達也の周りは敵だらけ (黒以下)
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入学編 前編 

初めて書きます。投稿の仕方を間違えたようです。長いし読みずらい処もあると思いますがご了承ください


2095年春 国立魔法大学付属第一高校入学式の当日 二人は揉めていた

 

「納得できません。なぜお兄様が補欠なのですか?」

 

「そんなに怒るなよ 深雪」

 

新しい制服のに身を包む新入生「深雪」と呼ばれた美少女。その深雪に「お兄様」と呼ばれた達也

 

「新入生総代は私ではなくお兄様がされるべきです」

 

「ここではペーパーテストの成績より実技の成績が優先されて当然だ。それに今の俺の実力で入学できた。俺はそれで十分だよ」

 

「また その様な事・・・お兄様に勉学や体術で勝てる者などいません・・・本当なら魔法だって・・・」

 

「深雪 何を言おうとしてるんだ」

 

「ッ・・・申し訳ありません」

 

「謝るな。お前が俺の代わりに怒ってくれる。俺はそれで救われるんだ」

 

「嘘です・・・お兄様は私を叱ってばかり・・・私がダメな妹だから」

 

「そんな事ない。お前が俺の事を考えてくれる様に、俺もお前の事を思っているんだ」

 

「私のことを想ってる?」

 

深雪の反応を見て また悪い癖が出たと思った。達也は深雪が相手の言葉を自分のいい様に取ってしまう癖があると思っている。それは相手の言葉を正確に理解していないのと同じだ。良いことではない。

 

「それに お前が答辞を辞退しても俺が選ばれることはない。まぁ、この際だからお前の晴れ姿を見せてくれ」

 

「・・・わかりました。行ってきます。ちゃんと見てくださいね!」

 

「あぁ いって来い」

 

入学式まではまだ時間がある。達也は中庭のベンチに腰を下ろす。達也の近くを女子生徒が通る。上級生らしい。

 

「ねぇ・・・あの子ウィードよ」

 

「こんなに早く、補欠が張り切って」

 

この学校は、全生徒が平等ではない。入学時に全てが決まる。魔法科高校は実力主義と言っていい。毎年200人の新入生は優等生(一科)と劣等生(二科)に分けられる。違いはいくつかある。見た目でいえば制服。一校の校章は八枚花弁が使用される。一科生の制服には校章が刺繍されているが二科生の制服にはそれがない。ちなみに深雪にはあるが、達也にはない。そんな違いからか、一科生を花冠(ブルーム)二科生を雑草(ウィード)と呼ぶ。この呼び方は学校側は差別用語として禁止しているが生徒の間では普通に使われている。

 

達也は気にしなかった。だから読書に没頭してセットしたアラームが鳴るまで気が付かなかった。講堂に向かうためベンチから立ち上がる。すると声が掛る。

 

「新入生ですね。開場の時間ですよ」

 

女子生徒なのはすぐに解る。声質と制服のスカートで だが分からない事もある。彼女の制服の裾で見え隠れするブレスレット。彼女が何者か気になった。

 

「(CAD・・・校則じゃ一般生徒は学校に預けるはず・・・イヤ待て!一部の生徒会などに所属する生徒には常時携帯が許されていたっけ・・・)」

 

無視はできない。お礼を言ったらすぐ立ち去るつもりだった。入学初日に、それも役員の生徒に目を附けられるのはゴメンだ。しかし彼女の方から話しかけられ達也は立ち去るタイミングを見失う。

 

「あ!ごめんなさい。私は生徒会長の七草真由美です。よろしくね」

 

「俺・・・じゃない・・・自分は司波達也です。(数字付き(ナンバーズ)・・・しかもあの七草と初日に会うとは・・・)」 

 

実際に見ると聞くではやっぱり印象は違うな・・・達也はそんな事を思っていた。達也は彼女を知っていた。彼女は学外でも有名だから達也が知っていても可笑しくはない。しかし達也にとって彼女は有名人でなく要注意人物の一人だ。

 

現在の魔法師界でモノを言うのは遺伝子や家柄だ。この国で有名な魔法師は苗字に数字が付いている者が多い。特に一~十の数字が苗字に付いている者は数字付き(ナンバーズ)と呼ばれる。他のそれ以外の数字(十一以上)を持つ家系は百家と呼ばれる。目の前の彼女は『七草』つまり、『七』の家系。しかし『七』だからと言って七番目に優秀な家柄ではない。現在 彼女の家はこの国で二番目に優れた魔法師の家系と云われる。因みに達也のような苗字に数字が入っていない家系は一般と呼ばれる。

 

「貴方が 司波達也君?」

 

どうやら彼女も達也のことを知っていた。だが生徒会長の彼女が達也のことを知っていても可笑しくはない。達也は深雪の、新入生総代の兄なのだから。

 

「先生方の間では貴方の噂で持ち切りよ!入試全教科平均98点、特に魔法理論、魔法工学では小論文を含め満点前代未聞の高得点だって」

 

「どんな成績でもペーパーテストですよ。意味のあるものじゃないです」

 

「そんな事ないわ。こんな点数、誰にでも取れるものじゃない。私にも無理」

 

達也は真由美の反応が不思議で堪らなかった。

 

「(こんなに一般を褒めるなんて・・・七草だよな?この人)あの、時間なので・・・」

 

達也は話を切り上げた。

 

「あ!ちょっと」

 

まだ話し足りない真由美の横を通り抜ける。中庭に取り残された真由美。そんな彼女に声をかける者がいた。

 

「生徒会長がこんな所で何してるんだ?」

 

「摩利?」

 

「なぁ、さっきの子」

 

「えぇ・・・新入生総代のお兄さん」

 

「どうだった?」

 

「やっぱり、彼にも差別意識があるみたい」

 

「仕方ないんじゃないか? 彼の場合はいつも優秀な妹と比べられてきたんだろ」

 

「摩利はどう見えた?」

 

「うーん。一言でいえば、似てない、やる気がない、覇気がない・・・かな?」

 

「一言じゃないわよ」

 

達也が講堂に入った時には既に半分の席が埋まっていた。指定席はないが達也は後列に座らざるをえない。なぜなら一科と二科で綺麗に前後で分かれているからだ。しばらくして声を掛けられる。 勿論、ニ科生。

 

「お隣、空いていますか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

達也は席を譲る。元々一人だ。隣は関係ない。だが、彼女には連れがいた。

 

「あの、私、柴田美月です。よろしくお願いします」

 

「司波達也です。よろしく」

 

美月と名乗る少女と目が会う。彼女は今時珍しく眼鏡を掛けている。しかも眼鏡には度が入っていない様だ。そんな彼女を見て、達也は思った。

 

「(霊視放射光過敏症?)」

 

病気ではない。感覚の問題。要は人より色々と見え過ぎるのだ。だが見え過ぎるのも良くない。美月にとっても、達也にとっても。達也は不安だった。もし、自分の秘密が見られたらと思うと。達也には秘密がある。一つではない 沢山 それも一つ一つが厄介なモノばかり。

 

「良かったね!これで座れるね!」

 

美月の連れであろう少女が会話に加わる。

 

「アタシ、千葉エリカ。宜しくね! 司波君」

 

「こちらこそ宜しく」

 

「(千葉? 数字付き(ナンバーズ)の次は百家か?しかし、千葉にエリカなんて奴いたか?)」

 

その頃、深雪は舞台袖にいた。一高では新入生挨拶はその年の新入生総代が行う。勿論、今年は深雪。

 

「なぜ私がこんな事。本来はお兄様がされるべきなのに」

 

深雪はまだ納得していなかった。しかし、達也と約束した以上やらないと言う選択肢はない。しかたないので これは自分の義務だ! と思うことにした。

 

入学式が始まる。

 

「次いて新入生答辞。新入生代表、司波深雪」

 

壇上に上がる深雪。その姿を見て言葉を失う者達。達也は答辞を聞いてヒヤヒヤした。深雪の答辞に、皆等しくとか、魔法以外でも、など誇り高い一科と劣等生の二科を同列に扱うような言葉を盛り込んでいたからだ。そんな考えを深雪が持っていると知れば彼女の評価が下がると心配したが彼らは答辞を真面に聞いてなかった。

 

「司波さん。お疲れさまでした」

 

答辞を終え、舞台袖に引っ込んだ深雪に声が掛かる。

 

「会長。お疲れ様です」

 

深雪は直ぐに立ち去りたかったが。会長相手にそれはない。

 

「中々面白い答辞でしたよ。皆等しく、魔法以外でも、随分際どいフレーズを織り込んでいましたね」

 

「ッ・・・」

 

流石にあからさま過ぎたかな?と思った。

 

「別に攻めてないのよ。むしろ、あなたの様な考えの持ち主がいて助かるわ!」

 

「(あの七草の人がこんな事、言っていいのかしら?)」

 

深雪は真由美の考えが分からなかった。

 

達也と深雪にはナンバーズに偏見がある。まぁ誰にでも誤解や偏見はあるものだ。特に二人の育った環境を考えると仕方ない。

 

深雪の周りには既に多くの人だかりができていた。新入生(勿論一科のみ)彼らは各々深雪の気も知らず答辞の感想を述べている。無視は出来ない。これから共に学ぶ者達だ。どうしようか悩んでいると・・・真由美から声を掛けられた。

 

「司波さんはお兄さんと待ち合わせしているのでは?」

 

「・・・え!あぁ はい」

 

思わぬ処から助け船が出た。まさか真由美に救われるとは思わなかった。

 

「それじゃ行きましょう。お話しは移動しながらでも出きますから」

 

「お気遣い頂き有り難うございます」

 

真由美と共に歩き出す深雪。そして、その後に続く一科生。

 

「なぜ。会長は兄の事をご存知なのですか?」

 

「先生方の間でちょっとした噂になっているんです」

 

「はぁ・・・噂ですか」

 

「まぁ あれほどの逸材が現れれば仕方ないのでしょうけど」

 

「はぁ~有り難うございます」

 

 

一方。達也は入学式も終わり自分のIDを受けっとていた。

 

「司波君は なん組?」

 

エリカが声を掛ける。

 

「E組だよ」

 

「え!本当? アタシもだよ」

 

「良かったです。私もなんですよ」

 

「じゃあ、ホームルーム覗いていかない?」

 

「悪い、妹と待ち合わせしてるんだ」

 

「もしかして妹さんは司波深雪さんですか?」

 

「え!じゃあ、司波君は双子なの?」

 

「見えるか?」

 

エリカが返事に困る。しかし達也は気にしない。

 

「俺が4月生まれで、アイツが3月」

 

「それにしても柴田さんは良く分かったね。俺たち似てないのに」

 

「何と言うかオーラが似ています」

 

「へぇ~オーラが見えるんだ。本当にいい目をしてるね」

 

達也は美月の言葉を聞いて冷静ではいられなかった。いきなり流れる険悪な雰囲気にエリカが驚く。これは何とかしなければ・・・そんな気まずい雰囲気の中で明るい声が掛かる。

 

「お待たせ致しました。お兄様」

 

深雪の声に驚いたのはエリカではない。一科生。理由は深雪がお兄様と言った達也が二科生だからだろう。

 

「まじかよ。兄貴の方ウィードだぜ」

 

「よく同じ所に通えるよな」

 

達也は一科生の感想などは気にしない。だがそんな事より気になるのは深雪と一緒にいた真由美。

 

「また、お会いしましたね。司波君」

 

「・・・どうも」

 

「お兄様。そちらの方達は?」

 

「あぁ。柴田美月さんと千葉エリカさん。クラスメイトだよ」

 

「初めまして。司波深雪です」

 

「柴田美月です。初めまして」

 

「アタシは千葉エリカ。宜しくね・・・深雪でいいよね?」

 

「えぇ、勿論。苗字だと呼び辛いでしょうし。それで私は貴方の事はエリカって読んでいいのね?」

 

「うん。勿論・・・深雪って気さくなんだね」

 

「エリカほど見た目通りではないと思うけど」

 

「私は深雪さんって呼んでいいですか?」

 

「えぇ。好きに呼んでかまわないわ、美月」

 

達也は先ほどから一科の表情が優れないのが見えていた。自分たちですら満足に話していないこともあり、深雪が二科生と話す事自体が気に喰わないのだろう。

 

「深雪 お前の用事は済んだのか?まだなら・・・」

 

「大丈夫ですよ。今日はご挨拶だけですから」

 

「会長!!」

 

隣の男子生徒。副会長の服部が驚く。恐らく予想していなかったのだろう。

 

「こちらの予定を押し付ける訳にいかないでしょう?ですから、今日はこの辺で。お話はまた日を改めて。司波君も今度ゆっくり話しましょう」

 

「・・・」

 

去っていく真由美を追いかける服部。彼は去り際に達也を睨み付ける・・・(俺を睨んでも仕方ないだろ)と思う達也。

 

「申し訳有りません。お兄様」

 

「お前が誤る事じゃないだろ」

 

落ち込む深雪。それを慰める達也。それを見て耐えられなくなったエリカ。

 

「ねぇ、もう帰らない?」

 

二人と別れ自宅に着く。深雪は夕食の準備に取り掛かろうとした。だがそこに電話が掛かる。端末に表示された相手の名前は深雪の嫌いな人物の一人だった。

 

「申し訳有りませんお兄様。少々、夕食の時間が遅くなります」

 

深雪は既に不機嫌だ。

 

「気にするな。ゆっくりしてきなさい」

 

深雪が自室に入って今度は家に直接、電話が掛かる。しかも、掛けてきた相手は、居留守も使えない相手だ。仕方なく達也は電話に出ることにした。本来なら深雪が出るべきだが出なければ後で何を言われるか分からない。

 

「こんばんは 叔母上」

 

電話の相手は、達也と深雪の叔母、真夜。

 

「はい こんばんは達也・・・あら深雪はどうしたの?」

 

「申し訳有りません叔母上。先ほど叔母上より先に深雪に電話がありまして恐らくウチの親だと思いますが。そちらの対応をしている処です」

 

「そう・・・まぁいいわ。相手が達也でも構わないから」

 

目の前に映る叔母の真夜は実年齢45歳だ。どう見繕っても30代にしか見えないが・・・まぁ実年齢より若く見られて悪く思う女性はいないだろう。

 

「それで叔母上ご用件は?・・・そもそも この様な時間に電話されて宜しいのですか?」

 

彼女は実業家だ。化粧品やファッション関係の経営者。しかも、彼女自身が若々しいので化粧品の売上などは半端ない。彼女は忙しい人だ。そんな彼女が家に電話を掛ける事は珍しい。元々 司波家に頻繁に電話を掛ける人はいないが・・・それが実の親であっても。実はこの家には達也と深雪だけ。実の親は別の場所で暮らしている。

 

「あぁ 大丈夫よ。心配しなくて」

 

別に心配などしていないのだが。

 

「貴方達。今日は入学式だったでしょう?だから入学祝いに何か送ろうと思って 何か欲しい物がないか聞いておきたかったのよ」

 

「入学祝いですか?しかも、深雪だけじゃなく俺にもですか?」

 

「えぇ、そうよ。何か可笑しい? 貴方達の叔母である私が可愛い甥と姪に贈り物するのが」

 

「本家の方々がうるさく云われませんか?」

 

「フフ・・・本当に達也は心配性ね」

 

「で・・・どうだった?学校の方は?ちゃんと上手くやれそう?」

 

「あの叔母上 まだ初日なのですが・・・」

 

「そうね でも七草とかには気を付けなさい」

 

「七草なら接触しましたよ・・・まぁ俺の方は偶然ですけど、深雪の方はこれからも接点があるかもしれませんね」

 

「ふーん。それで彼女はどうだったの?」

 

「どう?・・・と云われましても、実力の面で言えば、とても優れた魔法師ではありますが深雪に敵うものでは・・・」

 

「そんな事当たり前じゃない・・・そうじゃなくて・・・私は貴方に異性として、どう感じたか聞いてるんだけど?」

 

真夜は珍しく本当に楽しそうだ。

 

「そんな事聞いてどうするんです?叔母上は俺が女性に対して抱く感情は知っているでしょう?」

 

「知っているから心配なのよ。貴方の将来が・・・折角の高校生活なのだから楽しまなきゃ!」

 

「俺と七草の娘では釣り合わないでしょう?」

 

「弘一さんなら家や血筋は気にしないと思うけど?それに貴方の力も気に入るでしょう」

 

「俺は叔母上と違って七草を知りません。七草と関係を築くつもりもないんでしょう?第一俺の力は簡単に見せれるモノじゃないですよ」

 

「そんなに起こらなくたっていいじゃない」

 

「・・・別に怒っているわけでは・・・」

 

「それじゃ、何か他に報告はあるかしら?」

 

「実は叔母上に調べて頂きたい事があるのですが」

 

「あら!珍しい。じゃあ まずは話を聞かせなさい」

 

「本日、知り合ったばかりですが、この二人を調べて頂きたいのです」

 

達也が真夜に見せているのは帰り際に撮った美月とエリカが映っている写真だ。

 

「・・・なんだ、もう見つけてるじゃない・・・嫁候補」

 

「・・・違いますよ。この二人は嫁候補じゃなく危険人物候補です」

 

「危険・・・この子達が?」

 

「まず彼女は千葉エリカ」

 

達也が最初に紹介したのはエリカだ。

 

「ふーん、千葉ねぇ~それで・・・」

 

「ですから、彼女が本物だったら・・・」

 

「別に彼女が本当に百家の娘でも気にする事じゃないわ。千葉が私と貴方達の関係を見抜く事なんて出来ないから。元々、千葉は諜報向じゃないでしょ。心配し過ぎよ」

 

「それでは次にこちらの柴田美月の・・・彼女の眼を調べて頂きたいのですが・・・」

 

「眼?・・・彼女は貴方と似たような力でもあるのかしら?」

 

「それは解りませんが 彼女は霊視放射光過敏症の様です」

 

「別にその位・・・」

 

「ですが、彼女には他人のオーラが見えるようです」

 

「ふーん。オーラねぇ~。確かに見え過ぎるのは良くないわ」

 

「わかったわ。調べさせておくから。ついでにもし危険だった場合はこちらで消しておいてあげる」

 

「そこまでしなくても大丈夫ですよ」

 

「あら、遠慮しなくていいのよ」

 

「大丈夫です。叔母上より俺の方が消すのは得意ですから」

 

「そうね。だったら判断は任せるわ。私からは以上よ」

 

「自分からもこれ以上の報告はありません」

 

「それじゃ、おやすみなさい達也。深雪にもよろしくね」

 

「はい、お休みなさいませ叔母上」

 

こうして達也の長い一日が終わる。

 

翌日、司波家の朝はいつも早い。

 

「今日は早いんだな」

 

「今日は私も御一緒しようかと」

 

達也も深雪も早起きだが達也より深雪が早く起きるのは本当に珍しい。

 

「まぁ、深雪が来るのも久しぶりだから師匠も喜ぶんじゃないか?」

 

達也と深雪は早朝から小高い丘の上に立つ九重寺を訪れていた。達也は門の前で立ち止まる。

 

「・・・今日は朝から乱取りか・・・」

 

達也が門を潜ると修行僧達が一斉に襲いかかってきた。達也は焦らず彼らをあしらっていく。達也を見守る深雪に声が掛かる。深雪は振り向いた。しかし、声の主、九重寺の和尚 九重八雲の姿はない。

 

「こっちだよ!深雪君」

 

「ッ・・・先生。いい加減、気配を消して忍び寄るのはやめてください!心臓に悪いです」

 

「そんな事言っても忍び寄るのは性みたいなモノさ」

 

「今時、忍者なんて職種ありません!」

 

「忍者じゃないよ。僕は由緒正しき忍だよ」

 

「先生が由緒正しいのは知ってます。それなのに・・・」

 

言葉が続かない。言っても無駄だ。このやり取りは初めてではない。

 

「・・・それが一高の制服かい?」

 

「えぇ・・・今日は先生に入学の報告を・・・」

 

「いいよね!それ」

 

八雲は話を聞く気がない。なぜか八雲は深雪との距離を詰めていた。イヤな予感がした。また、自分で遊ばれるのではないかと。しかし、達也が八雲を止めてくれた。

 

「師匠、年頃の女の子にそれはまずくないですか?」

 

「やるじゃないか!僕の後ろを執るなんて」

 

それでも八雲は笑っていた。そして簡単に達也から離れる。

 

「もう、体術だけなら敵わないね。さて、そろそろ始めようか?」

 

八雲の指導が始まる。そして、気が付けば達也は地べたに倒れ込んでいる。

 

「大丈夫ですか?お兄様」

 

深雪が膝をついて達也に声を掛ける、別に心配していない。九重寺に通い始めてから毎度お馴染みの風景だ。八雲が達也を指導している場所は室内ではない。勿論、九重寺に道場の様な場所がない訳ではないが、今日は外だ。そんな処に制服で膝を就けば制服が汚れるのは当然だ。

 

「悪いな、制服が汚れたな」

 

「大丈夫ですよ。このくらい。ついでにお兄様のも」

 

そう言って深雪はCADを操作する。そして、達也と深雪の汚れが無くなる。深雪のCADは真由美と同じ汎用型でも一般的に普及しているブレスレットタイプではない。携帯端末タイプである。このタイプの利点を挙げるとすると慣れば片手で操作出来る事だ。

 

「お兄様、それに先生もそろそろ朝食にしませんか?」

 

「うん、そうしようか」

 

深雪は達也と朝食後、九重寺を出る。一度帰った後、達也が制服に着替えるのを待って学校に向かう。この兄妹に学校に行くまでに会話がない事はない。しかし、今日は思い空気が漂っている。そして、深雪が口を開く。

 

「あの・・・お兄様、昨日あれから、あの人達から連絡は?」

 

「いつも通りだよ・・・」

 

「ッ・・・そうですか・・・本当にあの人ときたら・・・自分の立場が理解できないんでしょうか?」

 

深雪が言うあの人と言うのは昨日、深雪に電話を掛けてきた二人の実の父 司波達郎

 

「親父にまた 何か言われたのか?」

 

「入学祝いだとか・・・ですが、叔母さまですら形式的なものとはいえ、お兄様に電話されたのに、実の親が息子に電話の一本もないなんて」

 

「まぁ。仕事を手伝えと言う親父の命令を断ったんだ。それに高校は義務教育じゃないんだから」

 

「何を言っているんですか?元々あの人がお兄様に命令する権利なんてないし、会社だってあの人の物じゃない。あの人は所詮、本家と会社の関係性を隠すためのお飾りなのに・・・だいたい、義務教育でないと言っても15歳が高校に行きたがるのは当然じゃないですか。それに、私の進学が決まった時点でお兄様が一緒に通うことになるのは分かってたでしょうに・・・不満があるなら言えばいいんです。私や叔母さまに直接。まぁ、あの人が本家に楯突くことはできないでしょうけど・・・もし、これ以上くだらない事をするなら叔母様に・・・いえ・・・私が本家に命令してあの人を殺・・・」

 

「深雪、それ以上はやめろ・・・」

 

「ッ・・・申し訳有りません」

 

学校に着いた二人は教室に向かう。本当はまだ達也と一緒にいたかったがそう云う訳にもいかない。深雪は大人しく教室に向かう。

 

「1-Aここね」

 

深雪が教室に入ると歓声が上がる。深雪と同じクラスなのが嬉しいのだろう、逆に廊下からはため息が聞こえる、彼らはA組ではないようだ。教室に入って自分の席に着こうとした深雪だが、深雪は足を止める。深雪の目の前で同じクラスであろう女子生徒が派手に転んだからである。

 

「・・・えっと、大丈夫ですか?」

 

「は、はい・・・だ、大丈夫です」

 

こけた女の子の顔は真っ赤だ。深雪は咄嗟に助けられなかった。彼女が何もない処でこけるから、深雪も周りのクラスメイトも呆気に取られたのだ。

 

「おい、アイツ。今、何も無い処でこけなかったか?」

 

「なんで、あんなのがいるんだ?」

 

「ごめんね!司波さん。この子、本当にドジだから」

 

困惑していた深雪に、女子生徒が声を掛ける。 彼女は転んだ女子生徒を知っているらしい。

 

「司波さん。初めまして、私、北山雫です。よろしく」

 

「えぇ 初めまして 司波深雪です。こちらこそよろしく」

 

北山雫と名乗った小柄な少女。随分と表情が読みずらい。

 

「あぁそうだ・・・ついでに、この子は光井ほのか・・・仲良くしてあげて」

 

「ちょ・・・雫・・・酷い・・・私、初対面なのに・・・私の印象、台無しだよ!」

 

どうやら派手に転んだ彼女は光井ほのかと言うらしい。

 

「目の前で派手に転んだんだから。今さらだと思うけど・・・」

 

「ッ・・・そんな事ないよ。 は!初めまして光井ほのかです。宜しくね!司波さん」

 

「え、えっと司波深雪です。改めて宜しく。あぁ、それから、私の事は深雪でいいわ」

 

「・・・じゃあ、私の事も雫でいいよ、深雪」

 

「わ、私の事も、ほのかって呼んでいいから」

 

「分かったわ。よろしくね!雫 ほのか」

 

「うん」

 

深雪に新しく友達ができた頃、達也にも新しい友達ができようとしていた。

 

「おはよう。達也君」

 

「司波君。おはようございます」

 

達也に声を掛けたのは、昨日、仲良くなったエリカと美月。まだ、知り合って二日目だが、エリカには下の名前で呼ばれた。美月はまだ苗字だが、これは二人の性格の差だろう。

 

「おはよう、エリカ。柴田さんもおはよう」

 

達也は席に着くと早速、作業を始める。

 

「司波君。何をしているんですか?」

 

「何って。履修登録」

 

達也は美月の質問に素っ気なく答える。しかし、達也の回答に返事をしたのは隣の席の美月でもエリカでもない。達也の前に座っていた男子生徒。

 

「すげぇな・・・お前。あぁ・・・わりぃ、今時 キーボードオンリーで、しかもその速さが珍しかったから」

 

「慣れればこっちの方が早いから・・・」

 

「ふーん、そっか」

 

「なぁ・・・処で」

 

「おっと忘れてた、俺は西城レオンハルトだ。宜しくな。親がハーフとクウォーターなもんでこんな名前だが、俺の事はレオって呼んでくれ」

 

「俺は司波達也だ、宜しくなレオ」    

    

「OKだ!宜しくな達也」

 

レオと達也は直ぐに仲良くなった勿論 美月も しかしエリカとは馬が合わないようだ・・・。

 

お昼時 達也はエリカ達と昼食をとっていた。勿論レオも一緒だ。そこに深雪たちもやって来る。

 

「ご一緒してもよろしいですか?」

 

「あ、深雪こっちに・・・さすがに深雪一人じゃないよねぇ~どうしようか?」

 

エリカたちが使っているのは四人掛けのテーブルだ。深雪一人だけなら何とかなったかもしれないが、深雪を含めて3人はどう考えても座れない。仕方ないので、隣の同じまだ使われていないテーブルをくっ付ける。

 

「なぁ達也。あの子、誰?」

 

レオは二人の関係を知らない。

 

「司波深雪、俺の妹だ」

 

「マジ?」

 

「西城レオンハルトです。宜しく」

 

「司波深雪です。そしてこっちは北山雫さんと光井ほのかさんです」

 

「まずは先に座りなよ。自己紹介は後でもいいじゃん」

 

エリカの言葉で本来なら楽しい食事になるはずだった。自己紹介が行われるはずだったのに邪魔が入る。

 

「司波さん、ここに居たんですか?」

 

他の一科生A組の連中。先頭にいるのは森崎駿。

 

「おい、お前ら何やってるんだ?気が効かない奴等だなぁ。邪魔なんだよ。司波さんが座れなくて困ってるだろう。さっさと退けよ!」

 

「はぁ?あんた何言ってんの?深雪たちの席は確保してあるんだけど?」

 

「司波さんは、その席で食べたがっているんだ。それに僕らも司波さんと食事するんだから、お前らウィードはさっさと退けよ。目障りだ」

 

別に深雪は食べる席を指定していない。ただ、達也の隣で食べたいだけなのだが。

 

「アンタさっきから何様のつもりよ!なんで私たちがアンタ達のいうこと聞かなきゃいけないのよ!だいたい、私たちがまだ使ってるのが見えないの!」

 

「おいおい、お前らウィード風情が僕達ブルームに口答えするなよ。お前たちの都合なんて最初から関係ないんだから。補欠は黙って僕らの言うことを聞けばいいんだよ。なんなら、実力行使してもいいぞ。そうなったら困るの君達だろう?どうせ実力で僕らには敵わないんだから、分かったら早く退けよ」

 

エリカはまだ、反論しようとしていた。もし、本当に相手が実力行使に出ても勝つ自身が彼女にはあるのだろう。しかし、達也がエリカを牽制した。

 

「深雪、俺は済んだから。もう行くよ」

 

そう言った達也だが、彼の手元にはおかずやご飯が沢山、余っていた。

 

「おい!待てよ達也」

 

「ちょ!なんでよ!達也君」

 

達也の行動が意外だったのだろう。エリカは森崎の相手をするのをやめて達也を追いかける。美月とレオもそれに続いた。

 

「全くウィード風情が、まぁいい、とにかく席が空きましたね。我々も食事にしましょうか。ねぇ司波さん?」

 

「結構です!私は入りませんので、皆さんで好きに食べてください」

 

深雪は何も食べず食堂を後にした。深雪は少しだけキレていた。彼女が本気でキレていればこんなものでは済まなかっただろう。深雪が完全にキレていないのは達也が去り際に怒るなと合図したからだ。その後 深雪は昼食を取る気にはなれなかった。お腹が空かない訳ではない、ダイエットもしていない、勿論する必要はない。ただ、達也が満足に食事をしていない事を知っていて自分だけ食べる事が許せなかった。

 

しかし、彼らとの衝突はこれで終わりではなかった。放課後に第二幕が幕を開ける。

 

「・・・謝るなよ深雪」

 

「・・・大丈夫でしょうか?」

 

「いい加減にして下さい!深雪さんは、お兄さんと帰るって言ってるじゃないですか?」

 

「何よ!うるさいわね。ちょっと時間を借りるだけよ!」

 

「そうだ!僕達は話し合うことがあるんだ。邪魔するな!」

 

「邪魔してるのはアンタ達でしょ!深雪の予定をアンタ達が勝手に決めてんじゃないわよ」

 

「そうだぜ!そんな事は本人にちゃんと許可とれよ!」

 

「黙れ!お前たちウィードには関係ないだろ。何度も言わせるな!ウィードが僕達ブルームに口答えするなよ。補欠風情が立場を弁えろ。いったい何様のつもりだよ」

 

中々終わらない言い争いだったが、美月の一言で衝突は避けられなくなった。

 

「立場を弁えろ?貴方達こそ何様ですか、ウィード、ウィードって同じ新入生なのに・・・今の時点で貴方達がいったいどれだけ優れているっていうんですか?」

 

美月の言葉は森崎がキレるには十分過ぎた。

 

「本当に腹の立つ・・・新入生だから同じ?ウィードが僕達ブルームを同列だと思っているなんて、そんなに言うなら見せてやる。実力の差を、もう泣いて謝っても遅いぞ!」

 

「へぇ!おもしれ、泣かせてみせろ」

 

「これが僕達とお前らの実力の差だ!」

 

森崎がCADを抜く。彼の目の前にはレオ。時間は夕方。この時間に一般生徒が自分のCADを持っても不思議ではない。彼のCADは拳銃形態の汎用型よりスピードに優れる特化型のCADだ

 

流石に、これ以上は達也と深雪も黙っていられない、止めなければ・・・と思っていたが・・・森崎のCADはエリカによって弾き飛ばされた。

 

「痛ッ・・・バッ、バカな」

 

「フフッ・・・今年の一科の人は随分と鈍いのね」

 

「ウィードが調子に乗るなよ」

 

キレたのは森崎だけでなかった。このままでは魔法の打ち合いになる。そんな事止めなければ・・・深雪はそう思って達也を見る。達也がその場で片手をかざす。深雪には達也が何をしようとしたか解った。本当は深雪もこの騒動を止めたかった。しかし、この場合は達也に任せるのが一番だと思い深雪は動かなかった。だが、この騒ぎを止めようとしたのは二人だけではなかった。

 

「みんなダメ!」

 

魔法の打ち合いになりそうなのをほのかは止めさせようとした。しかし、ほのかの起動式が撃ち抜かれたのだ。急な事に、ほのかはバランスを崩すが雫により事なきを得た。

 

「やめなさい・・・自己防衛以外の魔法使用は校則違反の前に犯罪ですよ」

 

ほのかの魔法式を撃ち抜いたのは真由美だった。もっとも、現れたのは彼女だけではない。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。君達、1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聴きます着いてきなさい。起動式は展開済みだから抵抗するな」

 

生徒会長と風紀委員長の出現を前に動けずにいる者が多い中、達也だけが動く

 

「すいません。こんなに大ごとになるとは思ってなくて」

 

「・・・どう言う事だ」

 

「森崎君のクイックドロウは有名ですから。一度見せて貰おうと思ったんですが、彼の照準先に人がいたんです。みんなはそれを止めようとしてこんな事に」

 

「・・・なら彼女が、その事態を止めるのに攻撃性のある魔法を使う必要ないと思うが?」

 

「あれは只の閃光魔法でしたけど・・・」

 

「なに!」

 

「攻撃の意思があるなら、さっきの魔法である必要は有りません。さっきのは威力の弱いもので、もし発動していても目くらまし程度のモノで間違っても失明するようなモノじゃないですよ」

 

「君は確か。司波達也君だったね・・・だが下手な嘘は止せ」

 

「嘘?」

 

「君の言っている事は他人の起動式を一瞬で理解しているという事だ。そんな事ありえない。頭のいい君はこの事が常識なのは知っているだろう」

 

「嘘じゃありませんよ。俺はそんな目を持っているので。それと先輩は常識なんていいますけど、自分の常識が通用しない事は良くある事でしょ。それにお二人が来なくても魔法が発動する事は無かったですし・・・」

 

「そんな事どうやって・・・」

 

「どうやってって・・・こう・・・ですけど」

 

達也が片手をかざすと摩利の術式が機能しなくなった。

 

「君・・・今、なにをした」

 

「何って 七草会長と似たようなことですよ。まぁ、俺のは会長と違って、単なる力技ですけど」

 

「達也君!あなた・・・」

 

「騒がれたくないので黙っててくれません?生徒会長は生徒の秘密を守るのも仕事ですよね」

 

「それは・・・」

 

「・・・もういいですよね?」

 

「ちょ・・・ちょと待て話はまだ」

 

「もう、いいじゃない摩利。見学しょうとしてただけなんだから。え~っと 別に生徒同士で教え合う事は禁止されてませんが、今回の様な事にもなりかねませんから今後は控えるように。いいですね!」

 

「会長がこう、おっしゃっていますので今回の事は不問とします。以後、気を付けるように」

 

そう言うと二人は帰っていった。

 

「借りだなんて思ってないからな」

 

「思ってないから安心しろよ」

 

「僕の名前は森崎駿。お前が見抜いた通り、森崎家に名を連ねるものだ」

 

「見抜いたって程の事じゃない。森崎のクイックドロウは有名だからな。俺は知ってただけだ」

 

「司波達也!僕はお前を認めない!」

 

「フフッ・・・」

 

「な、何が可笑しい!」

 

「別にお前に認められなくても構わないよ。支流の森崎の跡取りに認められるより、百家の千葉のご令嬢のお友達になった方が何万倍も得だからなぁ」

 

そういって達也はエリカを見る。

 

「ち、千葉だと。バカな!こいつは二科生じゃないか?」

 

「千葉の娘が一科でも二科でも関係ないだろ。森崎、お前、マイナーなお前の家より ちゃんと魔法師界でも有名な千葉家の事を知らないのか?それにさっきエリカの速さに反応できなかったじゃないか」

 

「そんな事はない。さっきのは油断してただけだ」

 

「自分が強いと言うなら油断なんてするな。第一お前の方が先に仕掛けておいて『油断していた』なんて、言い訳するな。本当に強い奴なら例え油断しても勝てるだけの圧倒的な差があるものだ。お前はエリカより弱い。さっきのが本当の戦場ならお前は何もできずにエリカに殺されていたんだぞ。全てにおいて、一科が優れてる訳じゃない。言い訳は止せ、見苦しいだけだ・・・」

 

「・・・ッ、ウ、うるさい!・・・い、言いたい事はそれだけか!ぼ、僕はもう帰る。これ以上お前らウィードの下らん幻想を聞かされるのは、ごめんだ。いいか、一科が優れているのは成績が証明してくれてるんだよ」

 

「だから、成績が全てじゃないと言っただろ」

 

去っていく森崎の背に達也が呟く。

 

「お兄様 もう 帰りませんか?」

 

「あぁ。そうだな、流石に疲れた」

 

そう言って、帰ろうとした一行をほのがが呼び止める。

 

「あ、あの、さっきは助けてくれて有り難うございました。森崎君はあんな事言ってましたけど、全て丸く収まったのはお兄さんのお蔭です。本当に有り難うございました」

 

「イヤ、あれは自分達の為にやった事だから。お礼を言われるような事じゃ」

 

「でも、結果的にほのかが助かったのは、お兄さんのおかげ」

 

「えっと、深雪と同じクラスの北山さんと光井さん・・・だよね、悪いけど同い年だから、お兄さんはやめてくれ」

 

「じゃあ、なんとお呼びすれば」

 

「普通に達也でいいから」

 

その後。帰り際に立ち寄った喫茶店で、改めて自己紹介が始まった。しばらくして、エリカが口を開く。

 

「それにしても、家の事がバレてるなんて達也君 、いつ気が付いたの?」

 

「最初に会った時はもしかしたら、って程度だけど一応知り合いに調べて貰ったんだ。本物だったらエリカの両親が娘の友達に変な奴がいないか調べられるかもしれないから。生憎、ウチには他人に知られたくない事もあるからね」

 

「大丈夫だよ。心配し過ぎ。アタシの親はそんな事しないから。でも、それって私だけ損してるじゃん。あたしもコネを使って二人の事を調べて貰おうかな?」

 

「やめておけ。千葉は諜報向きの家じゃないだろ」

 

「う!・・・その通り」

 

「それに、本当に俺たちの秘密に行き当たったら、大変な事になるから止めた方がいい」

 

「・・・達也君って一体何者?」

 

「何者でもいいんじゃない?だって、魔法科高校に一般人はいないよ」

 

エリカの質問を雫の言葉が打ち砕く。一方、新入生の起こした騒動の後、真由美と摩利は生徒会室に残っていた。

 

「達也君って差別意識があるんじゃなくて、本当は面倒苦さがりなだけなんじゃ・・・」

 

「おい、真由美。いい加減に教えろ!あいつは何をしたんだ?」

 

「だから、本人も言ったじゃない。只の力技って」

 

「あれが、只の力技な訳ないだろ?あれは何なんだ?」

 

「摩利。私には会長として、生徒の秘密を守る義務があるの」

 

「いいじゃないか。少しくらい」

 

「あれは、少しの範疇を超えてるわ」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ、もしバラしたら 何を言われるか・・・」

 

そんな時、生徒会室に来客があった。

 

「何を騒いでいるんだ」

 

「あ、いらっしゃい十文字くん。どうしたの?」

 

「先ほど新入生が騒ぎを起こしたと聞いて、どうなっているのか聞きに来た」

 

「あぁ、それなら、もう終わったから」

 

「それで、逮捕者は出ているのか?」

 

「0人だ」

 

「そうか」

 

「今年は新入生に中々、面白そうな子がいるのよ」

 

「ほう」

 

二人は次の日、生徒会室に呼び出された。

 

「失礼します。1ーA、司波深雪です。1ーE、司波達也です」

 

「良く来てくれました。まずは、座って?」

 

達也と深雪は素直に従う。

 

「えーっと まずは紹介します。書記の中条あずさ、会計の市原鈴音さんです。後は、副会長の服部君と会長である私を含めた四人が現在の生徒会メンバーです。それで今日は深雪さんにお願いがあって来てもらいました。と言うのも、毎年の事ですが、その年の新入生総代には生徒会に入って貰うことが慣例としてあるの・・・そこで今年は深雪さん。我々生徒会は、貴方にも、生徒会に入って欲しいと思っています。深雪さん、生徒会に入ってはくれませんか?」

 

「申し訳有りませんがお断りします」

 

深雪の答えはNOだった。

 

「えぇっと・・・理由を聞いてもいいかしら?」

 

「強制ではないですよね?」

 

「えぇ、そうだけど」

 

「私は生徒会も他の部活も、所属するつもりはありません。それに、私は昨日の騒動の原因ですし・・・どの道、私が入るべきでないかと」

 

「昨日の件はあんまり関係ないと思うけど・・・えっと・・・生徒会は別にしても、深雪さんは部活にも入らないつもりなの?」

 

「部活に興味もありませんし。単に体を鍛えると云う事だけなら、私は学校の部活よりもっといい場所と先生を知っているので。それに、どこにも所属しないことが私たちにとって一番都合がいいんです。私が何処かに所属することが兄の迷惑にも繋がり兼ねないので」

 

「そ、そうですか。仕方ありませんね、残念ですけど」

 

「お力になれず申し訳ありません」

 

「い、いいのよ。強制じゃないんだから」

 

今の深雪の最優先事項は何に置いても、まず達也だ。達也に迷惑が掛かる事などあってはならない。それに達也の立場上、余り離れすぎる事は良くない。何より、新入生総代と言う理由で自分よりはるかに優秀な兄を差し置いて自分が生徒会に入るのは自分自身を許せないのだ。深雪は生徒会入りを蹴った。しかし、真由美の話はまだ、終わらなかった。話の矛先は達也に向けられた。

 

「じゃあ、今度は達也君にお願いがあるの。深雪さんには断られたけど・・・達也君、貴方にも入って欲しいの」

 

「入って欲しいって、二科生は生徒会に入れませんよね?」

 

しかし、これは達也の完全なフライングだ。

 

「そんな事は知っています。非常に残念な事ですが規則によって二科生が生徒会に入る事はできません。でも、達也君にお願いしたいのは生徒会の事じゃなく、貴方には、生徒会推薦枠で、摩利の指揮する風紀委員会に入って欲しいんだけど?」

 

「なぜ、二科生の俺が入らなきゃいけないんです? 実力で劣る二科生の俺には無理ですよ」

 

「そんな事ないはずだ。君の眼と例の力技があれば支障はないだろ」

 

「二科生を選ぶなら俺より、千葉エリカって言う適任者がいるんですけど」

 

「エリカはダメだ」

 

「・・・ダメって、委員長はエリカと面識があるんですか?」

 

「まぁ、千葉家には世話になっているんだ」

 

「摩利が世話になってるのは千葉家じゃなくて、修次さんでしょ?」

 

「ち、違う」

 

「へぇ~先輩の彼氏は千葉の麒麟児ですか」

 

「兎に角、エリカはだめだ。あいつはやり過ぎる。おっと時間だ・・・続きは放課後にしよう。司波もまず今日一日試しに生徒会に入って見ろ。気に入らなければ辞めてくれてかまわないから」

 

結論は放課後まで先延ばしになった。そして事態はとんでもない事になる。放課後の生徒会室には人が増えていた。副会長の服部だ。

 

「よく来たね二人共」

 

「じゃあ、深雪さんはこっちに来て」

 

「あぁそうだ、紹介しますね。副会長の服部君です」

 

「副会長の服部刑部です。宜しくお願いします、司波さん」

 

真由美は二人に紹介したのだが服部は達也を無視した。

 

「ッ・・・宜しくお願いします」

 

深雪はもうすぐ、キレそうだ。

 

「じゃあ、達也君。私たちはこっちだ」

 

「待ってください、渡辺先輩」

 

「どうした?服部」

 

「その一年を風紀委員に任命するのは反対です」

 

「何を言ってる、君にそんな権利はない。任命したのは会長だが?」

 

「過去ウィードを風紀委員に任命した事はありませんよ」

 

「二科生をウィードと呼ぶことは禁止されている。まして私の前で呼ぶとは。摘発対象になる事を知らない訳じゃないよな?」

 

「今更、見繕っても仕方ないでしょ。それに、学校も、一科と二科の差を認めてるんです。それとも全校生徒の半数以上を検挙するつもりですか。風紀委員は言う事を聞かない違反者を実力で取り締まる役職です。実力の劣っている彼ができる事じゃない」

 

「実力にも色々ある。テストだけが全てではない。それに彼には展開中の起動式を一瞬で判断できる目と頭脳がある」

 

「・・・そんな・・・ありえない。基礎単一工程の起動式ですらアルファベット3万字相当の情報量があるのにそれを一瞬で読み取るなんて常識的に考えて、不可能だ」

 

「フフッ・・・彼曰く。そんなのは常識ではなく一種の誤解や偏見だそうだ。自分の常識が通じない事は良くある事らしい、君もそうじゃないのか・・・少なくとも七草や十文字には自分の常識が通じないと思ったことがあるんじゃないのか? 達也君のこの力は役に立つ。今までの真由美の様に起動式を撃ち抜くのでは違反者がどんな魔法を使おうとしたのか解らなかった。しかし、達也君にはそれが解る。今までは厳重注意で済んでいた生徒にも、きちんと相応の罰が下せる。この力が知れ渡れば十分すぎる程の抑止力になってくれる」

 

「しかし、どんな力があっても、実際の現場で違反者を抑えられなければ意味はありません」

 

「そんなのは、一科の一年だって同じだ。そもそも、相手の展開中の魔法より早く自分の魔法を発動できる者がこの学校に何人いると言うんだ。それと私が彼に拘る理由はこれだけじゃない。当校には、お前の言う通り、残念ながら下らん感情の溝がある。風紀委員には一科生だけ。つまり、一科が二科を取り締まりその逆はない。この風潮が拍車をかけている。彼が加入するだけでこの風潮は変わるだろう。私の指揮する委員会が差別意識を助長するのは私の好むと処ではないからな」

 

「彼を風紀委員に入れても現状が改善されるとも思えません。風紀委員に実力の劣っている者が入るべきじゃない」

 

ついにここで達也の静止も聞かず、深雪が割って入る。

 

「待ってください。副会長は兄の事をご存じないはず。なぜ、兄に実力がないと言い切れるのですか?」

 

「司波さん。彼の事は僕も知っていますよ。彼が出来損ないのウィードであることを証明する成績を」

 

「成績だけで兄の実力を誤解するのは止めてください。ここでの成績が悪いのは評価方法が兄の力と合っていないだけです。実戦で兄が負ける事はありません」

 

「司波さん、第一高校での評価方法は国際基準で定められたもの。その成績が悪いと言うことは実戦でも弱いということ。司波さん。彼と君では出来が違うんだ。将来、優秀な魔法師を目指す者が身贔屓なんてするものじゃないよ」

 

「身内だからこそ、妹だからこそ、解っているんです。兄の実力が、服部先輩が相手に、いいえ、一高に兄の相手になる者がいないことも」

 

「いい加減にしろ、出来損ないのウィードがブルームに勝てる訳がないだろ。俺じゃ相手にならないだと?一校に相手がいないだと?口が過ぎるぞ」

 

「先輩こそいい加減にして下さい。今の私にすら劣っている先輩がお兄様に勝てるわけがない。まして本当のお兄様の実力を知らない・・・」

 

達也は深雪の言葉を遮る。

 

「先輩、俺と摸儀戦しませんか?」

 

「何だと、俺に勝てると思っているのか?」

 

「つまらない論戦をするより確かめた方が早いでしょう」

 

「いいだろう。実力の差を、身の程を弁える必要性をお前たちに教えてやる」

 

こうして、服部と達也の摸擬戦が決まった。達也は預けていたCADを深雪を連れて取りに行く。その道中、廊下で深雪は謝り続けていた。

 

「も、申し訳有りませんでしたお兄様」

 

「やれやれ、入学3日目でとんでもない事になったな」

 

「本当に、も・・・」

 

「謝るな、深雪」

 

「やはり、私がお兄様の変わりに・・・」

 

「必要ない。ちゃんと俺がやる。それとも、本気であの程度の奴に俺が負けると思ってるんじゃないだろうな?」

 

「そ、そんな事ありえません。お兄様があの程度の人に負ける訳がありません」

 

「お前も解っているだろう。俺がお前の見ている前で負ける事が何を意味するか。安心しろ、お前が見ている前で俺が誰かに負ける事はない。俺が負ける事は俺自身の、イヤ、お前のガーディアンとしての存在意義に係わる重要な事だ」

 

「お、お兄様、深雪の前で、そのガーディアンと言うのは止めてください。お兄様は、私を守ってくださる騎士(ナイト)です!」

 

「それでも結局、主人の代わりに死ぬのは同じなんじゃ?」

 

「あ!・・・」

 

達也の突っ込みに深雪は反論できなかった。

 

放課後の校舎にアナウンスが流れる。内容は急遽決まった摸擬戦。しかも、対戦相手が一科生の二年生で生徒会副会長の服部と一年生の二科生だと云う。この放送を聞いていた生徒達は生徒会の趣旨が分からなかった。誰も二科生の風紀委員会入りを掛けた試合だと知る由もない。

 

試合会場はグラウンドだ。後学のために見学も許されている。勿論、邪魔をしてはいけない。観覧者は、意外に多かった。一科生、二科生だけでなく教師もいる。

 

試合が始まろうとしていた。

 

「しかし、君が好戦的なのは驚いたよ」

 

「面倒事は早めに終わらせたいんです」

 

「それで・・・勝つ自信はあるんだろうな?服部は集団戦の方が得意だが個人戦でも勝てる奴はほとんどいないぞ」

 

「相手が誰であろうと、深雪の目の前で負けられません」

 

達也は持ってきたケースを開ける。そのケースの中にCADが入っているのだろう。出てきたのは種類でいえば、森崎と同じ拳銃形態の特化型CADだ。しかし、達也のCADの方が大きい様な気がする。しかし、摩利が気にしたのは別の事だ。

 

「いつも、複数のストレージを持ち歩いているのか?」

 

「本来ならストレージを持ち歩く、いいえ、CADを持ち歩く必要もないんですよ。只、それだと、加減が出来ず相手を殺してしまうので、でも今の俺には、汎用型を使いこなすだけの処理速度が無いのでこのやり方に頼らざるをえないんですよ」

 

「・・・これは試合だ。殺し合いじゃないんだからな?」

 

「わかってますよ。」

 

その頃、少し離れた場所で観戦しようとしていた真由美達も深雪に質問をしていた。

 

「深雪さんは、不安ではないのですか?服部副会長は強いです。まぁ、今の彼には司波君に対して、慢心があるように思えます。油断した処を攻撃すれば勝てる確率はあるでしょうけど・・・」

 

深雪には鈴音の回答が可笑しくて堪らなかった。

 

「フフッ、不安なんてありませんよ。私がお兄様の技量を心配する事はお兄様の信頼を欠く事になります。それと、確かに、試合前に相手を油断させ不意を衝くのは立派な戦法とは思いますが、お兄様は相手の油断や隙、慢心の様な不確定要素などに頼る必要ありませんから」

 

「まぁ半蔵君がどんなに早く魔法を発動させても達也君の奥の手には意味ないと思うけど・・・」

 

「その奥の手と言うのは、昨日、司波君がして見せた渡辺委員長の起動式を無効化させたと云う例の力技の事ですか?」

 

「えぇ。そうよ、あれはマグレじゃないんでしょ?」

 

「流石に、会長は知っているですね」

 

「まぁ、あれだけ近くで見た事はないけど」

 

「ですが、今回、お兄様が使う事はないと思いますよ。それとアレはお兄様の奥の手ではなくどちらかと言うと、小手先の技の様なモノです。お兄様がアレを使うのは本当に危険な魔法が発動した時だけ・・・第一、お兄様の目の前で相手が魔法を発動する事はありません。なぜなら、お兄様が早すぎて相手が魔法を発動する前に勝負が付いてしまうからです。そして今回の摸擬戦のルール上相手を殺すことができない・・・相手を殺すことに欠けてはお兄様は様々なバリエーションをお持ちですが、相手を殺せないと云うルールの摸擬戦ではお兄様の行動は限られます・・・そして相手も危険な魔法は発動できない。であればお兄様がアレを使う事はありません」

 

真由美には他に聞きたい事があったが、摩利によるルール説明が行われる。

 

「相手を死に追いやるような術式は禁止。相手への直接攻撃は捻挫以下の範囲であること 蹴りを使うなら今ここで学校指定の物に履き替える事。それ以外の違反は見つけ次第、私が力ずくで対処する・・・では二人共準備はいいか?」

 

歓声が大きくなる。

 

「服部~ちゃんと手加減してやれよ~」

 

「生意気なウィードなんかに容赦すんなよ!」

 

どうやら彼ら(一科の上級生)の中で既に勝者は服部だ。つまり、達也が勝つ事を予想していない。仕方がない。一科生が それも、生徒会副会長を務める服部が、二科の 一年生に勝つことは 彼らの中で常識だ。その考え方に服部も疑問を覚えてはいない 現に服部は達也の倒し方を何度も頭の中で反芻させている。

 

「(魔法師同士の戦いは最初に魔法を当てた者の勝ち。まして相手はウィード、それも、魔法実技がその中でも遅い奴。今の俺は油断も隙も、慢心すらしていない。いくらスピード重視の特化型でも、俺の魔法発動速度の方が早い。開始直後に加重系統魔法を発動すれば相手はその場から動けずそれで試合終了だ 戦う前から勝負は決まっているんだよ!)」

 

そして、試合が始まった。結果は達也の勝ち。しかも、秒殺、瞬殺と言う言葉がお似合いな程、決着は早かった。

 

「しょ、勝者。司波達也」

 

試合開始直後、服部は起動式の展開を素早く済ませ、魔法を放った。しかし照準先に達也はいなかった。いない場所に放っても意味がない。服部は達也を探そうとした。だが彼にできる事はここまでだった。直後に後方から激しい衝撃が彼を襲う。その衝撃で彼は倒れた。きっと、「何やってんだ!後ろだ!」と言う声も聞こえなかったに違いない。勝者である達也は後ろを振り向かなかった。勝敗に興味がないのだ。その光景に誰も言葉が出なかった。そんな中深雪は達也の腕に思いっきり抱き着いた。

 

「流石はお兄様です」

 

決着は着いた。しかし、大勢の生徒(特に一科生と一科の上級生)は納得がいかない様だ。

 

「ふ、ふざけるな!何が摸擬戦だ!今のは明らかにフライングじゃないか!試合開始の前に何か細工したんだ。明らかな不正行為だ。そうじゃなきゃ服部が、ウィードに負けるはずがない。どうして委員長はあいつがフライングした事を何も言わないんです?」

 

この意見に賛成の者が多いようだ。

 

 

「ま、待て!彼は不正行為をしてないはずだ。みんな、落ち着くんだ」

 

この現状は摩利も驚いた。こんな事になるとは思わなかった。摩利は服部に勝てなくても彼が認められるだけの技量を示せば達也が負けてもいいと思っていた。しかし、実際は服部は手も足も出せずに負けた。達也の動きが見えなかったのは摩利も一緒だが・・・それに、試合開始前に何かしたのを見逃すはずがない。魔法の発動兆候を見逃すほど摩利の眼は衰えていないはずだ。しかも、自分より優秀な真由美、冷静な鈴音もいたのだから。周りは既にヒートアップしている。このままでは、魔法の打ち合いになりかねない。真由美も摩利も、これ以上自体が深刻にならないように必死だったが・・・

 

「おい、お前! 何処に行くつもりだ。フライングで勝ったからって調子に乗るなよ」

 

達也は答えなかった。この達也の行為が最悪の事態の引き金になった。

 

「何、無視してんだ」

 

「お、おい。止せ!やめろ!」

 

「貴方達、止めなさい」

 

一科の二年であろう生徒が達也に向かってCADを向け魔法を放つ。それも一人や二人ではなかった。しかし、その攻撃は届かない。深雪が達也に強力な障壁魔法を使っているからだ。深雪の干渉力を超えない限り、達也に攻撃は届かない。何度やっても届かないので彼らは攻撃対象を切り替えた。

 

「先から、お前も邪魔だぞ!大体、一科のお前がなんでソイツを庇うんだ、どけ」

 

これには、達也も黙っていられない。達也は深雪が、深雪は達也が攻撃されるのが許せなかった。最初は防御に徹していたが切がないので二人の反撃が始まる。それは圧倒的なモノだった。達也はただ、CADの引き金を引くだけで、そして深雪はCADを使う事なく、圧縮された空気弾(死なない程度に威力を制御してある。それでもかなりの速度と威力を持つ)だけで一科の上級生を倒していく。倒れずに残っていた彼らは意地になっていた。それ以上自体が急転することはなかった。

 

「そこまでです。やめなさい」

 

その発言者に全員の視線が集まる。その人物は共闘だった。

 

「今すぐ、CADを置きなさい。事情を聴きます。立っている者は全員来なさい」

 

どうやら、これで事態は収まるようだ

 

「今回の騒動に係わった生徒には罰として明日、反省文を提出してもらいます。勿論、気を失っている生徒も含めてです。気が付いたら教えなさい。それから、彼らを運ぶのを手伝ってください。本来であれば、この程度の処分で済まなかった事を念頭に置いておいてください」

 

生徒指導室で事情聴取が始まる。

 

「全く、大変な事をしてくれましたね?」

 

「もしかして、私達は責められているんですか?」

 

「当たり前でしょう?あれだけの負傷者を出しておいて反省する気が無いんですか?」

 

「私達はお互いに守りあっただけです。くだらない嫉妬で目の前の大事な家族が攻撃を受けたんです。反撃だってしますよ」

 

「それに、負傷したのは彼らの自業自得です。相手に攻撃すると云う事は自身にも相手から攻撃を受けるリスクがあると云う事。相手からの反撃ない事はありえません。殺されなかっただけ感謝して欲しいものです」

 

そう言って、二人は勝手にその場を後にする。

 

「ま、待ちなさい」

 

二人が振り向く事はなかった。

 

「な、なんて生徒だ。あれでは退学も仕方ありませんね」

 

「ま、待ってください!彼らの言い分は間違ってはいないと思います」

 

「七草さんは彼らを許すと?どんな理由でもやり過ぎだ」

 

「やり過ぎたのは彼らだけではないでしょう?」

 

「しかし・・・」

 

「彼らを見捨てるのは今後の為に良くありません。力の使い方を教えるべきです」

 

「どうするのですか?」

 

「司波深雪さんは生徒会で、司波達也君は風紀委員で様子を見たいと思います」

 

「二人を生徒会と風紀委員に所属させると言う事ですか?」

 

「はい、目の見える処にいれば抑えられると思います。簡単ではないでしょうけど」

 

「そうですか、それなら、少し様子を見ましょうか?」

 

「有り難うございます」

 

その頃二人は絡まれていた。

 

「退いてくれませんか?」

 

「うるせぇ!口答えすんな!お前、服部に何をした」

 

「やめろ!お前たち、今度は反省文じゃすまないぞ!」

 

「ちっ、行こうぜ!」

 

「全く。あいつ等。君たちも大変だな・・・処で君達に生徒会室に来て欲しいんだが?」

 

「イヤだ・・・と言ったら」

 

「悪いがそれは認められない。先程の摸擬戦の事で聞きたい事がある」

 

「・・・分かりました。今回は大人しくしておいてあげます」

 

「着いてきなさい」

 

3人は生徒会室に向かう。そこには、既に真由美達がいた。

 

「では、早速。さっきのは本当にフライングじゃないんだな?」

 

「えぇ、そうです」

 

「し、しかし 魔法なしであの速度は・・・」

 

「あのレベルの相手にフライングなんてしませんよ」

 

「疑われるのは仕方ないと思いますよ。魔法を使わずにあんな事ができるのはお兄様か先生くらいのものですから」

 

「先生?」

 

「はい、私達は忍術使い、九重寺、和尚『九重八雲』先生に師事しているんです」

 

「何!あの九重先生に?そうか、それで魔法なしであの動き」

 

「では、あの攻撃魔法も忍術ですか?サイオン波を放っただけの様でしたけど」

 

「そうです。あれは振動の基礎単一系統のサイオン波を放っただけで、忍術ではありません」

 

「でも、それだけで・・・」

 

「まぁ酔えば仕方ないですよ」

 

「酔う?一体何に?」

 

「普通、魔法師はサイオンを知覚します。ですが、予期せぬサイオン波にさらされると揺さぶられた様に錯覚するんです。とても立ってられるモノじゃないですよ」

 

「でも、サイオンを知覚できると言う事はサイオンに慣れていると言う事でしょ?慣れている魔法師が倒れる波動なんて?一体どうやって」

 

「それは・・・」

 

「波の合成」

 

ここで鈴音が口を開く。

 

「振動波の異なるサイオン波を三連続で作り出し、その波が服部君の位置にぶつかるように調整し、一種の三角波の様な波動を作り出したんじゃないですか?」

 

「・・・流石に隠し通すのは難しいですね。数少ない戦闘手段を解析されたくないですけど」

 

「しかし、あの一瞬とも言える時間に三回の振動魔法・・・その処理速度で実技評価が低いのは おかしいですね? まさか、司波君。入学試験では手を抜いたんですか?」

 

「大事な入学試験で手を抜く人はいませんよ」

 

「あの~」

 

今度は中条あずさが割り込む。

 

「司波君のそのCADって『シルバー・ホーン』じゃないですか?」

 

「シルバー?それって」

 

「はい、FLT(フォア・リーブス・テクノロジー)専属の『ループ・キャスト・システム』を開発した奇跡のCADエンジニアと呼ばれるトーラス・シルバーです。そんな彼がフルカスタマイズしたCAD。『ループ・キャスト』にも最適化されてるんですよ」

 

「ちょっと、一回落ち着きなさい?」

 

「えっと、そうですねごめんなさい・・・あっ!そう言えば、どうして司波君は『シルバー・ホーン』を持っているんですか?」

 

「おいおい、そんなに不思議な事か?欲しいCADがあるなら買えばいいだろ。そりゃ、天才が作ったCADだから、多少値は張るだろうが」

 

「多少どころじゃありませんよ。それに、簡単に手に入る物じゃないんです!」

 

「ん?どう言うことだ?」

 

「数が少ないんです。特に、シルバーシリーズは。まぁFLTは元々、CAD開発はしてませんでしたし、他のタイプのCADも売ってますから、シルバーシリーズの研究開発に割ける人員がいないのかもしれませんけど。とにかく、シルバー・シリーズは元々そんなに数が出回ってないんです。でも そのくせに警察関係者とか一部の人に使いやすいなんて云われてるから。ネットで見つけても簡単に手が出せる値段でもなくて・・・その中でも、『シルバー・ホーン』は人気が高いし、しかも、司波君の持ってるのは、一番希少価値の高い銃身の長い限定モデルなんですよ。わ、私も欲しかったのに・・・なんで司波君は持っているんですか?」

 

「なんで?・・・って言われても・・・貰ったんですよ・・・入学祝に」

 

「誰にですか?」

 

「誰って、その・・・本人に?」

 

「そうですか。本人に・・・えー!本人に?司波君はトーラス、シルバーを知っているんですか?」

 

「え? えぇ。まぁ」

 

「ど、どうして。イエ、そんな事より一体どんな人なんですか?」

 

「両親がFLTの関係者なもので。勿論どんな人かは秘密です」

 

「そうですか。ご両親が。すいません。流石に教えられませんよね」

 

深雪は達也がそんな事を言うとは思っていなかった。シルバーとFLTと関係があると言う事を話すべきではないからだ。この事は達也の秘密に関わる事だから。

 

「よろしいのですか?お兄様?」

 

深雪が小声で訴える。

 

「下手に隠すよりある程度の情報を与えれば無暗に詮索はしないだろう」

 

「もう 、いいじゃないか?これで連続発動の秘密が解ったんだ。ついでに達也君が入試試験で手を抜いていないことも」

 

「まだですよ。渡辺委員長。司波君が入学試験で手を抜いたかどうかは別として三連続発動の疑問はまだ残っています」

 

「なぜ?」

 

「ループ・キャストはあくまで、『全く同じ魔法を連続発動する』システムですから、『波の合成』に必要な振動波の異なる複数の波動は作れません」

 

「そういえば・・・」

 

「まぁ振動数を変数化すればできなくもないですが・・・その場合は、座標・強度・魔法・持続時間の四つの変数化なんて・・・」

 

言葉が続かない。試合の事とその後の事を思い出して、否定できなくなった。偶然ではない。おそらく、三角波であろう魔法に倒れたのは服部だけではないのを見ていたから。

 

「で、できるんですか?」

 

「なぁ、達也君。そんな事ができるなら、なぜ言わなかったんだ?」

 

「多変数化はどんなに頑張ってもここでは、評価されませんから」

 

誰も、何も言えなかった。扉が開くまで

 

「成程。司波さんが言っていたのはこう云う事か?」

 

「半蔵君?もう大丈夫なんですか」

 

「だ、大丈夫です」

 

「無理しないでくださいね」

 

「服部先輩は無理してませんよ」

 

「どうして分かる?」

 

「入るタイミングを見計らっていましたから」

 

「ッ・・・」

 

達也は服部に睨まれた。悪意ではない。単純に恥ずかしいのだろう。

 

「どうして、わかったの」

 

「気配で分かります。」

 

「そ、そう?」

 

「司波さん。目が曇っていたのは僕の方でした。確かに、『魔法の発動速度』『魔法式の規模』『対象の情報を書き換える強度』も重要だけど、だがそれだけでないのも事実。すまなかった。許して欲しい」

 

「私こそ生意気を申しました。お許しください」

 

それだけ言って彼は出ていった。

 

「まぁ、だいぶ予定は狂ったが司波深雪は生徒会に、司波達也は風紀委員会に入る事になったから概ね良しとしよう」

 

「どう言う事ですか?」

 

「貴方達はそれぞれ、生徒会と風紀委員に所属させて面倒を見ることになったの。これが今回の騒動の貴方達のペナルティーよ。これ位で済んで良かったですね」

 

「だから、俺達が責めれる云われは無いんですが?」

 

こうして、二人は役員になった。

 




今後も宜しくお願いします。


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入学編 中編

少しずつ少なくしていきます


その後、達也は摩利に風紀委員本部に連れられた。

 

「委員長、ここ、片付けていいですか? 魔工師志望としてこの状況は」

 

「魔工師!アレだけの対人戦闘スキルがあるのに?」

 

「ここと同じで俺じゃ上位ランクは取れませんから」

 

「すまない」

 

「構いませんよ」

 

「処で、君を入れた理由だが」

 

「イメージ対策ですよね。でもダメですよ」

 

「なぜ?」

 

「摸擬戦の事を忘れたんですか?」

 

「ッ・・・だが一年は歓迎だろ」

 

「二科の方は分かりませんけど、一科の一年はダメでしょう。昨日も『お前を認めない』と言われましたから」

 

「もしかして、森崎のことか?」

 

「知ってるんですか?」

 

「彼も教職員推薦枠で入るんだ」

 

達也は片付けていたCADを落とす.

 

「君も慌てるんだな」

 

本部のドアが開く。風紀委員であろう生徒が二人 入ってきた

 

「本日の巡回、逮捕者ありません」

 

「あれ?片付いてる?渡辺、お前がやったのか?」

 

「いや、手伝って貰った」

 

「新入りか?でもそいつどこかで」

 

「辰巳先輩、彼は例の」

 

「あぁ、服部をフライングで倒した文無しか?」

 

「先輩、その言い方はダメですよ」

 

「お前等、そんなんじゃ足元掬われるぞ」

 

「僕は沢木碧だ」

 

握手を求める手には力が、眼には敵対心が宿っていた。彼は正義感が強いのだろう。疑惑のある達也を不審がっている。このまま誤解されるのも良くない。達也は単純な力を見せる事にした。

 

「ぐっあ?」

 

沢木は油断していなかったが簡単に達也に投げられた。

 

「それみろ」

 

「おいおい、沢木を簡単に投げやがって。なぁ、コイツ何者だ」

 

「彼は九重八雲のお弟子さんだ」

 

「何と!それなら、服部が負けたのも頷ける」

 

「まぁ、二科だろうが何だろうが強い奴は大歓迎だ。俺は3ーCの辰巳鋼太郎だ。宜しくな」

 

「先程は済まなかった許してくれ。改めて、2ーDの沢木碧だ。宜しく」

 

「司波達也です。此方こそ宜しくお願いします」

 

司波家 地下室

 

「お兄様、お時間宜しいでしょうか?」

 

「あぁ、入りなさい」

 

「失礼します」

 

「どうした?」

 

「CADの調整をお願いしたいのですが?」

 

「設定が合って無かったか?」

 

「滅相も御座いません。お兄様の調整は完璧です」

 

深雪のCAD調整は定期的に行っているのだが。

 

「対人戦闘のバリエーションを増やしたいのです。本日の試合を拝見して、痛感しました。私には一瞬で相手を無効化する術式が欠けている事を」

 

「確かに相手の不意を衝くのも一つの戦法だが、お前の減速系魔法が有れば必要ないだろ。お前は俺と違って絶対的な力もあるんだから」

 

「それは、お兄様も同じでしょう」

 

汎用型は特化型と違い、最大99の起動式を格納できるが才能の有り過ぎる深雪には少ない数だ。

 

「お前もCADを二つ持つのがいいんだろうが」

 

「二つのCAD同時操作ができるのはお兄様くらいです。それに、今の私の制御力では無理な事は知っているでしょう」

 

「でもなぁ」

 

「ダメでしょうか?」

 

「ダメじゃないさ。じゃあ起動式の整理から始めよう。測定するから座って」

 

CADの調整は自宅で簡単に出来るものでもない。しかし、司波家には研究機関並みのCAD調整装置がある。測定が済むと達也は直ぐに作業に入る。だが長く続かない。深雪に後ろから抱き着かれた。

 

「み、深雪?」

 

「狡いです。私がこんな恥ずかしい思いをしてるのにお兄様は平気な顔して、私では異性に入りませんか?」

 

「入ったら、まずくないですか!深雪さん?」

 

「お兄様は深雪より、会長ですか?それとも、委員長ですか? 本日は随分親しくされてましたね」

 

「お前、聞いてたのか?」

 

「まぁ!やっぱり。お兄様は年上の女性に弱いですものね?」

 

「なぁ、深雪? 何を誤解してるんだ?」

 

「美人の先輩に鼻を伸ばすバカ兄貴にはお仕置きです」

 

達也は深雪の使おうとしている起動式を見た

 

「(オイオイ、『お仕置き』レベルじゃないだろ?)」

 

達也は覚悟した。しかし、目覚めた達也に傷一つ無い。

 

「なにするんだよ」

 

「ですから『お仕置き』です」

 

「勘弁しろよ」

 

翌日の深雪は寝不足だった。理由は分かっている。

 

「(昨日の出来事。慌てるあの人が可笑しくて、珍しくて、可愛いとさえ思えて、ついつい、調子に乗ってしまった。だがこれは恋愛感情ではない。あってはならない。あの人は実の兄。私はあの人に命を貰った。失ったはずの命を 私はあの人に何も求めない。多くの人は私を『天才』と呼ぶが本当の『天才』はあの人だ。まぁ、あの人は次元が違うが。今の私はあの人にとっての鎖、でも、いつかは鎖を解く為のカギになる)」

 

深雪は誓いを新たに朝食の準備を始める。

 

入学 四日目

 

今日から新入部員勧誘期間だ。美月とレオがクラブを決める中 エリカは迷っていた。

 

「達也君はクラブきめた?」

 

「いや、まだ、だけど」

 

「じゃあ、二人で回らない?」

 

「これから委員会なんだが?」

 

「え、そっか・・・じゃあ私帰ろうかな・・・」

 

達也は普段から他人に鈍感だがエリカの機嫌が分からない程ではない。

 

「どの道、委員会で巡回するから、その付き添いじゃダメか?」

 

「じゃあ、三十分後に教室の前で」

 

今日が風紀委員の初仕事だ。教職員推薦枠で選ばれたからには、職務を全うしようと心に誓う森崎。だからこそ満を持して開けた先にいた人物には驚きを隠せない。

 

「なぜ、ウィードのお前がいるんだ!ここは選ばれた者だけが来る処だぞ」

 

「先輩達より後に来た上に禁止用語をこんな処で使うなんて、非常識が過ぎるぞ」

 

「うるさい!だから、なんでお前が」

 

「彼も選ばれたからだろ。ほら、早く席に着け。ミーティングを始める」

 

風紀委員の活動が始まる。

 

「さて、今年も新入部員勧誘期間がやって来た。期間中は厄介な事に新入生に活動内容を分り易くするデモンストレーションの為にCADの使用が許可されている。このため毎年、魔法競技部で新入部員の取り合いで魔法の打ち合いになる。この現状を打ち破る為の我々『風紀委員』だ。さて、今回から新たにメンバーが加わる。紹介しよう、1-A、森崎駿と1-E、司波達也」

 

「役に立つんですか?」

 

「司波に負けたのは服部だけじゃないぜ?」

 

「うん。彼は強いよ」

 

「!! 沢木。お前も負けたのか?」

 

「二人の腕前は見た。さて紹介も終わったから。新人以外は活動を始めてくれ」

 

本部に残ったのは3人になった。

 

「まずは、これを」

 

摩利が渡したのは腕章とレコーダー。

 

「レコーダーは胸ポケットに、違反者を見つけたらスイッチを入れてくれ」

 

「分かりました」

 

「基本の見回りは一人で、それから一々CADの使用許可は取らなくていい。正し、不正使用は他の生徒より重い処罰を受ける。退学も念頭に置いておけ」

 

「質問いいですか?」

 

「どうした?」

 

「CADは委員会の備品を使っても?」

 

「知ってると思うがアレは旧式・・・君は『シルバー・ホーン』を持ってるだろ」

 

「シルバー・ホーン?」

 

森崎もその名を知っていた。彼も特化型CADの愛用者だ。因みに彼の実家は要人警護で有名だ。その中に『シルバー・シリーズ』を使っている者もいる。

 

「中条先輩に聞いてないんですか?アレは確かに旧式ですけどエキスパート使用の高級品ですよ?」

 

「アイツは怖がって来ないよ。成程、そう云う事なら好きにしてくれ」

 

確認を取った達也はCADを二つ取る。達也は本部を離れて直ぐ森崎に絡まれる。

 

「お前がCADの同時操作なんて出来るはずがない。サイオン波の干渉で使えなくなるのが落ちだ。調子に乗るな」

 

「やれやれ、困った奴だ」

 

達也が教室に着いた時エリカは昇降口にいた。目の前は既にお祭り騒ぎ。

 

「うわっ!これじゃあ、帰れないじゃん」

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

「達也君?」

 

「遅れて済まない」

 

「アレ?謝るの?」

 

「遅れたのは俺だ。だが、遅れたのとエリカが約束の場所に居なかったのは別問題だと思うが」

 

「うっ! ごめ・・・ねぇ、達也君って性格悪いって言われない?」

 

「そんな事はない。人が悪いとは良く言われるが」

 

「そっちの方が悪いよ! まぁ そんな悪い人と一緒に回ってあげるんだから感謝なさい」

 

エリカはこの時まで機嫌が良かったが。

 

「ちょ、離してください」

 

非魔法競技部がエリカの取り合いを始めたのだ。

 

「(オイオイ、やり過ぎだろ)」

 

突然、エリカの周りの人垣が崩れる。

 

「走れ」

 

達也はエリカを引っ張る。ここまで来れば・・・と思ったが。

 

「エリカ 大丈ー」

 

二人同時に固まる。仕方がないエリカの着衣が乱れ下着が見えている。

 

「み、見るなー」

 

エリカの悲痛な叫びと同時に破裂音がした。

 

第二小体育館

 

二人は第二小体育館に来ていた。現在は剣道部のデモンストレーションが行われている。

 

「ここにも、剣道部があるんだ?」

 

「あっても可笑しくないだろ?」

 

「魔法が使える人は剣術の方に流れるんだよ」

 

そんな会話をしていると、周りが騒がしくなる。

 

「なにしてるの?桐原君?」

 

「何って、手伝いだよ」

 

「何も此処までしなくても」

 

見ると剣道部員が倒れている。

 

「コイツが倒れてるのは弱いからだ。仮にもレギュラーがなさけねぇ。次はお前がやるか?」

 

「剣技で私に勝てると思ってるの」

 

「あ、彼女、壬生紗耶香じゃない。それに、桐原武明」

 

「知ってるのか?」

 

二人が静かに向き合う。試合が始まった。

 

「へぇ~壬生先輩強いんだな」

 

「なんだか別人見たい。たった二年であれだけ、腕を上げるなんて」

 

決着が着いた。両者同時かと思われたが桐原の小手は浅かった。

 

「負けを認めなさい。真剣ならその腕 使いものにならないわよ」

 

「真剣なら・・・そんなに真剣勝負がお望みか?だったら、真剣で勝負してやるよ」

 

桐原は袖に隠れていたCADを操作して紗耶香に切り掛かる。上手く躱して様に見えても紗耶香の胴着は切れていた。

 

「どうだ壬生。真剣の切れ味は」

 

いきなりの魔法使用とそれと同時に発生した不快音に生徒達が騒ぎ出し、気分の優れない者達も出始める。

 

「竹刀であの切れ味。そしてガラスを引っ掻いた様な不快音。間違いない。あれは振動系近接戦闘魔法『高周波ブレード』」

 

「これが剣道と剣術の差だ」

 

壬生はもう一度竹刀を構える。

 

「ダメ!危ない」

 

エリカが叫ぶ。しかし、達也の行動の方が早かった。達也は二人の間に割って入る。

 

「誰だ?」

 

桐原の疑問は一つではない。達也が腕を交差させると同時に桐原の魔法が発動しなくなり、不快音も消えた。しかし、生徒達の気分は優れない。それどころか悪化している様だ。気分が回復したのは達也が桐原を組み伏せた後だ。

 

「一体、何が?」

 

「誰だ?アイツ」

 

「見ろ! 風紀委員だ」

 

「でもアイツ、エンブレムがないぞ」

 

「ウィードが風紀委員?」

 

「あ!アイツ。服部をフライングで倒したって云う」

 

「なに?アイツが!何故あんな奴が風紀委員をしてるんだ?」

 

達也はヤジを気にする事無く仕事をする。

 

「此方、第二小体育館。逮捕者一名、負傷していますので担架をお願いします」

 

「おい、どう云う事だ」

 

「桐原先輩は魔法の不適正使用の為、同行を願います」

 

「なんで、桐原だけ、壬生も同罪だろうが」

 

「壬生先輩は被害者でしょう?」

 

「なんだ?その口の利き方は?ウィードが調子に乗るな!」

 

「風紀委員が喧嘩売ってどうすんのよ」

 

「風紀委員の前で禁止用語ですか?」

 

桐原と同じ剣術部員であろう生徒が達也に襲い掛かる。

 

「ぐっあ!」

 

しかし、彼も桐原、同様に達也に組み伏せられる。

 

「すみません。此方、第二小体育館より再度報告。逮捕者の一名追加ともう一台の担架を追加をお願いします」

 

この状況で他の剣術部員も黙っていられない。まず、二人同時にそしてその後は部員全員で達也に襲い掛かる。

 

「クソッ、ちょこまかと」

 

「すいません、仕事の邪魔なんですが?」

 

「邪魔は、お前だ!」

 

「凄い!誰も達也君に敵わない」

 

紗耶香はこの状況を見過ごせなかった。仮にも騒動の原因の一つは自分だ。何より関係のない後輩が巻き込まれている。紗耶香は助けようとしていた。

 

「待て壬生」

 

「司主将?」

 

「今はここを離れろ」

 

「でも?」

 

「いいから来い」

 

紗耶香は司に従った。一方で剣術部は未だに達也に喰って掛かっている。しかし、達也に触れられずにいた。

 

「クソッツ、このままじゃ剣術部の恥」

 

「これでも、喰らって後悔しろ」

 

彼らは達也に向かって魔法を放つ。

 

「達也君!危ない」

 

「やれやれ、また、魔法の不適正使用ですか?」

 

心配するエリカを他所に達也は平然としていた。魔法は発動しなかった。

 

「なぜだ? なぜ魔法が使えない。俺達はウィードじゃないんだぞ」

 

「き、気持ち悪い、頭が揺れる」

 

「な、なぜだ?ま、まさかお前か?何をした?」

 

「お、おい貴様。今すぐ止めろ!」

 

「お前!こんな事して、只で済むと思うなよ」

 

「済まないのは先輩達の方ですけど」

 

「いいから、止めろ!」

 

「止めて欲しいなら、CADを床に置いてください」

 

「ふ、ふざけるな!なぜ、俺達がお前なんかの云う事を聞かなきゃいけないんだ」

 

「そうですか。ならこのままですね!」

 

その後、直ぐに彼らは気を失う。彼らを見下す様に立っている達也。そしてその風景を興味深く見る者。

 

剣道部主将 司 甲

 

達也は騒ぎの後、部活連本部にいた。騒動の報告の為だ。目の前には3人。真由美と摩利。それともう一人。

 

「以上が騒動の顛末です」

 

「良く十人以上相手に無事だったわね」

 

「流石は九重先生のお弟子さんと言った処か」

 

「あの程度なら、ケガなんてしませんよ」

 

「当初の経緯は視ていないんだな」

 

「はい」

 

「最初に手を出さなかったのはその所為?」

 

「簡単に介入するとややこしくなる事もありますから」

 

「成程。それで連中は?」

 

「保健委員に引き渡しました」

 

「これからどうする。連中の処分は捕まえた君の自由だ」

 

「厳重注意でいいのでは?」

 

「それでいいの?」

 

「・・・達也君が訴追しないならウチとしてもこれ以上の大ごとにはしない。どうする十文字」

 

「(コイツが十文字克人全クラブ活動統括組織『部活連』の会頭。しかも十文字は同じ数字付きの中でも七草と並ぶ名門)」

 

「寛大な決定に感謝する。殺傷性の高い魔法を使ったのだ。本来なら停学でも退学でも可笑しくない」

 

「もう一度確認させてくれ。魔法を使用したのは桐原だけか?」

 

「風紀委員が簡単に魔法を使わせる訳にはいかないでしょう」

 

「そうだな。良し、もういいぞ」

 

「失礼します」

 

報告が終わった頃、日は傾いていた。

 

「深雪の事だから待ってるんだろうな」

 

達也の考えは的中した。しかし、人数までは当たらなかった。

 

「皆で待っててくれたのか?」

 

喫茶店 アイネ・ブリーゼ

 

達也達は喫茶店にいた。達也が待たせたお礼に奢る事にした。

 

「それにしても、良くケガしなかったな?」

 

「あんなもん、刀と変わらんだろ?」

 

「それって、真剣の対処は簡単て事ですか?」

 

「心配し過ぎよ美月」

 

「確かに、達也君も凄かったけど、桐原先輩もトップレベルの剣術使いなんだけど?」

 

「それでも、お兄様に勝てる者はいないわ。お兄様は世界最強クラスの人だから」

 

「でも、高周波ブレードって刀と違って超音波も放っているんでしょう?」

 

「お兄様が優れているのは体術だけではないわ。お兄様は魔法の無効化も得意なの」

 

「魔法の無効化?」

 

「そんなレアスキル持ってんのか?」

 

「ねぇ、エリカ。高周波ブレードの超音波の頭痛より、その後の吐き気の方が強かったんじゃない?」

 

「うん、確かに」

 

「それは、お兄様の仕業よ」

 

「そうなの?」

 

「お兄様。『キャスト・ジャミング』理論はまだ未完成だったのでは?」

 

「キャ!『キャストジャミング』?」

 

「どう云う事だよ」

 

「『キャスト・ジャミング』って魔法の妨害電波の事だっけ?」

 

『キャスト・ジャミング』は魔法式がエイドスに働き掛けるのを妨害する魔法で分類的には無系統魔法の一種である。

 

「本来、『キャスト・ジャミング』を使うには四系統八種類の全ての魔法を妨害する特別なサイオンノイズが必要だ」

 

「それって、特別な石がいるんじゃ?」

 

「アンティナイトだよ。エリカちゃん」

 

「そう、それ」

 

「達也さん持ってるんですか?」

 

「あれは軍事物資だから、民間人が持てる訳ないだろ?」

 

「でも・・・」

 

「・・・此処からはオフレコで頼みたいんだが、俺が使ったのは『キャスト・ジャミング』じゃなくて、その理論を応用した『特定魔法のジャミング』なんだ」

 

「なんだそれ?」

 

「そんな魔法ありましたっけ?」

 

「まさか、達也君が新しい魔法を編み出したって事?」

 

「出来るかもって云う可能性を発見しただけだ」

 

「どうやるんだよ」

 

達也の説明が始まる。

 

「まず、二つのCADを使うと大抵はサイオン波の干渉で魔法が発動しにくい事は知ってるな?」

 

「うん」

 

「その干渉波を利用するんだ」

 

「具体的にどうするの?」

 

「一方のCADで妨害したい魔法の起動式をもう一方でその逆の起動式を展開」

 

「それで?」

 

「その際に発生するサイオン干渉波を『キャスト・ジャミング』と同じ様に相手に放つ」

 

「すると どうなるんだ」

 

「その起動式同士で発生するサイオン干渉波を無系統魔法として放つ事で、元々発動する筈だった二種の魔法と同種類の魔法発動をある程度妨害できるんだよ」

 

つまり今回、達也が行ったのは『振動魔法のジャミング』である。

 

「理屈はある程度解ったけどなんでオフレコなんだ?」

 

「この技術はまだ未完成だし、これを使うと確かに相手は魔法を使いずらくなるけどコッチは完全に使えないからな」

 

「そうですか」

 

「まぁ、それだけが理由じゃないけど」

 

「他にあんのか?」

 

「一番の問題は仕組みその物だ」

 

「何が問題なんだ?」

 

「今や色々な処で魔法は必要不可欠。『キャスト・ジャミング』が余り問題視されないのは『キャスト・ジャミング』に必要な『アンティナイト』の数が少ないからだ。こんなお手軽な魔法無効化技術が広まったら社会基盤が揺らぐだろ。対抗策もない今は公表する気にはなれないよ」

 

「成程ねぇ」

 

新入部員勧誘期間 二日目

 

達也は風紀委員の誰よりも奔走していた。剣道部の騒ぎを聞きつけた一科の上級生達が達也に嫌がらせを始めたのだ。彼らは達也に直接 危害を加えない。乱闘騒ぎを態と起こし、止めに入るために派遣された達也に向かって魔法を放つ。要は誤爆に見せかけるのだ。それでも、達也は挫けない。連行出来る者は連行した。

 

「失礼します」

 

達也は報告書を届けに生徒会室に来ていた。

 

「大活躍の様ですね?」

 

「余り、喜ぶ事じゃないでしょう」

 

達也は不満げだが深雪は達也以上に不満げな顔をしている。

 

「お兄様、正直にお答え下さい」

 

「どうした?深雪」

 

「お兄様!魔法による攻撃を受けませんでしたか?」

 

「イヤ、受けてはいない」

 

「・・・攻撃の意思を向けられた事は否定しないのですね」

 

「まぁ、事実だからな。しかし、お前の感知能力も大したもんだな」

 

「誤魔化さないで下さい」

 

「達也君。大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですよ。 だからお前もこんな事で怒るなよ?」

 

「大事な家族が危機に晒されたんです!怒るのは当然です。それも、どうせ理由はお兄様への嫉妬でしょう」

 

「俺の事は誰よりお前が良く解っているだろ。俺は不意打ちなんかに頼らなければならない卑怯者には負けないよ。奴等じゃ俺に傷一つ付けられない。俺を傷つける事の出来るのは、イヤ、本気の俺を真正面から殺せるのは世界中探してもお前だけだろ?」

 

「そ、それは・・・」

 

生徒会メンバーは驚いた。深雪が達也の言葉を否定しない事に。

 

新入部員勧誘期間 四日目

 

「司波です。直ぐ向かいます」

 

今日も達也は乱闘と云う名の嫌がらせに自ら赴く。

 

「サイオン! しかも狙いはまた俺か?」

 

現場に向かう途中に自分に向けられたサイオンを知覚する。達也は落ち着いて『キャスト・ジャミング』もどきを発動する。

 

「待て」

 

見事魔法の発動は無効化したが実行犯には魔法を使った高速走行で逃げられた。だが、手掛かりが無い事もない。

 

「(高速魔法に振り回されない鍛え抜かれた体。だが、トリコロールのリストバンド。これは厄介だな」

 

それから三日後

 

「今日も委員会か?」

 

「イヤ、今日は非番だ。やっとゆっくりできそうだ」

 

「大活躍だったもんね?」

 

「今じゃ有名だぜ?魔法を使わずに並み居る魔法競技者を連覇した『謎』の一年って」

 

「『謎』ってなんだ?謎って」

 

「達也君は魔法否定派の送り込んだ刺客なんでしょ?」

 

「他人事だと思って、この一週間に誤爆のフリした攻撃が何回あったと思ってるんだ。全く、アイツ等も下らない対抗心を燃やすのは勘弁して欲しいよ」

 

「でも、携帯制限が復活したんだから落ち着くんじゃないですか?」

 

「ならいいけど」

 

深雪も達也も自分だけが先に帰ると云う選択肢がない。非番の達也は深雪を生徒会室に送っていた。その途中に声が掛かる。

 

「司波君」

 

声の主は壬生紗耶香。

 

「初めましてって言った方がいいかな?」

 

「そうですね。初めまして。剣道部の壬生先輩ですよね」

 

「二年の壬生紗耶香です。この前は有難う。助けて貰っておいて黙って帰ってごめんね?あの時のお礼も含めてお話ししたい事があるから、今から少し付き合ってくれない?」

 

「生徒会室に用があるので、その後なら」

 

「え、あぁ。じゃあ用事が済んだら来てね。カフェで待ってるから」

 

達也はそれだけ聞くと深雪を連れて歩き出す。

 

「じゃあ 頑張れよ深雪」

 

生徒会室にには直ぐ着いた。達也はその場を離れようとした。

 

「待ってください」

 

「どうした」

 

「不安です」

 

「先輩の事か? どうせ大した話はしないだろ」

 

「本当にそうでしょうか?」

 

「?」

 

「お兄様が名声を博するのは嬉しいです。しかし、その所為でお兄様の本当の力が、イエ、その一部でも知れれば 私利私欲の為に群がる連中が大勢出てきます」

 

心配する深雪に達也は。

 

「たかが、委員会の仕事で『名声を博する』は言い過ぎだ」

 

と言って、

 

「もう いいじゃありませんかそんな事」

 

持っていた鞄で殴られた。

 

「心配するな 俺はお前の為だけにあるんだから」

 

「だから、それが心配なんです!」

 

校内 カフェテリア

 

「お待たせしました」

 

「いいのよ。コッチこそ急に突き合わせてごめんね?」

 

「それで話って?」

 

「えっと、まず改めて。この間は有難う御座いました」

 

「仕事ですから」

 

「本当ならあの程度の事、問題にしなくていいのに、風紀委員は点数稼ぎの為に大ごとにしたがるの」

 

「俺も風紀委員ですが」

 

「あ、ごめ・・・」

 

「先輩はお礼以外に話があるんじゃ?」

 

「司波君。単刀直入に聞きます。剣道部に入らない?」

 

「お断りします」

 

「理由を聞いても?」

 

「聞きたいのはコッチの方なんですが?」

 

「実は司波君に協力して欲しい事があるの」

 

「どう云う事ですか?」

 

「魔法科高校で二科生は魔法実技の授業を受けられない。まぁこれは分かる。実技指導の先生が少ないのは知ってるし、出来ない私達がいけないのも。でもそれだけで、全て決められるのは可笑しいと想うの。魔法だけが私の全てじゃない」

 

「それで?」

 

「今の現状に不満な生徒は多いわ。そこで、私達は非魔法競技部で連携して部活連とは違う新たな組織を作って学校側に考えを伝えるつもり」

 

「何を伝えるんですか?」

 

「え? 何って、それは」

 

「答えられないんですか?」

 

「まだ決まってないだけ」

 

「そうですか。協力するかはそれからですね」

 

達也はカフェを後にする。

 

「達也君。昨日は壬生をカフェで言葉攻めにしたらしいな?」

 

達也は翌日 生徒会室で昼食を取っていた。

 

「誤解ですよ」

 

「目撃者は多数いるが?」

 

「お兄様 昨日は一体何を」

 

部屋の気温が低下する。深雪の魔法が暴走したのだ。

 

「事象干渉力が強いのね」

 

本来、魔法が暴走する事は稀だ。それ程の力の持ち主がいないから。だから深雪の力の異常さが解る。

 

「深雪 落ち着け」

 

達也は深雪を余り怒らない。達也は暴走の原因を知っている。原因に自分の力が関係していることを。だから、強く怒らない。

 

「その件で真面目な話があるんですが」

 

達也は昨日の件の報告をした。

 

「点数稼ぎねぇ。それは奴等の勘違いだ。風紀委員は名誉職だから内点に関係ないよ」

 

「でも、そう思われても仕方ない。イエ、正確にはそう思う様に印象操作してる人がいるんだけど」

 

「正体は解ってるんですか?」

 

「解っていれば止めさせている」

 

「俺が言ってるのは印象操作してる奴等の背後の連中です」

 

「そ、それは」

 

「此処はブランシュの影響を受けてるんじゃないですか?」

 

「なぜ、その名を?情報規制されているのに」

 

「噂の出処を全て隠せる訳ないでしょう?それにこう云う事は隠すべきじゃないんです」

 

「それは、そうなんだけど」

 

「まぁ、此処は国策の機関ですから会長が思い悩む事無いですよ」

 

「慰めてくれてる?」

 

「でも、追い込んだのも司波君なんじゃ」

 

「自分で追い込んで、フォローして、やれやれ、すご腕もジゴロがいたもんだ」

 

「ジゴロ?凄腕の?」

 

「深雪。落ち着けよ」

 

「それで?これからどうするんだ?」

 

「壬生先輩、次第ですね」

 

達也は放課後の風紀委員本部で摩利に頼まれ事務仕事をしていた。

 

「あの人、今までどうやってきたんだ?」

 

順調に片付ける中、端末に呼び出しが掛かる。相手はカウンセラーの小野遥。初対面ではないが、面と向かって話すのは初めてだ。

 

「失礼します」

 

「いらっしゃい。座って」

 

「俺、何かしましたか?」

 

「実は司波君に手伝って欲しい事があるの」

 

「手伝いですか?」

 

「毎年、新入生の何人かに継続的にカウンセリングを受けて貰ってるんだけど」

 

「なぜ、俺に」

 

「特に理由はないけど引き受けてくれない?」

 

「まぁ 俺でいいなら」

 

「じゃあ、質問いいかな?」

 

遥の質問は大したものでは無かった。

 

「じゃあ、これで」

 

「ちょっと待って」

 

「なんですか?」

 

「壬生さんと付き合ってるって本当?」

 

「どこからそんなデマが出てるんですか」

 

「なんだ?デマなの」

 

「デマですが。それが何か?」

 

「本当ならお願いしたい事が有ったんだけど」

 

 

夕食後 司波家 リビング

 

「お兄様、お昼の事ですが」

 

「あぁ、お前も無関係じゃ無くなるだろ」

 

達也の説明が始まる。

 

「確かブランシュは反魔法活動を行っている政治結社ですよね」

 

「奴等は市民運動を自称してるが裏じゃ立派なテロリストだ。そしてこいつ等が校内で暗躍している。委員会活動中に下部組織のエガリテに参加しているだろう生徒を見掛けた」

 

「魔法科高校でそんな事があるのですか?」

 

「奴等は反魔法主義を掲げているが表立って魔法を否定してない。奴等の掲げているスローガンは『魔法による社会的差別の撤廃』なら差別とは何か?」

 

「本人の努力や実力が社会的評価に反映されない事?」

 

「奴等の言う差別は平均収入の格差だ。魔法師の平均収入が高いのは一部に社会に必要とされるスキルを有する高所得者がいるからだが」

 

「魔法が使えない方々は魔法を使うのにも、才能だけではなくスポーツ等と同じで長期間の修学と訓練が必要な事を知らないのでしょうか」

 

「知っているさ 知っていて言わない。都合の悪い事は聞かず、考えずに平等と言う言葉で自分と周りを騙している」

 

「ではウチの生徒達は?」

 

「魔法から離れたくない。しかし、魔法が上手く使えず一人前に見られないのは耐えられない。彼らは第一線で活躍している者が努力と云う対価を払っている事実から眼を背け『魔法による評価』を差別だと決めつける。まぁ、そう云う弱さは俺にもあるから分からなくもないが」

 

「そんな事はありません。お兄様には誰にも真似出来ない才能があるじゃないですか。そりゃ、標準的な才能は欠けていますが、それこそ本当に血の滲む努力を人一倍してきたではありませんか」

 

「それは、俺に別の誰にも真似出来ない才能があったからだ」

 

「ッ・・・」

 

「そうでなければ俺も平等と言う言葉に縋り付いていただろう・・・ではそれを解って先導している奴等の目的は何か?その背後にはこの国を魔法の廃れた国にしたい思惑がある。この国の力が損なわれて得をするのは誰か」

 

「まさか?彼らの背後には」

 

「だろうな。だがそんな事を十師族が簡単にさせないさ。特に四葉は」

 

「四葉、もし、叔母様が介入すれば私達は本家に戻される」

 

「安心しろ深雪。必要なら俺が出る。俺達の今を誰にも邪魔させない」

 

 

翌日の達也は実習室で苦戦していた。今日の実技は二科生でも比較的簡単なモノだが。

 

「940ms 達也さんクリアーです」

 

「やれやれ、三回目でやっとか」

 

「本当に実技が苦手なんですね?」

 

現在の優秀な魔法師の魔法発動速度は500msとされている。今の達也には無理な速度だ。

 

「自己申告は何度もしたよな?」

 

「謙遜だとばかり」

 

「実技が出来てたらこんな処にいないだろ」

 

「でも、実戦ではもっと早くできるんでしょう?」

 

達也は背筋が凍るのを実感した。

 

「なぜ、そう思う?」

 

「だって、達也さん凄く遣り辛そうにしてました。本当はこの程度なら直接魔法式を構築できるんじゃないですか?」

 

「本当にイヤな眼をしてるよな」

 

「ご、御免なさい」

 

「イヤ、視えてしまうのは仕方ないさ」

 

達也は少しだけ真実を話す事にした。

 

「確かに基礎単一系統なら直接魔法式を組むことで、もう少し早くできるけど、それは工程の少ない時だけ。俺には精々5工程が限界だ」

 

「5工程でも戦闘には十分なんじゃ」

 

「俺は戦闘用に魔法を習ってる訳じゃないからな」

 

その日達也はまた紗耶香に呼び出されていた。

 

「私達は学校側に待遇改善を求めるわ」

 

「具体的には何を?確か授業の事はいいんですよね。だとしたらクラブですか?でもたしか非魔法競技部の活動場所と時間は十分確保されてるはずですが?」

 

「司波君も不満があるんじゃないの?」

 

「それは、まぁ」

 

「だったら」

 

「でも、俺は最初から学校に期待してませんから」

 

「じゃあ、司波君はどうして此処で学んでいるの?」

 

「俺が欲しいのは、魔法科高校の卒業資格と魔法科大学や高校なんかにある非公開文献などの閲覧資格だけですから、待遇は気にしてないんですよ」

 

次の日。新たな騒動が始まる。ハウリングが酷く音量が大きいのは彼らが放送器具を使い慣れていないからだろう。

 

「全校生徒の皆さん。僕達は校内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕達は学校側に対し生徒会と部活連に対等な立場での交渉を求めます」

 

この放送に少し遅れて『放送室に集合せよ』と云うメールが届く。現場に向かう途中に深雪がいた。同じ様なメールを受けっとったのだろう。

 

「遅いぞ」

 

彼らが来たときには野次馬の生徒がいた。

 

「すいません」

 

謝っても急ぐことはしない。

 

「状況は?」

 

「電源を切ったからこれ以上の放送は出来ないが彼らはマスターキーを使って閉じこもっている」

 

「明らかに犯罪ですね」

 

「ですから彼らがこれ以上ヤケを起こさない様に慎重に行動すべきです」

 

「此方が慎重になっても奴等の聞き分けが良くなる訳じゃないだろ。此処は多少強引でも早急な解決を目指すべきだ」

 

どうやら、鈴音と摩利では考え方が違う様だ。

 

「会頭はどう考えてるんですか?」

 

このままでは埒が明かないと思い克人の意見を聞く。

 

「俺は彼らの交渉に応じてもいいと思っている。元々彼らの思い違いだ。此方の立場を理解させる事が大事だろう」

 

「なら、このまま待機ですか?」

 

「それに関してはまだ決断できん。このままではいかんが施設を破壊して無理に解決する事でもあるまい」

 

それを聞いて達也が行動にでる。

 

「もしもし壬生先輩?」

 

達也の行動に周りは唖然としている。会話の内容が聞き取りずらい。

 

「会頭は交渉に応じる様です。生徒会の方は・・・」

 

達也は鈴音を見ている。その行動の意味を理解したのか鈴音は首を縦に振る。

 

「あぁ。生徒会も同様みたいです。だから交渉の日時について打ち合わせしたいんですけど?・・・先輩の身の安全は保障しますよ」

 

しばらくして達也の会話が終わる。

 

「今のは壬生か?」

 

「すぐ出るそうです」

 

「そ、そうか?」

 

「安心するのは早いですよ。早く体制を整えましょう」

 

「何の?」

 

「何のって、このバカ騒ぎを起こした連中を捉える体制ですよ」

 

「君が勝手にアイツ等の身の安全を保障したんだろ」

 

「そうです。勝手にですよ。だから俺の言葉に何の効力もありません。元々俺は生徒会の代表でも部活連の代表でもありませんから」

 

「人が悪いですよ。お兄様」

 

「今更だな」

 

やがて放送室の扉が開き中にいた生徒達が拘束される。

 

「ちょっと!これどう云う事、司波君。私達を騙したのね!」

 

「司波はお前達の事を騙してはいない」

 

「じゃあ、交渉はどうなるんですか?」

 

「交渉には応じる。だがそれとお前達のやった事を認める事は別問題だ」

 

「それはそうなんだけど。彼女を離してあげて?」

 

「七草?」

 

「真由美!どう云う事だ?」

 

「学校側は今回の事を私達、生徒会に委ねるそうです」

 

「なに?なんて無責任な」

 

「壬生さん。交渉について打ち合わせしたいから付いて来て?」

 

「分かりました」

 

紗耶香は真由美と放送室を後にする。

 




思い通りに表示されない


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入学編 後編

入学編は後2回で終わると思います


翌日、二人は真由美を待っていた。

 

「会長。おはよう御座います」

 

「どうしたの二人共?」

 

「昨日の事が」

 

「あぁ、結局、彼らの要求は一科生と二科生の平等な待遇。でもどうするかは生徒会が考えろって」

 

「それで?」

 

「結局、明日の放課後に討論会を開く事になったわ」

 

「随分と急ですね?」

 

「生徒会では何方が討論会に?」

 

真由美は自分の顔を指示す。

 

「会長、お一人ですか?」

 

「時間ないし、一人なら揚げ足取られる事もないでしょう。一番面倒なのは感情論を持ち込まれる事よ」

 

「ロジカルな論争なら負けないと」

 

「それにもし、彼らが私を打ち負かすだけの根拠を持ってくれてればこれからに活かせるから」

 

 

放課後。自称、有志同盟の生徒達は討論会の参加者を募っていた。勿論、声を掛けるのは二科生。そして、それは美月にも。美月は断れずに困っていた。

 

「イエ、あの~私は」

 

そこに達也が通り掛かる。

 

「すみません。風紀委員の者ですが、長時間の拘束は迷惑行為と見なされますので注意して下さい」

 

「達也さん!」

 

「済まなかったね。じゃあ、僕はこれで。柴田さん。返事はまた今度」

 

勧誘していたのは、司 甲。

 

「美月、お前も討論会の勧誘か?」

 

「最初は違いました。先輩も霊視放射光過敏症で困っていて、そのサークルに入らないかって云うお誘いだったんですが、途中からそっちの方向に話が進んで困ってたんです」

 

確かに司 甲は眼鏡を掛けていた。

 

「確かに伊達じゃないみたいだったが・・・(彼も調べた方がいいか?しかし、どうやって)」

 

もう真夜に頼れない。協力を仰ぐなら・・・。

 

二人は夜中に九重寺を訪れる。

 

「もう、お休みになられているのでは?」

 

「それはない。ちゃんとアポも取ったし、何よりお前に何も感じ取れずとも、俺には視えてる。夜分遅くにすみませんね師匠」

 

「いらっしゃい、二人共」

 

声と共に深雪は暗闇に存在を視ることができた。

 

「司 甲。旧姓は鴨野。魔法因子は一般だけど血筋は陰陽道の大家。鴨氏の傍系だね。彼の眼は一種の先祖返りだ」

 

「師匠は俺が司の調査を依頼する事が分かってたんですか?」

 

「イヤ?僕は元々知っていただけ。怪しいのは調べる事にしてるんだ」

 

「俺達の事も?」

 

「勿論。でもあの時は調べられ無かった。流石に君達の情報操作は完璧だ。しかし、君達が僕の教え子になるなんて。でもこの位の事は僕じゃなくて、風間君に頼めば?あっちには藤林のお嬢さんもいるんだから」

 

「頼めたら此処には」

 

「成程、叔母君がいい顔しないか?」

 

「それで先輩とブランシュの関係は?」

 

「彼の義理の兄、司 一。彼がブランシュの日本支部のリーダーだ。表だけじゃなく裏もね」

 

「一つ心配事が」

 

「何だい?」

 

「彼の眼はどこまで視えてるんですか?」

 

「心配しなくていいよ。彼の眼で君は理解出来ない。勿論。君のクラスメイトの女の子もね」

 

「美月の事も知っているんですか?」

 

「コッチは君達の叔母君に頼まれたんだけど」

 

「そうでしたか。有難う御座います」

 

討論会 当日 お昼休み

 

達也は部活連本部に居た。達也はブランシュが関わる可能性をそれとなく伝える事にした

 

「司波、剣道部が何か企てていると云うのは本当か?」

 

「討論会が開かれるのに態々、騒ぎを起こすとは考えにくいのですが」

 

「可能性は高いです。しかも今回は騒ぎが起きれば怪我人だけで済むかどうか」

 

「達也君、それってどう云う事。何か知っているの?」

 

「兎に角。剣道部員の動向に注意して下さい。後は主将の司 甲から眼を離さないでください」

 

そう言って達也はその場を後にする。そして、運命の討論会の幕が上がる。

 

「二科生はあらゆる面で一科生より劣る差別的な扱いを受けている!」

 

「あらゆるとはどの様な事を指しているのでしょう」

 

「一科生の比率の高い魔法競技系のクラブは二科生の比率の高い非魔法系のクラブより明らかに手厚く予算の配分がされている。これは一科生の優遇が課外活動においてもまかり通っている証拠です!」

 

「それは各部の実績を反映させた結果です。非魔法系クラブでも優秀な成績を納めれば十分な予算が有り振られます」

 

討論会を黙って聞いていた摩利だったが、

 

「討論会ではなく真由美の演説会じゃないか?それで彼らが何をやるか分からないか?」

 

「流石にそこまでは」

 

「此方から仕掛けられないのは痛いな」

 

「彼らはまだ、何もしてません。それに専守防衛と言っても、この状況じゃ後々 面倒な事になります折角の討論会です話し合いで解決できるのが一番でしょう」

 

「実力行使を前提にするのは止めてください」

 

「わ、分かっている」

 

「一科生と二科生の間に差別意識があるのは否定できません」

 

真由美が一呼吸置いて、

 

「ブルームとウィード」

 

「!!?」

 

真由美の発言に達也も含めその場の全員が絶句する。

 

「禁止している言葉ですが多くの生徒が使用しています。しかし、一科生だけでなく二科生の中にも自らをウィードと蔑み諦めている。そんな悲しい風潮があります。この意識の壁こそが問題なのです! 生徒会にも一科生と二科生を差別するものがあります。現在の制度では生徒会長以外の役員は一科生から指名する事になっています。この規則は生徒総会でのみ改定可能です。私は退任時のこの件を撤廃する事を最後の仕事にするつもりです。勿論、これ以外の事でもできるだけ意識の壁を崩す改善策を取り入れるつもりです」

 

真由美に称賛の拍手が贈られる。しかし、そんな中で爆発音が聞こえた。その衝撃に一部の生徒が騒ぎ出し、一部の生徒が動き出す。

 

「奴等が動きました」

 

「全員、取り押さえろ」

 

風紀委員も動き出す。

 

エガリテに参加している生徒を取り押さえる達也。状況は目まぐるしく変わる。

 

「皆!気を付けて!何か飛んでくる」

 

真由美には視えていた。講堂のガラスが割れて何かが投げ込まれる。

 

「ガス弾?」

 

「煙を吸い込まないように」

 

この事態にいち早く動いたのは服部だ。

 

「(気体の収束と移動の魔法。一瞬で煙ごとガス弾を隔離。先輩はちゃんとした状況判断が下せる人か)」

 

服部により事なきを得たと思った矢先。今度は正面入り口から三人の武装した侵入者が現れる。

 

「次から次に、面倒な奴等だ」

 

彼らは銃機を乱射しようとしたが。

 

「(MITフィールド ガスマスクの内部を窒素で満たしたか)」

 

彼らは意識を失った様だ。

 

「侵入者だと。そっちにもか?」

 

どうやら騒動は終わらない様だ。校内の至る処で戦闘が行われているらしい。

 

「俺は外の応援に行きます」

 

「お兄様!早く行きましょう」

 

「気を付けろよ!」

 

この騒ぎで多くの者が混乱していた。レオもいきなり現れたテロリストに驚いていた 。

 

「一体何事だ?お前等は何なんだ?」

 

レオは状況が掴めないながらも反撃していた。仕方ない。彼らは本気で殺しに掛かって来るのだから。そこに二人が合流する。

 

「う、うわー」

 

レオを囲っていたテロリスト達は深雪に依って吹き飛ばされる。

 

「達也、どうなってるんだ」

 

「レオ、大丈夫?」

 

達也に状況確認しようとした時にエリカがやって来た。エリカはCADを持っていた。

 

「援軍到着?」

 

達也は二人に説明をする。

 

「テロリスト?」

 

「ぶっ飛ばしていい?」

 

「生徒で無ければ問題ない」

 

「お前等、他に怪しい奴等を視なかったか?」

 

「彼らの狙いは図書館よ」

 

達也に声を掛けたのは遥だった。

 

「小野先生?」

 

「此方を襲ったのは陽動ね。主力は既に侵入しています。壬生さんもそっちにいるみたい」

 

「なぜ知ってるんです? 貴方は一体何者です?答えてくれますよね」

 

「却下します。とは言えないわね。その代わりお願いがあるの」

 

「何でしょう?」

 

「カウンセラーとしてお願いします。彼女に機会を与えて欲しいの。彼女は評価のギャップに苦しんでいた。私の力が足らずそこを彼らに だから・・・」

 

「甘いんじゃないんですか?」

 

「ッ・・・」

 

「おい、達也!言い過ぎだろ」

 

「バカが、余計な情けでケガをするのは自分だけじゃないんだぞ!」

 

達也は振り返らない。

 

「おい、達也」

 

追いかけるレオ達。

 

「全く、足止めくらい出来ないのか?」

 

校内は既に乱戦模様。見ると学校側が押されている。

 

「仕方ない。少し手伝うか」

 

だが先に仕掛けたのはレオだった。

 

「おい、レオ?」

 

「パンッツアー」

 

レオがテロリストを殴り倒す。その姿を見たエリカは、

 

「音声認識って、またレアなモノを」

 

「お兄様 今・・・展開と構成が」

 

「遂次展開だな。確か十年前に流行ったんじゃ」

 

「どんだけモノクロよ」

 

レオは相手の攻撃をCADで受け止める。

 

「うわっ、良くあんな使い方で壊れないわね」

 

「CADに硬化魔法を掛けてるな。イヤ、制服にも掛けてるのか。あれなら刺されても問題なさそうだ」

 

「成程ね」

 

「レオ、先に行くぞ」

 

「おう!此処は引き受けた」

 

図書館

 

達也達3人は遥の言う通り図書館にやって来た。

 

「・・・こっちだ」

 

達也達はまず入り口のカウンターに隠れる。

 

「本当に此処にいるのかな?もう出て行ったんじゃ」

 

「待て。今、調べる」

 

「調べるってどうやって?」

 

「心配しなくていいわよエリカ」

 

達也は眼を閉じ、図書館にいる存在を探る。そして、

 

「見つけた!」

 

「ほ、本当に?」

 

「階段の上り口に二人、上りきった処に一人、二階特別閲覧室に壬生先輩を含め四人」

 

「凄いね。達也君には待ち伏せが通じないね・・・実戦では相手にしたくないけど・・・」

 

「特別閲覧室なんかで一体何を?」

 

「恐らく大学が所有する機密文書を盗みだそうとしてるんだろ」

 

「じゃあ、急がなきゃ」

 

「おい、エリカ」

 

テロリストが気配に気付く。

 

「何者だ!」

 

「止まれ!」

 

エリカは攻撃を躱し一撃でテロリストを仕留める。

 

「ぐっあ!」

 

仲間が倒れたのに気が付いたのだろう。また一人敵が現れる。今度は剣道部員だ。

 

「此処は任せて」

 

襲い掛かる剣術部員の攻撃を受け止めたエリカが叫んだ。

 

「分かった」

 

二人は先を急ぐ。

 

校内 図書館棟 二階

 

「(魔法による差別撤廃を目指しているのにどうして、魔法の最新資料がいるの?これが私のしたかった事?)」

 

紗耶香の思考が定まらない。

 

「良し、開いた」

 

「これでこの国の最先端資料にアクセスできる。データを移すぞ。記録用キューブを用意しろ」

 

そんな時、重厚な扉が跡形も無く消えてしまう。

 

「ド、ドアが」

 

「な、何事だ?」

 

「そこまでだ」

 

ドアが消失し、記録キューブもバラバラに、 

 

「これで終わりだ」

 

「司波君!」

 

「クソッ 何しやがる!」

 

テロリストの一人が達也に銃口を向ける。しかし、達也は無傷だ。

 

「私の前で一体、誰に向かってそんなモノを向けているのかしら?」

 

見るとテロリストの腕が凍っている。

 

「う、うわーー」

 

深雪が達也への攻撃を許すはずが無い。

 

「先輩、これが現実です。誰もが等しく優遇される・・・そんなモノ有り得ない。先輩は利用されたんですよ。これが他人から与えられた耳当たりの良い理念の現実です」

 

「どうして、差別を無くそうとするのはいけないこと?貴方だって出来のいい妹と比べられて不当な侮辱を受けていたはずよ」

 

「可哀想な人ですね?」

 

「なんですって?」

 

「貴方には認めてくれる人がいないんですか?魔法だけが貴方を図る全てじゃないでしょう?お兄様は貴方を認めていましたよ。あなたの腕と努力を」

 

「そんなの上辺だけじゃない!」

 

「当たり前です」

 

「な!」

 

「知り合って間もない人に何を期待してるんです!ですが上辺も先輩自身の事。大事なのは他人にどう見られようと自分がどうあるかでしょう。結局、誰よりも先輩の事をウィードだ劣等生だと蔑んでいたのは先輩御自身なんです」

 

「壬生!話を聞くな。逃げるぞ。指輪を使え」

 

テロリストの一人が煙球を投げつけた。煙が充満し、更に彼らはアンティナイト使ってキャスト・ジャミングを行う。充満する煙と強力なジャミング波が二人を襲う。

 

「お兄様、如何いたしましょう?」

 

キャスト・ジャミングで魔法が使えないと安心したテロリストが達也に襲い掛かる。

 

「ぐっあ!」

 

だがこの程度で達也は怯まない。達也はテロリスト達を返り討ちにした。その隙を衝いて紗耶香は逃げ出す。

 

「深雪 止せ!」

 

紗耶香を拘束しょうとしたのを達也が止める。

 

「宜しいのですか?」

 

深雪は拘束系魔法から気体収束系魔法に切り替える。

 

「不十分な視界で無理をする事もない」

 

「この程度の事で私が動揺するとでも?」

 

「念のためだよ。それにエリカもいる」

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「千葉の名前は伊達じゃないさ」

 

達也と深雪を振り切った紗耶香は階段を下っていた。しかし、そこには達也の言う通りエリカがいた。

 

「あ、貴女。どうしてこんな処に?」

 

大勢の生徒が講堂にいると思っていた紗耶香は驚いた。

 

「初めまして、壬生紗耶香先輩ですよね。一年の千葉エリカです」

 

紗耶香は逃げたかった。だから傍に落ちていた武器を取ってエリカを脅す。

 

「そこを退きなさい!」

 

「残念ながら。退く訳にはいかないんですよ」

 

「後悔しても知らないわよ」

 

「これで正当防衛は成立かな?まぁ、そんな言い訳をするつもりないけど。じゃあ。、真剣勝負を始めましょうか」

 

「(いきなり出てきて何なのよこの子。早く此処から逃げたいのに・・・アレ

こ、この子。全く隙が無い!)」

 

エリカは直ぐに紗耶香の間合いに飛び込んだ。

 

「は、早い」

 

紗耶香は防御だけで精一杯といった処だ。また反撃しても即座に距離を取られる。紗耶香はこの戦法を知っていた。

 

「自己加速術式!渡辺先輩と同じ?」 

 

エリカは再度、突っ込もうとしていたが、

 

「アレは達也君のと違って『アンティナイト』を使った本物の『キャスト・ジャミング』?」

 

今度は紗耶香の反撃が始まる。だがエリカも負ける訳にはいかない。激しい剣戟の奥収。その最中、紗耶香の得物の先端が折れる。

 

「次の得物を拾いなさい! そして貴女の全力を見せなさい。貴女を縛るあのバカの幻影ごと打ち砕いてあげる」

 

紗耶香は指輪を外す。何かに頼りたく無かった。

 

「私はこんなモノに頼らない!私は自分の力でその技を破る。私は知ってる。その技 それは渡辺先輩と同じモノ」

 

「フフッ。貴女はまだ本物を知らない。教えてあげる。本物と偽物の違いを」

 

勝負は一瞬だった。紗耶香は反撃できなかった。

 

「御免なさい。骨が折れてるかも」

 

「ッ・・・ひびは入ってるわね。でもいいわ。加減できなかったんでしょう?」

 

「先輩は誇ってもいいと思いますよ。渡辺摩利が出来なかった。イヤ、これからも一生出来ない。千葉家の娘に本気を出させたんだから」

 

「そっか。貴女、千葉の人なんだ」

 

「そうですよ。因みに渡辺摩利はウチの門下生 剣の腕だけなら私や貴女の方がずっと上」

 

「千葉家の人に認められるなら私もまだまだ捨てたもんじゃないわね」

 

そこで紗耶香は倒れた。

 

「おい、エリカ」

 

「あ!2人共遅いよ」

 

「すまん。それで応援は呼んだか」

 

「まだだよ。それより先輩を運んでよ達也君」

 

「なんで俺が?」

 

「いいじゃない。合法的に年頃の女の子に触れられるんだよ」

 

「そんな事で喜ぶ変態じゃない」

 

「達也君って女の子に興味ない?もしかしてそっちの人?」

 

「そっち?」

 

「だから・・・」

 

「違う!!」

 

達也が悲痛な叫びを上げる。深雪は笑っていた。

 

 

一方 第一高校 校門前

 

司 甲は作戦失敗を知り逃げようとしていた。

 

「おい、どこ行くんだよ」

 

「た、辰巳?」

 

「帰るのか?」

 

「こんな騒ぎだ。帰った方が安全だろ」

 

「まぁ、それもそうだな。けどよ、悪りいけど戻ってくんないか?」

 

「どうして?」

 

「全校生徒が無事か確かめる為に点呼を取らなきゃいけないからな」

 

「この状況で校内に留まるのは危ないだろ」

 

「安心しろよ。お仲間は全員捕らえたからな」

 

「仲間?」

 

「ネタは上がってんだよ。お前が奴等を手引きしたことは」

 

「なっ!」

 

「御同行、願います」

 

「ちっ、沢木まで」

 

挟み撃ちにされていた。選んだ逃げ道は沢木の方だ。ただ何の考えも持たずに突っ込んだ訳ではない。キャスト・ジャミングを使い逃げようとしたが。

 

「ぐっあ?」

 

「バーカ、沢木を嘗め過ぎだ。余計な事はするもんじゃねえな」

 

取り敢えず校内の騒ぎは落ち着いた。外では警察とマスコミの押し問答が行われている。

 

校内 保健室

 

紗耶香は既に目を覚まし事の始まりを話していた。

 

「司主将は一年以上前から魔法による差別撤廃を訴えていました。私も思う処があって参加したんだと思います」

 

「何かあったんですか」

 

「去年の剣術部の騒ぎで渡辺先輩の剣技を見てご指導でもって思ったんだけど

あしらわれて。お前じゃ相手にならないから無駄だって自分に見合うレベルの奴を見つけろって。それってきっと私が二科生だから」

 

「うわっ、最低。良くその程度で天狗になれるわね。今もそうだけど去年は今よりも弱かっただろうに。あーあ、こんな人がウチの門下生なんて。ウチの評価が下がっちゃうんですけど。貴女、ウチに恨みでもあるんですか?」

 

「エリカ、そう云うのは後にしろ」

 

「ちょっと待て、私も去年の事は覚えている。だが壬生の言っている事は逆だ!」

 

「え?」

 

「お前じゃ私の相手にならないじゃなくて、私じゃお前の相手にはならないだ!」

 

「どう云う事、摩利?」

 

「私はあの時『私の腕じゃお前の相手は務まらない。だから、お前の腕に見合う奴と稽古しろ』と言ったはずだ。まぁ、去年の一校に男子を含めて壬生の相手を出来るような奴はいたかどうか疑問だが。だから相手が見つからない様ならエリカを紹介しようとも思った。だがその考えを持ったのはその後だったし、その後は関わりがなかったからそのままになっていたが」

 

「え? じゃあ壬生さんが強すぎて自分じゃ相手にならないから断ったの?」

 

「私だって勝ち目のない戦いを自分から挑むほどバカじゃないし相手が自分より強いかは直ぐに解る」

 

「じゃあ、私は下らない勘違いで一年も無駄にしたんだね。バカみたい」

 

「無駄じゃないでしょ?理由はどうあれ、先輩は強くなったんですから」

 

その言葉で紗耶香の感情のダムが決壊する。彼女はエリカの肩を借りて泣いた。

 

「さて、これからどうしましょう?」

 

「どう、と言われても壬生さんは警察に任せる事になると思うけど」

 

「覚悟はできてます」

 

「先輩は被害者でしょう?分かってて、家裁送りにするんですか?」

 

「達也には何か考えでもあるのか?」

 

「ああ、簡単なのが」

 

「どんな?」

 

「奴等を片付けるれば、先輩を家裁送りにする事くらいは免れる」

 

「それって、彼らと一戦交えるって事?」

 

「違いますよ。いい機会ですから潰すんです」

 

「危険だ。学生のやる事じゃない」

 

「私も反対よ。学外の事は警察に任せるべきよ」

 

「もしかして、これで終わり、だなんて思ってるんですか?本当に揃いも揃って甘ですね。こう云うのは徹底的に潰すのもです」

 

「お前の言いたい事は分かる。だがな司波。相手はテロリストだ。生徒の命を掛けるものじゃない」

 

「勿論。これは俺の個人的意見です」

 

「・・・?司波。お前一人で行く気か?」

 

「そうしたいんですけど」

 

「お供します」

 

「あたしも行くわ」

 

「俺もいくぜ!」

 

「ちょっと待って司波君!私の為なんかに行かないで私は罰を受けるような事をしたんだから」

 

「残念ながら俺は他人の為に何かする程優しくできてません。さっきも言った通り、奴らはこれで終わりじゃない。時間をやれば、また同じ様な事をしてくる。今度は規模もバカにならない。あの程度の屑に二度も関わるのはごめんです」

 

「それに先輩が罰を受けると言うのなら、彼らも罰を受けるべきなんです!もっとも彼らが受けるべき罰は司法モノとは限りませんが」

 

達也と深雪の言葉の威圧に反論する者はいない。

 

「他人の生活区間に土足で入り込んで只で済むわけないでしょう。俺と深雪の今の生活に邪魔な存在と分かった以上、このままなんて選択支はないんです」

 

「しかし、お兄様 私達は彼らの本拠地を知りません。」

 

「あいつ等も同じ場所にいる程バカじゃないだろうから、早く叩かないと逃げられちゃうよ!」

 

「お兄様。先生に聞いてみては」

 

「必要ない。場所は分かってる」

 

「どこ?」

 

「俺が知ってる訳じゃないが」

 

「どう云う事だ」

 

「だから、知ってる人に聴けばいい」

 

達也は保健室のドアを勢い良く開ける。そこには、

 

「小野先生?」

 

「あ、アッハハー。九重先生の弟子から隠れようなんて甘かったかー」

 

「そうやって嘘ばかり付くと自分の本心も解らなくなりますよ」

 

「ご忠告有難う」

 

「それで、先生」

 

「じゃあ、地図を出して」

 

達也の地図に表示されたのは、

 

「放棄された工場か」

 

「奴らにはお似合ね」

 

「だが場所からして車が欲しい処だな」

 

「車はウチで用意しよう」

 

「え!十文字君も行くつもり?」

 

「十師族の者として当然だ。それ以上に一校生として我等を巻き込んだ事を見過ごせん。後輩だけに任せる訳にもいかんしな」

 

「じゃあ、私も」

 

「七草!お前はダメだ」

 

「そうだ!この状況で会長の不在はありえんだろう」

 

「分ったわよ。でも摩利も駄目よ」

 

「何!なぜだ?」

 

「風紀委員長が居なくてどうするの?私一人じゃ廻らないかもしれないし」

 

「なっ、わかったよ。私も残ろう」

 

車は意外に早く調達できた。

 

「会頭。俺も連れて行って下さい」

 

駐車場に一早く着いたのは桐原。

 

「なぜだ?」

 

「一高生として見過ごせないからです」

 

「駄目だ。そんな事で連れていけん」

 

「会頭!」

 

「そんな事で命を懸けるような事をするな」

 

「あいつ等は壬生の剣を汚しました。アイツの剣は俺のと違って純粋に綺麗だったのに、入学以来アイツの剣が汚れていくのが気に喰わなかった。」

 

「まさか。あの騒ぎはその為に?」

 

「アイツに気付かせたくて・・・でもどうしていいか分からずあんな事に」

 

「お前は過ちと言うが壬生の意志じゃ」

 

「違う!ッ・・・イエ、違います。そんな道に行く必要はないんです。アイツがやってるの剣道であって剣術じゃない。人を斬るんじゃないんだから綺麗なままで良かったんです。もし汚れた理由があいつ等にあるなら責任を取らせたい。此れが俺の我儘なのは分かってます。それでも、行きたいんです。お願いします会頭」

 

「準備はできたかお前達」

 

「ええ、じゃあ早速いきましょうか? ほら、桐原先輩も準備ができてるなら早くしてくださいよ」

 

「し、司波?」

 

「急げ、桐原。出発できん」

 

「有難う司波。有難う御座います。会頭」

 

こうして新たに一人仲間を加え現場に急いだ。

 




毎度 長々と書いて御免なさい


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入学編 終章

次の後日談で入学編は終わりです


 

達也たち六人を乗せた車は現場に急いでいた。

 

「見えたアレだ」

 

「司波。現場ではどうするつもりだ」

 

「レオとエリカは現場に着いたらこの車の死守を第一に考えろ。逃げようとする敵の始末も忘れるな」

 

「了解」

 

「会頭は先輩と裏口へお願いします」

 

「了解した」

 

「分かったぜ」

 

「お前達は?」

 

「俺達は正面から」

 

やがて正面に目的地が見える。

 

「ゲートが閉じているな」

 

「ならレオは車に硬化魔法を、会頭はアクセル全開で突っ込んで下さい」

 

「準備はいいか?」

 

「はい!」

 

「いくぞ!」

 

「パンッツアー」

 

激しい衝撃。無理やりだが侵入に成功した。

 

「後は頼んだぞ二人とも」

 

「おう、任せとけ」

 

「頑張ってね」

 

「じゃあ、俺達も作戦開始と行きましょうか?」

 

「あぁ。お前達も気を付けろ」

 

「はい!」

 

荒れ果てた内部を進む達也と深雪。角を曲がると大きな扉が現れる。念のため達也は扉の奥を知覚する。

 

「いた!準備はいいか?」

 

「はい」

 

扉を開け注意深く部屋の中央まで歩いた時、閉ざされた窓から光が一斉に辺りを照らす。

 

「ようこそ、初めまして司波達也君。そちらのお姫様は妹の司波深雪君かな」

 

「お前がブランシュのリーダー。司 一で間違いないか?」

 

「そう。僕がブランシュの日本支部リーダーの司 一だ」

 

「そうか。一応は投降の勧告をしてやる。全員、武器を捨て両手を頭の後ろで組め」

 

「フッハハ・・・この人数相手に良くそんな虚勢が張れるね。魔法が絶対的な力だと思っているなら大間違いだよ。魔法師でも撃たれれば死ぬんだ。君は出来損ないのくせに一体どこからその自信が来るのかな?」

 

司が片手を上げると彼の部下が一斉に銃を達也に向ける。

 

「さて、良くもやってくれたね。本来なら君には此処で死んで貰うんだけど君一人なら助けよう。我々の仲間になれ。弟が知らせてくれた、アンティナイトを必要としないキャスト・ジャミングには興味がある。君が仲間になれば今回の事は水に流そう」

 

「壬生先輩や弟を使ったのはその為か」

 

「賢い子供は嫌いじゃないが解っていて、ここに来るのはやはり子供だね」

 

そう言いながら彼は掛けていた眼鏡を空中に投げる。そして、

 

「司波達也。我等の同士になれ」

 

司が前髪を掻き上げる。達也は持っていたシルバー・ホーンを降ろしてしまう。

 

「これで君は私の駒だ。まずは手始めに妹さんを殺してもらおうか。深雪君もお兄さんの手に掛かって死ねるなら本望だろう」

 

「光波振動系の邪眼(イビル・アイ)か・・・態度のでかい割には使う魔法は手品レベルだな」

 

「な、なぜ?」

 

「先輩の記憶もこれですり替えたのか?」

 

「お兄様、まさか?」

 

「あの先輩の記憶違いは不自然過ぎる。大方、会う度に何度も仕掛けたんだろ」

 

「このクズども!」

 

「私の催眠が効かないのか?」

 

「眼鏡を外す右手に注意を引き付け、その隙に左手でCADを操作。つまらん小細工だな」

 

「クソッ。生け捕りは止めだ。撃て、撃て!」

 

司は射殺を命じた。

 

「深雪がいるのにそんな事させると思うな」

 

突然、武器がバラバラになる。

 

「なんだこれは?」

 

「お前達はここで終わりだ。その運命からは逃れられない」

 

「う、うわー」

 

司は達也に言い知れぬ恐怖を感じ逃げ出した

 

「お兄様、追って下さい」

 

「分かった」

 

達也は司を追う事にした。司の部下も達也に恐怖を感じ近づけない。だが子供一人に怯えるのが情けないと思ったのか達也にナイフを持って背後を襲う者がいた。達也は振り向かない。

 

「この、クソガキがー」

 

だが彼の行動はそこまでだ。ナイフが達也に届く事はない。

 

「女の子相手だからって、敵に背を向けるなんて為ってないわね」

 

そこには一つの氷像が出来上がった。

 

「深雪。余り、はしゃぐな。使う魔法も選べよ。元々お前が手を下すような価値はないんだ」

 

「はい、お兄様」

 

達也は部屋を後にする。

 

「お前達も運が悪い。私の目の前でお兄様に手出ししなければ少し痛い思いをするだけで済んだのに。結果が全てではない。お兄様がお前達程度にケガを負う事は無いが。お前達は私の目の前でお兄様に銃口を向けた。私にとってはそれだけでお前達をこの世から消す十分な理由になる」

 

深雪はCADを使わずに魔法を発動する。辺りが凍り始める。

 

「さ、寒い。体が動かない」

 

「まさか?この魔法は振動減速系広域魔法『ニブルヘイム』?」

 

「祈りなさい。本気はだせないから運が良ければ死なないかもね」

 

深雪は出来上がった氷像達に吐き捨てる様に言った・・・が 直ぐに後悔した。

 

「(しまった。使う魔法を間違えた。もう、私のバカ。お兄様に注意されたのに、怒りに任せてこの人達を・・・イヤ問題なのはそこじゃないけど)」

 

問題は結果が残る事。この惨状は必ず後で調べられるだろう。そして深雪がこの惨状を作り出した本人であることも。今は目立つ訳にいかない。十師族に目を附けられるのも御免だ。自分達の正体がバレる様なことには為って欲しくない。

 

「どうしよう?」

 

深雪が悩んでいた頃、達也は着実に司を追い込んでいた。

 

「後はここだけ」

 

達也は直ぐに扉を開ける事はしなかった。扉の中の存在を知覚しまず最初に彼らの銃をバラバラにした。

 

「さて、これでいいか」

 

達也は部屋に入る。司は笑っていた。

 

「どうだ、これが本物のキャスト・ジャミングだ」

 

不快なジャミング波は後ろからも聞こえる。達也は挟まれていた。

 

「フフッ。よくもこれだけのアンティナイトを用意できたな。流石は大亜連合と言った所か。あいかわらず卑怯な連中だ」

 

「なぜそんな事。お前は一体?」

 

「まぁいい。お前等が連中の下っ端でも今回は国を信じてお前等の身柄は公安に任せようか。奴等との決着はまだ先だな」

 

「何をしているお前達、早くコイツを殺れ!」

 

達也はシルバー・ホーンの引き金を引く。

 

「バカがこの状況で魔法が使えるはずー」

 

「ぐっあ!」

 

「うっわー」

 

司の部下が次々倒れる。

 

「なぜ、なぜキャスト・ジャミングの中で魔法が使える」

 

「『魔法は絶対ではない』お前のこの意見には賛成だ。『魔法は絶対ではない』だがキャスト・ジャミングも魔法師にとって絶対ではないんだよ」

 

司は後ろの扉からまた逃げよとした。だが、

 

「ひぃー」

 

扉が壊れ、そこから出てきたのは、

 

「ん?ちっ!此処も外れか?」

 

「イエ、当たりだと思いますよ桐原先輩」

 

「当たり?でも残りはそいつ一人だろ?」

 

「えぇ。残るはそのリーダーの司 一。一人です」

 

「あぁん?リーダー?コイツが!お前か壬生を誑かしたのは!」

 

桐原は司に切り込む。彼の持っているのは摸造刀だが使う魔法は高周波ブレードなのでそこらの安物の刀より切れ味抜群なので腕を切り落とすのは簡単だ。

 

「うぎゃー」

 

彼は痛みに耐えかね失神してしまう。

 

「この野郎!」

 

「その辺にしておけ」

 

達也は黙って見ていたが克人が止めた。

 

「これで敵は全てか?」

 

「おそらく」

 

「ならウチの者を呼ぼう」

 

達也は後方に向けシルバー・ホーンの引き金を引く。

 

「(全く、あれ程言ったのに。まぁ、深雪の事だから俺の代わりに怒ってくれたんだろう)」

 

日が傾いた時、全てが終わった。十文字家関係者と思われる者達が後始末をしている。

 

「これで終わりか。なんか呆気ないな」

 

「ここまで来て、あんまり戦えなかったなんて」

 

「まぁ、会頭や達也が敵を打ち漏らすとも思えないけど」

 

「結局、私の処には5人も来なかったなぁ」

 

関係者が出入りする中、深雪は達也が戻るのを感じた。

 

「お兄様、お怪我はありませんでしたか?」

 

「大丈夫だよ」

 

「良かったです。あの、お兄様。実は私」

 

「心配するな」

 

「え?」

 

見ると次々に倒されたテロリストが運ばれていた。そこには深雪が凍らせた者もいた。

 

「お、お兄様。まさか・・・申し訳御座いません」

 

「謝るな」

 

「あ、有難う御座います」

 

深雪は達也が何をしたのか理解した。彼らが生きているのは彼らの運が良かったからではない。そこには達也の力が働いている。

 




次も宜しくお願います


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入学編 後日談

これで入学編は終わりです


第一高校をテロリストが襲撃すると云う前代未聞の事件から、しばらく立った。5月 達也と深雪は病院を訪れていた。

 

紗耶香の退院が決まったのだ。エリカに受けた傷の所為ではない。問題は司 一に受けた邪眼だ。念の為の入院。因みに甲も入院していたが紗耶香より先に退院した。

 

今回の騒ぎで紗耶香と甲は裁かれなかった。全ては司 一の所為になった。

 

学校にも今まで通り通う事になる。テロリストの襲撃を許し生徒が犯罪者に身を落とす。今回の件は学校側にも責任がある。学校側としては二人を退学に追い込みたかったのだが、達也・真由美・克人が学校側にも落ち度があると二人の退学処置に直談判した。学校側も今回の件で騒がれたくない。管理責任を問われる事になる。真実は隠して置きたかった。なんとか三人の悪知恵で退学は免れたが、司 甲は自主退学を申し出た。学校を辞め京都に行くと云う。

 

「折角、退学処分を取り消してくれたのに、勝手に京都に行く事を決めて、恩を仇で返すような真似をして済まない」

 

「先輩ご自身で決めた事でしょう?俺達に謝らなくていいですよ」

 

「剣道部の事はいいの?」

 

「俺がいなくても上手くやってくれるだろう」

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。ありがとう、元気でな」

 

司の去り際の顔は印象的だった。

 

都内 病院 一階ロビー

 

「良かった。間に合ったみたいだな」

 

「二人とも遅いよ」

 

どうやらエリカは一足早く来ていたらしい。もっとも早く来たのはエリカだけではないが。

 

「桐原先輩も来てたのか」

 

「随分、仲が宜しいようで」

 

「そりゃ、毎日来てればそうなるでしょう」

 

「へぇ~先輩も以外に律儀だよな」

 

「そんな事言ってるからサーヤにフラれるのよ」

 

「俺は先輩に告白した覚えはないぞ」

 

「サーヤって紗耶香先輩の事?」

 

「そうだよ」

 

「随分、仲良くなったな」

 

「そう云うのは得意だもん!」

 

「壬生先輩」

 

「あ、司波君!」

 

「うっげ!し、司波?」

 

「退院おめでとう御座います」

 

深雪が花束を渡す。

 

「2人とも、態々ありがとう」

 

紗耶香の退院を喜び談笑する達也に声が掛かる。

 

「君が司波君か?」

 

「お父さん?」

 

声を掛けて来たのは紗耶香の父、壬生勇三。

 

「娘が世話になった。お礼を言わせてくれ」

 

「イエ、俺は別に」

 

「向こうで話さないか?」

 

「はぁ、分かりました」

 

達也は押しに負けた。

 

「改めて、礼を言わせてくれ。本当に有難う。君のおかげで娘は立ち直る事ができた」

 

「俺は何も・・・先輩が立ち直ったのは先輩自身の努力とあっちにいる桐原先輩や千葉の励ましがあったからで、俺は先輩を突き放しただけで礼を言われる様な事は」

 

「私は突き放す事すらできなかったよ」

 

「あ、イヤ・・・その」

 

達也は言葉に詰まる。

 

「娘が悩んでいた事は知っていたがこんな事になるとは思ってなかった。君が止めてくれなければどうなっていたか。本当に有難う」

 

「ですから、俺は何も・・・」

 

「本当に君は風間に聞いた通りの子だな」

 

この言葉は久々に照れてどうしようか困っていた達也の冷静さを取り戻すには十分な言葉だった。

 

「知り合いなんですか?」

 

「私は退役したがね。彼とは戦友の様なものだ。安心しなさい、君の事は誰にも言わない。私は娘を救ったのが君だと私が知っていると云う事を君に分かっていて欲しかっただけだよ」

 

それからしばらくして、

 

「司波君。お父さんと何を話していたの」

 

「俺の知り合いと付き合いがあるそうで」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

「ねぇ、どうしてサーヤは桐原先輩と付き合う事にしたの?達也君の事、好きだったんじゃないの?」

 

「私が司波君に惹かれてたのは、司波君が自分には無い強い意志を持ってると思ったから。でも、それはきっと好意じゃなくて憧れだったと思うの」

 

「良かったね。桐原先輩」

 

「千葉。そりゃどう云う意味だ!」

 

「私は司波君みたいに強くはなれない。でも桐原君なら、ぶつかり合いながらでも私を引っ張ってくれるんじゃないかって」

 

「は~聞くんじゃなかった。それで桐原先輩の方はいつからサーヤの事が好きだったんですか~」

 

「う、うるせー。どうでもいいだろ、そんな事!」

 

「エリカ、いつからなんてどうでもいいだろ。先輩は本気で惚れてるんだから」

 

「て、てめえまで」

 

「だって本気で惚れてなきゃ、テロリストのリーダー相手に、あんな事は言わないでしょう」

 

「なんて言ったの」

 

「それはプライバシーに関わる事だから」

 

「オ、俺は別に何も・・・」

 

「覚えてないんですか?あのセリフ」

 

「司波!てめえ、人のセリフを勝手に捏造すんなよ!」

 

「捏造はしませんし、話す事もしませんから」

 

「いいじゃん、教えてよ」

 

「千葉。てめえ、コノヤロー」

 

「やれやれ、さて、用事は済んだから帰ろうか?」

 

「はい、お兄様」

 

二人は病院を後にした。

 




これより先 入学編 前編のように長々と書く事はしません


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九校戦編 前編 其の一

少しずつオリジナル設定が入ります


司波達也と司波深雪の兄妹は第一高校に入学して間もなく、とんでもない騒ぎに巻き込まれた。テロリストによる学校襲撃が起こるも見事に撃退することに成功。そんな兄弟に次なる厄介事が近づいていた。学生が必ず受けなければならない定期試験だ。そして、その結果が公表される。

 

「おい、こりゃ、どう云う事だ!なんでウィードが?フライングの次はカンニングかよ?」

 

行われる試験は魔法の実技と理論・勿論・実技と総合で言えば圧倒的に深雪を始めとする一科生が上位に名を連ねるが、理論だけで云えば深雪を抑え二科生の達也がダントツのトップ。また二位の深雪と僅差で三位に吉田幹比古と言う二科生が名を連ねる。彼らはその事実が許せないのだろう。しかしそんな彼らに、雫が一言。

 

「自分より成績がいい人を貶めようなんて浅ましい真似しないでくれる?」

 

「なんだと?」

 

「そうだよ!そんな人達と一緒だなんて恥かしいよ。それに達也さんがカンニングなんてする訳ないじゃない」

 

そんな時、校内にアナウンスが流れる。

 

「1ーE、司波達也君。至急、生徒指導室までお越しください、繰り返します・・・」

 

「ほら、やっぱり、アイツはカンニングしたんだ」

 

「今回のテストは簡単だった?」

 

「はぁ?」

 

「簡単なテストならカンニングすれば高得点は取れるかもしれないけど勉強もせずにカンニングだけで高得点が取れる内容だった?」

 

「そ、それは」

 

「◯バツ問題じゃないんだから、それに貴方の成績が悪いのは達也さんが一位なのとは関係がない。貴方の成績が悪いのは貴方の勉強が足りないか、もしくは貴方が魔法を理解してないだけ」

 

「ぐっ!」

 

「達也さんを責める理由にはならない」

 

一方、その達也はと云うと、

 

「失礼します」

 

達也が来てみると、部屋には校長を始め何人かの講師がいた。

 

「座りなさい」

 

「あの、俺、何かしましたか?」

 

「聞きたい事があります」

 

「なんでしょう?」

 

「今回の試験、魔法理論で入学試験に続き大変優秀な成績を収めましたね」

 

「はぁ~どうも」

 

「ですが君の実技での成績は良くない。これはどう云う事でしょう」

 

「どうと言われても」

 

「正直に答えなさい。君は入学試験と今回の実技試験で手を抜いたんじゃないのか?」

 

「手を抜いて俺にメリットがあるんですか?」

 

「それは・・・」

 

「しかし、現状では君が手を抜いているとしか思えない」

 

「君は深雪君の兄だろう」

 

「血が繋がってるだけですよ」

 

「君は入学早々に服部君を倒しているじゃないか?」

 

「あの試合はCADの性能に助けられたので」

 

「では剣術部員との騒ぎは?」

 

「アレは単純に組み伏せただけですから魔法力は関係ありません」

 

「ではテロリストを総統しようとしたのは?」

 

「彼らは非魔法師ですから。それに十文字先輩が御同行されたので」

 

「では、入学試験と今回の実技試験の結果は偽りではないのですね?」

 

「はい」

 

「ならば、それを証明してもらいます」

 

「?」

 

結局達也はもう一度、テストをやらされた。

 

「おい、達也、大丈夫だったか」

 

指導室を出るとそこに、レオ達がいた。

 

「あぁ、大丈夫だよ」

 

「呼び出しの理由は?」

 

「実技試験の事で手を抜いたんじゃないかって」

 

「なに、それ。手を抜いてもメリットも無いのに」

 

「誤解は解けたけど四校への転校を進められた」

 

「どうしてですか?」

 

「四校は実技より理論や技術を優先してるからって」

 

「達也さん、転校するんですか」

 

「しないよ、深雪の事もあるから」

 

「学校側から転校を進めるなんて」

 

「達也君の存在が鬱陶しいから他所に行けって事?」

 

「本当に無責任な奴等ばっかだな」

 

「そもそも、四校は実技を疎かにしてないよ」

 

「どうして雫がそんな事を知ってるんだ?」

 

「従兄が通ってる」

 

「成程」

 

達也の騒動は一旦これで終わりだが深雪の方はそうではない。深雪の発言が新たな騒動を巻き起こす。

 




次も宜しくお願いします


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九校戦編 前編 其のニ

原作と違い九校戦の開催時期が変ります


生徒会室

 

「今回のテストは皆さん随分と気合が入っていた様ですね?」

 

「それは仕方ないんじゃないかしら、今回のテストは九校戦の第一関門みたいなものだから」

 

「第一関門?ですか」

 

「九校戦の代表選手枠には限りがあります。ですが今回のテストで良い成績を収めれば代表選手に選ばれる可能性が高くなるんです」

 

「まぁ、成績もだけど競技の適正も考えないといけないんだけどね」

 

九校戦 正式名称『全国魔法科高校親善魔法競技大会』。この国にある第一高校を含め九つある魔法大学付属高校の代表が魔法競技で競い合う大会。

 

「成程、そうでしたか」

 

「深雪さんにも期待してるからね」

 

「・・・あの、会長はどうして私が九校戦に出る前提でお話ししてらっしゃるんですか?」

 

「・・・え!まさか深雪さん出ないつもり?」

 

「出ないも何も、私はまだ代表選手に選ばれていませんが」

 

「確かに代表選考会はまだだけど深雪さんの成績で選ばれないなんてありえないわ」

 

「本当に出ないんですか?」

 

「はい」

 

正確には出られないだ。九校戦に出る事を真夜が許す筈がない。深雪が出れば必ず注目されるだろう。色々な意味で。 

 

後日、九校戦代表選手選考会が行われた。参加者は一科生のみ。審査基準は魔法力・魔法発動スピード・身体能力の三つと出場種目の適正だ。だが、そこに深雪の姿はなかった。

 

「深雪はどうしてこなかったのかな?」

 

「九校戦に興味ないんじゃない?」

 

選考会に深雪が来なかったのを驚いたのは雫やほのか達一年生だけではなかった。講師達も驚いた。

 

「なぜ、彼女は来なかったのでしょう」

 

「彼女に我が校の代表として、ぜひ、出で貰いたかったのですが」

 

九校戦は学校側にも大事な事だ。一人でも優秀な人材を送り出す事は重要事項である。それにより学校の評価も上がるのだから。

 

翌日 生徒会室にて、

 

「深雪さん。どうして昨日は選考会に来なかったの」

 

「出られないからです」

 

「理由は?」

 

「そ、それは・・・」

 

「まさか達也君の事と関係ある?」

 

深雪は少しだけ誤魔化した。

 

「違います」

 

「じゃあ、どうして」

 

「私が九重先生に師事しているからです」

 

「どうして、九重先生に師事している事が九校戦に出られない事になるの」

 

「本来、九重寺は私達の様な者を受け入れる事はないんです。先生は俗世間との関わりを持たない事にされていて、にも関わらず私達は特別に手ほどきを受けています。色々な事を教わりました。中には見せられない様なモノもあります。それが見られる可能性がある九校戦にはでられません」

 

「な、成程」

 

咄嗟の事とはいえ中々の理由だと深雪は思った。深雪が帰った後も真由美は残っていた。

 

「はぁ~どうしようかなぁ~」

 

真由美は悩んでいた。深雪が九校戦に参加しない事。そして学校側が深雪を九校戦に参加させろとしつこいのだ。そこに摩利がやって来た。

 

「随分、お悩みだな」

 

「何よ、他人事だと思って」

 

真由美は深雪が参加しない理由を話した。

 

「ふーん。成程、それでどうするつもりだ?」

 

「九重先生を説得するのが早いんでしょうけど」

 

「ですが、俗世間との関わりを持たない人が我々に会ってくれるかどうか」

 

「なら直接押しかけてみるか?アポを取ろうとすればそこで断られるかもしれないし、 直接あって九重先生に司波が九校戦に出てもいいように説得しよう」

 

「それは非常識では」

 

「こっちには時間がないんだ。イヤ、どんどん無くなるぞ」

 

結局、真由美は摩利の作戦に乗る事にした。翌日の放課後、真由美は九重寺の門の前にいた。

 

「九重先生がいらっしゃればいいけど」

 

真由美は一歩踏み出した。

 

「ようこそ」

 

「!?」

 

いきなり後ろから声を掛けられる。しかし、振り返っても誰もいない。だが視線を戻すと。

 

「こんな処に何の御用かな?」

 

そこには一人の僧侶らしき人物がいた。

 

「九重先生でいらっしゃいますか?」

 

「うん。そうだよ」

 

「初めまして、私ー」

 

「七草のお嬢さんだよね」

 

「私の事をご存知なんですか?」

 

「知らない人はいないと思うけど」

 

八雲は真由美のことを知っていた。しかし真由美はそんな事を気にしていられない。八雲に本題を切り出した。

 

「・・・えーと、深雪君がそんな事、言ったの?」

 

「はい、そうですけど」

 

何故か八雲の表情が可笑しい。仕方ない、八雲はそんな事を知らないのだから。深雪は真由美がこんな手段に出るとは思わず八雲にこの事を話していなかったのだ。

 

「確かに、深雪君にも色々指導してるからね。でも本人が出たくないなら僕が許可を出しても意味ないと思うけど」

 

「それは・・・」

 

「とにかく簡単に許可を出せるものじゃないから今日の処は帰りなさい」

 

「そうですか。今日はいきなり押しかけて申し訳ありませんでした」

 

「いいよ、いいよ。気にしてないから」

 

「それでは失礼します」

 

仕方なく真由美は引き下がった。

 

司波家 リビング

 

「申し訳ありません」

 

「構わないよ」

 

真由美が帰った後、八雲は深雪に連絡をしていた。

 

「まぁ、九校戦は彼女にとっても大事なものだ。深雪君に出て貰いたいと云う気持ちは分かる」

 

「ご迷惑をお掛けしました」

 

次の日から深雪は生徒指導室に呼び出しを受け続けた。勿論、九校戦の出場打診の為である。深雪は断ったがとてもしつこい。仕方なくダメ元で深雪は真夜に連絡を取る事にした。

 

「深雪、貴女そんな事で連絡してきたの?」

 

「そ、そんな事って、叔母様」

 

「あら、御免なさいね。まさか。貴女がそんな事で悩むとは思ってなかったから」

 

「悩んではいません。元から出ない事にしていましたから」

 

「それはダメよ、深雪」

 

「ダメって、出て宜しいのですか?」

 

「だって、他の分家当主や貴女と同じ時期当主候補に力を見せつけるチャンスでしょ?」

 

「ですが・・・」

 

「大丈夫。ちゃんと私達の関係はバレない様にするから。貴方は気にせず力を見せつけなさい。ナンバーズの方々の反応も見てみたいしね。驚く事でしょう。一般に貴方の様な者がいる事を、今から皆さんがどう云う顔をなされるか楽しみだわ」

 

「分かりました、叔母様」

 

「じゃあね、応援してるわ頑張りなさい」

 

翌日、八雲から出場しても良いと云う返事を貰った事にし、それを伝えた。深雪の九校戦参加に喜ぶ者が多かったが不安になる者もいた。深雪の代わりに選ばれた者達である。彼女達にとっても九校戦の代表の名誉は簡単に手放せる物ではない。そんな彼女達が行動を起こす。

 




また 次も宜しくお願いします


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九校戦編 前編 其の三

九校戦 ルール説明 其の1

 

九校戦には、出場選手が一年生のみで行われる新人戦と学年制限がない本戦がある。

 

競技種目 1『モノリス・コード』 2『ミラージ・バット』 3『スピード・シューティング』 4『アイス・ピーラーズ・ブレイク』 5『バトル・ボード』 6『クラウド・ボール』

 

1は男子のみ、2は女子のみで行われる。残りは新人戦・本戦共に男女別に行われる。出場選手のエントリーは最大で2種目まで。

 

一年生エースの深雪は二種目掛け持ちは当たり前、深雪が選んだのは『アイス・ピーラーズ・ブレイク』と『ミラージ・バット』。

 

深雪が代表入りすれば 当然 代わりに選ばれていた生徒は強制的に代表から外される そんな事を簡単に納得できるはずもない。彼女達にとっても九校戦の代表と云うのは価値のあるものだ。深雪の代わりに『アイス・ピーラーズ・ブレイク』と『ミラージ・バット』に選ばれていた女子生徒はある行動を起こした。

 

「司波さんが成績がいいからって理由だけで代表選手に選ばれのは可笑しいです」

 

「そうです。ちゃんと適正も考えて下さい」

 

二人の女子生徒は深雪の適正審査を求め放課後に審査が行われた。

 

まずは『アイス・ピーラーズ・ブレイク』

 

この競技は 自陣の氷柱12本を守りながら相手の氷柱12本を壊す競技。審査方法は深雪と代表を外された女子生徒の一騎打ち。

 

結果は深雪の圧勝。一方的過ぎる程の展開だった。彼女は深雪に手も足も出なかった。深雪は強い魔法は使っていない。しかし彼女は深雪の干渉力を超えられなかった。

 

今回の急遽決まった適正審査には多くの観覧者がいた。深雪の圧倒的な実力に言葉も出ない。

 

適正審査は翌日も行われた。今日は『ミラージ・バット』の審査である

 

この競技は制限時間内に空中に投射されたホログラムを魔法で飛び上がりスティックで打ち、その打った数を競う競技。簡単な競技ではないホログラムは常に空中にある。現代魔法に飛行魔法はまだない。要するに競技中は常に跳躍し続けなければならないのだから。

 

審査方法は一騎打ちではない。『ミラージ・バット』は一対一ではないからだ。

 

今回の方法は複数の生徒が参加する。参加者は二人以外は上級生。その中に摩利の姿もある。摩利は常々深雪と勝負がしたかった。しかし学年が違う二人が勝負する機会は簡単に訪れない。今回の事は摩利にとって渡りに船である。その他の上級生は深雪の事が気に喰わない生徒のようだ。

 

そして、審査終了後。

 

珍しく摩利がへばっている。その近くには摩利以外の生徒と代表から外された生徒も倒れている。へばっている理由はサイオンの使い過ぎだ。

 

この現状に真由美は驚いていた。

 

「まさか、この学校の女子に摩利以上の体力バカがいるなんて」

 

摩利達がへばって動かない中、深雪は跳躍し続けていた。

 

「深雪さん、もういいわよ」

 

跳躍し続けていた深雪は跳躍を止め地上に降りる。

 

「お疲れさま、深雪さん。疲れたでしょう」

 

「いえ、まだ大丈夫です。最近は生徒会で忙しくて体を動かしていませんでしたから少々不安だったんですが」

 

その割には深雪は息を切らしていなかった。こうして、深雪の代表入りが決まった。

 

深雪が代表に決まってから時間の許す限り八雲の元で体を動かしていた。

 

「深雪そろそろ休憩した方がいいぞ」

 

「大丈夫です。お兄様。私は、まだやれます。先生、次をお願いします」

 

「うん、いいよ!処で達也君もどうだい?」

 

「結構です。どうせ、俺には・・・誰だ!」

 

「どうせ、俺には優しくしないくせに」と言いかけて止めてしまう。達也は茂みに向けシルバー・ホーンを構える。達也の眼は何かを捉えた。深雪もいつでも人を殺せる威力の魔法を待機させ達也の命令を待っている。

 

「おや、遥君。久しぶりだね」

 

どうやら八雲の知り合いらしい。しかし、その姿を見て達也と深雪も驚く。

 

「小野先生?」

 

八雲の知り合いだと云う人は二人も良く知る人物。第一高校、カウンセラー、小野 遥。

 

 

「まさか、司波君に気付かれるなんて」

 

「達也君に気付かれたくないなら気配を消すんじゃなくて偽るべきだったね」

 

「成程、勉強になります」

 

「あの、どうして、先生はここに」

 

「警戒しなくていいよ。遥君も僕の教え子だから」

 

「いきなり御免なさいね」

 

「大丈夫ですから此方の質問に答えて下さい」

 

「遥君、どうする?」

 

「ダメって、言っても、私のいない処で話すんでしょう」

 

「じゃあ、本人の許可も取れたことだし」

 

八雲は一呼吸おいて、

 

「遥君は公安の調査員なんだよ」

 

「ちゃんとカウンセラーの資格はあるしコッチが本職だからね」

 

「あぁ、成程」

 

「それと、私が九重先生に教えを受けたのは二年前から一年間だから司波君が兄弟子よ」

 

「一年?それにしては見事な隠形でしたけど」

 

「そりゃあ、私の魔法特性だもの」

 

「成程、BS魔法師ですか」

 

「その肩書は好きじゃないわ」

 

「すみません」

 

「まぁ、それより、私の身分は誰にも教えないでね」

 

「それくらいは分かってますよ。その代わり、ブランシュの様な事はもう懲り懲りですから何かあれば情報を下さいね」

 

「分かったわ。GIVE&TAKEで行きましょう」

 

二人は堅い握手を交わした。

 



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九校戦編 前編 其の四

前編は九校戦会場に向かうまでにします


今日も達也は風紀委員本部で摩利に扱き使われていた。

 

「委員長、書類整理くらい自分でしてくださいよ」

 

「私も九校戦の準備とかで忙しいんだ」

 

「ウチは三連覇が掛かってるんでしたっけ?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「今年も順当に行けば勝てるんでしょう?」

 

「だが、不安がない訳じゃない」

 

「不安?ですか」

 

「そうだな~今年で言えば新人戦も不安だが、毎年エンジニアの問題がある」

 

「あぁ。九校戦で使う競技用CADの調整要員ですね」

 

「ウチは毎年、君みたいな魔工師希望が少ないからね」

 

「まぁ、それは仕方ないでしょう」

 

「九校戦では確かに選手は大事だがエンジニアも大事だ。競技用CADはハード面で規制があるがソフト面にはない。選手の質は何処もそれ程代わりはない。差を付けるならCAD つまりエンジニアの腕の見せ所と云う訳だ。選手が有能でも使うCADがダメでは勝つ事は難しいからな」

 

達也は他人事の様に聞いていた。

 

翌日、達也のクラスは体育の授業だった。行われているのは『レッグ・ボール』と云う競技。試合中なのはE組とF組の男子。女子は観戦中。

 

「達也、頼んだぞ」

 

「おう」

 

ボールがレオから達也へ渡る。しかし、達也の位置からゴールは狙えそうに無い。だから、達也はフィールド全体を見まわし一つの結論を出す。彼に任せるべきだと。

 

「きめろ。吉田!」

 

達也は彼にボールを託す。そして託された彼は見事にゴールを決めた。彼のお陰で達也達の勝ちが決まる。

 

試合終了後

 

「しかし、吉田の奴、以外に出来るみたいだな」

 

「あぁ、読みがいいし見かけ以上に体も動く」

 

吉田幹比古は達也と同じクラスである。しかし、彼はいつも一人だ。そんな彼に珍しく達也の方から声を掛ける。

 

「ナイス・プレイ」

 

「やるじゃねぇか吉田」

 

「君達のアシストあってこそだよ」

 

「まさか吉田がここまで出来るとは思ってなくてさ」

 

「幹比古。幹比古でいい、名字で呼ばれるのは好きじゃない」

 

「なら俺もレオって呼んでくれ」

 

「俺も呼ばせて貰って構わないか?もちろん俺の事は達也でいい」

 

「勿論だよ達也。実を云うと前から話して見たかったんだ」

 

「奇遇だな幹比古。俺もだよ」

 

「何か疎外感を覚えるぜ」

 

「勿論、レオとも話したいと思ってたよ。君はあのエリカの相手が務まるみたいだし」

 

「なんだよ、それ」

 

三人の間に笑いが起こる。

 

「・・・? 幹比古。お前エリカを知ってるのか」

 

「え! あ、イヤ~」

 

「幼馴染ってやつよ」

 

いつに間にか傍にいたエリカが話に加わる。幹比古は気まずそうだ。幹比古はエリカを直視できない。理由はエリカと久々に話すから気まずいと云うだけでは無い。 

 

「エ、エリカ! 君、なんて恰好してるんだ?」

 

「何って?伝統的な体操着だけど」

 

「なんと言うか、変わったデザインのスパッツだな?」

 

「スパッツじゃないって」

 

「でも、アンダースコートじゃないんだろ?」

 

「アタシだってスコート履かずにアンダースコートだけ履く趣味はないよ! これはブルマーって言うの!」

 

「ブルマー?」

 

「・・・! ブルマーって云えば、モラル崩壊時代に女子生徒が親父共に金欲しさに売ったアレか?」

 

「黙れ!このバカ」

 

レオの話を聞いて恥ずかしくなったエリカはレオを蹴った。

 

昼休み 生徒会室

 

「はぁ~」

 

「何を悩んでるんです会長?」

 

「九校戦の事よ」

 

「なにか問題でも?」

 

「代表選手は決まったけど技術スタッフが揃わないのよ~」

 

「まだ、揃わないのか?」

 

「特にウチの三年は実技方面に傾いてるから。まぁ二年には、あーちゃんとか五十里君がいてくれるけど」

 

「五十里?アイツはそんなに調整が得意とは聞いてないぞ」

 

「仕方ないでしょ。文句を言える状況じゃないんだから」

 

真由美は摩利を見て、

 

「せめて誰かさんが自分のCADくらい調整ができれば・・・楽になるんだろうけど」

 

「イヤハヤ、深刻でございますな~」

 

「ねぇ~リンちゃん。やっぱり・・・」

 

「無理です。私の腕では皆さんの足を引っ張るだけです」

 

話は平行線の様だ。達也は帰ろうとした。

 

「そんなに候補者がいないなら司波君に頼めばいいんじゃ」

 

「へ?」

 

「なんたって、トーラス・シルバーのお弟子さんなんですし」

 

「・・・ あー!そうよ!いい人材がここにいるじゃない」

 

達也はあずさを睨む。

 

「(余計なことを)」

 

睨まれたあずさは涙目だ。

 

「一年生が過去にエンジニアとして選ばれたことはなかったんじゃ?」

 

「何でも、最初は初めてよ」

 

「前例は覆されるのが世の常だ」

 

「CADの調整と云うのはユーザーの信頼あってのものです。嫌われ者の俺じゃ選手たちは納得しませんよ」

 

「じゃあ、お兄様は期間中は私のCADを見てくれないのですか?」

 

「お前は自分のCADの調整ぐらいできるだろ」

 

「取りあえず、放課後の会議に来てね」

 

「あの、俺の意見は無視ですか?」

 

「聞こえない~」

 

「(・・・ハァ)」

 

生徒室で昼食を済ませたはずの中条あずさは悩んでいた。しかし、達也はそんな事を気に掛けない。達也はCADを弄っていた。

 

「今日はシルバー・ホーンをもって来てるんですね」

 

「最近ホルスターを新調したんで早いとこ馴染ませようかと」

 

「へぇ!見せてください」

 

「まぁ、構いませんけど」

 

達也はあずさにホルスターとシルバー・ホーンを渡す。

 

「うわぁ!シルバーモデルの純正品だよ~。いいな~このカット。抜き打ちしやすい絶妙なカーブ。何より高い技術力に溺れないユウザビリティーへの配慮。あぁ、憧れのシルバー様!」

 

あずさの発言の直後、深雪は珍しく、キーボードの打ち間違えをした。

 

「珍しいですね。深雪さんがミスをするなんて」

 

「打ち間違えなんて誰にでも良くある事でしょ?」

 

失敗は誰にでもある。しかし、深雪の失敗の原因が自分だとあずさは知らない。

 

「司波君。トーラス・シルバーってどんな人か少しは教えてくださいよ」

 

「何でそんなにあの人の事気にしてるんです?」

 

「そりゃあ、気になりますよ。ループ・キャスト・システムの実用化を始め、僅か一年で特化型CADのソフトウェアを十年は進歩させたと云われる天才技術者じゃないですか」

 

「はぁ~、あの人がそんなに高い評価を受けてるとは知りませんでした」

 

「だから教えてくださいよ~」

 

「イヤ、あんな人の事を知っても・・・」

 

また、深雪がミスをする。

 

「もう!お兄様。先生をあんな人呼ばわりなんてしないでください」

 

「ねぇ、あーちゃん?楽しそうなとこ悪いけど、お昼休み中に済ませたい課題があるんじゃなかったの?」

 

「・・・あ~、会長!助けて下さい」

 

「フフッ。少しくらいなら手伝うから」

 

「本当ですか?」

 

「それで、課題は?」

 

「そ、それが」

 

あずさは深刻な表情をしている。

 




最近 お気に入り数が少しずつ増えてるみたいです。
ありがたい!


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九校戦編 前編 其の五

ここら辺は難しい話が多くて理解できてません。文章がでたらめだったら御免なさい


「なんだ そんな事か?」

 

あずさが悩んでいたのは『加重系統魔法の技術的三大難問』に関するレポート。

 

「毎年必ず出る課題じゃない」

 

「重力型熱核融合炉の実現と慣性無限大化による疑似永久機関の実現は解るんですけど、汎用的飛行魔法がなぜ実現できないのか上手く説明できないんです」

 

現代魔法で飛行するには・加速・減速・上昇・下降をする度に、新しい魔法を作動中の魔法に重ね掛けしなければならない。必要になる干渉力はその度に増大していく。重ね掛けは精々十回が限度。故に現代魔法での飛行魔法は実現できない。

 

「重ね掛けが必要なら発動中の魔法をキャンセルして新しい魔法を発動すればいいと思うんですけど」

 

「でも、その位の事なら誰かが実験しても可笑しくないんじゃない?」

 

「その様な実験が一昨年イギリスで同じようなコンセプトで行われていますね」

 

「結果は?」

 

「失敗ですね」

 

「理由は?」

 

「詳しく書かれてませんね」

 

「達也君はどう思う?」

 

真由美は達也に話を振る。答えを求めてはいない。ついでみたいなものだ。

 

「その実験は基本的な考えが間違ってます」

 

「え?」

 

「魔法式は魔法式に作用できません。それは領域干渉でも同じ魔法式を直接消しさる術式でない限り、対抗魔法であっても、この原則の例外じゃないんですよ」

 

「つまり、この実験は余分な魔法を掛けたから失敗したの?」

 

「そうです。実験を企画したイギリスの学者は対抗魔法の性質を理解できてなかったんでしょう。全く、学者が聞いて呆れますよね」

 

達也の開設終了と同時にお昼休み終了の予鈴がなる。それはあずさにとって終わりを告げる鐘の音だ。

 

「あ!あーーーー」

 

放課後 部活連本部

 

現在、此処では主に九校戦に関するミーティングが行われている。本来、ここに達也は係わり合いがないのだが無理やり連れてこられた。本部の空気は非常に悪い。本来、九校戦の集まりは一科生の集まりだ。しかし、そこに、いるはずのない二科生の達也がいることが原因だろう。

 

「なんで ウィ・・・じゃない二科生のそれも一年がいるんですか」

 

「静粛に!」

 

「生徒会は1-E、司波達也君を技術スタッフとして推薦します」

 

「なんで、二科生なんかを」

 

「だが風紀委員なんだろ?」

 

「それとこれとは別だろ」

 

「そうだ。CADの調整なんかできるはずない」

 

珍しく肯定する意見があったが、やはり否定の意見が多い。 

 

「納得がいかない奴がいるようだな。まぁ、技能が分からないからだろう。実際に確かめるのが早いな」

 

「具体的にはどうする」

 

「CADの調整をさせればいい、何なら俺のCADを」

 

「危険です。下手なチューニングをされたらケガだけじゃすみません」

 

「彼を推薦したのは生徒会ですから私が」

 

「なら、俺のを頼む」

 

発言者は桐原、剣術部の騒動を知っている者達は桐原の行動に驚く。

 

「失敗したらケガだけじゃ済まないんだぞ」

 

「調整するのは桐原先輩のCADだとして俺は何をすれば?」

 

「そうだな・・・」

 

 課題が発表される。

 

「課題は競技用CADに桐原先輩のCADの設定をコピーして即時使用可能の状態にする。但し、起動式には手を加えない・・・でいいですね」

 

「それでお願い」

 

達也の顔が優れない。

 

「普通はスペックの違うCADの設定をコピーなんてしないんですが、まぁ、安全第一で行きましょう」

 

達也の言葉に数人が反応する。

 

「ふーん、少しは知識があるらしいな」

 

「そうなのか?」

 

「そうなのか?って、お前な~。まぁ、知識があっても調整ができるかどうかわかんねぇけど」

 

調整が始まる。

 

「では一度測定をしますので」

 

「わかった」

 

桐原は調整期機に手を着く。測定は直ぐに終わる。

 

「もう、結構ですよ。先輩」

 

達也の作業が始まる。しかし、その作業工程は可笑しなものだ。

 

「アイツ、なにやってんだ」

 

達也の眼の前の画面には数字の羅列が高速で流れ、それと同時にウインドウが閉じたり開いたりを繰り返す。

 

「ねぇ、彼何やってるの?」

 

「う~ん。見た処、完全マニュアル調整じゃないかな?」

 

「それって、すごいの?」

 

「まぁ、そんな簡単にできる事じゃないよ」

 

「終了しました」

 

達也の調整が終わる。

 

「桐原、どうだ」

 

桐原がCADを起動させる。

 

「う~ん。問題ないですよ。いつも通りです」

 

「確かに多少の腕はあるようですけどウチの代表レベルでは・・・」

 

「私は司波君のチーム入りを支持します」

 

「中条、お前、何言ってるか分かってるか?」

 

「そうだよ、こんな奴を入れようとするなよ」

 

「何をいってるんです!彼が見せてくれた技術はとても高度なものです。全てをマニュアルで調整するなんて真似簡単にできることじゃありません。勿論、私にも無理です」

 

「いくら高度な技術でも時間がねぇ~」

 

「俺なら効率化を重視するけどな~」

 

彼らは達也の代表入りを避けたい様だ。しかし、彼らの言い分は達也の代表入りを避けるには少々弱い様に思える。

 

「桐原のCADは競技用の物よりハイスペックな物です。にも関わらず使用者にその違いを感じさせないのは高度な技術と云っていいいのでは?」

 

「それは・・・」

 

「会長、私も司波達也のメンバー入りを支持します」

 

「何言ってんだ服部。まさか、アイツを認めるのか?」

 

「・・・九校戦はウチの威信を掛けた大事な大会です。一年だとか前例がないとか、そんな事を気にしてる場合じゃない。 実力があるなら入れるべきでしょう」

 

彼らは服部と桐原の器の大きさが分かっていなかった。

 

「服部の指摘はもっともだ。司波には実力がある。十分な技量も示した。俺も司波のチーム入りを支持しよう」

 

克人の発言以降反対の意見は出なくなった。達也のチーム入りが決定した。

 

司波家 夕食後 リビング

 

その日珍しく電話が掛かる。相手は風間玄信と云う達也の知り合い。

 

「久しぶりだな、特尉」

 

「毎回言ってますが、一般回線に割り込むのはやめてください」

 

「特尉、君の家のセキュリティーは厳しすぎないか?」

 

「最近のハッカーは見境ないですし、つまらない事で足元を掬われるなと叔母上がうるさいので。まぁ、ウチにも見られたくないモノがありますから」

 

「フフッ、そうだな」

 

「・・・で、要件は?」

 

「サード・アイのオーバーホールが完了した。近日中にソフトウェアのアップデートと性能テストをして欲しい」

 

「なら明朝、行きましょう」

 

「こらこら、これを理由に学校を休もうとするな」

 

「コッチも事情があるんですよ」

 

「そうか、なら真田に話は通しておこう」

 

だがこれで話は終わらない。

 

「君も九校戦に出るらしいな?」

 

電話の相手が数時間前に決まった事をなぜ知っているのか気になったが、答えてはくれないだろう。

 

「会場は例年通り富士演習場だが、気を付けろよ、達也」

 

「何かあったんですか?」

 

「該当エリアで国際犯罪シンジケートの構成員らしき人物が目撃されている」

 

「分かっていてそのままですか」

 

「すまんな、簡単な事でもなさそうなんだ」

 

「それで正体くらいは分かってるんですか」

 

「壬生が調べてくれた」

 

「壬生って壬生勇三さん?」

 

「あぁ、アイツは内閣の情報管理局で主に外国犯罪組織の担当だ」

 

「へぇ~」

 

「アイツの話じゃ無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)ではないか、と云う事だ。他に分かれば後で連絡しよう」

 

「有難う御座います」

 

「師匠に宜しくな」

 

「はぁ~、面倒事に巻き込まれなければいいけど」

 

達也に新たな災難がふり掛かろうとしていた。

 

 




前編は 其の十までに終わるだろうか?


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九校戦編 前編 其の六

誤字 脱字は見つけ次第修正します


司波家 地下一階    

 

時刻は既に深夜を過ぎていた。しかし、達也はまだ寝ていない。 

 

「お兄様、失礼いたします。コーヒーをお持ちしました」

 

「丁度、良かった?」

 

達也は珍しく驚いていた。

 

「あぁ、それ、もしかして『ミラージ・バット』のコスチュームか?」

 

「正解です。如何でしょう」

 

深雪はその場で回って見せる。

 

「あぁ、良く似合ってる」

 

「有難う御座います?」

 

今度は深雪が驚く。

 

「お、お兄様!」

 

達也はただ笑っていた、空中で足を組んだ姿で。

 

 

「飛行術式、遂に常駐型重力制御魔法が完成したんですね」

 

「まぁ、何とかね」

 

「流石はお兄様です。お兄様はまたしても不可能を可能になされました。私はお兄様の妹である事を誇りに思います」

 

「これでまた一歩目標に近づけたよ」

 

「おめでとう御座います、お兄様」

 

「喜ぶのはまだ早いよ。まだ、碌な実証実験もしてないし」

 

「それは私が」

 

「なら、やってみるか」

 

二人は実験の為に移動した。

 

司波家 地下二階

 

「それでは、始めます」

 

深雪は達也に渡されたCADサイオンを注入する。すると体が浮いた。深雪は初めての感覚に少々戸惑っている様だ。

 

「起動式の連続処理が負担になってないか?」

 

「大丈夫です。頭痛も倦怠感もありません」

 

「なら、ゆっくりでいいから水平移動してくれ」

 

「かしこまりました」

 

そして深雪は落ち着いた様子で水平移動をしてみせる。

 

「どうだ、魔法の断続感はないか?」

 

「ありません。タイムレコーダー機能も完璧かと」

 

「このシステムの要は発動中の魔法の発動地点を正確に記録する機能だ。こう云ったのは人間より機械に任せる方がいい」

 

深雪は既に話を聞いていない。飛行魔法に夢中の様だ。それ程、広くない実験室の空中に浮かんでいた。

 

翌日の空模様は良くなかったが、季節は六月。降りしきる雨、梅雨の時期には良くある風景。そんな休日、達也と深雪はとある場所を訪れていた。

 

FLT 開発センター

 

本来、学生が来る場所ではない。見つかればつまみ出されるだろう。しかし、二人がそんな事をされる心配はない。

 

FLT 第三研究室

 

二人が部屋に入ると、

 

「あ!御曹司」

 

「いらっしゃませ」

 

「お邪魔します。牛山主任は?」

 

「はい、はい、お呼びですか?」

 

「すみません。忙しい処を」

 

「いけませんねぇ~此処にいるのはアンタの駒なんだから、あんまり遜り下り過ぎちゃ~いけません」

 

「駒って・・・先の事は分りませんよ」

 

「それで ご用件は?俺達の顔を見に来たんじゃないんでしょう」

 

「実はこれの事で」

 

達也が見せたのは昨日深雪が使用したCADだ。

 

「これ、この間の飛行デバイス?」

 

「主任の試作用ハードに常駐型重力魔法の起動式をプログラムしたものです」

 

「これ、テストは・・・」

 

「一応、二人で・・・ですが俺達は一般的とは言えませんから」

 

「なぁ、お前等。T-7の型はいくつあったっけ?」

 

「十機です」

 

「バカ野郎。なんでもっと補充しとかねぇんだよ。取り敢えず、あるだけ全部持ってこい!飛行術式だぞ。分かってんのか、また、此処で現代魔法の歴史が変わるんだ」

 

それから暫くしてテスターを集め実験が始まる。

 

「実験準備完了」

 

「実験開始」

 

テスターの一人がCADにサイオンを注入する。

 

「飛翔を確認」

 

「反動による床面、設置圧の上昇は観測されません」

 

「上昇加速度の誤差は許容範囲以内です」

 

「CADの動作は安定しています」

 

次々に入る報告、今の処、悪い結果は観測されていない。

 

「上方への加速度減少、ゼロ。等速で上昇中、上昇加速度、マイナスにシフト、上昇速度、ゼロ、停止を確認。水平方向への加速を検知」

 

「続けろ」

 

「う、動いた!」

 

「と、飛んでる!」

 

「加速停止、毎秒一mで水平移動中」

 

「テスター1より観測室へ・・・僕は今、空中を歩いて・・・イヤ、空を飛んでる。僕は自由だ!」

 

その報告を聞き。他のテスターが行動を開始する。

 

「浮いてる」

 

「やったぞ、成功だ!」

 

「おめでとう御座います。御曹司」

 

「有難う御座います」

 

「ですが、起動式の連続処理は負担が大きいですね」

 

「まぁ、一般はこれが普通でしょう。お二人と違ってサイオン量は少ないですから」

 

「CADのサイオン自動吸引スキームをもっと効率化しないと」

 

「それはコッチでやりましょう。ハードで処理すりゃ少しは楽でしょ」

 

「良かった。考えは同じみたいですね」

 

「じゃあ、俺達はこれで」

 

実験が終わり二人は部屋を後にする。

 

「一応、本部長には連絡したんですが」

 

「気を使わなくてもいいですよ」

 

「そうですか?」

 

二人は早く帰りたかった。此処には会いたくない者がいるからだ。だが最後の最後で会ってしまう。無言で向かい合う二組。最初に話しかけたのは。

 

「これは、これは深雪様。御無沙汰しております」

 

「えぇ、久しぶりねぇ、青木。それに、お父様も」

 

「あぁ」

 

二人の前に立つのは実の父、達郎と四葉本家執事の一人、青木と云う男。

 

「ねぇ、青木。此処にいるのは私だけじゃないでしょう。それとも、眼を悪くして見えてないのかしら?」

 

「ご冗談を!私にもそれの事は視えております」 

 

「なら、挨拶ぐらいしたらどうなの?」

 

「お言葉ですが深雪お嬢様。私は四葉家の執事で御座いますれば、一介のボディガード如きに礼を示せと云われましても秩序と云うものが」

 

「私の兄でしょ」

 

「それでも深雪お嬢様は四葉家時期当主の座を家中の皆より望まれている御方。お嬢様の護衛役に過ぎぬ、そこの出来損ないとは立場が違います」

 

「青木さんは自分が何を言っているかお分かりですか?」

 

「何だと!」

 

「今の発言は他の候補者に失礼でしょう?それとも叔母上は後継者を指名したんですか?」

 

「真夜様は、まだ何も」

 

「へぇ~たかが序列四位のアウター風情が憶測でものを言うんですか」

 

「憶測ではない!心を同じくする者同士、思いは通じる。心を持たぬ似非魔法師のお前には解らんだろうがな!」

 

その時、廊下の床が凍り付き始めた。深雪の魔法が暴走していた。

 

「青木、貴方、死にたい様ね」

 

深雪は達也をバカにされると処構わず相手を殺したくなる衝動に駆られる。相手が誰であっても。

 

「やめろ、深雪」

 

「心を持たない似非魔法師を作ったのは現当主の真夜とその姉の深夜ですよ。四葉の手に依って作られた俺を批判すると云う事は四葉の研究理念を否定する事だとわかってますか?」

 

「お前達、もう止めないか。大人を悪く言うものではない。まぁ、お前達の気持ちも分からんではないが」

 

二人は無視して進む。そして振り返り様に。

 

「アンタに俺達の気持ちは分からないだろ」

 

それだけ言って帰った。深雪は兎も角、達也は何も思っていない。いまさら仕方のない事だ。達也にとって大事なものは深雪の存在だけなのだから。

 




原作ではFLTに行くのは七月みたいですね


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九校戦編 前編 其の七

今の達也には友達が少ない。E組で友達と呼べるのは、エリカ・レオ・美月に加え最近仲良くなった幹比古を入れて四人。基本それ以外のクラスメイトとは親交が無い。しかし、今日に限ってやたら声が掛かる。理由は簡単だ。

 

「噂が広まるのは早いね」

 

「噂じゃなくて真実だろ」

 

「午後になるまで分からないけどな」

 

同じクラスから九校戦の代表が出たのが嬉しいのだろう。

 

午後 発足式 舞台裏

 

「なんですか?これ」

 

「九校戦のユニフォームよ」

 

「深雪、お前は?」

 

「私は進行役です」

 

やがて式が始まり順調に進んでいく。次々に代表者の名前が呼ばれる。そんな時、達也の隣から声が掛かる。

 

「緊張するよね」

 

「そんな風には見えませんけど?」

 

声を掛けたのは達也と同じエンジニア枠で代表入りしている、二年の五十里 啓。

 

「(五十里 啓、エリカと同じ百家。五十里の人で、確か二年生の中でも成績はトップクラスの人だよな)」

 

「それでは今一度、我が一校代表選手団に盛大な拍手を」

 

達也がそんな事を思っている間に式は終わりを迎えた。

 

放課後

 

今日はそれぞれの担当選手と担当エンジニアの顔合わせも行われた。

 

「皆さんのCAD調整、及び作戦立案等をサポートする事になりました。司波達也です」

 

「はぁ~エンジニアは女の人が良かったなぁ~」

 

「誰でもいいよ。足さえ引っ張らなきゃ」

 

やはり何処へ行っても達也の第一印象は良くない。 

 

達也の担当選手は、深雪・雫・ほのか・明智瑛美・里見スバル・滝川和実の女子六人。 

 

現時点で達也のエンジニアとしての腕を理解しているのは深雪だけ。雫も、ほのかも 分かっていない。初対面の三人と雫、ほのかを合わせ五人は数日中に達也のエンジニアとしての実力を間の当たりにし、達也に対する意識を変えていくことになる。

 

達也が顔合わせをしていた頃、美月は一人休憩を取っていた。 

 

美月は普段温厚な人だ。余程の事でなければ怒らないし、気にしない。そんな彼女の眼に、

 

「痛ッ・・・今のは?」

 

眼鏡を掛けているにも関わらず見えた光、流石に今のは無視できそうになかった。美月は良く目を凝らし、発生源を探す。

 

「アッチは・・・実技棟?」

 

美月は実技棟に歩き出す。そして美月が立ち止まったのは『薬学実験室』。美月は意を決して扉を開ける。そこにいたのは、

 

「(・・・?精霊。それに・・・吉田君?)」

 

「誰だ?」

 

驚いた美月は目を閉じ。思わずその場にしゃがみ込む。そしてそれと同時に、何かが弾け飛んだ。美月が目を開けるとそこには対峙する二人。

 

「落ち着けよ。お前とやり合うつもりはない」

 

「達也さん!」

 

「!! 済まない。そんなつもりじゃ」

 

「気にしてないよ」

 

「達也さん有難う御座います」

 

「あのなぁ 美月。元々、悪いのは美月の方だぞ。人払いの結界破って、術者の気を乱したんだから」

 

「え!そうなんですか?」

 

「!! どうして、結界の事を?イヤ、それよりも彼女は悪くないよ。僕が未熟だったから・・・有難う達也。君のお陰で柴田さんにケガをさせずに済んだ」

 

「俺が手を出さずとも美月がケガをする事は無かったと思うけど?」

 

「しかし、こんな処で精霊魔法の練習とは」

 

「・・・まぁ、隠す事もないかな。達也の言う通り喚起魔法の練習をしてたんだ」

 

「美月にはどう見えた?俺の眼じゃ霊子の塊があるくらいにしか視えなかったが」

 

「え!私にも青とか水色とか藍色とか、青系統の色調の塊が見えただけですよ」

 

「い、色の違いが視えるのかい?」

 

幹比古は美月に近づいて行く。

 

「えっと?あ、あの!」

 

幹比古は余程、美月の眼が気になる様だ。ドンドン距離を詰めていく。

 

「幹比古。それ以上は・・・」

 

「・・・! あっ、ごめ・・・そんなつもりじゃ」

 

「イエ・・・此方こそ、御免なさい」

 

「美月が誤る事じゃないだろ」

 

「本当に済まない」

 

「そんなに美月の眼が珍しいのか?」

 

「柴田さんの眼は水晶眼じゃないかと思って」

 

「水晶眼?なぁ、それって、あぁ、イヤ、教えられない物なら」

 

「イヤ、大丈夫。それ程、秘密って訳じゃないから」

 

幹比古の解説が始まる。

 

「基本的に精霊を使役する術者は精霊を色で見分けている」

 

「見分けるってお前も美月みたいに視えているのか?」

 

「イヤ、そうじゃない。本当の意味では誰も視えてないよ」

 

「・・・つまり元々、視覚で見ようとせず、何か別の視点から視ているのか?」

 

「まぁ、そんな感じかな?詳しくは言えないけど」

 

「それはそうだろ。それに俺は精霊魔法は専門外だから話を聞いても解るものじゃない」

 

「精霊の色と云うのは流派に依っても違うんだ。ウチは水は青、火は赤、と云う風に画一的に頭の中で色を塗っているんだ」

 

「けど術者でもない美月にはそれが視えた」

 

「多分、柴田さんは力量の違い。性質の違いを色調の違いとして視覚できるんじゃないかな?そんな眼の事をウチでは『神を視る事が出来る眼』水晶眼と呼んでるんだ」

 

「お前達にとって美月の眼は喉から手が出る程、欲しい人材と云う事か?」

 

「去年の僕なら兎も角、今の僕はそんな事しようなんて思わないよ。でも他の術者に教える気もないけど」

 

「美月の眼の事は黙っていた方がいいみたいだな」

 

「・・・?」

 

美月には二人が何を言っているのか分からない。

 

七月一日、遂に九校戦会場に出発する日がやって来た。しかし、一校選手団を乗せたバスは未だに出発していない。

 

「遅れてゴメーン!」

 

「遅いぞ!真由美」

 

「これで出発できますね」

 

「ごめんね!達也君。随分、待ったでしょう?」

 

「事情は聞いてますから、家の用事なんでしょう?」

 

「・・・処で達也君」

 

「なんでしょう?」

 

「これ、どうかな?」

 

真由美は制服を着ていない。今日は会場に行くだけなので洋服の規定はないが、それでも私服で来ている生徒は少ない。

 

「お似合いですよ」

 

「もうちょっと、気を効かせてもいいんじゃない?」

 

「ストレスでも貯めてるんですか?」

 

「?」

 

「まぁ、会長は色々と大変でしょうから」

 

「ちょっと、達也君?」

 

「早く出発しましょう。バスの中なら少し位は休めます」

 

「・・・何を勘違いしてるの?」

 

達也は既に聞いていない。

 

「あの子、一体、私を何だと思ってるのよ。折角、席も隣に誘おうと思ったのに」

 

車内で真由美はご立腹だ。その他二名もだが、

 

「適格な判断だと思いますよ」

 

「え!どう云う事?」

 

「隣に座れば会場に着くまで会長に遊ばれ続けることになります。それは精神的に辛いでしょう」

 

「何よ、それ、酷くない?」

 

「会長、御気分が優れないと聞きましたが?」

 

「え!はんぞー君?イヤ、そう云う訳じゃ」

 

「心配を掛けたくないのは分かりますけど、此処で無理をされては・・・」

 

最初は心配そうだった服部の視線は徐々に落ちていた。

 

「何処を見てるんですか」

 

「え!イヤ、あの・・・あ!会長、ブランケットをどうぞ」

 

その後、暫く服部は弄られ続ける事になった。

 




十師族の詳しい説明してない


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九校戦編 前編 其の八

何とか 会場に着きました


移動中の車内で不機嫌なのは真由美だけではない。

 

「随分、不機嫌だな。花音」

 

「だって、折角、今年は啓と一緒だと思ったのに」

 

「はぁ~少し位我慢しろよ」

 

摩利の隣は、二年生 千代田 花音。百家の人間であり、同じ百家の五十里 啓の許嫁だ。

 

「なんで、スタッフは別なんですか? 移動中に作業なんてできないし、このバスもまだ乗れるじゃないですか!」

 

摩利は暫く花音の愚痴を聞かされることになる。

 

一方 その後方でも、

 

「深雪 お茶でもどう?」

 

「大丈夫よ。私は誰かさんみたいに炎天下の下に居た訳じゃないから」

 

「・・・」

 

ほのかは地雷を踏んだ。そして、隣からの舌打ち。隣の雫が睨む。その顔は、

 

「(なんで、達也さんの事を思い出させる様な事を言うの!)」

 

と言っている様だ。

 

「大体、外で待つ必要ないじゃない。態々、自分から雑用を買って出なくても」

 

「それが達也さんのいい処でしょ。皆がやりたがらない事を率先してやるなんて中々できることじゃないよ」

 

「そ、そうね。お兄様は変な処でお人好しだから」

 

「(ナイスだよ。雫)」

 

ほのかは心の中で叫んだ。

 

その後、深雪の気を反らす為に九校戦の話をする事に。

 

「雫は毎年、見てたのよね」

 

「うん。今年は見られる側」

 

「ウチは三連覇が掛かってるんだよね」

 

「頑張らないとね」

 

「今年もウチが優勢だって聞くけど」

 

「そうでもないよ。今年は三校に一条の跡取りや一色のご令嬢なんかも出るみたいだし」

 

「でも九校戦には他のナンバーズも来るでしょ。十師族だって一条以外にも来るよね」

 

「それはそうだよ。今年は一体どのくらい集まるかな」

 

十師族。それはこの国の誇る最強魔法師集団。

 

しかも十師族を名乗れるのはナンバーズの中でも限られる。現在の十師族は、

   

               四葉

             七草 十文字

            九島 五輪 一条

           三矢 二木 八代 六塚

 

十師族は表向きの権力を持たないが裏では司法当局も凌駕する程の影響力がある。4月の事件も十文字家が介入した為その多くが語られていない。そして、そんな彼らにとっても九校戦は大事な行事だ。将来の有能な配下を見つける為に。

 

一年生が決意を新たにしている頃、今回が二度目の参加である花音はそんな気になれない。そんな花音の眼に衝撃の光景が飛び込む。反対車線の車が一校選手団の乗っているバス目掛けて車線を飛び超え。バスに突っ込んで来ようとしていた。

 

「あ、危ない!」

 

花音の叫びは直ぐに知れ渡る。炎上しながら近づく車それをどうにかしようとそれぞれが独自に動き出す。

 

「吹っ飛べ!」

 

「消えろ!」

 

「止まって!」

 

流石に一科生だけあって対処は早い。しかし、 

 

「バ、バカ! 止めろ!」

 

「落ち着きなさい!」

 

この状況下での魔法の重ね掛けは良くない。彼らは対処の仕方を間違えた。摩利は急ぎこの現状を打ち破るれる者の名を呼ぶ。 

 

「十文字。押し切れるか?」

 

真由美ではなかった。彼女では力が足りない。

 

「防御だけなら兎も角、消火にまで手は回りそうもない」

 

唯一この場で頼れる克人も余裕がなかった。

 

「なら、私が消火を担当しますから会頭は防御に専念して下さい」

 

「で、できるのか?」

 

深雪が優等生なのは知っている。しかし、こう云うのは経験がものを言う。この状況で深雪が適格な魔法が発動できると思えなかった。

 

「この位で、慌て過ぎでは?」

 

「な!」

 

摩利は深雪に言われ始めて気付く。自分も必要以上に焦っている事に。

 

徐々に近づく車。その車には余計な魔法の重ね掛けがされている。車を消化するには重ね掛けされている以上の事象改変の力が必要だ。しかも、素早く。摩利は不安だったが、

 

「!!」

 

なんと深雪の魔法が発動する前に重ね掛けされていた魔法が吹き飛んだ。

 

その後、深雪と克人のお陰で大惨事は免れた。

 

「(術式解散(グラム・ディスパージョン)過保護が過ぎますよ。お兄様。あの程度の事、何ともなかったのに)」

 

それから暫くして全員が平静を取り戻した。

 

「皆、大丈夫? 十文字君有難う。お陰でバスは無事だったわ。それに深雪さんも素晴らしい魔法でした」

 

「有難う御座います。ですが、対処できたのは鈴音先輩がこのバスに減速魔法を掛けて下さったお陰ですから。サポート有難う御座いました」

 

摩利はこの発言に驚いた。自分は車だけを気にして、バスの事を考え無かった事。深雪だけが減速魔法に気が付いていた事に。

 

「それに比べて、お前は」

 

「痛ッ」

 

摩利は花音に雷を落とす。摩利は珍しく本気で怒っていた。仕方ないそれ程危険だったのだから。

 

「一年が焦るのは仕方ない。だが二年のお前が真っ先に引っ掻き回すとはどう云う了見だ!」

 

「だって、私が一番早かっ・・・」

 

「早けりゃいいて訳じゃない!勝手に動く奴があるか!結局、お前の魔法は余計に事態を悪化させただけだろ!」

 

「す、済みませんでした」

 

「緊急の時程、先ずは落ち着く。連携も忘れない事」

 

摩利は花音を叱りながらも別の事が気になって仕方がない。

 

「(魔法式を吹き飛ばしたのは誰だ?真由美じゃない。アイツなら魔法式を打ち抜くだろう」

 

摩利の頭の中に一人の生徒の顔がちらつく。

 

「(アイツにできるのか?例の力技?しかし、アイツがいたのは後方。視えない場所にいて、あんなに性格に魔法が発動できるのか?)」

 

だが確証も何にもない。

 

九校戦選手団 宿舎

 

事故後、深雪達一校選手団を乗せたバスは無事に宿舎に着く事ができた。

 

バスから次々に降りていく一校生。多くの者がもうすぐ始まる九校戦に期待を膨らませる中、ただ一人彼は気分が優れない様に見える。親友として無視できそうにない。桐原は声を掛ける。

 

「どうしたんだよ。服部」

 

「・・・イヤ、別に」

 

「少なくとも、好調には見えねえぜ?」

 

「ちょっと、自信を無くしたよ」

 

「オイオイ、頼むぜ!お前は明後日から競技だろ」

 

「さっきの事故・・・」

 

「危なかったよな~」

 

「あの時、俺は結局、何もできなかった」

 

さっきの事故を思い返している服部の視線の先には深雪がいる。

 

「手出ししなかっただけ他の奴より増しだろ。それに渡辺先輩だって」

 

「あの人はアノ場合、動くかないのが正解だった。自分じゃあの状況に不向きだと分かったから会頭に任せた。彼女も勝手に動かずに自分の役割を果たした。そりゃ、単純な力比べじゃ俺は勝てん。だが魔法師としての優劣は魔法力だけで決まるものじゃないだろ。大事なのは質じゃなくて資質じゃないのか?」

 

「!!」

 

桐原は服部の言葉を聞き逃さなかった。

 

「けど魔法師の資質まで年下の女の子に負けたと思うと自身を失わずにいられないよ」

 

「あんなのは場数がモノを言うからな。そんな事で張り合うなよ」

 

「別に張り合おうなんて」

 

「兎に角、あんな事は二度と起きて欲しくないが、今度、何か起きたら、その時はお前はお前のできる事をすればいい」

 

「確かに、あんなのは二度と御免だな。でも、今度何かあっても彼女は冷静に対処するんだろうな」

 

「ハハッ。かもな、しかし驚いたぜ」

 

「何が?」

 

「魔法師の優劣は魔法力で決まるものではない・・・か」

 

「な、なんだよ?」

 

「そんなセリフがお前の口から出たって知ったら、会長、泣いて喜ぶんじゃねえの?」

 

「ッ・・・」

 

服部は恥ずかしくなったのか宿舎へ急ぐ。

 

 

 

 

  

 




折角だから其の十まで書いてみようかな?


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九校戦編 前編 其の九

前編が中途半端に為らなければいけど


バスから降りた深雪は即座に達也に詰め寄る

 

「お兄様!先程は、何故あのようなことを」

 

「深雪の危険を排除するのは俺の使命だからな」

 

「危険?あの事故の事ですか?」

 

「お前、本当に気付いてなかったのか?」

 

「私は何も・・・」

 

「魔法の痕跡があった」

 

「他の方々も私も、不慮の事故だと」

 

「考えても見ろ、魔法も使わずに車が反対車線に飛び上がって向かってくると思うか?」

 

「ッ・・・ そうですね。事故車両はあの一台だけみたいですし。申し訳ありません 私の思慮不足です」

 

「仕方ないさ。使われたのは小規模な魔法。それも最小の質力で瞬間的に行使されていたからな」

 

バスはそれなりの高さのガード壁がある道を通っていた。高さがある故に余程の事がないと反対線に車が飛び上がって向かって来るなんて有り得ない。

 

「魔法は車内から放たれていた」

 

「車内から?・・・まさか?」

 

「そう、魔法の使用者は運転手。つまりは自爆攻撃」

 

「なぜ、その様な事」

 

「さぁな。俺としては運転手の目的が『お前に害を成す事』でないなら 、どうでもいいことだ」

 

「私 、個人を狙う人はいないと思いますよ。だって今の私は一般ですから」

 

「そうだな。簡単に俺らの正体が第三者に知られてもな」

 

「あ!もしかしたら?」

 

深雪は何かを閃いた様だ。

 

「どうした?」

 

「もしかしたら、運転手は会長、もしくは会頭を狙ったのでは?」

 

「・・・イヤ、十師族に喧嘩を売る奴がいるか?二人の実力は知られてるハズだろ」

 

「ですが、お兄様が手を出さなければ危なかったですよ」

 

達也と深雪は他人に簡単に聴かせられない話をしながら宿舎に入る。すると、

 

「久しぶりだね。御両人」

 

宿舎に入った二人に声を掛けたのはエリカ。

 

「エリカ!貴女、なぜ、此処に?」

 

「応援に決まってるじゃん!」

 

「先に行ってるぞ」

 

「お、お兄様!」

 

「挨拶くらいしなさいよ!」

 

「技術スタッフは忙しいのよ」

 

深雪は達也の代わりに理由を話す。

 

「それで、応援に来るのはいいけど、九校戦が始まるには・・・」

 

九校戦が始まるには来るのが早いと言おうとして、

 

「エリカちゃん。これ、部屋の鍵」

 

美月もいた事を知る。

 

「美月?貴女も・・・」

 

貴女もいたの? っと聞きたかったが、深雪の目は美月を見るとある一点に目が行ってしまう。

 

「どうしたんですか?深雪さん」

 

「は、ハデね」

 

「そうですよね。でもエリカちゃんが堅苦しいのは良くないって云うから」

 

「エリカ、貴女ねぇ~」

 

「いいじゃない、似合ってるんだから」

 

「似合ってるのは否定しないけど、取り敢えず、着替えるか、上に何か羽織るか、しなさい。そうじゃないと目に毒よ」

 

エリカ・美月・深雪の三人は入り口の直ぐ傍にいる。当然、多くの生徒が入り口から入る為にどうしても目に入ってしまう。最初に深雪に眼を奪われ、次にエリカ、そして 最後に美月のある一点に目が言ってしまう。

 

「処で、貴女達、此処に泊まるの?」

 

「はい、そうですよ」

 

「関係者じゃないのに?」

 

「そこはコネよ」

 

「成程、流石にこう云う処では千葉の名前は効果的よね」

 

エリカの家は百家の中で『剣の魔法師』と言われる有名な家だ。自己加速・自己加重に重点を措いた白兵戦を得意としている。千葉の門を叩く者は警察や軍の関係者になる事が多い。故にエリカが此処にいられるのだろう。

 

「でもエリカが実家のコネを使うなんて、そう云う事は嫌いなんだと思ってたけど」

 

「嫌いなのは千葉の娘って色眼鏡で視られる事よ。それにコネがあるなら使わないと勿体無いじゃない?」

 

「フフッ・・・でも試合が始まるのは明後日からよ。来るのが早すぎない?」

 

「今晩、懇親会でしょ?」

 

「けど、関係者以外は・・・」

 

「大丈夫。私達も関係者だから」

 

「え?」

 

懇親会前 一高控室

 

「どうでしょう」

 

「少し、脇の当たりが窮屈かな?」

 

「申し訳有りません。お兄様。時間が有れば仕立て直したのですが」

 

「いいよ。時間が無いのは知ってたし、どうせ、これを着るのは期間中だけ、それも少しの間だからな」

 

そんな事を言っている達也を視る眼は厳しい。達也が着る筈のない一科生の校章付きの制服を着ているからだろう。制服を着ている理由は簡単だ。出席者は懇親会で各学校の制服を着る事になる。一校の代表は一人を除き全員が一科生。二科生の達也の制服は見た目が同じでも校章が入っていない。これでは、彼だけ目立つ事になる。しかし、一人だけ技術スタッフ用の恰好をさせる訳にもいかない。悩んだ末に最終的な答えが達也にも一科生の制服を着せること。しかし、一科生はこの現状が気に喰わない。一時的に二科生と同列になるのだから。

 

「じゃあ、そろそろ、いきますか?」

 

「会長、帰っちゃダメですか?」

 

「何を言ってるんです。お兄様」

 

「ダメよ。貴方も参加しなさい。これは会長命令よ」

 

「はぁ~、面倒だな」

 

懇親会 会場

 

会場は人で溢れていた。仕方がない。各高の代表と言っても、競技種目が六種目。そして本戦・新人戦とに分かれ、さらに男女別で代表がいる為、参加者は100や200で済まない。

 

各校、固まって集まっているが、達也は一校の皆と距離を取っていた。そこにウエイトレスであろう人物から声が掛かる。

 

「お客様、お飲み物は如何ですか?」

 

良く見るとその人物は見知った顔だ。

 

「関係者ってこう云うことか?」

 

そこにエリカが立っていた。

 

「驚いた?」

 

「まぁな・・・それにしても」

 

「なに?」

 

「あら、エリカ。可愛い恰好してるわね」

 

そこに深雪が会話に加わる。

 

「そうでしょ!でも達也君は何も言ってくれないんだよ?」

 

「仕方ないわよ。お兄様だもの」

 

「そうだね」

 

「オイオイ 俺だって可愛いとは思うぞ」

 

「でも達也君はコスプレには興味ないでしょ」

 

「コスプレ?」

 

「ちゃんと支給された物だけど、男の子にはコスプレに見えるみたい」

 

「男の子?西城君の事?西城君、そう云うこと気にするのね」

 

「違うわよ。ミキの方」

 

「ミキ?」

 

「あ!そうか。深雪は知らないよね」

 

それだけ言ってエリカはその場を離れる。

 

「エリカ。どうかしたのかしら」

 

「多分、幹比古を呼びに行ったんだろう?」

 

「幹比古?あぁ、お兄様と同じクラスの吉田家の御方ですね!」

 

エリカが会話から抜け、次に司波兄弟の会話に参加したのは、

 

「深雪、此処にいたの?」

 

「達也さんと一緒だったんだね」

 

エリカの抜けた後に会話に参加したのは、雫とほのか。

 

「そう云う二人も一緒みたいだが」

 

「親友だし、それに別行動する必要もないし」

 

「成程」

 

「他の皆は?」

 

深雪に聞かれたほのかはある一点を指さす。 

 

「あそこだよ」

 

「深雪と話をしたくても達也さんがいるから話かけずらいんだと思う」

 

「なんだその理由。ガキじゃあるまいし、それに俺は番犬じゃないんだぞ。深雪に危害を加えないなら何もしないんだが」

 

「きっと、達也さんにどう接していいか分からないんですよ」

 

「馬鹿馬鹿しい。それも子供じみた理由じゃない」

 

新たに兄妹の会話に加わる者が二人。

 

「同じ一校の仲間でしょう」

 

「分かっていても、ままならないのが人の心と云うものだよ」

 

「それで許されるのは場合によりけりでしょ」

 

「あぁ、千代田先輩。それに、五十里先輩も」

 

「やぁ。少しは楽しんでるかい。司波君」

 

「まぁ、なんとか。先輩の方は?」

 

「僕も、ちゃんと楽しませて貰ってるよ」

 

達也が啓と話していると、

 

「楽しんでるところ悪いが中条が探していたぞ」

 

と声が掛かる。啓に声を掛けたのは摩利だった。

 

「本当ですか?」

 

「早くいってやれ」

 

「分かりました。じゃあ、そう云う事だから僕はこれで。君達は懇親会、楽しんでね」

 

「えー。啓、もう行っちゃうの?」

 

「お前も行けばいいじゃないか?」

 

「あ!そうか。啓、待って私も手伝うー」

 

「やれやれ。じゃあ、私もこれで」

 

そう言って上級生達は去って行った。

 

「深雪、お前も皆の処に行ってこい。チームワークも大事だろ」

 

「イヤです。確かにチーム-ワークは大事ですが、九校戦はあくまで個人戦がメインです。それにチームワークを乱しているのは私達ではなく彼らの方です。それも、また 下らない嫉妬で。そんな連中に態々、此方から歩み依る必要なんてありません」

 

「困った奴だな」

 

結局、深雪は懇親会終了まで達也の傍を離れなかった。

 




余り花音が好きに慣れない


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九校戦編 前編 其の十

結局 中知半端に


珍しく反抗した深雪の相手をしているとエリカが戻って来た。エリカは従業員らしき制服を着た男性を連れている

 

「ねぇ エリカ もしかしてその人・・・」

 

「うん コイツが さっき話してた ミキだよ」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「初めまして 司波深雪です」

 

「は 初めまして 吉田 幹比古です」

 

「吉田君って この間のテストで 魔法理論 三位だったよね?」

 

「え? あぁ うん」

 

「達也さんのお友達だったんですね」

 

「仲良くなったのは最近だが」

 

「初めまして 北山 雫です 宜しく」

 

「光井ほのかです 宜しくお願いしますね」

 

「えっと 此方こそ 宜しく」

 

「幹比古 顔 赤くないか?」

 

「まさか この格好で挨拶する事になるなんて」

 

「ホテルの従業員なら普通だろ」

 

「大丈夫ですよ 可笑しく見えませんよ?」

 

「自意識過剰なんじゃない?」

 

「なぁ レオと美月は?」

 

「レオに接客が務まると思う?」

 

「それくらい別に・・・」

 

「美月はこの格好が嫌だって 厨房でお皿洗ってる」

 

「僕もレオと一緒に裏方仕事のはずだろ」

 

「だから 手違いがあったって言ったでしょ!」

 

「説明になってないよ!」

 

「一々 騒がないの! ほら アッチのテーブル お皿が空いてるわよ!」

 

「後で覚えてろよ~」

 

去っていく 幹比古を見て雫が

 

「自己紹介も終わった事だし 私達はスバル達の処にでも行くよ」

 

と言ってほのかと去って行く 一方のエリカは

 

「・・・八つ当たりし過ぎたかな?」

 

「少しは手加減してやれよ」

 

「ミキがこう云うの苦手なのは知ってるけど・・・」

 

「でも誘ったのは理由があるんでしょ?」

 

「今のミキを見てると イライラするのよ」

 

「優しいんだな」

 

「ヤメてよ アタシ達が此処にいるのは自分達の意志じゃない。親の命令 それに優しいんじゃなくて 似たもの同士憐れんでるだけ」

 

「まぁ何があったか事情は聴かない 聞いても どうしようもないからな」

 

「立ち入られても困るでしょうし」

 

「・・・アンタ達って 基本 冷たいよね」

 

「今更 だな」

 

「同情されたくもないんでしょ?」

 

「でも それが 今の私にとっは有り難いかな。優しすぎないから安心して愚痴も溢せる。同情しないから惨めに成らない ありがとね 2人とも」

 

そう言ってエリカは去って行った。この時 深雪は確信した エリカは達也に好意以上の感情を寄せていると そしてそれと同時に達也がそれに気付いていない事も 

 

懇親会は出会いと再会の場である 二~三年生はライバルとの再会 一年生はライバルとの出会い

 

会場の一角 肩の校章は八芒星 赤い制服に身を包む第三高校の一年生も出会いを楽しみにしていた しかし 此処にいるのはお年頃の学生。何もライバルに出会う事だけを楽しみにしている訳ではない

 

「おい! あの子ちょー可愛くないか?」

 

その発言者の三校 一年生の目線の先には深雪

 

「隣にいるのは彼氏か?」

 

「なんで あんな奴」

 

「まぁ ルックスはマシな方だと思うけど」

 

「いいよな~ あんな子が彼女なんて」

 

「本当に付き合ってんのか?」

 

「でも 周りにアイツ以外の男子はいないし 彼女以外に女子もいないぜ」

 

「と云う事は 本当に アイツ等 付き合ってる?」

 

「マジかよ~」

 

三校生は深雪と達也の関係を知らない 少なく共 兄妹には見えていない あれだけ仲の良い兄妹も珍しいだろう

 

三校生達は 只々 達也を羨ましそうに見ていた その連中の傍に達也以上のルックスを持つ者がいる

 

十師族が一つ 『爆裂』の二つ名を持つ一条家の跡取り息子 一条将輝

 

「なぁジョージ お前 あの子の事知ってるか?」

 

将輝は隣にいる親友に声をかける 彼の名は吉祥寺 真紅朗

 

「!! 将輝 略奪は良くないよ」

 

「ち、違う! そんなんじゃない」

 

「そうだね 将輝の立場じゃ自由な恋愛できないもんね 剛毅さんは まだ 何も言わないの?」

 

「そんな事はいいから」

 

「分かったよ えっと あの子は 確か 司波深雪 出場種目は 『ピラーズ・ブレイク』と『ミラージ・バット』 一校一年のエースみたいだね」

 

「司波深雪ねぇ」

 

「彼氏の方はエンジニアか作戦スタッフじゃないかな? 見覚えがないし」

 

それを聞いて 他の男子が

 

「もしかしたら アイツ 彼氏じゃないかも」

 

「?」

 

「作戦の打ち合わせなんじゃ」

 

「こんな処でするか?」

 

「普通は作戦決めてから来るだろう?」

 

「それに明らかに談笑してるだろ?」

 

「じゃあ CADの調整について話してるんじゃ」

 

「バカ 女子が男子に調整なんてさせるかよ!」

 

「残念ながら彼女は彼氏持ちだな 諦めろ!」

 

「くっそー 羨ましいなー」

 

一方 三校男子の隣 女子の集団でも深雪の容姿が話題になっている。その中の一人は深雪の余りに暴力的な美しさに驚いていた

 

「あの子 いったい?」 

 

一色 愛梨 ナンバーズ 一色家のご令嬢

 

そんな彼女が動き出す 彼女の目線の先には深雪

 

「喧嘩でも 売りに行くの?」

 

「違うわよ!」

 

彼女は深雪に声を掛ける

 

「そこの貴女 お時間宜しいかしら?」

 

「私ですか?」

 

深雪はまさか自分にナンバーズが話し掛けて来るとは思わなかった

 

「初めまして 私 第三高校一年の一色愛梨と申します。失礼ですがお名前を 伺っても?」

 

「えーっと 第一高校 一年の司波深雪です」

 

「司波?」

 

愛梨は深雪の苗字に心辺りがない 仕方がない この国で司波と云う有名な家は無いのだから

 

「貴女 まさか ナンバーズの方ではないの?」

 

「ウチは両親共に一般ですけど」

 

「何かの大会で優勝経験は?」

 

「大会に出るのもこれが初めてで」

 

「・・・そう 一般 どうやら 無駄な時間だったわね まぁ せいぜい頑張りなさい」

 

そう言い残して 彼女は去って行った

 

「何も あんなに厳しく当たらなくても良かったんじゃない 元は愛梨の勘違いでしょ?」

 

「でも 彼女には話す価値は無かった だって格下と話しても強く成れないでしょ」

一方の深雪は

 

「あれが一色の・・・お兄様にはどのように視えましたか」

 

「安心しろ 彼女は今のお前にすら敵わない 深雪が気にする価値も無い相手だ」

 

愛梨はまだ本当の深雪を知らない

 




次から中編と云う事で


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九校戦編 中編 其の一

中編は新人戦 モノリス・コードくらいまでにします


懇親会が始まって、それなりの時間が経つと司会進行役のスタッフから来賓の報告がされる。

 

「本日は魔法協会理事、九島 列様より激励の言葉を賜りたいと存じます」

 

会場の明かりが消え前方のステージに注目が集まる。そこからに登場すると思われたがステージにいたのは女性だった。

 

「ん?」

 

「どう云う事でしょう?」

 

「何かのトラブルか?」

 

突如、現れた女性に辺りは騒然とする。

 

「何か手違いが?」

 

「イヤ 違う!」

 

達也の眼は捉えていた、女性の後ろにいる老人の姿を。

 

「老師は女性の後ろにいる!精神干渉魔法。会場全体を覆う程の大規模な魔法を発動したんだ」

 

「私には見えませんが」

 

「女性は見るな!老師の罠に掛かる」

 

女性が移動すると、そこには一人の老人が立っていた。その老人は会場全体を見回し達也を見て笑った。

 

「!!」

 

「悪ふざけをして済まない。今のは魔法と云うより手品に近いが、種に気が付いたのは 見た処、五人だったな。もし、私が悪者だったら、立ち向かえたのは五人か」 

 

「!!」

 

列のもしもの話に言葉を失う学生達。

 

「魔法を学ぶ者達よ。魔法は手段でありそれ自体が目的ではない」

 

達也はじっと老師を観察している。

 

「先ほどの魔法は規模は大きいが強度は低い。だが、キミ達は、この弱い魔法に惑わされ私が認識できなかった」

 

列の指摘はもっともだった。

 

「魔法力を向上させる為の努力を怠ってはいけない。しかし、それだけでは不十分だと云う事を理解して欲しい。使い方を誤った大魔法は使い方を工夫した小魔法に劣るのだよ。魔法を学ぶ若人諸君!私は君達のそう云う工夫を楽しみにしている」

 

この列の言葉に多くの生徒が感銘を受ける。

 

「フフッ、流石にこの国の頂点に立つだけの事はある」

 

「本当に厄介な人ですね」

 

「だが来て良かったな」

 

「そうですね。お兄様」

 

懇親会 終了後

 

深雪は宿舎に、達也は作業車に向かった。

 

現在、深雪はほのかと雫の部屋にいる。九校戦代表選手は二人一組で部屋が割り振られる。因みに深雪のルーム・メイトは滝川和実。 

 

「いよいよ明日からだね。緊張しちゃうな~」

 

「まだ、早いわよ。私達の新人戦は明日からじゃないでしょ」

 

「そうだけど」

 

「ねぇ!雫。明日の競技のオススメは?」

 

「スピード・シューティングかな?『エルフィンスナイパー』最後の試合は必見」

 

「エルフィンスナイパー?」

 

「会長のニックネーム。非公式だけど」

 

明日の事で盛り上がっていると、部屋のドアがノックされる。

 

「あたしが出るよ」

 

「こんばんわ~」

 

扉を開けると、そこには、エイミィ・スバル・和実がいた。

 

「どうしたの」

 

「ねぇ!今から、温泉にいかない?」

 

「温泉?」

 

「確か、此処の地下は人工の温泉だったわね」

 

「でも私達が使っていいの?軍の施設でしょ?」

 

「大丈夫。十一時までならOKだって」

 

その言葉を聞いて深雪達は温泉に入ることにした。そして、

 

「ねぇ、ほのか」

 

「なに、エイミィー」

 

エイミィーの視線はほのかの胸に固定されている。

 

「揉んでいい?」

 

「ダメに決まってるでしょ!」

 

「いいじゃない。ほのか、胸、大きいし」

 

「じゃあ、許可も出たことだし」

 

「私は出してないよ!」

 

温泉で騒ぐほのか達。そこに深雪が来る。

 

「何を騒いでいるのよ」

 

「!!」

 

「な!なに?」

 

「イヤー、遂、見惚れてしまって」

 

「ダメよ。深雪はノーマルなんだよ」

 

「何を言ってるのよ」

 

それから暫く、 

 

「そう云えば、深雪。一色のご令嬢に何、言われてたの?」

 

「大した事じゃないわ」

 

「なんか、すっごく、感じ悪かった」

 

「ナンバースだからって威張り過ぎじゃない」

 

「あ!ナンバーズと云えば一条の跡取りもいたよね」

 

「見た。見た。流石にいい男だったね」

 

「カッコ良かったね~」

 

「付き合えないかな~」

 

「でも、彼、深雪の事を熱い眼差しで見てたよ」

 

「え!そうなんだ」

 

「もしかして、一目惚れ」

 

「一条の跡取りが惚れるなんて罪な女だね~深雪は」

 

「本当は前から知り合いなんじゃ?」

 

「どうなの?深雪」

 

「あのねぇ~。どうして一般の私が一条君と知り合いなのよ」

 

「付き合ってみたいとは思わないの?」

 

「どうして?」

 

「どうしてって、あの一条だよ。将来は十師族の仲間入りだよ」

 

「必ずしも一条が十師族であり続けるとは限らないでしょ」

 

「でもでも、ナンバーズだよ?」

 

「どうして?そんなにナンバーズや十師族なんかに拘るの?そんなに価値のあるものかしら?」

 

「深雪はナンバーズが嫌いなの?」

 

「そうね、嫌いね」

 

「じゃあ、会長や会頭の事も嫌いなんだ?」

 

「そんな事ないわよ」

 

「でも、嫌いって」

 

「私が嫌いなのはナンバーズや十師族の考え方よ」

 

「考え方?」

 

「自分達が十師族やナンバーズだと云う事に誇りを持つのが悪いとは思わないけど。あの人達は魔法師を道具みたいに考えてるでしょ。そんな人達を好きには成れないわ」

 

「じゃあ、一条君は嫌いじゃないの?」

 

「嫌いも何も、私、一条君の人となりを知らないから、好きにもならないし、嫌いにもならないわよ」

 

「深雪はやっぱりお兄さん見たいなのが好みかい?」

 

「何を期待してるか知らないけど、私達は兄妹よ。実の兄を恋愛対象として見るなんてお兄様に失礼でしょ」

 

「じゃあ、どんな人がタイプ?」

 

「え?それは~」

 

一方 宿舎裏

 

深雪達が温泉にいる頃、幹比古は懇親会の片付けを終わらせると一人、喚起魔法の訓練に励んでいた。

 

「!! これは」

 

訓練中の幹比古は何かの存在を知覚した。

 

「人の気配。しかも、普通じゃない?」

 

幹比古は知覚した存在を詳しく調べる。

 

「!! 銃を持ってる?コイツ等、いったい?」

 

幹比古は迷っていた。

 

「どうしよう? 誰か呼んだ方が?」

 

吉田 幹比古 古式魔法で有名な名門の一つ 吉田家の次男で『神童』と呼ばれていた実力者。

 

「(クソッ!去年の事故さえなければこんな事で悩まないのに)」

 

彼は去年、ある事故を起こした。その事故が無ければ彼は一科生として第一高校に通っていただろう。その後悔に彼は今も苛まれている。

 

「(・・・イヤ、このままじゃ、ダメだ。達也は僕と同じ二科にいても頑張ってるじゃないか。僕だって!)」

 

幹比古は行動を開始する。

 

「(見つけた)」

 

幹比古は持っていた呪符で魔法を発動し彼らを捕らえようとした。

 

だが彼らも幹比古の存在に気付き反撃を試みる。最悪な事に彼らの攻撃の方が早い様だ。しかし、彼らの反撃は決まらず幹比古の攻撃に倒れた。

 

「(いったい、何が?)」

 

彼らの反撃失敗の理由を考えていた。その時、後方に人の気配を感じた。

 

「誰だ!」

 

そこにいたのは・・・

 




お気に入りが100を超えたみたいです 有難う御座います


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九校戦編 中編 其のニ

オリジナル展開


懇親会の終了後、現れた正体不明の三人を捕らえようとした幹比古。彼は魔法を発動する。だが彼の魔法より彼等の銃の方が早かった。しかし、彼らの銃は突然バラバラになる。その直後に幹比古の攻撃が彼らを捉える。

 

「(いったい、何が? 誰かが、僕を援護した?)」

 

幹比古が彼らの反撃失敗の理由を考えていると後方に気配を感じる。

 

「誰だ?」

 

「俺だよ」

 

「達也!なぜ此処に?」

 

「作業帰りだよ」

 

話は少し遡る。

 

達也は作業車に五十里と共にいた。

 

「もう、そろそろ上がったら?」

 

「いいんですか?」

 

「根を詰め過ぎるのは良くないよ」

 

「分かりました。それでは、お先に」

 

「お休み」

 

達也は本当に帰えるつもりだったのだが、彼の眼は不審者を知覚した。

 

「数は三人か?」

 

彼の眼はそれ以外も知覚する。

 

「!! 幹比古?」

 

達也は現場に急ぐ。

 

「それでは遅い!」

 

現場では既に幹比古が魔法で彼らを捕えようとしていたが、達也には幹比古が使う魔法の弱点が視えていた。

 

「(仕方ない)」

 

達也は援護する事にした。銃がバラバラになり幹比古の魔法が彼らを捕らえる。そして、今に至る。

 

「相手に致命傷を与えず、一撃で無力化。流石だな」

 

「でも、達也の援護がなければ・・・」

 

「阿保か!」

 

「!!」

 

「もしもの事なんて考えるな。現実はお前のおかげでコイツ等を捕まえられた。それが事実だ」

 

「でも・・・」

 

「お前はいったい、何を本来の姿と思っているんだ」

 

「それは・・・」

 

「まさか、相手が何人いても、どんな奴でも自分一人で戦う事ができる・・・そんなものを基準にしてるんじゃ・・・」

 

「ッ・・・」

 

「そんなに今の自分を否定して何になる」

 

「君には分からないよ。もう、どうしようも無い事なんだ」

 

「どうにかなるかもしれないぞ」

 

「え!」

 

「お前が気にしてるのは、魔法の発動速度じゃないか?」

 

「・・・エリカに聞いたのか?」

 

「いや」

 

「じゃあ なんで?」

 

「お前の術式には無駄が多いんだよ」

 

「なん!」

 

「問題があるのはお前自身じゃない。あるとすれば術式の方だ」

 

「僕が使うのは吉田家が改良し続けたものだ!それを一度見たくらいで・・・」

 

「十分だ」

 

「何だって!」

 

「俺は一度見れば起動式を読み取り魔法式を解析できる」

 

「そんな事ができる訳・・・」

 

「できる。まぁ、無理に信じなくていい・・・」

 

達也は話を切り替える。

 

「今はコイツ等の処置が先だ」

 

「・・・どうするの?」

 

「見張ってるから、警備員を呼んできてくれ!」

 

「あぁ、分かった」

 

幹比古は跳躍の魔法を発動し現場を離れる。 

 

「容赦ないアドバイスだな」

 

暗闇から突然現れたのは、風間玄信。

 

「いたんなら仕事して下さいよ。不審者の撃退は高校生がやる事じゃなでしょ」

 

「いや~済まん。しかし、他人に無関心な君にしては珍しいな」

 

「そんな事は・・・」

 

「彼も君と似たような悩みを抱えている様だ」

 

「あの程度の事は卒業済みですよ」

 

「フフッ。経験はあるのだろう?」

 

「・・・あの、コイツ等の事を任せても?」

 

「分かっている。君はもう帰って寝るといい」

 

「そうさせて貰います」

 

翌日 7月3日

 

今日から九校戦が始まる。一般客も多いが魔法関係者も多い。人気がある為実況中継も行われる。

 

「今年も始まりました。全国魔法科高校親善魔法協議大会」

 

既に中継が始まっている。

 

「なんと言っても、今年は第一高校に三連覇が掛かっており、一校は連覇なるか。それとも他校が阻止するか見所です」

 

開会式も終わり、会場は満席である。

 

「今回、解説に魔法大学の講師の方を御呼びしています。宜しくお願いします」

 

この日に行われるのは、本戦スピード・シューティングとバトル・ボードの予選。

 

スピード・シューティング ルール説明

 

規定エリア内に射出されたクレーを破壊しその数を競う。

 

バトル・ボード ルール説明

 

全長3kmの人口水路を三周する。

 

本戦 スピード・シューティング 予選会場

 

達也は、まず真由美の参加する『スピード・シューティング』を観戦しに来た客席は既に超満員。達也と深雪は少し離れて観戦していた。

 

「中々に観戦者が多いな」 

 

「会長が出るからでしょう」

 

そして 予選が始まる。

 

予選は制限時間 五分間に100個のクレーをどれだけ撃ち落とせるかのスコア戦。真由美は危なげ無く予選を通過する。

 

真由美の予選が終わると直ぐに、今度は摩利のバトル・ボード。達也と深雪は予選会場に移動した。

 

「何とか間に合ったな」

 

「見逃すのは勿体無いですものね」

 

「見なくてもいいじゃない」

 

こっそりと見に来ていた二人に声を掛けたのは、

 

「エリカ!何故、此処に?」

 

「それはコッチのセリフよ。皆で見るんじゃなかったの?」

 

「イヤ・・・それは」

 

「そう言う。エリカは見なくていいの」

 

「何で アタシがあんな奴の試合なんかを見なくちゃいけないのよ」

 

「何故 そんなに委員長のことが嫌いなの?」

 

「いいでしょ そんな事 それより 皆 アッチで待ってるよ」

 

「俺達は此処で見るよ」

 

「そう 私は会長の本戦まで部屋で休むわ」

 

「そうか」

 

「じゃあね」

 

エリカは去っていく

 

「どうします?」

 

「何が?」

 

「皆と一緒に見ますか?」

 

「止めた方がいい 色々と皆に聴かせられない話もあるだろ」

 

「そうですね 分かりました」

 

二人は今日 只 競技を見に来た訳ではない ある目的の為の協力者を品定めしているのだ 

 

摩利の予選が始まる 試合が始まると摩利は直ぐに先頭に立つ

 

「硬化魔法と移動魔法の『マルチ・キャスト』か

 

硬化魔法は物質の強度を高める魔法ではなく パーツの相対位置を固定する魔法である

 

「委員長は自身とボードを一つの物として何があってもブレない様にしているんですね」

 

「それだけじゃない 振動魔法も使ってるな 常時 三種類~四種類の魔法の『マルチ・キャスト』か」

 

「戦術家ですね」

 

「相手にしたくないな」

 

「お兄様が 言っても説得力に欠けますね」

 

「さて 見る物は見たし そろそろ行くよ」

 

「響子さんに会いにですか?」

 

「違う! 昨日の件の事だよ」

 

「私も行きます!」

 

「お前は来るな 面倒な事になるから」

 

深雪はムッとしながら達也を見送る

 




原作の九校戦スケジュールはきつそうですね


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九校戦編 中編 其の三

達也は予選試合を見終えると一人である場所に来ていた

 

「お邪魔します」

 

「取り敢えず 座りなさい」

 

部屋には既に数人がいる。全員知り合いだ。最初に声を掛けたのは 風間だった

 

「俺は此処で」

 

達也は入り口から離れようとしない そこへ

 

「コラコラ 大人を揶揄うものじゃないよ」

 

そう言ったのは 真田繁留

 

「早く 座れ」

 

と言ったのは 柳 連

 

「はぁ そうですか? 分かりました」

 

達也が席に着くと紅茶の入ったティーカップが差し出される 差し出したのは 集まったメンバーで唯一の女性 そしてこの中で一番 達也と仲がいい 藤林 響子

全員に紅茶が行き渡ると風間が口を開く

 

「夕べの件だが 賊の正体は無頭竜で間違いない」

 

「目的は?」

 

「九校戦には間違いないが詳しくは調査中だ」

 

「情報はなるべく早く下さいね」

 

「分かっている」

 

「それにしても 良く現場に居合わせたわね 警戒してたの?」

 

「まさか? 本当に偶然ですよ」

 

「でも 遅くまで何を?」

 

「九校戦の準備ですよ」

 

「そう云えば 君も出るんだったな」

 

そう声を掛けたのは 治癒魔法師の 山中 幸典

 

「エンジニアですけどね」

 

「チームメイトは君がシルバーだと知っているのか?」

 

「まさか その事は秘密ですよ」

 

「しかし シルバーがエンジニアとは今年も一校が優勝だね」

 

「それは分かりませんよ。新人戦には一条も出ますし」

 

「ねぇ達也君?」

 

「なんですか?」

 

「選手として出ないの?」

 

「俺には向いてないですよ」

 

「『スピード・シューティング』と『アイス・ピーラーズ・ブレイク』なら『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』で優勝できると思うけど」

 

「確かに物質に直接干渉して物質を元素レベルにできる『雲散霧消』は有効かもしれないけど規定威力違反だよ」

 

「あら ご存知ないんですね 『スピード・シューティング』と『アイス・ピーラーズ・ブレイク』には制限はないんですよ」

 

響子はこの中で唯一の九校戦出場経験があるので他のメンバーよりも詳しい

 

「それに残りの競技も『フラッシュ・キャスト』の技術が有れば 優勝を狙えるんじゃない?」

 

「それも秘密にしないと」

 

「残念だが達也の力をこんな処で見せられんだろう」

 

「だから出ませんよ」

 

「分かってると思うが・・・」

 

「分かってます もし 出る事になっても 『分解』は使いませんよ」

 

「まぁ そんなに怒るなよ」

 

「怒ってませんよ 第一俺はスタッフですから選手に選ばれるとは思いません」

 

「しかし 驚いた エンジニアとは云えお前がこんな大会に出るとはな」

 

「君はこんな大会に興味ないと思ったが」

 

「まぁ 懇親会までは後悔してました」

 

「今は?」

 

「来て良かったと思います」

 

「何か 収穫があったみたいだね」

 

「えぇ まあ」

 

暫くして達也は部屋を後にする

 

「もう直ぐ 始まるな」

 

「お兄様 こちらですよ」

 

達也は深雪に近づく しかし いきなり胸ぐらを掴まれる

 

「お兄様? お楽しみだったみたいですね?」

 

「ちょ! 深雪さん?」

 

深雪は響子の香水の匂いを嗅ぎ取ったのだ

 

午後からは『スピード・シューティング』の決勝リーグが始まる

 

予選とは違い対戦形式だ

 

「会長の『魔弾の射手』流石ですね」

 

「それだけじゃない 知覚系魔法『マルチ・スコープ』の併用が厄介だ」

 

「やはりレベルが違い過ぎて勝負になりませんね」

 

「今は競技だからいいがこれが実戦なら 会長の攻撃には死角がないから逃がる事もできないな」

 

十師族 七草家 長女 七草 真由美 

 

七草は現在十師族 序列2位であり『万能』の二つ名を持つ 『万能』つまり 一芸に特化してはいないが不得意な系統魔法も無いと云う事でもある しかし 真由美は珍しく精密射撃に優れた魔法師である

 

準々決勝 準決勝 そして決勝ですら他校の代表に圧倒的な差を見せつけ 真由美は見事に優勝した

 

現在その真由美は女子役員と祝勝会を行っている

 

「会長 『スピード・シューティング』優勝おめでとう御座います」

 

「ありがと! 摩利も『バトル・ボード』準決勝進出おめでとう」

 

「何とか予定通りだな」

 

「『スピード・シューティング』は男子も優勝したし」

 

「だが男子の『バトル・ボード』は焦ったぞ 服部が何とか残ったが」

 

「CADの調整が合ってなかったみたいです」

 

「今日は木下君とずっと調整していたようです」

 

「明日 半蔵君はオフだし気の済むまでやらせましょう」

 

「でも木下君は明日 女子『クラウド・ボール』も担当してますけど」

 

「彼はサブですから抜けても」

 

「だからって 泉 一人に任せるのは」

 

「では 明日 明後日 オフの司波君に代わりを頼んでは?」

 

「じゃあ 頼めるかな 深雪さん」

 

「はい!」

 

宿舎 達也の部屋

 

「それで こんな遅くに」

 

「・・・ご迷惑でしたか」

 

「・・・別に 知らせてくれたのは有り難いが いくら ホテルの中でも こんな時間に出歩くもんじゃない」

 

「はい! 申し訳ありませんでした お兄様!」

 

「謝るつもりないだろ」

 

「はい!」

 

「オイ!」

 

「フフッ」

 

「まぁ 伝えてくれてありがと 送って行くよ」

 

「イエ! 一人で大丈夫ですから これ以上お手間は」

 

深雪は達也の後ろを気にしている

 

「作業中と言っても これは遊びみたいなものだから」

 

「遊び? でもそれCADのプログラム?」

 

「九校戦とは無関係だよ このプログラムも玩具みたいなものだ」

 

「玩具?」

 

「こんなものよりお前の方が優先に決まってるだろ」

 

「!! 私の方が大切?」

 

「(あーあ また始まった)」

 

達也は深雪の手を引っ張る

 

「ほら 行くぞ」

 

「あの! 私もです!」

 

「何が?」

 

「私も お兄様が何よりも大切です」

 

その後 深雪は部屋に着いてもご機嫌だった



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九校戦編 中編 其の四

なんか文章が可笑しく見える


翌日 7月4日 大会二日目

 

本戦 女子 『クラウド・ボール』会場

 

「今日は宜しくね」

 

今日の達也は本来であればオフであったが急遽、先輩エンジニアの代わりにサポートに入る事になった。

 

「おはよう御座います。会長」

 

「あら?深雪さんは一緒じゃないの?」

 

「アイツはエンジニアじゃないですよ」

 

「そうだけど、貴方達いつも一緒じゃない?」

 

「学校じゃいつも別ですよ」

 

「でもいつも一緒だから達也君一人じゃ逆に違和感が」

 

「会長は俺達を何だと思ってるんですか?」

 

「それは~」

 

「答えられないんですか?」

 

「・・・でもこの会場には居るんでしょ?」

 

「『ピーラーズ・ブレイク』を見に行ってますよ」

 

「へぇ~本当に別行動してるんだ」

 

「離れると心配じゃない?」

 

「大丈夫ですよ。何処にいても俺達は互いの存在を認識できますから」

 

「そ、そう?」

 

『クラウド・ボール』 ルール説明 

 

制限時間内にシューターから射出された低反発ボールをラケットまたは魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う競技。

 

一セット、三分、ボールは二十秒ごとに追加され最大九つのボール操る。女子は三セットマッチ、男子は五セットマッチ。

 

一校出場選手の一人には真由美がいた。

 

「会長。もしかして、その恰好で出るんですか?」

 

「そうだけど、似合ってない?」

 

「イエ、お似合いだとは思いますけど・・・」

 

真由美のウェアーはスコートタイプで、そのスコートもかなり短い。この競技は『スピード・シューティング』とは比べ物にならない様な激しいものであるはずだが。

 

「(まさか、その場から動かないつもりじゃ)」

 

「達也君、ちょっと手を貸してくれる」

 

真由美は柔軟運動を始めた。

 

「なんか新鮮!」

 

「は?」

 

「私って兄と妹はいるけど弟はいないのよね~」

 

「そうらしいですね」

 

「達也君って私の事特別扱いしないじゃない」

 

「・・・馴れ馴れしいってことですか?」

 

「違うわよ。そうじゃなくて」

 

「?」

 

「変に構えたり、オドオドしたり、ソワソワしたりしないし」

 

「それで?」

 

「だから弟ってこんな感じかな~って」

 

「そうですか」

 

達也は自分がそんな風にみられているとは思ってなかった。

 

「それで、何か他に手伝う事は?」

 

「もう、十分よ」

 

「なら、俺は他の選手の様子も見ておきたいので、これで」

 

「じゃあ、宜しくね」

 

「その必要はないわ」

 

声を掛けたのはこの競技のメインエンジニア 三年 泉 理佳

 

「必要ない?」

 

「貴方は此処で七草を見てなさい。残りは私が見るから」

 

「御一人で大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ。貴方に心配される言われもないし」

 

そう言って彼女は去っていく。

 

実は彼女も達也の存在が気に要らない一人である。自尊心が高く他人の力を借りる事を良しとしないタイプである。

 

「はぁ~、悪い子じゃないんだけど」

 

暫くして真由美の試合が始まる。

 

「やれやれ」

 

この競技でも真由美は他校の代表を圧倒していた。左右に激しく動き続ける相手に対し真由美は試合中一歩も動かなかった。

 

第二セット インターバル

 

「お疲れさまでした」

 

「まだ、試合は終わってないけど?」

 

「もう終わりですよ」

 

「なんで、そんな事が言えるのよ」

 

「相手はサイオンの枯渇でこれ以上は」

 

「そうかな?」

 

真由美が振り返ると相手のエンジニアが審判と話している。

 

「まぁ、会長を相手に良くやった方ですが」

 

十師族の直系は同じ高校生代表であっても圧倒的な差があるものだ。

 

「次の試合の為にCADのチェックをします」

 

「じゃあ、お願い」

 

「先輩はラケットは使わないんですね」

 

「この競技はいつもこのスタイルなの」

 

「CADも汎用型じゃなくて特化型ですか?」

 

「この競技で余り多くの魔法は使わないし」

 

「さっきのは『ダブル・バウンド』ですか?」

 

「そうよ」

 

「他には?」

 

「他にもいくつか起動式を格納してるけど基本はこればっかりよ」

 

「そうですか」

 

「それより、どうかな。私のCAD」

 

「良くできてますよ。これなら余り俺が手を加えなくてもいいみたいですね」

 

「あれ、もう終わり?」

 

「余り時間はありませんから」

 

そして次の試合が始まる

 

「(・・・あれ? 何、これ)」

 

真由美は次の試合でも圧倒的な差を見せつける勝利した。しかし試合終了後、彼女は達也に詰め寄った。

 

「ちょっと、どう云う事?」

 

「何か問題がありましたか?」

 

「性能が上がってるじゃない!」

 

「それで?」

 

「時間が無いから特に何もしないって」

 

「そうですね。特別な事はなにも」

 

「でも何もしないで性能が上がる訳ないでしょ」

 

「いいじゃないですか。性能が下がった訳じゃないんですから」

 

「それは~」

 

真由美は口で達也に勝てない。

 

「何したの?」

 

「ゴミ取りをしただけですよ」

 

「ゴミ取り?」

 

「ソフト面のゴミを取り除いたから性能が少し上がったんでしょう」

 

「・・・ねぇ達也君」

 

「なんでしょう」

 

「後でそのゴミ取りのやり方教えてくれる?」

 

「いいですけど、目先の試合に集中して下さい」

 

「フフッ、それは任せなさい」

 

その後真由美は見事に『クラウド・ボール』で優勝した。

 

 

本戦 女子 『アイス・ピーラーズ・ブレイク』予選会場

 

第一高校の代表の一人に花音がいた。花音の担当エンジニアは啓である。

 

深雪は雫と共に見に来ていた。

 

「一回選は最短で勝ちましたね」

 

「やっぱり、凄いね千代田先輩は」

 

「流石は地雷源の魔法師ね」

 

千代田家は振動系統遠隔個体振動魔法。中でも地面を振動させる魔法が得意であり、この魔法特性。故に二年生で本戦を任されている。

 

「相手選手の防御も効いてないね」

 

「でも自分のまで倒してるわ」

 

「花音は制御が苦手だから。倒されるなら倒しちゃえって感じなんだよ」

 

花音は見事 決勝に駒を進める。

 

第一高校 特設天幕

 

達也は深雪達と合流する。それぞれ結果報告に来たのだが。天幕の空気は重い。

 

「何かあったんですか?」

 

「男子『クラウド・ボール』の結果が思わしくないので総合優勝の見直しを」

 

「そんなに悪い結果なんですか?」

 

「えぇ、予想以上に」

 

「『クラウド・ボール』は桐原君達が出てましたよね」

 

「桐原君で二回戦まででした」

 

「総合優勝を考えると他を落とす訳にはいきません」

 

「厳しくなりそうですね」

 

「新人戦の成績も関わってくるでしょう」

 

このセリフを聞いて雫と深雪は気を引き締めた。

 




夜に書くのは辛い


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九校戦編 中編 其の五

少しは見やすくなったと思います


今回の九校戦で三連覇を目指す一校に取って 本戦は幸先の良いスタートを切った はずだった 

 

「男子『クラウド・ボール』も優勝を狙える布陣だと聞きましたけど」

 

「それなのにどうして?」

 

「くじ運が悪く 優勝候補と当たってしまいました」

 

「成程ねぇ~」

 

鈴音は後方を振り向く そこには桐原がいた

 

「桐原君だけですか? 他の人は?」

 

「他の選手は一回戦で負けてますから 先に宿舎に帰ったようです」

 

「そうですか」

 

啓や花音が鈴音と話していると達也は桐原に近づく

 

「ん? 司波?」

 

「どうも」

 

「俺 負けちまったよ」

 

「そうみたいですね」

 

「なんで 負けるかな~」

 

「それは先輩が弱いからでしょ」

 

「ちょ! お兄様!」

 

「お前 容赦ないな」

 

「慰めの言葉でも欲しかったですか?」

 

「まぁ お前に言われても嬉しくはねぇな」

 

「ですが今回はくじ運に恵まれませんでしたね」

 

「くじ運だけの問題じゃねえと思うけど?」

 

「そうでもないでしょ」

 

「?」

 

「先輩に勝った相手も優勝候補と言われながら三回戦で負けてます」

 

「だから?」

 

「それだけ先輩に苦戦したんでしょう くじ運が良ければ先輩もいい成績を残してたと思いますよ まぁ 優勝できたかは疑問ですけど」

 

「お前なぁ~そこは優勝してた・・・でいいだろ」

 

「試合は何が起こるか分かりませんから」

 

「まぁ いいや お前がそこまで言うなら これ以上落ち込む必要もねえな」

 

「お疲れさまでした」

 

「あぁ じゃあ 俺は部屋に戻るよ」

 

そう言って桐原は宿舎に戻っていった

 

それから暫くして 達也は天幕に近づくある存在を知覚する

 

「!! これは?」

 

「どうかなさいましたか」

 

「七草御当主の登場だ」

 

「!! そうですか」

 

深雪が達也の言葉を疑う事はない そして

 

「失礼するよ 済まないが七草 真由美はいるかな?」

 

「! お父様なぜ此処に」

 

現れたのは 現 十師族 序列二位 七草家 当主 七草 弘一

 

「やぁ 真由美『スピード・シューティング』と 『クラウド・ボール』優勝おめでとう」

 

「あ 有難うございます でも・・・」

 

「あぁ 少し急用ができてね 一旦帰ることにしたんだ それを伝えておこうと思ってね」

 

「そうですか」

 

「まぁ 新人戦『モノリス・コード』の頃には戻るよ」

 

「分かりました」

 

『モノリス・コード』は多くの魔法関係者が観戦する。『モノリス・コード』は将来の優秀な魔法師を見つける為の良い判断材料なのだ

 

「処で十文字君は?」

 

「何か御用ですか?」

 

「和樹殿がお見えで無いようだから」

 

「それで?」

 

「今年も来られないのかと思ってね」

 

「確か 十文字君は来られないと言ってましたけど」

 

「そうか 今年もか」

 

「あの お父様 そろそろ」

 

「おっと 済まない 邪魔をしたね それでは これで。 皆さん 頑張って下さい」

 

弘一はそう言って去って行った しかし 彼は直ぐに戻ることになる

 

「御免なさいね 皆」

 

真由美は皆に誤った

 

「(あれが七草の当主か)」

 

「お兄様?」

 

「さて 俺達も戻ろうか」

 

「はい お兄様」

 

達也は宿舎に戻るとフロント係に呼び止められた

 

「司波達也様 お荷物が届いております」

 

「有難う御座います」

 

九校戦 宿舎 達也の部屋

 

「まさか 半日で造形して送って来るなんて大丈夫か?」

 

達也がそんな心配をしていると 部屋のドアがノックされる

 

「お兄様 お邪魔いたしましても宜しいでしょうか」

 

「構わないよ 入っておいで」

 

「失礼いたします お兄様」

 

「遊びに来たよ」

 

「お邪魔します」

 

「邪魔するぜ~」

 

「失礼するよ」

 

部屋を訪れたのは深雪だけではなかった 訪れたのは深雪 エリカ 美月 ほのか 雫 レオ 幹比古だった

 

「達也さん 今日は兎も角どうして昨日は一緒に見てくれなかったんですか?」

 

達也は早速ほのかに昨日 一緒に見る約束をしていた事をほのかに責められた

 

「済まない だが明日からは一緒に見れるから」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ 本当だよ」

 

「分かりました。明日は頑張って応援しましょう!」

 

一方 エリカが達也の部屋に入って直ぐにやった事は部屋を隈なく見る事 そして

 

「ねぇ 達也君! これは?」

 

達也の机に置いてある箱 開けると中に見慣れない物がある

 

「それは 玩具だよ」

 

「玩具?」

 

「お兄様 それは昨日のCADでは?」

 

「これCADなの?」

 

「まぁな」

 

箱の中には良く見れば大きな刀の様な物 それは昨日摩利の試合を見て思いついた物だ

 

「もしかして 武装一体型?」

 

「正解」

 

「これ どうしたの?」

 

「知り合いに作ってもらった」

 

「ふ~ん」

 

達也はエリカから玩具を取り上げると

 

「なぁ レオ」

 

「!! 危ねぇじゃねえか達也」

 

達也は玩具をレオに投げる

 

「試してみないか?」

 

「俺が?」

 

「あぁ お前に ピッタリだと思うぞ」

 

「いいぜ 実験台になってやるよ」

 

九校戦宿舎裏 屋外格闘戦用訓練場

 

「じゃあ 始めようか?」

 

達也はレオを連れ玩具の実験を開始した

 

「いくぜ!」

 

レオは玩具にサイオンを注入する すると

 

「おー 本当に浮いてるな」

 

レオが玩具にサイオンを注入すると玩具が浮いたのだ

 

レオは玩具を振り回す

 

「3 2 1 0」

 

「大成功だな」

 

「あぁ ありがとう レオ」

 

「しかし 硬化魔法って繋がってなくても使えるんだな」

 

「硬化魔法の定義は相対位置の固定だ だから 接触している必要もない この玩具は飛ばすと云うより伸ばすと云う表現が妥当だな」

 

「長い剣を振り回すって感じだな」

 

「さて そろそろ 実技テストをしようか?」

 

「いいぜ 最後まで付き合ってやる」

 

その後 達也の実験は遅くまで続いた

 



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九校戦編 中編 其の六

次から新人戦です


九校戦 三日目の今日は本戦 『バトル・ボード』『アイス・ピーラーズ・ブレイク』の優勝者が決まる

 

達也は皆と女子『バトル・ボード』 エリカは女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』を観戦している

 

女子『バトル・ボード』 準決勝 第二レース

 

一校からは摩利が出場 他には 七校 九校の代表

 

「去年の決勝カードが準決勝で見れるとは」

 

「此処で勝てば優勝は確実ですね」

 

「九校は兎も角 七校は強いよ」

 

レース開始のブザーが鳴る開始直後に摩利が飛び出す。出遅れた九校の選手と違い七校選手はしっかり摩利についてくる

 

「手強いですね」

 

しかしレース最初のカーブで事件が起きる 

 

「!! この場面で加速?」

 

「あの速度で曲がれる訳・・・」

 

「オーバー・スピード?」

 

七校選手がカーブ手前で加速したのだ このままでは確実に彼女は壁にぶつかる事になる 摩利もその光景を見ていた

 

「(何を考えているんだ?)」

 

摩利は七校選手を助ける事にしたが

 

「(何?)」

 

だが摩利は助けられず巻き添えを喰らってしまい、二人は壁に激突した

 

裾野基地病院

 

摩利達は直ぐに病院に運ばれた 

 

「気が付いた 私が誰だか分かる?」

 

「真由美 何を言ってる」

 

「良かった 頭は大丈夫みたいね」

 

「だから 何を・・・痛っ」

 

摩利は反射的にベッドから起き上がろうとする

 

「ダメよ 動いちゃ」

 

事故の衝撃で肋骨が折れていた 治癒魔法の発展で大した事にはならないが

 

「動くにはどれだけ掛かる」

 

「一日寝てれば日常動作に支障はないけど、念の為に十日間は激しい運動は禁止」

 

「おい! それじゃあ」

 

「『ミラージ・バット』は棄権よ」

 

「・・・レースはどうなった?」

 

「七校は危険走行で失格 決勝は三校と九校よ」

 

「そうか」

 

「七校の選手は大したケガじゃないって 庇った甲斐があったわね」

 

「しかし自分がケガしていては・・・」

 

「でも 貴方が庇ってなかったら 彼女は大怪我をした上で魔法師生命を絶たれていた・・・これは達也君も同意見よ」

 

「? なんで いきなりアイツが出てくる?」

 

「だって 摩利を運んだのは彼だから」

 

「は?」

 

「誰より先に駆け付けて 骨折を見抜いて応急処置を指示したらしいから」

 

「・・・」

 

「大丈夫よ 彼がしたのは運ぶまでだから」

 

摩利が何を気にしているのか分かった真由美は笑って言った しかし 彼女の顔は直ぐに真剣になる

 

「ねぇ 摩利 貴女 あの時 第三者から魔法の妨害を受けたんじゃない?」

 

「どう云う事だ?」

 

「摩利が彼女を止めようとした時 貴女がバランスを崩したのは 誰かが水面に干渉したからじゃないかって」

 

「まぁ 不自然だとは感じたが それが実証できるのか?」

 

「達也君が大会委員からビデオを借りて検証してみるって」

 

「そんな事 できるのか?」

 

「でも 何もしないよりマシでしょ?」

 

「しかし 第三者か・・・いったい誰が何の為に」

 

九校戦 選手宿舎 達也の部屋

 

「お兄様 先輩がお見えに」

 

部屋に来たのは 啓と花音

 

「態々 済みません」

 

「構わないよ 手伝うと言ったのはコッチだし」

 

「こんな時になんですが 優勝おめでとう御座います 千代田先輩」

 

「うん ありがと 摩利さんがあんな事に成って優勝しない訳にはいかないよ」

 

「それで何か分かったかい?」

 

「じゃあ チェックお願いします」

 

「分かった・・・う~ん これはかなり面倒だね」

 

「なんで?」

 

「知ってると思うけど 九校戦では不正防止の為に各会場に魔法師がいて監視装置もある 僕は監視網の外から何か仕掛けたと思ったけど

 この分析結果を見る限り水面に働いている力は水中から発生してる でも水中に工作員・・・なんて考えられないし」

 

「分析が間違ってるんじゃないの?」

 

「それはないよ この結果は十分納得できる その分 答えを出すのが難しいけど」

 

そこに新たな訪問者が来る 

 

「あのお兄様 美月と吉田君が」

 

「入って来ていいぞ」

 

「お邪魔します」

 

「紹介します 吉田幹比古と柴田美月です」

 

「初めまして」

 

「知ってると思うが 五十里先輩と千代田先輩だ」

 

「宜しく」

 

「2人にも協力して貰おうと思って」

 

「それで僕達は何を?」

 

「美月 レースを見ていて何か不審な物は見えなかったか?」

 

「御免なさい 眼鏡を掛けた状況では・・・」

 

「そうか まぁ いいや じゃあ 二人共これを見てくれ」

 

達也が見せたのは摩利が七校選手を止めようとしている映像

 

「先輩が態勢を崩す直前 水面が不自然に陥没した これは水中からの干渉があった証拠だ コース外から気付かれる事無く魔法を仕掛けるのは不可能 遅延魔法の可能性も低い だとすれば 魔法は水中に潜んでいた何者かによって仕掛けられらと考えられる しかし それはない なぜなら そこまで完璧に姿を隠す魔法は現代魔法にも古式魔法にも存在しない なら 人間以外の何かが水路にいたと考えるのが妥当だ」

 

「達也は精霊魔法の可能性を考えているのかい?」

 

「なぁ 幹比古 数時間単位で特定の条件に従って水面を陥没させる遅延発動魔法は精霊を使って可能か?」

 

「可能だよ」

 

「お前にも?」

 

「地脈と地形が分かっていれば地脈を通じて精霊を送り込むことはできる しかも場所は毎年同じだから簡単だ でもそんな術の掛け方では 水面を荒らす事はできてもそれだけで先輩のバランスを崩せる大波は作れない 七校選手のオーバースピード事故が無ければ子供の悪戯だ」

 

「あれも事故ならな これをみろ」

 

映し出されたのはカーブでの七校選手の動きを解析した映像

 

「本来なら減速するべき場所で加速している」

 

「確かに 去年の出場選手が起こすミスじゃない」

 

「恐らくCADに細工されていたのでしょう 減速と加速をすり替えれば最初に減速を使うのはこのコーナーですから しかも上手くいけば 優勝候補を二人潰せる」

 

「そりゃ 理屈は通ってるけど CADの細工は大問題だよ」

 

「七校のスタッフの裏切り?」

 

「それも否定はしませんけど大会委員に工作員がいる可能性が大きいと思ってます」

 

「だとしても いつCADに細工を? CADは各校で厳重に保管されていますが?」

 

「CADは必ず大会委員に引き渡されるだろ」

 

「!!」

 

「(だが方法が分からないのは厄介だ)」

 

その夜 深雪と達也は呼び出しを受け 大会委員から一校に割り当てられた会議室に向かう そこには生徒会役員と克人 摩利がいた

 

「失礼します」

 

「御免ね急に」

 

「二人に大事な相談があります」

 

「現在 三校が想像以上に点を伸ばしています 明日新人戦で大差が着くと本戦『ミラージ・バッド』の成績次第で逆転されて総合優勝が危うくなります。そこで私達としては新人選をある程度犠牲にしても本戦の『ミラージ・バッド』に戦力を注ぐべきだと思っています」

 

「深雪さんには摩利の代わりに本戦に出て貰います。それに伴い達也君もエンジニアとして九日目も会場入りして下さい」

 

「なぜ 私が本戦に? 先輩方の中には一種目にしかエントリーされてない方がいます。私でなく先輩に~」

 

「練習も無しに本番はきつい 新人でも経験者の方が見込みがある それにお前なら優勝もできると思うが」

 

と言って摩利は達也をみる

 

「そうですね 問題ないですよ」

 

「ちょ!お兄様?」

 

「諦めろ 深雪」

 

深雪は仕方なく承諾する事にした

 




優等生の方を最近読んでない


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九校戦編 中編 其の七

後編 其の十でも足りない気が


一校を襲った悲劇 渡辺摩利の負傷 それにより 本戦『ミラージ・バッド』の棄権が確定 この緊急時に一校の取った手段は代役を出場させる事 この手段に他校は驚く

 

「本戦『ミラージ・バッド』に出場予定だった渡辺摩利選手の代役として一校は 一年生 司波深雪さんを申請しました」

 

突如 流れる放送に各校の反応は様々

 

「一年が本戦出場?」

 

この放送に一番驚いたのは三校だ

 

「まさか 一校も一年生を出場させるなんて」

 

「担当エンジニアも一年だ」

 

「いったい どんな奴等だ」

 

三校の本戦『ミラージ・バッド』出場者に3年に交じり1年の一色愛梨がいた

 

「あの子 懇親会の」

 

「それ程の実力があると云うの」

 

「大丈夫だよ 愛梨なら」

 

「当たり前よ 私は負けない 今年から『クラウド・ボール』と『ミラージ・バッド』の一位は私なのだから」

 

7月6日 今日から新人戦が始まる 

 

初日は『スピード・シューティング』と『バトル・ボード』予選が行われる

 

九校戦 ルールでは各校 どの競技も代表選手は三名まで 

 

但し 『モノリス・コード』は各校 一チームのみ

 

一校では 北山雫 明智瑛美 滝川和実の三名 勿論 担当エンジニアは達也

 

新人戦 『スピード・シューティング』会場

 

深雪はほのかを連れ美月達と共に雫の応援に来ていた

 

「ほのかさん『バトル・ボード』の準備はいいんですか?」

 

「だ! 大丈夫です 私 午後からですから」

 

「ほのか 今から緊張してどうするの?」

 

「だって~」

 

「大丈夫よ ほのかなら」

 

『スピード・シューティング』選手 控室

 

「何か 違和感は無いか?」

 

「大丈夫」

 

「・・・」

 

「何だ? 不安か?」

 

「ねぇ 達也さん やっぱり ウチで 雇われない?」

 

「また その話か」

 

北山 雫 実業家の父とAランク魔法師の母を持つ正真正銘のお嬢様 このやり取りは初めてではない

 

「その話は俺がライセンスを取ってからだ」

 

「分かった じゃあ いって来る」

 

「頑張れ!」

 

「うん! 頑張る」

 

一方 深雪達とは少し離れた場所に

 

「本部にいなくていいのか? 真由美」

 

「大丈夫よ はんぞー君に任せてるから」

 

「そう言う 摩利こそ寝てなくていいの?」

 

「飛んだり跳ねたりしないから安心しろ」

 

「無理な事はやめてね」

 

「しかし アイツのエンジニアとしての腕前を見るのもこれが初めてだな」

 

「そうね どんなモノか楽しみね」

 

「担当選手の間ではかなり好評のようですよ」

 

競技開始を告げるブザーが鳴り クレーが発射される そして 瞬く間に クレーが粉砕される

 

「すげぇ~ なんだこの魔法?」

 

雫の魔法に驚いたのはエリカ達も一緒だ

 

「うわ 豪快」

 

「もしかして 有効エリア全域を魔法の作用領域に設定してるんですか?」

 

「そうですよ 領域内の固形物に振動波を与える魔法でクレーを砕いているんです」

 

ほのかがエリカ達に説明している頃 真由美達も鈴音の説明を聴いていた

 

「この術式の仕組みは 有効エリア内に一辺十mの立方体を設定し 各頂点と中心の九つのポイントを震源とします 起動式にその番号を入力すれば震源ポイントを中心に半径六mの球場破砕空間が形成されます」

 

「大掛かりだな」

 

「この魔法は精度を犠牲にする代わりに発動速度を上げることです」

 

この競技は 選手の位置 有効エリアとの距離 方向 エリアの広さが一定である

 

「だからこそ この魔法でそれらの起動式が定数で処理され 故に 選手は九つの番号を設定するだけで 要するに 引き金を引くだけで標的を破壊できます」

 

「良くこんな術式 思いつくわね」

 

「この魔法なら連続発動もマルチ・キャストも思いのままです」

 

解説者達も称賛する

 

「これは大変素晴らしい魔法ですね」

 

第一高校 北山雫 結果 パーフェクト

 

「この魔法の名称は『能動空中機雷』(アクティブ エアーマイン)司波君のオリジナルです」

 

競技終了後のインタビュー

 

「パーフェクト おめでとうございます」

 

「・・・どうも」

 

「・・・素晴らしい魔法でしたね」

 

「・・・有難う御座います」

 

「・・・あの 何か一言」

 

「特にありません」

 

「・・・以上で 北山選手のインタビュー終わります」

 

三校視点

 

一色愛梨とその隣には十七夜 栞 懇親会で愛梨と一緒だった生徒

 

「彼女の魔法の対策はあるの?」

 

「大丈夫よ」

 

予選が終了し 一校代表は三人共 勝ち上がる

 

準々決勝 開始前 選手控室 

 

「予選とは全く別物だが違和感はないか?」

 

「そんなのないよ むしろ しっくり過ぎて怖いくらい」

 

「此処からが本番だな」

 

「他の二人も勝ったんだよね」

 

「あぁ だが心配するな 何時も通りやれば 雫も勝てるさ」

 

「勿論 優勝する為の御膳立ては全て達也さんがしてくれた。だから後は優勝するだけだもん。任せて」

 

準々決勝 会場 

 

「あ! 雫が出てきた」

 

「緊張はしてないみたいですね」

 

確かに雫は緊張はしていない しかし 予選とは違う処もある。

 

それにいち早く気が付いたのは幹比古だ

 

「あれ? 北山さんのCAD・・・まさかFLTの『セントール・シリーズ』?」

 

「なにそれ?」

 

「FLTの汎用型CADだよ」

 

「何言ってんの? どう見ても あれは照準補助付きの小銃形態の特化型じゃん」

 

「でも あれは」

 

「エリカ 吉田君の言ってるの事は正解よ」

 

「じゃあ やっぱり」

 

「あれは 汎用型CADよ 但し お兄様のハンドメイドだけど」

 

試合が始まる 

 

「収束系魔法でエリア中央の自分のクレーの密度を高める事で相手のクレーが弾かれる。相手の妨害と自分のクレーの破壊を同時にするなんて」

 

「相手は起動の読みが外れて 苦戦してるな」

 

そして準々決勝でも雫達 一校代表が勝ち上がった そして

 

『スピード・シューティング』準決勝 

 

第一試合 第一高校 北山 雫 VS 第三高校 十七夜 栞

 

第二試合 第一高校 明智 瑛美 VS 第一高校 滝川 和実

 

実況者は初めての状況に興奮している様だ

 

「さて 今大会 ベストフォーに第一高校から三人が残ると云う非常に珍しい事になっております。十七夜選手の成績次第で第一高校が上位を独占する事になります」

 

準決勝 第一試合 

 

試合開始と共に激しい点の取り合いになる

 

「雫さんの魔法を相手は気にしてませんね」

 

「雫が押されてる」

 

「心配しすぎよ」

 

 ほのか達が心配していた頃 達也は静かに様子を見ていた

 

「流石に対策はしてるか・・・だが」

 

「どうして? 対策は完璧なはず」

 

「これなら 勝てる」

 

「私は まんまと 乗せられたの?」

 

「ここまでだな」

 

「まさか 今までが この為の布石だなんて」

 

雫と栞の差が開きだし そして

 

準決勝 結果 北山雫 スコア 100 十七夜栞 スコア 92

 

決勝進出 北山雫 その後 雫は決勝でエイミィーと戦い勝利

 

三位決定戦では 和実が栞に辛勝

 

結果 第一高校が上位を独占した

 

 

 

 

 

 

 




詳しくは優等生の方を見て下さい 


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九校戦編 中編 其の八

中編を増やそうかな


一校の新人戦 女子『スピード・シューティング』の結果は十分過ぎるものだった

 

天幕内は大騒ぎ

 

「凄いわ! 上位独占なんて」

 

「快挙だな」

 

「優勝おめでとう 北山さん」

 

「有難うございます」

 

「明智さんも滝川さんも良くやってくれました」

 

「有難うございます」

 

「ねぇ 達也さん」

 

「何だ?」

 

「有難う 私が優勝できたのは達也さんの御かげだよ」

 

「俺は何もしてないよ 優勝したのは雫の努力と実力があったからだ」

 

「でも 司波君がCADの調整しなかったら私 予選を勝ち抜けたかどうか」

 

「そうだよ 私も司波君が調整してくれなかったら準優勝なんて出来てないと思うし」

 

「・・・イヤ だから俺は何も」

 

「照れるな 照れるな」

 

「別に照れてないですよ」

 

「そう言えば 先ほど 魔法大学から『能動空中機雷』を『インデックス』に正式に採用したいと」

 

「それ 本当!」

 

「凄い事になったな ウチからそんな話が出るのは初めてだよな」

 

インデックス 正式名称 『国立魔法大学編纂・魔法大全・固有名称インデックス』 魔法の固有名称一覧表である インデックスに採用されると云う事は新魔法として採用されることである 研究者を目指す者にとっては名誉な事だが

 

「あんな遊び半分で作った物が採用されるんですか?」

 

「遊び半分って・・・」

 

「だって実戦で使えなきゃ遊びと同じでしょ」

 

「辞退するんですか?」

 

「まぁ 俺が使える魔法じゃないですし」

 

「使えない? じゃあ 今まで どうやって作動確認してたんだ?」

 

「正確には発動までに時間が掛かり過ぎるんですけど」

 

「『インデックス』に名前が載る事はとても名誉なことよ」

 

「『インデックス』に名を連ねる事だけが名誉とはとても思えないんですけど、 どうしてもと言うなら開発者名は 北山雫で」

 

「ダメだよ アレは 達也さんのオリジナルでしょ!」

 

「別に開発者名に最初の使用者の名前が載るのは珍しくない」

 

「やだよ それじゃ 私が達也さんの成果を奪ったみたいじゃない」

 

「兎に角 俺は御免だ」

 

「私だって御免だよ」

 

いきなりの喧嘩 普段余り感情を表に出さない二人が珍しくヒートアップする

そして 言い争う二人の顔が徐々に近づいていた時 深雪とほのかが戻ってきた

天幕に戻って直ぐに目に入って来た衝撃の光景に言葉が続かない

 

「あの~会長 雫達はいますか? 記者の方々がインタビューをしたいと・・・」

 

「・・・ちょ!何してるのよ 雫 ず ずるい!」

 

「何をしてるんですか? お兄様?」

 

ここまでの経緯を知らない二人 これ以上ややこしくしない為に 達也は鈴音の持っていた申請書を奪い取り 雫の名前を書いた

 

「あ! 達也さん ずるい!」

 

「悪いな雫 諦めろ」

 

「む~」

 

「じゃあ 今度 何かおごってやるよ」

 

「私 お金やモノで釣られる程 安い女じゃないよ!」

 

深雪とほのかは何がなんだか分からない

 

「はい! この話はこれでお終い 達也君 他の競技も頼むわよ」

 

「ほら お前達も 早く インタビューを済ませてこい」

 

「分かりました」

 

 

その頃 九校戦 宿舎内 一室

 

大会委員会から割り当てられた一室を会議室として三校生が利用していた

その部屋の空気は重い

 

「まさか 一校に上位を独占されるなんて 先輩達になに言われるか」

 

「『スピード・シューティング』は 男女共にウチが優勝できたはずだろ」

 

「折角 男子は吉祥寺が優勝したのに」

 

「でも 十七夜さんだって優勝は狙えてたわよ」

 

「けどよ~」

 

「一校の女子のレベルはそこまで高い訳じゃない」

 

「優勝した北山選手は兎も角 三位の滝川選手は明らかに十七夜より下だ」

 

「だから どうして負けるんだ」

 

「選手は問題じゃない 問題なのはエンジニアだ」

 

「十七夜さんは作戦 負けしたんだよ」 

 

「吉祥寺君がいたら勝てたのにね」

 

「それは 分からない」

 

「どうして?」

 

「試合の映像を見たけど 僕も相手の作戦に引っ掛かってたと思う」

 

「そんなに頭の切れる奴なのか?」

 

「技術者としても 一流だよ」

 

「ジョージは流石に気付いたか?」

 

「うん 北山選手のCAD アレは汎用型だったね」

 

「汎用型? だって アレには照準補助が」

 

「特化型の補助システムを汎用型に繋げるなんて」

 

「あるんだよ そう云う技術が」

 

「去年の夏 デュッセルドルフで発表されていた」

 

「去年の夏? そんなモノがもう実用化されてるのか?」

 

「でも 発表された物は 単純に繋げただけ。今回の様に特化型に劣らない速度と精度

そして 系統の違う起動式を処理する汎用型の長所を兼ね備えた物じゃなかった。十七夜さんの作戦は北山選手のCADが特化型だっと思って立てた作戦だった。相手のCADが汎用型なら意味がない」

 

「一校の担当エンジニア 司波達也 彼は間違いなく 天才だ 今後 彼の動きには他校も関係者も注目するだろう」

 

「天才ねぇ~果たしてそんな言葉で片付けられるか? アレは一種のバケモノだ。彼が担当する競技は今後も苦戦するだろう」

 

「お前等がそんなに言う程か・・・」

 

 

午後 新人戦 女子『バトル・ボード』予選会場

 

一校代表は最終レースにほのかが出場する 担当エンジニアは あずさ 試合前に達也は深雪と雫を連れほのかに会いに来た

 

「達也さん 来てくれたんですね」

 

「あぁ 見に来るって約束だったし」

 

「私 絶対 勝ちますから」

 

「大丈夫だよ ほのかなら 作戦もあるし」

 

達也は会場席に移動した エンジニアのあずさもいる

 

「あの 司波君 光井さんのCADを調整して思ったんですけど どうして光井さんは光学系の起動式を沢山用意してるんですか?」

 

「勿論 試合の為です ルール上 他の選手に魔法で干渉する事は禁止されてます

 けど水面への干渉は違反じゃないですから」

 

試合が始まり 選手達は一斉に飛び出そうとしたが

 

「きゃ~」

 

開始早々に水面に仕掛けた ほのかの光学系魔法に他校の選手は混乱する

その隙に ほのかが 飛び出す この光景に実況者達は

 

「水面に光学系魔法を仕掛けたんですね」

 

「光井選手以外は視界が回復せず 中々 速度がでませんね~」

 

「素晴らしい 作戦ですね」

 

その後 ほのかは逃げ切る事ができ 予選突破が確定

 

「おめでとう ほのか」

 

「有難うございます 予選突破できたのは達也さんのおかげです」

 

九校戦 宿舎内 達也の部屋

 

達也は直ぐ部屋に入る事はしなかった 人の気配を感じたからだ

 

「コラッ! 何時だと思ってる」

 

「申し訳ありません ですが お兄様に聞きたい事があります」

 

「?」

 

「なぜ『インデックス』に名を連ねる名誉を辞退したのですか」

 

「別に『インデックス』に名を連ねる事だけが名誉では無いだろ それに 俺は 名誉なんかに興味はないよ」

 

「・・・嘘 本当は叔母様の事を気にしているのでしょう!」

 

「・・・分かってるなら聞くなよ そんな事」

 

「ッ・・・」

 

「名前が載ると云う事は 色々と調べられると云う事だ 大学の調査は甘くない 正体がバレる・・・と云う事は考え難いが それでも 俺が表に出ないのが一番いい」

 

「申し訳ありません 私の立場が弱いから お兄様に ご迷惑を 一刻も早く 四葉から自由にして 差し上げたいのですが」

 

「焦るなよ 今はまだ力が足りない 強がっても 四葉は倒せない。イヤ 四葉真夜は倒せても 他が黙っていない 今はまだ 叔母上の下にいた方がいい」

 

「私は味方です いつか自由になる日はきます。その時まで イエ その後も私だけはお兄様の味方ですから」

 

「有難う 深雪」

 

その後 暫くして 深雪を部屋に送った 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次から 真夜が出てきます


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九校戦編 中編 其の九

先に 『クラウド・ボール』の話をもって来ました


九校戦 新人戦 二日目 この日に行われるのは 『クラウド・ボール』と『アイス・ピーラーズ・ブレイク』予選

 

新人戦 女子『スピード・シューティング』で上位を独占し『インデックス』に登録される魔法を使った一校の天幕には さっきまで多くの記者がいた しかし 今はいない要するに それ以上の事があった 原因は 四葉真夜 十師族 序列一位の四葉家 現当主で 世界最強魔法師の一人に数えられる彼女が来た事

 

「おい! あの四葉真夜が来たって本当か?」

 

「あぁ どうやら本当らしい」

 

記者達は驚いていたがそれ以上に驚いたのは会場に来ていた ナンバーズや有力百家の当主達だ

 

九校戦 会場 特別室

 

そこは ナンバーズと百家しかいる事のできない特別な場所 現在は一条 一色 九島 九鬼 千代田 などの当主がいる。また七草家は弘一の代わりに智一が来ていた

当然 真夜もそこに来るわけで

 

「お久しぶりですね 皆様」

 

「これは 四葉殿 よくいらっしゃった」

 

最初に声を掛けたのは 一条家当主 剛毅 だが同じ 十師族の当主でも真夜に話し掛けづらい

 

「(まさか 四葉殿が来るとは・・・いったい なぜ? しかし弘一殿がいなくてよかった・・・ まさか 狙ったのか?)」

 

「久しぶりだな 真夜」

 

「あら 先生・・・失礼しました お久しぶりです 九島閣下」

 

「呼び方は何でも構わん しかし お前が此処に来るのは初めてではないか? いったい どう云う 風の吹き回しかね」

 

「来なかったのは 仕事の事もありますが 九校戦は中継されますし此処で見なくてもと思ってましたが 近くで見るのも悪くないかと。それにこのような機会でもないと先生や他のナンバーズ御当主に挨拶も出来ません」

 

「そうか・・・ゆっくりしていきなさい」

 

「はい 有難うございます」

 

真夜は丁寧に腰を折り 席に着く

 

一方 外ではある男が急ぎ連絡を取っていた

 

「どうした 名倉 緊急か?」

 

「左様で御座います」

 

「何事だ」

 

「四葉家 当主 四葉真夜が会場入りしました」

 

「・・・そうか 理由は?」

 

「中継ではなく 近場で見たくなったとか それと九島閣下や各当主への御挨拶だと」

 

「・・・それだけが目的ではないだろう」

 

「調べますか?」

 

「頼む 簡単ではないだろうが」

 

「分かりました」

 

「処で 昨日の新人戦はどうなった」

 

「昨日は『スピード・シューティング』男子で吉祥寺真紅郎が優勝 準優勝は森崎駿」

 

「成程 カーディナル・ジョージと森崎の者か」

 

「女子は一校が上位を独占しました」

 

「ほ~う それは珍しい それでその者達の名は?」

 

「北山雫 明智瑛美 滝川和実です」

 

「北山と云うのは・・・」

 

「あの実業家 北山潮の娘かと 滝川選手は一般ですが 明智選手はフルネームを調べた処 ゴールディーの名が」

 

「成程 ゴールディー家か」

 

「それよりも 気になる者が」

 

「誰だ?」

 

「上位三人を担当したエンジニアの司波達也 彼の作った魔法が『インデックス』に載ったのですが」

 

「ほ~う それも素晴らしい事だ ぜひとも ウチに欲しいな」

 

「どうやら只の一般ではないようで」

 

「何者だ?」

 

「分かりません」

 

「分からない? どう云う事だ」

 

「データが有りません 今 分かっているのは 妹がいる事くらいで」

 

「ちゃんと 調べたんだな」

 

「勿論です」

 

「そうか・・・何か分かればまた連絡してくれ」

 

新人戦女子 『クラウド・ボール』 会場

 

一校代表は 里見 スバル 春日 菜々美

 

「スバル 二回戦突破おめでとう」

 

「菜々美も順調みたいだね」

 

二人が喜んでいると別コートからの実況の声が聞こえる

 

「第三校高 一色愛梨選手 一つの得点も許さず準決勝進出です」

 

「流石は ナンバーズ 上がってくるか」

 

「あ! そう云えば」

 

「どうした?」

 

「私の次の相手あの人だ」

 

準々決勝 第一高校 春日菜々美VS 第三高校 一色愛梨

 

「大丈夫 何時も通りやれば勝てる」

 

「こんな処で負けられないわ」

 

菜々美は弱くなかったが壁は大きかった

 

「私の戦法が通じないなんて」

 

セット カウント 0-2

 

第三高校 一色愛梨 決勝進出

 

一方 里見 スバルは 順調に勝ち進んで

 

決勝戦 第一高校 里見 スバルVS 第三高校 一色愛梨

 

試合開始直後に激しいラリー 

 

「何か 可笑しい」

 

「僕のBS『認識阻害』スキルに戸惑っている内が勝負所だね」

 

スバルはBS魔法師である BS魔法師 通称 先天性特異魔法技能者

固有魔法以外の魔法特性が無い為に 魔法師界ではバカにされる事が多い

故に同じくBS魔法師の 小野 遥も この呼び名を嫌っている

 

「相手が何をしているかを考えても意味はないわ 

 いつも以上の速度と力で返すのみ!」

 

「!! なんてデタラメな速さだ これじゃ 全てを返せない」

 

やがて 点差が開き  

 

セット カウント 0-2

 

優勝 第三高校 一色愛梨

準優勝 里見 スバル

 

勝利者インタビュー

「優勝 おめでとうございます」

 

「有難うございます」

 

「危なげなく勝ち進めましたね」

 

「当り前です それは本戦でも同じ事です」

 

「そ そうですか・・・以上 インタビューを終わります」

 

インタビュー終了後 愛梨はこの後の予定を考えていた

 

「(まだ『アイス・ピーラーズ・ブレイク』の予選は終わってないわよね。男子の方は 一条がいるから大丈夫でしょうけど 女子の方はどうかしら? 一校からまた北山雫が出るみたいだし 栞は大丈夫かしら 午後からは司波深雪も出るのよね。それに担当エンジニアもまた司波達也が・・・司波? 司波ってもしかして・・・まぁ 今はそんな事どうでもいいわ 司波深雪の実力 私がこの眼で直接見てあげる 本戦『ミラージ・バット』で私と競い合う程の実力があるかどうか)」

 

愛梨はそのまま 新人戦 女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』を見に行く事にした

 

そこで愛梨は恐るべき深雪の力を間の当たりにする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近は 一話 三千字以内で書いています


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九校戦編 中編 其の十

中編をもう少し増やします


九校戦 新人戦 二日目 女子『クラウド・ボール』で激戦が行われている頃 

別会場では 女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』の予選が行われていた

 

一校代表は 明智瑛美 北山雫 司波深雪の三人 担当エンジニアは達也

 

女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』選手控室

 

「おはよ~ございま~す!」

 

達也が深雪を連れ控室に入るとそこには第一試合に出場するエイミィーがいた

 

「早いのね」

 

「私 早起きだから」

 

「なら 早速 CADのチェックをしてくれ」

 

「は~い」

 

暫くして

 

「流石は 司波君 ばっちりだよ」

 

「・・・」

 

達也はじっとエイミィーを見る その視線に耐えられなくなったエイミィー

 

「な 何?」

 

「お前 早起きしたんじゃなくて 眠れなかっただけだろ」

 

「うっぐ! 何よこの人 ウチの親より鋭いよ」

 

「CADのフィードバックを強めるが我慢しろよ」

 

「我慢しますからお願いします もし負けたら皆の玩具にされちゃうよ」

 

達也は無言で深雪を見る

 

「ちょ!無言はやめてください お兄様 私達は何も変な事はしてませんからね」

 

「じゃあ 行ってきます」

 

達也はエイミィーを送り出す そして

 

予選 一回戦 第一試合 勝者 明智瑛美 

 

エイミィーの次は雫の試合

 

「なぁ 雫 本当にその恰好で出るのか?」

 

「そうだけど 似合わないかな この振袖」

 

「イヤ 似合ってるしとても可愛いよ」

 

「・・・」

 

「・・・? どうした 雫」

 

「達也さん ストレート過ぎるよ」

 

これから競技と云うのになぜ 雫が振袖かと云うと この競技は唯一服装に規定がない 公序良俗に違反しなければ選手が一番気合の入る恰好と云う事で大抵の服装が許される

 

因みに エイミィーは乗馬服

 

「じゃあ 行って来る」

 

雫は新人戦『スピード・シューティング』の優勝者である

注目度はかなり高い 多くの人が観戦している

 

実況者も期待している様だ

 

「『スピード・シューティング』の優勝者はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか?」

 

「さて 今回はどんな事をするんだろうな」

 

「『スピード・シューティング』とは戦い方が違うからね」

 

一校天幕では真由美や摩利がモニターを通して観戦していた

 

試合開始直後に雫がしたことは

 

「情報強化 外部からの改変を受けにくくなる」

 

「今回は正攻法ね」

 

そう言う間に相手の氷柱が三本一気に砕ける

 

「!! 今のは?」

 

「多分 共振破壊の応用かな?」

 

振動系魔法 『共振破壊』 対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を直接かけ

固有振動数に一致した時点で出力を上げ破壊する

 

「情報強化はその為の時間稼ぎね」

 

第五試合 勝者 北山雫

 

エイミィー 雫の試合が終わり いよいよ午後から深雪の出番だ

 

控室には真由美 摩利 啓 花音が応援に来ていた

 

「緊張し過ぎるなよ 深雪」

 

「大丈夫です お兄様がいて下されば」

 

「じゃあ 行って来い」

 

「はい!」

 

「女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』を再開します」

 

このアナウンスが流れている時 女子『クラウド・ボール』で優勝した愛梨が現れた

 

「何とか間に合ったわね」

 

「愛梨 此処 空いてるわ」

 

愛梨に声を掛けたのは既に一回戦を勝ち上がった 栞だった

 

昼食を挟んだので実況者も元気である

 

「次の試合は 第一高校代表 司波深雪選手と 第四高校代表 清水綾香選手の戦いです。司波選手は負傷した渡辺選手の代役として本戦『ミラージ・バッド』に出場が決まっています この試合で司波選手の実力が明かされます」 

 

「両選手入場です」

 

深雪がステージに現れると会場が歓声に湧く

 

「流石に 驚くわよね」

 

「一瞬で会場を引き付けるとは」

 

「相手選手 完全に飲まれてるわね」

 

深雪の衣装は緋色袴

 

試合開始のブザーが鳴る そして 会場の歓声が大きくなる

 

深雪は試合開始直後 自分のエリアを極寒の冷気で 相手エリアを灼熱の蒸気で覆う

 

深雪の魔法に真由美達を始めとする一部の人間は覚えがあるようだ

 

「これは・・・氷炎地獄(インフェルノ)?」

 

「Aランク魔法?・・・新人戦だぞ これ」

 

振動系Aランク魔法 氷炎地獄 

 

対象エリアを二分し 一方の空間内は全ての振動・運動エネルギーを減速し、その余剰エネルギーをもう一方の空間に逃がす魔法 高難易度魔法でありA級魔法師を目指す者が受けるライセンス試験に出題され 多くの受験者を泣かせてきた魔法

 

「清水選手 立て直しの冷却魔法を放ちますが 全く効いていません」

 

そして 深雪が魔法を切り替えると 轟音と共に相手エリアの氷柱が全て砕ける

 

「試合終了 司波深雪選手 相手に一切の反撃を許さず完封勝利を上げました」

 

一方 男子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』の会場にも その轟音が響いた

 

「女子の方 騒がしいな」

 

「おい! 司波深雪って奴が氷炎地獄を使ったらしいぞ」

 

「それ 本当か? 氷炎地獄ってAランク魔法だろ」

 

この話は三校にも届く

 

因みに 新人戦 男子『ピーラーズ・ブレイク』の代表に一条将暉がいる

 

担当 エンジニアは吉祥寺真紅郎の様だ

 

「なぁジョージ 彼女は一般だよな」

 

「まぁ 一般の出身である魔法師がAランク魔法を使えない訳じゃないけど 一年生では本当に稀な事だよ」

 

「何者なんだろな」

 

「直ぐに 分かると思うよ ナンバーズが放ってはおかないだろうし」

 

「そうかもな」

 

「それに問題なのは 司波さんがAランク魔法を使った事じゃない」

 

「何が問題なんだ?」

 

「いくらソフト面に制限がないからってAランク魔法をプログラムするなんて」

 

「いいじゃないか 違反じゃないだろ」

 

「問題なのは彼女と担当エンジニアがAランク魔法の起動式を知っている事だよ」

 

「!! そうか 確か Aランク魔法は 特定以上のライセンス所持者にしか公開されないのか!」

 

深雪の試合は各当主達もモニターで見ていた

 

「まさか 一般出身者が Aランク魔法を成功させるとは」

 

「ふん! 偶々 だろ」

 

「皆さん 問題はそこじゃ ないと思いますが」

 

発言者はなんとこの場で最年少であろう智一 彼は真紅郎と同じ事を指摘した

 

「確かに 彼女と担当のエンジニアはなぜ知っていたのだ」

 

「これは二人を調べた方がいいかもしれん」

 

「選手は司波深雪 担当エンジニアは誰だ」

 

彼らは手元のエントリーシートに手を伸ばす

 

「司波達也・・・彼は彼女の兄妹なのか?」

 

「まぁ 名前を見る限りそうなのでしょう」

 

「なら 早速 彼らに付いて調べましょう」

 

一方  深雪の力を間の当たりにした愛梨はショックを受けていた

 

「本当に何者?」

 

「愛梨 大丈夫?」

 

「大丈夫! 私が競技で負ける訳ないじゃない」

 

「そう(競技では 負けないねぇ~)」

 

確かに どんなに強くてもルールのある競技では必ずしも強い魔法師が勝つ訳ではない しかし 今の愛梨の言葉では競技に勝てても実戦では勝てない と言っているのだが 彼女は気が付いただろうか

 

女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』会場外

 

名倉はまた弘一に連絡をとっていた

 

「あれから 何か 進展はあったか?」

 

「本日 女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』で昨日話した司波達也の妹と見られる司波深雪がAランク魔法『氷炎地獄』を成功させました」

 

「本当か?」

 

「はい! それと今回の事で二人に他のナンバーズ御当主が興味を持ったようで各家で調べるようです」

 

「そうか なら 私は会場に戻った方が良さそうだな」

 

「左様ですか お待ちしております」

 

達也と深雪はナンバースの動きを知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 中編 其の十一

中編の予定は十五まで


ナンバーズが二人を調べていた頃 深雪は大会委員会から食堂として割り当てられた場所で一校生と共に夕食を取っていた。因みに立食式だ 上級生は試合がないので気楽に食事をしているが 新人戦期間中の一年生 特に 成績不良の男子グループは空気が重い 比べて女子グループは賑やか その光景を他人事の様に達也は見ていた

 

「(適当に見繕って 部屋に戻るか)」

 

達也はテーブルに並べられた料理を適当に取ったらその場で食べず部屋で食べようとした

此処での食事は初めてではない しかし 毎回 居心地が悪かった。本戦中は『なぜ お前の様な奴が此処に・・・』と云う様な視線を上級生から向けられ新人戦 初日の昨日は 上級生の視線は無くなったが逆に一年男子からの強い視線を向けられた

 

達也が料理を取り終えた時

 

「お兄様は此方を」

 

「み 深雪?」

 

達也は深雪に依ってお皿を交換させられた。渡された お皿には 達也が適当に盛った物と違い 見ただけで栄養バランスの取れた物だと分かる

 

「お兄様 バランスを考えて食べて下さい。これ以上は許す訳には参りません」

 

「済まない」

 

「お兄様の食事管理は私の義務ですから」

 

「別に義務じゃないだろ」

 

そんなやり取りをしている二人に

 

「ねぇ 二人共そんな処じゃなくてコッチで皆と食べない?」

 

声を掛けたのは雫

 

「いいよ 俺は」

 

断った達也だが雫に無理やり引っ張られてしまう 一方の深雪は達也が嫌がる事はさせたくなかったので深雪は女子グループの真ん中に入った こうする事で達也に群がる現金な女子達を自然に遮る事が出来る 

 

女子は食事より会話が多い 勿論 内容は新人戦の結果

 

「三人共 予選突破 おめでとう」

 

「明日は決勝リーグだね」

 

「上手く行けば 『スピード・シューティング』みたいに上位独占できるんじゃない」

 

「エイミィー 二人の足 引っ張っちゃダメよ」

 

「え! ちょ 酷い」

 

「だって エイミィーの試合 凄くハラハラさせられたもん」

 

「雫は流石に落ち着いてたね 振袖可愛かったし 戦い方もクールだった」

 

「でも一番は深雪よね~ アレは凄かった」

 

「インフェルノっだっけ 皆 驚いてたね」

 

「深雪も凄いけど インフェルノをプログラムできる 司波君も凄いよね

 

『インデックス』に載るような魔法まで開発しちゃうし 尊敬しちゃうよ」

 

女子達の会話の流れが変わる

 

「はぁ~あ 私も司波君に担当して貰えれば優勝できたかもしれないのに 残念だな」

 

発言者は春日 菜々美

 

「菜々美 貴女 自分が何を言ってるか 分かってる?」

 

「・・・あ!」

 

エンジニアは達也以外 皆 上級生 菜々美は達也の担当ではない。つまり 菜々美の担当は上級生で 菜々美は自分の担当エンジニアの腕が達也より下だと言ったのだ  

 

菜々美は咄嗟に担当エンジニアを探した だが その人物には菜々美の発言は聞こえていない様だ

 

「はぁ~焦った 焦った」

 

「ナナ 自分の未熟をCADの所為にしないの」

 

「でも そう言っちゃう気持ちは分かる」

 

「そうだね 司波君の調整の御かげで調子良かったし」

 

「なんか急に魔法が上達したのかって錯覚しちゃった」

 

「ちょっと何よ 今更 皆 最初は達也さんの事 信用してなかったでしょ」

 

「だって CADの調整はある意味自分の内側をさらけ出すものだし~ でも今は司波君で良かったって思ってる」

 

「有難う 司波君」

 

「別に俺は何もしてないよ」

 

「謙遜しなくていいじゃない」

 

そんなセリフを聞いて

 

「おい いい加減にしろ」

 

「何よ アンタ達」

 

会話に割り込んだのは 男子グループ

 

「試合に勝ったのは 相手が弱かっただけで コイツの調整は関係ないだろ。

それに称賛されるのは選手だけでいいだろ エンジニアが評価されるべきじゃない」

 

「ちょっと 森崎 アンタいい加減にー」

 

「まぁ 確かに エンジニアが選手以上に称賛されるのは間違っているが、流石に全力でサポートしてくれた先輩に失礼だろ」

 

「俺が言いたいのは お前が調整しても結果は変わらなかったと云う事だ。

 見てろよ お前の調整なしでも『モノリス・コード』は必ず僕達が優勝してやる」

 

「無理だな」

 

「何だと ふざけるな お前が決めるな」

 

「ちょっと 達也君 折角の意気込みに水を指さないの」

 

「じゃあ 会長は本気でコイツ等が優勝できると思ってるんですか。新人戦の『モノリス・コード』で優勝すると云う事は一条将輝を相手に勝つと云う事ですよ」

 

「そ それは・・・」

 

「黙れ!お前みたいな奴に何が分かる」

 

「分かるさ 俺でも お前達が一条に勝てない事ぐらいは、分かる。今年は三校に当たった時点で終わりだよ」

 

「お前が決めつけるな」

 

「強がるなよ 森崎 安心しろ 一条に負けても誰も責める奴はいないさ」

 

「ッ・・・お前みたいな出来損ないが 僕を見下すな!」

 

「事実を言っただけだろ 相手と自分の力量の差くらい分れよ。そんなに俺の言葉が気に喰わないなら 少し言い方を変えてやる」

 

「達也君 もう その辺に」

 

険悪な空気に成るのを恐れ止めようとした真由美だが

 

「今の一条に勝てる奴は 一校にはいない・・・ どうだ 少しは気が晴れたか?」

 

「おい! 一年 どう云う意味だ」

 

今度は上級生が口を挟む

 

「言葉通りの意味ですが まさか 先輩達も勝てると思ってるんですか?」

 

「なぜ 俺達が一年なんかに負けるんだ」

 

「彼は実際の戦場で魔法を使って人を殺してます。先輩は魔法で人を殺した事がありますか」

 

「ッ・・・それは でも それがどうした」

 

「魔法の発動に躊躇しない その経験が 差として出ます」

 

「なぁ 達也君 さっきの言葉は私達もかい?」

 

「そうですよ 言ったでしょ 今の一校に一条に勝てる奴はいない。 それは 委員長も 会長も 会頭も含めてです」

 

「なぜ そう言える」

 

「まず一条は中距離からの砲撃が得意なので近接戦闘になれた委員長では相性が悪い。

間合いに入る前にやられるでしょう」

 

「なら 真由美は?」

 

「会長は射撃が得意でも攻撃力に欠けますね」

 

「なら十文字は?」

 

「決め手に欠けるかと」

 

「『ファランクス』を使えば」

 

「防御力で勝てても反撃できなきゃ意味無いでしょう」

 

「森崎の『クイックドロウ』は?」

 

「『クイックドロウ』なんかで勝てませんよ 現に『スピード・シューティング』で

吉祥寺に負けてます 吉祥寺に負けてるのに一条まで相手にして勝てる訳ないでしょ」

 

「・・・っ クソっ 不愉快だ」

 

森崎はそう言って 出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




森崎との口論に一体 何文字使っただろう


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九校戦編 中編 其の十二

ほのかの説明が分かりずらくてごめんなさい 


一校が食事をしている頃 横浜中華街のとある場所で行われていた会議の空気は重かった

 

「どう云う事だ 新人戦は三校が有利な筈だろ」

 

「折角 渡辺とか云う選手を棄権に追い込んだのに」

 

「このままでは一高校が優勝してしまう」

 

「本命が優勝したのでは意味がないぞ」

 

「今回の計画を失敗させる訳には・・・」

 

「失敗すれば 全員 本部の粛清対象だ」

 

「早急に手を打たねば」

 

彼らの協議はそれから暫く続いた

 

一方 深雪達は夕食を終え 部屋に帰る処だ 会場では料理の取り換えが行われている 

残念ながらいつまでもいる事はできない。その会場は他校も使うのだから 

次に一校と同じ会場を使うのは三校だった

 

「あら 一校の皆さん 今晩は」

 

「貴方達は三校の・・・」

 

「入れ違いに成らなくて良かったわ」

 

「私達に何か 御用でしたか?」

 

「えぇ 司波深雪さん 貴女に お詫びしたかった」

 

「お詫び? 私にですか?」

 

「私は初対面で 貴女を侮った発言をした。でも、今日の試合を見てそれは間違っていたと分かりました。家柄だけで貴女を判断してしまい申し訳有りません」

 

「・・・それは 仕方ないかと 事実ですし」

 

「深雪さん 貴女は強い でも だからこそ 貴女に勝つ事に価値がある。私はもう油断はしないわ 次は本戦『ミラージ・バッド』の決勝で会いましょう」

 

「フフッ 分かりました 私も決勝でお待ちしています」

 

 

夕食後 七草家の動き

 

真由美は夕食後 弘一に呼び出されていた

 

「あの 何でしょう 私も 忙しいんですが」

 

「すまん ちょっと 聞きたい事があってね」

 

「聞きたい事?」

 

「司波深雪さんの事だよ」

 

「・・・そうですか」

 

「真由美は何処まで知っている」

 

「どこまでって・・・」

 

「彼女は一般なのか?」

 

「そう 聞いてますけど」

 

「兄妹は?」

 

「お兄さんが一人」

 

「それは 担当エンジニアの司波達也君か?」

 

「そうですけど」

 

「ご両親は何をされている?」

 

「はぁ~随分 熱心ですね」

 

「あれだけの才能だ 興味を持たん者などいないだろう 現に私以外のナンバーズ当主も二人の情報収集に動いている」

 

「そうですか」

 

「しかし 誰が二人の事を調べても 行きつく結果は同じだろうな」

 

「?・・・どう云う意味でしょう」

 

「無いんだよ 二人のデータが どれだけ 調べても 二人のデータには碌な事が書いていない普通なら 有り得ない事だ」

 

「・・・それは 本当の事ですか?」

 

「そうだ この事は直ぐに 問題になる。二人は一体何者なのか。だから 私は 二人の事を少しは知ってるだろう真由美に聞く事にしたんだ」

 

「そうですか・・・ですが 私も 二人の事は余り知りません。二人共 自分の事を話しませんから」

 

「そうか なら 今日はもう いい」

 

夕食後 四葉家の動き

 

深雪は達也の部屋にいた そこに 真夜からの連絡が

 

「今晩は 二人共」

 

「どうされたのですか?」

 

「深雪 今日の試合は素晴らしかったわ ナンバーズの皆さん 驚いてたわよ」

 

「そうですか・・・有難うございます」

 

「でもね~皆さん 貴女達の事 調べるって」

 

「大丈夫なのですか?」

 

「心配しないの 上手くやっておくから」

 

「お手数を御掛けしてしまい申し訳有りません」

 

「いいのよ じゃあ 明日も頑張りなさい」

 

「はい」

 

「じゃあ 二人共 お休みなさい」

 

「お休みなさいませ 叔母様」

 

 

新人戦三日目 この日は 新人戦『アイス・ピーラーズ・ブレイク』と『バトル・ボード』の優勝者が決まる

 

 

 午前 新人戦 女子『バトル・ボード』決勝会場 

 

この試合で 優勝者が決まる ほのかは珍しく 緊張していない

 

「(大丈夫 私には達也さんが考えてくれた秘策がある)」

 

一方 応援席のエリカ達は

 

「なんか異様じゃない 選手全員 ゴーグルを掛けるなんて」

 

「幻惑魔法対策としては有効だと思うけど」

 

「でも 光井は 予選以来 あの戦法はとってないぜ」

 

「そうだけど もしもの時の為に警戒しない訳にはいかないと思うよ」

 

「いや~ でもさ~」

 

「何が不満なんだい?」

 

「これって 達也君の思うツボだよ」

 

「いいじゃないか それなら 本当に達也の思うツボなら光井さんの優勝は決まった様なものじゃないかな」

 

レースが始まる 出遅れたほのかは 他の選手を追いかける。そして 最初のカーブでほのかはあっさりと他の選手を抜いてしまう

 

「何だ今の」

 

「コースに影が落ちたように見えたけど」

 

「そうか 分かった」

 

「ほのかさんは いったい 何を?」

 

「水路に明暗を作り相手選手に水路の幅を誤魔化してスピードを出させない様にしてるんだ」

 

相手選手達はコースの中央を滑るのにほのかは時折 端を滑る

 

「暗い面・・・って事は つまり壁際 スピードを間違えるとぶつかっちまうしな」

 

「この間の事もあって カーブなら余計に慎重に成っちゃうか」

 

カーブの度に他の選手とほのかの差が開いて行く。そしてほのかの優勝が決まった

 

新人戦 女子 『アイス・ピーラーズ・ブレイク』決勝リーグ

 

「栞・・・その 大丈夫?」

 

「昨日ほどショックは大きくないわ」

 

十七夜 栞 は決勝リーグに進んだが 明智瑛美との試合に僅差で負けてしまう

 

「北山選手にリベンジしたかったけど もう一人ライバルが増えちゃった」

 

「来年は頑張らないとね」

 

「えぇ 勿論よ」

 

午後 一校 会議室

 

「皆さんの御かげで一校が決勝リーグを独占する事になりました 皆さん お疲れさまでした」

 

「有難うございます」

 

「この件にに対し大会委員から提案がありました。既にこの時点でウチに与えられるポイントは順位に関わらず同じだから三人を同率優勝にしないかと 判断は貴方達に任せるけど 達也君はどう思う?」

 

「明智さんは さっきの十七夜選手との試合でサイオンの消費が激しいのでこれ以上は」

 

「司波君の言う通りです 私は棄権で構いません」

 

「じゃあ 北山さんはどうしますか?」

 

「私は戦いたいです 深雪と競えるこのチャンスを逃したくないです」

 

「北山さんはこう言ってるけど」

 

真由美はそう言って 深雪を見る

 

「雫が 私と戦う事を望むのを 私が断る理由は有りません」

 

「分りました。明智さんは棄権 決勝は北山さんと司波さんね」

 

二人の戦いの幕が上がる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




色々ご不満だと思いますがオリジナル設定と展開って
事で ご容赦下さい


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九校戦編 中編 其の十三

新人戦 女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』決勝前 

会場に向かう途中 達也と深雪の前に来客があった

 

「第三高校 一年 一条将輝だ」

 

「同じく第三高校 一年の吉祥寺真紅郎です」

 

「第一高校 一年 司波達也だ・・・しかし こんな処に『クリムゾン・プリンス』

と『カーディナル・ジョージ』が何の用だ」

 

「俺だけじゃなく ジョージの事も知っているのか」

 

「同世代なら常識だと思うが・・・さて 此方の質問に答えてくれないか」

 

「顔を見に来ました 九校戦始まって以来の天才と云われる兄妹のね。昨日はタイミングを逃しまったので、試合前に失礼かとは思いましたが 此方も時間が取れなさそうなので 」

 

「成程・・・深雪 先に行ってろ」

 

「はい」

 

「・・・お前達も決勝があるんだろ?」

 

「では 最後に」

 

「何だ?」

 

「僕達は明日の『モノリス・コード』に出場します。君はどうなんですか?」

 

「そっちは担当しない」

 

「そうですか 残念です。いずれ君の担当した選手と戦ってみたいものですね。勿論 勝つのは僕達ですが」

 

「勝手にしろ それと俺が調整したCADを使ってもお前達を相手に勝てる奴はいないだろ」

 

「・・・フフッ そうですか」

 

「時間を取らせたな 司波達也 次の機会を楽しみにしている」

 

選手控室

 

「すまん 待ったか?」

 

「構いませんよ お兄様」

 

「しかし アイツ等 今更 何しに来たんだ? 偵察にしては少し遅い気がするが」

 

「何を言ってるんです。 宣戦布告に決まってるじゃないですか」

 

「あの二人が俺なんかに興味を持つとは思えないんだが」

 

「はぁ~ 昨日 叔母様から言われたではありませんか。ナンバーズは既に動いているんです。いい加減にして下さい。自己評価が低すぎるのは良くありません。お兄様と私は警戒されているんです」

 

アイス・ピーラーズ・ブレイク』決勝 会場

 

第一高校 北山雫 VS 第一高校 司波深雪

 

エリカ達は余りの観戦者の多さに驚いていた

 

「流石に 観客 多いわね」

 

「仕方ありませんよ 深雪さんと雫さんの戦いですもの」

 

一方の達也はエリカ達とは離れた場所で真由美と摩利と共に観戦していた

 

「しかし 観戦者が多いな これじゃ 男子の方は がら空きじゃないのか?」

 

「ねぇ なんだか 関係者が多くない?」

 

「仕方ないだろ あんなもの 見せられれば 中継ではなく近くで見たいと思うのも仕方ないさ」

 

「ねぇ 達也君 この決勝戦 本当は深雪さんに付きたかったんじゃないの?」

 

「そうですね」

 

「・・・何だ? イヤにあっさり認めるんだな」

 

「・・・達也君 シスターコンプレックスって言葉の意味わかる?」

 

「なぜ 身内を応援するのがシスコンになるんですか?」

 

「・・・どうするの摩利 この子 開き直ったわよ」

 

「これは もう手遅れだ 私達には治せないな」

 

試合開始のアナウンスが流れる

 

「只今より 新人戦 女子『アイス・ピーラーズ・ブレイク』の決勝戦を行います」

 

注目の高さもあり実況にも力が入る

 

「さぁ これより決勝戦が始まります 予選と変わらず 圧倒的な魔法力で司波選手が北山選手を退けるか。それとも 北山選手が『スピード・シューティング』に続きこの競技も優勝するのか。それでは 両選手の登場です」

 

そして 決勝開始のブザーが鳴る

 

開始直後に雫の陣を深雪の『氷炎地獄』により発する熱波が襲う

 

「やっぱり凄い Aランク魔法をこんなに何度も成功させるなんて」

 

「これは 司波深雪の圧勝か?」

 

しかし 雫の氷柱は持ちこたえていた

 

「(そう簡単には壊れないよ)」

 

「北山選手 『情報強化』で氷柱の温度改変を阻止しています」

 

「(それだけじゃないよ)」

 

雫は次の行動に移る

 

「共振破壊か!」

 

「でも 深雪さんのエリアではすべての運動が減速してしまう」

 

会場は二人が見せる一見ハイレベルな攻防に魅了される

 

「互角の勝負と言った処でしょうか?これはどちらが勝っても可笑しくありませんね」

 

雫はこの発言に呆れていた

 

「(互角・・・どこが? コッチが圧倒的に不利なのに・・・ッ 氷柱の表面が溶け出してる)」

 

雫の使う『情報強化』は氷柱の温度改変には有効でも『氷炎地獄』で発生した熱波は防げない このままではいずれ 氷柱が崩れてしまう

 

「(仕方ない)」

 

雫の次の対策に誰もが驚く 雫は右腕を大きく空に向かい振り上げた そして その反動で振袖の袖口から舞い上がる 何かをタイミング良くキャッチする それは

 

「!! 二つ目のCAD?」

 

「まさかCADの同時操作ができるのか?」

 

「大丈夫なのか? 失敗すれば終わりだ」

 

雫の魔法が発動する そして発動魔法に更に驚く

 

「!! フォノン・メーザー!」

 

フォノン・メーザー 超音波の振動数を上げ量子化して熱戦とする高等魔法

 

「司波選手の氷柱が初めて崩れた」

 

「CADの同時操作 しかも 高等魔法の『フォノン・メーザー』を成功させるとは

これは大変素晴らしい 北山選手の実力の高さが覗えます」

 

「司波選手はどうするのでしょうか?」

 

深雪は雫の魔法を見て 驚いたのは ほんの僅か イヤ 一瞬だった。

深雪は魔法を切り替えた 

 

「今度はフィールド全体に氷の霧・・・? まさか『ニブルヘイム』か?」

 

ニブル・ヘイム 振動 減速系の高等魔法

領域内の物質を均質に冷却する領域魔法

 

そして深雪が再度『氷炎地獄』に切り替える

 

急激な温度変化に耐えられず 雫の氷柱が全て一気に消え去った

 

深雪の優勝が決まる

 

勝利者インタビューでは多くの記者が深雪に群がる。深雪は多くを語らなかった

 

特別会議室

 

あれから深雪の件もあり 人数が少し増えていた しかし それでも 全員集合ではない 

 

「『氷炎地獄』に続き『ニブルヘイム』まで成功させるとは いったい 何者なのだ 司波深雪」

 

「これだけの家が調べていると云うのに」

 

「もはや 一般で無いのは事実」

 

「しかし いったい 誰が データの改ざんなど」

 

「データの改ざんは簡単に出来るモノではない」

 

「出来るとすれば 相当な権力者だぞ」

 

「しかし 改ざんの理由は何でしょう?」

 

「分からない事ばかりだな」

 

「兎に角 これ以上の二人の活躍は困るな」

 

「彼らは世間的には一般扱い。その一般の活躍が過ぎるとナンバーズの価値が下がる」

 

「まさか 二人の後ろにいる権力者の狙いは我々ナンバーズの価値を下げる事では?」

 

「二人の後ろにいる権力者は何者だ?」

 

「ナンバーズの価値を下げるのが目的なら それは我等ナンバーズに恨みがある者だ」

 

「だと すれば 非魔法師か? それとも国防軍? イヤ 古式魔法師か?」

 

「あの兄妹は 我々ナンバーズへの当て付けか?」

 

「この先 どうしましょう」

 

「やはり 圧倒的な力と才能を 見せつけるべきでしょう?」

 

「確か 司波深雪は 本戦の『ミラージ・バット』に出るのでしたね」

 

「それで?」

 

「一色殿のご令嬢も一年生ながら 本戦に出るのでしょう?そこで 一色のご令嬢が司波深雪に勝てば 彼らの目論見はそこで終わりだ」

 

「成程 それでは お願いできますかな? 一色殿」

 

「勿論 ウチの娘なら 簡単でしょう」

 

勝手に盛り上がるナンバーズ当主達 その光景を 真夜は笑いを堪えながら見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 中編 其の十四

お気に入りが150超えました 有難うございます


新人戦 四日目 行われるのは『ミラージ・バット』と『モノリス・コード』予選

達也は『ミラージ・バット』で ほのか スバルの担当

『モノリス・コード』は一校代表として森崎を始め三人が出場

 

『ミラージ・バット』会場 選手控室

 

達也はスバルのCADの最終チェックをしていた

 

「いい加減 慣れなよ」

 

「そうは言われても」

 

先ほどから達也は他校の出場選手と担当エンジニアの視線を感じていた

 

「警戒されているんだよ 天才エンジニアがどんな人物か」

 

そこに予選開始のアナウンスが流れる

 

「これより 新人戦『ミラージ・バット』の予選 第一試合を行います」

 

「じゃあ 行ってくるよ」

 

「(見た目とは違って 飛び続ける負担は大きいその負担をどれだけ減らせるか エンジニアの腕の見せ処だな)」

 

『ミラージ・バット』予選 第一高校 里見スバル 光井ほのか 予選突破

 

「(良かった 二人共 無事に予選突破できたな 決勝は夕方か)」

 

一校天幕

 

達也は担当選手の二人が予選を通過 次の決勝まで時間ができたので 達也は天幕に『モノリス・コード』の進捗状況を確認しに向かう。しかし なぜか天幕内は大騒ぎ

 

「あ! お兄様」

 

「いったい何の騒ぎだ」

 

「えっと その『モノリス・コード』で事故がありまして」

 

「事故じゃなくて四校のオーバーアタックだよ」

 

「ちょ! 雫 今の段階でそんな事 言わないの!」

 

「何が あったんだ」

 

「二試合目 市街地ステージだったんだけど ビル内で破城槌を受けちゃって 瓦礫の下敷きに・・・」

 

破城槌 天井などの面に対し強い加重が掛かった状態にする魔法

 

「それで 森崎達の容体は?」

 

「重傷よ」

 

「破城槌は本来 殺傷性Cランク だがそれを屋内で使えばAランクに格上げされる しかし なぜ 破城槌を三人共 受けるんです?」

 

「破城槌を受けたのは 試合開始直後だよ」

 

「何!」

 

「破城槌を三人に当てるには試合開始前に索敵しなきゃ無理使う魔法は兎も角 四校のフライングは間違いないよ」

 

「大会委員も大慌てですね。これじゃ『モノリス・コード』はこれで終わりだな」

 

「確かに中止の意見も出たけど 結局 今も ウチと四校を除いて 続行中よ」

 

「しかし これじゃ 総合優勝も難しいんじゃないですか? 新人戦は本戦の得点の半分ですけど 影響が全くない訳じゃないし」

 

「それに関しては十文字君が折衝中よ」

 

「代役を出場させるんですか?」

 

「大会委員が認めればね」

 

「そんなに総合優勝がしたいんですか」

 

「そりゃ 達也君にとっては思い入れがないだろうけど私達にとっては最後の九校戦だし 折角 ここまで来たんだもの」

 

「まぁ 俺には関係ない事ですけど」

 

「処で達也君 ちょっと相談があるんだけど」

 

そう言って 天幕にある部屋の一つを指さす 二人は部屋の中に消える

 

真由美は部屋に入ると遮音障壁を張る

 

「早速だけど今回のー」

 

達也は真由美の言葉を遮る

 

「今回の件が『バトル・ボード』と同じで何者かの妨害があったかどうかですか?」

 

「摩利の件で達也君はCADに細工された可能性を示唆しれたけど 今回の件 四校は破城槌なんか入れてないって言ってる」

 

「まぁ 入れる必要もないでしょう。恐らく 気が付かない内にCADを弄られたんでしょう」

 

「七校もあれから黙ったままだし」

 

「七校も四校も利用されたんですよ」

 

「・・・ウチが狙われるとしても目的は何かな? 春の一件の報復かな」

 

「春の一件ではないですよ」

 

「なぜ そう言えるの?」

 

「実は開幕日に武装した三人がホテルに侵入したんです。俺も偶々近くにいて そいつ等を捕まえる協力を」

 

「!! それ本当?」

 

「ウチにちょっかいだしてるのは彼らが所属する組織でしょう。なんでも香港系の犯罪シンジゲートらしいです」

 

「そう・・・教えてくれて有難う」

 

「分かってると思いますけど この事は他言無用ですよ」

 

「分かってるわよ 達也君も危ない事に首を突っ込まないようにね」

 

「俺だって好きでした事じゃないですから」

 

横浜中華街 とある会議室

 

「首尾はどうだ」

 

「予定通り一校は棄権だろう」

 

「新人戦とはいえ 得点に響く」

 

「これで一校の優勝はないだろう」

 

七月九日 午後 『ミラージ・バット』決勝

 

選手控室

 

「さて 決勝とはいえ 戦い方は変わらない。気力で勝負・・・なんてのはバカのやる事だ ペース配分を守れば二人で 1・2・フィニッシュはいただきだ」

 

「はい! 分かりました 達也さん 絶対優勝してきます」

 

「じゃあ そろそろ 行こうか? ほのか」

 

「じゃあ 行って来い 二人共」

 

試合開始直後からほのかとスバルは得点を稼いでいた他の選手は常に出遅れている

 

「まただ また 一校が早い」

 

各校 使うCADのハード面は同じである だが それでも差がある ハード面が同じである以上 差が付くのはソフト面 

 

会場では 中条あずさも 達也の調整したCADの性能に驚いていた彼女はエンジニアであるが本戦が主な担当であり 今日はフリー。大抵の生徒は『モノリス・コード』を観戦するが あずさは『ミラージ・バット』を観戦している

 

「(起動式が小さいから処理速度が早いんだ)」

 

あずさは 達也と同じ一校生だから達也の見せる技術に関心する余裕があるが他校はそうではない。同じ高校生しかも三校以外エンジニアは基本一年ではない。年下に此処までの差を見せつけられて穏やかではいられない

 

「どうして 此処まで 差が付くんだ」

 

「なぜ あんな小さな起動式で あそこまでの複雑な動きが出来る」

 

「一校の担当は同じ高校生のしかも一年なのに 別に俺達はトーラス・シルバーみたいなプロと勝負してるわけじゃないんだぞ」

 

あずさはこの発言に苦笑いである

 

「(まぁ 司波君はトーラス・シルバーじゃなくて弟子だけど。でも 弟子があれだけできるなら 本物は恪が違うんだろうなぁ~。私も親がFLTの関係者なら司波君みたい色々教えて貰えたかな?やっぱり 本物に会いたいな~どんな人かな? 司波君はあんな人呼ばわりしてたけど)」

 

あずさはいつかの会話を思い出す

 

「司波君 トーラス・シルバーがどんな人か教えて下さいよ」

 

「なんで あんな人の事 気にするんです?」

 

「教えて 下さいよ」

 

「イヤ あんな人の事 知っても・・・」

 

「もう! お兄様あんな人 呼ばわりしないで下さい」

 

「(そう言えば 司波君 あの時 深雪さんに怒られてたな~。でも深雪さんが司波君以外の事で怒るなんて珍しい・・・アレ? そう言えば なんであの時 深雪さん 怒ったの?別に司波君がバカにされた訳じゃないのに むしろ 司波君がトーラス・シルバーをバカにしたんじゃ・・・)」

 

あずさはあの時の深雪の対応が今になって気になった

 

「(深雪さんは普段は怒らない 怒る時は決まって司波君がバカにされた時なのに

なんで シルバーの為に怒ったの? )」

 

あずさは改めて司波深雪に付いて考える

 

「(深雪さんは 容姿端麗 成績優秀 非の打ち処のない人・・・一点を除けば

彼女は基本 司波達也をバカにする者を 認めない者を許さない。じゃあ 本人が 司波君が自分を認めない時はどうするの? 怒るの?あの時 怒ったのは シルバーに対して?・・・それとも)」

 

あずさの思考回路が混乱してきた

 

「でもあの時 もし 深雪さんが シルバーの為に怒ってないなら・・・司波君がシルバーって事になるんじゃ・・・イヤイヤ それは・・・」

 

あずさは益々分からなくなる

 

「(はぁ~なんで 私こんな事で悩んでるんだろ シルバーがプロフィールを公開してれば・・・アレ! なんで公開してないの?出来ない理由があるから?」

 

あずさが新たな問題に直面していると

 

「クソッ~ 相手が最初から シルバーなら此処まで対抗意識を燃やさないのに」

 

と云う他校のエンジニアの声が聞こえる

 

「最初からシルバーなら?・・・ 最初から司波君がシルバーだと考えたら・・・」

 

あずさはまた考え込む そして

 

「もし 司波君が シルバーなら これまで 彼が見せた技術に納得できちゃう。

完全マニュアル調整も 最新技術の応用も 『氷炎地獄』を始めとする一般には

知られていない起動式のインストールが出来た事も」

 

あずさがこの仮説に辿り着いた時 『ミラージ・バット』の優勝者が決まった

 

優勝 第一高校 光井ほのか

準優勝 第一高校 里見スバル

 

「司波君が トーラス・シルバー? イヤ まさか でも・・・」

 

あずさには確証がないので答えは出せない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あずさの処 変な文章にはなってないと思うけど 


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九校戦編 中編 其の十五

次からは後編になります


新人戦『ミラージ・バット』は 見事 一校代表 光井ほのかの優勝が決まった

同じ代表の里見スバルの準優勝と云うおまけ付きで

 

しかし その一方で新人戦『モノリス・コード』の代表チームが負傷し棄権する羽目に

ルール上 代役は認められない 新人戦の獲得ポイントは本戦の半分だが総合優勝を目指す一校にとっては大問題である

 

達也は新人戦『ミラージ・バット』終了後 会場を後にする。ほのかとスバルと別れた後部屋に戻ろうとしたが 真由美に呼び止められた

 

「疲れてるとこ 悪いけど ちょっといいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「大事な話があるから会議室まで来て欲しいの」

 

「・・・分かりました」

 

急遽 真由美に連れられた会議室 集まっていたのは今回の九校戦 一校関係者 全員 

相変わらず 一年男子は達也に対して敵意がある勿論 一部の上級生にも

 

「達也君 今日もご苦労様でした お陰で今日もウチが新人戦で一位です」

 

「労いの言葉なら俺じゃなくて 選手に言うべきでは?」

 

「はあ~ いい加減にしろ 謙遜するのが悪いとは言わんが やり過ぎは良くないぞ。君の功績は既に多くの者に認めているんだ」

 

「・・・そうでしょうか?」

 

達也の目線の先には達也を認めていない者達 彼らの達也に向ける視線は相変わらずだが 達也が気にすることはない

 

「・・・それで 話とは?」

 

「さっきも言ったげど現在 新人戦はウチが一位 そして二位が三校でその差50ポイント。このまま『モノリス・コード』を棄権しても新人戦は準優勝できると思うの。新人戦が始まる前はそれで十分かなって思ってたけど此処まで来たら 新人戦も優勝を目指したいの」

 

「・・・会長は自分が何 言ってるか分かってます?新人戦はもう終わりですよ。ウチは『モノリス・コード』は棄権だし ルール上 代役も立てられないんですから」

 

「それが・・・明日 急遽 十文字君の交渉のお陰で代役チームでスケジュールを変更して予選を行える事になりました」

 

「・・・話と云うのは 俺に代役チームのCADの調整をしろって事ですか?」

 

「そうじゃないわ」

 

「当り前だ 勘違いするのもいい加減にしろ! お前みたいな奴に大事な競技のCADの調整を任せる訳ないだろ」

 

達也の早とちりに一年男子が反応するが

 

「おい 静かにしろ 話が進まん」

 

摩利に怒鳴られる

 

「達也君は三校の代表に一条君と吉祥寺君が出るのは知ってる?」

 

「えぇ 勿論 流石に 知らない人はいないでしょう。それに 俺は本人達から直接 聴かされましたから」

 

「そうなの?」

 

この発言に皆が驚く あの二人に声を掛けられる事の意味が分からない者はいない

 

「彼等は必ず決勝に出てくるでしょう。新人戦優勝を目指すと云う事は彼等に勝つ事も念頭に置かなきゃいけないわ。でも簡単じゃない。ウチもそれなりの相手をぶつけなきゃいけない」

 

真由美の視線は相変わらず達也に固定されている

 

「だから 達也君 負傷した森崎君達の代わりに出てくれませんか?」

 

この真由美の言葉に特に驚いたのは一年男子 彼らは真由美の話を聞いて

もしかしたら 代役に・・・と考えていたから

 

「会長! なぜ コイツが選ばれるんですか?」

 

「会長 いくらコイツが認められてるからって・・・コイツが認められてるのは

あくまでエンジニアとしてです。『モノリス・コード』の代役は務まりませんよ」

 

反対意見が多い。 何より達也も唖然としている

 

「・・・なぜ 俺 なんです?」

 

「達也君が相応しいと思ったからよ」

 

「納得してない者もいるようですが?」

 

「お前が他人の評価を気にするのか?」

 

「そんな事は気にしませんよ コイツ等を気に掛ける価値はありませんし」

 

「なっ! お前 調子に乗るのもいい加減にー」

 

「静かにしろ それと君も煽り過ぎだ」

 

「それじゃあ 改めて聴くけど 出てくれますか?」

 

「お断りします」

 

「ど どうして?」

 

「俺にとって九校戦の結果はどうでもいい事です。そんなどうでもいい事の為に頑張ろうだなんて思いませんよ」

 

「どうでもいいだと! 何を言ってるんだ お前!ウチは三連覇が懸かってー」

 

「だから それがどうでもいいって言ってるんです。俺には何処が優勝しても関係のない事ですから」

 

「それは 達也君には関係ないかもしれないけど そこを なんとか お願いできませんか?」

 

「俺じゃなくてもいいでしょう。俺はスタッフです。一競技にしか参加してない選手がいるんだから 代役はそいつ等でいいでしょ」

 

「そんな細かい事 気にすんなよ 司波」

 

「代わりができる選手がいるのにスタッフから選べば後々 精神的なしこりが残ります。そして そこから生まれる彼等の下らない嫉妬心は俺に向けられるんですけど」

 

「甘えるな 司波」

 

「は?」

 

「お前は既に代表の一人だ そして今回の非常時にお前が選ばれた。代表なら義務を果たせ」

 

「義務なら十分に果たしたでしょう エンジニアとして」

 

「どんな立場であろうとも 選ばれたなら勤めを果たせ」

 

「・・・」

 

対峙したままの達也と克人 周りはいったい どうなるのかと不安である 暫らくして達也が口を開く

 

「はぁ~ 今回だけは協力してあげます」

 

「本当に?」

 

「勿論 只で協力はしませんけど」

 

「何が望みだ」

 

「それは 後で」

 

「なんだか 怖いわね」

 

「兎に角 これで一安心だな」

 

「それで 俺以外はどうするんです?」

 

「お前が決めろ」

 

「は?」

 

「残りの人選はお前が決めろ お前がチームリーダーだ」

 

「相手が了承しない場合は?」

 

「説得には付き合おう」

 

「できれば メンバー以外から選びたいんですけど」

 

「えぇ! それはちょっと」

 

「何 勝手な事 言ってんだ お前が選ばれてるだけでも頭に来てるのに 俺達じゃ足手纏いとでもいいたいのか?」

 

「そう 言ったんだが 聞こえなかったか?」

 

「ふざけるな お前なんかにー」

 

「はぁ~ お前達はもう帰れ」

 

「・・・分かった 好きに選べ」

 

「ちょ! 十文字君」

 

「この件では既に例外を重ねている 一つや二つ増えても今更だろ」

 

「なら 深雪 レオと幹比古を連れて来い 玩具も忘れるな」

 

「は はい! かしこまりました お兄様 」

 

「なぜ その二人なんだ?」

 

「俺はアイツ等の事 余り知りませんから」

 

「成程 さっきの二人の事なら知っているか」

 

「大丈夫ですよ。 ちゃんと実力もありますから」

 

達也はレオと幹比古を説得できるだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後編は其の十で足りるかな?


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九校戦編 後編 其の一

誤字脱字のチェックは投降前にしてますが甘い時があります


急遽 新人戦『モノリス・コード』に選ばれた達也 いきなりの抜擢に驚いたが

達也以上に驚いたのは レオと幹比古

 

「なんで俺達なんだ?」

 

「お前等なら十分な成果が期待できると思ったからだが」

 

「でも 俺ら何の準備もしてないぜ」

 

「必要な物は生徒会が準備する」

 

「お前達は『モノリス・コード』の勝利条件は知っているのか?」

 

『モノリス・コード』

 

各ステージで 代表選手三名が魔法で争う競技

 

勝利条件は相手チーム全員を戦闘不能にするか

 

敵陣のモノリスを割り隠された五百十二文字のコードを送信する

 

『モノリス』に関するルール

 

『モノリス』を割るには専用の無系統魔法を「鍵」として放つ

 

割れた『モノリス』を魔法で接着するのは禁止 「鍵」の最大射程は十m

 

「さて 時間が無いから作戦の打ち合わせをしようか。まぁ 打ち合わせしても練習の時間はないけど」

 

「もう 作戦が決まっているのか?」

 

「まず基本的に攻撃は俺 守備はレオ 幹比古が遊撃だ」

 

「守備って言われても 具体的に何すんだ?」

 

「基本は 敵を十m以内に近づかせない 「鍵」を打ち込まれても割れない様に

『モノリス』を抑える コードを読み取れないように妨害するって処だ

因みに 硬化魔法で『モノリス』を「くっつけたまま」の状態に維持するだけなら

違反じゃない」

 

「敵の撃退はどうするんだ 俺に任せられても期待に応えられそうにないぜ。

俺 遠隔攻撃魔法は苦手だし」

 

「これで 問題無いと思う」

 

達也は玩具をレオに渡す

 

「物理的な打撃は禁止だろ」

 

「質量体を魔法で飛ばしても違反にはならない これも原理は一緒だ」

 

「そっか!」

 

「頼んだぞ」

 

「お おう!」

 

「次に幹比古」

 

「遊撃だよね」

 

「あぁ 状況に応じて俺達のサポートをしてくれ」

 

「分かった」

 

「お前の使える遠隔攻撃魔法は一つじゃないよな」

 

「うん まぁ」

 

「もしかして 大勢の前では見せられないか?」

 

「発動過程がバレなきゃ問題ない 呪符じゃなくCADを使えば問題ないと思うけど・・・」

 

「けど・・・なんだ?」

 

「本当に僕なんかでいいのかい?」

 

「何が?」

 

「こんな大事な試合に僕が出ても足手纏いじゃないのか?」

 

「そうかな?」

 

「達也は 僕の 吉田の術式には無駄が多いって 言ったじゃないか」

 

「あぁ そうだな」

 

「!!」

 

二人の会話に皆 驚いた 他人の術式にケチを付けるなど普通はしないことだから

 

「達也がもっと効率的な術式を教えてくれるなら参加してもいいけど 今の僕じゃ役に立てないよ」

 

「術式を教える事は出来ないがアレンジならしてやれるぞ」

 

「?」

 

「術式の無駄をそぎ落とし より少ない演算量で同じ効果が得られるように組み直すだけだが」

 

「発動中に術の弱点を衝かれないように偽装されてるけどそれが無駄って事かな?」

 

「昔は兎も角 CADにより術の高速発動が可能な現在では発動過程の妨害対策は余り意味がない」

 

「成程 だから古式魔法が現代魔法に威力で勝っても敵わないのか」

 

「それは違うぞ 要は使い方だ 知覚外の奇襲なら古式魔法の方が上だ。俺がお前を推薦したのは その奇襲力が武器になると考えたからだ」

 

「奇襲力・・・そんな事初めて言われたよ。術式はCADにもプログラムしてあるから達也の好きにアレンジしてよ」

 

「いいのかよ 発動過程は秘密なんじゃ」

 

「達也を信じる事にする」

 

「任せておけ」

 

「じゃあ 早くCADの調整しないとね 手の空いてる人は手伝ってあげて」

 

「サポートは要りませんよ」

 

「え! でも 今から 一人で三人分の調整してたら朝になっちゃうわよ」

 

「そんなに時間は掛けませんよ。 一人 一時間あれば十分な調整ができます」

 

「そ それでも・・・」

 

「俺のは十分あればできますから」

 

「そ そうなの?」

 

「CADの性能は明日のお楽しみです」

 

達也が作戦会議を行っていた頃 深雪は真夜の元を訪れようとしていた

 

「これは深雪お嬢様 この様な お時間に如何なされました」

 

「御免なさい 葉山さん こんな時間に呼び出して」

 

「イエ イエ 何か大事な御用なのでしょう?」

 

「実は急遽 叔母様にお伝えしなければならない事が」

 

「そうですか・・・分かりました」

 

深雪は四葉家 執事の一人 葉山と共に真夜の元へ向かう

 

「あら いらっしゃい 深雪 どうしたの?」

 

「深雪お嬢様がお伝えしたい事があると」

 

「どうしたの?」

 

「実はお兄様が急遽 新人戦『モノリス・コード』の代役に選ばれまして」

 

「ふ~ん ・・・でも 確か一校は棄権じゃなかったの?」

 

「十文字家のご子息が交渉して代役チームの出場を大会委員会に認めさせたようで」

 

「確か 一校は三連覇が懸かっているのでしたね。『モノリス・コード』は得点が高い競技 棄権のままでは終われなかったのでしょう」

 

「断る事はできなかったの?」

 

「後輩が先輩の それも十文字と七草 直々の推薦を蹴る訳には・・・」

 

「成程ね 態々 教えてくれて有難う」

 

「事後報告で申し訳ありませんでした」

 

「構わないわ 今更 断れないのでしょう」

 

真夜の元から部屋に戻ると深雪は寝る前に唯一 四葉に連なる者で信頼できる姉弟にメッセージを送った

 

「(あの子達 きっと 驚くだろうな)」

 

7月10日 静岡のとある家 黒羽家

 

その日 その家に住む長女 黒羽亜夜子は双子の弟 文弥が激しくドアをノックする音に叩き起こされた

 

「姉さん! 姉さん起きてる!ビッグニュースだよ」

 

「何よ 文弥 朝から うるさいわよ」

 

「昨日の真夜中に深雪姉さんからメッセージが届いてたんだけど 達也兄さんが『モノリス・コード』に出るんだって」

 

「達也さんが『モノリス・コード』に?・・・でも一校は棄権じゃなかったの?」

 

「急遽 代役が認められたんだって 今 その事を中継でも言ってるよ」

 

リビングに置いてある 大きなテレビでは 文弥が言う通り 急遽決まった 代役の事 スケジュール変更が説明されている

 

「ふ~ん 達也さんが 代役ねぇ~」

 

「なんだよ 姉さんは嬉しくないの?」

 

「だって 達也さんが勝つとは限らないし」

 

「何 言ってるんだよ。 達也兄さんに勝てる奴なんかいないよ」

 

「バカね文弥 そんな事私だって知ってるわ けどこれは 競技であって殺し合いじゃないんだからそれに 達也さんがこんな子供のお遊びに真面目になるとは思えないけど」

 

「そうかな~」

 

「それに余り注目を浴びすぎるのは良くないわ」

 

「それは そうだけど」

 

「処で文弥 録画の準備は済んでるの?」

 

「勿論だよ でも 本当なら会場で見たかったけど」

 

「『モノリス・コード』は他の競技と違って 会場でもモニター越しに見なきゃいけないんだから 行っても意味無いと思うけど?」

 

「はぁ~ 早く始まらないかな?」

 

「文弥 取り敢えず 朝ごはんにしましょう」

 

黒羽兄妹はこの日一日をリビングで過ごすのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字があっても投降した翌日の夜10時くらいには直ってると思います


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九校戦編 後編 其のニ

新人戦最終日 急遽 発表された一校の代役出場には様々な反応が見られた

 

実況者 説明

 

「今回の第一高校の『モノリス・コード』代役出場は昨夜遅くに申請がされ受理されました。受理された理由は様々な事情を考慮した結果だと云う事です」

 

他校の反応 其の一 

 

「昨日あんな事があったのによく代役なんて出せるよな」

 

「しかもメンバーの一人があの司波達也か」

 

「また各校 共にCADで差が付くぞ」

 

他校の反応 其のニ 第三高校 一条将輝 吉祥寺真紅郎

 

「出てきたね 彼」

 

「天才エンジニア 司波達也 選手としても一流なのか?」

 

「拳銃形態の特化型を二つ それに汎用型?同時に三つも使いこなせるのかな?」

 

「兎に角 見せて貰おうか アイツの力」

 

他校の反応 其の三 第三高校 一色愛梨 十七夜 栞

 

「ねぇ 愛梨 彼って・・・」

 

「司波深雪のお兄さんだって」

 

「今大会で吉祥寺君に並ぶ天才だって言われてるけど」

 

「少なくともCADの調整技術は彼より上じゃない?」

 

「一条君達 大丈夫かしら」

 

「流石に CADの差だけでウチが負けるとは思えなけど」

 

観戦者の反応 其の一 第一高校

 

「なんで 二科生が代表なんだ?」

 

「彼等で本当に大丈夫なの?」

 

「ふんっ アイツ等 さっさと 負ければいいんだ」

 

「全く 一校の恥さらしだよ」

 

「ちょっと アンタ達 応援くらいしなさいよ」

 

「どうせ アイツ等じゃ勝てないよ」

 

観戦者の反応 其のニ 会場特別室

 

「なぜ 司波達也が選ばれた」

 

「また活躍されても困るんだが」

 

「しかし『モノリス・コード』には三校代表として一条殿のご子息が出場される。彼が一条殿のご子息に負けるのは時間の問題。彼なら同じ天才でも一般出身の天才とナンバーズ出身の天才では次元が違う事を証明してくれる」 

 

「確かに 一般出身にあの『クリムゾン・プリンス』が負けるはずもない」

 

観戦者の反応 其の三 横浜中華街 とある会議室

 

「まさか 一校の代役出場が認められるとは」

 

「なにか工作をした方が」

 

「そう何度も出来んだろう」

 

「しかし これでは 何としても 三校に頑張って貰わなくては」

 

 

『モノリス・コード』 森林ステージ フィールド内

 

「目立ってるね」

 

「仕方ないだろ 選手なんだから」

 

「それだけじゃねえだろ」

 

一校代役チームには注目が集まっている。理由は一つではない。天才エンジニアの出場に加え残り二人は登録外。その内の一人が使えば明らかに反則であろう剣を持っている 使用方法が気になるのだろう

 

『モノリス・コード』 森林ステージ

 

第一高校VS第八高校

 

試合開始直後 達也と幹比古が飛び出したその様子を一校天幕で真由美達が見ていた

 

「八校相手に森林ステージ」

 

「八校はウチや他より野外実習に力を入れてるそんな彼等 相手に森林ステージは不利よね」

 

「だが 司波なら」

 

相手の『モノリス』の守備担当(ディフェンダー)は油断していた。普段から慣れている場所であり 相手が此処まで来る時間を考えれば まだ 大丈夫だと判断していたから しかし

 

「(え! 足音が聞こえる?)」

 

そして 現れた達也に驚く 

 

「なんで こんなに早く まさか アイツ等もう倒されたのか?」

 

八校はこの時点では誰も倒れてはいなかった達也は相手の一人を無視して此処まで来た

もう一人は幹比古の精霊魔法の罠に掛かっていた

 

達也の速さに驚いたのは彼だけじゃない

 

「自己加速? イヤ それにしても早すぎる」

 

「使ってないと思うよ? どんなに魔法の発動が早くてもサイオンの動きが視えない事は無いと思う。けど もし彼がサイオンの動きが見えない程 早く魔法が発動できるなら彼に勝てる魔法師はいないよ」

 

八校『モノリス』のディフェンダーは油断のしていた為に初動が遅れ達也から加重系統魔法を受け膝を衝く。達也はそのまま『モノリス』に向かうがさっきの攻撃は殆ど効いていなかった。相手が反撃しようとしていた

 

「この程度の威力で倒れると思うな!」

 

八校選手は特化型CADの引き金を引く しかし達也も引き金を引いていた

そして八校選手の魔法が達也に依って無効化された

 

この光景を見ていた観戦者は驚きを隠せない

 

「なんだ 今 相手の起動式が吹き飛んだぞ」

 

戦況を見守っていた解説者が口を開く

 

「今のは 術式解体(グラム・デモリッション)ですね」

 

一方 真由美達の反応

 

「あ~あ 達也君ったら なにもこんな処で使わなくても私には秘密にしろって言ってたのに こんな処で使ったらもっと 注目を浴びる事になるのに」

 

「今のが何か知っているのか?」

 

「あれが例の達也君の力技よ『術式解体』圧縮したサイオンの塊を直接ぶつけてそこに付加された起動式や魔法式を吹き飛ばしてしまう対抗魔法。射程が短いぐらいしか欠点のない、現在使用されている中でも最強の対抗魔法よ。でもプロでも 使えない人が多いからマイナーな魔法なの勿論 高校生が使える魔法じゃないわ」

 

「じゃあ 此処に来る時の事故で魔法式が消えたのは」

 

会場 観戦席 一校女子の集まり

 

「成程ね 深雪が彼を慕う理由が分かったよ」

 

「流石は達也さんです あんな凄い魔法を使えるなんて」

 

「あれが司波君の奥の手か」

 

「それは違うわ。お兄様が こんな予選なんかで奥の手を使う訳ないでしょ」

 

「え? でも 最強の対抗魔法でしょ」

 

「あの程度の魔法はお兄様にとって当たり前に使えるものだもの。そんなモノを奥の手とは言わないわ」

 

「ヤレヤレ 最強の対抗魔法をあの程度とは・・・本当に君達 兄妹は只者じゃないね」

 

術式解体の解説が行われている頃、達也は相手『モノリス』に鍵を打ち込んでいた。

後はコードを送信するだけだが

 

「あれ 離脱しちゃった」

 

「流石に敵の妨害を前に五百十二文字の打ち込みは難しいわよ」

 

達也が八校の『モノリス』に鍵を打ち込んでいた頃 レオの元に相手選手が到着する 対峙する二人に緊張感が走る

 

「(何だよ あの訳の分からない剣を持ってたのが相手のディフェンダーかよ あんな物いったい 何に・・・)」

 

八校選手は注意深くレオを観察していた そしてある事に気づく

 

「(アレ? アイツの剣 あんなに短かったか?」

 

そんな事を考えていると腹部に激痛がした

 

「ぐっあ!」

 

「油断し過ぎじゃねぇか?」

 

この時 ようやく 観客のレオの剣に関する疑問が解けた

 

「刃を飛ばしてぶつけるなんて」

 

レオが相手選手の一人を戦闘不能にしていた頃相変わらず残りのもう一人は幹比古の『木霊迷路』と云う精霊魔法の罠に苦戦していた。そしてなぜか達也は相手ディフェンダーに追われていた

 

「(ここでいいか?)」

 

達也は走るのを止め跳躍魔法で近くの木に飛び上がるやがて追いついた相手が達也の魔法の痕跡を発見した為 警戒を強めながら前進するが彼は達也が真上にいる事を知らない

 

「何処にいった?」

 

そんな彼を達也の魔法が襲う それをモニター越しに見ていた将輝と真紅郎

 

「無系統の共鳴かな?」

 

「生体波動とサイオン波の共振か」

 

攻撃に成功した達也だがそれでも相手選手は立ち上がった しかし

 

「そろそろ 戻るか」

 

達也は相手の事を気にせず八校の『モノリス』のあった場所に戻り 隠されていたコードを送信した

 

新人戦 『モノリス・コード』

 

第一高校VS第八高校

 

勝者 第一高校

 

ここから 達也達 代役チームの快進撃が始まる

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後編 其の三

色々 カットしました


急遽決まった 達也率いる代役チームは 何とか初戦に勝利

次の二校にも連携を駆使して勝利し 決勝リーグ進出が決まる

 

新人戦 『モノリス・コード』準決勝

 

第一試合 第三高校VS第八高校 第二試合 第一高校VS第九高校

 

第一試合開始前

 

「ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 

「どうしたジョージ」

 

「準決勝は将輝一人で戦ってくれないかな?」

 

「どう云う事だ」

 

「決勝で一校に勝つための仕掛けさ」

 

「まだ一校が勝つとは限らないだろ。もし相手が九校になったら その仕掛けも意味が無くなるんじゃ・・・」

 

いきなりの真紅郎の提案にもう一人のメンバーは不服な様だ

 

「九校相手なら今まで通りでいいけど、相手が一校の場合は準決勝でこの仕掛けをしないと苦戦するかもしれないから」

 

「一条だけで責めるのが何になるんだ?」

 

「それは一校との決勝が決まったら教えるよ。だから次の準決勝では僕の言う通りにして欲しい」

 

「はぁ~分かったよ。じゃあ俺は何もしないから頑張れよ一条」

 

「あぁ 任せておけ」

 

第一試合 第三高校VS第八高校 岩場ステージ

 

八校選手達は一条 一人に苦戦していた 八校『モノリス』に少しずつ近づく将輝

 

「正面突破かよ・・・ふざけんな!」

 

相手が周囲に転がっている大きな岩を移動魔法で将輝目掛けてぶつけようとしたが

全く効かない。モニター越しにその様子を見ていた達也には将輝が何をしたのか理解していた

 

「『干渉装甲』か」

 

干渉装甲 一m範囲の移動型領域干渉

 

将輝の圧倒的な力に相手は攻撃を止め 将輝を無視して三校の『モノリス』に急いだ

 

「クソッ! やってられるか こうなったら直接『モノリス』を狙う」

 

それでも将輝は焦らない 将輝は新たな魔法を発動する

 

「敵に背中を見せるとは余裕だな」

 

「・・・今度は『偏椅開放』か」

 

偏椅開放 空気を圧縮し それを破裂させ それによって生じる爆風を一方向に当てる収束系魔法

 

「ヤレヤレ 圧倒的だな」

 

準決勝 第一試合 勝者 第三高校

 

一校天幕

 

「予想以上だな 一条は」

 

「でもあの戦い方 十文字君の戦い方に似てた様な」

 

「一条家の本来の戦い方ではありませんでしたね」

 

「司波への挑発だろ『正面から打ち合ってみろ』・・・と」

 

会場内 他校の反応

 

「強い! 一人で相手チームを倒すなんて」

 

「アイツに勝てる奴はいるのか?」

 

会場 特別室

 

「流石は一条家の人間だ」

 

「優勝は間違いありませんな」

 

横浜中華街 とある会議室

 

「三校は無事に決勝か」

 

「問題は次だ」

 

会場内 達也の反応

 

「(今の戦い方 明らかに俺の魔法力が低いと見ての挑発だ。あえて隙を見せて真っ向勝負に誘い出す。だが一条に本来の戦い方をされても勝てないとは言え相手の挑発に乗らなければ勝機はない)」

 

準決勝 第二試合

 

第一高校VS第九高校 渓谷ステージ

 

この試合 達也率いる代役チームは 幹比古の精霊魔法に助けられ

ながら無事に勝利した

 

第二試合 勝者 第一高校

 

これにより新人戦『モノリス・コード』決勝は第一高校VS第三高校 草原ステージに決まった

 

決勝前 三校天幕

 

「やはり上がってきたか 司波達也」

 

「じゃあ 始めようか 勝つための作戦会議」

 

「試合を見て何か分かったか ジョージ」

 

「勿論 三試合も見れば十分さ」

 

「それでどう攻める?」

 

三校天幕のモニターに映るのは達也達 一校代表

 

「まず 彼等は 司波達也が攻撃 西城レオンハルトが守備そして吉田幹比古が作戦や状況に応じて二人のサポートをしているみたいだ」

 

「バランスの取れたチームだな」

 

「まずは ディフェンダーだけど 彼は他の二人より攻略がしやすい。まぁ 彼を攻略する前に残りが面倒だけど・・・彼は予選から硬化魔法しか使っていない。これは使わなかったんじゃなくて使えないんじゃないかな?」

 

「良くそれで代表に選ばれたな」

 

「別に一つの事だけに特化してるのも悪くないと思うけど」

 

「じゃあ 次は」

 

「次は彼 吉田幹比古 彼も古式魔法しか使ってないけど」

 

「けど?」

 

「彼は関東の精霊魔法で有名な『吉田家』の人間だ」

 

「それで」

 

「彼のサポートはとても厄介だ。精霊魔法はバリエーションが豊富だからね。でも次は草原ステージ 森林ステージよりは使用用途は限られる それに次は彼も攻撃に加わるだろう。でも古式魔法より現代魔法の方が発動スピードは速いから勝てない相手じゃない」

 

「最後は司波達也か」

 

「彼は凄く戦い慣れてる 注意すべきは戦闘技能だ」

 

「魔法技能は?」

 

「流石に『術式解体』には驚たけど 他の魔法はそこまでじゃない。彼は妹さんと違って強い魔法は使えないんじゃないかな。最初の加重系統魔法も膝を突かせるだけだったし、共鳴も背後からの攻撃だったのに意識を刈り取れなかった。彼はエンジニアとして一流でも選手としては一流じゃないよ」

 

「なら 真向からの打ち合いなら負けないか?」

 

「うん それに決勝は草原ステージだから地の利もコッチにある」

 

決勝前 会場外

 

「遅いです。小野先生」

 

「あのねぇ~ 私はカウンセラーであって 運び屋じゃないのよ」

 

「俺に言われても困ります。頼んだのは師匠ですし」

 

「態々運んできたのに遅いってどう云う事よ。お礼の一つも無い訳?」

 

「じゃあ ご苦労様でした?」

 

「目上に向かって「ご苦労様」とは・・・分かってて言ってるでしょう」

 

「そんなに怒らないで下さいよ。雑用が不満なら税務申告が必要ない臨時収入欲しくないですか?」

 

「!! 何 させる気?」

 

「知ってますよね 香港系国際犯罪シンジケート『無頭竜』そのアジトの所在を調べて下さい」

 

「ちょっ! なんでその事? いったい何考えているの?」

 

「今は何も・・・ただ反撃すべき時に敵の所在が掴めないのは」

 

「分かったわ・・・じゃあ 一日頂戴」

 

決勝前 一校天幕

 

「達也君 それ何?」

 

「何って マントとローブですけど」

 

「だから なぜそんなモノを?」

 

「勿論 決勝で使う為ですよ」

 

「そんなモノ付けても意味無いんじゃ?」

 

「これには着用した者の魔法が掛かりやすくなる魔法陣が織り込んであるんです」

 

「何に使うんだ?」

 

「吉祥寺の『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』対策だ。アレは対象を直接 視認しなきゃいけない。 だがコレで防げるだろ」

 

「今更だけど無理に勝とうとしないでいいのよ。決勝に進んだ時点でウチの新人戦の

優勝は決まったんだから」

 

「一条相手に勝とうなんて思ってませんよ。どんな策を廻らせても彼には無意味でしょうし、まして優秀な参謀が一緒なら逆にコッチが相手の策に掛かちゃいますよ」

 

その後達也は天幕を出て 決勝に向けて最後の準備をしていた。そこに深雪がやって来る

 

「お兄様 タオルをどうぞ」

 

「あぁ すまん」

 

「・・・いよいよ 決勝ですね。彼は相当手強いと思います。お兄様であっても今の力も技も制限された状態で勝つのは難しいでしょう・・・イエ 制限した側の私が申し上げる事ではありませんね」

 

「・・・気にするな」

 

「それでも 私は お兄様が誰にも負けないと信じています。お兄様が私との約束を破る事がないと」

 

「約束?」

 

「お兄様は以前 断言されました」

 

「何を?」

 

「私が見ている前で 誰にも負けないと」

 

「ッ・・・」

 

一条に勝つ事は容易ではない。仮に勝っても今以上に注目され余計に目立つ 今の二人の立場を考えると危険なことだ しかし 達也が深雪の期待に応えないなどありえない

 

達也の負けられない戦いが始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後編 其の四

新人戦『モノリス・コード』に代役として出場した達也率いる第一高校は予選 準決勝を勝ち上がり遂に決勝に駒を進める。しかし決勝の相手は一条将輝率いる第三高校

 

『モノリス・コード』は九校戦で人気の競技だ リアルタイムで行われる

魔法の打ち合いが観客を魅了する。当然 実況にも力が入る

 

「これより 新人戦『モノリス・コード』決勝が始まります」

 

「対戦するのは急遽決まった代役でありながら此処まで見事に勝ち進み今大会で天才エンジニアとして注目を集めている司波達也選手率いる第一高校 対するは準決勝ですら一人で相手チーム全員を戦闘不能に出来る程の圧倒的な力の持ち主の一条将輝選手率いる第三高校です」

 

一校天幕

 

「遮蔽物のないフィールドで砲撃の得意な一条選手と戦うのは不利よね」

 

「達也君には例の最強の対抗魔法『術式解体』があるから大丈夫なんじゃないのか?」

 

「確かにアレはとても強力だけどそれだけじゃ一条選手は倒せないわよ」

 

会場 観戦者の反応

 

「どっちが勝つかな」

 

「流石に一条に勝つのは無理だろう」

 

会場 特別室 一部のナンバーズ及び一部の百家当主の反応

 

「まさか 決勝まで残るとは」

 

「しかし 司波達也が一条将輝に何もできずにやられる姿を見るのは楽しみだ」

 

会場 特別室 七草弘一の反応

 

「(司波達也 一条相手に何処までやるか・・・試合内容によってはウチに組み込む事も真剣に考えても良さそうだ。他の当主は彼等を嫌っている様だが、私はあれだけの才能をナンバーズで無いと云う理由だけで彼の血や遺伝子を家に向かえないなんて愚かな真似はしない。まぁ 彼が何者かは気になるが彼をウチに向かえる事が悪い結果にならない筈だ。彼がウチと関係を持てば司波深雪も関係者と云う事になる。本当なら私にもう一人彼女と同年代の息子がいれば良かったが、さて 彼の方はどうする 真由美には洋史君と克人君がいるし・・・そうなると やはり香澄か泉美のどちらかを嫁に・・・)」 

 

横浜中華街 とある会議室

 

「なんとしても三校に勝って貰わなければ」

 

「大丈夫だろう 一校より 三校が明らかに強い」

 

『モノリス・コード』 草原ステージ フィールド内 一校サイド

 

「やっぱ 可笑しくねぇか?」

 

「使い方は分かったな 頼りにしてるぞ」

 

「なんで 僕達だけ」

 

「前衛の俺がそんな恰好悪い・・・じゃない 走りづらいのを付けてどうする」

 

「達也・・・てめぇ」

 

『モノリス・コード』 草原ステージ フィールド内 三校サイド

 

「なんだありゃ」

 

「ジョージの『不可視の弾丸』対策なんじゃ」

 

「確かにアレには貫通力は無いけど布一枚じゃ防げないよ。彼がそんな事知らない筈がない。彼の事だから何か考えあっての事なんだろうけど・・・」 

 

「ジョージ 今更 考えても無意味だ。俺達は相手がどんな手段を用いても勝ちに行くだけだ」

 

「そうだね せめて『モノリス』の優勝ぐらいは僕達がしなきゃね」

 

「あぁ やってやるさ」

 

そして試合が始まった。試合開始と同時に 将輝が仕掛ける 彼のCADは特化型

 

「特化型? これまでは汎用型だったのに・・・まさか攻撃に専念するつもり」

 

将輝が繰り出すのは空気圧縮の魔法式 速度も威力も並みのものではない。しかし達也は将輝の攻撃を焦らず『術式解体』で一つ一つ打ち落とす

 

両者譲らぬ戦いに観客は大興奮 しかし 一校天幕内では

 

「あのプレッシャーの中であれだけ正確に魔法を放てるなんて」

 

「本当に彼は二科生なの?」

 

魔法の使用には使用者の精神面が大きく左右する。平常心で無ければ魔法を放つことはできない達也は魔法が上手く使えない二科生。だから目の前の光景が一科の上級生達には信じられない

 

「達也君の手数が減って来てる」

 

「一条は攻撃に専念してるが それに対して司波は防御しながらの攻撃」

 

「近づけば攻撃の手数が落ちるのは仕方ないかと」

 

「苦しいのは此処からだ」

 

この時 達也と将輝の攻防を暫く見ていた真紅郎も動き出す 

 

「(そろそろ 僕も動いた方がいいね)」

 

真紅郎の動きは達也からも見えていた 

 

「(吉祥寺が動いたか)」

 

達也も真紅郎が動いたのを黙って見過ごせない 達也も将輝との距離を詰める事にした。だが距離を詰めると云うことは達也にも危険が伴うこの時達也は既に将輝の攻撃を捌くことが難しくなっていた

 

「(仕方ないな)」

 

ここで達也の動きが変わる 達也はあらぬ方向にCADを向けた

 

「どこを狙ったいるんだ」

 

達也の行動に戸惑う実況や観客 しかし 達也のCADの先に魔法式が現れ達也はそれを打ち落とす

 

「なっ! 現れた瞬間に魔法式を打ち落とすなんて」

 

「なんて反応の速さだ」

 

会場 特別室 一条剛毅の反応

 

達也の行動には静かに観戦していた一条剛毅も驚きを隠せない

 

「(何だ? 今の動きは 早い等と云う話ではない。 彼には将輝が何処に魔法を放つのか分かったのか?)」

 

会場 観戦者 藤林と山中の反応

 

二人は観戦席から少し離れた処で立ち見していた。『モノリス・コード』の観戦者は

多い上に 二人の会話は簡単に聴かせられないものだからだ

 

「遂に誤魔化しきれずに『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を使いだしたな」

 

「この状況なら第六感と云う事でいい訳ができますよ」

 

「それは一部の奴等にだろ」

 

「それは・・・」

 

藤林と山中は達也が何をしたか知っている 勿論 深雪と真夜も 達也は本来 秘密にしておかなければならない ある能力を使ったのだ

 

『精霊の眼』 情報次元体(イデア)に直接アクセスし 更に『存在』を認識する力

 

一方 真紅郎は一校『モノリス』を目指していた そんな彼の前に

 

「此処から先はいかせねぇ」

 

「!! なぜ 後衛がここに?」

 

現れたのはレオ だが真紅郎が焦らない 彼は『不可視の弾丸』でレオを退けようとする

 

「そうはさせねぇ」

 

レオは持っていたマントを脱ぎそのマントに硬化魔法を掛ける すると

 

「マントが固まったまま広がった!?」

 

「この為のマントだったのか?」

 

「(クッ! マントを防壁代わりにするんて! これじゃ『不可視の弾丸』が使えない)」

 

真紅郎が見せた一瞬の隙にレオが反撃に出る それをギリギリで躱した真紅郎に新たに突風が襲い掛かる

 

「(!! 今度は 後方から?)」

 

突風を起こしたのは幹比古 真紅郎は攻撃対象をレオから幹比古に切り替えようとしが

真紅郎の眼には複数の幹比古が映る 

 

「(!! 今度は幻術! これも照準を付けられないから『不可視の弾丸』が使えない)」

 

『不可視の弾丸』は攻撃対象を視認しなければならない。それをレオはマントに硬化魔法を掛けることで 幹比古には幻術で『不可視の弾丸』を防がれた

 

「(やってくれるね 司波達也)」

 

試合中にそんな事を考えてしまう真紅郎 そんな彼にレオの反撃が再度襲う

 

「!! しまった!」

 

真紅郎にレオの攻撃を防ぐ手立ては無い

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後編 其の五

解説とか変になってたら御免なさい 


新人戦『モノリス・コード』決勝は第一高校と第三高校が草原ステージで戦う事が決まる。試合開始直後に将輝は達也に攻撃を仕掛ける。達也は将輝の攻撃を一つ一つ打ち落とす。しかし時間の経過と共に難しくなっていく。一方で一校『モノリス』攻略に真紅郎が動く。真紅郎はレオと幹比古を相手に得意の『不可視の弾丸』で挑むも達也の対策により不発に終わる。達也の対策に驚き、試合中にも関わらず関心してしまう。そんな真紅郎の見せた一瞬の隙を突きレオが反撃に出る。

 

「しまった!」

 

試合開始 最初の戦闘不能者が真紅郎になると思われていたが

しかし 倒れたのはレオの方だった レオは将輝に倒されたのだ

 

「レオ!!」

 

「将輝!!」

 

ここから 一校の形勢が一機に悪くなる。 真紅郎は気持ちを切り替えたが 今度は

幹比古に隙ができる いきなり倒されたレオに動揺を隠せない 

 

「将輝の攻撃を受けて西城選手が立ち上がる事はない 司波達也は将輝が抑えてるから

後は 吉田幹比古を倒せばの一校のモノリスを攻略できる」

 

真紅郎は再度 幹比古に攻撃を仕掛ける 真紅郎は幹比古に加重系統魔法を仕掛けた

 

「『不可視の弾丸』は幻術で使えない でも僕の眼は幻術で誤魔化せても 

重力は誤魔化せないよね」

 

「ぐあっ!」

 

「決勝が草原ステージで良かったよ。君の精霊魔法は場所に依ってはとても厄介だからね。森林ステージならもっと強力な魔法を使えたんじゃないのかい?」

 

一方の将輝と達也にも 真紅郎と幹比古の戦いは見えていた。

 

「レオと幹比古が倒れたか・・・コッチも仕掛けるか」

 

達也は将輝との距離を更に詰める

 

「早い!!」

 

将輝は達也の速度に恐怖を感じた 懐に入られたら何をされるか分からない。将輝はとっさに反撃したがそれは明らかな オーバーアタックだった。空気弾が16連発 とても捌ききれる数ではない

 

しかし達也は一つ一つを『術式解体』で打ち落とす。しかし『術式解体』は一度に大量のサイオンを必要とする 達也にとってもかなりの負担で発動速度も将輝の空気弾よりも遅い 結局達也は二発の直撃を受ける

 

直撃を受けた達也を見て 将輝にあるのは後悔

 

「何んて取返しの付かないことを・・・」

 

しかし達也は起き上がった  

 

「お! お前 なんで?」

 

将輝には眼の前の光景が不思議で堪らなかった。しかし達也には関係の無いことだ。そんな事は気にせず達也は将輝の左耳に腕を近づけ指を鳴らす それと同時に激しい大音響が会場を襲う 一瞬の静寂 そして将輝が倒れ その光景に会場が騒ぎだす

 

「一条が倒れた?」

 

「どう云う事だ?」

 

一校天幕 

 

「今のは何?」

 

「何と云われても 指を鳴らしてその音を増幅したんだろう」

 

「そう・・・ですね 至近距離からの大音響による鼓膜の破裂と三半規管のダメージで

一条選手を戦闘不能に 起動式としては基礎単一振動系魔法ですから司波君でもあの短時間で発動が出来たんでしょう」

 

「そんなの見れば分かるわよ そうじゃなくて なぜ 達也君は動けるの?一条選手のオーバーアタックを二発は受けたはずよ」

 

「落ち着け七草 俺にもそう見えたが実際の司波は音響のダメージしか受けていない様だ。アイツは古流の術に長けている 受け流したのかもしれん。俺達が知っている知識だけが奇跡ではない」

 

会場内 藤林と山中の反応

 

鈴音は将輝を倒す為に使用した大音響は達也が基礎単一振動系魔法を使用したと推測したが実際は違う。確かに振動系統魔法はCADに格納されているが 実際には達也は使わなかった

 

「本当に凄いな 彼の自己修復術式」

 

「ちょっと 先生!」

 

「本当に頑丈だな どんな体の構造をしてるか調べてみたい」

 

「頑丈だからと言って実験台にしていい事にはなりませんよ」

 

「多少の実験で壊れるような人間じゃないだろ」

 

「そんな事 言っているとまた深雪ちゃんに凍り漬けにされちゃいますよ」

 

達也と山中は知り合いだ それは勿論 深雪とも知り合いと云う事になる山中は深雪と初対面の時に冗談交じりに達也に「解剖させろ」と言ったのだが深雪は冗談に取らなかった。そしてキレた深雪に至近距離での「ニブルヘイム」を受け死にかけた事がある。幸いその場にいた達也の力で死なずに済んだが この所為で深雪は山中達を完全に信用しきれていない

 

「嫌われてるのは君も同じだろ?」

 

「私は嫌われてるんじゃなくて嫉妬されてるんです」

 

「まぁ それは 置いといて・・・結局使ったな『フラッシュ・キャスト』今回は振動系の『フラッシュ・キャスト』か」

 

「流石に 低スペックのCADだけで 『プリンス』の相手は無理ですよ」

 

『フラッシュ・キャスト』 記憶領域に起動式をイメージとして刻み付ける事でCADを

使わずに魔法式を構築する 四葉が開発した洗脳技術の応用

 

「でも達也君は 魔法式をイメージ記憶することで魔法式構築の時間すら省略できてしまう・・・」

 

「あのスピードは脅威だ しかし あれが高校生で四葉の出来損ないとは 世の中 色々 間違ってるな」

 

将輝は達也によって倒されたが 試合は終わらない。むしろ 将輝が倒れても三校が未だに有利だが真紅郎は将輝が倒された事が信じられなかった

 

「将輝が・・・負けた?」

 

「よけろ吉祥寺」

 

真紅郎は三校のディフェンダーに声を掛けられ現実に引き戻され攻撃をギリギリで躱す

攻撃を仕掛けたのは幹比古 

 

「まだ 動けたのか 吉田幹比古」

 

だが実際の幹比古は立っているのがやっとの状態

 

「(一条選手を倒したんだね 達也)」

 

レオは倒され 達也もこれ以上は戦えない そんな絶望的状態ながら決意した

 

「(彼だけでも僕が倒す)」

 

幹比古は達也が調整した大型端末タイプのCADを取り出す。この時 達也が幹比古が抱える問題の答えをくれた時の会話を思い出していた

 

「発動スピードが遅く感じるのは精霊と対話して結果を一つ一つ確認しながら魔法を展開するからだ」

 

「でもそれは僕等にとって当たり前の手順なんだけど」

 

「だがこれからは確認せずに一気に処理を進めるんだな」

 

「!? 」

 

達也の回答 それは遂次展開と同じ発想

 

「(先ずは 地面の表層を振動させる『地鳴り』)」

 

「(振動系魔法か?)」

 

「(更に 地面に圧力を掛けて押し広げる『地割れ』)」

 

「(こんなもの 空中に退避すれば)」

 

真紅郎は跳躍の術式を発動するが

 

「(!! 草が足に絡まってる この魔法は何だ?)」

 

「(気流を操り草木を絡ませる『乱れ髪』 そこから地面に引き寄せる『蟻地獄』)

 

「(クソッ こうなったら 跳躍に使うサイオン量を増やして)」

 

真紅郎は必要以上に高く飛び上がる

 

「(そしてとどめの『雷童子』)」

 

真紅郎は自分より上空の雷に撃ち落とされた

 

「(良かった 何とか 倒せた)」

 

「この野郎 調子に載るな」

 

幹比古は真紅郎を倒したが 三校のディフェンダーに対する備えは一つもない。まして体力も魔法力も底を突いた状態。彼の発動した『陸津波』を避ける事も出来そうにない

 

陸津波 土を掘り起こし 土砂の塊をぶつける 移動系魔法

 

「(結局 負けるのか)」

 

敗北を覚悟した幹比古の眼の前のに突如見覚えのあるマントが広がる

 

「(レオ? なんで? 一条選手に倒されたはずじゃ」

 

そんな事を思っている間にも レオは反撃に出る そして相手の腹部に刃がぶつかる その後 彼はそのまま動かなくなる

 

新たに流れる一瞬の静寂 

 

「三校は全員戦闘不能?」

 

「って事は・・・」

 

「『モノリス・コード』は一校の優勝だ!」

 

湧き上がる歓声 その歓声は暫く続いた

 

 

 

 

 

 

 

 




一色愛梨は優等生オリジナルキャラなのに きたうみつなさんが作画担当の九校戦編 将輝が倒さるシーンに十七夜 栞と共に出てますね やっぱり書く人が違うと印象が違って見えますね


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九校戦編 後編 其の六

今回は何時もより短いです


新人戦『モノリス・コード』決勝は三校優位の予想を裏切り 達也率いる第一高校が勝利 試合終了後 草原ステージから戻ると 早速 記者に呼び止められる

 

勝利者インタビュー

 

「優勝おめでとうございます」

 

「有難うございます」

 

将輝を倒した達也は更に注目度が上がっていた。達也はこれまでインタビューを

受けていない。次の試合に向けての作戦会議やCADの調整を理由にして記者達から

逃げていた そんな達也を今度は逃がさないように記者達は達也を囲む。直ぐに立ち去りたかったが中々きっかけが掴めなかった。しかし 真由美と鈴音の登場により解放される事になる

 

「申し訳ありませんが インタビューは後日お願いします」

 

「選手達はケガをしているので今はご遠慮下さい」

 

そう言って二人は記者を退ける

 

「それでは最後に何か一言だけ お願いします」

 

「もう二度と彼等と戦うのは御免ですね」

 

達也はそう言ってその場を後にし 医務室に入る 診断結果は勿論 鼓膜の破裂

九校戦が終わっても 暫く 診察を受ける事になった 

 

一校天幕 

 

達也は治療を終えると 報告に天幕を訪れていた

 

「確認するけど 一条君の攻撃は当たらなかったのよね?」

 

「何言ってるんですか 直撃しましたよ 二発 試合見てなかったんですか? 一条があの距離で偶然 外すとでも」

 

「でも なぜ一条君のオーバーアタックを二発も受けて 動けたの?」

 

「もしもの時の為の技や技術は師匠から教わってるので」

 

「それっていったい?」

 

「教えられる訳ないでしょう 九重の技や技術は本来 人前で見せるものじゃない

それなのに こんな大勢が見ている前で偶然でも出す羽目になるなんて・・・どうしてくれるんですか? 後で師匠に怒られるのは俺なんですよ。もし破門なんてされたらどう責任を取ってくれるんですか?」

 

「ご 御免なさい 達也君」

 

「まぁ 今年は災難だったが 来年はそんな事にはならないさ」

 

「・・・なぜ 来年も俺が出る前提で話てるんですか?」

 

「出ないつもりか?」

 

「今年の九校戦だって俺も深雪も元々出るつもりは無かったですよ」

 

「今年の九校戦はお前達にとって有意義なものになったと思うが」

 

「ここに来て良かったと思える事は懇親会の九島閣下の言葉だけですよ。こんな事なら師匠の元で修行している方がマシでした」

 

達也はそう言って天幕を後にしようとする

 

「何してるんだ 深雪 早く来い 明日の『ミラージバット』の調整が始められない」

 

「は! はい お兄様 かしこまりました」

 

「ちょっと 待って達也君」

 

「何ですか?」

 

「今日はもう 休みなさい 散々 無理してるんだから」

 

「させたのはドコのドナタでしょうね」

 

「そ それは・・・」

 

「お兄様 私もお休みになられた方がいいかと思います」

 

「そうだぞ 本調子でない状態でCADの調整はするものじゃない」

 

「深雪さんは第一試合ではありませんし、司波君の技術なら当日でも間に合うのでは」

 

「・・・そうですね。分かりました」

 

九校戦 宿舎 達也の部屋

 

「それでは また 明日 お休みなさいませ お兄様」

 

「あぁ お休み 深雪」

 

「・・・あの お兄様 どうかなされましたか?」

 

深雪は達也の表情に違和感を感じた

 

「イヤ・・・他人の治療にはまだ慣れなくてね・・・やっぱり アレを使うのはマズイかな?」

 

本来 達也にとっては鼓膜の破裂など一瞬で治るのだが

 

「我慢して下さい 後日 また診察を受けるんですからその時に治っていたら可笑しいですよ」

 

特別室 一部のナンバーズ及び百家

 

「まさか 一条が倒されるとは」

 

「十師族がこれでは一般に侮られ 非魔法師には一般と同等に思われ兼ねん」

 

「上に立つならそれなりの態度を示して貰わねば」

 

「しかし 予想以上だな 司波達也」

 

「このままでは 明日の『ミラージ・バット』も危ないぞ」

 

「これ以上 侮られる訳には」

 

「今後 彼等をどう扱いましょう」

 

「殺すべきだ これ以上 調子付かせる訳には」

 

「殺す! アレだけの才能を? 私は今の試合を見て ウチに迎え入れる事も考えたのですが」

 

「成程 そう云う考えも良いでしょう それに実力行使するにしても相手は『術式解体』や『氷炎地獄』を扱う兄妹です A級魔法師でも苦戦は免れない。やはり 魔法師として国家の為に働いてもらうのが良いでしょう」

 

「あの兄妹の血とナンバーズや百家の血が交われば生まれる子は 優秀な魔法師になる」

 

「司波達也・・・流石にウチの娘とでは年が離れすぎてるな」

 

「あんな奴等をウチに? 考えられん」

 

「司波深雪・・・私に息子が入れば直ぐにでも嫁に取るのだが」

 

「ふん! あんなもの 良くて愛人か妾だろう」

 

「処で十師族の方々は今回の事をどう思ってるのでしょう?」

 

「今頃 何処で何を考えているのか」

 

「司波兄妹の話題が上がってから 此方に来なくなりましたね」

 

一条剛毅の反応

 

「まさか 将輝が負けるとは イヤ それは勝負の世界だから仕方ない。しかし 将輝のオーバーアタックを受けて平然と立ち上がるとは」

 

七草弘一の反応

 

「まさか 一条に勝つとは 益々 興味深い」

 

九島烈の反応

 

「まさか あれ程とは しかし このままではいかんな だがアレだけの才能・・・」

 

その後 緊急師族会議が決まる 

 

横浜中華街 とある会議室

 

「もう一校の総合優勝は決定的だぞ」

 

「このままでは 我々の負け分が一億ドルを超える」

 

「本部が渋った計画を無理に押し等した以上結果が出なければ」

 

「失敗したら 楽に死なせて貰えんぞ」

 

「よくてジェネレーター 適性が無ければ『ソーサリー・ブースター』にされる」

 

「最早 手段など選んでいられない」

 

「明日の『ミラージ・バット』一校代表選手には全員 途中棄権してもらう」

 

達也と深雪に新たな脅威が迫ろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後編 其の七

九校戦も新人戦が終了し、今日から本戦が再開 そして本戦も『ミラージ・バット』

と『モノリス・コード』を残す呑み そして今日の本戦『ミラージ・バット』には深雪が参加する 

 

「どうも 波乱の前兆に見えるな」

 

「まだ 何か起こると?」

 

「起こると云う確証はないが起こらないと云う確証もない」

 

「お兄様 結局『無頭竜』の目的は分からないのですか?」

 

「そうだな あれから 特に連絡はない」

 

「全く あの人達は何をしてるんですか?」

 

深雪が言うあの人達とは風間達の事である。深雪はあの日の達也と風間の話を聞いていた

 

「そんなに怒るな あの人達も忙しいんだろ」

 

「はぁ~ 試合前だと云うのに不安になってきました」

 

「心配するな お前だけは何があっても守るから」

 

「頼りにしてますよ お兄様」

 

本戦『ミラージ・バット』 予選 第一試合

 

第一試合には一校代表として 三年 小早川景子が出場する 

担当エンジニアは三年 平河小春

 

「先輩 随分と気合が入っていますね」

 

「まぁ 順調に行けば 今日でウチの総合優勝が決まるかもしれないし」

 

本戦 予選 第一試合

 

第一試合は開始直後から接戦だった。小早川景子は一校でも実力者である。しかし本戦『ミラージ・バット』に出場する他校の選手も実力者ぞろい。第一ピリオドが終了した時 景子が僅かにリードし一位だが二位の三校選手とそれ程の差が付いている訳ではない。少しでも油断すれば追い抜かれる事にもなりかねない状況だ

 

本戦『ミラージ・バット』 予選会場

 

会場にはエリカ達も見に来ていた 勿論 深雪が本戦に出場するからだ

 

「今日にもウチの総合優勝が決まるなんて ドキドキするよね」

 

「そうですね・・・」

 

「どうしたの 美月 なんか元気ないよ」

 

エリカは美月の方を見て直ぐに気が付く 

 

「!! ちょっと 美月 眼鏡 外して平気なの?」

 

「正直 辛いかな」

 

「こんなに大勢いる処じゃその眼は霊子が見え過ぎて苦しいんじゃねぇか?」

 

「でも 何時までも自分の力から逃げてるだけじゃダメだと思うから」

 

「美月は別にー」

 

「でも見なくちゃいけない時に見えてるものから眼を反らすのはやっぱり間違ってる。

渡辺先輩の事故の時も私がちゃんと見ていたら何か分かったかもしれないし」

 

「だからって 今日 一日中 見張るつもり? 何も起こらないかもしれないのに」

 

「起こらないならそれでいいんです」

 

「敵の妨害の手弾が精霊魔法なら柴田さんの眼で何か分かるかもしれないでも結界で霊子光は軽減されるから後遺症が残る様な事にはならないよ」

 

美月達が見守る中 第二ピリオドが始まる。開始直後に三校選手に差を詰められてしまう

 

「(マズイ 取られた・・・でも これ以上は無茶出来ないし 一旦 足場に戻らなきゃ)」

 

景子は一旦 足場に戻ろうとした 

 

「(このプレッシャーの中 焦る事なく冷静に次の行動に移る・・・流石だな)」

 

達也は この調子なら景子が予選突破をするのは難しくないと思っていたが・・・

 

「アレ? ちょっ! 何で魔法が発動しないの?」

 

だが異変は突如やって来た 景子がCADを何度操作しても魔法が発動しない 彼女は水面に向かって落下していく 水面に叩きつけられる直前に何とか大会委員の減速魔法が間に合ったが 彼女は気を失っていた

 

「どうして こんな事に? 私が調整したCADが原因なの?」

 

担当エンジニアの平河小春は突然の事に酷く混乱していた そんな小春を見ていた達也の端末に連絡が入る

 

「達也さん さっきの事故・・・」

 

「美月 何か視えたのか?」

 

「先輩が魔法を発動しようとした時 CADのあたりで 精霊が弾けたみたいに見えました」

 

「分かった 有難う 美月」

 

「お兄様 美月は何と?」

 

「深雪 次はお前の番だ 準備しろ」

 

「ですが・・・」

 

「安心しろ 二度目は無いだろ」

 

第一試合は一校は途中棄権となったが次の第二試合には深雪が出場する。達也は試合開始前に運営本部を訪れていた。競技開始前に出場選手のCADに違反がないかチェックを受ける為である

 

運営本部

 

「次の方」

 

「第一高校です。お願いします」

 

「では CADを検査装置にセットして下さい」

 

「(さっきの事故 もし 何かあるとすれば 怪しいのはやっぱりここだ。しかし 二回も連続で 仕掛けて来ないよな?)」

 

達也の眼には考えとは反対に検査されているCADに何かが入り込んだのが見えた

 

「問題ありませんね」

 

「ふざけるなよ」

 

達也は係員の胸ぐらを掴み投げ飛ばす そして逃げられない様に足で男の腹を踏みつける

 

「ぐっあ! な 何を?」

 

いきなりの騒ぎに別の係員がやって来る

 

「何の騒ぎだ」

 

「おい! 君 何をしてるんだ 止めなさい!」

 

「舐められたもんだな! 俺達の眼の前で堂々と不正工作か・・・」

 

止めようとした係員だが達也の言葉を聞いて 彼等の動きが止まる

 

「違う・・・わ 私は何も・・・」

 

「検査装置を使って細工とは考えたな。これなら どんなに注意しても妨害を免れない

さっきの事故も 同じ方法か?いったい何を紛れ込まれた 只のウイルスじゃないよな。それに他の仲間は何処だ! これまでの事故 流石にお前一人ではやれないだろ」

 

「だから 私は何も・・・」

 

「そうか・・・ 言いたくないならそれでいい」

 

達也は迷うことなく 懐のシルバー・ホーンを彼の頭に突きつける

 

「や やめろ・・・私は何も・・・」

 

「お前の所為で何人傷ついたと思ってる それに今度は深雪まで」

 

「何事かね? 騒々しいぞ」

 

そこに現れたのは 九島 烈

 

「九島閣下」

 

「君は 確か 第一高校の司波達也君だったね。どうしたのだ?」

 

「当校の選手が使用するCADに不正工作が行われたので、犯人を取り押さえました」

 

「・・・そうか このCADかね」

 

烈は検査装置に置かれていた深雪のCADを持ち上げる

 

「フム・・・確かこれは・・・電子金蚕」

 

「電子金蚕?」

 

「私が 現役の頃 広東軍が使っていたものだ」

 

電子金蚕 有線回路を通して電子機器に侵入し兵器を無力化するSB魔法

     出力される電気信号に干渉しOSやアンチウィルスプログラムに

     関わらず機器の動作を狂わせる遅延発動術式

 

「君は知っていたのか?」

 

「いえ 今 知りました。ですが自分の担当したCADですから何かが侵入したのは分かります」

 

「そうか」

 

その後 男は連れて行かれた

 

「さて 君も 戻って構わないよ CADは予備を使ってくれないか?このような事情だ 改めての検査はしなくていいから」

 

「分かりました」

 

「今回の件 君にも後で話を聞くかもしれん」

 

烈はそう言って去って行った

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後編 其の八

お気に入りが200を超えたみたいです。有難うございます


九校戦 九日目 この日から本戦が再開 『ミラージ・バット』には深雪も出場する

しかし、第一試合で深雪と同じく一校代表に選ばれていた小早川景子が無頭竜の魔の手により途中棄権に。その魔の手は深雪にも迫っていたが、達也が何とか防ぐ事に成功する只、その際 深雪が使用するCADが使えなくなった為 予備を天幕に取りに行く

達也が天幕に戻ると彼を見る眼が変わっていた。イヤ 九校戦前に戻っていた 

だが 変わらない者もいる

 

「お兄様!」

 

「スマン 心配 掛けたな」

 

「お兄様は私の為に怒ってくださったのでしょう。お兄様が本気でお怒りになられるのは いつも 私の為ですから」

 

「そうだな 俺はお前の為だけに本気で怒る事ができる。でも兄貴が妹の事で怒るのは当り前だ。それに これは俺の心に残された唯一の当り前なんだ。だからお前は悲しむな」

 

「お兄様・・・」

 

「それに折角のメイクを涙で汚すなよ。今日はお前の晴れ舞台なんだぞ」

 

「もう! お兄様 言い過ぎですよ」

 

本戦 『ミラージ・バット』 予選 第二試合

 

二人は予備のCADの調整を済ませ会場に入る。観戦者は第一試合より多い 

理由は深雪が出るだけではない 第二高校 松井 陽子 

今大会 本戦『ミラージ・バット』で渡辺摩利と優勝候補に挙げられていた選手と

深雪が予選で激突するからだ

 

『ミラージ・バット』 会場

 

「次の 第二試合では第一高校の渡辺摩利選手の代役に選ばれた司波深雪選手が出場します 司波深雪選手は一年生ではありますが、その実力を新人戦『アイス・ピーラーズ・ブレイク』で誰もが目の当たりにしたことでしょう。ですが本戦出場者は上級生ばかり その中には棄権した渡辺摩利選手と共に優勝候補に挙げられている 第二高校の松井陽子選手もいます。そんな中で司波深雪選手は何処まで点を伸ばす事が出来るのでしょうか?」

 

「選手達が出てきた」

 

「見ろよ 一校の司波深雪 やっぱり 可愛いな~」

 

試合開始直後 深雪が誰よりも早く先制する そして更に深雪が得点を重ねようとすると深雪より早く高く飛び上がり松井陽子が先制 その直後 彼女は深雪を見下した。

勿論 気にする深雪ではない その後は主に二人の点取り合戦となる

 

第一ピリオド 終了

 

「深雪がリードされてる」

 

「仕方ないよ渡辺先輩と同じ優勝候補だもん」

 

「二位でも凄い事ですよ」

 

「二校の選手以外 相手になってないね」

 

第二ピリオド 終了

 

第一ピリオドではリードを許した深雪だが 第二ピリオドでは順位を逆転させた

 

「やった!深雪がリードした」

 

「でも まだ安心できる点差じゃないよ」

 

「深雪さん 凄く やりずらそうです」

 

「そりゃあの二校選手 深雪の邪魔しながら飛んでるし」

 

第二 ピリオドが終了し深雪が達也の元にやって来る。深雪はまだ疲れを見せていない

それは二校の松井 陽子も同じだが

 

「(深雪がリードしたが点差がそれ程開いてない しかし使用魔法が限られるとはいえ

一般の高校生が 深雪と渡り合えるとは・・・まぁ深雪の得意フィールドではないけど)」

 

「お兄様 アレを使わせて下さい」

 

「珍しいな お前がそんなにやる気だなんて」

 

第三ピリオド 開始直前 エリカや雫が深雪のちょっとした変化に気付く

 

「なんか深雪のCADが変わってない?」

 

「そっか 深雪 もうここでアレを使うんだ」

 

どうやら ほのかは深雪のCADの正体を知っている様だ

 

「アレ?」

 

「ここにいる 皆 驚くよ 達也さんが深雪の為だけに用意した秘策」

 

そして第三ピリオド 開始

 

「また 二校が早い」

 

第三ピリオド開始早々に松井陽子に先制された深雪 本来 狙っていた光球を取られた場合一旦 足場に戻り 別の光球を狙うのだが・・・

 

「え! 足場に戻らず加速?」

 

驚きはそれだけではない

 

「ずっと降りないで移動してる?」

 

「なんで そんな事ができるの?」

 

深雪の行動に驚いた会場そして選手達だったが一つだけ心当たりがあった

 

「まさか・・・飛行魔法?」

 

「そんな 先月発表されたばかりだぞ」

 

その後 勝負は圧倒的だった 必ず一度は足場に戻らなければならない跳躍術式

とその必要のない飛行魔法では勝負にならない 結局 優勝候補に挙げられた

松井陽子ですら深雪にダブルスコアで惨敗

 

本戦『ミラージ・バット』 予選 第二試合 勝者 第一高校 司波深雪

 

試合終了後 深雪は上機嫌で達也と腕を組んで会場を後にしようとしていた。

そんな二人に声が掛かる 声の主は 真由美と摩利と鈴音

 

「お疲れさま 深雪さん 達也君」

 

「良くやったな! 決勝もこの調子で頼むぞ」

 

「有難うございます 決勝も頑張ります」

 

深雪が決勝戦に向けて決意を新たにしている処に

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

振り返るとそこにいたのは先ほどまで予選を戦った松井陽子 その隣に担当エンジニア

そして松井の後ろに第二試合で深雪に敗れた者とその担当エンジニア達

 

「なんでしょう?」

 

「私達は 大会委員に予選第二試合のやり直しを求めるわ」

 

「アレだけの点差で納得できないんですか?」

 

「当り前でしょ? 飛行魔法を使うなんて反則よ」

 

松井達 負け組のあまりに勝手な言い分に 流石の真由美達も黙っていられない

 

「『ミラージ・バット』での飛行魔法の使用は禁止されていませんよ」

 

「自分達が飛行魔法を使えない事を二人の所為にするんですか?」

 

「勝った相手の不正を疑うなんて恥かしくないのか?」

 

反撃に出た真由美達だが彼女達が退く事はない

 

「貴方達 CADの事前チェックを受けてないんでしょう?」

 

「そうですね 許可を貰ったので事前チェックは受けてません」

 

「誰に許可を貰ってもチェックを受けていない時点で違反じゃない!それにチェックを受けてないんだから貴方達が不正をしてないとは言いきれないでしょ」

 

「不正をしていないと言うのならCADを渡しなさい」

 

「(・・・あぁ もしかしてコイツ等 最初から飛行術式が格納されたCADが目的か?

だったら・・・ここは素直に渡した方がウチにとってはいい結果になりそうだな・・・)」

 

彼女達に詰め寄られた達也はなぜか素直にCADを渡してしまう。彼女達もCADを渡すと大人しく帰っていった

 

「ちょっと 渡しちゃっていいの?」

 

「大丈夫ですよ これでウチの総合優勝は確定しました」

 

「達也君・・・凄く悪い顔してる」

 

この時達也は深雪の『ミラージ・バット』優勝を確信した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決勝はどうしようかな?


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九校戦編 後編 其の九

本戦『ミラージ・バット』 予選第二試合で深雪は飛行魔法を使って他の選手を圧倒し

決勝進出を決める 多くの者達が深雪の決勝進出を喜ぶ中 彼等は穏やかではいられ無かった『無頭竜』 九校戦初日から主に一校に対する妨害をしている者達

 

横浜中華街 とある会議室

 

「十七号から連絡が入った」

 

「結果は?」

 

「ターゲットの一人 司波深雪は飛行魔法を使用して予選を通過したらしい」

 

「なんだと?」

 

「流石に予選では負けてくれないか」

 

「だが決勝で一位じゃなければ」

 

「別に一校はもう一位を狙わなくてもいい 三位以内で総合優勝だ」

 

「それに司波深雪の実力なら優勝しても可笑しくはない」

 

「損失額が大きければ確実に我々は本部に粛清されてしまう」

 

「そんな事は分っている!」

 

「最早 手段を選んでいる場合ではない」

 

「だがどうする? もう大会委員にコチラ側の人間はいないぞ」

 

「そこでだ 私は皆に十七号を使って観客を襲わせる事を提案する」

 

「殺すと言っても会場に武器は持ち込めないだろう」

 

「十七号ならリミッターを解除すれば素手で百や二百は屠れるだろう」

 

「観客の被害が大きければ大会も中止になるな」

 

「証拠さえ残さねば いい訳は何とでもなる」

 

「大会が中止になれば掛けも中止になる・・・その方が損出額も少ないか」

 

「そうだな」

 

「では この提案に異論がある者は?」

 

発案者がテーブル全体を見まわすが反対している者はいない

 

「それでは十七号のリミッターを解除する」

 

本戦『ミラージ・バット』会場

 

能力の開放された 十七号(ジェネレーター)は命令を実行する為 手始めに近くを

通り掛かった男性を手に欠けようと腕を伸ばす。だが逆に襲い掛かった男性に腕を取られその反動を利用され会場外に投げ出された。そして投げ飛ばされた十七号の眼の前には既に襲い掛かろうとしていた男 柳 連が見下す様に立っていた

 

「いきなり 殺しに掛かるとは いったい 何者だ?・・・イヤ 答えなくていい どうせ 答えられないのだろう?」

 

十七号が態勢を立て直し再び 柳に襲い掛かろうとするが 柳に吹き飛ばされる

 

「いつ見ても見事だね 体術と魔法の連動『転』」

 

『転』 相手の運動ベクトルを先読みし 増幅 反転させる技

 

緊迫した状況の中 柳に声を掛けたのは同僚の真田

 

「見てないでお前も手伝え 真田」

 

「手伝えと言われても 彼は既に藤林君の『被雷針』で確保されてるし」

 

そう言われて 十七号を見てみると 十七号の体には無数の針

 

『被雷針』 打ち込んだ針に電流を流し相手の動きを封じる魔法

 

 

一方 深雪は試合終了後 シャワーを済ませ 達也の部屋で昼食を取っていた

 

「お兄様にして欲しい事?」

 

「最近は九校戦で忙しくて構ってやれなかっただろう?」

 

「・・・お兄様は私を いくつだと思ってるんですか?」

 

「 じゃあ 俺にして欲しい事は無いんだな?」

 

「・・・先ほど決勝まで休むように言われました」

 

「そうだな できれば睡眠を取っておいた方がいい」

 

「では 私が寝付くまで隣にいて欲しいのですが」

 

「随分 甘えるんだな」

 

「甘えろとおっしゃったのはお兄様ですよ」

 

ベットに入った深雪は暫くすると眠りに着いた その後 響子からのメールが届く

内容は『ミラージ・バット』での不正工作とジェネレーターを使っての観客の大量虐殺の目論みを知らせる物だった

 

「(選手だけでなく観客も・・・見境が無くなったな。しかし 九校戦は明日で終わりだろうに今更どう云うつもりだ なにより未だに奴等が何をしたいのか分からない。イヤ そんな事はどうでもいい どんな理由でも深雪を巻き込むなんて許してはおけない 深雪が標的の一人にならなければ俺から動ごくつもりはなかったが もう奴等を生かしてはおけないな。まぁ元々奴等には生きる価値なんて最初から無いけどな)」

 

あの事故から既に数時間が立つが小早川景子が目を覚ましたと云う連絡は来ていない

別に達也は景子の事を心配している訳ではない。少なくとも身体にはなんの影響もないのだから それに達也が気にする事は常に深雪の事だけだ。『無頭竜』が深雪以外の誰に何をしようとも達也にとっては関係の無い事だ

 

「(身体には なんの影響もない・・・と言っても 心の方はどうかな?先輩は目を覚ました後また魔法を使えるだろうか?)」

 

魔法師の中には魔法を使えなくなる者がいる。その主な原因は魔法行使の失敗による危険体験であり、その時に味わった恐怖は簡単に忘れられるものではない

 

「(先輩が魔法が使えなくなったとしても、俺達が心配しても意味はないよな。後は先輩が魔法が使えなくなったと云う現実にどう立ち向かうかだ。まぁ魔法が使えなくなっても日常生活に支障はないわけだし イヤ でも魔法科高校には・・・)」

 

それから暫くして深雪は目を覚ます

 

「良く眠れたかい? 深雪」

 

「はい 大丈夫です! お兄様」

 

「なら早速で悪いけど作戦会議をしようか」

 

「分かりました」

 

そして二人っきりの作戦会議が始まる

 

「まず決勝で注意すべき相手は一色愛梨だけだ」

 

「他の方は宜しいのですか? 一色さんと私以外の決勝進出者の方は全員三年生ですよ」

 

「お前も分かってるだろ。 幾ら三年生でもあいつ等のレベルは高が知れてる」

 

「注意すると言っても私は彼女の戦い方を知りません」

 

「じゃあ これを見てくれ」

 

達也が深雪に見せたのは新人戦『クラウド・ボール』での愛梨の試合映像

 

「スバルと菜々美でも相手になってませんね」

 

「流石は ナンバーズだな」

 

「お兄様 確か 一色家の得意魔法は・・・」

 

「一色家が得意とするのは神経への直接干渉 しかも彼女はその得意魔法を自分に使っている」

 

「自分にですか?」

 

「運動神経を直接操作してるんだよ だからアレだけ早い動きができるんだろう」

 

「・・・」

 

「不安か?」

 

「そんな事はありません。むしろ楽しみです」

 

「じゃあ そろそろ 会場に行こうか」

 

遂に深雪と愛梨の直接対決が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後編 其の十

九校戦 九日目『無頭竜』の魔の手が迫る中 達也は美月達の協力の元 工作員を取り押さえるそして深雪は達也の用意した秘策で本戦『ミラージ・バット』の決勝に進む。一方、その裏でも響子達の協力により『無頭竜』のジェネレーターが確保されていた。

 

 

「調子はどうだ 深雪」

 

「万全です お兄様」

 

「そうか それは良かった」

 

「お兄様 今回は最初から飛行魔法を使いたいと思うのですが」

 

「分かったよ」

 

『ミラージ・バット』 決勝前 

 

深雪が会場に入ると他校の代表選手達からの敵意を向けられる。勿論、深雪がそんなものを気にする事はない。それは彼女も同じだった。

 

「約束が果たせて良かったわ」

 

深雪に声を掛けたのは一色愛梨。

 

「私も一色さんと戦える事を楽しみにしていました」

 

「そうね いい試合をしましょう」

 

堅い握手を交わす二人の眼には既に他校の代表選手の姿は映っていない。

 

「これより 本戦『ミラージ・バット』決勝が始まります。この決勝の順位次第で第一高校の総合優勝が決まります」

 

選手達が位置に着く そして試合が始まる

 

試合開始直後 選手達は一斉に飛び出し 誰も足場に戻って来なかった

 

「他校も飛行魔法!?」

 

「他校も飛行魔法を使うとなると深雪さんが有利じゃなくなるわ」

 

「そんな事はないですよ」

 

「どうして?」

 

「他校の連中は飛行魔法を使えば深雪と差が無くなると思たんでしょうけど 飛行魔法を使っても 深雪と違って連中は飛行魔法を完全に理解していない。まぁ 初めて使うんだから仕方ないでしょうけど・・・」

 

達也と真由美が話ていた頃 深雪は着々と得点を重ねていた だが他校の選手達は得点を重ねることができない。飛行魔法に慣れている深雪とでは勝負にはならないのだ。そして深雪の近くを飛んでいた選手の一人が足場に強制的に戻された 

 

「え! もうサイオン切れ?」

 

「それに 今のは?」

 

「飛行魔法はサイオンの消費が激しいですからね そしてCADに供給されるサイオンが半減すると安全装置が働くようになっているんですよ」

 

深雪が得点を重ねていく 一方 他校の選手は次々にサイオンの使い過ぎにより中半 強制的にリタイアしていく

 

「(お兄様の・・・シルバーの術式は基本的に誰にでも使える術式 だけどそれは誰もが同じ様に使えると云う事ではない。 そして私以上にこの魔法を使いこなせる者はいない)」

 

第三ピリオドを迎えた頃には既に 深雪と愛梨の一騎打ちになっていた

 

深雪は相変わらずペースを落とす事無く飛び続け得点を重ねる 

愛梨も得点を重ねるが少しずつ差が開き出す

 

「(司波深雪・・・試合開始直後から飛び続けるなんて どれ程のサイオン保有量だと云うの? まぁ兄の司波達也が『術式解体』を使えるのだから 妹である彼女もそれなりにあるのが当たり前なんでしょうけど でも実際に使って解ったけど この飛行魔法はサイオンの消費が激しい 幾ら 事前に練習を積んでいても彼女にも負担があるはず・・・実際 予選で第三ピリオドからしか使わなかったし・・・まさかアレも作戦のウチ?)」

 

試合も終盤に差し掛かり 更に点差が開いて行く

 

「(参ったな 本当に・・・私が全力を出しても勝てないなんて・・・)」

 

やがて 愛梨が足場に降りて来た サイオンが無くなる前に自分で降りたのだ

そして この瞬間 本戦『ミラージ・バット』の優勝者が決まる

 

本戦『ミラージ・バット』 優勝 第一高校 司波深雪

 

そして深雪の優勝により一校の総合優勝が決まる

 

試合終後

 

「負けたわ 完敗よ でも 貴女と競い合えて良かった」

 

「私もです」

 

「有難う そう言って貰えると嬉しいわ」

 

愛梨と別れた深雪が夕食を食べに行くと そこでは女子を中心にささやかな祝勝会が行われていた

 

「深雪さん 今日は本当に有難う 最終日を前にウチの総合優勝を決めてくれて」

 

「有難うございます」

 

「それで 達也君は一緒じゃないの? 達也君にもお礼を言っておきたかったんだけど」

 

「申し訳ありません 会長 あの後 直ぐに寝てしまいまして 明日の朝まで起こすなと」

 

「まぁ そうよね私達の所為で忙しかったでしょうから」

 

しかしその頃 達也は部屋で寝ていなかった。 達也は別の場所にいた

 

基地内士官用駐車場

 

「女性を待たせるなんてマナーがなってないわよ 司波君」

 

達也に声を掛けたのは 小野遥

 

遥は達也を車に招き入れる これから話す内容が人に聴かせられるものではないからだ

 

「本当に一日で調べが付いたんですね」

 

「まぁね それで地図データだけでいいかしら」

 

「構成員が分かっているならそのデータも欲しいです」

 

「分かったわ」

 

「じゃあ これが約束の報酬です」

 

「え!? こんなに?」

 

遥が驚くのは無理もない 達也の提示した報酬が異常な金額だったからだ

 

「足りませんか?」

 

「そんな事ないけど」

 

「それじゃあ」

 

「待って 司波君」

 

「何ですか?」

 

「保険なのよね」

 

「まぁ そんなものです」

 

達也の答えに遥は納得しなかったが それ以上は何も言わずに去って行った

 

「今の人は?」

 

遥が立ち去った後 現れたのは響子

 

「公安のオペレーターですよ」

 

達也は響子の車に乗り込みナビに地図データを打ち込む

 

「じゃあ 行きましょうか」

 

響子と達也が『無頭竜』のアジトへ向かっていた頃 風間の元に来客があった

 

「九島閣下 本日はどのような御用で」

 

「十師族嫌いは相変わらずだな」

 

「何度も言いますが それは誤解です」

 

「そう 構えないでくれ 今日は彼の事で話したくてね」

 

「・・・彼?」

 

「君の部下 司波達也君 三年前 君が四葉から引き抜いた 深夜の息子だよ」

 

「・・・」

 

「私が知っていても 不思議ではあるまい あれでも私の教え子なのだから」

 

「ならば 四葉が彼の所有権を手放していない事もご存知でしょう?彼は私の部下じゃない 彼は協力者に過ぎません」

 

「惜しいとは思わんかね」

 

「惜しい?」

 

「彼は将来 一条の息子と並んで我が国の魔法戦力の中軸となりえる。あれ程の逸材を私的なボディーガードにしておくなどもったいないとは思わんか?」

 

「・・・閣下は四葉の弱体化を望んでおられるのですか?」

 

「そうだな 今でも四葉は他の十師族より頭一つ飛び抜けている それなのに あの二人が

四葉の中軸になれば 四葉は強くなり過ぎる 他のナンバーズでも抑えきれない」

 

「『魔法師は兵器』 四葉は今でもその考えに疑念を抱いていないようですしね」

 

「確かに 魔法師は兵器として作られた だが今は時代が違う 兵器として在るだけでは

人の世界からはじかれる」

 

風間が烈と会談していた頃 達也は目的地にたどり着いた

 

場所は横浜ベイヒルズタワー

 

「ここの屋上からなら彼等のアジトが見下ろせるはずよ」

 

「でも屋上には外からいけませんよ。このドアも内側からしか・・・」

 

「それはお姉さんに任せなさい」

 

そう言うと響子は直ぐにドアを開けて見せる

 

「・・・流石は『電子の魔女』(エレクトロンソーサリス)ですね」

 

「さて それじゃあ 屋上に向かいましょうか」

 

そして屋上に着いた達也はシルバー・ホーンの銃口を横浜中華街のとある建物に向ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 終章 其の一

九校戦 九日目 深雪は本戦『ミラージ・バット』で優勝し 一校の総合優勝を決める。 一方の達也は九校戦期間中に何度も一校選手達に妨害工作を行っていた『無頭竜』が深雪にまで手をだそうとしたので遂に彼等の掃討に乗り出す。

 

横浜中華街 某ホテルの一室 

 

その部屋にいる者達の動きは慌ただしかった。

 

「帳簿は全て持ち出せ」

 

「ここはもうダメだ」

 

「まさか ジェネレータ-が取り押さえられるとは」

 

「なぜ あのタイミングで邪魔が入る」

 

「早くジェネレーターを回収しなければ・・・まずいぞ」

 

「そんな事より例の餓鬼の始末の方が先だろ」

 

「あの餓鬼の所為で 今や我々は組織に追われる身だ」

 

「司波達也 結局 あの餓鬼は何者なんだ」

 

「ここ数日調べても碌なデータが出てこなかった」

 

「係累はおろか家族構成すら不明だ」

 

「そんな事この国で普通ならあり得ない事だ」

 

「全てのデータが意図的に改ざんされているんだろう」

 

「そんな事が出来るのは相当な権力者だけだ」

 

「しかし あんな餓鬼が いったい 誰と繋がっているんだ」

 

「誰かは知らんが 軍の関係者だろ 出なければ タイミングが良すぎる」

 

 

横浜ベイヒルズタワー屋上

 

彼等が慌ただしく動いている頃 達也は彼等をじっと観察していた。

 

「部屋に居るのは全部で九人 その内の四人が情報強化で部屋を守ってるみたいですけど・・・それにしても 随分 慌ててますね」

 

「逃げ出そうとしてるんじゃないかしら」

 

「あぁ そうだ」

 

「どうしたの? 達也君」

 

「結局 アイツ等の目的は何だったんですか?」

 

「あぁ 私が掴んだ情報では・・・」

 

響子は達也に工作員から得た情報を話始める。

 

「彼等は九校戦を利用し賭けをして儲けようとしたらしいわ。それで優勝候補の一校に掛け金が集中したから 一校が優勝出来ないように妨害工作をしていた。一校以外が優勝してくれれば儲かるのは彼等の方だからね。でも達也君の所為で一校が予想以上に得点を伸ばした。そして一校の優勝が決まりそうになるとジェネレーターを使い大会自体を中止に追い込もうとした」

 

「はぁ~そんな事の為に・・・」

 

達也は一呼吸置いて シルバー・ホーンを中華街のとあるホテルの一室に向ける

 

「響子さん そっちの準備は済みましたか?」

 

「えぇ 何時 始めてくれても構わないわ」

 

「さて それじゃあ 始めますか」

 

達也はシルバー・ホーンの引き金を引く

 

同時刻 横浜中華街 とあるホテルの一室

 

『無頭竜』の幹部達は身支度を急いで行っていた。しかし 突然 ジェネレーターの一体が苦しみだす。

 

「どうした 十五号」

 

突然の異変に幹部の一人が振り向く。だが苦しむジェネレータより先に彼の目の飛び込んだ光景は先ほどまでなかったはずの壁に空いた大きな穴。

 

「いったい いつの間に?」

 

驚きはそれで終わらない。 苦しんでいたジェネレーターが消えた。

 

「いったい 何が・・・」

 

幹部の一人がそう呟いたその時 部屋の回線に着信を知らせる音が響く。

 

「幹部専用回線に着信?」

 

「hello No Head Dragon 東日本支部の諸君」

 

聞こえて来たのは若い男の声。

 

「だ 誰だ! 貴様」

 

「今から消えるお前達に教える義理はないと思うが・・・まぁ アレだ 富士では世話になったな 付いてはその返礼に来た」

 

その声と共にまたジェネレーターが消え それに伴い部屋全体に掛けられていた情報強化が無効化される。

 

「何処だ! 何処からだ 14号」

 

恐らく近くにいるであろう襲撃者を探させる。そして14号が指示した方向に幹部の一人がライフルを構え照準スコープの倍率を最大に上げる そして 何とか襲撃者らしき人物を発見する

 

スコープに襲撃者の笑った表情が見たとき スコープが砕け目を負傷した。

 

「14号 16号 ヤレ」

 

「不可能です」

 

「届きません」

 

「口答えするな」

 

別の幹部がジェネレーターを叱咤したが、返答は回線から聞こえて来た。

 

「やらせると思うか?」

 

その声と同時に新たにジェネレーターが消える。

 

「道具に命令するより自分でした方が早いんじゃないか?」

 

幹部の一人が外に助けを求めようとするが回線は開かない。

 

「無駄だ 今その部屋から通信出来るのは俺だけだ」

 

「バカな! いったい どうやって?」

 

発言者はその答えを聞く事無く消える。

 

「どうやって・・・消えるお前達が知る必要はない」

 

スコープで目が傷ついた幹部が部屋を抜け出そうとするが、彼が部屋を抜け出す事は無かった。

 

「逃げられるなんて思うなよ」

 

次々と消えていく仲間。今すぐにでも逃げ出したいが自分達の命が相手に握られてる以上残った彼等の取れる行動は相手の気まぐれに賭けるイチかバチかの交渉。

 

「待て イヤ 待ってくれ。我々はこれ以上九校戦に手出しするつもりはない」

 

だがこの程度の事で襲撃者は納得はしていない様だ。

 

「フフッ 九校戦は明日で終わりだろ」

 

「九校戦だけではない我々『無頭竜』は日本から手を引く」

 

「お前達が帰っても別の幹部が来るんだろ」

 

「そんな事はない」

 

「なぜ お前にそんな事が言える・・・『ダグラス=黄』」

 

「ッ・・・ わ 私はボスの側近だ ボスも私の言葉は無視できない」

 

「側近だと言うのならボスの顔は見た事あるな」

 

「私は拝謁を許されている」

 

「ボスの名は何と言う?」

 

「そ それは・・・」

 

「俺は命令してるんだ」

 

そしてまた一人、幹部が消える。

 

「ジェームズ!?」

 

「何だ 今のが『ジェームス=朱』か 国際警察には悪い事したな・・・イヤ どの道 消されるなら誰が消しても問題ないよな さぁ 早く答えろ」

 

「わ 分かった 答える ボスの名は リチャード=孫だ」

 

「表の名は」

 

「孫 公明」

 

その後も 彼はリチャード=孫の情報を提供させられた。 

 

「これが私の知っている情報全てだ」

 

「ご苦労だったな」

 

「で では 信じてくれるのか?」

 

「あぁ お前は間違いなく リチャード=孫の側近らしい」

 

助かった・・・そう思った『ダグラス=黄』だったが、

 

「『グレゴリー!?』」

 

また一人幹部が消され 遂に彼は一人になった。 

 

理不尽だ 自分達はいったい何に手を出したのかと思ったがもう遅い。

 

「な 何故だ! わ 我々は誰も殺さなかったではないか?」

 

「フフッ 殺さなかったじゃなくて 殺せなかったの間違いだろ」

 

「ぐっ・・・」

 

「それに最初からお前等が何人殺そうが関係無いんだよ。お前達は俺の逆鱗に触れた。だから消される。理不尽だ・・・なんて思うなよ。常に消される側の理由なんて理不尽な物ばかりだろ。少し前まで消す側の人間だったお前なら分かるよな」

 

そしてまた、この世界から一つの存在が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 終章 其のニ

オリジナル展開


遂に達也は『無頭竜』の幹部達を追い詰めた。一方で九校戦も最終日を迎える。九校戦最終日に行われるのは本戦『モノリス・コード』決勝リーグ。深雪と達也の在籍する一校代表には 十文字克人 辰巳綱太郎 服部刑部小丞範蔵が出場。彼等は順当に勝ち進み決勝に駒を進める。九校戦で最も人気の競技。しかも最終日で観客も多い。しかし客席に達也はいなかった。達也は風間の元にいた。理由は勿論、昨日の報告

 

「昨日はご苦労だったな」

 

「ご苦労と言われても昨日のは私情ですよ」

 

「私情ではない 俺達も当事者だ」

 

「昨日の情報は公安は勿論のこと内情(内閣情報管理局)も喜んでいたぞ」

 

「たかが犯罪シンジゲートのトップの情報にそんなに価値があるんですか?」

 

「『無頭竜』は『ソーサリー・ブースター』の供給源なんだよ」

 

「それって 確か魔法増幅装置の事ですよね」

 

「達也君は『ソーサリー・ブースター』の元が何か分かるかい?」

 

「さぁ?」

 

「それは人間の脳だ 正確には魔法師の大脳」

 

珍しく 真田が感情的である

 

「あんな物 あっていい物じゃない」

 

「まぁ 感情面を抜きにしても軍事的に脅威だからな」

 

 

『モノリス・コード』決勝前

 

克人の元には真由美が来ていた

 

「大変だったみたいだな」

 

「まぁね とても疲れたわ」

 

「それで十師族の方々は納得されたのか?」

 

真由美は此処に来る前に関東魔法協会支部にいた

 

モニターには各地に散らばる十師族に名を連ねる者達

 

横浜にある協会支部には七草 三矢 四葉が それ以外は 各地の協会支部でオンライン設備を使っている。

 

「それでは始めようか」

 

宣言したのは集まったメンバーの中で最年長 九島真言

 

「まだ 十文字殿が・・・」

 

一条剛毅が空白の席を指す

 

「先程 連絡がございましたわ 今日はどうしても都合が付かないそうで」

 

四葉真夜が十文字和樹 欠席の理由を話す。

 

「どんな理由であれ大事な会議を欠席するのはどうかと思うが・・・」

 

「別に今回の議題はそれ程 重要ではないでしょう」

 

「そうですね しかも 今回の会議は急遽 決まったにも関わらず、これだけのメンバーが揃っただけでも良いのでは?」

 

真夜に続いて発言したのは六塚温子

 

「今回の議題は 司波達也君と司波深雪君 この二人をどうするかでしたね」

 

八代雷蔵が確認の意味を含めた発言をする

 

「二人の映像は見せて貰いましたよ いや~実に素晴らしい」

 

三矢 元が二人を称賛する

 

「報告ではどれだけ調べても彼等に関するデータが出てこなかったと云う事ですが本当ですか?」

 

二木 舞が七草弘一に現状を聞く

 

「えぇ 親が会社員の様ですがそれ以外は特に情報が・・・」

 

その話を聞いて

 

「七草さん 確か お嬢さんの真由美さんは一校で生徒会長をされてますよね。真由美さんは何か彼等から直接聞いていたりしないのですか?」

 

五輪勇海が思い出した様に発言する

 

「では 真由美をここに連れて来て 聞いてみても宜しいでしょうか?」

 

そして 真由美が連れてこられた 基本的に質問するのは弘一

 

「では 彼等について知っている事を話してくれ」

 

「前にも言いましたけど 私もそこまで彼等の事は詳しくは・・・」

 

「知っている事だけ答えてくれればいいですよ」

 

「まず二人は一般出身と云うことで間違いないんだね」

 

「はい そう聞いています」

 

「二人のご両親について何か知らないのか?」

 

「以前 二人のご両親はFLTの研究者だと聞きました」

 

「ほぉ~FLTの研究者」

 

「彼のCADの調整技術が素晴らしいのは彼がトーラス・シルバーから教えを受けているからです」

 

「トーラス・シルバー本人に?」

 

「ご両親が知り合いだそうで・・・」

 

「成程 それなら 納得できますね」

 

「確かにCADの調整技術には納得できましたが・・・戦闘技能の方は・・・」

 

「真由美は彼の戦闘技能があれ程 高い理由は知っているかい?」

 

「彼は九重寺で九重八雲先生の教えを受けています」

 

「何! 九重八雲?」

 

突然 挙げられた名に 真言が反応する

 

「九重八雲・・・確か古式魔法師として有名な方では」

 

「成程 その様な方から指導を受けているのならアレだけの戦闘技能も納得もできる」

 

「だからといって 彼を認めるのは・・・」

 

「我々 十師族の立場もありますし」

 

「他のナンバーズから反感を買う様な事は・・・」

 

だがここで一条剛毅が二人を擁護する

 

「彼等も魔法師だ 我々は魔法師を守る立場にもある ナンバーズじゃないからといって

認めないなど」

 

「一条さんは悔しくないのですか?」

 

「彼は将来この国の戦力になる それは喜ばしい事だ」

 

そして四葉真夜がとんでもない事を口にする

 

「それにナンバーズが全て・・・と云う訳でもありませんし」

 

「!! 四葉殿 貴女がその様な事をおっしゃるのか?」

 

「ですが時には強大な力を見せつけるのも我等のやるべき事では・・・」

 

それから暫く議論は続いて・・・

 

「それで・・・」

 

克人は続きを促す

 

「高校生のお遊びでも十師族の力に疑いが残るような事があってはならない・・・だって」

 

「あの試合は とてもお遊び・・・なんて言葉で表せる試合内容じゃないと思うが・・・」

 

「あの二人が少しでも十師族の血を引いてくれてればこんな面倒事に巻き込まれなかったんだけど」

 

「十師族はこの国の魔法師界の頂点 時には力を誇示する事も必要になるだろう」

 

「御免ね 十文字君に押し付けちゃって」

 

「イヤ これは俺がすべきことだ」

 

その頃 他のナンバーズ 及び百家の元には弘一がいた

 

「それで七草殿 彼等の処遇は?」

 

「不用意に彼等の背後関係を詮索しない事 そして不必要に干渉しない事になりました」

 

「詮索をしない?」

 

「彼等が本当に裏で誰かと繋がっている として それが 国防もしくは政府関係者なら色々面倒な事になりかねませんから」

 

「それは・・・そうですね」

 

「これ以上互いの関係性を崩す訳にもいかんな」

 

「それで干渉しないとは?」

 

「彼等に近づかない・・・と云う事です」

 

「参ったな あの二人をウチにと思ったのですが・・・」

 

「そうですか 皆さんも真夜さんと同じですか?」

 

「!! 四葉殿もあの二人の事を?」

 

「真夜さんは深雪君の方にご執心の様で 出来れば娘にしたいと まぁ 勿論 二人のご両親との話し合いの元ですけど」

 

弘一が帰ってからも 一部のナンバーズと百家の当主達の会話は続いていた

 

「まさか 四葉家も 狙っていたとは」

 

「あれ程の才能だから 仕方ないか」

 

「どうします?」

 

「引き下がるしかないだろう」

 

「ナンバーズ同士の争いはご法度 まして あの四葉とやり合うなどあり得ん」

 

「では この後はどうします?」

 

「もう 此処に留まる理由は無いだろう ナンバーズ以外であの兄妹以上に優れた選手はいない様だしな」

 

こうして ナンバーズや百家の当主は会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 終章 其の三

オリジナル設定


九校戦 最終日 本戦『モノリス・コード』決勝は渓谷ステージで行われる事になった

対戦校は一高と三高 観客は見ごたえある激戦を望んでいた。しかし 始まって見れば戦況は圧倒的に一校の・・・イヤ 克人の独壇場。三校選手は地形を生かした攻撃を仕掛けるが克人には効いていない。

 

「決勝戦だと云うのに此処まで差があるとは」

 

「十文字先輩が相手ですから仕方ないのでは」

 

「まぁ それは・・・」

 

「他に何か可笑しな処でもあるのですか?」

 

「準決勝までとは明らかに戦い方が違うから」

 

「・・・それはそうですけど」

 

一校の戦い方は 基本的に服部がオフェンス 克人が遊撃 綱太郎がディフェンス

 

先程の準決勝では服部が敵陣に責め 克人は服部を得意の障壁魔法で援護 一方の綱太郎はもしもの為に自陣の『モノリス』の前に立ち敵の攻撃に備えていた。処が現在行われている決勝戦では克人だけが敵陣に攻め込んでいる。服部は綱太郎と共に自陣の『モノリス』の前にいる。

 

「本来のスタイルと違う事をしていったい何になるんだ?」 

 

「でも流石に凄いです 十文字家の『ファランクス』」

 

『ファランクス』 『鉄壁』の異名を持つ 十文字家が得意とする魔法

 

4系統8種 全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し防壁を幾重にも作り出す防御魔法。

 

「脅威なのは絶え間なく障壁を展開し続ける持続力 俺の分解とは相性が悪い。一つ壁を分解してもまた直ぐに次の壁が出てくるし」

 

「『術式解体』は兎も角 お兄様には『トライデント』もありますし『質量爆散(マテリアル・バースト)』には耐えられないと思いますけど?」

 

「別に先輩を相手に『分解』がどこまで通用するのか試すつもりはないよ」

 

「ですが先輩がご協力してくれれば 叔母様達との戦いも有利になると思うんですけど」

 

「『ファランクス』では叔母上の魔法は防げないよ。アレはどんな魔法を持ってしても防げない。だからこそ 叔母上は世界最強魔法師の一人に数えられている。『夜の女王』の名も伊達じゃない」

 

「でも 一撃目を躱す壁くらいにはなるのでは?」

 

「・・・お前なぁ」

 

 

克人が障壁を出したまま 自らに移動魔法を掛け 三校選手にぶつかる 相手選手はその衝撃に耐えられず次々と跳ね飛ばされる。そして最後の選手が克人に倒おされ一校の『モノリス・コード』優勝が決まる

 

全ての競技が終わり 閉会式が始まる まず最初に表彰式

 

次々に各競技の一位~三位までの名前が呼ばれ表彰台に上がり メダルが授与される

 

そこには深雪は勿論の事 達也の姿もある。メダルを渡すのは運営委員

 

各競技の表彰が終わると次は男女別での最優秀選手の表彰が行われた。選ばれたのは深雪と達也

 

本来 一般出身者が選ばれる事は稀な事だが 十師族の一条を倒し 優れたCAD調整技術を持つ達也と一年生にして本戦『ミラージ・バット』で飛行魔法を使いこなし優勝 そして『氷炎地獄』『ニブル・ヘイム』を成功させた深雪が選ばれるのは当然だった

 

 

二人の首にメダルを掛けるのは運営委員ではなく烈だ 首にメダルを掛けると 声を掛けられる

 

「真夜に宜しく」

 

不意な事であったが辛うじて動揺しなかった達也 だがそれでも一瞬 動きが止まってしまう。深雪も何とか平静を保っていたが何処か不自然さがあった 只 他の選手達に見えていないのが救いだ。

 

その後 優勝旗が一校代表の克人に渡されて閉会式は終了した。

 

閉会式が終われば後は後夜祭。だがそれまで少し時間がある。深雪は真由美から達也を必ず後夜祭に出席させる様に頼まれていた事を理由に達也の部屋を訪れていた。

 

「申し訳ありません お兄様 あの様な お見苦しい姿を」

 

「老師にバレてた件か?仕方ないさ 流石にアレは俺も驚いた」

 

「ですが 老師にバレていると云う事は既に他の家にもバレているのでは」

 

「それはないだろ 叔母上も何も言って来なかった。 それに十師族は皆 同じじゃない。本来は対等な立場ではあるが・・・十師族に元々 序列はない。 けど それでも序列が付くのは家同士で差があるからだ。だから九島が知っているからといって他が知っているとは限らない。まぁ 一番最初にバレるの七草と思っていたが・・・でも自分から俺達の事を知っていると言ってきたんだから そこまで心配しなくてもいいと思うぞ」

 

会場に着いた二人は大人に囲まれていた。彼らにとって九校戦で見定めた将来有望な人材をスカウトできる唯一の時間 今大会で注目された深雪と達也を手に入れようと皆が必死だった。

 

深雪と達也は後夜祭が始まるまで「まだ 将来の事は決めていません」と言い続けた。

深雪は終始不機嫌だった。理由は彼等が達也を商品としてしか見ていないから。

 

そして解放された後はダンスパーティー。初日とは空気が違う。毎年 少なからずカップルが誕生する事が分かっているからである。 

 

参加者は意中の相手を誘おうと積極的に動いていた。一条将輝もそんな一人。彼の意中の相手の周りには人垣できており ライバルは多い。将輝は彼女を見つけた。ついでに隣に逢いたくない奴も見つけた。そして相変わらず彼女は腕を組んで寄り添っていた 実の兄に。

 

「二日ぶり だな一条」

 

一瞬で気まずい雰囲気になる だが達也は気にしない。

 

「耳は大丈夫か?」

 

「心配はいらんし される必要もない」

 

「なぁ 一条」

 

「な 何だ?」

 

「暇なら深雪の相手でもしてくれないか?」

 

「へ?」 

 

「疲れたんだよ 流石にこれ以上は妹の面倒まで見きれない」

 

達也はその場を離れる。

 

「もう! お兄様ったら・・・はぁ~どうしますか? 一条さん」

 

「なら 俺と踊っていただけますか?」

 

「フフッ 私で良ければ喜んで」

 

二人はその場を後にする その頃 本当に疲れていたので休もうとしていた達也にも声が掛かる。

 

「あの 達也さん」

 

「どうした ほのか」

 

ほのかはダンス会場を見ている。

「お客様 こう云う時は男性の方からリードいたしませんと」

 

気が付くとエリカがいた。

 

「・・・ほのか 俺と踊ってくれないか?」

 

「はい! 喜んで」

 

そしてほのかと踊り終えるとそれから次々に誘いが来た。雫 エイミィ 真由美 等 勿論、他校生からのお誘いもあった。

 

しばらくして達也と深雪は壁際で休んでいた

 

「お兄様 お飲み物は?」

 

「じゃあ 頼めるか?」

 

「此処にあるぞ」

 

そう言って グラスを差し出したのは 克人だった。

 

「・・・有難うございます」

 

「随分 お疲れの様だな」

 

「まぁ 経験がないもので」

 

気まずいと思った 二人だが 何の理由も無しに離れる事もできない

 

「お前達に話がある」

 

先に動いたのは克人の方だった 彼は防音壁を展開した。イヤな予感がする。しかし、逃げられない。

 

「お前達は十師族の一員だな?」

 

「違いますよ。 俺達は一般です」

 

「なら 十師族の一人として言わせてもらう お前達は十師族になるべきだ」

 

克人の目線の先には 真由美

 

「そうだな 七草とかどうだ?」

 

「・・・は?」

 

達也は克人が何を言ってるのか分からなかった 一方 理解した深雪はキレた。

 

「お兄様の結婚相手を勝手に決めないでください! それに私達をつまらない事に巻き込むのは止めて下さい」

 

「おい 深雪」

 

他の参加者は深雪がキレているのが見えていたが話の内容が分からないので深雪がキレている理由が分からない 。

 

「・・・だが十師族の一人を倒した事はお前達が考えている程 軽くないぞ」

 

克人はそう言って障壁を解き二人から離れた。気が付けばダンスパーティーも終了時刻が迫っていた。

 

 

「お兄様 ラストダンスは私と踊っていただけませんか?」

 

「・・・何もラストダンスを兄妹で踊らなくても」

 

「お兄様はまだ 他の女性と踊り足りないんですね?」

 

「・・・イエ 踊らさせていただきます」

 

これ以上 怒らせたらマズイ そう思って 達也は深雪の手を取った。

 

 




アニメのダンスパーティーでは深雪は一度も将輝を見てませんね


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九校戦編 後日談

オリジナル


長かった九校戦も終わり 魔法科高校に通う者達にとって本格的な夏休みがやって来た

会場から帰って来た翌日から 司波家ではいつもの時が流れる。達也が九重寺での朝の修練から帰って来るとリビングにはいつも通りの深雪の手作り朝食が、

 

「作り過ぎじゃないか?」

 

と達也が言ってしまう程の量があった。

 

「すみません 久々の料理で張り切り過ぎました」

 

その後二人は昼食の時間まで使ってそれらを処理する事に成功した。

 

それから しばらく休んでいた。

 

「・・・」

 

「どうかされましたか お兄様」

 

「視られてる」

 

「!! いったい 何者ですか?」

 

「さぁな 数は・・・二人」

 

「どうしましょう」

 

「こちらから動く訳にはいかない」

 

「では叔母様に連絡してみては?」

 

それから しばらくして 深雪が真夜に連絡を取る。

 

「視られてる?」

 

「叔母上の手の者じゃないですよね」

 

「まさか これでも 二人の事は信用してるのよ」

 

真夜は二人が四葉を抜けたがっている事を知っている。そして毎日の様に二人を監視すべきだと忠告を受けている。それでも真夜は二人の監視を命じた事はない。 

 

「じゃあ その二人の事は調べておくから 下手に動かないのよ」

 

「分かっていますよ 叔母上」

 

数日後 司波家

 

「相変わらず見られてる様だ」

 

「どうするんですか? 叔母様からの連絡はまだ来てませんし」

 

「流石に 四葉でも時間は掛かるさ」

 

「しかし いったい 何が目的なんでしょう」

 

更にその次の日 四葉家

 

「葉山さん 例の件 何か分かりましたか」

 

「はい 何とか 付き止める事ができました」

 

「それで 何処の誰なのかしら あの子達を監視しているのは」

 

「どうやら 一人は七草配下の魔法師のようですね」

 

「はぁ~弘一さんにも困ったものね 二人には不必要に近づかないと云う師族会議の

決定を僅か数日で破るなんて」

 

「それは仕方ないかと 七草殿は深雪お嬢様と達也殿の才能を見過ごせないのでしょう」

 

「他のナンバーズの御当主は 私が興味を示した事が分かった途端に諦めたのに」

 

「危険を冒してでも 手に入れたいのでは?」

 

「取り敢えず 七草が動いていた証拠を押さえておいて下さいね」

 

「畏まりました 奥様」

 

「そう云えば あの子達を見ていたのは二人でしたね もう片方も正体は分かってるんですか?」

 

「えぇ 勿論でございます」

 

「それで?」

 

「それが どうやら 新発田家の配下魔法師のようで」

 

「・・・新発田って 理さん?」

 

「はい 左様でございます」

 

新発田 理  四葉分家の一つ 新発田家の当主

 

「余程 あの子達が  達也が活躍したのが気に入らないのね」

 

「元々 九校戦出場 一校進学にすら反対されていましたし」

 

「理さんは あの子の眼を 知らないわけじゃないでしょうに 監視がバレない

とでも思っているのかしら」

 

「どうなさいますか?」

 

「直ぐに止めさせてください あの子達の監視なんて無駄な事でしょう」

 

「奥様は信じておられるのですね 二人が四葉を裏切らないと」

 

「正確には 分かっていると云うだけですよ あの二人が四葉を裏切れないと云う事を」

 

 

後日 司波家 リビング 

 

二人は真夜から監視者の正体を教えられていた 但し 七草の魔法師が二人だと云う嘘を

 

「なぜ 七草が私達の監視を?」

 

「単純に貴方達が欲しいのでしょう」

 

「これからどうすれば」

 

「監視している七草の魔法師には 監視がバレている事をそれとなく気付かせます。

そして四葉が動いている事も」

 

「危険では?」

 

「私達の関係がバレてしまいませんか?」

 

「大丈夫よ 貴方達はナンバーズの間でも人気だし 私が貴方達に興味を示している事も弘一さんは知ってるから ウチが動いても問題無いわ」

 

「そうですか」

 

「じゃあ 話はこれでお終い。 これから先も色々と気を付けなさい」

 

それから しばらくして 四葉家 真夜の書斎

 

「葉山さん 例の資料は用意できましたか?」

 

「深雪お嬢様と達也殿の新しくできた友人の調査報告書の事でございますか?」

 

「えぇ あの子達 上手く友達作りは出来ているのかしら?」

 

実は真夜も弘一と同じ様な事をしていた。

 

「どなたも 中々の粒揃いの様です」

 

「ふ~ん 中々 面白そうな子達ね 九校戦に出てた子もいるわね。でも この中から いったい 何人があの子達の協力者になるのかしら」

 

真夜は楽しそうにその資料を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ながらの真夜のオリジナル設定 説明

幾ら スポンサーからの収入が凄いからって他の十師族の人が働いてるのに真夜だけが無職(正確には魔法研究者?)なのは可笑しいと思ったので真夜さんも社長にしました


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九校戦編 後日談 雫

お気に入りが250を超えたみたいです。 有難うございます。


夏休みのとある日 その日は珍しく達也は深雪を一人残し家を出ようとしていた。

 

「じゃあ 行ってくるよ」

 

「随分 嬉しそうですね」

 

「はい?」

 

「雫とのデート そんなに楽しみですか?」

 

「あの深雪さん? 俺は雫と付き合ってないんだから デートじゃない それに俺が雫と出かける理由も解ってるだろ?」

 

雫が達也と出かける理由 それは九校戦。

 

新人戦『アイス・ピーラーズ・ブレイク』決勝戦で珍しく同じ学校の代表同士 雫と深雪が争うことになった。

 

試合結果は深雪の勝利。

 

試合後に深雪と雫は 会場のカフェでバッタリ遭遇してしまう 同行していた ほのかは場の空気が悪くなると思っていたのだが、

 

「相席いいかな?」

 

雫は気にしていない様だ

 

「あぁ 構わないよ 好きな物を注文してくれ 優勝と準優勝のお祝いとして奢るよ」

 

「じゃあ 遠慮なく」

 

そして雫は深雪の ほのかは達也の前に座る

 

「雫には悪い事したな。『フォノン・メーザー』を使えば拮抗した試合になると思ったんだが・・・使えると使いこなせるとでは意味が違うからな。元々『アクティブ・エアーマイン』と『フォノン・メーザー』、それにCADの同時操作の三つを二週間で習得すると云う前提が間違ってたな。まぁ時間が無かったから仕方なかったが」

 

「達也さんは 悪くないよ『フォノン・メーザー』無しじゃ他の選手と同じで勝負にならなかったよ。マスターできなかった私の力不足。達也さんは道を示してくれたのに私が台無しにしちゃった。深雪も御免ね。歯ごたえのない相手で申し訳ないって思ってる」

 

「そんな事ないわよ 雫は手強かったわ」

 

「そう言ってもらえて助かる」

 

「それにしてもCADの同時操作まで教えてたなんて 私には何も教えてくれなかったくせに」

 

「深雪は何か新しい事を覚えるより魔法制御を重点的にした方がいいと思ったんだが」

 

「それって 私は雫達と違って基礎ができてないってことですか?」

 

「イヤ そうは言ってな・・・」

 

「それに 私との練習時間より雫達との時間の方が多かったですよね」

 

「そんな事はないだろう」

 

「だいたい お兄様は・・・」

 

自分達を眼の前にして兄妹喧嘩?し始めた二人を見て笑ってしまう。

 

それからしばらくして、

 

「御馳走様でした」

 

「じゃ本当に達也さんに甘えちゃうよ」

 

「あぁ お祝いなんだし 奢らせてくれ・・・あれ?」

 

「どうかしたの? 達也さん」

 

「そう云えば雫は『スピード・シューティング』は優勝してるんだったな」

 

「そうだよ 達也さんの御かげでね」

 

「イヤ だから 優勝したのは雫の実力だろ」

 

「それで それがどうかしたの?」

 

「そっちの方もお祝いしないとなって思って」

 

「達也さんは優勝祝いに何してくれるの?」

 

「まぁ できることはやらせてもらうが 何かして欲しい事はあるか?」

 

「・・・じゃあ 九校戦が終わったら 買い物に付き合ってもらおうかな」

 

「ちょ! 雫 それって・・・デー」

 

「まぁ そんな事でいいなら」

 

そんなやり取りがあって達也は深雪を家に残し雫の元へ。

 

とある繁華街

 

「待たせたか?」

 

「そんな事ないよ」

 

「それじゃ 行こうか」

 

そして二人は歩き出す。

 

「ねぇ 達也さんは休みの日は何してるの」

 

「まぁ 深雪と出かけるのが多いな そういえばこの間は水着を見に行ったっけ」

 

「ふ~ん 水着」

 

「なぁ雫 それで今日は何を買うんだ?」

 

「え? CADだよ だから達也さんに買い物に付き合ってもらう様にお願いしたんだけど」

 

そして現在二人の前には 多くのCAD。

 

「ローゼンに マクシミリアン 品揃えは中々だな」

 

「特化型はアッチだね」

 

どうやら雫の欲しい物は汎用型でなく特化型の様だ。

 

「なんだ 雫は特化型のCADが欲しいのか」

 

「うん」

 

そして特化型のCADが置いてあるコーナーに行くと、

 

「シルバーモデルがないね というよりFLTの製品も少ない」

 

「え? 雫 シルバー・モデルが欲しかったのか?」

 

「そうだけど」

 

「別にローゼンでもマクシミリアンでもいいんじゃないか?」

 

「九校戦の練習期間中は達也さんの調整したCADばかり使ってたでしょ。それで そんな達也さんが使ってる『シルバー・モデル』がどんな物か使いたくなったちゃったから この機会に買おうかなって」

 

「そうか」

 

「ここに来ればシルバー・モデルもあるかと思ったけど」

 

「それは仕方ないよ 元々シルバー・モデルは数が少ない むしろ逆に取り扱ってる店が珍しいくらいだ」

 

「ねぇ 達也さんは他にシルバー・モデルが何処で買えるか知らない?」

 

「う~ん そうだな」

 

達也はしばらく考えた後、何処かに連絡を入れた。そして、

 

「着いたぞ 雫」

 

「ねぇ 達也さん ここって」

 

「見ての通りFLTだ」

 

「私が入ってもいいの?」

 

「大丈夫 話は付けてあるから」

 

「おぉ~流石 シルバーの弟子」

 

FLT 開発第3課

 

「あ! いらっしゃい 御曹・・・じゃなかった・・・達也君」

 

「こんにちは 皆さん」

 

「お邪魔します」

 

「じゃあ 雫 俺達はコッチだ」

 

達也は雫をある部屋に招いた。そこには待望のシルバー・モデルを始めとするFLT製品。

 

「どれがいい?」

 

「えっと~じゃあ これにする」

 

雫が選んだのは小型拳銃形態のシルバー・ホーン。

 

「じゃあ 少し 待ってくれ」

 

「・・・分かった」

 

それからしばらくして

 

「お待たせ」

 

「そんなに待ってないけど?」

 

「これには『フォノン・メーザー』の術式を入れてある そして 『ループ・キャスト・システム』があるから魔法力の続く限り連続使用も可能だ」

 

「ありがと それで 全部で 御いくら?」

 

「え! いいよ 雫には九校戦でウチのCADの宣伝に一役買って貰ったし、雫が『セントール・シリーズ』を使ってくれた御かげで受注が少し増えたからそのお礼としてお代はいらないよ」

 

「達也さんはまた私に恥を掻かせる気?」

 

「恥って・・・」

 

雫はどんなことでもきっちりしたい性格の様だ。

 

「じゃあ 達也さんは全額払われるのと私に借りを作るのとどっちがいい」

 

「え?」

 

「どっち?」

 

「・・・それは~」

 

借りを作れば面倒な事になるかもしれないと思い達也は雫から全額を受け取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エリカ編とほのか編も考えてます。 他のサイトのSSも見ますけど 皆さん よく色々な設定を思いつきますよね。


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九校戦編 後日談 エリカ

その日の朝も千葉エリカは早朝鍛錬に勤しんでいた。早朝鍛練は彼女の日課であるが九校戦期間中はできなかった。早朝に走る事はできても竹刀を振る事は出来なかった。だから九校戦も終わり、本格的な夏休みである初日から思う存分竹刀を振る事ができると一人誰もいない部屋で竹刀を振り続けていた。

 

 

「(そろそろかな?)」

 

しばらくするとエリカは竹刀を振るのを止め、外に出る。ある人物と約束をしていたので家の門の前で待っているとその人物がやって来た。

 

「あ! 来た来た」

 

「おはよう エリちゃん」

 

「おはよう サーヤ ついでに桐原先輩も」

 

エリカの前に現れたのは高校の先輩である壬生紗耶香と桐原武明。

 

「俺は次いでかよ」

 

「今日はお世話になります」

 

「いいって そんなに畏まらなくて 誘ったのはコッチなんだから」

 

二人は一校でトップの剣士。そんな二人は後日行われる剣道大会に出場することになっている。だが一校には相手になる者はいない。だが千葉門下には二人でも敵わない様な猛者が大勢いる。試合前の付け焼刃であるが二人にとっても相当なスキルアップが期待できるだろうと言う事で千葉家の道場に招待した。

 

「じゃあ コッチ」

 

エリカが案内した道場には大勢の門下生。エリカが道場に入ると稽古していた者達が稽古を中断し全員がエリカに対し腰を深く折る。

 

「おはようございます!」

 

「おはよう」

 

「なんか すげぇな お前」

 

「まぁ ここは実力主義だから」

 

要するにエリカは強いらしい。

 

「あの その二人は?」

 

一人の門下生が当然の質問をする。

 

「一校の先輩で 壬生紗耶香さんと桐原武明さん。大会が近いから貴方達と戦うのもいいんじゃないかと思って招待したの 誰か桐原先輩の相手してあげて私は壬生さんの相手するから」

 

「じゃあ 僕とやろうじゃないか」

 

「はい! お願いします」

 

「じゃあ サーヤは私とね」

 

「お願いします」

 

それからしばらく、紗耶香はエリカに、桐原は道場に今いる中でも実力者に稽古を付けて貰っていた。

 

「ふ~ じゃあ 切りもいいし 休憩にしよっか?」

 

「有難うございました」

 

道場の端の壁に依り掛かり休憩する二人。

 

「やっぱり エリちゃんは強いね」

 

「サーヤも強いって」

 

そこに桐原も加わる。

 

「流石に 此処にいる人達は強えーな」

 

「桐原君 ボコボコにされてたね」

 

「でも相手できるだけ先輩も強いですよ」

 

休憩中 入り口に目を向けると道場に足を踏み入れる者が・・・現れたのは渡辺摩利

 

「あ! どうも」

 

「桐原 壬生? お前達 どうして此処に?」

 

「千葉に招待されまして」

 

「そ そうか」

 

「随分 来るのが 遅いんですね」

 

他の門下生より遅く来た摩利をエリカが皮肉る。

 

「委員会の引き継ぎとかで忙しいんだよ」

 

「いつも達也君に仕事押し付けてるくせに」

 

「な! なんでそんな・・・」

 

「友達だもん 愚痴の一つくらい聴くわよ」

 

「別に私は達也君に仕事を押し付けてなど・・・」

 

「じゃあ アタシは これで」

 

「エリちゃん?」

 

「サーヤは その女に相手でもしてもらいなよ」

 

エリカは道場を去る。摩利がいる以上、集中できそうにない。だが部屋にいてもすることがない。時刻はお昼前。そこでエリカは気分転換に出かけることにした。

 

とある繁華街

 

食事も済ませ目的も無く歩く。そんなエリカの前に見知った顔が。

 

「こんな処で奇遇だなエリカ」

 

「達也君? 何してるの?」

 

「何 といわれても」

 

「深雪は?」

 

「見ての通り一人だ」

 

「・・・もしかして 今 暇?」

 

「もしかしなくても 暇だが・・・」

 

「じゃあ ちょっと 付き合って」

 

「何をさせる気だ」

 

「男なら約束の一つくらい守りなさい」

 

「約束? あぁ あの時の」

 

エリカとの約束 それは九校戦でのこと

 

新人戦 『モノリス・コード』準決勝前

 

昼食を取る為に移動していた達也達がホテルのロビーでエリカを目撃する。エリカは一人では無かった 直ぐ傍にいたのは渡辺摩利とそしてもう一人。

 

千葉修次 『千葉の麒麟児』と呼ばれる 防衛大に在籍中でありながら 三メートル以内の間合いなら世界屈指の魔法白兵戦技の英才。

 

「なぜ 次兄上がこの様な処に・・・兄上は任務でタイに主張中のはず」

 

「イヤ 一時帰国の許可は貰ったから」

 

「態々こんな女の為にですか?」

 

「コラ!エリカ 摩利に謝れ」

 

「お断りします! 兄上はこの女と付き合い始めて堕落しました。私の考えは変わりません」

 

と言って その場から走り去ったエリカは達也達とバッタリ出会う

 

「あ!・・・もしかして 今の見てた?」

 

「まぁ その 今から昼食にしようとしたから 取り敢えず部屋に来ないか?」

 

「うっ・・・今度何か奢ってね」

 

「まぁ そんなに高くないものなら」

 

「渡辺先輩の恋人ってエリカちゃんのお兄さんだったんですね」

 

「はぁ~あのバカ兄貴」

 

「次兄上でしょ」

 

「ちょ!さっきのは忘れてよ」

 

「エリカってお兄さんの事好きなのね」

 

「違う!」

 

「知らなかったわ エリカがブラコンだったなんて」

 

「な!? あ アンタみたいなのと一緒にするな! この超絶ブラコン娘が~」

 

 

場所は変わって 二人はとあるお店の中にいた。

 

「・・・良く入るな」

 

エリカの前にはたくさんのスイーツ

 

「良く言うでしょ 甘いものは別腹よ」

 

「まぁ それは・・・」

 

「後で取った分のカロリーの二倍は消費するから大丈夫よ」

 

「余り ムチャはするなよ」

 

「ムチャはするわよ 女の子が体型維持するのは大変なんだから」

 

「(ならそんなに食べなきゃいいのに・・・)」

 

「ん 何よ?」

 

「イヤ 機嫌は治ったみたいだなっと思って」

 

「スイーツで機嫌が治るなんて 達也君 アタシのこと子供だと思ってる?」

 

「別に思わないが 何が原因だったんだ」

 

「あぁ それはあの女と会ったから」

 

「・・・委員長か」

 

その後 達也はエリカの愚痴を聴かされたり買い物に付き合わされたりした。

 

そして 時刻は夕方

 

「じゃあね 達也君 今日はアリガト」

 

「家まで送って行こうか?」

 

「大丈夫 寄り道しないで帰るから」

 

「そうか じゃあな」

 

「また 何か奢ってね」

 

「え!」

 

「何よ それくらい普通でしょ」

 

「・・・あぁ まぁ そうだな 分かった」

 

エリカは満足そうに帰っていった

 

「(はぁ~ 俺って 押しに弱いのか?)」

 

そんな事を思いつつ帰路に着く達也 そして 家に帰っても深雪から何の連絡もしなかったことで怒られてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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九校戦編 後日談 ほのか

時間が掛かった割にはつまらない話に・・・


その日 光井ほのかは親友である北山雫の家を訪れていた。北山家は豪邸である。初見ならその門を潜る事を躊躇する程の立派な門。だがほのかにとっては何年も前から潜り続けた門なので苦労することはない。門を潜り、大豪邸の中の雫の部屋に迷う事なく辿り着く。

 

北山家 雫の部屋

 

雫の部屋に入るとほのかの目についたのはCAD。

 

「雫、それもしかして、新しい特化型CAD?」

 

「そうだよ」

 

素っ気なく答える雫 そのCADはほのかも見覚えのあるもの。

 

「それ 達也さんと同じ」

 

「そう シルバーモデル」

 

「いいな~」

 

「ほのかは特化型CADは使わないでしょ」

 

「そうだけど」

 

「それと不定期だけど このCADの調整してくれることになった」

 

「え!いいな~」

 

「相変わらず専属契約は断られたけど」

 

雫の目標の一つ、達也とのCADメンテナンスの専属契約はまだまだ先の様だ。

 

「次はほのかの番だね」

 

「う うん」

 

ほのかは九校戦の新人戦『ミラージ・バット』優勝祝いと云う名目で後日 達也と出かけることになっている。

 

「それで どうするの?」

 

「え?」

 

「だから 当日は何をするか決めてるの?」

 

「まだ何も」

 

「告白は?」

 

「!?」

 

「好きなんでしょ」

 

「でも~」

 

「達也さんは超が付くほどの鈍感だよ。ほのかから積極的に告白すべきだよ」

 

「私から告白なんて無理だよ~」

 

「達也さんは今回の九校戦で注目されたから、この先、近づいてくる女は多くなる。あんまり のんびりしてたら達也さんを他の女に取られちゃうよ」

 

「それはそうだけど」

 

「頑張れ ほのか」

 

そして その日がやって来た

 

とある繁華街

 

「待たせたか?」

 

「イエ わ 私も少し前に着いたばかりですから 全然 待ってませんよ」

 

「それで ほのか 今日はどうするんだ」

 

「それがまだ何をするか決めてなくて」

 

「取り敢えず 色々な店を回ってみて それから 決めたらどうだ?」

 

「は はい! そうします」

 

「何か欲しいのがあれば買ってやれるけど」

 

「え! いいですよ そんな事までしていただかなくて」

 

「構わないよ 優勝祝いに奢るって言ったろ」

 

そして 時間は過ぎ 夕方 買い物を終えた二人は近くの公園で少し休んでいくことに。

 

「今日は ありがとう ございました」

 

「元々 約束はしてたんだから そんなに畏まらなくても」

 

楽しい時間は終了し、ほのかがやるべき事は告白を残すのみ。ほのかが意を決して口を開く。

 

「あ あの 達也さん」

 

「あれ あの子」

 

達也の眼の先には明らかな迷子であろう女の子が。

 

「・・・迷子みたいですね」

 

「まぁ ここら辺は賑わってるからな」

 

告白を先送りにしほのかが声を掛け女の子の親を探す事に・・・幸い女の子の親は直ぐに見つかる。

 

「済みません ウチの子がご迷惑を」

 

「イエイエ 迷惑だなんて」

 

「ほら 貴女もちゃんと お姉ちゃんとお兄ちゃんにお礼を言いなさい」

 

「ありがとう お姉ちゃん お兄ちゃん」

 

「お母さんが見つかって良かったね」

 

「次からは気を付けるんだよ」

 

「は~い」

 

「御免なさいね 折角のデートのお邪魔して」

 

「え! デート」

 

「俺達はそんな関係じゃないですよ」

 

達也はほのかの為を思って訂正する。

 

「あら そう 御免なさいね」

 

「そ! そうですよ。私達はそんな関係じゃないですよ。(はぁ~)」

 

それから親子と別れ、

 

「良かったな 割とすぐにあの子の親が見つかって」

 

「そうですね」

 

「・・・そういえば ほのか」

 

「何ですか? 達也さん」

 

「あの子を見つける前 俺に何か言いかけてなかったか?」

 

「え! そ それは~」

 

ほのかが返答に困る そんな状況で二人に声を掛ける者が、

 

「あら 達也君 それに光井さんも こんな処で会うなんて奇遇ね それにしても何だか珍しい組み合わせ・・・でもないか」

 

そこには 真由美

 

「会長!?」

 

「どうも 奇遇ですね こんな処で会うなんて」

 

真由美は二人をニヤニヤしながら観察している。

 

「フフッ それで二人はこんな処で何をしているのかしら」

 

「何って 買い物ですよ」

 

「買い物じゃないでしょ デートしてたのよね」

 

「別に俺とほのかは付き合ってませんが」

 

「お似合いに見えるけど」

 

「俺みたいのが彼氏なんてほのかに悪いですよ」

 

達也のこの言葉でほのかは撃沈した。達也がこの調子では後で告白しようにも断られる確率が高いだろう。一方の真由美はほのかのリアクションを見て余計な事をしたと理解し、ほのかにだけ分かる様に目で「御免なさい」と誤って帰って行った。

 

「じゃ じゃあね 二人とも」

 

その場から離れようとしていた真由美だったが

 

「あ! そうだ 光井さん 帰りはちゃんと達也君に送って貰うのよ」

 

「言われなくても そのつもりですよ」

 

「それじゃあ またね 二人共」

 

それからほのかは達也に送られほのかが一人で住んでいるマンションへ。

 

「あの 達也さん 今日はありがとうございました」

 

「別にお礼を言われる様なことはしてないよ」

 

後日 再度 雫の部屋で ほのかの結果報告

 

「それで そのまま達也さんを帰しちゃったの?」

 

「う うん」

 

雫は呆れていた。

 

「はぁ~ ほのかは一人暮らし してるんだから部屋に上がって貰えば良かったじゃない」

 

「無理だよ~達也さんを部屋に呼ぶなんて私にはハードルが高すぎるよ~」

 

 

「仕方ない。何か別の方法で・・・」

 

その後 二人の話し合いはしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次からは夏休み編です


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夏休み編 夏の休日 其の一

最近はとても 忙しくて書く暇がありません


九校戦が終わり本格的な夏休み。その日の夜、司波家リビングには旅行用の鞄が置いてあった。

 

「まぁ 明日の準備としてはこれくらいだよな」

 

「そうですね」

 

会話の流れから二人は明日から旅行に出かける様だ。そしてこの旅行は極最近決定したもの。だがこの旅行の発案者は達也で無ければ深雪でもない。発案者は雫である。

 

話は数日前 その日の夜 深雪は雫とほのかとテレビ電話でお喋りしていた。そして その時の雫からの突然の提案がこの旅行の発端である。

 

「海にいかない?」

 

「雫 それって もしかして?」

 

「うん」

 

「・・・? もしかして?」

 

「あぁ 深雪は知らないよね」

 

雫と長い付き合いのほのかは 雫が何を言いたいのか 直ぐに理解した様だが、まだ知り合って間もない深雪には雫の「海に行かない?」の言葉だけで,雫が何を言いたいのかは完全に理解は出来ない。

 

「ウチの別荘に深雪や達也さんを招待しようと思って」

 

「!? 雫 貴女の家って プライベート・ビーチを持っているの?」

 

「うん」

 

深雪は改めて雫がお嬢様だと実感した。

 

「え~っと 行くのは構わないけど それで その別荘に行くのは何時にするの?」

 

「まだ 決めてない。二人の予定も聞いてないし」

 

「私の方はいつでも大丈夫だけど お兄様の方は・・・」

 

「御免ね 急に」

 

「何も謝ることないと思うけど」

 

「二人を別荘に誘うのは私が二人と遊びたいんじゃなくて 本当はお父さんに合わせる為なの 最近 新しくできた友達に合わせろって 五月蠅くて」

 

雫の父が会話に出た瞬間ほのかが急に困ったような顔をした。

 

「・・・そっか 叔父様も来るんだね」

 

「大丈夫だよ 最近は忙しくしてるから いるのは最初の一時間くらいだから」

 

ほのかは雫の父 潮が若干 苦手である。 潮はほのかを雫と同じ様に可愛がってくれている。その為 毎回 会う度に少なくない額のお子遣いをくれる。しかし、それがほのかにとっては憂鬱なのだ。

 

「それで実は一つ 深雪に頼みたい事があるんだけど」

 

「何かしら?」

 

「ウチの別荘には深雪と達也さんだけじゃなくて エリカと美月 それに西城君と吉田君も誘いたいんだけど 私達 誰の連絡先も知らないんだよね。九校戦の時は 結局 聞けなかったから 深雪に連絡して貰いたいんだけど」

 

「・・・そんなことで 遠慮しないで 雫。 エリカと美月には私から連絡しておくから。 ただ 西城君と吉田君の連絡先は私も知らないから 後でお兄様に連絡してもらう事になるわ」

 

「分かった。有難う 深雪」

 

その後 三人は他愛ない話で盛り上がった

 

翌日 司波家 リビング

 

「・・・そんなことを話していたのか」

 

「はい それで どうしましょう」

 

「そうだな いつもの訓練は2~3日休んでも 文句は言われないだろうが FLTの方は俺が今抜けたら牛山さん達が困るだろう」

 

達也は普通の高校生ではない かなり忙しい人である。特に夏休みの様な長期休暇は予定が詰まっている。特に今年の夏休みは九校戦でシルバーの飛行魔法を使用しその実用性が確認された事で飛行魔法のデバイスの発注が増えてきている。

 

達也はスケジュールを確認し始めた

 

「・・・来週の金・土・日が空いてるかな? それ以降は厳しいかな」

 

「では 雫にその日程で大丈夫か聞いておきます」

 

「それで海に行くメンバーは俺達と雫とほのかの四人なのか?」

 

「雫はエリカや美月 それに西城君と吉田君なんかも誘いたい様ですが 連絡先を効いてないそうで・・・それでエリカと美月には私から連絡するように雫には言っておきましたが お手数ではありますが私は西城君と吉田君の連絡先を知らないのでお兄様には二人に連絡を取って貰いたいのですが・・・」

 

「ふ~ん そうか。分かったよ。レオと幹比古には俺から連絡しておこう」

 

「ではエリカと美月には私が」

 

それから雫とほのかに再度連絡を取る それから美月 エリカ 幹比古 レオにも連絡を取った。不思議な事に達也の指定した予定日に都合の悪いメンバーがいなかった。

そんなこともありつつ深雪達は明日から雫の別荘に行く事に。

 

そして雫が指定した集合場所はなぜかマリーナ てっきり飛行機で行くものだと勘違いしていた達也。指定されたマリーナにはいくつかのクルーザーが停泊していたが ひと目見て他を圧倒するような立派なクルーザーが一つ。

 

「うわ~ 凄い」

 

「本当に立派だな」

 

目の前の光景にはエリカは勿論 普段 ほとんどの事に感想を持たない達也も驚きの声を上げる。クルーザーに驚いていると達也は見た目からして船長らしき人物に声を掛けられる

 

「君が司波達也君だね」

 

「!! 貴方は・・・」

 

「初めまして 私は北山潮だよ」

 

「初めまして 司波達也です 今日は宜しくお願いします」

 

「此方こそ宜しく」

 

声を掛けたのは船長・・・ではなく雫の父 北山潮だった。幸い 達也は潮の顔を知っていたので 驚いたのは一瞬のことだが 握手を求めて来た 潮に対して 失礼のない様に浅く握った達也だが 対する潮の方はガッシリと握られる。

 

「技術だけじゃない・・・かといって 只、賢いだけの青年ではなさそうだ。頼りがいのありそうな風貌でもありそうだ。 良かった。娘にも人を視る眼がある様だ」

 

(この人が 雫の父 北山 潮か・・・ やはり 実際に見ると印象が違って見える)

 

そんな事を思いながら 達也は深雪を呼んだ。

 

「深雪!コッチに」

 

いきなり達也に呼ばれた深雪は 一瞬 何事か思ったが 達也の眼の前の人物を見て なんとなく状況を理解した。

 

「この方が雫の親父さんの北山潮さんだ」

 

「初めまして 司波達也の妹 司波深雪と申します。本日はお招きいただき有難うございます」

 

「そんに堅くならないでくれ 私も 君達に逢えて嬉しいよ」

 

その後 潮の目線は 深雪達の後方にいた エリカ 美月 レオ 幹比古に

 

「おぉ 君達も 娘の新しい友人だね これからも どうか 娘を宜しく まぁ 私に構わず楽しんでください」

 

そう言うと 潮は去って行った どうやら ここには 仕事で忙しい中 時間を無理やり空けて来たようだ

 

「じゃあ そろそろ 出発しょうか? 黒沢さん お願い」

 

「畏まりました」

 

どうやら クルーザーを運転するのは その黒沢さんの様だ。

黒沢が全員の乗船を確認すると操舵室に入り その後直ぐにクルーザーが岸を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み編 夏の休日 其のニ

書く暇がない


雫の提案により別荘に向かった深雪達は途中、嵐に会う事もなく目的地の小笠原諸島 媒島に着く。一行は到着して直ぐにビーチへ。 水着に着替え、各々、自由な時間を過ごす。

 

レオと幹比古は競泳? 女子グループは波打ち際で水遊び 一方の達也は一人ビーチパラソルの下 読書に勤しんでいた。

 

「お~い 達也く~ん 泳がないの~?」

 

「お兄様~ 冷たくて とても 気持ちいいですよ~」

 

中々 パラソルの下から動かない達也にエリカと深雪から声が掛かる。そしていつの間にか近づいていた この旅行の提案者の雫からも声が掛かる。

 

「達也さん もしかして 迷惑だった?」

 

「イヤ そんな事はないよ」

 

「でも・・・」

 

「こんな過ごし方も間違っていないと思うが」

 

雫と話していると深雪達も集まって来た。

 

「ですが お兄様 折角の海ですし」

 

「そうですよ 達也さん パラソルの下にいるだけじゃ勿体無いです」

 

「あ!分かった!」

 

「どうしたのよ エリカ」

 

「達也君 泳げないんでしょ?」

 

「達也さん カナヅチなの?」

 

「イヤ それはない」

 

「え~ホントかな~」

 

疑う様なそぶりを見せるエリカ。 だが、その行動は彼女なりに達也を連れ出そうとしているのだろう。

 

「分かったよ 泳げばいいんだな」

 

「そうだよ。折角 海に来てるんだから泳がなきゃ勿体なー」

 

達也はエリカに乗せられ、着ていたパーカーを脱ぐ。そしてそれと同時にその場の空気が変わった。

 

「あ!・・・」

 

理由には直ぐに気が付いた。しかし 気が付いた処で既に手遅れだ。

 

「達也君 それって・・・」

 

一番最初に口を開いたのはエリカだが、さすがのエリカにも緊張が滲んでいる。達也はエリカの「それ」が何を意味するのか理解した。そして達也の周りにいる女子グループは「それ」に釘づけだ。

 

パーカーの下には鍛え上げられた肉体が隠されていた。だがそれだけで場の空気が変わる様なことはあり得ない 問題は鍛え上げられた肉体に付いた、不必要で尋常な数では無い 無数の傷跡 切り傷 刺し傷 そして所々に火傷の痕。

 

「・・・スマン 見ていて気持ちの良いものじゃないな」

 

達也は急いで脱ぎ捨てたばかりのパーカーを拾おうとするが、

 

「ん? 何処に行った? ・・・あ!」

 

達也のパーカーは既に深雪の胸の中に納まっていた。いくら妹でも女性の胸に手を伸ばす訳にもいかない。パーカーを拾おうとした左手が停止する。だがその手は本人の意志に関係なく強引に動かされた。深雪が左腕を抱き寄せたのだ。

 

「大丈夫です。お兄様。この傷痕の一つ一つはお兄様が強くあろうとした努力の証であり、決して見苦しい物ではありません」

 

その言葉の直後、今度は右腕にも柔らかな衝撃が走る。達也の右腕に抱き着いたのはほのか。

 

「わ、私も気にしません」

 

ほのかなりの場の空気を変える為であろう行動に驚く。 美月と雫。

 

「うわっ!ほのかさん 大胆」

 

「(ほのか 良くやった)」

 

そしてほのかの大胆な行動を見てエリカも緊張がほぐれた様だ。

 

「御免ね 達也君 変な態度取っちゃって」

 

「イヤ 仕方ないだろ 気にするな」

 

「そうは言っても・・・あ!お詫びに私のも見せてあげようか?」

 

「ちょ! エリカちゃん 何を言ってるんですか!」

 

エリカの発言に隣の美月は硬直してしまう。

 

「イヤ ホントに いいから」

 

「あぁ~でも 一度見たから新鮮味がないか?」

 

「え!!」

 

「ちょ!どう云うことですか?お兄様?」

 

エリカの発言に周囲がざわつく。

 

「オイ! エリカ 頼むから 誤解を与えるようなことは・・・」

 

「誤解じゃないでしょ。達也君  見たじゃない」

 

「イヤ だから アレは事故だろ・・・」

 

「見たこと自体は否定なされないんですね お兄様」

 

「あ! イヤ 違うんだ 深雪」

 

その後 達也の必死の弁明が続いた。

 

それからしばらく、ビーチパラソルの下で休憩中の美月以外の女子グループは沖に出てボートで遊び、レオと幹比古は相変わらず一心不乱に泳ぎ続けている。そして達也は海に背を預けて静かに漂っていた。しかしどんな状態であっても達也が気を抜く事はない。危険性の少ない場所でも何が起こるか分からない。だからもしもの為に達也は常に深雪達の位置を把握していた。

 

「きゃ~」

 

突如響いた悲鳴。この悲鳴を聞いた達也は直ぐに救出に動く。達也は救出に向かいながら、この悲鳴が深雪でなくほのかであること、そして悲鳴の原因がボートの転覆である事を即座に理解し、またほのかが泳ぎが苦手である事も思い出していた。

 

達也は救出に向かう際 泳がず 水面を走ることを選んだ。

 

表面張力増幅魔法「水蜘蛛」を お得意の技術「フラッシュ・キャスト」で連続発動した。達也が現場に到着した時にはエリカが雫をボートに押し戻していた。

 

「大丈夫か?」

 

「達也さん ほのかをお願い」

 

深雪も無事の様だ。後はほのかをボートに乗せるだけ。達也は直ぐに行動に移る。しかし なぜかほのかは激しく抵抗し異常な程ボートに乗る事を拒んだ。

 

「ちょ! ちょっと待って下さい」

 

だがパニック状態のほのかをこのままにするのはマズイと思った達也は無理やり ほのかを押し上げ、雫のサポートでほのかをボートに乗せる事に成功したのだが・・・それと同時にほのかが激しく抵抗しボートに乗る事を拒む理由を思い知らされた。

 

「あ!」

 

「え!」

 

達也と雫が同時に言葉に詰まる。助けられたほのかの体は達也の正面を向いている。一件、ほのかには何の変化も無い様に見えたが、ほのかの水着のトップが思いっきり捲れている。元々 ほのかが来ていたのは泳ぎ重視でなくファッション重視の水着だった。ほのかは海に落ちた時に自分の水着が捲れていた事に気が付いたのだろう。だからあれだけボートに乗るのを拒んだのだ・・・と理解した達也だが既に遅い。

 

「きゃ~」

 

もう一度 ほのかの悲鳴が海に木霊する。

 

「(オイオイ 嘘だろ・・・)」

 

達也は現実から逃げる様に海に沈んだ。

 

その後 ほのかは砂浜で本格的に泣き出してしまう。休憩中の美月はほのかが泣いている事情を知らず困惑していた。

 

「ヒック、ヒック、グズン」

 

「あの ほのかさん 大丈夫ですか?」

 

「だから 待ってて言ったのに・・・」

 

「イヤ・・・達也君は助けてくれたんだし・・・」

 

泣きじゃくる今のほのかには エリカの援護も効かない様だ。

 

「ほのか 達也さんが悪くないって分かってるでしょ」

 

何時までも泣き止まないほのかを見て雫が耳打ちする。

 

「予定とは違うけど これもチャンスだよ?」

 

「?」

 

聴力を鍛えている達也もこの時の二人の会話は聞こえなかった。

 

「達也さん 本当に悪かったと思ってますか?」

 

「はい 本当に申し訳ない」

 

「じゃあ・・・・今日一日 私の言う事を聞いて下さい」

 

「え?」

 

「それで許してあげます」

 

「それでほのかが許してくれるなら」

 

この様な状況での経験の少ない達也には頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




気が付いたら お気に入りが300超えてました 有難うございます。今年中に夏休み編を終わらせたい


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夏休み編 夏の休日 其の三

久しぶりに投稿できました。


ボート転覆事故からしばらく レオと幹比古が戻ってきた。女子グループは既に海から上がりティータイムを楽しんでいる

 

「・・・ アレ? 達也と光井は?」

 

「向こうで ボートに乗ってるみたいだね」

 

「ホントだ でも 何で?」

 

「色々あったのよ」

 

レオの疑問に答えたのはエリカ

 

「・・・でも、なんかいい雰囲気だね」

 

「ちょ! アンタ 何言って・・・」

 

「吉田君 良く冷えたオレンジはいかが?」

 

背後から聞こえた声に振り返る そこには深雪が立っていた

 

「・・・」

 

夕食にはバーベキューが用意されていた 日中の事故も忘れ、夕食を楽しんだ

 

その後、達也と幹比古は将棋。レオは夕食に満足して一足先に就寝中、女子グループはカードゲームを楽しんだ。美月の負けで決着した時 先に勝ちの決まっていた雫が深雪に話しかけた

 

「外に出ない?」

 

「・・・いいわよ」

 

無言の雫の後に 深雪が続く。

 

「急にごめんね」

 

「何か 話があるんでしょう」

 

「教えて欲しいの」

 

「何を?」

 

「深雪は達也さんのこと どう想ってるの?」

 

「愛しているわ」

 

「・・・男の人として?」

 

「フフッ・・・まさか。確かに私は誰よりもお兄様を尊敬してるし 愛してる。 でも この想いは恋愛感情じゃない。私達の間に恋愛感情はあり得ない」

 

「・・・」

 

「質問の意図は分かってるつもりよ。先に言っておくけど私は邪魔をするつもりは無いから。 安心してって言っても無理かもしれないけど」

 

「どうして?」

 

「何が?」

 

「どうして そんなに簡単に割り切れるの? 深雪は達也さんの事が好きなのに」

 

「私達の関係を説明するのは難しいわ。私の想いだってそんなに単純なものでもないし、でも やっぱり「愛してる」って言葉が一番シックリくるのかな?」

 

「・・・本当の兄妹じゃないの?」

 

「随分 踏み込んだことまで訊くのね?」

 

「・・・ゴメン」

 

「別に 責めてないわよ」

 

「雫ってホントにほのかの事が大事なのね」

 

「私は深雪の事も友達だと思ってるよ」

 

「だから気になるんでしょ? 友達同士が傷つけあわない様に・・・でもいいの?ほのかにそんなに気を使って?貴方自身はどうするの?私は兎も角 雫はほのかと傷つけあう事になるわよ」

 

「ほのかとは親友だけどライバルだから それに深雪の気持ちを知っておきたかったから」 

 

「ふ~ん・・・話を戻すけど、私とお兄様は実の兄妹よ」

 

「でも・・・」

 

「確かに私がお兄様に向けている感情は兄妹の関係を超えていると自分でも思うわ」

 

深雪は雫に構わず話を続ける。

 

「私ね ホントなら死んでるの」

 

「・・・え?」

 

「でも 私はお兄様に助けられた。私が今ここにいるのはお兄様のおかげ。今の私は お兄様から貰ったもの。だから 今の私は全部 お兄様のものなの」

 

「・・・」

 

「私、思うんだけど、恋愛って相手に求めるものじゃない? 私のものになって、求めるのが恋じゃない? でも私がお兄様に求めるものなんて何もないわ。だって 私は私自身をお兄様に貰っているんだもの。私はこれ以上お兄様に何も求めない。でも、やっぱり今の私の気持ちを表す言葉は愛しています 以外ないんじゃないかしら?」

 

「・・・はぁ~。 深雪って ホントに大物だね」

 

一方の達也もほのかと共に歩いていた。

 

「達也さん」

 

歩き始めて数分 ようやく振り絞ったほのかの声に達也が振り向く。

 

「どうした ほのか」

 

「私 達也さんのこと好きです! 達也さんは 私のこと どう思ってますか?」

 

「・・・」

 

ほのかの質問に達也の回答は中々得られない。

 

「・・・ご迷惑ですよね。いきなりこんなこと言われても・・・」

 

「迷惑じゃないよ。 それに誰かに好意を抱いてもらえるのは嬉しい事だ」

 

「・・・」

 

「・・・ほのか 俺は精神に欠陥を抱えた人間なんだよ」

 

「・・・え?」

 

「昔 事故に遭って その時からあらゆる物事に対して大きな感情が湧かなくなったんだ」

 

「それって・・・」

 

「簡単に言えば 人から悪口を言われても怒ることあっても、絶対にキレることはない。人に好意は持てても恋はできない。 俺はほのかのことは好きだよ。でもそれはあくまで友達としてであって俺にはほのかのことを特別な女性として視る事は出来ない」

 

しばらくの間 無言が続く そして

 

「・・・難しいことは分かりませんけど、達也さんの言う事が本当なら、達也さんは私以外の女の子を好きになる事も無いんですよね?」

 

「まぁ 理論的には そうだけど・・・」

 

「だったらそれでいいです」

 

「・・・え?」

 

「これからも達也さんには恋人ができないんでしょう? それなら私は勝手に達也さんを好きでいることにします」

 

「(ヤレヤレ 本当に敵わないな・・・)」

 

次の日 達也とほのか 深雪と雫は何事も無かったかの様に休日を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み編 森崎編

夏休みも後半に入り 第一高校も閑散としていた。九校戦も終わり、校内にいるのは自主トレに励む生徒が少数。主に一年生 普段は上級生で溢れている訓練施設が利用しやすくなっているからだ。彼の利用している閉所戦闘練習場でも上級生の姿は見えない。

 

「はぁ、はぁ・・・」

 

自主トレをしていた森崎駿 自身のユニホームを見てみると脇腹に赤いペイント弾が付いていた。ペイント弾は此処では綺麗に落とせない。森崎は準備室に移動した。

 

だが準備室には先客がいた 一年女子 滝川和実

 

「此処で何してるんだ?」

 

「私はちょっと内臓CADの部品を分けて貰いにきたのよ」

 

「ふん・・・在庫管理くらいちゃんとしろよ」

 

「余った部品を融通し合うのは射撃系クラブじゃ良くあることよ」

 

森崎は気にせず、ペイントを剥がす事に集中する。

 

「ねぇ 森崎 アンタ それで何回目? ちょっと無理し過ぎなんじゃない? もう いい加減に上がった方がいいわよ」

 

「なんだ 心配してくれてるのか?」

 

「そりゃ 心配にもなるわよ。目の前で知り合いが倒れそうになってるのを黙って見過ごせないわよ。あぁ 言っておくけど、別にアンタに気がある訳じゃないから安心なさい」

 

「分かってるよ」

 

「だったら もう 上がりなさい。これ以上やっても何の意味もない事くらいは分かるでしょ」

 

「ちっ・・・ はぁ~ 分かったよ」

 

ユニフォームを脱ぎ 制服に着替える。鏡に映った制服 左胸ポケットに刺繍されたエンブレムに目が行く。入学した頃はこのエンブレムが誇らしかった。だが最近はこのエンブレムを見るとどうしようもない苛立ちを覚える事がある。森崎は九校戦で新人戦『モノリス・コード』に出場していたが 対四校戦で事故に遭い入院を余儀なくされた。だが幸いにも魔法治療のおかげで普通は一か月の怪我も一週間で完治した。それでも彼自身 一週間の入院生活で身体が鈍ったと思って 完治して直ぐに自主トレに来ていたのである。最も身体が鈍ったことだけが自主トレに来た理由ではないのだが。

 

その日は朝から最悪だった。もう少しで校門だと云う処で後ろから声を掛けられる。

 

「ちょっと そこの君」

 

振り返って見ると そこにはカメラを持った記者の様な男

 

「何ですか? あの 失礼ですけど 貴方は・・・」

 

「あぁ いきなりゴメンね 僕は・・・」

 

男が差し出した名刺には有名な新聞社の名前

 

「九校戦の事で記事を書きたくてね 君は何年生?」

 

「一年ですけど・・・」

 

「そうか 良かった 他の一年生にも聞いたけど司波達也君って普段はどんな子なんだい? 本人が中々みつからなくてね」

 

「・・・ッ なんで アイツの・・・(そうか 一校の連中以外 アイツが二科生なのを知らないのか・・・」

 

「どうかした?」

 

「すみません。先を急ぎますので・・・」

 

そう言って森崎は記者から逃げた。そして 次に会ったのは同じ一年の一科生。

 

「森崎 久しぶりだな もう 身体はいいのか?」

 

「あぁ 大丈夫だ」

 

「退院おめでとう」

 

「あぁ 有難う」

 

森崎は素直に喜べなかった。それは彼の欲しい言葉では無かったから。彼が欲しかった言葉は『モノリス・コード』・『スピード・シューティング』優勝おめでとうである。だが実際には森崎は『モノリス・コード』を途中棄権 代わりに出場した代役チームが三校の十師族 一条を倒し優勝 だが優勝の立役者はあの司波達也 それに『スピード・シューティング』優勝者の吉祥寺真紅郎も『モノリス・コード』に参加していたのに同じく二科生の吉田幹比古に敗れたのを入院先のベットで見る羽目になった

 

「はぁ~」

 

朝の事を思い出してしまった 森崎。

 

「ダメだ ダメだ こんなんじゃ」

 

頬を叩き 気合を入れなおすし鏡を見る。

 

「ひどい顔してるな・・・」

 

森崎自身にも 自分が焦っていることは分かっていた だが自分ではどうしようも無かった。だから滝川和実に会ったのは森崎にとってラッキーなことだったかもしれない。森崎は気分転換に町に出かけることにした そしてこの気分転換が森崎の考えを改めることになる

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み編 会長選挙 其の一

英美、将輝、深雪の話はカットします。


新学期が始まっても今日も相変わらずの生徒会室。今は夏休の話題で盛り上がっていた。

 

「私達も今月で引退かぁ~」

 

真由美の発言で空気が微妙に変わる。

 

「会長選挙は今月ですよね」

 

「今回は服部君と中条さんの一騎打ちになるでしょう」

 

鈴音が今年の選挙の予想をする。不意に名前が出たあずさは、

 

「私に生徒会長なんて無理です!そもそも、立候補するつもりないですから」

 

「断言するなよ」

 

摩利が呆れる。

 

「・・・じゃあ、次の会長は、はんぞー君か」

 

生徒会室から風紀委員本部に入る。達也はいつもと違う印象を受けた。

 

「今日は随分、賑やかな感じがしますけど、会議の予定ってありましたっけ?」

 

「そんなものはないよ。只、イベントはあるよ」

 

「はぁ・・・」

 

達也には嫌な予感しか無かった。

 

「その何事にも関心が薄い処は治した方がいいぞ」

 

「・・・善処します。それで」

 

「実は部活連枠の3年が一人辞任したんで、今日その補充要員が来るんだよ」

 

「歓迎会?」

 

「そんなことする程の団結力はウチにないよ」

 

「ただ、女子が選ばれるのは珍しいからね」

 

「・・・」

 

「その新人の面倒を君に見て貰いたい」

 

「なぜ、一年の自分が?」

 

「まぁ、君ならアイツも簡単には暴走しな・・・兎に角、君に任せる」

 

「・・・まぁ、今ので、誰が来るのか分かった気がしますけど・・・」

 

と云う事で達也は新風紀委員 二年 千代田花音を任された。

 

「え~摩利さんが教えてくれるんじゃないんですか?」

 

堂々と本人の前で不満を漏らした花音にため息を漏らす達也。

 

「あたしじゃ、参考にはならんよ。後ろめたい奴はあたしを見ると逃げだすから。その点、達也君は事件遭遇率も検挙率もナンバーワンだから」

 

「あぁ、成程」

 

本部を出て達也は花音と共に校内を巡回しながら説明をしていた。

 

「巡回ルートに決まりはありません。校内を隈なく見回ることもありません」

 

「ふーん。司波君はどんなルートなの?」

 

「俺は実習室を重点的に見回っています。教室でのケースは少ないみたいですから」

 

「アレ?体育館やグラウンドは?そっも問題起きそうだけど」

 

「基本アッチは部活連の管轄ですから」

 

花音の要望により二人は体育館周辺を巡回。そして現在、第二小体育館にいる。

どうやら今日は剣術部の練習日の様だ。

 

「・・・お前って、見る度に連れてる女が違うよな」

 

「誤解を招く様な事を言わないで下さい」

 

達也に話しかけたのは桐原だった。 

 

「そうよ、桐原君。千代田さんに失礼よ。千代田さんは許嫁の五十里君、一筋なんだから」

 

「(・・・俺は?)」

 

「委員長から同行を命じられたんですよ・・・」

 

「へぇ~。じゃあ、あの噂は本当なんだな」

 

「噂?」

 

「何で、委員会の司波君が知らないのよ」

 

「ソイツを次の委員長に先輩が根回ししてるって云う噂だよ」

 

「へぇ~、そんな噂が」

 

「俺は正直、あの人が根回しなんてするのかと思ったんだが・・・」

 

「それくらいするでしょ。千代田さんは渡辺先輩が得に可愛がってる後輩なんだから」

 

「ふ~ん。あの人、見かけも中身のもタカラヅカな人か。まぁ、俺は良く解らんが二人だと絵になるのか~」

 

「ちょっと、私の前で摩利さんを侮辱するとは、いい度胸ね。桐原君」

 

「え!ちょっと待て!俺は侮辱なんて・・・」

 

「問答無用!」

 

花音のサイオンが流れ出し始める。

 

「はぁ~」

 

ため息を付きながらも達也は右手を突き出す。するとサイオンの乱舞が止まる。

 

達也が今朝、八雲に教わったばかりの「快感のツボ」を突いた。

 

「ひゃあん!?ちょ!何するのよ司波君」

 

「風紀委員が自分から問題を起こそうとしないで下さい」

 

「だ、だって~」

 

「だってじゃありません!セクハラを受けたなら後で懲罰委員会に訴追すればいいでしょ?」

 

「!?セ、セクハラ?」

 

いきなりの発言に狼狽する桐原。

 

「いいですか。今後はこんなことしないでください」

 

「わ、分かったわよ」

 

しばらくして、状況が収まると紗耶香が話題を変えた。

 

「ねぇ、会長選挙はどうなってるの?今年は服部君と中条さんの一騎打ちでしょ。どっちが有利なの?」

 

「服部は出ないぜ」

 

「え? なんで?」

 

「アイツ、十文字先輩に次の部活連会頭に押されてるんだ。本人も乗る気みたいだから選挙には出ないと思うぜ」

 

「ふ~ん。でも考えてみれば妥当よね」

 

委員会のパトロールも終わり、達也はいつものメンバーと喫茶店にいた。会話の内容はまたしても選挙の話。

 

「へぇ~どっちもでないんだね」

 

「服部先輩は兎も角、中条先輩は立候補もしないんですか?」

 

「候補者がいないんなら深雪が立候補すれば?」

 

「ちょっと、冗談キツイわよ」

 

「でも一年が会長になれない訳じゃないでしょ。九校戦の活躍で名も知られてるし」

 

「私じゃ無理よ」

 

「一人じゃ無理でも達也君に補佐して貰えばいいじゃない。会長には任命権があるんだから達也君を副会長にでも任命しなよ」

 

此処で今まで黙っていた幹比古がとんでもない事を口にする。

 

「なら達也が会長になれば?」

 

「それ、いいんじゃねえの」

 

「誰が俺に表を入れるんだ」

 

「私、達也さんが立候補するなら絶対、入れますから」

 

「勿論、私もですよ。お兄様」

 

「(・・・2票じゃ如何にもならんだろ)」

 

新学期が始まって一週間が過ぎた。いよいよ生徒会長選挙が公示され、関心の薄かった者達の話題にも上がり始めた。教室に入った達也は先に来ていた幹比古に声を掛けられた。

 

「おはよう、達也」

 

「おはよう、幹比古」

 

朝の挨拶を済ませた二人。その直後、達也は幹比古からとんでもない事を聞かされる。

 

「ねぇ、選挙に出るって本当?」

 

「・・・は?」

 

「達也が選挙に出るって噂で持ち切りだよ」

 

「誰がそんな噂・・・」

 

「ぼ、僕じゃなからね。昨日、廿楽先生に実習室で言われたんだ。達也が選挙に出るのは本当かって」

 

「そんなデマが広がってるのか?」

 

「・・・やっぱり、デマなんだ。そうだよね、おかしいとは思ったけど」

 

「なんでそんなデマが先生の間で・・・」

 

「さぁ?」

 

「先生だけじゃないぜ」

 

「え?」

 

二人の会話に割り込んだのはレオ。

 

「部下中にも先輩達がぽつぽつ噂してるぜ。しかも中々に好意的だ」

 

その会話にエリカも加わる。

 

「私も聞いたよ。一年の風紀委員が出るって。それって絶対、達也君のことでしょ」

 

更に美月。

 

「私もカウンセリングの時に」

 

「カウンセリング!」

 

そして美月のセリフで達也の行動が決まる。達也が訪ねたのは 小野遥。

 

「まだ一限目の途中でしょ」

 

「課題なら済んでます」

 

「・・・何しに来たの?」

 

「カウンセリングに来たんですよ。悩み事がありまして」

 

「・・・ふ~ん。じゃあ、その悩みお姉さんに聞かせて」

 

「月末の選挙の事です」

 

「あぁ、候補者がいないから妹さんの出馬の説得でも依頼された?」

 

「・・・それも悩ましいですね。でも今日は別件です。ある噂の事で」

 

「噂?」

 

「えぇ、俺が会長選挙に出るって、何か心あたりは?」

 

「昨日、美月にその話をしたらしいですね」

 

「・・・」

 

「まさか、先生が率先して噂をバラまいてー」

 

「イヤねぇ。そんなことしないわよ」

 

「どんな経緯であんなデマが流れてるんですか?」

 

「なんだ、デマなの」

 

「デマです!」

 

「言っておくけど、私も詳しくは知らないわよ」

 

「知っている事だけでも教えてください」

 

「聞いた感じだと、もう、一種の伝言ゲーム状態ね。「服部君が出ない」➡「中条さんも出ない」➡「生徒会が困ってる」➡「司波さんが出れば面白そう」➡「司波さんが出る」➡「司波くんが出る」➡「風紀委員の方」➡「面白そう」・・・みたいな感じ」

 

「なんでそんなデタラメな噂が信じられてるんですか?」

 

「先生方は本気で信じてる人が多いわよ。四月の顛末、職員室は真実を知ってるから」

 

「・・・ブランシュの件ですか」

 

「それ以外ないでしょ。アレを司波君が中心となって解決した事を高く評価してる先生も何人かいるのよ。会長には時に実力行使も求められるから、特に君は頭もいいし、その上でそれだけの力があるなら一年でもいいんじゃないかってね」

 

「・・・」

 

遥の言葉を聞いて達也は焦った。非常にマズい、思いの他、目立ち過ぎていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み編 会長選挙 其のニ

達也が遥の元から帰って直ぐに 1-Eに来訪者が現れた それは真由美と鈴音 

 

「達也君 ちょっと時間を貰いたいんだけど」

 

「・・・」

 

「大丈夫よ、生徒会の公務って事にすれば原点されないから」

 

達也が連行された場所は生徒会室

 

「授業中にすみません。ですが もう 日が無いので」

 

「別に構いませんよ」

 

「フフッ 有難う、それで、早速なんだけど、実は今度の選挙ー」

 

「深雪にはまだ早いですよ」

 

「深雪さんにー・・・なんで分ったの?」

 

「少し考えれば分かります。時期が時期だし、選挙の話なのは直ぐに分かります、しかも休み時間じゃなくて授業中となれば・・・」

 

普段なら真由美相手に此処までのことはしない しかし 鈴音が同行しているので、余り自分が不利になりそうなリスクは減らしておきたかった。

 

「今のアイツに組織のトップは無理ですよ」

 

「中学時代に経験は」

 

「俺が辞めさせました」

 

「なぜ?深雪さん、しっかりしてるじゃない」

 

「俺の世話の焼き過ぎなのかもしれませんが、アイツは良く暴走しますから、自分のコントロールも上手くできない内はやらせませんよ」

 

「でも困ったな~候補者がいないなんて 深雪さんがダメとなると・・・」

 

「お二人共 深雪に拘り過ぎじゃないですか? そもそも中条先輩が立候補すれば全て丸く収まる話でしょ。服部先輩が時期会頭なら、時期会長は深雪じゃなくて中条先輩でしょ」

 

「それはそうですが・・・」

 

しかし実際にこの状況が出来上がっているのは あずさが首を縦に振らないから。

 

「・・・なら説得してみましょうか?」

 

「え? ホント? 流石は達也君 頼りになるわ」

 

その日のランチタイムにあずさは来なかった。今日中にこの案件を片付けたい達也は仕方なくあずさのクラスに乗り込む事を決めた。早速 達也は深雪と共にあずさのいる教室に向かう。到着して直ぐに中の様子を覗う。幸いあずさは帰り支度をしている最中だ。即座に踏み込む。突然現れた達也と深雪に驚いた上級生だがそれはわずかな時間 達也の目線の先があずさなのでなんとなく二人の来訪理由を察した

 

「中条先輩」

 

「な なんですか? 司波君 こんな処まで来て」

 

さすがのあずさも二人の来訪には直ぐに気が付いたが後輩相手に逃げる訳にもいかない。

 

「少しご相談したい事がありまして」

 

「はぁ~ 相談ですか? 明日じゃダメですか?今日は私 時間がー」

 

「直ぐに済む事ですから」

 

「で、でも~ え?え~」

 

渋るあずさを達也は強引に抱えて教室を後にした。教室を出る際 一部の女子生徒等が『以外に強引』などの色んなセリフが聞こえたが達也がそれを気にするはずもない。

あずさが連行されたのはカフェだった。

 

「手短にいいます」

 

席に着いてすぐに達也が切り出す

 

「選挙に出て下さい」

 

「説得の依頼でも受けたんですか?」

 

「そうですね」

 

「私には無理ですよ~」

 

「先輩が首を縦に振るまで返しませんよ」

 

「え!!そんな~」

 

「さて、時間が掛かりそうだから飲み物を持ってくるよ」

 

そう言って立ち上がった達也の懐から何かが落ちた。あずさは仕方なく自分の足元近くに落ちた、それを拾おうとして固まる

 

「こ、これって」

 

「あぁ、御免なさい。それ、再来週発売になるFLTの飛行デバイスなんですよ」

 

「シ、シルバーの最新作!? なんで持ってるんですか?」

 

「会長の就任祝いにしようかと思ったんですけど無駄になりましたね」

 

その達也の発言を聞いて

 

「やります。 私やっぱり選挙に立候補します」

 

 

その後あずさの立候補届け出は即座に受理された

 

会長選挙 前日 お昼休み 生徒会室

 

「でも 一体どんな手を使ったの?」

 

「別に何も」

 

「怪しい。まぁ、でも良かったわ。これで本番まで何の問題もないわね」

 

「イヤ あるでしょ。本番の生徒総会」

 

「あれだけ春に大見得切ったからから 今更引っ込める訳にもいかんしな」

 

「引っ込めるつもりはありません」

 

「暴走者が出ないか心配してたんですが 杞憂でしたね」

 

「ウチの生徒に、コイツに挑むバカはいないだろ」

 

「用心に越したことはないでしょ」

 

「しかし 急にどうした 君がそんな事言うなんて」

 

「急ですか。一部の生徒が会長の提案を潰そうとしてるみたいですよ。勿論 今の処 失敗してるようですが」

 

「その噂は聞いてはいるが」

 

「反対派にとっては今日と明日しかないんだから、会長は今日 一人にならない方がいいんじゃないんですか?」

 

「達也君 流石にそれは大袈裟すぎじゃない?」

 

「一体 どんな情報を掴んでいるんだ」

 

「何も掴んでないから忠告してるんです」

 

昼休みももうすぐ終わるので教室に戻ろうとしていた達也と深雪だが摩利に呼び止められた

 

風紀員会本部

 

「実はさっきの話 私も達也君と同じ懸念を抱いている」

 

「生徒会役員一科生限定廃止案の反対派の?」

 

「あぁ 私も アイツ等が大人し過ぎると思っている。裏工作が思いの他 成果が上がらないから、最終手段として暴力行為に走るかもしれん」

 

「かもしれませんね」

 

「真由美は人の悪意に疎い処があるからな。現に君の忠告も真面目に聞いてなかったし、いくら『マルチ・スコープ』を持っていても警戒心が抜けてるんじゃ意味がない。・・・そこで君達にアイツの護衛を頼みたいんだ」

 

「護衛?」

 

「イヤ アイツと一緒に下校してくれと云う事だ」

 

「それで家まで送れと」

 

「何もそこまで・・・イヤできればそこまで。取り敢えず、学校にいる間は私が何とかする。アイツ 下校の時は必ず一人だから、奴等が何か起こすとしたら下校中のハズだ。だが『術式解体』が使える君がいるなら大丈夫だろ」

 

「お任せ下さい 兄でしたら間違いはありません」

 

生徒会室

 

「これで明日の準備は完璧かな?」

 

「はい。資料も全部揃ってます」

 

「会場もチェック済みです」

 

「じゃあ 皆 上がっていいわよ」

 

しばらくして 服部とあずさが部屋を後にする

 

「深雪さんもリンちゃんももういいから」

 

「宜しければ 此方でもう少し待たせて戴きたいのですが」

 

「・・・達也君?」

 

「はい」

 

しばらくして 深雪が立ち上がり ドアの前で姿勢を正す 何事かと真由美は思ったが 直ぐに理解した

 

「待たせたな 深雪」

 

「いえ そのようなことは」

 

「(なんで 達也君が来ることが分かるのかしら?)」

 

「・・・会長 良ければ手伝いましょうか?」

 

「え! いいわよ 別に」

 

「そろそろ暗くなりますし、作業が残ってるなら手伝いますよ」

 

「あぁ 気を使わせたのね でもいいわ 私も 帰る事にするから」

 

「そうですか・・・なら 会長 駅まで御一緒しても?」

 

「いつものあの子達は?」

 

「アイツ等 皆 先に帰ってますよ」

 

「そう じゃあ 一緒に帰ろっか」

 

達也は真由美と一緒に下校する事に成功する。しかし、問題はこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み編 会長選挙 其の三

達也は無事、摩利に依頼された通りに真由美と下校する事が出来た

 

「そう云えば 達也君は何処で何をしてたの?」

 

「資料庫で『賢者の石』に関する文献を探してました」

 

「一年のやる事じゃないと思うけど」

 

「日々 才能の不足を道具で補えないかと考えてるんですよ」

 

「・・・不足って『術式解体』が使える魔法師が何言ってるのよ。九校戦の後夜祭前に、色んな処から声かけられまくってたくせに」

 

「それでも俺は劣等生なんで」

 

「達也君さぁ もうそろそろ 自分を劣等生だって言うの 止めなさい。君は実績を残してるんだから そんなんじゃ 両方から嫌われるよ」

 

「・・・気を付けます」

 

この会話からしばらくして

 

「・・・ねぇ 達也君」

 

「何でしょう」

 

「ホントは 私が帰るのを待ってたんでしょ」

 

真由美は達也の答えを待たずに続ける

 

「摩利に 反対派が襲ってくるかもしれないから家まで送ってやれとか言われたんじゃない?」

 

「良く解りますね」

 

「取り敢えず 気づかなかったフリしておくけど」

 

「でも なんで そんな事を此処で?」

 

「家まで来る必要がないって事を分かってもらうためよ。 あぁ迷惑だ なんて思ってないから」

 

「はぁ」

 

「一人で帰らせるのは危険だって 摩利に言われたかもしれないけど、私が 一人で帰るのは もしもの時に皆を巻き込まない為。『お嬢様』は色んな理由で狙われやすいから それにちゃんとボディーガードもいるしね」

 

「え? そうなんですか?」

 

「もう 駅で待ってると思うけど」

 

「あぁ だから 家まで送る必要がないんですね 駅にボディーガードが来るから」

 

「そう云うこと」

 

下校後 司波家 リビング

 

「お兄様 どうかなさいましたか?」

 

「あぁ、実は夕方の事で、気になってることがある」

 

「・・・先輩の護衛の方の事ですね」

 

駅で待っていた護衛は男性だった てっきり 女性だと思い込んでいたので驚いた

 

「名倉 三郎さんでしたね・・・名倉 やはり『数字落ち』エクストラ・ナンバーズでしょうか?」

 

エクストラ・ナンバーズ。数字を剥奪された者の総称。剥奪理由は任務失敗、反逆、無能など様々。他と違い、成果を上げる事が出来なかった者達。彼らは失敗作、欠陥品と揶揄されている。

 

「現、十師族が『数字落ち』を護衛に使うのでしょうか?」

 

下校後 七草家 浴室

 

真由美は浴槽で考えに耽っていた。彼女の眼に映るのは、お湯の中の自分の身体。

 

貧弱なプロポーションだとは思わない。身長は中三で止まったままだが、既にこれは遺伝だと諦めている

 

腕と足を延ばす

 

背の低い割には手足が長いとよく褒められる

 

視線が 胸にいく

 

胸も身長の割に大きいと言われる。ウエストも 服で苦労した覚えもない。外見は割とイケてる方だと思っている。しかし、 彼女 司波深雪を前にしてはその自信が揺らいでしまう

 

彼女の事は新入生の写真資料で初めて知った。写真をひと目見て美少女なのは分かっていたが 実際に見て驚いた。 本当にこんな美少女が存在するのかと、腕も足も不健康そうに見えないギリギリのバランスですんなりと長く美しく、ウエストは折れそうに細く締まりながらも胸と腰周りは女らしい曲線を描いている。何より驚いたのが彼女の身体が左右対称だった事、普通ならあり得ない事だと真由美は知識で知っていた。時折、彼女の見せる仕草に同じ女の自分でさえ見惚れてしまうことがある。彼女を家族に持つ男の子は他の女の子が色あせて見えるのではないのかと思えてしまう

 

その彼女を家族に、妹に持つ兄 司波達也の方は本当に彼女と血の繋がりがあるのかと疑ってしまうくらいの外見をしている。まぁいい方ではあるが、しかし中身の方は天才と言われる妹以上。今の評価基準は長い時間と手間を掛けて作られているものだが彼の存在はそのシステムに喧嘩を売っている。彼の本来の評価基準はどんなに高く見積もってもCランクだが、実際に彼が自分たちの前で積み上げていく功績はAランクをも凌駕するもの。

 

彼が普通でないことを今日ようやく確信した。本格的に疑い出したのは九校戦で見せつけられた深雪の圧倒的な魔法力からだが 今日 彼等を名倉に会わせたのは一種のテストの様なもの。『ナクラ』という名にどんな反応を示すか見てみたかった。そして彼が一瞬だけ動揺したのが分った。やはり彼らは普通ではない 一般の魔法師ではない

 

この時、真由美の頭で 『司波』➡『シ波』➡『四波』 彼等も『数字落ち』なのではないかと考えた。

 

生徒会長選挙当日 生徒総会前 舞台袖

 

「達也君 昨日はどうだった?」

 

「俺が三回襲われ掛けました」

 

「は?」

 

「会長のこと 甘く見過ぎてました」

 

 

「・・・以上の理由を以って、私は生徒会役員の選任資格に関する制限の撤廃を提案します」

 

真由美の議案説明が終わると三年の列から手が上がる 一科の三年 浅野という女子生徒

 

「この制度の変更をすると云う事は採用したい二科生がいると云う事ですか?」

 

「私は今日で会長の座を退きますから 新たな役員の任命権は私にはありませんよ」

 

「時期生徒会長に意中の二科生を任命するように働き掛ける事はできるでしょ」

 

「次の生徒会役員の任命に私は一切、関わりません」

 

「では次期会長に傍に置いておきたい二科生がいるので、その意向を受けてこの制度の変更を言い出したと?」

 

「私が今回 この件を議題にしたのは 私にとって機会がないからです」

 

「役員に任命すべき二科生がいないなら変更の必要はないのでは」

 

「いる いないの問題ではないと思います。二科生に役員になる権限がないという意志表明は間違っています。間違っているものをそのままにはしておけません。この機会に無くすべきです」

 

中々優位に立てない浅野の口調はヒステリックに

 

「そんなの詭弁じゃない! 貴女は生徒会に入れたい二科生がいるから、資格制限を撤廃したいんでしょ!本当の動機は只の依怙贔屓なくせに!」

 

既にヤケクソなのか浅野の言葉は止まらない

 

「貴女は 只 そこの二科生を生徒会に入れたいだけでしょ!」

 

彼女の指示している先には 達也

 

「昨日もその子と駅まで楽しそうにイチャついてたくせに!」

 

「(え~!!! どう云う見方をすればそんな風に見えるんだ?)」

 

そして何故か 真由美の顔は真っ赤である

 

「(イヤイヤ なんでアンタがそんな顔するんだ 誤解されるでしょうが!)」

 

思わぬ口撃に真由美は反撃できそうにない だがこの事態は直ぐに収まる

 

「仰りたいことはそれだけですか?」

 

発言したのは深雪だった 深雪の冷たく見下す眼は浅野を捕えて離さない 浅野は即座に口を噤む

 

「只今の発言には個人的中傷が含まれていると判断できます。依って 進行の権限により退場を命じます。不服であるなら、会長が特定の一年生に対して特別な感情を抱いている、という発言の根拠を示して下さい」

 

浅野は何も答えられない そして会場は静まり変える だが何時までもこの状態は続けてはいけない。そう服部は判断した

 

「訂正します。退場の必要はありません。ですが質問はこれで打ち切りとさせて貰います。浅野先輩は席にお戻り下さい」

 

結局 反対派の妨害は不発に終わった。その後の投票の後 賛成多数で生徒会役員資格制度撤廃議案は可決された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み編 会長選挙 其の四

真由美の提案した生徒会役員資格制限撤廃議案は賛成多数で可決され、次はあずさの選挙演説が始まる。

 

あずさの演説は概ね無難に進んで行った。 波乱が起きたのは時期生徒会役員に言及した時、

 

「本日の決定を尊重し、次期生徒会役員には、一科生、二科生の枠に捉われず有能な人材を登用していきたいと思います」

 

低レベルなヤジが飛ぶ。

 

「さっきの二科生のこと~」

 

「あずさちゃんはワイルドな年下が好みなの~」

 

あずさの人となりは反対派にも知られている だから反対派はあずさは反撃せずにスルーすると思い込んでいた。

 

確かにあずさは何も言わなかった。イヤ、言え無かった。言う暇が無かった。

 

「誰だ、今のは?」

 

「言いたい事があるならはっきり言いなさい」

 

そして反対派とあずさファンの間で掴み合いに発展。その輪は更に広がっていく。

 

「お静かに 御着席下さい」

 

「静粛に願います」

 

「皆さん 落ち着いて下さい」

 

既に真由美達の声も届かない。

 

収集が付かなくなりそうなので、辰巳 沢木にアイコンタクトして飛び込む覚悟を決める。だが達也の決断は遅かった。反対派の達也とあずさの仲を邪推する、極めて下品なヤジが放たれた瞬間。

 

少女の叱声が騒擾を制した。

 

「静まりなさい!」

 

生徒達の意識を圧倒したのは声の大きさでなく強さだった。

 

深雪の周りでは想子光の吹雪が荒れ狂っている。常識外れの干渉力の強さは理解できずともこのままではイケないことは誰の目にもあきらかだ。だが彼女を止める方法は彼女の干渉力を超えることだけだと解っていても。CADを手にした役員達ですら深雪の干渉力を超えられない事を理解させられている。このまま氷漬けにされるのを只待つだけなのか? そんな絶望がよぎった時 いつの間にか少女の前に立っていた少年が少女の力を抑え込み全生徒を救った。

 

会場は落ち着きを取り戻し、演説会は再開される。演説が終わるまでヤジも声援も無かった。

 

そして何事も無かったように投票に入り、翌日の朝に結果が公表された。

 

その結果は 

 

「おめでとう あーちゃん」

 

「中条 おめでとう」

 

「おめでとう 中条さん」

 

当選したのは勿論あずさ。だが素直に喜べる訳でもない。

 

「司波さん そんなに気にすることもないですよ。所詮、無効票です」

 

「惜しかったな 達也君」

 

何故か 深雪を労わる鈴音 面白がる摩利。

 

投票数 554

 

内 有効投票数 173

 

では残りはどうなっているのか・・・

 

「凄い事になったわね」

 

「司波が220 中条が173 達也君が161・・・」

 

「勘違いで私に投票した人がいるのは認めざるを得ません。ですが 何故『女王様』や『女王陛下』や『スノークイーン』を私の得票でカウントされているんですか?」

 

「仕方ありません。『深雪女王様』『司波深雪女王陛下』『スノークイーン深雪様』と書いてあれば他に解釈のしようがありません」

 

「一体 普段の私は皆さんにどんな風に映っているんですか?」

 

「落ち着いて深雪さん 誰も貴女の事 変に見てないから」

 

「お兄様~」

 

本格的に泣きじゃくり始めた深雪を抱き寄せて、そっと耳打ちする。

 

「大丈夫 お前は女王様じゃないよ。他人にどう見えようと俺にとっては、可愛いお姫様だから」

 

「お兄様」

 

深雪の暴走が収まったことを喜んだ一同だが、すぐに後悔した。泣き止んだ後も深雪は達也の腕から離れなかった。むしろ、今の状況を逆手に頭を、頬を 達也の胸に擦り付けた この二人の出す雰囲気に胸やけを覚えた。

 

その日の昼休み 生徒会室に真由美と摩利だけ 鈴音はいつも用がなければ姿を見せない。あずさは同級生達に祝福されて欠席、達也は深雪が来なければ来ない 深雪が来ないのは皆の前で甘える姿を見られたのが恥ずかしかったからだ。

 

そんな二人しかいない生徒会室に来客者が一人。

 

「どうしたんだ 十文字」

 

「今日が七草の引退日だからな」

 

「成程 真由美を労いに来たのか」

 

「あら、ありがとう 十文字君」

 

「イヤ、どういたしまして」

 

「・・・そっか 達也君、誰かに似てると思ったら、十文字君に似てるんだ」

 

「司波が・・・司波といえば、昨日はどうなるかと思ったぞ」

 

「そうね 流石に私も焦ったけど 達也君のおかげで何とかなったわね」

 

「あれはやはり 司波が妹を抑え込んだのか」

 

「ホント 信じられない出力と制御力よね。でもいくら無系統魔法が得意だからって、いくら肉親だからって、他人の想子をあんな簡単に操れるのかしら。ウチの双子の妹達でもあんな事・・・そりゃあ、深雪さんが自分の想子をコントロールしていない状態だったからっていう事情もあるけど」

 

「妹の力を見ても、やはり、遺伝的素質を無視することはできんと思うが・・・」

 

「だが 達也君は十師族ではないと否定したんだろ」

 

「あぁ、嘘をいってるように見えなかった」

 

「それにあの兄妹 得意魔法が違い過ぎる」

 

「達也君は無系統魔法が得意と真由美は言うけど基本 達也君は魔法力が低すぎる」

 

「対して深雪さんは魔法力は高く、そして減速・冷却魔法が得意 でもそれだけじゃなくて 他の系統魔法もレベルが高い」

 

「だが現 十師族に冷却魔法を得意とする家はないはずだ」

 

「じゃあ 二人は一体・・・」

 

「はぁ~ 止めましょ この話 切りがないわ」

 

真由美は無理やりこの話を止めさせた。

 

 

 



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横浜騒乱編 始まり 

凄く 久しぶりに書きます


横浜 山下埠頭

 

現代の港湾諸施設は夜間、監視の為の僅かな人員だけしかいない。入国手続き、貨物の積み込み等は日中に行われるからだ。しかし、その日の夜、山下埠頭には息を殺した気配が大勢あった。

 

「接岸した小型船舶に不法入国者の存在を確認。総員直ちに現場に向かって下さい!」

 

無線から聞こえた指示に警部 千葉寿和と警部補 稲垣が顔を見合わせる。

 

「何か 最近 多くない?」

 

「つべこべ言わずに走る!」

 

「ねぇ 僕は君の上司だよね?」

 

「歳は自分の方が上です」

 

ボヤキながらも二人は現場に到着した

 

「取り敢えず船を抑えましょう」

 

「え! 俺が?」

 

「そう 警部がです」

 

「はぁ~分かったよ。でも、船は君が止めてよ」

 

「自分じゃ沈めてしまうかもしれませんよ」

 

「大丈夫。もし、沈めても責任は課長が取ってくれるさ」

 

「そこは自分がとは言わないんですね」

 

そう言いながら稲垣は特化型CADの引きがねを引く。そして千葉寿和も所持していた刀を抜いた。

 

「ヤレヤレ、もぬけの殻か」

 

「逃げられてしまいましたね」

 

「でも、彼らの行き先なんて簡単に想像が付くけどね」

 

そう言いながら彼の眼は横浜の中華街に向いていた。二人から逃げた密入国者は寿和の読み通り中華街に現れた。只、町中に現れた訳では無い。中華街のとある一軒の飲食店の井戸の中に現れた。その数16人。だがその井戸には先客がいた。見た目は20代の青年。彼は突然、井戸から現れた集団に驚く事は無かった。

 

「御疲れでしょう。着替えと朝食をご用意しています」

 

「周先生 ご協力感謝します」

 

青年は彼らを店の奥に先導した。

 

国立魔法大学付属第一高校 図書館 地下二階

 

「お兄様 こちらですか?」

 

その日の放課後、達也は図書館に籠って、眼の前の文字と数式に集中していたが妹の自分を呼ぶ声に意識が戻る。

 

「コッチだ。深雪」

 

返事はしても達也はその場を離れなかった。達也は分り易く手をヒラヒラさせて自分の位置を知らせる。

 

「何をご覧になっているんですか?」

 

「エメラルド・タブレットに関する文献だ」

 

「最近は、錬金術関係の文献を調べていらっしゃるようですが・・・」

 

「俺が知りたいのは別に錬金術そのものじゃなくて錬金術の話題によく出る『賢者の石』の性質と製法なんだけど・・・ん?」

 

「・・・?どうなされました」

 

「どうなされました・・・って深雪は俺に何か用があるから来たんじゃないのか?」

 

「・・・あ! そうでした。そういえば鈴音先輩がお探しです。ご相談が御有りだそうで」

 

「市原先輩が 俺に? どこで?」

 

「魔法幾何学準備室です」

 

「市原先輩が俺に一体何の相談をするんだ?厄介事でなければいいが」

 

達也は一抹の不安を抱えながらも鈴音の元へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




また、少しずつ書いていきます。


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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之一

放課後 図書館いた達也だが深雪から鈴音が探していることを聞いて、魔法幾何学準備室の前にいた。

 

「失礼します。司波達也です」

 

「どうぞ、入ってください」

 

魔法幾何学準備室で達也を迎え入れたのは三人。三年 市原鈴音 二年 五十里 啓

そして、二年B組の実技担当者 廿楽計夫(つずらかずお)廿楽は数字の20を意味する。彼の実家はナンバーズ百家。

 

「あの、それで自分にご相談というのは」

 

達也の質問に答えたのは鈴音ではなく、廿楽の方だ。

 

「司波君は今月末に魔法協会主催開かれる論文コンペがあるのは知っていますか?」

 

「知っています。ただ、詳細は知りません」

 

「まぁ、華やかな九校戦と違って論文コンペは地味ですから詳しく知らないのも無理はありませんね」

 

廿楽は一呼吸おいて達也にとんでもない提案をした。

 

「今回の相談は市原君と私からの相談というかお願いなんですが」

 

「はい」

 

「司波君。第一高校の代表として論文コンペに参加してくれませんか?」

 

「・・・はぁ?オレ・・・じゃない、自分がですか?」

 

「そうです。君がです」

 

「何故 自分なんですか?」

 

「本来は此処にいる。市原君と五十里君そして三年の平河小春君の三人での出場を予定していたんですが」

 

「平河先輩 退学届けを出してきたんだ」

 

「(平河・・・あぁ 九校戦で小早川先輩の担当エンジニアだった人か)」

 

「さすがに退学は思いと留めさせましたが、いまの状態の彼女を代表メンバーに入れる訳には行きません。そこで白羽の矢が立ったのが君なんです」

 

「だから、何故、一年の自分が選ばれるんですか?確か出場者は校内の論文選考会で選ばれましたよね。それに、自分は論文を出してすらいませんが」

 

達也の言う通り、達也は学校側が出場者を募集している時期に論文は出していない。飛行魔法開発に忙しく、また、可能な限り目立つ事は避けたかったので完全スルーしていた。

 

「プレゼンの準備は共同作業ですし、まぁ 詳しい話は市原君に聞いて下さい」

 

そう言って廿楽は部屋を後にする。

 

「司波君を推薦したのは私です。他の代役は拒否させてもらいました」

 

「えぇ~」

 

どうやら達也に拒否権は無い様だ。達也からすればこれ以上目立ちたくない。

 

「でも、選考会に論文を出していない自分をメンバーにしても納得する人はいないでしょう。自分より、先輩たちの次点の人をメンバーに入れればいい話でしょ」

 

達也のこの言葉に珍しく鈴音が反応する。

 

「関本君はダメです!彼はこの作業に向いていません」

 

「関本? 関本って風紀委員の関本先輩のことですか?」

 

「えぇ~と、彼と私では・・・その・・・方向性が違うので」

 

「論文コンペの出場者はメインの執筆者一人とその補佐のサブ二人の三人で出るんだ」

 

「つまり、市原先輩の論文をサポートするのが自分の役割ですか」

 

「そうです」

 

「でも、それなら二人目のサブが自分である必要はないんじゃ」

 

「そんな事はありません。今回のテーマでは司波君の力が必用になってきます」

 

達也は疑問に思った。何故、そんな確証があるのか。達也は自分の名前で論文を出したことはないというのに。

 

「今回、私が論文コンペで発表するテーマは『重力制御型熱核融合炉の技術的可能性』です」

 

「へぇ~」

 

「司波君がどんな研究に興味があるか少し前に深雪さんから聞き出しました」

 

深雪には自分の事でボロを出さない様に常に言っていたのだが

 

「(深雪も気を付けてはいたんだろうがな)」

 

「はぁ~そう云う事なら仕方ありません。今回の件は自分にとってもプラスになるかもしれませんから」

 

「参加してくれるんですね」

 

「宜しくおねがいします」

 

そう言って達也は鈴音と握手を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之ニ

鈴音からの相談は論文コンペの出場の打診だった。最初は拒んでいた達也だったが結局、出場する事にした。

 

「それでは 早速で申し訳ありませんが本番まで三週間しかありません。先ずは司波君に論文コンペの事を知ってもらわなくては」

 

「お願いします」

 

「論文コンペは高校生が魔法学、魔法工学の研究成果を発表する場です。開催日は毎年十月の最終日曜日。開催地は横浜と京都で交互に行われます。今年の会場は横浜国際会議場です」

 

「テーマは原則として自由なんだけど当然、公序良俗に反しない事だよ」

 

「それはそうでしょうね」

 

「一昨年、大量破壊兵器に関する魔法をテーマにした生徒がいましたが当然、事前審査ではねられています」

 

「何でそんな事を市原先輩が知っているんですか?」

 

「それはその執筆した生徒が三代前の生徒会長だからですよ」

 

「・・・」

 

「兎に角、コンペに必要な完成稿と使用機材、プレゼン企画書を事前に横浜の魔法協会に提出しなければなりません」

 

「期限は再来週の日曜日で提出先は魔法協会関東支部だけど、廿楽先生にチェックしてもらう時間も含めて来週の水曜日辺りに仕上げる方向で調整をする事にしてるんだ」

 

「分かりました」

 

第一高校 校門前

 

「(随分なスケジュールになりそうだ)」

 

鈴音達の話を聞いて、そんな事を思っていると、さきに帰っていたと思っていたいつものメンバーが揃っていた。

 

「・・・なぁ、あそこに寄るか?」

 

「いいね!」

 

「賛成」

 

という声が帰って来たので、達也達はいつもの喫茶 アイネブリーゼへ。

 

喫茶 アイネブリーゼ

 

「でもどうしたの?達也君から誘うなんて」

 

「確かに珍しい」

 

「いや、これから忙しくなるから最後の息抜きというか」

 

「忙しく? 新しく生徒会に入ったほのかや元々役員の深雪が忙しくなるって言うなら分かるけど」

 

この日、一校では新生徒会が発足してから既に一週間が過ぎている。前生徒会長の七種真由美、会計の市原鈴音が引退。新生徒会長に会長選挙で当選した中条あずさが就任。

副会長は深雪の続投。そして会計の鈴音の後任に二年 五十里 啓 書記に一年 光井ほのかを迎えている。

 

「あぁ実は・・・」

 

達也は用の出来事を話した」

 

「え! 達也。論文コンペの代表に選ばれたの?」

 

「確か論文コンペの代表って三人だけなんじゃ」

 

「あぁ まぁ」

 

「達也君、感動薄すぎじゃない」

 

「達也にしてみればその程度は当然ってことか」

 

「一年生が出場なんて早々ないよ」

 

「バーカ。職員達がインデックスに新しい魔法を書き足す様な天才を放置するわきゃねぇーだろ」

 

「おい、レオ その天才っての止めろ」

 

「ホントに達也さんって天才と呼ばれるのが御嫌いですよね」

 

「俺には都合のいい言葉にしか聞こえん」

 

「それでも凄いよ、あの大会の優勝論文は『スーパーネイチャー』に毎年、掲載されてるし二位以下の論文も学会誌に掲載される事もあるんだ」

 

「ねぇ 達也さん コンペってもう直ぐだよね。時間が無いんじゃない?」

 

「まぁ、学校への提出期間はチェックも含めて、後九日くらいだ」

 

「え!本当にもうすぐじゃないですか」

 

「まぁ、でも今回俺はサブだし、メインの市原先輩が夏休み前から進めてたらしいから」

 

「それにしても、急なお願いでしたね」

 

「本来のサブ担当だった三年生が体調を崩したらしい」

 

「それでテーマは何なんだ?」

 

「『重力制御魔法式熱核融合炉の技術的問題点とその解決策について』だ」

 

「・・・は?」

 

「それ『加重系統魔法の三大難問じゃなかったっけ?」

 

「CAD関係の論文じゃないんですね」

 

周りが様々な反応をする中、深雪は達也が本気なのを驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之三

駅で友人たちと別れ帰路に着く。そして二人は珍しく自宅の前にシティーコミューターが停まっていることに気が付く。二人は同時に顔をしかめた。この家に来る来訪者は兄妹にとって面倒、もしくは厄介な人物に限られているからだ。達也が先に玄関のドアを開ける。

 

「お帰りなさい・・・相変わらず仲が良いのね」

 

「コッチに帰るのは久しぶりですよね。小百合さん」

 

「え、ええ、その、どうしても本社に近い方が便利だから」

 

「分かってますよ」

 

久しぶりに帰宅した義母の小百合に素っ気なく答える達也。帰宅したと言っても彼女の部屋はこの家にはない。彼女はFLT本社の近くの高層マンションの最上階で結婚生活を夫婦水入らずで過ごしている。

 

「直ぐに夕食の支度をしますね」

 

深雪はそう言って小百合を見向きもせず台所に向かう。

 

「相変わらず貴方達は私の事が気に入らないようね」

 

「深雪が気に入らないのは親父の方で、まぁ、貴方の事は本当に何とも思ってないみたいですよ」

 

「・・・そう」

 

「それで、今日は態々、何の用です?」

 

「達郎さんからの伝言を伝えに来たのよ」

 

「へえ~。それで親父は何と」

 

「単刀直入に言うわ。また、貴方に本社の研究を手伝って欲しいの。高校を中退して」

 

「無理ですね。深雪が一校に通う以上俺も一校生でいないと」

 

「別に貴方がいなくても本家から別のガーディアンが派遣されるでしょ」

 

「四葉の魔法師は他の家より少ない。それに唯の護衛じゃなく代わりのガーディアンの派遣は直ぐには無理ですよ」

 

「これは貴方の父親の命令よ」

 

「俺に命令できるのは御当主と深雪であって親父じゃない」

 

「・・・」

 

「確認ですけど。今回の件は本家に了承を得た上で俺に話してるんですよね」

 

「・・・っ、それは」

 

「まぁ。アンタ達が本家の了承を得るなんて無理ですよね。連絡手段もないんだから」

 

深雪の実の父である達郎と義母の小百合は四葉家と連絡を取り合う事ができず、本家に招かれる事もない立場にあった。

 

「勝手な事ばかりやってると本家に何されるか分かりませんよ。俺はアンタ達を擁護する立場じゃないし、深雪もアンタ達を擁護しようとはしませんよ」

 

「貴女の様な優秀なスタッフを遊ばせておく余裕はウチにはないのよ」

 

「遊んでるつもりはないんですが。今期だって飛行デバイスの大量受注があったでしょ」

 

「・・・じゃあ。せめてこのサンプルの解析だけでも手伝ってくれない?」

 

小百合がバックから取り出したのは宝石箱。開けるとそこには半透明な玉が一つ。

 

「へぇ~聖遺物(レリック)ですか」

 

聖遺物 魔法的性質を持つオーパーツ。出土した時代の技術水準を超えている加工が施されている物。

 

「何処で出土したんです?」

 

「知らないわ」

 

「・・・成程。国防軍絡みですか」

 

FLTは軍関係の仕事を受託する事がある。

 

「解析だけですね。まさか複製まで請け負ってませんよね」

 

達也は小百合の表情がほんの少し強張ったことで確信した。

 

「何でそんな無謀な事を?コレは現代技術で人工的に合成する事が難しいからレリックなんて大袈裟な呼ばれ方してるんですよ」

 

「国防軍からの強い要請があったの。断る事は出来ないわ」

 

「国防軍もレリックの複製が難しい事ぐらい分かってるだろうに。なのにどうして・・・」

 

「コレには魔法式を保存する機能があるそうよ」

 

「!! それは実証されているんですか?」

 

「まだ仮説の段階だけど、軍が動くだけの十分な観測結果が出ているわ」

 

小百合からもたらされた回答は達也の表情を壊した。放課後、図書館で調べていたのは、魔法式の保存機能に関してだったからだ。

 

「事実なら軍も無視できないか」

 

「でも、複製は」

 

「貴方の魔法なら」

 

「俺の魔法でも複製できるかわからないけど、どうしてもと言うなら三課の方にサンプルを回しといてください」

 

「ダメよ。そんな処。解析は本社で」

 

「三課の方が良く行くんで・・・イヤ、面倒だからそれは此処で預かりますよ」

 

「・・・結構です。やっぱり、貴方を頼ったのは間違いだったわね!」

 

「駅まで送りますよ。貴重品を持ってるんだし」

 

「必要ないわ!」

 

怒って出て行った小百合と入れ替わりで深雪が入って来る。

 

「はぁ~。やっと帰ってくれた」

 

「悪いけど深雪。やっぱり送って来るよ」

 

「何故です?あんな人どうだっていいじゃありませんか」

 

「人は兎も角所有物にもしもの事があったら困るからな」

 

「そうですか。分かりました」

 

深雪は渋々、達也の命に従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之四

自宅を離れコミューターでマンションに帰ろうとしていた小百合。自動運転のコミューターは小百合を無事に自宅マンションに送るはずだったのだが、途中、コミュータの後ろをピッタリとくっ付いていた自走車に阻まれた。自走車がコミューターを追い越した後、直ぐに強引に割り込んだ為、コミューターの衝突回避システムが作動し急停止した。そして同じく急停止した自走車から二人の男が小百合の乗るコミューターに駆け寄った。

 

「ちょっと!何事?」

 

男たちがコミューターの扉をこじ開けようとしたその時、後を追いかけていた達也が駆け付ける。

 

「お前達 その人に何の用だ?」

 

男の一人は達也に無言で拳銃を構え、もう一人は指輪を向けた。

 

「(キャスト・ジャミングか)」

 

キャスト・ジャミングで魔法を妨害し、拳銃で仕留める。本来なら魔法師と戦う為の常套手段。しかし、相手は普通の魔法師では無い。拳銃の引きがねが引かれる事は無かった。彼等より達也がCADの引き金を引く方が早かった。男の持つ拳銃がバラバラになる。

 

「!!」

 

男たちはキャスト・ジャミングが効かない事に驚いている様だ。

 

「逃がすつもりは無いぞ」

 

達也は更に引き金を引き、男たちにCADを向け、肩や足を撃った。すると自走車が再び動き出す。如何やらまだ他に同乗者がいた様だ。達也はまとめて捕らえようと思ったが周りを見て考え直す。流石に住宅街で強引な手は取れないと。そんな事を考えていた達也の意識を背後からの強烈な殺気が現実に呼び戻す。

 

「ぐっ!」

 

達也は咄嗟に回避行動を取った。しかし、それでも避ける事は出来なかった。遥か後方から撃たれた銃弾が達也を貫く。達也はコミューターの陰に退避した。

 

「今のは危なかったな」

 

達也は即座に自身の身体を再生させる。

 

「さて、お返しをしないとな」

 

達也は狙撃手を探し始める。倒れた男たちを回収して逃走をし始めた自走車を放って。

 

「魔法が使われていない分、少々面倒だが大体の位置は分かる」

 

それから達也は僅か数秒で狙撃手の位置を特定した。

 

「見つけたぞ」

 

狙撃手は第二撃を撃とうとしていた。

 

「残念だがこれで終わりだ」

 

達也は狙撃手に向けて分解魔法を放った。世界からまた一つの存在が消えうせた。

 

「大丈夫ですか?小百合さん」

 

「貴方こそ大丈夫なの?」

 

「俺はあのくらいじゃ死ねませんから」

 

「・・・っ」

 

「家まで送りますよ。そしてやっぱりそれは此方で預かります。いいですね」

 

「わ、分かったわよ」

 

小百合を自宅マンションまで送り届けた後、達也は風間に報告した。

 

「街路カメラの方は既に処理を始めている」

 

「そりゃどうも、助かります」

 

自身の情報が露見するのは達也は勿論のこと、風間にとっても宜しくない。

 

「しかし、相手も随分と大胆だな。都心ではないとはいえ、いきなりライフルをぶっ放すとは」

 

「確かに油断はしてましたが、それでも恐るべき技量でしたよ」

 

「腕のいい狙撃手を用意するのは簡単じゃない。敵は案外簡単に見つかるかもな」

 

「そうだといいですが」

 

「・・・ちょっと待て、今、車が見つかったと報告が来た。調べた後は此方で処分してもいいか?」

 

「ええ。構いませんよ」

 

そう言って達也は回線を切った。

 

「はあ。また、厄介事に首を突っ込んだらしい」

 

達也は誰もいない部屋でため息を付きながら、そう呟いた。

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之五

義母の襲撃事件から数日後。達也は自宅のワークステーションでデータ処理をしていると、ホームサーバーがアタックされている事に気が付いた。複数の経路からの同時アタック。間違いなくプロの仕業だ。何度も撃退しても、しつこくアタックを繰り返す。

達也は迎撃しながら逆探知プログラムを立ち上げた。

 

翌日 達也はカウンセリングルームを訪れた。只、達也に思春期の悩みがある訳では無いのだが。

 

「・・・途中で接続を切られたんで、攻撃元はつかめませんでしたけど」

 

達也は昨夜の出来事をカウンセラー小野遥に話していた。

 

「・・・それで? 言っておくけど、私、ネットワークチェイスなんてできないけど」

 

「教えてもらいたい事があるんですけど」

 

「・・・何を?」

 

「最近、魔法関係の秘密情報売買に手を出している組織について、知っている範囲でいいんで教えてください」

 

「ねぇ 司波君?私にも守秘義務があるの分かる?」

 

「それは勿論」

 

「・・・はぁ」

 

遥が重い口を開く。

 

「先月末から今月の初めにかけて、横浜・横須賀で密入国事件が相次いでいるそうよ。そして、それと時期を同じくして、マクシミリアンやローゼンに部品を納入しているメーカーが相次いで盗難に遭っているそうです」

 

「無関係ではないと?」

 

「その連中だと決まった訳じゃないけど」

 

そう言って遥の視線は身体ごとデスクに向かう。要するにこれ以上話す事は無いから帰れと言う遥の強い意志表示の様だ。放課後 達也は風紀委員会本部でも五十里に昨晩の出来事を話した。

 

「被害は無かったの?」

 

「ええ。何とか」

 

「先輩のお宅は大丈夫なんですか?」

 

「・・・それって、もしかして、クラッカーの狙いって」

 

「明らかに文書データを狙っていたのでコンペ絡みだと云う事を否定できません」

 

「この話は市原先輩にも伝えた方がいいね」

 

「ええ」

 

五十里との話が終わったタイミングで。

 

「啓 お待たせ」

 

の声と同時に花音が啓に抱き着いた。

 

「うわっ!」

 

勢いが付き過ぎたのか椅子ごと啓が倒れかけた。

 

「少しは押さえろ。花音。その内、怪我するぞ」

 

花音と一緒に入って来た摩利が呆れていた。

 

「千代田先輩は兎も角、渡辺先輩がどうして?」

 

花音は現風紀委員長だからここに来るのは当たり前だが、前委員長の摩利は来る必要がない。

 

「実は論文コンペの警備の事でね」

 

「警備? 会場警備を風紀員会が担うんですか?」

 

「流石にそれは無いよ。会場警備は魔法協会がプロを手配してくれる。私が言っているのは代表メンバーの身辺警護とプレゼンで使う資料や使用器具の見張りだよ」

 

「身辺警護って随分大袈裟ですね」

 

「まぁ、置き引きやひったくりを警戒すればいいんだが」

 

「啓は私が守ってあげる」

 

「因みに護衛メンバーは風紀委員と部活連執行部から選ばれる。まぁ、誰が誰を護衛するかは当人の意志が尊重される。五十里は花音が護衛でいいな」

 

「え!あ、はい。花音で大丈夫です」

 

「市原には服部と桐原が付く」

 

「へぇ~部活連会頭自ら護衛ですか」

 

「それで、ここまで話せばわかると思うが、私が来たのは」

 

「自分の護衛ですか?必要ありませんよ」

 

「まぁ、そう言うだろうとは思っていたが、・・・分かった。服部には私から伝えておこう」

 

「何故先輩がそんな事を?」

 

「へぇ?」

 

「こう云うのは千代田先輩の仕事ですよね」

 

「・・・ッ」

 

「(過保護だな)」

 

摩利は少し恥ずかしそうに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之六

摩利と別れた後、達也は啓と花音と共に論文コンペで使用する3Dプロジェクター用の記録フィルムを買いに駅前の文具店に来ていた。

 

「も~う。購買で買えればこんな所まで来なくて済んだのに」

 

「でも、入荷待ちするだけの時間は無いからね」

 

「だからと言って態々、先輩達が付いてこなくても」

 

「司波君だけに任せるのは悪いよ。それに、サンプルを見ておいて損はないよ」

 

「それは・・・」

 

「? どうしたの?」

 

達也は会話しながらもある視線に気づいた。

 

「いえ・・・どうも監視されてるみたいで」

 

「監視!スパイなの!何処!」

 

達也の言葉を遮り花音が声を張る。その瞬間、視線が遠のいた。

 

「どっち!」

 

花音は達也の眼を見て駆け出した。

 

「花音 此処で魔法は」

 

「分かってる。私を信用しなさい」

 

信用していないから啓は態々、声に出したのだが。

 

花音は同世代トップクラスの魔法師であり、同時に陸上のスプリンターでもあった。

彼女は徐々に監視者と距離を詰めていく。逃げ出した監視者は小柄で驚くことに花音と同じ服装をしていた。その事に意外感を覚えたが花音は足を止めなかった。花音はその少女の顔を見ようと更に近づいた。しかし、花音の眼に映り込んだのは少女の顔ではなく小さなカプセルだった。

 

「くっ!!」

 

咄嗟に防御態勢を取った花音。少女はスクーターで逃走を図ろうとしていた。

 

「逃がさないわよ!」

 

花音が魔法を発動させようとする。しかし、それを達也が阻止した。

 

「ちょっと!何するのよ 逃げられちゃうじゃない」

 

「その心配はないよ 花音」

 

啓は走り出していたスクーターに魔法を放った。

 

放出系魔法 伸地迷路 (ロード・エクステンション)

 

摩擦力をゼロにすることにより車輪で走行する輸送機械を行動不能・制御不能に追い込む魔法。

 

逃げられない。達也も啓も花音でさえ、そう思っていた。しかし、事態は急転した。

彼女が本来あるハズの無いスクーターのとあるボタンを押したことで。少女がボタンを押すと後部座席からロケットエンジンが顔を出し、スクーターは急発進。三人は監視者の小さくなる後ろ姿を唖然として見送ることしかできなかった。

 

「・・・な・何を考えてるのよ。あの子」

 

「・・・もし、スクーターが転倒してたら・・・」

 

「・・・死んでましたね。アイツも含めて此処にいた全員が」

 

東京 池袋の外れにある古いビルの一室

 

表向きは貿易商の事務所とされる部屋には旧式のモニターがびっしりと並び、その中の一つワゴン車をモニターしている画面。

 

「大丈夫なのか?あの小娘」

 

スクーターを乗り捨てた少女は協力者の用意していたボックスワゴンに乗っていた。

画面を見ていた男は少女の身を案じてはいない。少女がへまをして、その所為で自分達の尻尾が捕まれないかを案じていた。

 

「あのワゴンの運転手等を用意したのは周大人なので、我々の存在は知らないはずです」

 

「アイツの仲介か。何処まで信用したものか」

 

しかし、現状 男は彼を信用せざるえない状況だ。

 

「ところで、レリックの方に何か動きはあったか?」

 

「FLTから持ち出された形跡はありませんが現所在は不明です」

 

「FLT・・・Four・Leaves・・・四葉。忌々しい名だ。本当にあの四葉とは関係ないんだな」

 

「はい、詳細に何度も調べましたが、何の繋がりも出てきていません。調べて分かった事は、この国の魔法関連企業は四葉や八葉の名称を好んで用いることです」

 

「フン!全く。紛らわしい」

 

「取り敢えず、司波小百合の監視は怠るな。・・・そういえば彼女が昨晩、訪れていた家があったが」

 

「どうやらあの家には夫の連れ子の兄妹が棲んでいる様で」

 

「ふ~ん」

 

「二人共 魔法大学付属第一高校の一年生で兄が司波達也。妹が司波深雪」

 

「司波達也?その名前、何処かで」

 

「さっきの少女。現地協力者の報復対象です」

 

「ふむ。魔法大学付属高校か」

 

「どうされました」

 

「よし、ならば魔法大学付属高校を活動対象に追加。そして小娘への支援も強化。武器も持たせろ。それから・・・」

 

男は続けざまに支持を出し、後ろを振り向く。

 

「呂上尉!」

 

そこには大柄な男が一人。

 

「現地で指揮を執れ!余所の犬が嗅ぎまわっているようなら排除しろ」

 

大柄な男は黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之七

監視者の少女を取り逃がしてしまった次の日。達也は昨日の出来事を鈴音に報告していた。

 

「その子は本当にウチの生徒なんですか?」

 

「今の段階で断定はできません」

 

「制服も用意しようと思えばできますし」

 

「顔は見たんですよね。千代田さんは生徒名簿を閲覧できますから、調べれば直ぐに分かるんじゃ」

 

「顔を見たと言っても一瞬ですし、それにウチの女子生徒は300人位いますから、ある程度の絞り込みの条件も無しに顔だけで犯人を特定はできませんよ」

 

「では私達はこれからも受け身で警戒するしかないと云う事ですね」

 

「ええ。面倒ですが、そうなりますね」

 

達也が教室に戻ると1-Eにはいつものメンバー。

 

「あ!達也君。やっと来た」

 

「何かあったのか?」

 

「美月がね、今朝から視線を感じるんだって」

 

「視線?」

 

「今朝から気味の悪い視線を感じるんです」

 

「ストーカーの類か。美月も大変だな」

 

「わ、私をストーキングする人なんかいませんよ」

 

「そうかな?」

 

「それにその視線は、なんと言うかもっと大きな網を構えている感じで」

 

「狙いは生徒一人じゃなく、複数・・・イヤそれともウチにある何か?」

 

「た、多分。私の勘違いだといいんですけど」

 

「目的は絞れないけど勘違いではないよ」

 

「どう云う事だ。幹比古」

 

「今朝から校内で精霊が不自然に騒いでる。多分、誰かが式を打ってるんだろう。しかも、僕等が使う術式とは違うから、うまく捕まえきれない。誰かが何かを探っているのは間違いない。けど一体何を探っているんだろう」

 

「ちょっと待て、幹比古」

 

「何?」

 

「お前、今、使ってる術式が違うって言ったけど、それって・・・」

 

「うん、流派の違いじゃないよ。使われている術式はこの国でつかわれる術式じゃないと思う」

 

「それって他国のスパイってことか?」

 

「スパイにしては随分派手だな」

 

達也達が一校を探るスパイの存在に気付いた頃、千葉寿和と稲垣は密入国事件に関する聞き込み調査を行っていた。

 

「中々、成果がでませんね。目撃者も出てこないみたいですし」

 

「そうだね。なら捜査方法を変えようか?」

 

「方法を変える?違法捜査でもするつもりですか?」

 

「まさか、そんなことはしないよ。只、話を聞きにいくだけさ」

 

「誰に?」

 

「その道のプロに」

 

「何処で?」

 

「それは着いてのお楽しみ」

 

そして寿和は稲垣を覆面パトカーに乗せ走り出す。そして、寿和が稲垣を連れて来たのは「ロッテル・バルト」という名の喫茶店だった。

 

「警部。本当にこんな処にその道のプロが来るんですか?」

 

「来るんじゃなくているんだよ。僕の言うその道のプロは此処のマスターのことだよ」

 

そう言って寿和は店の中に入った。

 

店を訪れたのは平日の昼間。ランチタイムは過ぎてはいるが客の入りは悪くない。稲垣がカウンター席の端に、寿和はその隣に腰を下ろした。寿和の隣には先客がいる様だ。

呑みかけのカップが置いてあるがマスターが片付けていないのを見ると中座しているのだろう。寿和がコーヒーを頼んで直ぐに先客が戻って来た。寿和は顔は正面に向けたまま、横目で隣に座った若い女性を見た。不意に嫌な視線を感じた。稲垣が疑惑の眼差しで寿和を見ていた。

 

「(別にやらしい目で見ていない)」

 

彼に眼で訴えたが、それが彼に伝わったかは不安だ。だが、そんな事はお構いなしに隣から小さな笑い声が。

 

「・・・ごめんなさい。てっきり、話かけられると思ったんですが、女性が苦手なんですか?千葉の御曹司は」

 

「えっと・・・貴女は?」

 

「初めまして、千葉寿和警部。私、藤林響子と申します」

 

寿和は絶句した。古式魔法の名門で尚且つ十師族の九島烈の孫娘が一体自分に何の用があるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之八

その日の放課後、久々にいつものメンバーが揃って下校していた。

 

「論文コンペの準備はもう終わったんですか?」

 

「まぁ、ようやく、一段落ってところかな。まだ細かいことは残ってるけど」

 

「美月も手伝ってるんでしょ」

 

「私って言うより、先輩達が」

 

「コンペに使う模型作りは五十里先輩が中心だからな」

 

「じゃあ、達也は何をやってるんだ」

 

「俺はデモ用術式の調整だ」

 

「・・・普通、逆だと思う」

 

「まぁ、今更担当を変える必要性もないんだが」

 

そんな話をしながらでも達也は警戒は怠らない。行きつけの店の近くであろうと。

 

「(今度の相手は中々に尾行が上手いな。昨日のアイツの様な素人ではないか。まぁ、俺の眼には、ハッキリ見えてはいるが)」

 

実は、達也は学校を出てから尾行をされていた。しかも、相手は先日花音が取り逃がした相手ではない。達也は会話に参加しながらどう対処すべきか悩んでいたが結局、達也は尾行をやり過ごすことを選んだ。

 

「寄って行かないか?」

 

「賛成!」

 

「達也もまた、明日から忙しくなるだろうしな」

 

「そうだね」

 

皆の意見が出た処で、達也は喫茶「アイネブリーゼ」の扉を開けた。残念ながらいつもの席は空いておらず、達也達はカウンター席とテーブル席にバラバラに座る。カウンター席に雫・ほのか・達也・深雪の順で、テーブル席には奥にレオと幹比古。手前にエリカと美月が腰を降ろした。

 

「相変わらず、モテモテだね。達也君」

 

「マスターもその髭剃れば持てるんじゃないですか?」

 

「そうですよマスター。髭の所為で老けてみえます。剃った方がいいですよ」

 

「なん! 老けて・・・容赦ないね。美月ちゃん。でもやっぱり髭の良さは若者には解らないか」

 

因みにこの店のマスターの髭のあり、無しについては全員が無しで意見が一致している。

 

「最近はお勉強の方が忙しいのかな」

 

しばらく顔を出さなかった理由をマスターが聞いてきた。それに答えたのはエリカ。

 

「そんなことはないですよ。若干一名危ういのがいるけどね~」

 

「なんで俺を見るんだよ」

 

「だってこの中じゃアンタがダントツで頭悪いでしょ」

 

「てめぇ~」

 

「ちょっとエリカちゃん」

 

「レオも落ち着いて」

 

「達也さんが論文コンペの代表に選ばれて中々集まれないんですよ」

 

「論文コンペに?一年で?凄いじゃないか」

 

「メイン執筆者じゃないですけどね」

 

「確か今年は横浜だよね」

 

マスターは魔法師ではないが店が魔法科高校の通学路な為に色んな情報が入って来るので自然に魔法師界の事にも詳しくなっていた。

 

「会場は国際会議場かな?」

 

「そうですけど?」

 

「実は実家が横浜でね、近くだから、時間があったら寄って行ってよ」

 

「寄っていってよ・・・って、もしかして、マスターの実家も喫茶店を?」

 

「山手の丘の中程にある「ロッテル・バルト」って店だから」

 

そんな会話をしていると不意にエリカが席を立つ。

 

「どうしたの。エリカちゃん?」

 

美月の問いに、エリカは残りのコーヒーを飲んで、

 

「ちょっと、お花を摘みに」

 

そう言ってエリカは店の奥に、更にレオが、

 

「あ! 電話だ」

 

そう言って店を出る。

 

「・・・それで幹比古。お前は何をしてるんだ」

 

達也はエリカとレオと同時に動いた幹比古に気が付いた。

 

「ちょっとしたメモだよ。書いておかないと忘れちゃいそうで」

 

「・・・まぁ。やり過ぎるなよ。三人共」

 

男は只、待っていた。彼が店から出てくるのを。しかし、それはまだ随分と時間がかかると男は見ていた。今時の若者が大人数で喫茶店に入ったのだから。すぐに出てくる訳がない。それでも男は待たなければならない。それが彼の任務だから。男はテイクアウト用のドリンクを飲みながら暇を持て余していた。しばらくして、動きがあった。彼の連れの男子生徒が一人出てきたのだ。男は直ぐにその後ろを注視した。次に出てくるのが彼だった場合を想定して。しかし、出てきたのは、彼の連れの男子生徒(レオ)だけだった。

だから、男は背後に現れた女子生徒(エリカ)に、

 

「オジサン。アタシとイイことして遊ばない」

 

と声を掛けられて危うくドリンクを落としそうになった。

 

「すまないが、私は人を待っているんだよ」

 

「(この娘は彼の連れの一人・・・だがどうして此処に?正面のドアからは男子生徒だけしか・・・)」

 

そんな事を考えていると男の前にレオが。男は包囲されていた。

 

「待ってるって、達也を?」

 

「誰だね それは」

 

「アンタ、達也を尾行してたろ」

 

「観念なさい。どうせアンタはもう、此処から逃げられないんだから」

 

エリカの言葉で気づかされた。先ほどから通行人が途絶えている事に。

 

「俺らの意識を無くさないとこの結界からは出れないぜ」

 

男はドリンクを投げ捨て、エリカに殴りかかる。それを見たレオはエリカを助けようと動き出す。だが男の最初の狙いはエリカではなくレオだった。男はわざと隙を見せレオを懐に飛び込ませた。レオは男のカウンター防げず、吹き飛ばされた。

 

「(まずは一人)」

 

そのまま男はエリカにナイフを投げつけた。エリカは持っていた警棒で振り払う。

エリカの正面に隙ができた。このままエリカを攻撃すれば男は逃げられるはずだったのだが、

 

「うぐっ!」

 

男は地面に叩き付けられた。レオのカウンタータックルを避けきれなかったからだ。

 

「あ~痛って。アンタ普通の人間じゃねぇな。ホント何者だよ」

 

「そう言うアンタも普通じゃないでしょ。さっきのまともに喰らったでしょ」

 

「クソッ」

 

「大人しくしろよ。俺達は命までは取らねえよ。ただ、尾行の理由が知りたいだけだからよ」

 

「分かった。降参だ」

 

「なら手短に話しな。いつまでも結界は張っておけねぇし」

 

「ジロー・マーシャル。まず最初に私は君たちの敵ではない。そしてどの国の政府機関にも所属はしてはいない」

 

「非合法工作員?」

 

「主な仕事は先端魔法技術が東側に盗みだされない様に監視する事、漏洩した場合はそれに対処する事だ」

 

「随分と手間の掛かる事をやってるんだんなアンタ達」

 

「全く最近の若者は平和ボケが過ぎるな。技術の漏洩は時に世界の軍事バランスを壊す事にもなる。この国だけ問題じゃないんだよ。近年はそういうスパイが増えて君達の学校も東側のターゲットになっているんだ」

 

「平和ボケなんてしてないわよ。現にアンタの尾行には気が付いたし」

 

「イヤ、まだまだ甘いよ」

 

服の汚れを払いながら起き上がった男は手に拳銃を持っていた。銃口はエリカを捉えている。この距離で銃を躱せなことをエリカは理解していた。

 

「あ!」

 

「てめぇ!」

 

「最初にこれを使わなかったのが君達の敵ではない証拠だ」

 

「使えなかっただけでしょ。使えば痕が残るから」

 

「それもあるが・・・もういいだろう。必要な事は話してやった。結界を解いてくれないか」

 

「ゴメン・・・ミキ」

 

エリカの一声で結界が消えた。

 

「さて、ではこれにて失礼。あぁ、そうだ。お仲間にも学校の中だからと言って安心しないように言っておいてくれ」

 

結界の消失を確認したジロー・マーシャルは懐から管を取り出し投げつけた。管の小さな破裂音の後、白煙が立ち込めた。視界が回復して辺りを見回すがジロー・マーシャルの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之九

非合法工作員 ジロー・マーシャルと対峙した翌日。深雪はいつものメンバーで学食にいたのだが、エリカが難しい顔をしていたのが珍しく思えた。

 

「まだ、昨日の事を気にしてるの?」

 

「逃げられた事は気にしてないけど」

 

「じゃあ何を気にしているの?」

 

「アイツの・・・『学校の中だからと言って安心はできない』・・・もしかして、生徒の中に・・・」

 

「それはまだ分からない。それにまだ、手を出されていないんだから」

 

「でもよ。いつまでも受け身じゃな」

 

「分かってるさ。このままではダメな事くらい」

 

本番が近づき、一校では本来の授業時間もコンペ準備に割り当てられていた。コンペの準備に授業時間を割いてまで準備する必要があるのか?と言う人がいるかもしれない。論文コンペの代表は3人で、九校戦の代表の52人に比べれば少なすぎる数で地味である。だがむしろコンペの準備に関わる人数は九校戦より多い。なにより、九校戦と同じく九校間で優劣を競う場でもある。だからこそ一校にとっても重要事項とされている。

 

「おーい 達也君!」

 

「エリカちゃん、邪魔しちゃダメだよ」

 

忙しそうにしている達也に駆け寄ろうとしたエリカを美月が止める。

 

「おい、千葉 少しは空気読めよ」

 

エリカの性格を知っており、鈴音の護衛に選ばれた桐原も面倒事が起きない様に先に釘を打ちに来た。

 

「あれ?サーヤも見学」

 

エリカは話し掛けられた桐原を完全に無視して話し掛けたのは桐原の隣にいた紗耶香だった。

 

「・・・お前なぁ」

 

「どうしたんだエリカ。見学・・・しに来た訳じゃないだろ。何か用か?」

 

エリカは達也と違いコンペの準備に関係ない。そんな人物が現れ、只でさえ時間のない時に作業を中断され、堪忍袋の緒が切れそうな先輩達を制して達也が目的を問う。

 

「美月の付き添いだよ」

 

「そうか」

 

「じゃあエリカ。取り敢えずこっちに来なさい」

 

「何の実験してるの?」

 

「プレゼン用の常温プラズマ発生装置よ」

 

「常温?熱核融合ですよね」

 

「必ずしも超高温である必要はないらしですよ」

 

「なんでです?」

 

「・・・それは。御免なさい。私も詳しい事は理解できてないんです」

 

「・・・そ、そうですか」

 

気まずい雰囲気が流れる中、紗耶香の眼がある一点を見て動かないのにエリカが気付いた。

 

「どうしたの?さーや?」

 

「あの子・・・」

 

そう呟くと紗耶香はいきなり駆け出す。

 

「おい、壬生?」

 

「ちょ!だからどうしたのよ?」

 

遅れて桐原とエリカが走り出す。

 

「待ちなさい!」

 

紗耶香はある一人の女子生徒に向かい叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ準備 其之十

論文コンペの準備に美月の付き添いとして来たエリカ。だが同じくコンペ代表の鈴音の護衛に選ばれた桐原の付き添いとして来た紗耶香が突然走り出したのでその後を追い駆けた。

 

「待ちなさいって言ってるでしょう!」

 

紗耶香に追い駆けられていた女子生徒がようやく中庭で立ち止まる。そして、紗耶香を追い駆けていたエリカと桐原が追いつく。

 

「貴女、一年生ね」

 

紗耶香はその女子生徒の事は知らない。一年生と言ったのは彼女の身長を見ての推測だ。

 

「・・・そうです。そういう貴女は二年の壬生紗耶香先輩・・・でしたね」

 

「そう。2ーE 壬生紗耶香。貴女と同じ2科生よ」

 

「・・・1ーE 平河千秋です」

 

「平河さん。貴女の持ってるそれ、無線式のパスワードブレーカーでしょ」

 

千秋は紗耶香の指摘に持っていた物を慌てて背に隠そうとするが、

 

「隠しても分かる。私も同じのを使った事があるから」

 

「・・・」

 

「そうよ。私もスパイの手先になった事がある。だから、忠告してあげる。今すぐに連中と手を切りなさい。後で苦しむことになるから」

 

「例え私が苦しんでも先輩には関係の無い事でしょう。放っておいてください」

 

「放っておける訳ないでしょ!どんな連中と組んでるのかは知らないけど、貴女はいずれ、利用されるだけされて捨てられるのよ!」

 

「そんな事分かってます。利用する側が利用される側の事を考えないなんて当然じゃないですか!」

 

「ッ・・・。自棄になっても、何も手に入らないし、何も残らないのよ!」

 

「貴女には解りませんよ。それに私は何かが欲しくて手を組んだんじゃない」

 

「はぁ・・・ゴメン桐原君手伝って」

 

「おう」

 

紗耶香はいつの間にか千秋を救うという使命感に駆られていた。獲物は無いが、それでも、目の前の彼女は二人で取り押さえる事ができると思った。二人が同時に踏み込んだ瞬間、千秋は小さなカプセルを投げた。

 

「伏せて!」

 

カプセルの存在に気が付いたエリカが叫ぶ。だが千秋は動きを止めない。千秋は右手を紗耶香に向ける。すると袖口からバネ式のダーツが飛び出した。

 

「チッ・・・」

 

エリカは落ちていた木の枝ではらう。割れたダーツから煙があがる。エリカは回避できたが桐原はまともに吸ってしまったようで膝を突く

 

「(神経ガス?)」

 

千秋はエリカの予想以上に用意周到だった。CADを持たない為に得意の自己加速術式も使えない。数で勝手も、獲物も無く、相手の出方が分らない状況で迂闊な真似はできない。千秋は少しづつ、後ろに下がろうとしている。

 

このままでは逃げられる・・・そう思った時、

 

「うおーー」

 

草むらから飛び出したレオが千秋、目掛けて突進した。

 

「え!」

 

「え?」

 

突然現れたレオに困惑した千秋は為す術なく押し倒され、後頭部を打ち気を失った。

 

「・・・もしかして、やり過ぎた」

 

「そうね。まるでアンタがその子を襲ってる様にしか見えないから」

 

「な!違うって!」

 

「分かってるから。早くどいて、ついでにその子を保健室まで運んで、ついでに桐原先輩も」

 

「次いでか俺は」

 

「桐原君は私が連れて行くから西城君は平河さんをお願い」

 

「分かりました」

 

エリカ達は千秋や負傷した桐原をつれ保健室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之一

エリカ達は負傷した桐原と千秋を連れ保健室にやって来た。幸い保険医の安宿

怜美は在室しているようだ。

 

「すみません。安宿先生」

 

「あら、壬生さん?貴方達どうしたの?」

 

「実は・・・」

 

流石に気を失っている生徒を連れている以上、事情は説明しなければならない。しばらくして風紀委委員長の花音が現われた。

 

「アンタ達、やり過ぎよ」

 

経緯を聞いた花音は思いっきり,ため息を漏らす。

 

「非合法な電子機器を持っていただけで、違法行為も校則違反も行ってないでしょ」

 

「非合法なハッキングツールを持っているだけで、捕まえるのには十分だと思いますケド?」

 

「やり過ぎが問題だって言ってるの」

 

「汚い大人に利用されてる学友を保護しようとしただけなんですケド」

 

「保護する相手を気絶させるの?貴女は?」

 

「隠し武器まで持ち出されて抵抗されては仕方ないですね」

 

険悪な空気のエリカと花音。それに焦りを覚えた紗耶香だが、口を挟むタイミングが掴めない。助けを求めて怜美を見るが彼女はニコニコしているだけ。しかし、この状況は直ぐに収まった。

 

「じゃあ、後は宜しくお願いします。委員長」

 

レオが口を挟みエリカを引っ張っていった。

 

「ちょっと!何すんのよ?」

 

やがてエリカの声が聞こえなくなり、花音も落ち着きを取り戻す。

 

「それで、この子の容態は?」

 

「見た所、脳にも骨にも異常は見られないから自然に目を覚ますでしょう」

 

安宿は医療系の特化型能力者なので見るだけで、そこ等の医療機関にある精密機械より正確な判断を下す事ができる。

 

「なら、この子が目を覚ましたら、ご連絡下さいますか?」

 

「良いけど。逃げられても文句言わないでね」

 

怜美の冗談めいたセリフを、花音も、

 

「先生が怪我人を逃がす訳ないじゃないですか」

 

と笑顔で返し、保健室を後にした。本来ならば立場上、千秋が目を覚ますまで付いていなければならない花音だが、花音は風紀委員長であると同時に論文コンペ代表メンバーの一人、五十里 啓の護衛でもあるためだ。しかし、花音は戻って直ぐにため息を漏らす羽目になった。問題児(エリカ)が男子生徒に注意されている。無視する訳にいかず、一部始終を見ていたであろう達也に説明を求めた。

 

「一体 何事?」

 

「どうやら関本先輩は千葉と西城がウロウロしているのがお気に召さないんでしょう」

 

「はぁ~」

 

花音は仕方なく騒動の中心に割って入る。

 

「あの、関本先輩。どうしたんですか?」

 

「ん?あぁ、千代田か。大したことじゃない。護衛でもない奴等がウロチョロしていては邪魔になると注意していたとこだ」

 

「来年、再来年の為にも、一年生の実験の見学を止める理由はありません。もし、本当に邪魔になるなら私達の方で注意しますから。けど、貴女達、今日は帰りなさい」

 

「フフッ じゃあ達也君。深雪。アタシもう帰るね」

 

エリカは冷笑しながら花音と関本を見向きもせずに去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之ニ

校門を出たレオはエリカの後ろを黙々と歩いていた。二人の間に会話はない。話し掛ける様な雰囲気では無いと思ったからだ。校門から駅までは一本道。余り気分のいいものでは無いが駅に着くまではこの状況が続くのだろうと予測した。故にエリカに話掛けられたのが意外だった。

 

「レオ」

 

「!?」

 

「アンタ。今日、時間ある?」

 

振り帰ったエリカのレオを見る眼差しは鋼色の気迫に染まっていた。

 

「どう?」

 

「・・・特に予定はないぜ」

 

「だったら付き合いなさい」

 

 

一方、花音は啓と共に保健室にいた。エリカが帰って少しした後、花音の元に保険医の安宿からメールが届いていた。だが花音は保健室に入って直ぐ、安宿に疑問を投げつけた。

 

「先生。何をしてるんですか?」

 

「何って。介護よ?」

 

花音が保健室の扉を開けると、もがいている千秋を押さえつけている安宿の姿が眼に飛び込んだからだ。

 

「・・・はぁ~。その子から話聞きたいんで、取り敢えず、放して・・・じゃない、座らせてあげてくれません?」

 

「良いわよ」

 

「・・・で、貴女、一昨日は大丈夫だった?」

 

「!?」

 

花音に問われ、千秋は俯いた。

 

「一昨日といい、今日といい、無茶したわね。一歩間違えば自分が大怪我してたわよ」

 

花音の口調は問い詰める様なものではなかった。

 

「でも、これ以上は止めなさい」

 

「・・・」

 

「さっき、壬生さんに『何かが欲しい訳じゃない』って言ったらしいわね。じゃあ、何で、データを盗み出そうとしたの?」

 

「データを盗み出すこと自体が目的じゃありません。プレゼン用の魔法装置作動プログラムを書き換えて使えなくすること。パスワードブレーカーはその為の物です」

 

「ウチのプレゼンを失敗させたかったの?」

 

「違います!そんな事はどうでも良かった?」

 

「・・・?」

 

 

「・・・悔しいけど、アイツはその程度の事はリカバリーできる。でも本番直前にプログラムがダメになれば、アイツだって慌てるに違いないって思った!アイツが困っている姿を笑って見てやりたかった」

 

「なん!?・・・嫌がらせであんな事を?偶々、大事にはなってないけど、成り行き次第で貴女、退学になってもおかしくないのよ!」

 

「それでも構わないと思いました!アイツに一泡吹かせられるのなら!だって、あり得ない!アイツだけが良い目を見るなんて、私には耐えられない!」

 

花音は嗚咽を漏らしながら本音を漏らした千秋に困惑した。何故、そこまでの憎悪を抱いているのかが分らなかった。そんな時、

 

「平河千秋・・・千秋くん、君は小春先輩の妹さんなんだね?」

 

一部始終を傍観していた啓の言葉に千秋の身体が反応した。

 

「もしかして先輩がああなっちゃったのが、司波君の所為だと思ってる?」

 

「・・・だってそうじゃないですか!アイツは事故を防げたのに、そうしなかった。自分の担当選手じゃないから、もし、あの時アイツが関わってくれてれば、先輩は事故に遭わなかったし、二人の関係も今みたいにギクシャクしなくて済んだのに」

 

小早川景子と平河小春は仲が良かった。景子が代表選手に選ばれて直ぐに自分のエンジニアを小春に頼んだ。小春の技術力を信頼していたからだ。小春も景子が代表に選ばれたことを喜んだ。二人の良好な関係はあの日の本番直前まで続いていた。それが今では二人は顔を合わせる事も無くなっていた。

 

「あの事故についての責任なら僕にもある。あの仕掛けに気づけなかった技術スタッフ全員にあるのであって、決して司波君一人の責任じゃないよ」

 

「・・・笑わせないで下さい!『僕にも分らなかった?』 当り前じゃないですか!姉さんにも解らなかったんだから。でもアイツは分かってて何もしなかった。あの人だってそう言ってた!自分には、妹には関係ないからって、関わろうとはしなかったって!」

 

「・・・」

 

「本当はやろうと思えば何でもできるのに自分からは何もしない・・・そうやって無能な他人を嗤ってるんだわ。魔法だって術式解体が使えるのに、手を抜いて二科生になって、一科生も二科生も纏めてプライド踏みにじって笑ってる!そういう奴よアイツは・・・」

 

「ハイハイ、そこまで」

 

憎悪に塗れた千秋の糾弾に中、安宿の声が遮る。

 

「ドクターストップ。続きは次回にして頂戴」

 

「先生・・・」

 

「彼女の身柄は大学付属の病院で預かります。彼女の家には適当な理由で納得させるから、2人は準備に戻りなさい」

 

「でも・・・」

 

「時間がないんでしょ?」

 

花音の反撃を安宿が打ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之三

 

レオとエリカの乗ったキャビネットは基本的に二人乗りだ。狭い車内に同級生と二人きり。その同級生がエリカだからか、レオにとっては沈黙漂う今の空間は居心地の悪い物だった。

 

「・・・簡単すぎるとは思わない?」

 

「何がだよ?」

 

「昨日、スパイが潜入してるって警告を受けて、今日お粗末とはいえスパイの手先に堕ちた生徒が見つかった」

 

「お粗末って・・・結構苦労しただろ」

 

「捕まえるのにでしょ。普通ハッキングツールをむき出しで持たないわよ。不用心が過ぎる」

 

「まぁ、そりゃアイツが素人だから・・・」

 

「そうね」

 

「・・・どうしたんだよ?」

 

「・・・これで終わりじゃないんじゃないかって思って。あの子は単なる当て馬じゃないかな」

 

「あの子は囮で本命は別にいるって?」

 

「・・・」

 

「まさか、俺に用って、その本命を炙りだそうって探偵の真似ー」

 

「フフッ、誰もアンタに頭脳労働なんて期待しないわよ」

 

「何だと!コラ!」

 

真剣な話し合いの場であったがレオは本気でキレた。

 

「柄じゃないでしょ。アンタもアタシも。そういう事は達也君にでも任せればいいのよ。それにアタシ達にはもっと相応しい役回りがあるでしょう?」

 

「・・・! 成程、用心棒か」

 

相手の正体はまだ分からないが、狙いは論文コンペなのは間違いない様だ。それならば態々こちらから炙り出しに掛からなくても、論文コンペの本番が近づけば向こうの方から近づいてくれるのだから。

 

「守るより反撃がメインになるけど」

 

「達也を囮にするのか?」

 

「大丈夫よ。アタシが惚れた男だもん。簡単には死なないわ」

 

「・・・(何か今とんでもない事を暴露された気が・・・)」などと多少、会話が緩くなって来た思っていたが、

 

「でも、その為には足りないものがある」

 

再度、雰囲気が引き締まる。

 

「何が」

 

「レオ、アンタの歩兵としての潜在能力は一級品たど思う。素質は服部先輩や桐原先輩よりも上。・・・まぁ素質という点ではミキも相当な物だと思うけど」

 

「・・・それで?素質はって事は、要は今の俺の能力に問題があるってことだな」

 

「言ったでしょ。足りないものがあるって。アンタには決め手がない」

 

「決め手?」

 

「そう。相手を確実に仕留められる技」

 

 

「・・・お前にはあんのかよ」

 

「勿論。ただ、専用のホウキが必用だけどね。それを使えば確実に相手を仕留められるわ」

 

「へぇ・・・」

 

「でもアンタにはそれが無い。以前達也君が作ってくれた『小通連』は使い方とチューニング次第で使える武器にはなると思うけど、それでも決め手にする程の斬れ味は見込めない」

 

「・・・確かに、俺には敵を殺すことを前提とした技術は無い」

 

「その技術を身に付ける覚悟はある?」

 

エリカの眼差しはこれ以上ない程、真剣なものだった。

 

「自分の手を人の血で汚す覚悟がある?今度の敵は多分そういう相手よ。今回の一連の件に本気で関わるつもりなら殺し合いを覚悟しておく必要があるわ」

 

それに対してのレオの回答は簡潔なものだった。

 

「愚問だぜ」

 

「だったら、アタシが教えてあげる。秘剣・薄羽蜻蛉。アンタにピッタリな技よ」

 

 

達也はすっかり日も落ちて街灯に照らされた駅までの帰り道をいつものメンバー(エリカ・レオはいない)+花音と啓に千秋の件を聞かされながら帰っていた。

 

「・・・成程。そういう動機ですか」

 

達也は分かった範囲で事情を聴き納得して見せた。

 

「何ですかそれって?!単なる逆恨みじゃないですか!」

 

「って言うより八つ当たり?」

 

憤慨するほのかと理解に苦しむ雫。二人にとっては今の話の中に納得できる要素はかけらも無い様だ。

 

「それでも何かをせずにはいられなかったんだろうね」

 

「やろうとしたことは認められませんけど、気持ちだけなら解る気がします」

 

対照的に美月と幹比古は同情交じりの言葉を漏らした。

 

「けど、それなら、放っておいても良さそうですね」

 

「狙われているのはキミなんだけど・・・」

 

「オレを狙った嫌がらせに巻き込んでしまってすいません。でも大丈夫です。パスワードブレーカーで破られる様な軟なセキュリティーは組んでませんから」

 

「イヤ、僕らに謝られても。セキュリティーの件に関しては僕も心配はしてないよ。ただ、クラックが通用しないって分かったらもっと妨害の手段がエスカレートする気が・・・まぁ、小春先輩に説得して貰うのが一番だと思うけど・・・」

 

「先輩をこの件に関わらせるのは止めましょう。姉妹といえど、関係も責任もないんだから」

 

「・・・へぇ~、ちゃんと優しいトコもあるのね」

 

達也のセリフに花音は素で驚き、深雪はムッとした。

 

「余計面倒になりそうだからですよ。最近オレの周りをウロチョロしてるのは平河妹だけじゃないみたいですし」

 

そのセリフにハッとした一同だが不審な人影は見当たらなかった。ただ啓と幹比古の二人は意図しないサイオンの波紋を感じ取った。

 

「・・・やっぱり、護衛を付けようか?」

 

 

「いえ。この手のタイプは七草先輩クラスの知覚能力が無いと尻尾を掴むのは難しいと思いますよ」

 

そう言って、護衛の件は断った。

 

 

達也達が下校している頃。品川のとある料亭の個室では、ある密会が行われていた。

 

「例の少女がしくじったようですが」

 

「陳閣下の御懸念は理解しているつもりです。ですが、彼女には此方の情報は何一つ教えていませんから、情報漏洩の危険性は無いと思いますよ」

 

「此方の情報を教えずによく協力者に仕立て上げましたね」

 

「あの年頃は純粋で情熱的、何より、多くを聞くより語りたがるもの」

 

「そうですか。ただ、くれぐれも『万が一』が無い様にお願いしますよ」

 

「心得ておきます。近日中に様子を見て参ります」

 

その言葉を最後に、密会は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其ノ四

魔法科高校は全国に九つしかない特別な学校ではあるが、昼食時の学生食堂の様相はさして一般的な普通科高校と変わらない。一校の学食は今日も騒がしかった。それが収まるのは決まって深雪が現われた時だ。

 

「お兄様 お待たせしました」

 

深雪はほのかと雫とともに学食にやって来た。達也はテーブル席に一人で座っていた。ただ、これは席取りの為だ。

 

「あ!深雪さん 来てたんですか?」

 

「今来たところよ。美月」

 

そこに、トレーに食べ物を載せた美月と幹比古がテーブル席に戻って来た。

 

「じゃあ、俺達も取りに行こうか」

 

美月と幹比古が戻って来た為に達也は必然的に深雪・ほのか・雫の三人と共に配膳台に向かう事になる。達也はいつも以上に要らぬ視線を向けられることになった。

 

そしてトレーを手に戻った四人を迎えたのは美月と幹比古の二人だった。

 

「・・・エリカと西城君はまだ履修中なの?」

 

未だ姿を見せない二人を気にしてほのかが何気ない口調で尋ねた。仮にこの場に達也と深雪がいないなら、ほのかはこんな質問はしないだろう。達也は論文コンペの準備で忙しいのは当たり前だし、そんな達也を無視して深雪が食堂に来るはずがない。だかエリカとレオが学食に来ない理由がほのかには分からなかった。

 

「あの二人なら今日は休みだよ」

 

達也の答えにほのかの目がキラリと光った。

 

「え!二人一緒にですか」

 

「そう。二人そろって」

 

「意外・・・でもない?」

 

「え!そうなんですか?」

 

「ちょっと美月。貴女が私達に聞いてどうするの?」

 

「あうっ。そうですね」

 

「・・・」

 

美月が目を泳がせ始めると少女たちの視線は幹比古に集まる。

 

「えっ!特に二人の間にそんな素振りは無かったと思うけど・・・でもエリカの好きな人って達也なんじゃ」

 

「えっ!」

 

「えっ!」

 

達也の「えっ!」は突然の幹比古の爆弾発言を受けて。深雪・ほのか・雫・美月ついでに幹比古の「えっ!」は気づいていなかったのかという驚きからだ。

 

「そう言えば昨日も二人は一緒に帰ったな」

 

達也は気を逸らそうと爆弾を投下した。

 

「でも、エリカちゃんとレオ君、本当にどうして休んだんでしょう」

 

「そうだね。あの二人に限って、急病って事も無いだろうし」

 

全員が食事を済ませ、食後のお茶に移ったところで、一旦は沈静化した『二人が一緒に休んでいる』疑惑が再燃した。

 

「勿論。偶然という可能性もあるわけですけど・・・」

 

「偶然じゃないという可能性もある」

 

「でもあの二人に偶然じゃないというイベントはあり得るの?」

 

「あり得ない事も無いと思うけど」

 

「仮に二人が一緒にいたとして・・・一体何をしているのかしら?」

 

その頃、達也達に噂されている二人は千葉家の道場にいた。

 

「こらっ!また皺が寄ってる」

 

「~ってぇなあ・・・何度も言うけど、手より口を先に出せよ」

 

「口で言っても分かってないからでしょ」

 

「殴ったら分かると思ってんのかよ・・・」

 

「・・・分かったわよ。それじゃあ、少し、休憩しようか」

 

「わ、悪りぃ」

 

「別に・・・マントの時は上手く出来てたのにね。やっぱり、勝手が違う?」

 

「九校戦のアレか?」

 

「そう、あのマント」

 

「あん時だって、アイロンがけみたいにキレイに真っ平に伸ばしてた訳じゃねえよ。多少細かい皺があっても盾としての役割に支障が無かったからな。それに、生地自体に伸展補助術式が組み込まれてたし」

 

「ふーん・・・補助術式はコッチにも組み込まれてるはずなんだけど・・・しょうがない達也君にー」

 

「そりゃダメだ!」

 

「何で?」

 

「達也の手を煩わせたら本末転倒だろ。術式が組み込まれてるなら、俺が発動できる様になればいい」

 

「・・・フフッ、オトコノコだね」

 

不意にエリカの見せたその笑顔が妙に艶めかしくて、レオはおもわず目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其ノ五

その日、達也は珍しく深雪を連れて八雲の寺にいた。『遠当て』用の練武場を改装したので試しに来ないか、と誘われたからだ。

 

「きゃっ!このっ!」

 

流石に忍術使いの秘密修行場は学校の施設とは一味違う様だ。深雪ですら息を荒げている。

 

正方形のフロア。その壁四面の内、三面と天井に開いた無数の穴から次々と標的が現われる。しかもターゲットは同時に複数出現し一秒で隠れる設定になっているらしい。その上、撃ち漏らすとその数に応じて摸擬弾が降ってくる。流石に深雪も摸擬弾を喰らう様なヘマはしないが射撃と防御を同時にこなしていることが原因なのか先ほどから、転倒を繰り返している。

 

「はい、止めっ!」

 

八雲の合図で装置が停止するのと同時に本気で辛かったのだろう。深雪が達也と八雲の前にもかかわらず大の字に倒れ込んだ。

 

「フフッ 御疲れ様」

 

「ハッ!・・・申し訳ありません。こんなはしたない姿を」

 

急いで起き上がろうとする深雪を抱きかかえ壁際に休ませる。

 

「っ・・・有難うございます」

 

「ケガは無いな」

 

「はい」

 

「じゃあ、次は達也君。行ってみようか?」

 

「はい。お願いします」

 

そして、八雲の開始の合図で装置が稼動する。だが達也が訓練を行っている間ペナルティの摸擬弾が発射される事は無かった。

 

「凄いです。お兄様」

 

「完全クリアー・・・。やれやれこれでも難易度は足らないか」

 

「俺の得意分野ですから。でも、結構ギリギリでしたけど。しかし、あの性格の悪いアルゴリズムは誰が組んだんですか?」

 

「制御式は風間君から貰ったんだけど?」

 

「あぁ。じゃあ、作ったのは真田さんですね」

 

「それにしてもお兄様、いつの間に同時標準を36まで増やされたのですか?確か三ヶ月前は24が上限でしたよね?」

 

深雪が言っているのは、同時に狙いを付けて同時に魔法を行使できる対象の数のこと。現代魔法の正体は事象が有する情報の書き換えであり魔力の弾丸を対象に撃つものでは無い。故に対象を特定さえできれば同時に複数の事象に対して同じ効果を及ぼす事が出来る。ただ、そのためには同時に複数の座標を定義するという並列的な思考が要求される。事象改変対象を群体として一括認識・一括改変するのではなく、個々に標的を認識して個別に魔法を行使する為には標的となる事象同士の細かな差異も識別できなくてはならない。

 

「いや、今回は相手が撃ち返してこない・・・撃ち返すのを待ってくれる設定だったから。待った無しの実戦なら、今でも24が限界だ」

 

「わたしは撃ち返すのを待ってくれる設定でも16が限界です」

 

「お前は俺より広い範囲に魔法を作用させられるだろ。常駐で俺に心を配りながらそれだけできるなら開放状態のお前ならー」

 

「それを仰るのならお兄様は私よりずっと強く深い階層まで干渉できー」

 

「コラコラ、二人共。壁に耳ありだよ」

 

二人は訓練を終えると八雲に庫裏の縁側に誘われた。いつもなら本堂の縁側に招かれるのだが。

 

「(ここでお茶なんて珍しいな)」

 

八雲は自ら三人分の湯飲みを運んできて達也の横に座り、

 

「この後、2人は学校だったね」

 

「はい」

 

「手短に行こう」

 

「・・・」

 

「珍しい物を手に入れたようだね」

 

「預かりものですが」

 

「なら早く返した方がいい。返せないなら自宅ではない然るべき場所に移すべきだ」

 

「狙われているとは気が付きませんでした」

 

「慎重に立ち回ってるみたいだからね。それに中々の手練れだ」

 

八雲はどうやら相手の情報を掴んでいるようだ。

 

「何者か・・・聞いても無駄なんでしょうね」

 

「フフッ。忠告くらいはしておくよ。敵を前にしたら方位を見失わないように気をつけなさい」

 

「方位・・・ですか?」

 

八雲は深雪の問い返しにそれ以上答えなかった。

 

 

第一高校 野外演習場

 

幹比古は人工森林の中、息を殺して相手の出方を覗っていた。彼の相手をしているのは十文字克人。今回の論文コンペで九校が共同で組織する会場警備隊の総隊長を務める事になっている。自ら訓練の先頭に立つことで警備部隊に抜擢された生徒達の士気を高めようとしていたのだ。幹比古が選ばれたのは九校戦の活躍があったから。ただ、最初から克人vs幹比古では無かった。なんせ最初は克人一人vs幹比古を含めた十人の戦いだったのだから。それが開始30分で既に7人がリタイアさせられている。幹比古も数回、克人に遠隔魔法を放っただけで汗びっしょりだった。

 

「(落ち着け、これは摸擬戦なんだ)」

 

魔法による摸擬戦は事故防止、事故発生時の救護活動を目的として、屋内・屋外問わずモニター要員が就く。

 

「へぇ~・・・」

 

そのモニターをみながら摩利は感嘆を漏らす。それは隣に座る真由美にもみられた。

 

「達也君とは違った巧さがあるわね」

 

「あぁ」

 

「九校戦から急激に伸びた、って先生方も言ってたわ。こういういい影響がもっと広がるといいんだけど」

 

二人が会話しているモニターには追い詰められた幹比古が必死に抵抗する姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之六

エリカとレオの千葉道場の一件、幹比古と美月の体育館での一件は省きます。


今日は日曜日だが達也は学校にいかなければならない。勿論、補習ではない。単に、本番まで一週間に迫った論文コンペの準備があるからだ。しかし、達也は学校とは違う方向を愛車の大型電動二輪で深雪を乗せて走っていた。目的地はFLT第三課。八雲の助言に従いレリックを返す為に、勿論、解析作業も行うのだが。襲撃の可能性を考え公共機関は使わなかった。ついでに言えば公共機関を使えばFLTまで大きく遠回りをしなければならないという理由もあった。目的地までの所要時間は約一時間。達也にしては珍しく休憩の為か早朝営業の喫茶店でバイクを止めた。飲み物だけを注文し、テーブル席に着く。

 

「尾行されている」

 

席に着くといきなり深雪にこう告げた。

 

「気が付きませんでした。どの車ですか?それともバイクですか?」

 

「イヤ、カラスだ」

 

「・・・? 使い魔ですか?」

 

「あぁ、それも化成体だな」

 

「・・・では、国内の術者ではありませんね。・・・何者でしょうか?」

 

「正体までは分からないな」

 

そう言いながら達也は深雪の手を握る。

 

「だが、このままラボまで連れて行く訳にはいかない」

 

「・・・」

 

「・・・深雪?」

 

「えっ?あ、はい、そうですね」

 

「化成体の座標はここだ」

 

達也は自分の視た化成体の座標をサイオン信号に変換して深雪の手を通して深雪の中の魔法演算領域に送り込んだ。本来、魔法師同士イメージの共有はできないが二人は身体の接触があればサイオン信号化したイメージを互いにやり取りができる。

 

「お前が撃ち落とせ」

 

「・・・畏まりました」

 

「この状況下で俺の力を知られたくない。お前だけが頼りだ」

 

深雪は上手く狙撃が出来るか不安だったが達也のこの一言で吹っ切れた。深雪は達也の手を握ったまま、CADを使わずに魔法を発動した。深雪の魔法発動にタイムラグはあり得ない。

 

達也の眼は使い魔の身体が瞬時に凍り付き術式が凍結し、化成体を構成するサイオン粒子が粉々になる様を捉えた。

 

「・・・しかし中途半端だな」

 

「・・・?何がですか?」

 

「尾行はアレ一つ。しかもアレは遠隔術式だった。レリックを狙っているにしては奪い取ってやるっという執念の様なものが感じられない」

 

「しつこいよりはいいのでは?それにお兄様のガードは堅いですから、相手も手を出しにくいのでしょう」

 

「まぁ そう云う事にしておこうか」

 

その一方 尾行相手の陳は『尾行が消されました』の報告に不快感を募らせていた。

 

「それで行き先は?」

 

「FLTに向かっているものと推測されます」

 

「到着予定は?」

 

「約40分後です」

 

「なら到着予定に合わせサイバー隊にFLTに対する攻撃支持を出せ」

 

達也がFLT第三課に着くと三課はいつも以上に騒がしかった。

 

「悩む前に回線を切れ!」

 

「侵入経路確定!カウンタープログラム起動します!」

 

「朝からハッキングですか?」

 

「そうなんですよ。全く、どこのモノ好きだ。ここにハッキングなんて・・・お、御曹司!すいません。お出になっているのに気付かず。おい!御曹司がいらっしゃったのを知らせなかった間抜けは何処のどいつだ!」

 

その声に所員の手が止まるが、

 

「手を止めないで!モニターは続行してください!」

 

達也の声に、所員の手が動き出す。

 

「状況は?」

 

「ハッキングはハッキング何でしょうけど」

 

「けど?」

 

「ハッキング技術は高いけど、何を知りたいのかさっぱりで、特に対象を絞ってる訳でもなく、手あたり次第って感じで」

 

「本物のハッカーですか?」

 

「個人の仕業とは思えませんね。侵入の手口が組織的でしたから。相手が国家組織って言われても違和感ない感じでした」

 

「そのくせ目的がハッキリしない?・・・あぁそうだ。流失したデータは?」

 

「それが流失したデータは無い様で」

 

「・・・ハッキングはどれ位続いてるんですか?」

 

「十分程ですね」

 

つまり、達也がくる直前に始まったらしい。

 

「不正アクセス、停止しました」

 

「油断するなよ。今日一日、今の監視体制は維持する」

 

同時刻 八ッカーside

 

「FLTのカウンター攻撃です」

 

「予定通り回線を遮断しろ!」

 

「どう出ると思う?」

 

「分かりません」

 

「十分も不正アクセスを阻止できなかったんだ。ラボのセキュリティーに疑念くらいは抱くだろう」

 

「確かに」

 

「セキュリティーの不確かな施設に預けようとは思うまい」

 

「論理的にいえばそうでしょう」

 

「そう言えば、周の奴が例の小娘の様子を見に行くらしい」

 

「それで?」

 

「その前に消してくれ」

 

「是」

 

呂剛虎は陳の命令に素直に頷いた。

 

日曜であっても学校に行くのに今の姿では行く事は出来ない。二人は着替えの為に自宅に戻った。すると自宅の電話にメッセージが入っていた。

 

「お兄様。本家からですか?こんな忙しい時期に一体どんな命令を・・・」

 

「いや、本家からじゃないよ」

 

四葉本家からのメッセージだと勘違いした深雪に差出人の名前を見せる。

 

「平河小春・・・平河先輩!?」

 

「折り返し連絡が欲しいそうだ」

 

達也が返信ボタンを押すとワンコールで繋がった。

 

「もしもし、司波君?御免なさい態々」

 

「此方こそすみません。朝は家を空けていたので」

 

「それはいいの。私の方から電話してってお願いしたんだし」

 

「先輩 それで・・・」

 

「この前は、その・・・妹が迷惑を掛けてごめんなさい」

 

「未遂ですし、俺はサブですから」

 

「でも、色々と騒がせちゃったし、私が不甲斐ないばかりに、私には謝る事しかできないけど・・・本当に御免なさい」

 

達也は謝罪など望んではいなかった。また、グダグダと自虐の念を聞かされても鬱陶しいだけだ。また、千秋の行動を本心から気にしたことも無かった。

 

「ほんとに気にしてませんから・・・じゃあそれでは」

 

早く通信を切りたかった達也だが、

 

「待って!司波君」

 

「何ですか?」

 

「ええっと、これでお詫びになるとは思わないけど、千秋がコンタクトしていた悪い人とのログを見つけたの。あの子のPD(プライベート・データ)も含まれてるけど、この際、司波君に預けます。忙しい中、話を聞いてくれて有難うございます」

 

小春は達也の反応を待たずに電話を切った。

 

「・・・まぁ。使える物は使わせてもらおう」

 

しかし、達也でもアクセスポイントのログファイルだけを手掛かりに、ネットワークの中で狐を狩り出す技術は無い。ただ、それが可能であろう人物に心当たりはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之七

二人が一校に到着すると同時に雨が降り出した。

 

「これでは野外作業は無理ですね・・・」

 

「天候ばかりはどうにもできないしな」

 

もっとも、今日は最初からロボ研(ロボット研究会)のガレージでデバック作業の予定だったので天気は関係が無かった。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「はい、頑張ってください、お兄様」

 

今日の作業は達也一人で行う。ロボ研には大小様々ロボットばかり、そんな中、達也を出迎える人影があった。

 

「お帰りなさいませ」

 

「一年E組 司波達也」

 

達也は顔認証と声紋認証を行う事で、この部屋のセキュリティーのパスに成功した。

 

その確認をしたのは3H(ヒューマノイド・ホーム・ヘルパー)通称、ピクシーと呼ばれるメイド姿のロボットだ。

 

「コーヒーを御用意・致します」

 

達也がコンソールデスクに座り、端末を立ち上げると、サイドテーブルにコーヒーが置かれた。

 

「ピクシー、サスペンドモードで待機」

 

達也は背後に立つピクシーにそう命じた。いくらロボットといえ、かなり精巧に作られているピクシーに後ろに立たれるのには抵抗があった。

 

作業開始から約一時間した頃、体に異変を感じた。達也を突然の睡魔が襲う。

 

「(根を詰め過ぎたかな?)」

 

そう思って深呼吸すると、一層、眠気が強くなった。外で一休みしよう・・・と考えて立ち上がる。しかし、手足は重い、身体が覚醒しない。今の自分の体調は異常だ。

自己修復術式がその必要性を認め活動を開始した。そして、達也の身体は『眠気に捉われる前の状態』に戻った。しかし、それで問題が解決したわけでは無い。

原因が分からない。達也は常日頃から警戒を怠らない。今日、口に入れたコーヒーでさえ、自分の眼でみて異常が無い事を分かっている。

 

「(他に何か原因があるはず)」

 

達也は眼を使い室内を確認した。すると空調システムにあるものを視た。

 

「ガスか!」

 

達也は空調内に毒性が低く、持続時間も短いが即効性の高いガスが空気中に混入しているのが視えた。だが、それ以上のことができない。ガスを『分解』するのは簡単だが、魔法観測装置のある状況下で使えば秘密をバラすことになる。また、彼には深雪達の様にガスだけを選別して室外に排出する技術はない。しかし、息を止めるのに限界がある。今できるのはこの場から逃げる事だけ、達也は入り口に向かったのだが。3Hに逃げ道を防がれた。

 

「空調システムに・異常が・発生・しました。マスクを・お使いください」

 

「ピクシー、強制換気装置を作動。避難時の二次災害を警戒し、俺は此処に留まる。

監視モードで待機。救助の為の入室に備え、排除行動は禁止する」

 

「二次災害回避を・合理的と・認めます。強制換気装置を・作動させます」

 

命令を終えると達也は端末の前に座り直し、マスクを外し、眠っている達也の様子を見に来るであろう人物を待つ準備をし始めた。 待ち人は直ぐにやって来た。

 

「司波?眠っているのか?」

 

何度か声を掛け反応が無いのを確認して、その人物は行動を起こそうとした。

 

「関本さん、何をしてるんですか?」

 

不意に背後から掛けられた声に侵入者は慌てて振り返った。

 

 

「千代田!? どうしてここに?」

 

「どうしてって。私は保安システムから空調装置の威容警報を受け取ったからですけど、関本さんはどうしてここに?・・・それと手に持ってる物は何ですか?」

 

「バカな・・・警報は切って・・・」

 

「警報を切った? 関本さん、自分を犯人だと認めましたね」

 

「冗談がきついぞ、千代田。僕が犯人?一体何の犯人だって言うんだ?」

 

「何のって、エアコンに細工して睡眠ガスを流した犯人?あ!産業数学パイの現行犯でもありますね」

 

「失礼だぞ。僕は事故によるデータ滅失を恐れてバックアップを取ろうとー」

 

「ハッキングツールでバックアップを?あり得ないでしょう、そんな事。そうよね。司波君」

 

関本が振り向くと達也が立っていた。

 

「バカな!ガスが効いていないのか?」

 

「関本さんは九校戦を見てないんですか?あの一条のプリンスを倒した子です。残念ながら催眠ガス程度で無力化されてくれる様なかわいい子じゃありませんよ」

 

「可愛げが無いのは認めますけど、デモ機から直接バックアップを取るというのはあり得ません」

 

「私もそう云うのは疎い方ですけど、流石にその位は知ってます」

 

「クソッ」

 

「関本勲 CADを外して床に置きなさい」

 

花音の口調が変わる。それは関本を犯罪者と確定した投降勧告。それに対する関本の答えは、

 

「千代田!」

 

花音に対しての起動式の展開だった。 関本は風紀委員に選ばれた猛者。魔法の発動手順・起動式の取り込みと構築、そのスピードも中々のもの。しかし、

 

「・・・カッコ付け過ぎ」

 

関本の魔法は不発に終わった。花音の床を媒体とした振動系魔法に意識を刈り獲られたからだ。魔法の発動に名称を唱える必要はない。まして、標的の名前を叫ぶ意味も無い。現代魔法の勝負は一瞬。それにCADを先に起動させていた花音に対して関本が相手の名を叫んだ上で先に魔法を発動することなどできる筈がなかった。

気を失った関本は直ぐに連行された。花音を含めた風紀委員が退出すると達也は、

 

「ピクシー、監視モード解除。監視命令時点から現在までの映像音声をメモリーに記録した後、マスターファイルを破棄しろ」

 

「畏まりました。データを・メモリーに・複写・・・複写完了。マスターファイルを・完全削除・します」

 

その後、達也はピクシーに待機を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之八

立川にある国立魔法大学付属病院の面会時間は正午から午後7時まで。現在の時刻は午後4時。だからこの時間に花束を持った青年が廊下を歩いていてもおかしくはない。青年は案内板に目を遣ることなく迷いない足取りで音もなく歩いていく。青年はエレベーターを使わずに階段で4階の廊下に出たところで不意に立ち止まった。青年の視線の先の大柄の男には見覚えがあった。

 

「・・・(やれやれ、そう云うことですか)」

 

青年は一人納得すると、躊躇いなく非常ベルのボタンを押した。

 

青年が非常ベルのボタンを押す少し前、第一高校三年生の渡辺摩利は恋人の千葉修次と共に附属病院を訪れていた。目的はこの病院に入院している平河千秋を御見舞いの名目で尋問することだった。

 

「すまない。こんなことに付き合わせて」

 

「気にすることはないよ。僕が摩利と少しでも一緒に居たくて勝手についてきただけだから」

 

「ッ・・・そんな恥ずかしいセリフを言わんでいい!」

 

恥ずかしさのあまり、そっぽ向いていた摩利だが、突然鳴り響いた非常ベルで気持ちを入れ替えた。

 

「シュウ! これはいったい?」

 

「火事じゃないな。この音は暴対警報だ」

 

暴力行為対策警報 暴力行為、犯罪行為に第三者が巻き込まれない為の警報であると同時に治安回復の為の協力者を募る合図でもある。

 

「場所は4階みたいだ」

 

修次は壁のメッセージボードの情報を読み取った。

 

「4階!?」

 

「もしかして、摩利の後輩が入院してる場所って」

 

「あぁ」

 

「急ごう」

 

修次は摩利の手を掴むと急いで階段を駆け上がった。

 

突然、鳴り響いた警報にも動じず呂剛虎は個室の扉に手を掛ける。

 

「何をしている」

 

呂剛虎に声を掛けたのは自己加速術式で駆け付けた千葉修次だった。

 

「・・・お前は呂剛虎!? こんな所で一体何を!?」

 

「・・・幻刀鬼・・千葉修次」

 

二人の視線が交錯し戦いの火蓋が切られた。強者同士の戦いが始まってから少し経って摩利はようやく4階に辿り着く。しかし、4階に着いた摩利の眼は衝撃の光景を目の当たりにする。病院の廊下で行われている高速、高密度の戦い。摩利は修次の相手を知らない。しかし、強敵なのは理解させられた。なにせ、千葉の麒麟児と呼ばれる修次が

決定打を打てないでいたから。

 

「(誰れだアイツは)」

 

摩利は初めて修次の苦戦している顔を見たような気がした。

 

「(・・・!何を考えてるんだ私は・・・この戦闘を終わらせなければ)」

 

そして摩利も目の前で行われている戦闘に参加した。

 

修次の一撃を躱し反撃に出ようとした呂剛虎に摩利の攻撃がヒットした。

 

「ぐっ!」

 

不意打ちを喰らいながら呂剛虎は摩利の姿を捉えた。摩利も呂剛虎の標的が自分に変わった事を理解し戦闘態勢に、しかし、彼は摩利に向かうことなく、その場から逃げ出した。修次が追いかけようとしたがその姿を見失ってしまう。

 

「摩利・・・ありがとう。助かった」

 

「シュウ、お前怪我を」

 

修次の右手は赤黒く腫れ上がっていた。

 

「仕方ないよ。相手が相手だし、むしろこれ位で済んで、イヤ殺されなかったことが奇跡だよ」

 

「なぁシュウ教えてくれ、アイツは何者だ。シュウと近接戦闘であれだけ・・・」

 

「アイツの名は呂剛虎(ルーガン・フウ)大亜連合本国軍特殊工作部隊の魔法師だ」

 

「そうか・・・あれが」

 

「摩利」

 

修次は摩利の両肩を掴んで自分の方を向かせた。

 

「シュウ 何を・・・」

 

彼の眼は真剣だった。

 

「僕は明日立たなければならない。こんな時に傍にいてあげられないのは気がかりだが、アイツは摩利のことも敵と認識したはずだ。彼の力量は摩利も嫌でも理解させられたはずだ。だから、しばらくは一人にならないで欲しい」

 

「わ、分かった」

 

「それと気がかりなのが、もう一つ」

 

「何だ?」

 

「彼が何故、此処にいたのか」

 

「何故って・・・」

 

「彼は摩利の後輩の部屋を開けようとしていた」

 

「まさか、奴の目的は平河を・・・」

 

修次は摩利の次の言葉を遮った。恐らく摩利が言うはずだった。暗殺という言葉を。

 

「問題なのはそこじゃないよ」

 

「どういうことだ」

 

「此処に来た目的を果たすのは彼みたいな有名な魔法師でなくてもいいはずだ。相手は、か弱い女子高生。病院の警備がしっかりしていても、やり方はいくらでもあると思う。それが態々、アイツが出てくると言う事はキミの後輩はかなり厄介な連中に目を付けられたことになる」

 

「・・・」

 

「気を付けて摩利。これからとても嫌なことが起こりそうな予感がするんだ」

 

修次の言葉を聞いて摩利は気を引き締めた。

 

 

東京 池袋

 

「我々の協力者の関本が落ちた。収容先は八王子特殊鑑別所だ。奴の始末を優先しろ。小娘は後回しだ」

 

関本は陳と直接接触している。周を通して間接的なつながりしかない千秋とは処理の優先度はまるで違う。

 

「是」

 

任務の難易度が上がったにも関わらず、呂剛虎は平然とした表情で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之九

達也は帰宅してすぐに、テレビフォンに向かった。呼び出し先は本日二度目の番号だ。

 

「もしもし」

 

「司波です」

 

「あら、一日に二度も電話をくれるなんて珍しいわね」

 

呼び出したのは藤林響子。いつもは目立たない恰好をしている彼女だが、テレビフォンに映る彼女は珍しく着飾っていた。

 

「デート中でした?」

 

「残念ながらお仕事よ」

 

「そうですか」

 

「フフッ 安心した?」

 

「(・・・はぁ~酔ってるな)」

 

響子がいつもと口調が違うのはアルコールが入っているに違いないと達也は踏んだ。

 

「あ~あ、どっかに達也君みたいなカッコいいオトコノコがいないかしらね」

 

「そうですか。実はご相談したいことがあるんですが、明日にした方がいいですか?」

 

達也は響子のセリフを完全に無視した。

 

「大丈夫よ。今は一人だから、込み入った話でも大丈夫よ」

 

「実は今日、学校で強盗に遭いまして」

 

「強盗? 今朝相談してもらった件よね?ついに実力行使?」

 

「ええ、催眠ガスを使われました。幸い、未遂でしたが」

 

「御免ね。私達が無理を押し付けているから・・・」

 

「その際に盗難未遂の現場の映像に記録しました」

 

「へぇ~どうやって」

 

「自立可能なセキュリティー端末に記録させました」

 

「・・・あ!3Hね。へぇ~達也君そういう趣味があったんだ」

 

「違います。3Hは学校の備品です。映像をお預けしますので調べていただけますか?」

 

「そんなに怒らなくていいじゃない。・・・で何が映っているの?」

 

「実行犯と使用ツール。それからハッキングを仕掛けられたCADのログも添付しておきます」

 

「・・・成程、要はそろそろ狐を仕留めろと」

 

「そんな偉そうな言い方をするつもりはありませんが、内容はその通りです」

 

「気にしなくていいわ。そろそろ方を付けるように言われてたし、前に貰ったログで絞込もできてるから、一両日中には捕まえられると思うから、吉報を待っててね。」

 

次の日 深雪が電車から出てくるのを待っていた達也は、二つ後ろの車両にクラスメイトを見つけた。無効を達也の視線に気がついた様だ。

 

「お兄様 どうかしましたか?・・・」

 

降りて来た深雪が、ある一点から視線を外さない事を不思議に思い、達也の視線を追った。兄妹の視線の先、エリカとレオがぎこちない愛想笑いを浮かべていた。

 

「・・・なぁ、お前等なんでこんなに早いんだ」

 

現在の時間はいつもより一時間以上早い。

 

「いよいよ今週一週間だからな。朝から色々予定を入れなきゃならないんだ」

 

「レオこそどうしたんだ」

 

達也には次の日曜日に論文コンペを控えているという理由があるが、レオにはそれがない。

 

「エリカも今朝は随分早起きね」

 

「アタシは大抵、早起きだけど」

 

「じゃあ今朝は西城君の方が早起きだったのね」

 

「ちょっと深雪!アタシが毎朝コイツを起こしに行ってるみたいな言い方、止めてくれない!」

 

「そうだぜ!どっちかっつうと俺の方が起きるの早かったんだ」

 

「・・・」

 

「・・・な、何か言ってよ」

 

「まぁ、早起きは三文の徳だよな・・・」

 

気まずい雰囲気の中、深雪と別れ、教室で幹比古に会う事で話題を変える事に成功した。

 

「達也、昨日は大変だったんだって」

 

「随分と耳が早いな」

 

「皆 驚いているよ」

 

「だが、これでもう心配はないと思うぞ」

 

「でも実行犯が捕まっただけでしょ」

 

「単独犯とは思えないからね。一体背後にどんな組織が付いているのか」

 

「だったら本人に聞いてみたらどうだ?」

 

「そうね。締め上げて吐かせてやる」

 

「え!? でもエリカちゃん、関本先輩は・・・」

 

「分かってる。八王子の特殊鑑別所にぶち込まれてる。簡単には面会はできない。でも、全く手が無い訳でもない。いざとなればこっそり忍び込んで・・・」

 

「おいおい、そんな無茶しなくても先輩はまだ一校生扱いだから、学校の委任状があれば面会は可能なはずだ」

 

「それは知ってるけど、その委任状の管理は風紀委員長がしてるんでしょ」

 

どうやらエリカは花音と関わりたくない故に犯罪まがいの手段の提案をしたようだ。

 

「それでも、鑑別所に忍び込むより簡単だ」

 

放課後 風紀委員会本部

 

「ダメ!」

 

関本への面会申請に対する花音の答えはシンプルだった。

 

「・・・理由は?」

 

「ダメなものはダメ!」

 

花音は頑なに「ダメ」を繰り返す。

 

「ですから、何故です?理由も無に門前払いでは納得できません」

 

「ホントに私が申請を拒否する理由が分からないの?」

 

「はい、全く、見当もつきません」

 

「・・・はぁ~、面倒になるから」

 

「・・・はぁ?」

 

「面倒になるから!」

 

「何を根拠に・・・それに面倒な事って何ですか?」

 

「じゃあ、何も起きないって言える?君たちが動き回って!」

 

「・・・」

 

「自覚が無い様だからハッキリ言ってあげましょう。司波君!君はトラブルに愛されているの!アンタ自身にその気が無くても、落ち度が無くても、トラブルの方からアンタに寄ってくるんだから、この忙しい時期に仕事を増やさないで!」

 

とんでもなく理不尽な理由だが、花音には抗弁を許さない勢いもある。何より、花音の言い分を完全に否定できない自分がいた。

 

「花音、 流石にそれは言い過ぎじゃないか?」

 

「でも、摩利さん」

 

「達也君は当事者なんだから、自分で聞きたいと思うさ」

 

「それでも、認められません」

 

「私と一緒ならどうだ。あした、真由美と関本の様子を見に行く予定なんだ」

 

「・・・摩利さんが一緒なら・・・」

 

「達也君もそれでいいね。流石にみんなで一緒にはいけないけど」

 

「構いません」

 

魔法大学付属病院

 

千秋は窓の無い病室でため息を吐いた。如何やら暇で暇で仕方無い様だ。なんせ、彼女は病気でなければ怪我人でもない。イヤ、怪我はしていても入院するものではない。先程、様子を見に来た看護師が今日の面会は全面中止だと伝えて来た。昨日、賊の侵入を許したのだ。用心の為の措置であろう。しかし、彼女にとってはどうでもいい事だった。なんせ、自分に面会に来る人がいる筈がないと思っている。千秋は昨日の襲撃の事を看護師に聞こうとしたが、彼女は何も話さなかった。千秋もしつこく聞こうとはしなかった。千秋には大体予想は付いていた。昨日の襲撃者の目的が自身であることに。この病室のドアがこじ開けられようとしたのだ。普通に気付く、あの連中が自分を消しに来たのだと。彼等とは仲間ではない一時的な協力関係だからこそ情報漏洩を恐れた彼らが自身の暗殺を考えるのは妥当だと思っていた。

 

だから、自分の病室の扉がノックされても驚かなかった。既に、午後の巡回は終わっている。医者も看護師も来ることはない。ナース・コールも押していない。そして、今日は面会禁止だ。その状態で彼女の病室を訪れるのは誰なのか。だが心当たりある。連中が今度こそ自分を消しに来たのだと、そう思い千秋は覚悟を決めて扉を開けた。

 

「(御免ね。お姉ちゃん。さようなら)」

 

「お加減はどうですか?千秋さん」

 

「周さん!?」

 

死を覚悟して扉を開けた先に姿を見せたのは暗殺者ではなく周だった。

 

「どうして!今日は面会中止なのに?」

 

「とっておきを使いました」

 

「・・・魔法ですか?」

 

「ちょっと違いますけどね」

 

「あの、周さん、ごめんなさい、色々と力を貸してくれたのに」

 

「気にしないで下さい。私の事なんて忘れてくれて構いません」

 

「忘れる」

 

「そう、忘れなさい」

 

「そう・・・忘れる。うん・・・分かった・・・忘れる」

 

千秋は自身に忘却を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 裏でうごめく陰謀 其之十

10月25日 火曜日の放課後 

 

達也は摩利と真由美と共に関本が拘留されている八王子特殊鑑別所に向かっていた。入り口で色々な手続きがあったが、中に入ってしまえば後は案内用の端末を渡されただけで、職員の同行も無かった。恐らくこれは『七草』の名が成せることだろう。関本が拘留されている部屋は牢屋では無かった。中の様子が外から丸見えの鉄格子の中ではなく、狭いビジネスホテルのような個室だった。ただし、中の様子を見ることのできる隠し部屋が併設されている。真由美と達也はその隠し部屋に、摩利が一人で関本と対峙する。

 

「渡辺!・・・何をしに来た」

 

「勿論 事情を聴きに」

 

「い、いくらお前でもここで魔法は使えないぞ」

 

「そうか」

 

摩利が浮かべた笑みを関本は見逃さなかった。

 

「・・・!」

 

関本の指摘は本来であれば正しいものだった。ここは法を犯した未成年魔法師やその卵を拘留する施設。魔法の発動が確認されれば、アンティナイトを身に着けた警備員が駆け付ける。但し、監視システムが機能していれば

 

「時間がないから、要点だけ聞かせて貰おうか」

 

関本の意識が朦朧とし始める。そして、摩利の問いかけに応え始めた。

 

拘留室隣の隠し部屋

 

様子をみていた達也は摩利が何をやったのかその眼で理解した。

 

「匂いを使った意識操作ですか」

 

「達也君、見るのは初めて?」

 

「そりゃ、まぁ、大っぴらに使えるものじゃないですし」

 

「そ、そうね」

 

 

 

「関本 お前は達也君を眠らせて何をしようとしていた」

 

「デモ機のデータを吸い上げた後で、司波の私物を調べる予定だった」

 

「達也君の私物? 一体何を盗むつもりだった」

 

「宝玉の聖遺物だ」

 

「・・・!! 達也君そんなもの持ってたの?」

 

「持ってませんよ、そんな物」

 

「でも・・・」

 

真由美が更なる追及をしようとした、その時、所内に非常警報が鳴り響く。

 

警報を聞いた三人の対応は早かった。

 

「侵入者ですね」

 

「何処の命知らずだ」

 

昨日の病院襲撃の件で一体には特別警戒態勢が敷かれていた。

 

「達也君、何処から来てるか分かる?」

 

真由美に問われ、端末を操作する。端末が避難経路を指定する。これを逆にたどれば侵入者の位置が割り出せることになる。

 

「屋上から侵入したみたいですね。・・・現在位置は東階段三階付近だと

思います」

 

真由美は達也の回答を聞きながら『マルチ・スコープ』で、達也は真由美の質問に答えながら『エレメンタル・サイト』でその場所を視た。

 

「大当たり。如何やら侵入者は四人、しかも、パワーライフルで武装してるわ」

 

「パワーライフルですか。厄介ですね」

 

パワーライフルは対魔法師用の携行武器として知られている。対物魔法障壁を撃ち抜く

ほどの発射薬を使用している。しかし、達也が『厄介だ』と言ったのは武器その物の事ではない、パワーライフルはそこらのチンピラテロリストが簡単に手に入れられるものではないからだ。 そんな代物で武装している侵入者はそれなりの組織力を有することになる。

 

「警備員が階段の踊り場バリケードを作って応戦してる」

 

「廊下の出入り口は隔壁で閉鎖されてるようですね」

 

三人の現在位置は中央階段よりの二階。それほど、慌てなくていい状況だが。

 

「イヤ・・・コッチが本命か」

 

中央階段を鋭く見据える達也、遅れて真由美と摩利の視線も中央階段へ向いた。そして、三人の視線の先に大柄の男が現われた。

 

「呂剛虎!?」

 

見覚えのある姿に摩利が驚愕の声を上げる。

 

「誰?」

 

摩利と違い真由美は彼の姿に見覚えも心当たりも無い様だ。

 

「へぇ~呂剛虎」

 

呂は達也たち三人に向かって向かってきた。

 

「此処は俺がやりますんで、2人はー」

 

「イヤ、ここは私が出る。達也君は真由美のガードだ」

 

「何、言ってるんですか?」

 

「心配するな、只者では無い事は知っている」

 

そう言うと摩利はスカートを叩き、太腿に隠していたホルスターから獲物を取り出し、戦闘態勢を取る。

 

「気を付けてね、摩利」

 

最初に火蓋を切ったのは真由美だった。左右の壁と天井から無数のドライアイスが

降り注ぐ。だが、その程度で彼は止まらなかった。そのまま摩利に襲いかかる。それを摩利が迎え撃つ。しかし、摩利の打ち込みは右手に防がれた。直後、彼は顔を仰け反らせる。その直後に、彼の目の前を刃が通り過ぎた。如何やら、摩利の得物は三節構造の小型剣の様だ。

 

真由美の第二射が呂を襲う。真由美の第二射は第一射より、細かく、硬く、

速度も貫通力も倍増したものだった。呂はそれを受け、対物障壁に切り替える。

 

第三射をそれで切り抜け摩利に接近すると見せかけて、標的を真由美に切り替える。しかし、それを先ほどから戦闘を傍観していた達也が阻んだ。呂の魔法を達也の『術式解体』が剥ぎ取り、すかさず真由美の射撃魔法。更に摩利が背後から襲い掛かる、摩利が右手を突き出すと、その手から黒い粉が呂を襲う。彼は咄嗟に目と鼻を庇う。黒い粉が周囲の酸素を喰らいつくし、周りに低酸素状態を作り出す。そして、摩利が獲物を振り下ろす、。呂は何とか躱そうとした。

 

だが、それは敵わなかった。呂に向かって振り下ろされた刃は一つでは無かった。どんな達人でも三方から同時に振り下ろされた刃を躱すのはむずかしい。まして今の状態では、呂は一枚の刃を躱したが残り二枚の刃を肩と背に受け跪いた。

 

その後警備員が駆け付け、呂剛虎は拘束された。達也達に事情聴取は無かった。これも恐らく『七草』の名が成せることだろう。達也は早々にその場所から離れることができた。

 

響子から連絡があったのは、コンぺの本番を二日後に控えた金曜の夜。

 

「スパイの実働部隊はこの三日間でほぼ、拘束できました。まぁ、隊長の陳祥山は逃がしちゃったけど、達也君が呂剛虎を確保したくれたから、概ね満足できる結果です」

 

「そりゃどうも、ところで、聖遺物の件は何処から漏れてたんですか?」

 

「軍の経理データが漏洩してたらしくて、それで、軍から、魔法研究の委託費支払いが

あったところを、片っ端から狙ったみたい」

 

「成程」

 

「それじゃ、報告はこの辺で、日曜日は頑張ってね!応援してるから」

 

「ありがとうございます。といっても所詮サブですけどね。頑張ります」

 

横浜 中華街

 

「周先生、すっかり、お世話になりました」

 

「恐縮です」

 

「本国から艦隊を派遣すると連絡がありました。御かげで無事、次の作戦に移行できます」

 

「お役に立ててなによりです」

 

「ただ・・・」

 

「どうなされました」

 

「ご存知でしょうが、ウチの副官が敵の手に落ち」

 

「存じております驚きました」

 

「失態を犯したいえ、彼は必要な男・・・」

 

「身柄は明日、横須賀の外国人刑務所に移送される様ですね」

 

「本当ですか?」

 

「移送ルートも調べてあります」

 

「ご配慮感謝致します」

 

論文コンペまで、あと一日、嵐は直ぐそこまでやってきていることを達也はまだ気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ 前日

西暦 2095年 10月29日 土曜日 

 

この日の授業はどのクラスも自習状態だった。一限目が終わるとエリカに声をかけられた。

 

「達也君、明日は何時頃会場入りするの?」

 

「8時に現地集合、9時に開幕。開始30分はセレモニーでプレゼン開始は9時半スタート。持ち時間は1チーム三十分、インターバルが十分で、午前中に4チーム。昼食休憩は12時から1時まで。午後から、残りの5チームのプレゼンがあって終了時間が午後4時10分。そして審査と表彰があるから終わるのは午後6時過ぎかな」

 

「・・・えっと、それでウチの出番は何時なの?」

 

「ウチは最後から2番目、午後3時の予定だ」

 

「発表まで随分時間があるね」

 

「だから、メインの市原先輩は午後からの会場入り予定だ。まぁ俺と五十里先輩は機器の見張りとトラブルがあった時の応急処置に備えて早く行く事になってるんだが」

 

 

「ふ~ん・・・とにかく現地集合なんだ。 デモ機はどうするの?」

 

「既に生徒会が運送業者を手配してるよ。服部先輩も同乗することになってる」

 

「あれっ? 服部先輩て市原先輩の護衛なんじゃ・・・」

 

「当日は七草先輩と渡辺先輩が市原先輩を迎えに行くらしい。・・・で、そんなことを聞いてどうするんだ?」

 

「その見張り番だけでも俺達に手伝わせてくれねぇ?」

 

「別にいいと思うけど、何でそんな面倒なことをやりたがるんだ?」

 

「いやぁ、だって折角、特訓したのに出番がないのは・・・」

 

「そうよ、学校休んで、変な噂まで立てられながらも、コイツしごいたのに出番がないまま、事件は解決してましたじゃ、納得できないわ」

 

「まぁ動機が凄く不純だけど人手は多い方が助かるし、もう何も起こらないとは言い切れないしな」

 

「えっ? 事件は解決したんだろう?」

 

「事件が起こるのは一度に一つ、なんて決まりはないだろ」

 

「それは・・・」

 

「論文コンペが狙われるのは毎年らしいし、当日の帰りに襲われた・・・なんてこともあったらしい。本番前に事件が解決しても本番に別の事件が起きても不思議じゃない」

 

「・・・そうだね、じゃあ僕も見張り番の手伝いをさせてよ」

 

「あぁ、頼りにしてるよ」

 

論文コンペ本番前日の学校を休み、リハーサルを午後に繰り下げて、鈴音は病院を訪れていた。同行者は服部一人。本当ならば一人で来るはずだったのだが、真由美達がそれを許さなかった。

 

鈴音が訪れたのは平河千秋の病室。ドアをノックすると先に様子を見に来ていた安宿怜美が出迎えた。一方の千秋は鈴音の来訪に無反応だ。ただ、そんなことを鈴音は気にすることなく語り掛けた。

 

「平河さん、色々と無茶をしたみたいですが、貴女のやり方では、司波君の気を引くことはできませんよ」

 

鈴音の言葉には慰めも励ましも無く、ただ、冷静に事実を指摘していた。

 

「好意は無論のこと、敵意も悪意も引き出せない。今の貴方は彼にとってはその他大勢の一人」

 

「それどうしたって言うんですか!そんな分かりきったこと、先輩に指摘して貰わなくて結構です」

 

「ただ、貴女の司波君に対する評価はある意味、的を射ていると思います。確かに彼は尊大な人間です。その他大勢がいくら泣こうが喚こうが、彼は気に掛けない。嫌がらせを受けても払いのけるだけ。ハエに集られるのと同じなんじゃないでしょうか?」

 

鈴音の言葉に千秋は俯いたまま悔し気に唇を噛み締めた。鈴音が四月の新入部員勧誘週間を念頭に置いて話していることは彼女にも理解できた。

 

「ところで、貴女は知っていますか?一学期の定期考査の筆記試験で、司波君は二位以下を寄せ付けない高得点でした。とりわけ、魔法工学は満点でした」

 

「・・・それがどうしたんですか」

 

「そして、魔法工学の二位が貴女」

 

「先輩は何が言いたいんですか?」

 

「残念ながら、他の分野で司波君を脅かす事はできません。ですが魔法工学に限って言えば、司波君を追い抜くことができると思いますよ」

 

千秋が勢いよく顔を上げた。

 

「約3週間一緒に作業して見てわかりましたが、司波君はソフトウェアに比べてハードウェアは得意ではありませんね。無論、一般的な高校生の水準を大きく上回っていますが、一年生の内は魔法工学もソフト中心ですが、二年生に上がればハードの比重が増えてきます。貴女はハードウエアの方が得意なのでしょう?」

 

鈴音が言いたい事は二年になればハードの比重が増え、逆転のチャンスがあると云うこと。

 

「悔しいと思う気持ちを持ち続けることができればいつか、成し遂げられるんじゃないですか?だから、明日会場に来てください。きっと得るものがあるはずです」

 

横浜港を望む高層ビル複合施設、横浜ベイヒルズタワー。その最上階に近いバーラウンジで一組のカップルがグラスを傾けていた。

 

「藤林さんのおかげで今回のヤマも何とか目処が立ちました。今日はそのお礼です」

 

「ふ~ん、今日誘っていただいたのはお礼だけなんですね」

 

「えっ!?」

 

「もし、宜しければ、今晩だけでなく明日も付き合っていただけません?」

 

「ほ、本官でよければ、喜んで!」

 

「有難うございます。では、朝8時半に桜木町の駅で」

 

「・・・朝?」

 

「明日の論文コンペのこと、ご存知ありません?」

 

「いえ、存じてますけど」

 

「それに、私の知り合いの子が出るので応援に行きたいんですよ」

 

「はぁ・・・」

 

「できれば部下の方々にもお声がけしてくださいね。CADだけでなく武装デバイスや実弾銃の方もご用意していただけると助かります」

 

「藤林さん!それって・・・」

 

「勿論 何も起きない事を願ってはいますけど」

 

金沢 国立魔法大学付属第3高校

 

今年は会場が横浜だから一校代表チームは現地集合だが、首都圏から離れた各学校の代表メンバーは前日から余子浜入りして宿泊する事になる。

 

「ジョージ! そろそろ時間だぞ」

 

「えっ!もう?・・・分かった、すぐ行くよ」

 

文献に読み耽っていた、第三高校メイン執筆者の吉祥寺真紅郎は護衛の一条将輝によって現実に引き戻された。

 

「吉祥寺君。頑張ってね」

 

「ありがとう。十七夜さん」

 

「私達も当日には応援に行くから」

 

「ありがとう一色さん」

 

「貴方も気を抜かず最後まで吉祥寺君を護衛しないとダメよ」

 

「分かってるって!」

 

「ホントかしら、よそ見してる間に吉祥寺が怪我しちゃうかも」

 

「俺はよそ見なんかしねぇよ」

 

「ホントに?司波深雪に見とれて警戒心が鈍るんじゃない?」

 

「何でそこで司波さんが出てくるんだよ!」

 

「好きなんでしょ、彼女のこと」

 

「そんなこと、今は関係ないだろ!大体、司波さんが会場に来るかどうかは分からないだろ」

 

「司波さんが来る確率は高いと思うよ。今回メイン執筆者じゃなかったけどサブに司波達也の名前がある。一緒に来るんじゃないかな?」

 

「仮に御兄さんがメンバーに選ばれてなくても彼女は後学の為に会場に足を運ぶと思うわ」

 

「もしかして貴方が、吉祥寺君の護衛と共同警備隊に立候補した理由って司波さんに会えると思ったから?」

 

「なん!ち、違う!」

 

「怪し~なぁ~」

 

「おい、早く行くぞ ジョージ!」

 

「あ!待ってよ将輝!」

 

「あ!逃げた」

 

将輝は突然始まった愛梨たちの口撃に敵わず逃げ出した。真紅郎はその後姿を慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ 当日 其之一

全国高校生魔法学論文コンペディション開催日当日。達也と深雪は予定通り会場に到着した。時間通りに着いたとはいえ、何故か、達也と深雪が最後の様だ。

 

「お兄様、そろそろ」

 

「俺が何とかしなきゃいけないのか?」

 

「余り時間を掛けるのも・・・」

 

会場に入った達也の視線の先では、エリカと花音が険悪な表情で睨み合っている。

 

「どうしたんですか?」

 

「あっ! 達也君!おはよー」

 

「ー司波君。この聞き分けの無いお嬢さんに、貴方から何か言ってくれない」

 

「・・・(はぁ~)」

 

「じゃあ、後は俺が話しますんで」

 

達也は、エリカと花音を引き離し、ロビーの隅にある、ソファーにレオとエリカを座らせた。

 

決まりの悪そうな二人を前にして、

 

「何も正面からぶつからなくても」

 

「ごめんなさい。結局、達也君の手を煩わせちゃって」

 

「別に、警備って張り切らなくても、客席から応援してくれれば良いよ。何か起これば、その時に協力しても、文句は言われないだろう」

 

「そっか!協力か」

 

達也の言葉でふさぎ込んでいたエリカに笑顔が戻る。

 

「始まるまで楽屋に遊びに来ればいい、友達なんだから遠慮はいらない」

 

開幕時間が迫ると、どこの学校の控室も賑やかになっていた。遥が会場に足を運んだのは、一校の職員としての、仕事ではなく、公安の情報員としての仕事がらみだった。四月の事件で、公安(遥の所属部署)は達也に興味を向けていた。しかし、彼を探ろうとすれば必ず圧力が掛かると上司から聞かされた。それが逆に興味を深めた様だ。しかし、正規の情報員は動かせないので、遙に司波達也の調査任務が回ってきたのだ。勿論、遙は何度も拒んだ。達也が只者ではないのは分かっている。忠告も受けている。あの八雲から、

 

「今すぐにでも、達也君の調査は止めた方がいい。僕も庇いきれなくなる」

 

遥は達也の正体は知らないが、あの八雲にそこまで言わせる時点で、達也の正体がとんでもない事は予測できる。上司の興味本位で自分が狙われるなどあってはならない。だが、そんな事を聞き入れて貰ってなかった。達也の正体を調べようと専門家があらゆるデータベースを調べても手掛かりは無かった。専門家でも調べきれなかった達也の正体。しかも、その辺のスキルの無い遥には直接監視するくらいしか手立てが無かった。しかし、彼女の監視は無駄にはならなかった。達也を監視して直ぐに、、達也に来客があった。相手の年恰好は明らかに高校生ではない。大学生でもないだろう。恐らく、イヤ、彼女は自分と同年代。忘れもしない。当時、九校戦で第二高校を優勝に導いた立役者。

 

「・・・エレクトロン・ソーサリス。藤林響子!」

 

一校 控室

 

今現在、司波兄妹だけしかいない控室に藤林響子が訪ねて来た。

 

「久しぶりね!深雪ちゃん」

 

「はい、ご無沙汰しておりました。響子さん」

 

「・・・ウチの控室に来ていいんですか?」

 

「大丈夫よ。技術士官の肩書きを持ってる私が、九校戦で高度な技術を披露した君の元を訪れても、不思議じゃないと思うけど」

 

「・・・で、本当の目的は?」

 

「いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」

 

「悪いニュースから」

 

「はぁ~、じゃあ、いいニュースから。例のムーバル・スーツ。完成したって。夜にはこっちに持って来るって真田大尉から伝言」

 

「流石ですね」

 

「じゃあ、今度は悪いニュース。例の件。どうもこのままじゃ終わらないみたい」

 

「何か問題が?」

 

「詳しい事はコレを見て」

 

そう言って、響子は達也にデータカードを渡す。

 

「コッチでも幾つか保険を掛けておいたけど」

 

「俺達も準備だけはしておきます」

 

「何も起きないのが一番だけど、・・・もしもの時はお願いします」

 

 

8時45分 

 

響子の持ってきた。データに目を通していると、五十里が花音を連れて、やって来た。

 

「司波君。交代しようか」

 

機材の見張り番はプレゼンごとに交代で行う。順番も打ち合わせ済み。

 

「お願いします」

 

達也は五十里と別れ、深雪と共に客席に向かった。しかし、2人はロビーで足止めを喰らう。

 

「司波さん!」

 

呼び止められたのは深雪の方。呼んだ声の主は、左腕に『警備』の腕章を着けた第三高校一年の一条将輝。

 

「一条さん」

 

「お、お久しぶりです。司波さん。こ、後夜祭のダンスパーティー以来ですね」

 

「・・・ええ。此方こそ御無沙汰しております。見回りご苦労様です」

 

「は、はい!有難う御座います!」

 

「十三束君も頑張って下さいね」

 

「え!あ、はい!」

 

コンペ 会場 客席

 

警備と張り切るなと言われたエリカだが、観客に徹するつもりは無い。エリカは不審人物に目を光らせていた。

その際、見知った顔を発見してしまう。

 

「げぇ!何でアイツがこんな処に?」

 

「あれっ?ねぇエリカ。あそこにいるのって?」

 

如何やら幹比古も気が付いた様だ。

 

「エリカちゃん、お知り合い」

 

「違う、見間違いだった」

 

エリカは他人のフリをすることを選んだ。

 

 

「深雪、十三束鋼のこと知ってたんだな」

 

「まぁ、顔と名前くらいは。お兄様こそ、彼をご存知だったんですね」

 

「そりゃ、十三束家の『レンジ・ゼロ』は有名じゃないか」

 

百家最強の一角を占める十三束家。その中に生まれた異端の魔法師のことは、情報通でなくても知る者は多い。

 

「何の話?」

 

そこに割り込んだのはエリカだった。

 

「エリカ。一人か?・・・レオは?」

 

「・・・達也君。アイツとアタシをワンセットにするのは止めてくれない?アタシはアイツに技と獲物を与えただけで、それ以上の関係なんて全く!何もないんだから!」

 

「そんなに怒らなくても・・・」

 

「だいたい、アタシは・・・」

 

エリカは達也の顔をみて赤くなる

 

「・・・?どうしたエリカ?」

 

達也は自分の顔を見て真っ赤になったエリカが急に黙ったのを不思議に思い続きを促したが、

 

「・・・もういい」

 

エリカは顔を背けた。

 

「・・・他の連中は?」

 

「クラスの皆は殆ど来てないよ。まぁウチが午後からって分かってるからだろうね。でも、美月とミキは来てるよ。二人で仲良く前の方に座ってる」

 

午前九時。全国高校生魔法学論文コンペディションは厳粛な雰囲気で開幕した。形式重視の開会の辞が終わり、最初の発表校、第二高校のプレゼンが始まった。

 

会場に来ていた遥は喫茶室でだらけていた。ターゲットの達也はしばらく行動を起こさないし、元々、発表を真面目に聞く気もない。このまま時間を潰して済めば楽な仕事だったのだが、突然掛けられた声に、驚いた。

 

「少し、宜しいですか?」

 

遥かに声をかけたのは響子だった。

 

「え・・・えぇ。どうぞ」

 

「有難うございます」

 

「・・・」

 

「・・・流石にそんなに見つめられると恥ずかしいんですけど」

 

「・・・はっ! 御免なさい」

 

「いえ、『ミズ、ファントム』に関心を持って貰えるのは光栄なことですし」

 

「・・・『私如き者のことを『エレクトロン・ソーサリス』がご存知とは、此方こそ光栄です」

 

響子が口にした異称『ミズ・ファントム』は余り広く知られているものではない。非合法の諜報活動に手を染めている者の間でだけ囁かれている、正体不明の女スパイに対するコード・ネームだ。

 

「それで、どうのようなお話しでしょう」

 

「これ以上申し上げなくてもお分かりでしょう?」

 

「・・・すみません。私は貴女の様に優秀ではありませんでしたから」

 

「ご謙遜ですね。大学も研究所も優秀な成績で卒業されてますのに、それに貴女のことは九重先生も高く評価されていましたよ。」

 

如何やら、情報収集では響子が一枚上手の様だ。

 

「お互いの領分を守りましょう、と提案を」

 

「・・・意味が良く解りませんが」

 

「ハッキリ申し上げて宜しいんですか?」

 

「・・・ッ」

 

「大丈夫ですよ。貴女にお咎めが来ることはありませんから」

 

そう言って響子は喫茶室から去って行った。響子との初接触は遥の完敗だった。

 

「・・・(でも収穫が無かった訳じゃない)」

 

遥はそう心の中で呟きながら雪辱を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 論文コンペ 当日 其之二

発表論文はカットします。


第一高校本日の主役である鈴音が会場に到着したのは予定より一時間早い、午前11時だった。達也は控室で鈴音、摩利、真由美の三人を出迎えた。

 

「予定を繰り上げたのには、何か理由が?」

 

「予定より尋問が早く終わってね」

 

「また尋問してたんですか?しかも、この日に?」

 

「本当は昨日までに済ませたかったんだが」

 

「中々許可が出なくてね・・・家の名でごり押しできないし」

 

「明日でも良かったんじゃ」

 

「君らしくなく楽観的だな」

 

「えっ?」

 

「関本と平河妹の狙いはコンペの資料だった。資料を狙っていた以上、コンペの当日に背後組織が新たな行動を起こす可能性は決して小さくはない」

 

「まぁ、可能性としては有りでしょうね」

 

「あくまで、可能性の話だが、無視もできない」

 

「それで、何か分かりましたか?」

 

「あぁ。関本はマインド・コントロールを受けていた形跡がある」

 

「・・・本格的ですね」

 

この情報には達也も驚いた。四月の『ブランシュ』の事件以来、一校では生徒に定期的なメンタルチェックが義務付けられているからだ。

 

「メンタルチェックには引っかからなかったんですか?」

 

「チェックは毎月月初。関本はその後にコントロールを受けた可能性が高い」

 

「凄腕ですね・・・薬物ですか?」

 

「さぁな?あたしも、真由美もその方面の専門家じゃないからね」

 

「精神科の先生の話じゃ通常の手段では無い事は確かよ。もしかしたら本物の『邪眼』かもしれない」

 

「先天的な系統外魔法の使い手・・・」

 

「背後組織はこっちが考えていた以上に過激な手段を採ってくることもあり得るわ。リンちゃんには私達が付いているから会場には目を光らせていて、ってはんぞー君には伝えてるわ。達也君も気を付けてね」

 

「はい」

 

達也が真由美と摩利から関本に関する報告を受けていた頃、響子も風間からある報告を受けていた。

 

「呂剛虎に逃げられた?本当ですか。それ」

 

「横須賀に向かっている途中の護送車が襲撃を受けた。生存者もいない」

 

「呂剛虎の死体も無かったんですね。それにしても、何で、この日に護送なんて・・・」

 

「所詮、高校生レベルの行事だということだろう」

 

「・・・失礼しました!」

 

「だが、君の指摘も理解できる。なにがしかの意図があるんだろう。幸い保土ヶ谷ので予定されていた新装備テストのおかげで出動準備は整っている。出発を繰り上げて、今日そちらに向かう事にした。到着予定時刻は15時だ」

 

真由美からの変更指示を受けた服部は、そのことと、合わせて聞かされた尋問結果について報告する為、桐原と共に克人の元を訪れた。

 

「了解した。服部と桐原は二人一組で会場外周の監視に当たってくれ」

 

「了解です!」

 

「ところで、お前達、現在の状況について、違和感を覚えた点は無いか?」

 

「違和感、ですか?」

 

「・・・横浜という都市の性格を考慮しても、外国人の数が少し多すぎる気も・・・」

 

「桐原はどうだ?」

 

「そうですね・・・会場内よりも町中の空気が、妙に殺気立っているように思います」

 

「・・・服部・桐原。午後の見回りから防弾チョッキを着用しろ。他の隊員にも通達しろ」

 

時刻は午後3時第一高校代表チームのプレゼンテーションが予定通り始まった。

 

加重系魔法の技術的三大難問の一つ『重力制御型熱核融合炉』を発表のテーマに掲げた一校のプレゼンは大きな注目を浴びていた。会場には魔法大学関係者や民間研究機関の研究者も大勢集まっている。大勢の観客を前にプレゼンする鈴音、五十里が機器を操作し、達也がモニターと起動式の切り替えを行う。

 

 

「現時点では、この実験機を動かし続けるためには高ランクの魔法師が必用ですが、エネルギー回収効率の向上と設置型魔法による代替で、いずれは点火に魔法師を必要とするだけの重力制御型熱核融合炉が実現できると確信しています」

 

鈴音が締め括ると同時に、会場には割れんばかりの拍手に包まれた。その後、舞台袖で発表に使った機器を片付けていた達也に後ろから声が掛けられる。

 

「やってくれたね。見事だった、と言わせてもらうよ」

 

声をかけたのは発表を次に控えた第三高校の吉祥寺真紅郎だった。

 

「俺はサブなんだが」

 

「でも、『ループ・キャスト』を使ったアイデアはキミが考えたんじゃないのかい?」

 

「・・・ご慧眼恐れ入るよ。カーディナル・ジョージ」

 

「でも、僕達も負けないよ、いや、今度こそ君に勝つ」

 

舞台から撤収しようとした達也に真紅郎から声が掛かる。達也が気の利いたセリフでも返してやろうかと、足を止め振り返ったその時、轟音と振動が会場を揺るがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 始まり

西暦2095年10月30日午後3時30分。後世において人類史の転換点と評される『灼熱のハロウィン』。その発端となった『横浜事変』は、この時刻に発生したと記録されている。

 

一校の発表が終わり、ロビーで響子と世間話をしていた寿和の二人の懐の端末が振動した。

 

「もしもし、どうした?何!?・・・分かった直ぐにそっちに向かう!」

 

「了解です」

 

「本官は現場に向かわなければなりません」

 

「私はここに残ります」

 

「では、何かあれば連絡を」

 

寿和は急いで車に向かった。

 

「状況は?」

 

寿和は急行中の車の中から追加情報を求めた。しかし、もたらされた情報は安心できる様なものではなかった。そして、寿和は通信先を切り替える。

 

「親父か?横浜で一大事が起きた。国防軍に出動要請を頼む。それから雷丸と大蛇丸を至急届けさせてくれ。・・・大蛇丸をどうするって?・・・そりゃエリカに使わせるに決まってるじゃないか!」

 

 

一方の会場内では何が起こっているのか理解できず、どうすればいいのか答えを求めてざわついていた。

 

「深雪!」

 

そんな中で達也は最も、優先すべき者の名を呼ぶ。

 

「お兄様、これは一体?」

 

深雪は他と違い、多少は困惑が見えるものの、パニックには至っていない様だ。

 

「正面出入り口でグレネードが爆発したんだろう」

 

「グレネード!先輩方は大丈夫でしょうか?」

 

「正面には協会が手配した正規の警備員が担当しているはずだ。実戦経験がある魔法師も警備に加わっている。通常の犯罪組織レベルなら問題はないはずなんだが・・・」

 

達也のは悪い予感がしていた。響子から渡されたデータ・カードには外国の国家機関の関与の可能性も記されていた。その予感を裏付けるように今度は複数の銃声が聞こえた。

 

「(・・・今の音、まさか対魔法師用のハイパワーライフルか!」

 

ハイパワーライフル。魔法師の防御魔法を無効化する高い慣性力を生み出す高速銃弾。

小国の正規軍程度では製造はおろか配備もできない武器。

 

銃声が聞こえて僅か数分後、荒々しい靴音と共にライフルを構えた正体不明の集団が会場になだれ込む。

 

「(・・・ちっ!警備の連中もだらしない!アイツ等、時間稼ぎもできないのか!)」

 

聴衆が恐怖に竦む中、壇上していた吉祥寺真紅郎を始めとする3校生が侵入者に向けて魔法を発動する。しかし、魔法より先に銃声が轟く。銃弾が壁に食い込んでいる。彼らが所持しているのはハイパワーライフルの様だ。

 

「大人しくしていろ!」

 

侵入者は魔法師相手の戦闘に慣れている様だ。

 

「デバイスを外して床に置け」

 

真紅郎達、三校生が悔しそうな顔でCADを床に置く。

 

「おい!お前もだ!」

 

侵入者が次に声をかけたのが通路にいた達也と深雪。

 

「早くしろ!」

 

そう言いながら、侵入者が銃口を向けたまま慎重な足取りで近寄ってくる。本来、人は自分に銃口なんて物を向けられれば恐怖するものである。しかし、侵入者が銃口を向けた相手、達也は微動だにしない。

 

「早くしろ!本当に撃つぞ!」

 

それでも達也は動じなかった。そして、男はしびれを切らし、

 

「もういい!お前は見せしめだ!」

 

「おい、待て!」

 

男は仲間の静止も聞かず引き金を引いた。銃声が響き、同時に悲鳴が続く。至近距離で放たれた弾丸は避ける事ができない。それが常識だと理解していた会場にいた人々。だから、目の前で起こった出来事に多くの者が言葉を失う。胸の前で何かを掴み取ったように握り込まれた右手。撃たれたはずの達也に生じた変化はこれだけだった。彼の身体からは一滴も血が流れていない。そして放たれたはずの銃弾は壁にも床にも天井にも、その痕跡を残していなかった。男が二発目、三発目の銃弾を放つ。しかし、生じた変化と言えば達也の右手の位置が変わった程度。

 

「・・・弾をつかみ取ったのか?」

 

「魔法も無しに一体、どうやって?」

 

「化け物め!」

 

男は銃を投げ捨て大型の戦闘ナイフに持ち替え襲いかかった。

 

「フフッ。その化け物相手に不用意に近づくなよ」

 

達也はそう言って、男の腕を容赦なく切り落とした。

 

「ぎゃ!」

 

そして、追い打ちを掛けるように達也の拳が鳩尾にめり込む。そして男の腕の断面から勢いよく出た鮮血が達也の制服を汚す。その衝撃的な光景に会場にいた観客も侵入者も動きが止まり、思考も停止した。只一人の例外を除いて。

 

「お兄様。その汚れ落としますから、そのままで・・・」

 

そう言いながら、深雪の視線は腕を切られた男とその仲間を捉えている。

 

「銃口を向けた相手が悪かったわね。良かったじゃない・・・腕一本で済んで。でも私はお前達ごときがお兄様に銃口を向けた事を許さない」

 

深雪は腕を切り落とされた男に冷凍魔法を掛ける。切り落とされむき出しになった神経から冷気が入り込み男の内側のにある、あらゆる臓器を凍らせた。男は声も無く倒れた。一方、もう一人の男には恐怖を増幅させる精神干渉魔法が襲い掛かる。仲間が腕を切られ、次は自分が標的になると思い込んだ男の恐怖は勝手に増幅、やがて男は泡を吹いて倒れた。

 

「(・・・大勢の前だから殺せないのが残念ね。)」

 

男の腕を切り落とした達也が、次にしたことは恐怖と驚愕に支配された会場を現実に引き戻すこと。

 

「共同警備隊!何をしている!お前達の役割は何だ!」

 

達也のこの一言で止まっていた時間が動き出す。

 

「と、取り押さえろ!」

 

共同警備隊のメンバーが一斉に魔法を放つ。回避の動きを見せた侵入者もいたが、九校から選抜された猛者の魔法に一人残らず抵抗を封じられた。

 

「やれやれ」

 

達也は平然と正面玄関に向かって歩き出す。その後ろに深雪が続く。

 

「達也君!」

 

「達也!」

 

達也の元にレオとエリカが駆け付けた。

 

そして、幹比古・美月・ほのか・雫が駆け寄る。

 

「手は!? お怪我はありませんか?」

 

エリカとレオを押しのけほのかが達也の手を握ってそう尋ねる。

 

「あぁ大丈夫だよ。ほのか。心配をかけたね」

 

達也はほのか達の前で右手を動かした。達也は銃弾を掴んだ訳ではない。銃弾本体と運動ベクトルを分解しただけだった。

 

「それで、達也君。これからどうするの?」

 

「逃げ出すにしろ追い出すにしろ、正面入り口の敵が邪魔だな」

 

「・・・待ってろ。なんて言わないよね」

 

「・・・はぁ~まぁ、別行動して突撃されるよりはマシか」

 

そう言いながら、達也が先頭に立ち出入り口に向かおうとする。だが、それを呼び止める声がした。

 

「待て!ちょっと待て司波達也!」

 

「どうした吉祥寺?こんな時に」

 

「さっきの腕を切り落とした魔法。アレは『分子ディバイダー』じゃないのか?」

 

真紅郎の発言にざわめきが起こる。

 

「『分子ディバイダー』はアメリカの軍魔法師部隊(スターズ)の前隊長ウィリアム=シリウスが編み出した機密術式だろ!それを何故使える!何故知っているんだ!」

 

「吉祥寺。今はそんなことどうでもいいだろう。そんな事より、お前もやるべきことがあるんじゃないのか?」

 

達也が侵入者の腕を切断したのに使ったのは『分子ディバイダー』と言われる魔法ではない。ただ、右手を基点にして相対距離ゼロで分解を発動しただけのことだ。

 

「七草先輩、中条先輩。早くこの場を離れるべきです。そいつ等の最終目的は分かりませんが、魔法技能を持つ生徒の拉致、殺傷も組み見込まれてると思いますから」

 

様子を見に来たであろう。真由美とあずさにそう忠告して、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 行動開始

達也たちの姿が扉の向こう側へ消えた直後、一際激しい爆発音が会場を揺るがす。このままでは間違いなくパニックへと発展する騒動を前に、第一高校生徒会長の中条あずさはどうしたらいいか、何をすればいいのか分からずに座ったまま硬直していた。

 

「あーちゃん、あーちゃん・・・中条あずさ生徒会長!!」

 

硬直したままのあずさに声をかけたのは真由美。

 

「このままだと本物のパニックになるわ。そうなれば、怪我人も大勢でることになる。だから貴女の力で皆を鎮めて」

 

「えっ!、でも、アレは・・・」

 

中条あずさは『梓弓』という情動干渉魔法を使うことができる。この魔法で人の情動に干渉することでパニックを抑えることができるだろう。しかし、精神に干渉する魔法は魔法の中でも特に厳しく規制されており、未成年の勝手な判断で軽々しく使用できるものではない。

 

「貴女の力は、こういう時の為のものでしょ?今、必要とされている力は私の力でも、摩利の力でも、鈴音の力でもない!あなたの力が必用なの!」

 

真由美は本気で梓に『梓弓』の使用を求めている。

 

「大丈夫!責任は私が取るから。七草の名は伊達じゃないのよ!」

 

あずさは力強く頷くと、身体を反転させ、所々で押し合い圧し合いに発展し始めた客席を視界に収める。そして、首に掛けたチェーンを手繰り、先端のロケットを取り出し、サイオンを流し込む。そして、『梓弓』が発動する。

 

澄んだ弦の音が、最前列から最後列まで、会場を徹り抜けた。

 

「第一高校の七草真由美です」

 

突然の声に観客の意識が真由美に向いた。

 

「現在、この街は侵略を受けています。先程捕縛した暴漢も侵略軍の仲間でしょう。先刻から聞こえている爆発音も、この会場に集まった魔法師と魔法技能を目当てとした襲撃の可能性が高いと思われます」

 

真由美の話は観客からすれば到底信じられない話だが、紛れもない事実だ。

 

「ご存知とは思いますが、この会場は地下通路で駅のシェルターに繋がっています。十分な収容力はあると思われますが、侵略軍の攻撃にどの程度持ちこたえられるかは分かりません。ですが、この場に留まり続けるのは危険です。各校の代表は直ぐに生徒を集めて行動を開始してください!どんな判断をするにしろ一刻も無駄にできない状況です!」

 

真由美の発言に各校が行動を開始する。

 

「九校関係者以外の方々は、各々ご自身の判断で避難をお願いします。私達には皆さんの安全に責任を負うだけの力がありません。シェルターに避難するなら直ぐに、地下通路へ、脱出をお考えなら沿岸防衛隊が瑞穂埠頭に輸送船を向かわせているという報告を受けています」

 

真由美は一礼し、マイクを切ると、再びあずさに語り掛けた。

 

「じゃあ、皆のこと任せたわよ。先生方、中条さんのサポートお願いします」

 

「えっ!? せ、先輩?」

 

「大丈夫。貴女ならできるわ!」

 

そう言った真由美は身体を翻して鈴音たちのいる控室に戻っていった。

 

正面出入口の前は、ライフルと魔法の撃ち合いの真っ直中だった。攻撃側のゲリラ兵は会場に乱入したテロリストと同じ格好で、突撃銃とパワーライフルで武装していた。先頭を走っていた達也は出入口の陰で足を止め、続いていた深雪の足もピタリと止まったが、三番手を争うように横並びで、ついてきていた二人は血気に逸っていた。

 

「ストップ! 対魔法師用の高速弾だ」

 

エリカを呼び止め、レオの襟首を掴んで引きずり戻す。

 

「おっと・・・」

 

「ぐえっ!?」

 

「・・・容赦ないね、達也」

 

「でも、御かげで命拾い」

 

少し、遅れて残り四人が追いつく。

 

「深雪、銃を黙らせてくれ」

 

「畏まりました。ですが、この人数を一度に、となると・・・」

 

「分かってる」

 

深雪は差し出された達也の左手に右手を絡め魔法を発動する。

 

振動減速系概念拡張魔法 『凍火(フリーズ・フレイム)』

 

この魔法には、対象物の熱量を抑制する効果がある。故に、この魔法を受けた火器は沈黙を強いられることになる。

 

ゲリラの残存兵力は丁度30人。今の状態の深雪が同時に魔法の照準を合わせられる上限数は16。故に『凍火』の二連射。その効果も確かめず。達也は隠れていた物陰から飛び出し、ゲリラ兵に魔法を宿した両手の手刀を振るう。更に、エリカが続く。

 

「達也!エリカ!」

 

後方からの幹比古の声に二人は左右に散る。そして、吹いてきた風がゲリラ兵を襲う。残りのゲリラ兵を警備の魔法師にまかせ二人は一旦仲間の所まで戻った。

 

「出る幕なしか・・・」

 

達也はいじけているレオを無視してほのかと美月に小さく笑いかける。

 

「すまない。刺激が強すぎたな」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「あっ・・・私も大丈夫です」

 

「それで、これからどうするんだ」

 

「情報が欲しい。状況は予想以上に悪いらしい。行き当たりばったりじゃ泥沼にはまるかもしれない」

 

「じゃあ、VIP会議室を使えば?」

 

「VIP会議室?」

 

「うん、あそこは閣僚級の政治家や経済団体トップレベルの会合に使われる部屋だから、大抵の情報にアクセスできると思う」

 

「そんな部屋があったのか」

 

「一般には開放されてない部屋だから」

 

「・・・良く知ってるわね、そんな事」

 

「暗証キーもアクセスコードも知ってるよ」

 

「雫、案内してくれ」

 

達也たちは急ぎVIP会議室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 状況把握

雫のアクセスコードを使ってVIP会議室のモニターに受信した警察のマップデータは、海に面する一帯が危険地域を示す真っ赤に染まっていた。そして赤い領域は内陸部へ拡大している。

 

「何これ!」

 

「酷ぇな、こりゃ」

 

「状況はかなり悪い。グズグズしてたら捕捉される。だが、脱出するのも簡単じゃない。兎に角、陸路は無理そうだな」

 

「ってことは、海か?」

 

「どうかな、出動した船で全員乗れるかどうか・・・」

 

「じゃあ、シェルターに避難だね」

 

「それが一番だろうな」

 

「じゃあ、急いで地下通路に」

 

「いや、地下じゃなく上を行こう」

 

「え?何で?・・・あっ、そっか・・・」

 

皆を地下通路へ先導しようとしたエリカを止めた達也。その行為に疑問を感じたエリカだが再度マップを見る事でその疑問を払拭させた。

 

「ただ、避難する前に時間が欲しいな」

 

「何故です?」

 

「デモ機のデータを処分したい」

 

「あっ!そうか。それが敵の目的かもしれないしね」

 

 

 

「司波、吉田」

 

エレベータホールからステージ裏へ回る通路で克人に声を掛けられた。

 

「十文字先輩」

 

克人は服部と沢木を従えていた。

 

「お前達は先に避難したんじゃないのか」

 

「念の為。デモ機のデータが盗まれないように消去しに向かう所です。・・・彼女たちはバラバラに行動するよりもいいかと」

 

「他の生徒は中条達と地下通路にー」

 

「地下通路!」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、地下通路は直通じゃないので、他のグループと鉢合わせした場合・・・」

 

「遭遇戦の可能性があるということか」

 

「服部、沢木!直ぐに中条達の後を追え」

 

「はい」

 

 

 

ステージ裏

 

「何をしてるんですか!」

 

達也たちがステージ裏に着くと鈴音と啓がデモ機を弄り、それを真由美・摩利・花音・桐原・紗耶香が取り囲んで見守っていた。

 

「お前達も避難していなかったのか?」

 

「リンちゃんと五十里君を残して行ける訳ないでしょ」

 

「ここは僕達でやるから、司波君は控室の方をたのめるかな」

 

「できれば、他校のもお願いね」

 

「こっちが終われば私達もそっちに向かう。そこで今後の方針を決めよう」

 

そしてしばらくして、達也たちは再度、控室に集まった。

 

「さて、これからどうするか、だが」

 

「港内に侵入した敵艦は一隻。東京湾に他の敵艦は見当たらないそうよ。上陸した兵力の具体的な規模は分からないけど、海岸近くは殆ど的に制圧されてるみたい。陸上交通網は完全に麻痺してる」

 

「彼らの目的は何なんでしょう?」

 

「横浜を狙ったということは、そこにしかないものが目的だったんじゃないかしら。まぁ京都にもあるけど」

 

「魔法協会支部ですか?」

 

「正確には協会のメインデータバンクかな。重要なデータは京都と横浜で集中管理してるから。でも、コンペに集まった学者さんを狙っているって線もあるけど」

 

「避難船はいつ到着する?」

 

「沿岸防衛隊の輸送船があと10分程で到着するみたいだけど、避難に集まった人数に対して収容力が十分じゃないわ」

 

「状況は聞いてもらった通りだ。シェルターの方はどの程度の余裕があるか分からないが船の方は乗れそうにない。だから、私はシェルターに向かった方がいいと思うんだが、皆はどう思う?」

 

「あたしも摩利さんに賛成です」

 

三年生は既に摩利の意見で一致しているらしい。そして、摩利の提案に花音が賛同する。他の二年生も他に選択の余地がないと考えているようだ。そして、一年生達の目は達也に向いていた。回答を求める摩利の視線を受けた達也。しかし、達也の眼は全く別方向に向いていた。

 

「お兄様!?」

 

「達也君!?」

 

達也の手にははいつの間にか抜いた『シルバーホーン』。そして達也は躊躇なく引き金を引く。放った魔法は『雲散霧消』(ミスト・ディスパージョン)四葉本家から第三者の前で使用する事を禁止されている機密魔法。しかし、秘密を守りながら今の事態に対処するのは難しかった。気付いたのは偶然に近い。八雲に鍛えられた直感が彼にそれを教えてくれたのかもしれない。達也は常に八雲から『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』に頼り過ぎるな、と諭されていたから、突然、背後から襲ってきた強烈な危機感に眼を向けて、『雲散霧消』発動に踏み切った。時間が有れば深雪に対処させられたが、この瞬間に装甲版で覆われた大型トラックの突入に対応できるのは達也の魔法だけだった。高さ四メートル、幅三メートル、総重量30トンの大型トラックを丸ごと照準に収め、達也は分解魔法『雲散霧消』を発動した。トラックは一瞬で消え、消えた運転席からドライバーが放り出される。

 

「・・・今の、何?」

 

本来なら達也が壁に『シルバー・ホーン』を向けて何をしたか分かる者は、いつもの一年生メンバーに分かる者はいない。だが、その場には知覚系魔法『マルチ・スコープ』の使い手、七草真由美がいた。達也が危惧した通り、真由美は今の光景を視ていた様だ。

 

「・・・あっ!大変。今度はミサイルが・・・」

 

達也の回答を待っていた真由美が新たなビジョンに蒼褪める。会場に向かって飛来する小型ミサイル。達也が迎撃用の魔法を放とうとしたが、今回は達也が手を出す前に解決した。ミサイルが着弾する前に横から打ち込まれたソニック・ブームにより、空中で爆発した。安堵した二人は視点をもとに戻す。それと同時に控室に入って来た女性に声を掛けられた。

 

「お待たせ」

 

「えっ?えっ?・・・な、何で響子さんがここに・・・」

 

「お久しぶりね、真由美ちゃん」

 

控室に入って来たのは軍服をまとった藤林響子だった。

 

 

 

一方、克人は逃げ遅れがいないか桐原と確認を行っていた。そんな克人もミサイルの飛来を確認していた。克人が障壁魔法で防ごうとしたが、ミサイルは障壁に当たる前に爆発した。そして、後方からの僅かなエンジン音に振り返るとミサイルランチャーの様な物を構えた国防陸軍の大尉であろう人物が近づいてきた。

 

「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊所属大尉・真田繁であります。お怪我はありませんか?十文字家御当主」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「では、十文字殿、お手数ですが此方に」

 

克人は自分に何の用があるのか分からなかったが、軍人に迷惑もかけられないと思い。桐原を連れ、真田の後に続いた。

 

 

 

控室に入ってきた響子は一人ではなかった。響子の後ろから、少佐の階級章を付けた男性が入って来る。

 

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 

その言葉を聞き達也はため息を付きながらも敬礼で応じた。その行為に深雪以外の全員が、ちょうど部屋に入って来た克人と桐原も驚きを隠せなかった。

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。藤林、状況の説明を」

 

「現在、我が軍は、保土ヶ谷の部隊が侵攻軍と交戦中。また、鶴見と藤沢から一個大隊が当地に九校中。魔法協会関東支部は独自に義勇軍を編成し、自衛行動に入っています」

 

「さて、特尉、現下の特殊な状況を鑑み、別任務で保土ヶ谷に出動中だった我が隊にも防衛に加わるよう、先ほど命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官にも出動を命じる」

 

この言葉に真由美と摩利が揃って口を開き掛けたが風間がそれを封じた。

 

「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について、守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置であることをご理解頂きたい」

 

だが、それでも怯まない者がいた。深雪である。

 

「待って下さい、風間さん。貴官にも、お兄様にも出動を命じるとは一体どうゆうつもりですか?」

 

深雪が起こっているのは達也が強制的に出動を命じられている事と、まるで達也が最初から国防軍に所属している様な言い回し方だ。達也は正式な国防軍所属の兵士ではない。あくまで、四葉から貸し出されている協力者である。達也は四葉の所有物であり、国防軍が勝手に命令できるものではない。

 

「ウチに喧嘩でも売っているんですか?」

 

「深雪君、申し訳ないが既に上の許可は取ってある」

 

「ッツ・・・」

 

流石に風間の言っている、上が誰の事を指すのかは一瞬で理解させられた。そして、一瞬怯んだ深雪の隙を突いて

真田が達也に話しかける。

 

「特尉、君の考案したムーバル・スーツを準備してあります。急ぎましょう」

 

「悪い、皆。聞いての通りだ。皆は先輩達と一緒に避難してくれ」

 

「特尉、皆さんは私と私の部隊がお供します」

 

「そうですか。では宜しくお願いします」

 

「お任せ下さい特尉、でも無理はしないでくださいね」

 

達也が響子に同級生と先輩達の事を任せ部屋を出ようとした時、深雪に呼び止められた。

 

「お待ちください、お兄様」

 

達也に声を掛けても、呼び止めるのが目的ではなかった。

 

「こんな状態の私をおいて行かれるおつもりですか?」

 

「深雪・・・お前、何を・・・」

 

「安心して下さい。お兄様を止めるのは諦めましたから」

 

「だったら」

 

「これから戦場に赴かれるお兄様は兎も角、避難を始める私達も戦闘に巻き込まれることがあるかもしれません。それではお兄様が安心できませんよね」

 

「それはそうだが」

 

「私達が今の状態でも不覚をとる事はないと思いますが、もしもの時の為に、常に全力を出せる状態になっていた方が良いと思うのですが・・・」

 

「深雪、何もこんな時に・・・」

 

「これは私の我儘ですから、何より、私も全力で立ち向かいたいのです」

 

「・・・はぁ~、分かった。もう、どうにでもなれ・・・」

 

そう吐き捨てながら、達也は片膝をつく。深雪は腰を屈め、達也の頬に触れ、額に接吻る。変化は突然に訪れた。激しい粒子が達也の周りから溢れ出す。あり得ない量の活性化した想子が達也の周りに吹き荒れる。

 

「それじゃあ、行って来るよ」

 

「負けたら承知しませんよ」

 

最愛の妹に見送られながら、達也は戦場となった横浜の街に出陣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 それぞれの動き

深雪達が本格的に非難を開始し始めた頃、第一高校生徒会長の中条あずさは生徒+講師陣と共にシェルターに避難するために地下道を進んでいた。しかし、達也の予想通り武装ゲリラと鉢合わせしてしまう。しかし、運よく、その場に遅れて来た沢木、服部と合流、数も少なかった為に死傷者を出さずに済んだ。

 

響子の隊はオフロード車両二台に響子を含めた8人だったが、全員が手練れであると思われる雰囲気を纏っている。

 

「藤林少尉殿」

 

「何でしょう?十文字さん」

 

「車を一台お貸しいただきたい」

 

「どちらに行かれるおつもりで?」

 

「魔法協会支部へ、私も代理とはいえ、師族会議の一員です。協会への責任を果たさなければなりません」

 

「・・・分かりました。楯岡軍曹、音羽伍長。十文字さんを協会まで護衛なさい」

 

 

第3高校の代表団と応援団は、来る時に使ったバスで避難することに方針を決めていた。バスは国際会議場から離れた大型車両専用駐車場に待機している。しかし、駐車場についてバスを確認すると、バスはロケット砲の直撃を受けていた。幸い着弾点がずれバスの車体は無事だったが、タイヤがダメになっていた。

 

「先生」

 

「どうした吉祥寺」

 

「タイヤの交換を済ませましょう。もし、敵が来るようなら将輝たちに任せましょう」

 

「しかし・・・」

 

「ここは大型車両や特殊車両の専用駐車場です。簡単な整備の為の設備もあるみたいですからタイヤの予備くらいはあると思います」

 

「そ、そうだな、よし、手の空いた者はタイヤ交換の準備を」

 

 

あずさに率いられた集団は他校に遅れて地下シェルター入り口に到着。あずさは先にシェルターに避難している集団に扉を開けて貰う様に交渉をしていた矢先、後方でと十三束と警戒に当たっていた廿楽が叫んだ。

 

「皆さん、頭をかばって伏せて下さい!」

 

天井と壁にひびが入り、崩れ落ちてくる。巻き込まれれば全員が生き埋めになる最悪の結末が予想された。しかし、一校の生徒は生き埋めにはならなかった。見ればコンクリート破片の大きな塊が円弧上に噛み合い互いの重量を支えているおかげで中腰で立てる程度の空間ができている。

 

「(・・・そうか!ポリヒドラ・ハンドル!廿楽先生の魔法!)」

 

『ポリヒドラ・ハンドル』 構造物を三角錐や四角柱等の単純な多面体の集合体に抽象化し、その構成要素である仮想単純立体を操作することで大規模構造物の変化をコントロールする魔法。

 

「皆さん!早くこちらへ!」

 

あずさは即座に生徒達に移動を促すと同時に早く扉を開けるようにシェルターに訴えた。

 

 

天井崩壊に巻き込まれた平河千秋は驚きの余りへたり込んでいた。そんな彼女に手を差し伸べる十三束。

 

「何してんの!早く逃げなきゃ!」

 

「え、あ、うん」

 

「大丈夫?」

 

「うん、あ、あの・・・ありがとう」

 

「んっ?どういたしまして」

 

 

 

響子の部下に先導されて地下シェルターが設置されている駅前広場に辿り着いた真由美達はその惨状に言葉を失う。広場は大きく陥没。その上には巨大な金属の塊。

 

「直立戦車・・・一体どこから?」

 

広場陥没の原因であろう直立戦車。全高約3メートル半、肩高約3メートル、横幅約2メートル半、長さ約2メートル半の機体。市街地においても効率的に歩兵を掃討することを目的に元は東欧で開発された兵器。

 

「このっ!」

 

「花音、『地雷原』はまずいよ」

 

「そんなもの使わないわよ」

 

目の前の惨劇を起こした原因に沸騰した花音が五十里の制止を振り切って魔法を発動しようとした。

 

「えっ!?」

 

しかし、彼女の見据えた標的は僅かな間に真由美と深雪によって、穴だらけになって、白く凍り付いていた。

 

「流石ね二人共、私達が手を出す暇も無かったわ」

 

「地下の皆は大丈夫みたいです。誰かが生き埋めになっている形跡はありませんね」

 

どうやら幹比古は精霊を放って地下の様子を探っていた様だ。

 

「そうですか。吉田家の方がそう仰るなら確かでしょうね」

 

「それで、これからどうします?」

 

「そうですね、こんな所まで直立戦車が入り込んできてますから、事態は思ったより、深刻です。私としては野毛山の陣内に避難をお勧めしますけど」

 

「しかし、それでは、敵の攻撃目標になるんじゃ」

 

「でも、軍と別行動しても危険は減らないわよ」

 

「なら、野毛山に?」

 

「私は此処で、逃げ遅れた人の為に、輸送ヘリを呼ぶつもりよ。摩利は皆を連れて響子さんと一緒に・・・」

 

「お前一人で残るつもりか?」

 

「私も十師族の人間だからこう云う時くらい、使命を果たさないとね」

 

そんな真由美の決意に最初に声を挙げたのは摩利でなく、五十里だった。

 

「だったら、僕も残ります。百家も十師族程じゃありませんが良くしてもらってるので」

 

「啓が残るなら私も・・・ウチも百家だし」

 

「じゃあ、あたしも残って問題無し。千葉の娘だし」

 

「私も残ります。お兄様だけを戦わせるつもりはありませんから」

 

「わ、私も残って戦います」

 

「私もここに父の会社のヘリを呼ぶように手配するので残ります」

 

「俺はナンバーズじゃないですけど、下級生をおいて逃げるつもりないんで・・・」

 

「俺もです。こんな時の為に鍛えてるんで」

 

「私も戦えます」

 

「ウチはナンバーズじゃありませんけど、優遇して貰ってる点では同じです」

 

「私は、直接的な戦力にはなりませんけど、私の眼なら役に立つと思います」

 

「下級生が残ると言ってるのに、2人だけで逃げれないよなぁ~」

 

「そうですね、真由美さんは抜けてところもありますし、一人残すのは不安過ぎます」

 

啓・花音・エリカ・深雪・ほのか・雫・桐原・レオ・紗耶香・幹比古・美月・摩利・鈴音が次々にその場に残る事を宣言する。

 

「あ、あのねぇ~」

 

「頼もしいわね」

 

「御免なさい。響子さん、この子達、聞き分けが非常に悪いので」

 

「では、部下を置いていきます。くれぐれも無茶はしないこと」

 

「いや、それには及びませんよ」

 

突然、後ろから掛けられた聞き覚えのある声。

 

「あら、警部さん」

 

「げっ!和兄貴!?」

 

「軍の仕事は外敵の排除、市民の保護は警察の仕事。ここには我々が残ります。藤林さんは・・・藤林少尉は本体と合流を」

 

「・・・了解しました。千葉警部、後は宜しくお願いします」

 

響子は敬礼し、颯爽とその場を後にした。

 

大型特殊車両専用駐車場でゲリラ兵を相手にしていた三校生は、その過半数が吐き気を抑えられずに戦闘不能に陥っていた。戦闘の援護をしていた、一色愛梨と十七夜栞もいつの間にか援護から、生徒の介抱に回っていた。

 

「一条、少しは加減を・・・」

 

「先輩!何を寝ぼけた事言ってるんですか!加減なんてできる訳ないでしょ!」

 

将輝は先輩の批難に耳を貸さず、ゲリラ相手に拳銃形態の特化型CADを向ける。

 

『爆裂』一条家の秘術。対象物内部の液体を一瞬で気化する魔法。

 

将輝の目の前で紅の花が何度も咲く。『爆裂』を人体に行使した結果だ。血漿が気化し、その圧力で筋肉と皮膚がはじけ飛ぶ。紅の花の乱れ咲きはしばらく続いた。

 

侵攻部隊 偽装揚陸艦隊 内部

 

「シェルター確保に向かていた工作員。連絡途絶えました。直立戦車、応答無し」

 

彼らの作戦では、事前に潜り込ませていた工作員が人質を確保した処で、一気に機動部隊を投入する予定だったが、工作員の損耗が予想以上に激しい。特に国際会議場と周辺施設に差し向けた部隊は大きな損害が出ている。

 

「機動部隊を上陸させろ」

 

司令官は自国製の直立戦車と装甲車の出動を命じた。状況は刻一刻と変化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 参戦

横浜 桜木町駅前広場

 

「・・・で?何で和兄貴がここにいるわけ?」

 

「何で、とは心外な。心優しい兄が、愛する妹の手助けに来た事になんの不思議がある?」

 

「心優しい!? どの面下げてそんな空々しいセリフを」

 

「ダメじゃないか。エリカ。女の子がそんな下品な言葉を使っちゃいけないぞ」

 

「アンタが、あたしに、言えた義理か!」

 

「けど、手助けに来たのは本当だ」

 

「藤林さんを見つけた、ついで、でしょ!」

 

「折角、良いものを持ってきたのに」

 

「いらないわよ。そんなもの」

 

「先ずは物を見ろ、今のお前に必要な物だ」

 

「!! 大蛇丸! 何故ここに・・・」

 

寿和が差し出した細長い袋とシルエットにエリカは絶句した。

 

大蛇丸 全長180センチ、刃渡りだけで140センチ。千葉家が作り出した最強の武器。刀剣型武装デバイスの最高傑作の一つ。

 

「愚問だな。大蛇丸は『山津波』の為だけの刀。だが、『山津波』を使えるのはお前だけ、親父でもなく修次にも使えない。だから、これはお前の為の刀だ」

 

その頃、停止した直立戦車のコックピットには啓が乗っていた。

 

「何か分かった?」

 

「ダメですね。僕も詳しくは知りませんが、この機体は中古市場に出回ってる旧型でしょう。国籍を特定できる様なものも無いみたいですし」

 

「兵器に中古市場なんてるの?」

 

「戦闘機にだってありますよ。局地戦なら昔の兵器も現役だと思います。現時点で大亜連合の工作員の可能性が高いみたいですが、黒幕を特定するなら、直接パイロットに聞くのが一番でしょうね」

 

縛り上げられている直立戦車のパイロットを稲垣と摩利が尋問していた。

 

「どう?」

 

「ダメだな。・・・クソッ。こんなことなら、もっと、強い香水を持ってくれば」

 

「仕方ないでしょ。そんな事、言ったって」

 

「仕方ない。拷問でもするか」

 

「イヤ、それはちょっと・・・」

 

「大丈夫。一切傷痕を残さず苦痛だけを与える自信がある」

 

「そうじゃないでしょ。・・・取り敢えず摩利。貴女、少し休んだら」

 

「ぐっ!・・・そうさせてもらう」

 

そう言った摩利は近くのベンチに向かって歩いて行った。ベンチの近くでは鈴音とほのかが地図を広げていた。鈴音が端末に呼び出した地図をほのかが光を屈折させて投影している。その地図には、桜木町から山下町までの海岸通り地区の詳細が、そして、新たに、船と人の群れと街並みが映し出された。

 

「凄いな」

 

「あっ!渡辺先輩」

 

摩利の登場に一瞬映像がぼやけたが、すぐに、鮮明な映像が映し出された。

 

「何か分かりましたか?」

 

「イヤ、残念ながら全く、しかし、コッチは成果ありみたいだな」

 

「えぇ、光井さんの御かげで、現状における敵兵力と動向がおおよそではありますが把握できました」

 

「そんな・・・私のしたことなんて」

 

「謙遜するなこういう時には情報力が状況を左右するんだからな」

 

「ありがとうございます」

 

国際会議場で深雪達と別れた達也は大型装甲トレーラーの中にいた。

 

「どうかな」

 

「・・・流石ですね」

 

開発されたばかりのムーバル・スーツを前に真田に対して達也は正直な感想を述べた。

 

「サイズは合ってるはずだから、早速着替えてくれないか」

 

「分かりました」

 

「防弾、耐熱、緩衝、対BC兵器はもとより、簡単なパワーアシスト機能も設計どおりに付けておいたよ。飛行ユニットはべるとに、緩衝昨日と組み合わせて射撃時の反動相殺としても機能するように作ってあるから、空中での射撃も可能だ」

 

「設計以上の性能ですね」

 

「ありがとう」

 

「では早速だが、特尉は柳の部隊と合流してくれ。柳の部隊は瑞穂埠頭へ通じる橋の手前で敵の足止めをしている」

 

「柳大尉の現在位置はバイザー員表示可能だから」

 

「了解。それでは出動します」

 

達也は飛行魔法様用のCADのスイッチを入れ、軽く地面を蹴り、そのまま空へ駆け上がった。飛行魔法で出せる速度は、魔法師がこの魔法に何処まで習熟しているかで決まる。飛行魔法を一から作り上げた達也は誰よりもこの魔法を熟知している。

 

高速で過ぎていく景色。動体視力も鍛えている達也だが肉眼だけでなく、『精霊の眼』をレーダーとして併用し飛行中の障碍物に意識を配る事も忘れなかった。そのおかげで無人偵察機を発見。達也は偵察機の探知範囲外から分解魔法・雲散霧消を発動し、偵察機を消失させた。

 

達也が柳と合流した時、戦闘は既に終わっており、柳は負傷者の治療に当たっていた。

 

「特尉か、ちょうどよかった」

 

「負傷者の状態は」

 

「弾は抜いた。後を頼めるか」

 

「了解です」

 

達也はシルバー・ホーンを抜いて負傷者に向けて引き金を引いた。そして、負傷者の傷が無くなった。

 

ほのかの魔法で情報を得た鈴音は兵力が思ったより少ない事に気づいた。

 

「それにしては戦線が派手に広がってる気が」

 

「現状、戦線と呼べるものはありません。内陸部の戦闘は点でおこなわれています。潜入したゲリラ兵が交通と通信を混乱させ、上陸部隊が直接的な目標の制圧に当たる。・・・これが侵攻軍の基本戦術でしょう」

 

「敵の目標って何かな?」

 

「一つはやはり魔法協会支部、もう一つは海路で脱出を試みる市民を狙ってる様にみえますね。多分、人質が欲しいんでしょう」

 

「敵の目的に人質が入るなら、守りの薄いこっちにも来るかもしれないな。・・・よし、私は花音の方へ加勢に行ってこよう」

 

「あの、私も迎撃に回ります。フロントは無理でも、バックアップくらいなら」

 

「ダメよ。光井さんはヘリが来た時に手伝って貰わないと。それにみんなの役目は迎撃じゃなくて警戒よ。私達はプロじゃないから無理に戦う必要はないし、むしろ戦う事より逃げる事を考えるべきよ」

 

真由美の言う警戒チーム、もとい、迎撃チームは鈴音が予想した侵攻経路に二手に分かれていた。深雪・エリカ・レオ・幹比古のチームと寿和・啓・花音・桐原・紗耶香のチームだ。

 

 

大型特殊車両専用駐車場

 

ここでの戦闘は終息していた。

 

「もう終わりか?」

 

「これで終わりかどうかなんて僕達に分かるはずないよ。情報がないんだから」

 

「ジョージ」

 

「タイヤの交換が終わったよ。早くこの場を離れよう。将輝も早くバスに戻って」

 

「ジョージ、俺はこのまま魔法協会支部に向かう」

 

「何言ってるんだよ将輝!無茶だ。第一何のために」

 

「援軍に加わる為だ。この状況を協会の魔法師が座視してるはずがない。義勇軍くらい組織して防衛線に参加してるに決まっている」

 

「だからって」

 

「俺は『一条』だからな。協会に対する責任だってある。知らないフリして逃げる訳にはいかないんだよ。一条の長男としては」

 

「だったら、僕も行くよ」

 

「勿論、私も行くわよ」

 

「私も、じゃなくて『私達も』でしょ、愛梨」

 

将暉と真紅郎の会話に突然混ざる声。その主は一色愛梨と十七夜栞。

 

「はぁ~お前等まで。この街は、まだ戦場だ。何が起こっても不思議じゃない。正直言って、先生や先輩達だけじゃ無事に脱出できるか心配で集中できない。信頼できて、頼れる仲間がいないと」

 

「・・・分かったよ、将輝。皆は僕達が無事に脱出させるから、将輝も無事に帰って来て」

 

「あぁ」

 

「無理はしちゃダメよ一条君」

 

「金沢で待ってるわ」

 

「あぁ、行って来る」

 

そう言って、将輝は更なる戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 駅前広場攻防戦

第一高校警戒チームで、最初に敵の接近に気づいたのは幹比古だった。

 

「! 来た」

 

風に乗せてばらまいた呪符により喚起された精霊が敵の映像を送ってきたようだ。

 

「直立戦車・・・さっきのとは違って随分、人間的な動きだ」

 

「人間的?」

 

「もうすぐ見える・・・そこ!」

 

幹比古の声と共に、ビルの陰から直立戦車が姿を見せる。無限軌道を備えた短い脚部。前後に長い胴体部。右手にチェーンソー、左手に火薬式の杭打ち機。右肩に榴弾砲、左肩に銃機関銃。

 

だが、直立戦車が視界に入ると同時に、深雪が魔法を発動する。3輌の機体の足が止まる。しかし、深雪の魔法は行動停止を目的とした凍結魔法だけではない、『凍火(フリーズ・フレイム』との同時行使で火器の機能も停止した。

 

火器が封じられたと見るや、レオが飛び出す。手にする獲物は、双頭ハンマーに似た短いスティク。全長約50センチ、グリップが約30センチ。ハンマーヘッドから突き出た先端、約10センチ。ヘッド部分がモーターの駆動音を立て、スティクの先端から薄く、黒いフィルム。モーター音が止まった直後、フィルムが2メートルの刃に変わる。そして、鋭い刃が凍り付いた装甲板を切断する。

 

『薄羽蜻蛉』 硬化魔法により完全平面状に固定された、カーボンナノチューブ製シートの刀身。千葉一門の秘剣。術の名であり、特殊武装デバイス。

 

更に、エリカの大蛇丸が振り下ろされ、装甲が断ち切られる。

 

加重系・慣性制御魔法『山津波』 自分と刀に掛かる慣性を極小化して敵に高速接近し、インパクトの瞬間、消していた慣性を上乗せして刀身の慣性を増幅し対象物に叩き付ける秘剣。

 

もう一方の警戒チームも直立戦車相手の戦闘に突入していた。此処では五十里が予め地下3メートルの地層に振動を遮断する壁を作って、地面を媒体とする魔法が得意な花音のサポートと同時に索敵も行っていた。

 

「来たよ」

 

現われた2輌の直立戦車に向かって花音が魔法を発動する。

 

『振動地雷』 千代田家の『地雷原』のバリエーションの一つ。地面を液状化し、敵の足を止める魔法。

 

そこに、寿和の秘剣『斬鉄』を極限まで昇華させた『迅雷斬鉄』。桐原得意の『高周波ブレード』。更に紗耶香の小太刀による投剣術が装甲を切り裂いた。

 

 

 

達也は柳の部隊が戦闘で破壊した装甲車の残骸をあさっていた。そして、その中から一辺30センチ程の立方体の箱を取り出した。

 

「これですか」

 

そう言って、達也はディスプレイの中の真田に向けた。

 

「そう。それが『ソーサリー・ブースター』だよ」

 

「只の箱に見えますが」

 

「接続も操作も百パーセント呪術的な回路で行われるから、機械的な端子は存在しないんだ」

 

「装甲車の対物防御魔法はブースターで増幅されていたということか?」

 

「そうだと思う」

 

「敵の正体がハッキリしたな」

 

「なら、大亜連合の偽装戦闘艦を堕としますか?」

 

「港内ではマズいよ。港湾機能に対する影響が大き過ぎる」

 

「なら乗り込んで制圧か?」

 

「それは後回しだ。それより、桜木町駅前広場で民間人が避難民用のヘリを手配している。現在地の監視は鶴見の部隊に引き継いで、駅に向かい民間人の脱出の援護をせよ」

 

「了解しました」

 

「それと、ヘリを呼んだ民間人は七草 真由美・北山 雫だ。両名から要請があったら助力は惜しまない様に」

 

最後の風間からの報告に達也は咳き込みそうになった。

 

 

 

敵の正体に関しては深雪達も同じ推測に至っていた。

 

「この直立戦車、機械的なコントロールだけで動いてたんじゃないと思うんだ」

 

「つまり、何らかの術を併用していたということですか?」

 

「ええ、そうです」

 

「それって、どんな魔法?」

 

「多分、剪紙成兵術の応用だ」

 

「・・・?」

 

「それって陰陽道系の人型使役術式じゃ・・・元は道家の術だとか」

 

「そうです。紙を人の形に剪み切り、精霊を宿して兵と化す術」

 

「じゃあ、相手は大亜連合?」

 

「そうだと思う」

 

 

 

「えっ?柴田さんに来て欲しい?・・・まぁ理由は分かりました。でも一応、本人の意思を確認してから・・・そうですね。直接説明した方がいいでしょう。柴田さん。ちょっと」

 

「・・・?何でしょう?」

 

「深雪さん達から連絡があって、柴田さんに来て欲しいそうです。理由は直接説明するとのことですから、それを聞いた上で判断して下さい」

 

「あっ!柴田さん?」

 

「吉田君?」

 

「柴田さん、君の力を貸して欲しい!」

 

「えっ? 力って?」

 

「敵は古式魔法で機甲兵器を動かしてるんだけど、僕の使う魔法とは性質が違うから敵の術式をうまく捉えられないんだ。でも柴田さんの眼なら敵の動向を僕より早く捉えられることができるだろうし、魔法の核となっている部分も見つけられる筈なんだ。核さえ見つかれば僕の魔法で敵の魔法を無効化できる。だから、柴田さんにこっちに来て欲しい。勿論、今いる場所より危険だけど、僕が守るから」

 

「-っ!」

 

「良かったわね美月。フフッ。吉田君が守ってくれるそうよ?」

 

「-っ!」

 

「-っ!!」

 

「勿論、私も二人の空間に邪魔者を入れないように頑張るから」

 

「と、兎に角、ディフェンスは全員でカバーするから」

 

「わ、わかりました。今からそちらに向かいますね」

 

美月は真由美に一礼して幹比古たちの元へ駆け出した。

 

 

美月が幹比古達の元へ駆け出して、しばらくすると雫の端末に着信があった。

 

「黒沢さん・・・うん、そう」

 

雫が通信を切るとほぼ同時にヘリのローター音が聞こえて来た。

 

「七草先輩。ウチのヘリがもう直ぐ来ます」

 

「分かりました。北山さんは女性と子供連れの家族を優先して収容して下さい。稲垣さんは同じヘリに乗ってサポートをお願いします。私も市原と手伝いますので。光井さんは周囲の警戒をお願いします」

 

北山家のハウスキーパーである黒沢が上空に姿を見せ、着陸しようと高度を落としている時、突如、季節外れのイナゴの大群が現われた。たかがイナゴといえどエンジンの吸気口に飛び込まれては厄介なことになる。

 

「なんでこんな時に?」

 

「もしかして、あれって、化成体?」

 

不自然な現れ方をしたイナゴに向けて、雫はポーチから取り出したCADを空に向ける。

 

小型拳銃方の銀色のCAD。九校戦後に達也から購入したシルバーモデル。インストールされているのはループ・キャストの『フォノン・メーザー』

 

「ダメ。数が多すぎる」

 

雫が空に向かって引き金を引く度にイナゴの群れは消えていくが、それは大群のほんの一部に過ぎなかった。排除しきれないイナゴの大群が遂にヘリに迫った。ほのかもそれに気づいてはいるが、彼女の魔法は敵の迎撃に向いていないし、雫の魔法との相克を恐れ、手が出せない。

 

イナゴの群れが減りに取り付くのが見えた、その時、イナゴの大群は消え失せた。そして、それと同時に黒尽くめの人影が、銀色のCADを構えて浮いていた。

 

「達也さん・・・?」

 

そして更に黒尽くめの人影は増え、一つの集団を形成し、ヘリを守る様に陣を組む。ヘリは再び降下を開始した。

 

「化成体による攻撃を撃退。ヘリの降下を援護します」

 

「護衛は他に任せ、特尉は術者の探索、これを排除せよ」

 

「了解」

 

柳の指示を受け、達也は眼を凝らして引き金を引いた。

 

「何者ですかね、彼らは」

 

気味悪そうに尋ねた稲垣に真由美は一言。

 

「味方です」

 

と、短く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 反撃開始

雫と稲垣を乗せたヘリが無事飛び立った後、遅れて真由美の呼んだヘリが到着。到着したのは軍用の双発ヘリ。雫の手配したヘリよりも一回り大きい。真由美はヘリの大きさを見て、残りの市民の収容も問題無いと踏んだ。ただ、ヘリは一機ではなかった。もう一機、戦闘ヘリが随従していた。そして、真由美の通信ユニットに着信があった。

 

「真由美お嬢様、ご無事でいらっしゃいましたか?」

 

「問題ありません。名倉さんはどちらに?」

 

「私は戦闘ヘリの方に、お嬢様もこちらで脱出するよう旦那様から仰せつかっております。」

 

「・・・分かりました」

 

真由美は通信を切る。そして、

 

「じゃあ、りんちゃん。ヘリも来たし、残りの市民の収容を終わらせましょうか?」

 

「そうですね」

 

真由美の声に鈴音が振り返る。しかし、その時、

 

「動くな!」

 

背後から鈴音の首に腕を巻き、もう片方でナイフを突きつける男。

 

「・・・成程、この為の布石でしたか」

 

「頭の回転が速いな」

 

「機動部隊で戦力を前方に引き付け、更に脱出を待って人数を減らせるだけ減らした後、ターゲットを確保するとは、なかなか手の込んだ真似を」

 

「最初から、脱出を許すつもりは無かったが・・・支障のない作戦に切り替えただけのこと」

 

「私を狙ったのはエネルギー供給の安定化の為ですか?」

 

「それだけではない、不甲斐ないが、本作戦に先立ち大勢の仲間が高速されている。お前にはその開放の人質になってもらう」

 

「私一人では政府は動きませんよ」

 

「そうでもあるまい。-動くなと言った」

 

後ろ手にこっそりとCADを操作しようとした真由美に警告を放つ。真由美は諦めて両手を挙げた。

 

「若い娘を人質に取れば日本政府は動くだろう」

 

「その後は私を本国へ拉致する手筈ですか?」

 

「そうだ」

 

「しかし、それでは、人質交換にはならないのでは?」

 

「それは・・・お、お前、何をした?」

 

そこまで、喋って、男はようやく自分がしゃべり過ぎている事に気が付いた。イヤ、そもそも、いくら人質を取っていても悠長に会話していた自分が信じられなかった。

 

「作戦は悪くなかったですが、ターゲットが良くありませんでした」

 

鈴音は顔の前のナイフをどかし、首に巻かれた腕を解く。

 

「私はCADを使った魔法こそ平凡ですが、無媒体で行使する魔法なら目の前のお嬢さんより上なんですよ」

 

「か、身体が・・・」

 

「随意筋を司る運動中枢を麻痺させました。貴方の身体はしばらく自由に動きません」

 

「く、クソッ」

 

「難点は効力が表れるまでに時間が掛かることですが、貴方がおしゃべりな方で助かりました。あぁ、言っておきますが、貴方が口を滑らせたのと、私が使った魔法とは無関係です。要するに貴方が軽率だということです」

 

そう言いながら、鈴音は冷たい笑みを浮かべ、立ち去った。

 

その頃、一条将輝は中華街の手前で義勇軍に加わっていた。敵が往来する真っただ中を、真紅の花を咲かせながら侵攻軍と交戦中の集団に合流した。将輝はここに来るまでに『爆裂』連発で消耗していた。その上、敵は既に機甲兵器の攻撃から魔法攻撃に切り替えている。『爆裂』は機甲兵器には有効でも、古式魔法によって作られた幽鬼の幻影には意味をなさない。将輝は得意魔法を封じられた状態で幻影の攻撃を凌ぎながら敵の魔法師を探していた。

 

駅前広場ではようやく、残りの市民の搭乗が完了していた。

 

「じゃあ、リンちゃん。頼んだわよ」

 

「真由美さんも無理はしないで下さい」

 

鈴音と市民を乗せたヘリが上昇する。その周りを黒の兵士が守る。ヘリが安全高度に上昇すると黒の兵士は海岸方面に飛び去った。

 

「私達も行きましょう。深雪さんたちと摩利たちと合流しなきゃ」

 

 

達也は鈴音の乗ったヘリと真由美の乗ったヘリを黙って見送った。

 

「(しかし、市原先輩があの「一花」の人だったとは)」

 

鈴音の使った魔法は一花が番号を剥奪されエクストラとなった原因。あの魔法は一花家の先天的な素質に大きく依存するもの。彼女が一花の血をひくものであるのは間違いないだろう。

 

「北山雫・七草真由美の搭乗を確認。取り残された市民もいません」

 

「了解した。護衛対象の戦闘領域離脱を確認後、隊へ合流してくれ」

 

「了解です」

 

 

魔法協会の組織した義勇軍は後退を余儀なくされていた。対峙した部隊が主力部隊だったからだ。装甲車と直立戦車の混合部隊。また、義勇軍にとって何より厄介なのがその部隊に同行している多数の魔法師。

 

『禍斗』と呼ばれる犬に似た魔物を真似た化成体、と『畢方』と呼ばれる鶴に似た魔物を真似た化成体を形成する古式魔法が義勇軍に襲い掛かる。

 

「クソッ! 後退だ!」

 

「防衛ラインを立て直す」

 

後退を決意した義勇軍。しかし、後方から響く声が、

 

「後退するな!」

 

そう言って、後退しようとしていた義勇軍に一喝したのは克人だった。克人が現われたと同時に襲って来た化成体が押し潰されて消える。

 

「奮い立て!魔法を手にする者達よ。卑劣な侵略者から祖国を守るのだ!」

 

その声と同時に一台の直立戦車が潰れる。そしてもう一台。残りの直立戦車が克人に機銃を向けるも『ファランクス』には意味をなさなかった。克人の参戦で戦況が逆転した。

 

 

一方、幻影の攻撃に手を焼いていた将輝は魔法師を探すのを止め、敵を纏めて鏖殺する方向に切り替えた。

 

『叫喚地獄』 体液を振動させ熱っする加熱魔法。

 

『叫喚地獄』は情報強化を纏っていれば効きにくい。逆に言えば『叫喚地獄』を喰らっても生き残っているのが魔法師ということになる。

 

「(見つけた)」

 

逃走する魔法師に向け、特化型CADの引きがねを引く。敵の魔法師は降伏する暇なく将輝に打たれた。

 

将輝の魔法で義勇軍が勢いをとり戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 摩醯首羅

桜木町駅前に取り残された市民が脱出を完了させた頃、深雪のいる迎撃チームは時間が経つごとに敵との交戦が散発的なものとなっていた。

 

「先輩がヘリで迎えに来てくれるそうよ」

 

「ありがてぇ」

 

「脱出の目処が付いて良かったです」

 

そして、ヘリのローター音が聞こえて来た。

 

「あっ!来たんじゃない?」

 

しかし、いつまで経ってもヘリはその姿を見せない。音は真上から聞こえるのに影も形も無い。深雪はそこに真由美達の存在を認識しているが姿が見えない。すると、深雪の端末に真由美からの着信があった。

 

「深雪さん。悪いけど狭くて着陸できないの。ロープを降ろすから、それに掴まって」

 

そして、何もなかった頭上からロープが五本降りて来た。良く見るとロープの端で陽炎が揺らめいている。

 

「・・・フフッ。光学迷彩・・・思った以上に器用ね、ほのか」

 

深雪達の収容はスムーズに進んだが、摩利達の収容には時間が掛かりそうだった。ライフルとミサイルランチャーを主兵装とする魔法師部隊からの猛攻撃を受けていたからだ。真由美は摩利たちの姿を確認すると即座に援護に入った。

 

『魔弾の射手』 ドライアイスの弾丸が音速でゲリラ兵に襲い掛かる。真由美の魔法は5分も掛からずその場を制圧した。

 

「お待たせ、ロープを降ろすから上がって来て」

 

「すまん、頼む」

 

ヘリに向かって歩き出す摩利達、摩利はロープを手に取ると残りの4人に声を掛ける。

 

「お前達、早くしろ」

 

摩利の目にはロープを目指して向かって来る四人の姿とその後方から彼らを狙うゲリラ兵の姿を捉えた。

 

「危ない!伏せろ!」

 

最後の抵抗だろうかゲリラ兵がライフルを構えた。放たれた銃弾が摩利の後ろから来ていた二年生達に襲い掛かる。最初に動いた桐原は紗耶香を突き飛ばし、高周波ブレードを発動する。奇跡的に胸を狙った銃弾は防げた。しかし、カバーができたのは上半身だけ、桐原の脚を狙った銃弾は防げなかった。桐原の右脚は太腿から下が千切れ飛んだ。

 

「桐原君!」

 

「啓!」

 

また、すぐ近くでは啓が花音を庇って撃たれた。背中から流れ出す大量の血。恐らくは致命傷。

 

「啓!啓!」

 

「しっかりして桐原君」

 

泣きすがる二人の少女。摩利はその光景を見ながら防げなかった自身と、この惨劇を生み出したゲリラ兵に怒りを覚えた。

 

「貴様ら!許さん」

 

摩利はゲリラ兵に魔法を発動しようとした。しかし、それは叶わなかった。理由は直ぐに理解させられた。深雪の巨大過ぎる干渉力が摩利の魔法発動を許さなかった。ヘリから飛び降りた深雪はCADも持たずに自然な動作で着地する。そして、右手を前に掲げ指をパチンと鳴らす。それだけでゲリラ兵の動きが完全に止まった。

 

深雪がゲリラ兵の動きを止める為に使った魔法は振動減速系魔法『ニブル・ヘイム』ではない。深雪は一校の皆に『ニブル・ヘイム』や『氷炎地獄』(インフェルノ)簡単に言えば冷凍魔法が得意と見られているが、それは間違いだ。確かに深雪は冷凍魔法を得意としているがそれは深雪にとって、最も得意な魔法ではなかった。深雪の最も得意としている魔法。それは冷凍魔法ではなく精神干渉魔法だった。

 

深雪がゲリラ兵の動きを止める為に使った魔法。系統外・精神干渉魔法『コキュートス』

 

深雪の魔法はゲリラ兵の肉体ではなく精神を凍らせた。一度凍り付いた精神は二度と蘇る事は無い。その事実は既に実証済みだ。凍り付いた精神は死を認識できなくなる為、肉体に死を命じることができない。凍り付いた精神に縛られたゲリラ兵たちの身体は死ぬこともできず、最後の姿勢のまま彫像と化して転がった。

 

深雪が何をしたのかを説明できる者はその場には居ない。ただ、何をしたのかは嫌でも覚ってしまう。その場にいた全員が精神を失う恐怖を覚えた。だが、深雪はそんな事を気にせずに顔を上げ、最も信頼している人物の名を呼んだ。

 

「お兄様!」

 

その視線の先には見覚えのある黒の兵士。達也だった。達也は珍しく険しい顔つきで啓の傍に駆け寄る。

 

「お兄様!お願いします」

 

達也は左腰からCADを抜いた。

 

「何するの!?」

 

啓に向けられたCAD。引き金を引くと変化は突然に現れた。啓の身体には傷一つ無く、服を塗らした血の後も消えていた。達也は次にCADを桐原に向けた。達也が引き金を引くと引きちぎれていた筈の桐原の右脚が何事も無かった様に戻っていた。その結果を見ると達也はすぐさま飛び立った。

 

魔法協会支部のある丘の北側で攻勢を押し返された侵攻軍は、兵力を南側に迂回させて最後の攻撃を試みた。人質に確保は既に断念している。また、長期の占領が可能な兵力も残っていない。せめて協会の魔法技術データを奪取し、その上で魔法師を一人でも多く殺して、この国の戦力を殺ぐ、というのが彼らの下した最終的な決断だった。

 

兵力を南に迂回させたのは防衛側に機動力が無いという推測に基づいた作戦だった。装甲車と直立戦車のみの別動隊は静かに魔法協会支部に近づいていた。しかし、その途中で行く手を阻まれた。頭上からの一斉射撃。現れたのは独立魔装大隊の飛行兵部隊。

 

しかし、侵攻軍も無抵抗ではなかった。空に機銃を向け黒の飛行兵を吹き飛ばす。何度も、何度も。激しい銃弾の撃ち合いの最中、本来なら両軍等しく戦力は減っていく筈だった。しかし、戦力が減っていくのは侵攻軍だけだった。飛行兵は一向に兵数が減らなかった。致命傷を与えた倒れた筈の兵士。しかし、隣の同じ黒の兵士が左手の銀色のCADを向けると致命傷を負った筈の兵士がが難なく起き上がる。そして、右手のCADは直立戦車に向けられている。黒の兵士が引き金を引くと、直立戦車が消え失せる。

 

その右手を向けられた物は全て塵となり消え失せる。

 

Divine Left

 

その左手を差し伸べられた者は死の淵から蘇る。

 

Demon Right

 

その悪夢を見せつけられた侵攻軍の一人が呟いた。

 

「・・・摩醯首羅!・・・」

 

悲鳴が電波に乗って広がった。そして、秩序が乱れ部隊はパニックに陥った。だが、そのパニックは何時までも続かなかった。パニックが終わる事、それが表わすのは彼らの全滅。

 

侵攻軍の司令部の空気は深刻だった。

 

「別動隊が全滅!」

 

「飛行魔法を使った空挺部隊の奇襲を受けたようで・・・」

 

「・・・」

 

「それと・・・」

 

「何だ?」

 

「未確認ではありますが、別動隊の交信の中に『摩醯首羅』という声が」

 

「バカな!あり得ん」

 

「別動隊には3年前の戦闘に参加した者もおります」

 

「質の悪い戯言だ」

 

3年前沖縄で彼らに敗北をもたらした存在。捕虜交換で帰還した兵士の間で囁かれた異称。上層部はその存在を否定し、その名を口にする事を禁じた。葬り去った筈の悪夢。だが、いくら口で否定しようと悪夢は現実となって彼らに牙を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 達也の魔法 『再生』

義勇軍の一員として戦闘に参加していた一条将輝は中華街の北門に立っていた。敵が中華街に逃げ込んだからだ。

 

「門を開けろ!さもなくば、侵略者に内通していたものと見做す」

 

将輝は強行突破を考えていたが、そうはならなかった。将輝の問いかけから僅かな時間で門が開いた。門を開けて出てきたのは将輝よりも年上であろう青年を先頭にする一団。彼らは拘束した侵攻軍兵士を連れていた。

 

「周 公瑾と申します」

 

「・・・その名は確か・・・三国志の」

 

「本名ですよ」

 

「失礼した。一条将輝だ」

 

「私達は侵略者と関係していません。それをご理解いただく為に協力をさせていただきました」

 

将輝は周公瑾と会話しながらも油断ならない、という印象を持った。

 

沿岸部から内陸へ脱出する深雪達を乗せたヘリは沈黙に包まれた。だが、その沈黙に何時までも耐えられるものでもない。

 

「自分の身に起こった事なのに・・・まだ信じられないよ」

 

「いっそ、全部幻覚でしたって言われた方がまだ納得できるぜ」

 

「でも、幻覚じゃない。僕が死にかけたのも、君の脚が千切れたのも事実なんだけど・・・」

 

啓も未だ困惑しているようで言葉が続かない様だ。

 

「・・・司波、これだけは教えてくれ」

 

「何でしょう?」

 

「達也君の魔法は、どの程度効果が持続するんだ」

 

魔法による治療は一時的なもの。それが治癒魔法の鉄則。効果が持続する内に何度も掛けなおし、傷を欺くことで少しずつ直していく。持続時間が短ければ、直ぐにでも新た治癒魔法を掛けなおさなければならない。

 

「安心してください。もう、これ以上の治癒魔法の重ね掛けは必要ありません。お二人は何も気になさらず、いつもの生活ができますよ。勿論、運動の制限もありませんからご安心下さい」

 

「・・・そんな事が可能なのか?」

 

「信じられませんか?」

 

「イヤ、信用してない訳じゃないけど」

 

深雪の説明で納得できない者は一人ではなかった。

 

「啓を救ってくれたことは感謝してるけど・・・一度で完治する魔法なんて聞いたことがないわ。そんなの、治癒魔法の基本システムに反してる」

 

「お兄様が使ったのは治癒魔法ではありませんよ。第一、お兄様は碌な魔法が使えない劣等生ですし」

 

「なんっ!貴女こんな時にそんな言い方。じゃあ、碌な魔法が使えない貴女の御兄さんは何をやったの!」

 

「ちょっと二人共。深雪さん。気を悪くしないでね?花音ちゃんも五十里君の事が心配なだけで」

 

「分かっています。気にしていません」

 

「しかし、何をやったのかは気になる。治癒魔法でないなら、一体何を・・・」

 

「ちょっと!摩利!他人の術式を詮索するのはマナー違反よ!」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、構いません。お気になさるのは当然でしょう。これから、お兄様が何をしたのかはお話します。本来ならば話してはいけない秘密ですが、既にお兄様の秘密が一つバレているのですから、私が勝手に話してもお兄様は何も言わないでしょう」

 

「他言はしない」

 

「誰にも言わないわ」

 

「今から聴く事の一切を秘密とします。名倉さん貴方もよ」

 

「・・・そこまで大袈裟にしなくていいですよ」

 

真由美が何を約束しようと直ぐに七草家の耳に入るだろう。名倉は深雪の力も達也の魔法も、その眼で見ているのだから。いずれ当主の弘一に今日の出来事を話すに決まっている。それに何ができるか分かった以上、どうやったのかを隠しても意味はない。

 

「(まぁ、話した所で理解は出来ても、お兄様と同じことはできないのだから)」

 

「お兄様が使った魔法は、治癒魔法ではありません。お兄様が使われたあの魔法。私やお兄様の力を知っている人たちの間では、あの魔法を『再生』と呼んでいます」

 

「再生?」

 

「エイドス(情報体)の変更履歴を最大で24時間遡り、外的な要因により損傷を受ける前のエイドスをフルコピー、それを魔法式として現在のエイドスを上書きする。それにより、上書きされた対象は損傷を受ける前の状態に復元される。・・・それがお兄様の力」

 

「・・・じゃあ、達也は、どんな傷でも一度で治せるってことですか?」

 

「表現するなら一度ではなく、一瞬で、です。それに『再生』は対象物を選びません。人体だろうと機械だろうと一瞬で復元します」

 

深雪の回答に言葉を失う幹比古。

 

「この魔法の所為で、お兄様は他の魔法を自由に使うことができません。魔法領域をこの力に占有されている所為で、他の魔法を使う余裕がないんです」

 

「・・・それで達也君は、あんなにアンバランスなのね」

 

「まぁ、あんな高度な魔法が待機していては他の魔法が阻害されてもおかしくない」

 

深雪は真実の半分しか語っていない。無論、残り半分を語るつもりは全くないのだが、先輩達が都合のいい勝手な誤解をしてくれたことは助かったと深雪は思った。

 

「でもそれって凄いじゃない。24時間以内に受けた傷なら、どんな重傷でも無かった事になるんでしょう」

 

「そうだね。災害現場・野戦病院、どこの現場でも、その需要は計り知れない。司波君の魔法は何千・何万の人の命を救うことができる」

 

「そうよ。それに比べたら、他の魔法が使えないなんて些細な事よ。こんなすごい力を何故秘密にしてるの?だって大勢の命を救えるんだよ。命を奪う事で得た名声じゃなくて、命を救う事で得た名声なんて、本物のヒーローじゃん」

 

「まぁ、司波君は騒がしいのが苦手みたいだし・・・」

 

花音と啓のセリフに悪気がある訳でない。二人共、今が沈んだ空気を変えるチャンスだとでも思っていたのだろう。だが、2人の目論見は深雪の一声で出敗に終わる。

 

「フフッ・・・ありとあらゆる負傷を無かった事にする。そんな魔法が何の代償も無く使えるとお考えですか」

 

「・・・ッ」

 

「エイドスの変更履歴を遡ってコピーする。その為にはエイドスに記録された情報を読み取っていく必要があります」

 

深雪の相変わらずの冷たい声。その場にいた全員が寒気を覚えた。

 

「当然、負傷した方の味わった苦痛もその情報の中に含まれます。情報を読み込む際、他人の受けた苦痛を精神が認識してしまう。しかもそれが一瞬にしてやって来る。今回の件で言えば五十里先輩が負傷されてからお兄様が再生を使うまで、およそ30秒の時間が経過していました。そして、お兄様がエイドスの変更履歴を読みだすのに掛けた時間は0,2秒。この刹那の時間にお兄様の精神は五十里先輩と同じ苦痛ではなく百五十倍に凝縮された苦痛を体験されているんです」

 

五十里たちは達也の魔法発動速度にも驚いたが、百五十倍という言葉に縛り付けられた様だ。

 

「百五十・・・」

 

「負傷した時間が長ければ、それだけ苦痛は凝縮されます。1時間前の負傷を取り消すには、本人は負傷者の一万倍以上の苦痛に耐える事になります。果たして、そんな事をして使用者は己の自我を保つことができるでしょうか?」

 

「・・・」

 

深雪の問いかけに誰も答えようとする者いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 最後の私闘

事態が終息に向かって動き出していた頃、密かに魔法協会関東支部に向かうトレーラが一台。そのトレーラーの中には大亜連合特務部隊上校 陳 祥山と彼が信頼する呂剛虎を含む部下20名が乗り込んでいた。

 

「我々はこれより作戦案二号を実行する」

 

 

 

真由美たちを乗せたヘリを覆う重苦しい空気は美月によって破られた。

 

「どうしたの?美月」

 

「えっと、ベイヒルズタワーの辺りで、野獣のようなオーラが」

 

「野獣?」

 

幹比古が確認の為に呪符を使ってベイヒルズタワー周辺を視た。

 

「あっ!敵襲」

 

「本当に?」

 

「でも敵は義勇軍が押し返してるんじゃ」

 

「少人数による背後からの奇襲です。凄い力を感じます。戻りましょう。協会が危ない」

 

「真由美お嬢様。協会より十師族共通回線に緊急通信が」

 

通信機からは協会員の助けを求める声が、如何やら長くは持たない様だ。

 

「名倉さん、協会にヘリを向けて」

 

「畏まりました」

 

陳の率いる奇襲部隊はバリケードを次々に突破して協会に迫っていた。その様子を上空から見ていた真由美たち。また、摩利は奇襲隊の中で一番目立つ白い甲冑の兵士を見て愕然とした。

 

「何でアイツが!」

 

「あの時の・・・呂剛虎だっけ?・・・逃げられちゃったんだ」

 

「呂剛虎!?」

 

「知ってんのか?」

 

「えぇ、強敵よ」

 

「へぇ~」

 

一方、押し寄せて来る部隊を見下ろしていた深雪がCADを手に取る。しかし、それは真由美に止められた。

 

「深雪さん!? ストップ。ストップ」

 

「何ですか?」

 

「深雪さん、何するつもり?」

 

「あぁ、心配しないで下さい。一撃で終わりますから」

 

「・・・だ、ダメよ。万一打ち漏らしがあったら深雪さんの責任になっちゃうから」

 

「・・・(打ち漏らしなんてする訳ないじゃない)では私は何を?」

 

「深雪さんは支部のフロアを守って、これは貴女にしか頼めないわ」

 

「承知しました」

 

「桐原君と壬生さんは深雪さんと柴田さんの護衛を」

 

「はい」

 

「了解です」

 

「五十里君と花音ちゃんと吉田君であの白い鎧以外の敵を抑えてくれる?」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

「任せて下さい」

 

次々に指示を出していく真由美。そして次に摩利に視線を移す。

 

「摩利」

 

「分かっている。あの男は私達で倒す。エリカ・西城、お前達にも手伝って貰うぞ」

 

「言われなくても」

 

呂剛虎はバリケードを破り協会に迫っていた。そして彼は最後のバリケードの前で憎むべき小娘と再会した。呂剛虎は思いがけない再戦の機会に歓喜し、摩利に襲い掛かった。

 

摩利は協会で調達した三節刀を右手構え、左手にCAD。腰には小刀2本と様々な薬品のシリンダー容器を挿したベルトを巻き、戦闘用スーツを身に纏っている。

 

摩利に襲い掛かろうとする呂剛虎に横からエリカが『山津波』で切り掛かる。躱しきれないと悟った呂剛虎は両手腕を掲げ大蛇丸を受け止める。すると背後からのレオの奇襲。『薄羽蜻蛉』で両足を刈り取ろうとする。呂剛虎はそれを躱しレオに反撃を試みる。しかし、それは真由美の魔法で阻まれてしまう。再度レオが攻撃に移る。今度は魔法を使った一撃。

 

「パンッツアー」

 

しかし、レオの音声入力の前に呂剛虎の双手突きが決まり、レオはバリケードの車両に激突させられた。エリカも再度、『山津波』で切り掛かる。呂剛虎はそれを鮮やかに躱す、しかし、エリカもそれで終わらない。

 

『山津波・燕返し』 慣性を復元せず振り下ろし、切り返しと同時に慣性を戻す。

 

しかし、重さはあっても、速度の足りない斬り上げでは、呂剛虎には意味をなさない。エリカは呂剛虎の掌打の反撃を受け、レオと同じくバリケードに激突した。

 

呂剛虎は直ぐに意識を摩利へ戻した。だが、その僅かな時間が両者にとって命運を分けた。呂剛虎が摩利を視界に収めた時、摩利は既に、右手を振り抜いていた。その指に挟まれた三本のシリンダー容器を見て、呂剛虎は物理的に息を止めた。自分に苦杯を嘗めさせた術式を忘れてはいなかった。摩利の気流操作で容器から飛び散った薬品が混じり合う事でその効果を発揮する。酩酊感を与える刺激が呂剛虎を襲う。しかし、対毒訓練を経ている呂剛虎は直ぐにそれを克服する。しかし、その時には既に、三節刀が迫っていた。呂剛虎はそれを回避しつつ、摩利を蹴り上げる。摩利の身体が簡単に吹き飛んだ。

 

摩利を蹴り上げる際、彼の目は上空に白い塊を捉えていた。子供の拳大の目に見える速度で落下してくるドライアイス。呂剛虎はそれを掌打で迎え撃つ。ところが、彼の拳と接触する直前、ドライアイスは二酸化炭素に戻った。気化膨張による衝撃波が呂剛虎を襲う。

 

『ドライ・ミーティア』 二酸化炭素の収束・凝結・加速・昇華の四工程からなる魔法。衝撃波と二酸化炭素中毒で敵を行動不能にする術式。

 

こうして、世界屈指の近接戦闘魔法師は、十代にして世界屈指の遠隔精密射撃魔法の使い手、七草真由美の切り札『ドライ・ミーティア』で止めを刺された。

 

 

 

 

陳 祥山は魔法協会支部へと通じる廊下を一人進んでいた。一階からエレーベーターもエスカレーターも使わずに普通の足取りで進んでいるのにも関わらず、彼はここまで誰にも見咎められてはいない。彼は易々と協会支部に到着した。ドアに手を掛けるが当然の如く鍵が掛かっている。彼は慌てることなくカード・キーのパネルに端末を押し付ける。端末から電子金蚕が取り付き、鍵システムを蝕んだ。鍵が壊れた事で警報が鳴り響いたが、彼はそれを気にすることなく協会支部に足を踏み入れた。

 

「ようこそ、魔法協会関東支部へ、最も、此処は私の部屋ではありませんし、私も貴方も本来入れる場所ではないのですが」

 

「・・・!司波深雪」

 

「私をご存知ということは、ここしばらくお兄様に付き纏っていたのは貴方でしたか」

 

「何故、此処に?術が通じなかったのか?」

 

「そんなことはありませんよ。奇門遁甲。実に勉強になりました。方位に気を付ける様に警告を受けていなければ私は今、こうやって貴方とお話しできなかったでしょう」

 

「警告だと?」

 

「えぇ。只、方位に気を付けろと、だけ言われても、それだけでは意味が解らなかったんですけど、方位に気を付けなければならないのなら取り敢えず360度、全てを警戒していれば何とかなるかと思いました」

 

「ば、ばかな・・・」

 

「兎に角、貴方が覗きの張本人なら、貴方にいなくなってもらえばしばらくは安心できるでしょう」

 

この時ようやく彼は気付かされた。自分の体温の異常な低下に、しかし、既に手遅れだった。足はすっかり、床と共に氷漬けにされて動かせず、体温低下で身体の自由が利かない。足元の凍りが徐々に彼を包み込もうとしていた。

 

「色々とお疲れでしょう。どうです?しばらくお休みになられては。ご安心を、今回は特別です。ずっと目が覚めないということはありませんから」

 

その声を最後に彼の意識は強制的に闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 『質量爆散』

次で横浜騒乱編は終了です。


独立魔装大隊は遂に敵の偽装揚陸艦を目視に捉えた。敵戦力は既に壊滅状態。横浜事変は最終局面を迎えていた。

 

北からの鶴見の大隊。南の藤沢の部隊。西からの保土ヶ谷の駐留部隊が敵の残存兵力に迫っていた。敵は三方からの圧力に耐えきれず、遂に敵は上陸部隊の収容を途中で諦め撤退に掛かった。敵艦が慌てて出港しようとしているのを柳が見逃すことはない。

 

「逃げ遅れた敵兵は後詰の部隊に任せ、我々は直接敵艦を攻撃、航行能力を破壊する!」

 

「柳大尉、敵艦に対する直接攻撃はお控え下さい」

 

「どういうことだ?藤林」

 

「敵艦はヒドラジン燃料電池を使用しており、湾内で船体を破損させては水産物に対する影響が大き過ぎます」

 

「では、どうする?」

 

「退け、柳」

 

「隊長?」

 

「勘違いするな。作戦が終了したという意味じゃない。敵残存兵力の掃討は鶴見と藤沢の部隊に任せ、一旦帰投しろ」

 

「了解です」

 

 

風間は真田・藤林・達也を連れベイヒルズタワーの屋上に来ていた。現在時刻は午後6時。

 

「敵艦は相模灘を時速三十ノットで南下中」

 

響子が携帯用の小型モニターを見ながら、そう告げた。

 

「房総半島と大島のほぼ中間地点です。撃沈しても問題無いと思われます」

 

「サード・アイの封印を解除」

 

「了解」

 

風間からカード・キーを受け取った真田が霞ヶ浦の本部から持ってこさせた大きなケースの鍵を開ける。鍵はカード・キーと静脈認識・暗証ワード・声紋照合の複合キー。

 

「色即是空 空即是色」

 

「パスワード・認識しました」

 

中に納まっていたのは大型ライフルの形状をした特化型CAD。

 

「特尉、マテリアル・バーストを以って、敵艦を撃沈せよ」

 

「了解」

 

「成層圏監視カメラとのリンクを確立」

 

響子がそう告げた時、達也のバイザーに敵艦が映し出された。サード・アイの遠距離照準補助システムの助けを受け、情報体知覚の視力によって照準を合わせる。

 

「マテリアル・バースト、発動」

 

達也はそう言いながら、迷わず引き金を引いた。

 

 

相模灘を南下中の大亜連合所属の偽装揚陸艦の艦内には安堵感が漂い始めていた。

 

「やはり日本軍は攻撃してきませんでしたね」

 

「フン・・・奴らにそんな度胸があるものか」

 

「ヒドラジンの流失を恐れたのでは?」

 

「同じことだ。今更環境保護などという偽善に捉われているから、みすみす敵の撤退を許すことになる」

 

彼らは自分達が何らかの手段で監視されている事を確信していたが、最早攻撃を受けるとは思っていない。

 

「覚えておれよ。この屈辱は倍にして返してやる」

 

もうすぐ、大島の東を通過する、というその時、警報が鳴った。それは相思波の揺らぎに対する警報でCADの照準補助システムにロックオンされたことを意味するもの。しかし、辺りを見回しても敵の影はなかった。しかし、突如として甲板に生じた灼熱の光球が全ての可燃物を一瞬で完全燃焼させ、巨大な炎の塊と化して艦を飲み込んだ。

 

 

『質量爆散(マテリアル・バースト)』質量をエネルギーに分解する魔法。質量を光速定数の二乗の倍率でエネルギーに変換する。

 

マテリアル・バーストによる変化はベイヒルズタワーの屋上からでも確認された。

 

「敵艦と同じ座標で爆発を確認。同時に発生した水蒸気爆発で状況が確認できませんが、撃沈したものと推定されます」

 

「津波の心配は?」

 

「大丈夫です」

 

「約八十キロの距離で五十立方ミリメートルの水滴を精密照準・・・サード・アイは所定の性能を発揮しました」

 

「ご苦労だった」

 

 

一方、深雪は既に、自宅に帰り一人で過ごしていた。そんな深雪の元に一本の電話が入る。掛けて来たのは深雪と達也の叔母。世界最強魔法師の一人、四葉家の現当主。四葉真夜。

 

「ご無沙汰しております、叔母様」

 

「遅くに悪いわね」

 

「いえ、滅相もございません」

 

「あら、そう?それにしても、今日は大変だったわね」

 

「別にあの程度、大変というものでは・・・しかし、ご心配をお掛け致しました。申し訳ありません」

 

「構わないわ。まぁ、無事なようで何より、まぁ、貴方には達也が付いているから心配はしてなかったけど・・・で?その達也は何処に?」

 

「畏れ入ります。兄は事後処理の為、まだ帰宅しておりませんが」

 

「はぁ~、全く。あの子と来たら、自分の立場を分かっているのかしら。ガーディアンが主から離れるなんて」

 

「お心を煩わせ、誠に申し訳ございません。ですが、御懸念には及びません。私も、兄の行動を逐一把握してはおりませんが、兄の力は私を常に守護しておりますので」

 

「フフッ、そうね。貴女の方から鎖を解く事はできても、達也が自分から誓約を破棄する事はできないものね」

 

「えぇ、仰る通りですわ、叔母様。兄が何処へ行こうと、兄の一存でガーディアンの務めを放棄する事はできませんから」

 

「フフッ、それを聞いて少しは安心したわ。そうそう、今度の日曜日に屋敷にいらっしゃい。今日の出来事を詳しく聞きたいし、久しぶりに貴方達と直接会って話がしたいから」

 

「恐縮です。兄が戻りましたらそのように申し伝えます」

 

「楽しみにしているわ。じゃあ、お休みなさい。深雪」

 

「はい、おやすみなさい、叔母様」

 

画面がブラックアウトするし、通信が完全に切れたことを確認すると、深雪は大きく息を吐き、落ちるようにソファーに腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 横浜事変 灼熱のハロウィン

西暦2095年10月31日。達也は対馬要塞に来ていた。屋上に上がり朝鮮半島を眺めていた達也に通信が入る。

 

「特尉、作戦室に来てくれ」

 

達也はムーバルスーツにマスクとヘルメットとマスクを付け入室した。さらに遅れて柳と山中が姿を見せる。

 

「敵海軍が出撃の準備に入っている。この映像を見てくれ」

 

壁一面を使った大型ディスプレイに、衛星から撮ったと思しき写真が表示された。そこには十隻近くの大型艦船とその倍に上る駆逐艦・水雷艇の艦隊が出港準備に取り掛かっている様子が写っている。

 

「今から五分前の写真だ。このままなら、敵は遅くとも二時間後に出港するだろう。動員規模からみて一時的な攻撃ではなく、北部九州・山陰・北陸のいずれかの地域を占領する意図があると思われる」

 

室内の雰囲気が一気に引き締まる。

 

「既に、動員を完了している敵艦隊に対し、残念ながら我が海軍は昨日より動員を開始したところだ。現状では敵の海上兵力に、陸と空の兵力で対抗するしかない」

 

室内の空気が重くなる。

 

「苦戦は免れない。そこで、この現状を打開する為、我が独立魔装大隊は戦略魔法兵器を投入する。本件は既に統合幕僚会議の認可を受けている作戦である」

 

達也は内部にある第一観測室に入った。ここは低高度衛星を使って敵沿岸を監視する施設の一つ。達也はムーバル・スーツを身に着けサード・アイを手に観測室の全天スクリーンの真ん中に立った。

 

このスクリーンは衛星の映像を三次元処理して、任意の角度から敵陣の様子を観察することができるようにしたもの。今は達也の希望により、水平距離百メートル、海面上三十メートルの高さから見下ろした映像が映し出されている。

 

「特尉、準備はいいですか?」

 

「準備完了。衛星とのリンクも完璧です」

 

「マテリアル・バースト、発動準備」

 

達也はサード・アイを構えた。

 

鎮海軍港。巨済島要塞の向こう側に集結した大亜連合艦隊。その中央の戦艦に翻る戦闘旗。その旗に照準を合わせる。戦闘旗の重量はおよそ一キログラム。

 

「準備完了」

 

「マテリアル・バースト、発動」

 

「マテリアル・バースト、発動します」

 

達也はサード・アイの引き金を引いた。達也は約一キロの質量をエネルギーに変えた。

マテリアル・バーストのは発動直後、スクリーンがブラックアウトした。過剰な光量に衛星の安全装置が発動したのだろう。だから彼らは、そこに生じた爪痕しか見る事ができなかった。

 

 

鎮海軍港の奥に停泊する旗艦の上に突如、太陽が生まれた。計測不能の高熱は、船体の金属を蒸発させた。急激に膨張した空気が音速を超える。熱線と衝撃波と金属蒸気が艦隊も港湾施設を破壊した。近くのものは、人も物も関係なく蒸発した。少し離れた人やものは、爆発し、焼失した。海面が高熱に炙られ水蒸気爆発を起こす。竜巻と津波が対岸の巨済島を呑み込む。衝撃波が周辺の軍事施設にまで及んだ。全てが収まった時、周りには何も残っていなかった。

 

「敵の状況は?」

 

「敵艦隊は全滅・・・いえ、消滅しました。攻勢を掛けますか?」

 

「不要だ。以後の予定を省略し、作戦を終了。全員、帰投準備に入れ!」

 

 

 

達也はサード・アイを下ろした。ヘルメットの奥のその瞳には、ひとかけらの動揺も存在しない。

 

灼熱のハロウィン。

 

後世の歴史家は、この日の事を、そう呼ぶ。それは歴史の転換点であり、歴史の転換点とも見做されている。それは、機械兵器とABC兵器に対する、魔法の優越を決定づけた事件。魔法こそが勝敗を決する力だと、明らかにした出来事。それは魔法師という種族の、栄光と苦難の歴史の、真の始まりの日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の章、追憶編ですが、個人的に好きでないのと早く進めたいと思うのでほぼほぼ、カット予定です。


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横浜騒乱編 終章 四葉本家での事情説明 其之一

西暦 2095年11月6日

 

達也と深雪は後世に『灼熱のハロウィン』と呼ばれる日から一週間。決して地図に乗る事のない四葉本家を当主からの招きという名の出頭命令で訪れていた。

 

大きめの武家屋敷調伝統家屋。それが外から見た本家の印象だが、達也と深雪が待合室代わりに通されたのは外からは想像できないモダン、かつ広々とした応接室。しかし、真夜と会うのは謁見室と称される大応接室だ。

 

あの部屋に達也と共に呼び出されるのは随分と久しぶりの事だ。自分が同席しているとはいえ、2人が間近で顔を合わせる。それが良い事なのか悪い事なのか、深雪は判断できずにいた。

 

「心配するな。深雪。あの時とは違う」

 

不安が顔に出ていたのだろう。達也が深雪にそう言い聞かせた。「あの時とは違う」達也が言っているあの時とは二人が中学生だった頃。そしてそして、あの時とは実力が違うといっているのだろう。確かに、高校生になった今では中学生の時と比べ物にならない程に二人は力を付けている。特に達也は世界最強魔法師の一人と言われている当主の真夜に匹敵する戦闘力を有する程に成長した。魔法の相性を考慮すれば一対一なら間違いなく達也が勝利する。しかし、叔母との力関係以上に自分が中学生だった頃とは変わったのもがある、と深雪は思った。

 

 

それは兄と自分の関係。兄に向ける自分の心。そう、深雪は昔から兄が、達也が苦手だった。

 

 

四葉本家 謁見室

 

応接室で待たされていた深雪と達也。しばらくすると本家に仕える女中が二人を謁見室に案内した。しかし、そこに真夜はいなかった。この日、真夜と会う約束をしていたのは深雪達だけではないらしい。真夜は他の部屋で客人と会っていると説明を受けた。謁見室に移って程なく部屋の扉がノックされた。

 

「失礼いたします」

 

その声と同時に謁見室に入って来たのは女中とスーツ姿の風間玄房。

 

「久しぶりだな」

 

「貴方も呼ばれていたんですね。少佐」

 

「あぁ。しかし、君達が同席するとは聞いていなかったがな」

 

風間とは対馬要塞で分かれて以来一週間ぶりの再会だ。当日、一足先に帰還した達也はあの戦闘が結局どういう形で決着したのか、一般に公開されている以上の詳細を知らない。達也は真夜を待つ間に色々と聞き出そうとしたが、どうやら風間にも不明な部分が多い様だ。しばらく風間に質問をしていた達也が、不意に身体ごとドアへ向けた。その動きで深雪は覚った。遂に叔母が来たことを。

 

「失礼いたします」

 

形式的なノックの後、返事を待たずにドアが開かれた。現れたのは執事の葉山。そして、その背後から、ようやく真夜が姿を見せた。

 

「御免なさいね。お待たせして。前のお客様が中々お帰りにならないものですから、約束の時間を過ぎていると言っても追い立てることもできませんでしたし・・・」

 

「どうか、お気になさらず。お忙しくされていっらっしゃるのは存じております」

 

真夜の謝罪に風間がそう返して、2人はようやく腰を下ろした。

 

「貴方達も早く座りなさい」

 

「!! は、はい、叔母様。失礼いたします」

 

「・・・自分はこのままで構いません」

 

「・・・そう。まぁ、それ程長く話すつもりは無いから。・・・好きになさい」

 

深雪も達也も真夜の発言に驚いた。達也の四葉家の立場は深雪の護衛である為、本来ならば真夜から気を使われる様な事はない。真夜の発言にどういう意図があるのか、それとも只の気まぐれか、達也にも深雪にも解らなかった。

 

四人が腰を下ろすと、それぞれの目の前にティーカップが置かれる。真夜は3人に紅茶を勧め、そして自身もカップに口を付けた後、話を切り出した。

 

「本日、お越しいただいたのは先日の横浜事変に端を発する一連の軍事行動について、お知らせしたい事がありましたので」

 

「本官にですか?」

 

風間が驚くのも無理もない。軍の戦闘行為について、軍人の風間に部外者である筈の真夜から伝達することがあるというのだから。

 

「国際魔法協会は、一週間前の鎮海軍港を消滅させた爆発が憲章に抵触する放射能汚染兵器によるものではないとの見解をまとめました。これに伴い、協会に提出されていた懲罰動議は棄却されました」

 

「懲罰動議が出されていたとは知りませんでした」

 

「知らなかったにしては随分、落ち着いてらっしゃる様に見えますけど」

 

「放射性物質の残留が観測されないのは分かっていたことですから」

 

「フフッ。そうですか。では消滅した敵艦隊の搭乗員に『震天将軍』が含まれていて戦死が確実視されている事はご存知かしら?」

 

「劉 雲徳が?」

 

真夜が新たにもたらした情報に風間も驚きを隠せなかった。

 

劉 雲徳 大亜連合所属の魔法師で戦略級魔法『霹靂塔』の使い手。世界にその存在が公表されている13人の戦略級魔法師の一人。

 

『霹靂塔』 広範囲に大規模落雷を連続で引き起こす魔法。

 

「政府は、これに乗じて大亜連合から大きな譲歩を引き出したいと考えている様です。参謀長からも五輪家に出動要請があり、五輪家はこれを受けました。佐世保に集結した艦隊に澪さんが同行されるとか」

 

五輪 澪 十師族の一つ五輪家の長女であり、戦略級魔法『深淵』の使い手で日本で唯一の戦略級魔法師。

 

『深淵』水面を球面上に陥没させる移動系・流体制御魔法。

 

「それから、未確認ではありますが、ベゾブラゾフ博士がウラジオストク入りしたという知らせも受けています」

 

「ベゾブラゾフ?あの『イグナイター』イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフがですか?」

 

「えぇ、各国も軍首脳部は朝鮮半島南端における戦果を目の当たりにして、大規模魔法の有効性を再評価したということでしょう」

 

イーゴリ‐・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ ソビエト科学アカデミーの科学者で、戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』の使い手の新ソ連所属の戦略級魔法師。

 

「大亜連合も同様の情報を掴んでいるでしょうからー」

 

「近日中の講和が成立する可能性が高いと?」

 

「私どもはそう予想しています。それと・・・」

 

「・・・?」

 

「今回の鎮海軍港消滅は多数の国から注目を集めています。あの攻撃が戦略級魔法によるものと当たりをつけ、術者の正体の探りを入れてきている国も一つや二つではないようです。大亜連合の派遣艦隊が全滅した3年前の沖縄海戦との共通性に思い至り、これを手掛かりにしようと考える出てくるでしょう。しかし、現時点で達也の力を知られるのは我々としては極めて好ましくない事態です」

 

「それは重々承知しております」

 

「フフッ。ご理解いただけて嬉しく思います。・・・それでは念の為に、しばらくは達也との接触を控えていただきましょうか」

 

「・・・承知しました」

 

こうして風間との交渉は真夜の満足の行く形で纏った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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横浜騒乱編 終章 四葉本家での事情説明 其之ニ

風間との交渉を終えた真夜の目の前には達也だけが座っていた。風間との交渉の後、真夜が達也に残る様に命令した結果である。因みに深雪はサンルームで待たされている。

 

「・・・それで。お話しとは何です?」

 

「そんなに慌てないで。お茶でも如何?」

 

「さっきのもそうですが、俺にお茶なんか出したことがバレれば、周りに五月蠅いこと言われませんか?」

 

「フフッ。貴方もそんな事を気にするのね。でも、心配はいらないわ。だって、私にそんなことを面と向かって言うような度胸のある人はいないもの」

 

そう言いながら、真夜はテーブルに置いてあったベルを鳴らす。すると即座に執事の葉山が現われる。

 

「お呼びで御座いますか。奥様」

 

「葉山さん。私にお茶のお代わりを、それと、達也にも同じものを」

 

「畏まりました」

 

真夜は葉山が持って来たカップに口を付けると、ようやく話を切り出した。

 

「今回は、大活躍だったわね」

 

「いえ、そのようなことは」

 

「でも、ウチにとっては、困った事をしてくれたものだわ」

 

「申し訳ありません」

 

「・・・まぁ、貴方が命令に従っただけなのは分かっているけど、許可を出した私が今さら言うのもなんだけど、正直、あそこまでする必要があったのかどうか・・・まぁ、過ぎたことは仕方ないわね」

 

「畏れ入ります」

 

「そんな事より、問題は今後のことよね」

 

「何か具体的な不都合が生じていると・・・」

 

「・・・スターズが動いているわ」

 

「それはアメリカ自体が動き出しているという意味ですか?」

 

真矢は静かに首を横に振る。

 

「今はまだ、スターズが独自に調査を開始した段階よ。でも彼らは既に、あの爆発が質量をエネルギーに変換する魔法によって引き起こされたものであるという処まで掴んでいるわ。術者の正体に関してもかなりの処まで、貴方と深雪を容疑者の一人として特定するまでに絞り込んでいるわ」

 

「・・・凄い情報収集力ですね」

 

「伊達に世界最強の魔法師部隊を名乗っていないと言う事ね。はぁ~、本当に面倒なことだわ」

 

「フフッ、叔母上」

 

「・・・何?」

 

「俺が言っているのは貴女の手の者のことですよ」

 

「・・・」

 

「世界最強の魔法師部隊を自認するスターズの諜報活動成果をほぼリアルタイムで探り出すなんて、スパイでも潜り込ませてるんですか?」

 

「・・・ノーコメントよ」

 

真夜は珍しく拗ねたような表情でそう言った。

 

「・・・はぁ~兎に角。身の回りには気を付けなさい。スターズは今まで貴方が相手にした底辺のチンピラの様に甘い相手ではないわよ。アメリカの覇権を揺るがすと判断すれば、実力で排除に掛かってくるでしょう」

 

「それが四葉に飛び火する可能性が出てくれば、別の処から刺客が送り込まれるとういことですか?」

 

「そこまで分かっているなら話が早いわ」

 

「俺にどうしろと?」

 

「達也。学校を辞めなさい」

 

「辞めて、どうしろと」

 

「しばらくは此処で謹慎なさい。」

 

「お断りします」

 

「どうして?」

 

「このタイミングで俺が突然退学したら、大亜連合艦隊を殲滅した魔法師は自分だと告白している様なものでしょう」

 

「理由は何とでもなるでしょう」

 

「そうでしょうか?」

 

「私の命に従わぬと?」

 

「叔母上、俺に命令できるの深雪だけですよ」

 

達也がその言葉を放った直後、世界が「夜」に塗りつぶされた。

 

闇に浮かぶ、燦然と輝く星々の群れ。謁見室の天井が、月のない星の夜空に変わった。星が光の線となって流れる。だが、次の瞬間、それは音も無く室内を満たす「夜」が砕け散った。

 

「・・・驚きました。随分と手加減されましたね」

 

「フフッ。子供相手に本気になれる訳がないでしょう」

 

「まぁ、それを差し引いても上出来ね。いいわ、今回は貴方の我儘を聞きましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「気にしないで。私の魔法を破った事に対する、ちょっとしたご褒美なのだから」

 

「それでは、これで、俺はサンルームに」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「まだ何か?」

 

「今後についてもう一つ貴方には話しておくことがあるのだけど」

 

「何でしょう?」

 

「今後、深雪のガーディアンに水波ちゃんを付けようと思ってるの」

 

「水波を深雪に?つまり俺はお払い箱ですか?」

 

「フフッそんなに怒らないの。深雪をしっかり守れるガーディアンは貴方しかいないわ。でも常に貴方が一緒に入れる訳でないのだし、大人になれば女性の護衛が必要な時は必ず来るわ」

 

「それは理解できますが・・・」

 

「あら、水波ちゃんでは不安?桜シリーズの障壁魔法の実力も性能も問題無い筈だけど。それにあの子は第二世代。第一世代の彼女とは違うわ。貴方もそれは良く知っているでしょう」

 

「・・・」

 

「水波ちゃんで不安なら亜夜子ちゃんに頼みましょうか?。それなら実力的にも安心でしょう」

 

「亜夜子は護衛向きではないでしょう。それと水波が深雪のガーディアンになる事を否定はしていないんですが」

 

「そう、時期はまだ未定だけどその時は先輩ガーディアンとして色々と教えてあげなさい」

 

「わかりました」

 

「じゃあ、そろそろ、サンルームに向かいましょうか」

 

四葉本家 サンルーム

 

 

深雪は達也と真夜が謁見室にいる間、一人読書で気を紛らわせていた。サンルームにいるのは深雪と深雪のお世話を命じられたメイドが一人。深雪は読書をしつつ達也の帰りを待ち望んでいた。決して一人が寂しい訳ではない。深雪が気にしているのは、自身のお世話係として傍に控えているメイドの事だ。本家に仕えている女性の殆どが和装の女中さんの服装で給仕を行っているのだが、彼女だけは本当にメイドさんという言葉がお似合いの服装をしている。彼女とは初対面ではない。しかし、深雪は彼女の顔を見る度に気持ちが沈んでしまう。勿論、彼女に非がある訳では無い。

 

彼女の名前は桜井水波。四葉で障壁魔法を得意とする調整体魔法師「桜」シリーズの第二世代の魔法師である。

 

「あの、深雪お嬢様」

 

「な、何かしら、水波ちゃん」

 

「お飲み物が冷えているようですので代えをお持ちしましょうか?」

 

「えっと、ありがとう水波ちゃん。それじゃあいただくわ」

 

「処でお嬢様」

 

「な、何かしら」

 

「本日は此方にお泊りになられるのですか?」

 

「残念だけど、明日から学校もあるからお兄様がお戻り次第、東京に帰るつもりよ」

 

「そうですか。それは残念です。お暇があれば先生に実技を見ていただきたかったのですが」

 

水波の言う先生とは達也のこと。水波と顔を合わせて直ぐに真夜から指導をする様に命令された経緯がある。

 

気を紛らわせる為に読書にのめり込んでいた深雪の元にようやく真夜と葉山と達也が姿を見せた。

 

「待たせて御免なさいね。深雪」

 

「いえ、御気遣いありがとうございます。叔母様」

 

「本当は泊まってくれてもいいのだけれど」

 

「申し訳ありません。叔母様」

 

「分かっているわ。明日から学校があるものね」

 

「はい、それではまた」

 

そう言って、深雪と達也は、真夜達に見送られながら本家を後にした。

 

「水波ちゃん」

 

「はい、奥様」

 

「悪いけど、部屋の片づけをお願いね」

 

「はい、畏まりました」

 

水波にサンルームの片づけを任せて、真夜は自室に戻る。

 

「では奥様。何かご入用であれば御呼びください」

 

「ちょっと待って」

 

部屋を出ようとした葉山を真夜が呼び止めた。

 

「私に何か聞きたい事があるんじゃない?」

 

「畏れ入ります。それでは・・・達也殿をあのままにして、宜しいので?」

 

「構わないわ。葉山さんが何を懸念してるいるか、十分に理解してるわ。確かに、あの子は、いつでも四葉を裏切るでしょうね」

 

「・・・」

 

「それにさっきも確かめたけど、私の魔法はあの子の異能に対して相性が悪い。本気で戦っても高い確率で私が負けるでしょう」

 

『流星群』(ミーティア・ライン) 四葉真夜の得意とする収束系魔法。

 

 

対象物のあらゆる耐性に関係なく光が通り抜ける穴を穿つ防御不可能な魔法。

 

「私があの子に殺されてしまう可能性も小さいとはいえない。でも達也は四葉を裏切る事は出来ても、深雪は裏切れない。その一方で深雪が四葉と敵対する事はあり得ない」

 

「しかし、今の深雪様は達也殿に深く依存されております。達也殿が当家に反旗を翻した時、その意に反するとは思えませんが」

 

「深雪は己に課せられた責任からは決して逃れられない。姉さんにそのように育てられているから。そして達也には、深雪を苦しめるような真似は絶対にできない」

 

「・・・しかし、その為には」

 

「他の候補者の子達には悪いけど、次の当主は深雪で決まりね」

 

「そのためには、深雪様に何としても当主の座を受けていただかねばなりませんね」

 

「大丈夫よ。その為の策も考えているから」

 

真夜はそう言って余裕の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 始まり 其之一 雫の留学

北アメリカ合衆国テキサス州ダラス郊外、ダラス国立加速器研究所。全長30キロメートルの線形加速器で今、余剰次元論に基づくマイクロブラックホール生成・蒸発実験が行われようとしていた。準備は2年前に完了していながら、そのリスクが読み切れない事を理由に中々ゴーサインが出なかった。この実験の背中を押したのは先月末に極東で起きた朝鮮半島南端において軍事都市と艦隊を一瞬で消滅させた大爆発。

 

国防総省の科学者チームは、激しい議論の結果、この爆発を質量のエネルギー変換によるものと結論付けた。3年前は一部の学者による仮説に過ぎなかったものが、今回は科学者たちの一致した見解となった。

 

推定される爆発の規模から逆算してエネルギー化された質量は役1キログラム。USNAの首脳部は焦っていた。魔法の仕組みが分からない。分からなければ対抗策の検討すらできない。一度その牙が自分に向けられれば、なすがままに蹂躙されるしかない。そんな悪夢は許されない。

 

あの爆発が何だったのか。質量・エネルギー変換のシステムに関する手掛かりだけでも掴めないか・・・それがマイクロブラックホール生成・蒸発実験実行の最後の一押しとなった。だがしかし、この実験がもたらす結果が後に世界に襲い掛かることになるのだが、災禍は誰にも気づかれないまま、ひっそりと忍び寄っていた。

 

 

 

西暦2095年も残すところ一か月。思えば目まぐるしい一年だった。この一年を振り返って、達也はしみじみそう思った。四月にはテロリスト。八月には国際犯罪シンジケート。十月には外国の侵略軍との戦闘。激動というにも程がある。だが、達也には今年一年を振り返る余裕はなかった。それはまだ一か月ある、と言う事ではなく、もっと差し迫って現実的な理由で。

 

北山邸 

 

「・・・ぐぁーっ! 訳分かんねぇ!」

 

「五月蠅い!バカ!鬱陶しい!」

 

「レ、レオ君もエリカちゃんも落ち着いて・・・」

 

達也と深雪はいつものメンバーと共に北山邸にてもうすぐ行われる定期試験の勉強会に顔を出していた。勉強会とは言っても、このメンバーの殆どが成績優秀者であり、この中で一番成績の悪いレオも平凡であって、赤点を心配する必要はない。勉強会は特に問題なく進む筈だった。雫の爆弾発言までは・・・。

 

「えっ?雫。もう一回言って?」

 

「アメリカに留学する事になった」

 

雫の爆弾発言を聞き返すほのか、しかし、当の本人は相変わらずの調子である。

 

「聞いてないよ!」

 

「御免。口止めされてたから」

 

「でも、よく留学なんてできたね」

 

この質問をしたのはエリカだが、エリカは雫の語学力を疑っている訳では無い。今の時代、魔法師は遺伝子の流出(軍事資源の流出)を避ける為に、政府によって海外渡航を非公式かつ実質的に制限している。USNAは表面上同盟国だが、競争国でもある。そのアメリカに留学など普通に考えて認められるものではない。

 

「お父さんは交換留学だからじゃないかって」

 

「何故、交換留学でOKが出るんでしょう」

 

美月の質問はもっともであるが、誰にも答えは分からない。

 

「それで雫。出発は何時になるんだ?留学期間は長いのか?」

 

「年が明けてすぐに。期間は三ヶ月」

 

「なんだ。三ヶ月か・・・ちょっと安心した」

 

ほのかは雫の三ヶ月の留学が短いと感じた様だが達也には三ヶ月でも長すぎると思っていた。

 

「それじゃあ、送別会しないとな」

 

 

西暦2095年 12月24日 クリスマス・イブ 喫茶店 アイネブリーゼ

 

定期試験も無事終わり、達也たち、いつものメンバーはアイネブリーゼを貸し切り、送別会という名のクリスマスパーティーを行っていた。

 

「皆。飲み物は行き渡ったかな?」

 

「はーい」

 

「じゃあ、いささか送別会の趣旨とは異なるけど、折角ケーキも用意して貰ったから、乾杯はこのフレーズかな?・・・メリークリスマス!」

 

「メリー・クリスマス!」

 

達也の音頭に、友人たちはグラスを高く突き上げた。

 

 

 

「ねぇ、雫。留学先は何処になるの?」

 

「バークレー」

 

「ボストンじゃないんだ」

 

「東海岸は雰囲気が良くないからって」

 

「ああ、『人間主義者』が騒いでるんだっけ」

 

「・・・はぁ~暗い話はヤメヤメ。それで雫、雫と入れ替わりでコッチに来る子の事は分ってるの?」

 

「同い年の女の子らしいけど・・・」

 

「それ以上の事は分らないか」

 

司波家 リビング

 

送別会もお開きとなり、帰路に着いた達也と深雪。今二人はソファーに腰かけて今回の雫の留学について話し込んでいた。

 

「今回の雫の留学、どうも奇妙な話に思えるのですが」

 

「・・・そうだな」

 

「まず、雫ほどの魔法資質の持ち主が留学を認められたというのが不自然です。先程までは実業家の娘としての留学かと思っておりましたが、それならば代わりに留学してくる相手の事を知らないというのはおかしな話です。まぁ、この時期にいきなり留学の話が持ち上がるのも裏があるような気がしてなりませんが、何だかまるで・・・」

 

「俺達に探りを入れる為の裏工作の様な気がするか?まぁ、俺達は容疑者らしいからな」

 

達也は他人事のような口調で呟いた。

 

「マテリアル・バースト。やはり、放ってはおけないんだろう」

 

「そうですか・・・お兄様も、そうお考えなのですね?」

 

「留学生が来るというだけなら兎も角、叔母上の忠告と合わせて考えれば偶然と考えるのは能天気がすぎる」

 

達也と真夜との話の内容は本家からの帰りに話してある。自分達が何を疑われているのか、誰に疑われているのかということも。

 

「ではやはり、スターズが?」

 

「こうなると、少佐たちとの接触を禁じられているのが痛いな」

 

新年を前に達也と深雪に厄介事が降りかかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 始まり 其之ニ シリウスの任務

太平洋を隔てた北米大陸中部は、まだクリスマスイブの前の夜。日付もそろそろ24日に変わろうとしていた。そんな中、USNA南部有数の大都市、テキサス州ダラスの街角の暗躍する影があった。ビルの屋上から屋上へと跳び移って行く人影。そして、その影を追う複数の影。

 

「止まりなさい。アルフレッド・フォーマルハウト中尉!最早逃げ切れないのは分かっているはずです」

 

逃走者の正面に、目の周りを覆う仮面を付けた小柄な人影が立ち塞がる。投降を呼びかける甲高い少女の声。

 

「一体どうしたんですか?フレディ。1等星のコードを与えられた貴方が、なぜ脱走をするんです」

 

「・・・」

 

しかし、答えは返ってこない。

 

「この街で起きている連続焼殺事件も、貴方のパイロキネシスによるもの、と言う者がいます。まさか、そんなことはしていませんよね」

 

パイロキネシス 発火念力 体系化された現代魔法ではなく、かつて超能力と呼ばれた属人的異能力。

 

「・・・」

 

「答えなさい!」

 

答えは言葉以外で返って来た。少女が咄嗟に飛び退った。肩に巻いていたストールを残して。少女のストールが何の火種も無く燃え上がった。少女や中尉を包囲する者達が身に着けていたストールを始めとした防寒具は寒さを防ぐ為でなく、視線をキーとして発動するこの男の能力から身を守る為だ。

 

ストールの炎が消えると同時に、男の周りから一切の光が消えた。中尉を包囲していた一人が領域魔法『ミラー・ケージ』を発動した。

 

『ミラー・ケージ』 対象を中心とする一定の相対距離で光の進行方向を逆転させることで、外界から光の入らない、完全な闇の中に閉じ込める領域魔法。

 

また、他の者が視線をキーとする異能を封じ込める為の防御術式を展開する。

 

「連邦軍刑法特別条項に基づくスターズ総隊長の権限により、フォーマルハウト中尉。貴方を処断します」

 

その宣告と共に、フォーマルハウト中尉に別の魔法が襲い掛かる。それと同時に仮面の少女スターズ総隊長アンジー・シリウス少佐が自動拳銃を突き付ける。強力な情報強化により一切の魔法干渉が無効化された銃弾がフォーマルハウト中尉の心臓を一発で貫いた。

 

 

 

任務を終えて基地に帰投したアンジー・シリウスことアンジェリーナシリウスは制服のまま自室のベッドに寝転がった。そのまま寝がえりを打ち、うつ伏せに、顔を枕に押し付ける。処刑任務は何度経験しても慣れない。最初の頃の様に任務終了後に吐く事は無くなったが、それは心の痛みに身体が慣れたからに過ぎない。むしろ心の痛みは大きくなっていく一方だった。同胞を処刑する。それが総隊長シリウスのコードを与えられた者の任務だと聞いても実感が無かった。与えられた名誉だけに舞い上がって、理解していなかった。同胞を殺すという意味を。

 

不意に呼び鈴の音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

「失礼しますよ。総隊長」

 

彼女の部屋に入って来たのはスターズのナンバーツー第一隊の隊長、ベンジャミン・カノープス少佐。

 

「総隊長。もう準備は終わっているんですか?」

 

「えぇ、大体は」

 

「さすがに手際がいいですね」

 

「これでも女の子ですから」

 

「女の子だからというのは余り関係ない様な気もしますが・・・日本人の血ですかね」

 

「日本人だから几帳面というのは昔の話だと思いますよ」

 

「それはまぁ、兎も角、暫くは因果な任務のことは忘れて、のんびりと羽を伸ばしてください」

 

「休暇じゃなくて特別任務ですけど」

 

お気楽なカノープスのそそのかしに彼女は唇を尖らせた。

 

「むしろ憂鬱です。容疑者が戦略級魔法師かどうかを探り出すなんて。二人の内のどちらかが、というならまだしも、二人とも該当者でない可能性も高いとか。それに何故、私が不慣れな潜入捜査なんて・・・年齢制限があるにしろ、専門の訓練を受けたものは沢山いるんじゃ・・・」

 

彼女に与えられた新たな任務は十月末に極東で起こった大爆発を引き起こした戦略級魔法とその術者の正体を探ること。情報部が絞り込んだ51人の容疑者の内の二人が東京の高校に通う学生だった為に偶々同い年の彼女に潜入捜査が命じられた。

 

「まぁまぁ。それだけ一筋縄では行かない相手だと考えているんでしょう。ターゲットが推測通りの相手なら、戦略核を凌駕する危険な魔法の使い手ということになります。しかも、我々の調査でも正体を完全につかませなかった相手です。諜報能力の高さより戦闘力の高さを優先したのも理解できます」

 

「それは分かってますけど」

 

「容疑者が高校生だから同じ高校生として接触するというプランは少々安直なものだと思いますが、調査に当たるのは総隊長だけじゃありませんし」

 

「それも分かってますけど」

 

「じゃあ、こう考えましょう。総隊長の役目は、容疑者に接触して揺さぶりを欠けることだと」

 

「まぁ、妥当ですね。私の諜報技能は素人同然ですし」

 

「だったら余計気軽に楽しまなければ損ですよ。その方が相手も隙を見せてくれるかもしれませんし」

 

「はぁ~そうですね。弁の言う通りかもしれません」

 

大きくため息を付きながらカノープスの正面に立ち上がる。

 

「ベン、留守中のことはよろしくお願いしますね」

 

「お任せ下さい」

 

慈しみのこもった笑顔で敬礼するカノープスに彼女は感謝の笑顔で答礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 始まり 其之三 2096年 元日

西暦2096年の元旦を、達也と深雪は二人で迎えた。そしてこれから二人は初詣に向かう処だ。達也は深雪が振袖に着替えるのを待っていた。

 

「お待たせしました」

 

「じゃあ、行こうか」

 

門の前には無人運転コミューターが停まっていた。無人といっても後部座席には九重八雲と小野遥が座っていた。

 

「明けましておめでとうございます。師匠」

 

「明けましておめでとうございます。九重先生。本年もよろしくお願いします」

 

「いやぁ、今日は一段と綺麗だねぇ~」

 

「先生・・・もっと他に言う事があるのでは?」

 

「小野先生。明けましておめでとうございます・・・しかし、いいんですか?師匠と一緒なんて」

 

「はい、おめでとう。新年早々、嫌な事聞くのね」

 

「あの。お兄様。揃ったのですから、早く駅に向かいましょう。待ち合わせに遅れますよ」

 

四人を乗せたコミューターが駅に向かって発進した。駅で電車に乗り換え待ち合わせの場所へ。

 

日枝神社 参道

 

「わっ~。深雪さん。綺麗です」

 

待ち合わせ場所で一番最初に声を掛けて来たのは美月だった。しかし、美月は深雪と違い振袖姿ではないが。

 

「明けましておめでとうございます。達也さん。良くお似合いです。すこし、意外でしたけど」

 

「明けましておめでとう。ほのかの振袖も良く似合ってるよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「しかし、意外・・・ってことは、やっぱり違和感があるのか」

 

振袖の深雪とは違い達也の衣装は袴姿だ。

 

「そんなことねぇと思うけど。良く似合ってると思うぜ。何処ぞの若頭って感じだ」

 

「俺はヤクザか!」

 

初詣の約束をしていたのは美月・レオ・ほのかの三人。エリカと幹比古は家の手伝いで、雫に至っては留学間近で忙しく来られなかった。

 

「ヤクザには見えなど、袴姿がそこまで様になる高校生も珍しいわ」

 

「達也君はヤクザ者と言うより、与力か同心の方が合ってるんじゃない」

 

「あれ?遥ちゃん?明けましておめでとう」

 

「明けましておめでとうございます。小野先生。・・・達也さん此方の方は?」

 

ほのかは八雲に目を向けながら達也に尋ねた。

 

「あぁ、紹介しよう。九重寺住職・八雲和尚。イヤ、忍術使い・九重八雲先生の方が分り易いか。俺らの体術の先生でもある」

 

「初めまして、達也さんと同じクラスの柴田美月です」

 

「俺も達也と同じクラスで西城レオンハルトっていいます」

 

「初めまして。深雪と同じクラスの光井ほのかです」

 

「うん。宜しくね」

 

互いの紹介を終え、本殿に向かい歩き出す。特に寄り道をすることなく。歓談を上がって神門を潜り拝殿前の中庭に入る。そこで達也は、不意に視線を感じた。その視線には八雲と遥も気付いた様だ。

 

「司波君。心当たりは?」

 

「特には」

 

「本当に?」

 

「えぇ、本当に」

 

「外人には達也君の恰好が珍しいのかな?」

 

八雲が言ったように達也が感じた視線の先には金髪碧眼の少女だった。ただ、今の時代相手の姿を見ただけで外国籍かは分からない。相手の少女も金髪碧眼であっても日本人的な面立ちだった。

 

「お兄様?一体何を見て・・・綺麗な子ですね」

 

「・・・お前程じゃないと思うけど」

 

「・・・いつもいつもそんな言葉で・・・それで彼女に何かご不審でも?」

 

「不審といえば・・・あの恰好は流石に・・・」

 

少女の服装は流行りに疎い達也の目から見ても違和感を覚えるものだった。

 

 

日枝神社 リーナ視点

 

「(さっきの二人が今回のターゲット司波達也とその妹の深雪)」

 

リーナはこの日、容疑者として挙げられていた達也と深雪に接触を試みていた。リーナ自身としてはファーストコンタクトは上手く行ったと思っている。しかし、彼女には気になる事が一点だけ。

 

「(この国ではそんなに外国人が珍しいのかしら?あの二人も周りの人達も珍しそうに私を見てたけど・・・)」

 

そんな事を思いながらリーナは今回の生活拠点のマンションのドアを開けた。

 

「お帰りなさいリー・・・ナ」

 

リーナを出迎えたのはシルビィア・マーキュリー。スターズ惑星級魔法師で若くして『ファースト』のコードを与えられたアンジーシリウスの補佐官。

 

「あれっ?帰っていたんですね。シルビィー」

 

「・・・」

 

「どうしたんですか?シルビィー?」

 

彼女の視線が明らかにおかしい事に気づいたがリーナにはその視線の理由が分からない。

 

「どうしたんですかって・・・そっちこそ、どうしたんですか?その恰好!」

 

「あぁ、これですか・不用意に目立たないように過去一世紀の日本のファッションを色々調べたんです。イヤ~結構苦労しましたよ。でも、どうです。似合ってません?」

 

「・・・そのブーツ。歩きづらくありません?」

 

「そうなんですよ。何度も転びそうになりました。日本の女の子はこんなブーツ履いてよく足をくじかないものです」

 

「リーナ。今日一日歩いて、同じタイプのブーツを履いた女の子を見ましたか?」

 

「・・・そういえば、見ていません。綺麗な和服姿の女の子が多かったですけど」

 

「元日じゃなくてもそのブーツ、イエ、そんな恰好をしている女の子はいないでしょうね」

 

「何故です?」

 

「何故って・・・ハッキリ言いましょう。そのリーナの恰好が流行遅れだからです」

 

「・・・えっ!それ本当ですか?」

 

「本当です。と言うか何故100年も遡るんですか?その恰好じゃ目立って仕方なかったでしょう」

 

「外国人が珍しいのかと・・・」

 

「いくらターゲットの注意を引き付けると言っても・・・関係ない人の注意まで引いてどうするんですか!」

 

「ご、御免なさい」

 

「総隊長。本日、以後の予定はキャンセルしましょう」

 

「えっ?何故です?」

 

「僭越ながら私が最近のファッション動向をじっくりと分り易く、ご説明差し上げます。いいですね」

 

「は、はい」

 

戦闘力では遥かにシルビィーを凌駕するはずのリーナだが、この言葉には逆らえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 留学生 其之一

達也と深雪が通う第一高校も冬休みが終わり、今日から三学期。A組には雫の代わりに留学生が来るはずだが、達也からすれば他人事だ。深雪と同じクラスになる以上、無関係とはいかないが、達也は自分から関わろうという意志は無い。しかし、その留学生は早くも噂になっていた。

 

「何かすっごい美少女なんだって」

 

クラスの各所から聞こえる留学生の噂は聞き流していたが、流石に目の前から自分に向けて話をしているエリカの噂話を聞き流すことは出来なかった。

 

「綺麗な金髪で、上級生まで見に来てるらしいよ」

 

「エリカは見に行かないのか?」

 

「あんな人だかりに入って行かないって」

 

「オメーでも遠慮ってモンを知ってんだな」

 

その言葉を発したレオがその瞬間、床に倒れた。

 

「達也君は興味ないの?美少女」

 

「・・・俺はここに来れば美少女が毎日、見れるから、行くつもりは無いよ」

 

その言葉を発したその瞬間、達也は椅子から転げ落ちた。

 

「・・・もう、やだぁ!達也君たら口がうまいんだから」

 

「(やっぱり、エリカは褒めても貶しても口より先に手が出るタイプだな。次からは無難に返答しよう)」

 

立ち上がりながら心の中で達也はそんな事を誓った。

 

「あたしは女だからね~。いくら美少女って言われても、人込みかき分けてまで見に行きたいとも思わないのよね」

 

「魔法科高校に留学生なんて何年も無かったことだから、好奇心くらいは湧くんじゃないか?」

 

「以前の事は知らないけど、留学生が来たのはウチだけじゃないらしいよ」

 

留学生の噂話に口を挟んだのは幹比古。

 

「第2、第3、第4高校にも留学生の受け入れがあったそうだよ。それに大学の方にも共同研究の名目で何人か来てるって」

 

「あぁ、それならアタシも聞いた。噂じゃ横浜の件で探りを入れて来たんじゃないかって」

 

「じゃあ、A組の奴もスパイってことか?」

 

「・・・あんたねぇ~」

 

「レオ君。そういうのは思っていても言わない方が・・・」

 

「僕達も同級生として付き合って行かなきゃいけないんだから」

 

「・・・イヤ、付き合うって、そいつA組だろ?俺らに接点ねぇだろ?」

 

「バカね。A組には深雪とほのかの生徒会役員が二人もいるのよ。留学生が学校に慣れるまで、どちらかが面倒を見る事になるでしょうし、深雪とほのかと関わり合いができれば流石に無関係じゃいられないわよ」

 

 

その関わりは、思ったより早く出来た。お昼の約束をした学食。達也たちの前にやって来たのは深雪とほのかと留学生の少女。散々、朝から美少女と聞かされていたので驚きはしなかったが「おやっ?」と思った。達也の前に現れた留学生が日枝神社で見た、あの少女だったからだ。

 

「ご同席させてもらっても良いかしら」

 

「えぇ、勿論」

 

「リーナ、まず、お皿を取って来ましょう」

 

「お皿・・・あぁ、食べる物、という意味ね。分かったわ。」

 

既に席に座っている達也たちは自分の分を取ってきている。深雪に促されリーナはほのかと共に配膳カウンターへ向かう。

 

「なぁ、達也・・・彼女、どっかで見たような・・・」

 

「うわっ、古い手口」

 

「実は私も・・・」

 

「えぇっ、柴田さんも?」

 

「・・・日枝神社」

 

「・・・あっ!」

 

「・・・?」

 

レオの疑問に達也がぼそっと答えると、レオと美月は納得し、詳細を知らないエリカと幹比古は首を傾げた。そこに深雪達が帰って来た。

 

「お待たせしました、お兄様」

 

達也の隣に腰を下ろす深雪。正面にはほのか、その隣にリーナが座る。

 

「達也さん、紹介しますね。アンジェリーナ=クドウ=シールズさん。もう聞いているとは思いますけど、今日からA組に来た留学生の方です」

 

「・・・えっと、ほのか?皆さんほのかのお友達なんでしょ」

 

「そうだけど」

 

「だったら、こちらの方だけでなく、他の皆さんにも紹介して欲しいのだけど」

 

「えっ?・・・あっ!ご、御免なさい」

 

「・・・まぁ、ほのかだし」

 

「ですね」

 

「え~。じゃあ改めて。アメリカから来たアンジェリーナ=クドウ=シールズさんよ」

 

「リーナって呼んでください」

 

「E組の司波達也です。深雪と区別がつかないでしょうから『達也』と呼んでください」

 

「ありがとう。じゃあ、私のことも『リーナ』って呼んでください。それから敬語は無しにしてくれると嬉しいんですけど」

 

「えっと、分かったよ。リーナ」

 

「宜しくね、達也」

 

「アタシは千葉エリカ。エリカで良いよ。これから宜しくねリーナ」

 

「私は柴田美月っていいます。美月って呼んでください」

 

「俺は西城レオンハルト。レオって呼んでくれ」

 

「吉田幹比古です。僕の事も『幹比古』で良いよ」

 

「エリカに、美月に、レオと幹比古ね。宜しく」

 

「あぁ、リーナ。コイツの事は『幹比古』じゃなくて『ミキ』って呼べば通じるから」

 

「ちょっ!エリカ?」

 

「あら、そう?じゃあ、ミキ、って呼ばせてもらうわ」

 

「いいけど・・・なんでエリカが勝手に」

 

 

自己紹介を終えた達也たち。そろそろ全員が食べ終わろうか、という頃にはリーナも随分と打ち解けた様に見えた。そこで、E組のメンバーガ疑問に思っていたであろうことを達也が訪ねた。

 

「・・・なぁ、リーナって、もしかして九島家と関係があるのかい?」

 

「あるわよ。私の母方の祖父が九島将軍の弟なの」

 

「へぇ~」

 

「そういう縁もあって、今回の交換留学の話が私の処に来たみたい」」

 

「じゃあ、リーナも自分から希望したんじゃないんだね」

 

エリカの何気ない疑問に一瞬だけ動揺と緊張を示したのを達也は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

夜の闇を這いずり回るのは、何も後ろ暗いところのある者達ばかりではない。そうしたアウトローに市民生活が脅かされずに済んでいるのは、混沌と戦う秩序の使途が同じ闇の中を駆けずり回っているからだ。この日、稲垣警部補と千葉寿和警部も闇の中を這いずり回っていた。

 

「よくもまぁ、次から次へと厄介事が」

 

「・・・」

 

「大体何が起こってるんだ?」

 

「それを調べるのが我々の仕事でしょ」

 

稲垣が上司の泣き言を一喝した、その時、レシーバーからコール音が。

 

「・・・了解しました。直ぐに現場に向かいます」

 

「警部、五人目みたいです。死因もこれまでの該者と同じ衰弱死、外傷がない処も同じです。そして・・・」

 

「そして血が無くなってるのも同じなんだろ。・・・全く、一か月で五人の変死体。マスコミを抑えるのもそろそろ限界だぞ」

 

寿和はため息を付き、面倒くさそうな顔をしながらも、その眼には鋭い狩人の眼光を宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 留学生 其之ニ

留学生のアンジェリーナ・クドウ・シールズは、第一高校でセンセーショナルなデビューを飾った。それまで、学園一の美少女は深雪だった。これは上級生を含めた女子生徒全員の一致するところだった。だがリーナの編入により「女王」は「双璧」となった。二人が行動を共にする機会が多いから余計に、「司波深雪に劣らぬ美貌」が強く印象付けられた。また対照的な美を持つ二人が並び立つことによって一層輝いて見えた。その美しさだけでも話題になるには十分だったが。

 

第一高校 実習室

 

「行くわよ、深雪」

 

「えぇ、いつでもどうぞ」

 

向かい合う二人の距離は三メートル。その真ん中で、直径30センチの金属球が細いポールの上に載っている。実習室には同じ機具が並んでいるがクラスメイト達は手を止めて深雪とリーナを見ていた。ただ、2人を見ていたのはクラスメイトだけではない。中二階の回廊状見学席には、この時期、既に自由登校になっっている三年生たちがいた。その中には、前生徒会長の真由美と前風紀員の摩利の姿もあった。

 

「・・・司波に匹敵する魔法力。・・・本当だと思うか?」

 

「ある意味、アメリカを代表して来たわけだから、ありえないことじゃないけど、それでも信じ難いわね。深雪さんと拮抗する魔法技能を持ってるなんて」

 

「やはり、実際にこの目で見ないと」

 

「だからここにいるんでしょ」

 

深雪達のクラスがやっている実習は同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配するというシンプル且つゲーム性の高いもの。シンプル故に単純な力量さが露わになる。

 

先月から始まったこの実習。当然の如く、深雪は同級生をまるで寄せ付けなかった。それ程、深雪と同級生との差があった。その事実を聞きつけた真由美と摩利が深雪の相手に名乗りを挙げる。しかし、この二人をもってしても敵わなかった。

 

勝負は一瞬で着いた。金属球がリーナへ向かって転がった。

 

「あーっ、また負けた」

 

「フフッ。これで私の勝ち越しね」

 

悔しがるリーナと安堵の笑みを浮かべる深雪。

 

「・・・全くの互角だったわね」

 

「イヤ・・・術式の発動は留学生の方が僅かながら早かったんじゃ・・・」

 

「えぇ、でも干渉力で深雪さんが上回っていて、魔法が完成する前に制御を奪い取った。スピードを優先するかパワーを優先するか・・・単純に力量で勝っているというより、作戦勝ちってところじゃない?」

 

その日の実習は深雪のリードで終了した。

 

 

お昼時、いつもの学生食堂。

 

今日はリーナが同席しているが、これは毎日というわけではない。編入から一週間、彼女には沢山のお誘いがあり、その都度、違う相手と食事をしていた。達也たちと一緒にお昼を食べるのは初日以来のことだ。

 

「大人気ね、リーナ」

 

「皆さん良くしてくれるから嬉しいわ」

 

「でも、リーナは凄いね。まぁ、選ばれて留学してくるくらいだから実力者だと思っていたけど、まさか、深雪さんと互角に競えるなんて」

 

「驚いているのはむしろワタシの方なんだけど・・・これでも、ワタシ、向こうの学校じゃ負け知らずだったのに。深雪には勝ち越せないし、ほのかには総合力なら負けてないと思うけど、精密制御では確実に負けてる。さすが、魔法技術大国・日本よね」

 

「リーナ、実習は実習で試合じゃないわ。あんまり勝ち負けなんて考えない方がいいと思うけど」

 

「でも、競い合うことは大切よ。例え実習でも折角ゲーム性の高いカリキュラムなんだから、勝ち負けに拘った方が上達すると思うわ」

 

「やってる最中は競争心を持ってもいいんじゃないか。ただ、終わった後まで引きずる必要はないと思うけど。実習は評価に結び付く実技試験とは違うんだから」

 

「・・・そうね。達也の言う通りかも。ワタシ少し熱くなり過ぎたかも」

 

「なぁ、リーナちょっと確認したいんだが・・・」

 

「あら、何かしら」

 

「アンジェリーナの愛称って普通はアンジーじゃないのか?」

 

「えっと。普通はそうだけど、別にリーナって略すのも珍しくないのよ。ワタシの場合は向こうの学校にアンジェラって子がいたし、皆もアンジーより、リーナの方が呼びやすいでしょ」

 

「ふーん。まぁ確かに」

 

 

 

「お帰りなさい、リーナ」

 

「シルヴィ、先に帰ってたんですか?」

 

「もう夜ですよ」

 

色々と寄り道したリーナが帰宅するとシルビィーが出迎えた。リーナは制服のままダイニングに移動した。するとそこに見知った人物がいた。

 

「ミア、来ていたんですか?」

 

ダイニングにいたのはミカエラ・ホンゴウ。彼女はリーナ達より先に送り込まれた諜報員の一人。諜報員といっても本職は魔法研究者で十一月にダラスで行われたブラックホール実験にも参加していた程の才媛である。

 

「ミア、何か分かりましたか?」

 

「いえ、特には・・・」

 

「リーナの方はどうです?少しはターゲットと親しくなりましたか?」

 

「少しは親しくなったとは思いますが・・・肝心な事は何も。もしかしたら先にコッチの正体がバレちゃいそうです」

 

「・・・何があったんですか?」

 

「達也にアンジェリーナの愛称はアンジーじゃないのかって聞かれました」

 

「偶然では?」

 

「分かりません。さっぱりです。やっぱり向いてないんじゃ・・・」

 

「・・・」

 

「・・・大丈夫。相手は所詮高校生。私があのシリウスだなんて本気で考えるはずがありません。仮に疑われても尻尾を掴ませたりはしませんよ」

 

心配そうな二人の視線に気づいたリーナは自分に活を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 留学生 其之三

司波家 地下室

 

学校から帰った達也は地下室で定期的に行っている深雪の想子測定を行っていた。

 

「・・・これは・・・」

 

「何か至らぬところが?」

 

「イヤ、いい結果だよ。魔法式構築規模の上限が上がってる。しかも、俺の予想以上に」

 

「本当ですか?」

 

「リーナが同じクラスに編入してきたことがいい刺激になっているんだろう」

 

「そうですね。・・・生意気なセリフですが彼女ほど手応えのある相手は・・・勿論、雫や先輩たちも強いとは思いますが」

 

「物足りないか・・・」

 

「・・・」

 

「まぁ、それは仕方ない事だ」

 

「ところでお兄様、お昼の質問は・・・」

 

「ハハッ、お見通しか」

 

「勿論」

 

「深雪に隠しごとはできないな」

 

「私はちゃんとお兄様のこと見てますから」

 

「長くなるから場所を変えようか」

 

「はい、畏まりました」

 

そういって、2人は地下室からリビングに上がった。

 

「さっきの話だけど、高い確率で、リーナは『アンジー・シリウス』だと思う。ただ、分からないのは、向こうに『シリウス』の正体を隠そうとする姿勢が見られないことだ。むしろ俺達に正体を気付かせようとしているようにも見える」

 

「何故、USNAは切り札ともいえるシリウスを投入したのでしょう」

 

「そうだな。この一週間、観察した限りにおいて、リーナは諜報向きとは思えない。恐らくは本命は別に動いているんだろうが、隠れ蓑に使うのは『シリウス』は大物過ぎる」

 

「向こうの意図が分かりませんね」

 

「リーナを『シリウス』と仮定するとスパイ任務はついでだろう。本来の任務は別にある」

 

「USNAがシリウスを外国に投入する任務。一体どんな任務でしょう」

 

「分からない・・・けど、今の段階で気にする必要もないだろう」

 

「分かりました。お兄様が気にするなと言うのであれば」

 

「お前はただ、アメリカが提供してくれたライバルと競い合う事に全力を注げ。それが成長の糧になるのはリーナも同じなんだろうが、きっと今の、お前を今以上の高みに押し上げてくれる」

 

「はい、お兄様。ですが私にはお兄様がいます。お兄様が付いていてくださる限り、相手が誰でも恐れません」

 

 

翌日 第一高校 放課後

 

達也の放課後の過ごし方は基本的なパターンとして図書館に籠るか、風紀委員として校内の巡回をするかの二種類。今日は風紀委員の当番なので後者のパターンである。風紀委員は校内でCADの常時携行を許されているが達也がCADを携行するのは委員会の仕事の時だけ、そもそもCADは四系統魔法を短時間で発動する為の物。九校戦で『術式解体』が使える事を暴露してしまった達也。彼は二学期以降、授業外では無系統魔法を利用していない。それで十分に用が足りてしまうからだ。だからCADを携行する必要はない。しかし、CADを携行する事でのけん制効果はバカにならないので巡回の前に本部に寄ってCADを取りに行くことを習慣にしていた。

 

今日もいつも通り、授業が終わると達也は風紀委員会本部に足を運んだ。扉を開けたその向こうには何故か、見間違える事のない話題の金髪碧眼の美少女リーナがいた。

 

「おはようございます」

 

「あっ!司波君。やっと来た」

 

リーナを見つけた達也は厄介事に巻き込まれない様にCADを素早く取って本部を後にしようとしたがあえなく委員長の花音に捕まった。

 

「何でしょう?」

 

「司波君は彼女のこと、シールズさんの事は知ってるわよね」

 

「えぇ。まぁ」

 

「彼女がウチの生徒自治活動をみてみたいんですって」

 

「そうですか・・・」

 

「司波君。今日は当番でしょ。彼女を連れて行ってもらえない?」

 

「分かりました」

 

面倒な、と思ったのが達也の正直な気持ちだ。リーナの意図も分からないし、高確率で厄介事が起こるだろう。既に、本部でリーナを囲っている上級生たちからの視線が痛い。本部でこれだ。校内をリーナと歩いているのを他の大勢の生徒に見られればどうなることか。鈍感な達也でも容易に想像がついたが、達也には受け入れる以外の選択肢は用意されていなかった。

 

 

本部を出て十数メートルで二人の空気が気まずくなる。その気まずさの発生源はリーナ。ただ、彼女が美少女だからでなく、探りを入れて来る気配をリーナが隠しきれていないからだ。本人は誤魔化せているつもりであるが達也から見ればチラチラと覗い見る視線は誤魔化せていない。だからと言って、「お前はスパイか?」と言える筈も無くもやもやとしたストレスが溜まって行く一方だった。

 

「リーナの通っていた学校には、こういう制度は無かったのか?」

 

何時までも黙ってはいられないので珍しく達也の方から話題の提供をするというサービス精神を発揮した。ただ、質問の内容は性質の悪いものだが。

 

「えっ!ええっと・・・」

 

「・・・まぁ、一年ならそういうのに疎くても仕方ないか」

 

「え・・・えぇ、そうなのよ。だからこの学校のノウハウを知りたくて」

 

アクシデントには弱いのだろうが後付けでもキチンと辻褄を合わせようとする。こういう基点は妹より上かもしれないと達也は思った。

 

更に歩く事十数メートル。他の生徒の視線は痛かったが、達也に対し実力行使に及ぶ生徒はいなかった。達也は視線を気にせずリーナと共に実習室、実験室を見て回る。そして実験棟から裏庭に降りる昇降口でリーナが足を止める。

 

「疲れたなら戻ろうか?」

 

「いいえ、大丈夫よ・・・」

 

「・・・何だよ」

 

「達也は補欠・・・二科生なのよね」

 

「え?あぁ、そうだけど」

 

「A組のみんなと制服が違うからどうしてかなって思ってたら深雪が教えてくれたわ」

 

「・・・」

 

「でも、さっき花音に聞いたら達也は一校でもトップクラスの実力者だって。ねぇ、達也、なぜ劣等生のフリなんてしてるの?劣等生のフリをしていて、なぜ簡単に実力を見せちゃうの。アナタのやってることって凄くチグハグでどうしてそんなことをするのか分からないわ」

 

「先輩にどう聞いたのかは分からないけど、フリなんかしてないよ。俺が劣等生なのは事実だし」

 

「・・・」

 

「実技試験で評価されるのは速度、規模、強度の三つ。国際基準に合わせた項目が使われている。でも、実戦の勝敗はこの三つの優劣だけで決まる訳じゃない。俺は実技試験じゃ劣等生だけど、喧嘩は強いってだけ」

 

「試験の実力と実戦は別物、という意見にはワタシも賛成よ。ワタシも、学校の秀才じゃなくて、実戦で使える魔法師になりたいと思っているの」

 

「穏やかじゃないな」

 

「あら、分かるのね」

 

その言葉の後、リーナの掌底が達也を襲う。咄嗟に達也はリーナの右手首を掴み取る。だが、それでリーナは終わらない。リーナは掴まれた右手首を指鉄砲の形にし人差し指を突き出そうとした。しかし、達也はリーナの右手を外側に捻じり上げることで指先に集まった想子が打ち出される前に霧散した。

 

「物騒だな」

 

「避けられると思ってた」

 

「説明はしてくれるんだろうな」

 

「その前に、放してくれない?結構痛いし、それに、この体制はチョット恥ずかしいし」

 

リーナの手を外側に捻じり上げた所為で、2人の間隔が詰まっている。見ようによっては達也がリーナを襲っている、無理やりキスを迫っている様に見える体勢だ。達也は言われて直ぐにリーナの手を放す。ただ、達也の顔に羞恥の欠片も浮かんではいないが。

 

「痛いなぁ、もう。痣にはなってないみたいだけど」

 

「人の顔に穴を開けようとしたんだ。少しくらい痛い思いをして当然だろう」

 

「単なるサイオン粒子の塊に物質的な殺傷力なんてないわ。精々、銃で撃たれたみたいな幻痛を感じる程度でしょ」

 

「乱暴な扱いを受けるには十分な理由だろ」

 

「・・・はぁ~、分かった。分かりました。ご無礼をお許しください達也様」

 

「・・・」

 

「・・・まだ何か?」

 

「・・・イヤ、もういい、それと普通に喋ってくれ、そんな風に上品に振る舞われるとリーナじゃないみたいだ」

 

「なっ!ワタシの何処が上品じゃない言うの!」

 

「キャラが違う」

 

「そんなことはないわよ!これでも大統領のお茶会に招かれたことだって・・・」

 

「へぇ~」

 

「は、ハメたのね」

 

「今の流れは偶然だし、先に仕掛けたのはリーナだろ」

 

「グッ!・・・」

 

「それで、何故あんなことしたのか、事情を説明してもらえないのか?」

 

「・・・達也の腕を知りたかったのよ」

 

「何の為に?」

 

「別に・・・単なる好奇心だけど」

 

「好奇心ね・・・なら、そう言う事にしておこう」

 

「・・・」

 

「君は俺の腕試しがしたかった。そう言う事か」

 

「え、えぇ」

 

「ならこの件はこれで終わりだ。こういう事はこれっきりにしてくれよ」

 

「・・・聞かないの?」

 

「何を?」

 

「何って・・・例えば・・・ワタシの正体とか」

 

「今は止めておこう。知ったところで今の俺の立場じゃどうしようもないからね」

 

「・・・」

 

達也はそう言ってリーナに背を向けて歩き出す。リーナは黙ってその後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 其之一

2096年一月十四日・渋谷二十三時。

 

土曜の夜、若者であふれる渋谷をレオは一人ふらふらと歩いていた。目的無く渋谷の街を歩くレオが渋谷を歩いていると見知った顔が横切った。

 

「あれ?エリカの兄貴の警部さん?」

 

レオが声を掛けると、隣にいた稲垣から腕を引っ張られる。

 

「君、チョットと一緒に来てくれ」

 

「え?何?」

 

そう言われてレオが連れ込まれたのは路地奥の小さな酒場。

 

「マスター、上を借りるよ」

 

「・・・俺、未成年なんだけど」

 

「西城君、だったね。よく俺らのことが分かったね。ちゃんと気配は消してたんだが」

 

「・・・もしかして、操作の邪魔しましたか」

 

「そんな事はないよ。気配を消してたのは余計なトラブルを避ける為で、尾行とかしてないから。ただ、こういう処は警察は目の仇にされるから」

 

「へぇ~大変ですね」

 

「警部、彼にも聞いてみては?」

 

「西城君、今日は何の用で?」

 

「特に用があったわけじゃないですけど」

 

「ぶらついてただけ?」

 

「まぁ、そうなりますね」

 

「渋谷には良く来るの?」

 

「良くって程じゃ、たまにきます。そう言えば大晦日もここでフラフラしてたっけ」

 

「二週間前・・・じゃあ、最近、都内の繁華街で起こってる奇妙な事件は知ってる?」

 

「奇妙な事件?そんなの毎日起こってるだろ?ところで二人の管轄って横浜の方なんじゃ」

 

 

「俺らは警察省の所属でね。日本全国をあちこち異動さ。今は都内の連続変死事件を捜査中だ」

 

「変死?・・・猟奇殺人か?連続で?・・・っていうか、いいんですか?そんな事を話して」

 

「いいよ。どうせ明日に成れば分かる事だし」

 

そう言ってレオの前に端末が出され、数枚の写真を見せて来た。

 

「一番新しい犠牲者が三日前、道玄坂上の公園で発見された。死亡推定時刻は午前一時から二時の間」

 

「こんな都心の真ん中で?」

 

「昼間は都心でも、夜は何が起こっても不思議じゃないよ。この街では」

 

「聞きたいんだけど、妙な奴に心当たりはない?噂でもいいけど」

 

「夜中にこの街をうろついてんのは妙な奴ばかりだろ。具体的にどんな奴?」

 

「犯人の特徴が分かってなくてね」

 

「ただ、被害者については分かってることもある」

 

「全員の死因が、衰弱死。かすり傷以上の外傷はない」

 

「外傷がない?・・・毒?」

 

「薬物反応はどの遺体も陰性。しかし、傷が無いのに血液の一割が失われていた」

 

「全員が?」

 

「そう全員が」

 

「成程・・・それで変死・・・でもそれじゃ殺人事件というよりか怪奇事件だ」

 

「怪奇現象に見えても、事件は現実に起きてる」

 

「それで、こういうオカルトじみた真似しそうな奴に心当たりないかな。特に最近、他所から来たって連中で、妙な噂が立ってる奴等」

 

「最近の余所者・・・今んとこ、思いつかねぇ」

 

「そうか。分かった」

 

「ダチからネタ、仕入れときますよ」

 

「えっ?それはいいよ。そう言うのは警察の仕事だし、嗅ぎまわって目を付けられたら」

 

「でも、夜の渋谷だぜ?警察の人が色々聞き出すのは難しいと思うけど」

 

「・・・イヤ、それはそうかもしれないけど」

 

「危険な事に首を突っ込むようなことはしませんよ」

 

「そう?じゃあ」

 

「警部!?」

 

「何か分かったらメールをくれよ」

 

「はい、何か分かったら知らせますよ」

 

 

一月一五日 一時三十分 

 

自室で寝ていたリーナは同居人シルヴィーに叩き起こされた。

 

「何事ですか?」

 

「カノープス少佐から緊急入電です」

 

「お休みの処申し訳ありません」

 

「構いません。一体何事ですか」

 

「先月脱走した者たちの行方が分かりました」

 

「本当ですか?」

 

先月起こったスターズアルフレッド・フォーマルハウトの脱走事件。あの事件は彼を処分するだけでは終わらなかった。なんせ、同時期に七人もの魔法師・魔工師がUSNA軍から脱走したのだから。リーナは日本での潜入捜査の為に後のことをカノープスに任せていた。

 

「彼らは、今、何処に?」

 

「日本です。横浜に上陸後、現在は東京に潜伏していると思われます」

 

「何故日本に?・・・しかも、東京ですって!?」

 

「統合参謀本部は追跡者チームを追加派遣することを決定しました」

 

「このことを日本政府は?」

 

「知りません」

 

「総隊長。参謀本部は現在与えられている任務を優先度第二位とし、脱走者の追跡を優先せよと」

 

「・・・了解したと本部に伝えて下さい」

 

「総隊長。お気を付けて」

 

 

週明けの教室は、怪奇事件の話題で持ちきりだった。日曜の朝にスクープ記事が配信され瞬く間に広がったからだ。

 

「おはよ~達也君。ねっ、ねっ、達也君、昨日のニュース見た?」

 

「ニュースって、『吸血鬼』の?」

 

「あれってさ、やっぱり単独犯じゃないよね。プロの組織犯罪かな?アタシは臓器売買ならぬ血液売買組織の犯行説に一票なんだけど」

 

「でも被害者が抜かれたのは一割だけだろ、血が欲しいなら全部抜くと思うけど」

 

「テレビで言ってる様にオカルト的な存在による殺人何でしょうか?」

 

「吸血鬼が本当にいるなら、とうに分かっていそうなものだが」

 

「じゃあ、達也はあくまで人間による犯行で、オカルト的な事件じゃないと?」

 

「そういう幹比古はどうなんだ?」

 

「ただの人間の仕業とは思えないけど、断言はできないし」

 

「オカルトと言えば、魔法もつい百年前までその類だったけど」

 

「達也君はこの事件が魔法師絡みだと思ってるの?」

 

「そんなにハッキリ思っては無いよ。相思レーダーは何の反応も捉えて無かったって聞くし、・・・いや、誤魔化せない訳じゃないか、精神干渉系なら気付かれずに犯行に及ぶことも可能ではあるか」

 

「イヤですね。人間主義みたいな風潮が強くならないと良いんですけど」

 

人間主義とは魔法師排斥運動の一種で魔法は人間に許された力ではない。という教えを骨子とし、魔法使用を禁止しようとする運動。人間は人間に許された力だけで生きようという主張から『人間主義』と呼ばれており、アメリカに東海岸を中心に近年勢力を拡大している一派。

 

「何の話をしてるんだ?」

 

「遅かったな、レオ」

 

「ちょっと夜更かし、しちまって・・・で、何の話してたんだ」

 

「例の吸血鬼事件のことですよ」

 

美月が会話の内容をレオに教えた時一限目開始のメッセージが表示され、朝のおしゃべりは打ち切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 其之ニ

学食に現れた深雪の隣にリーナの姿は無かった。

 

「今日はリーナと一緒じゃないんだな」

 

「えぇ、今日は家の用事で欠席です」

 

「・・・そうか」

 

達也たちはいつも通りに7人でテーブルを囲む。食事中の話題は、この場にいない雫の話に。

 

「ほのか、雫は元気にやってるの?」

 

「うん、元気でやってるみたいだよ。授業もそんなに難しくないって」

 

「ふーん」

 

「そういえば、アメリカでも『吸血鬼事件』に似たような事件が起こってるんだって」

 

「ええっ!ホントなの、それ」

 

「うん。ただ、雫のいる西海岸じゃなくて中南部のダラルを中心とした地域で起こってるらしいけど」

 

「初耳だな」

 

 

達也たちが雫の話をしていた頃、リーナはUSNA大使館にいた。

 

「つまり、中尉の大脳皮質には、普通の人間に決して見られないニューロン構造が形成されていたと」

 

「解剖の結果、前頭前皮質に小規模な脳梁に似た組織が形成されていました」

 

「つまり、人間にないはずのものが、中尉の大脳にあったと?」

 

「それは、一体どういう機能を果たすものだ?前頭前皮質は思考力や判断力と密接な関係のある部位だと聞いたことがあるが・・・そこに新たな脳細胞が形成されたということは、思考力が影響されていたのか?」

 

「USNAの魔法関係者の間では、大脳は独立の思考器官でなく、真の思考主体であるプシオン情報体。いわゆる『精神』から送られてくる情報を受信し、肉体の情報を精神に送信する通信機器である。という仮説が支持されており、この仮説に従うなら、中尉の大脳に形成された新たなニューロン構造は、従来ダウンロードされることの無かった未知の精神機能とリンクするものと考えられます」

 

「・・・その未知の精神機能が、外部から意識に干渉する未知の魔法という可能性はありますか」

 

「シリウス少佐は中尉が操られていたと?」

 

「・・・」

 

「残念ながらその可能性はありません。仮説ではありますが、精神と肉体は一対一で対応するものと考えて間違いありません。他者の精神に干渉できても、それが大脳の組織構造にまで影響を与えるとはないと思われます。他者の精神構造そのものを作り変える魔法でもなければ」

 

 

 

まだ午後の授業が行われている時間だが、この時期、既に三年生は自由登校となっている。だから、七草真由美・十文字克人が誰もいない部室で密会していることを知らない。

 

「すまんな。こうするのが一番目立たない方法だと判断した。今、四葉を刺激するのはウチとしても避けたい」

 

「かまわないわ。今から話し合う内容は公に話せる内容じゃないし、それに四葉と先々月から冷戦状態のウチと十文字家が急に会談するなんて四葉に知られたら、あらぬ誤解をされるかもしれないし。全く、あの狸親父が余計なことをするから・・・」

 

「七草でもそんな言い方するんだな」

 

「あら?御免あそばせ?はしたなかったかしら?」

 

「別に構わんが」

 

「・・・十文字君。父からの、いえ、七草家当主、七草弘一からのメッセージをお伝えします」

 

「あぁ」

 

「七草家は十文字家との共闘を望みます」

 

「・・・穏やかじゃないな。『協調』でなく、いきなり『共闘』とは」

 

「十文字君は吸血鬼事件のことは、どの程度知ってる?」

 

「報道されている以上の事は知らん。ウチはそっち程手駒が多くないからな」

 

「十文字家は一騎当千がモットーだもんね。で、数だけは多いウチで分かっている限りでは・・・吸血鬼事件の犠牲者は報道の三倍。昨日の時点で二十四人の犠牲者が確認されているわ」

 

「東京近辺のみでか?」

 

「えぇ、都内、それも都心部に集中してるわ」

 

「・・・警察が把握していない情報を七草家が把握している。しかも、被害が発生しているのは限られた狭い地域。・・・被害に合っているのは七草の関係者か?」

 

「半分正解。警察が把握していない被害者は全員、ウチと協力関係にある魔法師よ。そうじゃない被害者も、魔法師あるいは魔法の資質を持っていた人だと判明してるわ」

 

「犯人は、魔法師を狙っているということか」

 

「連続殺人の犯人。それが単独犯か複数犯かは分からないけど、兎に角この『吸血鬼』が魔法師を標的としてるのは確実じゃないかしら」

 

「手掛かりは無いのか?七草の関係者を凌駕する程の能力の持ち主なんて、強化兵か魔法師だろう。それも外人の可能性は高い。事件発生の前後に入国、上京してきた外国人に疑わしい者は?」

 

「・・・でも、事件発生後に入国した外国人なんてUSNAの留学生くらいしか・・・十文字君、彼女、怪しいと思う」

 

「怪しいとは思うが犯人ではないだろう。まぁ、全くの無関係とは思わないが当面は放っておいても構わないのではないか?」

 

「十文字君がそういうなら・・・」

 

「しかし、その様な事情なら、四葉とも協力すべきだろう」

 

「本当はそうすべきだと私も思うんだけど・・・不文律を破ったのはコッチだもの。父の方から頭を下げないと関係修復は無理だと思うわ」

 

「だが御父上の方から四葉に謝罪する意思はない・・・二人の確執は聞いたことがあるから分からなくはないが・・・あの四葉がここまで態度を硬化させるとは」

 

四葉は他家が何をしようと気にしないというスタンスを通してきた。自らの性能アップに邁進し、その魔法力のみによって十師族のトップに君臨している。十師族の中でも異端と言える存在。克人も一体裏で何をやっているのか不気味に思う事もあるが、それでも師族会議を分裂させるような明確な対決姿勢を示すことは彼の知る限り無かった。

 

「・・・私も詳しくは知らないんだけど、四葉の息が掛かっている国防軍情報部の某セクションに、あの狸親父がコッソリ割り込みを掛けたらしいのよ。それがバレて・・・」

 

「成程」

 

「・・・それで、如何でしょう。十文字家はウチと共闘して頂けますか?」

 

「協力しよう」

 

「いつもの事とはいえ・・・随分と即答ね」

 

「話を聞いた以上。ウチとしても放置しておける事態では無い様だからな」

 

回答を求めた真由美に、克人は迷うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 其之三

夜の渋谷に人の姿が途絶えることは無い。だが、深夜の短い時間、人がいなくなる場所が生まれることがある。

 

渋谷区内 某 公園

 

「(また、不適合か?)」

 

「(ダメですね。今回は複製体を送り込んだ後で接続を完全遮断してみたのですが、これまで同様、サンプルの血液から想子を摂取しただけで定着せず戻ってきました。)」

 

「(やはりコピーではダメだと言う事か)」

 

「(それはあり得ません。私達自身がオリジナルの複製体なのですから)」

 

「ふむ・・・では、資質があっても望みが無ければ私達になれないということか)」

 

「(望みの無い者などいるのでしょうか)」

 

「(他に何か条件があると?)」

 

「(それを突き止める為にも、もっとサンプルが必要です)」

 

「(・・・そういうところは変わらない)」

 

「(私は私です。貴方が貴方であるように。何も変わっていません)」

 

「そうだったな・・・ムッ?サイキックバリアを突破した人間がいる。二人・・・いや、三人か?)」

 

「(試行中でしたからバリアの強度を高めてあったのですが。かなり高い資質の持ち主でしょう)」

 

「(こちらは二人。退くか?)」

 

「(いえ、折角のチャンスです。サイキックバリアを踏み越えて来るほどの素体ならば適合するかもしれません。幸い、最後尾の一人は他の二人から離れているようです。合流するまでに他の二人を無力化しましょう)」

 

 

 

 

 

 

レオは今日も夜の渋谷を歩いていた。ただし、いつもの様に「宛ても無く」ではない。怪しげな連中の噂を知り合いに聞いて回って、目撃情報を追いかけて実際に足を運んでいた。何故、自分がこんなにも熱心に刑事の真似事をしているのか、その理由はレオにも分からない。

 

「(フフッ、放っておけないんだろうな)」

 

色々と考えて何となく放っておけないというのが今の心情として一番近い様だ。

 

 

 

闇の中を突き進むレオ。さっきから断続的に、虫の羽音の様なざわめきが聞こえていた。その音はレオの意識の奥底に響いた。本来なら単なる雑音としか認識されない。だが、レオはこれを、会話する声だと直感していた。意識の奥底、魔法を使う領域の近くでかわされる声。その発信源へ、吸い寄せられるようにレオは近づいていた。

 

 

 

スターズはUSNAの中核的魔法戦力である。とはいっても軍に所属する魔法師すべてがスターズ配属ではない。現にUSNAの国家公認戦略級魔法師三人の内、スターズ所属はアンジー・シリウスのみで残る二人エリオット・ミラーはアラスカ基地、ローラン・バルトはジブラルタル基地に配属されている。

 

今、夜の渋谷を早足で進む二人組も、逃亡者処分に派遣されたUSNA軍のハンターだ。所属は『スターダスト』。

 

『スターダスト』 『スターズ』と同じくUSNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊。汎用性を放棄したことにより特定分野でスターズの一般隊員に匹敵するレベルまで能力を強化した魔法師部隊。

 

今回、逃亡者を狩る為に選抜されたメンバーは捜索・追跡に優れたチーム。相子波のパターンを識別しその痕跡を感知する、まだ日本では実用化されていない技術を植え付けられた強化魔法師だった。そして、今夜彼女達は脱走兵の一人、スターズ衛星級(サテライト)ソルジャー、デーモス・セカンドことチャールズ・サリバンの相子波を遂に捕捉し徒歩距離内まで追いつめていた。

 

「奴はこの先だ」

 

「反応は一人。挟撃しよう。私が右に行く」

 

「分かった。・・・移動を始めたぞ、急げ。ただし、仕掛けるのは同時だ」

 

 

 

 

 

「(軍の追手か。しかし、私を相手にスターダストが二人だけとは、甘く見られたものだ)」

 

「(以前の貴方しか知らないからでしょう)」

 

姿を消した同胞から届く思念波に、チャールズ・サリバンであった者は嘲笑に替えて苦笑いを浮かべた。

 

「(成程。衛星級だった私しか知らないのであれば、彼女たちの打つ手も予想がつく。援護は不要だ)」

 

サリバンが飛ばした思念に、ハチの巣から聞こえてくる羽音の様なざわめきが返った。

 

「(念の為に準備だけはしておきます)」

 

そして、両者の遭遇はその直後だった。

 

「脱走兵デーモス・セカンド。両手を挙げて指を開きなさい」

 

サリバンの前方から呼びかける、若い女性の声。同時に後方からガラスを引っ掻いた様な無音のノイズが彼に浴びせられる。その正体は『キャスト・ジャマー』が放つ想子波。

 

『キャスト・ジャマー』 USNA軍魔法技術部が開発した対魔法師用の携行武器を使った魔法妨害機器。

 

「お前には発見次第消去の決定が下されている。だが他の脱走兵の情報を提供するなら刑一等を減じるとも命令されている」

 

「十秒ほど考える時間をやろう」

 

「いや、必要ない。スターダスト捜索班(チェイサーズ)のハンターQとR。君達に私は倒せない」

 

その言葉と同時に銃声が鳴る。しかし、発射された弾丸は銃口の向けられた直線上に位置するサリバンの腕ではなく、ハンターRの腕をえぐった。

 

「ぐっ!軌道屈折術式だと!?」

 

「キャスト・ジャマーが効いていないのか?」

 

「いいや、キャスト・ジャマーは正常に作動している。ただ、私は最早、CADを必要としない」

 

Qがスカートの下に隠していたホルスターに銃を突っ込んだ。二人のハンターがコートの袖口からナイフを引き抜く。彼女達は前後から同時にサリバンに襲い掛かった。強化された身体能力で繰り出される、生身の人間には避けられない筈の刺突。だが、サリバンの首を狙ったRの刃が不自然に軌道を変えて横に逸れた。

 

「手に持つナイフの軌道を変えるだと!そんな強力な魔法を何故お前が使える!?」

 

「理解できんか。私が以前の私ではないと」

 

そしてサリバンが反撃に出る。突然サリバンの手にナイフが現われ、Rの背中に襲い掛かる。だが、その刃先は、空中で築かれた透明な壁に跳ね返された。

 

「ベクトル反転術式!? しかもこの強度は」

 

「総隊長」

 

「・・・三対一では流石に分が悪いか。ここは引かせてもらおう」

 

「ま、待ちなさい。チャールズ」

 

チャールズ・サリバンはアンジーシリウスの制止を聴く事無くハンターQとRの隙を突いて逃げ出した。

 

 

急激に膨れ上がった闘争の気配にレオは足を止める。危険な真似はしないと寿和に語ったのは嘘ではない。ここからは好奇心だけで踏み込む領域ではないと覚ったからだ。レオは通信ユニットを取り出し寿和にメールを送信する。

 

「これで良し。やばい事になる前に離れるか・・・ん?」

 

これ以上巻き込まれる前に退散しようとしたレオの目に公園のベンチに横たわる人影に気が付いた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

ベンチに倒れていたのは若い女性。恐る恐る近づくレオ。手を首筋に当て脈を確認する。女性の脈は辛うじて確認できた。しかし、危険な状態だ。このままでは衰弱死は確実だろう。レオは急いで通信ユニットから救急車を呼ぼうとする。だが、通信ユニットは壊されてしまう。

 

「なんだテメェは!」

 

レオの前に現れたのは異様な相手だった。丸いつばのついた帽子の下は、目の部分だけが切り抜かれた不気味な白一色の覆面。足首まで届くケープ付きの長いコートは身体の線を完全に隠して性別も判別できない。

 

覆面の怪人は一瞬で間合いを詰めた。相手が使ったのが自己加速術式だと覚ったレオだが、起動式を展開した兆候は分からなかった。レオは得意の硬化魔法を行使する間も無く、横殴りの警棒を左腕で受けた。

 

「痛てぇじゃねぇか」

 

レオは左腕で攻撃を受けつつ、右の拳で反撃に出た。レオのボディアッパーが怪人を捉えた。しかし、決定打にはならなかったようだ。

 

「てめぇ、コートの下はカーボン・アーマーか?御大層なこった」

 

怪人は距離を取って戦闘態勢に入る。その動作を見ていたレオはある事に気がつく。

 

「(あの構え・・・中国拳法か?・・・それにあの拳の大きさ・・・女?)」

 

怪人が再度レオに襲い掛かる。それを迎え撃つレオ。怪人が振り下ろす手刀を左腕で迎え撃つ。怪人がレオの左腕を掴む。その瞬間、急激な脱力感がレオを襲う。

 

「ぐっ!なんだ!? ち、力が」

 

急な脱力感に戸惑うレオ。それでもレオは気力を振り絞り怪人に一撃を見舞う。怪人は転倒し、レオは脱力感に耐えかね膝を就く。怪人は既に立ち上がっていたがレオの方を見てはいなかった。レオは意識を失った為に怪人が何を見て言ていたのかは分からない。

 

怪人が見ていたのは赤い髪、金色の瞳の仮面の魔法師アンジー・シリウスだった。

 

「シルヴィ、想子波パターンは識別出来ましたか?」

 

「ノイズが多く、特定には至っておりません」

 

「カメラは?」

 

「今の処は、ただ、何分都市部ですので障害物が多く、いつまでトレースできるか」

 

「分かりました。追跡を続行します」

 

追跡を開始したリーナだったが、その後直ぐに怪人を見失ってしまう。

 

「(・・・悔しいけど一人じゃ無理か)」

 

「どうしました」

 

「見失いました。そちらに戻ります」

 

口惜しげに、だが潔く、リーナは自分の失敗を口にし、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 其の四

千葉エリカの朝は早い。彼女は日の出前から鍛錬に朝を流すことを日課にしている。ベッドから出て、顔を洗って意識を覚醒させる。エリカはトレーニングウェアに着替えようとクローゼットの前に立って視界の端でメールの着信ランプが点灯しているのに気がついた。エリカは差出人の名前とメールのタイトルに眉を顰めた。

 

「・・・バカがバカに何させてるのよ!」

 

本文を読み終えたエリカはそう呟いてクローゼットからトレーニングウェアの代わりにセーターとスカートを取り出した。

 

達也の元に凶報が届いたのは、登校前、家を出る直前だった。メールの差出人はエリカからだ。

 

「エリカがこんな時間にメールとは珍しいな」

 

「放課後デートのお誘いですか?」

 

「・・・」

 

メールを読んだ達也の表情が厳しいものに変わる。

 

「あの、お兄様、良くない知らせなのですか?」

 

「レオが件の吸血鬼に襲われて病院に運ばれたらしい」

 

「じょ、冗談ですよね」

 

「事実だ」

 

そう言って達也は深雪にエリカからのメール内容をそのまま見せた。

 

「・・・」

 

「中野の警察病院で治療を受けている様だが、命には別条ないらしい。お見舞いは放課後でよさそうだ」

 

「はい、畏まりましたお兄様」

 

中野 警察病院

 

その日、エリカは学校を休んだ。エリカは今レオの病室前の長椅子に座っていた。そこにいるのはレオを訪ねて来る「招かれざる客」に興味があったから。そして、その「招かれざる客」がやって来た。現れたのはエリカも予想していなかった人物だった。エリカは「招かれざる客」がレオの病室に入ったのを確認するとその場を離れた。

 

 

 

エリカが向かったのは病院の事務室。そこには千葉寿和と稲垣の姿があった。

 

「ちょっと兄貴、今、アイツのところに七草と十文字が訪ねて来たんだけど」

 

現われた「招かれざる客」は七草真由美と十文字克人だった。しかし、2人がレオを訪ねて来た理由がエリカには分からなかった。一校の生徒が被害に遭ったのだから生徒会役員が来ても不思議ではない。だが、それでも来るならば現役である、あずさと服部であるべきだ。それに、レオは真由美と克人の二人とはお見舞いに訪れる程、親しい間柄ではないはずだ。

 

「西城君と一緒に救出された女の子が、七草家の家人だったらしい」

 

「それだけ」

 

「上からのお達しで、それ以上は詮索するなって」

 

「霞が関なら兎も角、桜田門はコッチのフィールドでしょ」

 

「俺達は霞が関の所属なんだよ」

 

「使えないわね・・・あっ!盗聴器は?」

 

「部屋に入ると同時に壊されたよ。凄いね『マルチ・スコープ』は」

 

「・・・じゃあ、外のは?」

 

「そっちは十文字の障壁魔法で・・・」

 

「じゃあ、推測でいいから心当たりくらいあるでしょ」

 

「・・・どうやら七草は被害者を隠匿しているようだな」

 

「・・・死体を隠してるってこと?」

 

 

寿和から聞いた予想以上にきな臭い推測。しばらく考え込んだエリカだが、

 

「もしかして今回の『吸血鬼事件』は魔法師絡みの事件ってこと?」

 

「多分ね。被害者か加害者かは分からないけど」

 

「被害者?魔法師による犯罪なら警察に任せず自分達で秘密裏に処理しようとするのも分かるけど、魔法師が被害者なら警察に隠す必要ないんじゃない?」

 

「さて、そこなんだよ。今回の事件が一筋縄じゃ行かないような気がするのは」

 

 

 

放課後

 

達也はいつものメンバーとレオの見舞いに訪れた。

 

「来たんだ」

 

「エリカ。まさか、ずっとここに?」

 

「流石に一旦家には戻ったよ。一時間前くらいにまた来たとこ。みんなが来るだろうと思って」

 

「エリカちゃん、それでレオ君は無事なの?」

 

「大丈夫だよ美月。心配し過ぎ。命には別状ないわ」

 

エリカが病室のドアをノックする。

 

「はい、どうぞ」

 

中から聞こえたのは若い女性の声。

 

「カヤさん、お邪魔しますね」

 

部屋にいたのはレオの姉の花耶だった。

 

 

「西城花耶さん、見てわかると思うけどレオのお姉さんよ」

 

「初めまして皆さん。わざわざ、お見舞いに来ていただいて」

 

姉の花耶は一通り挨拶すると花瓶の水を変えて来ると出て行ったが、遠慮して席を外したのは言うまでも無く明らかだった。

 

「酷い目に遭ったな」

 

「みっともないとこ、見せちまったな」

 

「見たところ、怪我も無い様だが」

 

「そう簡単にやられてたまるか、俺だって無抵抗だったわけじゃねえぜ」

 

「・・・じゃあ、何処をやられたんだ?」

 

「わかんねぇ、殴り合ってる途中で急に力が抜けて・・・それからは気を失ったんでわかんねぇ」

 

「毒を喰らったわけでもないんだな」

 

「ああ、取り敢えず体中を調べてもらったが、切り傷も刺し傷も無し、ついでに血液検査も白だ」

 

「相手の姿は見たのかい?」

 

「見た、って言えば見たけど。白い覆面つけて、ロングコートを羽織ってたから人相も体つきも分かんなかったんだけど」

 

「けど?」

 

「覆面の奴は女のような気がするんだ」

 

「女性がレオと対等に渡り合ったってこと?」

 

「あり得ない事じゃないでしょ。薬でも使えば」

 

「でも、最初からただの人間じゃなかった可能性もある」

 

「え!? ミキ、アンタまさか、吸血鬼なんてものが本当にいると思っているの?」

 

「何か心当たりがあるのか?」

 

「多分、レオが遭遇したのは『パラサイト』なんじゃ」

 

「パラサイト(寄生虫)?」

 

「妖魔とか悪霊とかそれぞれの概念で呼ばれたモノたちの内、人に寄生して人を人間以外の存在に作り替える魔性のことをそう呼ぶんだよ」

 

「それが吸血鬼の正体か」

 

「ねぇ、レオ」

 

「何だ?」

 

「君の幽体を調べさせてもらっていいかな」

 

「ゆうたい?」

 

「精神と肉体をつなぐ霊質で作られた、肉体と同じ形状の情報体のことだよ」

 

「ふーん」

 

「幽体は精気、つまり生命力の塊。人の血肉を喰らう魔物は、血や肉を通じて精気を取り込むみ己が糧としていると考えられている」

 

「つまり、吸血鬼が必要なのは血じゃなくて精気?」

 

「まぁ、レオの幽体を調べれば、色々と分かるはずだ」

 

そして、幹比古はレオの幽体を調べ始めた。

 

「何と言うか・・・達也も大概凄いと思うけど、レオ、君って本当に人間かい?」

 

「おいおい!」

 

「・・・良く起きていられるね?これだけ精気を食われたら普通の人なら昏倒して意識不明のままだよ」

 

「失った量まで分かるのか?」

 

「幽体は肉体と同じ形状を取るからね。居れ者の大きさが決まっているから、元々どのくらい精気が詰まっていて、それがどれだけ減っているかも、おおよそ見当がつくんだよ」

 

「じゃあ、俺の力が抜けたのはその精気を喰われたからか?」

 

「そう思う。でも・・・」

 

「でも?」

 

「殴り合っている最中に触れるだけで精気を吸い取れるなら、血を奪う必要はないはずなんだけど、傷痕を残さず血を奪う、その方法も分からないけど・・・このパラサイトは、何故、血を奪うなんて余計な手間を掛けてるんだろう」

 

この幹比古の疑問には誰も答えられなかった。

 

 

面会時間が終了した為、達也たちは病室を離れた。エリカは事務室に向かった。

 

達也side

 

「なぁ、幹比古」

 

「何だい、達也」

 

「さっき、聞きそびれたんだが、パラサイトはそんなに頻繁に出るものなのか?」

 

「・・・いや、滅多に出現するものじゃないよ。本物に出会う確率なんて十世代に一世代くらいじゃないかな」

 

「けど、今回の吸血鬼事件はその本物の仕業なんだろ」

 

「そうだと思う」

 

「偶然だと思うか?」

 

「可能性がゼロとは言わないけど、何の原因も無く起こったものとは、思えない」

 

 

中野 警察病院 事務室

 

エリカ side

 

エリカが事務室に入ると寿和はヘッドホンを外しているところだった。

 

「聞いてたのね。さっきの話」

 

「中々興味深い話だったな。幹比古君の推理が当たっているとして、お前はどうする」

 

「当たり外れは関係ないと思うけど・・・アレでも一応はアタシの弟子だからね。弟子をやられて、黙ってるつもりは無いわよ」

 

「・・・なんて色気の無い理由・・・」

 

「無くて結構。喧嘩を吹っかけて来たのは向こうなんだから、コッチは受けて立つだけよ」

 

その言葉が本音か照れ隠しかは寿和も分からない。分かっているのはエリカが完全に本気だということだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 追跡・捜索 其之一

達也たちがレオを見舞っていた頃、リーナはマクシミリアン・デバイス東京支社にいた。ここはミカエラ・ホンゴウの勤務先であり、今回の脱走兵追跡部隊の秘密拠点の一つでもある。

 

マクシミリアン・デバイス東京支部 会議室

 

「少佐、昨晩は危うい処をありがとうございます」

 

「二人共、昨晩のダメージはどうですか?」

 

「メンテナンスを受けましたので、任務に支障はありません」

 

「そうですか、では昨晩の詳しい報告を」

 

「イエス、マム」

 

「デーモス・セカンドを捕捉した我々は、事前に与えられたデータに従いキャスト・ジャマーを使用しました。ですが、キャスト・ジャマーはデーモス・セカンドに対し、有効ではありませんでした」

 

「キャスト・ジャマーの作動が妨げられたのですか?」

 

「いえ、キャスト・ジャマーは正常に作動していました。・・・本人の弁によれば、彼はCADを必要としなくなった・・・と」

 

「CADを必要としない・・・彼がサイキック化していたと?」

 

「肯定であります」

 

「現に彼はCADを使用せず、軌道屈折術式のみを使用しておりました」

 

「他の魔法を使わなかったということですね」

 

「肯定であります」

 

「また、彼の身体能力は強化を受けた我々を上回っていました」

 

「彼の想子波特性は変わっていなかったのですね?」

 

「少なくとも、我々に識別可能なものでした」

 

「私は彼を追跡中、彼の仲間と思しき者と接触しました。その者の想子波特性は観測できましたか?」

 

「・・・申し訳ありません。認識できませんでした」

 

「そうですか・・・如何やら過去のデータには当てはまらないようです。今後、脱走者を捕捉した場合は追跡に留め、直接手を出さないように。今後は私が直接、対処します」

 

「イエス、マム」

 

 

 

九重寺 

 

その日も達也は八雲を相手に毎朝恒例の組み手で相変わらず組み伏せられていた。

 

「あの・・・師匠。今のは?」

 

いつもと同じく組み伏せられた達也だが、今日はいつもと違う事があったのを、その眼で視て気付いていた。

 

「いや、まさか『纏衣の逃げ水』がやぶられるとは思わなかったよ」

 

「さっきのはいつもの幻術じゃなかったでしょ」

 

「やっぱりわかっちゃうのか」

 

「君の持つその眼。視ただけで術式を読み取ってしまう力は、相手にとって脅威そのものだ。でも、それを逆手にとる手段が無い訳じゃない」

 

「さっきの幻術がその手段なんですか?」

 

「纏衣は本来、この世のものならざるモノの眼を誤魔化す為の術なんだけど・・・」

 

「この世のものざるモノの眼?」

 

「ん?どうしたの?・・・ああ、成程。僕達が相手にするのは、人間ばかりじゃないよ。この世のものならざるモノの相手はそれ程珍しい事じゃないよ」

 

「俺が聞いた話じゃ、本物の魔性に遭遇するのは極めて稀な事だと・・・」

 

「聞いた話?・・・あぁ、吉田家の次男かな。まぁ、彼の言ってる事も間違いじゃないけど・・・君にしては切り込みが浅いんじゃない?」

 

「・・・幹比古の言った事は間違ってはいない・・・でも完全に正しくも無い?・・・本物の妖魔・化生と遭遇、つまり、偶然出会う事は極めて稀であっても、偶然でなければ・・・何者かの作為の下でならば決してめずらしくない?」

 

「う~ん、辛うじて及第点かな?・・・達也君でも先入観の罠は避けられないらしい」

 

「先入観?」

 

「達也君も、一度や二度は、この世ならざるモノたちと接触した経験があるはずだけど」

 

「えっ?」

 

「分からないか・・・じゃあ、君たち現代魔法師がSB魔法と呼ぶ魔法は、一体何を媒体としたものかな?」

 

「・・・あ!」

 

「精霊も立派に『この世のものならざるモノ』だよ」

 

この八雲の言葉は達也にとって完全に盲点だった。

 

「ああ、知性の有無とか意志の有無とかは二の次だよ。細菌には知性も意識もないけど、人の身体に入り込み肉体の機能に干渉して健康を害する。ウイルスに至っては不完全な増殖能力しか持たない。それでも、たとえ学問的には厳密な『生物』に該当しないとしても、人の肉体を蝕む『生き物』であることに異論はないはずだ」

 

「現象から切り離された孤立情報体に過ぎない『精霊』も『この世ならざるモノ』だと?」

 

「正確には、肉を持つ生き物ならざるモノ。と呼ぶべきなんだろうけどね。・・・それに『精霊』に意志がないなんて誰が確認したんだい?」

 

「・・・確かに誰も確認してませんね」

 

「少しは理解できたかな?」

 

「師匠、もう一つ質問していいですか?」

 

「・・・聞こうか」

 

「現代魔法においては、精霊は自然現象に伴ってイデアに記述された情報体が、実体から遊離して生まれた孤立情報体と言う事になっています。そしてもとになった現象を記録している為に、魔法式で方向性を定義することにより、その情報から現象を再現することができる。これが精霊魔法の解釈とされてます」

 

「大体それで合ってると思うよ」

 

「なら、人の幽体に寄生して人間を変質させるパラサイトは一体何に由来する情報体なんですか?」

 

達也は幹比古の話を聞いて、パラサイトは人間の構造情報に干渉する情報体ではないのか・・・と考えていた。

 

「パラサイト・・・彼らが何に由来する情報生命体なのか、残念ながら僕にも解らない。人の精神に干渉するのだから、精神現象に由来するものだとは思うけどね」

 

「精神に由来する情報生命体・・・」

 

「僕は人型の妖魔も動物型の妖怪も、情報生命体である妖霊がこの世の生物を変質させたモノじゃないかと考えてる。そして、物理現象に由来する精霊がこの世界と背中合わせの影絵の世界を漂っているように、精神現象に由来する妖霊は精神世界と背中合わせの写し絵に世界からやって来るんじゃないかと思うんだ。遭遇例が少ないのは存在しないからでなく、僕達がまだ、精神を観察する術を十分に持たないからじゃないかな。ロンドンに集まった連中からすれば異端の思想なんだろうけど、それが僕の偽らざる自説だよ」

 

この八雲の自説を聞いて、さすがに、古式魔法の大家の称号は伊達ではない。達也は久しぶりに、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 追跡・捜索 其之ニ

レオが吸血鬼に襲われてから、二日が経った。当然、レオはベッドの上だ。しかし、レオの意識ははっきりしているので達也はそこまで心配していなかった。

 

「レオ君、大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫だろ。目立った怪我も無かったみたいだし・・・まさか、エリカが嘘ついたと思ってるのか?」

 

「そういう訳じゃありませんけど・・・」

 

「そういえば、今日は二人共遅いな」

 

事業開始まで後少し、という時間にもかかわらず、エリカも、幹比古もまだ、登校していない。エリカに関しては昨日も遅刻ギリギリだった。

 

「おはよ~」

 

「お早う、達也、柴田さん」

 

「ギリギリだったな」

 

そう、達也が呟くと事業開始のメッセージ画面が立ち上がった。

 

 

その日の昼休みは、達也たちの行動はいつもと違っていた。エリカは食堂にも行かず、自分の机でお昼寝。幹比古は保健室。美月はその付き添い。達也は深雪とほのかと一緒に行動していた。

 

「雫、いきなりゴメンね」

 

「うん、どうしたの?」

 

「えっと、達也さんが、雫に聞きたい事があるって」

 

「聞きたい事? 私のスリーサイズ?」

 

「悪いけど真面目な話なんだが」

 

「あ、こんばんわ、達也さん。久しぶり」

 

「あぁ。久しぶりだな」

 

「それで、真面目な話って?」

 

「悪いな、そっちはもう夜だろ。メールにしようと思ったんだが、直接話さないと要領を得ないだろうから」

 

「気にしないで、まだ、八時だよ」

 

「ほのかに聞いたんだが、そっちでも吸血鬼が暴れてるそうだな。詳しい話を聞きたいんだが」

 

「・・・あぁ、あの話、日本では本当に吸血鬼が出たの?」

 

「日本では?」

 

「アメリカでは今の処、都市伝説扱いなんだ。メディアでは報道されてないから」

 

「そうか・・・」

 

「何かあったの?」

 

「・・・レオが吸血鬼らしきモノの被害に遭った」

 

「・・・えっ!西城君。大丈夫なの?」

 

「命に別状ないし、本人の意識もはっきりしてるからそんなに心配するな」

 

「・・・そう。分かった。それで、西城君を襲った吸血鬼は・・・掴まってないよね」

 

「あぁ、残念ながら、情報少ないからな」

 

「だから、私にコッチで何が起こってるのか知りたいんだ」

 

「ただ、どうしてもって訳じゃない。分かる範囲で良いんだ」

 

「でも、達也さんはアメリカに手掛かりがあると思ってる」

 

「手掛かりというか、正直、俺は吸血鬼はアメリカから来たと思ってる」

 

「えっ!」

 

達也の発言に雫も、隣にいた深雪もほのかも驚いた。

 

「何か分かれば連絡が欲しい。ただ、くれぐれも危ない橋は渡るなよ。そっちの情報が必須じゃないからな」

 

「・・・分かった。無理はしない。だから、期待しないで待ってて」

 

 

 

 

 

都内で被害者を出し続けている吸血鬼事件に対して組織的な対応を取っている勢力はエリカの知る限り三つあった。

 

一つ目は警視庁を主力とし、警察省の広域特捜チームと公安の警察当局。

 

二つ目は七草家と十文字家の十師族の捜査チーム。

 

三つ目は吉田家の協力を得て千葉家が組織した私的な報復部隊。

 

「やっぱり先輩達に協力した方が良かったんじゃ・・・」

 

「・・・」

 

「街路カメラとか防犯システムが使えるようになれば、効率も上がるんじゃ」

 

「そんなことしても意味無いわよ。そのシステムを使える警察が尻尾を掴めないんだから」

 

「人手を頼るにしても、連携がないよりあった方がいいと思うけど」

 

「だから、協力をお願いしてるでしょ」

 

「いや、僕達だけじゃなくて・・・」

 

「ミキ、どっち?」

 

エリカは十字路で足を止めた。それと同時に幹比古は木の杖を十字路の真ん中に突き立てた。

 

「コッチね・・・」

 

木の杖は十字路の右を指していた。エリカは杖の指した方へ足を向ける。その際、後ろを振り返りもしなかった幹比古は苦笑いを浮かべつつエリカを追いかける。幹比古は追いつく寸前で端末を取り出し、設定を確認する。端末は自分の位置を登録したグループに通知する設定になっていた。

 

 

 

 

チャールズ・サリバンは、新たに獲得した身体能力の全てを使って必死に逃げていた。

サリバンを追うリーナに、幾度となく想子のノイズが浴びせられる。その度にサリバンを見失うが、テレビ中継車に偽装された移動基地の想子レーダーが居場所を捉えて逃がさない。

 

「総隊長、次の角を右です」

 

「クレア、レイチェル、サリバンの正面に回りなさい」

 

リーナはモーターバイク並みのスピードでサリバンを追いかけながら、ダガーをサリバンに向け投擲した。リーナのダガーは武装一体CADで投げるだけで移動魔法が発動し、術者が設定したルートを辿って標的に突き刺さる。

 

サリバンは自分に向かって飛んで来る刃を寸前で知覚した既に躱す時間はない。しかし、得意の物体軌道干渉はまだ間に合う。上手く行けばサリバンを狙って放たれたダガーは、軌道を変えてハンターRに突き刺さる筈だった。

 

「ぐっ!!」

 

しかし、彼の術式はリーナの需式に干渉する事ができなかった。更にハンターRのコンバットナイフがサリバンを襲う。一瞬の隙を見逃さずリーナは拳銃を抜く。不意に街路樹の影からリーナへ電撃が放たれた。完全な奇襲だったが、その電撃はリーナの反射的に展開した領域干渉で無効化された。その間、リーナの腕は銃を離さなかった。銃口はサリバンの心臓を照準していた。

 

リーナの指がトリガーを引く。情報を強化された銃弾が、全ての防御を無視してサリバンの心臓を破壊した。その穴かも確認せずリーナは再びスタートを切る。彼女の目には電撃を放った吸血鬼の遠ざかる背中に固定されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 追跡・捜索 其之三

リーナと同じく吸血鬼の捜索していたエリカと幹比古。吸血鬼の行き先を占いながら歩いていた。あれから二回、行き先を占い十分程歩いたところで二人は顔を見合わせ二人は同時に走り出した。エリカは闘争の気配を、幹比古は精霊のざわめきを感じたからだ。

 

中層ビルが立ち並ぶ裏道を抜けた先の小さな公園で二人は遂に標的の姿を捉えた、交錯する二つの人影。一方はフード付きのコートで顔と身体を隠し、もう一方は目の周りを覆う仮面で顔を隠している。エリカにはどちらも女に見えた。

 

「ミキはコートの方を、アタシは仮面を抑える」

 

レオの証言からすれば、吸血鬼と見られるのはフード付きコートの方だが、こんな夜中に仮面で顔を隠した人間が怪しくない筈もない。何より仮面の女の持つ大型ナイフとそれを振るう腕が遠目に視ただけでエリカの警戒心を強く刺激した。

 

エリカは即座に仮面の女に斬りかかる。しかし、エリカの刀は空を切った。標的は三メートル先に移動していた。

 

「(早い・・・)」

 

エリカは自分の斬撃を外されたことには驚かなかった。驚いたのは魔法発動速度。仮面の女はエリカが刀を振り上げてから振り下ろす間に自己移動を行ったのだから。仮面の女が移動した先は街灯のすぐ下だった。街灯の明かりに照らされ真紅の髪と金色の瞳がエリカの瞳と意識に強く刻み込まれた。

 

幹比古は背後で風を切り裂く音を聞いた。幹比古はエリカの腕を良く知っている。そのエリカの斬撃が躱された。それだけでエリカの対峙している相手が相当な実力者だと分かる。

 

「(簡単に行かないのはコッチも同じ・・・)」

 

幹比古が対峙しているのはレオに聞いた通りの外見の吸血鬼。レオは打ち身以外の目立った外傷が無かった。攻撃手段は幹比古の予測した通り、ただ一つ計算違いだったのは対峙する相手の桁違いのスピードとパワー。

 

襲い来る相手の剛拳を古式魔法『綿帽子』で躱し、呪符を使た古式魔法『雷童子』で反撃に出る。しかし、吸血鬼は『雷童子』の電撃を放出系魔法で幹比古に撃ち返した。跳ね返って来た雷撃を何とか交わした幹比古。ここから幹比古は守勢に回るハメになる。

 

 

エリカの背後で雷鳴が弾ける。その瞬間、仮面の女の視線がエリカから逸れた。エリカはその瞬間を見逃さず、仮面の女に斬り込んだ。しかし、エリカが振り下ろした刃は、仮面の女が翳した左腕に阻まれた。

 

「(・・・ッ ダメだ。浅い!)」

 

鈍い音と共に伝わった感触は、手応えの無いもの。エリカが放った加減なしの斬撃は籠手で受け止められた。この相手は仮面こそふざけているが魔法師としてだけでなく、戦闘員としても高度に訓練されている。エリカにはそう思われた。

 

相手の右手にはいつの間にか拳銃が握られていた。エリカは相手が銃を持ち上げる腕より速く、相手の左へ回り込み、銃口が向けられる前に刀で銃身を叩く。その一方、仮面の女は左手をエリカに向ける。その指先から放たれた小さな雷球。エリカは自己加速術式で後退し雷球を躱す。仮面の女の銃の銃口はまだ上がりきっていなかった。

 

「(もらった!)」

 

そう思い、エリカは仮面の女目掛け突進した。しかしエリカが間合いの内に踏み込み刀を振り下ろしている最中、足下から突き上げる衝撃波に見舞われた。衝撃に意識を手放しそうになったのは、一瞬のこと。エリカはすぐさま身体を起こす。しかし、仮面の女の追撃はなかった。仮面の女は右肩を抑えていた。エリカの刃は仮面の女の魔法に吹き飛ばされる直前に仮面の女の右肩を打っていたようだ。仮面の女は手で肩を抑えたまま、幹比古と吸血鬼の戦っている方へ目を向けていた。正確にはその更に向こう。バイクに跨ったまま銀色のCADを吸血鬼に向けた少年へ。エリカには少年のもつ銀色のCADに見覚えがあった。

 

「達也君・・・?」

 

仮面の女が達也へ左手を向けた。そして魔法発動の兆しが生じる。しかし、その兆候は霧散した。金色の瞳に動揺が走る。それから即座に異なる魔法式が三度形成されるが、それも霧散した。そんな中、あっ!という幹比古の声が聞こえた。理由は吸血鬼が逃げ出したからだ。その一瞬を仮面の女は見逃さず、逃亡を図った。銃口を下に向け銃弾を放つ、足元で火花が散り、それが閃光に変わる。当然、達也は仮面の女の逃亡の気配を見逃すことはなかった。達也は逃亡を阻止しようと仮面の女の脚を狙って部分分解の魔法を発動しようとした。だが、相手の身体情報に手応えがなかった。実体を反映している筈の情報体は、表面だけで、中身が無かった。色彩と輪郭が記録されているだけで、材質や質量や構造に関する情報が抜け落ちている。情報量が少なく構造も分からなければ達也お得意の分解魔法は使えない。達也は魔法を中断した。閃光が消えた公園には仮面の女も、吸血鬼の姿も消えていた。

 

「二人共無事か?」

 

追跡を断念した達也は二人の様子を確かめた。幹比古の方は特に怪我の様子は見られない。一方エリカの方は・・・。所々、服が裂けていて身体のラインが見え隠れしていた。

 

「・・・あんまりジロジロみられると恥ずかしいんですケド」

 

「あぁ、悪い」

 

「・・・ねぇ、何か羽織るものかしてくれない?」

 

その言葉に幹比古がハーフコートを渡した。

 

「エリカ、怪我はないか?」

 

「念の為に鎧下付けてたから・・・はぁ~この服ダメになっちゃった。あの仮面め、今度あったら弁償させてやる」

 

「相手は鎖骨を痛めてたみたいだが?」

 

「それはそれ、これはこれよ。・・・処で達也君はどうしてここへ?」

 

「!!」

 

「どうしてって、幹比古に連絡をもらったんだが・・・」

 

「ふ~ん、いつ連絡したの?アタシ、聞いた覚えがないんだけど」

 

「・・・」

 

「二人共、移動しなくていいのか?」

 

「え?」

 

「人が集まって来てるみたいだし、それに師族会議にも断り無しなんだろ」

 

「もう、嗅ぎつけられたの?」

 

「エリカ、送ってやろうか?」

 

「え!本当!?じゃあ、お願い」

 

エリカは弾んだ足取りでタンデムシートに飛び乗って達也の腰にしがみついた。

 

「達也、僕はっ?」

 

「悪い、これは二人乗りだから」

 

そう言って達也はエリカを乗せて走り去った。

 

「ノーヘルは罰金だぞ~」

 

残された幹比古の叫びが響いた。

 

パラサイトの追跡を諦めたリーナはテレビ中継車に偽装した移動基地に戻っていた。

 

「少佐、申し訳ありませんでした」

 

「構いません。第三者の介入があったとはいえ、私も逃がしてしまいましたし」

 

「・・・」

 

「それにサリバン軍曹の処分は完了したのですから、あながち作戦失敗とは言えません。処で軍曹の死体は回収しましたか?」

 

「回収済みです」

 

「軍曹の死体は直ぐに解剖に回してください。それから私が追跡していた個体の正体は判明しましたか?」

 

「申し訳ありません。今回は想子波パターンの採取に成功しましたが、一致するデータはありませんでした」

 

「脱走者ではない・・・あるいは想子波パターンが変質している?」

 

「おそらく後者だと思われます」

 

「分かりました。採取したパターンの追跡に当たってください」

 

 

 

胸ポケットから取り出した端末を一瞥するなり慌てて出て行った兄が戻って来るなり、頼まれた要件を、深雪は思わず聞き返してしまった。

 

「はっ?叔母様に、ですか?」

 

「どうしても、相談したいことができたからな」

 

「分かりました。少し、お待ちを」

 

「さて、・・・俺も着替えて来るか」

 

 

それからしばらくして。深雪が本家に通信を入れた。

 

「この様な夜分に申し訳ありません」

 

「別に構わないわ。気にしないで。・・・それにしても深雪の方から電話してくれるなんて珍しいわね」

 

「実は兄が叔母様にご相談したいことがあるので」

 

「へぇ~、達也が?それはまた、本当に珍しいことね」

 

「お訊ねしたいことが一つと、お許しを願いたい言が一つあるのですが」

 

「そう、遠慮はいらないわ。言って見なさい」

 

「では、お言葉に甘えて・・・九島の『仮装行列』(パレード)の仕組みを教えて頂きたいのですが」

 

「はぁ~達也。パレードは九島家の秘術よ。その秘密をどうして私が知っていると思ってるの?」

 

「たしか、叔母上には九島閣下から教えを受けていた時期が御有りでしょう。魔法式は兎も角、概要はご存知なのでしょう」

 

「・・・」

 

「パレードは、情報強化の応用で事故のエイドスの外見に関する部分を複写・加工し、異なる外見の、いわば仮面・仮装のエイドスと言うべきものを魔法式として自分自身に投射し一時的に外見を変えると共に、魔法的な干渉の照準を仮装の情報体にすり替えることで自身の本体に対する魔法の作用を防止する術式なのでは?」

 

「・・・『変身』の魔法は実現不可能ということくらい、貴方なら理解してると思っていたけど」

 

「見かけを変えるだけなら、『変身』でなくとも光波干渉系で可能です。問題は光波干渉系では俺の『眼』を誤魔化すことはできない、という点にあります」

 

「まさか、お兄様の眼で正体を見抜けないと?」

 

「それだけじゃない。雲散霧消の照準を外された」

 

「雲散霧消が通用しなくても、トライデントなら問題ないでしょう」

 

「パレードは二重展開できないのですか?」

 

「・・・パレードは先生より弟さんの方がお上手だとお話を聞いた記憶があります」

 

「ありがとうございます。ただ、今回の件、俺達だけでは手に余るようです。援軍を頼みたいのですが・・・」

 

「それが許しを請う方の要件なのね」

 

「はい」

 

「・・・良いでしょう。確かに、予想を超える規模で事態が推移しているようです。風間少佐との接触を許可します」

 

真矢の言葉を聞くと、達也は一礼し画面の外に引き下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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来訪者編 吸血鬼事件 追跡・捜索 其の四

いつもの朝、いつもの通学路。深雪と二人で駅を出て友人たちと合流し、学校へ。雫とレオがいないがそれ以外はいつもの登校風景。しかし、今朝はいつもと異なるイベントが達也を待っていた。友人たちと合流する前、改札口の手前で真由美に呼び止められた。真由美の存在には達也も深雪も気付いていたが呼び止められるとは思っていなかった。

 

「お早う、達也君、深雪さん」

 

「おはようございます。七草先輩」

 

「ねぇ達也君。いきなりで悪いんだけど今日の放課後、時間作れない?」

 

「構いませんが」

 

「ほんと? 御免ね。急に。じゃあ、放課後にクロス・フィールド部の第二部室に来てくれる?」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、放課後、また会いましょう」

 

クロス・フィールド部(魔法戦技によるサバイバルゲームのクラブ)は克人が所属していたクラブだ。その第二部室が部活連の非公式な会合に使われていることは校内で暗黙の了解であり、クラブ引退後も克人がこの部屋を私的に使用していることを達也も知っていた。放課後、達也がクロス・フィールド部の第二部室に行くと案の定、真由美と克人が待っていた。

 

「独りか?」

 

呼び出した克人と真由美は達也が一人で来た事に意外感を覚えていた。

 

「呼ばれたのは俺一人でしょう」

 

「そうだけど・・・」

 

「それで、俺を呼び出した理由は何ですか?」

 

「・・・達也君に聞きたい事があるんだけど」

 

「何でしょう・・・」

 

「達也君、昨日の晩、外出しなかった?」

 

真由美の質問は達也が事前に想定していた範疇に収まるものだった。

 

「・・・しましたよ」

 

「バイクで?」

 

「えぇ」

 

「・・・何処に行っていたか、教えてくれる?」

 

「件の吸血鬼と交戦中の吉田に呼ばれて、その場で吸血鬼とそれを追っていたであろう正体不明の魔法師とやり合いました」

 

「何時からだ?」

 

「昨日は呼ばれたから駆けつけただけで、俺は吉田と千葉と違って元々、吸血鬼の捜索に加わっていませんよ」

 

「・・・」

 

「・・・先輩、腹の探り合いは無意味ですよ。まぁ元々、御二人はそういった駆け引きに向いてないと思いますけど」

 

「ちょっ!そんなひどい言い方しなくても」

 

「俺に協力して欲しいのなら、せめてどの程度まで事態を把握していて、どう決着をつけるつもりなのか、それを教えていただけない限り協力もできませんが」

 

「協力を約束してくれるなら私達が掴んでいる情報を教えられるけど。ただ、分かってると思うけど他言無用だからね」

 

「了解です。協力しましょう」

 

「・・・それは私達の捜索隊に加わってくれるってこと?」

 

「そう理解していただいて結構です」

 

 

 

 

真由美がもたらした情報の内、達也にとって目新しいのもは三つあった。

 

一つは被害の規模。これは達也の予想を大きく上回るものだったが、被害数自体に重要性は感じなかった。

 

二つ目は、この事件が単独犯の仕業とは思えないということ。協力者がいるだろうということは達也も考えていたが、吸血鬼自体が複数存在する可能性は予想外だった。

 

そして、三つ目は、真由美たちの捜索を妨害する第三勢力の存在。最初、達也も妨害勢力はエリカたちのことを連想していた。だが話を聞いていく内に、全くの別個の勢力だと分かった。

 

二つ目と三つ目の情報は、流石に達也を悩ませた。あの仮面の女はおそらく妨害勢力に属している。その正体も、ほぼ推測できている。しかし、何故、そんなことをしているのか動機が分からなかった。分かってしまえば簡単な構図、のような気がしてならないのだが、それが達也には余計にもどかしかった。

 

「それでお二人は吸血鬼を捕まえて、どうするおつもりですか?」

 

表向きであれ協力すると約束した以上、最終目標の確認を怠ることはできない。

 

「尋問して、正体と目的を突き止めて・・・その後は・・・」

 

「処分することになるだろう」

 

「そうですか。了解です。それで、俺はどうすれば」

 

「じゃあ、私達に同行してくれないかしら。できれば今晩からー」

 

「いや、司波は独自に動いてくれ。手掛かりを掴んだら報告してい欲しい」

 

「分かりました」

 

そう言って達也は自分の持ち札を明かさず、聞きたい事を聴くだけ聞いて部屋を後にした。そして達也の足音が聞こえなくなったところで真由美が口を開いた。

 

「十文字君。どうして達也君に別行動させるの?」

 

「その方が効率がいいと考えたからだ」

 

「でも今のままじゃ、千葉家に与するかもしれないわよ」

 

エリカたちが通達に逆らう形で別行動しているのは真由美も把握している。十師族はリーダーではあっても支配者ではないので、そう簡単に強制はできないし、ペナルティも与えられない。だが、勝手に突っ走られるのは不都合であり迷惑だ。エリカと幹比古は兎も角、せめて達也と深雪は目の届くところに置いておきたかった、というのが真由美の本音だ。

 

「こちらが本当の事を言わなければ、そうなっていた可能性もあるだろうが、我々が誠意を見せている間は、司波も我々を裏切らんだろう」

 

 

達也はクロス・フィールド部の第二部室を離れて急ぎ生徒会室に向かった。深雪が昼食を取らずに待っていると思ったからだ。達也が急いで生徒会室の扉を開ける。すると達也が最初に声を掛けられたのは深雪でもほのかでもなくリーナだった。

 

「ハイ、タツヤ」

 

「やあ、リーナ、どうしてここに?」

 

「ちょっとした用事よ。でも、もう済んだから。私はこれで失礼するわ」

 

「あぁ、そうか、じゃあまた」

 

「お帰りなさいませ、お兄様」

 

「お帰りなさい達也さん」

 

「あぁ、すまない。待たせたね」

 

達也が席に座るとほのかが調理パネルを操作し、深雪が飲み物を用意する。達也は大人しく支給されることに撤した。

 

「なぁ深雪、リーナの用事って何だったんだ?」

 

「あぁ、実は留学期間中、リーナを臨時の生徒会役員にしてはどうか、と学校側から提案がありまして」

 

「そう言えば、所属クラブが決まらなくてトラブルの兆しが、とか言ってたな」

 

「勧誘合戦が水面下で結構激しくなってるみたいで」

 

「リーナの留学期間はこの一学期間で終わりなんだから、協議会には出られないだろ」

 

「もっと別の種類の下心があるみたいですよ」

 

「リーナの写真集を作って売りさばこうと考えてる人達がいるみたいです」

 

「・・・写真部なんてウチにあったかな?」

 

「正確には美術部の写真チームです。リーナを軽体操部に入れて、それを写真に撮ろうとしてたみたいです」

 

「ハハッ、成程、確かに絵になりそう・・・」

 

「オニイサマ?」

 

深雪に疑わしげな目を向けられたので咄嗟に反対側に目線を逸らしたが、反対側にいたほのかも同じ様な目で達也を見ていた。

 

「!!、・・・売り物にするのはどうかと思うが・・・」

 

「・・・」

 

「いや、今のは言い方が悪かったな。すまん」

 

「兎に角、似たような話があちこちであって、リーナ本人だけじゃなく勧誘に無関係な部員にも火の粉が飛びそうな状況になって来てて・・・」

 

「それで、リーナを生徒会役員に?」

 

「えぇ、生徒会活動を理由にすれば、どのクラブも勧誘は諦めるでしょうから」

 

「それでリーナ本人は何て?」

 

「余り乗る気ではないようです」

 

「放課後、時間を取られるのを嫌がっている感じですね」

 

深雪とほのかの答えに、達也は「そうだろうな」という表情で頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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