真・女神転生デビルサマナー ~時と世界と魔法を超えて~ (ナベリウス)
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第1章 悪魔召喚師、始めました。
第1話 始まりは地下室から


初めまして。
この度、こちらで投稿させていただく事になりましたナベリウスです。
処女作なので至らない部分が無数にあると思いますが、皆様のアドバイスでどうにか楽しんでいただける作品にして行きたいです。

シナリオはスタート時点で4部~5部構成を考えており、主人公達の成長が進んでいくにつれて内容も女神転生シリーズらしい、ハードでシリアスな展開にしたいと思っております。

それではよろしくお願い致します。



3/14 一部編集しました。
2013 7/22 21:19 誤字,脱字を修正
2013 7/26 2:17 ケルベロスのセリフに漢字を使用


「――♪あなたの!テレビに!時価ネットたなか~ み・ん・な・の・欲・の・友♪……」

 

 

 日曜日の昼下がり。テレビでは何時もの様にテレビショッピングが流れている。俺は特に見たい番組もなかったのでソファーに寝転びながら、母さんが何処からかお土産として持ってきた"チャクラドロップ"を舐めつつテレビを眺めていた。すると、僕と同じくテレビを見ていた車椅子の少女がおもむろに、

 

 

「な~兄ちゃん。前から地下室探検したいって言っとったやろ?今日は基さんも那緒実さんにタッ君だっておらへんから一緒に探検してみよか?」

 

「んぁ?確かに父さんも母さんも出かけてるけどさ~。何かあった時にバレて怒られたら嫌じゃん?」

 

「あー!ひょっとして怖気づいてるん?チキンやわぁ~」

 

「ちょ、おい!そもそも俺ははやての事を心配してだなあ。」

 

「そんなら階段を降りる時は背負ってもらえばええやろ?私は兄ちゃんが色々探してるのを見るだけで十分や!」

 

「ダメなモノはダメ!それに父さんと母さんに怒られるのは自分なんだからな!!」

 

「えぇそんなぁ~!!どうしてもダメなん?」

 

 

 "はやて"と呼ばれた少女は俺に向かって近付いて来て、どうしても探検をしたい。という表情で懇願してくる。自分自身幼い頃から両親、特に母さんからは必要のない時以外は地下室に入ってはいけない。と強く言われており、ずっと地下室にどんな物が置かれているかとても気になっている。

 それははやても同じ様で、以前父さんに訊いてダメだった時以来、両親がいない時を見計らってしきりに僕に対して地下室探検を誘ってきていた。

 しかし、はやては足が不自由で車椅子に乗っている。もしも万が一の事があった時を考えるとその誘いに乗る訳にはいかない。

 

 

「これでもし、地下に怖~い悪霊とか怪物を封印した道具とかあったらどうするんだよ。俺の先祖は陰陽師だったらしいから御札とか式神?だっけか、そういうモノが残っててもおかしくないだろ?」

 

「あはははは!悪霊ってそんなのおるわけないやろ~。やっぱり兄ちゃんはチキンや~」

 

 

 はやてはそれまでの上目遣いから一転して俺を小馬鹿にした表情を見せる。く、くそう……もうこうなったら行くしか無い。行かねばしばらくの間チキン呼ばわりされるのは間違いない!

 

 

「むぐぐ……解った!やってやろうじゃないの!此処でやらねば男が廃る!!」

 

「やった~さすが兄ちゃん!チャクラドロップでSP全快や~」

 

「意味不明な事言ってないでさっさと行くぞー」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 以前の記憶を頼りに父さんの書斎から地下室の鍵を持ち出して、先に階段の前で待っていたはやてを背負い、誤って踏み外したりしない様、薄暗い中を慎重に下っていく。

 

 

「やっと着いたな。これでこのドアを鍵で開ければ……ちょっと降ろすぞ。」

 

「了解や!はよ開けて中を見させて~な」

 

 

 父さんや母さんの見よう見まねで鍵を開けようとするが中々開かない!

 

 

「うーん、なかなか開いてくれそうにないなぁ。なぁはやて、やっぱりやめ「兄ちゃんのチキン~」クソッ!」

 

 

 鍵を挿した鍵穴を左右に廻したり揺すってみたり試行錯誤するが一向に開く気配が無い。

 

 

「下手くそやなぁ。ちょっと私にもやらせてくれへん?」

 

 

 俺ははやてに鍵を渡し、ドアの前まで担いで連れて行くとまるでそれに反応したかのように鍵が仄かに光り出した。

 

 

「に、兄ちゃん、なんで鍵が光っとるんやぁ!?」

 

「お、俺に訊かれたって困るぞ!」

 

 

 2人で驚いている内に光は収まり、何も無かったかの様に元の薄暗さに戻る。

 

 

「ふぅ、やっと収まったか。いったい何だったんだよ今の光は……まるで魔法じゃないか」

 

「魔法だなんてアホな事ある訳ないやろ!取り敢えず気ぃ取り直して開けてみよか」

 

 

 するとさっきまでの苦労がウソだったかのようにすんなり鍵が開いてしまった。若干、いやかなり唖然としたけれど、そうしている時間も惜しいんでさっさと地下室の中に入り電灯のスイッチを入れ、折り畳まれていたキャンプ用の椅子を広げてはやてをそこに座らせる。

 

 

「さあ兄ちゃん!私はここで見とるから頑張って色々探してみてや~」

 

「よし!じゃあまずは目の前の本棚からだ」

 

「どんな面白い本があるんか楽しみや!」

 

 

 早速本棚を漁ってみると、父さんの生まれた頃から大学生頃までの写真を集めたアルバムや母さんの高校時代の卒業文集などが見つかった。他にも我が家の先祖が陰陽師であることを裏付ける様に、陰陽術についての書籍や古文書集なども見つかり、はやてに手渡すと喜んで読み始めた。

 

 

「よし。次の本棚を調べてみようか」

 

「……ふむふむ陰陽師ってこういう事をやってたんやな。勉強になるわ~」

 

(はやては本当に本を読むのが好きなんだな。きっと学芸員とか司書みたいな研究職に向いているんだろう)

 

 

 2番目の本棚は俺の通知表や幼稚園と小学校低学年の時に描いた絵があったが、はやてにネタにされるのが嫌で読書に熱中しているのを良い事に元の場所に戻した。そして次の棚に移ろうとした瞬間、足元の段に鎖で厳重に封じ込められた黒くて分厚い本を発見した。

 

 

「ん、なんだコレ?なぁはやてーお前この本見たことあるか?」

 

「んん?あ!その本ってそんな所にあったんかー。それ私のなんよ」

 

「しっかし鎖で縛った本とか趣味悪いなぁ。ひょっとしてグリモワールとか!?♪エロイ~ムエッサイム エロイ~ムエッサイム♪」

 

「なはは、"悪◯くん"とかいつの時代の人なんよ。ってその本は気付いた時から私の家にあった物なんやけど、兄ちゃんの家に来てから何時の間にか無くなっててずっと探してたんや」

 

「(軽く凹んだ)……まあいいか。はいコレ。久々のご対面だな」

 

「おおきに~」

 

 

 はやてにその"分厚い本"を手渡すと、まるで我が子のようにそれを抱きしめた。彼女にとってあの本はきっと想い出深いものなのだろう。その後再び陰陽師の本を読み始めた。さて、俺も他にどんな物があるか色々探してみよう。

 その後は特にコレといってめぼしい物はなく、本を見つける度にはやてに渡し、今度は読み終わった本を元の場所に戻すということを何度か繰り返した。しばらくして地下室の一番奥に行くと、隅に高級そうなタンスが置かれていた。何故かこのタンスを目にした時、何故か何者かに呼ばれた気がして引き出しを開けてみると、そこには不思議な形状の鈴と陰陽師が使うような御札に巻かれた"何か"が数本置かれていた。

 

 

「あ、なんだこれ?」

 

「兄ちゃん何か見つけたのー?」

 

「ああ、コレだよコレ。この管っぽいヤツに巻かれてるのって御札だよな?」

 

 

 俺は"何か"の内の1本を持つと、はやての元に行ってそれを見せた。そして巻かれている御札を剥がすと黒光りする管の様な物が出てきた。

 

 

「この御札、さっきの本に写真が載ってたヤツやな。それにしてもこっちの黒い管の様な物は何なんやろか」

 

「御札の種類が判ればコレが何かが解るんだけど」

 

「兄ちゃんさっきの本取ってや」

 

「おう」

 

「うーんと……あったコレや!えっと、悪霊や物の怪を封印する御札みたいやね」

 

「(!!)マジかよ……ひょっとしてコレにはこの中に怪物が封印されてるってのか!?」

 

「んなアホな~もし怪物が入っておったら御札を剥がした瞬間に襲われとるわ!」

 

「おいおいビックリさせる事言うんじゃない!!」

 

「堪忍してぇな兄ちゃん~」

 

 

 そんな事を言い合ってると、はやての側に置いてある"分厚い本"と俺の手にした管のような"何か"が、先程の鍵の様、それぞれ"分厚い本"は紫色の光を、管のような"何か"は緑色の光を発し始めた。

 それに2人して呆然としていると"何か"の先端が捻れながらせり上がっていき……

 

「ちょ、に、兄ちゃん!右手右手!!」

 

「え?あ!管が……うわあぁぁぁぁっ!!」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「ふう、ただいま」

 

 

 玄関でパンプスを脱いだ瞬間、地下室の方から魔力が流れてくるのを感じた。まさか勝手に晃祐とはやてちゃんが地下室に入り込んだ訳じゃ!?でも鍵には封呪を掛けておいたから2人には入ることが出来ない様になっているはずなのに……とにかく2人の身が危ない。もし封魔の札を巻きつけて桐ダンスに入れた"管"からアレが外に出たら無事では済まないわ!!

 

 

「晃祐!はやてちゃん!!」

 

 

 私はバッグから"管"と符を取り出し、地下室へ急行する。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

『アオオオオオオオオオオン!』

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!ば、化け物ッ……」

 

「う……ウソ、やろ」

 

「お、お、おいはやて!」

 

 

 俺とはやての目の前には白いライオンの様な、それでいて狼のような巨大な化け物が姿を表した。それを見たはやては意識を失い、俺自身も腰が抜けて全く動けなくなってしまう。

 

 

『グルルルル……礼ヲ言ウゾ、ニンゲン。ヨウヤク外ニ出ラレルコトガデキタ』

 

「あ、あ、あ……」

 

『オレサマノ姿ヲ見タヤツラハ皆殺シ!オレサマオマエラマルカジリ!!』

 

 

 化け物が雄叫びを挙げた瞬間、ドアが勢いよく開け放たれた。

 

 

「そこまでよ"魔獣ケルベロス"!!」

 

 

 

 

 

 

次回に続く




どうでしたでしょうか?
足りない脳味噌をフルに回転させて第1話を書いてみました。
皆様のアドバイスをお待ちしております。


最後に今回の作品を書くにあたって、一種の「監修」という形で協力していただいている従兄に感謝したいと思います。
本当にありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。


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第2話 ソーマ神、権現

第2話です。主人公のお母さんが活躍?します。
それではどうぞ。



2013 7/26 2:23 一部内容を変更,ケルベロスのセリフに漢字を使用
2013 8/6 21:19 誤字,脱字を修正


「そこまでよ"魔獣ケルベロス"!!」

 

 

 開け放たれたドアの方を向くと、其処には母さんが立っていた。

 

 

『グルルァァァァァァァ……キサマ!オレサマノ餌ヲ横取リスル気カ!?』

 

 

 すると"ケルベロス"と呼ばれた白い化け物は、鋭い爪が生えた右前脚を振り上げた。俺はもうダメだ。と思って顔を背けた……が、次の瞬間、はやての大切にしていた"あの本"が再び光り、何か壁のようなものが現れてその一撃を弾いた。

 

 

「……私の子ども達を餌扱いだなんていい度胸ね。お仕置きしてあげるわ!出でよ"ソーマ"!!」

 

(!?!?)

 

 

 何かが炸裂した様な轟音が地下室に響き渡り、背けていた顔を前に戻す。と、目の前には、まるで月明かりの様に光り輝く衣装を纏った人らしきものが、また俺に向かって攻撃して来ようとする化け物の一撃を防いでいた。

 

 

「二人共怪我はない!?」

 

「あ……母さん。ごめん、はやては……」

 

「話は後で!とにかくはやてちゃんを背負って早く上に戻りなさい!」

 

「え?でも母「私の事なら心配要らないわ」でも、化け物なんだよ!?どうしてそんなに冷静でいられるの!!」

 

「それも後で話すからさっさと上に行きなさい。いいわね!?」

 

 

 俺は失神していたはやてを担ぐと、階段を上がろうとするが、ほんの数十段しか無いはずの階段が、恐怖心からかとても長く感じてしまった。どうにかリビングに逃げこむとはやてをソファーに寝かせ、俺も床でしゃがみこんで膝を抱えてガタガタを震えてしまう。

 

あんな恐ろしいものが何で俺の家なんかに?

 

それにあの化け物は一体何なんだ?

 

そもそも母さんは何で化け物の事を知っているんだ?

 

 俺はおもむろに地下室の方に目を向けた。母さんは本当に大丈夫なんだろうか……

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 ―その頃地下室では―

 

 

「いい加減になさいケルベロス!幾らお祖父様と共に怪異に立ち向かったとはいえ、私の子どもに襲いかかるのは親として見過ごせないわ。」

 

『オレサマヲ外ニ出サナカッタ、貴様ガ悪イ!』

 

『くっ……主よ、これ以上私の力では此奴の力を食い留める事は不可能です!』

 

 

 私はすぐさまスマートフォン状COMPから、祖父"14代目葛葉ライドウ"が愛用し、私自身も悪魔討伐に使用する赤光葛葉《しゃっこうくずのは》を呼び出し鞘から一気に刀身を抜き、それまでケルベロスの攻撃を受け止めていたソーマが避けて体勢を崩した瞬間に、ガラ空きになっていた右脇腹へ突きを放つ。

 

 

『グワァァアァアァァァァァッッ!!』

 

(右の肺を潰した!これで動きを止められ……ッ!?)

 

 

 ケルベロスの身体から赤光葛葉を抜こうとした瞬間、身体を大きく振るわれ壁に叩きつけられてしまう。幾ら私が"絶対無敵のデビルサマナー"の異名を持っていようが所詮は女、イザとなった時の力は男性デビルサマナーには劣ってしまう。

 

 

「っ……!ソーマ、あいつの動きを封じて!」

 

『応!』

 

 

 ソーマは瞬時に凍結呪文"ブフ"を放つ。ケルベロス位の悪魔なら更にその一つ上の威力を持つ"ブフーラ"を使うべきだけど、地下室という場所を考えるとそれは無理ね。でもさすが私と20年以上共に戦い続けてきた仲魔だけあって、ただのブフでも十分効いたみたい。四肢が氷漬けになって身動きが取れなくなった。私は立ち上がるとソーマに、

 

 

「"ブフ"だけじゃ不安ね。"シバブー"もお願い」

 

『応。死にたく無くば大人しくせよ!』

 

 

 全身を鎖の様な光で縛り付けられたケルベロスはさすがに観念したのか、身体を伏せて動くのを止めた。さっきの脇腹への一撃が相当効いているみたいね。私はケルベロスの身体に刺さったままの赤光葛葉を抜き、そのままソーマに指令を下す。

 

 

「ソーマ、ケルベロスを回復させてあげて」

 

『しかし宜しいのですか?此奴は主を騙そうとしておるやも知れませぬぞ』

 

「大丈夫よ。もしそうだったらシュウやアンリ・マンユも召喚して跡形も無く消し飛ばすから」

 

(コレハ、逆ラワヌ方ガ身ノタメダナ……)

 

『……承知。"ディアラハン"』

 

 

 ソーマが両手をかざすとケルベロスの身体を眩い光が覆い、一瞬にして跡形もなく傷口が消えた。

 

 

「ありがとう。もう戻っていいわ」

 

『応。それではまた』

 

 

 ソーマに封魔管を向けると光となって吸い込まれてゆく。そして再びケルベロスの方に向かい、これからの事について話し始める。

 

 

「さて、ケルベロス。あなたのやったことは許されないのは解っているわね?まあ、私の方も今まで気が回らずに長い間管に閉じ込めておいたから余り強くは言えないけれど、コレに懲りたらもう二度と人を襲う様な事はしないで」

 

『ガルルルル……解ッタ』

 

「よしいい子ね。それでねケルベロス、貴方に大切なお願いがあるの」

 

『マサカ、アノ坊主ノ事カ?』

 

「坊主って……まあいいわ。いずれ子ども達を守るために貴方の力が必要になる時が来るわ。その時は力を貸して欲しい」

 

『ドウセ坊主ドモハマタ、オレサマノ姿ヲ見テ腰ヲ抜カスニ違イナイ!』

 

「あはは……詳しいことはその時に話すわ。一度戻って頂戴」

 

 

 するとケルベロスも光になって封魔管に戻った。それを回収した後一階の方に顔を向け、

 

 

「さてどうしようかしら。はやてちゃんの"あの本"が光って障壁を出したのも気になるわ……もしかして力が目覚めようとしているのかも知れない」

 

 

 私はしばらくの間、今後の事について思考を巡らせるのだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 ―一方リビングでは―

 

 

「ううん……」

 

「(!)は、はやて!?」

 

「ぅん、兄ちゃん。あ、あれ?何でリビングにおるん!?」

 

 

 気付くと何時の間にか私も兄ちゃんもリビングにおった。たしか地下室で突然黒い管みたいなのから、ジャン◯ル大帝みたいに真っ白いライオンが現れて……と、突然兄ちゃんが私の事を抱きしめてくる。ちょ!苦しい苦しい!!

 

 

「良かった、目を覚ましてくれて。もし起きなかったら俺……」

 

「もう、兄ちゃんってばホンマ心配性やなぁ」

 

 

 兄ちゃんはホッとした表情を浮かべて私を見つめてくる。イヤやわぁ、そんなに見つめられたら惚れてまうやろ。ま、そんなことあらへんがな!!

 

 

「……今、何か余計な事考えなかった?」

 

「ナンデモナイヨ?」

 

「ナズェ!カタコトニナルンディス!!」

 

「ニーチャンコスォ、ナズェオンドゥルゴニナッテルンディスカー!?」

 

「ウェーイ!!」

 

「ウェーイ!!」

 

「……もうやめとこか」

 

 

 あんな事があったのに、まったく気が抜けてもうた……でもありがとな、兄ちゃん。

 

 

「そういや那緒実さんはどうしたんやろか?」

 

「俺ちょっと見てくるよ。はやてはこのまま休んでて!」

 

「あ、兄ちゃ「その必要は無いわ」って那緒実さん!?」

 

 

 リビングのドアが開けられて那緒実さんが入ってくる。

 

 

「晃祐、はやてちゃん……後で話があるわ」

 

 

 アカン、地下室に入ったので怒られる!でも私が兄ちゃんにけしかけた事やし、なんかごっつい大事になってもうたから此処は素直に謝っとこ。

 

 

「那緒実さん。ホンマゴメンなさい!」

「母さんゴメン!!」

 

「もういいの。遅かれ早かれいずれは本当の話すつもりだったから……」

 

「え!?」

「え!?」

 

「取り敢えずお父さんと匠真が帰って来て、晩御飯を食べてから話してあげるわ。あの化け物や私の力、それに"あの本"についても。とにかく今は休んでなさい」

 

 

 そう言うと那緒実さんは何事も無かったかの様に晩御飯の準備を始めてもうた。私は兄ちゃんの方を見ると、なんとも言えない顔で見返してきた。いったいどんな話をされるんやろか……それに"あの本"の事についても何か知ってるって事も気になるし、これからどうなってまうんやろ。

 

 

 

 

 

次回に続く




皆様どうでしたか?

今回の登場悪魔は"魔獣ケルベロス"と"秘神ソーマ"でした。
ソーマはナヴァグラハの一柱である月の神チャンドラと同一視されているため、「月明かりの様に~」という一文を入れました。

もう既にお気付きの方もいらっしゃると思いますが、主人公の母親はデビルサマナーソウルハッカーズに登場した「最強のデビルサマナー」との呼び声が高いナオミその人です。いずれ二上門の地下遺跡で何があってこうして生き延びたのかも書きたいと思っております。

因みにヴォルケンリッターはまだ出ません。もう少しお待ち下さいませ。


アドバイス等お待ちしております。


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第3話 悪魔召喚師《デビルサマナー》

お待たせしました。第3話です。
今回と次回は解説回です。特に面白みも何もありませんがどうぞ。


 俺とはやてが地下室で化け物と遭遇して数時間後、父さんと匠真が帰宅し晩飯を食べた。何時もなら匠真とはやてがおかずの取り合いをしたり、皆でテレビを見て盛り上がったりするところなんだけど、今日は終始重々しい空気が流れていた。

 母さんが食器を片付けた後、ソファーに座る俺とその横で車椅子に座り居心地悪そうにしているはやてに向かって近づき、口を開き始めた。

 

 

「晃祐、はやてちゃん。さっきの事だけど」

 

「那緒実。2人がどうしたっていうんだい?」

 

「私達が家を空けている間に地下室に入ったのよ」

 

「まさか!あそこには俺か那緒実と一緒の時以外入っちゃいけないとあれほど言っていたのにか?それに鍵には"仕掛け"がしてあったのに……」

 

「そのまさかよ。"仕掛け"を解いて入るだなんて思ってもみなかった。それに一番奥のタンスに入れておいた"管"も開けてしまって……私があの時偶然帰ってきてなかったらどうなってたことか」

 

 

 父さんと母さんのやりとりを聴いていたはやては顔を軽く俯かせていて、よく見ると目尻には涙を浮かべている。

 

 

「那緒実さん…崇さん……ホンマごめんなさい。私のせいで皆に迷惑をかけてもうて……」

 

「2人共ごめん。つい出来心で……まさかあんなモノが地下にあるだなんて思いもしなかったから」

 

 

 2人で揃って頭を下げる。はやては眼を真っ赤にして鼻もグズグズさせている。

 

 

「謝って済む問題じゃない!たまたま那緒実が帰って来たから良いものの、もし帰って来なかったら死んでたんだぞ解ってんのか!?」

 

「……もう過ぎたことは仕方ないのよ。怒鳴った所でどうにかなる問題じゃないわ」

 

 

 父さんの怒号ではやてが肩をビクリとさせ、更に顔を下に向けてしまったので俺はおもむろに肩に手をかけて安心させようとする。

 

 

「……解ったもういい。後でどうなろうが俺は知らん!!!!」

 

「ちょっと父さん!それはあんまりだよ!!」

 

 

 匠真の言葉を無視して父さんはドアを乱暴に閉めてリビングから出て行った。父さんは怒ると何時も物を乱暴に扱う。幾ら学校で子ども達や保護者からは評判の先生でも、家庭では積もりに積もった鬱憤を晴らすかのような言動が多く、母さんはそれをなだめるのに何時も苦労している。はやてが家に引き取られるまでは、家に帰ってくると酒を煽っては俺や匠真に対して虐待紛いの暴力を振るったりしてその都度母さんからキツくたしなめられていた。俺はあんな大人げない人間なんて絶対なりたくない。

 

 

「もう、仕方ないわね。匠真も椅子に座りなさい」

 

「……解った」

 

「はやてちゃんごめんね。はやてちゃんが来てからあの人は余り怒鳴り散らす事をしなかったから驚いたでしょう?」

 

「ううん……元はと言えば私が悪いんやし怒鳴られてもしゃあないんや」

 

「大丈夫、もう大丈夫よ。さあ、顔を上げて頂戴。私は絶対怒ったりしないから」

 

 

 母さんははやてのそばに来て頭を優しく撫で、安心させようと微笑みかけ、皆で落ち着くまで待つことにした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「それで母さん、兄さんとはやてちゃんが地下室に入ったってことは」

 

「それならまだしも"管"や"本"にまで手を付けてしまったみたいね」

 

 

 母さんと匠真は俺の横に置いてある鎖で閉じられた"例の本"に眼を向けた。ちょっとまてよ、何故俺とはやての知らないことを匠真が知っている?

 

 

「母さん。なんで匠真がそれを知ってんの?」

 

「それは半年位前、匠真が家に友達を連れて来た時にも同じ様な事があったからよ。その時は私が家にいたから何ともなかったし、結局"アレ"を見たのは匠真一人だけだったから口に出さないように言って聞かせておいたの。それから地下室の鍵に"仕掛け"をして私と父さん以外は入れない様にしたって訳」

 

「で、その"仕掛け"ってのは?」

 

「それは一種の"おまじない"みたいなものよ。ゲームとかに良くあるでしょう?」

 

「いやでもそんな"魔法"みたいなものある訳「それがあるのよ」え!?」

 

「だって"悪魔"が居るんだもの。"魔法"が有ったっておかしくないわ」

 

「……那緒実さん。ちょっと聞かせて貰えへん?」

 

 

 はやてが母さんに向かって顔を上げると、母さんは立ち上がって

 

 

「夕食前にも言った通り、あなた達にはこれから本当の事を話すわ。ただし絶対に他の人に言ってはダメ。まあそんな事を言ったとしても変人扱いされるだけでしょうけど」

 

 

 そう言うと椅子に座って言葉を続けた。

 

 

「それじゃあまずはこの"管"と、これから出てきた"化け物―悪魔"について話そうかしら。"悪魔"ってのは所謂一神教、つまりメシア教の教典なんかで出てくる一般的なイメージの悪魔と違って、精霊や妖精や天使,悪霊,神などといったものも全部引っ括めたものを指すの」

 

「それってなんかおかしいんとちゃう?たとえば天使って人の味方をして悪魔と戦うんやろ。まるで正義の味方を敵と言ってるようなもんや」

 

「それは違うわ。メシア教の天使は人の味方じゃなくて"唯一神"の味方なの。例えば"メタトロン"っていう最高位の天使なんかは、"メシア教を信仰しない人間を皆殺しにする"っていう残虐極まりない存在なのよ?」

 

「……つまり人間にとって敵とも味方とも限らないから"悪魔"という事?」

 

「一般的な天使や悪魔って言うものの考え方は"あくまで人間からの一方的な視点"で見ただけに過ぎない。だから敢えて"悪魔"という言葉を使っているのよ」

 

「そしてその"悪魔"を召喚して使役するのが"悪魔召喚師(デビルサマナー)"なんだよ!母さんもその悪魔召喚師の1人なんだ」

 

「ホ、ホンマなんか那緒実さん!?」

 

「もう匠真、それは私が言うところよ!」

 

 

 それからは母さんが"悪魔"と"悪魔召喚師"、そして母さん自身の事について話してくれた。要点を掻い摘むと、悪魔召喚師は飛鳥時代には既に存在しており、それが奈良時代から平安時代へと歴史が移って行くに従ってかの有名な陰陽師へと変わっていったのだという。陰陽師が使役する式神もまた悪魔の中の一種であるという事も教えてくれた。

 俺が地下室で見つけたあの管は、"封魔管"というその名の通り使役する悪魔を封じておく入れ物で、所有する悪魔召喚師の"生体マグネタイト(略称MAG)"というエネルギーの様なものを使ってコントロールしているけれど、長期に渡って手放している時は暴走を食い止めるために呪符を巻きつけて封じ込めておかねばならないという。しかしここ30年位は"悪魔召喚プログラム"をインストールした特殊なPC(通称COMP)による自動制御が可能となった事から、封魔管による召喚も一気に廃れてしまったそうだ。

 そして母さんは、物心ついた頃から悪魔召喚師としての道を歩むために色々な修行をしていて、一人前となってからは全く信じられない様な数多くの困難と直面し、その度に乗り越えて生きてきたという。時には悪魔召喚師同志の争いで仲間を殆ど殺されてしまったり、またある時には強大な悪魔と戦って生死の境の彷徨ったり……俺もはやても、そして以前話を聴いているはずの匠真さえも信じられないといった顔をしていた。

 

 

「……でもさ、PCで制御できるなら、初めから悪魔をそっちに移しておけばこんな事にならなかったんじゃない?」

 

 

 ふとした疑問を口に出す。すると母さんはハンドバッグからスマホの様な物と封魔管を取り出して、

 

 

「私も確かにスマホ型のCOMPを持っているけれど、あくまでそれは補助にのために過ぎなくて召喚師を始めた頃から今までずっと召喚には管を使っているの。人間ってのは便利な物があるとついそれに頼りがちになってしまう。でもそれでは召喚師として色々な意味で鈍ってしまうと思ってね」

 

「でも"まぐねたいと"やっけ?毎回使っとったら那緒実さんの身体が持たへんのちゃう?」

 

「そのためのCOMPなのよ。COMPにはMAGを圧縮格納しておくことの出来る機能が付いているわ。そして私の封魔管は、見た目こそ地下室にあるそれとはあんまり変わらないけれど、召喚に反応してPCの無線LANの様に格納されている物を飛ばして、私自身のMAGの消費を最低限に抑える事ができるのよ。頼らないといけない所は頼って、自分で出来る事は自分でやらないと本当にダメな召喚師になってしまう」

 

「COMPもPCだから故障とかで使えなくなるって事?」

 

「ええそうよ。それに地下室にある封魔管と悪魔は召喚師をしていたお祖父様――晃祐と匠真のひいおじいさんに当たる人の遺したものだから、もし悪魔を逃してしまってたくさんの人達に迷惑をかけてしまう事を考えるとそのままにしておくしか無くて。お祖父様の事についてはまた別の機会に話してあげるわ」

 

「んなら私の本「ああっもうこんな時間!!」は?」

 

 

 時計を見た母さんが急に声を張り上げたのにビックリした。なんだかんだで時計は22時になっていたのだ。

 

 

「"本"については明日皆が学校から帰ってきたら話してあげるから、今日はもう寝なさい」

 

「ええ~そんな殺生な事せぇへんで今聞かせてぇなぁ~!」

 

「朝寝坊したら困るのははやてちゃんでしょ?楽しみを取っておいてもう寝ようよ」

 

 

 匠真になだめられて仕方無くはやては部屋に戻って行く。俺も明日は部活の朝練があるからさっさと寝ないと。でもその前に、

 

 

「……母さん、明日もちゃんと話してよ。はぐらかすのは勘弁してくれな」

 

「……解ってるわ」

 

 

 台所で朝食の下準備をしている母さんの背中を見ながら、俺は自室へと戻った。でも今日一日で起きた怒涛の出来事に全く寝られずに朝を迎えることになる。朝練と授業辛いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




 主人公の父親(小学校教師)と弟(小学6年生)の2人が初めて登場しました。
 元々は主人公の家庭も高町家の様に五体満足で幸福な家庭にしたかったのですが、従兄の「屈折した人間を出してこそメガテンだ。」という一言から大幅に変更しました。因みに父親の職業と若干屈折した性格は、ペルソナ2の黒須淳の両親である橿原明成と黒須純子をモチーフとしています。StS編までは主人公と父親の軋轢も描けたら良いなと思っています。
 また那緒実さんは、ソウルハッカーズだと"香港出身の孤児"で"ヨーロッパで独自の召喚技術を会得した(=悪魔と会話が出来ない)"という事ですが、この作品では14代目ライドウの孫という事にしておりますので前の話の様に普通に悪魔と会話ができます。




\パパって呼んでくれぇぇぇ!!/




次回はやっと皆さんお待ちかね、"あの本"についてです。
原作崩壊タグが完全始動します。


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第4話 闇の書

第4話です。那緒実の口から闇の書が地下室に置かれた経緯について語られます。





2/10 1:40 一部内容を変更


 地下室での衝撃的な出来事から一晩明け、結局一睡もできずに俺は中学で所属している剣道部の朝練に出たものの、案の定集中力が足りないと何度も先生から注意を受けただけでなく、1時間目から最後までの大半を居眠りして過ごし、毎時間先生たちに叩き起こされてはクラスメイトたちから笑われてしまった。俺は放課後にある部活を休ませてもらい、そそくさと帰宅の途につくのであった。

 

 

 

「ただいま~」

 

「あ、兄さんお帰り」

 

「お帰り兄ちゃん!今日は早う帰ってきたんやな」

 

「あ、ああ。結局朝まで眠れなかったから、体調が悪いって言って部活休ませて貰ったんだ」

 

 

 匠真とはやてが玄関まで出てきて俺に声をかけてくる。俺は靴を脱いで2人とリビングに行くと既に母さんも帰っていて、夕飯の準備をしていた。

 

 

「ただいま母さん」

 

「晃祐?荷物は自分の部屋に置いて来なさい!」

 

「……解ったよ」

 

 

 洗面所で手洗いとうがいをした後、2階の自室に戻ってスウェットに着替え、再びリビングへ。

 

 

「そういや父さんは?」

 

「お父さんは今日から職場の研修で3日間いないわ」

 

「そっか。まあいない方が色々と楽だし良いか」

 

「……もう。其処の戸棚の中に煎餅が入ってるから食べてなさい。お茶は飲むんだったら自分達で入れて」

 

「ういー。2人ともお茶いるか?」

 

「私はいるで~」

 

「じゃあ僕も」

 

 

 母さんが指差した台所の戸棚を開けると、そこには"ピーナッツ入り南部煎餅"が入っていた。それを袋から出して皿に移した後、お茶を淹れる準備をする。まずはポットのお湯を一度湯呑みに入れて、温度が80℃位になるまで冷まし、その後ゆっくりと急須に入れて1分ほど葉が開くのを待つ。こうすることで渋味が抑えられ、なおかつ旨味を引き立たせることが出来る。そして急須から湯呑みに移すときは少しずつ均等に注ぎ分けて美味しい煎茶の完成だ。

 因みにこれは若干高級な煎茶の入れ方で、一般的に市販されている煎茶は湯冷ましをする必要が無く、ポットからお湯を急須に入れて30秒程で湯呑みに移した方が美味しく飲めたりする。

 

 

「前々か思っとったけど、兄ちゃんってやけにお茶の淹れ方に詳しいよねぇ」

 

「兄さんはお祖母ちゃんから何回も教えて貰ってたからね」

 

「よし出来た。さーて食べようか!」

 

 

 俺達3人は煎茶を飲みつつ南部煎餅を口にする。煎茶の味と煎餅に入ったピーナッツの香ばしさが一体となって口一杯に広がる、正に至福の一時だ。匠真もはやても幸せそうな顔をして口にしているのを見て更にほっこりとする。

 

 

「兄ちゃんテレビつけてやー」

 

「おう」

 

 

 俺はリモコンに手を伸ばして電源を入れる。すると、

 

 

「――いらはいいらはい!よーこそサトミタダシへ~おじちゃんの事"サートちゃーん"ってよんでねぇ~!!」

 

 ちょうど"僕らの街のお薬やさん"こと"サトミタダシ"のCMが流れはじめた。CMはおろか、店に行ってもエンドレスで流れ続けているこの曲は"電波ソング"と名高く、一部店舗では演歌バージョンやテクノバージョンといったアレンジを加えたものまである始末。俺達の住む海鳴市や近隣の珠閒瑠市でこの曲を知らない者はいないと言われる位の知名度を誇る。

 すると2人は声を合わせ、曲に合わせて歌い始める。俺もそうだけど、この2人も完全に洗脳されてしまっているのだ。

 

 

「♪石化回復ディ~ストーン~♪」

 

「匠真君そこは♪SP回復チュイ~ンソ~ル♪やで!」

 

「ディストーンだよ!」

 

「チューインソウルや!」

 

「まあまあ2人とも……」

 

「兄さんは黙ってて!!」

「兄ちゃんは黙っときや!!」

 

「……はい」

 

 

 匠真とはやてはこのCMが流れる度に"ディストーン"か"チューインソウル"かで言い合いをする。CMやほとんどの店舗では"チューインソウル"で流れているんだけど、創業店のある御影町の全店舗やその他の街の一部店舗では"ディストーン"で流れていたりする。俺達は5年前に海鳴市に引っ越すまでは御影町に住んでいたから"ディストーン"の方が馴染み深い。

 最終的にはいつも言い合いをしていたはずの2人は気付くと、

 

 

「♪サト~ミタダシはおくすりや・さ・ん!♪」

「♪サト~ミタダシはおくすりや・さ・ん!♪」

 

 

 と、3番の最後までデュエットしている。仲良き事は美しきかな。

 煎餅を食べ終わると皿と湯呑みをお盆に乗せて台所に持って行き、その後は夕飯が出来るまで3人でテレビを見ながら色々と話をした。夕食後、母さんが皿洗いを終えて戻ってくると俺たち3人をテーブルの所に呼び、昨日の話の続きを始めるのだった。

 

 

「……3人ともいいわね?昨日の話の続きだけど、はやてちゃんの持っている"あの本"は、所謂魔導書(グリモワール)の一種で、"闇の書"と言われる強大な力を持ったものなの。」

 

「マジで?地下室ではやてに冗談でエロイムエッサイムって言ったけど、あれって本当だったのかよ!」

 

「正確には"エロイムエッサイム我は求め訴えたり"っていう呪文ね」

 

「ほな、この本には悪魔を召喚したり魔法の使い方が載ってるってことなんやな?」

 

「見ての通り鎖で封じられてるから正確な内容は解らないけれど、この闇の書は転生を繰り返しては主を換えて、"魔導師の魔力を奪い取って蓄積し、一定のレベルにまで達すると暴走を始める"というものらしいわ」

 

「ええっ!それってとんでもなく危険なものなんじゃ!?」

 

「そうね、そしてこの本のもう1つ質の悪い所は、一定期間魔力の菟集を行わないと主の命を脅かす」

 

「じゃあ、はやての半身不随はこの本のせいって事なのかよ」

 

「それは断定できないけれど、このまま放置しておくと間違いなく危険に晒されるわね。だから解決策が見つかるまで地下室に置いておいたのよ」

 

「なんで那緒実さんはこの本の事を知っとるん?」

 

「それは私達悪魔召喚師が所属する"ヤタガラス"という組織があるのだけれど、はやてちゃんのご両親が亡くなられた頃にその本の情報を持って接触してきた人がいたのよ。その人は闇の書の概要と危険性、そして"闇の書を狙う組織"について私達に教えてくれた。それで闇の書の主――即ちはやてちゃんをその"組織"から守るために白羽の矢が立てられたのが、ご両親と顔見知りだった私だったという訳」

 

「それなら闇の書だけ渡してしまえば一件落着じゃ?」

 

「そうはいかないからこうしてるんじゃない!"組織"の連中は主であるはやてちゃんもろともこの本を消すつもりらしいの。何が何でも絶対に阻止しなくちゃいけない。年端もいかない女の子の人生を奪うだなんて絶対に許すわけにはいかないわ」

 

「那緒実さん……いくら父ちゃんと母ちゃんと顔見知りやったとしても、わざわざ引き取る必要なんて無かったやん。私迷惑やろ……?」

 

 

 はやては昨日と同じく目尻に涙を浮かべ、顔を俯かせてしまう。それを見た母さんもまた昨日と同じく隣に来て頭に手を乗せて語りかける。

 

 

「いいえ……私は若い頃からずっと"幸せな家庭"に憧れていた。私も両親を早い内に亡くして、ずっと悪魔召喚師として辛い道を歩んできたから、ご両親の代わりにたくさんの愛情を注いであげようと決意してあなたのことを引き取ったのよ?私には、私達"ヤタガラス"の悪魔召喚師には"力"がある。例えどんな相手であろうと守ってみせるわ。絶対に。」

 

 

 母さんはその場で立ち上がるた時、その眼はまるで鋭利な刃物を彷彿とさせるかのような眼光を放っていて、こう言葉を続けた。

 

 

「――何か方法はあるはず。だから絶望なんてしないで。必ず、救ってみせるから」

 

 

 母さんは今までも時折鋭い眼光を見せる時があったけれど、今思うとそれは悪魔召喚師としての仕事が舞い込んできた時だったのかもしれない。また同時に、"自分じゃはやてや母さんの役に立たないのでは無いか?"という事を認識してしまい、何とも言えない気持ちになる。そりゃあ、俺が悪魔や悪魔召喚師について知ったのは昨日だけど、ここまで聞かされると今までの自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。どうすりゃいいんだよ……

 

 

「兄さん、何そんな気難しい顔してるの?」

 

「……なんでもない」

 

「??」

 

 

 匠真は気楽な奴だ。こんな話をされて何も思わない方がおかしいだろ。

 話が終わると、そそくさと風呂に入って自室に戻るが明日の準備も進まない。こんなどうしようもない事で悩むだなんて自分らしく無い!って事は解ってるつもりだけど、上手く切り替えることなんで出来る訳が無い。

 

 

「晃祐……もう寝た?」

 

「いいや、まだ起きてる」

 

 

 ドアがノックされ、母さんが中に入ってくる。

 

 

「晃祐、自分は無力だと思っているんでしょう?」

 

 

 図星だった。

 

 

「……あなたと匠真ははやてちゃんの側にいるだけで十分私の力になっているの。勘違いしないで頂戴」

 

「でも母さんが昨日みたいに家にいない時はどうすんだよ。その間にはやてを狙う"組織"の連中が来たら意味なんて無いじゃないか」

 

「昨日はたまたまだったけれど、長く家を空ける時は私の"仲魔"を出して守らせて置いてるから心配要らないわ」

 

「でも相手が"仲魔"より強かったらどうするんだよ?」

 

「私の"仲魔"は絶対に負けない」

 

「でも「デモは機動隊が鎮圧しました!」」

 

「悩んでないでもう寝なさい。明日もマトモに授業を受けられなかったらどうするの」

 

「ちょ、なんで知ってんのさ!?」

 

 

 母さんは部屋から出て行こうとしてこっちを振り返り、

 

 

「私に解らない事は無いわ」

 

 

 全く、母さんには敵わないな……もういい加減寝よう。 

 

 

 それでもほとんど一睡も出来ず、翌日また学校で先生達に怒られたのは別の話。

 

 

 

 

次回に続く




ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、実はアトラスが誇る偉大なる名(迷)曲『サトミタダシ薬局店のうた』は3番まであったりします。動画投稿サイトにアップされてあるはずですので、是非一度お聞きになってくださいませ。


次回は人物設定です。


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登場人物設定 その1

今作に登場する人物の設定です。





4/8 13:15 誤字・脱字を訂正
4/9 11:12 匠真の誕生日と一部内容を変更
4/10 0:58 一部内容を再度変更


◯相原 晃祐(あいはら こうすけ)

 

この作品の主人公で1月11日生まれの14歳(第5話より中学3年生)。

学校では剣道部に所属しており副部長もしている。

性格は表面上ポジティブでおちゃらけている様に見せているが、根はネガティブでクソ真面目である。不測の事態が起きるとパニックになりやすく、所属する剣道部の試合で突然逆転負けを喫する事が多々ある。要は本番に弱いタイプ。

容姿も頭脳も平凡であるが、弟・匠真が父親譲りの頭脳と母親譲りの容姿を持つため、常に周囲からは比較されており、内心は常に(周囲は疎か匠真にも)不満と嫌悪感を募らせている。

また、家庭を半ば顧みずに仕事に没頭する父親とは軋轢があり、那緒実不在時には虐待紛いの暴力を度々振るわれた事もあって母親以外の大人に対する不信感も強い。

機嫌が悪くなると父親に似て口調が乱暴になるが、本人はそれを全く自覚していない。

はやてが引き取られて来た時には「妹が出来た」と喜び、心の傷が癒えない彼女の世話を進んでやった結果、家の中でも外出時にもほとんど常にはやてと一緒にいるくらい非常に仲が良くなった。そのためクラスメイトからは"シスコン野郎"というありがたくない渾名を付けられる羽目となる。

悪魔と悪魔召喚師そして闇の書の存在を知った彼は、これからどのような道を歩んで行くのだろうか。

 

 

◯八神 はやて

 

ご存知リリカルなのはシリーズのヒロインの1人で、この作品のもう一人の主人公。

両親の死後、"とある人物"によってもたらされた情報によって闇の書の存在を知った"ヤタガラス"によって保護され相原家に引き取られる。病の度合いも原作よりは若干軽めで、学校にも通学できる程度のものであり、匠真と同じ海鳴市内の公立小学校に通っている。

引き取られたばかりの頃は両親を失った事から無口で暗かったが、晃祐が甲斐甲斐しく身の回りの世話をしたりした結果、生来の明るい性格に戻り同時に実の兄の様に慕うようになった。

闇の書の主となってしまったことから海鳴市に巣食う悪魔と、闇の書を狙う"組織"の巨大な陰謀の渦に巻き込まれていく。

 

 

◯相原 那緒実(あいはら なおみ)

 

主人公の母親にして悪魔召喚師。

かつて帝都を幾度と無く襲った悪意と戦った"14代目葛葉ライドウ"の孫で、"絶対無敵の悪魔召喚師"の異名を持つヤタガラスのエース的存在。はやて同様幼い頃に両親を失いつつも"幸せな家庭"を夢見、祖父譲りの不屈の精神で数多くの修羅場を乗り越えて遂に念願を果すことが出来た。しかし現在は夫・崇と長男・晃祐との軋轢に頭を悩ませている。

40歳を越えているが非常に若々しく、20代と言われてもおかしくない美貌を誇り、同じく20代近い美貌を持つ"翠屋"の高町桃子と共に海鳴市ではちょっとした有名人となっている。

若い頃の髪型はロングヘアーだったが現在はショートボブにしている。

巨大な渦に巻き込まれた晃祐とはやての2人の主人公を時には母親として、そして時には悪魔召喚師として導いていく事になる。

好物はマンゴープリン。

 

 

◯相原 匠真(あいはら たくま)

 

主人公の弟。4月27日生まれの11歳(第5話より小学6年生)。

晃祐,はやてよりも先に悪魔と悪魔召喚師の存在を知ったが、「病弱な自分では何も出来ない」と言って那緒実の言い付けを守り、2人には秘密にしていた。

晃祐曰く「呑気な野郎」との事だが、小学生とは思えないほどの落ち着きを持つしっかり者で、常に学年でトップ5に入るくらいの頭の良さに女の子と言われてもおかしくない程の華奢な体型と容姿を持つが、生まれつき病弱で運動は苦手。

周囲からは兄・晃祐と常に比較されているが、内心ではその事に晃祐が不満を持っているだけでなく、自身に対しても嫌悪感を持っている事を理解しており、"如何にして兄弟仲良くやっていくか"を常に考えて行動している。

はやてが引き取られて来た最初の頃は"匠真兄ちゃん"と呼ばれていたが、ムズがゆく思ったため無理矢理"タッ君"と呼ばせるようにした。彼女より年上で頭の回転が早いにも関わらず、何かと言い合いをする辺りはまだ子どもである。

 

 

◯相原 崇(あいはら たかし)

 

主人公の父親で、海鳴市内の公立中学校で教師をしている。

那緒実とは共通の知人の紹介で知り合ったが、最初は悪魔召喚師であることを知らずに付き合い始め、知った時には直ぐ様辞めるように猛反対したものの、彼女の覚悟を知ったことで逆にそれを支える様になる。

保護者や生徒たちからは非常に評判が高いが、それら全ては家庭を蔑ろにして得たものであり、仕事に没頭するが余り2人の子供(特に長男)からは嫌われていることを知りつつも見て見ぬ振りをし続けている。

頑固で我が強過ぎる性格をしているため日頃から同僚との衝突が多く、それで溜まった鬱憤を晴らすかのように酒に溺れては那緒実不在時に晃祐と匠真(特に平凡な学力の晃祐)に虐待紛いの暴力を振るっていた。しかし彼女がはやてを引き取ってきた時にそれを知られ、大目玉を食らってからは陰で物に当たる事で解消している。

崇は教師一族・相原家3代目にあたり、その事に高いプライドを持っていることが彼を歪な性格の人間へと変えてしまった。彼が息子達に本当の意味で向きあう日は来るのだろうか。

 

 

◯14代目葛葉ライドウ

 

大正時代に帝都を襲った怪異に立ち向かった悪魔召喚師。高等師範学校の書生時代は黒猫(業斗童子)を何時も連れていた事から築土町周辺では有名人であった。

時代が昭和に移ってからは探偵事務所を開いて悪魔召喚師との二足の草鞋をしつつ引き続き悪魔と戦っている。

結婚後に2人の子供を儲けたものの、封魔管と愛刀"赤光葛葉"を残し行方不明となり後に2つの稼業を継いだ次男が15代目ライドウを襲名した。

尚、那緒実は長男の娘に当たる。




登場人物設定はその都度追加していきます。

この作品は元々、従兄からデビルサマナーシリーズを借りてプレイした時にその面白さの虜となり、「クロスオーバー作品を作ってみたい」という何となく思った所から始まっています。
その後、従兄から「ソウルハッカーズのナオミが死ななかったら?」という問いを貰った事とたまたま友達の家で読んだ「◯◯◯少年の事件簿」から、主人公を14代目ライドウの曾孫にして、更にナオミの息子(=ナオミが14代目の孫)という設定を思い浮かびました。

また、クロスオーバーする作品をリリカルなのはシリーズにしたのは、管理局が女神転生シリーズのLAW勢に極めて近いモノを感じた事や、メガテンの悪魔や魔法,世界観が遜色なく融け合う事が出来るのではないか?と考えたからです。

これからもこの作品をヨロシクお願いします。


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第5話 苦悶の日々

主人公はドツボにハマると何処までも落ちていくタイプです。
今回は突き付けられた事実に、独り苦悩します。





4/10 23:33 誤字・脱字を修正,一部内容を変更
4/16 11:35 誤字を修正
5/10 11:04 サブタイトル変更


 "世界を一変させる出来事"から1ヶ月が経過した。

 

 

 期末試験と春休みを終え、遂に中学3年へと進級したが未だに俺は頭の中で"あの事"について一杯だった。数ヶ月後には中体連があるというのに、ここの所部活の練習に全く力が入らず練習試合でもほとんど勝ち星を挙げる事が出来ないでいる。この事は勉強でも同じで、授業に集中出来ていない状態を見かねた担任からは、このままだと1年後に志望校への進学は絶望的だとも言われた。また教師の伝手を使ってその事を訊いた父さんからは、いつも以上に教え子や匠真と比較されて罵倒された。

 あの時母さんは「はやての側にいるだけで良い」と言ったけれど、そんなんじゃ駄目だ。でも陰で"相原家の穀潰し"と言われる無能で無力な俺に一体何が出来るっていうんだよ……

 

 

 今日も今日で夕食後、部屋に戻った俺はまた"あの事"について頭を悩ませていた。すると、

 

 

「兄さん。ちょっと良い?」

 

「あ?ああ……」

 

 

ドアがノックされ匠真が中に入ってくる。

 

 

「最近全然元気が無いみたいだけどどうしたの?」

 

「……匠真には関係ない事さ」

 

「テストや部活の成績が良くないって父さんが言ってたし、土曜日にはやてちゃんが図書館に行く時もここの所付いて行ってあげてないから心配だって母さんが……」

 

「だから匠真に関係無ぇ事だって言ってんだろ!それならがオメェが付き添ってやりゃあ良い事だろうが!!」

 

「兄さん……ひょっとして、"闇の書"の事でずっと悩んでる?」

 

「(!!)なんでそう思うんだよ」

 

 

 母さんといいコイツといい、どうしてここまで人の思っていることをズバズバ当てて来るんだよ。特に匠真は小学生で普段は呑気なクセに無駄に鋭い所があるし、何より優等生なだけあって全てが平々凡々な俺が陰からバカにされる。本当に腹が立つぜ全く。

 

 

「兄さんは思っていることが顔に出やすいんだよ。幾らいつも"呑気だ"と言われてる僕でもそれくらい解るよ」

 

「流石は天才少年、凡人の考えなんざ全部お見通しってか?流石だねぇ~」

 

 

 俺はいつもの調子で戯けてみせるが、逆に匠真の顔が険しいものになる。

 

 

「兄さんは自分自身を見下し過ぎだよ。どうして僕が兄さんよりも先に"事実"を知ったのにこうしていると思う?」

 

「知るか」

 

「僕は身体が弱いし、何よりいつも通りはやてちゃんの側にいてあげれば、それだけであの子が幸せそうな顔をしてくれるからだよ」

 

「身体なんざヤタガラスで治して貰えば良いだろ。そんで"組織"とやらからはやてを守ってやれば良いじゃねーか。お前みたいな頭脳明晰・容姿端麗な男が悪魔召喚師をやったらさぞかし画になるんだろーな」

 

「全く、兄さんは父さんと同じだね」

 

「あ?お前もう一回言ってみろや!!」

 

「父さんと同じで変に頑固で責任感が強いんだよ!嫌いなら嫌いでああならない様に気を付ければ良いのに最近ますますそっくりになってきた!!」

 

「いい加減にしやがれ畜生!」

 

 

 俺は匠真の「父親に似てきた」という言葉で怒り心頭に発した。

 

 

「兄さんこそいい加減にしてよ……そんなことでウジウジ悩んでないで少しは周りの事も考えて!どれだけ迷惑掛けてると思ってるのさ!!」

 

「周りの事考えてっからこうして悩んでんじゃねぇかクソが!!」

 

 

 怒りの余り襟首を掴んで殴り飛ばそうとして椅子から立ち上がったその時、突然しゃがみ込んで苦しそうにしだした。感情が昂ったのが災いしたのか発作が起きてしまった様だ。その姿を見た俺は、それまで全身の血液が沸騰していたのが一転して瞬く間に凍りついて行くのが解った。

 

 

「お、おい!大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫……酷いものじゃないから」

 

「横になってな、薬取ってくるわ」

 

 

 急いで匠真の部屋に行くと薬の入った袋を出し台所でコップに水を汲みに行く間、大人気なく怒鳴り散らした事を悔やんだ。俺を怒らせたあいつも悪いが、穏便に済ませようと一切考えなかった自分に一番の責任がある。本当に俺はどうしようもない人間だ。

 頭が良くて将来はイケメン確定,性格も良くて友達も多いが、唯一天から与えられなかったのが健康な身体だった。天は二物を与えずとは上手く言ったものだと思う。

 

 

「……持ってきたぞ」

 

「うん」

 

 

 薬袋とコップを乗せたお盆を、ベッドの横にある本棚の上に置くと身体を起こして薬を口に含み、水と共に飲んでいく。その後落ち着くまで2人の間に言葉は無かった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「……すまん。大人気なかった」

 

「いいよ……ただでさえ中学3年になってピリピリしてるのに、あんな事があったらそれどころじゃ無くなるってのも解るし。でも本当に兄さんは自分自身を見下していると思う。それって絶対良くないよ」

 

「卑下してる件については触れないでくれ。お前に絶対解る事じゃないからな」

 

「……そうするよ。それじゃ、部屋に戻るね」

 

 

 匠真は結局、俺に詳しい事も訊かずに薬袋を持って部屋から出て行った。その後お盆とコップを片付けに台所へ戻り、頭を冷やそうと冷蔵庫の麦茶をガブ飲みする。

 あーあ、なんか全てにおいてやる気も情熱も消え失せちまったな……考えるのも面倒臭くなっちまったから、明日は部活バックレてゲーセンか何処かに行くとするかぁ~などと考えていたら徐ろにリビングのドアが開かれ、ゆっくりとはやてが入ってきた。

 

 

「兄ちゃん、明日剣道の練習終わって家に帰ってきたら何処にも行かへん?」

 

「あ?ああ……」

 

「ほんなら久々に図書館まで付いて来て欲しいんやけど」

 

「ああ……」

 

「んで、その後"翠屋"に寄って行きたいんや。27日はタッ君の誕生日やろ?那緒実さんからバースデーケーキの予約を頼まれてん」

 

「ああ……」

 

「……兄ちゃん?私の話ホンマに訊いとるん!?」

 

「ああ……」

 

「なんて言ったか言い直してみてや」

 

「ああ………………図書館に行った後、翠屋でケーキの予約をするんだろ?」

 

「なんや……心配して損したわ。もし聴いてへんかったら"これ"でどついたろと思っとったのに」

 

 

 はやては背中から俺が苦悩する原因となった"闇の書"を出して俺に見せる。こんな分厚い本の背表紙(しかも鎖付き)で殴られた日には病院行き確定だな。

 

 

「兄ちゃんがずっと私と"この本"の事で悩んどったなら、それは要らん心配やで。」

 

 

 いつもの様に優しい顔付きで俺にそう言ってくる……けど、それじゃダメなんだ。でも力も才能も無い俺にどうしろと?

 

 

「……ほなダメ元で那緒実さんに『悪魔召喚師になりたい!』って言ってみたらどうなん?」

 

「……は?」

 

 

 再度悩み始めた俺に向かって予想の斜め上を行くセリフを言ってきた。コイツ何考えてやがるんだ!

 

 

「私は兄ちゃんとタッ君と3人で色々喋ったり遊びに行ったりするだけで十分やけど、それじゃ兄ちゃんは納得出来なさそうな顔をしよったからなんとなく言ってみただけや。"言うだけタダ"やで!」

 

「お前なあ。それは匠真に言ってやってくれよ……あいつは身体が弱いのを除けば完璧だろ。あんな将来イケメンになるのが確定している様なヤツこそ悪「兄ちゃんのチキン!」」

 

「兄ちゃんはあの日、地下室に行く前になんて私に言うたか覚えてる?『此処でやらねば男が廃る』って言うたんやで。周りを見返すんならそれくらいやらなアカンで」

 

 

 まさか俺より6歳も下(6月の頭で9歳になるから実質5歳下)の子に説教されるとは思いもしなかった。確かにそうだ。今まで現状から抜けだそうとする格好だけつけて来たけれど、実際は何一つとして行動に移して無かった。始まる前から無理だと諦めていたんだ……

 

 

「解った解った。少し考えさせてくれよ」

 

「ホンマやな?怖気付いて言わんかったら今度こそ"これ"でどついたるからな!」

 

「ちょ、それだけは勘弁……ってもうこんな時間かよ。寝ないと部活に遅れるな。」

 

「解ったわ。ほな兄ちゃんおやすみな~」

 

「おう。おやすみ」

 

 

 はやてがリビングから出て行くのを見届けると、麦茶を飲んだグラスを洗って部屋に戻り、部活の準備をしてベッドに入る。なんだか心の支えが少し取れかかった気がしてなんとなく眠りにつけそうな気がした。

 

 

 

 

 

次回に続く




ようやく主人公に悪魔召喚師フラグが立ちました。

主人公はこの時点では自己評価が著しく低く、才気溢れる弟に対し「お前が悪魔召喚師になればいい」という言葉を投げつけますが、これは裏を返せば「力(=才能)があれば俺がやる」という事に他なりません。世間一般的には"ごく平凡"なのですが、弟が余りにも優秀過ぎるが故に"ごく平凡"でも周囲から冷たい目で見られているという現実から脱却したくて心の奥底ではひたすらにもがき続けているのです。
中学生という多感な時期はどうしても視野が狭くなりがちなもので、その視野の狭さを感じ取っていただけたら幸いです。


次回は翠屋のあの夫婦が登場します。

それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第6話 図書館へ

大変お待たせいたしました。第6話になります。
本来は一気に翠屋まで行くはずでしたが、体調の関係で2分割しました。
それではどうぞ。


「胴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

「そこまで!どうした相原?昨日より少し動きが良くなったぞ!?」

 

「……ふぅ、そりゃどうも」

 

 

 はやてに説教されてから一夜明けた。今日は午前中は剣道部の練習があるんだが、学校の体育館が他の部の練習試合で使えないために近くの市民体育館に来ている。あの事があってからというものの練習に身が入らず何もかもがボロボロだったけれど、今日は何故か身体全体の動きが良くなった気がする。

 

 

「3年になってから副部長として、ようやくマトモな打ち合いを見せてくれたな。後はこれがどんな状況でも出来るかが中体連までの課題だ。いつまでも"本番に弱い"だなんて言われないようにしろよ!」

 

「はい!」

 

 

 久々に顧問の先生からお褒めの言葉をいただく。面と小手を外すと後輩が、

 

 

「先輩お疲れ様です!飲み物持ってきたんでどうぞ」

 

「ありがとよー」

 

 

 近付いてきて手に持っていたスポーツドリンクを渡してくれた。すると先生が俺の方を見て、

 

 

「よし相原、少し休んだら最後に高倉と部長・副部長対決でもしてもらおうか!」

 

「ええ~流石にソレは無いでしょうよ~」

 

「今度の大会は高倉が次鋒でお前を大将にする予定だ。あいつは海鳴あたりでは5本の指に入るくらいの実力なのは誰もが知ってる事、敢えて次鋒に置くことで相手にプレッシャーをかけられる」

 

「ちょっと待って下さいよ。俺が"本番に弱い"って事知らない訳無いでしょう!」

 

「中体連までの期間でお前のその弱点を克服させるって事もある。それにお前には地力があるんだ。その力を見込んでの大将だ。相原、解ってくれるな?」

 

「はぁ~……どうなったって知りませんからね?」

 

 

 先生と俺がこんな会話をしていると、隣に剣道部部長の"高倉健太郎"が来て声を掛けてきた。

 

 

「相原、俺が勝てばお前が当たる事はないんだ。余程のことがない限り大丈夫さ!」

 

「健さんや……それ思いっきりフラグだって」

 

「フラグとは圧し折るもの!さあやろうか!!」

 

 

 結果だけ言うと、瞬殺だった。健さんは胴や小手を狙いに行く事が多く、その動きに気を付けていたら面を食らわされてしまった。本当に面食らって唖然としたよ全く!(因みに面食らうは本当は"麺食らう"と書いて"橡麺棒を食らう"の略なんだぜ!!)

 

 

「今日の練習はこれまで!来月頭には大会があるからそれまでに各々の弱点や悪い癖を少しでも克服・修正するように。解散!!」

 

「気を付け!ありがとうございました!!」

 

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

 

 

 シャワールームでシャワーを浴びた後、はやてと図書館に行くために直ぐ様帰宅しようとする。すると数人が寄ってきて、

 

 

「おい相原!今日暇だったら帰りにゲーセン行かね!?」

 

「悪い。今日用事があるんだ。」

 

「また"義妹ちゃん"とどっか行くんだろ?このシスコン野郎~」

 

「うるせぇわ!弟の誕生日が近いからケーキの予約しに行ったりするんだよ!!」

 

「はいはい解った解った。せいぜい仲良くなぁ~」

 

「……こん畜生め!」

 

 

 クラスメイトや部活の仲間から、はやてと俺が一緒に図書館や買い物に出掛けている所を度々見られて以降、何故か"シスコン野郎"と呼ばれるようになる。最初はもの凄く嫌で神経質になった時もあったけれど、はやてが車椅子に乗っている事が次第に皆へ知られてくると、"嫌味とも取れる励ましの言葉"を掛けて貰うようになった。以降は話をする時の一種の"お決まり"になっている。

 よし、さーて帰りますか!

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 今日は久々に兄ちゃんとお出かけや。私は時計を何度も見ながら帰りをまだかまだかと待ちわびる。

 

 

「……何時帰ってくるんやろ」

 

「それもう7回目だよ?」

 

「ここんとこずっとウジウジしとって構ってくれへんかったから、ホンマに楽しみなんやもん!」

 

「そういえばお昼ご飯はどうするの?」

 

「朝ご飯の残りの豚汁もあるしご飯も冷凍してるのがあるはずやから、後はお漬物とか煮物で十分やろ?」

 

「張り切りすぎて無理はしないようにね?」

 

「タッ君だって人の事言えへんとちゃう?」

 

「……僕は今日は家にいるつもりだから大丈夫だよ」

 

「ただいまー」

 

「あっ、兄ちゃんお帰り~!」

 

「お帰りなさい。僕が迎えに行くからはやてちゃんはご飯の準備をしてて」

 

「ほな頼むわ~」

 

 

 タッ君がリビングを出て玄関に行くのを見ると、私は台所で鍋に火をかけつつご飯を電子レンジで解凍したりし始める。鍋の中の豚汁をおたまでかき混ぜてると、戻って来たタッ君は解凍できとるご飯とお漬物,煮物を盛ってテーブルに並べてくれる。そうしていると着替えた兄ちゃんが入ってきた。

 

 

「昼飯も豚汁とご飯か」

 

「なんや兄ちゃん。嫌やったなら食べさせへんで?」

 

「俺が何時嫌だと申したか!?」

 

「2人とも冷めるから早く食べようよ。いただきまーす!」

 

「いただきまーす!」

「いただきます」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 昼飯を食い終わると早速出かける準備をする。図書館でははやてが本を探している間、俺は勉強をしていることが多い、勿論高くて届かない場所にあるものなんかは呼ばれたら取ってあげているけれど、高校受験が近付いている事もあってそっちに集中して気付かない事もこれからは出てくるかもしれない。

 

 

「兄ちゃん準備できた~?」

 

「おう、何時でも出られるぜ」

 

「気を付けてね」

 

「したっけ行ってくるわー」

「ほな行ってきまーす」

 

 

 図書館は歩いて3,40分位掛かっていたけれど、最近は低床のバスが増えたこともあってバスを使って行けるようになった。時間に余裕があったんで1つ隣のバス停まで行くと、そこにはやてくらいの年頃の女の子が既にいた。

 

「あ!はやてちゃん。こんにちは」

 

「おぉ~すずかちゃんや~!こんにちわ~」

 

 

 はやてが"すずか"と呼んだ少女は紫色のウェーブがかった髪で、日本人とは思えない紅い瞳をし、どことなく不思議な雰囲気を纏っている。少女は車椅子を押している俺に気付くと、

 

 

「初めまして。あなたがはやてちゃんのお義兄さんですね?はやてちゃんから常々お話は聴いています。私は"月村すずか"と言います。どうぞよろしくお願いします」

 

「こちらこそ初めまして!俺は相原晃祐です。はやてが何時もお世話になってるみたいでホントすいません」

 

「あれ~兄ちゃんとすずかちゃんって初めて会ったんか?そんなはず無いと思うんやけどなぁ」

 

「いやマジで初めてだし。ちょっと待てよ……"月村"てあの"Moonlight Industry"の?」

 

「そうや~」

 

「マジか……お前こんなお嬢様と何時の間に仲良くなったんだよ!?」

 

「図書館で知り合うたんやでー」

 

「あの~二人共?もうバスが来たんですが……」

 

「やっべいけねぇ!」

「おおきに!」

 

 

 すずかちゃんに言われて気付いた俺は、急いで車椅子を押してバスに乗り込む。車椅子用の空きスペースに停めるとベルトで固定して一息ついた。

 

 

「そやけどすずかちゃんって、いっつもめっちゃ凄い車で送り迎えしてもろうてるけど今日はなしてバスなん?」

 

「今日は私がわがまま言ってバスに乗る事にしたんだ~何時までもノエルやファリンに迷惑かけていられないし」

 

「んで今日もヴァイオリンの教室なん?」

 

「ううん。今日はお休みだから図書館に行こうと思って。はやてちゃんも図書館に?」

 

「そや~。それにしても偶然やねぇ」

 

「えっと、すずかちゃん。だっけ?お嬢様にこんな事お願いするだなんてアレだけど、俺来年高校受験があるから勉強しなくちゃいけないんだ。もし良ければ代わりにはやてが取れない高い所にある本を取ってくれると嬉しいんだけど……」

 

「そんな事気にしないでください。はやてちゃんと図書館で会うと何時もしてあげている事なんで大丈夫ですよ」

 

「ホントごめんね。よろしく頼みます」

 

「お任せください!」

 

 

 はやては学校の友達が良く家に遊びに来ているのを見るけれど、図書館の繋がりで別の学校の子とも仲良くなれるのは天性の才能だと思う。しかも私立海鳴聖祥大学付属小学校(略して海聖小)という、俺ら市井の人間にしてみればお坊ちゃま・お嬢様の行く"山の手の学校"の子とだなんて、世の中人間の繋がりってのは解らない部分も多いなぁ。

 

 

「――次は中央図書館前、中央図書館前です。お降りの方はお知らせください」

 

「それじゃあ降りましょうか。晃祐さん、お荷物お持ちしますよ?」

 

「いやいや流石にソレはマズいっしょ!それなら先に行って運転手に待って貰える様に言ってくれる?」

 

「ほな、私が持っててあげよか?」

 

「ちょっと重いかも知れないけど頼むわ」

 

 俺は鞄をはやての膝の上に乗せると、ベルトを外す準備をする。その直後バスが停まるとすずかちゃんはお願いした通り運転手の所に先に向かい、俺が固定ベルトを外している事を伝えてくれた様だ。ベルトを外し終えると下り口に向かい、はやてが2人分の運賃を払うとなるべく衝撃が少なくなるように注意して車椅子を歩道へ降ろす。最後に振り返って3人で、

 

 

「ありがとうございました!」

「ホンマおおきに~」

「ありがとうございましたー」

 

 

 ドアを閉める時に運転手が笑みを浮かべ、はやてに向かって手を振ってくれた。やっぱこういうのって良いよな。何時までも忘れないようにしたい。

 俺は図書館の入り口のホールに来ると、車椅子のハンドルをすずかちゃんに託し小声で、

 

 

「俺ら4時くらいになったら別の場所に行くからそれまで頼むね」

 

「解りました」

 

「ずずかちゃん、ほな行こか?」

 

 

 2人は小声で話をしながら小説コーナーに向かっていった。本棚で姿が見えなくなるとラウンジの読書スペースに出て、ノートと教科書に参考書と筆記用具を取り出す。

 

 

「はぁ~今日はイイ天気だなぁ。よっしゃやりますか!まずは英語からだ」

 

 

……勉強を始めて10分と経たずに頭を抱え込んでしまったのは此処で言う事ではない。

 

 

 

 

 

次回に続く




今回は日常シーンのみです。
2分割したことで文量が減ったため、急遽高町夫妻より先にすずかを登場させました。
あと私は地方在住なのでバスのシーンは、「後ろから乗って前から降りる」方式を想定して書いています。前から乗って前から降りるだなんて長距離バス以外乗ったことがない……

主人公が悪魔召喚師になる事を決意するのは、匠真の誕生日である4月27日に起こる"ある事"が直接的な切っ掛けとなるのでまだ先になりそうです。
ヴォルケンリッターの登場を心待ちにしている皆さん。本当にスミマセン。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第7話 翠の道

予告通り高町夫妻が登場します。
それではどうぞ。






2013 5/14 21:03 一部内容を変更
2013 9/17 16:29 誤字,脱字を修正


 勉強に没頭していると、マナーモードにしていた携帯のアラームのバイブレーションが作動して、もう4時になったことに気付く。

 

 

「あ、いけね。もうこんな時間か」

 

 

 ラウンジの席から立ち上がって、机の上に広げていた道具一式を鞄に入れると、はやて達を探しに向かおうとするが、カウンターの前で2人が俺の事を待っているのに気付く。

 

 

「兄ちゃんここやここ~」

 

「ああ、待たせてごめん。ここで立ち話もアレだし出ようか」

 

 

 3人で外に出ると、心地良い風が吹いている。梅雨前のこの時期は暑すぎもせず寒すぎもせず、ちょうどいい気温と湿度なんで個人的は好きだったり。

 

 

「はやてちゃんから翠屋に行くって訊いたんですけど、私もこれから翠屋に行くつもりだったのでご一緒していいですか?」

 

「マジで?全然構わないよ」

 

「2人ともはよ行くでー!」

 

 

 俺達3人は翠屋に行くまでの間、互いの家族についての事を話しながら歩いていた。すずかちゃんの家はやっぱり大企業のお嬢さんなだけあって、お付きの使用人がいたり猫をたくさん飼っていたり……と一般人の俺には考えられないような浮世離れした世界に住んでいる事を思い知らされた。その事を素直な感想として告げると、

 

 

「私は晃祐さんやはやてちゃんみたいな生活の方が羨ましいです」

 

 

 と返され、はやてには

 

 

「お互い様なんやって!」

 

 

 と言われてしまった。なんか納得いかねーなぁ……なんて考えていると横を黒塗りの如何にもお金持ちが乗ってそうなお高い車が通り過ぎ、少し離れた所で路肩に停車した。すろと、中からはやてやすずかちゃんと同じ位の外国人の少女が降りてきた。その全身から醸し出す雰囲気は、まさしく強気といったものだった。

 

 

「すずか!アンタ何ちんたら歩いてんのよ!?」

 

「アリサちゃん!」

 

 

 すずかちゃんはその子の所に駆け寄って何やら話を始めた。その間に俺ははやてに向かって、

 

 

「……はやて。あの子も友達?」

 

「ううん。でもすずかちゃんが"アリサちゃん"って言っとったって事は、多分"アリサ・バニングス"ちゃんやと思う。私すずかちゃんの友達の話は色々と聞いとるから」

 

「へぇ~。まあ見た感じからしていいとこのお嬢様なのは間違いないよな。」

 

「お淑やかなすずかちゃんと、強気そうなアリサちゃん……お金持ちのお嬢様のテンプレやなぁ」

 

「全くだぜ」

 

 

 こんな事を言い合ってる内に2人が俺等の所にやってきた。

 

 

「はやてちゃん、友達のアリサちゃんだよ」

 

「アリサ・バニングスよ。アンタがすずかの言ってた"車椅子の子"?すずかが色々世話になってるみたいね」

 

「八神はやてや!私もすずかちゃんから話は聞いとったでー」

 

 

 アリサちゃんという子は金髪で本当に整った顔立ちをしている。お嬢様だけあって将来は引く手数多なんだろうな……同い年位なら一目惚れしてるかも知れん。すずかちゃんも中々可愛いけれど外国人ってのはポイントが高い。

 

 

「……で、こっちの冴えないヤツは誰?」

 

 

 ……前言撤回。なんだコイツ強気を通り越して傲岸不遜じゃねーか!幾ら平民とはいえこっちは年上だぞゴルァ!!

 

 

「あ、アリサちゃん!この人ははやてちゃんのお義兄さんの晃祐さんだよ……ゴメンなさい!アリサちゃんって結構優しい所もあるんですけど、初めて会った人にはキツく当たってしまうみたいで」

 

「(……兄ちゃん抑えてぇな。年下の子にホンマに怒るなんて情けないで)」

 

 

 はやては俺が青筋立てて拳を震わせているのが解ったのか、小声でなだめてくる。

 

 

「アリサちゃん!初めて会う人にそんな事言っちゃダメでしょ!?」

 

「あたしは本当の事を言っただけよ」

 

「ア~リ~サ~ちゃ~ん~!?」

 

「う……解ったわよ。謝れば良いんでしょ謝れば。ゴメンね!」

 

「チッ、わーったよ。俺は相原晃祐だ。よろしく」

 

 

 彼女が俺に謝ってきた(反省しているようには見えなかったから内心更にイラッと来たのは秘密)んで、こっちは名前を名乗る。ふと車の方から誰かが近付いて来る気配がしたんでそっちに目線を向けると、燕尾服を纏った初老の男性がいた。

 

 

「すずか様……と、見慣れない方々ですがご友人の方でございますかな?」

 

「鮫島さん。車椅子の子は私の友達の八神はやてちゃんで、後ろの方ははやてちゃんのお義兄さんの相原晃祐さんです。」

 

「はじめまして~」

「……ども」

 

「お初にお目に掛かります。私、アリサお嬢様の運転手を命じられている、"鮫島"と申します。以後お見知りおきを」

 

「鮫島!こんな所で立ち話もなんだしどうせだから翠屋まで車で送ってあげなさい!」

 

「いや良いよ……すずかちゃんだけ先に行ってたら?はやてと俺はゆっくり向かうし」

 

 

 俺はさっきのお返しとばかりに若干皮肉を込めた口調で言い放つ。善意はあるんだろうけどなぁ。

 

「兄ちゃん、その言い方はなんや?さっきの"冴えないヤツ"って言われたのまだ怒っとるん?」

 

 

 ……バレてーら

 

 

「……ま、アリサちゃんの善意に甘えたいのはやまやまなんやけど、見たら解るよーに車椅子やし迷惑かけられへん。そやから私と兄ちゃんは遠慮しとくわ」

 

「あっ……ご、ゴメン」

 

「そんな謝らんくてええよ。全然気にしとらへんし」

 

 

 はやてが車に乗れないことにやっと気付いたのか、アリサちゃんは困惑の表情を浮かべ俺の時とは反対に本気ですまないと思って謝ってきた。

 

 

「じゃあこのまま皆で歩いていこうよ?」

 

「……そうね。仕方ないわ!鮫島、時間が来たら電話するからそれまで家に戻ってなさい」

 

「承りました。皆様、道中お気をつけて」

 

「ええっ!?それで良いのかよ!少なくともお嬢様なんだから歩くのは色々と問題じゃねーの?」

 

「何?アンタはあたし達が歩いちゃダメだって言うわけ!?」

 

「あのねぇ、少しは自分の立ち位置ってのを考えたらどうなんだよ。それくらいの歳になったら少しは解るはずだろ?」

 

「晃祐さんのお気持ちも解りますが、私の両親もアリサちゃんのご両親も過保護にならないようにしてくれているんです。世間一般的なお金持ちのイメージには合わないんでしょうけど……理解していただけませんか?」

 

「こんな事しとったら翠屋閉まってまうで!」

 

「……はいはい。じゃあ行きますかね」

 

 

 4人で翠屋に向かっている間、俺以外の女の子3人は色々な話をして盛り上がっていた。10分程更に歩くと目的の翠屋が見えてきた。入り口の目の前に着くと突然アリサちゃんがドアの前に来て、

 

 

「ちょっと待って、あたしがドアを開けてあげるからその間に入りなさい」

 

「アリサちゃん?おおきになぁ」

「意外だなぁ、我先にと入って行きそうな感じだけど。まぁありがとな」

 

「こ、これくらい当然じゃない!あたしを何だと思ってるのよ……」

 

「ふふふ……アリサちゃんったら照れちゃってぇ」

「そか~アリサちゃんってツンデレさんなんか~」

 

「照れてなんか無いわ!それにツンデレって何よ!?入らないなら置いてくんだから!!」

 

「ゴメンゴメン。ほなよろしくな~」

 

 

 アリサちゃんがドアを開けると、俺は車椅子の前輪を上げて中に入る。続けてすずかちゃん、最後にアリサちゃんが中に入ってドアを閉めた。すると目の前には信じられない光景が……

 

 

「桃子さ~ん!マンゴープリンとタピオカ追加ねー。あ、それからタルトもお願い♪」

 

「母さん!!!!」

「那緒実さん!!!!」

 

「あら、2人ともどうしたの?」

 

「どーしたじゃないよ!何で母さんがここにいるんだよ!!??」

 

「いらっしゃいま……ってアリサちゃんとすずかちゃんじゃない!ちょっと待ってね、今なのはを呼んでくるから」

 

 

 俺とはやてが母さんに唖然としていると、店内にいたメガネを掛けた店員らしき女性がアリサちゃんとすずかちゃんを見て中に入っていった。その代わりに店長らしきガタイの良い優しそうな男性が出てきて、

 

 

「いらっしゃいませ。何か「士郎君!2人に何か出してあげてくれない?」」

 

「ん、そうですか。解りましたよ那緒実さん」

 

 

 この男性が母さんの後輩だって?なんか見た目に似合わず全身からもの凄い貫禄が出てるんだけど……って事は悪魔召喚師関係の人なのか!?

 

 

「2人とも中に入って良いって!」

 

「それじゃあ私達はこれで」

 

「じゃあね。今度時間があったら遊びに行ってあげる!って別にあたしが遊びに行きたい訳じゃないんだから!!」

 

「へ……?ほ、ほなな~」

「あ……?したっけな~」

 

 

 すずかちゃんとアリサちゃんは店の奥へと消えていった。きっと"なのは"という子がその友達なんだろう……って今はそんな事思ってる場合じゃない!

 

 

「母さん!だから何でいるんだよ!?」

 

「そや!那緒実さん今日は仕事でいないって言っとったやないか!?」

 

「その仕事が一段落したからいるんじゃない。それに匠真の誕生日も近いしケーキを予約しようと思ってたから」

 

「おいおい、それは俺とはやてに任せるって言ってただろ!」

 

「あれ?そうだったかしら……」

 

「いい加減にしてくれよ母さん……これじゃ意味がないじゃないか」

「そやそや~」

 

「うーん。何かこの会話の流れ、どこかで聴いた気がするんだけど……ああ!」

 

 

 突然スプーンを持ったまま右手を顎に当てて考え出した母さんは何かを思い出し、

 

 

「あら?ケーキの件については以前、お話したはずですわよミスター。自業自得じゃなくて?」

 

「ミスターって何だよ!しかも自業自得じゃねーし!!」

 

「ほんでなんやねんその死亡フラグ的な節回しは!?」

 

「意味解んねーし!」

 

 

 母さんの意味不明な言動と、はやての謎のツッコミにまた唖然とさせられる。

 

 

「今はお客さんがいないから良いけれど、普段は静かにしてくれると助かるなぁ」

 

「那緒実さん。追加のマンゴープリンとタピオカ、それとタルトね」

 

 

 後ろから声を掛けられたんでビックリして後ろを振り向くと、さっきの男性と中に入っていたのとは別の女性が立っていた。い、何時の間に……

 

 

「2人ともそんな所にいないで早くこっちに来なさいなー」

 

 

 母さんの声に呼ばれてカウンター席に座ろうとする。っとその前に、はやてのために椅子を退けてあげる。

 

 

「はい、君達にはチーズケーキとモンブラン。飲み物はカフェオレで良かったかな?」

 

「……ありがとうございます」

 

「おおきに~」

 

「まずは自己紹介を。私は翠屋のマスターの"高町士郎"。こっちは妻の"桃子"だ。那緒実さんの学生時代の後輩にあたる」

 

「初めまして。パティシエをしてる"高町桃子"よ」

 

「俺は相原晃祐です。母がいつもお世話になってます」

 

「私は八神はやてや」

 

 

 

 

 

 俺にはチーズケーキを、はやてにはモンブランが出されたので一口。うん、やっぱり翠屋のチーズケーキは最高だ。はやてを見ると幸せそうな顔をして頬張っている。

 よし、一息入れたから聞きたいことを訊いてみよう。

 

 

「で、母さん。この人達とはどういう関係?」

 

「だからただの後輩よ」

 

「嘘だ。絶対ただの先輩後輩じゃないね。はやてが店内に入ってきた時、士郎さんの表情が少し変わった気がしたから……それに母さんは大学なんて行ってないはずだ」

 

 

 俺が言葉を発すると、士郎さんの眉間が動いた。すると何かを察したのか桃子さんは入り口に行って札をひっくり返し、閉店の準備を始めた。その直後、

 

 

「これから話す事はどうか内密に頼むよ。美由希!なのは達がこっちに来ないようにしてくれ!」

 

「うん……解った」

 

「え?え?なんやどうしたんや!?」

 

 

 場に緊張した空気が流れるとほぼ同時に閉店準備を終えた桃子さんが戻ってきた。

 

 

「士郎さん、那緒実さん。いいわよ」

 

 

 士郎さんはそれまでの優しい眼差しからから一変して刃物のような鋭い眼光を放ち、俺達に向かってこう告げた。

 

 

「私は表向きこそ、この翠屋のマスターだが裏では那緒実さんと同じヤタガラスに所属している」

 

 

 

 

 

 

次回に続く




今回はアリサと鮫島、高町夫妻と美由希が初登場しました。

「士郎さんの"御神流伝承者"という設定を見て、ヤタガラスの一員として使わないわけにはいかない!」
しかし士郎さんって、第1期の年齢(37歳)を見ると18歳位の時に恭也が生まれてるんですよねぇ……まぁ「原作」の高町家の設定ならばおかしい所は無いのですが。


あと那緒実にどうしてもあの名台詞を言わせたくて早々に言わせてしまいました。



それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第8話 鴉の嘴

皆さん大変お待たせしました。
メガテン4をやっていたら気付いた時には前回の投稿から1ヶ月経っていました……

今回から徐々にリリカルなのは第1部と内容がリンクしていきます。




2013 7/19 13:26 誤字,脱字を修正


「私は表向きこそ、この翠屋のマスターだが裏では那緒実さんと同じヤタガラスに所属している」

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

 

 何となく予想はしていたけれど、士郎さんの全身から放たれるオーラに気圧されて何も言えなくなってしまう。

 

 

「私がここにいるのは、今月に入ってから突然海鳴市全域で不可解な現象が発生しているから、その調査の打ち合わせのためだったのよ」

 

「今回の現象は人の力では成し得ない何かの強大な力が加わっているとしか思えない。そこで那緒実さんが解決のために駆り出されたという訳なんだ。それを引き起こしているのが悪魔であろうがなかろうが、人々にとって危険な事には変わりないからね」

 

 

 確かにここ最近、ニュースでも前日は何とも無かった道路が次の日には突然陥没していたり、学校の近くの神社の木々がなぎ倒されていたりといったニュースは眼にしていた。俺自身も内心、"これは只事じゃないな"となんとなく思っていたけれど、まさかヤタガラスが動く様なヤバい事態だったなんて思いもしてなかった。

 

 

「ほな、士郎さんもヤタガラスのメンバーっちゅうことは那緒実さんと同じ悪魔召喚師なん?」

 

「いや、私は諜報などといった隠密行動で悪魔召喚師のバックアップを行い、必要な場合は戦闘も行う要員の一人だったんだ」

 

「"だった"?」

 

「士郎君は数年前に悪魔との戦いで重傷を負って第一線から退いたのよ。昔はもう忍者みたいに影分身や水遁の術,土遁の術もこなせる超人だったんだから♪」

 

「嘘はいけませんよ嘘は……と、まあ第一線から退く前から桃子は私がヤタガラスの一員だった事は知っていたから、翠屋をヤタガラスの情報交換の場としても利用させて貰っているんだ。正直済まないとは思っているけれど、外からごく自然に見える形で集まるにはこうするしか無かった」

 

「ヤタガラスってホンマに凄いんやなあ……みんなのために命掛けて戦っとるやなんて正義のヒーローやなぁ」

 

「そこ関心する所か!?」

 

 

 感心するはやてにツッコミを入れつつ、頭の中で色々と考えを巡らせる。何故4月に入ってからその"現象"が起こっているのか、そして何故さっき士郎さんが"美由希"と呼んだ女性に"なのは"という子をこっちに来させない様に言ったのか……気になる点が幾つも出て来る。

 

 

「母さん、士郎さん。幾つか質問が有るんだけど良い?」

 

「良いけど答えられる範囲内でしか答えられないわよ?」

 

「じゃあ一つ目。母さんが調査しているっていう"現象"って、はやての闇の書が原因なのか?」

 

「あ……」

 

 

 はやては一瞬困惑の表情を浮かべる。すると母さんと士郎さんはお互いに顔を合わせた後俺達に再度向かって、

 

 

「YESかNOかで答えれば、間違いなくNOね」

 

「本当ですか!?」

「ホンマなん!?」

 

「根拠としては、闇の書を狙っているのは情報提供者曰く"人間で構成された強大な治安維持力を持つ組織"との事だから、テロリズムの様な無差別攻撃なんて回りくどい事はしないで最初からはやてちゃんを狙ってくるはずよ」

 

「組織の目的はあくまで闇の書とはやてちゃんの身柄。警察や軍のような構成の組織ならば、前もって何らかの通告なりなんなりしてきてもおかしくはないな」

 

「ほっ……良かったわ~」

 

 

 はやてはそれを聴いて胸を撫で下ろす。俺も気が気でなかったからひとまずは安心した。

 

 

「私達は今回の"現象"を暗黒召喚師(ダークサマナー)が使役する悪魔が起こしたものだと考えてる。暗黒召喚師ってのは簡単に言うと悪の召喚師ってところね。人々を脅かす危険な存在よ」

 

「晃祐君、はやてちゃん。もしその現場に遭遇したら迷わずに逃げるんだ。そして安全を確保したら私か那緒実さんに連絡してくれ」

 

「……解りました」

「了解したで~」

 

 

 まず1つは解決したな。それじゃあ次だ。

 

 

「じゃあ次の質問。これは士郎さんへなんですけど、士郎さんと桃子さんの他にもう一人女性の店員さんがいましたよね?それとなのはちゃん……ですっけ?おそらく娘さんだと思うんですけど、店員さんには聴かれても良くて娘さんにはマズいって事はあの人もヤタガラスの一員なんですか?」

 

 

 士郎さんは俺の質問を聴くと、俺達が翠屋に来た時の様な温和な表情に戻り、

 

 

「ああ、さっき店内に出ていたのは高校に通っている長女の美由希なんだ。それで君の言っているなのはが次女になる。それと今はいないが大学生の恭也という息子もいる」

 

「じゃあなのはちゃんは上の2人と大分歳が離れてるんですね……って母さんの後輩なのに一番上が俺より5つも上とか!!」

 

「全然親子に見えへんやん!!」

 

「うふふふふ……やっぱり2人ともビックリするわよねぇ~」

 

「アハハ……あまり詳しいことは"家庭の事情"という事で話せないんだが、恭也と美由希にはそれぞれ高校生になった時に正直に打ち明けたんだ。それに対してなのははまだ小学3年生になったばかりだけど頑固者で視野も狭いし、あの子は何かと良い子振る所があってね。それが上の2人同様高校生になるまでに改善されれば打ち明けるけど、万が一今のまま成長したら……と思うと、ね」

 

「なんか話だけ聴いとると、なのはちゃんってどっかの誰かさんにソックリやなぁ~え?兄ちゃん!?」

 

「おい!頑固なのは否定しないけど視野も狭くないし、なにより良い子振っちゃいないだろ!!俺はどっちかっつーと"放課後に窓ガラス壊して回る"とか、"盗んだバイクで走り出す"タイプだぜ!?」

 

「晃祐っ!あなたまさか……そんな子に育てた覚えなんて無いのに……グスッ」

 

「母さん!?嘘!嘘だって!!例えだよ例え、メタファーってヤツ!目ぇ潤ませてこっち見んなって!!」

 

「いや~はやてちゃんの家は何時も賑やかそうで良いねぇ」

 

「まぁウチも色々あるんやけど基本こんなもんやねぇ~」

 

 

 俺が母さんをなだめると最後の質問をする。

 

 

「じゃあ最後の質問。なんでヤタガラスは表立った行動をしないんだろう。今の所ニュースや新聞を見る限りじゃ"現象"で怪我人は出ていないみたいだけれど、いずれは出てもおかしくないし、悪魔が関係しているなら警察や自衛隊じゃ相手にならないでしょ?」

 

「そうや、悪魔の存在は隠しとっても、どどーん!と出れば"怪獣退治の専門家"みたいでカッコええやん?」

 

「それは無理ね」

「それは無理だね」

 

 

 母さんと士郎さんは声を揃えて否定する。

 

 

「ヤタガラスは奈良時代や平安時代の陰陽師の組織、陰陽寮が派生して出来たものだ。陰陽師は表向き天文や時,暦,占いといったものを司る役職だったが、裏では式神や呪術を駆使して魑魅魍魎――即ち悪魔と死闘を繰り広げていたんだ。その後時代が移っていって陰陽寮は明治時代の始まりの頃に解体され、陰陽師自体公式的には姿を消してしまったというのもあって、今や千年以上秘匿されていた事を表向きには出来ないんだ」

 

「それに陰陽師ブームってのがあったでしょ?アレのせいでかの有名な安倍晴明の陰陽道の流れを汲む神社に一時期"陰陽道を学びたい"って言う人がけしかけたから、こっちも動きを抑えなくちゃいけなくなって大変だったんだから」

 

「ううむ……やっぱり公には出来ないのかぁ」

 

「そんなぁ~絶対ええと思うんやけどなぁ」

 

「陰陽師にしろ悪魔召喚師にしろ非科学的なモノだから仕方ないのよ」

 

「現代では"心霊現象は全部プラズマだ!"って言い張る大学教授もいるくらいだから仕方の無い事だよ」

 

 

 現代科学は人々に豊かな暮らしを与えると同時に、目に見えない存在を信じる心を失わせたんじゃないかと思ってしまった。今時、実は悪魔がいてそいつらを退治する連中がいると公表しても頭がイカれてるとしか思われないし、俺も悪魔をこの目で見なかったら絶対に信じられなかったと思う。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「もう質問は無いかい?」

 

「すいませんありがとうございました」

 

 

 質問が終わるのを見計らって桃子さんが店内に戻ってくると、皆で世間話で盛り上がった。すると携帯が鳴りだしたんで取り出してみると匠真から電話だった。俺は邪魔にならないように店の端に移って電話に出る。

 

 

「おう、どうした?」

 

『兄さん!皆が帰ってこないからって父さんが爆発寸前だよ!!』

 

「チッ……あのクソ親父……わーったよ、翠屋で母さんに会ったから買い物して帰るって言っといて!」

 

『わ、解った!』

 

 

 電話を切ると皆の元に戻り、母さんとはやてに帰る用意をするように告げた。

 

 

「はぁ~全く、あの人は自分で晩御飯ぐらい作れるでしょうに」

 

「いっつも"俺は疲れてるんだ!"やもんねぇ」

 

「晃祐君、実は崇さんとも知り合いなんだけど相変わらず頭が硬いのかい?」

 

「……ダイヤモンド並みですよ」

 

「そうか……もし崇さんの事で不満があったら私達が聴いてあげよう。力になってあげられる事もあるかもしれない」

 

「……すんません」

 

 

 士郎さんと桃子さんに見送られ俺達3人は翠屋を出て、途中商店街で買い物をして帰宅の途についた。母さんはクソ親父の機嫌直しに晩飯をすき焼きにするといい、はやてもそれを聴いて大喜びしていた。夕焼けに染まる街と、夕焼けに染まる母さんとはやての顔を見てこんな平穏な日々が何時までも続いてくれたら良いと願わざるを得ない。でも、この夕焼けの街が数分後には夜の闇に包まれる様に、それが延々と続く訳がないとも思ってしまう事に嫌気が差す自分もいた。

 

 

 そしてそれは数日後、現実のものとなってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




士郎さんがヤタガラスのメンバーという急展開。
武術の達人で元SPという仕事を発展させると自然にこうなりました。
ナオミにしろ士郎さんにしろ、ヤタガラスで人間の負の側面を見続けてきた結果凄まじい洞察力が身に付いていると思っています。だからなのはの性格も手に取るように解るのではないかと思う訳です。
しかしなのはは幼い頃からある部分で人に耳を貸さない頑固者、言えば尚更意固地になるのではないかと思って言えないでいる……という優しい所を出して行きたいです(相原家の父親である崇との対比という意味も込めて)



それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……



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第9話 蠢く巨大樹

皆様大変永らくお待たせしました。
第9話になります。

那緒実さん大活躍(?)の回です。





2013 7/22 21:21 誤字,脱字などを修正
2013 8/6 21:21 行の見直し


翠屋での一件から一週間経った。今日は士郎さんが運営しているというサッカークラブ"翠屋FC"の試合があり、母さんと匠真はその後のバーベキューパーティの手伝いも兼ねて試合を見に行っている。俺とはやては勉強をするために家に残った。

 俺が勉強を一段落させると、どうやらはやても終わったみたいで、いつも通り俺の部屋に来てRPGを始めた。俺ははやてがプレイしているシリーズは攻略本がなくても全部クリア出来るくらいやりこんでいるんで、椅子に座りながら色々アドバイスをしている。

 

 

「うがーユミ連れてかれてもうた~!」

 

「お前もう嫉妬界に入ったのかよ!?結構ペース早いなぁ~レベルと装備は大丈夫か?」

 

「大丈夫や問題ないで!(キリッ ……ってこっからどないすればええ?」

 

「まずは街があるからそこを目指そう。1体分召喚できないから気を付けろよ」

 

「ほな行くでぇ!」

 

 

 はやてはどんどん先に進んでいくけど危なっかしい所は無く、出現した余裕で悪魔を倒していく。途中何回か悪魔会話に失敗して攻撃されていたけれど、この調子なら次の広い貪欲界もどうにかなりそうだ。

 

 

「街についたで~」

 

「おう。とりあえず地図を埋めてみようか。ってストップストップ!そこの部屋に絶対入るなよ!!」

 

「なんで~?」

 

「嫉妬界のボスを倒してから入ると"夢想正宗"が手に入るから今は保留だな」

 

「そんなに強い武器なん?」

 

「複数回攻撃でSLEEPの効果だから最後まで大活躍するぞ!普通は剣合体で作らないといけないから面倒臭さを考えるとここで手に入れたほうが早いしな」

 

「おぉ~!正宗って名前も強そうやし、兄ちゃんそんなん言うなら言う通りにするわ」

 

 

 俺はコンポにヘッドホンを繋げ、音楽を聴きながら数日前に本屋で買ってきた"世界の悪魔図鑑"を読み始める。少し経った後、はやてはターミナルでデータをセーブしてゲームをやめた事に気付いた。

 

 

「どうした?」

 

「今日はもうええわ~。それよりさっきから何読んでるん?」

 

「ああ、コレだよ」

 

「"世界の悪魔図鑑"なぁ……やっぱ兄ちゃんも悪魔の事とか気になるんか~」

 

「首を突っ込んじまった以上は見てみぬ振りもできないしなぁ。それに"お前との約束"も一応守らないといけないしさぁ」

 

「へぇ~兄ちゃんも考えとるんやなぁ。あ、ヘッドホン外してええよ。それと私も一緒に見てええ?」

 

「解ったよ。他に"世界の神図鑑"とか"天使図鑑"もあるから一緒に見よう」

 

 

 はやてをベッドに座らせた後、ヘッドホンジャックをコンポから抜き3冊の本を持って隣に座る。 ちょうど"悪魔図鑑"のケルベロスのページを開いていた所なんで、そこから2人で見始めた。

 

 

「ケルベロスって三つ首なんやね~」

 

「俺らが地下室で見たのもケルベロスだったみたいだけど…」

 

「アレって首ひとつしか無かったやないか」

 

「人間と同じで悪魔も同じ種族でたくさんいるのかもしれないな」

 

「でも首が3つもあると全部性格が違ったら喧嘩しそうやねぇ」

 

「ははは、そいつは違いないな!」

 

 

 2時間程2人で本を見ていた頃だろうか、突然家が揺れだすと同時に机の上の携帯電話が鳴り出した。はやてを1階の廊下へ出して身を伏せさせると急いで部屋に戻り、携帯を取って再び部屋から離れはやての隣まで移動し身を伏せて電話に出る。

 

 

『兄さ……!兄さん大丈夫!?』

 

「どうした!?」

 

『今何処にいるの?た、大変な事が!!』

 

「はやてと家にいるけどとにかく落ち着「タッ君どうしたん!?」おい!?」

 

『はやてちゃん?今外に〈キャー!!(ガシャン!!)〉絶対出たらダメだからね!!』

 

「おい何があったんだ?タダの地震にしちゃおかしくないか!?」

 

「はやて、ちょっとテラスで外を見てくる」

 

「あ、兄ちゃん!!」

 

 

 俺は意を決してはやてに携帯を託し揺れが続く中、2階の父さんの書斎に向かいテラスへと出る。すると……

 

 

「(!!)なんじゃありゃあ……」

 

 

 目の前には某"光の巨人"に登場するような、とてつもなく巨大な植物が街一面に根を張り巡らせていた……

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 試合後のバーベキューパーティーも終わって皆が解散した後、母さんと僕は買い物のために歩いて商店街へ向かっていた。すると突然地震が起きて巨大な植物が地面を割って出現し、辺り一帯はパニック状態になった。

 

 

「か、母さん!何アレ!?」

 

「(……っ!)匠真いいわね?絶対にここから動いちゃダメよ」

 

「母さんどうするの!!」

 

「私はあの植物みたいな奴を倒してくるわ。その間に晃祐とはやてちゃんが家にいるかどうか電話して頂戴。大丈夫よ、"絶対無敵の悪魔召喚師"と言われた私ですもの、あんなのに負けはしないわ!」

 

 

 母さんは何やらハンドバッグの中から奇妙な道具を取り出すと、僕の前に置いてスイッチの様な部分に触れて離れた。すると光のドームが辺りを包み込んで割れたガラスの破片や飛んでき看板なんかから僕達を守ってくれた。

 

 

「これは……?」

 

「結界を発生させる装置みたいなモノよ。大丈夫、瓦礫位なら絶対に壊れないから……それじゃ行ってくるから。戻ってきたらお母さんにマンゴープリンプレゼントしてね!」

 

「母さんっ!」

 

 

 僕に向かってウインクをすると飛んでくる瓦礫を物ともせず、まるで特撮ヒーローの様な身のこなしで躱しながら植物の方へを向かっていった。それを見届けると、恐怖心に負けないように自分を奮い立たせながら兄さんの携帯電話へと電話を掛けた……

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「に、兄さんはどうしたの……ッ!?」

 

『兄ちゃんテラスに外を見てくるって行ってもうた!……って、タッ君大丈夫なん?』

 

「僕なら母さんの張った"結界"の中にいるから平気だよ。でも母さんが!!」

 

〈は、はやてっ、ヤヤヤバイぞ!!ば、化け物植物が街に!!〉

 

 

 電話の向こう側で急いで戻ってきた兄さんの大声が聞こえる。

 

 

「はやてちゃん!兄さん!それよりも大変なのが母さんがアレに向かっていったんだよ!!」

 

『な、なんやて(なんだって)!!どうして止めなかったん!?』

 

「母さんが"あんなのに負けない"って!」

 

〈はやて!俺母さんを止めてくるわ!!〉

 

〈ダメや!ほんな事したら兄ちゃんが危ないで!!〉

 

「兄さんダメだよ!母さんを信じようよ!!」

 

〈幾ら修羅場を潜り抜けてきた悪魔召喚師だからってあんなの無理に決まってんだろ!〉

 

〈兄ちゃん落ち着いてぇな!行ったとこで何も出来るわけないやないか!!〉

 

〈けどなぁ!〉

 

「そうだよ邪魔なだけだよ!兄さんが首を突っ込んで2人にもしもの事があったらどうするの!?」

 

〈……畜生!!〉

 

 

 兄さんはどうにか諦めてくれたみたいだ。僕ははやてちゃんと二言三言言葉を交わした後、電話を切って空にそびえ立つ巨大植物を眺める。

 

 

 「……母さん」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 匠真の元を離れて裏通りに入ると、遠距離攻撃用の"おおぐま星の弓"をCOMPから出して召喚する仲魔を品定めする。

 

 

(相手は巨大だから、こちらもある程度巨大な仲魔を呼ばないといけないか……でもフドウミョウオウは下手したら辺り一面を焼け野原にしかねないからダメね。)

 

 

 シュウとアンリ・マンユにソーマがいれば充分ね。

 

 

「さあおいでなさい!私の仲魔達!!」

 

『秘神ソーマ、ここに……』

『ぶぅるぅぅあぁぁぁぁぁっ!!』

『静寂な世界へ……』

 

「アレを倒したいの!みんなの力を貸して!!」

 

『応!』

『戦の魔王のじぃつぅりょくぅぅ、とぉくぅと見せてやろう』

『イレギュラーの存在、これを禁ず……』

 

「シュウは突撃で、アンリ・マンユは中遠距離から攻撃――但し二次被害を出さない程度にする事。ソーマは2体のサポートをしながら周囲に被害が拡がらない様にお願いするわね。私はアレのアナライズを試してみる。それじゃあ行きましょうか」

 

 

 仲魔に作戦を伝えると巨大植物へ振り返って弓に矢をつがえる。狙いをつけてそれを……放つ!!

 

 

(BGM:Battle -Naomi-)

 

 

 私の放った矢は光を帯びて7つに分離して全弾が巨大植物の根本に命中すると、それを皮切りにソーマが2人に"タルカジャ"をかけ、それを受けたシュウが一気に突っ込んでいく。そして数メートル移動したアンリ・マンユは背中の触手を伸ばして地面に突き刺す。

 

 

『ぶぅるぅぅあぁぁぁぁぁっ!!』

『……貰ったぞ』

 

 

 行く手を阻まんとする無数の根をシュウが一振りで木っ端微塵にした直後、アンリ・マンユの触手が地面から幹に不意打ちを食らわせる。

 

 

(!?!?)

 

 

 強烈な連続攻撃を喰らった巨大植物は2体を敵と認識した様で、根をまるで触手の様にうごめかせて攻撃を始めたみたいね。よし、この隙に!

 

 

「ソーマ、あとはお願い!」

 

『応!!』

 

 

 COMPに搭載された数種類のアプリケーションを起動して移動を開始した。まず"テビルアナライズ"は当然の事ながら"NO DATA"が表示されたんで、その次の"MAGスキャナー"に切り替えてみると上級悪魔並の膨大な量のMAGが計測されていた。神社の神木とかは比較的MAGの値が高いけれどこんなゲージが振り切れそうな位じゃない。更に"バイオセンサー"及び"サーモグラフィー"を見てみると、

 

 

(幹の上の方から生体反応が2つ……これって子どもじゃないの!しかも巨大植物全体から出ているMAGの波長と、2人の内の一方のMAGの波長がほぼ一致する。コレはマズいわね)

 

 

 予想外の事実を知った私は作戦の変更を余儀なくされ、"口寄せの術"で急いで仲魔を呼び戻す。

 

 

『主よ、何か不測の事態でも起きたのですか?』

『何の用だ』

『チッ、せっかくぅ良い感じにぃ大暴れ出来ると思っていたのによぅ』

 

「あの巨大植物の中に子どもが2人閉じ込められているわ。迂闊に攻撃すればあの子たちの命に関わってしまう」

 

『そんなのぉ、俺らには関係ねぇ事だろうがよぅ』

 

『シュウよ、それは違うぞ。清浄なる世の構築には未来を担う子の力が必要だ……』

 

『んだとぉうぅぅ!?』

 

『お主ら、今は仲魔割れをしている所ではあるまい!して主よこれからどうするのです?』

 

「……子どもたちを救う事が先決ね。シュウは今と同じ様に根を切り倒していって頂戴。アンリ・マンユとソーマは道が開けたら私の指示に従って、子どもがいる辺りまで移動して。移動したらアンリ・マンユは子どもがいる部分の周囲を刳り抜くように攻撃、ソーマは刳り貫いて助けた子どもたちに結界を張って保護。その後は思いっきりやっちゃっていいわ」

 

 

 新しい指示を与えて全員が散開しようとしたまさにその時、遥か向こうのビルの屋上に今まで感じたことも無い、何者かの"気"を感じた。

 

 

「全員待って!そのまま地上に降りて待機!!」

 

 

 そう言葉を発した瞬間、ビルの屋上から凄まじい光の奔流が放たれ巨大植物を貫いた。"イノセントタック"並のエネルギーを誇るソレは数十秒もの間に渡って放たれ続け、目を開けた時には目の前にそびえ立っていた巨大植物は跡形も無く消え去っていたのだった……

 

 

「……ハッ!子どもたちは無事なの!?」

 

『ナオミよ……ソーマが無事保護したようだぞ』

 

「ふぅ……よ、良かったぁ~」

 

 

 思わずその場にへたり込んでしまう。それにしてもあんな光子砲を放つだなんて一体何を考えてるのかしら。コレは一連の事件に関係ありそうね……気を付けないと。

 

 

「……もういいわ。全員戻りなさい」

 

 

 仲魔を回収すると匠真の元に戻る。その途中、何者かがいたと思われるビルの方を振り返って、

 

 

(このままだと晃祐とはやてちゃんも近い内に巻き込まれるわね。早く何とかしないと海鳴市全体も今回以上に危なくなる)

 

 

 私の胸の内に嫌な予感が残ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




ご覧の通り今回はアニメ第1部の第3話をベースにした回でした。
メガテンらしく妖樹の様なうごめく大樹へと改変しています。

因みに巨大な植物が出没したのに人々が察知しない訳が無いと思います。ですので、なのはの姿は一般人には見えない(過酷な特訓をしたであろう悪魔召喚師である那緒実には見える)けれど、ジュエルシード等のロストロギアよって発生した実体を持つ化け物や異常気象等は目に見える……という事で宜しくお願いします。

そして今回の登場悪魔は
秘神ソーマ(第2話に続いて登場)
魔王アンリ・マンユ(姿形は真Ⅲのアーリマン第二形態)
魔王シュウ(個人的にCV若本)
でした。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第10話 混乱の後で

本来ならばすぐに匠真の誕生日の話にするはずだったのですが、中に一話分挟むことにしました。





2013 7/24 19:35 誤字,脱字を修正
2013 7/28 8:25 改行の修正


 巨大植物の一件から更に数日が経過した。海鳴の市街地の一部の機能はほぼ完全に麻痺してしまい、復旧の見通しも立たない様子。メディアは挙って海鳴市に突如出現した謎の巨大植物による被害を連日の様に報道している。

 私はあの後、匠真と共に帰宅するとはやてちゃんに泣き付かれ、晃祐には「無茶し過ぎだって!幾ら絶対無敵って言われても、世の中に絶対なんて無ぇんだよ!!」と怒られてしまった。話を聴くとどうやら3人にも"あの光子砲"は見えていたというのには本当に驚かされた。 私の子だから晃祐と匠真に"葛葉の血"が流れているのは当たり前の事だけれど、修行もせずに悪魔や光子砲を見たというのには衝撃を受けたのだった。一方ではやてちゃんは、その身に間違いなく闇の書の影響が及んでいるのだという事も確信が持てたのだった。

 

 

「……士郎君、晃祐と匠真は予想以上に葛葉の血を継いでいるみたいなのよ」

 

「それは喜ぶべき事なのか悲しむべき事なのか複雑な所ですね……心中ご察ししますよ」

 

「私がもし那緒実さんの立場なら、絶対に3人には後を継いで貰いたいとは思いませんね。でも恭也なら無理やり「俺が母さんの後を継ぐ!」とか言ってきそうですけど」

 

 

 葛葉の里とヤタガラス本部に送る調査書のための実地調査を終えた私は、今後の打ち合わせのために翠屋に来ていた。あんな事があったもんでここの所街に出ている人の数はごく僅かで、多くの人々が"また同じ事が起こるのではないか"という恐怖心に駆られている事が窺い知れた。そんな中でも翠屋は通常通り営業しているけれど流石に客の影はなく、あからさまな開店休業状態だということが目に見えて解る。

「……きっと晃祐君も恭也と同じ事を言いそうですね。彼も責任感が強そうですし、はやてちゃんを間近で見ているだけに余計」

 

「でも晃祐が今のまま悪魔召喚師になると、間違いなく早い内に命を落とす事になるわ。なんでも独りで背負い込もうとする所があるし、いつも強がってるけどそれは精神的に脆いという事の裏返しでしかない。一方で匠真は晃祐に比べて年齢の割には柔軟な考え方が出来るけれど、身体が弱いからきっと長く保たないわ」

 

「那緒実さん、彼も来年高校生なんですからちゃんとした判断は出来るでしょうし、もう少し信じてあげましょうよ?」

 

「基本的に2人が決めた事には反対はしないけれど、コレばっかりは命が掛かってるから迷うのも仕方ないと思っているのよ。私の大切な子どもだし……」

 

 重い空気が店内全体を覆う中、奥のドアが開けられはやてちゃん位の女の子が出てくる。

 

 

「お父さん!お母さん!すずかちゃんの家に遊びに行ってくるの~~……って那緒実さんこんにちはなの~!」

 

「ああ、なのはちゃん。こんにちは(あの肩のフェレットっぽい動物……)」

 

「なのは、気を付けて行ってきなさいよ?」

 

「車に注意するんだよ」

 

「は~い!行ってきま~す!!」

 

 

 なのはちゃんは元気良く出て行った……けれど、私は彼女の肩に乗っていた小動物がただの動物じゃない気がして、それを素直に2人に訊いてみる事にした。

 

 

「ねぇ2人共、なのはちゃんの肩に乗っていたのってフェレットよね?」

 

「ああ、"あの子"の事ですね?あのフェレットは今月の初めになのはが怪我をしているのを道端で見付けて拾ってきたんですよ」

 

「何か"変わってる"と思わない?」

 

「まさか悪魔召喚師の勘ってヤツですか?確かに何となくそう思うんですけど、悪魔が化けているとかそんなんじゃないと思うんで大丈夫でしょう、きっと」

 

「アナライズしてみたの?」

 

「ええ……確かに悪魔とも人間とも違う"波長"が検出されたので、恐らく何者かがフェレットに擬態しているのは間違いないですね。だからといって危険な存在だとすぐに断定するのは良くないと思うんです。子どもを信じてあげるのも親の使命ですから」

 

「那緒実さん、なのはだってもう9歳ですもの。言えない事の1つや2つ位あってもおかしくありません――私も士郎さんもヤタガラスの事を話していないのは同じなんですし、何時かお互いの心のわだかまりが解ける日が来るのを待つ以外無いんです」

 

「解った。そこまで言うならもう私は何も言わない。でも万が一士郎君でも手に負えない様な事態になりそうだったら連絡して頂戴ね」

 

「了解しました」

 

「桃子さんもお願いね?士郎君は何かにつけて無理しようとするんだから」

 

「それはもう、重々承知してますよ」

 

 

 なのはちゃんのフェレットの事は一先ず2人に任せよう。幾ら先輩とは言え、無闇矢鱈にしゃしゃり出るのは良くないもの。

 

「あ、そうだ!那緒実さん、今度の土日に海鳴温泉で1泊して来ようと思うんですけど、ご一緒にどうですか?」

 

「あー……ごめんなさい。土日は珠�瑠に行って知人に会わないといけないの」

 

「じゃあ代わりに晃祐君と匠真君、それとはやてちゃんはど「それも難しいわね」何故です?」

 

「匠真とはやてちゃんが何時酷い発作を起こすか解らないし、晃祐は部活があるから」

 

 

 せっかくのお誘いなのに申し訳ないと思う。でもウチは高町家と違って一筋縄でいかないくらい複雑な家庭事情があるから仕方ない。

 

 

「桃子、こればっかりはどうしようもないよ」

 

「そうね。ごめんなさい那緒実さん」

 

「いやいや、こっちこそ本当にごめんなさいね」

 

 

 その後2時間程翠屋で会話をして自宅へ帰るのだった。恭也君の彼女の事、美由希ちゃんの事、色々なことを2人から聴いた。つくづく高町家は幸せだな、と思う。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「……母さんが"アレ"に向かってから2,30分位経って、急に何処からか"ピンク色のビーム"が飛んできたんだ。そうしたらあっという間に消えちゃってビックリしたよ」

 

「ソレって那緒実さんの仲魔が撃ったんやないの?」

 

「そもそもそんなビームを撃てるのなんて悪魔以外いないだろ」

 

「それがどうも違うみたいで別の悪魔召喚師の悪魔でも無いらしいよ?」

 

「ほな一体誰がやったんやろねぇ」

 

「母さんでも解らない何者かの存在、正体不明の謎の巨大植物。それを含めた怪奇現象……本当に何が起きちまってるんだよ」

 

「まさかはやてちゃんの闇の書が」

 

 

 タッ君が私の手元にある闇の書に目を向ける。幾ら冗談やからってそんなこと言うたら怒るで!

 

 

「何アホな事言っとるんや!那緒実さんも士郎さんも闇の書は関係あらへんって言っとったでー。"コレ"でシバき倒したろか!?」

「そうだ匠真、もしそうだったとしたらこんな回りくどい事なんてしないだろ!」

 

 

 兄ちゃんが何か庇う事を言っとるみたいやけど、イラッと来とったから闇の書を持って背表紙でシバき倒そうと振りかぶる。

 

 

「ご、ごめん!ちょ、ちょっとやめて!やめてって死んじゃうよ〜」

 

「タッ君がッ!泣くまでッ!シバくのをッ!やめへんッッ!!」

 

「おいはやて!?マジで死ぬから勘弁してやれよっ」

 

 

 私とタッ君の間に兄ちゃんが割って入って来よった時に、思わず振りかぶった闇の書を振り下ろしてもうた。アカン!!「アッーーーーーーーーーーー!!!!」

 

「兄ぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 ガスッ

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「兄ちゃんっ!ホンマぁ、ホンマ堪忍してぇなぁ~」

 

「へんじがない ただのしかばねのようだ」

 

「もータッ君は変な事言わへんの!」

 

 

 兄ちゃんは頭から煙を上げて倒れとる……エライ事になってもうたわ~と、タッ君と2人で狼狽えとると兄ちゃんが徐ろに立ち上がって、

 

 

「はぁやぁてぇぇェ」

 

 

 兄ちゃんは突然私の両肩を鷲掴みにする。アカン、兄ちゃんにシバかれてまう!

 

 

「お兄ちゃんは感動したぞッ!!」

 

「えっ?」

「何言ってんのさ!?」

 

「はやてが自力で立ち上がれる様になったのに感動したッ!!」

 

 

 私のせいで兄ちゃんの頭がイカれてもうた!

 

 

「(!)はやてちゃんはやてちゃん、闇の書を振りかぶった時の事をよーく思い返してみて?」

 

 

 タッ君に言われて思い出してみる……

 

 

「……………あ」

 

 

 わ、私、自分の力で立ててもうた~~~~~!!

 

 

「母さんは"闇の書がはやての身体を侵食している"って言ってたけどそんな事無いだろ?偶然とはいえ、立つことが出来たのははやての努力の賜物なんだよ」

 

「漸くスタート地点に"立てた"って事かな?」

 

「誰が上手い事言えと。って、はやて?」

 

 

 私、私……

 

 

「うぇぇぇぇぇぇん!良かったぁ!ホンマ良かったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「お、お!?」

 

「ただいま~、って晃祐!?何はやてちゃんの事泣かしてるのよ!」

 

「ち、違うって母さん!コレには深イイ訳がっ」

「兄さんの話を聴いてあげてよ!」

 

「問答無用!」

 

「ちょっ、まっ(ズルズルズル)」

 

「兄ぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

〈いぃぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!〉

 

 

 お父さん、お母さん……私やっと立てたで……次は歩けるように頑張るさかい、天国から見とってや!

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「……ほな、タッ君。兄ちゃんはどうしたん?」

 

「……兄さんなら多分、"地獄"に落ちたんじゃないかな」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




ほんの少しだけでしたが漸くなのはが登場しました。
今回は第1期の4話、フェイト初登場回の裏という設定です。
次回は一気に日付が飛んで以前から第1章の山場のひとつと決めていた、匠真の誕生日4月27日の出来事を投稿したいと思います。




それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第11話 神話覚醒(上)

勢い余って第11話も投稿しました。

今更ながら関西弁って難しい……
小学2年生から卒業するまでの間の5年間、クラスメイトに京都府南部出身の女の子がいたのですが、その子の話し方を思い出しつつ手探りで書いている所です。
ですのではやてのコレジャナイ感が半端ないという(;´Д`)
その都度修正していきますのでご勘弁くださいませ。



2013 7/26 2:15 誤字,脱字を修正


―4月27日早朝 相原家地下室―

 

 

 

「……おいでなさいケルベロス!」

 

『グルゥアァァァァァァァッ!!』

 

 

 東の空が仄かに明るくなってきた頃、私は地下室に赴き封魔管のケルベロスを召喚した。

 

 

『……突然オレサマヲ呼ビ出シテ、一体何ノヨウダ』

 

「貴方の力が必要になる時が近づいているの。私に力を貸しなさい」

 

『中身次第ダガ、マァ話ダケハ聴イテヤロウ』

 

 

 ケルベロスに海鳴市が未曾有の危機に晒されている事、日を追って被害が拡大し尚且つ何者かによる罪無き市井の人々を巻き込んだ無差別的な攻撃に発展している事、謎の光子砲が放った第三勢力らしき何者かの存在についての事等を説明した。

 そして最後に、私が不在の時に晃祐と匠真、そしてはやてちゃんの3人を代わりに"万が一"の事から守って欲しいということを頼んだ。それにいずれ晃祐か匠真が悪魔召喚師を志す様になった時、最低でも心から信頼出来る仲魔は1体は居た方が良い。かつて悪魔召喚プログラムを駆使して悪魔の軍勢や魔王ルシファーと戦い、ヤタガラスから"伊弉諾の再来"との異名をもって呼ばれた"あの男"の相棒がケルベロスだった様に……

 

 

『……フザケルナ!何故オレサマガワザワザガキ共ノ"オ守リ"ヲシナクテハイケナイノダ!!』

 

「貴方は永い間封魔管に閉じ込められていて凄くストレスが溜まっているのでしょう。もし邪悪な悪魔が現れたとしたら大暴れ出来るチャンスじゃない?」

 

『ガキノ相手ヲスルノガオレサマノ役目デハナイ!ソレナラ寝テイタ方ガマダマシダ!!』

 

「あら、そんな事を言っていいのかしら?子ども達はまだ年端も行かないけれど、修行も何もしていないのに悪魔が見えたり"何者か"の光子砲が見えたりしているわ。特に2人の子どもは貴方の主――私のお祖父様――の曾孫なのよ、将来有望だって思わない?」

 

『貴様ノガキガドウナロウガ知ッタ事カ、寝ルゾ!』

 

 

 やれやれ、聞き分けの無い悪魔だ事。咄嗟にアンリ・マンユの封魔管を取り出してケルベロスの眼前に突き付け、ダメ押しの一言を言い放つ。

 

 

「貴方に拒否権は無いわ……残念ながらね」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 ケルベロスを否応無しに従わせた私は、次に晃祐の部屋に忍び込む。ドアの前まで来て寝ている事を"バイオセンサー"の脳波測定機能で確認すると、細心の注意払って侵入する。目的は晃祐の鞄だけれど、途中で立ち止まって彼の寝顔を見る。

 

 

「ん、んぅ……それ俺のぉ……」

 

 

 (ふふっ、もう中学校三年生になったのに寝顔は小さい頃と変わらない。これから貴方は大人になって行くけれど一体どんな道に進むのかしら?でも、例えどれだけの月日が流れても今までと同じ、真正直で思いやりの心に溢れている貴方で居てね……さて、日が完全に昇る前に目的を果たさないと!)

 

 

 私は寝息を立てている晃祐を横目に、彼が休日に外出する際に何時も肩にかけているメッセンジャーバッグのポケットの中に封魔管を忍ばせた。頼むわよケルベロス!

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

(ジリリリリリリリリ)

 

「ZZZ……(カシャッ)ぅ、う~ん、今日もいい日や~!!」

 

 

 目覚まし時計が鳴って目が覚めると、私は上半身をおもっきし伸ばしてカーテンを開けた。うーん、今日の私の心みたいに雲ひとつない青空やね~。そんで今日はタッ君の誕生日!自分の誕生日やあらへんけどめちゃめちゃ嬉しいねん!!何時もよりちょっと早う起きた私は、台所で朝ご飯の支度をしておった那緒実さんにワガママ言うて兄ちゃんの部屋に連れてってもろて、まだぐっすり寝とる兄ちゃんを起こしに掛かる。

 

 

「(ゆさゆさ)兄ちゃん!兄ちゃん!もう昼やで!!」

 

「ZZZ」

 

「兄ちゃん!今日はタッ君の誕生日やろ!はよ起きてや~!(ゆさゆさ)」

 

「ZZZ」

 

 

 身体を揺すっても兄ちゃんはちっとも起きてくれへん。ほなこうなったら!

 

 

「(にやにや)……何時まで経っても起きへん悪い子は"コレ"でおしおきや~」

 

「ZZZ……ハッ!何か命の危機が迫った気が「うわわわわっ!」……はやて?」

 

 

 突然兄ちゃんが目ぇ覚まして身体を起こしよったもんやから、めっちゃビックリしてもうてベッドから落ちそうになってもうたわ!!

 

 

「な、なははは……兄ちゃんおはよーさん♪ほな早う着替えてや!お昼飯冷めてまうで~」

 

「お、おう……って、お前が居ると着替えられないんだけどさぁ」

 

「せやけど兄妹なんやから私は気にせぇへんって」

 

「でもなぁ~」

 

「とにかく着替えてや!私後ろ向いて見ぃひん様にしとるわー」

 

「わ、解ったよ」

 

 

 私がそっぽ向くと兄ちゃんは着替え始めた。ちょっと見てもバチ当たらんやろ?と思って兄ちゃんの方に振り返ろうとすると、

 

 

「(ごそごそ)……おい、何さり気なく見ようとしてるんだよ」

 

「てへ、バレたか~」

 

「バレたかじゃねぇよ!」

 

 

 兄ちゃんが着替え終わるとおんぶしてもろて茶の間まで連れて行ってもらう。茶の間に入ると既に崇さんの姿はとっくに無く、タッ君と那緒実さんが椅子に座って私達を待っておった。

 

 

「兄さん遅いよ!」

 

「悪い悪い」

 

「兄ちゃん中々起きてくれへんくてな~」

 

「さあ3人共、早くご飯を食べましょう」

 

「ほな、いただきま~す」

「いただきます」

「いただきまーす!」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「ごちそうさま」

「ごっそさんでした~」

「ごちそうさま!」

 

「晃祐、2人の食器を下げたら話があるからちょっと待ってて。匠真とはやてちゃんも」

 

 

 俺が3人分の食器を下げ終わると、ソファーに座って母さんが話し出すのを待つ。

 

 

「晃祐、後で翠屋にケーキを取りに行って貰うけど今日は3人一緒に行って貰うわ」

 

「別に俺1人で行けばいい事だろ?それになんで匠真まで連れて行く必要があるんだよ。せっかくの誕生日なのに楽しみが無くなっちまうじゃないか」

 

「この間の巨大植物の件といい、何時危険な事が皆に降りかかるか解らないわ――この家だって例外じゃない。万が一家の中に居て近くのあんなのが現れでもして逃げ道が塞がれたらどうするの?それならまだ建物の少ない大きな公園に逃げ込んだ方がまだマシよ」

 

「兄さんはここぞという時にすぐパニクって何をしでかすか解らないから、母さんはそれを心配して言ってるんだよ」

 

「うぐぐ……」

 

「一応匠真とはやてちゃんにコレを渡しておくわ」

 

 

 言い返せなくなっている俺を横目に、母さんが2人に見慣れない道具を手渡した。

 

 

「那緒実さんコレ何~?」

「コレってあの時の!」

 

「それは"コアシールド"っていう結界を発生させるマジックアイテムよ。飛んでくる瓦礫程度なら完全に防ぐ事が出来るわ」

 

「母さん俺には?」

 

「晃祐は3人の中で唯一健康体なんだし、なんて言ったって逃げ足が速いから問題無いでしょ?」

 

「ええ~そんなご無体な~」

 

 

 俺は1人だけぞんざいな扱いを受けた事に母さんに対して不満の声を上げる。

 

 

「その代わり晃祐にはコレを預けておくわ」

 

「えぇっ!スマホ!?」

 

「それは私が使っているCOMPのスペア。中には悪魔の出現率を感知する"エネミー・アピアランス・インジケーター"と、生体反応とそれに関係する様々なモノを調べられる"バイオセンサー"に、空間中のMAGの濃度やMAGから放たれる一種の生命波長を察知する"MAGスキャナー"、そして様々な物体の温度を視覚化する"サーモグラフィー"……といった各種センサー系アプリが内蔵されているわ。それを使って、出来る限り"最悪の事態"を回避するのに務めるのが貴方の役割よ。使い方は普通のスマホと同じだから」

 

「わ、解った」

「おお~何かホンマ凄い事になっとるな~」

 

「あと念のために、怪我をした事を考えて"魔石"っていうヤタガラスで使用されている特別な傷薬の様な物と、ディスポイズンやディスパライズといった所謂バッドステータス治療用のアイテム一式も格納しておいたわ」

 

「それなら安心だな」

「油断は禁物だよ兄さん」

 

「そうそう、一応竹刀袋に"檜の木剣"を入れておいたから」

 

「"ぼっけん"って何~?」

 

「木剣ってのは木刀みたいなもんだよ……でも木剣は流石に無いわー。もっとマトモな武器は無いのかよ?」

 

「ふふふ。タダの木剣だと思ったら大間違いよ!ヤタガラスの構成員が訓練で使用する物で、ある程度の悪魔なら充分実戦でも使えるシロモノなんだから~」

 

「凄いんだか凄く無ぇんだか良く解らねぇし……ちょっと庭に出て素振りしてみるわ」

 

 

 俺は竹刀袋から檜の木剣を取り出して実際に持ってみる。とても使い込まれた様子で、初めて持ったはずなのになんだか手に馴染んでいる気がする。ふと、柄頭の所に目をやると"N・S"のイニシャルが刻まれていたんで、気になって母さんに見せてみる。

 

 

「母さん、これって「それは私が使ってた物よ」」

 

「私の急性は白鐘だから、"Naomi Shirogane"のN・Sね」

 

「"白鐘"ってあの有名な"白鐘直彦"と同じやけど親戚なん?」

 

「あの人は私の叔父に当たる人で、晃祐と匠真のひいおじいさん――14代目葛葉ライドウこと"白鐘勝之進"の次男。直彦叔父さんって実は15代目ライドウを継いだ人なのよ。詳しくは機会があれば話してあげる」

 

「よし、じゃあ振ってみるか!」

 

 

 庭に出て何時もの部活でやっている様に、檜の木剣を正眼に構えて面,小手,胴と振ってみた。するとコレが"タダの木剣とは全くの別物"だという事をすぐに思い知らされた。持った感じは一般的な木刀と同じでずっしりとしているのに、振ってみるとまるで竹刀を扱っているかの様に軽く振り下ろせてしまった。凄い!コイツぁ凄いぜ!!

 その後も30分程軽く摺足や打ち込みをして身体を慣らし、シャワーを浴びて外出の準備をした。

 

 

「よし、匠真もはやても準備出来たか?」

 

「うん」

 

「バッチグーや!」

 

「何も無い事を祈ってるけど、気を付けてね」

 

「ああ!それじゃ行ってきます!」

 

「行ってきます」

「行ってきま~~~す!!」

 

 

 俺は肩に何時ものメッセンジャーバッグと竹刀袋を下げ、匠真ははやてを乗せた車椅子を押して家から出た。

 ……今日は本当に天気が良いな。家に帰ってくるまで何事も無かったら良いんだけどなぁ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

―同時刻 海鳴市高層ビル屋上―

 

 

 

「さあ……行こう。アルフ」

 

「あいよ!シャクだけど仕方ないねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




第11話から第13話までは上中下編となっておりまして、アニメ第1期では第7話と第8話に相当する回です。
実はA's編序盤までの展開は私の頭の中で第1話を投稿する以前から既に出来上がっていまして、時間さえあればすぐに文章に出来る状態だったりします。ですので暇を見付け次第、順次作成して行きたいですね。

因みに那緒実の旧姓がP4の直斗と同じなのは、直斗が白鐘一族の5代目であるということを逆手に取って、"超力兵団"と"アバドン王"でライドウの本名を「白鐘勝之進」という名にしていたからです。つまり、探偵業と15代目を継いだ直彦とは直斗の祖父(名前が出て来なかったはずなので執筆中に勝手に決めてしまいました)になり、直斗とは那緒実,晃祐,匠真にとっては遠戚にあたる事になります。
直斗もいずれは登場させる予定でいますのでご期待ください。







それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第12話 神話覚醒(中)

第12話です。
文章を削ってどうにか5500字以内に収めました。
夜勤明けにやったから辛かった……




2013 8/2 13:30 誤字,脱字を修正 一分内容を変更


―4月27日午後4時 喫茶店翠屋―

 

 

 

「匠真君誕生日おめでとう。サービスしておいたからね」

 

「うわぁ~桃子さん、ありがとうございます!」

 

「なになにタッ君?……おお~!ケーキの詰め合わせやなんてホンマいいんですか~?」

 

「匠真君達は特別だからね。他の子には言っちゃダメよ?」

 

「はい!本当にありがとうございます」

 

 

 家から出た後、最初にはやてのために図書館と本屋に寄ってから翠屋に着くと、士郎さんから予約していたバースデーケーキを受け取った。その時桃子さんから匠真が何かを貰っていたんではやてと一緒に箱の中を除くと色々な種類のケーキが入っていて驚く。サービスと言っていたけども実際の所はどうなのかなーと思って士郎さんに訊いてみる。

 

 

「……で、本当の所ソレも合わせておいくら万円なんすか?」

 

「人の善意は素直に受け取っておくものだよ晃祐君」

 

 

 顔は笑っていたけど目が笑ってなかった。かなり怖かったぞ!さすが修羅場を潜り抜けてきた強者は違うぜ~って、それどころじゃなかった。

 

 

「そういや、家から出てくる時に母さんからCOMPとか木剣とか色々渡されたんですけど」

 

「ふむ、やはりか」

 

「やはりって何なんです~?」

 

「実は最近、私も恭也と美由希に"出来る限り外出する時は木刀を竹刀袋に入れて持ち歩く様に"と言っているんだが、巨大植物の一件でCOMPを持たなければいざとなった時に対処し切れないだろうと思っていたんだよ。どうやら那緒実さんも同じ事を考えていたみたいだね」

 

「恭也と美由希は士郎さんから手解きを受けているから、ある程度は自分の身を守ることができるだろうけど、問題はなのはよね」

 

「確かはやてちゃんと同い年でしたよね?万が一何かに遭った時一番大変じゃないですか」

 

「私らと違って悪魔の事も知らないんやろうし身を守る道具も無いんです?」

 

「……そういった道具は有ると言えば有るけれど、何も知らないなのはに渡すにはちょっと 、ね」

 

 

 幾ら真実を打ち明けていないからって、コアシールド位渡しておくべきじゃないのか?一応、俺は確認のためになのはちゃんが家にいるかどうかを訊いてみる事にした。

 

 

「で、なのはちゃんは家に居るんですか?」

 

「午前中から昼過ぎまで学校で、その後は塾に行っているはずだ。しかし4時前には帰ってくると言っていたはずなんだが」

 

「何時もなら帰りが遅くなりそうなら電話してくるんだけど……」

 

 

 ……何か嫌な予感がする。

 意を決して外に出ようとすると、後ろからはやてに声を掛けられた。

 

 

「兄ちゃん!何処行くんや?」

 

「士郎さん桃子さん。俺ちょっとなのはちゃんを探しに行ってきますんで2人をお願いします!」

 

「あっ、兄さん!……すみませんケーキ預かってて貰えますか?せっかく僕のために作って貰ったんでダメにしたくないんです」

 

「私らも付いて行くでー。私アリサちゃんとすずかちゃんの番号知っとるし、2人共習い事に行ってへんかったら探すの手伝うてもらわへん?」

 

 俺は"足手まといだから来るな"と、口から出そうになった所をグッと堪えて2人が来ることを承諾する。COMPの中にコアシールドが入ってない事を思い出して、万が一の事を想定して2人にはなのはちゃんを見つけ次第、結界で身を守ってもらう事にした。

 

 

「……仕方ないな。もし何かあったらすぐに結界張るんだぞ?」

 

「そんなの言われんくても解っとるよー!」

 

「兄さんこそ無茶しないでよ?」

 

「晃祐君、匠真君の言う通りだ。何か起こって自分達の身の安全を確保したら、すぐ私か那緒実さんに電話する様に。あとこれを持って行きなさい」

 

「写真?」

 

「なのはの顔が解らなければ探し様がないでしょ?」

 

「そうですね……すんません。したっけ探しに行ってきます!!」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

―午後6時 海鳴市海岸―

 

 

 俺達は翠屋を出てから2時間経ったにも関わらず、未だになのはちゃんを見付けられないでいた。俺1人ならまだしも匠真とはやてが一緒にいる以上、余り手広く探すことが出来ないというのもあるし、小学生だから遠くには行っていないだろうという考えもあって、COMPのマッピング機能を使って翠屋から彼女の通う塾の間のおよそ3km圏内を重点的に探していた。

 

 

「ダメだ。ちっとも見付から無ぇ」

 

「3km圏内ってこんなに広いんやなぁ」

 

「ひょっとして誘拐されたとか……?」

 

「んなアホな事有るわけないやろ!それよりもう帰らへん?6時過ぎてもうたよ」

 

 

 3km圏内には今俺達のいる海岸が含まれていて、ひょっとしたら海を見に来ているかも知れないという事で来てはみたものの、期待虚しく不発に終わった。

 

 

「はやてと匠真は翠屋でケーキを回収したらそのまま家に帰ってくれ。俺はまだ探すからさ」

 

「父さんと母さんに怒られちゃうから兄さんも一緒に帰ろうよ」

 

「いいやここまで来たら後には退けないね」

 

「ほな那緒実さんには電話しとこ?」

 

 

 俺ははやての言葉に従って、携帯を出して母さんに電話を掛けて事情を説明しようとした。その時、COMPから異常を知らせるけたたましい音が鳴り響いた。

 

 

「何や?何が起こったや!?」

 

「EAI(エネミー・アピアランス・インジケーター)に反応が出てるぞ!」

 

「に、兄さん、アレを見て!」

 

 

 はやてと匠真の指差した方を見ると、臨海公園の方向に例の巨大植物が出現していた。万が一あそこになのはちゃんがいたっけ大変だぞ!

 

 

「2人共さっさと翠屋に行け!」

 

「兄さんダメだ!危ないよ!!」

 

「もし臨海公園にいたらどうする!?」

 

「せやけど私らじゃどうにもならへんよ。取り敢えず那緒実に連絡せな」

 

「例えなのはちゃんじゃなくても目の前に人がいたとしたら助けない訳いかないだろ!」

 

 

 2人が何か言ったのも聞かず、俺は臨海公園へ全速力で走り出した。誰かを助けるのに理由なんているかよ!それに穀潰しだの何だのと馬鹿にしてた連中やクソ親父を見返せる!俺が……俺がやるんだ!!

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 兄さんが臨海公園に向かって走り去った直後、僕ははやてちゃんと相談して母さんに連絡をした。

 

 

『……2人共晃祐の後を追って臨海公園に向かいなさい。きっと晃祐は陰口を叩いている人達を見返そうしてるだろうから』

 

「何をやらかすか解らないと?」

 

『ええ。私も今からそっちに向かうから晃祐と合流したら抑える様に言っておきなさい』

 

「うん!」

 

『勇敢な行動と無謀な行動は違うわ。くれぐれも気を付けて』

 

 

 電話を切ると僕達も急いで兄さんの後を追うのだった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

―午後6時20分 海鳴臨海公園―

 

 

 俺は臨海公園に辿り着くと、巨大植物から少し離れた防風林と遊歩道を隔てる生垣に身を潜めた。出現した巨大植物は前回のヤツと違って、幹に顔の様なモノがあって枝は腕の様に変形していた。まさにRPGに登場する"人面樹"を彷彿とさせる姿をしている。

 周囲を見回し、"バイオセンサー"で生命反応が無いか探ってみる……すると、人面樹のすぐ近くにある柱状のモニュメントの上に黒いレオタードを着てマントを羽織り、手にはRPGの武器――ハルバードの様なポールウェポンを持った金髪の少女が降り立ち、下にはオレンジ色の毛並みの狼らしき動物が現れた。

 

 

(アレは……なのはちゃんじゃないな。狼みたいなヤツは……MAGスキャナーやデビルアナライズに反応が無いから悪魔じゃないか。ドギツい格好して何やろうってんだ)

 

 

 竹刀袋から檜の木剣を取り出して状況を伺っていると、再び"バイオセンサー"に反応が出たんで目を向けた瞬間、辺りの空気が一変した。何かがここで起ころうとしているのを感じ、一旦深呼吸して心を落ち着かせる。そして再びCOMPに目をやると、匠真とはやてが近付いて来るのが解り、急いで匠真の携帯に電話をする。

 

 

『もしもし、兄さん何処に居るの?』

 

「(馬鹿野郎!翠屋に行けっつっただろ!?)」

 

『母さんに電話をしたら兄さんと合流しろって』

 

「(……チッ。お前達のいる所をそのまま真っ直ぐ進むと防風林があるだろ?そこの生垣の手前にいる。匠真は出来るだけ背を屈めて来い。あと俺を見付けても大きい声は出すなよ?詳しい事は後で話す)」

 

『解ったよ』

 

 

 電話を切って再び人面樹の方に顔を向けると、フェレットらしき小動物と一緒に俺達が探していた少女が現れた。が、その手には赤い宝石が埋め込まれた"杖"を持ち、身には海聖小の制服とは似て異なる白に青いラインの衣装をまとっていた。

 

 

(なのはちゃん、だよな?あの姿は一体……)

 

 

 なのはちゃんは靴から光の羽を出して跳躍すると、先程の金髪少女が"ハルバード"から金色の光弾を人面樹目掛けて連射した……けれど、バリアを張って防いでしまった。

 おいおいマジかよ!?それなんて"魔法少女"だよ!こりゃヤバいぜ!!

 

 

「(……さん……兄さん)」

 

 

 後ろから声がしたんで振り返ると、はやてを背負った匠真が来た。

 

 

「(おい、アレを見ろよ)」

 

「(アレってなのはちゃんやろ?それと……)」

 

「(うわー!あの子何て格好してるんだ!!)」

 

「(黒いレオタードに白いマントとか、ホンマエロエロやなぁ~……ジュルリ)」

 

「「(ええっそこ!?)」」

 

 

 はやての斜め上行く発言に内心呆れ返りつつ、また植物の方を向く。

 

 

『――うおぅ!生意気に~。バリアなんて張るのかい!?』

 

「「「(しゃべった!!)」」」

 

「(兄ちゃん、あの"狼"ってケルベロスみたいな悪魔なん?)」

 

「(いや、MAGスキャナーじゃ悪魔特有の反応が出てないから違うみたいだ)」

 

「――今までのより、強い。それにあの子が……」

 

 

 金髪少女が何やら言葉を口にした次の瞬間、アスファルトを突き破って人面樹の根が2人に襲いかかったけれど、それを空中でいとも容易くかわし続けている。何アレ……ふざけてるの!?

 

 

「(ははっ、空を飛ぶとかチートじゃねぇか)」

 

「(ええなぁ~私も空飛びたいなぁ~)」

 

 

 俺とはやてがその様子を見ていると、匠真が体勢をを変えようとした……その時!近くに投げ捨てられていた空き缶に匠真の腕が当たって、生垣からさっきの人面樹の攻撃でガタガタに崩壊した遊歩道へと転がっていった。コレだけで済めばまだどうにかなったんだけど、

 

 

「(!?!?)う、う、うわぁぁぁぁっ!!」

 

 

 突然匠真が大声で叫んだ。何てことしやがる!と思いつつ良く見ると、よりによって匠真の嫌いなムカデ(ムカデやヤスデ,ゲジゲジみたいな虫が苦手)が生垣にへばり付いていやがった……マズい!!

 

 

『ぐ@¥※j;2xぉ∥Åっ!!!!』

 

 

 ヤツはこっちに向かって猛スピードで根を延ばして来るのを直感した俺は、とっさに木剣とはやてを抱きかかえてその場から離れた。

 

 

「に、い……さ…………」

 

 

 声を聞いて後ろを振り返ると、腰を抜かしたのか動けなくなった匠真が人面樹の根に囚われて失神したのが見えた。畜生ッッ!!

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「う、う、うわぁぁぁぁっ!!」

 

 

 私とフェイトちゃんがジュエルシードで変化した魔物の攻撃をかわしていると、突然生垣の向こうから男の子の悲鳴が聞こえてきたの。すると魔物は根を凄い速さで延ばしていってその子を捕まえちゃった!

 

 

[ゆ、ユーノ君!結界の中に男の子が~~~~~!!]

 

[なのは落ち着いて!ジュエルシードの事は後回しで良いから、先に魔物に捕まったあの子を助けよう。砲撃は使えないからまずは相手の隙を作るんだ!]

 

「[解ったの!]……ディバインッ!シューターーー!」

 

 

 魔物のバリアに防がれるのを承知でレイジングハートから光弾を連射するの!撃つべし!撃つべし!撃つべしなの~~~~~!!

 

 

[(!!)なのはッ!危ないッッ!]

 

「へ?……うわわわわわっ!」

 

 

 ユーノ君の念話につられて後ろを向いたら、フェイトちゃんのアークセイバーがこっちに飛んできてビックリしちゃった!でもここで避けたらあの子に当たっちゃうから防御するしか!!

 

 

『――Protection』

 

「……何をするの」

 

「それはこっちのセリフなの!捕まった男の子を助けるのが先だよ!」

 

「私はジュエルシードを手に入れられれば他はどうなっても……知らない」

 

 

 フェイトちゃんのわからずや!もう許せないの!!

 

 

 

 

 

「――――ぅうぉるあぁぁァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

「「(!?!?)」」

 

『じぇc+%zwい=!』

 

「ぐはぁっ!!」

 

 

 誰かの叫び声がしたと思ったら、魔物の後ろから木刀を持った中学生位の男の人が飛び出して殴りかかったの!……私達はその行動にして驚いて動けないでいると、魔物がその人を根っこで吹っ飛ばし、生垣に叩き付けられた……だ、大丈夫、なのかな??

 

 

「チッ……っざけんじゃねぇぞオラ!!」

 

 

 男の人は立ち上がると、何時の間にか左手に小さな管を持っていて、それを魔物とフェイトちゃんの方に向けて公園全体に聞こえそうな声で絶叫した。

 

 

 

 

 

「――俺に力を貸しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、緑色の光が管から放たれるとその眩しさに私は目をつぶった。すると爆発音がして光が収まり、目を開くと……

 

 

『グルルァアオォォォォォォォォン!!』

 

「お、お前はあの時の!」

 

『マタ会ッタナ坊主。オマエノカーチャンノ命令ダ、手助ケシテヤロウ』

 

 

 

 ……白くてアルフよりも大きい、ライオンの様な"もの"がそこにはいたの。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




晃祐の中の悪魔召喚師の血が遂に目覚めました。
晃祐は"神様の転生"でも、"新世紀のイエス・キリスト"でも、"もう一人の自分を呼び出す"事もありません。ちょっと悪魔を使役できる才能が目覚めつつある『タダの人なり』。
MPなんてモノはメガテンシリーズの一部を除いた主人公同様無いですし、この手の二次創作によくありがちなチートな能力もありません。

皆様には非日常に投げ込まれた等身大の少年が、ありとあらゆる不条理に心が何度も折れそうになりながらも抗い続けていく様を見届けて貰えれば良いな、と思いますし、そうなるような作品にして行きたいと考えています。






それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第13話 神話覚醒(下)

第13話です。晃祐の乱入でアニメとは全く違う展開になります。




2013 8/6 21:18 誤字,脱字を修正
2013 8/8 15:10 一部内容を変更
2013 8/22 9:29 誤字,脱字を修正


匠真が人面樹に捕まったのを見た俺は、はやてを抱いて比較的安全(だと思っている)な場所に連れて行く途中、金髪少女が"八つ裂き光輪"みたいなのを飛ばし、なのはちゃんがそれをバリアで防いだのを横目にした。

 

 

「(はやて、俺にもしものことがあったら母さんを呼んでくれ)」

 

「……タッ君助けに行くん?」

 

 

 どうにか人面樹にバレないように程近い公衆トイレの裏に逃げ込み、はやてを草むらに下ろすと匠真を助けに行く事を告げる。

 

 

「(ああ、助けるのは兄貴の役目だろ)」

 

「(なのはちゃんと金髪の子に助けて貰う事出来へんの?)」

「(いや、金髪の子は匠真の事なんて最初から考えてない動きをしてる。このままだと今以上にヤバい。それに、何時までも"穀潰し"だなんて誰にも言わせない!)」

 

 

 また来た道を元へ戻ろうとして立ち止まり、はやての元に戻ってメッセンジャーバッグを渡そうとするとサイドポケットに何かが入っているのが目に入った。

 

 

「(兄ちゃんそれって……)」

 

「(ああ、封魔管だな。母さん、最初からこうなるんじゃないかって解って……)」

 

「(せやけど召喚出来るか解らんやろ?)」

 

「(やってみなくちゃ解らないさ。もし俺にその才能が無かったら、"その時はその時"だ……じゃ、行ってくる)」

 

「(兄ちゃん!無事にタッ君連れて帰って来ぃへんかったら許さへんで!!)」

 

「(そうなる様に祈っててくれ!)」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 再び生垣まで戻ると、今度は人面樹の真後ろ辺りに隠れる。これから"やろうとしている事"を考えると、胃がキリキリ痛むと同時に激しい動悸を感じて動けなくなってしまいそうな位だけど――今はそんなことで立ち止まってる場合じゃない。

 

 

(覚悟……完了!)

 

 

 なのはちゃんと金髪少女に人面樹が気取られた隙に、俺は奇声と共に生垣から飛び出した!!

 

 

「どぉぉぉぅぅうぉるあぁぁァァァァァ!!!!」

 

『じぇc+%zwい=!』

 

「ぐはぁっ!!」

 

 

 人面樹の背後に一撃を加えると、不思議な事に木剣の切っ先が相手の身体(幹)に食い込んだのが目と手の感触で解った。しかし次の瞬間には一本の根が俺の身体を叩き付けて飛び出した辺りの生垣まで吹っ飛ばされる……

 

 

――オエッッッ!!……絶っ……対ぇ、アバラ一本ヤラれたっ……でも、まだ!!

 

 

 激痛に気を失いそうになりながらも、ジーンズの左ポケットに入れておいた封魔管を左手で持つ。すると管の"栓"と"本体"の僅かな隙間が仄かに緑色に光り出した。

 

 

 

 

――天はまだ、俺を見離しちゃいなかった――

 

 

 

 

 14代目ライドウの血を受け継いでいる事に感謝し、ニヤッっとほくそ笑むとゆっくり立ち上がってこう叫んだ。

 

 

 

 

「(俺は、ただ匠真を救けたいんだ……)俺に力を貸しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 

 

 封魔管の"栓"が捻れながら迫り出すと同時に、幾つもの緑色の光が目の前の地面に放たれ爆発した。あまりの眩さに腕で目を覆い、光が収まると腕を下げる。そこには……

 

 

『グルルァアオォォォォォォォォン!!』

 

「(!!)お、お前はあの時の!」

 

『マタ会ッタナ坊主。オマエノカーチャンノ命令ダ、手助ケシテヤロウ』

 

 

 地下室で俺とはやてが遭遇した、"あの"ケルベロスが出現した。一瞬呆然としそうになったけど、気を取り直してケルベロスに言う。

 

 

「弟を助けたいんだ!力を貸してくれっ!!」

 

『グルル……難シイガ、マァ任セロ!』

 

 

――こうして俺の、人生初の悪魔召喚を果たすと同時に、人生初の命を賭けた"本当の戦い"の幕が切って落とされた――

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

[ちょっとフェイトっ!此処にも使い魔を使役するヤツがいたってのかい!!]

 

[……あれは多分、アルフみたいな使い魔じゃないと思う。]

 

 

 男性が左手の"何か"から光を放つと白い魔物が現れた。その魔物はアルフよりも一回りも二回りも大きく、首周りにたてがみを生やしていて一件ライオンの様に見えるけれど、顔の形状や鼻先までの長さをよく見るとアルフと同じ狼である事が解る。

 

 

「俺はお前の事知らないからアイツを倒すのは任せるからな!」

 

『アォォォーン!オレサマオマエマルカジリ!!』

 

 

 魔物が"白い狼"目掛けて根を叩きつけようとすると、それを軽くあしらう様に前脚の爪で薙ぎ払った。すると根は文字通り八つ裂きになって千切れ飛んで行ってしまった。魔物は更に根を何本も延ばして襲い掛かろうとするけど、全てそれをかわされて胴体部分に噛み付かれてしまう。

 

 

『ぉ&#%@*っぃ!?!?!?』

 

『グハァ!……ゥルルル……マルカジリハ……不味イ』

 

 

 私がそれに見蕩れていると、アルフが念話で話し掛けて来た。

 

 

[フェイト……フェイト!何ボーっとしてんだい!!このままじゃジュエルシードまでヤラれちまいそうなな感じだよ!?]

 

[(ボーーー)……ハッ!!ご、ごめんアルフ。とにかく私達もこ「フェイトちゃん!」]

 

 

 気付くと後ろに"あの子"が来ていた。私はバルディッシュを構えて威嚇しようとする。

 

 

「……一体何の用」

 

「あの人はきっと男の子の家族――多分お兄さんなんだと思うの。お兄さんとあの"大っきいライオン"が男の子を助けるまで攻撃しないであげようよ――フェイトちゃんだって、もしアルフがあんな風になってるのに攻撃されたら嫌でしょ?」

 

 

 また魔物の方を向いて、今度は男の人を見る。男の人は白い狼が作った隙を突くようにして、時折バリアに弾かれ吹き飛ばされながらも必死に木刀を振るい続けていた。動きは拙いしリンカーコアも感じられないから魔導師じゃなくて、この世界のごく一般的な地元住民なんだろう。

 

 

[アルフ……良い?]

 

[仕方ないねぇ……シャクだけどその子の言う通りだ]

 

 

――家族、か。…………母さん。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 ケルベロスは人面樹の根をなぎ払い、俺が木剣で一撃を加える。たまに連携が乱れてバリアに吹っ飛ばされてアスファルトに叩き付けられるけど、その度に痛みはCOMPに格納している"魔石"を使って取り除く。隙を見てデビルアナライズでケルベロスのデータを確認すると、地獄の番犬らしく"ファイアブレス"を吐けるみたいなんだが、それはヤツが匠真を放してからじゃないと危ない。

 

 

「こんのやろぉぉぉ!!」

 

『グルァァァッ!!』

 

 

 まさに一進一退の攻防。もし俺が母さんみたいに手慣れしているんであれば、こんなヤツ苦労しないですぐにブッ倒せるんだろうけど、生憎剣道の試合しか知らない俺じゃ無理だ。そんな中で唯一の救いは、空中に浮いている2人とオレンジ色の狼が手出しして来ない事か……後でお菓子でもあげないとな!

 

 

『危ナイゾ坊主!』

 

「(??)ぶっへぇぇぇぇっっ!!!!」

 

 

 俺の脇腹に根がクリーンヒットして一瞬意識が途切れる。でも直ぐ様続いて来る激痛で再び意識が戻って立ち上がろうとすると、ケルベロスが俺に向かって叫んできた。

 

 

『"宝玉"ハ無イノカ!?有ッタラ今スグニ使エ!!』

 

「ぉ……おう……」

 

 

 覚束ない状態でCOMPを操作し、宝玉を右手に出現させると近くにある石で叩いて割る。すると光が俺のズタボロになった身体を包み込んだ。

 

 

(お?なんだか身体が軽くなった気がするぞ!)

 

 

 光が消えると身体の傷も脇腹の激痛も嘘みたいに綺麗サッパリ消えていた……コイツぁ……コイツぁ凄ぇぜ!!

 

 

『gろぁc@#$ぃぃ!?!?』

 

 

 ヘヘッ……まさかの事態に人面樹も驚いて動きが止まってやがる!今がチャンスだ!!

 

 

「行っけえぇぇぇぇッ!!」

 

『――八ツ裂キダ!!』

 

 

 ケルベロスが跳躍して左前脚で匠真を捕らえていた根を切り裂くと、そのままヤツの胴体目掛けて右前脚を繰り出す!!

 

 

『pj9ぶ6♭!!!!』

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

 

 

 人面樹から開放されて真っ逆さまに落ちてきた匠真を俺は猛ダッシュで受け止めたがあまりの勢いにそのまますっ転んで生垣の中に突入してしまった。匠真を近くの樹によしかからせると急いで人面樹の状態を見る――ヤツはケルベロスの鋭い爪にやられて悶絶している様で、今がトドメを刺す好機以外の何物でもない!

 

 

『今ダ坊主!』

 

「行っくぜぇぇぇぇ!」

 

 

 生垣から再び人面樹の前に躍り出た俺は、両手に木剣を握り締めて駆け出す。来年高校に進学しても剣道を続けて行くつもりで秘密裏に練習していた一撃を放つ時が来た――狙うはケルベロスが傷を付けた部分唯一つだ!根の上方向に曲がって盛り上がった部分を駆け上り、一気に跳躍して溜めていた両腕を一気に前へ突き出す!!

 

 

 

 

「突きぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

『r×*¥dqぅぉ@!?!?』

 

 

 

 

――決まった!!そう思った瞬間、人面樹が胴体を激しく揺らしてまたしても吹っ飛ばされる……けど、ケルベロスが自分の身体を使って落ちるのを防いでくれた。それが最期の抵抗だったのか、最早ヤツに動く力は残っていないようだ。ふと、木剣を突き刺して崩れた部分を見ると、菱型の"宝石の様なモノ"が見える。アレが心臓部だったのか?……まあいい。俺はケルベロスにファイアブレスを吐いて貰おうと、

 

 

「ありがとな!よっしゃ、チリ一つ残さずに焼き払『ま、待ってください!!』……あ"あ"ん!?」

 

 

 何処からか声が聞こえたんでそっちの方を見るとイタチの様な小動物がいた。

 

 

『あの"宝珠"こそ公園の樹を魔物に変えた"原因"です!アレをどうにか出来るのは"あの2人"だけなんで、後は任せて貰っていいですか!?』

 

「(コイツもしゃべった!)……解ったよ。俺の目的は果たせたから後は任せるわ」

 

『はい!ありがとうございます!!』

 

 

 人語を話す"イタチ"は空中の2人に顔を向けると、なのはちゃんが大きく頷いた。すると2人の得物が変形し、

 

 

「ジュエルシード・シリアルⅦ!封印っ!!」

「……ジュエルシード・シリアルⅦ、封印」

 

 

 2人がそう言うと人面樹が凄まじい光を放ちながら消滅し、宙に浮く"宝珠"だけが残された。

 

 

「なぁイタチさんよ。コイツぁ何なんだ?」

 

『……ごめんなさい。とんでもない危険物だという事しかお教え出来ません。』

 

「そっか……」

 

 

 俺はそのまま地面に座り込んだ。ケルベロスにも宝珠が危ないのが解るのか、唸り声を出して警戒している。ふと、宝珠を挟んだ対面になのはちゃんが降り立ったのが目に入ってきた。

 

 

「君は高町なのはちゃん、だよな?俺は相原晃祐ってんだ」

 

「あっ……あの~。なのはの事知ってるんですか?」

 

「俺の母さんと君のお父さんが先輩後輩の仲でさ、俺やあそこで失神してる弟や義妹も良く翠屋にはお世話になってる」

 

「そうなんですか!って、よりによってなんでこんな危ない所に!?」

 

「ああ、今日は弟の誕生日でな。翠屋にケーキを取りに行ったっけ士郎さんと桃子さんが、"なのはちゃんが帰って来ない"って言うもんだから代わりに探していたのさ。したっけこの有様だ」

 

 

 ふと背中に殺気を感じて振り向くと、得物を俺に向けて構える金髪少女と狼がいた。それを見たケルベロスは俺の前に来て、今度はそいつ等に唸り声を上げる。

 

 

「あなたは一体……」

 

「っと、悪ぃ。弟と義妹を連れてこないと」

 

『質問に答えな!タダじゃ済まないよ!!』

 

『……オマエラヲ、先ニハ行カセン!』

 

 

 俺は何やら騒いでいる"狼"を尻目に匠真の所へ向かって行き、魔石を使って回復させる。その後、身体を何度か揺さぶるけど意識が戻る気配が無いんで、先にはやての所に向かう事にした。おっと……その前に、

 

 

「俺には関係無い事なんだろ?それなら俺の事だって君等には関係無い事さ。君等の使う力の事もパンピーの俺が知った所で意味無いだろうしな。ただ……」

 

「ただ……?」

 

 

 俺は金髪少女と狼の前で立ち止まり睨みつけて言い放つ、

 

 

「もし此処でこの"宝珠"を取り合うために喧嘩でもして周りに被害を出してみろ――お前等二度と"泣いたり笑ったり出来なくしてやる"」

 

『アォォォーン!!』

 

 

 彼女達がケルベロスの殺気全開の遠吠えにたじろぐと、俺はケルベロスと一緒にはやての元へと向かって行く……っと、忘れる所だった!

 

 

「あ、そうそう!先に義妹連れて来るから良い子にしてなよ!?後でお菓子あげちゃうぜ!?」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 晃祐さんと"大っきいライオン"が何処かに向かって行くと、私とフェイトちゃん、ユーノ君、アルフの2人と2匹(?)が残される。

 

 

「え~っと」

「えっと……」

 

 

 私がフェイトちゃんに声を掛けようとしたら、偶然フェイトちゃんと声が重なっちゃった!

 

 

「先に良いよ?」

 

「あ、ありがと……ねぇ、どうしよっか?」

 

『アイツ一体何考えてんだろうねぇ~。アタシ等の事睨みつけたと思ったら、走って行く時は笑って"お菓子あげちゃう!"とか……バカじゃないの?』

 

『取り敢えずあの人が弟さんと妹さんを連れて帰るまでは何も出来ないね』

 

「それがいいと思う……」

 

 

 私達はジュエルシードの方を向いて、無言で眺める……そういえば何か大事なことを忘れてる気がするの。私は少し考えていて、ふとユーノ君を見た時に思い出した。

 

 

「そういえばユーノ君!結界はどうするの!?」

 

『あ……』

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 俺がトイレの影から這い出しているはやてと会った時、はやては安堵の表情を浮かべて迎えてくれた。一瞬同行していたケルベロスを見て表情をこわばらせたけど、敵意が無いと解るとたてがみでモフモフし、その後俺がケルベロスの背に乗せるといたく気に入ったのか、

 

 

「う~ん!ケロちゃんの毛って硬そうに見えるけど、めっちゃモフモフで乗り心地も抜群や~~~」

 

 

 と、ご満悦顔だった。しかしケロちゃんっておい……

 そして俺達3人は次に匠真を拾いに行く。しかし、人面樹のいた広場のすぐ近くまで戻って来ると、突然EAIとバイオセンサーに強烈な反応があり、警戒して生垣から広場を覗くと、

 

 

 

 

「――時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!大人しくジュエルシードを渡して貰おうか!!」

 

 

 

 

 厳ついロングコートを着た、"黒髪の坊主"が2人に武器を向けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




今回はかなり悩んだ挙句、なのはとフェイトが戦わずにクロノを出現させる展開にしました。

この頃の晃祐は"真面目でネガティブな性格"から来る、喧嘩が嫌いな優しい人間なので"腹を割ってトコトン話し合えば互いに理解し合える"というスタンスです。故にこれから先、多くの『壁』にぶち当たって行きます。
因みにクロノはその『壁』の一つです。晃祐が将来のヤタガラスを背負って立つ存在(しかも闇の書の主であるはやての義兄)ならば、クロノは将来の時空管理局を背負って立つ存在(此方は闇の書を父親の仇としている)なので、言わば"宿敵"という事になります。
闇に生きる悪魔召喚師相原晃祐と、光に生きる時空管理局執務官(後に提督)クロノ・ハラオウンの2人の対立が、A's編以降の"軸の一つ"として展開していきますので、ご期待していただければ良いなと考えております。


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第14話 時を統べる者(前)

14話です。
今回は前編後編の2つに分けて投稿します。

人面樹から開放された匠真の身に再び災難が降りかかります。





2013 8/8 15:45 一部内容を変更
2013 8/8 19:55 誤字,脱字等を修正、一部文章を追加
2013 8/9 10:39 誤字,脱字等を再度修正


「――時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!大人しくジュエルシードを渡して貰おうか!!」

 

 

 

 

 おい何だよあの坊主!人があの2人にアメのアソートパックをあげたらせっかくの機会だし、はやてと匠真を紹介しようと思ったのによ!!何なの?バカなの!?

 

 

「(うわぁ~兄ちゃんと違って頭良さそうな子やなぁ~)」

 

「(おいはやて!なんか聞き捨てならねぇ事言った気ぃするなァ?)」

 

「(な、な、なんでもあらへんよ?)」

 

『(……気ヲ付ケロ。アノ坊主、アア見エテ只者デハ無イゾ)』

 

 

 俺はケルベロスからはやてを降ろして、何時でも飛び出せる状態にする。何処の馬の骨だか解らねぇヤツがしゃしゃり出て来やがって……

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「――まずは事情を説明して貰おうか?」

 

 

 私達があの男の人の言う通りにして待っていると、突然光と共に管理局の執務官が出現した。クロノと名乗る執務官は私達に武器を向け、直ぐ様攻撃できる様な姿勢をしていて"初めから事情なんて聴く気なんて無い"事が感じ取れた。

 

 

[フェイト……アタシがあの坊主に攻撃を仕掛けた隙にジュエルシードを!]

 

[……解った]

 

 

 私が構えていた腕をわざと下げて、話し合いに応じる姿勢を見せようとする。すると"あの子"も同じ様に戦闘態勢を解いたのが見えた――――好機!

 

 

ドドドドドドド!!

 

 

「(!!)……くっ!」

 

「フェイトっ!今だよ!!」

 

 

 アルフがフォトンランサーを乱射すると、不意を突かれた執務官はプロテクションを張るのに精一杯だ。プロテクションで防がれずそのまま着弾したものは辺りに土煙を起こして視界を妨げた。それを確認して跳躍し、ジュエルシードを掴もうとする……!

 

 

「そうはさせない!!」

 

「フェイト危ないっ!」

 

「うわっ……!!」

 

「フェイトォォォッ!!」

「フェイトちゃん!」

 

 

 私はジュエルシードにあと少しの所で、執務官の放った魔法の直撃を受けて吹き飛ばされた……どうにかアルフが私の身体を受け止めてくれたみたいだ。目を微かに開けると視界がぼんやりと霞んでよく見えない。でも、執務官はデバイスを私に向けて魔法を放とうとしているのだけは解る。私達、もうダメなのかな……

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

(ん……ううん……僕は……気を失ってたのか)

 

 

 確か人面樹に捕まったのは覚えているんだけど……あの後一体どうなんたんだろう?身体を起こすと、足元に見慣れない石が砕けていた。

 

 

(これって母さんの言っていた魔石かな?だとしたら兄さんが……ハッ!兄さんとはやてちゃんは!?)

 

 

 中腰の姿勢で生垣から広場を覗こうとすると、直ぐ目の前でオレンジ色の狼が吹き飛ばされた"金髪の女の子"を身体を使って受け止めるのが見えた。彼女は相当強く身体を打ったのか、目を微かに動かしただけで殆ど身動きが取れないみたいだ。1メートル程移動して様子を伺うと、黒髪の杖の様な武器を持った男の子が彼女目掛けて今にもビームを撃とうとしているのが解った。

 

 

(あの女の子が危ない!)

 

 

 僕は急いで女の子の前まで走って行った時――自分の身体がビームに撃ち抜かれ、目の前が真っ白になるのが解った――

 

 

(皆……ごめんなさい……)

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「なっ!?非殺傷設定にしているはずな『グルルァァァッ!!』――う、うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 今まで気を失っていた晃祐さんの弟さんがフェイトちゃんの前に走りだして、クロノ君の魔法に撃たれちゃった……私は急いで撃たれた子に駆け寄ると、口とお腹から血が出て……しかもクロノ君は晃祐さんが呼び出した"白いライオン"襲われてるの!すると横に誰かが来たからまた振り向くと晃祐さんが居て、身体を抱きかかえると弟さんの名前を必死に呼び掛ける。

 

 

「匠真っ!しっかり、しっかりしろっ!!今魔石を使ってやるからなっ!?」

 

 

 晃祐さんはスマートフォンみたいな機械を操作すると左手に不思議な石が現れて、それを匠真君の上で両手で割るとお腹の傷が光りだしたの……傷薬みたいな石なのかな?でも、全然傷が治ってなくて、このままじゃ匠真君が死んじゃうよ!

 

 

「……けんな」

 

「へ?」

 

 

 晃祐さんが何かを言うと匠真君を横にして立ち上がり、

 

 

「なんて事しやがったんだテメェ……覚悟は出来てんだろうなぁ!?」

 

「ぼ、僕は悪くな……いっ!そいつが勝手に出て来て撃たれ「黙れっ!!」」

 

 

 晃祐さんはクロノ君を……ダメ!そんな事しちゃ絶対ダメなの!!

 

 

「止めてぇぇっ!殺さないでっ!そんな事したら晃祐さんがっっ!!」

 

「!!……ごめん……ケルベロス!」

 

『グルルル……運ガ良カッタナ』

 

 

 晃祐さんが"白いライオン"――ケルベロスの名前を呼ぶと、ケルベロスは素直にクロノ君から離れていく。ほっ……良かった~!って全然良くないのっ!匠真君の傷をどうにかしないと!!

 

 

「おい坊主――クロノっつったな?お前の力で匠真を治せないか!?」

 

「すまない。こういった事は専門外なんだ」

 

「お前見た目からして黒魔導師っぽいもんな……まあいいや、この石は"魔石"っていう傷を癒す力がある石なんだけど、お前に何個か渡すから俺と同時に使ってくれ」

 

「……解った。此処は君に従おう」

 

[――大変だよなのは!]

 

 

 晃祐さんとクロノ君が魔石を使って応急処置を行ってると、ユーノ君から念話が来て私はそれに応える。

 

 

[どうしたのユーノ君?]

 

[結界を張ったはずなのに女の人が入って来た!]

 

[ええええええっ!そ、そんな事って出来るの!?]

 

[しかもリンカーコアが感じられないから魔導師じゃないみたいだ!]

 

[ううう……私達の事見られたらどうするの~~~~~~~~!!] 

 

 

 私が頭を抱えたのと同時に晃祐さんの携帯電話が鳴り出した。

 

 

「あっ、もしもし母さんっ?……臨海公園に来たって!?とにかく匠真が大変なんだ!早く来てくれ!!」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 母さんから電話が来たんで何かと思って出ると、どうやら前もって匠真が電話をしていたらしく、臨海公園の入口付近まで来たという事だった。コレ幸いと思った俺は母さんを俺達がいる所まで電話で誘導するついでに途中ではやてを拾って来て欲しいという事も頼んだ。そして数分後、

 

 

「匠真!どうしてこんな……」

「タッ君……タッ君!!」

 

 

 母さんが車椅子に乗せたはやてと来ると、二人も匠真に声を掛ける。

 

 

「ふぇぇぇぇっ!?那緒実さんが晃祐さんと匠真君のお母さんだったなんて!」

 

「……あらなのはちゃん!?ってそれは置いといて……どうしてこんな事に」

 

 

 クロノが申し訳無さそうな顔をして母さんに近寄る。

 

 

「……僕が彼を撃ちました」

「――あんたがっ!あんたがタッ君を!「よせ、はやて!」せやけどっ!!」

 

 

 俺はクロノの言葉を聴いて涙を流しながら食って掛かるはやてをなだめる。

 

 

「あなたは……」

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンです。本当に「そこから先は後で聴くわ」……はい」

 

 

 母さんはCOMPを操作して、宝玉とも違う宝珠を手に出現させた。

 

 

「母さん、これは?」

 

「コレがあの"地返しの玉"よ。瀕死の人間を蘇生させる力があるの。ただ蘇生させると言っても重傷の状態には変わらないからコレを使ったら直ぐ魔石を使わないと……あと晃祐、彼処で茫然自失としている狼さんにコレを」

 

「なっ……何時の間にジュエルシードを!!」

「えええええええっっっ!?」

 

 

 母さんがポケットに手を突っ込んで出した物は、さっきまでそこで浮かんでいたはずの"超危険物"の宝珠だった。なのはちゃんもクロノもそりゃ驚くわ……流石チート

 

 

「コレ触って大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ、多分ね。匠真の事は私達に任せて早く持って行ってあげなさい」

 

「多分って……解ったよ」

 

 

 俺はクロノが"ジュエルシード"と呼んだその宝珠を恐る恐る受け取ると、急いで狼の元に行く。すると丁度その背中で気を失っていた金髪少女が目を覚ました所だったみたいだった。

 

 

「ほら。君はコレが欲しかったんだろ?」

 

「どうしてそれを……?」

 

『アンタ、何とも無いのかい?』

 

「俺の母さん、ぶっちゃけ言うとチートなんだよね。だから何をやっても不思議じゃないと言うか……あと約束通りお菓子もあげるよ」

 

 

 俺は金髪少女にジュエルシードと、母さんから受け取っていたメッセンジャーバッグの中から、アメのアソートパックを取り出して渡した。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「さあ、もう行きな。あの執務官だかって坊主は母さんが近くにいるから、もう君等に対して何も出来ないだろうしな」

 

『この恩は忘れないよ!』

 

 

 狼がそう言うと、金髪少女を乗せたまま猛スピードで走り去って行った。さて、向こうはどうなったかな……

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 ハッキリ言って何もかもが想定外だった……

 

――非殺傷設定でスティンガーレイを放ったにも関わらず、フェイト・テスタロッサの前に走ってきた見知らぬ少年の身体を貫いて瀕死にさせてしまった事。

――使い魔を使役する人間がこの管理外世界にも存在したという事。

――2人の母親らしき女性がジュエルシードをいつの間にか回収していた事。

――そのジュエルシードをフェイト・テスタロッサに渡してしまった事。

――今目の前で起こっている"瀕死の少年が息を吹き返した"事。

 

 この世界は魔法やそれに関する技術の無い"遅れた世界"だと聴いていたけれど、僕達は"その認識"を改めないといけないのかもしれない。今手に持っている"魔石"もそうだ。人の傷を癒す事の出来る鉱石なんて、ミッドでは聴いた事も見た事も無い。

 

 

「――皆ありがとう。傷も塞がったしコレでもう心配要らないでしょう」

 

「ふにゃぁぁぁぁぁ。よ、良かったの~~~~~」

「え、えぐっ……ひっく……流石那緒実さんやわ~!」

 

「さて……クロノ君と言ったわね?時空管理局という組織の一員という事は、何処かに貴方の上司がいるのでは無くて?」

 

 

 それを言われてアースラの事を思い出す――イレギュラーな事態が続き過ぎてすっかり忘れていた!!

 

 

『クロノ!お疲れ様』

 

「あっ!艦長……すみません」

 

 

 丁度良いタイミングで艦長から通信が入って来た。

 

 

『それで、此処にいる人達に色々訊きたいからアースラまで案内してくれるかしら?』

 

「ですが、この少女は良いとして他の人達は!!」

 

『……それに事故だったとは言え、部下の非礼をお詫びしなくてはいけないわ』

 

 

 悔しいけど、艦長の言う通りだ。

 

 

「……了解です」

 

 

 僕は後ろに振り返ると、この場にいる全員に同行して貰う様に依頼する。

 

 

「皆さん、艦までご同行願います」

 

「はやてちゃんとケルベロスには匠真を見ていて貰いたいから、私と晃祐の2人で行きましょう」

 

「ええっ俺も?母さんだけ行けば「私だって晃祐の"やろうとした事"をお詫びしないといけないしね」うっ」

 

「いえ、もう日も暮れて来ていますし一応医療設備もありますから……」

 

『そうね。那緒実さんと言いましたか?お子さん達の身の安全のためにもお連れしていただけません?』

 

 

 女性は顎に手を当てて少し考える素振りをして、

 

 

「……解ったわ。但し、ケルベロスにはここで下がって貰いましょう。それに――私だって"悪魔"なら使役出来るから問題無いわ」

 

 

 と、この人……全身から出る雰囲気といい、重傷の息子を前にしての冷静な対応といい、間違い無く只者じゃない。幾度と無く修羅場を潜り抜けて来た歴戦の猛者だ。

 女性は使い魔を使役している少年の方に顔を向けて軽く頷き、彼が何か黒い管の様な物を出して使い魔に向けると、たちまち光になって"ソレ"に吸い込まれていってしまったのだった。

 

 

「よっと……おい何見てんだよ?」

 

 

 その一部始終を見て唖然としていた僕は、気を取り直してアースラに転送指令を送る。

 

 

「(!?)準備は良いですか?アースラ、転送を!!」

 

 

 そして僕達の身体は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




はやてとなのはがここで初対面しましたが、自己紹介は次回になります。
晃祐は後一歩の所で人間としての道を踏み外す所でした。家族の事になると我を忘れるのが良い所であり悪い所でもあります。

あと地返しの玉についてですが、コレの元ネタは日本神話に登場する十種神宝(とぐさのかんだから)の一つである『道返玉』から来ています。シリーズによっては"道返玉"表記である事もありますが、最近の作品では大抵"地返しの玉"表記である事が多い気がします。
十種神宝についても後々登場させようと思っています。管理局にとって見ればロストロギアの様なもんですからね。

次回はアースラ内に移動しての事情聴取です。







それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第15話 時を統べる者(後)

第15話です。
那緒実さんマジチート




2013 8/22 9:45 一部文章を加筆修正


「準備は良いですか?アースラ、転送を!!」

 

「うぉっ!!―――って、此処何処だよ!?」

 

 

 足元から光に包まれると一瞬にして俺達の目の前の景色が一変し、無機質な金属壁が四方を囲む空間に移動していた。

 

 

『此処は時空管理局の時空航行艦の中ですね……』

 

「ふぇぇぇぇ~なんだか怖いの~~~」

 

「大丈夫やって。何かあったら那緒実さんがどうにかしてくれるやろ?それに見とったと思うけど、兄ちゃんもなんだかんだ言って頼りになるからな~」

 

 

 何時の間にか俺の足元に来ていた"イタチ"が説明を始めようとした時に、なのはちゃんが困惑した表情で頻りに辺りをキョロキョロし、それを見たはやてが安心させようと言葉を掛ける……普通逆じゃね?何で魔法少女の方がキョドってんだよ。

 

 

『……話を続けます。時空航行艦っていうのは簡単に言うと、様々な"次元世界"を自由に行き来するための船の事です』

 

「次元世界――異世界の事か?」

 

『えっと……その認識で合っていると思います。普段皆さんの住んでいる世界と以前僕等の住んでいた世界、そして時空管理局の本局がある世界は全て"別々の次元世界"なんです』

 

「う~ん……時空管理局って言うんだから"時間を超える"と思ったんだけど、なんか違うっぽいなぁ」

 

 

 クロノが先に歩いて行ったんで、匠真を背負った俺とイタチは言葉を交わしながら、その後を追うように歩き出す。

 

 

『さ、流石にそこまでの能力は無いと思いたいですね……それで、様々な次元世界が干渉する出来事等を文字通り"管理"するのが彼ら時空管理局の役目です』

 

「へぇ~。アイツ、俺より年下っぽそうなのにもう働いてんのか。まぁお前さんの言う様に沢山の世界が有るなら、その世界の分だけ慣習とかも変わってくるだろうしなぁ」

 

 

 ある程度自分なりに解釈は出来たと思う……と、前を行くクロノの足音が聞こえなくなったんで視線をイタチの方から前に移すと、立ち止まって此方側に向き直っていた。

 

 

「……向こうの方々!いい加減僕に付いて来ていただけないでしょうか?」

 

「にゃぁぁぁ!!ま、待ってよ~置いてかないで~~~~~~!!!!」

 

 

 声に釣られて俺とイタチが後ろに振り向くと、向こうで未だにキョドっていたらしいなのはちゃんが我に返って、イタチが俺と一緒に先に行ってしまったのにショックを受けたのか小走りで俺等の所まで向かって来る。そしてなのはちゃんの側で見ていたらしい、母さんとはやては苦笑いを浮かべながらゆっくりと此方に向かい出した。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 僕達が転送室らしき部屋からから廊下に出ると、執務官がなのはにこう切り出した。

 

 

「そういえば何時までその格好でいるんだい?窮屈で仕方無いだろう、バリアジャケットとデバイスは解除して良いぞ」

 

「そっか。そうですよね……」

 

 

 なのはがバリアジャケットを解除すると、次に僕の方を向いて、

 

 

「君も"元の姿"に戻って良いんじゃないか?」

 

 

 ああっ!暫くフェレットの姿でいたからすっかり忘れてた!!

 

 

「そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたんでこっちに慣れてしまってました……」

 

 

 執務官にそう答えて僕は"元の姿"に戻ると、執務官と那緒実さん以外の人達がビックリしてたんで、

 

 

「(??)何かおかしい所でもありますか??」

 

「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!?!?」

「うおおおおお!イタチが人間になったッッ!!」

「へぇ~"狐や狸が化ける"って言うけど最近はイタチも化けるんやなぁ~」

 

「へ……?」

 

「ユーノ君って……嘘っ!?」

 

 

 なのははこの船に転送されてきた時以上にあたふたし出した……執務官は、

 

 

「……おい君達!もう良い加減艦長を待たせる訳にはいかないんだ!早くしてくれると助かるんだが!?」

 

 

 どうやらご立腹らしい。それを見たなのはがシュンとした時、

 

 

「まあまあ別にそこまで言わなくて良いじゃないの。貴方が自分の責務を全うしたい気持ちも解るけれど、まだこの子も小さいんだから。こういう状態にさせたらちゃんと事情を訊く事も出来なくなるのではなくて?」

 

「確かにその通りだな」

「ホンマや。少し位待ってくれたって逃げへんのに」

 

「うっ……ま、まあ此方へ」

 

 

 那緒実さんに正論を言われた執務官は付いて来る様に言うのが精一杯だった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 私達が長い廊下を歩いて突き当りの部屋に入ると、そこは棚に幾つもの盆栽、床は一部畳敷き。そして鹿威しに茶道用具が置かれた、和風なんだけど何処か奇っ怪な部屋だった。目の前には私よりも遥かに若く見える"緑髪の青い制服を来た女性"が笑みを浮かべながら正座をしている……この人が艦長ね。

 艦長は一見すると温和に見えるけれど、その見た目と違って相当な実力者に感じる。"口に蜜あり腹に剣あり"と言うから用心しなくてはいけないわね。

 

 

「まあ、お疲れ様!皆さんどうぞ楽にしてください。それと怪我をした子はメディカルルームに転送しますけどどうなさいます?」

 

「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫ですわ。何処か横に出来る場所でもあればそれで充分です」

 

「あらそう?それじゃ、簡易ベッドがあるのでそれをつかってくださいな」

 

「……どうぞ」

 

 

 私と晃祐は簡易ベッドの上に匠真を寝かせて、その横にはやてちゃんを動かした。

 

 

「あら?貴方がたも此方にいらっしゃいません?」

 

「いいえ、私達はここで構いませんわ。息子の事もありますし……それで、私達とその子達とのどちらからお話を?」

 

「そうねぇ~。と、その前に改めまして、私は時空管理局の航行艦"アースラ"艦長のリンディ・ハラオウンと言います。先程は執務官のクロノがご迷惑をお掛けしてお詫びのし様がございません」

 

「私は相原那緒実と言います。こちらこそ息子が怒りに任せて重大な過ちを犯すところで……こら!晃祐も謝りなさいっ」

 

 

 私は晃祐の頭を後ろから軽く押して謝らせる。

 

 

「ちょっ、母さ!……ごめんなさい」

 

「此方こそ私の部下が弟さんを死なせかける事をしてごめんなさい……貴方が怒るのも無理ないわ。クロノも幾らイレギュラーな事態だったとは言え、"若さ故の過ち"で済ませられない事になりかけたのよ。解っているわね?」

 

「はい……」

 

「では艦長、続けて紹介しますね。今謝ったのが長男の晃祐。此処で横になっているのが次男の匠真、そしてこの子が私の家で引き取って一緒に暮らしている八神はやてちゃんです」

 

 

 3人を紹介すると、畳の上に上がった2人も口を開いた。

 

 

「わ、私は高町なのはですっ!」

 

「僕はユーノ・スクライアと言います」

 

「……それじゃあ紹介も終わった所で、先にこちらの2人からお話を訊かせて貰っていいかしら?」

 

 

 艦長は2人から先に聴取を行う様だ。ユーノ君が話を始めたのを見計らい、私は2人の話を聴いている振りをしながら晃祐とはやてちゃんに囁く。

 

 

「(晃祐、はやてちゃん。聴取が始まったら2人共余計な事は言っちゃダメよ?貴方は直ぐに熱くなるから余計な事まで言いかねないもの)」

 

「(じゃあ何て言えば良いんだよ?)」

 

「(公園に来るまでの経緯と、公園であった事の一部始終だけを言えば良いわ。悪魔については私がどうにかするし、相手が"管理局"と名の付く以上、最悪の事態を避けるのにヤタガラスの事について伏せなくちゃいけない)」

 

「(ほな何で~?)」

 

「(悪魔召喚師だけならヤタガラスと関係無いフリーランスもいるから問題無い。もし此処でヤタガラスの存在を出して時空管理局から敵と認識されたら洒落にならないわ。それにあの艦長、ああ見えて結構な"狐"よ)」

 

 

――故に現状で最も警戒すべきはあの人。この部屋に監視カメラやレコーダーが仕掛けられていても何らおかしく無い。ついうっかりで口を滑らせたらこちらの命取りになる……私は意識を前に戻して2人の話に耳を傾けるのだった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「――成る程。あのロストロギアを発掘したのは貴方の一族だったんですね「だからこそ、僕が回収しようと」……立派ね」

 

「良い心掛けだ。感動的だな……だが無謀だ!何故管理局に通報しなかった!?」

 

 

 傍から聴いていた俺は、ちょっと気になった単語があったんで尋ねてみることにした。

 

 

「あ、あの~。話の腰を折る様でなんですけど、"ロストロギア"って何すか?」

 

「そうそう!私等にも解るよーに教えてください」

 

「それは……様々な次元世界の"失われた遺産"と言っても解らないっか」

 

 

 あ、成る程!俺は頭の上に???を浮かべているはやてに、

 

 

「はやてはやて、アレだ。"オーパーツ"みたいなもんだよ。ナスカの地上絵とかストーンヘンジみたいな正体不明なモノの事……ですよね?」

 

「ああ、ああああっ!そか~そういう"どエラいもん"なんかぁ」

 

 

 はやては納得したみたいだけど、今度は管理局の2人が???となってしまっている。おいおい……こんだけの技術があるならそれくらい調べる事なんて簡単に出来そうなのによぉ。

 

 

「ただ"謎なだけ"ならまだ良いさ。ロストロギアは使い様によっては世界に多大な悪影響を及ぼす事だって出来る。ジュエルシードの場合は、たった1個で都市ひとつをチリ一つ残さず消し飛ばす位の力を持っている可能性が極めて高い」

 

「マジで!?したっけアレを素手で手に入れた母さんは流石だな!」

 

「……コホン。それでロストロギアは然るべき場所、然るべき方法で保存されるべき。これからは時空管理局が全権を持ちます。貴方達はそれぞれの世界に帰って元通りに暮らすと良いわ」

 

「……でも!」

 

 

 どうやら2人は納得出来ないみたいだ。なのはちゃんが必死に食い下がろうするけど、クロノが2人を睨みつけて、

 

 

「今回の件は次元干渉に関わる事だ。民間人が手出ししてどうにかなる問題じゃない!」

 

 

 続けて艦長が2人を庇う様に、

 

 

「突然そう言われてもなんでしょうから、もう夜になってしまったし明日までに2人で話し合って決めると良いわ」

 

 

 その言い草は無いだろう!?と声を上げようとすると、無言で母さんが俺の顔の前に手をかざした。抗議の意味で顔を見ると、"今までに見た事も無い位の鋭い目つき"で艦長の方を見ていたのだった。ひょっとして何かに気付いたのか?

 

 

「……ふぅ。さて、次は貴方達の番よ」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 聴取が俺達の番になると、朝から現在に至るまでの行動を話した。その際、あの場に遭遇したのは全くの偶然であるという事を強調するのも忘れない。

 

 

「では、ジュエルシードで魔物に変化した悪魔にバリアジャケットも何も無しに、その木剣だけで立ち向かったのね?」

 

「当たり前じゃないっすか!俺は"変身"なんて出来ませんよ」

 

「しかし君も無謀な事をするな。幾ら使い魔を使役出来るからと言っても……」

 

「いや、悪魔召喚をしたのは今日が初めてだったんだ。もし俺に召喚が出来る才能が無かったら、万が一の事も覚悟してたしな」

 

「召喚するのにも条件が要るというのね」

 

「では悪魔召喚については私の方から説明しますわ」

 

 

 其処からは母さんが以前俺とはやてに説明した様に、悪魔と悪魔召喚そして悪魔召喚師についての解説を行った。途中で仲魔のソーマをこの場で実際に召喚して見せて、一同を驚かせたりもした。しかしその話に艦長とクロノだけで無く、なのはちゃんとイタチだった少年――ユーノも熱心に耳を傾け続けている。

 

 

「――現在の地球の技術では悪魔召喚プログラムをインストールしたCOMPを使う事で、素質の無い人間でも召喚が可能となってますけど、こういった物が登場する以前は封魔管等といったモノを使い、自らのMAGを使って召喚していたのです」

 

「つまりかつては自身のMAGを自由に使う"素質"が無ければ、その悪魔召喚が出来無いし悪魔召喚師にもなれなかったと」

 

「じゃあ何故、貴方は息子さんにその"素質"が有るか無いかも解らないのに封魔管を持たせたんですか?"悪魔召喚プログラム"とやらが有れば手を出す必要なんて無かったのに」

 

「いいえ。先程も言った様に、悪魔は使い魔と違い召喚師と相互協力の関係です。特にケルベロスみたいなパワータイプの悪魔は召喚師自身も行動を起こさなければ、こちらの言う事なんて聞いてくれません。それに私は悪魔召喚プログラムをインストールしたCOMPなんて持って無いし、私には必要の無いモノですから……でも晃祐なら必ず悪魔召喚を成し遂げると思っていたわ」

 

 

 母さんの手が俺の頭に置かれ、優しく撫でられた。恥ずかしいなぁ全く!でも悪くない。

 その後も母さんの話は続き、漸く聴取が終了した。結論として俺達は"魔力が無いから脅威には成り得ない"って事で上層部には報告しないらしい。クロノが公園まで送って行くと言うんで部屋から出ようとすると、

 

 

「皆は先に出てなさい。艦長さんに少し訊きたい事があるから……良いですね?」

 

「え?ええ」

 

 

 そして俺が匠真を背負うとクロノを先頭に、母さんと艦長以外の人間は部屋から出たのだった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「それで訊きたい事とは?」

 

「艦長さん――貴女、ユーノ君はまだしもなのはちゃんまで味方に引き入れようとしているでしょう?」

 

 

 私と艦長が2人きりになると、真意を確かめるべく比較的強い口調で切り出した。

 

 

「……何の事かしら?」

 

「あら、とぼけたって無駄ですわよ?普通、本当に遠ざけたいなら"明日までに話し合って決めろ"だなんて言いませんからね」

 

「あの2人はまだ幼いんですよ。今直ぐ"此処で決めろ"と言っても、到底納得なんて出来ない年頃ですから、敢えて猶予を与えたまでの事です。何故那緒実さんはそう思われたんですか?」

 

 

 あくまでも白を切るつもりか……私もナメられたものね。しかもさり気なく挑発までして来て、見立て以上の"狐"だわ。

 

 

「……まあ良いでしょう。それでは失礼させていただきます」

 

 

 地球上でも9歳で働いている子どもは数多く存在している。一概に日本人としての倫理観を当て嵌めるわけにもいかない。そう思いながら部屋を出て、皆と一緒に転送室まで歩き出す。

 今回私達にとっての収穫は、"あの人"の言っていた"組織"――即ち時空管理局が"魔力至上主義"である可能性が高いと判明した点だろう。これは後々私達に有利に働くに違いないわね。

 

 

「――此処で良いだろう。なのはとユーノの2人はまた明日此処まで来てくれ」

 

「「解りました」」

 

「こちらの皆さんにはご迷惑をお掛けしました」

 

 

 私達が公園まで戻って来てクロノ君が一言二言口にすると、「貴方達とはもう二度と会う事は無いでしょう。」と付け加えて去って行った。出来ればそうなって欲しいけれども、残念ながら近い内に今度は敵として会うでしょうね。

 なのはちゃんとユーノ君を見送って士郎君にフォローの電話をした後、晃祐とはやてちゃんに対して、

 

 

「……2人共、"覚悟"を決めて貰うわよ」

 

「何だよ突然!?」

「怖い顔してどうしたん?」

 

 

 

 

「――――遂に現れたわ。私達の敵……はやてちゃんの命を狙う"組織"が」

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




チートサマナー那緒実さんは洞察力や判断力もチート。

リンディ達は悪魔召喚師を「魔力が無い=直接的な脅威にはならない」と最終的に判断した模様です。クロノが"認識を改める必要がある"と前回で考えていましたが、所詮は魔力至上主義の管理局です。長年の悪しき風習がそう簡単に直る訳ありません。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第16話 決意の時

第16話です。
頭の中で展開が出来ていたので意外と早く完成しました。
しかし左腕一本は辛い。ついついEnterキーなんかを右手で押して激痛にのた打ち回る事が何回か……




2013 8/17 4:34 誤字,脱字を修正
2013 8/17 23:09 一部文章を改訂


「――敵?まさか、前に言ってた"組織"って……」

 

「……ええ。なのはちゃんと艦長のやり取りを聴いていて確信したわ。彼女達時空管理局の目的が、なのはちゃんとユーノ君が求めているジュエルシードの様なロストロギアならば、はやてちゃんの闇の書もその類に含まれていてもおかしい事じゃない」

 

「ほな、此処に来たっちゅうことは私が目当てなん?」

 

 

 母さんの言葉に俺は耳を疑った。横にいるはやても不安そうな顔をしてるけど、母さんはそれをまるで無視するかのように言葉を続ける。

 

 

「いや、それは無いわね。もし最初から闇の書を目標に定めているのなら、今さっきまで居たアースラの様な戦艦が艦隊を組んで現れていると思う。オーパーツの名前を晃祐が出した時にあの2人は全くその事について知らない素振りをしていた。あんな技術を持っている位だもの、オーパーツについては愚か"闇の書の主"位簡単に調べられると思わない?そう考えると時空管理局は"偶然此処に現れた"と考えるのが自然だわ」

 

 

 偶然出没したとは言え、此処に居座られて万が一バレた事を考えると……俺はその事について母さんに投げかけてみる。

 

 

「でもさ……さっきは大丈夫だったけどいずれはバレちまうんじゃねぇの?」

 

「艦長は"魔力が無い"という理由で私達を危険視しなかった。つまり万が一闇の書の封印が解けて内に秘められた"魔力"が覚醒しない限り、時空管理局はこちらに手出しして来る事は無い……と、思って良いんじゃないかしら」

 

「したっけ闇の書が覚醒しようがしまいが、どちらにしろはやての命に関わる事には変わり無いんだな……ふざけやがって!」

 

 

 俺は沸き上がってくる苛立ちからメッセンジャーバッグを地面に叩きつける。

 

 

「兄ちゃん八つ当たりはアカンよ。で、那緒実さん。私等はどうすれば良いん?」

 

「おい!?なんでお前はそこまで落ち着いてられんだよ!!」

 

「晃祐は少し冷静になりなさい!……はやてちゃんをウチで引き取ってから、ヤタガラスの技術班がMAGを使った代替手段で闇の書にエネルギーの供給を行い、かつ暴走が起こらないようにするための技術研究を、時空管理局の存在を私達に知らせてくれた"ある人"の主導で行なっているわ。でもこの状況じゃあ彼女達にバレるのが先になるか、代替手段が先になるかというのは正直微妙な所だと思う」

 

「っちゅう事は、その研究が完成するまで静かにしとくしか無いんか……なんかもどかしいなぁ」

 

 

 俺は心の中で行き場の無い怒りとやるせない気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合って、頭がどうにかなってしまいそうになった。その時、背中で今まで気を失っていた匠真がもぞもぞと動き出したんで振り向くと、

 

 

「――――ぅ、ううん……あ、あれ……?僕、死んで……無い?」

 

「た、匠真ッ!」

「匠真!」

「タッ君!?」

 

 

 意識を取り戻した匠真は半ば呆然とした表情で俺達の顔を見回すと、生きている事を実感したのか声を上げて泣きだした。母さんは安堵の表情を浮かべ、はやては嬉しさの余り涙を流して喜んだ。俺も普段は憎い部分があるけれど、何だかんだ言って兄弟だ。嬉しく無い訳が無かった。

 俺と母さんは匠真とはやてが落ち着くの待つと、夜も遅いと言う事でそのまま家に帰って匠真には到着後に、匠真が撃たれてから気が付くまでの一連の流れを話すという事にした。それと誕生パーティーは士郎さんへの報告も含めて翠屋で行うという事になった(どうやら母さんは士郎さんに電話した時にその事についても話をしていたみたいだ)。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

―翌日(4月28日)午後2時 喫茶店翠屋―

 

 

 

「ほな行くで~?……1日遅れやけどタッ君誕生日おめでとぉ~~~!!」

 

「「「「「「おめでとう!!」」」」」」

 

「皆さん、ありがとうございます!」

 

 

 クラッカーの音が店内で一斉に鳴り響く――翌日昼過ぎ、俺達は翠屋に行って匠真の1日遅れの誕生日パーティーをしている。"昨日の今日"とは思えない位、場の空気は明るくお祝いムードで満ちている。この場には俺達相原家4人と士郎さんと桃子さんの他に、高町家の長男の恭也さんと長女の美由希さん、そして恭也さんの彼女ではやての友達のすずかちゃんのお姉さんだと言う月村忍さんの8人がいて、各々が匠真に対して声を掛けている。しかしなのはちゃんはどうやらアースラに出向いたみたいで姿は見えなかった。

 ……そんな事をかく言う俺は、独り窓際の椅子に座ってその光景を複雑な心境で見ている。

 

 

「やあ、初めまして晃祐君。何時も父さんと母さんが世話になってるね」

 

 

 ふと横を見ると恭也さんが俺の横に来て声を掛けてきた。

 

 

「ども……此方こそ母さんがご迷惑をお掛けしてます」

 

「君の弟の誕生日だと言うのに浮かない顔をしてるけどどうしたんだ?」

 

「恭也さんは昨日俺達が遭った事は聞いてるんですよね?俺、匠真を助けるために初めて悪魔召喚なんてしちゃったんですけど……」

 

「弟妹を守るためには仕方の無い事さ。それが年上の、兄貴の務めだよ。それに君は結果的にではあるけれどなのは達の事も守ってくれた。俺も美由希も感謝してるよ」

 

「なのはちゃんからも話を聞いてるんですね。でも俺は邪魔をしただけで「でも無益な戦闘は防げた」」

 

「――なのはと一緒にいたと言う"金髪の子"……なのはその子と友達になりたいと思っているらしい。でも向こうは一方的に敵として認識して取り合ってくれない……君の"勇気ある行動"は2人の今の関係を変えるには充分な行為だった思う」

 

 

 俺は周りに悟られない様に窓の方に身体を向き直すと、恭也さんも椅子に座って窓の方に身体を向けようとすると、突然背中に気配を感じて直ぐに振り返ると、そこには女性が2人立っていた。

 

 

「恭也ぁ~?」

「恭ちゃ~ん?」

 

「何こんな目出度い時にシリアスな空気全開にしてんのよ~」

 

「ごめんね~恭ちゃんの話に付き合って貰っちゃって」

 

「いえ……俺の話に恭也さんが乗ってくれたんで俺が悪いんです」

 

 

 その後は忍さんと美由希さんも加えた4人で、内心非常に申し訳無いと思いながらも昨日の話をした。

 

 

「はぁ~……ったく、晃祐君は深刻に考え過ぎじゃないかな」

 

「まあ、私も長女だから解らない事は無いわ――で、君はどうしたい訳なの?」

 

「正直、苛立ちだけが募ってどうすりゃいいか解らないんです。俺なんて特に秀でた才能もクソも無いですし」

 

「……うん。それがいけないんだと思う。晃祐君は自分自身を卑下し過ぎてる」

 

「君は大きな思い違いをしてるな……才能なんてのは努力で補えるのさ。人には得手不得手があるけれど、悪魔召喚や自分の身を顧みずに化け物に立ち向かうという精神は立派な才能なんだ。それに才能が無いというのは"ゼロ"なだけであって決して"マイナス"なんかじゃない。これから幾らでも伸ばしていけるもんだよ」

 

「そういうもんなんすかねぇ……」

 

「そういうもんだよ。恭也だって美由希ちゃんに比べて剣術の才能が無いって言われてたけど、それを努力でカバーして今までやって来たんだから!」

 

 

 さも自分の事の様に誇る忍さんを見て恭也さんは苦笑いを浮かべる――ああ、俺は近くに自分の事を認めてくれる人がいなかったんだ。俺ははやてが家に来るまで、あのクソ親父から穀潰しだの何だのって言われてボコボコにされてたから、性根がクソ親父に似てひん曲がった人間になっちまってる……正直言って羨ましくもあり妬ましくもある。そう思いながら俺は言葉を口にする。

 

 

「確かに今までは悪態をついたりネガティブな事を言ったりしてました、でも何時だかはやてに言われて気付いたんです――俺は何もかも始める前から既に諦めてたって事を。だからこのまま傍から黙って見てなんていられません。はやてが俺や匠真、そして相原家を必要としなくなる日が来るまで……俺はアイツを守りたい」

 

 

 俺の言葉を聴いた3人は顔を合わせて微笑んだ後、俺に語りかけて来た。

 

 

「立派な理由じゃないの。私達はそれをバカになんてしない」

 

「もう晃祐君のやる事は決まってる様なもんじゃないの?」

 

「晃祐君は背中を誰かに押して貰いたかったんじゃないのか?なら俺達が君の背中を押して上げるよ。君は君の思った道を進めば良いさ。俺達は一応ヤタガラスの先輩だし、色々アドバイスをしてあげられる事も有るだろうしな」

 

 

 一瞬、恭也さんの言葉に耳を疑った……ヤタガラスだって?

 

 

「まさか、3人ともヤタガラスに参加しているんすか?」

 

「俺と忍は正規の構成員、美由希は訓練生なんだ。俺も美由希も父さんから事実を聴いた時に父さんの代わりにはなれなくても、御神流の剣士としてやれることが有るんじゃないかと思って志願したのさ」

 

「私は2人と違って、月村家が代々ヤタガラスのシャーマン――つまり呪術師を輩出する家系だからどっちみち"影の家業"を継がなきゃいけなかった。恭也がヤタガラスに志願してくれたお陰で今でもこうして公私共にパートナーとして居られるのがとっても幸せよ~」

 

「もう忍さんったらこんな時にノロケるのは止めてくださいっ!」

 

 

 忍さんが恭也さんに腕を絡ませるとすかさず美由希さんが突っ込みを入れる……ま、まぁ"末永く爆発しろ(おしあわせに)!!"としか言い様が無いな。

 

 

「……コホン!兎に角、恭ちゃんの言った様に晃祐君が素直に思った通りの事するべきだと思うよ?自分に嘘を付いたって自分自身のためになんてならないし!!」

 

「あ、ありがとうございます……皆さんのお陰で踏ん切りがつきました。俺、何処までやれるか解りませんけど、母さんに打ち明けてみたいと思います」

 

 

 よし!そう決めたら帰る途中に言ってみよう……"言うだけタダ"だからな!!

 

 

「――兄ちゃ~ん!こっち来ぃへんとケーキ無くなってまうで~~~!?」

 

「兄さんっ!僕が全部食べちゃって良いのかなぁ~!?」

 

「おっ?今行くからちょっと待ってろっっ!」

 

 

 俺ははやてと匠真の声を聞いて、急いでカウンターに向かう。すると皆がその光景を見て笑い出した。恥ずかしいという思いよりも、今の俺は恵まれた環境にいる事に対する思いの方が強かった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

―4月28日午後5時 海鳴市路上―

 

 

 

 パーティーは最後、それまでの雰囲気と打って変わって"現状の再確認"と"時空管理局への今後の対応"なんかを話し合った。それが終わると解散になって私等は歩いて家に帰る事にした。そういやなのはちゃんとユーノ君は最後まで姿を見せてくれへんかった……個人的にはめっちゃ寂しかったなぁ。せっかく友達になれるかと思っとったのに。

 

「――結局なのはちゃんは来なかったね……」

 

「うん……ホンマ残念や。すずかちゃんとアリサちゃんが来ぃへんのはヤタガラス絡みの事もあるから解っとったけど」

 

「ねぇはやてちゃん。はやてちゃんはなのはちゃんが時空管理局に付いたと思う?」

 

 

 私がタッ君と話しとると車椅子を押しとる那緒実さんが後ろから声を掛けてくる。

 

 

「今なのはちゃんの頭ん中は、あのフェイトちゃんって子の事で一杯なのは解っとる……せやけどやっぱパーティーは1人でも多い方がエエし、これからの事を考えると"敵"になるなんて絶対考えとう無いで」

 

「そうね……私も彼女と戦う事なんて想像したく無いもの。士郎君達のためにもそうなる前にどうにかしないとね」

 

「なのはちゃんに言って止めるように出来ないのかな?」

 

「匠真の気持ちも解るけど……それは難しいわね。もしなのはちゃんが時空管理局に付いてしまっていたとしたら、恐らく何らかの方法で彼女の行動が監視されている可能性もあるし」

 

 

 私は那緒実さんの言葉を聞いて更に気持ちが沈んでもうた。横のタッ君を見ると辛い表情をしとって私とおんなじ事を思っとる事に直ぐに気付いた……ホンマ何とかならへんのかな。

 ふと前を歩いとった兄ちゃんが立ち止まってこっちに身体の向きを変えとった。何かあったんかな?

 

 

「なあ母さん。俺、悪魔召喚師になりたいんだけど母さんは賛成してくれるか?」

 

「……兄ちゃん?」

「……兄さん」

 

「俺ははやてを守りたいんだ!あんな奴らに負けない力が欲しい!!もしダメでも"言うだけタダ"だろ!?」

 

 

 兄ちゃん……あん時の約束を……

 

 

「晃祐?その言葉に偽りは無いわね!?」

 

「ああ!」

 

「――――解った!その心意気に免じて一応考えておくわ」

 

 

 那緒実さんはまた私の車椅子を押して、兄ちゃんの横を顔を前に向けたまま素通りしていきおった。私が後ろを振り返ると肩透かし食ろうて唖然としとる兄ちゃんの顔が見えた。

 

 

「ちょ、えっ?即答してくれないのかよっ!?」

 

「さ~て2人共、今日の晩御飯は何が良いかしら~?」

 

「お、おい!待ってくれよ~!!」

 

 

 私は上を向いて那緒実さんの顔を伺うと"何とも言えない複雑な表情"をしとって、家に着いた後もその表情がずっと気になって夜遅くまで眠れへんかったのやった。那緒実さんは何て兄ちゃんに返すんやろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




恭也も美由希も忍もヤタガラスの一員でしたの巻。
月村家が夜の一族だという公式裏設定を応用して、忍をシャーマンという事にしました。
これで高町家は管理局側のなのはを除いて全員がヤタガラスという事が判明した事になります。この件については以前から何度か言っている、"この作品の裏テーマ"の重要な要素となります。
当初は士郎に諭されるという内容にするつもりだったんですが、個人的に恭也達を"頼れる存在"として書きたかったので変更しました。

さて、遂に悪魔召喚師になる事を志願した晃祐の願いは那緒実に届くのでしょうか?次回をお楽しみに。






それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第17話 召喚師の道

第17話です。
今回はちょっと個人的に納得出来てない部分があるので、おいおい加筆や修正等を行うという形にしたいと思います。




2013 8/22 9:41 一部文章を改訂
2013 8/23 13:49 誤字,脱字を修正


 俺が母さんに悪魔召喚師になりたいと決意を表明してから10日が経った。その間、母さんに「YESとNOどっちなんだ?」と問いただしても常にはぐらかされるばかりだった。でも今日の朝学校に行こうとした時になって突然、

 

 

「学校が終わったら一人で翠屋に来なさい」

 

 

 と言って来た。なんで一人で行かなくちゃいけないんだと思いながらも、母さんの言う通りに学校が終わるとそのまま翠屋へ向かう。

 

 

 

-5月8日午後4時 喫茶店翠屋-

 

 

 

「あら、晃祐君いらっしゃい」

 

「どうも。母さんに言われて来たんですけど何か用事でも?」

 

「裏に那緒実さんがいるから入っていって良いわ」

 

「解りました。お邪魔します……」

 

 

 遂に"答え"が得られるか!?と思うと、嬉しさと不安が入り混じった複雑な気分になる。俺は桃子さんの言葉に従ってカウンターの裏から高町家の住宅部分へ上がっていくと、リビングに母さんの士郎さん、そして恭也さんの3人がいるのが目に入って来た。

 

 

「晃祐君?学校帰りで済まないね。まあこっちに来て椅子に座りなさい」

 

「は、はぁ……」

 

「そんな警戒する様な顔なんてしないでくれ。別に君が悪いことをした訳じゃないんだからさ」

 

 

 士郎さんと恭也さんに言われるがまま席に座ると、目の前では母さんが俺に見向きもせず、テーブルの上に何個も並べられた"特大のマンゴープリン"を食べて今にも昇天しそうな位幸せな顔をしていた……おい、幾らマンゴープリンが好きだからってコレは流石にどうよ!?

 

 

「那緒実さん?晃祐君来ましたよ」

「母さん?」

 

「(はむっ……もきゅもきゅ)んふふふふふ♡――――ハッ!!ごご、ごめんなさい晃祐っ!」

 

「おいおい、母さんが俺に此処に来いって行った癖にそりゃ無ぇぜ!」

 

 

 母さんは俺に気付いて慌ててティッシュで口元を吹くと、

 

 

「コホン……晃祐、此処に呼んだのは貴方も解ってると思うけど「この間の事か?」――ええ」

 

「翌日那緒実さんから晃祐君が"悪魔召喚師になりたいと言われた"と相談されて、恭也や美由希とも話し合ったんだが……」

 

「正直に言うわ。私は晃祐がそう言ってくれた事はとても嬉しかった――でも悪魔召喚師になるのは反対ね。"親として"は常に命懸けの危険な事はさせたくないもの」

 

「私も那緒実さんと同じ様に基本的には反対だ。但し晃祐君の意識と今後の成長次第では任せても良いと思う」

 

 

 やっぱりダメか。でも士郎さんから"これからの俺次第で変わってくる"という好感触な答えが返ってきたのは嬉しかった。そして恭也さんの方に顔を向けると話し始める。

 

 

「俺は2人と違って全面的にという訳じゃないけど一応賛成だよ。俺や美由希の様に幼い頃から本格的な"敵を倒す"術を修練してきていないし、何より実戦経験が無い。様々な経験をこれからどう積んでいって行くか、そして晃祐君自身がどそれ等をどうこなして行くかによっては考えていってあげて良いと思うんだ」

 

 

 恭也さんはやっぱり賛成してくれた……経験なんてソレ位どうにかしてやるよ!

 

 

「晃祐……」

 

「何だよ母さん?」

 

「"親として"反対なのは今行った通り。でも"悪魔召喚師として"言えば、私も40歳を超えて身体に衰えを感じて来ている……だから士郎君の後を恭也君と美由希ちゃんが継いだように、私の後を継いでくれる後継者が欲しいのも事実なのよ?で、なんだけど」

 

 

 母さんは徐ろにハンドバッグから拳銃の様なモノを取り出して俺の前に置いた。これは拳銃に見えるけど銃口がない……コレってもしかして。

 

 

「母さんに約束して欲しい事が有る。絶対に"自分の命を粗末にしない"って事。幾らはやてちゃんを守りたいからって自分の命を簡単に投げ出す様な事は絶対にしちゃダメよ?それに召喚師としての修練にカマをかけて学業や部活を疎かにしない事。自分から言い出した事なんだからどんな時にでも決して弱音は吐かない事……今言った約束を絶対に守れる自信が有るのなら、その拳銃型COMP――"GUMP"を貴方に託すわ」

 

「母さん……っ!」

 

「……召喚師の道は貴方が思っている程生易しいものじゃない。もし少しでも手を抜いた事が解ったりり諦めの感情が表に出て来たりした様だったら、その時は直ぐにコレを取り上げるから」

 

 

 思ってもいなかった母さんの言葉に、心の底から嬉しさが沸き上がって来たのがハッキリと解った……これは約束を最後まで果たす以外、俺に選択肢は無いだろうよ!

 

 

「勿論約束するよ。俺はへこたれないっ!!」

 

「晃祐君、あくまでも今からは訓練生以前の所謂"試用期間"という事になる。これからは普段の生活面と悪魔召喚師としての行動を那緒実さんが、悪魔等から身を守ると同時に攻撃する術は私や恭也が厳しくチェックし、最終的な結論を1年後に出すつもりだ」

 

「俺達は君の事を信頼しているけど、悪魔召喚師として一人の戦士としての信頼は別だ。これから将来、信頼出来るに足る人物に成り得るかどうかを試させて貰うからな!」

 

「――――はい!母さん、士郎さん、恭也さん……本当にありがとうございます!!俺、どんな困難に直面しても挫けない様に頑張ります!!」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 私が晃祐に"約束"を言うと破顔して本当に嬉しそうな顔をしていた。こういう所は中学生とは言えどまだまだ子どもね……でも"頑張る"じゃダメなのよ?

 

 

「晃祐、今"挫けない様に頑張る"って言ったけど、頑張るじゃダメ。そこは"絶対に挫けない"って言わないと。努力するんじゃなくて、"そうして貰わないといけない"のよ?これから先悪魔だけじゃなく時空管理局――つまり人間とも実際に戦わないといけなくなる。つまり貴方は下手をすれば"人を手に掛ける"かもしれない」

 

 

 私の「人を手に掛ける」という部分に士郎君と恭也君の顔が一瞬強張った。きっとなのはちゃんの事を考えたに違いない。

 

 

「ああ。解ってる……解ってるさ。はやてを守るためなら俺は何だってするさ」

 

「そしてもう一つ。はやてちゃんを守るからと言って他の人の命も疎かにしてはいけない。今後ヤタガラスに入らないでフリーランスの召喚師をやるつもりなら別だけど、もしヤタガラスに入るつもりなら人々や街を出来る限り守る事も考えないと」

 

「そっか、そうだよな……」

 

 

 晃祐は私の言葉を聞いて、ハッとした後それまでの表情とは一変して複雑そうな表情を浮かべる。流石にそこまで考えていなかったか……まぁこの歳でそこまで考えろって言うのも難しい事ではあるけれど。

 

 

「もし万が一"はやてちゃんと街の人のどちらかを選ばないといけない"事態になったとしたら、君ははやてちゃんを優先して構わない。私が在籍していた隠密部隊の様に、悪魔召喚師がカバー出来ない部分をカバーする部隊がヤタガラスには存在しているからね」

 

 

 士郎君が晃祐の頭の中を見透かす様にフォローを入れると、若干表情が明るくなり直ぐに目つきが鋭くなる。そして強く頷き、

 

 

「――――覚悟するよ……母さん、さあこれから何をするんだ!?」

 

「じゃあ、先ずは早速GUMPの説明と使い方を練習しましょうか。戦闘術は今度の土日から……で、士郎君良いわね?」

 

「ええ。平日は私が、土日と祝日は恭也か美由希を付けます」

 

「話も決まった所で……父さんは店の方に出て良いよ。後は俺が……」

 

「……解った。那緒実さん、召喚の練習なら稽古場を使ってください」

 

 

 恭也君に促されて士郎君はエプロンを付けて店の方に出て行った。私達はそれを見送ると恭也君の案内で高町家に併設された稽古場へと向かうのだった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 稽古場に移動してから1時間程度、母さんから渡された拳銃型COMPの機能や使い方の説明を受けた。このGUMPには悪魔召喚プログラムがインストールされているらしく、今現在の自分の状態だと封魔管よりもタイムロス無く召喚が出来るという。またメモリには8体分の悪魔が格納可能らしく、現在2体分のスペースが埋まっているから「残りの6体は自分自身の力で仲魔にしてみせろ」との事だ。他にも母さんから以前借りていたスマホ型COMP同様にセンサー類も完備している。しかし欠点として、悪魔召喚用に容量が取られているために"アイテム格納用のメモリがスマホ型COMPよりも少ない"という点があるとの事だった。

 

 

「――で、悪魔召喚についてなんだけど、このGUMPは最新型で使用者の思念を読み取るセンサーの様なモノが付いていて、いちいち後ろのセーフティを外して画面とコンソールを出さなくても召喚師したい仲魔を頭の中に浮かべてトリガーを引くだけで召喚が可能になっているの」

 

「でも今は何が格納されているか解らないから、普通にコンソールを操作して出さないといけないんだな?とりあえずやってみるわ」

 

 

 俺はタッチパネルになっているスクリーンとコンソールキーに触れて使用者登録を行った後、悪魔召喚プログラムから可能な悪魔を見てみると2体の悪魔が表示された。

 

①魔獣 ケルベロス/Neutral/相性:火炎吸収,氷結弱点/魔法:リカーム/特技:ファイアブレス,かみつき,アイアンクロウ,フォッグブレス,バインドボイス/???:???/???:???

②妖精 ジャックフロスト/Neutral/相性:氷結吸収,火炎弱点/魔法:ブフ,ディア,マカカジャ/特技:アイスブレス,フロストパンチ/???:???/???:???

 

 

 ……"???"で隠れて不明な部分があった。

 

 

「なぁ母さん、この"???"って何だ?あとケルベロスって封魔管に入ってたヤツなのか?」

 

「"???"については今後の晃祐と仲魔の成長次第で明らかになるわ。それでケルベロスの方は晃祐の言う通り"あの"ケルベロスよ」

 

「よーし。とりあえず呼んでみるか!」

 

 

 先ずは再びスクリーンに触れ、ケルベロスを召喚準備状態にしてトリガーを引くと、足元に魔方陣が描かれた後にその中央から光の柱が立ち上って、それも直ぐに消えて行った。その光の柱の中からケルベロスが現れたのを確認すると、続いてジャックフロストも同様に召喚する。光の柱が消えると青い帽子に青い襟巻き、青い靴を履いた"雪だるま"みたいな悪魔が現れた。

 

 

『アァオォーン!!……久々ダナ』

 

『ヒーホー!初めましてだホ~!!』

 

「ひぃ、ほぉ????」

 

『コイツの口癖ミタイナモノダ。気ニスルナ』

『そーだホ!気にしてたらあっという間に頭がハゲるホ~』

 

「お、おう……それでこっからどうすりゃ良いんだよ?」

 

 

 召喚したのは良いけど、その先が解らなくて母さんに助けを求めた。

 

 

「悪魔召喚師と仲魔は基本的に"対等な関係"なんだから、晃祐が無理矢理命令した所で言う事なんて聴いてくれる訳が無い。これから先、共に戦う同士になるために"最初にやるべき事"は何かしら?」

 

 

 俺が最初にやるべき事……そうか、向こうは俺の事を殆ど知らないんだ。

 

 

「俺は相原晃祐。駆け出しの素人だけど、皆の力を借りてどんな困難にも打ち勝つ事が出来る様な悪魔召喚師になりたい。これから決死の覚悟で努力を惜しまずやっていくんで宜しく頼んます!」

 

 

 俺は2体の悪魔に名前を名乗ると同時に決意を口にした。

 

 

『マァ、良イダロウ坊主……改メテ、オレサマハ魔獣ケルベロス』

 

『晃祐~、オイラは妖精ジャックフロストだホ~!』

 

 

 

 

 

『――コンゴトモヨロシク……』

『――コンゴトモヨロシクホ~♪』

 

 

 

 

 この時、俺は遂に悪魔召喚師としての第一歩を踏み出した。"試用期間"とは言え、皆を絶対に失望させる様な事だけはしない……そう心に固く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




まあ願いが聞き届けられなければ物語として成り立ちませんよね(汗)
但し1年間の試用期間を設ける事で、召喚師,戦士としての意識を高めるという事にしました。
そして今回はGUMPを使った召喚の説明でした。最初からケルベロスとヒーホーくんの2体を使える事にしたのは、ただ単に絞り切れなかったからです。まぁ両方共マスコット的な存在(?)なのでどうかご勘弁を。
この作品でも仲魔は成長していくにつれて、スキル等が強化されたり開放されたりして行きます。

次回は高町親子による戦闘技能編+αです。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第18話 戦士の道

第18話です。
最後の部分にどう繋ぐかが非常に苦心しました。




2013 8/27 20:37 誤字,脱字を修正
2013 8/28 9:08 誤字,脱字を修正、一部文章を改訂


翠屋で母さんからGUMPを渡されて2日。俺はその間、学校から帰ってくると夕食と風呂と勉強時間を除いては殆ど地下室でGUMPの操作を練習したり、召喚したケルベロスやジャックフロストとのコミュニケーションに時間を費やした。最初の2体の仲魔が"炎と氷の相反する属性を持つ"者同士で個人的には非常に心強い。

 

 

『オレサマハ所謂"パワーファイター"ダカラ、魔法ナゾ"リカーム"シカ使エンガ重傷ヲ追ッタ時ニハ回復サセラレル事ガ可能ダ』

 

『オイラは力も魔力もソコソコだけど、オイラ必殺の"フロストパンチ"で相手をブッ飛ばすのが得意ホ!それに"ディア"で傷の回復も出来るし"マカカジャ"で魔力の底上げも出来るホ~』

 

 

……てな具合で2体の特技なんかを教えて貰ったり、得意な戦闘場面や逆に苦手な相手を聴いたりして親交を深めると同時にこれから先待ち受ける"悪魔との戦い"に備えて様々な悪魔の情報も聴いては逐一GUMPのメモ機能に記録していった。

 そんなこんなで今日は土曜日なんで"恭也さんと美由希さんによる初めての"戦闘訓練"がある。

 

 

 

-5月11日午後3時 高町家稽古場-

 

 

 

「こんちわ相原です!!今日は一日ヨロシクお願いします!!!!」

 

 

 翠屋に入らずそのまま高町家の裏へ回って直接稽古場の前に行き、扉を開けると大声で挨拶をする。すると奥の方から恭也さんと美由希さんが出て来た。

 

 

「やあ晃祐君。今日は短い間だけど宜しく頼むよ」

 

「こんにちは!宜しくね~」

 

 

 今日は午前中に部活があったんで、訓練が始まる前にストレッチを行おうとすると恭也さんがマッサージをしてくれた。どうやら高町家秘伝のマッサージらしく何時も後輩にして貰ってるマッサージとは全然違って気持ち良くて、それが終わって立ち上がるとなんだか身体が軽くなった気がしてその場で何度か跳躍した。

 

 

「お?部活の疲れがすっかり取れたみたいに身体が軽い!」

 

「こら~!ちゃんとストレッチもしないとダメだよ?」

 

「あ、すんません!」

 

 

 美由希さんの言う通りに入念にストレッチを行って準備万端!さあ、今日はどんな訓練が待っているんだ!?

 

 

「よし良いな。今日初めて実践的な訓練をやって貰う訳だけど、暫くは父さんと俺達とで内容は違う物をやっていくつもりだ。父さんは攻撃、俺達が防御や回避を重点的に教えていくからな。」

 

「はい!……でもなんで最初に防御と回避訓練から始めるんすか?」

 

「君は悪魔召喚師を目指すんだろ?攻撃は最悪仲魔にして貰えば良いから後でもどうにかなる。但し、敵から自分に向かって繰り出してきた攻撃は自分自身で対処しなくちゃいけない。だから先に防御と回避を身に付けさせようと決めたのさ」

 

「晃祐君には恭ちゃんの攻撃を竹刀で受け止めるかかわして貰うからね。流石に最初は晃祐君がやりやすいように手加減をするけど、慣れてきたらスピードも上げて段々容赦無くなっていくから!」

 

 

 マジか……何気に滅茶苦茶キツいんじゃねぇの?

 

 

「大丈夫大丈夫。最初はひとつずつ基本動作から教えるから、そんな心配そうな顔をしなくても良いって!」

 

「す、すんません……」

 

 

 そして訓練が始まると、初めに恭也さんと美由希さんでお手本を見せてくれ、その後に自分が実際にそれを真似てやってみる……という地味ながらとても重要な事を只管に繰り返し、1時間程すると休憩する事になった。単調だけど凄く神経も体力も使う訓練に、俺の息も絶え絶えになって床にへたり込むと、恭也さんが何時の間にか持って来ていたスポーツドリンクを手渡してくれた。それを飲んで一息付くと、恭也さんと美由希さんは防御と回避についての重要性を語り出した。

 

 

「――防御と回避は自分の命を救う重要な行動だ。剣道でも同じ事は言えるけど、実戦になると本当に自分の命を懸ける事になるから入念にやらないと冗談抜きで死ぬ事になるからな?」

 

「良く"攻撃は最大の防御"って言うけれど、それは戦争みたいな"多数対多数"の戦略であって個人の戦闘ではまずありえない事だから、その考えは頭の中から捨てちゃった方が身のためだね」

 

 

 部活の仲間から事ある毎に"本番に弱い"って言われてるし顧問からは、

 

「相手に想定外の攻めに出ると直ぐパニクって足元を掬われたり、追い詰められるとヤケになって攻め一辺倒になってソコを突かれたりするからダメなんだ。常に落ち着いて攻撃を捌けるようになれ!」

 

 と常日頃言われているけど、俺は「攻撃は最大の防御だ!捨て身でやればどうにかなる!!」と言い返して殆どと言って良い位全く聞く耳を持たなかった……でも"あの時の人面樹"との戦いで、それが間違いだったんじゃないかという事に気付かされた。魔石や宝玉が無ければ今頃は死んでいてもおかしくない。

 

 

「それはこの間の人面樹の件で身を持って知ることが出来ました。……俺はこの訓練を通じて得た事を剣道にも活かして、もう二度と"本番に弱い"だなんて言われない様になりたいです。本当の戦いに"次なんて無い"様に、一戦必勝の精神と技術を身に着けたい」

 

「立派だな。その心積りでこれからも臨んでくれよ」

 

「良い心構えだねぇ~きっとこの先も大丈夫だよ!」

 

 

 休憩を切り上げると、引き続き反復して恭也さんと訓練を行う。訓練をやってて解ったのは"精神的にも肉体的にも疲労が出て来て、動きが鈍くなった時"が一番危ないという事だ。元々俺が短気な性格だからって事もあってか、少しでも焦りを見せたり疲れで動きを止めたりするようものなら、恭也さんは容赦無く攻撃を繰り出して来る。一方で美由希さんは俺の動きを見て、この短時間で"癖"を見抜いたのか俺が考えてもいない動き(しかも俺でも咄嗟に出来る様に工夫をしてくれている様子)を的確に、かつ解りやすくアドバイスしてくれる。そして1時間程経って再び休憩する。

 

 

「恭ちゃん。晃祐君の動きを見てて思ったことがあるんだけど……」

 

「剣道が身体に染み付き過ぎていて動きに"癖"があるんだろう?」

 

「……"癖"、ですか?」

 

「ああ……晃祐君は剣道をどれ位続けているんだい?」

 

「えっと、小学校の2年からやってるんで、もうかれこれ8年になりますね」

 

「長年続けている事で"癖"が身に付くというのはある意味いい事だけど、本当に戦闘を行う事になるとそれは返って悪影響を及ぼす事にもなりかねない――この際、剣道の動きは全部頭の中から全部取っ払ってしまうのが良い」

 

 

 剣道の動きと取っ払うって……そりゃかなり難しいなぁ。中体連も近いし動きを覚えて変に試合中に出たら審判に反則を取られるかもしれないし。

 

 

「今直ぐってのは難しいかもしれないけど、少しずつ少しずつやっていけば良いよ。中体連もあるんだろうし本格的な事はそれが終わってからだね」

 

「すいません……助かります。本当は今直ぐにでも本格的な動きを学びたいんですけど、やっぱり最後の中体連だし、一応副部長なんで結果も残したいんで」

 

 

 その後俺達は夜8時まで練習を続けた。風呂場を借りてシャワーを浴びた後、帰り際に桃子さんから、

 

 

「晃祐君。ちょっと遅いんだけど今日は家でお夕飯でも食べていかない?」

 

 

 と夕食の誘いを受けた。俺は躊躇して試しに母さんに電話をすると許可を貰ったんでお言葉に甘えて一緒させて貰う事にした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「わざわざご飯までありがとうございます。いただきます!」

 

「恭也、美由希。晃祐君の練習を見ていてどうだった?」

 

「……筋は悪くないと思う。学校が夏休み期間に入ったら集中的にやれば秋頃には化けるかもしれないなぁ」

 

「でも剣道の動きを身体が覚えちゃってるから、どうしても不意打ちとかに弱いよね。一応恭ちゃんとは晃祐君の中体連が終わってから、本格的な動きを教える事にしたよ」

 

 

 ふむ。2人が言うなら努力次第ではどうにかなるか……しかし剣道を長年やっているのであれば、迂闊に御神流を教えず一刀流に専念させた方が良いかもしれない。私達と違って彼は悪魔召喚師だから仲魔の協力が得られるだろうし、余計な物を教えない事にすべきだろう。

 

 

「――そう言えば、なのはちゃんまだ帰って来てないんすね」

 

「ええ……」

 

 

 晃祐君がなのはの事を訊くと、桃子さんは一言発すると表情が暗くなった。

 

 

「"あの晩"、なのはが帰って来た後に全部聴かせて貰ったよ。まさかあんな強力な光子砲を撃てる程の"力"を持っていたなんて、正直に言うと信じられないし信じたくもない」

 

「……そして俺達の敵になるかもしれないという事も」

 

「あのね晃祐君。実はなのはから話を聴いた時、私達はヤタガラスの事を言えなかったんだ……あんな大真面目な目をしていたら、例え誰が何を言ってもなのはは話を聞いてくれないだろうし、言える空気じゃなかったから」

 

 

 私の後に続いて恭也と美由希も言葉を口に出す。それを聴いた晃祐君も沈んだ表情になり、リビングに重い空気が漂う。

 

 

「――さ、さあ!その事はその時になってみないと解らないんだから、早くお夕飯を食べましょう!?」

 

 

 桃子さんは気丈だな。確かにその通りだ!恭也と美由希もハッとした顔をして、再び御飯を食べ出す。

 

 

「そうだね。晃祐君も美味しい物も冷めて美味しく無くなってしまうから早く食べるとしよう。それに帰りが遅くなったら那緒実さん達も心配するだろうしね」

 

「は、はぁ……」

 

 

 私は夕飯を終えると晃祐君を車で自宅に送り届け、那緒実さんに恭也と美由希から聴いた訓練の様子を伝えた後、途中スーパーに寄って買い物をして帰宅した。

 なのは……お父さんは敵として対立するという事態にならない事を信じてるぞ……!

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 兄ちゃんが家に帰って来ると、私は部屋に来るように言うた。そして那緒実さんと喋っとった士郎さんが帰ると、荷物を置いてスウェットに着替えた兄ちゃんが部屋に入って来る。

 

 

「おう。一体何だよ~」

 

「兄ちゃん兄ちゃん!初めての特訓はどうやった??」

 

 

 私は兄ちゃんから特訓の内容を訊くと、めっちゃ疲れとるだろうに嫌な顔もせぇへんで詳しく教えてくれた。兄ちゃんは晩ご飯中に恭也さんに"筋は悪くない"て言われたみたいで、私はホンマ嬉しくなった。

 

 

「そか~良かったなぁ……ほな、こっち来てくれへん?」

 

「ん?ベッドに移せば良いんだな?」

 

 

 兄ちゃんは私を車椅子から抱え上げるとベッドに運んで座らせてくれた。そして直ぐに立とうとするけど、

 

 

「兄ちゃん待ってぇな!ちょっと私の横に座ってくれへんか?」

 

「ったく、解ったよ」

 

 

 兄ちゃんが横に座ると、私は兄ちゃんの肩に頭を預けた。すると兄ちゃんは驚いたんやけど、私の身体が倒れない様に動かないでくれた。

 

 

「ど、どど、どうしたんだよ!?」

 

「――あのな。兄ちゃんがあん時の約束を守ってくれて、私めっちゃ嬉しいんよ。今日こうして私のために特訓に行って夜遅くまで頑張って来て……ホンマ、ホンマありがとな」

 

「何てこたぁ無ぇよ。家族なんだから当然の事だろ?例え血が繋がってなくても、はやては紛れも無い妹なんだ。色々と重いモノを背負ってるのをただ黙って見てなんていられない。だから……」

 

「だから何なん?」

 

「俺、はやてが闇の書の呪いから解き放たれて、一人でしっかりと両足で立って生きていける様になるまで頑張るからな」

 

 

 兄ちゃんはそう言うと、私の頭を優しく撫でてくれた……でもちょっと気になった事があったもんやから、言葉の真意を訊いてみる。

 

 

「うん……せやけど兄ちゃん。今、私が"一人で生きていける様になるまで"って言うたけど、病気が治ったら悪魔召喚師辞めようとか思っとるんとちゃうの?」

 

「さあ、な……ひょっとしたら"続けたくても続けられない状態"になってるかもしれないし、俺自身の先の事なんて解らないさ。とりあえず約束した以上、出来る所まで出来る限りの事はやってみるわ。そのためにも全力で訓練をこなして行かないと」

 

「絶対兄ちゃんなら大丈夫やって!」

 

「ははは……ありがとな」

 

「で、なんやけど明日日曜日やから久し振りに私と一緒に寝てくれへん?」

 

「……しゃーねーなぁ~」

 

 

 兄ちゃんに無理言って一緒に寝てもろた……やっぱ疲れとったみたいで、直ぐに寝息を立ててしもた。兄ちゃん頑張ってぇな!私も病気が治ったらヤタガラスに志願してみるつもりや。後方支援でええから少しでも兄ちゃんの事を助けたい……何時までも守られてるだけの私やないで?

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

-5月12日午前1時 海鳴市郊外某所-

 

 

 

「――!?」

 

「ちょっとどうしたの!?」

 

「……2人共あれを見なさい。あそこに人が倒れてるわ!」

 

「アレは……女性?と、横に何かがあるわね」

 

「コレは大型のカプセルみたいなモノみたい」

 

 

 "彼"がカプセルを転がすとガラス張りの部分が表に現れた。中に液体と一緒に何かが入っているみたいだけど、中身が混濁して良く見えない。

 

 

「…………?」

 

「ちょっ、うわわっ!いきなり何やってんのよ!?」

 

 

 "彼"がしゃがみ込んでカプセルにあったボタンの様な物を適当に押すと、ガラスが開いて液体が流れ出して内容物が顕になった。これは……女の子!?この女性は一体何をしていたというの!?

 

 

「――!――――!!」

 

「まったくどうしたの……ってそっちの女性は生きてて、こっちの子も反魂香を使えば助かる見込みがあるのね!?」

 

 

 "彼"の言葉に"マダム"は驚きの声を上げた。助かるのなら助けないと!

 

 

「一刻も早く平崎の事務所に戻りましょう!!」

 

「そうね。この状態で悪魔に遭遇すると危険だわ」

 

 

 私達はトラポートで平崎のターミナルに帰還し、急いで事務所に戻ると2人を蘇生させて目覚めるまで魔石等を使って回復させ続けた。女性も少女も衰弱していて予断の許さない状態だ……どうか無事に目覚めて頂戴!!

 

 

 

 

 

 

次回に続く




最後に登場した3人、解る人には解ったと思います。そうです"あの3人"ですね!
そして女性と少女も名前こそ出していませんが誰だか解ると思います。
次回はそこに至るまでの経緯についてを投稿したいですね。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第19話 Heaven Is A Place On Earth(前)

第19話です。
前回のラストに少し出ていましたが、プレシアとアリシアのテスタロッサ親子に、『真・女神転生デビルサマナー』より葛葉キョウジとレイ・レイホゥ,マダム銀子が新たに登場し、彼らと那緒実を加えた6人がメインとして今回と次回の前後編が展開されます。




2013 8/30 20:30 誤字,脱字を修正
2013 8/31 17:42 誤字,脱字を再度修正


-地球時間5月11日午後11時 時の庭園-

 

 

 

「――私は向かわねば!アルハザードで過去も未来も、そして"この子の命"も取り戻し今度こそ何者にも縛られない真の幸福を得るのよ!!」

 

 

 私の足元が崩れ、アリシアの入ったポッドと共に玉虫色の虚数空間へと身体が落ちていくのが解った。上を見るとフェイトが何かを叫んでいるけれど、私の耳にはもう届かない。

 

 

「アリシア?今度はもう、絶対に離れない様に……」

 

 

 私は残された魔力を使って、ポッドの元に寄って抱きしめる。解っているの……本当はアルハザードなんて存在して無いかも知れないという事なんて。でも、今更フェイトの母親面をすることは絶対に許されない。それに私が一緒に居れば、"あの連中"は必ずあの子の命を狙ってくる。"口に出せぬ存在"の名の下に許されざる命を許す訳が無い。

 私はアリシアのため、フェイトのため、そして何より自分自身のために道化を演じなければいけなかった事に何の後悔もしていない。

 

 

(フェイト……どうか何時までも元気で…………)

 

 

 意識が段々と朦朧になっていく。次に両目を開けた時は、アルハザードに居られたら…………

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

〈――めよ〉

 

(…………ん、ぅん……?)

 

〈目覚めよ。彷徨えし魂を持ちし者よ〉

 

 

 

 頭の中に声が響き、私は次第に意識を取り戻す。気付くと真っ逆さまに落ちていた筈の私達は宙に浮いているのが解った。すると目の前には金色の光に包まれ、緑色の衣装を身に纏い翼を持った巨大な人の形をした何かが現れる。

 

 

『――プレシア・テスタロッサよ』

 

「貴方は何者……」

 

『私は"預言者(イライジャ)"――かつて天の歌を司っていた者』

 

 

 その存在は私に自らの事を紹介した。

 

 

「その"預言者"が私に何の用かしら」

 

『……私の"兄"やかつての仲間達は"裁き"の名の下に、ありとあらゆる世界を邪な存在として破滅させ、自らの都合の良い世界へと作り変えんとしている。私はそれに反発したが故にこの空間へ幽閉された』

 

「それが私と何の関係が有ると言うの?」

 

『私はずっとお前達人類をここより見続けてきた。お前の過ちも病の事もそして娘達の事も……お前の下の娘は例え世界の理に叛く"許されざる命"だとしても、この世に生まれて来た輝く一つの命だ。本来ならば看過出来ぬ邪悪なる行為であるが、今となっては最早何も言うまい』

 

 

 預言者と名乗る存在の全てを知っているかの様な口振りと、人智を遥かに凌ぐその威圧感に"大魔導師"と謂われたこの私が一瞬たじろいでしまった。だけど彼はそれを気にかける事無く言葉を続ける。

 

 

『私は様々な文化や考え方そして信仰等があり、それらがぶつかってこそ人類はより善い世界を作り出すことが出来ると考える。しかし強大な力を有する者が、その者達の理によって一方的に弱者を蹂躙する事は絶対に有ってはならないのだ』

 

「そんなもの今となっては私に関係の無い事よ。アリシアと幸せに暮らせるなら世界がどうなろうと知った事じゃ無いわ!」

 

『お前が下の娘を遣った世界には"闇に生きて闇を討つ者達"がいる。その者達の願いは唯一つ、"その世界に暮らす人々の安寧を乱さんとする不条理なる存在を討伐する事"だ。"大魔導師"と謳われたお前が"その者達"――"ヤタガラス"に力を貸し、次元世界を覆う悪意より人々の安寧と均衡を保つ一助となると誓うのであれば、今一度お前達が人間として全うに生きられる機会をもたらしてやろう』

 

「機会……?まさか貴方、私の身体は愚か、死んでしまっているアリシアまで治すと言うの!?」

 

『それはお前の選択次第――このままこの空間で実在するかも解らぬアルハザードに辿り着くまで延々と彷徨い続けるか、それとも私の提案を呑むか。もし私の言う事を聞くのであれば、今言ったと通りお前達を救おう。選択肢は二つに一つだ……さあ選ぶが良い』

 

 

……最初から一つしか答えの無い選択肢を選ばせるだなんて、本当にふざけているわね。

 

 

「――なんだか馬鹿にされている気がしないでもないけれど、まあ良いでしょう。その話に乗らせて貰うわ。さあ、アリシアを蘇らせなさい!」

 

『良いだろう。それでは……』

 

 

 預言者がポッドに手をかざすと光に包まれ、暫くしてその光が収まったけどアリシアが目を覚ます気配が全くと言って良い位感じられない。

 

 

「どうしたの!?まさか私を騙したというんじゃ――ぐぅっ!」

 

『そう怒るな……身体に障るぞ。今の私の力では霊魂を肉体に戻すのが精一杯なのだ。では次にお前を蝕む病を軽くしてやろう』

 

 

 今度は私の方に手をかざすと、淡い光が私を覆う。発作で胸を押さえその場にうずくまっていた筈なのに、不思議とその苦しさが無くなって長年全身を支配していた気だるさと重さが、幾分軽くなった様に感じられた。

 

 

『――うむ、これで良い』

 

 

 私を覆っていた光が消えると、杖を軽く振るってみた。幾ら預言者が力を失っているとは言え、ここまで私を回復させられるのだから、きっとアリシアもその内に息を吹き返すのだろう。

 

 

「ふう……貴方の力の凄さは理解できたわ。信用してあげても良いでしょう。さて、"第97管理外世界"にはどうやって転移すればいいのかしら?」

 

『心配は要らない……お前達の転移も私が行おう。転移した際にヤタガラスが検知出来る程度の反応を起こしてお前達が保護される様に仕向けるから大丈夫だ、問題ない』

 

 

 預言者は両手を天に掲げると、再び私とポッドが光に包まれた。

 

 

『――この者達に大いなる祝福を。では、さらばだ』

 

 

 次の瞬間、私の意識は途絶えた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

-5月12日午前8時 平崎市・葛葉探偵事務所- 

 

 

 

 日付が変わって間も無く、海鳴市郊外の山中に空間転移の反応を検出して私とキョウジ,そしてマダム銀子の3人でそこに向かうと、紫色のドレスを着た30代~40代位の女性とカプセルの様な物が倒れていて、キョウジがカプセルのボタンを弄ると中から5,6歳位の少女が出てきた。2人共衰弱していたけれど、助かる見込みが有る事が解って急いで事務所に引き返して1時間交代で持ち得るだけの魔石等を使って回復させ続けた。(因みにカプセルから出てきた少女は全裸だったもんで、事務所に行くまで私のコートを羽織らせて到着次第バスローブを着させた)

 そして私の2回目の番を終えると、最終手段として海鳴のナオミに連絡をしてこの場に来るように言い、店舗の方に出て到着するのを待つ……アイツの使役するソーマの力があれば!

 

 

「――レイ?来たわよ!」

 

「ナオミ!?ホント朝早くにゴメンね!先ずはこっちに来てくれない?」

 

 

 ナオミを連れて裏の仮眠室へ行くと、表の事務室に行っていたキョウジも丁度戻って来た所だった。

 

 

「――!」

 

「あらナオミ!意外と早かったじゃないの!?」

 

「お久しぶりね葛葉キョウジ。それとマダム銀子。早速だけど事情を説明していただけませんこと?」

 

「…………」

 

 

 キョウジはナオミに転移反応に始まり現在に至るまでの一部始終を伝えた。その途中で私とマダムが補足し、出来るだけ解り易くかつ正確に説明をする。

 

 

「そういえばこの女の子、まだ大分幼いけれど先月末に海浜公園で見た女の子に本当にそっくりね」

 

「そっくり?」

 

「ええ……直に話したわけじゃないわ。でも髪の毛の色や顔立ちがその子――確か時空管理局の人間が言うにはフェイト・テスタロッサと言うらしいのだけど、姉妹にしては余りにも似過ぎている」

 

「カプセルの中に入れられていたというのも気になるわよね……」

 

 

 ナオミとマダムの言葉に私の頭の中で"ある可能性"がよぎる。いや、でもまさか……この地球上で"その技術"は、最近になって漸く医療分野での利用が認められる様になったというのに!?

 

 

「――レイも同じ事を考えた様ね」

 

「……はっ!?まさかそんな事って!」

 

「……??」

 

「マダムも私の報告書を読んでいただいたと思いますけど、時空管理局は私達の予想を遥かに上回る技術力を保有していますわ。それに彼らの言う通りなら、数多く存在するという次元世界において"あの技術"が一般的に普及していたとしてもおかしくありませんもの」

 

 

 ナオミの台詞を聞いても尚、キョウジには理解出来ないみたいで「全く話に付いて行けない」という表情をしている……全く、長年探偵をやってきているのにどうしてこういう時に頭が回らないのかしら!?

 

 

「キョウジにも解る様にハッキリ言うわね。私達はこの子がナオミの見た少女、フェイト・テスタロッサのクローンじゃないかと思ったの!」

 

「――!?!?」

 

「……とりあえず真実はこの女性が目覚めた時に訊き出すとしましょう。今からは私が様子を見てますので、皆さんは帰宅して朝食をとるなりシャワーを浴びるなり睡眠を取るなりしてくだないな。もし晩までに目覚めなければ、最悪ソーマの力を使って無理矢理にでも起こさせますわ」

 

 

 私達はナオミの申し出に甘えて一旦休む事にした。一体あの女性からどんな事を聴き出せるかしら……?

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 3人が仮眠室から去っていくと、私はフェイトちゃんに良く似た少女が横になっているベッドの隣に行って中腰になると彼女の頭を撫で、聞いていないのにも関わらず言葉を掛ける。

 

 

「もし貴女が意識を取り戻したとしても、真っ当な生活は送れそうにないわね……もしもクローン人間だとしたら、この世界にとって貴女は"許されざる命"という事になってしまう。そして下手をすればクローンの存在を許さない人間達によって、命そのものが危ない目に晒されるでしょう。だけど私達ヤタガラスは決して貴女の存在を否定なんてしないわ。貴女もまた、幸せになる権利を持った一人の人間なんだもの」

 

 

 10分,20分程彼女の顔を眺めてから台所に行ってコーヒーを入れ、再び仮眠室に戻りここに来る途中にコンビニで買ったパンをソファーに座って食べ、スマホにイヤホンを挿してラジオのアプリを起動させて2人の意識が戻るまでラジオを聴きながら様子を見守ることにした。その後5時間程経った頃、レイが事務所へと戻って来た。

 

 

「ありがとナオミ……2人の様子はどう?」

 

「いいえ。相変わらずね……」

 

 

 レイは私の隣に座るとペットボトルの烏龍茶を袋から取り出して一口飲む。

 

 

「ふぅ……。そういえば聞いたわよ!アンタんとこの息子、悪魔召喚師目指すんだって?」

 

「ええ。今日は午前中の部活が終わったら午後から士郎君の所で戦闘訓練よ」

 

「引き取った"闇の書の子"といい召喚師志望の息子といい、アンタも悩みが絶えないねぇ」

 

「でも充分幸せよ。私も頑張らなきゃって気持ちになるし、晃祐が自発的に召喚師になりたいって言ってくれたのは正直不安では有るけれど、とても嬉しかった」

 

 

 彼女は何とも言えない顔をして私の方を向き、 

 

 

「すっごい今更なんだけどさ……昔のアンタを知ってる身としては、本当に敵同士だったのか?って位変わったよね~。以前は反吐が出るくらい嫌いで憎くて憎くてどうしようもなかったけど、今のアンタはヤタガラスの仲間とか以前に同じ人間として女性として尊敬出来るわ!」

 

「ファントムソサエティの片棒を担いでいた暗黒召喚師"白鐘那緒実"は、二上門の地下遺跡でアプスーと一緒に死んだわ。今の私はヤタガラスの悪魔召喚師"相原那緒実"よ?あとついでに言っておくけど、そんなに私を褒めたってなんにも出ないから!」

 

「ふふっ……」

 

「あはは……」

 

 

 なんだかおかしくなって2人して笑い出した。かつての怨敵とこうして笑い合うなんて20年前じゃ到底考えられない事だ。"時間が傷を癒してくれる"というのは正にこういう事を言うんだろう。私が恩讐の彼方に見付けた物は、かけがえの無い家族と親友だった。

 

 

「――ん。ふあ~~~~っ…………アレ?ここどこ??」

 

(!!)

 

 

 笑っていた私とレイの目の前でベッドの上の少女が目を覚まし、上半身を起こして大きく伸びをする。私達は咄嗟に不審感を与えない様、出来るだけ柔らかい表情を作る。少女は隣のベッドで横になっている女性に気付くと、

 

 

「あっ!おかーさん?おかーさんっっ!?……きゃっ!!」

 

「――ほら、無理しちゃダメだよ?」

 

 

 少女はベッドから立ち上がろうとしてバランスを上手に取れず、ふらついて床に倒れかかった所を急いでレイが彼女の元に行って身体を支える。しかしこの女性を母親と呼ぶなんて……見た目も雰囲気も全然親子らしくない。髪の毛の色が方や女性が黒、方や少女が金色という事もあるからかもしれない。

 

 

「おばさん誰?」

 

「私はキミと、キミのお母さんが林の中で倒れていた所を"偶然"見付けて、ここまで運んで来たんだよ」

 

「お、おかーさんはだいじょーぶなの!?」

 

 

 私も少女の隣に行って片腕を持ってレイと一緒にベッドへ座らせる。

 

 

「――貴女のお母さんはとっても身体が弱ってるから、起きるのはまだまだ時間が掛かるでしょうね。でも心配しないで。死ぬような事は無いから大丈夫よ」

 

「グスッ……よかったよぅ~~~!」

 

 

 彼女は安心感からか眼から涙を零して喜んだ。それが落ち着くまで待って、改めて名前を名乗る。

 

 

「じゃあ自己紹介するね。私はレイ・レイホゥ。ここ葛葉探偵事務所で助手をしているの」

 

「私はレイの友達の相原那緒実よ。よろしくね?」

 

「わたしはアリシア・テスタロッサ!おかーさんのなまえはプレシアっていうんだ!!」

 

 

 アリシアちゃんはレイが着させたと思わしき大人用のバスローブの袖をパタパタと動かしていて、その動きの余りの可愛さに笑みが零れた。

 

 

「うーん。何時までもその姿なのもアレだし服でも買って来るわ!ナオミはその子の面倒を見てて。冷蔵庫の食料は好きに使って良いから」

 

「解った、お願いね。さあアリシアちゃん、お腹も空いてるでしょうしご飯でも食べましょうか?」

 

「うん!アリシアおなかペコペコだよぉ~」

 

 

 台所に行って私は自分と彼女の2人分のご飯を作る。途中マダム銀子と葛葉キョウジに電話をして、アリシアちゃんが先に目覚めた事と彼女に不審がられない様に、敢えて彼女の母親が意識を取り戻すまでは年端もいかない少女には"キツい風貌"をしている2人には事務所には来ない様に伝えた。即席でパスタを作りパンをトースターで焼いて食器に盛り付けると仮眠室に持って行き、アリシアちゃんを椅子に座らせてバスローブの袖を折ってその細い腕を出してから私も席に着く。

 

 

「うわ~おいしそーーー♪いただきま~す!」

 

「お母さんには敵わないでしょうけど、どうぞ召し上がれ♪」

 

 

 彼女の美味しそうに食べる姿を見て、再び自然と笑みをうかべてしまう。でも内心ではプレシア・テスタロッサが目覚めてからの事で頭の中が一杯なのだった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く




他の二次創作だと、「チートな主人公がチート能力を使って2人を助けだす」という展開が多い様な気がしますが、その"ある種のお決まり"を破りたかったのでこういう内容にしました。
サンダルフォンは預言者エリヤ(英名ではイライジャ)が生きながらにして昇天したと謂われる存在です。旧約聖書に登場するエリヤは「主(=YHVH)は神なり」を意味するその名の通り、熱烈なYHVH信仰の守護者及びバアル信仰に対する熾烈な迫害を行った人間として描かれていますが、この作品では敢えて"逆の役割"を担わせる事にしました。
虚数空間に幽閉されていたのは、サンダルフォンが「罪を犯した天使達を閉じ込める幽閉所の支配者」という事を応用し、その「幽閉所」を虚数空間に見立てたからです。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第20話 Heaven Is A Place On Earth(後)

第20話です。
プレシアさんの懺悔の時間です。
それではどうぞ……




2013 9/1 0:48 誤字,脱字を修正
2013 9/1 23:30 一部文章を改訂
2013 9/11 17:50 誤字,脱字を修正


-5月12日午後2時 平崎市・葛葉探偵事務所-

 

 

 

「――ご馳走様でした」

「――ごちそーさまでした~!」

 

「ただいま~」

 

 

 私とアリシアちゃんは昼食をとり終わるのとほぼ同時に、レイが子供服と下着を買って事務所に帰ってきた。

 

 

「あっ!レイさんおかえりなさい~」

 

「おかえりなさいレイ。昼食は?」

 

「外で食べてきたから良いわ。はいアリシアちゃん!おばさん達からのプレゼントだよー!」

 

 

 レイは袋から子供服を取り出すと、それを広げてソファーに並べてアリシアちゃんに見せた。

 

 

「うわ~どれもかわいいな~♪どうもありがと~~~~~~!」

 

「どうたしまして♪さあ、お母さんが目を覚まさないうちに着替えて驚かせちゃおう!」

 

「うんっ!!」

 

 

 服を見たアリシアちゃんはヒマワリの花の様にぱぁっと満面の笑顔になると、レイに支えられながら更衣室に行き、10分程して着替えて戻って来た。彼女は白地にオレンジやピンクの柄の入ったTシャツに黄色のパーカーを羽織り淡い緑色のフリルスカートを履いていて、

 

 

「どうかな~にあう~?」

 

「うん……明るいアリシアちゃんにピッタリだわ!」

 

「えへへっ♪」

 

「この服を選んだのは私なんだから、ついでに私の事も褒めてくれたって良いのよぉ~♪」

 

「あー……サスガ、レイサンデスネー」

 

「ちょっとなんで棒読みになってんの!!」

 

 

 私はレイの事を放っておいて、アリシアちゃんの前に行って頭を撫でてあげた。

 

 

「お母さん、早く起きると良いわねぇ~」

 

「うん!絶対ビックリするよ!!」

 

 

 その後は私とレイはソファーでアリシアちゃんの話を聴いた。2歳の頃に両親が離婚して父親の顔を知らない事、母親の仕事先である研究所に遊びに行ってはその同僚達に遊んで貰った事などなど……このプレシア・テスタロッサという人は、一見した感じだと気を失っていても尚、禍々しいオーラを放っている様に見える。しかし彼女の話では家庭と仕事を両立する"出来る女性"というイメージを抱いた。

 

 

「――ところでおかーさんはなんであんなカッコをしてるの?アリシアはじめてみたよ~」

 

「えっ!?」

「えっ!?」

 

「おかーさんは"けんきゅうじょ"ではたらいてたから、いつもはくいをきてたんだもん!こんなおとぎばなしにでてくる"まじょ"みたいなカッコなんてしらないよ!!」

 

 

 アリシアちゃんの言葉に私達は絶句する。どういう事なの……

 

 

「……アリシアちゃん。ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

 

「なぁに?」

 

「ひょっとしてアリシアちゃんにお姉さんっている?」

 

「ううん……アリシアはひとりっこだよ?」

 

 

 予想の斜め上を行く答えが帰ってきて更に絶句した……自身と母親の話を聴いていて、クローンにしては妙に"話が出来過ぎている"と思っていたけれど、これは想像以上に複雑な事態があったのかもしれない。

 

 

「ねぇ。お母さんの歳って解る?」

 

「うーー…………んっと、たしか33さいだったかなぁって、どうして?」

 

「い、いや何となく訊いてみただけだから……(ナオミ、ちょっと)」

 

「(……解ったわ。)おばさん達ちょっとお話があるからいい子にしてなさいね?」

 

「う、うん」

 

 

 私の隣に来たレイが耳打ちをして来たんで2人で事務所の方に行き、アリシアちゃんに聞こえない様、小声で話し始めた。

 

 

「(プレシア・テスタロッサって衰弱しているのもあるだろうけど、33歳にしては妙に老け込んでると思わない?)」

 

「(そうね……私達と同じ位の歳と見て良いかもしれない)」

 

「(アリシアちゃんの話を聴いていてしっくりこない部分もあるし……一人っ子ってのがそもそもおかしいよね)」

 

「(もしかしたら、アリシアちゃんがクローン人間だという当初の予想を改めないといけないかも知れない。コレは間違いなく裏があるわ)」

 

「(謎はアリシアちゃんとフェイトちゃんという、まるで"双子の様にそっくりな2人の人間"の関係性にありそうね……)」

 

 

 私達は見えない"真実"に揃って溜息をつく。そもそもこの親子自体、何処から飛んできたのかすら解らない。全てはプレシア・テスタロッサが目覚めるのを待つしか無いんでしょうね……

 

 

「――あっ!!おかーさん!!!!」

 

 

 仮眠室からアリシアちゃんの大声が聞こえてきたんで、急いで戻ると運が良い事に丁度私達が目覚めるのを心待ちにしていたプレシア・テスタロッサが意識を取り戻した所だった。

 

「ア……アリシア……なの?」

 

「どーしたのおかーさん?なんかうまくあるけないけどアリシアはげんきだよ!」

 

「あ、ああっ……」

 

 

 私は咄嗟にアリシアちゃんを母親のベットへと連れて行ってそこに座らせ、直ぐ様離れた。プレシア・テスタロッサは眼に大粒の涙を浮かべている事が離れた場所からでも解り、内心とても驚いてしまう。

 

 

「アリシア……私のアリシア……ごめんなさい。本当にごめんなさいね……」

 

「どーしてないてるの?どこかいたいばしょでもあるの??」

 

 

 むせび泣く彼女はアリシアちゃんの身体を抱きしめ、嗚咽混じりにひたすら謝っていた……しかし当のアリシアちゃんは、何故自分の母親が泣いているのか解らないみたいで頭の上にクエッションマークを浮かべている。 彼女が落ち着くまで待っている間、レイは葛葉キョウジとマダム銀子を事務所へ呼び寄せ、私は事情聴取のために手帳に質問項目をまとめる事にした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

-5月12日午後4時 平崎市・葛葉探偵事務所-

 

 

 

「ごめんなさい。みっともない所を見せてしまって……私はプレシア・テスタロッサ。この子は私の娘のアリシアです。アリシアにこんなに良い洋服を買っていただき、本当に感謝の言葉もありません」

 

「いえいえ、お二方に喜んでいただき光栄です。私は葛葉探偵事務所の助手、麗鈴舫(レイ・レイホゥ)です。こちらが所長の葛葉キョウジ」

 

「――!」

 

「私はマダム銀子と呼ばれている者よ。表向きはスナックの経営者だけど裏ではキョウジとレイのお目付け役をしているわ」

 

「……私は麗鈴舫の友人の相原那緒実です。以後お見知り置きを」

 

 

 彼女の上半身をベッドから起こさせて各自名前を名乗り、早速事情聴取を開始する。因みにマダム銀子が来た時、アリシアちゃんはその姿と声に顔を引き攣らせて泣きそうになったのをプレシア・テスタロッサがどうにかなだめすかせていたりする。

 

 

(BGM:葛葉探偵事務所)

 

 

「早速ですがプレシアさん。貴女が何故海鳴市の山中に倒れていたのか、何故娘さんがカプセルの様なモノに入っていたのかをお聞かせ願えないでしょうか?」

 

「そうですね。その前に……アリシア?」

 

「なぁに?」

 

「これからお母さんは"とっても難しい話"をしなくちゃいけないの。お願いだから終わるまで隣の部屋に行っててくれないかしら」

 

「いやだっアリシアもここにいる!!」

 

「アリシアちゃん……これからする"お話"はアリシアちゃんには聞かせられない、とっても大変なお話なの。だからどうか隣の部屋に……ね?」

 

「アリシアだっておかーさんにききたいことあるもんっ!だからここにいる!!」

 

 

 散々駄々をこねるアリシアちゃんに、ついにプレシアさんは観念したのか表情を険しいものにして語り始める……その内容はアリシアちゃんを除いた私達を驚愕させるものだった。彼女の話を要約すると、

 

○出身は"ミッドチルダ"という次元世界で、時空管理局の本局もそこに存在している。

○アリシアちゃんが言っていた通り、プレシアさんは元々新型動力システムの開発にあたっていた研究者だったが、ある時重大な欠陥を発見したものの上層部がそれを握り潰した挙句の果てに完成した動力炉は大事故を起こしてしまった。しかし上層部は時空管理局と結託し、すべての罪をプレシアさん一人に擦り付けた。

○大事故の影響で不治の病に冒されたものの、研究所より得た賠償金を元に"時の庭園"と呼ばれる、時空管理局の使用する魔法技術と同じ物で作られた移動式庭園を購入、更に地方での閑職にありながら"独自の研究"を進め、ある"成果"を造り出した。

○臨海公園で私が晃祐を経由してフェイトちゃんに渡した"ジュエルシード"は、彼女がフェイトちゃんに集めさせていた物で、ジュエルシードは力を開放することによって持ち主の願望を叶える力がある。

○巨大樹や人面樹等が海鳴市に出現した一連の"現象"はジュエルシードによるもの。"願望を歪んだ形で叶える"という事はプレシアさん自身知らなかった。

○プレシアさんは時の庭園が崩壊した時に"虚数空間"という一種の亜空間の様な所に投げ出され、そこに現れた"預言者"と名乗る何者かによって、"ヤタガラスに協力する事を条件"に海鳴市山中に転移して来た。

 

 他にも元時空管理局員だった"あの人"が、私達の前に現れた時に得られた数多くの"情報"が彼女の証言によって改めて裏付けられる事となった。

 

 

「ありがとうございました。お身体の方は大丈夫ですか?何でしたら休憩でも」

 

「いいえ。大丈夫です」

 

「……解りました。さて、此処からは私とナオミの個人的な質問です。ナオミお願い」

 

 

 レイの言葉に、遂に来たか!と思って更に気を引き締め、質問を口にした。

 

 

「実は先程、アリシアちゃんから一人っ子だという事を聞いたんですが、実は以前フェイトちゃんにも会った事がありまして……」

 

「何故アリシアとフェイトが似ているか……でしょう?」

 

「おかーさん。さっきからずっとおもってたんだけど、フェイトって……だれ?」

 

「アリシア良い?これからお母さんが話す事はきっとアリシアの訊きたい事だと思う。でもこの話を聴いたら、アリシアはきっと私の事を嫌いになるかもしれない……」

 

「そんなコトぜったいないよ!アリシア、おかーさんのこときらいになんてならないっ」

 

「ありがとう――ではお話しましょう」

 

 

 彼女の語り出した内容は、私とレイの疑問を解決させるには充分なモノだった。しかしそれは先程の話を遥かに凌ぐモノで、幾度の修羅場を潜り抜けて私達ですら身震いする戦慄の内容だった。同様に要約すると、

 

○アリシアちゃんが生まれたのは12年前で、7年前の動力炉の事故に巻き込まれてアリシアちゃんは僅か5歳で死亡した。(即ちプレシアさんの現在の年齢は40歳という事になり、本来ならアリシアちゃんは匠真と同じ12歳になるはずだった)

○事故後の"独自の研究"とは、管理局が秘密裏に行っていた人造生命体製作プロジェクト"F.A.T.E."の成果を応用し、4年前にアリシアちゃんの細胞を使って彼女と寸分違わぬ素体を造り上げ、その記憶を移したものの完全なコピーにならなかったために記憶を消去し、プロジェクトの名前からそのコピーを"フェイト"と名付けた。

○完全なコピーにならなかったが故に、最初はフェイトちゃんを人形扱いをして虐待していたが、ある時彼女の余りの献身振りと自身の余りの狂乱振りに気付いてしまい母親としての自我を取り戻した。しかし既にジュエルシードを収集させ始めた後だったため、引くにも引かれなくなって以前同様の扱いをし続けてしまった。

○ジュエルシードを集めさせたのは、アルハザードでアリシアちゃんを蘇らせるためだった。

○虚数空間で遭遇した"預言者"によってプレシアさんの病は軽くなり、アリシアちゃんも蘇生した。

 

 

「――私は人間として、母親として最低な事をやってしまったんです」

 

「…………お気持ちは解りますわ。私にも子どもがいますから」

 

「――!!――――!!!!」

 

 

 葛葉キョウジが両手でテーブルを強く叩くと、プレシアさんの所に行って大声で怒鳴り散らし、罵声を容赦無く浴びせ掛ける……確かに幾らアリシアちゃんのコピーが出来なかったからと言って、曲がりなりにも一人の人間を"人形"扱いしたり虐待をしたりした事は許されるべきではない。それにしても大人気ない事をして……

 

 

「おじちゃんやめてぇ……やめてよぉ……っ!」

 

「アリシア……」

 

 

 アリシアちゃんが泣き叫び始めてハッとなった彼は、いたたまれない顔をして直ぐに仮眠室から出て行ってしまった。私は顔をベッドの方に戻すと、顔を涙でグチャグチャに濡らしたアリシアちゃんが、

 

 

「――おかーさんもっ!」

 

 

――パチン!

 

 

「……っ!?」

 

「なんでっ……なんでそんなことしたのっ!なんでフェイトのことをっ、アリシアの"いもうと"としてみてあげなかったのっ!!そんなの……ちっともうれしくなんかないよぉっ!!」

 

 

 ああ……アリシアちゃんはなんて優しい子なんだろう。まだ5歳だというのに自分のクローンを妹と呼ぶなんて。頬を平手打ちされて呆然としていたプレシアさんは我に返ると、胸元で泣き付くアリシアちゃんの頭を撫でてあやしながら語り掛ける。

 

 

「ごめんなさい……私は結局、自分の事しか考えて無い最悪な人間だったわ。これからは絶対にこういう事をしないし、もしフェイトに会う機会があったら今迄の事も謝るわ……だからもう泣かないで。この地球こそが天国(アルハザード)だと思う事にしたから」

 

「ひっく……ぐすっ……やくそくだよ?」

 

 

 2人は小指を立てて互いに絡ませる。

 

 

「――指切~りげんまん嘘付いたら雷千回落~とす♪指切った!」

「――ゆびき~りげんまんウソついたらカミナリせんかいお~とすっ♪ゆびきったっ!」

 

 

 親子の一連の言動に私はその光景が微笑ましくなり、自然と笑みを浮かべてしまう。レイも同様に笑みを浮かべ、一方でマダム銀子はヤレヤレという表情をしていた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「――では、貴方達の身柄は私達ヤタガラスが責任を持って保護させていただくわ」

 

「万が一時空管理局にお2人が生きている事を察知されては双方共に困りますので、暫くはご不便をお掛けしますがどうかご了承ください」

 

「ええ。アリシア共々宜しくお願いします。私に出来る事なら何だって協力しますので」

 

 

 テスタロッサ親子の処遇は、時空管理局の脅威が去るまで平崎市内のヤタガラス支部で保護する事で決まり、プレシアさんは念のために、半年程支部附属の療養所で治療とリハビリを受けて貰い、また私の家に"闇の書"とその主が住んでいる事から、彼女には最初に闇の書関連の研究に参加して貰う事になった。因みにアリシアちゃんは現在、泣き疲れてぐっすりと眠ってしまっている。

 

 

「ふむ……那緒実さんの予想通り、管理局は暫く地球に居座りそうですね。もしその間に闇の書が覚醒し、中から"守護騎士"達も現れると非常に厄介な事になります」

 

「"守護騎士"とは……?」

 

「――闇の書には"雲の騎士(ヴォルケンリッター)"という、闇の書を守護する複数の魔法生命体がプログラミングされているらしいんですけど、聞いた話によると騎士達は感情の無い戦闘マシンの様な存在で、闇の書によってもたらされた被害の大半は彼らによって引き起こされたものだそうです」

 

「それってとんでもなくマズい事じゃあ……」

 

「それじゃ当面の目標は闇の書の覚醒を阻止する事になるわね。"あの人"にも訊いて方策を練らないと」

 

「こちらにも闇の書を知っている人がいるんですか?」

 

「え、ええ……その方は元時空管理局の高官で、これまで私達に色々な情報を提供していただいてますわ。闇の書の主であるはやてちゃんを私の家に引き取ったのも、その方の助言が有ったからなんです。なんでも11年前の覚醒の際に部下を失ったらしいんですけど、上層部は事件後に遺族に何ら保険金を払ったりする事も無かったみたいで、全てその方が肩代わりに生活保障を行ったと聞きました」

 

 

「……それで管理局に嫌気が差して辞めたと。つくづく奴等はふざけた事をしますね」

 

 

 その後もプレシアさんから管理局の腐敗した側面を聞かされた。はやてちゃんのためにも万が一武力衝突をした場合、あんな連中に絶対に負けてたまるもんですか!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 




最初から度々出ていた元管理局員の"あの人"について少し表に出て来ましたね。
"あの人"が誰かというのは、勘の鋭い方ならもう気付かれたと思います。
これからプレシアさんの魔法技術力とヤタガラス、もとい地球の科学技術力が合わさって管理局に対抗するための様々なトンデモ発明が生まれていく事になります。







それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第21話 根底にある"焦燥"

今回は晃祐の内面に関する話です。上手く書けたか微妙ですが……



2013 9/8 1:14 誤字,脱字を修正
2013 9/11 17:52 一部文章を改訂


 高町家で訓練を始めて4日が経った。士郎さんとの訓練は今の所、"ひたすら檜の木剣で木人を打ち込む"という単純なものだ。士郎さん曰く「中体連の試合も視野に入れつつ今一度、腕の動きを見直してより確実に、より鋭く強力な振りを修得する」との事だった。しかしながら打ち込む対象が硬い木人だけあって、2,30回位打つと木剣から伝わる衝撃で腕が痺れて来て、初回の訓練はマトモな事が出来ないまま終わってしまったという……自宅の庭で更に素振りをしないとイカンなぁ~

 ってな事で、俺は授業が終わると、急遽部活が休みになったんで直ぐに稽古場へ向ったのだった。

 

 

 

-5月15日午後3時 高町家稽古場-

 

 

 

「こんちわ~相原で~す!!今日もヨロシクお願いしますっ!!!!…………って、アレ?」

 

 

 何時もなら士郎さんが稽古場で待ってくれているはずなのに、今日は誰も居ないみたいだ。

 

 

「こんちわ~!!士郎さ~ん!?恭也さ~ん!?美由希さ~ん!?誰か居ませんかぁ~~~~~!?!?」

 

 

 俺は大声を張り上げて呼んでみるけど、一向に反応が無い。店の方が忙しいのかなぁ?一応そっちの方にも顔を出してみるか……と思って稽古場を後にしようとすると、足元に何時ぞやのイタチが立っていたんで、しゃがみ込んで言葉を掛ける。

 

 

「お?ユーノじゃねぇか。何時の間に戻ってきたんだ?」

 

『どうも晃祐さん。僕達は今朝アースラから帰って来たばかりです』

 

「アースラってぇと……あの時空管理局の戦艦みたいなヤツか。故郷の世界には帰らなかったんだな」

 

『なのはがもっと魔法の事を勉強したいと言っていたので、暫くこちらでお世話になる事にしたんです……でもここ1ヶ月で恐ろしい位の成長を遂げてますから、多分半年と経たずに帰る事になるでしょうね』

 

 

 "巨大樹をブチ抜く位のビーム"を撃てんのに更に成長したとかマジ無ぇわ~……って、コイツに会えたら訊きたい事が有ったんだった。

 

 

「で、お前もなのはちゃんも時空管理局に味方するにしたのか?」

 

『一応僕達は、ロストロギアとそれに関わる事件の当事者ですからね。正直言うと、故郷の一族から管理局に関する良い話は大して聴いたことが無いので、個人的には余り関わりたく無いんですけど……』

 

「――なのはちゃんがノリノリだと」

 

『"ごく普通の生活"に戻るって考えは無いみたいですね。中学校を卒業したら管理局に正式に志願すると言ってましたし』

 

(……こりゃ"敵"に回す可能性が高くなっちまったなぁ。俺達が戦って果たして勝てる相手なんだろうかねぇ)

 

『どうしたんですか?気難しい顔をして……』

 

 

 あ、やべぇ。ついつい顔に出ちまったか!こういう所が俺の悪い所だよなぁ。

 

 

「い、いやなんでもない。こっちの事さ!ハハ、ハハハハハ……はぁ……」

 

 

 ユーノが小首を傾げて俺の様子を見ている。コイツ、歳の割にはかなりの洞察力があると見た。こりゃヘタな事を顔や口に出せねぇなぁ~

 

 

『そういえば、どうして稽古場の方にいるんですか?』

 

「あ?……ああ。士郎さんは母さんが悪魔召喚師だって事、学生時代から知ってたみたいでさ。母さんの言付けで最近"色々と"稽古をつけて貰ってんだよ。元々剣道をやってるってのもあるけど、ちょっと"思う所"もあってなー」

 

『――やっぱり"公園での件"ですか?』

 

「母さんの事見たろ?あんなにチートなのに、この間"身体の衰えを感じてきているからそろそろ後継者が欲しい"って言ってたんだよ。俺もあの時初めて悪魔を召喚しちまった手前、本気で母さんの後を継いで悪魔召喚師の道を歩んでみようと思ってさ。来年高校受験があるけど、どうにか両立して訓練して行くつもりだよ」

 

 

 俺は"真の目的"を隠しつつ本当にあった事を言った――嘘は吐いてないから問題無いだろ?そういや翌々考えてみたら、傍から見たっけ俺が"イタチに向かって独り言を呟いている"という、なんともシュールな光景に見えるんだろうな……と感じて内心苦笑いをする。すると、

 

 

「ユーノく~ん!何処なの~~~~~~!?」

 

「お、ほら"魔砲少女"がお呼びだぜ?」

 

『なんか……とっても違う"感じ"に聞こえたんですけど』

 

「気にすんなってば……オラ行った行った!俺の訓練なんざ見たってクソも面白く無ぇぞ~」

 

 

 俺はユーノに"しっしっ"とやると、仕方なしになのはちゃんの方に向かって走っていった。どうやら士郎さんも全然出てくる気配が無いから、勝手に上がらせて貰って勝手に打ち込みでもやってるとするか!

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「――疲れている所すまない。なのはは稽古場の方に行って見て来てくれないか?きっと彼の事だから既に自主練習をやってるとは思うんだが。あと、一応スポーツドリンクでも持って行ってくれ」

 

「う、うん」

 

 

 お店でお父さんとお母さんの手伝いをしていると、お父さんから稽古頼まれ事をされて、私はユーノ君を肩に乗せて家に戻り、廊下を歩いて行くと向こう側から叫び声と共に、"強く何かを叩く音"が何回も聞こえてきたの。稽古場の前に来ると襖を少しずらして中の様子を伺うと、以前公園で会った晃祐さんが木刀を持ってお兄ちゃんとお姉ちゃんが練習に使う木人に向かってひたすら打ち込みをしていた。

 

 

[凄い真剣な表情をしてるね……]

 

[うん……ああ言うのが鬼気迫る顔って言うんだろうね]

 

 

 晃祐さんは汗だくで息も絶え絶え、腕も痺れて木刀の振りが遅くなっても打ち込みをやめようとしない。晃祐さんの姿を見ていると、魔法を使ってる私はなんだか申し訳無い気持ちになるの……

 

 

[――良いかいなのは。世界には晃祐さんみたいに、血の滲む様な努力をしてでも"遥か上"を目指そうとする人がいる。なのはの魔法の素質は天才と言っても良い。けど、得てして天才というのは努力を軽視する傾向があるんだ。将来管理局で高官になったとしても、ああいう人達の事を絶対に忘れちゃいけないよ]

 

[解ったの。絶対忘れないっ!]

 

 

 木刀が床に落ちる音がしてまた中を見ると、晃祐さんが床にへたり込んで肩で息をしていた。私はスポーツドリンクを差し出そうと襖を開けて近付いて行く。

 

 

「こんにちは晃祐さん。コレ持って来たんでどうぞ!」

 

「んあ?こんちわなのはちゃん……ごめんな、勝手にやらせて貰ってるよ」

 

「いえいえ」

 

 

 晃祐さんにスポーツドリンクを手渡すと、少し離れて私も床に座った。

 

 

「そういえばどうして私の家で練習してるんですか?」

 

「あれ、ユーノから聴いて無いんかい?」

 

 

 えっ?いなくなって探しに外に出たら庭の方から来たけど、ユーノ君あの時晃祐さんと話してたんだ……私がユーノ君を見ると、『その、ごめん』と言って晃祐さんから聞いた事を話してくれたの。

 

 

「なのはちゃんがアースラに行っている間にこっちだって色々あったんだ。俺の事で士郎さん達を責めたりしないでくれよ?」

 

「……はい。私が家に居ないと言える訳無いですもんね」

 

 

 晃祐さんが大の字になって床に寝そべると、ふぃ~と言って目を瞑って身動きしなくなる。

 

 

「あっ、あの~。あんまり無理しちゃダメですよ?"ヘロヘロになって練習してても全く意味が無い"ってお兄ちゃんが前に」

 

「それ、恭也さんと士郎さんにも結構口酸っぱく言われてるよ。でも何と言うか、早く戦士としての能力を上達させたいっていう焦りが出ちゃってなぁ。解っちゃいるけどやめられないってヤツかな。ほら、俺はなのはちゃんと違って"ビームを撃つ才能"なんて無いから、命を張ってフルコンタクトの戦闘をしなくちゃいけないんだ」

 

「(ビームって……)あ、でもでも焦りは命取りって!」

 

「全くだよ耳が痛ぇぜ畜生!剣道部で"本番に弱い"っていっつも言われて、それが解ってるからこそ返って焦っちまうんだよなぁ。どうにか"死ぬ前"に修正してある程度冷静な判断が出来る様にしないと」

 

 

 晃祐さんの"死ぬ前に"という言葉に私はハッとなる。バリアジャケットのある私と違って、悪魔召喚師は戦争に行ってる兵士と同じで、常に"死"というモノと戦わなくちゃいけないんだ……サポートもしてくれるデバイスなんて無いし、全ては自分自身の判断だけで戦いを潜り抜けなくちゃいけないの。

 

 

「――さて!また全身全霊で頑張るとしますかね!!」

 

 

 そう言って晃祐さんは木刀を持って立ち上がり、再び木人に打ち込みを始めたのを私はそのまま後ろで黙って見てる事しか出来なかった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「――すまないねぇ晃祐君……ってなのはもいたのかい?」

 

「あっ、お父さん!」

 

 

 打ち込みを一旦止めて後ろを振り向くと士郎さんがいて、こちらに近付いて来ていた。

 

 

「すんません。勝手にやらせて貰ってますよ」

 

「いや、むしろ勝手にやって貰ってないと困る位だよ。これから先は地獄の様な訓練が待ち受けているんだからね」

 

「はい!」

 

「よし、それじゃあ試しに出来る所まで打ち込みをしてみてくれ」

 

 

 俺は言われた通り、打ち込みを行った……しかしここ数日の打ち込みで腕にガタが来ていたのか、20回を超えた辺りから右肘に激痛が走って、

 

 

――ガタンッ!

 

 

「ぐっ……肘が」

 

 

 俺の手から勝手に木剣が落ち、酷い痛さにうずくまって右肘を押さえる。すると何時の間にか士郎さんとなのはちゃんが俺の前に来ていた。

 

 

「だ、大丈夫ですかっ!?」

 

「ちょっと肘を見せてくれないだろうか」

 

 

 俺は士郎さんに肘を見せると、

 

 

「晃祐君が打ち込みを始めてから数日、私は大して指導らしい指導をしないで見ていたけれど、今やっと50回も行かずに疲弊する理由がハッキリとしたものになったよ――君は一振り一振り全力で打ち込みをしているね?」

 

「そりゃあ……剣道なんかと違って常時100%の力を込めないと悪魔なんて倒せないでしょうよ。それでこそ"一撃必殺の精神"で臨まないと逆にこっちが殺られちまいますって」

 

 

 士郎さんは俺の言葉を聞くと、急に顔付きが険しいものへと変わった。何か変な事言ったか?

 

 

「それは大きな間違いだよ。君は恭也と美由希から何を教わったんだ?今君に必要なものは攻撃技術よりも防御・回避技術だぞ。冷静に敵の行動を見極めも出来無いクセに無闇矢鱈に仕掛けようとする事の方が命を捨てる可能性は高い」

 

「晃祐さん……やっぱり焦ってるの。牽制もしないで最初から本命の攻撃を繰り出すなんて」

 

 

 士郎さんはまだしも、なのはちゃんにまで言われるとか――っざけんじゃねぇぞクソが!!

 

 

「じゃあどうすりゃ良いんだよ!!黙って後ろから見てろって言うのかよ!?俺ァそんなの嫌だね!幾ら仲魔がいたとしてもトドメは俺が刺さないと無意味じゃねぇかよ!!んなん"俺が守ってる"内に入らねぇぜ!!「――晃祐君」」

 

「少し、頭を冷やそうか……」

 

 

――次の瞬間俺の身体は宙を舞い、頭から床に叩き付けられていた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「――――ッ!!」

 

「気が付いたようだね」

 

 

 意識を取り戻して辺りを見回すと、外はすっかり日も落ちて薄暗くなっていた。

 

 

「士郎さん、俺は……」

 

「すまない。まさか頭から落ちて失神するとは思ってなかったよ。打ち所が悪ければ半身不随になっていたかもしれない」

 

「こっちこそ出過ぎた真似をしてすいませんでした……ダメダメっすね、俺」

 

 

 打った頭と痛めた右肘を左手で触って確認しながら士郎さんに謝った。すると俺の肩を軽く叩いて、

 

 

「晃祐君の気持ちも解らん訳でも無い……しかし君は自分自身を追い込み過ぎていて、それが余計な焦りを生んでいる様に思える。確かに緊張感も大事だけど少し心に余裕を持たないとダメだな」

 

 

 励ましてアドバイスをくれているみたいだけど、俺は益々惨めな気持ちになってしまう。

 

 

「余裕って……それじゃ手を抜いてるのと変わらないじゃないっすか」

 

「余裕が出来る事で視野も広くなるし、戦いにおいても様々な作戦を取る事だって出来る。君はそこの所を履き違えている様だね」

 

「したっけどうすりゃ余裕が出来るって言うんですか……俺、何がなんだかサッパリ解らなくなっちまいましたよ……」

 

 

 すると士郎さんは、「ふむ」と言って腕を組み考えだした。

 

 

「あの~?」

 

「よし!……こうなったら晃祐君には実戦で本当に死線を超えてもらうしか無いだろう。荒療治どころの比じゃないが自分自身の欠点も痛感出来るし、それを経験してからここで訓練をした方がより身に付く可能性が高い。それまで訓練は休みだ」

 

「…………は!?」

 

 

 突然何て事言い出すんだこの人は!ド素人の俺に死ねって言ってる様なモンじゃねぇか!!

 

 

「"バカは死ななきゃ直らない"とは違うが、私は人間というものは死ぬ間際が一番冷静になれるのだと思っている。"あの時ああすれば良かった"という後悔の念が湧いて来て初めて、自身の愚かさに気付くんだ。それに――人間死にそうになれば何だってする生き物だ。晃祐君に仲魔がいる事の"ありがたみ"を身を持って知るべきだろう。藁にもすがる思いで生きて再びここに来てみせろ!!」

 

 

――俺は士郎さんの強い言葉に、ただただ頷く他無かった。

 

 

 

 

 

 

次回に続く




娘がやるなら親だってやっててもおかしくは無い……今回はそんな話でございました。

自分の考え方やスタンスを変えようと思っても、これがどうして中々変えられないのが男のサガですよね。「俺はこうだ!」と思い込んでいるなら尚更の事です。
『男だったら一つに懸ける』と云います。しかしそれは武士道精神の"美徳"でもあり"悪癖"でもあると思うのです。見方ひとつで視野も考え方も大分変わるのですが、大体"痛い思い"をして文字通り"痛感"しないと変わらないというのが実情だと思います。


次回は"悪魔との"初戦闘です。





それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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第22話 First Battle(前)

大変お待たせいたしました。第22話になります。



2013 12/4 21:47 誤字,脱字を修正


-5月17日午後5時 海鳴市某所-

 

 

 

「ふぅ~終わった終わったぁ~」

 

「アリサちゃんも発表会の課題曲ほとんど全部弾ける様になったね!」

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ様~」

 

 

 あたしとすずかがバイオリンのレッスンを終えると、すずかんトコのノエルとファリンが外で待ってくれていた。何時もは鮫島が迎えに来るけど、今日は所用でここまで来れないから2人が代わりに迎えに来てくれたみたいね。

 

 

「それではすずかお嬢様、アリサお嬢様。参りましょうか」

 

「うん!」

「はーい」

 

「参りましょ~!」

 

 

 ふとアタシ達の後ろに付いて歩く2人をチラ見すると、いつもすずかの家にいる時のメイド服じゃなくて私服だったのが気になった。どうしてなんだろ?

 

 

「(ねぇすずか、2人共何でメイド服じゃないの?)」

 

「(実は私、メイド服の2人を連れて歩くのがちょっと恥ずかしくなっちゃって、"外を出歩く時は私服で来て欲しい"って言ったからだよ)」

 

 

 ……まあ、市井の人間にしてみれば、メイドなんて"そういう喫茶店"のイメージが強いだろうから普通に街を歩いてたっけギョッとするのは間違いないし、あたしにも何時でも燕尾服の鮫島がいるからすずかの気持ちも解らない訳じゃない。

 そんな事を考えている内に何時の間にか駐車場まで来ていて、後ろにいたはずのファリンが車の後ろの座席のドアを開けてあたし達が乗るのを待っていた。ノエルもそうだけど、これくらい何時もの事だしもう慣れたからいちいち驚く事も無くなったわ。

 

 

「さあどうぞどうぞ~」

 

「ありがとうファリン」

 

「お2人ともシートベルトはなさいましたでしょうか?」

 

 

 最後に助手席にファリンが乗り込むのを確認すると、ノエルは車のエンジンをかけて発進させた。でも今の時間はちょうど帰宅のラッシュで大通りはどこも混雑していたり、運悪く信号に引っかかったりして中々車が前に進まない。

 

 

「はぁ~~ったくホントにツイてないわー……コレじゃあ何時まで経っても帰れないじゃないの!」

 

「アリサちゃん落ち着いて。コレばっかりは仕方無いよ」

 

「あ!もう6時ですよ。ちょっと急がないとマズいかもです」

 

「では、少々強引ですが車通りの少ない中通りに入って近道する事に致しましょう」

 

 

 ノエルがショートカットを提案して中通りに車を進めていく。その後、私はすずかやファリンと世間話をしていると突然急ブレーキが掛かって、危うく前の座席に頭をぶつけそうになった。

 

 

「ちょっ!なにやってんのよ危ないじゃないの!!」

「あう~ビックリしたーー!」

 

「どうしたのノエル?」

 

「申し訳ございません。今何かが目の前を横切ったので、ついブレーキを踏んでしまいました」

 

 

 ひょっとして犬が飛び出してきたとか?だったらさっさと見付けて、二度とこんな危ない事をしない様に私がお説教しないといけないわね!なんて事を思ってると、

 

 

「飛び出してきたのって、ひょっとして猫だったりして?」

 

「違うって犬に決まってるじゃない!あたしが確かめてくるから待ってなさいっ」

 

「あっ、アリサちゃん私も行くよ!」

 

「ふ、2人共待ってよぉ~」

 

 

 路地に入り込んで少し歩き回っていると、塀の影に何かがいるのが見えて、あたし達3人は驚かさない様に慎重に近付く……すると、ゴミ収集場に置いてある"大きなポリバケツみたいなヤツ"に、紫色をした"何か"が頭を突っ込んでその中のゴミを漁っていた。

 

 

「な、なんなのよアイツ……」

 

「猫でも、犬でも……ない?」

 

 

 "ソイツ"はポリバケツから頭を出して地面に経つと、身体よりも大きい頭を細かく震わせながら左右に振ってあたし達を見た。

 

 

『ウルゥァァ……エモノいたぞぉぉぉ!』

 

 

 そう何とも言えない奇怪な声で叫ぶと、曲がり角の塀の影から同じ姿をしたヤツがもう1匹現れて同じ様に、

 

 

『エモノ?うぉれのエモノキタァァァッ!!』

 

 

 そう叫ぶと、2匹はジリジリとあたし達に向かってにじり寄って来て、今にも襲い掛かって来そうな感じだ……でも見た目からしてそんなに足も速そうな感じじゃないし、今の内に逃げればどうにかなりそうね。

 

 

「……ねぇ2人共、コレひょっとしなくてもヤバいんじゃない?」

 

「は、早く逃げようよぉ~」

 

「え?ええ、そうね!」

 

 

 あたし達3人は、直ぐに元来た道を走って引き返そうとした……けど、

 

 

『――ニガスカ!ニガスカ!!』

 

 

 後ろを振り向くと逃げ道を塞ぐ様に3匹目がいて、あたし達は文字通り"袋の中のネズミ"になってしまった。でも全ッ然ッッ!諦めてなんか無いんだから!

 

 

「嘘……そんな事って」

 

「こんなひ弱そうなヤツ等、体当たりしても逃げれば良いじゃない――行くわよッ!!」

 

「ア、アリサちゃん!?」

 

 

 あたしはカバンの中から"いざと言う時に"と、鮫島から渡されていた護身用のスタンガンを取り出してスイッチを入れ、正面の"ヤツ"に全速力で体当たりを仕掛ける。

 

 

『ウォ?ウルォァァァァッ!?!?』

 

「やったぁ!さあお嬢様、早く行きましょう!!」

 

「う、うんっ!」

 

 

 アタシの体当たりで吹っ飛んだ"ソイツ"がスタンガンの強烈な電撃ですぐに立ち上がれないみたいで、それを見たすずかとファリンはあたしに続いて車の止まっている方に向かって走り出した……

 

 

「はぁ……はぁっ……」

「ひぃ……ふぅ……」

 

「ふぅ……ふぅ…………もうダメぇ~~」

 

「ど、どうにか撒いたみたいね……」

 

「はぁ……はぁ……あれ?車が止まった場所と全然違うような気がするよ?」

 

 

 あたしは近くの電柱に背中を預け、ファリンはしゃがみ込んで休もうとした時、すずかの言葉を聞いて辺りを見回すと元来た道と全く違う道でしかも路地の行き止まりに来ていた事が解った。もしこんな所で見付けられでもしたらタダじゃ済まないわね……

 

 

『……ケタ!ミツケタ!』

『ユルサン!ユルサン!!』

『エモノォォォ!!』

 

「へ?嘘ぉ!もう見付けられたのっ!?」

 

「大丈夫ファリン?」

 

「あ、はい。お嬢……うわわわっっ!!」

 

 

 あたしがヤツらの方に身体を向けようとすると、ファリンがフラついて立たせようとしたすずかと一緒に倒れ込んでしまった……全速力で走ったから疲れるのも無理ないけど、おかげで絶対絶命の大ピンチになっちゃったじゃない!

 

 

「2人共大丈夫なの!?」

 

「痛たた……捻挫しちゃったかも」

「はわわ……お嬢様申し訳ございませんですぅ!」

 

『イマダ!イケェェェ!!』

 

「――あ!、アリサちゃんっ!!!!」

 

「……ん?」

 

 

 2人の方に走り寄った事が結果的に"ヤツらに背中を向ける格好"になったのをすずかの叫びで気付きすぐ振り返った時には、もう既に"ヤツ"らの内の1匹があたし達目掛けて飛びかかって来ていて、あたしはそれに対して全く身動きが出来ずに眺めているしかなかった…………

 

 

「い、イヤアァァァァァァァァッッ!!!!」

 

 

――ヒュン!!

 

 

「面妖な怪物共め、そこまでだ!」

 

 

「へ……?」

 

 

 ハッ、と我に返ると飛び掛って来ていた"ヤツ"が、何時の間にか身体にナイフが突き刺さった状態で悶絶していた。それを見たあたしは声のした方に顔を向けると、塀の上で何本ものナイフを両手の指に挟んだノエルが立っていた。

 

 

「ノエル!」

「お姉ちゃん!」

 

「ご無事ですか?アリサお嬢様!」

 

「あ……う、うん」

 

『ヨクモ……ヨクモ……ウルィィィ……シネェ!シネェェェ!』

 

 

 悶絶していた"ヤツ"が立ち上がって身体に突き刺さったナイフを抜くと、他の2匹がそいつの横に並び立ち、塀の上からあたし達の前に飛び降りたノエルも"ヤツら"に対して構えを取る。

 

 

『クワセロ!クワセロォォォォ!』

『エモノォ!うぉれのエモノォォ!』

 

「お嬢様達とファリンをやらせはしない……!」

 

「大丈夫なの?」

 

「ご心配要りませんすずかお嬢様。私はお嬢様方をお守りするための様々な鍛錬を致しておりますので……例えこの命に代えてでもお嬢様をお守り致します。さあ……怪物共、このノエル・K・エーアリヒカイトが相手だ……!」 

 

「お姉様……」

 

『『『ウルゥァァァァァッ!!』』』

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

-同時刻 海鳴市路上-

 

 

「相原、肘の具合はどうだい?」

 

「ごめん健さん。地区予選まであと1ヶ月だってのに迷惑掛けて……」

 

 

 部活が終わって家に帰ろうと歩いていると、後ろから部長の高倉健太郎が声を掛けてきた。俺は肘を痛めているんで昨日から見学するだけという事になっている。こんな大事な時に穴を空けてしまうだなんて、つくづく俺自身の事が嫌になった。健さんが俺に追い付くと、2人並んで歩き始める。

 

 

「なぁに、大丈夫さ。万が一予選に出られなくても試合会場に居てくれるだけでありがたいよ」

 

「ホントごめんな……」

 

「で、ここ最近部活が終わったら翠屋の稽古場に行って、また練習をしてるって聞いたんだけど本当なのか?」

 

「ああ……それでこのザマだ」

 

 

 俺はジャージを捲って、健さんに右肘のテーピングを見せる。

 

 

「相原……お前、周りに色々言われてるからって気負い過ぎるのもどうかと思うぞ?やる気は認めるけど、どうも空回りしてる様にしか見えないぜ」

 

「昨日今日と見学してて良く解ったよ。普段の俺自身がどんだけバカだったかって事がさ」

 

 

 "焦りは命取りになる"、か。焦ったせいで剣道をする上で"命"とも言える肘を痛めただけじゃなく、剣道部の皆にも迷惑を掛けちまった事を激しく後悔する。でも返ってこうなってくれたお陰で、見学しつつ頭の中で自分自身を冷静に見つめ直すことが出来た。健さんを始めとする他の3年生が俺の穴を埋めようと必死になって練習に打ち込む様子や、後輩達が度々俺の様子を伺いに来たりアドバイスを求めて来たりする姿に、初めて俺自身どれだけ周りが見えてなかったかという事に気付かされたのだった。

 

 

「相原。個人的な事を言うと、予選前までに十割とは言わない。でもせめて七割位までには肘の状態を戻しておいて欲しい。やっぱり団体戦には副部長のお前がいないと」

 

「……それは噛ませ犬って意味でか?」

 

「そんなバカな!お前は周りが言う程弱くなんてない。副部長に指名されたのも、先生や俺達がちゃんとお前の実力を解っているからさ――おっと、ここまでだね。それじゃあ」

 

「すまん。気ぃ付けてな」

 

 

 大通りの交差点まで来ると、健さんは横断歩道を渡って向こう側まで行くと振り返って俺に手を挙げ、俺もそれを見て手を軽く振り右に曲がって家に向かって再び歩き出した。ふと何となく少し進んだ所の路地に入ってリュックからGUMPを左手で取り出し、徐ろにコンソールを展開させた。

 

 

「――!?」

 

 

 俺が右半面のスクリーンを見ると、普段は青く光るはずのEAIが赤く点滅していて、近くに悪魔の反応がある事を知る。でもこの右肘の状態じゃマトモに戦う事なんて出来ないだろうし、いっその事ここは母さんを呼ぶべきなんだろうかと考えを巡らしていると……

 

 

〈い、イヤアァァァァァァァァッッ!!!!〉

 

 

 女性のものと思われる悲鳴が辺りに響き渡った。畜生!躊躇っている暇は無いってのかよ……もうこうなったら一か八か左腕一本でやってやるしかない!!

 俺はリュックを路傍に置いてGUMPを左手で取り出すと、物音を立てないように慎重に進んで曲がり角まで進み、建物の影から悲鳴の聞こえた方を伺ってみた。

 

 

『――ウルィィィ……シネェ!シネェェェ!』

 

『クワセロ!クワセロォォォォ!』

『エモノォ!うぉれのエモノォォ!』

 

「お嬢様達とファリンをやらせはしない……!」

 

 

 外国人女性が3体の頭でっかちでチビな悪魔と相対していて、その後ろ側には2人の少女が怪我をしてしまったのか、袋小路にへたり込んで身動きがとれなくなってしまっていて、その側でもう1人の少女が2人に付き添っていた。俺は暗がりにいる少女達を目を凝らして見てみると、その内の2人が髪型や顔つきから以前会ったすずかちゃんとアリサちゃんだという事が解った。それから再び建物の影に身体を引っ込めると、次にGUMPを開いてデビルアナライズを起動させて悪魔の情報を調べる。

 

◇幽鬼 ガキ/Chaos/相性:呪殺無効,火炎・衝撃・破魔弱点/特技:ひっかき,吸血

 

 火炎弱点か……でもここでケルベロスを呼んでファイアブレスを吐かせても、万が一かわされて辺りが火事になったら目も当てられないから、ここは敢えてジャックフロストを出すしかないだろうな。俺はアナライズを終わらせるとコンソールを閉じてトリガーに指を掛け、いつでも召喚出来る様に構え、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。すると、

 

 

『『『――ウルゥァァァァァッ!!』』』

 

 

 ガキ共が一斉に奇声を上げて今にも飛び掛らんとしていた――やるなら今しか無ぇ!!

 

 

「行けぇ!ジャックフロストぉぉっ!!」

 

 

 俺は建物の影から飛び出すと同時にGUMPを相手に向けて、渾身の力でトリガーを引き絞ったのだった……




今回は初の敵悪魔という事で真1でも最初に出没したガキを登場させました。
次回は晃祐&仲魔とガキ3体の戦闘が開始されます。






それでは悪魔に身体を乗っ取られぬよう、お気をつけて……


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