終わりのセラフ~吸血鬼になった少年~ (三代目エリオット)
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地下からの脱出
良いのが決まったら変更します。
ヴァンパイア歴 2016年
地下都市 サングィネム
「ミカ!カズ!これ見て見ろよ!吸血鬼ども、頭破壊されると死ぬらしいぞ!」
「ちょっと考え事してるんで話かけないでくださーい」
「あ?悪い、聞いてなかった。もう一度言わなくていいぞ」
優は『夜を歩く者の手記』と書かれた本を手に、隣のベッドに横になミカと俺に話し掛ける。
「あと腕に着いてる腕章みたいな装置外すと紫外線で死ぬらしい!」
「興味ナッシングでーす」
「同じく」
「だいたい、優ちゃんそんなの調べてどうすんの?」
「決まってんだろ!強くなって吸血鬼をぶっ殺すんだよ!」
そう言う優に対して俺とミカは溜息を吐く。
「はい出た。アホ発言」
「人間の身体能力は吸血鬼の七分の一しかない。つまり、吸血鬼は人間の七倍強いってことだ」
「だったら七倍以上強くなりゃ!」
「じっとしてろ」
フードを被った吸血鬼が現れ、持っていた針を優の首に刺す。
そして、俺とミカも針を刺され、血を抜かれる。
「動くなよ。お前らは我々吸血鬼に生かされてるんだ」
「ただ大人しく血を差し出してればそれでいい」
数分後、ノルマの血を抜かれ俺たちは解放された。
「ああもう我慢できねえええ!!痛えし!フラフラするし!何より、吸血鬼どもの家畜見るような目が気に入らねえ!俺らは豚か!牛か!鶏か!」
荒れまくる優を見て俺は出会ってから何度目になるか分からない溜息を吐く。
「ミカ!カズ!俺と一緒に革命起こそうぜ!革命!三人で強くなって、吸血鬼の女王ぶっ殺してここに人間の王国を作る!」
「何?その頭悪そうな計画?夢見過ぎだよ、優ちゃん。もしくは漫画の読み過ぎ」
「漫画なんか読んでねぇ!てか、ここに漫画はねーじゃん!」
「いいから、それ以上吸血鬼を殺すとか大声で言うな。これ以上吸血鬼に目付けられたくないんだよ、こっちは」
「おめーら!いつかぜってぇ殺すからな!」
人の話を聞かず、優は通りすがりの吸血鬼を指差し言う。
「いい加減にしろ」
優の頭に一撃入れ、黙らせる。
「そもそも腕力で吸血鬼と闘えるわけなんてないの。人間の身体能力は吸血鬼の足元にも及ばないって優ちゃんが読んでた本にも書いてあったでしょ?」
「じゃあ、どうすんだよ!?」
「頭を使うんだよ。脳ミソ。ブレイン。バカには無理。おわかり?」
「ま、脳筋思考の優には無縁の話だな」
「お前らぶっ飛ばすぞ……」
「でも、優ちゃんも本当は分かってるんでしょ?腕力なんかじゃ敵わないって」
「………だからって………じゃあ、どうすんだよ………」
悔しそうに拳を握り俯く優に俺は何も言わず、そっぽを向く。
すると、優の後ろからフードを被った吸血鬼二人を従えた一人の吸血鬼がやってくる。
「フード被ってねぇ……貴族か?」
「フェリド様!」
フェリド=バートリー。
吸血鬼の中でも、貴族の家柄で、それなりの権力もある吸血鬼だ。
ミカはフェリドを見かけると小走りで近寄る。
「お、おいミカ!」
優が止めようとするが、ミカは優の言葉を無視してフェリドに近づく。
「やぁ、ミカ君。今夜も僕の館に来るかい?」
「お願いします!」
「良い子だねぇ。君の血は美味しいから大歓迎だよ」
そう言い、フェリドはミカの頬を撫で、俺と優を見る。
「今日はそっちの子らも来るのかな?」
「はぁ?行くわけ「彼らは恥ずかしがり屋なのでまた……」
ミカは優の口を押さえそのまま、その場を後にする。
「ミカ、お前どういうつもりだ?」
「何って、フェリド様に血を提供してるんだよ。文句ある?」
「文句って、お前……」
「フェリド様は吸血鬼の中でも貴族の家柄でね、血を提供してくれたら何でも買ってくれるんだ。美味しい物も食べられるし……やっぱりここで生きて行くには要領よく、頭使っていかないとね」
その瞬間、優はミカを殴ろうとする。
俺はその手を掴み、殴るのを止める。
「カズ!離せよ!」
「離さねぇよ。ミカにはミカなりに考えがあってやってるんだよ。何も考えず、出来もしない夢物語を語ってる優より、百倍もマシだ」
「くっ………!ああもういいよ!じゃあ血でも何でもやれよ!んで、家畜みてーにブヒブヒモーモー言ってろ!」
優は怒りながら俺達を離れ、歩き出す。
「優ちゃん………ごめんね」
ミカは去っていく優の背中を見つめ、そう呟く。
「大丈夫さ。優も分かってくれる。………で、目星は付いたのか?」
「大体はね。多分、早くても今日もしくは次にアイツの家に行った時には見つけれると思う」
優には話していない、俺とミカの計画。
それは、この都市からの脱出だ。
そのためには、この都市の地図が必要だ。
長い年月をかけ、ミカはその地図をフェリドの奴が持っていることを突き止め、こうしてフェリドに近づき、地図を探していた。
そして、俺もあることの為にある吸血鬼の元に通ってる。
「じゃあ、今日も一日頑張りますかね」
「カズちゃん。あまり無理しないでね」
「大丈夫。俺をお気に入りにしてくれてる吸血鬼はと………っても優しいんだよ」
ウインクしながらミカに言い、俺はその吸血鬼の所へと向かう。
その吸血鬼はこの吸血鬼の都市の中でも大きな屋敷に住んでる。
門を潜り、扉を開ける。
「あら?来たのね」
「俺が来るのを分かってる上でいつもそこで待ってるんだろ」
階段の上から手すりにもたれかかりながら、桜色の髪の少女、クルル=ツェペシを見上げる。
「今日も相手してくれるんだろ?」
「もちろん。負けた方は勝った方の言う事を一つ聞く。いつも通りよ」
そう言い、クルルは壁に飾ってある剣を一つ俺に投げる。
それをキャッチし、軽く振る。
最初に持った時は重さでロクに触れなかったのにな………
「じゃ、やろうぜ」
そして、俺とクルルは遊びを始めた。
無論、普通に戦えば子供である俺が吸血鬼に敵うはずがない。
その為、クルルは俺とこうして遊ぶときは手加減をしてくれる。
クルルとこの遊びを始めて約一年。
クルルとの出会いはこの吸血鬼の都市に来てまだ間もない頃だった。
なんとかして孤児院の子供たちに食べ物をと思い、俺は吸血鬼の屋敷に忍び込んだ。
だが運悪く、その家の吸血鬼に見つかり、俺は死を覚悟した。
すると、その吸血鬼は俺を見て笑い、こう言った。
「面白い子ね。貴方、私の物にならないかしら?」
その吸血鬼と言うのがクルルだった。
そして、俺はクルルの屋敷でクルルの物になる代わりに食べ物や日用品などを貰うことになった。
最初こそ、俺の事を物の様に扱っていたクルルだったが、次第に俺への扱いは変わっていき、「おい」から、「お前」、「お前」から「坊や」、「坊や」から「貴方」、「貴方」から「和人」っと言う具合に呼び方も変化していった。
この遊びも、クルルとの関係が変わったからこそできる物だ。
そして、これはただの遊びに見えるかもしれないが、これには意味がある。
手加減されてるとはいえ、相手は吸血鬼。
それも上位に位置する吸血鬼だ。
この吸血鬼と戦い、吸血鬼と闘えるようにする。
それが俺の目的だ。
万が一、逃げ出す時に吸血鬼に見つかったらそいつを倒すのが俺の役目だ。
無論、ミカはこの事を知らない。
もし知ったら、意地でも止めようとして来るだろうからな。
「はっ!」
思わず、クルルとの出会いを思い出し、感慨に浸っていると、クルルの回し蹴りが飛んできて、俺はそれを防御せず食らった。
「はい。クリスマスの今日。また新たな家族が入りました。優一郎君です。皆さん、仲良くしてあげてくださいね~」
2014年のクリスマス。
この日、俺達の孤児院に新しい家族がやって来た。
「はーい!やぁ、僕はミカエラ!君も八歳なんだって?僕とカズちゃんと同い年だね。この孤児院だと八歳は最年長だから仲良くしたいなぁ!」
ミカはニコニコと笑いながら手を差し出す。
そいつはプイっと横を向き、ミカの挨拶を無視する。
「初日からうちのリーダーの挨拶を無視するとはいい度胸だな、お前」
俺は立ち上がり、そいつに近づく。
「突っ張っていても、良いこと無いぞ。ほら、仲良くしようぜ」
「うるせーよ!」
俺の差し出した手を跳ねのけ、ソイツこと優一郎は怒鳴る。
「やれやれ………じゃ、早く仲よくなるために、喧嘩しようぜ。遠慮はいらないぞ。だって、俺が勝つし」
「ああん!てめぇ、上等じゃねぇか!」
数秒後、優一郎は床に仰向けで倒れていた。
「はい、おしまい」
「喧嘩はダメですよ、カズ君」
「喧嘩じゃなくて仲良くなってる最中です、先生」
注意する先生にそう言い、俺は手をもう一度差し出す。
「じゃ、改めて……俺は百夜和人」
「僕は百夜ミカエラ。今日から君の家族だよ」
「…………くだらねぇ。何が家族だ。……俺は、実の父親に殺されかけてここに来たんだ。母親は、俺の事を悪魔の子だとかわめき散らして……最後には自殺しちまった。わかるか?俺にとっちゃ家族なんて………」
「へ~……大変だったな。じゃ、俺も俺の話をしてやろう」
俺は咳払いをして、自分の身の上話を始める。
「まず、俺の父親はとんでもないクズだ。気に入らないことやストレス発散の為に俺を殴る蹴る、挙句の果てに首を絞める。酷いときはビール瓶で殴ってきたり、火の付いた煙草を押し付けられたこともあった。そして、母親は俺を生みたくて生んだ子じゃないって言い、最後は焼身自殺。お陰で家も燃え、俺は行くところが無くなり、ここへ保護された」
俺の身の上話をすると、優一郎はぽかーんとし、俺を見る。
「じゃあ、次は僕かな。僕は実の両親に虐待された揚句。車から投げ捨てられ、ここへ保護だれました」
「僕ね!僕ね!親って見たことなーい!」
「僕はお父さんもお母さんも自殺しちゃったー!」
「私は孤児院の前に捨てられてたんだって!」
「え?ちょ……」
明るく元気に自分の不幸な身の上話をする俺達に優一郎は呆気にとられる。
「でーも、僕たちは寂しくありません。なぜなら」
「今日から優兄ちゃんも家族になるからでーす」
「「「「「「「「「「やったああああああああああああああ!!」」」」」」」」」」
「ぎゃああああああ!!」
一斉に子供たちに飛びつかれ、優一郎もとい優は悲鳴を上げる。
「……仲良くできそうね」
そんな俺たちを見て先生は笑顔を浮かべる。
そして、次の瞬間、血を吐いて倒れた。
「え?」
「せ、先生!?」
「院長先生!」
それと同時に、外で車が事故を起こす音や人々の悲鳴が聞こえ始めた。
外は一瞬にして炎に包まれていた。
『警告します!愚かな人間どもの手により、致死性のウイルスが蔓延しました!残念ながら人類は滅びます!しかし、十三歳以下の人間には感染しないことが分かっています。よって、我々は第三位始祖クルル=ツェペシ直下部隊は、これよりこの地区の子供たちの保護を始めます。我々の指示に従いなさい』
それから、俺とミカ、優の三人は子供たちを守りながら吸血鬼から逃げ続けたが、結局捕まり、この地下にある吸血鬼都市に連れてかれた。
そこで、俺は目が覚めた。
目を開けるとそこには見慣れた天井が見えた。
「目が覚めたかしら」
すると、急に視界にクルルの顔が入って来る。
「俺は……」
「貴方、私の蹴りを喰らってそのまま気絶したのよ。一瞬、首の骨でも負ったかと思ったわ」
「………なぁ、クルル。頭の後ろが妙に柔らかいんだが」
「ふふ……光栄に思いなさい。人間の分際で第三位始祖の膝枕だなんて贅沢にも程があるわ」
なるほど。
この妙に心地のいい、感触はクルルの膝もとい太腿か。
「そりゃ、どうも」
体を起こし、体を軽く伸ばす。
「今回も俺の負けか。で、望みは?」
「いつも通りよ」
そう言うと、クルルはベッドの上に上り、そして自分の隣を軽く叩く。
俺は頭を軽く掻いて、ベッドに上がりその隣に横になる。
すると、クルルは俺の体に跨り、そして、牙を俺の首に突き立てる。
ジュルジュルっと血を吸われていくのを感じ、俺の瞼は徐々に閉じて行く。
クルルはいつも勝負に勝つと、こうして俺に血を要求してくる。
それも決まってこの体勢で。
血を死ぬ一歩手前まで吸われ、俺は貧血気味になり、そのまま意識を手放そうとする。
「おやすみ。愛しい子」
クルルの声が耳元で囁かれ、頬に温かいものが触れる。
それがなんなのか知ることも出来ず、俺は意識を手放した。
最後に覚えてるのは頬を若干赤くし、微笑みを浮かべつクルルの顔だけだった。
目を覚ますと、体調は良くなっていた。
恐らくクルルが増血剤でも打ってくれたんだろう。
外の明かりは消え、街灯だけがついていた。
ベッドの横を見ると、ベッドの隣にある棚に、牛乳とパンが二つ置いてあった。
クルルが置いといてくれたんだろう。
それを手に取り一気に飲み込み、腹に入れて立ち上がる。
誰もいない屋敷の中を歩き、外へと出る。
クルルは絶対俺を見送ろうとはしない。
そして、俺も屋敷を出る時は絶対屋敷の方を振り返らず、黙って門から出て行く。
急いで家に戻ろう。
もし吸血鬼に目を付けられたら、何をされるか分かったもんじゃない。
「カズちゃん!」
皆と暮らしてる家に戻ろうと歩いてると、ミカが後ろから勢いよく走ってくる。
「ミカ。どうした?そんなに慌てて」
「見つけたんだよ。この都市から外へ出るための地図を」
「本当か?」
「うん。間違いないよ。もし地図を盗んだのがバレたら危険だから、今すぐにでも逃げないと!」
逃げる。
その言葉を聞いた瞬間、俺はクルルの顔を思い浮べた。
「……………急いで家に戻ろう」
「うん!」
俺とミカは走って家へと向かった。
「ミカ、俺は外を見張って置く。早く、優と全員を起こしてくれ」
「わかった」
ミカは優たちを起こしに向かう。
そして、俺はこの日の為にずっと前から作っていた剣を取り出す。
剣と言っても、鉄板を無理矢理加工して、剣っぽくしただけの物だ。
「………クルル」
思わずクルルの名前を呟く。
本音を言えば、クルルにお別れを言いたかった。
だが、もしそれをしてこの脱出計画が潰されれば意味がない。
俺の我儘で皆を危険な目には合わせられない。
そう思ってると扉が開き、ミカと優、そして、孤児院の子供たちが出て来る。
「よし、じゃあ逃げるぞ」
俺とミカ、優が先頭になり、全員を連れて走る。
そして、あっさりと外に続く門へと着いた。
「あっさり門に着いちゃったぞ。マジでここ出口なのか?」
「うん……地図によるとそうなるね。てか、吸血鬼も人間が逃げるなんて思ってなかったんだろうね。外はウイルスだらけだし」
「でも、近すぎるだろ」
「家畜小屋と一緒だ。隙間が空いていても家畜は逃げ出さない。バカにされてんだよ」
「でも、俺らは逃げる」
そう言う優の目には確かな決意の色が見えていた。
「家畜じゃないからねぇ。なんせ僕天才なんで」
「僕も天才!」
「僕もー」
「はははじゃあ、百夜孤児院の僕らは皆天才ってことで」
「ただし優は除くってな」
「その通り」
「その通りじゃねぇよ…………さぁ、行こうぜ」
「ああ」
門に向かって歩き出そうとした瞬間、靴が響く音が聞こえた。
「あはぁ~。待ってたよ。哀れな仔羊くんたち」
現れたのはフェリドだった。
そうしてここに…………
フェリドの登場に俺もミカも、優も唖然とした。
「そうその顔♪希望が突然消え去る時の人間の顔。だから、この遊び止められないんだよね~」
「遊びって……まさか……罠……」
次の瞬間、フェリドは一瞬で消え、俺達の間を風が通り抜ける。
背後にはフェリドがいて、フェリドは一人の子供の首に牙を突き立て、血を吸っていた。
「あれー、一気に吸ったらもう死んじゃった」
血を全部抜かれ、死んでしまった子供はそのまま地面に落された。
「くっ……そおおおおおおおおお!!」
優はミカから渡された銃を抜き、フェリドに撃つ。
だが、フェリドは弾を避ける。
「……弾を……避けた……?」
「優、無駄だ!この距離じゃ、アイツには銃なんか当たらない!」
「あれぇ?それ僕の銃じゃない。地図だけじゃなく銃も盗ったんだ。いいねぇ、君ら。まだ抵抗できる元気あるんだ。じゃあ、もう一つ希望を上げよう。実はその地図、本物なんだ。だから、君たちの後ろの道を真っ直ぐ走れば、外の世界に出られる。外に出られたら、僕はそう簡単には追えない。希望と絶望の狭間で、君らはどんな声で鳴くのかなぁ?」
「………に、逃げろ!皆走れ!出口まで!早く!」
優は大声をあげ、子供たちに逃げるように言う。
子供たちは慌てて後ろに向かって走り出す。
「ミカ!カズ!俺たちで足止めするんだ!皆が逃げるまでの時間を稼ぐぞ!」
「言っただろ?」
フェリドはまたしても一瞬で俺達の間を通り、そして背後に立つ。
「僕は君達の絶望した顔が観たいんだよ」
そう言い、子供の首を刎ね飛ばした。
「や、やめろお!!」
ミカが叫ぶが、フェリドは次々と子供たちを殺していき、そして、最後の一人を殺した。
「……優ちゃん、銃を貸して」
美香は優から銃を奪い、フェリドの方へと歩く。
「僕が体を張ってアイツを引き付ける。優ちゃんとカズちゃんだけでも逃げて」
「ふ、ふざけんな馬鹿野郎!そんなことできるわけ……!」
「……優ちゃん。忘れないで、僕たちは家族だ。カズちゃん………優ちゃんをお願い」
そして、ミカはフェリドに向かって走り出す。
「ふざけんじゃねぇよ、バカミカ」
しかし、俺はミカの足を引っ掛け転ばす。
「ちょ、何するのさカズちゃん!?」
「優をお願いだ?そんなもん願い下げだ。優の面倒なんか見れるか………優の面倒はお前が見ろ」
「え?」
「じゃあな!」
ミカが落した銃を拾い、手製の剣を握り、フェリドに向かって走り出す。
「ミカエラ君の血は美味しかったけど、君はどうかな?」
「知らねぇよ」
銃を向け、引き金を引こうとするが、フェリドは一瞬で銃を弾き、そして、俺の腹部に向かって手刀を放つ。
それを剣でガードし、再び銃を向ける。
すると、フェリドは俺の腕を斬り落として、銃を捨てさせ、さらに、力を込めて剣をへし折り、俺の腹部を貫く。
「がっ!?…………今だ………やれ、優、ミカ」
優は俺の手から離れた銃を掴み、至近距離からフェリドの頭を撃ち抜いた。
そして、ミカも折れた剣を手に、フェリドの頭に剣を突き刺す。
フェリドは頭から血を流し倒れ、動かなくなる。
優は銃を捨て、俺に駆け寄り、ミカも慌てて駆け寄ってくる。
「カズ!」
「カズちゃん!」
「…………行け、優、ミカ…………地図の通りなら………出口はすぐだ…………」
「何言ってんだよ!?カズも一緒に行くんだ!」
「俺は置いて行け………どの道……この怪我じゃ助からない………急がないと追手が来る………」
俺の言う通り、遠くから走ってくる吸血鬼の足音と声が聞こえる。
「早く行け………俺達を………無駄に……しないでくれ………」
「………嫌だ」
優は涙を流し、その涙が俺の頬を濡らす。
「俺の……家族……やっと………手に入れたのに…………置いてなんかいけるか………!」
その時、俺の視界の端に走ってくる吸血鬼が見えた。
「行け!バカ優!ミカ、早く優を!」
俺は最後の力を振り絞り、優を突き飛ばす。
ミカは涙を何度も拭きながら立ち上がり、優の手を掴む。
「優ちゃん……行こう」
「………くそ……!」
そして、二人はそのまま振り返らず、出口へと向かった。
「………優……やっと家族って言ってくれたな………それだけで………俺はもう十分に…………嬉しいよ……………」
第三者SIDE
優とミカは必死に走った。
走り、そして道の先に光を見付けた。
そして、出た先で見たのは街だった。
最後に見た火事で燃えた家やビルではなく、修復された街だった。
「……なんだよ……これ……大人は皆……死んだんじゃなかったのかよ……世界は滅んだんじゃなかったのかよ………」
「見てよ、カズちゃん………全部……吸血鬼の嘘だったんだね………」
膝を付き、所奥を受けている優とミカの背後に黒い軍服を着たおとこが近づく。
その男に気が付き、二人は振り向く。
「居たぞ。《予言》通りだ。日本を壊滅させた百夜実験場の被験体の二人が現れた。少年、吸血鬼退治の為にお前を利用させてもらうぞ」
「………ああ、望むところだ」
「吸血鬼どもを……滅ぼせるなら!」
優とミカは立ち上がり、そう言う。
そして、ここから
世界の滅亡と
吸血鬼
天使
悪魔と
彼等の戦いが始まった。
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