輩は梓の癖や足運び、予備動作から梓が次にどう動くのかを分析していたんだ。」

 

そう、正堂院律は闘いの中で梓の攻撃の際の僅かな癖を見て梓の攻撃パターンを読み、彼女の攻撃をかわして間合いを支配したのだ。

 

「私弓兵なもので、相手を分析するのは得意なのよね。あなたの事、色々と『観察』させてもらったわ。ここからは私のターンよ」

 

律は矢を構えて再び梓へ矢を放った。

慌てて梓は躱したが気づくと律は既に梓へと次の矢を構えており脇腹に食らってしまった。

 

「うぐっ……このぉ!!」

 

律は《大鎌》を地面に叩きつけて目くらましをしようとするがすぐさま律は矢を放ち阻止されてしまった。それからも律は梓の戦術をことごとく封じ込めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(通じない……私の戦術の全てが…この人を倒すヴィジョンがわかない……)

 

梓は目の前の正堂院律に恐怖を覚えてきた。自分の全てが、全く相手に通じなくなった。先ほどまでの接戦が嘘のようになり完全に相手のペースになってしまった。

彼女の弓をなんとか躱しているがそれでも躱しきれず矢が掠っていく。自分の攻撃が当たらない…

 

(勝てないの?私は……このままこの人に勝てないって事?)

 

視線誘導も、目くらましも通じない……かといって正面衝突で倒せるかどうか……ダメだ、相手は自分より位階の高い《Ⅳ》……正面からぶつかって勝てる相手では……もうダメなのか?……もう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心配するな梓、私が付いている。』

 

『落ち着いて呼吸をするんだ。大丈夫だ、自分を信じるんだ。』

 

「……っ!!」

 

その時、梓は自身の絆双刃である橘の言葉を思い出した。

 

「そうだ……落ち着くんだ……こんなところで諦めたら……巴さんに……合わせる顔がないじゃ無いですか……みんなを欺き続けていた私を許してくれた……信じてくれた大切な友達に示しがつかないじゃ無いですか!!」

 

梓は覚悟を決め、再び律の前に立ち呼吸を整えた。

 

 

 

 

「……顔つきが変わった……どうやら覚悟を決めたみたいね……そういう事ならこっちも手加減しないわよ。かかってきなさい」

 

梓の変化に律は笑みを浮かべながら再び矢を構えた。

 

「ハァァァァア!!」

 

梓は気合いのこもった声でまっすぐに律へと向かっていった。

 

(……向かってくる?でもそれじゃあ同じことよ!!)

 

梓は少し疑問を抱きながらも梓の攻撃を避けようとした。

 

 

 

しかし、

 

 

 

「……なっ!?」

 

 

 

梓の攻撃は律の予測を超えた速さであった。

そう、予備動作から行動への時間差が縮まっているのだ。

律は梓の攻撃を《洋弓》でガードし再び距離をとろうとしたが梓は休まず攻撃を繰り出し続け、律に回避の暇を与えようとしなかった。

 

(まさか……この私が……ペースを崩されるなんて……)

 

律はガードしながら唇を噛んだ。完全に自分の油断であった。相手を過信していた自分の失態である。それが律には、3年生として情けなかった。

 

 

 

 

 

(いける……このまま一気に畳み掛ける……必ず勝つ…いや違う…勝ちたいんだ!!)

 

梓は自分に湧き上がる感情に、勝利への渇望に気づいた。自分の親友たちへ、勝利を捧げたかった。初めて自分に現れる感情、かつての自分にはなかった感情……

 

「私は…絶対に……勝つんだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なめるなぁぁぁぁ!!」

 

瞬間、律が強力な掌打を梓の腹部へと叩きつけた。

 

「がはっ!!」

 

《Ⅳ》に超化された《超えし者》の一撃に梓はそのまま体が浮いた。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正堂院流一之秘弓_______《北風》」

 

梓の渾身の矢が梓に直撃し、そのまま梓は意識を失った。

 

 

 

 

『それまで!!勝者正堂院律!!』

 

ウワァァァァァ!!

 

三國のアナウンスとともに試合が終了し、律はそのまま去っていった。

 

「律のやつ、少し不満な様子だな」

 

観客席では仁哉と王貴が会場を去る律を眺めていた。

 

「まぁ最後の方でペースを崩されたからね、それが納得いかなかったんでしょ。まぁあれは梓さんの意地だろうね。でも梓にも意地があった。だからこれは意地のぶつかりあいだろうね」

 

「あーそれいつも思うんだけどよぉ……意地の比べっこってさぁ…じゃあ負けた方の意地は弱かったのか?ってことになっちゃわないか?」

 

「……そう、意地は互角だった。だからやっぱり最後は自力の強さだろうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……ここは……?」

 

「目が覚めたか梓?」

 

梓が目を覚ますと橘が心配そうに見ていた。

 

「巴さん……っそうだ……わたし…最後に矢を食らって……」

 

「あぁ、残念だったが……」

 

梓は意識を失う直前のことを思い出した。

 

「すいません巴さん、少し1人に……」

 

 

 

ギュッ

 

 

 

梓が言葉を発しようとした瞬間、橘が抱きしめてきた。

 

「巴さん……?痛いですよ……離して…」

 

「いい試合だった、梓はやっぱり私の自慢の絆双刃だ。」

 

橘には感じたのだ。あの試合から梓の想いが、覚悟が、しっかりと橘の心に響いていた。そして橘の抱擁に梓も抑えていたものが一気に弾けた。

 

「巴さん……あ……わた……し……う…うわぁぁぁあん!!」

 

梓は橘を強く抱きしめて……泣いた。

 

 

 

 

 

医務室に少女の泣き声が響いていた。

 

 





最近寒いですか、体に気をつけてください。
自分も喉が痛くてのどぬ〜るスプレー使ってます。








あと感想欲しいなぁ…


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39話 天峰悠斗の《死ぬ気の炎》特別講座

今回……最後の方修羅場かも…


 

「それじゃあみやび、今日はリングに炎を灯す練習をしよう」

 

「う…うん。お願い悠斗くん」

 

現在は仙伐戦の休憩時間、悠斗とみやびは人気の無い森の中で特訓を行なっていた。イノチェンティの騒動で《死ぬ気の炎》を使ったみやびに悠斗は《死ぬ気の炎》の使い方を教える事になっていた。

 

「まずは《死ぬ気の炎》について教えるよ。《死ぬ気の炎》て言うのは簡単に言うと生命エネルギーだな。炎には主に7つ…いや、8つの属性があるんだ。」

 

「属性?」

 

「《晴》、《雨》、《嵐》、《雷》、《雲》、《霧》、《雪》…そして《大空》だ。そして炎にはそれぞれに性質があるんだ。まずみやびの属性は《晴》だったな。《晴》は《活性》って特性があるんだ。傷を癒したり成長を促したりと結構便利な属性だな。そして俺の炎の性質《凍結》って言ってあらゆる機能を停止させたり冷気を操ることが出来る能力だ」

 

そう言って悠斗はどこから出したのかホワイトボードに炎の属性とそれぞれの性質を記入した。それを見ながらみやびはノートにまとめていた。

 

「よし、それじゃあ次はリングに炎を灯す方法について教えるよ」

 

そう言うと悠斗はポケットからリングを1つ取り出して指にはめた。

 

「リングは使用者の波動…つまり生命エネルギーが通過するとそれを高密度エネルギーに変換して死ぬ気の炎を生成出来る。」

 

そう言うと悠斗は指にはめたリングに炎を灯した。その炎はとても澄んだ真っ白な炎でありみやびはその美しさから目を離せなかった。

 

「そしてここが一番大事なんだけど炎の威力は使用者の波動を計る尺度である炎の純度に依存しているんだ。さらにリングの属性と使用者固有の波動の属性が一致しなければリングに炎を灯すことは出来ない。だから《晴》の炎の使い手は適正がない限り《雨》のリングに炎は灯せないってな感じだな。まぁ百聞は一見にしかず、リングをはめて見てくれ」

 

「う…うん」

 

みやびは悠斗の言われた通りに指にイノチェンティから貰ったリングをはめると

 

「えいっ…」

 

みやびは体に力を入れてリングに炎を灯そうとした。しかし、リングからは炎は出なかった。

 

「あれ?」

 

「みやび、力で炎を灯すんじゃない。《死ぬ気の炎》を灯すのに何より必要なのは確固とした強い覚悟だ。」

 

「覚悟……」

 

悠斗の言葉を聞きみやびは息を整えて静かに目を閉じた。

 

(わたしは…強くなりたい…みんなと一緒に戦えるように…わたしを絆双刃に選んでくれた…わたしの大好きな悠斗くんのために…!!)

 

ポゥッ

 

その瞬間、みやびのリングから黄色い炎が出た。

 

「うわぁ…」

 

「よし、第1関門『リングに炎を灯そう』は成功だな。よくやったなみやび」

 

そう言うと悠斗は優しくみやびの頭を撫でた。

 

「えへへ…」

 

「さて、それじゃあ次は匣(ボックス)兵器の使い方について教えてみるか」

 

そう言うと悠斗は腰から手のひら大のサイコロ状の匣を取り出すと。

 

「開匣!!」

 

リングの炎を匣へと流し込んだ。すると、匣が開き中なら白い炎の灯った小さなナイフが数本出てきた。

 

「これは匣兵器って言ってな。この中にはこいつみたいな《死ぬ気の炎》を動力源に動く道具が入っている。武器だったり医療用の道具だったり、あとは動物だったりな」

 

「動物?」

 

「そう、《死ぬ気の炎》で動く動物、《匣アニマル》だ。いわば自分のパートナーって感じだな。例えば…こんな風にな」

 

そう言うと悠斗の首のチョーカーが光り白銀の鎧に覆われた白い狼が出てきた。

 

「こいつが俺の相棒の銀牙だ。銀牙、みやびに挨拶だ」

 

「ガウッ!!」

 

悠斗がそう言うと銀牙はみやびに近づき尻尾を振りながら吠えた。

 

「えっと…よろしくね銀牙」

 

みやびも恐る恐る銀牙の頭を撫でると銀牙も体を擦り寄せてきた。

 

「銀牙もよく懐いているみたいだな。さて、みやびの匣は…っとそうだ、確かみやびってイノチェンティから匣貰ってなかったっけ?」

 

「ええっと…これ?」

 

みやびは以前イノチェンティから貰った匣を取り出した。

 

「そうそうそれそれ、試しにそれに炎を注入して見なよ。その穴にリングを当てて炎を注入すれば何か出てくると思うから」

 

「うん」

 

みやびは丸い穴へと炎が灯ったリングを押し付けた。

 

すると

 

ボシュッ

 

音とともに匣が開き中から黄色い炎の塊が出てきた。

炎の塊は次第に形を作っていき…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅ〜」

 

耳と尻尾に炎が灯った生き物へと形を変えた。それは大きな耳と尻尾を持った小さな狐のような生き物だった。

 

「これは確か…え〜〜っと…そうだフェネックだ!!」

 

「この子がわたしのパートナー…」

 

「きゅう?」

 

フェネックは首を傾げながらみやびを見つめて尻尾を振った。

 

「可愛い…よろしくねキューちゃん」

 

みやびは匣から出てきた《晴フェネック(フェンネーク・デル・セレーノ)》ことキューちゃんを抱きかかえると優しく頭を撫でた。

 

「しかしフェネックか…どんな能力なんだろうな」

 

「ガウ」

 

リンゴーン…リンゴーン…リンゴーン…

 

鐘の音色とともに休み時間終了の鐘の音が聞こえた。午後の部が始まるようだ。

 

「それじゃあ戻るとするか。銀牙」

 

「ガウッ」

 

悠斗がそう言うと銀牙は炎になって悠斗のチョーカーへと戻った。

 

「キューちゃん、またね」

 

「きゅ〜♪」

 

みやびも同じように匣にキューちゃんを戻して格技場へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い悪い遅くなった」

 

「何をしているのだ愚か者」

 

「まったく、次は私の試合だとこの前言っていただろう」

 

悠斗たちが戻ると次に試合を控えている橘がため息を吐いていた。透流とユリエはまだ一緒に特訓をしているのかまだ来ていない。

 

「やれやれ、この試合で勝てば決勝トーナメントで俺たちの誰かと戦うことになるのだぞ?」

 

「わかってるわかってる。ところで橘の対戦相手って誰だっけ?」

 

「……巴さんは《Ⅳ》3年兵藤仁哉さん、ちなみにその後に行われるユリエさんの対戦相手は《Ⅴ》の獅子戸王貴さんです。」

 

声が詰まりながら梓が代わりに答えた。

梓は実際に《Ⅳ》以上の《超えし者》の実力をその身に知っている。真の力を使わなくてもあれだけの力を持つ存在に自身の絆双刃が戦うことに心配しているのである。

 

「梓、心配するな。相手が格上だろうと私は諦めない。キミがあれだけの覚悟を見せてくれたんだ。私も頑張らなくてはキミに合わせる顔がない」

 

「巴さん……」

 

「貴様も橘を信じろ、橘は強い。それは貴様が一番よくわかっているだろ?」

 

橘とトラの優しくも覚悟ある力強い言葉に梓は笑みを浮かべ

 

「分かりました、私も巴さんたちを信じます」

 

『仲間を信じる』

それはかつての不知火梓には出来なかったことであろう。しかし、今は違う、今彼女の周りには心から信じられる『仲間』がいる。本当の意味での『仲間』がいる。それが梓にとって何よりも嬉しいことであった。

 

 

「うぃーーーっす、お前だろ?次の俺の対戦相手は?」

 

突如声が聞こえその方向を見ると、長い金髪をうなじで縛った3年生と茶髪で長身の温和そうな3年生がそこにいた。

 

「貴方達は?」

 

「お前の次の対戦相手の兵藤仁哉だよ橘巴、ちなみにこっちは俺の絆双刃の獅子戸王貴、俺たち3年生のエースだよ」

 

「獅子戸王貴だ、君たちの話は律くんから大体聞いているよ。」

 

悠斗達に挨拶した王貴は梓を見ると彼女に話しかけた

 

「梓くん、さっきの律くんとの戦い、実に素晴らしかった。彼女も言ってたよ。また今度戦おうってね」

 

「あ……はい、それじゃあ律先輩に伝えてください。次は必ず私が勝つって」

 

梓はまっすぐと王貴を見つめてそう言った。

 

「…わかった、律くんに必ず伝えるとするよ。」

 

王貴は優しく笑みを浮かべてそう言った。

 

「さて…今回はそのほかに伝えたいことがあったんだ」

 

「お前…本気で言うつもりかよ…」

 

すると王貴の言葉に仁哉はため息を吐きながらそう言った。王貴は何も返さずそのままみやびの前に立った。

 

「穂高みやびくん、実は僕は君のことを入学ごろから知っている」

 

「えっ…?」

 

「いつも休まず走り続けているのを偶然見かけてね、強くなろうと頑張り続けるその姿に、僕は心を奪われていた…」

 

王貴は頬を少し赤く染めみやびを見つめた。

 

「だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕と付き合ってほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲が絶対零度に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ?」





次回…悠斗が怒ります


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40話 狼と獅子


修羅場です


 

「ふぅ…特訓してたら思ってたより遅くなっちまったな」

 

「ヤー、これ以上待たせるのは巴たちに悪いです。はやくみんなのところに行きましょう」

 

透流とユリエの2人は一緒に特訓していたのだが思ってたより時間がかかってしまい、慌てて巴たちのいるところへと向かっていた。

 

「……さっきトーナメント表を見たけど…俺の次の対戦相手はトラだった…ユリエは…」

 

「………獅子戸先輩です」

 

そう、ユリエの次の対戦相手はこの学園で生徒では唯一の《Ⅴ》、間違いなく学園最強の一角である。以前の《殺破遊戯》の時は《Ⅳ》以上の3人は別の任務に赴いていたため彼らの実力を知らないが、梓と3年生の1人正堂院律の試合で3年生のトップランカーの実力は相当なものだということが判明した。ユリエの相手はその中でも最強、しかも格上の相手である。

 

「…心配いりませんトール、私は全力で戦って必ず勝利します。」

 

心配している透流の目をユリエはハッキリと見つめていた。

 

「………そうだったな、応援してるぞユリエ。決勝トーナメントで必ず戦おうな」

 

「ヤー、透流にも、そして悠斗にも負けないつもりです」

 

2人は笑いながら勝利を約束し、観客席へと入った。

 

「悪い悪いトラ、特訓が思ってたより長引いちま………って………?」

 

観客席へ入った途端、あたりの空気の冷たさに2人は気づいた。ふと、そこをみるとトラ、リーリス、橘、タツの4人が真っ青な顔をしておりみやびが何か慌てていた。

 

「どうしたんだトラ?この冷たい空気は?」

 

「………あれを見てくれ………………」

 

トラに言われて視線の先を見ると………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

銀色の髪と金色の瞳の少年、天峰悠斗が怒りを露わにして睨みつけており、その先には茶髪で長身の少年、獅子戸王貴が笑みを浮かべて睨み返していた。

 

「え………………?どうしたんだよ悠斗の奴………何があったんだ?」

 

「………地雷を踏んだのよ………獅子戸先輩が………」

 

透流が怒りの形相を浮かべる戸惑っていると顔を真っ青にしてリーリスが答えた。

 

「私が言うのもなんだけどまさか悠斗の前でみやびに告白するなんて………」

 

 

 

 

 

 

 

 

穂高みやびは実を言うと学園でもかなり人気の少女だ。

その容姿とスタイルは勿論、明るくそして誰にでも優しく彼女のファンと言う男子も少なくは無い。しかし、今この昊陵学園において彼女に告白しようと言う輩はいない…それは何故か………それは彼女に天峰悠斗と言う彼氏がいるからだ。

同学年では敵なし、頭も良く容姿も完璧、そして何よりみやびの絆双刃であり、彼女と最も親しい。そして遂には2人は恋人同士となって学園の誰もが認めるラブラブカップルになっている。そんな2人を知ってるからこそ他のファンたちは潔く諦め2人を見守っている。

そして、天峰悠斗もみやびのことをとても愛しており彼女に手を出そうものならこの最強の狼の怒りを買うであろう。故に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天峰悠斗は威圧する。『俺のみやびに近づくな』と

 

 

しかし、獅子戸王貴は動じない。彼はこの学園でも最強の一角として数多の修羅場をかいくぐってきた。このくらいの威圧は数え切れないほど向けられてきた。今更何に動じると言うのか?何より彼は学園でも他の2人、正堂院律と兵藤仁哉と一緒に御陵衛士を率いて特別任務に赴きいくつもの死線を乗り越えている。故に、これくらいどうってことないのだ。そして彼、獅子戸王貴の実家は表でも裏でも名の知れた大物の家系であるのだ。故に彼は威圧ごときで屈してはならないのだ。故に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅子戸王貴も威圧する。『穂高みやびは僕がもらう』と

 

 

 

 

 

 

 

「悠斗の奴………こんなに怒りを露わにするなんてな………すげぇ怖い………」

 

「その怒りを買う言葉をなんの躊躇も無く口にできる獅子戸先輩には驚きしかないわよ………」

 

透流とリーリスは目の前で行われている狼と獅子の衝突を見守ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩………今………ふざけてるとしか思えない言葉を聞いたんですが………気のせいですか?」

 

「うーん………ふざけているつもりは無いんだけどな………僕は本気でみやびくんに交際を求めているんだ」

 

氷の刃のように鋭く冷たい視線で悠斗は王貴を見つめていた。

 

「あの………知らないんだと思うのですが………俺とみやびは付き合っていますよ」

 

「あぁ、知っている。その上で言ってるんだ」

 

「んだとテメェ」

 

王貴の言葉に悠斗の口調が変わった。

 

「無論君に引いてくれと言うわけでは無い。最終的に決めるのはみやびくんなのだからね…確かに君とみやびくんは付き合っている………だけどだからみやびくんに僕が気持ちを伝えてはいけないと言う道理はない。僕はこの仙伐戦でみやびくんに僕のことを知ってもらいその上で彼女に告白しようと考えているんだ」

 

「なんの屁理屈だよテメェ………俺がそんなこと認めると思ってるのか?」

 

「君はもう少し先輩に対する言葉を丁寧にした方が良い………それに、みやびくんを束縛するのは良くないと思うよ」

 

2人の空気はさらに重いものとなり周囲の空気はさらに冷たいものへとなった。

 

「ちょ………2人とも………もう直ぐ試合なんだからこんなことで争うのは………」

 

 

 

 

 

「「こんなこと?今(俺/僕)たちは大事な話をしてんだよ」」

 

「ごめんなさい」

 

透流の言葉に2人の言葉が一致し透流は恐怖に震えた。

 

「まぁさっきも言ったように最終的に決めるのはみやびくんだ。今は引かせてもらうとするか。じゃあまたねみやびくん。僕の試合、見ててくれ」

 

そう言うと王貴は呆れる仁哉を連れて笑みを浮かべながら手を振り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぶっ殺す」

 

静かに悠斗はそう呟いた。

 

「悠斗くん………」

 

みやびは悠斗に話しかけようとしたが悠斗はみやびを見つめると

 

「みやび、改めて言わせてもらう」

 

先ほどの怒りの形相が嘘のような優しい笑みを浮かべていた。

 

「俺はみやびのことが好きだ。愛している。だからこの仙伐戦で俺は必ず優勝する。俺は………お前に絶対に嘘はつかない」

 

その言葉にみやびは顔を赤く染め、そして嬉しそうに微笑んだ。

 

「うん、わたしも悠斗君が好き。その気持ちは変わらない」

 

そう、2人の繋がりは簡単には千切れない。考えるまでも無いのである。そんな2人を見て透流達はホッとした。

 

 

 

 

「まぁそれでもあいつはぶっ殺してやる」

 

「悠斗くん!?殺さなくて良いからね!?」

 

それでも悠斗の怒りはとんでもないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、ライバルは強敵みたいだね………」

 

「お前なぁ………」

 

その頃王貴と仁哉は廊下を歩いていた。

 

「だから言ったじゃねぇか『諦めろ』って。あの2人の中はマジだよ。お前に勝ち目は無え。余計なことしてかき乱すのはやめろ」

 

仁哉は溜息を吐きながらそう言った。

 

「………諦めない」

 

しかし、王貴の想いは変わらなかった。

 

「王貴お前…」

 

「君の言うとおりだよ。あの2人の関係は語れないほどに強い愛で結ばれてる…僕では勝負にならないかもしれない…」

 

獅子戸王貴は分かっていた。自分の入る余地は無いかもしれないと

 

「でも……それでも僕は諦めたくない……この気持ちだけは譲れない……」

 

それでも彼は諦めない。それだけ彼はみやびに想いを寄せているのだ。それは何故かを兵藤仁哉は知っている。

 

「はぁ………ほんとお前ガキの頃から変わんねえな………分かったよ。まぁ駄目元でやってみろ。俺は次が試合だから先行ってるぞ」

 

溜息を吐きながら仁哉は廊下を先に歩き出した。

 

「………ありがとう。仁哉」

 

 

 

 

 

 

時は進んで現在格技場、今から橘巴と兵藤仁哉の試合が行われようとしていた。

 

『それでは両者《焔牙》を出してください』

 

三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。

 

「「《焔牙》!!」」

 

2人の掛け声とともに焔が形を作り、橘は《鉄鎖》を、仁哉は《鎌刀(ハルパー)》を手に構えた。

 

『両者、試合開始!!』

 

ついに試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は修羅場回でありました。








感想待ってます。


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41話 落ちこぼれの獅子


ほとんど回想です


 

兵藤仁哉はふと過去を思い出していた。

キッカケは自身の絆双刃である獅子戸王貴が1年のエース天峰悠斗の彼女である穂高みやびに告白をした後に廊下で見せた真剣な顔を見せたからである。仁哉は何故自身の絆双刃があそこまで彼女にこだわるのか知っているのだ。

そのことを説明する前にまず獅子戸王貴につい説明しよう。

 

 

 

 

獅子戸王貴と兵藤仁哉の出会いは今から10年前まで遡る。兵藤仁哉の父親は獅子戸王貴の父親の右腕でありあらゆる困難を共に切り抜けていった中である。そういったことから息子の仁哉も王貴に幼い頃から彼と共に暮らしており両親からも『お前が王貴様を支えるのだ』と教えられていた。しかし、彼は幼い当時の王貴が嫌いで仕方がなかった。

今では学園最強の一角である彼だが幼少期の彼は今とは比べ物にならないほどの落ちこぼれであったのだ。

勉強めスポーツもてんでダメ。転んだら泣き出し、おねしょをしたら泣き出し、チワワに吠えられたら泣き出し、迷子になったら泣き出し、しまいには『泣き虫ライオン』と周囲からイジメられていた。そして仁哉自身も彼をイジメていた。

気に食わなかったのだ。こんな奴が自分の上に立つのか?こんな泣き虫を俺は支えなければいけないのか?冗談じゃない。俺の人生はこんな奴のお守りのためにあるんじゃない。こんな奴のために俺は人生を浪費しなくてはいけないなんて話にならない。気づいたら仁哉は王貴を殴っていた。他のいじめっ子にイジメられていたところに割り込んで思いっきりボコボコにした。

 

「ウンザリなんだよ!!俺のオヤジたちも王貴さま王貴さま王貴さまってさぁ!!なんでこんな奴に俺が従わなきゃいけないんだよ偉いのはお前じゃなくてお前のオヤジだろ!?なんで俺までお前のお守りをしなくちゃいけないんだよ!!俺より弱くてバカで泣き虫な奴に俺が仕えなくちゃいけないんだよ!!俺は絶対にお前を守ってやらねえからな!!俺を従えたきゃ俺より強くなってからにしろよ!!」

 

思いっきり殴り終えた仁哉は自分の怒りを思いっきりぶちまけた。それは王貴の本心であった。自分の親の上官の息子だからって自分まで従わなくてはいけない………それが我慢ならなかったのだ。怒りをぶちまけたあと仁哉はそのまま立ち去ろうと倒れる王貴に背を向けた。

 

 

「まて………よぉ」

 

その時、後ろから声が聞こえた。後ろを振り向くと涙で顔をくしゃくしゃにした王貴がボロボロの体を無理やり起こしてこちらによろよろと歩き出した。

 

「そんなこと………わかってるんだよぉ………そんなことぉぉぉぉぉ!!」

 

王貴は叫びながら仁哉に殴りかかってきた。

 

仁哉は向かって来る拳を躱すと王貴はバランスを崩し地面に倒れた。しかし、王貴は諦めずに立ち上がり取っ組みあった。

 

「お前に分かんのかよぉ!!周りから父さんの子供だからって勝手に期待されてぇ!!失望されることがぁ!!それでも俺はぁ……父さんの子供であることが……誇りなんだよぉ!!」

 

「だったらなんでそんな泣き虫なんだよ!!手前のオヤジは偉大なんだよ!?誇りなんだろ!?なんでそんなに弱いんだよ!!」

 

「うるせぇ!!部下のくせに生意気なんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は再び殴り合い始めた。そうしてお互いが力尽きるまで殴り合い続け、空は暗くなり始めていた。

 

 

 

 

「何度だって………言ってやる………俺は…自分より弱い奴の指図は受けねぇ………俺を従えたいなら………俺より………強くなれよ…」

 

「言われ………なくたって………なってやる………スッゲー強くなって………お前も………俺を見下す奴らも…黙らせてやる………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして2人はそれからもぶつかり合った。王貴はそれからもなんども仁哉とぶつかり仁哉がそれを向かいうち殴り飛ばし……王貴がテストで20点とって大喜びした問題で仁哉が100点とって仁哉が王貴を鼻で笑い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7年後………とある中学校の体育館裏

 

「オラァッ!!」

 

「せいやぁっ!!」

 

そこでは2人の中学生が殴り合っていた。

1人は金色の髪を振り乱した改造学ランの少年兵藤仁哉、もう1人は茶色い髪をストレートにした少年獅子戸王貴。成長した2人は今では日課となった殴り合いを続けていた。

 

「くそっ………泣き虫ライオンの分際で………いい加減倒れろよ馬鹿………」

 

「そういう仁哉だって………産まれたての仔牛みたいじゃないか………そろそろ休んだら良いんじゃないかい?」

 

「先にお前が休めやアホ、そうしたら俺が休める」

 

「仁哉が休みなよ………僕はまだ立てるから………ヘロヘロで立てない仁哉はもう休んで良いんだよ」

 

「俺の方が元気だから泣き虫ライオンのお前が休めアホ」

 

「前から思ってたけど仁哉って暴言のポキャブラリー少ないね」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「殺す!!」」

 

再び2人は殴り合いを始めた。

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………結局今日も引き分けか………」

 

「はっ………お前にはゼッテー勝たせねえ………」

 

互いに疲れが極限に達した2人はそのまま力尽きその場に倒れた。

 

「ねぇ仁哉………僕たち………まだまだだね………」

 

突然王貴がそう呟いた。

 

「なんだよ急に………?」

 

「この7年で確かに僕たちは強くなった………でも………まだ足りない………もっと強くなれると思うんだ………僕たち………」

 

「………そうだなぁ………お前が強くならんなら………俺はもっと強くなれるよな………」

 

「僕の方が強くなるけどね………」

 

「いや俺の方が強くなるから………」

 

倒れた状態のまま2人は再び口論をした。

すると、王貴は懐から一枚の紙を取り出すと仁哉に見せた。

 

「なんだそりゃ?学校案内?」

 

「昊陵学園って言ってね………一般の高校と違って、特殊技術訓練校……所謂戦闘技術を教える学校なんだって。そんでもってこの学校にはさらに面白いことがあってね………なんでも《黎明の星紋(ルキフル)》っていう生体強化ナノマシンで《焔牙(ブレイズ)》っていう能力を手にすることが出来るんだって」

 

「ナノマシンだあ?なんかちとドーピングっぽくねぇか?」

 

「いや、聴いた話じゃその《黎明の星紋》ってのは体を鍛えれば鍛えるほど身体能力が高まるんだって…つまり心身ともに鍛えるってこと。僕たちにピッタリだと思うけど?」

 

その時の王貴の顔には笑みが浮かんでいた。それを見て仁哉はかつての『泣き虫ライオン』を思い出しながら笑った。

 

「なるほどな………確かに面白そうだ………良いぜ、ちょっくら挑戦してみっか………」

 

「あぁ、どっちがより高みに行くか勝負と行こうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

こうして今に至る。こうしてみるとあのバカでビビリで貧弱で泣き虫な王貴がよくまぁここまで成長したもんだと感心してしまう。まぁだからこそ競争しがいがあって良いのだが……

 

 

「あいつがみやびちゃんに好意を持ったのも………だからこそなのかもな………」

 

穂高みやびは絆双刃の天峰悠斗に比べればかなり弱い。しかし、彼女は常に強くなろうと毎日休むことなく走り続けている。そのまっすぐと強くなろうとあり続ける在り方に王貴は自分と同じものを感じ惹かれたのだろう……そしてその恋する感情は今まで鍛錬ばかりだった彼にとっては初めての恋であった。そして何よりどうしようもなく好きになってしまったのだろう………たとえ叶わぬ恋でも最後まで貫きたい…だから彼は譲らない。

 

(ま、やれるだけやってみな王貴………さてと………)

 

そして、兵藤仁哉は目の前の対戦相手を見つめた。

そこには腰まで届く黒髪の凛とした女子、橘巴が構えていた。

 

「先輩………たとえ貴方が格上の相手でも全力でいかせてもらいます!!」

 

橘はすでに臨戦態勢でまっすぐとこちらを見つめていた。

 

(あぁ………てめえは強いよ………間違いなくな………潜在能力もかなりのもんだ………けどなぁ………)

 

『それでは両者《焔牙》を出してください』

 

三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。

 

「「《焔牙》!!」」

 

2人の掛け声とともに焔が形を作り、橘は《鉄鎖》を、仁哉は《鎌刀(ハルパー)》を手に構えた。

 

『両者、試合開始!!』

 

ついに試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし試合はシュッという空気の切る音とともに

 

「………………………『蛇刈り』」

 

ザシュッ

 

斬撃の音が一瞬だけ聞こえ………

 

………………ばたり

 

橘が倒れて勝負は終わった。

 

「………………………………え?」

 

あまりの光景に周囲は一部を除いて何が起こったかわからなかった。

 

『それまで!!勝者兵藤仁哉!!』

 

三國の終了の合図とともに試合は幕を閉じた。

 

 

 

 

「………………悪いな嬢ちゃん………確かにあんたは強い………けどな、あいつとの決着が着くまでは俺は負けてやれねぇんだよ」

 

仁哉はそういうと自身の《鎌刀(ハルパー)》を消して格技場を去っていった。





橘対仁哉………一瞬で終わらせました………すいません!!
変に長引かせるのもアレだと思ったんで………







また感想とかあったお願いします


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42話 獅子の本気

お待たせしました!!
銀狼伝更新です!!


 

獅子戸王貴が彼女を見かけたのは新入生の入学式が終わって間もない頃であった。

その日彼は、いつもみたいに鍛錬を行なっており最後にランニングをしようとグラウンドへと向かっていた。

 

「……夕飯までまだ時間があるな……これならグラウンド20周くらいならいけるか…?」

 

そう考えながら歩いているとグラウンドを走っている影が見えた。どうやら先客がいるようだ。見かけない女子生徒であるのでおそらく新入生だろうと思われる。

 

「入学そうそう居残りで練習するとは…感心だな」

 

そう思った王貴は邪魔しては不味いと考えてその場を後にすることにした。

 

次の日、この日の鍛錬を終えた王貴は寮への帰り道、再びグラウンドに目をやると昨日の少女が走っていた。

 

 

次の日も、そのまた次の日も、毎日欠かさず走り続けるその少女をいつしか王貴は目で追うようになっていた。

 

 

フラフラになりながらも諦めず走り続けるその姿はとてもまっすぐでそして、とても美しかった。

 

 

 

こうして、獅子戸王貴は生まれて初めて恋をした。

 

 

 

 

 

 

「……思えば……僕は昔から修行ばかりで恋なんてしたことなかったな」

 

控え室では王貴が静かに過去を振り返っていた。

一歩でも前に進もうと努力するあの姿、そのまっすぐな彼女の姿に王貴はいつしか恋していた。今思えばもっと早くに接していればよかったと激しく後悔していた。

 

「……でも諦めない」

 

そう、それでも王貴は諦めない。たとえ可能性が限りなく0に近くても

 

コンコン

 

「王貴、そろそろ時間だぞ。さっさと準備しろ」

 

すると、自身の絆双刃である兵藤仁哉がノックしてきた。

 

「仁哉か……うん、今いくよ」

 

そう言うと王貴は立ち上がり控え室を後にした。

 

「……仁哉、必ず優勝するよ」

 

「……はいよ、まぁ精々頑張んな」

 

仁哉はため息を吐きながら笑みを浮かべ王貴にそう言った。もはや何を言ったところでこいつは諦めないのだろう、考えてみればこいつは元々そういう奴だった……ならば応援してやろう。それが長年共に闘ってきた相棒にしてやれることだ。

 

 

 

格技場

 

『ただいまから、1年《Ⅲ》ユリエ・シグトゥーナ対3年《Ⅴ》獅子戸王貴の試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』

 

三國のアナウンスと共にユリエと王貴が格技場へと姿を現した。

 

(良い目をした娘だ……こんな目をした娘には僕も全力で相手をしなくては失礼だな)

 

王貴はそう思うとふと笑みを浮かべ

 

「ユリエくん……って言ったよね?悪いけど……そんな良い目をされると……こっちも手加減出来ないからそのつもりでいてね?」

 

そう言うと自身の《焔牙》である《長剣(ロングソード)》を手に持って構えた。

 

「ヤー、もとよりそのつもりです。私は必ず貴方に勝ちます。」

 

ユリエはまっすぐと王貴を見つめ、自身の《焔牙》である《双剣(ダブル)》を構えた。

 

「……そうか」

 

王貴は笑みを浮かべた。もはや問答などいらない。あとは剣で語るのみ。

 

『両者、試合開始!!』

 

三國の掛け声と共に両者はとてつもない速さで衝突した。

 

最初の衝突を制したのは王貴であった。王貴の位階は学園最強の《Ⅴ》、ユリエよりも力では遥かに上である為当然であろう。

 

しかし、ユリエはすぐさま後ろに下がり回避することで斬撃を躱した。

 

「やるねぇ……じゃあこれはどうかな!?」

 

そう言うと王貴は続けざまに斬撃を繰り出し、ユリエはそれを躱していった。

 

(……良い動きだ、僕の攻撃をよく見ている。それに、僕の剣技の弱点を理解している)

 

まともにぶつかればユリエに勝機は無いだろう。だからユリエは王貴の弱点を読んでそこを突く作戦に出た。王貴の《焔牙》である《長剣》は射程(リーチ)や攻撃力が高い反面、手数に限度がある。その為、ユリエは間合いと攻撃を見切ることに集中して王貴の斬撃を回避しているのである。

 

(この人は私よりずっと強い……だけど……負けるつもりはありません……!!)

 

 

 

ユリエは王貴の剣戟を躱しながら反撃の瞬間を狙い続けた。長期戦になれば総合力で勝る王貴が遥かに有利になる。だからこそ、その瞬間に一気に畳み掛ける。

 

ズルッ

 

「……っ!!」

 

その瞬間、王貴の足元の砂が少し崩れ王貴はバランスを崩した。

 

「チェックメイトです!!」

 

ユリエはその隙を逃さず一気に間合いを詰めた。そして、そのまま斬りかかった。

《長剣》の最大の利点は《射程距離》、しかし、同時に間合いを詰められると一気に不利になってしまうという欠点がある。

ユリエの攻撃が王貴へと当たる。試合を観ていた誰もがそう考えた。

 

 

 

 

 

 

「……そんなんじゃそいつは倒せねぇぞ」

 

王貴の絆双刃である仁哉を除いては、

 

 

 

「………え?」

 

ユリエは目の前の状況に戸惑いを隠せなかった。

そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

片手でユリエの剣を掴んでいる王貴がいた。

 

「良い判断だと思うよ、僕の《焔牙》は間合いを詰められると攻撃しづらいからね…だけど、自分の苦手に僕がなんの対策もしないと思うかい?」

 

そう、獅子戸王貴は伊達に学園最強を名乗っているのでは無い、自分の弱点もすでに理解して対策済みであったのだ。

 

「悪いけど…反撃開始とさせてもらうよ」

 

瞬間、危機を感じたユリエは蹴りを王貴の顔面に繰り出し王貴が躱した瞬間に体をよじって王貴から離れた。

 

しかし、先ほども言ったようにこのまま時間が経てばユリエに勝ち目が無い、 ユリエはさらに斬りかかった。

しかし、王貴はその全ての斬撃を防ぎきっていた。

 

「…まじか」

 

悠斗は王貴の剣技に驚きを隠せなかった。

あれだけの剣技の使い手は数えるほどしかいない、《神滅部隊》の襲撃の際に再び出会ったミルフィオーネの霧の六弔花の幻騎士、ボンゴレ暗殺部隊ヴァリアー随一の剣士スクアーロ、そして悠斗と同じボンゴレファミリーの守護者の山本武、獅子戸王貴の剣技は彼らに限りなく近いと言っても過言ではなかった。

 

「……あの人、まさかここまで強いとは…」

 

正直に言って悠斗は獅子戸王貴の力量を侮っていた。けして弱いと思っていたわけでは無い、しかし、王貴の強さは先ほど梓と闘った正堂院律よりも上であると感じた。おそらく《焔牙》での戦闘ならば悠斗よりも上であるであろう。

 

「まずいな…おそらくユリエはあの人には勝てない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

短期決戦を狙った戦闘を全て防がれてユリエのスタミナは限界であった。

 

「なかなか良い試合だったよ、だけど……もう終わりだ」

 

王貴は《長剣》を上段に構えると再び斬りかかろうとした。

 

その時、

 

「諦め……ません……私は……」

 

キィィィィ……

 

「……なんだ?」

 

すると、王貴の耳にかすかだがユリエから高い音が聞こえた。

 

「ワタ……しは……絶対ニ……アキらメませン!!」

 

 

瞬間、ユリエの姿は王貴の視界から消えて王貴の目の前に現れ斬りかかってきた。

 

「なっ……いつの間にっ!?」

 

突然の一撃を慌てて躱すも斬撃は王貴の脇腹に直撃していた。

 

「あああアアアアあアあああっ!!」

 

ユリエは再び王貴に突進し追撃をしようとした。

 

「良いだろう!!ならこっちも加減はしない!!」

 

王貴は目を鋭くしユリエを迎え撃った。

 

瞬間、ユリエと王貴が衝突し……

 

 

 

ドサッ

 

「……獅子の鉤爪」

 

王貴の《長剣》による三連撃がユリエを捉えていた。

王貴の剣戟を喰らったユリエはそのまま静かに倒れた。

 

『それまで!!勝者獅子戸王貴!!』

 

ワァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

三國の言葉で試合は終結し会場に歓声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

試合が終わり控え室に戻った王貴はベンチに座って息を整えた。

 

(……彼女はいったい何者だ?周りは気づいていなかった様だが確かに聞こえたあの《音》……そしてあの急激な戦闘力の増加……あの動きは少なくとも《Ⅴ》相当の動きだった……彼女は……本当に普通の《超えし者》なのか?)

 

最後に見せたあの力……王貴の直感は彼女の中に見た《それ》を思い出していた。

 

 

 

「お疲れさん、最後少しひやっとしたがいつも通りの動きだったな」

 

すると、仁哉がドリンクを持って入ってきた。

 

「あぁ、ありがとう仁哉」

 

王貴はドリンクを受け取ると一気に飲み干した。

 

「次の試合はいよいよ律とお前さんの恋敵の試合だぜ、お互い《能力持ち》の闘いだ、見ねーと損するぜ」

 

「……そうだね、久しぶりに律くんの煉業を観れるのか……」

 

2人は笑みを浮かべて控え室を後にした。

 

 

 

 




久しぶりです!!こっからはまた更新していく予定です!!


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43話 天才

いよいよ悠斗の試合です


試合まで間も無くの一室で正堂院律(せいどういん りつ)が前の試合を振り返っていた。

 

土壇場での梓の反撃、あれは完全に自分の油断であった。

 

油断、自分がもう二度としないと誓ったのに………

 

「我ながら………恥ずかしいわ………後輩に偉そうに言ってたくせに………」

 

 

 

 

彼女は、入学以前の幼い頃から天才であった。勉強もスポーツも自分より上の人は男女問わずいなかった。実家の道場でも兄弟や門下生よりも優秀で中学2年には家に代々伝わる弓術の奥義以外の技を会得してしまっていた。

 

 

『つまらない………』

 

 

律はそう呟いた。自分が簡単に出来ることにみんなが苦悶する。なぜ出来ないんだろう?とまで思っていた。

 

 

 

 

しかし、祖父はそんな律を「未熟者」と言って一向に奥義を教えてはくれなかった。

 

 

『おじいちゃん、なんで奥義を教えてくれないの?私が他の門下生よりも優秀なのはわかるでしょ?』

 

痺れを切らした律は祖父に苛立ちながら問い詰めた。

すると、

 

『律、お前は確かに天才だ。だが今のお前は正堂院流弓術の奥義を伝授するには脆すぎる。』

 

訳がわからなかった…自分が優秀なのは知っているはずなのに………私の何処が脆いのか………

 

『広い世界を見てきなさい………そうすれば自ずとわかる………今のお前には………』

 

 

 

祖父の言葉の意味が何もわからないまま律は中学3年生になり進路を決める時期になっていた。

とりあえず推薦のリストにある弓道の強いところにでも入ろうかな…とパンフレットを読んでいると、ふと1つの学校が目に入った。

 

昊陵学園____一般の高校と違い、特殊技術訓練校という面がある。

この学校で教わる特殊技術とは、戦闘技術。 平和な日本において、日常必要としない術を教えるという非常に特異な学校とのことらしい。

 

さらに調べて見るとこの学園に入学すると、《超えし者》という超人になることが出来るらしい。

律はその超人になれるという話に興味が湧いた。それに、戦闘技術を学ぶ学園というのも自分好みで気に入った。そう思った律は迷わずこの学園を選んだ。

 

そして入学式、突如行われた《資格の儀》でも自分の対戦相手を難なく撃破し入学資格を勝ち取った。訓練も投与された《黎明の星紋(ルキフル)》の影響もあってなのかこなしていき、はっきり言ってここでも自分の優秀さが分かってしまった。

 

 

しかし、そんな彼女は《新刃戦》にて知ってしまった、「世界の広さ」というものを、

 

 

《新刃戦》当日、向かってくる相手を5組ほど倒した頃、その2人が現れた。

 

獅子戸王貴と兵藤仁哉、いつも互いに競い合っている絆双刃である2人であった。

 

『次は貴方達ね?倒してあげる♪』

 

誰が来ようと関係ない、向かってくる敵を倒す。たったそれだけのシンプルなことだ。そう思った。

 

『………仁哉、彼女は僕1人で行くよ。君は絆双刃の足止めをお願い』

 

『あいよ』

 

突然、王貴が静かな口調でそう言った。それは『彼女は自分だけで充分』と言われたようであった。

いや、そうでなくても明らかに舐められている。そう確信した。

 

『………舐めないでくれる?』

 

律はそんな彼に腹が立ち戦闘態勢に入った。

 

(甘く見られたものね………私の力思い知らせてあげる!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なにが………起こって………?』

 

気づいたら自身の体が地面に倒れていた。立ち上がろうとしても体が動かずこの時、自分が斬られたのだと気づいた。

 

『君が強いことは分かってたよ……けど…君、自分の負けるところを考えたこと無いでしょ?相手を舐めてるよう人には僕は負けないよ』

 

霞れていく意識の中で王貴の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたベットの上でハッキリと分かった。自分は負けたのだと、それもなすすべもなく、斬り伏せられたのだと、今まで一度も負けたことがなく、いつもみんなの上に立っていた自分が…

 

その時、かつて祖父が言っていた言葉を思い出した。

 

 

 

『今のお前には…驕りや慢心がある。自分が負けるはずが無い、自分は天才である。その思いが悪い方向へと向かっている。自分に自信を持つことは極めて大事だ。だが過ぎた驕りは身を破滅させる。律、お前はもっと広い世界を知り自分の弱さを知らなくてはならん……それが出来ないようなら……お前には正堂院流を継ぐ資格は無い……』

 

 

 

『なによ……私……全然弱いじゃない……なに偉そうにしてたのよ……』

 

涙が溢れんばかりに出てきた。自分がお山の大将だったこと、自分の弱さに全く気づけていなかったこと、なにを偉そうにしていたのか……そんな自分が惨めでならなかった。

 

 

こうして己の弱さを知った律はその後、今までをはるかに超える量の鍛錬を今まで以上の気迫で取り組むようになった。敗北を知り、一から魂を鍛え直した律はその後メキメキと頭角を現し、ついに学園のトップ3にまで登りつめた。

その後、律は実家にて祖父より改めて奥義を伝授されることになった。

 

 

 

 

 

 

「……あの日からずっと慢心せずに鍛錬していたつもりだったのに……心のどこかで相手を侮っていた……その結果ぎアレだ……気を引き締めていかないと……」

 

決して相手を過小評価していたわけではなかった。しかし、確かに心のどこかにスキがあった。そこを突かれて流れを乱されてしまった。次は無い。そう自分に言い聞かせた。

 

「それに……あの天峰悠斗……間違いなく実力は王貴に近い……」

 

かつて自分を一撃で降した学園生徒唯一の《Ⅴ》獅子戸王貴、天峰悠斗からは王貴にも匹敵する気迫を感じた。

 

「でも負けない」

 

相手の強さを侮らず、しかし勝利を決して疑わない……自分の目指す道の為に……

 

 

 

 

 

 

「……よしっ準備OKだ」

 

一方その頃、悠斗も準備を終えていた。

 

「相手は俺と同じ《能力持ち》……相手にとって不足無ぇ……」

 

悠斗は正堂院律の力を観てその強さに感服していた。だからこそ、それほどの手練れと戦えることに強い喜びがあったのだ。

 

「あの人の《焔牙》は《洋弓》……一気に間合いを詰めるべきだな……だけどあの人は接近戦もかなりの実力だった……一筋縄じゃいかなそうだな……」

 

悠斗は今回の対戦相手の律について考えた。彼女は間違いなく弓の使い手としては今まであった中でも最強であった。悠斗の戦闘スタイルは《長槍》の射程(リーチ)と自身の機動力を活かしての接近戦である。

しかし、彼女の《焔牙》は《洋弓》、射程では明らかに不利であった。

 

「ゆ……く…」

 

とすればやはり矢を射る前に間合いを詰めて畳み掛けるのがベストだろう……

 

「ゆう…くん」

 

しかし、梓との闘いで分かったように彼女は距離を詰められた時の対策も万全である。迂闊にスキを見せれば間違いなくやられるだろう……

 

「悠斗くんっ!!」

 

「うおっ!?」

 

突然大声が聞こえそちらを向くとみやびが心配そうに見つめていた。

 

「あ……ゴメンみやび。ちょっと考え事をしてて……」

 

「ううん……こっちこそビックリさせてゴメンね……もうすぐ時間だから呼びに来たんだけど……」

 

そう言われて時計を見ると確かにもうすぐ時間だあった。どうやら相当考え込んでいたようだ。

 

「次の相手は少なくとも《焔牙》での戦闘は俺より遥かに上だからな……色々考え込んじゃって……」

 

すると、みやびは心配そうに悠斗の手を握った。

 

「無理だけはしないでね、悠斗くんの体が1番大事なんだから……」

 

「みやび……///////」

 

その言葉に悠斗は顔を真っ赤に染めると……

 

 

ギュッ

 

 

「ふえっ!?///////」

 

みやびを思いっきり抱きしめた。

 

「ゆ……悠斗くん!?///////」

 

「ゴメン……みやびを急に抱きしめたくなって……」

 

(なんて……なんて優しいんだみやびは……こんな素敵な人が俺の恋人でなんて幸せなんだ俺は!!)

 

「心配すんなみやび、ゼッテー勝ってくる」

 

そう言うと悠斗はまっすぐと会場へと歩き出した。

 

 

「……負けらんねぇな……俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいまから、1年《Ⅳ》天峰悠斗対3年《Ⅳ》正堂院律の試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』

 

三國のアナウンスを聞き、悠斗と対戦相手の律が格技場中央に来た。

この試合を制したほうが決勝トーナメントへと進むことができる。

しかも、今回は互いが《Ⅳ》、つまり煉業(リヴォルト)の使用が可能となる。お互い本気のぶつかり合い、両者ともに凄まじい気迫であった。

 

「先輩……悪いですけど勝たせてもらいます。」

 

悠斗は迷いのない鋭い目で律を見つめてそう言った。

 

「そっちはやる気満々だねん。けど、私だって負ける気は皆無だからそのつもりでね♪」

 

対する律も同様に戦闘準備は万全のようである。

 

「天峰君私ね、最初に貴方達を目にした時から……ずっと想っていたんだ……「彼らと闘いたい」ってね!!」

 

そう言うと律は自身の《焔牙》である《洋弓》を具現化させ構えた。対する悠斗も自身の《焔牙》の《長槍》を具現化させた。

 

「それは俺も同じです先輩……貴方達と闘い……勝利したい……それに、もう1つ負けられない理由がありますので」

 

「みやびちゃんのことでしょ?」

 

「その通りです」

 

「なんだか王貴が告白したみたいだけどゴメンね、彼って一度決めたこと曲げない頑固なところあるのよ」

 

「関係ありません…誰が来ようとみやびは渡しませんから」

 

悠斗ははっきりと言った「みやびを渡さない」と、それを見て律も笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ互いの腹の中も分かった事だし」

 

「あとは闘いで決着をつけますか」

 

そう言うと互いに臨戦態勢に入った。

 

『両者、試合開始!!』

 

「いくぜっ!!」

 

三國の試合開始の合図と同時に悠斗は律へと猛スピードで突進した。

 

(下手に距離を詰められたら厄介だ……一気に距離を詰める!!)

 

「狼王一閃!!」

 

そして間合いに入った悠斗はそのまま律へと強力な突きを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「そうくると思った!!」

 

「んなっ!?」

 

瞬間、律は退がるどころかこちらに向かってきた。あまりの行動に悠斗に一瞬隙ができてしまった。

 

「最初の読み合いは私の方よ」

 

そして律は悠斗の《長槍》を見切り腕を両手で掴むと

 

「せいやぁ!!」

 

「がぁっ!!」

 

渾身の一本背負いによって悠斗は地面に叩きつけられた。

 

しかし、悠斗も受け身を取る事でダメージを抑えすぐに律の手を振り払い起き上がった。

 

「貴方なら最初から一気に間合いを詰めてくると思ってたわ、だから私もあえて距離を詰めたってわけ」

 

「……今のは完全に読みを外しました……それなら……」

 

悠斗は選択を誤ったことを反省しながら確信した、最初の から本気でいかないとやられると、

 

「天に吼えろ________《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

悠斗の《力在る言葉》と共に悠斗は銀色のオーラに包まれ額から白銀の炎が現れた。

 

「おりゃぁ!!」

 

「ぐっ!?」

 

悠斗は先ほどよりも遥かに速い速度で律に攻撃を繰り出してきた。その速度に律は慌てて回避するも《長槍》が横腹をかすめてきた。

 

「それが貴方の煉業……そこまで速くなるとは思わなかったわ……だから……見せてあげる……私の煉業をね!!」

 

瞬間、律の《洋弓》が輝き出し律は光り輝く矢を構えた。

 

 

 

 

 

「疾り穿て________《烈風射(アタランテ)》!!!」

 

 

 

 

瞬間、悠斗が危険を感知し、真横に回避すると、目にも留まらぬ速さで矢が放たれ悠斗の真横を通過した。

 

「な……速すぎる……!!」

 

あまりの速度での攻撃に悠斗は驚愕した。

 

「驚いた?私の《烈風射》は単純に矢の速度をあげるだけだけど……その威力は強力よ、すごいでしょ?」

 

再び矢を構えて律は笑みを浮かべながらそう言った。

そして悠斗も……

 

 

 

 

 

 

「……良いねぇ……そうこなくっちゃ……」

 

 

 

予想以上の強敵を前に喜びを隠せずにいた。

 




少し長くなりましたが……いよいよ始まりました、悠斗VS律!!

高速の矢の射撃に悠斗はどう挑むのか……





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