IS 〜鋼の迅雷〜 (帰灰燼)
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プロローグ

他二作も滞ってんのに何やってんだろ……


と、とりあえずプロローグです


 

 

 

 

(やれやれ、どいつもこいつも……)

 

 

とある教室。

 

その最前列ど真ん中の席にて、一人の少年が他の生徒達の視線の中、内心悪態を吐きながらも涼しい顔で座っていた。

 

 

(今迄全く男と接する機会が無かった訳でも無いだろうに、「この学園唯一の男子生徒」がそんなに珍しいものかね……)

 

 

事実、この教室には彼以外の男子は存在しなかった。

 

それも無理は無い。

 

何故なら、この教室は〈IS学園〉ーー「女性にしか扱えない兵器」を学ぶ教育機関の教室なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

インフィニット・ストラトス。

 

通称ISと呼ばれるそのパワードスーツは、10年前に起こった〈白騎士事件〉と呼ばれる出来事により、爆発的に世界に広がった。

 

装着者の生命を完全に守護する防御システムとバイタルセーブ機能、戦闘機以上の速度を維持したまま武装ヘリを凌ぐ旋回半径で方向転換可能な機動性、機械化部隊一個大隊並みの武装を単体で運用可能な火器管制システムと物質の量子圧縮機能による物資運搬能力、そして何よりそれだけの性能を有していながら「パワードスーツ」という「個人」で運搬、運用可能という汎用性と隠密性。

 

その絶大なスペックを白騎士事件により世界に知らしめたISは、開発者が本来提唱した「宇宙開発用のマルチフォームスーツ」としてでは無く、「既存の兵器全てを凌駕するパワードスーツ」として世界に認知されるようになる。

 

だが、ISには決定的な欠陥が存在した。

 

それは、「女性にしか使えない」事。

 

ISは女性が扱った場合個人差こそあれど高いパフォーマンスを発揮するものの、男性が扱った場合起動させる事すら出来なかった。

 

その事実はやがて、「最強の兵器は女性にしか使えない」=「男は女には勝てない」という風潮……〈女尊男卑社会〉へと繋がっていった。

 

だが、ISが世に出てから十年後。

 

「ISは女性にしか使えない」……その前提を覆す者が現れた。

 

男性でありながら「ISを起動出来る」者が発見されたのだ。

 

その者の名はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー〈織斑 秋十(おりむら あきと)〉です。 見ての通り男性でありながらISを動かしてしまった訳ですが、どうかよろしくお願いします」

 

 

少年は、そう言って深々を頭を下げた。

 

 

「おお……紳士だわ」

 

「カッコイイ……」

 

「イケメンで紳士……嫌いじゃないわ!」

 

 

周囲の女子達がひそひそ声で呟く声を耳にし、少年ーー秋十は心の中で密かにほくそ笑んだ。

 

 

(フン……所詮女なんてこんなもんか。 まあ、精々僕の為に役に立って貰うさ)

 

 

そんな事を思いながら顔を上げると、丁度教室の前の扉が開き、黒いスーツに身を包んだ女性が入って来る所だった。

 

 

「山田君、遅くなって済まない」

 

「い、いえ! 織斑先輩こそ職員会議お疲れ様です!」

 

 

山田と呼ばれた緑髪の女性は黒スーツの女性の言葉に頬を染めながら答えた。

 

 

(「織斑」先輩? ってーー)

 

 

山田先生の言葉に、秋十が黒スーツの女性に目を向ける。

 

其処にはーー

 

 

「ね、姉さん!? ーーいった!!」

 

「織斑「先生」と呼べ、馬鹿者」

 

 

秋十の言葉に、姉さんと呼ばれた黒スーツーー織斑先生は右脇に抱えていた出席簿の一撃と共に叱責を返した。

 

 

「済まないな、山田君。 愚弟が迷惑を掛けたようだ」

 

「い、いえ! 礼儀正しい良い子でしたよ! はい!」

 

 

そんなやりとりを横目に、秋十は叩かれた頭を摩りつつ心中で毒づく。

 

 

(チッ……少々やり辛くなったね。 まあ、姉さんはIS関連では有名人だからこの学園で教師をやっててもおかしくは無いけどさ。 ーーまあいいや、ばれなきゃ何とでもなるさ)

 

 

表面上は優等生然とした少年が裏でそのような黒い考えを抱いている事に気付きようも無い山田先生は、ふとある事に気付く。

 

 

「そ、そう言えば織斑先生。 教室の最後列に空きがあるんですが、今日は欠席でしょうか?」

 

「いや、どうやら先方の都合で遅れているらしい。 そろそろ到着するそうだがーー」

 

 

その時、教室の扉をノックする音が鳴る。

 

 

「ーー遅れて申し訳ありません。 「彼」を連れて来ました」

 

「来たか。 入って貰え」

 

 

織斑先生の返事に、教師と思われる女性の声が返ってくる。

 

 

「かしこまりました。 それでは、後はよろしくお願いします。 ーーさあ、仁来君」

 

「はい」

 

 

短い返事と共に扉が開き、一人の「少年」が入ってくる。

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

その瞬間、教室は騒然となった。

 

入ってきたのがIS学園ではあり得ない筈の「男子」という事もあるが、教師という立場上ある程度情報を知っている筈の山田先生と織斑先生まで驚愕の表情を浮かべていた。

 

そんな雰囲気の中、少年は黒板に歩み寄るとチョークで自分の名前と思われる文字を書き記し、生徒達に向き直る。

 

 

「ーー〈仁来 要(じんらい かなめ)〉です。 えーと……以上です」

 

 

そう名乗る少年の人相はーー

 

 

 

 

ーー秋十と、瓜二つと言っていい程に良く似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話

 

 

 

 

時間は飛んで、一時間目終了後の休み時間。

 

 

「ふう……」

 

 

仁来と名乗った少年は、溜息と共に疲れたかのように姿勢を崩す。

 

 

「えっと……大丈夫?」

 

 

そう仁来に話し掛けてきたのは、彼の席の少し前に座っていた女生徒だった。

 

 

「うん、何とか。 えーと……」

 

「あ、自己紹介の時いなかったよね。 私、出席番号一番〈相川 清香(あいかわ きよか)〉。 よろしくね」

 

「うん、よろしく」

 

「あ、相川さんずるい! 私は〈岸原 理子(きしはら りこ)〉だよ! リコリン、って呼んでね!」

 

「わたしは〈布仏 本音(のほとけ ほんね)〉だよ〜、よろしくね〜らいりん〜」

 

 

相川と名乗った女生徒の自己紹介を引き金に、仁来の周囲の席の女生徒が一気に自己紹介を始める。

 

 

「よろしく。 日本語がまだ良くわからないから迷惑を掛けるかも知れないけど……」

 

「へ? 仁来君って日本人じゃないの?」

 

 

岸原のその問いに、仁来は少し気まずそうに答える。

 

 

「ちょっと事情があって、今の国籍はアメリカ預かりなんだ」

 

「でも、名前は日本人風だよね?」

 

「まあ、その辺もちょっと事情が、ね」

 

「ふ〜ん。 まあいいや、らいりんはらいりんだもんね〜」

 

 

そんな会話をしていると、一人の生徒が歩み寄ってくる。

 

 

「やあ、仁来君。 「初めまして」」

 

「え? ああ、初めまして」

 

 

挨拶と共に差し出された手を握り返す仁来。

 

 

「僕は織斑 秋十。 僕以外にも男子のIS装着者がいるなんて驚いたよ」

 

 

秋十の言葉に、岸原達も同意する。

 

 

「だよねー。 顔もそっくりだし、最初双子かと思ったよ」

 

「ね〜」

 

「うんうん、ホントビックリしたよ!」

 

「まあ、それに関しては僕も同意見かな。 ところで仁来君、昼休みに時間あるかな?」

 

「昼休み……まあ、特には無いけど」

 

「だったら、昼食後に学園案内させて貰えないかな? 僕は何度か下見で学園に来た事があるし」

 

 

その提案に、仁来は何の警戒も無しに頷く。

 

 

「じゃあ、その言葉に甘えさせて貰おうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと待つのです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃっ!? な、何々!?」

 

「だれ〜??」

 

 

突然の大声に思わず周囲を見渡すが、声の主らしい人物は誰もいない。

 

その時。

 

 

「〈ナビ〉! いきなり大声を出すな! 迷惑だろ!」

 

 

仁来の叱責と共に、仁来の眼前に岸原達より少し年下の少女が出現する。

 

 

『私の使命はジンライ様のサポートです! 他のモブキャラの事なんて知った事ではありません!』

 

 

そう言って、ナビと呼ばれた警官の制服に似たピンクの衣装に身を包んだ少女は無駄に胸を張る。

 

 

「威張れる事か!」

 

「あ、あの……仁来君、そちらの方は?」

 

「あ、ごめん。 こいつはナビって言って、このサポートPCにインプットされてるナビゲータープログラムなんだ。 この姿はこいつが投影してる立体映像(ホログラム)

 

 

胸のペンダントを掲げる仁来の紹介を受け、ナビはホログラムの身体を岸原達に向き直らせて自己紹介する。

 

 

『ご紹介に預かりました私、ジンライ様の専属ナビゲーションシステム兼各種ケアプログラム兼各種セキュリティシステム担当プログラムのナビと申します! 以後、宜しくお願い致します!』

 

「よ、よろしく……」

 

 

とてもコンピュータプログラムとは思えないテンションの高さに、若干押され気味の一同。

 

 

「で、いきなり何の用だ?」

 

『勿論、ナビゲーションの為です! ジンライ様のナビゲーションは私の役目です! そこの青二才の出る幕ではありません!』

 

 

そう言って秋十に向かってビシッと指を指すナビに対し、仁来は胸のペンダントを外すとーーそのまま机に叩きつけた。

 

 

『痛い!? 今のはリアルで痛いですよジンライ様!』

 

「あのな……折角善意で言ってくれてるのに失礼にも程があるだろ」

 

『ジンライ様のナビゲーションは私の役目です! 私だけの役目なのです!! ここは絶対に譲れません!!』

 

 

顔を真っ赤にして力説するナビに心底呆れ果てる仁来。

 

 

「あはは……随分と好かれてるみたいだね」

 

「過保護なだけだよ。 全く、政府ももうちょっと融通の利くサポートPCを寄越してくれてもいいだろうに……」

 

「それだけ大切にされているって事だよ。 何せ僕と君は世界でたった二人の「例外」なんだから」

 

「「例外」ね……」

 

「まあ、ナビちゃんがどうしても譲れないって言うなら無理にとは言えないね。 また別の機会にするよ」

 

「ごめんな、折角誘ってくれたのに」

 

「気にしないで。 それじゃ」

 

 

その言葉を残し、秋十はその場を後にした。

 

只、仁来に背を向けた一瞬、

 

 

(チッ、お目付役付きか……まあいいさ、焦る必要は無い)

 

 

との呟きと共に微かに、だが醜悪に歪んだ事を仁来達は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

更に時は進んで放課後。

 

 

『ーーですから、あの男の事は警戒した方が良いのです!』

 

「考え過ぎじゃないか? 普通に素直そうな好青年って感じだったけど」

 

 

仁来のその言葉に、ナビは憤慨した様子で仁来の頭上を旋回する。

 

『この際ですからはっきり言わせて貰います! ナビはジンライ様の人物批評程信用出来ない物は無いと判断します! サイバトロン軍初代総司令官の「いい考え」より信用出来ません!』

 

「そこまで言うか!」

 

『言いたくもなります! ジンライ様はお人好し過ぎます!』

 

「そうか? 普通だろ」

 

『貴方が普通なら世間の殆どの人が疑心暗鬼に取り憑かれた被害妄想狂になっちゃいます!』

 

 

そんな言い争いを繰り広げながら学園の校門へと向かう仁来達。

 

其処には、黒スーツ姿の女教師ーー織斑先生が待っていた。

 

 

「仁来か。 話は聞いている」

 

「すいません織斑先生。 この学園の規則は知ってますけど、こっちも抜き差しならない事情がありまして……」

 

「仕方ないさ、「二日に一回特別な治療が必要」と聞かされればな。 実際、同じような理由で寮生活を免除されている生徒もいない訳では無い」

 

「そうなんですか?」

 

 

その問いに、織斑先生は一枚のカードを差し出しつつ答える。

 

 

「ああ。 だが、くれぐれも気を付けろ。 貴様の「希少性」を考えれば、幾ら国の庇護があるとは言え良からぬ事を考える輩が出て来ないとは限らん。 後、これを渡しておく」

 

「あ、どうも。 ……定期券、ですか?」

 

「この学園から外に出るには専用モノレールを使うしか無いからな。 交通費も馬鹿になるまい」

 

「あー……お気遣いどうもです」

 

「気にするな。 上層部も出来るだけ貴様に恩を売って置きたいんだろうさ。 ……少し良いか?」

 

「? はい」

 

 

首を傾げる仁来に、織斑先生は何処か期待するような表情で問い掛ける。

 

 

「一つ尋ねたいのだが……〈イチカ〉という名に心当たりは無いだろうか?」

 

 

その問いに、仁来は暫し考え込む。

 

 

「イチカ……イチカ……すいません、心当たりは無いですね。 何処かで聞いたような響きだとは思うんですけど……」

 

「そうか。 済まないな、引き止めてしまって」

 

「いえ。 それでは失礼します」

 

『失礼します、織斑先生! さあ、行きましょうジンライ様!』

 

「わかったから少し声絞れって!」

 

 

再度ナビと言い争いながら去っていく仁来。

 

その背中を、織斑先生は見えなくなるまで目を離す事は無かった。

 

 

「……他人の空似とは思えんが……いや、もしあいつがそうなら、「あの馬鹿」が放っておく訳も無い、か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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