不老不死の暴君【凍結中】 (kuraisu)
しおりを挟む

プロローグ

はっきり言ってネット小説書いてみようとおもって書いてみただけです
投稿は不定期 完結しないかも ちなみに残酷な描写は念のためです


アルケイディア帝国とガルテア同盟(ダルマスカ王国とナブラディア王国の同盟)の戦争終結から約一年後。

旧ダルマスカ王国領東ダルマスカ砂漠にて・・・

一人の少年が砂漠の魔物相手に戦っていた。

少年は傷だらけだったがそれでも魔物めがけて剣を振っていた。

数匹の魔物を倒したところで少年はサボテンの根元に腰をおろし辺りを見渡し・・・

 

「・・・・え?」

 

とんでもない光景に目を疑った。

砂漠のど真ん中で寝ている奴がいるのだ。

東ダルマスカ砂漠は物凄く暑いし、魔物も多いからそんなところで寝るなど正気とは思えない。

更にはその人物のすぐ近くに東ダルマスカ砂漠最強の魔物{ワイルドザウルス}がおり、口から涎をたらしているのだ。

少年の目にはどう見ても涎が寝ている人物に当たっているようにみえるのだが彼は目を覚まさない。

ワイルドザウルスはついに寝ている人物を丸呑みし・・・

 

「え、ええぇぇぇぇ!!?」

 

少年は物凄く驚いた。

寝ている人物を丸呑みにしたワイルドザウルスが急に血を吐き、体のあちこちから刃物が出てきたと思えば、血がふきだした。

そしてワイルドザウルスの腹を真っ二つにして先ほどまで寝ていた人物がワイルドザウルスの腹から出てきた。

 

「妙だな・・・俺は確か砂漠で寝ていた筈だが何故魔物の腹の中で寝ているのだ?」

 

そんな独り言を言いながら寝ていた人物は辺りを見渡し、少年に気がついたのか少年の方に歩いてきた。

 

「君、酷い傷じゃないか大丈夫か?」

「・・・!」

 

少年はそんなことより砂漠のど真ん中で寝てたうえにワイルドザウルスに丸呑みされてたあんたの方が傷があるだろうと叫びたがったが彼は血だらけではあったがついている血の殆どがワイルドザウルスの返り血なのか何故か本人は無傷である。

彼は少年にフルケアをかけた。

 

「これで大丈夫だろう。ところで君この辺りに町はないか?」

「えっと・・・西に少し行ったところにラバナスタって街があるよ」

 

少年はフルケア・・・上位の白魔法をあっさりやってのけた彼に驚きながらも答えた。

 

「ふむ、そうか」

「よかったら案内しようか?」

「悪いな、じゃあ頼む」

 

すると少年はひとつの砂丘を指差して

 

「あの砂丘を超えたらすぐだよ」

「そんなに近いなら砂漠なんかで寝るんじゃなかった・・・」

 

砂漠で寝るなんて発想できるほうがおかしいわ!と叫びたかったが少年はこらえた。

もし彼の機嫌を損ねたら一瞬で殺されかねないと思ったからだ。

 

「あれ? そういえば君の名前を聞いてなかったな」

「ヴァンだ、お前は?」

「・・・・・・・・セアだ。 ところでヴァンはなんで一人で砂漠なんかにいたんだい?」

「いや、子ども達みんなと喧嘩してて俺が一番強かったから砂漠の魔物相手でも十分戦えるとおもったんだけどな」

「魔物相手に戦えるようになりたのか?」

「ああ」

「そうか」

「あのさ・・・」

「ん?」

「よかったら戦い方教えてくれないか?」

「う~ん」

 

そういえば暇つぶしに色々な事を学びはしたが誰かに何かを教えるということはあまりしなかったなとセアは思った。

理由は教えた後にとんでもない事を起こさないかという心配からであるが・・・。

ヴァンは身なりからして平民であるがもし貴族とかだと厄介だし・・・。

 

「えっと、君は何処に住んでいるんだ?」

「ラバナスタだけど」

「何か仕事してる?」

「・・・ミゲロさんの店の手伝い」

「ミゲロさんって誰?」

「商人」

「もうけは?」

「まぁまぁ」

 

・・・なんかなぁ。

いきなり身分は?とか聞くのは嫌だしなぁ。

でも聞かないと戦い方教えて面倒事に巻き込まれるのは嫌だし。

ああ、そういえばラバナスタって聞いたことがあるな。

確か砂漠の国ダルマスカ王国の王都で三大陸の境目のオアシスにある街だっけ。

記憶が正しければ一年位前にダルマスカ王国はアルケイディア帝国に侵略された筈だから・・・。

 

「君はラバナスタの何処に住んでる?」

「・・・昔は市街地に住んでたけど帝国に負けてからはダウンタウンに住んでる」

 

ということは・・・ヴァンはアルケイディア帝国の制度でいくと外民か。

アルケイディア帝国では外民・新民・政民に大きく三つに身分が分かれている。

その内市街地で住めるのは新民・政民だ。

帝国南東の港町バーフォンハイムみたいに自治権をもっていない限り外民は都市部に住めないのだ。

そしてラバナスタが自治権を持っているという話は聞いたことがない。

ということは別に戦い方を教えても問題は無いとは思うが一応聞いておくか。

 

「君は帝国が嫌いか?」

「ああ大嫌いだ!」

 

なら問題あるまい。

外民でも帝国軍に入るもしくは帝国に税金を納める等したら新民になれるが帝国嫌いならそんなことはしないだろう。

 

「そうだな、じゃあ戦い方を教えてもいいぞ」

「ホントか?」

「ああ」

 

その後ミゲロさんとヴァンとセアで話し合い、セアはダウンタウンで住むようになり、ヴァンを馬鹿弟子と呼び、半年程鍛え、他の孤児達とも仲良くなり、1年後には馬鹿弟子のせいで国家規模の面倒事に巻き込まれるのである。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ある人物の日誌

削除したあらすじと対してかわりません。
かなりややこしいです。
ダルマスカ王国の歴史を纏めただけなので飛ばしても問題ないと思います。


ダルマスカ王国。

この国の始まりはガルテア連邦時代まで遡る。

イヴァリース統一を成し遂げた覇王レイスウォールは次男のバナルガンにガルテア半島を下賜されダルマスカ家を興した。

そして約400年後、ガルテア王家は断絶し、ガルテア連邦は解体された。

ダルマスカ家当主はバナルガンの弟ヘイオスを祖とするナブラディア家当主と共に独立を宣言し、ダルマスカ王国が独立した。

そして同時に独立したナブラディア王国とガルテア同盟を締結した。

ダルマスカ王国はバレンディア・オーダリア・ケルオンの三大陸の境目に位置し商業によって栄えてきた。

その経済的・軍事的価値から他国からの侵略を幾度と無く経験している。

 

ガルテア戦役。

ダルマスカ独立から約300年後、バレンディア大陸ではガルテア連邦に加盟していた一都市国家から軍事大国となったアルケイディア帝国が、

オーダリア大陸では元マルガラス侯国周辺の都市国家群が団結したロザリア帝国が台頭していた。

この二大帝国は互いにイヴァリースの覇権を争っている。

ダルマスカ・ナブラディアはそんな二大帝国の狭間に位置し、あまり領土拡張をしてこなかった為、国力も軍事力も二大帝国とは比べ物にならなかった。

ダルマスカ王国はロザリア帝国との間に広がるヤクト・エンサがある為、あまり二大帝国の影響を受けていなかった。

しかしダルマスカの北に位置するナブラディア王国は領土拡張を続けるアルケイディア帝国と国境を接していたのだった。

ナブラディア王国はアルケイディア帝国に対抗する為、ロザリア軍を国内に駐屯させる政策を打ち出した。

ロザリア帝国のバレンディア進出を危惧するアルケイディアはナブラディアに経済封鎖などの圧力をかけたがナブラディアが折れることはなかった。

だがこれがきっかけでナブラディア王国はロザリアの庇護下に入ろうとする親ロザリア派とあくまで独立性を守ろうとする独立派に分かれた。

最初はそれ程問題ではなかったのだが国王が独立派であった為、ナブラディアの第二王子をダルマスカの王女に婿入りさせた。

親ロザリア派はこれに激怒し、武装蜂起した。

親ロザリア派はロザリア帝国から支援を受けていた為、ナブラディアの国軍との戦いは拮抗した。

そんな中、アルケイディア帝国からナブラディアに援軍を送りたいという旨の手紙が届いた。

内乱に他国の介入を許したら独立性を失いかねない為、ナブラディアはこれを拒否した。

するとアルケイディア帝国はナブラディア王国に対して宣戦布告した。

アルケイディア帝国がこのような過激な方法をとったのには理由がある。

ナブラディア国内にロザリア軍がいるのは厄介とはいえ、まだ主権はナブラディアが握っていた。

しかし万が一親ロザリア派が勝利し、ナブラディア王国がロザリア帝国の傀儡にならばどうか?

考えるまでも無い。ロザリア帝国のバレンディア進出が確定するのだ。

アルケイディア帝国の安全を考える上でなんとしても親ロザリア派が勝利することは避けなくてはならないのだ。

たとえナブラディア王国という国家そのものを滅ぼしてでも。

帝国の宣戦布告を受けたナブラディア王国はダルマスカ王国に援軍を要請。

ダルマスカは要請を受け、アルケイディア帝国に宣戦布告した。

しかし帝国軍は僅か数日でナブラディアの王都ナブディスを包囲した。

帝国軍の王都攻略作戦開始直後にナブディスは原因不明の爆発で消滅した。

こうしてナブラディア領は帝国の支配下に入り、帝国軍は宣戦布告してきたダルマスカ王国へと進軍した。

そしてダルマスカ王国国境付近にある城塞都市ナルビナが陥落。

ナルビナ戦でダルマスカ王国軍は多くの兵を失いっており、ダルマスカは時代の波に飲まれようとしていた。

忠勇なるダルマスカ騎士団は抵抗を続けるも、帝国の圧倒的に優位な戦況を覆す事はできなかった。

帝国軍はダルマスカ王国の王都ラバナスタを目前にして進軍を停止。

ダルマスカ王国に和平案を提示。事実上の降伏勧告を行った。

帝国が和平案を提示したのは理由がある。

ダルマスカ王国は間にヤクト・エンサがあるがロザリア帝国の隣国である。

あまりロザリアを刺激したくないため、ダルマスカは帝国の影響下に置ければよかったのだ。

ダルマスカ王国国王ラミナスは和平案を受諾し、占領下のナルビナへと赴いた。

しかし、和平に異を唱えるローゼンバーグ将軍はナルビナにてラミナス国王を含む交渉団を暗殺。

この一件を受け、帝国はダルマスカに和平の意志なしと判断。進軍を再開した。

ラミナス国王暗殺の報を聞いたビュエルバのオンドール侯爵は中立の立場からダルマスカに降伏を促した。

 

「徹底抗戦を唱え、

 ラミナス陛下を暗殺したバッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍は、大逆犯として処刑された。

 いまだ戦いを望む者は将軍と同類である。ダルマスカを滅亡へと導く、恥ずべき反逆者である。

 真の愛国者よ。剣を捨て祈りを捧げよ。平和を望んだ慈悲深きラミナス陛下の魂に。

 そしてまた・・・

 

 祖国の敗北を嘆いて自ら命を絶った、アーシェ殿下の誇り高き魂に。」

 

王家を失い、帝国に対抗する力も無いダルマスカは降伏し、ダルマスカは帝国の版図となった。

 

 

・・・と大体これがダラン爺から聞いたダルマスカ王国の歴史だ。

いや、王国は滅んだのだからダルマスカ地方の歴史と言ったほうがよいかも知れない。

この一年で馬鹿弟子の腕もたいしたものになってきた。

そろそろ旅に出ようかと思うが折角住居まで用意してくれたのだ。

あと二、三年はここで暮らそうかと考えている。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ビュエルバ編
第一話 誘拐事件発生


アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領城塞都市ナルビナにて。

 

「今回の仕事は面倒だったな・・・」

 

ナルビナの入り口で一人の人物が愚痴を言いながら街に入ってきた。

容姿は20代半ばで長い銀髪で顔は中の上程度の人物である。

 

「予想では2週間程度で済むと思ったのだが・・・まぁ仕方ないか・・・とっとと飛空挺の予約をしてラバナスタに帰るとしよう」

 

そうしてその人物・・・セアは城塞の中へと入っていった。

アルケイディア帝国においてナルビナは西方の大国、ロザリア帝国に近いから帝国兵が多い。

南のラバナスタもロザリア帝国に近いが西方のエンサ大砂海に好戦的なウルタンエンサ族の縄張りがあり

ヤクトでもあるため飛空挺を飛ばすことができないため、ナルビナよりは帝国兵が少ない。

またナルビナには出稼ぎの人も多い。

アルケイディア帝国が城塞の修復・拡張の為に雇ってくれるからだ。

 

「もっと賃金増やしてくれよ!」

「駄目だ! 2ヶ月前に給料上げたばかりだろうが!」

「給料が増えても仕事も増えてたら意味がねぇだろうが!」

「黙れ! 文句を言う奴は地下牢にぶち込むぞ!」

 

・・・まぁ色々問題はあるようだが。

 

(当たり前といえば当たり前か)

 

ナルビナは2年前の戦争の激戦地であったため損傷が激しく修復だけでも結構な金がかかる。

その上ロザリア帝国に備える為に拡張もしなければならないのだ。

となると人件費だけでも馬鹿にならない金がかかっている筈だ。

アルケイディア帝国としては人件費を出来るだけ少なくし、それでいて多くの人を雇わねばならない。

しかし出稼ぎの連中からしてみれば帝国の事情等知った事ではない。

城塞の修復の為に働くのはとても重労働の筈だ。

更にそこに拡張の為に仕事の量はどんどん増えていく。

仕事に見合うだけの賃金を要求するのははっきり言って当然のことだ。

 

「まぁそんなことどうでもいいか・・・10日程とか言いながら1ヶ月も帰らなかったんだし馬鹿弟子や他の皆が心配してるだろうしなぁ」

 

セアはヴァンを弟子にしてからラバナスタを2週間以上離れたことがない。

絶対にヴァン達が心配している筈だ。

セアは夕方に高速飛空挺便に乗り、ラバナスタに着くまで仮眠した。

 

 

 

アルケイディア帝国旧ダルマスカ領王都ラバナスタにて。

セアがラバナスタに着いてまず最初い感じたのがなんか雰囲気が変わったということだ。

なんというか帝国兵がまともになったとでも言えば言いのだろうか?

1ヶ月前迄のラバナスタは帝国兵が我が物顔で商店から商品を金を払わず持っていったり、酒場の2階を占領したりとやりたい放題していたのだが・・・。

気になって市民に聞いてみたらそんな帝国兵は10日前に来た執政官によって解任か厳重注意をされたそうだ。

 

(あ、そういえば出て行く前にアルケイディア帝国皇帝の三男が執政官に就任するって話を馬鹿弟子から聞いたような・・・)

 

ということは皇帝の三男はいい奴か悪い奴かは分からないが有能ではあるのだろう。

未だに敗戦の暗い雰囲気を引きずっていたラバナスタが少しだけ明るくなったように見えるのだから。

とにかくセアは商店街にあるミゲロの店に向かう事にした。

 

「あ、セアさん!」

「カイツ、留守番かい?」

「うんそうってセアさん何処行ってたんだよ!?ヴァン兄が心配してたよ?」

「そうか・・・で、ミゲロさんは?」

「ミゲロさん今いないんだ」

「? 珍しいなミゲロさんが店を空けてるなんて・・・」

「そうだね」

「じゃあ馬鹿弟子やパンネロは?」

「パンネロ姉ちゃんは今日は会ってないよ。ヴァン兄ならナルビナから帰ってきたみたい」

 

その言葉を聞いた瞬間セアの顔から表情が消えた。

 

「セア・・・さん?」

 

カイツが恐がりながらセアに呼び掛けたらセアは目を冷たく光らせ、口を歪めた。

 

「・・・カイツ」

 

物凄く低い声でセアは言った。

普段が明るい声であるだけに恐ろしい。

 

「・・・なに?」

「馬鹿弟子はいったいなにをやらかしたんだい?」

「王宮の宝物庫に盗みに行って・・・」

「ほう、中々やるじゃないか」

「え?」

「いやなんでもない、馬鹿弟子がナルビナから帰ってきたことはあまり人前で言わないように」

「は、はい」

「あとは・・・馬鹿弟子がどこにいったかしらないかい?」

「い、いや」

「ふむ、困ったな。とりあえずミゲロさんを探すべきだな」

 

じゃあねと普段通りの明るい声で言ってセアは店を出て行ったがカイツは未だに脅えていた。

セアは店を出てすぐ街の人にミゲロを見なかったか聞いて回った。

幸いミゲロはラバナスタではちょったした有名人だから直ぐに砂海亭にいると分かった。

セアは砂海亭へと走った。

砂海亭についたセアは店内を見渡し2階にヴァンとミゲロを見つけた。

・・・なんか見た事無いヒュムの男が2人とヴィエラの女も一緒にいるのだがミゲロさんの店の取引相手だろうか?

いや、それならそこにヴァンはいらないだろうと思いそこに進んだ。

するとセアの姿を視界に捕らえたヴァンが突っ込んできた。

 

「何処に行ってたんだよ! 心配したよ」

「ああ、済まないな」

 

突っ込んできたヴァンをセアは両手でがっちりと掴み、明るい声で謝罪し

 

「ところで馬鹿弟子・・・カイツから聞いたんだが俺が仕事に行ってる間にナルビナ送りになったそうじゃないか」

 

ヴァン耳元で物凄く低いくて小さい声でセアは言った。

するとヴァンの体が震えだした。

セアの声が物凄く低いときは機嫌が悪く酷い事をしてくるのをヴァンは経験上知っている。

 

「え・・っとそのぉッッッッ・・・・!!!」

「まったく! 俺が仕事してる間になにやってんだお前は! 王宮に盗みに行ったごときで捕まるとは!俺の弟子なら財宝を盗んで逃げてみせろ! 捕まるなんて情け無い!!!」

「・・・怒るとこはそこなのか」

 

セアがヴァンの首を掴んでどこかずれた説教をし、その風景をみていた見たことも無い金髪のヒュムの男が呆れていた。

 

「セア、帰ってきておったのか」

「ああ」

 

ミゲロの言葉にセアはヴァンの首を掴みながら肯定する。

 

「帰ってきていきなり済まないが・・・パンネロが誘拐された」

「なんだと?」

「ああ、そこの空族2人に宛てた手紙があった。ビュエルバの魔石鉱に来いと」

 

どうやら身なりのいい青年のヒュムとヴィエラの女性は空族らしい。

ヴィエラとヒュムのコンビなんて珍しい。

いや、そんなことより

 

「? なんで空族に要求するのにパンネロを誘拐したんですか?」

「ヴァンとそこの空族が帝国兵に捕まった時パンネロが帝国兵に許してくださいと叫んでいたようでね。それで誤解を受けたようなんだ」

「なるほど」

 

その後セアはミゲロとヴァンの首を掴んだまま話を続けた。

とにかく空族がビュエルバまで連れて行ってくれるらしくそれにヴァンと空族の2人と金髪の人物で救出に行くということが決まったらしい。

 

(面倒事を起こしやがって・・・まぁ今はそれより・・・)

 

セアは身なりのいい青年の方に顔を向けた。

 

「空族の方々、俺はセア。一応この馬鹿弟子の師匠をやっている」

 

そう言いながらセアはヴァンの首を掴んだまま空中に持ち上げる。

 

「あなた方はビュエルバまで連れて行ってくださるとのこと。よければ俺も連れて行ってくれませんかね」

「はぁ、別にいいぞ」

 

そう言って身なりのいい青年の空族は砂海亭から出て行った。

それを見送ったセアはそういえばヴァンの首をさっきから掴みっぱなしだったなと思い出して放り投げ、ヴァンの後頭部が床に直撃した。

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ、・・・・痛いじゃないか、セア!」

「自業自得だ」

 

ヴァンの台詞にセアは酷薄な笑みを浮かべながら明るい声でそう返した。

暫くヴァンとセアが言い合っていたがヴィエラの女性が近づいてきて声をかけてきた。

 

「私はフラン、先に出て行った彼はバルフレア。そこの男性は後で紹介するわ」

 

フランはそういうと砂海亭の出口の方に歩いていき、金髪の男もついて行った。

金髪の人物はなにか訳ありなんだろうとセアはあたりをつけ、ヴァンと共に後に続いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 シュトラール

消耗品等を買い集め、飛空挺のターミナルに着いた。

飛空挺のターミナルは金を払えば私用の飛空挺でもとめる事ができる。

会社は利用者に深入りしてこないので空族でも利用できる。

その玄関でバルフレアが待っていた。

 

「言っとくがビュエルバはダルマスカの東の空中大陸ドルトニスにある都市国家だ。行ったら暫く戻ってこれないと思っておけ」

「準備ならできてますよ」

「よし、じゃあついて来い」

 

バルフレアが個人用の格納庫の方に進んでいった。

俺達もその後に続く。

するとそこには変わった形の飛空挺があった。

 

「シュトラールだ」

「すごいな……本当に空賊なんだ!」

「俺の首で船が買えるぜ」

 

 

この飛空挺の名前はシュトラールというらしい

ヴァンは目の前で飛空挺を見たためかテンションが上がっている。

空族に憧れていたのは知ってるがいくらなんでも落ち着けとセアが突っ込みを入れる。

それでもヴァンは収まらずバルフレア色々聞いている。

バルフレアも流石に鬱陶しくなり顔を逸らし、セアが顔を顰めているのに気がつきセアに話かけた。

 

「なんか変なところでもあったか?」

「バルフレア・・・この飛空挺って新品か?」

「いや」

「俺は飛空挺に関してそれなりの知識を持っているんだが・・・・こんな形の飛空挺を知らないが何処の製品だ?」

「・・・社名は知らないがアルケイディア製だ」

「なるほど・・・」

「んなことどーでもいいだろ早く乗ろうぜ!!」

「・・・そうだな」

 

バルフレアはため息を吐きシュトラールに乗り込んだ。

 

「どうかしたのか?」

「・・・いいから早く乗れ」

 

まったく状況を理解していないヴァンにセアは呆れながらヴァンの背中を押してシュトラールに入っていった。

シュトラールの中を見てみるとどうやら本当にアルケイディア製のようだ。

アルケイディア製の飛空挺はスピードを重視するため制御が面倒である。

シュトラールの座席に座ると隣の席に金髪の人物が座った。

 

「そういえばあなたの名前をまだ聞いてなかったね」

「私はバッシュ、バッシュ・フォン・ローゼンバーグだ」

「・・・どこかで聞いたような?」

 

確かダルマスカ王国の将軍で・・・2年前の戦争の時アルケイディア帝国との和平を決断した国王に異を唱えナルビナで暗殺した。

その際にヴァンの兄レックスもバッシュと一緒にいたためレックスにも謀反の疑いがかけられ帝国に拷問され1年前に死んだらしい。

そのせいでヴァンは肩身の狭い思いをしてきたという話をセアがヴァンから聞いたのは8ヶ月程前のことだったか。

 

「そうか、あなたがバッシュ将軍か」

 

セアは微笑を浮かべながら明るい声でバッシュにそういった。

 

「・・・それだけか?」

「いや、元からあなたが停戦交渉の際に国王を暗殺したという話にかなり違和感があってね」

「というと?」

「まずレックスの自白によれば自分がナルビナに来たのは国王暗殺の為ということを知らなかったってことだ。ということはもしあなたが代表団の一人でも殺せば連れてきた味方はあなたが乱心したと思いあなたを止めようとするはずだ。そうなるとあなたは何も知らない味方を連れていない方がよかった筈なのにあなたは連れて行った」

「なるほど」

「大方、帝国側の過激派の陰謀だろう。三大陸の境目に位置するダルマスカは経済的・軍事的価値が高い。そこがアルケイディアの領土になればロザリア帝国と戦争になった場合優位に立てる」

「・・・」

 

バッシュはセアの予想がおそらく正解で、それに自力でたどり着いたセアがとても有能な人物だと思った。

するとセアがゲラゲラ笑いながら冗談半分に

 

「そしてなにより、あなたが本当に国王を暗殺したなら今頃ヴァンがあなたを殴り殺してるかあなたがヴァンを切り殺してるでしょう」

「・・・そうだな」

 

一瞬とんでもないことを言うとバッシュは思ったが実際自分がやっていたらそのどちらかになっていただろう。

その時のバッシュの顔がおもしろかったのかセアはバッシュの顔を見てまだ笑っていた。

 

「よしじゃあ出すぞ」

 

バルフレアがそう言ってシュトラールを発進させた。

これは余談だがその後セアは乗り物酔いして思いっきりバッシュの方に向いて吐いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 空中都市

一応念のためにR-15のタグも追加しました


空中都市ビュエルバにて。

 

この都市国家の歴史はガルテア連邦時代まで遡る。

当時、ガルテア連邦では飛空挺が完成し東方の空中大陸ドルトニスに入植しだした。

その入植の際に功績を立てたオンドール侯爵家が空中大陸ドルトニスを下賜され、その後ガルテア王家が断絶しガルテア連邦は解体され空中都市ビュエルバが独立した。

またガルテア王家の分家であるダルマスカ王家とナブラディア王家と親交があったため両王家が治める王国と友好関係にあったが2年前の戦争で両王家が断絶してからはアルケイディア帝国寄りの政治を行い、帝国兵の駐屯も認めている。

・・・現オンドール侯爵は帝国の影響を減らしたいため反帝国組織を支援しているという噂もあるが。

基本的な収入は観光と魔石鉱からとれる良質の魔石の輸出で土地が農業に向かないため食料は外国からの輸入に頼っている。

 

「・・・そういえばビュエルバはあちこちに魔石鉱があるがどこの魔石鉱に来いって書いてあったんだ?」

「ルース魔石鉱だ」

 

ルース魔石鉱・・・ビュエルバでもかなり一番目か2番目くらいに大きい魔石鉱の名前だ。

バルフレアに疑問を返され思考にふけっていると後ろから帝国兵の声が聞こえてきた。

 

「だめです、いません!」

「よく探せ!」

「はいっ!」

 

どうやら誰かを探しているようだ。

そんなやり取りを見ながらバルフレアがバッシュに

 

「あんたは死人だ。用心してくれ。・・・名前も出すな」

「無論だ」

 

セアはそんなやり取りを見ていてふとヴァンの方を見た。

 

「なんだよ?」

「いや、なんでも」

 

セアはそう言って微笑んだ。

ヴァンはその態度に腹が立ったのか外に出て行った。

 

(俺は別に将軍様がどうなろうと興味がないしな・・・黙っておくか)

 

セアはヴァンが普通にバッシュと呼ぶの密かに期待し、バルフレア達にヴァンが先に行ったことを伝えた。

バルフレアたちと一緒にビュエルバのターミナルから出たセアは空中都市ビュエルバの風景に見とれていた。

 

「やはり何時見てもここの風景は格別ですね」

「君は前にビュエルバに来た事があるのか?」

 

セアが独り言を言っているとバッシュが突っ込んできた。

 

「ああ、仕事で何度か」

「君はいったい何の仕事をしているんだ?」

「秘密」

「・・・そうか」

 

バッシュはセアの仕事が分からなかったのが残念だったのか少し目線を下げていた。

セアからすれば教えたら間違いなく碌でもないことになりそうだからだが。

 

「もし教えたら将来的に拘束されかねんし・・・・」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 

セアはそういうと早歩きで進んでいった。

するとヴァンと身奇麗な少年が話しているのが目に入った。

 

「おーい、セア!」

「なんだ?」

「こいつも一緒に連れて行っていいだろ?」

「は?」

「だから、こいつも一緒に連れて行っていいだろ?」

 

セアは最初は自分の耳を疑ったがどうやら正常のようだ。

そうなると自分の弟子はいったいなにを言ってるのか分かっているのか?

 

「馬鹿弟子・・・魔石鉱は魔物だらけだぞ? そんなとこに自分より幼い子どもを連れて行く気かい?」

「それは俺も言ったけどこいつが分かってるって言ってるし」

 

それを聞きセアは少年の方に目線を向けた。

 

「魔石鉱は魔物の巣穴ということがわかっているのかい?」

「はい、覚悟の上です」

「だめか?」

「俺は別にいいけど・・・」

 

そう言ってセアはフラン達の方に目線を向けた。

あっちも気づいたのかこっちまでまっすぐ来た。

 

「どうした?」

「なんだかこの子も一緒に魔石鉱に行きたいらしい」

「なに?」

 

バルフレアがフランと目を合わせ少年の方に目を向けた。

 

「なんで魔石鉱に行きたい?」

「奥に用事があるんです」

「どういう用事だ」

「・・・ではあなた方の用事は」

 

バルフレアの顔が歪んだ。

 

「・・・いいだろう」

「助かります」

「俺たちの目の届くところにいろよ。その方が面倒が省ける」

「・・・お互いに」

 

どうやらこの少年は相当世渡りがうまいようだ。

ふとセアは少年に話しかけた。

 

「そういえば君、名前は?」

「はい、ラー・・・ラモンです」

「んじゃラモン!よろしくな!」

 

・・・ヴァンは怪しさ満点の自己紹介に何の疑問も感じていないようだ。

ヴァンとラモンが会話をしている間にセアはフランに話しかける。

 

「いいのか?」

「いいんじゃない?」

 

フランとは話しづらいなと思うセアであった。

まぁラモンの子守はヴァンに押し付けとけばいいかとセアもそれ以上考えなかった。

 

「たぶん中でいろいろあるけど、心配ないよ」

 

ヴァンがラモンにそう言って目線をバッシュの方に向け・・・

 

「なぁ、バッシュ」

 

早速忘れてるなとセアが腹を抱えて爆笑し、バルフレアとバッシュの表情は強張り、フランはヴァンを睨みつけ、ラモンは目を見開いて驚き、ヴァンは状況が理解できず困惑していた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 ルース魔石鉱・出入口

タグにオリ主を追加しました。
今まで「オリ主」の意味を私は知りませんでした。


街道にそって歩いていくとルース魔石鉱についた。

途中にやたら帝国兵がいたが彼らが言うには特別にビュエルバ政府から許可を貰っていると言っていた。

なにかあったようだ。

 

「ここって本当に魔石鉱なのか?」

「ああそうだぞ」

 

まぁ、ヴァンがそう言いたくなるのも分からなくはない。

セアも20年位前に来た時、ここは神殿か何かか?と言いたくなるような入り口だった。

ただの魔石鉱にしてはなんというか立派すぎるのである。

普通なら工夫たちがひっきりなしに出入りしている筈だが何故か人の出入りがない。

近くにいた工夫に聞いてみたところ帝国から視察が来ているらしい。

 

「帝国から視察ね」

「ここの警備は帝国兵が?」

 

バルフレアが面倒なという顔をしながら呟き、バッシュも疑問を口にした。

 

「いえ、ビュエルバ政府は特例を除いて、帝国軍の立ち入りを認めていません」

 

ラモンがはっきりした声で答えた。

 

「そうなると今回の視察は特例というわけか、最近ここの魔石は品薄らしいって噂があるし本当かどうか確かめに来たってとこか?」

「さぁ、どうでしょう?」

 

セアもあらかじめ知っていた情報を元に仮説を立てたがラモンは首を横に振りながら答えた。

 

(・・・少なくともこの子は帝国民だな、政民でもかなり上の地位の跡取りってとこか)

 

セアは既にヴァンにちゃんと口止めしておかなかったことを後悔しはじめていた。

まさかビュエルバの入り口ともいうべき場所でそんな奴がいるとは。

予想していなかった訳ではないが普通上の地位にいる人物ならば警備をつけていると思っていため然程気にしなかった。

 

「とにかく入りましょう」

 

フランがそう言って魔石鉱の中に入って行き、バルフレアがあとに続きセア達も遅れて続いた。

 

「バルフレア」

「どうしたフラン?」

「もっと早く言おうと思ったけど・・・セアの周りのミストがおかしい」

「なんだと?」

「彼の周りのミストが凍えているみたい」

「どういうこった?」

 

バルフレアが後ろを振り返り、セアのの方を見た。

その視線に気づいたセアが微笑んで手を振った。

それにバルフレアは呆れた。

 

「誰か来るわ」

 

フランがそう言うと2人は直ぐ左右の石柱の影に隠れた。

それを見たセアはヴァンの服を掴み隠れ、バッシュはラモンの手を引いて隠れた。

何故隠れたのかは解らなかったかったがとりあえず隠れた方がよさそうだと判断したからだ。

 

「なにすんっが!!!」

「・・・馬鹿弟子が」

 

隠れた後にヴァンが叫びそうになったのでセアがヴァンの首を掴んで黙らせた。

暫くすると金ぴかの鎧を身にまとった人物と初老のおっさんが歩いてきた。

 

「念のために伺うが質のよい魔石は本国にでは無く・・・」

「全て秘密裏にヴェイン様のもとへ」

「貴殿とは馬が合うようですな」

 

金ぴか鎧のせいで表情が伺えないが多分、いや絶対笑みを浮かべている。

それに対し初老のおっさんの方はなにか機嫌が悪そうだ。

 

「それは結構ですが手綱をつけられるつもりはございませんな」

「ふっ、ならば鞭をお望みか?」

 

初老のおっさんの言葉で金ぴか鎧の機嫌が悪くなった。

絶対あの野郎は器が小さいとセアは強く思った。

 

「つまらぬ意地は貴殿のみならず、ビュエルバをも滅ぼすことになる」

 

金ぴか鎧がそう言って魔石鉱から出て行き、初老のおっさんも後に続いた。

完全に魔石鉱から出て行ったことを確認するとラモン達が出てきた。

 

「ビュエルバの侯爵、ハルム・オンドール4世」

「へぇ、今の初老の人がビュエルバの領主か」

 

ラモンの台詞にセアが関心する

 

「はい、ダルマスカが降伏した時、中立の立場から戦後の調停をまとめた方です。帝国寄りってみられてますね」

「あの様子だとビュエルバの独立を守るために苦労しているみたいだな」

 

セアはそう言ったが実際のところ独立を守るというより自治を守っていると言った方がよいかもしれない。

先ほどの侯爵と金ぴか鎧との会話を聞く限り良質の魔石の殆どを帝国に流しているようだし。

 

「そうだな、反帝国組織に協力しているって噂もあるしな」

 

バルフレアも同感のようだ。

確かにビュエルバの反帝国組織に力があるなら帝国の侵攻に対しての抑止力になる。

 

「・・・あくまで、噂です」

 

ラモンはどうやら侯爵を信じているみたいだが。

 

「よく勉強してらっしゃる・・・どこのお坊ちゃんかな」

「どうだっていいだろ。パンネロが待ってるんだぞ」

 

バルフレアがラモンに問いつめてるとヴァンがそれを遮った。

 

「パンネロさんって?」

 

そういやラモンはパンネロのこと知らなかったな。

 

「友達。攫われてここに捕まってる」

 

そう言ってヴァンも奥には向かった。

そういやパンネロ大丈夫かな・・・変なことされてなければいいが・・・。

セアはとりあえず今はパンネロ救出だと頭を切り替え、腰にある赤みのある黒い剣を抜いた。

 




とにかくビュエルバ編完結までは連載したいですね。
凄いおおざっぱなプロットもありますし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 ルース魔石鉱・内部

「なぁ、ヴァン」

「どうしたバッシュ?」

「身のこなしから察するに彼はかなりの腕前のようだが・・・君からみてセアはどれくらいの強さだ?」

「すっげぇ強い、だって・・・」

「だって?」

「一度セアがモブ退治しにいくのに俺を連れて行ってくれたことがあるんだけど西ダルマスカ砂漠にいたリングドラゴンを一人で倒してたぜ」

「なに?」

 

バッシュとヴァンの会話を聞いてたバルフレアは驚いた。

ドラゴン・・・それは神話の時代から伝えられる強力な魔物だ。

それを一人で倒したのならセアは相当な腕前だ。

 

「おいヴァン、そのドラゴンが何種だったかわかるか?」

「首に輪っかがついてたから輪竜じゃないかな?」

 

ドラゴンの種類は大きく分けて四つに分かれる。

地竜・飛竜・殻竜・邪竜の四つだ。

ヴァンが言った輪竜は邪竜の別名である。

邪竜種は他のドラゴンの種類と違い知性を持ち、魔法を使用することもできる。

邪竜種は例え下級の竜であっても相当な力をもつ。

 

「おいおい、あいつどれだけ強いんだ・・・」

 

バルフレアはセアの方を見た。

セアはウォーミングアップの為か自分が持っている不気味な剣を振っていた。

因みにバルフレア達は気づかなかったがセアが剣を振っている場所から30M程離れた場所でコウモリみたいな魔物が真っ二つになった。

 

「・・・」

 

フランはセアの周りのミストが気になっているようだ。

セアもフランから何か探られてるを感じ取っているのか何か嫌そうな顔をしている。

セアが嫌がっているのを見てフランは警戒心を強めた。

 

「と、とにかく早く奥に行きましょうよ!」

 

セアはフランの視線に耐えられなくなったのかこう言って奥に進んでいった。

 

「なんか分かったか?」

「いえ、彼の周りのミストは妙ままね」

「気のせいって言いたいところだがヴァンの話を聞いた後じゃ何かありそうだな」

 

バルフレアはため息をついた。

 

「まったくヴァンに会ってから面倒事が立て続けにくるな」

「そうね」

「はぁ、フランはセアの方を見張っとけ、俺はガキの方を見張っとく」

 

バルフレアはそう言うとラモンの方に視線を向けた。

バルフレアもセアと同じようにラモンがアルケイディア帝国の上層の人間であるとあたりをつけている。

とある事情でアルケイディア帝国の事情に詳しいバルフレアはラモンが面倒事を起こさない訳がないと考えていた。

 

「まってくれよセア~!」

 

ヴァンがそう叫んでセアの後についていくのを見てバルフレアは更にため息をついた。

 

「あんな分かりやすい奴ばかりだと楽なんだがな・・・」

 

バルフレアはそう言って自分に噛み付こうとしてみた魔物を銃で打ち抜いた。

 

 

 

暫く進んでバルフレアはある違和感を感じはじめた。

 

「なんでアンデッドが出てこないんだ?」

 

ルース魔石鉱はアンデッドがよく出てくる場所の筈だ。

結構奥まで来たというのにまだ一体もアンデッドを見ていない。

皆もバルフレアの言葉を聞いてそういえばというふうに頷いた。

 

「確かにおかしいですね」

 

ラモンも同じ考えのようだ。

 

「俺達の運がいいってことだろ」

「・・・可能性が無いわけじゃないが限りなく低いだろうな」

 

ヴァンの考えにセアはある程度肯定しながらも否定した。

じゃあお前はと言うふうにバルフレアはセアを見た。

 

「・・・俺達が来る前に誰かが倒したとか?」

「あのトカゲ共がそんな面倒なことをするとは思えないがね」

 

セアは自分なりの考えをバルフレアに言ってみたが否定された。

 

「それにもしそうなら他の魔物も倒されているはずだわ」

 

フランもセアの考えを否定した。

 

「なら・・・何故だ?」

 

バッシュがそう言うとセアが俯いた。

すると・・・

 

「そんなの考えてたって解らないじゃん。早く行こうぜ!」

 

そう言ってヴァンは走っていった。

それを見てバッシュも続く。

するとバルフレアは大きくため息をついてセアに

 

「あいつは解ってやってるのか?」

「1年程度の付き合いだが俺が知る限り解らずやっているな」

「たちが悪い」

「馬鹿弟子が迷惑をかけるな」

「まったくだ」

 

バルフレアはそういうとフランと一緒にヴァンが走っていった方に歩いていった。

 

「馬鹿弟子に{空気}というのを教えてやるべきか」

「教えるべきだと思いますが」

 

ラモンはそこで一旦言葉を切って。

 

「でもそのおかげで先程は助かりましたし」

 

その言葉を聞いたセアはニヤニヤ笑いながら

 

「まったくだな」

 

そう言ってセアは立ち止まってラモンの方を向き

 

「そういえば君はどうして魔石鉱に来たんだい?」

「元老院議員の人から貰った石の原料を調べに・・・っは!」

 

ラモンは慌てて自分の口を手で塞いだ。

その様子を見てセアが悪人のような笑みを浮かべた。

その状況が数分間続く。

 

「元老院議員と知り合いなのか・・・まぁ他のみんなには黙っといてあげるよ」

「・・・お願いします」

「そのかわりと言ったらなんだけど君の名前教えてくれるか?」

「・・・ラーサー・ファルナス・ソリドール」

 

その名前を聞いてセアの顔が固まった。

ソリドール家はアルケイディア帝国皇帝を輩出している名家だ。

確かアルケイディア帝国皇帝のグラミス・ガンナ・ソリドールには4人の息子がいて上の2人は死んだはず。

そして三男のヴェイン・カルダス・ソリドールはラバナスタの執政官をやっているはずだ。

ということは目の前の少年は現皇帝の四男ってことになる。

帝国の上層部の人間だとは思っていたがまさか皇帝の息子だったとは。

なんでよりにもよってそんな人物とヴァンがなかよくしてるかなぁ。

あとでとりあえずヴァンを一発殴ると決めた。

 

「あの、セアさん?」

「あ?」

「大丈夫ですか?」

「いや、少し驚いただけだよ」

 

セアは落ち着いてラモン・・・いやラーサーに優しい笑みを浮かべて手を差し出した。

 

「先頭と結構離れちゃったね。急ごうか」

「はい」

 

ラーサーはセアの手をがっちりと掴んだ。

そしてセアが目にも止まらぬ早業でラーサーを背負い、凄まじい速さで走っていった。

 

 




だれか見てくれてるのか不安になってきた。
感想一件もこないし・・・まぁまだ序盤だから仕方ないか・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 誘拐犯に制裁を!

ある意味タイトルがネタバレ。


魔石鉱の採掘部についた。

あちこちに魔石が埋まっている。

魔石はそれ自体が青く発光しているのでなんとなく神秘的である。

ラーサーが懐から石を取り出し落ちている魔石を見比べていた。

 

「これを見たかったんですよ」

 

ラーサーが嬉しそうに声を上げる。

 

「なんだ?」

「破魔石です。人造ですけどね」

「はませき?」

 

ヴァンとラーサーの会話を聞いていたバルフレアの視線が周りの魔石からラーサーへと移ったが誰も気づかなかった。

だからラーサーは何も思わずヴァンの疑問に答えた。

 

「普通の魔石とは逆に、魔力を吸収するんです。人工的に合成する計画が進んでいて、これは試作品。ドラクロア研究所の技術によるものです」

 

その言葉を聞いたとたんバルフレアの眼は鋭くなった。

 

「やはり原料はここの魔石か・・・」

「用事は済んだらしいな」

「ありがとうございます。お礼は後ほど」

 

ラーサーは回り魔石を見ていたのでバルフレアの眼が鋭くなったことに気づかず御礼の台詞を述べる。

 

「いや、今にしてくれ・・・お前の国にまでついていくつもりはないんでね」

 

その台詞を聞いたラーサーがバルフレアの方に振り返り始めてバルフレアの眼が鋭くなっていることに気がついた。

 

「破魔石なんて古臭い伝説、誰から聞いた?」

 

ラーサーは答えず後ずさるがバルフレアはかまわず疑問を投げかけ、進んでくる。

 

「なぜドラクロアの試作品を持ってる?あの秘密機関とどうやって接触した?」

 

そうやって迫ってくるバルフレアから逃げるようにラーサーは後ずさり壁際に追い込まれた。

 

「お前、何者だ?」

 

そう言ってバルフレアはラーサーに問いかけた。

セアがそいつは皇帝の息子ですといってやろうかとも思ったがヴァンが帝国嫌いなので自分の弟子が皇帝の息子を殴ったりしたら面倒なので断念する。

するといきなり後ろから荒々しい声が聞こえた。

 

「・・・待ってたぜ、バルフレア!」

 

そういって緑色のバンガが丸い輪っかが先についたチェーンソーのような武器を持って入ってきた。

その後に続いて3人のバンガも入ってきた。

バンガの顔をみてバルフレアが心底嫌そうな顔をする。

 

「ナルビナではうまく逃げられたからな、会いたかったぜぇ? さっきのジャッジといい、そのガキといい・・・金になりそうな話じゃねえか。オレも一枚噛ませてくれよ」

 

まぁやりようによっては金になるかとセアは思う。

なんだってイヴァリースの覇権を争う二大帝国のひとつアルケイディア帝国皇帝の息子だ。

身代金でも要求すればとんでもない大金が手に入れることもできるだろうし、敵対国のロザリア帝国に売り飛ばしてもいい。

アルケイディア帝国から睨まれる覚悟があればの話だが。

 

「頭使って金儲けってツラか。お前は腐った肉でも噛んでろよ」

 

バルフレアは子連れで不利な状況なのに敵を挑発する。

その言葉に緑色のバンガが声を荒げた。

 

「バルフレアァァ!!!てめえの賞金の半分は、そのガキで穴埋めしてやらぁ!!!」

 

バルフレアは指名手配犯だったな。

そして確か犯人を殺すと賞金が半分になるんだったけ。

ということはこのバンガはバルフレアを殺す気みたいだ。

 

「この野郎! パンネロはどこだ!?」

「アァ?餌はもう必要ないからな。途中で放してやったら泣きながら飛んで逃げてったぜ!」

 

緑色のバンガがヴァンに気をとられた一瞬の隙を突いてラーサーが持ってきた人造の魔石を緑色のバンガめがけて投げた。

ひるんでる隙にラーサーが投げた魔石を回収して反対方向へにげる。

あれ投げていいのかとセアは思ったがヴァンがラーサーを追って反対方向へ走ったので全員が便乗する。

 

「こらっ、てめぇら・・・逃がすかぁっ!」

 

緑色のバンガが手下を引き連れて追ってきた。

 

「いちいち相手してられるかって。適当にあしらってずらかるぞ。」

 

バルフレアの台詞に一人を除いて全員が頷いた。

あの緑色のバンガが持っているのは機械仕掛けの兵器だ。

この世界の地上ではミミック菌という細菌が金属を腐敗させるので機械はもっぱら飛空挺に使われている。

だから地上での戦闘では剣や魔法が主流で機械を使用しているのは少ない。

なぜならコストが高すぎるからだ。

もし2年前のダルマスカの兵士全員を機械兵器で統一しようとしたらアルケイディア帝国並の経済力が必要になる。

加えて電気系統が変になっていないかメンテナンスもほぼ毎日しなくてはならないし、毎日武器が取り上げられていたら軍として失格だ。

だから使われるとしても簡単な造りの銃などが精々だ。

そんな武器しかないからあの緑色のバンガの武器は接近戦では圧倒的な強さを誇る。

 

 

「ちょっと俺が足止めする。みんなは先に行っててくれ」

「なに言ってんだよセア! 早くにげるぞ!」

 

セアのとんでもない発言にヴァンが逃げようと進めるがセアはヴァンを睨んで・・・

 

「行け」

 

物凄く低い声で言いヴァンは飛んで逃げた。

するとバンガ達が笑いながらセアを罵ってきた。

 

「お前、そんな武器で兄貴に勝てると思ってるのか?」

「馬鹿じゃねぇの」

「違いねぇ!」

 

すると緑色のバンガが話しかけてきた。

 

「ほう、逃げずに残るとは腕に自信でもあるンだろうな」

「そういえばあなたの名前を知らないがなんて名前だ?」

 

すると緑色のバンガがにたりと笑い武器を振りかぶって・・・

 

「バッカモナンだ!」

 

そういって武器を振り下ろした。

セアは眉ひとつ動かさず直撃した。

 

「ああ?」

 

バッカモナンは予想以上にあっさり仕留められたのに少し拍子抜けした。

するとセアが剣を持っていた右腕が動きバッカモナンの左腕を切りとばした。

 

「がああぁぁぁぁぁあああ!!!」

「馬鹿・モナンね・・・変わった名前だ」

 

セアは左肩から胸のあたりまで切り込まれていたがその表情は笑っていた。

手下のバンガ達は恐怖にかられ一目散に逃げ出した。

 

「喧嘩売ってきておいて・・・逃げるんじゃないよ」

 

そういってセアは魔法を唱え出した。

するとセアを中心に魔方陣が形成されそこから凄まじい勢いで炎が出て逃げていったバンガ達を襲った。

 

「「「ぎいぃぃぃぃやゃあああぁぁああぁあ!!!!!」」」

 

その叫び声が弱くなったところでセアは使った魔法を止めた。

彼らは黒焦げになったが耳を済ませるとうめき声が微かに聞こえる。

一応彼らは生きてはいるようだ。

そしてセアは倒れて呻いているバッカモナンに近づいた。

 

「二度と俺達に手を出すなよ? でなきゃ・・・ここであなたは死にますよ?」

 

そういってセアは剣でバッカモナンに{ポイズン}と{ブライン}の魔法を使った。

別に対象に猛毒をかける{ポイズン}だけでもいいような気がするが対象の目をつぶす{ブライン}も使った方が恐怖感を演出できると思いセアはその魔法をかけた。

実際効果は抜群でバッカモナンは恐ろしくて仕方が無かった。

左肩からは血が出ている。そして体がしんどくて仕方がない。目は何も見えず死に掛けているように思える。

 

「あ・・・・あああああうううう!」

「いいかい?」

「解った! 止めてくれえぇ!!!」

「じゃあ俺達のことを忘れろよ?」

「ああ、解った!」

 

その言葉を聞いてセアはバッカモナンの異常状態をとこうと思ったがちょっとものたりなかった為、最後に{コンフュ}の魔法を使った。

その効果は対象を混乱状態にする。

 

「あはぁぁがあ!ぐはぁげぇあ?おざがはぁあ!」

 

バッカモナンは変な声で叫び出した。

周りの黒焦げになった手下たちもセアによって様々な異常状態を付加され、バッカモナンと同じように自分たちのことを忘れるように誓わせた上で{コンフュ}を唱えていき全員が混乱状態になると数分放置した。

聞こえてくる悲鳴にセアは満足し失われた魔法を使用してバッカモナン達を元通りにし自分達に関する記憶を消し飛ばした。

 

「あれ?ここどこだ?」

 

バッカモナンが辺りを見渡す。周りのバンガ達も状況が解らず辺りを見回している。

それを見てセアが優しい笑みを浮かべ明るい声でバッカモナンに話しかけた。

 

「ここはルース魔石鉱ですよ」

「なンで俺が魔石鉱なんかにいるんだ?」 

「大方酒場で酔っ払ってきたんでしょう俺がここに来た時なんかあなた方ここで寝てましたし」

「俺がここで寝てた?」

「はい」

「なンか記憶が曖昧でおぼえてなぇな」

「そうですか大変ですね」

 

そう言ってセアがそういえばというふうな動きをして

 

「すいません出口に仲間をまたせてますんでこれで」

「・・ああ」

 

バッカモナンとその手下たちはなにか釈然としないもののセアを見送った。

セアは少し離れた場所でバッカモナンにしたことを思い出し腹を抱えて爆笑していた。

 




一応セアについては設定があります。
あまりにもふざけた設定ですがあります。
チートってタグつけるべきでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 ビュエルバの反帝国組織

スキップをしながらセアは魔石鉱の出口に向かって進んでいた。

出口の近くまで来ると声が聞こえてきた。

 

「大丈夫。彼、女の子は大切にする」

「フランは男を見る目はあるぜ」

「それは遠まわしに君がいい男って言いたいのか、バルフレア?」

 

なんでそんな話をしていたか知らないがとりあえずセアは思った事をそのまま言った。

するとバルフレアが顔を顰めた。

 

「あいつらはどうした?」

「馬鹿・モナンだったけ? そいつなら上手いことまいたよ」

「・・・あいつの名前はバッカモナンだぞ」

「そうか、変な名前だとは思っていたが俺の聞き間違いですか」

 

そんな感じでバルフレアと話してたらヴァンが話しかけてきた。

 

「それよりセア!」

「なんだ?」

「ラモンがラーサーで帝国の皇帝の息子だった!!」

「知ってるよ」

「え?」

 

ヴァンが変な声をあげ、周りの奴等もも変な視線でセアを見てきた。

するとセアはバッシュの方を向いて

 

「なんか変な事言ったか?」

「君は彼が皇帝の息子だと知っていたのか?」

「ああ」

「なら何故黙ってた?」

「だって俺の弟子が帝国嫌いだからばらすと面倒な事になると思ったんで」

「・・・」

 

なんか嫌な空気が流れた。

空気がまったく読めない筈のヴァンですら黙っている。

 

「・・・そういやパンネロは?」

 

苦し紛れにセアは話題を変えた。

するとヴァンが

 

「ラーサーが連れて行ったぞ」

 

セアがどういうことだと説明を求めるようにバッシュを見た。

 

「ジャッジに彼女が賊ではないかと疑われていたのだがラーサーが自分の供だと言いオンドール侯爵の客人として今は恐らく侯爵邸にいる筈だ」

「となると助けようとしたら侯爵邸にいかなきゃならないのか」

 

バッシュの答えにセアが途方にくれた声で答えた。

 

「侯爵は反帝国組織と繋がりがある。そっちの線でいい手があるぞ」

 

バルフレアはそう言ってバッシュの方を見た。

 

「侯爵は2年前に私の処刑を発表した。私の生存が明るみに出れば、侯爵の立場は危うくなる」

「侯爵を金ヅルにしてる反帝国組織にとっても面白くない話だろうな。『バッシュが生きてる』って噂を流せば、組織の奴が食いつくんじゃないか?」

 

なるほどとセアは思ったするとヴァンがそれを聞いて

 

「じゃあさ俺がこんなふうに町中で言ってくるよ」

 

そういってヴァンはポーズを決めて大声で叫んだ。

 

「俺がダルマスカのバッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍だ!!」

 

その声を聞いた周りの人たちが何事だとヴァンを見て、呆れてどっかに行った。

その事に気づかずヴァンは得意げにバルフレアに話しかけた。

 

「どうだ?」

「・・・・・まぁ目立つのは確かだな」

 

バルフレアは何とか表情を保ちながら答えた。

そしてヴァンに

 

「よしヴァン、お嬢ちゃんを助けるためにも、やるだけやってこい。できるだけ人の多い場所でな」

「わかった!任しとけよ!」

「オンドール侯爵と接触できるかどうかはお前次第だ。俺達は酒場にいる。何かあったら戻ってこい」

 

そうしてヴァンは街の方に走っていった。

 

「流石は俺の弟子だ。師匠として嬉しい限りだ」

「本気で言ってるのか?」

 

バルフレアは呆れたような顔でセアを見た。

セアは顔に笑みを浮かべていた。

 

「さて弟子が頑張っているのに師匠がサボってる訳にもいかないか」

「まさかとは思うが君もヴァンと同じ事をするきか?」

 

バッシュは慌てたようにセアに問いかけた。

するとセアは手を振って

 

「いやいや、ただの弟子へのサポートだよ」

「何をする気だ?」

「ヴァンがあなたの真似をしているところでヴァンに関しての根も葉もない噂を流すんですよ」

「例えば?」

「ヴァンは帝国の間者だとかそんな噂だよ」

 

そう答えるとセアも街の方へ歩いていった。

その後姿を見ながらフランはバルフレアに話しかけた。

 

「師匠があれだと弟子はああなるのかしら」

「・・・」

 

バルフレアはまたため息を吐いていた。

 

 

 

 

街の十字路の中心でヴァンがポーズを決めながら大声で叫んでいた。

 

「バッシュは生きているぞ!」

 

それを聞いたビュエルバのガイドがヴァンになにか言おうと近づいていくとヴァンは走っていた。

セアはヴァンになにか言おうとしたガイドへ話しかけた。

 

「まったく変な奴がいるものですね」

「ほんとうですね」

 

ガイドが同意してきた。

 

「そういえばあの少年さっきジャッジとなにか話してましたよ」

「え!?」

 

ガイドがおどろいてセアを見る。

セアはびっくりしたという演技をしながらガイドに話しかけた。

 

「いや、魔石鉱の所で金ぴかの鎧を着たジャッジと話してるのを見たんです」

「金ぴかの鎧ってそれってジャッジマスター・ギースじゃないですか?」

 

あの金ぴか鎧がジャッジマスターだとはセアは解っていたが名前がギースということはこの時初めて知った。

 

「そういやジャッジの紋章が入ったマントを着けていたような・・・」

 

そう言ってセアは頭をひねる真似をしてガイドに話しかけた。

 

「ま、俺は別に政治なんかに興味がありませんからね」

 

そう言ってセアはターミナルの方へ歩いていった。

そこで暫く待っているとヴァンが走ってきて大声で叫んだ。

 

「オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」

 

そういってるところビュエルバの警備兵に見つかりヴァンが警備兵に説教されていた。

その様子にセアは軽く笑みを浮かべたが直ぐに消しターミナルの入り口にいるガイドに話しかけた。

 

「ターミナルで聞いたんだけど街中に侯爵を貶めるような演説している少年がいるって本当なんですね」

 

その台詞を聞いたガイドは顔を顰めた。

 

「ターミナルでも噂になっているのですか」

「ええ、なんでもロザリア帝国の工作員だとかなんだとか・・・」

「は?」

「え?」

「アルケイディア帝国の工作員って噂じゃないのですか」

「いや、俺が聞いたのは侯爵と帝国の関係を悪化させるって話だったけど?」

「・・・私が知っている噂と違いますね」

「まぁ噂なんて尾ひれがつくものだし信憑性なんてないみたいなものですよ」

「そうですね」

「そうだよ」

 

そう言ってセアは酒場の方へ歩いていった。

酒場に入るとバルフレア達が席に着いていた。

セアは無関係を装い酒場のカウンターにいる女性に話しかけた。

 

「酒をひとつ」

「はいよ」

「それにしても街中で変な演説してる少年の噂聞きました?」

「ええ」

「まったく馬鹿らしいですよね。彼がビュエルバの反帝国組織の一員だなんて」

「え!?」

 

女性が驚いた顔でセアを見る。

何故か周りの店員達も驚いたようにセアを見ているがセアは無視した。

バルフレア達もセアに変な視線を向けてきたがそれも無視。

セアは店員たちが自分を見てきた理由を思い当たり内心で笑いながら思い出すようにして話を続ける。

 

「確か帝国寄りの侯爵を排除する為にやってるって話でしたよ」

「・・・そう」

「そもそもビュエルバは独立国ですよ?反帝国組織なんかあるわけ無いじゃないですか!!」

「そうね」

 

そう言ってセアはカウンターから酒を受け取りバルフレア達が座っている隣のテーブルに酒を置いて座った。

そして酒の入ったボトルのフタを空け、ボトルを呷った。

20分程すると変な演説をしていた少年が黒いバンガに担がれて酒場に入ってきた。

セアはバッシュの方に目線を向けた。

流石は将軍。ただそれだけでセアが言いたいことを察したようだ。

バッシュはヴァンを担いだ黒いバンガに話しかけた。

 

「すまない。彼は私達の知り合いだが・・・彼がなにか?」

「なんだとじゃあ奥に入れ!」

 

黒いバンガがそういうと店員達がバルフレア達を囲む。

その様子を見ていたセアが自分の予想が当たっていたことを確信した。

ここが反帝国組織のアジトなのだ。

情報が集まる酒場が本拠地とはまた古典的な。

バルフレア達がここにいたのもヴァンが連れ去られたという情報が入手し易いからだ。

そしてセアはちゃっかり店員達の囲みの中に入った。

バルフレア達と一緒にセアも酒場の奥へ連れて行かれた。

そして黒いバンガが座っている人物へ話しかけた。

 

「連れてきたぜ、ハバーロ」

「似ても似つかんな」

「やっぱり偽者かタチの悪い悪戯しやがって」

「だがそこらのガキがローゼンバーグ将軍を名乗るとは思えん」

 

ハバーロはそこで一旦言葉を止めた。

その隙を逃がさずセアが爆弾発言を投下する。

 

「ローゼンバーグ将軍はそっちじゃなくてこっちだよ」

 

セアがバッシュを指差しながら言った。

すると反帝国組織の人たちまたタチの悪い悪戯かとセアを睨んだ。

しかしハバーロの言葉によってその誤解は解ける。

 

「あんたは・・・本当に生きていたのか!」

「ああ」

 

そうなるとセアに向いていた視線はバッシュの方に移る。

 

「いかにも裏がありそうだとは思ったがまさか本人のご登場とはな。このことを侯爵が知ったら・・・」

「さて、なんと言うかな。直接会って聞いてみたい」

 

ハバーロはその台詞を聞き後ろにいるレベ族の人物に話しかける。

 

「・・・どうすんですかい、旦那」

「致し方あるまいな。侯爵閣下がお会いになる。のちほど屋敷に参られよ」

 

やっと面倒事の終わりが見えてきたなセアはため息をついた。

 




誤字とかあったら報告お願いします。

あと質問などもネタバレじゃなければお答えします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七・五話 侯爵邸にて

結構重要なシーン飛ばしてたので書きました。


ヴァンがビュエルバの街で「俺がバッシュだー!」と言いまくってる頃。

オンドール侯爵邸の貴賓室に少女と少年の二人が話していた。

 

「ヴァンは元気なんですね。帝国に連行されたから、もう・・・」

 

ヴァンの話を聞いたパンネロはそう言った。

ラーサーは書類を書きながら話す。

 

「すぐに会えますよ。それまでは僕があなたをお守りします」

「そんな」

 

そう言ってパンネロは俯いた。

するとラーサーが書類を書く手を止め、話しかける。

 

「それにしても・・・ラバナスタの帝国軍はやりすぎのようですね」

 

先程ラーサーはパンネロから聞いたラバナスタの帝国軍の有様を聞いた。

パンネロとしてはラーサーが帝国の上流階級の人だと思っていたので帝国兵が偉そうみたいな曖昧な表現しかしていなかったが。

具体的に言うと多くのダルマスカ人は市民権を買えなかった為、外民であった。

外民が住むのがダウンタウンで、その住民に対する帝国兵の暴行や凌辱など日常茶飯事だった。

色々原因はあるが一番の原因はヴェインの前のダルマスカ地方執政官の性格であろう。

その執政官は大の外民嫌いだったのである。

新民になり税を納めるダルマスカ人には寛容ではあったが外民には凄まじい差別を行った。

それを批判する外民には無実の罪を着せナルビナ送りにしたり、死刑にしたりした。

執政官に言わせれば新民や政民のように税も払わず、国家に貢献もしない奴などに寛容である必要など感じなかったのだ。

ヴェインが執政官に就任してからはヴェインの指導の下、外民差別は急速に減っているのだがパンネロはヴェインが執政官職に就いて直ぐに誘拐されたため、その事を知らない。

その為、ラーサーにはそれがラバナスタの現状だと思い、言葉を続ける。

 

「僕から執政官に話しておきます」

 

パンネロは少し驚いた顔でラーサーを見た。

するとラーサーは椅子から立ち上がり、パンネロのほうを向く。

 

「ヴェイン・ソリドールは僕の兄です」

 

パンネロは驚いて声を出せなかった。

ラーサーはパンネロの方に近づきながら話を続ける。

 

「執政官の仕事はダルマスカの安定を守ること。そして兄はどんな仕事もできる人です。今はうまくいっていないかもしれませんが・・・ラバナスタの暮らしはきっとよくなります」

 

ラーサーは自分の兄を尊敬し、信頼していた。

その為、兄が執政官になったのだからラバナスタの治安は回復すると疑ってなかった。

だからラーサーは景色を見ながら自信のある声でパンネロに言った。

 

「大丈夫ですよ。兄は凄い人ですから」

「あの人・・・恐いんです」

「えっ?」

 

パンネロの言葉にラーサーはパンネロの方に振り返る。

 

「すいません。お兄様のことを。でも、あの戦争で傷ついた人がたくさんいて・・・私も孤児です」

「帝国が恐いんですね」

 

ラーサーの言葉にパンネロは頷いた。

するとラーサーはパンネロの前で方膝をつき話しかけた。

 

「パンネロさん。ソリドール家の男子は人々の安寧に尽くせと教えられて育ちます。あなたを守るのも僕の仕事のうちなんですよ」

「信じていいんでしょうか」

 

パンネロは躊躇いながらそう言った。

するとラーサーは立ち上がり

 

「僕の名誉にかけて。兄もわかってくれます」

 

そうラーサーは言った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 ビュエルバの領主

ビュエルバの侯爵邸にセア達が来たのは昼過ぎだったが既に日は暮れあたりは暗くなっている。

侯爵の執務が終わるまで待たされたからだ。

そして警備兵に呼ばれ侯爵の執務室へ案内された。

初老の侯爵が大きい机を挟んで反対側に座っていた。

 

「バッシュ・フォン・ローゼンバーグ卿。私は貴公が処刑されたと発表した立場なのだが?」

「だからこそ生かされておりました」

 

バッシュの言葉を聞き侯爵が手を組んで俯いた。

 

「つまり貴公は私の弱味か。ヴェインもおさおさ怠りない・・・で?」

「反乱軍を率いる者が帝国の手に落ちました。アマリアという女性です。・・・救出のため、閣下のお力を」

「貴公ほどの男が救出に乗り出すとは・・・よほどの要人か」

 

侯爵とバッシュの会話を聞き、セアは小声でヴァンに聞いた。

 

「アマリアって誰だ?」

「そういえばセアは知らないのか・・・王宮から逃げるときにガラムサイズ水路で会ったんだけど俺達と一緒に捕まっちゃて・・・」

「ちょっとまて、ガラムサイズ水路まで逃げれたなら何でお前は捕まったんだ?」

「え?」

「水路に飛び込んで東ダルマスカ砂漠の方に続く川まで泳げば逃げ切れただろう」

「無茶苦茶だぞ」

「まぁいいや」

 

そう言ってセアは侯爵とバッシュの方に視線を戻した。

 

「立場というものがあるのでな」

 

そう言って侯爵は席から立った。

立場というものがあるということは帝国と表向きは敵対したくないということだ。

当たり前といえば当たり前だ。

ビュエルバは都市国家で対するアルケイディア帝国はイヴァリースに覇を唱えんとする二大帝国のひとつだ。

軍事力も経済力も比べ物にならない。

要するにもし侯爵がバッシュに助力した場合、帝国がビュエルバに攻め込む大義名分が出来てしまう。

そしたらビュエルバは帝国に滅ぼされてしまうのだ。

バッシュの願いは叶わないだろうとセアは思い侯爵に話しかけた。

 

「ラーサー殿に会わせてはもらえませんか?俺の知り合いが一緒にいる筈なので」

 

すると侯爵はセアの方を向いて残念そうな声で

 

「・・・一足遅かったな。ラーサー殿の御一行はすでに帝国軍に合流された。今夜到着予定の艦隊に同行してラバナスタに向かわれる」

 

その台詞を聞いたヴァンが何かしそうな雰囲気だったなのでセアが羽交い絞めにした。

 

「放せ!放せってば!」

「落ち着け・・・」

 

セアがヴァンを宥めるように言った。

さっきの侯爵の台詞をそのまま受け取ると艦隊はラバナスタに行く。

ラーサーなら上手い事取り計らってラバナスタでパンネロをおろすだろう。

力ずくで助けるより余程安全だ。

しかしヴァンは解っていないようだ。

 

「早くしないと、パンネロが・・・!」

「やめろ!」

 

どうやらバルフレアも同意見のようだ。

当たり前かこれ以上面倒事に首を突っ込みたくないだろうし。

 

「ローゼンバーグ将軍」

 

外野の騒ぎなど知らないとでも言いたげに侯爵はバッシュに話しかけた。

 

「貴公は死中に活を見いだす勇将であったと聞く。あえて敵陣に飛び込めば、貴公は本懐を遂げるはずだ」

 

侯爵の台詞を聞いたセアとバルフレアはその本当の意味を素早く察し、バッシュの方に向く。

するとバッシュはセア達の方を向き真剣な顔で腰の剣を抜いた。

 

「悪いな、巻き込むぞ」

「侵入者を捕らえよ!」

 

侯爵のその言葉を待っていたとばかりに警備兵が執務室入ってきた。

そして侵入者一行(セア達)は警備兵に捕縛された。

 

「ジャッジ・ギースに引き渡せ!」

「放せよ! なにすんだよ!」

 

・・・どうやらヴァンはまったく理解できていないようだ。

そのヴァンを見てセアはヴァンに観察眼というものを育ててやろうかとも考えたがそれでは素直さが無くなってしまうとヴァンの観察眼を育てる事を諦めた。

 

 

 

 

 

セア達が捕縛されて数時間後。

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。

 

「帝都の老人どもに足止めされている間に、この復興ぶりだ。まったく・・・この国はたくましいな」

 

ダルマスカ地方の執政官ヴェイン・カルダス・ソリドールは王宮から市街を見て呟いた。

机の反対側にいる人物・・・ジャッジマスター・ガブラスは報告を続ける。

 

「現在ラバナスタの反乱分子は孤立しておりますが・・・今後、外部勢力からの支援を受けると厄介です。特にビュエルバの反帝国組織は不自然なほど資源が豊富です」

 

反帝国組織の中でビュエルバの組織はそれ程大きい方ではない。

数ある反帝国組織の中で見れば精々中規模程度・・・先日壊滅寸前まで追い詰められた反乱軍より少し大きい程度である。

しかし大規模な反帝国組織は南のケルオン大陸の植民地に集中している。

宿敵の力を削ごうとロザリア帝国が支援しているからだ。

まぁアルケイディア帝国もケルオン大陸のロザリア帝国の植民地にある反抗組織を支援しているからお互い様である。

しかしビュエルバの反帝国組織は違う。

位置的な問題でロザリア帝国が支援できる筈がないのだ。

それなのにダルマスカ王国の敗残兵の殆どを吸収して結成された反乱軍と同程度の規模があるのはおかしい。

となると・・・ビュエルバの領主が反帝国組織を支援している可能性がある。

 

「オンドールを押さえるべきです」

 

ガブラスはヴェインに進言した。

将軍(バッシュ)の生存を公表すれば反帝国組織のオンドール候への信頼も揺らぐだろう。

しかしヴェインは笑みを浮かべて書類を取り出した。

 

「ところが彼から連絡があってな。檻から逃げた犬を捕らえて、ギースに引き渡したそうだ」

 

表向きは罪人の将軍を帝国に引き渡したという侯爵の忠誠ともとれる内容だ。

しかし同時に侯爵は将軍の生存を知っているということの表明だ。

これでは将軍の生存を公表したとしても大した効果は無いと見るべきだ。

 

「奴を殺すのは私です」

 

しかしガブラスはそんなことはどうでもいいようだ。

 

「・・・見上げた弟だ」

 

ヴェインが感心したように言った。

恐らくかつて自分が兄2人を断罪した皮肉も混ざっているのだろうが。

 

「ああ、ギースがラーサーを連れ帰る。明朝ビュエルバを発つそうだ。卿に本国まで送ってほしい。ドクター・シドが来るのでな、外してくれ」

 

そう言ってヴェインはガブラスに退室を促し、ガブラスはそれに従い扉の方に向いた。

すると初老の眼鏡をかけた人物・・・ドクター・シドが独り言を言いながら入ってきた。

 

「現物を確認せねば話にならん。ナブディスの件もある。・・・ああ、偽装はしている。馬鹿どもには幻を追わせるさ」

 

ガブラスは無視して部屋から出ようとしたが

 

「そうだ、歴史を人間の手に取り戻すのだ!」

 

その言葉を聞きガブラスは少しシドの方を向いたが直ぐに退室した。

シドは今、ヴェインがそこにいるのが気がついたかのように話しかけた。

 

「おお、ヴェイン。執政官職を楽しんでいるようだな」

「二年も待たされたのでな。帝都はどうだ、元老院のお歴々は?」

「まめに励んどるよ、あんたの尻尾をつかもうとな」

 

シドは茶化すように言った。

するとヴェインは楽しげな笑みを浮かべた。

 

「フッ・・・やらせておくさ」

 

アルケイディア帝国の前身、アルケイディス共和国の頃は元老院が国を動かしていた。

しかし軍部出身の護民官が皇帝を名乗り国は軍部の独走を許す事になった。

そこで当時法務庁を統括していたソリドール家と元老院が協力し帝国を安定させた。

その後はソリドール家出身の皇帝が四代に渡り政治を行っている。

元老院は政治的決定権を持たないが皇帝の承認権と退任を要求する権利を持っている。

これはかつて軍部が暴走したときの反省のためだが今では皇帝と元老院の対立に利用されている。

 

「元老院がなにを企もうが同じ事だ」

 

そう言ってヴェインは再び窓から市街を見下ろした。

 

「・・・全てはソリドールの為に」

 

ヴェインは小さい声で呟いた。




初めてルビを使いましたがどうでしょう?
本日からビュエルバ編完結まで毎日投稿します。

あと・・・FF12の種族をちゃんと説明してなかったのでこの辺で説明を。

ヒュム・・・人間のこと。イヴァリースに存在する約40%がこの種族。
      国を造り、歴史を動かし続けてきた。
ヴィエラ・・・頭に兎みたいな耳がある。フランがこの種族。
       基本的に森で閉鎖的な暮らしをしている。
バンガ・・・トカゲみたいな亜人。バッカモナンがこの種族。
シーク・・・豚みたいな亜人。この説明をするまで存在を忘れてたのは秘密。
モーグリ・・・小さくてかわいい亜人。ビュエルバに沢山いるけど描写しわすれた。
       酒に強くてヒュムならすぐに酔う酒でも普通に飲む。
レベ・・・ライオンみたいな亜人。侯爵の側近がこの種族。
ウルタンエンサ・・・好戦的な種族。人間社会に馴染むことがない。

他にもありますけど今のところこれくらいで多分大丈夫。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 亡国の王女

バッシュのせいで侯爵邸に侵入という冤罪を着せられたセア達は翌日の朝に帝国に引き渡され戦艦リヴァイアサンに移送された。

セアはてっきり独房に連れていかれると思ったが戦艦リヴァイアサンのメインコントロール室に連れて行かれた。

そこには相変わらず派手な金色の鎧を身に纏ったギースと見た事無い女性がいた。

女性はバッシュを見ると顔に怒りを浮かべてこっちに来た。

 

「殿下・・・」

 

バッシュが小さい声で呟いたが女性は構わず全力でバッシュにビンタする。

 

「なぜ生きている、バッシュ! ・・・よくも私の前に!」

 

まったく状況が理解できずセアがヴァンに問いかけた。

 

「おい、バッシュにビンタしたの誰だか知ってるか?」

「昨日話したアマリアだけど・・・」

 

ヴァンの表情を見る限りアマリアのことを知っているヴァンも困惑しているようだ。

バルフレアやフランも同様である。

するとギースがからかうような声で

 

「君たち、いささか頭が高いのではないかな。旧ダルマスカの王女・・・アーシェ・バナルガン・ダルマスカ殿下の御前であるぞ?」

「こいつが!?」

 

ヴァンが驚いて声を上げたが他も同じである。

セアはそのことに驚き、そしてアマリア・・・いやアーシェを睨みつけた。

覇王の次男のバナルガンが興したダルマスカ王国の王女・・・つまりはあの覇王の血族。

2年前の戦争であの忌々しい血は途絶えたと思っていたのに!

だがセアはアーシェに気づかれる前に睨むのをやめ俯いて誤魔化した。

 

「もっとも身分を証明するものはないのでね、今は反乱軍の一員にすぎない」

「解放軍です」

「執政官閣下はダルマスカ安定のため、旧王族の協力を望んでおられる。だが証拠もなく王家の名を掲げ、いたずらに治安と人心を乱す者には・・・例外なく処刑台があてがわれましょう」 

「誰がヴェインの手先になど!」

 

アーシェがそう言ってギースを睨みつけた。

するとバッシュがそこに横槍を入れる。

 

「亡きラミナス陛下から預かったものがある。万一の時には私からアーシェ殿下に渡せと命じられた。ダルマスカ王家の証【黄昏の破片】・・・殿下の正統性を保障するものだ。私だけが在処を知っている」

「待て!父を殺しておきながらなぜ私を!生き恥をさらせというのか!」

「それが王家の義務であるなら」

 

その言葉を聞きアーシェは屈辱に歪んだ顔で手に力を入れた。

そして空気を読まないヴァンがアーシェに叫んだ。

 

「いい加減にしろよ。お前と一緒に処刑なんてイヤだからな」

「黙れ!」

 

アーシェが叫んだ直後ヴァンのポケットが光った。

ヴァンはその光っている魔石を出した。

 

「ヴァン、それは!」

「王宮の、宝物庫で・・・」

「おいおい・・・」

 

バッシュがヴァンの持っている光っている魔石を見て驚き、ヴァンは恐る恐る何処で手に入れたかを言い、そのことにバルフレアは言葉にならないが声に出さずにはいられなかった。

ヴァンが持っている魔石・・・【黄昏の破片】をみたギースが笑い声をあげた。

 

「はっはっはっはっは!けっこう!もう用意してありましたか。手回しのよいことだ」

「やめなさい!」

 

アーシェはギースの手を止めるように塞いだ。

ヴァンはどうしていいかわからず後ろに振り返った。

するとバルフレアが頷いたのでヴァンはギースに【黄昏の破片】を渡した。

 

「約束しろよ、処刑はなしだ」

 

ギースはヴァンから渡された【黄昏の破片】を眺めながら言った。

 

「ジャッジは法の番人だ。連行しろ。アーシェ殿下だけは別の部屋へ」

 

どうやらギースはヴァンが【黄昏の破片】を渡したにも関わらず処刑する気のようだ。

後でこの世に生を受けたことを後悔させてやるとセアは強く決意し帝国兵に連行された。

ギースは【黄昏の破片】を見ながら呟いた。

 

「ヴェイン・ソリドール・・・なぜこんなもののために・・・」

 

ダルマスカ王家の証・・・確かに重要な品だがアルケイディア帝国次期皇帝確実と呼ばれる人物が欲する品とは思えない。

そういうものに興味があるならまだわかるがヴェインは先日発見された隠し宝物庫にあった品々に何の興味も示さなかった。

なぜかヴェインは2年前の戦争終結直後からダルマスカの執政官になることを希望していた。

ヴェインの才覚を恐れる元老院に覇王の血筋を断絶させた事を理由に足止めされたがそれでもダルマスカ行きを希望した。

政民達の間ではヴェインは本国に対抗できる程の戦力を手に入れるつもりではという噂もあった。

確かにヴェインの才覚を持ってすれば本国に対抗・・・下手すれば本国を滅ぼせるくらいの戦力を整えることができるとはギースも思う。

しかし執政官に就任してからのヴェインの行動にそのような物騒なことは欠片も感じない。

ただダルマスカの支配と今回のような王家の証の入手等のよくわからない任務しか受けていない。

 

「私や本国が見抜けない価値があるとでもいうのか? ダルマスカに・・・」

 

ギースはヴェインがなにを考えているのかわからずにいた。

 

 

 

 

一方そのころセア達はリヴァイアサンの廊下で話し合っていた。

バッシュはヴァンに向かって

 

「きみが持っていたとはな。これも縁だろう」

「俺を巻き込んだのも縁かよ」

 

バルフレアが不機嫌そうな声でバッシュに言った。

バッシュが余計な真似をしなかったら今頃空賊家業に戻れている筈なのだから当然だ。

 

「あの場では手はなかった。仕方あるまい」

「任務が優先か、さすが将軍閣下。それにしてもあれが王女とはねぇ・・・」

「同感だ」

 

バルフレアの台詞にセアも同意した。

するとバッシュが少し顔を顰めた。

 

「貴様ら、さっきから静かにしろと・・・」

「うるさい!」

 

セアを殴ろうとしてきた帝国兵をの攻撃をよけ手枷の角で帝国兵の後頭部を殴った。

他の奴等も経緯は違えど近くにいた帝国兵を倒したようだ。

残っている帝国兵は二人。

数ではこちらが有利だがこちらは丸腰の上に両手が繋がれている。

すると帝国兵の後ろからジャッジがきて帝国兵の胴をぶった切った。

ジャッジが兜を脱いでバッシュの方を向いた。

 

「ウォースラ!」

 

セアはその名前に聞き覚えがあった。

あれは・・・ダラン爺と談笑していた時の話だったか。

ダルマスカ王国軍の生き残りでラバナスタの反乱軍の実質的な指揮者。

ウォースラ・ヨーク・アズラス将軍の話が話題にのぼった。

セアがラバナスタに来た当時の反乱軍の活動の露出度に文句をいったところダラン爺がワシからアズラスに言っておこうというと言う形で。

最初は冗談だと思っていたが直後に反乱軍の活動が解りづらくなったので本当だったのかとセアは気づき、ダラン爺みたいに歳をとってたらこんな感じに自分はこんな爺さんになっていただろうとセアは感じた。

 

「侯爵の手引きか」

「初めて頭を下げた」

 

そう言ってウォースラは鍵を取り出しバッシュの手枷を外して、鍵をセアに渡した。

 

「いいか、ダルマスカが落ちて二年。俺はひとりで殿下を隠し通してきた。敵か味方かわからん奴を、今まで信じられなかったのだ」

「苦労させたな、俺の分まで」

「助け出す。手を貸してくれ」

「ああ」

 

そして捕まるときに押収された武器を取り戻すため押収品がある部屋へと5人は急いだ。




もしよろしければなにか意見とかあったら感想に書いてください。
今後の展開とかに反映させたいので


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 救出

押収された品が置いてある部屋に着いた。

セア達は自分の武器を見つけると素早く身に纏った。

ウォースラは全員が装備を着けたのを確認するとこのリヴァイアサンの地図を出した。

 

「今俺達がいるのがここだ」

 

そう言ってウォースラが地図に書いてある部屋のひとつを指差した。

続いてアーシェが囚われている独房を指差し目立たず素早くアーシェを救出した上で艦載挺を奪って脱出する事が目的だと告げた。

 

「ちょっとまてよパンネロはどうすんだよ!?」

 

ヴァンが声を荒げたがウォースラはパンネロのことを知らないので首を傾げた。

セアがヴァンを宥めようと声をかける。

 

「あのなヴァン、パンネロはラーサーが・・・皇帝の四男が直々に保護しているんだぞ? 俺達が助けに行けば帝国兵が勘繰ってパンネロを殺すかもしれない。ここは王女を救出しにきた反帝国組織の仕業にした方がいい。それにこの艦隊はラバナスタに向かってる。そこでパンネロは降りれるだろうし」

「そうだな、その方が安全か」

 

バルフレアも同意し、ヴァンは渋々黙り込んだ。

セアはウォースラの方を向き話しかけた。

 

「ひとつ聞きたいことがある」

「なんだ」

「向かってきた帝国兵は殺してもいいのか?」

「かまわん」

 

その言葉を聞きセアは赤みのある黒い剣を抜いた。

 

「それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

セアの言葉に全員が頷き、部屋から退出した。

前もって警備の薄いところをウォースラが知っていたのであまり戦闘にはならなかった。

仮に帝国兵がいたとしてもバルフレアの銃で撃たれるか、もしくはフランの弓で射られ、倒れた。

そしてアーシェが囚われている独房の前の部屋の前まで来た。

独房の前の部屋には帝国兵が五人とジャッジが一人いる。

流石に不意打ちで倒すのは無茶な数だ。

 

「ここは強行突破しかないな」

「ああ」

 

ウォースラの呟きにバッシュが答えた。

 

「とりあえず敵が味方を呼べないように出口を塞ぐ必要がありますね」

 

セアがウォースラに問いかける。

 

「出来ればそうしたいがここは無理だろう・・・奥に出口がある」

「なら俺がそこを塞ぎましょう」

「なに?」

 

ウォースラがセアの方を見た。

 

「だから部屋に突入すると同時に反対側までいっきに走り、敵が部屋から出るのをふせぎましょう」

 

ウォースラは唸っていたがバッシュが許可を出した。

 

「大丈夫なのか?」

「彼の腕前はたいしたものだ。信用できる」

「・・・お前がそう言うなら」

 

ウォースラはセアに不安を感じていたがバッシュの言葉を信じることにした。

そしてセア達は部屋に突入した。

すぐさまセア達の入ってきた側の扉の近くにいたジャッジが反対側の扉の近くにいた帝国兵2人に味方を呼んでくるよう指示を出し自分は周りにいた帝国兵3人と一緒にセア達の通行を妨害する。

しかし帝国兵の斬撃を軽くいなし、セアは反対方向の扉に向かっていた帝国兵の首を跳ばした。

そしてその近くにいた帝国兵がセアの背中に剣を振り下ろしてきたがセアは間接を無視して体を捻ってその剣を受け、その帝国兵の首も跳ばした。

ふぅと軽く息をふき、入ってきた扉の方を向いた。

既に帝国兵3人は倒されており、戦っていたジャッジとウォースラも数秒もしない内にウォースラが隙をつき胴に剣を叩き込んだ。

ウォースラはジャッジの死体から四角い板のようなものを出した。

 

「それってなに?」

 

ヴァンがウォースラに問いかけた。

 

「カードキーだ。詳しくは知らんが鍵のようなものらしい」

 

そう言ってウォースラはアーシェのいる独房の方へ進んだ。

独房の横にあるコンピューターにカードキーを差込み、独房をあけた。

 

「殿下、ご無事で……」

「ウォースラ」

 

独房にあるイスに座っていたアーシェはウォースラを見て立ち上がった。

囚われていたせいで気をはってたのかアーシェはよろけ、咄嗟にウォースラが彼女の肩を持ち支えた。

 

「殿下」

「ありがとう、大丈夫です。私・・・」

 

アーシェの顔には先ほど迄安堵の表情を浮かべていたがバッシュを視界に捉えたとたん彼を睨みつけた。

 

「ぐずぐずするなよ、時間がないんだぞっ!」

「さっさとしてくれ、敵が来る」

 

ヴァンとバルフレアの声が聞こえてきた。

 

「・・・話はのちほど」

 

ウォースラも時間がないことは承知していたのでひとまずその場を切り上げる。

アーシェは頷いたが顔には困惑の表情を浮かべていた。

独房からでるとリヴァイアサンに警報音がなり響いた。

 

「さすがにばれたか」

 

セアが呟いた。

バッシュは隣にいたアーシェに話しかけた。

 

「殿下、我らが血路を開きます」

「私は、裏切り者の助けなど!」

「なんとしても必要です。自分が、そう判断しました。・・・引き返すぞ、艦載艇を奪って脱出する」

 

バッシュの言葉にアーシェは反論したがウォースラがそれを止め、指示を出す。

アーシェは俯きながら走っていった。

その様子を見ていてセアは思った。

仮にダルマスカ王国が再興したとして・・・彼女は王としての責務を果たせるのだろうかと。

あの様子ではとても果たせるとは思えない。

彼女がダルマスカ王家の最後の一人である以上ダルマスカ王国を再興させるには彼女が王位につくしかない。

となると・・・このまま王国が再興すれば目端の利く貴族か他の国が実権を握り、彼女はお飾りになってしまう。

覇王の血族に嫌悪感をセアは持っているがそう思うと同情してしまう。

 

「このままじゃ仮に再興しても傀儡になってしまうだろう」

「そうかもね」

 

セアの呟きにフランが答えた。

 

「君が話しかけてくるとは珍しいね」

「そうかしら?」

 

そう言ってフランは走っていった。

セアもやれやれと首を振りながらあとに続いた。

警報音がなっている事もあって帝国兵とは結構あったが途中からいなくなった。

不思議に思っていると目の前に小さな少年と見知った少女がいた。

 

「ヴァン・・・!」

 

そう言ってパンネロはヴァンに抱きついた。

その様子をみてセアがニヤニヤ笑っていた。

 

「恥ずかしいからやめろ!!」

「なんでだよ? べつにいいじゃないか!」

 

セアに見られてるのが恥ずかしいのかヴァンが声を荒げたがセアは軽く受け流した。

パンネロはヴァンに抱きつくのをやめるとセアの方を向き

 

「セアさんもセアさんです! 一体一ヶ月も何処に行ってたんですか?」

「え? なにこの扱いの差・・・」

 

セアがパンネロにしかられてる横でラーサーがアーシェの方を見て言った。

 

「ギースが気づきました。早く脱出を」

 

そしてラーサーは隣にいるウォースラに目を移す。

 

「アズラス将軍ですね。僕と来てください。先回りして飛空艇を押さえましょう」

「正体を知った上で逃がすのか」

 

ウォースラの言葉を聞いたラーサーは再びアーシェに目線を移す。

 

「アーシェ殿下、あなたは存在してはならないはずの人です。あなたやローゼンバーグ将軍が死んだことにされていたのは・・・何かが歪んでいる証拠です。今後あなたがたが行動すれば・・・もっと大きな歪みが見えてくるように思えます。だから行ってください。隠れた歪みを明らかにしてください。私はその歪みを糾して、帝国を守ります」

 

【帝国を守る】・・・その言葉にアーシェは戸惑いを覚えたがまずは生きてここから出なくてはとラーサーの提案に承諾した。

 

「・・・わかりました」

 

その言葉に笑みを浮かべたラーサーだった。

 

「どうもな【ラモン】」

「・・・あの時はすみません」

 

ヴァンはからかい半分でビュエルバであった時のラーサーの偽名で呼んだのだがラーサーは後悔しているような声で答えた。

ラーサーはパンネロの方に向いた。

 

「パンネロさん、これ、お守りがわりに」

 

そいってラーサーは人造破魔石を渡した。

その様子を見てセアはパンネロを呼んだ。

 

「パンネロ?」

「なに?」

「まさかとは思うけどラーサーに惚れた?」

「ちょ、なに言ってるんですか!セアさん!」

 

そのパンネロの反応を見てセアは人の悪い笑みを浮かべてゲラゲラと笑った。

ラーサーもその場に居づらくなったのかアズラス将軍に話しかけた。

 

「い、行きましょうか。アズラス将軍」

「・・・」

 

そうしてラーサーはウォースラを連れ、逃げるように部屋から退室した。

セアは手馴れた様子でパンネロを宥め、周りに話しかけた。

 

「じゃあ俺達のやる事はラーサー達が艦載挺を押さえるまで金ぴか鎧のジャッジマスターをどうにかしなくちゃな」

 

セアの言葉に全員が頷いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 脱出

戦艦リヴァイアサンの飛空挺発着所。

ここにギースは帝国兵数名と共にいた。

確かにここを押さえておけばセア達が艦載挺を奪ったとしても脱出は出来ない。

 

「残念ですな。ダルマスカ安定のために協力していただけるものと信じておりましたが・・・・」

 

そう言いながらギースがこちらに歩いてくる。

セア達が入ってきた扉から帝国兵が数十名入ってきた。

 

「まぁ、王家の証はこちらにある。よく似た偽者でも仕立てればよいでしょう」

 

ギースは魔法を唱え、右手の手のひらに火の玉を出現させる。

セアはギースを器の小さい奴と過小評価していたがギースはアルケイディア帝国に18人しかいないジャッジマスターの1人。

力が無ければその座に座る事は出来ない。

 

「貴女には・・・王家の資格も価値も無いッ!」

 

そう言ってギースは魔法を爆発させる。

だが魔法がかき消されてしまった。

 

「!」

 

ギースが驚いてパンネロの方を見た。

 

「なんなの・・・!?」

 

パンネロの手の中で人造破魔石が発光していた。

ラーサーから貰った人造破魔石がギースの魔法を吸収したのだ。

ルース魔石鉱でラーサーが普通の魔石とは逆に、魔力を吸収するっていう話を聞いたことをセアは思い出しその光景に納得した。

 

「破魔石か」

 

バルフレアも同じ事を思い出したのかそう呟いた。

アーシェは剣を抜いてギースに切りかかったがギースはそれを簡単に避けた。

 

「ご立派ですな。殿下! 名誉ある降伏を拒むとはまったくダルマスカらしい!」

 

そう言ってギースは腰の金色の剣を抜き、左手に分度器のような武器を持って構えた。

ギースの言葉を聞いてアーシェが怒気を含んだ声で叫ぶ。

 

「貴様になにがわかる!」

 

その光景を見てバッシュもギースに近づこうとするが帝国兵達に止められる。

バルフレアは銃でギースを狙い発砲したがそれにギースは剣でアーシェの剣を受け止めながら左手に持っている武器で銃弾を防御する。

フランも近くの帝国兵を蹴飛ばしているが帝国兵の数が多すぎる。

セアはギースとの距離が何メートルも離れているにも関わらずギースにめがけて剣を振り下ろした。

 

「ぐおっ!」

 

ギースの兜が吹き飛び、ひるんだ。

アーシェはギースがひるんでるのを見て剣を振る。

ギースは左手の武器でアーシェの剣を受け止めセアの方を見た。

 

(将軍ならともかく他に遠隔攻撃が使える奴がいるとは・・・)

 

遠隔攻撃。それは近接用の武器で遠距離攻撃するための技である。

空気中のミストを伝導させて攻撃するため直接攻撃する数分の一程度にまで弱体化するが空中の敵もしくは遠距離の敵を攻撃するのに有用である。

ギースはこれを警戒してバッシュにあたる帝国兵は多めにしていたがセアが使ってくるとは予想外だった。

 

(この王女より銀髪の男を始末する方が先決だな)

 

ギースはアーシェの剣を受け流し、近くにいた帝国兵にアーシェの相手を任せセアの方に走った。

そして帝国兵の相手をしているセアの背中に剣を振り下ろす。

だがセアは帝国兵を切りとばして素早く反対を向きギースの剣を受け止める。

奇襲に失敗したギースは左手の武器でセアを吹っ飛ばす。

セアは膝を曲げ口から血を吐くがギースが目の前にいたためすぐさま立って構えなおしギースに剣を振り下ろす。

ギースは左手の武器でガードしようとしたがセアの剣があったた瞬間に武器が壊れた。

 

「なにぃ!!?」

 

ギースは素早く左手に持っていた武器を放し、後方に飛び去る。

だが着地に失敗し尻餅をついた。

セアはその隙をつきギースの顔面を思いっきり蹴飛ばし、ギースは気絶した。

ジャッジマスターが倒れたからか他の帝国兵にも動揺が走る。

そこにウォースラが走ってきた。

 

飛空挺(アトモス)を抑えた! 来い!」

「アトモス? トロい飛空挺(ふね)だな。主人公向きじゃない」

 

バルフレアはそんなことを愚痴りながらウォースラの後に続いた。

アトモスって確か輸送機だったな。

セアは周りが敵だらけなのに目立ったら駄目だろうと内心で突っ込む。

ジャッジ専用のパンデモニウムが確保するよりよっぽどましだ。

 

「俺が飛ばしてもいい?」

「また落ちたいの?」

 

ヴァンの要望にフランが拒否する。

その会話を聞いたセアがヴァンに話しかける。

 

「お前が乗ってた飛空挺が墜落でもしたのか?」

「・・・飛空挺じゃなくてエアバイクだけど」

 

エアバイクって・・・技術者のモーグリ達が沢山住んでる機工都市ゴーグの最先端技術じゃないか。

なんでそんなものにヴァンが乗ってたんだ?

セアはヴァンに疑問をぶつけようと思ったが今は脱出が先だと走っていったフランの後に続いた。

 




遠隔攻撃については作者の妄想です。
バルフレアが使ってたエアバイクがゴーグ製だというのはオリジナル設定です。

あと・・・戦闘でヴァンとパンネロをどう活躍させればいいのかわからないww
今回の話だってヴァンとパンネロが戦闘シーンで空気化してます。
どうやって2人に戦闘面での個性をつけるかが今後の課題ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 王女と侯爵

リヴァイアサンからの脱出に成功し、空中都市ビュエルバのターミナルにいる。

セアは前々からこの会社は空賊の利用を認めている時点で限りなくブラックに近い会社だとは思っていた。

しかし今回の件で完全にブラックゾーンに突入していることを確信した。

だっていくらなんでもアルケイディア帝国軍の輸送機に乗っていて深入りしてこないなんて。

セアの疑問を今の日本で解り易く言うと空港に自衛隊の火薬などを運ぶ輸送機を一般人が止めて誰も疑問を言わないみたいな話である。

この会社の本社は帝都アルケイディスにあるらしいが政府からなにも言われないのだろうか?

セアはそんな思考に耽っていた。

パンネロはバルフレアに近づきハンカチを手渡した。

 

「あの。これ・・・洗っておきました」

「光栄の至り」

 

バルフレアは丁寧にパンネロに礼をした。

バッシュはアーシェにオンドール侯爵に会うべきだと進言していた。

 

「オンドール侯に? でもあの人は・・・」

「お会いになるべきです。表向き帝国に従っているように見えてもそれは侯爵の本心ではありません。こうして殿下をお助けできたのも侯爵の[助言]があればこそです」

 

そしてバッシュは少し俯き、一言付け加える。

 

「・・・少々危険な手段ではありましたが」

 

実際には少々どころかとても危険な手段である。

侯爵がしたことはバッシュ達を罪人として帝国に引渡し、ウォースラを帝国兵の中に紛れ込ませただけである。

・・・まぁ実際アーシェは助ける事が出来たからよしとするべきだろう。

 

「自分も同感です」

 

ウォースラもバッシュの進言に同意を示す。

 

「これまで距離を置いてきましたがもっと早く侯爵を頼っていれば・・・自分が愚かでした」

「ウォースラ」

 

ウォースラの言葉を聞きアーシェは侯爵に会ってみる事にした。

 

「殿下。私に時間をください。我々の力だけでは国を取り戻せません。別の道を探ります。・・・自分が戻るまではバッシュが護衛を勤めます。まだ彼を疑っておいででしょうが国を思う志は自分と変わりません」

「あなたがそこまで言うなら・・・任せます」

 

ウォースラからナルビナの調印式の罠の事をアーシェは聞いていたがまだバッシュの事を疑っていた。

そのことを察しウォースラはアーシェに説明しバッシュの方に向いた。

 

「殿下を頼む。オンドール侯爵のもとで待っていてくれ」

 

バッシュが頷くとウォースラはまたターミナルの奥に向かった。

セアはウォースラが出て行くのを見て横にいたバルフレアにはなしかけた。

 

「ようやく面倒事が終わったか・・・」

「いや、まだだろ?」

 

予想外の言葉を聞きバルフレアの方に体を向けた。

 

「面倒事がまだあるんですか?」

「ああ、王女の救出に協力したんだぜ? 侯爵から礼をもらわないと」

「・・・流石空賊」

「まぁ別にいらないならお前達の分まで俺が貰っておくが?」

 

バルフレアの台詞を聞きヴァンは侯爵邸に行く気になってしまった。

セアが無理やりラバナスタに連れて帰ろうかと思ったが礼だけなら貰っておくかと思い侯爵邸に行く事にした。

 

 

 

 

侯爵邸に行くとオンドール侯の政務が終わる夜まで待たされることになった。

そして警備兵に呼ばれ、執務室に案内された。

机の向こう側に初老の侯爵が座っているのは前に来た時と同じだ。

最初はアーシェとバッシュとオンドール侯爵で情報交換をしていた。

 

「あの調印式の夜・・・父の死を知ったウォースラはラバナスタに戻って私を脱出させました。ヴェインの手が伸びる前にあなたに保護を求めようと」

「ところが当の私が貴女の自殺を発表・・・帝国に屈したように見えたでしょうな」

 

侯爵がアーシェを見るとアーシェが頷いた。

それを見て侯爵は発表の経緯を話した。

 

「あの発表はヴェインの提案でした。当時は向こうの意図を掴めぬままやむなく受け入れましたが・・・狙いは我等の分断であったか」

 

そう侯爵がアーシェの自殺の発表をしなければアーシェとウォースラは侯爵と協力しもっと効果的に帝国に抵抗できたはずだ。

だが侯爵がヴェインの提案を受け入れたせいで王女と侯爵は分断されてしまった。

 

「でもそれも終わりです。私に力を貸してください。ともにヴェインを!」

 

アーシェの言葉を聞いた侯爵はため息をついて立ち上がりアーシェを見た。

 

「抱っこをせがんだ小さなアーシェは・・・もういないのだな」

 

侯爵は感心したような声で言った。

 

「殿下は大人になられた」

「それではおじさま・・・」

「しかし仮にヴェインを倒せたとしてその後は?」

 

侯爵はそう言いアーシェから顔をそらし窓の方に体を向ける。

 

「王国を再興しようにも王家の証は奪われました。あれがなければブルオミシェイスの大僧正は殿下を王位継承者とは認めんでしょう」

「それは・・・」

「王家の証を持たない殿下に今できることは何ひとつございません」

 

そう言いながら侯爵はアーシェに振り返った。

 

「しかるべき時までビュエルバで保護いたします」

「そんな、できません」

「では今の殿下になにができると?」

 

侯爵が少し怒気を含ませた声で言った。

その様子をみていたバルフレアが侯爵に話しかける。

 

「王女様を助けた謝礼はあんたに請求すりゃあいいのか?」

 

侯爵はバルフレアの方に向き、アーシェは部屋から出て行った。

 

「まずは食事だ。最高級のやつをな」

「用意させよう。少々時間がかかるが?」

「だったらそれまで風呂でも入るさ。いくらか冷や汗掻かされたもんな。あ、あとは着替えもいるな」

 

・・・流石空賊。侯爵相手にタメ口とは。

セアは素直に感心していた。

王国再興の話の最中に報酬の話をするのはどうかと思うが元々セアはダルマスカ王国の再興に関心がないので気にしない。

ふとセアは窓から夜のビュエルバの街を眺めた。

侯爵邸から見る夜のビュエルバの景色もまた格別だなと思いながらテーブルにあったワインを飲んでいた。

なにはともあれようやくパンネロを救出できた。

最初は誘拐犯を半殺しにしてパンネロを救出してラバナスタに帰るつもりだったのだが大分面倒な事に巻き込まれたものだ。

セアはそう思いながらビュエルバの景色を眺めていた。

その後バルフレアが言った最高級の食事を食べ直ぐに寝た。

疲れがたまっていたからだ。

そのせいでセアが寝ている間に空賊が誘拐事件を起こしたことには気づかなかった。




おまけ
何故セアは呼ばれなかったのか

フラン「彼を連れて行かなくてもいいの?」
ヴァン「セアならアーシェを侯爵に引き渡すと思うぞ」
パンネロ「セアさん面倒事が嫌いだからね」
バルフレア「あいつを連れて行ったらまたシートが汚れる」
バッシュ(酷い言われようだな。否定できないが)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 誘拐された王女と+α

アルケイディア帝国領帝都アルケイディスにて。

謁見の間でアルケイディア帝国皇帝グラミス・ガンナ・ソリドールはジャッジ・ガブラスから報告を受けていた。

 

「ドラクロア研究所・・・ドクター・シドか」

「ヴェイン様の資金援助を確認しました。ナブディス壊滅の件に関わっているのも確かですがあの作戦を指示したジャッジ・ゼクトが行方不明では・・・真相を掴みきれません」

「このグラミスも老いたな。息子を読みきれんとは」

 

グラミスが自嘲の言葉をこぼし咳き込んだ。

ガブラスが心配そうに近寄ってくるのをグラミスは手で制した。

 

「かまわん。死病だ」

 

そうグラミスは言い、思考に耽る。

 

「さて・・・予の後継は誰やら。有能すぎるヴェインを恐れて元老院が幼い皇帝を望んでおる」

 

そう呟きグラミスはガブラスを見る。

 

「ガブラス。かつて予はそちの祖国を攻めた」

「ランディス共和国は消えました。いまや帝国こそがわが祖国です」

「・・・だがそちの兄は帝国の支配を認めず・・・ダルマスカに流れたと聞く。兄の後を追おうと考えたことはないか?」

「すでに追っております。帝国の敵として斬り捨てるのみです」

 

ガブラスにとって自分と母と国を捨てた兄に同情などない。

あまつさえ流れた国さえも守りきれず今なお帝国に盾突く奴など斬り捨てるのみだ。

 

「祖国の敵なら兄をも斬る・・・か」

 

ガブラスの言葉にグラミスはそう言いながら頷く。

 

「ガブラス。そちはそれでよい。予はその非情さを評価しておる。しかしラーサーはそちやヴェインのようにはなれん。あれを支えてやってくれ」

「ラーサー様に代わって手を汚す剣の役を務めろと?」

 

ガブラスの質問にグラミスは顔を横に振る。

ラーサーの剣の役目は昔からヴェインがやっているのだから。

 

「むしろ盾だな。よいか、引き続きヴェインを監視せい。あれはいささか鋭すぎる」

 

グラミスが心配なのはその剣が持ち主に危害を加えないかということだ。

2年前の戦争以来ヴェインの行動には不可解な点が多すぎる。

 

「・・・御意」

 

ガブラスはグラミスの命令に服従する。

 

「頼むぞ、ガブラス。予はな息子たちが争う姿を・・・二度も見とうはないのだ」

 

そう、かつて自分の息子2人が反乱を企て自分はヴェインに2人の始末を命じた。

あれ以来ヴェインとは疎遠になってしまったがそのことに文句を言うことなく職務を遂行している。

父として皇帝としてヴェインのあり方は頼もしくあり・・・不安でもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

空中都市ビュエルバにて。

セアは起きると太陽が既に昇っていた。

 

「少し・・・寝すぎたか」

 

セアが寝室からでると・・・警備兵に声をかけられた。

 

「侯爵閣下がお呼びです。執務室までご同行願えますか?」

「今からですか?」

「ええ」

 

セアは激しく疑問を感じた。

侯爵は夜まで政務をおこなっているはずだ。

それを真昼間の今に・・・?

セアは警備兵に連れられ侯爵の執務室に連れてこられた。

すると侯爵が頭を抱えて座っていた。

セアは何事かあったなとあたりをつける。

 

「昨日の夜、空賊に殿下が誘拐された」

「空賊?」

「貴公と一緒にいた空賊だ」

 

どうやらバルフレアがアーシェを誘拐したようだ。

セアが見る限りではバルフレアは面倒事に首を突っ込むような奴ではないと思っていたが・・・。

 

「それで・・・俺と一体何の関係があるのでしょうか?」

 

まさかとは思うが俺まで同罪扱いで極刑とか嫌だぞ。

 

「彼らがどこに行ったか心あたりはないか?」

「ありません」

 

すると侯爵がハァとため息をついた。

 

「・・・手がかりは無しか。貴公以外は皆攫われてしまった」

「・・・・・・・・・・・え?」

「どうかしたか?」

「いや、俺以外全員誘拐されたのですか」

「そうだが?」

 

ヴァンめバルフレアについて行きやがったな。

というかこれどうするんだよ?

ミゲロさんにどう説明すればいいんだ?

セアは手で頭を押さえた。

 

「・・・・」

 

昨夜やっと面倒事が終わって帰れると思ったのに・・・

一夜明けたら面倒事が増えるとは・・・

 

「退室してもよろしいでしょうか?」

「かまわない」

「失礼します」

 

セアは侯爵に礼をして退室した。

そして肩が震えながら呟く。

 

「俺はもう知らんぞ・・・馬鹿弟子」

 

セアはヴァンとパンネロが誘拐されたことを無視してラバナスタに帰ることにした。

 




ビュエルバ編完結。
というか九割ノリで書いてたのによく完結したなww
因みにセアが最後にハブられることは最初から決まってました。


おまけ ビュエルバ編の大雑把すぎるプロット。
===========================
第一話  セアがパンネロが誘拐されたことを知る
第二話  シュトラールでの会話
第三話  ラモン(ラーサー)がパーティに加入
第四話  侯爵とギースの会話
第五話  セアがラモン(ラーサー)から本名を聞き出す
第六話  セアのふざけた力をお披露目
第七話  俺がバッシュだー
第八話  セアたちが冤罪で捕縛          
第九話  アーシェ初登場
第十話  アーシェとパンネロを救出
第十一話 金ぴか鎧撃破
第十二話 王女と侯爵の会話
第十三話 セアが置いていかれる
===========================
個人的に第七話はプロットから離れすぎたかなとw
殆どセアのかく乱がメインでしたしwww

近いうちに活動報告を書きますので出来たら見てください。
次章レイスウォール王墓編お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

レイスウォール王墓編
キャラ紹介(ネタバレあり)


新章開幕のついでに
あとおまけで種族・用語などもついでに。


++メインキャラ

簡単に言うとFF12のパーティとセアのこと。

 

+セア

「不老不死の暴君」の主人公。何故か不死身。ヴァンを弟子にしている。

ふざけた力の持ち主でバッカモナン一味を一蹴し、ギースを簡単に倒した。

覇王レイスウォールとなんらかの因縁があるらしく彼の血族に嫌悪感を持っている。

また長く生きてきたためか少し冷酷な部分がある。

因みにオリジナルキャラで原作FF12には登場しない。

 

+ヴァン

ラバナスタに住む少年。2年前の戦争で兄を失っており、空賊に憧れている。

孤児達にかなり慕われており、孤児達によって形成された空賊を目指そう団のリーダーでもある。

 

+バルフレア

最速の空賊と呼ばれる義賊。彼の首にかかってる懸賞金で飛空挺が買える。

 

+フラン

バルフレアの相棒。ヴィエラ族。

 

+バッシュ・フォン・ローゼンバーグ

帝国の罠にかかり、名誉を失った将軍。公式には処刑されたことになっている。

 

+アーシェ・バナルガン・ダルマスカ

ダルマスカ王国の王女。公式には二年前に自殺したことになっている。

 

+パンネロ

ラバナスタに住む少女。ヴァンとは幼馴染。

 

 

++ラバナスタ

旧ダルマスカ王国の首都。

 

+ウォースラ

ダルマスカ王国の将軍で騎士団残党によって結成された解放軍の幹部。

名目上のリーダーはアーシェだが実際はほとんど彼が解放軍を率いている。

 

+ミゲロ

バンガ族の商人。ヴァンや孤児達の保護者的存在。

 

+カイツ

戦争孤児。空賊目指そう団のメンバー。

 

+トマジ

砂海亭の店員。

 

+ダラン

物知り爺さん。何故か色々なことを知っている。

 

 

++アルケイディア帝国

二大帝国のひとつ。二年前にナブラディア・ダルマスカを侵略した。

 

+ヴェイン・カルダス・ソリドール

皇帝の三男で戦争の天才と呼ばれる。今の役職は西方総軍指令及びダルマスカ地方執政官。

またシドと共になにか企んでいるようである。

 

+ラーサー・ファルナス・ソリドール

皇帝の四男でルース魔石鉱に行く際にセア達と行動を共にした。

 

+シドルファス・デム・ブナンザ

通称ドクター・シド。ドラクロア研究所所長。独り言が不気味。

 

+ジャッジ・ギース

ジャッジマスターの一人で戦艦リヴァイアサンの艦長をしている。

 

+ジャッジ・ガブラス

ジャッジマスターの一人で皇帝よりヴェイン監視の命を受けている。

 

+グラミス・ガンナ・ソリドール

アルケイディア帝国皇帝。ヴェインの行動を警戒している。

 

 

++ビュエルバ

空中大陸ドルトニスにある都市国家。魔石輸出国。

 

+ハルム・オンドール四世

ビュエルバの領主。2年前にアーシェの自害とバッシュの処刑を発表した。

表向きは親帝国の政治をしているが裏では反帝国組織を支援している。

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

++種族

 

+ヒュム族

イヴァリースに住む種族の40%がこの種族。

戦争を繰り返し、国を造り、歴史を動かし続けてきた。

 

+ヴィエラ族

基本的には森と共に生きる閉鎖的な生活を営んでいる。

森の声が聞けるらしいが俗世と関わりを持つと失われる。

 

+バンガ族

全体的に気性の荒い者が多い。

バンガに「トカゲ」と言うのは禁句である。

 

+シーク族

知能が他種族に比べ低め。

肉体労働に駆り出されることが多い。

 

+モーグリ族

手先が器用なため飛空艇技師を勤めているものが多い。

イヴァリースでヒュムに次ぐ生存圏を有している。

 

+ン・モゥ族

高い知力と魔力を持つ少数種族。

多くはキルティア教の長老を務めている。

 

+レベ族

少数種族。戦闘力が高い。

 

+ウルタンエンサ族

縄張り意識が強く、好戦的で人間社会に馴染まない。

 

+ガリフ族

狩猟種族。生まれたときに仮面を授かりそれを死ぬまで外さない。

 

+バグナムス族

非生産的な種族。酸素は彼らにとって有毒でガスボンベを常につけている。

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

++重要な用語

 

+ミスト

魔力の源で空気中に含まれている。

無色透明だが濃くなると黄色い霧のように視認できる。

 

+ヤクト

ミストが不安定な地域。凶暴な魔物が住み着いてることが多い。

またその性質上ヤクトの多くが無法地帯となっている。

 

+魔石

ミストが貯まっている石。

 

+飛空石

魔石の一種で飛空挺はこれで浮力を得ている。ヤクトでは使用できない。

 

+破魔石

ミストを吸収する特殊な魔石。ドラクロア研究所で人工的なものがつくられている。

 

+ミミック菌

金属を腐敗させる細菌。この細菌のせいで地上では機械兵器があまり使われない。

 

+飛空挺

数世紀前にモーグリ族が開発した空を飛ぶ船。

 

+グロセア機関

魔石を燃料にして動く装置。飛空挺等の動力として使われている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 王女誘拐から数日後

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。

王女誘拐の話を侯爵から聞いた日の昼過ぎにセアは飛空挺に乗ってラバナスタに帰ってきた。

その後色々ありましたよ。まずターミナルを出たところでカイツと会って。

 

「セアさん! 無事だったの!? パンネロ姉ちゃんとヴァン兄は?」

「えっと・・・2人ならもう少し冒険してくるって言ってたよ?」

「えぇ~!」

 

とかそんなやり取りがあったり、店に入るとミゲロさんが話しかけてきて。

 

「おう、セアは無事だったか。それでパンネロは無事か?」

「・・・無事だったんだけどね」

「というと」

「2人ともと空賊について行っちゃった」

「なっ! あの2人にが死んだらあの2人の親の墓前でなんて言えばいいんだい!?」

「・・・夢にすがって死にました?」

「ふざけるんじゃない!!」

 

そんなの俺に言われましても・・・詳しく話せば解ってくれそうだがダルマスカの王女が生きてましたとか言いたくないしな。

絶対そんなこと教えれば面倒事がミゲロさんにも降りかかってくるだろうし。

それでダラン爺に話に行ったんだ。

因みにダラン爺には詳細を詳しく教えたよ。

なんというかダラン爺を相手に隠し事が出来そうになかったからだ。

・・・10ヶ月位前に話したときに自分の秘密を教えちゃったし。

聞き出されたと言った方が正しいかもしれないが。

 

「ふむ、悪ガキも結構な冒険をしたようじゃの」

「それで・・・王女様は何処行ったと思う?」

 

ダラン爺が髭をさすりながら答えた。

 

「恐らく・・・レイスウォール王墓に向かったのでは?」

「何故?」

「王家の証は覇王が持っていた3つの魔石だ。それをひとつずつ息子に分け与えたものなのじゃよ」

「直系の王族とナブラディア家そしてダルマスカ家の3つか」

「その通りじゃ。そして直系の王家が断絶した際、当時のナブラディア家とダルマスカ家の当主がその証を王墓に封印したと伝わっておる」

「その王墓は何処にあるんですか?」

「オーダリア大陸東部の何処かとしか知らんのう」

 

範囲が広すぎるだろ。

ヴァンとパンネロを強引に連れ戻してミゲロさんを安心させようと思ったけど無理だ。

ムシャクシャしてきた俺はウサ晴らしに砂海亭に酒を飲みに行ったんだ。

トマジが俺の愚痴に付き合ってくれた。

 

「ヴァンを止めろだのって俺が寝てる間にいったんだから仕方ねぇじゃん!」

「まぁ、おちつけよ」

 

そう言ってトマジは酒瓶を持ってコップに酒を注いでくれたよ。

 

「まぁヴァンも子どもじゃないんだし、好きにさせればいいと俺はおもうよ」

「おお、トマジ有難う!」

 

そんな感じで酒を結構飲んだんだよ。

結構長い時間いたからね。

するとトマジが思い出したように

 

「あ、そろそろ勤務時間終了だ。話はこの辺で」

 

そう言って店の奥にトマジが入っていた時は別になんとも思わなかったよ。

だから勘定の時に大金を請求されて驚いたよ。

どうやら俺は最高級の蛇酒ばかり飲んでいたらしい。

トマジがコップが空になると酒を入れてくれていたからトマジの仕業だ。

トマジに殺意を覚えながら俺は全財産の九割を砂海亭に払う事となった。

そして今・・・

 

「金がない」

 

とある理由で別に俺は食事を取らなくても生きていけるがずっと空腹はつらい。

セアの計算ではあと三年は働かずに暮らせるだけの金があったのに。

今では一ヶ月の家賃だけで金が尽きる。

セアがブルーな気分で王宮を眺めていた。

 

「クライス殿ですか?」

 

名前を呼ばれセアは振り返ると帝国兵が立っていた。

 

「そうだけど・・・なんのよう?」

「ドラクロア研究所の所長がお呼びですご同行願えますか?」

 

普段なら面倒くさいのでセアは断る。

しかしセアは現在一文無しで断ってもやることがないので快くセアは承諾した。




感想とかできれば書いてください。
やる気がでるので・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 かつての上司

セアは帝国兵に王宮の一室に案内された。

案内された部屋は大きな机とたくさんの綺麗なイスがあり、セアはそのイスのひとつに座った。

しばらくするとセアが2週間程働いていたドラクロア研究所の所長シドルファス・デム・ブナンザ・・・通称ドクター・シドが入ってきた。

 

「久しぶりだな、クライス」

 

そう言ってシドはセアの反対側のイスに座った。

セアは愛想笑いしてシドに話しかける。

 

「そうですね。それで・・・俺になにかようでしょうか?」

「いや、ただ君がローゼンバーグ将軍と一緒に行動していたとヴェインから聞いてね」

 

その言葉にセアは顔を顰める。

シドを笑いながら言葉を続ける。

 

「君がラバナスタに住んでいるという噂を聞いた時は驚いたぞ。だれにも実態の掴めない【不滅の研究者】の異名をもつ君がね」

「そうですか」

「ひとつ聞きたいのだが・・・君は何故ローゼンバーグ将軍と共に行動していたのだ?」

「なりゆきですよ」

「なりゆき?」

「ええ俺があなたの研究所で2週間程仕事をして帰ったら俺の知り合いが賞金稼ぎに誘拐されてましてね。その時になぜか俺の弟子と一緒に彼がいたんですよ」

「・・・君に弟子がいるのか?」

「戦闘技術以外は教えていないのですが・・・まぁはっきり言って馬鹿ですよ」

「そうか・・・君の弟子にも会わせてもらえるか?」

「いやそれがビュエルバでローゼンバーグ将軍共々とある空賊に誘拐されましてね・・・行方不明なんですよ」

「それでは・・・王女と共に西の王墓へ行ったのではないか?」

「西の王墓?」

「うむ、ナム・エンサの死者の谷にあるレイスウォール王墓へ向かったと情報が入っているぞ」

「貴重な情報ありがとうございます」

 

そう言いセアはシドに頭を下げた。

シドはかまわんよと言いとある疑問を口にした。

 

「ところでクライスというのは偽名なのかね? ローゼンバーグ将軍からはセアと呼ばれていたと聞いたが」

 

セアはそれを別に答えても問題ないと思いそれに答える。

 

「どっちも偽名ではありません。俺の名前はクライス・セア・グローリアです」

 

その答えを聞いたシドは納得したように頷いた。

そしてさっきまでのからかい半分の声をかえ、真剣な声でセアに話しかける。

 

「雑談はこのへんにして・・・本題に入ろうか」

「・・・どうぞ」

 

セアは息を呑み、先を促した。

 

「そう遠くない日に我が帝国は歴史を動かす戦争をする。その時君も手を貸してはくれないか?」

「俺のモットーとして国に仕えたりはしないのですが・・・歴史を動かすということはロザリア帝国と戦争でもするのですか?」

 

その言葉を聞いたシドは何を馬鹿なというふうに笑い声をあげた。

 

「ロザリアだと? 確かにロザリア帝国とは戦争をするがロザリアなど前座にすぎん!」

 

その言葉を聞きセアは首を傾げた。

このイヴァリースでアルケイディア帝国と互角に戦える国家はロザリア帝国以外に存在しない。

そのロザリア帝国が前座にすぎないというとアルケイディア帝国は一体何と戦うというのだ?

 

「よくわかりません・・・ロザリア帝国が前座ということはアルケイディア帝国の真の敵は何処なのですか?」

「その内解る事だ・・・その時に君がヴェインの下で戦ってくれればいい」

 

そういうとシドは態々呼び出してすまなかったねと帝国兵に命じセアを退室させた。

するとシドは誰もいないところに話しかけた。

 

「どうだ彼は?・・・・そうか、少なくとも奴等となんらかの関係があると見たほうがよいか・・・ん? それも微妙だと?」

 

シドはまるで目の前に誰かがいるように独り言を続けていた。

一方セアは王宮の外で独り言を呟いていた。

 

「相変わらずあの所長はよく解らない」

 

セアはため息を吐き、西の空を睨んだ。

 

「やることがなにもないからとりあえず馬鹿弟子を殴りに行くか・・・」

 

そう呟きセアは暗い笑みを浮かべた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 西へ!

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領西ダルマスカ砂漠にて。

西ダルマスカ砂漠は交易路としてあまり使われない為東ダルマスカ砂漠と比べ危険な場所である。

そんな砂漠をチョコボに跨り西へ進む人物が一人。

もちろんチョコボに跨っているのはクライス・セア・グローリアである。

彼は勝手に空賊について行ったヴァンに自分がぼったくられたことに対する八つ当たりをするため西へと向かっていた。

因みの乗っているチョコボはラバナスタ西門にいたチョコボ屋ガーディからレンタルしたものだ。

レンタル料でセアの全財産が無くなってしまった。

しかしレイスウォール王墓にある宝でどうにかしようとセアは考えていた。

個人的には墓荒らしなどしたくないが幸い嫌悪しているあの覇王の墓だ。心は痛まない。

そんな事を考えながらチョコボを走らせていると砂嵐が出てきた。

面倒だと思いながらセアは自分を中心に魔法障壁を展開させた。

しばらく進むとチョコボが震え出し足を止めた。

何事かとセアが考えると前にかなり大きいドラゴンの影が見えた。

東ダルマスカ砂漠にいるワイルドザウルスの5倍はあるなと思いながらセアは大きい影に向かって剣を数回振り下ろした。

セアの遠隔攻撃を受け大きい影は断末魔の悲鳴を上げながら倒れ、砂嵐が晴れた。

セアは首を傾げた。砂嵐が晴れるのは予想外だったからだ。

影が倒れたところに近づいてみると上級地竜の一種のようだ。

その姿を見てセアは伝説の八竜のひとつで砂嵐をおこすアースドラゴンのことを思い出した。

なんでそんなドラゴンが西ダルマスカ砂漠にいるんだよとかアースドラゴンならもっとでかいはずだとか思いながらもセアはチョコボを走らせた。

考える事をやめ、自分は何も知らないということにしたのである。

しばらくすると人工的な施設が見えてきた。

どうやら西ダルマスカ砂漠をこえ、エンサ大砂海に入ったようだ。

ナブラディア王国とダルマスカ王国が滅びた今となってはエンサ大砂海がアルケイディア帝国とロザリア帝国の緩衝地帯である。

セアがここから先は徒歩の方がいいなと思いチョコボからおり、人工的な施設に登った。

この施設はかつてロザリア帝国が建設したもので石油をとる施設だ。

しかしグロセア機関があらゆる装置に転用されるようになると放置された。

放置された理由はもうひとつあるが・・・まぁ直ぐにわかることだろう。

西へ向かって走ってるセアの頭に矢が直撃しセアは矢が飛んできた方をみた。

そこには矢を持った亜人種がいた。

セアは亜人種めがけて氷系の上級魔法{プリザガ}を唱え、亜人種を氷付けにし、遠隔攻撃で氷を砕いた。

 

「ウルタンエンサ族の縄張りに入ったみたいだな・・・」

 

セアは小さく呟き、西へ再び走り出した。

ウルタンエンサ族。それがエンサ大砂海の事実上の支配者だ。

ウルタンエンサ族は国土を持つ風習を持たないが、縄張り意識が非常に強く、同族間の争いが絶えない。

まったく面倒なと思いながらセアは四方に気を配り視界に入ったウルタンエンサ族を片っ端から遠隔攻撃で倒し、近くにいた奴は真っ二つにに斬り、西へ走った。

途中でウルタンエンサ族を主食にするウルタンイーターを見かけついでにそれも魔法で襲われてるウルタンエンサ族ごと焼き尽くした。

西へ西へと走っていると砂海が北の方へずれ始めた。

どうやらそろそろ死者の谷に着くみたいだ。

未だに襲ってくるウルタンエンサ族を魔法や剣技で倒しながら、谷へ入って行った。

すると大きい建物が見えてきた。

レイスウォール王墓だ。

なんでこんなところに墓を建てたのかセアは凄まじく疑問だったがとりあえずヴァンたちが来ていないか入り口の方に向かった。

そしてセアは床に顔を近づけ床をよーく調べた。

 

「新しい足跡はないな・・・ヴァンたちはまだか」

 

ヴァン達がまだ来ていないことを知ると急に眠気がこみ上げてきた。

周りを見てみると大分前に日が沈んであたりは闇に包まれていた。

セアは床に寝転び、寝てしまった。

セアが寝て1分後、王墓の守護獣ガルーダが侵入者の気配を察知して飛んできた。

すると王墓の入り口で寝ているセアが目に入った。

ガルーダは腹も減っていたので寝ているセアは一口で飲み込むと空へ再び飛んでいった。

 




なかなか形にならなくて・・・酷い出来です。
もしよければ感想にこうすればいいんじゃ?的なの書いてくれたら嬉しい。
あとこうはしないんですか?的な意見もお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 覇王

セアがガルーダに捕食された翌朝。

レイスウォール王墓にとある一行が到着した。

 

「ここがレイスウォール王墓か!」

 

ヴァンが王墓を見ながら叫んだ。

バッシュやウォースラも声には出さないものの王墓の偉大さに驚いていた。

アーシェも王墓に入ろうと近づくと魔物の咆哮が轟いた。

ヴァン達はあたりを警戒し武器を構えると空からガルーダが飛んできた。

 

「体が発光しているな。あのガルーダは原種か」

 

バルフレアは銃口をガルーダに向けながら呟いた。

ガルーダは体が発光している原種と退化した発光しない種がいる。

原種はその神々しさから聖獣として崇られることもある。

もし生け捕りできたら高い値段で売れそうだと考えながら発砲した。

バッシュやウォースラも遠隔攻撃で、フランは弓矢でガルーダに攻撃する。

ヴァンはガルーダが攻撃してきたところを剣で攻撃していたがヴァンのダメージも大きくそれをパンネロが白魔法{ケアル}で回復させる。

全員がガルーダに向け攻撃するがガルーダは縦横無尽に飛び回り、攻撃を回避しているので中々効果的な攻撃が出来なかった。

ガルーダは立ち止まっているアーシェ目掛けて突っ込んでくる。

それを待っていたかのように戦闘が始まってからずっと詠唱していた魔法{サンダラ}をガルーダに放った。

{サンダラ}の直撃を受けたガルーダは苦しそうに咆哮を轟かせ上空へ飛び去った。

・・・因みに{サンダラ}の直撃を受けていた人物がもう一人いた。

 

「ギャバババババッ!!!」

 

昨夜寝ている間にガルーダに捕食されたセアである。

魔法の直撃を受けセアはあたりを見渡しどうやらまた魔物に食われたようだと腰から剣を抜きガルーダの胃を内側から切り裂いた。

するとガルーダは凄まじい絶叫があたりに響き渡る。

しかしヴァン達はまさかセアが中にいるとは思わなかったためガルーダが怒り狂っていると勘違し警戒を強める。

セアはというと内側から剣で数回斬りつけたが外に繋がる気配がない為魔法を詠唱しだした。

するとセアを中心に魔方陣が形成され詠唱が終わると同時にそこから暴風が吹き荒れ、ガルーダは内部からの暴風に耐えられず空中分解した。

ガルーダが空中分解されるとセアはガルーダの血とガルーダだった肉隗と一緒に空中に放り出される。

セアは落ちるまでの間になんとか着地の体勢を整え、砂の地面に着地した。

ウォースラとバッシュがセアだと解らずセアに剣を向け警戒する。

なにせウォースラ達の視点から見れば守護獣の血の雨と共に空から降ってきた返り血を浴びた不審人物である。

しかしヴァンは最初は警戒していたが目の前の光景に軽いデジャブを感じ不審人物の正体に気づいてしまった。

 

「ひょっとしてセア?」

「俺以外の誰かに見えるのか馬鹿弟子?」

 

その会話を聞きアーシェ達は驚愕した。

セアは鋭い目つきでヴァンを睨みつけながら物凄く低い声で話しかける。

 

「馬鹿弟子・・・お前、俺に黙ってどっか行くとはいい度胸だね」

「い、い、いや、だだ、だってセアに教えたら絶対とめるじゃん」

「ああ、ミゲロさんや他のみんながどれだけ心配していると思っているんだ?」

「ご、ごめん」

「まったく俺もミゲロさんに叱られてイライラしてヤケ酒したらぼったくられるしよ」

「・・・誰に?」

「トマジに決まっているだろ」

「・・・あいついい奴だけど金にがめついからなぁ」

 

ヴァンは空を見上げ呟いた。

するとバッシュがセアに話しかける。

 

「何故君は魔物の中にいたのだ?」

「いや、それが昨日の夜に王墓に着いて寝たんだ。で、気がついたらなんか魔物の胃の中にいたから寝ている間に食われたみたい」

 

セアが頭を掻きながらしくったなという表情を浮かべ明るい声で答えた。

ヴァンとパンネロは東ダルマスカ砂漠でワイルドザウルスに丸呑みされたことを知っているので呆れるだけだがそれ以外の全員はセアの神経を疑った。

アーシェはセアの神経を疑いながらもさっきの言葉に疑問を感じセアに問いかけた。

 

「まってください。何故あなたはここに来たのですか?」

「ヴァンたちを追ってですが?」

「では何故私達が王墓に向かっていると解ったのですか?」

 

・・・ドラクロア研究所の所長に聞きましたなんて答えられないしな。

ダラン爺に濡れ衣を着せるかとセアは嘘を混ぜて答えた。

 

「ダラン爺に貴女の事を話すと西の王墓にある王家の証を取りに向かったのではと聞いたからです」

「ダラン爺?」

「ラバナスタに住んでいる物知りの爺さんの名前です」

 

そう言ってセアはヴァンの方に向く。

 

「大方、王宮への進入方法もダラン爺から聞いたんだろ? 馬鹿弟子」

「げっ! バレた・・・」

 

その様子を見てアーシェはダラン爺とは一体なにものなのだろうかと思慮に耽っていた。

王家の証が王墓にあることや王宮への進入方法を知っているなんて・・・

そんなことを考えているとパンネロが話しかけてきた。

 

「すごい大きなお墓ですね。レイスウォール王ってどんな人だったんでしょうか?」

「御伽噺でしか知りませんがそれでよければ」

 

パンネロが頷いたのを見てアーシェは王家に伝わる話を語り始めた。

 

「往古、神々に愛されたレイスウォール王は・・・バレンディアからオーダリアの両大陸にまたがる広大な領域を一代で平定し・・・ガルテア連邦を打ち立てました」

 

アーシェの話をパンネロ以外も聞いていた。

そしてセアはなにか嫌そうな表情をしながらアーシェの話を聞いていた。

 

「覇王と呼ばれてはいますが・・・連邦樹立後のレイスウォール王は民を愛し、無用の戦を憎み・・・その精神は後継者にも受け継がれ平和と繁栄が数百年もの間続いたのです。アルケイディアもロザリアもその源流はガルテア連邦に属していた都市国家であり・・・レイスウォール王が築いた平和の中で生まれ育ったようなものです」

 

そういえばアルケイディア帝国の前身アルケイディス共和国もロザリア帝国の元になった都市国家群もガルテア連邦に属していたことをセアは思い出す。

 

「レイスウォール王は覇王の血統の証となる3つの遺産を残しました。その内【夜光の砕片】はのちのナブラディア王家へわたり・・・【黄昏の破片】はダルマスカを建国した我が父祖へ・・・最後のひとつ【暁の断片】はここに封じられて・・・その存在は王家にだけ伝えられてきたんです」

 

ん?じゃあ何故ダラン爺は王家の証が王墓にあることを知っていたんだ?

セアはダラン爺が何か問題をおこして王家から追放でもされたのかいう想像が浮かんだ。

意外とありえそうだと思うセアであった。

 

「覇王は今日の事態を見越しておられたのでしょう」

 

ウォースラがそうアーシェに言うが幾らなんでも無理だろとセアは思った。

ダラン爺から聞いた話では直系の王家が断絶した際にナブラディア家とダルマスカ家の当主が【暁の断片】を封印したと聞いた。

しかしアーシェの話を信じるならば当初より【暁の断片】はここに封印されていたようだ。

まぁ数百年も昔の話だし諸説があるのだろうとセアはあまり深く考えなかった。

アーシェは王墓を見上げながら話を続ける。

 

「代々の王のみに許された場所ですから証を持たない者が立ち入れば・・・」

「生きて帰れる保障はなし。墓守の怪物やら悪趣味な罠やら・・・そんなところか」

 

バルフレアがアーシェの言葉に続け喋った。

バルフレアの台詞にアーシェは頷き続きを話す。

 

「その先に眠っているのです。【暁の断片】も覇王の財宝も」

「話が上手すぎると思ったよ」

「バルフレアがここにきた理由は財宝目当てか」

 

アーシェとバルフレアの会話からバルフレアの目的を財宝と推測したセアはからかうような声でバルフレアに話しかけた。

するとバルフレアは嫌そうな声でセアに言う。

 

「そうだよ。そういうお前の目的は?」

「ヴァンたちを生きてラバナスタに帰すことだよ」

 

あまり乗り気ではないが同じく遺産狙いの為セアは苦笑しながら嘘をついた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 壁はぶち壊すもの

お気に入り50件越えました!
とても嬉しいです。


王墓の入り口にあった装置に触れるとセア達は王墓の中へ飛ばされた。

理解不明な現象にヴァンがバルフレアに質問し、バルフレアは

 

「古代遺跡にはよくある装置で触れると何処かに飛ばされる。空賊にはそれで十分だろ」

 

と答えていたが幾らなんでもアバウトすぎないだろうか?

セアがヴァンに説明してやろうかとも考えたが説明するには前提として魔法理論を50前後は最低教えなくてはならないためやめた。

ヴァンは釈然としない表情で先にある一本道に走っていった。

セア達は罠が無いかと心配したがなにもないみたいでセアを除く全員も一本道に足を進めた。

すると一本道の入り口にあった石像が壁ごと動き一本道を閉ざした。

だが、突然石像は跡形もなく砕け散ってしまった。

全員が唖然としてるところへ砕けた石像を踏み潰しながらセアが一本道を歩いてきた。

 

「どうした?」

「いや、いまのセアがやったのか?」

「なんか後ろに光ってるところがあったから斬りつけてみたらあっさり壊れたぞ」

「そうか」

 

全員が胡散臭いものを見る目でセアを見ていたがセアは気づかないフリをして口笛を吹き、ステップをしながら一本道の奥へと進んでいった。

その様子の全員が呆れながらもセアの後に続いた。

一本道の奥にあった扉を空け次の部屋に進むと真っ暗だったが赤い光がふたつ光ったとおもうと辺りの燭台も火が点いた。

燭台の炎に照らされ最初に点いた赤い光はこちらに迫ってくる石像のものだと分かった。

そしてここも一本道で逃げようにも扉に鍵がかかって逃げられない。

ここで石像を倒すことが出来なければ扉と進んでくる壁に挟まれ潰されるということだ。

先ほどバルフレアがアーシェに言っていた通りたちの悪い罠だな。

そんなことをセアが思っていると周りが武器を構え、迫ってくる壁に向かっていく。

全員が自分から結構離れた事を確認するとセアは赤みのある黒い剣を迫ってくる壁にむかって遠隔攻撃を20回前後おこなう。

すると石像は凄まじい音をたてながら崩れさった。

セアは立ち尽くしている皆を見て笑みを浮かべバルフレアに近づき話しかけた。

 

「まさかとは思うが数百年の間に罠が風化して作動しなくなってるのか?」

「・・・だといいがな」

 

バルフレアはため息をつき正気を取り戻し奥へ進み出したアーシェの後に続いた。

セアはというと噴出すのをこらえるのに必死であった。

一本道を抜け、奥にある大きな扉を開けると吹き抜けの広間にでた。

 

「なんと壮大な・・・」

 

ウォースラが感嘆の声をあげる。

そいてバルフレアとフランを見て不機嫌な声で呟く。

 

「あのような墓荒らしの同行は認めたくないものです」

「けれど私達では明らかに無力。それが現実でしょう?」

 

自分が仕える主の言葉にウォースラは黙り込む。

 

「あの人は自分の利益だけを考えているわ。利益を約束できれば裏切らないはずよ」

「しかし殿下。自分は・・・」

「話は後で。今はまず【暁の断片】を手に入れないと」

 

アーシェは突き放すようにそう言った。

そして吹き抜けの広間を見上げながら呟く。

 

「眠っているわ。地下の置く深くで」

「おわかりになるのですか?」

 

ウォースラは少し驚いた声でアーシェに尋ねた。

 

「・・・呼ばれている気がするの」

 

アーシェは自信無さ気にそう答えた。

 

 

 

 

一方セアはバッシュに気になっていた事を質問していた。

 

「なぁバッシュ。俺はダラン爺の推測を信じてここに来たんだが・・・ウォースラは何故ここに王女様達が向かっていると分かったんだ?」

「オンドール侯から聞いたと言っていた」

「ビュエルバの侯爵から?」

「そうだが・・・」

 

バッシュはセアが念押しに聞いてくることを不自然に感じながらも答えた。

セアは顎を手で掴み、思考に耽る。

 

(侯爵から聞いた? 侯爵は王女が王墓へ向かったことに気づいていなかったはずだ)

 

ということはウォースラは嘘をついているということだ。

では何故嘘をつく必要があるのか?

 

(そういえばウォースラがビュエルバから旅立つときになんて言っていた? 確か・・・別の道を探ると)

 

そこでセアは嘘をついている理由が解ってしまった。

武力以外でダルマスカ再興の道などひとつしかない。

外交である。そしてウォースラは交渉相手からアーシェ達が王墓へ向かったことを知ったのだ。

 

(また面倒事の予感・・・いや覇王の財宝を少しばかり頂けばもう王女達に付き合う必要はない・・・すぐヴァンとパンネロを連れてラバナスタに帰ればいいだけだ)

 

セアはそう考えそれを口に出さないことにした。

そう別にセアはダルマスカに限らず国の興亡に興味がないのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 魔人

レイスウォール王墓を地下へ地下へと進んでいくと黄色の霧のようなものが出てきた。

パンネロはそれを見ながら呟く。

 

「地下なのに霧が出てる・・・?」

「霧ではないわ。ミストよ」

 

フランはパンネロの呟きに答えた。

ミストとはこのイヴァリースでは空気中に存在する魔力の源のことである。

しかしミストは普段は無色透明のはずである。

 

「ミストって目に見えるんですか?」

「ここではそれだけ濃いということ。魔の気配が満ちているのよ」

「危険・・・ってことですよね」

 

フランの言葉をそのまま受け取るとそういうことになる。

 

「けれど役にも立つわ。濃密なミストは魔力の回復を早めてくれる」

「覚えておきます」

 

そう言ってパンネロはセアとヴァンの方を見た。

 

「セアさんもヴァンも無茶ばかりだから私がしっかりしないと」

 

因みにパンネロが心配している2人はというと・・・

 

「覇王の財宝って高く売れるのかな?」

「なんでそんな事気にするんだ?」

「トマジにぼったくられたから金が無くてね・・・出来れば少しほしい」

「俺も盗っていっていいか?」

「普通ならとめるとこだけどまぁ仕方ないか」

「よーし、セア公認だ!」

 

覇王の財宝を盗む気満々であった。

それはそうと地下なのになにか暑いなと感じながら階段を降りていくとひらけた場所に出た。

そして奥に扉があり、その前に魔物と人を混ぜた化け物のようなものが立っている。

最初は変なオブジェだと思ったがヴァンが近づくと周りから炎があがる。

 

「魔物か!?」

 

ヴァンはそう叫び後方に後ずさり武器を構える。

するとオブジェだと思っていたものが動き出し近くにあった斧か槍かよく解らない武器をとりヴァンに振り下ろす。

ヴァンは吹き飛ばされ壁に激突した。

 

「ヴァン!」

 

そう叫びセアは{フルケア}を唱え、ヴァンの傷を治す。

先ほどの攻撃でただの魔物では無いと判断したウォースラとバッシュは遠隔攻撃でけん制する。

すると化け物は{バオル}を唱え防御力を強化しウォースラに急速に接近し武器を横に薙いだ。

ウォースラは咄嗟の判断で剣で防御したが剣を飛ばされウォースラは倒れた。

倒れたウォースラ目掛けて武器を振り下ろす瞬間バルフレアの銃が化け物を打ち抜いた。

化け物がバルフレアを視界に捉えると{ファイア}を唱えた。

炎がバルフレアにあたる前にフランが間に入り込み{ブリザラ}を唱え相殺した。

化け物が次の魔法の詠唱を開始するがバッシュの遠隔攻撃で妨害され、バッシュに近づく。

化け物はバッシュに攻撃を繰り返すがバッシュは上手い事避けながら時間を稼ぎその間にアーシェとパンネロがウォースラに近づき{ケアルラ}で回復させる。

 

「あの化け物は一体?」

「まさかかつて覇王に仕えたという魔人では・・・」

 

アーシェがかつて父から聞いた覇王と魔人にまつわる物語を思い出しながら答えた。

 

「大丈夫か? 馬鹿弟子!?」

「なんとか」

 

セアはヴァンの声を聞くとポケットから魔石を取り出しヴァンに渡した。

 

「これは?」

「気にするな! いいか俺達があの化け物の引き付けてる間にそいつを化け物にあてろ!」

「え!?」

「外したら承知しないぞ!いいな!!?」

「ああ!!」

 

ヴァンの返事を聞くとセアはバルフレアとフランに近づき話しかける。

 

「あの化け物の注意をヴァンからそらしてくれないか?」

「ああ? なんでだ!?」

 

バルフレアは目線と銃口を魔人に向けたままセアに答える。

 

「ここにくる途中暑いと思わなかったか? おそらくアレは炎の属性をもっている」

「それで!?」

「ヴァンにウォタガの魔片を渡した。隙を見て投げろと!!」

「了解。ヴァンから注意を逸らせばいいんだな?」

 

バルフレアが軽くこちらを見たのでセアは素早く頷き魔人の方へ走った。

ウォースラも目が覚めたようで魔人に斬りかかっていた。

セアも魔人の注意をこちらに向けるために斬りかかる。

すると魔人の背後からできるだけ目立たず近づいてきているヴァンの姿が見えた。

フランも正面から{ブリザラ}を放ち魔人の注意をこちらに向ける。

しかし注意を引き付けている事に気づいたのか魔人が後ろに振り返りヴァンを視界に捉えた。

魔人はヴァンに目掛けて武器を振り下ろした。

 

「うおおおおおおお!」

 

ヴァンは魔人の攻撃を紙一重で避け(偶然)若干ヤケクソな感じでウォタガの魔片を右手に掴んだまま魔人に近づき殴りつけた。

魔人は水系の上級魔法{ウォタガ}の直撃を受け、重症を負いながらも魔法の詠唱を開始した。

セアはその詠唱を聞き顔を青くする。

魔人が今唱えているのは{ファイジャ}という魔法だ。

セアがルース魔石鉱でパンネロを攫ったバンガに使ったあの魔法だ。

あれを加減せずに放てばセアはともかく他の奴等が死んでしまう。

魔人を中心に魔方陣が形成され始めたところでセアは魔人の右腕を切り飛ばした。

すると魔人はミストを放ちながら倒れ、青い魔石が残った。

その魔石をセアが拾い、フランが語り始めた。

 

「かつて神々に戦いを挑んだ荒ぶる者ども・・・敗れた彼らの魂はミストにつなぎとめられて時の終わりまで自由を奪われた・・・ン・モゥ族の伝承よ」

「俺はン・モゥ族の伝承は知らないが似たような話ならしってるぞ。大分昔に聞いた神々に挑んだ12体の人智を超えた異形者の御伽噺。そういや人と魔物を混ぜたような異形者がいたっけ」

「異形者ってなんだ?」

「詳しい事は知らんが・・・かつて神々が創った存在だそうだ」

「ふ~ん」

「確か人と魔物を混ぜた容姿の異形者の名前は白羊の座の魔人ベリアスで【神に創られた闇の異形者にして聖域の番人。人とモンスターとが融合しているように見えるため魔人と呼ばれるようになった。数ある異形者の中でも失敗作と位置付けられ、本来の役割をあたえられることはなかった。魔人は怒り神々に戦いを挑んだが敗れてしまい、封印された】だったけ」

「なんでそんなのが王墓にいるんだ?」

「さぁ?」

 

ヴァンとセアの会話を聞き聞きアーシェもある物語を語り出す。

 

「王家には覇王と魔人にまつわる物語が伝わっています。若き日のレイスウォール王は魔人を倒して神々に認められたと。以後魔人は覇王の忠実なしもべになったそうです」

「・・・忠実なしもべね」

 

セアはそう言って拾った魔石に魔力を注ぎ込んでみた。

すると先ほどまで戦っていた魔人が姿を現した。

全員が警戒をするがセアは踊れと魔人に命令してみた。

すると魔人は文字では説明できない凄まじい踊りを踊り始める。

かなりシュールな光景である。

ヴァンとセアが大笑いし、他は苦笑してセアに躍らせるのをやめろと説得しだした。

セアが渋々魔石に魔力を注ぐのをやめると魔人は跡形も無く消え去った。

ヴァンは魔人が踊りながらミストを放ち消えていくのを見て少しがっかりしていた。

 

「さしずめ召喚獣とでも言ったところか・・・これは貴女がもっているべきですね」

 

そう言ってセアは魔石をアーシェに渡した。

それを見ていたバルフレアが呟く。

 

「なるほどな。それで召喚主の覇王の命令に従っていまだに財宝を守ってたわけだ」

「いいえ、財宝とはこの召喚獣そのものでしょう」

「なんだと?」

 

アーシェの言葉にバルフレアは疑問の声をあげる。

 

「私たちが手に入れた魔人には計り知れない価値があります」

 

アーシェの言う通り覇王のように覇をとなえんとする者には計り知れない価値があるだろう。

しかしバルフレアのような空賊には縁の無い話だ。

 

「おいおい・・・オレとしてはもうちょいわかりやすい財宝を期待してたんだがね」

 

バルフレアの台詞にセアも同感である。

セアは覇王の財宝を少し盗みそれを臨時収入としてこの金欠状態から抜け出そうとしていたのだ。

どうやって金に都合つけようかと途方に暮れるセアであった。




文字では説明できない凄まじい踊り=今の時代で言うブレイクダンス。

少し今後について意見を聞きたいのでFF12をプレイした人たちに活動報告を見て欲しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話 幻・落日の王国

いいタイトルが思いつかなかったのでそのうち多分この話のタイトル変える。


魔人ベリアスがいた部屋の奥の扉を開けるとまるで神殿のような雰囲気を持つ場所に出た。

奥の台には蝋燭のようなものがあった。

しかし光っているのは火ではなく王家の証のひとつ【暁の断片】である。

 

「どうした」

 

バッシュがウォースラが何か迷っているような表情を浮かべていたため声をかけた。

するとウォースラは軽く首を振りアーシェの方を向く。

 

「殿下。急ぎましょう」

 

ウォースラに促されアーシェは【暁の断片】に近づいた。

すると【暁の断片】が輝き出した。

すると目の前に死んだアーシェの夫の姿があった。

 

「ラスラ・・・」

 

アーシェは夫の名前を呟いたが周りの殆どはアーシェの呟きの意味が理解できなかった。

何故ならラスラの姿が見えていないからである。

しかし見えている奴もいた。

 

「なぁパンネロ。あの人誰だ?」

「何言ってるのヴァン?」

 

ヴァンもラスラの姿が見えていたのだ。

パンネロとヴァンが言い合っているのを見かねたセアはヴァンに話しかけた。

 

「何を言ってるんだ馬鹿弟子? ミストにでもあてられたのか?」

「え? だってあそこに・・・」

 

ヴァンはアーシェの少し前を指差す。

それを見てセアは呆れたような声でヴァンを宥める。

 

「確かに何故かミストがあの辺りに固まっているな・・・だが人なんかいないぞ」

「え、でも・・・」

「いないぞ」

「・・・はい」

 

ヴァンが機嫌を損ね黙り込んでしまった。

セアがそれをみてヴァンに同情してしまった。

何故ならセアもラスラの姿が見えていたからだ。

 

(薄っすらだが・・・これは・・・魔法だ)

 

セアは気づいていないフリをしたほうがいいと判断したのだ。

こんな魔法は数百年間生きてきたセアでも見たことが無いからだ。

そしてまた碌でもないことに巻き込まれつつあるのかとセアは長考し始めた。

アーシェはと言うと・・・ラスラとの結婚式から国が滅びるまでのことを思い出していた。

当時ナブラディア王国は急速に領土を拡大する隣国アルケイディア帝国に危機感を感じており、アルケイディアの宿敵ロザリアの軍隊を国内に駐屯させる政策を打ち出した。

ロザリアのバレンディア大陸進出を危惧したアルケイディアはナブラディアに圧力をかけたがナブラディアが折れることは無かった。

さらにナブラディアはダルマスカとの同盟関係の強化の為にナブラディア王国第二王子ラスラ・ヘイオス・ナブラディアをダルマスカ王国王女アーシェ・バナルガン・ダルマスカに婿入りさせた。

俗に言う政略結婚だったのだが両国は建国当時からの友好国であり、二人とも何度も面識があり縁談の話が出来て直ぐに仲がよくなった。

結婚式、あの時はアーシェはとても幸せだった。これからこの人と一緒に人生を歩んでいくのだと。

だがそうはならなかった。結婚式から僅か1週間後。

アルケイディア帝国がラスラの故郷ナブラディア王国に侵攻したのだ。

ナブラディア王国は数日で滅び同盟関係にあったダルマスカにも帝国は侵攻を開始した。

そしてラスラは自ら父にナルビナ行きを志願した。

出陣の際アーシェはラスラに言った。

生きて帰ってきてくださいと。

ラスラは頷き僅かな兵を率いて北の国境のナルビナへと赴いた。

そして・・・ラスラは死体になって帰ってきた。

あの時ほど泣いた事はいままでなかっただろう。

しかしまだ悲劇はそれで終わりではなかった。

アルケイディアはラバナスタを目前にして進軍を停止し和平交渉を打診してきた。

父のラミナスはそれを受け占領下のナルビナへと向かった。

アーシェはまだラスラの死から立ち直れてはいなかったがこれで戦争が終わるのだと信じていた。

だが数日後ウォースラが真っ青な表情でアーシェに告げた。

陛下がナルビナで暗殺されたと。

夫に続き父まで失った悲しみでアーシェは気を失った。

次に目が覚めるとウォースラと共にダルマスカの辺境の町にいた。

そして・・・その気を失ってる間にダルマスカはアルケイディアに降伏していた。

ビュエルバのオンドール候が中立の立場から降伏を促し、アルケイディアが進軍を再開する前に無条件降伏をしたらしい。

アーシェはオンドール候に感謝した。降伏とはいえラバナスタを戦火から守ってくれたのだから。

しかしウォースラの次の報告でその思いは無くなってしまった。

侯爵が自分の自殺を発表したという事を聞いて。

要するに侯爵は帝国側に回ってしまったのだ。

そしてウォースラもまた何を信じればいいのかわからなくなっていた。

互いに信じあっていたバッシュが陛下を暗殺し、頼りの侯爵も帝国の傘下に下ってしまった。

その結果・・・ラバナスタの解放軍は孤立化していった。

アーシェもウォースラも信じきれる人物が全くいなくなっていたからだ。

そのようなことを思い返しているとラスラの幻がアーシェの横を通る。

アーシェは引きとめようと手を伸ばしたがラスラの幻はアーシェの手をすり抜け何事も無かったのように歩き続ける。

それを目で追いながらアーシェは呟く。

 

「仇は必ず・・・」

 

ラスラの幻はアーシェに振り返ることなく部屋の出口へ歩いていった。

するとヴァンもラスラの幻を目で追っているように見えた。

気のせいかと思うと自分の左手になにか違和感を感じ左手を目の前に持っていく。

すると左手は輝く【暁の断片】を握り締めていた。

そして左手につけている結婚指輪を見て死んだラスラの事を思った。

その様子をバルフレアはなにか言いたげ顔で眺めていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話 忠臣の裏切り

【暁の断片】を手に入れたセア達は王墓から出た。

すると空にリヴァイアサン艦隊が飛んでいてセア達は再び帝国兵に捕まりリヴァイアサンのメインコントロール室に連行された。

そこにはギースが机においてある自分の兜を手でなでていた。

ギースは兜をなでるのを止めアーシェに話しかけた。

 

「再びお目通りがかなって光栄ですな殿下」

 

そう言うとギースは兜をなでるのをやめ、アーシェの方に向く。

 

「先日は実にあわただしくご退艦なさったので・・・我々に無礼があったのではないかと心を痛めておりました」

 

セアは前に来た時に無礼以外の何かをしたのかと衝動的にギースに聞きたくなったが堪えた。

アーシェは不機嫌そうな声でギースに話しかける。

 

「痛む心があるというの・・・本題に入りなさい」

「破魔石を引き渡して頂きたい」

「破魔石って・・・」

 

ギースの台詞にパンネロが反応しラーサーから貰った人造破魔石をポケットから取り出す。

 

「そのような模造品ではない」

 

ギースはイラつきを混ぜた声でパンネロを黙らせ話を続ける。

 

「我々が求めているのは・・・覇王レイスウォールの遺産である【神授の破魔石】だ」

 

ギースが左手に拳を握りながらそういった。

しかしアーシェは意味がわからないという顔をする。

その様子を見てギースは後ろにいる人物に目線を向ける。

 

「まだ話していなかったのかね・・・アズラス将軍」

 

その言葉を聞きアーシェの顔に驚愕が浮かぶ。

ウォースラはアーシェに近づき話しかけた。

 

「殿下【暁の断片】を。あれが破魔石です」

「なぜだウォースラ!」

 

アーシェに【暁の断片】を渡すように促すウォースラを見てバッシュが叫ぶ。

 

「帝国は戦って勝てる相手ではないっ! ダルマスカを救いたければ現実を見ろ!」

 

ウォースラはバッシュに怒気を含んだ声でそう返した。

バッシュが口惜しいように黙り込む。

 

「アズラス将軍は懸命な取引を選んだのですよ。我が国は【暁の断片】と引き換えに・・・アーシェ殿下の即位とダルマスカ王国の復活を認めます」

 

ギースは一旦そこで言葉を区切りアーシェの方に視線を向ける。

 

「いかがです? たかが石ころひとつで滅びた国がよみがえるのです」

「で、あんたの飼い主が面倒を見てくださるわけだ」

 

ギースの言葉にバルフレアは皮肉をこめた言葉を返した。

バルフレアの言うギースの飼い主とはヴェインのことだろう。

ギースはバルフレアの発言に顔を少し歪めた。

確かにギースは有能な武人ではあるが他の公安支部局局長・・・ジャッジマスターと比べると幾らか差がある。

数年前から損得勘定でヴェインを支持していたギースは元は生まれならの政民で13局に勤めるジャッジにすぎなかった。

しかし2年前の戦争で第13局の先代局長フォーリス・ゼクトが生死不明になりヴェインの推薦があってギースがその座に就いたのだ。

ギースがジャッジマスターになった後はヴェインの命令しか殆ど聞いてはいない為、確かにヴェインの飼い犬のような状態である。

ギース自身もそのことには気づいているが次期皇帝確実と呼ばれる人物に顔を覚えてもらえば損にはならない為我慢している。

その為若干不服でありながらも飼い犬を演じている訳だが・・・

ギースは滾る怒りを押さえ平静を装いアーシェに話しかけた。

 

「彼をダルマスカの民とお考えなさい。殿下が迷えば迷うほど民が犠牲になる」

 

ギースはそういって腰の金色の剣を抜きバルフレアの首下にむける。

 

「彼は最初のひとりだ」

「まわりくどい野郎だな。ええ?」

 

そのやり取りを見ていてセアは確信した。

最初見たときから思っていたが目の前にいる金ぴか鎧は確実に器が小さい。

それにしても流石空賊とでもいうべきだろうか命の危機に相手に喧嘩を売る余裕があるとは。

セアがバルフレアに感心しているとアーシェが悔しそうな表情を浮かべながらギースに【暁の断片】を手渡した。

ギースは手に取った【暁の断片】を眺めながら呟いた。

 

「王家の証が神授の破魔石であったとは・・・ドクター・シドが血眼になるわけですな」

「今なんつった!」

 

バルフレアが眼を鋭くして問いかけたがギースは無視する。

そしてウォースラに命令した。

 

「アズラス将軍。ご一行をシヴァへ。数日でラバナスタへの帰還許可がおりる」

 

ウォースラは帝国兵と共にセア達を連行させる。

ギースがウォースラ達が退室したのを確認すると自分以外の軍人がいないか確認する。

そして随伴している研究員に話しかけた。

 

「すぐに魔力を測定しろ」

「本国に持ち帰るまで手をつけるなとのご命令では?」

 

青年の研究員が疑問を口にする。

今回の任務は青年が所属するドラクロア研究所が一枚噛んでおり、破魔石が危険極まりないものであることを知っている。

もしなにかの反動で複合崩壊でもおころうものならとんでもない被害が出る。

だから所長を中心に本国に持ち帰るまで手をつけるなと青年もきつく命令されているのだ。

勿論ギースもそのことは知っているため誤解だというふうに首を振って言った。

 

「あらかじめ真贋を確かめておかんでどうする?」

 

その言葉を聞き青年も偽物の破魔石を持って帰るよりはマシかと思い了承した。

 

「わかりました。直ぐに部下に命令し魔力測定の準備をさせます」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話 挑み、あがく

リヴァイアサン艦隊軽巡洋艦シヴァにて。

手枷をつけ、アーシェ達を連行しているウォースラは遠慮気味にアーシェに話しかけた。

 

「ラバナスタに戻ったら市民に殿下の健在を公表しましょう。あとは自分が帝国と交渉を進めます。ラーサーの線を利用できると思います。彼は話がわかるようです。信じてみましょう」

 

その言葉を聞いたアーシェは立ち止まりウォースラの方を向き彼を睨みつけた。

 

「いまさら誰を信じろというの」

 

その言葉を聞きウォースラはアーシェから顔を逸らし黙り込んだ。

その様子を見たアーシェは再び歩いていった。

ウォースラも国の為とはいえ主君を裏切ってしまった。

少し後悔の念を抱きながらウォースラはアーシェの方を見、呟いた。

 

「ダルマスカのためです」

 

 

 

同時刻リヴァイアサンの研究室にて。

 

「設備が限られておりますので当艦の動力を利用して判定します。石を機関に接続しその反応を・・・」

「手順の説明などいらん。結果を見せろ」

 

研究員が【暁の断片】をリヴァイアサンの機関に接続しながら説明するががギースは説明は不要だと切り捨てた。

説明を拒否されたのを気にも止めず研究員は【暁の断片】の接続を続ける。

そして接続が終わった瞬間魔力を現すメーターが跳ね上がり始めた。

研究員はそのメーターを見ながら数値を叫んでゆく。

 

「・・・6700。6800。6900。7000! 間違いありません神授に破魔石です! 限界が見えません!!」

 

研究員の悲鳴のような報告を聞きギースは呟いた。

 

「これが神授の破魔石・・・まさに神々の力だ。手にした者は第2の覇王か?」

 

そう言ってギースは軽く笑い声をあげる。

 

「ヴェインでなくてもかまわんわけだ」

 

ギースがそう呟くとリヴァイアサンに警報が鳴り響いた。

研究員の一人が驚いたような声をあげる。

 

「なんだこれは!? 反応係数が・・・」

「どうした?」

 

ギースは研究員に疑問をこぼした。

 

 

 

 

同時刻軽巡洋艦シヴァにて。

【暁の断片】の放つミストにあてられフランが凶暴化し手枷を力ずくで壊し手当たり次第に帝国兵を蹴飛ばしていた。

その様子を見たパンネロが困惑しながら疑問の声をあげる。

 

「どうしちゃったの?」

「束縛されるのが嫌いなタイプでね」

 

そう言いながらバルフレアは器用に自分の手枷を外す。

そしたらバルフレアの横にフランが蹴飛ばした帝国兵が悲鳴をあげながら落ちてきた。

 

「・・・ここまでとは知らなかったが」

 

バルフレアは自分の横に落ちてきた帝国兵を見ながらそう言いアーシェの方を向く。

 

「あんたはどうだい?」

「彼女と同じ。脱出しましょう」

 

手枷を外したヴァンが自分達を連行してきた飛空挺の方に走る。

 

「やらせるかっ!」

 

ウォースラがヴァンに向けて剣をふる。

ヴァンは咄嗟に足元の気絶していた帝国兵を蹴り上げ、ウォースラの攻撃を防いだ。

ウォースラは素早く剣を構えなおし叫ぶ。

 

「空族ごときにダルマスカの未来を盗まれてたまるか!」

 

そしてウォースラは帝国兵から押収品を回収し自分が渡したダルマスカ騎士団の剣を持って構えているバッシュの姿が眼に入った。

 

「なぜだバッシュ。お前なら現実が見えるだろうが!」

「だからこそ・・・あがくのだ!」

 

その言葉を聞いたウォースラはバッシュに素早く近づき剣を横にふる。

バッシュは剣でウォースラの剣をふせぐ。

ウォースラは自分の攻撃が防がれたことに気づくと素早く切り返す。

バッシュは防御が間に合わないと後方に下がりよける。

するとウォースラは今度は剣を横にふり、遠隔攻撃をした。

バッシュはしゃがみウォースラの遠隔攻撃をよけ、そのままウォースラに斬りかかる。

ウォースラはバッシュの剣を受け止めつばぜり合いの状態になった。

 

「あがくだと? ハッ、俺が2年間解放軍を率いてきてわかったことはひとつだ! 我々では帝国には敵わない!!」

「だがそれでも挑むことをやめる理由にはならん!!」

「2年も死んだ事になっていたお前がほざくなっ!!!」

 

そういうとウォースラとバッシュの戦いは再び激しいものになった。

 

(あの2人の戦いに割り込むのは無粋だな)

 

セアは2人の戦いを見ていてそう思った。

セアが余所見をしていると帝国兵がセアの背中に斬りかかった。

セアは背中の剣を向け帝国兵の攻撃を止め、後ろに振り返る。

振り返る途中にセアの間接がありえない方向に曲がっていたがセアは気にも留めない。

帝国兵はセアに気持ち悪さを感じ少し震え出した。

その好きにセアは帝国兵の首に向けて剣をふり、帝国兵の頭と体を切り離した。

そしてセアは自分が殺した帝国兵の懐から財布を奪う。

 

「金欠なんだ。許してくれ」

 

セアは顔に笑みを浮かべながらそう言った。

そしてこの状況では先に脱出用の飛空挺を奪った方がよいと考え実行に移す。

 

「ヴァン! パンネロ! 一緒に来てくれ飛空挺を奪う」

 

セアの台詞にヴァンが帝国兵の喉笛を切り裂き答える。

 

「でもあいつが!」

 

ヴァンが剣でウォースラを指し示す。

 

「ウォースラの相手はバッシュに任せよう。俺達は脱出用の飛空挺を奪うんだ!」

 

セアの言葉にヴァンとパンネロは頷き、近づいた。

そしてセアは{バニシガ}を唱えた。

それは対象を透明状態にする魔法でが影が消えないので注意深く見ればばれてしまう。

しかし今ウォースラはバッシュとの戦闘に気がとられていたため、セア達は飛空挺の制圧に向かう。

 

「うおおおお!!」

 

ウォースラが叫び剣をバッシュにむけ剣を横にふる。

バッシュはそれを避け、剣をウォースラに向け突き出す。

するとウォースラは突き出した剣に向けて剣を振り下ろした。

 

「なっ!」

 

バッシュの剣が折れた。

武器が壊されたバッシュは防戦一方になりウォースラの剣を避け続け壁際に追い込まれた。

 

「終わりだ!バッシュ!!!」

 

ウォースラは剣を振り上げ満身の力をこめて振り下ろした。

ウォースラの剣は壁を切り裂きホコリが宙をまった。

そしてウォースラの右ひざに激痛が走る。

 

「なっ・・・!」

 

バッシュは先ほどの攻撃をよけ、折れた剣をウォースラの右ひざに叩きつけたのだ。

ウォースラは剣を落として膝を突きバッシュを見上げた。

その様子をアーシェは辛そうな表情で見ていた。

するとそこにヴァンの声が響いた。

 

「飛空挺を抑えたぞ!」

 

その言葉を聞いたバルフレアは凶暴化していたフランに肩を貸し、アーシェに話しかけた。

 

「アーシェ。行くぞ」

 

しかしアーシェはバルフレアの言葉には従わずバッシュとウォースラの方を見ていた。

 

「俺は祖国のためを・・・」

 

ウォースラはそう言い、腕を床につけた。

 

「わかっている。お前は国を思っただけだ」

 

バッシュは昔ランディスのためを思い国を出た自分が脳裏に浮かんだ。

その言葉を聞いたウォースラは後悔をまぜた声で話す。

 

「ふん。功を焦ったのも事実さ。焦りすぎたのか・・・お前が戻るのが遅すぎたのか・・・」

 

そうだ。せめて王宮への襲撃よりまえに戻ってきてくれていたら・・・

ありもしない仮定をしても無駄な話だとウォースラは自嘲した。

どちらにせよ・・・主君を裏切った臣下等必要あるまい。

 

「俺はもうお仕えできん。殿下を頼む」

 

かつての戦友の願いにバッシュは頷き、セア達が奪った飛空挺の方に走っていった。




今思えば互角の力量の奴同士の戦いってこれが最初?
いままではセアによる蹂躙戦だったし・・・

タイトルはあのダークファンタジー漫画の髑髏の騎士の台詞からぱくった。
「もがき、挑み、足掻く」にしたかったんだけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話 破魔石の力

戦艦リヴァイアサンにて。

 

「機関出力急速に低下・・・馬鹿なマイナスだと!? 艦の浮力を保てません!」

「何が起きたというのだ!」

 

操縦者の報告にギースが疑問を叫ぶ。

 

「破魔石です! 艦の動力を吸収しています!」

 

研究者が破魔石を接続した機関をみながら叫ぶ。

 

「止めろ!早く止めんか!」

「やっています!ですが・・・」

「まずい!反転した!!」

 

接続していた機関が爆発した。

既に機関出力は墜落寸前のところまで落ちている。

 

「限界到達まで300! 複合崩壊だ!!」

 

 

 

 

軽巡洋艦シヴァにて。

ウォースラは天井を見上げていた。

思えば2年前の調印式の際バッシュが陛下を暗殺したことを信じられなかったがダルマスカ兵の数名が目撃者で否定できなかった。

互いに信じあった戦友が裏切り徹底抗戦を唱え、陛下を暗殺したと目撃者から聞いた。

そして自分はラバナスタに戻り、殿下を盟友のオンドール侯に助けを求めようと思った。

だが・・・オンドール候はバッシュの処刑とアーシェの自殺を発表しダルマスカに降伏を促した。

オンドール候も帝国に屈してしまったのだと思った。

そして自分はダルマスカ騎士団の残党を結集し解放軍を組織し帝国と2年間戦い続けてきた。

しかし解放軍を抜ける者・帝国と内通する者もでてくるようになった。

度重なる裏切りを受けた自分は誰も信じきれなくなってしまった。

そんな時バッシュが生きてラバナスタに帰ってきた。

そしてあの調印式は帝国の罠であったことを知った。

バッシュはあの時にこう言った。

共に戦えるかと。

だが疑心暗鬼の状態であった自分はそれを拒否した。

しかし少しだけまた他者を信じてみようかとビュエルバに赴きオンドール候と面会した。

そしてバッシュが殿下を助けるためにリヴァイアサンに乗り込んだと知った。

自分が手をこまねいている内に戦友は既に行動を起こしていたのだ。

自分はオンドール候に頭を下げジャッジの鎧を身に纏いリヴァイアサンに乗り込み殿下を救出した。

そして侯爵を通じて入ってくる情報に自分は帝国から祖国再興をはたす展望が描けなくなった。

そこで・・・ラバナスタに戻った際ヴェインから提案がきた。

帝国は【暁の断片】と引き換えにダルマスカの復活を認めようと。

自分も最初は拒否した。

だが・・・他に祖国を取り戻す方法が思いつかなかった。

そして渋々ではあったが結局ヴェインの提案に乗ってしまった。

たとえ戦い続けたとしても独立を取り戻すことが出来ると思えずに・・・

結果としてダルマスカ王国の名門アズラス家の騎士が主君を裏切ることとなってしまった。

ウォースラは自嘲の笑みを浮かべた。

その直後、シヴァは異常な量のミストによって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

セア達はシヴァで奪った飛空挺(レモラ)に乗り、ミストの暴風に揺られていた。

 

「おい!冗談じゃねぇぞ!」

「ミストよ。ミストが実体化してる!」

「ありかよ!そんなの!?」

 

周りが愚痴を言いながら騒いでいたがセアは酔いが気にならないほど窓の外を凝視していた。

この力を自分は見たことがある。

かつて覇王が使っていた力だ。

そして自分の故郷と家族を奪った力だ。

セアに怒りが込み上げてくるが理性でそれを抑える。

一体目の前に広がる忌々しい力を使ったのは誰だ?

 

「見て!」

 

パンネロが指差すほうをセアは見た。

リヴァイアサン艦隊を吹き飛ばしたミストの中心に光り輝く石があった。

それを見てアーシェが呟く。

 

「暁の断片!?」

「拾ってくだろ!」

 

そういいバルフレアはレモラを光り輝く石の方へ向けた。

因みに急にレモラを方向転換した時にセアの気持ち悪さがピークに達して吐いた。

・・・でセアが吐いた液がバッシュに直撃した。

バッシュはセアが狙ってやっているのではと少し疑ったがセアが乗り物酔いで失神しているのを見て疑いは晴れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話 大戦の予感

アルケイディア帝国帝都アルケイディスにて。

皇帝グラミスは元老院の議会に出席していた。

 

「ロザリア帝国大本営が演習を装って大軍を集結させております。開戦の大義名分が整うのを待って・・・我が国に先制攻撃するはらかと」

「これほど緊張が高まった時期にリヴァイアサン艦隊を失ったのは痛手でしたな」

「いまロザリアに攻め込まれれば苦戦は確実。かかる事態を招いた全責任は・・・独断で艦隊を動かしたヴェイン殿にあります」

 

元老院議員の議論を聞き、元老院議長グレゴロスはグラミスに話しかける。

 

「ヴェイン殿は裁かれねばならない。それが元老院の総意です。陛下。ご子息とはいえど厳正な処分を」

「ヴェインを庇うか、予が皇帝の座から降りるか・・・ふたつにひとつという訳か」

 

グラミスは拳を握りながらそう言った。

 

「ご心痛のほど。お察し申し上げます」

 

グレゴロスがグラミスにそう言うと隣の議員が声をあげる。

 

「なに。ヴェイン殿のかわりはラーサー殿が立派におつとめになるかと」

「あれはヴェインになついておるしまだ幼い」

 

グラミスはグラゴロスの横にいる議員の方を向きそう言った。

ラーサーはまだ12歳である。

それに今の状態でラーサーが皇帝になれば元老院の傀儡になりかねない。

しかし別の議員が声をあげる。

 

「いつまでも幼くはありますまい。今はヴェイン殿の動きを探っておられるとか。活躍の場を得て意気込んでおられるようですな」

「誰がそそのかしたものやら」

 

グラミスはラーサーをそそのかしたのは元老院であると考えている。

そしてその考えはあたっている。

元老院がラーサーに人造破魔石を渡し、ラーサーは信頼していたヴェインに不信感を募らせている。

 

「さて・・・かつてヴェイン殿も兄君ら過ちを断罪されたではありませんか。・・・あの時は陛下のご命令でしたが」

 

グラミスは思い出したくないことを思い出し顔を俯ける。

そして死病の症状でせきがでた。

グレゴロスはグラミスのせきが収まるのを待たず話しかけた。

 

「ご安心くださいグラミス陛下。われら元老院が支える以上・・・アルケイディア帝国は安泰です」

「よかろう。至急ヴェインを帝都に戻す」

 

グラミスはそう言って会議を打ち切った。

まだ多くの問題を抱えている今ヴェインを処断するの論外だ。

しかし元老院に対抗しようにも老い先短い自分では恐らく途中で死んでしまう。

次期皇帝になるべきヴェインは元老院に恐れられており、リヴァイアサン艦隊壊滅の件を理由に皇帝になることは承認しないだろう。

だから元老院はラーサーを自分達に都合のいい人形として皇帝にするのは簡単に予想できる。

ヴェインを呼び戻し元老院への対抗策を考えなくてはならない。

 

 

 

 

ロザリア帝国帝都ルブラにて。

琥珀の谷にある都市の王宮でロザリア帝国皇帝ユリウス・マルガラスは諜報部を統括するアルシド・マルガラスからの報告を受けていた。

 

「大本営め・・・また私の許可を得ずに行動しおって」

「ですが、オーダリア東部及びケルオン大陸にある植民地に分散して軍事演習という名目ですので許可をとる必要がありません」

 

ロザリア帝国では前マルガラス朝が終焉して以来大本営と皇帝が対立している。

一番の原因は皇帝が直接軍を支配下においていないからだ。

軍の演習も一定数を超えない限り大本営の独断で動かすことができる。

ユリウスは頷き、報告の続きを促す。

 

「国外諜報課の報告は?」

「ビュエルバの領主オンドール侯爵が病を理由にビュエルバを離れ、反帝国組織を結集し始めているそうです」

「確かか?」

「確かな筋の情報です」

「面倒な。国内諜報課からの報告は?」

「報告によると大本営にいる強硬派の将軍達も東部へ赴きいております。侯爵が動けば、彼らも動くでしょう」

「あまりよい報告が無いな」

「しかし対アルケイディア諜報課よりよい話もあります」

「なんだ?」

「アルケイディアの反戦派と協力をとりつけることができたとのことです」

 

それは吉報だ。

ユリウスは大戦を望んでいない。

内政に力をいれたいので戦争など願い下げである。

 

「反戦派からの手紙でございます」

 

そういってアルシドは胸のポケットから書類を出し、ユリウスに手渡す。

そしてユリウスは手紙の内容を読み、アルシドに話しかける。

 

「これはまた大した奴が反戦派の代表だな」

「私が陛下の代理人としてそこに書いてある場所に行くつもりです」

「ふむ、許可する。頼んだぞアルシド」

「はっ」

 

アルシドはユリウスに礼をして退室した。

廊下を歩いていると黒い髪をした人物が話しかてきた。

 

「よおアルシド。大本営には手を焼かされるな」

「ああ。アダス」

 

黒い髪の人物の名はアダス・マルガラス。

国内の災害や疫病の情報を収集する国内諜報課の統括である。

だが大本営が常に暴走状態のロザリアであるから殆どが大本営の情報の収集ばかりのため対大本営諜報課とも言われている。

 

「東の方に行くんだろ。クライスさん元気かな?」

「貴方はまた昔の上司の話か」

「そうだよ。悪いか?」

「いや」

 

20年程前に諜報部に入った時の上司のことをアダスは尊敬している。

アルシドもアダスと同期で同じ上司であったが彼は大した手腕の持ち主であった。

1年ほどで彼は諜報部から抜けたが情報操作の上手さはアルシドも評価しているが会うたびに言われても。

 

「アルシド様」

 

美しい声が聞こえてきた方向にアルシドとアダスは向いた。

そこには綺麗で長い金髪の笑顔が似合いそうな美女がいた。

体系は・・・ボンッキュッボンッとでもいえばいいだろうか。

 

「カナート・・・どうしました?」

「準備が整いました。直属の部下も全員連れて行くでよろしいのですね?」

「ああ」

 

するとアルシドはカナートについて行こうとするとアダスがアルシドの肩を掴む。

 

「なんだ?」

「毎回言っているような気がするが・・・何故お前の直属の部下は綺麗な女性ばかりなんだ?」

「私の趣味だ」

 

そう言ってシドはカナートと一緒に向こうへ歩いていきその様子をアダスは呆れた顔で見ていた。

 

 

 

 

 

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。

セア達はラバナスタのターミナルにいた。

もう前からこの会社はブラックゾーンに入っていることは知っていたがセアは呆れていた。

だってこの前のアトモスと違いレモラは戦闘機だ。

それをターミナルに止めても会社はなにも言ってこなかった。

今の日本でたとえると空港に爆撃機を止めてなにも尋ねてこないみたいな話。

そのことに呆れているセアに街の噂話が聞こえてきた。

 

「一体何の騒ぎだ?」

「西の砂漠で帝国の飛空挺が事故を起こしたらしい」

「冗談はよせ。西の砂漠はヤクトだぞ」

 

その噂話を聞きセアはアーシェに話しかけた。

 

「騒ぎが収まるまで姿を隠したほうがよいかもしれません」

「そうだな。で? 何処に隠れるんだ?」

 

バルフレアの言葉にセアは軽くを傾げ、何か思いついたという風に手を叩いた。

周りが冷たい視線で見ていることに気づきポケットから鍵を出し、パンネロに渡した。

 

「これミゲロさんの店の倉庫のかぎじゃない」

「だからそこに身を隠してもらおう。ヴァンと俺でミゲロさんに説明しにいくからパンネロは王女様達を案内してやって」

 

そう言ってセアはヴァンを連れてミゲロの店に向かった。

店に着くと勝手に何処に行ってたんだ!?とミゲロの雷がセアとヴァンに落ちたのは言うまでも無い。

 

 

 

 




レイスウォール王墓編完結。

次章でセアの過去がかなり明らかになると思います。
・・・いままでの分だけでも勘のいい人はセアの過去がだいたいわかってると思いますがw

次章はケルオン大陸編です。お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神都編(旧称:ケルオン大陸編)
キャラ紹介(ネタバレあり)


新章突入ってことでまたキャラ紹介です。


++メインキャラ

それぞれが目的を持ち、共にイヴァリースを旅している。

 

+クライス・セア・グローリア

年齢・700歳以上。性別・男。種族・ヒュム? 出身地・不明。

オリジナルキャラで本作の主人公。

昔ロザリア帝国の諜報部にいたことがあるらしい。

 

+ヴァン

年齢・17歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・王都ラバナスタ

FF12の主人公。セアの弟子。

原作より空気では無くなってる筈by作者。

 

+バルフレア

年齢・22歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・不明

「最速の空賊」の異名で呼ばれる空賊。

あくどい奴ばかりターゲットにしている義賊である。

 

+フラン

年齢・不明。性別・女。種族・ヴィエラ。出身地・エルトの里。

バルフレアの相棒。ミストに敏感。

会話に参加させにくいby作者。

 

+バッシュ・フォン・ローゼンバーグ

年齢・33歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・ランディス共和国。

ダルマスカ王国の元将軍。表向きはアルケイディア帝国に処刑された事になっている。

名誉は帝国によって奪われたが騎士の誓いは未だに忘れていない。

 

+アーシェ・バナルガン・ダルマスカ

年齢・20歳。性別・女。種族・ヒュム。出身地・ダルマスカ王国。

ダルマスカ王国の王女。表向きは自害したことになっている。

祖国再興と帝国への復讐を願っている。

 

+パンネロ

年齢・16歳。性別・女。種族・ヒュム。出身地・王都ラバナスタ。

ヴァンの幼馴染。家族がいたが2年前の戦争で全員死んでいる。

踊り子を目指しているということが忘れられてる気がするby作者。

 

 

++アルケイディア帝国

バレンディア大陸に覇を唱える二大帝国のひとつ。

2年前にナブラディア・ダルマスカの2カ国を侵略した。

 

+グラミス・ガンナ・ソリドール

年齢・63歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・アルケイディア帝国。

アルケイディア帝国皇帝で死病に冒されている。

元老院に対抗するためにヴェインを帝都に召還した。

 

+ヴェイン・カルダス・ソリドール

年齢・27歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・アルケイディア帝国。

「戦争の天才」と称され、次期皇帝確実と呼ばれる人物。

現在はグラミスからの召還状によって帝都にいる。

 

+ラーサー・ファルナス・ソリドール

年齢・12歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・アルケイディア帝国。

ヴェインの弟。アーシェとバッシュの生存を知って以来ヴェインに不信感を募らせている。

幼い部分も多く残っているが聡明な人物である。

 

+ジャッジ・ガブラス

年齢・33歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・ランディス共和国。

「帝国こそわが祖国」と言い、己の力のみで外民からジャッジマスターに成り上がった。

兄がいるらしくその兄を憎んでいる。

 

+ジャッジ・ギース

年齢・41歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・アルケイディア帝国。

第13局のジャッジマスター。第8艦隊艦長。

【暁の断片】の暴走で第8艦隊もろとも消滅した。

 

+シドルファス・デム・ブナンザ

年齢・58歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・アルケイディア帝国。

ドラクロア研究所所長。ヴェインとは親友。

独り言が激しく、父に恐怖を感じた息子が家出したとかなんとか。

 

+グレゴロス

年齢・57歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・不明。

元老院議長。ヴェインを失脚させ、ラーサーを自分達の傀儡として皇帝の座につけようとしている。

因みに年齢は適当by作者。

 

 

++ダルマスカ地方。

2年前にアルケイディア帝国が滅ぼしたダルマスカ王国の領土の事。

ヴェインが執政官に就任してからは治安は回復していっている。

 

+ウォースラ・ヨーク・アズラス

年齢・38歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・ダルマスカ王国。

ダルマスカ王国の将軍。祖国が滅びてからは解放軍を率い帝国と戦ってきた。

最終的に帝国との交渉により祖国再興を目論むがバッシュとの一騎打ちに破れ、第8艦隊と運命を共にした。

 

+ミゲロ

年齢・不明。性別・男。種族・バンガ。出身地・ダルマスカ王国。

ラバナスタの商人で商売はかなり成功している。

ヴァンやパンネロの保護者的存在。

 

+カイツ

年齢10歳・。性別・男。種族・ヒュム。出身地・王都ラバナスタ。

ヴァンを兄のように慕う孤児。

手先が器用。

 

+トマジ

年齢・18歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・不明。

砂海亭の店員。セアから金をぼったくった猛者。

トマジがこんなキャラになったのはFF12RWのPVのせいだby作者。

 

+ダラン

年齢・不明。性別・男。種族・不明。出身地・不明。

物知り爺さん。何故か色々なことを知っている。

多分その気になればこの爺さんは政治家になれるとおもうんだby作者。

 

 

++ビュエルバ

空中大陸ドルトニスにある都市国家。魔石の輸出と観光が主な財源。

この国は代々オンドール侯爵家が治めている。

 

+ハルム・オンドール四世

年齢・61歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・空中都市ビュエルバ。

ビュエルバの領主で親帝国的な政治をしているが裏で反帝国組織を支援している。

第8艦隊が壊滅した頃に病を理由にビュエルバを離れ、反帝国組織を結集させ解放軍を組織しようとしている。

 

 

++ロザリア帝国

オーダリア大陸に覇を唱える二大帝国のひとつ。アルケイディアとは犬猿の仲。

常に大本営が暴走状態であり、皇帝の権力がアルケイディアと比べ低い。

 

+ユリウス・マルガラス

年齢・30歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・ロザリア帝国。

ロザリア帝国皇帝で10年ほど前に帝位に就いた。

軍を直接自分の指揮下におこうとしている。

 

+アルシド・マルガラス

年齢・37歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・ロザリア帝国。

諜報部を統括する人物。アダスとは同期。

若干性格弄りすぎたかもしれんby作者

 

+アダス・マルガラス

年齢・37歳。性別・男。種族・ヒュム。出身地・ロザリア帝国。

国内諜報課を指揮する人物で大本営の情報収集をしている。

アルシドの女癖に辟易している。

 

+カナート・イグス

年齢・24歳。性別・女。種族・ヒュム。出身地・ロザリア帝国。

アルシド直属の部下で美人。

彼女がアルシド直属の部下のまとめ役的存在。




ロザリア帝国のキャラはアルシド以外オリキャラです。

ケルオン大陸編の更新はだいぶ遅くなる。(貯めてたぶんにおいついたから)

2013-9-22
アルシドの年齢を勘違いして37歳だと思ってた。原作は27歳。
ということでオリ設定でアルシドの年齢を変更させて頂きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話 力を求めて

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。

ミゲロの店の倉庫に身を隠して4日後。

セア達は倉庫に集まっていた。

 

「帝国の艦隊を消し飛ばしたのは【暁の断片】なのだな」

「察しがいいな」

「あの桁違いの破壊力・・・心当たりがある。アーシェ様もご存知のはずです」

 

バッシュの言葉を聞き、アーシェは呟く。

 

「ナブディス・・・」

 

アーシェの言葉にバッシュは頷き、続ける。

 

「旧ナブラディア王国の都・・・ラスラ様の故郷だ。先の戦争中帝国軍が突入した直後に原因不明の大爆発で敵味方もろとも・・・あの国にもレイスウォール王の遺産のひとつ【夜光の砕片】が伝わっていた」

 

バッシュの説明にバルフレアも何か嫌そうな声で言う

 

「破魔石・・・か。奴等が夢中になるわけだ」

 

アーシェは【暁の断片】を掴み声をあげる。

 

「あの戦争も調印式の罠もヴェインはこの力を狙って・・・!」

 

アーシェは決意をするように言う。

 

「レイスウォール王の遺産・・・破魔石は帝国には渡せません」

「とっくに渡ってる。【黄昏の破片】にたぶん【夜光の砕片】も。でなきゃ人造破魔石なんて合成できるか」

「では【暁の断片】の力で帝国に対抗するだけです」

 

バルフレアの台詞にアーシェは立ち上がって反論する。

 

「ダルマスカは恩義を忘れず、屈辱も忘れず刃を以って友を助け、刃を以って敵を葬る。私の刃は破魔石です。死んでいった者達のため・・・」

 

アーシェはそこで一旦言葉を区切り、決意した表情で続ける。

 

「帝国に復讐を」

 

部屋に重苦しい空気が流れ、全員が黙り込む。

沈黙を破ったのは空気を読めないヴァンである。

 

「使い方わかるのかよ」

 

アーシェはヴァンの方に振り向くが実際使い方を知らないため反論は出来なかった。

するとフランが呟いた。

 

「ガリフならあるいは」

 

セア以外の全員がフランの方に目線を向ける。

 

「古い暮らしを守るガリフの里には魔石の伝承が語り継がれているわ。彼らなら破魔石の声が聞こえるかもしれない。・・・危険な力の囁きが」

「危険だろうと今必要なのは力です」

 

アーシェはフランにそう言いながら近づき言葉を続ける。

 

「無力なままダルマスカの復活を宣言しても・・・帝国に潰されるだけ。ガリフの里までお願いします」

「オズモーネの平原を越えた先よ」

「遠くないか?」

 

フランとアーシェの会話を聞き、バルフレアが声をあげる。

 

「また報酬・・・ですか」

「話が早くて助かるね。そうだな。そいつが報酬だ」

 

バルフレアはアーシェの左手の指輪に指をむけそう言った。

 

「これは・・・何か他の・・・」

「嫌なら断る」

 

バルフレアはそう言ってアーシェに手を差し出す。

アーシェは躊躇いながらラスラとの結婚指輪を外し、バルフレアに渡した。

バルフレアは軽く指輪を見てアーシェに言う。

 

「そのうち返すさ。もっといいお宝を見つけたらな」

「なんだよもっといい宝ってさ?」

 

バルフレアは出口に向かいながら話す。

 

「さあな。見つけた時にわかるのかもな。ヴァン、お前なら何が欲しい?何を探している?」

「オレ?そりゃあさ、その・・・ほら、あれ。・・・オレは・・・」

 

そんな事を言っているうちに倉庫の中にはセアとヴァンだけになった。

セアは・・・こちらの世界で言う考える人の彫刻のような体勢で固まっていた。

そんなセアに気づきヴァンが声をかける。

 

「セア」

 

名前を呼ばれたにも関わらずセアは微動だにしない。

ヴァンは大きく息を吸い込んでもう一度呼んだ。

 

「セア!!!」

「・・・ん?どうした馬鹿弟子」

 

セアはヴァンにいつもの明るい口調で話しかけたがヴァンが心配気味な声で言う。

 

「セア、どこか悪いのか? 倉庫に集まった時からずっと黙ってたけど」

「・・・いや、ただ考え事をしていただけだ」

 

セアはこの倉庫で交わされた会話が気にならないほど考え込んでいた。

それはアルケイディアの・・・いや、シドの目的である。

覇王の遺産を集めるのはわかる。

あんなものが他国にあるなら心配で夜も眠れない。

だが何故人造破魔石を造る必要がある?

破魔石がひとつあればロザリア帝国に圧勝する事も可能だろう。

なにせあんな小さな石ひとつで艦隊や都市を跡形も無く消し去る力があるのだから。

だから破魔石はひとつでよく、他国に渡ることを防ぐために残りの2つは破壊してもいいくらいだ。

なのにそれの製造を試みているとはどういうことだ?

そこで思い出すのがリヴァイアサンでギースが言っていた台詞だ。

ドクター・シドが血眼になって破魔石を調べているということ。

そして王宮でのシドとの会話を思い出す。

ロザリアなど前座にすぎないと彼は言っていた。

ということはアルケイディアはロザリアなど目ではない脅威があるとでもいうのか?

とりあえず・・・

 

(面倒だが知りたければ王女についていくのが一番か)

 

セアはそう思いアーシェに同行することを決めた。

セアが国家の思惑に関心を持ったことなど何百年ぶりであろうか・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話 水面下の情勢

「ダラン爺になにか用があるのですか?」

 

ダランに会いたいと言うアーシェにセアは疑問をぶつけた。

 

「いえ、ですが王墓に王家の証があることを知っていた人です。破魔石についてもなにかご存知ではと」

「・・・確かに聞いてみる価値はありますか」

 

セアはバルフレアに話しかけた。

 

「旅の準備は俺と王女様抜きでやっていてくれないか?」

「ああ」

 

バルフレアが了承し、セアがバザーから離れようとするとバッシュが話しかけてきた。

 

「君もガリフの里に行くのか?」

「ああ。馬鹿弟子とその友達が心配なので」

「・・・君は面倒事が嫌いだとおもっていたのだが」

「ああ、そうだよ。普段ならヴァンを無理やりにでも止めるだろうな」

「なら何故だ?」

「明確な理由はないが好奇心と言っておこう」

 

セアはそう言うとアーシェを連れてダウンタウンの方へ歩いていった。

ダウンタウンは元は下層部分にあった倉庫で、2年前の戦争で帝国の市民権を持たないダルマスカ人はこの下層部分に転居させられた。

そんなダウンタウンの入り口付近に住んでいる変なじいさんがいる。

そのじいさんこそものしりのダラン爺である。

セアがダランの家に入るとダランが声をかけてきた。

 

「おお、セア。一体何処に行っておったんじゃ?」

「ちょっとヴァンたちと一緒に覇王の墓を荒らしてきた」

「ほほう。つい最近王宮の宝物庫から宝を盗み出しおったと思えば今度は覇王の遺産でも盗み出しおったか?」

「・・・一応」

 

セアは苦笑しながらそう答えた

あの魔人が一応遺産だから盗んだといえば盗んだいえるのだが・・・

セアの答えにダランは軽く笑い、アーシェの方に目線を向けた。

 

「それで、そちらの女性は誰じゃ?」

「ああ、前に説明した王女様だ」

「アーシェ王女か・・・して、この老いぼれになんのようかの?」

 

ダランがアーシェに問うとアーシェは偽らず答えた。

 

「あなたは破魔石というものをご存知ですか?」

「破魔石・・・」

 

ダランは首を捻って唸っていたが少しすると顔をあげ、アーシェの方を見た。

 

「破魔石か・・・確か覇王と破魔石に関する伝説があったのう」

「それは?」

「【かつてレイスウォールは神に認められ、剣を授かり、己に与えられた試練を耐え、破魔石によって乱世を平らげた】」

「「・・・?」」

 

ダランの語った伝説の無いようが理解できず、首を傾げた。

その様子を見てダランも黙り込む。

 

「意味がわからないな・・・」

「ええ・・・」

 

アーシェとセアはそういうとダランが

 

「破魔石に関する伝説はかなり古い書物にしか書かれておらんからの・・・そしてそれらに書かれているのも信憑性があまりない」

「どうしてですか?」

「何故なら破魔石に関する話になると必ずと言ってもいいほど【神】という存在が出て、それを誰かに授けたという話しかないのじゃ」

「神・・・か」

「どうしたセア?」

「いや、そういえば覇王も神々に愛されたとか伝説で語られていたなと思ってな」

「そういえばそうじゃのう」

「ところで話が変わるがなんで王家の証が王墓にあるってしってたんだ?」

「書物を読み漁っていたらでてきただけじゃよ」

「さすがだな」

「だてにものしりを名のっとらんよ」

 

そういうとダランは少し真剣な声で話しかける。

 

「破魔石のことはひとまずおいといて、今の情勢をお前達は知っておるか?」

 

ダランの言葉にセアもアーシェもひとまず破魔石について考えるのをやめる。

そしてアーシェが切り出した。

 

「なにかあったのですか?」

「西のヤクトで西方総軍の第8艦隊が全滅したという話はしっとるか?」

 

ダランの問いにセアとアーシェは首を縦に振る。

 

「帝国の発表によれば【事故】らしいがの・・・まぁ、それはおいとくとして、そのせいでヴェインが帝都へと帰った」

「なんでだ?」

「元老院から西方総軍司令としての責任を問われてな」

「相変わらずアルケイディアはソリドール家と元老院の仲が悪いな」

 

セアの言うとおりアルケイディア帝国ではソリドール家と元老院との対立が100年以上続いている。

主に政治は皇帝が取り仕切っているため、元老院は廃帝権などの権力を持つ事を除けばお飾りに近い。

だから自分達の影響力を強めようと元老院は必死なのだ。

 

「それにビュエルバの侯爵もなにやら動きがあるようでの」

「おじさまが?」

「表向きは病気療養のためにビュエルバからいなくなったと言っておるが・・・どうやら各地の反帝国組織に働きかけておるようじゃのう」

「どうしてそんなことを・・・」

「ダルマスカに張り付いておった第8艦隊が全滅し、厄介じゃったヴェインも本国へ帰ったからじゃろうな」

「で、今のアルケイディアはどういう状況なんだ?」

「グラミス皇帝は死期が近いらしいからの・・・このままいけばヴェインは元老院によって失脚するといったところかのう」

「ヴェインの動向はなにかあるか?」

「理由はわからんが対ロザリアの最前線にいるジャッジマスター達を召集令をだしたようじゃが・・・」

「帝国軍はどうなっているのですか?」

「アルケイディア軍はダルマスカ地方に駐屯しているガルテア機動軍を除いて平時体制じゃ」

「何故ガルテア機動軍だけ平時体制じゃないんだ?」

「ロザリア帝国に動きがあった」

 

セアとアーシェが表情を変えた。

アルケイディア帝国の長年の宿敵、ロザリア帝国に動きがある。

ダルマスカ再興を目的とするアーシェにとって好ましい事態ではない。

 

「ロザリア帝国東部に軍事演習という名目で大軍を集結させておるようじゃ」

「随分と大胆な行動に出たな」

「アルケイディア軍の精鋭が集まっておったリヴァイアサン艦隊が全滅し、【戦争の天才】と称されるヴェインはダルマスカからいなくなってしまったからじゃろう。アルケイディアに隙あらばロザリアが攻め込んできて戦争がおこるかもしれん」

「ただでさえアルケイディアとロザリアの両帝国は犬猿の仲なのにアルケイディアがダルマスカを占領してからは何時開戦してもおかしくない状況だったからな」

「ロザリアからしてみればナブラディアに軍を置きバレンディア大陸進出の足がかりとするつもりじゃったのに2年前の戦争でナブラディアは敗れ、アルケイディアのオーダリア大陸進出を許してしまったからのう」

「表向きはヴェインは本国に戻り、侯爵は病気でビュエルバにいなくて、ロザリアは国境付近で軍事演習か」

「だけど水面下では元老院がヴェインを蹴落とそうとしていてヴェインも何か企んでいる。おじさまは反帝国組織を束ねていて、ロザリアは何時でもアルケイディアに攻め込んできてもおかしくない状況」

「どう考えても穏やかな状況じゃないな」

「更に言うならアルケイディアとロザリアの間で戦争が起これば主戦場となるのは・・・」

「・・・ダルマスカ」

 

アーシェは自分の無力さに怒り自分の手を握り締めた。

セアはダランの話を聞きあることを思っていた。

もうダルマスカ再興というような一国で収まるような規模の話ではない。

なんと表現すればいいのかわからないがガルテア連邦崩壊の時に感じたものと似ている。

恐らくこれは時代が動く前触れなのだろう。

その先にあるのが二大帝国のどちらかの栄光か、それとも二大帝国が力を失い再び群雄割拠の時代へともどるのか。

あるいは・・・

新しい時代の訪れをセアは予感していた。




会話部分多すぎかな?

あと覇王の三男バナルガンってかいてたけどバナルガンは次男ですよね。
修正しますのでどうか許してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話 亡国の王と王女

セア達はダウンタウンから出て、商店街の方を歩いていた。

するとカイツと出会い話しかけてきた。

 

「セアさん。久しぶり!」

「ああ、カイツ久しぶりだな」

「隣の人、誰?」

 

セアは軽くアーシェの方を見て、セアはカイツに話しかけた。

 

「この人はアマリアって言って、これからガリフの里に行くんだよ」

「ガリフの里って・・・ケルオン大陸にある?」

「ああそうだ。で、俺や馬鹿弟子が護衛として一緒に行くんだ」

「すっげぇ! でもケルオン大陸って危ない場所なんだよね?」

「ああ、危険と言えば危険か。でも別に未開の地って訳じゃないんだからさ」

 

ケルオン大陸はバレンディア・オーダリアの両大陸に比べるとミストが不安定でヤクトが多い。

強力な魔物が多く、野蛮な亜人種もいるので確かに危険ではある。

 

「まぁ、ケルオン大陸って言ってもガリフの里があるのは北西部のバングール地方だからな。あそこはミストが安定していてそこにいるガリフ族も危険な存在じゃないし」

「へぇー。ガリフの里ってバンクール地方にあるんだね。知らなかった」

「まぁあまり知ってても意味無いからな」

 

そんな感じでカイツとセアは暫く話していた。

するとカイツが急に声を小さくして話しかけてきた。

 

「ねぇ、セアさん」

「なんだ?」

「ヴェインが帝都に帰っちゃたのって知ってる?」

「ああ」

「ヴェインが帰ったのを惜しむ人が結構多いんだ」

 

カイツの言葉を聞いたアーシェがなにか言いたそうにしていた。

セアはそれを認め、アーシェに小声で言った。

 

「黙っていてください」

「!」

 

アーシェにそう言うとセアはカイツの方を向き、会話を続ける。

 

「なんでだい?」

「だってヴェインが来てからラバナスタの暮らしはよくなったんだ。帝国兵も我が物顔でうろつかなくなったし」

「そうか」

「ねぇ、ヴェインって信じてもいいのかな?」

 

アーシェは激情に任せ反論しそうになるのを必死に自制する。

するとセアはカイツにこう言った。

 

「君が決めればいいんだよ」

「え?」

 

あまりに予想外な返答を聞き、カイツは首を傾げる。

 

「だってさ、他人に振り回される必要なんかないだろ? 周りがヴェインの事を信じてても君が信じられないなら信じなければいいし、逆でもそうだろ?」

「う、うん」

「ところでカイツ。ミゲロさんの店の手伝いしなくていいのか?」

「いっけね。忘れてた!」

 

そう言ってカイツは走り出した。

セアはカイツの後姿を見ながら声をかける。

 

「ミゲロさんや他のみんなによろしくな!」

「うん!」

 

その言葉が聞こえて直ぐカイツは人ごみの中に消えていった。

 

 

 

商店街を出て、バザーを歩いているとアーシェが話しかけてきた。

 

「何故あのような事を言ったのですか?」

「ん? なにか変なことでも言いましたか?」

「だってあなたはヴェインが2年前の戦争でした事を知っているでしょう!?」

 

怒気を含めながらアーシェはそう言った。

するとセアは何処か納得したように頷いた。

 

「ええ、そうですね」

「なら何故、ヴェインを信じないほうがいいと言わなかったの!?」

「では、2年前の戦争はアルケイディアから見るとどうだったのでしょうか?」

「どういう意味?」

「恐らくヴェインは戦争前から破魔石のことを知っていたのでしょう。そしてそれを持つナブラディア王国が宿敵のロザリア帝国と手を結んでいた訳です」

「それがどうしたの?」

「・・・もし親ロザリア派がも勝利した場合、ナブラディアの【夜光の砕片】はロザリアに渡っていたでしょう。そしてそうなればアルケイディアは間違いなくロザリアに滅ぼされます。アルケイディアの平和を考える上で当然でしょう」

「ですが、帝国はダルマスカにも攻め込んできたのよ!!」

「宣戦布告された以上、アルケイディアがダルマスカに攻め込むのは当たり前だと思いますが」

「・・・ではあの調印式の罠は!?」

「善悪抜きで効率だけ考えれば・・・まぁ悪くない判断でしょう。ダルマスカが【黄昏の破片】を持っている限り、アルケイディアは安心できないでしょう」

 

セアは個人的なヴェインに対しての評価を言っただけのつもりだった。

普通に考えれば彼は帝国のために動いただけだ。

善か悪で言うなら調印式の罠は確かに悪であろう。

だが悪を内包しない正義など存在しない。

大体ヴェインほどでは無いにしろそんなことはどこの国でもしていることだ。

元一国の主であるセアから言わせれば正義の反対は悪ではない。

正義の反対は唯の悪役気取りである。

何故なら正義など偽善と大した差などないからである。

が、ふとアーシェの方を見ると口惜しそうに拳を握っている。

それを見てセアの胸にどす黒い感情が溢れてくる。

はっきり言ってセアにはアーシェに王としての資格があるとは到底思えない。

セアのアーシェに対する評価は覇王の末裔だから下がりやすいと自覚しているがそれでも酷いと思っている。

そんなことを思っていると己の感情が抑えづらくなり、セアは頭を下げる。

 

「・・・失礼しました。俺は他に用事があるので先にヴァン達と合流しててください」

 

そう言ってセアは早足でバザーの奥へとまるで逃げるように消えていった。




次回でやっとケルオン大陸に入れる・・・

感想・評価もおねがいします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話 口伝

中間テスト中なのにこんなの書いてていいのだろうか?



ケルオン大陸バンクール地方オズモーネ平原にて。

ラバナスタの南にあるギーザ草原を越え、セア達はオズモーネの平原にいた。

 

「あちこちになんかあるぞ?」

 

ヴァンが何かの残骸を指差しながら言った。

 

「あれは昔の飛空挺の残骸だ。馬鹿弟子」

「なんでそんなのがあるんだ?」

「昔この場所で飛空挺同士の激戦があったんだ。残骸の数を見る限り結構な数が死んだだろうな」

 

ミストが安定せずヤクトが多いケルオン大陸において北西部のバンクール地方はミストが安定しており、豊かな土壌を持っている。

そのためこの地を多くの国家が狙っていた。

軍部の独裁政権時代のアルケイディア帝国と前マルガラス王朝時代のロザリア帝国とのバストゥーク戦争以来バンクール地方は中立地帯と存在している。

そんなことをセアがヴァンに教えているとスレイプニルの群れが襲ってきた。

まぁバルフレアが銃で撃ち殺したり、フランが弓で射殺したり、セアが裏拳で敵の頭蓋骨を粉砕したり、他のやつらが斬り殺したりして事なきを得たが。

 

(馬か・・・懐かしいな・・・)

 

セアはスレイプニルの死体を見ながら、昔のことを思い出していた。

 

(父上から聞かされたグリームニルの騎士物語を思い出す)

 

かつて騎馬部隊が戦の勝敗を左右した時代。

セアの故郷の英雄グリームニルが愛馬スレイプニルに乗り十倍近い敵を倒し国を守った。

そしてグリームニルの愛馬の名前がそのままその種類の馬の品種の名前になった。

だがガルテア連邦時代から馬と比べ安い、早い、繁殖しやすい、持久力が高いチョコボが主流になっていき、ガルテア連邦解体の時には騎馬は戦場から姿を消していた。

 

「どうかしたのか?」

 

ずっとスレイプニルの死体を見つめていたセアを心配してバッシュが声をかけた。

 

「いや、なんでもないよ」

 

セアはなんでもないという風に笑みを浮かべた。

オズモーネ平原を越え、ソゴト川を渡るとガリフ族の集落ジャハラが目の前に見えた。

集落の入り口に走っていったヴァンは門番のガリフに止められた。

 

「何だ。お前? ここはガリフの住む里だ。ヒュムの子供が尋ねてくる場所じゃないぞ」

「彼らはただの旅人だ」

 

セア達の後ろから別のガリフの声が聞こえた。

 

「彼らがオズモーネを越えてきたのを見た。かなり腕の立つ戦士なのだろう。平原の魔物にもまったく動じていなかった」

「・・・戦士長、またひとりで平原に?」

「・・・」

 

戦士長と呼ばれたガリフはヴァンの方を見た。

 

「・・・ガリフの地に何か用があるのか?」

 

ヴァンが頷くのを見て戦士長と呼ばれたガリフは門番のガリフの方を見て言った。

 

「彼らを通してやってくれ。責任は私が持とう」

「戦士長がそう言うなら・・・」

「・・・というわけでお前達、入っていいぞ。ここのところ、なんだかヒュムがよく来るな」

 

そう言われてヴァン達はガリフの集落に入って行った。

すると入り口で戦士長と呼ばれていたガリフが話しかけてきた。

 

「・・・まだ名乗ってなかったな。私はスピネル。この里の戦士長を務めている。本来、ガリフは外の者に対して寛容だ。しかし近頃はヒュムの世が何かと騒がしい。ゆえに、この里も警戒を強めているのだ」

 

スピネルが言っていることは本当だ。

ガリフ族は生まれた時に仮面を授かり一生はずすことが無く、狩猟種族だから筋骨隆々であるため恐ろしい印象があるが基本的にとてもいい奴が多い。

セアも100年位前にガリフの里を訪れた時にガリフの人たちは宴を開いて歓迎してくれた。

 

「里を守る戦士の長として、今一度お前達に問う。何の用があって、この地を訪れたのだ?」

 

スピネルの問いにセア達は包み隠さず正直に答えた。

 

「ほう・・・。お前達も破魔石とやらの話を聞きに来たのか。ガリフは口伝で知識を後世に教えている。破魔石について長老方は知らないようだから知っているとすれば最長老くらいだと思うが安易に面会を許すわけには・・・・」

「私は破魔石について知らなければならないのです」

 

アーシェはスピネルの方を向いてそう言った。

 

「どうか最長老にお伝えください。私は覇王レイスウォールの血を引くダルマスカ王家の人間です。あなたたちガリフが古の記憶を今に伝えているなら、覇王が手にした破魔石についても、ご存知のはずです」

「お前が覇王の末裔だという証拠はあるのか?」

「それは・・・」

 

スピネルの問いにアーシェは首を横に振った。

 

「・・・・・・。お前達を信じよう。最長老はこのつり橋を渡った先におられる」

 

そう言ってスピネルはつり橋を渡り、アーシェ達も後に続いた。

その先にはこの里の最長老が座っていた。

最長老はスピネルになにか言われるとアーシェに話しかけた。

 

「そなたが覇王の末裔か。何の用かな?」

「ええ、この破魔石についての話をお聞きしたいのです」

 

そう言ってアーシェは【暁の断片】を最長老に渡した。

最長老は【暁の断片】を火にかざししばらく眺め、アーシェに問いかけた。

 

「そなた、この破魔石を使ったのだな?」

「私ではないのです。私には扱い方がわからずそれで・・・」

 

アーシェの答えを聞き、最長老は少し面白そうな声で言った。

 

「ほう、どう使うか知らんのか。ならばガリフと同じよの」

「え?」

 

最長老は自分が若い頃に聞いた口伝を語り始めた。

 

「往古。ガリフは神々より破魔石を賜った。しかしガリフには破魔石を扱えんでのう。神々はガリフに失望して石を取り上げ・・・今度は人間(ヒュム)の王に授けた。王は破魔石の力で乱世を平らげ、覇王と呼ばれた。奇態なことよ。覇王レイスウォールの血を引くそなたが破魔石を扱えぬとは」

「待ってください!では、あなた方は破魔石の使い方を・・・」

「まことにお恥ずかしい。せっかく覇王の末裔にお会いできたというに・・・何ひとつ教えられん」

 

そう言って最長老は【暁の断片】をアーシェに返し、最長老は言葉を続けた。

 

「もっとも使い方がわかったとてどうにもならんよ。その石は長年蓄えたミストを放ち、力を失ってる。再び使えるようになるのはそなたの孫子の代かのう」

 

【暁の断片】は帝国に対しての力にはならない。

そんな思いがアーシェの心に浮かぶ。

 

「力の失せた、うつろなる石・・・飢えておるな。空しさを満たそうとあらゆる力を求めておる。人の力、魔の力・・・良き力、悪しき力。破魔石を求める者は破魔石に求められる者でもある」

 

最長老は火を見つめながらそう言うと優しい声で

 

「口伝を語るのはこの辺にしてそなたらを歓迎する宴を開くとしよう」

 

仮面をつけているので分からないが多分最長老は笑みを浮かべていた。

その様子を見てセアは100年前と変わらないなと呆れてるのか感心してるのかわからない目で最長老を見ていた。

 




オズモーネ平原で飛空挺同士の激戦があったことは確かですが、
それがアルケイディアとロザリアだというのは独自設定です。
ただオズモーネ平原で激戦があったのはガルテア連邦崩壊後らしいです。

あとグリームニルの騎士物語についてはスレイプニルのハントカタログから妄想しました。
昔はチョコボより馬の方が主流だったらしいです。

最近中々筆が進まない。
息抜きでゼロの使い魔のクロスものでも書こうかな・・・。
ルイズが戒律王ゾディアークに転生していたサイトを召喚するとかw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話 宴

最長老の意向でセア達を歓迎する宴が開かれた。

 

「ほう、数日前に宴を開いたのにまたか」

 

ガリフの長老の一人がそう言い、その長老にセアは問いかけた。

 

「数日前に誰か来たのですか?」

「ああ、ヒュムが来たぞ。お前さんらよりは小さかったが」

「その人はまだいますか?」

「ガリフの戦士と共にオズモーネへ行ったが直ぐに戻ってくるじゃろう」

 

ガリフの長老はそう言うと思い出してように自己紹介をする。

 

「自己紹介が遅れたな。ワシの名はヤザルじゃ。でお前さんの名前は?」

「セアです」

「ではセアよ。スピネルを知っておるか?」

「戦士長のひとですよね」

「ああ」

 

そういうとヤザルは自分の服から木片を取り出した。

 

「少し頼まれてくれんか? これをスピネルに渡して欲しい」

「それは?」

「ジャヤの木片っというお守りみたいなものじゃ。風水士のユクギルから預かってたのじゃが渡すのを忘れてての」

「・・・ご自分でスピネルさんに渡せばいいのでは?」

「また忘れそうじゃ」

 

おいおいと思いながらセアはジャヤの木片を受け取った。

そしてパンネロの踊りを見ながら酒を飲んでるスピネルに肩をたたいた。

 

「なんだ?」

「これ。ヤザルっていう長老さんから」

 

そう言ってセアはスピネルにジャヤの木片を渡す。

 

「これはジャヤの木片?」

 

スピネルは手に取ったジャヤの木片を見ながらそう呟く。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

そんなやり取りをしてパンネロの方を見ると彼女が固まっていた。

なにがあったんだろうかとセアが周りを見ると直ぐに原因が分かった。

だって酒を飲んでるガリフ達に混ざってラーサーが座ってたんだから。

おもわずセアはラーサーに近づき話しかける。

 

「ラーサー・・・」

「あ。お久しぶりですセアさん」

「なんで君がここにいるんだ?」

「破魔石の話を聞きに来たんです」

「最長老に?」

「・・・僕は会えませんでしたけど」

「それでなんとか会おうとここにいたのか」

「いえ、ここに来たのはついでなんです」

「ついで?」

「ええ、ここから東にあるブルオミシェイスへ行く予定なんです」

「ブルオミシェイス? たしかキルティア教の聖地だったよな?」

「ええ、そこに行ってオンドール候の動きを止めないとロザリアが動きかねない状況なんです」

「なるほど大僧正に協力して両国の動きをどうにかしようって魂胆か」

 

キルティア教はイヴァリース全域とまではいかないがかなりの範囲で信仰されている。

旧ダルマスカは勿論。ビュエルバ・アルケイディアもキルティア教圏国だ。

ロザリアも東部ではキルティア教が信仰されている。

そのキルティア教のトップ大僧正を味方につければそれなりの力になる。

 

「お見通しなんですね」

「まぁな」

「そういえばなんでセアさん達はガリフの里に来たんですか?」

「・・・俺達は王女様に付いてきたんだよ。な、パンネロ?」

「あ、はい」

 

固まっていたパンネロは軽く体を動かし、頷いた。

 

「アーシェさんも一緒なんですか?」

「ああ」

「てっきりセアさんと一緒に旅行でもされているのかと・・・」

「まぁ、あまり間違っては無いか」

「どういう意味ですか?」

「・・・さっき破魔石の話を聞いたんだがあまりいい話じゃなくてな。王女様は落ち込んで宿舎に今いるんだけどヴァンは気にせず宴の料理食い散らかしてるし、空族達と俺は酒を飲みまくっている」

「そうですか・・・」

 

ラーサーは呆れたような顔でセアを見た。

セアは軽く笑い、話題を変える。

 

「ところでさ・・・王女様をブルオミシェイスに行かないか誘ってみたらどうだい?」

「え?」

「アルケイディアとロザリアが戦争をするなら戦場はダルマスカだろ? なら王女様も協力してくれるんじゃないか?」

「・・・そうかもしれませんね」

 

ラーサーは少し考え、そう言って頷いた。

セアは内心で笑みを浮かべた。

はっきりいうとさっきまでセアはこれからどうしろと?という思いに囚われていた。

少なくとも帝国の意図がわかるまではこの話に関わると決めていたのに初っ端から暗礁に乗り上げた。

ラーサーを使う事で別に目的を持てばあの王女も動くだろうとセアは考えたのだ。

セアはその場から立ち、違う集まりで料理を食い荒らしてるヴァンを目掛けて酒瓶を投げた。

ヴァンは飛んできた酒瓶を掴み、セアの方に向く。

 

「なんだよセア?」

「王女様を呼んできてくれ馬鹿弟子。ラーサーが王女様と話したいらしい」

「ラーサーがここに来てるのか?」

「話し合うのは明日にしろ。国家間の争いごとに知識が無いだろお前は」

「・・・うん」

 

そう言ってヴァンは宿舎の方に走っていった。

セアはラーサーの方に振り返る。

 

「ヴァンに王女様を呼びに行かせたから」

「・・・呼び方が酷くないですか?」

「ヴァンは俺の弟子だぞ? あれ位どうってことないよ」

 

笑みを浮かべながらのセアの回答を聞きラーサーは頭を抑えた。

 

 

 

しばらくして・・・

 

「ブルオミシェイスへ?」

 

ラーサーからブルオミシェイスに行かないかと聞かれ、アーシェが疑問の声をあげる。

 

「明日にでも発ちましょう。大戦を防ぐためにあなたの力を貸してください」

「大戦・・・?」

 

アーシェは事情を知らないと思い、状況を説明する。

 

「オンドール侯爵がわが国に対抗する反乱軍・・・あ、失礼。解放軍を組織しているのはご存知ですよね。でも今あの人が行動を起こすとまずいんです。・・・ロザリア帝国が動きます。ロザリアは解放軍への協力を大義名分に我が国に宣戦布告し・・・ふたつの帝国が激突する大戦になります」

 

二大帝国は互いに強大な国力・軍事力があり、実力はほぼ互角。

もし戦端が開かれれば凄まじい長期戦になりイヴァリースは治安は低下の一途を辿る。

そのことを知ってかしらずかアーシェの顔が少し曇る。

 

「ですからブルオミシェイスに行きましょう。大僧正アナスタシス猊下(げいか)が承認して下されば・・・あなたは正式に王位を継ぎ、ダルマスカ王国の復活を宣言できます。女王として帝国とダルマスカの友好を訴え・・・オンドール侯爵を止めて下さい」

 

ラーサーの言葉を聞きアーシェ顔に怒りが浮かぶ。

 

「・・・友好っ!?」

 

その言葉には憎しみが混ざっていた。

 

「勝手なことを! そちらから攻めてきてなにもかも奪って、それを水に流せとでも!?」

 

アーシェは怒りを含んだ声でそう叫んだ。

だがラーサーも必死に反論する。

 

「戦場になるのはダルマスカなんです!ラバナスタを第2のナブディスにしたいんですか!兄は破魔石を持っているんです!」

 

ラーサーの反論を聞き、アーシェは黙り込んでしまった。

確かにこのままではダルマスカ王国再興の前にダルマスカ地方そのものがイヴァリースの地図から消えてしまうかもしれない。

 

「すみません。図々しい話です。血が流れない方法を他に思いつけなくて・・・信用できないのであれば僕を人質にしてください」

 

ラーサーが申し訳なさそうにそう言う。

大戦を止める為とはいえ、耐え難いことを頼んでいるのにラーサーは自覚があったためである。

 

 

 

一方そのころセアはというと・・・

 

「そなた・・・昔どこかで会わなかったか?」

「いえ、そんな筈はないと思いますが・・・」

「勘違いか?」

「そうではないでしょうか?最長老さん」

「うん?そういえばまだ名乗ってなかったな」

「あ、そういえばそうですね」

「名はウバル=カという」

「・・・へぇ、・・・そうですか」

 

セアは100年位前に共に戦ったガリフ族の戦士のことを思い出した。

当時20歳くらいだった戦士の名前はウバル=カである。

予期せず100年位前の知人と会ってしまったセアは表情に出さなかったが凄まじく動揺していた。

そんなことがあったためセアは宴が終わると直ぐに寝てしまった。




感想・評価お願いします。
最近モチベーションがかなり低いので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九・五話 夜の里にて

ケルオン大陸バンクール地方ガリフの地ジャハラにて。

宴も終わり夜の帳があたりを支配しているとき、アーシェはラーサーとの会話のことを思い出していた。

確かにラーサーの言うとおりこのままの状況が続けば解放軍とアルケイディア軍が戦端を開く。

そしてロザリア帝国は解放軍への協力を大義名分にアルケイディア帝国に宣戦布告する。

そうなれば主戦場となるのは二大帝国の狭間に位置するダルマスカだ。

更に帝国は2個も破魔石を持っている。

【夜光の砕片】2年前に使われているが【黄昏の破片】がまだある。

となればダルマスカが第2のナブディスになるのは避けられない。

だから私がダルマスカ王国の復活を宣言し、帝国との友好を訴え、解放軍を思いとどまらせる。

そうすればダルマスカは戦禍から逃れる事ができる。

そう、頭ではわかっている。だが・・・

死んでいった者達に誓った復讐を成し遂げることは出来ない。

この前ラバナスタで復讐を改めて誓ったばかりだというのに・・・

そんな事を思いながらアーシェは里を歩いていた。

すると目の前に最愛の夫の姿が見えた。

 

「ラスラ・・・」

 

アーシェはラスラの幻影の方に走る。

すると

 

「あの人が見えたのか?王墓の時みたいに」

 

ヴァンに声をかけられた。

アーシェは少し驚いた。

 

「やはり、あなたにも・・・でも、どうして」

「変だよな。オレ、アーシェの顔だって知らなかったぐらいで・・・王子のことなんてなにもわからいのにさ」

 

ヴァンは橋から水面を見ながら自分の考えを言う。

 

「もしかしたらオレが見たのは兄さんだったのかもしれない」

「バッシュから聞いたわ」

「降伏間際に志願したんだ。馬鹿だよ。負けるってわかってたのに」

「守ろうとしたのよ」

「死んで何が守られたっていうんだ。お前は納得できたのかよ。王子が死んだ時」

 

ヴァンの言葉にアーシェは思わず顔を背けた。

その様子を見てヴァンはまた喋りだす。

 

「帝国が憎いとか、復讐してやるとか・・・怨みばっかりふくらんで。・・・けどその先は全然。どうせなんにもできやしないって気がついて空しくなって。その度に兄さんのことを思い出して・・・。オレそういうの忘れたくてとりあえず【空賊になりたい】とか・・・景気のいいこと言ってたんだろうな」

 

ヴァンはそう言うと少し間をおいて

 

「兄さんの死から・・・逃げたかったんだ。アーシェについてここまで来たのもきっと逃げたいからなんだ」

 

ヴァンは幼い頃に両親を流行り病で亡くした。

だから兄のレックスはヴァンにとって親のような存在でもあった。

レックスが軍に志願したときヴァンは必死にレックスを止めた。

でも国のためだと言われ渋々認めてしまった。

それでダルマスカを守れたなら、いや国のために戦って死ねたならここまで兄の死に囚われなかっただろう。

実際には違うが反逆者バッシュの仲間として扱われ、帝国に拷問され、廃人のようになって帰ってきた。

そして一年後・・・レックスは亡くなった。

ヴァンはその理不尽から逃げたかったのだ。

レックスが死んで数日後に東ダルマスカ砂漠に魔物狩りに行ったのも無力な自分が許せなかったからだ。

 

「でも、もうやめる。逃げるのはやめる。ちゃんと目標みつけたいんだ。オレの未来をどうするかその答え。アーシェと行けばみつかると思う」

「みつかるかな・・・」

「みつけるよ」

 

そう言うと二人は夜空を眺めた。

ヴァンは過去を受け入れ、前に進もうと決めた。

アーシェは過去だけを見ずに未来もみようと考えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話 東の聖地へ

翌朝。ガリフの地ジャハラの入り口にて。

 

「共に行きます。ブルオミシェイスへ」

 

アーシェはラーサーにそう言った。

 

「そう言っていただけるとと信じてました」

「まだ心を決めたわけではないのです。向かう間に答えをみつけます」

「会ってほしい人がいます。ブルオミシェイスで落ちあうことになっているんです」

「誰です?」

「敵ですが味方ですよ。あとは会ってからのお楽しみです」

 

ラーサーは軽く微笑んで、外に出て行った。

その会話を見ていてヴァンがアーシェに話しかける。

 

「ああいうとこあるんだよな」

「悪気はないのでしょうね」

「いいやつだよ。帝国なのにさ」

 

ヴァンとアーシェはそう言ってラーサーの後に続いた。

後ろにいたパンネロも後に続く。

それを少し離れたところから見ていたバッシュが呟く。

 

「神都ブルオミシェイスはヤクト・ラムーダの北部だ。ヤクトに入れば飛空挺による追撃は避けられるか」

「望み薄だな」

 

バッシュの呟きを聞いていたバルフレアが自分の考えを述べる。

 

「リヴァイアサンはヤクト・エンサを飛び越え直接レイスウォールの墓に乗りつけた。ヤクトでも飛べる新型飛空石・・・可能にしたのはどうせ破魔石だ。ったく奴らが必死に狙うわけだよ」

「それではきみこそ何が狙いだ? 同道してくれるのは心強いが」

 

バッシュはバルフレアに疑問をぶつける。

少なくともバルフレアは今まで自分の利益にならないことはしなかった。

アーシェを攫い、レイスウォール王墓に連れて行ったのも覇王の遺産狙いだったし、

ガリフの里に案内したのも指輪を貰ったからだ。

 

「破魔石を奪うつもりじゃないかって?」

 

バルフレアはバッシュに言葉の続きを予想してそう言った。

 

「まあ仕事柄疑われるのは慣れてるが今そんな気は欠片もない。なんなら剣にでも誓おうか?」

「・・・すまん。殿下はきみを頼っている。真意を知っておきたかった。きみが石にこだわっているように見えてな」

「物語の謎を追う・・・主人公なら誰でもそうだろ」

 

そう言ってバルフレアは近くにいたフランと共に里の入り口の方に歩いていった。

 

「苦労が耐えませんね」

「君か」

 

バッシュ後ろに振り返り、声の主に問いかける。

 

「きみはヴァン達がブルオミシェイスまで行くのを止めないのか?」

「いや、今回の一件はとことん関わると決めたので」

 

セアの返答を聞きバッシュは顔を顰める。

 

「まぁ、俺もバルフレアと同じく破魔石を奪う気はないんで気にしないでいいですよ」

 

セアは顔に笑みを浮かべバルフレアの後に続いた。

 

 

 

アルケイディア帝国帝都アルケイディスにて。

皇帝宮の廊下をふたりのジャッジマスターが歩いていた。

 

「元老院がなにを企もうとヴェイン殿の失脚などありえん。参謀本部を始め軍部はヴェイン殿支持だからな。あのお方こそ帝国の敵を討ち滅ぼす剣だ」

 

歩いているジャッジマスターが隣を歩いているジャッジマスターに話しかけるが彼は無視して歩き続ける。

すると後ろの方から声が聞こえてきた。

 

「卿は2年前のゼクトに似ているな」

 

その言葉を聞き2人のジャッジマスターは声が聞こえたほうに振り返る。

そこには唯一の女性ジャッジマスター・ドレイスがいた。

 

「ヴェイン殿を信じて従った彼がどうなった? ナブディスで消息不明ではないか」

「ジャッジ・ゼクトへの愚弄は許さん」

 

2年前のゼクトに似ているとドレイスに言われたジャッジマスター・ベルガは反論する。

自分が馬鹿にされるならばまだ我慢できるがジャッジの模範と言われたゼクトへの愚弄は黙って見ていることはできない。

 

「彼はまことの武人だった。その彼が信じたヴェイン殿を疑うというのか」

「かつて実の兄君らを斬った男だ。人とは思えん。非情に過ぎる」

「非情だと?大いにけっこう! たとえ肉親であろうと反逆者は容赦なく討つ。帝国の背負う者のあるべき姿ではないか」

 

そう言ってベルガは奥の方に歩いていった。

 

「おめでたい男だ」

 

ドレイスは俯きながらそう呟いた。

そして残っているジャッジマスターに話しかける。

 

「ザルガバース・・・まさか卿も信じているのか?あのおふたりが反逆など!」

「それがグラミス陛下の結論だ。口を慎めドレイス。あの事件はとうに終わった」

「ご一同召集令です」

 

反対方向から歩いてきたガブラスがそう言った。

【事故死】したギースを除けば対ロザリア最前線にいるジャッジマスターがここに集ったことになる。

 

「ヴェイン殿がご到着なさいました」

「承った」

 

ベルガはそう言い、ザルガバースと共に奥へ進んでいった。

ドレイスはガブラスに話しかける。

 

「ラーサー様はブルオミシェイスへ向かわれた。大僧正に働きかけて反乱軍の動きを封じるおつもりだ。オンドールが諦めるとは思えんが・・・反乱軍の行動が多少なりとも鈍ればよい。これでロザリアの侵攻も遅れ・・・わが国が備えを固める時間を貸せげる」

「グラミス陛下の狙い通りか」

 

ジャッジは帝国の法と秩序の番人であるがソリドール家の親衛隊という面も持ち合わせている。

必然的にジャッジが支持するのはソリドール家の者が多くなるが誰を支持するかは様々である。

例えばベルガはヴェイン派であるがガブラス・ドレイスはグラミス派である。

そしてロザリアの侵攻が予想されている今は穏健派のグラミスを支持する者の肩身が狭い。

 

「ともあれ頼もしい成長ぶりではないか。元老院の能無しが驚く顔が目に浮かぶ。あの老人ども・・・幼い皇帝を影からあやつる気だろうが・・・ラーサー様は人形で終わるお方ではない」

「そうだ元老院が望んでいるのは人形の皇帝だ。元老院がヴェイン殿の才能をどれほど憎んでいるか思い出せ。ラーサー殿が自分達の思い通りにならんと知れば・・・元老院は掌を返して潰しにかかる」

 

ガブラスの懸念を聞いたドレイスは元老院ならやりかねないと思った。

 

「まずいな。陛下にも報告しておく。ガブラス・・・卿と私でラーサー様を守り抜く。いいな」

 

ドレイスの言葉にガブラスは頷き、ベルガ達の後に続いた。

 

 

 

同時刻ケルオン大陸バングール地方オズモーネ平原東端にて。

森の入り口でバッシュはアーシェに話しかけた。

 

「ダルマスカと帝国の友好・・・ですか」

「頭ではわかってるの。今のところ大戦を防げる唯一の手段だわ。でも私に力があればそんな屈辱・・・!」

 

アーシェは自分の無力さを憎みながら拳を握る。

アーシェは王国再興が目的であるが例え今回の方法で王国が復活したとしても形だけである。

ウォースラが選んだ帝国の属国として復活するのとあまり差がない。

結局帝国にとって余計な真似をすればまた圧倒的軍事力で滅ぼされることになる。

 

「我々にとっては恥でしょう。しかし民は救われます」

 

バッシュの言うとおりアーシェ達が恥をかけば民は救われる。

もしこのまま状況が悪化すればダルマスカは二大帝国の戦争の激戦地になるだろう。

更にアルケイディアはまだ魔力が残っているであろう【黄昏の破片】がある。

それを使えばダルマスカ地方ごとロザリア軍を粉砕する可能性すらある。

それはアーシェも分かっているが心情的に納得できない。

 

「あなたは受け入れられるの?」

「私はヴェインに利用されて名誉を失いましたが・・・今なお騎士の誓いを忘れてはおりません。人々を戦乱から守れるのであれば・・・どのような恥であろうと甘んじて背負います。国を守れなかったその恥に比べれば・・・」

「・・・みんな帝国をにくんでいるわ。受け入れるはずがない」

「希望はあります」

 

そう言ってバッシュはヴァン達の方を見る。

 

「あのように手を取り合う未来もありえましょう」

 

ヴァンとパンネロとラーサーが楽しく会話している光景がアーシェの目に映った。

確かにそんな未来もあるかもしれないとアーシェは思う事にした。

アーシェ達の会話を聞いていたセアは心にある思いが浮かんでいた。

 

(こんなことならウォースラの提案を受け入れていればよかっただろうに・・・)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話 愚問

ケルオン大陸ヤクト・ディフォールのゴルモア大森林にて。

古代の形のまま残る森を東へと進んでいたヴァンたちだったが結界に通行を阻まれていた。

 

「なんだこれ・・・?」

 

ヴァンが結界を見ながら言う。

 

「ゴルモアの森が拒んでるのよ」

「私達を?」

「私を・・・かしらね」

 

フランはそう言って結界と反対の方に歩いていった。

 

「何それ。ていうかどうすんだよアレ」

「少し黙れ馬鹿弟子」

「なんでだよセ・・・・ガッッッ!」

「まったくこの馬鹿弟子が・・・」

 

セアはそう言いながらヴァンの首を掴んで黙らせた。

すると反対方向に歩いていくフランにバルフレアが声をかけた。

 

「寄ってくんだな」

「ええ」

「過去は捨てたんじゃないのか」

「他に方法がないから。あなたのためでもあるのよ」

「ん?」

「焦っているでしょう。破魔石がそうさせているの?」

 

フランの言葉にバルフレアの顔が僅かに動く。

 

「あなた意外に顔に出るのよ」

 

フランはそう言って魔法を崖にかけ始める。

バルフレアはその様子を見てため息をついた。

そこに遅れてきたセア達も来る。

セアはヴァンを掴むのを止めるとヴァンは息を整え、フランに問いかけた。

 

「つまり・・・どういうこと?」

「こういうことよ」

 

フランが魔法をかえおえると崖に道が出来た。

 

「この森に暮らすヴィエラの力を借りるわ」

 

その言葉を聞きパンネロがフランに聞く。

 

「もしかしてここってフランの・・・?」

「・・・今の私は招かれざる客よ」

「招かれざる客なのは俺達もだろ?」

 

フランの言葉を聞き、セアが話し出す。

 

「【ヴィエラ族は俗世間を好まず、外界との接触を拒むように暮らしており、同種族間でも必要以上の連絡はとらない。それはヴィエラたちが精霊の声を聞くことによって、森で起きている出来事を把握できるからでもある。イヴァリースの歴史においてヴィエラ族が表に出ることは少なく、森での風習や種族の掟など一般に知られていないことが多い。】って昔なんかの本で読んだ。もし俺の記憶が正しければ俗世と関わったフランに限らず俺達も招かれざる客だ」

「ヴィエラってよく街で見かけるけど?」

 

ヴァンはラバンスタでよくヴィエラを見かけるのでそんなに閉鎖的な生活をしているとは思えなかった。

するとセアが少し呆れた顔で言う。

 

「はっきり言って亜人種がごちゃ混ぜで住んでるラバナスタなんかイヴァリース全体で見ればかなり特異な街だぞ」

「え?」

 

ヴァンは驚き、セアや他の皆は頭を抱えたくなった。

 

 

 

ケルオン大陸ヤクト・ディフォールのエルトの里にて。

里の入り口でフランはヴァンに話しかけた。

 

「この先の里にミュリンという子がいるは呼んできて。私が行かなくてもミュリンならわかってくれるから」

 

ヴァンは軽く頷いた。

するとセアが森の入り口辺りで座って言った。

 

「じゃあ俺もフランと一緒にここで待ってるからさ」

「なんでだ?」

「いや、なんというか苦手なんだ。森の掟を守って暮らすヴィナ・ヴィエラは」

 

森で暮らすヴィエラをヴィナ・ヴィエラ。俗世に関わって生きるヴィエラをラヴァ・ヴィエラということがある。

主に精霊の声が聞こえるかどうかの差といってよい。

身体的な差としてはヴィナは耳が真っ白だがラヴァは黒いものが混ざってる。

だがバルフレア質問を続ける。

 

「なんで苦手なんだ?」

「・・・ちょっとトラウマがあるんだよ」

 

セアの返答を聞き、バルフレアは軽くフランに目線を送り里の中に入っていった。

しばらくするとフランがセアに話しかけた。

 

「どうして一緒に行かなかったの?」

「バルフレアに答えたの聞いてたよね?」

「あなた周りのミストがおかしいのがばれるから?」

 

フランの言葉を聞き、セアは顔を顰めた。

 

「・・・ばれてたのか」

「自覚があったの?」

「ああ、前に他のヴィエラから言われたことが・・・」

 

そこまで言うとセアは笑みを浮かべ笑った。

そして少し真剣な声でフランに話しかけた。

 

「里に入ればどうだ?」

「何故?」

「疎遠でも家族はいるんだろ?会ってくればいい」

「でも・・・」

「・・・俺にはもう帰る故郷も迎えてくれる家族もいないんだ」

 

どこか暗い目でセアは空を見上げながらそう言った。

フランは少し迷っていたがやがて里の中に入っていった。

 

「はぁ、やれやれ」

 

そう言ってセアは寝転んで里の風景を眺めていた。

 

「妙なものだな。かつて覇王に全てを奪われ、今は覇王の子孫に手を貸しているとは・・・これが運命とでもいうやつか」

 

セアは誰に言うでもなく、そう呟いた。

 

 

 

セアが里の入り口で寝転がっているとヴァンたちが里から出てきた。

バルフレアにセアは話しかけた。

 

「どうだった?」

「ああ、ヴァンが上手い事里の長から情報を引き出してくれたぜ」

 

バルフレアの返答を聞きセアは意外そうな顔をした。

弟子のヴァンは交渉事にはとても弱いはずだ。

なのにどうやって情報を引き出したんだ?

 

「やるじゃないか。あんなのから情報を引き出すとはね」

 

バルフレアはヴァンを珍しく褒めた。

ただヴァンはなにか納得いかないのか腕を組む。

 

「さて、人間(ヒュム)の穴とか言ってたが」

「バンクール地方のヘネ魔石鉱でしょう」

 

ラーサーが自分の推測を述べる。

 

「オズモーネ平原の南ですね。あの一帯は我が国の植民地なんです。・・・軍もいるでしょう」

 

ヴァンが里の長から引き出した情報は正確には「ミュリンは森を出て西に向かい、(くろがね)をまとう人間(ヒュム)どもの(あなぐら)をさまよっている」である。

おそらくだが鉄をまつう人間とは帝国兵のことで帝国兵がいる西の窖はヘネ魔石鉱が思いつく。

バンクール地方はロザリアとアルケイディアが互いに手を出さないということで一応数百年間戦乱から逃れている。

だがロザリアでマルガラス家が帝位に返り咲いた時にアルケイディアがバンクール地方南東部を植民地にすることを認めさせた。

ロザリアは政変直後であったためアルケイディアとの戦争を避けたかった為、渋々認めることになった。

 

「それがどうした?行くぞヴァン」

 

そう言ってバルフレアは里から出ようとしたがヴァンが呼び止めた。

 

「あのさ」

「うん?」

「さっきほらヨーテが言ってたろ。その50年前がどうとか・・・って」

「それで?」

 

フランの問いにヴァンが少し悩みながら質問した。

 

「フランって何歳?」

 

空気が凍って、沈黙が場を支配した。

セアは噴出しそうになったがなんとか堪えた。

あまりにも静かな為、小鳥の鳴き声やあまり会話をしないヴィエラ達の話し声まで聞こえる。

フランは恥ずかしくなったのか質問に答えず里から出て行き、バルフレアは声を出さずに「馬鹿」と口を動かしてフランの後に続く。

他のみんなはというと

 

「はぁ・・・」

「・・・」

 

アーシェはため息をつき、バッシュは無言で通り過ぎ、

 

「失礼ですよ」

「ほんと子供なんだから」

 

ラーサーとパンネロはヴァンを非難する言葉を言って里から出て行った。

セアはその光景をみてヴァンの腕を掴み

 

「少しは常識というものを覚えろ!馬鹿弟子!!」

 

と言ってヴァンを爆笑しながら里から出口にひきずっていく。

ヴァンは女性に年齢を聞くのはちょっと失礼だと知ってはいたがここまで周りからここまで罵倒されるとは思わなかったのである。

だが、それでも聞いてしまうあたりがヴァンらしいところである。

だからつい不満そうな声で一言呟いた。

 

「納得いかないって・・・」

 




最近中々筆が進まない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話 ヘネ魔石鉱

バンクール地方オズモーネ平原南東にて。

全員が驚きの表情を浮かべた。

ヘネ魔石鉱の入り口にたくさんの帝国兵が倒れていたのだ。

そして研究者のような装いをしたものたちも倒れている。

 

「ドラクロアの研究員です。どうしてこんな場所に・・・」

「どうせろくでもない研究さ」

 

ラーサーの疑問にバルフレアはそんな言葉を返した。

 

「なんか面倒なことがおきてるみたいだな」

「それってまずいよな?」

「まぁな。が、悪い事だけじゃねぇさ」

「なんかいいことあるのか?」

「例えば見張りの帝国兵が気絶してるんだから堂々と魔石鉱に入れるぞ」

 

セアの言葉を聞いて全員が魔石鉱の穴へと入っていった。

 

 

 

ヘネ魔石鉱に入ると所々で帝国兵が気絶していた。

進んでいくと通路で扉が閉まっていた。

説明書を読む限り隣のボタンを押すと開くらしい。

 

「なに・・をし・って・・いる・そこを・あげ・・だら・・・デ・・リー・げ!」

 

重症で横になっている帝国兵がそう言った。

だが意味が分からなかったのでヴァンがボタンを押した・・・

因みに帝国兵の怪我で内容が分かりにくい言葉を補完すると次の通りである。

「なにをしてる!そこを開けたらゼリーがっ!!」

つまり不用意に扉を開けてしまったため液状の魔物ゼリーの大群が溢れてきたわけである。

ゼリーの大群はヴァンに忠告した帝国兵に留めを刺すとヴァン達に襲い掛かってきた。

 

「俺のせいじゃないぞ!!」

 

ヴァンはゼリーの一体に向けて剣を振りながらそう叫んでいた。

文句を言いながらもゼリーに遅れをとっていないあたりセアの特訓の凄さを物語っている。

バッシュはゼリーの大群に全く動じずゼリー片っ端から切り飛ばしていく。

バルフレアとフランも空賊だからこのようなことは慣れっこみたいで冷静に対処していた。

アーシェやパンネロは他の4人に比べるとややぎこちないもののちゃんと戦えていた。

セアも近くにいたゼリーを剣で真っ二つに切った。

が、開いた扉から次々とゼリーが溢れてきてきりがない。

ゼリーに限らずスライム系の魔物は増えやすいことで有名なのである。

何故ならスライム系の魔物は自分の命が尽きかけると分裂していくのである。

因みにこの特性を利用して頭部からカラメルがとれるスライム系の魔物プリンを痛めつけ、大量のプリンを養殖されている。

更にそのカラメルを使った魔物プリンを模したデザート【プリン】がイヴァリース中で大流行している。

ゼリーのあまりの多さにイラッとしたセアは{ファイガ}の詠唱をし、ヴァンの方に向けて放った。

ヴァンは{ファイガ}を紙一重で避け、{ファイガ}はゼリーの大群へと襲い掛かった。

ゼリーは火に弱いためあっという間に全滅した。

 

「危ないじゃないかセア!」

「ちゃんと避けられるように加減したから別にいいだろ?」

「だからってもっと余裕を・・・」

「まぁ今回は無事だったんだからいいじゃないか!」

 

ヴァンの文句をセアは華麗にあしらっていた。

暫くヴァンは機嫌を悪かったが今度【プリン】を奢ってやるとセアに言われヴァンは機嫌がよくなった。

 

 

かなり進んでと魔石鉱の奥の採掘部についた。

あちこちに魔石が埋まっている。

そしてルース魔石鉱と同じように埋まっている魔石が光を放ち、なんだか神秘的である。

 

「ここの魔石、ルース魔石鉱のものとよく似ています。ドラクロアは新たな魔石鉱を探しているんでしょうね。解放軍が動けばビュエルバ産の上質な魔石を輸入できなくなりますから」

「確かにな・・・。それでビュエルバが駄目なら植民地からってか?」

「そういうことになりますね」

「まぁ、俺がこの光を見て思い出すのはお前が緑のバンガに人造破魔石を投げて走って逃げたことだな」

「セアさん・・・」

「もうそのことはラーサーが謝ったじゃないかセア」

「あのな馬鹿弟子・・・・・・俺はなラーサーをからかって楽しんでるだけなんだよ」

「ひでぇ!」

「「酷いですよ。セアさん!!!」」

「あーーなんだ、そのー、とりあえず三人とも落ち着け」

 

ヴァン・パンネロ・ラーサー相手に反論できずにセアは最終的に土下座した。

その光景を見ていたバルフレアは

 

「ガキの相手は大変だな」

 

と小さく呟いていた。

ふと横をみると相棒の様子がおかしい。

 

「どうした?」

「あの子なの? でも、このミストは・・・」

 

フランはなにか認めたくないという風にしていたが、【あの子】がフランの視界に入った。

そしてフランは【あの子】の名前を叫んだ。

 

「ミュリン!」

 

フランの目線の先には一人のヴィエラがいた。

足取りがおかしく、目の焦点があっていない。

 

人間(ヒュム)のにおい。力のにおい」

 

そんなことを呟きながらミュリンは歩いていた。

 

「どうしたの?」

 

アーシェはフランに聞いた。

だがフランから返事は無く、代わりにミュリンがアーシェを睨みつけ、指をさし・・・

 

「寄るな!力に飢えた人間(ヒュム)が!」

 

そう叫ぶとミュリンはフラフラに走りながら魔石鉱の奥へと入っていった。

 




プリンの養殖については作者の妄想ですが、
プリンの頭部からカラメルがとれ、更にプリンを模したデザートが流行しているのは公式設定です。
よくあんな得体のしれない魔物の頭部から取れる物を食材にしようとしたなw
プリンが出るところって水路か廃棄された地下道だよ?
明らかにあかんものがはいってそうだ・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話 影

この世には、人智の思い及ばない【何か】が存在しているのだろうか?

人はそれを神と呼び崇め、或いは悪魔と呼び恐れているのではないだろうか?

喩えるならば地上に楽園を築き、数多の竜を支配下においた神々が存在したとして、

或いは異界の魔物を率い、地上を地獄に変えた悪魔が存在したとして、

神々や悪魔といった存在が私の前に現れたならばどちらであっても私が感じる感情は同じだろう。

そしてその感情とはおそらく恐怖であると私は考える。

なぜなら神や悪魔といった人智を超えた存在は人間には【理解できない】からだ。

人は理解出来ないものをなにより恐れる。

だから我等は相手が普通の存在なら知ろうとし、或いは力でその存在を排除しようとする。

しかし、人智を越えた存在を人智で測れることなどできず、

また、力も相手の方が強いので排除することもできはしない。

その為、その存在を無理やり人智に当てはめた結果、その存在を神や悪魔と人は呼ぶのである。

 

                          <神学者シェカバの論文より抜粋>

============================================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミュリンを追いかけていくと開けた場所に出た。

そこにはそれなりに大きい竜がいた。

かつて西ダルマスカ砂漠で倒した上級地竜よりやや小さいから中級だろうか。

だが、首や手足に輪っかがついているところを見ると邪竜種だろう。

イヴァリースにおいて竜は強力な存在だ。

その竜の中でも邪竜種はもっとも強力な存在だ。

かなり大雑把ではあるが上級地竜が下級邪竜よりやや強い程度で、中級邪竜だとやや劣り、上級邪竜になると比べることすら馬鹿々々しいといったレベルなのだ。

無論、【伝説の八竜】や【世界最強の魔物】の異名を持つパイルラスタなどと言った伝説クラスの上級地竜ならば上級邪竜にも劣らないのだが。

そんな邪竜種の竜ティアマットに向かってミュリンは近づいていく・・・。

 

「あぶないッ!!」

 

ヴァンが叫びティアマットに近づいたが、ティマットの前足で蹴飛ばされそうになり咄嗟に回避する。

が、体勢が崩れヴァンは転んでしまった。

ヴァンが転んだ事を確認するとティアマットはミュリンの方に近づいていく。

仕方が無いかとセアがティアマットに斬りかかろうとしたその時だった。

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

ヴァンを除く全員が目の前の光景に驚いた。

なんとティアマットがミュリンに向かって( ひざまず)いたのだ。

ミュリンはティアマットが跪いたのを確認するとふらふらと奥の方へ歩いていった。

 

「ミュリン!!」

 

フランがミュリンに近づこうとするとティアマットがフランに近づき噛み付こうとする。

その様子を見たバルフレアが銃をティアマットに向けて撃った。

弾はティアマットにあたり、ティアマットはバルフレアの方に顔を向ける。

バッシュはティアマットに遠隔攻撃で牽制し、ラーサーとアーシェとパンネロを後方へと下がらせる。

ティアマットはバッシュの遠隔攻撃を受けながら{エアロ}の魔法を唱え、バッシュに向かって風の弾が襲い掛かる。

邪竜種が竜の中で最強と呼ばれる理由は幾つかあるがその中のひとつが魔法が使えることだ。

バッシュは風に軽く吹き飛ばされたものの受身をとって然程ダメージはなかった。

ティアマットが魔法を使った隙を突きヴァンが足元を斬りつけた。

ティアマットはヴァンを蹴り飛ばし、炎を吐くブレスを気絶したヴァンに向けて放つ。

ブレスの炎がヴァンに当たる前にセアがヴァンの右手を掴んで避け、ラーサー達の方に走る。

 

「ヴァンは大丈夫なんですか!?」

「落ち着けパンネロ。気を失ってるだけだ。ヴァンの治療を頼む」

「任せてください!」

 

そう言ってラーサーはハイポーションの入ったビンをヴァンにふりかけた。

すると傷が無くなり、ヴァンは目を覚ました。

ヴァンは少し呆然としていたが直ぐに正気を取り戻しセアに問いかける。

 

「あの輪竜どうすんだよ?」

「そうだな・・・とりあえず・・・」

 

セアはヴァンの耳を掴んで何か吹き込んだ。

少しヴァンの顔が青ざめたがセアは真剣そうな声で

 

「できるか?」

「もうヤケクソだ!やってやる!」

「俺はいい弟子を持ったな・・・じゃあいくぞ!」

 

そしてヴァンとセアはこちらに向かってきたティアマットに対して左右に分かれて斬りつける。

が、ティアマットはそれを無視してラーサー達狙って{エアロ}を唱える。

邪竜種には知性があり、それが邪竜種が竜の中で最強と呼ばれる理由のひとつでもある。

その為、後方にいるラーサー達が回復係だと思い先に始末した方がよいと考えたのだ。

{エアロ}の詠唱が終わり、ラーサー達目掛けて風の弾が襲った。

そしてその時にセアがヴァンを踏み台にしてティアマットの背中に乗り、首の部分に剣を突き刺した。

ティアマットは悲鳴をあげながら暴れ、背中からセアが落ちた。

そして暫くした後ティアマットは息絶え倒れた。

 

「おいおい・・・」

 

バルフレアはあまりに無茶苦茶な倒し方に呆れてそんな声を出した。

バッシュの方も呆然としている。

ラーサーは自分以外の回復係が傷を負っていることに気づき、慌てて回復薬をふりかけていた。

 

「なんとかなったな・・・大丈夫か馬鹿弟子?」

「な、なんとか・・・」

 

ヴァンは頭を抑えてそう言った。

セアが思いっきりヴァンの頭を踏みつけてティアマットの背中に飛び乗った為、首も痛めている。

とりあえず全員の無事を確認し、中央に集まった。

するとミュリンが奥からこちらに向かって歩いてきた。

ミュリンは右手からなにかを落とし、それは青く輝き砕けた。

その光景を見てラーサーは顔色を変える。

それは人造破魔石だったのだから。

フランはミュリンに近づこうとしたが、ミュリンの背後にミストから溢れ、そのミストが集まり、不気味な影の形を成した。

その影は白く、目は黄色に光っており、禍々しさを見るものに感じさせる一方で何処か神々しさも感じさせる。

フランはその影に睨まれ、思わず足を止めてしまった。

数秒後、その影はやがてミストを放ちながら消えていき、跡形も無くなった。

そして影が消えたのとほぼ同時にミュリンは気を失い倒れた。

 

「なんだったんだ。今の・・・?」

 

ヴァンが少し怯えた声で誰に言うでもなくそう呟いた。

フランは倒れたミュリンを抱き起こした。

するとミュリンは目を開け

 

「姉さん・・・?」

 

そう呟くとミュリンはまた気を失った。




この辺からオリジナル設定が多くなってくると思います。

あと諸事情で暫く忙しいので更新速度が遅くなると思いますが今後ともよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話 姉妹

久しぶりの投稿です。
表現の方法を今回からゲームと同じように「―――」を使うようになりました。


「森に帝国兵が現れた時も里の仲間は無関心でした。森が荒らされない限り、ヴィエラは外からの何もかもを無視するんです」

 

そこで一旦言葉を切り、少し不安そうな声で続ける。

 

「でも私は不安で・・・帝国の狙いを突き止めたくて」

「それでここまで調べに来たらとっつかまったと」

 

バルフレアの言葉にミュリンは軽く頷いた。

 

「無鉄砲は姉譲りかねえ」

 

バルフレアは少しからかうようにそう言った。

だがミュリンはそれを気にも留めず少し恐がっている声で言う。

 

「あの人たち、私に【石】を近づけたんです。人体がミストを取り込むとかヴィエラが最適だとか言って、その【石】の光を見たら、私―――」

「リヴァイアサンね」

 

ミュリンは声を途中で止め、フランの方を見るとフランが後に続いた。

 

「あの時【暁の断片】が私を狂わしたようにこの子の心を奪ったのは―――」

「―――人造破魔石」

 

ラーサーの答えにフランは頷いた。

 

「パンネロさん。僕が差し上げた石、まだ持ってますか?」

「はい、もちろん」

 

パンネロがポケットから人造破魔石を取り出すとラーサーは人造破魔石を取り上げた。

手に持った人造破魔石を見つめてみると妖しく、不気味に青く輝いているようにラーサーには見えた。

 

「僕の想像以上に危険なものでした。あなたに渡すべきではなかった。すみません。こんなものを!」

「私にとってはお守りだったんです。リヴァイアサンでもみんなを守ってくれて」

 

パンネロを言葉を聞いてラーサーの罪悪感が少し減った。

その会話を聞いていてアーシェが自分に言い聞かせるような声で言う。

 

「危険な力だろうと、支えにはなるのよ」

「―――かも知れないけどさ」

 

ヴァンが少し心配そうな声でそう呟いた。

 

「まぁ、ヴァンの言うことも一理あるな」

 

セアが少し大きな声で言った。

 

「どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だ。あまり危険な力に頼りすぎると大切なものを見失いかねん。案外パンネロみたいに軽い気持ちで持っているのが正解なのかもな」

「・・・」

 

セアの言葉を最後に軽い沈黙が訪れた。

だが、セアに対し抱いていた疑問を抑えきれずミュリンは話しかけてしまった。

 

「あの・・・?」

「ん?どうしました?」

「あなたの周りのミストがおかしいのですが何故ですか?」

「・・・そう、だな。昔にミストが視認できるほど濃い場所に行ったことがあってね。そのときミストの嵐に巻き込まれたことがあるからそれのせいかな?」

「なんでそれが原因だと思うんだ?」

 

セアの言葉を聞いてバルフレアが問いかける。

確かにそんなことを聞かれてすぐに答えれるような答えではない。

バルフレアの目を見ると疑っていることがはっきりとわかった。

しかしセアが答えた先程の答えは半分以上嘘なのだ。

さてどうしたものかとセアは軽く頭を掻く。

ばれにくい嘘というのは真実を幾らか含むことだ。

 

「ああ、あれ以来どういうわけか不老になったみたいでな。もう二、三百年前のことだからな」

「「「「「「「なッ!」」」」」」」

 

先程セアが言った言葉のうち本当のことを言っているのは

【昔に】【ミストの嵐に巻き込まれた】【あれ以来どういうわけか不老になったみたい】の三つだけである。

が、セアはそのことをおくびにも出さず呟いた。

 

「まぁ、そりゃあ、驚くよな」

 

その後暫くセアは周りの質問攻めを食らったことは言うまでも無い。

 

 

 

ケルオン大陸ヤクト・ディフォールのエルトの里にて。

里の入り口にセア達を出迎えるように3人のヴィエラがいた。

ヴァン達によると真ん中のヴィエラが里の長ヨーテらしい。

するとヨーテが話しかけてきた。

 

「森のささやきを聞いた。持っていけ」

 

するとそのヨーテの左にいたヴィエラが首かざりをヴァンに渡した。

 

「【レンテの涙】がお前を赦す。森を越えてどこへなりとも行くがいい」

 

ヴァンはレンテの涙を受け取ると里の出口の方へ下がった。

するとミュリンがヨーテに話しかけた。

 

「それだけなの。森を出て知ったわ。世界は動いている。なのにヴィエラは、何もしないというの」

人間(ヒュム)の世にかかわるのは―――ヴィエラの(さが)ではない」

「嫌なのよ! イヴァリースが動こうとしているのに、ヴィエラだけが森にこもっているなんて!私だって森を出て、自由に生きたいのよ」

「やめておきなさい」

 

ミュリンの後方から声が聞こえてきた。

その声の主はフランだった。

 

「あなたは人間(ヒュム)に関わらないで。森にとどまり、森とともに生きなさい。それがヴィエラよ」

「でも、姉さんだって―――」

「もうヴィエラではなくなったわ。森も里も家族も捨て―――自由を手に入れた代わりに過去から切り離されてしまったの。今の私には森の声も聞こえない」

 

フランは思わず離してしまっていた目線をミュリンに戻し問いかける。

 

「ミュリン。あなたもそうなりたい?」

「姉さん―――」

「いいえ。あなたの姉はもう、ひとりだけ。私のことは忘れなさい」

 

ミュリンはなにかフランに言いたそうだったが、何も言わず里の奥へと走っていった。

するとヨーテがフランに話しかける。

 

「嫌な役をさせたな」

「あの子は掟に反発している。掟を支えて里を導くあなたより―――掟を捨てた私が止めたほうがいいわ」

 

ヨーテは軽く隣にいるヴィエラたちに目線を送った。

それだけでヴィエラたちは察して里の方へと歩いていった。

 

「頼みがあるの。私の代わりに声を聞いて。―――森は私を憎んでいる?」

 

ヨーテは目を瞑った。

すると周りの木々がざわめいているように感じる。

そしてヨーテの周りを風が舞った。

暫くするとヨーテは目を開け、フランに

 

「去っていったお前をただ懐かしんでいるだけだ」

「嘘でも嬉しいわ」

 

そう言ってフランは里の出口の方を向いた。

 

「気をつけろ。森はお前を奪った人間(ヒュム)を憎んでいる」

 

その言葉を聞いたフランは振り返りヨーテに言った。

 

「今の私は人間(ヒュム)と同じよ。そうでしょう?」

 

ヨーテは肯定も否定しなかったが、フランそれを肯定ととった。

 

「―――さよなら、姉さん」

 

フランはそう言うと里から出て行った。

迷い無く、自由に生きる妹の姿を見て、ヨーテは自分も気づかないほど僅かに微笑んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話 暗雲

ケルオン大陸ヤクト・ラムーダのパラミナ大峡谷にて。

ゴルモア大森林を抜けたセア達はヤクト・ラムーダに入った。

このパラミナ大峡谷は雪が年中積もっている極寒の地である。

かなり着込んでいるはずだが、寒さを感じる。

神都のある北東を目指して歩いていると南の方から人だかりがきた。

なにやら薄汚い人たちとそれを守るようにキルティア教の印がある服をきた人たちが囲んでいる。

薄汚いのは難民で難民を守っている兵は僧兵団の団員だろう。

難民。それは戦争や疫病で住処を失った人たちの総称である。

恐らく彼らはキルティア教会に保護を求めにいくのだろう。

キルティア教会は難民達に援助を行っているというのは有名な話だ。

だが、ダルマスカやナブラディアと言った資金援助をしてくれる国が滅び、財政難になっているらしい。

そして僧兵団とはキルティア教会が保有する軍隊のようなもので主な任務は神都の治安維持とパラミナ大渓谷にでる凶暴な魔物退治。

修行を終えた敬虔なキルティア教徒ばかりが所属していて、規模は数千名だという。

キルティア教の修行は大雑把に言えば以下の3つだ。

断食(1ヶ月何も食べてはいけない。水はOK)

荒行(ふんどしだけ着けた状態で燃え盛る炎の中に突っ込む)

仙修(パラミナ大峡谷を武器・防具禁止で十日間自給自足する)

と、まぁこんな修行を終えたキルティア教徒ばかりで編成されているため、たとえ素手の状態でも同じ数で白兵戦なら二大帝国の軍隊の精鋭にも劣らない。

 

「どこかの侵略国家のせいで、ああいう難民が増えてるのさ」

 

バルフレアが難民達を見ながらそう言った。

「どこかの侵略国家のせい」確かにその通りだ。

ロザリアとアルケイディアの二大帝国の覇権争いで多くの国が滅んでいる今、難民は増える一方である。

 

「これ以上増やさないために、友好を訴えて大戦を防ぐんです。父は必ず平和を選びます」

「必ず? たいした自信だな」

 

ラーサーの言葉にバルフレアはどこか馬鹿にしているような声で言った。

そして不機嫌そうな声で一言吐き捨てる。

 

「父親だろうが、結局他人だろ」

 

バルフレアはそう言うと再び歩き始めた。

ラーサーは言い返すことができず、そのまま立ち尽くしていた。

 

「あんまり気にすんなよな」

 

ヴァンはラーサーを心配して慰めの言葉をかけた。

するとセアに肩をたたかれ、ヴァンが振り返るとセアは首を振っていた。

ヴァンは首を傾げたが、セアに「逆効果だ」と耳元で呟かれ、黙り込んだ。

 

 

 

同時刻アルケイディア帝国本国領帝都アルケイディスにて。

帝都の中心にある皇帝宮の謁見の間である二人が密談をしていた。

グラミスは玉座に座り、密談相手のヴェインは机を挟んで立っている。

そしていつも皇帝宮の警備についている親衛軍の兵士は今の謁見の間にはいなかった。

 

(わたくし)ひとりが消えて済む問題ではありません。元老院はソリドール家の存在自体を憎んでいます」

 

ヴェインはここで一旦言葉を区切り、少し力をこめて続けた。

 

「奴らを抑える口実が必要です」

 

ヴェインの言葉を聞いて、グラミスは玉座から立ち上がった。

 

「必要だと? そうか、必要か―――。そちの決まり文句だな。血を流す決断に毛ほどのためらいもない」

 

どこか責めるような口調でそう言いながらグラミスは窓際へよった。

グラミスが責めているのはヴェインか、それともヴェインをそうしてしまった己自身にか・・・

そう言ったグラミス自身にもわっていなかった。

 

「ソリドールの(つるぎ)に迷いは不要。その剣を鍛え上げたのは陛下ご自身です」

「復讐のつもりか」

 

グラミスはそう呟いた。

グラミスは11年前、ヴェインに兄二人を処断しろと命じたことを恨んでいるのではと思っていた。

あの日以来ヴェインが職務で私情をあらわにしたことが無い。

どのような凄惨な任務でも無表情で成し遂げてきた。

グラミスはいつかヴェインが自分を殺すかもしれないと心の奥底でずっと思っていたのだ。

だが、ヴェインは声を乱さずに話す。

 

「必要だと申し上げました」

 

ヴェインの言葉にグラミスは僅かに唸った。

 

「今やらねば、もうひとりの未来も奪われます」

 

ヴェインの言うことは常に理がある。

確かにこのままでは帝国はソリドール家という旗印を失う。

現皇帝であるグラミスは老い先短く、ヴェインは第8艦隊の件で失脚寸前。

ラーサーは元老院の傀儡として皇帝になるか・・・

否、ラーサーが傀儡で終わるような人物ではない。

だが、まだ幼いラーサーが元老院をどうにかできるとは思えない。

となれば元老院によって幽閉されるか殺されるかのどちらかだ。

 

「白い手の者に代わり、その手を汚すか」

「すでに血に染まっています。ならば最後まで私が」

 

ヴェインの返答を聞き、グラミスは窓から帝都を眺める。

己の一生を捧げ、栄えさせてきたアルケイディア帝国の首都。

この繁栄を手に入れる為に、いったいいくつの国々を滅ぼしてきたのだろう?

いったいどれだけ莫大な量の血を大地に流させたのだろう?

グラミスは少し目を瞑る。

 

「すべてはソリドールのために―――か」

 

グラミスはそう呟き、黙った。

なに、この国の為に血を流すことなどまだ自分が幼い時から覚悟していたことではないか。

そう、喩え血を流すのが自分であったとしても―――

 

「エイジスとラナード卿をここに呼べい。それとヴェイン、グレゴロス議長に明日の朝に謁見の間にくるよう伝えよ」

「ハッ」

 

グラミスの命令にヴェインは臣下の礼をとり、謁見の間から出て行った。

 

「―――死なば諸共か、誰が言い始めたのか知らぬがよく言ったものよ」

 

グラミスは目を閉じ、誰に言うでもなく呟いた。




原作でキルティア教のことが殆ど不明なのでオリ設定にオンパレードですw

2013-7-15
調べてみたら大渓谷じゃなくて大峡谷でしたので修正しました。
ややこしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話 神都

お気に入りが100を越えました!
ありがとうございます!!


キルティア教会直轄領神都ブルオミシェイスにて。

このブルオミシェイスはキルティア教の総本山である。

そもそもキルティア教とは今から約2000年前にオーダリアで予言者キルティアが始めた宗教である。

古来、イヴァリースでは平和と自由を象徴する女神への信仰が多数存在していた。

開祖キルティアはをその女神を光の神ファーラムと規定、オーダリア各地の民族宗教を二元論で体系化しキルティア教が成立した。

その後、開祖キルティアは布教の旅を続け、晩年はブルオミシェイスに身をよせ、教えを広めていった。

開祖の死後も教えは広められ、後に信者達によって神殿も築かれている。

要約するとこの神都ブルオミシェイスは偉大なるキルティア教の創始者が没した聖地なのである。

 

「キルティア教の大僧正アナスタシス猊下(げいか)がおわす神都ブルオミシェイスは、神に最も近い安息の地。あなた方の魂にも平安がもたらされますよ」

 

入り口にいたキルティア教徒が難民達にそう言っていた。

そして難民達は安堵の表情を浮かべている。

確かにキルティア教会は諸国と不可侵条約を結びキルティア教が迫害されない限り、内政不干渉を貫いている。

その為、余程のことが無い限り神都は諸国の軍隊に襲われる事は無い。

それに僧兵団が魔物退治もしているので魔物に襲われる心配も無い。

 

「神都は万人の魂が安らぐ地。貴方達に神の加護あれ・・・ファーラム」

 

キルティア教徒が難民達に話をしているとこを通り抜けると避難してきた難民達のテントで溢れかえっている。

そしてその奥の少し高いところにキルティア教の神殿がある。

セア達はそのテントの間を通り抜け、神殿の方に向かう。

 

「オレはナブラディアの生まれなんだ。2年前の戦争で村を焼かれてどうにかここまで逃げてきたんだ」

「そうか、俺達はランディスって国から避難してきたんだ」

「たしかランディスってバレンディアにあった国の名前か?」

「ああ、今から10年以上前にアルケイディアに滅ぼされた小国の名前さ」

「はぁ、ある意味オレはランディスが羨ましいよ」

「なんでだ?」

「だってさ、ナブラディアは文字通り跡形もなく無くなっちまった。ランディスは占領されてだけじゃねぇか」

「・・・それもそうだな」

 

と、失った祖国のことを話している避難民もいれば、

 

「まったく、どいつこいつもしけてやがんなぁ。金目のもんがありゃしねぇ」

「おいっ!!そこのバンガ!!俺の金返せ!!!」

「やべっ!!」

「何の騒ぎだ!!」

「あ、僧兵団の方ですか?あいつを捕まえてください!!俺の金を盗んだんです!!」

「なにっ!!!」

 

と、避難民相手に盗みを働いている奴もいれば、

 

「ここは厳しい土地だけど毎日暖かい飯が食えるいいとこだよ」

「まったく、シークならキルティア教徒がやってる力仕事手伝えよ」

「手伝っても手伝わなくても暖かい飯は毎日貰えるよ」

「こんな豚が大勢いるからキルティア教会は財政難なんだな」

「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいだろ!お前がまだ生きてるのってキルティア教おかげだろ?」

「そうだけどさ。ずっとこのままでいいのかな?もしどっかの国が攻め込んできたら・・・」

「こんな大して豊かでもないヤクトの辺境をキルティア教を敵に回してまで欲しがる馬鹿な国なんかねぇだろ」

「その通り!!お偉い大僧正アナスタシス様のひとにらみで王様も皇帝もたちまちふるえあがるって話だ」

「それならこんな山奥にこもってないで、戦争に夢中な連中をどうにかしてほしいですよ」

「違えねぇ!!」

 

と、キルティア教会に助けてらってるくせにキルティア教会を批難する駄目な奴等もいる。

 

「どうした馬鹿弟子?」

 

セアはなにか不機嫌そうなヴァンに声をかけた。

まぁなんで不機嫌なのかは想像できるが・・・

 

「だってさこいつら自分で何もして無いくせになんで偉そうにして・・・」

「そうだな。昔の馬鹿弟子みたいだな」

「はぁ!?」

「だってそうだろ?自分で何も出来ないから末端の帝国兵相手にスリしまくってた頃のお前と大差ないだろ」

「で、でもオレはちゃんとミゲロさんの店で働いてたぞ!!」

「そういえばミゲロさんから聞いたんだが、お前はよくサボってたらしいな?」

 

ヴァンはその言葉を聞くと黙り込んだ。

そしてセアは神殿の方に目をやった。

 

(しかし、俺が17の時に神都に来た時のことを思い出すな)

 

セアはそう思い、瞼を閉じて神都に来た時のことを思い返す。

17歳の頃のセアは国王として即位したばかりで、年の終わりごろに巡礼でブルオミシェイスを訪れていた。

 

「いや、本当に神に一番近い地と言われることはあるな。なんとも美しい」

「そうですね」

 

セアの隣にいる女性が答える。

その女性の身なりはよいが、容姿は人並みでどこか不機嫌そうな表情である。

 

「どうした? なにやら顔色が悪そうだが?」

 

心配そうにセアがその女性に声をかける。

 

「クライス陛下・・・いえ、セア。あなたには私とこの景色のどちらが美しいのですか?」

 

真剣な声で女性はセアに問いかけた。

だが、当時の自分はそっち方面というか女性関係には疎かった為、

 

「・・・どういう意味かな?」

 

などという質問を返してしまった。

すると女性は眉を顰めて、言い返した。

 

「いえ、ただあまりにも他人行儀ではないですか。愛する男性にそういう態度をとられるのは悲しいです」

「は!?」

 

セアは素っ頓狂な声をあげ、暫く考えた後に問いかけた。

 

「・・・・・・・・なんていった?」

「愛する男性と言いました」

「本当に?」

「神に誓っても構いません。それに貴方の妻になってもう2年ではありませんか?」

「い、いやそうだけど・・・」

「まさか私はそういう対象では見てなかったのですか?」

 

見てたとも見てなかったともいえない。

確かに着飾った姿を見て綺麗だなと思った事は何度かあるが恋愛など自分ができるはずがないと思い込んでいた。

 

「い、いや。そ、そういう意味では。その、ほらだって・・・俺たちの結婚は父上達が勝手に決めたことじゃないか?」

「だったら夫を愛してはだめなのですか?」

「あ、そういう意味では、その、え~っと・・・・・」

 

あまりの気恥ずかしさにセアの顔は真っ赤になり、頭から煙が出ている。

 

「セア、その大丈夫ですか・・・?」

「ふぇっ?・・・・・・」

 

その後セアの頭は限界を迎え、気を失った。

セアは後にも先にも精神的な理由で倒れたのはあれだけだったなと微かに微笑んだ。




避難民を屑にしすぎたかなぁー?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話 夢見の賢者

注意:アルシドが若干壊れてます。


神都ブルオミシェイスの神殿はキルティア教会の記録によると今から1800年程前に造られたらしい。

本当に1800年前からあったのかどうか知らないが少なくとも約700年前にセアがこの地に来た時には既にあった。

ブルオミシェイス自体が神殿と言っても過言ではない荘厳な建造物であり、キルティア教会の要職についている者達の住居と礼拝堂で出来ている。

そしてその神殿をぐるりと囲むように避難民達のテントで溢れている。

そんな神殿の入口に入ったセア達はキルティア教徒たちに歓迎された。

なぜこの時に来ることが分かったのかと聞いたところ大僧正が貴方達が来られるのを悟ったかららしい。

そう言ってキルティア教徒達はセア達を光明の間に案内した。

光明の間の奥でキルティア教会のトップ大僧正アナスタシスが瞑想をしていた。

大僧正アナスタシスは色々と逸話の多い人物だ。

まず彼はヘルガス族という長命な少数種族で現在184歳。

因みにヒュム換算すると120~130歳だという。

不老で700歳越えしているセア程では無いにしろかなり異常だ。

さらに僧兵団に所属していた頃にたった一人でパラミナ大峡谷でファーヴニルという邪竜を単騎で討ち取ったと言う。

しかもその竜は円月輪が外れていた邪竜というのだ。

キルティア教の神話では天地創造の際に神が地上に12人(一説には13人)を地上に遣わしたという。

だがその地上には使者達が来るより前に邪竜達が地上を支配し使者達と戦った。

邪竜の力は強く、ある竜は竜巻であらゆる物を吹き飛ばし、ある竜は業火で森を焼き尽くし、

ある竜は地を割り生命を奈落に突き落とし、ある竜は水を操り地上を水で覆った。

その邪竜達の所業をみかねた光の神・善神ファーラムは邪竜達と戦い円月輪を嵌め、その凶暴な力を封じた。

竜に輪を嵌める話は他の宗教の神話やガリフ族の口伝にも似たような話があるので円月輪が邪竜の力を封じてるのは真実だとされている。

そんな邪竜をたった一人で倒せるというのだからアナスタシスの全盛期の力は凄まじいものなのだったのだろう。

更に胡散臭い話だがアナスタシスは神の声を聞いたことがあるというのだ。

そんな逸話の多いアナスタシスの瞑想している姿は神秘的な雰囲気を纏っている。

 

「寝てないか?」

 

しかし空気の読めないヴァン君は小声でそう言ってしまった。

全員がヴァンを注意しようとすると

 

『(なに、眠っておるようなものよ)』

 

直接脳内に響くように声が聞こえた。

アナスタシスは相変わらず瞑想したままで口も動いていない。

しかしその声が目の前の者からのものだと何故かわかった。

これがアナスタシスが【夢見の賢者】と呼ばれる所以である。

 

『(夢をみておる。夢幻(ゆめまぼろし)現世(うつしよ)は表裏の一重を成すものゆえに。夢は(まこと)を映す鏡よ)』

「アナスタシス猊下(げいか)。私は―――」

『(語らずともよい)』

 

アーシェの言葉を遮り、アナスタシスは続ける。

 

『(ラミナスの娘アーシェ。そなたの夢をみておった。【暁の断片】を手にするそなたこそダルマスカの王統を継ぐ者。王国再興を願うそなたの夢、私にも伝わっておる)』

「それでは大僧正猊下。アーシェ殿下の王位継承は―――」

 

アナスタシスの言葉を聞いてラーサーがアーシェの即位の話を始めようとする。

しかし入り口の方から聞こえた大声によってそれは遮られた。

 

「おおっと、そいつはあきらめてもらえませんかね」

 

そういった男はグラサンをかけた遊び人っぽい姿で後ろに美女を侍らせていた。

その男をみたセアは僅かに驚いた顔をした。

が、その男はセアに気づかずラーサーに話しかける。

 

「よお、皇帝候補殿。呼び出されてやったぞ」

 

そう言われてラーサーは右手を差し出したがその男は握り返さずラーサーの頭をなでた。

するとラーサーは鬱陶しそうに左手でなでる手を払いのけた。

そしてラーサーはアーシェの方に振り向いて話しかける。

 

「彼に会わせたかったんですよ。この人。これでもロザリア帝国を治めるマルガラス家の方なんです」

「山ほどいるうちのひとりですがね。私だけじゃ戦争を止められないんで、ラーサーに協力を仰いだってわけで」

 

そう言うとマルガラス家の男はかっこよくグラサンを外して隣に侍らせていた美女にグラサンを渡した。

 

「アルシド・マルガラスと申します。アーシェ殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

 

そう言ってアルシドは跪き、アーシェの左手の甲に接吻した。

王族の手の甲に忠誠ある貴族や騎士が接吻するのは別にありえない話ではないが・・・

間違っても初対面の王族にやるようなことでは決して無い。

 

「ダルマスカの砂漠には美しい花が咲くものですな」

 

その様子にアーシェは困惑し、ラーサーはため息をついた。

だが、まだまだこのカオスな状況は終わらない。

セアがいきなりアルシドの後頭部に向かって飛び蹴りを繰り出した。

しかしアルシドも諜報部を統括してるだけあってそれを華麗に回避したが、回避した方向に飛んできた鞘が脇腹に直撃した。

 

「よお、久しぶりだなアルシド。大体20年ぶりかな? 俺のこと覚えてる? クライスだよ?」

 

物凄く低い声でそう言ってセアはアルシドに微笑む。

微笑んでいるのだが目が笑っていない上に目が冷たく光ってる。

 

「ク、クライスさん」

 

アルシドが2つの意味で驚き、そして絶望した。

2つの意味で驚くというのは【なんで老けてないんだ!?】と【何でこんなところにいるんだ!?】である。

そして絶望した理由はクライスさんの声が物凄く低いときは酷い事をしてくるのをアルシドは経験上知っている。

 

「ええっと、セアさんはアルシドさんと知り合いなんですか?」

「ああ、20年位前にちょっとロザリア帝国で働いてたときがあってね。その時に知り合ったんだよ」

 

ラーサーの質問に答えた後、セアは無表情になってアルシドを睨みつけた。

 

「さーて覚悟は出来てるかな? アルシド君」

 

アルシドは既に今日の晩飯はなにかな~?と現実逃避を試みていた。

だがその試みは空しくセアの鉄拳によって実行不可能となった。

 

 

 

アルシドがセアによって半殺し(途中で美女が妨害してきたがセアによって気絶させられた)されて10分後。

セアの魔法でアルシドが回復したのを見計らってアナスタシスが会話を再開する。

 

『(アルケイディアにはラーサー。ロザリアにはアルシド。彼らは(いくさ)の夢を見ておらぬ。両帝国が手を取り合えば新しいイヴァリースがひらかれよう)』

「それこそ夢物語ですな。現実には戦争が起こりかけてる」

「私を招いたのも、大戦を防ぐためと聞いておりましたが、私が王位を継いでダルマスカの復活を宣言し、帝国との友好を訴え解放軍を思いとどまらせる―――と。なのに今になって、あきらめろとは?」

 

アーシェの疑問にアルシドは頷いて説明を始める。

 

「姫のお言葉があれば解放軍は動けず、我がロザリアも宣戦布告の大義名分を失う―――そういう狙いでしたがね。流れが変わっちまいまして。2年前、お亡くなりあそばされたはずのあなたが、実は生きていたなんて話が出るとかえって事態が悪化する状況でしてね」

「私に力がないからですか」

「いやいや、あなたのせいじゃありませんよ」

「ではなぜ!?」

 

アルシドのアーシェに対する返答にラーサーが疑問を呈する。

 

「アーシェさんから友好の呼びかけがあれば―――僕が皇帝陛下を説得します。陛下が平和的解決を決断すれば―――」

「グラミス皇帝は亡くなった。暗殺されたんだ」

 

一瞬ラーサーはアルシドの言葉が理解できず呆然とする。

そして理解してしまうと弱々しい声で一言だけ呟いた。

 

「父上が!?」




なんか思いっきり迷走してる気がする。
なにかが違うというか。
感想・意見プリーズ!!

~知り合いとの雑談~
知り合い「ケルオン大陸編入ってからバッシュ・バルフレアの陰薄すぎ」
作者「そうかな?」
知り合い「だって最近この2人何かした?」
作者「ええと確かに王女様に諫言したり、皇帝の四男に皮肉を言わした記憶しかない・・・な」
知り合い「だろ?」
作者「で、でもバルフレアは神都の話終わったら目立ちだすし、バッシュだってクライマックスで見せ場だらけじゃん!!」
知り合い「その時にはフランが空気と化してそうだな」
作者「・・・・・・・・・・・・・・・・たしかに」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七・五話 暗殺劇

少し時間を遡り、

アルケイディア帝国本国領帝都アルケイディスにて

皇帝宮の廊下を歩いている人物が2人。

一人は親衛軍に所属している親衛円卓艦隊指揮官ラナード卿。

そしてもう一人は第1局ジャッジマスター・エイジスである。

親衛軍は皇帝直属の近衛兵団で、規模は小さいが忠誠心の高い者達で編成されており、ジャッジに監督されていない唯一の軍である。

西方総軍に所属する艦隊に次いで最新の戦闘機で構成されている。

一応、司令官は皇帝ということになっているが殆ど親衛円卓艦隊指揮官が親衛軍を統制している。

第1局は帝都の上流階級―――いわゆる政民達を裁くのが主な任務である。

またエイジスは第1局局長のほかに第1艦隊の指揮官も務めている。

彼らは謁見の間に入るとグラミスに向かって頭を下げた。

そしてグラミスから今回の企みについて2人は聞かされた

 

「陛下。本気でございますか?」

「ああ。もう決めた事だ」

「確かにそれを成せば元老院の一派を排除できるでしょうが・・・」

「ラナード卿。既に君命は下されたのですぞ」

「貴様!!このようなことがまかりとおってよいと思っておるのか!?」

「思ってはおりませんがロザリアの侵攻が迫るこの時に内輪もめをしている場合ではない」

「それとこれとは話は別だ!!第一陛下は―――ッ!!」

 

そこまで言うとラナード卿はグラミスの方に顔を向けた。

 

「そういう、ことなのですか?」

「既に死病に侵されてる身だ。なに今一度祖国の為に血を流すだけではないか」

「・・・」

 

ラナード卿はグラミスの言葉を聞いて黙りこんだ。

それを見てエイジスはグラミスに話しかける。

 

「陛下。暗殺の実行犯の捕縛は私達にお任せください。共犯者達の捕縛は私の方から第2局に要請しましょう」

「頼むぞ」

 

そう言ってグラミスは机の上に置いてあったワインをグラスに注いだ。

そしてそのワインが入ったグラスを3人に配る。

 

「陛下に40年仕えてきた私にとって今回の企みは本当はやめてほしいのが本音ですがもう何を言っても無駄でしょうな」

「すまんな、ラナード。共にお前達と戦場を駆け回った日々が懐かしいわ」

「・・・私も本当はお止めしたいのですがなにより国の為です。致し方ありません」

「そんな泣き顔で言われても説得力がないぞ? エイジス」

 

からかうような声でグラミスはそう言い、グラスを掲げる。

その様子を見て戦友達も持っているグラスを掲げる。

それはかつて戦場に赴く際に3人でしていたことだった。

 

「では今一度戦場に向かうとしよう」

「陛下。私もお供したいですぞ」

「おいおい、ラナードまで逝ってしまったら誰が親衛軍を纏めるんだ?」

「最後くらい大目に見んか。この若造が」

「ははッ、久しぶりに若造なんて言われたよ」

「かわらんなお前らは」

 

そこで会話は途切れ、暫くしてグラミスが叫ぶ。

 

「アルケイディア、万歳!!」

「「アルケイディア、万歳!!」」

 

そう叫び乾杯すると彼らは一気にグラスの中のワインを飲み干し、床に叩きつけた。

その後、二人は何も言わず謁見の間から退室した。

そして翌朝にグラミス皇帝が暗殺されたと言う報告が親衛軍司令部に届いた。

 

 

 

ジャッジ・ガブラスは謁見の間の方に向かって歩いていた。

グラミス皇帝暗殺の報を聞き、ヴェインが帝都にいるジャッジマスター達に召集をかけたのだ。

 

「何故我等が陛下を手にかけねばならん・・・」

「おのれ、謀ったな・・・このままではすまさんぞっ!!」

 

元老院議員達が怨嗟の声を漏らしながら帝国兵に連行されているのをガブラスは横目で見ながら謁見の間に入った。

そこにはグラミス皇帝と元老院のグレゴロス議長の死体そしてヴェインと兜を外した4人のジャッジマスターがいた。

 

「元老院の犯行ですと―――!?」

 

ドレイスがエイジスを睨みつけ、問いかける。

 

「ああ、犯人はグレゴロス議長。警備についていた親衛軍の兵士によると陛下に毒をもったことを認め、潔く自決したようだ。そしてラナード卿から私の方に連絡が入り現場に急行した」

「それで第1局から元老院議員を全て捕らえるよう我が第2局に要請があってな。取調べの結果元老院議員の大半が共犯者だ」

「よってただちに議会権限を停止。私が臨時独裁官として事態の収拾にあたる」

「たわごとを―――!私が真の反逆者を見抜けんと思うか!?」

 

ドレイスはそう言ってヴェインを睨みつける。

今回の暗殺はあまりにも不可解な点が多すぎる。

まず元老院がグラミスを暗殺する理由がなさすぎる。

元々グラミスは死病に犯されており、老い先短い命だったのだ。

既に第8艦隊の件でヴェインを失脚させる算段があるのにそんな手段を取る理由が無い。

グレゴロスはどうしようも無い奴だが伊達に元老院議長の地位を守り続けている訳ではない。

それくらいのことは分からなければそもそも政民でいられるかどうかも怪しい。

だから口封じにヴェインによって殺されてしまったのだろうが。

更にヴェインが臨時独裁官に就任・・・これで疑うなという方が無理な話だ。

臨時独裁官。元老院議員そして皇帝ですら政民と新民による公正な選挙で決めるアルケイディア帝国において有事の際に何らかの理由で元老院や皇帝が機能しなくなった場合公安総局から一時的に国家元首を任命するという法律がある。

要するに一時的ではあるがヴェインが帝国のトップとして君臨することになったのだ。

 

「言葉が過ぎるぞドレイス!」

「ザルガバース!卿までもが茶番を演じるのか!?」

 

ザルガバースはグラミス派ではないがヴェイン派でもない。

派閥に属さず、君主よりも国家に忠を尽くすタイプの中立派である。

ある意味一番法の番人としてふさわしい人物である。

ドレイスもそのことについてザルガバースを評価していたので彼を睨みつけ、問いかける。

一方ザルガバースも今回の件がヴェインの仕業であると薄々感づいている。

だが、これ以上混乱を長引かせるの得策ではないと考えていた。

何故なら・・・

 

「―――ロザリアの侵攻が迫る今はヴェイン殿の力が必要だ」

「チッ!」

 

ドレイスは盛大に舌打ちし、顔を背ける。

その様子を見てヴェインはグラミスの死体を見ながらはっきり聞こえる声で呟く。

 

「ソリドール家も私とラーサーを残すのみとなった」

「まさかラーサー様をも―――」

 

この男ならやりかねない。

11年前に自らの兄2人をその手で殺し、そして自らの父を死に追いやった男だ。

己の障害になるなら目の前の男は容赦なく自らの弟に手をかけるだろう。

ドレイスはそこまで考えると剣を抜き、ヴェインに向けた。

 

「ヴェイン・ソリドール!法の番人たるジャッジマスターとして貴殿を拘禁させていただく」

 

そう言ってドレイスはヴェインを睨みつけた。

だが、後ろから殺気を感じドレイスは軽く首を曲げて後ろを見る。

ベルガの剣が自分の首下にあった。

 

「ヴェイン閣下を独裁官に指名したのは法を司る公安総局だ。わかるか、ドレイス? 閣下に剣を向けた瞬間。お前は法に背いた」

「貴様も茶番の共演か―――!」

 

ドレイスはゆっくり剣を下ろし、ベルガに横なぎに斬りかかった。

が、ベルガの左手で剣の刃の部分を掴まれ止められた。

ありえない。剣で防がれたというならまだ分かるが素手で・・・

ドレイスが現状を受け入れるのに苦労している間にベルガは左手でドレイス剣を払い、顔を鷲づかみにし、反対方向に放り投げた。

 

「この―――力は―――」

 

ドレイスは放り投げられ全身が痛み、朦朧とする頭で思う。

さっきのは人間の力ではない。

 

「ザルガバース。アレキサンダーを与える。ベルガをともなってラーサーを連れ戻せ」

「はぁっ」

 

ザルガバースはヴェインの命に頭を下げ、謁見の間から出て行こうとした。

すると入り口の方から声が聞こえた。

 

「閣下。ラーサー殿の保護は私が」

「私を監視しなくていいのか? あれこれと探りを入れてグラミス陛下に報告していたそうだが」

「それは―――」

 

ヴェインの皮肉にガブラスは言葉を詰まらせた。

 

「卿は陛下の犬だった。いまさら飼い主を変えるつもりなら―――そうだな。ジャッジマスターの職務を全うしてみせろ」

 

ガブラスはヴェインの言葉の裏に隠された意味に気づき、倒れているドレイスの方を見た。

 

「法に背いた者を裁け」

「閣下。それはあまりに!」

「そうです。それに第13局に続き、第4局までジャッジマスターの地位が空位になるのもどうかと」

 

ヴェインの命にザルガバースとエイジスが諫言する。

だが2人の諫言はヴェインに黙殺された。

ガブラスは床に落ちていたドレイスの剣を取り、ドレイスの胸元に剣を向ける。

だが、共にラーサーを守ると誓い合った仲。

ガブラスの中に迷いが生じる。

 

「かまわん―――やれ―――」

 

ドレイスの弱々しい声を聞き、ガブラスはドレイスの顔を見る。

荒々しい息をしながらドレイスはガブラスに話しかける。

 

「生き延びて―――ラーサー様を、守って―――」

 

暫くガブラスは黙り込んだ後、呟いた。

 

「―――すまん」

「頼む―――」

 

ドレイスの返答を聞き、ガブラスは一気にドレイスの心臓を貫いた。

ドレイスは僅かに悲鳴をあげた後、絶命した。

その一部始終を見終ったヴェインは死んだグラミスの手を取り、誰にも聞こえないような声で呟いた。

 

「すべてはソリドールのために―――」

 




FF12の実況とかみて思うけどなんでヴェインがグラミスを暗殺したと勘違いしてる人多いんだ?
グラミスが服毒自殺して元老院議長に罪を擦りつけたのが真相なのに・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話 もうひとつの遺産

アルシドが相変わらず壊れてます。
というかこの作品でアルシドは常にこんな調子です。


「仮に姫が平和的解決を訴えたとしましょう。グラミス皇帝なら戦争回避を優先したでしょうが―――相手はヴェイン・ソリドール。姿を現した姫を、偽者だとか断定して―――解放軍を挑発するんじゃないですかね」

 

そこでアルシドは一瞬ラーサーを見て、またアーシェに視線を戻して続ける。

 

「ヴェインは戦争を望んでいる。都合の悪い事に、あいつは軍事的天才だ」

『(私も夢に告げられた。そなたが姿を現せば戦乱を招き、ヴェインが歴史に名を(のこ)す)』

 

アルシドとアナスタシスから告げられた予測はアーシェにとって辛いものだった。

最早二大帝国の激突は目前まで迫っている。

 

「帝国軍は全軍あげて開戦準備を進めてましてね。うちの情報では―――」

 

アルシドは侍らせている美女から渡された書類を見て、読みあげていく。

 

「ヴェイン直属の西方総軍が臨戦態勢に移行し―――新設の第12艦隊が進発。それと本国の第1艦隊も戦艦オーディーンの改装終了を待つばかり。でもってケルオン派遣軍の第2艦隊が―――第8艦隊の穴埋めに駆り出されますな。―――つまり、どえらい大軍だ」

「それってどれくらいの数なんだ?」

 

アルシドの言葉にヴァンが疑問を呈する。

 

「2年前のガルテア戦役の際にアルケイディアで編成されたガルテア鎮定軍は第8艦隊を中心に西方総軍の3分の1で編成されていた。馬鹿弟子にも分かりやすいように説明するなら帝国がナブラディア・ダルマスカに侵攻した時の兵力の最低でも3倍以上。それに本国軍やケルオン派遣軍からも増援がくるとなると5倍はいくんじゃないか?」

「そんなに・・・?」

 

パンネロがあまりの数の多さに絶句した。

2年前のガルテア戦役の時にダルマスカにアルケイディアが侵攻させた兵力の最低でも3倍以上。

明らかにアルケイディアの狙いがダルマスカ王国再興を目的とする解放軍の鎮圧ではなく、解放軍への協力を大義名分に参戦してくるであろうロザリア帝国軍を迎え撃つことだというのが動員した兵力から子供でもわかった。

 

「そして、切り札は破魔石」

 

アーシェの言葉にアルシドは頷いた。

アーシェはアナスタシスの方を向き、話しかける。

 

「大僧正猊下。王位継承の件は、しばし忘れます。力を持たない私が女王となっても、何も守れません。より大きな力を身につけてから、あらためて」

『(そなたが夢見るのは、破魔石の力か?)』

「破魔石以上の力です」

 

その言葉を聞いてアナスタシスは目をカッと開き、初めて肉声で話し始めた。

 

「力をもって力に挑むか。まこと人間(ヒュム)の子らしい言葉よ」

「私は覇王の末裔です」

「ならばレイスウォールが遺したもうひとつの力を求めなさい」

「そんなものがあるのですか!」

「パラミナ大峡谷を越えて、ミリアム遺跡を訪ねなさい。レイスウォールが当時の大僧正に委ねた力が眠っておる。破魔石を断つ【覇王の剣】」

 

その言葉を聞き、ミリアム遺跡に行こうとアーシェは出口の方に向いた。

その様子を見てアナスタシス僅かに神の意思に背きながらアーシェに語りかける。

 

「おのが覇業を支えた破魔石を砕く力を―――なぜ子孫ではなく他者に託したのか。剣を手にして悟らなければ王国再興の夢は、夢のままよ」

 

その言葉を聞いてアーシェはレイスウォールが他所に【覇王の剣】を託した事に疑問に思いながらも今は力が必要と言う事で考えないことにした。

そうして神殿の外に出ようとしたときに呆然としているラーサーが目に入った。

アーシェもラスラや父が亡くなったと聞いて同じような状態になったことがあるので同情する。

だが、こういうものは落ち着くまで時間が必要だと思いながら外へ出た。

セアも先程の【覇王の剣】を他者に託した理由について考えていた。

彼は早くも自分なりの結論を出していたがそれを認められずに不機嫌そうな顔をしながら外に出た。

 

『(私の夢も、やがて醒めるか―――)』

 

アナスタシスは瞑想を再開して一言呟いた。

 

 

 

神殿の外でセアはアルシドと久しぶりに話し合いをしていた。

 

「そういえばクライスさん。アダスの奴が会いたがってましたよ」

「そうか。でもロザリア帝国に入るのは・・・」

「なぜ?」

「・・・俺って諜報部を抜けたとき周りからなんて言われた?」

「辞職したって聞きましたが?」

 

アルシドが質問の意味が分からず首を傾げる。

 

「いや、本当は辞職願を上司に提出したんだが拒否されてな。だから夜逃げして国境を越えたんだよ」

「え・・・?」

「だからさ、その~、ロザリア帝国に入ったとたんに首をはねられる危険性があるからあと十数年くらいしたら行くって言っといて」

「わかりました」

 

実はセアが話したことは半分嘘で上司に辞職を拒否され、「どうしても辞職したいなら皇帝陛下に提出しろ」と言われて上司の言葉通りにその時のロザリア帝国皇帝の部屋に侵入し、辞職願を出した。

結果は不敬罪の罪を着せられて処刑されかけた・・・というかされたのがロザリアに行きたくない理由である。

既にロザリア帝国の記録上は故人であるから別に行ってもいいような気はするが念のためもう少し時間をおきたい。

 

「ところで話は変わるが・・・」

「・・・なんですか?」

 

アルシドは何か嫌な予感を感じて身構える。

 

「お前の部下はどうなっているんだ?」

「・・・というと?」

「だからなんでお前の部下は美女ばかりなんだ?」

 

セアが横目で下にいるアルシドの部下達を見る。

色気たっぷりのカナートを筆頭に美女ぞろいのアルシド直属の部下が14名。

 

「た、たまたま能力で選んだらそうなっただけで・・・」

「よし、質問を変えよう。ここにいるお前の部下何人に手を出した」

「・・・・・・・・・・・・全員です」

「俺が上司だった時より悪癖が悪化してるとは・・・な」

「いや、あの頃と違ってちゃんと彼女達は有能ですよ本当に!!!」

「そうか、そうか。まぁお前が侍らしてた奴も中々の腕だったしな」

「そうです!!」

「で、お前と今まで関係を持っている女性は何人だ?」

「え、え~と、ちゃんと数えた事はありませんが、3桁を少し越えたくらいで・・・」

「・・・呆れるほどの女好きだな。お前は」

 

セアは虫でも見るような目でアルシドを睨みつけた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話 ミリアム遺跡

キルティア教会直轄領ミリアム遺跡にて。

僧兵団団長以下数名にセア達はミリアム遺跡に案内された。

パラミナ大峡谷の南に位置するミリアム遺跡は元々キルティア教で剣と力を司る神ミリアムを奉っている神殿である。

この神殿は約1700年前にキルティア教会に政治的権力を与えた大国が建造したと教会の記録ではなっている。

だが、約1500年前にその大国も滅び神殿も教会から放置されて遺跡になった。

これがミリアム遺跡に関するキルティア教会の表向きの記録である。

だが実際には約700年前にイヴァリース統一を成し遂げたレイスウォールが当時の大僧正に【覇王の剣】を託し、大僧正がこの遺跡に封じた。

このことは歴代の大僧正及び僧兵団団長とミリアム遺跡の管理を行っている教徒達だけが知っている秘密である。

何故当時の大僧正がミリアム遺跡に【覇王の剣】を封じたのかは不明だがレイスウォールの血族の殆どがミリアムを信仰しているキルティア教の宗派だったからではないかと秘密を知るもの達からは推測されている。

 

「アーシェ殿下」

「なんでしょうか?」

「代々僧兵団では団長に就任するとき、先代団長からある伝承を受け継ぎます。大僧正に導かれ、ミリアム遺跡に挑む者が現れたときにその伝承を伝えよと言われております」

「その伝承とはなんでしょうか?」

「【覇王の剣は血を流すための刃ではない】」

 

僧兵団団長の言葉にセア達は黙り込んだ。

バッシュが団長に問いかける。

 

「どういう意味だ?」

「さぁ、私も先代に伝承の意味が理解できず尋ねたのですが先代は【我々が理解する必要はない】と仰っておりました」

「・・・【覇王の剣】を扱う者が理解できればいいというわけか」

「もしそうなら一刻も早く【覇王の剣】を手に入れる必要があるわね」

 

アーシェはそう言って遺跡の入り口の方に顔を向けた。

もしバッシュ言う通りなら【覇王の剣】は手に入れたらすぐ使えるというような都合のいいものじゃないのかもしれない。

 

「王女様」

 

セアの声が聞こえた方向にアーシェは振り向いた。

するとなにか小難しい顔をしているセアがいた。

 

「ダラン爺から聞いた伝説を覚えいますか?」

「確か【かつてレイスウォールは神に認められ、剣を授かり、己に与えられた試練を耐え、破魔石によって乱世を平らげた】でしたか」

「ああ、その伝説で登場している【剣】って【覇王の剣】のことじゃないか?」

「なるほどな。じゃあ大僧正が【神】の代わりかよ。まぁ伝説ってのは誇張が激しいからありえない話じゃないかもな」

「しかしバルフレアの言うとおりだとすると順番が滅茶苦茶だな」

「あ?」

「まず俺達は役立たずとはいえ【暁の断片】をもっている。伝説の中じゃ一番最後に出てくるのにな。そのことを無視するにしても【神】に仕える偉大な大僧正に認められたとはいえ【試練】というのがミリアム遺跡の仕掛けのことを指しているなら【覇王の剣】を手に入れるよりまえに俺達は【試練】をうけることになる」

「それはあくまでレイスウォールの時の話だろ?順番は別にどうでもいいんじゃねぇか?」

「・・・なら【神】が大僧正のことを指すとは考えにくい」

「なんでだ?」

「覇王は元を辿ればバレンディア大陸に存在した小国の貴族だ。その頃はまだ飛空挺もなかった筈だし位置的にキルティア教会と覇王になる前に接触を持つのは無理があるだろう」

「なるほどな」

 

実際にはレイスウォールはバレンディアの小国の貴族だが、十代の頃は遊歴をしていた為バレンディア大陸に居なかったというのは今の時代の人間は知らない。

尤も二十代前半で反乱を起こし国のトップに立ったレイスウォールが遊歴をしていたなど考えられなかったので当時ですら遊歴中のレイスウォールに会ったことのある人間を除き知らないのだが。

 

「とりあえずこの遺跡にある【覇王の剣】を手に入れるのが先だろ。後のことはそれからでいいじゃん」

 

ヴァンはそう言うとパンネロの手を取って遺跡の入り口の方に走っていった。

その様子を見てアーシェはため息をついた。

 

「まぁ馬鹿弟子の言うことも一理あるか。道すがら僧兵団団長に聞いた話では遺跡内部は700年前から手付かずらしいから罠が盛りだくさんだろうな」

「レイスウォール王墓みたいってわけか。ったくめんどうだな」

「でも宝がある可能性もあるぞ?」

「覇王の財宝みたいなオチなら何も無いほうがいいがな」

「まったくだ」

 

そう言って他の4人も遺跡に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

セアは遺跡の一室で10体の動く石像に囲まれていた。

石像の大きさは目測10Mくらいで右手に変な形の武器を持っている。

セアは石像の攻撃を避けながらここにくるまでの状況を思い出していた。

ミリアム遺跡に入ると王墓でも見たことのある古代装置が設置されていた。

特に何も考えずにヴァンはその古代装置に触れようとした。

だがそのときに

だがその古代装置にこう記されていたのだ。

【余と新たなる契約を望む者は、これに触れよ。

 証をたずさえているならば、道を示さん

             レイスウォール ここに記す】

証・・・考えるまでもなく王家の証のことだろう。

そして装置に触れようとしているヴァンは【暁の断片】を持っていない。

そこまで考えが及ぶとセアはヴァンを蹴飛ばして古代装置を中心に描かれている魔方陣から出した。

だがすでにヴァンは古代装置に触れていたみたいで魔方陣が浮かび上がりセアは飛ばされた。

そして今の状況に至る。

 

「とりあえず今回の一件が終わったらあの馬鹿弟子を半殺しにしよう。そしてヴァンが飛空挺を買うために帝国兵相手のスリで貯めてた金も没収してやろう。うん、そうだ。それがいい」

 

セアは早口にそう言うと一番近くにいた石像の足の部分を斬った。

その石像はバランスを崩してよろめき、その隙に{エアロラ}を唱え、その石像にぶつける。

するとその石像は吹き飛んで周りいた3体石像を巻き込みながら粉砕した。

そして石像が吹き飛んだほうに走りながら{ウォタジャ}を唱えた。

するとセアを中心に魔方陣が形成され、残っていた6体の石像は水の激流に飲み込まれ壁にぶつかって壊れた。

セアは壊れた石像を一瞥するとあたりを警戒しながら遺跡の奥へ進んでいった




ミリアム遺跡内部の描写がゲームとかなり違うものになってますw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話 人造竜

ヴィヌスカラとの戦闘を書くのが難しかった。
特にヴィヌスカラがどうやって攻撃してるのかがまったく分からない。



動く石像や魔法生物を倒しながら奥に進んでいくとセアはとある大広間に出た。

キルティア教において世界は女神ファーラムが世界を創り、そこに12人ないしは13人の使者を送ったとされている。

彼らはファーラムが創りし世界に降り立ったが、凶暴な邪竜たちが地上の神々や精霊を力で支配していた。

使者達はファーラムが創りし世界を取りもどす為に邪竜たちに戦いを挑んだ。

最終的にファーラムの助力を得て邪竜たちを退けた使者達は世界をファーラムの意思の下、正しい方向へ導き始めます。

邪竜たちに虐げられてきた様々な地上の神や精霊の助力をえて・・・。

しかしそんな地上の神々の中でファーラムを快く思わない神がいました。

闇の神・業神ケイオス、彼は邪竜に虐げられていても使者達が来るまで自分達を放置していたファーラムを憎んでいました。

彼は使者達を誑かし、使者達の心を悪に染めていき、地上を闇で覆い支配しました。

これを見かねたファーラムは黄道十二宮の紋章が刻まれた宝石を地上の使者達に送りました。

ケイオスは使者達にファーラムから宝石が届いたと聞き、彼らを呼び集めて宝石を見せるようにいいました。

だが、その宝石は宝石とは名ばかりの路傍の石ころに王道十二宮の紋章を描いただけのものでした。

その石からなんの力も感じなかったケイオスはファーラムも惚けたと言い使者達にそれ以上干渉しなかった。

その後、使者達が石を持って集まったときその石は神秘的に輝き、使者達の心を清め、地上を覆った闇を祓った。

こうして使者達は善の心を取り戻したが心の奥底で悪の心は燻っていた。

その状態の使者達がこの世界における知的生命体の祖先であるといわれている。

そして聖なる宝石が輝き、ケイオスの闇を打ち払う絵が大広間の天井に描かれていた。

そして大広間の中央に転移装置が設置されている。

 

「ここまで一本道だったからこの装置に触れるしかないか」

 

そう呟くとセアは転移装置に触れた。

すると転移装置を中心に魔方陣が浮かび上がりセアを別の場所に飛ばした。

 

 

 

ヴァンは迷子になっていた。

正確に言えば動くでかい頭の石像(以降デカ頭)3体と戦っているうちに落とし穴におち、落ちた場所にいたゾンビの大群に追われてはぐれてしまった。

 

「うわ~、またか」

 

通路を進んでいると再びデカ頭が現れた。

デカ頭が体当たりをしてきたのでヴァンはそれをよけ、後ろに回りこみ斬り込む。

デカ頭の動力部に傷をつけたことでデカ頭は停止した。

そのまま進んでいくと・・・

 

「なんか、ひろいとこに出たな」

 

少し大きい広間になっており、壁一帯に壁画が描かれている。

そして部屋の中心に転移装置があり、セアが飛ばされてきた。

 

「セア、無事だったんだな!」

「よぉ馬鹿弟子・・・元気そうだな」

 

とりあえずセアはヴァンの頭を殴った後、部屋を見回す。

壁画に13人の使者が描かれており、奥の扉に使者達に襲い掛かる邪竜が描かれている。

 

「いってぇ・・・」

「それくらいで済んだだけありがたくおもえ。というか空賊を目指してるなら無闇に古代装置に触るのはやめろ。早死にするぞ」

「うん、わかった」

 

そんなことを話しながらセアとヴァンは邪竜が描かれた扉を開いた。

するとそこはなにかの祭壇のような場所であった。

中央に見たことも無い紋章、そしてその紋章を中心に三角形の大穴があった。。

しばらくすると大穴から火が吹き、何かが出てきた。

鉄でできた3つの竜の首のようなものが最初に目に付いた。

そして胴体の部分は首の付け根から前足の部分までは鉄でできていて、それが空中に浮いており、そして胴体の上の部分には9対の羽がついていた

最後に目に入ったのが頭の部分だが、それは不気味な人の顔をした鉄仮面がつけられていた。

左の仮面は耳を、真ん中の仮面は口を、右の仮面は目を覆われている。

そして真ん中の口を覆われている部分に【ヴィヌスカラ】と古代文字で彫られてある。

それを見てセアは驚いた。

生前にヴィヌスカラという存在の話を聞いたことがあったからだ。

古代の人々は人造竜を造り出し、ヴィヌスカラと名づけたという。

古代の人々が何のためにヴィヌスカラを造り出したか不明だが、その力は中級邪竜に匹敵するという。

ヴィヌスカラは大きく首を動かし襲い掛かってきた。

ヴィヌスカラは3つの首をセアに目掛けて勢いよく叩きつける。

セアは2つの首を避け、目が覆われた鉄仮面をつけている顔に斬りかかる。

が、凄まじい金属音と共に斬激の勢いは殺された。

 

「なっ!」

 

よく見ると目が覆われた仮面の口が、セアの剣を噛んでとめていた。

ヴィヌスカラはそのまま右の首を動かし、セアを壁に叩きつけた。

 

「セア!」

 

ヴァンがセアの元に駆けつけようとするが、ヴィヌスカラの口を覆われた鉄仮面をつけた顔の目が光るとヴァンは床にへばりついた。

 

「ぐっ、重い・・・」

 

ヴィヌスカラは動けないヴァンに目掛けて顔を叩きつけようと振りかぶった。

が、突如飛んできた赤みのある黒い剣に胴体の中央を貫かれ、僅かに狙いが外れ、ヴァンの真横に鉄仮面が叩きつけられた。

 

「ちぃ、予備の剣なんか安物のダガー1本しかもってねぇぞ」

 

セアはそう言い、ヴィヌスカラを警戒しながらヴァンに{デスペル}をかけた。

ヴィヌスカラは耳を覆われた鉄仮面がセアの方を見ながら、暫く動作を確認するような行動をしていた。

やがて異常が無いことを確認できたのかセア達目掛けて鉄仮面を叩きつけてきた。

セアとヴァンはヴィヌスカラの攻撃を避けながら会話をする。

 

「なぁヴァン。1分程囮になってくれねぇか?」

「なんで!?」

「強力な魔法の詠唱をするからさ」

「わかった、任しとけ!!」

 

ヴァンはそう言うとヴィヌスカラに向かって斬りこみ、セアは一歩引いて魔法の詠唱を始めた。

ヴィヌスカラはヴァンの攻撃をまったく避けずに刺さり、耳が覆われた鉄仮面がヴァンの脇腹に向けて薙ぐ。

が、ヴァンは間一髪でそれを避け、刺さっていた剣を抜いた。

そんな攻防をしばらく繰り返しているうちにセアの{フレア}の詠唱が完了した。

するとヴィヌスカラの内部から爆発し、ヴィヌスカラの体は溶けて、バラバラになり原形を留めていなかった。

セアはそのヴィヌスカラだった物の中から自分の赤みのある黒い剣を拾った。

その後、ヴァンと共に奥にある個室に入ると転移装置があり、それに触れた。

そして転移した先でバルフレア達と合流した。

 

 




とりあえずヴィヌスカラの攻撃を本作では頭突きということにしましたwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十・五話 ケルオン派遣軍

アルケイディア帝国旧ディール王国領新都イスタナにて。

かつてケルオン大陸東端の肥沃な大地にディール王国という国が栄えていた。

そして216年前にアルケイディア帝国に占領された国の名前である。

当時のアルケイディア帝国は帝政に移行して4年であり、ケルオン大陸進出を計画していた。

まず飛空挺艦隊を飛ばすことが出来るヤクトに無い国で、海岸と接してなくてはいけない。

となると山岳地帯に存在する武装中立国の聖ヲルバ騎士団国か、肥沃な大地を持っているディール王国か、それともディールの3倍の領土を持っていて南部の亜人と戦争を繰り返しているアルス共和国か。

聖ヲルバ騎士団は精強であることで知られ、国土は小さいながらもキルティア教会とかなり強い縁がある。

更に山岳地帯で国土の4割がヤクトと地理的条件が最悪だったので真っ先にこの国に攻め込む事は断念した。

アルス共和国は南部のヤクトに住んでいるバクナムス族の対処とディールとの貿易摩擦に頭を悩まされ、西方の国々相手に侵略戦争を繰り返し、領土が東西に長く伸びてしまっている。

もし徹底抗戦されれば戦争は長期化するとしてアルスに攻め込むことは保留された。

ディール王国はガルテア連邦成立以前から聖ヲルバ騎士団国と領土問題から小競り合いを繰り返していたがアルス共和国との関係も良好であった為に国権の発動による全面戦争というものをここ700年は経験しておらず、軍事力も低かった。

その為にアルケイディア帝国から目をつけられ、攻め込まれた。

ディール王国は2週間程でアルケイディア帝国に降伏し、占領下におかれることとなった。

占領後はディール地方執政官が政治を行っており、現在のダルマスカ地方のように運営されている。

その後もアルケイディア帝国はケルオン大陸の諸国を占領し、ケルオン大陸総督が皇帝の代理人としてケルオン大陸各地の執政官を監視するようになった。

そんな歴史を持つ新都イスタナの総督府で現ケルオン大陸総督ピクシウス卿は本国からの命令を伝えていた。

 

「・・・ということで第12艦隊に同乗し、ラバナスタを経由して一度帝都に戻れということだ」

「はぁ、しかし遂に宿敵ロザリアとの戦争ですか」

 

やる気がなさそうに答えるのは第7局ジャッジマスター・グレイスである。

 

「いや、国境付近に軍を貼り付けているロザリアへの警戒だが、何故戦争になると考える?」

 

ピクシウス卿が微笑みながらグレイスに問いかける。

グレイスは内心ため息をつき、呆れたような目線をピクシウス卿にむける。

 

「総督閣下ならわかっているでしょう。最近の奇妙な事態に・・・」

「奇妙な事態?さて何のことかな?」

「あくまで私に説明させる気ですか」

「その通りだ」

 

グレイスは内心でこのおっさんは絶対に俺の言葉を理解してるだろ。

じゃなきゃこんなに面白そうな笑みを浮かべてるはずがねぇと言いたかった。

しかし仮にも上官が説明しろと言っているので仕方なしに説明する。

 

「最近、やけに暴動の数が減っていることです」

「それは喜ばしい事態だろ。卿達の努力の賜物ではないか」

「そうですか。ここ最近で潰した反乱組織はあまり無いはずですがね」

「では、どうなっていると卿は考えるのだ?」

「ロザリアからの支援が途絶えた。もしくは反乱組織が結集して大規模な反乱を画策している。私は後者の可能性が高いと踏んでいます」

「何故だ?」

「閣下はご存知ですかビュエルバの侯爵のことを・・・」

「ああ、確か病にかかり療養の為にビュエルバを離れているらしいな。早く病を治してビュエルバに戻りたいことだろうな」

「心にもないことを言わないでください。先日捕らえた反乱兵達から侯爵の名前が出ているんですよ!」

「なんと!恐れ多くも一国の主の名前を出すとはなんと不届きな輩だ」

「あなた絶対にふざけているでしょう?」

「何を言っているのだね?グレイス君・・・・そんな分かりきっている事は聞くな」

「やっぱりですか!? いい加減にしてくださいよ!! 兵の一部が閣下を頼りないなどと言い出しているのですから!!!」

「なんと・・・ならば卿の時以外の時はふざけずに対応しよう」

「私の時もまともに対応しろ!このハゲ!!!」

「うん」

「え~と話を戻しますが・・・・何処まで話しましたっけ?」

「ああ、オンドール侯の話が反乱兵から聞けたところまでだな」

「そうでした。それで―――」

「反乱組織がオンドール侯の下、集結して我がアルケイディアに対して反乱を起こす。場所は恐らくだがダルマスカの何処かだろうな。亡きダルマスカ王ラミナスとオンドール候は盟友だ。ダルマスカ再興を望む者達にとっては頼りやすいし、我が国の弱体化を望む反乱組織も支援するだろう。そして我が国と反乱軍の戦いが始まれば、国境に軍を集結させているロザリアは美味しいところをつまみ食いしようとダルマスカ保護とか適当な名目を大儀に参戦してくるというわけか」

「・・・やっぱりわかってたんですね?」

「さっきも言ったがそんな分かりきっていることは聞くな。それにまともに対応しろと言ったのは卿ではないか」

「はぁ・・・。もういいです」

 

グレイスは満面の笑みを浮かべているピクシウス卿にそう言った。

 

 

 

グレイスはピクシウス卿と別れると自分が指揮する第2艦隊の旗艦ネメシスに乗り込んだ。

どういうわけか第12艦隊を歓迎する式典を開くとピクシウス卿が言い出したのだ。

第12艦隊はケルオン大陸に寄るだけでそのまま北西に進みラバナスタに向かう予定なのにだ。

ここにはピクシウス卿の思惑があり、しばらく最新の戦闘機ばかりの第12艦隊が停泊すると思わせれば反乱組織へのいいハッタリになるからという意図はある。

しばらくすると乗り込んでいる部下から報告が入る。

 

「北東に艦影! 第12艦隊です!!」

 

グレイスは北東の空をみる。

第12艦隊の陣容は以下の通りである。

アレキサンダー級大型空母×1隻

シヴァ級軽巡洋艦×1隻

イフリート級巡洋戦艦×2隻

カトブレパス級駆逐艦×3隻

カーバンクル級軽巡洋艦×1隻

その他小型飛空挺多数と第2艦隊の陣容とは比べ物にならない。

まずシヴァは先の事故で壊滅した第8艦隊に所属していた最新の軽巡洋艦で、防御力はカーバンクル級より劣るものの高い機動性がある。

そして新型空母のアレキサンダーは高い防御力を誇り、小型戦闘機のCB58ヴァルファーレ戦闘機専用空母なのだ。

CB58ヴァルファーレ戦闘機などグレイス率いる第2艦隊にはまったくないというのに。

まぁこの辺では空中戦なんてめったいおきないし、対地攻撃力の高いイフリートの方が需要があるのだが。

そして何より上からの報告によれば第12艦隊は最近ドラクロア研究所が開発したというヤクト対応型飛空石完備だという。

ヤクトの多いケルオン大陸が主な活動地域のケルオン派遣軍にこそ必要だ。

そうすればヤクトで燻っている反乱分子を根絶やしにできるというのに。

いや、ロザリアとの開戦が近いこの状況ではヤクト・エンサを飛び越えて直接ロザリアに攻め込めることの方が重要か。

そんなことを考えていると機械を弄っている部下から報告が入る。

 

「アレキサンダーより入電!」

「繋げ」

「はっ!」

 

『西方総軍所属第12艦隊、旗艦アレキサンダー。艦長のザルガバースだ。貴艦隊の指揮官に応答願う』

『ケルオン派遣軍所属第2艦隊、旗艦ネメシス。艦長のグレイスだ。ピクシウス総督閣下直々に貴艦隊を歓迎したいとのお考えである。出来れば新都イスタナまでご同行願いたい』

『総督閣下のご好意感謝するが、我が艦隊はヴェイン・カルダス・ソリドール臨時独裁官閣下の命を受けている。よってピクシウス閣下に密命ゆえ、イスタナに行けぬとお伝え願う』

 

グレイスはザルガバースの返答を聞き、この前の政変の事を思い出した。

元老院議長グレゴロスによるグラミス皇帝暗殺。それに伴うヴェインの臨時独裁官就任。

第8艦隊壊滅の件で失脚寸前だったヴェインが臨時とはいえ一気に国家元首になった。

この政変のせいで帝国は行政に混乱をきたし、一部では暗殺の真犯人がヴェインではという噂もある。

だが、帝都の市民や軍部はヴェインの独裁を歓迎した。

それもその筈、ヴェインによって積み重ねられた戦勝や業績の高さから帝都の市民にとっては文字通り英雄なのだから。

そして軍部はロザリアの脅威が迫っている今、【戦争の天才】と称されるヴェインが国家元首に立つのは喜ばしい事態であった。

その影響はケルオン派遣軍にも届いており、兵の士気は高まり続ける一方だ。

 

『了解。部下に伝えさせよう。それで私は貴艦隊に同乗し、帝都へ帰還せよとの命令が下されている。受け入れを頼む』

『・・・了解した。シヴァで受け入れる。パンデモニウムに乗り込め』

『了解』

 

そう言ってグレイスは腹心の第7局のジャッジ数名と共にパンデモニウムに乗り込んだ。




ヴァンの扱いが酷いからアンチ・ヘイトのタグつけたほうがよくない?って聞かれた。
・・・ヴァンって原作でもこんなキャラじゃなかったけ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一話 背徳の皇帝

ケルオン大陸編から神都編に章の名前を変更しました。


先程からずっと下へ下へと階段をが続いていている。

 

「ミストが乱れているわ」

 

フランが呟くように言った。

 

「・・・またなにかでるのか?」

「王墓の時に感じたミストと似ているわね」

「ったく面倒だな」

 

フランの返答にバルフレアが顔を顰めた。

 

「なんか寒くないか?」

「地下だから・・・かな?」

「それ以外にもなにかありそうな気はするがな。おっ、ようやくひらけた場所にでたな」

 

話しているうちに階段が終わり、大きい広間に出た。

その広間はドームのようになっており天井に黄道十二宮の紋章が描かれている。

そして奥の大きな扉に双魚宮の紋章が描かれていた。

 

「・・・どうやらバルフレアの嫌な予感が的中したみたいだな」

 

その言葉を聞いた全員がセアの方を向く。

 

「なんのこと?」

「ここに入る前に言ってただろ。バルフレア」

「覇王の伝説の話か?」

「いや、その後の話で俺がミリアム遺跡に宝があるかもよって言っただろ」

「・・・覇王の財宝と同じオチってか」

 

バルフレアは嫌そうな顔をした後、ふと湧いた疑問をセアに投げかけた。

 

「なんでそう思うんだ?」

「ベリアスを倒した後、話しただろ。神々に挑んだ12体の異形者のこと」

「確か、そんな御伽噺を言ってたな」

「ああ、その御伽噺の中で双魚の座を司る異形者がいる。フランの言う事を信じるなら多分奥に居るのはそれだ」

 

それを聞き、全員に先程より緊張が走った。

魔人ベリアスもかなりの強敵だったのだ。無理も無い。

 

「その御伽噺で双魚の座を司っている存在はどのように語られているのですか?」

「【双魚の座、背徳の皇帝マティウス。下界に暮らす人を守り統治する闇の異形者。統治の中、欲に溺れ闇に心を奪われた彼は悪神へと姿を変える。そして氷の世界を司る女神を拘束し、生きる盾とする背徳的な行為をもって神に戦いを挑んだ。しかし神の絶大なる力の前に敗れた彼は、断末魔と共に地獄の海深くに封じられた】だっけな。確かその話の中では氷の力を操っていたっけ」

「もし本当に氷の力を操るなら、殿下が魔人を召喚すれば大丈夫では?」

 

バッシュの提案に全員が頷き、双魚宮の紋章が描かれた扉を開いた。

すると中から冷たい風が吹いて、思わず身を震わせた。

部屋の内部はミストが視認できるほど濃く、氷の塊があちこちにあり、中心に奇妙なものがあった。

青みがある美しい下半身が魚の女性が目隠しをされ、両手が拘束されている。

そしてその鎧の肩の部分から腕が生えており、右手に槍なのか杖なのか判断に迷う奇妙な武器を持っている。

その奇妙なものは御伽噺の中で語られた背徳の皇帝マティウスの描写と一致した。

マティウスはセア達の姿を確認すると武器を振り、その動作にあわせて周りの氷が砕けた。

そして砕けた氷が集まって氷の精霊のようなものが何個も形成された。

それは御伽噺の中でマティウスが使役した氷のアーゼという使い魔のようなものだった。

アーシェは自らの魔力を青い魔石に注いだ。

すると魔石からあふれ出たミストが魔人ベリアスの形を成し、氷のアーゼを燃え盛る炎で蒸発させた。

ベリアスはそのままマティウスに向かって突っ込み、武器を振り下ろす。

マティウスはそれを武器で受け流し、空中を泳ぐように後方に下がり、{ブリザジャ}の魔法をベリアスにめがけて放った。

それと同時にマティウスは武器をベリアスに向けて凄まじい速さで突っ込んだ。

ベリアスは正面から炎で飛んできた氷を蒸発させ、自分の周りに火柱を上げる。

火柱がマティウスに当たり拘束されている女神が悲鳴あげたが、マティウスは何の苦も無く火柱を受け止め、魔法で火柱を凍らせた。

 

「すげぇ・・・」

 

ヴァンが思わずそんな言葉をこぼした。

周りの皆も声には出さないがそんなことを思っていた。

ベリアスとマティウスの戦闘に気をとられているとベリアスの炎から逃れた氷のアーゼがアーシェに襲い掛かった。

すぐに反応したバッシュの遠隔攻撃で氷のアーゼの攻撃のそれた。

アーシェの近くに居たヴァンが氷のアーゼに斬りかかり、氷のアーゼが怯んだところをセアが真っ二つに両断した。

そして周りを警戒しながら異形者達の方に目を向けるとベリアスが徐々に劣勢になっていった。

バルフレアが銃でマティウスの左腕を狙撃するとマティウスは{ブリザド}をこちら目掛けて放った。

全員が一斉に回避し、セアがそのままマティウスに突っ込み、右腕目掛けて思いっきり剣を振り下ろした。

するとマティウスの右腕が宙を舞い、拘束された女神が奇声をあげた隙にベリアスに背中から貫かれたマティウスは左腕で武器を掴み、ベリアスの腹部を貫いて壁に叩きつけた。

ベリアスはミストを放ちながら消えていき、マティウスはセアに目掛けて武器を振り下ろした。

セアはベリアスが貫いた腹部の穴に剣を差込んで強引に引き裂くとマティウスはミストを放ちながら消えていき、青い魔石が残った。

セアがその魔石を拾うと

 

「これは【覇王の剣】を手にいれた後で大僧正に渡そうと思うけど別にいいか?」

 

セアの提案に全員が頷き、セアは魔石をポケットにいれた。




悩みに悩んだ結果、異形者同士の戦闘になってしまった。
後半セアも参戦させたけど他のキャラが空気に・・・どうにかしないとな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二話 千年神戦争

今回はセアの御伽噺の概要です。


「御伽噺を聞きたい・・・?」

「魔人といい、先の異形者といい、貴方の知っている御伽噺がある程度の真実を含んでいる可能性があります。現に王家にしか伝わっていないはずの魔人の伝承を貴方は知っていた」

「確かにそうかもしれませんが、その御伽噺の中では彼ら異形者は人が倒せるような存在ではない筈ですが・・・」

「どうだかな。神話や伝説なんてものは大抵誇張されてるもんだ」

 

バルフレアの言葉を聞き、セアは暫く頭を悩ませていた。

そして・・・

 

「参考になるか知らんが俺の知ってる御伽噺は数百年前のバレンディア西部で伝わってた話だぞ」

 

そう言ってセアは御伽噺を語り始めた。

遥か昔、日の昇る場所から日の沈む場所まで支配していた神々がいた。

その当時の人は知恵を持たずに寒さに打ち震えていた

それを哀れんだ神が火の扱い方を人に教え、大地に楽園を築き、そこに人々を住まわせた。

みるみるうちに知恵を付け、多くのものを生み出していった。

しかし、知恵を身につけた人々は楽園だけでは満足できず、外の大地を開拓していった。

そして外の大地で人々が土地を巡って戦乱を起こすようになり、神が教えた火も使われていました。

それを知った神々は怒り、外の大地を業火で薙ぎ払い、燃やし尽くした。

しかし暫くたつと再び外の大地を開拓し、戦乱を起こしました。

神々はその度に外の大地に出て行った人々を滅ぼしました。

ある時は外の大地にいた人に雷を落として、ある時は外の大地ごと人を吹雪で氷漬けにして、

ある時は地割れを起こして人を奈落の底に落として、ある時は津波を起こして人を水の底に沈めた。

それでも人々は時間がたつと楽園を捨て、外の大地を開拓していきました。

神々は自分達は人々を導くには次元が違いすぎるのではと考え、異形者を創造しました。

彼らは地上で神々より与えられた使命に従い、地上を統治していた。

しかし彼らの一部が生物の悪意をまのあたりにして徐々に変わり始めていた。

そんな時、黒き翼を持つ堕天使アルテマが異形者達の最高位である聖天使アルテマと接触。

この接触が切欠で黄金の翼を持つ聖天使アルテマは神々に反旗を翻した。

するとすぐさま人々を導く立場にあった統制者ハシュマリムが聖天使アルテマに従った。

神々に従順であった他の異形者達も長き時間の間に変わってしまっていた。

魔人ベリアスは失敗作と位置づけられ、何の役目も与えられなかった事に怒り、

背徳の皇帝マティウスは下界の統治中に欲望の素晴らしさを知り、欲望のままに生きることを望み、

密告者シュミハザは己が神の護衛というやりがいのない仕事だった事に不満を抱き、

暗闇の雲ファムフリートは神々が己が姿をおぞましいと鎧に閉じ込め封じ込めた事に怒り、

憤怒の霊帝アドラメレクは異界の魔物達に慕われ、彼らの主として外の世界に行くことを願い、

死の天使ザルエラは天を呪う者たちに魂を侵されてしまい、

不浄王キュクレインは神々が己を汚れを吸う存在として生み出したことに

断罪の暴君ゼロムスは人を断罪する時の快感に心を奪われ、

審判の霊樹エクスデスは審判者として心を無にしてきた結果、世界を無に返そうとし、

輪廻王カオスは世の中にはびこる混沌の渦に巻き込まれ、

このようにして変わってしまった彼らは聖天使アルテマを盟主として神々に反旗を翻した。

この時に聖天使アルテマに従った異形者達を俗に闇の異形者という。

神々と闇の異形者達は争いは1000年もの長い時間に及んだ。

この戦争を千年神戦争と呼ぶ。

最終的に闇の異形者達に勝利した神々は彼らに獣印を刻み、封じた。

その後、人に失望して神々は楽園を海の底に沈めて姿を消した。

こうして神の時代は終焉を告げ、現在のように血で血を洗う力の時代を迎えることになる。

 

「これが俺の知っている御伽噺の内容ですね」

「獣印というのがン・モゥ族の伝承にある魂がミストに繋がれた事かしらね」

「さぁ、今のところ御伽噺に登場した魔人と背徳の皇帝は実在したってことくらいしかわからん」

 

セアは首を振りながらそう言った。

 

「そんなわかんないことよりさ、早く奥の部屋に行って【覇王の剣】をとったほうがいいんじゃない?」

 

ヴァンの言葉に全員が思考を中断する。

そしてヴァンの方を全員が見た。

 

「な、なんだよ?」

「とりあえず馬鹿弟子の言うとおりだな。とっとと【覇王の剣】を持って神都に戻ろう」

 

セアはそう言うと奥の扉を開き、入っていった。

他の全員もそれに続いた。

 

 




闇の異形者達と神々の戦いのシーンはセアが面倒なのでしなかった模様。
(本当は作者がどう書けばいいか分からなかったからというのは内緒の方向でw)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十三話 覇王の剣

多分今までで一番短い。


ミリアム遺跡の最も奥にある覇者の間。

細長い通路のような部屋で真ん中あたりにに入口に戻る為の転移装置があり、

そして階段を上りきった奥にある壁には幾つもの光る歯車のような物が回りながら【覇王の剣】を守っていた。

アーシェが近づくと持っていた【暁の断片】が光った。

すると通路を照らしていた装飾の光が消える。

そして歯車のような物から音が出ると共に光が消え、停止した。

ひとつ停止するとまるで呼応するかのように歯車のような物が次々に同じように停止していく。

全て停止すると中央に納められていた【覇王の剣】が光を纏って浮かび、ゆっくりと降下してきてアーシェの目の前で止まる。

アーシェが剣の柄を掴むと纏っていた光が消え、浮力を失った剣を支えきれずに床に打ち付けた。

 

「こいつで本当に破魔石が壊せるか【暁の断片】で試してみれば?」

「えっ?」

 

ヴァンの提案にアーシェが少し驚き、ヴァンを見る。

 

「ヴァンにしてはいい案だ。【暁の断片】は役立たずなんだろ」

 

バルフレアにもそう言われ、アーシェは【暁の断片】を床に置いた。

すると【暁の断片】が光ってミストが僅かに溢れ出てきた。

 

「石のミストが―――」

「ざわめいてるわ。剣を恐れてる」

 

そしてアーシェはまた目の前に最愛の夫ラスラの幻影が写った。

ラスラの幻は目を瞑りゆっくりと首を横に振る。

まるで破魔石を壊してはいけないというように。

アーシェは剣を振りかぶると戸惑いの表情を浮かべ、目を瞑り剣を振り下ろした。

剣は【暁の断片】の真横のなにもないところにあたった。

その様子を見てラスラの幻影は頷き、微笑みながら消えていった。

そしてラスラの幻影が消えるとすぐに【暁の断片】は光を失った。

 

「―――ミストが消えた」

 

フランがそう呟くとアーシェは言った。

 

「この剣なら、破魔石に勝てるわ」

「当たればな」

「・・・まったくだ」

 

バルフレアとセアは呆れたように言う。

アーシェが破魔石を壊す気がなかったことに2人とも気づいていたからだ。

それにセアはまた見えていた(・・・・・・・)からでもある。

バルフレアは転移装置の方に歩き出すとセアもその後に続く。

 

「ねぇ」

 

ヴァンもバルフレアの後を追おうとしたが呼び止められ、振り返った。

 

「また、あの人が見えた?」

「オレには―――

 見えなかった。

 兄さんの姿も―――

 ―――もう、何も」

 

ヴァンの言葉にアーシェは少し戸惑いの表情を浮かべた。

すると・・・

 

「おい馬鹿弟子!サッサと王女様を連れて来い!!」

 

セアの叫びを聞き、ヴァンはアーシェの手を掴んでセアの方に走って入った。




さて、ようやく覇王の剣を入手しました。(意外と長かった)
そろそろ神都編もクライマックスです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四話 神都炎上

大体戦場の描写ってこんなんだよね?
若干エグいかもしれません。


セア達がミリアム遺跡から出ると遺跡の管理をしている青年のキルティア教徒が話しかけてきた。

 

「あ、出てこられたんですね。出来れば一刻も早く神都に戻って欲しいのですが・・・」

「? 一体どうしたんです?」

「それは―――」

 

青年は事情を説明しようとすると辺りが影になって暗くなった。

そこでセア達は空中を見上げると第12艦隊の姿があった。

 

「オレ達がここにいるのがバレたのか?」

「いや、それなら前みたいにヴァルファーレを降下させているはずだ」

 

セアの言ったとおり、第12艦隊はミリアム遺跡に目もくれず、北西の方向に進んでいった。

ヴァンやパンネロがそれを見て安堵している。

 

「見て」

 

フランの方に振り向き、指差している方向をみた。

すると神都があった方角から黒い煙が上がっていた。

 

「あの艦隊は少し前にブルオミシェイスで停止していました。それを見てン・モゥ族の長老は神都の方に走っていってしまいました。私達も向かいたいのですがここをがら空きにするわけにはいかず・・・」

 

青年の言葉を聞くとセア達は神都に急いだ。

 

 

 

 

第12艦隊旗艦アレキサンダーに乗り込んでいた第7局のジャッジ達は不満をぶつけあっていた。

 

「何故ラーサー様をお迎えにあがるだけでこのような事態になったのだ!?」

「これも第2局の戦争馬鹿のせいだ!!」

「それもそうだが、あんな男にキルティア教会との交渉を任せるなど臨時独裁官閣下はなにをお考えか!?」

 

ジャッジマスター・グレイスは自分の部下に冷ややかな目線を向けていた。

だが、不満のひとつやふたつを言いたくなるのも致し方ないかとも思う。

自分達が先程神都でやってきたことはキルティア教会に喧嘩を売るに等しい行為だ。

ヴェインがキルティア教会の力を量り間違えているとは思わないが幾らなんでも強引に過ぎるような気がする。

帝都に戻ったら今回の密命についての意図をヴェインに説明してもらわねばなるまい。

そう思いながらグレイスはザルガバースの方に顔を向けた。

ガブラスは別室でラーサーの気を宥めているし、ベルガは神都に置いてきた為、このコントロールルームにいるジャッジマスターはザルガバースのみだ。

神都でベルガからヴェイン直々の命令書を見せられたときに顔を顰めていた。

やはり自分と同じく今回のことに少々不満―――というよりは不安があるのだろう。

アルケイディア帝国もキルティア教圏国なのだ。

今回の件はヴェインを快く思っていない者達にとっては謀反を起こす大義名分になる。

それに信仰心の高い者達もそれに加担するだろう。

そんなことをグレイスが考えていると

 

「いずれ償うことになろう」

 

ザルガバースが小さく呟いているのが聞こえた。

確かにいずれ俺たちは今回の事で償わねばならない時がくるだろう・・・

 

 

 

キルティア教会直轄領神都ブルオミシェイスにて。

神都は悲惨な状態になっていた。

僧兵団の団員やキルティア教徒、避難民の死体がその辺に転がり、

避難民のテントには火がつけられ、黒い煙をあげている。

焦げ臭さと血の匂いが充満していた。

あまりの光景ににパンネロが気を失い、倒れかけたがヴァンに支えられた。

 

「あなたたちは・・・」

 

左腕を斬りおとされ、青白い顔した蹲っているキルティア教徒の男性が話しかけてきた。

 

「一体何があったのですか!?」

「アルケイディア帝国軍が、ここに、きたんだ。僧兵団、団長が・・・帝国、軍と交渉していると、いき・・・なり向こうのジャッ・・ジ達が剣を、抜いて・・・襲い掛かってきた」

 

そういうとその男は空を見ながら呟いた。

 

「神を恐れぬ愚か者共に裁きあれ・・・ファーラム」

 

言い切るとその男はまるで糸が切れたように倒れ、絶命した。

 

「おい、あんたら!!」

 

避難民の人がセア達の方を見て叫んだ。

 

「なんだ?」

「あんたらも早くここを離れたほうがいい!!まだ神殿の方にジャッジ共が残っているみたいだ!巻き添えを食らうやもしれん。早く逃げるんだ!!」

「まて、神殿にはまだジャッジがいるのか?」

「そうだ!俺たちは家族を連れてヲルバにでも紛れ込むつもりだ!!悪い事はいわん!早く逃げい!!」

 

避難民はバルフレアにそういうと家族を連れてパラミナ大峡谷に出て行った。

セア達はまだジャッジが神殿にいるということで神殿の方に向かった。

途中で凄惨な光景も目の当たりにした。

槍で貫かれて息絶えた僧兵。死んだ親の横で泣き叫ぶ子ども達。

家族と離れ離れになり、探している人物。

火傷をして呻きながら這いずり回る避難民。

帝国軍に視認されまいと大きい窪みに逃げ、その後から逃げてきた避難民の重さで圧死した死体。

まるで戦場だとセアは思った。

神殿の入り口に入るとキルティア教徒が話しかけてきた。

 

「あなたたちはご無事でしたか!」

「ええ、ところでまだジャッジが神殿に居ると聞いたのですが」

「光明の間で大僧正がジャッジを説得なさっているはずです」

「大僧正がジャッジと一緒に!?なら尚更です!!」

「やめてください!あのジャッジは・・・」

「どうしたのです?」

「あのジャッジは化物です・・・」

 

キルティア教徒はそう言うと光明の間に入る入り口にある広間を見た。。

アーシェもその教徒の視線を追うとそこには数十名の僧兵の死体が転がっていた。

 

「あのジャッジマスターはこれだけの数を一撃で・・・!」

 

そこまで言うと教徒は膝を就き、泣き始めた。

そのジャッジが僧兵を殺す瞬間を思い出したのか酷く震えている。

ン・モゥ族の長老がその教徒に近づき、その教徒を宥めながら言った。

 

「その後、大僧正がそのジャッジに話があると言って光明の間に連れて行った。どうしても行くというのならお気をつけなされ」

 

セア達は互いの顔を見ると頷き、光明の間の入口の扉を睨みつけた。

 




あー因み作者のオリ設定でケルオン大陸北東部は
=========================================
キルティア教会直轄領(ほぼヤクト・ラムーダ)
ヲルバ騎士団国
旧ディール王国領(現アルケイディア帝国領)
旧アルス共和国領(現アルケイディア帝国領)
=========================================
大体こんな位置関係になっています。
南北だけで見たらですがww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五話 傲慢な人の力

中間テストやら地元の祭りやら隣の市の祭りやらで忙しくて中々更新できませんでした。
ああ、あとFF零式二次創作の読みきりも更新したんで興味があったら見てください。



アナスタシスと謁見をした光明の間は悲惨な状態になっていた。

殆どの神像が破壊され、奥に残っている女神ファーラムの偶像も半壊している。

そしてこの前来た時にアナスタシスが瞑想をしていた場所で女神ファーラムの偶像を眺めるように佇んでいた。

甲冑を身に纏い、右手に血が滴る金色の剣が、そして背中にはジャッジの紋章が描かれたマントを羽織っている。

主に他国への武力行使などを担当する第2局のジャッジマスター・ベルガである。

アーシェ達が扉を開けると首だけ捻ってアーシェの方を見た。

 

「ほう、亡国の王女か。帝国への復讐を願って【覇王の剣】を求めたな?」

 

ベルガはアーシェの姿を認めるとアーシェの方に近づく。

するとベルガの影になって見えていなかったがアナスタシスが倒れている姿が見えた。

一同は驚きも声を漏らした。

 

「剣の在処を吐かんでな」

 

ベルガが何の気負いもなくそう言った。

 

「人間の力を信じず、神などに縋った者の末路よ」

 

ベルガがそう言い終わるとベルガの背後に影が踊った。

だがそれも一瞬ですぐに消えた。

 

「あいつは!?」

 

ヴァンはその影に見覚えがあった。

いや、ここにいる全員に見覚えがあった。

フランの妹のミュリンが人造破魔石に心を奪われていた時に見た影と同じだったのだ。

ベルガは軽く剣を振るうと体内から青白い霧のようなものが溢れ出てきた。

 

「人の体からミストだと!?」

「このミスト、ミュリンと同じよ!石の力にとりつかれてる!」

 

バルフレアとフランはそう言うとベルガは軽く笑った。

 

「笑わせるな。人造破魔石は人間の力だ! 神々に挑む大志を抱いた人間が――その知恵で生み出した人間の武器!」

 

ベルガはまるで自分の言葉によっているかのように続ける。

 

「与えられた破魔石に頼り切っていたレイスウォールなど――偽りの覇王にすぎんわ!!」

 

ベルガの言いようにアーシェは顔を歪ませる。

ベルガは女神ファーラムの偶像に向かって払った。

すると女神ファーラムの偶像は音をたてながら跡形もなく崩れた。

その音を聞き、神殿の奥にいた三十人前後のジャッジが光明の間に入ってくる。

 

「見ておれ! やがて全イヴァリースに真の覇王の御名がとどろく! 神々の意志を打ち破り、歴史を人間の手に取り戻す――」

 

「その名はヴェイン・ソリドール!」

 

「あのお方の築く歴史にダルマスカの名は不要! レイスウォールの血筋ともども――時代の闇に沈めてくれるわ!!」

 

ベルガは左手で腰に提げていた剣も抜き、凄まじい速さでアーシェの目の前に近づき、剣を振り上げた。

アーシェの隣にいたバッシュがベルガの剣を受けとめる。

 

(――ッ!)

 

だが、ベルガの剣に押し負け、バッシュは体勢を崩した。

ベルガはそれを見るとバッシュを払いのけ、再びアーシェ目掛けて剣を振る。

だが、セアが突然横からアーシェを蹴飛ばして場所を移動させ、空振りしたベルガの肩口から剣を突きたて胴体を貫く。

ベルガは激痛をかみ殺すとセアに目掛けて剣を振るったがセアは数歩下がってその剣を避ける。

 

「・・・今のは致命傷だと思うんだがな」

「確かに今のは人造破魔石がなかったら致命傷だっただろうな」

 

ベルガはなんでもないようにそう言うとミストがベルガの体を纏い始めた。

セアは直感的にベルガから流れていた血が止まったのだと感じた。

 

「セア!」

「馬鹿弟子!お前は他の奴等と一緒に周りのジャッジをどうにかしろ!こいつは俺がやる」

「そういうことだ。サッサとしろヴァン」

 

ヴァンは何処か納得していなような表情でバルフレア達と一緒にジャッジ達に方に向かっていった。

 

「ほう、俺の相手はお前一人で勤まるのか?」

「・・・その言葉そのまま返す」

「ならば一切の遠慮は無用だな」

「避難民を虐殺してる時点で遠慮もなにもないだろうが」

「ははっ!確かに!!!」

 

ベルガはまるで獅子のような速さでセアに向かって剣を振り下ろす。

セアは咄嗟にその攻撃を受ける。

 

(なんて速さと重さだ・・・それに幾らジャッジの鎧が軽くて丈夫な金属で出来ているとはいえ、全身に甲冑を纏った奴が、いや、仮に生身だったとしても人間に可能な動きじゃねぇぞ)

 

セアは軽く冷や汗を流すとその攻撃を受け流し、ベルガの足を目掛けて剣を横に振る。

飛び上がってベルガは回避し、セアに目掛けて剣をたたきつける。

セアはその斬激を受け流すとベルガの首に目掛けて剣を突き出したが、ベルガの左手の剣でいなされた。

ベルガはいなす時に僅かに前に力をかけていたお陰でセアの背後に背中合わせで地面についた。

そしてセアもそれに気づき両者が互いに振り向き様に一閃。

ベルガの剣がセアの体を一等両断していた。

セアの上半身が無様に地面に横たわっているのをベルガは確認した。

 

「久しく見る強者(つわもの)だ。ゼクトと競い合っていた頃を思い出したぞ・・・」

 

ベルガは少し名残惜しそうにそう言いセアを見るとアーシェ達の方に向かっていった。

・・・セアの上半身が黄色い霧になっていっていることに気づかずに。




注:人造破魔石の能力が原作と比べ本作ではかなり強化されてますw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六話 記憶

久しぶりの更新。
中々纏まらなかった。過去を・・・っていうか原作になかったものを書くのってかなり難しい。


ここは・・・どこだ・・・?

・・・?

 

「「「「万歳!」」」

「「「グレキア王国万歳!!」」」

 

馬に跨り、俺は道を進んでいた。

そして後ろに武装した兵士が何万も続いている。

ああ、戦に行くんだったか。

 

「今回の戦は勝ち戦だろう」

「ああ、なんたってあの国は南部諸国を併呑し続けていると言っても未だに我がグレキアを始め、シュターン、キャメロットと言った大国と比べれば小国という括りからは抜けられんわ」

「そうだ!それにあのキャメロットも今回ばかりは手を貸してくれるらしいしな」

「ああ、むしろ今回はそっちの方が要注意だろう。戦闘中に牙を剥きかねんしな」

 

ええと、何処に戦をしにくんだっけ。

確か・・・

ん?なんか光景が歪んで・・・

全く別の光景に・・・

なんだここは?会議室か?

 

「申し訳ありません・・・王都に追いつめられるまで敗北を重ねることになろうとは」

「だが、まだ残存兵力を結集すれば勝ち目はあるはずだ」

「しかしキャメロットが寝返ったこの状況で誰が軍を率いるのだ?」

「確かにあんな小国とキャメロットが休戦を合意したなど予想外だったからな。大国の面子というものがあるだろうに一体あの国はどんな条件を提示したのだ?」

「それよりも前線の兵士が言っていた化物とは一体?」

「そんなもの腰抜けの戯言だ!!」

「戯言?大陸西部に覇を唱え、他国と何度も戦ってきた我が軍の精鋭が戯言を抜かしたというのか!!」

 

負けたのか・・・?

我々が・・・?

 

「父上」

 

うん?

 

「いくさ、まけちゃうの?」

「いや、私がいる。何も心配することはないよ」

 

そうだ、息子がいたんだった。

 

「あなた・・・」

「お前も心配するな。大丈夫だ」

「ならいいのですが、私の相手はしてくださらないのですか?相変わらず女心がわからないのですね」

 

俺から言わせればお前の方が相変わらずだ。我が妻よ。

 

「悪いが忙しいのでね」

 

そしてまた場面が変わる。

ここは・・・王宮の一室だな。

なにやら黄色い霧のようなものが出ているが・・・

呆然としているとなにかが飛び掛ってきた。

思わず俺はそのなにかを斬り捨てる。

だが、その斬ったなにかの顔に俺は見覚えがあった。

これは・・・俺の息子の・・・・・

また場面が変わる。

今回はまるで宙に浮いているかのようだ。

そして眼下に広がる世界は凄惨としか言いようのない光景が広がっている。

不気味な黄色い霧が出ており、動く屍共が美しい王都を徘徊している。

その中で動く屍の返り血を浴びながらどこか悲しげでありながらも獰猛な笑みを浮かべ剣を振り続けている。

その者は激怒や絶望、狂喜・・・この世で激情と言えるものを詰め合わせたような狂ったような叫び声を上げている。

やがてその者以外に動くものはなくなり、王都は赤色に塗りつぶされ、切り裂かれ原形を留めていない屍がそこら中に転がっていた。

王都を朱に染めたその者は涙を流しながら返り血に染まった赤黒い剣を自分の腹に何度も刺しながら狂ったように嗤い続けている。

そして唐突に分かった――否、思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・っ!」

 

まず目に入ったのが血だまり。

俺はベルガに斬られたんだったな。

それにしても俺は気絶して夢を見ていたのか?

最後に気絶したのは確か二百年以上前だ。

いや、そんなことは後でいい。

まずさっきから戦っている仲間を助けに行かなくては。

夢のせいで最悪の気分だ。

鬱憤晴らしだ。思いっきり派手に暴れよう。

俺の体からミストが溢れ出した。

 

 

 

ジャッジが吹っ飛んでいく。

バルフレアが銃の先端部分を持って、思いっきり殴りつけたのだ。

そういう使い方をすると銃は鈍器として結構優秀だったりする。

最もあまりやりすぎると銃が変形して弾を撃てなくなる可能性もあるが、命に比べたら安いものだとバルフレアは割り切っていた。

それにそれなりに銃火器について知識を持っているので簡単な修理は自分でできるからでもある。

イヴァリースでは銃の生産法が確立しておらず、大金持ちが道楽で開発する以外は遠方の国からの交易品くらいでしか手に入らない。

 

「ちっ、次から次へと面倒だな」

「自分から首を突っ込んだんでしょ?」

「ああ、そうだな」

 

バルフレアはそう言うと目の前のジャッジを睨みつけた。

するとそのジャッジの首に刃が生えた。

正確にはヴァンが後ろから突き刺したのだが。

 

「お前意外とえげつねぇな」

「そうか?」

 

ヴァンは不思議そうな顔をしてバルフレアの方を見る。

バルフレアはその様子をみてため息をついた。

まだ10代の子どもがここまで割り切ってしまっていのかと思ったからだ。

しかしヴァンからしたら意味不明なことこの上ない。

何故ならヴァンに実戦で鍛え上げたのはセアなのである。

セアの敵に対する容赦ない攻撃に比べれば自分の攻撃は甘すぎるとヴァンは思っているのだ。

はっきり言って比べる対象が悪すぎるのだがヴァンは全く気づいていない。

実はそのせいでパンネロから若干引かれてた次期があったのだが、パンネロも数ヶ月も似たような光景を見ていたらなれてしまった。

案外、家畜を殺すのになれるのと似たようなことなのかもしれない。

 

「そういや、セアは・・・」

 

そう言ってヴァンは入り口の方を見た。

そこには血で鎧が赤くなったベルガが立っていた。

そしてそのベルガの背後に黄色い霧が立ち上っていた。




セアVSベルガを今話にする予定だったんだけどなー
今話でセアの故郷について描写できました。
長かった。

今回で何故セアがレイスウォールを嫌っているのかがわかった人も多いでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十七話 冷たき者

気がつけば一月以上放置してた。
・・・タグに亀更新でも追加すべきか。


ベルガがバルフレアとヴァンに斬りかかろうとしたその時だった。

背後から形容しがたいおぞましい気配を感じたのは。

ベルガは首を回して後ろを確認する。

そして・・・

 

「・・・ッ!」

 

予想外の光景に思わず振り返る。

先程胴体を真っ二つにして斬殺した筈の銀髪の男が無傷で立っていたからだ。

それだけでも信じられないというのに何やらミストを纏っている。

この男も人造破魔石を埋め込んでいるのかとベルガは考えるが自分で否定する。

人造破魔石はドクター・シドが6年の歳月をかけて完成させた代物だ。

どこの誰とも知れないような人物が持っているはずがない。

ならばダルマスカやナブラディアの王家の証のような神の造りし破魔石だろうか?

いや、それもありえないはずだ。

シドはあれは人造破魔石より力はあるが碌に制御できない出来損ないだと言っていたではないか。

勿論シドが間違っている可能性がないわけではない。

だが2年前の戦争でのナブディスの惨劇を引き起こせるほどの力が生身の人間に制御できるとはベルガはとても思えないのだ。

となると自分が知らないなんらかの力なのだろう。

それならば幾ら考えても絶対に答えはでない。

ベルガはそう考え、警戒しながらあたりを見回す。

現在ヴァン達とまだ戦えているジャッジが約20名、まだ神殿内にいるのが約20名。

第12艦隊が神都を離れる時にベルガと神都ともに第2局のジャッジが約80名だから実に約半分のジャッジを失っている。

 

(あの女どもめ・・・)

 

実は言うとアルケイディアの中でも精鋭であるジャッジは総兵団を圧倒していた。

計算外だったのがアルシドが連れてきた美女軍団である。

ジャッジ相手に互角以上の戦いを繰り広げた。

そのせいでかなりの損失を第2局は蒙っていたのである。

 

(ロザリアの脅威がある今はこれ以上の損失は避けたい。となると・・・)

 

ベルガは剣を構え、力を欲する。

すると人造破魔石から先程以上にミストが溢れ出した

 

(とっとと蹴散らすのみだ)

 

ベルガは人とは思えぬ速さでセアとの距離を詰め、右肩に斬りかかる。

セアは避ける素振りもみせず、ベルガの剣が肩口から胸の辺りまで深く入った。

それに顔色ひとつ変えないセアを見てベルガは本能的に深く入った剣を離して飛びのく。

直後、セアがミストを纏わせた剣を振りぬく。

間一髪ベルガはセアの斬撃を紙一重でかわしたが体勢を崩した。

その隙を逃さず、セアはベルガに向かって突きを繰り出す。

ベルガはそれを転がりながら避け、セアの胸に突き刺さったままの剣の取っ手を掴み、その勢いのままセアを切り裂く。

セアがミストで回復している間にベルガは体勢を整えて再び斬りかかる。

そしてそれをセアが向かえうち、再び激しい斬りあいを始めた。

 

 

 

「どうなってんだこりゃ?」

 

バルフレアは目の前の光景を見て、そう呟く。

何故かセアの体からミストが出ており、ベルガと互角にやりあっている。

意味不明な光景だ。

 

「おい、ヴァン。セアがああなのは知ってたのか?」

「ぜんぜん」

 

ヴァンも頭に?マークが何個も出ているような顔をしているので本当に知らないのだろう。

嘘という可能性もあるにはあるが、ヴァンがそんな芸当ができるとはバルフレアには思えなかった。

セアの周りのミストがおかしいということは出会ったときからフランが言っていた。

ということは・・・

 

「あいつもベルガと同じなのか?」

「いえ、違うみたいね」

 

いつの間にかバルフレアの隣に来ていたフランがそう答える。

 

「どういうことだ?」

「彼のまわりのミストが凍えているって前に言ったわよね」

「ああ、ルース魔石鉱の時にな」

「そんなのオレは聞いてないぞ!?」

「ヴァンは少し黙ってろ」

「・・・」

「で、どう違うんだ?」

「彼の周りのミストが凍えていたんじゃなかった。彼がミストを凍えさせていたんだわ」

「どういう意味だ?」

「要するに彼の体は冷たすぎるミストが固まってしまったようなもの」

「・・・ってことはあいつの体はミストはできてるって言うのか?」

「そういうこと。現にミストが僅かに熱くなって彼の輪郭がぼやけてしまっている」

 

フランにそう言われて改めてセアを見ると確かに輪郭がぼやけているように見える。

それにベルガのようにミストが溢れ出ているというよりは体が溶けて出ているように見えた。

 

「ってことはセアはミストの嵐に巻き込まれたときにそうなったんじゃないか」

「あいつが嘘をついてないならな」

 

ヴァンの言葉にバルフレアはそう返した。

 

 

 

ベルガはセアとの戦いで徐々に劣勢になりつつあった。

なにせセアは間接を無視した攻撃を繰り出し、こちらが攻撃しても動揺すら見せずに攻撃してくるのだ。

ベルガも人造破魔石の力で傷を治すことはできるが痛いものは痛い。

このままではやばいと感じ、もっと力を欲し続ける。

が、それが仇となった。

 

「ガッ!!」

 

急に体に激痛が走り、思わずベルガは剣を離し、蹲る。

予想外の展開に思わずセアは呆然としたが、直ぐにベルガを警戒しながら距離をとる。

だが、ベルガ苦しそうに胸をかき始め、転げ周る。

やがてベルガの体から青白いミストが解き放たれたかと思うとベルガはそのまま倒れた。

 

「ベルガ様!!」

「ジャッジマスターが倒れた!引けー!!」

「クソッ!!」

 

アーシェ達を相手取っていたジャッジ達が外へ逃げていく。

そして奥にいたジャッジも数名外へ出て行った。




更新が遅れた理由はFF零式の二次創作を書き始めた事。
そして続き書くのが難しくなってきたからです。

あと気分転換でゼロ魔にセアを突っ込んでみようかと考えた見たのですが、
ルイズ:あの気性にセアが耐えられるとはとても思えない。
テファ:普通に謝りまくってセアが逃亡。
教皇:神とか論外。
なのでセアを召喚してなお従えられそうなのがジョゼフしかいない・・・。
ってことでセアをガリアの宰相になって暴れまくる。
主にシャルル派を解体するために。
・・・どう考えてもアンチものになりそうだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十八話 新たな目的

セアはベルガの鎧を外して、体を調べた。

 

「げっ・・・」

 

ベルガの体の右胸辺りを中心にミイラ化してしまっている。

それにあちこちに石の破片が右胸から円を描くように体に食い込んでいる。

おそらく人造破魔石を右胸あたりに埋め込んでいたのだろう。

 

「体に人造破魔石を埋め込んでたみたいだ」

 

セアはそう言うと倒れているアナスタシスの方を見る。

 

「大僧正は?」

 

バルフレアに問いかけると首を横に振った。

どうやら既に事切れていたようだ。

 

「ねぇ、ラーサー様は?」

 

アナスタシスの遺体を置き、パンネロが尋ねた。

が、その答えはここにいる七人以外の人物から返ってきた。

 

「ジャッジ・ガブラスが連れ帰った」

 

カナートの肩を借り、アルシドが光明の間に入ってきた。

 

「アルシド!?」

「奴も来ていたのか」

 

アルシドは腰を下ろすとここまでの状況を話し始めた。

 

「ラーサーは争いごとを避けようとおとなしく従ったんですが――ジャッジ・ベルガが暴発してね。取り巻きのジャッジどもの相手をするのが精一杯だった」

 

強さで言えばベルガが率いていたジャッジ達とアルシドが率いてきた部下達は大した差はなかった。

だが、ベルガ達が約80人に対しアルシド達は15人。

数の差に押し負けてしまったのである。

 

「で、姫――あなたをロザリアに亡命させたいんですが」

「守ってやるとでも?」

「お望みとあらば命に代えても。もっとも、あなたの方がお強いでしょうが」

 

アルシドはベルガにまったく歯が立たなかったのでそう言った。

実際にはベルガは倒したのはほぼセアの功績なのでアーシェよりアルシドが弱いということはないだろうが。

というかそれはアルシドもわかっているはずだが・・・

 

「ヴェインを恐れるあまりうちの軍部じゃ、先制攻撃論が主流で。将軍連中が勝手に戦争を始めないように姫を利用して裏工作をしかけます。それにクライスさんも手伝ってくれればありがたいのですが――」

「やだ」

「そうですか・・・姫はどうです?」

「お断りします。私はこちらで仕事があるので」

 

そう言うとアーシェは立ち上がり宣言する。

 

「【覇王の剣】で【黄昏の破片】を潰します」

 

それは聞いたアルシドは少し納得したような顔をした直後、少し気まずそうに言う。

 

「石の在処はわかってませんが?」

 

それはアルシドの諜報網を持ってしても探りだせなかった。

それも仕方ない事だとアルシドは思っている。

何故なら破魔石を何処で管理しているかなどアルケイディア帝国の機密事項だろう。

それの在処を知っている人物もヴェインが信頼している人物しか知らないだろう。

 

「見当はつく」

 

が、あっけなく破魔石が在りそうな場所を知っているとバルフレアは言った。

 

「帝都アルケイディス、ドラクロア研究所。帝国軍の兵器開発を一手に仕切ってる」

 

仮説に過ぎない筈だが、バルフレアは破魔石がそこにあると確信しているように言った。

 

(そういえば・・・)

 

アルシドは6年前にアルケイディア帝国の名門の家の子どもが一人、家出したという情報を手に入れた。

かなりアルケイディア帝国上層部に関わりがある家だったのでなんとか捕らえて情報を手に入れることができないかと考えたことがある。

だが追跡を振り切られ続けた為、断念したが・・・

もしバルフレアが家出した人物だとすればありえない話ではない。

 

「オレが案内する」

「行きます。そちらの国での工作は、あなたが」

「こっちはこっちでどうにかしろと? ご期待に添えればいいんですがね」

 

カナートに支えられてアルシドが立ち上がった。

 

「そういや、お前どうやってロザリアへ帰る気だ?」

 

セアはアルシドに問いかける。

 

「南は聖ヲルバ騎士団国とアルケイディア帝国の植民地。西はヤクトだぞ」

「とりあえず西のヤクト・ディフォールに入って南西に向かえばロザリア帝国の属庭アレイアにつきます。アレイアの領主は皇帝派なので安全に本国に帰れます」

「アレイアって確かケルオン大陸の西の海岸に接する地域だろ?その体で大陸横断なんてできるのか?」

「大丈夫です。まだ優秀な私の部下がいますから」

「・・・一応優秀な部下を直属にしたってのは嘘じゃなかったみたいだな」

「ええ」

「念のために聞いておくが優秀な()の部下だけを直属にしたんじゃないよな?」

「・・・・さ、さぁ?・・・・・・・・なんのことでしょうか?」

 

アルシドの挙動不審さにセアは仮説が事実だと確信した。

アルシドもここ居づらくなり、カナートに支えてもらいながら外へ出ようと歩き出した。

そして途中でなにかを思い出したように振り返った。

 

「ああそうだ。ラーサーから伝言です。

 『国と国が手を取り合えなくても人は同じ夢をみることができる』」

 

アルシドはそう言うとカナートの胸元からサングラスを取り出しかけた。

 

「――では失敬」

 

アルシドはそう言うと光明の間から出て行った。




次かその次くらいで神都編完結かな?
あと感想・評価・意見求む。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十九話 セアの過去

神都編まだ終わらない。
おかしい。そろそろ終わっていいはずだぞ。


「それで帝都まではどうやって行くんだ?」

「それより前にお前に訊きたいことがある」

 

セアの問いにバルフレアはそう答えた。

 

「俺にか?なんだ?」

「お前のさっきの力はなんだ?」

「ああ、不老不死になったときに手に入った力だ」

「不老不死?ヘネ魔石鉱で聞いた話じゃ不老ってだけのはずだが?」

 

バルフレアの言葉にセアは顔を顰めた。

そしてアーシェの方に一瞬見ると鋭い舌打ちをした。

 

「ああ、あの時の話は半分くらい嘘だよ」

「なんで嘘ついたんだ?」

 

ヴァンが状況を掴めていないのか純粋に不思議そうな声で訊いてきた。

セアは馬鹿弟子の頭のできに内心溜息をつきつつ、バッシュに話しかける。

 

「そういえば、なんで俺が神都に付いて行くのか疑問に思ってましたね?」

「ああ、そうだな」

「何故嘘を言っていたか、それもこの旅に付いてきた理由に繋がるからそれもついでに説明します」

「では、君は何故不老不死に?」

「それは本当です。本当に何故そうなったのか俺自身よくわかってない。ただ不老不死になったのは300年前よりもっと前だ」

「もっと前?」

「今の時代で言う言葉で言うならば古代ガルテア時代と言えばいいのかね」

 

古代ガルテア時代とは700年以上前の時代ことだ。

多くの国が興っては滅びていった群雄割拠の時代。

その時代に終止符を打ったのが覇王レイスウォールである。

 

「まぁとにかくその時代にバレンディア西部にあったグレキアって国の人間なんだよ。俺は」

「へぇ~」

 

ヴァンが感心したような声を出した。

 

「戦続きではあったけどそれなりに生きがいのある生活をしていた。だが・・・バレンディアで急速に力をつけていた小国が台頭してきた」

「その小国って・・・」

「おそらくあなたの想像通りですよ王女様」

「・・・」

 

アーシェが気難しそうな表情をする。

それだけで周りもなんとなく察したのだろう。

・・・馬鹿弟子はなんか不思議そうな顔をしているから微妙だが。

 

「後に覇王となる男の王国とグレキア王国は戦になった。当たり前だグレキアの庇護下にあった諸国を荒らしまくってくれたんだから。だが、どういうわけか我が国は連戦連敗した。当時はどうしてかわからなかったが化物が敵軍にいたと喚いていた兵士もいたからベリアスを軍事利用していたんだろう。まぁその辺はどうでもいいか。とにかく俺たちは遂に首都まで追い詰められ、俺たちは徹底抗戦を決め込んだ。そして・・・」

「・・・そして?」

「敵軍が現れた途端に気を失ったことは覚えている」

「なぜだ?」

 

バッシュが不思議そうに言った。

何故敵軍が現れた途端に気を失ったなど尋常ではない状況だ。

 

「さぁな、ただ目が覚めると首都は破壊され、ミストが視認できるほど濃くでていた」

「まさか――!?」

「ああ、今考えれば破魔石を使ったんだろうな」

「嘘よ!!」

 

アーシェが叫ぶように言った。

 

「そんな敗北が確定しているような国に破魔石を使うなんてレイスウォールがするはずないわ!!」

「お前になにがわかる?現実にその男の所業を見ていないお前がなにを偉そうに」

 

アーシェの言葉にセアは睨みながら答える。

だが、そこにバルフレアが疑問を挟む。

 

「だが、理解できないのは確かだぜ。緒戦に使うならともかく虫の息の敵を倒すのにわざわざ破魔石を使う意味があるとは思えないが?」

「政治的な意味があったんだろう。グレキアは今のアルケイディアやロザリア程ではないが大国だった。その大国をあの男は一方的に蹂躙してみせたのだ。そうなればどうなると思う?」

「周りの国は下手に出るようになるってか。まったく嫌だね政治ってやつは」

「概ね正解だ。グレキアの滅亡後、奴の下に馳せ参じる国があとを絶たなかった。グレキアと互角の大国であり今のアルケイディアの原形であるキャメロット王国も、だ」

「そうして自分に従う諸国の軍と魔人と破魔石を使ってイヴァリースは統一されレイスウォールは覇王になったってか」

「ああ、バルフレアの言うとおりだ」

 

セアはそう言うと再びアーシェの方を睨みつける。

 

「俺から言わせれば覇王もヴェインも大した差はない。どちらも圧倒的な力で敵対する者を排除して理想を実現させる、な」

「そ、そんな言い方・・・」

「お前はアルケイディアに夫と父と祖国を奪われたそうだが、俺の場合に比べれば遥かにましだ!部下も友人も家族も皆殺しにして祖国を物理的に消滅させてくださった覇王に比べればヴェインなど俺には後光がさしているように思えるぞ!!」

 

セアはアーシェに向かって吐き出すようにそう叫んだ。

その姿を見てヴァンとパンネロは驚く。

セアがこのように激怒している姿など見たことがなかったから。

 

「しかしいったいどうして君は破魔石の力の直撃をうけて無事だったんだ?」

 

バッシュがセアに疑問をこぼした。

 

「さぁな、ただ気を失って目を覚ましたら不老不死になっていた。ただあの時俺は自棄になってたから深くは考えていなかった」

「なるほど」

「それになんでこんな体になったのか調べるにあたってこの旅はなにかと新しい情報が手に入りそうだったんでな。俺は同行することにしたのさ。これであんたの疑問も解決だな」

「・・・ああ」

 

バッシュがそう言った直後、ン・モゥ族の長老が話しかけてきた。

もう時間も遅いので一泊した後、神殿から出て行って欲しいとのことだ。

なんでもアナスタシス大僧正が殺され神都は喪に服すそうだ。

それに帝国の襲撃で物資もあまりないとのこと。

今回一番損害を受けたのはキルティア教会だなとセアは思った。




おそらく今年最後の更新です。
あと神都編の後ですが、帝都編と黄砂団編(完全オリジナル)の二つの構想があります。
ということでアンケートをとりたいので詳しくは活動報告を見てください。

では、皆さんよいお年を!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十話 弟子と師

ついに本編五十話目。最近鋼の錬金術師の短編を投降したので興味があればどうぞ。
あと、アンケートの件なのですがいままでに投票がひとつだけ・・・
去年の年末から応募してるんだけど・・・
そんなにこの作品人気なかったのかって若干うつになりました。
もうソードマスターヤマト的なノリで完結させてしまおうかと。
或いは女王騎士団物語の最終回ふうに完結させようかと。
何度か思いました。
頼むから活動報告のアンケート参加してください。
次、どっち書いたらいいのか迷ってるんですよぉぉぉおお!!
新年初めての愚痴を聞いてもらったところで本編をどうぞ。



神殿の一室に二人の男が椅子に腰をおろして向かい合っていた。

 

「なぁ」

 

ヴァンは躊躇いがちにセアに声をかける。

セアとは1年近い付き合いがあるが我を忘れて激怒するところを見たことがなかった。

怒っているセアは普段なら冷たく暗い声で凄まじい笑顔を浮かべていることが殆どだ。

しかし先程レイスウォールに対して憎悪を露わにしているセアはまるで別人のようにヴァンは思えたのだ。

 

「なんだ、馬鹿弟子?」

 

セアはどこか疲れたような声でそう返す。

 

「あのさ・・・セアはアーシェのことが嫌いなのか?」

「・・・嫌いかどうかと言われたら嫌いだな」

 

セアははっきりとそう言った。

 

「やっぱりレスウォールの血を引いてるからか?」

「それもあるにはあるが、それ以上にあの王女様の君主としての自覚のなさが嫌いだ」

「君主としての自覚?」

 

ヴァンは首を傾げる。

物知りのダラン爺からヴァンは色々教わってはいるが興味のない政治の話はちゃんと聞いたことがなかった。

そんなヴァンは君主としての自覚のなさというのを理解できなかった。

ヴァンは義務だの誇りだの言ってるアーシェは王家の人間としての自覚があるとは思っている。

そのことを察していたのかセアはため息をつく。

 

「いいか、君主というのは私情を国の安寧より優先することなどあってはいけない」

「え?」

「あいつが本当に国の安寧を望んでいたなら自分の身を材料にアルケイディア帝国に譲歩させ、ある程度の実権を持ってダルマスカを帝国の属国としてでも独立させるべきだった」

「そんなのダルマスカが認めるわけないだろ!!」

 

ヴァンはそう叫んだ。

少なくとも帝国による2年間のダルマスカ統治を経験したヴァンにとっては絶対に受け入れられることではなかった。

 

「そうかな?ヴェインが執政官に就任してからというものラバナスタでのヴェインの評判はいいものだ」

「・・・そうなのか?」

「ああ、現にカイツもヴェインに傾きかけてたからな」

「カイツが!?」

 

ヴァンは驚いた。

何故ならヴァンがリーダーを務めている空賊を目指そう団に参加している孤児達は全員反帝国だ。

その空賊予備軍であるカイツが帝国のヴェインを信じ始めているとは信じられなかった。

 

「なにを驚いてるんだ?お前だってラーサーと仲がいいじゃないか」

「・・・だけどさ」

「お前はヴェインが就任してからあちこち飛び回ってるから知らないだろうが、ヴェインが就任してから帝国兵の横暴が減った。それに身分差による差別はほぼなくなった」

「でも受け入れられるのか?帝国を憎んでいる人がたくさんいるのに?」

「それだけで受け入れられないならとっくに二大帝国は内部崩壊をおこしてないとおかしいんだがな」

「え?」

「あのな、ロザリアもアルケイディアも侵略国家だぞ?ようはダルマスカのように他国を滅ぼしてきたんだ」

「それは知ってるよ」

 

ヴァンはなにを当たり前のことをという風にセアを見ている。

セアは自分の馬鹿弟子の頭にため息をついた。

 

「じゃあもっと分かりやすく言おう。アエルゴ地方の住民がいまだにアルケイディアに逆らっているって聞いたことあるのか?」

「え?アエルゴってアルケイディアの領土じゃ?」

「ああ、アエルゴって国を昔にアルケイディアが滅ぼして自国の領土にした土地だ」

 

今から170年ほど前にアエルゴはアルケイディアに滅ぼされた歴史がある。

当時は今のダルマスカのような状況だった。

が、いまは元々別の国だったという歴史が残るだけである。

 

「ヴァン、お前はどうか知らないが多くの人間は危険より安全を選ぶ。侵略者が圧政を敷くならば武器をとるのはやぶさかではないがそうでないならば大抵は憎悪を胸に秘めつつ侵略者の支配を受け入れてしまう」

「・・・」

「お前が帝国を嫌っていたのはレックスを殺されたのもあるだろうがそれ以上に占領後の帝国の理不尽に耐えれなかったからじゃないか?」

「・・・言われてみればそうなのかも」

「そういうものだ。だが王女様はその辺がわかっていない」

「え?」

「大切なことは自治独立よりもその理不尽を止める事だ。だがヴェインによってそれは改善されたといのに王女様は歩み寄ろうとしなかった」

「でもヴェインを信じられなかったんだろ」

 

自分の父を謀殺してダルマスカを滅ぼしたヴェインをアーシェが信じるわけがない。

ヴァンはそう思っていたから迷わずそう言った。

するとセアはどこか悟ったような様子で言う。

 

「国を滅ぼされたのだから当たり前といえば当たり前だ。だからこそ現実をみることができたウォースラは国の為に王女様を裏切って帝国と交渉したんだろう」

「・・・」

「まぁあくまでこれは俺の持論だ。もし納得できないなら自分で答えを出せばいい」

 

暗そうな顔をしているヴァンにセアは優しくそう言った。

そしてセアは椅子から立って布団に転がり込む。

 

(アルケイディアの神都襲撃はそうとう反感を買ったはずだ)

 

セアは今回の襲撃の狙いについて考える。

 

(敬虔なキルティア教信者は数が少ないとはいえ、上流階級に属する者が殆ど。ヴェインがそれを理解していないとは思えん)

 

ベルガのあの言動からこの襲撃の命令を出したのはヴェインだとセアは当たりをつけていた。

 

(となると破魔石の力を使えば反論を抑えられると思っているのか?)

 

そこまで考え、首を振る。

少し有能な者ならばそう思うかもしれない。

しかしヴェインは【戦争の天才】と称される軍才の持ち主で、並外れた政治手腕を兼ね備えている。

 

(ってことは人造破魔石が量産する計画でもあるのか?)

 

あれが量産され一般兵にまで支給されるようになれば本当に勝ち目がない。

ただ・・・

 

(幾ら巨大なアルケイディアとはいえ財源は有限だ。たかが2年程度でその段階に届いているとは考えにくい)

 

国家の収入と支出は半固定されている。

インフラの整備とか軍人や政治家への給金など。

ということは穏健派のグラミスが統治していた今までは研究予算は通常通りで行われたはず。

幾らかヴェインからの援助があったとしても2倍になるなんてことはないだろう。

 

(となると・・・・・・駄目だ幾ら考えても答えがでん)

 

セアは考えるのをやめると眠気に襲われ寝た。

隣でヴァンがセアのいびきを聞いて寝るの早すぎと呟いた。




今年もこの『不老不死の暴君』をよろしくお願いします。
まそっぷ!(誤植)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十一話 帝都への道筋

帝国軍の襲撃のあった翌朝。

神都には昨日の惨劇を強調するかのように雨が降り注いでいた。

敬虔なキルティア教徒達は跪いて祈っている。

キルティア教会のトップであるアナスタシス大僧正が殺された為だ。

その死を悼んでいるのだ。

更に神殿の周りにチラホラ黒い煙があがっているのが見えた。

どうやらまだ避難民達のテントは燃えているようだ。

 

「これからどうするんだ?」

 

ヴァンは元気がなさそうにそう言う。

流石に目の前の光景でいつも通りの能天気さは発揮できなようだ。

 

「帝都に行く」

 

バルフレアはヴァンの問いにそう返した。

 

「それで帝都アルケイディスへはどのように?」

 

アーシェがヴァンに続けて質問する。

 

「ロザリアの侵攻に備えて、 帝国は国境の守りを固めているはず。 空からは無理でしょうね」

「当然、海にも帝国水軍が網を張ってる」

 

フランの説明をバルフレアが補足する。

 

「ってわけで空賊らしくもないが歩きだ。サリカ樹林のあたりで本国領に入る」

 

バルフレアは地図を出してナブラディア地方とアルケイディア帝国本国領の境目に広がるサリカ樹林を指差す。

 

「いくつか道はあるが、ナルビナを通って北上するのが手っ取り早い」

「サリカ樹林を越えたらハンターたちの集まるキャンプがあるわ。ここまでいけば軍の警戒もゆるくなるでしょう」

 

フランがサリカ樹林の東にあるフォーン海岸を指差す。

 

「って言ってもまだ相当長いけどな」

 

バルフレアが首を小さく横に振りながらそう言った。

確かにフォーン海岸から帝都アルケイディスまで結構な距離がある。

 

「そもそもここから陸路で行くとなるとここに来る時通ったルートを逆走してラバナスタに戻らなくてはならないから――強行軍でも最短で数ヶ月はかかるんじゃないか?」

 

セアは面倒くさそうにそう言った。

 

「確かにその間にアルケイディアとロザリアの戦争が起こってる可能性もあるな」

「いや、その可能性は低い」

「なぜだ?」

 

自分の考えをすぐさま否定したセアに顔を向けてバッシュが理由を求める。

 

「まずアルケイディアはヴェインが政変を起こしたばかりで国内を纏めなくてはならないからだ、おまけに俺がここに来ていたジャッジマスターを一人殺してる」

「それはそうだがロザリアが仕掛ける可能性もあるだろう?」

「ロザリアは年中内部対立状態だ。アルシドならその対立を煽って最低でも数ヶ月は持ちこたえるだろう」

 

セアの言うとおり確かに今の状況では両国とも戦争できる状態ではない。

アルシドがちゃんと働いていればの話だが。

 

「うわっ!」

 

話の難しさからか少し離れていたヴァンがなにかを見て驚きの声をあげた。

パンネロがいち早くそれに反応した。

 

「いったいどうしたのヴァ・・・キャーー!!」

 

パンネロがヴァンの目線の先を見たら、ヴァンと同じように声をあげる。

 

「なんなんだいったい?」

 

ヴァンの目線の先がちょうど建物の影になっていてよく見えず、近づいた。

そして固まった二人の目線の先を見る。

 

「これは・・・」

 

そこには痣だらけの薄い服しかつけていない男の死体があった。

骨も幾つか折れており、それが動いていた時の姿はとても想像できないありさまだった。

その損傷の激しさから死んだあとも攻撃をしつづけたことが容易に想像できた。

他の四人も眉をひそめて黙っている。

 

「これも帝国がしたのか?」

 

ヴァンが目線を動かさず震える声でそう言った。

 

「いや、これをしたのは避難民達だろ」

 

バルフレアがそう言った。

その言葉にヴァンがバルフレアの方に振り返る。

あまりにも予想外な答えだったからだ。

 

「な、なんで!?」

「こいつの着ている服に心当たりがある。ジャッジどもが鎧の下に着ている服だ」

「ああ、なるほど」

 

バルフレアの言葉を聞いてセアは首を縦に振って納得する。

その様子を見てますますヴァンは混乱する。

 

「なるほど!?なにがなるほどなんだよ!!?」

「あのな、こいつジャッジなのに鎧つけてないだろ」

「え、そうだけど・・・」

「避難民たちが金の足しになればと外して持っていったんだろう。その時にお礼にボコボコにしたってところだ」

 

セアの言葉にヴァンは首を傾げる。

 

「金の足しって・・・そんなに高いのかジャッジの鎧って?」

「ああ、いろんな国家が欲しがるだろうな。特にロザリアが欲しがりそうだな」

「なんで?」

「だってジャッジに変装してアルケイディアの部隊に紛れ込めるんだぞ。お前だって見たことあるだろ」

 

セアの言葉を聞いてヴァンはリヴァイアサンの時のことを思い出した。

あの時ウォースラはジャッジの格好をして自分達を救出したのだ。

 

「末端の兵なら自国で鎧を製造して紛れ込ませることもできるだろうがジャッジの鎧は特殊な製造方法で作られているそうで中々複製が難しいらしい。売るところに売れば高く売れるだろうさ」

 

セアの説明を聞いてヴァンも理解できた。

 

「だけどなんかさ・・・納得できないな」

「私も・・・」

 

ヴァンとパンネロは項垂れながらそう言った。

 

「納得する必要なんかない。ただこういうこともあるって知ってるだけでいい」

 

セアは二人を諭すようにそう言った。

 




この話で神都編は終了とします。
なんとも後味の悪い終わりですが原作でもそうなので・・・
とにかくこれで約7ヶ月に渡って更新してきた神都編が完結しました。

あとアンケート(参加人数4人)の結果、次は帝都編をすることにしました。
・・・生ヲルバ騎士団国には一応行くけど(ラバナスタまでショートカットの為に)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝都編
第五十二話 聖ヲルバ騎士団国


いよいよオリ国家にヴァン達が入国!



聖ヲルバ騎士団領港町ソトートスにて。

 

元々聖ヲルバ騎士団とは元々はヤクト・ラムーダ南部に住まう狩猟民族に与えられた名である。

その狩猟民族は幾つもの集団に別れて行動し、集団同士は緩やかな協力関係にあったが国家というには程遠かった。

十数世紀前に当時のキルティア教の大僧正をある集団が助けたことから神話に登場するヲルバという聖人の名を彼らは授かった。

こうして聖ヲルバ騎士団と呼ばれる集団を中心に狩猟民族は国家として纏まり始める。

そして約700年前にガルテア連邦に加盟し、急速に国家としての体制を整え首都ティンダロスを築く。

更に狩猟で手に入れた肉や皮を輸出し、それ以外のものを輸入させる為に南西部に港町ソトートスからダルマスカなどと交易を行っていた。

ガルテア連邦崩壊後は武装中立を掲げ、南部の雑穀地帯を狙うディール王国との小競り合いを繰り広げた。

現在ではディール王国は滅び、アルケイディア帝国の植民地と接する為、どちらかというと帝国寄りの政治を行っている。

船でソトートスまで行き、道を辿ってティンダロスへ、そこから更に北上するのが一般的な神都ブルオミシェイスへのルートとなっている為、結構人も訪れている。

現在はアルケイディア帝国の襲撃によって神都を去った避難民達が首都や港町に溢れている。

 

「街が見えたぞ!!」

 

ヴァンが街を発見して声をあげる。

 

「ようやく着いたか」

「これでも早い方だぞ、将軍様」

 

バッシュのため息交じりの言葉にバルフレアは苦言を呈する。

当初神都から西進してダルマスカに戻りアルケイディア帝国本国領に入る予定だった。

しかし避難民に紛れれば船に乗ってもばれないのではということで南下して船に乗ってダルマスカに戻ることにした。

それから3日間南に向かってセア達は進んできたのだ。

 

「ソトートスは交易港だ。なにか珍しいものでも売ってるかもな」

 

セアはなんとなしにそんな事を言う。

 

「遊びじゃないのよ、この旅は」

「わかってますって王女様。ただ役に立つ珍しいものとか売ってるかもしれないでしょ」

 

アーシェの批難にセアは軽く首を振りながら言った。

 

「そういえばこの国ってキルティア教会と仲がいいみたいですけど帝国と仲が悪くなってたりしないんですか」

 

パンネロはここに来るまでに神都の救援に向かう聖ヲルバ騎士団の部隊を何回か見た。

そこから聖ヲルバ騎士団とキルティア教会が仲がよかったのは容易に想像できる。

ならキルティア教の総本山を襲撃した帝国との関係が悪化しているのではとパンネロは思ったのだ。

 

「いや、この国の一番の交易相手はアルケイディア帝国だ。なにもしてないということはないだろうが敵対に踏み切るようなことはしてないだろう」

 

セアは軽く笑いながらそう返した。

実際、聖ヲルバ騎士団国はアルケイディア帝国に神都襲撃の件で批難したが、制裁は一切加えていない。

国力が違い過ぎる上にアルケイディア帝国との交易を打ち切られただけで聖ヲルバ騎士団国は確実に弱体化する。

聖ヲルバ騎士団国の東は海、西はヤクト、北はキルティア教会の直轄領、南はアルケイディア帝国の植民地である。

帝国との関係が断絶されればどうなるか考えるまでも無い。

孤立確定である。

 

「おっ!門が見えたな。あれをくぐるぞ」

 

ソトートスの門をくぐると道幅が20m程の大通りに出る。

大通りのあちこちで露天商が声をあげて客の呼び込みをしている。

 

「本日仕入れたばかりの魔導書だよ!おひとつ1000ギルから!!」

「新鮮な魚はいらんか!お安くします!!!」

「マジックマッシュルームはいらんか!?ひとつ500ギル!」

 

露天商の周りには人だかりができていてそれを退かすように兵士がやってくる。

そしてチョコボが積荷を満載した馬車を曳いて通りを横切っていく。

 

「活気があるな」

 

セアはなんとなく呟く。

 

「ラバナスタよりあるんじゃないか?」

「帝国に負けるまでラバナスタもこれくらい活気あったよ」

 

セアの言葉にヴァンが面白く無さそうに言う。

セアがラバナスタに住むようになったのは1年前なので帝国の支配を受けてなかった頃のラバナスタを知らない。

だからある意味当然の反応だといえる。

 

「そうか、そういえば昔はもっと活気があったとか言ってたな」

 

セアはダラン爺からそんな話をしていた時のことを思い出した。

そんなこんなしている内に大通りを通り抜け港に出た。

港には幾つもの帆船と僅かなグロセア機関で動く水上船を確認することができた。

基本イヴァリースでの船といえば帆船である。

ミミック菌が金属を腐敗させてしまうので機械は使っているのは少ないからだ。

ただ、地上と海上では海上の方がミミック菌が少ないのか金属の腐敗が遅い。

だからグロセア機関を搭載した機械仕掛けの水上船もあるにはある。

しかしあくまで地上と比べればであって空中とは比べるべくもない。

その為、水上船は長時間の航海に向無い上、メンテナンスなども必要なのでコストも高い。

 

「明日の朝までダルマスカ行きの船はでないそうだわ」

 

港にいる船乗り達に話を聞いてきたフランがそう言った。

 

「じゃあ一日はここで足止めだな。宿を探そう」

 

バルフレアの言葉に全員が頷いた。




……あと2話くらいで出国するけど。

ところでひとつ訊きたいことがあるのですが、私は気分転換でである駄作を書いているのですが、
オリキャラ・オリ世界観・オリストーリーの所にゼロ魔のルイズ&サイトを突っ込んだ場合、
それはゼロの使い魔の二次創作というのでしょうか?
因みに舞台は近代国家同士の領土争いの中心地でテーマは民族の怨嗟です。
……ゼロ魔要素は『ゼ』の字があるかどうかというくらいしかありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十三話 イヴァリースの外

ソトートスは聖ヲルバ騎士団国で最大の港町。

故にこの港による商人たちの為に宿泊施設が多くある。

表通りの宿屋は連日貸しきり状態でセア達はわき道にある安宿しか確保できなかった。

 

「あんな部屋に200ギルとかぼったくりだろ」

 

ホコリだらけで天井にくもの巣がたくさんあるというすばらしい部屋だった。

おまけに借りた部屋の硬いベットのひとつに赤紫色のキノコが生えていた。

だからセアがそのベットで寝るのを強引にヴァンにしようとした。

勿論ヴァンはセアに反論したがセアに勝てるわけが無く本決まりとなった。

だからヴァンは頬を膨らませながら愚痴を言っているのである。

 

「でも仕方ないよ。あそこ以外に部屋がなかったんだし」

 

パンネロがヴァンを宥めるようにそう言う。

ヴァンを弟子にしてからというものセアは凄まじい特訓と理不尽なことをヴァンに課していたのでヴァンをパンネロが宥めるのが日常茶飯事となったのでこんなことは慣れっこだ。

 

「武器商船が入港してるらしいからなんか欲しいのあったら買っとけよ」

 

セアはそう言って港の方に歩いていく。

港では大きいガレオン船が武器の売買を行っていた。

そしてその船の乗り組員である肌が黒い男に話しかける。

 

「武器を見せてくれないか」

 

黒い肌の男は自分の口を指差すと首を横に振った。

そして船の方に向かって叫ぶ。

 

「מישהו, פרשנות! 」

 

聞いたこともない言葉だった。

恐らくイヴァリースの言語ではないのだろう。

 

「מה! ? 」

 

船から下りてきた赤毛の男が黒い肌の男に言った。

 

「זה לקוחות, בעברית של של」

 

黒い肌の男の言葉に赤毛の男はこう言った。

 

「נמצא. אתה שואל את הניקוי של הספינה הייתי צריך להשאיר אותו לי שירות」

 

黒い肌の男は頷くと船に戻っていった。

そして赤毛の男がセアに話しかける。

 

「私はヘブライと申します。先程のことは失礼。なにせ遠くから来たものでまだイヴァ・ルース語を話せない人もいらっしゃるのですよ」

「イヴァ・ルースじゃなくてイヴァリースだけどな」

 

ヴァンが突っ込む。

 

「おや、すいません。私はまだ間違えていらっしゃるようで」

 

どこかおかしな感じのする言い方だ。

 

「それはそうとイヴァリースじゃないところとなるとどの辺りから来たのですか?」

「イヴァリースに来るまじぇは南にある大国、バロン王国って所にいらしました。そこから幾つかの島を経由しながら北上しとうてアルカディアの植民都市に立ち寄りなぎゃらこのソトートスに参りました」

 

ヘブライの言葉がところどころおかしい。

おまけにアルケイディアをアルカディアと言い間違えている。

 

「なぁ、ケルオン大陸にバロンなんて国ってあったけ?」

 

ヴァンが首を傾げる。

 

「バロンってのはケルオン大陸より更に南にある軍事大国のことだ馬鹿弟子。世界最強の飛空挺師団【赤の翼】を保有してるって噂で有名だ」

「世界最強!?で、でもそんな国聞いた事無いぞ!!?」

「そりゃバロン王国はイヴァリースにある国じゃないし、ケルオン大陸の南にある大陸との間はヤクトだから交通手段が船しかないからあまりイヴァリースに干渉できないんだろ」

「え?イヴァリースの他に大陸ってあるの?」

 

勘違いしている人も多いがヒュムにとってイヴァリースとはこの世界全体を指す言葉ではない。

バレンディア・オーダリア・ケルオンの三つの大陸とその周辺からなる地域を指す言葉だ。

何時からその地域がイヴァリースと呼ばれるようになったかは定かではない。

神話の時代に、本当にあったのか疑わしい伝説のロンカ王朝の時代に、レイスウォールがガルテア連邦を打ち立てたときに、その他諸々と説は沢山あるがどれが真実なのかは不明だ。

因みにガルテア連邦が成立したとき云々は絶対に間違いだとセアは思っている。

何故なら古代ガルテア時代にセアが国王してたころからイヴァリースという言葉はあったからだ。

勿論イヴァリースの外にも大陸や島があり、国家もある。

だがイヴァリースに割拠する諸国が外に存在する国家と関係を持っていることは少ない。

何故ならオーダリアの西を除いてイヴァリースを囲むようにヤクトが存在し、飛空挺による交通ができないからだ。

となると交通手段は船ということになるがこの世界の航海術は読者の世界でいう中世レベルだ。

更に海にも魔物は当然生息しており、難破の可能性は中世より遥かに高い。

それ故イヴァリースとその他の地域との交流はあまりされていない。

精々神聖ユードラ帝国やロザリア帝国が西方のユトランドと交易をしているくらいだ。

 

「まぁ、それはそれとしておきましょうて、どのような武器をお探しでおられるのですか?」

「銃が欲しい」

 

バルフレアは呟くように言った。

先の神都での戦闘で帝国兵を銃で殴ってたので弾道が悪くなったので買い換えたいと思ってたのだ。

 

「おおお得意様ぁ、銃ですね? イヴァリースでは銃はあまり普及しちょらないと聞いて沢山仕入れております。予算は?」

「5000ギルだ」

「そうですかい」

 

バルフレアの注文を受けたヘブライは船に向かって叫ぶ。

 

「תן לי להביא ארקטורוס ופומאלהוט」

 

すると船から二丁の銃を抱えたシークが出てきた。

シークは二丁の銃をヘブライに渡すとのしのしと船に戻っていく。

 

「これはアルクトゥルスという銃です。バロンの銃兵部隊ではこれが採用されておりられます。値段は4700ギル」

 

ヘブライは左手で持った銃を持ち上げてそう言った。

 

「そうか、でもう片方の手で持ってるのは何だ?」

 

バルフレアはヘブライの右手に握られている銃を見ながら言う。

 

「よくぞ聞いてくれやがりました!こちらはバロンで最新式の銃であるフォーマルファウト。お値段がお高くなりますがアルクトゥスの1.5倍はよい性能になっちょります」

「値段は?」

「予算をオーバーしますが8900ギルとなってます」

「そうか、じゃあ少しその銃見させてくれるか?」

「かまいやせんが、壊さないでくだしゃいね」

 

バルフレアはヘブライからフォーマルファウトを受け取ると銃を見る。

長年銃を愛用してきたバルフレアから見てもすばらしい出来だった。

おまけに近接戦闘をしても弾道がそれないよう補強がなさせれてある。

 

「少し高いがこれは買いだな」

「ありがとおおございああーす」

 

ヘブライはそう言って手を差し出す。

バルフレアが金を渡すとヘブライは嬉しそうに勘定をする。

 

「なぁ、オレもなんか買っていいか?」

 

ヴァンが少し興奮した声でセアに聞く。

 

「ああ、予算は3000ギルな」

「おっしゃー、なんかいい剣ない?3000ギルで」

「さ、3000ギルでございますか?」

「ああ」

「デスブリンガー位しかありませんよ?」

「じゃあそれってこのミスリルの剣よりいいのか?」

「ミスリルで出来た武具はメンテナンスが少なくて済むことを除けばあまりよいところが無い武器ですからーね。間違いなくその剣よりよい剣でしょう。よければその剣を下取りしましょうか?お高くしやすよ」

「あーこれ兄さんの形見だからいい」

「あ、これは失礼しました」

 

ヘブライは丁寧にお辞儀すると近くの樽の蓋を開ける。

そこから剣を一本取るとヴァンに運んでくる。

 

「デスブリンガー、2900ギル」

「セア、金」

 

セアが金をヘブライに渡す。

 

「あれ?そういや皆は?」

 

いつの間にかヴァンはセアとパンネロと自分しかいなくなっているのに気づいて言った。

セアは嬉しそうに勘定しているヘブライを見ながら答える。

 

「王女様とバッシュはラバナスタで武器を新調してたから宿に残ってる。バルフレアとフランは銃を買ったら酒場にむかった」

 

ヴァンはバルフレア達はともかく、なんでアーシェ達が宿から出てなかったのに気づかなかったのだろうかと自分が心配になった。




ハントカタログを見る限り、FF12でのイヴァリースは三つの大陸からなる地域を指す言葉のようです。
なのにイヴァリースの外の国家がイヴァリースに影響を殆ど与えていないっぽい。
ってことはイヴァリースはヤクトに囲まれてるんだよってことにしました。
因みにFFTA2要素でユトランドを出しましたが名前が同じだけの別物って考えてください。
オーダリアの西端までロザリア領ってことを認めたら神聖ユードラ帝国を出す余地がなくなるのでw
あと商人が話している言語はヘブライ語です。
Google翻訳したのをそのままコピペしただけのものですが異言語ってことは分かってもらえるはず。
あと武器の値段はかなり適当ですw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十四話 船旅

運営より警告を受けたので『不老不死の暴君 無駄話等のまとめ』を閲覧不可にしました。
……自分のアカウントがロック段階1らしいんだけどこれってどういう状況なんだろう?
特に投降にロックがかかっているわけじゃないみたいだし……
誰か説明プリーズ!
あと無駄話で書いた国家の説明とかセアの経歴とかはまた気が向いたら書く予定。
……もしかしたら活動報告にそのままのせるかもしんない。

あと『暁』の方でも『不老不死の暴君』を投降することに致しました。(内容は一緒です)


ソトートスに来ていた旅商人ヘブライ達から武器を購入した翌日。

セア達はダルマスカの港町サマルス行きのガレオン船に乗り込んだ。

船はかなり広く、個室まで用意されている。

そしてメインマストに掲げられている旗は2つ。

ひとつはこの船を所有しているバート交通公社の社旗。

もうひとつはバート交通公社が所属するアルケイディア帝国の国旗だ。

 

「出航だ!帆を広げろッ!!」

 

船長のその声と共に帆が張られ、船はソトートスの港から離れ始めた。

 

「なぁ、セア」

「ん?」

 

ヴァンの声にセアは振り向いた。

 

「乗り物酔いは大丈夫なのか?」

「飛空挺が駄目なだけだ。俺が操縦するなら話はまた別なんだが……」

 

セアの答えにヴァンはとある疑問を持った。

 

「なんで船は大丈夫なのに飛空挺だと酔うのんだ?」

 

イヴァリースでは船酔いする人は大抵飛空挺に乗っても酔う。

どちらか片方でしか乗り物酔いしない人間など稀だ。

 

「船は昔から乗ってたから大丈夫なんだが、飛空挺は……最近できたものだろ」

「最近って……飛空挺は数世紀前にモーグリ族の機工師が発明したものだからかなり前だろ」

 

セアの答えにヴァンはやや呆れながら言った。

その様子にセアは唇の端を僅かに歪める。

 

「流石空賊を目指してるだけあって飛空挺に関する知識だけは豊富だな」

「だけは余計だって」

「じゃあ他にどんな知識を持ってるんだお前は?」

 

セアは純粋に疑問に思って聞いた。

するとヴァンは

 

「あーうー」

 

あまりに難易度の高い問いにヴァンは言葉にならない声をあげていた。

セアはその様子に呆れて意味もなく船内を歩く。

するとバッシュの姿が見えた。

 

「帝国兵も乗り込んでるな」

 

バッシュが船に乗っている帝国兵数十人を視界に収めながら言う。

 

「そういえばどこかでバート交通公社は帝国軍と契約結んでいて資金援助と引き換えに部隊の一部を護衛として使っているって話を聞いたな」

 

バート交通公社はアルケイディア帝国領や友好国の都市間を飛空挺や船で繋ぐ帝国最大の交通会社だ。

一応、聖ヲルバ騎士団国やビュエルバといった中立国にもこの会社は進出している。

事実イヴァリースの東半分でこの交通会社に頼っていけない場所はないといっても過言ではない。

更に各都市にあるターミナルもこの会社が運営している。

帝国の艦隊の停泊も請け負っている為、会社の収入はかなり高いのだという。

 

「正直、俺はソトートスから直接アルケイディア帝国本国領のバーフォンハイムに行ってもよかったと思うだけどな」

「あの港町は本国領とはいえ、自治都市だ。バーフォンハイムにロザリアから密偵が送り込まれていても干渉できないから当然アルケイディアはバーフォンハムから出る人間を警戒しているだろう」

「バーフォンハイムには何度か行ったことがあるがあそこの人間が帝都の人間に従順とは思えないがな」

「ならば余計警戒しているだろう」

 

セアはバッシュの言葉に思うところがあった。

バーフォンハイムはアルケイディア帝国本国領南東端にある港町だ。

ならばバーフォンハイムから東へ行って本国領を出、北上した後、西へゆけば本国領に入れる。

そうセアは考えて提案していたがアーシェやバッシュやバルフレアの慎重さかからこの提案は却下された。

セアはそれに対して文句を言う気はないが自分の考えが間違っているとは思えないのだ。

なぜならバーフォンハイムには2年前に帝国に雇われて傭兵としてナブラディアで暴れていた時に出会ったあの男がいる。

あの男は帝都の人間にも顔が利くのでバーフォンハイムに確固たる自治権を確立していることだろう。

だから大丈夫だとは思うのだが無用な軋轢を生んでも仕方ないので黙りこむ。

なんとなしに海をみると小さな船影が見えた。

 

「なんだ、あの船?」

 

セアの言葉にバッシュも目を細めて海の果てを睨む。

小さくてよくわからないがどうも軍船――いや、武装商船のようだった。

 

 

 

船長室に一人の船乗りが駆け込む。

そして息を切らしながら船長と水軍士官に報告した。

 

「船長、不審船が一隻こちらに接近してきます」

 

その報告を聞いて船長は飲んでいたワインのグラスを机の上に置く。

 

「旗は掲げているのか?」

「ええ、紋章官によるとシーランド公国の紋章だそうです」

 

船乗りの報告に水軍士官が眉を潜める。

 

「シーランドだと?」

 

シーランドはバレンディア大陸の北東に位置する島国である。

国土全域がヤクトで海に囲まれている為、国外に出るには船を用いるしかない。

そういう理由から優れた造船技術を持っており強力な海軍も持っている。

事実、48年前のアルケイディア帝国との戦争で勝利したことさえある。

数的は圧倒的優位にあった筈であるにも関わらず敗北したこの戦いは帝国水軍に対する嘲りとしてよく使われている。

シーランドの名前を聞いた水軍士官が胸中に複雑な思いを抱くのも致し方ないことだろう。

 

「それで?どこが不審なんだ?」

 

水軍士官は不機嫌そうに問う。

 

「武装商船のようですがこちらに気づいた途端に進路を変えてきたので……」

 

この報告を聞いて水軍士官と船長は顔を見合わせる。

現在この船はヤクトの領域にいるのだ。

シーランドの武装商船が海賊の類の可能性が高い。

 

「船長、念のため救援信号の用意を。それと客員に個室に戻るよう伝えてください。私は部下達を配置につけます」

「あ、ああ、わかった」

 

船長は震えながら頷くと水軍士官は暗い笑みを浮かべながら船長室から出て行った。

 

 

 

一方、シーランドの旗を掲げた武装商船。

そこには全く統一性のない武器を持った男たちが乗っていた。

彼らからは潮の匂いとむせ返るような血の匂いを纏っている。

 

「船長、バートの客船を襲っちまって大丈夫なんですかい?」

 

一人の男が船長に震えながら尋ねる。

すると船長はその男にらみつけて言った。

 

「なんだ貴様、恐いのか?」

「い、いえ。そういうわけでは……」

「だったらおとなしくしていろ!!」

「へ、へい」

 

男は逃げるようにして船長の傍から離れた。

 

「お前は相変わらず容赦ないな」

 

船長の横にいた男が抑揚のない声で言った。

その男の言葉に船長は頭を抱える。

 

「ギャンス、俺はお前の方がよっぽど容赦がないと思う」

 

船長は半ば呆れ、半ば恐怖の声でギャンスに言った。

 

「そうか?」

 

ギャンスは首を傾げた。

その様子を見て船長はかつての親友に対して恐怖と寂しさを感じた。

船長もギャンスも元はシーランドの海軍士官で心通わせる親友だった。

ある日の海の魔物退治に突然ギャンスが突然新兵達を海の底に放り投げたのだ。

魔物に食われていく新兵を見ながら狂ったように笑い出したのである。

当然、ギャンスは軍法会議にかけられて監獄に入れられた。

それが切欠で周りからギャンスの親友ということで白眼視されて自分も軍を辞め、商船の護衛の仕事をするようになった。

それから数ヵ月後の航海中に再びギャンスが現れて武装商船に乗っていた人間を血祭りにあげた。

そして返り血を存分に浴びたギャンスは自分にこう言ったのである。

 

「一緒に海賊しないか?」

 

ギャンスへの恐怖から自分は頷いた。

船長はその時の自分の決断が間違っていないとはかけらも思わない。

海賊になったからギャンスが理解不能な殺戮をしているところは見たことがない。

しかし船長には時折、ギャンスが人ではないなにか見えるのである。

どうしてこうなったのだろうと思いながら船長は首飾りを弄っているギャンスを眺める。

ギャンスの首飾りは朱色の宝石ついており、その宝石には巨蟹宮の紋章が刻まれていた。




また国家を創作してしまった……
それとプロット作成してみた所、帝都編は帝都につくまでの方が長い可能性が浮上しました。
まぁ神都編もほとんど神都いなかったしいいよねw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十五話 海戦

連載開始から一年がたちました。
……よく飽きずに連載続けたな俺。
最初は殆どノリで書いてたのに。


水軍士官は自分の指揮下の1個小隊を甲板に集め、不審船を眺めていた。

 

「かなり高い確率で海賊船ですね。凄い勢いでこっちに向かってます」

 

望遠鏡で不審船を見ていた水兵が苦笑いしながら水軍士官に報告する。

なにせ望遠鏡で確認できた不審船の乗組員の姿が荒事向きの人間ばかりだったからだ。

その上、大砲の用意をしている様子まで確認できている。

 

「しかし、かなり分が悪いですね」

「ああ、ある程度武装があるとはいえ、こちらは客船。それに対し向こうはシーランド製の武装商船だ」

 

水軍士官はそう言った。

商船とはいえ高い性能を誇る有名なシーランド製。

それに向こうは海賊なのだから殆ど戦闘員ばかりだろう。

それに対し、こちらはある程度武装があるとはいえ、こちらは客船だから客を守りつつ戦わねばならない。

まったくもって不利な要素しかない。

 

「紋章官、船長に救援信号の煙を上げるように伝えろ! 砲手は右舷の大砲準備! それと操舵手、不審船の横につけろ!!」

 

水軍士官の命令を受けて数人の水兵が動きだした。

 

「隊長、こちらから近づく必要があるのですか?」

 

新入りの水兵が気まずそうに水軍士官に問いかける。

 

「逃げたところで向こうの方が速いのだから追いつかれる。敵に背を向けながら一方的に砲撃を食らう位ならこちらから仕掛けた方がいい」

 

それに救援信号を確認した帝国水軍が駆け付けるまで時間を稼げばそれでいいのだからな。

その言葉を聞いて安心した顔で新入りは水軍士官から下された命令に従った。

 

 

 

不審船が接近している。

そのことはバート交通公社の社員の口からセア達にも知らされた。

 

「それで客を一か所に集めるよう軍の方から言われましたので……お願いします」

 

社員は上から伝えるように言われたことを言い終わると部屋から出て別の個室へ向かった。

 

「さっきの海賊船だったのかな?」

 

セアはさっき海上で見た船影を脳裏に浮かべながら言った。

 

「おそらくそうだろうな」

「大丈夫なんでしょうか?」

 

パンネロが不安そうな声で言った。

 

「大丈夫だ。俺がいる」

 

バルフレアが安心させるように優しい声で言う。

それを見てヴァンとセアが顔を顰める。

 

「そこはヴァンに言わせてやれバルフレア」

「ヴァンに女心がわかるのか?」

「……無理そうだな。馬鹿弟子には」

「お前ら!!」

 

ヴァンは女心というのを理解できていなかったが自分が馬鹿にされていると思ったので叫んだ。

 

「まぁ馬鹿弟子はほっとくとして避――」

「無視すんな!!」

「――難場所に移動しようか」

 

セアは普段から割と無視されてないかお前はと思いながらヴァンの言葉を無視した。

 

 

 

一方、海賊船ではギャンスが壁にもたれかかり首を傾げていた。

 

「ギャンス、どうかしたのか?」

「……」

 

船長が声をかけたがギャンスは全く反応しない。

 

「ギャンス?」

「……ん?」

 

ようやくこちらに気づいたのかギャンスは少し驚いた顔をした。

 

「大丈夫か?」

 

自分を気遣う船長の言葉にギャンスは申し訳無さそうに

 

「悪い、少し考え事をしてた」

「そうか。ならいいんだが」

 

ギャンスの返事に船長は疑問に思いながらもそこを離れて部下に命令を飛ばし始める。

その様子を暫く眺めた後、再びギャンスは考え事を始める。

 

(……さっきから感じるこの胸騒ぎ。近くに同胞がいるのか?こんなに薄いところだと魔霧によって形を成しているわけがないし、自分みたいに魂と融合して体を奪っているのか?それとも【獣印】が刻まれた石に封じられたままなのか……)

 

そこまで考えるとギャンスは船のマストに繋がっているロープを掴んで船からこれから襲う客船を見ようと身を乗り出す。

もうすぐ真横になる位置にその客船はあった。

あそこに同胞がいるのかもしれない。

そう思い、ギャンスは拳を強く握り締めた。

すると……

 

「撃てえぇーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「テェッーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

ほぼ同時に両方の船から大砲が火を噴いた。

その衝撃でギャンスは海賊船の甲板に叩きつけられる。

 

「1、2、3班!向こうに乗り込め!!」

 

船長の怒声で20人近い海賊達がマストから垂れているロープを掴んで客船に乗り込む。

客船にいる帝国水軍の水兵は槍やサーベルで海賊を討ち取っていく。

 

「乗り込んできた敵はこちらより少ない!数で押せ!!」

 

水軍士官が敵の海賊の切込みをサーベルで防ぎながら叫ぶ。

その後、鮮やかな動きで対峙した海賊を始終圧倒し、喉を切り裂いた。

倒れる海賊を一瞥もせずに水軍士官は周りを見渡して状況を確認する。

海賊船とはすれ違い逆方向へ進んでいたが旋回しだしているのが見えた。

 

「操舵手!面舵50!!砲手は周りを警戒しつつ砲撃準備!!」

 

水軍士官と操舵手との距離は離れている上に海賊と護衛隊の戦闘のせいで水軍士官の命令は直接は届かない。

しかし水兵達が水軍士官の命令を何度も復唱して叫び、操舵手に伝わった。

 

 

 

ギャンスは船長に言った。

 

「このままぶつけて乗り込もう。このままだと乗り移った奴から各個撃破される」

「……そうだな。少し帝国水軍を舐めてたらしい」

 

水軍はアルケイディア帝国軍の中で一番脆弱な軍団だ。

いや、イヴァリースに存在する諸国の多くの海軍は脆弱である。

というのも海軍が活躍できる場所が極めて少ないからだ。

そもそも火力・機動力共に飛空挺の方が上なのだから飛空挺部隊に仕事を任せた方が早いし、確実だ。

だからやるべき仕事といえばヤクトの海域に置ける魔物退治や海賊退治。

もしくは戦時下にヤクトの海域を通っての輸送任務。

それくらいの仕事しかないのだ。

シーランド公国の様な国土全域がヤクトでかつ島国というような特殊な立地条件にない限り、海軍に力を入れる旨みがほぼないのだ。

その為、多くの国の海軍は閑職、もしくは海軍自体存在しないことさえありうる。

だから船長は帝国水軍の護衛がいるとはいえ、バート交通公社の船を襲ったのだ。

だが、流石に二大帝国レベルの大国となるとシーランドに及ばないまでもそれなりの海軍力は持っている。

現に部下から客船に乗り込んだ海賊達が護衛隊相手に苦戦していると報告があがってきている。

 

「面舵一杯!敵船の横に接舷して乗り込むぞ!!」

 

船長の叫びに海賊達が鬨の声をあげる。

命令し終わった後、船長がふと思いついたことをギャンスに訊ねる。

 

「……ああ、ついでに海賊旗も掲げとくか?」

「了解だ。船長」

 

船長の問いにギャンスは暗い微笑みを浮かべて短く返した。

そしてギャンスが何もせずさぼっている奴を見繕って海賊旗を掲げるように命令する。

メインマストに髑髏に剣が交差した海賊旗が掲げられるのとほぼ同時に海賊船が客船の横についた。

それと同時に海賊船から海賊達が客船に乗り込む。

 

「野郎ども!金目の物や食料を奪え!!抵抗するものは殺せッ!!」

 

船長の命令に海賊たちが嬉々として水兵達に襲い掛かる。

 

「船長、女はどうしやす?」

 

海賊の1人が下卑た笑みを浮かべながら質問した。

船長はその質問に対してやや眉をひそめた。

シーランドの軍人であった頃から船長はあまりそういうことは好きではないのだ。

 

「好きにしろ」

 

だからそっけなくそう返した。

するとその海賊はより醜い笑みを浮かべて客室の方に向かった。

 

「いかん!海賊をなんとしても客室にいれさせるな!」

 

水軍士官が客室の入口無防備になっていることに気づき、声を張り上げる。

水兵たちが入口を守ろうとするが海賊たちに邪魔されて中々入口に近づけない。

そうこうしている内に海賊が客室に続く扉のドアノブに手をかけた瞬間。

 

「あ、れ……!?」

 

銃声と共に海賊は頭から血が出てきて倒れた。

そして扉を開けてバルフレアが出てくる。

 

「まだ甲板に敵がいるのに客を狙うとはいい神経してるな」

 

バルフレアが扉の前に倒れている海賊の頭を踏みつけて言った。

 

「あなたみたいな義賊が少数派なだけだと思うけど?」

 

続いて船内から出てきたフランがバルフレアに言う。

 

「海賊は……乗り込んできてる奴だけで50人はいるな」

 

セアは船内から出た途端、甲板を見渡し敵の数を確認する。

彼ら3人の腕にはバート交通公社の社印がある腕章が付けられていた。




航海術が中世レベルって書いたけど改めて調べてみたらどう考えても近世レベルの航海術だった。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』とかを参考にしたから大航海時代並の航海技術だな。
……上記作品で言うクラーケン的な魔物が普通にいるので沈没率は中世より遥かに高そうだがww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十六話 船上の戦い

船内の避難場所に乗客や乗組員が集まっていた。

その避難場所でこの客船の船長は小さくなって怯えていた。

彼は今まで海で魔物と出会ったことは何度かある。

だが、海賊に襲われたことは初めてだったからだ。

魔物に襲われた場合なら最悪でも死ぬだけだ。

船乗りになった以上、殺される覚悟ならば船長は持っているからそれには耐えられる。

しかし相手が海賊となると話は変わってくる。

万が一彼らに捕まったりしたならば奴隷にされる可能性すらあるのだ。

公的には奴隷はガルテア連邦成立以来、イヴァリース全域で禁止とされている。

しかし裏では奴隷を売買する輩が存在するのだ。

現にアルケイディアやロザリアのケルオン大陸植民地では奴隷とおぼしき人材が立派な労働力として酷使されている。

そもそも禁止されているのはあくまでイヴァリース内だけの話なのだからイヴァリースから出てしまえば奴隷制のある地域もあるだろう。

そういう商人へのルートを海賊達が持っているというのはよく聞く話だ。

何故なら海賊を帝国水軍が捕まえて尋問した結果、奴隷商に繋がった例が多すぎるからである。

無論、アルケイディア帝国内にそんな商人がいれば判明した時点で潰される。

しかしそれが国外だと中々潰れない。

他国の政府が言いがかりだの内政干渉だの言って話が商人の捜査まで中々進まない。

彼らに言わせれば犯罪者の証言だけで決め付けるなどふざけているということらしい。

やっと捜査する頃には狡猾な商人は証拠を隠滅してしてしまっている。

更にその奴隷商人がイヴァリースの外にいる場合は他国に訴える事すら不可能だ。

そういった経緯で奴隷を供給したい奴隷商人の数はあまり減らないのだ。

その為、金を稼ぐのに手段を選ばない無法者達が集まり新しく海賊が誕生する。

そのせいで裏の世界ではいくらたっても奴隷は売買されている。

船長は死ぬのは恐くないが奴隷になるのは嫌だった。

だから客に後で金一封を出すから海賊退治に協力して欲しいと言った。

その結果、セア・バルフレア・フランの三人が名乗り出てバート交通公社の腕章をつけて甲板に向かった。

 

「オレもいきたかったな」

 

ヴァンは甲板で戦っているセア達を思いながら呟いた。

 

「だが、無法者相手だと彼らが一番経験豊富だろう。私達はここを守っていればいい」

「えっ?セアってそんな経験あったの?」

 

バッシュの発言にパンネロが不思議そうな声で問う。

 

「ああ、彼は傭兵として働いていたときもあるらしい」

「……そんな話聞いた事ないぞ」

 

バッシュの返答にヴァンがふてくされた声で返した。

バッシュも聖ヲルバ騎士団国の首都ティンダロスの宿で興味本位でなぜロザリアの諜報部に所属することになったのか訊いたらセアが酒を飲みながら傭兵としてロザリア帝国に雇われてそのままずるずる諜報部に所属してしまった時の不機嫌そうに話されて初めて知ったことなのだが。

因みにセアは翌日なぜか自分の弟子に猛稽古をつけたらしいが詳細は不明である。

 

 

 

一方その頃、甲板では。

水兵の胸をギャンスの剣が貫く。

ギャンスが剣を引き抜くと水兵は血飛沫を出して絶命する。

それを一瞥するとギャンスは周りを警戒する。

 

「……ん?」

 

周りを警戒していたギャンスの目線がある銀髪の男を視界に治め、呆然とする。

どうやら自分の予感は正しかったようだ。

そういう風に思っているとその隙を狙って水兵が槍で貫こうとする。

ギャンスはその槍を左腕で力任せに軌道を逸らせて右手に持っている剣で水兵の金的を貫いた。

 

「おい、何人かついて来い」

 

その言葉を聞いて海賊が5人程ギャンスの後ろに影のように従う。

ギャンスたちは船室の入口に向かって走り出した。

 

 

 

バルフレアは海賊を銃で殴りつけ、海に落とす。

近くにいた海賊がその隙を狙ってメリケンサックをつけた拳で殴りかかる。

しかしバルフレアはその拳を避けて、銃口をその男の口腔に突っ込む。

 

「ほらよ」

 

バルフレアが引き金を引くと同時に海賊の頭から血を吹いて倒れた。

 

「チッ、汚ねぇな……」

 

そう言いながらバルフレアは自分の銃に弾と火薬を込める。

内心、新しい自分の銃フォーマルファウトの性能の良さに驚いていた。

少し高かったがいい買い物したと思い、次の敵を狙う。

 

「おいおい、イケメンな兄ちゃん。あのヴィエラはあんたのかい?」

 

ハゲ頭で筋骨隆々な海賊に話しかけられ、バルフレアは露骨に嫌な顔をする。

 

「ああ、オレの相棒だ。いい女だろ」

「そうかいそうかい、あれだけの美女だ。さぞいい声で鳴くんだろうな」

「お前は女とより、男と薔薇色の関係結んでた方がしっくりくる外見してるがな」

「何だとッ!?」

 

バルフレアの発言に激怒した海賊は斧を振り回す。

その攻撃を避けながらバルフレアは頭目掛けて発砲する。

男は目を回して倒れた。

 

「……キリがねぇな」

 

誰に言うでもなくバルフレアは呟いた。

 

 

 

セアは3人の海賊が斬りかかってくるのを紙一重で避ける。

そして黒色の剣閃が海賊達の足を深く切り裂いた。

 

「があああああああ!!!」

「動脈が!ちくしょおおお!!」

「げが、ぐ、がああ!!」

 

海賊達は派手に切り口から血を噴出し名から喚く。

 

「さて、次に血を流したいのは誰だ?」

 

セアの冷たい声に海賊達が恐怖で後ずさる。

 

「おい、お前行け!」

「なんでだ!?お前が行け!!」

「いんや!お前は俺様に借りがあるだろう。今返せ!!」

「はぁあ!?何言ってやがる!この前の賭けでそれはチャラになっただろうが!!」

「知るか!!」

「んだと!?」

 

なにやら口論を始めた海賊達の首を跳ね飛ばそうと近づいて剣を振った。

だが凄まじい金属音をあげ、セアの剣は口論していた海賊の首には届かなかった。

 

「なにやってんだ。お前ら」

 

ギャンスはやや呆れたような声で敵前で口論していた海賊達に言った。

だが、ギャンスの言葉に海賊達の背筋は凍りついた。

なにせ自分達の所属する海賊団の甲板長――ヘマした者に対して制裁を与えることができる地位にいる。

この海賊団でギャンスの背中が出血する程の威力を誇る鞭打ちの制裁を受けていない者など殆どいない。

だからこそ彼らはギャンスがある意味船長より恐ろしいのだ。

 

「もういいからお前らは向こうのヴィエラの相手をしてやれ」

 

ギャンスはそう言って顎をしゃくる。

そこではフランが数人の海賊を相手にしていた。

叱咤された海賊達は逃げるようにしてフランの方に叫びながら向かった。

 

「……」

 

セアは剣を構えなおし、警戒する。

何の苦もなく先程の自分の剣を止められた。

で、あるならば目の前の男は相当な実力者だ。

男の得物は……細剣か。

自分の突きをいなされた後、{サンダラ}で攻撃しようと詠唱をしながら突きを繰り出す。

が、あろうことかギャンスは細剣でいなさずに左手の甲でガードする。

ギャィイインと嫌な音を立てて斬撃はそれ、ギャンスの細剣が首筋に迫る。

思わず、セアは詠唱を中断し、受身をとって転がってその勢いのまま立ち上がる。

ギャンスの左手の甲は切り口から銀色の金属が覗いていていて鈍く光っていた。

どうやら左手に金属の篭手を仕込んでいたようだ。

ギャンスは立ち上がって硬直しているセアの腹を篭手の仕込んでいる左手で殴る。

セアはその激痛に口から血を吐きながら剣でギャンスの顔を切り裂く。

ギャンスは即座に回避しようとしたが間に合わず斬られた左目を抑える。

 

「……それで意識を失わないって。まさかとは思うが同胞じゃねぇよな?」

 

ギャンスは怪訝な声で聞いてきた。

だが、セアにとっては意味不明な質問だ。

 

「意味がわからん。なんだ同胞って?」

「……知らんならいい」

 

ギャンスはそう言うとなにやら唱えだした。

セアはしばし呆然としていたがそれが自分の知らない魔法の詠唱だと気づき、止めようとする。

しかしギャンスの魔法の詠唱は完成してセアの体が光りだした。

いや、正確にはセアのポケットが光りだした。

 

「そこかッ!!」

 

ギャンスは細剣で突っ込んできたセアのポケットを切り裂く。

切り裂かれたポケットから双魚宮の紋章が刻まれた魔石が宙を舞い海に落ちた。

それを追いかけるようにギャンスは海に飛び込んだ。

セアもあの魔石の価値(マティウスの力)を知っているので取り戻そうと海に飛び込む。

 

 

 

それから数分後、海賊船が謎の光線に貫かれて粉砕した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十七話 水中戦

海に飛び込んだセアは必死に双魚宮の紋章が刻まれた魔石を探す。

 

「……お前、それほど必死に探すとはこれが聖石(せいせき)だと知っているようだな」

 

水の中ではっきりとした声が聞こえた。

驚いてセアはそちらを見る。

そこにはギャンスが双魚宮の紋章が刻まれた魔石を持ってまるで水中ではないとでもでいわんばかりに直立に浮かんでいた。

 

「まぁいい。喩え知っても所詮は脆弱な人間。消すのは容易い」

 

そういうとギャンスは持っていた双魚宮の紋章が刻まれた魔石を懐にしまう。

そして腰に下げてある細剣を抜き、まるで放たれた矢のようにギャンスはセアに突っ込んできた。

水中で思うように身動きが取れないセアは右腕を細剣で切り裂さかれた。

セアの右腕の傷口から出た血げまるで煙のように海中に広がる。

海中にいるせいで凄まじい痛みがセアの右腕を襲ったがやがてミストによって修復される。

その様子を見てギャンスは目を見開く。

 

「ただの人間じゃなかいようだな。聖石のことも知ってるようだし、もしや……オキューリアの手先かッ!!」

「ボゴッ!」

 

警戒の色を露にしてギャンスが叫ぶ。

意味不明な問いにセアは一瞬海中であることを忘れて問い返そうとした。

しかし言葉の変わりに空気が海中に出て行き、海水が口に流れ込む。

 

『それならば、全力で挑むまでッ!!』

 

そういうとギャンスは首飾りの宝石を掴んだ。

その宝石は眩い光を放ち、あたり一面を朱色の光で染める。

やがてギャンスの両手は巨大な蟹のハサミのようになり、甲殻類のような殻を得る。

ギャンスの体は人外のそれへと変貌を遂げた。

セアはその姿を見て目を見開く。

 

(まさかあれは断罪の暴君ゼロムス!?いままでの奴とは違ってグローリア家に伝わる御伽噺の容姿と差異を感じるが……)

 

ギャンスが変貌している間にセアは海面近くまで空気を吸いに近づいていた。

だが、変貌したギャンスの姿にある闇の異業者との共通点を見つけて驚いていたのである。

 

《いくぞ、傲慢なるオキューリアの手先よ!》

 

そうおぞましい声で叫ぶとギャンスは右手をセアの方に向ける。

ハサミの間に膨大な紫色の力がたまりだす。

セアはそれに気づいて必死に客船の方に当てまいと海賊船の方に泳ぐ。

ギャンスはいわば自分達の船に被害が及ぶに間関わらず、躊躇わずにその力を解き放つ。

その膨大な力は一筋の閃光となりセアの鼻先を掠めて、海賊船を貫いた。

海賊船の中心部に穴が空き、がらがらと船は崩れた。

 

「ブハァッ!」

 

セアは海面に出て、海賊船の残骸の上にあがる。

そして思いっきり深呼吸する。

船の崩壊から生き残った海賊がセアに剣をむける。

 

「てめぇ、なにしやがった!!」

「……下に魔物がいる。そいつのせいだ」

「うるせぇ!!死ねぇ!!」

 

セアの言葉に耳を貸さず、セアに剣を振り下ろす。

その攻撃を避け、セアは隙だらけになった海賊の背を蹴って海に落とす。

そして海からでてきたハサミに挟まれて海賊の胴体は真っ二つになった。

 

《……先程海中で顔色を悪くしていたことといい、どうやらお前は息を吸わねば生きてはいけんようだな》

「別に生きてはいけるが」

 

別に溺れたところで別に死にはしないが意識は失う。

昔、航海中に大嵐に遭遇して船が転覆して意識を失い、浅瀬にフォーン海岸に打ち上げられて意識を取り戻したのだが、その時は大嵐の日から2年近い月日が経過していたことがある。

そのことを差し引くとしても水中戦だとセアも普通の人間同様、水の抵抗のせいで動きは陸上より鈍くなる。

 

《だが、地上よりは弱くなることに違いはあるまい》

 

ギャンスはそう言って派手に両手のハサミでセアの体を挟もうとしてくる。

セアは剣をギャンスの両手のハサミの間に滑り込まして防御する。

 

《ほう、これ程の力でも切れぬとは随分と頑丈な剣なようだな》

 

ギャンスの言うとおり、セアの剣には傷ひとつついていない。

 

《だが、これならどうだ?》

 

ギャンスはそう言うとセアの剣を掴んだまま跳ね上がる。

セアは剣から手を離さず、一緒に空中に放り出された。

そしてギャンスはセアを下にしてそのまま自由落下で海面に叩きつけられる。

 

「がッ」

《剣から手を離せば俺の手で胴体が真っ二つになって楽に逝けるぞ》

 

ギャンスはこのまま海底に叩きつけ、セアの意識を奪うつもりだった。

だが、ここでギャンスにとって予想外の行動をセアがしたのだ。

セアはギャンスの両手を止めている剣から左手を離して腰の鞘の位置にもっていく。

するとそこに収まっていた剣を抜き放ち、ギャンスの顔目掛けて突き出す。

ギャンスは咄嗟の回避で致命傷は避けたものの頬に切り傷を残す。

セアはそれを気にも留めず、再び海面に向かう。

 

《どういうことだ?お前の腰の鞘に剣など収まっていなかった筈だぞ!?》

 

ギャンスの疑問は自分の両手を塞いでいた剣によって氷解した。

自分の両手を塞いでいた赤黒い剣が黄色いミストを放ちながら消え始めたからだ。

 

《なるほど、魔霧から剣を精製していたのか……!!》

 

殺意を新たにしてセアに向けて再び閃光を放とうとギャンスは右手を向ける。

しかし、北の方からやってくる船団を確認してそれを中止する。

 

《チッ、あいつを消す為に派手な事をして我々が魔霧の外で活動していることをオキューリアに悟られたら元も子もないか。今回は【パイシーズ】を回収できただけでよしとしよう》

 

ギャンスは忌々しそうに船団を暫く睨むと船団に背を背ける。

 

《ハシュマリムと合流して情報交換をするべきだな……》

 

そう呟くとギャンスは光の届かない暗い深海へと消えていった。

 

 

 

客船の甲板では海賊達が混乱のきわみにあった。

 

「北から帝国水軍の船が10艘以上来てる!船はさっきの変な光でバラバラになっちましたし、どうしやす!?」

 

海賊は現状を船長に告げながら、指示を求める。

 

「チィ、この船を奪う!!そしてから逃げるぞ!!」

 

船長は悲鳴のように部下達に命令する。

 

「で、ですがまだこの船に乗ってる水兵がまだ20人近くいやすよ?間に合いますか?」

「無駄口叩いてる暇があんなら敵を一人でも仕留めろ!!この役立たず共がッ!!」

「へ、へい!!」

 

部下達はクモの子を散らすようにバラバラになって水兵達に襲い掛かる。

だが、ヤケクソになって冷静を失った海賊達は水兵達の相手にはならず、徐々に討ち取られてゆく。

その状況を見て勝ち目がないと船長は見て、小船をおろして一人で逃げ出そうとする。

が、そのことに気づいた水軍士官が海賊達の壁を突破して船長の背後に斬りかかる。

船長は咄嗟に防御しようとしたが間に合わず左腕に剣が食い込む。

 

「部下を見捨てて自分だけ逃げようとは大した船長だな」

「ク、クソがぁ」

「おとなしく縄につけ」

「……年貢の納め時ってか」

 

船長はそう呟くと狂ったように笑い出した。

水軍士官はその奇怪な行動に警戒をする。

 

「ハハッ、なんで海賊なんぞ俺がしてるんだろ」

 

そう呟くと何故だか自分の人生に諦めがついて船長は無表情で剣を構えた。

水軍士官は捕縛は無理だと剣を振り下ろす。

だが、船長は左腕を犠牲にして間合いに入り込み士官の腹を蹴飛ばして馬乗りになる。

トドメをさそうと右手に掴んである剣を振りおろそうとした瞬間、船長の体は凍りついた。

 

「フランの方が早かったか」

 

バルフレアは船長を背後から{ブリザガ}で仕留めたフランを見てそう呟きながら銃をおろした。

水軍士官はしばし呆然としていたが気を取り戻して自分の上に乗っかっている氷人間の首を斬り飛ばして晒した。

 

「お、お頭!!」

「お頭がやられた!!」

「ど、どうするよ!?」

「し、しるか!!」

 

自分達の船長の首を確認した海賊達は完全に混乱して口々に指示を請う。

だが、もう既に彼らに命令を下すべき船長も甲板長もここにはいなかった。

そうしてオロオロしている内に帝国水軍の軍船が客船に接舷して水兵達が乗り込んでくる。

 

「海賊共に告ぐ!命惜しくば武器を捨てろッ!!さもなくばこの場で斬殺するッ!!」

 

水軍将校の怒声が響き渡る。

既に自分達の旗頭を失った状態である海賊たちはおとなしく将校の命令に従った。




ようやく海賊の話が終わった。
……自分でそういう設定にしたくせに海賊の船長が少し可哀想になった。

次話、懐かしのあの人が再登場の予定(そして意外な副業が発覚の予定)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十八話 ぼったくり野郎に制裁を!

『ベルセルク』の最新話立ち読みしたぞおお!(嬉しさのあまり、推敲もロクにせず更新した)
いやぁ、この作品の執筆に際してかなり参考にしてる漫画だから嬉しいぜぇ!!

注・後書きも『ベルセルク』のことでいっぱいですのでネタバレが嫌な人は読まないでください。


アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領港町サマルスにて。

バート交通公社の客船を襲った海賊の生き残りは帝国水軍によって捕縛された。

彼らはこの町で取り調べの末、アルケイディア帝国の法に則って裁判にかけられると帝国水軍がその場で公表した。

その後、軍船に囲まれながら海原を進み、現在はサマルスにいる。

そして港に降りる際に、バート交通公社の社員から慰謝料を渡された。

 

「あ、貴方がたは海賊討伐の際に協力してくださった人達ですね。船長よりこれを渡すよう申し付けられてます」

 

セアとバルフレアとフランの3人は慰謝料とは別にギルの入った袋を社員から渡された。

 

「あの海賊ってどうなるんだ?」

 

ヴァンが帝国軍によって連行されている海賊達を見ながらつぶやく。

 

「よくてナルビナ送りだな」

 

バルフレアがどうでもいいように呟く。

それを聞いてヴァンはやや顔を青くした。

王宮に忍び込んで帝国軍に捕まった際にナルビナの地下牢にヴァンは放り込まれたことがあるのだ。

その時のことを思い出しているのだろう。

 

「それでこれからどうする?」

 

バッシュが皆集まっているのを確認して言った。

 

「このまま地方都市や村に寄りながらナルビナに向かうべきだわ」

「オレもだな」

 

アーシェの提案にバルフレアも賛成の意を示す。

 

「俺としては一度ラバナスタに寄るべきだと思うが……」

 

セアは控えめに提案する。

 

「なぜですか?」

「ラバナスタからナルビナに向かう商隊は多い。それに紛れていけば安全に国境まで近づける」

「……」

「それに食料やらなんやら買い込んでおくべきだ。地方都市ならともかく村だとそんなに買い込めないと思うからな」

「……そうですね。一度ラバナスタに戻りましょう」

 

アーシェはセアの提案を受け入れ、バルフレアも渋々頷いた。

 

「それなら西のギーザ草原から北上した方が早いわね」

「そうか、なら急ぐぞ。今日中にギーザ草原にある遊牧民の集落には着きたいからな」

 

話が纏まり、周りを見回した時に一人足りないことに気がついた。

 

「おい、馬鹿弟子は何処に行った?」

「ヴァンならちょっと小便しに行ってくるって言ってどこかに行きましたけど」

 

パンネロの返答にセアは少し呆れた表情をして顔を手で押さえた。

 

 

 

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。

港町サマルスと出て2日でセア達は王都に戻ってきた。

 

「アーシェ達のガリフ行きに付き合って、まだ1ヶ月位しかたってないはずだけど、随分懐かしく感じるな」

「色々あったからね」

 

パンネロの言葉を聞いてヴァンは腕を組んで今回の旅のことを思い返す。

ガルフの里で本音をラーサーと再会したり、アーシェにぶちまけたり、神都行きがきまったり。

エルトの里がフランの故郷が判明したし、亜人達がごちゃまぜで暮すラバナスタは珍しい場所だと初めて知ったし。

神都だとロザリアのお偉いさんが出てくるし、アルケイディアの皇帝が暗殺されたなんて爆弾発言されるし、他にも覇王の遺産があったことがわかったし。

そしてミリアム遺跡だとなんかベリアスに似た……マンティコラだっけ?とかがいたし。

そうして【覇王の剣】を手に入れて遺跡を出たら神都から火が上がってるし。

戻ったら戻ったでジャッジマスターの一人倒しちゃったし、セアが自分の過去を暴露して珍しく激怒してる姿をみたり。

うん。本当に今まで一番色々なことが起こった1ヶ月だったと何度もヴァンは頷いた。

 

「おい、ミゲロさんに挨拶しにいっとけよ。10日間程度で戻れる筈なのに1ヶ月以上留守にしてたから多分心配してるだろうからな」

「わかった。セアはどうするんだ?」

「俺は……そうだな。とりあえず砂海亭でトマジを取っちめる」

 

セアは明らかに暗すぎる声を出してヴァンとパンネロに言うと市街地の方に走り去っていった。

その言葉を聞いてヴァンはセアがトマジにぼったくられたとか言ってたことが脳裏を掠めた。

 

(そういや、破産寸前まで高級の蛇酒を飲まされたとかどうとか……トマジ、生き残れるかなぁ)

 

ヴァンはトマジのことを心配しつつ、空を仰いだ。

 

「オレらは砂海亭に酒を飲みに行くつもりだったんだが……これだと先に必要なものを買いに行った方がいいな」

「そうするべきだとおもうわ」

 

バルフレアはセアが走り去った方向を見ながら呟き、フランはそれに同意した。

 

 

 

砂海亭の扉を開けたセアはカウンターの方に視線を走らせる。

そしてセアのことに気がついたトマジが目に入った。

トマジは店員を押しのけて逃走を図るが店の奥に入るよりセアの右手がトマジの肩を掴むほうが早かった。

 

「おい、トマジ。俺が来た途端引っ込もうとは一体どういう了見だ?」

「それは……その……」

 

トマジは顔が冷や汗だらけになっている。

 

「あのさ、とりあえず飲もうぜ。奢ってやるからさ」

 

セアの言葉に流石に他の店員が反応を示す。

 

「おい、まだトマジは仕事中――」

 

セアはポケットからバート交通公社から渡された慰謝料が入った袋を店員に突き出す。

 

「それは全て君へのチップだ。大目に見てくれ」

「は、はい!」

「ところでトマジ君の仕事時間は終わってるのかな?」

「はい、たった今終わった筈です」

 

店員の宣言にトマジが口を挟む。

 

「まだ数時間程働かなきゃいけない筈なんですけど……」

「安心して休め!店長には話を通しといてやる」

「え?ちょ、給料に影響が出ると思うんですが――」

「安心しろ!お前が今日一日仕事する儲けより、この人から貰ったチップの方が高いからな!」

 

トマジの必死の足掻きを店員は悉く一蹴する。

 

「では、2名様ご案内!!!」

 

店員はそう言うとセアとトマジを2階の席に案内した。

 

「よし、飲もうか。何を飲む?スーパーデンジャラスジュースでも飲むか?」

「いやいやいや!それあれだからね!?飲みきったら1000ギルあげますっていう企画あるくらいの凄まじくアレな液体だからね!!?」

 

トマジが店の壁に張ってある企画のポスターを指差しながら必死に叫ぶ。

 

「悪いただの冗談だ。シェリー酒でいいか?」

「ああ、じゃ、それで」

 

セアは店員にシェリー酒を注文すると真顔になってトマジと向き合う。

 

「それで数ヶ月前の蛇酒のことについてなんだが……」

「すいません!出来心だったんです!許してくだッ……さい」

 

そう言いながらトマジが物凄い勢いで立ち上がるとこれまた凄い勢いで頭を下げる。

……勢い余って木製の机に頭が激突し、セアは噴出しそうになるのを必死に我慢する。

 

「……いや、出来心で無一文になった俺からすればまったく笑えないが、まぁいいや」

「いいのか?」

「ああ、おかげで色々気になることができたからな」

「気になることって……?」

 

トマジが不思議そうな顔をして尋ねる。

するとセアは悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。

 

「そうだな。たとえばお前がロザリアの諜報部に所属してるって話とか?」

 

トマジは出てきたばかりの酒を口に含んでいたため、酒を噴出した。

噴出した液体はあっというスピードでお盆でガードしたセアには届かなかった。

 

「ああ、もったいない。20ギル弁償しろ」

「金の話はひとまずおいといてだな!なんで知ってるんだ!?」

「アルシドから聞いた」

「……アルシドって諜報部のトップのアルシド?」

「その絶倫野郎以外にどのアルシドがいるっていうんだ?」

 

トマジは青い顔をして「なんで諜報部のトップと知り合いなの」とか「アルシドに彼女を奪われたって泣いていた上司の話は本当だったのか」とブツブツ呟いていた。

その呟きを聞いてセアが「あの馬鹿はどこまで下半身が元気なんだ?」と顔を青くしていた。

 

「……それでだ。お前いつロザリアの諜報部に入ったんだ?」

 

今度アルシドに会ったらとりあえずアルシドの下半身目掛けて{サンダガ}をぶっ放そうと思いながらセアはトマジに問う。

 

「敗戦直後さ。稼ぎ頭だった父が戦争で死んでからなにかと金が必要になってな。そんな時にロザリアの工作員と接点をもってな」

「抵抗はなかったのか?」

「アルケイディアに一泡吹かせたいと思ってたからな。それに今までどおり砂海亭で働きながらでいいって聞いたからな」

「なるほど」

「一応、このことはヴァン達には黙っててくれよ。色々面倒なことがおきそうだから」

「そうか、ならお前がロザリアの諜報員だと街中に触れ回ればこの前のぼったくりに対するいい復讐になるな」

「勘弁してください!!!」

 

そんなトマジの魂の叫びにセアは曖昧な笑みを浮かべながら酒を煽った。

因みにトマジがセアに対して買収攻勢をかけてようやく自分が諜報員であることを秘密にして貰えた様だ。












ヤングアニマルで『ベルセルク』の連載が再開されていましたので立ち読みしました。
前にリッケルトとエリカが再登場してた時は懐かしいなぁと思いました。
だが、最新話でまさか断罪編に出ていたルカ達も再登場しとるとは……
お前等、何年ぶりの登場だよ。(15年位?)
……この調子だとファルコニアにテレジアやジルもいそうだなぁ。
(ひょっとして去年掲載しなかったのは昔のキャラの描き方を思い出すための時間稼ぎか?)
あとちゃっかりダイバがいて笑った。
次号でリッケルトとグリフィスが謁見するそうだが、どうなるんだろうね?
……シャルロットがリッケルトからグリフィスの悪行を聞いてFFTのオヴェリア化に一票。
ただ、グリフィスの場合は簡単に返り討ちにされそうだけどねw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十九話 セアの家

FFTのED後、主人公達は死都から生還しているってつい最近公式設定になったらしい。
なんかどうも鴎国のゼラモニアのレジスタンスに参加しているようだが……


トマジから大金を巻き上げ、もといぼったくりに対する慰謝料を払って貰ったセアは自分の住居の方へと向かった。

自分の借りている住居はダウンタウンにある。

市街地の中心部にある地下へと続く階段を下った場所にある外民の居住区だ。

ヴァンやパンネロもこのダウンタウンで暮らしているのだ。

ダウンタウンは地上とは違い、帝国兵が警備をしていない。

偶に巡回で来るには来るが余程大騒ぎをしない限り、基本的に干渉して来ない。

その為、必然的に治安は地上に比べて悪く、犯罪者のたまり場にもなっている。

セアが自分の住居に向かって歩いているとバッシュと鉢合わせた。

 

「なんでダウンタウンに?」

「解放軍のアジトがどうなったのか気になってきたのだが……。もぬけの殻になっていた。おそらくオンドール候と合流したのだろうな」

「ああ、解放軍のアジトもここにあったのか。ま、ラバナスタに拠点を置くならここ以外置く場所がないか」

 

セアの言葉にバッシュは頷いた。

 

「それで、君はなんでここに?」

「いや、ただ一度自分の借り宿に戻ろうと思ってな」

 

セアの答えにバッシュは興味を引かれた。

 

「君の家か。よければ上がらせてくれないか?」

「……別にいいけど何も出せないぞ」

「かまわん」

 

バッシュの軽く笑いながらの返答にセアはこっちだといって自分の住居に案内する。

セアは自分の住居の扉を開けて中に招き入れた。

 

「……掃除しないのか?」

「やるだけ無駄だ。また散らかるからな」

 

セアの住居は足の踏み場ない程、様々なもので溢れかえっていた。

なにかのレポートや用途が不明な器具の数々が床に散乱しているのだ。

一応、奥のスペースに机と椅子と本棚とベットがある為か綺麗に整理されている。

 

「まぁ、踏まれてなんか壊されても困るからとりあえず奥に来てくれ」

 

その言葉を聞いてバッシュはなんとか床に散乱しているものを踏まないようにして奥の片付いているスペースに移動する。

そしてセアに椅子をすすめられてバッシュはその椅子に座った。

すると机においてある一冊の本にバッシュは興味を引かれた。

本には【森のオオカミ】と記されてあった。

 

「興味があるなら別に読んでいいぞ」

 

セアは床にあるレポートをひっくり返しながら言った。

バッシュはなにもすることがなかったのでとりあえず読んでみる事にした。

 

『山と海に囲まれた小さな街。

豊かで平和なこの街には、ひとつの心配事がありました。

それは森に住んでいる1匹の大きなオオカミのこと。

いつのまにか棲みついていた凶暴な獣は、時おり遠吠えを響かせ、街人を震え怖がらせるのでした。

しかし、そのオオカミは街人を困らせるつもりではなく、本当は人と仲良くしたい、友達をつくりたいと遠吠えを上げていたのでした。』

 

挿絵にオオカミの遠吠えに怯える街の人々と寂しさのあまり涙を流しながら遠吠えをするオオカミが描かれている。

お互いの事を知らないが故にこんな状況になっているのだ。

 

『そんなオオカミの姿をみかねた街の狩人は、手助けをすることにしたのです。

「オオカミよ。何故あなたが人に恐がられるのかわかりますか?

それは、あなたの姿が怖いからなのです。」

どうしたらいいのかとオオカミが尋ねると狩人は言いました。

「あなたに人の姿になる魔法をかけてあげましょう。」

その言葉が終わると、オオカミは人の姿に変わっていました。

感謝するオオカミに狩人は忠告しました。

「あくまで姿だけで人に変わったわけではありません。

 決して声を出してはいけませんよ。

 あなたはオオカミなのですから――。」』

 

挿絵にオオカミを哀れんで人の姿になる魔法をかける狩人の姿が描かれている。

 

『人の姿になったオオカミは、森を抜け街に向かいました。

これで友達をつくることができる。

顔には眩しい笑顔を浮かべていました。

通り過ぎる人は皆、誰だろう?と不信がりましたが、

その笑顔に緊張を解き歓迎するのでした。

これまで恐ろしい形相の顔の人しか見たことがなかったオオカミは、

街の人から向けられた笑顔に感激しました。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、辺りは暗くなってきました。』

 

挿絵に人に化けたオオカミが嬉しそうに街を歩く姿が描かれている。

今までオオカミに描かれていた寂しそうな顔が嘘のような表情だ。

 

『オオカミは森に帰りました。

人の姿は元に戻り、口を閉じる必要はなくなりました。

けれど、もう遠吠えを上げることはありません。

今日という素晴らしい日を狩人に感謝しながら眠りにつきました。

そんなオオカミを、狩人は優しく見つめるのでした。

そして──。

山と海に囲まれた小さな街。

豊かで平和なこの街には。その昔、ひとつの心配ごとがありました。

しかし、そんな心配を抱くことはもうありません。

街では勇敢な狩人を称える声が響き渡っていました。

その声は、街人を震え怖がらせることもなく、

いつまでもいつまでも止むことはありませんでした。

──オオカミの大群が街へ向かってきていることに気付くまでは。』

 

挿絵に街に迫る腹をすかせたオオカミの群れが描かれている。

寂しさを紛らわす為に、大きな遠吠えをあげて自分の縄張りを築いていたオオカミが死んだが為に。

「救いようがない話だな」

 

バッシュは読み終わった本をそう評した。

 

「俺は結構好きなんだけどな」

 

セアは探していたレポートを数枚拾い上げて、整えながら話す。

 

「基本、生物は無知だ。それが故に喜劇や悲劇を生む。そのことをその御伽噺はよく表現できてると思うんだがな」

 

セアの言葉にバッシュは言い返すことができなかった。

しばしどちらも黙り込んでいたが、ふとバッシュがセアが拾ったレポートを真剣に見ているのに気がついた。

 

「なにを読んでいる?」

「別になんでも……いや、別に教えても大丈夫か。馬鹿弟子も王女様も何故かドラクロア研究所に詳しい空賊もここにはいないわけだし……」

 

セアは床に座り込んで、腕を組む。

そしてブツブツとなにかを呟いていたが、やがて考えが纏まってバッシュに話しかけた。

 

「俺は700年以上生きている」

「ブルオミシェイスで既に聞いた話だ」

「ああ、その間、どうやって生活費稼いでたと思う?」

「……モブ退治や傭兵をして稼いでいたのではないのか」

「まぁ、それもそうだが、他にもフリーの研究者として活動しててだな」

「なるほど。では床に散乱しているレポートや器具は研究の為のものか。しかしこんな大雑把な管理でよいのか?」

「簡単な実験と理論の構築しかこの部屋ではしてないから問題ない」

「そういうものなのか?」

「そういうものだ。少し話が逸れたが最初に砂海亭で貴方と出会う少し前にフリーの研究者として1ヶ月弱活動してたんだ」

 

セアはそう言うと持っていたレポートの束を机の上に放り投げた。

バッシュはそのレポートの提出先の場所が書かれている部分を見て目を見開いた。

 

「ドラクロア研究所に雇われて……な」

「では、君はアルケイディア帝国の兵器開発に協力を……?」

「よく誤解されているが、別にドラクロアは兵器開発だけしてるって訳じゃない。まぁ、帝国の兵器開発を一手に仕切ってるし、兵器開発部門が研究所内で一番大きい部門だから勘違いされるのもしかたないのかもしれないが……」

「なら君はなんの研究をしていたんだ?」

「人工的に魔石を精製する研究をしていた。その割にはひたすらミストの吸収率を高めるだけの研究だったがな」

「それはまさか――」

「ああ、今思えばその成果が人造破魔石の合成に活用されていたんだろう。……ミュリンを狂わせ、ベルガに人外の力を与える切欠を造った一端は俺にあるってことになるな」

「それで……どうするつもりだ?」

「さぁ。だが、実はビュエルバから戻った後、俺はドラクロアの所長であるシドと会っているんだ」

「なっ」

 

予想外のセアの発言にバッシュは絶句した。

 

「その時にシドからアルケイディアに手を貸してくれないかと誘われた」

「……それで君はなんと答えたのだ?」

「俺は自分から国家に縛られに行くような人間じゃないんでね。答えは保留にしておいた」

「保留……なのか」

「ああ。だが、その時気になることをシドは言っていた」

「気になること?」

「『そう遠くない日に我が帝国は歴史を動かす戦争をする』とな」

「アルケイディアとロザリアの大戦のことか?」

「俺もそう思って聞いてみたんだが『ロザリアなど前座にすぎん』って言ってたな」

「……ロザリアが前座?他にアルケイディアと戦える国家など存在しないだろう。いや、まさかイヴァリースの外にも進出する気なのかシド達は」

「さぁな。ヤクト対応型飛空石の開発にも成功しているからそれもありえるだろうな。だが、根拠なんかなにもないんだけどそうじゃない気がするんだよな」

「?根拠もないなら何故そう思う」

 

バッシュのある意味当然の疑問にセアは軽く微笑みながら答える。

 

「なんというか、あの所長は人間の国や亜人の集落なんか眼中にないような気がする。ただそれだけだ」

 




ちょっとFFTのED後の短編を書こうかちょっと悩み中。
しかしLovのアグリアスの記述によればゼラモニアは物凄く治安が悪いようだ。
独立を叫ぶゼラモニアの民達とそれを許さぬ鴎国による厳しい粛清。
その結果として多くの血が流れているらしい。
おまけに畏国王が兵を派遣するとかいう噂もあるらしくきな臭いことこの上ない。

あと評価・感想をしてくれたら嬉しいです。
質問や意見もしてくれたら有難い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

The birth of the tyrant of immortality

今回の話はかなり趣向が異なり、一種の外伝のようなものとなっております。
なのでこの話を飛ばして読んでも何の問題もないと思われます。


平和とはあらゆる争いによって流された血を吸い上げ、死者の屍の上に咲き誇る一輪の花に過ぎない。

そしてそれは流れた血の量に比例して咲き誇るがやがては枯れ、再び争いがおこる。

何故なら人は争いつづけては生きていけないと同時に争わずに生きていくことはできないからである。

 

━※━━━━━━━━※━

 

クライス・セア・グローリア。

私、グレキア王国第一王子の名前である。

グレキア王国は非常に旧い国家であり、王家であるグローリア家はかつてロンカ王朝に仕えた地方貴族の生き残りであると伝承で伝わっている。

だから建国時期が不明ではあるが少なくとも千年以上の歴史を誇るバレンディア西部に覇を唱える大国である。

 

━※━━━━━━━━※━

 

結婚することになった。

相手は中堅国であるセルダ王国の第一王女であるエレーヌ・カヤ・セルダスだ。

所謂政略結婚という奴であり、セルダを味方につければ北の異民族国家シュターン帝国への自国領内の防波堤となる。

更にセルダはキャメロット王国とも国境を接しており、シュターンだけでなく、キャメロットへの牽制にもなる。

そう判断した父上がセルダ王に縁談を持ちかけてそんな話ができていたらしい。

その為、父上から自分の婚約者の話を切り出されたときは少々驚いたが、祖国グレキアの為、そのことに迷いはない。

 

━※━━━━━━━━※━

 

セルダ王国の王侯貴族を招き、王都ランチェスで2週間に渡って宴会を行った後、盛大に結婚式を行うらしい。

この時、初めて私は自分の婚約者であるセルダの王女エレーヌと会った。

不安げな顔をしながら、ギギギ……という効果音でも鳴りそうなぎこちなさをもって礼をしてきた。

……これは実に面倒な予感がひしひしと感じる。

とりあえず2人だけで話したいといって彼女と一緒に舞踏会に出席せず自室で語り合った。

 

━※━━━━━━━━※━

 

1週間位するとエレーヌもとりあえず普通に振舞える位には緊張はほぐれたみたいだ。

こうしてようやく今回のセルダとの宴会の主役である私達が舞踏会に出席することができた。

グレキア・セルダ両王国の重要人物もその様子を見てホッとした顔をしていた。

確かにこれで私達の仲が険悪なものだった場合、両国が戦争に突入していた可能性すらあるから当然だ。

実のところエレーヌ大国の王子というだけで異常に緊張していたしていただけなのだが。

因みに「1週間前とかなり王女の雰囲気が違うのですが、まさか結婚前に手をだしたんじゃありませんよね?」とか妙な勘違いした親衛隊隊長が訝しげに聞いてきた。

勿論していない。つーかキルティア教の教義に真っ向から背くまねを私ができるか!

腹が立ったので親衛隊隊長の妻宛てに「夫が貴族の奥方"達"と不倫している」という内容の手紙を送っておいた。

愚かなる親衛隊隊長に幸あれ、ファーラム。

 

━※━━━━━━━━※━

 

結婚式当日。

親衛隊に警護されながら私は式場に向かった。

……親衛隊隊長の頬にビンタされた後と思しき手形が浮かんでいた。

エレーヌは少々緊張しているようだったが、特に問題はなそそうだ。

「大いなる父の名において汝らふたりを夫婦であるとみなす。恵深き神の祝福が汝らの行く道にとこしえにあらんことを」

王宮内の神殿で大司教の文句とともに私とエレーヌは誓いの口付けをかわした。

こうして私達は晴れて夫婦となった。

 

━※━━━━━━━━※━

 

夫婦になったと言っても私が王都にいる際に同じ部屋で暮すようになっただけで今までの生活とさして変わらない。

東のキャメロットとは表向きは友好関係にあるとはいえ、月に一度は国境で小競り合いが起こる。

北のシュターン帝国とはキルティア教圏諸国とは違う宗教を信奉していることもあり、犬猿の仲である。

南の小国家群も絶えず争いを続けている。

安定しているのは海に接している東位なものだ。

そんなだからあちこち飛び回って、第一王子の私が王都にいる時間は意外と短い。

だからあまりエレーヌに構っている暇はないのだ。

だから常に王都にいる際は可能な限り優しく接しているつもりなのだが……

なぜかたまに不満げな顔でエレーヌが私を睨んでくる。

何故なのだろうか?

 

━※━━━━━━━━※━

 

結婚から2年後、私が17歳の時。

シュターン帝国の大軍を率いてグレキア王国領に侵攻してきた。

戦争自体はシュターン軍に大打撃を与えて、撃退することはできたものの父上が戦死した。

父上の死が悲しくなかったといえば嘘になるが私は王族であり、悲しんでいる時間などない。

戦後、すぐに私の戴冠式が行われ、弱冠17歳の身で大国グレキアの国王になってしまった。

王として若すぎる故、私を侮る者は国内外に多数存在した。

だが、王に即位して数週間後におきたランスの地での反乱を早期終結させた私の功績の前に多少改善された。

そしてキャメロットの"キルティア教圏の秩序を乱した異教徒への制裁"という大義名分で行われているシュターン帝国侵攻を支持してキャメロットの関心が北に向かっている間に国内の安定と軍事力の回復させようと試みた。

こうして周辺諸国がグレキアにちょっかいをかける余裕がないように調整した。

そして伝統に則りブルオミシェイスの大僧正へ、国王に即位したという挨拶に赴かねばならない。

慌しく駆け回り、半年近く国を空ける準備が整ったのは年の中頃であった。

 

━※━━━━━━━━※━

 

南のケルオン大陸のヤクト・ラムーダにある神都ブルオミシェイス。

キルティア教の創始者が没した聖地。

この神都ブルオミシェイスほど、煌びやかな神殿はイヴァリース中を探しても見つからないだろう。

そうして景色に見入っていると不意にエレーヌから声をかけられた。

振り返るとエレーヌの顔色が少し悪いような気がした。

心配していると彼女は私を真名で呼んだ上、「愛する男性にそういう態度をとられるのは悲しいです」などと言われた。

私は互いの国の利益の為にエレーヌは私と結婚したのだと思っていたので愛されているなどとは考えた事すらなかった。

その後に続くエレーヌの言葉に私は羞恥で顔を真っ赤に染め上げて気を失った。

なんとも情けない話である。

 

━※━━━━━━━━※━

 

気を失い倒れたので、大僧正と会談する予定の日が一日ずれた。

大僧正は理由を聞いてきたがまさか妻からの告白で頭が真っ白になったなどと言えるわけがない。

仕方なく、「長旅での疲労がブルオミシェイスに着いた途端噴出したのかもしれませぬ」と答えておいた。

一応、長旅の疲労が溜まっていたのは事実なので完全に嘘というわけではない。

別に疲労が溜まっていたなかったらエレーヌからの告白に気を失うことはなかった……はず。

その後、軽く世間話をした後、キルティア教会との不可侵条約及び政教分離協定を更新をおこなった。

そして……夜に妻から仮名ではなく真名で呼べと言われた。

 

━※━━━━━━━━※━

 

ヤッちまった。

昨夜、妻のエレーヌ……じゃなくてカヤと臥所をともにしました。

……今思えば初体験がキルティア教の聖地ってのは教義的にどうなんだろうか?

いや、時の神・転生神ゾーラとて夫婦の関係は円満であるべきとされているじゃないか。

問題はない……はずというかないと思いたい。

おお、母なる女神よ。どうか我を許したまえ。ファーラム。

 

━※━━━━━━━━※━

 

ブルオミシェイスから戻ってきて1年後。

私とカヤの間に子どもが生まれた。

名前はクライス・ティア・グローリアという。

可愛いな。こいつめ。

 

━※━━━━━━━━※━

 

ティアが生まれてからも私は王としての国務が忙しい。

はっきり言って十代の少年にやらせる仕事量じゃないだろうと思う。

宰相がかなり頑張ってくれているが、それでも仕事量は膨大である。

東の大国キャメロットの動向に目を配りつつ、北の異教国家シュターンを警戒しつつ、内政を行わねばならぬのだ。

更に南の小国家群が互いに衝突している為、南からくる難民も警戒しなくてはならない。

本当に忙しすぎる。

ただ、王都を離れることが殆どない為、ほぼ毎日愛しい妻や子に会えることが救いである。

 

━※━━━━━━━━※━

 

近頃、南が不穏である。

ある小国が凄まじい速さで他国を併呑していっているのだ。

我が国の影響下にある国家も幾つか力ずくで併合されいる。

その小国は昨年、レイスウォールとかいう貴族が王家を打倒して成立した国家だ。

いまはまだ小国といえる規模ではあるが、このまま放置しておれば面倒なことになる。

 

━※━━━━━━━━※━

 

キャメロットと同盟を結び、レイスウォールを倒す為、戦争を行うこととなった。

というのも母上の生国である国にレイスウォールが軍勢を率いて攻め入ったからだ。

ことここに至って私は宣戦布告し、それを知ったキャメロットも援軍を申し出てきたのである。

いまだレイスウォールが治める国はグレキア・キャメロットの10分の1にも満たぬ領土しかないとはいえ、たった1年でこの成長は異常だとこの大陸の列強である両国が手を結び、大軍を派遣したのである。

これだけの大軍だ。レイスウォールもひとたりもないだろう。

 

━※━━━━━━━━※━

 

なんということだ。

列強2ヵ国による連合軍が高々数千程度の軍勢に敗れるなど夢にも思わなかった。

更にキャメロットが緒戦の大敗を受けて、全面撤退を決め込み、国境の守りを固めている。

噂ではレイスウォールとの間で内密に休戦協定が成り立ったという噂だが、真偽は不明だ。

とにかくレイスウォールの軍勢はキャメロットなど眼中にないかのようにグレキアの領土を蹂躙している。

こちらも必死に防戦を試みたが結果は連戦連敗であり、王都にまで追い詰められた。

向こうが王都に攻めてくるなら討ち死にするまで戦い続けると会議で決まった。

そのことをカヤとティアにも話した。

するとカヤが「ここまでくればもう降伏した方がよいのではありませんか?その方が助かる命は多いと思います」と言ってきた。

……私は何も答えられなかった。

 

━※━━━━━━━━※━

 

敵襲を告げる声、私も王宮にある剣を掴み、外へ出ようと走り出した瞬間。

凄まじい光と衝撃が私を襲った。

薄れゆく意識の中、戴冠の際に受け継いだ王の剣が不気味に輝いているのを見た気がした。

 

━※━━━━━━━━※━

 

ここはどこだ?星空?浮いているのか?

いや、堕ちている!!

ガアァッ!い、息が苦しい。

プハァ、ここはどこだ!?海か!!?

だ、誰だ!?私に話しかけるのは!!?

とにかく私を元の場所に戻せッ!!

な!なんだ!?

み、水が……体が……沈む……

苦しい……く、空気を……

 

━※━━━━━━━━※━

 

私は王宮の一室で目を覚ました。

なんださっきのは?変な場所にいてそれで……

?なにがあったんだったけ?

よく思い出せない。

夢だったのか?あれは?

まあ、そのことはどうでもいい。

しかし、いったいなにがあったんだ?

敵襲を告げる声が聞こえたところまでは覚えているのだが……

なにやら奇妙な霧も出ているし……

そうして周りを見回してみると、ある人影が私に向けて剣を振り上げているのが見えた。

曲者だと思い、持っていた剣でそれを斬り捨てる。

斬ったモノをみて私は足元が崩れていくような脱力感に襲われた。

ティアじゃないか……いったいなぜ……?

しばし目の前の光景が信じられずに呆然としていた。

我を取り戻した時には私は囲まれていた。

アンデットと化した親衛隊の隊員達に。

私は泣く泣く彼らと戦い、勝利した。

だが、虚しさと嫌な予感しか沸きあがってこない。

私はそれを否定したくてベランダから街の様子を見ようとした。

果たしてその結果は……私の予感が的中していた。

生ける屍となった民達がミストの漂う廃墟と化した王都を徘徊している。

……私は自分でも理解できぬ感情に駆られ、街を駆け回った。

そして片端からその屍共の首を飛ばしていく。

消えろ!消えろ!消えろッ!!

そう咆哮し、涙を流しながら、私は王都中のアンデットを消していった。

そうしてアンデット化した者達を全滅させた。

されど、自分の中で肥大化していく感情に私は恐怖した。

その恐怖のまま私は剣で自分を何度も貫いた。

剣が自分の体を貫通する度に激痛がはしり、血が流れたがそんなことは気にもならず、何度も貫いた。

しばらくして……私――否、俺は灼熱の憎悪をもってこのような地獄をここに出現させた元凶に辿りついた。

 

……殺してやる。

殺してやる!殺してやる!殺してやる!!

殺してやるぞ!!レイスウォオオゥルゥウウ!!!!!!!!!

 

━※━━━━━━━━※━

 

あれから幾十年。

……この数十年は長すぎたようにも思えるし、一瞬のようにも思える。

レイスウォールへの憎悪のみがこの数十年の全てといっても過言ではない。

幾度となく奴を殺そうとしてが常に失敗に終わった。

そうこうしている内に……寿命で憎き仇が死んでしまった。

そのことを知った時にどういうわけか俺をあれ程支配していた憎悪が消えうせた。

いや、消えうせたというは語弊がある。

正確には憎悪だけに囚われなくなったというべきか。

そして冷静に今を見てみた。

イヴァリースは統一され、戦争など知りもしない大人も珍しくない。

それ程までの平和が目の前にあったのだ。

レイスウォールがどのような方法で王都ランチェスを消し飛ばしたかは知らないが、仮に俺が国王だった時に、その力を手に入れていたならばどうしただろうか?

考えるまでもない。あれほどの力があるならば他国との戦争も外交も幾らでも有利に進められる。

俺も一国の君主として、レイスウォールと同じようにあの力を活用していたのだろう。

所詮人など己の大切なものを守るためならばいくらでも非情な存在になれるのだ。

俺にとって大切なものがグレキア王国という国と民であり、あのレイスウォールにとっては自分の国と民だった。

ただそれだけのことにすぎないが、理屈ではわかっても感情はどうにもならない。

古今東西、感情を理屈より優先する君主は歴史に暴君の烙印とともに記されている。

その通りならば俺は国も民も……家族も失い、暴君と成り果てたわけだ。

……既にグレキア王国の名を知る者も少なくなり、その存在すら忘れられてしまったかのようだ。

そんな忘れられた国の為に戦い続けることなど憎悪の根源と呼べる存在がこの世よりいなくなった今となっては俺には無理だ。

虚無感に支配された心のままにイヴァリースをさ迷っているといつしかランチェスの廃墟に俺は立っていた。

もう知っているものは誰一人いないのだ……

そう思うと同時に孤独感に苛まれ、人と関わらぬ生活を送るようになった。

それはさる森であるヴィエラと出会うまで変わることはなかった。




本編から700年以上前の出来事の真実の一端が描かれています。
(最近執筆時間がないからネタ帳から寄せ集めてでっちあげたのは内緒の方向で)

感想・評価お願いします。
それと活動報告ってもっと頻繁にしたほうがいいのでしょうか?
偶にしても殆ど読んでくれないみたいだし……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十九・五話 ラバナスタの人々

今まで多分一番多い文字量。
……普段が少なすぎるだけか?


セア達と別れた後、ヴァンとパンネロはラバナスタのムスル・バザーを散策していた。

 

「父さんや母さんが生きていた頃ほどじゃないけど……、前と比べて活気が戻ってきてるね」

 

パンネロはバザーを見回しながら呟いた。

バザーは人込みで溢れ、商人たちは熱心に客の呼び込みをしている。

今までなら駐屯している帝国兵がそれに水を差していたのだからこれ程活気のあるバザーは久しぶりだった。

 

「そうだな」

 

ヴァンが少し複雑な表情をしながら肯定した。

以前、神都で帝国の理不尽はヴェインによって改善されたとセアから聞かされているからだ。

活気が戻っているのはヴァンも嬉しいのだが、なんともいえない感情を持て余していた。

2年前の戦争といい、とことんダルマスカ人たちのやることは無視されて、ラバナスタに対して理不尽を行うのも、それを正すのも全てアルケイディア人がしている。

そのことに大国と小国の違いをヴァンは感じずにはいられなかった。

 

「あ、お久しぶりです」

 

パンネロが通りを歩いていたヒュムの男とバンガに話しかけた。

昔からヴァンやパンネロと家族ぐるみの付き合いがあった人達だ。

 

「おお、パンネロ。それに……ヴァンか」

「……その微妙な間はなに?」

 

男が自分の名前を呼ぶまでの微妙な間が気になって質問した。

 

「いやな。最近お前を見ると一瞬レックスかと思っちまってな。もう2年もたってんのにな」

 

男が少し理由を話そうかどうか迷った仕草をした後、気まずそうに言った。

するとヴァンは首を傾げながら、

 

「オレ、兄さんとそんなに似てるかな?」

「お前等は兄弟だろ。それにもうお前は俺が最後にレックスを見た時と同じくらいの歳だからな」

 

男は感慨深げに言った。

それに対してヴァンはそういうものなのかな?と思った。

ふと男がなにか思い出したように、

 

「そういや、お前達。妻から聞いたんだが最近街にいないらしいな。なにしてるんだ?」

 

男の質問にヴァンは口篭った。

まさか死んだ事になってる自国の王女と一緒に行動しているなんか言えない。

ヴァンがなにか適当に理由をでっちあげようと思ったところで、

 

「ヴァンと一緒にあちこち旅してるんです」

 

パンネロがヴァンに助け舟を出した。

 

「あちこちってどこにだ?」

「西の砂海に行ったり、南のガリフの集落とかです」

「……結構遠いな。そんな場所まで2人で行ってるのか?」

「2人じゃありません。セアさんや他の大人の人達に混じっていってるんです」

 

パンネロの説明に男はホッとした表情を浮かべた。

 

「よかった。妻もなんか危険なことやってるんじゃないかって心配してたんだ」

「そんなに危険ことしてないよ」

 

ヴァンが何のためらいもなく言い切った。

その言い切りようにパンネロが内心非常に驚いた。

イヴァリースに割拠する諸国に指名手配されている空賊が2名、国王暗殺の濡れ衣を着せられた将軍が1名、亡国の王族が2名というとんでもない人達とともに旅をしているのだが、ヴァンはその危険度をはっきりと認識していなかった為である。

立場的にはともかく根は良い人ばかりなのもそれに拍車をかけている。

 

「そりゃ、よかった」

 

男が安心したように言った。

 

「それにしても懐かしいな。お前よくこの辺で悪さしてはレックスに叱られていただろう」

 

バンガが笑いながら言った。

パンネロも当時のことを思い出して笑い、ヴァンは赤面した。

 

「レックスが死んでから、お前は空賊になるだの言って、帝国兵相手にスリばかり繰り返していて心配だったが、セアやパンネロの他にも一緒に遠くへ旅をできるような仲間ができたんだな。……自分の足で歩けるようになったってことか。レックスも喜んでると思うぞ」

 

バンガはヴァンの顔を真っ直ぐに見ながらそう言った。

それを聞いてヴァンはさっきとは別の意味で赤面した。

 

「そ、そうかな」

「大方、旅の間になにかあったんだろう。見違えたよ」

「ああ、随分といい顔するようになったと思うぜ」

 

2人にそういわれてヴァンは気恥ずかしくて頭を掻いた。

するとバンガが少しおどけたような声で言った。

 

「そういえばお前達、ミゲロさんが心配していたぞ。帰ってくるのが遅いって」

「あ、そうか。今回の旅は追加でブルオミシェイスにも行ったからミゲロさんに伝えた日数よりだいぶ長くなったんだった」

「ブルオミシェイスって……お前等、巡礼しにいくほど経験なキルティア教徒だったか?」

 

男は怪訝な顔をして2人に問いかけた。

神都に行く人間など難民か、巡礼しに行くほど酔狂――もとい敬虔なキルティア教徒位だ。

2人とも巡礼目的でブルオミシェイスに訪れた訳ではないのでヴァンとパンネロは首を横に振った。

 

「そ、そんなことより、ミゲロさんに帰ったって伝えにいこ。それに今度のことも言っておいたほうがいいし」

「うん? ああ、そうだな。じゃ」

「おう。無茶すんじゃねぇぞ」

 

ヴァンとパンネロは2人手を振りながら、市街地の方に走って入った。

バザーからヴァンとパンネロの姿が見えなく男はバンガに話しかけた。

 

「ヴァンもいい顔になってきたな。レックスにも見せてやりたいぜ。お前が命に代えて守った弟は、こんなに立派に成長したぞって、な」

「ああ、まるであの頃のレックスのようだ。ずいぶんとたくましくなったもんだ」

 

2人は互いに談笑しながらバザーの人込みの中に消えていった。

 

 

 

市街地にあるミゲロの店にヴァン達は入った。

 

「いらっしゃーい」

 

店員が声をかけて近づいてきたが、ヴァン達の顔を見ると何故か疲れた顔をした。

 

「お帰り。ミゲロさんが帰るのが遅いからなにか事故にでもあったのかって心配してたよ」

「いや、色々あってさ」

 

ヴァンが頬を掻きながら言った。

 

「とにかく、ミゲロさん呼んでくるからちょっとまってて」

 

そう言って店員は店の奥に入っていった。

しばらくすると青い肌のバンガであるミゲロが出てきた。

 

「おお、ヴァン、パンネロ。無事じゃったか」

 

ミゲロはヴァンとパンネロのそう言って何度も触った。

 

「なにすんだよ」

「ガリフの里に行くだけにしては1ヶ月は長すぎる。なんでそんなに時間がかかったんだ?」

「そ、それはアーシェが――」

「それ以上言うな!!」 

 

ヴァンの言葉を掻き消すようにミゲロは叫んだ。

第8艦隊壊滅後にミゲロはセアからヴァンが空賊以外に死んだ事になっているダルマスカの王女と将軍が同行している事情を説明されている。

だからその名を軽々しく口にしようとしたヴァンを叱咤したのだ。

周りの店員や客は何事かという風にヴァン達3人組の方を見ている。

店内にいる人間の視線が自分たちに集まっていることを悟ったミゲロは疲れた声で言った。

 

「ヴァン、パンネロと一緒に裏の倉庫へ行きなさい」

「え、あ、ああ」

「ヴァン、行くよ」

 

ヴァンの手を引いてパンネロは店から出て行った。

そして店の裏にある倉庫に入る。

2分ほど倉庫で待っているとミゲロが倉庫の中に入ってきた。

 

「ヴァン。お前さんは自分がどれだけ危ない事に首をつっこんどるのかわかっとるのか?」

「つい、いつもの癖で」

「……ということはお前は普段は王女を呼び捨てでよんどるわけだな」

「え、だって皆普通にそう呼んでるし」

「……本当なのかパンネロ?」

「えっとセアは王女様って呼んでるし、バッシュ小父さんは殿下って呼んでる」

「フランは……自分からアーシェに話しかけているとこ見たことないから知らない」

「無防備すぎないか?」

「でもアーシェなんて珍しい名前でもないから大丈夫だろ」

 

ヴァンの言う通り、ラバナスタに住んでるアーシェさんだけでも探せば25人前後はいるだろう。

別に珍しい名前でもなんでもない。

 

「そうかも知れんが……それだと【殿下】とか【王女様】と呼ばないほうがいいんじゃないか?」

 

その言葉を受けてヴァンとパンネロはハッとした表情をした後、黙り込む。

気まずい沈黙が倉庫内を包み込む。

 

「とにかく、それはセアや王女様にお任せするとして、いったいどうしてガリフの里に行くだけでこんなに1ヶ月もかかったんだ?」

 

その問いにヴァンとパンネロは今回の旅でのことを話した。

ガリフの里でラーサーと出会い、ダルマスカ再興させて帝国との友好を訴えて、二大帝国の激突を止める為にブルオミシェイスに行ったものの、アルケイディアでヴェインが政権を握り、それが不可能となっただけではなく、ブルオミシェイスそのものが帝国軍の襲撃で壊滅状態に陥った事を。

そして今度は【黄昏の破片】を砕く為に帝都アルケイディスに行く予定であることも。

 

「なんと……よく2人とも無事だったのう」

 

ミゲロが疲れた声で言った。

死んだレックスやパンネロの家族に代わって、ヴァンとパンネロの世話をしている身から言えばこれ以上旅をさせぬようとめるべきではと思う。

しかし……もうこれはどう言ってもとめられないだろうとミゲロは思った。

2年前、志願兵として軍に所属したレックスと同じような目を2人ともしていたからだ。

 

「とめはせんが、2人とも無事にラバナスタに戻ってくるんじゃぞ」

 

ミゲロの言葉に2人は頷いた。

 

「それはそうとお前さんらを慕ってる孤児達も心配しておったから会っておきなさい」

「「わかった」」

 

そう言って元気よく倉庫を出て行く2人を見送りながら、ミゲロはため息を吐いた。

 

「中年の男をあんまり心配させんでおくれよ」

 

ミゲロの年齢はヒュムに換算すると既に50手前である。

そんな歳の人物に自分の子同然の子ども達が危険な旅に出ている心労はかなりのものなのだ。

だが、八つ当たり気味に街の警邏をしている帝国兵相手にスリをしていた時よりヴァンは生き生きしているように見える。

ならばこの程度の心労は耐えねばなるまい。

 

「さて、ヴェインさんが代官として残していった部下に渡す商品を王宮に送らんとな」

 

ミゲロはそう呟くと倉庫をあさり始めた。

因みにミゲロがヴェインをさん付けでいう理由はヴェインがラバナスタの執政官に就任した際の歓迎の宴会を手配したのはミゲロの商会でその時にヴェインと顔を合わせた際に、以下のようなやりとりがあったのだ。

 

「ミゲロと申します。次期皇帝となられます殿下のお迎えできることは、まさに(ほま)れ。市民一同、まことに――」

「殿下はよせ」

 

ヴェインはミゲロの歓迎の言葉をそういって遮った。

 

「私は陛下の子ではあるが皇子ではない。わがアルケイディア帝国の皇帝は市民が選ぶもの。……私はただの候補にすぎんのだ」

 

この200年近くに渡ってソリドール家の人物が帝位についている為、よく誤解されているが、アルケイディア帝国の皇帝は血筋によって決まるわけではない。

軍部独裁時代に軍部の暴走を許した反省として、皇帝は血筋ではなく帝都の市民の選挙によって決まる。

なので現皇帝の息子が必ず次期皇帝となるわけではないのだ。

 

「これは失礼をば」

 

自分の失言に気づいたミゲロは頭をさげて、謝罪する。

 

「かといって……【執政官閣下】などとは呼ばんでくれよ」

「は?」

 

ヴェインの言葉にミゲロは不思議そうな顔をして見上げた。

するとヴェインは微笑みながら、

 

「私も今日からラバナスタ市民だ。ヴェインでかまわんよ」

「しかし、それでは――」

「呼び捨ては抵抗があるか? ならば今夜は、君が私をヴェインと呼ぶまで飲んでもらうぞ」

 

その日の夜の宴会でミゲロはヴェインからやたら酒を飲まされて、泥酔寸前のミゲロは折衷案としてヴェインさんと呼び、ヴェインがさん付けか……と軽く笑ったところで解放軍が王宮を襲撃したのだ。

その後もミゲロの商会はラバナスタ有数の大商会であったこともあり、毎日というわけではないがヴェインがグラミスによって帝都に召還されるまでかなりの頻度で顔をあわせており、ヴェインの人柄の良さもあってさん付けで呼ぶことに全く抵抗がなくなったのである。




>アーシェなんて珍しい名前じゃない。
オリ設定ですよ。勿論。
つーか、原作でも普通にヴァン達は普通にアーシェの名前で呼びまくってるよね?
もう少し隠そうという努力をしたほうが……

>ヴェインの人柄の良さ
ヴェインって仕事が関係なければ気さくな人だと思うんですよw
あくまで個人的なイメージですけどwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十話 空賊予備軍

活動報告って皆読んでくれてるんですかね?
書いても中々UAが伸びないから伝わってるのかちょっと心配。
(新作とか考えてることも書いてるので)

あと今回、ギャグ多めです。



ラバナスタ・ダウンタウン。

外民身分の者達の居住区であり、治安の悪いこの場所は犯罪者のたまり場でもある。

そんな地下街の隅で3人の孤児達がひそひそと話し合っていた。

 

「ジャン、それってホント?」

「うん、さっき見たんだ。この前見たきれーなヴィエラ」

「……確か、仕事して帝国兵から逃げる為に前見ずに走ってたらそのヴィエラの尻に顔から突っ込んだよな」

 

2人の孤児がジャンを羨ましいとばかりに睨む。

するとジャンは叫ぶように反論した。

 

「そんな目で見るな! それにその後、そのヴェイラの連れの男に凄い目で睨まれたんだ!『子どもでよかったな』って許してくれたけどさ!」

「んで、その後、砂海亭で見た空賊バルフレアの手配書の似顔絵に男の顔が似ててムッチャびくついたんだろ」

「ポン!お前、一回あの人から睨まれてみろ!セアさんほどじゃないけど恐いよ!!」

「いや、セアさんより恐い人なんかこの世にいるの?」

「……いないだろ。だってセアさんが怒ってるときって、無茶苦茶爽やかで優しい笑みを浮かべてるのに、目が凍りついたように笑ってなくて、何もないはずなのにセアさんの背後にヤバゲな黒いミスト的なものを幻視して、地獄の底から響くような低い低音で話しかけてきて、凄まじい力で折檻してくるんだもん」

「「わかるわー」」

 

当時のことを思い出したのか震えながら言う、ジャンの言葉にポンとケンはうんうんと頷いた。

しばらくその状態が続くとふと思い出したようにジャンが言った。

 

「なんか話脱線してないか?」

「そうだな。って何の話してたんだっけ?」

「えーっと確か……フィロになにか頼まれてて……」

「「そ、それだー!!」」

 

ジャンとポンの2人が一斉にケンの方を指差して叫んだ。

ケンはあまりに突然に自分に向かって叫ばれたので、少し驚いた。

 

「そうだよ!そうだったよ!!」

「なんで俺らまだここにいんだよ!こんなとこにガルバナなんか生えてるわけないんじゃん!!」

「あ、そうだったね……」

 

2人の言葉を聞いてようやくケンもガルバナを持ってくるよう頼まれていた事を思い出した。

 

「とにかく急ぐぞ。フィロに頼まれてからけっこう時間がたってる!」

「この前、ダラン爺から聞いた話だと確か南門から出てすぐのとこに生えてるんだったよね」

「よくそんな話覚えてるな。ケン」

「南門ならダラン爺の家の方の出口が出た方が早いよね」

「ポンの言うとおりだ。行くぞジャン!」

「ああ、空賊予備軍ファイヤー!!」

「「ファイヤー!!」」

 

謎の掛け声をあげて走っていく3人組の孤児をダウンタウンの人達は何か哀れなものを見る目で見ていた。

 

 

 

セアとバッシュはそろそろ上に戻ろうとダウンタウンの道を歩いていた。

 

「あ、セアさん?」

 

聞き覚えのある声を聞いて振り向くとそこにはカイツがいた。

 

「やっぱりセアさんだ!ってことはヴァン兄も戻ってきてるの!?」

「ああ。馬鹿弟子ならミゲロさんのとこじゃないかな?」

「そうなんだ!僕、ヴァン兄とパンネロ姉ちゃんに教えたいことがあったんだ」

 

カイツはピョコピョコと飛びながらそう言って、初めてセアの隣にバッシュがいたことに気がついたようだ。

 

「あの、セアさん。隣の人だれ? アマリアさんみたいに一緒に旅をしてる人?」

「ああ。俺達と一緒に旅してるシュトルテハイム・ラインバッハさんだ。遠方の国の出の人でな。無口だがかなり強いんだぜ」

 

バッシュはあんまりな自分の説明――無論名前の部分について抗議したくなったが、主君殺しの上に、ダルマスカを滅亡に追いやり、2年前に帝国に処刑されている筈の自分の本名を名乗る訳にもいかず、釈然としない気持ちになった。

カイツはというとセアにシュトルテハイム・ラインバッハさんの半分嘘交じりの武勇伝を長々と聞かされて目を輝かせていた。

 

「すっげー!!あなたとっても強いんですね!」

「カイツ、大きい声だしすぎだぞ。目立ってる」

 

背後からの声にカイツが振り返るとそこにはヴァンとパンネロの2人が立っていた。

 

「なにってシュトルテハイム・ラインバッハさんのことだよ」

「しゅとるて――なんだって?」

「ハハハッ、馬鹿弟子!お前は未だにシュトルテハイム・ラインバッハさんの名前を覚えれてないんだな」

 

突如会話に乱入してきたヴァンがボロを出さないうちにセアがバッシュの偽名を言った。

そしてセアはバッシュを指差して、

 

「名前が長すぎるから覚えづらいのはわかるけど、そろそろ覚えてやれ」

「えっ、だってシュナイダーなんとかじゃなくてバッ――デガフッ!!」

 

ここまで話して、状況を察することができない馬鹿弟子に制裁を躊躇う必要はあるまい。

そう考えてセアはヴァンがバッシュの名前を言い切るより前にヴァンの喉を掴んで黙らせた。

 

「デイーゴだって?お前いい加減に間違えるのをやめろ」

「……その名前、なにかの本で読んだ記憶があるようなないような」

 

セアの嘘まみれの言葉にカイツは首を捻りながらその名前のことを考えていた。

 

「ヴァン、セアさんもそう言ってるんだし、いい加減にしなさいよ」

 

パンネロの微妙な言葉でヴァンはようやくバッシュを名前で呼んではいけなかったのだと思い出した。

だって生きてるはずがない人物なわけだし。

 

「ご、ごめん。えーっと……ギルデンスターンさん」

「シュトルテハイム・ラインバッハだぞ。馬鹿弟子」

「ああ、そうだった」

 

ヴァンは神を手でくしゃくしゃにしながら苦笑した。

 

「そういや、カイツ。2人に教えたいことってなんなんだ?」

 

ふと思い出したようにセアがカイツに問うた。

 

「あのさ、空賊を目指そう団ってあったじゃん」

 

空賊を目指そう団という名に心当たりがあったセアがすかさず話す。

 

「ああ、馬鹿弟子が率いてた孤児達だよな?ってかもっとまともな組織名は思いつかなかったのか?」

「だって皆空賊に憧れてたから……」

「だからって安直すぎるだろ」

「満場一致だったからいいだろ」

「私は反対した記憶があるんだけど」

「……パンネロはメンバーってわけじゃないだろ」

「なによ。あなた達が地下水路で修行とかしてた頃、治療してあげてたの私じゃない!」

「ほう、俺がお前を弟子にする前はそんなことを10才にもなってない孤児達としてたわけか……」

「べ、別に魔物退治してたわけじゃない。ただ仕事(スリ)の練習とかを……」

「俺の記憶が正しければそれは犯罪のはずなんだが……」

 

3人の思い出話をバッシュは微笑ましい顔で聞いてきた。

カイツはいうと話をどのタイミングで切り出したものかと真剣に悩んでいる。

十数分後、3人の思い出話はようやく一区切りついた。

 

「で、オレ達に教えたいことってなに?」

「あのさ、最近2人ともラバナスタにいないじゃん。空賊に弟子入りしたとかで」

「……なにそれ?」

「え?だってミゲロさんが『あんな空賊についていきおって何考えとるんだあの2人は』とか言ってたから空賊になる為の修行をしてるんじゃないの?」

 

ヴァンが助けを求めるようにセアを見た。

するとセアは意地の悪い笑みを浮かべた。

これは最近ヴァンとパンネロがあちこちに旅をしている孤児達への良い言い訳になると思ったからだ。

 

「あながち間違いじゃないだろ」

「あんな奴に弟子入りなんかしないよ!!」

「だけど色々空賊をやっていく知識を教えてもらってるんだろ」

「それはそうだけど……。まだ飛空挺の操縦の仕方を教えてもらってない」

「早すぎるって考えてるんじゃないか?聞いた話じゃお前のせいでゴーグ製のエアバイクが墜落したと聞いたぞ」

「あれはオレのせいじゃない!!」

「ちょっと!本当に墜落したの!?」

「ああ、ちょっと王宮に忍び込んだときにバルフレア達に……」

「そういえば、ヴァン兄。王宮に忍び込んだ時に手にいれた戦利品はどうしたの?」

 

カイツの純粋な質問にヴァンは返答に(きゅう)した。

まさか自分達の死刑の免除と引き換えに戦利品である【黄昏の破片】をギースに渡したなどと言えるわけもない。

 

「あ、あれは……その……」

「予想外にもあんまり価値がなかったからはした金で売ったんだよな」

「そ、そう。セアの言うとおり!!」

「そうなんだ。ナルビナ送りにまでなったのに残念だったね」

 

セアの出した助け舟にヴァンが全力で乗っかり、カイツがそれを信じてヴァンに同情した。

バッシュはというと嘘だと分かっているのだが王家の秘宝に価値がないと言われて釈然としない気持ちになっていた。

もっとも、その思いを表に出すことはなかったが。

 

「それで2人とも殆どラバナスタにいないから皆でヴァン兄が一人前の空賊になってきた時に部下になれるよう練習しようって頑張ってるんだ」

「はぁ、それで誰が仕切ってるんだ?」

「僕とフィロだよ。と言っても僕は最近魔導書(グリモア)を読んで魔法の勉強してるからあんまり参加してないんだけど」

「魔法?カイツはなにか魔法使えるようになったの?」

「うん。といっても{ケアル}と{ファイア}を日に数回使えるようになっただけだけど」

「凄いじゃない!」

 

パンネロが驚きながら、カイツを褒めた。

この短期間で仮にも魔法を使えるようになるのは並大抵の事ではできない。

 

「うん。フィロからもそう言われたよ」

「随分と魔法の才能があるんだなカイツ。……今度稽古つけてやろうか?」

「ごめんなさい」

 

速攻でカイツはその申し出を断った。

以前、セアがヴァンを稽古で半殺しにしていたのを見たことがあるからだ。

当然ながらちゃんと後でセアが魔法で治療したのだが、その場面を見る前にカイツは命の危険を感じて逃げてしまったのだ。

余談だが、そのせいで後日、ヴァンと会った時にカイツがヴァンをアンデットの類と勘違いした。

 

「あ、それでヴァン兄が率いてくれないなら空賊を目指そう団じゃないってジャンが言い出して、フィロや他のみんなも賛成したから組織名も皆と一緒に新しくしたんだ。皆と一緒に考えたんだよ」

「それもそうだな。以前の名前が安直すぎたし」

「そんなふうに言うなよ。なんて名前にしたんだ?」

 

ヴァンが尋ねた。

セアもどんな名前にしたんだろうと少し期待を込めて耳を傾けている。

 

「僕らの慕ってるヴァン兄とパンネロ姉ちゃんの名前をとって」

「名前をとって……?」

「空賊予備軍ヴァンネロって名前にしたんだ!!」

 

カイツが胸を張って答えた。

ヴァンは自分はここまで慕われていたのかと感激していたが、他の面々は違った。

 

「ヴァンネロって……」

「空賊予備軍……そのまんまだな」

「馬鹿弟子を慕う奴もネーミングセンスがなかったか」

 

3人とも微妙な表情をしながら思い思いの言葉を呟いていた。

 

「あー!!」

「「ヴァン兄!!パンネロ姉ちゃん!!」」

 

ヴァン目掛けて3人の孤児ジャン・ケン・ポンが突っ込んできた。

幾ら十歳にもならない子供達とはいえ、3人が一斉に突っ込んできたらタックルにも等しい衝撃がヴァンを襲うことになった。

 

「どけよ!痛いッ!!」

 

そのままヴァンの上に乗ったままになってた3人はその声で一斉にヴァンから降りた。

ヴァンは少し文句を言ってやろうと3人を睨むと、3人の孤児が持っているものに注意を引いた。

 

「それ、ガルバナじゃないか。どうしたんだ?」

「ヴァン兄のお兄さんのお墓の花が枯れてるからお兄さんが好きだったガルバナを探して来いってフィロに言われてたんだ」

 

そう言われてヴァンは軽い衝撃を受けた。

今まで墓の花が枯れるほどの長い期間、レックスの墓参りをしなかったことなレックスが死んでからのこの1年間ほぼなかったからだ。

レックスが死んでからというものなにか嫌な事があるとヴァンはレックスの墓を訪れていた。

だが、ケルオン大陸での数ヶ月に渡る旅の最中は色々なことがあってすっかり忘れてしまっていた。

 

「そうだヴァン兄。聞いてくれよ!!」

 

孤児達の声にヴァンは意識を戻した。

 

「なんだ?」

「フィロの奴、人使い荒すぎるんだよ!訓練だって異常な程厳しいし」

「そうだよ。ヴァン兄から一言フィロに言ってよ!!」

 

3人の絶叫にも等しい訴えにヴァンは少し困惑した。

カイツの方に目線を向けるとカイツは目線を逸らして口笛を吹いている。

どうやらフィロは相当厳しく孤児達にあたっているようだ。

 

「わかった。オレも兄さんの墓参りしたいしな。セア、パンネロ、バ―――」

「「「「バ?」」」」

 

カイツとジャン・ケン・ポンの三人が不思議そうな顔をしてヴァンを見た。

ヴァンはというとバッシュの偽名、なんだったけ?と必死に記憶を探っていた。

 

「えーあー、セア、パンネロ、ゲフャッハー。先に戻っ―――ぎにゃああああ!!」

「ゲフャッハーじゃなくてシュトルテハイム・ラインバッハだぞ馬鹿弟子!!」

 

ヴァンに右ストレートを決めながらセアはそう叫んだ。

バッシュは自分の偽名、自分でも覚えるのが大変そうだと思いながら、なんでこんなことになっただろうかとため息をついた。




【名前の元ネタ】
>ジャン・ケン・ポン
小学校の頃に読んだ絵本『海賊ポケット』の登場人物。
この絵本の章の終わりにあるお題がいつも無理難題ばっかだった気がする。
というか本当にお題全部クリアして読み切った奴は尊敬に値する。

>シュトルテハイム・ラインバッハ
『幻想水滸伝Ⅱ』で選べる偽名でシュトルテハイム・ラインバッハ3世ってのがあってね……
それにしても身を隠す為に偽名で貴族の名を騙っちゃっていいのだろうか?
どうでもいいがあの作品のルカ強すぎ。

>ギルデンスターン
『ベイグラントストーリー』のキャラ。スタッフによればザルエラのモデルになってるらしい。
買おうとしてた頃に松野さんがイヴァリース作品じゃないと発表したので買う気なくした作品。

>ゲフャッハー
『ヴィーナス&ブレイブス』のキャラ。選択次第でこの名前になるのだが妙な異彩を放っている。
因みに他の候補は【アレフ】【アッシュ】【エイド】
あと未だに主人公の過去が気になる作品。(どっかの国の騎士だったみたいだが……)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十・五話 ロザリアの諜報部

久しぶりの投稿なのに主人公とヴァン達が一切登場しませんww
あと本話には性的描写が少し存在します。


ロザリア帝国。

イヴァリース最大の領土を誇り、イヴァリースの覇権を争う二大帝国の一角。

肥沃かつ豊かな大地に恵まれ、国民の総数はアルケイディア帝国の実に三倍以上に達する。

これだけならば、とても大きな国家と思えるかもしれない。

しかし、その実態は読者達の世界の中世に存在した神聖ローマ帝国に匹敵するモザイク国家である。

というものロザリア帝国の成立の原因はガルテア連邦の解体にある。

連邦解体にともない、ガルテア連邦に加盟していた諸国が分裂した。

しかしオーダリア大陸中央部に存在した諸国は肥沃な大地に存在してこともあり、解体後も友好関係を維持していた。

そしてガルテア連邦解体から4年後、マルガラス家が治めていた侯国が中心となってロザリア帝国が成立した。

その当時のロザリア帝国の体制は殆どガルテア連邦におけるガルテア家の立場をマルガラス家に置き換えただけのものだった。

当然、ガルテア連邦の頃と同様にロザリア帝国に参加した諸国の領土はそれぞれ属庭と改称されたものの諸国を治めていた氏族は領主としてマルガラス家の監督の下に治外法権が認められており、巨大な領域国家というよりは数十の国家による複数国家の連合体と言った方がしっくりくる。

ロザリア帝国は成立から約100年の間に戦争は何度かあったものの比較的平和な時代が続いていた。

だが、軍部独裁時代のアルケイディア帝国とのバストゥーク戦争にてロザリア帝国は敗北し、マルガラス家は求心力を失い、帝位を追われた。

その後、別の氏族から皇帝が即位し、直属軍の編成を強行したが、氏族達の謀略により、直属軍は皇帝直属ではなく氏族達の代表によって運営されている大本営の直属とされた。

おまけに軍の拡充を優先するあまり属庭の監督が疎かになり、各領主は自分の治める属庭の中央集権を推し進め、ロザリア帝国の属庭同士が主義主張を持って対立することとなった。

要するに各氏族の領主が属庭の王様のような存在となってしまい、誰も皇帝の言う事を碌に聞かなくなったのである。

約50年前にマルガラス家が帝位に返り咲いてからは皇帝の権力は強化されてはいるものの、まだまだ氏族達の力が強いのが現状である。

属庭領主同士による小競り合いは絶えず、属庭同士の結びつきは良いとはとても言い難い。

極端な話、長年の宿敵アルケイディア帝国の脅威と今の封建的体制のみがロザリア帝国を支えているのである。

近年はアルケイディア帝国と技術力で差をつけられ始めており、二大帝国の総合的な実力はほぼ同じだったりするのである。

 

 

 

ロザリア帝国皇帝直轄領帝都ルブラ。

先程入手した情報を伝える為、アダス・マルガラスは諜報部の長である遠い親戚の下に急いでいた。

長い廊下走りきって、諜報部の長官の執務室に続くドアをあけた。

すると……

 

「……は?」

 

実に美しい美女が全裸で諜報部の長にもたれかかり、艶かしい吐息を立てていた。

そして諜報部の長はその美女の背中に手を回しい手から見合っている。

その2人はまるでアダスが入ってきたことなど気づいていないかのように交わっている。

アダスは予想外の光景に暫し呆然としたが我を取り戻すと自分の懐に手を伸ばす。

そこから機工都市ゴーグから輸入した最新式の小銃を取り出し、天井に向けて発砲した。

その銃声でようやく気づいたのか、アルシドは全裸のカナートを執務室の奥にある部屋にいかせると居住まいを整えた。

 

「…………さて、これはどういうことか説明して貰いましょうか?」

 

眉間に青筋を浮かべながらアダスはアルシドを睨みつける。

その目には侮蔑と嫌悪の感情が込められている。

 

「なにか私が問題なるようなことをしていたか?」

「ありまくりだろうがああああああああ!!!!!!」

 

地震でも起こったかと思わせるほどの絶叫にアルシドは少し怯んだ。

 

「公務中になにをやってるんだお前は!!?」

「部下のアフターケアは公務の内でしょう」

「いったいどこにアフターケアで部下と性交する上司がいるんだよ!えぇ?おい!!」

「まったく少しは落ち着け。ゴーグ製の小銃なんか使いやがって、あれ弾だけでも高いんだぞ?」

「……それは悪かった」

 

ゴーグはイヴァリースで他国より百年以上進んでいると言われる機工技術で栄える都市国家だ。

政治的には中立であり、その機工技術を学ぼうとアルケイディアからもロザリアからも留学しに来る機工師は多い。

主な収入は優れた機工技術による製品の輸出である。

それ故、政府の認識せぬ所で自国の機工技術が流出することをなにより恐れており、政府の承認を得ずに入国及び出国することは喩え自国民であろうとも見つかり次第極刑に処される。

アリ一匹見逃さぬその国家体制の厳しさから周辺諸国からは監獄国家と呼ばれることもしばしばある。

そんな国の輸出品は高値で取引されている。弾一発でも千単位でギルが飛ぶのである。

 

「ところでなんでアレがアフターケアなのか詳細な説明を求める。長官殿」

 

アダスは絶対零度の目で同期のアルシドを睨みつける。

するとアルシドは落ち着き払った態度で答え始めた。

 

「何故、私の直属が女としての自己主張が激しい体型の人ばかりなのは知っているな?」

「お前の趣味のせいでな」

 

アダスは今にも目の前の上司を絞め殺してやろうかと言う目をしながらそう吐き捨てるように言った。

 

「ああ、それが私の直属が美女ばかりな理由の9割近くを占めているが――アダス、腰の剣を抜くのは話を聞き終わってからにしろ――残りの1割は酷く現実的な理由だ」

 

そこまで聞かされてアダスはほぼ手放しかけていた理性を僅かながらに取り戻した。

趣味以外の理由でアルシドが部下を美女で固めている理由に興味が沸いたのである。

 

「アダス。我々が集めるべき情報はアルケイディアやファラ教会のものを除くとほぼ大本営に対するものだ。そして大本営は氏族の代表者達で構成されている。彼らから情報を引き出すのは困難だ。尾行・買収・脅し・潜入……それらに対する対抗処置を氏族達は持っている。尾行を排除できる護衛・金に誘惑されない自制心・そしてマルガラス家の脅しを物理的に無効化させる属庭軍・そして間者を常に経過する猜疑心。こういったものを兼ね備えた者から情報を引き出すのがどれ程の至難の業か、諜報部に所属する者ならば分かるはずだ」

 

アダスは重々しく頷く。

 

「だが、私の経験上どういうわけか、こういった者に限って女に弱いことが多い」

「へぁ?」

 

変な声を出してアダスはの体中の力が一気に抜けた。

抜けすぎたせいで盛大に座っていた椅子から転げ落ちて、重力に従い床に叩きつけられる。

その様子を見てアルシドが呆然とした顔をしていた。

 

「どうした?アダス」

「……なんでもない」

 

あまりといえばあまりな答えに緊張の糸が切れただけだ。

そうだ。緊張を切らした俺が悪いのであってアルシドのせいじゃない。

アダスは心の中でそう何度も呟きながら平常心を保とうとする。

 

「それでカナートに強硬派であるエレウス家のバルト卿に偶然を装って接触してもらい、彼女は非常に重要な情報を入手してきてくれた」

「バルト卿って……あのバルト卿?」

 

バルト卿はエレウス家属庭領の要職につく男だ。

勿論その地位に就く値するほどの有能な男で有名なのだが……とにかく容姿が酷い。

貴方はシークですかと思わず問いたくなるほど、まんまるな肥満体型をしている。

常に彼の額には汗が必ず流れているという酷い理由でも有名である。

 

「ああ、中立派のクロイツ家を抱き込もうと違反行為を行っている。このことをクロイツ家に伝えたら、エレウス家の違反行為の証拠探しに協力してくれることを確約してくれた」

「それは喜ばしいことだが……、それと俺が入室してきたお前達の行為に何の関係が?」

 

アダスの疑問の声にアルシドは眉を顰めた。

 

「どうやって猜疑心の強いバルト卿から情報を引き出したのか……カナートの美貌も考慮すればわかるだろう」

「ああ、ハニートラップだろ。だが、それとは関係ないだろう」

「……カナートが言うには汚されたので心の洗濯をしてくださいって」

「………………嘘だろ?」

 

アルシドはゆっくりと首を振った。

 

「……」

「……」

 

嫌な沈黙が続く。

数分後、アルシドが咳払いし、話を戻した。

 

「それでいったい何の用でここに来た?」

「ああ、強硬派のバドレー将軍の情報を掴んだぞ」

 

アダスは懐から書類を取り出し、それを渡した。

アルシドはその書類に目を通す。

 

「暫くおよがせよう」

「やっぱりか」

 

バドレーを追い詰めるだけの材料が整ってはいたが、これは氷山の一角に過ぎない気がするのだ。

捕らえてバドレーを尋問している間に関係者は証拠隠滅に走る可能性すらある。

いや、先日の内部の問題の件も含めると……

 

「我がマルガラス家の中に裏切り者がいる可能性がある」

 

そういう予測が容易に立つ。

いる確率としては3割といったところだが、無視できる数字ではない。

 

「ユリウス陛下も反戦派の氏族の代表方と共に大本営で強硬派と激しい議論を戦わせている。

陛下には私から伝えるが、他の者達には決して伝えないよう徹底させろ。

それにバドレーには腕のたつ監視をつけておけ。こいつは重要な存在だ」

「ハッ」

 

アダスは敬礼すると、気安く話し始めた。

 

「無理って分かっているけどクライスさん復帰してくれないかな。

あの人がいれば、主戦派を抑えるのが楽になると思うんだけどなー」

 

アダスはアルシドから神都で尊敬するクライスと会ったことを聞かされているのである。

同時にセアが不老であることも教えられている。

 

「無理だ。あの人は今は自分の弟子と一緒にダルマスカのアーシェ王女殿下に同行している。

それに……上司に辞職願を提出した上で国外逃亡したらしいから戻りたくないとも言っていた」

「あの人、冗談みたいなことを本気でやっている一方で普通に冗談も言うから本当のことかどうか判断するのに困る」

 

アダスは苦笑しながらかつての上司であるクライス・セア・グローリアのことをそう評した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十一話 国境封鎖

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領東ダルマスカ砂漠にて。

チョコボに曳かせた馬車が何台も連なって、砂漠を東へと進んでいる。

 

「よく乗り込めたものだな」

「ミゲロさんはラバナスタ有数の商人だし、あちこちの商隊に伝があるから上手くいったんだと思います」

 

バッシュの呟きにパンネロが答えた。

ちょうどラバナスタからナルビナに向かう商隊があって、ミゲロが彼らも連れて行ってくれないかと頼んで貰い、セア達はその商隊の馬車に乗せてもらっているのである。

東ダルマスカ砂漠には魔物が多くいるが、ダルマスカにとっては欠かすことのできない交易路なので馬車が進む事のできる程度の道は整備されている。

もっともその道であろうと砂漠の魔物は容赦なく襲ってくるのではあるが。

その為、商人たちは護衛の為についでの駄賃目当てで冒険者等が商隊に同行するのは珍しいことではない。

ただそれらは商人ギルドが信頼できる業者を通して行われるものであり、ミゲロを介したとはいえ、直接商隊と交渉して同行するのは中々ないことだ。

交渉が上手くいったのは一重にミゲロが他の商人たちに信頼されているためだ。

暫く馬車の中で思い思いに過ごしていると馬車が停止した。

 

「このキャンプで30分ほど休憩する」

 

商人の大きな声が聞こえ、馬車の中にいた商人や護衛の冒険者や傭兵が出ていく。

 

「オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「……いちいち言う必要あんのか?」

 

ヴァンがそう言って馬車から飛び出して言ったのを見て、バルフレアは顔を顰めながら呟いた。

 

「あのな。馬鹿弟子は子どもだぞ?一応な」

「子どもって……あいつ何歳よ?」

「17」

「フラン。ヒュムの17歳は子どもの内に入ると思うか?」

「微妙ね。18歳なら間違いなく大人でしょうけど」

「なんでだ?」

「だってバルフレアは18歳の時に家出して空賊になったから」

「……お前、家出少年だったのか」

 

たぶんバルフレアのキザったらしい態度を見かねた父親と喧嘩別れでもしたのだろう。

そんな予想をしたセアは哀れなものを見る目でバルフレアを見る。

セアの視線を嫌ったバルフレアはフランを恨めしそうに見た。

 

「フラン、余計なことは言わないでくれ」

「気をつけるわ」

 

フランは特に気にした様子もなくそう言った。

 

「お、そこにいるのはセアか?」

 

声が聞こえたほうにセアが振り向くと一人の男が立っていた。

セアにとっては5ヶ月くらい前に見たことある顔だった。

 

「モブ討伐の依頼者のダントロさん。集落にもどってはいなかったんですか?」

「ああ。5ヶ月前から交代が来ないからずっっっとここの番をしている」

 

ダントロはそう言ってセアを睨みつけた。

だが、睨みつけられた本人はまったく交代が来ない心当たりがなかった

 

「俺はちゃんと花サボテンの花を貴方の奥さんに届けたときにちゃんと交代を寄越してくれって伝言は伝えておきましたよ」

 

基本的には人畜無害なサボテンだが、稀に強いリーダーシップを発揮する好戦的なサボテンが生まれる。

そのサボテンは決まって頭に花が付いていることから花サボテンと呼称されている。

花サボテンは亜人種もかくやというほどの知能を持ち、他のサボテンを従え、砂漠の商人を襲ったりするのだ。

因みに花サボテンの頭の花は良い薬の材料となるので高値で売買されている。

その為、ダントロがその花サボテンをモブとして登録し、そのモブ討伐に現れたのがセアだったのである。

討伐後にセアはダントロの頼みでダントロの妻に花サボテンの花を渡し、ついでにダントロの伝言も伝えてきたのである。

 

「……ならなんで交代が集落から来ないんだ。まさか集落に何かあったんだろうか。いや、また帝国軍が演習でもしてるだけか?」

 

てっきりセアが伝言を伝え忘れたから交代がこないと思い込んでたダントロは少し集落のことが不安になったが、ヴェインが執政官に就いてから演習やらなんやらでよく帝国兵を見かけることがある為、交通封鎖でも行われているのかと思った

 

「なんだ。もし集落に寄るなら交代を寄越せって伝えといてくれないか?」

「たぶん寄らないと思うぞ。集落ってネブラ河沿いにあるだろ?目的地はナルビナだから」

「ああ……。じゃあ待つしかないわけか」

 

ダントロは脱力して丁度いい高さの木箱に腰を降ろした。

それを見たセアはダントロに深く同情した。

すると再び商隊のリーダーが休憩終了を告げ、再び商隊はナルビナへと向かい始めた。

 

 

 

 

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領城塞都市ナルビナにて。

旧ダルマスカ王国の北の国境線近くにある城塞都市であり、ダルマスカ建国初期から国境を守る要害であったため2年前の戦争での激戦地となり、多くのダルマスカ兵がこの地で散っていった

そしてその戦争の和平協定の際に、ダルマスカ王国の国王ラミナスが停戦に意を唱えたローゼンバーグ将軍に暗殺され、ダルマスカ王国の滅亡が決定付けられた場所。

数ヶ月前にセアがこの都市を訪れた際には、そんな感慨しかなかったのだが、あの戦争の裏側の一部を知った今となってはまた違った感慨がわいてくる。

 

「またここに来るとはねぇ」

 

城門前にある手ごろな石に腰を降ろしているバルフレアはそう言ってため息を吐いた。

 

「なんだか嫌そうだな?」

「ヴァンから聞いてないのか?俺達は一時ここの地下牢にぶち込まれてたんだぞ」

「ああ、馬鹿弟子が無謀にも一人で王宮に忍び込んだ時に帝国軍に捕まってここの地下牢にぶち込まれたんだったな」

 

王宮に忍び込んだヴァンは【黄昏の破片】を盗んだはいいものの、同じものを狙っていたバルフレア達と邂逅して口論になっている最中に、執政官に着任したヴェインの首を狙う解放軍が王宮に乗り込んできてヴァン達は地下水路から帝国軍の包囲網からの脱出を試みたという。

途中でアーシェ――その時はアマリアという偽名を名乗っていたそうだが――を助けて、ダウンタウンまであと一歩というところで帝国軍に捕縛され、このナルビナに送られた。

その地下牢の最深部に囚われていたのがバッシュで彼の協力を得てヴァン達は脱獄に成功したらしい。

その間セアは帝都アルケイディスにあるドラクロア研究所で仕事をしていたので、ラバナスタに戻った時はその状況に――特にヴァンには逃げ切れないなら王宮に忍び込むなと呆れたものだ。

おかげさまであれ以来ヒマがないなとセアは思った。

 

「……国境が封鎖されているみたいですね」

 

ナブラディア地方へと続く道を封鎖している帝国軍を見て、アーシェが小さい声で言った。

 

「私達がここにいるって知られているんでしょうか?」

 

パンネロも不安そうな声で言った。

 

「いや、それはないとは思うが……」

「でも聞いてみるのが一番早いな。ヴァン……いや、パンネロ。悪いが聞いてきてくれ」

「なんでオレじゃなくてパンネロに替えたんだよ!!」

「今は黙ってろ馬鹿弟子。頼むよパンネロ」

「え? はい、わかりました」

 

パンネロはやや困惑しながらも道を封鎖している帝国軍に事情を聞きにいった。

数分後、城門前に戻ってきたパンネロが事情を説明した。

 

「帝国軍の演習か……」

 

帝国軍が国境を封鎖している理由は旧国境地帯で軍事演習を行っている為だという。

昔はナブラディア軍とダルマスカ軍が合同演習する際にもよく使われていたので、別段不思議なことではない。

ロザリア帝国の脅威が迫る今、アルケイディアも軍の錬度を上げておきたいのだろう。

 

「2週間もする予定ですって?そんなにここで時間を潰している余裕はないわ!」

 

アーシェが声を張り上げる。

事実、こんなところで2週間も足止めをくらっている余裕など今はないのだ。

 

「かと言って、うちのシュトラールが【暁の断片】のせいで動かない以上、危険を覚悟でターミナルから定期便に乗るしか方法はないぜ」

「……別ルートがないか聞いてみるか?」

 

セアの言葉にバルフレアは怪訝な顔をする。

 

「誰にだよ?」

「無論、あそこで国境を封鎖している帝国兵の奴らに」

「どうしても陸路で帝都に行きたいんですってか?怪しまれるのがオチだろ」

「幾らでも偽装できる。そこで出番だ馬鹿弟子」

「え?オレ?」

 

急に水を向けられて驚くヴァン。

 

「いいから。行くぞ」

 

セアはヴァンの手首を掴むとやや強引に引っ張って行った。

 

 

 

こちらに向かってくる青年と少年の2人を認め、帝国兵数人が彼らを囲む。

 

「悪いがここは通行禁止になっているんだ。本国領に用があるなら定期便を利用してくれ」

 

隊長である帝国兵が面頬を上げて申し訳無さそうに2人に言った。

 

「そうなんですか。じゃあナブラディア地方に行くにはどうしたらいいですかね?」

「ナブラディア? あの廃墟に用でもあるのか?」

 

青年の言葉に隊長は怪訝な顔をしながら問う。

ナブラディアはダルマスカと違って先のガルテア戦役で帝国軍の猛攻を受け、首都が謎の大爆発で消滅したこともあり、殆どの都市が廃墟と化している。

結果、ナブラディア地方は帝国の影響下にある一部の都市を除いて魔物が我が物顔で徘徊し、それを承知で帝国から逃げ込んだ犯罪者達が巣食う無法地帯と化している。

そんな場所にわざわざ好き好んで行きたがる人など殆どいないのだ。

 

「ええ。実は師匠から我が弟弟子の最終試練の監督を任されましてね。死都に行かなくてはいけないんです」

 

青年はそう言うと少年に首に腕をまわした。

そして少年が喋れなくなる程度に腕に力を入れる。

 

「死都って、あの死都ナブディスのことか?」

「ええ」

 

死都ナブディス。

ガルテア戦役でかつて栄えた美しきナブラディアの都の成れの果て。

謎の大爆発が原因で首都の街並みは不気味な湿原となり、今はミストが荒れ狂い、凶暴な亜人と死霊がさ迷う魔境となっている。

王宮だけはかろうじてその原形を留めているというがそこも死霊の住みかになっていることに変わりはない。

あんなところに行きたがるのは余程腕に自信がある者か、ただの自殺志願者だ。

 

「それくらいうちの師匠は厳しいので。かくいう自分も死都で業物を手に入れて師匠から免許皆伝されたんですけどね」

 

そう言うと青年は少年の首を絞めている腕とは反対の方の手で腰の剣を抜いた。

 

「これがその業物なんですが」

「ほ~。確かにその辺で売られてる数打ちの剣じゃないな」

「そうなんですか。隊長」

「ああ。かなりの達人の鍛冶屋じゃないとこんな剣は打てねぇよ」

 

部下の質問に隊長は快く答えた

隊長はそれなりに剣の目利きができたので、青年の剣が相当な業物(わざもの)であることがわかった。

それを聞いて部下たちがセアの赤黒い剣を見る。

 

「なるほど。事情はわかったが、ここの封鎖をとくことはできん。

だが、ネブラ河を渡ってモスフォーラ山地を越えるルートなら4日程で死都に行けるだろう」

「ネブラ河はどう渡ればいいんですかね?」

「河沿いにあるそれなりに大きい集落なら対岸に渡る為の渡し舟がある。それに乗せてもらえばいいだろう。

しかし、今からこの街から出ると砂漠で一夜を過ごすことになるぞ」

「夜の砂漠は寒いですからねぇ」

「そうだ。だから今日はこの街で一泊していくといい」

 

その説明を受けてセアはヴァンを引きずってさっきの帝国兵から距離をとるとヴァンの首を絞めていた腕を解いた。

するとヴァンから妙な視線をセアは感じた。

 

「どうした?」

「……別に」

 

よくもあんなにペラペラと嘘を吐けるなと言ってやりたかったが、そうした場合ほぼ確実にセアから稽古という名目で激しい報復を受けるのが容易に想像できたのでヴァンは何も言わなかった。

 

(今までなんで嘘があんなに上手いのか疑問だったけどロザリアの諜報部に所属してたことがあるなら当然なのかな?)

 

ヴァンはそんな風に考えたが、セアは元々一国の君主なので腹芸は昔からできる。

更に700年以上に渡って蓄積された豊富すぎる人生経験がその技量を更に向上させているのだが、ヴァンの思考はそこまで回らなかった。




本当ならこの時期なら既に国境を封鎖していた帝国兵は撤退しているんだけどまだ撤退してないことにしてしまいました。

感想・ご意見をお待ちしております!!
(創作意欲が絶賛低下中なので割と切実に)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。