クレヨンしんちゃん 未来編 (ドラグノフ)
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第一話

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第一話「卒業と、新たなる生活の始まり。それは、自分の新たなる人生の始まりでもあった…。とかなんたらかんたら?はい、第一話です」

 

 

 

深く考えれば思ってしまう。

いつの間に、こんなに時は過ぎてしまったんだろう、と。

思えばあの時は過ぎていたんだ。

あの時とはもちろん、オラがまだ5才だったあの頃を意味する。

時間というものは、気づかぬうちに過ぎて行くものなのだろうか?

だとするならば、オラの生涯は一瞬のうちにして消え去ってしまう。

そんな事にはならない様に、人間は人生を長く、少しでも長く楽しまなければいけないのだとオラは思う。

想いかえせば、5才の頃はいろんなことがあった。

戦国時代にタイムスリップしちゃったり、選ばれし者に選ばれたり、スパイになったり……

あ、未来のお嫁さんも見たことがあったなぁ…。

他にもたくさんの非現実的なことがありましたなぁ。

懐かしい、記憶にある一つ一つのそれは、オラにとって本当に大事な大事な想い出なんだ。

 

 

あ、いま。

ブワァって……ブワァってきたぞ。

ブワァってきて、そしてボロボロォって……

たくさんの想い出がボロボロォって……涙になって流れちゃって……

もうどうすればいのか分かんなくなっちゃって……

こんなに泣いたのは久しぶりかもしれない。

いや、かもじゃない。久しぶりだ。

こんなに涙を流すのは、久しぶりだ。

 

 

よく見れば、オラ以外のみんなも泣いていた。

グズッ、グズッって鼻をすすりながら、みんな涙を流していた。

まぁそれも仕方ないことなんだけどね。

今がなんのお時間か、それを考えれば納得いくでしょう。

オラたちは小学校の卒業式の真っ最中なんだぞ?

卒業生はもちろん、オラたち小学6年生。

―――――――――立派なもんだ!無事小学校を卒業するなんてな!

昨日父ちゃんが言ってた言葉を思い出すだけで涙が出てきてしまう。

オラってこんなに涙もろかったっけ?

そう思っている今でさえ涙が止まりません、はい。

どうしてだぁ、どうして涙が止まらないんだぁ!?

このままでは!この俺様の涙腺が崩壊してしまうではないかぁーッッ!

 

そんなわけで。涙腺が崩壊してしまったオラはクラスの誰よりも泣いていた。

 

 

卒業式が終わり、それぞれのクラスが教室へと戻って行った。

「ぅ…うぅ……、グスッ」

雅夫(まさお)君は卒業式が始まった時からずっと隣の席で泣いていた。

なのに今も泣き止んではいなかった。

「雅夫くーん、そんなに泣いちゃって、オラまでもらい泣きしちゃうぞぉ」

「ぅ…グスッ、しんちゃんだって泣いてるじゃん……グスッ」

え?オラが?この俺様が涙を流しているだと?そんな馬鹿なッ……そんな馬鹿なぁぁぁ!

「雅夫君を見てもらい泣きしたんだぞ?雅夫君のせいで……」

わざとジト目してやった。

「ぼ、ぼくのせい?そ、そんな……う、うわぁぁぁ「どんだけ泣き虫なんじゃおのれはッ!!」」

いくらなんでも泣きすぎでしょぉ、どんなきっかけで泣いてんじゃこのオニギリ君は。

「雅夫ッ!卒業式ぐらいでそんなに泣いてんじゃないわよ!」

「ひっ、ひぃぃぃ~ごめんなさぁ~い!」

寧音(ねね)ちゃんは昔から変わってない。

変わったと言えば更に凶暴に……『しんちゃん!!』

「ウォイ!?」

「あんたもさっきまで泣いてたわよね?全く、男子はこれだからッ」

自分だってさっきまで号泣してたくせに……

 

 

「今日をもって、クラスのみんなと一日を過ごせる日は最後となってしまいました……グスッ」

「でも、私はみんなのことを応援してるから!中学校でも頑張って!私のことを忘れないでね!そして、たまには会いに来てくださいね~!」

 

担任の先生がみんなに応援の言葉を贈った。

泣きたいのを我慢して明るく話してたのが一目して分かった。

たぶんみんなを悲しませたくなかったからなんだろうけど……、効果は無いに等しいと思う。

体育館で随分と流したつもりだったんだが……。どうやらまだ残ってたらしい。

女子は先生を囲み、男子は強がって泣いてないふりをし、寧音ちゃんは隅っこで鼻をすすり、そしてオラはというと……

「雅夫君、帰るぞ」

「え?でも……」

「先生の話は終わったんだし、他のクラスは帰り始めてるんだから」

「でも寧音ちゃんが……」

「下で待ってればいいでしょーが」

「で、でもぉ……」

「いーから!ほら、いくぞ。ボーちゃんだってそこで待ってるんだから」

「うん、最後も、一緒がいいから」

「う、うん……それじゃぁ…」

雅夫君のこーゆう性格も昔から全然変わってないよなぁ……

 

昇降口で寧音ちゃんを待ってると、雅夫君がこんなことを聞いてきた。

「どうして上で待たなかったの?」と。

オラにはオラなりのプライドというものがある。

正直な気持ち、あそこにいたら第二の涙腺崩壊は逃れられない。

一日に二回も人前で号泣してたまるか。そう思ったからなんだが……

正直に言えるはずもなく「なんとなくだよ~」って。

こんなんじゃ中学での卒業式も思いやられるぞ……。

「しんちゃん、寧々ちゃんが来た」

「お?」

「遅くなってごめ~ん」

「何してたの?」

雅夫君が尋ねた。

「ん~、ちょっとね~」

寧音ちゃんは誤魔化すように答えた。

雅夫君も敢えて深くは問わなかった。

そーゆうところが彼のいいところの一つなんだよね~。

 

 

帰り道、6年間通った通学路もなんだか感動的に思える。

空は卒業式に合う、これぞ快晴ッ!って感じのそれだし。

ほら、卒業式に雨や曇りだと嫌じゃない?ムードが無いし、ナンダカナァ~ってならない?

卒業式独特の、アニメやドラマのシチュエーションってのがあるじゃない?

それって何気憧れるやぁん、めっさ憧れるやぁ~ん。

「ね、ねぇあのさぁ」雅夫君が急に口を開いた。

校門を過ぎるまではちゃんと会話があったんだが……。

校門以降はちゃんとした会話が成り立っていなかった。

オラを含めた四人は、後ろで手を組んだりポケットに手を入れてたりして、全員下を向きながら歩いていた。

それはそれでシチュエーションとしてはグッド×一億あたりのものなんだが……。

いや~、実際にやってみると案外キツイもんすなぁ。

更にそれが小学校最後の日、今日で小学生じゃ無くなるって日の帰り道だからねぇ……

それを無言で終わらせていいのかと言うと、首の振り過ぎで骨が折れてしまう可能性もある程だ。

縦か横かは任せよう……。

「中学生になっても仲良いままでいられるよね?!」

お?なんだかいいシチュエーション臭が漂う質問が出て来たぞ。

ここはバシッと決めてやる!

「フッ、あたりま「さぁね、7年間も一緒なのよ?いつものメンツに飽きて他のとつるむかも?」」

寧音ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!

「えぇー!?そんなぁぁぁぁぁ~」

そんあぁ~はこっちのセリフだよ!まったくもう!

「大丈夫、僕はずっと、みんなの友達」

と、ボーちゃん。

「だから、飽きないようにしてね!私だってこのメンツ気に入ってんだから!」

「あとボーちゃん、友達じゃなくて親友の間違いなんじゃない?」

と、寧々ちゃん。

ここはオラが最後にビシッッ!と決めないとね!雅夫君が今にでも感動泣きしそうだし……

神様が与えてくれた再度で最後のアゲインでラストなチャンスなのだから!

「そうさ!オラた「じゃあね~」」

え?なに?じゃあね?

「じゃあ、学校の説明会で会おう」

「みんなありがとぉぉぉ~、クラス離れても仲良しでいようね!!」

「じゃあね、おにぎり~」

「その名前で呼ばないでよ~、封印されてたんだからぁぁ~」

「じゃ」

じゃって……え?なに?もう公園に着いたの?え?再度で最後のラストチャンスはどうしたのよ?えぇ?

 

こうしてオラの卒業式の憧れシチュ再現は消え去った……

みんなが去った後も、オラはただ一人、ぽつーんと公園の前に立っていた……

 

 

「はぁ……、なんか疲れたぁ」

家に向かう途中、これまた以外な人物に会った。

 

「しんさまぁ~♡お久しぶりですわぁ~♡」

「え?………、あ!?あ、あ、あいちゃん!!??」

「しん様しん様しん様しん様しん様しん様ぁぁぁぁぁっっ♡」『ガバッ』

何か抱きついてきたぁぁぁぁぁ!!ちょ!まちぃっ!?

「あ、あいちゃん、何でここに!?」

そんなオラの質問に対し、「6年ぶりですわね♡しん様♡あい、さみしゅうございましたわ」

甘い吐息かけて……ってぇッ!

「質問の答えになってないし!!いい加減はなれてよっ!」

「しかしながら、あいの永遠なるしん様への愛は変わっておりませんわ!!」

「だから答えになってないっての!」

「あい、しん様に会いたくて会いたくて我慢できなくなってしまいまして……、ついつい会いに来てしまいましたの」

やっと答えになった……、てか、会いたいからってわざわざ来たんかい。それに、はよ離れてくれません?

「それより、さっき何か言ってませんでした?」

「………もういいです、もう」

「そうですの、んふっ、久しぶりに見て思ったのですが、髪を伸ばしたしん様も素敵ですわね!とてもかっこいいですわ!」

「あ……そぉ?そりゃぁ……どうも」

そりゃまぁ確かに伸ばしたけど……文章で「伸ばした」だけだとロン毛だと思われがちだから言っとくがショートよ?それも目にかかるかかからないかぐらいの。

「そっけないしん様もかっこ可愛い~♡ですわ♡」

「目からのハートビームが心臓にあたってるんですけども……」

「ふふっ、本当にしん様は素敵ですわね」

この何分かで何回褒めるんだよこの人は…。

大体、オラ今なんか素敵なこと言った覚えないんだけど…。

「それではしん様、そろそろおいとまさせて頂きますわね」

やっとか……、この数分でさっきまでの疲れがさらに増えた気がするんだが……。

それにしても……。あいちゃん、綺麗になったなぁ………

幼稚園の頃は意識していなかったんだが。今思えば幼稚園のころから可愛かった気がする……。

あんなきれいな人に好かれてたんだ……、ぽっ。

ってぇ!!オラは何を考えてるんだぁーー!!同年齢の小学生なんかにぃ!!いやまぁもう中学生なんだけど。とにかくッ!オラはあいちゃんに恋心を抱いたわけではないッッ!

うん、きっとそうだぞ、そうに違いないぞ。

オラがそんなことを思っていると、ふと何かに気付いたのか。

「あ、そうですわ」

と言ってこっちを振り向いた。

「言いたいことを言っていませんでしたわ」

言いたいこと?何だろうか?あまりいい予感はしないんだけど。

「しん様、わたくし、しん様と同じ中学校に通えることになりましたわ。中学校ではよろしくお願いいたしますわね?」

「………!?うそ!?えげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??あいちゃんと!?一緒ぉぉ!?」

あまりにも予想外な爆弾的発言にオラは大声出して驚いてしまった。

それにしても……

「あいちゃんが!?双葉中学校!?酢乙女家の長女であろうあなた様がオラと同じ庶民的中学校!?」

「驚きすぎですわ……、それにぃ……なんだか傷ついてしまいました……」

あいちゃんは口を尖らせ、下を向きながらそう言った。

そんな姿も可愛いと思ってしまう自分がいた。

「あ、あぁごめん!傷つけるつもりは全然なかったぞ!」

焦りながらも、誤解を解こうと必死にオラは、ぶんぶんと手を横に振った。きっと照れて少し顏が赤かったと思う。

「ほんとう?」

上目使いで確認してくるあいちゃんの顏はオラを萌え殺すのに十分な武器だった。

ってぇぇぇぇぇぇ!!!さっきから何を言っているんだこのわたくしはッ!!

さっきも言った通り、オラは同年代の女の子なんかに、興味なんてさらさらどろどろ無いんだっ!

「ホォントホントォ、正直者の野原様とはこのオラのことだぞ!エッヘン!」

オラの言葉を聞いて安心したのか、あいちゃんはホッと胸を撫で下ろした。

「ではしん様!中学校でお会いしましょう!」

あいちゃんは「ごきげんよ~う」と挨拶をし、幼稚園の頃とは別な黒塗りの車で帰って行った。

にしても……。

よくあいちゃんの御両親、双葉中学校に行くことを許可したねぇ……。

絶対黙ってないでしょ?普通。それともあいちゃんが泣きながら説得したのかな?

どっちにしろ……。

中学校生活もいろいろと苦労しそうだぞ……

 

 

その日の夜、オラんちは一家四人で楽しくパーティを開いていた。

 

「しんちゃんおめでと~う!これからは中学生ね!!」

「うっ、うっ、今日の卒業式は感動したぞ~しんの~す~け~…うっ、うぅ~」

「あったりまえじゃないのぉ~、感動させる気でやったんだからぁ~ん」

「うふふふふ、おバカ!」

「ねーねーひまはー?」

「ひまちゃんも!今年から小学二年生ね!おめでとぉ~☆」

「わ~い!」

パチパチと手を叩きながら、キャピキャピと笑うひまわり。

まだ五歳児の頃はオラに似たところがたくさんあったのに…。

今となってはかわいらしい女の子に大変身だよ、ホント。

しかし所詮は小学一年生、あ、二年生か。まぁどっちだっていいけどさ?

まだまだ幼い所はありますなぁ。

 

それから何時間かが経った。

母ちゃんが奮発して作った美味そうな料理も、すっかりきれいに平らげてある。

「へ~、それであいちゃん、しんちゃんと同じ学校に通うことになったの~」

「そ、オラも聞いたときはびっくりしたぞ」

たぶん、この何年間かで一番びっくりしたな、あれは。

「あいちゃんってだれ?」

ひまが首を傾けて聞いてきた。

「ひまは覚えてないかなぁ~、まぁ無理もないけど」

「むりも、ない?」

ひま……、首、傾け過ぎだぞ。90度以上は傾いてるな、これは。

「それにしてもよぉ~ひっく、あいちゃんって、ひっく、酢乙女家の御令嬢だろ~?そんなのが信之助みたいなのと一緒の学校に通っていいのかぁぁ~?両親が黙っちゃいないだろ~両親が……ひっく」

缶ビールを何杯も飲んだからだろう。酔っぱらって顔を真っ赤にした父ちゃんがテーブルに突っ伏しながら話に混ざってきた。てゆーか、実の息子をみたいなのってひどいんとちゃう?

「オラもそれ思ったぞ」

「でもホントよね~、あいちゃんはお嬢様学校に行くと思ってたんだけど。まさか信之助みたいなおバカな子も通学するような学校に行くなんてね~」

「みたいなのって…もう言わないでくれ。それにおバカは余計だ」

父ちゃんも母ちゃんもアハハハと笑う。

そんな二人を見て、クスッとオラまで笑ってしまった。

ひまも、オラを含めた笑っている三人を見てつられて笑っていた。

笑いながら、他愛もない質問をするひま。

「ねーねー、あいちゃんってどんなひとー?」

父ちゃんはこの質問に、こう答えた。

「そうだなぁ……昔で言うお姫様かな?ほら、シンデレラとか」

小学低学年に分かりやすい例えを持ってくる父ちゃんはさすがだな。

それより、お姫様かぁ……。まぁそうとも言えるしそうで無いとも言えるなぁ。

「お姫様かぁ~!ひま、会ってみたい!!」

ひまは目をキラキラさせた。目からアニメのような☆マークがパチパチと出ている。

「そのうち会えると思うぞ、たぶん……」

なんでこんなこと言ったんだろうかは自分でも分からない……。

何か……、直感的にそう感じる……。

 

それから十分ほど経った。

 

父ちゃんは酔いつぶれてテーブルに突っ伏して寝ていた。

そんな父ちゃんを見て思ったのか、「もう寝るわよー」そう言ってムニャムニャ寝言を呟いてる父ちゃんを寝室まで引きずって行った。

布団を敷き終え父ちゃんを寝かせた後、「あなたたちも早く寝なさ~い、春休みだからって遅寝はダメだからね~」と母ちゃんが言い、ひまが「は~い」と寝室へ向かったので、オラも仕方なく寝室がある二階へと向かった。

小三に上がってから、オラは元居候であるむさえちゃんが居座っていた部屋で寝るようになった。

もちろん、一人で。

 

バフッとベッドに倒れこみ、電気のついていない部屋の天井をにらむ様に見つめた。

丁度良い月の光が、部屋の明り代わりになる。そのテイストといったらもう何とも言えない。

それほど素晴らしいものだった。

「お月様が綺麗ですなぁ……」

つい口からこぼれてしまった。それほど綺麗なのだ、今夜の月は。

残念ながら満月ではないものの、その明るさは、この暗い部屋を照らすのに十分すぎるものだったのだ。

「オラももう中学生かぁ、早いなぁ……。ま、そう思ってんのは母ちゃんたちもか」

「にしても、今日は疲れましたなぁ。まさかあいちゃんと会うなんて…」

あいちゃんのことを考えた。今日あった家の前での出来事が思い浮かぶ。

あいちゃん……、可愛かったなぁ……。

あいちゃんと同じ中学校かぁ…、あんまいいことではないとか思ってたけど……考えてみると結構いいかも。

あ、今のオラ……、顔、絶対に赤いな。

「オラ、あいちゃんのこと好きなのかなぁ……」

腕を組みながら、天井から視線をそらし、どこでもないところを見ながら、考えてみる。

なんだか、胸が苦しい。病気とかじゃない、それは分かる。

なんだなんだ、なんなんだぁこの変な気持ちは。

あいちゃんのことを考えただけで、初めて感じるこの気分はなんなんだ。

これが恋というものなのか?いやいや、それは違う。

なな子お姉さんに恋をしていた時、こんな気分にはならなかった。

こんな、こんなモヤモヤしてる、こんな変な気分にはならなかったぞ。

ベッドに横になって数十分、あいちゃんのことを考えて三十分ってところか。

三十分間、ずーっとあいちゃんのことを考えていた。

考えていたのだが、飽きない。飽きないのだ。

いつからだか、集中力に長けていることが分かった。

とういか長け始めた、というのが正しいだろうが。

なんにせよ、三十分間という時間考え込んでたのは初めてだった。

この前なな子お姉さんのことを考えたときは5分ももたなかっただろうに。

………………………………。

まぁいいや、これが恋だろうとそうでなかろうと、オラはもう寝る。

 

オラは毛布派でね。布団は出来る限りかけないようにしているのだよ。

まぁそんなことどうだっていいか。

毛布にくるまって、オラは眠りについた…。

 

 

 

 

                              第一話 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話

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第二話「あいつがいない限り、僕はエリートです」

 

 

「うぅ……ぬぅぅ~ぉ~ん」

…………、正直、まだ寝ていたい。

日常的なことだから分かるが、ドアの前でオラの名前を読んでいるんだろうなぁ大声で。

「しんのすけぇぇぇぇぇぇぇ!!起きなさぁぁぁぁぁぁぁい!!」

春休みだからとて、遅寝を許さねば遅起きも許さぬのだろう。

幼いころから思っていたが、母ちゃんの喉は異常なほど頑丈だ。

いつも大声出してるのに、枯れることが無い。変わることもない。

「しんのすけぇ!春休みだからって起きる時間は変わりませんからねっ!」

「うぬぅ~ん…むにゃむにゃ………」

「は・や・く! お・き・な・さ・い!」

うるさいからもう起きましょ。たまには早起きも大切だからねぇ。

オラは適当に返事をし、くるまっている毛布から抜け出した。

「早く着替えて下に来なさいよ?朝ごはんが冷めちゃうから」

母ちゃんはそう言って一階へ戻って行った。

「さて、着替えますか」

 

着替え終えて食卓へと向かう。

食卓へ着くと、父ちゃんが昨日の夜と同じように机に突っ伏していた。

ここんとこ一週間、味噌汁の具以外変わりのない朝ごはん。

それを食べ終え、台所へと食器を運ぶ。

今日は誰かと遊ぶ予定もないので、特に忙しくはない。

というか、暇だ。することと言えば学校から貰ったワークぐらいか。

ただそれも、別に宿題のわけでもないので後回しにする。

となると、何もすることがない。

最近は何かと、宿題だー手伝いだー防衛隊の活動だーだので忙しい。

あ、ちなみに防衛隊の活動ってのはだねー。

春日部防衛隊のメンバー5人で町のボランティアに参加したり、積極的にゴミ拾いしたり、そこらへんをパトロールしたりと。いろいろやってるんですよ?わたくし。

風間君は名門の小学校に通っているから、週に二日、水曜日と金曜日しか来れないんだけどね。

ていうかここ二年間会ってないんだけどね。

ともかく、最近は休日すら忙しいからなかなかごろごろできないのですよ?

さぼってぐうたらする日もあったが、それも一か月に3~4回程度のこと。

オラの身体はボロボロなのです。

ベッドでごろごろしようと、オラが二階への階段を一歩踏み入れた時、「信之助ぇ~、明日は学校説明会でしょ~、持っていくものとか準備しなさ~い」

そう母ちゃんが言った。この声はキッチンから発せられてるんだろう。

「それはまた後でやるからいいよ」

キッチンにいる母ちゃんに届くぐらいの大きさで、オラは返した。

すると「あんたそーゆうことはすぐ忘れちゃうでしょ。いいから今しなさい」

そう返ってきた。確かに忘れそうだからな~……。

「仕方がない、オラももう中学生だからな。ちょっと自分を変えてみっか」

よし!と気合を入れ、オラは自室へと向かった。

 

 

 

「う~ん、やっぱし、萌えアニメはいいよな~」

清々しくなる朝の色、これこそまさに、春休み!今日も天気のいい朝だった。

自室にある、50Ⅴ型フルハイビジョンプラズマTV(3D付き)で萌えアニメを見る僕。

この世で萌えアニメより素晴らしいものはないのではないかと思ってしまう程、僕は萌えアニメが好きだ。

萌えアニメが無いと生きていけない、そう言っても過言ではない。

しかしながら、この事実は両親意外にばれてはいけない。

ばれてはいけないのだ。

本当ならふでばこやケータイ、何から何にまでグッズを付けていたい。

だがしかし、僕は名門小学校に通っていたエリートの中のエリートだ。

皆からの僕の第一印象は常に、エリート。

そんな僕が。ふでばこやらケータイやらにストラップなどを付けて、学校ででも見られたら。

そりゃ僕にとって一大事なのだ。悲劇だ。悲惨な人生が僕を待っている。

そうならない為にも、僕はこの6年間学校では常に!成績優秀スポーツ万能、お行儀が良く誰にでも優しく欠点のない!誰からも慕われる存在を築き上げた!!

途中まではとてもいい気分だった。学校内の生徒のほとんどが僕のことを知っている。

学校のトップを飾る有能者だって、みんな思っている。

でも…。それも途中までのことだった。

小学校4年生の頃だったか、僕の心境は複雑になっていった。

何かが違う。どこかが違う。僕は、こんな人生を送りたいと思っていたわけじゃない!と。

あの時は本当に悩んだ。確かに、今の生活が素晴らしいものだと言えば、それは限りなく事実に等しい。

一時的な心境の変化だと。いずれまた、今の生活で心境が複雑になることなど無くなると。

そう思っていた……。しかし…。いつまで経っても心境に変化は見られず、いつの間にか僕は最上級学年になっていた。人生に悩んでいた分、時間が早く感じられたんだろう。あっという間だった。

そして、ついに僕は決心した。

名門小学校から名門中学校に上がったところで、人生に変化なんて訪れない。

名門が付く限り、以前とあまり変わりの無い人生を送らなければいけなくなるのだ。

だったら。それだったら。普通の中学校に通えばいいじゃないか。

そう決心したのだ。僕はすぐにでもママに相談した。

最初は戸惑っていたが、僕の真剣な思いがママを納得させた。

そして、ついに。昨日、僕は小学校を卒業した。

これからは名門なんかじゃなく、普通の中学校。双葉中学校に通えることになった。

「トオルちゃん?明日の用意はしてある?」

ママがドア越しに僕に尋ねた。

いい加減トオルちゃんって呼ぶの止めて貰えたら嬉しんだけど…。

「してあるよ、完ぺき」

それにいちいち確認してくるのも、できればやめてほしい。心配なのは分かるけど…、僕だってもう中学生なんだ。これがいわゆる、反抗期の始まりってやつかもしれない。

「そう。それなら良かったわ。双葉中学校にはみんなもいるみたいじゃない?」

みんな。ママが言った、みんな、とは。

僕にとって、萌えアニメなんかよりも大切な存在。

幼少のころからとても仲良く、毎日を楽しむ為には欠かせない存在。

例えどんなに腹が立っても、どんなにからかわれても、どんなに苦い思いをさせられても、許せる存在。

通っていた小学校には、そんな存在はいなかった。

だからかもしれない。僕が以前の生活に満足できないでいたのは。

欠かせない存在が欠けていたから。

「みんなと……。同じ学校!!」

これからは皆と毎日会える!そう思うと、なんだか独りでに興奮してきた。

「ママ!!僕、明日が楽しみだよ!!」

ドア越しだから良く聞こえなかったけど。ドアの前でママがフフフフと微笑んだ気がした。

 

 

 

「あなたー、そろそろ時間だから信之助を送って行ってー」

「よぉーっし!信之助ぇ!行くかぁ!」

「え~、オラ行くのめんどくさぁいおならくさーい。」

「あのなぁ……」

「オラ、みんなと一緒にじゃなくちゃいやぁ~ん」

「みんなとは学校で会えるぜ?それにだな……、中学校にはとーっても美人な先生がわんさかいるんだぜぇ」

「えぇぇー!?まじでぇ!?!?ポッポーッ!そりゃいいこと聞いたぞ!!さっさと行こう!今すぐ行こう!飛ばせひろしぃ!!」

「おうよぉ!信之助の旦那ぁ!って!ひろしって言うなひろしって…」

「じゃあぁ……ピロシ?」

「ピロシ……もういいや…とにかく行くぞ!」

「出発おしんこー!!」

 

車内での会話…。

「おぉー、双葉幼稚園と同じく双葉のくせに、オラここ見たことないぞ」

「ははっ、そりゃぁおまえがバスの中で友達と話してたからじゃないか?ここ、幼稚園バスの通学路だぜ」

「双葉小学校の時も見たことないけど?」

「そりゃ反対方向だからなぁ」

「うぬぅ……」

「ほらー!見えて来たぞぉ!あれが、おまえがこれから通う中学校、双葉中学校だぁ!」

「おぉ~!あそこに美人の先生がいるのか~!……」

「そぉそぉ……」

二人は妄想に浸り……

「「うんうん」」

ニヤけた顔で何度も頷いた。

まさに似たもの親子………。

 

 

 

車を校内の駐車場に停めると、ガチャッと車のドアを開ける音と共に、信之助が外に出た。

思えばぁ……、フッ、息子ってぇのはぁ、いつの間にか成長してるんだ……な。

車から降りてぇ学校を見上げる息子の背中を見ていたらぁ……、なんだか……。

ちょっと前まではぁ、見ず知らずの他人誰それ構わず迷惑かけていたお調子者でぇ、変態丸出しのお馬鹿な息子だったんだがぁ……。

そんな息子の制服姿を見ちまった俺はぁ、涙を流さずにはいられなかった。

「どうしたの?父ちゃん。行かないの?」

信之助にばれまいと、必死に靴ひもを結ぶふりをしている俺に信之助が尋ねてきた。

「ん?あぁ、行かないんじゃなくて行けないの。親は外で待機だったはずだからな」

「ほぉ~ほぉ~、なるへそくりくりくり美味し~。ところで父ちゃん、下向いて何やってんの?」

「んー?ちょっと靴ひもがほどけてたからな。それより、馬鹿言ってないでさっさと行け。友達が探してるんじゃないか?」

「おぉー!そだったそだった!じゃあまた後でねー!」

「おう!」

危ねぇ危ねぇ、こいつ、変に感がいいからなぁ。上手く言わなくちゃばれちまうところだった…。

あいにく、今回は俺の勝ちだがな……。

「あ、父ちゃん」

「どうした?忘れ物か?」

「違う違う。父ちゃんが靴ひも結んでるって。それ、嘘なんでしょ?」

「ドキッ!?」

嘘だろ、俺の完全なる演技を……。てゆうか、何でわかったんだ?普通わかんねぇだろ……。

「お、おまえ……どうして」

「どうしてかは後でねー。雅夫君達に迷惑かけられないしー」

そう言って、信之助は昇降口へと走って行った。

ハァ……、結局、今回も信之助の勘の鋭さには勝てなかったか……。

 

 

 

「んぬぅ~、雅夫君達どこだ~。こんなに人がいるなんて思いもしなかったぞぉ。小学校の頃よりかなり多いと見た」

昇降口はガヤガヤと、うるさいという領域を超えている程人の声に満ちていた。

「どぉこだぁ~……ん?あれは……」

みんな同じ格好で同じ場所を移動するなか、オラはある人物を発見した。

かなりの距離はあるが、あれは絶対にその人物だと確信した。

最近会っていない、幼稚園の頃からの親友の一人。

そう、風間君だ。

「風間くぅ~ん!!!」

オラは風間君の元へと、人を掻き分けながら駆け抜けた。

名前を呼びながらだったので風間君もある程度近い距離になった時、オラの存在に気付いてくれた。

「信之助か!!」

「風間くぅ~ん!!会いたかったぁ~」

そう言ってオラは風間君に跳び付いた。

「それは僕もさ!信之助!ってぇ!!僕に抱き着くなっ!!」

「風間君のいけずぅ~」

風間君は顔を赤らめて怒鳴った。ちょっと懐かしくも思える。

「いくら二年間会えなかったからって、こんなに人がいるとこで抱き着くなよ!誤解されたらどーすんだぁっ!」

「そぉん時はそぉん時でいーじゃなぁい」

「あのなぁ……」

「と言いますかぁ、今の言い方からしてぇ人がいないとこでだったらいいと?」

「そ、そーゆうわけじゃなぁーいッ!!!いい加減にしろ!しんのすけっ!」

「んもー、久しぶりの再会なのにそんなピリピリしないでさ!雅夫君達探そう!」

「原因はおまえだろうが。一緒に来たんじゃないのか?」

「それがさぁ?オラは行きたいって言ったんだけどね?父ちゃんが、ダメだーって」

「ふぅん……。それじゃぁ探しに行こう。時間はまだだし」

「そうこなくっちゃぁ。さすが名門小学校出身だね!」

「それ程でもないよ。最初はいいと思ってたけど、あんまり僕には合わなかった」

「ふぅ~ん、それはそれは意外ですなあ」

「そうか?まぁいいさ。はやく探しに行こう」

残るは三人!いざ探さん!

 

 

 

親に迷惑はかけられない。僕はもう中学生なんだ。

そう思ってママから車のお誘いを断ったはいいけど……。

駅まで歩くのはめんどくさいし、電車に乗っても双葉駅についてからまた少し歩かなければならないとは…。

だいたい、何でここの地域の学校の説明会は春休み中にあるんだ!?おかしいだろ!?

これから毎日これで通うのかと思うと、次第でに足が重くなるよ……。

「それでも、信之助たちに会えるのならば!!」

やる気スイッチON!!

なに?やる気スイッチを知らない?ふふっ、なら教えてあげよう。

やる気スイッチとは、やる気を出させる為に自然にして作られた、人々には必ずある心の中のスイッチである。

と、いうことで、僕は駅へと駆けた。

 

電車の中は驚くほど人に満ち溢れていて、それをみた僕のやる気スイッチはOFへと切り替わった。

一目して分かった。中にいるほとんどが僕と同じ格好のそれ。

これからの通学も今ほどではないにしろ、過酷なものとなることが想像される。

満員電車でむし暑いのは今まででも何度か体験したが、そうそう慣れるものじゃない。

今度は精神のスイッチをOFにした。そうすることによって、辛い時間があっという間にすぎている様に感じられるのだ。つまり、意識することも控えめに。ということだろうか。

ん?なに?今度は精神スイッチを知らないって?

仕方がない、教えてあげよう。

精神スイッチとは、人々の心の中にある、何かを意識したり何かに集中する為にある精神を操るスイッチである。

 

ボーッとしてる間に、いつのまにか双葉駅に着いていた。

やはり便利だぞ、心のスイッチOFモードは。

それから十分ほど歩くと、中学校らしき建物が見えてきた。

あそこかぁ、双葉中学校って……。

見れば結構大きな学校だった。校庭の周りには木々が茂っており、かと言って自然ばかりなわけでもない。

それ程遠くない距離にマックやらコンビニやらの看板が見える。

「プールも広ければ校庭も広い、環境も結構良いし、いい学校かもな。ここに入って正解だったな」

一人で呟きながら、僕は西校門を通って昇降口へと向かった。

それにしても………、この学校は人が多いなぁ。

同じ電車で来た生徒だけでも結構多い方だとは思っていたが……。

昇降口の中、つまり外から見える範囲での校内はもちろん、その周りもすごい人だかりだ。

さすが、いろんな小学校から来てるだけある。

誰が誰だかわからない……。僕と同じ小学校からも来てる人はいるんだけどなぁ……。

こんなんで信之助たちを見つけることなんてできるのだろうか、心配になって来た……。

 

校内は人で埋め尽くされていたと言っても過言ではない程、人で満ちている。

そんな校内を僕は適当に周っていた。目的はもちろん、みんなを見つけること。

しかし、この学校は相当大きい。故にたった五人の友達を見つけることは容易ではない。

「適当にそこら辺を周ったって見つかるわけないかぁ……、もしかして外にいるかもしれないし……」

珍いことに、トイレには誰もいなかったので、僕はトイレの壁に寄りかかり独りごちた。

「う~ん………、どうしよう………」

一分も悩まず僕は決めた。

「こうしてたって意味がない!行動なくして結果出ずだ!もう一回昇降口の方を探すか!!」

 

ここに入って二十分は経とうと言うのに、まだ昇降口はこんなに人がいるのか!?

先ほどと比べ、昇降口付近の人数は減った。でも、それでも多かった。

周りを見渡すがどれもこれも全く同じの制服姿。

時間には余裕があるって言っても………?今、どっかから僕を名前が……

「………くーん!」

確かに呼んでいる!この声は………どこだ?!

それは間違いなく、彼の声だった。今まで出会って来た人の中で一番おバカな存在。

にして、一番暖かき優しい存在。

「風間くぅ~ん!!!」

そう、野原信之助だった。

「信之助か!!」

二年ぶりの親友との再会で、自然と興奮し語尾を強めてしまう。

「風間くぅ~ん!!会いたかったぁ~」

「それは僕もさ!信之助!ってぇ!僕に抱き着くなっ!!」

二年経っても変わらないなぁ信之助は。でもいい。このままの信之助が……いい…。

「いくら二年間会えなかったからって、こんなに人がいるとこで抱き着くなよ!誤解されたらどーすんだぁっ!」

「そぉん時はそぉん時でいーじゃなぁい」

「あのなぁ……」

やっぱり、今言ったことは取り消そう。ぜんげんてっかぁい。

「と言いますかぁ、今の言い方からしてぇ、人がいないとこでだったらいいと?」

「そ、そーゆうわけじゃなぁーいッ!!!いい加減にしろ!しんのすけっ!」

「んもー、久しぶりの再会なのにそんなピリピリしないでさ!雅夫君達探そう!」

「原因はおまえだろうが。一緒に来たんじゃないのか?」

「それがさぁ?オラは行きたいって言ったんだけどね?父ちゃんが、ダメだーって」

「ふぅん……。それじゃぁ探しに行こう。時間はまだだし」

「そうこなくっちゃぁ。さすが名門小学校出身だね!」

「それ程でもないよ。最初はいいと思ってたけど、あんまり僕には合わなかった」

「ふぅ~ん、それはそれは意外ですなあ」

「そうか?まぁいいさ。はやく探しに行こう」

まだあるとは言え、残りは十分ぐらいだからね。急がなくちゃ。

「ほら、急ぐぞ信之助。もう残り時間は少ししかないんだからな」

「わかってるよぉ!もぉう!二年ぶりの感動の再開なのに!どぉしてそんなことしか言えないのぉ?トオルちゃんは!」

「トオルちゃんって呼ぶなぁぁぁぁ!!」

あ、と思った時にはもう手遅れだった。

周りの目は全て、僕に向けられていた。

信之助のペースに迷い込んだら、僕は絶対に叫んでしまうのだ………。

「………、最悪………」

最悪だぁ…、僕の第一印象がぁ………

「うるさいわねー、もう。風間君はうるさいとこが直ってないね」

「誰のせいだと思ってんだぁぁぁーっ!!」

「お?」

まただ……、一分も経たないうちに二度も叫んでしまった……。

もう……、いや…。

「ねーねー風間くん、そんなに落ち込まないで。ほら!」

「…ん…?」

僕は下に俯かせていた目をちらりと横にやった。

「風間くーん!しんちゃーん!」

「二年ぶりかしらー?」

「懐かしい、わが友よ」

「これで全員揃ったぞ」

「み……、みんなぁぁ!!!久しぶりだねっ!!!」

雅夫君、寧々ちゃん、ボーちゃん。二年ぶりの親友面子が、そこにはいた。

「よぉーっし!みんな揃ったわけですし!ここらで一発っ!」

「「「「かすかべぼうえ「待って」」」」」

僕は彼らが気合を入れるために行う合言葉を止めた。

「なによもぉ~う。せっかく決めれるところだったのにぃ」

「そうよ、なんで止めたのよ」

なんでって……、普通に考えればわかるだろ!

「こんなところでそんなこと、できるわけないだろっ!?」

「かざぁま君!春日部防衛隊としてのプライドはどこへ行ったのかね?!」

「君たちこそ人間としてのプライドを持っているのかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

こいつらの面倒を見るのは疲れるなぁ……、って。

何で周りは僕の事じろじろ見てんの?………。

あ…………、また叫んじゃったよ、僕。

 

 

 

 

 

 

 

                      第二話  終




第二話の更新、遅くなって申し訳ございません。

誤字脱字が無いか確認していたら内容変更点がいくつも出て来たので……。

途中で謎の第三者とかも出してしまいました。

これからもたびたび、謎の第三者さんには助けてもらおうと思っています。

文章がおかしい、誤字脱字、矛盾等がございましたらなんなりとお申し出くだされ<(_ _)>

といいますか!!是非是非是是非非!!アドバイスをおくんなまし!!

今回は切ない所あまりないと思うのですが……どうでしょうか?


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第三話

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第三話「中学校なんて小学校に毛が生えたようなもんだ。……って、誰か言ってた様な気がする」

 

 

 

 

 

学校説明会は終わった。ん?学校の説明が終わったのか?まぁどっちでもいいか。

結果、美人の先生なんてどこにもいやしなかった。

これはつまり……、オラ、父ちゃんに騙されたという事か?

……。まぁいいんだよ…。どうせ、こんなことだろうと思ってはいたし…。

でも、父ちゃんにまんまと騙されてんのにあんなにはしゃいでしまった自分が恥ずかしいわ。めっさ恥ずかしいわ。

学校の説明が一通り終わると、一学年の主任からの挨拶があった。

その後は自分らのクラスに行って担任の先生とあいさつをするらしい。

どうせ担任の先生もあのおばさんの中の一人なんだろうけど。

一年生のクラスは三階にあって、視聴覚室は二階だったのでそこまで遠くはない。

ちなみにオラのクラスは五組だ。

この学校は全クラス五組以上あるらしい。どうりで広いわけだ。

視聴覚室も双葉小のと比べてかなり広かったし。こりゃ教室も広いだろうなぁ。

オラはちょっとだけワクワクしていた。

「ねぇねぇしんちゃん」

「んー?なぁに?」

オラを呼んだのは、かつて<おにぎり>の異名で小学校を笑いの渦に陥れた。

異名の通りのオニギリヘアを持った男……だったのだが。今やその象徴であるオニギリヘアにはフサフサな髪の毛が生えてしまった。

それ以来、彼を<おにぎり>の名で呼ぶ者は滅多にいなくなってしまった。が!しかぁし!

我ら春日部防衛隊は、彼をこう呼んでいる!

「オニギリボーイXマサオっ!!」

「ばばばばかぁ、こんなところで大きな声で呼ばないでよ!前にも言ったでしょっ!!」

「怒鳴っちゃってやあねぇ」

「前にもそんなこと言ってなかった?」

雅夫君は額に青筋を立ててコブシを握った。こうなると雅夫君もなかなかイカツイ面なんだよなぁ。

「そんなことよりさ!同じクラスになれて良かったね!!」

「なに?そんなことを言う為にわざわざ呼んだのぉ~?」

「べっ、別にいいでしょ!それくらい!遠い所から呼んだわけじゃあるまいし」

「へいひぇ~い。ボーちゃんにも言って来たら?」

「うん!そうするよ♪」

ハハハ、全く……。どうしてあそこまでルンルン気分なのかねぇ…。

五組に選ばれた防衛隊の面子は雅夫君とボーちゃんで、寧々ちゃんと風間君はどっちも三組だった。

思えば六年生の時も雅夫君と同じじゃなかったっけ?クラス。

階段を上るとすぐ左に、五組と書かれた紙が貼ってある横流し式のドアを見つけた。

「あそこか……」

周りを見渡す限り、一クラスの生徒は三十六~三十七人あたりか。

結構多いな。双葉小は一クラス二十人で三クラスずつだったのに。

やっぱし埼玉県のいろいろな小学校から来てることだけあるよなぁ。

見かけない顏ばっかりだ。ってぇ、そりゃそうか…。

そんな事を思っている内に、どんどんと教室の中へと入ってゆく五組の生徒。

「しんちゃん…」

「お?」

次に話しかけて来たのはボーちゃんだ。

「一年間、よろしく」

「ほほぉい、よろしくぅ!まぁ一年間ってのはどうかと思うんだが」

オラは後頭部を掻きながら苦笑しつつ言った。

「そうだったね。よろしく」

彼はマスクをしていた為、普段から解らない表情の変化がさらに解らなくなっている。

しかし、そこんとこは七年間も一緒にいると感覚で解るようになってくるもんだ。

「僕もそろそろ、前髪、切ろうかな。中学校は、そうゆうの、厳しいって聞いてる」

「……。いつの頃だったかは忘れたけど、ボーちゃんってイケメンだしスタイルいいし、頭もいいわ運動できるわですっごいモテてなかったっけ?オラの憧れの的でしたよぉ、ほんと」

「そんなこと……あるかもしれない」

「あ、肯定するのね。いや、事実だけどさ」

「でも。しんちゃんだって、イケメンだし、スタイルだっていいし、集中力がいいから一瞬で暗記できちゃったり。運動だって僕より上だったでしょ。僕の二.五倍はかっこいいよ」

「なにその現実的な数字。まぁ二倍ってのは確かに大きいからいいよ。何より数百万倍もかっこいいなんて言われたちょっとね…」

「そんなにかっこよくないから」

「……、ひどいこと言う……」

教室の前でアハハハと笑うオラ達を、教室の中で雅夫君が、仲間外れにされたと思い込んで口をへの字に曲げていた。

 

教室に入って適当な席に座る。ボーちゃんは隣で雅夫君が後ろの席だ。

しばらくすると、コンコンとノックの後に大柄な五十歳ほどの体育系教師が入ってきた。

「ハロー!エンブリワァン!わたくし、ジョン大津と言いますぅ。よろしくねっ!」

バリバリ日本人なのに外国人っぽい口調のその先生、ジョン大津は五組の生徒に気さくな笑顔を見せた。

クラスにちょっとした笑いがおきる。ジョン先生は満足そうな顏でオラ達を見ていた。見ていたんだが…。

「はい静かに。今のはほんの冗談です。今日はこのクラスの担任の先生の代わりでやってきました」

さっきの気さくな口調と笑顔はどこにいったのやら。今度は生真面目な表情かつ、冷静な口調で言った。

「このクラスの担任の先生は残念ながら用事で来れなくなってしまいましたので、私がその代わりに挨拶をします。あぁ、その前に。このクラスの担任は鮎川美沙子先生と言います。彼女とは入学式の日に会えますので、本人との挨拶はその日になります」

彼は淡々の話してゆき、最後にプリントを渡したところで、

「えーそれでは、今日のところは以上ですので解散と致します。少し時間が余ったので少しの間、ここで待機しておいてください」

そう言って、さっさと教室を出て行った。

「変な先生だったね」

「うん。でも、松坂先生や上尾先生には敵わない」

雅夫君とボーちゃんが話し始めるに釣れ、周りもだんだんと話し始めてゆく。

三十何人が一斉に話し始めるとどうなるか。もう堪ったもんじゃない。

「ねーねー君名前はー?」

とか

「どこ小?今度カラオケ行かない?」

とか。大体、初対面でカラオケに誘うとかどうなってんだか、最近の若者は。

「なんか……うるさくなってきたね……」

「外で風間君達を待とう。三組はそう遠くない」

「だね」

話し合った結果、三組の教室の前で待つことにしたオラ達は、ガヤガヤしている教室を後にした。

 

 

「なぁみんな、帰りはどうするんだ?僕は電車なんだけど…」

駐車場に向かう中、風間君の質問を聞いた途端にみんなは腕を組み、うーん、と唸った。

「僕は誰かの車に乗せて貰ってってママに言われてるんだけどさぁ」

「私もー。ママ、これから用事があるからってさっさと帰っちゃった」

雅夫君と寧音ちゃん、二人して同じような困った顔して言われるとオラも黙っちゃおけない。

「それじゃぁお二人さん、オラんちに乗ってく?」

オラがそう尋ねると、二人は揃って「ほんと!!」と目を輝かせた。

「もちろん!オラに二言はないぞ!」

雅夫君は、「さすがしんちゃん!」と尊敬の眼差しを送り、寧々ちゃんは陰でガッツポーズをとった。

トントン、と誰かに肩を叩かれたので振り返ると、人差し指を自身に向けたボーちゃんが期待の含まれてるであろう眼差しで、オラを見つめていた。ようするに…。

「なに?ボーちゃんも?」

「よろしく」

肩にポンっと手を乗せられ、オラはハァ、とため息をついてしまった。

ちっちゃい頃はまだしも、中学一年生が三人であんなちっさい車に乗れるのか。オラは唯一それが心配だったのだ。

 

 

 

「うーん…入るかなぁ……」

父ちゃんは困った顔して腕を組んだ。

「だいじょうぶだいじょうぶっ!オラが前に行ってぇ、雅夫君達が後ろにぎゅっぎゅっって詰めれば!」

「友達にそんな真似させるわけにもいかないだろ~…」

「へーきへーき。雅夫君達はそれを望んでるわけですしぃ……、ね?」

「え、僕たちは何も……」

「そうよそうよ!黙って聞いてればそんなこと!レディーにさせる気なの!?」

寧音ちゃんは腰に手を当て、顔を覗く様にして聞いてきた。頬をぷくっと膨らませて。

「レディーって……」

「なぁに?私がレディーでもないと?」

顏は可愛いのに…。相変わらず、勝気ででしゃばりで自分勝手な性格のせいで、小学校の頃はあまり男子に好かれてなかったことが思い浮かんだ。

幼稚園の頃のリアルおままごとは、正に地獄の一時だった。これだけは何があろうと覚えてるだろう。

「それで、どうするんだ?」

父ちゃんが運転席で疲れた顔してオラ達に目を向けた。

「もう!早く帰っておやつの時間!はよ!」

「さすがに三人じゃ無理でしょーが!」

「無理な事なっしんぐだぞ!この世に不可能という言葉は無い!」

「何言ってんじゃ眉毛ぶっとぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ちみこそなんじゃい性格ゴジラァァァァァ!!」

オラと寧音ちゃんが怒鳴りあう姿を、呆れた顔して見る雅夫君。

大体なんだよ、眉毛ぶっとって。まぁ。全然気になんないけど。

ため息ついてヤレヤレ、と首を横に振る雅夫君の姿を、寧音ちゃんは見逃さなかった。

ギラッっと睨む寧音ちゃんの形相は鬼も恐れるであろうそれに近い。

結局、雅夫君は寧音ちゃんにしばかれ、ボーちゃんはいつの間にか姿を消していて。

オラは早く家に帰りたかったので、雅夫君達をおいて学校を後にすることにした。

こうなるんだったら連れてくなんて言わなきゃ良かったよ、全く。

 

 

 

「なぁ、どうしてオレが靴ひも結んでるのを嘘だと思ったんだ?」

帰り道、父ちゃんはオラに質問した。

「んー」

久しぶりの仲間と再会し興奮したせいか、疲れて眠たかった。

適当に返事をすると、

「なぁなぁ、なんでなんだよ」

と急かすように聞いてくる。

「んーとねー。朝出発する時はちゃんと靴ひも結んであったのに、運転で足をあんま動かしてないのに解けてるのはおかしいなぁと、思いまして」

「……」

「それにぃ、もし解けてたとして。結び終わって顏上げた時の父ちゃんの目が赤かったからさぁ。これはもしかして泣いているのをばれまいと、必死になって隠してたんじゃぁ?と、思いましてね」

「洞察力あるなぁ。普通気づかないだろ」

「普通気づくだろ?」

「人の靴ひもなんて普通見ねーよ」

「普通見るだろ?」

「おまえの普通が分からんわ」

そう言って父ちゃんはクスッと笑った。

「父ちゃんの足の臭さだって普通じゃないぞ?」

「普通じゃないことはいいことだ……」

「悪い方で普通じゃないね、父ちゃんは」

「…………」

それからしばらく父ちゃんは黙り込んで、車内は車が走る音だけが広がる空間となった。

これもまた、良きかな良きかな。

窓から眺める通り過ぎてゆく背景が。

一瞬セピア色に見えたのは、オラの気のせいだったのだろうか…。

 

 

 

これは、とあるお屋敷での会話。

 

「いつからその、中学校とやらには行けますの?」

「もうちょっとだよ。我慢しなさい」

「わたくし、一刻も早く、その中学校とやらに行きたいですわ」

「その気持ち、あと一ヶ月ほど溜めておきなさい」

「しん様……早く会いたいですわ……」

 

 




大変長らく更新できずにいました(+_+)

誠に申し訳ございません<(_ _)>

アドバイス等、是非、よろしくお願いいたします。


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第四話

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第四話「やっとわたくしの登場ですの?えっ?分かんない?」

 

 

 

 

朝、起きる時間はとっても早い。でももう、それを嫌だとは思わなくなってしまった。

いつものように無駄に広い、いかにもお姫様の使うようなベッドから起床する。

「今日もつまらない一日が始まるのね…」

私は紐を引いてベルを鳴らした。

いつ聴いても飽きない、ベルの鐘声が鳴る。三分もしない内に運び込まれる洋一色の朝食。

パンは高級なイギリス製のブレッド。三ツ星シェフが作ったコンソメスープ。

外国の有名な会社が作った、高級品のジャム。

毎朝、凡人ではまず有り得ないだろう高級な朝食を取らされて、お姫様の生活に憧れる女性だったらさぞかし羨ましがるであろうその光景。しかし、私はそうは思っていなかった。

「こんな朝食。もう嫌ですわ。もっと普通の、普通の家庭での朝食も取ってみたいですわ。」

「えっ、……」

私は今の生活にかなりの嫌気が差していた。確かに、朝昼夜と、三食ともにとても美味しい料理が運ばれる。

出される料理もバリエーションに富んでいて、毎日飽きない。でも、私は毎日のこんな非凡な生活が嫌で嫌で仕方がなかった。毎日ピアノのレッスンやら数学、英語、理科、歴史等の勉強。

株がどうとかの経済的なことも教えられ始めたし。正直言って面白くないです。

でも、早乙女家を継ぐご令嬢だからやらなくてはならないと、お父様に言われて…。

今とはいかないけど、必ずいつか家を出たいと言うのが今の私の心境だった。

「中学校とやらはまだですの?一ヶ月ほど待てとお父様から言われてたのですが。もうそろそろ一ヶ月経つかと思われるのですが?」

私は召使を睨み尋ねる。ここで働き始めて一ヶ月にも満たない新米でしたっけ?しどろもどろになっているのが見てわかる。

ピリピリとした空間が流れ出したその時。

コンコンと、ドアをノックする音が鳴った。

「はい。」

ガチャリとドアが開く。黒のスーツにちょっと厳ついサングラスをかけた男が部屋に入る。

長年この家のボディーガードを務めており、12年間私を守り続けてきた専属のボディーガード、黒磯だ。

「あい御嬢様。その件についてですが。中学校の登校日は明日かと思われますので。今日一日はお耐えになってください。」

明日っ!?まさかの明日っ!?

ついつい私は両手でテーブルをバンッと叩いてしまった。ガタンッとテーブルが揺れる。

さっきまでしどろもどろだった召使は、ひぃっ、と情けない声を上げて縮まっている。

「それは本当ですのっ!?黒磯っ!!」

私の興奮は収まらず、少し息が荒くなる。しん様と一緒の学校に通えることを、幾度想ったことか…。

「はい。そう、伺っております」

「そうですの!ついに、ついにしん様と同じ中学校で三年間?も一緒にいられるのね!!」

「……」

「そうだわっ!登校日には、しん様にプレゼントをあげないと!!」

「そのようなことはしなくてもよろしいかとぉ……」

「んー……。まぁ、確かに。わたくしの舞い上がり過ぎでしたわね。大体、プレゼントなんて持って行ったところで、何だこいつ、と思われたら嫌ですもの」

我ながら素晴らしき自重。昔の私とは大違いですわ!

(あい様も少しは学習なされたか。というか、しん様と呼んでいる時点でどうなのか、とは思わないのであろうか……)。ちょっと騒がしく、良い知らせのあった私の朝食。

 

 

 

「ほぉう?明日で春休みが終わってしまうと?」

「違う!今日で!春休みが終わりなの!」

「でもオラは明日も休むー明日はオラだけの春休みー。」

「ぶゎぁッッッッかむぉーーーーーんッッッッッ!!」

野原家は毎朝が騒がしきそれ。

「あんた、中学生にもなるのにそんなこと言ってて言いわけぇっ!?」

「いいわけー」

「いいわけなわけねーだろぉぉぉぉぉぉ!!」

朝から家が変形しそうなぐらいのみさえの怒鳴り声。

「うるさいぞー!静かにしなさい!」

「あんたが原因でしょうが!!」

トーストを頬張りながら眺めるひろし。目に映るは日常茶飯事なできごと。

この時、野原ひろしのはこう思っていた。

いつもと変わらない…平和だなぁ、と。

だがしかし、それは野原家として生きて来たからこそ、であった。

 

「どーしよーかなー?」

オラは今、眩しい日差しが照らされるベッドで寝っころがっていた。

何がどうしようか、なのかと言うと。

「今日で最後の休日日、かぁ~…」

そう、今日で最後なのだ。春休みが。

時刻はまだ八時。これからみんなと遊ぼうと思えば、それは難なくできる。

だがしかぁしっ!春休みのラストをただただ友達と遊ぶことで費やしてしまっていいものなのか!

お家でアクション真仮面VⅢの映画を見たり、機動戦士カンタムの漫画を読んだり、いっそ、このまま寝てもいい。遊び疲れて終わるか、何もせずぐーたらして終わるか。

明日から中学生、小学生としての最後の春休みだからこそ、何か思い出に残るような最後にしたい。

「さて、どーしたものか…」

真っ白い天井に目を向ける。が、何かいい案が浮かぶわけでもなく、オラはガバッと上半身だけ起こす。

「悩んでたって仕方がないぞ……、そんな時は、寝るに限りますなぁー♪」

数秒の間を置き、オラは言った。そして、再び体を横にする。

みなさん知ってましたか?悩んでる時は寝るのが一番だって。

まぁ、そんなのどうだっていいか。

とか言って横になったはいいけど…。

「……寝れねぇ…」

そりゃそうだ。昨日七時に寝たのが間違いだった。こりゃ寝れないなあ。寝れるわけが無いなあ。

悩んでいると、玄関のインターホンが鳴った。

母ちゃんが返事をし、オラはあまり気に留めなかったのだが…。

「あら!あいちゃーん!久しぶりねー!」

やってきたのは、あいちゃんだった。酢乙女家のご令嬢という名家で産まれた御嬢様であり、オラの幼稚園の幼馴染でもあったりする。

多分だが、オラは今、あいちゃんに恋している。と思う。多分…。

「しんのすけー、あいちゃんよー。」

あいちゃん、の名前が出た時、多少なりともビクリとした自分が恥ずかしい。

というか、まさか自分があいちゃんに恋しただなんて。昔のオラがいたら何て言ってることだろうか…。

オラは、ちょっとドキドキしながら、下へ降りて行った。

あいちゃんの姿が見えると同時に目が合った。合ってしまった。あいちゃんは「お久しぶりですわしん様!おはようございます!」と、溌剌な挨拶で迎えてくれた。

「お、おはようあいちゃん。朝から元気だこと…」

恋しているとは言ったが、やっぱし苦手なことには変わりないかも…。

「明日から学校が始まると聞き、しん様と同じ学校に通える記念の挨拶をしに来ましたの!」

「そりゃわざわざどうもどうもぉ…」

この時オラはきっと苦笑いしてたんだろう、母ちゃんまでオラを見て苦い顔をしていた。

あいちゃんはオラに会えたことが嬉しいのか、幸せそうな顔をしている。

「ところで、記念の挨拶の為だけにわざわざ来てくれたの?ていうか、春休み前も同じような理由でわざわざオラんちに来てなかったっけか?」

めんどくさいって気持ちがちょっとだけ口調に出てしまったのか、あいちゃんは少し不安そうな顔をし、ちょっぴり身を縮めた。

「え、えぇとですね…。あのぉ…、そのぉ……」

そう言ってはチラチラと母ちゃん見ている。その姿は春休み前日に見た時と同じく、可愛らしい。

「えっ、あっ!」

母ちゃんは、何かに気づいたように声を上げた。

「それじゃぁ後は若い者同士でね!もうちょっとでおばさんになる私がいちゃ悪いわ」

いろいろと突っ込みたいところはあったが、敢えてそれを無視しとく。

気になるのは、もじもじしながら母ちゃんをチラ見しているあいちゃん。何かを訴えている様にも見える。

それに、それが始まってから、その動作の意味を理解したと思われるべき母ちゃんがあっと声を上げた。

そしてあの母ちゃんが、未来形でありながらも自分のことを”おばさん”と称して、さらに悪いと本当に思ってるのかはともかく、気を利かせてくれるだなんて…。

(これは何かありますな…)

「えぇと…そのぉ……」

(察するに、オラがまだ二階にいた時、なんらかの話をつけていたのか。)

「し、しん様ぁ……」

(本人は顔を赤らめてるわけだし、母ちゃんはもうどっかいったし、これはひょっとして…?)

「し、しん様!!!」

(いや待て待て。わざわざそんなことであのあいちゃんが顔を赤らめるか?こんなに恥ずかしがるか?)

「しん様!!!」

「えっ、あっ、はいっ。」

「今日、お暇ですかっ!?」

「……うん、まぁ…」

「あ、あ、ああああのぉ…そのぉ……」

あぁ、何て可愛いんだろう。人差し指同士をつんつんしているぞ、顔を真っ赤にしながら、俯いて……。

でも、これってまさかの?

「今日……、お、お暇ならば、私と、デート……してくれませんかっ?」

「ビンゴ、正に的中っ。」

「えっ…?」

「い、いや!なんでもないっす!あは♡」

予想が的中した為、つい声に出してしまったのは失態だった。それにしても、まさか当たるとは…。

「そ、それで…?だ、だめ、でしたか…?」

「い、いんやー!全然!逆にさ!オラ今暇で暇で困ってたところだぞ!こちらこそよろしくだぞ!」

「そうでしたかっ!ありがとうございますっ!!あいは今、とっても嬉しいですわ!」

あいちゃんはおっしゃった言葉通り、とっても嬉しそうだった。両手上げて喜んじゃってるよ。

「でもさ、どこに行くの?」

オラはあいちゃんに尋ねた。

「あ、そういえば……。決めてませんでしたわ……」

「場所未定のデートねぇ…」

「す、すいません……」

「謝る事ナッシングよー。そこら辺ぶらついてるだけでも立派なデートでしょ?」

「そ、そうですわね!……はぁ…」

あいちゃんはちょっと申し訳なさそうな顔していた。溜息まで吐いちゃったし。

だからオラは、助け舟というか、元気を出させる為にこう尋ねた。

「それにさ?オラのこと大好きなんでしょ?大好きな人と一緒なんだったらどこに行ったって幸せなんでないの?」

オラのこと大好きなんでしょ?辺りから、あいちゃんの顔は一気に赤くなった。

「はわ、はわわわわわ……」

何か口まで押え始めたよ…。ってぇ、こんなことを尋ねたオラもオラなんだけど。

何をバカなことを言っているんだオラは。あーあ、オラまで恥ずかしくなってきたよ…。

「す、すまん…。オラが間違ってた…。でも、元気出た?」

「おバカしん様!!恥ずかしいですわ……」

「デレェ……」

「え……、ど、どうかしたのですか…?」

顔を真っ赤にさせて上目使いでオラの事を心配するあいちゃん…。オラはこの時、心臓を撃ち抜かれたような、そして甘い気持ちになった。

「い、いんや、じゃ、じゃいじょびゅじぇしゅ……」

「あ、あの…鼻から血が……」

「あ、こ、これね…元からだよ元から……」

「そ、そうでしたか…、鼻から血が出てるしん様も素敵……」

オラは自分の顏が一瞬にして火照ったのが分かった。

今のは、…そう、あれだ。世間で言う、萌えってやつだった……。

 

 

 

「そこらへんぶらつくって言っても、どこ行こうね…」

「そ、そうですわね…」

一応デート、ってことで外に出てきたオラ達だったが、本当にどこへも行く当てがなく、住宅街をうろついていた。

「サトーココノカドーに行こうか。」

「行って何するんですの?わたくしお金持ってませんわよ…?」

「そ、そぅ…」

今頃って思うが、やはり予定も立てずにデートってのはさすがにキツかったんじゃないか?それに、今思ったらオラ、デートって初めてなんだよねぇ。ホント今頃って感じだけどさ。

それから五分ぐらい歩くと河原に出た。天気の良い日に眺める河原の景色は最高なんだよなぁなんて話しながら、一本道を歩いた。気が付けば、いつの間にか商店街に出ていた。

「愛ちゃん、疲れてない?ちょっと歩きすぎたかな?」

「いいえ、しん様。そんなことありませんわ。それに、最近は運動してませんでしたから、丁度いい運動になると思います。」

「あいちゃんって運動するんだ、意外…」

「し、失礼なっ!あいだってちゃんと運動ぐらいしますわよ!こう見えて、水泳では100メートルぐらいは泳げますのよ。」

そう言って、あいちゃんは誇らしげに、ふふんっとどやった。

「ほぉぉー、こりゃまた意外…」

「しん様っ!」

あいちゃんがオラに対してムキになったのは今日が初めてかもしれない。

「やっぱししん様にデートをお誘いして良かったですわ……」

「そ、そう…?そんなこと言われても、何と言えばいいのか…あはは…」

街中、人がウロウロしている場所でそんなこと言われましても…。てか、場所関係なく反応に困るわっ。

「あれ?あれは…」

オラは、書店の前で何やらモジモジしている元オニギリらしき人物とボーちゃんらしき人物を見つけた。

「おーいおーいボーちゃーん。」

オラがちょっと大きな声で呼ぶと、あちらも気付いたらしく、こちらに顏を向けた。

「ボーちゃーん♡お・は・よ~♡」

「おはようしんちゃん。朝からこんな所で会うなんて、偶然ってすごいね。」

「今まで何度偶然を起こしてきたことか…」

「偶然は起こすものではなく、起こしてしまうもの。ところで、そちらは…?」

「ん?あぁ、知りたい?」

「うん、知りたい。まぁ、おおよそ見当は付くけど。」

「どーゆう意味でよ……」

「知りたい?」

「いや、いいや。どうだっていいのすけ」

「……、あのさ、隣にいる女子って、もしかして、あいちゃん?」

「ポンピーン。大正解。」

「正解の音はピンポーン。それはそうと、久しぶりだね、愛ちゃん」

オラの隣にいるのがあいちゃんだって気づいたボーちゃんは、はにかみながら軽く挨拶をした。

イケメンのはにかみはズルいっての。ほら、今の今まで不安そうな顔で下を向いてたあいちゃんの顔がちょっと赤くなってるじゃんか。ちょっと妬けた。

「久しぶりです。えぇと…、ボー、ちゃん?」

「ぽっ……」

「ちょ、ボーちゃん?なぁーに赤くなってんの?」

ぺこりとお辞儀し、またもやお得意の上目づかいで不安げにボーちゃんと名を呼ぶあいちゃん。

女の子相手に照れることが滅多にないボーちゃんが、照れてる…。

恐るべし、酢乙女あい…。

「ところで、雅夫君はどこへ行った?」

「たぶん…」

そう言ってボーちゃんは、さっきオラたちがボーちゃんたちを見つけた書店を指差した。

「そーいえば、さっきモジモジしてたねぇ…。彼、一体どうしたんだい?」

「雅夫君の、新しい恋……」

「また、でありますか?」

ボーちゃんは呆れた顔で首を縦に振った。

「これで何回目だよ、七回目?か?」

七回目って言葉を聞いて、あいちゃんはえって顔をした。

それもそうだ…。普通、七回も恋なんかしないっての。と言うところだったが、自分も、なんだかんだで見知らぬお姉さんに話しかけてしまう癖が直ってないことに気付き、慌てて口をふさいだ。

「どうしたんですの?」

「い、いんや?別に。それで?今回はどんな人に恋したの?」

難なく誤魔化したオラは、呆れた声でボーちゃんに尋ねた。

「それが、毎週この日この時間帯に現れる女の子らしい。」

またかよ…。前もそんな感じじゃなかったっけか?

オラ達三人は、呆れた顔して首を傾げた。

 

今まで敗れ去って行った六つの恋。七つ目の今回も結果は同じだろうと予想を立てて、オラ達はすぐそこにある書店に向かった。

 




毎回毎回更新遅れて申し訳ございません……。

最近すぐ疲れて、寝てしまうという状況で……。

アドバイス等あればお願いします。


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第五話

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第五話「恋が多いのってどうなの?えっ?好きな人がコロコロ変わる人はモテない?えぇーん!そんなこと言わないでよぉう!!」

 

 

 

ここは、街中にあるちょっと小さめの本屋。僕は今、毎週日曜日午前九時半頃に、ここによく来る女の子に惚れている。

自分でも思うけど、僕って結構惚れやすいみたいなんだ。失恋してもまたすぐ好きな子ができるっていうね…、トホホ…。

泣き虫で弱虫で惚れやすくて、小学校の時まで泣き虫雅夫とか、泣き虫オニギリとか、よく言われてたなぁ。

中学校では呼ばれないことを祈る…。

それはそうと、ボーちゃんどこ行ったんだろう…。店の前までは一緒だったのに…。

そーえばさっき、しんちゃんによく似た人に呼び止められたけど、まさかね……。

僕はあの子を探した。でも、時間は過ぎてるのに、一向に見当たらない。

どうしたんだろう…、風邪でも引いたのかな。

四、五分待ってはみたが、あの子は現れない。諦めて帰ろう、そう考えたその時、

「よっす」

聞き覚えのある声に呼び止められた。焦って後ろを振り向くと、

「雅夫くん、見つかった?」

「ほぅほぅ、どれが雅夫君の七人目の恋人ですかな?」

そこにはさっきまでいなかったボーちゃんと、ニヤニヤしているしんちゃんがいた。

しんちゃんの隣にはとても可愛い女の子が、…、えっ?女の子?この女の子、どこかで……。

僕の考えてることが顔に出たのか、はたまたこの女の子が僕の考えを読心でもしたのか。

「久しぶりですわね雅夫。ごきげんよう」

「もしかして…やっぱし…」

目の前に立つ、気品が漂うその女の子は、幼いころ、正確には幼稚園の頃に自分の心をハートの矢で射ぬいた女の子。

「なに?その情けない顔は。相変わらずですわね」

「は、ハハハ……あいちゃんもね…」

そう、酢乙女あい。ちゃん。だった…。

 

 

 

「へ~、そーゆうことだったんだぁ。何か、偶然だね!」

そう言って、彼は苦笑の混じった明るい顔をした。

「なーにが、偶然だね!だぞ。あいちゃん見て引きつった顔したと思ったら、顔を赤くしちゃってさ」

「だって僕、今でもあいちゃんのこと「あいちゃんのことがなんだってぇ~?誰だったけなーまぁた新しい恋をしてこの本屋さんまで来てるのは」

雅夫の話を無理やり遮って、しん様は彼のお腹をつんつんしながらSっ気たっぷりに質問をした。

「え、なんでそれを知ってるの!?それは僕とボーちゃんしか…ってボーちゃん!!」

「え、なに」

「え、なに、ってぇ!教えたでしょ!僕たちだけの秘密!」

「店内ではお静かに…。てか、そんなこと聞いてないし」

「ひどいよボーちゃーん…」

「おいおいこっちの質問の答えはどうした~?」

「あぁ~だからぁ~……」

今にも泣き出しそうな顔をしていた彼は、やがて頭を抱えて呻きだした。

こうなるとさすがに可哀そうだと思ってしまった。(笑)

 

ひとまず本屋を出た私たち。

「そんで?さっきの話の続きだけんども?」

「えぇー、まだ続くのぉ~…」

「まだもなにも、まだなーんにも話して無いでしょう油」

「雅夫くん、観念した方が、いい」

「ボーちゃんが教えたからこんなことになったんでしょ!」

「それで?雅夫はわたくしのこと、どんなふうに思ってたのかしら?」

私は敢えて自分から聞いてみた。案の定彼は顔を赤らめ俯いた。

「えっだから…それは…」

「あーここは告白するとこじゃないぞーマーサオくん」

「ところで雅夫くん。あの子探さなくていいの?」

ボーちゃんの問いに雅夫はハッとして口をあんぐり開けたまま、しん様の肩をつかんで揺さぶり始めた。

「どうしてくれるのさ!見つけられたかもしれないのに!」

「いやまぁ落ち着いて落ち着いて~。ほら深呼吸深呼吸」

「なんだよもー…」

「そんなムツけるなって~。大体、見たところでどうすんの?友達になろうって言うの?それとも告白するの?しないでしょどーせ」

「いやしないけどさぁ~…」

それを聞いてしん様はニカッとはにかむ。

「でしょー?てことはつまり、そんな恋したって無駄なわけですよぉ。だーいたい、今まで知らない女の子に一目惚れしてさ、ろくな恋に終わらなかったでしょうがー」

「そうだけどさぁ~…」

しん様が喋るにつれて雅夫の顔から明るさが消えていくのが分かった。

「だったらさー、中学校に入って中学校で恋しようよ!ね?」

「う…うん…!」

「そかそか!わかってくれたか!いやー君ならわかると思っていたよハッハッハ」

しん様は雅夫の肩をポンポンと軽く叩いた。

雅夫が笑顔になる。しん様もボーちゃんも。そして、私も。

やっぱし、相変わらず貴方はみんなの太陽みたいな方なのですね。

みんなを笑顔にし、みんなを楽しませ、幸せにする。

幼稚園の頃からそうでしたもの。

「ところで雅夫くん。その子ってどんな子?」

「えぇとねー、あ、あったあった。こんな子!」

「写真持ってんの……。もうそれストーカーじゃん…」

「僕も、初めて知った……」

「えへへへ。可愛いでしょ」

「んー、まぁ」

「まぁ、可愛いと思う」

「二人とも何さ!まぁって!」

「いやーだってねぇ…?ボーちゃん?」

「うんうんしんちゃん」

ちらっ

え、なんでお二人とも、こっちを見てるのかしら?

「あいちゃんを目の前にしたらどんな女の子もまぁまぁとしか……ねぇ?」

「ぼー。その通り」

「なっ!?しん様っ!?それにボーちゃんも…」

今の私は絶対に顔が赤いですわね。あー暑い暑い。春だというのに。

「あ、そーいえば」

「どうしたの?しんちゃん」

「いやさあ、その写真の女の子、オラんちの近くに住んでる子だったんだけどさぁ。思えばその子、どこだか遠くに引っ越したんじゃなかったっけなあ、三日目」

「えっ!?そうなんだ!だから今日はいなかったんだね!なるほど!」

「では、雅夫はその子を諦めて良かったってことですわね」

「そーゆうことになるね」

「もう遠くにいるなら、毎週本屋で探してても意味ないもんね!」

「それでさぁ、なんか引っ越し祝い的な?まぁちょっとしたプチパーティしてさ。ちょっとその子と話したんだけどね?」

しん様はちょっと言い難そうな顔しながらも、続けて話した。

「その子が言ってたんだよ。毎週日曜日九時半ごろにピエロが本屋にいるからそれ目的で行くと、自分と同じぐらいの子どもにずっと見られてるって。ちょっと前にはカメラで写真を撮られた気がしたって。めっちゃキモがってたぞ。それに、めっちゃ怒ってた」

「「「………」」」

話し終わったしん様はアハハと苦笑を浮かべて自分の頬を人差し指で掻いた。

「それ…ホント……?」

当の本人は顎をがくがくさせて、嘘だ嘘だと呟いている…。

「どんまい、雅夫くん」

ボーちゃんが慰めるように肩を抱いて言った。

「さ、さすがキモおにぎり…。相変わらずキモがられてるのね、女の子から。しかも、知らない女の子からだなんて…。ここまでくると、ホントみじめで可哀そうですわね…」

言い終わり、言ってはいけない事を言ってしまったことにハッと気が付く私。

「あ、あいちゃん…、それを言っちゃあいけなかったんじゃぁ……」

午前十時十五分、一人の泣き虫が大声で泣き喚いた。

そして私たち三人は、一緒にいることが恥ずかしいがために、スタコラとその場から離れた。

もちろん、彼はそんなことも知らずに、その場に立ちつくし泣き喚いていたのであった。

 

 

 

 

「シクシク…グズッ…、みんなどこ行ったんだよぉ~!!」

 

 




今回はあいちゃん視点での雅夫くんギャグ話にしました。
でも、やっぱしなんか濃くないんだよなぁ……。

次回は今日の帰り道でのあいちゃんとしんちゃんとのお話です。(たぶん)


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第六話

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第六話「恋とはなんぞや…って、最近つくづく思う」

 

 

 

人は、楽しい気分でいる時、時間の流れがあっと言う間に感じる。

更に、意識を持って行動、生活をしていないと、今さっき何があったのか、何をしたのかを忘れる。

今述べたことをしてなかった為に、オラは本屋を離れた後どこに行ったかどこで遊んだかを忘れてしまった、という事実。

そして、夕焼け色に染まる空の下、河原の一本道を歩くオラの隣にあいちゃん、という現実…。

朝より緊張するのは、一体、何故…?

「あー…」

会話がないってのもあれなので、とりあえず声を出してみたはいいんだが…。

「えっ…どうしたんですか?しん様」

「いっ、いや?なんでもないぞ…」

「そうですか……」

「うん………」

更に気まずくなってんじゃねぇーかっ!!どうすんのよこの状況!!

なんでもいいから、この状況をどうにかしなければ。

そう思ったオラは、こんなことを聞いてしまう。

「あいちゃんって食べ物で何が好き?」

なぁーにこの状況でこんなこと聞いてんだオラはぁーっ!?

「え…、えぇと…」

だが予想外なことに、あいちゃんはその場で立ち止まり真剣な顔で好きな食べ物を考え出した。

顎に指を当て、近くのどこだかに目を逸らしている。

そして、何か思いついたご様子。ピンと人差し指を立てて言った。

「具体的なものは今すぐには思い付きませんでしたけれど、わたくし甘いものが好きですわ!」

「へ~甘いものか~、ケーキとか?」

よし来たっと言わんばかりに話に食いつくオラだが…。

「そうですわねぇ。ケーキであれば、ザルツ・ブル・ガトールテが最近のお気に入りですわ」

(な、なにそれ…、全っ然知らん)

結果。敗北。ケーキの名前らしいが…。

「あとショートも好きですわ」

「オラも好きだぞショートケーキ!」

やっと自分も知っている名が出て来たので、会話を続けようとしたオラであったが。

「ショートケーキであれば、ガトゥ・コゥフェン・コンディトラーイのケーキがお勧めですわよ。ちょっと値段はお高いけれど」

(……、え?今なんて言った…?)

結果。何て言ってるのかも分からない程のボロ負け。店の名前ですか?と尋ねたいのを敢えて我慢した。

それにしても、さすが御嬢様と言ったところだ。甘いものと言っても、世界観が違うんだろうなそこんとこは。ちなみに、妙に滑舌が良かったのも、そのせいなんだろうね。

「あっ、そうですわ!」

突然何かを思いついたあいちゃん。

「よろしければ今度、あいとご一緒にケーキをお食べになりませんこと?」

何かと思えば、身を乗り出して嬉しいお誘い。

「おっ、いいの?」

「えぇもちろん!しん様がよろしいのなら、こちらとしても大歓迎ですわ!」

「おぉ~、そりゃ楽しみだぞ!」

(ケーキかぁ、そういえば、最近ケーキ食べてないなぁ…)

「んで?いつになるの?それ」

ニッコリと微笑む御嬢様に肝心な質問をしてみると、これがまたとんでもないことを考えてしまうんだなこのお方は。

「どうせなら、明々後年のパーティの日にでもしようかしら!」

げっ、明々後年……!明々後年っていうと三年後じゃん!どうせなら三年後じゃなくて来週の土日でいいじゃんよっ!?

ということで、目の前で目をキラキラさせている酢乙女グループの御嬢様に提案してみたんだが、「楽しみは先に取って置くものですわ!」とのことで、軽く断られてしまった。

幼稚園の頃と比べ、考え方が成長したんじゃないだろうか?

そう疑問を感じたの気のせいじゃないだろう。まぁ微小ではあるが。

あまり覚えてはいないんだが、なんせこの御嬢様ときたら、欲しい物は今すぐに、やりたいことは今すぐに。

そんな生活を送っていた御嬢様であった気がするからな。

いやさ?成長することが大事だってことは知ってるし、あの酢乙女グループの非常識な御嬢様が成長したってことはそりゃもうとんでもなくめでたいことだけどさ。

それをこの状況で発揮するってのは、いささかオラにとってちょっと所ではない問題が生じることなんだよね。

それに三年後ってことは、オラは高校一年生なわけでしょ?遠いだろ。

楽しみに待っておけるかっての。その頃には絶対に忘れてるね。

大体、なんで中学生になったばっかりのオラが、高校生になってからの約束をしなくければいけないんだ全く…。

「約束ですわしん様!明々後年、酢乙女家の別荘で行われる、といってもフランスにあるイベント用の大邸宅ですが、そこで行われるパーティーにお招きいたしますわ!もちろん、春日部防衛隊の皆様もご一緒させますわ!」

いや、確かにそれは非常にありがたい。ホントありがたい。だがしかし。それをネタに、さりげなく自慢するのはやめてくれないだろうか?

今先ほど、ちっとも面白くない提案を出され、反論したが却下されてしまったばかりのオラには、自慢一つで非常に腹が立ってしまうからだ。

「でも、ホントにいいの?オラ達を呼んだりして。しかも三年後のことでしょ?一体何があるか分からないぞ?そう簡単に約束されてもねぇ…」

怒りなのか何なのか良く分からない気持ちを抑え、あくまで優しく、天然自慢症の御嬢様に返答する。

「大丈夫ですわ!なにがあろうとも、しん様たちはこのわたくしが絶対に招待してみせますわ!」

「そ…そう?なら、信じるよ」

「決まりですわ!明々後年、フランスにある大邸宅の別荘でパーティー!あい、楽しみ過ぎて待ちきれませんわ!あ、ちなみに!そのパーティーには何人もの大物俳優やモデル、歌手、その他もろもろの芸能人がいらっしゃられる予定なので!しん様も楽しみに待っていてくださいね!」

楽しみに、というか、気長に待たせて貰いますよ。

それと今さっき長々と思ったことなんですがさ。

自慢はやめてもらいませんかね、いい加減。

 

 

 

さすが、春というだけある。さっきまでの鮮やかな夕焼け空が、今は薄暗く濁っている。

ちょぴり冷たい春風に当たりながら、オラとあいちゃんは玄関前で迎えの車を待っていた。

「春の夜風は冷え込むものなのですね」

「各季節は一年に一度しか来ないから、感覚忘れちゃうものなんだよね」

話している内に寒さが増してゆく中、目の前にいる御嬢様は薄地の洋服に飾ってあるフリルを冷たい春風なびかせ、風の冷たさに震えていた。

「大丈夫?これ、良ければ使って」

オラは自分の着ていたパーカーを、あいちゃんに渡す。

「あっ…ありがとうございますしんさ…へくちっ…」

くしゃみをしたあいちゃん。そこら辺の男子なら、一発で魅入っちゃうだろうね。

「にしてもホント寒いなぁ…」

いや、冗談抜きで今春は寒いね。貸したはいいけど自分自身が震えてる状況だよ。

「はい、あいもまさかここまで寒いとは思いもしませんでしたわ」

「家に上がろっか?」

「大丈夫ですわ。迎えもそろそろ来る頃だと思いますし」

なんて話しをしていると、ホントに来たよ。黒く塗装された…まさかあれって……、ポルシェじゃね?

(送迎にポルシェなんて使うか普通……)

そう思ったがちょっと訂正。この子普通じゃないんだったわ。失敬失敬。きっと今のオラは引きつり気味の笑顔になってるだろうね。

「あれ?この前見た時と車が違うね」

ふと気付いた、オラの何気ない一言で、あいちゃんは目の色をキラリと輝かせた。

ちなみにこの前とは、印象が強すぎて忘れられない春休み前日。

いきなり飛び付かれたと思ったら、しん様しん様って…。

あの時のたった数分間でどれだけオラが疲れさせられたことか。

きっとまた、オラが止めなければ止まらないあいちゃんの自慢話が口から出てくるんだろうね。

そう思うと、なんだか疲れて来るぞ…。

「良くお気付きになられましたね!実は、私の家には送迎用の車が何台もありましてね。いつもならばこの車なのですが、あの時はちょっと故障していたらしく代車でしたの。ちなみに言いますと、私の自宅の車庫にはリムジンが何台もありましてね?送迎用に使ってもよろしいのですが、あそこまでに大きいと目立つので、舞踏会や結婚式などの特別なイベントでしか使っておりませんのよ。更に言うと……」

「ちょ、ちょっと待って。あのさ、あんまり黒磯さん待たせちゃ悪いぞ?冷え込んできてるし、そろそろ帰りになさられた方がよろしいかと…」

予想通りに、長々と自慢話をしようとしたあいちゃんは、そうですわね、なんて微笑んでいる。しかし、オラとしては安堵の溜息なのか疲労の溜息なのか分からないものをつかせるものであったことに違いはなかった。

長ったらしい解説、ではなく…、自慢話を難なく止めたオラは、あいちゃんの肩をグイグイと押して、運転席に無表情の黒磯さんが見える真っ黒なポルシェの中へと押し込んだ。

「じゃあねあいちゃん。また明日。今日は楽しかったよ、ありがとう」

「え、えぇ…。わたくしも、今日はとても楽しいお時間を過ごすことができました。今日一日ありがとうございましたわ。では、また明日」

簡単なあいさつを済ませ、オラは手を振りながら走り去る黒いポルシェを見送った。

車が走り出す間際、あいちゃんの顔が寂しげに見えたのは、オラの気のせいだったのだろうか…。

もしかしたら、オラが何かしたのだろうか。それとも、オラの考え過ぎなのだろうか。

時刻は六時を回った頃。浮かない顔して、オラは家の中へと入っていった。

 

 

 

帰宅路途中の車の中で、私はただただつまらない顔をして、暗くなった外の風景を窓ガラスから眺めていた。

車に乗った途端、夢の世界から引き剥がされた様な物寂し気さを、私は感じた。

今日という一日は本当に楽しかった。今日みたいな日は久しぶりだった。

しん様と、久しぶりに一日中一緒にいられた。それが嬉しくて嬉しくて。

寒がっていた私を見て、しん様は私にパーカーを貸してくれた。

寒いことは自分自身で分かっていたはずなのに、それでも貸してくれた。

それがどれ程嬉しかった事か。

しかし、それは彼の優しさ故の行為。

私は、幼稚園の頃からしん様が好きだった。

今でも、私はしん様のことが好き。

しかしそれは、同じの様で同じではないもの。

今日、それを知った。幼稚園の頃とは別な想いを抱いてるって。

これが、世間で言う″恋心″というものなのか、それはまだ分からない。

しかしこれがもしそうだとして。もし″恋心″だとして。

だからどうだと言うのでしょう。所詮、これは片想いに過ぎない。

それは、私自身が良く御存じなはずなのに。

幼稚園の頃から、全くと言うほど変化のない片想い。

変わったのは、自分の彼に対する想いだけ。

彼の私への想いは一切変わらず。

片想いなのは私だけ。

私の想いなんて、しん様に届いてるかどうかすらも分からない。

幼い頃に好き好きと言い過ぎた自分に自己嫌悪。

あぁ…、早く、この悪夢から解放されたい。

いっそのこと、自分でこの命を……。

 

(なーんて。変なこと考え過ぎましたね)

どこの悲劇のヒロインですか、と自分でも思ってしまうぐらい馬鹿馬鹿しい思いにふけった自分に恥ずかしささえ感じる。

「黒磯。今日の帰りは寄り道しましょう。桜が見たい気分ですわ」

「夜桜見物ですか」

「うふっ。一緒に見ます?」

「と、とんでもない。私は後ろの方で見守ってるだけでご充分でございます」

「へぇ~?もう結構長いお付き合いではありませんか。いいじゃありませんこと?今日ぐらい」

「言い方に気を付けた方がよろしいかと…」

「……、変なこと考えてます?」

「いいい、いいえ滅相もない!」

「うふっ。やはり、貴方で遊ぶのは退屈しませんわね」

「は、ははぁ…」

「そういえば黒磯」

「はい、何でございましょう」

「一つ思ったのですが」

「はい」

「ここらに夜桜見物できる様なスポットって、ありましたっけ?」

「……。ありませんね」

「……。決めましたわ。明日、ここらで眺めの良い空地に桜の木を植えましょう」

「は、ははぁ…」

「父上にお話しをしなければ」

「お許し貰えることをお祈りします」

「お祈りもいいけど、その際はご一緒に申請、お願いしますね?」

「…………」

「ご協力感謝します」

まーた面倒くさいことになりそうだ。そんな顔をした黒磯を私はギロリと睨み、ビクッと肩を上げた頼もしい私の遊び道具、もといボディーガードに私は微笑を溢した。

 

 

 

物静かな夜だった。いつもなら、春の虫のせせらぎが聞こえてきてもおかしくはない時間帯なのだが。

今夜というと、庭で飼ってるわたあめ犬の頼りない鳴き声と、父ちゃんがまた何かやらかしたのだろう、夫に向かっての母ちゃんの怒鳴り声しか聞こえない。あんなのが母だと思うとゾッとするよホント。

というか、この時点で物静かな夜ではなかった。全く物静かな夜ではない。

というか、これが普通の夜であった。ドタバタと下で走り回る音が聞こえてくる。きっと父ちゃんが母ちゃんから逃げているのだろう。ちなみにもし捕まったら、鬼の顔した女房の鉄拳制裁が父ちゃんには待っている。

妹はというと、自分で布団を敷いて一人で寝ているそうな。全く、しっかりしたもんだ。

さすが我が妹。で、オラはと言うと、普段ならとってもうるさいこんな雑音なんて無視してすぐにでも寝てしまうのだが、今夜はそうではなかった。

ちょっとした考え事をしていたのだ。というか、なかなか寝付けない。

最後に見たあいちゃんのあの物寂しげな顔が、どうにもこうにも頭の中から離れない。離れてくれなかった。

正直、中学校でどう過ごしていくかとか、新しい友達と仲良くできるかどうかなんてどうだって良かった。

問題なくやっていける自信もあったし、中学だから小学と違う生活をしていこうとか、自分を変えようとか思ったりもしてなかった。

ただ今まで通り、野原信之助をやっていけば良いと思っていた。

学校説明会の時、クラスに来た先生…、名前何だったっけ?…チャン河合…?とかいう先生のことだってどうでもいいし、本当の担任がどんな人なのかだってどうでもよかった。

というのは嘘で、できれば美人でグラマーな先生を希望。

でも何より気になるのはあの時のあいちゃんの顔だ。

オラは今日一日を楽しかったと思ってる。春休みラストを飾る良いデート…?だとも思っている。。

まぁ最後の方の記憶は飛んじゃってるんだけどね…。

でも、あいちゃんのあの顔…。オラ、楽しませてあげられなかったのかな。

そう思うと、残るのは後悔だけ。

もっとあいちゃんの話を聞いてあげれば良かった。

もっと気の利いた会話ができれば…。

しかし、今更になってももうそれは後の祭り。

今日、オラは疑問を抱いた。それは、オラ一人では大方解決できないであろう疑問。

(オラは今、あいちゃんのことが好きなのか…?)

幼いころは少し苦手だった。でも、春休み前に会って、彼女の意味の分からない可愛さに惚れたと思われる自分を発見して。

そして今日のデート。やはり、自分自身彼女のことを面倒くさがっていた場面はあった。

では、今のこの気持ちはなんなんだろうか。

何故気にする。何故可愛いと思う。何故惚れる。何故面倒くさがる。

幼いころ、ななこお姉さんに抱いていた感情とは全く違った、別な感情。

好きなのかさえ分からない。いや、きっと好きなんだろう。

これは恋なのか?これが恋だとして、何故面倒くさがったのか?

そもそも、ななこお姉さんに抱いていた感情は恋だったのだろうか。

では何故、何故何故何故何故何故何故何故何故。

何故。

なぜ人はこんな思いまでして恋をするのだろうか。

 

(なーんちってねー……)

きっとオラの考え過ぎでしょ。オラはそう呟いて、窓から外の景色を見た。

見事なまでの満月が、輝き満ちた光で、オラの様に美しく、夜空を照らしていた。

さぁ、明日からオラは中学生だ。

呟いたか呟いてないか分からない程度に口を開くと、ようやくオラは眠りについた。

 

 




どうも(^^)/
ほんっとに長い間執筆していました。
毎度言ってるかと思いますが、遅れて申し訳ございません(泣
チマチマチマチマ書いてって、チョピチョピ誤字脱字、こうした方がいいなと思うところを直していたらこんなに時間がかかってしまいました。
にしては進展がないんですけどね。

今回もアドバイス待ってマスー。(^^)/


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