主人公を英雄として召喚したら (ひとりのリク)
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奇妙な世界
バーサーカー


初めまして。どうも!月1〜2回の不定期投稿作品になります。
初投稿です。後書きには、サーヴァントのステータスとスキル、宝具を書いています。

各クラス毎に、召喚時と戦闘を用意していきます。
尚、召喚されるサーヴァントは別漫画から登場。
短い物語ですが、どうぞお楽しみください。

【訂正】
作品の一部を訂正しました。
1.小説本文のセリフ前に、書いていた名前を削除。
2.あとがきについて、宝具訂正。


「サーヴァント、バーサーカー。やれやれ、また面倒ごとに巻き込まれたか」

 

吹雪が地上を走る冬。

英雄は、召喚に応じた第一声を、溜息混じりに言った。

その、余りにもやる気のない言葉を聞き逃す程に、少女は目の前の英雄をまじまじと観察している。目を輝かせ、純粋な期待と緊張を持っている。

体格を見て、バーサーカーと頷けるくらいには、戦士としての風格を漂わせているから、まず間違いはないと思った。魔力は、少々心許ないが。

 

「おい、そこのガキ」

 

抑揚のない、静かなトーンで話しかける。

人差し指で指名され、バーサーカーのマスターである少女″イリヤ″は、ある困惑を抱きながら答えた。

 

「ガキってなによ!私は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。貴方を召喚したマス………!?」

 

ある困惑、つまり目の前の英雄を一目見た瞬間から浮かんだ疑問。

それとは別の、特性とも言うべき特徴への疑問が更に増え、言葉が詰まる。

 

「貴方、本当にバーサーカー…なの?」

 

「そうらしいな。体全身に感じる、デスソースを皮膚に塗ったようなヒリヒリが気持ち悪いが」

 

デ…デスソース?

ただでさえ意表を突かているのに、これ以上の疑問は処理しきれないので、華麗にフワリと受け流す。

イリヤが驚いた原因は、たった今2人の英雄とマスターとで交わした会話だ。

 

「バーサーカーって、理性を失う代わりに強大な力を得るんでしょう?なんで、バーサーカーは私と会話ができてるのよ!」

 

「はぁ……俺が話せることの何処がおかしい。むしろ、会話ができなきゃ聖杯戦争なんて物騒な戦い、生き残れねえんじゃないのか?」

 

その通りなのだが、そうじゃない。

バーサーカーにしては、理性があり過ぎではないだろうか?

英雄、バーサーカーのクラスを見たのはこれが初めてだが、それでも知っている。

これ程までに、冷静、落ち着いて会話が出来るのは異常だ。

 

「もしかして、狂化ランクが付いてないの?」

 

それは、つまり失敗。最悪だ。狂化のスキルを保有していないバーサーカーだったら、まず間違いなく負けてしまう…!

確認することが怖いが、それでも現実を知らなければならない。

目を凝らし、目の前のバーサーカーであろう長身の男を見る。ステータスを見るためだ。

 

「狂化ランクは……B……」

 

ちゃんと付いている。

首を傾げる。ランクBなら、会話をするのは困難だと思っていた先入観があるだけに、この事実は驚きの発見といえる。

 

「……そうか」

 

バーサーカーは、1人頷き部屋の扉へと向かう。

 

「ちょ、ちょっと!?どこに行くのバーサーカー」

 

イリヤの横を通るバーサーカーに、慌てて声を掛け足を止めさせる。

このサーヴァント、理性はあるのに単独行動を好むようだ。

この男、やっぱりバーサーカーかも。

 

「ちょいと試してみたいことが幾つかあってな。イリヤ、お前も付き合ってくれ。魔術なんてエセくさい存在、あまり信じたくはないんだが経験上、それもありかって思えてきたぜ」

 

仕方なく、仕方なくだ。バーサーカーの歩く背中を追って、ムスッと不機嫌極まる表情でイリヤも歩き出した。

バーサーカーがドアノブに手を置いた時に、一番大切な質問をしなければならないことを思い出し、ちょっと待ってとドアを開けるのを止める。

 

「バーサーカー、貴方の名前は?」

 

至極当然の質問。マスターとして、サーヴァントの真名は知っておくべきものだ。

バーサーカーはイリヤを見る。

サーヴァントとしては、真名を知られることはつまり、切り札と弱点を同時に開示するようなもの。会話が出来るバーサーカーならば、尚更。

最も、マスターが優秀であれば、すんなり教えてくれる。

まだイリヤは、バーサーカーに自分の凄さを見せていない。故に、その質問がまだ早かったことに今気づく。互いを知らないのに、サーヴァントに聞くのはまずかったかな?と頭の中で思ったが、逆に会話が出来るなら、焦る必要はない。

まだ、聖杯戦争まで時間はあるのだ。それに、暇だし。

 

「………やっぱ、まだいいや。もう少し後で教えてくれていいよ、バーサーカー」

 

絆という言葉をイリヤは知らない。

でも、それが必要なことだというのは、外を知らない彼女も分かっている。

 

「引き止めてごめんね。さ、行きましょうバーサーカー。試したいことって、一体何なの?」

 

ドアを開けると、廊下が左右に伸びている。サーヴァントを召喚した嬉しさで、スキップをしながら廊下に出る。

バーサーカーも続いて廊下に出ると、見た目通りの、子供らしいはしゃぎ方をするイリヤを呼び止める。不思議そうにバーサーカーを見るイリヤに、俺の名は、と言いなんと真名を語った。

 

「空条 承太郎。呼び方は任せる」

 

「え………?」

 

イリヤは、バーサーカーが自身をどう語るのかを期待していた。これからソファーに座り、紅茶とお菓子で歓迎会を開く計画を忘れてしまいそうになる。お茶会で、バーサーカーもとい空条 承太郎と名乗る英雄の物語を聞いて質問して、真名を当ててやろうと浮き足立っていただけに、あっさりと答えたものだから色々と打ち砕かれてしまった。

″根本的″なことも。

 

「…そんな英雄、知らないわよ!だれ!?」

 

その男は変わった格好をしていた。

学生服、後頭部分が破れなくなっている帽子、昔にはまず存在しない現代の靴。

イリヤは、それらを知らないが、空条 承太郎と名乗る英雄を見た瞬間から服装に疑問を抱いていた。彼女の想像上に立つギリシャの大英雄、ヘラクレスとは何処か違う気がしてならなかった。

だから、バーサーカーの物語を聞いてみたかった。本当は知っていたけど、ズルかもしれないと思っていても。ヘラクレスって、どんなにすごいんだろうって。

でも、私はとんでもない勘違いをしていたらしい。

困惑の原因を解明するのには、暫くの会話が必要そうだ。

 

「………っ。やれやれだぜ」

 

帽子のツバを撫でながら、承太郎は改めて面倒なことに巻き込まれたことを確認した。




クラス:バーサーカー

真名:空条 承太郎

ステータス
筋力:D+ 耐久:C 敏捷:D+ 魔力:A 幸運:C 宝具:EX
※諸事情により、5月11日より筋力・俊敏のランクを変更。
各値共に、B+を、D+へと変更しました。

クラススキル
狂化:B

保有スキル
幽波紋:EX
決断:A
蘇生(手):C
-:-

宝具

俺が時を止めた:EX 対人宝具
レンジ:?? 最大補足:1〜50

-:-


マスターはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
バーサーカーのクラスにて現界を果たすが、狂化の影響を何故か受けていない。クラススキルのメリット、デメリットの影響を受けていない例外中の例外。が、しかしその代償は高かった。
クラススキル補正を受けると、魔力以外のステータスが全て1つ上に昇格。尚、宝具は封印される模様。



奮うは剣ではなく、己が拳。
流星の如く速く、鋭く、重い多撃は最速のクラスですら捉えることが出来る。


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夜の戦い

閲覧ありがとうございます。
fateGOをやっていて、イスカンダル欲しさに10連しました。
結果は、アサシンエミヤが来てくれて、ウハウハな夜を過ごしました。やったね!
後書きには、もしバーサーカーがfateGOで実装されたら…どんなスキル・宝具になるのかな!ということで、能力を書きました。よければみてください。

今回、初めての戦闘場面を書きました。難しいです。
これから、小説を読んだり、映像を見たりして勉強していきます!


夜、冬の城に比べれば温かいが、やはり寒い夜道。

街灯が照らす坂の上で、イリヤは落ち着いた口調で話しかける。その相手は、サーヴァントではなく、聖杯戦争に参加する別のマスターに向けたものだ。

傍らに立つイリヤのサーヴァント、空条 承太郎もまた、バーサーカーとは思えない程に落ち着いている。

敵マスターは高校生くらいであろう男女2人。警戒と畏怖の視線を、イリヤとバーサーカー交互に向け、戦闘態勢に入っている。

そして、サーヴァントは1人。士郎と呼ばれる男のサーヴァントのようだ。

 

「相談は済んだ?なら、始めちゃっていい?」

 

微笑むイリヤは、天使のよう。

マスター2人の表情は、強張っている。

 

「じゃあ、殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

両手を後ろで組み、穏やかに言うセリフは、嘘のない命令。これを冗談だと言って一蹴でもすれば、鼻で笑われ骸を土の上に晒すことになるだろう。

バーサーカーは一歩前に出る。それだけで、敵には相当の圧を与えたようで、マスターの2人は一歩後ろへ下がる。それを遮るように、セイバーが何も握らない手で、まるで剣を持っているかのように構える。いや、事実セイバーは剣を持っている。一見、何も見えないが、魔術に関わる者なら、微かに空気中に漂う魔力を感知でき、その存在を知ることだろう。

 

「安心しな。マスターの命まで奪う気は、微塵もねえ。てめえがとんでもない畜生か、俺のマスターが、令呪を使わない限りな」

 

なんと、マスターの命令とは違う意思を表した。イリヤは、むっとするも、それ以上何も言わない。

バーサーカーは、冷酷とも受け取れるトーンで言い終わると、道路を蹴りセイバーへと襲い掛かる。

その速さは、常識的ではない。音だけで分かる、空気抵抗を身体で押し退ける様は、目の前で大砲が発射されたかのような衝撃を覚える。

構えるのはセイバー。バーサーカーの両腕に武器が無いのを確認し、クラスの特徴を考慮した上で、素手で来るのだと予想する。

それは直感なのだろうか、戦歴から導き出された回答には、マルを付けていい程に的確な攻撃方法だ。

だが、満点には幾ら討論したところで到達しない。目で観て、バーサーカーの攻撃を受けなければ、攻略の糸口には遠い。

 

セイバーは、迫る学生服姿のサーヴァントの目を見て、半ば強制的に知ることができた。

バーサーカーと一手交える直前、鋭く見据える視線の先。

自分は映ってない。

背後でバーサーカーの突進に気圧されるマスター、士郎でもない。当然、凛のはずもなく。

 

(この男、私の剣を…!)

 

剣を、見ていた。観察していた。

恐らく、とはあやふやで不確かなものだ。だが、恐らくこの男は見えている。見ているのだ、風王結界で隠したセイバーの剣を。

魔力を見透かす能力か?疑問の解決は、今は捨てる。兎に角、この場を切り抜けるのが先だから。

 

「………」

 

「………」

 

迫り、視線を交え、互いが数歩でぶつかる距離。

拳で射程に乗り込むバーサーカー。剣で狂戦士を迎えるセイバー。

 

「行くぞ、バーサーカー!」

 

セイバーは精神を研ぎ澄ます。初手を読み間違えれば、その次の対応を考えねば、瞳の奥で策を講じる男には勝てないから。

攻撃は出させる。必ず、初手で見切り立ち回りを決める。

セイバーの初動、敵の攻撃を見切るために右足を半歩出し、あらゆる行動に対応する構えを選んだ。

 

「スター・プラチナ!」

 

バーサーカーが吼える。威嚇ではない。何かこう、幽霊を見たら叫び声を上げるような、出さずにはいられないという感じの咆哮だ。

バーサーカーの初動、拳を叩き込むことはしなかった。

拳を奮ったのは、バーサーカーの背後に宝具を召喚したような、凄まじい魔力を纏いながら現れた、何かだった。

突如、それは現れセイバーを狙い拳を握った。そして、

 

線がセイバーの顔を襲った。紫線がセイバーの顔を狙う。

夜空を横切る流星が、目の前に落ちてきたのかと錯覚を起こしそうになる。

 

「な!?」

 

「避けたか…」

 

セイバーは、バーサーカーの拳を受ける直前に、右へ転がる形で躱した。踏み出した一歩のお陰で、助かった。もし後ろへ、拳を流そうと足を下げたら即死だった。

見てから行動したわけではない。本能的に、身体が無意識のうちに最善の選択を選んだ結果だ。

 

「セ、セイバー!無茶はするな、逃げるぞ!」

 

士郎が、震えを押し殺した声で言う。

 

「衛宮くん、そうしたい気持ちは分かるけど、今あの規格外に近いバーサーカーに背を向けるのはダメ。セイバーを信じてあげなさい」

 

凛は逆に、バーサーカーに襲い掛かるのではと危惧する程に、攻撃的な目で男を睨んでいる。

 

「あのバーサーカーの後ろ、見たことのない魔力の塊。感じるだけでめまいがしそう…それに、会話も出来る。一体、どこの英雄なのかしら、イリヤスフィール!!」

 

坂の上で笑みを浮かべるイリヤに、凛が冷ややかな言葉を投げる。

 

「えーなにー?坂の下からじゃ、遠すぎて何も聞こえないー」

 

イリヤは上機嫌のようで、耳に手を当てながら凛の言葉を聞かぬふりをする。

眉をヒクヒクさせる凛を見て、イリヤは意地悪く笑う。

 

「おい、凛とかいう女。うちのマスターはまだガキだ、相手するだけ無駄な時間だと思うが」

 

「……!?」

 

バーサーカーは、律儀にも2人の会話が終わるのを待っていたようだ。呟くように言うと、坂の下で相対するセイバーへ向かいゆっくりと歩き出す。

 

「バーサーカー!ちょっと聞こえてるんだけど!?」

 

「なんだ、聞こえてないんじゃなかったのかイリヤ」

 

「うっ……」

 

会話をする2人は、余裕をそのまま外へさらけ出している。余りにも、殺し合いをする場での雰囲気を逸脱したやり取り。確かなことは、少なくともイリヤはセイバーを侮っている。

それは、大したとこではない。一番の壁は、やはり。

 

「長引いたら、イリヤが駄々こねるんでな。1分以内にケリを付けさせてもらうぜ」

 

冷静なバーサーカー。あからさまな挑発を言葉で飛ばし、セイバーへと向かい歩く。

バーサーカーの背中に、背後霊としか言い表せない何かが浮かび上がり、やがて人の像へと落ち着く。

それは、異常だ。

バーサーカーでは有り得るはずのない、魔力量。下手をすれば、キャスタークラスの魔術に匹敵するのではないだろうか。

 

「オラァ!」

 

背後霊のスピードは、先程戦ったランサーに負けない俊敏さでセイバーとの差を詰める。そして、空気を捻じ曲げるような、重く速い右パンチをセイバーの顔へ。

 

「っ!やあぁぁあ!」

 

大きく身体を回し、拳を避ける。そのまま不可視の剣を横払いで、バーサーカーのヘソへ振りかざす。

バーサーカーの拳の速さも恐ろしいが、それを辛うじてだが全てを受け流すセイバーの技術もまた、人知を超えた地点にいた。

 

「オオォォ!」

 

「ぐっ…!バカな」

 

人知を遥かに超えた者同士が戦えば、必ず何かしらの異常を思い知ることになる。それは、今でいうバーサーカーの冷静さと背後霊の魔力。セイバーならば、卓越し線を流す、見惚れる程の防衛。だが、サーヴァントとは、その存在自体が異常なモノだ。その域に達する者ばかりが呼ばれる。じゃあ、さらに差をつけるならばどうするか。

 

その場の誰もが驚いた。バーサーカーを除く、イリヤまでもがその拳に口を開ける。

いやまさか、と余計なことは考えずセイバーは次々に剣撃を描く。

士郎の目に、その全ては見えていなかったが、セイバーの表情が曇り怪しい雰囲気を漂わせていることだけは、はっきりと分かった。

 

「拳で我が剣を弾き返しただと…」

 

簡単だ。敵の得手を砕け…

 

信じがたい。この背後霊、セイバーの剣筋を読みその上で、剣の側面を拳で払い流しているのだ。

フェイントを混じえるか。ダメだ、今使えば二度と使えない。見切られる可能性がある。

フェイントがダメなら、今はひたすらに拳の速さに慣れるしかない。

強いられている。観察されている。この男は、トドメを刺せる実力があるにも関わらず、セイバーと拳で打ち合いをしている。

剣を10振れば、10の拳で払い流される。力の加減すらも、この男は同等の力で打っている。

 

「貴様、私を侮辱するか?」

 

測られている。今が本気でないとして、その場合の上限を。今が本気なら、力加減を。

筋力、俊敏、さらには魔力の残量すらこの男には見抜く力があるのかもしれない。攻めても当たらない剣技に、思わず顔の色が消える。

 

「なんだ、セイバー。騎士道精神………いや、そうじゃねえな。騎士としての誇りって奴か」

 

コンクリートの道路を蹴り、風を纏いながらバーサーカーへと走る。

スター・プラチナと呼んでいた背後霊が、近づくセイバーに合わせ前に出る。拳を放つと、セイバーは寸前で転がりかわす。

顔を上げると、目の前にスター・プラチナの拳が追撃して来ていたので、剣でなんとか流す。

そして、剣撃を放ち、かわされる。はじかれる。

顔、肩、胸、横腹、はたまた剣までもを狙い拳が炸裂する。

無言で立ち、スター・プラチナを操るバーサーカー。

流星の如き拳を、正確に一つ一つ横へ後ろへ流すセイバー。

 

「オラァァ!」

 

流石はバーサーカー、理性を失う代償として、強大な力を得るクラス。ならば、この力は頷ける。

凛は、その特性を知っているからこそ、バーサーカーの冷静さが理解出来ずにいた。それは複雑怪奇なロジック。クラスの特性を無視した、あまりにも非常識な英雄。バーサーカーが得られる力を持ち、なのにデメリットである狂化は付与されない。

もしかしたら、アインツベルンは狂化を外す特殊な魔術でも編み出したのかもしれない。だが、それは有り得る。有り得るのだが、果たして聖杯がバーサーカーに付与する狂化を、無効化できる程の知恵を持っているのだろうか?狂化を無効化するのは即ち、聖杯の干渉を意図的に、ピンポイントで命中できるということだ。

……ならば、無理だ。

それが出来るのなら、もっと合理的な戦いで聖杯戦争に臨む。少なくとも、マスター自らが戦地に赴くような策は、聖杯への干渉が出来ていない証拠なのだから。

2人の戦いを見て確信した。バーサーカーの理性は、付与されていない訳ではないのだと。

宝具、またはスキルのどちらかにその原因がある。間違いない。

 

「おい遠坂…!何か、こう…逆転とはいかなくても、あのバーサーカーを足止め出来ないか?あのままじゃ、セイバーがやばい!」

 

考え込む凛に、士郎が肩を揺さぶりながら声を出す。

 

「は、離しなさい!…ごめん、無理。第一、あの戦いに割り込むなんて、私に死ねって言ってるようなものよ」

 

「そ、そこまで言ってない…すまん」

 

死ね、と言ったつもりがなかっただけに、士郎は顔を引きつらせる。

 

「いや、何とかなるかも」

 

ポツリと、凛が呟く。士郎が、え、と疑問の音を出した時、戦況が一気に傾いた。

顔を向けると、今まさにバーサーカーが勝負を仕掛けた瞬間だった。

 

 

 

「しまった…」

 

剣が上へと弾かれる。辛うじて握れてはいるものの、剣を離さないことに囚われ体勢が崩れ後ろへ下がる

バーサーカー本人との距離は、1m。

剣が届かないのだ。聳える壁は、余りにも強い。

 

「関心してる暇はないと思うがな。それとも、何か策があるのか?まぁ、それでも構わないが。スター・プラチナ!」

 

「くっ…」

 

スター・プラチナは、態勢を崩したセイバーを遂に完全なる射程へ入れたことで、両拳を握る。

その背後霊は、地に足がついていない。足はあるのだ。ただ、本当に

浮いている。それでも、しっかりと踏み込み拳を打つのが分かる。

そして、その拳がどういう特殊効果をもつにしろ、真面に受ければ死ぬだろう。士郎も凛も、何よりセイバー本人がそう悟った。

だから、避けなければならない。″避けさせなければ″、聖杯戦争の開始早々リタイアすることになるからだ。

そして右拳は、

 

「オオオォ…!オラァ!」

 

一撃。

膨らました風船を、針で突いたような解き放つ破裂音‼︎‼︎

聞けば心臓の鼓動を確かめられずにはいられない不安感が、士郎とセイバーの聴覚を駆け巡った‼︎

明らかな決定音。士郎の心臓は、脳は、″音″だけを聞いて錯覚する。セイバーが致命的一撃を避けれなかったのだ、と。

 

「………やれやれ。思わず反応しちまったぜ、このアマァ………!」

 

だが‼︎現実は想像と程遠い結果を生み出していた。

なんと、まさか。スター・プラチナは、セイバーの前ではなく、バーサーカーを守るように浮いていたのだ。視線の先は、セイバーではない、マスターである士郎でもなかった。今、この場で最も関与のしようがない、凛へ向いていた‼︎

 

「あら、てっきりそのクールフェイスのまま黙って受けてくれるもんだと思ってたわ。ガンドくらい、平気でしょ?セイバーへの攻撃を阻止できて、さらに冷静な表情も崩せるなんて、一石二鳥ね」

 

満面の笑みで口を開くのは凛。この笑顔を、タイミングよくされた日には、相当に腹が立つに違いない。

士郎は、凛の行動にただただ開いた口が塞がらずにいた。

スター・プラチナがセイバーへ一撃を放つ直前、まるで打ち合わせをしたようなタイミングで凛はバーサーカーへ向け、手の先から魔力の弾を撃ったのだ。

 

「てめぇ、さっきの『セイバーを信じろ』ってセリフ、微塵もそう思っちゃいねえな…!」

 

それにバーサーカー本人が、俊敏に反応した。

悔しくも遥かに強いスター・プラチナを自身の元へ戻し、セイバーへ放たれるはずだった拳で弾を打ち砕いたのだ。

 

「違う違う、信じた結果がこれよ?てか、信じる以前に私、セイバーのマスターじゃないし?ねえ…セイバー」

 

凛の視線が、セイバーへ向けられた時には、既にバーサーカーの背中へと回っていた。

こいつら本当は打ち合わせしてるだろ、と疑いの目を向ける士郎。

 

「バ、バーサーカー!」

 

悲鳴に似た声をあげるイリヤ。

それもそうだ。セイバーは、完璧にバーサーカーの背後を取っている。加えて、スター・プラチナはバーサーカーの真正面で凛のガンドを防いだせいで、完全に隙を突かれていた。

それらの行動を、バーサーカーがガンドを防ぐのと同時にセイバーは、バーサーカーの背後で剣を振り下ろすモーションに入っていた。僅かな時間、ガンドを防ぐためにスター・プラチナを戻す時間があれば、態勢を完璧に戻すことが可能な程、セイバーの機動性は優れている。

ピンチは一転、バーサーカーの死角と意表をつく起死回生の斬撃へ。

 

 

 

「凛、悪いが標的は変更させてもらう!」

 

 

 

士郎、凛、イリヤの意識はセイバーへと向けられ、スター・プラチナの機動性ですら間に合わないと確信していた。それは同じく、セイバーとバーサーカーにも理解できた。

これを逃す手も、逃れる術もない。大袈裟ではない。

バーサーカーを除く全員が、バーサーカーへの一撃を覚悟する。

受け入れたくない現実を前に、イリヤは叫ぶ。

 

「………イリヤ!」

 

だが。バーサーカー、空条 承太郎は自身へ迫る攻撃など、気にも止めていなかった。

可笑しな話だ。

理性が飛び戦地へ赴くだけのクラスであるバーサーカーが、よもやこれ程までに冷静沈着とは。マスターがバーサーカーへと向けた、致命傷になるであろう一撃を拒む声すら、彼は聞き流した。

更に、己がマスターに迫り来る″危機″すらも感知できているとは。これこそ、バーサーカーに言わせてみればその場全員の隙を突く反応に違いない。

 

「はあああああ!!!!」

 

セイバーが奮声を上げる。反撃など許さない。騎士として、全力を剣へ乗せる。

これに抗わない者はいない。当然だ、抗わなければ死ぬしかない。どれほど格好悪くとも、美しくなくとも。英雄として、サーヴァントとして現界を果たしたからには、幾多の危機を乗り越えてきた証。今までの自分を信じ、行動することこそがこの場最低限の選択である。普通は。

 

「お前の相手は今度だ、セイバー」

 

男は違った。まず、視線がマスターの方へと向いている。

セイバーなんか、どうにでもなると煽るようにしか見えない。

バーサーカーを前に、セイバーの耳へ届いた侮辱。苛立ちよりも先に、疑問が浮かぶ。自分の相手を後回しにするような用件とは?

 

「ザ・」

 

知ったことではない。もう遅いのだ、どれだけ強がろうと、既にセイバーの剣とバーサーカーの身体との隙間は無いに等しいのだから。

このまま、躊躇いもなく剣を振り下ろせば、聖杯へと近づく。

余りにも事が上手く運びすぎているのは、凛のお陰だ。思考の片隅で、そう思った。そして、気づいた。はっ、と思い出した。

 

「ワールド!!!!!」

 

セイバーは瞬いた。

すると、目の前にいるはずのバーサーカーの姿形なく、捉えたと確信した剣は宙を斬った。

突然、不思議な言葉を発したかと思った次には、既に消えていた。

凛とセイバーが、それを認識する。

まるで、幽霊のように突如消えたのだ。

あまりにも唐突なことに、思考が混乱する。いや、これは状況に追いつけていないと言った方が正しい。

それを振り払い、周囲を見回す。そこで、士郎の様子がおかしい事に気づく。

 

「……ごふっ……バーサ……カー!」

 

口から血を吐き、苦しそうな表情のまま地面へと正面から倒れる。

硬直が真っ先に解けたのは、彼のサーヴァント。

 

「士郎!!」

 

セイバーが慌てて駆け寄る。バーサーカーが何処に消えたかなど、考える余裕はなかった。

セイバーの軽はずみな行動に凛は驚くも、士郎と叫んだ瞬間に理解した。自身の隣で、つい数秒前までセイバーのことを考えていた少年が、血を吐きながら倒れているのだ。

 

「え、衛宮くん!?衛宮くん!!」

 

「どうしたのです、マスター!一体、何が起きた!?」

 

士郎の意識はない。セイバーは、それでも呼び続ける。

ふと、視線を感じる。坂の上、イリヤではない。

バーサーカーが、イリヤを抱え立っている。

何故そこにいるのか、いつ動いたのか。そんな疑問を問うよりも、セイバーはそれ以上に聞かなければならない事を言う。

 

「バーサーカー!貴様、我がマスターに何をした?」

 

バーサーカーは黙殺する。ここまで冷静な態度には、流石のセイバーも苛立ちを隠しきれない。

男は、此方を見ていた。視線が捉えるのは、士郎。

なんと、男は敵意と興味を抱いて士郎を見ているのだ。

気に入らない、そう言いたげな目は、どこか警戒している。

事の全容が見えない以上、セイバーは士郎の側から離れる訳にはいかない。バーサーカーは、それを知った上で、

 

「衛宮 士郎…覚えておく。お前の身体が回復してから、家に邪魔させてもらおう。お前という男に興味が湧いた、それに尊敬もしちまいそうになるぜ……まったく」

 

背を向け立ち去った。

 

 

 

 

To Be Continude...




空条 承太郎 バーサーカー

幽波紋:EX
自身の攻撃力をアップ(3ターン)&NPを増やす

決断:A
味方全体に回避付与(1ターン)&スター大量獲得&クリティカル威力をアップ

蘇生(手):C
味方単体にガッツ付与(5ターン)&ガッツ発動後にHPを大回復

宝具
俺が時を止めた:EX ARTS
敵単体の防御力ダウン(3ターン)&強化解除&敵単体に超強力な攻撃〈オーバーチャージで威力アップ〉&自身のチャージタイムを1進める

撃ち抜かせてもらうぜ…‼︎(選択時)

てめえが一呼吸し終わるまでに、全ては終わる…
────スター・プラチナ!ザ・ワールド!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ‼︎
吹っ飛びな オラァ!!!
そして時は動き出す。


個人的に、好きなサーヴァントのレアリティは低めがいいです。サーヴァントと共に戦うゲームなのに、礼装ばかり来ますからね。


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世界の宝具

閲覧、評価、お気に入り登録ありがとうございます。

この章、本来は3話完結で、次のクラスの話に移る予定でした。
考えた設定を、できるだけ詰め込んで使わないモノが無いように…と、ギュッゥゥゥとした結果、次回分くらいの文字数を書けそうになりました。
あと1話、もしくは2話でバーサーカー編は終わります。
どうぞ、お楽しみください


俺が時を止めた(ザ・ワールド)

 

瞬間、世界が呼吸を忘れる。

決して誰も知ることのない、未知の世界。誰も侵入することが出来ない、理不尽な時の中。

音が消え、動きが消え、生気が消える。

枯れ落ちる木の葉っぱも、空を飛ぶスズメの羽音も、法定速度を超え道路を爆走する大型バイクすらも。当然、世界を又にかけ飛ぶ光さえも、そして、歴史に名を刻み今も世に知られる英雄達でさえも。全てが平等の名の下に、時の停止を強いられる。

そこには神すらもいない。在るのは、只一人の英雄の世界。その英雄のみが頂点に立つ、平等な世界。

平等とは、全ての者が同じ高さに立ち、同じ環境下であることを呼ぶ。だがそこに、例外がある。必ず生まれなければならない例外があるのだ。

それは平等を敷く提案者であり、平等の定義を決めた決定者であり、平等という横線から外れる者を許さない管理人。平等を確立するには、唯一人の世界が必要なのだ。

 

それに男は選ばれた。世界でたった一つの″世界″の席に座ることを。

頂上はただ一人。時を止める者は、二人も必要ない。現に、バーサーカーの他に時を止める者は、消えたか、あるいは元々存在しない。

 

空条 承太郎だけが動き、干渉できる絶対領域(プライベート・ルーム)。承太郎以外の時を一時的に止めることができる。それしかできないシンプルな能力だ。一つだけの効果で、他の磨き上げられた修練、鍛錬、技を超越する。

それが空条 承太郎の宝具、俺が時を止めた(ザ・ワールド)

 

その宝具は、世界を相手にできる。

絶対であり、無敵の宝具。

 

規格外の宝具。

正に、空条 承太郎の宝具は規格外の枠にしか当てはまらないものだった。

当然のことだが、イリヤへの魔力消費の負担は計り知れないように思える。

承太郎は、自分の宝具を知った時、そのことが気になり、召喚された後、試運転ということで宝具となったザ・ワールドを解放することを決めた。

魔力消費が半端ではなく、イリヤの魔力が底を尽き抜け死に絶える程なら、承太郎は自害すると決めていた。彼自身、理解しているつもりだった。魔力供給のおかげで現界している身だ。バーサーカーというクラスで、狂化の影響を受けないようにして存在しているにも関わらず、自身の燃費は悪い。

自決するという選択肢を、大袈裟だと笑うことはない。寧ろ、その決断が有り得るということを理解しているバーサーカーを、讃えても良い。イリヤの魔力の底を突き抜ける、或いは魔力が殆ど消費されているということは、つまりバーサーカーを現界させている事すらも命に関わる案件になる。

だから、宝具の魔力消費次第では、イリヤを守ることができない。マスターを死なせることを、承太郎の信念が、その結果を許さなかった。だが、まさかの結果となった。

魔力消費は、承太郎が時を止めることに関しては限りなくゼロに近い。静止した時の中で動き回る分の魔力消費のみが、普段より増え負担が大きくなるものの、そこはイリヤスフィール。その程度は屁でもないと結論。

 

「もう少しはやく使ってたら、俺の背中にコイツの剣が入る事は……っ、無かったんだがな。流石、最優と謳われるだけのことはあるぜ。マジにやばかった、スター・プラチナが間に合わなかったかもしれねぇと思うと、ゾッとするな」

 

1秒経過。

承太郎は、背中に入り込みかけている剣から離れ、完璧に静止した英雄の姿を見る。学生服が血で染まっているが、後でどうにでもなる。イリヤに仕えるメイドに頼めば、抵抗するかもしれないが、最後は引き受けてくれるだろう。

雄々しい麗人の騎士は、今は闘気なく止まっている。

手に握る不可視に近い聖剣は、実は承太郎は視えている。はっきりくっきりではなく、大方の線だけだが、長さも形も分かる。朧ではあるが、ないよりマシだという感覚でバーサーカーは結論している。

 

保有スキル、幽波紋。

スタンド使いならば、猛者怯者関係なく保有する。対魔力を兼ね、ランクはB程度の効果もある。

スタンド使いは、スタンド使いにしか見ることができない。その特性が、聖杯戦争で形を変えてスキルとして付与された。

主な能力は、魔力を感じ取り視ること。魔力による″モノ″の変化、強化、隠蔽などを視透かすこと。加え、宝具の魔力消費を使用者の本人の″精神力″の強さ分軽減すること。

そしてもう一つ、これが最も難題な効果。ある程度の魔術回路を持つ者なら、例え魔術の世界を知らない一般人ですら、スタンドを視ることができる。できてしまう…!

何故か。それは、このスキルのデメリットでは決してない。

他でもない、空条 承太郎が無理矢理に追加した効果だった。

だが!決して!無駄だと嘲笑うことは許されない。

彼は犠牲にしたのだ。狂化を。

狂化を引き換えに手に入れた。本来の理性を。精神力を。

 

理性を失った野獣として召喚される直前、彼は聖杯に狂化を外せ、と言った。当然、無理だと返答される。

じゃあ、と言って代わりにスタンドは誰にでも視えるようにして構わない、と申し出る。それは余りにも大きなデメリットではないのか、と逆に心配の言葉を投げられた。

理性を失ってまで叶える望みはない、ならば俺の現界をキャンセルしろ。それに対し。それも無理だ、貴方の現界は決定した…分かった、それでいい。

 

交渉はそれで終わり。承太郎にしかデメリットが無いように見えるやり取り、本当に呆気なく、2.3度のキャッチボールで終わった。

答えは単純だ…狂化のバックアップは承太郎にとって、スタンドが見られる以上の、そう、癌のような不必要なものだったからだ。

 

「ムカつくが、賢い手だと言っておくか。イリヤを狙って、コソコソ遠くから″矢″を放ちやがるとはな!どうやら俺は、矢という武器に関して、悪縁があるらしい」

 

2秒経過。

血が滲む背中に目を向けるが、すぐに関心なさげに別の物を見る。

坂の上、イリヤから50mほど離れた空中に止まる鋼の矢。弾丸の如く直線を描くそれを、鋭く睨む。それこそが、宝具を解放した理由。己がマスターを狙う矢から守り、今夜は撤退を決める。承太郎は本心、アーチャーという陰湿な英雄を表へと引きずり出し、スター・プラチナを叩き込んでやりたい気持ちだ。だが問題は、セイバー。アーチャーを追う上で、すんなりと行かせて貰えるはずはない。2対1という関係が出来上がり、下手に討ち取られては笑い話にもならない。

何より、もう時間もなかった。舌打ちする。

イリヤの元へ戻ろう、そう思ったが思いとどまる。

正面で静止するセイバー、の握る武器、不可視の剣。魔力を纏い、剣周囲の大気は霧がかかったかのように、霞んでいる。

本来であれば、触れることもままならず、まして握り手に取るなんて行為をセイバーは許さない。

が、それはどうでもよかった。承太郎は、この時の中で″試したい″ことがあるのだ。それを出来る絶好のチャンスが、目の前にあるのだ。

それが何のリスクもなく実行出来るのなら、やらない手はない。どうあれ、失敗はしないのだ。

 

「その剣、貸してもらうぜセイバー。なに、少し強度を確かめさせてほしいだけだ。俺の宝具、まだ試してないことがあってな。静止した時の中で、果たしてその剣が…魔力で存在するソレが俺の拳で砕けるのか」

 

3秒経過。

セイバーの両手から、不可視の剣を抜き取ろうと手を伸ばす。

何故、セイバー本人を狙わないのか。女だからだ。承太郎の気まぐれではあるが、気が進まない。容赦してはいけないことを理解しているが、それでもやはり今は殺さないと決めている。

だから、剣を壊せばいい。少なくとも、俺が相手をしなくても誰かが殺すだろう。

もしそうなるとして、では果たして前提が合っているのか。

静止した時の中で、剣の魔力は果たして生きているのか。呼吸をしているのか。

 

「この剣が、聖剣や魔剣の類かは知らんが、一つ俺の拳と耐久勝負といこうか」

 

セイバーの手に触れる。鎧で覆われた、少女の両手は力強く、今にも動き出しそうな程に迫力があった。

スター・プラチナは万全の準備で待機している。

後は剣を抜き取り、空中へ置けば承太郎のやる事は終わる。

そして、次の瞬間には、流星の如き威力、目で捉えきれぬ程の拳が剣へと降り注ぎ、約0.5秒で終わらせる、″はずだった″。

 

「やめろ!!!」

 

「……っ!」

 

その音は、実態のない破壊力を持っていた。声という名の、ごく当たり前の矢が飛ぶ。それを承太郎の耳が、否応なしに聞き取る。

たったそれだけが、まるでプロボクサーに渾身のストレートをいい角度で顎に入れられたかの如く、承太郎の脳に混乱を与えた。

 

「………な、にぃ!?」

 

全身を駆け回る衝撃が、承太郎の意識に打撃を与える。

目に見えない、精神的ダメージが今確かに、承太郎の脳内に刻み込まれた瞬間だった。

 

4秒経過。

響く怒号。何かを守るための咆哮。

余りにも必死なその声は、世界で最も開けてはならない門の下をくぐった。

それは入門。あり得るはずのない入門!

静止した時の世界を、承太郎以外の誰かが、門の扉を押し破った瞬間だった。その誰かとは、セイバーのマスターである士郎に間違いない。

承太郎の全身が反応する。後ろへ飛び退くと、声の発生源を見る。

 

「こ、こいつ……!動きやがったのか、この世界の中で。あの時の俺のように、止まった時の中を動く事を意識した時の俺みたいに……!時が止まったこの世界へ乗り込んできたというのか…!?」

 

士郎という男の体勢は、変わっていた。電柱のようにただ立っていただけなのが一転、承太郎に鋭い視線を向け走り出そうとしていた。が、そこで時は止まったようで動きは見られない。決定的だった。承太郎の知らぬ間に、士郎という男は静止した時の中で、確かに息をした!足を動かした!声を上げた!

口から、血を垂らしていた。苦しそうな表情で、承太郎を睨んでいた。何故かは分からない。承太郎が、同じような境遇の最中では、血を吐いたりすることはなかったからだ。

 

「なんて野郎だ。一体、どうすれば静止した時の中を動ける。俺の宝具を知っていたとして、時が止まることを意識したとして!俺と同じ″タイプ″のスタンド使いじゃなきゃ、此処へは意識すら潜れないはずだ……こいつがスタンド使いかと言われれば、違う!こいつからは、俺と同じ臭いがしねぇ……だから、絶対の自信を持って断言する。こいつは、スタンド使いじゃない!……にも関わらず、何らかの方法で、俺と同じ土俵に入門しやがった……!!」

 

尽きぬ疑問が承太郎の拳を止めた。

気づけば、残り1秒。時を止めれる時間は、″今は″5秒が限界だ。

 

流石と言うべきか。それとも、興味という冒険心を知らないのかと言われるのか。承太郎のスイッチは、一瞬すらも長いくらいに意識の行き先が変わった。

彼の経験してきたこれまでの精神が、優先的にイリヤのことを考えるように仕向けているかのよう。その無意識に、承太郎は逆らうことをしなかった。

承太郎はやや姿勢を低くし、膝を曲げる。

鈍く重たい音。コンクリートの道路を蹴り、僅か0.1秒でイリヤの側へ駆けつける承太郎。蹴った跡として、小さなクレーターが出来上がった。

一旦、士郎という男から意識を変える。

この場を、今からどうするために行動するのかを考えなければならない。

側に立っても動かないマスター、イリヤ。その顔は、相当に切羽詰まったものだった。承太郎の事を心配しての表情だ。と、思っていたが、イリヤがそんな心配をするのかと、疑問を浮かべた。

 

「はぁ、後でダラダラと説教タイムだなこりゃ。こいつ、ガキのクセに説教だけは貫禄があって困るぜ」

 

やや高め、夜空を背景に承太郎は顔を上げる。

視線の先にあるのは、ドリルを連想させる鋼の矢。螺旋をイメージさせる人差し指程度の太さの線が入った矢は、恐らく宝具だと見てわかる。

溜息を吐き、アーチャーの所在を突き止められないことを少し残念に思う承太郎。

だが、いずれ会う。

彼の運命は、数奇な出会いに日々遭遇するように出来てしまっている。今回の聖杯戦争も、承太郎の運命が引き寄せた物だと、本人が思っている。そういう風に納得している。

 

矢を睨むと、ある事に承太郎は気づき、眉をひそめた。

 

「…どういうことだ。坂の下から見ただけじゃ分からなかったが、この矢、このまま時を動かしてもイリヤに擦りもしねえ!」

 

明らかな殺意を乗せ迫る矢と、坂の下を不安の表情で見るイリヤとの位置を見て、改めて確認した。そして出た結論は、矢はイリヤの10m程後ろを通り抜けるという、不思議な事実。

 

「アーチャーってのは、こんなド下手な奴もいるのか…?意味が分からねえ。アーチャーの野郎は、イリヤを射る気が全くないのか?イリヤの後ろには…………ん?」

 

イリヤの後ろには、見ただけでも中々の値がつくであろう一軒家が並び、それらへと繋がる無人の道路が続いているだけだ。

少なくとも、ここへ来た時はそうだった。

矢の向く先を見ても、そこには一軒家があり、道路があるだけの様に見える。

 

「理由は分からねえ。あぁ、アーチャーの思考回路を俺には全く理解出来ねえが、てめえの放たれた矢の″的″だけは理解出来た…!」

 

気に入らないと、笑う。

何が?と聞かれれば、さあな、と返事を返すだろう。

アーチャーの行動には、妙な正義の意思を感じた。ただ、それだけのことだ。

 

「訂正する。陰湿な真似と思っていたが、どうやら英雄としての信念はあるようだな、アーチャー」

 

ほんの0.1秒前の言葉を否定し、承太郎は正体を知らぬアーチャーの事を僅かだが、英雄として見た。紛れもない何かが、その矢から伝わってきたのだ。

彼は初めて、矢という武器に対して極々小さいながらも、感謝の意を込めた。

ここで、時止めが限界に達する。

 

「時は動き出す…」

 

無味で乾いたな世界は一変、濃ゆく潤いのある世界へと一転する。それは承太郎にしか分からない変化。だと、思いたい。

唸るセイバーの奮声。バーサーカーを捉えた筈の剣は、空気を切る。スパン、と斬れ味の良さがヒリヒリと伝わる音が耳に届く。

迫る弓矢。周囲の空気を突き刺しながら進行する様は、流星の如き輝きを放っていた。

叫ぶイリヤ。セイバーが空気を切り困惑の表情を浮かべるシーンを見て、「あ」と何かを悟る声を漏らす。

 

「そして!続けて使わせてもらうぜイリヤ。こう、間髪入れずに時を止めるのは初めてだからな。魔力消費はキツイかもしれんが……お前のことだ、これくらいどうってことないと言って済ましてくれるよな?」

 

イリヤの聴覚が、心から信頼するサーヴァントの声を受け取る。一瞬にも満たない過去の不安が、一瞬にして四散する。

同時に、情けないという自責の気持ちが、イリヤの心の底からジワリと溢れ出てくる。イリヤがバーサーカーの名を叫び求めた理由は、決して彼が追い詰められ敗北してしまうという、己の目的を果たすためのサーヴァントが消えるのを拒む為などではない。

 

違うの、バーサーカーが負けるなんて欠片も思ったことないよ。私がバーサーカーを呼んだ理由はね……

 

俺が時を止めた(ザ・ワールド)、今夜最後の時間停止だ!」

 

助けて、そう言いたかったんだよ。

言葉には出ない想い。言葉にするのは、少し恥ずかしい…。何より、今は信頼するサーヴァントを邪魔するような言葉を、ポンと投げるのはダメだと思い、舌に乗ったそれをのみこんだ。

時が止まる刹那、承太郎は、たまたまソレを脳内の何処かで聞き取った。イリヤの、なんて事の無い、相手を想う気持ちに承太郎の何かが受け取らずにはいられなかった。

 

「理由は何となく分かった。イリヤ、少しはガキらしい考えをするじゃないか」

 

イリヤの頭に、ポンと柔らかく、優しく手を置く。

表情は心配しているというより、もっと感情的な…何かに怯えているモノだと見て分かった。この距離にして、ようやく。

 

今宵二度目、瞬きすら間に入らない感覚で、再び世界の時は静止した。

 

 

To Be Continude...




スター・プラチナ
筋力:A 耐久:A 俊敏:A+ 魔力:B 幸運:B 宝具:EX

前話の承太郎のステータスを変更しました。

そうそう、fateGOの絆経験値…アホか!孔明の絆が先日、やっと6になって喜んだのも束の間、次の必要経験値は40万だと…!?

やれやれだぜ。120個ある金林檎を食べるかと一瞬、迷っちまう程に目的地までの旅は気が遠くなるな…

え?石ですか?嫌ですよ!
アキレウスとガウェインが来るまで、ひたすら貯めているんですから………まだかな〜
あ、ジークくんが来ても回そうかなと思ってます。
面白い個性のサーヴァント重視です!男女関係なしにです、はい!


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聖杯戦争は動き出す

fateGO、茨城童子イベント始まりましたね。
鬼ごろし級、HP400万削ったところで力尽きました。

ガチャは、呼符を4枚だけしました。
2030年の欠片と、イベント清姫礼装が来てくれて感激してます。欠片3枚目やったぜ!


承太郎は本日二度目にして、クールタイム無しの宝具の連続解放という、並みのマスターであれば悶絶必死の行動を取った。

想像に浮かぶのは、己の魔術回路が火花を散らし、身体が悲鳴を上げるような、避けて通るべき一手。バーサーカーという時点で、出来る限り宝具の解放は遠慮願いたいものだ。クラスの特性上、魔力の消費は何の対策も無しなら、最悪に飛び抜けている。

何を思っての行動なのかを突き詰めれば、出てくる答えは明白にして単純な答えだろう。

『倒すべき悪が近くにいた。ただ、それだけだ』

 

 

イリヤの頭に置いた手を、時が止まってから帽子のツバへと移す。

やや頭部から浮いた帽子を、しっくりくる位置を探し深くかぶる。納得のいく、違和感のない位置に帽子を置くと、承太郎は薄く夜道を照らす街灯道の十字路の曲がり角を見据える。

次に、十字路の丁度真ん中、左右と前後が交差する真上の位置で音もなく静止する、殺意が込められた矢を見て、矢が進む方向を確認。

 

「さて、アーチャーが放った矢は、一体どんな″的″なんだ?皆目見当がつかねえな」

 

10m程上に飛び上がり、死角となっていた曲がり角の先を、真上から見る。

そこには、一人の外国人が立っていた。

黒が目立ち、白の線が縦に両腕に入ったジャケットのような上着を着ていて、下はこれも似たようなデザインの、黒色のズボン。

何と言っても目立つのが、まるで黄金をさらけ出したかのような金髪。その男の視線の先には、あの矢があった。慢心しているかのように両腕を組み、やや口の隅が笑っている。

 

「妙に気配を感じなかったが、コイツ、アサシンか……?まるで戦う気がないように見えるな。武器すら持っていないのは、今から矢を躱すつもりでいるからだろう。アーチャーなんぞに簡単に見つかる程度のアサシンだ、実力は大したことなさそうだぜ」

 

承太郎は、無い足場を蹴ると、物理の法則をぶっちぎりで無視し男、いや、サーヴァントの元へと降り立った。

ここで、1秒が経つ。

承太郎は、何処から湧くのかと思うほどに慢心する顔に、さして興味なさげに見ると、その意識は次に″正体″へと向けられた。

 

「間違いない、サーヴァントだ……!時の止まった世界でも、魔力を感じ取ることは出来る。一般人と間違えて、うっかり風穴まみれになって騒ぎになるのは避けたかったから、有難い」

 

名も知らぬサーヴァントの全身をチェックする。

時間は非常に限られているので、目で見るだけで終わった。同時に承太郎は、残念そうにため意を吐く。

 

「見た目通り、魔力で形成した武装はしてないか。これじゃ、試したいことが満足に試すこともできない……」

 

承太郎は宝具の解放に伴い、一つの特殊な効果が付与されていることに気がついた。

 

「サーヴァントが装備する武具を、俺の宝具が発動している最中で、HBの鉛筆1本を両手で力任せに真ん中からポキッと折るみたいに、砕けるかってことがな」

 

それは、魔力で編み上げられたあらゆる武器、防具等の神秘性を弱めること。

丸々奪える訳ではない。あくまで、効果を薄める程度のものだ。

世の中には、″モノ″または″在るモノ″を奪ることを生業とする英雄に、そういうスキルが付くことがあるらしいのだが、承太郎の効果は違う。

通常の戦闘でまず折れたり、ヒビが入るはずのない武器に、へし折ったり、微かなヒビを入れることが可能になる。

この世界は、あらゆるモノの時が止まる。ならば、あらゆる武器、防具は装備としての意味を成さない。静止した時の中では、着ている装備は紙切れ1枚となんら変わりがない。

という承太郎の認識に加え、もう一つの思考がある。静止した時は皆誰しもが平等である。平等を作り上げた頂点ただ一人を除いて…承太郎はこんなことを思っていない。が、そんな結論を出す支配者がかつていたかのように。または、聖杯がそう認識したのかは知らない。

結果として、以上2つの思想、はたまた認識で成り立つのが空条 承太郎の宝具。″ソレ″が世界の正体。

文字に綴るにしろ、言葉で説明するにしろ。承太郎は自身の宝具について、詳しい原理を突き詰めることはない。ただ、時を止めた世界で、壊しにくい魔力で作られた武器がいとも容易く壊せることは知っている。試したからだ。

そして、ただ時を止めることができる、ということを理解しているだけだ。

 

「まだ試していないのは、サーヴァントが持つ武器…宝具か?それを、それすらも紙切れ並みの防御力に落とせるのか、だ。サーヴァントの武器にはどれ程の効果があるのかを知りたくてな」

 

故に知りたかった。この世界の限界を。

 

「ま、それを持っていないなら仕方ない。金髪のサーヴァント、今回の聖杯戦争は運がなかったと割り切って、潔く消滅してくれ。あぁ、潔くもクソもねえか。なんせこの世界だ、てめえは俺の拳を食らったことすら認識できねえんだからな……!」

 

承太郎の背後に、恐ろしい程に静かな世界を止める像が浮かび上がり、たちまちに体格ががっしりとしたモノへと成った。

正しく頂。空気を揺さぶるように浮かぶ姿は、狂戦士そのもの。だが、拳を打たせれば分かる。その威力、精密の完成度。

加え、スター・プラチナの使い手、空条 承太郎の冷静さ、判断力が圧倒的強さに磨きをかける。世界中、どこを探そうとも、彼ほどにスター・プラチナという最強を生み出すことはできない。

このタッグは、恐らく負けない。

 

2秒…経過。

プツンと、限界まで張った糸が切れた瞬間だった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」

 

慢心するサーヴァントを、スター・プラチナは打ち砕く。

一つ一つ、徹底的に、容赦のない打撃が繰り出される。

静止した空気すら歪める。風の流れを捻じ曲げ、拳は金髪のサーヴァントへ流れ落ちる。

情けの無い、ひたすらに勝利を掴むための拳。

堅実、確実。

揺るがない勝利を掴む為に、承太郎は拳を握る。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」

 

夜の下で放たれる拳は、小規模の流星群と見間違えてもおかしくはない。

ほのかに紫がかり、一人のサーヴァントへと集まる。

地面のコンクリートが徐々に崩れ、浮かび上がる。まるで、夜空に浮かぶ散る星の如く。

見る者を魅了するソレを受ける本人は、状況を知れば絶望を知るだろう。

身体は上へ浮かび、血が飛び散る。飛んだ血はやがて宙で止まり、新たに血が飛び散る。

 

3秒経過。

 

「オラァ‼︎」

 

一際重く、致命的な拳が夜空を駆ける。

金髪のサーヴァントは、大きく浮き上がり、山の方へと放られた。

 

怒涛の流星群は、やがて夜空から消える。

流星群を連想する拳は、止まった。

金髪のサーヴァントは、全身が凸凹になるまで殴られ続け、もはや再起不能だろう。

宙に放り出され、苦悶の声を上げる思考もなく、ただ時が動き出すのを待つ慢心サーヴァント。

 

「終わりってのは、いつでも呆気ないもんだな。さて、これで霊核とやらは大半、砕いたと思うが、念には念を……!」

 

4秒経過。

 

承太郎の視線の先には、今宙に放り出されたサーヴァントを狙う、強力な威力を込めた矢。

地面をひと蹴り、矢が止まる空中まで移動すると、その矢の掴み所を持った。

 

「これ以上のラッシュは、イリヤに負担が大きいんでな。トドメは、こいつだ」

 

全身が砕かれた、見る身体もないサーヴァントに承太郎は、手に持つアーチャーの矢を投げようとしている。

時の止まった世界で、誰かに矢を投げる。その行為が、いつの日かエジプトで戦った時の最大の宿敵、DIOがやった事に似すぎている。過ぎった時、思ったのだ。俺は、畜生にまでなる必要があるのか?と。

ソコに堕ちる理由はない。今はその結論が、承太郎の理性をセーブした。

自分の行っている残虐さが、似たような場面で体験したことがあるのに気づき、手が止まる。

 

「……やめだ。既に霊格は潰してある。必要以上に殺す趣味はない」

 

承太郎はトドメることを止めたのではなかった。

自分がサーヴァントとして、狂化を受け取らなかったバーサーカーとして。越えてはならない一線が、ココだ、と直感が言うのだ。

故にその手の一振りを止めた。

聖杯戦争で、自らを汚す必要はない。

 

5秒経過。

 

「さて、帰るか。時は動き出す」

 

世界全ての心臓が動き出す。例外なく、支障なく。

それは当たり前で、そうでなくてはおかしい。

普通であれば、例外なんて出ることはないのだが、承太郎の干渉次第では、それを生み出すことも可能だ。

支配者の権威執行ということになる。最も恐ろしい手。

彼は気づいていた。望まなくても支配者として存在している自分がいることに。かつてのDIOが、自身をそういう風に名乗っていた姿。状況は違うにしても、承太郎の宝具はそういう在り方で成り立ってしまう。そこに承太郎は、可能性を考えていた。無敵と思っている宝具が外側から打ち破られる、瞬間を。

未来の果てを想像すると、不吉な結末が過る。

 

イリヤの元へ戻ったのと同時に時は動き、聞こえてくるのは士郎の唸り声とセイバーの驚愕した声。

坂の下で、士郎の異常に気がついた凛も駆け寄り、セイバーは承太郎へ怒りを露わにするが、それを流し歩き出す。士郎の容態を、少し気になるのかイリヤは心配そうな視線を士郎へ送り、グッと堪え承太郎の後を追う。

 

「士郎とかいう男さえいなければ、言い様のない不安を抱くこともなかったんだが…」

 

「どうしたの、バーサーカー」

 

承太郎の疲れ気味の呟きに、イリヤは物珍しいとばかりに質問する。

聞かれたからどうこう慌てる訳ではないが、敢えて承太郎は「気のせいだ」と言って夜道を歩いた。

 

 

 

 

 

「がっ……!?うぐぇぅぇえ!?」

 

0秒で吹き飛ぶ身体。

飛んできた矢を見ていたはずの目には夜空が映り、慢心していた自慢の身体はボロ雑巾の如く汚れていた。

 

脳が働かない。思考回路がショートしていた。その瞬間を見ることしか出来ず、抗う術が分からない。

サーヴァントの鼓動は、微々たるモノへ弱まっている。

 

「が………ぁ…………!」

 

血が飛び散り、空を移動する。あまりにも強引な移動に、身体が悲鳴を上げ、痛覚は脳へと信号を送り続ける。

視界が荒れる。赤く、青く、黒く、白く大雑把な色が見える。そして、交差し、直進し、回り、歪み、やがて痛みが襲ってくる。

唸り声を発するも、肺の機能が働いていないようで血を吐き出すポンプの役目を果たしてしまう。

 

「お………のれぇ……」

 

誰にも気づかれることなく、金髪のサーヴァントは森の中腹へとその身を着弾。

肢体から溢れ出る血液。

そして、吹き出す大量の生命魔力。

その意識は、闇に溶け込むように消え、やがて魔力が四散した。

 

サーヴァント、アーチャー・・・

 

真名、ギルガメッシュ。

 

・・・再起不能(リタイア)!!!

 

 

 

〜Fin〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ…?

 

以下より綴った短編は、この異様なスタートとなった聖杯戦争の終盤戦。

ささやかですが、お楽しみください。

 

 

 

 

 

 

【荒原の流星群】

 

 

1人は長身、190はあろう背丈。赤い外套が印象的な、褐色肌の男。

もう1人は、隣に立つ男程でないにしろ、身長は170を優に超える肌色の男。

似ても似つかぬ、人格は違うがどこか雰囲気の似る2人。視線に遊びはなく、あるのは殺意と僅かな後悔。

だが、この状況が異常であることは、疑いもなく誰もが思うだろう。

 

「「投影魔術・開始(トレース・オン)!!」」

 

なにせ、敵対していた中でも、一二を争うくらいに相容れない両者が、肩を並べ、まるで仲間かのように戦地に立っているのだ。

両者、武器を投影する。勿論、お互いにお互いを攻撃する気はない。今は…だが。

アーチャーと士郎は、それぞれが白と黒の双剣を握りしめ、呼吸を整える。

高鳴る緊張は、サーヴァントのアーチャーはともかくとして、士郎には応えるようだ。

当然である。今から繰り広げるのは、確実に″どちらか″が死ぬ戦い。それはアーチャーとではなく、7騎のサーヴァントで、恐らくダントツの強者。バーサーカーだ。

 

バーサーカー本人が語った、壮大な旅。母を救うために日本を発ち、エジプトへ数多の戦いを繰り広げ遂に目的を成した、と。何故話してくれたのか、その心境は今も分からない…だが、会話の時、殺伐とした雰囲気は一切なく、自身が警戒していることが場違いだと思うくらいだった。

バーサーカーは、士郎を知ってから、何処か懐かしんでいるようには見えた。それが理由でないのは、確かだが。

語っている中で、彼は言った。憶測だが、と呟いた後に。

それは彼の″今″。なんと、この日本の何処かに″実在する″ということ。まだ死んでもいない。自身の最期を知らぬ英雄だ、と。

辿り着いた、その真名は……

 

「スター・プラチナ!」

 

一際異彩を放つのは、身長190はあろう学生服姿の男。

背後に出現する、雄々しい戦士。雄叫びを上げ、最大の武器である両拳を握る。

その正体は、スタンド。スター・プラチナ。

 

 

真名を、空条 承太郎。

 

 

時を操り、世界全ての時を止める能力を持つ、神話に出てきても頷ける破格の英雄。

時の停止時間は、およそ5秒。

何キロも離れているなら何度使われても、痛くも痒くもない。だが、それが近距離戦ならば…″敗北″を意味する5秒だ。

 

真名へ辿り着いたことすらも奇跡に等しい。普通であれば知ることもなかった真名に加え、彼の宝具の正体をも暴いた士郎。ならば、もしかすると。万が一、億が一の可能性で希望を掴めるかもしれない。

勝利という、この場で最も縁の無いソレを。

 

「気に食わねえが、俺は敢えてこの戦いを受ける。そして、受ける以上、手加減を忘れる。正真正銘、最期の勝負だ!!!」

 

奇妙な友情が生まれた。

数日前。

敵同士で、夜空の星を見ながら縁側に座った長い夜。側にはセイバー、凛も座り承太郎の話に耳を傾け、時折驚いたり興味を持ったり。士郎は警戒し、自分に肩入れすることに驚き、疑い、そして僅かながら喜んだ。

今に至るまでに、承太郎が士郎に与えた影響が大きかったことを思い返し、渾身の力で持って心の奥底に押し込む。

複雑な心情を頭の隅に残し、承太郎と剣と拳をぶつけ合うのは失礼に他ならない。

 

「さあ、全力でかかってきな…」

 

「あぁ、言われるまでもないさ。俺は、俺たちは。この剣で、あんたの流星を打ち砕く……!お互いに、譲れない物が待っている以上、尚更だ!」

 

「いきがるのは結構だが、お前の身体は戦う前から既に悲鳴を上げているんじゃないのか?それが心配だ、結果として私の足を引っ張らないかとね」

 

「これ以上ノンビリもしてられないだろ、アーチャー。お前こそ、自分が人のことを言える立場じゃないのは分かってるだろ。贅沢はいえない。俺は、一人になっても、バーサーカーを倒す!」

 

「フッ…よく言った!これも運命ってやつだ、士郎。だがな、それを言い訳にはしねえ。もし悔いがあるんなら、俺の拳を捌いてからにしてくれ!!!」

 

一人の英雄と、一人の無銘と、一人の正義の味方。それぞれが置かれた状況を、今は忘れる。忘れ、全てを出すことに専念しなければ、死ぬから。

欠けた者のために。持てる誇り、腕、能力全てを大切な人を守る為に使う。限界を覚悟した、男達の戦いが今、剣と拳の交差で幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

........Another Time!




バーサーカーとして、作品に登場する候補に上がっていた主人公
・男鹿 辰巳 『べるぜバブ』
・綾崎 ハヤテ 『ハヤテのごとく』
・DIO 『ジョジョの奇妙な冒険』
・サイタマ 『ワンパンマン』

次回投稿は、アサシン編を予定しています。
その際、タグが一つ増えます。
バーサーカー、空条 承太郎のお話はここで終わります。別のクラスを書いている合間に、更新している可能性は……あるかもしれません。
引き続き、これからも頑張りますのでよろしくお願いします!


Next story...!

クラス:アサシン
真名:???
キーワード:三代目
クラススキル:騎乗(?)


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空条 承太郎のステータス及びスキル

スキルをどう使うのかを考えながら作品を書くことが好きです。

※6月4日、空条 承太郎のステータスを変更。
耐久B→Dへと変更しました。ご指摘ありがとうございます!


空条 承太郎 … バーサーカー

 

筋力:D+ 耐久:D 敏捷:D+ 魔力:B 幸運:B 宝具:EX

 

狂化:B

(聖杯と取り引きをして、スタンドがスタンド使い以外にも見える代わりにこのスキルをほぼ無効化)

 

(New)

スター・プラチナ … スタンド

 

筋力:A 耐久:A 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:B 宝具:EX

 

 

「スキル」

 

幽波紋:EX

 

スタンド使いと呼ばれる、特殊な力を持つ者達に付与されるスキル。

使い手によって多様な効果が付き、対魔力や気配遮断とクラススキルを持つこともある。

このスキルのランクは使い手の″精神力″によって決定する。

貪欲なまでに生へ執着する者は高く、そうでない体たらく者は低い。

誇りある強く固い意志を持つ者は高く、幼稚で気力のない者は低い。

 

このスキルのランクは、腕っぷしが強い者に高いランクが付与されるとは限らない。

どれだけ強かろうが、周囲を蔑み、自身の腕に慢心する者にはDランク程度しか与えられない。肉体の強さが、イコールで精神の強さに繋がることはない。誰にも譲れない″信念″を持ち、何度も立ち上がる″執念″が大切なのだ。駄々を捏ね現実から目を逸らした瞬間、そいつの精神力は底へ落ちる。

 

例え世界一弱い肉体を持ち、最弱のスタンドを保有したとしても。

何者も寄せ付けない、逞しく黄金に輝く″精神力″があればいい。ソレさえあれば、ランクは自ずと高くなる。

そして、高いランクを持つことが出来れば、聖杯戦争を勝ち抜く為の術を得ることができるかもしれない。なにせ、幽波紋の付与効果は未知の領域だから。

 

反英雄は、僅かながらランクダウンする。

例:DIO 幽波紋:A-

(ザ・ワールドはDIOでなく、ジョナサン・ジョースターのスタンドであるため″A″止まり。この解釈は、あくまで作者個人の考えである)

 

このスキルのランクは、スタンド自体の強さではない。

各スタンドに見合う補正値を、スタンド使いの精神力によって決めるものである。

 

 

決断:A

 

重要な分岐点の際、それを感知し状況に呑み込まれず、冷静に判断する思考を働かせることができる。

先のことを考え、自分がどのように動けば良い結果になるかを見通し、引き際を見逃さない。尚、プツリと感情の勘忍袋が切れるとこのスキルは働かない。

 

 

蘇生(手):C

 

いわゆる心臓マッサージ。

スター・プラチナの精密かつ正確な動きを応用した、世界最高峰の蘇生方法。これに勝る現実的な心臓マッサージを、承太郎は知らない。

まずは対象の止まった心臓を、スター・プラチナが逞しく暖かい手が優しく包み込む。(心臓を掴まれた時に感じる生命エネルギーを受けるだけで、対象者は身体の傷が多少回復する。これはスキルボーナスだ)

そして、絶妙な力加減で心臓を圧迫し、身体全体へ血流を行き届くよう補助をする。何回でも、何十回でも。心臓が動くまで、承太郎は心臓を刺激し続けるだろう。

対象者が蘇生不可能な場合を除き、成功率は実に100%。蘇生後のボディーケアも万全。

 

原作では、蘇生の他にも自身の心臓を握り締め、鼓動を止め、心臓の活動を停止させたこともある。

 

 

(New)

成長性:A

 

可能性のスキル。

このスキルは、承太郎本人にどう影響を及ぼすのか全く予測不能。

本来ならこのスキルは″E″でなければならない。彼がこれ以上の成長を果たすなら、聖杯戦争はあまりにも一方的な結果で締めるはずだ。

 

 

「宝具」

 

俺が時を止めた:EX ″固有結界″

 

彼の持つ、精神エネルギーが生み出すスタンド、スター・プラチナを出している時に開放できる宝具。

開放条件は簡単だ。承太郎が、「ザ・ワールド」と唱えれば時は止まる。この時の魔力消費は、宝具ランクD程度で済む。(連続解放は1回のみ。その後は数十分の時間を置かなければ、マスターの魔力が底を突き抜ける程の魔力を消費する)

この宝具は、開放できて当たり前。常時、息をするように、心臓を動かすように、身体中の機能が運転しているように使えて当たり前という意識が、魔力の消費を押さえ込んでいる。

これは、サーヴァントが実体化が出来るのと似ている。バーサーカーなので、動くための消費量が少し増えている程度に過ぎない。

 

理屈を度外視したが故の魔力消費だが、頭がお堅い人物が仮にこれを発動すれば、宝具ランク″A″並に魔力を要求する。

 

特殊な宝具だが、攻略方法もある。

数は少ないが、条件を満たせば静止した時の中に入り込むことは可能。




沢山の感想をありがとうございます!

(アサシン編じゃなくてごめんなさい)


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妖の英雄、参戦す
妖の英雄、英雄に出くわす1


タグ追加しました。
今回からアサシン編となります。
ですが、アサシン編から読んでもストーリーが分からないということはありません。
この前は、バーサーカー編がありますが、全くの別物です。
では、どうぞ一時ですが楽しんでいってください!


夜の静けさ極まる、アインツベルンの森の末端。草木を揺るがす雄叫びが森を駆け、恐怖と絶望がその森を支配していた。

ずどん、鈍く重い破壊音が響く。音の発生源は、一人の戦士。

まるで大木の太さや頑丈さを視野にも入れていない、圧倒的な破壊力。一般人が理由も知らず立ち入れば、たちまちに混乱し、失神する未来は見て取れる。感じ取れてしまう。地肌で恐怖の気配を味わってしまえば、後はひたすら沈むのみ。底のない、畏れの闇沼へ。

 

「どうしたの、バーサーカー!なんで攻撃が当たってないのよ………」

 

小柄で特徴的な白髪の少女は、細々とか弱い声で呟く。

紅瞳は恐怖に揺れ、信じられないものを受け入れまいと拒む。涙は堪える。だが、変わりに声が弱々しい。

彼女は沼へとはまりかけていた。敵のサーヴァントに抱いてはいけない、僅かな″畏れ″が支配する世界に、足先が浸かる。畏れの海面に波紋が広がる。

 

「■■■■■➖➖!!!」

 

 

咆哮には苛立ちが込められ、目の前のサーヴァントに斧剣を振りかざす。

速い。まるで鞭を振り回すが如く。己の背丈はあろう武器は、2mを超え、太くゴツゴツとしたフォルムはしかし、その重さを感じさせない。

夜山に立つ戦士、理性と引き換えに強大な力を得たクラス、バーサーカーは荒々しく、しかし洗練された動きで武器を振りかざす。

瞬きをする毎に木が倒れ、地面に穴が空く。倒れる木が呻き声を上げ、えぐられる大地は悲鳴を上げる。バーサーカーの斧剣が大地を叩けば、地面は揺れる。当たらずとも、空気を割くだけで突風が発生した。これは正しく天災。大男は、″敵″を殺すために一山を削り取る勢いで、その怪力を発揮していた。

そして、動く天災の如きバーサーカーに狙われた敵。″影″がその合間を縫って移動している。ぬらりくらりと、まるで他人の家に堂々と上がりこむ妖怪のよう。決して逃げている訳でなく、自分はあたかも″攻撃されていない″と言わんばかり。

縦に切っても影、横に薙ぎ払っても影。切っても潰してもキリがなく、まるで金太郎飴のよう。

 

「…」

 

楽しげに男は笑う。

 

全力で遊ぶ子供のように。男は楽しんでいた。

 

一太刀、バーサーカーの背中に刀傷が入る。血は吹き出さない。変わりに、傷口から魔力が漏れ出していた。微量ながらも、この漏れは痛い。これが数十とバーサーカーに入れば、かなりの魔力を削り取られてしまう。

呻くバーサーカーの背後の岩の上に、気配が立つ。バーサーカーの攻撃が止むと、そのサーヴァントは現れた。

和服に身を包み、真っ直ぐ後ろへ伸びた月の光が似合う黒と白の髪が交じるサーヴァント。手には、刀。1m程の、山の香りが漂う木の鞘に入れた刀。

だが、ただの刀ではない。何かしらの呪いか、魔術回路の類いを乱す能力が備わった、厄介な代物だということはわかった。どういう伝承があるかはまだわからないが、宝具の類だろう。

 

「ひ〜っ!おっかねえ、まるで土蜘蛛だなお前!」

 

男は笑みながら言う。それは、欲しかったオモチャをプレゼントされ喜ぶ子供のよう。

 

イリヤの目には、バーサーカーを前に無邪気に遊んでいるようにしか見えない。バーサーカーが奮い振るう剛撃の数々は、あの男には無意味。斬った!と思ったら、夜に紛れて消えてしまう。この状況を打破する糸口を探さなければ、いかに暴走するバーサーカーといえど、″限界″がやってくる。

 

「■■■■■■■➖➖➖➖!!!」

 

狂戦士の振りかざす斧剣が、そこにいるであろうサーヴァントを狙い降ろされる。普通ならここで、斧剣を受けるなり躱すなり行動を取るはずで、ましてバーサーカーの攻撃を防御無しに受けきるなど不可能。

 

影のようなサーヴァントは、避けも、受けもしない。先ほどと変わらず、ただ立っているだけ。先ほどと変わらず、ただ笑っていた。

なぜそこまで楽しんでいる?

 

「そろそろ落ち着いたらどうだい、バーサーカー?そこの嬢ちゃんと少し話をさせてくれないか」

 

男はバーサーカーを見上げ、自分に振り下ろされる斧剣はまるで見ていなかった。

バーサーカーもイリヤも、その声を無視する。元々、バーサーカーに止まる、という理性は残っているかも分からないが。

バーサーカーの攻撃が、男に到達する。バーサーカーの攻撃が、サーヴァントの頭に落ちた。刀で受けることも、技術で流すこともしない。何故なら、

 

「やべえな。幾らなんでも、その破壊力は無茶苦茶じゃないか?」

 

サーヴァントには、当たっていない。掠りも、紙一重でもない。大幅にバーサーカーとの位置を取っているからだ。

いつの間に…?

それを、何故気づけないのか?

分からない、としか答えは出ない。決めつけるのはよくない。ここで結論を出すのは、あまりにも早すぎると判断しているが、それでも掴めないことは事実。

だからイリヤは、目の前のサーヴァントがバーサーカーの攻撃を受ける瞬間を観察することに専念する。これまでもそれに専念していたが、魔力の形跡すら追えないでいる。

 

空気に波紋が広がった、気がした。

その波紋は広がり、消えていく。気づくと、謎のサーヴァントも消えていた。煙のような、黒い影が漂うだけ。

 

かと思えば一転、バーサーカーの背後にそれは現れる。僅かな波紋が空中に広がり、同時に刀が振り下ろされた。

 

「何度でも生き返るなら、まだチャンスはあるってことだよな。バーサーカー、気に入ったぜ!お前、俺の百鬼に加わらねえか!?」

 

バーサーカーの当たらない攻撃を眺めらながら、手に持つ刀を肩に乗せるサーヴァントが言う。

その声に反応し、それが本人から出された声だと判断したバーサーカーは、次は無駄なジャンプなどせず、突貫する勢いでサーヴァントを攻撃する。

目で追うことは難しい。が、

 

「ん〜、会話できないのは演技とかじゃねえのか、やっぱり。仕方ねえ、今回は諦めるか。元々、勧誘目的だったし。一回だけ″殺し″ちまって悪かったな!」

 

その男には届かなかった。

やはり影。バーサーカーが突貫し首を狙った一撃は、砂のように霧散した。

今日、何度目かも分からないバーサーカーの咆哮。

 

「またな!」

 

バーサーカーの雄叫びを追い風に、アサシンのサーヴァントは持ち前の逃げ足で夜の森へ姿を消した。

1秒もすれば、静寂が訪れた。

影を纏ったサーヴァントは、もういない。隠れている可能性もあるが、それはない。あのサーヴァントがこの場にいた時の、妙な空気は夜の風に流されているからだ。

 

「クラスはアサシン以外あり得ないわね。あの気配遮断スキル、ランク高すぎじゃない……?」

 

 

 

 

10分に満たない戦闘は終わった。

 

森を荒地へと変えたバーサーカーは、袖を掴めぬ彼の後を追おうとしたが、マスターであるイリヤスフィールがなんとか抑制させた。イリヤの直感が言うのだ。とても悔しいが、ここは我慢しろと。

その直感に、賛成する。

歯を食いしばり、今の散々たる現状を受け入れる。

 

自信にヒビが入る。

 

「殺された……まだ、聖杯戦争は始まったばかりなのに、″一回″もバーサーカーが殺されたの……?」

 

負けるはずがない。だが、バーサーカーは殺された。

確信していた勝ちへの道の所々に、小さくヒビが入ってしまった。

だが、殺されたはずのバーサーカーは健在。全身に刀傷はあるものの、溢れる闘志に疲れは見えない。

何故、健在しているのだろう。そんな疑問を投げる者はいない。

 

「………」

 

「帰りましょ、バーサーカー。今夜はお兄ちゃんに会いにいくのはやめよ。まずは休みなさい」

 

湧き上がる屈辱の水。

これまでの苦悩に比べれば軽いものの、過去を思い出すより現在の記憶の方が強く反映されるのは言うまでもない。

 

自信に満ちた心にヒビが入る。

ガラスの隅に小さなヒビが入った。

 

 

少し、整理をしたい。そうしないと、城に帰った途端に寝てしまいそうだから。さっきの記憶がかすれでもすれば、糸口を逃すかもしれない。

まず、あのサーヴァント。クラスは何だろうか?

刀を持っていた。だが、気配を見つけにくかった。

ここから見るに、アサシンの可能性が濃ゆい。そうでなければ、説明がつかない点がある。セイバーというクラスもあるが、それはない。

アサシンには、気配遮断というクラススキルがある。ランクによって効果は変わるが、攻撃に転じることがなければサーヴァントといえど、気配を感じ取ることは難しい。

…が、ある程度まで近づかれれば、流石に気付く。どれくらいだろうか、少なくとも。迫られるサーヴァントの射程距離に触れるか否の時点で、存在を感知できるはず。

この見立ては、外れではないと思う。サーヴァントでも、アサシンが触れることができてしまう距離まで接近を許す程、呑気屋はそういない。

はずだが……バーサーカーは、それを許した。いや、本人ではない。マスターであるイリヤの頭に手を置き、よう!と気安く挨拶される距離になるまで気づきもしなかった。もしかしたら、声を出さなければ側で歩いていても、あの男の存在を感知すらできなかったのではないか…?

影を斬る感じだ。光を掴もうとして掴めない感じ。掴んだ手の中には、何もない。

イリヤの自信が傷ついた原因の半分は、これだった。

残り半分は、、。

バーサーカーの死。

バーサーカーは一度、アサシン(仮)に殺された。

簡単に言うが、それは異常だ。

バーサーカーは、特別な宝具を持っている。聖杯戦争にて、その命を12回まで散らそうとも、脱落しない。12回までは、死んでも復活する宝具。この効果を知るだけで感じ取れる、バーサーカーのケタ違いの強さ。1度死ぬと、復活するためには凄腕魔術師が一生をかけて積み上げた魔力分を必要とする能力を、既に消費してピンピンしているイリヤもケタ違いの化け物だが。

そこは問題ではない。

これほどの宝具を持つバーサーカーが殺された、それが大問題なのだ。世界広しとはいえ、複数回の死を迎える英雄は数いない。

簡単に伝えると、バーサーカーはとてつもなく強い。イリヤがマスターであれば、彼は聖杯戦争を戦い抜く歴戦の戦士の中で5本の指に入る実力だ。そのバーサーカーが、殺された。それも、わずか1分で。

バーサーカーを仕留めた、アサシン(仮)の攻撃は如何なるものか。

………不明。

正確には、聞き取れなかった。ワザとだろうか。

宝具であることは、間違いないと思っている。しかし、宝具の解放時、周囲にノイズのようなものが発生したのだ。音が掻き消えるような、嫌なものだった。

もう一つ、不明な点がある。

アサシン(仮)が宝具(仮)を解放した時、ノイズに混じって、もう一騎のサーヴァント反応を感じた。

何故か?どうして?

言える事は一つ。

アサシン(仮)には、一人の協力者がいる。

経緯は考えても分からない。

だが、いる。確かに、あの宝具は…勘だが、アサシンだけのものではない。

 

 

ヒビが入る。

そこから、僅かな闘争心が溢れた。

 

「絶対に、あいつはバーサーカーが殺すんだから………!」

 

誰よりも、敗北を嫌う。無様や、ムカつくといった感情は二の次。

イリヤは、敗北の後に待つ結果を知っている。その後、何があるかを考えて、結果としてつまらないと結論を出す。

勝つことは絶対だが、急ぐものでもない。道中を楽しんでいこうと考えていた矢先、アサシン(仮)に出会った。そして、一太刀浴びた。

負けず嫌いなイリヤの精神に火がついた。ただ、それだけのことだ。

 

まずは、あの掴みようのない存在を明かさなければならない。

あの男は言った。土蜘蛛、それに百鬼と。調べよう。

バーサーカーが一度屠られたのは、空気に溶け込むような存在に惑わされたからだ。あの時、もっと気を引き締めていれば…

まさか、最初から″宝具″らしき物を解放するとは、予想にすらしていなかった。

 

森の奥へ足を向けるイリヤ。彼女の少し後ろを、静かについて行くバーサーカー。彼女達の聖杯戦争は、敗北から始まった。

 

 

 

 

 

 

一人のサーヴァントによって、正規のルートは大きく逸脱する。




クラス:アサシン

筋力:C 耐久:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:C

クラススキル
騎乗(妖):C
気配遮断:-


保有スキル
鏡花水月:A+
-:-
-:-

たまたま呼ばれた、妖の総大将。
召喚されてしまったので、取り敢えず全力で遊ぶことにしたらしい。人間に危害を加える畜生以外に、本気で戦いを挑む気は今はない。


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妖の総大将、英雄に出くわす2

仕事のせいで軽く鬱気味になってしまいましたが、なんとか仕上げれました…!
今回は、のんびりとしたお話。


夜風に招かれ、男は目的もなく歩いていた。足は赴くままに任せる。気持ち的には、夕暮れ時に近所を散歩しながら夕日を楽しむ気分。生前はよく、夜と昼の合間、夕暮れを見に外を出歩いていた。

誰も通らない小道。いや、人はその道を避けていたのかもしれない。そこを通ると気持ちが落ち着いた。

大勢の人々が行き交う、少し窮屈に思う通り。男が歩くと、不思議と道が開ける。

 

「はぁ。なんで呼ばれたんだろうな、俺は」

 

夜空に浮かぶ月を見上げ、答えの出ない疑問をぼやく。求めていない運命が彼の手を引き、この世界へと連れ出した。あの時、興味本位で手を取った自分も中々だ…

 

立ち止まり、辺りを見回す。気づけば山を降り、住宅が立ち並ぶ道を歩いていたようだ。学生服を着た高校生や、仕事帰りでくたびれきった顔のサラリーマンなど、談笑したり溜息を吐きながら我が家へと帰っていく。

 

「平和だな、こうして見ると。聖杯戦争なんて物騒な争いがあるとは、夢にも思わねえ」

 

昔もよく、こんな光景を見ていた。

苦難が待ち構え、それを必死で打ち砕く。

足掻いて、走って、立ち止まることをしなかった。立ち止まれば、大将としてあいつらを引き連れる事なんてできない。百鬼の先頭に立つ重みを、実感できない。

やがて平和が訪れた。

俺を呼ぶ声につられ、後ろを振り向く。その声一つ一つが、どうしようもなく魅力的。官能的な意味はなく、親しみがそこにある。彼らは、全て自分の力となってくれる仲間。共に人を想いやり、守ることを誓った。

記憶を辿る。今、この歳で呼ばれた意味を考える。

 

 

聖杯曰く、全盛期の姿、能力を持って現界するらしい。

そうか、とだけ呟いて彼は聖杯に、自信が呼ばれた理由をそこで問うことはしなかった。

「それで、俺のクラスはもちろんセイバーだよな?」

7つのクラスがあると知り、呼ばれた理由そっちのけで聞いた。

返事は、「アサシンだ」と色のない返答。感情が込められていない、マニュアルのセリフを機械で再生したような、こちらとして反応に困るものだった。アサシンと聞いて、酷く落ち込んだ。余裕でセイバーだと確信していたから。

「真名、良奴 リクオ。クラス、アサシン」

落胆するアサシンを前に、聖杯は続ける。

それだけを淡々といい終わり、後は知識を受け取らされ、俺は召喚に至る。曇り空が永遠と続く待機場所は一転、目を開けると……

 

 

「ん、思い返してみたけど意味があるかと言われれば、ないな」

 

一軒家の屋根に上り、座る。今の一時、この聖杯戦争を楽しむくらいしか、アサシン…真名、奴良 リクオは思いつかない。途中まででなく、最後まで本気で楽しむ。第二の生は、生前と変わらず在り続ける。聖杯にかける望みは、呼ばれた理由が分からない以上、持っているはずもない。いや、聖杯に頼み込む程の望みがないから、呼ばれた理由が分からないのだ。

 

「なあ、メディア。ほんとにどうして、俺なんかを呼び当てるんだあ、全く」

 

頬杖をつき、誰もいない背後に顔を向け、リクオは誰かに問う。

それは、妙な光景に違いない。リクオは、何処の誰かも知らない、立派な木造一軒家の屋根に座っている。では、リクオはメディアという住人に話しかけているのだろうか?

そんなはずはなかった。リクオはあくまでも、聖杯戦争に参加するサーヴァント。彼に限らず、″マスター″以外の人間とは接触をできるだけ避けようとするものだ。それは自身の隙を見せないためであり、正体を隠したいがため。

しかし、リクオに限っては、この2つは当てはまるかどうかは定かではない。

特に、深く考えていないのが現実。だが、常に気配は悟られない。

故に、彼の気配に住人が気づくはずもなく。では一体、彼は誰に話を投げたのか。

 

「本当よ。正直なところ、私にも理解できない事が起きてしまった、としか言えないわね。妖の大将さん」

 

リクオの背中に、ボンヤリと浮かび上がる人影。言葉を発したかと思うと、ソレは不満そうな態度を全面的に表へと出している。

彼は全く驚かず、さもその光景が普通かのように、月の光に照らされる影を見る。

 

「ん〜。あれだな、夜に召喚とかするからだろ……夜が触媒になっちまったんじゃねえのか?」

 

正体のない女性は、一つ小さなため息をこぼす。

 

「あのねえ。夜が触媒だなんて、そんな話聞いたことありません。夜が触媒だったなら、凡百のマスターの殆どは貴方を召喚するわよ」

 

それもそうだな、笑い気味に言い屋根に寝そべる。

夜空を見上げた時に見える月。静かに地球を見守る、夜の太陽。

もしかすると、あの月に誘われて俺は召喚されたのかもな。なんて考えて、意識をメディアと呼んだ女性へと戻す。

 

「なんだか妙に静かな気がするんだが、メディア?まさかとは思うが……」

 

メディアは不気味な笑いを溢す。少々古臭い笑いは、リクオの的外れな疑惑を否定しているものとは、気づいていない。

 

「あら、心外ね。そんな訳ないでしょ?その件に関しては、不服ですが諦めました」

 

その返事に、リクオは小さく笑みを見せた。

念を押した意味を含めたが、メディアの言葉を聞いて安心の息を漏らす。

 

「そうだよな、悪かった。少しくどかったな」

 

召喚され、マスターがサーヴァントだと知らされた時は、大して驚きはしなかった。むしろ、良い作戦だなと、感心した。世の中には、飛び抜けた行動力を持つ者が沢山いて、彼女はその中でも飛び抜けていたんだな、そう思った。

これを卑怯な奴だ、臆病め、そんな言葉を並べ刺激する必要もない。

 

「他のサーヴァントに対抗するためにと思ってやるはずだったのに。貴方の力なら、その必要はなさそうですもの」

 

だが、彼女が聖杯戦争に向け、どのような姿勢で取り組むのかを知った時、リクオの目にはメディアをマスターではなく、敵として映った。

その後は言うまでもない。

これまで通り、妖としての己を貫き、リクオは行動した。

苦労の甲斐もあり、メディアを説得することに成功した。

 

「改めて見ても、不思議だわ。いえ、丁度良いと褒めるべきかしら」

 

彼女の言葉をどう受け止めるか悩んでいると、

 

「不思議なスキルだって言ってるのよ。貴方は私を″纏う″だけで、魔力に関してはほぼ倍。それ以外も、ワンランク上になるなんて」

 

「俺も想像以上に強くなってて、今でも驚いてるさ。魔力ってのはすげえな。少し、お前の畏を刀に乗せて斬っただけでバーサーカーを殺っちまうんだからよ」

 

「デタラメな強さに間違いないわ。ですけど…」

 

つい先ほどの戦いを少し思い出す。

夜山に立つ枯れ果てた大量の林。人が歩き通れる道が何処かへ続いている。リクオは、たまたま立寄ったに過ぎなかった。

妖を誘っているように見えたのかもしれない。或いは、夜山を歩く巨人、バーサーカーの気配を直感で嗅ぎ取ったのか。散歩のつもりで入った森で、サーヴァントと出くわした。

 

「魔力消費が凄まじいのは、どうにかならないのかしら!?貴方が″鬼纏″を発動した瞬間、私の十分の一以上、魔力が無くなったわよ!」

 

そこでつい、やってしまったのだ。リクオは、バーサーカーを己の百鬼に加えようと説得するも、話が出来ない事を知ると…

らしくなく、大声を上げた魔女。

 

「それくらい、どうってことないだろ?細けえ事だ!」

 

「わ、悪かったって!そんな距離からお前の攻撃浴びたら、流石に″間に合わねえ″」

 

「あんまカッカしてっと、老けるぞ?」

 

「ほんとに殺すわよ?」

 

背中から締め付けられるような殺気を浴びる。本当に殺気を放つものだから、慌ててメディアをなだめる。彼女の沸点は、割と低いのだと知る。

メディアの荒ぶる感情を落ち着かせると、リクオは腰を上げた。

立つと、側を通り過ぎる風に紫色の羽織がふわりとなびく。魔女、メディアが身を包む装飾をイメージした羽織は、どこまでも怪しくリクオの背中を覆う。

 

「よぅし、今夜はあと一人、できれば二人に声を掛けてみるか」

 

 

 

 

坂道を下り、数分も経たない間にリクオは、これまで見てきた一般人とは違う何かを放つ存在を見つける。辺りに漂う微かな魔力が、彼らの存在を人の域を超えた者だと知らせる。

だが、微細な魔力を感じ取れるのはメディアのおかげかもしれない。

彼女を纏い行動していると、魔術師の魔力を手繰り寄せることも可能になった。リクオのみ、かつ″今″の状態なら、相手の中に籠る魔力は視ることもできなかっただろう。

 

「お〜、あれか。手前の高校生くらいの男女は、……なあメディア、どっちがマスターか分かるか?後ろの、黄色いカッパを着たサーヴァントの」

 

居たのは、計3人。先頭を歩く高校生くらいの男女と、控え目に後ろをついてくる黄色いカッパを着た人を超えた存在。

カッパの下から覗く甲冑。月光に反射し、控え目な光が鎧を見え隠れさせていた。何より隠しようのない、大人しい野獣の精神。

 

「あら、手を組むのが早いのね」

 

彼らのことを言っているのか、メディアは呟いた。

手を組む、という言葉に、

 

「ん?」

 

思わず疑問の音が出てしまう。

この状況で、手を組むと表現するのなら。つまり、

 

「アサシン、あそこの二人は、どちらもマスターよ。カッパを着た可哀想なサーヴァントのマスターは、坊やね。坊やの方は相当な未熟者、サーヴァントの霊体化すらさせてあげられないなんて」

 

そう。

あの二人は、聖杯戦争に参加したマスター。

リクオは、メディアのお陰で大雑把に遠くの魔力を手繰り寄せている。彼の召喚は正規のモノではないらしく、所々サーヴァントとしての機能を欠けていた。

 

「へぇ、なるほどな。俺らみたいに協力してるってことか」

 

「隣に立っているお嬢さんは、魔術師としては格段に上の方よ。警戒するなら、霊体化しているお嬢さんのサーヴァント」

 

そうかい、それだけを呟きリクオは步を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【次回抜粋】

 

「か………は………」

 

それは、死を意味する一太刀。

どうしようもない死を与える、至極最高の選択。聖杯戦争からの離脱には、ただこの一手で足りる。

………は何も言わず。少しだけ驚いたように目を開き、口元を結ぶ。

非常に酷ではあるが、だが決定事項。

たった今、聖杯戦争最初の敗退がここに刻まれる。




はい、ということで…
次回抜粋という形で、次回投稿予定のものを書きました。

本当は、リクオが士郎、凛、セイバーに絡みに行くシーンまで書きたかったのですが、気力が持ちませぬ…
どうか、次回をお待ちください!


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妖の総大将、英雄に出くわす3

閲覧ありがとうございます。
1ヶ月ぶりの投稿となります。やや遅い更新ですが、言い訳をさせて貰いますと…
本当は前半と後半で分ける筈だった話を、急遽変更して1話にまとめました。なので今回は、1万字を超える作品となっちゃいました!

※急遽変更で、途中の文章がおかしい場所があるかもしれません。もし違和感を感じられたら、お手数ですが一言お願い致します。


住民達が家に着き、静かになった夜の住宅街の道に人の気配はない。この時刻の夜道は、いつも通行人が少ないが、今日は少し寂しく思う。が、しかし。通りを歩く人が見当たらないのも、今のこの街の状況なら納得せざるを得ない。

数日前から発生している、不可解なガス漏れ事件。

そして、残酷な殺人事件。まだ数える程しか発生していないが、そのどれにも共通している事がある。この日本で、本当にあり得るのかと耳を疑った。

犯人未逮捕。それどころか、犯人へ繋がる手掛かりはゼロに等しいらしい。きっと、警察は今も事件解決に奔走しているに違いない。今朝までは、この街で起きた事件に対して思う感情は、物騒だな〜とか、早く解決して欲しいな、なんて他人事だった。…ガス漏れについては、他人事ではないが今は置いておこう。

普通に日常を過ごせば、関わる事はまずない。良い事だ。それで良いじゃないか、自ら面倒ごとに割り込むなんて何を考えているのか理解が難しい。

…これが普通な思考回路なのかもしれない。もう、これ以上踏み込む必要はない。

 

「ねえ、衛宮くん。貴方、私が説明してるのに頷きも返事もしないなんていい度胸ね?まだ現実を受け入れる器が無いって事かしら?」

 

衛宮、そう呼ばれだ少年はハッと我に戻る。やや苛立ちが篭った声色に、自分は失礼な事をしてしまったと認識した。この夜道で、周囲の声が聞こえなる程考え込むなんて、どうかしている。

自嘲気味に苦笑いし、聖杯戦争という戦いに参加してしまったマスターである彼、衛宮 士郎は隣で歩く、同じくマスターの遠坂 凛の顔を見る。

 

「い、いや……ごめん遠坂。ちゃんと聞いてたよ。新都のガス漏れ事件や、近くで起きてる殺人事件も、聖杯戦争と繋がりがあるのかもって思ってたんだ」

 

聖杯戦争、初夜。少年、衛宮 士郎は通るべき道に一歩を、知らず識らずの内に踏み込んでいた。

 

「………否定出来ない、寧ろその可能性が高いわ」

 

彼女が言うと、納得せざるを得ない。事件が起きてしまった事にではなく、自分がもう無関係では無くなったという、複雑な心情にだ。食い止める…止めなければならない立場にいると確信し、同時にこれからも広がるかもしれない被害に焦りを感じる。

…士郎は考える。俺は果たして、この街を…

 

「だけど、貴方はまず自分がどう生き残るかを考えるのが先よ!一分一秒先を生き抜く事を第一に、これからマスターとして戦わなけれらならないんだから。ここんとこ、分かってる!?」

 

そ、そうかもしれない…凛のあまりにも的外れな、真剣な声にたじろぐ。呻きながら呟くも、士郎には納得のしようがない事がある。

 

「無関係な人達が、これ以上犠牲になるなんて理不尽すぎる。周りを巻き込むのは、横暴だろ」

 

心に知る英雄、ヒーローとは決して人に害を及ぼす者ではない。気さくに、又は気高く接する。優しく、厳しく。正義としての在り方を踏み外す事なく生きていく。前を向き、顔を上げ何かを常に奮起させる。汚れを洗っては幸せにして、畏れを持って世界を動かす。

 

「過去で、すっごい偉業を成してきた英雄が呼ばれるんだろ?じゃあ、一般人を巻き込まずに済む方法だっていくらでもあるはずだ!」

 

自分の事は、少なからず関わってしまった。だから、刈られそうになった事は仕方ないのかもしれない。本心は、それで片付けてしまいたかった。自分だけでなく、この街が巻き込まれた事を予感した時、理解してしまった。

聖杯戦争の地に選ばれた冬木市は、誰彼例外なく、既に関係者となってしまった事を。

 

「はあ、衛宮くんって見た目以上ね。……もしかして、現状割と余裕だったりする?」

 

「そこまで策士じゃないよ。本当に俺は………」

 

何も知らない人間だったんだ、と言葉を繋げようとして止まった。

当然の事だが、彼の立つ場所はもう、常識とかけ離れた舞台。日常を凌駕している。

 

が、己の知らなさを恥じて言葉が詰まったのではない。もう一度言おう。止まったのだ。

士郎の後頭部に、トンと何かが置かれた。今感じ取った、何かが置かれたという感覚は、物凄く違和感があったのだ。彼の頭部に、何かが触れる事事態奇妙ではある。そう、触れている。触れられている。じゃあ、この場にいる2人…(無愛想な態度のアーチャーは霊体化しているから数に入れていない)、どちらかが…こんな事を今するだろうか?

頭の中で何となく、そんな事を考えるが一瞬だ。

何より、士郎は、感じ取った時間が遅すぎるような気がしてならない。

 

「わっ!?セイバー、俺の頭叩いてどうしたんだ。何か、虫でもついてた?」

 

変だな、と思いつつも咄嗟の事なので深く注意なんてしない。何とないちょっかいだ。だから俺は、警戒せずに振り返った。

 

 

夜道での襲撃に警戒しているセイバーは、士郎の気の抜けた声に意識を向ける。突然、驚くような声を出すものだから、住宅を見ていた顔を勢いよく振り向けた。

 

「士郎、」

 

士郎の言葉を聞いて、セイバーは振り向く前にある程度の予想をしていた。彼女のマスターは、頭を叩かれたと言った。だが、セイバー自身はそんな事をしていないし、するつもりも警戒を怠る気もない。

つまりマスター、士郎は凛にちょっかいを掛けられたという結論を候補に挙げる。

この結論は同時に、凛がそのようなおふざけをするのか、という疑問も発生した。

 

「士郎、どうしたのです……」

 

士郎の背中へ視線を向ける。一瞬だけ、夜の道を照らす街灯にその姿が霞んで見えた。暗い場所と、明るい場所とで色に差があるせいだろう。この時代の知識があっても、目で見る分にはやはり違和感が残ってしまうらしい。

セイバーは、前を歩く士郎と凛の背中をやっと、ハッキリ見ることができた。二人は立ち止まっていて、特に士郎の様子がおかしい。凛がいる反対の方向を見て、誰かと話しているような素振りを″一人″でしていたのだ。

士郎は、右手で頭の上を払っている。まるで、頭の上にある何かを半分冗談、半分驚きで確かめるような………

セイバーは、士郎の右隣に目を向ける。当然の如く、誰もいない/見えていない。……改めて二人の背中を捉えるが、それに対した意味はなかった。きっと、小さな虫でも飛んでいて、それが彼の耳元を飛んでいるのだ。一瞬、そう思った。

だが、だが、違う…!セイバーの直感が、闇を見ろと警戒音を発信。体内で、ブザーのような緊急信号が駆け回る。ピリッと脳が信号を発信した直後、数秒遅れで、士郎の異常を認識する。

 

「な、なんだ……?」

 

士郎の右側、何もない空間のはずの場所が、ピシリと音を立て砕け散るような錯覚を味わう。次に、まるで霧が晴れたかのように、徐々に徐々に。士郎の右隣に、えらく後ろに長く伸びた髪に、鋭い目つき。濃い紫色の羽織を着た男が堂々と立っていた。

 

「…っ!」

 

心の中で、馬鹿な、と不意を突く現実に思わず呟く。

男は、彼女のマスターである士郎の頭に、右手を置いていた。人を振り向かせる為に、まるで友人が取るような行動。しかし、この男は明らかに違った。まず、人間でない。セイバーの警戒をすり抜け、目の前に現れる怪異さは鳥肌モノ。

事実、セイバーの全身はコンマ一秒程、動く事が出来なかった。その中で、思考回路だけは動いている。必死に、思考回路だけは停止する事を避けたのだ。

マスターを守る。この男を切り離す…!と自分に言い聞かせ、そして。

 

「貴様ッ!!!」

 

動いた。気迫の声に、男は黄色のカッパを脱ぎ捨て襲い来るセイバーを見て、

 

「よっ。夜の散歩中か?」

 

などと言い、何かを握り縦に振り下ろすセイバーの攻撃を、後ろに飛び避ける。目の前から男が離れ、セイバーの攻撃が空を斬った事でようやく、士郎は硬直から解かれ尻餅をつく。

 

「二人共、離れて!士郎、何をされたんですか!?」

 

道路に尻をつく士郎を背に、セイバーは焦りを露わにする。彼の真横に立たれて気づかなかった己に、苛立ちを覚える。最悪だった。目の前にいながら、マスターの側に立つ男の存在を、マスターが自分の身の危険を感じてからでなければ知れなかったのだ。

まず確実に、セイバーは一度目の敗北を叩き込まれた。男は、殺ろうと思えばマスターの背後から出来た。それをしなかった事を良し、と開き直るなんて無理な話。

忘れろ、忘れる。今は考えるな。そう言い聞かせ、眼前の敵を睨む。

 

「頭に手を置いた、それだけだ。あんたが不安がる程、妙な事はしてない」

 

男は静かに言う。

これを聞いて、屈辱を覚えずにはいられない。

 

「……それは私が判断する。士郎の身に異常があれば、慈悲なく貴様を斬り伏せる!」

 

両手に握る、見えない聖剣を構える。後ろで慌てて立ち上がった士郎は、全身の違和感を両手で触り探した後、

 

「俺は大丈夫だセイバー。あいつ、本当に手を置いただけだと思うぞ。身体に違和感はないし、突然の事で″驚いた″だけだ」

 

断言した。セイバーを安心させる為、ではなく本気でそう言った。何もされていないと断言した本人すらも、その事実に驚いている。士郎の身体に、魔術的な細工をされた事を疑う遠坂も、一通り見た後で、これ本当に何もされていないと驚き混じりで呟く。

だが、セイバーはこれで黙る訳にはいかない。目の前の男が敵……サーヴァントであるなら、ここで斬り伏せる。

敵との距離、およそ10m。瞬き一つで詰め、決して油断せず一撃をその身体に刻む。つもりが、

 

『怪しげな男は、静かに行動を開始していた』

 

「な、言っただろ。マスターだろうが人間は人間。無闇に殺すなんて俺の仁義が許さん」

 

『口元が悠々と笑う理由は一つ。セイバーを己が舞台へと、無理矢理に立たせたという確信。この男の真名…出典を知るならば、この意味を理解し又、どう動くのかに集中するだろう』

 

…なに?

飛び出すコンマ一秒前で、何故か動きを止めてしまった。彼の言葉を、セイバーは耳に入れていない。今、動けないのは、彼の言葉のせいではなかった。

 

「それよりだ、セイバーなんだな。羨ましいなぁ、俺もセイバーが良かった」

 

『セイバーの、まるで信じられない物を見ているという表情は、男にとって″畏″を抱いてしまっていると伝えるのに十分すぎた』

 

…は?

自分の両眼をこすりたくなる。

セイバーが攻撃に移る直前で、紫色の羽織を着たサーヴァントを捉えきれないのだ。姿が、全身が端の方から少しずつ闇に消えていくその光景。

 

「此処だけの話、俺、絶対にセイバーで呼ばれると確信してたんだが、来てみりゃガッカリ。当てられたのはアサシンだった」

 

セイバーの目に写る男は、とても曖昧な存在感を放っているからだ。

 

袖に両手を入れ、アサシンと名乗るサーヴァントはしみじみと言う。

あまりの隙に、一瞬、油断を誘う演技かと疑う。あまりの悠長さに、思わず結んだ口元が緩む。釣られてか、士郎がパチリと瞬きし、呟く。

 

「アサシン…」

 

「士郎、一ついいですか?」

 

「どうした、セイバー」

 

「アサシンの姿に、何か違和感を持ちませんか?こう、姿が見えにくいとか」

 

「姿…?いや、普通に見えてるぞ」

 

アサシンは自分の話を聞いていない二人に咳払いを一つ。このアサシン、名前に似合わず余程のお喋り好きらしい。どうしてもセイバーになれなかった事を、セイバーとして召喚された彼女に聞いて欲しい様で。

 

「他に、ライダーとバーサーカーのクラスに該当するみたいだが、どれもほんの少しの間だけだった。だからな、アサシンかセイバーのどっちかだったんだ、どっちか」

 

「何が言いたい」

 

セイバーは士郎と、凛の様子を見る。二人共、唯目の前の敵に警戒しているだけのようで、違和感を感じてはいなさそう。

アサシンの身体が、徐々に消えていく。目を見開きその姿を捉えようとするも、無駄に終わる。このままではやばいと、直感で理解する。

 

「……召喚の不手際、俺は違法行為スレスレで呼ばれたせいでアサシンとして現界……っつ!?いってぇ!!」

 

突然、アサシンは何者かの攻撃に襲われたように、飛び上がるとイテテと苦痛の声を上げ背中に手をバシバシ叩きつける。

地団駄を踏み、背中に火を点けられたかのように暴れまわっている。これは、キャスターの仕業なのだが彼らが知る由も今は無く。

 

「何やってるんだ?突然大声上げて」

 

「戦いの前の舞い…ですかね」

 

セイバーの目には、はっきりとアサシンの姿が見えていた。

一体、あれは何だったのか?

 

その後ろで、明らかに暗い表情を浮かべる凛。

 

「衛宮くん。あれはマズイわ、あり得るの……?アーチャーも、セイバーですら気づかなかった。間違いなくアサシン……けど、想像を軽く超えてきた」

 

とにかく今は戦わない方がいいと、凛は言うと。

向き直る士郎の背後。凛は、士郎の耳にも聞き取れないくらい小さな、それこそ囁いても聞きれるかどうかという音量でアーチャーに一つの指示を出した。

 

「アーチャー、狙撃の準備をして。アサシンをここで消すわよ」

 

 

アサシンが唐突に悲鳴を上げ、数秒後には止んでいた。別に死んだ訳でも、ここから立ち去ったのではない。アサシンは、再度同じ場所へ戻り士達と向き直っていた。

向き直ったのと、凛がアーチャーに指示を出したのはほぼ同時。何方が早いかと聞かれれば、僅かにアサシンの方。

 

「ふう、悪いな。急に背中が、燃えるように熱くなってよ。なんか収まったし、もう大丈夫だ」

 

どう見ても、どう考えてもそれは異常なのだが、本人が良しとするならいいのだろう。本人の口ぶりから考えるに、原因は不明とのことだが。

凛は、それよりも。今の行動に果たして、本当に本人が知らないのかを疑い始めていた。

 

「あんたの心配なんて欠片もしてないけど」

 

もしかすれば、今の行動には、アサシンの真名に辿り着く手掛かりが隠されているかもしれない。

 

「そうか〜。それで、俺が騒いでる隙を見て……」

 

そう考えて、何とかヒントを聞き出そうとした矢先。

 

 

背中に寒気が走り、脳に精神的な衝撃が走る。

 

 

闇が生まれた。アサシンが、闇を放った。アサシンは微かに口元を上げて、目を瞑る。

 

 

凛は目を逸らしそうになる。脳が、アサシンの行動を見るなと拒絶する。

 

 

いや、ダメだ。ここは私が動かなければ、殺される…!

 

 

思いっきり目を閉じ、すぐに目を開ける。もう畏れのハッタリにたじろぐものか。そう喝をいれ、心の片隅に出来た僅かな畏れを吹き飛ばした。

 

 

視界から、アサシンの姿が見当たらない。

 

 

アサシンが消えていた。

 

 

……つもりだった。

 

「うそ…」

 

畏れはやって来た。夜の祭りに誘われた何かが、静かに。

気づけば凛達の周囲に、霧のような魔力が渦巻いていた。寒気を運んでくる薄暗い霧はしかし、視界を黒く染めるまでには至っていない。

 

「アーチャー!」

 

声を張り上げ、今、正にこの場から離れ狙撃の準備へ向かうアーチャーを呼び止める。自分の側から離れる事を、危険だと判断したからだ。無論、アサシンが直接マスターを狙いに来る事を視野に入れつつ。何よりも大きい理由は、アーチャー自身。

 

「遠坂、これは!?」

 

身体を覆い尽くし始める霧を、セイバーが風を起こし士郎の身体から取り払う。

 

「くっ!嘘…これは、簡易的な結界?あのアサシン、魔術も使えるっていうの!?」

 

「アサシンのマスターの仕業かもしれません。私とアーチャーを引き離して、片方ずつ攻め崩す気か!」

 

 

セイバーの予想は外れて欲しいと願うも、どうやらそうは行かないらしい。

 

「馬鹿な………!」

 

あぁ、その声を聞きたくなかった。その、本気で焦り危機迫る声を。

およそ百メートル右から、アーチャーが武器を取り出す錬成音が聞こえる。

 

 

「セコセコと動くのは止めようぜ?」

 

まるで景色。視界に溶け込むコンクリートの道路や、住宅の敷地を分け隔てる壁。常に意識せずに目が見ている光景のように、アサシンは景色から現れた。

闇から出でる紫色の羽織が揺らぎ、彼に実態がある事を教えてくれる。揺れた時の、僅かな音は存在位置を知らせてくれる。

それでも、捉える事は出来ない。全ての情報を取り入れるのに、ラグがありすぎる気がする。説明をつけるには時間が無さ過ぎる。理屈なんて役に立たない事を改めて認識する。

 

「ホラ、取り敢えず表に出てこいよアーチャー!」

 

アサシンは腰に携えた刀を抜くと同時に、何も居ない場所を斬りおろした。凛は、そのシーンを見てしまい、そして全身が硬直した。そもそも何故、アサシンが現れた場所を特定出来たのか分からない。分かりたくなかった。

アサシンは、霊体化したアーチャーを追った。簡単ではないか。

 

現状を解説すると、こうだ。

凛の側から跳躍し狙撃ポイントへと向かう霊体化アーチャー。

それに気付き、狙撃に備えるのではなく。アサシンは直接、アーチャーからの狙撃を防ぐ為にアーチャーを落としに行ったのだ。

 

「なんだ、どこを見て斬っている?あと少し足りな……」

 

恐らく、アサシンとアーチャーは空中で目を合わせているに違いない。

事実、アーチャーはアサシンに目を合わせられていた。冷や汗が出る思いだ。

アサシンが、手に持つ刀を構える。アーチャーも、両手に持つ双剣を構えた。瞬間。

 

夜空を割かんばかりの混沌。夜を通り過ぎ、深い闇を連想させる景色。空中に切れ目が縦一直線に入り、豪と音を立てる。10mはあろう斬れ目を空中へと作ると、裂け目は一気に横に広がる。

この場にいる全員が、その裂け目を別世界への入り口に例え重ね合わせた。畏怖の門、罪人が果てに行き着く終着点。地獄の門が開いたかのように。

 

(霊体化を強制的に…)

 

「よっ」

 

裂け目から現れたのは、赤い外套を着る英雄、アーチャー。動揺と混乱の目をアサシンに向けている。嬉々と片手を上げ、親しそうに手を振るアサシン。笑みなのもまた、気味が悪い。してやったり!という表情はなく、単純に親しくしたいという気持ちを押し出した感情。

を、アーチャーは応えるつもりは無いと双剣を投げる。残念そうにため息を吐きながらそれを刀で弾く。

 

「おいおい、大事な武器を使い捨てみたいに放るなよ。あれ、てゆーかお前アーチャーだよな?」

 

「そうだ。弓兵が身の保身で双剣を持つのは悪いか?」

 

軽口を飛ばす両者は地面へと降り立つ。アサシンは無言で、アーチャーの事をどう扱うかを考えていると、

 

「……」

 

呪文のようなものを唱え終えた後、彼の両手に先程砕き散ったはずの双剣が、元通りの状態で召喚された。

 

「おぉ〜!便利だな、その〜〜〜魔術?ってのは」

 

「アサシン、随分と余裕があるようだが。ふむ、その刀が厄介だな」

 

「あれは……アサシン、私のマスターに何をした!」

 

「お前と話すのに邪魔をされたくないんでな、ちょいとばかし大人しくして貰ってるだけだ。毒霧とかじゃねえから安心して、俺と向き合え!」

 

同時に両者が地を蹴り、突風が二人の後を追う。その首を跳ねる為に武器を振るう。

アーチャーの双剣が、アサシンの身体を右、左、上、下から突きと流れるように繰り出される。その全てをアサシンは刀一本で捌ききる。剣を交える一瞬で理解した。力に頼らない、流す捌きがこの男は上手い。これ程の刀扱いは過去に数える程いる者ではない。攻めに頼らない、守りの立ち振る舞い。

恐らく正面から崩す事は、アーチャーには出来ない。これがアサシンとしての腕だと考えると、セイバーの騎士は想像も出来ない。

故に策を練らなければならない。いや、策をどうのこうのと考える以前に、打つ手は一つしかない。アサシンの″能力″と今の攻防を机上に、アーチャーが視るべきは二つ。

一呼吸さえ許さないと言わんばかりの攻め始め、アーチャーの耳が微かな崩れる音を拾う。

それは想定内なので、次の攻撃の準備に移る。

準備とは、武器の″交換″だ。そうしなければ、アサシンに刃が届かないのだ。

突き直後、アーチャーの持つ双剣が粉々に砕け散る。間髪入れず、双剣を両手に召喚する。

予めそうなる事を見越していた行動に、アサシンは感心の声を漏らす。

水平に、垂直に、弧を描き、時に苛烈に、稀にフェイントを混ぜ、一歩踏み込み。その度に砕ける双剣を間髪入れず手に召喚。

 

「うお……ぉぉぉ!!」

 

アーチャーの小さな唸り声は、自身の意識を繋げ続ける為に出す。

アサシンは、アーチャーの攻撃を受ける事に専念するつもりだろう。双剣の斬りを全て、片手に持つ刀で当てて防いでいた。

 

まず一つ目は、武器の耐久度。アーチャーは投影魔術という、この場で武器や道具を造り出すマイナーな術を持っている。時間が経てば魔力へと変換されてしまうが、時間一杯で砕ける程の威力を受ける事は少ない。ランサーとの攻防時は、一本につき20回以上は持ち堪えていた。

サーヴァントが相手ということもあり、加え投影魔術は、本物の真似事。贋作と言われる、コピー。耐久については、幾らか劣る。

だが。それでも、生半可では捌ききれないランサーの重く疾い槍を凌いだ双剣が。たったの五回。いや、性格には四回。五回は、長く持っての話だ。…あまり言いたくはないだろうが、最低一回で破壊されてしまった。

理由はたった一つ。アサシンの持つ、アサシンとは真逆の性質を持つであろう刀だ。恐らくは宝具。真名について詳細は不明だが、どういう効果を持っているかは理解した。

 

″魔力で構成されたモノ″を問答無用で破壊する刀だ。

更に掘り下げるなら、霊体化すら一太刀で解いてしまう程、魔力看破に特化している。……一体、どのレベルまで通用してしまうのだ。

 

「くっ……ぉぉお!!」

 

最悪の相性だ。いや、アーチャーでなくとも、アサシンと相性のいいサーヴァントはそういない。アーチャーは、アサシンとの斬り合いで自分が勝てる見込みは無いと、この時理解した。鮮やかで華麗な″守り″に徹しているうちは。

 

砕ける自分の武器を次々と投影し、何れ来るはずの擦りを狙い続ける。過去例のない連続投影に、身体がいい加減壊れそうな気がしてきた。

 

「おぉっ!?バーサーカーとは違って」

 

アサシンは不気味な程に、楽しそうな笑みを浮かべて刀をぶつける。

 

「筋が細けえな。面白いアーチャーだ!」

 

軽やかな足取りで、アサシンは絶妙に有利な立ち位置をキープし続けている。

知っている。アーチャーが攻撃する上で、アサシンの立ち位置は少々斬り込むのに足りない距離だ。

本領が発揮できる数センチをずらす事で、アサシンはアーチャーの攻撃を小さな受けで流しているようだった。

 

「私の攻撃を流しておいて、何を言う」

 

「いや、悪い事をしてたな俺は。アーチャー、その苛烈な双剣捌き気に入った」

 

つまり、アサシンは既にアーチャーとの適切な間合いを心得ている。

 

「…!」

 

闇夜。狂い爛れる程の畏れ。妖気なアサシンの目の意思が、暗く鮮やかに開かれる。妖気なまでに守りに徹する刀が、萎びやかに刃の真価を放つ。

刀は切れ味の良い音を、空を斬りながら発生させアーチャーの首を狙った。

 

アサシンは今、その間合いを詰め攻撃に転じた…!

 

遂に、アサシンが殺気を込めた行動に移った/″移ってくれた″。

 

「ぐっ……」

 

身体の神経が千切れる音が、確かに聞こえた。

 

「太刀筋をバカにした詫びだ。俺も本気で応えるぜ」

 

守りに徹している、とアーチャーは考えていた。それは、アサシンだけに光を当てたものではない。アーチャー自身にもこれは言えるのだ。アサシンは攻撃をしてこない。故に、アーチャーは自分の身を守る為に…身を守る為の攻撃を繰り出す他無かった。

ここまでに擦れた魔力は、集中力も合わせて八割と言ったところか。″万全でない″身体でよく持ち堪えた方だろう。

 

この時を、この攻撃を待っていた!

 

最も勢いのある攻撃の中で、勝負に出る。勢いのある攻撃とは、

 

「投影・開始!」

 

アサシンの刀から、大量の魔力が放出されながら黒く凝縮される。刀を纏うように覆ったソレは、アーチャーを気圧し。森に舞う枯れ葉は、ソレから逃げるように舞い上がる。

ソレを見て、瞬時に強化の詠唱を唱える。

 

「投影・強化…」

 

勢いのある、勢いに乗せるものは初手。スピードを乗せるのも、殺すのも例外無く初手の太刀。そして、英雄同士が交える初手は同時に、早期の決着に繋がる重要なポイントでもある。

 

ここを必ず、必ず止めてみせる。そうしなければ、アイツを…

 

「はっ!」

 

「う………おぉぉ!」

 

闇夜を歪まず程に大気が震える。

両雄、片や真剣な攻撃に移る初太刀。片や限界の魔術回路を酷使し、決着を狙う双剣。

 

吟と空高くまで轟く接触音。

せめぎ合う両者の魂/武器。ギギッと、擦れる音は苛立ちのように。

視界を揺らす衝撃が互いの腕から、肩を通り首を飛び越し目へと伝道する。

アーチャーの身体は限界に限りなく近い。異常な魔術回路の乱用に、ショート寸前。焼けるような痛みを、うめき声を上げ我慢し、アサシンへと食い付く。両手に握る双剣、干将・莫耶を執念により破壊一歩手前で踏ん張る姿は、アサシンの畏れを断ち切らん勇士。

 

「それ程の魔力…!それを放出するとなると、その意味が分からない貴様でもあるまい、アサシン!」

 

ピシリと、限界を超え尚形を留める双剣が崩れ始める。

歯を食い縛り、ガクガクと音を立て崩れ始めたアサシンの刀を受け止める双剣を両手に口を開く。

 

「へぇ…だがそいつは浅はかじゃねえか?サーヴァントがマスター置いてくるのかどうかまでは、分からないだろ」

 

その意図を読み取ったアサシンが、アーチャーの思惑を不可と突き放し、妖気纏いせめぎ合う刀に力を込める。

 

「かもしれんな。だが私の目は、他の者より優れていてね……」

 

アーチャーの此処に至るまで、全てはアサシンの″存在″を逃さない。ただ、それだけの為に鬼神の如き攻撃を繰り広げ、刀がぶつかり合う感触でその存在を握り締め、この場に引き止め続けたのだ。

視るべき二つ目、それは姿。当然の事だが、その当然がこのアサシンには当然で済まされないのだ。そう、よって。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁあっ!!!!!」

 

 

 

 

風が騎士を導いた。

 

 

 

 

「な、、、、セイバー………しまっ!!!」

 

 

 

 

アサシンの身体を空気ごと拐う不可視の剣。

 

「ご…………ぅ…………」

 

突き抜けた突風が、そのままアサシンの身体を空へと放り出す。

十数メートル吹き飛び、痛々しく地面に身体を叩きつけ転がる。

 

「はぁ、はぁ、セイバー……」

 

「アーチャー、素晴らしい剣技でした。後は私に任せてください!」

 

双剣が砕け散り、その場に崩れ落ちるアーチャー。

そして、彼の元に駆けつける、肝心な時にいないマスターと、セイバーのマスター。

魔力の消費を出来る限り抑え、聖剣の風でもって″謎の″結界を破壊し、今に至る。

 

「アーチャー!……!アーチャー、大丈夫なのその身体!」

 

「お、おい急いで止血を…」

 

「私に止血なぞ必要ない!ぐっ……地獄に落ちろ衛宮 士郎…」

 

「おい、よく聞こえなかったぞアーチャー?」

 

「はいはい、そこまで。もう休みなさい。そんなのじゃ、何も出来ないでしょ。後はセイバーに任せましょう」

 

三人の視線がセイバーへと向けられる。アーチャーが霊体化しないのは、実態したままでアサシンの行く末を見届けたいからだろうか。

意識が途切れかける中、

 

「残像…いや、これは!」

 

アサシンが倒れている場所で、下を見ながら呟く声を聞いた。

 

「士郎!凛!今すぐ此方に…」

 

直ぐに解った。自分が、アーチャー自身が身を休めるよりも優先するべき行動を。

 

 

 

 

〜〜

 

「アサシン、少し大人しくしていなさい。と言っても、斬り合いに熱中したせいでセイバーの攻撃を生半可に受けた身体。私に抵抗できはしないでしょうけど」

 

「てめぇ…やめろキャスター………っ、ぐっ!」

 

「何で止める必要があるの?だって目の前に、セイバーのマスターが無防備に突っ立っているのよ」

 

〜〜

 

 

 

 

アーチャーの行動を、士郎の脳は理解出来なかった。いや、理解する暇すら与えられなかった。凛を庇うように抱え、ボロボロの身体を起こし立ち上がった男の目が、明らかに士郎に敵意を向けていたからだ。

少なくとも、士郎にはそう見えていた。

 

「どけ、ボウズッッァァ!!!」

 

背後に現れた、その声だけが耳に届く。頭上に持ち上げた刀を振り下ろす瞬間だった。

 

「え………」

 

これはアサシンの声だ。ボンヤリと、そんな事を考えていた。それくらいしか、出来る事が無かった。指一本動かす事も、首を後ろに向ける事も、当然、セイバーに助けを求める声を出す事すら出来なかった。

 

「か………は………」

 

それは、死を意味する一太刀。

どうしようもない死を与える、至極最高の選択。聖杯戦争からの離脱には、ただこの一手で足りる。

膝から地面に崩れ落ちる士郎の背中を、アサシンは何も言わず。少しだけ驚いたように目を開き、口元を結ぶ。

非常に酷ではあるが、だが決定事項。

たった今、聖杯戦争最初の敗退がここに刻まれる。

 

「っ……悪いな、セイバー」

 

脇腹から流れる血を手で抑え、バツが悪そうな顔を隠すように背中を見せるアサシン。

 

「ま、待て貴様ッッッ!!!」

 

「今日の所は帰る。早く、このボウズを手当てしてやってくれ」

 

その意味を深く問う暇もなく、アサシンは夜の道に姿を溶かした。




前半と後半を一緒にした理由がですね、セイバーの話を早く書きたいからです。

はい、という事で次の参戦クラスはセイバーに決定でーす!

あ、でもまだアサシン編はあります!

8/9追記。
お気に入りが500に到達しました。この作品が、これ程までの方のお気に入り欄にあるのかと思うと、嬉しくて妄想…じゃない、ストーリーの構造がどんどん作り上がります♪
お気に入り500を記念して、予定にない作品を書きます!
終わりに近づいてきたアサシン編…の次に予定のセイバー編にて。
SNとは別に、セイバーの物語を作ります。およそ2ヶ月先での投稿となりますが、お楽しみに!


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衛宮邸、それと柳洞寺

すみません!一度、誤って投稿してしまいました。即座に削除後、前書きと後書きを追加し、再投稿しました!


今回、特に柳洞寺での話については何を書いているのかよく分からない方が多いかもしれません。これは、私が作っている設定を元に書いているので、見えていない部分があるからです。読者様を置いていってしまったら、ごめんなさい。
ですが、読めます!キャスターとリクオの意見が合っていない。という事だけを分かって頂けたらと思います。
後書きには、リクオのスキルを公開!次編、セイバーのステータス(仮)もありまーす!


【癒しゼロ】

 

 

場所は、近所ではそこそこの敷地面積を持ち、THE・日本の家と外国人が想像する様な造りの衛宮家。

 

「ちょ、訳がわからないんだけど!今すぐ説明しなさい!」

 

時刻は、衛宮家の主人、衛宮 士郎がアサシンから斬られて1時間後。

凡そ10時過ぎといったところか。

 

「なに、なんなのその身体!貴方、一体どんな手品を使ったっていうの!?」

 

衛宮家の夜は、普段ならガヤガヤと騒ぐ者は一人しかいない。藤村 大河という活発な女性なのだが、今日は珍しく残業だろうか。歩く騒音機の姿は居間には無く、その状況を寂しく思っていた。

 

「ふおぉ…!羨ましい……じゃない、身体の方は大丈夫なのかって聞いてるのよ、答えなさい衛宮くん!」

 

「落ち着いてください、凛。先ほどまでの、氷のように冷静な姿勢は何処にいってしまったのです!」

 

「これが騒がずにいられますかいっ!」

 

寂しく思っていた……というのは、俺が気絶していた最中の感情で、今はどうかと聞かれると。……うん、何だこれ。

例えられる感情が、士郎の頭の中に転がっていなかった。この言いようのないモノは片付けようがないので、兎に角、凛の荒ぶる感情をどうにかするのが先か。等と、起きたばかりの頭で天井を見ながら思考を巡らしていると。

 

「うるさいぞマスター。霊体化が出来ない今の私には、君の奇声はかなり傷にくるんだ。とっとと魔力を回したまえ」

 

すっごい気分が悪そうな表情で、居間のテーブル片側に横になるアーチャー。凛は気付いていないが、コイツは片手にボイスレコーダーの様なモノを持っている。何をする気だろうか。

 

「はぁ?魔力ならずっと送ってますけど!アーチャー、あんたが″そんな″状態だからこの状況をややこしくしてるのよ。分かってる!?」

 

「……なぜ重体の私に塩を塗りたくるのだ、この畜生マスター」

 

というよりも、だ。今、アーチャーは霊体化が出来ないと言ったのか?どういう事だろう。

 

「え…まてよ、アーチャー。お前、霊体化が出来ないのか?」

 

「そうだが、勘違いはするなよ。衛宮 士郎ォ」

 

敵陣で生気無く項垂れている格好はシュールだが。

コイツの隣で、かく言う俺も横になっていたりする。

 

「ぐっ…マスター、直ちに配置の変更を要求する!なぜ私が、この男と隣り合わせで横にならなければならんのだ!」

 

「なっ…てめ、それ本人の前で言うか普通!?嫌なら自分の足で移動すればいいだろ!」

 

「可能ならば貴様が目を覚ます前にしている!先ほどの、アサシンとの戦闘で私の全身の魔術回路はボロボロなのだ、たわけ。主に下半身を動かす事がままならん」

 

「なんだよその顔、どんだけ俺が嫌いなんだよお前。うわ、どうやればそんなに相手を不愉快にさせる顔が作れるんだ……」

 

世界の終わりを見たかのような、片眉ピクピクさせながらもう片頬をこれでもかと歪ませている。このふざけた顔で更に、目だけで同じ目線の俺を見下してるから腹立つ。そもそも、言葉を交わしたのはこれでやっと数回目なのに、なぜこいつは俺をここまで毛嫌いするのだろう。

 

「おいアーチャー、士郎に対する態度がやや乱暴に見えるが。なぜ彼をそこまで毛嫌いする?」

 

アーチャーの態度に、凛をなだめていたセイバーが口を謹めと言わんばかりに睨む。答える義理も、義務もないと顔に出すアーチャー。

 

「はいはい、二人とも衛宮くんの家で揉めるのはここまでにして。アーチャーについては、後で私から言っておくわ。セイバー、今はそれよりも大切な事があるでしょう?」

 

流石は遠坂だ。混沌としてきた場を一気に治めてくれた。その通りです、とセイバーも上げかけた腰を下ろしてくれる。

 

「ようやく静かになったわね…いや、これ以上言うとまた方向がズレるか。でね、大事な話ってのは衛宮くんの身体についてなんだけど………」

 

 

〜A Whole Story...?〜

 

 

 

 

 

【魔女と百鬼】

 

 

住職者達が寝静まり、一日の平和は終わる。柳桐寺が夜を迎えた時から、この地は彼らの物ではなくなり。その″役割″を忘れ異形の世界に意味を変えていた。

柳桐寺に続く、石垣の階段を登った場所に構える門。仰ぐだけで、人々が畏れるナニカは回れ右。勇気を絞り出し、門を潜れば最後、きっとナニカは清く浄化されるのではないだろうか。

しかし、よく見れば異変に気付く。

この門、つい数週間前まで建っていた柳桐寺の入り口に聳える門とは、形さえ似ていても、以前とは大きく違う。姿形は当然と言わんばかり。なぜ住職者達は、この異変に気が付かないのか不思議だ。

それとは別に一つ。今、建っている門は、門の役割をしてはいるものの、寺へと続く門としては欠片の機能もしてはいない。

夜の門は、潜る者を選んでいるのだ。

この門は既に、妖の管轄下にあった…。正しくは、通る者を選ぶように作り変えた、とも言える。

 

門を潜った先、柳洞寺に続く石道の真ん中で。

 

「キャスター、てめぇは俺のマスターだ。その意味を、解ってるんだろう……?俺が殺りたくもない事を」

 

背中に『畏』と刺繍された羽織が特徴的な、鋭い目の男。言葉に含まれているのは、怒りと疑心。彼には似合わない低音が、辺りの空気をピリッと締め付ける。

 

「あら、気に食わなかったのかしら。私は至って普通の、最も効率良く聖杯戦争を勝ち残る手段を選んだだけよ?」

 

それに答えるのは顔を覆う紫色のローブが特徴的な、男の言葉を嗤うように言う女。アーチャーとの戦いでは傍観に徹していたが、両者が体力を消耗した瞬間を狙っての、奇襲はアサシンとして向いていたかもしれない。

 

「私は貴方の説得で、確かに冬木に住む人間から魔力を絞る事は止めたわ。だってアサシンを本気で怒らせると、私の命が危ないですもの」

 

鋭い目の男、アサシンもとい真名、奴良 リクオと。

キャスターは向かい合っている。

両者、身に纏う空気は酷く冷えており。バーサーカー、アーチャーと連戦の後だというのにも関わらず、更に武器を振おうといわんばかり。

手には何も持っていないが、キャスターは既に臨戦態勢に入りつつあった。令呪で強制的に命令する事も出来るが、アサシンには痒いところに手が届かない。特殊な″宝具″があるからに他ならないが。これがどうしても、キャスターには必要でもある。

 

「けど、言ったはずです。私は、聖杯戦争を″生き抜く″と。これに貴方は、頷いたでしょう?」

 

アサシンは明らかに、キャスターの進路を邪魔する障壁に違いない。だが、味方としている限り、キャスターがその身を危険に晒す必要性は無かった。

だから、どうにかしてアサシンを屈服させなければいけない。

 

現状で、一か八か。持てる宝具をふんだんに使い″一掃″したい感情に駆られる。

 

キャスターは武人などでは無い。故に、殺気は押し殺せる程に制御しきれない。

 

「あぁ、そうだな。確かに。だが俺は理解できない。てめぇが生きる為に、他人の命を奪って安心を得る……。その考えをするのは仕方ないかもしれんが、実行する事はないはずだ」

 

何かが反応をする。いや、示したのだ。キャスターから溢れた、黒い感情に。

柳洞寺を囲う木々が微かに揺れる。冷たく笑っていた。

 

「あるわ。敵マスターが何か仕掛けてこない、とも限らない。他のマスターと共謀して、流桐寺に攻めて来るかもしれない。下手に周りをコソコソ嗅ぎ回って、私のマスターが狙われるかもしれないわ。いい、アサシン?何度目かですけどね、私は街の人間に手は出さない、と約束しただけ。マスターを一人残らず殺さない、とは一言も口に出してないわ」

 

キャスターは気付かない。

現実の妖気に。

 

「それはダメだ。はぁ〜、性根の悪い女だなぁ全く。俺の意見がまだ全て通ってないだろ?」

 

「おかしいわね………アサシン、本来ならば此処の門番という役割も担っているはずよ。まぁ、令呪じゃどうも出来ない状況になってますけど」

 

細く笑む。

それは闇の怒りを買う行為だ。

だが、キャスターは気付かない。

 

「私はそれを譲った、それだけで足りてるはずでしょう?窮屈な門番から解放された訳ですもの」

 

彼女の首元から足先に至るまで、妖の群れは既に到着している。

 

 

 

 

 

「聞き捨てられん…!」

 

 

 

 

裏切りの魔女を殺さんと、過去の畏を纏わせた武器が睨んでいた。傍で待機していた。

それに続く形で、待たせたなと言わんばかりにはじける影達。

 

それは一気に爆発した。何者達が一斉に、闇より出でる。

 

「リクオ様、この女狐の言葉をこれ以上聞く必要は無いかと。現界に関してはご安心を、我々が全力でサポート致します故。ましてや総大将に、ご自身の家の門を守護させるなぞ論外でございます」

 

「おいキャスター、リクオ様の身体を勝手に乗っ取った挙句、殺さないと言われたマスターを斬り伏せるてめぇをこれ以上黙って見てられんぞ」

 

「やはり女狐は狩るか。リクオ様の邪魔をする者は、マスターでも許さんぞ……」

 

「リ、リクオ様!着物が破れてるじゃありませんか!あ、あぁ…顔にも!?大事なお肌がっ!

私がこの寺の修繕をしていた間に、一体何があったのですか!!!

い、いえそれよりも。先ずは氷を……傷に氷を当てて冷やしましょう!!!」

 

若干一名、柳洞寺の修繕から駆け付けた雪女がいるが。

リクオの周囲には、数える事が面倒になり投げ出したくなる程の妖が、もう一つの夜を作り出していた。

魔女にとって結果的に最悪に不必要で、過程で利用しなければならないソレ。

 

「げ、お前らぁ…やっぱりコソコソと付いてきてやがったな」

 

現れた妖の姿を確認し、ようやく自分の立ち位置を理解した魔女が何かを唱えようと口を開ける。が、開いた口に一人の男の羽織から飛び出した刀や銃が迫る。

詠唱の暇を与えない無慈悲なまでの詰め。不意を突かれた為に遅れをとった魔女は、うめき声を漏らす以外に行動の一切を許されない。二度は効かぬぞ……そう呟くのは、

 

「当然です。万が一にも、リクオ様の身に何かあれば、この黒田坊、容赦無く敵を討ち負かすつもりでした。これからも、ですけどね」

 

良奴特攻隊長、黒田坊。敵には憐れみこそ抱くが、キャスターにするよう基本的に、容赦が無い。譲る事も無い。

 

「柳洞寺に関してはご安心を。青田坊、雪女、毛嬢楼、邪魅が見張りに。異常があれば三羽烏が駆けつける次第」

 

アサシン、リクオの前に立ち、魔女からできるだけ遠ざけようとする首なし。名前通り、首がない。頭は常に浮遊しており、電車に乗るとかなりやばかったりする。車に轢かれれば、身体と頭が別々に吹っ飛び、目撃者と加害者はトラウマに残ってしまう事態になる事も。

 

「首なし、そーゆう問題じゃねえ……黒、それ以上はやめとけ。女を野郎で囲むもんじゃねえ。オラ!てめえらも離れねえか!」

 

 

 

 

 

「あぁ、もう嫌になるわ。百鬼夜行、でしたっけ。コレらを私で制御出来ないのがそもそもの失敗なのよ…」

 

此処に現界する、所狭しと出没した妖は全て、アサシンの宝具。総大将を総大将たらしめる存在であり、彼の弱点でもあるが……

数百で収まるかどうか、視認できるモノではない。

 

キャスターは発散出来ない怒りを、心の中で暴れる一歩手前で押さえ込んでいた。

魔女の腕を持ってしても踏み込む事の出来ない、彼女にとって非常に厄介な存在。妖の総大将として現界するアサシンは、一人ではなかった。そこに気付けなかった時点で、キャスターの思惑は大きく崩れる事になっていく。

 

 

 

 

 

【感想に頂いた疑問に大雑把に】

 

メディアが悔しさに拳を握る反対側、リクオは殺気立つ首なしの肩を掴み、門の裏へと呼び出した。

 

「おい、首なし。首を貸せ」

 

「はっ!」

 

「セイバーのマスター、斬られた時の反応とかが大げさ過ぎだって感想が来ちまった。お前見てたんだろ?どう思った」

 

「私もそう感じていました。元より、祢々切丸は人を斬る事が出来ません。仮にあの少年が斬れてしまった、としたら」

 

「………人じゃねえ。って事か?」

 

「かもしれません。しかし、妖の身としては、彼からは特に異変を感じ取る事はありません」

 

「俺もだ。しかし、衛宮とかゆうマスターを斬る瞬間、妙な魔力を感じたのは確かだった。今の祢々切丸は″魔力″の類も斬れちまう。あいつは間違いなく人間だ、俺が目の前で見たから間違いない」

 

「では、リクオ様が感じ取られた妙な魔力とは?」

 

「……あの時、祢々切丸はあいつの″魔術回路″を斬った。ズバッとな。肉は斬れないから見た目に異変はないが、中はボロボロだろう。キャスターは衛宮が斬られた時の認識をボヤけさせて誤魔化した。

けどよ、魔術回路を斬っちまった瞬間、魔術回路が回復したように見えた」

 

「回復…!」

 

「キャスターは、あの様子じゃ気づいてねえ見たいだが。多分、衛宮を斬る瞬間に、キャスターの認識をズラ/ボヤカしたからかもな。だけどよ、首なし」

 

「えぇ、いくらマスターとは言え、それ程の芸当。サーヴァントにすら出来る事ではありません」

 

「祢々切丸に斬られたら、魔術回路の回復には相当、回復時間が必要なはずだ」

 

「……」

 

「俺は、寝た子を起こしちまったかもしれん!なんか、変なスイッチ起動させたかもな!!」

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

アサシン ボツ

・3-E『暗殺教室』

・百夜 優一郎『終わりのセラフ』

・金木 研『東京喰種』




真名:奴良 リクオ(夜) クラス:アサシン

クラススキル
陣地作成:C
騎乗(妖):C
気配遮断:-

保有スキル
鏡花水月:A+
畏の発動:A
総大将の血:B
↑読みは、ぬらりひょんのち。
-:-

宝具
明鏡止水・桜:C
百鬼夜行:A
-:-


ついでに、セイバーッ!
ステータス
筋力:A 耐久:B 敏捷:A 魔力:D 幸運:E 宝具:E



今回の話について、最後に少し。
キャスターに対して、リクオ以外の妖達が異常に冷たかったのは、リクオの意志を裏切ったからです。士郎を無理矢理、斬った訳ですから。
少々、文章が雑な事に関しては私の根気不足です。アサシン編を終えてから書き足そうと思います。
皆様、読んで頂きありがとうございました!


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閑話、ぬらりひょんの本領

閲覧ありがとうございます。

アサシンが召喚される話を投稿すると、気持ち的にセイバー編を書きたくなっちゃうので。閑話という事にして、おまけ話を2.3話投稿しようと思います。
難しい背景とかは気にせず読んでください!
私も、閑話に関してはあーだこーだ考えず、ちょっとばかしチートじゃないか?と言われてもいいくらいの勢いで書きます。
もちろん、昼リクオも!?


衛宮 士郎は包丁を優しく握り、腕をキビキビと動かしキャベツを千切りにすべく奔走していた。

まな板の上にどっしりと小山のように構え、まるでこのまな板は俺の領土だと主張する程に大きなキャベツは、僅か10秒で千切りキャベツへと早変わり。包丁がキャベツに入る度に聞こえる、勢いのいい音は、耳に入るだけで食欲がそそられる。

台所を半歩動き調味料を手に取る。かと思えば既に蓋は開けられていて、まな板の傍に置いてある豚肉へ一工夫を凝らしている。小刻みに腕を振る僅かコンマ9秒。

手元はよく見えなかったが、士郎の腕が料理人として高みにあることは伝わってきた。

一体、その過程にどういう意味があるのだろうか?……少しだけ考えて、口に出すのはやめることにする。もしかしたら、この質問が士郎に対して失礼に当たるかもしれないからだ。口の中で言葉を止めるセイバー。言葉を止める事は出来ても、彼が調理場(戦場)で戦っている姿を見てみたい衝動は抑えられそうにない。

彼が次に手を加えたのは大根。

なんと逞しい野菜だろう。美しく輝く白い肌みたいだ。大地の中で育つ野菜は皆、この時代は驚くほどに肥えている。ジャガイモ然り、人参然り。彼は確か、味噌汁を作ると言っていた。味噌汁の具にする為の大根だろうか。

 

「お前のマスター、料理出来るんだな」

 

「はい、そのようです」

 

今夜のメニュー、豚の生姜焼き、千切りキャベツ、そして味噌汁。彼曰く、昨日の夜の帰りに夕飯等の食材を買う予定だったのだが、ランサーに襲われ刺されアサシンに斬られ。だから、今日の昼過ぎまでグッスリと眠っていた。起きて家事をし始める彼を、セイバーは慌てて止め安静にするように提案したが。体調は特に変わりがないと言い家の家事をこなす彼を、セイバーは後ろから付いていき手伝うくらいしか出来なかった。

外に買い出しに行く、と言った時は流石に止めた。昼過ぎまで寝ていた様子を見て、外出して倒れるのがのが怖かったのだ。家事を止めないマスターを気遣い、ぎこちなくも手伝う彼女を見た士郎は、午後四時頃から「分かった、分かったから。休むよ、流石に昨日の今日だからキツくなってきたところだったんだ」と、半ばセイバーに気を遣い休憩。アサシンに斬られた事や、ランサーとの逃亡について話し合い二時間を過ごすと。「飯を作らないとな」と言って立ち上がったのが少し前の事。

お察しの通り、この時ばかりはセイバーもこくりと頷くだけであった。召喚されてからそれまでは一口も口に含んでいなかったから、いや、まさかマスターを気遣う騎士がそのような理由で、休んでいたマスターを止めなかったはずはないだろう。これ以上はカリバーされそうなので文章は自重するが。

結果、食材の買い出しに行けなかったからこんな物しか作れなくてこめんな、と謝って料理しているのだ。

 

 

 

………ま、待ちきれない。

 

 

 

謝られてセイバーは狼狽えた。もし、彼の体調が万全で、食材が有り余るほどあればどれだけの料理が食卓に並ぶのだろうか。

何かと葛藤すること、約3分。

気づけば、騎士の足は正座していたはずが立ち上がっていて、気配を消し士郎の立つ戦場…台所へ赴いていた。心臓の打つ心拍数がやや上がっている。士郎の背後に、息を殺して近づく事になぜか緊張していたのだ。

 

なぜだろう…?

 

士郎が作る料理に意識のほとんどが向いている。今なら、彼女の後ろから木刀をゆっくりと頭に当てようとしても、気づかないかもしれない。なぜかって?今の彼女は、お口チャックして思わずヨダレが溢れそうになるのを防ぐのに一生懸命だからだ。

 

「シロウ。あ、あの…………」

 

ハッと気づけば台所の前に立っていた。士郎のサーヴァント、騎士セイバーは自分が無意識のうちに取っていた行動に、今更ながら戸惑った。自分の足が、台所へと向かっていた流れ全てが無意識のうち。

 

「ん?どうしたんだ、セイバー。夕飯はもう少し掛かるから、お茶でも飲みながらゆっくりしていてくれ」

 

「あ、、、はい………」

 

言葉が詰まるセイバーを眺める士郎。活き活きとした笑顔で振り向かれ、無理をしないで欲しいと言おうとした言葉を忘れてしまう。恐ろしや、食事の畏れ。

 

 

 

「それよりもさ、セイバー。あんまり放置してると泣くぞ、あそこに寝転がる虎」

 

 

 

面白そうにそう言うと、テーブルの横を指差す。昨日の士郎とアーチャーが横になっていた場所だ。そこには、、、

 

「え………あ………」

 

こちらを涙目で見つめる、マスコット…には程遠い、衛宮家の番犬、藤村 大河が両手両足をバタつかせていた。絵に描くとかなりヤバイ。

 

「もー、ひっどいんだもんセイバーちゃん!さっきから話しかけてるのに、全て流すなんて!そんなに士郎の調理する背中に惚れたの!?惚れちゃったのね!?」

「な、何言ってるんだこのゴロ寝教師は…………藤ねえは軽口で言ってるんだろうけど、セイバーの事をちゃんと考えて言えよ!」

「ややっ、これは教師っぽくない事を言っちゃったわね!自重自重。それでセイバーちゃん、さっきは険しい表情で士郎なんか見ちゃって。どうかしたの?」

「いえ、その。たまたま、考え事をしていて、向いた視線がシロウだっただけなんです。はい、たまたま…」

「そう、たまたま、ねぇ…?ふ〜ん?」

「……っ、大河。何か?」

「うんや?健康でよろしいっ!」

 

「元気そうでなによりだ、うんうん」

 

「ははは、晩飯抜きにするぞ藤ねえ?」

「うぐっ……卑怯者め、我が栄養姫を盾にするか!」

「そのお姫様を作っているのは、どこの誰かな〜?」

 

と、こんな感じで居間ではいつもより少し賑やかな時間が過ぎる。セイバーが藤村の絡み攻撃を流しきれなくなってきた所で、タイミングよく運ばれてきた生姜焼きにより窮地を脱する。士郎のファインプレーにより、セイバーの空腹もようやく満たされるので、一難が去った。

食卓に並べられる新鮮なサラダ。サラダと共に頬張ってくれと言わんばかりのジューシーな生姜焼き。一息つくならいつでもどうぞ、と傍に置かれた野菜の具沢山味噌汁。それぞれ、士郎、セイバー、タイガーの元に置かれる。テーブルの上には四人分の食器とお箸。

士郎が最後に、各々に置き忘れがないかを確認。よし、と呟き両手を合わせる。

 

「いただきまーす」

「頂きます」

「いっただっきまあす!」

「悪いな、頂くぜ」

 

食事の挨拶が終わると、それぞれが好きなように料理に手をつけ始める。藤村とセイバーは迷わず生姜焼き、士郎は味噌汁を口に含み出来を確認中。

うんまぁい!と、とろけるように声を漏らす藤村。

口に入れた生姜焼きを噛み続け、頷きながら鼻息が荒くなるセイバー。

士郎は藤村に、大人しくしろと言いながら、セイバーの反応を伺っている。どこの国出身かも分からないので、日本の食が彼女の下に合うのかが気掛かりで仕方がないよう。

キラキラに輝く瞳のセイバーの反応を見て、士郎は安堵の息を静かに吐いた。興奮気味になっている事には、特に思う所はないらしい。満足気に食卓を見渡す。

 

三十分後。

今日一日、セイバーに外出を止められていたので満足に食材を揃える事が出来なかったが、終わりよければ良しとする。恐らくセイバーは、日本食でも問題ないようだ。食事後に明日の飯の事を聞くのは、満腹な所に悪いかもしれないので明日の朝にでも、好みを聞いてみることにしよう。

 

「シロウ、ご馳走様でした!大変美味でした。あの頃、この味があれば……」

「ご馳走様でした〜士郎。こんなにおいしい料理が作れるなら、もう風邪なんて吹き飛んでるわね!明日はちゃ〜んと来るのよ?」

「わ〜、きれいに食べたもんだなぁ二人とも。分かってる、明日は行くから。さて、片付けるか」

 

綺麗に片付いた食器をまとめる。本当なら、ある程度余った物は明日の朝飯にでもと考えていたのだが。……どうやら、藤ねえの食欲が今日になって爆発したらしい。熱めのお茶を飲むセイバーが、この量を平らげる訳がない。

 

「ご馳走さん、それじゃあな」

 

四人分の食器を台所へ持っていく士郎の耳に届く声。

食後にお茶を啜るセイバーの前を、縁側へ抜ける風が通る。

結局、なぜ緊張していたのかセイバーが知る事はなかった。




リクオのスキル、「総大将の血」が最大限に発揮された話でした。
所々で、リクオ喋ってましたね。

士郎の体調を伺うついでに食事も食べる。これぞぬらりひょんです!
どうでもいいかもしれませんがリクオは、妖刀祢々切丸を携えていませんでした。戦う気が微塵もなかったので、気付かれる事もなく無事、柳桐寺へ帰宅。味をしめ、その後度々、突撃士郎家の晩御飯をするのでした。


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閑話、奴良 リクオ

まず一つ、昼のリクオと夜のリクオには少しだけ、″ズレ″があります。同一人物なのですが、性格がやや別々になっている、と思ってから読んで貰えれば、前回から読んで混乱するのは避けられます!
後書きには、リクオをfateGOで召喚したらどんな性能になるか書いてみました!


真昼。仰げば見渡す限りに広がる青空。日本を照らす清浄の光。夜に生きる者は闇に身を潜め、住処で活動の時を待つ時間。彼らの行動を制限するのはいつも、消えない光。世界の半分を照らす空の王、太陽。異形の者として生きる闇の影として、君臨する闇と正反対の存在。ある作品では勇者として、とある作品では化身として。幅広く、仲間として、稀に敵として登場する。

日々業々と燃える太陽に、良くも悪くも影響されてきた一人の英雄がいた。

恐らく、彼のように異形の者としてサーヴァントとなれた者は他にはいない。あまりにも自由で、空想に囚われなかった。人々の印象すらも意に介せず、無辜の怪物という呪いすらも受ける事なく。死した後、偶然にも縁の一糸も無い土地に現界した。彼の名は…

 

 

 

 

「こんにちは、士郎くん!」

 

大きな瞳に、やや後ろに伸びた茶髪と黒髪が特徴。

元気な声で、右腕をピンと伸ばしてお昼の挨拶をする中学生の少年。今日は雲一つない快晴、誠に天晴れな日である。こんな日であれば、やや元気のリミッターの外れた子が目の前で挨拶をしてきても、おかしくはない………

 

「………こんにちは」

 

………おかしくはない?いいや、どう考えてもヤバい子にしか見えない。突然、商店街のどこかの通りの真ん中で、フレンドリーに挨拶をされたのだ。『全く知らない』中学生っぽい少年に、だ。面食らいながらもなんとか挨拶を返す。こんにちは、と挨拶をされて三秒の間。はい?とやや冷めた対応をしなかった自分に拍手を送る。どうすればよいのだろうかと考えて一旦、周囲を見てみる事にした。買い物途中の主婦の方々がこちらを見ているではないか。買い物袋片手に、「まあ元気な子ねえ」「衛宮くんのお友達かしら?若いって、元気で羨ましい!」と微笑ましくこちらを眺めているではないか!

 

「あ、あの〜、元気一杯の挨拶をしてきてくれて嬉しいんだけどさ……もし俺がど忘れしてたら全力で謝る……だから一つ確認させてくれないか?」

 

こちらは控え目に右手を胸の高さまで上げる。何故こんな事をするのかは分からない。

 

「はい。一つと言わず、幾つでも大丈夫ですよ!貴方の時間が許す限りで構いませんから!その質問の後で、今度は僕からも質問をさせて貰います」

 

「君、誰?」

 

遠回しに聞くと、思ってもいない方向へと転がっていきそうな気がしたのでストレートに質問をぶつけた。自分の方が忘れていただけなら、失礼な話ではあるが名前を聞けば思い出せるかもしれない。そして思い出したら、謝ろう。

そんな風に、楽観的に考えていた。この時は。

 

「奴良 リクオです。奴らの奴に、奈良の良で、ぬらと読みます」

 

「ぬら、りくお………ぬらりくお……?ごめん、分からないや。えと、リクオ君。更に質問なんだけど、俺と会ったのってこれが二度目や三度目だったりするかな?」

 

「はい、これで三度目になります」

 

……まじか。本日一番の衝撃かもしれない。

 

「さ、三度目…ごめん、俺、君と会った記憶が全くないんだ。嘘をついてるようには見えないし、ちょっといつ会ったか気になってきたな…」

 

俺は、確実に困り果ててしまった。無邪気そうな笑顔で、顔見知りかの如く接してこられたのだ。いや、リクオ君曰く、面識があるらしい。ニ度も。これ程印象に残りやすい顔を、年寄りのようにポンポンと記憶から消えるはずがないと信じたい。

面識があるる言われて、嘘だと指摘できない理由が一つ。士郎、と名前で呼ばれた事。学校では下の名前で呼ばれる事はまずない……いや、時たまフルネームで呼び捨てにされる事はあったが。なので、下手すれば苗字の衛宮だけ知っていて、名前の士郎を知らない同級生はかなり多い可能性大だ。いや、言ってて悲しくとかならないから。これを根拠にする事は間違っているが、名前で呼ばれたらそう無下にもできない。

 

「ここじゃ周りの目が気になるからさ、近くに公園あるからそこに行こう。ついてきて」

 

手でジェスチャーしながら説明し、手で招いて後ろから付いてきてと伝える。リクオという少年は元気に「はい!確かにここだと話しにくいですもんね」と返事をくれた。

話しにくい、という言葉選びに違和感を覚えたが、別段おかしいとも言えない。彼といつ会って、何をしたのか思い出せない自分の方がおかしいのかもしれない。

「はは、聖杯戦争中なのに、何やってんだろう俺…」最小ボリュームで呟くと、ソレに釣られてため息も外に出た。もしかして切嗣の子供だったりして、と考えながら。

 

 

 

 

五分程歩くと、相変わらず誰もいない、ブランコと滑り台、ジャングルジムとベンチのある面白みの欠片もない公園へと着いた。子供どころか野良猫もいないので、いい加減に可哀想になってきた。無人の公園に抱く感傷はよそに、士郎は後ろを振り向く。ヒョコヒョコとヒヨコのように黙って付いてきたリクオは、立ち止まると。

 

「ここなら、少しの間の話に支障はないですね」

 

そう話を切り出した。

 

「あの〜。リクオ君?さっきまでと違って、なんか神妙そうだけど、俺が忘れてる事って、もしかして非常に大事な事だったりするのかな?」

「士郎さんにとって、大事な話である事に変わりはありません。僕は、それ程に酷い事をしてしまいました」

「…酷い事?なんだろ。印象強そうなのだったら、尚更忘れるはずないんだけど」

「そんな、あれはそう簡単に忘れられないですよ!今も苦しんでるかもと思うと、何も出来なかった僕は情けなくなります」

「テンションの浮き沈みが激しいなオイ!?そんなに忘れられない苦痛って、なんかあったかなぁ」

「あ、士郎さんが思ってる程昔の話じゃないですよ!僕と会って、まだ数日しか経っていませんから当然です!」

「………へ?」

「先々日の夜、士郎さんが負傷した日の事なんです…」

 

どうやら、とてつもない勘違いをしていたらしい。彼、リクオと名乗る少年とは何年かぶりの再会ではない。リクオという名前にも、顔にも心当たりは一つもない。

リクオは知り合いではないとするのなら。何なのだろうか?

士郎の中で、今一番のバリ熱ワードが導き出された。いや、先々日の夜といえば、心当たりは2つ。それに負傷と言われれば、アレにほぼ確定したに等しい。

 

「お前、マスターか?」

 

「……」

 

廃れた公園の空気が変わる。士郎だけが、緊張と焦りに襲われかけていた。

鼓動がはやい。未熟者の身として出来る事は無いに等しい。セイバーは衛宮邸だ。令呪を使おうにも、そんな隙、与えてくれるとは到底思えない。

 

アサシンのサーヴァントのマスター。それが士郎が思いつく限りの予想だった。リクオがアサシンに命令し、結果として士郎は斬られた。あの時、アサシンのマスターは姿を現さなかったから、可能性としてあり得る。

気になるのは、リクオの発言だ。明らかに、行動と食い違いがある。慎重に見極めなければならないだろう。

 

リクオの返答次第で、いち、にの、さんで公園から走り去ろうかと構える。さあ、どんとこい!

 

「僕はマスターではないですよ。惜しいですね!」

「…」

「ですから、会ったと言ったじゃないですか。僕は僕ですよ?」

「……?」

「あ!」

「うあ!?」

「ご、ごめんなさい。緊張してて忘れてました。今、人間の身体だったんだ……そうか、街に来ると戻っちゃうんだった」

「………?」

「そんな不審人物を見るような目を向けないでください、誤解です!僕はアサシンのサーヴァントですよ!」

 

「なっ…」

 

本気で息が止まりかけた。冗談でない事は理解している。一般人ならマスターという言葉に疑問符。マスターであるならそれを否定する必要はない。あるのかもしれないが、士郎にはそれは分からない。

そもそも姿が全然違う!姿が変わるらしいが、どういうことか?

いや、それ以上に分からないのは。

 

「あはは……顔が面白くなってますよ、士郎さん。今日はその件で、謝りにきました」

 

アサシン、リクオだ。

 

「謝る…アサシン、どうしてだ?」

 

彼をアサシン以外の者として見る余裕はない。会話についていく事で手一杯。嘘とかそういうのはどうでもいい。リクオという、少年は冗談を言うような性格に見えないし。マスターがサーヴァントを名乗るメリットがない。

一歩返答を誤れば、待っているのは死…?

いやまて、落ち着け士郎。リクオは今、謝りにきたと言ったのだ。促せ、続きを。

 

「はい。その、身勝手な謝罪ではあるのですが。マスターは斬らない、と宣言していたにも関わらず、貴方の大切な″魔術回路″を斬ってしまい申し訳ありませんでした……」

「………ぇ」

「見た感じ、身体能力に影響は出ていないので安心したのですが。その、内面的なモノは……恐らく」

「………はい?」

「あ、士郎さんを斬った刀はですね、人間は斬れないっていう能力を持っているんですよ。異形のモノを斬る為に存在する刀です。僕の刀の能力、どうやらこちらでは魔術関連をバッサリと斬るみたいで。だから、士郎さんが今、魔術回路が回復しないのは僕のせいでしてっ………」

 

会話が見えてきた。いや、半分くらい見えてないけど。

 

「ま、まってくれ。俺の魔術回路に異常はない。それどころか……いや、まさかその事でここに来たのか?」

「えええっ!?ちょっと待って、″聞いた話″と違う………ほ、ほんとにほんとですか?僕に気を遣っての返答とかじゃないですよね!?」

「ほ、ほんとだってば!アサシンに気を遣う理由はどこにもないって、だから身体中なで回らないでくれ!」

 

リクオは一通り士郎の身体を触ると、ホッと一息吐いて地面にへたり込む。

 

「よかった、です……」

「アサシン、一つ聞きたい。なんで、あの時、俺を斬ったのに今こうして、俺の心配なんかをしに来てくれたんだ?」

「それは、僕の意思が弱かったからです。詳しくは説明出来ないのですが、僕はマスターの命令で無理矢理身体を操られて、士郎さんを斬ってしまった所存です…」

「まさか本当に答えてくれるとは思ってなかった」

「僕が出来る精一杯の謝罪です。………これ以上は、士郎さんの命に関わるので、ここで一旦区切らせてください。僕は、これから確かめなきゃいけない事が出来ました。それじゃあ、また!」

 

終始テンポの良さは変わらないアサシン、リクオは士郎の呼びかけに立ち止まる事なく。静かに公園から立ち去った。

これ以上は言及するな、こちらからも関わると″士郎″が真っ先に殺される。何となく、そんな風に言葉を理解した。

 

先ず、家に帰ってセイバーに報告しよう。アサシンの真名、奴良 リクオか。こんな英雄は記憶にないが、彼女なら何か知っているかもしれない。何より、アサシンの印象を、変に曲がった誤解を解消したいと思っていた。




カード
BAAQQ

クラススキル
陣地作成:C
騎乗(妖):C
総大将の血:
→ステージが昼なら人間の姿、夜なら妖の姿になる(それだけ!)

保有スキル

鏡花水月:A+
自身に回避を付与(3回)

総大将の血:B
スターを大量獲得&【昼】のステージなら攻撃力アップ+全カード性能アップ&【夜】のステージなら攻撃力大アップ+クイック性能大アップ

明鏡止水″桜″:C
無敵貫通付与(1ターン)&防御力無視攻撃&やけど付与(5ターン)

宝具

クイック
百鬼夜行:C〜A
NP獲得量大アップ(1ターン)&敵全体に超強力な攻撃


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アサシン

閲覧して頂きありがとうございます。
アサシン編最後の投稿、そしてこのシリーズの一時休止となります。

アサシンのステータス諸々の投稿はありますが、それだけです。簡素な終わりとなってしまう事をお詫び申し上げます。
これからしばらくは、セイバー編をどうするかを考える事にしました。セイバー編のお知らせも後日、したいと考えているのでよければ、また来てください!


彼が召喚されるには、これ以上の好条件が無いくらい晴れた夜。

一人の畏れ高きサーヴァントが、月下の門に現界した。

 

「サーヴァント、アサシンだ。俺の大将を名乗るからには、人の道は外れてくれるなよ、マスター?」

 

真後ろに長く伸びる髪は、白く、風に吹かれると微かに揺れる。腰に差した刀は、鞘に収めているにも関わらず周囲の魔力を″霧散″させているよう。

友好的で、僅かに慎重な姿勢。アサシンは、門の柱に背を預けると、煙管を取り出す。ちらりと大将と呼んだ者を見ながら、反応を待っているようだ。

大将と呼ばれた女性は、その呼称が気に入らないとばかりに口元を歪める。それだけならば、幾分我慢しよう。だが、呼び名の後の言葉で面倒な性格だというのを理解した。

正義面でここに座られるのは、まだ構わないが。

 

「私も貴方と同じサーヴァントよ、アサシン。私のクラスはキャスターで、アサシンのマスターでもある。自己紹介はこれくらいでいいかしらね」

 

異様な不気味さが滲み出るキャスター。この聖杯戦争で彼女程、異端な″参加者″は中々いない。

召喚される身でありながら、サーヴァントを召喚し使役する立場を確立した時点でそれは理解できるだろう。

 

「サーヴァントにしては、魔力の消費が殆どないのね」

「あぁ、そうみてえだな。詳しくは分からないが、今の姿、夜の″俺″が現界しても魔力消費は殆どしねえよ」

「そんなに便利な能力があるなんて信じがたいけど、貴方のステータスを見れば納得するしかなさそう……ふふ」

 

聖杯戦争を勝ち残る渇望が、他の者の比ではない。

 

「無駄口はこの辺にします。薄々気づいてはいるようですが」

 

とキャスターは言い、アサシンが寄りかかる門を指差す。ローブの下から少しだけ見える口元は、笑っていた。

 

「貴方のやるべき仕事は一つです。この門から侵入してくる敵を、全て排除しなさい。それだけが、現界する意義だから」

 

指差された門を見上げ、キャスターの言葉を頭の中で再生するアサシン。

 

「ふっ、はっはっはっ!滅茶苦茶な注文をするじゃねえか。それだけの為に、俺を呼んだのかい、キャスターさん」

「えぇ、そうよ。正義を気取った暗殺者さん。気持ち良さそうに寄りかかるその門、ソレを越えようとする怪しい者がいれば斬りなさい。あぁ、もちろん限度はあるわ。色々と指定するのは面倒だから、夜に通ろうとする者だけでいい。幸い、ここの坊主達は夜に出入りすることは滅多にないわ」

「おいおい、本当にソレだけの為に呼んだのか……令呪、ね。コレは参った」

「やっと理解したようね。そうよ、アサシン。その門は言わば、貴方のもう一人のマスター。敵と判断、または私がそう感じたら斬り伏せる。それが役目であり、現界する為に縛られている理由よ」

「ん〜、そうか。………本当にこの門から離れられねえ。すげえな、俺ですら抜け出せないのか」

 

参ったと態度で示すと、片目を閉じてキャスターの目を見る。ソレは、キャスターの何かを″み″る為に向けていた。この目は、キャスターが嫌うものだとは、知ってか知らずか。

 

「俺をここに縛り付けて、だ。キャスター、どうやってこの聖杯戦争を戦い抜くんだよ」

「いいでしょう。先ずは、この柳洞寺を神殿にして、私の拠点とします。それには時間と魔力が膨大に必要なの。だから、唯一、柳洞寺への入り口である門をアサシンに守らせるのよ?と言っても、今の私は魔力が足りないのよね。だから、手始めに」

「?」

「街中の人間から魔力を掻き集める。そこからよ、貴方に神殿だの話しても理解できないでしょう?私がする用意を伝えた上で、アサシンが門を守る役割を教えてあげた。理由なんて、これで足りるでしょ?」

 

アサシンは門から見える夜の街を見つめて、キャスターの魔力源となるであろうソレを理解した。同時に。アサシンの心に火が灯る。

彼を知っているならば。灯るだけでは足りない。

 

「キャスター、いや、マスター。ソレはよぉ、″本当″に必要な事か?あんたの願いはまだ聞いていないから、教えてくれ。ソレは、他人の命を削らなきゃ叶わないのか?」

「その口ぶりだと、聖杯は貴方が勝ち取ってやる、っていう風に聞こえなくもないんですけどね。けど、門に括り付けられた暗殺者に、そんな自由は許さないわ」

 

キャスターは、アサシンの心を多少理解した。アサシンは、クラスに似合わない程の正義感を持つ英雄らしい。サーヴァントとして現界した以上、その心が偽善であれ愚者のソレであれ。マスターに従う事は覆らない。令呪有る限り、正義感を持っているであろうアサシンをキャスターは、好き勝手扱えるのだから。

 

「いや、その通りだ!まあ、気紛れに遊んで過ごしたいのが本音だけどな。だからよ。俺が此処で突っ立ってるのは、勿体ねえんだぜ!」

「…!」

 

寒気が身体を駆け抜ける。今から起こる事を、なんとなく理解してしまったからなのだろうか。いや、アサシン単騎ではキャスターには勝てない。その自信をキャスターは持っている。

なのに。押し寄せる不安が心に積もる。ついさっき、令呪があるからアサシンに対して優越の位置にいると確信したのに。揺らいでいる。

 

「俺の真名を教える。三代目奴良組総大将、奴良 リクオ。この度は、アサシンというクラスに該当し現界した、族に言う妖の類で名を轟かせた、ぬらりひょんの孫だ」

 

ぬらりひょん…!

知識だけはある。ぬらりひょんと言えば、日本では誰もが一度は名を聞いた事のある、姑息な妖怪だ。

 

「なっ!?」

 

だが、何故だ。三代目…?孫?

点ばかりが増え、線で繋がらない。そんな情報は、聖杯から与えられていない。逡巡、深く考える事はやめた方が良いと判断する。あくまで冷静に、召喚早々に問題を起こそうとするアサシンを止めるべきだろう。

 

「何故、今かって?キャスター、てめえがやろうとする事が間違いだと教える為だよ。護りてえもんがあるなら、尚更だ」

「アサシン、そんな言葉は私に必要ありません。貴方は私に黙って従えばいいというのに、過干渉に移ると主張するのなら仕方ありません」

 

これからする事。それは、キャスターにとって……必要なのだ。

 

「フフ、道具よ。人はね、自分の欲望の為には何者だって犠牲に出来るのよ。生憎と私は、そういう生涯だったの。

まずは宝具の使用を………!」

 

目の前に刀が添えられた。確かな殺気を纏ったそれは、アサシンから向けられたモノではないとすぐに気づく。

キャスターは身の危険を感じると共に、アサシンの宝具が新たに″開示″された事に驚いた。

 

何故…

新しく宝具が追加されたのだ…!?

 

 

 

「その口、これ以上リクオ様を侮辱するのならこの黒田坊、慈悲なく二度と開かないようにしてやろう」

 

口先に向けられる無数の刃。藁傘の下から睨む視線。

 

「いいや、人間を道具のように見る観点から美点は一つも生まれねえ。これはな、互いが信頼し合ってなけりゃ成せない″召喚″なんだ」

 

アサシン、リクオは笑う。懐かしいモノを見て喜ぶ老人のようだ。

喉が唸る。キャスターはリクオを忌々しく睨む。

遅かった、これがこの男の宝具…

闇より出でる大群。異形のモノの発生。

 

「百鬼夜行、奴良組!リクオ様に誘われ只今現界致しました!」

 

『百鬼夜行』

マスターに己の真名を明かす事で、自動的に発動する召喚宝具。視野に捉えきれない程の妖が召喚される。

召喚された妖の魔力消費は、夜に限定すれば無いに等しい。日中、召喚された妖は「単独行動D」を得る。

発動者は、「カリスマB」を得る。

 

ステータス情報から得た情報。

リクオを召喚した時は開示されなかった宝具。真名を伝えられた瞬間にステータスに追加され、キャスターは対応に一手間に合わなかった。

 

しかし、目の前に向けられた刃が、キャスターに届く前に。キャスターは詠唱を唱えた。

 

「なにっ!?」

「邪魔よ、死になさい」

 

詠唱を終え、黒田坊を退かすなど朝飯前だ。

あまりの速さについて行けず、黒田坊はキャスターが放つ魔弾を直で受けた。無数の刃が砕け散り、辺りに霧散する。

 

「黒ぉーーーー!」

「まじかよ、黒田坊が吹っ飛ばされた!」

 

ワラワラと集まる小物妖怪。

そんな奴らには目もくれず、キャスターは令呪の刻まれた右手を胸の前に上げる。召喚された妖怪のサーヴァント達は、キャスターが右手を上げても動かない。これから何をするのかも分からないのだろう。この場の鎮静化を確信する。

 

「令呪を持って命じます。アサシンは、『百鬼夜行』の指揮権をマスターである私に譲渡しなさい」

 

言い終えると同時に、リクオの身体がほのかに赤く光を帯びる。

これは令呪が発動した証拠だ。

赤い光に包まれるリクオは全身を見回すと、キャスターに顔を向けた。

 

「いや、無理だぞソレ。俺が望まない限り、必要ない以上互いを傷つけ合うなんてしてたまるか!つか、そーゆう宝具だからな!」

 

周囲の妖が不気味に笑う。その意味は、すぐに理解した。

 

「なんですって………!」

 

効かない。

今の命令は、この男には通じない…!

 

「女狐。リクオ様に命令を下すなど、貴様の寿命を持ってしても早い!」

「くっ……」

 

首が無く、頭が浮遊する妖に拘束される。

 

「次はない。この弦は、貴様が魔術を行使しようとした瞬間、その身体を全て解体するから気をつけろ」

 

屈辱を通り越して、消失する。

召喚されたサーヴァント如きに、無力化されてしまった出来事に身体が痙攣してしまいそうだった。

 

「さて、てめえら聖杯戦争へ向けて準備に取り掛かりぞ!!先ずはこの門を吹っ飛ばしてくれ。対敵用の門に作り直す!ついでに俺も開放される!」

 

「任せてくださいリクオ様〜!この俺が粉々に砕いてやりますよ!」

「いいぞぉ〜、やれ怪力バカ!」

「脳ミソ筋肉そんな門さっさと壊しちまえ!」

 

 

 

 

 

 

 

【閉夜】

 

「キャスター、これは俺の絆だ。無理して着いてきてくれた、総大将の証そのもの。人と関わる事を受け入れた闇、まぁ、今のあんたと真反対の考えを持った奴らだな。

これからどう転ぶかは分からねえ。けどよ、少なくともキャスター、外道に成る行動で願いを求める必要はないんじゃねえの?アンタの望むモノに、ソレはあっちゃならねえぜ!?」

 

砕ける柳桐寺の入り口。

妖の総大将を縛るモノは無い。そして、我が身を守る余裕すら、瞬く間に奪われてしまった。

最早、抵抗するだけ無駄だろう。アサシンの隠し球に気付けなかったのが敗因。後悔すら無駄だ。私が死ぬ覚悟で挑めば、この場を切り抜けられるかもしれない。しかし、そう上手くいくのにはどれ程の運と実力が必要だろう。

 

「………今は、黙っておきます。返す答えは、もう少し考えてからにします。早急な返事なんて、安っぽくて軽いもの」

 

現実的ではないと、抵抗する意地を捨てる。

奴良 リクオを上手く利用すればいい。

門から離れるリクオを睨みながら、キャスターは生き残る道を考え始めた。




最後の最後ではありますが、私の作品を読んで頂き誠に感謝しています。
セイバー編、いつになるかは分かりません。ですが、もし「ひとりのリク」の作品を見かけたら、立ち寄ってみてください!


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奴良 リクオのステータス(設定) +これからについて

このシリーズは″突然″、2.3話程度のクロスオーバーを投稿するかもしれません。

詳細はまだ来ていないので不確定ですが、バーサーカーとアサシン編以外で投稿します。未定ですが…!!

セイバー編は、投稿の目処が立ったら、予告(お知らせ)として此処に載せます!


クラス:アサシン

 

真名:良奴 リクオ(夜Ver)

第5次聖杯戦争において、相性が良い相手はセイバー、キャスター。

相性が悪いのは、アーチャーだ。

話をどう進めていくのか、詳しく決めていませんでした。それでも、士郎と積極的に絡ませていって、いつの間にか剣術を教えている。なんて構想を思い浮かべながら書いていました。

 

ステータス

筋力:C 耐久:D 俊敏:A 魔力:C 幸運:D 宝具:C

↓メディアを纏うと…

筋力:B 耐久:D 俊敏:A 魔力:A 幸運:C 宝具:C

 

 

クラススキル

騎乗(妖):C

「夜」のリクオが近所を散歩する時や、メディアが愚痴愚痴とリクオのとる行動に文句を垂れ始めた瞬間、このスキルは発動する。

 

夜の散歩に連れ出す、空中を浮遊する妖を召喚する。

(名前不明。申し訳ありません)

 

気付けば空。文句を垂れる魔女から耳を塞ぐ。

そんな、夜空を散歩する総大将の姿を見れるかもしれない。

 

 

気配遮断:-

マスターがサーヴァントという、特殊な条件の元で召喚された後遺症。気配遮断スキルは、今回のリクオに付与されておらず、そのせいで自身のスキル、鏡花水月は本来以上の効果を持つことはできていない。

鏡花水月とは、気配遮断の代わりである。

 

 

「保有スキル」

 

鏡花水月:A

 

サーヴァントに対しては、圧倒的に気圧せる事は殆どなく、好戦的なサーヴァントなら精々、自身の姿をボンヤリとしか捉えきれない程度の効果。

今回の聖杯戦争でなら、殆どを単独で動き回るランサー相手には効果が薄い。だが、イリヤのように常にサーヴァントの側にマスターがついている場合、マスターに強い精神力がなければ、もろに″畏れ″を受ける。マスターが感じる畏れは、マスターを通しサーヴァントにも影響を及ぼす。

参加者達は、手を組めば組む程、このスキルの沼にはまる。単騎駆けでなく、ペアを組んで行動する作戦の相手(サーヴァントが2騎)に対してなら、単騎より強い効果が期待できる。

 

 

総大将の血:B

読み、ぬらりひょんのち。

妖の総大将、ぬらりひょんの孫であるリクオ。

ぬらりひょん、リクオの父は共に、人間を愛し、その人間との間に子を成した。父、鯉伴はぬらりひょんの血を半分受け継ぎ、鯉伴の息子のリクオは、更に半分…四分の一、ぬらりひょんの血を受け継いでいる。

最高ランクであれば、ステータスが状況に応じ最高2ランク上へ跳ね上がる事がある。

 

故にランクがBだ、ということではない。ぬらりひょんの血…畏れは規格外なもので、受け継ぐ血が半分になろうが、簡単にランクが激減することはありえない。

初代、ぬらりひょんが召喚されれば、EX。

2代目、良奴 鯉伴が召喚されれば、A+。

3代目、良奴 リクオが正規で召喚されれば、A。

記したことの要約は、正規の召喚でのランク。

 

キャスターにより召喚されたリクオは、違法な召喚によるもの。

故に、ややランクは低くなる。

 

 

鬼纏:D〜A+

信頼関係を築いた妖の畏を発動させることで、力の一部を借り受ける能力。リクオの父親が編み出した。

衣のように纏う″畏襲(かさね)″と、刀に能力を宿す″畏砲(いづつ)″がある。

 

加えて特殊な条件下において、属性が似通った者を纏うことも可能。

 

 

「宝具」

 

明鏡止水:C〜A

 

この明鏡止水には、更に上の段階がある。

初代、ぬらりひょんの力ならば、ランクはEX。

 

発動すれば、敵は自らにとって大きすぎる存在(ぬらりひょん)と出会った瞬間に、畏れるあまりぬらりひょんを見ることを止めてしまう。気づくことをやめてしまうのだ。見えていても、認識しなくなってしまう。

そして、死んでから気づく。

ぬらりひょんという妖の、大海を呑むが如き畏れに。

 

考えていたのは、敵を一瞬でも気圧す事が出来れば眼前で「気配遮断A」が発動する。リクオが戦闘から撤退しない限り、又は対象者が畏を払わない限り効果は続く。というものでした。

鏡花水月との組み合わせは凄いんじゃないかな…!?

 

※2019.6.09修正

 

 

百鬼夜行:C〜A

 

三代目、奴良 リクオの百鬼を連ねる妖達を召喚する、アサシンとしての彼が持つ最強の宝具。

奴良組に属する、或いは属した事のある妖を、ぬらりひょんの血筋を触媒にして呼び出す。応えるかどうかは、本人達次第。

 

リクオには発動中、「カリスマB」が付与される。

召喚した妖怪には、「単独行動(夜)」が付与される。

 

私個人としては、昼も夜も行動可能にしたかったのですが。

そこはアサシンらしく。

妖怪は夜、魔力供給が無くても現界できる。なんて、訳のわからない設定を考えてました。

 

 

 

クラス:セイバー(仮)

 

真名:良奴 リクオ(昼Ver)

 

ステータス

筋力:D 耐久:E 俊敏:C 魔力:D 幸運:A 宝具:-

 

「保有スキル」

 

畏の羽織:C

 

これまで築き上げてきた総大将としてのカリスマ性、人々に畏敬の念さえも抱かせる真の畏をまとう者の象徴。

夜のリクオにも当然、このスキルは付与されているのだが、彼はこれを宝具を解放するときの中継路として使っている。

昼のリクオはコレを、自身のステータスにあてる。着るとステータスに補正がつく。

 

 

総大将の血:B

 

総大将の血を、四分の一受け継いでいる。これは、夜……或いは闇が訪れた時、リクオはアサシンのクラスへと入れ替わる。

こちらも、畏の羽織と同様にステータスにあてており、本来の効果は発揮できずにいる。

 

クラスをセイバーとしていますが、夜のリクオがそう名乗っているだけです。悩ましいですが、設定を深く考えていなかった為、ハッキリしていません。

 

 

 

「武器」

 

妖刀 祢々切丸:B

 

妖のみを対象に斬る妖刀。

聖杯戦争においては、魔力を斬る事ができる。特に括りはない。

人間を斬る事は出来ないが、魔術回路は問答無用で斬れてしまう。

 

 

 

 

 




一年や二年後に投稿できないので、本当は予定していたクラス毎の主人公をここに書きます。バーサーカー編が終わったら、アーチャーかランサーを書きたいなぁ〜。


アーチャー:桂木 桂馬【神のみぞ知るセカイ】
fate/SN

ランサー:宮本 明【彼岸島】
fate/extra

キャスター:エドワード・エルリック【鋼の錬金術士】
fate/extra

ライダー:アルセーヌ・ルパン三世【ルパン三世】
fate/SN



【更新について】

この度は、私の作品を読んで頂きありがとうございます。多くのお気に入りと、評価の付与。初めて書いたこのような作品で、500ものお気に入りをして頂けた事に感謝し、また謝らなければなりません。

当初の予定として、「主人公を英雄として召喚したら」は各クラス数話による投稿後、皆様からアンケートを取らせて頂き、一番人気の高い作品を連載するつもりでした。
しかし………投稿する上で、始めだけを書き、終わりまで行かないという事に最近、違和感を感じていました。全てを中途半端に書き進め、その殆どを最後を迎えずにいいのか?と。
私自身、もしこのような形式で、好きな作品が中途半端に終わってしまったら後味が悪いと思いました。

今既に投稿済みの、「バーサーカー ジョジョの奇妙な冒険編」「アサシン ぬらりひょんの孫編」、そして次回予定のセイバー。
作品が好きだから書き始めたのに、締めずに次に行くのは果たして、読む側としては心地よいのか?ここ一ヶ月、モヤモヤっと悩んでいました。
お気に入りをして頂けたのに、気づけば読みたいシリーズの更新が止まっている…!なんて、あまりにもいい加減だよね…まだ2つのクラスだけ、ならばまだ取り返しがつくかもしれない。

幸いにも、この事に関して苦情の一つすら頂いていないです。
私の作品を閲覧して頂いた方々がどのように思っていたかまでは、分かりません。しかし、良い印象を抱いてはいないものと私は思っています。
だから止める、という訳にもいきません。
何か一つ、一つを書き上げたい。自分なりに考えて、一つの作品を終わりまで書きたいと。もっと長く、皆様に楽しんで欲しい。一つの作品に対しての感想を述べてほしい。書き上げたい。

だから、セイバーシリーズは最初から最後まで、やり遂げます。
そこで。矛盾していますが、「主人公を英雄として召喚したら」は一旦休止とします。そして、セイバー編を、新規シリーズとして投稿していきます。
ジョジョの奇妙な冒険、ぬらりひょんの孫とfateのクロス作品を読んでお気に入りして頂いた方々。誠に申し訳ありません。恐らく一年は更新がありません。
ジョジョの奇妙な冒険については、先々の構成は作っています。セイバー編を一通り書き上げてから、再度更新を開始していく所存です。ぬらりひょんの孫に関しては、身勝手ではありますが構成が出来ていません。アサシン編の更新は、あと一回で終了を予定しています。セイバー編終了、バーサーカー編更新開始の時が来れば、それに伴い、ぬらりひょんの孫のタグは削除します。作品は残しますが、更新は未定です。


以上で、アサシン編終了後のお知らせを終わります。
あと少しの間ですが、どうぞよろしくお願いします。


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セイバー編のお知らせ
fateSN×銀魂


誰かの為に生きたいと、寸前に迫る死を拒む小さな勇気

 

死の震える指先はしかし熱く、唸る声に生命が点滅する

 

神秘に抗う瞳は疑問に満ちていた

まるで何処の誰かの最期のようだ

 

走る、走る、走る

 

避け、躱し、立つ

 

やがてぶつかる壁、欠片程の才能しかない者の限界を肌で知る

 

しかし尚、その姿が絶望に膝をつく事はなかった

 

かつての己を見た

今、求めている姿だ

 

「その生き様、しかと見たぜ」

 

手を伸ばせ、そして手に入れる

 

錆びるはずのない、銀色の魂を

終わりは自分の手で着ける為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上の100文字程度の語りは、エクストラの真似事であります。

理由は後書きにて。

 

最後はおまけとなります。銀時はいかにしてセイバーとして召喚されたのか。不真面目に書きました。だけど、銀魂のようなギャグは難しすぎて書けそうにない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【金髪と銀髪】

 

 

「…また、私は呼ばれたのですね」

 

ゆっくりと立ち上がる。

端正で柔和な顔立ちの騎士は静かに呟いた。

暖かい光が、騎士王を導く。金色の髪がなびいた。

何処かに繋がっている、仄かに灯りが差し込む路を見る。

 

「騎士王の名にかけて。次こそは聖杯を……」

 

浅く深呼吸。肺に満ちる空気は少しだけ冷たい。

手に持つ不可視の聖剣を握り締め、灯りが灯る方向へ走り出した。

なぜ召喚されるのに武器を持つのか。必要だから、だ。

直感ではあるが、″彼女″を呼ぶマスターの身に危険が迫っている。

大丈夫。もし勘が外れても、騎士王の剣は宝具によって見えない。だから、何事も無ければそっと仕舞えばいいだけなのだから。

 

心を引き寄せる呼びかけに、やや心が跳ねる。珍しく、急かす感情が表に現れる。そんな彼女の足元に、風が吹いた。

魔力の風に乗り、駆け出す。

ほんの三秒ほどで、出口が眼前に迫る。

次は、理想を是と言ってくれるメイガスなら少しは気が楽になれるかもしれない。

前回の事を考えると、そんな愚痴が溢れた。無意識に。不安かは解らない。願望なのかもしれない。しかし、自身の成り立ち故に、これらは振り払う他になかった。

それが、

 

「悪いな嬢ちゃん」

「ぎゃふぅ!?」

 

油断だった。

 

「この道、俺が一歩先を行かせてもらうぜ」

 

騎士王の美しい金色の髪の後頭部に衝撃が走った。次に、顔面から地面にぶつかり「ぶふぁっ!?」とクシャクシャな悲鳴が飛び出す。

突如背後から現れた何者かの足が、セイバーの後頭部を踏み土台にしたのだ。

 

「…待ちなさい」

 

沈黙は金。それは極光のよう。起き上がった騎士の目には、怒気が表れている。黄金の粒子が不可視の剣から発生し、ソレの手には金色に輝く剣。

 

金とはもちろん、超カリバァーッ!

不可視の剣だったソレを、天に掲げる。

 

男は、騎士王の剣に集まる魔力に目を見開き、向き直ると腰にさしている木刀を抜く。躱す素振りも、背を向ける気もない。ましてや、騎士が″宝具″を開放するのを″止める気″はないようだ。

 

「通りたいのなら、我が一撃を受けてからにするがいい。

約束された勝利の剣(エクスカリバァァァー)ッ!」

 

聖剣から放たれた収束の光。

音で聞くのと同時に、ソレは特急列車の如く男の眼前に迫っていた。

交わす言葉が少なかったな、と考えて次に。この光が戦う者同士の言葉なのだと、彼は瞬時に理解した。

そして、

 

「そうかい、そんじゃお言葉に甘えるとしますかぁーー!!」

 

その身が光に包み込まれる直前、彼の口元がニヤリと笑っていたのは聖剣の使い手すらも知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のが、宝具か。

対城宝具っつーのだったら、まじでやばかったぜ?」

 

砕け散る木刀が消えていく。使い慣れていた木刀が消失するが、あまり困った風には見えない。振り向いて視線を上げて、足元から崩れる騎士王の姿を見ずに駆け出す。

今の言葉は余計な気遣いだろう。きっとそれに怒りの一つも覚える。

だが、相手に戦意の欠片も無いと見て取れた時、気遣う心は空振ってしまう。ならば、何もしない。情は送らないし、受け取らない。誇りを砕くと決めた瞬間に、彼、坂田 銀時は立ち去る事を選んでいた。

 

 

 

 

「……そんな。

 

私のエクスカリバーが……

 

……負けた……」

 

光の向こうへと走り去る銀髪の男を、只呆然と見送る事しかできなかった。情に駆られ、開放した必殺にしても簡単すぎる。聖剣の敗北が、呆気なさすぎる……!粗末な決着に、異議を唱える気力もなかった。

霧散した光の粒子が消えていく。約束された勝利の剣(エクスカリバー)の使い手、アルトリア・ペンドラゴンはここで退場となる。対城宝具が真っ向から負けた悔しさが、失意へと変わり。

やがてその場所は、何も残さずに消失した。




皆様、お久しぶりです。そして閲覧ありがとうございます!
実はですね、セイバー編はエクストラ路線で行くつもりでした。敵サーヴァントを所々変えて、話をサクサク進むように構成していたのですが、それでは少し足りなかった事に気づきました。それはこのシリーズの最後に。てか、実はですね〜って言っても誰も聞いてないとか、これ書いていて思ったけど突っ込まないでほしいです…寂しい人みたいですじゃん?

さて、セイバー編。このタイトルにも書いています。銀魂、と。
はい、そうです!セイバーは、糖尿病&ニート予備軍、坂田 銀時!
マスターは、家事万能天然ジゴロ、衛宮 士郎!

銀時の宝具なんて、少しくらいしか思いつかないですが書ききってみせますよ!
宝具はある程度、自分なりに考えて、そして他のサイトや作品のfate×銀魂作品見て更に参考に!と思ったのですが。
……あれ、なんか少ない。てか、あまりなくね?あるにはあるけど、私が作ったモノと類似した宝具ないよ!?
と、まあ、ハラハラなんですが。なんとかなるか〜って。
うっ…胃が痛くなってきたぁ…

投稿を開始したら一ヶ月、よりもう少し感覚を詰めてやっていきたいです。三話目くらいまでは週一投稿できたらいいなー!
連載開始は一月下旬を予定!なにせ、fateGOのイベントとか、七章で忙しいし……(ボソッ)
こんなに早く投稿したのは、丁度一月の下旬辺りまで仕事がミッチリでして、今しかこういう後書きを書く余裕がなかったからなんです。どうか、ご勘弁を〜!

さてさて。
まずは投稿するにあたり、タイトル名を発表します!


タイトル名
【fate/SN GO】

GOの略称ですが、見たまんまです。
【G】→GINNIRO←【O】


ね?
銀色をローマ字にして、始めと終わりを取って【GO】です。
え…?タイトル詐欺?何のでしょうか。………タイトル詐欺ではありません。断言します。




うっ…苦情がきそうです…また胃がキリキリしてきたぁ…

銀魂タグ付けようか迷ったのですが、たった一話、しかもSSじゃないので、控えます。


追記。
セイバー編を連載開始する時は、「主人公を英雄として召喚したら」枠で投稿はしません。ですので、こちらでの更新は暫くありません。どうか、ご理解の程お願い致します。
本当に短い話数、短い間ではありましたがありがとうございました!
もしよろしければ、セイバー編を読みに来てください!

1/8(午後9時頃)、このシリーズの、あらすじにて!セイバー編の投稿日を発表します。よければ、見に来てください!


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