鈴木悟分30%増量中 (官兵衛)
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第一章一編 モモンガとの遭遇

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 いつからだろうか……この社会に、世界に疑問を抱いたのは?

 

 この世界に何か不満がある訳じゃない。飢えることのない生活。

 幸せ……そう、幸せと言っても良い牧歌的な暮らしと優しい人々。

 戦争もなければ差別も無い。そんな不自然さが自然と蔓延する最高に……不自然な世界。

 

 ボクの一族は代々不思議な力を受け継いできたという。昔々、神と交わった姫との間に産まれたのが祖先だと言い伝えでは聞いている。

 その、生まれつき備わっていた得体の知れないナニかがボクの中で叫ぶのだ。

 時には右腕が疼いたり、左目からナニか能力的なモノが溢れ……そうな気もする。

 そんな風にカラダから溢れ出る力が「全ては偽物だ」と、そんなふうに訴えかけてくるんだ。

 

 この世界は何者かが陰で操っている。人為的な、作為的なナニかによって無理矢理作られた平和な世界。「パンとサーカス」と誰かが言っていたな……。

 

 ここまで世界の在り方に疑問を抱いてしまったら『冒険』に旅立ち真実を追い求めるしかないじゃないか。代々ボクの家に受け継がれてきた『封印の書』もある。内容は秘密だけれども、冒険者として生きていくに必要な物は全てココに詰まっている。これさえあれば大丈夫だろう。

 

 別に、この幸せな世界を壊したい訳じゃない。ただ、神か悪魔か知らないが、この世界を作り出した何者かに問いたいのだ。

 

 

 

 「どういうつもりで、こんな世界を作ったんだ?」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はいわば二回この世に生まれる。

 

 一回目は存在するために、二回目は生きるために。

 

                        ルソー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……楽しかったんだ……ほんとに、楽しかったんだ。

 

 

 

 

 納得したように、させるように。そう心のなかで呟いた鈴木悟は、そっと十数年の年月を噛みしめるように目を瞑り、静かにその時を待った。

 

 

 

 

 

「……アレ?」

 

 

 

 

 

「なにも……起きない?」

 

 期待はずれ……イヤ、別にこの世界の終了を期待していたわけではなかった。ただ、諦めて静かに、穏やかに心が死ぬような感覚に身を浸そうとしていた事に対する拍子抜けが、鈴木悟の心身を包む。

 

 

 

「……どういう……ことだ?」

 

 『モモンガ』 ユグドラシルの世界で、そういう名前で呼ばれ続けた鈴木悟は閉じていた眼を開け、不安の中で思わず独り呟いた。

 長年のサービス終了に伴い、真っ暗な画面が映し出されるか、粋な運営に依る「Thanks!」画面などがモニターの前に広がっていると予想していた彼は戸惑いを隠せなかった。

 

 目の前に広がるのは先程と同じナザリック地下大墳墓の、いつもより散らかった玉座の間だ。

 

「んん? 先程までモニターの端っこにあったハズの時計や情報パネルが無くなっている?」

 

「それに、ON表示にしていたはずのミニマップも消えている……」

 

「いや 落ち着け……今までもこういうバグが無かった訳じゃない。そもそもサービス終了の時間なのだからゲームが終わってないのがオカシイんだ。追い出されない時点ですでにバグっていると思った方が良いだろう」

 

 矢継ぎ早に疑問点が声に出てしまう。

 

「このバグのせいでサーバーダウンが延期したのか?」

 

 考えられる。そう考えた鈴木悟は、何らかの要因によってサーバーのダウンが延期しているのであれば、GMが何かを言っている可能性があるのではないか? と思いつき、慌てて今まで切っていた通話回線をオンにしようと、コンソールを出そうとした。

 

「出ない!?」

 

 本来なら指のフリックアクションによって出るはずのコンソールが出ない事に事態の深刻さを感じて、動揺が大きくなる。

 

「なんなんだ……一体?」

 

 コンソールやシステムコマンドだけではない。本来なら、視線の片隅に浮かんでいるはずのシステム一覧も出ていない。モモンガは慌てて他の機能を呼び出そうとする。

 シャウト、GMコール、システム強制終了入力。どれも感触が無い。

 まるで完全にシステムから除外されたようだ。

 こうなればリアルの鈴木悟の腕を動かして装着型モニターに付いている強制終了ボタンを押すしかない。

 

「明日は4時起きだしな……。いつまでもユグドラシルに浸っている訳にはいかないよな」

 

 そう独り言を続ける。

 あれだけ賑わった、我が愛すべきギルド『アインズ・ウール・ゴウン』

 最盛期には41人のプレイヤーが所属し、世界でも有数の強さを誇っていたと自負している。

 

「……今では4人しか居ないけどな」

 そう再び愚痴っぽく独り呟く。

 長く寂しいこの世界(ユグドラシル)でいつの間にか身に付いてしまった哀しい癖だ。

 

「さて……強制終了ボタンはVRのどこに付いてたかな?」

 自分のリアルの腕を動かして、モニターを探っているつもりだが、先程からゲーム内のアバターである「モモンガ」の骨の腕がワサワサと動いているだけだ。どういう事だろう?

 確かにこのユグドラシルはヴァーチャルダイビングシステムによって普段自分の体を動かすような感覚でプレイをするのだけれども、プレイ歴10年の自分がこんな初歩的な操作ミスを?

 

 不思議に思っていると、突然、前方から

 

「どうかされましたか? モモンガ様?」というシットリとした美しい声が聞こえる。

 

「え?」と驚いて目を向けると、先程「控えよ」という音声命令により、(かしず)いていたNPC達がこちらを心配そうに見ていた。

 

 (ん?) 

 

 心配そうな表情? 表情……NPCのAIを主に担当していたのは先程まで別れを交わしていたヘロヘロさんだ。

 ヘロヘロさんったら、ブラック企業で大変なのに、いつの間にこんな凝ったギミックをAIのシステムに組み込んでいたんだろう……困った人だなあ、ハハハハ。

 

「モモンガ様?」

 

 モモンガは現実逃避に失敗する。

 表情だけじゃなくNPCの口がスムーズに動いている事に気づいてしまったのだ。

 

 先程からの異常にリアルすぎる視界。そして肌(骨?)を通して感じる空気感。

 どう考えてみても現実。圧倒的現実がそこには広がっている。

 しかし、聞いたことはないが「ユグドラシル2」のβ版テストに巻き込まれたとかいう可能性もあるのではないだろうか?

 それが、まだまだスタッフ間での調整中のためヴァーチャルダイビングシステムが暴走気味に働いている……のかも知れない。

 再び現実逃避しつつモモンガは状況の打開について頭を巡らせる。

 

「GMコールは勿論、強制終了も出来ないのは何故だ……」と呟いた瞬間、控えていた老執事が

「申し訳ありません。GMコールという言葉は蒙昧な私めには解りませんが、どうかされましたでしょうか?」とやはり口を動かし答えてきた。

 

「……う、うむ。今、何か色々とオカシイのだ。外に調べに行ってみようと思う」

 話しかけてくるハズのないNPC達にジワリと恐怖を感じた鈴木悟(モモンガ)は、必死に彼らの主人であるというロールプレイを続けながらも、なんとかココから逃れようとする。

 

「それは危険です。私どもで見て参りますので、モモンガ様はこちらでお待ち下さい」

 と老執事に制止された。彼は、たっち・みーさんがクリエイトしたNPCで、名前は先程プレアデスをつき従えて玉座の間に入るときにセバス・チャンだと確認済である。

 

 モモンガは戸惑いながらもセバスとプレアデスに状況確認のために命令を出してみる事にする。

 

「あー……うん、セバスよ。ではこの大墳墓を出て周辺の状況を確かめてくれま……確かめよ」

 人に命令した事など人生で経験したことのない鈴木悟(モモンガ)辿々(たどたど)しく目の前の老紳士に指令を与える。

「はっ わかりました」

 白髪の老人(セバス・チャン)はキリッと顔を引き締めると深々とモモンガに(かしこ)まる。

「プレイヤーがいた場合は交渉して友好的に、ここまで連れてきてほしい」

「……プレイヤー、で御座いますか?」

 モモンガはセバスの一瞬戸惑った表情からNPCが『プレイヤー』という言葉の意味を正確に認識していないことを悟る。

 

 (GMと云い、ユグドラシルの言葉……ゲーム用語が通用しない?)

 

「う、うむ。そうだな……人……いや異形種の場合もあるのか? そうだな……とりあえず言葉を理解し知性が感じられる者が居たら友好的に連れてくるのだ」

「はい。わかりまして御座います」

「……むう。相手がコチラをアインズ・ウール・ゴウン(嫌われ者ギルド)だと知れば害を加えてくるかも知れないな……。そうだ、プレアデスのメンバーに転移魔法や高速移動など、危険時の逃亡方法を備えたものは居ないか?」

 そうモモンガが、控えていた戦闘メイド『プレアデス』たちに尋ねると、皆がウズウズと顔を見合わせつつ、一人の黒髪のメイドが「はい。私、ナーベラル・ガンマは転移魔法を使え、フライなども使用出来ます」と緊張した面持ちで声を上げた。

 モモンガは(この子は確か弐式炎雷さんの……)と思い出しつつ「では、ナーベラルはセバスと共に行動してくださ……い」

「はっ!」

 ナーベラル・ガンマは深々と頭を下げると、至高の御方に命令を頂いたことに感極まりつつ、口角が上がりそうなるのを耐え……られなかったので不自然にモモンガから顔を背けて震えた。

 

 その仕草にモモンガは(しまった。モモンガは下僕(しもべ)の絶対支配者であるのに不自然だったよな……顔を背けてるけど不信感や軽蔑からだろうか?)と焦っていた。

 

「ん、うん! えー、まずは、行動範囲はナザリックの周辺1キロとする。重ねて言うが戦闘行為は極力避けよ。何も解っていない状況で、敵はなるべく作りたくないからな。相手が好戦的な場合もナーベラルの力で出来得る限り、大墳墓の場所を特定させないようにしながら退却せよ」

「はい わかりました」とセバスとナーベラルが力強く応える。

「残りのプレアデスを、大墳墓入り口で待機しセバスとナーベラルが緊急時に救出するチームと、9階層の守備チームに分けて警戒にあたってくだ……あたるのだ」

「はい わかりました!」

 セバスとプレアデスは、やる気に満ちた顔でモモンガに礼を取る。

 

 これら非常に複雑な命令を、当たり前の様に受け入れたNPC達が命令の履行に動き出し玉座の間から退出してゆく後ろ姿を、モモンガは呆然としながら見送った。

 

 (なんだこれは!? 怖い 怖い 怖い!)

 

 周りから見れば一連のスムーズな出来事に、モモンガは恐怖を感じながら頭を抱える。

 

 ありえないからだ。

 

 いや、そんな生易しいものではない。

 

 (今、確かにNPCと会話をしていた!)

 

 これは決して起こりえないことなのだ。

 

 NPCが言葉を発する。そして、プレイヤーと会話をして、「歩け」「跪け」などの単純命令では無く、ナザリックの外に偵察に行くなどと云う複雑な命令を実行に移すなどと。そもそも言葉を発するようにAIを組むことはできるが、会話ができるように組むことなんて不可能だ。それは相手がどのように話してくるかを予測して組み込むことなんてできるわけが無いからだ。

 そもそも拠点型NPCは設定地点(ナザリック)から外には出られなかったハズでは無かったか?

 

 (生きている……)

 

 このNPC達は自分で考え行動する事が出来るとしか思えないという結論に至る。

 それは同時にモモンガ(鈴木悟)に更なる恐怖を呼び起こす。

 これが事実だとしたら……それが逃れようもない事実だとしたら、彼らこそがゲームに取り込まれたかも知れない「ただの人間」であるモモンガ(鈴木悟)を気分次第で襲うこともありえるのだ。

 さっきまで、ここに居た者達は「ヒト」では無い。

 竜人だったりショゴスだったりアラクノイドだったりと人類に仇なす者達だ。そもそもナザリックには異形種しか存在しないのだ。

 所謂(いわゆる)「モンスター」の群れに囲まれた現状に戦慄を覚える。そして恐慌状態に陥り叫びそうになった瞬間、自らの体から緑色の光がユラユラと立ち昇るのを感じた。すると、完全にでは無いものの「スーっ」と自分が落ち着きを取り戻していくのをモモンガは感じた。

 

 (やめてくれ……この感覚は…怖い……)

 

 感情が薄れるような、動揺が脊髄を伝わり空に散っていくような。今まででの人の身では有り得ない感覚。

 完全に無くなるわけではない恐怖に恐怖し、心の底にジンワリと恐怖が降り積もっていく感覚。

 

 嗚呼……わかってしまった。

 

 わかりたくないのに解ってしまったのだ。今のはアンデッドにもれなく付いている状態異常無効化のうちのスキルの1つ精神作用の無効化が発動したのではないか?

 

 (つまり、俺は本当に「ヒト」では無くなってしまったのか……)

 

 鈴木悟は恐怖する。

 

 在らざるモノ(モンスター)に 在らざぬ自分(オーバーロード)に 骨のみで構成されている自分自身(モモンガ)

 

 (……いや、それでも、まだユグドラシル2、もしくは他のDMMORPGに飛ばされた可能性は捨てきれない。非常に、非常にリアルな情景と感覚ではあるが、「ゲームの中に取り込まれました」という御伽話に比べれば、どちらが有り得るかは考えるまでもないはずだ)

 

 縋るような気持ちで、助けを求めるために、GMコールやギルドメンバーへのメッセージなどを繰り返し試行錯誤をしていると

 

「モモンガ様? 私はどう致しましょうか?」と扇情的に可愛く首を傾げ微笑みながら白い貴婦人――アルベドが尋ねてくる。

 

 (……なんだ、この可愛い生き物は?)と生命力に溢れた瑞々しいアルベドに見蕩れ、そしてアルベドが右手に持っている物にモモンガは疑問を感じる。

 

 (何故そんな物を持っているんだ?)

 

 そう云えば、他にもここがユグドラシルがどうか調べる方法があった事に思い到ったモモンガはアルベドに「こちらに来てくれ」と命令を出す。

 

「はい!」 うふふふふーと言わんばかりに、上機嫌に顔をほんのり赤らめたアルベドが目の前に来る。

 

(近っ 近い近い近い近い!?)

 彼女居ない歴=年齢のモモンガ(鈴木悟)にとっては焦りと戸惑いが「ブワァー」という勢いで立ち昇り、体温も無いのに顔が熱くなる。そして体中から湧き上がる緑色の光。

 

 (しかし、それにしても生きているアルベドって本当に美人なんだな。創った時にタブラさんがニヤニヤしながら「モモンガさん、俺の娘(アルベド)可愛いでしょ? 嫁にどうだい?」と言っていたけど、なるほど……これは本当に美しい。濡れたカラスの羽の様な艷やかにして青みがかった黒髪、陶磁器を思わせる透き通った白い肌、完璧なスタイルとギリシャ彫刻を思わせる整いすぎている相貌。緊急事態でなければドストライク過ぎる好みに悶えたかも知れない)

 

 突然「ぐふぅっ」ブシャー、という音が前方から聞こえる。

 

 驚いてモモンガが思考の海から戻ると、跪き、小刻みに震えながら俯いているアルベドが耳まで真っ赤にしつつ、手で溢れる鼻血を抑えていた。

 

 (ん? あれ?)

 

「……もしかして、声に出してた?」

 

「はひ」 ポタポタ

 

「……ど、どのへんからだ?」と恐る恐る聞くと、蕩けそうな顔を上げたアルベドが

 

「……「それにしても~」からモモンガ様はお声に出されておられました。くふー」バッサバッサ。

 

 よし 全部だ。

 

「そ、そうか、すまないなアルベド。困らせるようなことを言って」

 

「いえ! お言葉、心より嬉しく思います! なお一層の忠義と愛をモモンガ様にお捧げ致します!」ボタボタボタボタ。

 

 うん、とりあえず鼻血拭けオマエ。

 

 さて、ユグドラシルでは18禁に触れるような行為は厳禁とされている。15禁ですら許されない事が多い。違反すれば公式ホームページ上に違反者の名前を公開した上で、アカウントの停止という非常に厳しい裁定を下している。重課金者の我々としては恐ろしい話である。 

 もし、今でもゲームの――ユグドラシルの世界ならそのような行為はできないよう、何らかの手段がとられているはずだ。第一、製作会社が監視しているなら、モモンガの行為を止めるだろう。

つまりユグドラシルの18禁監視システムが機能しているなら間違いなくゲームの世界だと断定出来る訳だ。

 18禁行為といっても、別に性行為をするとかじゃなくて、胸や局部へのボディタッチでも充分アウトだ。相手がNPCだとしても、だ。

 アルベドの胸を触ることが出来るかどうか……。上司(不死王)部下(サキュバス)の胸を触る。完全に小者感満載なセクハラで申し訳ないが、アインズ・ウール・ゴウンは我が会社と同じでブラック企業なのだと思って諦めてもらうしかない。すまないアルベド。次のボーナスは弾むからな。

 

 実は、さっきからこんな状況なのに無反応なので気になっていたんだが、無くなってるな……アレ。未使用のままで消えてしまうとは何だか申し訳ない様な情けないような。

 まあ、アンデッドだから仕方ないと言えば仕方ないが……しかしアンデッド特有の精神作用無効化のスキルが発動しているお陰で、普段なら、こんな美人が至近距離まで近づいて見つめてくるという状況は羞恥で我慢できないはずだ。

 なのに、こうして、扇情的すぎるアルベドに擦り寄られている今も、何とか耐えていられる。本当ならもう堕ちてる頃だ。童貞を舐めてはイケナイ。

 

 くふー。

 

 長々と言い訳のように説明してしまったが、そんな訳でこれからする作業は確認のため仕方がないことだ。

 決して、決してスケベ心に突き動かされて自分好みの部下にイヤらしい事をしたいなあとかそういう下心では断じて無い。

 

 

 くふー。バッサバッサ

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

「……もしかして?」

 

「はい「しかしアンデッド特有の~」から口に出されておりました。くふー」

 

「……すまない」

 後、その語尾に「くふー」って付けるの「うぐぅ~」なみに斬新すぎる萌え口癖みたいになってるから止めた方が良いと思う。

 

「とんでもありません! モモンガ様! ワタシ幸せです! 今、とても幸せです!」

 

 何故2回言ったんだろう? 大切なことだからかな? カナ?

 

 しかし、長いこと独りぼっちでゲームをしていたせいか、完全に独り言が身に付いてしまっていて困る。NPCが反応している時点で『独り言』じゃなく『心が駄々漏れ』という案件が発生している。

 

 ……待て、そもそもNPC達の記憶ってどこからあるんだろうか、さっきからだよね?

 作成された時からなのか、それともサービス終了後の異常事態発生からなのか。

 

 これは非常に重要なことだ。

 また、きちんと確かめなければな……。もし昔の独り言を全て聞かれていて、その記憶がNPCにあるとしたら……危険だ。これは危険だ。主に俺のハートがブレイクショットしてしまう。

 

 ふと気が付くと縦瞳金眼のアルベドがブツブツと何か呟きながら、目の前で服を脱ごうとしていた。

 

「ア、アルベド! 何をしている」と慌てながら問いかけると

 

「はい、モモンガ様がワタシの胸を揉みしだく必要があると仰ったのでその準備をしております」

と汚れなき眼で言われた。え? 誰だ、その頭のオカシイ犯罪者は?

 

「ま、待てアルベド」

 リアル世界でも哀しい意味で魔法使いだったモモンガとしては生乳(なまちち)に触れるなど、あまりにハードルが高すぎる行為だ。

 しかもタブラさんの創造したNPCを汚してしまうことに大きな罪悪感がある。

 そもそも「揉みしだくとか言ってないからな! 触るだけだ! 触るだけ!」

 と手をワタワタと振りながら意思の疎通を試みる

 アルベドは聞こえてないかのように「ハアハアハア」と息を荒げながら両手両足を広げて低い姿勢を取り、ジリジリとこちらに迫ってくる。

 モモンガも捕食者(アルベド)と一定の距離を保ちつつ低い姿勢をとりつつ「どうどうどう」と(アルベド)を落ち着かせる。

 

 おかしい!? 何故俺は、こんなに部下に追い詰められているんだ!

 

「落ち着きなさい! アルベド! もう、他のメイドに頼むことにするぞ!?」

 

 ええー、と残念そうにアルベドは呟くと、ようやく玉座の間で急遽開催されたカバディ選手権の幕が下りる。

 情けない。せめて威厳ある支配者であるところを見せなければ忠誠度が下がったりして反乱へと繋がる可能性だってあるのだ。彼らにとって忠義を尽くすに相応しい、威厳のある支配者でなければ。

 ふう……と息を整える。何、簡単なことだ。むしろセクハラする側は我にあり、攻めるのはあくまでこちらであり、こちらがお客様……じゃなかった。上司であることを忘れてはいけない。よし。

 

「では……触らせてもらっても、か、かまわにゃいな?」

 

 はふん! 無理でした!

 

「ええ、どうぞ!」と豊満な凶器(おっぱい)を自慢気にアルベドは突き出してくる。

 むむ、なんという美乳……むしろアレが無くなっていて良かった。もし有ったら最低な事をしていそうだ。と恐れながら、胸に震える手を伸ばす。威厳なんて始めから無かった。

 

 

 

 

 

 ふにょん。

 

 

 触れた

 

 触れてしまった

 

 指先から伝わる初めての神の感触

 

 それに触れることが出来てしまったのだ。

 

 諦めよう そして認めよう ここは仮想世界(ユグドラシル)ではない 現実世界(リアル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 





ゆっくりしていきやがれ様、kubiwatuki様 きなこもちアイス様 誤字脱字修正有り難う御座います


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第一章ニ編 魔法使い(童貞)アルベド(淫魔)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐らく、顔に骨だけじゃなく皮膚があったら青ざめていたであろう驚愕の事実をようやく実感して受け止めながらモモンガは考える。

 

 本当に漫画などにあるようにゲームに取り込まれたのだろうか? それとも鈴木悟の思考・記憶がこちらにコピーされて顕現し、アバターとして自分が今ここに存在しているのだろうか?

 

 (まあ どちらでも良いんだけどな……)

 

 と半分自暴自棄に、半分諦観して胃の深い所から溜め息を吐き出す。胃はすでに無いが。

 仮に前者だとしても気にする身ではない。両親はすでに亡く、兄弟も恋人も居ない。今の仕事も苦しいだけで公私ともに苦行の様な人生だ。趣味は、このDMMORPG「ユグドラシル」だけだ。取り込まれて何が困ると云うのか?不幸中の幸いというか、不幸であったが故に鈴木悟が消えて悲しむ人は居ない。むしろ謳歌しようではないか、唯一の趣味であり愛した世界を。

 後者だとしたら……それこそ何も気にする必要はなくなる。リアルの俺はリアルの俺で、明日の仕事の為に眠りについている事だろう。ならばコギト・エルゴ・スムでは無いが、「我思う故に我在り」私という存在がここに存在するのであるから私は私として生きれば良い。例え電子の塊であったしても。そういえば今も人気のフニャコフニャ夫先生の「ドラ○もん」にあったコピーロボットのアイデンティティ的な話があったな‥‥フニャコフニャ夫先生と言えば「オシシ仮面」の続きが少し気になるが、まあ現実世界に未練は無いと言える。まさかオシシ仮面が燃やされるとはなあ……。

 

 

「あぁ はふぅ」

 

 悩ましげな声に気づいて顔を上げると、切なげに身悶え続けるサキュバスが居た。

 

 というか、考えてる間ずっとアルベドの胸を揉んでた!

 

 つまり俺は今、奇跡の果実(オッパイ)を揉みながら、スッゴイ決め顔で

「ここは仮想世界では無い、現実世界だ!」とか言ってた!

「コギト・エルゴ・スム、「我思う故に我在り」だ」とか言ってた!

 

 なにこれ恥ずかしい。デカルト先生に謝れ。

 

 すると、再び緑色のオーラみたいな物が体中から立ち上りだした。

 ああ……有難う。少し落ち着いてきた……良かった。精神作用無効化があって良かった。このままだと大抵、恥ずかしすぎて可及的速やかに死んでた 「業務上過失恥死」だね うん なんだ?うまく言ったつもりか? 死ねば良いのに。まあ アンデッドだからもう死んでるが。

 

 

「くふん ももんがさまぁ……」

 

 

 ……そこには、まだ部下のオッパイを揉み続けている不死王(オーバーロード)が居た

 

 なんだこの右手は……呪われているのだろうか? アンデッドだしな……アンデッド関係ないが。

 モモンガは相当な名残惜しさを感じつつ、そこから魔法でも出すのか?というほど気合を入れて手を「ハァッ!」と広げる。

 

 ふるん という音をたてたかの様に一瞬の波打ちと共に元の美しい形に戻るアルベドの左胸。いやあえてココは「左乳房」と呼びたい。

 わきわきわき と手のひらをグーパーグーパーさせて問題がない事を確認した様な顔で誤魔化して、震えながら俯くアルベドに「たびたびすまないな……アルベド」と声をかける

 するとアルベドは力なくペタリと座り込んだかと思うと 両腕で体を抱きしめながらビクンビクンッと体を震わせだした。

 

 ……あー なんだ 20世紀にあった薄い本の名作家クリムゾン先生の本で見たことあるな。この光景。 うん 確か「く、くやしいっ!こんなので!」だったかな……

 明らかに悦んでるけどな このサキュバス。

 ちなみに冷静に観察しているみたいに見えるけど、今 俺の体中から緑の光がキラキラに出まくってるからね うん 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 

 とりあえず、これは夢でもゲームの世界でも無いとして、気になる点はいくつもある。

 

1.俺と同じようにサービス終了までプレイしていたプレイヤーも同じ様に取り込まれているのか

 

2.そのプレイヤー達と、悪名高い『アインズ・ウール・ゴウン』の自分は友好関係を築けるだろうか

 

3.彼らと敵対した場合、魔法職であるユグドラシル時代と同じように魔法が使えるのか

 

4.自我が目覚めたっぽいナザリックのNPCはギルドマスターである自分に従ってくれるのか

 

5.この世界の状況……は、取り敢えずセバスが調べてくれている

 

 アルベドはゲームの終了間際にイタズラ心で行った設定の改変によるものか、(モモンガ)を害そうとはせず慕ってくれているみたいだが、他に沢山存在するナザリックのNPC達は現実世界となり、命と自我が芽生えたとしても素直にギルドマスターである自分に従ってくれるかどうかは最重要懸念事項だ。まずは安全の確保のためナザリックとNPCの状態を掌握しなければな。 NPCとナザリックのギミックを使えるのであれば、プレイヤー達が敵として5や10のパーティが侵入してきたとしても撃退は可能だろう。 第八階層のアレらも居るしな。

 さて 何故か、ビクンビクンしてた守護者統括が収まった頃合いを見て優しく話しかける。

 

 

「では、アルベドよ。そろそろ大丈夫か?」

 

「ハァハァ はい いつでもモモンガ様を迎え入れる準備は出来ております」

 そう言いながらアルベドは顔を赤らめて服を自然にはだけさせようとする。

 

 ……サキュバスだからだよな? こいつがこんなにエロいのは……ですよね?

 

「いや 今はそういう事をしている時ではない」と告げるとアルベドは「はっ 申し訳ありません!」と一瞬にして出来る女モードに変わる。

 

 良かった。もう少し強引にしつこく迫られていたら危なかった……恐らく体を許していただろう……無いけど。

 むしろモモンガが妊娠させられそうなほど邪悪で獲物を狙うような目をしていたアルベドが正気に戻った所で行動に移るとしよう。 まずはナザリックの階層守護者達の様子だが……集めてしまった後に集団で反乱されたら目も当てられない。しかし自分が設定を歪めてしまったアルベドの忠誠度(?)は大丈夫みたいだ。他の色々は駄目かも知れないが、ここは戦術の基本である「各個撃破」の名の通り、アルベドと2人で各階層守護者の所に赴き、彼らの状態の確認とナザリックの様子を調査するとしようか。なんだろう……なんか、俺、姑息なヒモみたいだな……。

 

「アルベドは気づかないか? 今、ナザリックで起こっている違和感に」

 

「違和感……でございますか? そういえば先ほどまでは至高の御方に話しかけて頂いた時にしか反応が出来ませんでした。何か……「そういうもの」として受け入れておりましたが、そういう「(かせ)」の様なものがあったのにそれが無くなり自発的に発言したり行動したりしても良くなった気が致します」

 

「ほう?「(かせ)」か……」 なるほど NPCとして設定された会話や行動以外の行為を行えない制限を「枷」として感じ、記憶しているという事か……

 

「はい 今なら自由に話したい事を話せます モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様!」

 

「ハハハハ」 

 そうか 自我と自由を得たと云うことか タブラさん あなたの娘さんは生き生きとしてますよ。

 

「モモンガ様ももんが様ももんがさまももんがさまももんがさまももんがさまももんがさまあ」

 

「……」

 

「ももんがさまももんがさまももんがさまあなさまももんがさまだーりんさまももんがさまあるべどとももんがはいいふうふももんがさまももんがさまん」

 

「まてっ 今 何か途中で挟んでなかったか!?」

 

 と焦って突っ込むと、アルベドは頬をふくらませてプイッと横を向いた。

 

 むう カワイイ

 

「まあ 自発的に行動できる様になったというのは大きなポイントだな。どうやら大きな変異がユグドラシル、もしくはこのナザリックに起こった気がするのだ。それでその調査として各階層の様子と守護者の様子をアルベドと2人で見に回ろうと思う」

 

「まあ!? それでしたら守護者各自を御身の前に馳せ参じさせますので、各々から各階層の様子を伺えばよろしいかと。ですので、どうぞモモンガ様はお待ちになられて下さいませ!」

 

 ……いや、それだと最悪多人数との戦いになるかも知れないという恐怖は拭えない。そして「怖い」などと支配者に相応しくない理由を言えるわけも無い。もちろん自分が彼らの支配者であると素直に認めてもらえれば大丈夫だとは思うのだが、リスクは回避しておきたいところだ。 恐怖心とはそうそうキレイに払拭出来る物ではない。アンデッド化により恐慌状態を、かなり抑えられているのがせめてもの救いと言える。

 

「そうだな……では第六階層に2人で行くとしよう。少し試したい事もある」

 

「ハッ 解りました。ちなみにモモンガ様。試したい事とは何でしょうか? 差し支えなければお教え下さい」

 

「うむ コレの性能を試してみたいのだ」

 とモモンガはゲーム終了間際に左手に握ったままのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げる。 

 第六階層は広いので魔法などを試すのに都合が良い。ただあそこにはエルフの双子が居たハズだ。最悪2対2の戦闘になるとしても、この我がギルドの総力を注ぎ込んだアイテムが有ると無いとでは随分違う。

 

「至高の御方により創造されたナザリックの誇るギルドアイテム、『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』で御座いますね。解りました。確かに広い第六階層は、試運転には最適かと思われます」

 

「うむ ではリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移しよう。アルベド、こちらへ」

 

「はい!」心なしかアルベドが、必要以上にしなだれかかるように抱きついてくる。

 

 いや 刺激が強いのですが……。

 

「では第六階層へ行くぞ」と宣言しリングに「念」の様なモノを込めるとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが起動して一瞬にして思い描いた第六階層へとワープする事が出来た。良かった。アイテムもどうやらユグドラシルと同じように使えることが解り、宝物庫にある豊富なアイテムが有効活用出来そうな事に、ほっと胸をなで下ろしていたのも束の間、眼前に広がる第六階層の広大な世界に目を奪われ圧倒される。

 

「ふう……よし、行くぞ」

 

 モモンガは気を引き締めると、唯一の頼みの綱であるアルベド(恐怖)を伴いながら歩を進めてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















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第一章三編 かわいい(アウラとマーレ)は正義

 

 

 

 

 

 

 

 この第六階層には広大な土地と、ある巨大建造物がある。

 

 それは円形闘技場〈コロッセウム〉。

 

 188メートル×156メートルの楕円形であり、高さは48メートルだ。ローマ帝政期に造られたそのものである。無数の客席に座った、無数のゴーレムに動く気配は無い。

あらゆる箇所に「コンティニュアル・ライト」の魔法が掛けてあり、白い光を周囲に放っていた。ちょうど野球のナイターの様に真昼のごとく闘技場内が見渡せる。

 ちなみに正確に云うと「円形劇場アンフィテアトルム」という名前が付けられている。

 そしてこの第六階層を守るのは双子のダークエルフの姉弟だ。

 ぶくぶく茶釜さんによって作られたアウラとマーレは非常に可愛い姉弟で、男の子の格好をしているのが姉のアウラでテイマー。女の子の格好をしているのが弟のマーレでドルイドだったかな? ぶくぶく茶釜さん、やまいこさん、餡ころもっちもちさんの三人娘?が良くこの第六階層にある大木の中に作られた部屋でお茶会を開いていたため、御呼ばれすることもあったモモンガにとっても、実は来慣れた階層であり、そのお茶会などで着せ替え人形にされていたダークエルフの姉弟との面識もかなりの回数を数えることを考えると、友好的に話が進みやすいのでは無いか?との考えもあって第六階層を最初の攻略ステージに選んだと云える。

 

 第六階層のゲートを潜り、コロッセウムに向かって歩いていると隣から「くふふ デートみたいですわね」と云う独り言にしては大きい声が隣のサキュバスから聞こえて来たが、聞こえないフリをしながらコロッセウムに入った。

 そこには重厚な質感に伴った壁と床が有り、仄かに香る石と土の匂いから伝わる情報は、間違いなくこの世界が実在しているということをモモンガに再認識させていく。

 通路を抜けコロッセウムの闘技場広場へと辿り着く。

 

 (あれ? 2人は何処に配置されているんだったっけ?)

 そんなふうにNPCの位置を思い起こそうとしていると、突然、空からくるくると宙返りをしながら目の前に褐色の少女が着地する。

 モモンガは、ビクゥッとなりながら、それがダークエルフのアウラであることを確認して、アンデッドでありながら少なめではあるが動揺を繰り返す自分の体に疑念を抱く。

 

「いらっしゃいませモモンガ様ーー!!」と快活に挨拶をしたあと「げっ アルベド……」と小声で呟くと サッと傅(かしず)いて俯きになり、真剣な表情と声で

 

「ようこそモモンガ様 第六階層へ 第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラと」

 

 とてとてとてとマーレが可愛く走ってきて滑り込みで跪(ひざまず)き

「マ、マーレ・ベロ・フィオーレ、お、御身の前に!」と臣下の礼を取った。

 

 良かった……2人とも恭順の姿勢を取ってくれている。NPC達は今はもう会えない仲間達の子供のような物であり、決して戦ったり傷つけたりしたくないのが本音だ。 

 

「うむ 2人とも元気そうで何よりだ」

 アルベドやセバスの時はあまりの出来事に遭遇したせいで思考停止してしまい、余裕がなかったが、『ユグドラシル』で何度も会っていた双子の息づきや声の生々しさに驚きと感動を味わうモモンガは、ホンノリと輝いて少し落ち着きを取り戻すことが出来た。

 

「ええ 2人とも元気そうで何よりです。ただ、今モモンガ様はギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にナザリックの支配者として御身をお運びになられたの。臣下としての礼儀は弁えないとね?」と優しくアルベドが子供達を諭す。その姿は慈愛の女神にすら見える。

 

「「はい!」」

 

「いくら普段、モモンガ様に良くしてもらっているからって、ハメの外しすぎは駄目よ?」

 

 ええっ オマエがそれを言うの!?

 と思わず高速で頭をブン回してアルベドを凝視すると「なにか?」と言わんばかりに首を傾けながら女神の微笑みで返される。 

わあ 怖い……あっ 一瞬、体が緑色に光った。

 

 部下の笑顔が怖くて精神作用無効化が発動する支配者……か、なんか泣けてきた。

 

「さて 2人に聞きたいのだが、最近変わったことは無かったか?」とモモンガは気を取り直して双子に問いかけてみる。

 

「何もなさ過ぎて、このごろ暇でしょうがないんですよね~。侵入者でも久々に来てくれても良いのに」

 とアウラがつまらなそうに答えた。

 

 「ふむ、そうか……ところで、ここで色々と魔法やスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの試験運転をしたいのだが、構わないか?」

 

「構わないも何も! このナザリックの全てはモモンガ様の物ですよ? どうぞどうぞ」

 

「そ、そうです。どうぞ何でも仰って下さいモモンガ様」

 と双子にすんなりと許可をもらう。間違いなく2人ともギルドマスターである自分に忠誠を誓ってくれているようだ。

 

「よし ではアチラを借りるぞ」とモモンガは双子に言い放つと50メートルほど離れてコロッセウムの中央に向かって立つ、さてユグドラシルと違ってアイコンは無い。魔法はどうやって発動させるのかな?と考える。すると使える魔法、効果範囲、威力、発動の掛け声などが頭の中に自動的に浮かんでくる。

 

 なるほど……便利なシステムだ。

 

「魔法を試すので何か的になる物を置いてくれないか?」と遠くにいる双子に告げると、「は、はい!ただちに!」という声と共にマーレの従属モンスターであるドラゴンキンが、のっしのっしと大きな藁人形を抱えてコロシアムの真ん中に「どすん」と置いた。

 

 ふう……ではまず初歩魔法から……遠くにある藁人形を見ると「ググググッ」と何か

「力」の様なモノが自分の体を駆けめぐり、藁人形をロックオンした感覚が芽生えた。

スーっと意味もなく息を吸い込んで「ファイヤーボール!」と叫ぶと自分の魔術力の高さ故か予想外に50㎝以上の大きな火の玉が指先から射出され藁人形にぶつかると大爆発を起こし炎上した。一軒家くらいなら一撃で爆発崩壊させられそうな威力に少したじろぐ。

 

 攻撃魔法は問題ないようだ。次は得意な召還魔法をスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力で試してみよう。

 スタッフに集中し、《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/根源の火精霊召喚》を発動させると、巨大な光球が生まれ炎の渦が巻き起こり高さ15メートルもの炎で出来た半身の巨人が現れた。

 プライマル・ファイヤーエレメンタルはレベル80の強さを誇り、召還モンスターの中では上位レベルだ。

 

 凄まじい熱波が広がる。そばに居るだけでチリチリと肌(骨)が焼けるようだ。

 よく考えたらコイツ火属性で俺の天敵じゃないか!

 自分で召喚したんだけど、ちょっと怖いな……デカイし熱いし、もう消すか?

 

 ふと遠くに居るアウラを、見ると「わあーー!すっごおーーい!!」と叫んで目をキラキラさせてはしゃいでいる。テイマーとしては魔物に対して興味が湧くのかも知れない。ふふふ 可愛いなあ

 

 そうだ 先程「暇だ」と言っていたな--

 

「アルベド。アウラが体がなまっているみたいだし、このエレメンタルと闘わせてやろうと思うのだがどうだ?」と傍に居た守護者統括に聞いてみる。

 

「よろしいかと。あの子も喜ぶと思います」

 

「うむ」

 

「では……アウラ、マーレ。 プライマル・ファイヤー・エレメンタルを倒していいわよ。モモンガ様の御前であらせられるのだから無様な真似はダメよ?」

 

 と子供に優しく諭す母の様に指示を出す。 ええ…オマエ誰だ…。

 

「え! 良いのお!? やったあー!」

 

「さて、アルベドよ。では私が2人の戦いを見守っている間に第七階層に行き、第七階層守護者のデミウルゴスを連れてきてくれないか?」

 

「はい……コキュートスとシャルティアは、よろしいのですか?」

 

「うむ……そうだな……ではコキュートスも呼んできてくれて良い。デミウルゴスと時間をずらして到着する様に調節してくれ。シャルティアは後にしよう」

 

「かしこまりました。では失礼致します」と一礼したアルベドがコロッセウムから出て行く。

デミウルゴスは階層守護者の中では弱い部類に入るので突然襲われたとしても何とかなるだろう。コキュートスも撤退を前提にした戦いをすれば危険はまず無い。しかしシャルティアはダメだ。

 シャルティアを創造したペロロンチーノさん自身がガチビルドだった流れを汲んで、シャルティアもガチビルドで守護者最強の能力を誇る。しかもオーバーロードであるモモンガと、聖魔法も使い前衛であるシャルティアとの相性は最悪だ。それ故シャルティアばかりは、私に対する感情がハッキリしない限りは、他の守護者に守られた状態で、謁見をした方が良いだろう。

ふふ…友人と言って良いペロさんの娘を疑い、恐れるとは…何とも情けない支配者じゃないか……。

 

「さあ行くよ!マーレ!」とアウラが楽しそうに弟に声を掛けるとマーレは「ひいぃ」と云う顔を隠しもせず「ボク…用事を思い出し……」と言って逃げようとした。その瞬間に強引な姉にキャプチュードされてコロッセウムの中央へと引っ張られていく。 うん ぶくぶく茶釜さんとペロロンチーノさんの姉弟そのままの関係だなあ……そう思うと感慨深い。しかし茶釜さんはアウラとマーレを理想の妹&弟として創造したんだったよなあ。そう考えると女の子でも無く、男の娘でもないペロさんは2人のエルフを見てどんな気持ちだったのだろう……あの人、なに気に「お姉ちゃん子」だったしな。本人は頑なに否定していたけど。 

 

 まあ むしろ、弟の性癖と趣味の総決算である「変態ロリ吸血鬼」を見せつけられた姉の茶釜さんの方がメンタル的には修羅場だった気もするが。

 

 そんな風に自分とも仲が良かった茶釜&ペロ姉弟に思いを馳せていると、すでに大勢は決しつつあった。

 

 戦いは終始ダークエルフの姉弟が圧倒している。

 

 アウラは守護者の中では個人の戦闘力が高いわけではないが、軽やかなステップでエレメンタルの攻撃をかわしながら有効打を与え続け、マーレは敵の足の食い止めや、アウラのピンチでの補助魔法など完璧なチームワークを見せる。……もしこの世界でもプレイヤー同士のPvPが行われていたら仲間の居ない今の俺では何の連携プレーも出来ずに殺されてしまうだろう……殺される……死、か。

 その場合もユグドラシルと一緒で蘇生出来るのならば良いのだが、こればかりは自分で試して見るわけにも行かないからなあ。

 

 さて、戦いは終了した。マーレの魔法でエレメンタルの炎ダメージを無効化したり、アウラを回復させながら戦った結果、アウラはほぼ無傷で勝利した。

 エレメンタルの炎攻撃による熱さのためか汗だくになったアウラと後方支援のため遠くに居たマーレが、とてとてとモモンガのもとに走り寄ってくる。

うむ、やはり2人とも可愛いな。 現実世界において特に子供が好きという訳でもなかったが、こんな姉弟なら欲しいものだ。

 

「「ええっ そんな~ カワイイとか欲しいとか照れちゃいますよう~」」とハモった姉弟が顔を真赤にしながら頬に手を当てて、羞恥に身をくねらせる。

 

 ……しまった。また声に出していた様だ。

 長い独りぼっちでのユグドラシル生活で身についた癖がなかなかとれてくれない。

 羞恥に身をくねらせたいのは、むしろ俺の方だ……。

 恥ずかしさを隠すかのようにアイテムボックスに手を伸ばすとマジックアイテム「ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター」という、いくら注いでも水が無くならない水差しを取り出す。ついでにグラスも。あと当たり前のようにアイテムボックスが使えた事にモモンガは、ちょっと驚く。

 そして火の精霊と前衛として戦った結果、汗まみれのアウラにグラスを差し出して冷たい水を注ぐ。

 

「アウラ。熱かったろう、飲みなさい」

 

「え? そんな悪いです、モモンガ様に……」

 

 申し訳無さそうに手を顔の前で振るアウラに、モモンガは苦笑を浮かべてグラスを押し付ける。

 

「気にするな。いつも頑張ってくれているオマエへのささやかな感謝の表れだ」

 

「ふわー」

 照れたように顔を赤らめるアウラは恥ずかしそうに「ありがとうございます、モモンガ様」と小声で言うと一気にグラスの水を飲み干した。

 

「マーレもどうだ?」と大人しく後ろに立っていたマーレにも声をかける。

 

「い、いえボクは後衛で熱くなかったですし、だ、大丈夫です!」と恐れ多いと言わんばかりに両手で押しとどめられてしまった。好意を素直に受け入れて無邪気に喜ぶアウラも、照れて恐縮し、もじもじするマーレもどちらとも可愛い。やるなあ茶釜さん。「えへっ」という茶釜さんの仕事用の声(ロリボイス)が脳裏に浮かんだ。

 アウラが飲み干したので、グラスとピッチャーをそのままアイテムボックスに戻す。

 

「……モモンガ様ってもっと怖いのかと思ってました」

「ボ、ボクもです」と双子に言われる。

 

「そうか? そっちの方が良いならそうするが……」

 

「え? 今のほうが良いです! 絶対いいです!」

 

「なら、このままだな」

 

 ハハハハハ、とモモンガは笑う。こんな風に笑ったのは久しぶりかも知れない。アインズ・ウール・ゴウンの長として、支配者として振る舞いNPC達に見限られないように、裏切られないようにと思っていたのに……やはり子供は偉大だな。子持ちである「たっちさん」も良くそんなことを言っていたが、ようやくモモンガにも理解できた気がする。

 

「も、もしかして私にだけ優しいとかー」

 

 ぼそぼそとカワイイことを呟くアウラに何と返して良いのかわからず、モモンガはアウラの頭を「コイツめー」と言わんばかりに、わしゃわしゃと撫でる。

 

「えへへへ」

 

 子犬の様な雰囲気を撒き散らすアウラに癒されながら撫で続けていると、突如背後ろから バッサバッサと羽の荒ぶる音がして周囲に黒い羽根が散乱する。

 周辺の温度が少し下がった気がする。アンデッドによる状態無効化が働いていない気もする。怖い。奴が、奴が帰ってきている。

 

 背後から強烈なプレッシャーが……いや! 背後からだけじゃない! と思って正体不明(アルベド以外)のプレッシャーを発している方向を見ると、いつの間にかアウラの隣にマーレが瞬間移動して頭を出していた。……おかしい ちゃんと時間停止対策はしていたハズだが……。

 

 まあ マーレも頑張ったしな…… まったく仕方のないやつだ。やはり子供だから頭を撫でられたいのかな?と思いマーレの顔を見ると、虚ろな表情でモモンガを見ている。その暗く深淵な瞳の奥に一体どんな感情が沈んでいるのだろうか……気づいた時にはマーレの頭を優しく撫でている自分が居た。決してナニかに負けた訳じゃない。そう自分に言い聞かせながら。

 

 撫でられているマーレは子供とは思えないほどの恍惚とした表情を浮かべていた。

 

 しばらくマーレを撫でていると にゅっ と、再び隣に頭が差し出される。

ふふ まったく仕方のない子どもたちだ。まあ 減るものでもなし……と差し出された隣の頭を撫で……違う! これアルベドだ! ツノ生えてる!

 

「えい」 てしっ と脳天にチョップを落とす 「うきゅ」 とアルベドはミッフィーのような()になる。

 

「ひどい! モモンガ様ひどい!」

 

「うるさい!」

 

「あー 痛いです。モモンガ様に叩かれたところ痛いです。これは粘膜同士の接触などで直接魔力を送り込んでもらわないと治らないかもです」

 

 いや オマエ、超防御特化型NPCだろ ダメージ1も食らってないだろ。むしろ、こちらの手にダメージ判定が出た気がするんだが。 いえ別に「なんて堅い石頭なんだ このアマ」だなんて思ってませんよ?

 

「はいはい」 あと子ども達の前で粘膜とか言うな。

「流したー! モモンガ様流したー!」と拗ねるアルベド 双子への対抗意識だろうか、駄々っ子の様にムキになっている。

 

「……あのさあ アルベド」と突然ジト目のアウラが間に入ってくる

 

「? なあに アウラ?」

 

「「モモンガ様に良くしてもらっているからって、ハメの外しすぎは駄目よ?」って言ったの誰だった?」

 

 むう という顔をしたアルベドが、こちらを向くと しゅんとして「申し訳ありませんモモンガ様」と頭を下げる。

「いや 謝ってもらう程のことではないアルベドよ。お前たちと、こういう風に戯れ合うのは決して不快ではないのだ」

 

「そうなの……ですか?」

 

「ああ 本当だとも」

 

 本当に本当だとも。得体の知れない状況の中で、自分にすら恐怖と不安を抱くこの世界の中で、私と共に、みんなに置いていかれてしまった守護者達が、今 あの時の41人の様に私に寄り添い笑っていてくれているのだ。

 

ああ 彼らは素晴らしい置き土産をしていてくれたのだな……。それに気づいていない俺はなんという愚か者だったのだろう。俺は名前だけ残されたメンバー達をも含めて、大切な思い出ごと捨てられた様に感じて、ただ寂しくてイジケてヤサグレていただけの日々だった。タブラさんが残したアルベドだって、終了間際にしか設定を覗いてなかったし、ただただ皆の帰りだけを待ち侘びている毎日だった。でもそうじゃなかった。それだけじゃなかった。この世界で初めて気づくことが出来た事が多すぎて人として一皮も二皮も()けていくようだ……ああ それで骸骨にって? いや それは笑えないが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















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第一章四編 事案(シャルティア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガが、マーレの持つ神級武器(ゴッズアイテム)である「魔法の杖シャドウ・オブ・ユグドラシル」を興味津々で見せてもらっていると、コロッセウムのゲートに人影が見えた。

 やや浅黒い肌に髪を後ろに撫で付けた髪型。理知的で精悍な顔つきに丸メガネ。そして悪魔の尻尾を左右に揺らしながら赤いストライプ柄のスーツを着込んで優しげな笑顔を張り付かせたまま、こちらに向かって歩いてくる人物はナザリックの防衛指揮官である智将デミウルゴスに間違いない。

 

「お待たせしましてすみません。第七階層守護者デミウルゴス 御身の前に」とモモンガの前にひざまづく。

 

「悪いなデミウルゴス。わざわざ来てもらって」

 

「なにを仰せでしょうかモモンガ様。お呼びして頂ければ、このデミウルゴス、いつでも何処にでも馳せ参じ致します」

 

「うむ オマエの忠義、有り難く思うぞ」

 

「とんでも御座いません! そう仰って頂けるだけで億万の褒美に勝ります!」

 

「そうかデミウルゴス。お前の忠義有り難く思うぞ。……ところで第七階層では、何か変わったことは無いか?」

 

「いえ 第七階層では特に何も変わった様子は御座いませんが……」

 デミウルゴスは、そこで言葉を区切ると右手中指で丸眼鏡をクイと直し、一段階シリアスな表情を見せ「……もしかして、何か問題が起こったのでしょうか?モモンガ様」と言葉を続ける。

 

「うむ どうやら守護者には気づくことの出来ない差異でありながら、私にとっては看過し難い異変がナザリックに起こっている。それがナザリック内だけの問題なのか、もしくは世界に関わりのある事かを現在調査中だ」

 

「なんですと! 階層守護者たる大任を仰せつかっている身でありながら、それだけの異変に気づく事も出来ないとは、なんという失態を! どうか愚臣に罰をお与え下さいませ! そしてこの汚名を晴らす機会が与えられましたらそれに勝る喜びは御座い在りません!」

 

 自らを激しく責め、顔を歪ませて平伏するデミウルゴスを見て、モモンガは哀しい気持ちにならざるを得なかった。

 

 (……デミウルゴスも大丈夫そうだな……どうやら守護者たちは創造主たるギルドメンバーに対して一定以上の忠誠度を保持し続けているようだ。なのに俺は、恐怖心から猜疑心を抱き、みんなが残してくれた、みんなが預けてくれた彼らの子供達を、あたら試す様な事をするとは……なんという愚かで狭量な人間(骸骨だが)なのか……度し難いな)

 

「デミウルゴス、オマエの全てを許そう。なに、気にしなくとも良い。私もまだ解らないことだらけなのだ。このような非常事態にこそ、ナザリック屈指の知謀を持つオマエには存分に働いてもらう事になるだろう。期待しているぞ、デミウルゴス」

 

「ははっ 不肖の身への過分な慈悲と身に余るご期待に沿えるよう滅私奉公の覚悟で働かせて頂きます!」

 

「うむ よしアルベド。 コキュートスはもう来る頃か? では第一、ニ、三階層守護者のシャルティアも呼んで来てくれないか? セバスがそろそろ斥候から帰ってくる頃だから、報告を聞いてからみんなに知らせておきたい事がある」

、ニ、三階層守護者のシャルティアも呼んで来てくれないか? セバスがそろそろ斥候から帰ってくる頃だから、報告を聞いてからみんなに知らせておきたい事がある」

 

「はい」と返答したアルベドがコロッセウムから出ると、引き換えに水色透明の武人コキュートスが独特のオーラを纏いながら姿を見せる。

 

「遅クナリ 申シ訳ゴザイマセン 第五階層守護者コキュートス 御身ノマエヘ」

 

 (おお 生で見るコキュートスは迫力あるな……)

 2.5mの巨躯に4本の腕。それぞれにゴッズ級の武器を持ち自在に操るコキュートスは武人建御雷さんが「武人」をコンセプトに作った蟲王(ヴァーミンロード)だ。そのために守護者でありながら「カルマ値+50」の中立属性であり、悪の巣窟であるナザリックでは珍しい存在だ。

 

「コキュートス よく来てくれた。第五階層は変わりないか?」

 

「ハイ、オ呼ビトアラバ 即座ニ! 第五階層ハ何モ 変ワリアリマセン」

 

雪女郎(フロストヴアージン)の様子も、いつも通りか?」

 

「ハイ イツモドオリ、見回リナド 良クヤッテクレテ オリマス」

 

 氷結牢獄真実の部屋……情報系魔術に優れたニグレドの部屋もコキュートスの管轄だったな。

 解らないことが多い今、彼女には大いに働いてもらうことになるだろう。

 

「そうか ならば良い。ここでシャルティアと、斥候に出したセバスを待て」

 

「ハッ」

 

 待てよ そう言えばセバスに第六階層に移動した事を伝えていないな。ユグドラシルと同じように一度会った相手と云うことでメッセージを飛ばせないだろうか?と思い指をコメカミの辺りに添えて、セバスを思い浮かべつつ『セバス、セバスよ』と呼び出してみる。すると『はっ モモンガ様』とセバスとのチャンネルがアッサリと開いた。まさかこんなに上手く行くとは……。

 

『セバス、どうだ? 状況は?』

 

『はいモモンガ様。何やら不可思議な事態が起こっている様でございます』

 

『ふむ? どうした』

 

『まず、ナザリック大墳墓の地表と周囲ですが……広々とした草原地帯になっております』

 

『なに? ……わかった。今、階層守護者を集めて第六階層のコロッセウムに居るので、みんなにオマエの見た事実を伝えてくれ』

 

『はっ 解りました。では帰投致します』

 

 ……草原だと? いかん、また身体中から緑の光が溢れだした。どれだけ動揺しているんだ俺は

 ナザリック大墳墓は沼、それも毒の沼に囲まれていたハズだ……ユグドラシルが実体化した。もしくは俺がユグドラシルに取り込まれたと思っていたが違うのか?しかし守護者各位は何の問題も無く、各階層も変化は無いという……。

 

 むむむ? と、なると……

 

仮説.1「ナザリックという拠点が移転した」

 

仮設.2「アインズ・ウール・ゴウンという勢力が移転した」

 

 ……あまり変わらない様でいて意味が違ってくる。仮説①だと「あの時、ナザリックに存在した有機物も無機物もナザリックごと移転」、仮説②だと「ナザリックという勢力下の者が移転」という事になり、未だアインズ・ウール・ゴウンに登録されている他のギルド…メ……ん?

 

 

 

 突如、目の前3メートルほどの場所に「ブォン」と云う音がして暗闇の穴が現れる。

 なんだ……あれは?とモモンガは身を硬くする。

 

 するとそこから紫色のボールガウンに包まれた「芙蓉の(かんばせ)、柳の眉」の見本と言って良い銀髪灼眼の美少女が現れる。

 

 そうか!ゲートか!? 

 

 シャルティアはペロさんが全て(煩悩)を注ぎ込んだ高性能NPCでゲートを使えることを失念していた!

 

 美少女は首を振って周りを見渡すとモモンガを発見し、手に持っていた日傘を投げ捨て走り出す。その後ろから同じゲートを潜り抜けて来たアルベドが「待ちなさい! シャルティア!」と手を伸ばす……が、それからするりと逃れるとターゲット(モモンガ)に最短距離で駆け寄ってくる。

 

 しまった! よりによって自分との相性の問題で、最も要注意人物として危険視していた対アンデッド能力に優れるトゥルー・ヴァンパイアが、一気に距離を詰めてモモンガの懐に飛び込んでくる! モモンガは必死に近くに浮遊させていた『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』に手を伸ばそうとするが間に合わない。

 

「ああっ!愛しの御君(おんきみ)! ワタシが支配できない唯一の君よ!」

 と感極まった様に嬌声を上げながらシャルティアは猫がじゃれるかの様に頭をグリグリグリーとモモンガの胸に当てながら「愛しのモモンガ様あ~!」と強く抱きついていた。

 

 ……はふう よ、良かった。()られるかと思った。

 

 モモンガはキラキラキラとした光に包まれながら力が抜けていく。

 

 いや 待て! 良くない! こ これはダメだ! 良い匂いだし! 熱烈な告白されてるし! 条例とか! 事案が起こっている! お巡りさんコイツです! これはダメ。ゼッタイ! yesロリータ!noタッチ! 生シャルティアが美少女すぎる! ペロさんの言っていた「14歳最強説」の意味が今わかった気がする。妖艶な美女アルベドでもなく、可愛さ満点のアウラでもない。完成された美少女に抱きしめられ、胸元に頭ぐりぐりとか!あとなんか柔らかいのとか当たってる! そもそもリアル魔法使いだった俺にこんな精神攻撃とかオーバーキル過ぎる?! というか魅了されてる!? 頑張れ俺の精神異常沈静化! ああっ もう無理! 無理無理無理無理かたつむり! あと全身から湧き上がる光が更に凄いことに為ってる! 今なら蒼き衣をまとった姫姉様が降臨出来そう! 嫌だ! 俺は事案じゃない! 事案じゃないのにぃ! くやしぃ! こんなので! ビクンビクンッ ……もう……ゴールしても良いよね?

 

 

 

 混乱の中、薄れゆく意識の中で「ステイステイステイ! シャルティア! ステイ!」というアウラの声が遠くから聞こえた気がした……。

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「モモンガ様!? モモンガ様!?」

 

 

「ももんがさまぁ~!」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 みんなに呼ばれる声がする。 

 

 そうか、あんまりにも色々あり過ぎて精神作用無効化が追いつかず、心がキャパオーバーしてしまったか……

 

 もっと完全なアンデッドだったら精神作用による負荷など気にならないハズなのにな……

 

 しかし、不完全だからこそ、今、こうしてみんなに呼ばれていることが、こんなにも幸せで嬉しいのだろう……

 

 必要は無いが、すうーっと一息吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。

 

「すまない みんな、心配を掛けた」とモモンガはムクリと起き上がる。

 

 シャルティアとアルベドとアウラとマーレは泣きながら私の名前を呼びながら体を揺すっていてくれていたのだな……。みんな酷い顔をしているな。可愛い顔が台無しだぞ

「ありがとう。もう大丈夫だ」

 

「ごめんなさいモモンガ様! ごめんなさい! 久しぶりにモモンガ様に逢える事が嬉しくて!堪らなくて!」

 

 ははは……ニセ廓言葉を忘れているぞシャルティア ペロさんに詰め込まれた設定を忘れちゃ駄目じゃないか。

 

「良い良い シャルティア おまえの全てを許そう。色々あってちょっと疲れていただけだ」

 

「でも! でも!」

 

「……ずっと心配していたのだ。今回、ある大きな異変……守護者には気付けないが、この世界を覆す程の大きな異変があったんだ。この非常事態を乗り越えるのには私一人ではどうにもならぬ。守護者とナザリックの皆の力が必要なのだ。しかしあまりに大きすぎる世界の歪みにより、今までの法則も常識も無くなってしまった。私はそれによりナザリックの皆も、同じように法則が崩れ、在り方が変わってしまっている可能性もあると、悪という本来の本能に目覚め叛意に身を委ねる者が現れても仕方ないと心配してしまったのだ」

 

「そんな!至高の御方に対して裏切るなど守護者の誰が致しましょうか!」と普段、冷静沈着なデミウルゴスが叫ぶ。

 

「我々を創造し、我々が存在する意義そのものである御方に身が粉になるまで尽す事こそが我らが本望で御座います!」といつの間にか帰っていたセバスが怒った様な顔で宣言する。

 

「うむ、全くである。全て私の杞憂であった。最後に現れたシャルティアが無邪気に私を慕ってくれているのを表してくれた時、ああ我が守護者たちは大丈夫だ。と安心し緊張の糸が切れてしまっただけなのだ。だからシャルティアは何も気にするでないぞ」

 

「モモンガ様ぁ……」

 シャルティアは泣きながらモモンガを抱きしめる。なにか……こう……ドサクサまぎれに体を色々と(まさぐ)られている気もするが、気の所為に違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「……無邪気? 邪気の塊だった気がするんだけどワタシ」

 

   というアウラの小声が聴こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 いや 今 良い感じに終わる所だったからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















ゆっくりしていきやがれ様、ペリ様、kubiwatuki様、誤字脱字修正有り難う御座います


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第一章五編 高すぎる忠誠度(ハードル)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではセバスよ。お前が見てきたモノの報告を頼む」

 

 セバスは一瞬だけモモンガの身を案じるような素振りを見せつつ、咳払い一つすると「では、私がモモンガ様の命により行わせて頂いた、周辺探索の御報告をさせて頂きます」と一礼をし報告を始めた。

 

 その内容をかいつまむと、

1.大墳墓を出て周辺地理を確かめたが以前あった沼地は無く草原が広がっていた。

2.行動範囲は周辺1キロとされていたので行動範囲は1キロに収めたものの、同行したナーベラル・ガンマのフライによる高高度から更に3キロほどは視認出来たが、遠くに大きな森や山がある以外は何もなかった。

3.その様な状態だったため当然、知的生物に出会うこともなく、またユグドラシルに居た様なモンスターの確認も出来なかった。

 という物だった。

 

 

「ふむ。ここから導き出されるのは『ここは我々の居たユグドラシルでは無い可能性がある』という事ぐらいか?」とモモンガは独り言のように呟く。

 

 ……そして それがもっとも大きくて、とんでもない事実でもある。

 

 ただ、それはすでに覚悟できていた。

 

「ところで、ココはユグドラシルでは無さそうなのだが、皆は何故に我々がこんな所に居るのだと考える?」とモモンガは守護者に問いかける。

 

「あのー」とシャルティアがおずおずと手を挙げる。

 さっき俺が倒れたせいで落ち込んでいたのに関わらず、至高の御方の問いかけに応えようとするとは健気だな……。

 

「よし ではペロロンチーノさんの娘であるシャルティアの考えを聞こう」と指名する。

 

「娘って!?娘って!?」と、シャルティアがアワアワとしながら答える。

「つ、つまりその……ユグドラシルで我々に恨みを持つ何者かが、超位魔法か何かで私達を違う世界へと飛ばしたんでありんすか?」

 

「……ほう」

 全く期待していなかった吸血鬼(アホの子)から意外にも面白い答えが出た。

 なるほどなあ ゲームの中で起こった出来事なのだから、そもそもがゲーム主導で起こったハプニングなのでは?という答えはユニークだ。

あまりにも大きな出来事過ぎたためマクロ的な事だけを考えていた自分には無い発想だ。

 

「うむ 良いぞ! シャルティア」と言うと「うっしゃあ!」とシャルティアは小さくガッツポーズをしたあとアウラに向かってドヤ顔をした。

 

 ボソボソ……ねえ 良い答えだと誉められるシステムみたいだよ。お姉ちゃん。

 ボソボソ……あの顔……私の中の何かが「ムカツク」と訴えかけてくるんだけど。

 ボソボソ……奇遇だね。お姉ちゃん。ボ、ボクの中の何かもザワザワしてるよう。

 

「ナザリック一の知謀の主であるデミウルゴスよ。他にはどういう事が考えられるかな?」

 

「はい モモンガ様。全く情報が無い状態での、さっきのシャルティアの当てずっ……推理はなかなか良い線では無いかと思います。ですが私としましては、その逆もあるのでは無いか?とも考えます」

 

「ほう 逆とはつまり?」

 

「はい こちらの異世界の何者かに依って我々は召還された……と云うのはどうでしょうか?」

 

 ……なるほど 現時点でユグドラシルの世界観に捕らわれているのは仕方ないとしても、飛ばされたのでは無く、呼ばれた という事か。これも面白い説だ。

 彼らがユグドラシルという世界観で物事を判断しているのと同じように俺だって22世紀の地球という世界でしか発想することが出来ていない。例えば宇宙の彼方に存在する平行世界的な異世界には実際に呪いとか魔法があって、彼らによりゲームの中からのデータベースごと強引に抜かれた。もしくは、23世紀、24世紀と更なる科学が発展した世界において、すでに終了した昔のゲームよりデータを引っ張り出されて未来のリアルとしか思えない高度なゲームの中で強引にマッチングされた……なーんてね ふふ

 

 なにせアインズ・ウール・ゴウンと俺なんて「公式非公認ラスボス」って攻略wikiに書かれていたしなあ。実際プレイヤーの何割かはウチの事は運営が用意した解りやすい悪の秘密結社&ラスボスのNPCだと思っていた人も居る。まあ、あれだけ特別に可愛いかったり凝ってるNPCが勢揃いしていたから運営の人気取りや課金を促す罠(AOGのNPCの殆どは課金アイテムをフル活用して作られていた)だと思われていたから仕方ないが。

 

「デミウルゴス、それも良い考えだ。流石だな」

「お褒め頂き、有り難う御座います」 

 今のところは何も解っていないので、異世界に飛ばされた事はとりあえず置いておこう

 

「では、ここが未知の領域という事で、まずは早急に調べたいことがある。

 1.今のところ見つかっていない知的生命体の再捜索

 2.今のところ見つかっていないモンスターの再捜索

 3.発見出来た場合、それら生命体が我々の脅威となるか

 4.文化・文明があるとしてその進捗具合と文字、言語

 5.付近の地図

 また、3と4が我々より上であることを警戒して、ナザリックの隠蔽工作について考えた方がよいかな?」

 

「はい 仰せの通りだと思います」とアルベドから太鼓判を頂く。ふう 良かった、合格か。

「では、まず、①の知的生命体の捜索は絶対に相手を攻撃しない様に使い魔や下僕に言い含めることが重要である。対象に発見された場合の事も考え、柔軟で慎重な対応が出来る者に……デミウルゴス任せるぞ」

 

「はっ」

 

「まずは見つけるだけだ。見つけた後にその生命体の形や文化、強度に依って対応が変わるからな」

 

「はい お任せ下さいませ。必ず成果を上げてみせましょう」

 そう言って深く御辞儀をしたデミウルゴスは、ナザリックに生みだされて初めて至高の御方より勅命を拝命した喜びを隠しきれずに体を少しだけ震わせた。

 

「うむ 山があれば河が出来る。河がある所に文明は生まれる。地形を良く考察し推理して知的生命体が棲みそうな所に当たりをつけて捜索にあたるが良い。また、彼らが住んでいる場所からも文明の形態が推測出来るであろう。 では②、モンスターの捜索は北に広がる大きな森を中心に探してもらいたい。森の中であり探しものはモンスター(獲物)。これはテイマーのアウラに任せるのが一番だろう」

 

「はい お任せ下さい!」

 と無邪気に笑い嬉しそうなアウラに、モモンガは思わず親心の様な心配をしてしまう。

 

「大丈夫か?迷うなよ?テイマーだから遭った時点でモンスターの強さは解るよな?危険な相手だったらちゃんと逃げるのだぞ?」

 

「確かに外に出るのは初めてですが、どんな森も「森」である時点で全てワタシの庭の様なものです。それにフェン達も一緒ですから」

 

「うむ 安全第一で頼むぞアウラ。 続いて③の現地生命体の強さの考察だが……。この中で戦わなくても見ただけで相手の強さが解る者は居ないか?」

 

「ハッ ワタシデアレバ、観察スルダケデ、装備ヲ含メタ戦闘力ヲ、アル程度判別デキマス。 マタ、セバス モ 肉弾戦ノ強サデアレバ、判別可能デアリマス」

 

「そうか それは助かる。実はデミウルゴスが生命体を発見したらミラー・オブ・リモート・ビューイングというマジックアイテムで観察しようと思っていたのだが、戦ったりせずに強さが解るのは非常に有難い。では両者とも宜しく頼む」

 

「「ハッ」」

 

「うむ では④についてはデミウルゴスが対象を発見し、我々が安全地帯から観察後、対応を考えよう。⑤の地図については、デミウルゴスとアウラが捜索し、安全が確認された地に沿って詳細な地図を作成せよ。これはアルベドが指揮せよ。姉のニグレドの力も借りて入念に頼む」

 

「はい お任せくださりますよう」とアルベドが優雅に一礼する。

 

「さて、では現地生命体が強者であり、友好関係を築けなかった時のことを考えて、安全が確認出来るまではナザリックの隠蔽を行う。これは高度な地形操作系魔法が扱え、丁寧な仕事が得意なマーレ以外には考えられない。出来るか? マーレ」

 

「は はい、でも草原の真ん中にある今のナザリックを隠すとなると、土を外壁に集めて小山を作り中に埋没させるしかありませんけど……」

 

「! 栄光在るナザリックの壁を土で汚すと?」

 一瞬にしてアルベドから黒いオーラが放出される。怖い怖い怖い怖い。 いきなりスイッチ入れるの止めてあげてくれないかなあ 俺の心のために……。 ほら またキラキラと緑に光ってるじゃないか。 しかしこの精神作用無効化の光って誰も何も言って来ない所を見ると、どうやら自分以外には見えないみたいだな。光ったとしても変なリアクションはしない方が良さそうだ。

 

「良いのだアルベド。 確かにナザリック、アインズ・ウール・ゴウンは、かつて素晴らしい仲間達によって栄光に包まれていた、私の誇るべき宝だ。 しかし、今は仲間も一人二人と去って行き幾久しい。そんな中で誰がアインズ・ウール・ゴウンを支え、守ってきたのか?それはオマエたち守護者を含むナザリックのみんなだ。私とオマエたちこそが、アインズ・ウール・ゴウンである。大切なのは過去の栄光では無い。私にとって大切なアインズ・ウール・ゴウンという宝とは、仲間たちが残してくれたオマエたちなのだ。オマエたちこそが我が宝であると思え。その宝を守るためにナザリックが土にまみれることに何の躊躇(ためら)いがあると云うのか?解ったな。アルベド」

 

 

 

 ………。

 

 

 あれ? シーンとしている。 しまった。クサすぎたかな……ここぞと云う時に上司からの愛情表現は大切だと経営学の本で読んだんだが……。

 

 

 突然、耐え切れないダムが決壊するかの様に「「ぐはぁ」」という言葉と共に守護者の全員が大号泣を始めた。

 蟲王のコキュートスは涙が出ないので泣いてないが、体を震わせながら「ゥオオオオオオォゥ!」と叫んでいる。

 アウラとマーレは子供らしく二人で抱き合って「モモンガ様ぁ~」とワンワン泣いている。

 セバスは閉じた目元に手をやり「勿体無いお言葉で御座います……」と涙を溢れさせている。

 シャルティアとアルベドは壊れた音楽プレーヤーの様に「宝物……宝物……私がモモンガ様の宝物」とボーっとしたまま呟き続け

 そして冷静なはずのデミウルゴスが、意外にも歯を食いしばり過ぎて口唇から血を流し、手で掴んでいる太腿からも爪が食い込んで肉に刺さり、血でズボンを濡らしているという地獄絵図を呈しながら「有難きっ 有難き幸せにございます!」と感涙にむせび泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すまん やりすぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

「裏切る?裏切る?」

「すでに忠誠度200でありますっ 至高の御方41人分への忠義をモモンガ様に捧げます!」

「信頼する君たちが居ればどんな困難も大丈夫!」

「ちゅ 忠誠度310 320! なっ まだ伸びるだと!?」

「君たちは何よりも大切な宝物なんだ!」

「やめてください しんでしまいます」

 

 

 

 

 





 
 
yelm01さん、ゆっくりしていきやがれ様 まりも7007様、ペリ様、kubiwatuki様、湯呑様 丁寧な誤字の報告と訂正を有り難う御座います。


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第一章六編 自生する忠誠度(セルフサービス)

 

 ナザリックの支配者で在るモモンガは

「では守護者は外に出て仕事に取り掛かるものは、よくよく気をつけるよう。またそれら守護者が居なくなるため、ナザリックの守備はシャルティアとコキュートスにかかっている。階層守護者は二人だけになるが、お前達二人の強者であればやり遂げると信じてるぞ。 そしてデミウルゴスとアルベドで能く協議してナザリックの防衛体制を見なおして、シャルティア、コキュートスの2名で防衛ラインが機能する様に整備しておくように。では守護者たちよ。よろしく頼むぞ」と告げると、恐らくリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを作動させ、一瞬にして姿を隠した。

 

 

 去りゆく主人に長めの「忠誠の儀」を行い見送っていた、アルベド、セバス、シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスの7名は名残を惜しむかのように、至福の時間を噛み締めながら顔を上げる。

 

 妙に緊張した空気の中で、「ふうわあー」と溜めていた息を吐いてマーレが口を開く

「それにしても緊張もしたけど、モモンガ様があんな風にボク達の事を想っていてくださったなんて……ぐすっ」と涙ぐむ。

 

「41人の至高の御方の中で、唯一最後まで残ってくださっていた御方です。いと慈悲深き御方だとは常々感じ入ってはおりましたが、まさか、我々を至高の方々と同じ様に大切に想っていて下さっていたとは、身に余る幸せ……この御恩に報いるためにも粉骨砕身の働きが必要ですね」と、感動に震える指を隠すかのように眼鏡を押さえつつ、デミウルゴスが続ける。

 

「ええ、それになによりもナザリックを至高の御方が帰還された時のために、一人でお守りになられていたモモンガ様にとって、この地は特別な場所であるはず……なのに私ども下僕を守るために、ナザリックを汚すことを躊躇(ちゅうちょ)せず決断をされるなんて……」感極まったようにアルベドは目を潤ませる。

 

「我々ノ事ヲ 「必要デアル」ト、言葉ニシテ仰ッテ下サッタ事ハ、何物ニモ代エガタイ喜ビデアル」

 とコキュートスが4本の腕で腕組みし、何度も繰り返し頷きながら話す。

 

「何だかワタシ、すっごいヤル気が出ちゃった! ねえアルベド~ デミウルゴスは用事があるけど、私とマーレは、もう頂いた任務に向かって良いんでしょー?」と上気した赤い顔を隠そうともせず、ニコニコしながらアウラがアルベドに尋ねる。

 

「そうねえ…… ただ、あなたはまだ76歳の子供だと云うのを忘れてはイケないわよ? モモンガ様が仰っていた様に、この世界では私達には想像のつかない様な強い魔物が潜んでいる可能性もあるのだから、決して無茶はダメよ? あなたに何かあったらモモンガ様が哀しまれるわよ」

 

「もお~ そうやってすぐアルベドは、お母さんぶるんだから! 大丈夫、モモンガ様を哀しませたりは絶対にしないから」と拗ねたようにアウラが答える。

 

「そうだよ~お姉ちゃん! あんなにお優しいモモンガ様を哀しませたりしちゃダメだよ?」

 

「マーレまで!?」 

 

「だって さっきも、お姉ちゃんだけモモンガ様手ずからお水を頂いたり、一番に頭を撫でられたりズルいよぅ」

 

「エヘヘヘヘ モモンガ様はワタシにだけ少し優しい気がするんだよね~」とアウラは恥ずかしそうに照れる。

 

「……アウラ あなたはまだ76歳の子供だと云うのを忘れてはイケないわよ?」と黒い翼をワサワサとしながらアルベドがハイライトの無くなった目で忠告する。

 

「さっき聞いたセリフと一字一句同じなのに、込められている感情が違いすぎる!?」

 

 母の裏切りにアウラは、女の恐ろしさを知った。

 

「……ところで 先程からシャルティアが(うずくま)ったままなのですが?どうしたのですか?シャルティア」と話を逸らすためにデミウルゴスが口を挟む。

 

「……実は、さっきモモンガ様の「オマエは私の宝物だ」という御言葉を頂いてから、少々下着がマズイことになってありんす……」と上気した顔でエロ吸血姫が答えた。

 

「……ああ」と気まずい空気が守護者達に広がる中、アルベドが怒声を上げる。

 

「このビッチ! モモンガ様の御言葉でナニしてるのよ!」

「まだシてないでありんす! 大口ゴリラ!」

「するつもり満々じゃない! ヤツメウナギ」

「ふふん わたしは先ほどモモンガ様に抱きしめてもらったでありんすえ」

「あれはあなたが飛び込んだからモモンガ様が受け止めてくれたんじゃない!」

「ふふ~ん 負けゴリラの遠吠えでありんすか」

 

「……ふ、ふふふふふふふふ」

 

「どうしたでありんすか?悔しくて頭がおかしくなったの? アルベドオ?」

「これは大切な想い出として誰にも話さないでおこうと思っていたのだけれども……」

「なんでありんすか? その可哀想な子を見る勝ち誇った顔は!?」

「実は私、モモンガ様と「B」まで済ませたの……」 

 

 事実ではある。

 

「なあっ?!」

「とても……とても長い間、私の「豊満な」胸を激しく、優しく、タップリとお揉みになられたわあ……」ウットリ

「な…な…な…!」

「愛しい御方に攻められ続けて 私、その、はしたない事に胸だけで、そのね……解るでしょ?」

 

「」

 

「どうしたのシャルティア?」

 

「」

 

「はっ 死、死んでる!?」

「死んでないわよ! いやむしろもう死んでるわよ! 死んで……ヴァンパイアってそこの所どういう扱いなのでありんしょうか……」

 

「知らないわよ」

 

「とにかく! そんな色言をチビすけの前で言うんじゃないであり…んす?」

 

「……アウラを含めて誰も居ないのだけれども」

 

「……」

 

「……」

 

「……じゃ 私いくから」

 

「あ うん わたしも行くでありんす…… あの人たち、私達の扱い方が酷い気がするでありんす……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




kubiwatuki様、綿半纏様 誤字脱字の修正 有り難う御座いました。


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第二章一編 モモンガとプレアデス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船は港にいる時が最も安全である

 だが それは船が作られた目的ではない

            

           パウロ・コエーリョ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう 何か異様に疲れたな……あいつら……マジだ。

 

 彼ら守護者は「そうあれ」と造られてしまった結果、もっとも欲するのは「良き友人」「良き上司」では無く、自分達を支配してくれる存在であり、自分たちが崇拝し君臨してくれる支配者であることは解った。そう云う、ひたむきで健気な守護者たちを「仲間たちの子供である」という点を除いたとしても「愛しい」と感じる自分は確かにいる。そのせいか、それに応えようと気づいたら魔王のロールプレイをしてしまう……まさか俺も「そうあれ」と造られていたりして……わあ スゴく怖くなってきた。やめやめやめ。この想像やめ。

 

 この世界にどんな強者が潜んでいるか、もしくは今は弱くてもいつか我々より強いものたちが生まれるかも知れない。そもそも突然大量のプレイヤーが、ごっそり現れる可能性だって低くない。すでに衰退しきっていた『ユグドラシル』でも、あのサービス終了の瞬間に繋いでいた人間は千……いや万は居ただろう。彼らと敵対することになったら? 自分はレベル100プレイヤーとしてカンストしていたが、この世界でさらなる成長は出来ないのだろうか? 自分が無理だとしたら守護者は? 守護者はレベル100だから駄目だとしたらプレアデスならどうだろう? 彼女たちはレベル50前後だ。まだまだ成長する余地があるのでは無いだろうか?

 

 守護者達NPCが自分に叛意をすることもなく安全だと解ったら、今度は彼らと自分を脅かす、自分と同じ人間が怖いだなんてな。

 

 プレイヤーが居なかったとしても、俺やシャルティアはアンデッドであり、悪魔系異形種のアルベドやデミウルゴスにも寿命は無いに等しい。ヴァーミンロードのコキュートスもそうだし、アウラ、マーレも普通のダークエルフで2000歳、ハイエルフ(古代エルフ)だったら5000歳くらいだったか?また調べてみよう。

 もし今のこの世界が自分たちにとって弱者ばかりだとしても、無限に近い時を生きる我々の前に、将来、進化した人類やモンスターなどの生命体に襲われる可能性はある。我々も進化しなければならない。

 今の自分と守護者のロールプレイを軸とした関係。今はこれで良い。しかし、いつまでもそれで良しとは思わないし思えない。

「成長」とは強さだけでは無い。「そうあれ」と設定され創造された彼らが、いつか、それを乗り越えられる日が来るかも知れない。対等とは言えないまでも、家族とまでは言わないまでも、あの41人の様に本当の仲間と成れる日が来たならば、それこそが彼らと私の「成長」と言えるのではないだろうか?

 

 ……ふう 守護者に忠誠を求め、力を求め、今度は『心』を求めるのか?

 

 ――本当に…なんて俺は、我儘なんだろうな…………。

 

 そう独りごちたモモンガの顔は、骸骨になって以来、最も穏やかなものだった。

 

 

 

 人間の時の習慣で何となく部屋に帰って布団に入ったけど、肉体は完全にアンデッド化しているため眠るのは難しそうだ。

 これなら先ほどまで居た、アッシュールバニパル大図書館で調べ物を続ければ良かった。

 あそこには『ユグドラシル』関係の物だけではなく、リアルでの電子書籍、特に発禁になった本が充実しているのだ。ゲーム内の図書館に発禁本を隠すとは、なかなか手が込んだ事をするギルメンも居た物である。

 しかし……とモモンガは不思議に思う。何故か精神的な疲れなど、やはりアンデッドの割には状態異常無効化、精神作用無効化が正常に機能していない? ……効果が半減している気がする。中途半端に鈴木悟のままと云うか……。そもそも今日は沢山の恐怖を味わっていたが本来のアンデッドなら恐怖も精神への作用なのだからそれが無効化され冷静沈着に物事を運ぶことが出来たのでは無いだろうか?

 今の自分なら、精神的ストレスが溜まれば気を失う様に、精神的疲労が溜まれば、少しは眠ることが出来る気がする。アンデッドなのに。

 

 よし 気分転換に夜の散歩にでも行こう。

 リアルになったナザリックで廻りたい所は沢山あるし、外にも出てみたい。セバスが「周辺には何も無い」と言っていたから安全だろう。

 そう考えたモモンガは寝室から出て書斎に移る。机の上には図書室で借りてきた「部下に信頼される上司のコツ」「これをしない上司は嫌われる」などの書籍が積まれている。寝るために邪魔だった装備を再び纏おうとして部屋の隅に飾られてあるフルプレートの鎧と剣が目に入った。

 

 ユグドラシルではマジックキャスターは装備制限でスタッフなどしか持てなかったからなあ……せっかくだし剣も扱えるように成れないかな? そう思いブロードソードを掴む。魔法職とは云えレベル100のモモンガにとっては軽々と扱える重さだ。

 よし これなら と、剣を構えて振りかぶり、振り下ろそうとした瞬間、剣が両手から滑り落ちる様に手から離れて床に「ガランガラーン!」と大きな音を立てて落ちた。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 今日の当番で部屋の外で待機していたメイドのナーベラルは、主人が籠もる部屋から突然聞こえた大きな金属製の音に反応して「なにか御座いましたか!?」と飛び込む。

目の前に広がるのは床に落ちた剣と、呆然と骨の手のひらを見つめる我が主人の姿

 

 全く状況が掴めないのだけれども……。

 

 ナーベラル・ガンマは落ちていた剣を拾い上げると、両手で主人にお渡しする。

 

「ああ ナーベラルか……有り難う」

 

 剣を受け取ると、主人は「少し離れてくれ」と告げると剣を両手でシッカリと握りしめて振りかぶった

 一瞬、「え?いきなりお手討ち?」と思ったが、主人の先程の御言葉を思い出し、主人の邪魔にならない様に距離を取る。

 

「ふん!」と気合いを付けてモモンガが素振りをしようとした瞬間、「ガランゴロン」と剣が床に転がる。

 

 ああ これは先程の音……。

 

 再び、手のひらを不思議そうに見つめる主人。

 何か思案し終えたのかモモンガ様は私の方を向くと

「ナーベラル お前、確かマジックキャスターだったよな?」と問いかけて来られた

「はい 第八位階の魔法まで使用できます」

「よし、ちょっとこの剣を素振りしてみてくれ」

「? はい解りました」と言って剣を握り振りかぶる。「ハッ」と魂魄を込めて、ビュッと振り下ろした。

「あれぇ?!」と突然、普段のモモンガ様から想像がつかない素っ頓狂な声を上げられる。

 もう一度、「これくらい簡単ですよ?」という意味を込めてビュンビュンと剣を振ってみる。

「……ユグドラシルのルールが、こんな所に残っているのは何故なのかと不思議に想っていたのに、同じ魔法職のナーベラルには簡単に振れるだと?プレイヤーだけに適応される枷なのか?」と呆然としながらモモンガ様は項垂れてしまった。

「いえ モモンガ様。私は確かに魔法特化型のドッペルゲンガーですが、創造主の弐式炎雷様よりファイターのレベルを「1」だけ授かっております」

「えっ?弐式炎雷さんそんな事をしてたのか?」

「はい 1レベルしかないので技術は大した物では有りませんが」

「なるほど……大魔法を使いながらも近づく敵は剣で蹴散らすとか、剣先から魔法を出してみるとか格好良いものな!流石、炎雷さんだな!」とモモンガ様はホッとした様に上機嫌になられた。

 私は私で、私と創造主を同時に褒められたので本来なら飛び上がるくらいに嬉しかったのですが、この場は歯を食いしばりながら「お褒めに預かり光栄です」と頭を下げて耐える。

 

「うむ ただそれではナーベラルじゃ駄目だ。検証にならぬな。ルプスレギナはクレリックだったよな?」

「はい」

「よし、じゃあルプスレギナを……待て。ルプスレギナは何か刃物の武器などを扱える職業(クラス)を持っていたか?」

「はい ルプスレギナ・ベータは『ウォーロード』の職業を持っております」

「ダメじゃん」

「はっ 申し訳御座いません」

「いや 気にしなくていい。ではソリュシャンは……アサシンだから駄目だな。あっ ガンナーのシズ・デルタはどうだ?剣を扱う職業を取ってあるか?」

「はい CZ2128・Δ(シーゼットニイチニハチ・デルタ)もアサシンの職業を持っております」

「あー そうかスナイパーなどの時に隠密行動取りやすいものな。符術士のエントマは大丈夫だよな?な?」

「いえ 申し訳ございません。エントマ・ヴァシリッサはウェポンマスターの職業を持っております」

「ええ……意外……」

「沢山の長い蟲の手で剣を振り回す様は格好いいですよ?」

 

「なるほど……解る。すごく解る。良い。 ……となると後は一人しか居ないな……」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 

 

 ユリ・アルファは食堂にてコック長とメイドの食事メニューなどについて話し合っていた。

 突然 今日のモモンガ様の部屋務めであるナーベラル・ガンマよりメッセージが入った。

『ユリ姉さん モモンガ様の部屋に来てくれますか?』

『どうしたのナーベラル?こんな夜中に……』

『はい モモンガ様が、私では駄目だとおっしゃられまして……』

 

 (ナーベラルじゃ駄目?ポーカーフェイスの妹がこんな沈んだ声を出すなんて‥‥)

 

『今、シズがモモンガ様の部屋の近くに居るからシズなら直ぐに向かえるわよ?』

『いえ モモンガ様がユリ姉さんじゃないと駄目だと』

『ふぇ? ボ、ボクをモモンガ様が?!』

『はい 慌てなくても宜しいので速やかにお越し下さい。モモンガ様の御指名なのですから』

『ボ、私を御指名……モモンガ様が……解りました。すぐに支度をして行きます』

 

 

「こんな夜にナーベラルが当直で居るのに態々ボクをお呼びとは……」

 アンデッドなのに真っ赤に火照る顔に戸惑いながらユリは早足で廊下を歩いてゆく

「これは、もしかしなくても ご寵愛‥‥を賜るということよね……」

 それ自体は嫌悪感どころか大変な光栄に身の震える思いのユリであるものの、その手の事に疎く、未経験で初心(うぶ)な自分に務まるだろうか?という不安の方が大きくて押し潰されそうになり、モモンガの私室までの距離が遠いような近いようなフワフワした感覚に不思議な気持ちになる。

 何故か何度も曇る眼鏡を拭きながら、ついにモモンガの私室の前に着く。

 正直、年頃の女性でもあるし初めての相手が至高の御方の最高峰モモンガ様であるという事で、期待感や不安感や多幸感が綯い交ぜになり、気持ちの整理がつかないまま、動いてないはずの鼓動を激しく感じつつドアをノックする。

 

 

 

「……お待たせいたしました。ユリ・アルファ、参りました。では失礼致します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――この後、めちゃくちゃ剣を持たされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 

 

「やはり ユリも持てるけど振れなかったな、剣」

「はい やはり至高の御方に創造された時に頂いた能力以外のことは出来ない様です」

「うむ ところでユリは、そもそも剣が嫌いなのだろうか?入室して「この剣を握って、素振りしろ」と言ったら、凄い顔して落ち込んでいたのだが……」

「そう言えば創造主の「やまいこ」様も鉄拳で戦われる御方でしたね」

「うむ イヤな事を部下に強いるとか上司失格だな。また謝っておこう」

「いえ 至高の御方にそこまでして頂く訳にはまいりません。 私から話しておきますので、どうかお気にされずに」

「ふむ お風呂あがりだったみたいだし悪い時に呼んでしまったな」

「そんな事はありません。ユリ・アルファが剣を使えないと云う事で何かモモンガ様のお役に立てたのであれば、これに勝る幸せは有りません」

「ええ…… う、うむ もちろん検証の役に立ったぞ。ところで、少し外に散歩に行こうと思うのだが」

「はっ 近衛を用意して有ります」

「え?……いや 独りで(気楽に)行きたいのだが」

「それはお許し下さい!至高の御方にもしもの事があった時に、盾となり死ぬことが出来なければ、私たちは生きている意味がありません!」

「うへあ……いや、ご、極秘で行いたい事があるのだ。供は許さぬ」

「? 先程『散歩』と仰っておられましたが?」

「あ はい」

 

 この後、2人でフライを使い夜の空の散歩をして、この世界の星の美しさに心を奪われる。

「宝石箱みたいだ……」と恥ずかしいことを呟いたら、ナーベラルが「我々に命じて下さればモモンガ様の物にしてみせます」と生意気なことを云ったので、脳天にチョップしたら「うきゅっ」とミッフィーみたいな口になってた。なんだろうNPCのデフォルト仕様なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 ユリ入室後のモモンガ私室前

 

「ほら もう少しだ。頑張れユリ」

「クッ は、はい……」

「ユリ姉さん頑張って」

「よし もう少しだ!」

「ハアハアハアハア 」

「姉さん もっとしっかり握って下さい」

「よし もう少しだ!」

「くぅあっ あ~駄目っもう駄目ですっ」どたんごろん

 

「急いで湯浴みする姉さんの様子がオカシイから、気になってついてきてみたらモモンガ様の部屋で一体なにを……姉さん」

 

 

 

次の日の食堂

 

 

「姉さん 『昨夜は有難う、そして済まなかった。』とモモンガ様が仰られていたわ」

「「「!?」」」

「ごめんなさい 私ではモモンガ様に満足して頂けなくて‥‥」

「「「「!?」」」」

「いえ モモンガ様は大変満足しておられました」

「「「「!?」」」」」

「でもボ、私、途中からムキになって力を入れて握りすぎて、モモンガ様の、少し歪ませてしまったわ‥‥」

「「「「「!?」」」」」

「いえ そんな事よりも初め姉さんが泣きそうな顔をしていたのを気にしておられました。お嫌だったのですか?」

「「「「「!?」」」」」」」

「そんな事は有りません!初めてで不安だったけど、ご満足頂けたのでしたら光栄です」

「「「「「「!?」」」」」」」

「二人とも、みんなの前で何て話をしてるんっスか!」

「まあ 私は知ってたけどね~ 姉さんもやるわね」

「ああっ!シクススが泡を吹いて気を失っているわ!」

「ああっ 今日もユリ様を視姦しに来たシャルティア様が泣きながら走って行ったわ!」

「?」

「?」

 

 

 

 

 暫くの間、ユリのアダ名が「寵姫」になった。

 

 

 

 

  

 

 

 









まりも7007様、kubiwatuki様、誤字脱字の修正有難うございます


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第二章一編 幕間 メイドたち

ナーベラルはモモンガとユリが誤解される原因となった現場に居合わせたけどモモンガとユリの関係について、どう考えていたのか?という御質問について、感想欄の方で書かせて頂いたショートエピソードです。


「第二章一編モモンガとプレアデス」の翌朝

 

 

 

 

 朝、ナーベラルは上機嫌で食堂の席に着いた。

 

 昨日はモモンガ様係として、敬愛させて頂いている主人の何らかの実験、検証に立ち会いお手伝いをする事が出来るなど、他のメイドを差し置いて特別な経験をさせていただいた事に対する喜びと「至高の御方のお役に立てた」という自負で天にも昇るような心地だったからだ。

 また、主人に頼まれてた姉、ユリ・アルファへのフォローも恙無く出来た。お姉さまもモモンガ様に申し訳なく思っていた様ですが、モモンガ様は「出来ないことを発見する。それが検証の成果なのだ」と仰っていたから問題ないはずです。意味は良く分かりませんが。

 

 それにしても妙に食堂が、ざわついているような?

 

 すると珍しく、一般メイドのフォアイルが快活な彼女には珍しく、おずおずとナーベラルと同じテーブルに座り、チラッチラッと、こちらの様子を窺っている。

 

 (なんなの?)

 

 普段 ナーベラルは「無愛想」「何を考えているか解らない」という事もあって、一般メイドに懐かれる質では無かったが、何故かフォアイルだけでなく、一般メイドのインクリメント、リュミエールまで示し合わした様にナーベラルのテーブルに着席する。

 

 

 (んん……?)

 

 !? ああ……ふふ この娘達ったら昨日モモンガ様係だった私に「昨日のモモンガ様はどんな事をお話になられて、どんな事を成し遂げられたのか?」という『日刊モモンガ通信』の事を聞きたくて仕方ないのね?

 本来なら一般メイドの物である栄光ある部屋付きメイドの仕事を、緊急事態だからって私たち(プレアデス)が奪う形になったものね……。

 

「あの、ナーベラルさん」

 

「ええ なにかしら?(ふふ……私のモモンガフォルダが火を噴くわよ)」

 

「……ユリさんが、モモンガ様のご寵愛を受けたというのは本当でしょうか?」

 

「ブーーーーーーーーーーーーーッ」

 

 (は?は?は? え?え?え?)

 

 ナーベラル・ガンマは普段の彼女からは想像が出来ないような面白い顔をした。

 

「昨日、シクススから聞いたのですが‥‥」

 

「え……そんなわけ……」

 

 いえ 待って。そう言えば、昨日モモンガ様に呼ばれて姉さんがモモンガ様のお部屋に来た時、間違いなく湯浴み上がりだったわ……本来、あの時間は姉さんは食堂か廊下の掃除の点検をしているハズ。仕事が終わってもいないのに、あの真面目な姉さんが湯浴み?それに、いつも使っている物とは違うソープの香りもした……アレは、いつもモモンガ様の部屋に呼ばれて行く場合は、『そういう』とき……だから? そういえば、姉さんが入室して「剣を振ってみてくれ」とモモンガ様に命じられた時の落ち込みよう!アレも「いつもの」とは違う御用命で残念だったからでは……?

 

 

「……あるかも知れない」

 

「やっぱりー!そうなんですかあー!きゃあ~!」とフォアイルが嬌声を挙げる。

 

 その声を聞きつけたのか、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータがフラフラとナーベラルのテーブルに来て机の上に肘をついて両手で両頬を支える様にして「なぁにいぃ?どうしたのおぉ?」と聞いてきた。うん エントマは今日も可愛い。

 

「その……モモンガ様がユリ姉さんに……ご、御寵愛を賜われたと……」

 

 するとエントマは「ああー それ?」とでも言わんばかりに

 

「うん 知ってるうぅ~。ソリュシャンも言ってたわよおぉ?」

 

 なんと!そんな……「羨ましい!」

 

「ナーちゃん、心の声が漏れてるわよおぉ?」

 

「はっ!?」

 

「もうメイドの娘たちはみんな知ってるみたいよお?」

 

「なんで私は知らないのよ!?」

 

「知らな~い」

 

 そう言い残して去りゆくエントマを見送りながら「その件、詳しく!」とリュミエール達に詰め寄るナーベラルの姿があった。

 

 

 

 

 

 









kubiwatuki様、誤字脱字の修正を有り難う御座います


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第二章二編 Stand by (Touch) me

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるでワンマン会社の社長の様に、モモンガは執務室で部下から提出された膨大な報告書に目を通していた。鈴木悟の体のままだったら何連続過労死しているか解らないほどに過酷な状況の日が続く。アンデッドだから体の疲労はないが、精神面で蓄積されていく疲弊は何ともしがたいモノがあったが、病みかけたときに、時折起こる精神異常無効化の光が優しく自分を包んでくれると、それなりに楽になることは出来た。

「アンデッドの精神異常無効化って、そもそもバッドステータスにならなかったと思うんだけどなあ……」そう呟きながら机の上に数十㎝に積まれた書類の束を見て、眼孔の赤い光が涙ぐむかのように揺れるのを感じた。

「それにしても……」

 彼ら下僕(しもべ)達は能くやってくれている……よくぞ短時間でこれだけの情報が得られたものだ。『ナザリック1の知謀の持ち主』と設定され、恐らくそれが反映されているであろうデミウルゴスはともかく、アウラも臨機応変な行動と冷静な観察眼を基にした内容の報告書は、非常に客観視されており解りやすくて良い。なんとなく書かれていない事で冒険してないか心配もあるが、予想以上に初めてのお使いが上手く行った様で微笑ましく思う。

 

 まず、デミウルゴスからの報告書だが……知的生命体を捜索に行ったデミウルゴスによると『ナザリックから西南に10キロという近郊に村を発見。御命令通りに接触は避け、透明化出来るエイトエッジアサシンによって村に侵入し、観察の結果「ヒト種」とその家畜のみにより構成された村である事が判明致しました。少ないながらも家畜を飼育しており、主な仕事は村近辺の畑仕事と森への食用のためと思われる植物やウサギ、イノシシなどを採取が確認されております。規模としては150人くらいの村で、森が近くにあるのに大した柵などの防衛体制を敷いていないという事は、特に敵対している国が隣接していない状況である可能性があり、更にモンスターに対する警戒・防御設備も薄いことから、森にモンスターは居ないのか、それとも出ても気にしないほどに弱いのか、自分たちが強いのかはコキュートスなどによって確認してもらう必要がありそうです。ただし使っている道具などから文化レベルも高く無さそうであり、魔法の使用も見られないのでユグドラシルの人間(プレイヤー)の様な強者では無いと思われます。ですので、まずは森に入った人間などを狙いナザリックへ拉致し、情報の聞き出しと、危険度を調べるためのモルモットとされる事を進言させて頂きます。すでに採集パターンなどを調べ、拉致に都合の良い人間の当たりは既につけております』という内容の報告である。

 

(ふむう これにアウラの報告書を重ねて見ると……)

 

『ナザリック北の森に入りました。小動物や鳥などの生き物は豊富であり、モンスターの気配も微弱ながら多数存在しているようです。そのまま進むと使い魔のフェンがモンスターの気配を察知したので予定より深くまで進み、3mほどのユグドラシルでは居ないフサフサの毛に包まれたモンスターが洞窟で寝ているのを発見しました。予想レベルはユグドラシルレベルで30~40と見られます。更に東へと進むとオーガを2匹とゴブリンの集団が移動しているのを見つけましたが、さきほどのフサフサモンスターの縄張りには入らない様にしているようなので、フサフサのレベルは30~40でありますが、オーガ達にとっては充分警戒すべき強度であると思われます。オーガやゴブリンのレベルは低すぎて良く解りませんでした。恐らくレベル10以下だと思います』

 

 ふむ、となるとだ。とりあえず「人間の村」がある。モンスターや人間などの敵対生物の脅威にさらされていない状態にある。モンスターに関してはアウラが発見したレベル35前後のフサフサが縄張りにしているせいで、ゴブリンやオーガが近づかないと云うことか?そもそも人間のレベルが、20~30有れば充分ゴブリン達は圧倒出来る訳だしな。 しかし、レベル10以下のゴブリンにオーガか……ユグドラシルの彼らよりは弱い様だ。フサフサはレベル35前後でユグドラシルには居ないモンスターだと云う……。

 ううむ あと縦ラインは良いが、横ラインでの情報の共有が出来るシステムを作らないとな。もしアウラの発見したモンスターの情報がデミウルゴスに共有されていれば、違う推測から必要な調査が出来ただろうに……アルベドに情報の統括と連絡係を任せるか?しかしアルベドはナザリックの管理者として凄まじく働いているからな……。俺がゲームでやっていた事を現実的なレベルで実務としてこなし、更に人事管理や秘書業務までやってもらっている。膨大な情報を受信し精査しつつ発信など出来る訳がない。

しかし、ウルベルトさんとタブラさんには本当に感謝せねばな……ナザリックの頭脳担当がこんなに必要となる時が来るとは……ん? あー そうかそうか イヤだなあ……アレが居るんだよなあ。しかし、どう考えても頭脳担当がもう一人居ると有り難いんだよなあ。うーん、ううう――――ん。

 

 

 ……よし、気分転換に、この世界で初めての「人間」を「遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)」で見てみよう。現実逃避じゃない。決して現実逃避じゃないぞ?

 ミラー・オブ・リモート・ビューイングを備え付けてある部屋に移動するとセバスが後についてくる。

 豪奢な西洋の白い鏡台の様なこのアイテムが「遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)」だ。指定したポイントを距離に関係なく映し出せると聞けば、非常に便利そうだが、低位の対情報系魔法で簡単に隠蔽されて見えなくなってしまう上に、攻性防壁の反撃を非常に受けやすいため敵の拠点の偵察などには使えず、運営の用意したNPCレイドボスの周辺も見えないため、ユグドラシル時代は活用機会は少なかった。ただ、さすがに今回は小さな村を覗くだけだ。大丈夫だろう。うん。よし、やっぱり対・攻勢防御用の魔法だけでも掛けておこう。と呪文を呟く。これで対象が攻勢防御魔法を仕掛けてもこちらに被害は無いはずだ。……いや、あと覗いているのを発見できなくなる対・探知魔法の魔法も掛けておこう。うん、そもそも覗いている事が気づかれない方が良いしな……。べ、別に気が小さい訳じゃないぞ。セバスが見ているんだし、そろそろ始めるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セバスは至高の41人の一人であり、ユグドラシルでのワールドチャンピオン「たっち・みー」により作り出された執事(バトラー)である。

 見た目としては60歳前後の白髪の老人ながら179センチの均整の取れた身体を持ち、執事として相応しい気品と教養を備えていると同時に、執事としては不釣り合いな尖すぎる眼光を持つ。またアインズ・ウール・ゴウンの所属としては「極善(カルマ値:300)」という属性の持ち主でであり、この場所に於いては異質と言って良い存在だ。

 

 目の前で「遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)」に防御魔法を被せる主に対して

 

 (……ミラーを使うだけで、この用心深さ……流石、至高の御方を束ねておられた方で御座います)

 

 と感服することしきりであった。

 そしてモモンガ様は「ハッ ヨッ」とミラーの操作に苦心しつつも次第に使い方に慣れた様子。流石モモンガ様素晴らしい。と拍手をすると「わざわざ着いていてくれてすまないな、セバス」と気を使ってくだされた。

「勿体無き御言葉。執事として当然の事です」とお答えする。

 その後も鏡に向かってモモンガ様が「南西10キロというとこの辺りかな?」と呟きながら鏡を操作される。

 後ろから覗きこんで見ると小さい点の様な影が大きく拡大され出して、1つの小さな村を空から俯瞰で見ている状態になる。

 更に村を拡大して行くと村の道々に人が走り回ったりしている光景が映される。セバスには村の全ての出入口を統一された鎧を着込んだ兵士達が取り囲んでいる剣呑な状況であるように見えた。

 

「ん?祭りか?」

 

 とモモンガ様が不思議そうに呟かれる。

 

「いえ……違います……これは……」とセバスは内心の不快さを隠しながら言い淀んだ。

 そう これは違う。それは戦闘を職業とした兵士が、牧歌的に暮らしていたであろう小さな村の住民たちを蹂躙しているのだ。食料や物品を奪う「略奪」ですら無い。犯し尽し、殺し尽している。こういうのは好きでは無い。ギルド・アインズ・ウール・ゴウンは悪のギルドであり異形種のみで組織されている。正確に言えばプレアデスの末妹は異形種では無いが、基本的にヒトの命が軽い。

 ヒトで云う所の羽虫(はむし)程度にしか、ナザリックの仲間たちはヒトのことを何とも想っていない。

 それは仕方ないことであるし、私もナザリック至上主義であり、至高の御方のためであれば人間に対して力を振るうことを厭わない。

しかし、せめて、せめてこういう風にアインズ・ウール・ゴウンに関係のない所で無碍に殺されているヒト達を心の中で憐れむことは許して頂きたい……。

 

 その光景を見ていたモモンガ様は「わっ」「おかしいな……」と呟かれながら、何度かお輝きになられる。

『異形の王』であるモモンガ様にとっても人間など弱いだけでなく愚かな種族という認識でありましょう。事実こうして仲間同士で殺し合うなどと云う醜い姿を見れば尚の事です。

 一応執事としての職務で「いかがなされますか?」とお尋ねしてみますと

 

「うむ 見捨てるのが正解なのだろうな。ナザリックにとって何の益も無く、リスクがあるだけだ」

 

「はっ」

 セバスは(あるじ)の予想された当然の返答に眼を(つむ)(うなず)く、しかし主の言葉はそれで終わりでは無かった。

 

「ただな……タダだ、セバス」

 

「はい」

 

「これは、一体なんだ?」

 

「……虐殺でしょうか」

 

「私には、彼ら村人が騎士に殺されなければならない理由が解らないのだが?」

 

「……はい 彼らは糧秣を奪うでもなく、ただ村人の命と尊厳のみを奪っております。敵対国による嫌がらせ……でしょうか」

 

「こんな小さな村を殲滅しても国に経済的損失は無さそうだからな。確かに嫌がらせか……この村は国に見捨てられたのか……」

 その後、「我々と一緒だな……」と小さな声で主人が呟かれたのをセバスは聞き逃さなかった。

 

 それが我々がユグドラシルから見捨てられたという事を仰っているのか、それとも私たちが他の至高の40人から見捨てられたという事を指しているのかは解りませんでしたし、寂しそうな後ろ姿にお聞きすることは出来ませんでした。

 

(私たちナザリックの者を唯一見捨てず最後まで残り支配して下さった慈悲深き御方。アルベドは玉座の間でナザリック運営のために、たった独りで苦労され続けるモモンガ様に寄り添い続けたと云う……どんな気持ちだったのでしょうね……)

 

 モモンガはゆっくりと振り返りセバスを見つめる。その暗闇の中に灯る炎の様な眼球はセバスの心の中を見透かす様だった。

 そして何かを決心した様にセバスに問いかける。

 

「セバス。お前は、どうしたい?」

 

!?「……至高の御方の御指示に従うが、我々下僕の最も望むことで御座います」

 

 セバスは一瞬驚いたものの、たっぷりの時間を掛けて恭しくそう答えた。その信念に間違いはない。その時、自分がどんな表情を浮かべていたのかは解らないが主人は体を輝かせながら満足そうに笑って「そうか……わかった。行こう」とだけ仰られた。

 

「色々試したい事や調べたいこともあるからな」と言い訳のように付け足された後に、

 

 ……お前の中に確かに居るのだな……「たっち・みー」さんが

 

 と呟き、骨だけで構成された手の平でセバスの胸を、そっとなぞった。

 

 その時の私の感動という言葉では追いつかないほどの感激をどうお伝えすれば良いのかは分かりません。私はギリギリの所で涙を堪えて頭を垂れて「光栄で御座います」とお伝えしました。

 本当に光栄で御座います。たっち・みー様が私の中に息づいていると仰って下さった事も、あなた様にお仕えさせて頂くことも……。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 こ、こっわー! セバスの眼光鋭すぎぃ! 

 なんなの? 骸骨くらいなら眼力で圧縮出来るの? 凄い圧迫感だったのだが!?

 守護者各位のデータは、かなり読み込んだんだけど、セバスの設定って余り書かれてなかったのだが、もしかして「たっち・みー」さんの人格の影響をかなり受けてないか?あの感じからすると。セバスの背後に、たっち・みーさんのゴーストというかスタンドみたいなのが「バーン!」って見えたよ!

 

 たっち・みーさん……あの時、助けて頂いた恩を、あなたの息子さんに返しますよ。 

 まあ、他にも仲間にして頂いた恩だとか、他のギルメンにも返しきれないくらいの恩があるんだけどな……その子供達に少しずつでも返していけると良いな。

 

 

 

「さて そうと決まれば支度を急ごうか。ナザリック外でもフライは使えたし、魔法は使えると思うから大丈夫だと思うがな……セバス、では敵となる兵士の強さを測ってくれ」

「はっ」と云う返事と共に食い入るように鏡を覗きこむセバス。しかし「むう?」という言葉を発しただけで戸惑っている様な顔をしている。

 

「どうした?セバス 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)越しでは判断出来ぬか?」だとしたら大変都合が悪いのだが。

 

「いえ……その…確かに分かり難く御座います……レベルが低すぎて」

 

「ん? 村人ではないぞ。敵の騎士だぞ。プレートメイルを身にまとった」

 

「はい 村人はレベルが存在しているのかどうか……精々レベル1か2だと思われます。敵の騎士も3~6ほどです。……一人だけレベル10程の者がおりましたが」

 

「……ええー」

 弱すぎないか? ユグドラシルのイベントモブキャラだってもっと高かったぞ? あ……開始直後のチュートリアルの敵だからか? いやいやいやいや、ゲーム脳は辞めろ俺。ここが現実世界として考え行動するんだ。事実彼らは一般人の村人を一方的に蹂躙しているではないか。我々は異形の者であり異世界からの来訪者。比べるのがオカシイのかも知れない。

 ならば、この戦闘行為によって、助ける村人との好意と友好関係を経て、現地住民との良い関係での繋がりを持つべきだろう。

 デミウルゴスによれば現時点で、この世界で原住民による魔法の使用は確認されておらず、また異形の者も人間のコミュニティには存在して居ないとの事だったな……人間種に見えて、魔法で戦うタイプでは無い者が行くのが良いな。どうせ敵はそうとう弱いらしいしな。

 

「では、今すぐにプレアデスとシャルティアとアルベドを集合させてくれ」

 

「はっ」セバスはメッセージを飛ばし全員を集合させている。その間に自分も用意しよう。

 昨日、《パーフェクト・ウォリアー/完璧なる戦士》を使い、一時的に戦士化すれば、どんな武器でも鎧でも装備・使用可能なことは解った。

 しかし、その間に魔法を使うことは出来なくなるし、戦士スキルも発動しない。

 その代わりに、オーバーロードのままでも《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》で造った剣と鎧なら装備も使用も可能だ。ただ魔法職でありながら戦士職の装備をしているというペナルティのせいか、その間に使える魔法は5種類に限られてしまう。戦士としての強さも、レベル100ながら魔法職のステータスのため、まあ戦士で言えばレベル30~40と言った所か。今回の敵には充分過ぎるだろうし、フルフェイスヘルムにより顔が隠れ、人間に偽装出来るのが有り難い。

 使用魔法に緊急離脱用の《グレーター・テレポーテーション/上位転移》と攻撃用に《ヘルフレイム/獄炎》、《グラスプ・ハート/心臓掌握》、移動用に《ゲート/異界門》と……おっと、《タイム・ストップ/時間停止》を試すのを忘れてはイケナイな。時間対策が出来ている敵かどうかで難易度が変わるからな。

 

 では……《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》!

 ふふふ……やはりこの黒いフルプレートに黒い大剣の二本差しは非常に格好いいな……「モモンガ・ザ・ダークウォリアー」とでも言おうか。

などと感慨に耽っていたら、「モモンガ様失礼します」のアルベドの声とともにプレアデスとシャルティアが入室して来た。

 私の格好を見て何か言おうとしたアルベドを手で制すると「時間がないので単刀直入に伝える」と宣言する。

 

「後々の思惑もあって、このミラーの向こうで襲われている村人を助ける。理由は

 1.敵兵はレベル10以下の弱卒でありリスクは無い

 2.ノーリスクで現地住民へと恩を売る形で初接触が出来る貴重な機会である

 3.敵兵を生け捕りにし、大量の情報を確保できること

 4.他のプレイヤーが存在していた場合に、我々が善良なる組織だという判断をしてもらうためである」

 

 こう言われるとカルマ値が低い下僕でも「人間など放っておけば宜しいのではありませんか?」とは言いづらいハズだ。

 

「それは分かりましたが、その格好からするとモモンガ様も行かれるおつもりなのでは有りませんか? 敵の様子を聞くに問題ないとは思いますが、下僕たちだけで事足りる事です。モモンガ様はご自重下さりますよう。どうしても行くならば私もお供させて下さいませ」とアルベドに強く言われる。

 

「ダメだ。お前には重要な任務を与える予定だ」

 

「……解りました。その任務、責任をもってやり遂げさせて頂きます」

 重要な任務という言葉に顔を引き締めたアルベドが反論を辞めて引き下がる。

 

「先に伝えておくが、この戦いはあくまで村人を救うのと同時に、村人に恩を感じてもらい、友好関係を築く事が肝要である。以下の点に注意してもらいたい。怖がらせないために人間種に見えるものだけで行くこと。また、現地での使用が確かめられていない魔法も使用禁止だ。ただ村人に見られていない場所なら良いし、敵兵に見られるのは良い。彼らは漏れなく消えるからな。とりあえず現地人らしく振る舞い不信感を減らしたいので、現地で確認出来ている力……レベル30くらいだな……手を抜いて戦うこと。彼らは低レベルだからそれでも十分に制圧出来るはずだ。なので、余り派手な戦い方は避けるように。パンチ一撃で敵の頭が爆散したとかシャレにならんぞ?セバス、ユリ」

 

「「はっ」」

 

 

「では手順であるが、東の門よりセバス、ユリ、西門よりナーベラルと私が突入し敵兵を蹴散らす。そしてエイトエッジアサシンと共にシャルティアと……」

 

 モモンガは細々と指示を与えていく。そして御方からの命令を受け取った下僕は喜びに震えそうなのを耐えながら恍惚とした表情を浮かべ、幸せと責任感を同時に充填させていった。

 

 

 

 

 

 

 

「以上だ」

 

「「「はっ」」」

 

「アルベドよ。もう、ミラー・オブ・リモート・ビューイングの使い方は覚えたな?ではアルベドはコキュートスを呼んでミラーで周囲の監視と状況を事細かく私に伝えてくれ。シャルティアたち包囲部隊への指示も頼むぞ」

 

「お任せ下さい」

 

「また、この事をアウラやデミウルゴスたちにも伝えておいてくれ。彼らの与り知らない所で突如事件を起こすことになって申し訳ないからな」

 

「そんな!?申し訳ないなどと!?迷惑などと考える守護者などいる訳が御座いません!むしろモモンガ様が与えてくれる現象には喜びと幸せしか感じません!」

 

「あ……そうなんだ」それもどうかと思うが

 

「はい!バッチ来いです!」

 

 モモンガは軽く目を閉じると眉間を指で摘んで「早くなんとかしないと……」と思った。

 

 それに、横のラインの情報共有を確立しないとな……。

 

「では、セバス、ユリ、ナーベラルは私と供に私のゲートで行くぞ。シャルティア、重要な任務を突然任せてすまないな」

 

「なにを仰られるでありましょうか?嬉々として任務を全うさせて頂くでありんす。デミウルゴスやアウラが後で悔しがるのが眼に浮かぶ様でありんすえ」

 

「うむ シャルティアならどんな強敵だとしても遅れはとるまい。危険を感じたらメッセージで連絡の上、皆の帰還のためのゲートを開き、仲間の救出を頼んだぞ」

 

「はい! おまかせ下さい!」

 主からの信頼を感じたシャルティアは鼻息も荒々しく無い胸を叩くと傅く。

 

 

 さて 現実の戦いか……。怖いという気持ちも少なくはない。

 

 

 ふ――――

 

 モモンガはアンデッドの体には必要ないが、自らの心に必要とした息を大きく吸い込んで吐き出した。

 

 そして頼もしい下僕を見渡すとゆっくりと、仲間と何よりも自分自身に刻むように語りかける。

 

「『練習は本番のように 本番は練習のように』という有名な言葉がある。今回の場合はゲーム感覚でリラックスして殺れって事になるのか?やれやれ、「ゲーム感覚で人殺し」とかどこの痛いガキなんだよ……そんなガキになるんじゃないぞ。俺も、守護者達も、だ。 相手は脆弱な人間だが、だからこそ、一つ一つの命をしっかり丁寧に飲み込め。我々は彼らと違い目的を持って行動するのであり、彼らはその犠牲者なのだから。では行こうか、我がアインズ・ウール・ゴウンの使徒たちよ。……ゲートよ開くが良い!」

 

 

 

  

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 
 


誤字脱字の報告、ほんっっとうに有り難う御座います。反省して良く見直してから投稿しているのですが、自分自身の脳では勝手にOKを出してしまっているのか発見できないまま内容だけでなく、文章まで恥ずかしい物をお出ししてしまって申し訳ありません。
おとり先生様、woodenface様、河灯泉様、モーリェ様 まりも7007様、ronjin様 kubiwatuki様、bomb様、カド=フックベルグ様 有り難う御座います
特にyelm01様には毎回毎回、本当にお世話になっております。有り難う御座います。助かっております。


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第二章三編 いつもの犠牲者(ニグン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仕事を与えるとき、その仕事をやりたいと思っている人にやらせてあげる。効率も部下のモチベーションも同時に上がる。そして、その成果により仕事を預けられなかった人にも火が着く』

 

 

 そんな言葉が昨夜読んだ経営者の本に書かれていた。

 

 

 ゲートが開き、村の西門が見えたと同時にセバスとユリは文字通り弾丸の様に発射された。

 セバスはもちろん、事情を聞かされたユリも作戦会議中から美しい柳眉を潜めて、怒りと不快感を騎士達に対して抱いていたらしく数十メートルほど先で、ユリの「でやあぁっ」という破裂声と共に「ガキンッ」と金属が弾き飛ばされる様な音がする。

 

 

 モモンガは、目の前で交通事故現場を見てしまったような気持ちになりながら、「……生け捕りにしたいからなるべく殺すなって、命令したよな?」と隣のナーベラルに話しかける。

 

「はい。申し訳ありません。ですがユリ姉さ……ユリ・アルファは創造主様であらせられる「やまいこ様」と同じ性格で御座いますので……」とナーベラルが姉の不始末に縮こまりながら心から申し訳なさそうに顔を伏せて答える。

 

「あー やまいこさんな……なら仕方ないな うん」

 

 (やまいこさんは子供を愛する熱血の鉄拳女教師だったなあ)

 ユグドラシルでは「女教師怒りの鉄拳」という神器級ウェポンを荒々しく振り回す半魔巨人(ネフィリム)であり、リアル世界でのモンスターペアレントたちへの鬱憤を晴らしていたのであろう激しい戦い振りはアインズ・ウール・ゴウンの中でもトップクラスの猛々しさを誇り、そして何よりも子供好きで有名だった。

 

 今回の件で敵兵士への怒りを込めて身を躍らせるのであれば、やはりプレアデスの中でも一番激情に身を任せた振る舞いになるのかも知れない。ヒトへの愛情が在る故にヒトへと鉄槌を奮う……か。

 

 

 

 (……おかしい、良かれと思ってした判断だったのだが)

 

 モモンガは、そんな事を考えつつも、今の音が本物の戦場であると感情のスイッチが少し入った気がした。まさかナザリックとしての初めての戦闘が淑女であるユリによって火蓋が切られようとは思ってもみなかった。

 

 (さて、アンデッドとしての特性よ……フル稼働して俺を少しでも落ち着かせてくれよ……)と思いながら深呼吸をしていると、隣を歩くナーベラルが「……モモンガ様。そちらの木々の向こうに、ガガンボ(人間)の気配が致します」と足を止めて森の奥を指さす。

 奥へ足を進めると、倒れ伏す少女達に剣を振り上げる二人組の兵士が見える。

 

 少女を相手に大の大人の2人が剣でいたぶるとか……と少し不快感を覚える。少しなのはアンデッドだからかな?と自分自身に疑問に覚えることで少し冷静になれた気がする。

 

 モモンガは『ナーベ、スリープを掛けてみてくれ』とメッセージを送る。

 

「はっ 解りました!モモンガ様」と気合が入った返答が返ってくる。

(……今、「ナーベ」と略して下さったわよね? 断言しよう、私は今モモンガ様と良い関係を築けていると!)

 

 モモンガが隠密のためにわざわざメッセージで語りかけたのに係わらず、普通に口頭で返答したナーベラルに対して(まさか、ポンコ……え?)と微妙に不安を感じている中で、彼女は素早い動作で印を切るとスリープはアッサリと効果を発揮して兵士は2人ともパタパタと倒れ伏す。

 

 モモンガは……ここで「人を殺す」という事を経験しておいた方が良いかも知れないと一瞬、無抵抗の兵士にトドメを刺すことを考えるが止める。

 

 先ほどから緊張感と高揚感、そして恐怖が体中に纏わりつき息苦しさを感じる。

 すぐ目の前に背中に切り傷を負った少女が居たお陰で自分が取るべき行動を思い出し体を動かす。

 

 倒れる二人の少女に近づいて声をかける。

「大丈夫か?助けに来たぞ。怪我が酷いな……これを飲みなさい」と低レベルな赤いポーションを渡し飲むように促す。

 

 少女は妹らしき幼子を庇いながら、「ありがとうございます。本当に有難うございます!」と涙混じりで言いながらポーションを飲み干す。

 

「間に合った様で良かった。他の人々も助けたいのだが、どこへ向かえば良いのかな?」

 

 と優しく、なるべく冷静に問いただすと、少女は震える指で村の中心を指さす。

 

「この人達が急に村の出入口を塞いで村のみんなを村の真ん中へ真ん中へと追い立て出したんです! 私達のお父さんとお母さんもその中に居ると思います! どうかお願い致します!村のみんなを! お父さんとお母さんをお助け下さい!」

 

 と2人の幼き少女に地面に頭を擦り付けながら懇願される。その健気さと痛ましさに心を動かされない者が果たして居るだろうか……目の前に居た。

 

 ナーベラルは明らかに面倒くさそうに「なにナザリックの王に直訴してるのか蟻の分際で」とでも言いたげに「チッ」と舌打ちをしている。

 

 こ こわあー この子たちの『ナザリック原理主義』怖いんですけど

 

 言葉を一瞬詰まらせつつナーベラルとの距離を感じるが、「解った。出来るだけ助けたいと思っている。君たちは隠れていなさい」と告げると煙の立ち上がる村の中央へと歩を進める。

 

「さて、出来るだけ生け捕りにするぞ。ナーベ」

 

「わかりました!モモンガ様!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 セバス様に惨状は聞いていた。

 

 ナザリックで、私、ユリ・アルファとセバス様とペストーニャは属性が「善」に偏った珍しい存在です。だからと云って仲間たちに反感を覚えることも無いですし、ナザリックの為に成ることであれば「悪」を為すことにも躊躇する気は有りません。我々のために一人残って下さった慈悲深きモモンガ様は、今回その慈悲を人間にも向けて下さりました。本当に素晴らしい御方であらせられます。そして心より感謝致します。貴方様にお仕えさせていただくことは私の誇りであり幸せそのものであります。

モモンガ様より、敵だからと云って極力殺したりしてはいけない。手加減してあげなさい。出来れば生け捕りに。と更に慈悲深い御言葉を頂いておりました。しかし---

 

 ゲートが開いた瞬間に60メートル離れた路地で子供に剣を突き立てる兵士が見えた。

 

 嗚呼、子供はダメだ。

 

 子供はイケナイ。

 

 創造主たる「やまいこ様」に作られた私は無垢なる子供を害しようとする輩だけは許せない。見逃せない。

 フルスロットルで地面を蹴り全速力で飛ぶように駆け寄ると、全速度と体重を掛けた鉄拳を、子供に剣を刺している兵士の側頭部に叩きつける。

 兵士は「ガキンッ」と音を立てて兜ごとその頭部をひしゃげさせながら「グルンッ」と体を空中で側転させる。2回転半して地面に叩きつけられたその(かぶと)の左頬の部分と右頬の部分は、間に頭蓋骨があった事を忘れさせるほどに密着していた。

 

 前言撤回致します。あなた達に与える慈悲は無いわ。至高の御方の慈悲など、あなた方達には勿体ないですもの。 

 

 

 

 

「……ユリ・アルファ、もう少し「ヒト」によって攻撃されたと思われる程度に力を抑えて下さい」

 

 セバスは「フー フー」と猫の様に興奮状態にあるユリに声をかける。我々は実戦は初めてですが、創造主に与えられたこの力を自らの信念のままに振るえる今の状態に力が入るのは解ります。ただ人を愛し、特に子供への慈愛心が強いユリ・アルファが、よりによって子供が無碍に殺されるシーンを初めに見てしまうとは……。これは私は相当気をつけていかねばなりませんね。とユリのバーサクモードにより逆に平静になり、落ち着く事に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 カルネ村は100年ほど前にトーマス・カルネという開拓者が切り開いた、王国に所属する村である。

帝国と王国の中央を走る境界線たる山脈――アゼルリシア山脈。その南端の麓に広がる森林――トブの大森林。その外れに位置する小さな村であり、人口はおおよそ120人。25家族からなる村は、リ・エスティーゼ王国ではそれほど珍しくない規模だ。

近場にある城塞都市、エ・ランテルまでおよそ50キロ。人の足で2日かかる距離にある。

 

 森で採取できる木の実や果物と農作物が生きる糧で、森で取れる薬草の元となる材料を商人が年に3度ほど買いに来ることを除けば、徴税吏が年に1度来るだけの村。ほぼ人が来ない、時が止まったという言葉がまさに相応しい、そんな王国にありがちな小村であった。

 

 そんな村でエンリ・エモットは生まれ、そして16年の月日が流れた。

 

 朝は早く、都市のように魔法もない田舎の貧村では太陽こそが生活の、生命活動の中心である。

起きたとともに村の共同井戸で水を汲み家の大ガメに水を貯める。そして母が作ってくれた朝食を4人の家族で食べる。それが終わると父と母とともに畑に行く。もしくは12歳になる妹と薪拾いに出かけることもある。そして太陽が傾き出した18時ごろには家族とともに床に入る。そんな代わり映えのしない日々。何時までもそんな生活が続くものだと思っていた。この村は人が少ない。きっとその辺りの同世代の男の子とそろそろ結婚の話も出てくるだろう。それを考えると少しもやっとしたものが胸に浮かばないでもない。

 

 そんな諦観(ていかん)の日々の中で、いつものように今日を迎えた。

 そう、それはいつも(・・・)の様な日々である筈だった。

 

 モルガーさんが「バハルス帝国の奴らだ!」と村を駆けまわる頃も、まだ「はあ せっかく貯めた食料などを奪われるのか……」とだけ思っていたが、それから始まったのは村人への虐殺だった。彼らは家を焼き、名前を知っている人々に槍を突き立て、家族をも襲った。

 私は妹と共に父に逃げるように促されたが、父は兵士に逃げ場を塞がれて村の真ん中に追いたてられていた。地獄だった。絶望だった。そして希望が私達を救ってくれた。

驚くほどの美しい黒髪の女性と、黒い鎧に包まれた騎士は、まるでお伽話の王子様の様に私達を救うと、そのまま村を救うために敵兵の群れに飛び込んでいった。

妹のネムに「お姉ちゃん?」と体を揺さぶられるまで「ボーッ」としていたエンリはようやく立ち上がり隠れ場所を探しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルティアはウキウキとしていた。崇拝し恋い焦がれる御方であるモモンガ様から直接「重要な任務」を初めて授かり、そしてその任務を着々と達成出来ている事に満足していた。

 シャルティアの任務はシズ、ソリュシャン、エントマ、ルプスレギナと共にエイトエッジアサシンをバックアップしながら村を完全包囲し、村の中から逃げてくる敵兵と、門で村を封じ込めている敵兵の全てを殺すかナザリック送りにする事だ。

 恐らく、セバス達に襲われて恐怖の中で逃げてきたであろう敵兵に立ちふさがり、サックリと殺すのも楽しい。絶望に打ち震える人間をゲートに放り込んでナザリック送りにするのも楽しい。そう 本当に楽しい!ユグドラシルと違って、ここの人間たちは紙くずのように千切れてくれる。エントマもソリュシャンもルプスレギナも人間どもを滅殺することに、恍惚としながら仕事を楽しんでいる。まあ、シズは淡々とゲートに生きている人間を放り込んでいるけれど。

 

(順調順調!これはモモンガ様に褒められてしまうでありんすー!)

 

 生き生きと仕事に励むシャルティアは、気を抜くとニンマリと笑ってしまいそうな自分の顔筋に気合を入れ続けることだけが、唯一の苦労だっただろう。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 モモンガが村の真ん中、村人が集められていた場所に到着した頃には、突入部隊の仕事はセバス&ユリの異常な頑張りにより終了していた。

 生きている村人に、隠れている兵士は居ないか家々を調べてもらったが大丈夫みたいだ。ついでに隠れていた先ほどの姉妹も村人により発見されたようで良かった。良かったが……姉妹の両親は敵兵によって、すでに殺されていた。泣き崩れる姉妹が痛ましい。一瞬クレリックのルプスレギナ・ベータを呼んで蘇生魔法をかけてもらおうかと思ったが、あれはペナルティで5レベルのエナジードレインがある。つまり5レベル以下である村人の遺体にかけても復活するどころか消失するだけだろう。

 しかしエナジードレインのペナルティ無しに蘇生可能な高位リザレクションを使えるワンドを自分は持っている。これなら助ける事が可能だが、使ってしまっても良いものだろうか……と逡巡しているとセバスが制する様に、ゆっくりと首を振った。「これ以上の慈悲と力の享受は諍いを産み出しかねません」と小さく呟いた。

 

 ……確かにその通りだ。人に死を与える集団と、死んだものを蘇らせる集団。どちらが大きな波紋を起こし、より災禍に巻き込まれかねないかなど考えるまでもない。色々な出来事に心が揺れ動きすぎていたな……アンデッドの癖に困ったものだ。

そう自嘲しながらモモンガはセバスに「大丈夫だ。すまない」と視線を送り、村人と被害者達に哀悼の意を示して深々と礼をする。

 ナーベラルは何故 アブごときに主が頭を下げるのかと驚愕し固まっていたが、セバスとユリは主人の心を知り忠誠度のメモリをグルグル回転させながら主人に倣い、一礼をして死者に哀悼を捧げた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 そんな村の救世主の姿に、村長を始め村人は大いに感激した。何の縁もないこの村を助けて頂いた上に、死んでしまった愛する人達に対して礼儀を尽くしてくれたのである。

最初、村人たちは自分たちの所属する国の騎士団の人達だと救世主の事を思っていたが、「モモン」と名乗るこの精強な方々は「ゆぐどらしる」という見知らぬ国から来た騎士団であり、現在旅の途中だと云う。

路銀も食料も足りているので謝礼は不要だが、この国の地理や法律など出来るだけ詳しく教えて欲しい。という事だけを要求された。

それを聞いて「あとで恐ろしい請求が待っているのでは?」と訝しむ者もいたが、彼らに家族の仇を討ってもらった者や、彼らの真摯な対応に心を打たれた者たちは、彼ら「モモン騎士団」を心より歓迎した。

 半分以上の敵兵が村の外へ逃げ散ったため、しばらく村の外へは出ないほうが良い事を教えられ、また敵兵の死体に関しては鎧や剣などは剥がして村の財産とすれば良いとのこと(敵からの賠償金代わりだと笑っていた)数十頭の馬が捨てられているので、それも村の財産にするように仰られた。なんとも剛腹な方である。

 その後、村長宅で地理や、この国の社会制度についてお教えしていると、どうやらこの国の文字が読めない事が解ったので、子供の勉強用とかで良いので、文字の習得に使える教科書のような物を売って欲しいと言われた。これはエンリ・エモットが家から自分の教科書を提供した。この少女の家は薬草を街に納品し買い取ってもらうことで生計を立てていたため、子供にもある程度、簡単な教育をしていたらしい。

 これを譲り受けたモモン様は対価としてマジックアイテムだと云う「小さな角笛」を渡し、使用方法をエンリに教えていた。なんとも優しき御仁である。そう村長たちは感心したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になろうかという時に、モモンガにアルベドからメッセージが入る。正体不明の騎馬50騎が、この村を目指していると云うものだった。

先ほどの兵士達とは随分姿が違うようであり、またバハルス帝国の兵士だと云うこの者達とは違い、馬を走らせている方角を考えると、この国の騎士団ではないか?とのこと。あんまりこちらの腹を探られたくないのだが、ここで逃げるのもおかしい……とりあえず、村の外の隊には、透明化出来るエイトエッジアサシンと隠密行動に優れたソリュシャンを残して全員ゲートでナザリックへ退避させる。

やれやれ 精神的に疲れたし、もう帰りたいんだがな……。

モモンガは「客人が来たようです」と村長に告げて立ち上がった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 モモン様が突然、立ち上がって村の門の所に行くと、本当に騎兵の集団が現れました。

 またバハルス帝国の兵たちかと身構えたものの、なんと私達の国の戦士団であり、高名な戦士長「ガゼフ・ストロノーフ」殿であると名乗られました。非常に驚いたものの、モモン様に「本物?」と尋ねられたので「恐らく……」とお答えしました。

その後は……そう 本当に大変でした。

 モモン様に頭を垂れる王国戦士長にも驚きましたが、ガゼフ殿が我が国に仕えぬか?と勧誘したり、エ・ランテルで冒険者になってみては?とお話しておりました。冒険者のお話をしている最中にいきなり、モモン様が「え!?魔法って、この国にもあるの?!」と大声を出されておられました。

 突如 モモン様が「また、お客さんか……」と呟き、ガゼフ殿と2、3やり取りをされるとモモン様方とガゼフ戦士団は村から出て、こちらに向かっている騎兵団を迎え撃つ様でした。大変に心配しましたが、モモン様が「全然大丈夫なので気にしなくて良い。それよりここは良い村だし、また立ち寄っても良いかな?」と尋ねられたので、是非とも!と村人総出でお見送りしたのです。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 はあ……魔法あったのか……普通に。

 

 もう本当に疲れた、精神的に。帰って寝たい。そう 今の俺なら寝ることが出来そうだ。たとえアンデッドだとしても。

 その様子がセバスにバレたらしく「モモンガ様、お疲れでしょうか?ここは我々に任せて頂いても」と言ってきた。

 

「セバスよ 先ほど村を出るときのガゼフの目を見たか?」

 

「はっ」

 

「どう思った?」

 

「死地に赴く覚悟の目と、村人や我々のために、籠城などでは無く囮となり派手に死のうという強い意思を感じました」

 

「ああ 私も同じことを感じた」

 

「はい」

 

「アインズ・ウール・ゴウンの支配者としては失格かも知れぬが、セバスよ」

 

「はっ」

 

「私はあの目に憧れたのだ。彼の覚悟、人間の勇気に敬服したのだ。……笑うなよ?」

 

「笑うなど……むしろモモンガ様がそういう御方であらせられることが、どれだけ私にとって嬉しく、どれだけ誇らしいことか。……不敬をお許し下さい」

 

 そう言いながらセバスはハッキリと白い髭の中で笑った。

 

「よい ニグレドの報告によれば、敵は天使を召喚して我々を待ち受けているらしい。ユグドラシルの天使を、だ」

 

 モモンガはプレアデスの3人を呼び寄せる。

 

「敵には聞きたい事が山ほどある。なるべく多くの兵を生け捕りにするぞ」

 

「「「はっ」」」

 

「初めは戦士団に任せよ。ユグドラシルであの天使達を召喚出来るレベルの集団であることを考えると、戦士団にはかなり厳しい相手だ。だがガゼフは死なせるには惜しい男だ。助けるぞ。一応、王国最強の戦士長という肩書と名声を持つ者に恩を売る形になることは、此後の展開によっては有利に働くかも知れぬしな。コキュートスの見立てによると彼のレベルは30強といった所らしい。それで王国最強という事は、この世界の人間にはそんなに強者は居ないのかも知れないな」

 

「はっ」

 

「ガゼフによると、この世界での魔法はバハルス帝国の魔術師が第六位階まで使えるのが最高峰らしい。警戒されぬよう、ナーベラルは第四位階までの魔法の使用に留めよ。またガゼフの兵を巻き添えにしないように」

 

「はっ」

 

「できればガゼフに合わせて、セバス、ユリはレベル40くらいの強さで戦ったほうが良いかも知れないが……まあ、それで、こっちが被害を受けるようでは意味が無いしな。あとは臨機応変で良い。流石に私もこの格好だとそんなに強いわけではないしな。皆の邪魔にならぬ様、私はガゼフを引き取って下がるので、後は3人に任せるからセバスの指示に従ってくれ」

 

「はっ お任せ下さい」

 

「では行くか」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズルズルズルズル……

 

 

 ……何故だ 何故こうなった?

 

 ニグン・グリッド・ルーインはスレイン法国の中でも輝ける「陽光聖典」というサモナー部隊の隊長として活躍していた。今回はリ・エスティーゼ王国の戦士長である「ガゼフ・ストロノーフ」を人類救済の贄として捧げるための作戦であった。

しかし、カルネ村にてガゼフを捕捉したまでは良かった。しかし、突撃してくる戦士団を薙ぎ倒し、ガゼフを追い詰め、トドメを刺そうとした瞬間 

 何故かガゼフを担ぐ黒騎士が現れた。我々は瞬きも何もしていないのに「突然」黒騎士はそこに居たのである。そして黒騎士はガゼフと共に消えた。どんなトリックを使ったのかわからない……そして天使を展開する我々を睥睨するかのように現れた三人組。老人に女二人という三人組が、何故あんなに強いんだ? おかしいのだ!そもそも!なんっ ガッ

 

 

「ブツブツ煩いわ。ミノムシ」

 

 ナーベラルは縛り上げたニグンをゲートに引きずっていたのだが、茫然自失としながらブツブツと呟いていたニグンが疎ましくなったらしく、剣の柄で頭を殴り気絶させた。

 

そして、ゴミでも捨てるかのように主人が開けてくれているゲートにニグンを放り込む。

今頃、主人は、あのー、なんだ、ひげ面の人間や村長と事の顛末について話されている最中だろう。

どうしよう……モモンガ様の偉大さに心を打たれた人間どもが「私たちだけの支配者」であらせられるモモンガ様に仕えたいなどと浅ましくも身分違いなことを言い出したら……正直ごめんこうむりたいわね。

 

 

 スレイン法国の死体も何体かは村に持って行く命令が出ているから持って行かないと……何故だろう?食べるのカナ?

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 
  
 
 
 
takaseman様 カド=フックベルグ様 誤字脱字修正ありがとうございます


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第二章四編 黒歴史(モモンガ絶対殺すマン)との遭遇

 

 

 ふう……疲れた。体の疲れは全く無いが、鈴木悟の残滓……というには多すぎるかも知れないが「心」が疲れた。

 

 (強い精神の疲弊を感じる……)

 

「陽光聖典」と名乗る者どもとセバス達が戦っている最中に空に「ビシッ」とヒビが入った所を見ると攻性防壁が働いたようだな。誰かに覗かれようとしていたらしい。慎重に魔法防御を張っておいて良かった。しかし、それだけの事を仕掛けてくる組織・術者が居ると云うことだ。慎重に動かねばな。

 

 (なま)の人間と会った時に、元・人間として、それなりに親愛の情が抱けるかと思ったが、正直微妙な感じだった。犬や猫の様な感覚とまでは言わないが、愛着は持てるものの結局は自分とは違う種族……。 アンデッドだもんな……。俺は。

 

 そう自嘲するかの様に少し笑うとモモンガは白くて長い骨の手のひらを見る

 

 

 ――未だに少し慣れないのだがな……。

 

 

 ナザリックに帰還すると、私たちを待ち構えていたデミウルゴスやアウラに報告書をもらう。「どうか、御身を危険にさらされるような事はお慎み下さい!」と叱られる。

 デミウルゴスとアルベドには今日の行動と大量に仕入れた情報を伝える。

 これからタップリと時間を掛けて捕獲した偽のバハルス帝国兵と陽光聖典という組織の者達から情報を引き出しつつ、今まで以上に斥候による情報収集が必要となるだろう。

 

 

(情報ラインの確立か……。そんな難しいことが俺に出来るだろうか?)

 

 気が重いながらも、まずは大図書館へ向かう。

 図書館のエルダーリッチたちに、村でエンリ少女からもらった王国の文字の教科書を渡し、細かく解読、分析して私や守護者が習得しやすい様な手引書を作るように指示を与える。

 

 そして指輪「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」に触れながら覚悟を決めて、念を込める。

 

 行き先は ――ナザリック地下大墳墓 宝物殿。

 

 広すぎる巨大な部屋の中央には金貨、宝石がとにかく山のように積み重なっている。その山の高さは、10メートル以上もある文字通り金銀宝石の山が山脈のように連なっている。枚数にして、数十億枚ぐらいだろうか。それとももっとあるのだろうか。

 しかも、その山に埋もれるように超一級の工芸品らしきものもある。

 ぱっと見ただけでも黄金で出来たマグカップ、様々な種類の宝石をはめ込んだ王勺、白銀に輝く獣の毛皮、金糸をふんだんに使った精巧なタペストリー、真珠色に輝く角笛、七色に輝く羽製の扇、クリスタル製の水差し、かすかな光を放つ精巧すぎる指輪、黒色と白色の宝石をはめ込んだ何らかの動物の皮で出来た仮面が目に飛び込んできた。

 無論、こんなものはほんの一握りだ。

 この巨大な宝の山の中にはこの程度の芸術品なら、恐らくは数百、いや数千個はあるだろう。

 

 さらに周囲の壁には同程度かそれ以上の宝物が置かれている。

 壁には無数の棚が備え付けられており、そこには黄金の山以上の輝きがあった。

 ブラッドストーンをはめ込んだロッド、ルビーをはめ込んだアダマンティン製の小手、小さな銀の輪にはめ込まれたルビー製のレンズ、まるで生きてるかのようなオブシダンで出来た犬の像、パープルアメジストから削りだしたダガー、ホワイトパールを無数に埋め込んだ小型の祭壇、七色に輝くガラスのような材質で出来たユリの花、ルビーを削りだした見事な薔薇の造花、ブラックドラゴンが飛翔するさまを描いたタペストリー、巨大なダイアモンドが飾られた白金の王冠、宝石をちりばめた黄金の香炉、サファイヤとルビーで作られた雄と雌のライオンの像、ファイヤーオパールをはめ込んだ炎を思わせるカフス、精巧な彫刻の施された紫壇の煙草入れ、黄金の獣の毛皮から作り出したマント、ミスラル製の12枚セットの皿、4色の宝石を埋め込んだ銀製のアンクレット、アダマンティン製の外表紙を持つ魔道書、黄金で出来た等身大の女性の像、大粒のガーネットを縫いこんだベルト、全て違う宝石を頭に埋め込んだチェスのセット、一塊のエメラルドから削りだされたピクシー像、無数の小さな宝石を縫いこんだ黒いクローク、ユニコーンの角から削りだした杯、水晶球を埋め込んだ台座などなど。

 

 そのほかにもエメラルドをふんだんに使った金縁の姿見、人間大の赤水晶、人間なんかよりも巨大な白銀に輝く精巧な作りの戦士像、何だかよく分からない文字を刻み込んだ石柱、一抱えもあるようなサファイヤなんかも鎮座している。

 

 長大な黄金の山々をタップリと時間を掛けて進んでいくと巨大な漆黒の扉にぶつかる。

 漆黒の扉の上に文字のようなものが浮かんだ。そこには『Ascendit a terra in coelum、iterumque descendit in terram、et recipit vim superiorum et inferiorum』と書かれていた。

 

「まったく、タブラさんは凝り性だからな……」

 

 懐かしそうに呟いたモモンガは、『アインズ・ウール・ゴウン』のギミック担当の片割れ、そして真面目な方。そう評価されている人物のことを頭に思い浮かべる。

 ナザリック大地下墳墓内の細かなギミックの4割は、彼の手が入ったものだ。少々悪乗りしてるのではというほどの作りこみは、何だかんだと結構なフリーのデータ量を食いつぶしている。そのために彼自身が責任を取って課金アイテムを買い集めたほど。

 

 モモンガは表面に浮かんだ文字を真剣に眺める。これがヒントであり答えなのは間違いが無いのだが、さてどういった意味だったか。

 時間を掛けながら、自らの記憶のどこかに沈んだ答えを探す。

 やがて、ため息を漏らしつつ、モモンガは記憶の中にある、この扉を開けるためのキーワードを思い出す。

 

「確か――かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう――だったかな?」

 

 突如、闇がある一点に吸い込まれるように集まりだす。直ぐに先ほどの闇は跡形も無くなり、空中にこぶし大の黒い球体だけが残った。

 今まで蓋となっていた闇が消えたことによって、ぽっかりと開いた穴から奥の光景が覗ける。そこには今までの宝物が置かれていた場所とは違う、管理の行き届いた世界が広がっていた。

 そこを表現するなら、博物館の展示室という言葉以上に相応しいものは無い。

 多少光源が抑えられた部屋は長く、ずっと奥まで進んでいる。天井は高く5メートルはあるだろうか。人以外のものが入り込むことを前提に考えられたような高さだ。左右はもっとあって10メートルほどだろう。

 床は黒色の艶やかな石が隙間も無いほど並べられており、まるで一枚の巨大な石のようだった。そして天井から降りてくる微かな光を照り返し、静寂さと荘厳さを感じさせた。

部屋の左右には無数の武器が綺麗に整頓された上で、見事に並べられていた

そこも更に突き進んでいくと、もうすぐ霊廟と呼ばれる領域が近づく。

 

 すると目の前の控室にある長椅子に座る僚友「タブラ・スマラグディナ」さんの姿が見える。

 モモンガは心のなかで「ハアぁぁぁぁ……」と長い溜息を吐くと

 

「どうしてタブラさんの姿になっているんだ?パンドラズアクター」と声をかける。

 

 モモンガに話しかけられた人物は、クルルー?と頭を傾けた後、一瞬、ブレインイーターの姿がボヤ~としてから元の埴輪姿に戻った。独特の服装に身を包んだパンドラズアクターは大仰に手を掲げて一礼をする。

 

「ようこそお越しくださいました!マイマスター!」

 

「……お前も……元気そうだ……な」

 モモンガの顔からみるみる生気が失せていく。……生気?

 

「はい。元気にやらせていただいています。ところで……今回は、何をされに来られたので、モモンガ様?」と歌い上げる様に言葉を紡ぎながら、踊るかのように振り上げた手を舞台俳優の様に前で捧げながらモモンガに一礼をする。

 

 

(ウボわあ~~ だっさいわああ~ あ 体がキラキラ光りだした……)

 

 パンドラズアクターはモモンガが創造したNPCである。

 ナザリック宝物殿の領域守護者。宝物殿の管理のほか、金貨の出納などを行う財政面での責任者でもある。

 同じドッペルゲンガーでも、変化できる姿を普段のひとつに絞り魔術師として特化したナーベラルとは違い、「至高の四十一人」全員の外装をコピーし、その能力の八割ほどを行使できるドッペルゲンガーとしての能力に特化したLv.100NPCである。

 ちなみに2110年頃に起きた欧州アーコロージー戦争でネオナチが着ていたものをモデルにした格好良い軍服に身を包んでいる。

 ただし顔はドッペルゲンガー特有の卵の様にのっぺりとした埴輪であり、服装や言動に伴っておらず不釣り合いさが際立っている。

しかし、なんなんだろうこの舞台俳優の様な大仰な芝居の様な仕草と中二病満載な言動は……いや、分かっている! 昔、俺(中二病)とタブラ(中二病)さんが代わる代わる痛い設定を組み込んだ結果がこれだよ!動く黒歴史だよ!なんで俺だけこんな目に遭うんだ……あの人たちも、こっちの世界に来て動いて喋る自らの黒歴史(NPC)と向き合えば良いんだよ!さっきから体中がキラッキラしっぱなしだよ!言っておくが、こんなエフェクト、ユグドラシルで買ったら良い値段するからな!

 

「どうされましたか? マイマスター」

 

 項垂(うなだ)れる俺に「元凶(はんにん)」が話しかけてくる。

 

「いや……いろいろあってお前の力が必要になったのでな。頭脳労働者(社畜)がもう一人欲しいのだ」

 

「Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)!」

 

「……ドイツ語だったかなあ! 来るなあ! これは本当に!」

 

 何故か、対抗するかのように固まった笑顔と大声で答えてしまう。

『精神と時の部屋』とかよりも余程の修行になるぞこれは!アンデッドじゃなければ死んでるぞ。これ創造主にとっての最大の敵は創造物なんじゃないのか?

 荒くなる息を整えながらモモンガは創造物に嘆願する。

 

「2人の時は良いよ。2人の時は、な。だがみんなが居るときには、もう少しマイルドにやってくれ。敬礼も禁止な!」

 

「ええ……? マイルドに……ですか?」

 

「うむ 他の者が居る所では自粛してくれ。頼む。お願いします」

 もう少しで土下座になりそうな程に深く頭を下げる創造主に「はあ……わ……かりました……」と力なく返事をしつつ、パンドラズアクターは埴輪の顔で残念そうにしてみせる。器用だなコイツ。

 

「まあでも、今 2人で話してると、正直なんだか気が楽な所もあるのだぞ?」

 

「おお……我が主よ……光栄で御座います。私の全てを差し出しましょう」

 

「いらんわい。守護者達の忠誠度が高いのは解るんだけど、同時にそんな彼らの期待を裏切れないって気を張ってしまうんだ」

 

「はい それは当然で御座りますマイマスター! 至高の御方とは我々の創造主であり神そのものなのですから!ら――――♪あ――――♪」

 

「なんで歌った!? ねえ 今、なんで歌ったの!?」

 

「ふふ……すみませェん。お逢いしたかった我が創造主と久方の邂逅、そして何故か自由に発言し愛を伝えることが出来ることに感極まってしまいまして!」

 

「その気持ちは大事にしまっておいて頂きたい」

 

「なんと!?」

 

「ガリガリと削るよな……俺のHPかMPか分からないけども」

 

「おお……まさかPはパンドラのピ「違う」

 

 

「ふう NPCの過大評価が凄すぎて疲れてしまうのだ。でもオマエは私の創造物。私の子供だ。情けない俺も受け入れてくれるよな?」

 

「Ohoooooo!Komm, du süße Todesstunde!(来たれ、汝甘き死の時よ!)」

 

「解った解った。何か感動してくれているのは解った。これからオマエに愚痴を聞いてもらったり話を聞いてもらう事もあると思うんだが……当然、他の守護者達には内緒にしてくれよ?」

 

「勿論で御座います。マイマスター 私たちだけの特別な関係で御座いますな!」

 

「う、うむ 頼むぞ。ところで……なんでタブラさんだったんだ?始め」

 

 そう、何故タブラさんに変身してたんだコイツは?

 

「はい 先日、モモンガ様とタブラ様が宝物庫に様々なアイテムを取りに来られた事がありましたよね」

 

 ん? ……ユグドラシルのサービス終了日の事だよな?ヘロヘロさんが来る前にタブラさんが来て、割と長いこと話し込んだんだよな‥‥で、使ったことが無いアイテムとか使ってみようぜーってなって確かに宝物庫に取りに来たんだよな。

 

「しかし 別にあの時、オマエとタブラさん接触してなかったと思うんだが……」

 

 そう、課金の当たりアイテムやワールドアイテムなどは勿体なくて使えなかったが、外れアイテムやジョークアイテム的な物を玉座の間で片っ端から使ったんだよな……アレ? その後、タブラさんが、「やりたい事あるから先に円卓の部屋に行っておいてモモンガさん」って言って……?

 

「はい その後にタブラ様が再訪されまして……ワールドアイテムの『真なる無(ギンヌンガガプ)』を持ち出されました。その際に「ちょっと俺に変身して見てくれる?」と命令されました。そして変身した私を見て、「ああー俺ってこんな感じなのかー」と仰った後に退室されたのですが、変身解除の命令も受けておりませんでしたので、そのままになっておりました」

 

「なるほど」

 

 色々と成る程な。こちらの世界に来た時にアルベドがギンヌンガガプを持っていたから、かなり驚いたんだよな。一度宝物庫に戻って、こっそりとアルベドにギンヌンガガプを握らせていたのか……タブラさん、アルベドが超防御型NPCだから、範囲破壊が可能なギンヌンガガプをアルベドに与えたかったんだけどワールドアイテムだから遠慮してたもんな……

と、一人納得をしていると

 

「ところで……モモンガ様」

 

「ん?どうした?」

 

「マジックアイテム・マニアとしてどうしてもお伺いしたいのですが、持って行かれた効果不明なアイテムは、使ってみてどんな効果がありましたでしょうか?教えて頂ければ幸いです」

 

「ふむ……オマエ、そういう所は俺に良く似てしまってるよな」

 

「お褒めに預かり光栄で御座います」

 

「褒めてないけどな……あのアイテム達か。 んー ルビー色の薄い本で表紙に「腐」と書かれていたアイテム『貴腐人』は、使用すると一定時間、私とタブラさんの友好度が1.5倍くらいの数値になったな……商店街で店主相手に使えば安く買ったり出来たかもな。あとNPC相手に使って情報の入手とか」

 

「なるほど、友好度を一時的に上げるアイテムですか。面白いですね」

 

「うむ ぶくぶく茶釜さんが声優仲間のギルドの友人からもらったらしい」

 

 あの時、茶釜さん 俺が、たっちさんやウルベルトさんと長く話し込むと目がギラギラしてたんだよな……あれは一体何だったんだろう?

 

「あの 『無骨な黒縁眼鏡version.3』はどうでしたか?」

 

「ああ……あれな。あれは着けると本来のカリスマ値が3割減少し、取ると本来のカリスマ値より5割カリスマが上昇するアイテムだった。効果時間は眼鏡の装着時間分だけな」

 

「はあ? 不思議なアイテムですね」

 

「……まあ お約束アイテムではあるんだよ。ただ「運営はアホだ!」と2人で笑い転げたが……」

 

「では『完全なる狂騒』というアイテムにはどんな効果が?」

 

「ああ……あの赤いクラッカーの奴な。あれは俺が浴びるとバッドステータスになって精神状態無効化スキルが点滅していたんだよな。タブラさんに使っても効果無かったんだけどね」

 

「ほう?『完全なる狂騒』という名前から考えるにアンデッドやドラゴンなど本来、精神効果系が通じない相手をも「狂騒状態」、バッドステータスに持っていく事が出来る。というアイテムですかな?」

 

「なるほど 精神作用無効化を無効、もしくは半減させるのか‥‥だからアンデッドである俺にしか効果無かったんだな‥と言っても試してないから実感は‥‥‥ 」

 

 

 

 

 ‥‥‥待て

 

 待て待て待て待て待て待て!?

 

 アンデッドが本来持っている精神作用無効化を無くす。もしくは半減させる……だ、と?

 

 

 それはまさに、今の俺では無いのか?

 

 あの時、俺はモモンガのステータスが回復したかどうかなんて確かめていない。

 つまり 本来アンデッドが持つ精神作用無効化能力が減退した状態のまま、こちらの世界に来たために、バグか何かで状態が異常なまま固定されてしまった……?

 

 その可能性は十分にある。だとすればこの状態はずっと続くのだろうか?

 今の俺はアンデッドでありながら敵のチャームパーソンやスリープなどにも弱いのかも知れない……。

 

「マイマスター?どうされましたか?」

 埴輪顔のパンドラズが心配そうに、こちらの顔を覗き込む

 

「うむ……どうかされたよ色々と そしてどうかしてるよ今現在 あああ―― ふう あ、光り出した。とりあえず、明日みんなに引き合わせるから。これから大変だと思うが色々と頼むぞパンドラズアクター」

 

 パンドラズアクターはクルリと回転しながらビシッと敬礼し

「Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)!」と高らかに答えた。

 

 

 いや 本当2人だけの時に……出来れば1人だけの時にしてくれないかな。そういうの……。

 

 

 あと、ドイツ語のレパートリーが少ないのは俺達のせいなのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 

 

 えーと あの そのー 強引でスミマセン(笑)
 一応何か理由があった方が良いのかなと思ってた時にアニメ版の「ぷれぷれ」で、「これだ?!」と思ったのです。思った自分を殴ってやりたい ユリ姉さんに殴ってもらいたい それはむしろ御褒美だが

 無理矢理感山のごとし…… しかしこの小説をここまで読んで下さっているような寛大な読者の方々ならば慈悲深い御心で処理してくれると信じております 信じるってステキですね


あ タブラさんが最終日に訪れたというのは考察サイトでの見解を参考にさせて頂きました


また今回も、kubiwatuki様、yelm01i様、4tail様、まりも7007様、大冒険伝説りの様による誤字脱字の報告と訂正、有難うございました いつもお世話になっております


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第二章五編 ユリ・アルファが倒せない

 

 

 

 

 

 

 ~地下10層 玉座の間~

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓の最終地点10階層 ここにはまず「レメゲトン」と呼ばれる大広間が玉座の手前にある。最終防衛地点となる、この大広間には「レメゲトン七二の悪魔」を模った超希少金属ゴーレムが設置されている。しかし本当は製作者である「るし★ふぁー」が飽きたため六七体しかない。更に天井には四色のクリスタル型モンスターがおり、クリスタルは戦闘時にはエレメントの召喚と魔法爆撃を行うなど、ゴーレムと合わせたその戦闘力はガチビルドのパーティが来ても楽に壊滅させられるほどの強さを誇っている。

 

 その広間を抜けて辿り着くのが玉座の間である。至高の41人の旗が掲げられており、またギルドコンソールなどナザリックの全てを管理する部屋でもある。

 ここにヴィクティムとガルガンチュアを除いた階層守護者が集まり報告会議が行われる事となった。

 ちなみに司会は守護者統括のアルベドである。

 

「献身的な……非常に献身的な協力者(犠牲者)が多数ナザリックに現れた事により、色々なことが解った。それは「まだまだ知らなくてはいけないことが多い」という事だ。圧倒的に情報が不足している」とモモンガが問題点を皆に提示する。

 

 ……誰かの経営学だったかな。 

 

『コミュニケーションの要諦は、「あくまで上司から部下へ」です

 リーダーとは常に勇気と希望を与える存在でなければいけない。

 部下に力を発揮してもらうのは難しいことではありません。

 やりたがっている人にやってもらう。ただそれだけです。

 リーダーは、裸の王様になってはいけない。

 とくに社長は、本社の椅子に座って部下の報告を聞いているだけではいけない』

 

 

 そう 彼ら忠誠を誓ってくれる部下を信用し信頼し上手に育ててあげなければならない。それが今のアインズ・ウール・ゴウンと自分が生き残って行く活路となるだろう。俺なんてしがないサラリーマンでしか無い。ユグドラシルでも意見調整としてのギルドマスターだっただけの男だ。

 だが能力だけはこの世界では充分高い。俺も、守護者達も、だ。

 だからこそ、それ以外の部分での成長をする事が出来れば、まだまだ真っ暗闇なこの世界での灯りとなるだろう。

 

「さて……まずは先日、突発的な対応で勝手に戦闘行為に及んで済まない」と守護者各位に謝る。

 

 ここで素直に謝ることにより、独断専行による戦闘は至高の御方であっても褒められた行為では無く、ましてや守護者であれば という意識を持ってもらう。

 突然、自分たちに謝罪した(あるじ)に守護者達が一斉にザワつく。それを抑えるようにモモンガは言葉を繋げる。

「守護者よ 覚えているか? 我がアインズ・ウール・ゴウンの軍師『ぷにっと萌え』さんを」とモモンガが問いかける。

 

「おおっ ぷにっと萌え様!」と「至高の41人」大好きっ子な守護者たちのテンションが上がる。

 

「勿論で御座います。至高の御方の中でも、更に一際「知謀」に優れられた深謀遠慮の御方であらせられます」とデミウルゴスが答える。

 

「うむ 彼の考案した「誰でも楽々PK術」でもそうなのだが、戦でも政治でも経済でも正しい判断を行うには正しい情報がいる。分かるな?」

 

「はい 仰せの通りで御座います」と司会者のアルベドが相槌を打つ。

 

「そうだ。そして正しい時に正しい判断をし、正しい行為を行えば正しい結果が待っている訳だ。解るか?コキュートス」

 

「ハッ 力押シダケデナク 虚実ヲ見切ッタ上デ ソノ真ヲ打ツコトハ 剣術ノ極意ニツウジルモノガアリマス」

 

「うむ その通りだコキュートス そしてその虚実を見極めるためにはまた別の情報と判断力が必要となる訳だ」

 

 今まで侵入者を、蹴散らしたり蹴散らされたりを繰り返してきただけの守護者には難しい話かも知れないが、私は彼らの成長こそが、今ある異変を乗り越えるための鍵であると思っている。

 どれだけ密偵を放ってあらゆる情報を掻き集めたとしても玉石混合の情報の中から有意義な情報を取り出したりするのはそうとうな頭脳が必要とされる。当然、小卒の俺の出番では無い。

 

「そんな訳で、これからこの世界のあらゆる情報を集めようと思う。そこでこの情報を統括し管理するという、我々の運命を決めかねない役をまず誰かにやってもらわねばならない」と告げるとアウラとマーレは「うええ~」という顔をしているし、コキュートスは「ナルホド」と人ごとのような反応だ。

 

 そうなるとナザリック1位2位を争う智者のアルベドとデミウルゴスが残る。しかも二人とも目を輝かせてやりたそうな顔をしている。まあ デミウルゴスの瞳は宝石なので何時でも輝いてはいるのだが……。あと、何故かシャルティア(アホの子)も目を輝かせているが。

 

「実を言うとナザリックでもトップクラスの智者であるアルベドかデミウルゴスに任せようと思っていたのだが、この「情報総監」という仕事は、あまりにも時間と手間暇がかかる仕事なので、色々な仕事を同時進行で行ってもらう予定のデミウルゴスの負担を考えると役からは外そうと思う」

 

「負担などと!」とデミウルゴスが否定するが、良い。と手で制する。

 

「では私が……」と司会者のアルベドと、何故かシャルティアが手を挙げる

 

「いや アルベドには傍に居て欲しいからな」

 ナザリックの管理やNPCの事で解らない事が多すぎるからなあ。これまで通り秘書兼管理者として働いてもらわないと。

 

 視界の端に立つアルベドの腰の黒い羽が、ぴーんと横に張り詰めた様に広がった。

 

「くふ くふくふくふ 傍に……居て欲しい……傍に……居て欲しい……」

 という文言をブツブツと繰り返し始めたのでモモンガは見なかったことにして話を進めた。シャルティアの事は初めから見えていなかったので安心だ。

 

「そこで、だ。階層守護者では無いが頭脳ならデミウルゴスやアルベドに匹敵し、尚且つ信頼できる者をみんなに紹介したい」

 

「え?」と守護者達が驚いた顔をする。あとシャルティアが哀しそうな顔をしている。

 

「まさか」とアルベドが思い至った顔をする。

 

「まあその、手前味噌みたいな褒め方をして悪かったが……パンドラズアクターよ! 入るが良い!」

 

 本当はまだ少し抵抗はあるんだよ。自分の恥ずかしかった頃の作文を読んでる様でも有り、黒歴史の塊である対モモンガ用メンタル兵器と言っても過言ではない存在だからな。しかし今のカオスな状況において使える駒は全て使いたい。しかもスペックだけは無駄に高い。

 いや 本当に昨夜、宝物殿に入って対峙した時、ずっとキラキラしてた事を思い出す。自分の体に対する問題も含めて悩む材料があり過ぎる。

 

 カツーンカツーンという靴音をワザと立てながら玉座の間の前で止まった者が居る

そして 「んっううん」と咳払いをしている声が聞こえる。

 

 このドアは意外と薄いということを教えてやらねばな……主に俺のために。

 

「ギッシ」と玉座の間のドアを開けて、軍服に身を包んだ埴輪が入ってくる。

そして胸を張って大股で歩き、呆然とする守護者達を無視してモモンガの前方5メートルの所で止まり、創造主に一礼すると、クルリと踵を返して守護者の方を睥睨する

そして舞台役者がアンコールに応えるかのように手を胸に置いて深く一礼し

 

「御紹介に与りましたパンドラズアクターで御座います。皆様方、以後、お見知りおきを!」

 

 なんだろう……「ポカ――――ン」という顔をした全守護者を見ていると、パンドラズアクターでは無く、俺の心が守護者にサンドバッグにされてボコボコに殴られている様な感覚になるのだが……。

 あとアルベドよ……彼の半分はタブラさん(お前のパパ)で出来ているからな? ある意味、オマエの腹違いの姉弟だぞ? こういう言い方をすると茶釜さんが悪い顔をしだすからアレだけどな

 

「あー 突然の事で驚いたとは思うが、わがナザリックの宝物殿の領域守護者であり財務管理を行っていたパンドラズアクターだ。有能であるが故に重要な任務に就き、それ故、宝物殿に籠もり切りで孤独な戦いをしていた。どうか良くしてやって欲しい」

 

 ここまで言って、ようやくちょっとアレな子を見る程度に優しい目になった守護者達から「パチパチパチ……」と小さく(まば)らな拍手が巻き起こった。

 

「パンドラズアクターには情報総監という役についてもらう。今まで縦のラインでのみ吸い上げて下ろしていた情報を情報総監が一括で管理し、取捨選択した上でプールし現場に必要な情報を横のラインに流通させる。体の器官で言うところの『延髄』の役割をしてもらうつもりだ。そうして今まで以上にスムーズ、かつ膨大に集めた情報をデミウルゴス、アルベド、私で判断した上でこれからの作戦と方針の立案に役立てていくつもりだ」

 

「『情報総監』! なんと素晴らしく格好良い役職名でしょうか!?宝物庫より飛び立とうとする雛鳥がごとく未熟な拙身にこのような果……「また 今まで以上に情報を集めるために色々と手を打ちたい。まずは恐怖公とその眷属たちとエイトエッジアサシンなどの隠密に優れた下僕による大規模な諜報機関の設立である。デミウルゴスが調べてくれた周辺国である、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国へと彼の眷属を潜り込ませて膨大な情報を得るつもりだ」

 

 アウラは「あ 遮った」と思った。

 

 また、恐怖公の名前を聞くとアルベドやシャルティアが「ひいっ」という顔をし「良かった。情報総監に選ばれなくて……」と心の中で呟いた。

 

「これらにより膨大な情報処理のシステムをパンドラズアクター、アルベド、デミウルゴスで確立せよ。これはナザリックの生命線になる重要事項であるので三人で完璧に仕上げるように」

 

「「ははっ!」」と名前を呼ばれた三人が誇らしげに応える。

 

「更に、一番近い大都市エ・ランテルには冒険者組合という特殊なコミュニティがある事が解った。他のプレイヤーの情報を探したい我々としては是非活用したい機関だ。ここに先回のカルネ村救出戦で名を挙げたセバス、ユリ、ナーベラル、私が入ろうと思う。王国戦士長に渡りもつけてあるしな」

 

「お待ちくださいっモモンガ様! 何故御自ら、かように危険な所に身を投じられるのでしょうか!? どうか我々下僕(しもべ)にお任せ下さいませ!」

 守護者統括のアルベドが「(私の見えないところに行くなど)とんでもない!」と言わんばかりに反対意見を述べる。勿論、全守護者にはカッコの中は丸見えだった。

 

 アルベドの必死さに「アルベドは守護者大好きっ子だなあーまったく」と呑気に考え「私が参加するのは「たまに」だ。たまに。主な活動はプレアデスのリーダーであるセバスとユリ、ナーベラルでやってもらう。頼むぞセバス」とフォローを入れる。

 

 セバスは敬愛と尊敬と忠誠を捧げている主の命令に「はっ」と力強く応える。

 

「冒険者の中で確固たる地位を築け。お前やユリの持つ慈悲の心と仁愛義心を思う存分発揮して、実績だけでなく、他の冒険者や街の人間に信頼されるチームとなるのだ。それが後々私が思い描く絵図の大切なピースの一つとなろう。難しい任務だと思うが大丈夫だ。オマエがやりたいと思うことをやれば良い。それが自然と賛嘆を集める事になり人望へと繋がるであろう」

 

「はっ 恐れ多い御言葉有難うございます。栄光あるナザリックが支配者であらせられるモモンガ様の執事として恥じない働きをお見せ致しましょう」

 

「うむ 更にプレアデスからはソリュシャンもエ・ランテルに商人など一般市民として侵入しアサシンの能力を生かして、セバス達とは違うラインで情報を集める様に指示せよ」

 

「はっ」

 

「アウラは現在実行中であるトブの森の捜索を続行せよ。アウラの報告書は中々良かったぞ。また捜索終了後にマーレと共に取りかかって欲しい作業があるので頼むぞ」

 

「はい! わかりました!」

 

「マーレはナザリックの隠蔽が終わった後にアウラと共同の任務の下地作りをして欲しい」

 

「は、はい!」

 

「コキュートス、シャルティアには重要案件であるナザリックの防衛を頼むが、それとは別に任せたい仕事も出てきた。追って連絡するが、今回の我々の動きに対して何者かが何らかのリアクションを取ってくることも考えられる。ナザリックの防衛の要であるオマエ達が敗北するときはナザリックの陥落へと繋がる事と再認識し、各自研鑽に努めて欲しい。決して派手な働きではないが、オマエ達がナザリックを守っていてくれる信頼感があるからこそ、私も仲間たちも安心して外へ出ていけるのだ。よろしく頼むぞ」

 

「「ハッ」」

 

「御言葉……骨身臓腑に染み渡らせて、今まで以上に働かせて頂くでありんす……」

 シャルティアは主からの信頼という光栄にすぎる言葉に打ち震え、必死に涙を堪えた。

 

「とにかく我々が欲するのは一にも二もなく情報であり、派手な行動は慎むことを胆に命じておいてくれ。この先、原住民にどれだけの強者が居るか、またはプレイヤーが居るか分からない状態では極力、敵対然とした立場を取りたくないからな。ただし今回のカルネ村騒動で敵対し、幾ばくかの情報提供者を得たスレイン法国については『異形種の抹殺』を国是としており、またこの世界でもかなり強者が揃っていると聞く……今回は全ての関係者を捕捉し、魔法防御で覗き見もさせなかったつもりだが、我々の知らない方法で、我々の情報が送られている可能性も「(ゼロ)」ではない。仮想敵国として行動し、かの国には最大限の警戒をするよう」

 

「そうなるとカルネ村で戦闘行為を行った、セバスやユリを外に出す事によって『リ・エスティーゼ王国』などでスレイン法国の者に見つかる危険性もあるのでは?」とアルベドが不安を呈する。

 

「ん?あれは遠国より通りかかった親切な旅の一行が『バハルス帝国』の騎士団から無垢な村人を救い、『リ・エスティーゼ王国』内で王国戦士長が卑怯な暗殺者に襲われた時に王国戦士長に助太刀した』だけだからな?何も問題は無い。その縁もあってリ・エスティーゼ王国に旅の一行が身を寄せる訳だしな」

 

「なるほど……見つかってもセバス達の一行には何の問題もありませんし、我々との関係性、そもそも我々の存在を晒した訳ではありませんからね」とデミウルゴスが捕捉してくれる。

 

「うむ アルベドは姉のニグレドと共に、使い方を覚えた鏡と魔法を使って緻密な地図の作成を頼むぞ」

 

「はい お任せ下さい」

 

「デミウルゴスはパンドラズアクターを商人であった音改(ねあらた)さんに変身させてエクスチェンジボックスに、この世界で採集できるありとあらゆる物を放り込んで、どれが効率よくユグドラシル金貨を獲得できるかの調査を頼む」

 

「はっ 『ありとあらゆるモノ』で、御座いますね?」

 

 エクスチェンジボックスはアイテムや貴金属などを投入すると、価値に応じたユグドラシル金貨に変換してくれるBOXである。ゲーム時代は不要アイテムの処理などに使われていたのだが、ここにきて重要アイテムになったな‥‥カルネ村で聞いたがユグドラシル金貨はこちらでは出回っていない様だし、ナザリック内でのギミックに対するコストなどにユグドラシル金貨は必要になる可能性は高いだろうから、エクスチェンジボックスが在ることがこんなに有難い日が来るとは‥‥ちなみに商人のスキルを持つ者がエクスチェンジボックスを使うと、金貨への交換が割増しされるのでお得だ。

 

「うむ 石ころから木材、穀物に鉱物まで、あらゆる物で試してくれ」

 

「お任せ下さい。『ありとあらゆるモノ』で調べつくさせて頂きます」

 

「うむ またポーションやスクロールなどの消耗品が、この世界の物から製作できるかどうかも同時進行で頼むぞ」

 

「確かに『あらゆるモノ』を集めて試行するという意味では、同じ種類の任務ですから効率が良いですね。お任せ下さい」

 

「図書館のティトゥス·アンナエウス·セクンドゥスに素材を渡せばスクロールに関しては実験してくれるハズだ」

 

「はっ ポーションに関してはナザリックのポーション製作所の者に素材を渡して試行錯誤させてみます」

 

「よろしい。雲を掴むような困難な作業だがデミウルゴスになら安心して任せられるな。では各自、詳細は後ほど指令書を作成し渡すのでよろしく頼む。兎にも角にもまずは情報、情報、情報だ。では私は私室に戻るので何かあったらメッセージをくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして主人は守護者達に見送られ玉座の間から出てゆく。

 

 深々とした礼を上げるのも勿体無いと言わんばかりに主の居た空間にて守護者達は頭を伏せ続ける。

 

 突如「くふ」という声と共に美しい顔を上げたアルベドがウットリとして体を自らの腕で抱きしめながら「アルベドは傍に居て欲しい……くふくふふふ」と呟く。いや呟きにしては、やや大きめの自己主張()にシャルティアがイラッとした。

 

「そりゃ秘書としてでありんすえ? 私はコキュートスと共に普段の働きを労って頂いたので、充分幸せでありんすよ」

 

「全クダ。アノ『ナザリック大戦』デ至高ノ御方ガ1500人ノ侵入者ヲ41人デ壊滅サセテカラ、アインズ・ウール・ゴウン ニ ダレモガ恐レヲ抱キ我々ノ出番ハ久シクナッテシマッタガ、モモンガ様ニ アノヨウニ労イ讃エテ下サルナド勿体無キ栄誉デアル」

 

「それは最後まで残りし慈悲深き御方ですもの。私たちのことを良く見ていて下さっているのよね」

とアルベドがウットリとしたまま大きめの自己主張(胸)を揺らしつつ体をクネらせると、ふと跪いたままの2人の男性守護者が目に入る。

 

「どうしたの? セバス、デミウルゴス? 仲良く俯いたまま震えているけど?」

 そう言われると2人は、ハッとして隣で自分と同じ格好をした相手を見やると気まずそうに立ち上がる。

 

「申し訳ありませんね。モモンガ様より、あまりにも有難い御言葉を頂いたため歓喜に胸を震わせてしまいまして」とデミウルゴスが眼の宝石を潤ませながら言い訳をすると、続いてセバスも

 

「……そうですね。私もデミウルゴス様と一緒です」と主人の出て行った扉に再度、礼をしながら答える。もしかしてデミウルゴス以上に何か感じるところがあったのかも知れない。

 

「この世界に来られるまでのモモンガ様は、支配者然とした態度で悠々と我々を支配して頂きつつも、たった一人でナザリック運営のために全てを一人で背負っておられました。しかし、この世界に来られてからは、不敬かも知れませんが我々守護者を頼って下さり、その背負っている物を我々にも分け与えて下さろうとしている気がします。至高の御方のために働けることがこれほど幸せだとは!」とデミウルゴスが熱弁し守護者たちが大きく頷く。

 

「それにあの流れるような素晴らしい立案の数々。まさしく端倪すべからざる御方であらせられる!」

 

端倪って何?とアウラがシャルティアに聞いたがシャルティアは虚ろな顔で聞こえないフリをした。

 

「ただ、ワタシはモモンガ様がセバス達と一緒にエ・ランテルに出かけられる事は、どうしても心配なの。モモンガ様にもしもの事があったらと思うと……」とアルベドが哀しげに眼を落とす。

 

「いえ その心配は無いと思いますよ? アルベド」

 

「どうしてそんな事が言えるの? デミウルゴス」

 

「コキュートスとセバスに聞きたいのですが、助けた王国最強の戦士長の強さはユグドラシルレベルで云う所のどれ程だったのですか?」

 

「そうですね……身近で見て感じた所見としては、Lv30強と云った所でした」

 

「コキュートス、君の1/3くらいのレベルだが、彼……ガゼフが3人程集まったとして君は苦戦するかい?」

 

「ソレハ有リ得ナイ。彼ガ3人集マロウト10人集マロウト、彼ハ私ニ傷一ツ付ケラレナイママ、一刀ノモトニ切リ捨テラレルダロウ。同ジ3倍ノ差ト言ッテモ、「レベル3ト レベル10ノ差」ト、「レベル30ト レベル100」ノ差ハ全ク別次元ノ物ダ」

 

「なるほど。つまり王国最強であり、モモンガ様も警戒されていたスレイン法国ですら彼を暗殺するために陽光聖典という精鋭を送り込んでくるほど、この世界でも強者である彼・ガゼフですらその程度であれば、Lv100であり、竜人に変身すれば守護者最強格であるセバスが居れば、モモンガ様は安全と言えるんじゃないかな? アルベド」

 

「勿論、モモンガ様の身は命に代えましてもお守り致します」と大きくセバスが頷く。

 そしてパンドラズアクターが「おおっ モモンガ様の事、よろしくお頼みいたします」と大げさな素振りで願い出る。その姿を「モモンガ様はオマエだけの物じゃない」と云う気持ちを抱いた、アルベドやアウラに冷たい目で見られる。パンドラズアクターは、もう少し空気を読んだほうが良い。

 

「でも その……ガゼフも『武技』という特殊スキルみたいなのを使うと、その瞬間レベルが5~8くらい上がったんでしょう?そういう風に、モモンガ様や私達の知らない能力や魔法で不意を突かれたりしないかと不安になってしまうのよ!」と諦め切れないアルベド

 

「……やっぱりワタシも見た目は、『ただの絶世の美少女』にしか見えんしんすし、モモンガ様に同行を願いするでありんすかねえ?」とシャルティアも不安そうに言う。

 

「でもねアルベド。ワタシ今、森を飛び回ってるんだけど楽しいのよね。未知の森を冒険して、知らない生き物を発見したりとかさ。モモンガ様や至高の御方も元々は、一冒険者だったんでしょ?冒険したいんじゃないかなモモンガ様も」とアウラが優しく諭す。

 

「むうー」

 

「それにね アルベド」

 

「なによデミウルゴスまで」

 

「昔から『良妻』という者は家をしっかり守って夫の帰りを黙って待つものだと言うよ?」

 

 その瞬間、音速でアルベドとシャルティアが振り返ってデミウルゴスを見る。合わせてレベル200の風圧で少しデミウルゴスの髪が揺れた。

 

「「それは本当なの(でありんす)?デミウルゴス!」」

 

 ふふ……今 この世界で最も危険な状態におかれているのは実は自分なのではないだろうか……と思いながらデミウルゴスは2人を(なだ)める。

 

「はい 本当です。本当ですとも。我が創造主ウルベルト様も仰っていました。『男の三歩後ろを付き従う女性こそ妻とすべき大和撫子である』と」

 

「まあ……控えめな淑女たる私がモモンガ様にピッタリである事が分かる言葉だわ。解りました。良き妻として夫の帰りをナザリックで待つことにしますわ」と顔を赤くしたアルベドが女神のような微笑みで宣言する。

 

「待つでありんすえ。まだ私との正妻戦争について決着は着いていなかったハズでありんす!」

 

「あなたは同行をお願いするんでしょ? 盾として立派に死になさい」

 

「なっ あなたねえ!モモンガ様と一緒に寝泊まりしんすのよ? ワタシとモモンガ様の関係の進展は心配じゃないでありんすか!?」

 

「盾というか板みたいな胸して何言ってるのかしら、このヤツメウナギは。モモンガ様は豊満な胸がお好みよ」と自己主張の激しい自らの胸を引きこもり気味の胸を持つシャルティアに見せつける。

 

「おんどりゃあ~! 吐いたツバ呑まんとけよぉ~!」とシャルティアがアルベドに飛びかかる。

 ああ こいつら何やってんのかな……とジト目で2人を見るアウラが、ふとパンドラズアクターを見ると思案気に「うーん」と唸っているのに気づく。

 

「どうしたの? パンドラズアクター」

 

「……いえ 『三歩下がって後ろを着いてゆく』とか『淑女』だとかって、まんまメイドの皆様方の事ですねえ……と、思いまして」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「「!?」」

 

 再び音速で二人はプレアデスのリーダーであるセバスに振り返る。

 

「いえ 少なくとも戦闘メイド『プレアデス』の(むすめ)たちに限ってその様な事にはならないと思います。彼女たちはモモンガ様を敬愛しておりますが、それは至高の御方全てに当てはまるものであり、不敬の壁を乗り越えてモモンガ様と関係を持とうなどと……有り得ません」とセバスが力強く告げる。

 

「そ、そうよね そんな事を考えるのは彼女たちに失礼と云うも……の……? どうして震えているのかしら? シャルティア?」

 

 ブルブルと小刻みに震えながら、顔面蒼白になっているシャルティアがアルベドの胸にしなだれかかって来た。その時にさりげなくアルベドの胸の感触を頬で楽しむことを忘れないのは流石『変態紳士』の愛娘さんである。

 

「……その、ね。ユリ・アルファが、この前、モモンガ様の御寵愛を頂いたって……。一般メイドもプレアデスも、みんな知ってるみたいでありんす……」

 と蚊の鳴くような声でシャルティアが最悪のタイミングで爆弾発言をする。

 

「え」とセバスが、声にならない驚愕に固まった顔で、ギギギ……と寄り添う二人に顔を向ける。

 

「……管理ミス…なのではないかしら? セバス」

 アルベドは文字通り凍り付くような目でセバスを睨め付ける。身体中から立ち込める殺気が視覚化して、まるでアルベドを後ろから悪魔が抱きしめているかのような光景に、セバスは決して目は合わせないようにしているものの、心臓を金瞳に嬲られているような怖気を感じる。

 

「いえ、まさか、そのようなことが……」と取り乱しつつあったセバスは顔に浮かぶ大量の汗を拭くことも忘れて、同僚たる守護者たちに助けを求めようと周囲を見渡すと、エルフの姉弟は「でねー、ワタシは言ってやったわけよー」と棒読みで会話しながら出口に向かって歩きだしており、蟲王は「アア!爺ハ!爺ハ!」と天を仰ぎながら姉弟を追うようにフラフラと去っていくのが見えた。……セバスは信じた部下と同僚に同時に裏切られたことにショックを受けつつ「申し訳ありません……確認致します」と頭を下げた。

 

 

 

 

 

「ユリ・アルファ……」とアルベドは呟く。

 

 

『三歩下がって後ろを着いてゆくメイド』

 

『慎ましい淑女』

 

『豊満な胸』

 

『モモンガ様と同じアンデッド』

 

『エ・ランテルへも同行』

 

『眼鏡』

 

 

 あ これは駄目かも知れん……とアルベドは崩れ落ちた。

 

 

 

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

「ア、アルベド!? アルベドの心臓があ!」

 

「アルベド!?アルベド!しっかりしなさい!」

 

「痙攣しておられます!」

 

「セバス!ペストーニャを呼んできてください!」

 

「はっ わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 ペストーニャさんが何とかしてくれました……わん

 

 

 

 

 その後、ユリ・アルファが泣きながら誤解を解き終えるまで、アルベドに凄い目で見られ続け、シャルティアからは「どうにかして交ぜて欲しい」と懇願され続けたと云う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ねえ。前々から言ってるけど私、ユリの事が大好きでありんすえ?当然モモンガ様の事も……2Pが3Pになっても良いんじゃないかと思うでありんすでありんす」

 

「ですから違うんですって……。本当に私は、ただモモンガ様の剣を……」

 

「モモンガ様の! 剣を!? ふひっ」

 

「もう いやーー! ふえぇん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
トウセツ様 デュオ・マックスウェル様 ペリ様 読み専さかな様 kubiwatuki様、とんぱ様、カド=フックベルグ様 誤字脱字修正を有り難う御座います。


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第二章六編 初めての睡眠

 

 

「では各自、詳細は後ほど指令書を作成し渡すのでよろしく頼む。兎にも角にもまずは情報、情報、情報だ。では私は私室に戻るので何かあったらメッセージをくれ。」

 

 

 そう言い残すとモモンガは守護者達に見送られながら玉座の間のドアを開けて出て、私室へ向かう。

 

 

 

 今日のモモンガ番はルプスレギナ・ベータだ。 ワーウルフのクレリックで、静かで厳かな雰囲気を醸しだしつつ、「お疲れ様で御座いました。」とドアから出てきた主人に一礼し、五歩下がってモモンガの後をしずしずと連いてくる。

 

 心の中で「ああ……こういう雰囲気の娘も良いな クレリックだしセバス組に入ってもらった方が良かったかな?」と考えていたが、極度の心的疲労に気づくと、やや早歩きで私室へと移動を始める。

 アンデッドにはそぐわないが、精神的疲労による凄まじい眠さを感じたのだ。

「これは初めてこの体で眠れる!」という自信に漲った良い顔をしている。骸骨だが。

 

 そんな主人をルプスレギナは「わわ モモンガ様の横顔が自信に満ちあふれたお顔をしてるっス!超格好良いっス!」と思いながら見ていた。

 ルプスレギナに「少し眠りたい」と告げて私室に入る。邪魔な装備品などを外してベッドに横になると服の袖口から「カサッ」という音が聞こえる。

「ああ さっきの会議用に作ったカンペか……」と独りごちる。いつもなら会議前に頭に叩き込むのだが、今回はカルネ騒動の後から会議まで時間があまり無かったからな……

 

 それなりに何とかやれたと思うが大丈夫だったろうか……彼らにとっての良い支配者であり、彼らの成長を促せる先生であれただろうか?

「……まあ、生徒の方が遙かに優秀なのが辛いところなんだがな。」と苦笑いをして目を瞑る。

 

 本当に色々あった。

 

 結局自分は直接手を下していないが、目の前で何人の人間が死ぬのを見ただろうか

死ぬ人々への憐れみが無かった訳ではないが、自分とは別種族であり味方でも無いせいか、さほどの思いは抱いていない。

 死んだスレイン法国の兵隊達は、一般的な観点から行くと分かりやすい悪者だったと言っても良い存在だったので、彼らへの贖罪の気持ちも感じずに済んだ。

そう納得させることは出来るのに、心に引っかかるのは鈴木悟の残滓が悲鳴を上げているのか?

 

 ……いや それだけでは無い気がする。

 

 自分の指示によって、大切な子らに人殺しをさせた

 そういう種類の罪悪感を感じているのだ。

 

 40人の仲間達よ 皆の大切な子らの手を汚させてしまった。

 俺を救ってはくれないのなら、せめて俺を裁いてはくれないか?

 俺は、ナザリックを守るためだけに戦い続けて仲間達の子供に人殺しさせ続けるのだろうか?

 みんなの夢の跡と 夢の欠片たちを守るために?それだけのために?

 

 ……いや そうじゃ無い 未来を思うときは夢を、希望を描くべきだ。

 

 そう 美しいこの世界の夜の星の様に 我々の未来は我々の手で輝かせる物なのだ。

 

 私が征くは星の大海

 

その大海をナザリックという船で渡るのだ。彼らこそを仲間として。

 

目指す先は…… 我々の行き着く目指すべき世界は……

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・

 

 

 

 

『戦闘メイド・プレアデス』ルプスレギナ・ベータは寝ずの番でナザリックの支配者である主人の私室の外で警護をしている。

 いと嵩き御方の私室のメイドは本来「一般メイド」と呼ばれるホムンクルスから作られた戦闘力のないメイドが持ち回りで勤めるのだが、現時点では警戒態勢に伴い戦闘メイドであるプレアデスがその任に着いていた。至高の御方の警護とメイドを任されるというのはナザリックで働くものであれば誰しもが憧れる誉れ有る仕事であり、事実シャルティアやマーレには「代わりたい……」と羨ましがられている花形業務である。

メイドとしての仕事モードの時のルプスレギナはクレリックを模したメイド服を着ているに相応しい、「厳粛な淑女」を思い起こさせる。

 

 しかしそれ以外の時のルプスレギナに関してはワーウルフ特有の犬歯と愛くるしい瞳が示すようにプレアデスの中でも活発で気さくであり、和気藹々とした人柄と云える。ナーベラルに言わせると「ルプーは効率的に物事を進め確実に命令を成し遂げる狡猾な人物」であり、またルプスレギナに言わせると、「ナーちゃんは命令外の事にも面倒臭がらず対処し、私心なく即断即決出来る人物」という評価である。

 ちなみに「プレアデス副リーダー」ユリ・アルファの評は、「ナーベラルは命令を拡大解釈しすぎであり、ルプーは命令を縮小解釈しすぎる」という物であった。

 つまり、『「A」という人物を救え』という命令の時、ナーベラルは「A」に危害を加えそうな人物を積極的に排除にかかるし、ルプスレギナは「A」が生きてさえすれば「A」の手足が失くなろうが、心が壊れようが気にしない。という評価である。

 

 そんな、後に『駄犬』の愛称すら頂くように成るルプスレギナであるが、やはり主人の警護は格別な物があるらしく気合に満ち溢れて立っていた。しかも姉のユリは否定していたものの、一般メイドの中では「ユリ姉様はモモンガ様の御寵愛をお受けになった。」という逸話は確定事項として流布されている。それはそれでユリがモモンガ様の「お手つき」になったという事で、プレアデスの誉れであり何ら恥じることは無いのであるが、「もしかして自分にもモモンガ様からお声がかかるかも‥‥」という淡い乙女の期待の様な物も持っていなくは無い。お年頃ですもの。

 

 しかし、そんなアバンチュールも無く、夜が過ぎて明るくなり「ユリ姉のモモンガ様係の日を多めに設定した方が良いっスかねえ~」などと、何も無かった事に対して「シュン」としながら考えていた時に突如、主人の部屋の中から「うわああ――――?!」という主人の悲鳴が聞こえた。

 

 

 !? 考えるより先に体が動く!巨大な十字架を模した聖杖(スタッフ)を何時でも使用可能な状態に構えつつドアを蹴り開けて室内に転がり込むように飛び込む!

 

「どうされました!?」とナニかあったらしい主人に大声で呼びかける。

 執務室には居ない! 奥の寝室だ!ルプスレギナは周囲に警戒を張りながらも寝室へと脚を進める。

 

「モモンガ様! ……モモンガ様?! ……モモンガ様?」

 

 モモンガ様は寝室の大きな鏡の前で、手で御自らの顔をグニグニと伸ばしたりしていた

 呆然と立ち尽くすルプスレギナに気づくと

 

「ああ すまんすまん 寝ぼけていてな。 私が私であることを忘れていた。」と抑揚のない声で呟かれる。

 

 な なんとも哲学的な事を仰られたっス?!

 

「あ はい 御無事でしたら結構ですので。ハイ」

 

 とルプスレギナは、主人の言葉の意味を理解できない自分に文字通り尻尾を巻いてシュンとなる。

 その姿を見たモモンガは……むう メイドを驚かせてしまったな……まあ びっくりしたのはむしろ自分で、寝起きに仕事行こうと時計探してた瞬間に骸骨な自分の姿を見て、とんでもなく驚いてしまった……恥ずかしい。と皮膚があるならば、顔を赤くしていたに違いない

 

 精神作用無効化が半減しているが故の中途半端なアンデッドか……。

 

 本当のアンデッドだとしたら……こんなポンコツ支配者じゃなく、とてつもなく冷静沈着に上手く物事を運べていたのかも知れないな。

 しかし アンデッドと言えば、「生者への憎しみ」 つまり生命などへの執着と云える。

 それは未来を見ずに過去の、そう、過去の仲間や栄光への妄嫉に耽る怪物になりえたかも知れない。

 著作権フリーになっている昔の電子コミックで読んだことがあるな……中途半端な吸血鬼に対して「そのままでいい おっかなびっくりしながら生者と死者の間で、昼でもなく夜でもない夕方を歩いていけ」というセリフが……。まさかあの時の婦警……だったな?彼女と同じような立場に自分が成るとは今でも信じられないが。

 

 しかし そう 夕方だから見れる景色が有る。

 

 その茜色の空の向こうに我々の目指す世界があるのかも知れない

 

 

 

 

 

 

「茜色の空が、どうか致しましたか?」

 

 

 

 ぎゃぼ――――――――!! 口に出してた!?

 

 

「い・つ・ま・で・オ・マ・エ・は・コ・コ・に・居・る・ん・だ?」

 

 と尖った人差し指で正確にルプスレギナの眉間をザスザスと刺し突つきながら自室のドアより外にメイドを追いやる 無論 THE YATUATARI である。

 

 あう、あう、あう、あう、あう、あぅ、とルプスレギナは指で突かれながら涙目で変な声を上げつつ「し、失礼致しました――――!」とドアを閉めて退室する。

 

 

 

 

 その後 ベッドでゴロンゴロンと転がりながら両手で顔を覆いつつ声にならない叫びを上げ続けるオーバーロードが居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 その日 突然アルベドの部屋を訪ねてきたシャルティアは暗い顔をしてアルベドのベッドに転がり込み横たわると虚ろな眼で

 

 ぼへえ~~~~  と、どこから出しているのか分からない声の様な何か

 大抵エクトプラズム的な物を口から出していた

 

「ちょっとアナタ……なんて声出してんのよ」

 

「ぼへえ~~~」

 

「聞きなさいよ……てゆーかベッドに寝ないで頂戴。そのベッドを使って良いのは私とモモンガ様だけなのよ?」

 

「ふふ……そんな夢物語を言うなでありんす……」

 

「誰が夢見る乙女よ」

 

「乙女とか言ってないでありんす オバさん」

 

「……。」

 

 げしげしげしげしげしげしげしげし 二人は無言で蹴り合う

 

「で どうしたの?突然。」

 

「――今日、いつものようにユリを視姦しに食堂に行ったら……」

 

「いつも視姦しに行ってるのね……迷惑防止条例をモモンガ様に提出しましょう」

 

「プレアデスの皆がルプスレギナを取り囲んで……」

 

「……昨日のモモンガ様係ね」

 

「ルプスレギナが、半泣きで顔を赤らめて、朝からモモンガ様に突かれた……とか 激しかったとか……突かれるたびに変な声出た……とか」

 

「?!」

 

「血も少し出たとか言ってたでありんす……」

 

「げふっ 血だ……これ」

 

「……。」

 

「……。」

 

「しくしくしくしくしくしく」

 

「しくしくしくしくしくしく」

 

 と二人で仲良く顔を覆ってさめざめと泣いた

 

「何故モモンガ様はこれだけ熱烈アピールをしているのに私達には振り向いてくれないでありんすか……」

 

「本当にねえ こんなに可愛いヤツメウナギなのにね」

 

「おい 創造主たるペロロンチーノ様の悪口は止めてもらおうか」

 

「何を言ってるのよ アナタは元々 ぷっ ヤツメさんだったのをペロロンチーノ様の御手により今の可愛い姿に生まれ変わる事が出来たんじゃない 流石ペロロンチーノ様だわ」

 

「ペロロンチーノ様を讃えながら器用にわたしを下げるなでありんす 大口ゴリラ」

 

「前から言いたかったのだけれども……ベースがヤツメウナギで今の姿に変わったアナタと、元々がサキュバスで、強化のためにタブラ様によって「ガ○」を摂り込んだワタシとは色々と違うと思うのよ。私の場合、本当の姿がこの姿なのよ?もちろん○グにも変身出来ますけどね」

 

「わたしだって与えられた鎧とかの関係で、今じゃこの姿の方が強いでありんすえ」

 

「……なんだか 血の狂乱の時に真祖(ヤツメウナギ)の姿で生き生きとしているアナタの姿が目に浮かぶのだけれども」

 

「あー 血の狂乱の時って酔っ払っているのと同じでありんすから、開放的になっちゃうのよねー」

 

「酔っぱらいが脱ぎたがる様な物なの?」

 

「そー それそれ!」

 

「……そもそも『血の狂乱』にならないように努力してもらいたいのだけれども」

 

「あ はい」

 

「モモンガ様の件についてはやはりメイドとして私室に仕える事でチャンスがあると思うのよ」

 

「なるほど……でありんす」

 

「手始めとしてメイド服を作りましょう」

 

「アルベド……その…わたしの分も……」

 

「やあね 私たち友達じゃない」

 

「アルベド……」

 

「ちゃんとアナタの分も作るわ えーっと四足歩行用ので良いのよね?」

 

「よし 友達 表に出ろ」

 

 

 

 

 

 












カド=フックベルグ様 誤字脱字の修正を有難うございました


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第三章一編 ハンディキャップ戦

 

 

 恐怖はどのようなものであれ、直視しないことによってよりひどいものになっていく。

 考えを余所へそらそうと努力すればするほどに、目をそむけようとしている恐怖が無限に大きくなっていく

 

                  バートランド・ラッセル

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは執務室で膨大に過ぎる報告書に手を焼いていた。

 デミウルゴスやアルベドも手の空いた時に来て、一緒に報告書の処理をしてくれるのだが、アルベドには地図の作成。デミウルゴスには効率の良い換金素材&消耗品作成の素材集めに奔走してもらっている。

 本来なら、やはり異世界に来たのであるからモモンガもセバス達と一緒に「冒険」に勤しんでみたかった。ユグドラシルを始めた時のようにワクワクとした世界を楽しみたかったが、自分が構築した情報網から上がってくる情報量が過多で自分で自分の首を絞める様な状態に陥っている。

 ただ、恐ろしい事に恐怖公やエ・ランテル入りしたセバス、ソリュシャン、素材探しに部下を飛ばしているデミウルゴス、地図製作による発見物を見つけたニグレド&アルベドなどから上がってくる情報はモモンガの処理する十数倍であり、それをパンドラズアクターが情報総監として情報を濾過し、各自へ必要な情報を共有し、現場の人間を動きやすくした上で必要な情報をモモンガへと上げるのであり、本当にパンドラズアクターが居てくれて助かった!と心から思っている。

 

 またスレイン法国の捕虜からニューロニスト・ペインキルが聞き出した情報もかなり重要かつ膨大だ。しかし、より多くの情報権限があったであろう「陽光聖典」のリーダー『ニグン』は情報魔法を掛けた瞬間、爆散し死亡したというので驚いた。スグに実験がてらリザレクションをかけて蘇生させてみたが、復活出来なかったらしい。何らかの復活阻止魔法が掛けられていたと見られるな……。

 

 次に重要人物を捕らえたら、パンドラズアクターにタブラさん(ブレインイーター)に変身してもらって脳を食べてもらうか……ニューロニスト(ブレインイーター)だとレベルが足りないせいか食べるだけでは情報を得られないからな。なんだ、パンドラさんめっちゃ便利だな……。

 

 ネタキャラに近かったパンドラズアクターの現実世界での有意性に、何故か造物主が打ちのめされる

 

 しかし……本当に凄い情報量だ。知りたいこと以上の情報がぞくぞくと入ってくる。

 現在の世界の文明レベル、確認されている魔法、希少魔法の使用者、周辺国の状態と主だった人物のデータ。

モンスターの出現ポイントと強さ、攻撃方法、弱点……これ、完全にゲームの攻略本になってないか?

 

 例えば、この前に関わりのあったカルネ村が所属する「リ・エスティーゼ王国」について

『リ・エスティーゼ王国』

昔は強大で戦により国を広げたが、当時の功臣に報いるため、爵位と土地・税収権などを譲ったため時の流れと供に国王の権力が弱まることに。力のある伯爵家が集まった貴族派と国王派に別れており不安定な状態。

 

 国王 ランポッサ三世

能力は平凡だが、平民からでも能あるものを取り立てる気概はあり部下からは慕われている。

子供は無能なバルブロと、平凡なザナック 「黄金」の名を持つ美しいラナー姫‥‥か

ちなみにラナー姫の所にパンドラズとデミウルゴスの両名から【要注意!】の判子が押されている。

 

 戦士長 ガゼフ・ストロノーフ

王国最強の戦士(レベル30強)であり「英雄級」とされている。平民の出でランポッサ三世に見出された。忠勇義烈の人物として有名。

 

 ふむ あの時のガゼフがこれ程の立場を持っていたとはな。

 その他にも「国王派」として、エリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵、ブルムラシュー侯爵、ぺスペア侯爵、ウロヴァーナ伯爵、イズエルク伯爵(犯罪組織「八本指」との繋がりアリ)

 貴族派(反国王派)としてボウロロープ侯爵(最大の権力を持つ貴族)、リットン伯爵

等々

 勿論、この「八本指」という犯罪組織についても構成規模、幹部名などが事細かに書かれている。

 

 同じように「ズーラーノーン」という不老不死を目的とした宗教団体に似た地下組織の事についても触れられている。

 彼らは実験や怪しい儀式のために不法に墓地でアンデッドを作成したり、死体を盗んだりするらしく、ついでに死体と一緒に埋められた貴金属なども回収していくため、主に貴族達からの苦情も多いらしい。同時に不老不死を願うのもまた貴族なので変なバランスがとれているらしいが……。

 

 うーん セバス組に「オマエ達の判断で良いので、犯罪者や民を苦しめる貴族などを拉致しナザリック送りにせよ」と云う命令を忠実に守った結果。大量の団体がニューロニストの所に来てビックリしたんだよなあ……この調子だと数年でエ・ランテルの人口が半分になるからセーブして!?と言わなければ、どうなったんだろうな……セバスとユリが送ってくるぐらいだから人間のクズばかりなんだろうけど。

 

 まあ お陰で貴族社会と裏社会の情報は得放題だし、アンデッドの実験とか、食人系の部下への良い褒美になってくれたけど。

 

 あと、アウラから 結局、トブの森の主として「フサフサした獣」、「ナーガ」、「ウォー・トロール」が居るとのことだ。ただしレベルは大したことがないらしい。大したことないのが「主」か……という事は他の森の生物達の強さが知れるな。

 

『バハルス帝国』は……皇帝「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス」が有能であり独裁者なんだよな。あとこの世界で最高峰の魔術師「フールーダ・パラダイン」が最重要人物か……ほう、フライを使いながらファイヤーボールを撃ち続けるという戦法で数万の兵をも追い返すのか……追い返せるんだ……そんなので……。ああ、そう言えば、『リ・エスティーゼ王国』では魔法使いは尊重されていないという報告もあったな。

 

 問題の『スレイン法国』はまだ詳しく分かっていることが少ない。「最高神官長」が一番偉くて、その下に「六大神官長」が文字通り6人居る。そして実行部隊として『陽光聖典』『漆黒聖典』『風花聖典』などが存在して『陽光聖典』は、つい最近任務中に行方不明になったそうだ。コワイナー(棒読み)『漆黒聖典』が、とんでもなく強いらしい。英雄級‥‥えーと 単位で言う所の「1ガゼフ」だったな。英雄級(1ガゼフ)を揃えて、もっと強い「2ガゼフ」すら居るという噂だ……。ん?現在、漆黒聖典の女性隊員の一人が国宝のマジックアイテムを奪って脱走中、その確保命令が出ているのか……ふむ。

 

 ナザリックの近くで「リザードマン」の集落を発見。小規模な集落が点在しており、集落同士、敵対はしていないが交流も無いと……「強いアンデッドを作る実験素材としてどうでしょう?」というアルベドの提案文があるな。

 

 そして『竜王国』 王女「ドラウディロン・オーリウクルス」がドラゴンロードの血を引いているらしいが、そんなに軍事的には強くないらしい。スレイン法国に防衛資金を出して、度々軍事的危機を救ってもらっているらしい……。ん? スレイン法国って人外は「悪・即・斬」主義じゃなかったのか? ドラゴンの血を幾分引いてるくらいなら許せる範囲なのかな?

 

『ローブル聖王国』には有名な「女聖騎士」が居て聖剣を使うらしい。詳細不明か……続報求ムだな。

 

『ビーストマンの国』があり、ビーストマンという一人?一匹?個人個人が相当強いらしい。現在「竜王国」を圧迫中か……ふーむ、そうか……。

 

 そしてガゼフ・ストロノーフが言っていた『冒険者』という組織についてだが……。

強さと実績によって等級分けが為されていて、等級に応じた報酬とクエストが与えられるらしい。

組織と言ったが、「冒険者組合」という組合であり、国の体制には組み込まれておらず、モンスター討伐や要人警護、希少素材の採集等が主な依頼とのことだが……所謂「暗殺」などの犯罪行為や「戦争行為」とは一線を引いているらしい。なるほど。

 ちなみに等級は『アダマンタイト』をトップとして、『オリハルコン』『ミスリル』『ゴールド』『シルバー』『アイアン』『カッパー』の順番らしい。現時点で『アダマンタイト』の強さは不明……。

 

 アダマンタイト級冒険者チームは現在5チームが確認されており、所属国は、

 リ・エスティーゼ王国に『蒼の薔薇』『朱の雫』の2チームが所属

 バハルス帝国には『銀糸鳥』『漣八連』の2チームが所属

 竜王国には『クリスタル・ティア』が所属

 とのことか ふむう……ただ 王国最強と讃えられている「ガゼフ・ストロノーフ」より強いという事は無いだろうしレベル30くらいと見るべきかな? 

 

ふーむ 『蒼の薔薇』は女性だけのチームか……ゲームじゃなく実際の肉体で女性が冒険者のトップに立っているというのは……なかなか不思議ではあるなあ。どうしても力弱さがあるだろうし、魔法使い主体のチームかも知れないな。

なになに「ソリュシャンに護衛の依頼を蒼の薔薇あたりに出して、下僕を嗾けてみれば警戒度がハッキリすると思われます。」か。デミウルゴスの奴め。ソリュシャンに危ない橋を渡らせることにならないか?

 

 ・

 ・

 ・

 

長考の後、モモンガはメッセージでアルベドとデミウルゴスを呼び出す。

2人とも忙しい中で手を休めて執務室に赴いてくれる。

 

「すまないな、2人とも多忙な中で。」と慰労の一つもしたくなるのが人の情と云う物だ。半分アンデッドだが

 

「とんでも御座いません。至高の御方に必要として頂けるだけで、どれほど下僕として幸せでありましょうか。」

とデミウルゴスが全ての人を幸せにするかの様な心からの笑みを湛えて喜びを表現する。

 

「全くで御座います。個人的な事になりますが、女として、愛しい御方には何度でもお逢いする度に幸せを感じる物でございます。くふー」と白く美しい顔を赤く染めながらウットリとアルベドが続ける。「くふー」を斬新な語尾として定着させようとするのを止めような?な?

 

 なんだろう……テニスでボールをサーブした瞬間に、向こうだけダブルスペアで打ち返されてる気分になるのだが……。

 

「う、うむ。大儀である。ただ、二人の働きに感謝をする事を許して欲しい。」

 

「勿体ないお言葉で御座います……。」

と二人とも声を震わせながら頭を床に擦りつけんばかりに平伏する。話が進みにくいのだが……

 

「ナザリックの現世界での方策の一つとして思うことがあるので、ナザリックの頭脳である二人に聞いて欲しいのだが」

 

「何を仰られますか!モモンガ様こそナザリックの頭脳であり心臓であらせられます!モモンガ様の為さりたい事をお手伝いさせて頂く事こそが下僕としての使命であり喜びで御座います!」とアルベドが詰め寄る。となりで「うんうん」と肯くデミウルゴス。

 

「まあ 待て。船で言えば私は責任者である船長である事は確かだ。だが航海士でも無ければ操舵士でも無い。測量士でも無いし水夫長でも無いのだ。今、この世界のことが少しずつ解り始めたと供に、航路がうっすらと見えてきた所だ。目的地に着くには当然、皆の力が必要である事を忘れないで欲しい。」

 

「「モ、モモンガさま……。」」と二人は涙腺を決壊させる。

 ……恒例行事みたいになっているが、なかなか分かってくれないな。

 贅沢なのは分かっているし、「そうあれ」と作られているのは解っているが、私が望むのは守護者達の成長であり、それに伴いこの世界を冒険する「仲間」であると言うことを。

 

「まあ とりあえず二人とも聞いて欲しいんだが」と先程思いついた腹案を話す。

 

 

 

 

 

「……なるほど、素晴らしい案だと思います。」

 

「そうか?」

 

「はい この世界への『ナザリック』としてのファーストコンタクトとしてはよろしいかと。」

 

「そう 我々はどうやらこの世界にとって強大で異質すぎる存在らしいからな。ソフトランディングの方法としては悪くないよな?」

 

「そうですわね。これから入る情報次第で変更も出来ますし、モモンガ様の案の路線で良いと思います。」

 

「うむ ではパンドラズアクターとも協力して3人で、この案‥‥そうだな「トモダチ作戦」とでも名付けるが、私の案を叩き台にしてより確実、安全に実行出来る様な「案」に修正して欲しい。」

 

「そんな!? モモンガ様の案を修正するなどと!?」

 

「いや もう、ホント そういうの良いから。私は裸の王様で居るよりは、オマエ達と共にアインズ・ウール・ゴウンを支える良き柱で良いと思っている。これは私の我が儘か?」

 

「……その仰り様は、少々 ズルい仰りようで御座います」

 

「下僕にとっての「支配して頂く幸せ」というモノも確かに有るので御座います。」

 

「……今はそれで良い。ただ私は非常に我が儘なのだと云うことも覚えていて欲しい」

 

「はっ ご期待に添えざる身、誠に申し訳ございません。しかしモモンガ様の御言葉、大変、身に余り過ぎる栄誉であります……」

 

「うむ では今の仕事をこなしながらで良いので「トモダチ作戦」の下地作りのために二人とも動いてくれ。」

 

「「はっ」」と2人で深く忠誠の義を行う。

 

 そういえば二人とも忙しい上に頻繁に執務室にも出入りしてもらったりと大変だし時間も無駄にしているな……仕事振りに報いてやりたい気持ちもある……。 どうせ宝物殿との行き来のためにパンドラズアクターには渡してしまったしな……。

 

 モモンガはゴソゴソとアイテムBOXを探り指輪を掴む。

 

 

 

「アルベドよ、こちらへ。」と、アルベドは愛しい御方に手招きされる。

ただでさえ、有り難く頂いた任務のためとは云え、地図作製のためにニグレドの所に詰める事が多く「最近、モモンガ様分が足りないの……。」と姉のニグレドに愚痴りまくっていた所である。アルベドは上機嫌で「はいっ!」とモモンガの近くに行く。

 

 

「もっと近くに」

 

?! 今でも近いのに更に近く!? そんな嬉しい事を!とアルベドは期待に胸を膨らませながらモモンガのパーソナル・スペースである、1m以内に入る。

 

「うむ では手を出すが良い」

 

「はい?」とアルベドは、手の甲を上向きにした状態で両手を上げる。ちなみに海外では近年まで、この姿勢で手の甲を鞭で叩かれるという伝統的な折檻が有った。関係ないけど 関係ないのに何故書いたのか

 

 

「アルベドよ……受けとるが良い。」

 

 モモンガは指輪を手渡そうとしたが、アルベドの手の平が下向きだったため、イタズラ心からか、そのまま着けてあげようかな……と指輪を持つ自分の右腕の前にあったアルベドの左手の薬指にギルドメンバーの証である「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」をスッと填(は)めてやる。薬指なのはTVドラマや映画で「指輪を着けるシーン」として散々見てきた事による刷り込みによるもので他意は無かった。と後のモモンガは涙ながらに語る。

 

 それが何なのかを確認した瞬間。アルベドは全身を「ビクンッ」と波打たせた。

 

 まず この指輪は至高の御方しか持つことを許されないギルドの秘宝「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」である。

 それを頂けるだけでも、ギルドのために何百回何万回死んでも構わない程の栄誉であり、夢にも思わなかった僥倖である。

 

 それを下賜された――――しかも 自分の最愛の愛しき至高の御方であるモモンガからである。

 

 更に、御自ら まるで!まるで恋する乙女が夢にまで見た結婚式の聖なる儀式の様にアルベドの薬指に填めてくれたのだ。これは遠回しでもなんでもなく「我がモノになれ」というモモンガ様の宣言である。と思ったアルベドを誰が責められようか。むしろ責められるべきは自分に恋い焦がれる部下に罪深いイタズラを行ったモモンガであろう。

 

 

 この時のアルベドの気持ちを どう表せば良いのか……その表現方法が一番解らなかったのは本人かも知れない。

 

 絞りだすように「――――あ、リ、が、とう……ご、ざい、ま、す……」

と言いながら左手薬指を右手で包み込みつつ胸に掻き込む様に抱き締めながら頭を深く深く下げる。

 

 腰の黒い羽は「ミシミシ」と音を立てるほどに力が入りながら、ゆっくりと波立つ。

 

 うむ。と満足そうに返事をしたモモンガが、もう1つの指輪をアイテムBOXから取り出しデミウルゴスにも渡そうと

「では デ…」ミウルゴスこちらへ と続けようとしたモモンガは信頼すべき知謀の主である「第七階層守護者」が無言で必死に手を振りながら口パクで何かを伝えようとしている事に気づいた。

 

『モモンガ様! 非常に光栄であり、嬉しく、また無礼なのを承知の上ですが、今は結構で御座います!』という悲鳴のようなメッセージがデミウルゴスから入ってくる。

 

『どうしたのだ?デミウルゴス』とモモンガは困惑しながら目の前の守護者相手にメッセージでやり取りをする。

 

『今だけは……今だけはアルベドに良い夢を見させてあげて頂けないでしょうか……』

 

 アルベド?と思いアルベドの方を見ると プルプルと小刻みに震えっぱなしで俯いている。

 

「どうしたのだ? アルベド」

 

「ももんがさまあ……わたし しあわせです……。えうっ えうっ」

 

 え? ……泣いてる? 

 

「は、ははは 泣くでないアルベド。綺麗な顔が台無しだぞ。」とセリフを繋いだ瞬間 

 

 

 

「もおおおおおおおおおおおおおおおおお――――!!!」

 

 と云う雄叫びが聞こえた瞬間、ダンプカーに撥ねられたかのような衝撃でモモンガは何者かに押し倒された。

 

 何者というか ケダモノ(アルベド)がそこに居た。

 

 縦の瞳孔をギランギランに輝かせながら

「良いですよね! もう良いですよね!」と言いながら愛しい御方の第三頸椎から第五頚椎をペロペロと激しく舐めつつモモンガに覆いかぶさる。

 

「ちょっ オマ! 何を言ってるんだ!?」

 

「もう私達は夫婦も同然!むしろ夫婦です!睦事の一つや二つ良いではありませんかぁ!」

 とモモンガの腕を掴んで強引に自分の双丘に持って行って「むにょん」と揉ませる。

 

「あわわっ!」

 

「我慢しているのに我慢出来ない事を仰るから!先っちょだけ!先っちょだけしか入れませんから!責任取りますから!」

 

 と言いながら自分の下腹部をモモンガの下腹部に激しくグニグニと擦り付け蕩けるような顔で言う

 

「ま、待てと言うに!」 まさかの部下の反乱にモモンガは恐怖を感じる 

 

「大丈夫です! 天井のエイトエッジアサシンの数と恐怖公の眷属の数を数えているうちに終わりますから!」

 

「長いな!? 何をしている! 助けろ! 助けてください!」と涙ながらに護衛で天井に張り付いている蜘蛛忍者に叫ぶ。

 

「ア、アルベド様 ご乱心!ご乱心!」と叫びながら慌てて飛び降りてくるエイトエッジアサシンたち

 

「良いじゃないですか!初心(うぶ)なネンネじゃあるまいし!ユリ・アルファやルプスレギナには御寵愛を授けられたのでしょう?私だって!」

 

「オマエ、本当に何を言ってるんだ!? ユリ達とは何もないぞ!?」

 

「殿方はみんなそう言うのです!あ、デミウルゴス達が気になりますか?大丈夫です!初めてが露出プレイと云うのもオツな物だと思います!」

 

「……人を勝手にアナタのプレイに巻き込まないで頂きたい。」と漸く余りの出来事によるショック状態から再起動を果たしたデミウルゴスが動き出し、エイトエッジアサシンと共に主人を獣から救おうとする。

しかし流石はLevel100の戦士職。力が違う。何より本気度が違う。

しかもデミウルゴス達が激しくモモンガを抱きしめているアルベドを無理矢理剥がせば、モモンガの脊椎が損傷する可能性もあるのだ。

 

「もう少し、もう少しで終わるからあ!」とアルベドは腰の動きを早める。

 

「あっ も、もうっ」と何故か切ない声をモモンガの中の鈴木悟(童貞)が出す

 

「アルベド、良い加減にしないかね?」とデミウルゴスは荒い息でアルベドの腕を掴む

 

「だって! だって!」

 

「解った!アルベド! これからは月に一度モモンガ様に抱きしめてもらいなさい。」

 

「え?」

 急にデミウルゴスがモモンガを裏切りだしたのでモモンガが驚く。

 

「抱く? ふひっ それは当然性的な……」

「いえ ハグ的な意味です」

 

「ええー 性的な意味でなければイヤですー」

 

「駄・目・だ。 私は今回はモモンガ様にも非があると思うので譲歩しているのです。本来なら下僕が至高の御方に不逞を働くなど許されざることなのですよ。」

 

「え? え!?」

 先程から被害者を置いて話がどんどん進んでいる状況に支配者が戸惑う。

 

「……分かったわ。それで譲るとします。今回は……今回だけですよ?」

 

 話がまとまったようだ。

 

「ちょ、ちょっと待てデミウルゴス! ちょっと待って……」

 

「不敬とは存じますが、その上でお聞き下さいモモンガ様。お聞きの上、後で私の首を刎ねて頂いても構いませんのでお聞き下さい。守護者統括であるアルベドが、どれ程モモンガ様を至高の御方として敬愛する以上に女性として愛しているかは賢明なる至高の御方は当然ご存知の事と思います。 その様な一女性であるアルベドに対してアレだけ思わせぶりな態度を取った上で突き放すのは、同じ守護者として余りにもアルベドが不憫で御座います。どうか月に一度で良いのでアルベドを労ってあげて頂ければ幸いです。もちろんモモンガ様が誰かアルベド以外の女性を愛し、操を立て、アルベドを抱き締められない時がくればアルベドも納得するでしょうし。宜しいですね?モモンガ様。お解り頂けましたね?」

 

「は、はい」

 

 一息で言い切ったデミウルゴスの妙な迫力にナザリックの王は負けた

 

「もちろん アルベドとの間に、お世継ぎをお造りになって頂けるのであれば、ナザリックの者として、これに勝る喜びは御座いません。」

 

「まあ デミウルゴスったら!」と赤くなった頬を両手で抑えてイヤンイヤンとサキュバスが体をくねらす。

 

 ……なぜ こいつらは俺には付いてないと云うのにこんな無理難題を押し付けてくるのだろう。 新しい虐めかな?カナ?

 

 

 しばらくして、デミウルゴスにも指輪を渡してから、2人が退出したあと

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――途中までは、いい話だったよな……――――――

 

 

 

 と虚ろな眼で呟くと、主人の余りの痛ましさからか、普段は天井で石ころのように自分を殺しているエイトエッジアサシンから

 

 

 

 ――――はい……――――

 

 

 と、とても小さな声で返事が帰ってきた。

 

 

 モモンガは、エイトエッジアサシンの優しさに、少し泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「それはそうとアルベドは謹慎3日な」

「くふん‥‥‥」

「はい 妥当かと」

「あと ニグレドとアウラとシャルティアから、それぞれ2時間の説教を受けよ」

「ひどいっ モモンガ様ひどい!」

「5時間に致しましょう」

「デミウルゴス!?」

 

 

 

 

ちなみにシャルティア(アホの子)に説教されるのが一番屈辱的で堪えるかと思ったが、そうでは無かった。

 

ニグレドには

 

「モモンガ様を襲うだなんて‥‥あなた、鬼の子なの?」

 

「いえ サキュバスの子で、あなたの妹です」

 

「末妹だけでなく真ん中の子までこんな残念な仕様に‥‥。モモンガ様に合わせる顔が無いわ‥‥。」

と顔の無い姉に嘆かれた。

 

 

 

 

シャルティアには

 

「なにを勝手に抜け駆けしてるでありんすか!」

 

「次は二人がかりで襲いましょう。計画次第で確実にヤれると思うの。」

 

「‥‥‥その話。詳しくするでありんす」

 

 と仲間を増やした。

 

 

 

しかし アウラには終始、ジト目で

 

「アルベドさあ‥‥ あれだけ「モモンガ様大好き」って言っておいて、肝心の時にはモモンガ様の「お気持ち」を無視して無理矢理ことに及ぶんだ‥‥。」

 

「ごめんなさい‥‥。」

 

「ワタシに謝ってどうすんのさ。モモンガ様、傷ついたと思うよ~。ハア まったく、何してんのさ。」

 

「くすん ごめんなさい‥‥。」

 

見た目子供、のダークエルフに呆れられながら言葉責めに遭うのは、何かに目覚めそうな危険な香りがした。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

遠野様、ゆっくりしていきやがれ様、まりも7007様、誤字脱字修正有り難う御座います


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第三章二編 はじめての冒険

冒険者として活動しているセバスからの報告書を読み耽る。

 

まず、リ・エスティーゼ王国の王都に出向き、ガゼフ・ストロノーフと渡りをつけたこと。

犯罪者やクズ貴族を大量にナザリック送りにしてから「エ・ランテル」に戻り、ガゼフの紹介状を出して冒険者となったこと。

ちなみに、この時、パンドラズ・アクターに「黒騎士モモン」として同行してもらい、一応チームリーダーとして登録した。

冒険者の宿屋でナーベラルが揉めかけたがセバスとユリの丁寧な対応で毒気が抜かれた相手が謝ってきたこと。

その時の騒動で女冒険者のポーションを壊してしまったので、手持ちのポーションで補填したこと。

ゴブリン退治やオーガ退治など、簡単な依頼をいくつか達成した事などが書かれており、そして最後に

「明後日、有名なタレント持ちである『ンフィーレア・バレアレ』という少年の依頼でカルネ村まで護衛に着いて行きます。『どんなアイテムでも使用することが出来る』という希少なスキルを所持している方であり、またカルネ村はモモンガ様に取っても馴染みのある村。安全な旅ですし、息抜きにお越しになられるのも宜しいのではないでしょうか」と締められている。

 

 ……ふむ ついに冒険に出る時が来たか。

 

 ふふふふふ、ふふふふふふふ。

 

この世界特有の『武技』と『タレント』について精査して欲しいと伝えていたが、こんな形で直に確かめられるとは良い機会だ。

 

その後のカルネ村も気にはなるしな。ちょっとだけだぞ。ちょっとだけ。

ただ セバスがナザリックのポーションを現地人に渡した事は少し気になるな……元々、何か有った時に使うためと、ポーションを現地でも扱っている場合に、売って現地の金を得て路銀に充てるために多目に持たせてあったのだが、先日、現地で売られているポーション、スクロール、武器、鎧などを、ひと通りナザリックに送ってもらいデミウルゴスに調べてもらったら、現地のポーションは青色で、尚且つ効果も薄いんだよな。即効性があまり無いというか……。ナザリックのポーションは赤くて即効性があるから、とんでもない希少品を渡されたという事で、その女戦士が騒がなければ良いのだが……。

 

しかし、ようやく俺もこの世界で冒険者デビュー。

ユグドラシル時代は魔法職だったが、今回は正体の隠蔽という意味も込めて戦士として戦う予定だし、正直新鮮で楽しみだ。

セバスには『明後日、合流する。』というメッセージを出し、今日は黙々と大量の報告書に目を通す。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 時間としては早朝の部類に入る時間にモモンガは玉座の間にてゲートを開く。

「では行ってくるぞ」と留守を預かる守護者統括のアルベドに告げると、なんとも言い難い顔をして。

「パンドラズアクターに代わって行ってもらう訳には参りませんか?」と心配そうに尋ねてくる。

「心配してくれるのは有り難いが、現場を知らないのは責任者失格である。心配なのは解るが、ニグレドとミラーで見守り、私に何かある様ならシャルティアでも送り込んでくれ。」

 

「ワタシではイケませんので?」と哀しそうに言うが、「いや 一応、人間に見えた方が良いだろう。それとも私の危機にヘルメス・トリスメギストスを装着してから来るつもりなのか? そもそもシャルティアじゃないとゲートを使えないだろうが?」と言うと恨めしそうな顔をしながら右手で左手の薬指をさすりつつ諦めて見送ってくれた。

 

 

 

 ちなみに出立が早朝だったのはモモンガが楽しみにしすぎて先走っているからでは無い。冒険者の朝は早いのだ。

いや、この世界に生きる人間の殆どが早いと言い換えても過言では無い。

太陽が出るとともに行動を開始し、日の入りとともに寝に入る準備に掛かる。これは単純に現代のように安価で光源が手に入るわけではないということに起因する。光源たる炎を作るのもそれなりの金が掛かるのだ。光源保持ということの最も基本になるのがランタンだが、燃料となる油だってそれなりの金額がする。裕福でも無い家なら勿体なくて頻繁には使えない程度の額だ。

そのため、つまり暗くなったら行動が取れないから、休みの時間になるということだ。

 

ではセバスが泊まっている冒険者の宿屋はどうか。1階部分が酒場になっているということも考えれば、遅くまでやっていると思うだろうか。

確かに遅くまでやっている。

だが、それでも現代の居酒屋とかバーのような時間まで開いていることは少ない。時間にしてしまえば平均20時までだ。それ以降は基本閉店だし、騒ぐようなら寝れなくてイラついた冒険者が複数殴りこんできてもおかしくは無い。

もしこれ以上騒ぎたいなら他の酒場に行けという寸法である。ただし、そういう酒場は割高だったり女(娼婦)が絡んで来る事が多いのだが。

 

ゲートを開くとセバス達が泊まっている宿屋の一室に出る。年季が入った古びた木造の部屋だが、メイドが主を迎えるために本気で掃除をしたのであろう、壁も床もピカピカに磨きぬかれており不潔な感じはしない。

ゲートから出ると、すでに、セバス、ユリ、ナーベラルが忠誠の儀をとって傅いていた。

ゲートが開いた時から待っていてくれたのであろうセバスとプレアデスに挨拶を交わすとセバスから新たな報告があった。

なんでも、今回の依頼がカルネ村での薬草採取ということもあり、人手が欲しいことから我々だけでなく『漆黒の剣』という「シルバープレート」のチームも今朝になって突然、合流する事になったとのことだ。

始めは依頼主の突然の申し出にセバスも悩んだらしいが、面会した際に「漆黒の剣」のマジックキャスターが珍しいタレント持ちと聞いたので調査対象が増えるのは良いことだし、彼らの人柄も信頼おける者達であると感じたので承ったとのことだった。

 

「なるほど、さすがセバスだな。」と呟き「その判断に間違いは無い。では魔法職である、私とナーベラルがマジックキャスターと接触し色々と質問しよう。セバスとユリは。ンフィーレア・バレアレの方を頼む。『どんなアイテムでも使いこなせる』というタレントらしいが、使い方を知らなくても大丈夫なのか?使うときに膨大な魔力を必要とするアイテムだとしても使えるのか?使う前からどんなアイテムでも使用効果が解るのか?等を中心に自然にさりげなく聞いてみて欲しい。」

 

「「「はっ」」」

 

「まあ 本当はナザリックに勧誘して、実験に参加してもらうのが早いのだが、どんな人物か解らない上に『人間』を簡単に墳墓に入れるのは、まだ抵抗がある者が多いようだし、警備上の問題もあるからな。」

 

まあ そのためにアウラとマーレに次の任務を任せるのだが‥‥‥。

 

この国の冒険者としてはセバス達の方が先輩であるため、色々とこちらでの常識などをレクチャーしてもらうと同時に、我々の設定などに付いても煮詰める。とりあえず、すでに申告したり、公表している内容について相談する。

 

1.我々はユグドラシルという国の者であり、ユグドラシルにて転移魔法の実験中に失敗して見知らぬ土地で迷子になりカルネ村に辿り着いた

2.そんな訳で、「ユグドラシル」を知ってる人を探している。

3.セバスは「ユグドラシル」での貴族に仕える執事兼ボディガードであり、ユリとナーベラルは姉妹でセバスの部下

4.黒騎士モモンはセバスが仕える貴族の友人

5.将来的にモモンガ自身が出馬するときは、この「貴族」をモモンガである事にし、スムーズに立場を得る事も考慮する

 

 と、こんな感じだ。

始めは、プレイヤーが存在していた場合に悪党ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」だとバレて悪印象を与えないように、セバスやナーベラルの名前も偽名を使おうかと思ったのだが、そもそもプレアデスの居るところまでプレイヤーが攻め込んできた事はなく、彼らは未お披露目だった。

ファンサイトのWikiなどなら紹介されていたかも知れないが、細かく名前まで覚えている奴なら、そもそも顔出しの時点でアウトだしな。

他にも 黒髪なのを良いことにユリ達をセバスの娘にしようとしたり考えたが、とっさの時に「セバス様!」とか叫んだら危険だし、なるべく設定は弄らずにそのままで行ける様にしてある。

また、モモンガがヘルムを脱ぐときは鈴木悟風の黒髪の顔が幻影として見えるようになっており、全員が黒髪で同じ国の出身っぽくなる様にする予定だ。

ちなみにセバスとユリには手加減も含めて、素手ではなく鉄の棒で戦わせていたが、この国でも素手で戦う強者が居ると云う情報が入ったので、今は伸び伸びと鉄拳を振るっている。

 

「食事はどうだ?」「文字は覚えたか?」などと他愛のない会話をしていると、突然セバスが部屋のドアを見つめる。

数瞬後に「コンコン」と機嫌よくドアがノックされる。

ヘルムを被ろうかと思ったが、魔法で顔を造ったほうが早いので、予定通りアジア風というか鈴木悟を少し美化した顔に擬態し、「どうぞ」と声をかけた。

 

「失礼します。」の声とともに20代初頭ほどで金色短髪で如何にも爽やかな体育会系と言った雰囲気の青年がドアを開けて顔を出し、入室すると、一礼し挨拶をする。服装は何条もの金属製の細帯が互いに重なりながら、皮や編んだ鎖帷子の上をそこそこ覆った鎧――帯鎧<バンデッド・アーマー>を着用した戦士風の格好だ。

 

初見であるモモンガを見つけると、「初めまして、貴方がリーダーのモモンさんでしょうか?」と言いながら右手を差し出してくる。

握手をしながら、モモンガも「初めまして、今日はよろしくお願い致します。チーム「漆黒の剣」のリーダー、ペテル・モークさんで宜しいでしょうか?」と挨拶をし、和やかに今日の段取りなどについて会話する。あと半刻程で出立と云う事を教えてくれた後、ペテルは部屋を出て行く。

 

「スゴく好印象な人物だったな……さすがセバスが認めるだけの事はある。」

と後ろのプレアデスに話しかけるも何故か返事が無い。不思議に思い振り返ると 呆然とした顔で3人がモモンガの顔を見ていた。

 

「ん?どうした?」

 

3人は、ハッとした顔をして「申し訳ありません。いつものモモンガ様との変わり様に驚いてしまいまして……」と言い難そうに言った。

 

 まあ リアルでは営業職だったから、むしろコレが自然な鈴木悟とも言えるのだが

 

「今は、一介の騎士『モモン』だから、TPOくらい弁えないとな。自分としてはハキハキとしつつも、礼儀正しく、どこか威厳のある人物……というコンセプトで演じてみたのだが……駄目だったか?」

 

「いえ! その様な事は御座いません!」

 

「はい! 完璧すぎる上に装いがいつもと違うため、一瞬モモンガ様である事を忘れてしまいました!」

 

「ははははは 誉めすぎだぞ? オマエ達。 出来れば私のことは様付けでなくモモンさんと呼んだほうが良いぞ?」

 

「しかし、主人の御友人という設定でしたら「様」付けでもおかしく無いのではないでしょうか?」

 

「まあな。しかし年上にしか見えないナイスミドルのセバスや、若い美人姉妹に「様」付けされて、チヤホヤされている図は周りの冒険者に悪い印象を与えそうでな」

 

「まあ! そんな美人姉妹だなんて……モモンガ様、モモンさんに成られるとその様にお上手になられるのですね?」とユリが笑いながら返してくれる。

 

「ふふふ さすがユリ。その調子だぞ? なるべく主従という事は忘れて、冒険者仲間として自然に振る舞おうじゃないか」

 

 

 ――セバス様、ユリ姉様とモモンガ様の噂は

 ――そうですね。そう聞いております――

 

 ん? 何にやらセバスとナーベラルがこちらをチラチラと見ながら小声で喋っているが?

 

「では、そろそろ参りましょうか皆様方。」とユリが立ち上がる。

それに倣って、みんなも立ち上がり、妙に豪勢な階段を降りていく。

階段の先にはモモンガが初めて見る少年……ンフィーレア・バレアレだと思われる前髪が長い15歳前後の少年が出迎えてくれる。

 

「初めまして、ンフィーレア・バレアレさんで宜しいですか?」

 

「はい!バレアレ薬品店のンフィーレア・バレアレと申します!今回は依頼を受けて頂き有難うございます!」

 

 なんともはや ハキハキした好少年じゃないか……。セバスが言うには、初め彼が接触して来て、「アイテム使用の能力者」だと判ると、危険人物だとしてナーベラルが斬りかかろうとしたらしい……ユリが「ドゴンッ」と怒りの鉄拳をお見舞いして止めたらしいが……。ナイス、ユリだな。

 思わず目の前にあるユリの頭を、ナデナデと撫でてしまう。

 ユリは「ひゃうっ?!」と主人からの不意打ちのご褒美に可愛い悲鳴をあげる。

 同時に後ろからナーベラルの「やはり……」という呟きと、セバスが妙に優しい目で見てくる。どうかしたのだろうか?

 

 ンフィーレアとともにモモンガ一行が外にでると「漆黒の剣」の面々が見える。見たところ、リーダーの戦士、レンジャー、マジックキャスター、ドルイドと言った所か……なかなかバランスの良いパーティだが、出来れば前衛にもう一人欲しい所だな。

 

 我々が道に出ると弓を持った優男のレンジャーがクルクルと回りながら、こっちに近づいてくる。なにこれ?と思っていたら、ナーベラルの前で

「おはよう!我が愛しの麗しの君ナーベちゃん!やはり美しい!結婚して下さい!」とのたまう。

 

 なんというか、凄いキャラだな……

 というか宿屋を出た時から感じていたけど、ユリやナーベラルに視線が集まりすぎじゃないか?こんなに目立つ予定はなかったんだがなあ‥‥。どうもナザリックの中で仲間たちが凝りに凝って作られた麗しいNPCによって美的感覚が麻痺させられていたらしい。この世界は妙に美男美女のレベルが高いなあと思っていたが、その中でもユリやナーベラルは恐ろしいくらいに際立った美人であるらしい。

 

「煩い、シロアリ。潰しますよ」

 

「あはん 冷たい御言葉有難うございます!」と言った瞬間にリーダーのペテルに「パシン」と後頭部を叩かれていた。

 

 ううむ、なかなかの軟派男だがハートの強さは見習いたい。

 

「確か……」先ほどセバスから聞いた記憶を思い起こす。

「ルクルットさんですね? レンジャーの。」

 

「はい! お父さん、娘さんをボクに下さ‥」

 

「イヤです」と被せ気味に断りを入れる。面白い人だな……

 

「うおお! 何故ですか! 大事にしますからあ!」

 

「この娘達がお嫁さんに行ってしまったら私は大変に困ってしまいます。それに彼女達の上司であるそこの白髭の人が許さないと思いますよ?」

 

「え?」と言ってセバスの方を見るルクルット。

 

「ギンッ」と音がしそうな眼力でルクルットを牽制するセバス・チャン。

 

「ヒイッ なんか、このお爺さん すっっごく怖いんだけど!?」

 

「ルクルット。良い加減にするのである。」と皮鎧をさらに厚手の皮で補強された厚手皮鎧<ハードレザー・アーマー>を着た大男がルクルットを制止しつつメイドに頭を下げる。――確かダイン・ウッドワンダーだったかな、ドルイドの。

 

「顔合わせの時からこんな調子なのか?」

と後ろのセバスに聞くと、ただ苦笑した。 まあナーベラルは面倒くさそうだが、害は無さそうだ。

 

 このエ・ランテルからカルネ村までは2日かかる距離がある。

「では行きましょうか。」と運搬用の馬車にンフィーレア君を乗せて、予定通りその横にセバスとユリが着いて護衛しつつ歩き、我々は地理に暗いという事でペテルとルクルットらに先頭を歩いてもらい、その後ろにダイン・ウッドワンダーと、お目当てのタレント持ちのマジックキャスター・ニニャが続く。

 

これから長い道中だし、初冒険を楽しみながら色々と聞かせてもらうとしよう。

こうして地面を自分の足で踏みしめながら歩くのは良いものだ。

しかも実はアンデッドなので疲労も無く歩き続けられるので自分だけズルをしている様な気にもなる。

 

――なんとなくだが、先程からルクルットやダイン、ペテルとは談笑しながら歩いているのだが、ニニャには敬遠されている様な雰囲気を感じる。あまり視線を合わせてくれないと言うか……。仕方が無いのでこちらからドアを開けよう。

 

「もし、話しにくい事や、秘密にしなければならない事でしたら結構なのですが、少しお聞きしても良いですか?」とニニャに切り込む。

 

「? はい どのような事でしょうか?」とニニャが少し怪訝な顔でこちらを見る。

 

「実は私の国には『武技』だとか『タレント』と呼ばれるような特殊能力が無かったのですが、ニニャさんはタレント持ちだとお聞きしました。そもそも『武技』『タレント』とはどのような物なのですか?」まあ 「武技」は知ってるんだけどね。「イージークエスチョン」から始めるのは会話の基本だ。

 

「ああ……そういえばモモンさん達は遠方の国から来られたんでしたっけね。そうですね『武技』と云うのは戦士職の者が修行や鍛錬に依って身に付ける技・スキルですね。それに対して『タレント』というのは文字通り特別な「才能」という感じになると思います。」

 

「ほう。『才能』……」

 

「はい 例えばボクの場合は『魔法の習熟度が早くなる』というタレントでした。つまり、ある魔法を覚えるとして、他の人の半分の時間で魔法を修得する事が出来るタレント。という訳です。」

 

「なるほど……スゴイですね。」

 

ルクルットが振り返り、「そう!そいつはすげえーんだ!その年ですでに第二位階の魔法まで使えるんだぜ!第二位階と言えば一人前のマジックキャスターだ。 なっ 『ニニャ・ザ・術者(スペルキャスター)』!」と可愛い弟分を自慢したくて仕方がないとばかりに口を挟む。

 

「や、やめて下さいよぉ。恥ずかしいですよ! そのアダ名。しかも、こちらのチームのナーベラルさんは第三位階まで使われるんですから!」

 

ああ そうか 第三位階の魔法と云うのは「才能ある魔法使いが、身を削る様な努力の末に行き着く限界」‥‥だったかな。だからナーベラルも冒険者組合にはそれで登録してるんだったな。

 

「そうですね。ナーベラルは子供の頃から英才教育を受けていましたからね。勿論本人の才能や努力の賜ではあるのですが、環境にも恵まれておりました。ニニャさんは、どうやって魔法を覚えられたのですか?」 我ながらスムーズに魔法使い事情について聞くことが出来たな。

 

「‥‥‥そうですね。ボクの場合は『ある目的』のために自分を強くしたいと思ったのですが、ボクはオ‥力も無く脆弱でしたので村で魔法を教えている元冒険者のマジックキャスターに弟子入りしました。そこで師匠となる方から「魔法高速習得」のタレント持ちであると聞かされました。」

 

「なるほど、魔法の先達者である『師匠』に弟子入りするという形で魔法の手ほどきを受ける訳ですね。」

 

「はい。帝国では魔導学園という魔法を子供達に教える学校があるらしいのですが、リ・エスティーゼ王国は魔法に対して蔑視する所があるため、魔法を習得するための環境は余り良いとは言えませんね。魔法を使おうとするのは冒険者やマジックアイテム製作者が殆どで、社会的地位が低いため、積極的に覚えようとする人は一握の人達です。」

 

「そうなんですか‥‥そんな劣悪な環境の中で、その若さで第二位階までの魔法を習得されるとは、確かにニニャさんはスゴイですね。」

 

「いえ‥‥そんな‥‥。」と言ってニニャは顔を赤らめる。もともとクリクリとしたドングリ眼と云い、中性的な顔のラインと云い、非常に可愛らしい顔をしているため恥ずかしそうな子供っぽい仕草は、なかなか愛らしい。

 

と言うか。ナーベラル何も話してくれないな‥‥‥。

 

セバス達は良い感じに会話が出来ているようだし、ナーベラルは居ない物として、ここは私が頑張るしかあるまい。

 

その後もニニャは自分が頑張って第三位階の魔法を修めれば、チームの実力的にすぐに「ゴールド」に上がれるだろうという話をしていた。第三位階のマジックキャスターが在籍するチームは難しい依頼もこなせるようになるため「プレート」を水増しして上げてくれるらしい。

 

「ゴールドになると結構違うものなんですか?」

 

「はい ゴールドになると上級者チームとなるために冒険者組合の依頼も報酬もググッと増えます。それに人手がいる依頼などでも『ゴールド以上に限る』という但し書きが多いんです。」

 

「なるほど‥‥ということは『シルバー』は中級者。『アイアン』は練習生扱いって感じですか。」

 

「そうですね。私達も今でこそ街道沿いのゴブリン退治などをしていますが、カッパー時代は薬草採集や「モンスター出現地域」での土木工事や素材輸送などが主な仕事でした。」

 

なるほど‥‥ずいぶん夢が無い職業なんだなあ。

あれ?そう言えばセバス達は「カッパー」の癖に『ゴブリン退治』とかやっていたみたいだが。

 

「この辺りですとスレイン法国国境の森林から出てきたモンスターが出てくる事が多いですね。後衛まで攻撃を飛ばしてくるような道具を使ってくるのはゴブリンぐらいですか。まぁ、ゴブリンは難度10程度ですからさほど心配されることも無いです」

 

「まぁ、その分弱くて、ぶっ殺しても銀貨1枚程度にしかならないんだけどなー」とルクルットが続ける。

 

一行の余裕に、モモンガは微かに疑問を感じた。

モモンガの知るゴブリンはそのレベルに応じて戦闘能力を増していく。彼ら一行ではゴブリンリーダーの1つ上、チーフクラスはきついんじゃないだろうか?

そういうものが出ないと確信しているのだろうか。それともこの世界ではゴブリンはその程度しか力を持っていないのだろうか。アウラからの情報でも、トブの森ではそこまで強いゴブリンは発見されて居ない様だったが?

一応はゴブリンという種において確認を取っておいた方が当然良い。現地民の知識と言葉は何よりも大切だ。

 

「‥‥強いゴブリンというのは居ないのですか?」

「漆黒の剣」は互いに顔を見合わせ、それから何かの考えに同意に至ったのか、安心させるような口ぶりで返答する。

 

「大丈夫ですよ、確かに強いゴブリンはいます。ですが我々が向かっている森から出てきません。というのも強いゴブリンは部族を支配する立場です。部族すべてをあげて動くということは考えにくいんですよ」

 

「ゴブリンも人間の文明は知ってますからね。大侵攻ともなれば厄介ごとになると理解しているんです。特に強いゴブリンのような賢い上位種は」

 

そうか‥‥ユグドラシルのゴブリンがこの世界に来たら、ゴブリン界の天下を獲れるな。

 

「なるほど、了解しました。ただ、参考までに遭遇する可能性のあるモンスターの一部が、どの程度の難度か教えてはいただけ無いでしょうか?」

 

漆黒の剣のメンバーが一斉にニニャに顔を向ける。それを受けてニニャが教師のような表情で指導を始めた。

 

「まずはボクたちが良く遭遇するゴブリンの難度は6ぐらい。ウルフが難度10ですね。その他の野生の獣では難度20後半に到達するようなものはこの辺りでは遭遇した記録がありません。最高で難度20前半です。草原で遭遇する可能性で最も危険性が高い人食い鬼<オーガ>で20ぐらいでしょうか」

 

「という事は「ゴブリン退治」などが依頼だとしても森には入らないのですか?」

 

「はい。森で行動するのを避けるのは単純に危険度が高いからです。跳躍する蛭<ジャンピングリーチ>や巨大系昆虫等ならまだ何とかなります。ですが木の上から糸を吐いてくる絞首刑蜘蛛<ハンギング・スパイダー>、地面から丸呑みにしようと襲い掛かってくる森林長虫<フォレスト・ワーム>等の難度20後半のモンスターは少々きついですね。ですので森には入りません。森に入ると一気に難度が上がりますから」

 

なるほど。モモンガは頷く。

 

「つまり、森から草原にこぼれ落ちたモンスターを狩るのが一般的ということですね。」

 

「はい 冒険をするという事と無茶をする事とは違いますから。」

 

すでにゴブリン退治をしている後ろのセバス一行を見ると、セバスとユリが、フイっと目を逸らした‥‥。アイツら、森で暴れたんだな‥‥‥。

 

 

あとナーベラルは、むしろドヤ顔で堂々としていた。スゴイなアイツ。

 

 

 

 




 
 
 
 




黒祇式夜様、おとり先生様、りの様、ゆっくりしていきやがれ様、きなこもちアイス様、大量の誤字脱字のご報告有難うございました。


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第三章三編 ナザリックの王とニニャ(貴族キラー)

 

 

 後ろでニニャがカッパーの人たちに蘊蓄話などを披露している。

好きだからなあ……アイツ。と微笑ましく思い振り返る。チームで一番の人見知りなのに和気藹々とやれている様で良かった。と思い、顔を正面に戻した瞬間。突然、隣を歩くルクルット・ボルブが片手を上げて「止まれ」のハンドサインを出す。

 

「漆黒の剣」リーダー、ペテル・モークは足を止めて、信頼するチームの目と耳であるルクルットの邪魔にならないように、後続にストップの合図を出して息を殺した。

ルクルットはいつものヘラヘラした顔を潜めて、真剣な顔で大地に耳をつけて1つの音も聞き逃さないように集中している。

後ろのニニャとダインも緊張感を纏い、今日の依頼仲間のカッパーチームを押しとどめる。

 

「‥‥‥居る‥な。森の奥からだ。数は多いぜ。15~20。ココからの距離100といった所か。」

 

「モンスターか?」

 

「ああ、ゴブリン独特の武器を引き摺りながらの小忙しい足音が聞こえる‥‥速歩(トロット)から駈歩(キャンター)に変わりやがった!確実にこっちに向かってきやがる。」

 

ルクルットが自慢の耳で敵の情報を伝えてくれる。つまり敵はもうこっちに気付いている。

 

「総員、迎撃態勢を取って下さい!あの方向から敵が15~20向かって来ています!」

 

大声でパーティのみんなに伝えつつ敵が現れるであろう方向に向かって先頭に立つ。そして武技〈要塞〉を発動する。

 

「ニニャ!支援魔法を頼む!ダインは草原地帯に足止めの呪法を!ルクルットはいつも通りに!」

 

「よっし!亀の首を引っ張り出して叩き落とすぜ!」

 

「モモンさん達はンフィーレアさんと馬車を守りつつ‥‥!?」

 

振り返ると、すでにモモンさんは「ユリは馬車と依頼主の護衛。私とセバスは右から敵の集団に横から当たり、『漆黒の剣』との挟撃。ナーベは反時計回りで敵襲団後方に回り込み範囲攻撃で殲滅せよ。仲間を呼びに行かせないために一匹たりとも逃がすな。」

 

とキビキビと冷静に、そして効果的にチームを動かしていた。何者なのだろう?どう考えても只者では無い。まるで数多くの戦いを潜り抜けた歴戦の勇者の様な指揮ぶりだ。

 

‥‥あの皆さんの動きならカッパーだなんて侮らずに、このまま挟み撃ちをお任せしたほうが良いだろう。

 

「よし!みんな!シルバーとして格好良いところを見てもらうぞ!」

 

「おう!敵襲団、襲歩(ギャロップ)だ!来るぞ!」

 

ダインが印を切ってドルイド魔法の準備を終える。

 

ニニャも〈防御上昇〉〈力上昇〉の補助魔法を掛けてくれる。

 

森の木々の隙間からキラリと光る金属片が見える。何よりも幾頭もの「ぶぎゃうあうああああー!」という雄叫びが聞こえる。

 

「出た!」と短く言い放ったルクルットが、いつも通り弱めに弓を放つ。敵の随分手前に弓が落ちるのを見た敵が射程範囲外だと判断して勇んで突っ込んでくる。しかしそこに待っているのはダインの足止め魔法!無数に生える植物にゴブリン達は足を止められる。

 

「よし!行くぞぉお、おおおおおおおおぉぉぉ!?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 ペテルとルクルットは考え事をしているせいか、手慣れた作業のハズが、いつもよりのろのろと野営の仕度をしている。

 同じく、ニニャもいつもより随分行動が遅い。いつもなら、もうアラームなどの魔法で野営地をガチガチに固めているはずなのに、まだまだ掛かりそうな雰囲気だ。

 ダインだけは飄々と口笛を吹きながら「トントントントン」とシチューの具を切り「さぶさぶ」と水一杯の鍋に手際よく入れている。

 モモンさんのチームはテントの設営をしてくれている。

 ただそれだけなのに、その一挙手一投足に惹き付けられる。

 そう、我々は昼のモモンさん達の戦い振りに圧倒された。魅惑された。憧れた。

 

 ルクルットがポツリと

「‥‥‥スゴかったな」と言った。

 

 ペテルは一瞬、目を閉じて瞼の裏に浮かんだ光景を思い起こし

「ああ……すごかった」と返した。

 

 あの時、モンスター達に横殴りに襲いかかったモモンさん達は焦る事も恐れる事も、そして昂ぶる事もなく淡々とモンスターを刈り取っていった。

 

 2本の漆黒の大剣を自在に操り、一刀のもとにゴブリンだけでなくオーガをも真っ二つに切り捨てる黒い鎧のモモンさん。

 

 不思議な構えから素手で拳をゴブリンに放つと一撃でゴブリンを爆散させるセバス翁。

 

 聞いたこともない高度な電撃魔法で一度に数匹ずつのゴブリンを死に追いやったナーベラル女史。

 

 あと、すごくリラックスしたまま終始ンフィーレアさんと世間話をしていたユリさん。

 瞬く間に戦闘が終わったその瞬間、我々は呆然として彼らを見つめることしか出来なかった。

 

 (……凄かった。うん 本当に凄かった!)

 

 彼らは遠方からこの国に流れついた旅人だと云う……。モモンさんの顔を見たが、南方の方に多い人種とのことだ。故郷ではさぞかし勇名を馳せていたのだろう。しかも、それでいてあの礼儀正しさや鎧から滲み出る風格……敵わないと云うよりも、いつかはこの道の先が彼らの様な英雄級の人たちへと続いていると信じたい。と強く願った。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 ああ……風が心地良い……。

 

 モモンガは岩の上に寝そべりながら自然の風を浴びている。

 ヘルムを取り魔法で作った顔は風を通すため、本来の骸骨頭に風が当たる。

 

「これ、風が攻撃判定だったらレベル60以下の攻撃だろうから無効化されていたんだろうか……」

 

 などとつまらない事を呟きながら佇んでいると、漆黒の剣のリーダー・ペテルから「夕餉が出来ましたよ」と声を掛けられる。

 

 (ふむ 当然食べれないし飲むことも出来ないのだが)

 

 大抵、口に入れると「ざばー」っと顎や喉から零れるはずである。

 セバスやユリ達がそれに気づいたのか、心配そうな顔でモモンガを見ている。

 

「気にせず頂きなさい。せっかく作ってくれたんだしな」

 そう言ってセバスやナーベラルの背中を押して、キャンプファイヤーの様になっている竈の元に行く。

 

「ダインの料理はなかなか美味しいんですよ?どうぞどうぞ」とニニャが奨めてくれる。

 

「有り難うございます。ただ私は宗教上の関係で、殺生をした日は断食し悔い改めなければ為らないため、大変申し訳ないのですが、頂く事は出来ないのです。すみません。この3人は大丈夫ですので御馳走してあげて下さい」と先程考えた割りにはそれらしい理由を流暢に伝える。

 

「えっ そうなんですか……残念です」

 とニニャが自慢の仲間の料理を味わって貰えなかった残念さを顔に出し

「宗教上の理由なら仕方ないのである」とダインはニニャとモモンガ一行に気にしないようにドルイドらしく大らかに応える。

「はい すみません。ただ こういう雰囲気は好きですし、ここに居させて頂きますので楽しくやりましょう」

 そう云うと黒騎士は寛いだように岩に座り、冒険仲間の食事風景を嬉しそうに見守る。

 

 パチパチパチパチと焚き火から心地良い火の爆ぜる音が聞こえてくる。

 

 ルクルットが取った新鮮な肉と塩漬けの燻製肉で味付けしたシチューを、各員のお椀に注ぎ込む。それに固焼きパン、乾燥イチジク、クルミ等のナッツ類が今晩の食事だ。

少し強すぎるぐらいの塩味が汗をかいた体にしっかりと染み込んでくる。ナザリックの者達からすれば最低レベルの食事だが、それでも栄養補給という点では合格点を与えられる。

 漆黒の剣のメンバーは互いに笑いあいながら、食事を進める。時折、モモンガ達にも会話を振ってくるので、参加はするがどうしても垣根のようなものを感じてしまう。それが寂しいとは思わないが。

 

 それにしても仲が良い。命を預ける冒険者なのだから当然ともいえるが、これが普通なのだろうか。

 興味を持ったモモンガは質問を投げかけた。

 

「皆さん仲が非常に良ろしいですけど、出身地などが一緒だったんですか?」

 

「いや。俺達は最初の昇格試験で会った仲さ」

 

「ニニャの噂は聞いてましたけどね」

 

「うむ。天才の名はな。実際、ニニャがいてくれたお陰で、皆が生還した事は多いのである。」

 

「そんなことはないと思いますよ。ボクだけの力では決して無理です。ルクルットの早期警戒にモンスターが引っかかったからいつも先々に手を打てるのですから。」

 

「うん? そうか? 俺的にはダインの治癒魔法のお陰だな。先日もゴブリンの矢がたまたま胸に刺さって呼吸が苦しくなったときは、やべぇって思ったもんだ」

 

「そのとき、ゴブリンを引き受けてくれたのはペテルだがな。ペテルがいなかったら治癒魔法を飛ばすのが少し遅れただろうからな」

 

「ニニャの防御魔法があったからですよ。あのときの私の腕では2匹同時はきつかったです。3匹も受け持てたのは支援あってこそです」

 

 互いに互いを褒め謙遜しあう。本当に仲の良いパーティーだ。羨ましいような懐かしいような、そんな気持ちになる。

 

 ンフィーレアは街中では余り見ない大人同士の戯れ合いに疑問と戸惑いを感じて

 

「冒険者の皆さんってこんなに仲が良いのが普通なんですか?」と問いかける。

 

「多分そうですよ、命を預けますからね。互いが何を考えているか、どういったことを行うかが理解できないと危険ですし、そこまで行けばいつの間にか仲が良くなるってものです」

 

「あと、異性が居ないからというのもあるんじゃねえかな」

 

「それにパーティーとしての目標もしっかりとしたものがあるからじゃないか?」

 

「ボクもそう思いますね。やはり全員の意識が1つの方を向いているというのは大きいですよ」

 

 ペテル達4人はうんうんと頷く。

 

「……なるほど。ところで我々にはまだチーム名が無いのですが、皆さんの『漆黒の剣』というパーティー名は何処から来たんですか?」とモモンガが尋ねる。

 

 実際、黒い剣を武器としているメンバーはいない。ぺテルはブロードソードだし、ダインはメイス。ルクルットはコンポジット・ロングボウ。ニニャはまぁ魔法か。むしろ何か少し気まずい事に、漆黒の剣を使っているのは自分(モモンガ)だけだったりする‥‥。

 

そんなモモンガの質問に4人はお互い顔を見合わせる。それはモモンガが知らないことに対する、愕然とした何かがあった。

 

「……ああ、それはあれです。モモンさんの国では聞いたことないですかね、『漆黒の剣』っていう魔法の武器」

 

「漆黒の剣は4本存在していると言われているので、この4人で一振りずつ持つのが夢なんですが……ご存知ありませんか?」

 

 モモン一行の皆の表情に理解の色が浮かばないことを確認した4人は再びショックを受けたように言葉を続ける。まぁ、パーティー名にまでした魔法の武器を知らないとか言われれば、多少なりとも精神的衝撃はあるものだ。

 

「おとぎ話の13英雄の1人が使っていたとされる武器さ。振れば暗黒魔法を起こすとも言われる武器だな」

 

「それを発見するのが俺達の第一の目標ってわけさ。まぁ、伝説って言われる武器は色々あるけど、その中でも存在がしっかりと確認されてる武器だしな。まぁ、今も本当に残っているかは不明だがねー」

 

「まぁ、最終的にはかの伝説の12剣が目標だが、その前の第一歩だな」

 

「今はまだ漆黒の剣を発見するには遠く及ばない程度のランクでしかないけど、いずれは手に入れても可笑しくないまで昇っていくつもりだよ」

 

「なるほど、ステキですね。みんなで伝説の剣を求める旅だなんてロマンですね。」

 

「いえいえ。むしろ子供染みた夢で恥ずかしいんですけどね。」

 

「いえ、私も昔は仲間たちと色んな伝説の武器やアイテムを求めて冒険を繰り返していましたから」

 

「そうなんですか?」

 

「でも確かに今日の戦いぶりは凄まじかったですよね?」

 

「セバスさん達も、めっちゃ強いのな!」

 

「ナーベラル殿の魔法も鮮やかで、その熟練ぶりが良く解るのである。」

 

「……そうですね。私が……遠い国で、まだ駆け出しの冒険者だった頃、多人数に襲われた時に私を救ってくれたのは白銀の騎士でした」

 

 創造主様のことだ!とセバスの目が暗闇にギラリと輝く。なぜかユリとナーベラルの瞳もキラリと輝く。お前ら「ギルドメンバーの話」好き過ぎだろ……とモモンガは少し呆れるのと嬉しい気持ちを感じる。

(彼らは本当に創造主たちのことを思ってくれているんだな……)

 

 そんな叙情的な気持ちから、モモンガは昔を懐かしむように語る。

「あとで解ったのですが、彼は「世界最強」と讃えられ『ワールドチャンピオン』の称号を持つ高名な剣士でした」

 

「え?!『世界最強』?!とんでも無いじゃないですか!」

 

「ええ とんでも無かったです。」と苦笑し「彼は一人で竜の群れに突っ込んで、一人で全て叩き伏せる程の強者でしたからね。」

 

「……」 漆黒の剣とンフィーレアは言葉に出来なかった。セバスはゆっくりと目を閉じて頷いている。

 

「他にも素晴らしい仲間たちが集まってきました。彼に案内されて、四人の仲間と出会ったのです。そうやって私を含めて六人のチームが出来上がり、更に私の様な初心者を3人加えて9人のチームがなったのです。そして冒険は始まりました。世界の秘宝を求めるために」

 

 ほおお~と感心する漆黒の剣とプレアデス達 「嗚呼‥『至高の41人サーガ』の序章だわ……」とナーベが呟く。待て、なんだそれ。

 ナーベの発言が気になるが、続ける

 

「聖騎士、刀使い、二刀忍、魔術師、神官、妖術師、最高の友人たちでした。あれからも冒険を繰り返しましたが、その中でもあの日々のことは私にとって掛け替えのない想い出です」

 その淋しげな言い方に全員が何かを察して黙り込んだ。特にセバス、ユリ、ナーベラルは沈痛な面持ちに項垂れた。

 その空気を切り開こうとなんとかニニャが言葉を紡ぐ。

 

「……きっと、また出会えますよ。そんな素敵な仲間に。」

 

 そう慰められたモモンガは一瞬「そうだろうか?」と考えたのち、ゆっくり頷いた。

 

「ええ 出会えました。ここに居ます。私の素晴らしい仲間が」と、一転して朗らかな雰囲気でセバス、ユリ、ナーベラルの肩に手を伸ばし抱き寄せる。

 え?と云う顔で驚く3人を無視して、

 

「私が愚かで気づけなかっただけで、仲間はいつもそばに寄り添ってくれていたんです。それに他にも居るんですよ。素晴らしい仲間達が。私達は事故でこの国に飛ばされてしまいましたが、みんなでなら乗り越えられると思っています」

 

 

 ……何かを口にすれば泣いてしまいそうなほど感極まっている3人を余所に、機嫌の良さそうな黒騎士にマジックキャスターとしてニニャが尋ねる。

 

「そう言えば、モモンさん達は『転移魔法の失敗』で飛ばされて故郷に帰れなくなったと聞いてましたけど、どのような実験だったのですか?」

 

「……そうですね。国家機密にも関わることなので余り詳しくは言えないのですが」

 というかそこまで深く煮詰めてなかったが

 

「大規模範囲転移魔法の実験だと思って下さい」

 ……なんだ、それ?

 

「大規模範囲転移?」

 

「……ええ。例えば、今まで転移魔法は術者と、術者に触れる者の転移が限度でした。それですら高位転移魔法ですが」

 

「はい 術者の見える範囲への転移魔法が第五位階、見えない場所への転移や、無詠唱化での転移が第六位階に在ったと思います」

 

「その転移魔法を術者が家などの建物ごとや、10メートル範囲の人や者に掛けて集団で転移させるという実験です。」

 

「そんな!そんなことが……」

 

 自分の口からの出任せに苦悩する若いマジックキャスターをモモンガは哀れに感じて申し訳なく思う‥‥。

 

「ええ。失敗続きでした。どうやら魔法の力が足りない様でしたので何人か掛かりで転移魔法を掛けたりしたのですが……」

 

「ちょっとまって下さい!モモンさんの国には第五、第六位階が使える魔術師がゴロゴロ居るということですかっ?!」

 

「あ、はい」

 

 ……どんな修羅の国なんだそれは……と『漆黒の剣』は生唾をゴクリと飲んだ。

 

「それで掛けられる側、転移対象の中からも転移魔法でブーストを掛ける者が必要じゃないかと云うことで私が……」

 

「ええっ?!モモンさん、転移魔法使えるんですか?!」

 ニニャが思わず立ち上がり目を見開く。

 

 (……あれ?まずった?『蒼の薔薇』のリーダーが神官戦士で第五位階を使えるって聞いてたから自分も良いかと思ったんだが)

 後ろを見ると、ユリが曇った眼鏡に手を当てている。なんであの娘アンデッドで体温無いのに眼鏡が曇ってるんだ? 隣のナーベラルは「私も使えますよ ふんすっ」というドヤ顔をしている。いや知ってるが

 しかし 転移魔法はこの黒騎士(ダークウォリアー)モードの時も何かあった時の回避用に使える魔法に設定してあるしな……危険があったら躊躇せず使用するだろうし、ここは使えると告白しておいた方が良いよな。

 

「はい 使えます……一応、内緒にしてくださいね?」

 

 漆黒の剣のメンバーとンフィーレアは今度こそ呆然とした。

 

 特にペテルは友人の剣士の師匠がミスリル級の剣士であり、自分も何度も手合わせをお願いしてもらっている。ミスリル級の強さは身に沁みて解っているからこそ、今日のモモンの強さが、ミスリルの何段階も上、アダマンタイトにも達するレベルであると仲間たちやンフィーレアに告げていたのだ。「モモンさんは戦士長レベルの戦士だ」と。

 

 それだけの剣士でありながら第五位階の転移魔法も使いこなせる。それはもう『お伽話』に出てくるレベルの『英雄』である。

 

 冒険者が憧れる「英雄」 それが今、自分たちの目の前に存在する。

 現在で言えば、「草野球のメンバーが足りないから入って。」と頼まれて中学生の野球少年が市民球場に行ったら、自分のチームメイトがメジャーリーガーだった様な衝撃である。

 

『漆黒の剣』のメンバーは色々な冒険譚を聞きたがったし、それはセバス達も一緒であったため、モモンガが思っていた以上に自分の話でみんなが盛り上がるという貴重な体験を焚き火が消えるまですることになった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 焚き火の明かりはとうの昔に消えている。灰を触っても温もりも感じられない。

 では、焚き火が消えていて、周囲は完全な闇夜かというとそうではない。

 月や星という天空に輝く明かりが、草原の殆どを見渡せるほどの光源と化しているのだ。多少の薄い雲がかかっているが、その程度では阻害にもならない。

 草原を走る風が草を揺らし、ザワザワという音を生み出す。静まり返った世界にはそれ以外の音は無い。

 

 アンデッド故に眠れないのを生かして、みんなが渋る中、寝ずの番をモモンガはしている。

 メッセージでアルベドやアウラ、デミウルゴスから報告を聞き指示を与え、パンドラズアクターから情報を聞く。

 ついでに「漆黒の剣」という武器について何かのついでで良いので調べておくように告げる。

 

 アンデッドなので暗闇でも回りが見渡せる。眠くならないし、夜の警備員として優秀だな……と我ながら思う。

 それだけでは無い。自分がなったから言うわけではないが、いやむしろ自分が成って初めて気づいたから言うのだが。

 

 アンデッドは便利だ。

 

 色々とナザリックで実験したが、死体を媒介としたアンデッドはかなり長持ちすることが解った。

 

 まず、命令には絶対服従。

 

 判断力も思考力も殆ど失われているので単純作業しか任せられないが、逆に言うと朝も

昼も夜も、延々と食事も睡眠も褒美も与えずに働き続ける最高の「単純作業員」。 しかも集団運用が可能……これはまだ実験中だが、普通にアンデッドになって重労働をさせると、力は問題ないものの筋組織などが早く痛むせいか早く駄目になるのだが、それに補助魔法によって耐久力とストレングスを上昇させるとかなり持つようになる。

 

 アンデッドという労働力。これは一大革命をもたらすだろう。

 

 モモンガが、そんな変な野望に燃えていると「漆黒の剣」のテントから人が出てくる。

あれはニニャだな……。と気づきつつ放っておくが、セバス達のテントにも動きがあり、もぞもぞと動いたかと思うとテントの下の方から首だけ出したナーベラルが、妙な笑顔で「キラン」と目を光らせてニニャを監視している様だ。

 

 あいつ……寝ておけと言ったのに……まあ 彼女たちの忠誠心を考えれば「至高の御方に番をさせて自分だけ寝るなど!」という事だろうから仕方ないけどな。

 

 ニニャが近づいてきて「ニニャです。すいませんモモンさん」と小声で言いながらモモンの隣の椅子代わりにしていた丸太にちょこんと座る。

 

「眠れないのですか?ニニャさん」と声を掛けると

 

「……そうですね。モモンさんの様なスゴイ人達と出会ってしまって、未だに興奮が収まらないみたいです。」と淋しげに笑った。そしてニニャは何か言いたげに、でも言いにくそうに口をモゴモゴとしている姿が月明かりに照らされている。

 

 ……何故、俺はこんな所で中性的な青年と良い雰囲気になってフラグを立てているのだろう。 こういうのはマーレで充分間に合っているのだが。

 

「モモンさん……突然ですいませんが、「人探し」が出来る魔法を御存知ないでしょうか?」

 

「人探し……ですか?」

 

「はい そんな魔法があると師匠に聞いたことがあったのです。すみません、魔法の種類など星の数ほど溢れているのに」

 

「……そうですね。〈物体発見/ロケートオブジェクト〉という魔法があります」

 自分では気づいていないが、ユグラシルに存在する無数の魔法を、ほぼ(そら)んじることが出来るという変態的な能力を持つモモンガは、するりとニニャの質問に答えた。

 

「えっ 御存知なのですか!?」

 

「これは正確には『無くし物』を探す魔法なのですが、他の魔法と組み合わせる事で魔法を反転させて、忘れ物、つまり探し人の持ち物から持ち主を探知することが出来るかも知れません。精度は高く無いかも知れませんが」

 

「!? 本当ですか! あっ、姉は連れて行かれてしまって数年経つのですが……大丈夫でしょうか?」

 

「お姉さんを? そうですね、その物にどれだけのお姉さんのマナというか残滓が残っているかが鍵になりますね……」

 

「そうですか……姉の残滓……!? 昔、姉が私にお人形さんを作ってくれたんですけど、その時のお人形さんの髪の毛は姉さんの髪の毛が使われていたと思います!」

 

 男の子に人形を?そう言えば、昔は人形に自分の不幸の身代わりをしてもらう風土なども有ったそうだから、そう不思議でも無いのかな?

 

「本人の髪の毛ですか。それだと成功率は高くなると思いますね」

 

「~~~~!! あっ すみません!急に一人で興奮してしまって……」

 

「いえ、それに〈物体発見/ロケートオブジェクト〉は第六位階という高位魔法です。この国で使える方はおられるのでしょうか?」

 

「第六位階……ですか。そうなるとバハルス帝国のフールーダ・パラダイン卿しか使えなさそうですね……」と目に見えてニニャは落ち込む。

 

「……。もしかして私がユグドラシルから飛ばされてきた際の荷物の中に〈物体発見/ロケートオブジェクト〉のスクロールが紛れ込んでいるかも知れません。また探しておきましょう」

 ぬか喜びさせてしまったことを申し訳なく思ったモモンガは(このくらいの親切はいいよな?)と思いながら答える。

「え?!本当ですか?もしスクロールが見つかったら何とかワタ……僕の姉を探すのに使わせて頂けませんか?お願いします。料金は頑張って支払います。お金以外だとしてもどんな命令にでも従いますから!お願いします!お願いしま……す、すみません 動転してしまって……」と土下座した状態からモモンの足に縋り付いていた自分に気がついて恥ずかしそうにした。

 

「いえいえ。行方不明のお姉さんを探されているんですか?」

 

「……はい。少しだけ私の話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

モモンガは手で「どうぞ?」と続きを促す。

「昔、私達家族は田舎の村で静かに暮らして居ました。しかし突然現れた領主の一族のバカ息子が姉を見初めて無理矢理さらって行ったのです」

 

「‥‥‥」 愛する人が不条理に奪われる。さぞ辛かっただろう

 

「両親は姉を返して欲しいと領主に陳情に行きましたが、金貨数枚を投げ捨てて帰れ。と」

 

「‥‥‥」

「それでも帰らなかった両親は散々に棒で打ち据えられました。だから私は貴族が嫌いです。すみません、モモンさんは貴族関係者だと云うのに‥‥‥」

 

「いえ 貴族なのは友人ですし、セバスやユリ達も貴族では無く、仕える側の人間です。それでニニャさんの気が晴れるとは思いませんが。」

 

「すみません。気を使って頂いて‥‥貴族にも良い人、悪い人が居ることは解っているんですが、どうしても働きもせず下層階級から搾取するだけで飯を喰う寄生虫め!と心がドロドロしてしまいます」

 

「そ……そういう面も有るかも知れませんね」

 

「何の能力も無いのに、当たり前の様に人の上に立つ……せめて迷惑を掛けないように部屋の隅っこで虫でも囓りながら生きて居れば良いんですがね」

 

「あ はい……すみません」

 

 

 

 ナザリックの王は 心が少し折れた。

 

 

 






まりも7007様、きなこもちアイス様、rovelta様 誤字脱字修正有り難う御座います


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第三章四編 覇王炎莉

 

 

 

 

 

 

 次の日、モモンガの頼みでンフィーレアの馬車の荷台で眠るニニャの姿があった。

 

 結局、朝方までモモンガと話し込んで居たのだ。他のメンバーが起きたときにはフラフラで、モモンガがンフィーレアにお願いして、ニニャを、まだ何も積まれていない荷台に寝かせてもらう事になったのだ。

 

 ペテルが「すみません……何かニニャが御迷惑を掛けたみたいで。」と恐縮したが、モモンガは「いえいえ、竜の話とか魔法の話、この国の社会体制についてなど本当に多くのことを話してくれたのです。それに2人での夜警になったので心強くて有り難かったですよ」と答えた。

 

 ……いや、あなたが何のモンスターを恐れるというのですか‥‥と『漆黒の剣』のメンバーは虚ろな表情を浮かべたが、ニニャや自分たちへの気遣いが有り難かったので「モモン」という人物への好感度をググッと上げるに至った。

 

 

 ……おかしい。

 

 ンフィーレア・バレアレは膨らみ続ける疑問と戸惑いに寡黙に為っている自分に気づく。

 実は、実家のある『エ・ランテル』から『カルネ村』への道のりというのは通い慣れた道であり、今回のように護衛などを付けないまま運搬することも割とあるのだ。

 祖母からは「そんなに頻繁に行かなくても良いのに。」と言われているが、カルネ村に行くのは商売だけが目的では無い。もっと こう 純粋な目的で‥‥純粋‥‥純粋なのか?むしろ不純なのではないだろうか……。

 

 しかし、問題はそこじゃない。

 この辺りは危険地帯ではあるものの「森の賢王」のお陰で余りモンスターは会わないハズだったのに‥‥すでに4回もモンスターに襲われている。しかも毎回、なかなかの多数による襲撃で「漆黒の剣」の皆さんも訝しがっている。モモンさんのチームは事情を知らないので「こんな物なのかな?」とでも考えているのか気にしてない様ではあるが、これは絶対におかしい。こうなってくると、この先に在り今回の「行き先」でもある『カルネ村』の状況が心配になってくる。

 

 エンリは森に入ってモンスターに襲われたりしていないだろうか‥‥‥。

と想い人の事を考える。エンリの家は薬草の採取が主な仕事だから、あの森に異変があったのなら、その影響を受けやすい。

 

 そしてもう一つ。モモンさんの問題だ。

 これだけのモンスターに襲われているので2つのチームに着いて来てもらって良かった……という話ではない。

 そもそも、事の始まりは「エ・ランテル」屈指の薬師である祖母「リィジー・バレアレ」の元に持ち込まれた一本のポーションであった。

 

 そのポーションは赤かった。

 

 リィジーはそれを見て「神の血の色だ!?」と目を潤ませながら喚いた。ンフィーレアは心の中で「いや、人の血の色も赤いのでは?」と思ったが祖母想いの良い子なので黙った。

 作る過程で青くなるはずのポーションが赤い。そしてどうやらこれは「完成されたポーション」という薬師にとっては究極の行き着く先の物であると言うことらしい。祖母の求める物がそこに在り、ポーションを持ち込んだ「ブリタ」さんと云う女戦士を宥めたり脅したりして入手経路を聞き出したところ「宿屋で3人組冒険者の一人である白髪白髭の老人」からもらったという事だった。

 

 その後、3人組の冒険者で登録されているチームを探してもそれらしいチームは見当たらず途方にくれたが顔見知りである冒険者組合の受け付けをされている「イシュペン」さんに尋ねた所、最近登録された4人チームで、カッパーながらゴブリン、オーク、オーガなどを凄いスピードで退治している話題のチームだとアッサリと教えてくれた。白髪のお爺さんがナイスミドルで女の子2人も美人過ぎる謎のチームなの!とも言っていた。冒険者組合の個人情報だだ漏れだった。あと、今考えるとモモンさんだけ美男美女の中に敢えて入れておらず、何とも言えない気持ちになる。

 

 とりあえず、そのチームとの繋がりを持ちつつ「赤のポーション」について色々と聞けたら……と探るために仕組まれた依頼だったのだが、余りにも「謎が多いチーム」という事でイシュペンさんに相談して、「人間的に信頼できるチーム」を紹介して頂き、ポーションの件で揉めたら庇ってもらう予定だったのだがこの有り様である。「漆黒の剣」はモモンさん達に懐き、自分も、またモモンさん達の伝説に残るであろうチームに魅せられている。赤いポーションの事を探りだすという行為が、この英雄級の人に対して失礼で恥ずべき行為であると思うと気が滅入る。

 少なくとも、もうすぐ到着する村に居る自分の好きな人に逢うのに、こんな恥ずかしい自分では胸を張って逢えない。

 

 ----よし

 

 決心した少年は荷馬車をダインにお願いして、「モモンさん!」と声を掛けながら小走りでモモンガの隣に並ぶ。

「モモンさん。すみません。モモンさんに謝らなければならない事があります!」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 うーむ ああいう純真そうな少年に真っ直ぐに謝られてしまうと胸が痛む‥‥‥。

 途中から何故かカルネ村に居る女の子への恋話になってニニャやルクルットに囃し立てられて照れまくって終わったから良い物の。

 

 まあ 話を纏めると、「すいません 赤色ポーションの秘密が知りたいという下心で近づきました。ごめんなさい」という事だったので「全然構いません。これは自分の国の高位神官によって作られているポーションであり、自分では作れないため、作り方もお教えする事もできないです。ただ、こちらの国のポーションは効果が薄くて不安でもあるのでバレアレ商店と協力して赤いポーションを作るというのもアリですね。」

と云う提案をすると大喜びしていた。まあ‥‥出処は秘密にしてもらう事、前提ではあるが。

 

 それ以上に気になる事がある。好きな子がカルネ村に居るとの事だが、どうやらこの少年は先日あった「カルネ村騒動」を知らない様なのだ。

 好きな女の子が、あの騒動で亡くなっていなければ良いのだが……。セバスやユリも同じ気持なようで、恋話の辺りからソワソワと心配そうな顔になっていた。

 村に行けば、我々が騒動を収めた事は直ぐにバレるだろうし、ここはちゃんと言っておいた方が良いな……。

 

「すいません。カルネ村に想い人がおられると云う事ですので一応お聞きしますが‥‥先日のカルネ村での騒動は御存知でしょうか?」

 

「え?」騒動という物騒な言葉を聞いたンフィーレアと漆黒の剣の面々は緊張した面持ちに成った。

 

「はい。我々が遠方の国より飛ばされて、この国に来たというお話は御存知のとおりですが、その時に襲われている村を助けに入り、同じく助けに来た「リ・エスティーゼ王国」戦士長のガゼフ・ストロノーフ殿と知己を得た事が冒険者になる切っ掛けだったのですが、その襲われていた村と云うのが『カルネ村』だったのです。」

 

「え‥‥‥」とペテルが呟き、ンフィーレア少年は青ざめた顔で無言で口をパクパクさせていた。

 さっきまで「祖母の夢である赤いポーションに大きく前進出来た!」と有頂天になっていたところへ急転落下である。流石に痛ましくなったのか、ユリ・アルファがンフィーレア少年を後ろから、そっと抱きしめて「私達が救うことの出来た人たちの中に君の想い人が入っていれば良いのですけれど……」と申し訳無さそうに告げる。やまいこさんの娘さんだけあって子供には弱いみたいだ。

 

「今回、私どもがンフィーレア様の依頼をお受けしたのも、その後のカルネ村が気になっていたためでした。」とセバスが重々しく一礼する。

 

「そんな……そんな……」と俯きながら呟くンフィーレアを再び荷馬車に乗せて、

「……ともかく進みましょう」とペテルが静かに告げて何とか一行は動き出した。

 

 沈痛の中で重い足取りではあったが、一行が歩みを進めて行くと小高い丘を下り1つの集落が見える。カルネ村だ。低い丘からでも村の全貌が一望出来るくらいの小さな村であり、その村の回りを土塀と木によって作られた物々しい塀に囲まれている。

 

 ンフィーレアは戸惑っていた。「……おかしいです」

 ペテルが「どうしたんですか?」と尋ねると「あの村は前回来た時は、こんな塀に囲まれてたりしていなかったんです……」

 ルクルットが「やっぱり、襲われたりしたから防衛のために建てたんじゃないのか?」と心配そうに口にする。

 ダインが「モモン殿達が居なくなった後に帝国が攻め取ってしまったとかで無ければ良いのであるが」と懸念する。

 カルネ村は「リ・エスティーゼ王国」と「バハルス帝国」の間にある村であるが、ここまで帝国軍が攻め入るという事はカッツェ平野を横断しなくてはならない。普通は有り得ない話であった。

 

「帝国が関係しているのであればシッカリした警戒網などに、すでにボク達が引っかかって衛兵等が出てきていると思います。自警的な物ではないでしょうか?」とニニャが冷静に分析する。

「ただ私は村の出身ですから、こういう村の生活は良く覚えています。それで疑問が2つあります。1つはこんな時間なのに誰も畑に出ていない。もう1つは一部の麦が不自然に刈り取られていること」

 

「確かに……何かあったのか?」とペテルが渋い顔をする。

 

 ふむ……モモンガはメッセージでアルベドに『アルベドよ。今、私達の事を見ているか?』と送ってみる。

 すると直ぐ様『はい!しっかりとモモンガ様の御姿をミラーで監……見守っております。』とメッセージで返事が来る。

 

なんだろう……もしかしてストーカーに偵察衛星(ミラーオブリモート・ビューイング)を委ねるという取り返しのつかないミスを犯したんじゃないか……と恐怖に背筋が凍り、久々にちょっと光った。 

 それにより平常心を取り戻し『よし カルネ村に入っても問題ないか様子を見てくれ』とメッセージを飛ばす。

 体感で数分後にアルベドから連絡があり、村の中はノンビリしており、モモン達が居る逆の畑では働く村人が居る。ただその門の周囲にゴブリンが武器を装備して、モモンガ一行を待ち構えている状態であるという。

 怒れるアルベドを宥めて、みんなに注意を促す。

 

「みなさん、お待ち下さい。待ち伏せの様ですね」

 荷馬車はカルネ村の門まで100mという所でストップする。

 

「セバス、どう思う?」

 

「はっ あまり威圧感が無いために解りにくいのですが、複数の敵意の様な視線をあちらこちらから感じます」

 

「なんだあ?!本当に敵が居るのか?!」とルクルットが叫ぶ

 

「ヘタに突破しようとして村人を人質に捕られたり、危害を加えられるのはやっかいですね」とニニャが思案気に会話に入ってくる。

 

「ナーベラルちゃんの範囲魔法で一瞬で片づけたとしても村の中の仲間に村人を襲われたら意味ねーしなあ」とルクルットが頭を抱える。

 

「……待ち伏せを諦めて動き出した様ですね。」とモモンがみんなに伝える。

 もちろんアルベド衛星からの天気予報があったから解ったのだが、待ち伏せしていたゴブリンが門から外に出て、麦畑を利用して我々を包み込もうとしているらしい。

 

「すみません 皆さん。スキルを使いますので、なるべく離れて目を瞑り、耳を抑えてうずくまって下さい。あ、セバスはそのままでも大丈夫だから、皆のフォローを頼む。」

 

「ハッ」

 漆黒の剣とンフィーレアが荷馬車の後ろや下に潜り込み、目を閉じて耳を抑えて蹲る。ある程度、方向は指定出来るが余り距離が離れていないので安全のためにはそうして居てくれた方が良い。

 そして無造作にゴブリン達が居るであろう方向に向かって歩いていく。

 

 実はモモンガは、数多くのスキルを持っており、その中で今、発動する特殊能力が〈絶望のオーラ〉である。

 これをモモンガは〈絶望のオーラ・Ⅴ(即死)〉まで使いこなせる。これはレベルが低い生命体をその体から発生する禍々しいオーラで死に至らしめるという正に『魔王』というスキルであるが、当然ユグドラシルでは使い処もない死にスキルであった。

 それをレベルⅡに弱めて使用したのは事情が未だ不明なので降伏してもらい話を聞くためだ。

 

 モモンガがゴブリンが潜んでいる辺りであろう方向に剣を向けて〈絶望のオーラ・Ⅱ〉を浴びせると彼方此方から「プギャー!?」「うぎゃぁあ!」「げぶぼぁ!」という悲鳴が聞こえてくる。今、彼らは全身を襲う怖気と心臓が氷るほどの恐怖と幻覚を見るほどの絶望により、身も心もビクンビクンと痙攣させながら地面をのたうち回っている。息をする事も出来ないのか自分の喉を掻きむしるゴブリンや目と鼻と口から体液を垂れ流しながら白目を向いている者も居る。

 

 

 ……あれ? やりすぎた?

 

 

 絶望のオーラの使用を止めるが、のたうち回り瀕死のゴブリンにモモンガは違和感を覚える。

 

 ……何か、ここまでの道中に出逢ったゴブリンとは違う様な?

 

 すると門から見たことのある女の子が飛び出してきて「ど、どうしたのみんな!?」と悲鳴をあげてコブリンのもとに駆けだして来た。

 

 ん?あの子は確か……。

 

「エンリ!?」というンフィーレアの叫びが聞こえる。

 そうそう エンリ・エモットだ。彼女の教科書をもらってナザリックのみんながこの国の文字を勉強中である事を思えば彼女にはそれなりに恩があると言える。

 モモンの奥義使用という事で荷馬車の下へ隠れていたンフィーレアは掻き出すように荷馬車から這い出ると、駆けだしてエンリ・エモットの元へ向かう。

 

 --そうか、想い人はこの娘で、生きていたんだな……と漆黒の剣の一同が互いの目を合わせて微笑む

 

 必死に「エンリ、エンリ!」と溢れる涙を拭おうとせずに走り続けて、エンリの元に辿り着いたンフィーレアはエンリの右手を両手で握り、泣きながら「良かった!良かった!エンリ、無事だったんだね」と繰り返す。

 

「もう どうしたの?ンフィーレアったら」と、エンリは微笑みながら左手でンフィーレアの頭を撫でる。

 

 

 

 ----とても微笑ましい光景だ。   

 

「青春映画のようだな」と普段のモモンガなら思ったかも知れない

 

 エンリの背後で、目と耳から血を流し、口から血泡を吐き出しながら転げ回るという、ゴブリン達による命がけのパフォーマンス・ショーが無ければ、だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「あっ 黒騎士様!セバス様にユリ様にナーベラル様も!」

 

「元気そうで良かったわ。」

 

「ところでエンリ、このゴブリン達は‥‥‥。」

 

「はい!あの後、村がモンスターに襲われたときに黒騎士様に頂いた角笛を吹いたら出てきたんです。」

 

「姐御ぉぉぉぉぐるじぃーー!」

 

「モンスターを追い払ってくれて、村に柵まで作ってくれて」

 

「エンリ姐ざぁんだずげでぇぐだせぇー!」

 

「本当に助かってるんですよ」

 

「‥‥‥あ゛ねご?」

 

「有難う御座います。モモン様!」

 

「あ はい」

 

 

 

 やだこの子 怖い!

 

 

 

 



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第三章五編 その毛皮が欲しいDEATH(アウラ談)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では行きましょうか」

 

『漆黒の剣』のリーダーであるペテル・モークの合図で各々が立ち上がる。

さっきまでンフィーレアはエンリの両親のお墓参りをし、モモンは村長と歓談。そしてユリは保母さんの様にネムと遊んでいた。

やはり、やまいこさん成分のせいか子供好きなんだなあ……とモモンガが微笑ましく思っていると、アウラからメッセージが入る。

 

『モモンガ様、いつでも森の賢王を誘い出せます』

 

 ふむ 準備は万端のようだ。

 

「では薬草採取に森に入りましょう。」とンフィーレアがヤル気に満ち溢れた顔で皆を促し、冒険者達が籠などを片手に森へと向かう。

色々あったが、「薬草採取」こそが今回の本来の依頼であり、わざわざカルネ村まで来たのだし2チームへ支払う依頼料を考えれば、ここはキッチリと元は取っておきたいのは商人としてのアイデンティティのなせる業であろうか。

 

 森に目を向ければ100メートル以上先にあり、うっそうと茂った森にぽっかりとした空間が空いていた。

ゴブリンに守られた村の人間たちが柵を作るため木を切った跡だが。巨大な魔獣がその顎を開いているようにも見える。

 そんな場所で依頼人のンフィーレアによる最終チェックとレクチャーが「モモンガチーム」と「漆黒の剣」に為される。

 

「ではこれから森に入りますので、僕の警護をよろしくお願い致します。とは言っても森を少し入ったところから『森の賢王』の縄張りが広がっているために、それ以外のモンスターに襲われる可能性は普段通りであれば低いと思います。ただここへくる道中も妙にモンスター群に襲われましたし、何らかの異変が森に起こっている可能性もありますので、冒険者のみなさんに言うことではありませんが、警戒を新たに注意深く探索しましょう。」

 

 先ほどまで「えんりひ~」と泣いていた少年はそこには居なかった。立て板に水のように段取りを説明していく薬屋のやり手の若大将が居た。

 

「もし、森の賢王なるモンスターが現れた時は、殿(しんがり)は私達が引き受けましょう。皆さんは先に逃げてくださって構いません。」

モモンガの自信溢れる言葉に全員が感嘆の息を漏らす。ここまでの道中の戦いぶり、そして彼から教えてもらった冒険譚を思い起こせばさもありなんであり、「さすが」の声があちこちから聞こえてくる。

そんな声を耳にする度に少しばかりむず痒い気もする。今までの人生で褒められたことが余り無かったための弊害だ。すぐ横にいるナーベラルの自慢気な態度が羨ましい。

 

「わかりました。ではその場合は私たちのチームでンフィーレアさんを守りながら森より脱出させて頂きます。モモンさんも無理なされずに。」

 

「はい、有難うございます。手に持て余すようでしたらすぐに逃げさせてもらいますよ。」

 

「あの……モモンさん」

 言いよどんだンフィーレアが決心したように口を開く。

 

「もし森の賢王と対峙することになっても殺さずに追い払ってくれませんか?」

 

「……それは一体どうしてです?」

 

「はい、森の賢王がこの辺一体を縄張りにしているからこそ、これまで開拓村であるカルネ村はモンスターに襲われませんでした。もし森の賢王を倒してしまいますと‥‥」

 

「なるほど……」

 しかし、すでに襲われたからこそエンリはゴブリンの角笛を吹いたんだよなあ‥‥それにあのユグドラシル製のゴブリン隊だと少々のモンスターならなんとかしてくれそうな気もするが‥‥まあ、ンフィーレアとは現地でポーションを作成するという目的のキーパーソンとして良い関係を築いていきたいしな。

 

「了解しました。今日の私のチームでしたら殺すことを前提にして戦わなくても何とかなると思います。難しいですが追い払う程度に留めておきましょう」

 

「ほぁ!」というルクルットの驚愕の声が聞こえる。

 

「では行きましょうか」

 

「「はい!」」

 

 歩き出して、しばらく立ってからセバスが近づいて周りに聞こえないように話掛けてくる。

「よろしいのですか?そんな危険なモンスター相手にあの様な約束をされて」

 

「ん?大丈夫だ。森の賢王とはアウラの報告にあった『白くて丸いフサフサ』した奴の事だろ?」

 

「はい パンドラズアクター様からその様な情報通知書を頂いております」

 

「うむ 情報の共有が確立できている様で何よりだ。賢王はレベル30ほどらしいし、実はアウラを呼んであるから心配せずとも良い」

 

「アウラ様……でしたら万全で御座いますね」

 

「うむ それに、この森は将来的にはアウラの庭になる予定だからな。森の賢王を倒してしまったとしても問題ないしな。」

 

 ある程度、森に分け入った地点でバレアレ薬品店の若旦那が立ち止まる。

「はい!では早速ですが、僕が今回採集しようとしている薬草はこんな形をした物です。皆さん、見つけたら教えて下さいね」と採集用のかばんからしなびた植物を取り出す。

 

「ほう。なるほど!ングナクの草であるか!」

 なるほど、ドルイドのダインにとっては「なるほど~解る解る」的な一品なんだな。鉄オタの人が「キハ◯◯だ!」みたいな奴だ。オタクだから解るみたいなな。俺だって以前、会社の同僚の携帯電話の着信音が『ユグドラシル』のレアアイテムドロップ時の音楽だった瞬間、めちゃくちゃ喋りたかったからな!わかるわかる。テンション高くなるよな。

 ちなみにこの薬草から一般的なポーションが作られるらしいのだが、自家培養した草より、自然に生えているものの方が効果が高いポーションが作れるらしい。……これはなかなか重要情報だな。よしパンドラズ(情報総監)行きだ。

 

 ンフィーレアが色んなウンチクを語ってくれているのを聞いていると、やはりユグドラシルのポーションの作り方とは違う様だ。こちらの世界で作れるポーションか……うん やはり必要だな。希少なタレントと共に、ナザリックに有益な人物となるやも知れん。

 

 

『モモンガ様。そろそろ森の賢王は昼寝から覚めて森の巡回に出てしまう頃です。』

 

 おっと 森の賢王を退治してモモンの名声を上げるのはアンダーカバー作成には重要な案件だからな。

 

『ではそろそろ仕掛けてくれ』

 

『はい!お任せ下さい!』

 

 アウラは「毛皮だけでも欲しいなー」と考えながら賢王の洞窟を覗き込んで「ニヤリ」と笑った。

 

 

 

 

 数分たった頃、急にルクルットが「?! こりゃやべえぞ!」とみんなに向かって叫ぶ。

 すでにみんなの耳にも小さく「ドドドドドドドドドッ」という低音が聞こえてきた。

 

「モンスターですか?」とンフィーレアが聞く。

 

「こりゃあ普通のモンスターじゃねえ!重量感と云い、それでいて足音の回転数の速さと云いタダモンじゃねえよ!あった事はねえけど『森の賢王』じゃねえかって俺は思う!」

 

「なに!」

 その瞬間、漆黒の剣のメンバーが固まる。

 

「……みなさん落ち着いて行きましょう。ルクルットさんの耳と勘を信じて行動しましょう」

 

「モモンさん……」

 

「では先程の打ち合わせ通り、漆黒の剣チームはンフィーレアさんと共に森を抜けて下さい」

 

「はい では勿体無いけど薬草はここに置いて行きましょう」とンフィーレアが告げる。

え?……それは確かに勿体無いな。みんなで頑張って集めたのに。

 

「いえ せっかくですし持って帰りましょう。では漆黒の剣の方々に薬草を背負ってもらい、セバス、ユリ、ナーベは彼らの護衛を頼む」

 

「えっ 一人で行かれるつもりですか!?」とペテルが叫ぶ。

 

「はい 大丈夫です。それに私の奥義(スキル)は周囲の味方をも巻き込むので、一人の方が楽な面もあるんです」

 

みんなの脳裏にモモンが村の前で見せたゴブリンを気絶させたシーンを思い出す。

 

「しかし……」

 

「そうです。一人はなりません」

 と突然セバスの重厚な声が聞こえた。

 

 えっ なんでだ? さっき段取りを話したのに?

 

「最低でも誰か一人をお連れ下さい。もしもの事があるかも知れせんから」と有無を言わせぬ迫力でモモンガに迫る。くそう 急に執事としての仕事を‥‥‥。

 

 うーむ セバス、ユリだと徒手空拳だから、手加減して森の賢王を生け捕りするのが楽そうだが‥‥‥むうう。

 

「わかった。ではナーベよ行くぞ」

 

「はいっ モモンg------さ--ん!」

 

 ……オマエ今、「様付け」だけじゃなく「モモンガ」って言おうとしただろ。

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 危ない危ない喜びの余り「モモンガ様」と言ってしまいそうになったわ。誰にも気づかれなくて良かったけど。

 ユリ姉様、セバス様、ごめんなさい。モモンガ様には『ナーベ』と愛称で呼ばれる程に良い関係を築けているの。と心のなかでガッツポーズをした。

 

 ちなみにモモンガがナーベラルを選んだのは「ココに置いておくと一番問題を起こしそう」だからである。

 あと、ガッツポーズは心の中だけでなく、実際に小さく「よし」とガッツポーズをしていたので、それを見たユリは残念な妹にちょっとアンニュイな気持ちになった。

 

 それを見ていたルクルットが

「なあ やっぱりナーベちゃんとモモンさんは……」と言いかけた瞬間

 

「私をナーベと呼んでいいのはモモンさーーーんだけです!」と毅然と言い放った。

 

 一同を「えっ?」という空気が包む。ちなみにモモンガも、その「えっ」という空気を発したチームに参加していた。

 

「……わあ うん まあ、解ったから うん。 ナーベちゃんはモモンさんの‥‥ということなんだな……」とルクルットが死んだ魚のような眼で呟く。

 

「はうあっ!? な、な、な、なにを言ってるのですか!モモンさーーんにはユリ姉さんという人が!」

 

「ふえっ?!ボ、ボク? いえっ!何故そこで「私」の名前が出てくるのですか!」

 

「みんなそう言っていますもの!ね!セバス様!」とナーベラルはセバスをキッと見る。

 

 セバスは、鷹のような鋭い眼を、そっと逸らした。

 

えっ なにその反応?!とモモンガが驚いた瞬間、モモンガの肩を後ろからポンと叩いて、

 

「姉妹丼で‥‥‥あるな」とダインが良い顔と良い声で言った。

 

 ちょ!?オマっ!? 信仰篤いドルイドが良い笑顔でナニ言ってるんだ!?歯を光らせてサムズアップするな!

 あと、なんかニニャが「汚い物」を見るような眼でこっちを睨んでいるんだがっ

 あんなに一晩語り明かして良い雰囲気になっていたのに!いや美少年相手に良い雰囲気とか何を言ってんだ俺は!違う!俺はセクハラ駄目上司でもBLさんでも無いんだ!

 

 あっ 光った  はふう‥‥‥。

 

「あの みなさん‥‥森の賢王が来ている緊急事態なんですが」

 と一番年下の少年に冷静に諭される。

 

 どどどどどどどどどっ と地面の揺れを感じる程に足音は確実に大きくなっていた。

 

「そうだ!こんな事をしている場合じゃないよな!な!な!?」

 

 何故かいつもより大きな声で話すオーバーロードがそこには居た。

 

「では打ち合わせ通りにお願いします。ナーベ迎え撃つぞ」

 

「あ……は、はい!」

 

「セバス、ユリ、みんなを頼む」

 

「ハッ お任せ下さい」

 

「モモンさん。お気を付けて……」とペテルが心配そうな顔で言う

 

 なんだろう……今、ペテルの優しさが一服の清涼剤の様だ……。

 

 ナーベラルを連れて足音のする方へ、森の奥へと分け入っていく。

 100メートルほど歩いて少し広い空き地に出る。

 そしてアウラに『周囲に誰も居ないことを確かめた後、合流せよ』とメッセージを送る。

 

 突如ナーベラルが剣を抜いて木の上を睨み付け、「曲者!」と叫んだ。

 

「曲者なんて、ヒドイなあ~ ナーベラルゥ」という声と供に、くるくると回転しながらアウラが目の前に着地する。どうやら始めから近くに居たらしい。

 

「お待たせ致しました!モモンガ様。」

最近、トブの森捜索で出きっきりのダークエルフの少女は邪気のない笑顔でニッコリと笑った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 ようやく森の外に出た漆黒の剣の一行とンフィーレアは人心地付くと、さっきまで自分たちが居た森の奥を振り返る。

 

 ニニャが心配そうに「大丈夫ですかね?モモンさん……」と呟く。

 

 ペテルが「そうですよ!セバスさん。私たちは大丈夫ですから早くモモンさんの加勢に向かって下さい!」とモモンチームの2人に言う。

 

 しかし、セバスとユリの反応は今一だ。互いに眼を合わすと「ご心配頂きありがとうございます。モモン様は大丈夫ですので御安心下さい」と自信ありげに語る

 

 ええ‥‥‥という空気が『漆黒の剣』に流れるが、もしモモンさんがあの奥義を使っている最中なら、むしろ我々は邪魔にしかならないことを思い出した。

とりあえず背負っていた薬草を荷馬車に積み込み、モモンさんが敗退して『森の賢王』が襲いかかってきた場合に、ンフィーレアさんだけでも逃してモモンさんを救出に行けるように装備のチェックをする。

 そんな彼らの姿をセバスは好々爺の様に目を細めながら見守る。

 

「こういう人間の良さを知らないのは勿体ないですよね。」と小声で呟くと「そうですわね」と隣のユリが同意する。

 

 半刻もしない時に突然ルクルットが「何か来るぜ!」と叫びながら弓を番える。

みんなが矢の先の森の方を見るとゆっくりと黒い鎧のモモンが現れた。

 

「なんだルクルット、脅かすなよ。モモンさんじゃないか! 無事だったんですね?良かった」とペテルが剣をしまう。

 

「いや その後ろだ!」とルクルットが矢を番えたまま緊張した面持ちで吐き捨てる。

その声に全員が目を凝らすと、モモンのすぐ後ろに巨大な魔獣が姿を現した。

 

「うおおおおおお?!も、森の賢王か!」とペテルが剣を再び抜き去り立ち塞がる。

 

 モモンガには、ただのジャンガリアンハムスターであり威厳も恐怖も何も感じないが、冒険者として依頼主を守ろうとする姿は立派だと思った。なので「大丈夫ですので落ち着いて下さい。魔獣は私の支配下にありますので」と言うと安全性を伝えるかの様に森の賢王の体を撫で撫でと撫で回した。

 

 ――――いいなあ――――とナーベラルとユリは思った。

 

「まさに殿のおっしゃる通りでござるよ!この森の賢王、殿に仕え共に道を歩む所存。殿に誓って、決して皆様に迷惑を掛けたりはしないでござるよ!」と高らかに宣言した。

 

「こ、これが森の賢王!すごい!なんて立派な魔獣なんだ!」

 

 え?と思ってモモンガはニニャの反応に驚く。

 

「いや これが森の賢王とは‥‥‥その名もむべなるかなである!こうしているだけでもその強大な力を感じるのである」

 

「え?」

 

「すげえなあモモンさん そりゃナーベ……ラルちゃんやユリさんを物にするだけの事あるぜ!」

 

「え? いや本当に色々と、え?」

 

 みんなに誉められて、照れるというか、もう一度『森の賢王』を見る。

『超巨大ジャンガリアンハムスター』……それ以外の感想をモモンガは持たない。

 

「……みなさん、このまん丸の黒くてクリクリとした瞳、可愛いと思いませんか?」

 

「えっモモンさん その深遠なる知性を湛えた眼を可愛いって思うんですか!?」

 

 (‥‥‥思うけど)

 

「このふさふさした毛並みもツヤツヤで愛らしいですし……」

 

「いやはや参りましたな。モモン氏には!これだけの魔獣を愛らしいとは流石で有る」

 

「いや でも声も可愛いですよ?」

 

「もう!殿!さっきから誉め過ぎでござるよう~~」とハムスケと名付けられたばかりの森の賢王は羞恥に顔を短い手で覆ってゴロンゴロンと転がった。地鳴りがした。

 

 あとナーベラルが「むう」という顔でハムスケを見ていた。やだ怖い

 

「おお もう完全に賢王を手なづけてしまわれましたね モモンさん」

 

「懐いているようですし……連れて行かれるんですか?」

 

「ええ ここまで懐かれるとは想定外でしたが、置いていくのも可哀想ですので……」

 

 すると不安そうな顔をしていたンフィーレアがおずおずと

「あの、その 森の賢王を森から連れ出してしまったら、エン……カルネ村に森のモンスターが襲いかかったりしませんか?」と尋ねた。

 

 ――――今 エンリって言おうとしたな と全員が思った――――

 

「カルネ村というのは……あの村でござるな」

 

「はい」

 

「最近、急に森の勢力バランスが崩れてしまったでござるよ。何かに追われるかのように色んな生物の大移動があったりで。正直、拙者が居てもいなくても、もう森は安全とは言えないで御座るな」

 

「そ、そんな……」

 

 (……ふむ 森に異変か……あれ? それってアウラのせいじゃ……)

 思い当たる節があるモモンガは流れない冷や汗を感じた。

 

「モ、モモンさん」と震える声でンフィーレアが話し始めた。

 

「えっ あ……はい、なんでしょう?」

 一瞬思いっきり動揺したもののなんとか態勢を整えてモモンガは鷹揚に返事をする。

 

 すぅと息を吸ったンフィーレアは決断をし終えたのか大きな声でモモンに嘆願した。

「僕をモモンさんのチームに入れてはくれませんか!」

 

「ほう?」

 

「ぼ、僕には薬学の知識しかありませんが、少しは役に立てます!荷物持ちでもなんでもします!」

 

「……」モモンガは少年の長い前髪から覗く眩しい瞳を見て、黙って少年の言葉を待つ

 

「お願いします。モモンさん達の強さに触れたいんです。わずかでも掴みたいんです!」

 

 少年の双眸から涙が静かに零れ落ちる。

「お願いします。チームに入れて下さい。学びたいんです!その強さを!魔法を!助けたいんです!守りたいんです!エンリを‥‥‥」

 最後、小さくなりゆく叫びの中で口にした想い人の名前に込められた切なる願いにセバスやユリは心を動かされた。

『漆黒の剣』は話の成り行きを固唾を呑んで見守っている。断られたら自分たちが少しでも手助けしてやりたい。そう思いながらモモンの判断を待つ。

 

 ずっと黙って少年の言葉を聞いていたモモンガは「ふっ ふふふふふふふふ」と静かに笑い出した。

 

 ……やはり一笑にふされるか、とンフィーレアは俯く。

 

「ははははははっ‥‥‥失礼 ンフィーレアさん。あなたの決意を笑ったのではありません」

 

「え?」

 

「私が思っていた何倍も強く鮮烈な想いに中てられた様です。先にお伝えしますが、私のチームには入れることは出来ません」

 

「……はい」

 

「それはあなたの能力の問題ではなく、我々のチーム……ギルドとしての掟の問題ですのでお気にされないように。……ただ、協力者としてならどうでしょうか?」

 

「え?協力者?」

 

「ええ、先日、この国で、私の国のポーションを作りたい。という話をしましたよね?あれはバレアレ薬品店にポーションを提供して、それをンフィーレアさんに解析して頂くというものでした」

 

「は、はい」

 

「しかし それはそれで情報の漏洩などから、その薬の専売特許を持つ私の国へ迷惑がかかる可能性もありますし、どうでしょう。我々のもとで赤いポーションを研究開発して頂くというのは?人には向き不向きが有ります。想い人のために、そこまで自分を投げ打てる優しい君がモンスターと矛を交えるなんて間違っていると思います」

 

「つ、つまり、どういう事でしょう?」

 

 モモンガはヘルムを脱いで南方人に多いという黒髪黄肌の顔を見せて芝居がかった口調でンフィーレアに話しだす。

 

「私たちは、このカルネ村と縁がありますから場所の提供も容易にしてもらえますし、ポーションの材料となる薬草も、このカルネ村で豊富に採れる。そして君の想い人もカルネ村に居る‥‥‥。ああ、どこかに、薬学の才能に恵まれた人がカルネ村に住んでポーションの研究開発をしてくれないかなあー もしそんな大切な協力者がカルネ村に居るのなら、私たちは何としてもカルネ村をあらゆる災厄から守らざるを得ないなあー‥‥‥‥と云う訳ですが、どうです?」

 

 

 そう言うと モモンさんはニカッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

ニカッ

 

ユリ&ナーベ「「はうっ モモンガ様!そこでその笑顔は擬態と知っていても反則です」」

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

ニグレド『ちょっと!? ペストーニャ!早く来てちょうだい! ミラーを見ていた妹が急に鼻血を吹き出しながら倒れたの!?ええ!そうよ!なんか凄い良い笑顔で‥‥え?ほっとけワン? ちょっとペス!ペスゥー!?』

 

 

 

 



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第三章六編 クレマンさんの扱いが雑

 

 

 

 

 

ンフィーレアは帰りの道中も、ずうーっとフワフワとした感覚の中で荷馬車に揺られていた。

 

原因はカルネ村に居る想い人との新生活‥‥‥というと同棲でもするかの様だが、そうでは無い。ただ何ヶ月かに1回しか会えなかった遠距離恋愛(但し片思い)の相手と小さな村の御近所さんになり、毎日でも逢うことが出来るのだ。まず、そのためには祖母の説得が必要だが、なんとかバレアレ薬品店の出張所という事で許可をもらいたい。そして、と右後ろを「ハムスケ」と名付けられた魔獣に跨る威風堂々としたモモンを見る。自分が憧れる物語の英雄的な存在に認められ、外部協力者として働くことが出来る。尊敬できる英雄の手伝いが出来る。

おとぎ話の主人公には成れないけれど、その語り継がれる物語の一節に自分の名前と、つ、妻のエンリの名前が出てくるか‥‥も。 うひゃあああ、と火照る顔を手で押さえる。

 

「ふふ。ンフィーレアさん嬉しそうですね」とニニャが微笑ましさに笑いながら仲間に話かける。

 

「恋は人を夢見る乙女にするのである」

 

「おーい、ンフィーレアさーん!エ・ランテルが見えてきたぜー」

 

ルクルットに声をかけられ、ハッとして彼方を見ると城塞都市エ・ランテルの高い壁が見えてきていることにンフィーレアはようやく気づくことができた。

 

──何というか 帰りはあっという間の道中だった。

 

「森の賢王」ハムスケを連れているせいか、一度もモンスターに襲われなかったのだ。

ハムスケへの、ニニャの質問攻めが凄かったが、それも旅の余興として楽しく過ごせた理由でもある。お陰で色々な『トブの森』トリビアを仕入れることが出来た。酒場で披露するのがちょっと楽しみだ。

 

もう夜で辺りは暗い、早く門を潜ろうと思ったが門番にモモンさんが止められて森の賢王の登録を求められていた。

 

「今、眼鏡を持っているのは誰だ? ん そうか ではセバスは私と一緒に登録所に行ってくれ。ユリとナーベラルはペテルさん達と共にンフィーレアさんの所で薬草の積み下ろしを手伝ってくれ」

とモモンさんが言った。あれ?眼鏡なのはユリさんなのでは?と漆黒の剣のメンバーは思ったが、それ以上に

「ちょ、ちょっと待って下さいモモンさん!大丈夫です!我々だけでやらせて下さい」とペテルが叫ぶ

 

「そうですよ。結局僕たち全然働いてませんし、これぐらいやらせてもらわないと」

 

「そもそもユリちゃんやナーベ…ラルちゃんみたいな女の子に手伝ってもらっちゃあ男が廃るってもんだぜ!」

 

「まったくである。この後の打ち上げで堂々と美味しい酒を頂くためにも労働したいところであるな」

 

「ユリちゃん?」ちょっとユリがイラッとして眼鏡の位置を指先でクイっと上げた。

その様子に(ナーベラルだけでなくユリまで…この2人だけを置いて行くのは良くないか…)と感じたモモンガは

 

「解りました。では後ほど、私どもが泊まっていた宿屋の1階の酒場でお会い致しましょう」と漆黒の剣の提案を素直に受け入れた。

 

「おう!待ってるぜ!特に美人姉妹のお二人さん!」

 

「ははは…では荷物下ろしお願い致します。打ち上げ楽しみにしてますよ」

 

そう言うとモモンガ達は「漆黒の剣」とンフィーレアと一旦別れる。

ハムスケを街に入れるためには「使い魔」として冒険者組合に登録しなければならない。そのためには書類の作成と似顔絵スケッチが必要なために意外と時間が掛かるのだ。

ちなみにモモンガの「眼鏡は誰が?」というのはマジックアイテムの眼鏡の事で、読めない文字でも読めるようになる翻訳眼鏡の事である。

書類作成が必要である事をニニャから聞いていたため、眼鏡を掛けねば読めないが、モモンガの顔は幻術であるため、眼鏡を掛けると眼鏡のフレームの位置と顔に擬態して見えている位置とのズレが生じるので人前では装着できない。

(そのためセバスに同行を頼んだのだが…しかし、「打ち上げ」か…。食べられないし飲めないのにどうしよう。今日は殺生もしてないしなあ…飲食できない理由が無いぞ?)などと困りながらも実はとても楽しみにしている自分が居ることにモモンガは気づいた。

 

リアルも含めて打ち上げだとか飲み会だとか数回しか経験していない。しかも会社でのイヤな雰囲気の中での物が殆どだ。

しかし、今回は違う。イヤな会社の上司でもなく、自分を過大評価しすぎる部下でもない。共に旅をし冒険をした仲間だ。

きっと楽しい打ち上げになるだろう。ンフィーレア君も来るなら色々と話したり、エンリの事をからかったりしよう

 

「漆黒の剣」…ペテルの裏表のない爽やかさ。ニニャの豊富な知識と強い決意。ルクルットの奔放さと気さくさ。ダインの大きく包んでくれる包容力。

「…良いパーティだ。本当に」

また こういう機会があれば一緒に依頼を受けられれば良いな。そんな事を考えながらハムスケのスケッチが終わるのを待っていた。これからの楽しい時間を考えながら。

 

しかし、そんな考えは突如中断された。アルベドからのメッセージが入ったからだ。

 

『モモンガ様 私はモモンガ様だけを監‥‥見守っていたので気づきませんでしたが、姉さんが「先程、モモンガ様と別れた人間達に問題が起こった可能性がある。」と言っております。』

 

『!? 薬屋で何かあったのか?』

 

『申し訳ありません 詳しくは判断出来ないのですが、荷物を積み下ろしている場所に、この世界の人間にしては探知魔法で強めの反応が出た人間が屋敷内に居るとの事です。』

 

強めの反応?ガゼフ・ストロノーフかな?いや奴は王都に居るんだっけ?

どっちにしろ協力者になってくれたンフィーレアと打ち上げ仲間だ。その身が気にならないと言えば嘘になる。あと、やはり俺はストーカーに対して大きな間違いを起こしている気がする

 

「ユリ、ナーベラル。ニグレドからの報告があった。今すぐバレアレ薬品店に向かってくれ。」

 

「「ハッ」」

2人は顔を見合わせて冒険者組合から飛び出して行く。ここからバレアレ薬品店までは近くない距離だが、彼女達なら数分で到着するはずだ。

訳も聞かずに駆けだしてくれた2人に感謝しつつ追加情報をメッセージで送る

 

『ナーベラル、ニグレドが言うにはンフィーレア達の居る所で強者の反応が出たらしい。気をつけろ。ただし話が分かる相手なら私が着くまで逃がさずに時間を稼いでくれ。ンフィーレアやオマエ達に敵対行動を取ってきた場合は全力で叩き潰して良い。』

 

『はい、お任せ下さい』

 

・・・・・・・ンフィーレアが帰ってきたと同時に強者が待ち構えている?都合が良くないか?

そもそも祖母のリィジー・バレアレも有名な薬師だと聞いているが‥‥。単なる偶然として片付ける方がオカシイだろう。

 

「‥‥‥気になるようでしたらモモン様も行かれた方がよろしいのでは?ここは私が手続きを済ませますので。」

 

「‥‥‥そうだな。ではセバスよ ここは‥」

『モモンガ様 バレアレ薬品店にて「漆黒の剣」が全員死亡しております。ンフィーレアも行方不明です』

という淡々としたナーベラルからのメッセージが入った。

 

 

 

 

 

‥‥‥‥

 

 

 

 

 

 私の提案によりモモンガ様に現地に赴くことをお奨めした瞬間、突然モモンガ様がいつもの光に包まれました。どうやら先行したプレアデスからの報告があったようです。

怒っているような、驚いているような、悲しんでいるような‥‥そして哭いておられるように私には見えました。

 そして「……すまない 登録所の君、ハムスケを置いてゆくので登録をお願い致します。ハムスケは終わり次第、先ほどの荷物を降ろした所に来てくれ。……セバス行くぞ。」と告げられました。

 

私は「はっ」と短く了承し、冒険者組合の人に一礼を致します。

 

「あっ ちょっと!魔獣を置いていかないでくださいよっ!恐いですって!食べられちゃいますよ!」

 

「ええっ 拙者を食べるので御座るか?!きっと美味しくないでござるよ?!勘弁してほしいでござる……」

 

「あ やっぱり大丈夫そうですね……はい」

 

そんな言葉を背後に聞きながら外に出て、セバスは先に行く主人を追いかけて先ほどの薬品店に駆け出す。

夜風が体にぶつかり、その中を潜り抜けるように足を伸ばして走りゆくと、間もなくバレアレ薬品店に到着した。

薬品店は、ひっそりと静まっており、この静寂が不吉さを醸し出している。

店の玄関の扉を開けて中に入ると『リィジー・バレアレ』と思しき年配の御婦人が「ンフィーレアやあ~~い!」と泣きそうな声で呼びかけていて、我々が少年に依頼された冒険者である事を告げて落ち着くように宥めて、主が入っていった奥の部屋には入らないように言い聞かせた。

 

中に入ると沈痛な面持ちのプレアデス副リーダーのユリ・アルファと淡々とメッセージで誰かと連絡をやりとりしているナーベラル・ガンマが部屋の隅っこにおり、主人は奥の部屋で、壁に持たれて座っている様に見える「ニニャ」だった物の前にしゃがみ込んで、何かを小声で話している様だ。

 

その部屋には「漆黒の剣」のペテル・モーク、ルクルット・ボルブ、ダイン・ウッドワンダーの死体が倒れていたが、その死体に疑問を覚える。ペテル・モークとダイン・ウッドワンダーの頭部の半分や肩は破裂するかの様に吹き飛んでおり、これはユリ・アルファの攻撃によるもの、ルクルット・ボルブの傷も片腕を切り落とした後、首を刎ねており傷口からナーベラル・ガンマのものではないかと思われたからだ。

彼女たちが主人と親交を重ねた者を無下に殺す?しかもナーベラル・ガンマならまだしもユリ・アルファが?

しかし、切り落とされたルクルット・ボルブの顔や微かに漂う死臭に混じった嗅ぎ慣れた香りによりある懸念に気づく事が出来た。

彼ら3人はアンデッドにされていた様であり、何者かに殺され操られて、入ってきたユリ・アルファ達に襲いかかって来たのだろう。むしろ初めにアンデッドの弱点である頭部では無く、肩や腕を攻撃して相手の攻撃力を封じようとしている時点で、主人と関わりのある者を出来れば殺したくないという2人の気遣いが見える。

すると主人が「ニニャだった物」から離れて立ち上がり

 

「セバス、この状況を、どう視る?」と尋ねてこられた。

 

検死するかの様に彼女の死体に目を凝らし検分をする。彼女だけはアンデッドにされていないが、ある意味最も凄惨な殺され方をしている様だった。彼女を知っているがゆえに彼女だと気づくのは難しいザクロの様な状態に眉を顰める。そして彼女の背後の壁に書かれてある「地下下水道」の血文字を発見する。そうして、あの奥の裏路地へと通じるドアの周囲の床の傷、擦過痕などにも目を通す、そしてペテル達アンデッド化した死体にも軽く目を通す。すぅーと明かりが見えたので顔を上げると主人が光っていた。モモンガ様はニニャの物と思われる荷物を調べていた様で一冊の本の様な物を先ほど私が使っていた文字翻訳の眼鏡で読んでおられました。

 

「……では、私の所見を申し上げても?」

 

パタンと本を閉じたモモンガ様は「うむ」と続きを促される。

 

「まず、彼らを攻撃した者は2名居ると思われます。ここでは犯人、AとBとします。まず、Aですが裏口より入り込み、その壁際で長いこと待ちぼうけをしていた様ですね。刺突武器と思われる刺しあとが、壁際の床や家具に数十箇所みられ暇つぶしに刺突武器で刺していた様な跡があります。」

 

「ふむ」

 

「そして『漆黒の剣』やンフィーレアさんが帰宅し荷物を全て降ろすのを待っていた様ですね。荷馬車の薬草は全て倉庫に移されておりました。そしてこの路地へと通じるドアがある奥の部屋ですが、ドアとは逆方向の壁や家具にペテル・モークやルクルット・ボルブ、ダイン・ウッドワンダーの装備品の背中側が当たって出来たと思われる擦過痕が沢山見受けられます。恐らく、ニニャさんとンフィーレアさんを逃がすために3人は、何度も「A」に立ち塞がり続けたのではないでしょうか。」

 

「‥‥‥そう、か」

 

「そして、彼らが、この部屋で玄関へと通じるドアを背に戦い続けたという事は、この時点で「B」はおらずに、「A」からさえ2人を逃せばなんとかなる状況だったと思われます。しかし、玄関のこの箇所とこの箇所、そしてカウンターにヘコミ傷があります。2人はここまで逃げた時に玄関より現れた「B」によって逃げ道を奪われ、腕力か魔法で2人から戦闘力を奪った様ですね。ただ、私は魔法によるものではないかと思われます。」

 

「ほう 続けてくれ」

 

「はい 「B」が遅れてきた理由にも繋がるのですが、この家の周囲に音の遮断などの魔法を掛けられていた様です。先ほどもリィジー婦人が少年の名前を叫んでおられましたが、外から邸内に入るまでは何も聞こえていませんでした。つまり「B」は魔法詠唱者であり、犯行音を遮断し確実に犯行を行うための処置を施してから薬品店に玄関よりンフィーレアとニニャの退路を防ぐように侵入。魔法により戦闘力を奪ったあと、今、ここに居ない唯一の人間、つまりンフィーレア少年を拉致したと考えられます。もうその時にはすでにペテル達はアンデッド化されていたようですね。刺突痕からの出血の少なさから「A」の持つ刺突武器自体か「A」か「B」による何らかの能力、もしくは魔法により殺すと時間をおかずにアンデッド化を施した模様です。」

 

「‥‥‥。」

 

「ニニャさんは体中に致命傷にならない程度の打撃痕が無数にありました。特に右胸部を潰した時にニニャさんが女性である事が犯人に解ったのでしょう。死亡に至るまでの攻撃は主に頭部に集中している様です。これは打撲痕の状態を視るに死亡の時間が近い打撲痕は「顔」に集中しており、頭蓋骨を数箇所砕かれ、眼底骨折による一撃で左眼球が飛び出しており、女性である事が解ってから顔への攻撃に偏っているという観点から嗜虐趣味が診てとれます。また犯人「A」は女性か子供のように小柄な者だと思われます。」

 

「‥‥‥何故だ」

 

「ペテル達のいる方向に向かって、何箇所か床を蹴って--使用武器を考慮すると「突き」を繰り出したと思われる跡があります。この跡から推測される足の大きさを考えると、女性か子供の物だと思われるからです。」

 

「ちなみに、ニニャが女の子だと知っていたか?」

 

「はい。私とユリ・アルファは気づいておりました。どれだけ変装しても男性と女性では骨格が違います。骨格が違えば筋肉の付き方が変わりますし、何よりも骨盤に大きな差異が有りますので、歩いただけで膝の角度やその際の筋肉の使い方などで男女の区別は付きます。」

 

「‥‥‥そうか‥‥私は気づかなかったなあ‥‥ペテルたちが少年だけでなくニニャも逃がそうとしたのはそのせいか‥‥な。」

 

「そう‥‥だと思います。道中の発言から気づかないフリをしていた様ですが。」

 

 

モモンガはどこへ向かって言ってるのか解らないまま語りだした。

「‥‥そうか、‥‥そうか、そうか、そうか!そうか!そうか!くそっ アンデッドなんだろ?!全部消してみせろ!この感情を宥めてみせてくれ!」

 

そう叫びながら何度も、繰り返し何度も光に包まれる主人にプレアデスとセバスは驚く。

 

「中途半端なアンデッドで、中途半端なニンゲンだな‥‥‥本当に。」

 

「モモンガ様‥‥‥。」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥楽しみに、してたんだ」

その小さな声に3人はかける言葉を失い、ただ静寂がその場を包む

 

「ナザリックの支配者モモンガに不満などは無い。お前達のような部下を持って不満などあるものか」

 

「‥‥‥モモンガ様」

 

「だが、一冒険者として旅をし、知らない人と出会い、未知と出会う。それはまるでユグドラシルを始めた時に、たっちさんを始めとした仲間たちとの出会いと冒険を思い出させてくれて楽しかったんだ。これから酒場で打ち上げをして、馬鹿な話をしたりされたり、夢を語ったり語られたり。同じ体験を共有した者達だけが持ち得る何かを楽しめるはずだったんだ。それは確かに俺がここ何年もの間、ずっと求めていたものの1つなんだ‥‥‥。」

 

 

 長い時間をかけて、ようやく輝くのが収まったモモンガ様は言葉を紡ぎだす

 

「‥‥これから ンフィーレア・バレアレの奪還に向かう。」

 

「「ハッ」」

 

「これはナザリックの支配者失格かも知れない私的な感情を基にした行動であることを詫びる」

 

「なにをおっしゃられますか!」

 

「お心のままに」

 

「モモンガ様」とユリとナーベラルが血相を変える中で静かにセバスがモモンガに優しく語りかける。

 

「なんだセバス」

 

「そういう我が儘があってこそ、ナザリックの王たりえるのではないでしょうか?」

 

「‥‥‥はあ。オマエ達は私に甘過ぎるよな」

 

「はい ここに居るのは、モモンガ様にお仕えさせて頂いている、誉れ在るナザリックの執事とメイドでございますれば」

 

「ふふふ なら仕方がないな」

 

「はい 仕方ありません」

そう言うと3人は片膝を突き、誇らしげに一礼をする。

 

「そもそもペテル達の剣に血も傷も肉片もついていない。犯人「A」は折れやすい刺突武器。恐らく武器を殆ど合わせる事もないまま、一方的に3人は、いたぶられて殺されたのだろう。それだけの強者とマジックキャスターがわざわざ挟み撃ちにしてまで才能の片鱗はあるが一人前では無い薬師の少年を攫いに来た?祖母のリィジーが小金持ちだから身代金として?そんな訳ないよな」

 

「はい 我々が近づくきっかけともなった彼の持つ『どんなアイテムでも使用できる』という希少タレントが狙いではないでしょうか」

 

「その通りだセバス。‥‥‥ふふふ、いや、スマン。ところで情報総監とは便利な役職を作ったものだな。オマエ達にもあらゆる情報が共有されているのであろう?」

 

「はい」

 

「では、以前あった情報だが‥‥

 1.我々の敵と為るであろう、この世界で異形種狩りを行っている国『スレイン法国』で「漆黒聖典」という英雄級以上の強さを持つエリートチームの女性隊員が脱走したらしい。

 2.この脱走者はある『国宝級マジックアイテム』を盗んでいる。

 3.そして、全ての国に存在する地下組織『ズーラーノーン』。彼らは不老不死を追求する組織であり墓地の死体を不法にアンデッドにしたりするなどしている。」

 

「‥‥モモンガ様?」

 

「そして今回の現場検証と状況だが

 1.犯人「A」は3人のシルバー冒険者を狭い室内での戦いで子供扱いする強者であり、女性か子供である。

 2.ンフィーレアは恐らく何らかの普通の人間では扱えない特殊なアイテムを使用させるために拉致された。

 3.ペテル達3人はアンデッドにされていた。

 

更に云うなら、情報漏洩を防ぐために味方である陽光聖典の隊長に尋問されたら爆発するような阻害魔法を使うのがスレイン法国だぞ?国宝を盗んだ上に脱走したエリート隊員。あらゆる手段で捕獲網を広げている事は想像に難くない。エリート隊員だったならそんな事は解っているだろうな。各国に広がる地下組織か‥‥その網をかい潜るのに非常に便利な組織だよなあ?」

 

そして、メッセージ。

『アルベド。 ニグレドは犯人を追っているか?うむ、それは墓地では無いか?やはりそうか、引き続き監視を頼む』

 

「と云う訳で、犯人はエ・ランテルの墓地に居る。黒いローブ姿の集団でズーラーノーンと見られるとのことだ。そして千体を越す大量のゾンビを作成し何らかの方法で操作をしているらしい。とりあえずニニャの背後の壁の胡散臭いダイイングメッセージは嘘だと証明できたな」

 

「千体を超すアンデッド‥‥それはこの世界のネクロマンサーにとって不可能なレベルでは?」

 

「そうだな。実験していないが私でも無理だろう。それを可能にする何かトリックがあるんだろうな」

 

「敵が墓場荒らしの常習犯『ズーラーノーン』であれば地道に用意していたのかも知れませんね」

 

「そうだな。では答え合わせといこうか?セバス」

 

「はい 以上の情報と状況を鑑みますに、全て無関係と考える方が無理があると思います。」

 

「うむ」

 

「総括しますと、「漆黒の剣」を殺してンフィーレア少年を拉致したのは元・スレイン法国女性隊員とその協力者のマジックキャスターであり、現在の墓地での異変と漆黒の剣の3人がアンデッドになっていた事から地下組織ズーラーノーンが深く関係している可能性が高いという事。」

 

「そうだな」

 

「そして法国の秘宝であるアイテムを使用するためンフィーレア君を利用して、何か事件を起こそうと企んでおり、同時に法国の女性隊員はそれに乗じて法国の包囲網からの脱走を図っているのではないかということ」

 

「うむ」

 

「モモンガ様でも不可能な量のアンデッドの作成と操作をしていることから、法国の秘宝はアンデッド関連のものか、元々アンデッド関連が得意なズーラーノーンの術者の魔法力を高める作用を持つもの、等が推測されます」

 

「うむ そんなところだ。ちなみに、この者達が使っている魔法は《アンデス・アーミー/死者の軍勢》と《アニメイト・デッド/死体操作》ではないかと推測できる。が、あれは第7位階という、なかなかの高位魔法でな。この世界であれらを使いこなせるならそもそも、この世界の最高の第六位階の魔法詠唱者であるという帝国の「フールーダ・パラダイン」以上の立場を得ることも可能な訳で、それだけの地位と権力があるならこんな非合法組織で燻る必要もないだろう。堂々と大魔術師として権力を握りやりたいことをやれば良い訳だからな。法国の秘宝は恐らく魔法力の上昇であり、普段、術者が使えない位階の魔法を使っていると私は予想する。まあ、だとしてもこれだけの量のアンデッドを起動するには他にもタネがあるんだろうがな。」

 

「さすがモモンガ様。」

 

「まず、ナザリックの支配者として良き協力者に成ってくれそうだったンフィーレアを奪還するのは当然だな」

 

「はい もしも少しでもナザリックに被害や危険が及ぶのであれば問題ですが、今回に於いても敵は我々を脅かす存在たりえません」

 

「そして これは私の我が儘なんだが‥‥アンデッド化してしまった3人はともかく、ニニャだけでも蘇生しようと思う」

 

「はい よろしいかと。」とユリが頷く。

 

「蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使って蘇生させるつもりだ。」

 

「えっ しかしあの杖は使用回数が決まっている物では?ルプスレギナを呼んでまいりましょうか?」

 

「いや ニニャはレベル10を越えては居るが《死者復活/レイズデッド》ではペナルティによるレベルドレインでレベルが5になってしまい、一度死んでいた状態から蘇生した事がバレバレだ。ペナルティ無しで蘇生し、ぎりぎり息のある状態で発見しポーションなどにより回復させた事にするのだ」

 

「すみません。蘇生の何が駄目なのでしょうか?モモンーー様として評価が高まるだけなのでは?」

 

「《死者復活/レイズデッド》まで使えたら、本当に危険視されるだろうし、余計な面倒事が増えるだけだからな。」

 

「はっ」

 

「では、まあ怪我の功名じゃないが、この状況を利用して我々の名声も上げさせてもらうことにしよう。この後の手順だが‥‥‥‥」

 

 

そう淡々と作戦を語られるモモンガ様の指は怒りと悲しみからか、わずかに震えているようにセバスには思えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「リィジーよ。私はこれからオマエの孫のンフィーレア君を救いに墓地に向かおうと思う。」

 

「なっ 孫は何故そんな所にっ?!」

 

「彼の持つタレントを利用して地下組織ズーラーノーンが街を数千体のアンデッドで襲おうとしているらしい」

 

「なっなんじゃとお?!」

 

「我々が今から救出に向かうから心配はしなくて良い。オマエに頼みたいことは2つある。1つはこの事を街の衛兵などに伝えて警備を厚くして墓地から溢れだすアンデッドを防ぐこと。2つ目はこの奥の部屋でニニャというンフィーレア君を守るために頑張った女の子が居る。我々がポーションを大量に使用し瀕死の重傷からは脱したが、まだまだ不安定な状態なので看てやってほしい。」

 

まあ、まだまだ目をさます事は無いと思うが‥‥。

 

「わ、わ、解った。年寄りにはキツイのう‥‥展開が早すぎて。」

 

「よし、ハムスケ入れ」というと「わかったで御座るよ。殿」という声と共に薬品店にノッソリとハムスケが入ってくる。リィジーは「ひゃあっ」と悲鳴を上げた。

 

「これは高名な『森の賢王』だ。言葉も喋れるし頭も良い。ハムスケを護衛につけるから先ほどの二つの件を宜しく頼む。」

 

「う、うむ 分かった。」

 

「あと ンフィーレア救出の報酬は要らないが、お孫さんがお願いがあるらしいのでそれを聞いてあげてくれ。」

 

「はは、まだ助けてもいないうちから大した自信じゃのう‥‥だけどお陰で少し落ち着けたし安心もしたよ。どうか孫のことをお頼みもうします‥‥。」

と言って深々と頭を下げる国一番の薬師に「ああ、任せるが良い。」と告げモモンガ一行は墓地に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「さて これで第一段階終了だな リィジーが沢山の人間を集めてくれるだろうからセバスとユリはギリギリ彼らや衛兵から見える位置で派手にアンデッドを叩き尽くせ。」

 

「はい お任せ下さい」

 

「当然だが街に被害は出さないように人も街も守りきれ」

 

「望むところで御座います」とセバスが深く一礼する。

 

仕事は、やりたい者にやらせてあげる‥‥‥本当だな

更にメッセージでアルベドに色々と指示を送り作戦を確認する。

『うむ シャルティアを敵が逃げそうな地点に配置させておいてくれ。そうだ何人かは捕獲、残りは殺して良いから一人として逃がさないよう伝えよ』

 

「モモンガ様、墓地の門が見えて参りました。」とユリが話しかけてくる

 

「うむ‥‥そろそろみんなモモンの方で呼んでくれ。‥‥もう、アンデッドが押し寄せて来ているようだな。」

 

5m程の高い塀の上で衛兵が必死に、昇ってこようとするアンデッドの群れと戦っていた。すでに何体かには昇られて側撃を受けて倒れる衛兵の姿も見える。なんというか思っていたよりも緊急事態な気がする。

しかし当然先程別れたばかりのリィジーによる衛兵の応援も間に合わなさそうな雰囲気だ。

 

「退却だ!退きゃーーーあく!」という叫び声が兵の上から聞こえてくると共に駐屯所の階段から必死な状態の衛兵が駆け下りてきた。

モモンガ達を見つけると一瞬、「冒険者か!」と助けを求めようとした様だったが、身につけているプレートが「銅」だったのと黒い鎧の偉丈夫以外は白髪の老人と女が2人という構成を見るや「銅プレートか‥‥。おい、あんた達!逃げろ!アンデッドが大量に湧いているんだ!出来れば住民への避難誘導を手伝ってくれると有り難いんだが頼めるか!」と逃げることを促してくる。意外と言っては失礼かも知れないが誠実さを感じて、モモンガやセバスは好ましさを覚えた。

 

「ナーベ、剣を」とモモンガが指示するとナーベラルは2本の大剣を差し出し、うち一本をモモンガは手にする。

 

「おまえたち、後ろを見ろ」

こんな状況に関わらず、冷静さと威厳を持ち合わせた言葉に衛兵達は自分たちが居た墓地を取り囲む塀を見上げた。

 

アンデッドが集まると、それらが合体し、より高位のアンデッドが生まれる。その高位のアンデッド同士が合体するとより高位な異形のアンデッドが生まれる。だからアンデッドを生み出すような大きな街の墓地には見張りが常駐しており早期のアンデッド退治をしているのだ。

 

そして、千体を超えるアンデッド群が作り出した10mほどの骨と腐肉で出来た怪物がそこには居た。

想像を超える光景に衛兵達は言葉も無く立ち尽くし、街を捨てる以外に道は無いのではないかと慄然とする

しかし、黒い鎧の騎士は巨大な怪物に大剣を無造作にただ投げた。

 

ザスッ 

 

鎧に合わせて誂えたような黒い大剣は怪物の眉間に深々と刺さり、アンデッドの怪物は「グガァォォォォ‥。」という断末魔と供に自壊し潰れていく。

 

息を呑んだ衛兵隊長が振り返り黒い鎧の冒険者を震える体で見る。

 

「‥‥‥あ、あんた何者なんだ?」

冒険者はそれに答えず、ただ静かに

 

「門を‥‥開けろ」と口にした。

 

「冗談ではない!アンデッドが街中に溢れ出したらどうなると思ってるんだ!?」

「門の向こうにはアンデッドの群れが居るんだぞ!?」

「それも数百というレベルじゃないんだ!悪いことは言わない、ここは門を閉ざして応援を待つべきだ。」

と衛兵たちは次々に黒い鎧の冒険者を押しとどめる。

 

「‥‥応援ならココに居るだろう?まあ良い。では私たちは墓地の中の首謀者を叩く。そして、この2人はこの門を守るから君たちは彼らが撃ち漏らしたアンデッドを掃除してくれ。」

 

「あ、あんた!な、なにを言っているんだ!?」

 

「私はモモン、このチームのリーダー、モモンだ。後は頼むぞ」と告げると 「ふんっ」 と云う掛け声で赤いマントを翻し、黒い鎧の冒険者と白髪の老人、そして眼鏡の女性は跳躍のみで壁を乗り越えて行く。残った1人の黒髪長髪の美女も「フライ‥‥。」という言葉と供に体を宙に浮かせて飛んでいく。先程の卓越した身体能力と云い、魔法詠唱者による高位魔法フライと云い、確かに只者ではない感じがするし、実際に強いのだろうが‥‥何故「銅」プレートなのだろうか?という疑問を残したまま、彼らは目を合わせる。

 

冒険者が街のためにあれだけ危険な真似をしていると云うのに衛兵として傭われている自分たちが逃げるなど出来ない。

衛兵達は自殺行為の様な行動を取った冒険者に驚きつつも急いで壁を登り、アンデッドに囲まれているであろう光景を思い浮かべながら、いざと云うときのために救出用のロープを手に門の内側を見た。

 

 

 

----そこに居るはずのアンデッドの群れは存在しなかった。

 

 

ただただ地面に散乱する人骨であったであろう白や茶色の残骸。それが絨毯のように敷き詰められていた。

そして遠くの空に見えるのは、先程のフライを唱えた長髪のマジックキャスターと、飛んでいる彼女に掴まっている黒い鎧の騎士。

そして30m先の墓地で白髪の老人と眼鏡の若い女性だけが取り残されていた。

さらには彼らに群がりつつある夥しい数のアンデッドの群れが見える。

 

「なんだ!?本当に2人だけ置いていったのか!?」

 

「彼らは武器も何も持ってないぞ!?」

そう、残された2人は徒手空拳である。衛兵隊長が叫ぶ。

「おーい!急いでこっちに来るんだ!ロープに掴まってくれ!」と墓地内へとロープを垂らす。

2人はまるで微笑ましいものでも見るかのように優しい衛兵達に一礼するとアンデッドに向き直る

 

「あー危ない!」と衛兵が叫んだ瞬間

白髪の老人に飛びかかったアンデッドの鼻先を老人が指先で「パシッ」と弾いた瞬間、アンデッドの頭蓋骨が粉々に粉砕される。

 

え? と衛兵達は驚くと今度は眼鏡の艶やかな女性が腕ごとガントレットをアンデッドに叩きつけて、やはり一撃でアンデッドが粉砕される。そう 折れるのでも砕けるのでも無い。文字通り一撃でアンデッド達は砕け散るのだ。

更に彼らはまるで舞踊の様に流れるような動作で拳、蹴り、手刀を繰り出しながらアンデッドの群れに突っ込んで行く。そして彼らがすれ違ったと思った瞬間にアンデッドは残骸と化し、白い絨毯が広がって行くのだ。

 

 なんなんだこの人達は……なぜ彼らがカッパーチームなんだ?そんな思いに囚われると同時に、彼ら二人ですら途方もない強さである。彼らを置いて、この首謀者を叩きに行った黒い鎧のリーダーと思しき男はどれだけの強者だと云うのだろうか。計り知れない……と塀の上から衛兵達は呆然とする。

 

「はははは……なんだコレは?俺たちは夢を見ているのか?」

 

「モモンと言ったな‥‥俺たちは伝説を目にしたのかも知れないな……」

 

「ああ……漆黒の騎士……いや、『漆黒の英雄』の伝説をな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あがあ゛あああああああああああああああ!? うぐうううういああああああ!!!!」

 

 

 遠くから見れば大きな男性が恋人を熱く抱きしめ、女性は「もう馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」と恋人の胸を叩いているような痴話喧嘩のシルエットに見えなくもなかっただろう。

 しかし、そこで行われていたのは、時間を掛けて行われる屠殺であり、突然降って湧いた『死』への抗いの饗宴であった。

 

 女は何度も何度も男を叩く、叩く、叩く、男の白くて鈍く輝く白磁の様な骨を叩き続ける。

 

拳で、腕で、肘で叩き、噛みつく

 

恐怖と怒りと憎しみと、生への執念の全てを叩きつけ

 

そして飛び散るのは女の汗と血と歯と、命だった。

 

ナザリックの王は、ただ静かに今、散りゆく命を見つめる。

 

暗闇の広がる眼孔に灯る炎にも似た赤い瞳は色と揺らぎに反して、ただひたすら冷たい温度を感じさせた。

 

 ずっと静かだった死の王は、ただ一言

 

  ──もうそろそろ終わりにしよう……。

 

 とだけ断末魔の悲鳴を上げ続ける女の耳元に囁くと、腕に力を込めて何かが潰れ折れた様な音と、続けてボタボタッと色々なモノが大地に叩きつけられる音と共に、厳かに『死の抱擁』を為し終えた。

 

 口から血だけでなく内臓までをも溢れださせた『元・漆黒聖典第九席次』だったモノは『死の王』から無造作に投げ捨てられる。

 

「誇りに思うが良い……女よ。オマエは俺が初めて自らの手で殺した『ニンゲン』だ……」

 

 そう呟くとモモンガは自らの手を見つめる。暗闇の中、ゆらゆらと緑の光が体中から立ち上がる。それは知らない者が見れば美しさも感じたかも知れない。その光は怒りと哀しみから構成されており、隠し味として無意識の罪悪感が振りかけられていたことに気づく者はこの世界には居ない。

 

 モモンガはメッセージでシャルティアを呼ぶ。

たちまちゲートが開くと暗闇のトンネルからいつも通りの白蝋じみた肌をボールガウンで身を包んだ『真祖(トゥルーヴァンパイア)』のシャルティア・ブラッドフォールンが美しい顔(かんばせ)を露わにすると、フィンガーレスグローブに包んだ腕でスカートの端を摘んで一礼する

 

「ご苦労だったな、シャルティア。いつも、重要ではあるが地味な仕事を任せてすまないな。そちらの首尾はどうだ?」

 

「有り難うございます。モモンガ様 6人程確保してゲートでナザリックに送らせて頂いたでありんす」

 

「6人か……思ったより少ないな。まあ、ズーラーノーンの情報を得るには十分な人数だな。」

 

「ナーベラルが張り切って沢山黒焦げにしてしまったでありんす。私も2人ほど逃げられそうだったので殺してしまったでありんすが……」

 

「そうか‥‥オマエが手に掛けたのなら凄い死に方をしてるんだろうな……」

 

「そうでありんすね。一人は頭から股下まで爪で真っ二つに、もう一人は腹を切り開いて内臓祭りでありんす。よろしければ御覧に為られますか?」

 

「……いや 良い。そういう死体は冒険者モモンと仲間達が手を下したには相応しくないしな……持って帰ってエントマへのお土産にでもしなさい」

 

「解りましたでありんすえ。エントマ喜ぶでありんしょうなあ~」

と言いながらさり気なくモモンガとの距離を詰めたシャルティアはモモンガの足下にある死体に気づいた。

 

「? モモンガ様、これはなんでありんしょうか?」

 

「ああ それでオマエに来てもらったのだ」

 

「はい?」

 

「コレを回収してナザリックに持って帰り、ペストーニャに蘇生魔法を掛けてもらって生き返らせてくれ」

 

「はい」

 

「で、生き返ったらヘタに拷問や尋問魔法を掛けたりせずにパンドラズアクターにタブラさんに変身してもらいコレの脳を喰わせろ」

 

「ブレインイーターの能力を使って情報を引き出すんでありんすね」

 

「うむ で、パンドラズアクターが咀嚼し終えて書き出せるだけの情報を書き出した後、実験がてら脳の無いコレに再びペストーニャに蘇生魔法を掛けさせろ」

 

「んふ! 生き返らせて殺してまた生き返らせるのでありんすか! ジュルッ、た、楽しそうでありんすえ!」

 

「でだ、一応コレはこの世界では『英雄級』の傑物らしいからな。勿体ないし、オマエの眷属にせよ」

 

「そして今度は人間としての命を奪う!? こ、これは……堪らないでありんす……」

 嗜虐趣味のシャルティアは何故か股間を押さえる様に蹲ると赤い目をギラギラさせてヨダレを流し始めた。

 

「かなり深めの眷属にせよ。その状態で再び情報を聞き出して、パンドラズアクターとの情報の整合性と正確性を比べるのだ。またアンデッドになった後も、スレイン法国の尋問防止魔法が効果あるのかどうか知りたいしな」

 

「解りましたでありんす。で、モモンガ様……それらの役は是非ワタシに……」

 

「勿論だともシャルティア。それらをオマエの責任と監修の下に行う事を許そう。楽しむが良い。オマエのペットにした後も屈辱と恥辱を与え続けるが良い。聞き分けがない様なら恐怖公の元に送り、回復力とのバランスを取りながら死ねない体を貪り食わせれば大人しくなるだろう。ああ、無論コレはオマエのオモチャだから好きに遊べば良い。いつも縁の下の力持ちとして頑張ってくれているオマエへの労いの品だと思ってくれ」

 

 主人の言葉を聞いていたシャルティアは途中から気絶をしそうなほどに感激した。

 愛しい方に認められ、頼られ、そして御褒美まで頂けることに。

 

(そばに居られるナーベラルやユリも羨ましいけれど、ワタシがいつも美味しい思いをしている気がするでありんす~)

 

そう思いながらウキウキとゲートを開きモモンガに一礼するとクレマンティーヌと呼ばれていた残骸と供にゲートの奥に消える。

 

 

 ……今回は、『モモン』の名声を一気に高め、地下組織ズーラーノーンと最大の障害だと考えるスレイン法国の2つの情報を手にする事が出来た……そして……とモモンガは自らの手を見る。汚れ無き白い骨だが、今は血塗られた手に見える。いつかはこうなると思っていたし、同時に部下だけに手を汚させている事に対して後ろ暗い気持ちでいた。だから、これで良い。そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 子供達よ……これからは私も一緒だ。共に血塗られた覇道の道を征こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の中から子供のように泣きじゃくる女の子の声が聞こえる。

 前を歩くセバスがそのドアをノックしなければ、モモンガとしては、もう少しこの廊下で心を落ち着かせていたかった。

しかし、ドアは無情にも開かれ、中には女の子用の寝巻きを着たニニャがユリ・アルファの胸に抱かれて泣き続ける。

 

 痛ましい……と素直にモモンガは思った。「シルバープレート」になるまで共に冒険をし、そして自分を庇い死んだ3人の仲間を思うと涙が止まらないのだろう。自分だって、あの40人が同じように死んだら泣くだろう……今なら守護者達が居なくなったとしても悲しみに暮れる気がする。大切なモノが増えたからと云って、昔の大切なモノが消える訳ではない。

 

 モモンガが入室し目配せをすると心得ているユリとセバスは退室し、ニニャと二人きりになる

 

「ニニャ……すまない。」とモモンガは頭を下げる

 

 突然の出来事にニニャが驚いて涙が止まる。

 

「そ、んな……モモンさんが謝ることなんて……むしろペテル達の仇を討ってくれたと聞きました。有り難うございます」

 

「いや 君しか助けられなかった……それが逆に君を苦しめているのでは無いかと思ってね」

 

「……いえ、そんなことは……」と言ってニニャは顔を伏せる

 

「今は良い。今は心も体もゆっくりと休めてほしい。君は一度死にかけたのだから」

そう言うとニニャはクレマンティーヌの非道を思い出したのか恐怖に自分の体を抱きしめて震える

モモンガはわざとニニャが見える位置に手を持って行ってからゆっくりと顔の位置に移動させていき、ニニャの頭を優しく撫でる。

 

「っあ……」

 

「ニニャ 良く頑張ったな、偉いぞ。……ありがとう、生きていてくれて」

 モモンガがそう言いながらニニャの頭を撫で続けるとニニャは「えっうっ……」と嗚咽しながら布団のシーツを握りしめる。

 

「有り難うございます……本当に有り難うございます助けてくれて……。一体どれほどの御恩を頂いたことか……」

 

「良いんだ。気にするな」

 

「でも金貨8枚分もする高級ポーションを沢山使って頂いたとリィジーさんから伺っておりますし……」

 

「あの人も余計なことを……。そうだな ではニニャよ そういう恩を返さないと心苦しいと言うならいくつか提案をしても良いか?」

 

「? は、はい。どんな事でも大丈夫です。恩返しをさせて下さい。」

 

「では、まず1つ。我々にはまだチーム名が無いのは知ってるな?」

 

「はい」

 

「私が敬意を払うに値すると思っているチーム名「漆黒の剣」を頂いても良いかな?」

 

「えっ!?そんな……ただのシルバープレートチームですよ?」

 

「ニニャ……『ただの』では無い」黒騎士は首を振る

 

「…はい…はい…有り難うございます」

 

「ただ『漆黒の剣』だと、やはりそれは君を含めた彼らのチームだという思いが私にも強い、だから『漆黒』の文字をもらっても良いかな?」

 

「はい…きっと彼らも喜びます」

 

「では我々はこの時からチーム『漆黒』だ。次にだが……この後のことはどうするか決まっているのか?」

 

「……そうですね 一応、第二位階のマジックキャスターですから、どこかの冒険者チームに入れてもらえるとは思います……。ただすぐに冒険に出るのはまだ怖いかも知れませんから、一度田舎に帰ろうとも考えています」

 

「そうか それで2つ目の提案だが……チーム『漆黒』に入ってくれないか?」

 

「えっ!? な、な、なにを仰っているんですか?」

 

「そんなに驚くことかな?我々はこの国の事で知らないことが多すぎるし、君は博学で頼りになる。そもそも『漆黒』の名前は『漆黒の剣』からもらうのだから、『漆黒の剣』のメンバーである君が入るのはむしろ自然だと思うが。」

 

「いやでも……私と皆さんでは実力に開きがありすぎます。足手まといにしかなりません」

 

「いや 君が必要なんだよニニャ 私はユグドラシルの情報探索のために、なかなかチームで活動出来ないんだ。うちのチームのマネジメントが出来る人が居てくれると本当に助かるのだ。それに君のお姉さんを捜すにも我々と共に居た方が良いと思う。」

 

「っ 命の恩人にそこまで言って頂いては断るすべを私は知りません‥‥では頑張って足を引っ張らないように精進させて頂きます」とニニャは深々と頭を下げる。

 

「ああ よろしく頼む」

 

「ただ……こんなに身の振り処がトントン拍子で決まってしまうと、なんだかペテル達のことを忘れてしまいそうで怖いです」

 

「いやそれは違うよ。ニニャ。自分の心の中の部屋数が増えるだけで、前にいた住人を追い出す訳じゃないんだ。私たちも君にとっての大切な何かに成りたいとは思っているが、それは彼らを追い出して居座りたい訳じゃないんだ。彼らを大切なままで私たちと過ごしてくれれば良いんだよ」そう言うとモモンガは先程とは違いやや乱暴にガシガシとニニャの頭を撫でて立ち上がり部屋を出て行こうとする。その後姿にニニャが声を上げて留める。

 

「あの‥‥仲間にして頂けるのでしたら、もう後悔したくないので幾つかお話しておきたい事があります。」

 

「‥‥ああ 聞かせてもらおうか」

 

「私が女である事はもうお分かりの通りですが、実は『ニニャ』という名前も本当の名前では有りません」

 

「ほう」

 

「姉の名前が、『ツアレニーニャ・ベイロン』と云うので、そこから名前を捩りました。本当の名前は…セリーシア、セリーシア・ベイロンと言います」

 

「そうか どちらも君で在ることに変わりはない。君は私達の仲間だ。いつか私の秘密も君に話したい」そう告げるとモモンガは立ち上がり部屋を出る。

 

 

ニニャはモモンガが出て行った後も長く、長くその広い背中に頭を下げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、モモンガが宿屋の客室でゲートを出そうとしたとき、不意にユリ・アルファに手を掴まれる。

 

「?」

 

ユリにこうして手を掴まれるのは初めてだ。一体どうしたというのだろう?

ユリは「こちらへ‥‥」とモモンガと手を繋いだ状態で嫋やかに部屋から出て階下の酒場へと階段をモモンガをエスコートして降りてゆく。

 

 どこへ‥‥?と戸惑うモモンガを、ユリはセバスとナーベラルが着座する酒場で一番大きなテーブルへと案内する。

モモンガが来ると、彼らは座ったままで「お疲れ様でした。」と挨拶をした。

 

「モモン様‥‥御席にお着き下さい」

 

「あ、ああ‥‥どうしたんだ?ユリ」

 

「では、遅くなりましたが、只今より『ウチアゲ』を開催させて頂きます!」

 

「セバス‥‥オマエたち‥‥。」

 

その4人だけでは大きすぎる楕円形のテーブルの上には8人分のグラスと皿が置かれていた。

「そうか‥‥彼らの席も用意してくれたのか‥‥。」

 

「モモンガ様も彼らも、お召し上がりになれないのが残念ですが‥‥」

 

 モモンガは静かに首を振りながらも優しい目で自慢の我が子たちを見渡して告げる

 

「ふふふ 良いのだ。知らないのか? 私は宗教上の理由で殺生をした日は断食して悔い改めねばならんのを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

アルベドからの仕事報告で上がってきた地図が完全に俺が歩いたところばかりなのだが‥‥しかもやたら詳しい。

なんだよ アイツは俺のオートマッピング機能か何かか? 

‥‥今まで遊んできたRPGのオートマッピングがゲームの中のヤンデレの神様の仕業だったらどうしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

ボツ案

 

クレマンティーヌ退治の後、約束の酒場にて

 

 

「モモン様‥‥席にお着き下さい」

 

「ん?どうしたんだナーベラル」

 

「では、遅くなりましたが、只今より打ち上げを開催させて頂きます!」

 

「セバス‥‥オマエたち」

 

「さあ ナザリックの誇る料理人の腕を存分に味わって下さい!」

 

「まずはオールオニオンのスープで御座います。」スッ

 

「二皿目はヴィルゾフのフォアグラのポアレで御座います」スッ

 

「三皿目はピアーシングロブスターでございます」スッ

 

「四皿目はメインディッシュのヨトゥンヘイムのフロストドラゴンのステーキで御座います」スッ

 

 

 

「違う これは断じて打ち上げでは無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボツ案 2

 

「あっ ちょっと!魔獣を置いていかないでくださいよっ!恐いですって!食べられちゃいますよ!」

 

「ええっ 拙者を食べるので御座るか?!確かに若い雌肉でござるから柔らかくてジュウシーだとは思うでござるが‥‥」

 

「いや そういう意味じゃないです」

 

「そういう意味じゃ‥‥はっ そんな!集団で多人数のオスに食べられるということで御座るか?薄い本みたいに?!」

 

「性的な意味でもねえよ」

 

 

 

 

 

 

 




 






244様 yelm01様 まりも7007様、knit様、誤字脱字を修正して頂き誠に有難うございます


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第三章七編 プレイヤー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓の執務室で、モモンガはスレイン法国の特殊部隊に居たクレマンティーヌから、数々の方法により抽出された報告書を食い入るように読み漁っている。

 

 

『六大神』 600年前に異世界より舞い降りた6人の神。その血を引き、能力を覚醒させた人間をスレイン法国では「神人」と呼ぶ。

 

『八欲王』 500年前に異世界より失墜してきた神。瞬く間に大陸を支配し、仲間割れと竜王との争いによって滅んだ。彼らの拠点が砂漠にある空中都市である。

 

『十三英雄』 200年前に異世界より来訪してきた神々。

実際は13人以上いる。実は亜人種も含まれているが人間である13人だけが伝説として語り継がれている。

 

『魔神』 200年前に世界を荒らし回り、十三英雄によって封印された存在。その正体は六大神の死後暴走した彼らの従属神達である。

 

 ……ついに、ついに、ユグドラシルのプレイヤーだと思われる者達の情報が入手出来た。

彼らの残したアイテムや魔法、召喚した天使などから、間違いなく彼らはユグドラシルのプレイヤーであり、私と同じようにギルドごと転移して来たのだろう。

オーバーロードも歩けば棒に当たるとは良く言ったものだ。

ただ プレイヤーの存在は過去の歴史として解ったが、プレイヤーに作られた国っぽいのに思ったより情報が少ないのが残念だ。

 パンドラズアクターとシャルティアの尋問によると クレマンティーヌは、どうやら漆黒聖典として迎えられてから座学などで一般教養レベルよりも深く、国の秘密なども教えられていたのに、やさぐれていてサボりまくった結果、殆ど歴史学などの事は覚えていないらしい。ちなみに『ユグドラシル』という言葉すら知らなかった。

なるほど……こいつは井の中の蛙を地で行くタイプだったんだな……そりゃあんなに増長するよな。プレイヤーの事など知っていたらあらゆる可能性から、もっと慎重に行動したかも知れないが……。と言っても「漆黒聖典隊長」「番外席次」という『神人』と呼ばれる強者の情報が入ったのは有り難い。

 

……さて 問題はこのプレイヤー達が、俺と同じように『ユグドラシル』サービス終了に伴い転移させられたのか、それともその前から定期的に転移させられたのか……。100年毎に1ギルドずつ現れるってのが気になるな。今回は俺だけという事なのかな?

そして、プレイヤーを『神』としているわけだから、「従属神」というのはNPCの事だろうか? 俺が居なければナザリックと階層守護者達だけが転移してきて同じように暴走し魔神と呼ばれていたのかも知れないと考えると、自分も転移されたことにホッとする。

 

その他にもクレマンティーヌのお陰で謎多きスレイン法国の全容が、かなり掴めた事は意味がある。

今までは法国人ならだれでも知ってる一般常識止まりだったのが、史学などに精通してないまでも現在の内部情報がタップリと手に入ったのは有難い。

土、水、火、風、光、闇の巫女達とその役目‥‥最強部隊漆黒聖典の各メンバーとその強さ、装備、戦い方など。そして秘密兵器、番外席次『絶死絶命』と呼ばれる六大神の血を呼び起こした「神人」。

 

「神人」か……つまり600年前に転生してきたプレイヤーの血族で覚醒せし者。コイツらはもしかしてユグドラシルレベルで100レベルの強さ、もしくはそれ以上の可能性もあるかも知れないな。要注意だ。

 スレイン法国は人間種以外を排除していることから当然、『六大神』や『神人』も「ニンゲン」種だと考える所だが、実は「スルシャーナ」とは六大神の一人でありながら、骸骨姿のアンデッドだったらしい。という事は、死なないまま、今も生きているのかな?と期待したものの、

「100年後に現れた八欲王に襲われて何度も何度も殺され続けて死亡した」という説と「追放されて行方知れず」という説が二つあり、後者の「説」を信じる人は現人神としてスルシャーナを信仰する人々も居るらしい。

 

……「何度も殺された」というのは殺されては復活して、ペナルティによるドレインでレベルが「5」ダウンし、そしてまた殺されて復活して、ペナルティドレインでレベルが「5」ダウンを繰り返して「0」になり消滅した。という事だろうか?……まてよ?これ、普通に考えると「スルシャーナ」の味方側の者が「スルシャーナ」を復活させている……と考えるのが当然だが、例えば「スルシャーナ」を「殺している側」の八欲王が「殺す」のでは無く「完全消滅」を目的として、殺すたびに低位の蘇生魔法で敢えて復活させてレベルドレインを繰り返していたとしたら?

 

 ‥‥‥ありうる。

 

 その考えに至った時、モモンガは、そして鈴木悟は反吐が出る思いに全身を震わせて、ゆっくりと輝く我が身を見た。

今更‥‥という思いもあるが、なんだろう、同じリアルの世界を生き、そしてゲームの世界へと移転する様な境遇の仲間じゃないのか?

スルシャーナは「八欲王」と呼ばれる者達が飛来したとき歓んだんじゃないのか?「ああ、自分の本当の世界の仲間が来た」と、人間種をキャラメイクの時に選んだばかりに自分を置いて死んでゆくギルドの仲間たちを見送りながら。

 

何故なら、自分もそうだから‥‥‥残された‥‥という意味でだが、その気持が解ってしまう。

そして、100年もの月日を経てあらわれたプレイヤーが「八欲王」だ。

 

こいつらは弱者ばかりの世界で、唯一、自分たちの脅威になりうる「スルシャーナ」を完全に消滅させるまで殺し尽くしたのだ!同じ人間をだ!本当の意味での同族をだ!何故そんなことが出来るんだ!? そして結局、最後はドラゴン族との戦いと、仲間割れで殺しあい滅んだという‥‥‥クズには相応しい最後だな。

 

‥‥‥いや 待てよ

 

そもそも「スルシャーナ」という人外の神を崇めていたスレイン法国が何故、今は異形種キラーマシンになっているのだろうか? 六大神の出現から八欲王の登場まで100年‥‥スルシャーナという強く目障りで恐怖でもある存在を法国の一部、例えば、その時の六大神の子孫達が疎み、「八欲王」に協力した‥‥とか?だとすると暴れ放題だった八欲王の後にも「スルシャーナ」を擁して戦ったはずのスレイン法国が存在する理由にはなるな‥‥ふむ。

 

こうなると前者の「何度も殺された」という具体的な説の方が意味があって正しいんだろうな‥‥。「追放された説」は自分たちの神様が殺されるという屈辱から逃れるための言い訳か、もしくは神殺しに手を貸した事を隠蔽するためか。正直、話の分かるやつなら是非、生きていて欲しい。同じエルダーリッチ系かも知れないから仲良くなれそうだしな。

 

 まあ どっちにしろ「八欲王」はクズ 解ってんだよね

 

さて ズーラーノーンと邪神教団の関係性なども実に興味深いな。実はここにもスルシャーナが出てくるんだよな。

同じ骸骨なのに大人気だなアイツ。 正直少し羨ましい。

 

 

さて‥‥‥これからは私よりも優秀な彼らにある程度『事情』を話して一緒に考えてもらうしかないだろう。

支配者たらんとして虚勢を張り続けて守らなければならない幻影などもう必要ないハズだ。彼らを信頼する。それが彼らの想いに応え、アインズ・ウール・ゴウンが羽ばたくための最も大きな力になるだろう。

 

モモンガは必要のない深呼吸を二度三度繰り返す

そして 彼らとの交流、彼らの顔を目の前に浮かべると覚悟を決める。

 

よし、メッセージだ‥‥‥。

 

 

『アルベドよ デミウルゴスとパンドラズ・アクターを伴って執務室に来て欲しい。話し合いたい案件がある。』

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやはやいやはや……なんという凄いお話だったのでしょうか、今回のモモンガ様のお話は。

 

 デミウルゴスは悩ましげに、そして嬉しそうに腕を組みながら第七階層へと続く廊下を歩く。その指には「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」が大事に填められており、本当なら一瞬で自分の守護階層へ戻れるのであるが、主人に呼ばれた時はお待たせしないためにリングを作動させて瞬時に馳せ参じるが、帰りはゆっくりと至高の御方が造って下さったナザリックを味わい踏みしめ、感謝しながら第七階層へ戻るのがデミウルゴスの常であった。

 

「リアル」という名の世界と「プレイヤー」という存在。 今まで、あやふやなままで認識していた概念を定義づけて下さった。これは本来なら下僕ごときが知るべきではない程の智見である事は確かである。

しかしながらモモンガ様は「これはオマエ達、ナザリックの3首脳だけでも正しく認識しておくべき事である」と仰って下さいました。

まず、元々の世界ユグドラシルには「元々存在したモノ達」、「至高の御方により造られた私たちの様な存在」、そして「プレイヤー」と呼ばれる至高の方々たちの3つで成り立っていた。

「プレイヤー」は元々「リアル」と呼ばれる世界の住人であり、「リアル」と「ユグドラシル」を往き来していた。

 しかし「プレイヤー」にとっての本来の住処である「リアル」という世界での戦は至高の御方を以ってしても非常に厳しい物であり、しかも敗北すると復活が出来ない「死」が訪れるため、皆「リアル」での戦いに身を窶すしか無く、「ユグドラシル」へと来ることが出来なくなってしまったというものでした。

 

 思い起こして見れば、我が造物主たる「ウルベルト・アレイン・オードル」様も「リアルでの戦いが辛い……」とモモンガ様に嘆いておられた事が多々ありました。

 そんな時でもモモンガ様はウルベルト様の悩み苦しみを穏やかな顔で聞き続け、アドバイスなどを送って下さっておりました。あのころから本当にあの御方は‥‥‥慈悲深き御方で御座います。

 そして今回分かったのは、我々と同じように「ユグドラシル」から100年毎に「この世界」へと移転を繰り返す「プレイヤー」が居る。 モモンガ様が仰るには「ギルド」ごとの移転をしている様です。それを伺った瞬間アルベドと目が合いました。きっと彼女も考えたのでしょう。ギルドだけで移転してモモンガ様がおられない状況や、モモンガ様だけが移転して我々がおそばにお仕えできなかったという可能性の恐怖を。

そして、「プレイヤー」の存在こそが我々ナザリックに取っての剣呑な案件であると云うこと。確かに敵対勢力にモモンガ様の様なプレイヤーが複数人居たとしたら……。

 我々がどれだけモモンガ様をお助け出来るか……しかし前回の様な1500人という馬鹿げた相手では無いのでオマエ達でも充分対処できるとモモンガ様は仰って下さいましたが……。

 

 そうした時にアルベドが「私にルベドとシャルティア、パンドラズアクターをお貸し下さい。プレイヤーなるものは放置するに危険と見ます。探しだして葬るべきでございます」と提案しましたが、モモンガ様に即時却下されてアルベドは涙目になってました。ですが、モモンガ様より頭を下げられて「それは最後の手段に取っておいてくれないか?全て手を尽くした後にそう判断せざるを得ない時は覚悟を決めよう」と仰られたからには我々守護者としては承服の返答しかございません。

 

‥‥‥しかし、あの「いと強き至高の御方々」でも命がけで戦い続けになられるとは「リアル」とはどれほどに修羅の世界なのでありましょう。 そしてその修羅の世界をも捻じ伏せた上で、我々の世界「ユグドラシル」にてナザリックを運営し、支配し続けて下さったモモンガ様の手腕たるや!まさしく至高の方々を束ねるに相応しき妙妙たる御方で御座います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの墓地 並んで建てた3つの墓。その十字架の真ん中の窪みには漆黒の短剣が埋め込まれている。

同じ漆黒の短剣を腰に差した中性的な女性が長い祈りを終えて立ち上がり、祈りを捧げている間ずっと待っていてくれた相方が話しかける。

 

「もう‥‥良いので御座るか?」

 最近まで『森の賢王』と讃えられていた魔獣は円らな瞳を輝かせながら彼女を待つ。

 

「ふふ お待たせしました。では行きましょうか」

 彼女、ニニャは「エ・ランテル」を旅立つ。

 その警護として、モモンに派遣された旅の友がハムスケである。

 ハムスケは「よっこらしょ」と言って奇妙な形のバックパックを背負う。この中には水や食料、テントが入っているが、それ以外に大きな役割りを果たす。この旅は割と長くなるため、警護+乗り物としてもハムスケには働いてもらわねば成らないのであるが、「見た目と違って固い毛で座るの辛い、太ももと腕もパンパンになります‥‥」というニニャと「鞍はいやで御座る。拙者は馬では御座らぬゆえ」という2人の意見の衝突の結果、ハムスケにバックパックを背負ってもらい窪みに柔らかいクッションを縫いつけてニニャが座りやすくなるように仕上げた。

実を言うとニニャも譲り合った妥協点の様な現状ではあるが、本当は鞍よりも楽な上に座り心地が良く本来のハムスケの飼い主よりもハムスケに乗るのが好きになっていた。

 

「ごめんね。ハムスケ。モモンさんしか乗せたくないでしょうに」とハムスケに騎乗したニニャが謝る。

 

「いやいや、構わないで御座るよ。殿の命でござるし、ニニャ殿の知恵と知識には学ぶべき事が多いで御座る」

 

「ふふ 有り難うございます。ハムスケは博識で話していると僕も楽しいですよ。」

 

「それは何よりで御座る……ところでニニャ殿は、これからも男装で行くので御座るか?」

 

「……そうですね 一人の時は身を守る必要があるし、これから行くのは何と言っても帝国領ですしね。」

 

 そう ニニャはこれからハムスケと供に帝国領に行く。それはニニャがモモンに「チーム『漆黒』のメンバーとして相応しくなるために最低限『第三位階』の魔法詠唱者になりたいです。」とお願いしてナーベラルに弟子入りするも「こう……頭でロックオンしてバチーーンって感じで……」(ライトニングの説明)とか「体の表面にマナを集めてバヒョーンという感じで飛ぶの」(フライの説明)などと擬音語ばかりで全く魔法指南役として不適合者であることが解り、かといって忙しく、冒険家業もセバスさんに預けっぱなしのモモンさんに教えて頂くのも難しい。そんな時にモモンが「帝国にあるという魔法学校に入学できないのか?」と言いだし始めた。

 

「いや……さすがに敵国であるリ・エスティーゼ王国民は入れないんじゃないですかね?」と伝えると

 

「でも冒険者組合は『戦争不介入』という事もあって王国の冒険者や帝国の冒険者も普通に依頼や指名とか行き交うと聞いているが……例えば『依頼のために必要な第三位階の魔法がある』とか理由をつけて向こうの冒険者組合から働きかけてもらうとかどうだ?」

 と提案してもらったけど、「魔法学園が帝国立でなく、私立であれば行けたかも解りませんが……」と渋い顔をして答えた。

 

「ふむ……分かった。その件は何とか働きかけてみよう」

 そうモモンさんが言った5日後に「入学は無理だが、研修という形で1ヶ月ほど授業に参加出来る様になった」と話してくれた。

 

「え!?」

 

「あと教科書や参考書も貰えるように様になったから」

 

「え!?」

 

「上位成績者だけが参加出来るフールーダ・パラダインの特別講義にも出られる様になったから」

 

「え!?な、な、なにがあったんですか?」

 

 帝国魔法学院の長い髭の学院長が、スルシャーナを信仰する邪神教信者で、スルシャーナのフリして毎晩枕元に立って耳元で囁き続けたとかは言わない。

 

 もちろんモモンガとしては魔法を使えない下僕に魔法を教えたら覚えられるのか?など試したいので、ニニャが帝国のちゃんとした魔法の教え方を学んできてくれるのは有り難いのだ。なにせナーベラルがそうであるように、自分も「魔法をどうやって使っているのか具体的に説明せよ」と言われても「始めから使える状態で生まれたから……」としか言えず、ちゃんとしたステップで魔法を学び、尚かつ帝国のように才能はあるが素人同然の状態から「座学」「鍛錬」「実践」という過程により魔法を身につける方法を学んでくれるのであれば非常に有り難いという算段がある。まあ、ついでに帝国の様子を現地人目線で見てきてくれると嬉しい。

 モモンガから言うとそんな軽い感じであるが、それらを用意立ててもらったニニャからすれば幸甚の思いで一杯であり、あの命の恩人である英雄が、自分の「第三位階になりたい」という我が儘を聞いて骨を折って整えてくれた環境である。なんとしてでも成し遂げたいという決意を持つのはむしろ自然であった。

 

 

「では行くで御座るか」

 と帝国領のある方向へ向けて、ニニャを乗せて歩き出そうとするハムスケをニニャは押しとどめる。

 

「あっ まず始めに僕の田舎によって欲しいのですが」

 

「そうなのでござるか?」

 

「うん、モモンさんが僕が帰ってくるまでに〈ロケート・オブジェクト/物体探索〉のスクロールを用意して待っていてくれるって言ってたから、田舎に置いてきた姉さんの手作り人形を取りに寄ってから帝国に向かって欲しいんだ」

 

「なるほど。了解で御座るよ。では、ニニャ殿?忘れ物はないでござるかな?」

 

「はい 大丈夫です。着替えに携帯食に水、地図と紹介状と日記に大量の羊皮紙、先ほどモモンさんに頂いた連絡用のスクロール20枚と何冊かの本‥なのかな?手書きっぽいけど……ルソー著『社会契約論』『民主主義概論』?なんだろう‥‥この本?」

 

「どうしたので御座るか?ニニャ殿」

 

「いえ 大丈夫です」

 そう、きっとモモン様なら、あの『漆黒の英雄』が奨めてくれる本なら何かワタ‥‥ボクにとって意味があるハズだ。

 そう考えたニニャは嬉しそうに手書きの本の表紙を撫でる。

ふふ でも世間では『漆黒の英雄』だなんて言われているけど、本当は『光の英雄』なのに。

 でも、これは身近なボク達だけの秘密にしておこう。だってモモンさんの事を知らない人達には勿体ないんだもの……。

 

「じゃ 行こうか!ハムスケ!」

 

「はいで御座る~」

 

 

 

 こうして、ニニャとハムスケの旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「まさしくモモンガ様は煌々たる支配者にして凄まじい御方でございます」

 

「よせよデミウルゴス」

 

「40人の至高の御方が『リアル』の世界にて生死を賭けて戦っておられる中で、モモンガ様は毎日欠かさず「ユグドラシル」に来られる余裕っぷり」

 

「え?」

 

「『リアル』では嘸かし獅子奮迅の御活躍をされていたのでしょうね。」

 

「ち、ちが……」

 

「もしやアルベドやシャルティアにつれない素振りなのも『リアル』にて奥様やお子様がおられるのでは?」

 

「‥‥‥。」

 

「やはり『リアル』の世界でも『魔法使い』だったのでしょうか?」

 

「うわあああーーーん」 ボカーッ

 

「イタッ」

 

「デミすけのアホー オマエの瞳は百万カラット!」 たたーーっ

 

「も、モモンガ様……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













 
 
 
ゆっくりしていきやがれ様 誤字脱字修正有り難う御座います


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第四章一編 凝縮される四巻とコキュートス

 

 

 

 

 

絶望とは、闘うべき理由を知らずに、しかも、まさに闘わねばならないということだ

            

               アルベール・カミュ

 

 

 

 

 

 

 

アルベドから「より強いアンデッドの作成として近場の蜥蜴人を狩ってはいかがでしょう?」という提案が出されたのは随分前になる。

それよりも、この世界の情報を得ないまま動くことに危険性を感じていたからだ。

しかし 例の「トモダチ作戦」への足がかりとして私が考える第一歩としてちょうど良い橋頭堡となるので蜥蜴人の村の制圧を計画したのが先日だ。基本的に指揮官のエルダーリッチ以外は自動的に湧き出るモンスターで構成されているので失敗しても問題ない軍隊であり、司令官を「コキュートス」にして侵攻させた。

戦闘時の司令官として優秀なデミウルゴスでも、優秀な統率力を持つアルベド、パンドラズアクターで無く敢えてコキュートスであるというのは実は大きな意味が在った。

 

コキュートス自身が戦うとアッサリと終わってしまうために、本人は戦闘区域に行かずに、指揮官に指示を出すという間接的な司令官であるが、今まで黙々と第五階層の守備についていた自分が、攻撃手として至高の御方のお役に立てる日が来たのである。コキュートスは喜々として自信満々に蜥蜴人部族連合との戦闘に臨んだ。

 

 そして コキュートスは敗けた。

 

「栄光あるナザリックの名に泥を塗った」として責めようとした守護者も居たが、それ(勝敗)についてはどうでも良かった。なぜならコキュートスは負け戦を自己分析し、理由の発見と「次、どうすれば負けないか」についてシッカリと考える事が出来たからだ。これにより、次にコキュートスに同じ様な命令が下った時、きっとコキュートスは「敵を侮らずに慎重に行動」し「相手の知識や地形などの情報を事前に考慮」し「指揮官と敵と味方の戦術を考慮」の上で戦闘に赴くだろう。

これはすでにカンストLevel100のコキュートスが『経験』により更に成長を成し遂げたと云うことであり、タダ同然のポップアップモンスターの消費なぞお釣りが出るくらいに素晴らしい出来事だった。

そして二度目の戦いではコキュートス自ら出向き蜥蜴人の部族長からなる決死隊を堂々と退け、蜥蜴人部族連合を降伏に追い込んだ。

更に、その時のコキュートスに死ぬまで武器を振るい続けた蜥蜴戦士数人を「死ナセルニハ惜シイ者達」として蘇生の懇願をするなど、1つの戦がこれほどコキュートスを成長に導くとは‥‥‥コキュートスは、まさに武人であるといえよう。

 

また、この第二戦を守護者の皆とともに観戦する際に出されたデミウルゴスお手製の「骨で作られた椅子」には驚いた。

実はこの時、アウラとマーレに頼んでいた、第2ナザリックとでも言うべき建設中の拠点に初めて入ったのだが、まだ完成度4割と言った感じの拠点内の玉座の間に「骨の椅子」が鎮座していたのだ。どう考えても自分用である事に慄然としたが、守護者が私のために用意してくれた物を使わない手は無いのだが、明らかに人骨も混じっており、気持ち悪さが半端ではない。というか半端なアンデッドの自分には厳しい拷問器具だと云える。

 

 ないわー これは、ないわー 

 

小声で「ゴツゴツしてるな‥‥」と呟いた瞬間、アルベドが「私が椅子に直接座りますので、モモンガ様は私の膝の上にお座り下さい!」と超反応し、シャルティアが一瞬「しまった!その手があったか!」という顔をしてから「いえ!是非ワタシの上に!」と急に守護者によるリアル椅子取りゲームが始まったのには閉口したが‥‥いつもなら止めてくれるデミウルゴスも自分の傑作を取り合いになっている図に満更でもない顔で「ははは アルベドにシャルティアも よさないかね?」とか笑顔で注意してたな‥‥‥アウラが凄いジト目で引いてたけどな。マーレは羨ましそうにしてたけど、アウラの視線に気づいて参加をキャンセルしてくれて良かった。色々と。刺さったらどうする。

 

さて 豪快に話が逸れたが、守護者達の中で、最も異形種達の支配者に適格なのはコキュートスでは無いか?と私は思っている。

それは、アライメントが守護者の中で唯一「中立」であるからと、見た目で解りやすい強者であること、そして彼の「武人」としての竹を割った様な解りやすい性質によるものである。

・中立であると云う事は『公平』であると云うこと。

・解りやすい強者と云う事は『逆らえない相手』であり『自分たちを守ってくれる頼もしい存在』であるということ

・そして彼の武人としての性質は『仁・義・礼・智・忠・信』という、異形種に取っても解りやすい美点だと云うこと

 

これは支配される側としては非常に理想的な資質であると云える。

流石に人間相手だと齟齬があるだろうが、人間以外のリザードマンであったり、トードマン部族、オーク部族、ドワーフ族、ビーストマン族など多岐にわたる。この世界では人間は決して生存競争の覇者たる存在ではない。

その多種多様な種族にとっての支配者に育って欲しいという願いが私にはあるのだ。

 

そして私はコキュートスの懇願を受け入れて「見処のある」蜥蜴人を3匹ほど蘇生した。これが実に良い結果に繋がった。

1つは彼ら実力主義の蜥蜴人にとって武人として最高峰のコキュートスは尊敬すべき相手であり、その支配を心より受け入れたということ。もう1つは彼らが武技を習得していたことだ。ザリュース・シャシャは「要塞(フォートレス)」が使えるという‥‥‥武技「要塞」と云えばペテル・モークも使っていた。割と戦士系にとっては必須かつ覚えやすい武技であろう。もしこれをコキュートスが使えるようになったら‥‥と考えると、今回の経験に依る成長と合わせて、NPC達は100レベルだとしてもまだまだ強くなれるという事であり、そしてもしかすると自分も‥‥という期待を抱かずには居られない。

 

さて‥‥と振り向くとアルベドが微笑みながら佇んでいる

ずっとニグレドと共に地図作成をしていたのだが、『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)』では見えない距離に達しつつあるのと、魔法障壁などで見えない箇所が増えてきたため、一時中断して実際に斥候を現地に派遣し、確認作業中と云うこともあって最近は執務室にて、一緒にパンドラズアクターからの報告書に目を通し相談をしたりしている。ただ時々、書類を凝視しているとアルベドの居る方向から「‥‥二人きり‥‥二人きり‥‥‥。」という呪詛の様な言葉が聞こえてきて怖かった。本人曰く、どうやら無意識に呟いているらしい。その度にアノ時の恐怖を思い出したモモンガによって小言を言われるのが決まりになっている。

 

「‥‥おい そこの前科一犯。解ってるんだろうなオマエ。またあんな事をしたら当分「地図の人」になってもらって執務室を出禁にするからな。」

 

「‥‥でも、モモンガ様から襲ってきた場合はセーフですよね?」

 

「いや、アウトだ。」

 

「それはヒドイ!」

 

こんな会話が日常化している。正直、こういう夫婦漫才みたいなやり取りを楽しいと思っている自分も居るが、絶対口に出してやらない事にしている。

 

さて では取り敢えず、アルベドに「コキュートスを呼んでくれ」と頼み、現時点での地図に目を通す。

 

「ふーむ やはり、このバハルス帝国の首都アーウィンタールで魔法障壁で覗けず未確認の箇所というのは皇帝の居城なのかな?」

 

「はい 仰せのとおりだと思われます」

 

「スレイン法国の魔法障壁はヒドイなしかし」

 

「そうですね。山や草原地帯を除いて人の住む多くの箇所で魔法障壁が張られております。特に『神都』と呼ばれる首都は殆ど覗けない状態ですね。」

 

「うむ まあ、クレマンティーヌにおおよその地図は書かせたから良いんだけどな」

 

「‥‥‥あの者、モモンガ様に刃を向けた者にあのような寛大な処置は如何なものでしょうか?」

 

「寛大な処置‥‥か?」

 

「ナザリックに歯向かった者には終わりのない苦痛を与え続けるべきかと。恐怖公の部屋とかどうです?」

 

「1回目は体が千切れるほど絞め殺され、2回目は生きながら脳ミソを食われながら死に、3回目はシャルティアに死なない程度にビンタだけを数時間され続けて心をポッキポキに折られて「ナニ」かに目覚めさせられ、その上で血を吸われて眷属にされて3回も命を奪われた上に、今は変態吸血鬼のもとでペットとして死ねないまま可愛がられ続けている事が果たして寛大な処置かどうかは意見が分かれる所だな。」

 

「しかし、あの者は‥‥モモンガ様に抱き締められております!それも強く強く!」

 

「え?」

 

「モモンガ様にあれだけ強く抱き締めて頂けるのでしたら私にとっては御褒美以外の何物でもありません!そのまま逝く事が出来れば本望で御座います!」

 

 コイツ‥‥それが言いたかったのか‥‥。

 

「魔法職の私ではレベル100であろうとも、最高の防御力を誇るオマエを抱き締め殺すなんて無理だと思うのだがな‥‥」

 

「まあ?!やってみなければ分かりませんわ?モモンガ様!検証してみましょう!」

 

両手を広げて、抱き締めてみ?抱き締めてみ?と腰の羽を折りたたんで体をクネクネと守護者統括は求愛のダンスを踊った。

 

モモンガは冷や汗をかきながら立ち上がって、アルベドからジリジリと距離を取り、執務室の机を中心にクルクルとアルベドを対角線上に置きながら周り続ける。意外に俊敏なオーバーロードがそこには居た。

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

「それで、だ。注意するのは法国だけでは無い。法国が最も警戒しているのは『破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の復活』と『ツァインドルクス=ヴァイシオン』というドラゴンだ」

 

「はい この世界にもドラゴンなんているのですね。」

 

「うむ 興味本位では見てみたい気もするが、どうせ強いんだろうし警戒が必要だな。しかもツァインドルクスは始原の魔法・ワイルドマジックを使うと聞く」

 

「八欲王がユグドラシルの魔法をこの世界の法則に無理やり当てはめるまで、この世界の理であった魔法‥‥のことですね。」

 

「うむ ユグドラシルの魔法とは違う性質ということは、我々の対魔法スキルや、対魔法装備が全く役に立たない可能性もあるからな。」

 

「‥‥それでは先手必勝でこちらから襲撃し亡き者にすべきでは無いでしょうか?」

 

「そうだな。ただ彼‥‥彼女か?ツァインドルクスは八欲王との戦いや十三英雄と協力しての魔神討伐など、割りと人間よりの活動をしているようにも思える。あくまで現時点ではだが」

 

「と、なりますと、ニンゲンの敵である我々とは何時か戦う事になるのではないでしょうか?」

 

「‥‥私は最終的には人間の敵になるつもりは無いがな」

 

「え?!そうなのですか?」

 

「むしろ ツァインドルクスとは仲良くやる事になるだろう 彼が望む世界の秩序と共に」

 

「‥‥‥私めにはその深遠なるお考えに至れずに申し訳ありません。我が身の愚を呪います」

 

「おまえの全てを許そう アルベドよ」

 

「それを考えましても、ツァインドルクスと敵対しており、尚且つ「異形種・即・斬」のスレイン法国は敵であると考えてよろしいですわね」

 

「まあな 彼らの一部が信仰するスルシャーナが私にそっくりらしいので、一度スルシャーナのふりして驚かせに行ってやりたい所だな」

 

「まあ お戯れを。」

 

「知りたいことが増えたのにスレイン法国について調べることが出来ないのがやっかいだな。クレマンティーヌの様に、内部に詳しい神官レベルのやつを捕らえる作戦でもデミウルゴスに立ててもらおうかな」 

 

「しかし彼の国は怪しい匂いが致します。命じてくだされば下僕とともに滅ぼして参りますが?」

 

「あの国は600年前にプレイヤーに依って建国された国だ。プレイヤーが所有していた強力なアイテムを受け継いでいる。その中にはクレマンティーヌの話から『傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)』という敵を操る秘宝をも所持しているという。考えたくないが、もしこれがワールドアイテムならばオマエたちとて抗う術はないだろう。そんな軽率な行動を取れば、『傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)』に乗っ取られて、私に剣を向けて立ちはだかることになるやも知れんぞ?」

 

「そんな?!私がモモンガ様に弓を引くなど!もしその様な悍(おぞ)ましい状況になるくらいであれば、私はどんな力にでも逆らって自らの頸を刎ねるでしょう‥‥‥。」

 

そう言うと、つらそうに唇を噛み締めたアルベドは閉じられた瞼よりスーッと涙を流し、哀しげに俯いた。

 

 

古来から女性の最大の武器は涙である。

 

しかも使用対象(獲物)がリアルの魔法使いであり、スナイパー(狩人)が絶世の美人(シモ・ヘイヘ)である。

 

モモンガは動揺し輝きながら震える手で、アルベドの肩に手を置く。

 

 

「すまぬ、意地悪な言い方だったな‥‥その‥‥アルベドが‥居なくなる、と‥私は‥‥寂し‥」

 

 

 ガチャ

 

「遅クナリ申シ訳アリマセン。第五階層守護者コキュートス馳セ参ジマシタ」

 

 

‥‥‥しばらくの間、目薬(アイ・ポーション)を握り締めたアルベドの声にならない絶叫がモスキート音の様に17000ヘルツで執務室に流れた。

 

その結果 蟲王であるコキュートスにはアルベドの「クゥオキィュウトゥオスゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ」という血の叫びがシッカリと聞き取れたため、恐怖とストレスで、ガチガチガチガチッと大顎を鳴らしながら耐えたが、何故呼ばれて来ただけなのに守護者統括は自分を呪い殺すかの様な目で私の名前を絶叫しているのか‥‥涙を流せる者が羨ましい、とコキュートスは心から思った。

 

アルベドは目薬を見つけたモモンガに「ていっ」と脳天にチョップを喰らわせられて「どこにあったんだこんな物?!」と厳しめの詰問にあっていた。

 

「ふう すまんコキュートス。わざわざ来てもらって。あと、なぜか待たせることに為って」

 

「イエ オ呼ビトアラバ即座ニ」

 

「‥‥? どうした? 先ほどから痛そうに跪いて両足を抑えているが?」

 

「ハッ 申シ訳アリマセン、大丈夫デス」

 

 虫の聴覚器官は、主に脚にあります。

 

「その後、蜥蜴人村の方はどうだ?」

 

「ハイ 彼ラハ強者ト認メタ相手ニハ心服スル性質ガアル様デ、恙無ク掌握シテオリマス。」

 

「うむ それは何よりだ。コキュートス、オマエはお前が思っている以上に統治者に向いている」

 

「恐レナガラ私ハ自分ヲ一振リノ剣デアルト考エテオリマス。統治ナドト難シキ事ハ私ノ手ニ余ルデショウ」

 

「いや それは違うぞコキュートス お前は言ったな?蜥蜴人の決死隊の彼らには輝く何かがある。と」

 

「ハイ ソノ通リデス。強者ニ怯マヌ心。仲間ヲ信ジヌク意気。ソシテ自ラヲ棄テテモ残サレタ者ニ託ス決意。彼ラニ輝ク何カヲ見マシタ」

 

「うむ その輝く魂を持つ者達がオマエにも輝く物を見たのだ。勿論、武人建御雷(ぶじんたけみかずち)さんによって創造されたオマエだ。自らを武人と律するのは当然であろう。だが、そういうオマエだからこそオマエに憧れ仕えたいと思うものがこれから無数に出てくると知れ」

 

「ハッ 誠ニ、誠ニ勿体無キ御言葉、有難ウゴザイマス」

 

「ふふ では私が口だけでオマエを褒めているわけではない事を証明しよう」

 

「? ハッ」

 

「この地図を見よ そうここだ。この土地をトードマンの部族が支配している。これをオマエ自らの編成と作戦により屈服させて制圧してみせよ。」

 

「オオ コレハ!」

 

「さあ 決めることは沢山あるぞ。解らない所はデミウルゴスと相談し、攻めるのに必要な人員や攻める日にちなど、決まったら報告してくれ」

 

「ハッ 全身全霊ヲ以ッテ、ヤラセテ頂キマス。」

 

「うむ 期待しているぞ、コキュートス。これが詳細が書かれた指令書だ。」

 

「アリガタク拝命致シマス。」

 

「よし では報告を待つ」

 

「ハッ」

一礼を取ってコキュートスは執務室を出て行く。

 

「ふう‥‥ ん?いつまで拗ねているんだ?アルベド」

 

「え?いえ そういう訳ではなく‥‥ソリュシャンからの報告書をチェックしているのですが‥‥」

 

「ふむ?ソリュシャンは一般市民の「若き女商人」という役で王都やエ・ランテル、エ・レエブル、リ・ボウロロールなど王国の都市部を渡り歩いているのであったな?」

 

「はい 今は『王都リ・エスティーゼ』にて冒険者稼業休止中のセバス達に資金を渡し、セバスからはスクロールや冒険で手に入れたマジックアイテムなどを受け取っている頃です。」

 

「ふむ その報告書はまだ読んでないな‥‥気になる部分を教えてくれ」

 

「はい 王都にてアダマンタイト冒険者である「蒼の薔薇」と面を合わせることがあったらしいのですが、リーダーのラキュースが持っている魔剣が以前、モモンガ様よりお問い合わせがあった『漆黒の剣』の一振り『魔剣キリネイラム』である事が判明しました。またメンバーの魔法詠唱者イビルアイに対して能力値のサーチなどが出来ない状態らしく『非常に怪しい』とのことです」

 

ふむ‥‥「漆黒の剣」か‥‥ペテル達にせめて握らせてやりたかったな‥‥ニニャだけでも、そういう機会があれば良いのだが。

モモンガは気づいていないが、実はニニャを含む「漆黒の剣」のメンバーに対して、こちらに来て初めて立場などの関係なく作れた知人であり、初めての旅の仲間であったことから本人が思っている以上に思い入れが強い。

このことをナーベラルなどは微妙に感じ取っていて、ユリなどに「モモンガ様は私などよりも、あの娘の方が可愛いのでしょうか‥‥」と愚痴る事も少なくなかった。その辺りはセバスやユリの方が正しく弁えており、「ニニャは「モモンさん」の友人であり「モモンさん」である時は私たちも「モモンさん」の旅仲間。「モモンガ様」の時は私たちはモモンガ様の配下であり、ニニャはモモンガ様の知らない一介の冒険者に過ぎない」と区別している。

 

「そうか‥‥蒼の薔薇の魔法詠唱者は要注意という事だな。モモンとして会う事もあるだろうから気を付けねばな」

 

 

そう考えていたモモンガの脳裏に突然メッセージが入る

 

 

 

『モモンガ様。お手間を取らせて申し訳ありません。少し長くなるのですが聞いて頂きたい話が御座います。』

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 


おとり先生、244様、yelm01様、モーリェ様、セブン様、ゆっくりしていきやがれ様、相変わらず減らない誤字脱字の修正を有難うございます。誠にお世話になっております。段々とオールスターみたいになって来ましたね(笑)


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第四章二編 敬愛と信頼と

 

 

 

 

 

 

 セバス・チャンは今現在、王都「リ・エスティーゼ」の豪奢な2階建ての屋敷を丸々借りて『漆黒』の拠点としており、その一室にて、この男には珍しく脂汗を額に浮かばせながら苦悩している。

 そして首の周りにも汗が浮き出たのであろう、やはりいつもの彼には珍しく煩わしそうに乱暴にハンカチで汗を拭う。

 何度も何度も思考の堂々巡りをしているのか、いつもなら『優雅』さを感じさせる雰囲気を身にまとっているのに、今はその影も無い。

 机の上に至高の御方より授かった連絡用のスクロールを広げて、答えの出ない難問に椅子に座ったまま苦しみ続けている。

 

 

 セバスは冒険者稼業も満喫していたが、主人より「自分らしく、たっちさんの子供らしくあれば良い」とお墨付きを頂いてから生き生きと人助けに精を出していた。小さな物から大きな物まで、ナーベラルに「やり過ぎです」と咎められる程の働きで「ミスリル級冒険者の『漆黒』は弱きに優しい素晴らしいチームだ」との評判も得ており、主人の狙い通りに事を運べているのと、自分の生き甲斐を満たしている現状は、口には出さないが「生まれてきた中で一番幸せぇ!」と14歳メダリストスイマーの様な気持ちで一杯であった。

 

 目の前に倒れる老婆があれば助け起こして荷物を運び 遠くで虐められる子供があれば駆けつけて助け小遣いをあげる。

 強盗退治も数件こなしており、エ・ランテルに居た頃は、エ・ランテル市長パナソレイから表彰までされた。

 そして、主人よりの命令で、一旦冒険者稼業を休止して、王都で珍しいマジックアイテムやスクロールを買い付けて、ミスリル冒険者として各種の情報収集を始めた。

やはり王都でもやる事は一緒である。暴漢に襲われる青年が居れば助け、道に悩む少年が居ればアドバイスを送り、教えを請われれば教える。一度やり過ぎて少年騎士を一人殺しかけた事があるが充実した毎日だった。

 

 スクロール店や図書館、道具屋筋などを散歩しながら通うことが日課に成ったそんなある日、それは起こった。

 路地裏を歩いていると、ズタボロの袋に入れられて捨てられた女性を拾ってしまったのだ。

 文句を付けてきた相手を追い払うも、今度は地下組織『八本指』の者と思われる人物を連れてくる。それに対して女性の料金を支払い一度は追い払う。

しかし今度は宿屋内に押し入ってきた結果、ユリやナーベラルなどの絶世の美女軍団を見られてしまったのだ。

 下衆共は「アイツはもう要らないから、そいつらを寄越せ」と息巻いてきた。

 2人は完全に殺すモードになっていたが、宿屋で殺人事件などを犯してはモモンガ様の計画に狂いが出ると押しとどめた。

 とりあえずは追い払いソリュシャンに女性の治療を指示すると、ナザリックのための治療スクロールを人間に使用する事を拒まれる。

 ソリュシャンとナーベラルは「とにかく一度、女性の事と八本指の件をモモンガ様に報告すべき」という意見であった。

 ユリも同じ意見ではあったがセバスの気持ちはわかるので中立で居てくれた。

 セバスは、このままでは娘が死んでしまうので助けてあげて下さいとソリュシャンに命令に近いお願いをして、娘の治療に当たらせた。

 

 セバスが苦しんでいる理由は2つある

 

1.「困っている人が居れば助けるのは当たり前」という自分と創造主たっち・みー様の信念による行動により、主人とナザリックに迷惑を掛けつつあること。

 

2.人間の命は虫より軽いのがナザリックの方々であり、この女性を助ける理由は何もなく、指示を仰ぐ事で「見捨てる命令」が出ることへの懸念。

 

 出来れば自分の裁量内で終わらせたかった。

 その浅はかな考えのせいで、女性を拾って治療してから2日経っており、余計に今更報告しづらく為ってしまっている

 なによりも 酷い境遇で生きながらえてきた上に全身の骨を折られ、歯も殆ど残って居なかった程の不幸に見舞われた「この娘」を見捨てなければならない事態になるのが辛い……。

 

 しかし、あの慈悲深い至高の御方ならば、この状況に手を差し伸べてくれるのではないだろうか?

 

 今まで、この世界に来てからの主の言動や行動を思い返してみる。

 

 不肖なる私の中に たっち・みー様が居ると嬉しそうに仰って下さったのは誰だ?

 

 何の縁もゆかりもない村を卑劣な者どもから救われたのは誰だ?

 

 気持ちの良い若者たちの無残な死に、とりみだし、怒り、仇を討たれたのは誰だ?

 

 この世界に来てから、仕える者の喜びを与えて下さり、我々を信頼して下さる慈悲深き御方は誰だ?

 

 セバスはそっと目を閉じると深呼吸をする

 

 現況を伝え、自分の思いと謝罪を誠心誠意伝えるのだ。

 

 そしてメッセージを送る。

 

 

 

『モモンガ様。お手間を取らせて申し訳ありません。少し長くなるのですが聞いて頂きたい話が御座います。』と――――

 

 

 

 

 

 

 

 







自分で書いておいてアレですが、「14歳メダリストスイマーのセバス」という文章を読むたびに、「チョー気持ち良い!」と叫びながらプールの水面を叩く60歳のガタイの良い白髪の老人が頭に浮かぶようになりました。助けてください。



 
 
 


モーリェ様 ゆっくりしていきやがれ様 誤字の修正有り難う御座います


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第四章三編 光男として

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはセバスからのメッセージを聞きながら片手で羊皮紙にメモをとりだす。「ふむ」「ほう」などと相づちを打ちながら書き終えた後、メモを見ながら一考の後、アルベドに羊皮紙を渡す。

 

 アルベドは「失礼致します」と受け取り羊皮紙に目を通す。

 否、これはセバスからの報告書であり、そしてただの報告書では無く訴状に近い。

 自身の油断によるミスと、それにつけ込まれた事による現在の窮状。そして主に助けを請う内容である。

 

 それに気づいたアルベドは守護者統括として耐え難い怒りと、守護者格による無様な状況の情けなさに「愚か者めがっ」と口にして羊皮紙を破り裂きたいのを我慢する。これはモモンガ直筆の羊皮紙である。持って帰って部屋に飾らなければ……。

 

(しかし、この報告書は何でしょうか! モモンガ様がお優しいからと言って、何故、最も大切な事を忘れて自分の趣味、嗜好を重要な任務に降りかけるのか! もし、この様な無様な失態がモモンガ様に我々が愛想を尽かされる切っ掛けとなったら何とするのか!)

 

 先程まで目薬を持っていたサキュバスとは思えないほど厳しい顔で羊皮紙を睨む。

 

「さて アルベド では行ってくるぞ」

 

 そう、アッサリとアルベドに告げると、モモンガは《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》を唱えて黒騎士のモモンに変身しようとしていた。アルベドは御方の腰の軽さに驚きつつ、慌てて引き留めて訴える。

 

「御身に自ら出向いて頂く程の事では御座いません! どうぞ、下僕に処置をお任せ下さいませ!」

 

 妙に必死目のアルベドの発言を受けて、少しだけ考えた後にモモンガは話す。

 

「……いや 駄目だ。セバスが苦しんでいるのは『創造主への忠節と自分の信念』、それと『ナザリックへの忠義と私への信義』の板挟みになっていることなのだ。この二つは彼を構成する大切な要因であり、どちらも疎かにしては為らない。私は『たっち・みー』さんの残してくれた彼を愛するし、今、こうして私と共に歩んでくれている彼を信頼し、心頼している。……セバスを助けたいのだ。それでは駄目か? アルベド」

 

「はうっ  くっ 大好き……モモンガ様からの下僕への有難き想いは、然と聞き届けました……しかしせめてパンドラズアクターなどをお送りになられては如何ですか?」

 

「(よし……聞こえなかった事にしよう)アイツは情報総監として寝る間を惜しんで働き続けているからな。今、情報待ち報告待ちの私が出向いても構わないと思うのだが」

 

「いえ 安全面を考えますと、せめてパンドラズアクターにモモンガ様へと変身させた上でセバスへの下知を伝えるというやり方ではいけないでしょうか? 正直セバスの行動にはモモンガ様の意向を逸脱した行動と感情が見受けられます。どうか慎重に対処して頂きたいのです」

 

「ふむ……いや、ダメだな。以前に私がオマエへのイタズ……オマエ達の能力を試すためにパンドラズアクターにタブラさんに変身させて対面させた事があったろ」

 

「……はい 御座いました」

 

「あの時、オマエ……パンドラを本気で殺しにいったよな……」

 

「はい……造物主様を私たち守護者が見間違えるはずが御座いません」

 

「うん……それと殺そうとするのは違うと思うが……私はセバスの造物主ではないが、セバスが派遣された『贋モモンガ』をパンドラズアクターと気づく可能性もあると云うことなのだろ?」

 

「はい……その可能性は否定できませんが……」

 

「もし、守護者にとって敬愛すべき至高の御方が自分を疑い、不信感で警戒してそんなマネをしたと気づいた時のショックはいかなるものだろうか?」

 

「それは……」

 

「オマエ達を信じないという考えは私の中に無い。それを彼に知らしめるためにも、私が行かねばならないのだ。今こそな」

 

「はうっ やっぱり愛してる……解りました。でしたら私も御一緒させて頂きます。」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「ええ‥‥」

 

「御迷惑‥‥でしょうか?」

 

「ええ‥‥‥」

 

「御迷惑‥‥‥でしょうか?」

 

「う、うむ 許そう。ただしセバスの助けた女との接触も考えているので、ヘルメス・トリスメギストスを装着し、人間種に見えるように擬装せよ。」

 

「ハッ 御同行をお許し下さり有難うございます。急いで準備をしてきます!」

 

「いや よい。セバスの所に赴くのは5時間後にする。その間にニグレドにセバスの宿の周辺の探知や、色々と調べたり手配する事を思いついたので、これからパンドラズアクターやデミウルゴスに相談するので、オマエも自分の仕事に戻るが良い。では5時間後に執務室に来てくれ。」

 

「はい 解りました。‥‥‥うふふ 2人で時間を合わせて待ち合わせなんて、これはもうデートと言ってよろしいですわね。」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「し、仕事であるぞ、アルベドよ‥‥可愛いことを言うでないわ」

 

「うふふ 失礼致しましたモモンガ様。」

 

 執務室より退室するアルベドを見送るとモモンガは机の引き出しから本を取り出しページをペラペラと捲る。

 本には「経営学入門・人事編~部下から愛される経営者を目指して~」と書かれている。

 

 ふう‥‥私よりも優秀な子たちばかりだから楽出来ると思っていたけど、こんなに大変だとは思わなかったなあ‥‥でも、現場の人間はもっと大変なんだってことは身を以って知ってるしな‥‥うん、頑張れ俺!

 

 モモンガは気になったところを数点読み終え、口の中で復唱すると本をパタンと閉じて「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を起動させる。 

「よし、まずはパンドラズアクターの所で愚痴ろう!」と妙に良い顔で執務室から姿を掻き消した。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 セバスはパンやミルクを入れたカゴを抱えて歩いている。

 その姿は背筋が伸びており、優雅さと気品さを感じさせるのに移動速度は妙に速かった。街中を歩いているとセバスを知っている人々が「あっ セバスさん!」などと声を掛けてくれるので、その度に律儀に立ち止まり一礼し、一言二言交わしてから立ち去る。

セバス達が王都に来て、まだ一月経って居ないのだが、『親切で優しいナイスミドルのセバスさん』は街に浸透しつつあった。

 

 主人にスクロールで報告書を送ったものの、忙しい御身のためか返事もないまま数時間が経過したため目を覚ましたツアレの為に食料の買い出しに出かけたのだ。 そう、セバスが助けた女性はツアレと名乗った。ソリュシャンが綺麗に治癒した結果、見違えるほどに艶を取り戻した彼女は美人であり可愛げのあるタレ目を持つ蜂蜜色の髪の娘であった。本人に確かめてはいないが年の頃は20歳行っているかいないかという所であろう。ただ、ソリュシャンが治療後に「心の傷は治せません」と言ったように若い娘特有の溌剌さは失せており、沈んだ瞳と沈んだ顔を固まらせて、会話も殆ど出来ない状態だった。

 

 しかしセバスの献身的な介護と温かいスープに癒やされたのか少しずつ身の上を語り、少しだけ笑い、そしてホッとし気が緩んだのか再び眠りについた。

食料の買い出しに行く時に、そばに自分がついていてあげたいという思いも強かったが、あの『八本指』という裏組織がユリやナーベラル、ソリュシャン達に手を伸ばす確率は高いためセバス自らが買い出しに出ることになった。無論、彼女たちならあの程度の人間の10や20集まった所で一瞬で片付けられるのであるが、問題は八本指が『リ・エスティーゼ王国』の権力者側と根強く癒着していることにある。

 この辺りは情報総監からの定期報告書による情報であるが、彼ら『八本指』の者が街で女性に狼藉を働こうとしたのを止めるために『八本指』を棒で追い払った女性の婚約者が後日、傷害事件を起こした主犯となり逮捕拘禁され、その女性も共犯者として逮捕され、男性が半年後に釈放されて婚約者を探した時には八本指の娼館でボロボロになった婚約者女性を発見した。などという非道な話が無数にある。問題は『八本指』の畜生さでは無い。そんな暴虐を許させる権力者側の問題は根深い。

 パンドラズ・アクターの覚え書きで「リ・エスティーゼ王国は既に腐りきった林檎の様なものです。食むのは虫だけであり、烏に突かれた瞬間に落ちて潰れるでしょう」と書かれていたが、その通りだとセバスは思った。

 つまり、ユリやナーベラルが襲われて正当防衛で叩きのめしたとしても「傷害事件」として処理され、モモンガ様と共に成し遂げてきた『漆黒』の名も地に落ちて「冒険者としてのアンダーカバーを作る」という当初の目的も履行不能に成る。それだけは阻止せねばならない。そう思いながら歩いていると、やはり何人かの暗い顔の人間たちがあちこちから自分を見張っているのが解る。やはり自分が買い出しに出て良かった様だ。

 そう思いながら一軒まるまる宿屋として借りている豪奢な館に到着する。メッセージで ナーベラルに帰ってきた旨を告げると「カチャカチャッ」と鍵の開く音が聞こえて開かれたドアから滑りこむように玄関ホールの中に体を潜り込ませる。

 

「ふう……やはり八本指の者共が見張っております……ね?」

 

「お帰りなさいませ。セバス様」

 セバスは出迎えてくれた3人の部下に違和感を覚える。正確には、それは正しいことなのだが、この場においては異常な事態である。違和感が無いことが違和感なのだ。なぜ、何故に彼女たちは3人共ナザリックのメイド服に身を包んでいるのか?

 

 その時、階段上のドアを開けて黒い鎧『ヘルメス・トリスメギストス』を着た人物が

「お帰りなさい。セバス」と言いながら優雅に階段を降りてくる。

 

 この鎧を着ている人物は守護者統括の『アルベド』に間違いない。

 何故、彼女は完全武装でここに居るのか? セバスの脳裏に「粛清」の文字が浮かぶ。

 なぜならアルベドはセバスにとって最も戦闘の相性が悪い戦士なのである。彼女が差し向けられたという事は……私の行いがナザリックに不利益をもたらした……そういう事ではないだろうか?

 

「ア、アルベド様……どうしてこちらに?」

 心の内が噴出するかのように吃りながらセバスは守護者統括に問いかける。

 アルベドはセバスの問いを無視して「娘は?」とだけ質問する。

 セバスは二階の最も奥の部屋を示すとアルベドはツアレの部屋のドアを確認すると「モモン様が御用がお有りのようです。こちらの部屋にお越し下さい」と『漆黒』のセバスとしての扱いに切り替えた。恐らく部屋の中でツアレが起きていること、さらには聞き耳を立てている事などを感づいたのだろう。

 

「はい 有難うございます。」

 守護者統括が気を使ってくれたのに自分が畏れを抱いて不自然に振る舞う事は出来ない。セバスは食料をユリに預けると覚悟を決めて階段を登っていった。

 

 セバスがノックの後、ドアを開けると主人は黒い鎧の戦士「モモン」に擬態しておられて即席の玉座のようにドアから最も離れた位置にソファーを置き、その間に机を置いて書類のような物をお読みになっておられた様です。

 臣下の礼を取ると「すまないなセバス、突然来訪して」と書類に目をやったままでお答になられる。

 

「いえ とんでも御座いません。それよりも非才なる私めのために御身自ら御足労頂き、誠に申し訳御座いません」

 

「はははは 何を言うセバス。今回はオマエの裁量権を越えてしまったがために起きたアクシデントであって決してオマエがミスを犯した訳ではないだろう」

 とモモンガ様が朗らかに労って下さると同時に、アルベドより強い叱咤が飛ぶ。

「そもそもセバス。これは、あなたに与えられた裁量内に納める事が出来た案件では無くて?『漆黒』の名を高めることと裏組織に狙われることは決してイコールで結ばれる物ではないわ?脇が甘かった……その事が『至高の御方』自らに御出馬頂くことに至った責任を感じなさい!」

 

「ハッ 全くその通りで御座います。彼らに対する初手を間違えました。」

 決して女を助けなければ良かった。と言わない所がセバスらしい所である。

 

「まあ その辺にしておけアルベド。公衆の面前だけでの良い行いではいつかボロが出たかも知れぬ。裏でも当たり前のように人助けを出来るセバスだからこそ、短期間で王都にて『漆黒』の讃談が広まったのであるしな。さてこれからの処置であるが……」

 

「『八本指』を壊滅させますか?」

 アルベドが無感情に虫でも潰す些事であるかの様に伺う。

「ふむ……まだ彼の者たちの実態が掴みきれていないからな……頭目の幹部を潰すだけなら簡単だが、少しリスクとリターンが割に合わないな」

 セバスは黙って跪いたまま話の成り行きを見守る。

 

「その女を引き渡して終わり……には成りませんわよね?今からでは」

 

「もともと捨てた女だったらしいからな、それが拾われた事で価値を見出したのだろう……卑しい者共だ」

 

「色々な方法があるとは思いますが……どう対処いたしますか?」

 

「うむ 今回は撤退だな。一旦、ゲートを使って八本指の見張りの者達の前から消えて、『漆黒』は身を隠すか」

 

「そ、そんな……私のせいで任務を中断されるなど」

 穏便に済ませるためとは云え、自身が至らぬせいで至高の御方の計画が狂うなど申し開きも出来ないセバスは苦悶の表情を見せる。

 

「中断と言ってもするべき事はしたしな。実はここに来る前にガゼフに面会して事の次第を話してはみたのだが、ボディガード代わりに自分たち戦士団が少しの期間なら付く事はできるが、八本指自体には大貴族も絡んでいるので何も出来ないと悔しがっていた。我々としては彼らに纏わり付かれるのも非常に面倒な身の上だし丁重にお断りしたが」と言ってモモンガは笑った。

「ただ娘はガゼフの方で預かって信頼置ける貴族の領内で暮らせるように出来るとの事だった。ガゼフと一緒に居た若い騎士が「自分の主人なら間違いなく力を貸してくれます」と言っていたしな」

 

「そうだったのですか……何から何まで有難う御座います」

 主人が自分のため、娘のために骨をおってくれた事に溢れるほどの感謝をするセバスであったが、自分に懐いてくれつつあった娘との別れに一抹の寂しさも感じた。

 

「ただ せっかくオマエが助けた娘だ。我々でカルネ村辺りに逃してやっても良いだろう。あそこは今、村人募集中だし、ンフィーレアが上手くやってくれるだろう。どうせニニャの留学がもうすぐ終わるから『漆黒』としてあの村で待っていてやるのも良いだろう。帝国領から近いしな」

 

「確かにそろそろで御座いますね」

 

「まあ どうしたいのか本人に確かめたいのだが……会わせてもらっても良いか?」

 

 鈴木悟はリアルの魔法使いである。基本的に女性には気後れする質であった。

 

 セバスからすれば、御方が「心身ともに傷ついている娘」を気遣っての問いかけであり、しかも相手はただのニンゲンである。慈悲深き御方への忠誠度の目盛りはグルグルと回転していく、それはもう目盛りでは無い何かだが。

 

「はい ではお連れ致します」

 ようやく表情から硬さの取れたセバスが主に尋ねる。

 

「いや まだ病床の身なのだろう?私が部屋に行くが……」

 

「モモンガ様!流石に人間に対してそこまでの懇情を授けられるのは宜しく有りません!」と娘に優しすぎることに少し嫉妬したアルベドに咎められる

 

「アルベド様の仰る通りです。もう怪我も治っておりますし連れてまいりますので少々お待ちください」

 

 そう言うとセバスは一礼し退室した。

 (良かった。一番の疾苦は「その娘を殺せ」という命令が出たらどうしようと言うものだった。しかし慈悲成る御身は、一切そう言ったことはお考えになっておられなかったようです)

 セバスはツアレの部屋をノックすると、聞き耳を立てていたのであろうツアレが慌ててベッドに飛び込む音を聞いて、悪戯っ子の可愛い娘を持つ親のように目を細めつつ苦笑いをした。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ドアを開けて入室してきた娘を見てモモンガは「んん?」と既視感を覚える。

 

「ツアレで御座います」とセバスが娘の隣で一礼をし、娘も慌てて一礼をする。

 モモンガは慌ててセバスとアルベドに『モモンとして応対せよ』とメッセージを送り、受け取ったセバスは小さく頷く。

 先ほどからモモンガに対して恐縮し続けていたためセバスの応対が旅仲間としては不自然だったからだ。

 

 そしてそれ以上にモモンガは驚いていた。

 (ツアレ……だと?)

 

「このたびはセバス様に命を助けて頂き……」とツアレが御礼の言葉を続けようとした瞬間、モモンガはそれを制して

 

「ツアレ……それは本名か?」と尋ねた。

 

「え……あ……?」ツアレが突然の指摘に戸惑う。

 

「すまないが正式な本名を教えてほしいのだが」

 

「……。」

 ツアレは戸惑った様にセバスを見る。セバスも妙な展開にツアレを見て、

「大丈夫です。お答えなさい」と優しくツアレに伝える。

 

「はい……あの、ツアレニーニャと申します。」

 

 モモンガの体に電撃が走った。こんな偶然があるのか?というかセバスはまだボケッとしているが顔だけで気づくくらい似ているぞ?!

 ナーベラルも「名前と顔が全く覚えられないです‥‥‥」と悩んでいたが、日本人が外国人の顔の区別が難しい以上に、異形種には人間の顔の区別が難しいのか?元人間で良かった!と思いながらも余りの驚きに少し体を光らせた。

 

 ちなみに光った瞬間。

 

 あら、お光りになられたわ。

 

 また、輝きになられましたな。

 

 何この人!?光ってる!怖い!

 

 と三者三様の心の中の反応があったが、ちなみにモモンガは自分の光は他人には感知されていないと思っている。

 

「ツアレニーニャ、ツアレニーニャ・ベイロンか?」と声を大きくして問いかける。

 

「は、はい ツアレニーニャ・ベイロンです……あの、なぜそれを?」

 

「セバスでかしたな!この娘、ニニャのお姉さんだぞ!」

 

「はい?」とセバスは得心がいっていない。

 

「いえ、私にそんな名前の妹は居ませんが」と妙に冷静に否定するツアレ。

 

 そう 実はセバスはニニャが冒険者になった理由も姉が居ることも、ニニャの本当の名前も知らないのだ。モモンガが「個人情報だしな……」と妙なフェミニストぶりを発揮してしまい、報告を上げていなかったためである。

 

「ああっ もう 解っている。オマエの妹の名前は‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

「そうでしたか……あの子が私を救うためにマジックキャスターになり冒険者になっていたなんて……」

 と、ツアレは静かに涙を流す。モモンガはその涙を美しいと思った。

 どこぞの目薬とは違うな……とジト目でアルベドを見た。アルベドは兜の中で顔を赤らめ「まあ モモンガ様ったら人前でイケませんわ」とモジモジしながら顔を朱に染めた。何も通じていなかった。

 

「うむ そして今は我々の仲間だ。なあセバス」

 

「はい 非常に才能に恵まれた優しい妹さんですよ」

 

「今は帝国の魔法学校に留学に出かけて居ませんが、ちょうど帰ってくる時期です。ニニャには手紙を送り知らせておきましょう。喜ぶでしょう」

 

「まあ……本当に何からなにまで有難うございます!」

 

「それで、この先の身の処遇なのですが……この国のガゼフ戦士長に話は通しておりますので、彼の紹介してくれた貴族の領内で暮らすという物と、我々の知己の開拓村があるので、そちらで暮らすという物がありますが……どうされますか?」

 

「その……助けて頂いた立場で我が儘を言うのは申し訳ないのですが……貴族は、貴族だけはイヤで御座います……申し訳ありません」と俯いて言いつつ片手で自らの身体を抱きしめる。

 

 (ですよねー。ニニャ以上に貴族とか嫌いに決まってますよね……)とモモンガは心のなかで、うんうんと頷いた。

 

「では……カルネ村へ行かれるという事で宜しいですか?妹さんとも合流できますし」

 

「あの……カルネ村へ行けば、セバス様と一緒に居られるのでしょうか?」

 

 ……ん?

 

 モモンガは「オマエ……」という目をしてセバスを見る。セバスは慌てて首を振る。

 

「えーと、そうですね……では、一旦カルネ村に行きましょうか。そこでニニャが帰ってくるのを待ちましょう。では部屋にお戻り下さい」

 

 そこにはリア充の二人への心の距離を取り始め、ちょっと営業口調の超越者(オーバーロード)が居た。

 

「はい……本当に、本当にありがとうございます……」とツアレは限界まで腰を折り、深く頭を下げて退室した。

 

 

 

 

 ‥‥‥‥

 

 

 

 ツアレが戻った後、ユリとナーベラルを入れて状況の説明が行われる。

 

「では、私とアルベドはナザリックでデミウルゴスと協議に入る。ユリとナーベラル、ソリュシャンは屋敷を引き払い、ナザリックへ帰還する準備をせよ。ゲートで私と共に帰るぞ」

 

「「はい!」」

 ユリ、ナーベラル、ソリュシャンは敬愛する主人と共に我が家への帰還することに子犬のように心を躍らせて返事をした。

 

「うむ。セバスとツアレは、(のち)にゲートで迎えに来てカルネ村へ送るので、ここで待機せよ」

 

「はい ここを引き払うのであれば大家さんなどにお金を持って行かねばなりませんね」

 

「そうか ……ガゼフへの事情説明も頼んで良いか?心配性だからな。彼は」

 

「はい 承知致しました」

 

「では皆の者、準備に取り掛かりなさい」とアルベドが号令すると、ユリとナーベラルとソリュシャンは久しぶりのナザリックに思いを馳せてウキウキと帰り支度をする。

 

「モモンガ様の下で働ける充足感は素晴らしいけど、やはりナザリックに帰れるというのは嬉しいものですね。ユリ姉さん」

 

「ええ、でもモモンガ様と御一緒出来たのは数日でしたが、外での活動というのは中々貴重な体験でした」

 

「2人は良いわよね。私なんて色んな冒険者を護衛に雇いながら色々と調査しつつ金持ちや貴族への挨拶回りばかりでしたわよ?」とソリュシャンが少し愚痴りながらも、テキパキと準備を済ませていった。

 

 

 

 

 こんな和気藹々とした会話の後でモモンガが激怒する事件が待っていた事を予想することなど誰にも出来るはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

「アルベド殿!放しなされ!これはモモンガ様直筆の報告書であり、情報局の物ですぞ!」

 

「いやよ!せっかくこそっと手に入れたのに!内容だけメモして保存しなさいよ!」

 

「え?いや‥‥しかし‥私も欲しいというか‥‥」

 

「だと思ったわよ‥‥」

 

「隙アリ!」

 

「あっ!?」

 

「‥‥‥アルベド殿‥‥この最後の『モモンガ』の署名の隣に『あるべど』と書いてあり、略式の傘の様な記号が書き込まれているのですが……」

 

「ふんっ!」

 

「げぼあっ」

 

 

 ふふふふふふ 私とモモンガ様の間を裂く物は、たとえモモンガ様の創造物だとしても許さないわ

 

「非道、まさに外道……」

 

「安心しなさい……峰打ちよ」

 

「拳に峰が!?なるほどゴリラの拳には不思議な物があるので…」

 

「ふんっ!死ねえ!」

 

「同じ所を寸分違わず!?」

 

「ふ あなたはモモンガ様の創造物。決して殺したりはしないわ」

 

「さっき 「死ねえ!」と叫んだ人がおられますが‥‥」

 

 

 

 

 

 

 




 
 

 
 
 

 
題名を見た誰かの「こいつ開き直りおった!?」という声が聞こえます
 





矢沢様、ゆっくりしていきやがれ様 ronjin様 誤字脱字の修正有り難う御座います。


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第四章四編 悪魔(悪いひとたち)に囲まれる魔王(小市民)

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックで首脳会談が行われている時にセバスからモモンガに入ったメッセージ。

それが始まりであった。

 

 アルベドとデミウルゴスとパンドラズアクターは主人が突然動きを止めてメッセージらしい物と会話を始めた途端に起こった珍しい光景に驚くこととなる。

 体がブワッと光ったと思ったら、御手で執務室の机をガシンッと殴りつけたのだ。

 

「……セバスからのメッセージだが……ツアレが八本指に攫われたそうだ」

 

 モモンガは苛立った。もともと八本指の事は調査済みであり、彼らを利用しての王国の掌握について検討しており、それ故にセバスやアルベドに「潰しますか?」と問われた際に言葉を濁したのだが、こんな事なら潰せば良かった!という思いがあるためである。

 

 3人は数瞬困った様に固まったが、その中で率先してパンドラズアクターが尋ねる。

「ツぅアレお嬢様は「モモン様」のお仲間の姉君と先ほどお聞きしましたが……「モモン様」としてお助けになられますか?「モモンガ様」としてお見捨てになられますでしょうか?」

 

「助ける。モモンガとして助ける!というかだ!本当なら初めから八本指を皆殺しにしても良かったんだぞ!あのクズどもめ!アレらの有用性について調査していたらこれだよ……」

 苦々しげに吐き捨てるモモンガに3人の下僕は、自分の力の至らなさを申し訳なく思い顔を伏せる。

「……これは私の判断ミスである。彼らは私が思っていたより軽率であり、私が考えていた以上に愚かと云える。もう、その程度の奴らに有用性や利用価値などを考える必要は無いと私は考える。あれだけツアレを……酷い目に遭わせておいて、まだ足りないのか?……彼奴らは自らの欲望にまみれて虎の尾を踏んだ」

 

 正直、八本指を利用するという案を出した者に対して少しも思うことがない訳ではない。しかし最終判断をしたのは自分であり、責任の全ては自分にあるべきだ。

 

 会社に居たイヤな上司みたいになりたくは無いものな‥‥。

 

 そう云う心理状態を含めた上で、苛立ちが見えるモモンガの姿に

 ここまで怒れる主人は初めてかも知れないと3人はビクリと体を縮める。

 主人は低く呟くような声で続ける。

 

「……デミウルゴス、アルベド、パンドラズアクターよ。私の信頼するナザリックの頭脳たる3人で、『ツアレを無事奪還する』『八本指に思い知らせる』『漆黒の名前を高める』『今後の作戦の下地作り』を兼ねた作戦を考えよ」

 

「「ハッ」」

 

「裏組織ごときが栄光在るナザリックに逆らうとどうなるか教えてやりますとも」

 

「うむ 頼んだぞデミウルゴス」

 

「きっと彼らが生きていたことを後悔して泣き叫びながら死ぬことも出来ない目に遭わせてやりますわ」

 

「……やり過ぎじゃないか?アルベド」

 

「お任せ下さいモモンガ様!このパンドラズアクター! モモンガ様を不快にせしめた彼奴らを地獄に叩き落とし、ツアレお嬢様をお救い致しますぞ!」

 

「あ……うん、程々に頼むぞ」

 

「モモンガ様」

 

「なんだアルベド」

 

「例の作戦を同時実行しては如何でしょうか?」

 

「え?」

 

「デミウルゴスの『魔王』案で御座います」

 

「なるほど、それは良いですね。同時に実行出来ると思います」

 

「ふむ……そうだ…な……?」

 

「では、少し変更し悪魔の像は八本指が隠し持っており、そのせいで八本指は悪魔に襲われた……という感じで行きましょう」

 

「よろしいかと。事件と同時にその様な噂を広めましょう」

 

「ラナー王女と話はついたの?」

 

「はい すでに」

 

「え?」

 

「そもそも今回の囚われのお姫様役であらせられるツアレ嬢が攫われて連れて行かれた場所は判明しているのでしょうか?」

 

「それが……現在、監視体制では無かったため姉さんは確認出来ていないと思います。普段でしたら私がモモンガ様を見張って、見守っているので分かったと思いますが、今回は御一緒でしたので……」

 

「うん オマエ今、確実に「見張って」と言ったがな……まあ、良い。ツアレの行き場所はニニャの助けを借りれば大丈夫だろう」

 

「ニニャの……で御座いますか?」

 

「うむ 八本指の拠点自体は場所の確認は出来ているのであろう?」

 

「はい 数カ所ありますので、間違えて襲撃してしまうとツアレ嬢の身に危険が及ぶやも知れません」

 

「それは大丈夫だ。パンドラズアクター。作戦開始直前にニニャと探索しセバスと私が突入しツアレを助けよう」

 

「解りました。それでは同時に『ゲヘナ』を開始致しますので、ツアレとニニャをゲートで退避させてから『漆黒』として頂きましょう」

 

「そして私達は王国の国庫を襲います」

 

「え? 王国の?酷くないか?それは……」

 

「酷くありません」

 

「はい」

 

「王国という腐った果実を落とし種を取り出すのに必要で御座います」

 

「はい」

 

「ではモモンガ様は『漆黒』としてこれこのように動いて頂きます」

 

「はい」

 

「ふははははっ 素晴らしいショーの始まりですぞ!主演はマイマスター、助演男優はデミウルゴス殿でございます!」

 

「‥‥‥はい」

 

 モモンガは虚ろな目で返事するマシーンとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 王都『リ・エスティーゼ』 皮鎧職人セルジオ・アロンナ 母への手紙より

 

 その日の夕時、突然無数の空をとぶ烏が遠くの空に見えた。

 みんなで気持ち悪いねと言っていた。烏は群れを成してこちらへ向かって飛んで来た。そして我々は城塞を越えて飛来した『彼ら』を見た。

烏だと思っていたのは無数の悪魔としか例えようのない生き物だった。黒い150cmから200cmほどの体。その背中にはコウモリのような羽が生えており尖った耳と、耳まで裂けた口、口には大きな牙が生えており目は黄色というお伽話通りの形をしていた。余りの恐ろしさに子供の頃、ママに「いい子にしていないと悪魔に攫われちまうよ」と叱られた事を思い出した。ああ 嗚呼‥‥ママ ごめんよ いい子にしますから、どうか神様、助けて下さい。

 

 

 

 

 

 王都『リ・エスティーゼ』 王都冒険者組合職員ライシトレ・コンセイソン 口述

 

 王都は突如飛来した悪魔の群れに混乱の極みを迎えた。逃げ惑う市民。はぐれた母を呼び泣き叫ぶ子供。阿鼻叫喚の嵐。そこには地獄があった。あれは戦場で体験するものだと聞いていたが、確実にココには地獄があった。

 冒険者組合所長からの通達を1階の溜まり場に居た数十人の冒険者に伝えた「どうかみんなの力を貸して欲しい!恩賞は間違いなく出すから500メートル先にある避難所の出入口を守って、悪魔を入れないようにしてくれ!」

 みんなの顔が物語っていた。「そもそもそこに辿りつけるのか?」と しかしあの避難所には数百人の一般市民が逃げ込んでいる 今もその最中だ。誰かが行かなければ……と訴えた。「我々が行こう!」とゴールドプレートのチームが立ち上がって外に出て走りだしてくれた。だが50メートルも行かないうちに悪魔に取り憑かれて内臓を引きちぎられて死ぬ者、空へと持ち上げられて落とされて死ぬ者、生きたまま顔を食われる者などばかりで、彼らが勇気を示してくれた3分後に、もう彼らは居なくなった。

 もう 私は溜まり場で青い顔をしている冒険者達に「地獄に行け」という通達を出すのを止めた。

 

 

 

 

 

 王都『リ・エスティーゼ』王城門番 アルベルト・ルイス・ガジャルドン 口述

 

 貧乏貴族の末弟として生まれて父の口利きで守衛を務めて11年経つが平和そのものの良い仕事だった。

 守衛は戦争に行かなくても良い。せいぜいエライさんの顔を覚えて、権力者を顔パスしてあげれば文句も出ない仕事だ。

 だから平和ボケした俺に、あの日の出来事は理解できなかった。

 守衛隊長から「決して悪魔を城に入れるな!」という叱咤が背中に浴びせられる。お前らは門の中だが俺達は門の外だ。だが何故か悪魔は城まで攻めて来なかった。でもいつ来るか解らない恐怖に怯えていると、城の中から戦士長のガゼフが門を開けて市民を助けに行きたいと喚いてやがる。ここは王の居る城だ!それを守るのがオマエの仕事だろ!ついでに俺達も守りやがれと心の中で思ったもんだぜ。平民出身には分からないのかねえ。国の象徴たる王の大切さが。

 

 

 

 

 

 王都『リ・エスティーゼ』 宿屋『ゴンサロ』の主人 ゴンツェロ・デ・ベニート・セカデス 王都監察官への供述

 

 あの大きな商館が八本指の根城だなんて知りませんでした。本当です。

あの日 南の方角から悪魔の群れが一気に襲いかかって来て、あの商館にも取り付いたし、私の宿屋にも取り付いてきました。必死に棒きれで悪魔を追い返していたら商館の方から「ドカンッ」とか「ガツンッ」とか大きな音が聞こえました。はい なんども……といっても20回くらいでしょうか。街の噂では、悪魔召喚の儀式に失敗したとか暴発したとか‥‥‥それで悪魔が寄ってきたと聞きました。あいつらとんでもねえクズ野郎です。そんな激しい音の後に商館が燃え出したんです。

 火が消えた後に衛兵達を手伝って瓦礫を退かす作業をしました。そうしたら商館の地下から出てきたのです。体が不自然に潰れた不気味な死体と埋もれていた不気味な像が!

 

 

 

 

 王都『リ・エスティーゼ』 衛兵隊長補佐マリアーノ・ラホイ・ブレイ 口述

 

 衛兵たちは一丸となって市民街へと悪魔の群れが流れこむのを防いでいました。なんども、もう駄目だと思いました。しかしある時、美しく張りのある声で「我々が突っ込む!もう一度だけ押し返してくれ!」という声が聞こえました。振り向くと見目麗しいラキュース・アインドラさんがゆっくりと歩いて来ました。蒼の薔薇の登場に衛兵たちはなんとか悪魔を押し止めて彼女たちの突破口を作り出しました。そして駆け抜けていく彼女達を見送って、みんなもう俺達のやれることはやったと座り込んでしまいました。悪魔の群れは再び襲いかかってきましたが、我々はもう立つ気力もありませんでした。ああ死ぬのか‥‥そう諦めた時に突然風が起こったのです!黒い風が!突然目の前に飛び込んで来た黒い鎧の騎士は一振りで悪魔を数匹斬り殺し、空に浮かぶ黒髪の女性マジックキャスターが唱える魔法はとんでもない範囲の悪魔を黒焦げにしました。彼らはミスリルチームの『漆黒』と名乗ると我々に水とポーションを分け与えてくれ、「もうひと踏ん張りだけしてくれ、敵の首魁を倒してくるから。それまで街の人達をたのむ」と告げてマジックキャスターのフライに掴まり飛び立ちました。その時、私たちを助けるために任務の途中で飛び込んできてくれたのだと気づいたのです。彼は『漆黒の英雄』モモンでした。

 

 

 

 

 

 城塞都市『エ・ランテル』 冒険者チーム『漆黒』ニニャ  日記より

 

 !!! 今日の日記は長くなります。いつもは一、二行だけど、今日の日記は長くなります!

 モモンさんより突然「学校が終わり次第宿屋に迎えに行く」という知らせを聞いて驚いて帝国立魔法学校が終わって急いで宿屋に帰ると、ハムスケの喉やお腹を撫で撫でしているモモンさんが居た。ハムスケは「と、殿ぉ~ お戯れをおおおおお」と喘いでいた。ナーベラルさんが凄い目でハムスケを睨んでいた。怖かった。

 モモンさんはゲートを開いて僕を招き入れると出た所は豪奢でありながら妙に壁や机が荒らされた邸内でした。セバスさんとユリさんが挨拶をしてくれる。

そしてモモンさんは言いにくそうに「ニニャよ 謝ることがある。」と言った。

「君の姉さん、ツアレニーニャ・ベイロンをセバスが保護したが八本指という裏組織に奪われてしまった。これから助けに行くので協力して欲しい。」

バチンッと目から火花が飛び散る様な衝撃を受ける。

 姉さんが見つかった!

 裏組織に攫われた!

 これから助けに行く!

 凄すぎて麻痺するだろうと思っていたけど 自然と両目から涙が溢れた。

 でもその後 攫われたことを思い出して心配になり、モモンさんが助けに行ってくれることをありがたく思った。

「もちろんです!どんな協力でもします!」と言うと、モモンさんは姉さんの手作り人形は持っているか尋ねられた。人形を差し出すと机の上において「さあ ニニャ。このスクロールを使うんだ……おっとその前に……」といって10枚くらいの魔術スクロールを渡してくれた。対魔法防御や対魔法探知用の呪文が込められているらしい。それらの効用を一つ一つ説明してくれたが、これは魔法を使う際の注意を実地でレクチャーしてくれているみたいでした。

 そしてスクロールの上に姉さんの手作り人形を乗せて、〈物体発見/ロケートオブジェクト〉のスクロールを発動させると、フワリと浮いた姉の人形は空中に浮いて移動を始める。その先に姉さんが居るらしい。それで私を含めた『漆黒』のメンバーで人形の後を付けて行くと一件の商館に辿り着きました。

 

 

 その後は商館に突入したセバスさんがガツンガツンと「八本指」の幹部を叩き潰して、奥の方からモモンさんが姉さんを連れてきてくれました。13歳で生き別れた姉さんは相変わらず綺麗な金髪と整った顔と優しい目を持っていた。僕が「姉さん」と叫ぼうと思った瞬間、姉さんは「セバス様ああ~~」と僕の前のセバスさんに抱きついた‥‥‥え?

 

 え?

 

 え?

 

 6、7年振りに逢った妹がすぐそばに居るんですが‥‥‥。

 そうですか、なるほどなるほど 女ってこんなもんですか 好きな男が出来たらこんなもんですか 妹なんてこんなもんですよね ふふふふ

 モモンさんが気まずそうに 「んんんっ」と咳払いをして、僕の方をチラッチラッと見て姉さんにコチラを見せようと努力してくれている。‥‥本当に良い人だなあ。この方は。

 それまで割と満更でもなさそうに姉さんを抱き締めていたセバスさんが姉さんを僕の方へ向けるとようやく姉さんは僕に気づいたように「まあっ 大きくなって‥‥‥」と目を潤ませながら僕を抱きしめる。初めは「えっ 今から感動しろと?」などとヤサぐれていた僕ではあるが、やはり姉の胸の中は良い。何度も「姉さん」と叫びながら泣きじゃくった。

しばらくするとモモンさんがゲートを使い、セバスさんが私たちをカルネ村に送ってくれた。

 数日後に迎えに来るから、それまでバレアレ薬品店で世話になっていて欲しいとの事で、セバスさんはゲートの向こうに消えた。姉さんはゲートが消えるその瞬間まで「セバスさまぁあああ」と泣き叫んでいた。はいはい。

 僕の義兄はお爺ちゃんになる覚悟をしなければならないのですね……ふふ。

 僕たちはカルネ村でゆっくりと沢山の事を話した。お互いに相手に心配させないようにボカした部分は多々あったけど僕たち、いや 私達『姉妹』は、今 幸せになった。

 

 

 

 

 

『リ・エスティーゼ王国』アダマンタイト級冒険者「蒼の薔薇」リーダー ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ  黒い表紙の日記?に記す

 

 神よ見たか!大いなる黒き剣の力を!わが伝説の剣 魔剣キリネイラムを!

 ‥‥‥いや、思わず気が上がり過ぎてしまった様です。今日は本当に大変でした。

 まさか、生きているうちに「悪魔」なるものと対峙しようとは思わなかった。そういう物は御伽話の登場人物だと思っていたからだ。

でも、今日、私は見たのだ『悪魔』と『英雄』の両方を!英雄は私の剣と同じように黒く、そして時々光り輝いていた!

 イビルアイが「ヤルダバオトと初めて出会ったモモン様は光に包まれた!」と言っていたから、きっと本当の力を出すと輝くのね……良い……実に格好良い設定です!

 しかし あれでミスリルプレートだなんて、冒険者組合の目は節穴だろうか?あの漆黒の鎧に漆黒の剣、しかも大剣を二刀流とか解っていらっしゃるわね、あの御方は……。

 

 今日の大活躍をもって「アダマンタイトプレート」に昇格するらしいけど、当然ね。むしろあんな大英雄と同じプレートである事が面映ゆいわ。

 

 ただ、作戦を共にして一緒にヤルダバオトを討伐したイビルアイが初恋に身悶えて、定期的に「ももんさまあ‥‥‥」と呟く習性を身につけた件については文句を言う権利があると思うの。

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓スイートルーム モモンガ自室より

 

 

 

 そこには「どうして こうなった‥‥‥ 」とベッドの上で頭を抱えるオーバーロードが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「やはりモモンガ様は慈悲深い御方で御座いますな。」

 

「ええ そうですともパンドラズアクター。」

 

「ナザリック以外の者でありながら、あの御怒りよう……モモンガ様は我々ナザリックだけに目を向けて欲しい気持ちは重々ありますが、モモンガ様程の御方はそれに留まらないという事ですね。」

 

「必要とされることなら仕方ないが、無駄な殺生は好んではおられぬようです。たとえ対象が、ニンゲンだとしてもです」

 

「それに、軽々しい悪がナザリックへもたらす不利益についても思慮深くお考えなのでしょう」

 

「そうですね……やはり、あの件の報告書はお出しするのを控えましょう……。きっとモモンガ様を心苦しくさせてしまうと思うのです。あなたはモモンガ様の創造物。良くお解りではないですか?」

 

「ふはーは!デミゴルウス卿!情報は情報総監で全て吸収してからモモンガ様へとお渡し致します。あなたの言うとおり「羊」の件はモモンガ様にお伝えしない方が良いという判断は分かりますが、情報総監として拒否致します。ミスター。全てお伝えするべきです。一から十まで隅々と!」

 

「モモンガ様にお任せしろという事ですね?なかなか厳しいことを仰いますね。パンドラズアクター。」

 

「いえ!……信じているのです。デミウルゴス殿。宝物庫の中で寂しく過ごして終えるハズだった私を必要とし外の世界へと連れ出して下さったあの御方を!」

 

「なるほど……流石はモモンガ様に創られたNPCです。正直貴方が羨ましい」

 

「羨ましがって頂く必要など御座いません。モモンガ様は私だけの主人でなかりければ」

 

「……分かりました。『ありとあらゆる物』での検証結果はそのまま出させて頂きます」

 

「はい よしなに」

 

 その日のうちに情報総監から上がってきた報告書「羊によるスクロール作成」についての文書にはモモンガより「保留」と「重要機密」の両方の判子が押された。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ2

 

スレイン法国特務機関

 

「脱走兵の消息が掴めたらしいね」

 

「ええ 今回は逃しません 漆黒聖典隊長の名にかけて」

 

「クアイエッセは連れていかないの?」

 

「はい‥‥私は大丈夫だと思っているのですが、上層部は兄が妹を気遣うことになるかも知れぬと」

 

「彼がそんなタマには見えないけど」

 

「ははは‥‥」

 

「あーあ また 今回も留守番かあ」

 

「仕方ありません あなたの存在は秘中の秘」

 

「まったく 早く敗北を知りたいものだよ」

 

「そんなバケモノが居るのですかねえ バケモノを殺すための存在であるアナタが」

 

「まあねー」

 

「アナタが居なければ私こそは人類最強だと思っているんですけどね」

 

「お?私を『人類』だなんて思っていてくれるの?」

 

「‥‥‥」

 

「ああ すまない意地悪するつもりじゃなかったんだ。まあ 早く私を倒す様な強い奴に恋をしてソイツとの子供を作りたいよ」

 

「そんな日が来るとは思えないんですけどね」

 

「そう?」

 

「はい」

 

「ふふふ ぷれいやーなら可能性ある」

 

「?! なるほど、神に等しい彼らならアナタにお似合いでしょう」

 

「ふふっ このツートンの髪とか気に入ってくれるかなあ 神(かみ)だけに!」

 

「‥‥‥‥‥‥チッ」

 

「ごめんなさい」

 

「広めて良いですか」

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 




 
 

 

最後の市民の声は「パリは燃えているか」をBGMにしてお楽しみください






yelm01様、おとり先生、244様、きなこもちアイス様、ronjin様 毎度の事ながら誤字脱字の修正を有り難う御座います。
誤字脱字が多いくせに更新速度だけ早くて申し訳ないです(笑)


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第五章一編 終りと始まりの硝煙

 

 

 

 

 

 

「明日は、明日こそは」と、人はそれをなだめる

この「明日」が、彼を墓場に送り込むその日まで

 

                                                     ツルゲーネフ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりの中、145cmの小さな体に似つかわしくない長大な得物を両手で大事そうに抱えて、精神集中をするために彼女は目を閉じて深呼吸をする。

 小さな口で、小さな声で、流れるように淀みなく、つらつらと呪文か祈りの文言を重ねていく。やがて体の全てが「そのため」の一個の兵器となった事を確信すると「CZ2128・Δ(シーゼットニイチニハチ・デルタ)」はスナイピングポイントに服が汚れるのも気にせず寝そべり、自分に用意されている中で、最も長距離狙撃に特化されたスナイパーライフルの二脚を出して地面に差す様に押しつける。

 

「準備オーケーですか? スーパー狙撃兵シズ殿?」

 とすぐ近くに立つ鳥人間とでも言おうか、二対四本の羽を持つ「バードマン」が問う。

 

「問題ない。 あと『スーパー』とか勝手に付けないで欲しい」

 と普段、感情を感じさせない彼女の平坦な声から、彼女を知る者なら珍しい彼女の苛立ちの発露を感じたであろうが、残念ながらココにいるのは「空気を読めないこと山のごとし」で有名なペロロンチーノ‥‥に変身したパンドラズアクターである。彼がペロロンチーノに変身しているのはシズの観測手(スポッター)として名射手として《ホークアイ/鷹の目》などの能力を持つ彼がピッタリだったからだ。

 もちろん変身後に「ふひっ、ペロロンチーノさまぁ~」とシャルティアに抱きつかれる儀式を経ている。その時に肋骨にヒビが入ったが、領域守護者の意地で我慢している。

 

『デミウルゴス殿。スナイパーは準備okです』とパンドラズアクターは今回の作戦指揮官にメッセージを送る。

 

『解りました。そのまま待機して下さい』と返したデミウルゴスは最前線に居るシャルティアにメッセージを送る。

 

『こちら準備出来ました。予定通り、彼女による「X地点」まで誘き寄せの方、宜しくお願いします』

 

 メッセージを受け取ったシャルティアは数百メートル離れた眷属に意識を合わせる。すると眷属の見ている物が自分の脳に浮かび、話しかけずとも自由自在に命令が送れるようになる。

 

 眷属は見晴らしの良い草原に独り立つ。

 左手には白銀の装飾品の様なモノをプラプラさせて指で玩びつつ赤目を光らせて、森へと繋がる道の先を胡乱な顔で見続ける。よく見ると吸血鬼の眷属の証である小さなキバも確認出来たであろう。

 眷属の見ている方向からソナーの様な波動が飛んでくる。探知魔法だ。これで眷属の場所は探知魔法を使用した何者かには解ったであろうが、眷属はノンビリと余裕綽々でアクビをする。

 

 眷属が一人であることに安心したのか先程までかすかに聞こえていただけの足音が雑に歩き出して大きな足音になる。

 そして、森の中より現れた団体はシャルティアの眷属「クレマンティーヌ」の姿を視認すると驚いた様な、呆れたような顔で声をかける。

 

「本当に居るとは、な……クレマンティーヌ」

 

「……。」

クレマンティーヌは久々に聞く『漆黒聖典』隊長の声を、強く口を結びながら目をそっと閉じて無視する。

 

「ズーラーノーンに入って他国へ逃げたはずのオマエが何故、法国の秘宝『叡者の額冠』を手にこんな所に居るんだ? しかも我が国の諜報網に引っかかる位置までワザワザ来てだ?」

 

「……。」

 

「その『叡者の額冠』を返し反省すれば無期牢獄は免れないだろうが、死刑にはならぬかも知れぬ……。投降と考えて良いのだな?」

 

 するとクレマンティーヌは無造作に歩き進めて、元々自分の立っていた位置から20mほど彼ら『漆黒聖典』に近づくと道ばたの50㎝四方のほどある岩の上に『叡者の額冠』をそっと置いて、また元の居た位置に戻る。そして、まるで「本物かどうか確かめなさい」と言わんばかりに手を差し向ける。

 二本の槍を持って警戒を続ける『隊長』は後ろの老人である男性マジックキャスターに「鑑定してくれ」と依頼し、次いで「セドラン!彼を守れ!」と第八席次「巨盾万壁」の異名を持つ二枚の盾の使い手である「セドラン」にクレマンティーヌから鑑定中で無防備になる老マジックキャスターの護衛を命令する。彼は歴戦のマジックキャスターであり、生ける法国の伝説とも云える存在なのである。

 

 慎重な隊長は更にもう一度、今度は時間を掛けて高位探索魔法を掛ける。200メートルに渡る広範囲の生命体をサーチ……小さな獣と見られる生命体が無数にあるが、大きな生命体は居なさそうだ。もし、この範囲外から襲おうと思えば襲撃者が到達する前に悠々と逃げられるだろう。そもそも自分が居る限り逃亡の必要など無いのではあるが。

 

 セドランは先程まで国の重鎮であるカイレの護衛をしていたが、マジックキャスターと共に『叡者の額冠』へと近づく。もしクレマンティーヌが何か悪巧みをしているならば、鑑定魔法を使っている瞬間が一番危ない。

 自らの盾役が居なくなったカイレは身を守るために自分が目視されにくい様に片膝をついて、しゃがみ込む。その時にカイレは自分が居る場所の足下に小さく石灰で「×-C」という不思議な記号の様な物が書かれていることに気づいた。猜疑心が生まれたカイレは隊長に声を掛けて判断を仰ごうとした。

 

 隊長は先程の位置に戻ろうと歩いていくクレマンティーヌが、先程の立ち位置を過ぎても歩みを止めずに進み続けるのに戸惑っていた。「なんだ?『叡者の額冠』だけを返却したかったのか?」と思ったが、風花聖典が謎の巫女の爆発に巻き込まれて機能しない今、本来は『カタストロフ・ドラゴンロード』の調査がチームの使命ではあるが、こうしてクレマンティーヌに接触した自分たちが、この機会を逃す訳には行かない。

 

「待て!クレマンティーヌ!逃げようとしても無駄だ!」と叫んだ。

 その瞬間クレマンティーヌが振り向いて笑った。いつも見ていたあの耳まで裂けている様な「にんまり」顔だった。ただいつもと違うのは大きな口には不自然なキバが見え、こちらを嘲るように笑う彼女の瞳は血の様に真っ赤な色をしていた。

「吸血鬼!? バケモノに身を落としたか!クレマンティーヌ! カイレ!使え!」と叫びながら振り返って老婆を見た。

 

 

「狙撃対象位置、ポイントAからポイントCに移動」と、いつになくパンドラズアクターが短く必要な言葉だけでシズに指示を出す。

 妙な服に身を包んだ老婆がスコープのレティクルの真ん中に収まる。狙うは心臓ではなく頭だ。装備している妙な服は最低でもゴッズアイテム、もしかしたらワールドアイテムで防御障壁が働くかも知れない。とシズは聞いていた。

「ユグドラシルとは勝手が違うかも知れないので、十分に練習をしておくように」と至高の御方直々の命令通り、毎日5時間の訓練をしたが、物理法則はユグドラシルのままだった。問題ない。

 

 まるで時計の秒針が12時を示した瞬間の分針のように「カタン」と自然に指が落ちる

 

 サプレッサーを付けているとき独特の「ブシュアッ」という低音を発して弾丸は発射される。

 スポットマンのパンドラズアクターも単眼鏡を覗きながらイーグルアイを使用し行方を見守る。実に発射後、タップリ3秒程かかった後に単眼鏡には凶弾が老婆の額を撃ち抜くシーンが映った。シズは「目標クリアー 次、」と呟いて次の目標へと照準を合わせる

 

 

 

 漆黒聖典隊長は考える。自分は六大神の血を呼び起こした『神人』と呼ばれる特別な人間である。その自分ではまったく感知出来ない攻撃を国の重鎮カイレが受けた。すでに額に大きな穴が穿たれており絶命は必至だが、彼女の遺体と彼女の着ている国宝「傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)」は法国に持って帰る必要がある。決してここで失う訳には行かない。

 

 隊長は後ろの仲間たちに向かって「撤退!撤退!」と叫ぶ‥‥‥‥が遅かった。

 

 

 シズは2発目を撃ち、それが盾の男の額を撃ち抜いた事を確認すると三発目を撃つために老婆の遺体と周囲の人間の間の地面に照準を合わせる。

 1発目2発目は普通の弾丸である。ある程度の対魔法障壁の呪法が掛けられてはいるが、スナイピングに適した高精度狙撃用の弾丸でしかない。そして3発目以降は炸裂弾だ。それは相手の守備対象であり、こちらの強襲対象である老婆に、周囲の人間が近づけない様にするための爆裂を続けざまに起こす。老婆に近づこうとした若い隊員の2人が爆裂に巻き込まれて体が千切れながら吹き飛ぶ。それをみた他の漆黒聖典メンバーは動きが取れずに草むらに伏せることしか出来ない。セドランであれば盾と自身の硬度を活かして、カイレの死体の回収は容易だっただろう。だが、すでにセドランは額に穴を開けて倒れている。

 

 隊長は再び考える。敵は高速の矢か魔法により知覚出来ない攻撃をしてくる。地面の抉れ具合やセドランの傷を見た限りは敵の攻撃方向はアチラだが‥‥‥あちらには見晴らしの良い平原が広がっているだけで敵の姿は無い。数キロ先まで進めば丘があるが‥‥‥まさか‥な。

 一瞬、六大神の伝承にある「時間停止」による攻撃かとも考えたが、自分の指を確認すると、漆黒聖典隊長と番外席次にだけ与えられる国宝「時間停止対策の指輪」が填まっていることに気づき頭を振る。

 

「撤退用の煙幕を張れ!」とメンバーに指示を出す。同時に魔法障壁を展開する。これで正確な攻撃はし辛いハズだ。敵の矢か魔法攻撃の途切れ目に脱出する、という合図をハンドサインで後方の隊員に伝える。カイレの遺体は大丈夫だが……大柄なセドランの遺体を連れて帰るのは厳しいか……と歴戦の戦士らしく冷静に状況を判断する。

 

 

 シズはスキルのサーモグラフィーを使うが流石に距離があり過ぎて、サーモグラフに映る温熱も感知しづらく煙の中では正確な射撃は出来なくなったが、すでに目的はスナイピングでは無く妨害であり何の問題もなかった。

 ここから狙撃対象の距離まで3000メートル、人間のスナイピング記録が2500メートルである事を考えれば破格の『超長距離狙撃』ではあるが、シズに取っての3000mは「確実に失敗しない距離」であった。この作戦「傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)奪取作戦」はシズを基盤にして立てられた作戦である。

 傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)の能力「耐性スキルを持つ敵をも強制チャーム出来る」という物は至高の御方に仕えることが生き甲斐というナザリックの下僕にとっては脅威中の脅威と云えるアイテムだ。もし自分がそれを使われて『至高の御方』に弓引く立場になれば、無事、魅了から解除された後に迷わず「死」を選ぶであろう。つまり傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)を使われることは自分の死を示している上に御身に危険を及ぼすものであり、しかもナザリックの情報を相手に与えてしまうなどしてモモンガ様や仲間の皆を危険にさらす可能性もあるのだ。

 だからこそデミウルゴス達はクレマンティーヌより、そのアイテムの存在を知った時から慎重に慎重を重ねて、傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)の奪取、もしくは破壊のための作戦を主達と共に練り、準備してきた。繰り返しモンスターの囮をスレイン法国周辺地に放ち敵の防衛ラインを見極め、敵に与える情報の種類によって、どんな人員で出撃するかを見極めたのだ。そして「強者」であるクレマンティーヌを用意する。それは彼女が強者であると同時に「絶対確保」せねばならない相手であるからであり、そして「国宝」叡者の額冠を用意する。もちろん叡者の額冠は偽物だが、もともとちょっとしたマジックアイテムを加工して作られた偽物であるため魔力を感知し、パッと見で判断がつくシロモノではない。本物はマジックアイテムマニアのモモンガが「壊すの勿体ないよう……」と愚図りながら泣く泣くンフィーレアを救うために破壊している。

 

 有効射程距離が解らぬ敵のアイテムに対して、常識を超えた超ロングレンジスナイピングによる暗殺。それによりアイテムの使用不能状態に陥らせてから敵を逃さない様に時間稼ぎするのがシズの役目である。そしてパンドラズアクターから「あと15秒です」という言葉を聞いたシズはマガジンに残った4発の弾を3秒毎ずつ撃ち、最後の炸裂弾を3秒残して撃ち尽くしたシズは「任務完了です」と短く呟く。それを聞き逃さなかったパンドラズアクターが「ミッションコンプリート!お見事で御座います!」と仰々しく一礼したのを横目に見たシズは「うへあ……」と呟きつつ至高の御方からの、そしてナザリックにとって重要な任務をやり遂げたことへの充足感で一杯であった。

 

 ……大丈夫 あとはワタシたちの『最強』が頑張ってくれるはずだから。

 

 

 

 

 煙幕と炸裂弾の煙の中で伏せていた漆黒聖典隊長は味方を見回す。自分も爆発による被害を受けているが軽傷だ。しかしチームは甚大な被害を受けており動けるのは自分を含めて4名ほどだ。いくら漆黒聖典が選り抜きの精鋭ぞろいと言っても、その精鋭相手に一方的にここまで被害を与える敵相手に、蘇生のための遺体回収など出来るだろうか? かといって敵前で老婆の遺体から衣服を剥ぐなどという隙を見せるなど愚の骨頂である。今しかない。敵の攻撃の止まった今の瞬間しか撤退、カイレの遺体回収のチャンスは無い。そう考えた隊長は「今だ!散開しつつ森に逃げ込め!撤退だ!」と叫んで自分はカイレの死体を掴むためにカイレが吹き飛ばされている道端へ向かおうとした。その瞬間、どこからか向けられる圧倒的な感覚に包まれて、まるで全身を氷柱が貫いた様な吐き気を催す怖気に鳥肌が立ち思わず立ち止まる。それは他の者もそうだった。立て続けにくる異常事態に恐怖心を必死に押さえ込みながら這いずりまわってきたのに、ここへ来ての圧倒的なオーラの様な何物かに心が折れて立ち尽くす隊員が続出した。

 

 前方からクレマンティーヌが姿を現すと同時に後ろや左右からも吸血鬼と思われる白い服の女達が漆黒聖典を取り囲む。

 こいつらがこの原因か? と考えたがクレマンティーヌは英雄級ではあったがレベルで言うと自分はその倍のレベルであり、多少「吸血鬼化」による能力向上があったとしても恐ろしい相手では無いハズだ。ただ自分の2本の槍が何の魔力も聖なる力も持たない普通の槍であることからやっかいな敵で有ることは確かだが…… どちらにせよ こいつらが俺たちの恐怖の原因では無い。では 何処からだ?この吐き気を催すプレッシャーは?

 

 

 

 

 それは自分たちの頭上に立っていた。

 

 

 恐ろしく美しい顔をしていた。 

 

 

 血と見紛うような赤い目と口から覗く牙がヴァンパイアで有ることを予想させた。

 血の様な色の鎧と、妙な形のランスを片手に空中に立ち、圧倒的な暴力を感じさせる「それ」は 我々を睥睨すると透き通った声で「降伏しなんし」と死刑宣告を告げる。

 

 ……そんなことが出来るはずがない。我々漆黒聖典が降伏するということは人類の敗北であるのと一緒だ。我々は大陸最強のチームなのだ。

 

「ふざけるな! この化け物が! 人類の最後の砦たる我々が化け物相手に降伏してなるものかっ!」

 

 魂魄を込めた隊長の言葉を受け流すかのように涼しい顔をしてヴァンパイアは子供に笑いかけるかの様にニコリとして語りかける。

 

 

「そうでありんす。わたしは残酷で冷酷で非道で――そいで可憐な化け物でありんす」

 

「各自、目の前の敵だけを蹴散らせ!おのが生きる道を拓け!だれでも良い!生きて法国へ帰り、この事を伝えよ!」

 そう叫んだ隊長は全身全霊を込めて槍をシャルティアに投擲する。至近距離での攻撃であったのに関わらず、まるで小石でも当たったかの様に「コツッ」とだけ小さな音を立てて、槍は血の色の鎧に傷一つつけることなく穂先を不自然に歪ませながら地面にカランカランと音を立てて落ちる。

その音を合図にするかの様に空に漂う鮮血の戦乙女は、ただ宣言する。

 

「……蹂躙を開始しんす」

 

 その瞬間、月が作り出す彼女の影から無数の魔物が飛び出してくる。

 シャルティアのスキルの1つ『眷属招来』である。数えきれないほどの「古種吸血蝙蝠(エルダー・ヴァンパイア・バット)」「吸血蝙蝠の群れ(ヴァンパイア・バット・スウォーム)」「吸血鬼の狼(ヴァンパイアウルフ)」が影から現れて漆黒聖典を二重にも三重にも取り囲む。

 

 逃げ道は ない

 

 呆然として血の匂いと共に空に漂い続ける美少女の形をした『死』そのものを隊員の全員が見やる。

 

 シャルティアはその「死」を受け入れまいとする頭と「生」を諦めた心が綯い交ぜになったニンゲンの顔に少しだけ嗜虐心を満足させて、ランスを持っていない左手を天にかざすと「‥‥清浄投擲槍」と呟き、神聖属性を持つ3mもの白く輝く長大な戦神槍を生み出す。

 

 アレは危険なモノだ。そう隊員の誰もが頭で考えたが、折れた心が体を動かしてくれなかった。

その中で隊長だけが必死に心を殴りつけて横っ飛びにそこから飛び退く。

 しかし 振り下ろされた手から放たれた白い槍は不思議な軌道を描いて漆黒聖典隊長の体の真ん中を貫いた。清浄投擲槍は魔力を付与することで「必中」の効果を付与出来る。そんな事を知るはずのない隊長にとっては不可思議で突然な「死」がやってきた。

 歴戦の勇士であり、神人である漆黒聖典隊長は、まるで人形のように歪に関節をクタッとさせながら地面に倒れた。まるで子供が投げ捨てたヌイグルミの様に。

 

「隊長!? う、うあぁぁぁぁぁぁぁあ!」という悲鳴に似た叫びと共に眼鏡を掛けた第七席次の鞄からゴーレムが爆発するかのように飛び出してシャルティアに襲いかかる。シャルティアはそれに無造作に横殴りでランスを叩きつけると、ゴーレムの胴体の2/3が一気に崩れて砂と土の固まりが土砂となり草原にバラ撒かれる。それを呆然と見た第七席次の心臓を正確にスポイトランスが貫く。スポイトランスが起動して血というか生命力の様なモノを「ドクンドクン」と吸い上げる。第七席次が着ていたセーラー服から覗く腕が干からびていき、彼女の体重が急激なダイエットにより元の半分になった頃、彼女は隊長の後を追った。

 

「あらあら結構可愛かったのに勿体ない事をしたでありんすねえ。眼鏡がユリみたいで可愛い娘だったのに……後で蘇生してペットにしようかしら?」

 

 まるで、もらった御菓子をこぼした子供の様に無邪気に、いや邪気丸出しの大きな独り言を呟く。

それを聞いた第二席次「時間乱流」が「殺されるだけでは終わりじゃないというの!?」と心を乱す。

 

 第三席次の老マジックキャスターは第二席次の肩を叩くと「儂に任せて若い者は逃げなさい」と彼女の耳元で小声で話しかける。驚いた第二席次「時間乱流」が自分が生まれる前から漆黒聖典で活躍しており、国の生きる英雄の老いた顔を見る。その顔はすでに決断を終えた後の清々しい顔をしていた。

 《遅延効果魔法》《アンデッド作成》《アンデッド支配》と次々と魔法を自分に掛けていくと最後に手にしたアイテム《スイサイダルエクスプロージョン》を握りしめて、奥歯に仕込んである自害用の即効性毒を噛んで飲み込み口から盛大に血を吐き出す。

 

「なんだぇ?絶望の末に我が身を儚んで自決でありんすか?」

 

 そうでは無かった。ここからが彼の最期の輝きだ。彼は即死した自分の死体に遅延魔法で自身のアンデッド化、そして死体支配により、ある命令を与えている。

血を吐き生命力が消えたはずの死体がむくりと起きあがり、よたよたと確実にシャルティアに向かって歩き出す。

「ん?死んでなかったでありんすか?」と不思議に思いながらもシャルティアは向かってくる老人にスポイトランスを突き刺す。スポイトランスはアンデッドからでも生命力を奪うことが出来る。それが故、シャルティアの判断は少しだけ遅れた。彼の死体は突き刺さったランスを無視して穿った穴を大きくしながらシャルティアの体に少しでも近づこうと突き進む。

「アンデッド!?」とようやく気づいたシャルティアは空いた左手の爪を一閃し第三席次だったものの首を切り落とす。その瞬間、彼が生前行った魔法執行が起動する。右手に強く握られたアイテムに封じ込められた《スイサイダルエクスプロージョン/自爆魔法》が彼の全ての魔力をエネルギーにして起動する。

 

 

「あっ」

 それは第二席次も、そして恐らく第三席次も見たことがなかったであろう「大爆発」である。

眩しい閃光と一瞬遅れて「ズドォォオオオオオオンッッ!!!」という爆発音が辺り一面を包む 範囲は実に直径20mに渡る。全てを灰燼に帰す大爆発が起こった。

 

 第二席次も5mほど吹き飛んだあと、更に8mほどゴロゴロゴロゴローと草原を転がる。今の爆発で自分たちを囲んでいた吸血鬼の眷属達も散り散りバラバラになって混乱している。逃げるなら今しかない事に気づいた。

頭を切ったのであろう、出血で血まみれになった顔面をそのままによたよたと爆発の煙に紛れて森に向かって走り出す。

 

 突然「あら勿体ない」という声が耳元で聞こえたと思ったら自分の血まみれの頬をペロリと可愛く舐められる。

 

 振り向かなくても誰だか解った。

 解った事が怖かった。あの爆発を至近距離で受けたモノがココに存在している事が怖かった。

 

「ひぃいあ」と、か細い声を上げてへたり込んだ彼女は傷一つない鮮血の鎧と肌が爆発の煤で少し汚れただけの美しい容姿を見上げる。両手に持つスプライトのレイピアを使い何度も何度も練習してきた武技を発動させてマシンガンの様に突きを繰り出す。しかし血の色の戦乙女は一つ一つの突きに小指の爪一本で対処して受け流すと

 

「あなたは緑の服があのチビスケみたいで可愛くないわねえ」と言い捨てると、そのまま人差し指の爪で額に「トスッ」と指一本分の深さの穴を開ける。

「ふひぇ」と変な声を出した第二席次に興味を無くしたのか、そのまま指を股下まで一気に下ろした。

 

「さてと お仕事お仕事♪」とシャルティアは楽しそうに言うと爆発で少し混乱していた眷属達に「いい加減にシャンとして手伝いなんし」と命令を出して自らの出したゲートにポイポイと漆黒聖典の死体を放り投げて行く。

 そして草むらに転がっている老婆の死体から傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)を剥ぎ取ろうと思ったが、なんだか凄く気持ち悪かったので死体ごとゲートに投げ込む。

 眷属のクレマンティーヌが近づいてきて「シャルティア様あ。えへへ 上手くやれたでしょう?後で御褒美下さいねぇ」とシャルティアの足にしなだれかかり、膝にキスをして甘えてくる。コイツ、作戦前は「敵のチームに糞兄貴がいないんですけどお?」とか生意気にも不機嫌だったくせに……よし、あとでお仕置きだ。悦ばれてしまうけど。

 

 デミウルゴスから『作戦完了です。皆さん後始末の後、各自ナザリックに帰還して下さい』とメッセージがチームリーダーに入る。狙撃班のパンドラズアクター、強襲班のシャルティア、見張り役のアルベド班、そして逃がした時のために森に潜んで潜伏していたエイトエッジアサシンを率いるマーレ班である。

 

 これだけの守護者達を使っての慎重で綿密な作戦を、この世界でも屈指の頭脳を持つ3人が集まって立案し実行したのである。漆黒聖典は不幸だったと言わざるを得ない。

 

 もし彼らが傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)というナザリックにとって厭忌すべきアイテムを持っていなければ

 

 クレマンティーヌというスレイン法国の情報を持つ人間が捕らえられていなければ

 

 モモンガと少し仲良くなった「漆黒の剣」が彼女に襲われていなければ

 

 まさに運命は糾える縄のごとし 様々な因果の結果 この世界で最強のチーム漆黒聖典は半壊した。しかも死体は全て回収されて蘇生も出来ない状態であり、法国最高クラスの秘宝 『傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)』をも奪われた。

もし、不意打ちでナザリックの守護者に使う事が出来れば、守護者を愛するモモンガに取って大きな障害になったかも知れない。

 

 幸いだったのは 彼らは漆黒聖典として人類の敵と戦って敗死したとある意味、満足の中で死ぬことが出来たことであろう。

 本当のことは誰も知るよしは無かった。それだけが、たったそれだけが彼らの幸福だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









5837様、244様、モーリェ様、大理石様、誤字脱字の修正有り難う御座います。


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第五章二編 竜王国

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『竜王国』という国がある。

 

 バハルス帝国の南にある飛竜騎兵部族の地より更に奥、ナザリック地下大墳墓から見ると南東に位置するその国は元々、七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)によって建国された人間種族を国民に持つ小国である。国の名前が余りにもズバリな名前なため、事情を知らない多くの人には「竜の国」であると誤解をされているが「竜」は七彩の竜王の血を引く王家だけであり、現当主ドラウディロン・オーリウクルス竜王国女王『ブラックスケイル・ドラゴンロード』にもブライトネス・ドラゴンロードの血が8分の1流れている。

 余り知られていないがブライトネス・ドラゴンロードを曾祖父に持つ彼女は多大な犠牲が必要ながら『ツァインドルクス=ヴァイシオン』と同様に「始原の魔法」も使うことが出来るが、その「多大な犠牲」という物の正体が問題で、それは実に100万人もの人間の魂を捧げなければならない。そのために絶えず隣のビーストマン部族に竜王国の国民を餌場として蹂躙され尽くしているのに、それを撃退するためには自国民に莫大な犠牲を支払う必要があるため、何も手を出せない状態が続いているのである。

 それ故、少なくない額をスレイン法国に献上し続けることにより、法国より特殊部隊が派遣されてビーストマン達を削ってくれる事で生きながらえて来たのだが、最近になりピタッと法国からの援軍が来なくなり、催促の手紙を出せど何らかの事情があるのか有耶無耶な返事しか貰えず、穴の空いたバケツの様に、日々国民をビーストマンに襲われて犠牲が増え、しかも彼らにとっての餌が増えたお陰か明らかにビーストマンの個体数が増えつつあり、被害数は鰻登りに増えていくのが現状である。

「始原の魔法」ワイルド・マジックを使える以外は女王は普通の人間としての力しか持たず、小国故に国軍の戦力は大きくないために防戦一方であり、殆ど期待は出来ない。ただ冒険者として小国ながらアダマンタイト級を一チーム抱えており、またワーカーにも有名な「豪炎紅蓮」が所属している。

 ただし彼らにとっても強者揃いのビーストマンに敵対するのは報奨金だけでは割が合わないため今のところは国の要請は緊急時などの時だけであり、色よい返事がもらえて居ないのが実情である。

 

 

「……のう なんでスレイン法国は援軍を送ってくれんのだ」

 幼女の姿の王女ドラウディロンが執務室で傍らに控える宰相に愚痴る。

 宰相であるもののまだ若さを感じさせる壮年の男は、面倒くさそうに、

「そうですな‥‥貢ぎ物が足りない‥‥とかですかね」と、素っ気なく答える。

 

「なんでじゃっ!? 我が国民の血税をどれだけ持って行ってると思っているのだ!」

 

「……報員の話によると、ここ数ヶ月の間スレイン法国では、何らかの事故が続けざまに起こっている様ですな」

 

「事故? 催促の手紙の返事では『忙しい』だの『他の任務で出かけてる』など書いてあったぞ?」

 

「そりゃあの秘密主義の法国ですよ?自国の不利なことを素直にお知らせしてくれるタマですか」

 

「ちっ 陰気くさい奴らじゃ ……待て? それはかなり酷い事故なのか?」

 

「……報告によれば何かが法国に起こっているのは間違いないらしく、普段なら姿をチラホラ見るはずの特殊部隊の者共の姿を全く見なくなったそうです」

 

「はあ?あそこの特殊部隊はこの辺りでも最強クラスのチームだったでは無いか?特に漆黒聖典に来てもらった時なんぞ、ビーストマンどもをバッタバッタと薙ぎ払ってくれたぞ?」

 

「その漆黒聖典ですが隊長を始めとして半数以上が姿を見せていない様ですね。 余程の任務に就いているのか、彼らの身の上に何かがあったのか」

 

「……と、いう事は」

 

「はい 法国が我々に援軍を出す余裕なぞ無い……と云うことです」

 それを聞いたドラウディロンは一瞬顔が青ざめた後、色々と思い出したのか顔を紅潮させて怒り出した。

 

「っ なんじゃそりゃっ!? 何のためにただでさえ貧乏な上にビーストマンに苦しむ国民からの貴重な税金を捧げてきたのだ! 何のために彼奴らが陰でワシの事を『トカゲ姫』とか『ウロコ娘』とか悪口言ってるのを耐えてきたのだ!? ワシにはウロコなぞ無いわ!」

 

「……意外と根に持つタイプですね。結構、以前の報告書の一文ですよね。それ」

 

「法国が頼れないとすれば……どうするのだ? 宰相」

 

「だから前々からバハルス帝国の皇帝との婚姻を奨めていたではありませんか」

 

「ジルクニフかあ~ 見た目は悪くないが腹に一物どころか十物も二十物も抱えすぎじゃろ? あやつ」

 

「まあ 言葉遣いは汚いですが、お腹が真っ白な女王様とは反りが合わないかも知れませんが……いや意外と上手くいくかも知れませんよ? 正反対な気性って」

 

「口が悪いのは身内の前だけじゃろが。ほっとけ」

 

「竜仲間という事で、アーグランド評議国と渡りを付けられると良いのですがね。遠すぎますし」

 

「そもそも、7/8が人間のワシなんて、あやつら竜だとか思っとらんじゃろうしのう」

 

「そうなりますと、頼れるのは冒険者になりますかね」

 

「他国のアダマンタイト辺りにお願いするか?スレイン法国に大金を支払ってしまったから大金は出せんぞ? しかもビーストマンの強さと数を考えると命賭けになるし端金で動く奴らでは無理じゃろう」

 

「何を言っておられるのですか? 我が国にもアダマンタイト級冒険者「クリスタルティア」のセラブレイトが居るではありませんか」

 

「……え――――」女王は非常に渋い顔を見せる。

 

「良いでは有りませんか あれだけ熱い目で女王様を見つめる男なぞ捜してもなかなかおりませんぞ」

 

「確かに、あんな「ねっちょり」とした目で幼女のワシの身体を見てくる変態は捜してもなかなかおらんだろうがのう!?」

 

 竜王国唯一のアダマンタイト級冒険者チーム「クリスタルティア」のリーダー セラブレイトは平たく言えば『ロリコン』だった。平たく言わなくてもロリコンだった。

 

「あやつ……完全に、この魅惑的な「ぼでえ」が目当てじゃからのう……大きい方が色々と気持ち良いと思うのじゃが、こんなペタン胸の何処が良いんじゃ?」

 

「幼女の形態の時に下品な発言は控えて下さい」

 

「形態言うな。オマエ、ワシを何歳だと思っておるんじゃ」

 

「まったく……いい年をしてそんな格好をして恥ずかしくないんですか?」

 

「……オ、オ、オマエが、させとんじゃぁぁああああああっ!?」

 玉座から勢い良く立ち上がった幼女、もとい女王は鬼の形相で宰相に飛びかかる。

 しかし宰相もさるもの、慌てずに杖を投げ捨ててグレコローマンスタイルでガッチリと幼女と組み合い「シャオラッ」と首相撲を始める。 (注・王国の女王と宰相の2人です)

 

「ハァハァ! 仕方ないでしょう!その姿だと部下や外交のウケが良いんですよ!」

 

「はぁはぁ! うるさいわいっ そうやって効率よく言いなりになる人材ばかり集めたせいで閣僚をロリコンばかりで固める事になるんじゃろうが!?」

 

「ハァハァ! それ以外にウチになんの魅力があると?給料も安ければビーストマンの危機に晒されているこの国で有能な人材を集めるために利用出来るものは何でも利用するべきです!」

 

「はぁはぁ! オマエェェェ! 『隊長さん 頑張ってね?どうか無事に帰って来てドラウに元気な姿を見せて下さい(はぁと)』とか云う手紙を酒飲みながら書いてるワシの身にもなれ!手紙にポタポタと落ちてる滲みは情けなくて泣いてるワシの涙じゃぞっ!?しかも大量生産させやがって!あの手紙一枚ごとにウロコが一枚ずつ禿げる想いじゃわ!」

 

「ハァハァ! やはりウロコあるんですね」

 

「はぁはぁ! ね、ねーし!」

 

「隙あり!ていっ!」

 その掛け声と共に幼女の左腕を取り、自身の右手で幼女の左肘の下側から掴んで捻り上げる こうなると幼女は仰向けにひっくり返るしか無く「ぎゃん!?」という情けない声をあげる。しかし宰相は容赦なくその左腕を持ったまま腕ひしぎ十字固めに持っていく ちゃんと肘に捻りを入れる奴だ。 そこには王女と宰相の間に交わされる確かな肉体言語が在った。

 

「ぎ……ぎぶ」

 

「……ふん」 

 

 えうっえうっ、と悔し涙を流す幼女相手に小さくガッツポーズを取る宰相がここに居た。

 

「……で、どうするんじゃ? このまま国民が食べられ続けるのを指を咥えて見てるのか? それとも莫大な犠牲を支払ってワイルドマジックでビーストマン共を滅ぼすか?」

 

「いえ それでは生き残った国民の心は王女から離れるでしょう。それにワイルドマジックと云っても国ごと吹っ飛ばせるわけではないのでしょう? まあだとしたら隣国まで被害が出る可能性は高いですし、我が国や飛竜騎兵部族は元より、バハルス帝国にまで被害が及んだらどうします?あの『鮮血帝』が「いい顔」で損害賠償金を請求して来て骨までしゃぶられますよ?」

 

「……オマエあいつのこと嫌いじゃろ?」

 

「まあ 宰相たるもの有能な敵と無能な味方は嫌いになるのが仕事ですからね」

 

「まったくその通りじゃなー ……待て、『無能な味方』ってワシの事ではないじゃろうな?」

 

「ハハハ。女王様は本当に面白い方ですな」

 

「答えろやっ!?」

 

 宰相は無表情で女王を見た。ジッと見た。女王は目を逸らした。

 

「ワ、ワイルドマジックの威力の話だったのう……まあ都市1つ潰せる程度だと思うが、逆に言うとビーストマンが全滅とまで行かないんじゃよな。そうなると生き残ったビーストマンに本気攻めされると思うとのう……」

 

「ワイルドマジックの使用はリスクのみで得るものが有りませんね」

 

「うむ そうなると……セラブレイトか?」

 

「抱かせてあげれば良いじゃないですか」

 

「王女たる者が娼婦の真似事か……ワシまだ処女(おとめ)なのに」

 

「まあ 国の事を思えば女王の身体の一つや二つ安いもんです」

 

「オマエが言うと冗談に聞こえないからのう……」

 

「まあ 冗談じゃありませんから」と宰相は真顔で返す。

 

「……。」 

 

 げしっ 女王は宰相の脚の脛を蹴った。

 

「イタッ あーあ 暴力ですかそうですか 「パワハラ」って云うんでしたっけ?十三英雄の残した言葉によると」

 

「うっさいわ! オマエが先刻ワシに何をしたか忘れたのか!?」

 口角から泡を飛ばして喚く女王のツバをイヤそうに拭うと宰相は、ふう と一言溜め息をついて話し始める。

 

「まあ……何も手がない訳ではないのですよ……余り、こういう賭けは好きじゃないんですがね」

 

「!? な、なにか手があるのか?」

 

「以前より何度か王国の冒険者から手紙が来ていた事を報告致しましたが覚えておられますか?」

 

「……? ああ……リ・エスティーゼ王国の、黒……なんとかってチームだったか」

 

「『漆黒』です ミスリル級冒険者時代に「何かお困り事があればお申し付け下さい」という売り込みの様な手紙があったんですが」

 

「うむ ミスリルに頼むことなど無いしな。他国の冒険者をわざわざ入国させる必要もないので放っておいたんじゃったな?」

 

「はい まあ一応、好意に対して、謝意を示した返事は送りましたがね。」

 

「ふむ? で、なんでそれが奥の手なのだ?」

 

「ええ 諜報員の連絡とタイムラグがあるので先月か先々月の出来事だと思うのですが、彼ら『漆黒』がアダマンタイト級冒険者になりました。」

 

「ほう? アダマンタイトのう。ということは、知らぬ間にオリハルコンになっていたのか」

 

「いえ オルハリコンは飛ばしてのアダマンタイトへの昇格です」

 

「むう? どんな活躍をしたらそうなる?」

 

「王都に現れた悪魔の群れを打ち払い、悪魔の首魁である魔王『ヤルダバオト』を追い払えばそうなります」

 

「!? あ、あの大事件のかっ!? そりゃ当代の大英雄じゃないか!?」

 

「ええ それで最近再び彼らから手紙が来ましてね。なんでも彼ら『漆黒』というのは集団転移魔法の実験の失敗で元居た国に帰れなくなった集団らしいのです。」

 

「ん? ということは?」

 

「ええ 今でこそ「リ・エスティーゼ王国」所属の冒険者ですが、王国に義理は無い様ですね。まあ王国の敵対国のために働くのは自重している様なのですが、どうも彼らは帰国するために広く情報を集めているらしいのです」

 

「ほう それで古くよりこの世界に身を落とした神秘なる竜の末裔たるワシに話を聞きたいという事じゃな?」

 

「ええ 実はかなりの後期高齢者で、竜の血が1/8だけ入った物知りオバアサンに話を聞きたいと」

 

「……。」

 

ガッガッガッガッ 二人は無言で拳を重ねる。

 

「……それでミスリル時代の以前より、ウチと渡りをつけようとしてくれていたのか!『奇貨おくべし』じゃな」

 

「ええ 丁寧に返事しておいた甲斐がありました」

 

「しかし 祖国の名前とか解らないと正直ワシが彼らに取って有益な情報を持っているのかどうかも解らないのじゃが」

 

「そこまでは掴めておりませんが、彼らは相当、王国でも評判が良いらしいとの諜報員からの報告があります」

 

「ほう そうなのか?」

 

「はい 弱きを助け強きを挫き、貧しい者あらば金を与え、悪を為す者あれば依頼なくとも鉄拳を食らわすとの評判で、今まで王国内で人気を独占していた『黄金』ラナー王女、さがって『蒼の薔薇』のラキュースの2人の中に割って入るほどの人気だと聞きます。」

 

「なるほど 強いだけでなく人望も兼ねるか‥‥来てくれるかのう?役に立てるかどうか解らんが」

 

「アダマンタイトになってからも手紙を送ってくれる義理堅さを考えても大丈夫だと思います」

 

「なるほど それで一体ナニが『賭け』になるのだ」

 

「はい この手紙にこの様な提案がされておりまして……」

 

「むう なんじゃこれは? 詐欺的な物かのう?」

 

「相手の意図が掴め切れませぬゆえ保留していたのですが」

 

「もう そんな事を言ってる場合ではなくなった。と」

 

「ええ あと、別件なのですが、エ・ランテルと云えば気になる書物がバラまかれているらしいのですが」

 

「ほう? 気になる書物のう? 手に入れたか?」

 

「それが政府により発禁指令が出てしまい回収されてしまったそうです。」

 

「ふむ そうか……」

 

「プリンシプルとか哲学系の内容だったという報告ですが」

 

「あー それ系は王国的にアウトじゃろうなあ」

 

「そうですね」

 

「まあ とにかく今は『漆黒』への対応じゃな」

 

「はい 後は本人に来てもらいつつ、ついでにビーストマン退治をお願いする方向で」

 

「分かった。仔細は任せるので頼むぞ」

 

「はい 解りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「おい また執務室から怪しげな息遣いが聞こえてきたらしいぞ?」

 

「また宰相が居る時に……か」

 

「服が乱れた状態で宰相が執務室から出てきた所を見たものも少なくないしな」

 

「俺なんて一度、ノックをしても返事ないから扉を開けて覗いたら、王女と宰相が組んず解れつで~~!くっ」

 

「泣くなよ……」

 

「後で宰相に聞いたら「ぷろれす」をしていただけです。だって!何だよ『ぷろれす』って?!」

 

「知らんがな」

 

「あの人、十三英雄の残した文化とか言葉とか詳しいから調べたんだよ。十三英雄辞典でさ 俺も!あったんだよ ぷろれすって項目」

 

「おおっ なんだったんだ?」

 

「色々べびーふぇいすだの、せめんとだの訳の分からない用語ばかりだったんだけど、使用例の所にさ…… 子供に性行為を見られた時、何をしていたの?という質問に『パパとママはプロレスをしていただけよ』と答えましょう って書いてあったあ!」

 

「うわあ……」

 

「うわあ……」

 

 

 

 

 







すみません ボクの中でドラウ殿下は『化物語』の忍野忍のイメージなのです‥‥‥。

反省はしていない。そして後悔もしていない。






244様 ゆっくりしていきやがれ様、デンスケ様 誤字脱字の修正を有り難う御座います。


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第五章三編 竜の血族(ドラウディロン)vs竜人(セバス)

 

 

 

 

 

 

 

『竜王国』の玉座の間にて 招待により貴賓としてリ・エスティーゼ王国冒険者組合所属のアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』の副リーダー セバス・チャンが綺麗な姿勢で、女王ドラウディロン・オーリウクルスの前に起立している。その厳粛な雰囲気と鋭すぎる眼光は179cmの体躯を大きく見せており、玉座の間に並ぶ閣僚達の感嘆を得ていた。

 

何故、ナザリックによる初外交という大切な案件が、やや不器用な面もあるセバスに任されたのかはいくつか理由がある。

まず、そもそもが「アダマンタイト冒険チーム『漆黒』」としての接触であると云うこと。

そして、相手は1/8とは云え初めての『ドラゴン』という高位生命体であり、擬態や嘘などを我々が知らない方法で打ち破る術を持っている可能性があると云うこと。

こちらからの提案が普通に聞いた場合、相手に都合が良すぎるため、本来の交渉上手なデミウルゴスなどに任せると切れ者と噂の竜王国宰相に胡散臭がられて約束を取り付けられない可能性があると云うこと。デミウルゴスにニヤニヤされながら「良いお話があるのですが」と言われるのと、セバスにニッコリと微笑まれながら「良いお話があるのですが」と言われた場合、普通の人間ならセバスの方が安心出来るよね?という話であり、更に真の姿を見破られたとして、セバスは竜人であり、ドラゴンの血を引く相手国女王から、同族意識などで譲歩を引き出しやすいのではないか?ということが上げられる。

 

そして、女王と会うと云う事で非武装が前提であるが、もし何らかの理由で竜王国との交渉が決裂し敵対状態になった場合に、セバスなら徒手空拳で脱出が可能であるということも大きな理由の一つであった。

それに、そもそも今回は嘘も駆け引きも必要がない。彼らに取っても我々に取ってもWin-Winな案を提案するだけである。

セバスの人柄と、それが培ってきた人望が会談を良い方に持って行ってくれるのではないか?と送り出したモモンガは存在しない心臓をバクバクさせながらナザリックで一報を待っている。

 

 

 

 

 

 王女は何故か怒った様な顔で隣の懐刀である宰相だけに聞こえる声で話しかける。

 

「おい 先ほどから心臓がバクバクしておるのじゃが」

 

 健康だけが取り柄だと思っていた我が女王の発言に宰相は珍しく狼狽する。

 

「だ、大丈夫ですか?お加減は?謁見は中止に致しますか?」

 

「あのな‥‥その、な この人、滅茶苦茶タイプなんじゃが」

 

「‥‥‥は?」

 

「やばい マジやばい これが恋か‥‥」

 

「うおい!?なに言ってんのこの幼女!?」

 

「年齢的にも釣り合ってるしな 実は」

 

「知りませんよ!?やめて下さいよ。こんな時に発情(フケ)だとか」

 

「おい 人を馬みたいに言うのは止めてもらおうか」

 

「しかし昔から馬と竜は密接な関係がありますし」

 

「いや 本当もう駄目。なにこのナイスミドル。あと何故か曽祖父を思い出すのじゃが」

 

「グランドファザコンだったんですね。知りませんでした」

 

「うっさい 禿げ」

 

「は、は、禿げとちゃうわ!?」

 

 

 何か隣の宰相と思われる人物とゴニョゴニョやり続けている女王の目の前に突っ立ったままになったセバスが声を掛ける。

 

「‥‥‥あの 女王陛下におかれましては、この度は御招待いただき有難うございます。」と深く長いお辞儀をする。

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「ひゃい?」

 

「う、ううん えー 遠路はるばる御苦労であったセバス殿」

 

「はっ とんでも御座いません」

 

「その‥‥セバス殿には奥方はおられるのでしょうか?」

 

「‥‥‥は?」

 

 宰相がセバスからは見えない位置で女王の脇腹にドスッと指を一本突き立てる。

 

「ぐふっ グググ‥‥これだけは聞かせてくれぇ‥‥」と小声で宰相に懇願する。

 

 

「いえ 妻はおりませんが」

 

「!?」 セバスの見えない位置でドラウディロンが小さくガッツポーズをする。そのガッツポーズを「ぱしっ」と宰相に叩き落とされる。

 

「ん。すまない、その‥‥なんでも『漆黒』の方々は祖国の情報を広く集めているとお聞きしましたが」

 

「はい その通りです。我々は魔法実験の失敗により此方に飛ばされて来た旅人で御座いますゆえ、王国では良くして頂いておりますが、望郷の念は尽きず、帰国の方法を皆で模索しております。」

 

「ふむ‥‥では、そなた達の祖国の名前は何と申されるのか?」

 

「はい 『ユグドラシル』に御座います」

 

「ユグドラシル‥‥? ん!?聞いたことあるぞ!」

 

「えっ 嘘!?」

「誠で御座いますか!?」

 

 当然、上が宰相、下がセバスの発言である。

 

 ドラウディロンは宰相をジト目で見たあと、セバスに語りかける。

「うむ ワシ‥わたしの曽祖父は『ブライトネス・ドラゴンロード』と呼ばれていた建国の竜なのだが、確かに曽祖父が語っていたのだ。『六大神はユグドラシルより降臨した神であり、八欲王はユグドラシルから追放された者達だ』と」

 

「なんと!」

 

「当時のワタシは幼くて、お伽話と昔話の区別もついておらなくてな‥‥。今思えばあれは昔話を聞かせてくれていたのじゃなぁ」と懐かしげに目を細める。

 

「良いお爺様で在らせられたのですね。他にお聞きになられた事はありませんか?」

 

「むう‥‥六大神は600年前、八欲王という事は500年前もの昔になるのう‥‥というくらいのことしか覚えておらぬなあ」

 

「そうですか‥‥いや ユグドラシルの存在が明らかにされただけでも嬉しゅうございます」

 

「そ、そうか? すまぬな役に立てなくて」

 

「とんでも御座いません」

 そう深く頷くとセバスは白鬚の中でニコリと笑う。

 

「ぐふっ と、ところで手紙の中に興味深いことが書かれていたが?」

 

「はい ギルド・アインズ・ウール・ゴウンによる防衛網と共栄圏の構築についてですね?」

 

「うむ‥‥‥すまんが口頭で分かりやすく説明してくれんか?」

 

「はっ ここに分かり易く書かれた取扱説明書が御座いますので御覧下さい」

 

「とりあつかいせつめいしょ?」

 

 セバスは懐より取り出した羊皮紙を、受け取りにきた宰相に手渡す。

 

 それは簡単に言うとこの様な内容だった。

 

 

『ギルド・アインズ・ウール・ゴウン(以下AOG)と国境を超えた盟約を結ぶ事を提案します』

 

1.AOGが提唱する防衛網を築いて安全で平和な社会作りを実現

*国に害為すモンスターをAOGが即座に退治を致します

*他国の軍が貴国の国境を越えた場合、AOGが責任を持って追い払います

*正当な理由ある場合での軍事行動をAOGが補助します

 

2.市場価格の20%の値段で麦を中心とした食料を販売させて頂きます

*AOGが提供する食料を2年後から国内で販売する権利を御許可下さい

*安く安定した食料輸入が確保され国民の食糧事情が解消されます

*貴国民に買って頂いて得た利益の10%を関税として納税致します

*政府が買い上げて国民に販売、配給されるのも自由です

 

3.AOG共栄圏(仮名)による貴国のメリット

*各国が今抱える大きな問題である『安全と平和』をAOGが実現します

*各国が抱えている食糧問題を解決し国民を飢餓から救います

*各国が国費の半分以上を軍事費に費やしている問題を解決致します

*灌漑施設や埋め立てなどの国家の大工事をAOGが格安で引き受けます

 

4.貴国にAOGがお願いする物

*「思いやり予算」として国家予算より3%を御提供下さい

*もし他の国もAOG共栄圏に加入した場合、その国への軍事行動はお控え下さい

 

注*思いやり予算は金貨など貨幣で無くても大丈夫です。

 貴国の名産品である鉄鉱石、貴金属や毛皮、香辛料などで納めて頂くことも可能です

 *戦闘方法や工事、当方の農作物などは魔法などの尋常では無い力に頼りますことを御了承下さい

 

 

 

 セバスからの羊皮紙を一読し、女王に渡したあと宰相が珍しく汗をかきながら「なんだろう‥‥‥すっっごい胡散臭いんだけど」と呟いた。

 

 宰相から羊皮紙を受け取った女王が言葉を発する。

 

「これは‥‥我が国にとってメリットしか無い様に思うのだが‥‥?あなた達のメリットは何か?」

 

「ドラウディロン陛下が仰られた様に、私どもは『ユグドラシル』の落とし子の様なものです。数名は『漆黒』としても活動しておりますが、我々には公式な後ろ盾がありません。あるのは軍事力だけです」

 

「軍事力とは仰られるが、そもそもアインズ・ウール・ゴウンというギルドには如何ほどの戦力があるというのだ?」

 

「そうですね。正確な数字はお話ししかねますが‥‥最低でもアダマンタイトチームで10チーム分以上だとお考え下さればよろしいかと」

 

「なんと?!アダマンタイトチームなら数チームで軍隊の進軍をも防げると言われているのに10チーム以上の戦力じゃと?!ま、誠か?」

 

「はい」

 

 セバスは嘘をついていない。ただし平均レベル30程のアダマンタイトチームと違って、平均レベル60オーバーのチームが数十チームなのであるが

 

「むむう それで‥‥‥我々に貴方達の後ろ盾に成れと?」

 

「いえ それでは失礼ながら『竜王国』以外の国に取って『我々』という、この世界で飛び抜けた『力』を手にした貴国を危険視し争いの火種となるかも知れません。我々が望むのは戦争でも殺戮でも有りません。この国を襲うモンスター、軍隊の悉くを退けましょう。我々と戦うことが如何に無駄で無意味な事かを悟るまで」

 

「しかし、その見返りが国家収入の3%と云うのは余りにも、我々にとっては都合良く、あなた方にとって割りがあわないのでは無いか?『話が良すぎる取引には裏がある』というのは世の常。あなた方を疑うような事を言って申し訳ないが」

 

「しかし国費の3%というのはかなりの額だと思うのですが?」

 

「この提案によると君たちが平和を愛し、他国への軍事行動などを考えなければ防衛の全てを請け負ってくれるかの様に書いてある。それが本当なら雀の涙ほどの額だよ3%と云うのは。宰相!昨年の国家予算から軍事費へ使った額の割合は?」

 

「はっ 51%です。スレイン法国への上納金は加算しない額で、ですが。」

 

「そうだ。我が国はビーストマンに襲われているので最近軍事費が高騰しているが、他の国の多くも5割前後が軍事関連費への歳出なのだ。たかだか3%の予算で安全と平和を買えるなどと夢物語か詐欺師の類にしか思えぬのだ」

 

「では、残った予算で何を為しえますか?」

 

「う‥‥む そうだな。どうだ?宰相」

 

「97%を軍事関連費以外に使える。なんとまあ施政者としては夢のある話ですね。現在の我が国であればビーストマンの被害に因る遺族などへの福祉や住居の世話、慢性的な水不足を解消するための溜め池事業、鉱山開発などに使いたいですね」

 

「それは素晴らしい。」

 

「そりゃそうですよ。しかも本当にモンスターからも敵国からも守ってくれた上に豊富で安価な食料があるなら理想郷だって作れるでしょうな」

 

「‥‥‥そう それだ。この安すぎる食料の販売というのは何なのだ?盆地で平地が少ない我が国には有り難い話だが貴方達のメリットは何なのだ?」

 

「いえ 我々はこれから他国が開拓していない広大な土地への灌漑工事を行い、大規模な第一次産業・農作物と酪農業に力を入れる予定です。ただ規模の大きさの割りに我々は少数ですので、かなりの余剰食料が出る予定です。それを買って頂けるのであれば捨てるという無駄な事をする必要もなく僅かばかりでも貨幣を手に入れられる。これは我々にとっての「メリット」と言えるのではないでしょうか?」

 

「しかし‥‥市場価格の20%では、労働者の賃金、土地の代金に見合わない。特に第一次産業はその2つこそが経費の殆どと言えます。」と宰相が問いかける

 

「そこは我々としては余り物を買って頂くと云うことで御納得下さい。20%と聞けば安すぎる様に聞こえるかも知れませんが、そもそも農民が卸問屋に卸す価格も市場価格の3割程ですから、そんなに変わらないですしね」

 

「このAOG共栄圏に加盟した国とは軍事衝突を起こすなと書いてある件じゃが‥‥まあ 我々は他国に攻め入った事は殆ど無いから良いのだが、例えば竜王国とバハルス帝国が加盟した状態でバハルス帝国が我々に攻め入った場合はどうなる?」

 

「そこに誰しもが納得出来る正当性があった場合はバハルス帝国首脳陣と竜王国首脳陣による示談交渉をお願い致します。もし正当性無き軍事行動でしたら‥‥AOGにより盟約違反を問う事になるでしょうね」

 

「無視したら?」

 

「ペナルティを受けて頂きましょう 兵士の成り手が居なくなるまで彼の国の軍隊を殲滅させて頂きます」

 

 ‥‥‥本気だ。 ドラウディロンはセバスの軽い調子から、本当にこの者共は軽い調子で一国の軍隊を殲滅出来る戦力があるのだと悟った。

 

 

 その後も、宰相と女王の質問は続く

 軍備を弱体化させるだけさせて攻めてくるのではないか?

 我が国の農民が受ける被害について

 我々の代わりに戦ってくれたAOGの兵などのへの損害に対する補償について

 食料を輸入している最中に突然、売買をストップされたら兵糧攻めになるのだが

 鉄鉱石で納めるとした場合の貨幣への換算価値について

 

 等など多岐にわたって行われた。

 中にはセバスが独断で答えることの出来ない質問も出てきたため今日の質疑はこれで終了し宿泊部屋に帰ってスクロールにて問い合わせるため、答えを聞いた後、明日に質疑再開と云うことで今日は解散した。

 

 セバスと閣僚が退出後、浮かれる女王様に厳しい顔をした宰相が話しかける

 

「これは一ギルドとの盟約どころの騒ぎでは在りません!限りなく甘く魅惑的な脅迫以外の何物でもない!実に悪魔的だ!将来的に国と国とを覆い尽くす連邦政府に発展させるつもりなのではないか?という疑惑も持ちます。もちろん連邦政府はAOGです。」

 

 珍しく汗まみれになって宰相が熱弁するのをドラウディロンは微笑ましく思いながら「続けよ」と促す。

 

「なぜなら防衛の全てを依存するという事は、任せる側の軍備の軽減にも繋がるが、防衛を任される軍隊を持つ国の好きにされる状態を作るという事でも有ります。これでは彼らは獲りたい時に我らの国を獲れる権利を与える様なものです。

軍事的に独立していない国など国体を成しているとは言えません!なぜならどんな話し合いでも解消されない政治的問題を抱えた時、最終的に折れるのは常に軍隊を持たない国になるであろう事は明白です!少なくとも現在の社会は「理不尽な無理を通した国を各国が批難し、力のある国が引き下がる」様な成熟した社会でも、優しい世界でも無いのです!」

 

「その通りだな宰相」

 そう呟くと遠くを見るような目で周りを見渡し女王は独り言の様に話す。

 

「しかし、国内外のモンスターを退治し、他国とも率先して戦いまでしながら態々我が国を騙して攻め獲る‥‥そんな周りくどい事をしてまで得るほどの物が我が国にあるか?」

 

「それなんですよ‥‥‥ないんですよね。かなり穿った見方としてはモデルケースとして我が国を優遇しまくって、本来の狙っている国を引き吊りこむエサにするのかな?とか」

 

「いつでも盟約の破棄は自由と言ってたから、優遇され尽くしてから程良い所で逃げるか?」

と悪い顔で宰相をからかうように言う。

 

「‥‥それが出来ない状態に追い込まれている。それをした瞬間「もう盟約国ではありませんね」とAOGに襲われる。大穴として破棄する気が起きないほど幸せになっている。以上の3つから好きな物を選んで下さい」

 

「おまえ ワシが相手の嘘を見抜けるのを知っているだろう?」

 

「はい 顔の表情筋の微細な動きや竜の持つ読心術のスキルなどで解るんでしたっけ」

 

「うむ 100%という訳ではないが十中八九は嘘を見抜ける。恐ろしいことに今日の質疑中、彼は一度も嘘をついてない」

 

「‥‥‥それは本当に恐ろしいですね」

 

「彼が今日、最後のワシの質問になんと答えたか覚えておるか?」

 

「はい 陛下は「なぜ我が国のような小国を助けてくれるのか?」と質問されました」

 

「うむ それに対して彼は答えた」

 

 

  困っている人が居れば、助けるのが当たり前です

 

 

「なんというか、あの時な ストンと胸に落ちたんじゃ、その言葉が。 今までの、どの言葉よりも彼の魂の言葉である気がしたのだ」

 

 

 

 

 

 







244様、いつも誤字脱字の修正を有り難う御座います。 しかも今回は題名まで!(笑)


十五夜@様 脱字修正を有り難う御座います


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第五章四編 無邪気というラスボス

 

 

 

 

 

 

 翌朝 質疑応答二日目

 

 セバスは昨日、答えることが出来なかった質問に、昨夜の内にメッセージにてナザリックに問い合わせた答えが書かれた羊皮紙を見ながら答えていく。

 閣僚達が寝ずに考えた質問や不明点などにもスラスラと答えていく。

 

『竜王国』としては「試しに国境外でビーストマンと戦ってもらう案」と「怪しすぎるので今回はパス案」の2派に分かれていたが、全体的に見ればやや「保留」の声が大きかった。

 

 途中、女王から突然「盟約と言えば昔より政略結婚という言葉もある。どうじゃ? ワ、ワ、ワ、ワシと、け、け、け、結婚を‥‥いたたたたたたた、やめろっ!やめてっ!」

 という事もあったが、まずは貴重なアダマンタイト級冒険者であるし、ここで誼を通じておこうという思いは『竜王国』首脳陣の一致した見解ではあり、和やかな流れで昼の会食へと移行していた。

 女王ドラウディロンはヒリヒリと痛む「こめかみ」を押さえながらセバスの冒険譚などをせがんで聞かせてもらった。

 そんな時である。 突然、会食会場に衛兵が飛び込んできたのは

 衛兵は国務大臣に何かを耳打ちすると、国務大臣は青ざめた顔で女王の元に駆け足でやってくる。

 

「御来賓のおられる中、失礼を致します。申し訳ありません、陛下。東の砦が陥落寸前との報が入りました!」

「なんと!?」

「東の砦が‥‥だと!?」

 

 セバスは隣の宰相に小声で「すみません、東の砦とは?」と尋ねる。

 宰相は「東の砦は、ビーストマン部族に侵食を許している我が国が国内に建設した、ビーストマン部族を首都に侵入させないために地形を生かして最も堅固に作られた『不破の関』のことです。ここを突破されると首都まで一気に攻め入られる事になります」

 

 驚いた閣僚が騒然とする。

 

「あそこには勇将と名高いグラボウスキ将軍が精鋭3000で詰めていたのでは無かったのか!?」

 

 女王ドラウディロンが威厳を持って声を発する

 

「緊急事態である。伝令兵よ、こちらに来て直接仔細を伝えよ」

 

「ハッ」

 

「昨日までは東の砦は堅固にしてビーストマンも攻めあぐねていたではなかったか?どんな奇策を使われたのじゃ?」

 

「それが……ただひたすらの強引な正攻法で御座います」

 

「な!?力攻めか!?あの砦は20メートルの崖の上に15メートルの石壁で建てられておったのじゃぞ!?」

 

「昨日深夜より、奴ら急に気が狂ったかの様な猛攻を東の砦に仕掛けてきまして……上から熱した油や丸太を雨あられと浴びせても形振り構わず次々と壁をよじ登りだして、多くの犠牲を出しながらついに壁を登りきりまして御座います!」

 

「むう して現在の状況は?」

 

「私がグラボウスキ将軍に『危急を王都に知らせよ』と命ぜられた時は、数体のビーストマンが砦の壁の上に取り付いた所でした。敵も無理攻めだったため被害は大きく、今のところは砦内に造られている第二の壁にて抑える事が出来ている状況です!」

 

「砦内の第二の壁じゃと!?そこを抜かれたら砦より我が王都に一直線では無いか!?しかもその道程にいくつの村々や町があると思っておるのだ!?至急援軍を送るのだ!ビーストマンを砦より出すな!この城に詰める衛兵も送ってかまわぬ!またワーカー『豪炎紅蓮』にも首都防衛の依頼交渉をせよ!オプティクスは話の分かる男だ」

 

「では急ぎ編成し宰相である私、自ら向かいます」

 

「うむ 頼む。北と南の砦からも兵を割いて援軍として王都に至急招集させよ 冒険者やワーカーにも通知を出せ」

 

「はっ」

 

「そういう訳でセバス殿、今回はこれまでじゃ。次回、もし次回があれば良いのじゃが、また面白い話を聞かせてくれ」

 

 セバスは小声で「……なるほどそういう事ですかデミウルゴス」と独りごちたあと王女に向かって進言する。

 

「……陛下、私に許可を頂けないでしょうか?」

 

「帰りの通行許可手形ならすでにお渡ししたはずですが?」と宰相が訝しんで答える。

 

「いえ 私の力をこの国で使う許可を頂きたいのございます」

 

「おお! チーム『漆黒』が援軍に来てくれると云うことか?」

 

「いえ 私だけで行かせて頂きます。」

 

「なっ いや、一人で一体どうするというのじゃ!?」

 

「我々『アインズ・ウール・ゴウン』が『一人』で、何が出来るか? お試し商品として御覧頂くにはちょうど宜しいのでは無いでしょうか?」

 

 セバスはそう言い切ると、安心させるためか白髭の中で少しだけ微笑んだ。

 

『竜王国』の首脳陣は何でも無い事の様に平然と、そう言ってのけるこの老人に唖然とした。

 

 あと小声で「か、かっこええ……」という幼女の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「東の砦」を3ヶ月前より任された守将クレイヴ・グラボウスキが実は「東の砦」を建設する際に反対派だった事を知る者は少ない。

 彼は他国の力を借りてでも一度ビーストマンを『竜王国』の国境まで押し戻し、その国境にこそ大規模な防衛拠点を作るべきだと考えており、宰相にもその旨を伝えた。しかし、宰相からは「そもそも他国の力であるスレイン法国の援軍が来ない」と云うことと、元々の国境付近の地形は守るに適しておらず、実際に建っていた砦は抜かれている。そんな所に大規模な防衛拠点など建設工事自体が実行不可である。という事だった。

 却下はされたが不満は無い。グラボウスキは今の宰相を気に入っていた。彼の家は割りと良い身分の貴族だが、贅沢はせずむしろ質素倹約に努めている。しかもそれで浮いたお金を自腹で冒険者や各国のワーカーを雇うなどして国のために諜報員として役立てている。それに彼が集めた官僚や閣僚も優秀な人材が揃っており、小国であり、ビーストマンの脅威に晒され続けている『竜王国』が今も国体を保っていられるのは彼らのお陰である。時々官僚達が妙な目で陛下を見ていることは気にはなるが……。

 

 何も知らないバカ貴族は「ワーカー等と云う低俗な者共を大量に雇うなど、賊の首領気取りか」などと嘲る者も多いが彼ほどズケズケと女王陛下に諫言をする者は居ないし、あれだけ切れる頭を持ちながら私心なく公務をやり遂げる男はそうそう居ない。小国には勿体無い人物だ……。

 バハルス帝国などに生まれていたら鮮血帝と両輪となって羽ばたいていただろうに……。まあ 閣僚たちの話では女王陛下と男女の仲であるとの噂もあるが…なんでも、時々2人だけの執務室から「はぁはぁ」という荒い息遣いや、不自然な室内の物音、そして服装を乱した宰相が部屋から出て来るのが数回目撃されているのだとか。陛下も良い年なのに独身なので、まあそういう醜聞の1つくらいあっても良いとは思うが宰相は妻子持ちだからな……程々にしてくれると良いのだが ふふふ

 

「将軍!」

 グラボウスキが王都のことを考えていると部下が走りこんで来た。

 

「策は成功です!ビーストマンは壁の上でこちらを眺めることしか出来ない様です」

 

「ん……そうか 壁の上のビーストマンの数は?」

 

「およそ200と言ったところです」

 

「分かった。油が切れないように頼むぞ マジックキャスターも交代で休ませろ」

 

「はっ!」

 部下は冷静な将軍に頼もしさを感じて下がる。

 

 壁の上‥‥そう壁と言ってもこの砦の壁は城壁を思い出させるような厚みがある。そこに兵士を置くためだが幅は約3メートル

 そこに昨夜に敵が取り付いて、30人ほどのビーストマンが壁の上に登った時点で、王都に伝令を送った。早ければ今日の夜にも援軍が来るはずである。

 この砦は二重構造になっており、敵が外壁を抜いたとしても、まず30mほどの幅の木と布で建てられた守兵の宿舎などがある広場に出る。そして高さ8メートルほどの第二の壁があるのだ。ちなみにココを抜かれると背後には武器庫や生活施設、宿舎に入りきれない兵のための野営キャンプ地があるだけで王都まで遮るものはない。この第二の壁が最後の砦なのだ。

 そしてグラボウスキは敵が第二の壁に取りつき始めた瞬間、防戦に使っていた油を予め宿舎などにタップリかけており、それに火をつけた。

 阿鼻叫喚の嵐である。宿舎などがあった幅30メートルの広場は砦の壁と壁に挟まれた狭隘地であり逃げ場もない。布と木で出来た宿舎は良く燃えた。高さ3メートルにも昇る大火にビーストマンといえども為す術がなく仲間を助ける事もできない。100人ほどのビーストマンが犠牲になっただろう。更に第二位階のマジックキャスターを20人ほど用意して衛兵の大盾に守られながら遠距離魔法による攻撃を壁の上に居るビーストマンに浴びせており、逃げ場の間ない狭い壁の上でビーストマンは憎しみを顔に浮かべながら少しずつ倒れていった。

 

 

 

 ……なぜ今回はこんなに、必死なんだコイツら?

 

 グラボウスキは「とりあえずの安全」を得て思いを馳せる。

 ビーストマンという個体は非常に強力である。冒険者組合が出した平均的ビーストマンの難度は確か‥‥40~60

 これは一番下っ端の強さが40~60ということで全員がシルバー冒険者からミスリル冒険者の集まりだと思えば解りやすい。 しかも俺達で云う小隊長的な2、30人を纏めるリーダーの強さは難度70に達する。そして明らかに難度100を超える様な化け物も数体確認されている。

 もちろん手強い。しかし弱点もある。頭が悪いわけではないが動物的本能に忠実で、炎を恐れたり、自分の気分で戦ったり戦わなかったり、戦いが不利になるとヤル気をなくしてアッサリと逃げたりする。つまり軍隊としての行動はほぼ不可能で、いつものビーストマンの被害も群れとして2、30人で行動して村人に襲いかかったりが繰り返されるパターンが多かった。しかし今回はナニかが違う。

 

 なぜあんな集団行動で一気に大群で押し寄せてきたのだ?なぜあんなに死に物狂いで何度も何度も傷つき多くの同胞が無駄死にしていくのをみながら力押しで‥‥?なにかそうせざるを得ない事が彼らの身に起こったのか?

 例えば、奥地に住んでいたビーストマンの群れが蝗の大群や干ばつなどで食料を失くし中央に進出してきたため押し出された。

 例えば、ビーストマンのボスが変わった。ボスの権威が強固になり集団行動をとれる様になった。

 例えば、何か理由があって『竜王国』の拠点か、宝?の様な物を取りに来ている。いや そんなもんウチにゃねーな

 例えば、竜騎兵部族が画期的な武器や戦法を編み出してビーストマン部族の領地に攻め込‥‥

 

「将軍大変です!油の大瓶があと2つです。あと一時間くらいしか持ちません」

 

「後ろの森から燃えそうな枯れ木の枝の部分を大量に刈り取って、広場にくべて油だけに頼らずに火を燃やし続けろ。燃えやすそうでも幹は駄目だぞ!それを踏み台にして登ってこられるからな。あとマジックキャスターは一時退避し休息。弓隊の矢の補給は駄目か?」

 

「はい もう撃ち尽くしてしまいました。代わりにビーストマンが当方の撃った矢を拾って撃ちかけてきます」

 

「ズルいなあいつら。敵がこっちに撃ってきた矢は石の壁に当たって潰れたり折れたりで使い物にならねーのにな」

 

「こちらの矢は地面や森の木に刺さってますから回収が容易なようです」

 

「ちっ 石の用意は充分だな?火が消えたら魔法と投石で、ビーストマンが外壁の上に昇る度に撃ち落とせるようにするんだぞ あと貴重な油だが第二の壁に油をタップリ垂らして、あいつらが登りにくくしておけ。焼け石に水かも知れんが」

 

「はっ」

 

 

 この世界にあるのかどうかは解らないが『人事を尽くして天命を待つ』という言葉がある。

 

 彼らは人事を尽くした そして2時間もの間、ビーストマンを砦の広場に釘付けにしたのだ。

 しかし その苦労も潰えようとしている。すでに広場から第二の壁に取りつきだしたビーストマンは仲間の背を蹴って壁の上に上がる者も出てきた。

 名将と名高いグラボウスキもすでに200人ほどになった守兵と共に槍を振るっている。

 

「お前ら! あともう少しだけ頑張れ! もう少しで味方の援軍の第一陣である騎兵隊が到着するハズだ!」

 

 嘘である。

 

 早くても後3時間は掛かるのだ。しかし、それを分かっていながら守兵達は信頼する将軍の励ましに応えようとする。

 

「うおおーー!! あともう少し頑張るぞ!」

 

「俺達が少しだけ頑張れば、それだけ村人達が逃げる距離を稼げるってもんだぜ! 最後まで剣を振るうぞ!」

 10本以上の矢が身体を貫きながらビーストマンを壁から蹴落とす者が居る

壁を登ったビーストマンにボロボロの身体で抱きついて、ビーストマンごと壁から飛び降りた守兵も居る。

 グラボウスキは絶望と希望を同時に見た気分となり、ああ‥‥こいつら救ってやりたいなぁ‥‥と呟いた。

 

「槍が折れたー! 小僧! 武器をくれ!」と背後の新兵達に声を上げるが返事がない。振り返ると全員がすでに流れ矢などで死んでいた。その中にはグラボウスキが「小僧、小僧」と呼んで可愛がっていた自分の子供と同じくらいの14歳の少年兵も居た。

 

「おおおおおお‥‥‥」

 すでに背後には誰も居ない。自分たち一列が最後の防衛線だ。

 グラボウスキは折れた槍を棄てて、少年兵が大事そうに抱えている槍と剣を取りに壁から降りた。

 

 

 そして 天命がやって来た。

 

 

 そこには戦場に相応しくない一人のスーツに身を包んだ紳士が居た。

 年齢は5、60歳ほどだろうか?白髪白髭からは老人を感じさせるが、ガッチリした身体から滲み出る力とオーラが尋常ではなかった。

 鷹のような鋭すぎる目をした老人は真っ直ぐにこちらに歩いてくると、

 

「すみません お手すきであれば、少々時間を頂けますでしょうか?」と礼儀正しく一礼して話しかけてきた。余りに不思議な光景に思わずグラボウスキは、

 

「逆に聞くけど 今、暇そうに見える?」と苦笑いをしながら返した。老人も苦笑いをすると「失礼致しました。こちらを御覧ください」とマイペースに2枚の羊皮紙を取り出す。

 それは女王の捺印が入った「交戦許可証」と「冒険者依頼書」の二枚の証書だった。

 

「では 失礼致します」と再び礼をした老人は呆然と見つめるグラボウスキを無視して第二の壁の上に上がる。

 

「アダマンタイト級冒険者セバス・チャン 推参致します」

 そう、良く通る声で一言だけ敵と味方に宣言すると、一気に第二の壁の右から左まで100mを走りだした。

 いや ただ走っているのではない。移動しながら片手で汚いものでも払うかの様に「バシッバシッ」という音をさせながらビーストマンを壁の向こうへと叩き落としていくのだ。

 そして壁の左端まで行くと「ほおっ」という声と共に数百体のビーストマンが群がる砦の広場に飛び降りる。

 呆気に取られて見ていた守兵たちが「えっ?」と思って広場を覗きこんだ時、すでに数体のビーストマンが一撃で殴殺された後だった。

 

「だ、だ、だ、大丈夫ですか? お爺さん!?」

 と、ようやく口が開いた者が問いかけると、老人は笑顔で手を振りながら、やはり拳や蹴りの一撃でビーストマンを肉塊へと変えてゆく。

 

 フラフラとグラボウスキが第二の壁の上に昇って広場を見る。先程の老人がビーストマンの群れの中で踊っている。そう、踊っているとしか思えないほどに滑らかで美しい動き。ただしその踊りの最中に定期的に打撃音と血煙が上がるという物騒な舞踊ではあるのだが。

 自然体のように無造作にビーストマンの群れに歩いて行ったと思ったら突然「ボッ」という音と共に腕が消えて、ビーストマンが吹っ飛ぶ。それが淡々と繰り返されて行く光景はとても現実の物だとは思えなかった。

 

「……俺は、夢でも見ているのかな?」

 

「奇遇ですな 将軍……私も夢を見ているみたいです」

 

「ほほう お二人とも奇遇ですな 私も夢を見ている様です。私の一族は南の国の出身で、御伽話にて『仙人』という神様と人間の中間の様な存在が居るのですが……ありゃー 仙人ですな間違いない」

 

「ほう 仙人とな?」

 

「ええ なんでも山奥で霞を食べて生きているらしいですよ」

 

「三人とも、止めてもらえませんかね 現実から目を逸らしてヘラヘラするのは」

 

「しかし……傷どころか汗一つかかずにすでに、広場の半数のビーストマンを片づけているのですが……」

 

「おおー 今のビーストマン、凄く飛んだなあ……」

 

「ええ 良い角度でしたもんね 8mくらい飛んだかな?」

 

「おおっ 今のビーストマン、空中で2回転しましたよ!」

 

「うん なんだろう 凄すぎて言葉もないな」

 

「で、誰なんですか?あれは」

 

「うむ 先程もらった書類には『リ・エスティーゼ王国冒険者組合所属アダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』セバス・チャン』と書かれているな」

 

「あれがアダマンタイト級冒険者の強さですか!?うちの姫様にご執心のセラブレイト(ロリコン)もあんなに強いんですかね?」

 

「いや セラブレイトの強さは知ってるが……あの爺さんの足下にも及ばないな、奴では」

 

「ですよね。あんな化け物がゴロゴロしてたらオチオチ道も歩けませんよ」

 

「あっ マズイ!? 今、壁をよじ登って来た『片眼片耳のスカーフェイス』はビーストマン部族で数体だけ確認されている難度100を越える怪物だぞ!?」

 

「えっ 英雄級ですか!?」

 

「セバスさんっ! そいつヤベえ奴で‥‥!?」

 

「……一瞬で死にましたが……『片眼片耳のスカルフェイス』でしたっけ?」

 

「渾名を覚える前に死んだな……あのビーストマン」

 

「なんだろう ちょっと可哀想になって来ましたね」

 

「「いや それは無い」」

 

 

 ‥‥‥‥‥

 

 

「ん? 誰か来ましたよ?」

 振り向くと20騎ほどの騎兵が馬を止めて下馬してくる。

 良く見ると『竜王国』の宰相、その人であった。

 

「グラボウスキ将軍!? 大丈夫ですか?」

 

「宰相……大丈夫じゃなかったけど命だけはある……ただ王国将軍としてのプライド的な物は死んだけどな」

 

「ここにアダマンタイト級冒険者のセバス氏が来ているハズだが……」

 

「彼ならそこで死のダンスを踊っ あるえぇぇ!? 居ない?」

 

「あ お爺さんなら広場のビーストマンを全部片づけて、砦の門前の向こうに集まっている奴らを蹴散らしに行きましたぜ」

 

「……だ、そうです」

 

「……え? これ、全部彼がやったのか?」

 

「7割くらいは爺さん一人で片づけた死体ですな」

 

「なんと……いうことだ」

 

「どうしたんです?高い金を支払って雇ってくれたんでしょうが?」

 

「……お試し期間ですけどね」

 

「お試し……?」

 

「彼らが契約して欲しいと云うのだ 毎年、国家予算の3%でモンスターからも敵国の侵略からも守ってくれるとさ」

 

「……マジですかい? 正直、スレイン法国への支払いや対ビーストマンの軍備を思えば格安ですし、彼に守ってもらえるなら軍事費の節約も出来るから国の建て直しも可能ですな」

 

「まあ 我々としては美味しい話すぎて裏があるんじゃないかと疑っているんだが」

 

「裏とは?」

 

「例えば、我々が軍事費を抑えて弱体化した途端に裏切って攻めてくるとか‥‥彼らじゃなくても他国がね」

 

「冗談でしょ? 宰相、帝国のフールーダ・パラダインを知ってますよね?」

 

「勿論だとも、当代随一のマジックキャスターだ」

 

「ええ 彼一人で帝国軍全部と匹敵すると言われるほどのスゲエ強い魔法使いの爺さんなんですがね。実は私はバハルス帝国へ客将として出向いていた期間にフールーダ卿が『リ・エスティーゼ王国軍』を蹴散らしているシーンをこの目に焼き付けているんですが」

 

「うむ 報告書で読んでおるよ。『是非!我が国も魔法詠唱者の育成をしましょう!』と具申されてましたな」

 

「ええ で、あの爺さん……セバスさんでしたっけ?」

 

「うむ セバス・チャン殿だ」

 

「はい そのセバスさん ……フールーダ卿の数倍は強いですぜ」

 

「なぁ!?」

 

「彼一人でバハルス帝国は勿論、フールーダ卿もまとめて倒せます」

 

「つまり 彼らは我々を小指1つで弾き飛ばせるほど強いという事だな……」

 

「ええ そんな相手が我々ごときに詐術?策?弄する意味なんてないんですよ。自分の名誉を貶めてまでしてね」

 

 

 

 ‥‥‥‥‥‥

 

 

 セバスは東の砦の門前に上からボトボトと降ってくる仲間を呆然と見ていたビーストマンの群れを一蹴する。

 ふと 何かに気づいた様に東の森を眺めると、森の奥地へ向かって全速力で走り出す。森の林立する木を流れるように避けながら恐ろしいスピードで「ソレ」に向かって走った。

 

 そして東の砦から数キロ走り続けて、ようやく視認する。

 このへんでは絶対に現れないであろう、ユグドラシルレベルで60を超えた獣の群れ その中心に居る同僚たる第六階層守護者「アウラ・ベラ・フィオーラ」に声を掛ける。

 

「やはり、アウラ様でしたか」

 

「あー うん 久しぶりだね。セバス」

 

「お久しゅう御座います」

 

「この前、ザイトルクワエ戦で守護者が集まった時にはセバス居なかったものね」

 

「はい あの時は違う任務についておりました故……」

 

「セバスの任務が上手く行きやすい様に手伝いに来たよ。明るくなるまではガルガンチュアも居たんだよ?」

 

「おお…第四階層守護者のガルガンチュア様まで!有難うございます」

 

「いえいえ ナザリックのためならね~ それにこの子達を自由に沢山遊ばせてあげられたしね! どう?上手く砦にビーストマンを追い込めたでしょ?」

 

「はい 交渉も停滞しつつあったので良い切っ掛けになり、良き方向に動きだしてくれるのではないでしょうか」

 

「なかなか人間共には慈悲深いモモンガ様の御心は理解できないよね~」

 

「そうで御座いますね。今回の話は彼らへの破格の慈悲をお与えになる提案ですが……どうやら余りにも彼らにとって魅力的な話すぎて、我々が彼らを騙そうとしていると考えている様です」

 

「ぷーくすくす。騙す必要なんてないのにねー。いつでも潰せるのに。てゆっか生意気じゃない?今から皆殺しにして来ても良いかな?」

 

「いえ それではモモンガ様の意思に反してしまいます。どうかご自重下さい」

 

「ですよねー ‥‥と、ところでさあ‥‥セバスぅ」

 

 突然 さっきまで殺気を放っていたダークエルフの少女が顔を赤らめて両手の人差し指を目の前で「くりくり」と合わせながら恥ずかしそうに質問をする。

 

「昨日、モモンガ様にゲートで送って来てもらった後、一緒にフェンに乗って散歩したんだけど……」

 

「おお それは良いですね」

 

「うんうん! で、でね?その時にモモンガ様が後ろから私の腰を、ギュッと抱き締めて」

 

「……ほう」

 

「私が「アルベドとシャルティアのどちらがタイプなんですか?」とお聞きしたら「アウラが好きだよ」って!「アウラが好きだよ」って!!きゃあ~~~!」

 

 真っ赤な顔で熱くなった頬を両手で挟んでイヤイヤするアウラは、紳士なセバスから見ても超絶可愛かった。

 

 ……なるほど、モモンガ様はNPC達を「我が子」の様に思って下さっておられる……エルフ姉弟などは娘も同然、しかも「お母さんと私のどっちが好きなの~?」とでも言うような、そんな可愛い質問に「おまえが一番だよ」と仰られたのですね……お優しい御方で御座います。と意外とモモンガの心情をちゃんと理解していた。

 

「しかも 飲食不要の指輪は外して、ちゃんと食べて、早く大きくなりなさいって!これってぇこれってえ~!」

 

「ええ 元気に、健康的に育って欲しいというモモンガ様の父親ごこ‥」

 

「し、将来、大きくなった、わたしを、お、お、お嫁さんにしたいってことだよねっっ!?」

 

 

 

 

 ろ? ‥‥‥え!?

 

 

 セバスは大量の汗を、どっとかきながら次の言葉を紡ぐことが出来ない己の口を呪った。

 

 

 

 

 ‥‥‥‥‥

 

 

 

 

 グラボウスキと宰相は砦の外壁に立って、セバスが走り去った方を気にしながら遺体の回収や補修などの指示をしている。何気に油まみれの宿舎広場の修繕が大変そうだが仕方がない。

 ビーストマンの死体は実に1000体に上る。もちろん半分以上は砦と3000の精鋭とを引き換えに倒した物だが、残りはセバスが倒した。

 3000人の精鋭の生き残りは500程で、軽傷なのは100人ほどだ。被害は甚大にすぎる。

もう一度、ビーストマンに攻められたらもう今のままでは守ることは出来ないだろう。すでに答えは1つしか残されていなかった。

 

「おお!セバスさんだ! おおーーーーいセバスさぁーん!ありがとぉーー!」

 

 セバスのお陰で命拾いした兵は砦に向かって歩いてくるセバスに手を振り感謝を伝える。

 先ほどまではハツラツとしてたが、さすがにグッタリとした感じで疲れているみたいだ。

 当たり前である 恐らくビーストマンに恐怖を叩き込むために森の奥地まで追撃戦をかけてくれたのだろう、あれで「ケロッ」としていたら本当の化け物だ。

 ただ、宰相はずっと複雑な思いで、砦に向かってゆっくり歩いてくるセバスを見つめていた。

 

 

 

 

 そして、翌日のうちに細かい部分でのやりとりや、いつでも盟約を停止出来ることなどを文言として盛り込み、一ヶ月間は秘密にするという約束でギルド『アインズ・ウール・ゴウン』と『竜王国』との間で盟約が締結されたのであった。

 

 セバスの帰り際に女王から「その‥‥竜王国のピンチにはセバス殿が駆けつけてくるのかのう?」と、妙にモジモジして問われる。

 セバスは一考の後「そうですね‥‥その時の竜王国に害を及ぼそうとしている敵に相応した者が参ると思われます」

 女王は残念そうに「そうか‥‥しかし、そなた達の籍はリ・エスティーゼの冒険者であろう?モンスター退治の内は構わぬが防衛戦争に身を投じては色々とマズイのではないかな?な、なんならウチに移籍して来るというのはどうじゃろうか?」

 

「はい 御心配頂き有り難うございます。ただ、これから王国では色々と大変になりますし、お気にされる必要は、まもなく無くなると思いますよ」

 

「? そうか?まあ魔王ヤルダバオトによる王都の被害は甚大だったと聞いておるしな」

 

「はい では失礼致します。女王陛下」

 

「うむ また近いうちに逢いたいのうセバス殿‥‥はうっ ぐっ や、やめろ!」

 

「セバス殿にはお会いしたいですが、セバス殿と会うと云うことは我が国に禍事が起きたとき‥‥そう考えると複雑ですね」と女王の首根っこを捕まえたまま苦笑した宰相が告げて会談は終わった。

 

 

 

 

 宰相は会談の間、終始複雑な顔をしており、施政者として「国家の安寧と国民の豊かな暮らしを願わねばならぬ」という思いと、王国宰相としては国体を事実上失いゆく死刑台を登ったかの様に感じ、自らの非才を恥じるに至った。

 その夜、何度もブライトネス・ドラゴンロードの銅像に「申し訳ありません。ブライトネス・ドラゴンロード様が作られた国は失くなりました‥‥‥申し訳ありません」と泣きながら額を台座にぶつけ続ける宰相の姿があったと云う。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓の執務室にてモモンガはアルベドとデミウルゴスの報告を聞く

 

「そうか セバスは無事やり遂げたか」

 

「はい そのようです。アウラ達によるビーストマンの操作が功を奏したようです」

 

「そうか。ふふふ、これから竜王国を外敵から守り、食料も支援し、AOGと盟約を結ぶとこんなに幸せになります。というモデルケースとするために甘やかしまくるぞ」

 

「‥‥‥なんだかモモンガ様、嬉しそうですわね?」

 

「え!?そ、そうかにゃ?」

 

 ……噛まれたわ

 ……噛みましたね

 ……噛まれましたね

 ……それもまた可愛く愛おしい

 ……アルベド、不敬ですよ

 ……アルベド殿は解っておられる

 

「モモンガ様の仰せの通り、甘やかすくらいで宜しいかと。それでこそ次へと繋がりましょう」

 

「問題はリ・エスティーゼ王国ですわね」

 

「そうですね。あの国はもう駄目でしょう。財政面でもパンクしました」

 

「いや 国庫を襲ったらそうなるよね?君たち?」

 

「元々が腐りゆく王国でした。落とすタイミングだけは私たちで図らせてもらっただけです」

 

「これから予想されるのは貴族派によるクーデター、それに対抗する国王派による内戦といった所ですわね」

 

「内乱か‥‥一体どれだけの犠牲者が出るか……国民はいい迷惑だな」

 

「モモンガ様は本当に慈悲深いお方で御座います」

 

「ん?」

 

「大丈夫です。腐りゆく木に何を施しても無駄だとしても果実とその種は御座いますれば‥‥」

 

「モモンガ様の狙い通りの結末へと導かれるでしょう」

 

「……え?」

 

「もうそろそろ動きがある頃でしょう。私は情報局室を覗いてみます」

 

「うふふ デミウルゴスったら楽しくて楽しくて仕方がないみたいですわね」

 

「そうですね……」

 

 

 うん 君たちもう少し解りやすく説明してくれないかな?

 なんで、そんなに戦隊ヒーローの悪の幹部の悪巧みみたいに勿体ぶった喋り方なんだ?

 

 ……悪の幹部だからだよな 

 

 よく考えたら、俺がDQNギルド・アインズ・ウール・ゴウンの首領だって忘れてたよ……。

 

 よし あとでパンドラズアクターの所に意味を聞きに行こう! と妙に良い顔で考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 

 
 
 
 
yelm01様、絵巻物の墨狐様、244様、まりも7007様、十五夜様、誤字脱字の修正を有り難う御座います

またi4tail様に於かれましては文の読みやすさなどについてのアドバイスを頂き、誠に有難うございます。皆様方に色々と御教授を頂き、こつこつと一話から見なおして参りたいと考えております。


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第六章一編 ラナーの暴走と巻き込み事故に遭う蒼薔薇

 

 

 

 

 

運命は、志ある者を導き、志なき者をひきずってゆく

 

                    ルキウス=A=セネカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは明るい部屋であるのに何故か暗さを感じさせる空気があった。

 

 そのナザリックに新設された20坪程の一室では、回転する中華料理屋の様な円卓と、一つの豪華な椅子。そして回転するテーブルの上には大量の羊皮紙の山が積まれており、それを吟味しては整理された棚に分けられる様になっていた。

 その男は円卓の一席に座り、実に嬉しそうな顔をして報告書を読んでいた。

 他人が見れば人懐っこくて幸せすら感じただろうし、違う人が見れば、その笑顔の向こうに何を企んでいるのか?と不審を抱いたかも知れない。

 

 その男……デミウルゴスは幸せに包まれていた。

 

「デミウルゴス卿‥‥‥その報告書には、とても嬉しい事が書かれてある様ですね?」

 軍服を着込んだ埴輪が無表情ながら微笑ましそうに、そう尋ねてくる。

 

「それはもう‥‥素晴らしいですよ! パンドラズアクター! 全てが、モモンガ様の読まれた通りに世界が動いて行くことに喜びと興奮が収まりません」

 この部屋「情報局室」の主であり、造物主を誉められた埴輪‥‥パンドラズ・アクターはテンションを二段階上げて追随する。

 

「まさしく!知謀の王なる我が君は「読まれている」と云うよりも「動かしている」のです!この世界を!デミウルゴス卿!」

 

「まさしくその通りです。モモンガ様の手の上で踊るのは人間達だけではありません。この世界そのものが至高の御方の思いのままです」

 

「その報告書は……ああ、リ・エスティーゼ王国のラナー姫の物ですね」

 

「はい 本当に面白い方ですね。あの方は」

 

「全くです。本当ならその頭脳で人間を纏めてもらいたいものですが……欲望に忠実な方ですね」

パンドラズ・アクターは芝居役者の様に首を左右に振りながら言う。

 

「ええ。先手を打ったつもりでしょうが、残念ながらその先手こそがモモンガ様の狙い通りだとは気づかないでしょう」

 

「はい。彼女が居れば人間は「楽」を出来ましたが、その後の展開の意味が損なわれましたしね」

 

「まあ、その流れも結局は無意味なのですけれどね。大きな潮流の中で藻掻き苦しむ人々が見えるようです」

 

「ふふふ それは最上位悪魔(アーチデヴィル)であるデミウルゴス殿の大好物ですな?」

そう振られたデミウルゴスは眼鏡の奥の宝石をキラリと輝かせて嗤う。

 

「まさしく人間の醍醐味にして愉悦なる佳味で御座います」

 

 

 

 

 

 ・・・‥‥‥‥‥

 

 

 

 『竜王国』

 

 

 面倒くさそうな顔をして「だーるいな」と幼女形態の女王ドラウディロン・オーリウクルスは玉座で足を投げ出した。お世辞にも行儀が良いとは言えない格好で、もはや天敵と言っても差し支えない宰相から羊皮紙を受け取る。ちなみに閣僚の半数からは、このいけ好かない宰相が自分の愛人だと思われていることを女王は知らない。知らない方が良いことは世の中には沢山ある。

 

「はあ? リ・エスティーゼ王国のラナー姫が出奔じゃと?」

 

「はい、その様です」

 

「……いや、これ、そんなに重要な案件か? 美しい姫とは聞いておるが不思議ちゃんだと云う噂もある人物じゃろ? 兵も権力も無い姫が家出したからと云って宰相がワシにわざわざ挙げてくる話なのか?」

 

「……女王様の『愛しのセバス』殿が最後に仰られていた言葉を覚えておられますか?」

 

「い、愛しくねーし!?」

 

「はいはい、そういうの良いですから」

 

「流すな! 女王の言葉を流すなよっ! うわあん!」

 

「セバス殿はこう仰られたのです。これから王国は色々あって『漆黒』の事に構っていられなくなると」

 

「……まさかこの事か?」

 

「王国の第三王女ですからな。しかも国民の人気抜群の『黄金』の姫ですからね。王国では大騒ぎでしょうな」

 

「知ってた……のか?セバス殿は」

 

「もしくは仕掛けた……という可能性もありますが、まあ無関係では無さそうですよね」

 

「……一体何をする気なんじゃろうのう? 『漆黒』、いや『アインズ・ウール・ゴウン』は……」

 

「正直わかりかねます」

 

「ふむ…… で、ラナー姫は何処へ亡命する気なんじゃ? そんなもん受け入れたら、リ・エスティーゼと戦争が起こる可能性もあるぞ。」

 

「まったくです」

 

「それを考えたら敵国であり大国である『法国』か『帝国』か……正義大好きな『聖王国』か『評議国』という可能性もあるな」

 

「いえ、王国です」

 

「は? 王国だと?」

 

「ええ ウチ(竜王国)です」

 

「ブーーーーーーーーッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ---数日前---

 

 

 

 

 

 

 草原の中を走る二台の馬車がある。

 若い騎士が馬を操る『ランドー(Landau)』という貴族用のシンプルながら高価な黒い鉄の馬車と、男か女か解らないモノが馬を操る『ヤークト(Jagd)』という中型の木造の馬車に幌を付けて軽量化と積載量を確保した馬車の2台だ。

 

「魔法かなんかで、もう少し速く馬車を走らせられねえのか!?」

 

「黙れガガーラン!もうやっている!」

 

「鬼リーダー、早くキリネイラム使って」

 

「yes 鬼リーダーかイビルアイ、追っ手を攻撃して」

 

「ムチャ言わないでよ!?あれはリ・エスティーゼの兵よ!?戦闘行為に及んだら完全に私たち重罪人だわ」

 

「もう遅い気もするがな!ヘタしたら私達は王女の拉致犯という扱いだからな」

 

「そ、そうなの?」

 

「……少なくとも捕まったら、そう自供しないとラナー姫に罪が及ぶだろうが」

 

「くあーー、そうかぁ……そもそも巻き込まれて手伝ってるだけなのに成り行きで王族誘拐犯かあ……ふふふ、国のお父様が発狂するわね」

 

泣きたくなってきたわ……とラキュースは小声で呟く。

 

「それを回避するためにはちゃんとラナー姫を亡命させて亡命先で声明を出してもらわんとな!「蒼の薔薇」は王女命令で無理矢理言うこと聞かせました。とかな」

 

「まあ ラナーの事だから上手くやってくれるでしょ……多分」

 

「すいません!!みなさん!巻き込んでしまって!」

 

「気にするな少年」

 

「そうリーダーは脇が甘い。でもそこが良いところ」

 

「そうだ!おめぇは良いから馬車を走らせろ!」

 

「はいっ!!」

 

 ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフの馬車を走らせる青年と少年の間という年頃の白銀の鎧の騎士クライムは必死の形相で馬にムチを入れる。

 この少年は何も知らないのであろう。その背後のワゴンに乗せている貴人が何故こんな事をしているか。今その理由を知ったら彼はどんな顔をするのだろうか。

 そもそもの始まりは数週間前のラナーとの会食だった。

 その時、ラナーは突然告白したのだ。「ボウロロープ侯の息子との縁談が進んでいる」と。

 

 ボウロロープ侯は『リ・エスティーゼ王国』の中で最大の勢力を持つ貴族だ。本来、王にとっては味方の中の敵と言って良い貴族派の首魁であり、降嫁などしたい相手では無い。しかし、『魔王ヤルダバオト』の首都襲撃事件は余りにも深い爪痕をランポッサ三世に残すこととなった。これにより大きく貴族派へと傾いた王国の勢力争いは、もう争いと言える状態ではなくなり、ボウロロープ侯はいつでもクーデターを起こすことが可能だと言って良い。そこで苦渋の選択ながら国民的人気のラナー王女をボウロロープ侯へと降嫁するという融和策の犠牲になるというのだ。すでにボウロロープ侯の娘をランポッサ3世の長男に嫁がせており、今度はボウロロープ侯の長男とラナーが婚姻するという強靭な姻戚関係を築く訳である。これでボウロロープ侯が乱を起こすようなら不忠不義の徒としての誹りは免れず人心を失いかねない。王国派としては臍を噛む思いではあるが、その様な流れになったとしても不自然で無かった。

 

 しかし、それを聞かされた友人のラキュースとしては堪ったものでは無い。ラナーはお飾りとして生きるにはもったいないほどの聡明な友人である。そしてラキュース自身が貴族の娘としてのそういう生き方を許せなかったため冒険者として家を出たのだ。

 

 自分の敬愛すべき友人が自分の最も嫌いな事で苦しんでいる。彼女は「仕方ないわよね‥‥」と諦めた様に苦笑した。王女故の立場も憚れる。それは解る。しかし「出来ることは何でもするから!」と彼女の両手を包んで力説した結果……まさかこんな事になるとは……。

 

 ラナーが「最後に自由を楽しみたいの……ラキュース、正式な依頼として冒険者組合に出すので護衛として着いてきてね?」と可愛く微笑んだあの笑顔の奥に、こんなカタストロフィー(破滅的)なモノが隠されていたなんて! 

 ラナーは、城塞都市を巡幸しリ・エスティーゼ王国民の意気を高揚させたいとの申し出を国王に申請して、「蒼の薔薇」+200人の警護兵を連れていくならばと条件付きで承認された。

 エ・ペスペルからエ・ランテル、そしてエ・レエブルと下から反時計周りで始めた巡幸。エ・ペスペルでは市民の歓待を受けて、本当に何もなく終わった。ここを治めるぺスペア侯爵へはランポッサ3世の長女であり、ラナー姫の姉が嫁いでいる。彼ら貴族を集めたパーティでの簡単なスピーチや、教会への表敬慰問など、いつも通りに恙無く終了し2泊3日でエ・ペスペルを出る。次はバハルス帝国への最前線であるエ・ランテルだ。

 ただ、ラキュースは「エ・ランテル」で妙な空気が流れている事に気づいた。

 門から入場し、いつもの様に市民からの歓待があったのだが、女子供が目立ち、成人男性がやや少ない気がしたのだ。どちらかと言うと『黄金』を一目見ようと、男性の方が熱心に声援を挙げてくれるハズなのに?

 ちらほらと建物の窓から見える顔も、やや興ざめした様な冷ややかな表情をしている者も見受けられる。

 

 元々 エ・ランテルは王都から一番遠いところにあり、なおかつ敵国である「バハルス帝国」「スレイン法国」に隣接しているという地勢のため、王国の威光が届きにくい土地柄ではある。しかもカッツェ平野やトブの森など自然との戦いも頻繁にあり、自ら武器を取らねば生きていけない場所だ。それがゆえ、この城塞都市は王の直轄地であり、代官として腕利きのパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアを市長として送り込んである。それだけこの城塞都市の気風が治めるに難しいことへの現れである。

 なのに例年の行事になりつつある帝国との会戦では、「帝国に近くて兵站の手間が省ける」という理由で、エ・ランテル周辺から多くの兵が徴兵されるのであるから堪ったものでは無い。彼らは自分たちを苦しめる貴族というものへの不満をこの時すでに、ジワリジワリと溜めつつ有ったと云える。

 不穏な空気のエ・ランテルでも2泊3日の予定だ。エ・ランテルにはイビルアイがご執心のアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』のモモンが居る。ラキュースとしてもヤルダバオトのことなど聞きたいことは山ほどあったが、依頼中で出かけており会えなかった。

 

 エ・ペスペルと違ったのは2日目の晩餐会での出来事だった。その日、参加者の貴族の中で幼なじみで初恋同士で結婚したという羨ましい若い貴族の夫婦と馴れ初めなどを聞き及んだ後、静かに涙を流し「わたくしも本当に好きな人と結ばれたかった‥‥‥」とさめざめと泣いたのである。そして訝しげに心配する人々の前で政略結婚でボウロロープ侯の息子と結婚するという話をしたのだ。ラナーは非常に同情を買うことに成る。ボウロロープ侯の息子が愚鈍であり、見た目も麗しくなかったために「酷い!」「あんまりだ!」という声で会場は一杯に成った。

 また、この事実は本来なら参加出来ない地位なのに何故か招待状が送られて参加した「おしゃべり」で「下世話」な事で有名な人達によって、瞬く間に貴族内だけでなく、街中に知れ渡ることに成る。

 そして、3日目の昼にエ・ランテルを出発する時に事件は起こった。初めは護衛の騎兵の馬が尽く体調不良だったことから始まった。

 なぜか異常に興奮して人を乗せない馬、ぐったりしてフラフラの馬、眠ったまま起きない馬など、明らかに何者かに依る飼葉への薬物の混入が原因と見られた。そしてラナーは何故か現れない本来の御者の代わりにクライムを御者として馬車に乗り、「蒼の薔薇に護衛してもらうから大丈夫です。次の予定もありますし我々だけでも出立致します。」と、とっとと出発をしてしまったのである。ちなみにラナーの馬車の本来の御者は泥酔によるものか宿泊部屋で変死していたことが後に判明する。

 

 もちろん護衛隊がラナーの勝手を許す訳は無く、何とか動ける馬と、エ・ランテルで急いで購入した馬で30人以上がラナーの馬車を追いかけた。

 そしてその頃、ラナーはクライムに『竜王国』への道を指示し、ラキュースに『どうしても好きでもない人の元にお嫁に行きたくありません。『死』も考えましたが、クライムと共に亡命します。』と云った内容の手紙を帯同する『蒼の薔薇』の馬車へ投げ入れて走り出したのである。

 

 驚いたのは『蒼の薔薇』の面々である。必死に馬車に追いすがりながら王族の亡命は重罪であること。特に幇助罪は重く、クライムが死刑になること。ここで見逃せば自分たち『蒼の薔薇』も重罪人に成ることなどを、馬車の中のラナー姫に向かって叫ぶが窓口から見えるラナーは悲しそうに微笑むばかりで、応答してくれなかった。仕方なく馬車を操るクライムに止めるように訴えるが「私はラナー様の仰る通りに全力を尽すだけです」と悲壮な顔で叫ぶ。思えば食事会でラナーの婚姻話が出た時からクライムは少しおかしかった。思いつめたような顔をしている事が多くなり、いつもの鍛錬も身が入っていなかった。ここへ来ての無謀にも思えるラナーの行動はむしろ、自暴自棄になりゆくクライムにとっては『ラナーと命運を共にする』チャンスであり、覚悟であり、一縷の望みであった事は確かであると言える。

 

 そんな2人に護衛隊隊長が追いつき「小僧!止めろ!馬車を停めぬか!」と声高に叫び、そして「貴様!?反乱のつもりか!姫を何処へ連れて行くのだ!」と剣を抜いてクライムに斬りかかろうとした瞬間、護衛隊隊長の横っ面にガガーランの投げつけたトランクケースが当たり、隊長は吹っ飛んで大地を転がることに成る。

 もちろんこれは可愛い弟子であり自分が狙っている童貞(獲物)の持ち主の少年を助ける行動ではあるが、この「ラナー姫誘拐事件」を助ける行為にもなり、自然と「蒼の薔薇がラナー姫の従者とグルになり姫様を攫ったぞ!?捕まえろ!急げ!これは誘拐だ!」という叫び声が大地に転がる隊長から発せられる事になり、冒頭へと至る訳である。

 

 

 

 

 

 

 







代理石様、おとり先生、244様 ゆっくりしていきやがれ様、デンスケ様 いつも本当にすみません 助かっております。誤字脱字の修正有難うございます。


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第六章二編 重い旗を無自覚に立てる

 

 

 

 

 

 体調不良の馬と慣れない馬の組み合わせである追っ手側と、馬車との追いかけっこであるが、段々とエ・ランテルから離れるにつれて、道が舗装されておらず荒れ地になってくると途端に馬車のスピードが落ちた。車輪で荒れ地は非常に負荷がかかるためであり、追いつかれるのも時間の問題であった。ラキュースとしてはイビルアイが言っていた様に亡命先の『竜王国』にラナー共々自分も逃げ込んだ上で、リ・エスティーゼ王国に「蒼の薔薇」は無関係で巻き込んだだけですとでも表明してもらわなければ自分たちはもちろん、国にいる父親たちにまで「王族誘拐犯」として害される事が確実である。だから逃げ切れれば一番良い。捕まればラナーを売って助かるかラナーを助けるために自分たちと家族が重犯罪者になるか……。しかし可哀想なラナーを売るなんて出来ないし……かと言ってここでリ・エスティーゼの護衛隊達に攻撃を加えたら即・反乱者だし……。最悪だ。暗い未来しか見えないわ……。『蒼の薔薇』の馬車の中で「うっきゃああ~~!」と頭を抱えながら苦しみ、のた打ち回るラキュースを『可哀想な娘』を見るような目でティナが見ながら馬に鞭を下ろす。

 

 しかしすでに馬車を牽く馬は息も絶え絶えであり、もう歩くのが精一杯という感じになりつつある。ラナー姫の馬車は2人乗り2頭引きなためまだ走れそうだが、蒼の薔薇は5人乗り2頭引きであり、防具などの荷物も多かった。

 

 もう、これは駄目か……最悪、ラナーだけでも逃がして亡命先で急いで声明文でも出してもらおう……それまでに捕らえられた私たちは拷問とかに遭うのかな……イヤだなー。と死んだ魚の様な目に成っていた矢先、自分たちが向かっている悪路の先に黒い人影が見えた。ラキュースが驚いて遠目で、その人影を見ていると黒い影は黒い鎧であり、自分たちの知っている人物だということに気づく。

 

「も、ももんさまだあー!?」というイビルアイの燥ぐ声が聞こえる。そう、何故ここに居るのか分からないが、先日の『ヤルダバオト事件』での大活躍とエ・ランテルでのアンデッド『1000人斬り』で、リ・エスティーゼ王国の英雄と言っても良いアダマンタイトチーム『漆黒』のリーダー・モモンさんに間違い無い。

 その彼が、独りで道に立ち塞がる姿にラキュースは戦慄する。恋する乙女は馬鹿になるから仕方ないが、イビルアイの様に喜ぶ気には成れなかった。どう考えてもモモンさんがラナー姫を誘拐犯から救うためにやって来たのは間違いなく、この場合の誘拐犯は自分たちであり、つまり大英雄モモンと刃を合わせるのは我々だと云うことになる。

 

 最悪だ。

 

 そう考えてラキュースは青ざめた。

 しかし近づき大きくなっていくモモンは威厳のある声で「行きなさい。ここは私に任せたまえ」と告げたのだ。

 

「し、しかしそれではモモンさんが国に仇なす犯罪者となってしまいます!」と驚いたラキュースが問いただすと「構わない。たった独りの娘の涙を止める事も出来なくて何が騎士か」と言い放つと、無骨なガントレットを振って蒼の薔薇に「行け」と逃げることを促す。その格好良さに後ろの席から「くふんっ」というイビルアイの気絶した声が聞こえてきたが、なに気にラキュースも心がキュンキュンしまくっていた。

 

「有難うございます!本当に本当に!」と先に行ったラナーの分も深く礼をしながら馬車を再び進める。すれ違いざまガガーランから「漢だねえ~」という言葉と共に「ぴゅう♪」と口笛が聞こえた。まったく本当に良い漢だ。やめて欲しい。横恋慕してしまうでは無いか。

 

 道に立ち塞がるモモンさんを見ながら進むと突然、気絶から復活したらしいイビルアイが騒ぎ出した。

「ま、待ってくれ!ももん様を一人で戦わせるなんで出来ない!私も残る!残らせてくれ!」

 いや……それだとモモンさんが我々を行かせてくれた意味が無くなるのでは?

 

「私ならフライや転移魔法でみんなに追いつけるし、いざとなったら単独行動で姿を消して竜王国に入ることも出来る。それに草陰からの援護魔法に徹して、決して『蒼の薔薇』のイビルアイも敵に回ったとバレない様にするから頼む!頼む!」と必死にラキュースにしがみついてくる。恋する乙女の気迫に敗けたラキュースは「分かったわ……モモンさんを助けてあげて。本当に見つからないようにしてね」とイビルアイの懇願を許すしか無かった。

 

「すまない!ラキュース!恩に着る!」

 そう言うとイビルアイは馬車から飛び出して、転げるようにイビルアイがモモンの元に辿り着くと事の次第を告げる。

 モモンは「一人で大丈夫だから行きなさい。君までもが王国の反乱者になる必要は無い」と説得するもイビルアイは頑として聞かない。実はモモン……モモンガは追手に関しては絶望のオーラⅣを使用してサクッと全滅させてゲートでナザリック送りにしようと思っていたので結構イビルアイの事を「気持ちは嬉しいけど邪魔だなあ……」と感じていた。

 そしてイビルアイはあくまで自分のことを気遣ってくれているモモンに惚れなおした。

 

「あの…その……ももんさまぁ」

 突然のイビルアイの甘えたような言葉にドキッとしたが「どうした?イビルアイ」と素気無く聞き返す。

 

「その‥‥2人の時は‥‥キーノと呼んで欲しいの…だ」とイビルアイは訴えた。

 

「キーノ?」

 

「ああ、キーノ・ファスリス・インベルン。それが私の本当の名前だ」

 

「……そうか。私などに教えても良いのか?秘密にしていたのだろう?」

 

「うん、モモン様には知っていて欲しいと思ったのだ」

 

「ふむ、分かった……。おっとイビルアイ、隠れなさい。護衛隊が来たぞ」

 

「むう」と拗ねたような声を出してイビルアイはこそこそと草かげに隠れる。この辺りの道端の草は1メートル以上あるので、小柄なイビルアイにとってはたやすく隠れることが出来た。

 

 護衛隊は怪しい人影が近づくにつれ、その影が『漆黒の英雄』モモンである事に気づいた。

 

「モ、モモン殿!?なぜこんな所に? この道を先ほど2台の馬車が通ったと思うのだが」

 

「ああ 通ったな」

 

「その馬車にはラナー姫が御乗車しておわす!どうか我々と共に姫を助けだしてくれませんか?」

 

「‥‥‥先に謝っておくが、すまない。 それは出来ない」

 

「なんですと!?」

 

「私は姫の憂いを帯びた涙に心を打たれた者だ。君たちも騎士ならば姫を思って追撃をやめてやって欲しい」

 

「そ、それは出来ません!おめおめと国に帰れば我々がどれほど罰せられるでしょうや!?」

 

「ふむ、仕方ない。ではその罪を私が被ろう。君たちが手も足も出ない相手に阻まれて姫を断念せざるを得なくなったという事になるな……。さて、かかって来たまえ。なるべく怪我をさせないよう努力してみる」

 

「我々は王兵です!それは国家反逆罪になりますぞ!」

 

「是非もなし」

そう言うとモモンは二振り一対の剣を抜いて二刀流となり護衛隊の前に立ちはだかる。

 

 隊長が「クッ、か、かかれえーーーーー」と叫び自ら突進するが、モモンは彼のヘルムを剣の側面で「バシンッ」と叩いて一撃で気絶させる。

 二人目の勇者も一撃で「ゴインッ」とヘルムを上から叩かれて「はうっ」と気絶する。

 更に何故か中段の騎士たちがパタパタと傷もないまま倒れたりフラフラになっていく。

 もちろんこれはイビルアイによる魔法「低位スリープ」だ。彼女はエレメンタルマジックに特化しているものの最低位階の魔法くらいは何とか使えるのである。

 

 流石モモン様だ‥‥‥。とイビルアイは感心した。

 

 ここに居る者達は姫の護衛隊に選ばれた「リ・エスティーゼ」の精鋭である。それらの兵を傷つけることなくバッタバッタと気絶させて行くなど、そうそう出来る芸当では無い。しかも二刀流でだ。

 しかし、護衛兵から見れば「あっ モモンさんに襲いかかっても殺されないぞ」という訳で、まるで稽古をつけてもらう弟子かの様にワラワラとモモン様に飛びかかっていくのだ。むむ、こいつらズルイ奴らだ!

 

 そんな訳で草陰に隠れながら護衛兵の群れに低位スリープをかけていく。エレメンタル系以外の魔法は苦手ではあるが不意打ちのお陰でかなり効果が出た。

 結局半刻ほどで2人で全員を戦闘不能にする事に成功した。

 

 イビルアイは愛しのモモン様に誉めてもらおうと、トテテーと小走りに倒れる護衛兵の元でしゃがみ込んで様子を見ているモモンの元に背後から近づき、何をしているのかな?と覗き込む。すると突然モモンが「ふう 大丈夫っと」と呟いて立ち上がった。

 

 それにより、モモンの鎧の肩の部分がイビルアイの顎にヒットする事になり、「あうっ」という悲鳴と共に「カランカラーン」とイビルアイの仮面が外れて転がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠されていた私の顔を見たモモン様は、一瞬狼狽えた様な雰囲気を鎧から出して体を輝かせると「あれ?」と小声で呟き「ちょっと失礼する」とイビルアイの手を掴むと指輪を眺めて「……なるほど」と呟いた。

 

 ……あう あう あう……

 

 見られてしまった。

 赤い瞳を。

 唇から覗く牙を。

 私が吸血鬼である事を!

 知られてしまった!

 一番知られたくない人に!

 

「イビルアイ……君は吸血鬼だったのか……?」

 

 ああ…そうだ。罵倒するが良い「バケモノ」だと。

 

 軽蔑するが良い「嘘つき」と。

 

 昔話の『国堕とし』とは私の事だ。

 沢山の人を殺してきたのはこの私だ。

 あなたや皆を騙してきたのはこの私だ。

 

 あなたに……う、う゛うう、あなたに……恋していたのは吸血鬼だ……。

 

 私は何も言えないまま力なく地面に倒れ伏し、うつむき続ける。

 

「そうか……大変だったな」

 

 ……大変?

 

「ラキュースたち、仲間達は、この事を?」

 

「……もちろん 知っている……。」

 

「そうか。良かった。ちゃんとした居場所がオマエにはあるんだな」

 

 ……え?

 

「イビルアイ……いや、キーノ」

 

 ……それは先ほど2人だけの時に呼んで欲しいとせがんだ私の本当の名前だ。

 ここでその名前で呼ぶのか。ワタシを。

 

「いつか何かがあって、その居場所が無くなる日が来たのなら」

 

 確かにラキュースたちは寿命のある人間であってアンデッドの私とは違う。寂しくない日々もいつかは終わるだろう。孤独な、独りぼっちの日々が再び訪れるだろう。

 

「私のもとに来るがいい」

 

「ふぇ?」

 

 するとモモン様は私の傍に来て手を取ると私を自分の体に引き寄せた。それはまるでいつか見た童話の倒れる姫を抱き起こす王子様の様で……。

 

 そして私の耳元で 囁いた。

 

「大丈夫だよ。私も不老不死だから。 いつかキーノが居場所を失くしたのなら、私の元に来ると良い。私達なら、ずっと一緒に居てあげられるから」

 

「ずっと……?」

 

「ああ、飽きるくらいの時を過ごそう。ふふ、ラキュース達には内緒だぞ?」

 

 そう言うとモモン様は口元に人差し指を当てて悪戯っ子の様に「しー」と言うジェスチャーをした。

 

 その時、確かに私の心臓が250年ぶりに トクンッ と強く、私の心をノックしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ……イビルアイの様子がオカシイ

 

それは『蒼の薔薇』の誰の目にも明らかだった。

『竜王国』にふらふらとやって来て「無事だったのね!」と抱きしめたら「うふふふふふ」 にへら、と笑い

「モモンさんはその後どうされたの?」と聞けば

「ももんたまぁ……(ウットリ)」にへらと笑う。

 と云う感じで常に、にへらにへらと、ニヤニヤしているのだ。ガガーランは「奴さん(モモン)となんかあったな……」と何故か男前な表情で断言していたがそうなのだろうか?見た目は10~13歳の少女であるこの子と?

 

 もちろん殿方の中にそういう性癖の方も居るのは知っているが、あれだけの美人を侍らせて「姉妹丼」?だっけ?までしていると噂のモモンさんが?

 

もしかして……彼女(イビルアイ)が成長し大きくなるのを待っていてくれるのかしら? だとしたら彼女は不老不死で無駄な事になるのだけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 そうか……あの子はヴァンパイアだったのか……蒼の薔薇が亜人の保護をしている理由はそれかな?

 まあ、吸血鬼はモンスターだけどな分類的には。

 

 人間の世界で独りぼっちで辛かっただろうに……独りぼっちの辛さ苦しさは俺も知っているからな。

 

 シャルティアの妹分にちょうど良いし喜ぶだろう。

 アウラは創造主の関係が如実に出ていて、むしろお姉さんっぽいしな。

 この世界のことを沢山知っているだろうし、貴重な人材だな。

 ナザリックにも馴染むだろう。新しい世界の新しい仲間か……ふふふ。

 ……まあ ペロさんが居たら何らかの事案が発生してそうだが。

 

 あと、パンドラズアクターの考えたセリフが恥ずかしすぎたので、一言文句を言おう。恥ずかしさで俺を殺す気がアイツ。

 

 

 

 

 

 

おまけ2

 

 

 セバス殿に「可哀想なラナー姫をどうか救ってあげて下さい」と言われるまま迎え入れたが大丈夫かのう……。

 でも「何があっても必ず我々が守ってみせます」と言い切ったセバス殿は格好良かったのう……でへへ。

 宰相は「これでAOGの実力が解るのですから良い機会では?AOGがリ・エスティーゼ軍を追い払えば良し、追い払えなければ彼らとの契約を打ち切りラナー姫を帰せば良し」などと腹黒い事を言っておったが……。

 しかし最近ビーストマンの動きが活発で怖いのう……その代わりセバス殿が居ずっぱりじゃから嬉しいのじゃが。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ3

 

 

そうですか、コキュートスはもうすぐビーストマン部族を支配下に置けますか……それは何よりです。参謀として連れて行ったリザードマンのザリュースという男が、なかなか役に立っているようで……。ああ、適度に『竜王国』の方に奴らを追い込んであげて下さいね。セバスが暇してますから。

彼女たちも「ギルド・アインズ・ウール・ゴウンに入ってて良かった!」と感じてくれることでしょう。実に素晴らしいことで御座います。

 

 

 

 



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第六章三編 エ・ランテルの乱

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数ヶ月前~

  

 

 

 

「ねえ……次にセバス様がカルネ村にお越しになられるのは……」

 

「ですから、知らないですって」

 

「もおー あなたチームメイトなのにー」

 

「修行中の身で御座いますのでー」

 

「いもうとがつめたいいぃぃーー」

 

「姉が色ボケで辛い……」

 

 

 ニニャは帰国後、カルネ村で色ボケしている姉と穏やかな日々を過ごしていた。

 久々の姉との生活は、もっと、こう…「うふふ、いらっしゃい。一緒にお風呂に入りましょう!」とか「見て!アナタのお洋服を作ってみたの!」とかそんな生活を想像していたが現実は非情だった。長年の囚われの生活からの解放感と、セバスさんが居ない脱力感で、日がな一日、陽なたぼっこをする覇気のない姿はさながら老猫……むしろニニャがご飯を作ったりお風呂に入れてあげたり色々と世話というか介護をしている。

 おかしい。色々とおかしい。

 そのくせ、モモンさんが「女の子の家に風呂が無いのは頂けない…」と作ってくれた個人向けには大きなお風呂に一緒に入った時には突然「もきゅー!わたしより大きいーーー?!」と後ろから私の胸を鷲掴みにして「セバス様も大きい方が好きなのかしら?!」と半泣きになるとか……知らんがな。チームメイトの老人の性癖とか知らんがな。と、やさぐれる。 あの厳粛なセバスさんが「やはり巨乳は良い。オッパイは宇宙ですよね……」とか言ってたら、大抵泣く。モモンさんと一緒に泣く。あと…離して…痛い痛い痛い潰れる潰れる。

 

 そんな姉が突然「わたしセバス様の元で働きたい!」と言い出した。

 一瞬、駄目ニート(十三英雄用語)が、ついに働く気になったか?!と感動したが目がハートマークのままだったので、完全にセバスさんの近くに居たいからという不純な動機が見え見えだった。

 最近、カルネ村の駐在員になったルプスレギナさんからモモンさんへと連絡が入り、協議の結果「セバスお付きのメイド練習生」という扱いになったらしい。

 

 モモンさん、女性に甘々な気がする……。

あれだけモテモテなのに、こんなに女の言いなりになってると後々大変な事になるとおもうのだけれども。

 うん モモンさんにはシッカリ者のお嫁さんが必要だな。

 苦労人で……冒険者の仕事に理解があって……マジックキャスターで……。

 ごほんごほん……えーっと姉さんの話しだったかな? 姉さんは、それから週に5回ほど、ナーベラルさんや、ユリさん、ルプスレギナさんの指導の元「メイドへの道」を歩き出し、掃除に洗濯に料理と頑張っているようだ。

 そして今朝食べたミートパイは家庭の味でありながらとても美味しく、「ああ…姉さんの味だ……」と涙が出そうになった。「美味しいです。姉さん……。」と言ったら「セバス様も喜んでくれるかしら!」と返された。違う意味で泣きそうになった。

 

 そんな涙腺が緩みがちな或る日、久々にモモンさんがカルネ村を訪れた。

 これで、以前からモモンさんに聞きたかった事をようやく聞くことが出来る。

 バハルス帝国魔法学校へ行く際に渡された二冊の本についてだ。

 モモンさんは「支配される者と、する者に分かれない新しい政治形態、『民権政治』の概念だ」と言った。

 

 

 

 当時、私は魔法学校に真面目に通いつつ、この本に夢中に成っていく自分に気づいた。大嫌いな無能で傲慢な特権階級。生まれた時からハンデが付けられた田舎の農民という身分。同じ人間なのにどう違うのだ?という疑問は子供の頃から持っていたし、姉が攫われてからは怒りと憎しみを握りしめながら、より強く思った。

 

 モモンさんは言った「書いてみるか?」と「平民だと柵の中に放り込まれた人々に、柵を破る方法を、柵を破った後の生き方を伝えないか?」と

 魔法の勉強と好奇心が強かった関係で、他人よりは読書家だったし日記を付けるなどして文章を書く癖が付いていた自分はこの本に書かれたことを分かりやすくみんなに伝えるのに適した人物だと思えた。

 

 私は「書かせて下さい」と一言だけ言った後、知識層向けの80ページ程の本と、分かりやすく図解説入りで書かれた10枚ほどの冊子を書き上げた。

 モモンさんは私の渾身の作を読み終えると、何か少し悩んでいる様子だったので心配になり聞いてみると、何でもこう云う本には著者名を入れるのが一般的であり、著者としての誉れでも有るのだが、内容が内容だけに『王国』に捕まる可能性もあるため著者名は書かない方が良いけど、どうしよう…と悩んでおられたらしい。相変わらず気配り屋さんだなあと感心したあと、私はハッキリと「『ニニャ』と堂々と書いて下さい。偽名ですけどね!」と言って笑った。

 

 そして、この本を書き上げて憑き物が落ちたようにスッキリとした私は、禁書本の著者であることを隠すためと相まって男装を完全に辞め、本名を名乗り、未来の『漆黒』第三位階のスペルキャスターへの道を歩き始めるのです。えへん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼女の植えたタネは確実に芽を出し伸びてゆく。

 

 城塞都市「エ・ランテル」にて『民権主義へ』著者ニニャという本と『今こそ直接民主制』という冊子がバラ撒かれだしたのは、それから間もなくだった。

 その本や冊子は、始めは巧妙かつ大量に配布された。或るときは街角の道端に積まれるようになり、誰でも手にすることが出来た。

 そして政府に知られて禁書になると、宿屋のBARカウンターや、知識人の家のドアや窓から放り込まれる様になり、いつしか字を読める者の多くがそれらの冊子を読んだことがあるという状態になった。ナザリックにて大量増刷された数は実に「本1000冊」「冊子20000枚」に及び、量産を命じられた司書長の「ティトゥス·アンナエウス·セクンドゥス」を始めとして、アウレリウス、アエリウス、ウルピウス、コッケイウス、フルウィウスのスケルトン・オーバーロードメイジの者達は文字通り骨を折りまくった甲斐あって主の期待に応えた。

 

 エ・ランテルはリ・エスティーゼ王国の中でも、バハルス帝国との度重なる戦争やスレイン法国のちょっかい、そしてトブの森のモンスターやカッツェ平野のアンデッドなどにより、最も苦労させられてきた都市である。元々がそのための最前基地として建設された城塞都市なので当たり前なのではあるが、王都を始めとして大貴族は安全地帯で惰眠を貪っており、「エ・ランテルの損かぶり」である事を当たり前であることと慣れてしまっていた。

 エ・ランテルには危険地帯という事もあり、王都の冒険者以上の数の冒険者が登録されている。冒険者の多くは農家の次男三男であったり、徴兵で兵士になった後のあぶれ者だったりで被支配者階級の者が殆どある。そして冒険者が多いエ・ランテルが抱える多くの冒険者向けの施設、宿屋、酒場、食堂、防具屋、武器屋、娼館、等の第二次産業と第三次産業にとっては、貴族などよりも冒険者とバハルス帝国の商人やスレイン法国の行者の方がより親しみがあり、自分たちの生活と密接に関係している者達である。それなのに国境であり戦場に近いという理由で他の地区よりも手酷い徴兵に遭い、多くの血税を払わされているのが常であった。そういった不満が少ないはずは無い。やり手のパナソレイ市長により懸命に抑えられてきた王国への募り募った不満はいつ爆発してもおかしく無い状態であった。そして、この「ニニャ」による思想の噴霧である。彼らの多くが暴発した際の方向性が定まりつつあった。この状態で訪れたのが「ラナー姫の巡幸」である。

 

 すでに王国政府に見切りをつけて冷ややかな視線を送るものも僅かながら居たが、そこは絶大な人気の『黄金』である。王族と云うよりも「アイドル」的な人気が高く、市民から歓待を受けるが晩餐会での「貴人故の悲しみに喘ぐラナー」を知る。これで王制への擁護的な立場だった者達にも解りやすい王や大貴族達の腐りきった遣り取りを見せつけられる事になった訳であり、ラナーへの同情の思いは強くなった。

 

 そして「ラナー姫の亡命事件」が起こる。

 エ・ランテルの住民はハッキリと「ラナー擁護派」であった。

 ただでさえ王制に対する疑問と不満が頂点に達している所でこの国王の醜態。不満は義憤と結びつき劇的な化学変化を遂げていく。

 そしてラナー姫が亡命した『竜王国』へ送った国王からの返還要求が突っ返されるに至り、王国から竜王国への軍の派遣が決まる。

 ただしこれは突発的に決まったわけではない。そもそも毎年恒例になりつつあるバハルス帝国との会戦の時期が近づいてきており、例年の会戦地であるカッツェ平野に兵を集める必要があったのだ。カッツェ平野の東にあるのが竜王国であり、北にあるのがバハルス帝国である。バハルス帝国が来るよりも先にカッツェ平野に大軍を展開することは小国である『竜王国』への威嚇にもなり、一石二鳥としての軍隊活動と、その徴兵に過ぎない。

 当然、徴兵の命令はエ・ランテルにも届く、いつも通り、エ・ランテルの平民及び、エ・ランテルの周辺の村々より多数の兵を徴兵するべしという指令書である。

 

 ……それに対してエ・ランテルの答えは「徴兵拒否」であった。

 

 パナソレイ市長は良く持ちこたえたし頑張ったと云える。「プヒープヒー」と鼻を鳴らしながら平民だけでなく下級貴族にまで広がる新しい思想を躱しながら抑えていたのだ。ここへ来ての、まるで「ラナー討伐」の様にもとれる出兵にエ・ランテルの市民が納得出来るはずも無く、市長としては市民の感情にこれ以上逆らえば反乱へと繋がる事から「エ・ランテルでの徴兵と出兵は現在困難な状況にあります」と返答せざるを得なかった。

 当然、王国側としてはそれで納得するわけもなく詰問の様な伝令が矢継ぎ早に送られることに成る。しかし、これ以降の使者がエ・ランテルに辿り着くことは無かった。それは何者かに依る妨害があったからだが、それを知らない王国としては「王からの使者を無視するだけでなく殺している」としか判断出来ない状況が続いた。

 

 もともと『竜王国』に対して武力行使することに最も積極的だったのが武闘派であるボウロロープ侯であった。先日の悪魔騒動の時に大損害をうけたランポッサ王とは違い、彼の土地では被害が無く、大軍の準備は出来ていた。彼は直ぐ様、領内の兵を纏めると5万、更にリットン伯爵2万の兵と合流して7万の兵で竜王国への威嚇と、バハルス帝国との会戦に備えてカッツェ平野へと兵を進めるために南下していた。

 そこへ入ってきたのが「城塞都市エ・ランテルに不穏の動きあり」の報である。彼らはまずは反乱軍の鎮圧とばかりに『エ・ランテル』に進軍を開始した。上手く行けば本来、王の直轄地である『エ・ランテル』を大義名分の上で支配し、領土を拡張出来ると嬉々として動き始めたのである。『エ・ランテル』をおさえることはこれからの選択肢の一つである内戦などで非常に大きなアドバンテージになるからだ。

 

「ボウロロープ侯の7万の軍隊が攻めて来た!」その一報が街に広まるとあれだけ徴兵を忌避していた平民たちが率先して守備兵として志願してきた。彼らの中では自らの街は責任を持って自らで守るべきだという考えがあり、確かに民権政治としての基礎が芽吹いていたのである。

 パナソレイは度重なる停戦要請を送ったが、それらも初めの一通を除いて何者かの妨害によってボウロロープ侯に届くことはなく、ボウロロープ侯は『エ・ランテル』に到達した時、彼ら城兵がヤル気満々で防御を固めていることを知る。

 

「パナソレイめ!なにが「誤解か何かです」だ!案の定、戦闘準備が終わっておるではないか!」とボウロロープ侯が気を吐く

 

「全くですな‥‥奴が市民を唆した結果が、この反乱ではないでしょうか?」とリットン伯が追従する

 

「おい伝令!王に至急伝えよ!エ・ランテルは反乱せり。パナソレイが主導している可能性もアリ。我々はこれからエ・ランテルの制圧を開始すると!」

 

「もうすでに降伏勧告も何通も出しているのにも関わらず無視ですしな」

 

 そう、何人も出した使者は一人目以降誰も帰って来ていないのだ。

 

「うむ 王からの使者も全部斬り捨てられていると聞くしな……よし、エ・ランテルを包囲する!攻城戦の用意を急げ!」

 

 こうして世に名高い『エ・ランテルの戦い』は始まった。

 

 傲慢な貴族が、強欲な死神に抱かれながら底なし沼に沈みゆくように。

 

 

 

 

 城塞都市の名前は伊達ではない。特に初めの頃は市民兵の意気の高さが尋常ではなく、ボウロロープ軍の攻撃を何度も跳ね返した。

 ただボウロロープ軍も何故か無理攻めはせずに自軍の損耗を少なくするような戦いをしていた。

 しかし2日目には勝手が違いだした。ボウロロープ軍は城壁から顔を出す弓兵などを集中して狙いだし、時間と共に多くの城兵弓隊が犠牲になった。市民兵の多くは徴兵の際には一兵卒であり槍隊である。しかし弓兵は技術職なのだ。それゆえ本来の弓兵が討ち取られて市民兵に交代したとしても、ヤル気があるだけの市民兵では弓を撃っても当たる訳でもなく、むしろボウロロープ軍の弓隊に狙われて矢の的になるだけであり、次第に跳ね返す力が弱くなっていった。

 そして、城壁からの攻撃の手が少なくなれば攻城兵器の出番である。

 当初の予定通りにバハルス帝国への会戦だけなら必要なかったが、エ・ランテルに攻めこむ可能性が出てきた時からトブの森の木を利用して現地で作製していたのだ。 木製の三角形のテントの様な形をしており、中にはお寺の鐘付き棒の様に後ろに振りかぶって丸太を打ち付ける構造……『破城槌』である。破城槌は幾種類かの工夫された方法で自走し、攻撃者は比較的安全に防壁または壕に到達することができた。そして中に装備してある丸太を城壁に打ち付け続けて壁を破壊するのである。これが5機もエ・ランテルの壁に取り付いたのだ。

ドーン ドーン という重い音と共に震える壁に、中の市民は耳を押さえて目を瞑り怯えるしか無かった。

 

 そしてその日、ついに冒険者が立ち上がった。冒険者には戦争時不参加不介入の原則がある。そうでなければ非常に強い戦力を有する組織に冒険者組合がなってしまい国から危険視されて解散命令が出るためだ。ただでさえ冒険者には素性の知れないものも多く軽犯罪に関わることもあって行政機関から睨まれているので、国の政争などに関わらないように冒険者組合が組合員を律するのは当然と言えた。

 しかし、この日、攻城兵器が現れることによって『エ・ランテル』が堕ちる危機に多くの冒険者が冒険者組合からの脱退と戦闘参加を申し出たのだ。冒険者組合としてはたとえ今、組合から脱したとしても戦闘に加われば彼らを養ってきた組合が何らかの処罰を受けるのは免れず、断固反対したのだが、退会自体は本人の自由であり、また退会後に彼らを縛るものも無い。そして300人ほどの元・冒険者が城兵として志願した。

 そしてこの出来事によって、エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザックの懸念が現実の物となり、後に王都リ・エスティーゼでは「蒼の薔薇の件と云いエ・ランテルの反乱の件と云い、冒険者組合はテロリストの養成所なのか!」という声があがり、リ・エスティーゼ冒険者組合の閉鎖に繋がるのであり、アダマンタイトチーム『朱の雫』のリーダーでありラキュースの叔父であるアズスが頭を抱えて「ラキュゥゥゥゥゥゥゥゥス!?」と叫ぶことになる。

 

 

 冒険者達は寡兵である事を理由に夜襲を選択した。『エ・ランテル』は三重の外壁によって守られており、一枚目が破られる前に動くべきだという案が通ったためだ。

 夜陰に紛れて城から抜けるとマジックキャスターの炎系の魔法で破城槌を燃やすのを合図にボウロロープ侯の本陣を潜伏能力があるレンジャーなどで襲いかかったのである。しかしこれは重厚な彼の陣を破ることは叶わず失敗に終わった。こうして冒険者達による襲撃は80人の被害と引き換えに全ての破城槌の破壊に成功した。

 これに肝を冷やしたボウロロープ侯は自陣を後方へと配置し、再び破城槌の作製に取り掛からなければならず、エ・ランテルは数日間の猶予を得た。

 夜襲を恐れたボウロロープ侯は夜のエ・ランテル包囲兵を増員したが結果としてこれは兵の疲れを招き士気の低下に繋がった。

 そして一度目の冒険者襲撃から2日めの夜、突如エ・ランテルより散発的ながら魔法や壊れた城壁のレンガなどによる反撃が始まったのだ。

 当然、ボウロロープ軍もこれに応戦する。その時であった。前線に集まる主戦力と後方に引きこもった本陣、その伸びきった戦線を狙いすましたかの様に森から這い出てボウロロープ本陣へと駆け寄る影があった。エ・ランテル冒険者組合が誇る3つのミスリル級冒険者チーム「クラルグラ」「天狼」「虹」と他チームからの選り抜きの精鋭を合わせた30名の強襲チームであった。

 前回の一回目の冒険者に依る夜襲の際に敵陣を突破して森に入り込み2日間潜伏してこの機会を待っていたのだ。ここまでが普段から実戦を重ねてきた冒険者チームの作戦だったのだ。

 森の中での潜伏進行は「フォレストストーカー」の異名を持つ「クラルグラ」のリーダー・イグヴァルジのお家芸であった。彼らはトブの森の中を2日掛けて北上し、見事にボウロロープ侯の本陣の背後へと回り込み、仲間が兵をエ・ランテルに誘き寄せてくれたと同時に本陣を強襲したのである。

 乾坤一擲の作戦だったが敵陣にもミスリル級に匹敵する強者が護衛として多数配属されていたため惜しくもボウロロープ侯に手傷を負わせるのが精一杯であり、彼らはその場で討ち死にするか捕らえられるかで失敗に終わった。

 

 そして翌朝、彼らミスリルチームを含む30名の冒険者の骸は磔(はりつけ)にされてエ・ランテルに向けて良く見えるように晒されたのである。

 

 これは自らの命に危険が迫った恐怖からくるボウロロープ侯の怒りであり、もうすぐランポッサ王が到着するであろう焦りからくる行動だった。もちろん「これ以上逆らうとお前達もこうなるぞ」という見せしめであったが、これはエ・ランテル市民にとっては逆効果と言える悪手であった。

 なぜなら、現在のエ・ランテルでは冒険者組合長のアインザックと市長パナソレイ、魔術師協会長テオ・ラケシル、下級貴族代表のマクベイン、エ・ランテル地神司祭長ギグナル・エルシャイによる図らずも合議制に近い形により動いていた。

 パナソレイとギグナルは「とにかく書状によって誤解を解いて停戦すべき」という考えであり、若い下級貴族マクベインは新思想である民権政治に傾倒しており「エ・ランテルの独立と民主政府による自治を」という過激論者であり、アインザックとラケシルは現実主義の苦労性であり、「こちらからは攻撃せずに防御を固めていれば、もうすぐ帝国軍がカッツェ平野に来るために王国軍もそちらに行かねばならないはず。その時に背後を衝いたりしない事を旨に不戦条約を結ぶ」という意見だ。保守派2、革命派1、中立派2というバランスであり、ボウロロープへの怒りはともかく『リ・エスティーゼ王国』への帰属心は失われていなかったのである。

 

 しかしこの虎の子のミスリルチームが磔にされるに至って「これが国民に対してすることか!もう我々はリ・エスティーゼの民では無いという事か!」と彼らの上司とも云える冒険者組合長のアインザックは怒りに身を任せて石壁を蹴った。自分の弟子や後輩が冒険者チームに派遣されているラケシルにとってもこれは同様で、各種相談に乗ったり結婚式に出た事もある協会所属のマジックキャスターの変わり果てた姿は彼の心を決するに余りある光景だったのだ。これよりパナソレイとギグナル以外は「反王国」という状態になりエ・ランテルの首脳陣は強硬派が占めることとなった。

 

 そして「降伏はしない!国王が出てきた時にボウロロープ侯の暴虐を訴え、エ・ランテルに罪を問うならば反乱独立する」という方針に落ち着いた。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
歴史小説かっ!? ←自分で突っ込んだ



ツアレ ニート → セバスのストーカー
ニニャ 介護士 → 禁書本の著者

エ・ランテル → 色んな要素が何故か偶然起きて反乱へ 不思議ですね







紅蓮一様、244様、桜雁咲夜様、ゆっくりしていきやがれ様、誤字修正を有り難う御座います。


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第六章四編 英雄の凱旋

 

  

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテル暫定合議政府の決断と意思が強固になったもののボウロロープ軍の攻めは苛烈を極めた。彼らは再び用意された『破城槌』7機を以って数箇所同時に壁を壊し始めた。

 こうなると穿かれた7つの穴から兵が一気に押し寄せてくることが考えられて城内を一層不安にさせた。

 となれば門から一気に兵を繰り出すしか方法はなくなるが、城門の前には死地を設けてボウロロープ軍が待ち受けており、どうにも出来ない状態であり、いっその事バハルス帝国かスレイン法国に救援を依頼しては?という声もあがった。

 切り札的な冒険者達の多くを失ったエ・ランテル市民は失望と絶望を味わいながら揺れる城壁を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 「それ」に初めに気づいたのは東門の城兵だった。

 

 彼らは東の空に黒点を見た。それは徐々に大きくなり門兵は騒いだが、黒点が大きくなるにつれて、それがアダマンタイトチーム『漆黒』のマジックキャスター・ナーベラルにぶら下がる「漆黒の英雄」モモンと、そして見知らぬ黒い鎧に身を包んだ女性であることが判ると、騒ぎはもっと大きくなった。

 モモン達はエ・ランテルの城壁の上に着陸すると、何故か全て知っているかの様に仮の合議所に向かって歩き出す。その間も周りの兵も市民も歓喜の声を上げながらモモンを歓待する。

 モモンは軽く手を振りながら歓声に応え「もう大丈夫だ。安心してくれ」と民衆に告げると政務所に入っていった。

 

 驚き喜ぶ5人のエ・ランテル首脳に助けに来た旨を伝えて打ち合わせをすると、市民を集めて演説をしたいので、夜に塔の前に集めて欲しい旨を伝える。「その黒い鎧の女性はどなたでしょうか?」と聞かれたので「アインズ・ウール・ゴウンというギルドから借りてきた助っ人だ」と伝えて部屋から出るとエ・ランテルを見渡せる塔に昇っていった。

 

「……アルベドよ。あまりそうイライラするで無い」

 

「はっ、申し訳ありません。どうしても人間ごとき脆弱で愚かな者共が至高なる王を無遠慮に見てくる事に耐えられませんでした」

 

「解ります。 ムカデにすら劣るノミがモモンガ様のお手を煩わせている事に我慢がなりません」とナーベラルまで不満顔で意見する。

 

「オマエらなあ……ダブルスで息のあったプレイを見せるなよ……というかアルベド。お前がどうしてもと聞かないから連れてきたのだぞ?」

 

「申し訳御座いません しかしこれからの事を考えるとどうしても防御型の護衛をモモンガ様のお傍に御付けしておきたく……そ、それを冷静に、私心無く熟考した結果、これは私が最も適任だと!判断致しました。決して私利私欲ではありません決して私利私欲では無いのです。モモンガ様ぁ」

 

「わかったわかった。早口で2回も言わなくて良い」

 

「それで……モモンガ様。これからの事ですが」

 

「うむ 予定通り執り行おう。我々が来たタイミングも良かったみたいだったしな」

 

「はい モモンガ様の構想とパンドラズアクターの情報網、そしてデミウルゴスの洞察力は完璧で御座います」

 

「ははは……私はオマエ達を信頼し、この作戦を実行するだけだ ……さて、ちょっと練習するから聞いていてくれ。パンドラズアクターが演説中の身振り手振りの仕方に煩くてな」

 

「「はっ」」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 実に三時間もの演説練習を終えたモモンガはドアを出て塔から下を見ると暗くなった街の中で、塔に群がる数万の人々が見える。

 鈴木悟時代にお偉いさん相手にプレゼンを繰り返してきたといっても、これだけの圧の中で何かを喋る事は容易では無い。モモンガは自分が例え中途半端だとしてもアンデッドである事に感謝した。さっきから光りっぱなしだが、お陰で声を出すことは出来そうだ。

 窓の手すりに身を乗り出すと集まった観衆による「モモンさまああーーー!」の止むことのない歓声が上がる。

 その余りの迫力と緊張にモモンガはジットリと汗が全身を流れるような感覚に浸る。

 

 聴衆には夜の暗闇の中で緑色の光に包まれた漆黒の騎士がどう見えただろうか?

 

 ……えーと、初めは手をかざして聴衆が静かになるまで待つんだっけ?パンドラズアクターが口煩く、そう言っていたな。

 

 モモンガは右手を低くかざして、ジッと小さく頷きながら待つ。

 その右手を見て歓声は更に大きくなったが、英雄モモンの言葉を聞くために、やがて、ざわついていた声が小さくなり、ついには染み入る様な静寂が訪れる。

 

 そして英雄は静かに民衆に語りかける。

 

「我らは次のことを当たり前の真理であると考える。すべての人間は平等につくられている。神によって、生存、自由そして幸福の追求を含む侵すべからざる権利を与えられていること。これらの権利を確保する為に、人は政府という機関をつくり、その正当な権力は被支配者の同意に基づいていなければならないこと。もし、どんな形であれ政府がこれらの目的を破壊するものとなった時には、それを改め、または廃止し、新たな政府を設立し、人民にとってその安全と幸福をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方で、新しい政府を設けることは人民の権利である。」

 

 民衆は叫びたい気持ちを抑えるのに必死になる。今まさに我々の英雄が口にしたのは夢にすら見ることの無かった平民という奴隷主義からの解放宣言であった。歓喜の雄叫びを挙げたい!しかしまだ我らの英雄は言葉を紡ごうとしている!その言葉を聞きたい!これほどの熱量を持つ静寂がかつて存在しただろうか。

 

 英雄はゆったりと拳を握ると時に強く、時に優雅な身振りで民衆に語りかける。

 

「今われわれは、一大内戦のさなかにあり、戦うことにより、自由の精神を育み、自由の心と命が捧げられたこのエ・ランテルが、或いは、このようなあらゆる思想が存続出来るという事に挑んでいるのである。我々はそのような大きな意味のある戦争に一大激戦の地で、相会している。

我々はこのエ・ランテルを守るために、ここで生命を捧げた人々の最後の安息の場所として、この戦場を捧げるためにやって来た。我々がそうすることは、当然であり喜ぶべきことである。

世界は、我々がここで述べることに、さして注意を払わず、長く記憶にとどめることもないだろう。しかし、彼らがここで成した事を決して忘れ去ることはできない。

 

ここで戦った人々が気高くもここまで勇敢に推し進めてきた未完の事業に捧げるべきは、むしろ生きている我々なのである。――それは、あの非道な磔という辱めを受けた30人だけで無く名誉ある全ての戦死者たちが、最後の全力を尽くして身命をささげた偉大な大義に対して、彼らの後を受け継いで、われわれが一層の献身を決意することであり、これらの戦死者の死を決して無駄にしないために、この国に神の下で『民主主義』の新しい誕生を迎えさせるために、そして、人民の人民による人民のための政治を実現するために、我々はここに固く決意することである」

 

「私は明日の朝、出撃する。強欲で傲慢な貴族を打ち払いエ・ランテルに平和を取り戻し自由と平等を得よう。それは私の勝利では無い。君たちと君たちのために戦い死んだ全ての者達の勝利であり、そして民主主義の勝利なのだ!」

 

 モモンガが一気に演説を終えて観衆に一礼すると、一瞬静まり返った聴衆から爆発するかのような感情と歓声が広がった。

 

 彼らは自らが虐げられていた王制という物をどこかで諦めながら生きてきた。常に力のあるものは貴族であり、王制の守護者だ

 

 今まで革命やクーデターの話が全くなかった訳ではないが、実現不可能な夢物語としてその熱はスグに冷めてきた。

 

 しかし今回、あの冊子や本で瞬く間に広がった民権主義思想は熱い内に防衛戦争という槌で打ち付けられ鋼と化した。そしてその鋼で出来た『剣』に英雄モモンが、今 刃を刻み込んだのだ。

 

「熱狂的」を意味するマニアの語源はギリシャ語のマニアーであり、狂気(madness)から来ている。これは元々、古代のギリシャで夜に隠れ家に集まって酒を飲み、狂おしく騒ぎ立てる状態の事を表していたと云う。そういう意味でも正しく今の彼らは熱狂的に英雄の言葉に酔いしれた。広場や建物の窓から彼らは酒を交わし口々に「明日はモモン様と一緒に戦うぞ!」「民主主義万歳!!」「漆黒の英雄に勝利あれ!」「光の御子に栄光あれ!」と叫び続けるのであった。

 

 演説を終えたモモンガは塔から身体を引っ込めると壁に持たれるように「ふう」と一息つく。何故か心身ともに非常に疲れたのだ。アンデッドで在りながら。

 

 今、「ミンシュシュギ万歳!」と大声をはりあげている者の殆どは、その意味を理解していないだろう。それはすでに死んだ民主主義の中で生きてきたリアルの自分であっても一緒だ。……共に作ろうと言えれば格好良いが、俺はアンデッドでありナザリックの支配者だ。あとはお前達が頑張らなければならない。

 

 見せてくれよ 人間の可能性という物を

 

 

 アルベドとナーベラルが「「お疲れ様で御座いました。」」と口をそろえて言うと一礼する。

 

「うむ」と一言返して外に広がる民衆の熱を感じる。

 

 ……こんなに上手く行くとはなあ。

 

 ……図書館にあったトマス・ジェファーソンの『アメリカ独立宣言』とリンカーンの『ゲティスバーグの演説』を丸パクリしただけなのにな……。

 

 

 

 翌朝 モモンガは逸る市民を抑えて三人で城壁に昇る。そして『漆黒の英雄モモン』を知る敵兵達が悲鳴を上げる中で彼らを睥睨すると魔法を使ったのか大きく轟く大音量で「退けい暴君ボウロロープの兵達よ!罪なき一般市民である君たちは私たちの仲間であり、家族であり、友人だ。手向かわなければ傷つけない」という恫喝とも哀れみとも取れる言葉を投げかけた。

 

 モモンを知っている者達は動揺した。知らない者にとっても得体が知れないが、妙な迫力を持った人物であることぐらいは感じた。たじろぐ兵の動きに焦ったかの様に後ろに下がっていたボウロロープ侯と、その取り巻き達が騎乗して兵の間を廻り「落ち着け馬鹿者共が!敵は3人だぞ?!」と兵を宥めながらもモモンに近づかないように距離を保っている。

 

「オマエがボウロロープか‥‥‥ 今 そっちに行くぞ」

 

 そう告げた瞬間にモモンは城壁から一気に飛び降り、アルベドとナーベラルも続く。

 

 一斉にモモンの周囲から距離をとる兵たち。それはまるで「十戒」のモーゼが海を切り開くが如くの映像だった。 モモンはボウロロープの陣を指さして、「あそこまでの道を開けなさい。邪魔すれば死ぬ」と言い放つと、まるで無人の荒野がごとくゆっくりと歩み出した。遠くから弓矢や弩で攻撃する者も居るのだが、どういう仕組みになっているのかモモンの身体に当たる前に粉々になったりして彼の身体に届くことは無い。またモモンを守るかのように前を歩く女性だと思われるハルバードを持った黒い鎧の戦士に攻撃をした者は飛び道具だったとしても、そのハルバードにより正確に攻撃手の元に弾き返されて死んでいった。そして5メートル程空中を浮きながら殿を務めるナーベラルには強力なマジックバリアーが張られており、そのバリアーを突き抜ける攻撃手段はボウロロープ軍には無かった。つまり、ボウロロープの兵たちは彼らを害する手段を何一つ持たず、ただ蹂躙されるだけだった。モモン達は無傷のままゆっくりとボウロロープ侯の居る本陣へと突き進むのである。時折、勇気か自棄で突っ込んでくる兵士も一刀のもとに切り捨てられた。

 

 そう 彼らは7万の兵の海を当たり前のような軽やかさで真っ直ぐ直線で突き進んだのだ。

 

 途中で突き立てられた槍衾も黒い女性騎士の一振りで数十人が宙を舞った。ボウロロープ侯の本陣から駆けつけてきたミスリル級の衛兵たちも一合の元に切り捨てられていく。誰も彼らを止められなかった。

 

 城壁の上からモモンの姿を見ていた城兵が叫ぶ 

「これは我々の戦いだとモモン様は言った! そう我々の戦いなのだ! 我々は何のために居る? 英雄の劇を特等席で楽しむためか? 違う! 行くぞ! 漢なら武器を持て! 城門を開け! モモン様に続けええええ!!!」

 

 その声に激発した市民は槍や刀を手に城門から一気に飛び出す。モモンに身も心も支配下におかれて魅とれていた敵兵にとっては奇襲であり、ボウロロープ軍は為す術もなく市民軍に討たれていった。心を完全にモモンの支配下に置かれた敵兵達にとって、城兵からの攻撃は無為の暴力であり、完全にこの瞬間 戦の趨勢は決した。

 

 ボウロロープ侯の本陣までモモンガと市民軍が100mほどの距離になった頃、「ボウロロープ侯が撤退! ボウロロープ侯が撤退なり!」という敵兵の悲鳴が聞こえた。それを聞いてモモンガは胸を撫で下ろした。捕まえるのも殺すのも簡単だったが、無駄に貴族達の恨みを買わないまま、畏れを抱いた大貴族が尻尾を巻いて逃げ出したという結果こそ望ましかったのだ。

 

 モモンガ達は剣を納めて周りの敵兵に「これ以上、ボウロロープに義理立てする必要はないだろう? 彼が置いて逃げた兵糧や軍費、武具などを賃金代わりに分け合って国に帰るが良い」と優しく告げ、味方の兵には「彼らは君たちと同じ平民である。仲間であり、友人である。戦いは終わった! 武器を納めよ! 我々の勝利だ!」と告げて、市民軍による虐殺を押しとどめた。

 

 残されたボウロロープの5万の兵はモモンの言葉に肯くとエ・ランテルから退却を開始した。そしてエ・ランテル市民の歓喜の雄叫びが空一杯に轟いたのだった。

 

 

 

 捕らえられる事こそなかったが、ボウロロープ全軍は大将の敵前逃亡により大きく後退を余儀なくされた。しかも平民軍はそれぞれ補給物資を我が物として散り散りに退散してしまい、残る兵は数千程で帰国する以外に方法はなかった。

 

 敵の撤退でエ・ランテル内は沸き返ったがボウロロープが去りゆく草原に交代するかのように現れたのは国王ランポッサ3世とレエブン侯の率いるリ・エスティーゼ王国軍の本隊5万5千の大軍であった。もともとカッツェ平野の会戦に向けて準備している時に不穏な動きのあるエ・ランテルをボウロロープ侯が攻撃を開始したと聞いて準備を急いで進軍してきたのだ。ボウロロープがこれを機にエ・ランテルを接収しようと企んでいることは誰の目にも明らかであったからだ。

 しかし、それが思いもよらぬ顛末を迎えている。ボウロロープの兵は疲れきり士気も最低で逃亡兵も日に日に増えている状態であり、とてもこれからカッツェ平野にてバハルス帝国の精鋭と戦える状態ではなかった。

 

 ランポッサ三世は側近やレエブン侯と急遽話し合う。

 エ・ランテルが堕ちる前に到着して、エ・ランテルをボウロロープ侯の好きにはさせない様に急いで来たのに、エ・ランテルはボウロロープ侯を追い払い自主独立を声高に叫んでいる。これは完全に想定外の出来事であった。

 

 エ・ランテルはバハルス帝国とスレイン法国の国境にある要衝中の要衝であり、兵の強さや練度でリ・エスティーゼ王国が両国に劣るものの広大な土地を維持し、その国土を生かした大きな国力を生かして何とか国体を保てたのはエ・ランテルがあったからだと言えるのだ。

 もちろん直ぐにでも取り返したいのが本音ではあるがボウロロープの大軍を追い返せる程の戦力が有るのならば55,000の軍で囲んだからといって早々に堕ちる物ではないだろう。そうなれば包囲戦をしている間にカッツェ平野に兵を集結しつつあるバハルス帝国に後背を突かれる事になるだろう。そもそも無理攻めをすればエ・ランテルがバハルス帝国やスレイン法国と同盟し連携して挟撃される可能性もあるのだ。ヘタには動けない……。逆の発想として、もしエ・ランテルが自主独立を保ち、バハルス帝国とも同盟を結ばないというならば、バハルス帝国はエ・ランテルを攻めるしかなく、そうなればバハルス帝国の後背をリ・エスティーゼ軍が襲うことも可能だ。もちろんバハルス帝国の賢帝がそんな愚を犯すとも思えない。つまりエ・ランテルが独立国として頑なにエ・ランテルを守ってくれるのならばバハルス帝国、スレイン法国に対する緩衝地帯として役に立つという見方も出来る。短期的に見れば……だが。

 

 長期戦略的に見れば、エ・ランテルとその周辺地を失えば国力が落ちる。特にあの辺りは王の直轄地であり、国内の王族派のダメージは大きい。ただでさえ悪魔たちに国庫を襲われて息も絶え絶えなのにである。そういう内々の見方をすれば貴族派の首魁であるボウロロープ侯が大敗したのは有り難かった。ここはまず、毎年恒例のカッツェ平野での帝国軍の睨み合いを早々に終了させたあと、一挙に貴族派を打ち払い国内を刷新したのち、エ・ランテルと相対するべきであろう。幸い周辺の村々と街道や補給路を抑えればエ・ランテルは干上がるしかなく、抱える市民が多いだけに援軍なしの持久戦に強い城塞では無いのだ。

 

 そこまで話し合った時点でランポッサ三世は軍の方針を決定しエ・ランテルに使者を送った。

 今までの殺されてしまった使者では無く、とびっきりの使者を。

 

 

 エ・ランテルに向かってくる20騎ほどの集団に注視していた城兵達は、彼らが「使者」の旗を持っていることで安心し、一息ついて上層部に伝令を送った。

 使者は城門が少し開けられた隙間から中に通されると、現在のエ・ランテルの暫定政府とも言えるべき政務室に連れて行かれる。

 中に入ると見知った顔であるエ・ランテル市長のパナソレイと四人の男が座っており、更に奥の机にやはり見知った漆黒の鎧の男「モモン」が座っていた。

 

「使者とはガゼフ殿の事だったのか……」とモモンが言う

 

 そう、今までの使者は切り捨てられているのか彼らに届いている気配は無かったために王は戦士長のガゼフを使者として派遣することにしたのだ。

 

「久しぶりだな モモン殿‥‥その席に座られていると云うことは、エ・ランテルの王はモモン殿という事で良いのかな?」と動揺を隠して問いかける。

 

「いや そうでは無い。そもそもこのエ・ランテルに『王』は存在しない。これからもな」

 

「ほう?」

 

「民が代表を選び、選ばれた代表者が民に代わって市政を行うのだ。説明すると長くなるのでこの冊子を読んでくれないか?」

 ガゼフはモモンから妙に慣れた手付きで渡された冊子に目を通す。数分ほど流し読みをしつつ「うむう」と唸りを上げる

 自分が一平民だった頃なら夢見た社会かも知れないが、今の自分には自分を信頼してくれ、そして自分が敬愛する王が居る。

 

 ……もう色んなしがらみから抜け出せない自分とは別世界の話だな。そう考えてガゼフはため息をつく

「分かった。つまりモモン殿はこの『大統領』という奴なのだな?」

 

若く身なりの良い青年が「そうだ! 市民がモモン殿を圧倒的に支持したのだ」と答える。

 

 だが、モモンはイヤイヤと軽く手を振った。

 

「確かに市民は私に「大統領」に成って欲しいと支持してくれたが、それでは駄目なのだ。異国人だしな。私は半年間だけの間、暫定政府の取りまとめ役として本当の大統領と政府のための選挙制度などの法整備に携わり、新政府の骨格を作り上げた後は御役目御免と降りるつもりだ」

 

「そんな!?」

 

「民は英雄の貴方の元でこそ結集出来るのに!?」

と冒険者組合長と魔術師協会長だという男達がモモン殿に詰め寄る。

 

「それがいけないのだ。その『英雄』という奴がな。良いかね? 『英雄』なんてのは劇薬なんだ。使うのは国が危機に陥った時だけにすべきで、常時の投薬は身体の毒だ。いつか英雄は国を腐らせる毒になる」

 

 ガゼフは柳眉を開いて驚愕してモモンという英雄を見た。一介の剣士では無いと思っていたが、ここまでの見識の持ち主だったのか‥‥と

 

「しかし エ・ランテルの危機は未だに去っていないように思うが?」とガゼフが問いかける

 

「ふふ そのためにガゼフ殿が来てくれたのだろう?ランポッサ王は何と?」

 

「うむ、陛下は、『降伏してくれるのが一番だが、そうも行かないだろう。エ・ランテルが自主独立を固持し続けバハルス帝国やスレイン法国の軍門に降らないと言うのであれば今回は兵を引くし、今、カッツェ平野に居るバハルス帝国がエ・ランテルに攻めてくる様なら後背を突き、エ・ランテル軍と協力してバハルス帝国を挟撃しても良い。但し、バハルス軍にエ・ランテルの門を開くというなら軍を進めてエ・ランテルを攻め取る』との仰せだ」

 

「ふふふ そんなことをすれば王軍がバハルスとエ・ランテルとの挟撃に遭うのにか?まあ良い。大丈夫だ。エ・ランテルはバハルスにもスレインにも膝を屈しない。王には安心して兵を引いて頂きたいと伝えて欲しい」

 

「……それは有難いが、王国軍が兵を引きカッツェ平野に向かわない場合は帝国軍がエ・ランテルまで攻めてくる可能性は高いと思うのだが……どうやってココを守るつもりなのだ?」

 

「うむ それについては、すでに手は打ってある。今、エ・ランテルは市民による政治に沸き立っている。本当は君のような市井の勇者にこそ、我々と共に戦って欲しいのだがな」

 

「モモン殿のような人にそう言って頂けるのは誉れではあるが、我が身はリ・エスティーゼ王国と陛下に捧げた身なれば」

 

「ああ そういう君だからこそ私は貴方を尊敬し、憧れているのだ」

 

「な!? ……いや 過ぎた言葉が何とも面映い……今回はモモン殿と敵にならずに済みそうで安心している。いつでも援軍の件は引き受けるので宜しく頼む」

 

「うむ ではなガゼフ殿。 息災で」

 

「ああ モモン殿こそ」

 

 二人は立ち上がり両手で固く握手をした。

 これがモモンとガゼフの最後の邂逅であった。

 

「‥‥大丈夫なのか? モモン君。そのアインズ・ウール・ゴウンというギルドは?」

 ガゼフが去った後、アインザックが心配そうにモモンガに問いかける

 

「大丈夫かというのは戦力の事かな?組合長」

 

「ああ」

 

「なら大丈夫だ。セバスもナーベラルもユリも、元々アインズ・ウール・ゴウンからの助っ人だったのだ。そして私も彼らAOGと志を共にする者である。彼らの強さは良く知っているのだろう?」

 

「それは知りすぎているくらい知っているが……。」

 

「うむ 安心したまえ 心配なら竜王国に使いを出して調べれば良い。あそこは我々よりも先にギルド・アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結び、ビーストマンの脅威から身を守る事が出来ているのだから。さあ我々はやるべき事をやろう。新しい国作りだ」

 

 

 

 

こうして『エ・ランテル独立戦争』は終結した。様々な思惑と、新たな火種とともに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

「ところで聞きたい事があるのだが」

 

「なんでしょうモモンガ様」

 

「モモンのアダ名の中で『光の御子』という物があるんだが、なぜそんなアダ名が?」

 

「えっ」

 

 

 









模海月様、代理石様 LV.23様、244様、誤字脱字修正有り難う御座います


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第七章一編 帰還

 

 

 

 現在は一瞬のうちに過去となり

 誰もがいつかは死に

 運命は人知を超えて荒れ狂う

 それが当然といわんばかりに

 運命が人智を超越し人の仔をもてあそぶが理なら

 人の仔が魔をもって運命に対峙するは因果

 悪とは

 生存欲に基づく能動的意志の一面である

 生命の中にのみ悪の因子は存在する

 魔とは

 悪に基づき悪を求める生命の力の組織化である

 魔とは熱情の一種である

             ディスティ・ノヴァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国軍はエ・ランテルからは兵を引いたが、バハルス軍の動きを見るために、エ・ペスペルにて軍を駐留させていた。

 そして今後の対応を相談していた時に本国よりの伝令が走り込んできた。この時点で彼はなにも気づいていないが、この伝令から歴史は唸りを上げて回転力を増していく。

 

 王都を始めとして各地の大都市などに、悪魔とおぼしきモンスターが多数現れたと云う報告が王の元に届けられたのだ。

 リ・エスティーゼ軍を率いたランポッサ3世はレエブン侯と兵を分けて自分の管轄地の悪魔討伐に向かうことになる。

 間もなくそれは以前、王都に現れたのと同じ悪魔の群れであり、そして仮面の悪魔「ヤルダバオト」の再臨だと判明した。

 ヤルダバオトは魔法により空に巨大な仮面を被った自分の映像を映すと街の全てに、こう要求したのである。

 

「愚かなる人間共よ。儀式のために必要な『高貴な血』を差し出すが良い。さすれば民に被害は及ぼさない」と

 

 平民の血ならいざ知らず、自分たちの血など絶対に流したくない貴族は大反発したが、悪魔たちは平民にも或る程度の被害は与えたものの、徹底的に貴族を狙って攻撃を始めた。どうやって調べたのか貴族の家をピンポイントで襲いかかり、次々と攫っては抱えて空を飛び北の空へと消えた。当然大貴族になると軍隊を所持しており、守りを固めたが、一兵卒、つまり平民から言えば「散々威張り散らしてきた貴様らがその太った身を差し出せば俺たちは助かるのに、なんでオマエら貴族を助けるために平民であり、本来は悪魔に襲われないハズの我々が死に続けなければならないのか!」と云う不満とともに彼らを護衛することを放棄する兵は日増しに増えていった。この彼らの貴族離れの理由の一つとしては最近になって街に出回っている「ニニャ」という著者が書いた禁書も一つの要因となっていた。彼らは貴族という長年に渡る搾取者に辟易しており、『エ・ランテル』が独立し、本に書かれてあった民主政治という物を始めるというニュースに興奮する者も居たのである。

 

 ただし貴族の中にも当然、統治される側にとって良い支配者である貴族も居た訳であり、そういう者は民兵も必死で護衛するために助かる場合が多く、日頃の行いが如実に現れる結果となった。

 

 ランポッサ3世が王都に駆けつけた頃には1000を超す悪魔が王都を荒らしまわっており、「最も高貴な血」の登場に、悪魔たちはランポッサ王に遮二無二襲いかかってくるかと思いきや意外とそういう事もなく、貴族は全員が万遍なく襲われて命を散らせていった。平民にとっては悪魔についでの様に殺されるのは巻き添えのような死に方であり、貴族への不満は高まりに高まった。いっそエ・ランテルの様に俺たちも王も貴族も追い出そうという街の声も日に日に大きくなっていった。

 ガゼフならば、群れをなす悪魔は何とかなっても『ヤルダバオト』には勝てないことは本人にも分かっており、かと言って、前回ヤルダバオトを打ち払ったモモンは今は味方という存在ではなく、またバハルス帝国が狙っているであろうエ・ランテルを留守にすることになるため救援を求めても無駄であり、ランポッサ3世は頭を悩ませた。

 そんな時に「ボウロロープ侯、討ち死」の報が王やレエブン侯のもとに届けられた。城に立て篭もるも度重なる悪魔の襲撃に疲れきった兵士が平民と協力して、裏口から市民を招き入れてボウロロープ侯の家族を撲殺。 最後まで抵抗して剣を振り回していたボウロロープ侯は彼の自慢の南国より輸入した高級なカーテンを手にした市民達に囲まれて、そのカーテンで包みこまれて生きたまま城の窓から外へ投げ棄てられて墜落死したと云うものだった。

 権力争いをしていた相手とは云え、大貴族の陰惨な最期に王と閣僚たちは息を呑んだ。このまま悪魔を一旦、追い払いながら居城に戻ったとしても、自分達も市民に殺される可能性があるのでは無いか? そう考えると何のために頑張っているのかを見失い日に日に王の覇気は失われていった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 エ・ランテルには引っ切り無しにリ・エスティーゼの各街から救助要請の使者が舞い込んできた。

 領主からの物もあったが、その多くは市民からの悲鳴のような使者だった。

 そして「英雄であるモモンでなければヤルダバオトは倒せず、どうか立ち上がって欲しい。」「我々もミンケン政治の子となりたい」「どうか助けて下さい」という物が多くを占めた。

 しかし、バハルス帝国の軍がカッツェ平野に集結しつつある今、傷が残るエ・ランテルを放置してヤルダバオト討伐に向かうなど夢物語である。実際、エ・ランテル首脳部の多くは元・故国である「リ・エスティーゼ王国」の人々を助けたいという気持ちが強かったが、エ・ランテルが堕ちれば「民権政治」の火が消えることも分かっており、どうしようもない気持ちで過ごしていた。

 

 そんなある日、モモンが各地の大貴族へ手紙を書いた。

 

 内容は、

「貴国の市民から多数の救援要請が来ているので助けに行っても良いだろうか? 助ける条件は3つ 

 1.街の住民が望んだ場合、我々と同じ民権政治へと移行し、王を含めて貴族の命や土地財宝は保証するので軍隊を解散し権力者の地位から降りること。またその場合、一時的に街はエ・ランテルの指導下に入ること。

 2.アダマンタイト冒険者『蒼の薔薇』にも手伝ってもらうので彼女たちとラナー姫の罪を帳消しにすること

 3.レエブン侯は新政権で働いてもらうこと」というものだった。 

 

 アインザック達は内容にも驚いたが、エ・ランテルを留守にして助けに行こうとするモモンにも驚いた。

 彼らの疑問に対してのモモンの返事は「大丈夫だ。ギルド・アインズ・ウール・ゴウンとの盟約を結んであり、すでに、バハルス帝国からエ・ランテルを守ってくれる話がついている。それでも危ないなら急いで帰ってくるから心配しなくても良い」という物だった。

 

 ただ、要求が要求であり、貴族が権力者階級から降りるとはとうてい思えなかった。

しかし、各地からの返事は驚くべきもので、ほぼ全部が「命と財の保証をしてくれるなら言うとおりにする」という物だった。エ・ランテル首脳陣が考えていた以上に事態は深刻であり、ヤルダバオトと悪魔達が去った後に一番恐ろしいのは貴族への不満と怒りに燃えている市民であり、到底事件終了後に無事に再び彼らを治めることなど出来そうにも無い状態だったのだ。それ故、各地の領主は命と資産が保証され、尚かつ新政府の重鎮に信頼出来るレエブン侯が就いてくれるなら旧貴族に対して無体な仕打ちは避けられるであろうことなどの考えからモモンの提案を喜んで呑んだし、市民も貴族への怒りは募るが「民権政治」へとスムーズに移行するなら是非もなしという返事だった。数少ない渋い返事はレエブン侯の物であり「支配者の地位は喜んで譲るが、これからは息子と共にのんびり生きたい。新政府で働くのは勘弁して欲しい」という泣き言の手紙だったのでモモンは破り捨てて見なかった事にした。

 

 こうしてモモンはヤルダバオト討伐に動き出した。

 

 まずはゲートを使いラキュース達『蒼の薔薇』を迎えに『竜王国』に迎えに行った。突然現れた訪問者に「も、ももんさまぁ!」とイビルアイが飛びついてきてモモンの首からぶら下がった。モモンはイビルアイのことはブラ下げたまま無視して、何も無かったかのようにラキュースに事情を話した。彼女たちも故国の惨状に心を痛めていたが、罪人の身ゆえに諦めていた所、自分たちの罪が消え、自ら人々を助けに行く事が出来ると聞いて興奮したラキュースに「有難うございます!」とイビルアイの上から抱きつかれた。イビルアイは二人の胸に挟まれたまま、可愛く「むー」と唸り声を上げた。

 『蒼の薔薇』をゲートに送るために彼女たちに与えられた館から出ると、妙な視線を背中に感じた。モモンガが振り返ると、建物の窓から顔を半分だけ出したラナーが睨んでいた。思わず「こわっ!?」と言って身体を輝かせた。蒼の薔薇はラナー姫と宰相に事の次第を告げてゲートにてエ・ランテルにやって来た。

 

「ところで……」とモモンが「蒼の薔薇」に問いかける。

 

「ラナー姫の部屋の中に居た少年の首に首輪と鎖が繋がれていたのだが……あれは一体?」

 

蒼の薔薇は一斉にモモンから顔を背け、感情と抑揚の無い声で「なんでもないですヨ?」と声を揃えて答えた。

 

「いや……でも、なんか少年、スゴく…やつれていたんだが」と食い下がると、ラキュースは遠くを見るような眼で「彼女は本懐を遂げたのです……」と呟いた。 

 

 良く分からないが、ラナーは幸せらしかった。

 

 

 

 

 

 机の上にリ・エスティーゼ王国の地図を広げて『蒼の薔薇』と作戦会議をした結果、悪魔に襲われている都市の中で一番近い『エ・ペスペル』『エ・レエブル』の悪魔を追い払って後に王都に向かうことになった。ヤルダバオトが何処に潜んでいるのかも判明していない事とランポッサ3世は大軍で王都の悪魔と戦っているはずなので、エ・ペスペルからと云う判断になったのだ。

 そしてモモンがアインズ・ウール・ゴウンからの助っ人という事でお馴染みのマジックキャスター「ナーベラル・ガンマ」と神官である「ルプスレギナ・ベータ」を紹介した。ナーベラルはいつも通りの無愛想な顔で「よろしく」とだけ言い、逆に褐色で健康的なルプスレギナは「初めまして!よろしくお願いするっすよー!私に任せればスグにビンビンですよー!」と軽い感じの挨拶をした。蒼の薔薇的には彼女の持つ「そりゃ一体なんだ?」という巨大な十字架の様な武器が気になった。

 打ち合わせが終わった後、おもむろに『蒼の薔薇』のラキュースが

 

「しかし……民権政治とはモモン様も思い切ったことをなされましたね」と言い出した。

「私は貴族という特権階級に疑問を持ち家を出ましたが、こんな全てを引っ繰り返すような制度がリ・エスティーゼでも実現されつつある日が来るとは夢にも思いませんでした。」

 

「私は本当ならラナー姫のような聡明な人にリ・エスティーゼの代表として就いてもらおうと考えていたんだけどね……ただ王族が引き続き最高権力者に就くのでは民権政治の意味が無くなるとも考えたんだ」とモモンが語りだす。

「今は、こうして無実の罪で国を追われながらもリ・エスティーゼの危機に帰ってきて悪魔を退治する英雄……ラキュース大統領か。悪くないな」

 

「うええ!?」と目を見開き驚愕するラキュース

 

「先ほど自分で言ったように、民衆は君が貴族を棄てて冒険者に成った経緯を知っているしね」

 

「……そんな! 政治など私に出来る訳ありませんよ! モモンさんがやれば良いじゃありませんか!?」

 

「私は異国人だし『英雄』になりすぎてしまったから駄目だよ。私が大統領になったら『モモン王国』が出来るだけの話だ。それゆえ選挙に立候補するつもりも無い」

 

「……ま、まさか そのために私たちを呼び寄せたんじゃないです……よね?」

 

「今なら面倒臭い事を全部任せられる凄腕の政治家も付いてくるよ?」

 

「それでレエブン侯を!?」

 

「彼は有能だからねえ。それに罪を許されたラナー姫という相談役も居るよ?」

 

「モ、モモンさん……あなたという人は一体……貴族をある程度新政府に残した理由も悩む貴族が新政府への不安を減らすためでもあるのですか?」

 

「ふふ ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラの最大の冒険が始まるな。まあ立候補は本当に考えておいてくれ。最後に選ぶのは民だが、民に君を選ぶチャンスを与えるのは君しか居ないんだからね」

 

 

 

 モモン一行と蒼の薔薇はエ・ペスペルに攻め込む。

 と言っても市民には熱狂的な歓迎を受けると同時に悪魔数百体にも出迎えられるが「蒼の薔薇」の奮闘もあり、悪魔退治は捗った。この調子なら恐らく数日で解決の目処がつくだろう。ラキュースは以前の悪魔達より悪魔が弱いことに気づいた……何故だろうか?さくさくと気持ちよく倒せるのだ。自分たちが強くなった?いや あれから冒険らしいことはしておらず自分自身を鍛え上げた記憶も無い。バッサバッサと悪魔を切り捨てる私たちに砦や家から見守っている市民達から歓声が挙がる。……まさか……いや……まさかね……。とラキュースはブツブツ呟き、それを聞いたティナには「病気が悪化している……どうしてこんなになるまで放っておいたんだ?!」とイビルアイに詰め寄ったがイビルアイも違う病気にかかっており、意味は無かった。

 

 エ・ペスペルを悪魔から解放すると次はエ・レエブルに向かう。馬での移動で街に近づくと郊外にレエブン侯の3万の軍が駐留しており、見張りの兵に伝えて本陣のレエブン侯の元に案内される。

 

 レエブン侯が複雑な顔で出迎えてくれる。

「来てくれたか……ありがたい、ところで……」

 

「まあ、まずは状況を教えてくれないか?」とモモンがレエブン侯の口を塞ぐ。

 

 しかしレエブン侯は名君であらせられるのだなあ‥‥一兵卒に至るまでレエブン侯を守るために士気が衰えていない。

 彼が善政を布いている証であろう。平民である彼らが奮闘しているという事は。

 

「でだ。もちろん助けに来てくれたのは有難いのだが、出来れば新政府に仕えるというのは無しにしてもらっても良いかな?余生は愛息とノンビリ暮らしたいのだ」

 

「ちょっと待って下さい」と突然レエブン侯の部下が割り込んでくる。

 

「私は平民の出で騎兵隊長をやっておりますウェイン・イエーガーと申しますが、約束状の項目には「市民が望む場合は民権政治に移行」と書かれておりました。我々市民は民権政治への移行ではなく、続けてレエブン侯に『エ・レエブル』を治めて頂きたく思っております」

 

「ふむ それはレエブン侯が名君だからだね?」

 

「はい レエブン侯こそ、けだし名君で御座います」

 

「うん、確かにレエブン侯は素晴らしい名君だ」

 

「ええ そうですともレエブン侯は最高です」

 

「やめてくれないか?本人を前にして……とても恥ずかしいんだが」

 全く……何かの罰ゲームなのか?と顔を赤くしたレエブン侯がボヤく。

 

「私もレエブン侯は名君だと思う。君たちや一兵卒までもがレエブン侯を守り、エ・レエブルを救うために一丸となっている時点でな」

 

「はい」

 

「でも だからこそリ・エスティーゼの全ての民のために彼の政治能力を使って欲しいと思うのは駄目かな?」

 

「それは……。」

 

「それに今は良い。レエブン侯は名君だからな。しかし、レエブン侯の孫は?曾孫は?玄孫は?彼らが暗君だった場合に苦しむのは君の孫であり曾孫であり、玄孫なのだ。」

 

「……。」

 

「私の前で、私の子々孫々の悪口を言うのは程々にしてもらえないかな‥‥まあ モモン君の言いたい事は解る」

 

「はい、封建制とはそういう物です。人間としての権利が全て君主に委ねられている。良いかい?ウェイン君。君たちが幸せに成ることも不幸に成ることも、それらは全て、君たち自身に責任が無ければならないのだ。甘えるな。リ・エスティーゼ王国が腐っているというのは支配者側だけの事ではない、それに甘んじて責任を上に擦り付けるしかない状況に飼い慣らされている被支配者階級の君達の事も含めてなのだ」

 

 騎兵隊長は返す言葉もなく項垂れた。

 モモンは可哀想に思ったのか優しい声で「厳しいことを言ったな?詳しくはコレを読んでください」と優しい声と妙に手慣れた手つきで冊子をウェインとレエブンに渡した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ナザリックの第5階層「氷河」に存在する館「氷結牢獄」の主が片手にキャリオンベイビー(腐肉赤子)を抱き締めながら妹にメッセージを送る。

 

『アルベド。ようやく動き出したわよ』

 

『本当? 姉さん、エ・ランテルへの到着予定日は?』

 

『このスピードだと……早いわね。最速で4日後。軍隊行動としては異例のスピードね。情報部からの報告通り、皇帝は有能らしいわ』

 

『うふふ 監視ご苦労様 では早速モモンガ様にお知らせするわ』

 

 全くあの娘ったらモモンガ様が大好きなくせに業務報告しかお声をお聞きできないからって嬉しそうにしちゃって。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『ラキュース日記』

 

 

 モモンさんと私達がエ・レエブルの悪魔を一掃し、城で休んで歓談していた頃、突然モモンさんが立ち上がり「今日はもう失礼して部屋に戻ります。」と言って立ち去ろうとする。そしてドアから出ようとした瞬間にクルリと振り向いて『蒼の薔薇』一行を見渡すと、「あのー その、明日からの私はちょっとテンションが高いかも知れないが気にしないでくれたまえ。では失礼する」と言って去っていった。私たち「蒼の薔薇」の面々は顔を合わせて「何のことだろう?」と訝しんだ。

 

 しかし、翌日、果たして彼の言葉は真実であったと痛感させられる。

 モモンさんはいつも以上に美辞麗句に包まれた言葉で他者を褒め称え、特にイビルアイには逢った瞬間に軽く抱き寄せると「今日も愛くるしい顔(かんばせ)をしておられる」などと歯の浮くようなセリフを言い放った。イビルアイは身体を硬直させつつ、「今日は張り切って口紅の色を変えたのだ」と返した。 後ろでガガーランが「いや お前マスクしてんじゃねーか」と突っ込んだので彼女の腹筋にラキュースが肘鉄を食らわせたが痛いのは自分の肘だった。モモンさんが「なるほど鮮やかで君に良く似合うルージュですね」と誉めた。後ろでガガーランが「だからなんでマスクしてるのに解るんだよ!」と突っ込んだ。

 

 嗚呼……でも、マスクをしていても解る。

 今、確かにイビルアイは顔を真っ赤にして少女の様に幸せそうな顔をしている。

 それは私にとって確かに嬉しいことなのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 モモンガがゲートを繋いで移動をするとそこはいつものナザリックでは無かった。岩山の一部を繰り抜かれたような玄関があり、中に入るとナザリックの荘厳な雰囲気とは違い荒目の石を敷き詰められた壁と、削りだしの大理石の床で出来ている空間があり、それは通路でもあった。高さ4m、幅5mの石の廊下は100mほど続くと、一つの屋敷がスッポリと入るほどの広いホールに出て、そこから各部屋の階段が伸びている。この中にはモモンとしてのアンダーカバーのために作られた部屋もある。

 ここはアウラとマーレのダークエルフの姉弟により、とある場所に作成された、もう1つのナザリック「2ndナザリック」とでも言うべき場所である。

 ここにはナザリックの地下10層のレメゲトンに設置してあった超希少金属のゴーレム67体のうち7体が移設されており、恐らく殆どのパーティを楽に死滅させる事が出来る防衛力を持っている。

 その中の右から2つ目の扉から中に入り長い石廊下を歩いていくと大きく重い鉄の扉があり、その中にはナザリック第一階層へと続くゲートが設置されている。ゲートの両脇を警護としてシャルティアの眷属になったクレマンティーヌとセーラー服を着た第七席次が立っており、モモンガが来ると丁寧にお辞儀をした。

 

 

 

 

 ……さて出番か……気乗りはしないがな。

 

 と思いつつ歩きながらモモンガは魔法で作られた防具を消してゲートを潜り、ナザリックの王は彼が本来あるべき場所へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ 

 

 

~王都奪還後~

 

「おお 久しぶりだのう アインドラの姫よ」

 

「お久しゅう御座います。ランポッサ王」

 

「ところで 娘、ラナーの様子はどうだろうか?元気でやっておるかの?」

 

「‥‥‥‥‥はい とても元気にやっております。」

 

言えない‥‥あなたの娘さんは夜な夜な「お姫様とお呼び!」ぴしぴし というプレイに乗じているとなんて言えない。

 

「しかし……なぜ娘は出奔を?」

 

「はい……ボウロロープ侯の御子息との婚姻が嫌だったと聞いておりますが」

 

「ボウロロープの小倅との縁談?……初耳なのだが」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「…………らぁなぁああああああああああ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ2

 

 

 

 

モモンガはパンドラズアクターに良く言い聞かせた。

 

「イビルアイはヴァンパイアであり我らと同じ異形種である事は報告に上げたから知っているな?」

 

「はい あの時、鏡の間から統括殿の「近い近い近い近い近い!!」と云う絶叫が聞こえていた件ですな」

 

「……そうなのか?」

 

「ええ ご安心ください ユリ殿はセバス殿と共に竜王国に出掛けておりましたので御覧になっておりません」

 

「まて、なぜそこでユリの名前が出てくる」

 

「はははは これはしたり」

 

「……まあ イビルアイ本人も我々に対して好感触であったし、いずれナザリックに迎えるつもりだから丁重にな」

 

「我々に?モモンガ様に対しての間違いでは?」

 

「なにを言っているんだ? とにかくヨロシク頼むぞ」

 

「はっ 我が神の仰せであれば!」

 

 パンドラズアクターは理解した。

 

「英雄色を好む」我が主はナザリック以外でも妾をお作りになられ、その妾にも気を使ってやってくれとの仰せで御座いますな! おまかせ下さい。このパンドラズアクター。全身全霊で格好良いモモンを演じつつ、イビルアイ殿の御心を離さないように致しますぞ。

 

 

 

 

 

 










代理石様、244様 ゆっくりしていきやがれ様、いつも本当に誤字脱字修正を有難うございます。


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第七章二編 降臨し蹂躙し君臨す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪」とは何か?

 

 

『ユグドラシル』時代は悪ノリの延長線上と、異形種への迫害の被害者として、彼ら人間種を選択し「善」なるプレイヤーぶってイベントを楽しむ奴らに対してロールプレイとして「悪」らしくあろうとしていたように思う。

 悪のロールプレイに徹しながらも41人で最盛期にはギルドランキング第9位に名を連ねたのだから、本当に素晴らしい仲間たちだった。それは何も無かった『虚無』の俺の人生の中で確かに輝かしく誇らしい時間で……だからこそ執着し、妄執し、固執したのかな。

今のアンデッドの身だからこそ、あの頃の自分を冷静に、客観的に、そして同情と憐憫をもって見れるのだ。

「ウルベルト・アレイン・オードル」 ウルベルトさんは「ゲームの中でくらい世界征服をしようぜ!」と良く言っていた。現実世界でオレと同じように、小卒の貧困層であり、両親は既に他界しており、ウルベルトさんは「あんな危険な場所で働かされて、ろくでもない死に方をし、死んでも骨も戻ってこず、剰え見舞金は雀の涙以下だった」と怒っていた。それが切っ掛けで二極化している現代社会そのものを憎悪しているとも。

 デミウルゴスは設定がしっかりしていたからセバスほどには創造主の影響は受けていないと思うが……今回のことは彼らにやらせるべきでは無い。オレが背負うべき業なのだ。

 

 オレはウルベルトさんが実社会でどのような活動をしていたのかなんて知らない。誰かが持ち込んだ図書館の発禁本の犯人も知らない。ただ、『悪』であることを望んだ彼はちゃんとした『悪』だから目先のことではなく巨悪を見つめて『悪』という手段をもってしてもと鬱屈した気持ちを抱えたのかも知れないし、同時に彼とケンカばかりしていた、たっちさんもまた、ちゃんとした正義だから、目の前の事で起こる不正を許せないまま、その背後、自分たちの上に存在する巨悪に鬱屈した気持ちを抱えていたのだろう。 

 手段や考え方の違いはあれども『正義』と『悪』は高いところでは結ばれているのかも知れない あの2人を見ていてそう思ったんだ。

 

 

 

 ……今から、今からオレがすることを、彼ら二人はどう思うのだろうか。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 荒れた草原の中、踏みしめられて出来た道とでもいうべき轍を、六万の軍隊が整然と、一匹の獣のように進んでいる。カッツェ平野を越えてリ・エスティーゼ領土に侵入し、エ・ランテルへの道を突き進むバハルス帝国の精鋭である。

 

『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』

 この、世界でトップクラスの頭脳を持つ皇帝は馬車の中で師父であるフールーダ・パラダインや秘書のロウネ・ヴァミリネン、帝国四騎士リーダー「雷光」バジウッド・ペシュメルと共に揺られながら地図と諜報員からの報告書を見ている。

 

「で、今は『蒼の薔薇』とボウロロープ軍を追い払った『漆黒』は魔物退治で王都リ・エスティーゼに居るのだな?」

 秘書官が汗を拭きながら「は、はい、間違いありません」と答える。

 この秘書官は能力主義の皇帝に見出される程に有能であったが、有能であるが故に皇帝の方が自分よりも優れていることを理解しており、そのために皇帝に相対するときは常に緊張を強いられている。

 

「『漆黒』か……どうなんでしょうね? そこまで陛下が気にされる程の強さなんですか?」とバジウッドが面白く無さそうに愚痴る。

 

「まあ、チームにはナーベラルという第五位階の魔法を使えるマジックキャスターが居るらしいですからな」とフールーダが興味深そうに話す。

 

「ああ 冒険者が本格的に戦闘に参加しだした「エ・ランテルの戦い」以降にリ・エスティーゼ王国のアダマンタイト級冒険者は全部調べているのだが、『漆黒』は凄く謎が多いチームでな。 そもそもアダマンタイトになった瞬間から、まるでアダマンタイトに成ることが目的だったかの様にピタッと表舞台で働かなくなったのだ。しかも事件解決以外では雲隠れしてしまい諜報員もお手上げでな」

 

「そもそも冒険者が愛国者というのも変な話ですよ アダマンタイトになるほどの実力者なら普通に軍隊の中でも出世し放題ですよ?」

 

「ほう? バジウッドよ。彼らが愛国者だと考えた理由は何だ?」

 ジルクニフは意地悪な笑みを浮かべて帝国最強の戦士に問いかける。

 

「へ? そりゃ 一回目の魔王討伐や今回の悪魔討伐でも命を投げ打って国のために戦っているじゃないですか?」

 

「ふふふ そもそも愛国者ならリ・エスティーゼを捨てエ・ランテルの味方になどならぬだろう」

 

「そうすると……誠の『民の守護者』って奴ですか?」

 

「……そうとしか思えない動きをしているのが逆に胡散臭いと疑っている」

 そう言い捨てながら報告書をパンッと指で弾いてみせる。

 

「ふむ。ジルは彼らの動きが綺麗すぎるというのですな?」とフールーダが興味深そうに反応する。

 

「ああ。まるで、どうすれば一番人々から賞賛されるかを解っていて行動しているようではないか?」

 

「……『漆黒』が名誉欲の塊だとすれば、確かに今回の動きも理解できますね。みすみす手に入れたエ・ランテルを見捨てる様な物ですよ。今回の悪魔騒動での彼らの行動は」

 

「まあな。ただ私は奴らはただの名誉欲での動きでは無くエ・ランテルより大きな物を狙っているのでは無いかとも考えている」

 

「大きな物……? まさか!」

 

「ああ リ・エスティーゼ王国だ。奴らの民権政治では平民をも含めた投票により一番偉い者を選出すると聞いた。そして今回の行動……。なあ、今 リ・エスティーゼ王国で選挙とやらが行われたとしたら誰がその地位に着くと思う?」

 

 馬車の中の全員が顔を見合わせて「ふう」と溜め息をつく。

 

 しかしジルクニフは尚も思考する。もしも彼がリ・エスティーゼ王国の王になるとして、だとしたらエ・ランテルという要所を捨ててしまえばどうなるか? それは、リ・エスティーゼ王国の国力の衰退への引き金に為らざるを得ない上に最重要防衛ラインを自ら手放すという事になるのに?

 疑念は残る。しかし何よりもジルクニフにとって、皇帝という絶対君主にとって「民主政権」という政治形態は絶対に存在を許してはならないものだった。エ・ランテルという美味しすぎる餌に一抹の不安を得ようとも、エ・ランテルで芽生えた「民権政治」を可及的速やかに叩き潰すことは絶対君主制の『皇帝』として命題とも言える行動だったと云える。

 

 

 

 そして その君主としての業が呼び寄せたモノは濃密な『不吉』そのものだった。

 

 

 ジルクニフは時折見せる過激な行動からは想像付かない者も多いが、慎重に慎重を重ねる性格でもあった。彼は幾重にも連なる斥候部隊を持ち、当然今の進軍中も先遣隊として動いている。

 

 それらの先遣隊が無反応のまま突然消えた。まるで神隠しにでも合ったかの様にスクロールによるメッセージでも反応は無い。全員が、である。

 

 その報告を受けた若き皇帝は不可思議さに一瞬戸惑いながらも全軍に進軍の停止を告げるように連絡兵に命じる。そして「どよどよ」とした喧騒が馬車の外から聞こえてくると同時に、全身に怖気が走った。突然に。あまりに突然にソレは訪れた。

 バジウッドが急停車した馬車の窓から外の様子を窺うと「陛下……オカシイです。今は昼のハズなのに辺りが暗いですぜ」とゴクリと喉を鳴らしながらジルクニフに注進する。

 しかし彼は四騎士のリーダーであり、皇帝の優秀な護衛官でもある。

「外を……見てきても、良いですか?」

 と普段からは想像もつかない真剣かつ沈んだ眼で尊敬すべき皇帝に発言をする。

「……ああ 頼む」

 バジウッドが恐る恐る下車すると、進軍している隊列の先頭から、前方100mほど先に巨大な黒い渦の様な物が空にいくつか浮いており、そこからノソリノソリと黒い影が這い出て来たのが見える。

 

 そして地に降り立つ1つの影。

 まるで「凶」という存在を熟成しつくした様な影に軍の進軍先を阻まれていた。あれは我々の敵対勢力か何かであり、ただ事ではないと判断したバジウッドは帝国四騎士の一人「激風」ニンブル・アーク・デイル・アノックに偵察を頼むと「不動」の名を持つナザミ・エネックを呼び寄せて皇帝の馬車の守備を指示する。

 さらには四騎士の中で紅一点のレイナース・ロックブルズに小さな声で「いざと云う時の退路を確保しておいてくれ」と指示して隊列の後方の方を指さす

 バジウッドは皇帝の馬車のドアを開けると「魔法かナニかで前方を阻まれております。フールーダ卿に見てもらいたいんですが」と普段の陽気で軽妙な様子とは打って変わって、深刻な顔で報告した。

 

「ほう」と興味深そうに髭と皺にまみれた顔からギラリとした眼を輝かせると、フールーダは見かけ以上に身軽に馬車から降りる。ジルクニフも彼の後に続いて下車し前方の様子を窺う。

 

 そこには陽炎のように暗闇が渦巻いた空を背景に「ゆらり」とした影を作る人型の存在が居た。

 

「んん……?なんだアレは?爺」

 ジルクニフは返事のない師父フールーダの顔を振り返り見ると驚愕に満ちたフールーダの顔がそこにはあった。

 

「……どうした爺? マズイ物かアレは」

 ゆっくりと開けたままの口を閉じてジルクニフを見たフールーダは泣いた様な目と歪んだ笑顔で答える。

 

「っくはははぁ! それが判らないのですよ皇帝陛下! 250年間で初めて見るモノなのです! アレが魔法なのか自然現象なのか悪魔的なモノなのか、何もかも爺には解らないのです!」

 

「爺にも解らないか……まあ 味方以外の何かの可能性が高いよな。爺のタレントの魔力感知で見るとあの影はどう見えるんだ?」

 

「殆ど魔法反応はありません。ただ『恐ろしい』……アレが恐ろしい何かである事は解ります」

 

「同意見だな。魔法力を感じないという事は悪魔や天使の様なナニかでは無くモンスターであり、物理攻撃タイプか? よし、軍を展開し戦闘態勢に入れ!また、先頭に対アンデッド用の装備をした特殊工作兵を動かすのだ。その後、話の通じる相手なら交渉と行こうじゃないか」

 

 皇帝ジルクニフは全軍の指揮官であるナテル・イニエム・デイル・カーベイン将軍に指令を出す。

 名将の名高いカーベイン将軍は自身の第二軍とベリベラッド第三軍を先頭にした右翼と左翼を形成する重厚な布陣を布くと、後衛を務めていた第六軍のグレガン将軍には皇帝陛下の退路の確保を命じる。 職業軍人として鍛えぬかれたバハルス帝国の兵6万は澱みなく指揮官の指示を実行し得体の知れない状況の中で能く動いた。

 

「まるで我々の準備を待っているみたいだな……」とジルクニフは呟く。

 バジウッドは偵察に出ていたニンブルよりアレが黒いローブを身にまとったエルダーリッチだと告げられる。

 

「エルダーリッチだと!?」とバジウッドが驚く。

 

「エルダーリッチか……カッツェ平野には死体やアンデッドが多いからな……合体して強化されたか」

 

「恐らくは……しかし魔法力が殆ど無いエルダーリッチというのも何とも面妖な」

 

「普通、魔法詠唱者だよな? エルダーリッチは」

 

「そうですね。ベースとなったモノの魂や遺体が戦士ですと格闘系のエルダーリッチが生まれる事もあると聞いております。ただ、そのへんのアンデッドなら兎も角、エルダーリッチであるなら魔力反応が無いのは解せませんな」

 

「ふうむ……まあ 安心はした。エルダーリッチなら爺の敵では無いしな。あれだけの超常現象を起こしていたので魔王か何かだと警戒したが」

 

「交渉いたしますか?」

 

「……そうだな エ・ランテルを攻める前に無駄に消耗するのも馬鹿らしい話だからな」

 

「では伝令を送り要求などを聞いてみましょう」

 

 その時、空から。聞き間違いなく空からジルクニフを含めて全軍に声が響き渡る。

 

 

『その 必要は無い』

 

 ジルクニフ達はあまりの出来事に全身を固まらせる。

 

『我は「死の神」なり。アインズ・ウール・ゴウンの盟約により、ここから先は通せぬ。今すぐ逃げ帰るならば見逃そう』

 

(なんだこれは? 天空から聞こえる声は、まるで本当の神のようだ。しかしあのエルダーリッチの仕業である事は間違いない。よくも自分のことを「死の神」だ、などと抜け抜けと言ったものだ!しかも、わざと兵の前で「逃げる」などという言葉を使って本当に逃げることを防ぐとは忌々しい奴め)

 ジルクニフは、そんな心の中の苛立ちを隠しながら余裕を持った顔で空ではなく前方のリッチに向かって気軽に声をかける。

 

「別に貴方と戦うつもりは無い。 通してくれるだけで良いんだがな?」

 

『……』

 

(なぜ無反応なんだ?)と再び苛立ちながらも平静を装って再び話しかける。

 

「要求があるなら聞くが?エ・ランテルに少し用事があるので転進はちょっと困るが。それに自分のことを「死の神」などと言っていたが、すると貴方はスルシャーナという事なのかな?」

 

『スルシャーナなどという私より格下の相手を引き合いに出すのはやめてもらおうか……今、逃げれば追わぬ』

 

 何を、とち狂っているんだこのリッチは? バジウッドと目を合わせると「話になりませんな」と呟く。

 エルダー・リッチの分際で、六大神の一人であるスルシャーナを格下の存在であるとか……脳味噌も魂も腐りきって話の通じる相手では無いな……。しかし、無理に戦わずに遣り過ごせたなら一番良いのだが。

 

「ほう それほど凄い御方だとは知らずにご無礼を致しました。どうだろう?我々の仲間になり共に戦ってくれると云うのは? どんな供物も御捧げ致しますが」

 

 

『……はあ もういい』

 

 今までの威厳のある言葉から突然、拗ねた子供の様な口調にジルクニフ一同は驚いた。

 

『どうせ 予定では1回はしなきゃイケないことなんだ……』

 

(何を 何を言っているのだ!このエルダーリッチは!?)

 

『何度も言ったぞ……逃げろと、逃げてくれと』

 

 (なんだ…この背骨が凍りつく様な恐怖は!これがただのエルダー・リッチ?)

 

 

『昔から死の神への供物など決まっている……お前達の命を捧げよ』

 

 

「死の神」が腕を一振りする。それに合わせるように突如としてその「死の神」を名乗るリッチを中心に、10メートルにもなろうかという巨大なドーム状の魔法陣が展開された。そのあまりにも幻想的な光景は驚きの種だった。

魔法陣は蒼白い光を放つ、半透明の文字とも記号ともいえるようなものを浮かべている。それがめまぐるしく姿を変え、一瞬たりとも同じ文字を浮かべていないようだった。

 帝国兵から驚きの声が上がる。それは見事な見世物をみたときに上げるような、緊張感の全く無いものだ。

 しかし、そのジルクニフと側近達は、その巨大な魔法陣に言い知れない不安を感じていた。

 

 

 いないな。

 

 死の神――モモンガは魔法陣を展開しながら、そう判断した。

 帝国の軍の中にもプレイヤーはいないと。

 

 ユグドラシルと言うゲームの中での超位魔法は強大である。しかしその反面、発動までに時間がかかるというペナルティがある。強ければ強いほど時間がかかるようなシステムとなっていた。それも自軍に属するものが使えば使うほど、追加時間ペナルティが掛かることによって一層の時間がかかるようになっていた。これは超位魔法の連射だけでギルド戦争が終わらないようにするための、製作会社の抑止の手段としてだ。

 つまり逆に言い換えればそれほど強いと言うこと。

そのため大規模戦の際は、超位魔法を発動しようとする者を最初に潰すべく行動するのは基本だ。転移魔法による突貫、出の早い超位魔法による絨毯爆撃。超遠距離からのピンポイントショット。それら無数の手段を使ってでも、妨害に出るのが基本中の基本だ。

 

 しかし、今回、モモンガにはそういった攻撃は1つも飛んでこない。それは逆に言えばユグドラシルプレイヤーの存在の不在を証明するもの。

 

 モモンガは1つ溜め息を付く 

 

 (ああ 上手くいかないもんだな。結局は作戦通り、予定通りか)

 

 骸骨であるモモンガの顔には、寂しそうな笑顔が浮かんでいるように思えた。

 

「もはや、囮になる必要もなしか」

 

 それだけ呟くと、モモンガは純白の小手に包まれた、己の手を開く。そこには小さな砂時計が握られていた。

 

「かきんあいてむー」

 

 昔に大流行した青のネコ型ロボットのような口調でモモンガは呟く。そして握りつぶそうと力を入れた瞬間。モモンガの――いや鈴木悟の昼食2回分の金額が飛んでいく光景が脳裏に浮かんだ。

 

 ……いや わざわざ使う必要なくないか? よし勿体無い勿体無い やめやめと課金アイテムをボックスにしまい込む。

 

 ドーム状の魔法陣をバハルス帝国の兵士たちは不安の中で見守り続け、モモンガも ……ああ、発動してしまうな と云う思いで哀しげに見守った。

 

 そして――超位魔法は発動する。

 

 

《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》

 

 

黒いものが帝国軍右翼の陣地を吹き抜けた。

いや吹き抜けたといっても、実際に風のように動いたわけではない。事実、平野に生えた雑草も、そこにいた帝国の兵たちの髪がゆれるといったことも無い。

 

 ただし、そこにいた帝国軍右翼1万5千。

 

 その命は即座に全て――奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 














模海月様、酔いどれ狼様、代理石様、yelm01様、紅蓮一様 ゆっくりしていきやがれ様、ゴンタ様 誤字脱字修正をして頂きまして有り難う御座います


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第七章三編 Don't go my goat

 

 

 

 

 

 何が起こったのか。それを理解することは不可能だった。

 特に、今倒れた者達には永遠に。そして今、倒れなかった者達でも、右翼を形成していた全ての帝国兵は突然、ぷっつりと糸が切れた人形の様に大地に転がったのだ。

 生き残った運の良い兵士達が、目の前で起こった出来事に呆然とした面持ちで息をするのも忘れたまま口を開けた状態で固まる。

 

「死の神」と名乗るエルダー・リッチが魔法陣を構成していた段階で、もちろん何かの魔法を使うのだろうという予測はしていた。しかし、それがこんなにも凄まじいものだと、1万5千人もの命を瞬時に奪いつくす、想像を絶する魔法だと考えたものは誰もいなかった。もちろん皇帝やフールーダもである。

 

「わははははははっ!なんだコレは!?なんという大魔法なのだ!素晴らしい!素晴らしい!」

 

 ジルクニフのすぐそばに控えていたフールーダが周囲の者をドン引きさせるテンションで悦びの声を挙げる。

 これほどの強大な魔法を味方に被害が出たとは云え目の前で見ることが出来た!触れることが出来た!後から後から歓喜の念が押し寄せてくる。言葉には出来ないような感情をフールーダに味わわせてくれたのだ。ゾクゾクと背筋に震えるものが走る。王国のアダマンタイト級冒険者なら「生きてきた中で一番幸せえぇ!」と叫んだかも知れない。いや、別に彼はそんなことを叫んではいないのだが、何故かそういうことになっている。

 

 そんなフールーダに、「死の神」は体を巨大なオーラの様な輝きで包みながら言葉を投げかけた。

 

『業深き逸脱者よ……私の魔法はまだ終わってはいない。もう一度告げる。逃げよ』

 

 皇帝を初めとして、帝国兵は一瞬思考するのを忘れた。このエルダーリッチは何を言っているのだろうか? 今、まさに一万五千の兵の命を一瞬で奪ったばかりではないか? 終わっていない? 何が? 魔法が? 何故?

 

 エルダーリッチ以外の全ての人間が、その言葉の意味を理解出来ないと云った表情を浮かべて、お互い顔を見合わせた。その頭上に不気味に膨れあがる熟れた果実に気づかないままに――。

 

 

 そしてカッツェ平野に2度目の地獄が現れた。

 

 

 

 

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『メェェェェェエエエエエエエ!!』

 

 山羊の鳴き声にしか聞こえない黒く悍ましい触手を持つ3匹の怪物は荒れ狂う。

 彼らは足で、触手で帝国兵を蹂躙していく。

 

 帝国兵達は他国と違い徴兵で連れてこられた者達では無い。

 彼らは戦うための専門職として傭われ訓練を受けてきた、軍隊としては近隣国最強の軍隊である。事実、リ・エスティーゼ王国は彼らの鋭撃に耐えるために、常に倍以上の兵を揃える必要があった。知謀と冷酷さから「鮮血帝」と渾名される皇帝ジルクニフがその様子を見て、リ・エスティーゼ王国への窮乏作戦を思いつき、実施し、成功しつつあったのは、まさにバハルス帝国が誇る精強な兵のなせる技だと云える。

 

 その、精鋭達が三匹の怪物の為すがままに(あるいは、精鋭達は何も為さぬがままに)蹂躙されてゆく。

 戦いに挑む者は死んだ

 逃げられない者は死んだ

 逃げる者も、また死んだ

 死んだ。死んだ。みんな死んで行く。

 

 どこかで騎兵隊長が叫ぶ。

「ランスを構えよ! 我々が突破されれば皇帝陛下の身が危ない!ランスを構えるんだ!チャージをかけるぞ!」

 

 よく訓令された騎兵達はその言葉に弾かれるように、ランスを一斉に構え、横一列の隊列を形成する。

 モンスターまでの距離が、あと60メートルほどになった瞬間に騎兵隊長が叫ぶ「突撃ぃぃぃぃぃ!」

 

 そして突撃という名の自殺が敢行される。彼らは怪物に触れる前に足とおぼしき触角の一払いで体を不自然に歪ませながら宙を舞った。

 ランスを構えていた兵士たちですら、命が失われる瞬間。それが当たり前のような光景にも思えていた。

 

 帝国の兵士たちの中に、黒い仔山羊たちの巨体が乗り込む。

 

 兵士達から絶叫が上がり、悲鳴が上がる。そしてすぐに静かになる。

 瞬く間に動く者は居なくなる。これほどの恐怖を具現化した怪物が御伽話の中でなく存在するなどと誰が想像することが出来ただろうか。

 

 黒い仔山羊たちは獲物を襲い殺戮する事こそが本能だと云わんばかりに帝国兵の中を走る。

 

「ぎゃぁああああぁぁ!」

「うおぼぉおお!」

「いやあああぁぁぁ!」

 

 そんな絶叫が上がる中でモモンガは必死に山羊をコントロールしていた。

 

 やめろそっちに行くな?! そこには兵士の群れが居る!

 こらっ オマエは走るスピードを落とせ!

 勝手に敵の中心部に突っ込もうとするな!

 

 ジルクニフと帝国兵に圧倒的な恐怖と絶望を味わわせる。

 それは今回の目的の一つである。

 軍事力という意味ではバハルス帝国が近隣では最強の国であり、アインズ・ウール・ゴウンに加盟することで、バハルス帝国ですら一蹴する防衛力で保護される。これほど大きな宣伝は無い。そして何よりもバハルス帝国の心を圧し折る必要がある。

 

 それはモモンガも解っている。

 

 天才的なナザリック三首脳によって立案された計画の一部である。超位魔法フォールンダウンで威嚇することも考えたが、《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》には初めに綺麗な死体が大量に生産出来るという、これからのアインズ・ウール・ゴウンの屋台骨となる巨大なプランテーションで使役するための重要なアンデッドの材料を手に入れることが出来るという利点があった。

 そして、それらが静かに万単位の兵が命を落とし、その後、モンスターに蹂躙されるというのは彼らに恐怖心を植え付けるにはちょうど良いという理由もある。

 

 そして何よりも、山羊たちはモモンガがある程度コントロール出来るのだ。

 守護者たちには内緒だが、モモンガは山羊を必死に操って、派手に暴れながらも実質の被害は少なく抑えていた。それでもすでに三匹の山羊による1000名を越す死者が出ていた。

 

 逃げろ

 逃げろ

 逃げろ

 逃げろ!

 逃げろ!逃げろ!

 逃げろおおおおおおお!

 

 モモンガの中の鈴木悟の残滓が悲鳴をあげながら帝国兵に叫ぶ。

 

 途中から 空からの声としてそれらはバハルス帝国全軍に響き渡った。

 

 

 

 

 

「撤退!! 撤退だ!!」

 

 第三軍のベリベラッド将軍は絶叫を上げる。

 もはやあんなものを相手にどうにかすることが出来るはずが無い。

 あれは人間では太刀打ちできない相手だ。もしあれがどうにかなったとして、あのエルダーリッチを倒すことなど不可能だろう。

 ベリベラッド将軍の言葉を聞き、周囲の兵士たちが慌てて逃げ出す。職業軍人としての誇りである武器も防具もを放り出して

 

「まさか「死の神」とは本当のことだったのか……」

 

 侮っていた。こんなに桁が違うとは想像もしていなかった。

 そして何よりもあの空からの絶叫!神は我々に生きてみせよと叱咤しておられるのか!?

 ベルベラッド将軍は暴れる化け物を見ながら、周囲の兵士たちに続けて叫ぶ。

 

「撤退しろ! とにかく逃げるんだ! 敵の居ない方へひたすら走れ!逃走しろ!」

「将軍!」馬に乗った皇帝との伝令兵の1人が、ヘルムをはずしながら叫ぶ「陛下は! 陛下にはなんとお伝えしますか!」

「守るとか時間稼ぎとかそういうことの出来る状態ではないのだ!陛下には、すぐさま退却をと!!恥も外聞も関係ない!とにかく生きてアーウィンタールにてお目見え出来ますように!そうお伝えしてくれ!」

 

 

 

 本陣から見れば先ほどよりも黒い仔山羊の姿は大きい。徐々にこちらに迫って接近してきている。皇帝は馬に跨がり、呆けているフールーダと馬に乗れない秘書官をバジウッドが馬車に突っ込んで退却を開始する。さすがのバジウッドも、この黒い山羊が自分の手に負える物では無いことを知っている。

 

「化け物め! あのエルダーリッチめ! 本物の「神」だと云うのか!?」

 そう叫びながら初めてジルクニフは泣きそうになっている自分に気づいた。怖いのではない。哀しいのでは無い。自分が信じる自分が、今まで全てを費やして夢見たことの多くが、得体の知れない「ナニか」に土足で踏みにじられている今の不条理さが許せないのだ。そういう悔し涙に似た涙が数滴、目の端からこぼれる。普段の彼を知る女性が見たならば、そのギャップに胸を打たれただろう。しかしここに居るのは死せる者と死にゆく者だけだった。皇帝ですらその運命から逃れる術はない様に思えた。

 

『メェェェェェエエエエエエエ!!』

 

 仔山羊の鳴き声が響く。

 馬車とともに併走していたジルクニフは馬にムチを入れて馬車を追い越すと後ろを振り返る。

 ジルクニフは目を見開く、思った以上に近く、想像していたより大きな黒く醜悪な山羊が馬車を無視して自分を追いかけていたのだ。

 まだ死ぬわけには行かない。漸く帝国が自分の思い通りに動かせるように成り、リ・エスティーゼ王国への窮乏作戦もあとひと押しという所まで来ているのだ。

 

 皇帝は必死に馬を走らせるが、ついに仔山羊に追いつかれる。ジルクニフはこの時ほど絶望を感じたことは無いと後年呟いた。

 

 ジルクニフに追いついた1頭?の仔山羊はジルクニフと側近達を左脇から追い越して走り抜けると逃げ道を塞ぐように立ちはだかる。

 

「くそっ なんだこれは!なんなのだ一体!」

 馬術にも優れた皇帝は馬を操り急ターンをかける。しかしまた新しい仔山羊が皇帝の周りに立ち塞がる。

 

 気づいた時には周囲の帝国兵は壊滅し、皇帝と側近を中心とした百メートルの円形の周りを3頭の黒山羊がグルグルと帝国兵の残党を踏み潰しながら歩き回っていた。もう逃げ道は無い。

 

「フールーダ卿!フライです!早く陛下をお連れになって逃げて下さい!」

フールーダは明らかに「勿体ない、せっかくの大魔法なのに」という顔を隠しもせず、やれやれと馬車から這い出ると、ジルクニフの手を掴む。

 

 ……しかし そこから何も起こらなかった。フールーダは驚いた顔のまま、もう一度試行する。魔力は自分の中に感じられる。しかし放出が出来ない。まさか魔封じのスキルか!? サイレントなら解るのだ。周辺の空気の波動を乱し音を歪めて、マジックキャスターの呪法を封じるサイレントなら。しかし魔封じのスキルは相手の魔法起動そのものに影響を与えるスキルであり、自分と相手とのレベル差があってこそ発動する魔法でありスキルだ。自分もリ・エスティーゼの第三位階のマジックキャスター相手に使用し驚かれた事があるが……まさかこの世界に自分の魔法を無効化するような魔法の神が現れるとは!

 フールーダが魔法を使えないことに気づいた側近たちは焦り、陛下を中心に方円陣を組んで一縷の望みを繋ぐ。先ほど四騎士の一人「両盾」のナザミ・エネックが仔山羊の前に立ち塞がり、一瞬で踏み潰され轢死した。帝国でも最硬の騎士が為す術もなく死んだのだ。それらの仔山羊に囲まれた今、陛下を助ける方法は誰にも思い浮かべることは出来なかった。

 

 遠くのエルダーリッチ……「死の神」が宙に浮いた状態で仔山羊が楽しそうに暴れるその光景を無表情で眺めていた。

 

 

 

 

 『悪』 嗚呼…… これは『悪』だな。

 

 そう呟くとモモンガはアイテムボックスから黒いガントレットを取り出す。

 

「さて、出番だ」

 

 モモンガはその黒い小手を嵌めた手を、地獄へと変わり、崩壊しつつある帝国の軍勢に突き出した。

 

「さあ起きるんだ、強欲。そしてその身に喰らうがいい。大切にな」

 

 モモンガの行動に答えるように、無数の青い透けるような光の塊が帝国兵の残骸から尾を引きながら飛んで来る。その小さな――握りこぶしよりも小さな光の塊は、モモンガの黒い小手に吸い込まれるように消えていった。

 

 2万近い光の玉が吸い込まれていく様は、まるで幻想のようにも見えた。

 

 モモンガの嵌めた小手は、ユグドラシルで200しかないワールドアイテムの1つであり、その名を『強欲と無欲』とよばれるものだ。

 強欲の名を付けられた小手は、着用者が本来であれば手に入れることが出来た経験値を、着用者の代わりに貯蔵するという能力を持つ。そして無欲の名を付けられた小手は、強欲が溜め込んだ分を吐き出して、経験値の消費を必要とする様々なときに、代わりとなってくれるという代物だ。

 青い光はその経験値回収のエフェクトにしか過ぎない。

 モモンガは既に100レベルを超えた余剰経験値まで溜まっており、これ以上入る余裕は無い。そうなれば当然、経験値は無駄に消えるということになる。ただ、それではあまりに勿体無さ過ぎる。

 超位魔法『ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを』に代表される経験値を消費する魔法やスキル、特殊能力は幾つかもあり、そういったものは得てして同程度のものと比べれば、当然強いものだ。そして何よりモモンガが保有するワールドアイテムの究極の能力は、5レベルドレインに匹敵するだけの経験値を消費する。

 些少ならまだしも、かなりの量の経験値を無駄にすることは、プレイヤーとして絶対に許せるものではない。そのためにプレイヤーがいるかもという可能性を考えながらもワールドアイテムを持ち出して、現在強欲に吸わせているのだ。

 

 まぁ、モモンガとしてもゲームの世界と同じように、実際にこのように経験値を回収できたというのは、驚きだったりするのだが。

 

 ただ、その光景を遠巻きに見ているものからすれば、それはどのような光景に映るか。

経験値ではなく、「死の神」が集めているものはたった1つにしか見えなかった。

 

 それが何か。

 

 それは――魂である。

 

 今目の前で残酷に死んでいった帝国の兵士達の魂を「死の神」が回収している。そうとしか見えない光景だったのだ。

 その余りにも壮絶で恐ろしい光景に皇帝を初めとして、全ての者が声を無くした。

 

 

 

 

 ……うわあ なんだか魂を吸ってるみたいだな コレ。

 

 ちょっと、あの、ビジュアル的に怖いんですけど……呪われたりしませんよね?

 

 当の本人も同じ事を思っていた。あと何故か敬語だった。

 

 

 

 

「――神……まごうことなき『死の神』か」

 

 ポツリとバジウッドが呟く。

 その言葉は近くの者たちの心にすっと入り込んだ。何故なら、それ以上に6万もの兵士達を蹂躙する魔法を使うマジックキャスター、そして魂を収穫する存在を的確に表している言葉は無かったから。

 あの地獄のような光景。そして耳に残るような断末魔の悲鳴。空から聞こえた「逃げろ」という叫び

 それらを踏まえた上で、それ以上に相応しい呼び名はあるだろうか?

 

 すると「死の神」はこちらをクルリと向くと ああ 終わったのか と言わんばかりにゆっくりとこちらに移動を開始する。

 

『もうよいぞ 還るが良い』

 

 死神王がそう話しかけると、あれだけの権勢を誇っていた仔山羊たちは「すうーーっ」と光の粒子に消えてゆく まるで全てが悪夢だったかの様だ。 深紅に染め上げられたカッツェ平野に目を向けなければそう信じることも出来ただろう。

 

『すまないな待たせて……話を聞く準備は出来ている様だな』

 

 六万の兵を蹴散らした者のセリフか? とジルクニフの心が歪むが、必死に抑える。

 するとフールーダが震えながら口を開く

「すみません‥‥神よ 貴方が偉大なる魔術師であることは身に沁みて良く理解致しました。私は見た者の相手の魔力を測るタレントを持っているのですが‥‥一体どこにアレほどの魔力を隠されていたのですか?」

 

『ふむ これのせいだな』

 そう言うと死の神は無造作にガントレットを脱ぐと、白い骨で出来た指から1つの指輪を外す。 外した瞬間、魔力を測る能力のないジルクニフやバジウッドですらまるで生暖かい暴風が吹き荒れるようなマナの流れを感じ気分が悪くなる。そしてタレント持ちのフールーダは……「おええええっ」と泣きながら地面を転げ回り吐瀉物を撒き散らしていた。

 

『わっ ごめっ!?』

 と慌てたように言うと死の神は再び指輪を填める。

 

『……強すぎる魔力を、か弱き人間が浴び続けると身体の毒になるぞ?』

 

 ……この『死の神』気遣いとかしてやがる。とバジウッドは蹌踉めいた。

 

「おおおおおおおお 神よ……魔法の深遠を覗かせて頂き有難うございます どうかどうか私を弟子の端くれに……」

 

「!? 爺っ 何を言い出すのだ!」

 

「ジルよ。すまぬ。爺は自分に嘘がつけぬ……どうしても更なる魔法の探究をしたいのだ」

 

「爺よ! お前は帝国には無くてはならぬ存在なのだぞ!」

 

「すまぬ しかし儂は……どうしても」

 

「爺!」

 

『……あの ちょっと待ってくれないか? 2人で盛り上がるの、ヤメような?』

 

「「あ…はい」」

 

『そもそも弟子とか要らないのだが……』

 

「そんな!? 師よ! どうかそこを寛大なお心で!」

 

「爺っ諦めよ! 神がそう言っているのだ!」

 

「陛下 どうか私に暇を出して下さいませ」

 

「爺ーー!?」

 

『だから二人で盛り上がらないで下さい……とりあえず これを読んでもらいたいのだが』

 

 そう云って「死の神」は、ピッと指先で紙を飛ばす。その紙は魔法の力か、すうっとジルクニフの元にやってくる。

 手にとって広げて降伏勧告だと思って読んだジルクニフは「なっ!?」と声に出して驚愕してしまう。

 

 内容はシンプルだった。

 

1.貴国はギルド:アインズ・ウール・ゴウンの盟約国に攻撃したので迎撃致しました。

2.更に、不法侵入による退去勧告に従わなかったために、やむなく排除致しました。

3.貴国もギルド・アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結ぶことをご提案致します。

 

 わけが解らない……ジルクニフの背中に大量の汗が流れる。

 

 これは一体なんなのだ? 一方的に我々を虐殺しながら何を言っているのだ?

 

「神よ すまない……どうしても解らない部分があるのですが」

 

『何か?』

 

「いえ あの空からじゃなくて普通に話してくれて良いですから」

 

「ん? そうか?」

 

 こいつ普通にしゃべった! と帝国の側近達は思った。

 

「すまないが、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンとは何のことだろうか?」

 

「………。」

 

 神は黙って羊皮紙を取り出しジルクニフに渡す。

 そこには『初めてのアインズ・ウール・ゴウン~バハルス帝国編~』と書かれており、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンと盟約を結ぶ事を提案した内容であり、他国による領土侵犯の際の迎撃やモンスター退治など、武力が必要な場面で肩代わりしてくれる代わりに国家予算の5%を差し出すことや、格安での農作物の関税10%による帝国内での販売権を要求してきている。そのほかには未開拓地を開墾する権利などだ。

 ジルクニフは眉間に寄り掛けたシワを皇帝としての意地で伸ばして澄ました顔を繕うと

 

「AOG加盟国には攻めるなと書いてあるが、加盟してない国には自由に攻めて良いのかな?」

 

「もちろん」

 ジルクニフは自分をバハルス帝国の支配者だけで終わらせる気はない。領土的野心を考えれば重要なポイントである。

 

「他国による領土侵犯に対応してくれるということは、我々が防衛をせずともギルド:アインズ・ウール・ゴウンが領土を守ってくれると云うことですね?」

 

「もちろん」

 

「内政干渉などはされないと考えて宜しいのですか?」

 

「もちろん。というか我々は連邦政府の様な物を作って、その一員としてバハルス帝国

を参入させる訳ではない。今までどおり自由にやり給え。内外問わずな」

 

「我々を傘下に組み入れる訳ではないと?」

 

「うむ それは的外れな考えだ」

 

「これに入るのは強制でしょうか」

 

「いや 全く強制ではない。好きにして良い」

 

「確かにデメリットが殆どなくメリットが多い。というか多すぎて不敬ながら神を疑ってしまう事をお許し下さい」

 

「疑うのは自由だが……個人的には入ったほうが良いのではないかと思うぞ?」

 

「それは何故でしょうか?」

 

「良く読んで欲しいのだが『正当な理由で他国へと攻め入る際はAOGが助勢します』とあるだろう?」

 

「……はい 書かれております」

 

「今回、バハルス帝国は一方的にエ・ランテルの領土侵犯をした。エ・ランテルが報復にバハルス帝国を攻めるというのであれば立派に正当な理由であり、我々はエ・ランテルに助勢しバハルス帝国に攻め入る事になるだろう」

 

 ジルクニフは全身の血が凍ったような感覚に陥る。

 そして振り返る。緋色に染まったカッツェ平野を

 

 6万の精鋭を蹴散らされ、今、どこか他国に攻められればあっという間にバハルス帝国は瓦解するだろう。しかも攻め込んで来る者に『神』が加わるのであれば尚更だ。そもそもが「力」によって覇道を成したのである。子飼いの精鋭を失った現在、帝国内での立場も微妙になるだろう。

 AOGに加盟すれば加盟国同士は戦争しない事という条文によりエ・ランテルが攻めて来ることも無いし、バハルス帝国が攻められた場合は神が迎撃してくれるというなら、国を守るためには、もうジルクニフには加盟する以外の道が見あたらなかった。

 

 そこには智者の想定外の圧倒的な暴力が確かに存在していたのだ。

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスよ。今回 私はもっと高位の魔法を使えるのに敢えてこの魔法を使った。賢いお前ならその意味が分かるな?」

 

「……はっ」

 

「帝都アーウィンタールに瞬間移動して帝国民を生贄にして、先ほどの数倍の数の黒山羊を召還しても良かったのに、あえて職業軍人たる兵士だけを誘き寄せて滅殺した理由も分かるな?」

 

「…………!」

 

「お前には期待しているぞ……ジルクニフ」

 

 モモンガはカッツェ平野の死体は放っておくとアンデッド化して危険なので、こちらで掃除する旨を告げて「持ち帰りたい遺体があるならそうしたまえ」と言って瞬間移動で消えた。

 

 後に残ったジルクニフと側近たちは高位の貴族の親族の中で、比較的まともな状態の遺骸を重い足取りの中で持ち帰った。

 

 フールーダやバジウッド達と馬車に乗って帰路につく間、若き皇帝ジルクニフは一言も言葉を発しようとはしなかった。 ただの一言として。

 

 自分たちの全ての常識を覆す想像外の存在 それを擁するアインズ・ウール・ゴウン。

 ただ、翻弄され食い尽くされた。自分の夢や野望とともに。

 

 

 世に言う『カッツェ平野の神罰祭』はこうして終わった。

 

 2万近い人間の命が一刻の間に儚く消えて、天に召されること無く、死の神への贄となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 




かもっっ様 ゆっくりしていきやがれ様、ルイフェ様、bomb様 誤字修正を有り難う御座います。

綿半纏様 文章の修正を有り難う御座いました。


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第八章一編 その化学反応で作られた劇薬は誰かを殺す

 

 人間は状況によってつくられる

 

    ジャン=ポール・サルトル

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはナザリック地下大墳墓の玉座にてゆっくりと報告書に目を通す。

 

「そうか モモンが無事、リ・エスティーゼ王国の救世主として魔王ヤルダバオトを討滅したか」

 

「はい パンドラズ・アクターとデミウルゴスがうまくやった様です」と久々にモモンガの隣で機嫌よさ気なアルベドが答える。

 機嫌が良いのはアルベドだけでは無い セバスやシャルティア、コキュートスを始めとしてアウラやマーレなど、最近任務により外に出て働いていたものが予定通りの期間で予定通り恙無く任務を終えてモモンガの下で集合出来ている事は守護者各位にとっても嬉しい事なのだ。

 

「うむ」

 もちろん モモンとはパンドラズ・アクターであり、仮面の魔王ヤルダバオトとはデミウルゴスの事である。

 彼らは二人でリ・エスティーゼ王国の人々に感動的で美しい英雄物語を演じてみせた……らしい。そしてリ・エスティーゼ王国は平和裏にエ・ランテルと同じ民権政治へと移行し「リ・エスティーゼ共和国」を建国する手はずとなっている。まずは法整備と選挙による大統領の選抜だが……まあ パンドラズ・アクターとデミウルゴスなら巧くやってくれるだろう 俺なんかよりも優秀だからな アイツらは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男、仮面の悪魔『魔王』ヤルダバオトは「獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)!」と唱えて炎で出来た壁を作る。先程はこの魔法の一撃でガガーランが瞬殺されている。それを黒い剣士の『漆黒の英雄』モモンが剣で「はあっ!」と横殴りに薙ぎ払い炎を消滅させる。

 

 全くもって互角の戦い。

 

 しかし、モモンには頼もしい仲間が居た。

 ヤルダバオトが魔法を唱えた瞬間にその隙を狙ってイビルアイが魔法を放つ ヤルダバオトは肩口に食らうが、かすり傷程度のダメージも与えられていない。

 

「ふふふ なかなかやりますねえ……」

 不敵な仮面の表情通りの不気味さでヤルダバオトがモモン達、ヤルダバオト討伐チームを褒め称えて、パチパチパチパチと乾いた拍手を送る。

 

「ふふ 魔王殿にお褒めに預かり光栄であるな。このまま友誼でも結び語らいたいところであるが残念ながら時間がない……倒れた仲間たちのためにもな」

 

「はい!モモンさん!」と『蒼の薔薇』のラキュースが煤まみれの美しい顔から覇気を覗かせる。

 彼らのチームの後ろにはイビルアイに回収してもらったガガーランやティナとティアの亡骸が横たわっている。後でラキュースにより蘇生するつもりだが、あまり死亡後に時間を掛けたくないのも事実だ。

 

「ふうー 流石に魔王。実に手強い」と王より派遣されたガゼフ・ストロノーフ戦士長が歪んでしまった胸当てを強引に剥ぎ取り捨てる。

 

 魔王ヤルダバオトはまるで友人に目配せをするかのようにモモンにウィンクをすると、空中に出来た穴に手を突っ込み、珠の様な物を取り出すと地面に叩きつける。すると、そこから無数の地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)上位地獄の猟犬(グレーター・ヘル・ハウンド)朱眼の悪魔(ゲイザーデビル)極小悪魔群衆体(デーモン・スウォーム)が現れてモモン達とヤルダバオトの間に立ち塞がる。

 

「うおおおおお!! 六光連斬! 流水加速!」

 と叫んだガゼフがヘル・ハウンドたちを切り飛ばし「もうそろそろ俺は限界だ!行ってくれ!モモン殿!」と叫ぶ。

 

「超技!暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!!」

 ラキュースが叫び魔剣キリネイラムからほとばしる衝撃波でゲイザーデビルたちが吹き飛ぶ。

 

 別に叫ぶ必要のない技だが効果は絶大だ。

 

「モモンさん 早く!雑魚は私たちが!」

 

「うむ! すまない二人とも! 行くぞ! ヤルダバオトォォォォ!」

 

 振り下ろされた黒い剣はガキンッと激しい音をさせてヤルダバオトが爪で防いだ。

 

「貴方が素晴らしい剣士であるのは解っておりましたが、まさかここまで私が追い詰められるとは!」

 

「私だけでは無い!みんなの力でここまで辿り着き、みんなの力が私に進め!と歩む力を与えてくれるのだ!」

 

「モ、モモンさん……」

 

「ちいぃぃっ!キレイ事ですか!ここに来てまで!」

 

「ラキュース殿を庇って絶命したガガーラン殿、オマエに奇襲を仕掛けて時間稼ぎをしてくれたティナ殿。彼女たちを侮辱するような言動は私が許さぬ!」

 

「ももんさま……」

 

「そんな貴方だからこそ、ここまで来れたということですか!」

 

「そうだ!我が拳が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! ばあああああああああくぬぇつぅ……神の指的ナニかあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐぅおおおお!? 拳と言いつつ普通に剣で斬りかかるとはあああ?!」

 

「今のは効いたようだな!魔王!」

 

「……ふははははっ 私も奥義を出す時が来ましたね!」と言うと二本の指を額に当てる。

 

「モモン殿!気をつけろ!」とガゼフが叫んだ

 

「はあっ! 高位悪魔光殺砲!」

 

「ぐうおおおおおおおっ?!」

 

 まるで何かに当たったかの様にモモンが後ろに吹っ飛んで壁に叩きつけられる。自分で凄く頑張って飛んだ様にも見えたが気のせいだ!

 

「ももんさま!?」

 

「ぐぬう……まだこれほどの技を隠し持っていようとは さすがデ…ヤルダバオト!」

 

「ふふふ 悪魔の諸相・豪腕の右腕! 喰らいなさい!」突然右腕を巨大化させたヤルダバオトが倒れるモモンに飛びかかる。

 

「フローティングソーズ! モモンさんを守るのです!」

 

叫ぶ必要のない技だが、ラキュースの背中に浮いていた六枚の羽がヤルダバオトに襲いかかる。ヤルダバオトは巨大な右腕で弾く。そしてその間隙を縫ってイビルアイが呪文を唱える。

 

「魔法抵抗突破最強化・水晶の短剣(ペネトレートマキシマイズマジック・クリスタルダガー)」

相手の魔法抵抗を突破するエレメンタルマジックを放つ。しかしヤルダバオトは避けようともせず魔法を弾く。が、砕け散った魔法の水晶が目眩ましとなった瞬間に立ち上がったモモンが再び剣戟を繰り出す

 

「クッ 何故これほど人間のために戦うのです!」

 

「オマエには分からないのか? 人間の尊い輝きが!」

 

「ハッ 分かりませんね!」

 

「でやあ!」とモモンが突きを繰り出す。

 それを爪で受け止めたヤルダバオトが顔の近くなったモモンに向かって恨みがましく叫ぶ。

 

「貴方は分かると言うのですか? 人間でない貴方が!」

 

 

 一瞬の静寂が辺りを包む。 

 

「え……」と呆然とするラキュースとガゼフ

 

 知っていたからこそ、皆にバラされたモモンの気持ちを考えて哀しんだイビルアイは「黙れ黙れ黙れ!」と絶叫する。

 

「だからなんだと言うのだ? 人間の生き方を愛する異形の者が居ても良いだろう?」

 

 そう言うと、モモンは臆することなる双剣を叩き込む。

 

「くうっ」

 

「愛を知らぬオマエには辿りつけぬ境地だぞ! 魔王!」

 

「ももんさま…」「モモンさん…」と「愛」という言葉に乙女が少しウットリとした。

 ガゼフは「この2人の会話を聞いていると何故か顔が熱くなってくるのだが?」と不思議に思っていた。

 

「ぬぅおおおおお!悪魔の諸相・豪腕の両腕!」

 モモンの2本の剣をヤルダバオトが巨大化した両腕で掴むと黒い剣を「バキッ」と圧し折った。

 

「モモン殿?!」

 

「まだまだぁ!」そう気合を入れたモモンがヤルダバオトに組み付く

 

「くぅ?!な、なにを」

 

「ふふふ 仲良く地獄へ行こうじゃないか」

 

 そう言うとモモンはヤルダバオトの背中に回り魔王を羽交い締めにすると叫ぶ。

 

「ラキューーーース! やれぇ!」

 

「え!? モモンさん! な、何を?」

 

「君の最大奥義、キリネイラムの封印を解いた「街をも破壊する」という奥義を使え!」

 

 魔王ヤルダバオトは焦りの色を隠せない。

 

「な?! そんなことをすれば貴方も私と共に消し飛びますよ?!」

 

「ふふふ 構わぬ 人間の未来が見えたのだ。思い残すことは無い」

 

 ラキュースもナゼか焦りの色を隠せない。

「待って下さい! そんな…使ったことない…というか私の妄想の……」と段々小さくなる声でラキュースは抵抗をする。

 

「ももんさまあ……やめて…独りにしないで……」

 

「キーノ……今の君にはラキュース達が居るじゃないか……いつか独りぼっちになった頃、また逢えるよ」

 

「やだやだやだあ…… ももんさまあああ!」

 

「早くせよ! ラキュース! もうこの体は持たない!」

 

「モモンさん……」

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、私の番でしたか? 失礼。 良いのか!? お前達の英雄モモンも巻き添えになるのだぞ?!」

 

「構わぬ! ラキュース……後を頼んだぞ……」

 

「えうっえうっ モモンさん……解りましたから……」

 泣きながらラキュースは魔剣キリネイラムを振りかぶる。

 

「ここは黙って見ているべきなんだよな?!」とガゼフが懸命に空気を読む。

 

「クヌう~~ ここまで来たのに! もう少しで世界を手中に出来たというものを!」

 

「はははは 魔王よ! あの世で決着を着けようぞ!」

 

 深呼吸を終えたラキュースが自分の全ての魔力をキリネイラムに注ぐ。全部を注ぎすぎたせいで3日間も蘇生魔法を使えずにガガーラン達を腐らせかけたせいで、後で怒られることを知らないラキュースが全ての魔力と気合と愛的な物も注ぐ!

 

 

「超奥義!超暗黒刃超弩級超衝撃波(スーパー・ダークブレード・スーパーメガインバクト)!!!!」

 

「「超」多いな?!」と思わず振り返ってイビルアイが突っ込んだが、魔剣キリネイラムが唸りいつも以上の魔力により巨大な衝撃波が発射される。

 

 衝撃波はモモンとヤルダバオトを包み込み、中の2人から「…ショボ」とボソリと聞こえた気もするが「うわあー」「うわあー」と棒読みっぽい断末魔を上げて空へとまるで仲良く2人でジャンプしたかのように吹っ飛んだ。

 

 そして彼らが消えた彼方の先にまるで打ち上げ花火のように「ドーン」という美しい火花が広がる。

 

「も、ももんさまあーーうわあああーーーーー」

 泣き叫び続けるイビルアイと全てを出し尽くし倒れるラキュース。

 

 ラキュースは這ってイビルアイのもとに行き彼女を抱きしめる。

「……泣かないでイビルアイ。モモンさんが守ったものを今度は私たちが守るの……私、選挙に立候補するわ。モモンさんと約束したもの」

 

 

 こうしてヤルダバオトは討伐された。あまりにも大きな犠牲を伴った戦いだった。

 

 魔王と英雄が消えた彼方で2人は誰もいない地面にそっと降りる。

 そして黙って、頷き合い「上手く行きましたな」とモモン……の姿をしたパンドラズ・アクターが呟く。

「さすがパンドラズ・アクター卿の書かれた脚本は一味違いますね。何も知らないハズの彼らの行動やセリフまで、殆ど脚本通りでしたね」

 

「はははは 何故か分かりませんが、ラキュースという女性の考えていることが我が身の様に伝わって来ましてな 想像通りに動いてくれました」

 

「ふふふふ さすが智謀の王モモンガ様により創造された守護者で御座います」

 

 

 

 知らないほうが良いことは世の中に沢山ある。

 

 

 確信犯の厨二病(に罹っていた時の二人組に作られた)

    +

 無自覚の厨二病(ギルド屈指の重症患者に作られた)

    +

 天然産の厨二病(この世界屈指の不治の病の患者)

 

 による化学変化で生まれた劇的で感動的な茶番劇が、どう語り継がれていくのか

 

 

 

 

 そして、この顛末の詳細な報告書がモモンガのもとに届いた時、「うわあはーーーー」という奇妙な叫び声を上げながら床を高速移動しながら転がる主人を見ることになることも。

 

 

 

 

 

 











おとり先生、誤字脱字の修正を有難うございます。


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第八章二編 神輿の御神体は光りながら転がる

 

 

 

 

 

 

 

「ううむ……? ところでセバス殿」

 

「はい ドラウディロン陛下、どうされましたか?」

 

「むっ ワシ…私のことはドラウと呼んで頂きたいと言っておるではないか」

そうドラウディロンが告げた瞬間、隣の宰相の持つ杖がドラウディロンの右脛に「ガッ」と当たる

 

「うがっ」

 

「おっと失礼。手を滑らせました。いけませんなあ~ 良く滑る杖と口には困ったものです」

 

「ぐぬぬ……」

 

「ははは お二人ともいつも仲がよろしいようで何よりで御座います」

 

「「どこがじゃ(ですか)!?」」

 セバスは情報局から上がってきた情報でこの2人は男女の仲であるという噂がある事を知っている。宰相は妻子持ちであり、君臣の道ならぬ恋……余り掘り下げない方が良いだろう。

 

「それで、如何されましたか?ドラウ女王陛下」

 

「なんじゃその何かに気を使ったかのような強引な話題の引き戻しは……ふむう しかしドラウか…ふふん まあ良かろう……で、じゃ。今日のセバス殿、いつもと違うような気がするのじゃが」

 

「と、言いますと?」

 

「なんというか、こう……普段より大きく見えるというか、妙な圧があると言うか……例えばレベルが一気に上がったとかそういう事は無かったか?」

 

「……いえ、特にそう云った事はありませんが」

 

「ふうむ おかしいのう 私も竜の端くれじゃから知覚能力には自信があるのじゃが……」

 

「その場合は私自身の強さだけでなく、装備品が変わったりなどでも圧の様な物の変化を捉えられるのですか?」

 

「うむ。余程のマジックアイテムを装備しているとなるとその人の本来の強さ以上のオーラに圧迫される感じがするのう」

 

「なるほど……失礼致しました。きっと私が主人よりお預かりしていた神器級(ゴッズ)アイテムのせいですね。これは武器や防具では無く医療系のアイテムなのですが、それでも圧力のような物をお感じになられるとは、流石伝説の竜神の血族のお方で御座いますね」

 

「ふふん そうじゃろそうじゃろ。まあ、セバス殿の言うとおり知覚能力というのは、そう云う「濃厚な力」にこそ反応するのでな。逆に言うと見てもいないのに武器か道具かなどが判断できる訳ではないが……まあくれぐれも高位の竜族を相手に強力なマジックアイテムなどを持って会いにいかぬことじゃな。嘘をついても通じないし、強力な武器を持っていても感知されて暗殺や騙し討ちは通じぬぞ?」

 

「これはお戯れを……」

 

「うむ。で、その神器級(ゴッズ)アイテムは何故持って来ておるのだ?」

 

「はい 陛下の国の民で病に苦しむ者がいるとお聞きしまして僭越ながら治療の手伝いになれば……と持ってまいりました」

 

「おお!それは有り難いのう!まったく何からなにまでお世話になってすまんのう」

 

「いえ 困っている人を助けるのは当たり前のことですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガと守護者が揃う玉座の間にコツコツという足音をさせて、「失礼致します 「魔王作戦」終了の報告と仔細についての報告書をお届けに第七階層守護者デミウルゴス参上仕りました。」という声と共にデミウルゴスがやってくる。ちなみに彼が届けに来た報告書を後で読んだモモンガは、掃除道具のコロコロの様に光りながら床を転がりまくるのだが、現時点での彼にそれを知るよしは無い。

 

「うむ 御苦労であった」

 

「とんでもないことでございます、至高の御方のために尽す事こそ我が生き甲斐なれば」

 

「リ・エスティーゼ共和政府は上手く出来そうか?」

 

「はい 大丈夫です。順調に仕上がりつつあります」

 

「うむ お前達ならば安心して任せられるな」

 

「……勿体無き御言葉を有難うございます」

 

「……すみません モモンガ様。 深遠なるお考えに質問させて頂く事をお許し下さい」

 

「どうしたアウラ? なんでも聞くが良い」

 アウラは聞いていいのか躊躇しながら質問する

 

「その……今回、あれだけ色々してあげたのに『アインズ・ウール・ゴウン』は人間たちを支配する事もなく、人間に支配させているんですよね?」

 

「ふむ……まあ そうだな」

 

「ええと…それってスゴく人間にとってだけ都合良いんじゃないんですか?なぜそこまで人間に優しくしたんですか?」

 

「そうだな…まあ リ・エスティーゼにしてもバハルス帝国にしてもそうなんだが、そもそもお前達は私に人間を支配して欲しいと思っているのか?」

 周りの守護者を見渡す

 

「例えば、今現在ビーストマンやリザードマンなど異形種を統治しているコキュートスはどう思う?」

 

「モモンガ様ハ ナザリック ノ 偉大ナル支配者デアラセラレマス 人間ニトッテモ 良キ支配者トシテ君臨サレルデショウ」

その言葉にアウラやマーレがウンウンと可愛く頷いている

 

「ふーむ なるほど アルベドはどうか?」

 

「人間などという下等生物にモモンガ様に支配して頂く権利も価値も御座いません。彼らは彼らで好きにやってもらえば良いですし、邪魔な時は踏み潰せば宜しいですわ」

 

「セバスはどう考える?」

 

「いえ 私の意見などは……」

 

「構わぬ 一番お前が人間に触れ合う機会が多かったはずだ 忌憚のない意見と思いを語れ」

 

「…では僭越ながら…人間と云うものは儚きか弱き存在です このナザリックの一般メイド以外の者にとっては片手で用が足りるほどに。しかし人間の意志、想いは侮れません 自分よりも遥かに強き敵に立ち向かう姿や、我が子を守る時の母の強さなど一瞬の煌めきに目を奪われることがあります モモンガ様がリ・エスティーゼに施された厳しくも優しい件はその人間たちにとって最大の試金石になるのではないでしょうか?」

 

「うむ 今の守護者達の意見は全て尤もな意見であり思いである。だからこその私の行動と知るが良い。デミウルゴス、解りやすく説明してあげなさい」

 

「はっ では失礼ながら」とデミウルゴスが一歩前に出る

 

「ユグドラシルの頃とは違い、この新世界での人間をどう思ったかね?みんな」

 各守護者が苦笑いを浮かべる

 

「その通り。アインズ・ウール・ゴウンの敵であり第八階層まで攻め入り……まあ至高なる御方に返り討ちにされましたが、あれらほど手強い人間は現時点でこの世界には居ないようです。この世界の人間は我々にとって塵芥に等しく敵としての価値も殺すほどの価値も無い。この世界で我々が気をつけねばならないのは『ワイルドマジック』を使うツァインドルクスと、今も何処かに居るかも知れないプレイヤーと、新しく現れるかも知れないプレイヤーだけです」

 

 皆が一斉に頷く

 

「さて 皆さんに考えて頂きたいのは今までの我々の行動は彼らにどう見えているか?という事です」

 

「えーと‥ぼ、僕たちが気をつけなければイケナイ人たちから見たアインズ・ウール・ゴウンという事ですよね?」

 

「そうだね マーレ」

 

「突然異世界からやって来てリ・エスティーゼ王国を潰して、バハルス帝国も楽に潰した強い人たち……でありんすか?」

 

「そうでは無いな シャルティア。 そう思われないようにモモンガ様と我々は回りくどいやり方をしてきのだよ」

 

「リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国ノ戦力ノ均衡化ヲ図ッテ、バランスヲ トリ 好戦的ナ異形種ヲ抑エテ、結果的ニ平和ナ状況ヲ作リ出シタ」

 

「うん コキュートス その答えは実に良い。我々の行動の本質を突いていると言って良い。ただそれは結果としてそうなっている……という風に見て欲しいところであり、彼らに勢力の均衡をコントロールしているとは見えないで欲しい部分なのだよ。」

 

「六大神や八欲王などと同じように移転してきたAOGは「この世界」での秩序を乱したりしない理性的で弁えを知る勢力である……と思われたいわけよね? デミウルゴス」

 

「その通りですアルベド。モモンという騎士をAOGの一部として付け加えるのであれば、腐り堕ちて内乱が起こりそうな『リ・エスティーゼ王国』を民主政治という聞き心地の良い政策で無血革命を促し、更に市民を悪魔の群れから救い、侵略戦争を犯してきた『バハルス帝国』から『エ・ランテル』を守り、『竜王国』をビーストマンから守った。そして今、人類の敵である魔王『ヤルダバオト』を駆逐した。それが我々アインズ・ウール・ゴウンの業績です」

 

「す、すごく良いように言ってるでありんすね‥‥‥。」

 

「この様な素晴らしいギルドに敵対しようという者が現れたら、その者こそ悪では無いでしょうか?」

 

「ぬけぬけと良く言うよねぇ」とアウラが苦笑しながら言う

 

「ええ 言うのですよ抜け抜けとね? アウラ 我々は彼らに最大限の注意を払わねば為りません ワイルドマジックがどれだけの魔法なのか、どの様な効果を持つワールドアイテムを所持しているのか解らない限りは彼らによってモモンガ様に危害が加えられる可能性を捨て切れないからです」

 

 --モモンガに危害が加えられる--

 

 そうデミウルゴスが口にした瞬間、玉座の間の温度が5度は上昇したようにデミウルゴスは感じた。

 守護者統括を始めとして守護者全員が体中から凄まじい怒気の様なナニかを、噴出している

 それが「彼ら」に向けての物なのか、不敬な事を口にした自分に対しての物か 背中に冷たい物を感じながら「アルベドはコチラ側の人間なのにズルい‥‥」と思った。

 デミウルゴスは額に一汗かきながらも表面上は涼しい顔で眼鏡を人差し指でクイッと上げて話を続ける

 

「ではコキュートスやアウラ、マーレ、そしてシャルティアもかな?我々の支配者であらせられるモモンガ様が人間種も支配するべきだと考えているのは?そしてアルベドは人間ごときがモモンガ様に支配してもらえるのは烏滸がましいと言い、セバスは人間の事は人間に任せてみては?と そうだね?」

 

 守護者が一斉に頷く

 

「リ・エスティーゼに民主政権を設立し、バハルス帝国も全ての権利を擁したままのこの状態で、我々は内政も外交も不介入という盟約は、セバスの言う『人間の事は人間に任せる』という意見と合致していないかね?」

 

「はっ まさしく彼らの権利を尊重し慈悲深き盟約かと思われます」

 

「人間ごときを一々モモンガ様が支配しないというアルベドの思い通りでもあると思うのだが」

 

「ええ そうね」

 

「それでいてコントロールするのは我々アインズ・ウール・ゴウンです。これは間接的な支配と言えないかい?」

 

「コントロールって? だって全部人間の自由にやれるんでしょ?」とアウラが不服そうに言う

 

「盟約国同士では戦争が出来ません。最低限の敵は敢えて残しますが、いずれ周りが盟約国ばかりになれば強制的に戦争のない世の中になり、尚且つ彼らの想定外の量の穀物を安く提供します。盟約国の農業が廃れて立ちゆかなく成るほどにね。それは彼らの国の食料自給率が極端に下がり、食料を供給する我々に依存しなければ国が成り立たなくなる事に繋がります。 つまり『平和』と『食料』と『経済』の大部分を我々が握りつつも人々は幸せに暮らして行くことでしょう。素晴らしいことですね。 『彼ら』ツァインドルクスやプレイヤー達が文句を付ける事の出来ないほどの平和と秩序と豊かさに恵まれた世界を実現しつつ、モモンガ様は彼らを支配するのでは無く、一歩下がられた上で高みに昇り、神の視点で人間種や亜人や全ての異形種に限らず、森や山や大地、海など、生けとし生ける者全ての、まさしく この星の『神』と為られる事を選ばれたのです」 

 

 へぇー そうなんだ すごいなー 神様だって と他人事のように聞いていたモモンガだがデミウルゴスの言葉が浸透してくるにつれて全身から汗が吹き出す様な感覚に陥りながら煌々と輝き出す。

 

 周りでは守護者が「なるほど素晴らしい!」と言わんばかりに拍手しながら羨望の眼差しでモモンガを見つめてくる

 

 え?

 

 誰が神様ですって?

 

 なにかの冗談だよな?! 

 

 わあ…守護者達、良い顔しているなあ……お前達の神輿は成層圏に突入して燃え尽きそうな勢いなんだが…… 俺、火に弱いしな

 

 竜とプレイヤーを警戒して静かに潜行しながら動く事を徹底したのは事実だし、パワーバランスを図って秩序を保とうとしたのも事実だが……『大きな国』だと敵対した時にやっかいだし、かと言って小さい国々が争っていてもらっても困る。彼らは我々にとっての良き貿易相手なのだ。彼らの安全を我々が守ってやり、不平不満は程々に政府にブツケてもらえば良い。しかも飢える心配が無い民衆の不満など、テロやクーデターを起こすほどの政情不安へとは繋がらないハズだからな。リ・エスティーゼ王国はあのまま続けば反乱分子による内戦へと繋がっていただろうし、共和政府への移行という落とし所は我ながら良く出来ている。これでバハルス帝国などでの不逞の徒も『リ・エスティーゼ共和国』に逃げ込めば良いだけで、帝国内で爆弾を抱える危険性が減るハズだ。ジルクニフはもう少し我々に感謝してくれても良いよな。

 あんまり人間社会に関わらないように一歩下がって俯瞰で世界を見守ろうとは思ってたけど ないわー 『神』は ないわー

 

 まあ 神様は兎も角として、いつ現れるか解らないプレイヤーやツァインドルクスへの配慮が為された状態で人間たちの秩序を保ちつつ、彼らをコントロールするという目標は達成しつつあるのは確かだ。ちゃんとみんなを慰労しないとな。経営本の『良い社長。悪い社長』にも書かれていたことだ。

 

 モモンガは輝く身体を落ち着かせて玉座から立ち上がると守護者に話しかける。

 

「素晴らしいぞデミウルゴス。一連の行動原理から私の考えを良く読み取っている。まあ神などになろうとは思ってはいないがな」

 

「畏れ多くもお褒めに預かり恐悦至極に存じ上げます」

 

 デミウルゴスが感動に打ち震える。

 

「プレイヤーやツァインドルクスという審判者に観測された時に、彼らが「良き者」なら何も手出しが出来ないほどの平和と秩序と豊かさに満ちた世界を見せつけて敵対する事の愚を知らしめよう。 彼らが「悪しき者」で秩序を破壊する者ならば全力で排除する。 昔言った私のワガママを覚えているか? プレイヤーを殺すというのは実は私にとって勇気と決断の要る事なのだと。それはプレイヤーとは、私が所属していた異世界である『リアル』の世界においては同種族として共に生きる仲間でもあるのだ。同族殺しというのは実に気が重い お前達もそうだろう?」

 

「イエ モモンガ様ノ御ンタメナレバ 例エ同族デモ友人デモ斬リ伏セマショウゾ」

 と、コキュートスが武人らしく答える。

 よりによって希少種族だ。いやお前は同族を大切にしてくれ……と思いながらモモンガは続ける。

 

「そう私も至高の41人のためなら躊躇なく いや 少しは悩み苦しむが実行出来ただろう。 しかし 今は彼らは居ない 私は私のために同族であるプレイヤーを殺すのか……そう悩んで居たのだ。 しかし 今は違う。 殺せるとも 私にはオマエ達がいる 掛け替えのないナザリックの者達が居る。 お前達のためならば『神』では無く『鬼』にでもなろう」

 

 ……もう死の王だけどな…と小さく呟いて恥ずかしさから守護者に背を向け後ろを向くと、ビクンビクンッとなっているアルベドが目に入り、慌ててもう一度ローブを「バサッ」とさせながら勢い良く振り返り告げる。守護者達から見れば急に主人が格好いいことを言った瞬間ターンして一回転するという良くわからない映像だった。

 

「これで計画は次の段階へと移る……だが、次は相手の反応待ちゆえ、まずは各自ゆっくりと疲れを取り休暇に入るが良い。では私は執務室へ戻る。セバスには報告の詳細で確かめたい事があるので執務室に来るように」

 

 そう言うとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させて一瞬で瞬間移動し、セバスも「では失礼致します」と急いで玉座の間より退出する。

 

 ビクンビクンッとしている守護者統括とシャルティア、そして守護者各位は感動に震えながらモモンガの言葉を反芻しては身が震えて中々立ち上がる事が出来なかった。

 

「ももんがさまぁ‥‥」と泣きむせぶ弟を置いてアウラが復活した。ダメなお姉さん達はあえて視界に入れないようにしながら気になっていたことをデミウルゴスに聞いてみることにした

 

「ふう……あのさあデミウルゴス?」

 

「どうしましたか?アウラ」

 

「ぷれいやーとかツァインドルクスとか 気をつけないといけない奴らがいるのは解ったんだけど、アインズ・ウール・ゴウンとしての戦力増強の件は大丈夫なの?あとデミウルゴス、すっごいノリノリで仕事してるけど、人間たちが幸せに暮らすのって悪魔的にどうなの?」

 

「情報総監からの情報から推察するに、正直ナザリックは現時点でプレイヤーの団体が襲ってこようとも十分耐えられる程の強さがあります。そして、カッツェ平野や彼らが未開拓の土地にアンデッドを労働力として広大な農場を作る予定です。そのための大灌漑事業ももう始まります。そうして収穫される穀物は1/3はナザリックのエクスチェンジボックスによってユグドラシル金貨へと変換されてナザリックの運用資金になります もちろん盟約国からの3~5%の国家予算もエクスチェンジBOXによってユグドラシル金貨に変換致します」

 

「でも 3~5%とか、そんなに少なくて良いんでありんすか?30%とか吹っかけても貰えそうでありんすえ?」と復活したシャルティアが口を挟む

 

「国家予算の半分前後を占めていた軍事費が本当に不要だと気づいた時に、数%支払うだけで安全と平和が守られる‥‥そんな状態になれば、いずれ起こるのは文化の発展と精神の退廃だろうね。 しかも我々が格安で食料を提供するから飢えたりしなくなる訳だしね。飢えを知らず、戦争やモンスターの恐怖に曝されることもなく、そして我々の格安穀物で農家はやって行けないから第一次産業は廃れ第二次産業と第三次産業が自動的に頭角を現すだろうね。そしてそれは退廃的な社会に拍車をかける事になるでしょう」

 

 復活したはずのシャルティアが白目のまま固まっている

 

「ん、うん‥‥つまりね アーチデビルの御馳走とも言えるべき『人間の堕落』がこれから世界規模で起こるのかと思えば失礼ながら涎が出るほど楽しみな環境が整えられているわけです」

 

「そ、それは」とマーレが驚いた様な声を出す

 

「そう 然しながら慈悲深きモモンガ様は人間にチャンスを与えられた。一つはジルクニフという有能な皇帝をそのまま残したこと。もう1つは民主政治という炎をリ・エスティーゼに灯したこと バハルス帝国はジルクニフの間は大丈夫でしょう。彼は野心も覇気もありますからね。対外戦争をしかけながら帝国を導くでしょう 我々を最大限利用した気になりながらね。せいぜい気持ち良く版図を広げて我々の代わりに統治して頂ければ良いのです。こちらの判断で周囲を盟約国で固めるまでは御自由に。ただ「リ・エスティーゼ」の民権政治はどうなるか分かりません。急遽、学校などを設置して子供の教育は始めさせますが、『衆愚政治』という言葉がある通り、彼ら市民が自分たちの楽な方に都合のいい方にと政治を運営しだすのは、まあ数十年後になるか分かりませんが、時間の問題でしょうね。民主主義とは個人では無く民衆という本来雑多な群れを一個の生き物としてみる考え方であり、その生き物は、みんなが思う以上に感情的な性質を持っています。……本当に私は彼らの行く末が楽しみで仕方がないのですよ」

 

「でも お優しいモモンガ様は人間の可能性も また「尊い」 と考えておられるのよね」

 

 アルベドが愛しい人が目の前に居るかの様にウットリと話す。

 そしてある意味それ以上にウットリとした満面の笑顔でデミウルゴスが語る

 

「そうです まさに神のごとき視点と御心で、この星の全てを見つめておられます」