インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ (ラ・ピュセル)
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プロローグ

~unknown~

 

周りは何もかも赤かった。夜が来ることを告げる夕陽の赤、燃え盛る炎の朱、そして地を染める鮮血の紅。その中に佇む男が一人。その男もまた赤く染まっていたが、彼の血ではない。彼が抱いている女性の血であった。

 

「すまない、フィリス…。私のせいだ…すまない…」

 

彼は彼女に話しかけるが反応はない。既に息絶えている。しかし彼は続ける。

 

「必ず、君の願いを成就させる。戦いの終焉を成就してみせる…!」

 

彼は歩き出す。彼女を抱き抱え何処へと。

 

 

~students~

 

 

いつも通りに目が覚める。いつもと変わらない朝、変わらない部屋。そして、ほぼ毎日起きるとベッドの中に潜り込んでいるもの。一応と思って中を覗くとやはりいる。長い銀髪に赤い瞳、眼帯を左目に着けた少女。

 

「なんかもう、慣れてきちまったな。慣れちゃいけない気もするが」

 

ただいつもと違う。珍しいことにラウラがまだ眠っているのだ。普段なら先に起きているか、自分が起きて動き始めるとラウラも起きるのだが、起きる気配がない。ふと時計を見ても、平均の起床時間より1、2分早いくらいだ。電波式なのでずれてもいない。

 

「そういえば、今日は朝の鍛練をする予定だったな」

 

熟睡しているラウラを、わざわざ起こすのも申し訳ない。それにいつものパターンになりそうだ。ラウラを起こさないように、静かにベッドから起き支度を整える。部屋の鍵は…、起きて俺がいないと気付くとすぐ出るだろう。

 

 

支度を整え廊下に出ると丁度、見慣れたポニーテールの少女が歩いてきたところだった。

 

「い、一夏!?き、今日は珍しく早いな!」

 

「ん、そうか?まぁ平均より1分くらい早く起きたのは確かだけど、そこまで驚くことか?箒」

 

すると箒は慌てて返事をする。

 

「い、いや、そんなことはない!ただいつもなら、部屋に入った時点でもお前がまだ寝ているのに、今日は準備をして部屋から出てきたから気合いが入っていると思っただけだ」

 

「大袈裟だなぁ、偶然早く起きただけだ。さ、早く鍛練しようぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

そうして、歩き出そうとした瞬間、爆発音のような音と軽い振動が辺りに響き渡った。

 

「何だ今のは!?」

 

「アリーナの方からしたぞ」

 

同時、彼らの教師・織斑千冬から連絡が入った。

 

『専用機持ちの生徒に通達する。専用機持ちは至急アリーナに集合しろ。一般生徒は寮、又は校舎内に避難および待機。以上だ―』

 

「急ぐぞ、箒!」

 

「解っている!」

 

とにかく、アリーナへ急がないと!



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第1話

アリーナに到着して、一夏と箒はその光景を目の当たりにする。アリーナの中央、直径50メートル程のクレーターができている。更にその中心に横たわる機体がある。全身が黄金色のカラーリング、モチーフはライオンだろうか?動物のような曲線的なフォルムをしている。

 

 

程なく、他の専用機持ちのメンバーも集合する。全員が揃ったことを確認し、千冬が話を始める。

 

「お前たちに集まってもらったのは、見ての通りこの機体の対処をしてもらう為だ」

 

するとセシリアが

 

「先生、あの機体について判明していることはありますか?わたくしはあのような機体は存じ上げませんが」

 

続けて鈴、シャルロットも言う。

 

「アタシも知らないわ」

 

「ボクもあの機体は知らないよ」

楯無も同様に

 

「んー、私も思い当たるとこは無いわね」

 

「知らなくて当然だ。なにせISではないからな」

 

その言葉に一同が驚愕する。

 

「ISではないとは、どういうことなのですか?ISのひとつにしか見えませんが」

 

ラウラの発言はもっともだ。確かに見たことのない機体だが、基本的なデザインは自分達が使うISに酷似している。

 

「出来る限りのスキャンをした結果、ISのコアの反応がなかった。ステルスに対応したスキャンをしても結果が同じだ。機構等は殆どISと変わらないがな」

 

その瞬間、謎の機体が光りだした。全員が警戒したが、機体は光の粒子となって消え、1人の男と1匹の猫が残っている。両方とも意識を失っているだけのようだ。

 

「武装の類が無いか確認し、医務室に運べ。猫の方も、ケージを用意して入れておけ」

 

「一夏、その人の方お願い」

 

「あぁ、わかった」

 

「では私が手伝おう」

 

俺とラウラで男を医務室へ運んでいく。その男は見たところ、自分達と年が近いくらいの外見だった。細身の長身、白い短髪、つなぎを改造したような白衣という見た目。そして、運ぶ為に彼に触って気付いた。左腕が無いのだ。流血していないため、ここに来た時に無くなった訳ではないのだろう。いったい、彼がどのような経緯でここに来たのかが気になるが、彼が起きなければ始まらない。今は医務室へ運ぶことが最優先だ。

 

 

 

3時間程して再び召集がかかった。あの男性が目を覚ましたらしい。教室にいた為、他の面子と共に医務室へ向かう。

 

医務室に入ると千冬と楯無、その二人の隣のベッドに先程の男性が、上半身を起こした状態でいる。医務室に入ってきた自分達に気付くと穏和な感じの笑みを浮かべる。その瞳は赤色だった。赤といっても真紅という言葉が一番近い表現だと思える紅い瞳をしていた。



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第2話

「よし、全員集まったな。それでは説明を頼む」

 

千冬がそう言うと、男性が会釈をして話を始める。

 

「治療して頂きありがとうございます。私の名はロットウェル・ヴィクターといいます。お好きなように呼んで下さい。」

 

「貴様がここに来たのは何が理由だ?」

 

始めに口を開いたのはラウラだった。いきなりキツい口調だが、仕方ない。理由がこちらに危害を加える内容かもしれないからだ。

 

「わかりました。では、私が何者なのか。そこから説明させて頂きます」

 

彼は静かに語り出した。

 

 

 

「私はある研究をしていました。人類の救済を目的とした研究です」

 

人類の救済?一体何の研究なんだ?

 

「パラレルワールドという概念をご存知ですか?」

 

シャルロットが答える。

 

「ある選択肢において『もしこっちを選んでいたら』というイフの世界、そしてそれが平行かつ無限に世界が存在するっていう概念ですよね?」

 

「大方そんな感じですね。付け加えて言うと、その平行世界は我々人類が意図的に選択した可能性だけでなく、自然に発生した出来事の可能性で変わる世界もあるということです。簡単な例だと『もし恐竜が絶滅しなかったら』というような可能性ですね」

 

「ですが、それが貴方の言う人類の救済とどのように関係があるんですの?」

 

「私の研究は、平行世界の観測。そして、自分のいる世界に適用できるか検証することでした」

 

「もっと解りやすく説明しなさいよ!」

 

鈴がイライラしながら言う。確かに理解が追いつかない。

 

「そうですね。簡単に言うと、他の世界での成功例を自分のいる世界に適用できるかを検証するということです」

 

「だが、あくまで『あるかもしれない』というだけの話だ。不可能な話だと思うが?」

 

「ええ、確かに確証の無い話と思うでしょう。しかし私は目の当たりにしたのです。明らかに私のいた世界とは異なる技術をもった人間を。その為、私はこの研究を始めたのです」

 

?『私のいた世界』?ということは…

 

「もしかして、あなたは此処とは違う世界から来たんですか?」

 

「え?あぁ、そういえば言ってませんでしたね。はい、私は別の世界から来ました」

 

「「「ええーーー!?」」」

 

さ、さらっと凄いこと言ったよこの人!

 

「まぁ別の世界と言っても、見たところ文明の発達の仕方や段階等は、私のいた世界と同レベルのようなので特に違いは無いかと」

 

「服装は変わっているがな」

 

そこは関係ないだろ、ラウラ。

 

「さて、話を戻しましょうか。私はこの研究を、人類を導く熾天使の名を借り『セラフプロジェクト』と名付け研究を開始しました」



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第3話

「ここから、本題の話に移りましょう。私が使っていた機体が何なのか。何故ここに来たのかということについて」

 

そう、一番の疑問はそこだ。この人が何をしようとしていたのかは、大まかにだが理解できた。だけど、何故そこから自分達のいるIS学園に来たことに繋がるのか?

 

 

 

「あの機体の名は黄金獅子《こがねじし》、セラフプロジェクトで作ったシステムを行使する為の機体です。先程、セラフプロジェクトの内容はお話しましたね」

 

「自分のいる世界に他の世界の事象が適用できるかというものですよね」

 

「はい。実際には、条件を指定し該当する平行世界を絞り込みます。そして平行世界へ向かい情報を集めるという計画です」

 

箒が手を挙げる。

 

「つまり、あの機体は平行世界への移動手段ということでしょうか?」

 

「ほぼ正解と言いましょう。確かに黄金獅子は他世界への移動手段です。そして移動後の防衛手段でもあるのです」

 

ラウラが頷きながら答える。

 

「当然だな。初めて足を踏み入れる場所では、何が起こるか予想出来ない。身を守る手段を持たないで行くなど、あまりに危険すぎる」

 

「その通りです。あの機体には、あらゆる状況下でも活動できるように一通りの生命維持機能と、光によるエネルギー確保が可能なシステムを組み込んでいます」

 

シャルが質問をする。

「もし行った先が、光の全く無い世界だとどうするんですか?」

 

「人類が生存する上で、空気・水・光が無くては生存できません。よって、検索の段階でこの条件を満たしていない世界は除外してあります。そして、30分のチャージで半日は連続稼働が可能な計算です」

 

「かなりエネルギー効率が高いですわね。私達のISを優に越えていますし、箒さんの紅椿の『絢爛舞踏』よりもエネルギー生成の方法の点で、上回っておりますわ」

 

セシリアが冷静に分析をしている。

 

成る程、自分達のISは確かにエネルギー効率も重要だが戦闘を目的として設計されている。しかし黄金獅子はあくまで、情報収集・その間の動力源の確保が重要になっている。元になる目的が変わると、ここまで仕様が違ってくるのか。

 

 

 

「一つ確認しておきたい。その黄金獅子とやらは、私達の扱っているISと同じものか?コアの反応は無かったが」

 

千冬が問いただす。

 

「皆さんの様子からすると、黄金獅子は皆さんの言うISに酷似したもののようですね。実際に比べてみないとわかりませんが、恐らくシステムが違うくらいでしょうね。黄金獅子にもコアが…、忘れてた!あの、猫いませんでしたか!?白い毛並みの!」

 

い、いきなりでびっくりした!

 

「今、別の部屋で山田先生にみてもらってる。連絡して連れてきてもらうとするか」

 

あの猫、それほど大事なのか?



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第4話

暫くして、山田先生が猫を抱えて医務室に入ってきた。全身白い毛並み、金と銀のオッドアイの珍しいというか、どこか不自然な感じの猫だった。

その猫は、ヴィクターさんを見るなり山田先生の腕から抜け出て、駆け寄っていく。膝上まで行くと、ヴィクターさんに甘え始める。

 

「か、可愛い…」

 

ラウラが触りたそうにウズウズしている。

確かに猫のこういう仕草は可愛いけど、そういう話じゃないだろ。この猫が黄金獅子にどのように関係があるのかということだが…

 

「ごめんな、お前を放置してて。寂しかったろう?よしよし。あぁ、いつ触っても気持ちいい毛並みしてるなお前は」

この人、なんかマイペース過ぎる気がしてきた。

 

 

 

「すみません、話が脱線してしまって」

 

ヴィクターさんに撫でてもらって落ち着いたのか、猫は彼の膝上で丸くなっている。

箒がヴィクターに聞く。

 

「さっき、コアの話をしてて猫のことを思い出したということは…」

 

「はい、この子の名前はフラン。私のパートナーであり、黄金獅子のコアです」

 

「やはり。でもどうしてその猫がコアになっているんですか?」

 

「そのことを含めて、先程の話の続きをしましょう。ここからは、此処に来た経緯の話となります」

 

 

 

「セラフプロジェクトは順調に進んでいましたが、ある壁に突き当たったのです。世界を調査しようにも、それは機械によるデータ上だけのものになることです」

 

「それってどういう問題があるわけ?」

 

鈴の質問にヴィクターが答える。

 

「生物の感情、データ化出来ない部分がどのようになるのかが不明なのです。いくらよい環境といっても、ストレスが溜まりやすいといった環境であるなら、最適とは言えません」

 

「それって、機械の判断が当てはまらない場合があるってこと?」

 

「えぇ、その為コアには生物の意識を組み込んだものが必要だったのです。しかし、人間の意識をコアに組み込むには、莫大な演算能力が必要になり実質不可能な話でした」

 

「それでこの猫が、コアに組み込まれているという話ですの?」

 

ヴィクターが頷きながら答える。

 

「前提として、人間社会に接点がなければ意味がありません。その中で猫が一番適していたので、フランをコアに選んだのです」

 

そこまで言うと、ヴィクターがフランに話しかける。

 

「さて、このままじゃ少し不便だからそろそろ頼むよ」

 

それに対し、フランが目を見開く。それと同時にフランの体が一瞬金色に輝いた。

すると、ヴィクターの左側に金色の粒子が現れ集まっていく。光が収まると先程見た黄金獅子の腕のようになっており、ヴィクターの肩にくっついている。ヴィクターがその腕を触りながら言う。

 

「フランが近くにいないと、これが使えないんですよ」

彼はそう言うと、服を上半身だけ脱いだ。その左胸には燃えるように光る球体が埋め込まれていた。



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第5話

「ヴィクターさん、その胸のは…?」

 

彼の左胸に光る球体がある。それは炎のように明滅し、心臓のように脈動している。

 

「これが、黄金獅子第2のコアです」

 

「何故貴方の体に?黄金獅子のコアは、フランちゃんに組み込まれているんですよね?」

 

山田先生が恐る恐る聞く。

 

「えぇ、本来ならフランの中にあるコアで充分なのですが、私の胸にあるのは私自身の延命措置です」

 

「延命?一体何があったんですか?」

 

ヴィクターの表情が少し曇ったが、彼は淡々と話を続ける。

 

「コアの完成により、プロジェクトは最終段階に入り始動も間近でした。しかし、私の研究を利用しようとしたのでしょう。ある組織が強奪しようと襲撃をしてきました」

 

自分達にも似た経験はある。クラス対抗戦での無人機の襲撃や、学園祭では白式を亡国企業に強奪されかけたこともある。

 

「あくまで探索のための機体で、武装は皆無に等しく迎撃は不可能でした。私は黄金獅子を奪われないために、強引に起動させ次元跳躍を行ったのです」

 

「それで私達のところに来たって訳?」

 

「いえ、この世界には5回目の跳躍でたどり着いたのです。最初の跳躍の際、無理矢理の動作だったため私の体にも影響があり、心臓の6割が破損、左腕も損失してしまいました」

 

「そんな死にかけた状態から、よく生き延びられたものだな」

 

話についていけないが、とんでもない体験をしているのはよくわかる。

 

「幸いにも、悪用されることを恐れ、所持していた試作品のコアがあったため、試作品のコアを黄金獅子と繋げ、私の心臓の代わりにして生き延びることが出来ました」

 

ヴィクターが服装を正しながら話を続ける。

 

 

 

「咄嗟の跳躍ゆえ、元の世界の情報を入力しておらず戻れなかった私は、黄金獅子の再調整を行い、そのまま世界を放浪していました。そしてここの前の世界に着いたとき、その世界では戦争の真っ只中でした。私も巻き込まれ、その戦いの最中機体を損傷し、緊急手段として跳躍を行い、ここにたどり着いた。以上が、私がここに来た経緯です」

 

 

 

「素性はわかった。その上でひとつ訊こう。お前は私達に敵対する意思はあるか?」

 

千冬が問いただす。それに対しヴィクターは、

 

「貴方方とは初対面ですが、悪い人物には見えません。それに…」

 

フランを撫でながら続ける。

 

「もし貴方方が危害を加えるつもりなら、この子が警戒しています。こんなに穏やかに眠っているのが、貴方方が信頼できる人物という証拠です。何より怪我の治療をして頂いた方々に敵対する理由などありません」

 

「そうか、ところで歳はいくつだ?」

 

「へ?20歳ですが…」

 

「よし、ならお前にはこれからIS学園の生徒として生活してもらう」

 

「「「えぇーーーー!?」」」



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第6話

「どういうことだよ、千冬姉!?」

 

パコンッ!!

すかさず頭部に衝撃が走る。

 

「織斑先生だ。何度も言わせるな。生徒になれと言ったのは事態を大きくさせない為だ。『ISではない。しかしほぼISと同じ物』、そんなものが世の中に知れ渡ってみろ。各国が何をしでかすか知れたもんじゃない。それなら、ISの研究の一環という名目で保護し、それの使用者としてこいつを生徒にするのが、一番の得策だ」

 

千冬は箒の方を見ながら、

 

「それに、アイツが絡んでくる可能性は低いとは言えない」

 

成る程、束さんのことか。確かにこんな状況を知ったら絶対飛んでくる。いや、多分もう情報を掴んでるかもしれない。

 

「というわけだが、一応本人に了承を得なくてはな。」

 

ヴィクターも頷きながら言う。

 

「重ねて感謝を申し上げます。私も貴方方に協力いたしましょう」

 

ヴィクターが手を出し、千冬も同意するように握手をする。

 

「さて、さっそくだが関連機関への報告として、黄金獅子のデータ収集をさせてもらいたいが大丈夫か?」

 

「構いませんよ。ですが、次元跳躍のシステムに関わるデータだけは秘匿として頂きたいのですが…」

 

「わかった、それは保証しよう。それと…、ボーデヴィッヒ」

 

千冬が唐突にラウラを呼ぶ。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「少し、ヴィクターと手合わせしてみろ」

 

ラウラが納得したように頷く。

 

「機動性能のデータ取りですね」

 

「ああ、強い相手とならデータが取りやすいが、更識だと差が大きすぎるだろうからな」

 

「じゃあアリーナの準備をしてきますね」

 

山田先生がそう言って部屋から出ていく。

 

「あの、摸擬戦て言っても戦闘は大丈夫なんですか?」

 

俺は少し心配になってきた。さっきの話からだと、戦闘は苦手な様子だったが…。

ヴィクターは気楽に言う。

 

「それなら大丈夫です。少し矛盾した話ですが、私は非戦主義でありながら、それなりに戦えますよ」

 

「どういうことですか?」

 

「私が戦う時は、結果として人命が失われることが無い。もしくは、逆に私が戦って人命が救われる場合という話です。私が関わって人が亡くなるのは、私の主義に反します」

 

成る程、つまり相手を殺さない摸擬戦なら戦えるって話か。

 

「さてと、そろそろ私達も準備しないと。すみませんが、摸擬戦の場所まで案内して頂けませんか?」

 

ヴィクターがベッドから出る。

俺は思っていたことを言う。

 

「敬語じゃなくていいですよ。貴方の方が年上ですし、これから一緒にいる仲間ですから」

 

ヴィクターは少し驚いた反応をしたが、すぐに笑みを浮かべて手を差し出す。

 

「わかった。これからよろしく、一夏。私の方も同じようにして欲しい」

 

俺は頷きながら手を握る。

 

「ああ、わかった、ヴィクター。こちらこそよろしく」



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第7話

俺達はアリーナに移動してきた。

すでにラウラとヴィクターは、アリーナの中央で機体を展開し待機している。

自分達は千冬姉、山田先生と一緒に管制室にいる。

千冬姉が告げる。

 

「それではこれより、ラウラ・ボーデヴィッヒ、ロットウェル・ヴィクター両名の摸擬戦を始める。制限時間は10分、時間切れかどちらかが続行不可になった時点で終了とする。尚、今回はデータ収集の為、勝敗の優劣はつけない。二人共、準備はいいか?」

 

千冬姉の問いに、二人は無言で頷く。

 

「よし、それでは始め!」

 

先手を取ったのはラウラだった。シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンが火を吹く。対しヴィクターは、急な砲撃にも動じず、最小限の動作で砲弾を躱す。

初手を躱されたことを気にも止めず、ラウラは砲撃を続ける。

連続の砲撃を、ヴィクターは飛翔することで回避する。

しかしそのスピードは、自分達のISより数段上のものだった。

 

「何あれ!?あれで素のスピードなの!?アタシ達のISでも、高機動パッケージ状態じゃないと出せないスピードと同等じゃない!?」

 

鈴が驚嘆の声を漏らす。

その時、砲弾がヴィクターに直撃しそうになる。恐らくラウラが、軌道を予測して撃っていたものだろう。

回避が間に合わず、直撃する。その瞬間、黄金獅子が一瞬ぼやけて見える。すると、直撃すると思われた砲弾が消えた。それと同時にラウラの近くで爆発が生じる。

 

「ほう…」

 

それを見た千冬姉が、面白そうに笑みを浮かべる。

セシリアが困惑しながら千冬姉に尋ねる。

 

「先生、今何が起きたのかわかったのですか?」

 

「ああ、機体はかなりのスペックだが、それ以上にヴィクター本人が人間としてのスペックを超えている。なにせ砲弾を掴んで投げ返したんだからな」

 

砲弾を投げ返した!? 逸らしたり、弾くならまだわかるが、投げ返すって常人離れしている!

 

「砲弾が当たる前に、横から力を加えている。それだけなら『逸らす』ことになるが、通常一瞬だけ加える力を任意の方向に軌道変更ができるレベルで加え続けていた。弾を見切り、投げ返すなんていうのは、並外れた動体視力と運動能力を兼ね備えている証拠だ」

 

出鱈目すぎる。しかも、さっき投げ返した位置はラウラのすぐ近くだった。そんな離れ業をやって、その上精密に狙っている。千冬姉の言う通り、人間を超えているといっても過言ではない。

 

「なかなかやるな。ならこれならどうだ!」

 

ラウラが次の手に出る。ワイヤーブレードを飛ばし、ヴィクターの上下左右、そして後ろを囲む。そこに砲撃を加える。投げ返そうとすればワイヤーブレードに搦め捕られるという算段だろう。

今度こそ当たる。そう思ったときだった。

 

グオオオオオォォォォォォォッ!!!

 

獅子の咆哮が鳴り響いた。



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第8話

ワイヤーブレードにより退路を断たれ、唯一とれる行動が、ガードして少しでもダメージを減らすしかない。全員がそう思った時、獣の雄叫びのような音が周囲に響き渡る。

その直後、ヴィクターを囲っていたワイヤーブレードが弾かれたようにしなり、砲弾もヴィクターに当たる前に爆発、四散した。

攻撃を防ぎ切ったヴィクターは急接近し、格闘戦に持ち込もうとする。

 

「くっ!まだまだ!」

 

ラウラもプラズマ手刀を展開し応戦する。ヴィクターは、始めから腕に付いていた爪で格闘戦をするようだ。動物のような四足歩行に見える構え方をとり、人型では出来ないような挙動でラウラを翻弄している。

 

「先程の現象、解析が完了しました!」

 

山田先生が声を上げる。

 

「さっきの、ワイヤーブレードが弾かれたようなのですか?」

 

箒が確認を取る。

 

「はい。あの現象は振動によるものです。共振というものを知ってますか?」

 

俺は覚えていることを口にする。

 

「えーと、物体が振動するとき、その物体が特定の振動数に達すると、振動だけで物体が自壊するっていうものですよね?」

 

「ええ、ですが彼のやっているものは規模とプロセスが違います。彼は空気の振動で音が伝わるのと同じ理屈で、対象に振動を与えています。また、その振動は振動数があまりに大きくなっていて、物理的な干渉が大きくなっています。結果的に振動が空気中に見えない壁のようなものを成形し、それに触れると振動が伝わり自壊、もしくは弾かれるのだと思われます」

 

シャルが顎に手を当て思案する。

 

「つまり彼相手の場合、物理攻撃は効かないってことか。僕の武装は実弾兵器がメインだから相性が悪いな」

 

「それだけじゃありません。元が振動のため遠距離武装としても機能することが可能です」

 

ふと、フィールドを見ると凄まじい光景だった。フィールドのあちこちに、爪で切り裂いたような痕が残っている。二人の方はいまだ格闘戦をしている。ラウラは疲労が目に見えているが、ヴィクターは勢いが全く衰えず攻め立てている。

ヴィクターの強烈な一撃が入ろうとした瞬間、動きが止まる。ラウラの方に目を向けると、左目が光っている。AICを発動させたのだ

 

「もらったっ!!」

 

ラウラがプラズマ手刀を構え突貫する。流石にAICを使えば妨害は無いと判断したのだろう。躊躇なく突っ込んでいく。

そこに獅子の咆哮が襲いかかる。モニターに表示されてる、ラウラのシールドエネルギーが急速に減っていく。

ヴィクターが冷静に話す。

 

「貴方の動きを止める能力、確かに脅威だが欠点が一つ。その力は対象の外側を止めるだけだということ。その内側から生じた実体の無いものには停止が効かないことです。だから黄金獅子の『轟獣烈破』は防げなかった」

 

千冬姉がアナウンスで宣言する。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒの続行不可により、摸擬戦を終了とする!」



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第9話

今俺達は食堂にいる。千冬姉と山田先生は関連組織への報告、ヴィクターの編入手続きで職員室に向かった。俺達は何をしていたかというと、ヴィクターにIS学園を案内していた。

「他の生徒が騒がしくなるから」と千冬姉に言われ、教室はまだ案内していないが、あらかた案内は終わったため食堂に移動してきたところだった。

摸擬戦のことで不機嫌だったラウラも、フランがすり寄って来るや否や、すぐに機嫌を直し一心不乱に愛でている。箒達、他の6人も順番にフランと触れあっている。

そんな中、俺とヴィクターは色々と話をしていた。

 

「成る程、一夏と千冬さんは姉弟関係か。道理で目元が似ていると思った」

 

「似ているって言われると、なんか照れくさいな。まぁたった一人の家族だから、そう言われるのは嬉しいけどな」

 

「家族、か…」

 

ヴィクターはそう言って、窓の外を見つめる。

どうしたのかと思うと同時にチャイムが鳴る。昼休みを知らせる鐘だ。

 

「あ、ちょっと移動したほうがいいかも」

 

「どうした?一夏」

 

ヴィクターは状況がわからないようだ。

すると声が聞こえてきた。

 

「ねぇねぇ、お昼どうする?」

 

「昨日は和食だったから、洋食にしよっかなー」

 

午前の授業を終えた女子生徒が、ぞろぞろと食堂に来る。その中の数名がこちらに気付く。

 

「あ!織斑君たちだ!」

 

「ホントだ!途中から教室にいなかったけど、どうしたの?」

 

そういえば、授業の途中で抜けてきたんだった。

 

「あぁ、ちょっとな…」

 

どう説明しようかと考えていると、ヴィクターの存在に気付き視線を向ける。

 

「え!?誰この人!?一夏君の知り合い!?」

 

「ていうか、ここにいるってことは、もしかして転入生!?2人目の男子!?」

 

あー、やっぱりこうなった。本来女子しかいないから、ここでの男の存在はイレギュラーなのだ。なにせISは女性にしか扱えない筈だからだ。そんな中に男がいれば、当然こういう反応をするだろう。実際自分がそうだった。

 

「何を騒いでいる、馬鹿者が!」

 

騒ぎを聞きつけた千冬姉が一喝する。すると途端に静まり返る。

 

「まったく。顔合わせは明日にするつもりだったが、まぁいい。今やるか。

こいつはこれから、お前たちとここで生活することになった。おい、お前からも自己紹介しろ」

 

千冬姉に促され、ヴィクターが皆の方に向き話す。

 

「皆さん初めまして。ロットウェル・ヴィクターと言います。お好きなように呼んでください。ご迷惑をかけるかもしれませんが、これからよろしくお願いします」

 

こうして、IS学園生徒とヴィクターの顔合わせは終了したのだった。



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第10話

食堂での一件の後、俺達は午後の授業を受けていた。ヴィクターは編入手続きやら何やらで、千冬姉、楯無さんと共に別行動をとっている。

ヴィクターは俺と同じ部屋で過ごすことになったため、授業が終わったら寮の説明と部屋の案内をするように言われた。

そういえば、あの寮って猫とか大丈夫だったんだろうか?

 

 

~traveler~

 

 

「さて、お前とはもう少し話がしたい。まだ話していないことがあるのだろう?べらべら喋る馬鹿はいないから聞かせて欲しい」

 

目の前の女性、織斑千冬は開口一番そう言った。今、部屋には千冬、楯無、ヴィクターの3名だけがいた。

 

「気付いてましたか。出来ればあまり、話したくなかった事ですが…。わかりました、話しましょう」

 

 

~roommates~

 

 

今は寮の自室にいた。ヴィクターに部屋の案内をし、近くのショッピングモールに必要なものを買いに行き、帰ってきたところだ。ちなみに寮にペット関係のものがいるのは問題ないらしい。

時計を見ると、時刻は午後6時だった。

 

「よし、そろそろ飯食いに行くか」

 

そう言って立ち上がった時に、ふと気づいた。昼休みのときのように質問攻めになり、ゆっくり食事できないのではないか?

そのことをヴィクターに聞くと、

 

「構わないよ。素性に関わるのは答えられないが、一緒に生活していくなら、出来るだけ自分の事を相手に知ってもらうのが大切だからな」

 

それもそうだ、と相づちをうち、ヴィクターと共に食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

 

食堂に来るや否や、女子生徒が俺とヴィクターのもとに殺到する。さすがにヴィクターも困惑するだろうと思った。すると、

 

「ええ、では食事を取りながらお話しましょう。あまり多くは答えられないかもしれませんが、できるだけお答えしましょう」

 

…前言撤回。余裕で対応していた。あの状況でよく冷静でいられるものだ。4つも年が離れていると対応の仕方がこんなにも違うものなのか…。

 

 

今、自分のいるテーブルにはいつもの面子の6人が同席している。ヴィクターはというと、「一夏達がゆっくり食事できないだろう」と言って別のテーブルで質問攻めに答えている。

 

「正直、ヴィクターのことはどう思う?」

 

こう切り出したのはラウラだった。それに対しシャルが答える。

 

「経歴については、包み隠さず話してくれたみたいだけど、まだ気になる部分はあるよね。例えば、いくら戦闘に心得があるって言っても、初見の相手に対してあの強さは異常過ぎるよ。ラウラのAICも、知らなかったはずなのに受けてから一瞬で理解してたし」

 

その言葉に全員が頷いた。

本当に彼は、いったい何者なのだろうか?



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第11話

食事を終え、部屋に戻ってきた俺達は部屋の整理をしていた。散らかしていた訳ではないが、今までこの部屋を1人で使っていたため、スペースを広く使っていた分を本来の1人分のスペースに収まるように整理をする。

 

「よし、後は自分でやっとくから、ヴィクターはシャワー浴びてこいよ。早く休みたいだろ?」

 

「じゃあお言葉に甘えて…。おいで、フラン」

 

フランが尻尾を振りながらついて行く。一般的な猫って、水が苦手でそれに関連してシャワー等も嫌いと聞くが、フランは違うらしい。

 

 

数分後、ヴィクターがシャワーを終え、入れ替わりに自分もシャワーを浴びる。シャワールームから出ると、ヴィクターの姿がない。代わりにテーブルの上にメモがあり、そのメモには『少し散歩してくる』と書かれていた。

 

 

~Regret~

 

 

ヴィクターはフランを抱きかかえながら、月を眺めていた。逆の手にはペンダントがある。そのペンダントの蓋は開いていて、曲が流れている。少し悲しくなるような曲調だが、どこか安らぎを得る曲である。

 

「この曲好きだったよな。お前も、あの人も…」

 

そう言うと、フランがこちらを見上げてくる。

 

「ここでなら元に戻せるかもしれないな、フラン」

 

その頬には、一筋の涙があった。

 

 

 

~School~

 

 

 

次の日。支度を整え今は教室にいる。ヴィクターは黄金獅子のメンテナンスをしてから行くと言っていたため、一人で教室に来ていた。

 

「一夏、ヴィクターはどうした?」

 

箒が訪ねてくる。経緯を説明すると納得したように頷く。

 

「成る程、いい心掛けをしているんだな」

 

そんなことを話していると、教室の扉が開きヴィクターが入ってくる。生徒ということで、俺が着ているのと同じ制服を着用しているのだが、元々の服装が白を基調にしていたこともあってか、違和感なくかなり似合っていた。

教室に入るなり、女子生徒がヴィクターに殺到する。

 

「なんか、前の自分を見てるみたいな気分だ」

 

こう言うと、セシリアが応じる。

 

「本当ですわね。入学当初の一夏さんもこのような感じでしたものね」

 

よく見ると、廊下の方にも殺到している。他のクラスの生徒が、転入生の噂を聞きつけ集まっているのだろう。

 

「おはようございます、皆さん」

 

相変わらず、殺到する集団に冷静に対応している。

 

「ニャー」

 

ん?今何か聞こえたような…。するとヴィクターの肩の上にフランが乗っかる。

 

「フランを連れてきたのか!?」

 

「許可はもらっているとも。コイツがいないと左腕が使えないからな」

 

よく許可が出たものだ。

チャイムが鳴り、今日の授業が始まる。



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第12話

何度も言うようだが、ヴィクターのスペックが段違いとしか思えない。

ここでは、授業といっても一般科目の他に、ISについての授業もあるのだが、その授業を初めて受けるのに、基礎知識から自分達が今やっている内容までを、30分程度で全て理解している。本当に、同じ人類とは思えない。

 

 

 

昼休み、今日はいつもの面子+ヴィクターで昼食をとっている。昨日のように質問攻めはされてはいないが、周りの視線はこのグループに向けられている。

 

「すごいね、ヴィクターは。僕なんか基礎を覚えるとき半日掛かったのに」

 

シャルがそう言う。ちなみに俺の場合は3日である…。

 

「いや、私自身のスペックではないよ。心臓部が黄金獅子とリンクしている影響で、常に思考が高速処理されている状況でね。考え事をすると、5分程度でも体感時間が30分ということがよくあってね」

 

単純計算で6倍の体感時間、つまりさっきの授業もヴィクターからすれば、理解するのに3時間掛かっていたことになる。それでも十分早いと思うが、やはりヴィクター本人が天才ということなのだろう。

そこに、歩み寄ってくる人物がいる。

 

「やっほー、少し話聞かせて貰ってもいいかな?」

 

歩み寄ってきたのは、新聞部副部長の黛薫子先輩だった。

 

「貴方が噂の転入生ね?私は新聞部の黛薫子。いろいろとインタビューさせてもらいたいんだけど」

 

「構いませんよ。私はロットウェル・ヴィクター、ヴィクターと呼んでください」

 

こうして、結局今日も質問攻めされるヴィクターであった。

 

 

 

午後の授業、今日はISの実習訓練の時間になった。

 

「まず、専用機持ちをリーダーに6グループにわかれろ。ヴィクターは…、一夏のグループでサポートにまわれ。今日は前半、グループごとにISの操作訓練、後半は専用機持ちに模擬戦をしてもらう」

 

また模擬戦をやるのか。おそらくヴィクターのことだろう。

 

「では専用機持ちは機体の準備を始めろ」

 

千冬姉に促され、起動を始める。

 

「それでは私も。フラン、頼むよ」

 

「ニャ~」

 

ヴィクターも、黄金獅子を起動する。

 

「スゴーい!あの猫ちゃんも一緒になってるの!?」

 

「綺麗な機体だね」

 

そういえば、専用機持ちと千冬姉、山田先生以外は、黄金獅子を初めて見るんだった。グループの女子生徒が珍しそうに、黄金獅子に触れている。

 

「よし、それではこれより操作訓練を始める」

 

千冬姉の号令で、訓練が始まる。

それにしても、模擬戦か…。前回はラウラだったが、今回は誰がヴィクターとやるのだろうか?



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第13話

気付くと、いつの間にか俺はレクチャーを受ける側になっていた。

何故かというと、ヴィクターが午前の授業において、自分達と同じ段階までをあっさりと覚え、更にその先を、配布されていた教科書から自力で学習し、教師陣と遜色ないレベルまで理解していた。

流石に束さんや、束さんと共に初期からISの開発に携わっていた千冬姉には及ばないものの、物事の教え方が上手いためか、その様子が教師のように見えていた。

そのため、女子生徒への操縦方法のレクチャーをヴィクターが行い、同時進行で俺は、他人への教え方のコツを教えられている状況だった。

 

「なんか、情けないなぁ…」

 

ボソッと呟くと、ヴィクターが反応する。

 

「そんなことはない。確かに、一夏は人に物事を教えるのは苦手な様子が見える。だが普段の人の接し方を見ていればわかるが、一夏は常に他人の事を考慮しながら行動している。それは教え方が上手い事よりも大事な事だと、私は思うよ」

 

こういうことをさらっと言うため、人間性も完璧、欠点なんて1つも無いと思ってしまう。

そんな事を考えていると、千冬姉から号令が掛かる。

 

「ではこれより、模擬戦をおこなう。組み合わせはロットウェル・ヴィクター、ならびに篠ノ之箒」

 

成る程、前回のラウラは中~遠距離型の戦闘スタイルだった。しかし今回、箒の紅椿はあらゆる状況に対応できる万能タイプ、更に箒自身が剣術のエキスパート故にラウラとは違った展開になるという考えだろう。

 

「今日はよろしく頼む、ヴィクター」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします、箒さん」

 

「そんな、敬語なんて使わないでください。貴方の方が年上なんですから…」

 

「いえ、女性には礼儀正しくが教えですから」

 

そんな状況を見て、周りの女子生徒が口々に「紳士だ…」「紳士よね…」と話している。

 

「では2名は準備、他は片付けの後アリーナ席に移動だ。作業開始!」

 

 

 

5分後、訓練機であるラファール・リヴァイヴ、打鉄の片付けを終え、アリーナの中央には箒とヴィクターの2名が立っている。

 

「この模擬戦、どう見る?シャルロット」

 

ラウラがシャルに話しかける。

 

「そうだね、前回のを見る限りヴィクターは遠距離・近距離共にかなり強い。箒も格闘戦では、僕たちの中で一番強い。接近戦になれば互角か、箒の方が有利になると思う」

 

そこに鈴も加わってくる。

 

「でもわからないわよ。アイツ、まだ奥の手を隠してる感じがしたもの」

 

鈴のこういう直感はかなり当たりやすい。実際に俺も、前の模擬戦では一割程度しか力を出していないように見えた。

千冬姉が右手を挙げる。

 

「始め!!」

 

合図とともに、両者が激突した。




これからはTwitterからも更新のお知らせをしたいと思います。
@ariadust91から発信します。


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第14話

開始の合図が出されると同時、両者は激突した。あまりの勢いに、2人を中心に半径1メートル程に衝撃波が走る。

それからは速さの勝負となった。箒は刀のリーチによる間合いの広さ、ヴィクターは武装の軽さによる手数の多さで優位性を確保し、激しい連擊が繰り広げられている。

 

「む?おい、前回と構えが違わないか?」

 

ラウラの言葉を聞き、ヴィクターを注視する。確かに、前回のような荒々しさが無い。前回は野生の獣のような動きをしていたが、今の彼の動きは純粋な人間の格闘術だった。

 

「ほう。どうやら全力ではないらしいが、本気を出しているようだな」

 

近くで見ていた千冬姉が呟いた。

 

「ある物事を競うとき、どれだけ強いかを仮に『未熟』『通常』『達人』と3つにランク分けしよう。達人レベルの者が戦うとき、確実に勝利するにはどうするか。未熟・通常レベル相手なら、予想しにくい奇策を用いて有利に立ち回ればいい。だがこれが、達人同士の場合どうなると思う?」

 

その問いにシャルが答える。

 

「真っ向勝負、ですか?」

 

「ああ、達人というのはあらゆる状況を考慮し、対策を立てられるものだ。達人同士となると、お互いどんな策が来るかということを考えている為、策を講じて失敗し隙をつくるよりも、正攻法で隙をつくらないほうが合理的という訳だ」

 

千冬姉が説明をしている間にも、2人の戦いは苛烈さを増している。

しかし、ここで気付いたことがある。ヴィクターが押され始めているのだ。いくら手数が上回っていても、相手がリーチの点で優位なら攻撃を当てるのは難しいだろう。その上、箒がヴィクターの動作をある程度予測出来るようになったらしく、的確な動きでヴィクターを寄せ付けず追い詰めている。

 

ギィン!

 

一際大きな音と同時、両者は距離をとる。見たところ、疲労の度合いはほぼ同じ。お互い肩で息をしている。

 

「なかなかの腕前ですね。まさか押されるとは思いませんでした」

 

「いや、そちらこそ。あの衝撃波を使わずともかなり手強いです」

 

そう、今回ヴィクターは『轟獣烈破』を使っていない。先ほどの話の通り、真っ向勝負をしているのだ。

 

「ですが、ここから巻き返させていただきますよ」

 

ヴィクターの言葉と同時に、電子的な音声が鳴る。

 

『マテリアルシフト・スタート』

 

途端に、黄金獅子の腕に付いていた爪が、粒子となって形状を崩していく。その粒子はヴィクターの手元に集まって、爪ではない別の形状を形作ってゆく。

光が収まり、ヴィクターの手に握られた物を見る。それは、金色に輝く刃渡り2メートルの大太刀だった。



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第15話

黄金獅子から音声がしたと思ったら、一振りの刀が握られていた。これに対し、最初に口を開いたのはセシリアだった。

 

「何ですの、あれは?一夏さんの白式が持つ雪羅と似ていますが」

 

そう、あの大太刀の取り出し方が自分達の知るものとは違っているのだ。単に別の武器を出したのではない。かといって白式の雪羅とも違う。雪羅はエネルギーの形状を変化させて様々な武装に変化するが、基礎となる部分は変形しない。しかし黄金獅子の場合、元からあった爪が完全に別の武器に変化している。

 

「これが、黄金獅子の能力、『極限進化』です。貴女方のISにおけるワンオフ・アビリティーのようなものですね。この能力は文字通り進化する能力、戦闘状況に適した武装を生み出すものです」

 

感触を確かめるように、軽く刀を振りながらヴィクターが説明をする。

つまり、さっきの打ち合いで箒への対抗策を構築したということか。

対する箒は、隙を見せず構えをとっている。

 

「では再開しましょうか」

 

そう言うとヴィクターは腰を落とし、刀を肩に担ぐような構えをとった。意図の読めない構えに次の攻撃を予測しようとした瞬間、その一撃がきた。

瞬きの間に箒の眼前まで迫るヴィクター。その速さは、今までの速度が本人からすればスキップ程度とでもいうような、瞬間移動にも思えるものだった。その勢いのまま、ヴィクターは上段からの振り下ろしを放つ。

あまりの速さに箒は迎撃も防御も間に合わず、脚部のスラスターを吹かし地面を転がるように回避する。

装甲の一部を擦りながら、すんでのところで躱しきりヴィクターの一撃は空振りとなった。

 

「おい、地面を見てみろ」

 

ラウラのその一言で、その声が聞こえた生徒は地面を注視する。ヴィクターが大太刀を振り下ろしたアリーナの地面。そこには、あまりにも深い切断跡がある。

そこで、専用機持ち全員がその結果が示す事を理解した。

 

「なんて切れ味なのよ。あんなのまともにくらったら絶対防御があってもヤバイじゃない…!」

 

箒もその切れ味に驚愕していた。紅椿を見ると、さっき擦ったと思われる箇所に、ひび割れ無く切断跡がついていた。それを見てヴィクターが口を開く。

 

「偶然といった感じですが、刀で受けなくてよかったですね。もし迎撃しようとしてたら、武装ごと斬っていたでしょうから」

 

平然と物騒なことを言うヴィクター。その瞳は普段見ていた穏やかなものではなく、破壊の権化とでもいうような戦士の目をしていた。



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第16話

人が変わったように冷酷な言動のヴィクター。今の一撃を見ただけでも、専用機持ちの中で一番強い楯無さんをも圧倒するという気がする。これがヴィクター本来の強さということか。

 

「ひとつ、種明かしをしましょう。この刀には黄金獅子の動力回路に流れている余剰エネルギーを流し込んでいる。そのエネルギーを振動により活性化させ高熱を発生させている。この熱量と太刀本来の切れ味により、『切断』ではなく『溶断』を行う。これがこの太刀の仕組みです」

 

構えをときながらヴィクターが話す。構えをといたといっても、先程の全身に突き刺さるようなプレッシャーは変わらずに放たれている。

 

「ここまで言えば、対抗策は思いつくでしょうか?」

 

「無論だ。仕組みさえ解ればどうにかなる」

 

「では…」

 

「いざ!」

 

再び2人が打ち合いを始める。先程よりも速く、鋭く、熾烈な剣戟である。

そして何故か、ISの装甲すら切断するヴィクターの太刀を、箒は雨月と空裂の2振りで防ぎきっている。

 

「ふむ、なかなかやるな、箒も」

 

シュヴァルツェア・レーゲンを部分展開し、ハイパーセンサーでモニタリングしていたラウラが呟いた。

それにシャルが質問する。

 

「どういうこと?ラウラ」

 

「ああ、戦闘をスローで見たときに、箒が受け止めているのがヴィクターの太刀の先端部分だった。他の各種センサーを併用したところ、その先端部分は他の部分と比べて温度が低かった」

 

それを聞いた鈴も、頷きながら話す。

 

「成る程ね。熱源のエネルギーは黄金獅子本体から供給されている。それはヴィクターが握っている柄の部分から供給されて、熱を発している。となると、必然的に剣先と刃の根元ではどうしても温度差が生じるもんね。

それに映像を見ると、紅椿の装甲を斬ってたのは刃の根元から中間の間。てことは、その部分でしか装甲を切断するほどの熱量を出せないわけ。

でもそれにしたって、あの速さで太刀の先端だけに当てて攻撃を弾くって…」

 

それに俺が答える。

 

「いや、状況が解れば納得だ。千冬姉から教わったことなんだが、刃渡りさえ正確に解れば意外と難しいことじゃないんだ。実際、刃の軌道は手元の動きの延長線でしかない。その上剣の切っ先は速さはあるけど一番力が掛かってないんだ。さっきの話を含めても刃の中間、つまりヴィクターを中心に半径1メートル以内に入らなければ、まともに食らう可能性は少ないだろう」

 

ギャリィィン!!!

 

そこまで言った時に一際大きな音がする。箒とヴィクターが鍔迫り合っているのだ。

体格差と膂力の違いで箒が押し切られると思われたその時、

 

ドオォォォン!!

 

ヴィクターが爆発に巻き込まれる。その原因はすぐにわかった。

箒が射撃武装『穿千』を発射待機状態で背面に隠していた。それを食らわせたのだ。



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第17話

箒の作戦が成功し、ヴィクターが爆発に包まれる。今のは躱せなかったのか、爆煙の中からヴィクターが出てくる様子がない。

 

「あれは確実に入ったな。致命的とはいかなくとも、だいぶダメージが伝わっているだろう」

 

ラウラが冷静に分析を行う。

少し煙が風に流され、ヴィクターの様子が確認できた。頭を押さえるように蹲っている。距離をとっていた箒もそれを確認したらしく、ヴィクターに向かっていく。対するヴィクターは変わらずに蹲ったままだ。あのスピードなら、今迎撃が可能な状態になったとしても箒の攻撃が先に届くだろう。

 

「貰ったーーー!!」

 

箒の振り下ろしの一撃が決まった。黄金獅子は今の一撃で地面に崩れ落ち…、

 

「待って!ヴィクターは!?ヴィクターがいない!」

 

シャルがそう叫んだ。

それと同時に、箒の背後から刃が首に添えられる。

 

「65点、といったところですね。先ほどの不意討ちは見事ですが、詰めが甘い。貴方が取るべき行動は、あの射撃だった。それならば、相手の状態がブラフだったとしても安全にとどめを刺せた」

 

そこには、黄金獅子を纏っていないヴィクターの姿があった。いや、違う。正確には纏っている。しかし先ほどまでのアーマーではなく、急所を保護するような必要最低限のものであった。

 

「リアクティブアーマーか」

 

箒が声を発する。

 

「その通りです。しかし貴方の射撃では発動させていませんよ」

 

「あの刀だね」

 

シャルがそう言うと、ヴィクターはこちらに振り向きながら答える。

 

「ご名答。あの射撃がきた時、刀を爆破してそれを掻き消した。それと同時に爆破の衝撃をアーマーに与え、アーマーをパージした。貴女方の見た爆煙はその煙です。その後私は、パージしたアーマーを組み上げて隠れていたのです。あたかもダメージを負って蹲っているようにね」

 

それを聞いて箒は、納得したというように両手を上げた。

 

「成る程、私もまだまだだな。貴方の隙の無さは打ち合いで理解している。この状態からでは勝ち目はない。降参だ」

 

箒が自分から敗北を認める。

 

「篠ノ之さんの宣言により、ここまでとします。勝者、ヴィクターさん!」

 

山田先生の宣言によって、ヴィクターの勝利で模擬戦が終わる。

 

 

 

 

「申し訳ない!」

 

2人が控え室に戻ってきたところで、ヴィクターが箒に対して土下座をしている。

 

「いくら模擬戦とはいえ、あんな殺す気満々でやってしまって本当に申し訳ない!」

 

箒はどうしたらよいかと、あたふたしている。

 

「そう言うな、ヴィクター。本気でやれと言ったのは私だ。文句を言われるなら私の方だ」

 

そう言って登場したのは千冬姉だった。

 

「あの、どういうことでしょうか?」

 

セシリアが千冬姉に質問する。

 

「最初の模擬戦、あの時ヴィクターは本気では無かった。そしてあの結果だ。ならば逆にヴィクターが本気だった時、お前達はどこまでできるのか?それを今回検証した訳だ」

 

そういう事だったのか。あの時のプレッシャーはこっちにまでくる勢いだった。下手したら自分はプレッシャーに呑まれて、すぐに勝負が決まっていただろう。

その事実を受けて、箒が声を出す。

 

「顔をあげてください、ヴィクター。状況もわかりましたし、今回は学ぶ事も多かった。謝られるどころか、こちらが礼を言いたいぐらいです」

 

「そう言ってもらえると助かる。本当にすまなかった」

 

そう言ってヴィクターは、箒が差し出した手を握り返した。



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第18話

ヴィクターと箒の模擬戦から一夜が明けた今日、クラスの話題はヴィクターについての話で盛り上がっていた。

 

「昨日の模擬戦、凄かったね!篠ノ之さんが追い詰めたと思ったら、すぐに形成逆転して反撃に入るんだもん」

 

「ねぇねぇ、更識会長とどっちが強いかな?」

 

「流石に会長の方が上じゃない?」

 

「私はヴィクターさんだと思うなぁ」

 

「私もー!」

 

こんな調子で会話が聞こえてくる。

 

「すっかり有名人になったな、ヴィクター」

 

俺がそう言うとヴィクターは、

 

「あんまり目立つのは本意じゃないんだけどなぁ」

 

と、ぼやきながら頬を掻いている。

 

「何を言っている。強いというので恥を掻くことなどないだろう。もっと素直に喜んだらどうだ」

 

不思議そうな顔をしながら、ラウラがそう言ってきた。

 

「私は目立つのが嫌いなんだよ。この状況が仕方ないものだとしても。一度痛い目をみているからね」

 

「?それって、お前のいた世界のことか?」

 

俺がそう聞くと、ヴィクターは慌てたように言葉を返す。

 

「え?ああいや、気にしないでくれ」

 

あまり他人に聞かせたくない話なのだろう。これ以上は突っ込んだ話はやめておこう。

 

「ところで一夏、明日の予定は決まっているのか?」

 

ここで箒が俺に話しかけてきた。そういえば明日は土曜で休日か。必要な用事や、どこかに行きたいというのも無いため、特に予定はないな。

 

「俺は予定ないなぁ。特に用事とかもないしな。ヴィクターはどうだ?」

 

「いや、私の方も特に用事はない。せいぜい本屋に行くか、フランの散歩に付き合おうかと思っていたくらいだ」

 

それを聞いてふと思ったことがある。

 

「なあヴィクター、お前って服あれしかなかったよな」

 

そう、今着ているIS学園の制服ではなく、ヴィクター自前の服のことである。

 

「ああ、あれが2着だけど、それが何か?」

 

「明日、一緒にショッピングモールまで行かないか?お前の私服買いにさ」

 

ヴィクターがここにやってきた日に、必要なものは買っていたが、生活必需品ということで私服に関しては考えていなかった。だから明日買いに行こうと考えたのである。

 

「成る程、確かにあの服で出歩くのは少々目立つな。今後のことも考えて、買っておいた方がいいだろうな」

 

確かにあの時は、だいぶ人の目が集まっていた。その点でも早めに買った方がいいだろう。

 

「よし、決まりだな。そういえば、他の皆は予定が決まってるのか?」

 

そう言っていつものの面子の方を向く。何故か箒が少し悔しそうにしているがどうしたのだろうか。

 

「僕も用事はないんだけど、一夏達について行ってもいいかな?」

 

「おう、むしろ来てくれると助かる。言い出したくせに服に関しては疎い方だからな」

 

するとシャルの発言を皮切りに、一斉に詰め寄ってきた。

 

「じ、じゃあ私もついて行くとしよう。元々、用事がなければどこかに行こうと誘うつもりだったしな!」

 

「私も行きますわ。いいお店を知ってますの」

 

「アタシも!服選び手伝ってあげるわ!」

 

「無論、私も行くぞ。私の嫁の用事に付き合うのは当然だからな」

 

こうして明日は、ヴィクターの私服コーディネートをするために、皆でショッピングモールへ行く事となった。



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第19話

ある男の夢を見た。どこかの戦場か、はたまた焼け落ちていく街の中か、あたりは炎に囲まれていた。男は炎の中心で、微動だにせず立っている。その片手には一振りの刀が握られ、近くには幾重にも積み重なった死体の山がある。ふと、男がこちらに振り返る。幽鬼の如き表情であったが、その顔はどこか見覚えのある顔だった。

瞬きをすると、一瞬で風景が変わった。炎に囲まれているのは変わらないが、どこかの研究室の中のようだ。そして死体の山と刀も無くなって、代わりに1人の女性が男に抱き抱えられていた。女性の目は閉じられており、男は女性を抱き抱えたまま泣いていた。先ほどとはまるで別人のように、男は泣いていた。

 

 

 

目覚まし時計の音に起こされる。一夏はまだ寝ぼけ気味の頭で、さっきの夢を思い出す。あの男の顔は、確かにどこかで見た覚えがある。しかし思い出せる範囲の男の知人には、該当する人物はいない。別にテレビで見た有名人という訳でもない。一体誰だったのだろうか?

 

「おはよう、一夏。朝食の準備ならもう出来ているよ」

 

自分が起きたことに気付いたヴィクターが声を掛ける。見ると白米、味噌汁、鯵の開きと日本的な朝食が準備されている。傍らでは、味噌汁の出汁に使ったであろう煮干しをフランが嬉しそうに噛んでいる。

 

「おはよう、ヴィクター。それお前が作ったのか?」

 

「ああ、ここに来てから色々と世話になっているから。簡単なものだが、そのお礼にな。ちょうど出来たところだから、冷めないうちに食べてくれ」

 

「それじゃあありがたく…」

 

そう言って、鯵を一口食べる。程よい焼き加減でとても美味い。味噌汁も豆腐・ワカメとシンプルな具だが、その分出汁の風味が強く出ている。

 

「おお、滅茶苦茶美味いぞ!」

 

「それは良かった。久々にまともな料理をしたから少し不安だったが、喜んでもらえてなによりだ」

 

「ん?今まで飯はどうしてたんだ?」

 

するとヴィクターは苦笑いしながら答えた。

 

「前の世界ではずっと野宿だったからな。食料も野生動物や魚を獲ったり食べられる野草を採取して、調理方法も焼くしかなくてな」

 

「お前、ほんと凄い人生を送ってきたんだな」

 

「言うな。思い出したら自分でも虚しくなってきた…」

 

そんな話をしているとヴィクターの足元にフランが寄り添ってくる。

 

「そういえば、お前は楽しそうにしてたっけな。よくウサギとか狩って持ってきてたし」

 

え?フランってそんなに好戦的なの?フランを見つめると、何事かと首を傾げてくる。全然攻撃的には見えない。

 

「おっと、そろそろ出ないと待ち合わせに遅れそうだ。女性を待たせると後が怖いからな、一夏も急いだほうがいい」

 

「うわっ、ヤバイ!」

 

ささやかな疑問を放置し、俺は急いで準備を済ませたのだった。



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第20話

待ち合わせ場所に指定したIS学園正門前には、既に一夏とヴィクター以外の面子が揃っていた。それに加え、楯無・簪の更識姉妹もいた。

 

「シャルロットちゃんが誘ってくれてね、私達も大した用事は無いから参加させてもらうことにしたの」

 

楯無の開いた扇子には『参戦』の文字。簪も楯無の後ろで、無言で頷く。

 

「私の服を選びに行くだけと思っていたが、だいぶ大所帯になったな」

 

「いつもこんな調子だぞ」

 

「そうそう、誰かさんのせいでねー」

 

一夏の発言に、鈴がジト目で一夏を睨みながら言う。

 

「ん?俺なんかマズい事言ったか?」

 

それを聞いたヴィクターも、呆れたようにやれやれと首を振る。

 

「今ので彼女達がどれだけ苦労しているか、容易にわかるぞ、まったく」

 

女性陣一同も、その通りだといわんばかりに頷いている。

 

 

 

「ここなら、ヴィクターさんに似合う服があると思いますわ」

 

一行はセシリアの勧める店に来ていた。ブティックという呼び方がしっくりくる高級そうな店である。女性優位な今の世の中、高級な店というのは女性向けの商品やサービスとなっているものだが、ここは珍しく男性女性両方に向けたものだった。

 

「いらっしゃいませ…って、え?IS学園の制服で男性ってことは、もしかして織斑一夏さんですか!?」

 

あ、ヤバい。この時俺は、制服を着てくるんじゃなかったと後悔した。店員の発言により、店内にいた客や従業員が一斉にこちらを向く。

 

「今、織斑一夏って言った!?」

 

「嘘!?どこにいるの!?」

 

あっという間に店内の客達によって、一同は囲まれてしまった。

 

「お前、学校の外でもこんな調子なのか?目当てはお前だろうけど、動物園の希少な動物みたいな気分だぞ…」

 

俺の隣でそうぼやくヴィクター。そんなヴィクターに1人の女性客が目を向ける。

 

「あの、IS学園の制服を着てるってことは新しい代表候補生ですか?」

 

その一言で店内全員の視線がヴィクターに集まる。

 

「ちょっと待て、もしかして私もか?」

 

すまん、ヴィクター。私服が目立つからIS学園の制服なら大丈夫だろうと言った俺のミスだ。

 

「新しい代表候補生!?ホント!?」

 

「織斑さんに負けず劣らずイケメンじゃない!」

 

「連れてる猫も可愛い!」

 

あっという間にヴィクターの方へ人が流れていく。

 

「そういえば、まだヴィクターのことは公には知られてないんだったね…」

 

シャルがその様子を眺めながら呟く。自分もIS学園に入った当初はこんな様子だったのかと眺めている状況だ。

 

「おい一夏!眺めてないでどうにかしてくれ!」

 

うん、後でヴィクターには飲み物でも奢ってあげよう。



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第21話

「酷い目に遭った…」

 

ぐったりした様子で、ヴィクターは椅子にもたれ掛かる。あの後、なんとか無事にヴィクターの服を購入し、そのまま購入した服に着替えて移動してきたのである。現在のヴィクターの服装は、ジーンズに白シャツというシンプルなものである。

 

「すまん、ヴィクター。よくよく考えればIS学園の制服の方が目立つの忘れてた」

 

「オマケに一夏に続いて2人目の男性操縦者だしね。世間からしたら注目の的だよ」

 

シャルも苦笑いしながら、そう言った。

 

「まあまあ、ちゃんと服も買えたし、ここからはのんびり見て回りましょう?」

 

楯無さんに促され、一向は新しく出来たというカフェに向かうことに決めた。

その時、フランが毛を逆立てて威嚇を始めた。その視線は空の向こうを見据えている。

 

「おい。どうしたんだ、フラン?」

 

俺の疑問に答えるように、ヴィクターがフランを撫でながら言う。

 

「やれやれ、せっかくのオフだというのに…。無粋な連中だ」

 

ヴィクターは悠然と左手を、フランが睨んでいた方向に翳す。直後、こちらに向かってビームが飛んでくる。しかしそれは、ヴィクターによって掻き消される。

 

「敵襲!?亡国企業か!?」

 

ラウラの発言にヴィクターが頷きながら答える。

 

「恐らくは。責任は私が持つから、戦闘準備をしてくれ!」

 

全員がISを展開すると同時、それは飛来してきた。以前襲撃してきた亡国企業の無人機『ゴーレム』、それが10機である。しかし気になる点があった。全体のシルエットがシャープなものになっており、顔にあたる部分にはピエロのような意匠がある。

 

「箒、鈴、シャルロット、簪、君たちは一般人の避難誘導を頼む。残りのメンバーで迎撃を行う」

 

ヴィクターが皆に指示を出す。

 

「その編成の根拠は?」

 

楯無さんがヴィクターに問う。

 

「先程の攻撃と機体の構造、それから察するに射撃をメインにした強襲用と推測した。それが10機ともなれば、近接戦闘を主体にした紅椿と甲龍は向いていない。その2人で避難誘導をしてもらい、万が一にも阻止仕切れなかった場合には遠距離戦が可能なシャルロットと簪に迎撃してもらう」

 

「十分。それじゃ皆、その作戦でいきましょう」

 

ヴィクターの説明に納得したというように、楯無は構えをとる。

 

「避難が済んだらすぐに戻る。それまで頑張ってくれ!」

 

そう言って箒達4人は誘導を始める。依然、無人機達はこの場に留まっている。

 

「この様子だと、狙いは一夏か私だな。ある意味好都合だが、その分気を引き締めろよ一夏」

 

 



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第22話

戦闘は膠着状態に陥っていた。無人機達は高速飛行をしながら射撃が可能なカスタマイズをしてあるらしく、一方的に攻撃をしている。威力は低いものの、それが10機分で雨のようにくるため、無視できない。ヴィクターもスピードで言えば充分に追いつける速さを出せるが、他の機体が牽制するように攻撃して、射程距離まで近づかせないようにしている。

 

「マズいな、このままだとジリ貧でこっちがやられるぞ」

 

敵に意識を向けたまま、ヴィクターが話す。

 

「相手が無人機という時点で、こちらは不利な状況だというのにここまでとはな」

 

「どういうことだ?」

 

「無人機には二つの利点がある。まず操縦者がいない分、操縦者の保護の為のエネルギーを攻撃に回せること。二つ目も似たようなものだが、操縦者がいらない為、人体の構造を無視した動作ができることだ」

 

「道理でこちらの攻撃が当たらない訳だ。人の動きでは回避できなくとも、それを無視した動作ができるなら回避性能は大幅に上昇するからな」

 

ラウラもレールカノンで牽制しながら同意してくる。

 

「じゃあどうしたらいいんだよ!?」

 

「ひとつ策がある。恐らくはそれで勝つことはできるだろう」

 

ヴィクターは冷静にそう答えた。

 

「ただ準備に1分掛かる。その上準備中は全く動けなくなる。そんな行動をすれば速攻で標的にされる」

 

「つまり1分間時間を稼げば勝てるのね?」

 

楯無さんの発言にヴィクターは頷く。

 

「準備が完了したら一夏にも手伝ってもらう。一夏はできるだけ消耗しないようにしてくれ」

 

「了解。それじゃあ行くぞ、皆!」

 

同時にヴィクターも準備を始める。全身が光って、少しずつ形を変えていく。

もちろん無人機達もそれを無視するわけなく、一斉ににヴィクターへ攻撃しようと動き出す。

 

「やらせるか!」

 

こちらも射撃武装で牽制していく。阻止しきれなかった射撃は、雪羅のシールドで防御し時間を稼いでいった。

そして1分が経とうとした時、黄金獅子がより一層輝き準備が整ったことを告げる。光が収まりそこに現れたのは、完全にライオンの姿となった黄金獅子の姿であった。

 

「ヴィクター、その姿は!?」

 

「なに、自分の骨格や肉体組織を作り替えただけだ。心臓にコアを埋め込んだ結果、私の体も黄金獅子の部品として扱うことができるんだよ」

 

骨格を作り替えるって、簡単に言うけどとんでもないことをしてるぞ!?

 

「背中に乗れ、一夏!さっさと片付けるぞ」

 

「わ、わかった」

 

言われた通り背中に乗ると足が固定される。

 

「一夏、お前は目の前に来た奴を零落白夜で斬っていけ。私がこのままあいつらに接近する。かなり無茶な動きをするが我慢してくれ」

 

「大丈夫だ、とにかく攻撃に集中すればいいんだな?」

 

「ああ。よし、行くぞ」

 

ヴィクターの掛け声に合わせて、とんでもない速さで飛び出す。金色の獅子に跨がった白い騎士が空を駆けていく。



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第23話

完全にライオンの姿となったヴィクターが、一夏を背に乗せ空を駆けていく。その速さは箒との模擬戦で見せたスピードと同等だが瞬間的な速さではなく、一気に無人機達に肉薄する。それも一直線にではなく、まるで動きが読めないスーパーボールのように不規則な軌道を描いて飛んでいく。

無人機達も急な変化に対応できずに、射撃も牽制の意味を成していない。ヴィクターは1体の無人機の後ろに回り込み突進していく。それに合わせ一夏も零落白夜を起動し、すれ違いざまに両断する。先程までの苦戦が嘘のように、あっさりと撃墜される無人機。もはやヴィクターへの対応で手一杯になっている。

 

「いったい、何であの速さであんな動きができるんだ。あんな動きをすればGが掛かりすぎてすぐに内臓破裂を引き起こすぞ。防護機能でそれを免れたとしても、機体の方がもたないだろう」

 

通信越しにラウラの疑問に感じる声が聞こえてきた。その答えはヴィクターの背に乗っていて理由がわかった。ヴィクターは黄金獅子の進路上に『轟獣烈波』で生み出した壁を足場のように展開している。しかしそれだけではない。生み出した板状の足場に対し緩い角度で突入しているのだ。ボールに例えれば床に対して垂直にではなく、平行に近い角度で跳ねているようなものだ。こうなると方向を変えた時に発生するGの負担がほとんど軽減される。

オマケにその際足場を蹴っている分、加速が入り方向転換時の減速がプラスマイナス0になるどころか、次第に加速していっている。短いスパンで行えば、文字通り目にも留まらぬ速さとなるだろう。更に言えば今の黄金獅子は完全な獅子の姿で四脚である。負担は更に軽減され、加速も数段飛ばしの加速度だろう。

しかし、今の俺には別の疑問が頭に浮かんでいるのだ。こうしてヴィクターと連携して無人機を撃墜していっているのだが、あまりにも息が合いすぎている。まるで生まれてからずっと一緒に過ごしてきた双子の兄弟のように、一瞬のズレもなくタイミングが合っている。同じ剣術を学んだ箒とでさえ、目配せや何かしらの合図を出さなければここまでの連携はできない。それをヴィクターはこちらの反応を認知せずに、まるで無意識で次のタイミングがわかっているかのように動いている。

 

「一夏、ラスト一機だ。仕留めるぞ!」

 

いつの間にか、無人機は残り一機となっていた。先程までの疑問は捨て、目の前の無人機に集中する。無人機も抵抗を見せるが、ヴィクターは相手の頭上をとる。無人機からは、太陽を背にした金色の獅子と純白の騎士が見えていただろう。

 

「うおおおお!!!」

 

乾坤一擲。最後の無人機が縦に一刀両断にされ、戦闘は幕を閉じた。



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第24話

無人機の襲撃後、楯無とヴィクターは千冬に呼ばれ状況報告をおこなっていた。

 

「機体そのものは亡国企業のゴーレムでしたが、顔にあたる部分がピエロのような妙な意匠がありました」

 

楯無に続いてヴィクターも口を開く。

 

「恐らくあいつが絡んでいます。あいつもこの世界に来て、その亡国企業とやらと手を組んでいる可能性が高い」

 

話を聞いていた摩耶が思い出したように言う。

 

「あいつって、前にヴィクターさんが言っていた…」

 

「ええ、自分が世界を放浪する原因となった男、ガルフ・ゲイシー。あらゆる技術を収集し兵器に転用しようとする男です」

 

「そいつの目的は亡国企業の無人機ISの技術か?」

 

千冬の問いをヴィクターは否定する。

 

「それもあるでしょうが、第一目標は黄金獅子の強奪かと。次元跳躍は再現できたものの、世界観測機能はデータ不足で大元のシステムを奪う方が早いと踏んだというところでしょう」

 

そこまで言うとヴィクターは頭を下げる。

 

「申し訳ない、私の問題なのに貴女方を巻き込んでしまった」

 

「気にするな。そいつの特徴を聞く限り、お前が別の場所に身を隠していたとしても亡国企業の技術に目を付けていただろう。亡国企業が絡むとなれば我々の問題でもある。むしろ情報が手元にあると考えるべきだ」

 

それを聞いてヴィクターは少し笑った。

 

「失礼、貴女は本当に前向きですね。あの人とそっくりだ」

 

「マイナスに考えていては、物事は進まないからな」

 

「そういうところも、そっくりですよ。ではまず、あいつが入手している技術についてですが…」

 

 

 

 

 

繁華街のあるレストランのVIPルーム、そこには4人の人影があった。内3人は亡国企業のスコール・ミューゼル、織斑マドカ、オータムであり、残り1人はその3人の向かいの席に座っている。ボルドーカラーのスーツに白黒のチェック模様の帽子、目と口にあたる部分が三日月型にくりぬかれた道化師を模した仮面という奇抜な見た目の男、彼はワイングラスを揺らしながらスコールに言う。

 

「今回は試しで送ってみたが、あまりいい結果ではなかったか」

 

「あら、私どものゴーレムでは貴方の技術とは相性が悪いということかしら?ガルフ氏」

 

男、ガルフはその問いを否定する。

 

「いや、改善の余地ありな部分はあったが機体に関しては良好だった。問題はあの男、ヴィクターだ。あいつの持つ黄金獅子の適応能力の高さと、ヴィクター自身のセンスが相まって高い戦闘能力を誇っている。それをどう崩すかが肝ということだ」

 

そう話しながら、ガルフは映像を投射する。それは一夏達を襲撃した、無人機の一体が記録した戦闘の様子だった。始めは防戦一方だったのが、黄金獅子が形態を変化させてからは瞬く間に無人機が撃墜されていく。

 

「確かに厄介だけど、その分ますます欲しくなるわね。いいわ、必要なものがあったら何でも言って下さいね」

 

スコールの発言にオータムが反論する。

 

「マジで言ってんのか、スコール!こんな得体のしれない野郎なんかに投資する価値があるってのか!?」

 

「落ち着きなさい、オータム。彼に投資する分、こちらにも技術提供してもらう契約なの。対等な関係というのを忘れないで」

 

その様子を見ていたガルフは笑いながら話す。

 

「ご心配なく、お嬢さん。私は商人だ。利益を優先することはあるが、商人というのは契約を第一に考える為、裏切り等は一切しないと宣言しよう」

 

「ケッ」

 

ガルフの返しにも心底つまらなそうにするオータム。マドカもまた、ガルフに関しては快く思っていない。

 

「あのヴィクターとかいう男については勝手にすればいい。だが織斑一夏は私の獲物だ。手を出すな」

 

「そのつもりだが、降りかかる火の粉は払わなければねぇ」

 

マドカの発言にそう返すガルフ。その一言でマドカは一瞬で殺意を剥き出しにし、ナイフで斬りつける。ある程度の練度の兵士でも簡単に喉を引き裂くような一撃は、しかしガルフには届かなかった。ガルフの背から伸びた機械腕が、マドカの腕を掴んで止めていたのだ。

 

「おぉ、怖い。さながら狂犬だ。躾はしっかりしておいてほしいものだね、ミス・スコール」

 

「失礼、あの坊やの事になると手がつけられないの。できるだけヴィクターのことだけ狙うようにして下さる?」

 

「まぁ、善処はしよう」

 

仮面の隙間から見える口元は、そんなつもりはないというように笑っていた。



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