俺と彼女のハイスクールライフ (”アイゼロ”)
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第一章:俺と彼女の部活動スクールライフ
1話:俺と彼女の入部ペナルティー


はい、どうも、アイゼロです。

初投稿です。

いろんな人のSSを読んで触発されました。

特に、八×オリが大好きだから書いてみたかったんだ。

基本的には、原作に沿っていき、所々にオリジナルを加えていきます。

それではご覧ください・・。







『高校生活を振り返って』

 

 

青春とは嘘であり悪である。

青春を謳歌する者たちは、常に周りに目を配り、自分が優位に立つため自己と周囲を欺く。

時には相手に合わせ、気を遣い、自分を偽って仲を持とうとする、そんな上辺だけの関係を作るなんて愚の骨頂だ。

 

 

・・・・・・・・中略

 

 

俺は、1人の幼馴染みに救われた。

その彼女は、俺の全てを受け止めてくれた。堕ちていった俺の心を癒してくれた。こんな俺を認めてくれた。

そのことがこの上なく嬉しかった。

 

話が脱線してしまったが、俺は友達なんかいりません、その分彼女を大事にしていこうと思っています。そのことに関しては微塵も後悔していません。する必要性すら感じません。

 

なので、俺の高校生活は彼女のおかげで非常に充実しています。

 

 

 

 

 

 

≪職員室≫

 

 

 

平塚「なぁ、比企谷。私が授業で出した課題は何だったかな?」

 

八幡「・・・はぁ、『高校生活を振り返って』というテーマの作文ですが」

 

平塚「そうだ。それなのになぜ君は高校生活どころか人生を振り返っているんだ?おまけに惚気話とは・・」

 

俺の目の前に座っている国語担当教諭、平塚静先生は煙草を吸いながら呆れた口調で問いてきた。職員室って、喫煙なのか?と思いながら、質問に答えた。

 

八幡「学校では基本1人だったので、振り返るほど思い出はありません。生活面ならまだマシに書けますが・・・」

 

平塚「ならそっちを書いてくればよかっただろう、わざわざこんな事書かなくても・・・」

 

八幡「それなら最初からそう説明してくださいよ、これは先生の説明不足です」

 

反論を試みたがギロリとこちらを睨み、

 

平塚「屁理屈を言うな」

 

と一蹴された。そしてまじまじと俺の顔を見て口を開いた。

 

平塚「君の目は、普通の人とは違うな。濁っている」

 

八幡「よく言われます。まぁ、俺は気に入ってますけどね。誰も近寄ってこないし」

 

そう、この濁った目は誰も寄せ付けない。俺と目があった人は小さい声で「ヒィッ!」とビビるし、夜に出歩いているとゾンビ扱いされる時だってあるし、幼稚園や保育園に近づこうものなら即座に不審者扱いされるだろう。

 

我ながら、言ってて悲しくなってくる・・・。

 

平塚「そもそもこんな奴に幼馴染みの彼女がいることが怪しいんだが・・・」

 

おっと、それは聞き捨てなりませんなぁ・・・。ほかの人より目が特徴的だからって彼女がいないとは限らないだろう。

 

八幡「そこで見栄を張るほど俺は子供じゃありません」

 

一応否定してみたが、納得がいかない様子。

 

平塚「二次元の話じゃないよな?」

 

いくらなんでも失礼過ぎるだろ。どんだけ認めたくないんだよ。

 

八幡「先生・・いくら結婚ができないからって生徒を嘘つき呼ばわりするのはよくnグフォ!!」

 

俺の腹に、ボクサー級のパンチが炸裂した。この人力ありすぎだろ。

 

平塚「次言ったら鳩尾に当てるぞ」

 

迫力ある低い声音で警告された。こえぇ。

 

八幡「ふぁ、ふぁい・・・」

 

?「失礼しまーす。平塚先生いますか?」

 

俺が痛みに悶えているとき、1人の女子生徒が職員室に訪れた。どうやら平塚先生に用があるらしい。

 

そして、この女子生徒の声に俺は聞き覚えがあった。

 

平塚「ん?どうした新島(あらしま)。何か用か?」

 

新島「はい。先生に頼まれてた提出物を出しに・・・って八くん?」

 

こっちを見て、あだ名で呼んだ女子生徒に対して俺は中背で腹を抑えながら返事をした。

 

八幡「・・・よう。風音(かざね)」

 

目の前にいたのは、俺の幼馴染みにして恋人の『新島 風音』がいた。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

数秒の沈黙。平塚先生が困惑気味の顔で俺らに質問をしてきた。

 

平塚「・・・その、お前らは知り合いか?」

 

八幡&風音「「はい。彼氏(彼女)です」」

 

先生は、雷に打たれたような顔をして絶句していた。

 

平塚「彼女いたことは本当だったんだな・・・」

 

八幡「だから最初から言ってたじゃないですか」

 

先生は、事実確認ができた途端に

 

平塚「・・・クぅぅ・・生徒に先越された・・・。よりによってこんな奴に」

 

と言って机に突っ伏していた。おそらく今涙目だろう。

 

風音「ところで、八くんは何してたの?」

 

そんな泣いている先生をスルーして、風音は俺に聞いてきた。

 

八幡「ああ、授業で出された課題の作文を提出しに来たんだ」

 

風音「八くんの作文!読んでみたい!読ませて」

 

にっこりほんわか笑顔でお願いされた。可愛い。けど、さすがにあの作文を見せるのは・・・。

 

平塚「あぁ、それならここにあるぞ」

 

いつの間にか立ち直っていた先生が持っていた紙を風音に渡した。

 

風音「なにが書いてあるのかな?♪」

 

八幡「え、ちょっ!別に面白くないから読まなくていいぞ!つーか読むな!」

 

作文を取り返そうとするが時すでに遅し。風音は八幡著の作文を真剣に読んでいた。

 

風音「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・/////!?」

 

先生はニヤニヤしている。俺は顔に手を当てている。風音は読んでいくたびに顔をどんどん赤くしていく。

 

読み終わったのか風音は作文を閉じて俺に返した。

 

気まずい。

 

風音「/////」モジモジ

 

顔を赤くしてモジモジしながら、俯いている。

 

八幡「・・・・・」

 

なんて声かければいいんだろう・・。ていうか、今の風音はすごい庇護欲がそそられるな、抱きしめてやりたい。

 

平塚「いつまで、イチャイチャしてるつもりだ!!」

 

先生の怒号により、俺達は我に返った。

 

平塚「とりあえず、作文は書き直しだ!それとペナルティとして君には奉仕活動をしてもらう」

 

えぇー・・めんどくさっ・・やりたくねぇ。

 

平塚「ちなみに拒否権はないぞ」

 

横暴だ!けど、もうパンチ喰らいたくないから従うしかない。

 

八幡「ハァ・・・それで具体的に何をすればいいんですか?」

 

平塚「ついてこい。話はそれからだ」

 

どこへ行くんだ。すごい不安が募る。

 

風音「あ、私も行く~」

 

そして何故か風音もついていくことに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

平塚「着いたぞ」

 

先生に案内された場所は、特別棟のなんの変哲もない教室。プレートは何も書かれておらず真っ白。

 

風音「なんか不思議な場所だね」

 

風音がそう言うと先生は教室の戸をカラリと開けた。

 

?「平塚先生。入るときにはノックを、とお願いしているのですが」

 

平塚「そういって君は返事をした試しがないじゃないか」

 

?「返事する間もなく先生が入ってくるんですよ」

 

平塚先生の言葉に、彼女は不満げな視線を送る。

 

?「それで、そのぬぼーっとした人は?」

 

俺は、この少女を知っている。国際教養科2年J組の雪ノ下雪乃だ。ちなみに全部風音情報。風音も実は国際教養科だし。それに俺は興味ないやつの名前も顔も覚える気ないし。

 

平塚「彼は、入部希望者の比企谷八幡だ。そして、依頼は私から。この男の腐った性根を叩き直してほしい」

 

風音「ええーーーーー!?」

 

八幡「はぁっ!?なんだそれ聞いてねぇぞ!」

 

雪乃「お断りします。その男の下心に満ちた濁った目は信用できません」

 

しかもやんわりと断ったぞ。あと濁った目は認めるが下心なんて断じてない。

 

平塚「なに心配するな。この男はリスクリターンの計算と自己保身に関してはなかなかのものだ。それに、恋人もいるしな。刑事罰に問われるような間違い起こすことはないだろう」

 

先生の説明を聞いた雪ノ下が怪訝な顔でこっちを見た。

 

雪乃「なるほど・・。しかし、この男に恋人ですか?信じられませんね」

 

まぁ予想はしてたけどな。初対面の目が濁ってる男に恋人がいるとは思わないだろう。そして、それを聞いていた風音が俺の横に並んで腕をつかむ。

 

風音「はい。私が八くんの恋人です。」

 

と胸の位置まで手を挙げて言った。

 

雪ノ下は驚いたように目を見開いて俺達を交互に見た。

 

雪乃「あなたは確か同じクラスの新島さんね。・・・あなた、彼女の弱みを握って自分の恋人にさせているのね。最低だわ。」

 

冷ややかな目で俺を睨んできた。あまりのおかしな解釈に思わず間抜け面になった。風音はそれを聞いて若干顔をしかめる、俺のことを悪く言われることが心底嫌なんだろう。

 

雪乃「新島さん、この男に何かされたのなら言いなさい。私が警察に突き出してあげるから」

 

そう言って、雪ノ下は携帯を取り出す。・・おい、マジでシャレになんねぇからやめろ。

 

風音「ねぇ、雪ノ下さん」

 

雪ノ下が言い終えた途端、風音が低く冷たい声音で言い返した。

 

風音「どうして初対面の人にそんなこと言えるの?目が濁ってるからって犯罪者扱いするの?八くんのこと何も知らないのに貶めるようなこと言わないで。私の恋人を馬鹿にしないで」

 

風音は睨み付けるように真顔で怒った。彼女から滲み出ている黒いオーラに思わずたじろぐ。この風音を見たのは久しぶりだな。

 

とりあえず落ち着かせようと思った俺は、風音の頭に手を乗せ優しく撫でた。

 

八幡「落ち着け。別に俺は気にしてない。怒ってくれてありがとな」ナデナデ

 

風音「ん・・・八くん」

 

改めて雪ノ下の方に顔を向けると、申し訳なさそうに俺達を見て

 

雪乃「その、ごめんなさい。あなたたちの関係を否定するようなことを言って」

 

と頭を下げて謝った。

 

八幡「別に気にすることねぇよ」

 

風音「そうそう。謝ってくれたから許す」

 

八幡「それとすっかり忘れてたけど、結局俺って入部しなきゃいけないのか?」

 

平塚「そうだな。入ってもらう」

 

雪乃「先生、お聞きしたいんですが、先生は彼のどこを見てそう判断したんですか?」

 

平塚「ふむ、こいつは世の中を歪んだ形で捉えている、非常に捻くれた奴だ。友達を必要としない分、彼女を大事にしていくことは悪いことじゃない。しかし、それだと社交性が怪しまれるため、更生が必要だと判断したんだ」

 

ほお~、先生も先生なりにちゃんと考えがあったのか。単なる嫌がらせかと思ってた。・・だがしかし

 

八幡「先生、捻くれてることは認めますが、別に社交性がないわけじゃないですよ。人とは普通に話せますし、コミュ障ってわけじゃありません」

 

風音「それは確かにそうだね。八くん短期間だけどアルバイトもしたことあるし、仕事もできる方ですよ」

 

雪乃「そうね、友達がいないからって社交性がないわけじゃないでしょうし。・・先生は今のを聞いてどう思いますか?」

 

三人の意見を聞き、深いため息をする先生。

 

平塚「比企谷と雪ノ下は似た共通点があるから厄介だな。・・・じゃあ依頼は変更だ。入部して雪ノ下の補佐をしろ」

 

八幡「は?」

 

ゥワオ!?先生の突然な提案に一同びっくり。俺は驚きすぎて、某芸人のようなリアクションを心の中でしてしまった。

 

風音「それ、あんまり八くんのキャラじゃないよ・・・」

 

八幡「俺の心の声を拾うなよ。つーかなんでわかるの?」

 

雪乃「あの・・先生。補佐というのは・・」

 

平塚「なーに。これからも依頼はくるだろう。そこで雪ノ下が一人じゃ抱えきれない問題がくるかもしれない。そこで、比企谷に補佐をやらせる」

 

やりたくねぇ。

 

八幡「いや、でも俺より優秀な奴が他にいるでしょう」

 

平塚「確かに君より優秀な奴がいるかもしれない。だがお前は普通の人とは違うからな。おそらくお前にしかできないこともある」

 

つまり俺が異端者(アブノーマル)だって言いたいんすか・・・。

 

平塚「それにペナルティーといっただろう。拒否権はないぞ」

 

クッ!・・・・しゃーねぇなー。

 

八幡「はぁ・・・わかったよ。入部しますよ」

 

平塚「よし!それじゃあ今日はここまでにしよう。鍵は私が締めとく」

 

風音「ま、まってまって!」

 

と風音がなにか言いたそうな顔をして手を挙げる。

 

風音「私も入部する!先生、いいですか?」

 

八幡&雪乃「「えっ」」

 

あまりの予想外の発言に俺と雪ノ下は目を見開いた。ただ一人平塚先生は笑みを浮かべ

 

平塚「ああ、いいぞ」

 

風音「やった~♪」

 

そういって平塚先生は部室を出た。

 

風音は嬉しいのか両手を挙げて万歳をしている。

 

 

 

 

 

 

八幡「んじゃあ、改めて自己紹介はしとくか。2年F組の比企谷八幡だ」

 

風音「2年J組の新島風音です。よろしく」

 

雪乃「2年J組の雪ノ下雪乃よ。よろしくね、比企谷君、新島さん」

 

 

こうして俺と風音は高校生活2年目にして部活動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

≪帰り道≫

 

校門を抜け、俺と風音は帰路に就く。ちなみに帰り道は同じ。だってお互いの家が向かいにあるのだから。

 

風音「それにしても、高2で部活始めることになるとは思わなかったねぇ」

 

八幡「そうだな。ま、俺は無理矢理だけど」

 

風音「まぁまぁいいじゃん。私もいるんだから」

 

八幡「・・・それもそうだな」

 

風音「ふふ・・・ところであそこって何部か聞いてなかったね」

 

八幡「あ、そういえばそうだな。それに活動内容も知らねぇし。まぁ明日聞けばいいか」

 

風音「それもそうだね」

 

無理矢理入部させられたとはいえしっかりやらなきゃな。それに風音がいるから心強い。

 

もう二人で下校はできねぇなーと思っていたが、いらん心配だったようだ。

 

彼女が入部すると言い出した時は、驚いたが嬉しくもあった。

 

そう思っていたら、風音がエヘヘと満面の笑みをこっちに向け、

 

風音「そうかぁ~、私との下校がそんなに楽しみだったんだ~」

 

俺の心は筒抜け状態だった。あまりの恥ずかしさに俺は顔に手を当てる。若干熱い。

 

ここまで読まれてると超能力者かと疑う。こいつに隠し事は無理そうだな。

 

風音「もう何年も一緒にいるからねぇ、八くんの考えてることは大体わかるよ~。・・・それに、私も一緒に下校できて嬉しいし」

 

八幡「ハァ・・・・そうかよ」

 

 

しばらく歩いて、お互いの家に到着した

 

 

八幡「じゃあな、風音」

 

風音「うん、また明日~」

 

 

 

≪自宅≫

 

 

八幡「ただいま~」

 

八幡帰宅のお知らせでーす。

 

小町「おかえり~、お兄ちゃん」

 

笑顔で返事をしに迎えたのは、俺の世界一可愛い妹、小町である。そう、俺は自他ともに認めるシスコンだ。他なんて風音ぐらいしかいないが・・・。

 

小町「それにしても、今日は少し遅かったね。なんかあったの?」

 

八幡「あー、部活に入ったんだ」

 

俺が素っ気なく答えると小町はポカーンと口を開けフリーズしていた。すげぇアホ面だ、そんなに驚くことか?

 

まぁ、そりゃそうだろうな。人に全然干渉しない俺が部活動を始めるんだから。

 

小町「あ、あの捻くれぼっちのお兄ちゃんが部活・・・、他人に興味を示さないお兄ちゃんが・・とうとう前に進むことを決意したんだね。小町嬉しい・・あれ、可笑しいな、何で涙が・・・そうか、これが子供の1人立ちを迎える親の気持ちなんだね。」

 

大袈裟だな・・・。

 

小町「今まで小町が色々言ってきたけど、もうその必要はないみたいだね。小町はお兄ちゃんの意思を尊重して兄離れを決意するよ。なんて兄思いの妹!小町的にポイント高い!」

 

八幡「いや、俺は強制的に入部させられたんだよ。ペナルティーって言われて。それに俺は妹離れする気はまだない」

 

小町「なーんだ、ま、そんなことだろうと思ったよ」

 

こいつ急に態度変えたな。一気に『なーんだつまんないの』って顔に急変したぞ。

 

八幡「そんなわけだ。これから帰りは遅くなる」

 

小町「あれ?じゃあもう風姉とはもう一緒に帰らないの?」

 

あ、そのことについても教えなきゃな。ちなみにわかっていると思うが、風姉とは風音のことだ。小町曰く、「将来のお義姉ちゃん」らしい。気が早いっての。

 

八幡「まぁ、とりあえず腹減ったから飯にしてくれ。その時話す」

 

小町「うん!分かった。もう少しだから待っててね」

 

そういうと小町は鼻歌交じりでキッチンへと向かった。

 

 

 

 

≪食事≫

 

 

小町「さてさて、今日何があったのか洗いざらい吐いてもらおうじゃねーか」

 

八幡「おまえそれ何のキャラだよ・・・」

 

そして俺は、洗いざらい吐いた。

 

今日起きたことを順に説明していった。

 

 

小町「へ~、そんなことがねぇ」

 

八幡「んー、でも何であいつまで入部したんだ?」

 

実際、風音はついてきただけで強制はされていない。部活に入る理由なんてないと思うんだが・・。

 

小町「んー、ただお兄ちゃんと一緒にやりたかっただけじゃないの?」

 

八幡「え、そうなんか?」

 

俺が、そう聞くと小町は、そうだよと笑顔を向けた。目の前に天使が降臨した。

 

小町「小町はお兄ちゃんたちの幸せを願ってるからね。そのためなら些細なことでも協力するよ!あ、今の小町的にポイント高い♪」

 

その一言がなきゃカッコいいのに・・・。果たしてその小町ポイントはいったいどこで使われるのやら。

 

八幡「そうかよ。ま、ありがとな」

 

こうして俺達の食事は終わった。

 

 

 

 

≪八幡の部屋≫

 

 

明日から部活か・・・。まだ何やるかわからない以上少し不安もある。

 

睡魔が早めに襲ってきたため、今日はもう寝るとしよう。

 

 

 

 

 

《翌日》

 

 

風音「おはよ~」

 

八幡「おう、おはよう」

 

朝からポワポワと笑顔で挨拶をしてきた。ハァ~癒される。

 

風音「それじゃあ、行こうか」

 

八幡「おう・・・と、そういえば」

 

俺は昨日から気になっていたことを聞く。

 

八幡「何でお前も入部したんだ?」

 

 

風音「八くんと部活してみたかったから♪」

 

 




と、いうわけで比企谷八幡とそのオリヒロ〔新島風音〕が奉仕部に入部しました。

徐々に糖分を増やしていくつもりです。

雪ノ下は、八幡を罵倒しない方向でいきます。2人の言い合いは読んでて面白いんですが、自分には難しくってまだ書けません。

また次回。


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2話:俺と彼女の料理ダークマター

はい、どうも、アイゼロです。

2話突入。

そしてアホの子ビッチが登場。



ホームルームを終えて教室から出た俺を待ち構えていたのは平塚先生だった。

 

腕を組み、仁王立ちになった姿はさながら看守のようである。軍服と鞭を装備させたら似合うんじゃねーかと思う。

 

平塚「比企谷、部活の時間だ」

 

あー、この人俺をさぼらせないために待ち伏せていたんだな。

 

八幡「いやいや、最初からさぼる気なんてありませんから。強制入部だし」

 

弁解すると先生は満足げな顔をして、納得のいったように頷いた。

 

平塚「フッ、どうやらいらん心配だったようだな。精一杯励んでくれ」

 

そういって先生は白衣を翻して去っていった。

 

八幡「さて、俺も行くか」

 

小声で呟いて俺は特別棟の一角を目指した。

 

 

 

 

≪部室≫

 

ガラララ

 

八幡「うーっす」

 

雪乃「こんにちは」

 

雪ノ下は、昨日と同じく窓際の席に座っていた。俺が来たら文庫本から一瞬目を離し挨拶をし返し、そしてすぐに文庫本へと視線を戻す。

 

風音「お、来た来た。八く~ん」

 

風音は、軽く手を振って返した。雪ノ下から少し離れた廊下側に座っている。

 

どこに座ろうか悩んでいたが、無難に風音の隣でいいだろうと判断した。

 

今の席はこんな感じ

----------------

廊              窓

下  八 風      雪  側

側  =====机======

 

----------------

 

 

 

 

風音「あ、そうそう。八くん、私と雪ノ下さんって同じクラスでしょ。だから入部を機に仲良くしようとしたんだけど、話しかけても『そう』の一点張りなんだよ~」

 

思わぬ暴露に雪ノ下は肩をビクつかせ、罰の悪そうな顔をしてこっちを向いた。

 

雪乃「その、彼女が話していたのは流行の物や服のことなのだけれど、私はそういうのに興味がなくて」

 

八幡「あー、確かにお前は最近の女子高生とはかなり違うからな」

 

俺から見ても、雪ノ下は今時JKのようにきゃーきゃー騒ぐような奴じゃないだろう、むしろ真逆だ。

 

ていうかほんとにあいつらうるさい。イヤホン越しでも甲高いキャーキャーが耳に入ってくる。教師にしゃべるなと注意されてるのに、しゃべり続けるあいつらの神経がわからない。

 

対する風音はあまり騒がない。静かにおしゃべりをするタイプだ。

 

雪ノ下「ええ、だからそういう話は友達としていたらいいわ。私には通じないもの」

 

少し棘のある言い方だな・・・。

 

風音「えー・・でも同じ部活なんだし仲良くはしたいよ」

 

シュンと落ち込む風音。仕方ない、ここは一つ助け舟を出そう

 

八幡「風音、なんならこの時間にでも何か話したらいいじゃねぇか。知らないことを教えるのはいいことだぞ。教えてく中で雪ノ下でも興味持ちそうなやつが出てくるかもしれないしな」

 

そう風音に助言をしたら目を輝かせ、

 

風音「確かにそうだね!さすが八くん!」ダキっ

 

彼女は抱きついてきた。嬉しいけど、場所を弁えてくれ!TPO!TPO!

 

風音「それじゃあ雪ノ下さんこれからいろんなことを教えるからよろしくね!」

 

雪乃「え、ええ、お願いするわ。けれど読書はさせて」

 

風音「大丈夫!その辺は弁えるから。それと雪ノ下さんじゃ他人行儀っぽいから雪乃ちゃんって呼ぶね」

 

雪ノ下は、深い溜息をつき俺を恨めしそうに見た。まぁまぁいいじゃねえか。

 

あ、そういえば聞かなきゃいけないことがあったな・・・。

 

八幡「なぁ雪ノ下、ここは何部なんだ?活動内容とか教えてほしいんだけど」

 

そう聞くと雪ノ下は小さく首を傾げ

 

雪乃「あら、先生から説明を受けなかったの?」

 

八幡「いや、何にも聞かされてないぞ・・・」

 

すると、雪ノ下はこめかみを押さえ

 

雪乃「全く・・・強制入部させるのであれば、説明をするのが筋ってものじゃないのかしら」

 

溜息交じりにそういった。まぁ正論だな、あの人適当過ぎるでしょ・・。

 

雪乃「そうね、せっかくだからクイズ形式にしましょう。ここは何部なのか?そしてそれを選んだ理由を答えてもらおうかしら・・・」

 

ほぉ、ずいぶん回りくどいことを提案したな・・・。まぁいいだろう受けて立ってやる。

 

風音「せっかくだから、久しぶりに勝負しない?」

 

八幡「お?いいなそれ、やるか。最近やれてなかったからな・・・」

 

風音「あ、ちなみに【ロットアイ】は禁止ね。あれ反則に近いんだから」

 

八幡「え!マジか・・しょうがねぇな」

 

2人はしばらく考え込む。そのとき雪ノ下の頭の中には一つ疑念が生じた。

 

――――――――ロットアイ?

 

それはなんなのだろうと思いながら雪ノ下は彼らを見ていた。すると答えがわかったのか八幡が口を開く

 

八幡「文芸部か?」

 

雪乃「・・その心は?」

 

八幡「特殊な環境、特別な機器を必要とせず、部費なんて必要としない部活だ。それに雪ノ下は本を読んでいる。どうだ?」

 

勝利を確信した俺だが、雪ノ下は笑みを浮かべ

 

雪乃「はずれ」

 

・・・・・嘘だろ?じゃあマジで何なんだこの部活は?

 

雪乃「新島さんは何かわかったかしら?」

 

風音「ん~?・・・・奉仕部とか?」

 

雪乃「へぇ・・その心は?」

 

風音「まず、平塚先生が八くんに奉仕活動を命じると言ってたの。それでこの教室にきて先生は依頼があると雪乃ちゃんに言った。つまり誰かの依頼を受けるのが活動内容じゃないかって。だから安直に奉仕部」

 

雪ノ下は驚いたように目を見開く。まぁ確かにそんなへんな部活名があるわけ・・・

 

雪乃「正解よ、新島さん、パーフェクト」

 

風音「やった~♪」

 

マジかよ!えっ、しかもパーフェクト!風音すげぇ!?

 

雪乃「驚いたわ、まさか正解するなんて、すべて的を当ててる。さすが国際教養科ね、普通科とは違って頭の回転が速いわ」

 

八幡「おい・・今ナチュラルに俺を馬鹿にしただろ?」

 

雪乃「持つものが持たざる者に慈悲を与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ。

 

ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

腕を組み、立ち上がって言い放った。歓迎されているかはわからんが・・・。

 

八幡「活動内容は分かった。だけど、その依頼がくるまで何をしてたらいいんだ?」

 

雪乃「何をしてくれても構わないわ。読書に勉強、娯楽、基本自由よ」

 

ほー、部活だからそれなりに気を引き締めていたが、その必要はあまりなかったようだ。

 

風音「じゃあ八くん。この時間だったら勝負できるんじゃない?」

 

八幡「お!そうだな!それじゃお互い何か思いついたらここでやるか」

 

さっきのクイズといい、この二人は何を競っているんだろうと気になる雪ノ下。

 

雪乃「ねぇ、あなたたちが言ってるその勝負とやらはいったい何?」

 

八幡「ん?ああ、そういえば言ってなかったけど、俺達は幼馴染みなんだ。んで、小さいころからいろんなことで、競ってたんだ・・・。ジャンル関係なくな・・」

 

風音「そう、それで勝負が終わったら、手帳に記録するの。勝った人は白丸、負けた人は黒丸って」

 

雪ノ下は、へぇ、と興味深そうに俺達を見た。な、なにかな?

 

――――――コンコン

 

雪ノ下は俺達に何か聞こうとしたが、扉のノックによって遮られた。姿勢を正し返事をする。

 

雪乃「どうぞ」

 

ガラララ

 

?「し、失礼しまーす」

 

入ってきたのは、1人の女子生徒だ。肩までの茶髪に緩くウェーブを当てて、歩くたびにそれが揺れる。探るようにして動く視線は落ち着きがない。

 

うっわ・・こいつ、まさに今時のジョシコウセイって感じでこの手の女子はよく見かけるのだ。つまり青春を謳歌してる派手めな女子。短めのスカートに、ボタンが三つほど開けられたブラウス、覗いた胸元に光るネックレス、ハートのチャーム、明るめに脱色された茶髪、どれも校則を完全に無視した出で立ちだった。俺にとっちゃその派手さは目に毒だ。なんというか・・ビッチくさい。

 

俺がそんなことを思っていると、彼女は俺を見てびっくりしたのか、後ずさりした。うん、俺に初めてあった人はだいたいその反応だから、別に気にしていない。・・・ホントダヨ。

 

?「な、なんでヒッキーがここにいんの!?」

 

は?ヒッキーって俺のこと?その前にこいつは誰?

 

雪乃「由比ヶ浜結衣さんね。どうぞ、そこに腰を掛けて」

 

雪ノ下は由比ヶ浜という人物を椅子に誘導した。ほんとに誰だこいつ?あと、なぜ俺のことを知っているんだ?。

 

風音「八くんの知り合い?」

 

八幡「いや、まったく知らん。見覚えすらない」

 

結衣「はぁ!?おんなじクラスじゃん信じられない!?」

 

初対面の人に対して、引きこもりみたいなあだ名つける方が信じられない!?

 

雪乃「はぁ・・あなた、同じクラスの顔と名前ぐらい覚えておきなさいよ」

 

八幡「フっ、俺は興味ない人の顔や名前は覚える気ないんだよ。そんな暇あったら、英単語の一つでも覚える」

 

結衣「なにそれ意味わかんない!?キモイ!死ねば?」

 

おい、それ以上言うな、風音が怒り出す。実際に拳を握って震えているんだから。とりあえず風音の手を握って落ち着かせよう。

 

落ち着きを取り戻したのか、風音は俺を見た後、冷静になった。

 

八幡「おい、死ねとか殺すとか軽々しく言うんじゃねぇ。ぶっ殺すぞ」

 

結衣「あ、ごめん、別にそういうつもりじゃ・・・って今言ったよ!?超言ってたよ!?」

 

うん、わかった。こいつアホだ。だがちゃんと謝れる奴でもある。俺ってすごい、このやり取りだけでこいつのことがだいたいわかったよ、八幡天才。

 

結衣「・・それで平塚先生からここを紹介されたんだけど、生徒の願いを叶えてくれるんだよね?」

 

八幡「そうなのか?」

 

雪乃「いいえ、少し違うわ。・・この部の活動はあくまで生徒の自立を促すことよ」

 

結衣「どういうこと?」

 

今の説明でわからんのか?やはりアホの子だ。

 

風音「簡単に言えば、飢えた人に魚を与えるんじゃなくて、魚の取り方を教える。そういうことでしょ?」

 

雪乃「ええ、そのとおりよ。だから願いが叶うかどうかはその人次第。・・・それで、由比ヶ浜さん、あなたの依頼というのは?」

 

その言葉で思い出したのか、由比ヶ浜はあっと声をあげる。

 

結衣「あの・・クッキーを・・」

 

と言いかけて、俺の方をちらちら見る。

 

八幡「あ、男の俺がいると話しづらい内容なのか。・・んじゃ、何か飲み物買ってくる。風音は何か飲むか?」

 

そういって俺は席を立ち、要望を聞く。

 

風音「あ、じゃあソウルドリンクで」

 

俺と同じやつか。ちなみにソウルドリンクというのは千葉限定MAXコーヒーのことだ。あの甘さが癖になるんだよな~、これまた。

 

八幡「OK。お前らは?」

 

雪乃「じゃあ野菜生活100いちごヨーグルトミックスをお願い」

 

野菜ジュースにそんなのあったんだな。うまいのかそれ?・・・あれ、由比ヶ浜が何も言わない。

 

八幡「おーい、由比ヶ浜は?」

 

結衣「え?いいの?」

 

八幡「アホ。一人だけ買わないってわけにはいかねぇだろ」

 

それを聞いた由比ヶ浜はへぇ、と驚いていた。いや、俺だって他人に気ぐらい遣うよ。空気壊さないよう常にステルス発動してるとか。

 

結衣「あ、ありがと。じゃあオレンジジュースお願い」

 

八幡「はいよ」

 

そういって俺は部室を出た。

 

 

 

 

しばらくして部室に戻ると、みんな席を立っていた。どうやら移動するらしい。

 

八幡「あれ、お前らどっか行くの?」

 

風音「うん、家庭科室に行くよ」

 

八幡「家庭科室?・・・・ていうか依頼内容は?」

 

雪乃「着いたら教えるわ」

 

 

 

 

 

≪家庭科室≫

 

 

八幡「んで、何すんの?」

 

雪乃「由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べてもらいたい人がいるそうよ。でも自信がないから手伝ってほしい、というのが彼女の依頼よ」

 

八幡「ふーん、クッキーねぇ。・・・友達とかに頼まなかったのか?お前みたいなやつだったらいっぱいいるだろ?」

 

結衣「う・・そ、それはその、・・・・あんまり知られたくないし、こういうことしてるの知られたら馬鹿にされるし・・・」

 

俺は鼻で溜息をする。俺はいま思ったことを言おうとしたがやめておこう。こいつなりの立場やリア充事情があるんだろう・・・。

 

八幡「フゥ・・・わかったよ。それでどうするんだ?」

 

雪乃「あら、意外とやる気はあるのね」

 

え?俺ってそんなやる気ないように見える?目?やっぱり目なのか!?

 

八幡「頼まれた以上、手は抜かない。それが俺のモットーだ」

 

雪乃「へぇ・・少し感心したわ」

 

八幡「そーかい。・・・ところで風音は?」

 

風音「ここにいるよ~、八くん」

 

きょろきょろ見渡すと俺の隣にいた。

 

八幡「お前どこ行ってたんだ?」

 

風音「あ~、図書室に行ってクッキーのレシピ本を借りてきたの。ここってそういうの置いてないと思ったから」

 

風音は、手に持っていた本を掲げた。

 

速いな・・・。ここから図書室って少し距離あったのに。

 

八幡「そうか。ありがとな風音、助かったわ」ナデナデ

 

風音は嬉しそうに、満面の笑みを浮かべる。あ~、可愛いな~。癒される。

 

この光景を見ている二人はポカーンとしていたが、気にしない。

 

風音「はい、結衣ちゃんこれ見て頑張ってね!」

 

風音は、由比ヶ浜のもとへ行き、本を渡した。

 

結衣「えっ・・あ、うん。頑張るよ!」

 

八幡「んじゃまず、由比ヶ浜一人に作らせる。今の実力がどれくらいかを見よう。ちゃんとレシピ通りに作れ、いいな?」

 

雪乃「なんだか投げやりな気もするけれど、そうしましょう。何かあったら指摘すればいいし」

 

結衣「うん、わかった。私頑張る!」

 

拳を握り、気合を入れる、どうやら本気のようだ。頑張れよ。

 

 

このとき、俺達の判断が、のちに四人を苦しませることになるとは、思いもしなかった。

 

今更だが、さっき買ってきた飲み物は冷蔵庫に入れておこう。

 

 

―――――数分後・・・

 

 

結衣「できたよーー!?」

 

由比ヶ浜が差し出してきた皿の上には、黒より黒く、闇より暗き漆黒の物体が乗せられていた・・・。

 

八幡&風音&雪乃「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

 

人間本気で驚くと金縛りにあったかのように動けないんだな・・・。ほんとにナニコレ?珍百景登録けってーーーーい!

 

雪乃「あ、あの由比ヶ浜さん、これは一体?・・・」

 

結衣「ん、なにってクッキーだよ」

 

八幡「これのどこがクッキーなんだよ!?どこからどう見てもダークマターの一種だ!?こんなの食わせる気か!ほんとにレシピに従って作ったんだろうなぁ!?」

 

俺は珍しく声を大きく荒げて説教をした。俺ってこんな声出せるんだな。

 

結衣「ひどい!?ちゃんと作ったよ!・・でも普通じゃつまんないからちょっと付け加えたけど・・・。」

 

原因はそれか・・・。ていうかレシピ通りにしてないじゃん。ひどいのはどっちだよ・・・。

 

風音「あのね、結衣ちゃん、アレンジは料理できる人が工夫して生み出すからこそアレンジっていうんだよ。できない人がやったってうまくいかないよ・・・。」

 

風音の至極真っ当な意見に、由比ヶ浜も納得せざるを得ないようだ。

 

結衣「で、でもまだ食べてないんだから味はわからないでしょ。食べてみて!」

 

せめて食べてからいろいろ言って、と皿をこっちに突き出す。やめてくれ。

 

八幡「やめろ!?まだ死にたくない!俺のアホ毛センサーが警戒度MAXなんだよ!?」

 

結衣「アホ毛センサーってなんだし!?」

 

いや、このセンサーは馬鹿にできないぞ。今までこいつのおかげで危機を回避できてきたんだからな。俺はこのアホ毛に100%信頼を寄せている。

 

雪乃「はぁ、わかったわ。食べるわよ。そのかわりあなたも食べなさい。いいわね?」

 

こうして、俺達四人の手に、クッキーという名の暗黒物質が乗せられた。え?逆だって?残念当ってます。

 

八幡「だいたい、スーパーの食材でどうしたらこんなのになるんだ・・・」

 

風音「食べられないものは使ってないから、問題ないと思うんだけど・・・・」

 

俺達は覚悟を決めて、それを口に入れた。

 

その瞬間、目の前で惨劇が起きた・・・。

 

雪ノ下は口を押さえ涙目。

 

由比ヶ浜も雪ノ下同様涙目。あんたが作ったんだぞ!?

 

風音は俺の腕を掴んでこらえている。大丈夫か風音!?

 

対する俺も口を押さえこらえている。やべぇ・・・あまりのヤバさにアホ毛センサーがオーバーヒートしてる。

 

俺は冷蔵庫に向かいさっき買った飲み物を急いでみんなに渡した。

 

無理矢理胃に流し込む・・。腹壊さねぇかなぁ・・・。

 

八幡「はぁ・・・雪ノ下、風音、お前ら付きっきりでやってくれ。これは指摘するというレベルをはるかに超えてる」

 

雪乃「言われなくてもそうするわ」

 

風音「うん、もうあれは勘弁だよ・・・」

 

こうして、雪ノ下&風音の徹底的な教育が始まった。

 

 

――――――――一時間後

 

 

雪ノ下と風音の力により、なんとか食べられるところまで進歩した。

 

雪乃「・・・あと少しね」

 

結衣「何がいけないんだろう・・・」

 

風音「う~ん・・・」

 

八幡「なぁ、どうしてそこまでうまいクッキーにこだわるんだ?」

 

結衣「はぁ?」

 

由比ヶ浜は「こいつ何言ってんの?」みたいな顔でこっちを見た。あまりに馬鹿にしくさった表情だったのでイラッときた。

 

八幡「せっかくの手作りクッキーだ。そこをアピールしなきゃ意味がないだろ。店と同じようなものを出されたってあんまり嬉しくない。むしろちょっと悪い方がいい」

 

そう言うと雪ノ下は納得のいかない顔で聞き返す。

 

雪乃「悪い方がいいの?」

 

八幡「ああ、そうだ。要は気持ちの問題だ。一生懸命作りましたっていう想いをぶつければ『俺のために頑張ってくれたんだ』と思うんじゃねーか?」

 

風音「あ~、それは一理あるね。おいしすぎると逆に特別感がなくなるかもしれないし」

 

結衣「そんな単純なもんなの?」

 

八幡「そうだな。男子ってのは女子が思っている以上に単純だぞ。ましてや手作りクッキーだ。男心も揺れるだろう」

 

結衣「ヒッキーも揺れるの?」

 

八幡「ん、ああ。(風音からもらった時は)揺れたね。柄にもなく心の中で舞い上がったよ」

 

結衣「ふーん・・・そっか。雪ノ下さん、新島さん、ヒッキー、今日はありがとう。あとは自分の力で頑張ってみるよ」

 

八幡&風音&雪乃「一人で大丈夫(なの)(か)?」

 

結衣「だ、大丈夫だよ!?お母さんに見てもらうし」

 

それを聞いて俺達は安心した。よかった~・・・。

 

結衣「みんな、今日はほんとにありがとう。それじゃあバイバイ」

 

由比ヶ浜は手を振って帰っていった。

 

雪乃「あれでよかったのかしら?」

 

八幡「生徒に自立を促すのが活動理念なんだろ?」

 

風音「そうそう、だから依頼は達成でいいんじゃない?」

 

雪乃「・・・それもそうね」

 

そのあと、俺達は家庭科室を片付け、下校した。あのアマぁ、片付けぐらい手伝ってから帰れや・・。

 

 

 

 

《帰り道》

 

 

風音「私があの時あげたクッキー、舞い上げるほど嬉しかったんだ~、エへへ」

 

八幡「当たり前だろ、好きな人からもらった手作りだ。喜ばねぇわけないだろ」

 

風音「そっか。・・・じゃあまた今度作ってあげようか?」

 

八幡「ああ、お願いするわ。久々にお前のクッキー食いたくなったし」

 

 

 

 

 

 

《翌日》

奉仕部にて

 

 

今日も俺達は部活動に励んでいた。座ってるだけだけど・・・。

 

すると、不意にドアが開け放たれる。

 

結衣「やっはろー!」

 

気の抜けるような挨拶とともにやってきたのは・・えーっと、確か・・由比ヶ浜結衣だっけ?

 

雪ノ下「・・・何か?」

 

結衣「あれ、あんまり歓迎されてない?・・・ひょっとして雪ノ下さんって私のこと嫌い?」

 

それを聞いた雪ノ下は、ふむと少し考えて、平素な声で言った。

 

雪乃「別に嫌いじゃないわ。・・・少し苦手なだけよ」

 

結衣「それ女子言葉では嫌いと同義語だからねっ!?」

 

由比ヶ浜はあたふたとしていた。女子言葉って何ぞや?もしかして新しい言語?今度風音に教えてもらおうかな。

 

雪乃「それで、何か用かしら?」

 

結衣「あ、そういえば昨日のお礼にと思ってクッキー焼いてきたの。はい、ゆきのん。あとかざねんとヒッキーにも」

 

雪乃「あの、私今食欲が・・・それとゆきのんって何?気持ち悪いからやめてくれないかしら」

 

風音「私も今は・・・へっ?かざねんって?」

 

八幡「俺は腹減ってねぇから・・・あとヒッキーはやめろ」

 

結衣「ちょっさすがに酷すぎだし!?」

 

俺らの反応にさすがの由比ヶ浜もむかついたのか文句を言ってきた。・・・いや、昨日のあれを見せつけられたら誰だってこの反応するよ?あの餓死寸前の人でも食べるのを躊躇うほどのダークマターを錬成した奴に対してなら。

 

結衣「大丈夫だよ!?ちゃんとお母さんと一緒に作ったし・・・。」

 

それを聞いて安心したわ。

 

雪乃「それじゃあ、ありがたくいただくわ」

 

風音「結衣ちゃんありがと~」

 

八幡「サンキューな」

 

結衣「むーっ!?絶対見返してやるんだからー!?・・・それじゃバイバイ」

 

そういって、奉仕部を去っていった。

 

なんというか・・台風みたいなやつだったな・・。

 

 

ちなみにクッキーの味は美味くも不味くもなかった。つまり、普通。

 

 




新島風音の超簡単なプロフィール設定

身長・・165センチ

髪型・・肩につく長さで黒っぽい紺色をしている

好きなもの・・比企谷八幡、ぬいぐるみ

穏やかでおっとりとした性格。笑顔がとても癒される。八幡が悪く言われると、人が変わったようにキレる。眼鏡はかけていない。とても清楚。

その他の情報は話が進むにつれて、いろいろ判明します。

また次回。


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3話:俺と彼女の小説クリティシズム

はい、pixivにも投稿しようかな~?とか色々悩んでるアイゼロです。

3話突入。



《放課後》

 

今日も何事もなく放課後を迎え・・・、いや何事はあった。昼休みに少しいざこざがあった・・・。

 

その説明をしよう。

 

 

俺のクラスには、いつも教室の後ろで騒いでいる集団がいる。男子4人と女子3人というずいぶん華やかなグループだ。その中に由比ヶ浜も属している。

 

その集団が昼休みに揉めていたのだ。

 

どうやら由比ヶ浜は雪ノ下と昼食をとる約束をしていたらしく、その場を離れようと試みたが、空気に流されなかなか抜け出せていなかった。

 

今度こそ抜け出そうとしてその場を離れたら、おそらく女子のリーダーであろう金髪の人、仮に金髪ドリルと呼ぼう。そいつに『最近、付き合い悪くない?』と言われ、阻止された。

 

その質問に由比ヶ浜は困惑気味の顔で曖昧に返事をした。それにシビレを切らしたのか金髪ドリルは質問攻めを始めた。

 

由比ヶ浜は言い返せず『ごめん』の一点張り。クラスの雰囲気は最悪。飯もまずくなる。おい、そこの男子はなぜ止めないんだ?友達なんじゃねぇのかよ、なに床に視線を落としてんだ。

 

すると時間になっても来ない由比ヶ浜の様子を調べに来たのか雪ノ下が現れた。突然の来訪者に金髪ドリルは文句を言うが、見事に論破された。少し清々しかったな・・・。

 

そのあと、由比ヶ浜は雪ノ下に何か言われたのか、ちゃんとあいつらと向き合って話をしていた。表情から見るにどうやら仲直りできたようだ。どうでもいいが・・・。

 

説明終了

 

 

とまぁ、そんなことがあったんだ。そう考えてるうちに部室が見えてきた。

 

ん、なんだ?三人とも扉の前で立ち尽くしている。何かあんのか?

 

俺は早歩きで近づき、風音に聞いた。

 

八幡「どうした?風音」

 

風音「え、ああ八くん。実は部室に不審人物が・・・」

 

風音が手を握って誘導してきた。部室を覗くと確かに誰かいる。はぁ、こんな何もないところに不審者なんて来るのか?

 

雪乃「比企谷君、ちょっと様子を見てきてちょうだい」

 

ま、風音が不安がっている以上無碍にはできない。最悪ほんとに不審者だった場合は、『アレ』を使うか。アホ毛センサーは引っかかってないから大丈夫だと思うんだけど。

 

少し警戒しながら部室に入った。視界に広がったのは、床にちりばめられた大量の紙、そしてそこに佇む一人の男がいた。その男は、もうすぐ初夏だというのに汗をかきながらコートを羽織って指ぬきグローブはめてるし。

 

?「クククッ、まさかこんなとこで出会うとはな。・・・・待ちわびたぞ。比企谷八幡」

 

八幡「・・・・・・・・・・」

 

どう反応したらいいんだよ・・・。

 

風音「知り合い?八くんのこと知ってるような口ぶりだけど」

 

俺の後ろに隠れるように問いてきた。・・・そうだな、とりあえず。

 

八幡「いや、こんな奴知らん。本当に不審者だ。通報しとくか」

 

そういって俺は携帯を取り出すと、男はあわてて弁解をする。

 

?「まま、待て!?我だ、この相棒の顔を忘れるとは、見下げ果てたぞ、八幡」

 

結衣「相棒って言ってるけど・・・」

 

由比ヶ浜は俺を冷ややかな視線で見る。やめて、俺をあんな奴と同類扱いしないで・・・。

 

?「そうだ相棒。貴様も覚えているだろう、あの地獄のような時間をともに駆け抜けた日々を・・・」

 

八幡「体育でペア組まされただけじゃねぇか」

 

こいつとの会話はほんとに疲れる、さっさと本題に入ろう。

 

八幡「何の用だ、材木座」

 

材木座「我が魂に刻まれし名を口にしたか。いかにも我が剣豪将軍・材木座義輝だ」

 

バサッとコートを力強く靡かせて、ぽっちゃりとした顔にきりりっとやたら男前な表情を浮かべる。

 

とりあえず、説明するか・・・。

 

八幡「こいつは、材木座義輝。・・・体育で一緒にペア組んでるやつだ」

 

そう説明すると雪ノ下は怪訝な顔で俺を見た。

 

雪乃「驚いたわ、あなたが人の顔と名前を覚えているなんて・・・」

 

八幡「さすがに体育でペア組んでたら嫌でも覚えちゃうだろ?」

 

風音「すごいね八くん。この人高校2年生になった今でも中二病こじらせてるよ」

 

風音の正直な発言に、材木座は胸を押さえ仰け反る。こいつメンタル弱いなぁ。

 

雪乃「その、中二病というのはなにかしら?」

 

結衣「病気なの?」

 

聞き耳立てていた由比ヶ浜も気になったのか質問してきた。

 

八幡「いや、マジで病気なわけじゃない。スラングみたいなもんだ

 

・・・中二病というのはアニメや漫画のキャラ、もしくは自分で作った設定に基づいて行動する奴のことを言う。例えば、主人公が持つ不思議な力に憧れを抱き、自分にもそうしたものがあるかのように振る舞う。そういう感じだ」

 

由比ヶ浜はおそらくわかっていないだろう、う~んと唸っている。逆に雪ノ下は理解したのか顎に手を当て頷いた。

 

雪乃「ふぅん、つまりお芝居をしてるのね」

 

八幡「そういう解釈でいい。あいつは、室町幕府の十三代将軍・足利義輝を下敷きにしているみたいだ。名前が一緒だったからベースにしやすかったんだろう」

 

風音「でも彼、八くんを仲間としてみているようだけど」

 

八幡「八幡っつー名前から八幡大菩薩を引っ張ってるんじゃないか?清和源氏が武神として厚く信奉してたんだ。鶴岡八幡宮って知ってるだろ?」

 

風音にそう説明すると、雪ノ下は大きな瞳を丸くしてこちらを見ていた。な、なんだ・・・。

 

雪乃「驚いた。詳しいのね」

 

八幡「まぁ、昔風音と歴史に関するゲームをしてたからな。その時に覚えたんだよ」

 

風音「あ~、あれ懐かしいね。まだ家にあるよ」

 

物持ちいいな。

 

雪乃「それで、依頼というのはその病気を治すことでいいのかしら?」

 

義輝「・・・。八幡よ。余は汝との契約の下、朕の願いを叶えんがためこの場に馳せ参じた。それは実に崇高なる気高き欲望にしてただ一つの希望だ」

 

雪ノ下から顔を背けて、材木座は俺の方を見た。一人称も二人称もブレブレだ。どんだけ混乱してんだよ。

 

雪乃「話しているのは私なのだけれど。人が話しているときはその人の方を向きなさい」

 

冷たい声音でそう言って雪ノ下が材木座の襟首をつかんで無理矢理正面を向けさせた。

 

義輝「・・・モ、モハハハ、これはしたり」

 

雪乃「そのしゃべり方やめて」

 

その後も、材木座は雪ノ下の質問攻めにあった。この時期にコートがどうとか、指ぬきグローブがどうとか。そのたびにしゃべり方を言われ、材木座は、声が小さくなっていった。

 

雪乃「それで、依頼内容はその病気を治すことでいいのかしら?」

 

義輝「あ、いや別に病気じゃなくて」

 

材木座は雪ノ下から目をそらしてすごい小声で言った。

 

完全に素だ。

 

見てらんねぇ・・、可哀想すぎる。さすがに見過ごすわけにはいかねぇから助け舟をだそう。

 

八幡「んで、ほんとはなんの依頼なんだ?」

 

すると材木座は、目を輝かせ立ち直った。こいつ俺のこと好きすぎるだろ。気持ち悪いからやめてほしい。

 

義輝「依頼というのはこれだっ!?とくと見よ」

 

そう言って材木座は床に散らばった紙を集め俺達の前に差し出した。

 

結衣「これは?」

 

雪乃「原稿用紙ね。何か書かれているわ」

 

風音「これって小説じゃない?」

 

八幡「ああ、そうだな。しかも見るからにラノベの類だ」

 

そう、材木座が持っているのは自分で書いたであろう小説だった。

 

義輝「ご賢察痛み入る。如何にもそれはライトノベルの原稿だ。とある新人賞に応募しようと思っているのだが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」

 

雪乃「何か今とても悲しいことをさらりと言われた気がするわ・・・」

 

中二病を患ったものはラノベ作家を目指すようになるのはそこまで不思議じゃない。あこがれ続けたものを形にしたいという思いは実に正当な感情だ。加えて、妄想癖のある自分なら書けるっ!と考えたっておかしなことはない。さらに言うなら好きなことで食っていけるならそれはやはり幸せなのだろう。

 

だから材木座がラノベ作家を目指していても不思議じゃない。

 

でもなんで俺達なんだ?

 

八幡「投稿サイトとか投稿スレにでも載せたらいいじゃねぇか」

 

義輝「それは無理だ。彼奴らは容赦がないからな。酷評されたら我死ぬぞ」

 

・・・心弱ぇ。

 

でも確かに顔の見えないネット越しの相手なら斟酌せず言いたい放題だしな。・・・でもなぁ

 

俺はため息交じりに言った。

 

八幡「投稿サイトより雪ノ下の方が容赦ないぞ?」

 

 

 

 

 

≪八幡の部屋≫

 

22:00

 

八幡「はぁ、結構ページがあるな。今夜は徹夜か」

 

風音「うん、そうだね。でも依頼だしちゃんと読まなきゃ・・・」

 

俺と風音は、ため息をつきながら材木座の原稿を読み始めた。

 

ちなみに何故この時間に風音と一緒に俺の部屋で読んでいるかというと、風音はあまりラノベに寛容じゃないのだ。俺の持ってるのは読んだことあるが、まだそこまで理解しているわけじゃない。そのため、一緒に読もうと風音が提案したのだ。ちなみにそのまま泊まってくらしい。

 

小町には「お熱いね~、ヒューヒュー」とからかわれたが無視した。

 

・・・・・・・・・・・

 

しばらく読んで、俺は風音を横目で見た。今のところ問題ないようだな。

 

・・・しかし、いくら風音でも年頃の女子だからちょっと緊張するな・・・。

 

そう思いながらも俺は再び原稿に目を戻した。

 

12:30

 

また、しばらく読みふけっていると、風音が小さなあくびを漏らす。

 

八幡「さすがにもう眠くなってきたか・・・」

 

風音「・・・うん。・・ふぁぁ」

 

読者が眠くなるということはおそらくそこまで面白くないんだろう。俺も若干集中力が落ちてきた。

 

けど、依頼である上に人が頑張って書いた物語だ。俺は姿勢をたてなおし、風音にはもうちょっと頑張ってもらおうと思い声をかける。

 

八幡「今夜は寝かさないぞ」

 

風音「!?///え、ええ、ははは、八くん!?////それってど、どういう!//」

 

あ、やべ、さすがに今の言い方じゃ紛らわしすぎたか!?

 

八幡「あ、いや、今のはそういう意味じゃ・・・」

 

風音「い、いきなりそんなこと言われても///まだこ、心の準備が!?///」

 

八幡「お~い、風音さ~ん」

 

風音「で、でも八くんも男の子だし///そ、そういうことに興味あるのは仕方ないと思うけど!?//」

 

八幡「まぁ興味なくはないが・・って違う違う」

 

風音「そ、それにお互い愛し合ってるからあまり問題ないよね!?////わ、私八くん大好きだし!?」

 

いや、年齢的に少し問題があるから!?

 

風音「バ、バッチコーイ!///」

 

えええええええええええええ!?

 

暴走した風音はそのまま俺のベッドの上で大の字になり顔を赤くしながら仰向けになった。

 

・・ど、どうしよう、とりあえず落ち着かせるか・・。襲いたい気持ちも少しあるが抑えよう。

 

俺は風音の横に立ち肩に手を置いた。

 

八幡「目、覚めたか?」

 

風音「え?・・・あ、うん/」

 

ガバッっと体を起こした。眠気は去ったみたいだな。まだ若干顔赤いよ。

 

八幡「よしっ!あと少しだ、頑張ろうぜ」

 

風音「うん!」

 

ラストスパートをかけて、残り数枚となった原稿を読む。・・・途中ちらちらと風音は見ていたが気にしないことにした。

 

AM2:00

 

八幡「ふぅ・・終わった・・」

 

風音「こっちも読み終わったよ・・・ふぁぁ」

 

さすがに二人とも限界だ。もう寝よう。

 

八幡「じゃ、おやすみ」

 

風音「おやすみ~」

 

電気を消し、俺達はベッドに入った。ついでに言っとくと一つのベッドに二人使っている。やはり少しドキドキするが、眠気の方が勝っているため、さっさと寝た。

 

 

 

 

《朝》

 

 

パシャッ、パシャッ

 

俺は謎のシャッター音で目が覚めた。ん、なんかとても柔らかいものを抱いている・・何だろう・・・。

 

だんだんと意識が戻ってくると、目の前には風音の顔があった。近い近い!鼻と鼻の先が当たるくらい近い!?

 

抱きしめていた柔らかいものの正体は風音だった。

 

パシャッ

 

そしてシャッター音の方へ目を向けると、我が妹、小町が写真を撮っていた。おおい!何やってんの!?

 

八幡「こ、小町ちゃん・・・何をしているんだい?」

 

小町「いやぁ~、御二方、朝から熱いもの見せつけてくれますね~」パシャッ

 

風音「ん、あ、八くん・・おはよ~」

 

八幡「お、おはよう・・」

 

対する風音も俺を抱きしめていた。それも結構強く。

 

風音現状確認中・・。そして今の状況がわかった途端

 

風音「!?///あ、あれ、八くん///ここ、これは・・//」

 

と顔を真っ赤にして慌てていた。ちょっと面白いからしばらくこうしてようと思ったが、風音が離れてしまったためできなかった。少々名残惜しい・・・。

 

風音はベッドに座り、俯いてしまった。

 

小町「この写真はあとで二人にあげるねー。それじゃあ」

 

そう言って小町は下の方へ降りて行った。

 

風音はまだうつむいたままである。うーん・・こういう時はどうすればいいんだ?・・・そうだな、とりあえず。

 

八幡「風音」

 

風音「!?・・な、なに八くん」ビクッ

 

八幡「柔らかくて抱き心地最高だったぞ」

 

正直な感想を言った。そしたら風音は、ぽかぽかと叩いてきた。あまりの可愛さに俺は頭をなでた。

 

―――――数分後

 

 

俺達は着替えて、小町の待つリビングへと向かった。さすがに着替えは別々の部屋だからね。

 

小町「あ、お兄ちゃん、風姉おはよう。朝ごはんできてるから食べよっか」

 

相変わらず出来のいい可愛い妹だ。ありがたくいただこう。

 

八幡&風音&小町「「「いただきます」」」

 

風音「小町ちゃんのごはん、やっぱり美味しいな~」

 

小町「にしし、ありがとう風姉」

 

こうして他愛もない話をしながら、朝食を口に運んだ。途中小町が『夜はお楽しみでしたね』とからかってきたが無視した。

 

登校時間になり、三人は家を出た。しばらく歩き、小町の通う中学校に着いた。

 

小町「それじゃあお兄ちゃん、風姉、行ってくるであります」

 

どこの軍曹だお前は。

 

八幡「おう、行ってらっしゃい」

 

風音「行ってらっしゃ~い」

 

俺達は手を振って小町を見送った。

 

八幡「俺らも行くか」

 

風音「そうだね」

 

 

 

 

《放課後》

 

今日は時間が短く感じた。それもそのはず・・。

 

起きたら帰りのSHRが終わっていたのだから。

 

どうやら、朝席についてそのまま寝てしまったようだ。幸いにも現国の授業がなかったため平塚先生から呼び出しを喰らうことはなかった。

 

あ、昼飯も食ってねぇや。・・・・部室で食うか。

 

俺は教室から出て部室へと向かう。

 

結衣「ちょー!待つ待つっ!」

 

特別棟に入ったあたりで、俺の背中に声がかかった。振り返れば由比ヶ浜が薄っぺらい鞄を肩にかけながら追いかけてきた。

 

・・・こいつやけに元気だな。

 

結衣「ヒッキー、元気なくない?どしたー」

 

八幡「いやいや、あんなの読んでたらそりゃ元気なくなるだろ・・・。すげぇ眠い。っつーか、むしろなんであれ読んでお前が元気なのか知りたいわ」

 

結衣「え?・・・・・あ。だ、だよねー。や、あたしもマジ眠いから」

 

八幡「お前絶対読んでないだろ」

 

由比ヶ浜は、口笛を吹いて窓に目をやった。後で絶対読ませてやる。

 

 

 

≪部室≫

 

ガラララ

 

八幡「うーっす」

 

結衣「やっはろー」

 

部室に入ると雪ノ下が穏やかな顔で寝息を立てているのが目に入った。

 

風音は机に突っ伏している。

 

八幡「お疲れさん」

 

俺が声をかけると、雪ノ下が目を覚ましこちらを向いた。

 

雪乃「・・不思議ね。あなたな顔を見ると一発で目が覚めるわ」

 

うわぁ・・・。俺も今ので目が覚めたわ。どうやら俺の顔は、人を目覚めさせる力があるようだ。また新しい能力を見つけてしまった・・・。できれば見つけたくなかった。

 

一方風音はピクリとも動かない。熟睡状態だ。まぁ、こいつ基本早寝だからな。徹夜に慣れていないんだろう・・。

 

そっとしておこうと思い、俺は静かに椅子に座る。由比ヶ浜も、雪ノ下の隣に座った。

 

結衣「かざねんどうする?」

 

八幡「いや、しばらくこうさせてやれ。材木座が来たら起こそう」

 

そう言って俺は鞄からさっき買ったMAXコーヒーを取り出して飲む。

 

――――――数分後

 

 

まだ材木座が来ない・・・。あいつ何やってんだ?放課後しゃべる相手とかいないくせに・・・。

 

俺がそんなこと考えていたら風音が起きだした。

 

風音「んぅ・・ふぁぁ・・・あ、八くん」

 

小さなあくびを漏らし、トロンとした目でこっちを見た。やべぇ、あまりの癒しオーラに浄化されそう。

 

八幡「おう、おはよう」

 

風音「お~、八くんおはよ~」ダキッ

 

挨拶をし返したと同時に俺に抱き着いてきた。どうやらまだ寝ぼけているようだ。

 

八幡「ほら、これ飲んで目覚ませ」ナデナデ

 

俺は、片方の手で風音の頭をなで、もう片方の手でさっき飲んでたマッカンを差し出した。

 

今更間接キスで動揺するほど童貞こじらせていない。童貞だけど・・。

 

風音「・・・・ふぅ。ありがと~八くん」

 

ほんわかした口調で俺から離れマッカンを返した。まだ中身が残っていたため一気に飲み干した。うん、さっきよりも甘く感じた。理由は察しろ・・。

 

その様子を一部始終みていた由比ヶ浜は、あわわわわわと口と体を震わせている。え、お前パーキンソン病なの?お気の毒に・・・。

 

結衣「ヒ、ヒッキーとかざねん何やってんの!?」

 

八幡「?何って何がだ?」

 

こいつ何言ってんだ。マジわけわかめ。

 

風音「え?・・・私たち何かやった?」

 

どうやら風音もわかっていなかったらしく、俺達は由比ヶ浜に問いかける。

 

結衣「えぇっ!だ、だから、なんでかざねんがヒッキーに抱き着いたりヒッキーが頭撫でたり、か、間接キスしてるのってことだよ!?」

 

由比ヶ浜は、顔を赤くし大きい声で捲し立てている。その中には少し怒りが混じっているように聞こえた。

 

あ、そうか。今は部活動中だった。きちんと弁えろって意味か。

 

八幡「悪い悪い。場所を考えろってことだよな。これからは気を付けるわ」

 

結衣「ちっがーーう!?そうじゃなくて何でそれをしたか聞いてるの!・・・そういうのって恋人同士がやることでしょ!?」

 

八幡&風音「「・・・いや、だって恋人同士だし」」

 

結衣「えっ?」

 

・・・・・・・・・

 

数秒の沈黙

 

結衣「えええええええええ!?」

 

一拍おいて由比ヶ浜が甲高い叫んだ。おいうるせぇよ、思わず耳防いじまったじゃねぇか。

 

結衣「え!二人とも付き合ってたの?」

 

風音「うん、あれ?言ってなかったっけ?」

 

結衣「聞いてないよ!?何で黙ってたの?」

 

八幡「聞かれなかったからな」

 

結衣「そ、そうなんだ・・。ちなみにいつから?」

 

そんなこと聞いてどうすんだ?と思っていたら風音が答えた。

 

風音「う~ん・・もうかれこれ5,6年だね。それがどうかしたの?」

 

結衣「へ、へぇ・・そうなんだ・・・あはは」

 

由比ヶ浜は引きつった笑顔で納得した。

 

八幡「そういや由比ヶ浜、もうすぐ材木座来ると思うから今のうちに原稿読んどけ。読んでないんだろう?」

 

俺の言葉に由比ヶ浜はハァと溜息をついて鞄から例の原稿を散りだす。折り目の一つもついてないきれいな保存状態だった。由比ヶ浜はそれをぺらぺらと異様に速いスピードでめくる。

 

ほんっとつまんなそうに読むなこいつ。

 

―――――――数分後

 

 

部室の戸が荒々しくたたかれる。

 

義輝「たのもう」

 

材木座が古風な呼ばわりとともに入ってきた。

 

義輝「では、感想を聞かせてもらおうか」

 

材木座は椅子にドカッと座り、その顔は自信に満ち溢れていた。

 

対して正面に座る雪ノ下は珍しく申し訳なさそうな顔をしていた。

 

雪乃「ごめんなさい。私にはこういうのよくわからないのだけど」

 

義輝「構わぬ。凡俗の意見も聞きたいところだったのでな。好きに言ってくれたまえ」

 

そう、と短く返事をすると、雪ノ下は小さく息を吸って意を決した。

 

雪乃「つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」

 

義輝「げふぅっ!?」

 

一刀のもとに切り捨てやがった。

 

その後も雪ノ下のダメ出しが続き、由比ヶ浜の番になった。材木座はすでに瀕死だ・・。

 

結衣「え、えーと・・・。む、難しい言葉をたくさん知ってるね」

 

義輝「ひでぶっ!」

 

八幡「とどめさしてんじゃねぇよ」

 

作家志望にとってその言葉は禁句である。褒めるところがそれしかないってことだからな・・・。

 

八幡「んじゃ次、風音」

 

風音「う~ん・・私、本の感想とか苦手なんだけど・・・面白くなかった。先の展開が読め過ぎて、わくわく感がない」

 

義輝「ひぎゃぁ!」

 

よ、容赦ねぇな風音・・。

 

風音「じゃあ最後、八くん」

 

義輝「ぐ、ぐぬぅ。は、八幡。お前なら理解できるな?我の描いた世界、ライトノベルの地平がお前にならわかるな?愚物どもでは誰一人理解することができぬ深遠なる物語が」

 

材木座の目が『お前を信じている』と告げていた。

 

ここで答えなきゃ男が廃る。その思いで俺は優しく言った。

 

八幡「ふぅ。で、あれってなんのパクリ?」

 

義輝「ぶふっ!?ぶ、ぶひ・・ぶひひ」

 

材木座はごろごろと床をのたうち回り、壁に激突すると動きを止めて、そのままの姿勢でビクともしない。うつろな目で天井を見上げ、頬に一筋の涙が伝う。南無三!

 

雪乃「・・・あなた容赦ないわね。私より酷薄じゃない」

 

雪ノ下がすごい引いている。

 

八幡「逆に気を遣われる方が酷評よりダメージが大きいんだ。これでいい。それぐらいお前もわかっているだろ?」

 

俺の言葉に雪ノ下はそうね、と短く同意する。

 

しばらくして材木座が立ち上がり、埃をぱんぱんとはたいてまっすぐ俺を見る。

 

義輝「・・・また、読んでくれるか?」

 

俺は驚いた。あんだけ言われてなお書き続ける意思があるのか。

 

義輝「また、読んでくれるか?」

 

今度は雪ノ下達に向かって力強く言った。

 

八幡「お前・・・」

 

結衣「ドMなの?」

 

ちげぇよ。そうじゃねぇだろ。

 

八幡「お前、書き続けるのか?」

 

義輝「無論だ。確かに酷評はされた。もう死んじゃおっかなーと思った。むしろ、我以外死ねとも思った」

 

そりゃそうだ。あんだけ言われりゃ、かなり心にクるだろう。

 

義輝「だがそれでも嬉しかったのだ。自分が好きで書いたものを誰かに読んでもらえて、感想を言ってもらえるというのはいいものだな。この想いに何と名前を付ければいいのか判然とせぬのだが。

・・・・読んでもらえるとやっぱり嬉しいよ」

 

そう言って材木座は笑った。

 

それは、剣豪将軍の笑顔ではなく、材木座義輝の笑顔。

 

この言葉と表情に、俺は感銘を受けた。他人に興味を示さなかった俺が・・。

 

―――なるほどな。

 

こいつは中二病ってだけじゃない。もう立派な作家病に罹っているのだ。

 

書きたいことが、誰かに伝えたいことがあるから書きたい。そして誰かの心を動かせたのならとても嬉しい。だから何度だって書きたくなる。たとえそれが認められなくても、書き続ける。それを作家病というのだろう。

 

だから、俺の答えは決まっていた。

 

八幡「ああ、読むよ。出来たらここに来い。楽しみにしてるぜ」

 

読まないわけがない。だって、これは材木座が中二病を突き詰めた結果たどり着いた境地なのだから。病気扱いされても白眼視されても無視されても笑いものにされても、それでも決して曲げることなく諦めることなく妄想を形にしようと足掻いた証だから。

 

義輝「また新作が書けたら持ってくる」

 

材木座はそう言い残して、堂々とした足取りで部室を去った。

 

・・・面白い奴だ。

 

 

 

 

 

《帰り道》

 

風音「材木座くん、すごい人だったね。あの八くんが興味を持った程だもん」

 

八幡「あ、やっぱ気づいてたか。・・そうだな、あいつには硬くて強い芯が通っている。誰にも曲げられない、そんな芯がな・・・。俺もそこに惹かれちまったのかもしれねぇ」

 

風音「やっぱり八くんはすごいや、他の人にはない観察眼があって」

 

八幡「別に特別ってわけじゃねぇさ。・・ただ人より多くいろんな人を見てきただけだ」

 

風音「・・ふふっ、確かにそうだね」

 

 

 

 

―――――数日後

 

《体育の時間》

 

俺と材木座は相変わらずペアを組んでいる。そこは変わらない。

 

義輝「八幡よ。流行の神絵師は誰だろうな」

 

八幡「気が早ぇーよ。賞取ってから考えろ」

 

義輝「売れたらアニメ化して声優さんと結婚できるかな?」

 

八幡「そういうのいいから。まずは原稿をかけ、な?」

 

俺と材木座は会話をするようになった。

 

 

 

 




八幡と風音は、あまりベットリせず、純愛に書いていこうと思ってます。

pixivは考え中。一応アカウント持ってるし。


また次回。


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4話:俺と彼女の庭球レインフォースメント

はい、どうも、アイゼロです。

4話目突入。

書き溜めてた分が無くなってきた。

男の娘登場。それではご覧ください。


月が替わると体育の種目も変わる。

 

我が学校の体育は三クラス合同で、男子総勢60名を二つの種目に分けて行う。

 

この間まではバレーボールと陸上をやっていた。今月からはサッカーとテニスになる。

 

もちのろん俺と材木座はテニスを選んだ。だがテニス異様に人気だったのでじゃんけんで決めることになった。壮絶なじゃんけんの末、俺は見事にテニスを勝ち取った。可哀想なことに材木座はサッカーとなった。

 

義輝「ふぅ、八幡。我の『魔球』を披露してやれないのが残念でならん。お前がいないと一体我は誰とパス練習をすればいいのだ?」

 

知らねぇよそんなこと・・。

 

恨むんならてめぇの運命を恨むんだな・・。

 

俺は、某緑色の宇宙人の如く言葉を吐き捨てテニスコートへと向かった。

 

そしてテニスの授業が始まる。

 

適当に準備運動をこなした後、体育教師の厚木から一通りのレクチャーを受けた。

 

厚木「うし、じゃあお前ら打ってみろや。二人一組で端と端に散れ」

 

厚木がそう言うと、皆が三々五々めいめいにペアを組んでコートとコートの端と端へと移動した。

 

当然だが孤高の俺はペアを組む人がいないため、1人で壁打ちに専念した。普通何かしら教師にお咎めをもらうと思っているかもしれんが、俺は常時ステルスを発動してるため気づかれない。・・・壁打ちしてるのにね。

 

そういや、テニスなんて中学の時、風音と勝負した以来だな。結果は俺の勝ちだ。自覚なかったんだが、その時の試合がすごかったらしく、終わったらテニス部の勧誘ラッシュが凄まじかった。・・約四日間、俺と風音はともに逃げ隠れしたのを覚えている。

 

思い出に浸りながら、打球を追ってただ打ち返すだけのまるで作業のような時間が続く。

 

周囲では派手な打ち合いできゃっきゃっと騒ぐ男子の歓声が聞こえてきた。

 

「うらぁっ!おおっ!?今のよくね?ヤバくね?」

 

「今のやーばいわー、絶対とれないわー、激アツだわ~」

 

絶叫しながら実に楽しそうにラリーをしていた。

 

うっせーな、もうちょっと声抑えろよ。と思いながら振り返るとそこにはあいつの姿もあった。

 

俺のクラスの上位カースト集団のリーダーらしき人物だ。名前知らないから仮にイケメンとでも呼んでおこう。

 

そのイケメンはペア、というより四人組カルテットを形成している。

 

イケメンの打球を打ち損ねた金髪が「うおーっ!」と叫んだ。誰しもが何事かとそちらを向く。

 

「やっべー今の球、マジやべーって。曲がった?曲がったくね?今の」

 

「いや打球が偶然スライスしただけだよ。悪い、ミスった」

 

片手を挙げてそう謝るイケメンの声を掻き消すように金髪はオーバーリアクションで返す。

 

「スライスとかマジ『魔球』じゃん。マジぱないわ」

 

俺は騒がしい集団から目を離し、再び壁打ちに専念する。

 

「スラーイスッ!!」

 

あの金髪本当にうるさいな。しかも今打ったスライスもどきの打球、コートから大きくそれて俺の方に飛んできたし。・・・あれ?アホ毛センサーが反応してる。

 

ああ、このままじゃ俺の頭に当たるな・・。どう対処しようか・・。

 

「ヒキタニ君!危ない!?」

 

あのイケメンも俺が危険ということを察知したのか俺に向かって叫んでいた。ていうか誰だよヒキタニ君って。おーい、呼んでますよ、ヒキタニ君。

 

さて、どうしようか・・。今から構えをとって打ち返す余裕もないし・・。かと言って避けるのもビビってるみたいで若干気が引ける。けど痛いのは嫌だからな~・・。

 

・・・はぁ、仕方ねぇ。そう思い、俺は濁っている目を更に濁らせ・・

 

 

――――――バコン!!

 

 

後ろを振り返らず、ラケットを後方に振りかぶってボールを打ち返した。どこに行ったかはわからない。ガシャンという金属音が聞こえたってことは、誰にもあたっていないだろう。っつーか金網まで飛んだのか、結構力入ってたんだな・・・。

 

その後も、俺は何事も無かったように壁打ちに専念し続けた。

 

あの時、俺が注目されていたことを俺は知る由もない。

 

 

 

 

《昼休み》

 

 

いつもの俺の昼食スポットで飯を食う。特別棟の一階。保健室横、購買の斜め後ろが俺の定位置だ。位置関係でいえばちょうどテニスコートを眺める形となる。

 

風音に毎日作ってもらっている弁当をもぐもぐと食べる。やっぱり美味い。さすが風音、俺の好みを知り尽くしている。

 

昼食を平らげ飲み物を啜っていると、ひゅぅっと風が吹いた。

 

風向きが変わったのだ。

 

その日の天候によるが、臨海部に位置するこの学校はお昼を境に風の方向が変わる。朝方は海から吹き付ける潮風が、まるでもといた場所へ帰るように陸側から吹く。

 

この風を肌で感じながら一人で過ごす時間は俺は嫌いじゃない。

 

え?恋人いるんだからそいつと食えばいいじゃんだって?フッ・・風音は俺と違ってちゃんとクラスに友達がいる。邪魔するわけにはいかないだろう?

 

誰に向かって言ってるかわからないことをしていたら

 

風音「アレ?八くん?」

 

結衣「ん?あ、ヒッキー」

 

声のした方に振り返るとそこには、風音と由比ヶ浜がいた。

 

結衣「ヒッキー、ここで何してんの?」

 

八幡「みりゃわかるだろ。飯食ってたんだ」

 

結衣「へー、なんで?教室で食べればよくない?」

 

八幡「・・・ここの方が落ち着くからだ、教室は騒がしいし。俺は静かに食いたいんだよ」

 

結衣「ふーん」

 

どうやらどうでもいいらしいな。んじゃ聞くなよ。

 

八幡「あ、そうだ。風音、弁当ご馳走さん。今返しても大丈夫か?」

 

風音「うん、大丈夫だよ~。お粗末様」

 

八幡「いつもありがとな。美味かったぜ」

 

風音「ん~ん、私が八くんにしてあげたいことだからいいよ~。エへへ」

 

風音はそう言っているが、実際すごい助かっている。今度きちんとしたお礼をしよう。

 

八幡「それよかお前ら何しに来たの?」

 

結衣「それそれっ!私ゆきのんとジャン負けして罰ゲーム中なんだ」

 

え?罰ゲーム中ということは現在進行形で?それってつまり・・・・

 

八幡「俺と話すことがですか・・・」

 

何それ酷すぎる・・。あまりのつらさに風音に泣きつく。涙は流してないが・・。

 

風音「ち、違うよ八くん!ジュース買ってくるだけだよ。だから泣かないで」ナデナデ

 

なんだそうだったのか・・。危うく死にそうになったぜ。・・・普段頭撫でるのは俺なんだが、撫でられるのも悪くないな。

 

結衣「あはは・・・ハァ。・・あ、おーい!さいちゃーん」

 

知り合いに会ったのか由比ヶ浜はテニスコートに向かって手を振っている。

 

そのさいちゃんという人物は由比ヶ浜に気づくと、とててっとこちらに向かって走り寄ってくる。

 

結衣「よっす。練習?」

 

?「うん。うちの部、すっごい弱いからお昼も練習しないと。昼休みにテニスコート使っていいって最近OK出たんだ。新島さんと比企谷君と由比ヶ浜さんはここで何しているの?」

 

ほぅ、俺の名前を知っているとは珍しい奴だ。ちょっと興味沸いたぞ・・。

 

結衣「いやー、別になにも」

 

いや、俺ここで飯食ってたし、あんた罰ゲーム中だよね。鳥頭かよ。

 

八幡「ところで由比ヶ浜、こいつ誰だ?」

 

結衣「えぇぇ!おんなじクラスなのに知らないの!?」

 

八幡「この前言ったろ。俺はあんまり人の顔や名前を覚えないって」

 

?「あはは、じゃあ自己紹介ね。同じクラスの戸塚彩加です」

 

戸塚彩加と名乗った男子は、女子と遜色ない顔つきや容姿をしていた。

 

俺じゃなけりゃ、初見で男子と見破るのは不可能というくらいに。ちなみに見破れたのは、どことなく男子特有の雰囲気をしていたからだ。あと、俺の観察眼舐めんな。

 

彩加「ところで比企谷君ってテニス上手だよね?やったことあるの?」

 

八幡「ん?ああ、中学の時、風音と勝負したくらいだな。それ以降やってない」

 

彩加「へぇ!すごいね!・・・ところで比企谷君、授業の時のアレ、一体何?どうやったの!?」

 

ん?授業のアレ?・・・・・あっ、おそらくあれのこと言ってんだろうな。

 

風音「八くんが何かしたの?」

 

彩加「うん!戸部君が打った球が比企谷君に当たりそうだったの。・・でもね、比企谷君は後ろもボールも見ずに打ち返したんだ。球のスピードもかなり速かったし」

 

結衣「何それ!ヒッキー何者!?」

 

由比ヶ浜はかなり大きい声を出して驚いていた。まぁ人間業ではないことは確かだし。

 

彩加「アレ、どうやったの?」

 

ズイッと俺に顔を近づけて、興味津々に聞いてきた。結構近い。

 

・・・まずいな。何と答えよう・・。下手に教えたくないしな~。

 

八幡「ま、まぐれだよ・・。当たるのが嫌だったし、打ち返す構えをする余裕がなかったから、がむしゃらに振ったんだ・・。そしたら偶然当たっただけ」

 

そう言うと戸塚は、そんなうまくいくのかなぁ、と疑心暗鬼だった。

 

そんな授業での俺の武勇伝を聞いていた風音は俺に耳打ちをする。

 

風音「ねぇ八くん。もしかして『アレ』使っちゃったの?」ボソボソ

 

八幡「あ、ああ、ついな。一瞬だけ・・」ボソボソ

 

風音「も~、使いすぎると大変なんだから気を付けてね」ボソボソ

 

八幡「ああ、心配かけて悪かったな。お詫びに何か埋め合わせするから」ボソボソ

 

風音「ふふっ、ありがと~」ボソボソ

 

そんなやり取りをしていたら、昼休み終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

彩加「もどろっか」

 

風音に別れを告げ、俺達は教室へ向かう。あ、その前に一つ言っておかなきゃいけないことがあったな。

 

八幡「お前、ジュースのパシリはいいのか?」

 

結衣「え?・・・・・あぁっ!?」

 

 

 

 

 

数日の時を置いて、今再び体育である。

 

度重なる壁打ちの結果、俺は壁打ちをマスターしつつあった。いまや動かずともひたすら壁とラリーできるほどだ。

 

そして、明日の授業からはしばらく試合に入る。つまり、ラリー練習は今日が最後だ。

 

最後だから目いっぱい打ち込んでやろうと思ったところで肩をちょんちょんと叩かれた。

 

誰だ?俺に話しかけるやつとか皆無に等しいし・・・ハッ!もしや幽霊?俺のステルスがあまりにも強すぎて、周りの幽霊が仲間だと思い込んだのか!?すごい、この能力は幽霊が接触できる領域まで進化を遂げたんだな。

 

とバカげたことを思いながら振りむくと右頬に指が刺さった。

 

彩加「あはっ、引っかかった」

 

そう可愛く笑うのは戸塚彩加である。

 

こいつ、見た目は女子なんだけど、こういういたずら行動も女子に似ている。こういう行動が女子って勘違いされる理由の一つじゃないのか?

 

腕も腰も脚も細く、肌が抜けるように白い。ほんとに、見てくれは男子高校生に見えない。

 

これで、女子扱いを嫌がるんだから、少々理不尽だと思う。

 

八幡「どした?」

 

彩加「うん。今日さ、いつもペア組んでる子がお休みなんだ。だから・・・よかったらぼくと、やらない?」

 

それはいいんだが、頬を染めて上目遣いは男子のやることじゃないからやめた方がいいよ。

 

八幡「おう、いいぞ。俺も一人だからな」

 

すまんな、壁。今日は打ってやれない。今まで世話になったな・・。

 

俺は壁に向かって謝罪していると、戸塚は小さい声で「緊張したー」と息を吐いた。そんなこと言われるとこっちも緊張するから・・。

 

そして、俺と戸塚のラリー練習が始まった。

 

戸塚はテニス部だけあって相当上手い。

 

俺が壁を相手に会得した正確無比なサーブ上手に受けて、俺の正面にリターンしてくる。

 

それを何度も何度もやっていると、単調にでも感じたのか戸塚が話しかけてきた。

 

彩加「やっぱり比企谷君、上手だねー」

 

距離があるため、戸塚の声は間延びして聞こえる。

 

八幡「ずっと壁打ってたからなー。テニスは極めたー」

 

彩加「それはスカッシュだよー。テニスじゃないよー」

 

伸び伸びの声をお互いだしながら、俺と戸塚のラリーは続く。ほかの連中が打ちミス受けミスを出す中、俺達だけが長いこと続けていた。なにこの優越感、ちょっと気持ちいい。

 

彩加「少し、休憩しよっか」

 

八幡「ん、そうだな」

 

2人して座る。戸塚が横に座ってきた。いや、もう何も言うまい・・。

 

彩加「あのね、ちょっと比企谷君に相談があるんだけど・・。」

 

戸塚が真剣な様子で口を開いた。

 

八幡「ん、どうしたんだ?」

 

彩加「うん。うちのテニス部のことなんだけど、すっごく弱いでしょ?それに人数も少ないんだ。今度の大会で3年生が抜けたら、もっと弱くなると思う。1年生は高校から始めた人が多くてまだあまり慣れてないし・・・。それにぼくらが弱いせいでモチベーションが上がらないみたいなんだ。人が少ないと自然とレギュラーだし」

 

八幡「なるほどな」

 

弱小部活にはありそうなことだと思う。

 

弱い部活には人は集まらない。そして、人が少ない部活にはレギュラー争いというものが発生しない。

 

休もうがサボろうが大会には出られて、試合をすればそれなりに部活をしている気分にはなる。勝てなくてもそれで満足という奴はけっして少なくないだろう。

 

そんな連中が強くなれるはずがない。

 

彩加「それで・・・比企谷君さえよければテニス部に入ってくれないかな?」

 

八幡「・・・どうしてだ?」

 

俺がそう聞くと戸塚は体育座りの姿勢で体を縮こませながら、俺をちらちらと見る。

 

彩加「比企谷君、テニス上手だし・・。もっと上手になると思う。それにみんなの刺激にもなると思うんだ。あと・・・比企谷君と一緒だったら僕も頑張れるし・・」

 

なるほどな。まぁ自分が必要とされているのは嬉しいんだが、俺の答えは決まっている。

 

八幡「・・悪いがそれは無理だ。それに、俺はもう奉仕部に入っているからな」

 

俺は自分の性格をよく知っている。コミュ障ってわけじゃないが、集団行動を好まない。第一、毎日放課後スポーツに励むのは到底無理だ。

 

俺がそんな気持ちでテニス部に入ったって戸塚も嬉しくは思わないだろう。

 

彩加「そっか・・そうだよね。・・・ん?奉仕部?」

 

あれれ~?ご存じない?おかしいですね~、生徒の依頼を手助けする部活なのにこの知名度の低さ。八幡ビックリ!

 

八幡「知らないのか?生徒の願いを叶えるための手助けをする部活なんだ。俺はそこに入っている」

 

彩加「へぇ、そんな部活があったんだ!」

 

八幡「ああ、だから今相談してくれた事はこっちで考えとく。いいか?」

 

そう言うと戸塚はアイドル顔負けの笑顔を向けて

 

彩加「うん!ありがとう。少し気が楽になったよ」

 

 

 

 

≪部室≫

 

 

 

八幡「・・・・・・」

 

風音「どうしたの八くん?難しい顔して」

 

八幡「・・いや、ちょっと相談事をされてさ」

 

雪乃「あなたに相談事?・・・すごい人ね」

 

八幡「おい、それは俺と相談者どっちを指してんだ?」

 

雪乃「両方よ」

 

さらっと言いやがった。

 

八幡「お前らも知っていると思うが、俺と同じクラスの戸塚彩加って奴から相談を受けてな。そのことについて考えてる」

 

雪乃「ああ、あの可愛らしい男子ね」

 

八幡「おい、それあんま本人の前で言うなよ。気にしてるらしいから」

 

風音「それで、相談内容は?」

 

八幡「ああ、それなんだが・・」

 

俺が言いかけた瞬間ドアが勢いよく開いた。

 

結衣「やっはろー」

 

由比ヶ浜は相も変わらずアホアホしく抜けた微笑みを湛えて、悩みなどなさそうな顔をしていた。

 

だがその背後に、力なく深刻そうな顔をして入ってきた人がいる。

 

戸塚彩加だった。

 

彩加「あ・・・・比企谷君っ!」

 

俺と目が合った瞬間、暗くなっていた顔がまぶしい笑顔になった。え?俺と会えてそんな嬉しい?光栄ですね~。

 

八幡「おう、どうした戸塚?」

 

結衣「今日は依頼人を連れてきたの、ふふん」

 

お前には聞いていない。

 

結衣「やー、ほらなんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だから、ちょっとは働こうと思ったわけ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」

 

雪乃「由比ヶ浜さん」

 

結衣「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前のことをしただけだから」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど」

 

結衣「違うんだ!?」

 

風音「違うんだ!いつもここにいるからてっきり自然に入部したパターンだと思ったよ」

 

雪乃「ええ、入部届ももらってないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」

 

雪ノ下は無駄にルールに厳格だった。ついで言っとくと風音はちゃーんと入部届を書いたぞ。

 

結衣「書くよ!入部届ぐらい何枚でも書くよっ!仲間に入れてよっ!」

 

ほとんど涙目になりながら由比ヶ浜はルーズリーフに丸っこい字で「にゅうぶとどけ」と書いた。・・それくらい漢字で書け。

 

雪乃「それで、戸塚彩加くんだったかしら?何か御用かしら?」

 

雪ノ下は戸塚に目を向けた。

 

冷たい視線に射抜かれて、戸塚がぴくっと一瞬身体を震わせた。

 

彩加「あ、あの・・・、比企谷君にも相談したんだけど、うちのテニス部は弱いんだ。だから、部活を活気づけるるために、強くなりたいんだ・・」

 

雪乃「なるほど・・。つまりはあなたのテニスの技術向上ね。言っておくけれど、私たちはあくまで手助けするだけよ。強くなれるかどうかはあなた次第」

 

彩加「うん、それで僕が頑張って、少しでも部員のみんなの刺激になれば、嬉しいんだ・・」

 

戸塚は拳を握って、答えた。

 

・・こいつは責任感が強いな。自分のため、部員のため、部活のため、この小さな身体で一人で頑張っている。

 

それだけじゃない・・。精神的にも十分な強さがある。戸塚彩加はそこらの男子よりよっぽど男子だ。

 

その心意気、買った!?

 

八幡「・・・いいぜ、その依頼引き受けた。雪ノ下も風音もいいよな?」

 

風音「うん、いいよ。頑張ろうね」

 

雪乃「そうね。・・それじゃあ、まず何をしようか考えましょう」

 

彩加「みんな・・ありがとう」

 

こうして、俺達の「戸塚彩加強化計画」が始動した。

 

ガラララ

 

結衣「書いて、先生にもOKもらったよー!これで私も部員だっ!」

 

お前空気読めよ・・。今いい感じに締めくくってたじゃん。

 

 

 

 

 

結衣「やっぱりテニスさせんのが一番なんじゃない?」

 

八幡「まぁ、それもあるが、戸塚は見た目的に筋力が劣ってるように見えるから、鍛えさせるのがいいんじゃねぇか?」

 

風音「そうだね。テニスって戦況に応じて全身の筋肉を使うから」

 

雪乃「そう、なら戸塚君に足りてない筋力を上げましょう。上腕二頭筋、三角筋、大胸筋、腹筋、腹斜筋、背筋、大腿筋、これらを総合的に鍛える腕立て伏せを・・・死ぬ一歩手前までやらせましょう」

 

結衣「うわぁ、ゆきのん頭よさげ・・・え、死ぬ一歩手前?」

 

八幡「おいおい、いくら何でもやりすぎだ」

 

雪乃「あら、超回復を知らないの?筋肉は傷めつけた分、より強化されるのよ?」

 

八幡「確かに超回復って案は悪くないが、明らかに限界を超えてんじゃねぇか。そんなことしたらボロボロになることが目に見えるぞ。それで怪我なんてしたら元も子もない」

 

雪乃「スポーツに怪我は付き物よ」

 

八幡「それじゃ怪我を負わせるっつー前提の考えじゃねぇか。怪我っていうのは思いもよらない事故の事を言うんだ。自発的に起こさせるのは間違ってる」

 

俺の反対意見に、雪ノ下は納得いっていないようだ。

 

雪乃「そこまで言うなら、あなたの考えを聞かせなさい。私が納得のいくような案を」

 

俺の考えは至って単純だが、雪ノ下の言った過剰なトレーニングを戸塚にやらせるわけにはいかない。

 

八幡「学校では、テニスだけをやる。筋トレは家でもできるからな。で、その筋トレだが、俺はあまり詳しくないから、自分なりにやってみろ。途中で少しでもこれ以上無理だと感じたらすぐにやめろ。・・これはついでだが、体を柔らかくしたけりゃ入浴後のストレッチをお勧めする。・・それと戸塚」

 

彩加「な、なに?」

 

八幡「部活の練習はランニングするのか?」

 

彩加「え、うん。最初にするよ」

 

八幡「なら、体力は問題ないだろう。・・・俺からは以上だ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

みんなポカーンとこちらを見ている。え?なんすか?

 

八幡「ん?ど、どうした?なんか変なこと言ったか?」

 

結衣「いや、なんというか、その・・」

 

彩加「すごいね、比企谷君」

 

風音「さすが八くんだね」

 

雪乃「ッ!・・悔しいけれどあなたの考えの方がよさそうね」

 

雪ノ下は心底悔しそうな顔をしている。

 

八幡「よしっ、明日の昼休みに始めるか」

 

 

 

 

《昼休み》

 

 

戸塚の特訓のため俺はジャージ姿でテニスコートへと向かう。

 

俺の学年のジャージは無駄に蛍光色の淡いブルーで非常に目立つ。その壮絶なまでにダサい色合いのおかげで、生徒には大不評で、体育や部活の時間以外にこれを好んで着る奴はいない。

 

みんながみんな制服の中、俺だけがやたら目立つジャージ姿だった。

 

義輝「ハーッハッハッハッ八幡」

 

なにやら高笑いしてる生徒がいるが、気にしないようにしよう。面倒ごとは御免だ。

 

そういや戸塚は学校では常時ジャージだったな。それほど気にしてはいないんだろうか。あいつの制服姿も見てみたいな・・。

 

義輝「あいや待たれよ八幡。こんなところで会うとは奇遇だな。今ちょうど新作のプロットを私に行こうと思っていたところだ。さぁ、括目してみよ!」

 

八幡「悪い。今忙しいんだ」

 

俺は材木座の脇を通り抜けると、材木座が肩を掴んできた。

 

義輝「・・・そんな悲しい嘘をつくな。お前に予定などあるわけないだろう?」

 

八幡「嘘じゃねぇよ。後、お前にだけは言われたくない」

 

義輝「ふっ、わかるぞ八幡。つい見栄を張りたくなってしまって小さな嘘をついてしまったんだよな。そして、その嘘がばれるのを防ぐ為にさらなる嘘をつく。あとはひたすらその繰り返し。悲しき「じゃあな」欺瞞の・・って話を最後まで聞け!」

 

八幡「だからほんとに予定が・・」

 

あ~、ウザったい。早くいかなきゃ遅刻する。

 

「八く~ん」

 

「比企谷君!」

 

お、ちょうどいいところに俺の救世主が・・。

 

風音「八く~ん♪一緒に行こ」ダキ

 

風音は俺を見つけた途端、抱き着いて頭を胸板にぐりぐりとしてきた。人がいる前でなんて大胆な子!くすぐったい。

 

彩加「比企谷君、ちょうどよかった。一緒に行こう」

 

戸塚は俺の腕を掴んできた。そして左肩にはテニスラケットを掛けていた。

 

八幡「ああ、そうだな。そんじゃな、材木座」

 

俺は材木座に別れを告げ、風音と戸塚と一緒にテニスコートへ向かった。・・が

 

義輝「待て!。比企谷八幡!」

 

呼び止められた。いい加減にしてくれ。

 

義輝「き、貴様っ!裏切っていたのかっ!?」

 

材木座は、俺達三人を交互に見て言い放った。

 

八幡「はぁっ・・裏切るってどういうことだよ」

 

義輝「黙れっ!半端イケメン!失敗美少年!ぼっちだからと憐れんでやっていれば・・・・美少女二人を囲んでハーレム気取りか!調子に乗りおって・・・」

 

八幡「半端と失敗は余計だ。・・・確かに風音は世界一可愛い彼女だが、そっちの戸塚は男だぞ」

 

風音「は、八くん//いきなりそんな、世界一なんて・・//」

 

材木座は鬼の形相のまま、グルルと唸りながら俺を睨む。目はジェラシーの炎で俺を射抜いていた。

 

義輝「絶対に許さない。・・お前に彼女だと。・・・それに、そんなかわいい子が男の子なはずがない!」

 

彩加「そんな・・・可愛いとか、ちょっと困る。・・・比企谷君の友達?」

 

八幡「いや、どうだろうな」

 

義輝「ふんっ。貴様のような輩がともであるはずがない」

 

こいつ完全に拗ねたな。めんどくせー奴。

 

他の人からしたら「何でこんな奴に」と思うところがあるのかもしれないな。

 

材木座の気持ちはわからなくもない。ぼっちでやっと気の合う人を見つけて、自分の趣味を全開させてくれる人が現れたのに、その人に彼女がいた。そりゃ裏切られたとも思ってしまうだろう。今まで言わなかった俺にも少し責任があるのかな?かな?

 

八幡「風音、戸塚、行こう」

 

彩加「あ、ちょっと待って。・・・材木座君だっけ?」

 

話しかけられた材木座は若干キョドりながらも、こくっと頷く。

 

彩加「比企谷君の友達なら、ぼくとも友達になれる、かな。そうだと嬉しいんだけど。ぼく、男子の友達少ないから」

 

そう言ってはにかむように戸塚は微笑んだ。

 

義輝「フッ、くっ、クゥーックックックッ。如何にも我と八幡は親友。否、兄弟。否否否、我が主であやつが僕。・・・そこまで言われては仕方あるまい。貴公の、そ、そのお、オトモダチ?になってやろう。なんなら恋人でもいい」

 

彩加「それは・・無理かな。友達ってことで」

 

義輝「ふむ、そうか。・・・おい、八幡。ひょっとして我のこと好きなんじゃないか?」

 

材木座は急速に俺に近寄って、小耳を打ってきた。

 

風音「すごいね。可愛い人と仲良くなれると知った途端、高速に掌返ししたよ」

 

風音は俺が思っていたことをそのまま口にした。こんなことする奴は友達でも、兄弟でも、僕でもない。

 

あと風音さん、いい加減に離れてくれませんか?・・。ちょっと恥ずかしくなってきた。すげぇいい匂いするし。

 

八幡「じゃ、そろそろ行こうぜ。遅れると雪ノ下がキレる」

 

義輝「む、それはいかんな。急ごうではないか。あの御仁、・・・・ほんと怖いからなぁ」

 

言うや、材木座は俺と戸塚と風音の後をついてきた。どうやら仲間になったらしい。頭の中でドラ〇エのBGMを流しながら俺達はテニスコートに行った。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

なんか八幡が部活に積極的なんだが・・。ま、いっか。


さぁ、八幡が球を見ずに当てた方法とは?風音の言った『アレ』は何なのか?

次の話で明らかになります!

また次回。


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5話:俺と彼女の勝負アビリティ

はい、どうも、アイゼロです。

5話突入。

八幡と風音、自分でももうちょっと甘々に書きたいとは思っているけど、何をさせたらいいんだろう・・。

※R15タグは念のためです。

それではご覧ください。


テニスコートにはすでに由比ヶ浜と雪ノ下がいた。

 

雪ノ下は制服のままで、由比ヶ浜はジャージに着替えていた。

 

雪乃「では、始めましょうか」

 

彩加「よ、よろしくお願いします」

 

雪ノ下に向かって、戸塚がぺこりと一礼する。

 

雪乃「昨日の比企谷君の提案でテニスをさせるけど、戸塚君の相手は誰がするの?」

 

八幡「この中じゃ、俺と風音ぐらいしか戸塚の相手にはならないだろ。・・・風音、いけるか?」

 

風音「うん、中学以来やってないけど問題ないと思う」

 

八幡「サンキュー。よし、始めるぞ」

 

彩加「うん、お願いします」

 

礼儀正しいんだな、戸塚は。同じ年の人に敬語ってなかなか難しいと思うが。主観的な感想だけど。

 

結衣「え?ちょっと、あたしには何も聞かないの?」

 

八幡「お前、テニスできるのか?テニス部相手に」

 

俺の言葉に、うっ、と言葉を詰まらせる。

 

八幡「だろ?いざとなった時に呼ぶわ」

 

果たしてその時が来るのだろうか。

 

 

―――――――数十分後

 

 

俺と風音は交代しながら、ポンポンポンポンと戸塚と打ち合っていた。

 

しばらくラリーを続けていると、戸塚がずさーっと転んだ。

 

結衣「うわ、さいちゃんだいじょうぶ!?」

 

由比ヶ浜は、戸塚に駆け寄った。戸塚は擦りむいた足を撫でながら、濡れぼそった瞳で、にこりと笑い、無事をアピールをした。健気な奴だ。

 

彩加「・・うん、大丈夫だから続けて」

 

雪乃「まだ、やるつもりなの?」

 

彩加「うん、皆付き合ってくれてるから、もう少し頑張りたい」

 

それを聞いた雪ノ下はそう、と言って元いた場所へ戻っていった。

 

彩加「・・・呆れられちゃったのかな?」

 

戸塚ががくりと肩を下げて俯いた。今の反応されちゃそう思っちゃうよな。

 

だけど、

 

風音「雪乃ちゃんに限ってそれはないと思うよ。困ってる人を見捨てるような人じゃないから」

 

八幡「そうだな。だからあまり気にすんな。休憩したら再開しよう」

 

「あ、テニスしてんじゃん、テニス!」

 

戸塚の応急手当てを終えて、俺達はベンチへ向かおうとした瞬間、きゃぴきゃぴとはしゃいだ耳障りな声が聞こえた。振り返ると、あの集団がいた。イケメンと金髪ドリルで構成された、うるさいグループが。

 

金髪ドリルは由比ヶ浜をちらろと見た切り、無視して戸塚に話しかけた。

 

金髪ドリル「ね、戸塚ー。あーしらも遊んでいい?」

 

彩加「三浦さん、僕別に遊んでるわけじゃなくて・・・練習を」

 

金髪ドリル「え?なーに、聞こえないんだけど」

 

戸塚の小さすぎる抗弁が聞き取れなかったのか、声に押されて黙ってしまう。

 

このままじゃ、押し負けてコートが使われるな。それだけは阻止しねぇと。

 

八幡「悪いがお引き取り願おうか。俺らは練習してるんだ。遊んでるわけじゃない」

 

金髪ドリル「はぁ?あんたいきなりなに?部外者は引っ込んでなよ」

 

八幡「俺らは部外者だが関係者だ。戸塚から練習に付き合ってくれと正式に依頼されたからな」

 

金髪ドリル「ふーん。じゃ、あーしらも練習に付き合うからいいよね?」

 

何言ってんだこの女?馬鹿なのか?今それ言ったって何の意味もないくらいわかれよ。

 

八幡「ダメに決まってる。お前らは戸塚との練習を口実に遊びたいだけだろ?真剣にやってる戸塚に迷惑だ」

 

イケメン「まぁまぁ、そんなケンカ腰にならなくても・・」

 

イケメンが仲裁に入った。もうそのままあいつら連れて帰れよ。

 

イケメン「ほら、皆でやった方が楽しいしさ。そういうことでいいんじゃない?」

 

カチンときた。思わず発動しかけたが、なんとか抑えた。こいつ、ここまで怒りのツボを正確に押してくるとは、ある意味天才だな。

 

八幡「ハッ。戸塚はな部活や部員のために一人で頑張ってるんだぞ。何も知らねぇくせに皆で楽しくとか軽々しく言ってんじゃねぇよ」

 

俺の鋭利な口撃に黙るイケメン。おいおいその程度か?おい?・・・・俺なんか性格悪くなってね?

 

イケメン「じゃあこうしないか?部外者同士で勝負。勝った方が明日からテニスコートが使える。もちろん戸塚の練習にも付き合う。強い人と練習した方が戸塚のためにもなるからな。どうだ?」

 

ん~、逆に本気出した俺より強い人なんているのだろうか?まぁ世界は広いからな。いなくはないと思うが。

 

八幡「一つ聞く。お前らが勝った場合、毎日昼休み戸塚の練習に付き合う事になるだろ?言っとくが戸塚は部活を活気づけたいという一心で強くなりたいと俺達に依頼したんだ。その依頼の責任をお前らは果たす覚悟ができてんのか?」

 

イケメン「・・・・ああ、もちろん」

 

八幡「わかった。受ける。(ハァ、どうせ口だけだろ。あの集団がまともに練習に付き合うと思えない)」

 

サクッと勝って、ご退場願おう。

 

 

 

 

「HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!」

 

ギャラリーのイケメンコールのウェーブが始まった。まるっきりアイドルのコンサートだ。っつーかあいつはやとって言うんだ。下の名前で言うと気持ち悪いから、イケメンでいいや。

 

おのイケメンファンもいるんだろうが、大半は面白そうな出来事に悪乗りしてる感じだな。

 

その混乱のるつぼの中、イケメンは堂々とコートの中央へと歩き出す。これだけのギャラリーに怯んだ様子もない。こういうことが慣れているのだろう。

 

結衣「ね、ヒッキー、どうすんの?」

 

八幡「は?なにが?」

 

結衣「いや、誰が出るのかなって」

 

八幡「何言ってんだ。俺しかいないだろ?」

 

雪乃「あなた、勝てるの?」

 

八幡「いや、勝てるかどうかの話じゃないから。俺が負けるわけないじゃん」

 

雪乃&結衣&彩加&義輝「「「「?」」」」

 

皆がみんな疑惑の目でこちらを見ている。そんなに信用無いかなぁ・・。

 

風音「八くん。あんまり無茶しないでね」

 

金髪ドリル「ねー、はやくしてくんないー?」

 

うるせーなドリルビッチと思って顔を上げるとラケットをもってコートに立っていた。それを意外に思ったのは俺だけではなく、イケメンも同様だったようだ。

 

隼人「あれ?優美子もやんの?」

 

優美子「はぁ?当たり前だし。あーしがテニスやりたいっつったんだけど」

 

隼人「いや、でも向こう男子が出てくるんじゃないか?あのー、ヒキタニ君だっけ。ちょっと不利になるんじゃない?」

 

だから誰だよヒキタニ君って。そんなやつここにはいない。あと別に不利にならないからこのままで十分なんだけど。むしろいいハンデまである。

 

優美子「あ、じゃ、男女混合ダブルスでいいじゃん。うそやだあーし頭いーんだけど。っつってもヒキタニ君と組んでくれる子いんの?とかマジウケる」

 

優美子とかいう金髪ドリルが甲高い下品な声で笑うと、ギャラリーにもドッと笑いが起こった。俺も思わず笑ってしまう。

 

その余裕ぶった笑いが絶望に変わることを考えるとな。笑いが止まらねぇよ。

 

ちなみにヒキタニ君と組む相手はいない。比企谷君なら一人いる。

 

八幡「風音ー」

 

風音「お待たせ~八くん」

 

テニスウェアを着た風音が走ってきた。うむ、実に似合っている。眼福です。

 

八幡「なんか悪いな。つき合わせちゃって」

 

風音「彼女なんだから遠慮はいらないよ。・・・それに私もイラッときたし」

 

おお、風音から黒いオーラが・・。笑顔だけど笑ってない。

 

八幡「ちゃんといるから安心しろ。そんじゃ始めるぞ」

 

隼人「あ、待ってヒキタニ君」

 

八幡「なんだよ」

 

隼人「俺、テニスのルールとかよくわからないんだ。ダブルスだと余計難しいし」

 

八幡「ハァ・・じゃあ適当に打ち合って点取りあえばいいだろ。細かいルールは無しだ」

 

隼人「そのほうがいいな。・・じゃあ試合回数は3回で2回勝った方の勝ちでいいかな?」

 

風音の体力もつかな、と思い風音の方を向いたら、わかんないとアイコンタクトで返してきた。俺達すごいな。

 

八幡「問題ない。んじゃさっさと始めるぞ」

 

試合開始の笛が鳴った。

 

 

試合は火花散るような一進一退の攻防を見せた。

 

お互いの打ちつ打たれつで長いラリーが続き、俺は壁で鍛えた正確無比なコントロールで点を取り、風音も負けじとボールを裁く。

 

意外なことに風音は中学以来だけど腕は落ちていなかった。つまり、かなり強い。

 

1試合目は俺らが勝ち、第2試合目に移る。

 

だが、油断は禁物になってきた。

 

あのイケメン、テニス初心者だが、持ち前の運動神経で補っている。一方の金髪ドリルはおそらく経験者だ。サーブが鋭く、球が弾丸の如くコートに突き刺さっていた。

 

 

2試合目では相手にリードされている。風音は肩で息をし始めた。思ったより1試合目で体力かなり使っちゃったんだな。まぁ、あれだけラリーが続いちゃったら仕方がないか。

 

それを察知したのか鋭いサーブは風音の方へ。

 

そのサーブは風音の横を抜けて金網に当たった。・・マズいな、もう限界か。

 

第2試合は取られ、第3試合目に移る

 

 

優美子「そこの彼女もう限界なんじゃないのー?どうすんのー?諦めて降参するー?」

 

チッ・・・悔しいがあの女の言う通り風音はもう体力がほぼ尽きた。

 

隼人「ま、お互いよく頑張ったってことで。あんまマジになんないでさ。引き分けってことにしない?」

 

は?何言ってんだ?お前。寝言は寝て言え。自分が有利になった途端に敵に情けとかかけるんじゃねぇよ。

 

風音「ハァ・・ハァ・・八くん・・ごめんね」

 

八幡「謝るな風音。ありがとな、こんなお遊びに付き合ってもらって・・。あとは任せろ」ドロドロ

 

一度言ってみたかったんだよねぇ。あとは任せろって。なんかカッコいいじゃん・・。

 

そう言って俺はコートの中央に立つ。風音も入れてるがコートの隅っこで待機してもらうことにした。

 

隼人「続けるのかい?」

 

・・・言っただろう。笑いを絶望に変えさせるってな。その気持ち悪い爽やかな外面笑顔の仮面を剥いでやるよ。

 

八幡「当たり前だ。勝ち逃げは絶対許さん」

 

優美子「あーし手加減とかできないけど」

 

八幡「おお、いいぜ。本気でこいよ」

 

俺が余裕の笑みでそう言い放つと二人とも顔をしかめた。舐められてるとでも思ってんのかな?

 

まぁ実際舐めてるんだけどね。

 

ボールを上にあげ、俺は力強くサーブを打った。

 

――――――――バコン!!

 

誰も反応できていない。打った球はコートに跡を残して、金網へと一直線に向かった。あ、ちょっと力入れすぎたかな?球が金網に挟まっちゃった。

 

隼人「なッ!」

 

優美子「ウソ・・」

 

相手の二人は目を見開いて驚愕していた。そうそうその顔が見たかったんだ。

 

この場の全員が呆然としていた・・・・・風音以外ね。

 

そう、これが俺と風音と小町しか知らない俺の能力。

 

 

―――――――――【ロットアイ】

 

 

普段濁っている目を更に濁らせ、色彩感覚を無くす(モノクロ世界)代わりに全てにおいてパワーアップする、俺だけにしかない能力だ。

 

 

それにしてもすごいな・・俺の目を見た人みんな後ずさりしてる。

 

俺はもう一度サーブを打つ。

 

必死にボールに食らいついていたが、そもそも追いつけていない。・・わかっていても止められないだろう。

 

イケメンは歯ぎしりをし、俺を睨む。おー怖い怖い。

 

隼人「なんだ、あれ?人が変わったように強く・・・」

 

優美子「ちょ、マジでなんなの。・・・あれ!」パコン

 

俺の反則的な強さに苦悶の声を上げるが、なんと高速サーブをラケットに当ててきた。やるじゃん。

 

だが無駄だ。俺はそれを難なく打ち返しイケメンの真横を通過させた。

 

後は、俺の独壇場で試合は一気に片が付いた。

 

 

隼人「・・・俺達の負けだ。練習の邪魔をしてすまなかった」

 

イケメンはそう吐き捨て、帰ろうと足を後ろに向けた。

 

八幡「おい、謝る相手が違うんじゃねぇのか?」

 

俺は帰らせずに、イケメン達に謝罪を要求した。当然だ、これで一番迷惑がかかったのは一生懸命練習をしてた戸塚自身なのだから。

 

隼人「ッ!そうだな・・戸塚、練習の邪魔をしてすまない」

 

彩加「えっ?う、うん。もうしないならいいよ」

 

戸塚は、しり込みしながらも、謝罪を受けた。

 

八幡「おい、そこの金髪ドリル。お前は何も言わねぇのか?」

 

優美子「は?なんであーしが・・」

 

八幡「そもそも事の発端はお前自身が原因なんだぞ?そこのイケメンは明らかに巻き込まれた側の人間だ。そいつにだけ謝らせておいて自分はだんまりか?いいご身分だな。・・・まさか、自分に非はないと思ってんじゃねぇだろうな?」ギロッ

 

優美子「ヒッ・・そ、そんなこと・・ねぇし」

 

俺の濁りきった目で睨まれた金髪ドリルは涙目で怯えていた。これくらいやんなきゃ気が済まない。

 

八幡「なら、誠心誠意戸塚に謝れ」

 

優美子「と、戸塚・・・その、悪かったし・・」

 

彩加「うん、そのかわりもうしないでよ」

 

戸塚の許しをもらった集団は、周りのギャラリーと共に帰っていった。通夜みたいな雰囲気だったな。・・いやぁ~愉快愉快♪

 

俺は【ロットアイ】を解き、色彩感覚を元に戻した。

 

八幡「カハッ!!・・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・」

 

解いた途端、体中からドッと全身に疲労が襲い掛かった。俺は持っていたラケットを杖代わりにし、中腰になる。

 

そう、【ロットアイ】はすべてパワーアップする。故に、今の自分の限界を超えるのだ。発動時間が長ければ長いほど辛くなる。

 

風音「八くん!大丈夫?」

 

風音は俺に駆け寄って水を差しだした。

 

八幡「・・・・サンキュー。助かったわ」

 

水をゴクゴク飲む。立ち上がろうとするが、うまくいかない。それを見かねた風音が肩を借してくれた。・・・情けねぇな。彼氏が彼女の肩を借りるなんて。

 

その後も、戸塚や材木座、奉仕部の面々が俺の周りに集まった。

 

彩加「比企谷君、新島さん・・・ありがとう。僕のためにあそこまでしてくれて・・」

 

八幡「なーに、気にすんな。お前は大事な依頼人なんだ。コート取られてたまるかよ」

 

義輝「うむ、実に見事であったぞ。さすがは我が相棒。アッパレだ!」

 

八幡「はは、そうかい。・・・っと風音もう大丈夫だからいいぞ」

 

俺は風音の肩から離れ、猫背になりながらも立ち上がる。

 

結衣「・・ヒッキー」

 

雪乃「比企谷君、アレは一体・・」

 

八幡「あー、お前らの言いたいことはわかるが、今は休ませてくれ。この後すぐ授業だろ。・・・雪ノ下、悪いが今日は部活休んでいいか?」

 

雪乃「ええ・・・・今日は部活を休みにしましょう。あなたのことで部活に集中できなくなるかもしれないし」

 

八幡「そうか。わりぃな」

 

昼休みを終えるチャイムが鳴り、それぞれ各教室に返っていった。

 

案の定、俺は授業で寝た。それでもまだ疲れは取れない。・・厄介だな~この反動。

 

何故かやたらと後ろから視線を感じたんだが、気にしないようにしよう。

 

 

 

 

《帰り道》

 

風音「もう、あんまり心配かけないでよね。授業にも集中できなかったんだから」

 

八幡「あ、いや、ほんとにごめんな。ついカッとなってな。・・あいつら許せなかったし」

 

風音「まぁ私もあの人たちの身勝手さには頭にきてたし、戸塚君のためでもあったから、あんまり言わないけど・・・」

 

八幡「ああ、悪いな。心配かけちまって」

 

風音「ほんとだよ。・・そのかわり」

 

八幡「ん?なんだ?」

 

風音「今日は泊まり込みで八くんの回復に努めるからね♪」

 

 

 

 

 

 

《比企谷家》

 

八幡&風音「「ただいま」」

 

一応説明しとく。俺と風音は、比企谷家・新島家にとって家族同然なのでただいまと言っている。俺も新島家に訪れたらただいまと言っている。

 

小町「おかえり~、お兄ちゃん、風姉。今日は早いね・・・ってお兄ちゃんなんかすごい疲れてない?」

 

八幡「ああ、ロットアイ使ってきたからな」

 

小町「ええぇ!?大丈夫なの?」

 

さすがの小町も心配してくれている。なんか申し訳ないな。

 

八幡「ああ、ちょっと休めば問題ない。心配かけて悪いな。」

 

小町「そっか。・・・でも学校で使う機会って全然ないよね?一体何があったの?」

 

風音「それは、私が説明するから。八くんはベッドで休んでて」

 

八幡「そうさせてもらうわ」

 

俺は2階へ上がり、自分の部屋に入ってベッドにダイブした。

 

ハァ・・・寝よう。

 

≪リビング≫

 

ここからは私、新島風音が語り手になるよ。

 

 

小町「それでそれで、一体何があったの?お兄ちゃんはあの能力をめったに使わないのに?」

 

小町ちゃんは真剣な顔で聞いてきた。兄思いな妹だな~。

 

風音「それが、今日の昼休みにね・・・・・」

 

私は、今日の昼休みに起こった出来事を話した。

 

 

小町「ほぇ~、そんなことがですね~。まぁ、人助けが理由ならあまり強く言えないなぁ。逆にあそこで何も言わなかったら、お兄ちゃんの事軽蔑してたと思うし

・・・・・・・でも、嫁さんを心配させるのは小町的にポイント低い!」

 

風音「よ、嫁さんて//・・・・だから今日は泊まり込みで回復に努めるってことになったの。・・泊まっていい?」

 

小町「そういう事なら構わないよ~。ジャンジャン泊まってって♪ていうか用がなくても泊まっていいから~」

 

風音「うん!ありがと~」

 

とりあえず、八くんの様子でも見てこようかな。

 

 

≪八幡の部屋≫

 

ガチャッ

 

風音「八く~ん・・・・あらら」

 

八くんは制服のまま、ベッドに横たわっていた。ダイブしてすぐ寝ちゃったんだね。

 

晩御飯ができるまでそっとしておこう・・。今日は私が作るからね♪

 

 

――――――――2時間30分後

 

 

風音「八く~ん、起きて~」

 

俺の名を呼ぶのは・・・誰だ♪誰だ♪誰だ~♪ビルの谷間に忍ぶ影♪

 

いや、俺ならどこでも忍ぶ影になれる、ハッチマンだ!

 

そんなくだらないこと考えながら、俺は目を開ける。

 

風音「晩御飯できたから食べよ」

 

八幡「・・・おう」

 

気付いたら時計の短針は6を過ぎていた。結構眠れたみたいだ。

 

 

≪リビング≫

 

 

小町「あ、お兄ちゃん起きたね。じゃ、食べよっか。今日は風姉の手料理だよ~♪」

 

テーブルに目をやると、肉が中心の料理が並んでいた。うむ、実に美味そうだ。早速いただこう。

 

八幡「ありがとな、風音。んじゃ食べるか」

 

八幡&風音&小町「「「いただきます」」」

 

目の前の肉料理を箸で掴み、口に運んだ。

 

八幡「・・・うめぇ・・」

 

すげぇ美味い。箸が勝手に動く・・。止まらない。

 

寝起きに脂っこいものは、あまり食が進まないというが、風音の料理はそれを感じさせない。

 

これは、冷しゃぶサラダか。ちゃんと栄養バランスも考えられている。

 

・・・あれ?

 

八幡「なぁ、おかわりもらっていいか?」

 

わずか7分近くでごはんを平らげてしまった。しかし、まだ食いたいという衝動に駆られている。

 

もう、俺はだれにも止められない!

 

風音「ッ・・・うん!」

 

風音は満面の笑みを浮かべ、ご飯をよそいに行った。

 

八幡「・・・・」ガツガツ

 

風音「・・・・」ニコニコ

 

小町「・・よかったね、風姉!」

 

風音「うん!」ニコニコ

 

 

八幡&風音&小町「「「ごちそうさまでした」」」

 

俺は白米を4杯おかわりし、皿に乗っていた肉料理をほとんどたいらげた。こんなに食べたのは久しぶりだな。

 

結論・・俺の彼女の料理は超絶美味い。

 

八幡「ほんとに美味かったぞ、風音。すごい腕が上がっててビックリしたわ」

 

風音「ふふっ、ありがと~。嬉しいな♪」ニコニコ

 

風音は俺が食べ始めてから終始ニコニコしてるな。まぁ自分が作った料理が絶賛されたんだから当然か。

 

小町「うん、ほんとに美味しかった!・・・あ、お兄ちゃん、お風呂沸いてるから先入っていいよ」

 

八幡「え?いいのか?・・じゃあお先に失礼するわ」

 

俺は着替えをもって脱衣所へと向かった。

 

 

≪浴場≫

 

 

八幡「ふぅ・・・」カポーン

 

いい湯だ・・。疲れがとれていく。

 

ここで風呂に関する豆知識だ。何故湯船につかると『ふぅ』や『あぁ~』と声や息を吐くのか・・。それは、

 

湯温に関係があり、気温、体温とお湯の温度の差が大きい時は、瞬間的に筋肉が緊張するためお腹の底から「あぁ~っ」と声が出てしまう。逆に体温と湯温の差が小さい時は、心臓に負担もかからず副交感神経が刺激されてリラックスするため、溜息に近い「ふぅ~」と言ってしまうんだって。

 

ちなみに『あぁ~』と声を出すのはストレス解消法にもなるらしい。ぜひやってみてくれ。

 

俺は誰に向かって、雑学を教えているのだろう?

 

ふと俺は、今日の昼休みを顧みる。

 

はぁ、大勢の前で力を使ってしまった。目立っちまったかもなぁ。平穏な日常が続くか不安になってきた。もうテニス部勧誘ラッシュは勘弁してほしい。いや、下手したらほかの運動部からくるかもしれない・・。さすがに自意識過剰か・・。

 

それに風音にも心配かけちまったし・・。あまり乱用するのはよそう。

 

 

そろそろ出るか・・。

 

ガラララ

 

俺は浴場から出ようとドアを開けた。

 

目の前に飛び込んだのは、着替え中の風音だった。今ブラに手をかけている。

 

目と目が逢う~♪瞬間好きだと気付いた~♪あなたは今どんな気持ちでいるの?♪

 

自分の気持ちを確認する前に、素早くドアを閉めた。

 

八幡「な、なにやってんだ!?風音!」

 

風音「え、えぇと、その、八くんの背中流そうかなと思ったんだけど///」

 

八幡「いや、もう洗い終わったし、今から出るところなんだけど・・」

 

風音「そ、そうみたいだね・・あぅ//」

 

どうしようか・・俺が出ても風音が入ってきても、お互い裸の状態ですれ違うことになる。

 

風音「せ、せっかくだから、久しぶりに一緒に入ろう//」

 

身体にタオルを巻いた状態の風音が入って混浴を要求してきた。・・・え?何故に?

 

八幡「いや、ちょっと、それはどうかと思うg「え~い」っておい!」

 

風音に手を掴まれて、浴槽に無理矢理入れられた。

 

八幡「お、おい、風音・・・」

 

風音「ふふっ、別に初めてじゃないんだから、恥ずかしがらなくても・・//」

 

八幡「いや、それ小6までの話だろ。・・・・ったく、少ししたら俺は上がるからな」

 

風音よ・・いつからこんな大胆な行動に・・・。平然を装うとしているのがバレバレだ、顔赤いぞ・・。

 

しかし、男の本能なんだろうか・・。どうしても風音の体に目がいってしまう。

 

タオル越しでもわかる、二つのちょうどいい大きさのふくらみに、スラッっとした肢体が、俺の理性を徐々に削ってくる。

 

俺の視線に気づいたのか、風音は

 

風音「な、なんならタオル外そうか?//」

 

バッシャーーーーン!!

 

俺は、勢いよく水柱をたて、立ち上がる。

 

八幡「お、俺もう出るからな」

 

風音「え~、もうちょっと・・」

 

八幡「いや、そろそろ熱くなってきたし出るわ。お前ものぼせんなよ」

 

風音「む~、わかった・・」

 

俺は素早く脱衣所に出た。あ、あぶねぇ・・危うくこのシリーズにR18タグ付けるとこだった。

 

俺は、早々に体を拭き、着替えて自分の部屋に向かった。

 

 

 

≪八幡の部屋≫

 

ふぅ、風音のやつ、いつの間にあんな大胆な子に・・。まぁ嬉しかったけどね、久しぶりに二人で入れて・・。でもどうしていきなり?

 

ガチャッ

 

風音「八く~ん・・」

 

八幡「ん、来たか。・・・どうした?」

 

風音は何やら浮かない顔をしている。

 

風音「ご、ごめんね。八くんに疲れを取ってほしくて、一緒に入ろうって思ったんだけど・・迷惑だったよね?」

 

何だそんなことだったのか。

 

八幡「別に気にしてねぇよ。むしろ俺のためにやってくれたんだろう。ありがとな」ナデナデ

 

風音「八くん・・」

 

八幡「一緒に入るなんて久々だったからな。悪くなかったよ。・・・また頼もうかな?」ナデナデ

 

風音「え?そ、それは///」

 

八幡「いや~、もう一度風音のきれいな肢体をみたいな~」ニヤニヤ

 

風音「な!?は、八くん!///」

 

急に恥ずかしくなったのか顔をうずめてきた。え~なにこの可愛い生き物。思わず抱きしめちゃったじゃん。

 

八幡「さて、明日は休みだが、何かするか?それとも寝るか?」

 

風音「ん~、特にやることないし、八くんも今日は大変だったから寝ようか」

 

八幡「そうか、お熱い夜をご所望で・・」

 

風音「違うよ!普通に寝るの!八くんさっきっからなんかいじわるだよ!」

 

八幡「冗談だ。んじゃ、寝るぞ」

 

風音「うん、お休み」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

※申し訳ないのですが基本的には感想に返信などはしません。そこらへんをご了承ください。

八幡の能力が解禁されました。詳しい説明は、後日八幡自身が話してくれます。

また次回。




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6話:俺と彼女の休日デート

はい、どうも、アイゼロです。

6話突入。

いるのかどうか分からない特殊イベントを発生させました。

それではご覧ください。


俺の能力が披露された日の翌日。

 

八幡「・・・朝か」

 

目が覚めて、時計を見るとまだ8時だった。もう少し寝ようかな?

 

ふにゅん

 

再び眠りにつこうとしたら、左手にすごく柔らかい感触があった。

 

この柔らかさと擬音はもしかしてと思い、ギギギと首を傾け、左手を見る。

 

案の定、俺の左手には風音の胸があった。思いっきり触ってた。

 

何なんだこのラッキースケベは・・・二次元にしか存在してないと思ったのに。まぁ一緒に寝てたら、いつかなるんじゃないかと思っていたけど・・・。ていうか期待してたけど。あ~、このシリーズ作品にもついにR15タグをつけてしまった・・。結構淡々と喋ってるけど内心かなり動揺してるからね。

 

どうしようか、離すのが名残惜しい。かと言って、これで風音が起きたら・・・・想像するのはやめておこう。

 

離すか離さないかの葛藤をしていたら、ある結論に辿りついた。

 

寝たふりをしよう。

 

そうしよう。それで風音が起きたときにどんな反応するか見よう。

 

俺のS気質な結論により、しばらく左手に幸福を感じながら目を閉じた。・・・たまに動かしたりしよう。

 

―――――――40分後

 

風音「ん」

 

お、やっと起きたか。さぁ、果たしてどんな反応をするのかな?

 

風音「んぅ~、ふぁぁ。・・・・!?///あ、あれ?」

 

意外と普通の反応だな。ど~れ、ちょっと動かしてみますか・・。

 

風音「あ//八くん・・起きてるの?///」

 

寝てますよ~。当然の如く俺は無視をする。

 

風音「あれ?・・・ほんとに寝てるんだ・・//」

 

意外なことにすぐ剥がしたりしないんだな。・・・あまり嫌ではないのか?そんなはずないだろ。

 

風音「ど、どうしよう・・///」

 

いや、どうしようって、剥がすか剥がさないかの二択だぞ。普通だったら間違いなく前者を選ぶはずだ。

 

風音「よし・・」

 

何か決めたのか、風音は俺の手を掴んだ。そうそう、そうやって剥がすのが一番d

 

風音「えい!//」むにゅ

 

ってええええええええ!?何故そうした!何故押し付けた。うわああ柔らかい。最高!すごい幸せだ。

 

あまりに予想外の出来事に思わず左手を大きく動かしてしまった。

 

風音「ん、あ///」むにゅぅ

 

風音!そんな官能的な声を出すな。理性がゴリゴリ削れられる!オラの理性が飛ばないうちにとっとと離すんだ!?・・・と、とりあえず起きよう。

 

八幡「お、おはよう・・」ムク

 

今起きたかのように装い上半身を上げた。

 

風音「・・え?」

 

・・・・・・・・・

 

俺は優しい笑顔で風音に言った。

 

八幡「・・風音は変態さんだな~」ニッコリ

 

と。

 

風音「えっ!ちちちち違うの!?・・これは、その///」

 

風音は俺の手を放し、捲し立てている。やべぇ、面白い。

 

八幡「いやぁ、まさか寝てる隙に俺の手を自分の胸に当ててるなんて・・」

 

風音「だ、だから違うの!//これは八くんが!・・」

 

八幡「ん?俺が?」

 

風音「うぅ//」

 

さて、そろそろネタバラシしますか・・。

 

八幡「まぁ、最初から起きてたんだけどな」

 

風音「・・・・へっ・・」

 

ずいぶん間の抜けた声だったぞ、風音。

 

八幡「起きた時に、俺の左手が風音の胸に当たってたんだ。名残惜しいからこれを見た風音がどんな反応するのか見たくてな。予想通り、動揺してたけど、・・まさか押し付けるとは思っていなかった」

 

風音「え、ええええ!ていうことは最初から全部・・・」

 

八幡「うん、起きてた」

 

風音「うわああああああああん///」

 

風音は顔を両手で隠し、あまりの恥ずかしさに叫ぶ。

 

八幡「ぷ・・・ククク」

 

ヤバい、大笑いしそう・・

 

風音「八くんのバカーー!//」ポカポカ

 

風音がポカポカと体をたたいてきた。

 

八幡「あっはははは、悪かったな風音」ナデナデ

 

風音「むうぅぅ//」ポカポカ

 

八幡「いや、ほんとにごめんな。つい出来心でな・・」ナデナデ

 

風音「むぅ・・・わかった。私も押し付けたし、おあいこね」

 

八幡「おう・・・ところで何で自分から触らせにいったんだ?」

 

そこだけが唯一の疑問。

 

風音「え?そ、それは//八くん、喜んでくれるかなって//」

 

八幡「それ、俺が起きてなかったら意味なくね?・・まぁ嬉しかったけどさ」ポリポリ

 

頬を掻きながらそう答えると風音は嬉しそうに笑った。

 

風音「・・そっか。エへへ、嬉しかったのか//・・」モジモジ

 

笑顔でモジモジしながら、指を交差させている。

 

八幡「可愛いな」ボソッ

 

風音「え?かわ、可愛い///」

 

あれ?どうやら聞こえてたらしい。ボソッと言ったつもりなのに・・。

 

八幡「そろそろ、下に降りようぜ。腹も減ったし」

 

風音「うん、そうだね。私もお腹すいた」

 

 

 

≪リビング≫

 

あれ?誰もいない。きょろきょろ見渡すとテーブルの上に、一枚の書置きがあった。

 

『お兄ちゃん、風姉、今日は比企谷家・新島家のみんなで出掛けてきます。いやぁ、相変わらず両家は仲がいいねぇ。夜まで帰ってこないからお二人とも安心してね。え?何がって?それはもちろん・・・小町の口からは言えないYO!。というわけで、今日は二人きりで楽しんでください。               小町』

 

八幡「だとよ」

 

風音「あはは、ほんと八くんと私の両親仲良いよね・・」

 

八幡「・・そうだな」

 

俺と風音の両親は本当に仲がいい。元々気が合っているのか喧嘩なんか一度もしたことがないらしい。今時珍しいよな、どんだけ意気投合してんだよ・・。

 

八幡「とりあえず、朝飯食うか」

 

風音「そうだね」

 

朝食は、トーストにスクランブルエッグ、そして昨日の肉料理を食べた。ごちそうさん。

 

 

八幡「さて、何しようか」

 

風音「うん、特にやることもないしね」

 

八幡「・・・俺らもどっか出掛けるか?」

 

風音「え?・・それってデート?」

 

八幡「おう、最近できてないからな」

 

俺のデートの提案に風音は目を輝かせ

 

風音「うん!行こう!じゃあ、私着替えてくるね」

 

と笑顔で家に戻っていった。

 

――――――――数分後

 

風音「おまたせ~」

 

八幡「おう」

 

デートの待ち合わせで、『お待たせ~』『おう、俺も今来たところだ』というのがあるが、俺らにそれは無縁だ。お互いの家が向かいにある以上、待ち合わせとかしたことない。ナンパされる心配もないしな。されても、返り討ちにするけどな。塵一つ残さずに・・。

 

風音「どうかな?この服・・」

 

八幡「・・すげぇ似合ってる」

 

風音「ありがと~。それじゃあ行こうか」

 

八幡「おう」

 

俺達がデートでやってきた場所は、風音の希望でイヲンモール幕張旧都心だ。

 

 

 

≪とある洋服店≫

 

 

風音「八くん、こっちとこっち、どっちがいいと思う?」

 

八幡「んー、こっちを着てほしいかな」

 

俺は服のセンスはほぼ無い。外に行く服装だって小町メモがなきゃダメ出し。こういう時は、相手に着てほしい服を選ぶのが得策だ。

 

風音「わかった。試着してくるね」

 

店員「可愛い彼女さんですね♪」

 

八幡「え、ああ、どうも」

 

店員「それにしても彼氏さん、いい目をしてますね。あの服は、今年の春に新調されたばかりの服で女子高生に人気なんです。特に清楚な人と相性がいいんですよ♪」

 

へぇ、そうなのか。あんまそういうの考えてなかったな。あといい目って・・・濁ってますよ?

 

八幡「そうだったんですか。ちょっとそういうのに疎いんで、着てほしい方を選んだんですけど」

 

店員「それでいいじゃないですか?流行りの服を選ぶより、着てほしい服を選ぶ方が、お互いにとって幸せなことですよ」ニコニコ

 

八幡「そうっすね」

 

この店員さんは優しいな。悪意やら気遣いが何一つ感じない。おそらく純粋に俺らの幸せを思っているのだろう。確証はないが・・・。

 

風音「どうかな?」

 

着替え終わった風音はカーテンを開け、感想を聞いてきた。

 

店員「うわぁ、すっごく似合ってますよ。ね?彼氏さん」

 

八幡「ああ、すげぇ可愛い」

 

マジで可愛いぞ。服の名前とかよくわからんからこれしか言いようがないが・・。

 

風音「あ、ありがとう//・・・じゃあ買おっかな。会計お願いします♪」

 

店員「はい!ではこちらへどうぞ~」

 

 

 

風音「お待たせ~」

 

八幡「おう、それ買ったんだな」

 

風音「うん!八くんが可愛いって言ってくれたからね。エへへ」

 

八幡「そ、そうか。そんなに喜んでくれたなら選んだかいがあったな・・」ポリポリ

 

風音「ふふっ、じゃあ次行こうか」

 

俺と風音は手を繋ぎ、多種多様な店に目を配りながら、長い通路を歩いた。

 

 

 

ガヤガヤガヤガヤ

 

 

八幡「なんか向こう、やけに盛り上がってねーか?」

 

俺はその方向に指をさし、風音に知らせる。

 

風音「ほんとだ。なにやってるんだろう?」

 

八幡「行ってみようぜ」

 

風音「うん、何やってるのか気になるね」

 

気になった俺達は、周りの店よりも盛り上がりを見せているその一角へと歩き出した。

 

ギャラリーをかき分け、前に出た俺達の目に飛び込んだのは・・

 

 

『カップル限定!ダーツでペア景品を手に入れろ!』

 

 

という看板だった。

 

なんだこれ?こんなのやってたのか・・。

 

風音の方を見ると、景品が飾られている台を見つめていた。見ていたのは、風音の好きなクマのキャラクターのぬいぐるみだった。片方は青いリボン、もう片方はピンクのリボンが施されている。あ~、なるほどね。

 

八幡「やるか?」

 

風音「へ?いいの?」

 

八幡「いや、俺らカップルだから普通にできるだろ。せっかくなんだしやろうぜ」

 

風音「うん、そうだね!」

 

少し意気込んで店員さんに話しかける。

 

八幡「あの、次やってもいいですか?」

 

店員「はい!それでは、カップルという証拠を見せてもらうためにキスをしてもらいます」

 

八幡&風音「「え?」」

 

店員「もちろん、口と口で♪」

 

マ、マジかよ・・・。そいつは想定外だ。風音も顔を赤くしちゃってるし。

 

八幡「風音・・いいか?」

 

風音「え・・うん。いいよ・・//」

 

俺達はお互いに顔を近づけ・・

 

一瞬、ほんの一瞬だけキスを交わした。

 

うわあぁぁぁ!恥ずい!こんな公衆の面前で・・・。

 

風音「////」

 

風音も顔真っ赤で黙り込んじゃったし。

 

店員「いや~、初々しいですね♪それではチャンスは一回だけです。頑張ってください!」

 

店員は陽気にゲームの説明をした。初々しいっつっても彼これ5、6年の付き合いなんだけどね。

 

八幡「風音、欲しいのはあのぬいぐるみなんだよな?」

 

風音「え?・・そうだけど、当てられるの?」

 

八幡「な~に、任せろって。絶対当てるからな」ドロドロ

 

俺は能力を発動させ、ダーツを投げた。

 

店員「おめでとうございま~す!見事、ペアぬいぐるみの的に当たりました~!」

 

周りのギャラリーも『おおぉー!』と盛り上がっていた。

 

ついでだが、どうやって当てたのか教えてやろう。

 

まず、回ってるパネルは動体視力で見極め、次に投げる速さとパネルからの距離、これらを計算して見事に当てたのだ。ドヤァ!

 

言っとくが、使ったのはほんの一瞬だから全く疲れてないぞ。

 

俺には店員から青いリボンのぬいぐるみ、風音にはピンクリボンのぬいぐるみが渡された。

 

風音「わ~、八くんすごい!ありがとう♪」

 

八幡「おう!すごいだろ、よかったな」

 

俺らはぬいぐるみを抱えて、その場を去った。

 

 

≪とある喫茶店≫

 

時刻は12時となり、俺達はとある喫茶店で昼食をとることにした。なかなかオサレな場所だぞ・・・。

 

今時喫茶店のこと、サテンっていう人いるのかな。とき〇モの匠の口からしか聞いたことないが。

 

風音「ん~・・・八くん、こっちとこっちどっちがいいと思う?」

 

八幡「ん、ああ、片方俺が食いたいやつじゃん。んじゃ、もう片方を頼めばいいんじゃないか?交換しながら食えるぞ」

 

風音「え?いいの?」

 

八幡「俺はそこまでケチじゃねぇよ・・・」

 

風音「ありがとう♪それじゃあ、店員さん呼ぼっか」

 

風音は店員を呼び、オーダーをした。

 

風音は紅茶、俺はコーヒーを飲みながら雑談をした。風音ってMAXコーヒーしかコーヒー類飲めないんだよな。

 

風音「それにしても、よく私があのぬいぐるみが欲しいってわかったね」

 

八幡「目を輝かせて見つめてたからな。そりゃ気付くわ。・・それとこのぬいぐるみでよかったのか?他にも豪華な景品があったのに」

 

実際、このぬいぐるみ以外もペア旅行券とかあったのだ。

 

風音「うん、形に残るものがよかったし、このキャラクターが好きだからね♪八くんとお揃いだし」

 

八幡「そっか。喜んでもらえて何よりだ」

 

今の笑顔のためなら、俺何でもできそう・・・。

 

店員「お待たせしました」

 

店員さんが料理を運んできた。俺が頼んだのは、ボスカイオーラというパスタだ。イタリア語で「木こり風」という意味があり、森で採れるキノコを使ったものらしい。

 

風音が頼んだのは、ペスカトーレだ。トマトソースに魚介類を加えたもので、きれいな赤色が食欲をそそる。

 

ここの喫茶店はパスタの種類が豊富だな。ほかの店では味わえないソースがある。気に入ったぜ・・。

 

風音「美味しい~♪」

 

八幡「ほんとに美味ぇな・・」

 

いや、マジで美味い。ボスカイオーラとか初めて食ったけど、キノコとトマトソースの相性が抜群だ。家で作りたくなってきた。

 

風音「八くん、そっちのパスタ頂戴」

 

八幡「おう、いいぞ。これかなり美味いから期待しとけよ」

 

風音「あ~ん」

 

え?ある程度予想してたが、やっぱやるのか。

 

八幡「ほい、あーん」

 

風音「・・・あ、美味しい~」パクッ

 

八幡「そうか、口に合ってよかったな。んじゃそっちをくれないか?」

 

風音「はい、あ~ん」

 

八幡「あーん・・・・うん、美味い」

 

風音「ふふっ、よかった♪」

 

その後も俺達の食べさせあいは続いた。

 

ちなみに俺が全部会計出したからね。

 

 

 

 

食事を終えた俺達は、また目的地もなく歩き続けた。

 

風音「次どこ行こうか?」

 

八幡「ん~、そーだなー・・」

 

「ひったくりよ!!」

 

風音「え?」

 

八幡「あ?」

 

俺達はどこ行こうか考えていたら、少し離れた場所から女性の悲鳴が響いた。

 

風音「八くん、今ひったくりって・・」

 

こんなバカでかいデパートでひったくりだと・・。馬鹿なのかそいつは?・・ってなんかこっちに走ってくる!

 

女性から鞄をひったくった奴は、帽子にマスクにサングラスという「いつの時代だよ!」と突っ込ませる恰好をしていた。そいつは俺らの方へ走ってきている。俺は風音を守るように肩を抱き、庇う態勢に入った。

 

ひったくり犯の後ろにはデパートの警備員2人が追っている。

 

そのひったくり犯は、俺の横を通り過ぎる・・・と同時に思いっきりずっこけた。

 

ぷ、ククク・・・ほんとに馬鹿だな。大勢の前で犯罪を行った挙句、盛大にずっこけるとは、テレビで紹介してもいいほどのネタ事件だ・・。笑いこらえるの大変だわ。

 

まぁ俺がこけさせたんだけどね!(∀`*ゞ)テヘッ

 

ほら、よく小学校とかでやった人いるんじゃない?歩いている人に足を出してひっかけさせて転ばせる奴。俺はそれを実行したんだ。実際俺は何度も被害にあったし・・。

 

警備員はひったくり犯を拘束し、もう1人は鞄を女性に返し話を聞いていた。誰も俺がこけさせたことに気づいてない・・。

 

八幡「あ、そうだ風音。本屋行きたいんだがいいか?」

 

風音「え?うん、いいよ」

 

犯行を防いだというデカい特殊イベントを終わらせた俺達は何事も無かったかのように、本屋を目指した。

 

 

本屋では特に何事もなく、目的の新刊ラノベを会計してもらいその場を出た。

 

風音「八くん、庇ってくれたのは嬉しかったけど、ひったくり犯を転ばせるのはしなくてよかったんじゃないの?」

 

次はどこに行こうかと悩んでいたら、風音が怪訝な顔で口を開いた。

 

八幡「ああ、もしかしたらイケんじゃね?とか思っちまったもんで・・・」

 

風音「も~、そういうのは警察とかに任せておけばいいの!」

 

八幡「わ、わかったよ・・・・」

 

風音「よろしい!・・次はどこ行く?」

 

八幡「もう大体見て回ったし、場所移動するか?」

 

風音「それもそうだね♪」

 

 

 

 

俺達は外に出て、家の近くにある商店街を歩いた。特に何かあったわけじゃないから割愛させていただく。

 

 

 

八幡「そろそろ夕飯の時間だし、何か食ってこうぜ」

 

風音「あ、もうそんな時間か~。何食べよっか?」

 

ん~、サイゼ?サイゼかな?サイゼだよな?それくらいしか頭に浮かんでないんだけど・・・。デートで思いつくのがサイゼって俺おかしいかな?おかしいね。

 

風音「サイゼでいっかな?」

 

あら、やだ、なにこの子?サイゼ好きすぎるでしょ。・・・おそらく俺の心を読んだな。

 

八幡「いいのか?もっといい場所あるだろ?」

 

風音「そうは言ってもこの辺りじゃ夕飯に最適なのはサイゼぐらいしかないよ?・・私はそこでもいいし」

 

八幡「そうか。んじゃ、サイゼにするか」

 

 

 

≪サイゼリヤ≫

 

 

やっぱりサイゼに来たらミラノ風ドリアだよな!俺はこれ以外サイゼではあまり頼まない。風音も俺と同じものを頼んだ。

 

風音「明日、【ロットアイ】のこと、あの二人になんて説明するの?」

 

あ、そうか。すっかり忘れてた。まぁ説明するっつっても簡潔に言えばいいだろう・・。

 

八幡「この能力の説明だけしとけばいいだろ。根掘り葉掘り聞いてくる奴らでもなさそうだし」

 

風音「そっか、そうだね♪・・・じゃあはい、あ~ん」

 

え?同じメニューだよ?なのにやるの?

 

八幡「いや、さすがに同じ食い物では・・・」

 

風音「嫌なの?」ウルウル

 

そんな上目遣いで訴えないでくれ。罪悪感が込み上げられるんだよ・・・。

 

八幡「ハァ・・あーん」パクッ

 

風音「じゃあ私も、あ~ん」

 

風音は目を閉じて、小さい口を開けた。・・・・あ、そうだ。

 

俺はすぐに食べさせず、スマホのカメラを起動させ

 

八幡「風音」

 

風音「ん?」

 

風音が目を開けた隙に、パシャッと写真を撮った。

 

画面を見ると、小さく口を開けたちょっぴり間抜けな可愛い顔をした風音が写っていた。・・別に後ろに白い服着た女の霊とかいないからね。

 

八幡「ハハッ、可愛い風音の写真GET」

 

俺は風音に写真を見せた。

 

風音「ちょっと八くん何してるの!?//今すぐ消して//」

 

風音は顔を赤くして削除を要求してきた。この慌てっぷりは面白い。

 

八幡「え~、やだね。俺の一生の宝にする」

 

風音「そ、そんなに大層な物じゃないでしょ!恥ずかしいから消して!///」

 

八幡「わ、わかったよ、消すよ。・・・脳に焼き付けてから」

 

脳内保存脳内保存~♪

 

風音「も~!//」

 

八幡「ほい、消したぞ。・・はい、あーん」

 

風音「むぅ・・あ~ん。うん、美味しい♪」パクッ

 

なんか今日の俺いつもよりSじゃない?

 

 

 

 

《帰り道》

 

辺りはすっかり暗くなり、空は月の光によって、青黒く染め上げられている。

 

風音「今日すごく楽しかった。ありがとう~、八くん!」

 

八幡「ま、たまには俺からも誘わないとアレだからな。俺も楽しかったし」

 

風音「次はもっと遠くの方に出掛けない?」

 

八幡「おう、そうだな。なんだったら今度は二人で旅行とか行くか?」

 

金に関しては特に心配ないしな。使い道が本くらいしかないから、結構有り余っている。

 

風音「え!ほんとに!?」

 

八幡「いつになるかはわからんがな」

 

風音「うん!楽しみだね♪」

 

俺達は、二人で旅行に行く約束をしながら、帰路に就く。

 

 

 

 

暗い夜道を歩き続け、互いの家の前に到着した。

 

八幡「お休み。風音」

 

風音「・・・うん、お休み・・」

 

ん?何か言いたげな顔をしてるな・・。

 

八幡「どうした?」

 

風音「あ、あのね八くん、デパートでやったこと、もう一回してほしいな///」

 

デパートでした事?食い物はないし、・・・・・・あ、もしかして。

 

俺は羞恥心を押さえて顔を近づかせる。

 

八幡「・・か、風音//」

 

風音「・・八くん//」

 

お互い目を閉じてキスをした。あの時よりも長く・・・。

 

風音「八くん・・大好き♪」

 

八幡「俺も、風音が好きだ」

 

俺達はお互いに抱き合い、頬を朱く染めて、しばらく見つめ合った。

 

・・・・・・・・ん?何か感じる・・・

 

風音も俺同様何かを感じたのか、お互いの家の方へ視線を移す。

 

比企谷一族&新島一族「・・・・・・・・・」ジ~

 

八幡「なッ!・・・」

 

風音「えっ!・・・」

 

両家は俺達と目が合うと静かにドアを閉めた。

 

嘘だろッッ!?。もう帰ってたのか!うわあああめっちゃ恥ずい!気まずくなっちまったじゃねぇか!もう帰りたくねぇ!風音なんか下向いて唸ってるぞ、間違いなく顔真っ赤だ!

 

八幡「風音・・・とりあえず、お休み」

 

風音「うん、お休み」

 

俺と風音は挨拶をして、入りたくないけど入らなきゃいけない家へと帰った。

 

家に入ると家族は何も言わず、ただニヤニヤと俺を好奇の目で見てきた。さっさとベッドに潜って悶えてよう。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

自分なりに甘く書いたけどどうだったかな?

また次回。


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7話:俺と彼女の悪質チェーンメール

はい、どうも、アイゼロです。

7話突入。

ちょいと葉山の性格を、いじってみた。さて、これが吉と出るか凶と出るか・・。コワイデス。

それではご覧ください。


GWも過ぎて、じわりじわりと暑くなる今日このごろ。昼休みともなると生徒のざわめきも大きくなり、余計に熱く感じる。

 

元来、クールでハードボイルドな俺は暑さにめっぽう弱い。なので、少しでも涼しさを求めるため、立ち入り禁止の屋上へと足を運んだ。ドアには南京錠が施錠されていた跡がある。おそらく屋上で騒ぐために外したんだろう。

 

今日はここで飯を食っていた。普段のベストプレイスへ行こうとしたが、風音が珍しく一緒に食おうと誘ってくれたので、2人で屋上で弁当を食した。今日も絶品だったな・・。

 

八幡「なぁ、職場見学っていくとことか決まったのか?」

 

風音「う~ん、グループは決まったけど行先はまだかな~」

 

八幡「・・・そうか」

 

俺は風音に職場見学希望調査票と書かれた一枚のプリントを見せて気になってることを聞いた。総武高では2年生になると、職場見学という行事が行われる。

 

各人の希望を募りそれをもとに見学する職業を決定し、実際にその職場へ行く。社会に出るということを実感させるゆとり教育的なプログラムだ。

 

それにこの職場見学は3人1組で行うらしい。風音は友達いるから心配はいらないが、俺は孤高の狼であるが故交友関係を持たない。

 

おそらく、一人足りないグループという名のダイソンの掃除機で俺は吸い取られるだろう。それでいいのだ。あまり人に接触せずに何事も無く終わらせたい。そういう一心だ・・。

 

その時、突然風が吹いた。

 

その突風は俺達に直撃し、持っていたプリントを空へと攫っていった。

 

八幡「ッ!やべっ・・」ドロドロ

 

俺は4メートルぐらいの高さでジャンプしプリントを掴んだ。と同時に一人の女子と目が合った・・。

 

そいつは給水塔に寄りかかり、目を見開いて驚愕の表情をしていた。うん、そうだよね、大ジャンプしてる男子高校生が目に入ったら誰だって驚くよね。

 

一瞬俺の濁った瞳に映ったのは、長身に泣きぼくろくらいしか印象がなかった。白黒じゃ色もわからんし・・。

 

風音「ホッ・・危なかったね」

 

八幡「ああ、なくして平塚先生にお咎めをもらうのは勘弁だからな。・・そろそろ戻ろうぜ」

 

風音「そうだね♪」

 

 

 

 

≪部室≫

 

ガラララ

 

八幡「うーっす」

 

風音「こんにちは~」

 

雪乃「こんにちは・・・・あら?由比ヶ浜さんとは一緒ではないの?」

 

八幡「は?知らねぇけど」

 

風音「結衣ちゃん、まだ来てないの?」

 

雪乃「由比ヶ浜さんならあなた達を」

 

結衣「あーー!!やっと見つけたーー!」

 

大声をだして、こちらに走ってくるのは由比ヶ浜結衣だった。

 

八幡「どした?」

 

雪乃「あなた達がいつまでたっても来ないから探していたのよ」

 

風音「そうだったんだ。ごめんね結衣ちゃん、ちょっと寄り道してたの」

 

結衣「そっか、もう探すの大変だったんだからね!誰に聞いても『比企谷?誰?』って言われるし」

 

八幡「フッ・・まぁな」

 

俺のステルスは今日も平常運転だ。

 

雪乃「得意げに胸を張ることじゃないでしょう」

 

結衣「だから携帯教えて。いちいち探すのもめんどくさいし」

 

八幡「・・・わかった。ホラよ、お前が打ってくれ」ポイッ

 

結衣「うわっとと、よく人に自分の携帯渡せるね」

 

八幡「別にみられて困るようなものもないからな」

 

由比ヶ浜は、自分の携帯を取り出す。異様にキラキラとアクセサリーが施された携帯を。

 

八幡「うっわ・・。なにその携帯。お前カラスなの?気持ち悪」

 

俺の正直な感想に、由比ヶ浜は顔を赤くして怒った。

 

結衣「はぁ!キモイ言うなし!この可愛さがわからないとか目腐ってんじゃないの!?」

 

確かに俺にはその可愛さは一生わからない。わかりたくもないな。

 

八幡「最高の褒め言葉だな・・。目が腐ってない俺なんて俺じゃない」

 

結衣「はぁ・・ていうかヒッキーの電話帳、かざねんと小町?って人ぐらいじゃん。・・・ん?かざねんと同じ名字の人がいる」

 

八幡「おい、そこまで詮索すんなよ。小町は俺の妹で、それは風音の両親だ」

 

俺が携帯買った時、風音の両親に交換しようとお願いされたんだよな。まぁ俺も初めて親族以外との交換だったから嬉しかったんだけど。

 

結衣「へぇ・・・はい、打ち終わったよ」

 

携帯を返却されて電話帳を確認すると、☆★ゆい★☆と書かれていて、思わず顔を引きつらせた。スパムメールと疑われても文句言えないレベルだぞ。

 

雪乃「終わったかしら?それでは比企谷君、一昨日のテニスでの出来事、聞かせてもらえるかしら?」

 

八幡「ん?ああそっか。教えるのはいいが、あまり他人には話すなよ。いや、絶対にだ。」

 

俺がそう念を押すと2人は真剣な顔になって言った。

 

雪乃「わかったわ」

 

結衣「うん。わかった」

 

八幡「説明する前にまず俺の目を見てくれ」ドロドロ

 

【ロットアイ】を発動させた俺の目を見た2人は目を開いて驚愕していた。

 

八幡「どうだ?普段より濁ってるだろ?これが【ロットアイ】っていう俺の能力だ。色彩感覚を無くす代わりにパワーアップする、全てにおいてな。実際今俺の目に映ってるのは色のない、モノクロ世界だ」

 

雪乃「なるほど。それで急に人が変わったように強くなったのね」

 

結衣「ああ、それでさいちゃんの言ってたボールを見ないで打ち返すことができたんだね」

 

八幡「そういうことだ。あとは特に話すことはないし、この話はこれでおしまいだ」

 

ついでだから、【ロットアイ】について簡単に説明しよう。

――――――――――――――――――

 

走力・・・40ヤード走4秒の速さまで出せる。

 

ジャンプ力・・・7メートルの高さまで飛べる。

 

握力・・・金属バットを砕くことができる。

 

身体の頑丈さ・・・ナイフが1センチ刺さる程度。

 

腕力(パンチ等)・・・電柱を折ることができる。

 

蹴力・・・コ〇ン君のシューズの3倍の威力。

 

瞬発力・・・通常の3倍上がる。

 

思考力・・・通常の3倍上がる。

 

情報処理能力・・・通常の3倍上がる。

 

聴覚・・・半径80メートルの範囲まで聴こえる。

 

視覚・・・白黒だが半径90メートル先まで見える。

 

視野・・・草食動物並み。

 

動体視力・・・通常より3倍高くなる。

 

反射神経・・・通常の3倍上がる。

 

使用時間に制限はないが、ずっと使ってるとぶっ壊れるため、乱用は好まない。

 

使用時間が長ければ長いほど、疲労は激しくなる。

 

また、激しく動くと、短い時間で疲労が襲ってくる。

 

――――――――――――――――――

こんな感じだな。化け物かよ俺・・・。しかもどんな仕組みになってるのか俺もまだわかっちゃいない。

 

 

雪乃「そう、わかったわ」

 

結衣「うん、教えてくれてありがとう」

 

説明し終わった俺は、風音とともに勉強道具を取り出し、勉学に励む。なにしろ、もうすぐ中間テストだ。テストでも俺達は競い合っているが、毎回2人で教え合って勉強している。

 

その様子をみた由比ヶ浜は驚きの表情で俺らに問いてきた。

 

結衣「なんで二人とも勉強してるの?」

 

・・・・・・・・・はぁ!?あまりの変な発言に一瞬思考停止したわ!なんで勉強するの?って俺ら高校生、もうすぐテスト。

 

風音「なんでってもうすぐテストだよ。勉強始めてる人多いと思うけど・・」

 

結衣「勉強なんて意味なくない?社会に出たら使わないし」

 

うわ出たバカの常套句。雪ノ下も呆れたのか額に手を当て溜息をした。

 

雪乃「由比ヶ浜さん。あなた、勉強に意味がないって言ったけどそんなことはないわ。むしろ、自分で意味を見出すのが勉強というものよ。それこそ人それぞれ勉強する理由はは違うでしょうけれど、だからといってそれが勉強すべてを否定することにはならないわ」

 

正論である。大人の綺麗事といっていい。風音は感心したように『へぇ~』と言った。

 

結衣「でも、あたし馬鹿だし。3人は頭いいの?」

 

八幡「まぁな、俺は学年1位と2位しかとったことないくらいだ」

 

風音「うん、私と八くんでどっちが1位とれるか勝負してるからね。私も1位と2位しかとったことないよ」

 

由比ヶ浜にとっては衝撃の事実だったらしくオーバーリアクションをした。

 

結衣「うそ・・・。ていうか勝負内容がどっちが1位取れるかって・・・人間?」

 

風音「いくらなんでも失礼すぎるよ!」

 

雪乃「何故私がいつも3位なのかはっきりわかったわ」

 

雪ノ下は心底悔しそうな顔でこちらを見た。

 

雪乃「あなた、まさかテストでその【ロットアイ】とやらを使用してないでしょうね?」

 

八幡「【ロットアイ】は記憶力まで上げられない。思考力は上がるが、ちゃんと覚えてないと効果はないし。それに、テニスの試合後の疲れた姿を見たろ。乱用すると一気に疲労する。だから不可能だ」

 

俺が無実を証明すると俯いて、そう、とつぶやいた。お前負けず嫌いすぎるだろ。

 

結衣「というわけで、勉強会をしよう」

 

八幡「おい待て、なぜそうなる。なんにもつながりがないぞ」

 

この子いっつも突拍子もない発言するよね。もうちょっと後先考えなさいよ。

 

結衣「テスト一週間前は部活ないし、午後暇だよね。ああ、今週でも火曜日は市教研で部活内からそこがいいかも」

 

俺らを一切無視し、凄まじい速さで段取りを決めている。しかし、市教研という単語は久々に聞いたな、中学以来だ。

 

別に由比ヶ浜の意見を否定するわけではない。ここに学年1位2位3位を占領してる連中がいるんだから、俺らが教えれば成績も上がらなくはないだろう。

 

だが俺はその案を否定するつもりだ。何故なら・・・

 

以前、小町が俺と風音に教えてほしいと言って3人で勉強したことがある。最初は小町もやる気を出して取り組んでいたが、わずか1時間にして集中力は途切れ、おしゃべりが始まった。俺達が教えても『そんなことより』と言って俺と風音の学校生活について質問攻めしたんだ・・。それには俺と風音も珍しくうんざりした。お前そんなんでほんとに総武高受かんのか?お兄ちゃんとお義姉ちゃん、心配になってきたよ。

 

八幡「リア充の言う勉強会って、そういう体でお喋りしてるだけじゃねぇか。あんなのは勉強とは言わねぇよ。嫌々勉強してる人が集まったって続くわけがねぇ」

 

風音「確かにそうだね。それでシビレを切らした人が原因で雑談が始まっちゃうんだよ」

 

雪乃「へぇ、そういうものなのね。ならあまり大勢でやることは望ましくないわ」

 

俺らの否定と反論に由比ヶ浜は、うっと顔を歪めた。その顔と言い返せない感じは心当たりがあるんだろう・・。

 

結衣「だ、大丈夫だよ!ゆきのんがいるし・・とにかくサイゼに行くよ!?」

 

もうやけくそだった。仕方ない、俺も諦めて付き合いますか・・・。

 

 

 

≪サイゼリヤ≫

 

千葉の高校生ってみんなサイゼ好きだよね。千葉発祥のファミレスだからって贔屓しすぎじゃないの?

 

結衣「それじゃあ始めようか」

 

由比ヶ浜の合図で俺達の勉強会が始まった。雪ノ下はヘッドフォン、俺と風音はイヤホンを片方ずつ使って勉強を始めた。

 

結衣「え?ちょっと、なんで音楽聞くの!?」

 

八幡「は?勉強の時は音楽聞くだろ」

 

風音「周りとかの雑音を消すためにね」

 

雪乃「そうね、その音楽が聴こえなくなると集中しているいい証拠になってモチベーションが高まるし」

 

結衣「違うから!勉強会ってこういうのじゃないから!?」

 

由比ヶ浜は机をバンバン叩いて講義をした。他の人に迷惑だから、声を上げるな机をたたくな。

 

八幡「じゃあお前の言う勉強会とやらを教えてもらおうじゃねぇか」

 

俺がそう言うと俺を含めた3人は由比ヶ浜に視線を移す。

 

結衣「えっ?だ、だからわかんないところを教え合って・・・・・・ちょっと雑談?」

 

俺達は、無言で音楽再生機器に手をかけ、再び雑音のない世界に入り込む。

 

結衣「わかった!まじめにやるから、静かにするから!わかんないとこ教えてくれるだけでいいから!」

 

と雪ノ下に抱き着きながら懇願した。すっげぇゆるゆりしてる・・・。雪ノ下はうんざりした様子でヘッドフォンを外した。俺も溜息をつきながらイヤホンを外す。

 

―――――2時間後

 

気付けば夜は深まり、俺達奉仕部の勉強会は終わった。

 

由比ヶ浜がうるさかった。いや、静かにはやってたよ、ただう~とか、ハァとか、ん~って唸り続けるのはやめてほしかった。

 

風音「八くん、もう夜遅いし送ってってあげたら?」

 

八幡「それもそうだな。んじゃ行こうぜ」

 

結衣「え?いいよ。私バスだし」

 

雪乃「あら?別にいいのよ?」

 

八幡「いや、世の中物騒だからな。そのまま帰したらずっと気になっちまうだろうし。・・それとも俺じゃ不服か?」

 

雪乃「いいえ。逆に本気のあなたならシークレットサービスよりも頼もしいわ」

 

お、おおふ。すごい褒め方だな、動揺しちまったわ。まさか大統領のボディーガードと比べられるとは・・。

 

結衣「しーくれっとさーびす?」

 

どうやら理解していない人が一名・・・ほっとこう。

 

八幡「買いかぶりすぎだ。ほら、行こうぜ」

 

由比ヶ浜はバス停まで、雪ノ下は住んでるマンションまで送っていった。

 

俺達も自宅に向かう。

 

風音「雪乃ちゃんのマンション、大きかったね」

 

八幡「そうだな。しかも一人暮らしって知った時はビックリしたわ」

 

風音「あれぐらい大きな場所に住んでみたいね」

 

八幡「あんまり広すぎるのも問題だけど、確かに住んでみたいな」

 

風音「うん♪八くんと2人で暮らすなら広い方がいいかな」

 

八幡「ッ!・・そ、そうだな。2人で一緒にな・・」

 

風音「あはは、八くん照れてる♪」

 

八幡「う、うるせーな」

 

 

 

《翌日》

 

 

≪教室≫

 

授業の間の休み時間。辺りはやはりグループ分けの話で持ち切りだ。

 

彩加「比企谷君」

 

ぼーっと休み時間が終わるのを待っていた俺に話しかけてきた勇敢な戦士の正体は戸塚彩加だった。

 

八幡「ん?どうした?」

 

彩加「比企谷君はグループ決まったのかなって・・・」

 

八幡「いや、まだだ。ていうか俺からは誘うつもりないし、適当にどっかに吸い取られる予定だ」

 

彩加「あ、そうなんだ。だったら僕と一緒に行かない?」

 

八幡「・・・は?」

 

予想外の誘いに、若干上擦いた声を出してしまった。

 

八幡「俺なんかと一緒でいいのか?」

 

こんな濁った目のお兄さんと一緒に行ったっていいことないよ?逆にあることないこと言われて迷惑になっちゃうよ?

 

彩加「もう!『俺なんか』って言わないの!僕が比企谷君と行きたいんだよ。・・いい?」

 

やめろ!そんな潤んだ瞳で見ないでくれ。男子なのに罪悪感が半端ないんだよ!

 

最初は疑心暗鬼だったが、戸塚の顔を見て、純粋な気持ちで俺を誘ってくれているのだと判断した。

 

八幡「お、おう、いいぞ。誘ってくれてありがとな」

 

と、俺に手を差し伸べた戸塚に対し、誠心誠意感謝の言葉を言った。

 

ここで実験。ファーストネームで呼び合うことで人間関係は変化するか。

 

八幡「なぁ、彩加」

 

戸塚はポカーンとした顔でこっちを見た。口はポケッと開いている。・・・ああ、やっぱりいきなりは不快だったかな?人間関係変化したかも・・・悪い方向に。

 

彩加「・・嬉しい、な。初めて名前で呼んでくれたね」

 

戸塚はニッコリと微笑んだ。ええー、マジですか・・。嫌じゃないんだ・・。

 

それじゃあ、と戸塚が前置きをして、上目遣いで俺を見る。

 

彩加「僕も八幡って呼んでいい?」

 

八幡「え?お、おういいぞ、戸塚」

 

俺がそう返事をしたら、戸塚はプクッと頬を膨らませた。・・・どした?

 

彩加「八幡呼び方!彩加って言ってよ!」

 

八幡「あ、ああ。悪かったな。・・・彩加」

 

彩加「うん!それじゃあ職場体験よろしくね。八幡♪」

 

戸塚は笑顔で去っていった。正直助かったな、知り合いがいてくれれば多少は気が楽になる。

 

 

 

≪部室≫

 

 

今日も今日とて軽く勉強しながら部活に勤しむかと思っていたら、由比ヶ浜が何かを取り出した。

 

結衣「そういえば、かざねんとヒッキーって昔からいろいろなことで勝負してきたんでしょ?」

 

風音「うん、そうだよ」

 

結衣「ならコレやったことある?」

 

俺らに見せてきたのは折り紙だった。なんでそんなもん持ってんだ?

 

八幡「そういや、そんなもんやってなかったな・・・」

 

結衣「じゃあ、ここの4人で折り紙勝負しない?」

 

雪乃「え?私も?」

 

結衣「うん、なんかヒッキーたちの話聞いてたら勝負とかそういうのしてみたくなって・・・だから折り紙持ってきたの。さぁ勝負だよ!」

 

由比ヶ浜はそう言い放って俺達に折り紙を配った。

 

雪乃「そう、手加減はしないわよ?」

 

八幡「折り紙で勝負か?そういうのは思いつかなかったな」

 

風音「そうだね、年相応のゲームとかで今までやってきたからこういうのはいいかも」

 

結衣「よーし、それじゃあ始めっ!」

 

こうして俺達の折り紙勝負の火ぶたが切られた。

 

 

―――――15分後

 

 

結衣「みんなできた?それじゃあ私から。私のはこれだ!」

 

由比ヶ浜は掌に乗せて自分の作品をみんなに見せた。由比ヶ浜が折ったのは鶴だ、ちょっとヨレヨレになってるな。

 

雪乃「折り鶴、まぁ定番ではあるわね。私のはこれよ」

 

雪ノ下が折った作品は、猫だった。折り目もキッチリしていてきれいな仕上がりである。

 

八幡「へぇ、お前器用だな」

 

雪乃「そう?折り紙って折り目がしっかりしてないと崩れやすいから気を付けてるだけよ?」

 

本人らしい理由だな・・・。

 

風音「私のはこれだよ」

 

風音はクワガタを作ったらしい。・・いたなー、小学生の男子で作れる奴。2体作って合体させたり。

 

結衣「すごいねかざねん!クワガタって小学生のとき男子が作ってて憧れてたのを思い出したよ・・・」

 

風音「ありがとう、それじゃあ八くんのは?」

 

よし!俺の出番だな・・・みんな驚くぞ~、渾身の作品だからな。

 

八幡「・・・俺のは・・・これだ!」

 

雪乃&結衣&風音「「「・・・・・・・・・」」」

 

あれ?予想外の反応だな。もっと『おおー!』とか『すごい!』とかないの?みんな驚きというより絶句してるぞ。

 

八幡「ハァ・・ハァ・・どうだ?俺の渾身の・・・作品・・ハァ」

 

何故こんなに息を切らしているかというと、俺は【ロットアイ】を発動して、折り紙を折った。いま結構疲れてる、精神的に。

 

なにしろ俺が作ったのは『ドラゴン』だからな。名づけるなら、『天を舞う龍』だ、赤い折り紙で作ったから『赤〇帝』でもよかったんだけど・・。

 

結衣「ヒッキー、本気出しすぎ・・」

 

由比ヶ浜は若干どころじゃなくドン引きしている・・。

 

風音「すごいね八くん!折り紙でドラゴンなんて人類じゃ不可能だよ!」

 

風音・・・その言い分だと俺は人類から外されているんだが・・。無自覚って怖いなぁ。

 

雪乃「そこまでしてする勝負でもないでしょう?」

 

八幡「い、いいだろ?本気になるぐらい・・」

 

結衣「それじゃあ作ったやつ飾ろうか♪」

 

由比ヶ浜はそう言って机に折り鶴、折り猫、折りクワガタ、折りドラゴンを並ばせた。俺のドラゴンめちゃくちゃ目立つな・・・。

 

――――コンコン

 

折り紙作品を眺めていたら、ドアの叩かれた音がした。こんな時間に依頼か?もう夕方だぞ・・。

 

雪乃「どうぞ」

 

隼人「こんな時間にごめん。ちょっと失礼するよ」

 

入ってきたのは、あの外面イケメン王子の・・・誰だっけ?テニスの練習を邪魔してきた奴だったのは覚えているんだが・・・。

 

隼人「結衣も、新島さんもごめんな」

 

風音は軽く頷き、由比ヶ浜は返事をする。

 

結衣「ううん、まだ時間あるしいいよ」

 

隼人「ヒキタニ君も少しいいかな?」

 

申し訳なさげな笑顔で俺に聞いてきた。あとここにヒキタニ君はいない。読んでますよ?ヒキタニさん。

 

八幡「・・・別に」

 

俺は沢〇エリカを発動して素っ気なく答えた。これ便利だよね・・。

 

雪乃「それで、何の用かしら?葉山隼人君」

 

へぇ、こいつ葉山って言うんだ・・。何故か知らんがこいつとは今後も何か関わってくると思うから名前覚えておこう。

 

隼人「ああ、実は相談したいことがあって。・・これを見てくれないか?」

 

葉山は、俺達の前に携帯の画面を見せてきた。そこには

 

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』

 

『大和は三股かけている最低のクズ野郎』

 

『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』

 

と書かれたメールだ。なるほど、所謂チェーンメールというやつだな。

 

結衣「あー、それ、私のところにもきた」

 

八幡「それで、これがどうしたんだ?」

 

隼人「実はここに書かれている3人は俺の友達なんだ。こういうこと書かれるとなんか腹立つし。何とかできないかと思って・・・。でも犯人捜しをしたいわけじゃない、俺は穏便に解決したいと思っている」

 

雪乃「なるほど、つまり事態の収拾図ればいいのね」

 

隼人「ああ、そうだな」

 

雪乃「では犯人を捜すしかないわね」

 

隼人「・・・え?なんでそうなるの?」

 

前後を完全に無視された葉山が一瞬驚いた顔をしたが、次に瞬間には取り繕った微笑みで穏やかに雪ノ下の意図を問う。

 

すると、葉山とは対照的に、凍てついた表情の雪ノ下がゆっくりと、それはまるで言葉を選ぶかのように話し始めた。

 

雪乃「チェーンメール・・・。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さず、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。悪意を拡散させるのが悪意とは限らないのがまた性質が悪いのよ。好奇心や時には善意で、悪意を周囲に拡大し続ける・・・。止めるならその大本を根絶やしにしないと効果がないわ。ソースは私」

 

風音「実体験なんだね・・・」

 

雪ノ下の意見は正しい。何事も元凶を潰さなきゃ、解決にはならないだろうし。これ以上被害が拡大しないためにも、犯人を捜すしかない。

 

八幡「葉山、お前は何故犯人を見逃すような甘ったるい事を言ってんだ?」

 

隼人「いや、甘ったるいって、俺はただ大事にしたくなくて」

 

八幡「だからそれが甘いと言ってるんだ、友達が悪く言われてるのに、何故犯人を庇うようなことを薦める?」

 

隼人「それは・・・・」

 

風音「八くん、言ってることは正しいと思うけど、責めるのはだめだよ。一応依頼主の意見でもあるんだから」

 

八幡「・・・わかった。んじゃ、犯人捜しと穏便に済ます方法、両方考えることでいいか?」

 

隼人「・・ああ、それでもかまわない」

 

葉山は諦め半分の苦々しい顔で了承した。

 

雪乃「それじゃあお互い別々で調査を進めていきましょう。・・まずは、メールはいつごろに送られたのかした?」

 

隼人「先週末からだよ。・・・なぁ、結衣」

 

葉山が答えると、由比ヶ浜も頷く。

 

雪乃「先週末から突然始まったわけね。先週末に、その3人が関係する出来事は何かあったの?」

 

隼人「いや、特になかったけど」

 

風音「雪乃ちゃん、先週末って確か職場見学のグループ分けをするって話があったよ」

 

風音がそう言うと、由比ヶ浜は、ハッと何か気付いたように口をはさんだ。

 

結衣「それだよ、きっとグループ分けのせいだ」

 

隼人「え?そんなことで?」

 

結衣「うん。こういうことあんま言いたくないけど、職場見学のグループって3人までじゃん。でも隼人君の男子グループって4人いるし、ハブられるのが怖くて、メール送ったんじゃないかと思って」

 

・・俺はこの時、少し感心をした。アホの由比ヶ浜がそこに辿りついたことに・・・。今まで空気読んできたこいつなら少し敏感に察知するのだろうか・・。

 

雪乃「成程、それでは容疑者はあの3人が最有力候補で決まりね」

 

雪ノ下が結論を出すと、葉山が声を荒げて異議を申し立てた。

 

隼人「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はあいつらの中に犯人がいるなんて思いたくない。それに、3人それぞれ悪く言うメールなんだぜ?あいつらは違うんじゃないのか?」

 

八幡「はっ、馬鹿だなお前、どんだけおめでたい頭してんだよ。他人を過信しすぎだ気持ちわりぃ。そんなの自分が疑われないようにするためだろ?」

 

風音「八くんの言う通りだね。それに、その3人の誰かをハブらせるメリットなんてその3人にしかないよね?他の人がやったってメリットなんてないし」

 

俺と風音の反論に葉山は悔しそうに唇を噛んだ。こんなこと想像していなかったんだろう。自分のそばに憎悪があることを・・・。すごいな~、ここまで頭がcongratulationな奴俺は初めて見たよ。違う意味で興味がわいちゃうかも。

 

雪乃「それではまず、その3人の特徴を教えてくれないかしら?」

 

雪ノ下が情報の提示を求める。

 

すると葉山は意を決したように顔を上げた。その瞳には信念が宿っている。おそらくは友の疑いを晴らそうという崇高なる信念が。

 

隼人「戸部は、俺と同じサッカー部だ。金髪で見た目は悪そうに見えるけど、一番ノリのいいムードメーカーだな。文化祭とか体育祭とかでも積極的に働いてくれる、いい奴だよ」

 

雪乃「騒ぐだけしか能がないお調子者、ということね」

 

隼人「・・・・・・」

 

雪ノ下の一言に葉山は絶句していた。当然俺らもだ。俺でもそんな偏った捉え方しないぞ・・。

 

雪乃「・・どうしたの?続けて」

 

隼人「あ、ああ。大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりしたマイペースさとその静かさが人を安心させるっていうのかな。寡黙で慎重な性格なんだ。いい奴だよ」

 

雪乃「反応が鈍いうえに優柔不断・・・と」

 

隼人「・・・・・・」

 

葉山はもう諦めたかのような顔で、ため息をつきながら続ける。

 

隼人「大岡は野球部だ。人懐っこくていつも誰かの見方をしてくれる気のいい性格だ。上下関係にも気を配って礼儀正しいし、いい奴だよ。」

 

雪乃「人の顔色窺う風見鶏、ね」

 

隼人「・・・・・・」

 

・・・雪ノ下さん、マジパネェッす。よく人をそこまで悪しざまに解釈できるな。見ろ葉山を、もう諦めたかのように曇り顔で沈黙してるぞ。実際俺らも終始ポカーンとしてたからな。

 

雪乃「どの人が犯人でもおかしくないわね」

 

八幡「むしろお前が一番犯人っぽいぞ」

 

雪乃「私がそんなことするわけないでしょう。私なら正面から叩き潰すわ」

 

風音「叩き潰すことには変わりないんだ・・アハハ・・」

 

結衣「ゆきのんに仲良くするって選択肢はないんだね・・」

 

2人とも呆れて、乾いた笑いをこぼす。

 

隼人「じゃあ悪いけどよろしく頼む。・・ところで一つ気になってたんだが・・」

 

葉山は机の上に飾られている俺の折ドラゴンを指さした。

 

隼人「これは誰が折ったんだい?」

 

え?何こいつ、興味あるの?折り紙に?

 

八幡「・・俺だけど」

 

隼人「君が?すごいな、折り紙で龍なんて初めて見たよ!」

 

葉山は興奮気味で折ドラゴンを手に取り、観察している。めっちゃ目輝かせてるし、笑顔だ。突然童心に帰ったのか・・・。

 

でもまぁ分からなくはないな。ドラゴンなんて憧れの象徴であり、男の一種のロマンだ。大人になってもそれは続くもんなんだよな。

 

八幡「そ、そうか。なんならそれやるぞ」

 

隼人「え?いいのかい?それじゃありがたくもらうよ」

 

すいません。こいつ誰ですか?さっきの薄っぺらい外面笑顔とは裏腹に子供のような笑顔をしているんですが・・。

 

隼人「じゃあチェーンメールの件。よろしく頼むな」

 

雪乃「え、ええ・・」

 

葉山は上機嫌で部室を出て行った。何だったんだ、今の変わりようは。さっきまでの甘ちゃんとは大違いだ。

 

結衣「い、意外な一面・・・」

 

雪乃「あんな彼、初めて見たわ・・・」

 

風音「突然別人みたいに変わったね・・」

 

俺もみんなも驚きを隠せていない。そりゃそうだ。カースト最上位のイケメンが折り紙で興奮していたのだから。しかも目を輝かせて。

 

八幡「なぁ、話を戻そうぜ。チェーンメールについてだが・・」

 

雪乃「ええ、そうね。目の前の光景が衝撃的だったから頭から離れていたわ」

 

風音「とりあえず、犯人を捜すのと穏便に事態を収拾させる方向に決まったよね」

 

雪乃「そうね。・・あの3人と同じクラスの由比ヶ浜さんと比企谷君に調査をしてもらいたいのだけれど。いいかしら?」

 

八幡「まぁ風音と雪ノ下は俺らとクラス離れてるしな。出来る限りのことはやる」

 

結衣「うん、任せて!」

 

風音「私たちもこっちで何か考えるから、八くんも頑張ってね!」

 

八幡「おう」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

気付いたら1万文字超えてました。

また次回。


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8話:俺と彼女の不良化シスター

はい、どうも、アイゼロです。

8話突入。

10話ぐらいから、原作改変させる予定です。

それではご覧ください。


《昼休み》

 

 

≪2年F組教室≫

 

昨日の葉山からの依頼で、俺達は自分のクラスで調査を始めようとした。

 

結衣「よし、やるぞー!」

 

何故か由比ヶ浜は燃えていた。若干引いてる俺ガイル。

 

八幡「なんか、やけに気合入ってるな・・」

 

結衣「ゆきのんにお願いされたからね。全力で頑張るよ!」

 

八幡「そうか。ま、健闘を祈ってるぜ」

 

あまり期待はしないが・・・・。

 

 

案の定でした。あいつドストレートすぎる。『あの3人最近アレだよねー』ってへたくそか!おかげで金髪ドリルに警戒されてるし、眼鏡の女子はテンション上がって、噴水の如く鼻血出してるし。

 

しゃあねぇ、俺も始めるか・・。

 

俺は文庫本を開き、周囲の会話に耳を研ぎ澄ました。

 

・・・ん~・・・しばらく経っても特にこれといった情報は入ってきてないな。もうちょい範囲広げるか。【ロットア「ちょっといいかい?」

 

【ロットアイ】の発動を阻止してきた奴は、葉山だった。なっ!何をするだァーーーーーッ、ゆるさ・・・やっぱ許そう。

 

八幡「・・・なんだよ?」

 

隼人「ああ、何かわかったかなと思ってさ」

 

八幡「いや、まだだ。そんなすぐわかるわけ・・・・」

 

と葉山の質問に対して否定しようとしたが、窓際のあの3人の光景を見て、それは遮られた。

 

3人とも携帯をいじり、だるーっとしていた。そして時折葉山の方をちらっと見ている。

 

・・・成程な。そういう事か。

 

隼人「ん?どうしたんだ?」

 

俺は自信に満ちた顔で、言い放った。

 

八幡「わかったぜ。何もかもな。今日の放課後、奉仕部に来い。その時話す」

 

葉山にそう言った後、俺は読書に耽った。おそらく葉山は腑に落ちない顔で元の場所に戻っただろう・・。

 

 

 

《放課後》

 

 

≪部室≫

 

 

部室には、葉山含め、奉仕部全員がそろっていた。

 

雪乃「どうだったかしら?」

 

結衣「ごめん。いろんな女子に聞き回ったけどわからなかった」

 

雪乃「いいえ構わないわ。それにチェーンメールに関して話題が出ていないのならそれは男子だけの問題ってことがわかったもの。ご苦労様」

 

結衣「ゆきのん・・・」

 

風音「八くんはどうだった?」

 

おう、謎はすべて解けたぜ。ここからは俺の推理ショーの始まりだ。

 

八幡「ああ、すべて分かった。ついでにその事態を穏便に収拾させる方法もな」

 

俺の言葉に、ここにいる全員が驚愕していた。顔に出過ぎだぞ。ババ抜きしてるとき言われなかった?俺は小町と風音としかやったことないからわからんが・・・。

 

隼人「それじゃあ、説明してくれないか」

 

八幡「まず、チェーンメールに関してだが、これは問題ない。なんなら犯人云々とかもうどうでもいい」

 

雪乃「放っておいていいの?」

 

八幡「ああ、あんまり騒ぎにもなってないみたいだしな。・・・それじゃ葉山に聞く。お前はお前がいないときの3人を見たことあるか?」

 

隼人「いや、見たことないが」

 

結衣「そんなん当たり前でしょ。いないんだから見えるわけないじゃん」

 

八幡「だから葉山は気付かないんだ。あいつらが3人の時、傍から見たら全然仲良くないぞ。携帯いじったり、ポケーッとしてるだけだ。分かりやすく言えばあいつらにとって葉山は『友達』でそれ以外は『友達の友達』なんだよ」

 

結衣「あー、それわかる。会話を回してる人がいなくなると一気に気まずくなっちゃうんだよね・・・」

 

由比ヶ浜の気持ちが風音もわかるのかそうだね、とうなだれながら同意していた。一方雪ノ下は、よくわからない、と顔に出ていた。さすが雪ノ下だ。交友関係をもったことないから、わからないんだな。俺もだけど。

 

風音「それで、八くんが考えた解消法は何?」

 

隼人「・・ヒキタニ君、俺は何をすればいい?」

 

この事態の原因が自分自身にもあったことに責任を感じてんのかわからんが、こいつにはやることがある。

 

八幡「なーに、簡単なことだよ。これはお前にしかできないことだ」

 

隼人「・・なんだ?」

 

八幡「葉山・・・・お前がハブられろ」ニヤッ

 

俺の一言にこの場にいる全員が「え?」と声に出した。

 

 

 

《翌日》

 

 

≪2年F組教室≫

 

俺は今、戸t・・彩加と2人で職場体験について話し合っている。あと1人、どうしようか・・。誰かいたかな?

 

俺は後ろに黒板に目をやり、誰が残っているか確認した。そこには

 

『戸部、大和、大岡』

 

と書かれていた。あれ書いた時の3人は照れ臭そうに笑いあってたな。

 

そこには『葉山』という名前は書かれていなかった。

 

昨日俺が提案した「ハブられろ」っつーのは、原因の一つである葉山を取り除くということだ。そして、職場体験のグループを利用してあの3人が友達(笑)になれるように仕向けたのさ。ドヤァ・・・。

 

隼人「戸塚、ヒキタニ君。ここ、いい?」

 

噂をすれば葉山が来た。俺達の返事を待たずに、戸塚の隣に座った。

 

隼人「君のおかげで丸く収まったよ。ありがとな」

 

そう朗らかに感謝の意を言葉にした葉山。

 

八幡「別に俺は何もやってねぇよ」

 

隼人「いや、君がああ言ってくれなきゃ、酷い揉め事になったかもしれないし。

それに、俺のせいで揉めることもあるんだな、と少し痛感したよ。ま、あの3人がこれで本当の友達になれればいいなと思っているよ」

 

正直ここまで友達想いだと逆に不気味に感じる。病気なのかとも疑うな・・。千葉でも有数の博愛主義者じゃないのか?

 

隼人「それでさ、俺まだグループ決まってないんだけど、よかったら2人の中に入れてくれないか?」

 

彩加「うん、ちょうど僕たちも3人目を探してたとこなんだ。僕はいいよ。八幡は?」

 

八幡「彩加がいいなら俺も構わねぇよ」

 

隼人「ありがと。それじゃあ名前書きに行こうか。行きたい場所はある?」

 

八幡「どこでもいいぞ」

 

彩加「僕も、決まってないからお任せするよ」

 

俺と彩加の返答に葉山はそうか、と言って後ろの黒板に書きに行った。

 

『葉山、戸塚、比企谷』

 

あ、漢字だと間違えずに書けるんすね。ワーイハチマンウレシイナー。ならついでに、呼ぶときも名前間違えないようにしろよ・・。

 

隼人「あ、そうだ、ヒキタニ君。君の作った龍をみんなに見せたら、作ってほしいって頼まれたんだけど」

 

ぅおおおいぃ!何してくれちゃってんのー!?アレ作るのかなり疲れるんだぞ!どれくらいかというと、帰宅部が校庭5週走り終わった直後ぐらいだ。それを何回もやらせる気か?それに目立ちたくないからやりたくない。お断りしよう。

 

八幡「ハァ、ヤだよめんどくさい。疲れるし」

 

隼人「そうか。そうだな、アレは簡単に作れる物じゃないし、潔く諦めるよ」

 

意外とあっさり退いたな・・。もうちょっと粘られるかと思って身構えてたが、その必要はなかったな。よかったよかった。

 

彩加「え?八幡が龍を作ったって、どういうこと?」

 

隼人「ああ、これだよ。これをヒキタニ君が作ったんだ」

 

葉山はそう言って、俺が折ったドラゴンを彩加に渡した。なんで持ち歩いてるんだよ・・。思わず笑っちまうところだったぞ。

 

彩加「わぁ!すごいね八幡!どうなってるんだろう、これ・・。」

 

彩加は折ドラゴンを不思議そうに眺めた。ちなみに、どういう構造になっているかは、企業秘密だ。ていうか【ロットアイ】状態じゃなきゃ、ほぼわからない。

 

八幡「それで、どこにしたんだ?職場」

 

隼人「マスコミ関係のとこだよ。気になっててね」

 

マスコミか・・。

 

報道機関―マスコミュニケーションで情報の発信側となる機関; 報道 - 出来事を取材し、マスメディアで公表する仕事だ。

 

八幡「・・意外だな」

 

隼人「そうか?まぁ、親の仕事と深い縁がある職業だからね。興味はあったんだ・・」

 

マスコミと縁がある仕事ね。っつーことは、政治とかに関係する仕事か。ボンボンじゃねぇか・・。

 

隼人「じゃあ、俺はもう戻る」

 

彩加「うん、またね」

 

彩加は手を振って葉山を見送った。

 

 

 

《翌日の朝》

 

 

≪八幡の部屋≫

 

葉山君のチェーンメール事件が解消された日の翌日。私、新島風音は今、八くんの部屋にいます。

 

八くん寝坊です。もうすぐ出ないと学校に遅刻してしまいます。

 

風音「八く~ん、起きて。遅刻するよ」

 

呼びかけるが、ビクともしない。体を揺らしても、起きる気配はない。

 

風音「・・・起きたらいいことしてあげるよ?」

 

ダメもとでそう耳元でつぶやいた。

 

八幡「嬉しいねぇ、何してくれるんだ?」ムク

 

風音「え?」

 

私がつぶやいた途端、八くんは起きだした。まるで図ったかのように・・。

 

八幡「で、いいことって・・何してくれるんだ?」ニヤ

 

風音「えっ!そ、それは、八くんを起こすための言葉の綾というか・・」アタフタ

 

八幡「なんだ・・そうだったのか」

 

八くんは再び布団を被った。・・ってちょっとちょっと!遅刻する!

 

風音「八くん起きて~!」

 

八幡「つーん」

 

完全に拗ねちゃったよ・・。

 

風音「・・八くん!」

 

八幡「ん?なんdムグッ!」

 

私は八くんに顔を近づけて、自分の唇を八くんの唇に重ねた。

 

風音「ほ、ほら!行くよ//」

 

八幡「え、あ、おう//」

 

うぅ、ちょっと恥ずかしい・・。けど、嬉しさの方が勝ってるな、エへへ//。

 

 

 

 

《放課後》

 

 

朝の出来事で浮かれてたから、時間が速く感じた。

 

特に授業は問題なく進み、部活もないため俺ら奉仕部はサイゼで勉強会を開いている。

 

俺と風音は黙々とシャーペンを走らせ、由比ヶ浜は雪ノ下に教えてもらっている。

 

・・・・ん?なんかこの問題頭につっかかるな・・。どうするか・・。

 

風音「ああ、それはここをこうしてこうすれば解けるよ」

 

八幡「成程。ありがとな」

 

風音は俺の苦悩を察知し、ヒントを教えてくれた。俺達は、わからないところは教え合うが、答えは言わない。お互い分かりやすいヒントを与えて自分で解かせるのだ。

 

と説明をしていたら、風音の手が僅かに止まった。

 

八幡「それはそこを重点的に読めば解けるぞ」

 

風音「あ、ほんとだ。ありがとう♪」

 

とまぁ、こんな風に、何も言わずに通じ合っている。

 

小町「あれ?お兄ちゃん?それと風姉・・」

 

声のした方を振り返ると、そこには中学の制服を着た妹がいた。

 

風音「あれ?小町ちゃんどうしたの?」

 

小町「いやー、実はちょっと相談されたことがあって・・・」

 

小町はそう言って、後ろの男子を前に出した。

 

?「お、同じクラスの川崎大志っす。よろしくっす。」

 

名乗った男子はぺこりと一礼をする。

 

八幡「それで?場合によっちゃ、【ロットアイ】酷使してでもこいつを八つ裂きにするが・・・」

 

俺は殺気を放って、低い声音で警告した。その俺を見て男子は怯えた表情になる。

 

小町「ちょっ!ストップストップ!お兄ちゃんそれマジでシャレにならないから!?ただの友達だよ!」

 

風音「八くん抑えて!私も問い詰めようとしたけど、小町ちゃんああ言ってるし!」

 

八幡「・・・そうか。すまなかったな、大志とやら」

 

俺が謝ると大志は安堵の表情になった。え?そんなに怖かったの?今度鏡見てみよう。

 

雪乃「あなた、かなりのシスコンなのね」

 

八幡「家族思いと言え」

 

小町「ん?お兄ちゃん、そこの2人は誰?」

 

八幡「同じ部活の人だよ。ほら、この前話したろ。奉仕部」

 

小町「そっか。始めまして、妹の小町です。お兄ちゃんとお義姉ちゃんがお世話になってます!」

 

雪乃「初めまして、雪ノ下雪乃よ。奉仕部の部長をしているわ」

 

結衣「は、初めまして、ヒッキーと同じクラスの由比ヶ浜結衣です。・・・え?お義姉ちゃんって?」

 

小町「はい!風姉の事です!将来の私の義姉ですからね!」

 

風音「こ、小町ちゃん!みんなの前でそれは・・・///」

 

小町ェ、それをファミレスで大きい声で宣言しないでくれ。恥ずかしい。

 

結衣「へ?それって」

 

八幡「あまり詮索しなくていい。それで、俺らに何か用があったのか?」

 

小町「あ、実は大志君から相談受けてて・・・そうだ!お兄ちゃんたちも聞いてくれない?そういう部活でしょ?」

 

八幡「だとよ。どうする?一応今は部活動停止期間だが・・・」

 

ルールに厳しい雪ノ下のことだ。一度決めたことは曲げないだろうし。勝手に受けてもいい思いはしないだろう。

 

雪乃「そうね。受けたいのはやまやまなのだけれど・・」

 

結衣「いいじゃん!受けてあげなよ!」

 

由比ヶ浜は急に笑顔になって、雪ノ下を説得していた。お前勉強したくないだけだろう・・・。

 

雪乃「由比ヶ浜さんは勉強したくないだけなんじゃなくて?」

 

どうやら雪ノ下もそう思ってたらしい。その言葉に由比ヶ浜は、悪事がバレた少年のような表情をしていた。

 

風音「まあ、相談だけでも聞いてあげたら?実行するかは置いといて。ね、八くん」

 

八幡「まぁ風音がそう言うなら、俺はいいが・・」

 

雪乃「私もいいわ。このまま言われ続けるよりかはマシだろうし」

 

雪ノ下も渋々了承した。

 

八幡「それじゃ大志とやら、相談というのは?」

 

大志「あ、はい。俺の姉ちゃんの事なんですが・・総武の2年で名前は川崎沙希って言うんすけど、最近になって不良っぽくなったっていうか・・」

 

結衣「あー、川崎さんでしょ。ちょっと怖い系の」

 

その名前に心当たりがあるのか由比ヶ浜が反応した。

 

八幡「知ってるのか?」

 

結衣「いや、そもそもF組だし。・・今更か」

 

由比ヶ浜は呆れた顔で溜息を吐いた。うむ、確かに今更だ。どうでもいいからな・・。

 

風音「それで、その不良化?したお姉ちゃんがどうしたの?」

 

大志「は、はい。なんか2年になってから、姉ちゃんそういう感じになって・・・・・前はすごく優しくて、下に妹と弟がいるんすけど、結構面倒見てて、飯も作ってくれてたんす」

 

雪乃「成程ね。2年になって学校では変わったことってあったかしら?」

 

結衣「今のところクラス替えだけだけど・・」

 

雪乃「それだと、事情があるのは家ということになるわね」

 

雪ノ下の言い分に、大志も大きく頷く。

 

大志「あとそれだけじゃないんす。帰りもすごく遅くて・・・」

 

八幡「具体的には何時くらいだ?」

 

大志「5時くらいっす」

 

八幡「むしろ朝じゃねぇか。相当深刻だなこりゃ・・」

 

高校生がそんな時間まで帰らないのは、結構な問題ごとだ。犯罪にだって巻き込まれるかもしれねーし。大体親とかに連絡とかされないのか?

 

風音「それで、両親とかには何も言われないの?」

 

大志「そっすね。うちは両親共働きだし、下に妹と弟がいるんであんま姉ちゃんをうるさく言わないんすよ。それに時間も時間何でめったに顔が合わないし・・・・それに俺が聞いても『関係ない』の一点張りなんす」

 

八幡「成程な。察するに家族にばれたくないことでもしてるんじゃねぇか?」

 

雪乃「そうね。それに彼女は優しいと言われてるのだから、心配を掛けたくないという思いがあると思うわ」

 

大志「あと、家に電話がきたんす。エンジェル何とかっていう場所から・・」

 

結衣「エンジェル?」

 

雪乃「・・・・おそらくバイト先じゃないかしら?家族には内緒にしてるのだから知らなくてもおかしくないわ」

 

風音「確かにそれはあるかも。・・ていうことは深夜バイトしてるって事じゃん!」

 

八幡「おいおい、労働基準法破ってるじゃねぇか。こんなんばれたら大事だぞ」

 

ハァ・・・面倒なことに巻き込まれちまったな。こんなこと聞いてしまった以上なんとかしなきゃいけないだろうし。まぁ、小町からのお願いじゃ仕方ないな・・。

 

八幡「大志。この件はこっちで考えとく。それと途中でお前に聞きたいことがあるかもしれない、だから連絡先教えろ。そんでもう夜遅いから帰れ」

 

大志「え?あ、はい!ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 

八幡「それと風音。少し話したいことがあるから風音の部屋に泊まらせてくれ」

 

風音「え?うん、分かった!」

 

風音との約束を取り付けた俺は、雪ノ下達を送って帰った。何故か由比ヶ浜が声にならない叫び声を出していたが、無視した。いつものことだし・・。

 

 

 

≪新島家≫

 

八幡&風音「「ただいま」」

 

「あ、おかえり~。あら八幡君、うちに来るのは久しぶりね」

 

俺達を出迎えてくれたのは、風音の母である。

 

八幡「ええ、いつも来てもらってた側なので、たまには風音の部屋に入りたいなと思って」

 

「そうなのね。ところで八幡君、別に敬語じゃなくていいのよ?昔からの仲じゃない」

 

八幡「いえ、そういうわけにも・・」

 

「いいじゃない?遠慮しなくていいのよ?そんな他人行儀だとお義母さん寂しい・・」ツンツン

 

風音の母ちゃんは、俺の頬をツンツン突いて、寂しげな表情をした。

 

風音「ちょっとお母さん!」

 

「あらやだ♪実の娘に嫉妬されちゃったわ、うふふ♪」

 

風音「もう!//」

 

「ふふっ、幸せそうで何よりだわ。お父さんもいるから会ってあげたら?喜ぶわよ?」 

 

八幡「はい。そうさせt」

 

「・・・」ジ~

 

八幡「わ、わかった。そうさせてもらう」

 

「うん、よろしい♪」

 

まだ玄関なのに疲れちまった。風音ママのスキンシップは相変わらずだったな。まぁいっか、リビングに向かおう。

 

リビングに着くとそこには日本酒を飲んでる風音パパがいた。俺を見つけると、嬉しそうな顔で

 

「おおー!八幡君じゃないか!久しぶり、元気してたか?」

 

と歓迎してくれた。

 

八幡「はい。風音のおかげで毎日元気に過ごせてますよ」

 

「そうかそうか。上手くやってるんだな!それと玄関でのやり取り聞こえてたからな。俺にもタメ口でいいぞ。拒否権はない」

 

八幡「ハハ・・わかったよ」

 

「まぁ立ち話も何だ。少し話したいことがある。座ってくれ。今飲み物持ってきてやる」

 

そう言って、冷蔵庫から取り出してきてくれたのはMAXコーヒーだった。え?何で準備されてるんだ?この飲み物は俺と風音ぐらいしか飲まないのに・・・。

 

「娘の要望でな。いつ八幡君が来てもいいときに備えてたんだ」

 

義父ちゃんは、俺の心を読み取ったかのように説明した。それを聞いた俺は風音の方を向くと笑顔を俺に向けてきた。俺は無言で頭を撫でる、なんでだろう・・風音の笑顔を見ると頭を撫でたくなるのなんでだろ~?古い。

 

「おうおう、見せつけてくれるねぇ。ま、お前らが幸せならそれでいい。俺らの幸せでもあるからな。頑張れよ!」

 

なにこの人超カッコいいんだけど・・。今すごいジーンときた。しまいにゃ泣くぞ?

 

「それで、孫はまだかね?俺は早くおじいちゃんと呼ばれたいぞ」

 

八幡「ブフッ!?」

 

前言撤回。いきなりすぎる、マッカン吹いちまったじゃねぇか!

 

八幡「い、いきなりなんだよ!ていうか、そういうのは高校生の俺らにはまだ早い!」

 

「何!最近の若者は、高校生でもう初めてを捧げる人が多いと聞くぞ!」

 

八幡「それどこ情報だよ!確かにいるかもしれんが、俺達はまだそういうことはしない!」

 

「そんな!俺は死ぬ前に孫の顔を拝みたいぞ!」

 

八幡「あんたまだ35だろ!死にゃしねぇよ!俺達は純粋に愛し合って生きてくんだ!」

 

「うーん、しかし!やはり1分1秒でも早くおじいちゃんと呼ばれたい!」

 

八幡「我儘すぎるわ!そうかそこまで孫が見たいか?ならあんたが40になる前に拝ませてやるよ!」

 

「それは本当か!?」

 

八幡「男に二言はねぇ!」

 

「そうか!期待してるぞ!」ガシッ

 

八幡「おう!」ガシッ

 

俺と義父ちゃんはがっしり握手をして、男と男の約束をした。

 

風音「アワワワワワ/////」

 

風音の方を見ると、顔を真っ赤にして目を回していた。やべっ、口論に夢中で忘れてた。

 

取りあえず、風音の部屋に行こう。

 

八幡「じゃあ俺達は部屋に行きますね」

 

「おう。久しぶりに話せて楽しかったぜ」

 

 

≪風音の部屋≫

 

八幡「落ち着いたか?」

 

風音「うん//」

 

八幡「その、悪かったな。熱くなってて、変なこと口走っちまって・・」

 

いくら熱くなってもアレは失言だったな。不快にしちまったかもしれない。

 

風音「別に不快だったとかじゃないんだよ。ただ、いきなり言われて恥ずかしかっただけ//それにお父さんの発言が火種だったんだから・・。」

 

八幡「いや、それでも俺の気が済まないんだが・・・」

 

風音「八くんはやっぱり優しいね。それなら・・・今日はこうしながら寝たいな♪」ギュウ

 

そう言って風音は、俺に抱きついてきた。あれ?風音ってこんな積極的な彼女だったっけ?

 

八幡「・・わかったよ、お安い御用だ。眠れない熱~い夜を過ごそうぜ」ギュウ

 

風音「なんでそんな意味深に解釈するの!?//純粋に愛し合っていくんでしょ!///」

 

八幡「アッハハハ。あまりにも可愛いから、からかいたくなるんだよ」

 

風音「うぅ~//わ、私だって、やるときはやるよ!」

 

風音は抱き着いた状態で、俺をベッドに押し倒し、強引に、強くキスをした。

 

八幡「お、おい。さすがの俺も予想外だったわ」

 

風音「たまにはやり返さないと、気が済まないの!今日はこれで寝よう!」

 

風音は、自分の身体を俺の身体に乗せた状態で、現状維持を宣言した。

 

別に嫌というわけではない。むしろ、柔らかくて気持ちがいい、至福のひと時なまである。ただ、俺が安眠できるかどうかなんだ。

 

八幡「風音」

 

風音「」zzz

 

もう寝ちゃってるし。きっと、恥ずかし疲れたのだろう。ならしょうがない、俺もさっさと寝よう。

 

この状態のまま、彼女の腰に手を回し、目を瞑った。

 

 

 

翌朝、お互いの寝相のせいか、態勢が逆転していて、俺がのしかかってる状態で、目が覚めた。その時の風音の反応が、面白くて、わざと動かないでいたら、案の定怒られた。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

また次回。


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9話:俺と彼女の説得スカラシップ

はい、どうも、アイゼロです。

9話突入。

段々、タイトルに無理が出てきて、焦ってる。

それではご覧ください


風音の部屋に泊まった翌日の放課後。俺達は大志の依頼で姉の不良化の原因を調べている。途中で彩加に会い、由比ヶ浜が勝手に相談内容を言って、協力してくるとのこと。お前ぺらぺらしゃべりすぎ・・。守秘義務というものを知らないのか。

 

そんなわけで俺達は校門前で作戦を練っている。現在のメンバーは、俺、風音、雪ノ下、由比ヶ浜、小町、彩加、大志の7人だ。

 

雪乃「少し考えたのだけれど、一番いいのは川崎さん自身が自分の問題を解決することだと思うの。誰かが強制的に何かをするより、自分の力で立ち直った方がリスクも少ないし、リバウンドもほとんどないわ」

 

八幡「そりゃそうだろ」

 

不良に限らないが、自分の行動を他人にあれこれ言われるのは腹がたつだろう。例えば、親に勉強しろと言われて、やる気をなくす。これと同じだ。

 

雪乃「まず、一つ目の案はアニマルセラピーよ。動物と触れさせ合うことで彼女の心のケアになると思うの」

 

大志「あ、すんません。姉ちゃん動物アレルギーなんでダメだと思います」

 

はい没。次

 

八幡「平塚先生に話してみたらどうだ?あの人他の教師より生徒の関心が高いし、生活指導を担当している。むしろこれ以上ない人選だと思うが」

 

彩加「あ、それいいかも。親だと近すぎて話しづらいこともあるだろうし。やってみようよ」

 

彩加の賛成の意に他の奴も頷いて納得した。そうと決まれば連絡だ。先日、先生に無理矢理ケータイ番号交換させられたのが功を奏したな。

 

八幡「・・・あ、先生ですか?実は・・・・」

 

平塚先生に事情を話し、ここに来るよう約束を取り付けた。

 

5分後、ヒールをカツカツ鳴らしながら俺達にもとに先生がやってきた。

 

八幡「あれ?早かったですね」

 

平塚「うちの生徒が深夜バイトしてるという由々しき事態にのんびり等してられないだろう。これに限っては緊急性を要する。私が解決しよう」

 

ふっふっふ、よ不敵な笑みを浮かべる平塚先生。何か勝機でもあるのか?

 

平塚「君たちは見てたまえ。2分ほどで戻る」

 

あれ?何でだろう、頼もしいこと言ってる筈なのにこの不安は・・・。嫌な予感しかしない。

 

そしてその予感は見事に的中してしまった。

 

平塚先生は川崎を呼び止めて、朝帰りの話を切り出していた。それからしばらく口論になって、イケるか?と思っていたら、先生はうなだれてトボトボと川崎から離れていってしまった。何言われたのか大体想像できるが口には出さないでおこう。そして一方の川崎はずっと無表情を貫いていた。その分余計ダメージがデカい。先生、南無三!

 

はい次

 

結衣「やっぱり女の子が変わることなら、こ、恋とかじゃ、ないかな?」

 

なにやらとても恥ずかしいことを口走りやがったぞ、こいつ。その提案で何故か由比ヶ浜は、あの甘ちゃん博愛主義者、葉山を連れてきた。

 

あとなんで今時のJKは何でも色恋沙汰に話を繋げるのだろうか。常に脳内では妄想が働いてるのか?それまたずいぶんcongratulationな頭ですこと。深夜バイト=恋?(ヾノ・∀・`)ナイナイ。

 

隼人「それで、なんで俺なんだ?」

 

結衣「え、だって隼人君モテるし」

 

確かにこいつは見た目はイケメンだからな。さぞ女の子におモテになっているんだろう・・。

 

隼人「え、いや、それで俺?・・ヒキタニ君とかはダメなの?」

 

八幡「あ?お前彼女の前で女口説けっつってんのか?ふざけんじゃn

 

風音「ダ、ダメ!八くんが口説いていいのは私だけだよ!誰にも渡さないから!」ダキッ

 

八幡「うお!ちょっと風音!」

 

いきなり何やってるの風音!ほらみんなポカーンとして見てるから、おい小町、そのニヤニヤした顔やめろ、無性にチョップしたくなる。

 

風音は自分が何をしたのか理解し、顔を赤くして俺の胸板に顔をうずめてきた。それにしても、嫉妬した風音、可愛かったなぁ、写真撮りたかった・・。

 

隼人「そ、そうだな、すまない、失言だったよ。・・・・それじゃあ結衣、何か聞いてくればいいのかい?」

 

結衣「うん、最初は雑談程度で、こっそり聞き出すみたいなことしてきて」

 

隼人「努力するよ」

 

由比ヶ浜にそう告げて、葉山は川崎の下へ向かっていった。

 

葉山の様子を見てるみんなに対して俺と風音は携帯を取り出し調べ物をした。それは大志の言ってたエンジェルなんとかっていう川崎のバイト先だ。いくら朝帰りでも遠くまでは行くわけないと思い、近辺でエンジェルと名の付く店を探している。OK Google!

 

八幡「どうだ?風音」

 

風音「この辺だと『えんじぇるている』っていうメイド喫茶かな?そこと『エンジェル・ラダー』っていうバーがあるよ」

 

うむ、やはりな。俺も全く同じ結果が出た。だが行ったところで俺達に事情を話してくれるとは到底思えない、いくら弟からの依頼でも、家庭の事情に首を突っ込まれるのは迷惑極まりないからな。あと一つ言いたいことがある。

 

八幡「なあ、いつまでそうしてるんだ?」

 

風音はあの時抱き着いてから腕にぴったりと張り付いて一向に離そうとしない。

 

風音「しばらくこれがいい♪」

 

調べ終わった俺達は静かに葉山を見守りながら待った。

 

時折腕に当たる柔らかいモノに幸福を感じていたら、浮かない顔で戻ってきた。お前もかよ・・・何言われたんだ?

 

隼人「アハハ、なんか俺、フラれたみたいになったんだけど・・・」

 

八幡「お前何言われたんだよ・・・ま、ご苦労さん」

 

微苦笑を浮かべる葉山に対して、俺は、同情の意を込めて労いの言葉を送った。そして俺と風音は、先ほど調べた川崎のバイト先について話を切り出す。

 

風音「さっき八くんと、大志君が言ってたエンジェルなんとかっていう店を検索してみたんだけど、この辺りで二店見つけたんだよ、おそらくそのどっちかで働いてると思うんだ」

 

雪乃「あなたたち、いつの間にそんなことをしていたのね・・・」

 

八幡「いや、考えてみろよ、そもそも家族にすら教えてないことを、他人の俺達が聞けるはずがないだろ」

 

雪乃「確かにそうね、でもその言い分だと、たとえバイト先へ行ったとしても、話を聞くことはできないんじゃないかしら?」

 

八幡「そうなんだよな~、そこが唯一の問題点なんだよ・・」

 

風音「取り敢えず、今日はここまでにしない?中学生もいるんだから夜遅くまでいられないし。明日にでも、その二つの店に調査しに行くことでいいんじゃない?」

 

雪乃「そうね。バイト先が絞れた事と、川崎さんは誰にも話す気はない事がわかっただけでも収穫はあったわ。ここまでにしましょう」

 

確かに収穫はあった、けど、依然として原因は分からずじまいだ。何故2年から始めたのか、深夜に働いているのか、誰にも話さないのか、金がいるのか、遊び目的でない事はすでに明白だ。

 

隼人「なぁ、俺がやったことって意味あるのか?」

 

某フリーゲームのコトノハの如く、手掛かりになりそうなキーワードを並べて試行錯誤していると、唐突に葉山に話しかけられた。

 

八幡「あー、すまんな、由比ヶ浜が迷惑かけたみたいで。お前にとっちゃ、あまり気の進まない仕事だよな。奉仕部への貸しにしといていいぞ」

 

隼人「いや、別にそういう目的で聞いたわけじゃないんだ」

 

八幡「そうか、んじゃ、俺達は帰るからな」

 

隼人「ああ、また頼んでほしいことがあったら呼んでくれ。できる限り力になるよ」

 

葉山はそう言い残して、この場を去った。あいつ何でこんなに協力的なんだ?無関係なのに・・。

 

終始腕を離さなかった風音に、今夜も泊まることを約束し、帰路に就いた。

 

 

 

≪風音の部屋≫

 

八幡「さて、どうしたものかね・・・」

 

風音「う~ん、あんなに頑固とは・・・。本人の口から聞くことは不可能だね」

 

八幡「ああ、あの様子だと、たとえバイト先へ行ったって一切喋らないと思う。せめて、理由が分かれば、いや、分かったとしても俺らで解決できるかどうかという話になってくる」

 

風音「一回大志君に何か聞いてみたら?せっかく連絡先交換したんだし」

 

・・あ、そうだ、忘れてた。

 

八幡「すっかり忘れてたわ。早速連絡してみる」

 

・・・・・・ガチャ

 

大志「はいっす、どうしたんすか?」

 

八幡「ちょっと聞きてぇことがあったから電話した。早速本題に入るぞ。

・・まず、川崎がバイトを始めたのは2年になってからって言ったよな、それと同時に家族の間で何か変化が起きたか?」

 

大志「家族でっすか・・・・。あ、そういや、俺なんすけど、受験生になったんで塾に通うようになったっす」

 

塾か・・・・。

 

八幡「そうか、次は、お前の姉ちゃん自身についてだ。あいつがバイトをする理由を思い当たらないか?」

 

大志「うーん、ダメっすね。うちは共働きなんで、そこまでお金に困ることはないっす」

 

クソッ、やっぱり知らないか。・・・少し頭を柔らかくしよう。学生がバイトをする理由は、遊ぶ金、将来の軍資金、・・・・将来。

 

八幡「なあ、お前の姉ちゃんは進路どうしてるんだ?」

 

大志「え、姉ちゃんは高1からずっと大学行くって言い張ってたっす。そのために予備校に行ったりしてるみたいで」

 

八幡「・・・そうか。わかった、サンキューな」

 

大志「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

風音「どう?何かわかった?」

 

八幡「少し時間をくれ」ドロドロ

 

【ロットアイ】を発動させ、今まで聞いてきた言葉を思い出し、それらを繋ぎ合わせ、一つ一つ錠を解いていく。

 

―――『前はすごく優しくて、下に妹と弟がいるんすけど、結構面倒見てて、飯も作ってくれてたんす』

 

―――『俺が聞いても『関係ない』の一点張りなんす』

 

―――『受験生になったんで塾に通うようになったっす』

 

―――『姉ちゃんは高1からずっと大学行くって言い張ってたっす。そのために予備校に行ったりしてるみたいで』

 

―――『彼女は優しいと言われてるのだから、心配を掛けたくないという思いがあると思うわ』

 

―――『うちは両親共働きだし』

 

・・・・成程な。

 

 

八幡「フゥ・・風音、悪いが用意してもらいたい物がある」

 

風音「え、何かわかったの?」

 

八幡「ああ、ただ解決するのに必要な物があるんだ」

 

風音「うん、わかった!何が欲しいの?」

 

八幡「ああ、実は、”―――――――”が欲しいんだ」

 

風音「う~ん、まだあったかな、ちょっと探してみるね」

 

八幡「おう、悪いな」

 

風音はごそごそと机を漁り始め、俺が求めている物を探す。これは解決するための重要なカギになってくる。

 

――――数分後

 

風音「あったよ!」

 

そう言って俺の手元に与えられたのは、複数の紙の束である。

 

八幡「よし、これだ。ありがとな、風音」ナデナデ

 

風音「えへへ♪でも、それ何に使うの?」

 

八幡「明日になってからのお楽しみだ。もう寝ようぜ、ちょっと疲れた」

 

風音「お疲れさま。じゃ、お休み」

 

俺と風音はベッドインし、眠りにつこうとしたが、俺は風音の不意を突いて抱きしめた。

 

風音「えっ//八くん急にどうしたの?//」

 

八幡「いや、ただこうしたかっただけだ。嫌か?」

 

風音「嫌じゃないよ、嬉しい//」ギュウ

 

八幡「寝心地いいな。お休み」

 

風音「私も安心して寝られるよ♪お休み」

 

今度こそ俺達は深い眠りについた。

 

 

《翌日》

 

 

放課後の夜、昨日の葉山、平塚先生、大志、小町を除くメンバーで、エンジェルと名の付く店にやってきた。夜も結構更けてきたから、中学生組は待機だ。

 

まずは『えんじぇるている』というメイド喫茶に行く。はっきり言うが、先生と葉山を追い返した時点で、メイド喫茶というメルヘンチックな場所で働いてるとは思わないんだが・・。

 

結衣「へぇ~、ここってメイドの体験もできるみたいだよ」

 

雪乃「それは都合がいいわね。それを利用して、お店の裏側を調べるわよ」

 

メイドの体験か。風音のメイド服姿・・・・この目で見てみたい!写真に収めたい。

 

風音「メイド服か~着る機会ないから、着てみようかな」

 

そうと決まれば早速入店だ。風音がいるから若干入りづらかったが、本人がこう言ってるんだから、入ろう。早く風音のメイド姿が見たい。早く!風音に!メイド服を!・・・・俺なんかアブナイ人みたいになってない?

 

風音「そ、そんなに急かさないでよ八くん。恥ずかしくなってきた//」

 

八幡「さらっと心の声を拾わないでくれ。俺の方が恥ずかしくなってくるぞ」

 

彼女の読心力(俺限定)に少し恐れながらも、俺達はドアを開け、入店した。

 

「おかえりなさいませ!ご主人様!お嬢様!」

 

定番の掛け声とともに、俺達を迎え入れたのは、ふりっふりのドレス?を纏った女性共だった。この時、俺は確信する。

 

絶対にここじゃない。

 

こんなキャピキャピきゅるるん萌え萌えパワーみたいな場所で、あんな遠目からでもわかる鋭い目つきをした奴がいるはずがない。

 

いないとわかったら、あとは風音のメイド姿を拝むだけだ。まだかな~。

 

風音「お、お待たせしました//ご主人様//」

 

着替え終わった風音は、モジモジしながら俺の目の前に立った。

 

現在の風音の姿に、俺は呆気にとられた。

 

八幡「一生俺の専属メイドになってください」

 

気付いたら、手を握って、目をまっすぐ向け、真剣な顔でそう言い放っていた。

 

風音「ええぇ~!八くんいきなりどうしたの!?///」

 

八幡「大好きだ・・・」ギュウ

 

風音「はぅ//は、八くん、いったん離れて。ほら、みんな見てるから!」

 

八幡「え?・・・はっ!」

 

我に返った俺は辺りを見回す。そこには、ニヤニヤしてる女性店員が数名、優しい瞳で見守る女性店員が数名がいた。

 

八幡「あ、悪かったな・・・その、あまりの可愛さに体が勝手に動いちまった」

 

風音から離れた俺は一言謝罪し、席に座った。

 

風音「あ、でもすごく嬉しかったよ!褒めてくれたし・・・抱きしめてくれたし//」

 

掘り返すのはやめてほしいん。思い出すだけで恥ずかしさのあまり悶えそうだ。

 

彩加「2人とも、ほんとに仲がいいね。なんだか羨ましいよ」

 

八幡「昔からの仲だしな、彩加にもいずれそういうやつが現れるよ」

 

彩加「うん。そうなるといいなぁ」

 

雪乃「ここには川崎さん、いなかったわよ」

 

調査が終わったのか、雪ノ下達は裏から戻ってきた。

 

結衣「ヒッキー、見て見て!どう?これ」

 

由比ヶ浜はくるりと一回転して感想を聞いてきた。ここで俺の言うことは一つしかない。

 

八幡「俺の彼女が世界一可愛い」

 

 

 

メイド喫茶を出て、俺達はもう一つの候補店に来た。その店は、ホテル・ロイヤルオークラの最上階に位置するバー『エンジェル・ラダー天使の階』だ。

 

千葉市内で朝方まで営業している、エンジェルの名を冠する最後の店だ。

 

雪乃「ここが最後ね。さすがにこの格好じゃ入れそうにないから、各々バーに見合った服を見繕ってきてくれるかしら。そしたらまたここに集合しましょう」

 

八幡「具体的にどんなのがいいんだ?」

 

雪乃「男性は、襟付き、ジャケットがいいわね。女性は、それなりの服装で」

 

八幡「妙に女性だけざっくりだな・・・。それなら親父が持ってたかもしれなねぇから借りてくる」

 

風音「私もお母さんがそういうの持ってた気がするから借りてくるよ」

 

結衣「えー、どうしよう・・・。私、家でそういうの見たことないよ・・・」

 

雪乃「そう、なら私の家に来て頂戴。貸してあげるから」

 

結衣「え?いいの?ありがとう!」

 

 

俺達は一旦に家へ帰り、雪ノ下の要望通りの服を着こんだ。

 

小町「おお、お兄ちゃんカッコいいよ・・、風姉もすごく綺麗。大人のデートだよ!キャーー!」

 

小町は俺らを見て半狂乱に、興奮していた。何故そんなに浮かれてんだよ、これから潜入捜査だってのに・・。

 

無視しよう、こういう時の小町はシカトに限る。さっさとホテルを目指そう。・・別にいかがわしい意味じゃないからね。

 

ちなみに彩加は門限があるため、夜はあまり出歩けないから来れないそうだ。

 

雪乃「揃ったわね、それじゃあ行くわよ」

 

雪ノ下についていく形で、エレベーターに乗り、最上階のエンジェル・ラダーを目指した。

 

そしてバーに入ると、すぐさまギャルソンの男性が脇にやってきて、すっと頭を下げた。その男性は、俺らより一歩半先に先行し、一面のガラス張りの窓の前、その中でも端のほうにあるバーカウンターへと俺達を導く。

 

そこにはきゅっきゅっとグラスを磨く、すらりと背の高い女性バーテンダーさんがいた。このほのかな照明が灯る店内では、憂いを秘めた表情と泣きぼくろが印象的だった。

 

あいつが川崎でいいのかな?

 

俺達は川崎らしき女性の前に座り様子を窺った。こちらには気づいていない様子。

 

八幡「あの、川崎でいいのか?」

 

沙希「ん?・・・あ、あんたあの時の大ジャンプ男」

 

八幡「は?」

 

え?なにその異名、俺グレートサイヤマンじゃないんだけど・・・。

 

雪乃「そのあだ名は一体何かしら?」

 

沙希「こいつ、屋上で4メートルくらい飛んでたんだよ。なんか紙掴んでたし」

 

・・屋上・・紙・・・・あ、もしかして

 

八幡「お前、あの時給水塔に寄りかかってた奴か」

 

俺がそう質問すると、川崎は小さく首を縦に振り、頷いた。

 

雪乃「今はそんなこといいわ。それよりも、捜したわよ、川崎さん」

 

沙希「・・そっか。ばれちゃったか」

 

別段、隠し立てするでもなく、川崎は肩を竦めて見せた。そして、壁にもたれかかり腕を組んだ。もうどうでもいいという雰囲気を醸し出していた。その表情はどこか哀愁が漂っていた。

 

沙希「・・何か飲む?」

 

雪乃「じゃあ、ペリエを」

 

結衣「あ、私もそれで」

 

沙希「あんたたちは?」

 

こういう場所ってきたことないから、なんて言ったらいいかわからないな。取り敢えず、飲みたい物を言ってみるか。

 

八幡「じゃ、MAXコーヒーで」

 

結衣「いやいや、こんな場所にマッカンなんてあるわけ「あるよ」・・ってあるんだ!?」

 

八幡「お、マジで、じゃあそれで」

 

風音「あ、私もそれがいい」

 

全員の注文を受けた川崎は、苦笑交じりで、了解と言い、手際よく、慣れた手つきでグラスに注ぎ、コースターの上に置いた。

 

MAXコーヒーをグラスで飲むなんて初めてだな。早速一口。・・味は変わらないがひんやりとして美味い。

 

MAXコーヒーの変わらぬ美味しさに舌鼓を打ちつつも、俺達は本題に移る。

 

八幡「お前、最近帰りが遅いんだってな。朝の5時らしいじゃねぇか。大志が心配してたぞ」

 

沙希「成程。最近周りがやけに小うるさいと思ってたら、あんたたちのせいか。大志が何言ったか知らないけど、私から言っておくから、これ以上関わらないでね」

 

川崎は俺を睨みつけた。

 

関係者ない奴はすっこんでろ、という意思表示だろう。

 

雪乃「バイト、やめる気はないのね?」

 

沙希「ないよ」

 

結衣「あのさ、川崎さん、別にこんな夜中じゃなくてもいいんじゃない?ほら、夕方のバイトなんていっぱいあるんだから・・・」

 

沙希「放課後は私用で忙しいの。それに、こっちの方が稼ぎがいいからね」

 

風音「ずっと気になってたんだけど、どうして家族に話したりとかしてないの?」

 

風音の質問に、川崎は顔をしかめる。

 

沙希「迷惑かけたくないんだよ。下に3人の兄妹もいるし、これ以上負担になりたくないだけ」

 

風音「でも、大志君に心配かけさせてるのわかってるよね?見ず知らずの私たちや同級生に相談するほど、気にかけてるんだよ?」

 

沙希「ッ!・・わかってるよ、そんなこと。でもバイトはやめられない。私にはお金が必要なの!」

 

川崎は声を荒げ、やめる気はないと断言した。おそらく、正攻法じゃもうやめさせることはできないだろう。

 

なら、自分の意思で辞めさせるまでだ。

 

八幡「川崎、実は、俺はお前がバイトしなきゃいけない理由を全て知っている」

 

俺のこの発言に、風音以外のメンバーが驚いていた。

 

雪乃「比企谷君、それは本当なの?」

 

結衣「ヒッキー、なんでわかったの?」

 

八幡「ああ、今まで聞いてきた話を繋ぎ合わせたら、一つの結論に辿りついた。今からその説明をする。・・風音、アレをだしてくれ」

 

風音「よしきた!」

 

風音は懐から、一つのA3サイズの封筒を俺に差し出した。中にはある資料が入っている。

 

俺はその封筒をカウンターに置き、説明を始める。

 

沙希「これ、何?」

 

八幡「川崎、弟から聞いたが、予備校に通ってるんだよね?」

 

沙希「え、そうだけど」

 

八幡「そんとき、予備校案内のパンフレットか何か読んだか?」

 

沙希「読んだというか、軽く目を通しただけだけど」

 

八幡「やっぱりな・・。これはその時のパンフレットだ。もう一度しっかり読んどけ。キーワードは『スカラシップ』だ」

 

この言葉に、雪ノ下と風音は、俺が何を言ってるのか理解し、ハッと何かに気づいた表情をした。

 

八幡「説明は以上だ。さて、俺らは帰ることにするよ」

 

沙希「え、ちょっと!・・」

 

八幡「それを読んで、俺の言ったキーワードを忘れなかったら、お前はバイトをしなくてもいい。ただ、少し頑張ることになるがな」ニヤ

 

不敵に笑う俺に対して、川崎は未だに納得のいかないような表情で、封筒を手に取った。

 

さっさと会計を済ませ、ホテルの外に出たら、雪ノ下達に質問された。

 

雪乃「比企谷君、少し説明が欲しいのだけれど」

 

八幡「ああ、そうだな。まぁ大志から聞いたことなんだが、川崎は大学に進むためにバイトしてるんだ。進学は金がかかるからな、親の負担になりたくないって言ってたのもこれが関係してるだろう。それに、大志は今年受験生で塾に通い始めているらしい。まぁ、塾の学費はすでに解決されてるがな」

 

風音「成程、それでスカラシップなんだね」

 

結衣「ゆきのん、そのすからしっぷ?って何?」

 

雪乃「スカラシップというのは、奨学金の事よ。予備校では成績がいい人の学費を免除してくれるの」

 

八幡「これで、解決したろ。ていうか眠いから帰っていいか?」

 

雪乃「そうね、それでは解散にしましょう。比企谷君、お疲れさま。今回はあなたに助けられたわ」

 

結衣「うん、ヒッキー、ありがとう」

 

八幡「別にいいって。そういう部活なんだし。帰ろうぜ、風音」

 

風音「うん♪じゃあまたね」

 

別れの挨拶をし、各々別の道へと歩いていった。

 

 

 

≪帰り道≫

 

八幡「そういや、風音は進路どうするんだ?」

 

風音「え?・・・八くんのお嫁さん///」

 

八幡「バッ!//そういうこと聞いてるんじゃねぇよ//」

 

風音「アハハ♪そうだねぇ、まだ正確に見据えられてないんだ。でも、八くんとキャンパスライフを楽しみたいな♪」

 

八幡「そうか。俺も同じだな、全く」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

そして、しばらく書き溜め期間に入りたいと思います。なので、しばらく投稿できそうにない。

3~4話までぐらい書けたら、投稿しようと思う。

また次回


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10話:俺と彼女の浮気疑惑インスペクト

はい、どうも、アイゼロです。

10話突入。

ここから原作改変させていきたいと思います。


川崎のバイト先潜入捜査から数日後、大志からバイトを辞めたとの報告があり、奉仕部一同安堵した。

 

テストも何事も無く終わり、今日がそのテストの返却日&順位発表だ。

 

結果は、今回は俺が1位、風音が2位、雪ノ下が3位となった。少なからず由比ヶ浜も、勉強会の成果が出たのか成績が上がったとのこと。あの心底悔しそうだった雪ノ下の表情は、正直言って、見物だったな。

 

今日は久々の部室での部活動だ。といってもやることはないがな。

 

平塚「失礼するぞ」

 

ノックもせずに、ガララとドアを開けたのは、現国担当教諭、平塚先生だった。

 

雪乃「先生、ノックをするようにといつも言っているじゃないですか」

 

平塚「まあまあ、いいじゃないか。それよりも頼みたいことがある」

 

悪そびれた態度を見せず、反省する気ゼロの先生は、なにやら箱を持ってきて、テーブルの上に置いた。

 

風音「これ、なんですか?」

 

平塚「ああ、目安箱みたいなものだ。奉仕部を知らない生徒は多いから、こうやって相談事を集めてるんだ」

 

八幡「あの、そんな話聞いてないんですが・・・」

 

平塚「言ってなかったからな」

 

雪乃「先生、あくまで相談に乗るのは私たちなのだから、事前に説明ぐらいしてもらわないと困ります」

 

結衣「まぁいいじゃん。あまり人来ないんだし」

 

雪乃「それはそれで問題はあるのだけれど・・・」

 

風音「取り敢えず読んでみようよ。なになに・・『好きな人がいます。告白の時にどんな言葉を送ればいいでしょうか?』・・って、え?」

 

何だその内容・・・そんなもん目安箱に入ってたのか・・。

 

八幡「『今私はある男子に好意を抱いています。ですが、彼とはクラスが離れているので、なかなか近くに行けません。どうすればいいですか?』・・・」

 

俺と風音の読み上げた相談内容を聞いて、怪しく感じた雪ノ下と由比ヶ浜も、紙を取り出し、読み上げる。

 

雪乃「『好きな人がいるので、告白をしたいです。どのような場所がいいでしょうか?』」

 

結衣「『意中の男子に告白をしたいです。アドバイスをお願いします』・・」

 

八幡「何で、ほとんどが恋愛相談なんだよ!俺達は、別にコクラセじゃないんだぞ」

 

俺は赤い糸紡ぎなんてできないからな、ついでに、霊感もないし、超視覚とか超聴覚も備えてないから。

 

その他も似たような内容の依頼ばっかだった。いつの間に、総武高はこんな恋愛発展途上な人が増えたのか・・。第一、告白の手伝いとか何したらいいんだよ。自分の気持ちを言葉にして送ることは、確かに勇気はいるし、難しいだろう。俺も、風音に告白したときはそんな気持ちだったからな。

 

風音「こんな一斉に持ち込まれても困るなぁ・・。しかもほとんどが恋愛事情」

 

八幡「そうだな。こういうのは自分でやった方が一番いいと思うんだが・・・。『入学式でみかけた男子に一目惚れしました』とか、もう一年以上たってんじゃねぇか。こいつ今まで何してたんだよ・・・」

 

結衣「・・・入学式、か。ねぇ、ヒッキー、入学式の日って覚えてる?」

 

八幡「なんだ、藪から棒に。覚えるほどの事なんてなかったよ。風音の新入生代表挨拶ぐらいしか耳に入れてなかったからな」

 

結衣「う~ん、そうじゃなくて、学校に行く途中ッ!」

 

八幡「なんだよそれ・・。何も無かったよ・・・」

 

結衣「ほんとに?」

 

八幡「何故お前がそこまで疑うんだ?お前が知りたいことは話した。もういいだろ」

 

質疑応答を終わらせると、由比ヶ浜は暗い顔で、口ごもった。お前入学式で何か嫌なことでもあったのか?

 

八幡「・・・・・ん、ちょっとこの依頼が気になるんだが・・」

 

会話をしながらも俺達は、目安箱に入ってる紙を手に取っていた。っつーか思いのほか入ってて、驚いた。8割が恋愛絡みだけど。そういうのは、コクラセに依頼してください。ドレミだよ。

 

風音「えーと、『私には先輩の彼氏がいます。そんな彼が、昼間に女性と歩いている姿を目撃しました。浮気かどうか不安でいっぱいです。相談に乗ってくれませんか?』・・。成程ね」

 

結衣「浮気って・・・そんなのひどくないっ!?」

 

由比ヶ浜、随分とご立腹だな。

 

八幡「まぁ、待て。浮気と決まったわけじゃない。親戚とか、姉弟って可能性もあるぞ」

 

雪乃「そうね。・・新島さん、その彼女の名前って書かれてないかしら?」

 

風音「あ、書いてあるよ。2年C組の柴百合早苗(しばゆりさなえ)ちゃんだって」

 

雪乃「そうとわかれば明日、彼女に話を聞きに行きましょう」

 

 

 

《翌日》

 

俺達4人は、昼休み、依頼者が所属する2年C組に向かっていた。

 

しかし、目立つな。雪ノ下も由比ヶ浜も学校では人気あるらしいし、風音も可愛いから、自然と目がこっちに集まっている。

 

特に、男子がやばい。すげー殺気を込めて俺を睨んでる。うん、おそらく嫉妬なんだろうな。

 

雪乃「ちょっといい?柴百合早苗(しばゆりさなえ)さんを呼んでくれないかしら」

 

「は、はい。分かりました」

 

雪ノ下に話しかけられた女子生徒は、驚いた顔をして、早足で教室に入っていった。

 

雪乃「私、彼女に何かしたのかしら?」

 

風音「雪乃ちゃん、人に話しかける行為を全くしないからビックリしたんじゃない?」

 

「あ、あの、連れてきました」

 

雪乃「ありがとう」

 

「い、いえ。それでは」

 

風音「柴百合早苗(しばゆりさなえ)ちゃんでいいのかな?」

 

早苗「は、はい。そうです」

 

八幡「目安箱らしき箱に相談事書いただろ?そのことについてなんだが・・・・」

 

早苗「!・・・わかりました」

 

雪乃「それでは、私たちについてきてくれるかしら?」

 

早苗「はい」

 

 

≪部室≫

 

 

早苗「実は、一昨日お遣いを頼まれて駅に行ってたんです。そこで偶然彼に会って、声を掛けようとしたら、別の女性と一緒に歩いてて、それにすごい仲が良さげで、不安になってしまったんです。だから、浮気かそうじゃないかって知りたくて。あ、彼氏の名前は高杉俊(たかすぎしゅん)です」

 

雪乃「そう、でも何故私たちに?あなたが彼に問い詰めればわかることじゃないのかしら?」

 

早苗「そ、それは・・・・」

 

雪ノ下、お前それ本気で言ってるのか?もしそうだとしたら、お前は相当残酷な人だ。お前はできるかもしれないが、彼女は普通の女子高生だ、好きな人に裏切られた事を受け入れる度量もないと自分でも思ったから、俺らに相談してきたんじゃないのか。

 

結衣「ちょっとゆきのん!何でそんなひどいこと言うの!?」

 

雪ノ下の冷たい言葉に、由比ヶ浜は顔をしかめて激高した。

 

雪乃「え?酷い事って一体・・・」

 

自覚なしかよ。

 

風音「分からないの?問い詰めて、好きな彼から突然『浮気してました、あなたとは別れます』なんて言われたら、誰だって嫌でしょ」

 

雪乃「でも、いずれそうなることは確実なのよ・・・」

 

八幡「そうなる前に、事前に調査して浮気かどうか確かめるんだろ。仮に浮気だったとしたら、傷は深いが先に知っていたら、こっちから別れを切り出す。俺らに頼ったのは、1人では怖いという彼女の意思表示か何かだろう」

 

早苗「その人の言った通りです。本当は私の問題だから私が一人で解決しなきゃいけないことなんでしょうけど、やっぱり踏み切れなくて・・・」

 

雪乃「その、ごめんなさい。きついことを言ってしまって・・・」

 

雪ノ下の素直な謝罪に、柴百合は若干俯きながら、いえ、大丈夫ですと答えた。

 

風音「それで、柴百合さんはどうしてほしいの?」

 

早苗「はい、彼の後を追って、真相を確かめようと思っています。今日もその女性と会う約束をしてるみたいなんので」

 

結衣「っていうか彼女いるのに、他の女性と2人で歩くのってあんま良く無くない?」

 

八幡&風音「「え?そうなの?」」

 

結衣「ええ!ていうか2人とも付き合ってるのに分からないの!?・・・例えば、かざねんの場合、ヒッキーが他の女性と歩いていたら嫌だと思わない?ヒッキーの方は、かざねんが他の男と歩いていたら」

 

八幡「【ロットアイ】酷使してその男を八つ裂きにしてゴミ箱に捨てる」

 

風音「八くん殺して、私も死ぬ」

 

結衣「重い重い!?2人の愛重すぎだしっ!」

 

風音「アハハ、冗談だよ。八くんそんなことしないけど、少なからずむっとしちゃうかな」

 

八幡「俺は冗談じゃないぞ」

 

結衣「ヒッキー、かざねん好きすぎでしょ!」

 

八幡「当たり前だ!俺の生涯で唯一の想い人だ!風音以外の女はこれっぽっちも興味がない!愛してるからな」

 

結衣「やっぱ重い!?」

 

風音「うぅ・・//八くん、ちょっと抑えよう///」

 

やべ、つい熱くなってしまった。

 

早苗「なんか、いいなぁ」

 

柴百合は感慨深げに俺と風音を見た。

 

早苗「2人ともお互い信頼し合って、なんか羨ましいな。とても高校生の恋愛とは思えない。そんな絆が2人にはあるみたいで、羨ましい」

 

柴百合は顔をほころばせ、羨望のまなざしで俺らを見た。

 

風音「ありがとう♪」クスッ

 

八幡「ま、付き合い方は人それぞれだし、俺らの場合は過ごしてきた時間がものを言う信頼だ。偉そうに聞こえちまうかもしれんが、こういうのはすごく安心できるし、癒されるんだ。だから、その、頑張れよ」

 

早苗「ッ!・・・ありがとう。少し、元気がもらえた気がした。君たちに相談して正解だったよ」

 

そう言って、先程の曇った顔が晴れて、彼女は笑顔になった。

 

早苗「そういえば、まだ名前聞いてなかったね。よかったら、教えてくれない?」

 

八幡「比企谷八幡だ」

 

風音「新島風音だよ」

 

早苗「比企谷君に風音ちゃんだね。よろしく♪」

 

 

雪乃「それでは、駅へ向かいましょう。柴百合さん」

 

早苗「はい!」

 

 

 

≪駅≫

 

 

早苗「いた、あの先輩が私の彼氏です」

 

柴百合が指を指した先には、総武の制服を身に着けた、身長は俺と同じくらいの男子高校生がいた。

 

結衣「待ち合わせしてるみたい。少し離れてるのかな?」

 

風音「あ、誰か来たよ!」

 

高杉先輩に近づいてきたのは、見た目は大学生の女性だった。その女性は先輩に気づいては笑顔を向けた。

 

八幡「あの人がそうか?」

 

早苗「はい、一昨日見た人と同一人物です」

 

八幡「随分と仲が良さげに見えるな」

 

実際あの2人、楽しそうに話をしている。

 

雪乃「動いたわ、私たちも移動しましょう」

 

「ねぇねぇ、君たち可愛いね。俺らと遊ばない?」

 

移動しようとした瞬間。目の前に3人の男が現れた。

 

ナンパか。めんどくさいことになった。まぁ、こいつら学校ではそこそこ有名だしな。

 

雪乃「何かしら?私たち急いでいるの。話しかけてこないでちょうだい」

 

雪ノ下はその3人を横に素通りしようとした。けどそれは叶わず、男に腕を掴まれた。

 

結衣「ゆきのん!」

 

雪乃「くッ!離しなさい!」

 

「いいじゃんいいじゃん。俺らといい事しようぜ?」

 

風音「雪乃ちゃん!・・・ハチくんお願いしていい?」

 

八幡「OK牧場」ドロドロ

 

風音の頼みなら、例えこの身が砕けようとも、俺は果たす。

 

八幡「はーい、そこまで」

 

俺は雪ノ下が掴まれてた腕を離れさせた。

 

「んだよ!お前!根暗野郎は引っ込んでろ!?」

 

ナンパ男、仮に不良Aにしよう。そいつは、俺に殴りかかってきた。

 

だが、それを俺は、孫悟天の如く、人差し指一本で受け止める。

 

不良A「なんだこいつ!おい、お前らもやっちまえ!?」

 

不良B「覚悟しやがれ!?」

 

不良C「おらぁ!?」

 

他の2人は、金属バットを俺の顔面目掛けて振りかぶってきた。お前らそれ、どこから出したんだよ。後、その攻撃俺じゃなかったら死んでるからおすすめしないぞ。

 

早苗「!危ない!?」

 

八幡「心配ねぇよ」

 

両手で、バットを受け止め、力を入れ、そのままバットを砕いた。

 

八幡「おっと、勢いのあまり砕いちまったよ・・・・」

 

不良A「な、なんなんだ・・・」

 

不良B「ふつうじゃねぇ・・・」

 

今の惨状に怯えだす、不良共。やっぱり、不良は口だけ達者な臆病者なんだな。すげぇかっこ悪い。

 

八幡「次はその腕を折っちまうかもしれねぇなぁ」ニタァ

 

不良ABC「ヒィ、ば、化け物ーーーーーー!?」

 

不良共は、尋常じゃない速さでこの場を去った。

 

化け物・・・か。

 

そうだな、確かに異常だ。こんな力、普通の人からしたら恐ろしいものだろう。一時は自分でも忌々しいと思ったこともある。

 

けど、それを受け止めてくれる大切な人を守るためなら、化け物にでもなんでもなってやる。昔、俺はそう誓ったんだ。

 

結衣「ゆきのん!大丈夫?」

 

雪乃「ええ、平気よ。掴まれただけだから」

 

風音「早苗ちゃんも大丈夫だった?」

 

早苗「うん、大丈夫。それより比企谷君のあれって・・・」

 

八幡「ハァ・・ハァ。ああ、怖がらせちまったか?すまない。ただ、人一倍力が強いだけだ」

 

早苗「ううん、ありがとう。比企谷君がそう言うならそういうことにしておくね」

 

え?もしかして勘付かれちゃってんの?この子怖い。

 

結衣「ああ!いない!見失っちゃった!」

 

風音「え!?ど、どうしよう・・・」

 

早苗「まだ近くにいるはずだよ、捜そう」

 

・・・・・コレ、俺また使わなくちゃいけないのか?ちょっと疲れたんだけど、しょうがない。

 

八幡「・・・・」ドロドロ

 

目を凝らし、耳を澄ませ、辺り一帯の音を聞き逃さず、集中する。

 

八幡「・・・・・いた。駅の中だ」

 

早苗「へぇ、すごい。そんなこともわかるんだ・・・」

 

もう柴百合には教えていいんじゃないか?この子もう大体知っちゃってるし。

 

風音「よし!それじゃあ行こう」

 

 

≪駅の中≫

 

 

雪乃「いたわ」

 

雪ノ下の視線の先には、先程の2人が、商品を物色しながら、話していた。

 

風音「アクセサリー類のお店だね」

 

八幡「すごい真剣な目だ。誰かにあげるのか?」

 

 

その後も、尾行は続けたが、特に何も起こらず時刻は18時になっていた。

 

高杉先輩は、女性に手を振って頭を下げた。それに対する女性は、親指を立てGOODLUCKをしてた。

 

雪乃「由比ヶ浜さんから見てどうだったかしら?」

 

結衣「んー?なんだろう?デートっぽかったんだけど」

 

風音「なんか曖昧だね・・・・ってあれ?八くんは?」

 

早苗「比企谷君なら、あそこに・・・・」

 

俺は、高杉先輩と話すため、彼女らから離れた。ナンパの心配は無用だ。常時【ロットアイ】状態にしといたから。

 

結衣「ええ!ちょっとヒッキーなにやってんの!?」

 

雪乃「私たちも行きましょう!」

 

風音「・・・!待って、ハチくんからサインきた。そこで待機してろだって」

 

結衣「え、でも!」

 

雪乃「・・・・分かったわ。待機してましょう。由比ヶ浜さん」

 

結衣「・・・分かった」

 

 

八幡「あの、高杉俊さんでいいでしょうか?」

 

俊「え?そうだけど。君は?」

 

八幡「総武高の2年の比企谷八幡です。少し話いいですか?」

 

俊「・・・いいけど、どうしたんだ?」

 

八幡「その前に、さっき別れた女性の方は誰ですか?」

 

俊「ああ、僕の姉だよ。大学に出て、今は1人暮らしなんだ」

 

やはり浮気ではなかったのか。

 

八幡「その姉とは、今日何を?」

 

俊「ああ、彼女にプレゼントするものを一緒に探してもらってたんだ。僕、こういうの疎いから。・・・・君はそんなことを知ってどうするんだ?」

 

八幡「いいえ、特に意味はありません。それと、その彼女の名前は、柴百合早苗さんですか?」

 

俊「えっ!・・そうだけど、何故君がそんなことを知っているんだ?」

 

俺の質問に、高杉先輩は少し警戒態勢に入った。

 

八幡「そんなに警戒しなくていいですよ。ただ、その彼女から俺の通ってる部活に相談されたので」

 

俊「早苗が相談を?」

 

八幡「はい。内容は、『あなたが浮気してるんじゃないか』ですよ」

 

彼女の相談内容に、目を見開き、驚愕した顔で、片足が一歩下がった。

 

俊「そんなっ!そんなことしていない!何で早苗はそんな相談を・・・・」

 

八幡「心当たりはないんですか?」

 

俊「心当たり・・・・・・。ハッ!もしかして僕と姉が一緒に歩いているところを!」

 

八幡「そうです。一昨日、偶然見かけたみたいなんです。柴百合さん不安がってましたよ」

 

俊「・・・そうか。早苗に悪いことをしてしまったな。僕が軽率だった」

 

八幡「ちゃんと説明するんですか?」

 

俊「当たり前だよ。明日、全て話す。えっと比企谷君だっけ。教えてくれてありがとう」

 

八幡「いいえ。そういう部活動なんで」

 

俊「・・・・ありがとう。それじゃあ」

 

八幡「はい」

 

 

 

高杉先輩に別れを告げ、俺は風音の下に戻った。

 

八幡「ハァ・・・ハァ・・・ハァ」

 

雪乃「あなた、随分と勝手にしてくれたわね」

 

風音「ていうか八くん何でそんな疲れてるの?」

 

八幡「当たり前だ。風音がナンパされないようにずっと発動してたんだからな」

 

早苗「それで、どうだった?」

 

八幡「俺から言えることは、一つだ。まず、浮気じゃない」

 

それを聞くと、柴百合は不安げだった顔を、ホッと安心しきった顔をにした

 

早苗「よかった~」

 

結衣「ヒッキー何で一人で行ったの!?」

 

八幡「風音はともかく、雪ノ下や由比ヶ浜が言ったらややこしくなると思ったんだよ。雪ノ下だったら、追い詰めそうだし、由比ヶ浜は話を聞かずに捲し立てると思ったんだ」

 

結衣「え、そんなこと・・・」

 

風音「否定はできないね」

 

八幡「そうだ、柴百合。おそらく今日にでも高杉先輩から連絡がくるかもしれない。ちゃんと向き合えよ」

 

早苗「うん!分かった!・・・ありがとう」

 

八幡「おう、風音帰ろうぜ。疲れた」

 

風音「今日は【ロットアイ】使いすぎちゃったからね・・・」

 

 

 

 

《翌日の放課後》

 

 

≪部室≫

 

気になる。あの2人はどうしているんだ?おそらく今日は話し合って、和解したとは思うんだけど・・・。

 

コンコン

 

雪乃「どうぞ」

 

ドアが軽くたたかれ、雪ノ下は入室を許可する。

 

早苗&俊「失礼します」

 

そして入ってきたのは、今俺が気になっている2人の柴百合早苗と高杉俊先輩が一緒にきた。

 

八幡「高杉先輩・・・」

 

俊「昨日ぶり、比企谷君」

 

お、すげぇ、俺の名前覚えてたんだ。

 

風音「早苗ちゃんどうしたの?」

 

早苗「うん、まずはみんなありがとう。おかげで晴れ晴れとした気分だよ」

 

そう言って、柴百合は頭を下げた。そして高杉先輩は俺に向けて頭を下げた。

 

俊「比企谷君、ありがとう」

 

八幡「あ、いえ、いいですよ。お礼は・・・」

 

俊「君たちのおかげで、誤解も解けて、ちゃんと早苗と正面を向いて、付き合っていくよ。だから、ありがとう」

 

八幡「・・・そうですか・・」

 

風音「早苗ちゃん、頑張ってね!」

 

早苗「うん、ありがとう♪風音も頑張ってね」

 

俊「比企谷君、君も頑張れよ」

 

そう俺達に言い残して、部室を去っていった。

 

お互い彼女を幸せにしましょう。高杉先輩・・。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ちょっと無理矢理感あったかな?時間がたったらおそらく修正入れると思う。

また次回


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11話:俺と彼女の魔王アドベント

はい、どうも、アイゼロです。

11話突入

魔王との出会い方は、原作通りで申し訳ない。

それでは、ご覧ください。



今日は友達と遊ぶとのことで由比ヶ浜は欠席している。

 

そういや、風音も毎日来てるし、休日も俺と過ごすことが多いけど、友達付き合いはどうなっているんだろう。ちょっと聞いてみるか。

 

八幡「なぁ風音、お前は友達と遊びにとか行かないのか?いつも俺と一緒だし」

 

風音「え?う~ん、たまに遊ぶけど」

 

八幡「そうなのか?」

 

風音「うん。あ、そういえば、その友達が今度八くんも連れて遊びたいって言ってたよ」

 

八幡「え、そうなのか・・・。ていうか俺の事話してるのか?」

 

風音「昼休みに、話はしてるよ。それでその友達が八くんに興味持ったみたいなんだよ」

 

風音は一体、その友達に俺の何を教えたのだろう・・・。捻くれ者とか目が濁ってることをちゃんと説明したのかな?

 

風音「今度でいいから、お願いしていい?2人だけだから」

 

八幡「まぁ、基本暇だし。いいぞ」

 

うん、風音の頼みなら、仕方がない。

 

風音「ありがとう♪八くん」ニコッ

 

この眩しいて可愛い笑顔が見られるくらいなら、どんなことでもしてやるよ。法に触れない程度で・・。

 

雪乃「2人共、ちょっといいかしら?」

 

八幡「どした?」

 

風音「ん?なに?」

 

雪乃「もうすぐ、由比ヶ浜さんの誕生日だから、お祝いをしてあげたいのだけど。どうかしら?」

 

雪ノ下は本を閉じ、誕生日を祝うという、らしくないことを言ってきた。

 

風音「いいと思うけど、日にち分かるの?」

 

雪乃「ええ。彼女のメールアドレスに0618と書かれていたから、おそらくそれが誕生日だと思うの」

 

八幡「本人から聞いていないんだな・・・」

 

風音「でも、結衣ちゃんならやりそう。メルアドに誕生日・・・」

 

あいつは至って『The・普通』という定型的な高校生だからな。

 

雪乃「サプライズしたいから、プレゼントを買いたいのだけれど、2人も一緒に来てくれないかしら?」

 

風音「そういう事ならいいよ。私も祝いたいし」

 

八幡「俺もいいぞ」

 

雪乃「ありがとう。それじゃあ、買いに行きましょう」

 

今から行くのかよ。お前張り切り過ぎだ。

 

 

 

≪ららぽーと≫

 

八幡「そんなわけで、ららぽーとにやってきました」

 

風音「八くん、誰に向かって言ってるの?」

 

八幡「いや、気にするな」

 

雪乃「まず、雑貨を見に行きましょう」

 

そう言って、雪ノ下は雑貨店とは真逆の方向へ歩き出した。

 

八幡「雪ノ下、そっちじゃない。真逆だ」

 

俺が注意した途端、くるりと踵を返し、何食わぬ顔で

 

雪乃「行きましょう」

 

と言った。こいつ、何もなかったような振舞いをしてやがる。

 

風音「雪乃ちゃん、方向音痴だったんだ・・・」

 

俺達は苦笑しながらも、雪ノ下についていった。

 

 

 

雪乃「これなんてどうかしら?」

 

風音「いやいやいや!工具箱もらって喜ぶ高校生なんていないからね!」

 

八幡「由比ヶ浜は、アレだ。もっとふわっふわでぽわぽわした偏差値低いやつの方がいいんじゃないか?」

 

風音「八くん、今すごい失礼なこと言ってるよ・・・・」

 

否定はしないんだな、風音さんや・・。

 

雪乃「そうね。失礼だけど、その通りだわ」

 

 

こうして俺達の誕生日プレゼント選びは続いた。それぞれ買ったのは

 

雪ノ下はエプロン。一瞬またあのダークマターを精錬させるのか、と思わず仰け反った。

 

風音は3冊の初心者用料理ブック。いいチョイスだ。あいつ料理したいって言ってもこういうのは絶対買わないと思うからな。

 

ちなみに俺は、チョーカーだ。俺だけ料理関連じゃないのはツッコまないでほしい。

 

八幡「・・・・・・」

 

なんだ、俺のアホ毛センサーが僅かに反応している。辺りを見回しても、特に怪しいやつは見当たらない。

 

雪乃「それでは、そろそろ出ましょうか」

 

?「あれー?雪乃ちゃん?やっぱ雪乃ちゃんだ!」

 

突然、遠方から雪ノ下を呼ぶ声が聞こえた。

 

・・・あいつだ。このセンサーの反応の正体は。

 

そのセンサーと声の主は、雪ノ下の下へ小走りで来た。

 

雪乃「姉さん・・・」

 

姉さん・・・雪ノ下の姉か。どうりで似てると思った。しかし、何故この人に反応したんだ。今のところ、ひっかかるようなところはどこにもない。

 

そして雪ノ下は姉に対し、鋭利すぎるほどの鋭い目つきで睨み付けている。すげぇ怖い・・。

 

?「ところで、あっちの2人は?」

 

雪乃「部活が一緒なのよ」

 

陽乃「雪乃ちゃんの姉、陽乃です。雪乃ちゃんと仲良くしてあげてね」

 

八幡「はぁ、比企谷八幡です」

 

風音「新島風音です」

 

取り敢えず、名乗り返しとこう。

 

陽乃「比企谷・・・へぇ・・」

 

ゾクッ!!

 

なんだ、今の悪寒は。今まで感じたことない、不気味で、金縛りにあったかのように動けない。

 

これで、やっと納得した。アホ毛センサーに反応したわけが。

 

陽乃「新島さんと比企谷君は恋人同士?」

 

風音「はい、そうです」

 

陽乃「雪乃ちゃんと仲良くしてくれてありがとう」

 

風音「い、いえ。こちらこそ」

 

風音は若干戸惑いながらも、雪ノ下の姉と話していた。

 

八幡「・・・へぇ」

 

陽乃「ん?」

 

八幡「あなたみたいな人は初めて見ましたよ。その、人間離れした、分厚すぎる、外面鉄仮面は」

 

俺の発言に、雪ノ下さんは一瞬驚いた顔を見せるが、すぐに元の笑顔に戻した。

 

陽乃「・・・何を言ってるのかな?」

 

八幡「今言った通りですよ。その嘘で全て塗りたくられた強化外骨格、正直に言うと、不気味です」

 

俺が雪ノ下さんに抱いていた嫌悪感を口にすると、雪ノ下雪乃は驚いていた。

 

陽乃「君、わかっちゃったんだ。・・・もうそろそろ戻らなくちゃ。またね」

 

雪ノ下さんは、俺達に手を振り、さっきまでいたグループの中に戻っていった。

 

風音「八くん、今言ってたことって、どういうこと?」

 

八幡「簡単に言えば、あの雪ノ下陽乃という人は、自分を見せていない猫被っている人だ。俺達に向けた笑顔も、振舞いも、全て偽物だ」

 

風音「え!そうだったんだ!気付かなかったよ」

 

雪乃「いえ、普通分からない方が自然なのよ。あんな完璧に演じていられるのは姉さんぐらいなのだから」

 

風音「なんでそんなことしてるんだろう?」

 

それは俺も気になっていたことだ。あそこまで外面のレベルが高いなんて、どう考えても普通じゃない。

 

雪乃「この際だから、話をしておいた方がいいわね。

私の父は県議会議員の上に建設会社の社長なの。その仕事柄、長女である姉は挨拶回りやパーティーに連れ回されていたのよ。その結果できたのはあの仮面」

 

八幡「そうなのか。まぁどうでもいいや。あんまり関わることもないだろうし」

 

雪乃「それもそうね。それじゃあ帰りましょうか」

 

八幡「あー、その前に寄りたいとこがあるんだ。結構時間かかるし、先に帰っていいぞ」

 

風音「あれ?八くん欲しいものでもあったの?」

 

雪乃「別にそれくらいいいわよ」

 

八幡「悪いな。実は眼鏡が欲しくてな。最近なんか視力が低下気味なんだ」

 

原因はわかっている。十中八九深夜までフリーゲームをやってたことだろう。

 

俺の趣味一つ。フリーゲームプレイだ。フリーゲームというのは文字通り無料のゲーム。時には、有料を超える神ゲーも存在するのだ。

 

そんなわけで、眼鏡が売っている店にやってきました。

 

八幡「へぇ、結構種類が豊富だ」

 

風音「どんなのがいいの?」

 

八幡「そうだなぁ、黒淵でPC眼鏡がいいな」

 

雪乃「PC眼鏡なら、あそこのコーナーにあるわよ」

 

そう言われて、奥の方へと向かう。

 

風音「これなんてどう?」

 

風音が俺に渡してきたのは、俺の要望通りの黒淵だ。ちょっと細くて、四角い。

 

八幡「んじゃ、かけてみるわ」スチャッ

 

装着!

 

八幡「どうだ?」

 

雪乃&風音「「・・・・・・」」

 

あれ?なんでそんなポカーンしとんの?そんなおかしい?ヤバい、泣きそう。

 

八幡「ど、どした?」

 

風音「八くん」

 

風音は俺の前に鏡を出した。そこには

 

八幡「誰だ?このイケメン?」

 

美青年がいた。

 

雪乃「濁ってる目が、眼鏡によって緩和されたんじゃないかしら?」

 

そんなうまくいくのか。眼鏡ってすげぇ・・。

 

風音「あ、あのさ八くん。コンタクトとかにしてみない?」

 

八幡「え?どうしたんだ急に?」

 

風音「ああ、いや!別に八くんの眼鏡かけた顔がカッコよすぎるから、他の女の子が八くんに言い寄らないかなんて心配して言ってるわけじゃなくて!その、ええと・・・///」

 

えーなにこの彼女、本音ダダ漏れなんだけど。慌ててる姿がすげー可愛い。

 

八幡「いらん心配だな、風音。逆に眼鏡かけた俺みて言い寄ってくる奴は所詮顔だけで判断してる奴だ。そんな奴らは俺が嫌うものだからな。その点、風音は俺の全てを受け止めている。だから、心配するな、俺は風音しか愛さないし、風音以外見るつもりもない」ナデナデ

 

俺はできる限りの優しい笑顔で、風音の頭を撫でた。

 

風音「八くん・・・//」

 

そして俺達は数秒見つめ合う。

 

雪乃「あの、もういいかしら?」

 

風音「え!・・ああ、ごめん」

 

雪乃「もう少し場所を弁えて頂戴」

 

八幡「あー、悪い」

 

雪乃「それで、眼鏡はそれでいいの?」

 

八幡「んー、そーだなー。他にないし、風音が選んでくれたからこれにする。ちょっと待っててくれ」

 

風音「じゃあお店の外で待ってるね」

 

その後、視力検査をし、度合いを合わせてもらって、お金を払い、眼鏡購入。

 

八幡「待たせたな」

 

雪乃「何故ちょっと渋く言ったのよ・・・」

 

八幡「いいだろ。そんじゃ帰ろうぜ」

 

 

 

≪比企谷家≫

 

八幡「ただいまー」

 

小町「あ、おかえりー。おにいt・・・って誰?」

 

八幡「兄の顔を忘れたのか小町よ・・・」

 

泣くぞ?お前が引くぐらいに。

 

小町「嘘だっ!!」

 

八幡「お前俺の部屋にある漫画読んだだろ。正真正銘お前の兄だよ」

 

小町「お兄ちゃんがそんなイケメンなはずがない!第一、目が少し浄化されてる!?」

 

泣いていい?もう泣いていいだろ?泣くぞ!

 

八幡「俺だ。俺」

 

眼鏡をはずして小町に再確認をさせる。

 

小町「あ、ほんとにお兄ちゃんだ。どうしたの?眼鏡かけて」

 

八幡「ああ、視力が落ちたから買ったんだ。風音に選んでもらった」

 

小町「へー、それにしてもお兄ちゃんほんとにカッコよかったよ。これだと、他の女の子も寄ってきちゃうかもね・・・」

 

八幡「安心しろ。風音に同じこと言われたが、『俺はお前しか愛さない』と高々に言ったよ」

 

小町「おお!それはそれは。風姉に対するまっすぐな想い・・ポイント高い!」ニヤニヤ

 

そのニヤニヤはいつもよせと言っているだろう・・・。

 

 

 

 

《翌日》

 

 

教室に入ると、特に異常はない。

 

風音の言っていたことはやはり杞憂だったようだ。

 

よし、このまま静かに座って本でも読もう。

 

結衣「あれ?ヒッキー、どうしたの?眼鏡かけて」

 

ばっか!お前声がデカい。ホラ見ろ、何人かこっち向いちまったじゃねぇか!

 

八幡「目悪くなったからかけてんだよ」

 

結衣「ふーん、なんか怒ってる?」

 

おっと、どうやら感情が少し声で漏れてしまったようだ。

 

八幡「・・・別に」

 

結衣「似合ってるよ」

 

八幡「中身のないお世辞をどうもありがとう」

 

そう吐き出して、俺はイヤホンを装着し、文庫本を開いた。

 

 

なんか周りの視線が痛い。やめてくれ!昔のトラウマ思い出すだろ。

 

 

 

現在は昼休み。俺は風音のいるJ組に向かっていた。理由は当然、避難だ。

 

ちくちくと目がこっちに集中していて、全然心地が良くない。何故かステルス効果が薄まってるし・・・。

 

歩いていたら、廊下で友達と仲良く話をしている風音を見つけた。今の雰囲気に突っ込むのはすごい気が引けたが、頼りになるのは風音しかいない・・・。すまない。

 

風音「・・・あれ?八くん?なんでここに?」

 

八幡「か、風音ェ~」ダキッ

 

傷めた心を癒すために風音に抱き着いた。

 

風音「ヒャア!ちょっと・・八くん//急にどうしたの?//」

 

八幡「なんか周りの人に見られて、すごい視線が痛い」

 

風音「え?そうなの?・・やっぱその眼鏡かな・・・」

 

八幡「こんなことなら、風音の言った通り、コンタクトにすればよかった。・・でも目に入れるの怖いし」

 

風音「確かにね。それで目に何かあったら嫌だし・・・」ナデナデ

 

風音のナデナデは天にも昇るような気持ちよさだ。一瞬で浄化される。後もうすでに目に異常はあるからその心配はないぞ風音。

 

?1「風音、もしかして、その人が昼休みにいつも話してる彼氏?」

 

?2「おー、見せつけてくれるねぇ。暑い暑い、ヒューヒュー」

 

さっきまで風音と話していた友達は、俺達を見てからかってきた。

 

八幡「ああ、悪いな。割り込んじまって」

 

?1「いいよいいよ。風音から話聞いてて、私も会ってみたかったし」

 

?2「へぇ、カッコいいね」

 

風音「そうだよ。八くんカッコいいんだから」エッヘン

 

いや、そんな胸張って、持ち上げないでくれよ・・。

 

八幡「これ見てカッコいいって言えるか?」

 

そう言って俺は眼鏡をはずす。

 

?1「ほー、聞いてた通り確かに少し濁っている」

 

?2「特徴的でいいね」

 

あれ?全然予想してたのと違う。

 

風音「昼休みにいつも八くんの話をしているからね」

 

読まれた。心の声を。

 

明菜「自己紹介でもしとこうか。私は、神童明菜(しんどうあきな)。よろしく」

 

一華「神崎一華(かんざきいちか)。よろしくね」

 

八幡「比企谷八幡だ。風音と仲良くしてくれてありがとな」

 

明菜「親みたい。風音は面白いからね。一緒にいて楽しいんだ」

 

八幡「え?面白い?」

 

風音「あ、ちょっと!」

 

一華「この前は・・」

 

風音「わ~、ストップストップ。これ以上言わないで//」

 

風音は顔を赤くして、神崎の口を押えた。

 

何でそんな過敏に反応するの?すげぇ気になっちゃうじゃん。

 

明菜「あ、比企谷君も一緒に昼食べようよ」

 

八幡「え、いや、それは邪魔するわけにもいかないだろ」

 

一華「別に邪魔じゃないよ。少し話したいし」

 

風音「じゃあ八くん、行こうか」

 

 

 

八幡「なんでJ組の教室なんだよ・・・」

 

一華「まぁまぁ、いいじゃん」

 

八幡「いや、視線を回避するために来たのに、これじゃあんま意味ない」

 

明菜「風音がいるから問題ないんじゃない?」

 

八幡「・・・・・そうだな」

 

実際、教室のほとんどの視線がグサグサと刺さっている。J組は女子が9割占めるからな。男の俺がいたら多少は警戒するんだろう。

 

明菜「比企谷君、眼鏡かけてるとカッコいいからじゃない?」

 

八幡「は?いや、どう考えても警戒されてるだろ。男の俺がここにいるんだから」

 

一華「(聞いてた以上のネガティブシンキングさだ・・・)」

 

明菜「あれ?よく見たら風音と比企谷君、弁当の具材一緒じゃない?」

 

八幡「ああ、風音に作ってもらってる、愛妻弁当だ」

 

風音「あ、愛妻///」

 

俺がそう言ったとたん、風音は俯いてしまった。

 

八幡「どうした?風音」

 

風音「え//・・な、なんでもないよ!//」フイッ

 

今度は、そっぽを向いてしまった。

 

明菜「(風音、今までに見せたことないほど、デレデレしてる)」

 

一華「(当人の彼氏は肝心なところで鈍感なんだ)」

 

明菜&一華「「((ていうか、風音が可愛すぎる))」」

 

風音「ど、どうしたの2人共!?」

 

そっぽを向いた風音の頭を神童と神崎が撫でていた。

 

明菜「いや、ただ撫でたくなって」

 

一華「以下同文」

 

明菜「いやぁ、風音の意外な一面が見れてよかった」

 

一華「とても可愛くて、乙女だった」

 

風音「もうっ!」

 

何だろう・・・。なんか、すごく和むなぁ、この光景。

 

一華「ところで、比企谷君。風音のはどうだった?」

 

八幡「え?何が?」

 

一華「そんなの、風音の胸の感触に決まってるじゃん」

 

八幡&風音&明菜「「「ぶふぅ!?」」」

 

八幡「と、突然何言い出すんだよ!?」

 

風音「そ、そうだよ!//何でそんなこと!」

 

明菜「あれ?一華ってそういう人だったっけ!?」

 

一華「それより、どうだったの?比企谷君」ジ~

 

この人、中身が完全におっさんだ。見た目からして、まじめで清楚そうなのに・・・。性格は真逆なわけか。

 

八幡「何でそんなこと聞くんだ?」

 

一華「否定はしないんだ」

 

クッ!あまりの予想外過ぎる質問に否定で入れなかった。いや、触ったのは事実なんだけど・・・。

 

明菜「こ~ら」ペシ

 

一華「あいた」

 

踏み込み過ぎの神崎を神童が頭をチョップして、静止させた。

 

明菜「全く・・。一華にこんな一面があったとは・・。」

 

一華「うぅ、ごめんね風音」

 

風音「ハァ、もうちょっとデリカシーを持ってよ・・・」

 

一華「これでも抑えた方なんだけどな・・・」

 

じゃあ本気になった神崎は、一体どんな事言うんだ!?アレで抑えた方なら、相当やばいのが想像できるんだが・・。

 

八幡「じゃあ俺、そろそろ行くよ」

 

風音「うん、また部室でね」

 

一華「お別れのキスはしなくていいの?」

 

風音「しないよ!?」

 

明菜「バイバーイ、いつでも来てね」

 

八幡「行けたら行く」

 

一華「それ、行かない人のセリフ・・。じゃあね」

 

俺はF組の教室に戻り、風音の意外な一面が見れた昼休みが終わった。

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

あ、そう言えば、・・・pixivでも投稿始めました。

また次回。


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12話:俺と彼女の計画エクスカージョン

はい、どうも、アイゼロです。

12話突入。

また、新たなオリキャラが登場。


今日は6月18日。由比ヶ浜の誕生日だ。そんなわけで、雪ノ下が企画した誕生日パーティーを行う。

 

なんだけど・・。

 

雪乃「どこがいいかしら?」

 

八幡「考えてなかったのかよ」

 

雪乃「仕方ないじゃない。こういうのは初めてなのだから」

 

風音「こういうのに限っては、結衣ちゃんが一番詳しいからね」

 

八幡「もういっそのこと、由比ヶ浜に場所を決めてもらおうぜ。このままじゃ、多分決まんねぇし」

 

雪乃「不本意だけど、その方がいいわね」

 

雪ノ下は携帯を取り出し、ポチポチとメールを送った。

 

しばらくして、由比ヶ浜が、部室に訪れた。

 

結衣「どしたの?話があるって・・・」

 

雪乃「今日、由比ヶ浜さんの誕生日でしょう。お祝いをしようと考えたのよ」

 

その言葉を聞いた由比ヶ浜は満面の笑みを浮かべた。

 

結衣「あたしの誕生日知っててくれたんだ!嬉しいなー!」

 

風音「それで、その誕生日パーティーをする場所なんだけど、どこがいいか悩んでて・・。結衣ちゃん、どこかいい場所知らないかな、と思って連絡したんだ」

 

結衣「祝ってくれるだけでも嬉しいからいいよ。この辺だと、カラオケがお勧めだね。割と融通きくし。早速電話してみる」

 

 

 

 

部屋の予約が取れたらしく、駅前のカラオケにやってきた。

 

途中で彩加に偶然遭遇し、ついていくことに。元々、由比ヶ浜にプレゼントを渡すつもりだったらしい。

 

 

≪カラオケボックス≫

 

雪乃「それじゃあ由比ヶ浜さん。誕生日おめでとう」

 

八幡&風音&彩加「「「おめでとうー」」」

 

雪ノ下の合図で俺らも乾杯の音頭を取った。

 

結衣「みんな、ありがとう♪!」

 

雪乃「私からのプレゼントはこれよ」

 

結衣「わー!可愛いエプロン!ありがとね、ゆきのん!」

 

風音「私はコレ!」

 

結衣「料理本か~♪頑張るね!」

 

風音「うん、初心者用だから、そこまで難しくないから」

 

八幡「俺からはこれだ」

 

小さい箱に包まれたチョーカーを由比ヶ浜の前に差し出す。すると、由比ヶ浜は何故か驚いていた。

 

結衣「ヒッキーもプレゼントくれるの?」

 

え・・・・。俺ってそこまで誕生日プレゼントあげない奴って思われてたの?ちょっと傷つくんだけど・・・・。

 

八幡「俺はそこまでケチじゃねぇよ・・・」

 

結衣「わわ!ご、ごめん!ありがとう、ヒッキー」

 

慌てながら、プレゼントを受け取り、箱を開けた。

 

結衣「?なにこれ?」

 

八幡「チョーカーだよ。あ、ちなみにチョーカーというのは、簡単に言えば、首に着ける飾りだからな」

 

結衣「それぐらい知ってるから!馬鹿にすんなし!?」

 

丁寧に説明してやったが、どうやら知っていたらしい・・・。

 

彩加「僕からはコレだよ」

 

結衣「髪留めだ。ありがとう、さいちゃん♪」

 

最後の彩加が渡したのは、ピンク色の髪留めだ。さすが彩加、見た目も脳内もピンク色の由比ヶ浜の特徴をしっかり掴んでいる。

 

結衣「みんな本当にありがとう。今までで一番楽しいかも」

 

雪乃「大袈裟ね・・。ケーキを焼いてきたから、切って食べましょう」

 

結衣「ケーキ!?やった~!」

 

見た目は大人、頭脳は子供だな。今はこの言葉がぴったりだ。

 

結衣「そういえばさ、みんなの誕生日っていつなの?」

 

ケーキを頬張りながら、由比ヶ浜は質問をしてきた。

 

雪乃「1月3日よ」

 

八幡「8月8日だ」

 

風音「8月8日だよ」

 

彩加「5月9日だよ」

 

結衣「へぇ・・・ってヒッキーとかざねん、おんなじ誕生日!?」

 

八幡「そうだぞ。同じ日に同じ病院で生まれたんだ」

 

風音「うん、それで生まれたら、赤ちゃんたちを一旦集める場所があるでしょ。名前忘れちゃったけど・・。そこで八くんと隣だったの、それで親同士が知り合いになったんだ」

 

八幡「おまけに家が向かい同士とか、すげぇ偶然だよ」

 

風音「だから、ほとんど毎日八くんと遊んでたんだ。なんか物心つく前から遊んでたみたい」

 

彩加「へぇ、生まれた時から知り合いで、今は恋人同士か・・。すごく素敵だね♪」

 

八幡「ありがとな。話がそれたな、パーティーの続きやろうぜ」

 

結衣「・・・・あ、うん。折角カラオケに来たんだから、何か歌おうよ!」

 

歌か。アニソンとボカロしか知らないんだが・・・。歌わなければいいか、ほとんど由比ヶ浜が歌うだろうし。

 

結衣「ゆきのん、一緒に歌おう!」

 

雪乃「私はいいわよ。あなた一人で歌いなさい」

 

諦めろ雪ノ下、こうなった由比ヶ浜はやらせるまで、とことんしつこいぞ。

 

結衣「今日あたしの誕生日でしょ!一緒に歌おう!」

 

雪乃「それを言われると・・・ハァ、分かったわよ」

 

結局雪ノ下が折れ、由比ヶ浜と歌い始めた。

 

ちなみに、俺と風音も一緒に歌った。ていうか強制された。

 

彩加の歌は、何というか、刑務所で流したら、全員が完全に心を入れ替えるんじゃないかってぐらい、癒される歌声だった。

 

 

日が変わって、6月の25日のLHR。この時間は、来週行われる遠足について説明がある。行先は、横浜だ。遠足のわりに結構いい場所だな。

 

担任「じゃあまず、遠足のグループから決めます。男子2人と女子2人でグループを作ってください」

 

初めはグループ作りか。また吸われようかと思ったけど、ダメもとで彩加を誘ってみるか。

 

彩加「八幡!一緒に行こう♪」

 

おっと、誘う前に誘われちゃったよ。

 

八幡「ああ、俺も彩加と組むつもりだったからな、いいぞ」

 

彩加「本当に!ありがとう」

 

よし、よかったぁ。・・あとは女子なんだが・・。まぁ、彩加に任せようかな

 

なんか由比ヶ浜のところ騒がしいな。あ、そうか、女子3人だから1人ハブられるのか。

 

けど、ケンカじゃなく公平にじゃんけんをしていた。どうやら由比ヶ浜が負けたらしい。

 

結衣「ヒッキー、一緒n」

 

?1「あの」

 

由比ヶ浜がこっちを見て何か言おうと口を開いていたが、俺は気にすることもなく、俺と彩加に声をかけた女子の方に目を向ける

 

彩加「ん?」

 

?2「あのグループ一緒になっていいかな?」

 

なんと、まさかの女子から来たよ。八幡ビックリ。あと、何で俺に向かって言うの?

 

八幡「あ、いいぞ。入って」

 

彩加「僕も賛成」

 

?1「やった!」

 

?2「よかったねー!」

 

もしかして彩加と一緒に行きたかったのか・・。今の喜びようを見たら間違いないな。

 

彩加「よろしくね♪」

 

?2「うん、よろしく」

 

?1「比企谷君、よろしく」

 

八幡「え、あ、おお、よろしく・・・」

 

突然呼ばれて心臓跳ね上がっちまった。・・・・あれ?

 

八幡「俺の名前知ってるのか?」

 

間違ってもいなかったな・・・。面妖な・・。

 

?1「え?・・うん。・・あれ?私の名前は分からない?」

 

そう言って、その女子は、少し悲しげな顔をした。

 

八幡「ああ、悪いな。俺、クラスメートの名前覚えてないから」

 

凛「そうなんだ。じゃあ、自己紹介ね。九重凛(ここのえりん)、よろしく」

 

飛鳥「あ、じゃあ私もしようかな。八重島飛鳥(やえじまあすか)、よろしくね」

 

八幡「お、おお。よろしくな・・・」、

 

 

担任「よし、大体決まったね。じゃあ次は、班での役割を決めてください」

 

その役割は、班長、副班長、カメラ、保健の4つだ。すごい、誰もサボらせないようにしてる。クソ

 

そんなわけで、俺達4人は話し合いを始めた。

 

飛鳥「なんか班長って、忙しいイメージしかない」

 

分かる。先生はそこまで苦労しないと言っているが、全然そう楽じゃない。他の班員より忙しいし。

 

彩加「公平にじゃんけんでいいんじゃない?勝った人から選んでこうよ」

 

凛「やっぱそれしかないよね。じゃ、恨みっこなしだよ」

 

彩加&飛&凛「「「最初はグー、じゃんけん」」」

 

彩加「ポン」パー

 

飛鳥「ポン」パー

 

凛「ポン」パー

 

八幡「」グー

 

チ~ン・・・・・班長確定。

 

飛鳥「比企谷君、ドンマイ」

 

凛「」ポン

 

九重は俺の肩に手ををポンと置き、うんうん、と頷いている。

 

班の役割は、俺が班長、彩加が保健、九重が副班長、八重島がカメラとなった。

 

担任「それでは来週、横浜にはバスで行きます。遅れないようにしましょう」

 

 

LHRも終わり、SHRまでに帰り支度を済ませようと動いている人がいる中、八重島と九重に話しかけられた。

 

飛鳥「比企谷君ってLINEやってるの?」

 

あ、でた。現代のナンパの仕方。LINEやってるぅ的なやつだ。

 

一応俺は入れてある。ちなみに友達欄は風音だけ。でも家近いから全然使わない。

 

八幡「え、入れてはいるけど、使ってないんだよな」

 

凛「交換しよう」

 

八幡「分かった」

 

俺は2人に自分のスマホを差し出す。

 

飛鳥「え?渡していいの?」

 

八幡「あー、別にみられて困るものないしな。それに、俺やり方分からないから代わりにやってくれ」

 

飛鳥「OK♪」

 

凛「・・・ってナニコレ!?友達少なっ!1人って・・・」

 

地味に傷つくからそんな驚かないでくれ・・。

 

飛鳥「ほい、交換できたよ」

 

八幡「おう」

 

凛「それで、その1人の子って誰なの?」

 

八幡「え、・・・J組なんだけど、俺の彼女だよ」

 

飛鳥&凛「「え?」」

 

そんな驚く?いや、驚くか、こんな奴に彼女だもんな~。アレ?なんか自分で言ってて悲しくなってくる。

 

飛鳥「比企谷君、彼女いたんだ」

 

凛「まぁ、納得だね。カッコいいし」

 

八幡「いや、俺がカッコいいなら世の男子全員イケメンだぞ。こんな目濁った奴」

 

飛鳥「(まぁ、目は結構特殊だけど、顔自体は整ってるし)」

 

凛「(見た目とは裏腹にすごい卑屈だ)」

 

飛鳥「じゃ、よろしくね」

 

凛「よろしく、比企谷君」

 

八幡「・・・・ああ」

 

手を振ってきた同じ班員に対し、俺も返す。

 

何故だ。高2になってから何かと人と関わるようになってる気がする・・。しかも、それに意外と嫌とかめんどくさいとは思っていない自分がいる。俺、何か変わったのかな・・。まぁ、いいや。

 

 

部活も特に相談ごともなく終わり、俺と風音は下校中。

 

八幡「風音は、誰と班組んだんだ?」

 

風音「明菜と一華でグループ作ったよ」

 

八幡「J組は3人グループなんだな」

 

風音「F組は違うの?」

 

八幡「ああ、男子2人と女子2人だ。俺は彩加と組んだ」

 

 

俺はまた、放課後に抱いていた疑念を思い出す

 

八幡「なんだろうなぁ・・・」

 

風音「どうかしたの?八くん」

 

あ、声漏れてた。でも、どうせ心読まれるんだからあまり意味がないな。

 

八幡「いや、高2になってから、何かと人と関わってきただろ?なんか・・それを嫌と思っていない自分がいてな。皆、俺を怖がらないし・・・。なんて言えばいいのかな?」

 

風音「・・・・」

 

突然足が止まり、ポカーンと俺を見てくる風音。そしてそのまま抱き着いてきた。

 

八幡「・・・風音?」

 

風音「嬉しいな、八くんがそう言うなんて。私、八くんの嫌がる事したくないから、今まで言ってこなかったけど。やっぱり、人と関わる楽しさとか、知ってほしかったし、八くんの優しさも、他の人に知ってもらいたい。ずっと、そう思ってたんだ。・・・だから、すごく嬉しい♪」

 

八幡「っ!・・ごめんな、風音。まさかそんな思い詰めてたなんて知らずに、ごめん。でも、まだちょっと不安は残ってるんだ」

 

風音「いいんだよ、ちょっとずつで。八くんがそう言ったってことは、少しは克服できた証だもん。一緒に頑張ろうね」

 

八幡「・・・ありがとう」

 

 

翌日の6限目、本来は数学のはずだったんだが、担当教諭が休みという事で、変わりに遠足の事を班で集まり、話し合うという事になった。やったぜ、数学消えた。成績はいいけど、俺の唯一嫌う教科だ、結構テストでも苦労するんだぞ。

 

俺の目の前では、学校側から渡された雑誌などを、3人が読みながら話をしている。え?お前は入らないのかって?逆に聞こう、入れると思うか?あんな楽しそうに話しているのに、俺が入ったら、急に空気重くなるぞ。

 

そんなわけで、俺はその会話に耳を傾けながら、そこに幽霊でもいるのかと思わせるように、虚空を見つめる。

 

飛鳥「比企谷君、どうしたの?上眺めて・・」

 

八幡「え、ああ、何でもないよ。ただボーっとしてただけだ」

 

彩加「八幡もどこ行きたいか話そうよ」

 

急に話しかけられたと思ったら、いつの間にか俺に提案を求めてきたぞ。皆こっち見てる・・。どうしようか・・。

 

八幡「でも、行きたい場所なんて皆もう考えついてるんじゃないか?今俺が言っても誰かしら被るだろう?」

 

凛「そんなこと言わずに、参考意見として言ってみて」

 

八幡「ん~、じゃあ、カップヌードルミュージアムかな」

 

飛鳥「え、そんなのあるの?」

 

知らないんかい!ほんとに知らないの?結構有名な気がするんだが・・。

 

八幡「ああ、中華街の近くにそういうやつがあってな。その名の通り、昔のから今までのカップラーメンが展示されてるんだよ。しかもそこで、自分オリジナルのやつが作れるんだ」

 

彩加「わぁ、そういうのあったんだね。いいね、オリジナルって!」

 

凛「よし、そこ行こう。行きたくなった!」

 

飛鳥「オーケー!ありがとう、比企谷君」

 

お、お役に立てて光栄です・・・。

 

 

部活の時間がやってキタよ~。

 

さて、暇だ・・・。何しようか、さすがに毎日こうだと、若干うんざりしてくるな。・・・・ちょっと遊ぼうかな?

 

俺は後ろに山積みされている椅子を一つ、黒板の前に持っていき、そこにさっき飲み干したMAXコーヒーの缶を置く。この謎の行動に、奉仕部一同、怪訝な顔で見送っている。

 

八幡「」ドロドロ

 

【ロットアイ】を発動させ、手刀をつくり、そのまま横に薙ぎ払った。

 

すると、缶は綺麗にスパンッ!と切れて、上半分がカランカランと音を鳴らし、椅子から落ちた。

 

結衣「お~!!」パチパチパチ

 

風音「すごーい!」パチパチパチ

 

風音と由比ヶ浜は感嘆するように声を出し、俺に拍手を送る。一方雪ノ下は、ため息をついた。

 

雪乃「あなたね、何やってるのよ・・・」

 

八幡「いやな、だって暇なんだよ。ずっと座ってると腰痛ぇし」

 

雪乃「だからって・・・ハァ」

 

ガッシャーーン!!!

 

うお!!なんだ、急に窓が・・・ってこれ?野球ボール?

 

なんと、窓ガラスが割れ、俺に野球ボールが飛んできて、俺は難なくキャッチする。

 

雪乃「きゃっ」

 

結衣「うはぁ!」

 

風音「きゃあ、ビックリした・・・」

 

俺が一番ビックリしたんだが・・。俺じゃなかったら、ただでは済まなかったぞ。

 

八幡「ったく、気を付けやがれ!」

 

怒気を含んだ声で愚痴を漏らし、【ロットアイ】状態の全力投球をグラウンドに向けて放ってやった。

 

八幡「お、すげー。ちょっとクレーターできちまった」

 

隕石のように落ちてきた野球ボールに、野球部一同は騒然としていた。あれじゃ、ボールもただじゃすまないだろうなぁ・・・。

 

結衣「なんか、見慣れてきちゃった自分が怖いよ・・・」

 

八幡「窓が割れたおかげで、風通しよくなったな」

 

都会の空気なのに、すこし美味しく感じた。主に潮風が。

 

雪乃「取り敢えず、平塚先生に伝えに行きましょう」

 

 

《職員室》

 

俺達は、窓ガラスが割れた件について、事の顛末を話した。もちろん、俺が見事にキャッチしたという事は明かしていない。

 

平塚「野球部には後で、注意を呼び掛けておく。それと、窓の修理は後で業者を呼んで直してもらおう。校長と話してくる」

 

雪乃「ありがとうございます」

 

平塚「今日は部活続けるか?」

 

雪乃「・・・いえ、窓ガラスが割れていると、相談者に迷惑がかかると思います。だから、少しの間休止しようと思います」

 

お、しばらく休みか。やったぜ、ありがとう、野球部・・。

 

平塚「そうか。じゃあ、直ったら教えに行く」

 

雪乃「はい」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

エクスカージョン=遠足



今まで出てきたオリキャラを紹介します。


新島風音(あらしまかざね)

身長:165cm

スリーサイズ:B=80、W=56、H=81

髪型:肩までの長さ。紺色が混じった黒髪

目は普通。

好きな物:比企谷八幡、ぬいぐるみ

おっとりした穏やかな性格で、笑顔が癒される、とても清楚。八幡を悪く言われると、人が変わったようにキレる。眼鏡はかけていない。

同じクラスの神童明菜と神崎一華ととても仲が良い。2人をちゃん付けしないのは、信頼を寄せている証。



神童明菜(しんどうあきな)

身長:168cm

スリーサイズ:B=84、W=58、H=87

髪型:茶髪のショート。

目は普通。

好きな物:食べ物、テレビ

明るい性格で、話し上手。風音と一華と仲良くなったきっかけは単に席が近かったから。



神崎一華(かんざきいちか)

身長:164cm

スリーサイズ:B=83、W=59、H=87

髪型:二の腕までに長い黒の長髪。

目はタレ目

好きな物:ミステリー小説

物静かな佇まいをするが、よく喋る。とてもまじめで清楚に見えるが、中身はちょいと煩悩がある。

風音の事は、たまにからかっている。



八重島飛鳥(やえじまあすか)

身長:163cm

髪型:赤色がかった黒髪ポニーテール

スリーサイズ:B=78、W=54、H=80

目は普通

好きな物:料理、

少し控えめな性格。結構細かく、家事も人並みにこなす。



九重凛(ここのえりん)

身長:165cm

髪型:黒髪サイドテール

スリーサイズ:B=81、W=56、H=80

目は普通

好きな物:カラオケ、喫茶店

積極的な性格で、元気な笑顔がトレードマーク。


性格を作るのって、難しい・・・。

また次回。



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13話:俺と彼女の横浜サイトシーン

はい、どうも、アイゼロです。

13話突入。

読み返し、修正を何回も繰り返した話です。

それでは、ご覧ください。


7月某日、総武高の行事の一つ、遠足が今日始まろうとしています。今は、風音と一緒に学校へ向かっている。

 

八幡「暑くなってきたな~」

 

風音「本当に・・・。暑い」

 

ぐったりと腕をぶら下げている。風音は暑いのてんでダメだからなぁ。

 

俺はカバンに入れてある保冷剤を手に持ち、風音のうなじにピタッと当てる。

 

風音「ひゃっ!・・って、ちょっと八くん!」

 

八幡「ほら、こうすれば涼しいだろ」ピトッ

 

風音「冷たっ・・・もう!お返し!」

 

風音は素早く俺の手元の保冷剤を盗り、俺のYシャツの中に入れた。

 

八幡「うお!ちょっ、冷てぇ!」

 

風音「あっははははは」

 

 

 

保冷剤の奪い合いをやりながらも、総武高に着いた。校門近くの駐車場には、バスが何台か並んでいた。結構デカい。

 

明菜「あ、おーい!風音ー!比企谷君ー!」

 

一華「おはよう~」

 

俺達の名前を呼び、こっちに歩いてきたのは、風音と班になった神童と神崎だ。

 

風音「おはよう」

 

明菜「比企谷君、おはよう」

 

八幡「ああ、おはよう」

 

一華「私たちの乗るバス、奥の方だよ。もう行ったほうがいいかも」

 

風音「分かった。じゃ、八くん、また後で」

 

八幡「ああ」

 

一華「しばらく離れるんだよ?さぁ、キスを」

 

また、それ言うのかよ。もう大分生徒集まってきたのにできるわけねぇだろ。

 

八幡「あのなぁ、こんなとこrッ!」

 

風音は構わずに、俺にキスをしてきた。

 

一華「」ニヤニヤ

 

明菜「おお~・・」

 

風音「じゃ、八くん♪」

 

八幡「お、おお。楽しんでこいよ」

 

風音「八くんもね♪」

 

風音、すごいご機嫌だったな。ヤバい、ニヤついちまう・・。

 

さて、俺も乗るバスの確認をしなきゃ。

 

飛鳥「//」ジ~

 

凛「」ジ~

 

彩加「///」ジ~

 

後ろを振り向くと、バスの陰で顔半分だし、ジ~っとこちらを見ている同じ班の人がいた。

 

あれ?デジャヴ?なんか前にもこんなことなかったっけ?ていうかクラスメイトに見られた!?

 

八幡「なにやってんだ?お前ら・・・」

 

俺は彩加たちの下へ行き、質問を投げた。

 

飛鳥「へ?いやぁ~、あはは」

 

凛「思ってた以上にお熱いね~」

 

彩加「あ、八幡//」

 

クソゥ・・。よりによってこいつらに・・。そして彩加、何故お前が恥ずかしがっている、明らかに一番恥ずかしい思いをしてるのは俺なんだけど・・。

 

凛「あ、写真撮ったよ」

 

八幡「今すぐ消しなさい!?」

 

 

なんやかんやあって、バスに乗り始めた。・・・なんやかんやは、なんやかんやです。

 

結構豪華だぞ。2人ずつ正面を向き合いながら座れて、間にはテーブルが置いてある。こういうのって電車でしか見たことなかったが、バスにもあったのか・・・。

 

分かりやすくするとこんな感じだ。

 

 

通路側

―――――――――――――

 

八幡 テ 飛鳥

   | 

彩加 ブ 凛

   ル 

―――――――――――――

窓側

 

担任「よし、それじゃあ、横浜へ出発します。走行中は立ち上がらないでください。その他は何をしててもいいです」

 

そこまで自由にしていいのか?先生・・・。

 

ここから、横浜までは約3時間かかるらしい。どうしよう・・寝ようか?

 

彩加「そういえば、バスでは何か遊ぶの?」

 

凛「うん、色々持ってきたから、有意義に過ごそう。ほら」

 

九重がバッグから取り出したのは、UNO、トランプ、知恵の輪、キャット&チョコレート、人狼ゲーム、ミニチェス、折り紙等々、多種多様の遊び道具を出した。あんた、何しに来たんだよ・・・。

 

飛鳥「そんなに必要ないでしょ・・。人狼ゲームとかマニアック過ぎない?」

 

彩加「知恵の輪って、皆黙っちゃうんじゃないかな?」

 

凛「確かに・・。やみくもに持ってきたのが間違いだったか」

 

飛鳥「まずはトランプでいいんじゃない?」

 

凛「そうだね。よし、大富豪をやろう!ルールはわかる?」

 

大富豪か、あれ地域によってカードの効果とか違ってくるよね・・。結構ややこしい。

 

8切ってあるけど、俺なら本当の8切ができるぞ。八幡だけに・・・。なんちゃって。

 

 

※大富豪の勝負描写はカットです。

 

 

彩加「はい、上がり」

 

飛鳥「えぇぇ!」

 

八重島が最下位、大貧民となった。ちなみに俺は富豪、九重が大富豪だ。

 

凛「はい、それじゃあ飛鳥。罰ゲーム」

 

飛鳥「えええ!聞いてないよ!」

 

凛「嘘嘘。いやぁ~思った以上に盛り上がったね」

 

彩加「そうだね。すごい燃えちゃったよ!」

 

その後もUNO等のカードゲームで遊び、折り紙も何故かやった。ていうかなんで折り紙持って来たんだ?

 

折り紙に関しては、俺の作った作品である折り猪を見て3人とも目を輝かせていた。その後、3人に希望の動物を作ってほしいと言われ、八重島には犬、九重には馬、彩加には兎を折ってあげた。おかげで、超絶疲れています。

 

飛鳥「すご~い。どういう仕組みなんだろう」

 

凛「本当に・・折り紙だけでここまでの再現度とは・・・」

 

彩加「可愛い♪ありがとう、八幡」

 

八幡「よ、喜んでくれて、何よりだ・・・」

 

ぐったりと机に突っ伏す俺。

 

凛「折り紙、ありがとね、比企谷君。・・・え~と、あと1時間ぐらいだね。じゃあ、お喋りでもしてようか」

 

九重は、バッグからお菓子類をテーブルに並べた。いや、だから何で持って来たんだよ・・・。ちょっと楽しみにし過ぎじゃない?いや、いいんだけどね。

 

飛鳥「比企谷君は彼女いるけど、戸塚君は彼女欲しいとは思わないの?」

 

彩加「え?僕?う~ん、まだ考えたことなかったなぁ。僕が男女交際なんて想像できないや」

 

凛「そっか~。でも、告白されたことはあるんでしょ?」

 

彩加「まぁ、されたことはあるけど//でも、何故か男子にも好きって言われた事あるんだよね。何でだろう?」

 

八幡&飛鳥&凛「「「(((納得できる)))」」」

 

彩加「そういう2人は?恋人とかいないの?」

 

段々高校生らしい会話になってきたな。

 

凛「私?いないよ」

 

飛鳥「私も、好きな人も特にいないし」

 

八幡「え、そうなのか?」

 

彩加「へぇ、意外だね」

 

俺達のこの言葉に、戸惑いの顔を見せる2人。いや、実際に結構驚いた。てっきりいるものだと彩加も思ってたらしいし。

 

飛鳥「何で意外って思ったの?」

 

八幡「2人とも顔立ちは整ってるし、普通に可愛いからいると思ってた」

 

彩加「うん、美人さんだからね、2人とも」

 

俺と彩加の嘘偽りない返答に、2人は次第に顔を赤くしていった。

 

凛「え//・・・・あ、ありがとう///」

 

飛鳥「び、美人//・・ありがと//」

 

あれ?俯いちゃった。なんかゴニョゴニョ言っているが、触れないでおこう。

 

凛「そ、それよりも次、比企谷君。彼女さんとはどうなの?」

 

八幡「え?俺も話すのか?」

 

凛「うん。皆話したから、比企谷君の番」

 

八幡「まぁ、俺だけ言わないのは卑怯だな。言える範囲で話すよ。なにが知りたいんだ?」

 

飛鳥「じゃあ、まず、出会いは?」

 

八幡「生まれたときだな」

 

飛鳥「・・・・・え?」

 

凛「どういう意味?」

 

八幡「ああ、彩加はもう知ってるが、俺と彼女は同じ日に同じ病院で生まれたんだ。そこで親同士が知り合ったって感じだ」

 

凛「なんとも運命的な出会い方・・・」

 

飛鳥「凄いね!それじゃあ、幼馴染みってわけだ」

 

八幡「そうだな。それで、いつも2人で遊んで、小学校卒業を機に告白したんだ。そして今に至るな。後は特になし」

 

あれ?俺普通に話しちゃってる・・・、大丈夫かな?なんか後から怖くなってきたんだけど・・。

 

飛鳥「おお~、いいね。素敵だよ~」

 

凛「うんうん、いい話が聞けたよ。あ、これ食べよ~」

 

まだ食う気かよ。この後中華街行くのに、そんな食って大丈夫か?

 

飛鳥「はい、比企谷君」

 

八幡「もらっていいのか?」

 

飛鳥「水臭い事言わないの。はい」

 

八幡「あ、ああ」

 

半ば強引に、俺はチョコ菓子をもらった。うん、美味いな。

 

 

色々遊んだり、喋っているうちに、あっという間に横浜に着いた。現在は10時。ちょっと楽しみになってきた。

 

担任「それじゃあ、ここからは自由行動です。15時までには再びここに集合してくださいね」

 

凛「取り敢えず、中華街まで行こう♪」

 

 

《中華街》

 

凛「どこの店が美味しいかな~?」

 

飛鳥「そうだね、いっぱいあるからどこにすればいいか迷うよね」

 

彩加「あ、僕美味しい店知ってるよ。一度来た事があるんだ」

 

飛鳥「本当!じゃあ、そこにしようか」

 

行先が決まったらしいから、彩加についていく形で、俺達は昼食を食いに向かった。

 

彩加「ここだよ」

 

店の名前は『竜海飯店』と言うらしく、オーダー式食べ放題という何とも嬉しいシステムだ。

 

中国人店員に誘導され、俺達は丸いテーブルを囲うように座る。

 

飛鳥「お~、凄い。回る回る♪」

 

中華料理店名物の回るテーブル。誰しもが一回は遊びで回してしまう代物だ。

 

しばらく待って、ようやく注文の品がきた。

 

俺と彩加はチャーハン、意外と量がある。八重島と九重は、エビチリだ。その美味しさに舌鼓を打つ。

 

食っているうちに、どんどん料理が運び込まれ、テーブル全体が料理によって埋め尽くされた。

 

八幡「おいおい、こんなん食いきれるのか?」

 

凛「あはは、つい頼みすぎちゃったね。でも美味しいから食べきれるよ!」

 

飛鳥「あ、これも美味し~♪」

 

彩加「あ、八幡。その小籠包、一個もらっちゃだめかな?」

 

八幡「おう、いいぞ。熱いから気を付けろ」

 

彩加「ありがとう♪」

 

 

凛「美味しかったね~♪」

 

八幡「まさか本当に食い切るとは・・・」

 

こいつ、普通に俺より食ってたぞ。いくら美味いからってそこまで胃に入るか?あの量・・・。

 

彩加「お腹いっぱい♪」

 

彩加は、小柄にしては結構大食いだった。男子高校生の平均よりちょっと上。

 

飛鳥「次は、関帝廟だよね?」

 

凛「そうそう」

 

 

紆余曲折を経て、関帝廟に辿り着いた。

 

関帝廟というのは、関羽という商売の神様が祀られているところらしい。

 

飛鳥「おー、デカい!」

 

凛「写真撮ろうよ」

 

関帝廟のゲートを背景にスマホを取り出し、撮影を始めた。俺は無理矢理引っ張られた。

 

彩加「じゃあ、上に上がってお参りしよう」

 

階段を上がり、お賽銭を投げ、手を合わせる。・・・何を願おうか。

 

ちなみに風音との恋愛成就は願わない。そんなものは、自分の力で手に入れてみせる。

 

日本の平和でも祈っとこうか・・。商売関係ない。

 

 

関帝廟を出て、歩くこと数十分。カップヌードルミュージアムにやってきました。ここに来るまでは特に問題も起こらなかったため、割愛とさせていただく。

 

チケットを各々購入し、入館。中は人でいっぱいだが、それをあまり感じさせないほどの広さがあった。

 

まずは、展示ブースに行く。

 

彩加「うわぁ・・・すごーい!」

 

彩加は、ガラスに張り付いて、凝視している。その姿はまるで子供・・・いや、正真正銘の子供に見える。

 

飛鳥「この緑色みたいな麺、千金蕎麦っていうんだ」

 

凛「凄い。和風チキンラーメンだって!食べてみたいな~」

 

こうして、展示ブースを堪能し、いよいよオリジナルを作りに行きます。

 

 

 

まずは、カップのデザインを描く。

 

凛「私、絵下手なんだよぉ」

 

飛鳥「う~ん、何を描こう・・・」

 

彩加「~♪」スラスラ

 

他の2人に対し、彩加は迷うことなく、カラーペンを走らせている。

 

俺は、どうしようかな・・。と悩んでいたが、何故か、ペンを握った手が勝手に動いて、デザインを作り上げていった。

 

彩加「じゃーん。僕はコレ」

 

彩加が、テニスのラケットやボール、その他のテニス用品を描いたらしい。そしてちらっと兎がいた。

 

飛鳥「私はこれ」

 

八重島のは、いろいろな種類の犬が並んで座っている絵だった。それに上手い。

 

凛「うーん、私はこれ」

 

九重が見せてきたのは、少し歪だが、白い馬と黒い馬が一匹ずつ描かれていた。

 

飛鳥「比企谷君のは?」

 

八幡「ああ、なんか、勝手に手が動いて、自分でもよくわからないんだ」

 

凛「へ?・・そんなことあるの?あ、でも、ちょっと言葉で表すのは難しいね」

 

飛鳥「なんだろう?」

 

俺のカップに描かれているのは、黒一色だけで、いくつかの影があり、その離れた方に、哀愁を感じさせる影が一つ。その影は、まるで、何か葛藤をしているように、ブレブレになっていて、期待と失望、対になる感情が、曖昧に、混濁されていることが、読み取れてしまった。

 

彩加「八幡、絵苦手だったんだね」

 

八幡「・・・そうかもしれねぇな」

 

凛「じゃあ、作りに行こうか」

 

デザインが終わり、残りの工程は具材選びに味選び、色々な種類が、あった。

 

「コロチャーコロチャーコロチャーコロチャーで」

 

小太りの帽子をかぶったおじさんが、味を決める前にそう言い放っていた。いやいや、まだまだ具材あるだろ、肉食かよ!

 

 

世界で一つのオリジナルカップヌードルを作り終わり、外へ出たら、俺の携帯にメールが来た。

 

風音からだ・・。

 

風音のメールには、文章はなく、一枚の写真が、添付されていた。

 

風音、神童、神崎が笑顔でピースをしている写真だった。そして、後ろから九重達がメールを覗き込む。

 

凛「あ、彼女から?・・へえ、楽しそうだね♪」

 

飛鳥「比企谷君、私たちも写真撮って、送ったらどう?」

 

八幡「え?」

 

彩加「あ、それいいね。撮ろう」

 

そう言って、彩加たちは、俺の横に立ち、ポーズを決めていた。その状況に、混乱する俺。

 

凛「比企谷君、早く」

 

八幡「え、ああ」

 

取り敢えず、言われるがままに写真を撮り、その写真を風音に送る。

 

 

明菜「今撮った写真、比企谷君に送れば?」

 

風音「あ、そうだね。八くん今頃どうしてるかな~?」

 

一華「浮気してたり・・・」

 

風音「八くんはそんなことしないよ~」

 

明菜「随分信頼し合ってるねぇ」

 

よし、送信、と。

 

写真を送ってから、一分後、八くんから返信がきた。・・・あれ?何も書かれてない。あ、写真。

 

添付されていた写真を見るとそこには、困っているように眉を下げてる八くんの横に、ピースをしている班員の姿が写っていた。

 

風音「八くん・・・」

 

思わず、頬が緩む。やっぱり、ちょっとずつ、八くんの心が開かれている。本人もそろそろ自覚し始めているころなんじゃないかな?勘です。

 

 

遠足の時間も終わり、バスに乗った俺達は、疲れた体を椅子に預ける。

 

彩加は座った瞬間に寝てしまった。

 

凛「あらら、寝ちゃった。まぁ、そうだよね、楽しかったし、疲れちゃったか」

 

飛鳥「うあぁ、寝顔が、すごくかわいい」

 

うん、そうだな、この寝顔は確かに反則級の可愛さだ。

 

飛鳥「楽しかったね♪」

 

凛「だね♪比企谷君も、楽しかったでしょ?」

 

八幡「っ・・・そうだな。楽しかった」

 

飛鳥「私も眠くなってきちゃったよ」

 

凛「私も~。ふぁぁ」

 

八幡「あ、俺眠くないから、寝てていいぞ。着いたら起こす」

 

凛「ほんと?ありがとう。じゃあ、お休み」

 

飛鳥「お休み~」

 

2人は、机に突っ伏して寝てしまった。後、彩加、肩に顔を置かないでくれ、すげぇいい匂いする。

 

起こさないように、そっと頭を離れさせた。

 

八幡「・・・・・・」

 

そして俺は、自分で書いたであろうオリジナルカップヌードルを見つめる。

 

この絵を見たとき、ふと、何かを感じたのだ。

 

 

それは、この絵がまるで、自分と重なっているように見えた事。

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

なぁ、風音。

 

 

俺に、人を信用する資格があるのか?

 

 

今まで、散々、人の交友関係を悪しざまに言ったりしてきた奴に

 

 

そんな奴が

 

 

期待なんてしていいのか?

 

 

今まで人と関わることなんてしなくなった。

 

 

けど、高2になって部活に入り、環境が少し変わった。

 

 

それなりに人と接することが増えてきた。

 

 

それを嫌とか不快と思わない自分がいる。

 

 

だから、分からないんだ。

 

 

俺は、どうしたらいいんだ。この、曖昧な気持ちを・・・。

 

 

ピロリン♪

 

その時、俺の携帯に一通のメールが届いた。

 

風音からだ。内容は・・・!

 

 

『八くんのしたいことをすればいいと思うよ』

 

・・・・・え?

 

『私は八くんの選択に、勧めも咎めもしない』

 

 

『けど、1人で抱え込まないで』

 

 

『八くんに何があっても、私はそばにいてあげることぐらいはできるから。だから』

 

 

『一回でいい。素直になってみたら?』

 

 

風音からの一通のメール。そう、たった一通のメールだけで、俺の黒い感情に、光が差し込んだような気がした。

 

俺の中で、覆いかぶさっていた黒い霧は霧散され、自分の気持ちが、何がしたいのか、わかることができた。

 

 

『ありがとう、風音』

 

一言、風音に返信した。

 

 

 

気付けば、バスは目的地である、学校に到着していた。俺は寝ている班員を起こす。

 

八幡「着いたぞ」

 

凛「ん?・・おお、着いたか」

 

飛鳥「ふぁぁ、よく寝た」

 

彩加「う、うぅん。あ、八幡」

 

八幡「ほら、着いたから、降りようぜ」

 

 

 

凛「じゃあね、戸塚君、比企谷君」

 

飛鳥「じゃあね~」

 

彩加「また、月曜日で」

 

八幡「じゃあな」

 

班員に別れを告げ、俺は風音と合流し、帰路に就く。

 

 

八幡「風音」

 

風音「・・ん?何?」

 

八幡「ありがとうな、メール。タイミングバッチリだったぞ」

 

風音「そっか、それはよかったよ」

 

八幡「自分の気持ちは分かったが、不安がないと言えば嘘になる。けど、一歩進むために頑張るよ」

 

風音「八くんが決めたなら、私は応援するよ。精一杯」ギュウ

 

八幡「・・・本当に、ありがとう。大好きだ、風音」ギュウ

 

風音「私も」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

おや?ハチマンのようすが・・・

また次回。


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14話:俺と彼女の心境アルターレイション

はい、どうも、アイゼロです。

14話突入。

八幡、変わります。


自分は何がしたいのかがはっきりわかり、風音から勇気をもらった遠足の日から2日後の月曜日の4限目。外は雨が降っていて、少し湿気がある。現在は、遠足のグループが集まり、先生から遠足の感想を書けと紙を渡され、俺達は、それに取り組んでいる。

 

わざわざ集める必要なかったんじゃないかと思ったが、むしろ好機だった。今まで抱いていた疑念を晴らすチャンスがきたんだからな。

 

八幡「なぁ、ちょっと話をしていいか?」

 

俺は目の前で感想を書いている2人、八重島と九重に話しかけた。

 

凛「ん?どうしたの?」

 

八幡「何で、俺達とグループを組む気になったんだ?クラスで常に1人の奴と一緒に遠足に行きたいとは思わない気がするんだが・・・」

 

この俺の質問に、2人は目を見開いて、ポカーンとしていた。

 

飛鳥「あ、やっぱり気付いてなかったんだ」

 

え?何に?

 

凛「この際だから、教えた方がいいかもね。比企谷君ってクラスでは誰にも気づかれていない、存在が希薄な人だって思ってるでしょ?」

 

八幡「そ、そうだけど」

 

なにこの子、エスパー?普通に見破られちゃってんだけど・・・。

 

凛「全然そんな事ないよ」

 

八幡「え?」

 

俺さっきっから驚いてばっかりだな。それを構わず2人は話を続ける。

 

飛鳥「あのね、比企谷君ってちゃんとクラスの人には認識されてたんだよ。けど、その目と俺に関わるなっていう雰囲気を出していたから、誰も近寄らなかっただけなんだよ」

 

凛「そうそう、それと眼鏡かけてから、人に見られるようになったでしょ?」

 

八幡「そうだな。凄い視線が痛かったな」

 

凛「その眼鏡の影響で、目と雰囲気が変わっているように見えたから、皆気になったんじゃない?」

 

マ、マジかよ・・・衝撃事実だ。今まで自分のステルス能力だと自負していたのに。まさかの自惚れだったとは・・。

 

飛鳥「私達、前から声かけようとしても掛けられなかったんだからね」

 

八幡「そうだったのか?」

 

凛「そうだよ。逆に何であそこまで他人と関わりたくなかったのか気になってくる・・」

 

話すべきなのか・・・。いや、一歩進むって、風音と約束したんだ。勇気をもて、比企谷八幡。

 

八幡「実はな、ちょっと重い話になっちまうんだが、過去に色々あってな。人が信用できなくなってたんだ。そのせいか人と関わることが嫌になって、むしろ他人の交友関係を色々悪しざまに言ったりとか、最低な事をしてたよ。

けど、高2になって、人と関わることが増えて、それを嫌と感じていない自分がいるんだ。遠足だって、こんな楽しい日になるなんて思わなかった。やっぱ人が嫌いでも、心のどこかでは、そういうのを求めてたのかもしれない」

 

凛「・・・」

 

飛鳥「・・・」

 

彩加「・・・」

 

皆、俺の話を聞き入ってくれている。その真剣な顔に、嬉しさが込み上げてきた。

 

八幡「けど、やっぱり人に対する不安は拭えない。そんな葛藤をしていたら、彼女から『素直になったら』って言われて、一歩進もうと決めたんだ。それに、彩加に八重島、九重は、こんな俺と関わりをもってくれた。だから、3人を信用したいと思って、今こうして話そうと決めたんだ」

 

俺が話を終えると、左手に温かい温もりを感じた。彩加の手だ。

 

彩加「八幡、ありがとう。話してくれて」

 

凛「それが、比企谷君の本物の気持ちなんだね・・・」

 

飛鳥「よかったよ。比企谷君の気持ちが分かって」

 

凛「私たちを信用したいって言ってくれて、嬉しいよ」

 

っ!・・・今までの俺だったら、この言葉に不信感を抱いていた。けど、彩加たちの言葉には、嘘偽りがないと、そう思えたのだ。

 

八幡「なぁ、その・・・俺と、友達になってくれないか?」

 

彩加「僕たち、もう友達なんじゃないの?」

 

凛「私たちはもう、友達だと思ってたんだけどな~」

 

飛鳥「比企谷君は、違うの?」

 

八幡「え?いや・・・そうなのか?」

 

俺が曖昧に返事をすると、八重島と九重は、俺の手を片方ずつ取り、握手の形で握ってきた。

 

飛鳥「私たちは、もう友達だよ」

 

凛「今の話を聞いてた限りでは、完全な信頼はされてないと思うけど、比企谷君が私たちを信用できるように、頑張るよ」

 

俺はこの時、風音とは違う、また1つの『本物』を垣間見た気がした。そう、第2の『本物』というやつを・・。

 

八幡「その、ありがとな。俺と、友達になってくれて・・」

 

飛鳥「アハハ、友達になってくれてありがとうって、初めて聞いたよ」

 

彩加「じゃあ、この後の昼休み、このメンバーで昼ご飯食べようよ!」

 

凛「あ、いいねいいね♪そうしよう!」

 

風音、何度も言うけど、ありがとう。俺は、少しだけ、克服できたのかもしれない。頑張るよ・・。

 

 

4限が終わり、約束どおり、彩加、八重島、九重が集まった。

 

各々持ってきた弁当箱を開く。今日の風音の弁当は野菜中心だな・・。

 

「「「「いただきまーす」」」」

 

うむ、風音、また腕を上げたじゃないか・・。もう店に出していいレベルだぞ。

 

凛「ほぉ~、やっぱり飛鳥の弁当綺麗だな~」

 

飛鳥「え?そうかな、普通だと思うけど・・」

 

褒められるのが恥ずかしいのか、微笑を浮かべる八重島。でも、正直本当に綺麗だからな。

 

凛「しかも自分で作ってるからね」

 

彩加「へぇ~、八重島さん、料理できるんだ」

 

飛鳥「そんなできるわけじゃないよ。主婦並みだよ」

 

それ、高校生からしたら、結構凄いことだからな。

 

飛鳥「比企谷君のは、やっぱり彼女の手作り弁当なの?」

 

八幡「ああ。毎日作ってもらってる。栄養バランスも考えられて、すげぇ美味い」

 

凛「愛妻弁当だね」

 

八幡「まぁ、過言ではないな」

 

凛「お、言うねぇ~」

 

飛鳥「戸塚君のは、お肉が中心だね」

 

彩加「うん、僕運動してるからね。多めに入れてもらってるんだ」

 

八幡「テニス部だもんな、彩加。どうだ?アレから・・」

 

彩加「そういえば、あの試合見てテニスに興味をもって、入部してきた人が結構来たんだ♪部員が増えて嬉しかったよ」

 

八幡「そうか・・。よかったな」

 

いやぁ~依頼達成できててよかった。疲れたかいがあったな。

 

その後も、他愛のない会話が続いた。別に何も思いつかなかったわけじゃないんだからねっ!うん、すっげぇ気持ち悪い。

 

 

人生で初めての友達との昼食も終わり、5限も6限も何事も無く終わった日の放課後。彩加たちに話しかけられた。

 

彩加「八幡、この後って時間ある?」

 

八幡「ああ、少し前に色々あって、今は部活休止してるから、大丈夫だぞ」

 

凛「この後、遊びに行こうかな~、とか話してたんだよ。比企谷君も、彼女と一緒に行かない?」

 

八幡「じゃあ、ちょっと聞いてみるわ」

 

スマホを取り出し、風音に電話を繋げる。

 

八幡「あ、もしもし、風音。実は、ちょっとF組に来てほしいんだ。・・・・そうか、分かった、ありがとう」

 

風音から、いいよ、と了承を得たという事で、しばし待つ。

 

数分後、風音がやってきた。

 

風音「あ、八くん。・・・・ふふっ、一皮むけたみたいだね」

 

八幡「まぁな、風音のおかげだよ。・・・・俺の後ろにいる3人が、俺の人生で初めての、友達だ」

 

俺は少し体を逸らして、風音と彩加たちを対面させた。

 

風音「初めまして、八くんの彼女の新島風音です」

 

凛「九重凛、よろしくね」

 

飛鳥「八重島飛鳥です」

 

彩加「新島さん、久しぶりだね」

 

風音「そうだね。テニスの一件以来だね。それで、八くん、どうしたの?」

 

八幡「ああ、風音も誘って、一緒に遊ばないかって話になったんだよ」

 

飛鳥「大丈夫かな?」

 

風音「うん、大丈夫だよ。誘ってくれてありがとう。・・・あ、八くん、ちょっと話したいことがあるから、外してもらっていい?」

 

八幡「ああ、分かった」

 

 

 

凛「どうしたの?」

 

風音「うん、ちょっとお話がしたくて。皆は、昔の八くんの事聞いた?」

 

飛鳥「はい、今日聞きました」

 

風音「それを聞いて、何か思ったことはある?」

 

凛「・・・嬉しいなって、思った。私たちに話してくれて。ああいう話って、中々他人に言えることじゃないからね。だから、嬉しかった」

 

飛鳥「私も。比企谷君の本音が聞けて良かったと思ったよ。私たちを信じたいって言ってくれて、嬉しかった」

 

彩加「だからね、僕達は八幡と友達になって、お互いが信頼し合えるように、頑張ろうって、約束したんだ」

 

風音「・・・そっか。ありがとう♪変に詮索しちゃってごめんね」

 

飛鳥「彼氏の事なんだから、気になることはしょうがないよ」

 

風音「じゃあ、八くん呼んでくるね」

 

 

 

壁に寄りかかって、物思いにふけっていたら、風音が呼びに来た。どうやら、話が終わったらしい。

 

そして、彩加たちの下へ、2人で戻る。

 

八幡「何を話してたんだ?」

 

風音「八くん、いい友達をもったねって話」

 

八幡「なんだそれ・・・。まぁ、そうかもな」

 

凛「それじゃあ、遊びに行こっか♪場所はもう決まってるんだ」

 

八幡「どこに行くんだ?」

 

凛「ムー大陸」

 

 

そんなわけで俺達は、稲毛駅近くのムー大陸にやってきました。学校帰りに同級生とゲーセンって、リア充っぽいな・・・。

 

八幡「どうだった?彩加」

 

彩加「うん、いいって」

 

彩加は門限があるから、今は親に交渉してたんだ。

 

彩加「何度かお願いして、許しもらえたんだ~♪」

 

飛鳥「・・・ちなみに、どうやってお願いしたの?」

 

彩加「え?・・・・いい?って」ウルウル

 

凛「ぐはぁ!」

 

あまりの透明感のあるエンジェルボイスに、九重がノックアウトされた。

 

こんな声出されたら、誰だろうと断ることができない。断った日には、罪悪感に苛まれるレベルだ。

 

風音「おお・・これは・・。目覚まし時計にセットしたい」

 

俺もしたい。

 

彩加「早く入ろう!」

 

彩加は楽しみにしていたのか、ウキウキしながら入っていった。なんだろう・・この、子を持った親の気分は。

 

 

飛鳥「まずは、UFOキャッチャーのコーナーにやってきました」

 

凛「急にどうしたの?飛鳥」

 

飛鳥「いや、なんか言わなきゃって使命感が突然きたの」

 

あ、それ俺にもあるんだよな~。なんなんだろうな、見えない何かの力が働いてるのか?

 

風音「いっぱい種類あるね。・・・ほとんどが八くんの好きなフィギュアだけど」

 

え、ちょっと風音さん。何いきなり俺の趣味暴露しちゃってるんすか!?皆俺を見てる、やめてぇ・・。

 

彩加「八幡、ああいうのが好きなの?」

 

彩加は頬を朱くしながら、水着の二次元キャラフィギュアを指さした。ちょっとまてぇ!?

 

八幡「いやいやいやいや、誤解するな。フィギュアって言っても、ジャンプ系だからな。勘違いするなよ」

 

弁解をしても、俺に対する視線は変わらない。

 

すると、九重が口を開いた

 

凛「うん、人の趣味は、人それぞれだよね♪」

 

飛鳥「うん、どんな趣味を持ってても、私たちの友情は、変わらないよ♪」

 

優しい笑顔で言ってきた。

 

八幡「誤解だーーーー!!」

 

嘆きの叫びをあげながら、風音の方を見ると、悪戯が成功した子供のように笑顔で舌を出した。クソッ、可愛いじゃねぇか。

 

 

凛「あ、これいいね」

 

飛鳥「うん、可愛い♪」

 

ガラス越しで指を指した先には、アンゴラウサギのもふもふしてそうな大きいストラップだ。

 

彩加「わぁ!ウサギウサギ!」

 

彩加は目をランランに輝かせている。そういや、ウサギ好きだったな。

 

それにしても、アンゴラウサギか・・。なんかこう、心がぴょんぴょんするな!

 

あ、そんなこと考えていたら、UFOキャッチャーで遊び始めたぞ。頑張れ。

 

凛「うぅ~、難しいよ~・・・」

 

彩加「やった~。取れた♪」

 

飛鳥「え?」

 

彩加「ほら」

 

八幡「マジか・・。彩加、得意だったのか?」

 

彩加「そうだよ。僕、ゲームセンター大好きだからね」

 

八幡&風音&凛&飛鳥「(意外)」

 

凛「じゃ、じゃあ戸塚君!アレ、取れる?」

 

彩加「えっと、アレだね。任せて!」

 

飛鳥「小さい背中なのに、大きく感じる、頼もしいよ!」

 

そして、彩加はターゲットを難なくゲットし、九重に渡した。

 

凛「ありがとう♪戸塚君」

 

彩加の意外な特技を発見した。

 

飛鳥「戸塚君、私もお願いしていい?」

 

彩加「もちろん♪」

 

彩加は、慎重に見極めながら、ボタンを長押しする。そして、アームが上に上がると

 

彩加「やった~!3個同時取り♪」

 

ぴょんぴょんと跳ねながら喜ぶ彩加に対して、後ろの俺達は呆気に取られていた。

 

まさか、ここまでとは。【ロットアイ】でも、彩加よりも上手くできる自信がない。それくらい凄い。

 

飛鳥「あ、せっかくだから、比企谷君と風音ちゃんにもあげるね」

 

そう言って、俺達に残りの2匹を渡してきた。

 

風音「あれ?いいの?」

 

飛鳥「うん、これでみんなお揃いだよ♪」

 

俺は、渡されたストラップを目の前に掲げる。

 

嬉しくて頬を緩むどころか、口元から笑みがこぼれた。

 

彩加「あ、八幡笑った」

 

凛「何!しゃ、写真を」

 

八幡「撮らんでよろしい」

 

風音「私の携帯にはいっぱい入ってるよ」

 

飛鳥「本当に!」

 

八幡「送らんでよろしい!」

 

いや、本当に送らないでね・・・。恥ずかしいから。

 

 

UFOキャッチャーコーナーから離れ、見回っていたら、ある機体が目に止まった。

 

老若男女楽しめる太鼓ゲーム、『太鼓でドン!』だ。中学の時、風音と勝負したことある。全敗したけど・・。

 

凛「あのゲームね、飛鳥が凄く上手いよ。難易度鬼も普通にできるし」

 

八幡「ほぉ、すげぇじゃねぇか」

 

またしても、意外な事実を発見した。

 

飛鳥「そんな持ち上げないでよ・・。しばらくやってないから、腕落ちてるかもしれないし。・・ていうかこれ、やんなきゃいけない流れかな?」

 

凛「せっかく来たんだから、やってこう!」

 

飛鳥「それもそうだね。誰か一緒にやろうよ?」

 

風音「じゃあ、私がやろうかな」

 

今の話を聞いて、この中で八重島に対抗できるのは、風音ぐらいだろう。やったれぇ!風音ぇ!

 

2人は100円を投入し、バチを手に持ち、曲を決め、構えをとる。

 

その瞬間、八重島の雰囲気が、がらりと変わった。

 

周りの空気が徐々にピリピリとし、思わず息を飲むほど、険しくなっていった。

 

そして、曲が始まった。

 

八重島と風音、お互い譲らず、恐ろしい速さで太鼓を叩く、叩く、叩く!

 

す、すげぇ・・。なにこの一つのミスすら許されない戦いは・・・。

 

この勝負は、八重島の勝ちで終わった。風音は負けてしまったが、かなりの僅差だった。

 

飛鳥「凄いね。風音ちゃん」

 

風音「伊達に八くんと、勝負してきてないからね♪」

 

 

大分日も傾いた頃、最後は九重の提案で、プリクラを撮ることになった。九重と八重島は手馴れた手つきで、画面をタッチし、進めていく。

 

そして、皆が一斉にピースをした。え、ちょっと待って、もう始まるの?と、取り敢えず、カメラを見てるか・・・。

 

パシャッ!と瞬間にカメラが発光した。

 

八幡「うわっ、すげぇ補正されてる・・・」

 

皆、目が大きくなって、キラキラしてる。・・・・あれ?補正されてるよね?俺の目は濁ったままなんだけど。最早機械ですら敵わなくなっちまったというのか。泣けてくるぜ。

 

俺以外の4人は写真をデコレーション?している。ちょっと覗いてみようかな。どれどれ・・

 

4人の背中越しに、画面を覗きに行くと、そこには・・

 

『友達記念』

 

と、描かれていた。

 

・・・やばい・・マジで泣きそう・・。目頭が熱い。こらえろ・・こらえろ、俺。

 

 

 

風音「はい、八くん」

 

プリントされた写真を渡された。

 

そこには、無表情の俺の横に、他の4人がピースをしたり、何かとポーズを決めている姿が写っていた。

 

八幡「ありがとな」

 

彩加「楽しかったね♪」

 

飛鳥「うん♪」

 

凛「どうだった?比企谷君。初めての友達との遊びは」

 

八幡「・・・ああ、すげぇ楽しかったよ」

 

凛「そっか。それはよかった」

 

風音「皆、ありがとうね。私も楽しかった!」

 

凛「うん、私も楽しかったよ。・・・じゃあさ、皆下の名前で呼び合わない?」

 

八幡「え?・・・いや、さすがにそれは・・」

 

ハードルが高すぎる・・。

 

飛鳥「凛、さすがに無理じゃない?ほら、さすがに彼女の前だとね・・・」

 

凛「え・・う~ん、そっか~・・」

 

風音「私はいいよ」

 

え?・・許しちゃうの?そんな緩いと、逆に俺が少し拗ねてしまうんだが・・。

 

風音「八くんの初めての友達だし。それに、私も今日楽しかったから、名前で呼び合いたいな。あ、でも『八くん』って呼ぶのはダメだよ」

 

凛「やった!ありがとう。・・じゃあまず、比企谷君、呼んでみて!」

 

へぁ!いきなり俺っすか?ちょっ、勘弁してくださいよ~マジ。お願いだから、俺に視線を集めないでぇ・・。

 

風音「ほ~ら、八くん」

 

八幡「分かったよ。・・・り、凛」

 

凛「よし!」

 

八幡「飛鳥」

 

飛鳥「は~い♪」

 

彩加「じゃあ僕も、凛と飛鳥って呼べばいいんだよね?」

 

飛鳥「もちろん♪・・私たちは比企谷君のこと、何て呼べばいいかな?」

 

風音「普通に下の名前でいいんじゃない?」

 

凛「あ、いいんだ。・・じゃあ、八幡」

 

飛鳥「八幡」

 

うおぉ・・なんだこの感じ。ちょっと照れ臭い・・。

 

凛「じゃ、明日からよろしくね」

 

飛鳥「また明日~」

 

風音「うん、じゃあね~」

 

八幡「じゃあな」

 

 

≪帰り道≫

 

八幡「なぁ、風音は俺が名前呼びされたりとか、呼んだりとか、その、嫌とか感じないのか?いや、この質問自体していいのか分からなかったんだけど・・」

 

風音「他の人だったら、もちろん嫌だよ。あの2人は特別、八くんが一歩踏み出して、信頼を寄せた友達だもん。それに、私も凛と飛鳥と遊んで、楽しかったし♪」

 

八幡「そうか」

 

ちゃん付けしてないという事は、風音はもう信頼を寄せているのだろう・・。

 

 

《翌日》

 

教室に入ると、先に来ていた凛と飛鳥が駆け寄り

 

凛「おはよう!八幡!」

 

飛鳥「おはよう!」

 

と元気よく、片手を挙げて挨拶をしてきた。

 

そして、人間の習性である、同調行動が発動し、同じ行動をしてしまった。

 

八幡「お、おはよう」

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

また次回。


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15話:俺と彼女の林間学校ボランティア

はい、どうも、アイゼロです。

15話突入。

夏休みに入りました~。

それでは、ご覧ください。


じりじりと日差しが眩しく、肌が焼けるような暑さにやられながらも、総武高は夏休みを迎えました。

 

そんな俺達奉仕部一同は、車から降り、辺りを見回す。

 

自然に囲まれ、森林は生い茂り、濃密な草の匂いが鼻をついた。空気がおいしく、気持ちがいい。

 

結衣「ん~!きもちいい!」

 

彩加「わぁ、本当に山だ」

 

風音「空気がおいしいね~」

 

・・・何故こうなった・・・。

 

遡ること数日前、俺の携帯に一通のメールが届いた。

 

 

差出人:平塚

 

比企谷君、夏休みの奉仕部活動について連絡があります。詳細は後程、説明しますので、宿泊セットを準備しといてください。

 

 

先生・・・メールだとキャラが違うんすね。なんていうか・・まじめっす。

 

そんなわけで、俺、風音、雪ノ下、由比ヶ浜、彩加、小町のメンバーで先生の車で、千葉村にやってきました。ていうか、何で小町いるんだよ?必要あった?

 

先生曰く、奉仕部の活動で小学校の林間学校のサポートスタッフとして働いてもらう。

 

なんでそんなめんどくさい事引き受けたのかねぇ・・・。大人の事情というやつなのかな?大人になりたくねえな~・・・。

 

それはそうと

 

隼人「やぁ、ヒキタニ君」

 

俺の事をヒキタニと呼んだイケメンは、軽く手を挙げた。

 

優美子「なんかただでキャンプできるっつーから来たんだけど?」

 

翔「っべーわー!いーやーただでキャンプとかやばいっしょー!」

 

姫菜「私は葉山君と戸部君がキャンプすると聞いてhshs」

 

なんか一人だけとんでもないやつがいた。

 

八幡「なんでこいつらもいるんすか?」

 

平塚「ん?ああ、君たち以外にも募集をかけていてね。それで、こいつらが参加すると言ってきたんだ」

 

隼人「俺は、内申が加点されるって聞いたからなんだ」

 

成程、つまり釣られてんだな?そうだろ?そうと言え。

 

平塚「小学生はもう集合してるみたいだ。お前たちも早くいくぞ」

 

 

「はーい、皆が静かになるまで3分かかりました~」

 

で、でたーーー!全校集会や学級会などでお説教の前ふりに使われるあの伝説の台詞!この年になって聞くことになるとは・・。

 

予想通り、教師の説教から、林間学校の説明が始まった。

 

一日目の行事はオリエンテーリングだそうだ。みんな『林間学校のしおり』を開いている。

 

一通り説明を終えた教師は、俺達に顔を向け、葉山にメガホンを渡した。

 

「では最後に、みなさんのお手伝いをしてくれる、お兄さんお姉さんを紹介します。まずは、挨拶をしましょう。よろしくお願いします」

 

教師の言葉に小学生の視線は、一斉に葉山に移った。

 

隼人「これから3日間みんなのお手伝いをします。何かあったらいつでも僕たちに言ってください。この林間学校でたくさんの素敵な思い出を作ってください。よろしくお願いします」

 

「はい、ありがとうございました」

 

なんのひねりもない、無難で模範的な超普通のつまらない自己紹介ありがとうございました~♪

 

 

「それでは、オリエンテーリング、スタート」

 

教師の合図とともに、小学生はグループを形成して、森の中を歩き出す。

 

八幡「よし、俺らも行くか」

 

風音「そうだね」

 

俺達は、小学生についていく形で、奉仕部の活動が始まった。

 

 

 

「キャア!」

 

1人の女子小学生が悲鳴をあげた。はぁ、早速アクシデントかよ・・。なんだなんだ?

 

「蛇だ!」

 

どうやら、蛇に遭遇したらしい。珍しいな、こんなところに蛇なんて・・。なーんて悠長な事言ってらんねぇな。

 

隼人「危ないからみんなは下がって!」

 

葉山は蛇と対峙しながら、小学生を手で制止させている。いや、そんなことしたって、蛇がいなくなるとでも?

 

そんな葉山を無視し、俺は蛇の下へ足を運ぶ。

 

隼人「ヒキタニ君、危ないよ!」

 

雪乃「大丈夫なのかしら?」

 

結衣「だ、大丈夫だよ。ヒッキーにはアレがあるし」

 

残念大外れだ。蛇ごときで、ロットアイなんて使わねぇよ。あとさ、

 

風音と小町は何でそんな何事も無いような顔をしてるの?ほら、ちょっとは心配してくれたっていいじゃない?

 

俺は素早く、蛇の喉を優しくつかみ、尻尾も持ち上げ、身動きをとれない状態にした。

 

男子「おー!すげーー!」

 

男子「かっけーーー!!」

 

女子「カッコいいーーー!」

 

小学生から称賛の言葉を浴びた俺は、少し優越感に浸った。・・だって、葉山の顔面白いもん。

 

俺は、蛇を持ち上げたまま、小学生に近づいた。一瞬不安の表情を見せたが、すぐに落ち着かせ、蛇を見せるように前へ持って行った。

 

八幡「ほら、触ってみろ。心配するな。動けないようにしてるから」

 

俺がそう言うと、何人かが近づき、恐る恐る蛇の胴体を触った。

 

男子「すげー、こんな感触なんだ・・」

 

女子「なんか不思議だね」

 

その後も、蛇の豆知識を教え、小学生からの関心を得たという事で、蛇を逃がし、風音の下に戻った。うむ、子供というのは、いいものだな・・。

 

風音「お疲れ、八くん。すごかったよ♪」

 

八幡「おう。ありがとな」

 

 

そろそろ、中間地点かな。あー、疲れた。喉が乾いた。

 

風音「はい、八くん」

 

俺の状態を察知した風音は、MAXコーヒーを渡してきた。

 

風音「持って来たんだ。ここにはないし」

 

八幡「おおー!ありがとな、風音。愛してる」

 

風音「ふふ、私もだよ~」

 

お、普通に返してきた、嬉しい。最近やたら、からかったせいで耐性がついたのかな?ウブな部分が抜けている・・。

 

小町「お兄ちゃん、風姉。ここにきてまでいちゃつかないでよ。小町、毎日砂糖吐き出す思いしてるんだから・・」

 

ははは、それは悪いな。だが小町、いくら可愛い妹の頼みでも、譲れないものがあるのだよ。なにをだよ。

 

女子1「お兄さんとお姉さんは、恋人なの?」

 

1人の女子が、グループを連れて俺達の前に現れた。この話しかけてきた子が、おそらくリーダーだろう。

 

風音「うん、そうだよ」

 

女子3「2人は、喧嘩したことないの?」

 

八幡「一回もないな」

 

女子1「すごーい!じゃ、お幸せに」

 

そう言って、再び女子たちは歩き出した。

 

なんて純粋なんだろう、小学生というのは・・。俺もつい昔の事を思い出す。・・あ、トラウマあるから、やっぱやめとこう。シャットアウト!

 

去っていった女子グループに再び目線を向けると、俺は眉間にしわを寄せた。

 

1人だけ、2歩離れた状態で、歩いている。その少女は、首からカメラを下げ、顔を下に向けながら、トボトボと歩いている。

 

風音「八くん、あれ・・・」

 

八幡「やっぱ、ああいうのはなくならないんだな。いつの時代も」

 

 

夜は飯盒炊飯。カレーを作るんだよ~。葉山グループと奉仕部のグループで分かれて調理の手伝いをすることとなった。ちなみに、由比ヶ浜は、葉山グループに入った。

 

手伝いと言っても、見守ってるだけで、何か聞かれたら答えるくらいの事しかしないんだよな。ま、子供は嫌いじゃねぇし、こういうのは見ていて飽きない。頑張れー。

 

雪乃「私たちも、晩御飯はカレーだから、一緒に作るのよ」

 

ええぇ!本当かいサザエ!?

 

 

奉仕部と葉山グループが一つのテーブルで、カレーを頬張っている中、平塚先生が訪ねてきた。

 

平塚「ふむ、何か心配事かね?」

 

先生がそう聞いてきた。それもそうか。皆浮かない顔してるし。その理由は十中八九、あの女子小学生のことだろう。

 

隼人「実は、孤立してる子がいて。なんとかできないかなって思ってます」

 

平塚「そうか・・。ま、君たちでなんとかしたまえ」

 

うっわ。投げつけてきた。なんの意も返さずに・・。ちょっとは、話し合いに参加する姿勢を見せてくださいよ。

 

優美子「それで、隼人。なんか考えてるわけ?」

 

そうだ。何とかしたいんなら、何かしら考えがあるはずだ。むしろなかったら、この場で論破する。雪ノ下が。

 

隼人「俺は、皆で話し合えば、理解し合えると思うんだ」

 

ぶふぅ!!ぷ・・・くく。おい、思いついた案がそれか?最高傑作だ。笑わせるんじゃねぇよ。なんとかこらえてるけど。あ~腹痛い。

 

この提案に風音も呆れているのか、目に光を宿していない。雪ノ下は、ふか~い溜息をついた。

 

雪乃「それ、本気で言ってるのかしら?」

 

隼人「ああ、本気だ」

 

どうやら、真剣らしいな。あの目を見る限り。

 

雪乃「無理よ。不可能だわ」

 

ま、当然こんな意見、却下に決まっている。だが、俺はあえてこう言う。

 

八幡「やってみろよ」

 

俺の発言に、風音、小町、雪ノ下が驚いていた。それもそのはず、他の誰よりも否定しそうな人が、この案を肯定したのだから。

 

風音「八くん、何を・・」

 

雪乃「比企谷君、一体・・」

 

何か言いたげだったが、俺は目で制止させ、葉山の方を向いた。

 

八幡「その、皆で話し合い。やってみればいいじゃねぇか」

 

隼人「分かったよ・・・」

 

葉山は、俺がこの意見に賛成したことをを不審がっているのか、複雑の表情で、頷いた。

 

葉山、お前は少し、非情というものを身に付けやがれ。スーパーサイヤ人になれないぞ?あ、元々金髪だったか。

 

 

カポーン

 

八幡「ふぅ・・」

 

彩加「気持ちいいね♪」

 

八幡「だな」

 

現在、俺と彩加は風呂に入っている。気持ちがいい。あと、ヤバい。彩加を直視できない。見た瞬間、鼻血を出しそうで怖い。男なのに・・・男なのに!!。

 

彩加「そういえば八幡、どうして、葉山君の提案に乗ったの?」

 

八幡「ん?・・ああ、ちょっと葉山に現実を思い知らせるだけだ。あの意見が、どれだけ残酷なのかをな」

 

彩加「え!じゃあ、あの子、余計ひどく言われちゃうんじゃない?」

 

八幡「なーに、心配するな。アフターケアも考えてある」

 

 

夜は、木造ハウスに布団を敷き、皆眠りにつくとき、1人のお調子者が声をあげて、邪魔をしてきた。

 

翔「なんか修学旅行みたいじゃね?あ、好きな人の話とかしよーぜ!隼人君!」

 

隼人「やだよ」

 

即決の葉山。これ二つ名みたいだな・・。俺も二つ名とかないかな?腐濁(ふだく)の八幡。こんなん嫌だ。

 

翔「じゃあ、俺からな!・・実はさ、俺、海老名さん、ちょっといいなって思っててさ」

 

八幡「マジかよ・・」

 

予想外の想い人に、思わず声を出してしまった。てっきり、三浦かと思ってた。こいつ、媚びうるように、盛り上げてるから。

 

翔「うお!んだよ~、ヒキタニ君聞いてたのかよ~。っつーか、ヒキタニ君アレだべ?新島さんと付き合ってるんしょ?」

 

八幡「ああ」

 

翔「っべーわー!ヒキタニ君。マジ青春謳歌しちゃっている系!やべーわー」

 

うるせぇよ。

 

翔「じゃあ次。隼人君は?」

 

隼人「俺はいいよ」

 

否定しないあたり、気になってる人はいるという事なのかな?吐き出せ。弱みを握ってやる。

 

翔「えー!いいじゃん。イニシャルとかでもいいから!」

 

隼人「・・Y」

 

Y・・か。結構いるぞ。雪ノ下、由比ヶ浜に三浦、あと飛鳥だな。

 

隼人「もういいだろ。寝るぞ」

 

やや強引気味に電気を消し、就寝した。

 

 

翌日、彩加に起こされ、準備された朝食も食べ終わり、何故か水着に着替えさせられ、川に来ています。この間には、何もありませんでした。水着と言っても、上からパーカー着ています。

 

風音も白い水着を身に着けて、俺の隣にぴたりとくっついている。おかげで腕に伝わる柔らかい感触が、俺の冷静さを失わす。

 

風音の水着姿、誰にも見せたくない・・。けど、重いとか、束縛とか言われたくないから、堪える。グッと堪える!

 

結衣「ほら!ヒッキーも遊ぼうよ!」

 

そう言って、由比ヶ浜は俺のパーカーを掴みながら、引っ張る。

 

八幡「いや、いいよ。俺は」

 

結衣「えー!いいじゃん!」

 

風音「ねえ、結衣ちゃん。八くん、嫌がってるから・・」

 

小町「あのー、結衣さん。お兄ちゃんもああ言ってますから、私達で遊びましょう」

 

風音と小町が止めてくれたが、それを一部始終聞いていた三浦が、口を割ってきた。

 

優美子「あんさー、結衣がせっかく遊ぼうっつってんだから、遊ぶし!」

 

この発言に、風音と小町は、三浦に鋭い目つきで睨み付けた。それに気づいた三浦もにらみ返す。

 

さすがに、見ていていい気分ではないから、降参することにした。

 

八幡「チッ・・。分かったよ。遊べばいいんだろ・・」

 

俺がパーカーを脱ぎだすと、周りの俺を見る目が変わった。

 

俺の右肩には、深い切り傷の痕があるのだから。

 

この傷は、ある事件がきっかけで、小学生の時に付けられた。まぁ、その詳細は後々説明するよ。まだ何話先か分からないけどな。

 

八幡「さ、遊ぶんだろ?何すんだ?」

 

結衣「え・・いや・・その」

 

煮え切らねぇ奴だな。自分から誘ったんだろうが。

 

小町「お兄ちゃん・・」

 

風音「八くん、場所変えよっか」

 

風音と小町に連れていかれる形で、集団から離れた。

 

 

 

風音「八くん、どうしたの?」

 

小町「そうだよ。お兄ちゃんらしくもない・・」

 

八幡「別に。2人が三浦とにらみ合ってる画は見ていて気分が良くないからな。それに、俺は気にしてない」

 

小町「・・お兄ちゃんがそういうなら・・・」

 

風音「でも、ああいう行動は、控えてほしいかな」

 

八幡「悪いな。気に病むことして。気を付けるよ」ナデナデ

 

俺の事を心配してくれる、優しい彼女と妹の頭を撫でた。

 

 

さぁ、始まるザマスよ。いくでガンス。葉山発案、『話し合って仲良くしよう』。果たして、このお花畑な解決方法を、葉山はクリアできるのでしょうか?

 

隼人「ヒキタニ君。その、さっきは、優美子がすまなかったな」

 

八幡「何のことだ~?それより、早く言った方がいいんじゃないか?あの子たち行っちまうぞ」

 

隼人「君って奴は・・。行ってくるよ」

 

全く・・。せっかく盛り上がってたんだから、掘り返すんじゃねぇよ。

 

葉山は、少し離れた所にいる少女を連れて、集団の中に入れながら、話し合っていた。

 

一方その少女は、怒りを含んだ鋭い目つきで、葉山を睨んでいる。その眼には『余計なお世話』とでも訴えているかのようだった。

 

そして、女子グループは、気まずく、孤立していた少女を招き入れた。それを葉山は、成功したと思い込んだらしく、ご機嫌で戻ってきた。

 

腹が立つ。その、何でも分かっていると言っているような表情に、凄く怒りがこみあげてくる。

 

隼人「上手くいったよ。俺達も行こう」

 

八幡「待てよ」

 

俺は怒気を含んだ低い声で、葉山の服を掴み、無理矢理前に引っ張り出した。

 

隼人「な、なんだよ?・・」

 

八幡「よく見やがれ」

 

そう言われて、葉山は再び女子たちを見た。そこには、さっきとは裏腹に、仲間に入れたはずの少女が、集団に糾弾されている光景が、目に映っていた。

 

隼人「え?・・そんな・・」

 

八幡「見えないところで行われているからこそ、イジメや悪意というものは消えないんだ。人間を1種類だと思うな。何でもかんでも、思い通りにいくと思ったら、大間違いだ。それくらい、高校生なら気付くだろ」

 

隼人「クッ!」

 

心底悔しそうな葉山を置いて、俺は1人になった少女の下へ歩く。

 

?「何?」

 

八幡「いや、特に何も。俺の名前は比企谷八幡だ」

 

留美「・・鶴見留美。それで、何か用?」

 

八幡「用というか、さっきは悪かったな」

 

留美「ほんと。余計なお世話だった」

 

八幡「・・・なぁ、嫌か?こういうのは」

 

留美「・・うん。なんか惨めで、凄く嫌」

 

その声は、とても小さく、震えていた。

 

留美「別に、1人が嫌なわけじゃない」

 

八幡「鶴見は、どうしたいんだ?」

 

留美「留美でいい。私も八幡って呼ぶ」

 

八幡「え、おう。そうか」

 

何小学生相手に戸惑っちゃってるの?俺ってば・・。

 

留美「私は、今の環境が嫌なだけ」

 

八幡「・・・成程な」

 

留美「用はそれだけ?」

 

八幡「ん。そんだけだな。それよりも、俺にいい考えがあるぜ」ニヤ

 

留美「?」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。

奉仕部の2人が空気みたいと感想をいただきましたが、そんなことはさせませんよ。

また次回。


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16話:俺と彼女の花火サマーフェスティバル

はい、どうも、アイゼロです。

16話突入。

お気に入りが500超えてました。嬉しい。けど何故か投票数が少ないなぁと思い、このシリーズの編集画面を見たら、評価設定のところに50という数字が・・・。やらかした。

そんなわけで、評価設定を0に変えました。よろしければ、投票の方、よろしくお願いします。

それでは、ご覧ください


林間学校の最終日、小学生は最後の行事である肝試しに、胸を躍らせていた。こちらは衣装を纏い、小学生を脅す側で、森に待機をしている。俺と葉山以外でな。

 

八幡「次だぞ」

 

隼人「本当にやるのか?」

 

俺達は、留美のグループを待ち伏せしている。他の生徒にもばれないように、ルートを少しいじった。

 

八幡「もうそれしかないんだよ。時間だって限られてんだから、これが最善策だ」

 

隼人「・・分かった。こうなったのも俺に責任がある。精一杯やらせてもらうよ」

 

八幡「おう。・・と、来たみたいだぜ」

 

隼人「じゃあ、行ってくる」

 

葉山は、女子集団の前に姿を現した。

 

「えー?なに?普通ー」

 

「そんなんで驚くと思ってんのー?」

 

「馬鹿だねー」

 

何もコスプレしてない葉山の姿に、馬鹿にしたように大笑いをする。年上を敬ないその態度。

 

隼人「馬鹿はどっちだ?年上に対する口の聞き方がそれかよ」

 

何とも葉山らしくもないお言葉。女子たちも予想外らしく、え?と表情を変えた。

 

隼人「この林間学校で、さすがにお兄さんも腹が立ったよ」

 

「その・・ごめんなさい」

 

隼人「謝ってほしいんじゃない。・・そうだな、半分はここに残れ。後は帰ってよし」

 

「そんな・・・」

 

「・・留美、あんた残りなさいよ」

 

留美「なんで?」

 

「はぁ!なんでって・・」

 

留美「私は何も言ってない」

 

隼人「その子の言う通りだ。何故その子が残るんだ?彼女はほぼ君たちと行動していないと思うんだけど」

 

作戦はこうだ

 

 

 

留美『考えって何?』

 

八幡『まず、あの集団の関係を徹底的に潰す』

 

留美『いきなり、とんでもない事言ったね』

 

八幡『決行は肝試し。まずは、留美のグループだけ、ルートをいじって別方向に行かせる。そこには、俺とあの葉山って言うやつが、待ち伏せするんだ』

 

留美『うんうん』

 

八幡『葉山だけ姿を出して、あの集団に、半分残って半分帰るという脅迫をするんだ。そんで確実に留美が残れ、と皆が言うはず。そこで、お前は反論しろ。お前は何もしてないんだからな』

 

留美『それで?』

 

八幡『絶対にお互い自分を守るために、誰かを犠牲にするだろうな。面白いことになるぞ、人の悪意がいーっぱい飛び交うんだからな。・・そんで、俺が出てきて、ドッキリでした~とかやる』

 

留美『それは・・面白そう。でも、それだと八幡たちは大丈夫なの?』

 

八幡『ま、大丈夫だろ。そこも考えてある』

 

 

 

隼人「あと30秒だ。誰が残るんだ?」

 

「あんたがさっきあんな事言わなければ・・」

 

「何それ?一番多く言ってたのあんたじゃない!」

 

「何あんただけ逃れようとしてるのよ!?」

 

「私は別に言ってないもん!」

 

おーおーおー。いい感じに、争ってくれてますね~。ククク。そろそろ時間切れかな?

 

隼人「時間切れだ。どうする?」

 

全員涙目で俯いてしまった。さて、ここからは俺の出番だ。

 

八幡「ドッキリ大成功~」

 

「え・・」

 

俺の登場に一同驚くように目を見開いた、全員の視線がこっちに向く。

 

八幡「ドッキリだよ。演技うまいだろ?こいつ」

 

「な、なんだ・・そうだったんだ」

 

「よかった・・」

 

本当に良かったのかな?ここからが俺の真骨頂だ。

 

八幡「さて、お互い悪意をさらけ出した気分はどうだ?あの醜い言い争いをして。相手の事を信頼できるのかな?」

 

俺がそう言うと、お互い気まずそうに眼を逸らしながら、距離をとっていった。間違いなく、この関係は絶たれた。

 

八幡「あ、そうそう。ひとつ言っとくが・・」ドロドロ

 

ドン!・・バキバキ!!

 

俺が横にある木を平手打ちしたら、その木は、大きい音を鳴らしながら、倒れていった。

 

八幡「どうなるかわかるよな?」

 

「ひっ!?ご、ごめんなさい!」

 

留美以外の女子が、一目散に逃げだした。ふむ、取り敢えずチクられる心配はないだろう。

 

留美「ありがとう、2人共。すっきりした」

 

八幡「おう。俺もいいものが見れた」

 

隼人「ああ。それと、昼はすまなかったね。俺が無知だったよ」

 

留美「別に気にしてないよ。それに、今回は協力してくれたし」

 

隼人「・そうか」

 

留美「あ、私もう行くね」

 

八幡「おう、じゃあな」

 

さすがに、遅れたら、教師も心配しちまうだろう。俺達も早く、この場を去った。

 

 

目の前では、昼に用意した木でキャンプファイアーをしていた。皆、曲に合わせて、交代しながら踊っている。

 

風音「ねえ八くん。あの孤立してた子。なんか吹っ切れたような顔してたけど。八くん何かした?」

 

雪乃「説明してくれるんでしょ?」

 

おー怖い怖い。雪ノ下が。

 

俺は2人に、考えた作戦を話し、それをさっき決行していたことを話した。

 

雪乃「あの男がね・・。そんなことするとは思わなかったわ」

 

風音「まぁ、何はともあれ。八くん、お疲れ、凄いよ!」

 

八幡「ありがとな」

 

風音「八くん、あっちで花火やってるから行こう」

 

八幡「おう!」

 

 

久しぶりに花火ではしゃいだな・・。はしゃぎ過ぎて、そこらへんに転がってた石を勢いよく擦って、火を起こしたのは、やり過ぎた。ははは。

 

花火も終わり、俺は1人離れて座って、星空を眺めていた。自然に囲まれた中での天体観測は、心を落ち着かせられ、安らぎを得られる。綺麗にゃー、星空だけに。

 

隼人「隣、いいかい?」

 

と、ここで葉山が登場し、俺の隣に座ってきた。おい、まだ返事してないんだが・・。

 

隼人「君はすごいな。あんな案、普通の人じゃ思いつかないよ」

 

八幡「俺は普通じゃねぇからな。それより、あんな悪役みたいなこと、やってよかったのか?」

 

隼人「ああ、俺が招いたことでもあったから。正直あまりいい気分じゃないのに、妙に清々しくて、全く後悔していない自分がいる。・・でも、俺はみんな仲良くというやり方を変えないけどね」

 

八幡「そうか。それにしてもお前がそういうなんてな。その薄っぺらい仮面の中は、悪い方の本性が隠されてんじゃねぇのか?俺は、悪感情がかなり好きなんでね・・」

 

隼人「君はどこの地獄の公爵だい?」

 

八幡「何で知ってんだよ・・・」

 

こいつ、案外ネタ通じるかもしれねぇぞ。

 

隼人「そう言えば、どうやってあんな大きい木を倒せたんだ?」

 

八幡「腐ってたんだろ」

 

 

3日間の奉仕活動も終わり、先生の車を出ると、千葉の駅に着いた。

 

車から出ると、近くに黒いハイヤーが停まっていた。

 

陽乃「雪乃ちゃーん」

 

そのハイヤーから出てきた人物は、雪ノ下の姉である雪ノ下陽乃だった。相変わらずの鉄仮面である。

 

結衣「誰?」

 

事情を知らない由比ヶ浜が、頭に?マークを浮かばせ、疑惑の視線を送った。

 

陽乃「雪乃ちゃんの姉の陽乃だよ♪よろしくね」

 

結衣「は、はい!由比ヶ浜結衣です」

 

陽乃「うんうん、ガハマちゃんね。今後も雪乃ちゃんをよろしく」

 

雪乃「それで、姉さん。何しに来たのかしら?」

 

陽乃「あ、そうそう。お母さんが偶には顔を出してって、言ってたからね。これから行こうと思って、待機してたの」

 

雪乃「そう、分かったわ。私も、夏休みは行く予定だったから」

 

陽乃「そっか。お母さん心配してたよー」

 

雪乃「じゃあ、早くいくわよ」

 

雪ノ下姉妹は他愛のない会話をしている一方、俺は黒のハイヤーを隅々まで見ていた。

 

どこかで見た気がする。だが、思い出せない。けど、何か重要な事な気がするんだよなぁ・・。

 

陽乃「そんな見たって、手形なんてないよ」

 

ッ!?・・思い出した。この人・・この車に乗っていたのか。

 

そう、この黒のハイヤーは、入学式当日に俺と接触した車だ。

 

実は、この車の前に犬が飛び出して、ロットアイで助けようと走り、犬を抱え、轢かれる直前にボンネットに手をつき、ジャンプしたのだ。俺は真っ先にその場を去ったが、この人には見られていたようだ。

 

陽乃「じゃ、雪乃ちゃん。行こうか」

 

雪ノ下さんはそう言って、雪ノ下雪乃を車に乗せ、走っていった。

 

随分と厄介な人に疑惑をもたれてしまったようだ。

 

その後も、彩加や由比ヶ浜と別れ、俺と風音、小町の3人だけとなった。

 

八幡「せっかくだし、何か食ってから帰るか?」

 

風音「あ、それいいね」

 

小町「本当に!やった~♪じゃあ、あそこがいい!」

 

小町が指を指した先には、イタリア料理が食べられるレストランだ。

 

八幡「んじゃ、そこにするか。風音もいいか?」

 

風音「いいよ~」

 

あ、ちなみにサイゼじゃないからな。サイゼじゃないよ!う・ま・る!

 

≪レストラン≫

 

風音「はい、八くん。あーん」

 

八幡「あーん」

 

小町「・・・ここにきてまで、いちゃつくんじゃねぇ!」

 

激おこの小町であった・・。ふぇぇ、妹が怖いよぉ~。

 

 

8月8日の俺と風音の誕生日、俺達は近くで開催されている花火大会にやってきている。誕生日デートです。

 

白百合の花を基調とした黒地の浴衣がとても似合っている風音。俺達は腕を組みながら。屋台を回っていた。

 

風音「はい、八くんも食べる?」

 

風音は食べていたリンゴ飴を俺の口に近づけてきた。ありがたくいただこう。

 

八幡「うん、美味い」

 

風音「美味しいよね、リンゴ飴。あ、八くん、あれやろう」

 

風音に手を引っ張られて、連れてこられたのは、射的だった。しかも、連続射撃型の奴。

 

八幡「こういうのって、豪華な景品ほど、後ろに細工されてるものなんだけどな」

 

風音「もう、またそうやって・・。八くんも一緒にやろう!」

 

八幡「分かった。どれを狙う?」

 

風音「ん~と、あのぬいぐるみ!」

 

よし、あの中くらいのウサギのぬいぐるみだな。やってやるぜ、【ロットア

 

風音「ロットアイ禁止!」

 

八幡「そりゃないぜ。ハニー・・・」

 

風音「頑張って!」

 

ま、全部ロットアイに頼ってちゃダメだよな。自重しよう。

 

銃口をウサギに向け、狙いを定める・・・・。今だ!

 

撃ったコルクの弾は、ウサギを素通りしていった。

 

その後も、2発目3発目も失敗し、残りは1つとなった。

 

今度こそ!と意気込み、発射すると、ウサギの耳にかすりはしたが、落ちることはなかった。

 

八幡「悪いな、風音」

 

風音「ううん、次は私だよ。八くんの敵!」

 

パパパパン

 

風音は、一瞬たりとも隙を出さずに、ぬいぐるみに乱射した。そして、その勢いで、ウサギのぬいぐるみは台の上から落下した。

 

風音「どうだ!」

 

八幡「お見事だ。風音」

 

 

そろそろ、花火が上がる時間だ。今のうちに渡しておこう。

 

八幡「風音。誕生日おめでとう。プレゼントだ」

 

俺は、リボンのついた箱を風音に渡した。

 

風音「ありがとう!八くん!嬉しいよ」

 

八幡「開けてみてくれ」

 

俺がそう言うと、風音は丁寧にリボンをほどき、中身を取り出す。

 

風音「これは・・」

 

出てきたのは、ピンク色の真っ二つに割れたハートの首飾りだ。何故半分かというと

 

八幡「ほら、こうすれば・・」

 

俺は、自分の首にかけていた青い同じ飾り物を、風音の持っているやつにくっつける。すると、ピンクと青の混ざったハートが完成した。

 

風音「わぁ・・。すごく素敵。ありがとうね。八くん!嬉しい!」ダキ!

 

風音は勢いよく、俺に抱き着いてきた。俺も抱き返す。

 

風音「じゃあ、私からも。八くん、誕生日おめでとう!」

 

風音からもらったのは、腕時計だ。裏には、『Dear hachikun』と彫られていた。

 

八幡「ありがとう、風音。一生大事にする」

 

風音「どういたしまして♪」

 

俺達は、しばらく見つめ合い、互いに顔を近づけ、唇を重ねた。

 

その瞬間、大きい音を立てて、花火が上がった。まるで、俺達を祝福してくれているような気がする・・。

 

 

 

 

 

一方同時刻、花火を打ち上げる現場では・・。

 

明菜「おおー!上がってる上がってる!」

 

一華「綺麗だね~」

 

風音の友人である明菜と一華がお手伝いとして、花火を打ち上げていた。

 

明菜「あ、そういえば、今日風音の誕生日だったね」

 

一華「そういえばそうだね。確か、比企谷君も同じじゃなかったっけ?」

 

明菜「よし、あの2人の誕生日祝いも兼ねて、とっておきの大きいやつを上げようか!」

 

一華「おおー!」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回の話で勘付いた人もいるのかと思いますが、雪ノ下と雪ノ下家とは特に隔たりもないという設定です。ただ、陽乃がシスコン過ぎて、雪乃は苦手。そんな感じです。

また次回。


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17話:俺と彼女の起因ロットアイ

はい、どうも、アイゼロです。

17話突入。

今回は凛と飛鳥が出てきます。そして、八幡の過去が明らかに・・。

それではご覧ください。



八幡「あぢ~・・・そして暇」

 

風音「暑いよ~・・・以下同文」

 

現在俺達は、夏の暑さにやられて、アイスを頬張りながら、ソファにグデ~、と座っている。風音の家のクーラーが故障してしまったので、隣には風音がいる。何でこの時期にクーラー壊れるかねぇ・・。

 

俺と風音は『I LOVE 千葉』とプリントされたTシャツを、着ている。ペアルックだ。そして、横に目をやると、薄着だから、体のラインがくっきり見えて、地味に汗ばんでいるから、妙に艶めかしい。

 

あ、ちなみに小町は受験生という事で、勉強合宿に行っている。

 

八幡「あ、飲み物きれてんじゃん・・」

 

喉を潤そうと、冷蔵庫を開けたが、麦茶やマッカンが切れていた。

 

八幡「しゃあねぇ。買ってくるか。風音、何飲みたい?」

 

風音「私も行くよ」

 

 

 

近くのコンビニで、麦茶とマッカンを数個購入し、さっさと店を出た。

 

うぅ・・紫外線が皮膚を攻撃してくるよぉ。・・煩わしい太陽ね!

 

「あつーい。ねぇ、外で何するの?」

 

「何も考えてない~」

 

家に向かっている途中、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「・・ん?あれ?」

 

俺達に気づいたそいつらは、手を振りながら近づいてきた。

 

凛「おー、八幡、風音。やっほ~」

 

飛鳥「おーい。偶然だね~」

 

その正体は、夏用のコーディネートを着こんだ、凛と飛鳥だった。

 

飛鳥「2人共、何してたの?」

 

風音「八くんの家の飲み物が切れたから、買い物してたの。今はその帰り。2人は?」

 

飛鳥「目的もなく、暑いなか、外を徘徊している・・・」

 

何でだよ・・。

 

凛「そういえば、八幡の家って言ってたね。私たちも行っていいかな?」

 

八幡「いいぞ。俺も風音も暇してたし」

 

凛「やった~。じゃあ、行こう」

 

 

≪比企谷家≫

 

凛&飛鳥「「おじゃましまーす」」

 

八幡「取り敢えず、風音とリビングでくつろいでてくれ。飲み物用意するから」

 

飛鳥「うん。ありがとう」

 

凛「うはぁ、涼しい~♪」

 

勢いよく、ソファに背を預けた凛。あなた、結構遠慮しない子ね・・。

 

人数分のドリンクを用意し、4人でソファにもたれかかった。

 

風音「何しようか?」

 

八幡「パーティーゲームなら、結構持ってるぞ」

 

そう言って俺は、テレビ台の引き出しから、WiiU、PS4、ゲームキューブ、64等を取り出した。

 

飛鳥「うわぁ・・いっぱいあるね。懐かしいものもある」

 

凛「あ!あれやろうよ!」

 

凛が指を指したゲームソフトは4人まで対戦できる『スマブラ』だ。ちょうど4人だし、これでいいだろう。

 

八幡「んじゃ、やるか」

 

ゲーム機にソフトを入れ、起動。

 

凛「私は、ピット」

 

飛鳥「私はピカチュウ」

 

風音「私はカービィ」

 

八幡「俺は、昔からルカリオ一択だ」

 

はどうだんカッコいいよね!昔、はどうだんができるリオルが特に好きだった。

 

ルールは、残機が3、制限時間なし、ステージは終点。バトルスタート!

 

はい割愛。

 

飛鳥「そんなぁ・・」

 

凛「まさか、ルカリオがあそこまで脅威だったとは・・」

 

風音「また負けちゃったよ」

 

俺が1位でゲームが終了した。俺は今までルカリオしか使ってこなかったからな、完全に極めているのだ。

 

凛「うぅ~、次はアレ!」

 

八幡「よしきた」

 

次にやるのはマリオパーティ7。

 

飛鳥「ヨッシーで」

 

凛「ルイージ」

 

風音「マリオ」

 

八幡「俺はワリオだ」

 

なんかこの組み合わせ見たことある気がするな・・。

 

はい割愛。

 

 

 

風音「そろそろお昼だね。何か作ろっか」

 

飛鳥「あ、私も手伝うよ♪」

 

時刻は12時ちょい過ぎ、昼飯を作るため、風音と飛鳥はキッチンに行った。

 

凛「じゃあ、料理できない組はまだまだ遊ぼう!」

 

あ~、言った方がいいかな?うん、隠し事はあまりよろしくないよね。いずれ2人にもロットアイを教えなきゃいけないし。

 

八幡「俺も料理できるぞ」

 

凛「うそぉ!?」ガーン

 

 

凛「いやぁ~、美味しかった!」

 

八幡「ごちそうさん」

 

なんか普通に昼飯を共にしてるな・・。

 

風音「何しようか?ゲームも一通りやっちゃったし」

 

八幡「4人で遊べる奴なんて、結構限られてるからな。室内だし」

 

風音「八くんの部屋に何かなかったっけ?」

 

風音が俺にそう聞いてきた途端、凛と飛鳥の目が光りだした。嫌な予感しかしない。

 

凛&飛鳥「「八幡の部屋、入ってみたい」」

 

ほらね。絶対そう言うと思ったよ。

 

風音「2階にあるから、じゃあ行こうか」

 

あ、風音が決めちゃうんですね。

 

 

 

飛鳥「へぇ~、ちゃんと片付いてるね」

 

凛「本がいっぱいある。・・・さて、じゃあ探しますか!」

 

八幡「は?何をだ?」

 

凛「それはもちろん・・・ゴニョゴニョ」

 

凛は、俺にだけ教えず、風音と飛鳥にだけ耳打ちをした。

 

飛鳥「え///」

 

風音「は、八くんはそんなの持ってないよ!///」

 

八幡「マジで何言いやがった?凛」

 

凛「春画」

 

八幡「いや言い方変えてるだけじゃねぇか!んなもんねぇよ!?お前仮にも女子なら、そう言うの自重しろよ!」

 

凛「今仮にもって言ったね!正真正銘の乙女だよ私は!・・こうなったら、絶対見つけ出してやる。定番はベッドの下だね」

 

八幡「だからないって!」

 

凛はベッドの下に潜り込んだ。・・ねぇ、その体勢パンツ見えるぞ。スカートなんだから。そこらへんしっかりしてくれよ。乙女なんでしょ?・・。

 

凛「お!こ、これは!」

 

飛鳥「え、も、もしかして//」

 

風音「八くん・・・」

 

八幡「いやいやないから。からかってるだけだろ」

 

凛「これは、異世界召喚の原点にして頂点!名作ラノベのアニメブルーレイBOX!」

 

風音&飛鳥「「え?」」

 

八幡「・・知ってるのか?」

 

凛「もちろんだよ!私コレ大好き。よく見たら、本もラノベがたくさんある!すごーい!」

 

凛の意外な趣味を知った。

 

八幡「・・・語ろうか?」

 

凛「語りますか」ニヤ

 

その後2時間に及ぶ、アニメ議論が交わされた。

 

八幡「いやー、そこまで知ってるとは・・」

 

凛「私も、ここまで熱く語ったのなんて久しぶりだよ」

 

話し終えた俺達は、喋りすぎて乾いた喉を潤すため、水分補給をした。

 

飛鳥「ね、ねえ八幡」

 

飛鳥が風音を見ながら、俺を呼んだ。俺もつられて風音の方を見る。

 

風音「」プクー

 

頬を膨らませて、眉を吊り上げながら俺を見ていた。あー、さすがにほったらかしにし過ぎたか・・。拗ねちゃったよ。

 

八幡「風音」

 

風音「」プイ

 

可愛いなそっぽ向くとか・・。

 

俺は風音の頭を胸辺りに寄せ、耳に口を近づけ

 

八幡「拗ねてる風音もまた可愛いな。食べちゃいたい」

 

風音「ちょ///」

 

風音はそのまま顔を赤くして、俯いてしまった。でもまたそれが可愛いんだなぁ・・。

 

飛鳥「ねぇ凛。私、口から砂糖出そう」

 

凛「耐えるんだ飛鳥・・。これからもこれはずっと続くの。頑張って慣れよう」

 

なんか失礼な事言ってない?俺の気のせい?

 

 

皆俺の部屋に集まり、今は俺VS風音&飛鳥&凛で大富豪を行っている。俺一人に対して3人は相談し合いながら、ゲームを薦めていく。もちろんカードの枚数は人数に応じて違う。あっちの方が圧倒的に多い。

 

けどあんま意味ないんだよな。枚数多いっていう事は、その分被ってるカードも多いからすぐなくなる。

 

ちなみに負けた方は、相手が出した要求に答えるという結構鬼畜な罰ゲームが待ち受けている。

 

現在はお互い1勝1敗で3戦目。俺は今、かなり追い込まれています。最悪ロットアイ使う。

 

・・・・・・

 

激闘の末、俺が負けてしまった。実に惜しかった。あとちょっとだったんだよ。風音達も俺の奮闘ぶりに焦ってたし。

 

飛鳥「あ、私が決めていい?」

 

凛「いいよ~」

 

飛鳥「実はさっき部屋の奥からこんなものを見つけたんだけど・・・」

 

そう言って飛鳥は、後ろから黒いノートを出してきた。そしてパラパラとページを開き、皆にも見せている。

 

八幡「お、お前・・それ・・」

 

そのノートは、俺が中学生特有の病気にかかった際に書いた中二病全開の設定集。誰にも見つからないように隠していたのに・・。いつの間に。

 

八幡「ま、まさか・・」

 

飛鳥「ここに書いてある呪文を全力でカッコよく詠唱してもらおうかな」

 

うわああぁぁぁぁ!嫌だ嫌だ嫌だ!俺の黒歴史をーー!

 

風音「・・・ぷ」プルプル

 

凛「あっはっはははは!」

 

やめてぇぇぇ!笑わないで追い込まないでーー!死にたい!死にたいよぉー!

 

飛鳥「さぁ、は、やく」プルプル

 

八幡「うう・・くそぅ。・・・・我に宿りし濁の(まなこ)よ。モノクロ世界を創り出し『ピンポーン』・・ア、オキャクサンダ、イカネバ」

 

よっしゃぁぁ!ナイス!神は言っている、ここで死ぬさだめではないと。

 

風音「あ、ずるい!」

 

俺はその場から退却して速足で階段を降り、玄関のドアを開けた。

 

結衣「や、やっはろー・・」

 

そこに立っていたのは、飼い犬?を抱えた由比ヶ浜だった。

 

結衣「あ、あの実はね」

 

凛「八幡逃げるなー!」

 

飛鳥「さあ、早くこの呪文を唱えなさい」

 

風音「誰だったの?」

 

八幡「おーい、お前らいっぺんにしゃべるな。俺は聖徳太子じゃないぞ。んで、なんだ?由比ヶ浜」

 

結衣「え?・・・・あーやっぱりいいや。・・・・じゃあね」

 

何だったんだ?あいつ・・。何か言いたげだったが、すぐに帰ってしまった。何しに来たんだ?・・・・まぁ、どうでもいいや。

 

風音「結衣ちゃん。何しに来たんだろう?」

 

八幡「さぁな」

 

凛「今のって同じクラスの由比ヶ浜さんだよね?」

 

飛鳥「知り合いだったの?」

 

八幡「ん?ああ、単に同じ部活なだけだ」

 

凛「そういえば、部活やってるって前言ってたね。何部?」

 

八幡「奉仕部っつうんだ。俺は強制だけど」

 

風音「私も入ってるの。八くんについていった形でね」

 

飛鳥「なんか意味深・・・」

 

凛「きゃー、ご奉仕されちゃう♪」

 

八幡「おいこら、一体何を想像してる。このビッチ共」

 

飛鳥「ビ、ビッチ!?冗談に決まってるでしょ!//」

 

八幡「ご奉仕されちゃうー(裏声)・・ぷ」

 

凛「なっ!//この~!」

 

風音「2人共。もしかして、そういうネタ好きなの?」

 

風音の目がちょっと冷たくなった。

 

凛「いやいや違うよ!真に受けないで!」

 

凛と飛鳥の弁解は、約5分かかった。

 

 

風音「冗談だよ~♪」

 

風音・・。5分も弁解させておいてそれは・・。

 

飛鳥「うぅ、してやられた」

 

風音「ふふ、楽しいな♪」

 

八幡「あ、そうだ。彩加も誘おうぜ」

 

まだ4時だし。遊ぶ時間もあるだろう。

 

凛「そうだね。彩加にも八幡のノートを見てもらいたいし」

 

八幡「マジでやめてくれ」

 

 

彩加「お邪魔しまーす」

 

八幡「来てくれてありがとな」

 

彩加「僕こそ誘ってくれてありがとう♪」

 

彩加に連絡したところ、ちょうどテニススクールが終わったらしく、そのまま俺の家に来た。

 

飛鳥「おーい、彩加」

 

凛「こっちこっち」

 

彩加を誘導している2人はとあるゲームに夢中になっていた。とにかくインク塗って、時には攻撃、時には生き物に変化して戦略を立てる、という人気のゲームに勤しんでいる。

 

風音「なんか、自分の家みたいにくつろいでるね」

 

八幡「そうだな。俺達もやろうぜ」

 

風音「よし、私たちの力を見せようか!」

 

その後俺達も加わり、俺と風音の無双劇を3人にお見舞いしてやった。

 

そして、あのノートを彩加にも見られ、結局俺は呪文を詠唱するはめになってしまった。皆大爆笑。心を抉られた。

 

飛鳥「あ、そろそろ帰らなきゃね」

 

時刻は7時30分。時間も忘れて遊んでいたな。こんなこと久しぶりだ。

 

凛「またね。八幡、風音」

 

彩加「お邪魔しました」

 

3人が帰ろうとドアを開けたとき

 

ザアァァァァ!・・・ピカーン!ゴロゴロ・・・・

 

見事な雷雨。とても帰れる状態ではなかった・・・。うわ、これに気づかないとかどんだけ楽しんでたんだよ。

 

3人はそっとドアを閉めた。

 

飛鳥「ど、どうしよう・・・」

 

凛「帰れない」

 

どうしようか。これだとおそらく俺の両親も帰るの苦労するだろうな。・・・と噂をすれば、母ちゃんからメールだ。

 

『なんか急に降りだしちゃって。これだと外に出るの危険だから、会社に泊まることにするわ。悪いけど・・。それと、私たちがいないからって、風音ちゃんとヘマはしないでよ。避妊はちゃんと』

 

ほい削除。あのバカ親共帰ったら説教してやる。

 

八幡「風音、どうやら俺の両親も帰れないらしい。会社に泊まるって」

 

風音「そうなんだ」

 

しばらく考え込む5人。

 

凛「泊めて♪」きゃぴるん

 

八幡「そんなかわいく言わなくても、そのまま帰すほど俺は鬼畜じゃねぇよ。風音の家は大丈夫か?」

 

風音「問題ないと思うよ。布団も人数分あるし」

 

八幡「じゃあ、飛鳥と凛は風音の家。彩加は俺の家に泊まってけ」

 

彩加「お泊りか~。なんだか楽しみになってきたよ♪」

 

飛鳥「パジャマとかどうしようか?」

 

風音「ちゃんとあるから心配ないよ」

 

凛「そういえば、風音の家ってどこにあるの?」

 

風音「この家の向かい側」

 

飛鳥&凛「「近っ!」」

 

 

それぞれの家に泊まるという事で、俺達は取り敢えずみんなで晩飯を食っている。風音と飛鳥が調理してくれた。

 

凛「まさか、泊まることになるなって思わなかったよ」

 

彩加「本当だね。でも、僕は楽しいから良かったよ」

 

飛鳥「私も結構楽しんでるよ」

 

八幡「そうだな。折角だからこれを機に俺から言う事もあるし」

 

今の俺の言葉に3人は?マークを頭の上に浮かべたが、風音は笑顔でそっか、と短く返事をした。

 

 

 

皆結構早く食い終わり、さっきの発言が気になったのか俺に視線が集中する。

 

八幡「んじゃ、話しますか。・・えーと、ここに何の変哲もない鉄パイプがあります」ドロドロ

 

飛鳥「どこから出したの?それ・・・」

 

八幡「ほい」

 

俺は鉄パイプを思いっきり握り、粉砕させた。

 

凛「凄い・・・」

 

彩加「どうなってるの?それ」

 

八幡「ん~、まぁ俺の能力みたいなもんだ。中学の時発覚した」

 

俺は【ロットアイ】について、3人に詳しく話した。7話参照。

 

彩加「どうしてその力がついたの?」

 

・・・・全部話しちまうか。遅かれ早かれこうなってただろうし。

 

あ、ちなみに『物語は過去編へ』なんて事はしないよ。過去編だけで1話とか使えないし。

 

八幡「前にある出来事で人間不信になったと言ったが、まぁ予想できるだろ。イジメだ。小5から何かと嫌がらせされることが多くてな。正直うんざりした。教師にも言ったけど、結局収まることは無かったから、我慢し続けてたんだ。風音には上手く誤魔化せてたから、巻き込まれることは無かった」

 

飛鳥「そっか・・・そんなことが・・」

 

八幡「最初は俺だって、友達はほしいと思ったし、青春というものを味わいたかった。・・・けど、絶望したよ。あんなのが青春だと。あんなのが友情だと。だったら、そんなものいらねぇよ、って悔しさで一杯だったよ。あんなのを求めてた自分にも腹が立ったね。

 

もう何もかも欺瞞にしか見えなくて、目に見えるものすべてが白黒、モノクロでしか見えなくなった」

 

凛「酷い話だね・・・」

 

八幡「でもな、全てが白黒でも、はっきりと色がついたものが俺を抱きしめて慰めてくれたんだ。それが風音だ。現に、ロットアイ状態でも風音だけが色づいてる。不思議だよな。それで風音に『八くんは何がしたいの?』って言われて、俺の中にあるものが芽生えたんだ」

 

彩加「それって・・・」

 

八幡「『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ』。俺は小6の時、復讐を決意した。俺はあらゆる手を使って、俺をイジメてた奴に制裁を加えた。録画に録音、体のアザの写真、これらを全校放送で流してやった。写真もばら撒いてやったさ。・・・そんで、彩加には見せたが、この肩の傷にも関係ある」

 

俺は喋りながら、傷跡がついている肩を見せた。

 

八幡「流し終わった後、教師たちが一斉に教室に入ってきて、イジメていた奴らを連れ出そうとしたんだ。けど、逆ギレされて、1人相手に俺をリンチしようと迫ってきたんだよ。まぁ、全員返り討ちにしたけど。おそらくこれが初めてのロットアイだと思う。でも、1人だけカッターを振りかざして、俺の肩を思いっきり切ったんだ。そこで俺は意識を失った。」

 

風音「八くんには何もするなって言われてたんだ。けど、まさかあんなことになるなんて思わなくって。私もパニックになっちゃって。すごい泣いちゃったの」

 

八幡「俺が目を覚ましたのはその2日後だ。カッターとロットアイの消耗で眠ってたんだと思う」

 

彩加「・・・それで、そのイジメてた人たちはどうなったの?」

 

っ・・!俺にそう聞いてきた彩加は、険しい顔になっていた。凛と飛鳥もだ。

 

八幡「どこかに引っ越したよ。おそらくかなーり遠くの方に。俺もそれ聞いて安心した。・・・んで、俺が目覚めたら風音が『八くん、よかった。八くーん!』って思いっきり抱きつきながら、泣いちゃって」

 

すると、皆の視線が風音に集中した。すんごい優しい笑顔で風音を見てる。

 

風音「それは言わなくてもいいじゃん・・・///」

 

八幡「その後に俺と風音の両親も駆けつけてくれたんだ。てっきりなんか言われるかと思ってたけど、『気付いてやれなくてごめんな』って逆に謝られちゃって・・。そんなんだとこっちが申し訳ないって思っちまうだろう

ま、昔の話はこれで終わりだ。悪いな、雰囲気暗くして」

 

凛「ううん。ありがとう、話してくれて」

 

八幡「俺が昔の事を話したってことは、もうお前らには信頼を寄せている。っていう事にしといてくれ」

 

飛鳥「本当にそう?八幡」

 

八幡「え?」

 

飛鳥「ちょっとそのロットアイってやつになってみて」

 

そう言われて、お望み通り目を濁らせた。

 

飛鳥「私たちに色はついてる?」

 

ッ!成程。そういう事ね・・。

 

八幡「ついていないな。正確には白黒だが、他と違ってはっきりと見える感じだな」

 

飛鳥「そっか。じゃあ、私たちは八幡に色を認識させることを頑張ろう。それでやっと、完全に信頼を寄せていることになるよ」

 

凛「そうだね。よろしくね、八幡」

 

お前らいいやつ過ぎるだろ・・・。そんなに俺を泣かせたいか?

 

八幡「わりぃな。こんなめんどくさい人間で」

 

彩加「はい。自虐は無しだよ、八幡」

 

風音「八くん、あんまり卑屈になっちゃダメだよ。じゃないと私たちが悲しむんだから」

 

凛「そうだよ八幡。もっと自分を誇りなさい!」

 

八幡「はは・・分かった分かった。と、そろそろ夜も更けてきたし、凛と飛鳥は風音の家に入っとけ」

 

飛鳥「そうしよっか。風音、お邪魔するね」

 

風音「うん。じゃあね、八くん」

 

凛「また明日遊ぼうね~」

 

八幡「その前にちゃんと自宅には帰れよ」

 

風音達に別れを告げ、俺と彩加だけになった。

 

八幡「彩加、先に風呂入っていいぞ」

 

彩加「そんな悪いよ。八幡が先に」

 

八幡「遠慮するなよ。テニスの後だったんだから」

 

彩加「うん、分かった。じゃあお先に」

 

彩加はそのまま浴場へ行き、俺は自室に入った。

 

八幡「」ポロポロ

 

1人きりになったと頭が認識した途端、抑えていた涙が滝のように流れ出した。

 

八幡「く・・・」ポロポロ

 

手で目を押さえても、止まらない。

 

その夜、俺はそのまま眠ってしまったようで、目覚めたら日が昇っていた。そして横には添い寝の形で彩加が眠っていた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

個人的に由比ヶ浜は好きじゃありません(唐突)
pixivから由比ヶ浜に制裁を、という意見が寄せられました。

そんなわけで、由比ヶ浜退部というルートも考えてたりします。そして、書き溜め期間に入ります。

また次回。


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18話:俺と彼女の海辺サマーバケーション

はい、どうも、アイゼロです。

18話突入。

今回も、凛、飛鳥、彩加がメインです。

それではご覧ください。


チュンチュン

 

朝を伝える小鳥の囀りと共に俺は目を覚ました。いつの間に寝てたんだな。泣き疲れたのかな?俺らしくもない。

 

意識がちょっとずつ戻ってくると、自分は床で寝てることに気づいた。そして、上から毛布が掛けられている。

 

彩加が掛けてくれたのか・・。ありがたや。彩加を探そうと辺りを見渡すと、驚く場所にいた。

 

俺の真横。

 

寝息をたてながら、彩加は添い寝の形で俺の横で寝ていた。ベッドあるのに、何でここにした?使ってくれてもよかったのに・・。

 

時計を見ると、時刻は7時だった。起こした方がいいかもな。

 

八幡「彩加、起きろー」

 

彩加「ん・・・んぅ~。あ、おはよう、八幡」

 

ぴょこっと立った寝癖、寝相で地味にはだけたパジャマ、そして寝起きのトロンとした目。なんか・・・エロイ。

 

八幡「おはよう。ちょっとシャワー浴びてくるわ。昨日風呂入り損ねたし」

 

彩加「分かった。じゃあ僕、朝ごはん作るね。食材使っていいかな?」

 

八幡「いや、それは全然構わないが・・。彩加って料理できるのか?」

 

彩加「そこまでじゃないけど、朝食ぐらいならお母さんに教わってるから」

 

凛、どうやら5人の中で料理できない奴はお前だけだぞ。

 

 

シャワーを浴び終えた俺はパンツ一丁で、リビングに戻ってきた。そしてテーブルには、トーストにベーコンエッグ、コーンポタージュが並んでいた。

 

八幡「すげえ。美味そうじゃん」

 

彩加「えへへ、ありがとう♪食べよっか」

 

八幡「おう。いただきます」

 

彩加の料理は、上の下の腕前で、美味かった。

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

トントン

 

食器を下げようと、キッチンへ向かおうとしたら、ドアがノックされた。おそらく、風音達だろう。

 

八幡「はーい」

 

風音「おはよう、八くん、彩加」

 

凛「おはよう、八幡、彩加」

 

飛鳥「おはよう、八幡、彩加」

 

ん?コピペ?全く同じ挨拶がきた。

 

彩加「おはよう」

 

八幡「おう、おはよう」

 

風音「あ、八くん、この後どうしようか考えてたんだけど・・・」

 

八幡「ん?何か行きたいところでもあったのか?」

 

凛「海に行くよ!」

 

八幡「・・・は?」

 

飛鳥「海に行くよ!」

 

八幡「いやいや、聞こえてるから。それとさっきっからそのコピペやめろ」

 

彩加「海、僕も行きたい!」

 

風音「八くんは?」

 

八幡「いいぞ。行こうか」

 

ここで行かないとか言えるわけがないじゃん。まぁ、最初から拒否する気は無かったけど・・。

 

風音「じゃあ、一旦家に帰って、また集合しよう」

 

凛「うん、分かった」

 

 

各々家に戻り、準備を終え、クーラーの聞いた電車に揺られながら、俺達は海に辿り着いた。

 

男である彩加と俺は着替えが早いため、そこで借りたパラソルを刺している。そして、荷物番。

 

風音「おまたせ~」

 

ゆる~い声で駆け寄ってくる俺の彼女、風音は白の水着を纏っていて、とても眩しい。

 

凛「おまたせ」

 

飛鳥「あ、パラソルありがとう」

 

続いて凛と飛鳥も来た。凛は黒の水着に飛鳥は赤の水着。白、黒、赤、どれも高校生で着るような色じゃない(小町情報)。

 

凛「どう?似合う?」

 

飛鳥「ど、どうかな?」

 

ちょっぴし照れた様子の飛鳥に対して、凛はそんなそぶりも見せずにアピールをしてきた。

 

八幡「似合ってるぞ」

 

彩加「うん、2人共可愛い♪」

 

凛「ありがとう//」

 

飛鳥「ふふっ、ありがとう//」

 

2人共照れ隠し下手だな・・。凛、さっきの勢いはどこいった?思いっきり照れてんじゃねぇか・・。

 

風音「八くん、私は?」

 

八幡「世界一可愛いぞ!なんだったら誰にも見せずに1人占めしたい。いや、させてくれ!」

 

風音「はゎ//・・・ふふ」

 

おっと、あまりの可愛さにうっかり抱きしめてしまった。幸せ。風音も嬉しそう・・・。

 

凛「あれ?これはこれで正しいはずなのに・・。なんか悔しい」

 

飛鳥「なんだろう・・。私も凛と同じ気持ちだよ・・」

 

彩加「あはは・・・。じゃ、思いっきり遊ぼう!」

 

彩加の合図とともに俺らは海に向かっていった。訂正、俺以外が。俺は引き続き荷物番だ。別に寂しくないよ。慣れてるし・・。

 

そんな卑屈になっていると、何故か風音達が戻ってきた。

 

風音「日焼け止め塗るの忘れちゃった・・・」

 

ははは、このドジっ子め♪

 

風音「あ、八くん、背中塗ってくれない?」

 

八幡「OK」

 

風音から日焼け止めクリームを受け取り、自分の手で少し温めて置き、風音の白くきめ細かな肌に手を付いた。

 

風音「あ・・・」

 

うわ・・・久しぶりに触ったけど、すっげぇすべすべだ。なんならずっと触ってたいくらい。

 

凛「さぁ、そのまま、彼女の胸へぬるぬると手を伝らせ・・・」ボソ

 

唐突に、耳元でそう囁かれた。

 

風音「ちょっと、聞こえてるからね!触りたいならせめて家に帰ってから!」

 

凛「え//」

 

八幡「か、風音?//」

 

飛鳥「ちょっ、何言ってるの//」

 

彩加「////」プシュー

 

風音「え・・・。あ!ち、違うの///今のは!・・・」

 

凛「風音って、意外と大胆な子だったんだね///」

 

風音の無自覚な発言により、この場にいる全員が赤面している。彩加なんて、真っ赤にして硬直してるし。なんて純粋な子なんだろう。

 

八幡「と、取り敢えず、気ぃ取り直して遊ぼうぜ。熱くなった顔を冷やして来い!」

 

飛鳥「よ、よし!行こう皆!」

 

彩加「お、おおー!」

 

凛「行くぞー!」

 

次こそ、皆海に向かって走り出した。

 

風音「冷たーい」

 

凛「ほーらほらほら」バシャバシャ

 

彩加「この~、お返し!」

 

これが俗にいう青春というやつなのかねぇ・・・。今まで悪だの嘘だの言ってきたが、今はあんまりそんなことも思わずに、楽しんでいる。でも、風音や彩加、凛に飛鳥じゃないと、こんな楽しい青春は謳歌できないような気がする。

 

そんな感慨深くしていると、凛がこちらに駆け寄って、海を指さし

 

凛「八幡、海を割って」

 

とんでもないことを言ってきた。

 

八幡「できるかぁ!なにさらっと怖い事言ってんだよ!せいぜい5Mが限界だ!」

 

飛鳥「できちゃうんだね・・・。あはは」

 

風音「私も見て見たい!八くん、いい?」

 

風音ぇ!え、今までは心配って言ってあまり使わせてこなかったのに、何かと遠慮が無くなってきてない?ちょっとは心配してよ。八幡悲しいよ・・。

 

八幡「ハァ、分かったよ」ドロドロ

 

周りに小さい子供がいないかちゃーんと確認し、俺は手刀をつくった。

 

八幡「おらよ!」

 

そのまま海面に切れ目を入れる感じで、手刀を放った。

 

その瞬間、ざっぱーん!、ごおおおお!という轟音を鳴らしながら、約5M、割れたことが確認できた。・・うわ、やっぱできちゃった。

 

風音「すごい!海底の地面が見えちゃったよ!」

 

凛「すごーい!!!」

 

飛鳥「おーー!綺麗ー!」

 

彩加「す、すごい・・。八幡すごいよ!」

 

八幡「・・・フゥ」

 

疲れた。今の結構力入ってたからなぁ。体育館2周走った疲れがきた。

 

風音「ありがとう、八くん」

 

凛「無理言っちゃってごめんね」

 

飛鳥「でも凄かったよ!いいものが見れたし」

 

彩加「八幡、大丈夫?」

 

よし、ここはキザにカッコいい言葉を投げてやろう。

 

八幡「フッ、どうってことないぜ。それに、お前らの喜ぶ顔が見れただけで、俺の疲れは吹っ飛んださ(キリッ)」

 

ふっ、決まった・・。

 

一同「「「「・・・」」」」

 

・・・・あれ?どうしたの皆?なんでそんな無表情なの?魂抜けちゃったの?おーい。

 

凛「よし、じゃあ引き続き遊ぼうか!」

 

八幡「いやいやちょっと待て。せめて何か言ってくれ。なんか惨めだろ!」

 

飛鳥「ビーチバレーでもやろうよ!」

 

八幡「飛鳥!お前まで・・」

 

風音「じゃあ、ビーチボール買いに行こうか」

 

八幡「ちょっと風音!見捨てないで。何か言ってくれ!」

 

彩加「」肩にポン

 

八幡「うぅ・・」

 

 

その後、風音達が買ってきたボールで、楽しんだとさ・・・。

 

 

八幡「そろそろ飯にしようぜ」

 

彩加「そうだね。お腹すいちゃったし。・・あ、あの海の家で食べよう!」

 

彩加が奥にある海の家を指さした。「海の家 れもん」という名前だ。

 

凛「じゃあ、あそこにしようか」

 

 

適当に席に座り、店員さんに注文をした。

 

風音「私はカレーで」

 

「はいでゲソ」

 

え?ゲソ?

 

凛「私は焼きそば」

 

飛鳥「あ、私もそれで」

 

彩加「僕はこのスパゲッティ」

 

八幡「・・俺はエビチャーハンで」

 

「はいでゲソ。ちょっと待つでゲソ」

 

なんだあの、ちっこい店員。いちいち語尾にゲソなんて入れて。しかもよく見ると、容姿も結構異様だ。頭は白い頭巾のようなものを被っているように見え、髪なんて水色で先端は矢印のようになっている。

 

「お待たせでゲソー」

 

しかもそいつは、その髪の毛を触手のように、自在に操りながら、料理を運んでいる。その異様な光景に俺達は目を奪われていた。

 

飛鳥「す、すごい人だね・・・」

 

八幡「いや、明らかに人外だろ・・。あれ」

 

「お待たせでゲソ」

 

そいつに目を奪われている間に、俺達全員分の料理を運んできた。・・取り敢えず、食べよう。

 

八幡「あれ?・・・あの、俺エビチャーハンのはずなんですけど、エビ入ってませんよ」

 

俺がそう聞くと、異人の女の子は肩をビクつかせ、そそくさと戻ってしまった。っていやいや話聞いてよ!

 

すると、もう一人の女性店員が来て、その触手店員を捕まえて、叱っていた。

 

「おい!イカ娘!また客に出すエビ食べたな!」

 

「い、いいじゃないでゲソか!エビが目の前にあって食べちゃいけないなんて残酷でゲソ!」

 

あいつ、イカ娘っつーのか。あー、よく見たら、イカのような触手してるし、頭の頭巾もイカみたいだし。

 

「どうしたの?栄子ちゃん」

 

厨房から出てきたのは青っぽい長髪が特徴の伏し目がちの女性だ。料理担当の人だな。

 

「あ、姉貴。またイカ娘がお客さんのエビ食べちゃって」

 

「げっ・・ち、千鶴」

 

「あら、そう?・・・イカ娘ちゃん。お客様に出すエビ、食べちゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメじゃない」

 

ッ!!!な、なんだ今のは・・。とても人が出すようなオーラじゃない!アホ毛センサーもすごい反応をしている。ここの海の家は人外が多いのか?

 

「は、はい・・。ごめんなさいでゲソ・・・」

 

当のイカ娘とやらも、凄いびくびくしている。

 

その千鶴と呼ばれている厨房担当の人は、こちらに来て

 

「今すぐ、エビチャーハンを持ってきますね」

 

と優しい笑顔で取り換えようとしてくれていた。さっきのようなオーラは微塵も感じない。まさか!戦闘力のコントロールができるのか!?

 

八幡「ああ、いいですよ。エビにこだわってたわけじゃないので」

 

「あら、そう。それじゃあ、ゆっくりしていってね」

 

そして、再び厨房に戻っていった。

 

「エ、エビにこだわらないとは聞きづてならないでゲソ!エビを甘く見るなでゲソ」

 

急に元気になりだしたイカ娘とやらは、俺に向かってそう大声をだした。

 

「おい!サボるな、働けイカ娘!」

 

「は、はいでゲソ・・・」

 

激昂をくらったそいつはトボトボと料理を運び始めた。

 

 

 

風音「なんか、不思議な人だったね」

 

八幡「いや、あれどう見ても人じゃない。ていうか、あれを人となんて呼びたくない」

 

その後も、イカ娘の特殊な運び方を目にやりながら、俺達は食事を終えた。

 

何で周りの客はあの光景に何も疑問を抱かないんだ?まるで俺達がおかしいみたいじゃなイカ。

 

 

彩加「次は何して遊ぶ?」

 

八幡「あ、そう言えば、さっきそこでスイカ安く売ってたから買ったんだ。スイカ割りでもしようぜ」

 

彩加「スイカ割り!やったー、僕一度やってみたかったんだよね!」

 

八幡「決まりだな。順番はどうする?」

 

凛「ジャンケンにしようか」

 

ルール

・誰も指示をしてはいけなく、自分でスイカに近づかなければならない。

・制限時間は5分

・順番は、風音、彩加、飛鳥、八幡、凛。

 

 

スタ~ト!

 

風音「うぅ~真っ暗」

 

棒を上にあげながら、ふらふらとおぼつかない足取りの風音。・・何だろう、悪戯心が芽生えてきそう。あの暗闇の中、腕を上にあげている状態。R18タグ付ける勢いの悪戯心が・・。やめなさい。

 

風音「えい」スカッ

 

惜しくも1メートル離れた先で棒を振りかぶってしまった風音。

 

彩加「次は僕だ」

 

俺の推測だと、彩加は成功するかもしれない。普段からボールを使うスポーツをしているのだから、なんとなく分かるんじゃないのか?、と。

 

彩加は徐々にスイカに近づき、今振ったら、スイカが割れるというところまで来ていた。お、もう終了かな?

 

と、思っていたが、ぎりぎり外してしまった。彩加は悔しそうに頬を膨らませた。

 

その後も、飛鳥と俺も失敗し、残るは凛となった。

 

飛鳥「なんか私出番少なくない!?」涙目

 

気のせいです。

 

凛「よーし、お姉さんに、任せなさい!」

 

無い袖をめくり、片腕を曲げ、もう片手をその二の腕に乗せ、どや顔をしてきた。目隠ししててもわかる、このどや顔オーラ。

 

棒を竹刀のように握り、見えないスイカと対峙をする凛。その自信たっぷりな佇まいに、俺達は、もしかしたらイケるんじゃないか?と、期待に胸を膨らませた。

 

一歩ずつ、一歩ずつ前に進み、今振れば、スイカに当たる位置まで来た。

 

よし、今だ!

 

凛「おりゃぁーー!」

 

凛は大声をあげながら、思いっきり棒を振るった。

 

スイカには当たった。だが、割れることは無く、振った棒はスイカによって跳ね返され、当のスイカは、ぽんぽんと、棒に当たった衝撃で砂の上を転がっている。

 

え?何故かって?

 

凛「え!何これ!?」

 

八幡「あっはははははは!」

 

風音「ぷっ、あっははは!」

 

飛鳥「あっははは、もう最高!」

 

彩加「ぷ、ククク、あっははは!」

 

あのスイカは俺達がこっそり、スイカ模様のビーチボールにすり替えていたんだ。

 

八幡「本物はこっちだよ」

 

俺は後ろに隠していたスイカをみんなの前に出した。

 

凛「えぇ!・・な、何してくれてんのーーー!///なんか恥ずかしいじゃない!あんな自信満々に、任せなさいって言ったのに!?」

 

凛の赤くなった顔、慌てふためくその動揺、それは俺達の笑いのツボをさらに押した。

 

その様子を見た凛は、それはもうお怒りで。

 

凛「うぅ・・//。このっ!八幡のバカ!!」

 

傍に転がっていた先程のビーチボールを勢いよく当ててきた。そして、跳ね返ったボールを再び、今度は飛鳥に当てようとした。

 

凛「私より胸小さいくせに!」

 

飛鳥「ちょっと今それ関係ないよね!?気にしたことあるんだから言わないで!」

 

凛「腹黒風音!」

 

風音「今聞きづてならない事言ったよ!私別に黒くないから!」

 

凛「可愛い男の娘!」

 

彩加「ちょっと!それ気にしてるんだから!」

 

凛「はあ、はあ」

 

八幡「はは、悪かったって。さ、気を取り直してスイカ食おうぜ」ドロドロ

 

凛「もう・・・」

 

さっき気付いたけど、切るもの用意してなかったから、俺の手刀でスイカを5分割に上手く切った。

 

 

楽しかった時間も過ぎ、今は帰りの電車に乗っている。いつもより比較的空いているため、5人全員が座り、俺以外全員が寝てしまった。

 

楽しかったな・・。こんなに楽しい夏休みなんて想像もできなかった。もちろん風音とも毎年過ごして楽しかったけど、それとは違う楽しさを実感できた。俺も、柄にもなくはしゃいだし。

 

 

 

 

 

飛鳥「またね~」

 

凛「バイバーイ」

 

彩加「じゃあねー」

 

目的の駅に着き、皆を起こして、その場で解散となった。

 

八幡「おう、またな」

 

風音「また遊ぼうね~」

 

俺達は別れを告げ、各々の帰路を辿った。

 

 

 

風音「じゃあ、八くん。また明日ね。お休み」

 

八幡「おう。・・あ、その前に一ついいか?」

 

風音「ん?何?」

 

八幡「海で『胸を触らしてあげる』って言ったよな?触っていいのか?」

 

風音「えぇ!?//そ、それは・・・、また今度ね///お休み!」

 

俺のドストレートな質問に、顔を真っ赤にしながら返事をし、そそくさとお休み挨拶をして、家に入ってしまった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

はい、先日言った由比ヶ浜退部ルートの件ですが、これを実行したいと思います。っていうか反対の人がいなかったね・・。まぁ、俺も反対じゃなかったし。むしろこっちを書きたいというのが、俺の本音だったり・・。

そんなわけで、頑張りたいと思います。

また次回。


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19話:俺と彼女の文化祭プリペア【前編】

はい、どうも、アイゼロです。

19話突入。

いよいよ、原作では波乱が起こった文化祭です。由比ヶ浜を退部に導くため、原作改変どころか、乖離させてます。

それでは、ご覧ください。


長いようで短い、1ヶ月半の夏休みも終わり、まだ暑さが収まらない残暑の中、時は休み時間明け、現在は9月の上旬。今月開催される文化祭について話をしていた。

 

粗方個人個人の役職が決まり、残ったのは実行委員の枠だけ。俺は適当な役職にした。俺の仕事は簡単に言えば、クラス企画の宣伝だな。決して、風邪気味で退室し、無理矢理実行委員にさせられるようなことは無いからな。

 

先生「それでは、まだ決まってない人で、実行委員をやってくれる人はいる?」

 

しかし、それでも誰も声を発しません。2年F組で静寂な世界が完成している。無限の龍神様が来そうで怖いです。

 

先生「うーん、じゃあまずは男子から決めます。決まってない男子でジャンケンしてください」

 

はい、お決まりの展開来ましたー。結局何かを決める時に、じゃんけんを超えるものなんてないんだな・・。

 

「うわぁぁぁ」

 

どうやら決着がついたらしい。1人の男子生徒が大袈裟に凹んでいた。

 

「それでは次、女子で誰かいない?」

 

再び先生が誰かの希望を聞こうとしたとき

 

「〇〇ちゃんやりなよ~」

 

と嫌味ったらしい伸びた声で、他の女子を推薦するような言い方で後ろの女子が口を割った。

 

「いや、私には荷が重いよ・・」

 

ふむ、どうやら当の〇〇とやらはやりたくない模様。しかし、後ろの女子の猛攻は止まらない。

 

「え~。いいじゃん。やりなよ。向いてるって」

 

「いや、私はやらないよ・・・」

 

うっわ、あのしつこい女子絶対後に嫌われるな・・。

 

隼人「僕はむしろ、相模さんの方が向いていると思うよ」

 

おおっとぉ!ここでまさかの意外な乱入者。葉山隼人だー!。さすが場を取り繕うことに長けている博愛主義者。そこにしびれる憧れはしない!

 

「え~ウチ?無理だよ~」

 

出た。大抵こういう反応する奴はまんざらでもないんだ。それにあの人気者の葉山からの推薦なら尚更だろう。

 

隼人「そうかな?僕は適任だと思うけど・・・」

 

「う~ん、じゃあ、ウチやってもいいかなー」

 

先生「ありがとう。では、女子の実行委員は相模さんに決まりました」

 

 

さて、久々の部活だ。依頼は来ないと思うけど・・。

 

八幡「うーっす」

 

雪乃「こんにちは」

 

風音「八く~ん」

 

ふむ、いつもと変わらぬ光景だ。さて、今日も読書に勤しむとしよう。

 

その後も遅れて由比ヶ浜がきた。何故か複雑な表情をしていたが、何かあったのだろうか?まぁ、いいや、別に。

 

そして何事も無く時間が過ぎ、もうちょっとで完全下校時間。

 

雪乃「あの、ちょっといいかしら?」

 

すると、雪ノ下が突然口を開いた。

 

雪乃「もうすぐ文化祭だし、クラスの手伝いもあると思うから、部活は休部にしようと思うのだけれど」

 

八幡「確かにな。他の部活も休んでるとか小耳にはさんだし。そういや風音、J組では何やるんだ?」

 

風音「うちは普通に喫茶店みたいなものだよ」

 

八幡「喫茶店か。風音の役職は?」

 

風音「接客」

 

八幡「よし、行こう。絶対に行く。ついでに風音に言い寄る悪い虫を排除する」

 

雪乃「営業妨害になるから、それはやめてほしいわね。それで、休部の件だけど、いいかしら?」

 

八幡「いいんじゃないか?それに依頼なんてそうそう来ないだろうし」

 

雪乃「それもそうね。まだ完全下校じゃないけれど、もう暗くなってきたから帰りましょうか。鍵は私が返しとくわ」

 

結衣「あ、私も一緒に行く」

 

八幡「じゃあな」

 

風音「またね」

 

 

 

 

コンコン

 

「ん?あれ?いないのかな?」

 

八幡たちが帰って数十分後、奉仕部の部室にある人物が訪れていた。しかし、八幡や雪乃はそれに気づくことは無かった。

 

 

これからは文化祭まで、5,6限は文化祭準備に費やすとのことだ。授業大丈夫なのかな?一応進学校だから、周りよりも進みは早いけど。

 

そして文化祭準備に入ろうとしたとき、葉山グループの1人である、あの、なんだったっけ?腐女子だってことはわかるんだけど、まぁ、いっか。そいつは生徒一人一人に企画書が配った。・・えげつない紙の束だ。あ、名前書いてあったわ。えーと、海老名姫菜ね。そこに書かれていたのは

 

 

 

企画:『ミュージカル 星の王子さま』

 

王子役:葉山隼人

 

ぼく役:比企谷八幡

 

 

 

八幡「待て待て待て待てちょっと待て。何故俺?」

 

隼人「あ、ははは・・俺もこれはさすがに・・・」

 

葉山も面喰ったのか固まり、顔を青白くして、空笑いをしている。

 

姫菜「え!?葉山×ヒキタニが薄い本ならマストバイだよ!?ていうかマストゲイだよ!?」

 

何言ってんだよこの人・・。俺にはあまり理解できない。

 

八幡「そもそも何で俺と葉山なんだよ・・。もっと適任者いるだろ。演劇なんてできるか」

 

隼人「そ、そうだよ。あまりやる気のない俺らがやったってほら、あれだろ?それに、俺もヒキタニ君も部活があるし」

 

ナイスフォローだ葉山。部活はどこも休部だが、帰宅部にはおそらく知られていないだろう。よし、勝った。

 

先生「あれ?今は文化祭の準備で、どこも部活はしてないって聞いたけど」

 

隼人「ちょっ!?先生!」

 

せんせぇぇぇぇい!?何でばらしちゃうの?せっかくいいところまで言い逃れできそうだったのに・・。

 

この先生の発言で、海老名だっけ?そいつが目を光らせ

 

姫菜「決定!」

 

と大声でクラス中に言い渡した。その瞬間女子の若干色めいた声と拍手喝采が、俺らに向けられた。

 

隼人「き、君たちはこのミュージカルって企画でいいのかい?」

 

八幡「そ、そうだな。まだクラスの皆が、これに納得するかどうかだ」

 

少しは批判する奴もいるだろう。その期待を葉山と抱き、クラス中に問いだした。

 

「私はいいよー」

 

「いいんじゃねぇの?他ではそういうのなさそうだし!」

 

「いいぞー!」

 

「頑張って!葉山君」

 

凛「八幡ファイトー!」

 

飛鳥「頑張ってー、八幡!」

 

しかし、一瞬にして、その期待は見事に裏切られた。そんで何ちゃっかり凛と飛鳥も参戦してんだよ!

 

隼人「どうやら、腹をくくるしかないみたいだね。ははは」

 

苦笑交じりの表情をしながら、ポンと俺の肩を叩いた。

 

八幡「うるせー」

 

 

 

 

風音「そういえば八くんのクラスはどんなのやるの?」

 

八幡「あー、これをみてくれ」

 

俺はあの腐女子に渡された企画書を風音に渡した。

 

風音「ミュージカル、星の王子さま、王子役葉山君、ぼく役、比企谷八幡、って八くん!?」

 

八幡「何故か俺がやることになったんだ・・・」

 

風音「え、でも凄いじゃん!主役みたいなものだよこれ」

 

八幡「だからこそなんだよ・・」

 

風音「頑張ってね、八くん」

 

八幡「・・そうだな。ま、決められちまった以上、やるしかねぇな。頑張るわ」

 

風音「ふふっ、私、そういう八くんも好きだよ♪決めたことに関しては全力を出すとこ」

 

八幡「風音・・・」

 

風音の笑顔を見た途端、すっげぇやる気出てきた。よし、頑張ろうかな・・。

 

 

その翌日、次はあの企画書よりも詳細なことが書かれた紙を渡された。今度はコンパクトに一枚にまとめられていた。うん、エコって大事だよ。

 

クラスの奴らが紙に目を通していると、1人の女子が手を挙げた。

 

「これって、女子は出ないの?」

 

確かに、この書かれた事を読んでいくと、男ばっかで女子の文字がどこにも見当たらない。

 

姫菜「え?出ないよ」

 

まるで当然のような口ぶりで、女子出演はない、と断言した。ガチで男だけでやるのかよ・・。もう、完全にあいつの趣味じゃねぇか・・。

 

そんでなんだ?このスタッフも。

 

 

監督:海老名姫菜

 

演出:海老名姫菜

 

脚本:海老名姫菜

 

 

どこの敏腕プロデューサーだよ。将来はアイドル事務所にでも就職する気か?その場合は絶対ジャ〇ーズだろうけど。

 

隼人「だ、大丈夫なのか?姫菜。これ一人でやるのは?」

 

姫菜「全く問題ない。実はもう台本までできてんだから」

 

隼人「よ、用意周到だな・・・」

 

「あのー、衣装はどうするんですか?」

 

姫菜「衣装?あ、そういえばそうだね。やっぱ2人共王子っぽい服がいいなぁ。誰かこの中で衣装作れる人いる?」

 

と監督さんは挙手を求めたが、そんな人物はいなかった。しかし、窓際で座っている、スカラシップの件で顔を合わせた、川崎沙希。あいつがこの質問に少しだけ、肩をビクつかせていた。

 

そして、監督はそれを見逃さず、川崎に近寄った。

 

姫菜「ねえ?もしかしてそのシュシュって手作り?」

 

沙希「へ?そ、そうだけど・・・。これは手縫いで作ったんだ。それとこっちはミシン」

 

そう言ってポケットからもう一つのシュシュを取り出した。なんだ?結構やる気なんじゃないのか?

 

姫菜「ふんふん・・縫製も綺麗だし、色使いも可愛い・・。手縫いもミシンもできる。いいね、じゃあ衣装よろしく♪」

 

沙希「え?ちょっと!そんな適当でいいの?」

 

姫菜「適当で選んでなんかいないよ。その制服見るからに、結構改造とかしてるんでしょ?ブラウスとか」

 

へぇ・・。ちょっと感心したわ。案外ちゃんと見ているんだな。

 

姫菜「限られたリソースを最大限に活用でき、技術もある。これほどの適任者はいないよ!」

 

沙希「ま、まぁ、そういうことなら、やるよ」

 

褒められて嬉しいのか、恥ずかしいのか分からないが、顔を真っ赤にしながらも、衣装づくりを了承した。

 

隼人「なんだかんだで、大分まとまってきたね」

 

八幡「自分の趣味に全力な人ほど、こういうことに生かされるんだろうな」

 

隼人「さ、監督があそこまで本気なんだ。僕たちも頑張ろう」

 

八幡「ハァ、正直台詞とか派手な動きとか、めんどくせぇし、疲れるけど、人の努力を踏みにじるようなことは、絶対したくないからな。仕方ねぇか」

 

その後、監督の指示により、俺と葉山の棒&噛み噛みな台詞が教室に響いたのだった。

 

姫菜「じゃあ、ちょっと休憩しようか」

 

隼人「ふぅ、さすがに厳しいな」

 

八幡「だな」

 

喉も乾いたし、自販機でマッカンでも買ってこよう。

 

凛「八幡、お疲れ」

 

飛鳥「お疲れさま」

 

俺が歩き出そうとしたら、凛と飛鳥がこちらに駆け寄ってきた。そして、手元にはなんとマッカンが。

 

飛鳥「はい、差し入れ」

 

八幡「おお!ありがとな。何で俺の好きな飲み物知ってるんだ?」

 

凛「夏休みに風音の家に泊まったでしょ?そこでその飲み物がやけに準備されてたからね。そこで聞いたんだ」

 

あー、あの時か。

 

飛鳥「よくそんな甘い物飲めるね・・・」

 

八幡「はあ!この甘さがいいんだろう!千葉のソウルドリンク舐めるなよ」

 

飛鳥「いや、そこで熱くなられても・・・」

 

全く、最近の若者というやつは・・。俺も若者だけどね。

 

凛「それにしても、驚くぐらいに噛み噛みだったね。あはは」

 

八幡「いやいや、あんなキザでカッコいい台詞恥ずかしいし、長いんだもん」

 

飛鳥「あれ?確か海で『お前らの嬉しそうな顔を見れただけで、疲れは吹っ飛んだぜ(キリッ)』なんて言ってなかった?」

 

覚えてやがったなこいつ!思いっきり無視してたくせに!

 

八幡「おい、それマジで今すぐ忘れろ」

 

飛鳥「どうしよっかな~?」

 

こ、こいつ~・・・。

 

凛「我に宿りし濁の眼よ。モノクロ」

 

八幡「お前マジでやめろそれ!ここで言うな!いや、言わないでください」

 

俺は思いっきり手で凛の口を塞ぎ、呪文の詠唱を無理矢理途絶えさせた。

 

凛「んー、んー・・・はぁ!あー、面白かった!」

 

八幡「おいこら。俺でイジるんじゃない」

 

飛鳥「あはは、じゃあ、そろそろ私たちは行くね。頑張ってね、八幡」

 

凛「じゃ」

 

八幡「おう」

 

そして、監督からの練習再開命令がでて、俺達は日没を少し過ぎたあたりまで練習をした。

 

 

 

 

 

小町「なんか最近お兄ちゃん、疲れ気味じゃない?」

 

久しぶりに登場した小町が、俺にそう聞いてきた。まぁ、疲れ気味というか、疲れてんだけどね。

 

八幡「ちょっと文化祭の事でな。忙しいんだ」

 

小町「へぇ、珍しいね。お兄ちゃんが進んで動くなんて」

 

八幡「ま、半ば強制だけどな」

 

小町「ふふっ、でも半分はお兄ちゃんの意思なんだ」ニヤニヤ

 

お前ニヤニヤするの好きだな~。口裂け女にでもなりたいのかな?

 

小町「どんなのやるの?小町見に行くから教えて♪」

 

八幡「いや、来なくていいから」

 

小町「ええー、いいじゃん!・・・・・教えて?」

 

小町は涙目になって首をかしげてきた。

 

八幡「わ、分かったよ」

 

くそ、ウソ泣きだとわかるのに、おまけに可愛いから負けてしまった。やはり、女の涙より強い武器はこの世に存在しないのだろうか・・・。

 

俺はクラスの企画書を小町に渡した。

 

小町「ふむふむ・・・・うそぉ!?お、おおおお兄ちゃんがしゅしゅしゅ主役!?」ガッターン

 

目の前に書かれている衝撃事実に、椅子から転げ落ちた小町。全く、失礼しちゃうな・・。

 

小町「お兄ちゃん!絶対に見に行くからね!頑張ってよ!あ、今の小町的にポイント高い♪」

 

やはりこうなったか。

 

 

さて、今日も頑張りますか。

 

と少し、意気込みながら、台本を手に取った。

 

隼人「今晩、君は来ちゃいけない」

 

八幡「ぼくたちは、ずっと一緒だ」

 

姫菜「うんうん、その調子だよー!段々、役に入り込んでるね。ぐ腐腐・・」ダラダラ

 

優美子「ちょっ!鼻血ふけし!」

 

これ、続けていいのか?最悪、出血多量で死人が出ちまうかもしれないんだが・・。

 

平塚「悪い、邪魔をするぞ。比企谷、由比ヶ浜、ちょっといいか?」

 

突然教室に入ってきたのは、奉仕部顧問の現国教師、平塚先生だった。

 

八幡「悪い葉山。少し抜ける」

 

隼人「ああ、いいよ」

 

うわぁ、その爽やかな笑顔、ちょっと殴りたくなった。

 

結衣「何かあったんですか?」

 

平塚「ああ、ちょっと厄介ごとがな・・・。実は・・」

 

先生から、その厄介ごとというのを順に説明された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?文実が、機能してない?・・・。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

八幡、ぼく役。・・・どうでした?

また次回。


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20話:俺と彼女の文化祭プリペア【後編】

はい、どうも、アイゼロです。

とうとう20話突入。

今回は文字数がとっても短いです。その分次回は多いです。

それではご覧ください。


八幡「一体どういうことですか?」

 

平塚「今言った通りだ。仕事が滞っていて全然進んでいない。このままだと相当マズいことになる」

 

結衣「マズい事って・・?」

 

平塚「最悪、文化祭自体が無くなる」

 

結衣「そ、そんな!?」

 

何でだ?どうして突然・・・。一体あっちで何があったんだよ・・。

 

八幡「原因は何ですか?」

 

平塚「おそらく文実の委員長、相模だ」

 

は?・・・あいつが委員長だと。なにを血迷ったんだ?あいつは所詮葉山に推薦されて、ノリでやったようなものだろ・・。

 

平塚「こういうことを言うのは何だが。その相模が仕事を上手くできていないんだ。今は、生徒会長が手を回してくれてるおかげで事なきを得ているが、このままだと間に合わない」

 

八幡「ったく、ノリがいいやつもここまでくると、面倒だな。・・・・で、何でそれを俺達に?」

 

平塚「ああ、私からの依頼で、文実を手伝ってほしいんだ」

 

八幡「無理ですね」

 

ある程度は予想していたけど、俺にもやることがあるんでね。

 

八幡「今はどこの部活も休んでいます。奉仕部も例外じゃありません。それに、雪ノ下や風音は、クラスでやることがあるし、俺にもクラスの主役という役目があります。だから、そんなことしてる暇はないんです」

 

平塚「し、しかし・・・」

 

八幡「そもそも、教師陣は何かしているんですか?仕事に手こずっているのなら、サポートするのが先生の役目でしょう。生徒会や俺らばっかに頼らないでください。目安箱の時もそうですが、奉仕部は便利屋じゃないんです」

 

先生にそう言うなり俺は、教室の中心に戻り、劇の練習を再開させた。

 

隼人「何かあったのかい?」

 

八幡「あ?・・・いや、何でもねぇよ。さ、続きを始めようぜ」

 

隼人「?・・分かったよ」

 

こいつに相模が原因で文実が機能していないと知ったら、真っ先に自分が推薦したことに責任を感じて、文実の仕事を手伝ってしまうだろう。ていうか、葉山は実行委員に推薦しただけだからな。委員長になったのは、あくまで相模自身なんだから、直接関係はしていない。それに、劇の主役と文実なんて掛け持ちできるはずがない。それだと、せっかく用意してくれた奴らに失礼だ。ここは、黙っとこう。

 

 

あれから数日が立ち、いつもより海老名監督は張り切っていた。

 

姫菜「衣装ができたよ!」

 

そう言って、俺ら2人に掲げてきたのは、まるで絵本で見るかのような、THE・王子という派手な衣装だった。すっげぇキラキラしてる。

 

八幡「こ、これを着るのか?・・・」

 

隼人「あはは、暑そうだね・・・」

 

確かにまだこの残暑の中、こんなの着たら暑さでやられてしまう。

 

姫菜「さあ!あそこで着替えてきて。ぐ腐腐、あの空間で男子2人が生着替え。ろ、録画しても?」ハァハァ

 

隼人「いや、それはやめてほしいな」

 

 

そんなわけで、着替え終わり、カーテンを開けた。その瞬間、教室の女子たちが色めいた声をあげる。

 

『きゃーー!葉山くんカッコいい!』『凄い似合ってる!』『こっち見てーーー!』『えっと、ヒキタニ君だっけ?結構カッコいいじゃん!』『私普通にタイプだよ!』

 

八幡「なんか、凄い騒がれてるな・・・」

 

隼人「ははは・・、似合ってるよ、ヒキタニ君」

 

八幡「やめろ。気持ち悪い。悪寒が走る」

 

姫菜「うんうん、いいよ、凄くいい!滾る!」ダラダラブッシャ――!

 

八幡「一旦外出るか。このままだと死人が出る」

 

隼人「あはは・・・・、そうだな」

 

 

教室から出て、俺は葉山と別れ、文実が行われている会議室にやってきた。

 

窓から覗く形で。

 

正面から様子を見たら、絶対に仕事をやらされそうな気がしたからな。一階上の空き教室のベランダに出て、手すりに足を引っかけ、逆さづりの形で覗いている。

 

ふむ、窓越しでもわかるこの緊迫感。本当にヤバいらしいな。そして、俺のあの時の言葉が効いたのか、何人かの教師が仕事を手伝っている。・・・ん?おい、待て。何故由比ヶ浜がそこにいる?奉仕部は休止中だってのに?それなのに何故手伝っている。そんな自分勝手にやすやすと相談に乗ると、部長に怒られるぞ。そしてなぜか、平塚先生本人が見当たらない。なにやってんだあの人?生徒に相談をしておいて・・・。

 

実行委員の席の方へ視線を向けると、ぎこちない動作で、焦燥に駆られながら、資料を処理している相模がいた。でも、半分以上は生徒会が手を回している。傍から見たこの絵面だと、足手まといにしか見えてこない。

 

相模の表情は、『なんか思ってたのと違う』と凄く分かりやすく顔に出ていて、後悔の念が滲み出ている。そして、完全に自信を無くした目をしていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

これは勝手な俺の推測だが・・・

 

お前が責任を取らなきゃいけない日は、文化祭当日だと思うぞ。覚悟しとけ、葉山。

 

・・・ん?あれ~?その葉山が何故か会議室を訪れたぞ。ちなみに話し声は俺にダダ漏れだからな。ロットアイ地獄耳を舐めるな。

 

隼人「あの、有志団体の申込書、持ってきました」

 

どうやら、有志団体でバンドをやるらしい。か~、主役の後にバンドとか随分とやる気だな。よく体力持つもんだ。

 

「うん、分かった。それじゃあ預きゃっとくね」

 

隼人「へ?」

 

おっと、あの女子もしや結構なアニメ通だな。俺もあの作品は好きだぞ。あずにゃん推しだ。

 

 

八幡「あぁ~、きつい」

 

風音「やっぱ劇の練習、厳しいの?」

 

八幡「まぁな。風音の方はどうなんだ?」

 

風音「私は接客だから、覚えることは少ないよ。ちょっと気楽でいられるかな」

 

いいなぁ、それ。

 

風音「八くん疲れてるんだ。・・じゃあ癒してあげないとね。何してもらいたい?」

 

八幡「ん~、それじゃあ、一緒に寝よう」

 

風音「お安い御用だよ♪」

 

別に深い意味はないよ。ただ風音を抱き枕にして寝たいだけであって・・。これも相当やばい理由だな。

 

 

 

そして翌日、目が覚めたら逆に俺が抱き枕にされていた。しかも俺の顔面を抱いている状態だから、すっごい柔らかい胸が、俺の顔面をクリーンヒットさせていて、一日頑張れる気合が入った。風音は俺だけのやる気スイッチだな。

 

 

 

隼人「今晩・・君は来ちゃいけない」

 

八幡「ぼくたちはずっと一緒だ」

 

姫菜「大分役に板がついてきたね。中々いいよ!」

 

確かに、ここ数日の海老名監督によるスパルタのおかげで、早くも噛まずに台詞を言えている。それに関しては葉山もそうだ。

 

姫菜「これなら、本番までには完璧になるかもね!さぁ、この調子でもう一度」

 

サーイエッサー。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

じわりじわりと、由比ヶ浜に悪印象を与えるような形にしています。

それではまた次回。


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21話:俺と彼女の委員長アブスコンド

はい、どうも、アイゼロです。

21話突入。

アンチ・ヘイトタグをつけようか悩んでいます。

それではご覧ください。


めぐり「お前ら、文化してるかーー!」

 

「おおおおおおお!!」

 

めぐり「千葉の名物祭りと?」

 

「踊りいいぃぃぃ!」

 

めぐり「同じアホなら踊らにゃ」

 

「シンガッソーーーーーー!」

 

総武高生徒会長の城廻めぐり先輩による、なんだこれ?と俺に思わせた謎のコールによって、文化祭が開幕した。いやぁ、文実間に合ったんすね。良きかな良きかな。さて、俺も衣装に着替えて、劇に備えよう。

 

めぐり「それでは、文化祭実行委員長のお話です。どうぞ」

 

そう言われて、相模はステージ中央へ歩き出す。表情は石のように固く、歩きも緊張のせいかとてもぎこちない。

 

そして、相模が一声上げようとしたその瞬間。

 

きーーーーん

 

と耳につんざくハウリングが発生。あまりのタイミングの良さに観客からドッと笑いが起こる。

 

彼らの笑いに、嘲笑などという悪意はないのだろうが、相模の立場からしたら、緊張と孤独に耐えている状態なのだから、その笑いの意味が分からない。

 

その証拠にハウリングが収まっても、喋ろうとしない相模。

 

めぐり「・・それでは気を取り直して、文化祭実行委員長の挨拶です。相模さん、お願いします」

 

城廻先輩のフォローにハッとした、相模はポケットから紙を取り出し、そこに書かれていることを読もうとしたが、それを落とし、再び観客を笑わせる形となってしまった。

 

相模の顔を見ると、文実の仕事の時よりも酷くなっていた。

 

 

午前に2回公演で、午後も2回やる予定だ。昼休みはちゃんと取らせてくれるとの事。その間に、風音のいるJ組に行こう。

 

 

 

八幡「うわぁ、すげぇいる」

 

何と意外にも客足がいい。ほとんどが女子生徒で、手には見覚えのないパンフレットが握られている。おい、なんだあれ?肖像権の侵害じゃないのか?

 

隼人「頑張ろうな、ヒキタニ君」

 

八幡「はぁ・・」

 

凄く今更なんだが、何でこいつなんかと・・・。

 

 

八幡「ぼくと一緒に遊ぼうよ。僕は今凄く悲しいんだ」

 

すると、俺にスポットライトが当たり、それを見た客席の女子は、多少のざわめきを見せている。そ、そんなにおかしいかい?捉え方によっては我泣くよ?

 

隼人「君とは遊べないよ。・・・俺は飼い慣らされていないから」

 

はい、割愛します。この作者は星の王子様を読んだことがないので。

 

 

 

ふぅ、取り敢えず午前は終わった。これから、休憩に入る。

 

凛「お疲れ!」

 

飛鳥「お疲れ、八幡。よかったよ!」

 

八幡「おう、ありがとな。んじゃ、風音の所に行ってくるわ」

 

動きやすくするため、衣装を脱ごうとしたところ、海老名監督に止められてしまった。

 

姫菜「そのままで過ごして」

 

八幡「いやいや、さすがにこの格好じゃ出歩けないって」

 

姫菜「ヒキタニ君、君ってほかにも役職あったよね?」

 

八幡「ああ、確か宣伝・・・ってまさか」

 

後は言わなくてもわかるよね?って笑顔に気圧されて、そのままの姿で俺はJ組に向かうことにした。

 

 

現在俺は廊下を歩いている。あちこちから視線が、針のようにチクチクとぶっ刺さってくる。

 

「あ、あの~・・」

 

八幡「はい?」

 

突然話しかけられ、振り向くと、総武高の制服ではない女子3人組がいた。おそらく、ここを受験する中学生だな。

 

「よろしければ、一緒に回りませんか?」

 

八幡「いや、俺は彼女の所に行かなくちゃいけないから、それはできない。悪いな」

 

「あ、彼女さんですか・・。はい、わかりました」

 

そう言うと、その女子たちはシュンと落ち込んだように肩を落とし、行ってしまった。ちょっとぉ、まるで俺が悪いみたいじゃん。俺は無実だぞー。

 

再び俺が歩き出すと、さっきまでこちらを見ていた人たちも何故か、肩を落としていた。ねぇ!だから俺は何したんだよ!教えてくれよ!安西先生、彼女らの真意が知りたいです!

 

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど」

 

えー、またかよ。今度は何だ?・・ん?この声・・・。

 

八幡「小町?」

 

小町「あの、2年Fの教室は・・・・って、お兄ちゃん!?」

 

小町は目の前の人を実の兄と知った途端、口をパクパクと上下させ、顔を赤くしていた。

 

小町「ほ、本当に、お兄ちゃん?」

 

八幡「おう、お前の実のお兄ちゃんだぞ。・・・ってか、何で顔赤いんだ?」

 

小町「お、お兄ちゃんカッコよすぎる・・・」

 

八幡「お、マジで。サンキュー」ナデナデ

 

シスコンの俺は妹にカッコいいと言われただけで、ご機嫌になり、つい癖で頭を撫でた。でも、何故かいつもの笑顔とは違い、俺の姿をまじまじと見ている。

 

そして、小町はそのまま俺に抱き着いてきた。

 

八幡「こ、小町?」

 

しかし、それは一瞬の出来事で、すぐに小町は離れ、「楽しみにしてるよ」とだけ言い残して去っていった。

 

小町「小町、ブラコンになりそう・・・」

 

 

 

 

 

何やかんやありながらも、J組に着いた。そこそこ繁盛している模様。

 

教室に入ると、キャーキャーと女子の悲鳴が響いた。ええ!何で!お、俺はただ愛する彼女に会いに来ただけなのに!酷い!やばい、もう泣く。泣きそうな顔を両手で抑える。

 

明菜「おー、比企谷君。風音に会いに来たの?・・ていうか何その恰好?いいじゃん!」

 

八幡「いいわけない。だって、俺が入った途端、悲鳴が・・うぅ」

 

明菜「いや、それ悲鳴というよりは・・。まぁいいや。風音ー、比企谷君きたよー!」

 

風音「え?あ、八くん!」

 

風音は俺の姿を捕らえた途端、こちらに駆け寄ってきた。

 

風音「?八くん、何で泣きそうなの?それにその恰好・・・」

 

八幡「か、風音。な、何で俺が入った途端・・・悲鳴が・・・」ギュウ

 

風音「ちょっ!//八くん、それ多分悲鳴じゃないから。今仕事中だから一旦離そう///」

 

アニメのように手をバタバタと上下させる風音は、よく見かけるファミレスの制服に、少しフリフリなどの手間が掛けられた、衣装を着ている。うん、何というか、見てるだけで癒される。

 

八幡「すげぇ似合ってるな。めちゃくちゃ可愛い」

 

風音「えへへ、ありがとう♪八くんも、カッコいいよ」

 

八幡「ちょっと派手だけどな。ありがとう」

 

一華「はーい、2人共そこまで。このままだと、砂糖嘔吐者と嫉妬の炎と落胆者で、この喫茶店が地獄絵図になる」

 

神崎が俺と風音の間に入り、手で制止をしてきた。そして、神崎の言葉に俺は周りを見ると、既にその地獄絵図は完成していた。

 

八幡「じゃ、じゃあ風音。また後でな」

 

風音「うん、またね」

 

あんまり長くいられなかったが、可愛い風音を見れた。余は満足じゃ。結論、風音は何を着ても似合う。

 

 

彩加「あ、八幡。もう戻ってきたんだ」

 

八幡「ああ、風音のとこに行って来ただけだからな」

 

教室に戻ると、彩加が売店で買った太いフランクフルトを頬張っていた。できたてなのだろうか、口元から肉汁があふれている。・・・・・ちょっとぉ、誰?今変な想像した人。正直に名乗り出なさい。

 

飛鳥「あ、おかえり、八幡」

 

凛「どうだった?風音の様子は?」

 

八幡「いつも通りだったな。言い寄る悪い虫もいなかったし、取り敢えず、可愛かった」

 

飛鳥「言い寄る虫って・・・。いたらどうしてたの?」

 

八幡「そうだな・・・。腕の二本でも折ってたかもな。ははは」

 

冗談交じりでそう言うと、3人は何故か焦った顔でこちらに近づき

 

「「「絶対だめだよ!そんなこと!」」」

 

と、すっごいマジな声で言ってきた。

 

八幡「冗談!冗談だから、真に受けるな」

 

俺がそう言いなおすと、「八幡の場合冗談に聞こえない」と失礼なことを言われた。

 

彩加「そう言えば八幡。何か食べてきたの?」

 

八幡「あ、そういやなんも食べてなかったな」

 

彩加「じゃあ、はい。さっき皆で買ってきたからあげる」

 

そう言って、彩加はたこ焼きを渡してきた。

 

八幡「悪いな。もらっちまって」

 

彩加「いいよ♪次も頑張ってね」

 

凛「そうだよ。劇中にお腹なるとかとんだ恥晒しだよ!」

 

飛鳥「うんうん、頑張ってね」

 

八幡「おう。んじゃ、いただくか」

 

アツアツできたてのたこ焼きを口に入れた。うん、美味い。・・・でも何故かたこが入っていなかった。・・これはあれかな?俗にいうたこなし焼きってやつかな・・・。

 

 

午後の劇も失敗はなく、無事に『星の王子さま』はこれにて幕を閉じた。最後は皆拍手を送ってくれて、なんだか清々しい気分だ。こういうのは、悪くない。

 

そして、文化祭最後の締め、エンディングセレモニーが始まる。最初は有志団体による出し物から始まり、その最後に文化祭実行委員長の話がある。

 

今ステージでは葉山とその取り巻きがバンド演奏をしている。不思議なことに葉山は王子服のまま演奏している。何で脱がないんだよ、歌って手動かしてその厚着、倒れるぞ普通に考えて。

 

このステージに熱狂している生徒は、バンド演奏が終わると、アンコールしていたが、時間も押しているため、それは叶わず、最後の実行委員長の挨拶や、賞の発表が始まる。

 

しかし、いつまでたっても実行委員長が現れない。もしかして俺の予想していた事態が起きてしまったんじゃないか?と思い、辺りを見回していると、由比ヶ浜が雪ノ下と何やら話し合っている。そしてそのまま、ステージ端に行ってしまった。

 

八幡「はぁ・・・。自分から手伝っておいて、何かあったら頼るんだったら、最初からやらなければいいものを」ドロドロ

 

そして数分後、葉山が猛スピードで体育館を飛び出そうとしている。ちょっと驚いたな。葉山が実行委員推薦の責任を果たそうとしてることが。

 

八幡「葉山!」

 

入り口付近で葉山を足止めした。

 

隼人「ヒキタニ君!悪いが急いでいる!」

 

八幡「屋上だ」

 

隼人「え?何で・・・。まあいい、ありがとう!」

 

葉山が体育館を出たと同時に、城廻会長からもう少しお待ちくださいとアナウンスが入った。時間は10分くらいしかないだろうし、いくら場所を知ったって説得に時間がかかっちまうかもしれないな。

 

 

5分以上過ぎた時間、他の生徒はざわざわと不審がっている中、ドアからは葉山と相模がやっと戻ってきた。汗をかきながら焦燥に駆られている葉山に対して、相模は何故か何とも言えない、暗い表情をしていた。

 

葉山は相模をステージ上に誘導させた後、俺のもとへやってきた。

 

隼人「ありがとう。ヒキタニ君」

 

八幡「別に。間に合ってよかったじゃねぇか。それに、よく連れてきたな」

 

隼人「相模さんには、集計結果だけもってけって言われたんだけどな。それじゃあダメだって気付かされて」

 

なんか誰かに焚き付けられたような言い方だな。それに、葉山の表情には暗く、申し訳ないという気持ちが見て取れた。

 

隼人「ヒキタニ君は、どうして場所が分かったんだ?」

 

八幡「ただの勘だ。・・・そういや、やけに暗い顔しているが、何かやったのか?」

 

隼人「はは、分かっちゃったか・・。そうだな、説明するよ」

 

 

 

 

『ここにいたんだね。相模さん』

 

『葉山君・・・』

 

『もうすぐ、エンディングセレモニーが始まる。早く戻るんだ』

 

『もうすぐって・・。もう始まってるんじゃないの?』

 

『皆にはしばらく待ってもらっている。だから早く』

 

『ウチには無理だよ・・・』

 

『そう言うわけにもいかない。君の持っている賞の集計結果や実行委員長の話だってある』

 

『だったら、集計結果だけもってけばいいでしょ!その最後の話を他の人にやってもらって!』

 

この時、俺はもうだめだと思い、本気で集計結果だけ持ってこうとしたその時、ある出来事が脳裏によぎった。

 

夏休みのボランティアの時の、比企谷の解決方法だ。最初は渋々だったが、選り好みをしている場合ではないと思い、心を悪魔にして、比企谷の案を借りることにした。

 

『そうか。じゃあ、俺は君が仕事を放棄したという事で報告するしかないな』

 

『え・・・』

 

『皆を散々困らせて、待たせて、やりたくないから逃げました。迷惑極まりないな。自分で委員長になっておいて』

 

『っ・・・。でも、これをもっていけば』

 

『俺はそれを持って帰るつもりは毛頭ない。・・このままだと、委員長は仕事を放棄し、逃亡したと言わざるを得ないな。それを知られれば、周りから邪険に扱われること間違いなしだ。特に3年生は最後の文化祭なんだから、敵視されるだろうな』

 

『・・うそだよね・・。葉山君はそんなこと、しないよね・・・』

 

『勝手な理想を僕に押し付けないでくれるか。はっきり言って、不愉快だ』

 

『20秒待つ。このまま何もせず、文化祭を台無しにするか。最後まで仕事をやりきるか。選んでくれ』

 

 

 

八幡「はっ、何ともお前らしくないやり方だ」

 

隼人「でも、ああするしか方法は無かったんだ」

 

八幡「確かにそうだな。・・・でも、いいのか?ああいう奴は大抵こういうことを言いふらす奴だぞ」

 

隼人「事実なんだから、気にする必要もないだろう?」

 

・・・へぇ、面白いな。こいつと初めて会った時や、林間学校のボランティアの時は、こいつは解決じゃなく、ただ問題を先延ばしにし、曖昧に中途半端にさせるような奴という印象だったが。

 

けれど、所詮それは薄い仮面の上っ面に過ぎなかった。こいつの内に秘められている本性は、まだ俺には分からないが、きっと林間学校で感じたときのように、鋭利な悪がある。そんな気がする。

 

一方葉山にさんざん言われた相模は泣きながらも、賞の発表や最後の話などをやり遂げた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

葉山はいいやつにするつもりです。屑山とか葉虫とかにはしません。

また次回。


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22話:俺と彼女の体育祭セリオス

はい、どうも、アイゼロです。

22話突入。

はっきり言いましょう。奉仕部なんの役にも立ってません。

それではご覧ください。


一波乱あった文化祭も、オーガと化した葉山の活躍により、無事?に終わった。俺もクラスの奴らから功労賞とか言って、打ち上げに連れていかれ、祝われた。集団が苦手な俺だが、不思議と悪い気はしなかった。一方由比ヶ浜は、勝手に依頼を受けたことを雪ノ下に知られ、軽く説教を受けていた。

 

そんな文化祭から1ヶ月後、今日も奉仕部の部室に向かうべく、廊下をのろのろと歩いている。ふと学校掲示板が目に入り、いくつかの新聞やポスターを見る。その中でも俺が注目したのは、とある組織の募集広告の貼り紙。

 

しばらくそれを見た後、再び部室がある特別棟の一角を目指すため、足を運んだ。

 

 

 

 

 

そろそろ本を調達しないといけないな。依頼がないせいで本がどんどん消化されていく。

 

どんな本を買おうか悩んでいたら、部室のドアをコンコンとノックされた。お、珍しく依頼人だ。

 

雪乃「どうぞ」

 

めぐり「しつれいしまーす」

 

今回の訪問者は、ほんわかと癒しオーラを醸し出す生徒会長、城廻めぐり先輩だった。

 

めぐり「実は、相談したいことがあって・・・」

 

雪乃「分かりました。そちらに掛けてください」

 

 

 

 

 

 

雪乃「成程。新しい種目、ですか」

 

めぐり「うん。毎年同じだから、皆飽きちゃうんじゃないかって心配で」

 

風音「それで私たちに何か案がないかと・・・」

 

めぐり「そうなんだ。お願いできる?」

 

雪乃「提案だけなら、理念に反してはいないし。分かりました。その依頼、承ります」

 

めぐり「本当に!ありがとう~。・・実は今日からその会議があるんだ。来てもらっていいかな?」

 

雪乃「分かりました」

 

 

会議室にて、生徒会一同、奉仕部一同、その他何人かの生徒が集まり、新しい体育の種目を決める会議が始まった。

 

めぐり「それでは、何かいい案がある人、挙手をお願いします」

 

めぐり先輩のスタート合図でみんなそれぞれ、隣同士で話し合いが始まった。

 

その合図とともに、早速何人かが意見を述べるべく挙手をし、どんどんと候補を言っていく。

 

『大食い競争』

 

『部活動対抗リレー』

 

『玉入れ』

 

その他にも色々案は出たが、城廻先輩はうーん、と唸っている。どうやら納得いっていないようだ。

 

めぐり「どれもよく聞くようなものだね。なんかこう、ドーンと盛り上がる種目ってないかな?」

 

この方、思いのほか我儘な子ですね。でも、最後だから盛り上がらせたいんだろう。その気持ちは分からなくもない。

 

盛り上がる種目ねぇ。言わせてもらうが、体育祭なんてどんな種目でも、勝手に盛り上がってくれる気がするんだが。特に、体育会系のリア充ども。アレは盛り上がりじゃなく、発狂に近い。

 

しかし、中々決まらないせいで、何人かはだるそうになり、携帯をいじる人や、寝る人が増えてしまっている。思ってんだけど、体育祭の種目決めなのに体育会系の人がいないなんておかしくないか?

 

八幡「おう、俺だ。いや、実はな・・・・。そうか、分かった」

 

携帯を取り出し、体育会系の心当たりがある人物に電話を入れた。幸い、今は休憩中らしい。

 

風音「八くん、誰に電話したの?」

 

八幡「ん?いや、ちょっと運動部系の奴にな。すぐに来ると思うぞ」

 

しばらくすると、俺の電話の相手がコンコンとドアをノックし入ってきた。

 

隼人「失礼します」

 

彩加「失礼しまーす」

 

結衣「あれ!?隼人君!さいちゃん!」

 

彩加はともかく、皆おかしいと思ったでしょ?俺が葉山に電話なんて。実は、クラスの打ち上げの際、連絡先の交換を求めてきたのだ。当然嫌だと言ったが、周りの取り巻きに気圧され、渋々了承した。でも、ここにきて役に立った。

 

めぐり「あの、今は会議中なんだけど・・・」

 

隼人「そこのヒキタニ君に来てほしいと頼まれたので」

 

八幡「運動部の人がいるといい案が出るんじゃないかと思って呼びました。いいですか?・・あと、葉山指さすな」

 

めぐり「あ、確かにそうだね。ありがとう。えーと、ヒキタニ君!」

 

うん、それでいいですよ。むしろそっちの方が言われ慣れていますから。

 

隼人「それで、どこに座ればいいかな?」

 

八幡「立ってろ。あ、彩加は俺の隣な」

 

隼人「はは、随分冷たいなぁ。じゃ、戸塚の隣に座ることにするよ」

 

八幡「はいはい」

 

彩加「なんか、仲良いね♪」

 

 

取り敢えず、これまでの経緯を粗方2人に説明し、会議を再開させる。

 

隼人「新しい種目か・・・」

 

八幡「何か思いつかないか?」

 

彩加「盛り上がる、か。う~ん、毎年盛り上がってる気もするんだけどなぁ」

 

そうなんだよなぁ。俺もそう思っちゃってるんですよぉ。でも、会長納得いってないんすよぉ。助けてくださいよぉ。

 

隼人「例えば、どんな盛り上がり方がいいんだ?盛り上がるって言っても色々あるだろ」

 

八幡「会長が言うには、ドーンとらしい」

 

彩加「あはは、それはまたずいぶんと難題で・・・」

 

俺達が話し合っている一方、他の人たちは何故かだんまりしている。いや、頼んだのあなた方ですよね?ちょっとくらい話し合う姿勢を見せてもいいんじゃないでしょうか?もうこの会議室は俺、葉山、彩加の声しか響いていない。

 

風音「八くん八くん」

 

八幡「ん?どうした風音」

 

風音「あのさ、ここでやってる種目と体育祭定番の種目を見比べて決めた方が、いいのが決まるんじゃない?」

 

・・・成程。一理ある提案だ。よし、それじゃあ早速それを実行してみよう。

 

それから、総武高にある種目、定番の種目を周りの奴らからも候補を挙げてもらい、ホワイトボードに書き込んだ。

 

隼人「棒倒し・・・」

 

八幡「ん?どうした?」

 

隼人「棒倒しとかいいんじゃないかと思ってね。ほら、ここではやってないし、ドーンと盛り上がるかもしれないよ」

 

八幡「中々いいな。会長。棒倒しいいですか?」

 

なんか居酒屋で注文したみたいな言い方だなこれ。行った事ないけど

 

めぐり「うん、私もいいと思う。じゃあ、第一候補だね」

 

よし、これで決まったな、と思っていたら、まさかの第一候補になった。どうやらまだまだ意見を集めたいらしい。

 

八幡「会長。一体何種目決めればいいんですか?」

 

めぐり「2種目決めてもらいたいと思ってるんだ~」

 

おそらく棒倒しはもう決定事項だと思うから、実質あと一種目だ。そして、考えるべく再び会議室が静寂な世界が広がった。

 

彩加「あ!二人三脚とかどうかな?」

 

彩加は思いついたように頭の上に電球を浮かせ、手と手のしわとしわを合わせた。二人三脚か。確かに総武高ではやってなかったな。ていうか、何でやってないのか不思議だけど。

 

彩加「それで、ペアは自由に決められる。これいいと思うんだけどな・・・」

 

めぐり「うん。いいと思う♪じゃあ、それは採用!」

 

随分とあっさり決めたなー。結局助っ人2人が決めちゃったじゃん。奉仕部何にもしてないよ・・・。

 

これにて、葉山&彩加の助言により、体育祭の新種目は『男子の棒倒し』『ペア自由の二人三脚』に決まりました、と。

 

 

 

八幡「助かったわ。ありがとな、彩加。・・・・ついでに葉山」

 

隼人「俺だけ随分と扱い雑だな・・。いいさ、俺も去年と同じってのはあまり面白味がないと思ったし」

 

彩加「うん、僕体育祭好きだから。それに、自分で決めた種目ができるなんて嬉しいよ」

 

 

そして、体育祭当日。校庭の周りは暑苦しく賑わっている。これじゃあ、内気な人が可哀想だと思う。空気に気圧されて、透明人間みたいになっちまうからな。実体験。

 

葉山と彩加が決めてくれた新種目の棒倒しと二人三脚は最後にやるらしい。

 

隼人「頑張ろうな、ヒキタニ君」

 

八幡「うるせーあっち行ってろ。あの騒がしい三人組がお呼びだぞ」

 

隼人「はは、相変わらずだな。じゃあな」

 

何であいつこんなに俺と関わってくるんだよ・・・。俺の事そんなに好きなの?なら、即座に阿部さん呼んでやるから、諦めてくれ。そして、海老名監督の薄い本の餌食になれーーーー!(某惑星の王子風)

 

クラスは離れているが、俺、風音、彩加、凛、飛鳥の5人が集合した。

 

凛「よし!頑張ろうか!」

 

八幡「なんか、いつになくやる気だな」

 

飛鳥「凛って、運動得意なんだよ」

 

八幡「そりゃ意外だ。・・・そういや、二人三脚は出るのか?」

 

飛鳥「あ、彩加が提案したやつだね。うん、凛と組むよ」

 

風音「私は八くんと走るよ」

 

八幡「彩加はどうするんだ?」

 

彩加「葉山君誘ったらOKしてくれたんだ♪だから大丈夫!」

 

身長的に大丈夫かなぁ・・・。ちょっと心配だが、運動部×2は結構手ごわい相手だな。

 

凛「八幡と風音は大丈夫なの?」

 

風音「え?何が?」

 

凛「ほら、男女だと色々違ってくるじゃん?だからね」

 

八幡「なんだ、そんなことか・・。安心しろ。寧ろ敵の心配してる暇なんてないほどの差をつけてやるよ」

 

俺は目を細めながら、不敵に微笑んだ。すると、さっきの呑気な顔から、一気に真剣な顔になり

 

凛「よし。なら、勝負だよ!」

 

俺らは互いに目を合わせ、真剣勝負を約束した。凛の目には炎が宿っている。対する彩加は真剣なんだろうけど、なんかキラキラ光っている。俺は相変わらずの濁り色だ。

 

八幡「そういや、最初の種目ってなんだ?」

 

風音「借り物競争だよ。私が出るんだ~」

 

八幡「お、マジか。頑張れよ!」

 

風音「うん♪」

 

よし、もう風音しか見ない。絶対に。

 

 

『最初の種目はクラス対抗借り物競争です。それではー、スタート!』

 

放送委員の実況と、バン!という銃声のスタート合図とともに借り物競争が始まった。思ったんだけど、これコミュ障にはきついと思う。場合によっては全く知らない人に話しかけなくてはいけないからな。

 

風音は紙を手に取り、何が書いてあるか見た途端に、俺の方にやってきた。

 

八幡「ど、どうした?」

 

風音「八くん、一緒に来て!」

 

突然の出来事に混乱するが、風音に勝たせるため一目散に手を繋ぎながら走った。結果は2位だったが、風音は満足そうな表情をしている。

 

でも、借り物が俺って何が書かれていたんだろう・・・。彼氏とか?それとも最愛の人?・・自分で言ってて恥ずかしくなってくる。

 

八幡「風音、なんて書いてあったんだ?」

 

風音「これ!」

 

『シスコン』

 

八幡「・・・・・・」

 

・・・・んー、いや、あのね、間違ってはない。ないけど・・・なんだろう。このやるせない感じ。さっきまで自惚れてた自分を殴りたい。ていうか誰だよこれ入れた奴!

 

風音「八くんのおかげで2位だよ。ありがとう」

 

八幡「・・・おう」

 

なんか、ちょっと微妙な気持ちだが、風音は嬉しそうなので、よかったなとだけ言い、頭を撫でた。

 

 

さて、借り物競争から一気に割愛をし、ついに新種目である二人三脚の時間がやってきた。周りには男女ペア、男同士のペア、女同士のペアがたくさん揃っている。俺は何故か男子から鋭い視線が向けられている。

 

やはり何人かは走る前に軽い練習をしている。二人三脚の揃わせ方は人それぞれだな。基本的にはリズムを刻む感じで走るのだが、その他にも、最初に出す足だけ設定しておいて、そこから何も考えずに全力ダッシュ。実はこれが一番勝率が高いのだ。

 

一方、俺と風音ペアは、練習もせずに余裕をぶっこいている。

 

凛「絶対に勝つ!」

 

八幡「おう。頑張れよ」

 

風音「私たちはそう甘くはいかないよ」

 

余裕の笑みを浮かべる俺と風音。

 

『続いては、新種目である自由ペア二人三脚です』

 

 

スタートした。お互い体を寄せ合いながら、頑張っている。やはりこける人や、ひもがほどけてしまっている人がいる。男子同士のペアはさすがといったところだな。ぶっちぎりの一位だ。そして、向こうで鼻血をドバドバ出してる海老名監督は急いて救護テントに向かってください。

 

『やっぱり男子同士のペア上位に食い込んでいますね。これは女子同士のペアも頑張ってほしいところです。そして、男女ペアは今すぐ爆発しろ』

 

おい。本音ダダ漏れだぞ。悪意見え見えだぞ。そして爆発はしない。

 

ついに俺達の出番となった。俺が右で風音が左だ。ちなみに何にも打ち合わせをしていない。でも、大丈夫なんだよなぁ。伊達に生まれた時から一緒にいない。

 

スタートの銃声がなった途端、俺と風音は勢いよく走り出した。うむ、完璧だ。

 

『おおっと!なんだなんだ!あの男女ペアは!物凄いスピードでゴールテープへと猛ダッシュしている!しかも、お互い肩を抱き合っていません。お互いに腕を前後に動かしながら走っています。凄いです。完璧なコンビネーションです!』

 

実況の放送委員さん、解説ご苦労様です。そう、俺と風音は一切体を寄せ合わせず、全速力で走っている。

 

当然ながら、俺と風音は誰とも差をつけず、寧ろ差を開かせ、一位を取った。

 

風音「イエーイ♪やったね八くん」

 

八幡「ふっ、当然だな」

 

その後、なんか凛たちから、アレ反則でしょ!って言われた。

 

 

さあて、いよいよ男子による棒倒しだ。白組対赤組。それぞれに1人大将を決めるルールになっている。こちら赤組は、彩加。白組は葉山だ。

 

そして、スタンバイしようとすると、肩をチョンチョンと叩かれて、後ろを振り向くと、城廻会長がいた。

 

めぐり「ヒキタニ君、ありがとうね。おかげで楽しい体育祭になったよ。ありがとう」

 

八幡「いや、礼ならあの2人に言ってください」

 

めぐり「もちろんそのつもりだけど。ヒキタニ君も真剣に考えてくれたでしょ。だからね」

 

八幡「それは、どういたしまして」

 

めぐり「棒倒し、全力の本気で頑張ってね!」

 

・・・・・・えーと、どうしようか・・。

 

八幡「・・・本気でですか?」

 

めぐり「うん。最後の種目なんだから、本気で勝ちにいこう!」

 

・・・はぁ、しょうがない。生徒代表の城廻会長にこう言われたんじゃ、逆らえないな。まぁ、本音を言うと、白組大将の度肝を抜かれた顔を拝みたいだけだけどな。

 

八幡「じゃあ、お望み通り、本気でいきますよ」ドロドロ

 

 

 

 

『それでは、最後の種目。男子による棒倒しを始めます』

 

凛「あ、八幡と彩加だ。頑張れー!」

 

飛鳥「頑張ってーー!・・・って、あれ?」

 

凛「ん?どうしたの飛鳥?」

 

飛鳥「いや、あの、八幡の目・・・」

 

凛「目?・・・嘘でしょ・・」

 

 

 

 

八幡「彩加。俺前に出るわ」

 

彩加「分かった。頑張ってね。・・・ロットアイ使って大丈夫なの?」

 

八幡「心配しなくても、無茶とか速攻とかしねえよ。力の差がありすぎるからな」

 

彩加「うん。ほどほどにね」

 

『それでは、スタート!』

 

「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」」

 

うへぇ、熱くて暑い。皆発狂しているように、叫び声をあげながら、相手の棒に向かっている。

 

そんな俺は、脇道を何事も無く、静かに歩みを進める。赤組の奴らが相手と五分五分の人数で戦っているため、俺はあまり気にされずに進めている。

 

白組の守備が薄いな。どうやら、速攻で決めようという作戦か。

 

そんなことを考えているうちに、赤組の棒と白組の棒の間である校庭の中心に来た。

 

そしてそこには、白組大将である葉山が俺を待っていたかのように佇んでいた。

 

隼人「不意打ちかい?残念ながら作戦は失敗だ。俺が君から目を離すわけないだろう」

 

八幡「はっ。本格的に男趣味にでも目覚めたか?イケメン王子」

 

隼人「俺は運動部だから、君には負ける気はないよ」

 

八幡「運動部だから勝てる、か。随分と甘い考えだな。小学生かよ」

 

お互い皮肉を言いあいながらも、にらみ合う。葉山は俺の隙を突こうとしているのか目線を微妙に動かしている。そして時折、後ろに目をやって指を動かし、仲間に何かを伝えている。・・あのさ、もう少し分かりにくくやろうよ。バレバレだよ。何?もしかしてばれても問題ないとでも思っているのか?それはちょっと心外だな。

 

次の瞬間

 

「「「うおおおーー!覚悟しろーーー!」」」

 

葉山の取り巻きである、あのはぁはぁ3兄弟(勝手に名付けた)が、一斉に俺に飛び掛かってきた。

 

隼人「やったか!」

 

葉山、まるで悪役みたいだったぞそれ。後、3人が1人に飛ぶなんて結構危ないよ。いや、棒倒し自体が結構危ないけど。

 

後、何でこんな平然と喋れているのかというと

 

「あれ?いないぞ?」

 

俺はとっくに走り出して、薄っぺらい守備へもう突進しているのだから。

 

隼人「何でだ!?くっ、止めろー!」

 

八幡「はい残念♪もう遅い」

 

葉山が大声をあげている時は、俺はもうすでに棒を倒せる距離まで詰めていた。

 

俺は勢いよく、棒を平手打ちをし、棒を倒した。・・・筈だったんだけど。

 

八幡「あ、やべ」

 

勢いあまり過ぎて、棒をへし折ってしまった。守備に回っていた何人かの人は腰を抜かしたようで、カチカチに固まっている。

 

『か、勝ったのは赤組です。おめでとうございまーす!!』

 

実況が大声をあげた瞬間、赤組陣地からどでかい歓声が響いた。一方俺は、呆然としている。

 

八幡「これ、どうするんだろう・・・」

 

目の前にある俺によって折られた棒を、俺はただ見る事しかできなかった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

奉仕部空気&ポンコツ化。ていうか、これからそうしていきます。

また次回。


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23話:俺と彼女の依頼オップゼット

はい、どうも、アイゼロです。

23話突入。

さあ、あの由比ヶ浜にとどめを刺します。

それではご覧ください。


俺にとって、やらかしてしまった体育祭から、幾日が経った。当然俺は教師とかに呼び出され、何故折れたのか聞かれた。もちろん適当に嘘をでっち上げた。腐ってたんでしょう、ってね。あの棒が木製で良かったわ。どうやら、アレは森林を所有している主さんからいただいた木らしく、腐っててもおかしくないという事で、平和に終わった。

 

教室に戻ると、旅行雑誌を広げながら、楽しそうにワイワイしている連中がちらほら。もうすぐ修学旅行があるのだ。場所は京都。まだ当日まで2週間もあるというのに・・・。

 

呆れている俺も、実はとても楽しみにしている。京都は好きだし、寺巡りもしてみたかったから、少し浮かれている。

 

ちなみにグループはいつもの4人。なんか俺といてばっかだったから、他の女子とは組まないのかと聞いたら、八幡と彩加と一緒の方が楽しい、との事だ。修学旅行は3泊4日でその内2日間はグループと過ごし、最後の3日目は自由という何とも嬉しい企画だ。その日は風音と2人きりで京都を巡る。実はこれが一番楽しみだったりする。

 

 

放課後。奉仕部は絶賛活動中。俺はいつものように本を開いて、たまに風音と話しているが、今は違うことに意識を持っていかれている。

 

俺は、実はあることに挑戦しようかと考えているのだ。高2になって、自分でも分かるほど、俺は変わった。人間嫌いな俺だったが、友達を()、人前で活躍し、クラスの奴らからも少しは認められた。

 

そんなまだ半年も経っていないというのに、俺の心境はもう180度変化した。だから、俺は新たな挑戦をしたいと思う。それもこれも全部、風音や彩加、凛や飛鳥のおかげかな。

 

コンコン

 

と、色々考えていたら、依頼か。さて、今日はどんな面倒ごとかな。

 

雪乃「どうぞ」

 

入室許可が出され、扉を開き、姿を現したのは、皆も驚く意外な人物。戸部と大岡、大和の3人だ。そしてそのリーダーである葉山が同行していない。

 

雪乃「それで、何の用かしら?」

 

おお、全く興味を示していないような口調だ。

 

雪ノ下がそう聞くが、中々話を切り出さず、なんかヒソヒソと耳打ちしている。戸部はいつものようにやべーやべー言っているが、大岡と大和はほら言えよ、と戸部を後押ししている。どうやら今回の相談者は戸部らしい。

 

戸部「あのー、実は相談があって」

 

気恥ずかしく、頬をポリポリと掻きながら、言い淀んでいる。いつものべーべー口調じゃないから、きっと大事なことなんだろう。全く似合わない。

 

戸部「実は俺、ずっと海老名さん、いいなと思ってて。修学旅行で決めようと思ってるんだ」

 

結衣「え!?マジ!?」

 

真っ先に反応したのは、由比ヶ浜だった。

 

戸部「マジだ。それで、その告白のサポート?的なのをお願いしたいんだ」

 

八幡「いや、告白にサポートなんていらないだろ。そのまま好きですっていえばいいだろ?」

 

雪乃「私は、告白というのはよくわからないわね」

 

戸部「いんやあ、それがちょっとできそうにないから、協力してほしいんよ。オナシャス!」

 

風音「でも、告白のサポートなんて逆に何していいか分からないよ・・・」

 

風音も渋々の様子。確かに、告白というのは一種の想いの押しつけ行為だ。告白行為は一対一で成立する。他者の干渉など、必要ないし、逆にあってはならないと思う。せいぜい応援くらいしかすることがないだろう。

 

雪乃「普通に告白すればいいじゃない」

 

八幡「そうだそうだ。当たって砕けろ」

 

戸部「ちょっ。皆きついわー。俺砕けたくないわー」

 

じゃあ、そんな事頼みに来るなよ。フラれる覚悟もない奴がよ。それでフラれて俺らのせいにされちゃたまったもんじゃない。

 

雪乃「悪いのだけれど、私達では解決できそうにないわ。だから、葉山君や友達に」

 

結衣「ええー!いいじゃん!やってあげようよ!」

 

雪ノ下が、この依頼の難易度をよく知ったうえで、戸部の依頼を受けないよう拒否しようとしたとき、由比ヶ浜が口を割ってきた。

 

八幡「いや、よく考えてみろよ。同じグルーp」

 

結衣「でも、最近依頼なんてなかったし。やろうよ!」

 

こいつにとってもかなり重要なことを言おうとしたのに、由比ヶ浜の勢いで消し去られてしまった。

 

戸部「え?マジで!やってくれるん?」

 

結衣「うん!戸部っちも頑張ってね!」

 

戸部「おう。も、もう緊張してきたけど頑張るわ!」

 

と、言い残して戸部たちは帰ってしまった。・・あーあ、随分マズいことになってしまった。そして、このことに全く気付かない由比ヶ浜はもっとマズい。

 

雪乃「由比ヶ浜さん、貴方勝手に」

 

結衣「やー、サポート何してあげようかー」

 

ダメだこいつ。後先を全く考えずにこんな依頼を受けたんだ。空気の読める奴だと思ってたけど、何故色恋沙汰で重要なことを忘れるんだ。

 

由比ヶ浜の勝手もそうだが、何よりも落胆したこともある。

 

八幡&風音「(3日目のデート、楽しみにしてたのに・・・)」

 

 

 

 

戸部の依頼からしばらく経ち、勝手に依頼を受けた由比ヶ浜は雑誌を開きながら、複雑な表情をしている雪ノ下と話している。一方俺と風音は落胆しながらも、京都ではどう過ごすとかで話をしている。

 

そして、コンコンと本日2回目のドアノックが発生した。

 

雪乃「どうぞ」

 

姫菜「失礼しまーす」

 

この訪問者に奉仕部一同、驚きを隠せなかった。ついさっき戸部から告白依頼が来て、その告白対象が同じ日にこちらに来たのだ。

 

結衣「姫菜!どうしたの?珍しい」

 

姫菜「ちょっと相談があってね」

 

由比ヶ浜が席に促し、しばし時間をおいて落ち着き、本題に入った。

 

姫菜「実はね、とべっちの事なんだけど・・・」

 

結衣「ととと、とべっちがどうしたの!?」

 

おっと、これはもしや、戸部まさかのハッピーゴールか。・・・・・・・なわけないな。海老名の表情を見るに、どうやら俺らと同じ心配をしているんだな。

 

姫菜「最近隼人君とヒキタニ君が仲良すぎて、とべっちや大岡君や大和君がジェラシーの炎が燃え盛る!私はもっとドロドロの爛れた関係を目に焼き付けたいのに、これじゃあヘキサゴンハートが台無しだよ!?」

 

静かな部室に、海老名だけの心の叫びが響いた。それと同時に、冷たい空気が部室を覆う。

 

雪乃「えっと、もう少し、分かりやすく説明してくれるかしら」

 

姫菜「・・・なんかね、最近グループが変わってきてるなーって感じてね」

 

海老名は、憂いを帯びた声でそう言い、顔を少し下に向けた。

 

風音「でも、どこだってそうじゃない?変わらない関係なんて、作ろうと思って作れる物でもないし」

 

姫菜「うん、そうなんだけど。・・私はこの関係をもう少し続けたいと思ってるの。ただ仲良くやってたい。それだけ」

 

その言葉を耳にした瞬間、風音はハッと、何かに気づいた様子。雪ノ下も何か勘付いたのか怪訝な顔をしている。由比ヶ浜は、分かってないなこれは。表情を全く変えてないし。

 

姫菜「それじゃあ、よろしくね」

 

俺達の返答も何も聞かず、去ってしまった。

 

 

 

風音「八くん、今の話」

 

雪乃「もしかして」

 

八幡「チッ、面倒なことになったな」

 

結衣「え?どうしたの?」

 

いやどうしたの?じゃねぇよ。今ので何故気付かない。そしてお前が勝手に依頼を受けたせいで余計面倒くさいことになってるんだぞ。

 

八幡「簡単に言えば、海老名は戸部の好意に気づいてる。そして、戸部を告白させないでほしいって言って来たんだよ・・・」

 

結衣「そ、そんな・・・」

 

風音「しかも戸部君の告白サポートも受けちゃったし・・・」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、もう少しよく考えてちょうだい。戸部君の依頼内容はあんなに軽々しく受けていいものじゃないでしょう」

 

結衣「ご、ごめん・・・・・」

 

八幡「・・・ちょっと戸部の所に行ってくる」

 

風音「どうするの?」

 

八幡「ちょいと話すだけだよ。悪いが一対一で話がしたい」

 

そう言い残して、俺は戸部がいる校庭へと向かった。

 

 

戸部に話を聞くため、サッカー部の下へやってきた。今は練習中なので、しばらく待とうとしたら、葉山が俺に気づき、部員に断りを入れて俺の所に駆け寄ってきた。・・・いや、用があるのはお前じゃない。

 

隼人「どうしたんだ?君がここに来るなんて珍しい」

 

八幡「ちょっと戸部に用があってな」

 

隼人「珍しい組み合わせだな。分かった、呼んでくるよ」

 

あ、そうだ。ついでにこいつにも聞いておこう。大岡や大和が知っているなら、こいつも知ってておかしくない。

 

八幡「葉山は、戸部が海老名に告白することを知ってるのか?」

 

隼人「・・・そうか。君たちの所の来たんだね。ああ、知ってるよ」

 

八幡「何もしないんだな・・・」

 

隼人「最初は止めようとしたけど。戸部も本気らしいし。それに、君の言った上っ面だけの関係なんかじゃないって、証明したいってのもあるからね」

 

成程。葉山は自分のグループを信じて、戸部達に何も言わなかった。告白程度では変わらない、と。じゃあ、今のグループを信じ切れていないのは、海老名というわけか。

 

隼人「俺がこう思っているのは、君のおかげかもな」

 

八幡「俺、何もしてないんだが。・・まぁいい、それよりも戸部を呼んできてくれ」

 

隼人「分かったよ」

 

葉山は、戸部は本気だと言っていたから、いいかなとは思っていたけど、念には念をだな。

 

戸部「おーっす。ヒキタニ君!」

 

八幡「ちょっと聞きたいことがあってな」

 

戸部「お~ー何々!もしかして、あの告白の事?」

 

八幡「そんなところだ。・・・本気なのか?」

 

戸部「あー、そんなことかー。・・・・・本気だ」

 

ッ!・・・こいつ、急に態度と雰囲気を変えやがったな。さっきのようなふざけた口調とは正反対と言ってもいいくらいに、目は真剣そのものだった。

 

戸部「俺さ、こういう性格だから、結構軽く見られちゃうーとか思われるわけよ。でも、今回は大マジなんだわ。隼人君や大岡に大和も背中を押してくれてるし。・・・それに、俺は卒業までにはケリを付けたいと思ってる」

 

今の戸部は、お調子者ムードメーカーではなく、決意を固めた1人の男だ。誰にも折ることのできない、そんな強い想いが、目の前の男にはある。

 

面白い、見せてもらおうか。その覚悟を。

 

八幡「分かった。頑張れよ」

 

戸部「おう!よろしく頼むべ」

 

戸部はそう言って、サッカー部に戻っていった。

 

何が告白ヘルプミーだよ。そんなもの、今のお前には必要ないじゃねぇか。・・・けど、海老名は告白を避けるために、何か考えてる筈だ。この点については多少考える必要があると思う。

 

海老名監督、悪いがあんたの言う通りにはできない。

 

 

八幡「うーっす」

 

風音「あ、八くん。どうだったの?」

 

八幡「そうだな。2つだけ言っとこうか。まず、戸部のサポートはほとんど必要ないと思う。次に、海老名の言う気まずくなるっていうのは、完全に無視する」

 

雪乃「無視していいのかしら?それに戸部君のサポートだって・・・」

 

八幡「戸部の覚悟は相当なものだ。それを邪魔するのはあまりにひどすぎる。海老名にはこの事を明日説明する」

 

結衣「でも、もし気まずくなっちゃったら」

 

八幡「元々お前の身勝手な行動で、こんな面倒なことになったんだろう。そんくらい受け止めろ」

 

結衣「っ!・・・」

 

雪乃「それじゃあ、戸部君へのサポートは最低限と言っていいのかしら?」

 

八幡「そうだな。・・・じゃ、帰ろうぜ、風音」

 

これで、風音と京都デートができる!

 

 

翌日の昼休み。俺は海老名のいる葉山グループに向かう。

 

八幡「海老名、ちょっと話がある。あの時の依頼についてだ」

 

姫菜「っ!・・・分かった」

 

葉山達は何も知らないのか、不思議そうに首を傾げている。そして、話し合うためどこかに行こうとすると、金髪ドリル女帝に止められた。

 

優美子「あんさー、姫菜になんか用なの?ここで話してもよくない?」

 

八幡「悪いが他言無用の内容なんでね」

 

姫菜「じゃあ、行ってくるね」

 

 

 

 

 

 

八幡「よし。ここなら誰も聞き耳をたてないだろう」

 

話し合うためならここが一番いいと思い、屋上へとやってきた。

 

八幡「んじゃあ、早速本題に入らせてもらう。昨日の依頼なんだが・・・」

 

姫菜「気付いてたんだね」

 

八幡「ああ。寧ろ由比ヶ浜以外全員勘付いてたぞ。・・・・そんで、戸部には絶対に告白させる」

 

姫菜「そんな・・・」

 

八幡「グループが気まずくなる?そんなことで男の一世一代の告白を無碍にするのか?そんなことは許さない。戸部は本気なんだ。しっかり受け止めやがれ」

 

俺らしくもない。大きな怒気を含んだ声で、依頼を却下した。

 

姫菜「でも、今まで通り仲良くは・・・」

 

八幡「葉山は信じてるんだぞ。告白程度では変わらないってな。・・・あんただけだ。今のグループを信じていないのは」

 

姫菜「隼人君が・・・。そう、私だけなんだ」

 

八幡「戸部の告白を受けろ。例えそれで気まずくなっても、受けなかった時の方が、もっとひどい事になる。戸部の覚悟を無駄にはするな」

 

そう言って、俺は屋上から去り、まだ食していない風音お手製の弁当を、ベストプレイスにて昼食をとった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

オップゼット=opposite=正反対

また次回。


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24話:俺と彼女の修学旅行オペレーション

はい、どうも、アイゼロです。

24話突入。

この回書くのに、かなり時間かかっちまった。何度も修正してやっと完成。

後、京都観光や新幹線のくだりは割愛しています。

それではご覧ください。


皆さん、ご機嫌麗しゅう。(やつがれ)は比企谷八幡。という、わけの分からない自己紹介から始まる、総武高の修学旅行。というわけで、新幹線に乗るため、風音と東京を目指す。

 

普段起きる時間よりもさらに早く、家族からお土産リストを渡され、微睡の中、風音と共に東京へ向かう。

 

 

途中で偶然彩加と合流し、集合場所である新幹線口に着いた。すでにぞろぞろと生徒の大半は集まっていて、普段から人が多い東京駅が、さらに騒がしくなっていた。

 

凛「お、来た来た。八幡、風音ー、彩加ー」

 

飛鳥「おはよー」

 

俺らよりも早く着ていた凛と飛鳥が手を振って、挨拶をしてきた。

 

風音「2人共早いね」

 

凛「いやぁ、楽しみすぎて、早起きしちゃったんだ~」

 

飛鳥「私は、その凛に電話で起こされて、まだ眠い。ていうか寝たい」

 

じと~、と目を細めながら凛を睨む飛鳥。対する凛は、明後日の方向を向きながら、口笛を吹いている。いや、吹けていない。二酸化炭素だけが放出されている。

 

八幡「新幹線では寝れるから、ゆっくりすればいいだろ」

 

飛鳥「いや、そうしたいのはやまやまなんだけど。凛に何されるかわかったもんじゃないから」

 

彩加「前に何かされたんだね・・・」

 

風音「何されたの?」

 

飛鳥「い、言えない!絶対に!」

 

おお、予想外の勢いで拒絶したな。そんなに凄い事をされてしまったのか・・・。でも、この飛鳥の反応を見ると、余計気になってしまう。

 

凛「実はあの時ね・・・」

 

飛鳥「だ、ダメ!?」

 

顔を赤くしながら、凛の口を思いっきり塞いだ。痛かったんだろう・・・。凛が涙目だ。

 

そんなことをしているうちに、予定された集合時間になり、新幹線も到着したので、各々クラス別で、決められた車両へと乗り出す。・・・風音ェ、一緒に乗りたかった・・・。ぐすん。

 

新幹線の座席は不思議な作りになっており、一列五席で、二席三席と分けられている。

 

という事で、男子女子に別れ、席に座った。

 

そして、その横で騒がしく、席の取り合い譲り合いをしているのは、葉山達だ。ちょっと戸部や海老名の事があったので、気になって観察をすることに。

 

優美子「あーし窓際がいい」

 

開口一番に自分の希望を言う金髪ドリルこと、女帝の三浦優美子。

 

結衣「沙希ちゃんはどこがいい?」

 

沙希「え?私は静かならどこでも・・・」

 

川崎、そのグループの席に座るだけで、その願いは叶わないと思うぞ。

 

結衣「そっか。じゃあ、とべっちがそこで、姫菜が・・」

 

姫菜「はいはい。結衣がここで、サキサキがお向かいね」

 

由比ヶ浜の言葉を遮り、そそくさと座る位置を決めた海老名。そして座席は、葉山、戸部、川崎。向かい側が由比ヶ浜、三浦、海老名になった。

 

やはり、わざと戸部から避けている節が見られる。

 

 

一日目の修学旅行が終了し、ホテルの指定された部屋にいる。新幹線と京都のくだりは全部割愛。

 

風呂も飯をすべて済ませ、今は彩加と明日のグループ行動について色々話している。

 

その時、横からある男が現れた。

 

隼人「ヒキタニ君も戸塚も、一緒に遊ばないか?」

 

そう言われて、葉山の後ろを見ると、戸部大岡大和が麻雀やらトランプやらウノで盛り上がっている。

 

彩加「うん。僕も遊びたいからいいよ」

 

隼人「ヒキタニ君は?」

 

八幡「・・・・いいよ。遊ぼうか」

 

隼人「珍しいな。どういう風の吹き回しだ」

 

八幡「おいそれどういう意味だこの中途半端金髪野郎」

 

ちょうど聞きたいこともあったからな。戸部に。

 

戸部「おー、ヒキタニ君達もやるー?よぉーし、じゃあウノやろーぜー」

 

戸部はすぐにウノを用意し、手早く俺らにカードを配った。

 

 

 

 

八幡「そういや戸部。いつ告白する気だ?」

 

戸部「ちょ、今その質問だすかぁー。えー、惑わしてるぅ?」

 

何をだよ・・・。

 

八幡「いや、単純にいつ告白するか聞いてるだけなんだが・・・」

 

彩加「え?戸部君告白するの?」

 

戸部「お、おう。まぁな」

 

戸部は少し照れ臭そうに、頭をガシガシ掻いている。そして、俺の質問に答えるべく、口を開いた。

 

戸部「・・・ん~、明日するわ」

 

八幡「明日?3日目じゃないのか?」

 

戸部「あー、ぶっちゃけそれもありだったんよ。でも、明日グループ行動じゃん?そっちの方が誘いやすいというか・・・。俺に考えがあるわけよ」

 

隼人「戸部の考えか・・・。なんか頼りない感じがするな」

 

奇遇だな葉山。俺も今全く同じこと考えてたぞ。

 

戸部「隼人君それないべー。ていうか緊張してきたわー。っつーか、場所どうしよーかー」

 

大和「頑張れよ!ヘタレ」

 

大岡「そうだ。告白しろヘタレ」

 

戸部「ちょっ!その扱いはないべ!」

 

そうだなぁ、場所か。告白なんて正直どこでもいい気がするが、折角の京都だ。どうせならこだわりたいところだ。

 

先程彩加と話し合いながら、開いていた雑誌を手に取り、パラパラとページをめくり始める。条件は、まあそれらしい雰囲気で、2人になれる場所。・・・・ここだな。

 

八幡「戸部、ここならいいんじゃないか?」

 

俺が見せている写真には、いったい何本生えているか全く見当のつかない、青々とした竹林。そして、夜になると設置されている灯籠が光を放つ。そのコントラストは夜の嵐山にさぞ映える事だろう。

 

戸部「おー!なんかここいいべ!よっしゃ、ここにするわ。ありがとなヒキタニ君!」

 

八幡「依頼だからな」

 

 

マッカンが・・・ない。

 

彩加たちと一旦離れ、自販機でマッカンを買おうとしたが、ここがどこだか今気づき、落胆している。

 

肩を下げ、落胆していると、前から何者かに抱擁された。いや、何者かではない。この何年も味わってきた、そしてこれからも味わっていたい温もりは

 

風音「はーちくん♪」

 

この頃一段と、大胆になってきた彼女、風音の登場だ。

 

八幡「おー、風音。会いたかったぞー」

 

風音「私もー♪」

 

傍から見たらバカップルな事をしている気がする。でも周りは誰もいないから、特に気にする必要もない。

 

風音「どう?戸部君の方は」

 

八幡「ああ、明日告白するらしい」

 

風音「明日?3日目かと思ってた」

 

八幡「なんか戸部に考えがあるらしくてな。ま、取り敢えず見守っていればいいだろう」

 

風音「そっか。・・・私、何もしてあげられなくて、ごめんね」

 

八幡「クラスが違うんだから仕方がない。それに、あまりする必要ないって言ったろ?戸部の健闘を祈るくらいだ。・・・そろそろ消灯の時間だ。お休み」

 

風音「お休み。3日目楽しみだね♪」

 

八幡「そうだな」

 

 

風音と二言三言会話し、彩加たちのいる部屋に戻ってきた。やはり告白のことで話が盛り上がっている。

 

八幡「そういや、戸部が告白するとき、葉山達はどこにいるんだ?」

 

隼人「ああ・・。戸部が、俺の雄姿を見ていてくれって言ってたから、おそらく後ろから見守ることになる」

 

八幡「そうか・・・。少し話がある」

 

俺は葉山をみんなから離れさせ、誰にも聞かれないように小さい声で話を切り出した。

 

八幡「どうだったんだ?今日の戸部や海老名の様子は?」

 

俺がそう聞くと、葉山は暗い表情になり、月の光が降り注ぐ夜空に目を移した。

 

隼人「俺でも分かったよ。姫菜は戸部を避けているように見えた」

 

八幡「そうか・・・。不安になったか?」

 

隼人「はは、口では信じてるとは言ったけど・・・。けど、自分のグループを信じてない人がいるって思うとな・・・」

 

まぁ、そうだよな。告白なんて失敗したら気まずくなるというのは、もう常識だと思われているんだから。それに、戸部が告白することや、海老名が告白を受けることは、唯一三浦だけが知っていない。少なからず三浦も葉山のグループの事を信じているかもしれないが。一番の問題は、やはり海老名だ。葉山の話を聞いた限り、結局今の状態のグループを維持することに決めたらしい。

 

隼人「君が気にする必要なんかない。これは俺達の問題だから」

 

八幡「そうだな。じゃ、健闘を祈ってるぜ。でも、依頼は依頼だ。一個だけ言いたいことがある」

 

隼人「なんだい?」

 

八幡「告白の時は、俺達含め、三浦たちもいた方がいい。と、俺は思う」

 

一応、三浦だけが知らないというのは、何だか可哀想だし。それに、グループ内の問題なら、知っておかなくちゃいけない。そう思った俺は、葉山にこう言った。

 

隼人「・・分かった」

 

ちょっとした気遣いなのに、何故か葉山は神妙な面持ちで、俺の言葉を受け取ったように見えた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

京都観光は割愛すると言いましたが、風音とのデートはちゃんと書きます。26話にします。甘々に。

また次回。


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25話:俺と彼女の劇的コンフェッション

はい、どうも、アイゼロです。

25話突入。

三浦の口調って案外難しい気がする。そして、葉山がイケメンです。

それではご覧ください。


京都修学旅行2日目。と言っても、京都の描写をするのは次話の風音とのデートだけだから、割愛するんだけど。

 

凛たちとあちこち観光した後、俺だけ一時外れて、由比ヶ浜以外の奉仕部が集合した。その奥には、葉山と戸部とおまけの2人。三浦たちが見当たらないが、どうしているんだ?

 

それを聞くために、葉山達の所へ行った。

 

八幡「三浦たちはどこにいんだ?」

 

隼人「ああ、君の言った通り、教えて向こうで隠れさせてる」

 

八幡「そうか。・・結局、戸部の考えってなんだろうな?」

 

隼人「分からない。でも、戸部もバカじゃない。きっとこの2日目で告白も、何か考えがあってのはずだ」

 

八幡「ほとんど戸部の考え次第で、左右されるって事か・・・」

 

隼人「・・もっと俺がしっかりしてれば、こんな不安になることも無かったのかもな」

 

何だこいつ。急に自虐的になったぞ。あのワンフォアオール(笑)な葉山はどこに行った?

 

隼人「お互い信用しきれてないからこそ、不安になって距離をとる」

 

八幡「お前らまだグループ形成して半年だろ?」

 

人と人が互いに信頼するなんて、かなりの時間を有するはず。・・・あれ?だったら俺は何だろうな?凛たちとは知り合って、1、2週間で信頼できることができたけど・・・。まぁ、そこは俺が特殊だったという事でいいか。

 

隼人「期間なんて関係ないよ。いかに自分を見せて、自分を主張できるかが、信頼への一歩だと思うんだ」

 

八幡「そう言う事を知っていながら、仮面をかぶるなんてなぁ・・・」

 

隼人「気付いたのは、この間だ。そして、気付かせてくれたのは君だ。比企谷」

 

八幡「だから俺は何も言ってないっつーの」

 

隼人「ふっ、俺が勝手にそう解釈しただけだ。そろそろだから、いったん離れようか」

 

 

 

風音「八くん、葉山君とずいぶん喋るようになったね」

 

八幡「ん?そうか?・・まぁ、でも最近話すな」

 

確かに最近何かと葉山達と関わりを持ってしまっているな。ほとんど業務連絡的なものだが。まぁ、俺は今でも犬猿の仲だと思うけどな。

 

 

 

数分後、海老名が戸部の前に現れた。さて、果たしてどうなるかな。ここから分かれ道が生まれる。壊滅か存続。もしくは、今以上の信頼が生まれるか。

 

そして、一世一代の戸部の告白が始まった。

 

戸部「ずっと前から好きでした。付き合ってください!!」

 

姫菜「・・ごめん。今は誰とも付き合う気がないの」

 

・・・結果が分かってるだけに、結構良心が痛むな。

 

姫菜「もう行くね」

 

戸部「あー、まだ話が残ってるんだわ。実は」

 

・・・なんだ?急にいつものムードメーカー、べーべー連呼の戸部に戻ったぞ。葉山達の方を見ると、何が何だか分からないような顔をしている。知らないという事は、おそらくこれが戸部が言ってた考えというやつか。

 

姫菜「何?」

 

戸部「いやぁ、ほら、これからも友達として仲良くやってこうってな」

 

・・・マジか。もしかして戸部の奴、最初からコレ分かってたのか?いや、でもだったら何で今告白を・・。ダメだ、あいつの意図がさっぱり分からん。

 

驚きすぎて、しばらくボーっとしていたが、冷静になって考えた。要は、気まずくなっても仲良くしていこう。という、葉山と似たことを思ってたっぽいな。

 

姫菜「無理だよ」

 

しかし、当の海老名は渋い顔をしている。

 

戸部「ど、どうして・・・」

 

姫菜「もう、今まで通りなんてできないよ。例えできたとしても、心の中まではそうはいかない。絶対にもやもやがあったりするし、変に取り繕うことになる。そんなの耐えられない。

 

私たちの関係はまだそこまで深くない!みんなもきっとそう!とべっちだって、隼人君だって!優美子だって!何で告白したの!今まで通り仲良くやっていきたかったのに!」

 

マズい!海老名は俺達が想像してた以上に追い詰められてたんだ。このままじゃ、余計酷くなる。けど、俺らが行ったって無駄だ。この状況を打破できる可能性があるのは、葉山だけだ。

 

葉山に行った方がいいと、分かりやすい合図を送り、向かわせようとしたその時

 

優美子「あー、もう!さっきっから聞いてりゃなんだし!?」

 

堪忍袋の緒が切れたのか、隠れていた三浦が後ろからツカツカと歩いてきた。・・いや、炎の女帝が君臨した。

 

戸部「え?優美子?」

 

姫菜「優美子?・・どうして」

 

うわぁ、かなり怒ってらっしゃる三浦嬢・・・。乱暴な口調がいい証拠だ。いや、普段からこうだっけ?とにかく、これ止める奴いないとダメなやつだ。葉山しかいないんだけどね。

 

優美子「姫菜!まずはとべっちに謝るし!」

 

姫菜「え・・・どうして・・」

 

優美子「男が勇気出して告白してきたのに、何で告白したの?は無いし!いくら何でも酷いし!」

 

姫菜「っ!・・ごめんとべっち。言い過ぎた」

 

戸部「あ、おう。・・え?何?」

 

三浦たちが見てたことはあの2人は知らない。戸部も何が何だかわけのわからない状態だ。・・それにしても三浦いいやつだな。

 

優美子「それに、さっきの何だし!あーしたちが告白程度で気まずくなるような関係だと思ったわけ?」

 

姫菜「そ、それは・・・」

 

優美子「あーしは、そうならないって信じてたし。姫菜は、そう思ってなかったの?」

 

姫菜「っ!?」

 

三浦の目はどこか悲哀に満ちているように見えた。三浦の怒号が終わると、途端に静寂が生まれた。

 

そして、その沈黙を破ったのは、葉山だった。

 

隼人「もう一度、やり直さないか?」

 

姫菜「・・・隼人君?」

 

優美子「隼人?」

 

隼人「もう、終わりにしてさ。また新しくやり直そう。もう上辺みたいな関係じゃなくて」

 

姫菜「・・・・できるの?」

 

隼人「ああ。できるさ。俺も、このグループが好きなんだ。皆も同じ気持ちなら、きっとできる」

 

雰囲気壊すようで悪いが、引くくらいイケメンだな葉山。

 

優美子「あーしも、このグループ好きだから、隼人に賛成だし。ずっと仲良くしてたい」

 

結衣「わ、私も・・・」

 

隼人「俺も、変に取り繕う事はやめにする。すぐにできるかは分からないけど、素の自分が出せるほどに、安心して、信頼できる。そんな関係に俺はなりたい」

 

・・・なんだろうなぁ。状況と環境は違うけど、昔の自分を見てるみたいだ。

 

優美子「じゃあほら、皆で手繋ぐし。もう一度、ゼロから始める友情の証!」

 

姫菜「うん!」

 

隼人「ははっ、なんか照れ臭いな。・・ほら、戸部も大岡も大和も」

 

戸部「ああ、おう!」

 

大和「なんか、よくわからないけど、こういうのいいな」

 

大岡「よし!」

 

状況が全く分かっていない男子3人だったが、これはこれでいいのだろう。下手に教えるよりな。

 

戸部「おーし!そんじゃあ明日も遊ぼうぜ!」

 

姫菜「うん!いろんなところ回ろう!」

 

 

 

もう大丈夫だろう。葉山も一皮むけた感じだし。

 

八幡「じゃ、風音。ホテル戻ろうぜ」

 

風音「うん。・・・あれ?八くん、葉山君何か用があるみたいだよ」

 

・・・・何で?そう思いながらあっちに視線を戻すと、確かに葉山はこっちに来ている。

 

隼人「比企谷、ありがとう」

 

八幡「ねぇ何なの昨日といい今日といい。俺何もしてないから」

 

隼人「いいや、君には返しきれないほどの恩がある。俺が今、ああやってできたのも、君のおかげだ」

 

うわぁ、なにこのありがた迷惑的なやつ。勘違いも甚だしいな。・・・でも、そこまで言うならあることに協力してもらおう。

 

八幡「なら、一つ頼みごとがあるんだ。どうしようか悩んでたが、お前なら十分だろ」

 

隼人「なんだ?」

 

頼みごとの案件を話すと、葉山と風音は目を見開いて驚いた。そういや、風音には教えてなかったな。誘うつもりだったから、今度詳しく話そう。

 

隼人「へぇ、君が・・・・。面白いね。いいよ、精一杯やらせてもらう」

 

八幡「おう。頼むぞ」

 

相談をし終えると、葉山は再び盛り上がっているグループ内に戻った。

 

風音「八くん、そんなこと考えてたんだ。言ってくれればよかったのに」

 

八幡「あー、悪かったよ。ほら、ふくれるな。可愛い顔が台無しだぞ。膨れっ面も可愛いけど」

 

風音「またそうやって・・・。今日は消灯時間まで一緒にいて」

 

八幡「お安い御用。ついでにホテル内のお土産とか見ようぜ」

 

風音「うん♪」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回、京都デート。かなり甘くします。久しぶりな気がする。八幡と風音をいちゃつかせるのは。

また次回。


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26話:俺と彼女の京都デート

はい、どうも、アイゼロです。

26話突入。デート回

それではご覧ください。




いよいよ待ちに待った修学旅行3日目。風音との京都デート。楽しみで凄い眠れたわ。ホテルのロビーで待ち合わせているため、今はそこにいる。集合時間より30分も俺は早く来た。そもそも、風音とのデートで待ち合わせとかしたことが無かったな。家超絶近いし。

 

ロビーの椅子に座りながら、マッカンを煽る。あ、このマッカンは昨日風音にもらった。俺のために持ってきてくれてたらしい。本当に、感謝。

 

しばらくすると、俺の目の前に1人の女子生徒が現れた。由比ヶ浜だ。

 

結衣「ヒッキー、ありがとう。あたしたちのグループ守ってくれて」

 

八幡「は?何言ってんだ?俺は何もしてない。そういうのは葉山に言え」

 

結衣「でも、隼人君がああやってできたのは、ヒッキーのおかげだから・・」

 

八幡「・・・はっ、違うな。葉山が勝手にそう解釈して、自分の力でやったんだよ」

 

結衣「それでも、ありがとう。あたしたちのために・・・」

 

・・・こいつは何を勘違いしているんだ。誰がお前らのために1つのグループを守るかよ。俺がそうしたのは、もっと別の理由だ。

 

八幡「俺はお前らのためにやったんじゃない。勝手に勘違いするな。俺は本気の奴が頼ったから動いただけだ」

 

そうだ。葉山のグループが崩壊しようと何だろうと、俺にはどうでもよかった。俺は、戸部が本気だったから、止めなかったんだ。昨日のような一番いい終わり方ができたのは、戸部の考えと葉山の機転によるものだ。俺なんて何一つ活躍していない。

 

八幡「用が済んだなら俺は行く。今日はデートだからな。これからはよく考えて依頼を受けろ。こんな面倒ごとはもうごめんだ」

 

ん~、我ながら結構きついことを言い残したかな?でも、風音とのデートが潰されかけたんだからこれくらい言わせてほしい。

 

 

 

風音「おはよう八くん」

 

八幡「おはよう。じゃ、早速行こうぜ」

 

腕を組み、旅館に出て、いざ出発。これは所謂、制服京都デート。学生のうちで修学旅行でしか味わえない、未知の楽しみだ。

 

 

まずは、天竜寺にやってきた。

 

天龍寺は、後醍醐天皇の菩提を弔うため足利尊氏が建立したと言われている。庭園を見学するのに500円諸堂参拝に100円が追加される。あながち高いと思われるだろうが、千葉から来た人にとって京都は貴重なため、安い物だろう。

 

綺麗だ・・・。和が好きな俺と風音はしばらく庭園の輝きに見惚れていた。水面には周りの木々が鏡のように映っている。

 

庭園をしばらく見学した後、その参拝場所である、大方丈・書院・多宝殿を回る。

 

他にも天龍寺と言ったら、ふすま絵の龍。やはり龍というのは、男の中の何かを奮い立たせる程、神々しい風貌で、ロマンがあり、とてもカッコいい。

 

しばらく見入っていると、チョンチョンと風音に肩を突かれた。

 

八幡「ん?どした?」

 

風音「あのね、折角の京都だし、見入る気持ちはわかるよ。私だってそうしたいし。・・けどね」

 

組んでいた腕を更にぎゅっと締め

 

風音「我儘だけど、私の事もちょっと見て・・・」

 

ぐはっ!甘えた口調に上目遣い。その可愛いコンボに思わず、心の中で吐血してしまった。

 

八幡「そうか・・・。随分と甘えん坊になったな」

 

風音「そんなこと・・・・・・・・ないよ」

 

今の間は何だったんだろうな。まぁ、甘えられるのは好きだから、頭は撫でる。

 

 

 

そして!天龍寺と言ったら他にもある。そう、甘党の俺が注目するグルメ。『天龍寺パフェ』である。こだわりの和素材をふんだんに使い、さらに有機栽培の茶葉を使った抹茶も付き、ほうじ茶の自家製アイスが絶品らしい。

 

八幡「知ってるか?先に抹茶を飲んでから食うと、パフェの甘みが引き立つんだ」

 

風音「知ってるよ~、雑誌に書いてあったもん」

 

自慢げに語ったが、彼女の一言で撃沈した。ああー!恥ずかしい!風音は自覚ないらしいが、結構天然なため、それに気づいていない様子。

 

風音「八くん、あーん♪」

 

八幡「あん」

 

うむ、癒された。彼女のあーん、は偉大だと思う。この海底深くに沈んだ気持ちを一気に海面まで浮上させたのだから。

 

うん。最高に美味い。

 

 

続いてやってきた場所は、京都東山の音羽山の中腹に建つ歴史ある寺院と言われている、清水寺だ。清水の舞台で名高い東山の清水寺は、坂上田村麻呂が創建した単立の北法相宗大本山。かつては清少納言も参詣したという。秋は紅葉と堂塔伽藍が調和して美しいのだ。

 

ちなみに風音は中学生の時、しみずでらと読んでいたのは内緒だ。間違いを指摘したときの慌てっぷりは面白かった。

 

風音「紅葉が綺麗だね~。絶景♪」

 

紅葉の絶景を背景に、ご満悦の風音一枚撮影。

 

小町の受験合格祈願をしたら、次は名所の滝だ。

 

拝観順路に従いながら、奥の院からの本堂・舞台を眺め、そこからは音羽の滝へと繋がる道がある。

 

清水寺という名の由来になった、霊水だ。

 

数十分並び、柄杓で一杯。・・・うん、美味い。さすが、古くから伝わる名水だ。季節的にも冷たくさぞや喉に気持ちがいいことだろう。

 

持ってきた空のペットボトルで水をすくい、春と秋にしか公開されない、成就院も見学し、次の目的地に向かった。

 

 

続いて、京都と言ったら、当然和菓子。という事で、和菓子作りの体験だ。初京菓子だ。スーパーとかに普通に売ってるが、買ったことも食ったこともない。

 

風音「どっちが上手く作れるか勝負しようよ」

 

八幡「お?久々にやるか。いいぜ」

 

まずは、練切(ねりきり)という京菓子を作る。職人さんからお手本と材料をもらい、アドバイスを受けながら、作り始める。

 

最初は桜。まずは、あんこが入っている、白いものをころころと優しく丸めるらしい。

 

風音「昔、泥団子作ったの思い出すね~」

 

ど、泥団子?まぁ、確かに要領は同じだろうが、まさかの泥団子で例えるとは・・・。ほらね、言った通り、天然でしょ?

 

泥団子か・・・。思い出す。みんな忘れがちだが、俺と風音はよく勝負をし、勝敗をメモしている。泥団子対決で、どちらが丈夫で固いものを作れるか競ったことがある。小学生の時ね。さすがに中学でやってたら引くわ。そして、家から持ってきた皿を的に、投げつけたのだ。そしてら見事に皿がパリーンと粉々。お互いに本気出し過ぎて、めちゃくちゃ固い泥団子を作った思い出があるのだ。すげえ親に怒られた。

 

八幡「そうだな」

 

いくつかの作業工程を描写が難しいという事で飛ばし、桜色のやつ(名前分からない)を全体に包ませ、桜の形にする。使うのは指と木のヘラみたいなものだけだ。

 

風音「~♪」

 

風音はいとも簡単に楽々と、桜の形にしてきている。さすが料理上手だ。職人とあんまり大差がない。器用に次々と切り込みを入れている。このままじゃ負けるな。・・・・・・・・【ロットア

 

風音「禁止」

 

八幡「な、何故分かった?・・・」

 

風音「八くんのロットアイ使うときの雰囲気とか大体わかるよ。ずっと隣にいるもんね♪」

 

やはり風音にはかなわないな。一体いくつ俺の何かを見破れるのだろう。

 

はい、結果は風音の勝ちだ。職人さんにも褒められるほど上手にできている。

 

作り終わったら、自分で作った和菓子を食べて終わりだ。お店の方から抹茶のサービス。太っ腹。

 

風音「美味しい」

 

八幡「初めて食べたが、本当に美味いな」

 

今度風音と一緒に作ろうかな?

 

最後は、和菓子作り体験の証明書みたいなものを作るため、その場で写真撮影。肩を寄せ合い、撮った。

 

 

次にするのは扇子作り。紙に好きな絵を描いて職人さんが仕上げてくれるのだ。

 

風音は京都ならではの紅葉を描いている。

 

一方俺は、天龍寺のふすまに見惚れて、龍を描いている。一般の男子高校生があんなの描けるわけがない。ズルだがロットアイを使わせてもらった。

 

風音「八くん凄い・・・」

 

職人さんに渡したときは、凄い驚かれたな。あんな度肝を抜かれた表情は忘れない。

 

扇子にするには時間がかかるため、千葉の自宅に送る形で扇子作りが終わった。

 

 

さて、目を付けた名所も一通り行ったという事で、お次はグルメ。やっぱ県外に来たら食べ物でしょう。普段と変わらない食事よりも、限定的に食べる方が胃に入るという謎のメカニズムが発動するのは何故だろう?別腹と同じ要領なのかな?とにかく食う。

 

ここで一つ。風音は太らない。そう、いくら食べても全く肉がつかないのだ。不思議だよな。でも、陰で努力してたら可愛いよな。これ以上細くなるのは嫌だけど。程よい肉付きがいいのだ。

 

まず、京都と言えば天ぷら。美味そうな店を風音と見つけたからそこへ行く。どうでもいいが、天ぷらの語源はポルトガルなんだよ。

 

八幡「美味い」

 

風音「本当に美味しいね。ここで正解だったかな?」

 

サクサクとした食感に舌鼓を打ちながら、次はどこに行こうか話し合った。

 

 

腹も膨れたため、今は路地を散歩中。途中で買った団子を食べ歩きながら道を進む。

 

風音「八くん、あれ何?」

 

風音が屋根の上にある像を指さして聞いてきた。

 

八幡「あれは鍾馗さんって言って、魔除けの神様らしい」

 

魔除けって、何かの厄から救ってくれるというイメージが強いが、実際魔とはどういうものだろう、と俺は思う。ネット上では魔除けで救われたなんて言う人がいるけど、そもそも魔を体験しなきゃ救われたなんて分からないんじゃないか。だから魔除けなんて所詮は気分や思い込みの問題なのかもしれない。ちょっとした運の良さも魔除けのおかげだ、なんて言ってしまう。だから、その効果を知ると、魔除けに縋りついてしまう。もう、魔除け自体が魔みたいなものだ。

 

とまぁ、雰囲気ぶち壊しの捻くれ理論もここまでにしてデートを楽しもう。

 

風音もこう見えて、あまり占いとかご利益というのは過信していない。さっきの魔除けもそうだが、ああいうのは本気にし過ぎると、自分を見失う可能性があるからな。

 

 

そして、時間的にこれが最後。俺と風音が行きたかった場所、京都屈指のラーメン激戦区、一乗寺だ。

 

全国にある有名なラーメン屋の総本店。何故か関東では千葉にだけないという理不尽。

 

俺も風音もここを楽しみにしていた。

 

八幡「こってりで」

 

風音「私もこってり」

 

風音は俺に負けず劣らずのラーメン好きだ。なりたけでも普通にギタギタ食べる。

 

この重量感はたまらない。ぷるぷるとしたスープも麺に絡みついて、食欲をそそる。風音も目を輝かせている。

 

美味い!

 

特に会話もなく、黙々と食べ続ける。ラーメンは基本無言で食うのだ。例え友人と来ようが、その美味さに箸が止まらなくなる。

 

八幡「美味かったな」

 

風音「うん。幸せ。なんだったらこれ食べに京都行きたいよ」

 

 

楽しい時間は早く感じてしまう。もうすぐ日没だ。いや、太陽は沈むんじゃない。地球の裏側を照らしに行くんだ。

 

家族へのお土産も買い、旅館に戻る途中の俺達。

 

八幡「あー、喉乾いたな」

 

風音「自販機は無いみたい。あ、霊水あるよ」

 

そう言って清水寺ですくった霊水の入ったペットボトルを取り出した。風音は俺に渡そうと手を伸ばしたが、途中で止まり、俺とペットボトルを交互にチラチラと見た。

 

何事?と思っていたら、まさかの風音が飲み始めた。風音の行動が読み取れない。これには一体何が・・・。と思っていると、風音は飲んでいるわけじゃない。喉が動いていないから、口内に溜めているのだ。

 

次から次へとわけのわからないことが起き、ポカーンとしていたら、風音が今だ!と言わんばかりに目を細め、俺の口を自分の口で塞ぎ、溜めた霊水を流してきた。

 

そう、口移しである。

 

八幡「~~~~~~~っ!?」

 

風音「・・・・ぷはぁ、お、美味しかった?」

 

八幡「か、か、かじゃね?」

 

やばいやばい、テンパりすぎて噛み噛みだ。ていうか風音顔真っ赤じゃん。すげえ恥ずかしそうじゃん。何でこれやったの?いや、別に嫌とかじゃなく、寧ろ嬉しさの方が勝ってるけど。それ以上に恥ずかしい。

 

風音「い、行こっか八くん!」

 

そんな恥ずかしさを紛らわすべく、大きく張りのある声で俺の手を引っ張った。

 

本当に大胆になってきたな風音・・・。

 

 

旅館に着いた俺達はロビーに座っている。ここで重要な話をするのだ。

 

八幡「まぁ、黙ってて悪かった。言うつもりではいたんだけどな」

 

風音「ううん。気にしてないよ。でも、これからはできる限り、相談してくれると嬉しいな」

 

八幡「今度からそうする。・・・じゃ、本題な。もう一度言うが、俺、”生徒会長”になろうと思う」

 

風音「うん」

 

八幡「俺らしくないだろ?こう思ってる自分に自分で驚くわ。・・・でも、この変わった俺がどこまでできるのかって、挑戦してみたくなってしまったんだ」

 

風音「そっか・・・」

 

今は生徒会長になると言っているが、それは選挙に選ばれればの話だ。それに、準備することは結構多い。演説内容に、応援演説をしてくれる奴。応援演説は昨日葉山に頼み、快く引き受けてくれた。

 

投票とかは、皮肉なことに真面目にする奴なんで極わずかだろう。せいぜい、友達が入れるからとか、人気者だからとか。

 

なんか、生徒会長になるために葉山を利用したって思われるかもしれないが、そんな下心一切ないからな。それ追及してきた奴、一から説明した後、八つ裂きにする。

 

八幡「それで、無理にとは言わないが。風音、副会長にならないか?」

 

風音「いいよ」

 

八幡「いや、別に今返事をくれなくていいんだ。これから先の学校生活もあるし、よく考えてって・・・・・え?いいの?」

 

風音「副会長、やるよ」

 

八幡「いいのか?」

 

風音「うん。八くんと生徒会、楽しそう♪」

 

八幡「ありがとな」

 

風音「部活はどうするの?」

 

そうか。部活・・・。平塚先生から、雪ノ下の補佐として強制入部させられたが、さすがに自ら生徒会長をやりたいって言う人を止めることは無いだろう。教師としてそれはどうかと思うしな。

 

八幡「雪ノ下には悪いが、やめる」

 

風音「雪乃(・・)も誘う?八くんも、雪乃なら歓迎するでしょ?」

 

風音・・・。いつの間に呼び捨て。俺の知らないところでそんな仲良くなってたのか。そういえば、前に俺が言ったな。色々教えてやれば?って。※2話参照

 

八幡「あいつも、何か目的があって奉仕部を作ったんじゃないか?雪ノ下自身も何か見つけるために、生徒の悩みを聞いてたのかもしれない。直接確認したわけじゃないが」

 

風音「そっか。もしそうだったら、邪魔することになっちゃうね。でも、もし相談とかされたら、ちゃんと答えようね」

 

八幡「そうだな。元々奉仕部のおかげで、俺は変わることができた。この恩は返さなきゃな」

 

そうして俺達は、生徒会をする約束をした。

 

久しぶりだ。自分がどれだけできるかの、このわくわく感。いつ以来か覚えていないくらいだ。ま、探り探りで頑張ろうか。目の前にいる最愛の彼女のためにも。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

また次回。


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27話:俺と彼女の生徒会エレクション

はい、どうも、アイゼロです。

27話突入。

気合入れて書き始めたら、いつの間にか10000文字超えてた。

いろはす登場。

それではご覧ください。


修学旅行も終わり、今日からまた通常授業が始まる。

 

今日部活で雪ノ下に生徒会に入ると言い、退部をするつもりだ。

 

いつもと変わらず、教室に入り、凛と飛鳥、彩加に挨拶をした後、席に座り、読書に励む。最近芥川賞受賞で話題になったコンビニ人間という本を買ったので早速読んでみることに。

 

隼人「おはよう、比企谷」

 

八幡「なんだよ・・・」

 

すると突然横から、最近一皮むけた葉山がおはようと挨拶をしてきた。こいつヒキタニって呼ばなくなったな。

 

隼人「何って、挨拶だよ。俺とお前の仲じゃないか」

 

こいつ口調も少し変わったのか・・・。お前っていう奴ではなかったはず。

 

八幡「いつからそんな仲になったんだよ・・・・」

 

隼人「さぁな。用はそれだけだよ。じゃ」

 

何だったんだ一体・・・・。

 

 

放課後、風音と合流し、自販機で飲み物を飲みながら、奉仕部を目指す。

 

八幡「うーっす」

 

風音「お待たせ~」

 

雪乃「こんにちは」

 

いつもと変わらない素っ気ない挨拶も終わる。いつもの光景・・・・光景?・・。

 

風音「あれ?結衣ちゃんは?」

 

雪乃「由比ヶ浜さんなら、退部したわ」

 

八幡「マジか・・・」

 

雪乃「ええ。何でも戸部君の事を根に持ってたらしく、私じゃ役に立たないって、私に言い残してやめたわ」

 

そう言って雪ノ下は由比ヶ浜の退部届を俺達に見せた。入部の時同様正式な退部届じゃなく、丸文字の自作だった。

 

八幡「止めなかったんだな」

 

雪乃「ええ。入部するか退部するかは本人の自由だもの」

 

あれ?じゃあ強制入部された俺ってなに?自由はないってこと?何それ嫌だ。

 

雪乃「戸部君と海老名さんの件だけど、ありがとう。あなた達のおかげだわ。それと、ごめんなさい。私は見る事しかできなくて」

 

風音「でも雪乃さ、授業中でも何か考えてたよね」

 

雪乃「けど、結果的には私は見る事しかできなかった」

 

風音「それを言うなら私もだよ」

 

八幡「俺もだな。あれは戸部の考えた策と、葉山のおかげでどうにかなったんだ。だから、もうこの話は無しだ」

 

無理矢理話を終らせ、いよいよ風音と本題を切り出す。・・・うん、あれだ。由比ヶ浜の退部があったのに、さらに俺らも退部なんてちょっと言いづらい雰囲気になってしまっているな。

 

八幡「なぁ、突然で悪いが、俺らもやめていいか?」

 

雪乃「本当に突然ね。理由を聞こうかしら」

 

俺達は、俺は生徒会長、風音が副会長に立候補することを話した。俺は前言ったが、葉山が応援演説。風音の応援演説は、神崎がやってくれるとの事だ。

 

八幡「まぁ、そんなわけだ。後は平塚先生なんだが・・・」

 

雪乃「平塚先生からは私が言っておくわ。元々強制だったもの。自分から生徒会長になるっていう人を縛るようなことは出来ないわ」

 

おお、結構心強いな。その、時に見せる鋭い眼と論破力なら、どこか安心できる。なにがか分からないけど。

 

雪ノ下に退部を認めてもらい、俺と風音は職員室で奉仕部退部届をもらいに行き、生徒会に立候補すると教員に話をしに行った。平塚先生は何故か見当たらない。どこかで別の生徒と話でもしてるのだろうか。

 

「助かったよ。もう選挙は近いっていうのに、未だに立候補してくれる人がいなかったからね」

 

・・・・嘘でしょ?え?まだ誰も立候補してないの?俺達が最初?生徒会やりたくない人多すぎだろ。

 

「でも、生徒会長には君ともう1人いるよ。精々頑張るんだな」

 

八幡「はい」

 

それもおかしい話だ。他の役職には誰もいなくて生徒会長だけなんて。そいつも十分やる気のある奴なんだな。

 

退部届を手に、奉仕部の部室へ戻る。

 

部室のドアを開けると、依頼しに来たのか人が何人か入っていた。1人は平塚先生、だからいなかったのか。そしてもう1人は生徒会長の城廻先輩。もう1人は・・・・・・誰?

 

「雪ノ下せんぱ~い。この人たちは?」

 

雪乃「同じ奉仕部よ」

 

いろは「そ~なんですか~。初めまして、一色いろはです。よろしくおねがいしまーす」

 

・・・・・ははぁ、はい分かっちゃった。いやぁ、人の本性が見えすぎるのも困ったもんだ。この一色いろはという奴、自分を可愛く見せることに長けているな。おそらく長年、男子に愛想振り回してたんだろう。分かりやすく言えば、『こいつ俺のこと好きなんじゃね?』と思わせる天才。容姿やルックスが良い分タチが悪い。さぞや女子に嫌われていることだろう。この猫かぶり。ホラ見ろ、風音を。微妙な表情をしてるぞ。

 

風音「・・・新島風音です」

 

八幡「比企谷八幡だ。取り敢えずその猫かぶりやめてくれないか?正直うざい」

 

いろは「っ!・・・ばれちゃいましたか。まぁいいです。今回はちょっと相談があってきました」

 

俺と風音は定位置に座り、一色も城廻先輩も席に座った。平塚先生はドア付近で壁に背中を預けている。

 

 

いろは「実は私、生徒会長に立候補させられちゃったみたいで・・・」

 

なんと驚きの事実。俺のライバルはすぐそこにいた。

 

風音「させられた?」

 

自主的に立候補したわけじゃないんだな。気付いたらされてた。高確率で嫌がらせだな。

 

八幡「でも、なんか書類とか必要だろ?本人印とか」

 

めぐり「ごめんね。まさかこんな悪戯するとは思わなくって、見逃してたのかも・・・」

 

確かになぁ。こんな面倒な嫌がらせ普通ならしない。要するに一色は普通以上に周りから邪険されているという事実がここにある。

 

雪乃「ですが、立候補するには30人の推薦人が必要なはずです」

 

八幡&風音「「え?そうなの?」」

 

雪乃「あなた達、知らなかったのね・・・」

 

ええー。ここにきて鬼門が現れたよ。30人・・・。そこまで交友関係ないよ俺。どうしよう・・・・。まず、凛と飛鳥、彩加だろ。風音に頼んで神童と神崎。あの、川、川崎でいいんだっけ?材木座、雪ノ下。あれ?無理じゃね?

 

平塚「何故お前が落ち込んでるんだ?」

 

八幡「あ、俺生徒会長になりたいので」

 

俺がそう言った途端、この部室に訪れた3人目を見開いて驚いた。

 

平塚「本当なのか?しかし、部活は・・・」

 

八幡「風音とやめます。風音も副会長に立候補するので。だからさっき退部届もらってきました」

 

退部届の紙をひらひらと見せると、先生は怪訝な顔をしている。まぁ、予想通りだな。強制入部なのに、勝手に退部なんだから。でも、この場合は言い返せるし、先生は不利だ。今この場に現生徒会長がいるし、立候補させられた一色はやりたくない、そして生徒会長になろうとしている俺。雪ノ下にもすでに許可をもらっている。運がいいことに最高のシチュエーションだ。

 

なんか、先生に対してダンガンロンパするわけじゃないのに、何でこんな追い込んだみたいにしてるんだ俺?

 

平塚「君には罰としてこの部に入れたんだが・・・」

 

八幡「強制でも、生徒会長やりたいので、やめます」

 

平塚「それだと雪ノ下が」

 

雪乃「私は1人で大丈夫ですよ。自ら生徒会長になる人を止めるなんて愚行はしません。先生も、できませんよね。前に進もうとしてる生徒を止めることは」

 

先程よりも鋭い目で先生を睨み、俺らの不安が取り除けた。

 

平塚「・・・・そうだな。確かに君の言う通りだ」

 

先生は両手を上げ、降参のポーズをとった。その行動から予測すると、俺らと一戦交える気だったのか?そこまでして俺らをこの部にいさせて何になるというんだろうか。

 

とにかく、退部は認めてもらえたから良しとする。

 

いろは「あのー、という事は私、生徒会長をやらなくて済む、ってことですか?」

 

おずおずと手を挙げながら、気まずそうに聞いてきた。

 

雪乃「そういうわけではないわ。あなたには皮肉なことに推薦人が30人集まっているもの」

 

八幡「そうだな。実際、俺はまだ集まってないからお前の方が有利だ。ったく、どうやったらそんな周りに敵を作れるか知りたいくらいだ」

 

いろは「そ、それは・・・・。あはは。とにかく、選挙に出たとしても、負ければいい話です。そのことで、今回奉仕部に依頼をしに来ました」

 

雪乃「それは、選挙で負けたいという依頼でいいのかしら」

 

いろは「はい」

 

八幡「それはどうだろうな」

 

いろは「え?」

 

一色は気付いていないようだが、これはこれから先の一色の高校生活に支障を来す。一色を目の敵にする女子共は、晒し者にし、嘲笑するためにこのような計画を行ったんだ。一色は客観的に見て可愛い部類に入る。もし、彼女を責めるようなことをすれば、男子が黙っていない。そして、一色を責めた女子が男子に目の敵にされる。

 

選挙に負ければ、好き勝手言われる。一色を不快にさせられる。自業自得。それだけを求め、言わせるために、リスクを伴わず、地味で緻密な、一色を貶めようと、こんなくだらない悪戯を仕込んだんだ。

 

勝てば官軍負ければ賊軍。それがこの世界の決まり事だ。

 

これは一色が負ければ、という話だが、一色自身、負けたいといったから、勝つ仮説なんてどうでもいい。

 

この事を一色に話すと、あはは、と空笑いの表情を浮かべた。

 

いろは「仕方、ないですよ。自業自得って言われたらぐうの音も出ません。甘んじて受け入れます。生徒会長になればそんなことないと思いますが、私にはやりたいことがあるので・・・」

 

最初は面倒くさいからやりたくないと思っていたんだが、どうやら予想以上に一色は覚悟を決めていたらしいな。

 

風音「八くん、どうしよう・・・」

 

風音も心配そうにしている。昔、俺も似たような状況なったことあるしなぁ。・・・・ん?似たような?

 

・・・・・そうか。そうだったな。俺と似たような状況か。なら、対策は練りやすい。俺の時とは違う、けど似たような解決方法でいける。

 

いろは「どうしたんですか?ニヤついて、ちょっと危ない人に見えますよ?」

 

八幡「おい、人が折角解決方法導いたのにその言い草は何だ・・・」

 

いろは「え?本当ですか!?」

 

それに対して俺は、無言でうなずく。

 

八幡「城廻先輩、一色の書類持ってますか?」

 

めぐり「一応持ってきたけど・・・」

 

八幡「そこには本人の意思確認のための印鑑、押されてませんよね?」

 

めぐり「うん」

 

よし、証拠1つ目。

 

八幡「続いて、推薦人名簿は本名が書かれています。さて、どうしようか?」

 

雪乃「・・・あなたまさか」

 

雪ノ下も風音も納得した様子だ。取り敢えず2つ目。

 

八幡「一色、最後にもう一度聞く。生徒会長はやりたくない。どんな嫌がらせも甘んじて受け入れる。それでいいのか?」

 

いろは「・・・・はい、そのつもりです」

 

一色の本気の覚悟を再確認したところで、一色を負けさせ、貶めようとした奴らの度肝を抜き、これからの高校生活に支障をきたさない、作戦を練る、奉仕部最後の仕事が始まった。

 

何故、初対面の奴に協力するかは、前にも言ったが、俺は本気の奴が嫌いではないからだ。それに、自分と似た状況にいる人を放っておけるほど冷たくない。

 

・・・・それにしても、推薦人どうしよう・・・。

 

 

一色の選挙敗北の作戦は当日説明と同時に執行するとして、俺の推薦人だ。

 

凛たちと昼食をとっている時にそのことを打ち明けた。

 

凛「へぇ、八幡生徒会長になるんだ。いいね」

 

飛鳥「元ボッチが生徒会長か・・・。凄いね、ドラマみたい」

 

彩加「推薦人なら僕たちがいるから、書くね♪」

 

凛「ところで、八幡は生徒会長、風音は副会長、後は?」

 

八幡「それが、まだ誰も立候補してなくてな」

 

飛鳥「ええ!でも、締め切り一週間前だよ!間に合うの?」

 

多分ダメだと思う。生徒会やりたい奴なら2週間前から立候補してるはずだ。演説の作文を書かなくてはいけない。

 

でもどうなんだ?このまま立候補者が現れないとしたら、選挙はどうなるんだろうか?前代未聞だからどう対応したらいいのか教師もわかんないと思う。

 

凛と飛鳥はその話を聞いて、数秒顔を見合わせ、うん、と頷きこちらに顔を向けた。

 

凛「私、会計やる」

 

飛鳥「私は、書記」

 

八幡「・・・・・は?」

 

え?それは生徒会に立候補するという事でいいのか?いや寧ろそれしかないだろ。

 

八幡「いいのか?」

 

俺がそう聞くと、問題ない!それにやってみたかったんだ、と笑顔で快く受けてくれた。よかった、俺と風音だけじゃしんどいと思ってたし、かといって他の人が立候補したら、未だコミュ力低い俺だからどうしたらいいか迷ってた。だから、こいつらなら気を抜いて生徒会ができる。楽しくなりそうだ。

 

彩加「僕だけ仲間はずれ・・・」

 

プクーっと可愛く、呟く彩加。あ、可愛い。狙ってない純粋なあざとい仕草だとこうもグッときてしまうんだな。凛なんかグハッと仰け反ってるし。

 

飛鳥「でも彩加部活あるし。でも、たまに生徒会に遊びに来ていいよ」

 

そう言って慰めているが、普通に彩加の頭を撫でているため、説得力がなく、余計彩加をぷんぷんと怒らせた。

 

彩加「子ども扱いしないで!」

 

飛鳥「ごめんごめん。弟と妹がいるからついね」

 

八幡「飛鳥、弟と妹いたんだな」

 

飛鳥「うん。妹は明日奈(あすな)、弟は桐人(きりと)って名前で双子なの。ゲームが好きなんだ。よくオンラインゲームっていうので遊んでるんだよ」

 

・・・・あれ?なんか、聞いたことあるぞ。確か、ソー?、ソード・アート?、SAお?・・・・いや、聞いたことないな。うん、そうか。明日奈と桐人か、カッコいい名前だ。

 

八幡「お前ら、推薦人30人集められるのか?」

 

凛「私たちは八幡と違って他のクラスに友達がいるから大丈夫。それより八幡こそ大丈夫なの?」

 

八幡「ぐっ!おい、そこで毒吐く必要ないだろ。・・まぁ、頑張るよ」

 

 

そんなわけで、できる限り集めた推薦人がこちら。

 

風音、凛、飛鳥、彩加、川崎、材木座、柴百合、高杉先輩、城廻先輩、一色、神崎、神童、葉山、戸部、大岡、大和、三浦、海老名、由比ヶ浜、雪ノ下。三浦からは一言もらった。

 

優美子「ほら、頑張るし。あ、あと、遅すぎるとは思うけど、肩の傷、悪かったし。謝るし」

 

どうやらずっと夏の林間学校を気にしていたようだ。別に俺は気にしてないし、今になって謝んなくてもいいのにな。三浦、結構いいやつ。その件は由比ヶ浜も一言謝罪を言って来た。今となっては結構気まずい関係だから、頑張って、とだけ言われた。

 

ちなみに、柴百合と高杉先輩に関しては、10話参照だ。

 

・・・・・・見ての通り、足りない。後10人。というか、結構友好関係広がってたんだな。いつの間にか。

 

目の前の推薦表を見て、感慨深くなり、自然と笑みがこぼれた。悪くない。と、心の底から思う。

 

隼人「調子はどうだい?」

 

八幡「葉山・・・。どうもこうもねぇよ」

 

隼人「その様子だと、まだ集まってないみたいだな」

 

八幡「うるせぇよ。俺はお前と違って、目立つような事したことねぇんだよ」

 

姫菜「ふっふっふ、なら私が一肌脱ごうか」

 

俺達の話を聞いていたのか、横から海老名が突然現れた。眼鏡の奥の目が見えない。そして、半ば興奮状態。ふむ、もう修学旅行の件は引きずってないみたいだ。

 

でも、一肌脱ごうって、一体何をする気だ?

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

八幡「何でこうなった・・・」

 

隼人「俺が聞きたいよ・・・」

 

俺と葉山は肩を落としながら、ため息をついた。

 

海老名に一肌脱ぐと言われて、持ってきたのは、星の王子さまの衣装だ。ていうか、何で教室に保管されてたんだよ。持って帰れよ。それを着せられ、人がよく通る通路に立たされている。視線が痛い。

 

第一こんなんで推薦してくれる人いるのか?

 

「葉山君、何してるの?」

 

隼人「ああ、比企谷が生徒会長に立候補するから、その推薦人集めだよ」

 

葉山は軽快にそう答えると、その女子はこちらに視線を向けた。

 

「あ、じゃあ私推薦するよ。星の王子さま、面白かったし」

 

八幡「え?・・あ、どうも」

 

「じゃ、頑張ってねー」

 

早速効果あったんですけど・・・。この衣装、人を寄せ付ける効果でもあるのか?ドラえもんの秘密道具に匹敵するかもしれないな。っつーか、その道具を街中で使ってる時点で秘密もくそも無い気がするがな。

 

その女子が去り際に、その様子を見ていた女子もつられてこちらにやってきた。そして、星の王子さまの感想やら、葉山カッコいいやら言って名簿に名前を書いて去っていく。

 

そして、いつの間にか葉山にメロメロの女子が群がりはじめてしまった。それに興味津々の男子も集まってきている。

 

八幡「葉山、お前が対応してくれ。俺には耐えられん。こういうの慣れてるだろ、たらし」

 

隼人「人聞きの悪い事言わないでくれ。・・・・あ、どうもありがとう」

 

葉山の神対応により、次々と名簿が埋まっていく。凄いなぁ、葉山。なんか葉山の方が生徒会長向いてるんじゃないかと思う。

 

「ヒキタニ君!」

 

八幡「は、ひゃい!?」

 

「星の王子さま、かっこよかった。選挙、頑張ってね」

 

八幡「え、あ、ありがとう」

 

突然の俺への応援に戸惑っていると、葉山がこちらを向いて笑顔になった。

 

隼人「比企谷、君は自分が思っている以上に、人に評価されているよ」

 

・・・・・はっ、こんなこと初めてだからどんな顔したらいいかわからねぇや。

 

時間も経ち、人気が無くなったところで、名簿を確認する。・・・・・・50人以上。凄いな。

 

八幡「ありがとな、葉山。今度礼させてくれ」

 

隼人「珍しいな、君が素直にお礼を言うなんて」

 

八幡「おい、俺はそこまで捻くれてないし無礼者でもない」

 

隼人「冗談だ。・・・そうだな、それじゃあサイゼで奢ってくれ」

 

お前サイゼ好きだったんだな。やっぱりこんなオサレなカフェ行きそうなイケメンでも、千葉県民というわけか。

 

八幡「分かったよ」

 

 

推薦人も集まり、本人印も押した、俺、風音、飛鳥、凛は職員室に提出しに行き、生徒会に立候補した。退部届は一色の件が終わってから出すつもりだ。

 

結局、俺達4人と一色しか立候補者は出なかった。まぁ、4人でも機能するだろ。5人が規定なんだから。

 

 

 

そして、選挙当日。

 

ここからは、選挙と同時に、一色を負けさせ、貶めようとした連中に仕返しをする作戦を説明する。

 

まず、普通に選挙をする。生徒会長立候補者から順に壇上に立つ。俺の演説も終わり、次は一色だ。あ、ちなみに演説内容は省きます。

 

そういえば一色の応援演説する人を聞かなかったな。まぁ、どうせ貶めようとした連中の一味だろう。所々、誰も気づかないような遠回しな嫌味が入っている。

 

選挙は何事も無く終わり、後は結果を待つだけだ。作戦実行は、結果が出たときだ。

 

 

そして、結果は俺が生徒会長になり、一色は落ちた。風音は副会長、凛は会計、飛鳥は書記と決まった。

 

さて、作戦実行。さぁ、俺達(・・)の掌で踊りやがれ。

 

 

 

 

「いろはちゃーん、落選で残念だったねー」

 

「まぁ、でもー、これも日ごろの行いのせいじゃないかなぁ?」

 

「マジあんたムカつくんだよねー」

 

「ちょっと可愛いからって男子に媚び売ったりして」

 

「ま、自業自得ね」

 

一色に散々罵倒を吐いている女子グループは高らかに笑い始めた。当の一色は無表情、いや、若干ニヤついている。おい、少しは堪えろ。作戦ばれる。

 

「は?何ニヤついてんの?」

 

ああ、怪しまれた。でもこれなら十分だろう。

 

いろは「ううん、何でもないよ・・・。先輩!」

 

八幡「はいよ」

 

一色から投げつけられた謎の機械を受け取り、そのまま職員室に向かう。

 

「あれ、生徒会長の・・・。あんた、何渡したの?」

 

いろは「録音機♪今の会話全部、録音されて、今職員室に持っていかれようとしてるよ♪」

 

「なっ!ふざけないでよ!」

 

いろは「ふざけてるよはどっちですか~?嫌いな人を勝手に生徒会長立候補者にさせるくらいの、地味で汚い手でしか仕返しできない人たちが~」

 

「あんたねぇ!」

 

いろは「おー、怖い怖い。それじゃあ、私も職員室に行くとしますかー。それじゃあね♪」

 

「待ちなさい!」

 

いろは「(ふっふっふ、本当に上手くいきましたね。それにしても雪ノ下先輩と比企谷先輩、新島先輩。よくこんな事思いつきましたね)」

 

 

 

 

 

八幡「お?来た来た。じゃあ雪ノ下、頼んだ」

 

雪乃「ええ。まかせなさい」

 

怖っ!なんだ?突然冷気を纏ったぞ。ヤバい、氷の女王が職員室前にて降臨した。

 

いろは「お待たせしましたー。ってうひゃあ!」

 

一色めっちゃビビってんじゃん。

 

雪乃「ごきげんよう」

 

「え?雪ノ下先輩?」

 

「何でこの人が・・・」

 

雪乃「あなた達が、一色さんを勝手に立候補させて、嘲笑の的にした主犯格の5人ね」

 

「な、何のことですか・・・?」

 

雪乃「今更とぼけなくてもいいわ。この録音された会話を聞けばわかることよ。それに、書類には本人の意思確認である印鑑が押されてないもの。おそらく見逃してたんでしょう。さらに、この推薦人名簿なのだけれど、可笑しいわねぇ。一色さんは男子に人気なはずなのに、1人もいないなんて。まるで女子だけで計画したような感じだわ」

 

「そ、それは・・・」

 

雪乃「何か、言いたいことがあるのかしら?」

 

鋭い眼光が、女子集団を貫く。もう氷の女王じゃない。氷の魔女だ。いや、それを凌ぐ、女帝だ。周りに凍てついた森林の背景が目に浮かぶ。

 

「そもそもいろはが悪いの。可愛いからって男子からいいように見られて!」

 

雪乃「ただの逆恨みじゃない。自分を磨かずに仕返しすることしか考えられたない人たちに、男子が目を向くはずがないわ。器が小さいのね」

 

「っ・・・・」

 

雪乃「それに、一色さんは何一つ悪いことはしてないわ。彼女は相手の求めている振舞いを見抜いて、狡猾に、人によって態度を使い分ける、賢い子よ。高1で使いこなす技術じゃないわ」

 

確かにな。初めて会った部室でも、あの性格の変貌ぶりは正直驚いた。長年猫を被り続け、自然に相手を振る舞わせる性格変化。その結果、社会でも通じる程の、技術を身に着けたのだ。なんか、必殺技みたいな解説だなこれ。最近見返した、超次元サッカーアニメ見たせいかな。

 

いろは「あの、新島先輩。私、褒められてるんですか?」

 

風音「褒めてるんじゃない?ずる賢いってところを」

 

いろは「それ褒めてるんですかね・・・・」

 

「・・・・・」

 

言い返せなくなったのか、俯き始めた女子集団。

 

いろは「先輩たち、もういいですよ。選挙にも負けましたし。後は、私がやります」

 

雪乃「・・・そう。分かったわ」

 

一色の言われた通り、俺達はその場を退いた。

 

 

職員室で平塚先生に退部届を出し、雪ノ下に挨拶をするため、奉仕部に訪れた。

 

八幡「んじゃ、今日で退部だ。色々世話になったな」

 

雪乃「世話になったのは私よ。今までの依頼は、あなた達が解決してくれたもの。私は何もできなかったわ。見る事しか・・・」

 

風音「でも、雪乃さ。色々な人の相談を聞いて、八くんの解決方法とか見てさ。色々教室でメモとか書いたりして、学んだんでしょ?」

 

え?そんなことしてたんですか雪ノ下さん?ちょっと可愛いって思っちまった。・・・なんだ、見てただけなんてことねぇじゃん。

 

八幡「俺のって、そんなに役に立ったのか?」

 

雪乃「参考にはなったし、是非吸収させていただくわ。この言葉を知ってるかしら?『凡人は真似をし、天才は盗む』」

 

かの有名な画家、パブロ・ピカソの言葉だ。他の画家と画風が似ているため、パクリと疑われた際に言い放った名言。絵で例えると、真似は相手の物をそのまま写す。盗むは、相手の物を自分のものにする。似ているようで全く違う意味。ピカソは相手の物を吸収し、さらに磨きをかけ、新しい絵を描く。それを続け、同じ人が描いたとは思えないような絵を描き、偉人として名を残した。

 

雪乃「私は天才だもの。あなた達の方法を盗んで、依頼をこなしていくわ」

 

八幡「ふっ、そうか。それは光栄だ。じゃあな、もう行く」

 

雪乃「ええ。どうもありがとう」

 

風音「またね」

 

最後のあいさつを交わし、半年通い続けた部室を出た。

 

 

翌日

 

 

 

放課後、生徒会長になった俺は、生徒会室に向かう。

 

生徒会室を開けると、5つ大きくくっつけられたデスク、壁に貼られた賞状や歴代校長の写真、ショーケースに並ばれている謎の本。思ったよりアニメで見たことあるような光景で驚いている。ホワイトボードもあるし。ほら、アレだ。スケットダンスの生徒会室に似ている。

 

そして、一番奥の席は、会長席。

 

八幡「今日からここが、俺の城だ」

 

凛「なーに恥ずかしい事言ってんの?」

 

八幡「凛!いつの間に!」

 

飛鳥「結構大きい声だったから廊下に丸聞こえだよ」

 

風音「今日からここが、俺の城だ。なんてね」

 

八幡「なんだ。お前ら来てたのかよ・・・」

 

あー、誰もいないと思ってつい言っちまった。けど一度言ってみたかったんだよなぁ。俺の城って。

 

凛「じゃあ、各々席に座ろっか」

 

凛の合図で、それぞれの役職の席に座る。まず俺が、一番奥の会長席。俺から見て、右が風音、その奥が飛鳥。そして左が凛。凛の奥は庶務の席だが、誰も立候補してないためいない。彩加が遊びに来た時用だな。遊ぶって言っても仕事はちゃんとするからね。本当だよ?

 

八幡「なんか、それっぽくなってきたな」

 

ていうか、会長席ってこんな気持ちいいんだ。なんかフワフワしてるんだけど。違和感を感じ、そこに手をやると、包まった毛布がでてきた。

 

城廻先輩、忘れものです。今度返します。

 

飛鳥「じゃあ、始めに生徒会室色々と漁ろうよ。何か出てくるかもしれないよ」

 

風音「賛成♪」

 

八幡「いきなり宝探しかよ・・・」

 

各自、デスクの引き出し、ショーケース等、色々と漁り始めた。俺も会長用の引き出しを漁る。すると、何やらボロボロだが、しっかり保管されている紙を見つけた。見てくれから古いと感じさせ、黄ばんでいる。

 

大切な物なのかと思い、その紙をそーっと開くと、人の名前が羅列している。一番下には城廻先輩の名前が・・・。

 

もしかして、歴代生徒会長の名前を書くことになっているのか。・・・・面白いこと考えたなぁ、初代の人。

 

『比企谷八幡』っと・・・。

 

そっと慎重に奥にしまい込む。痛んでいるから破けないようにな。

 

もう、昔とは違う。俺が見渡す生徒会室には、『本物』と言える、恋人、友達がいる。この半年間、色々あった。その出来事が、走馬灯のように脳をよぎる。いや、別に死ぬわけじゃないから、縁起悪いな。

 

今日から俺の高校生活に、生徒会が追加された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、物語は、第二章へ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

いよいよ、連載当初から計画していた、第二章へ突入します。ここから、八幡、風音、凛、飛鳥による生徒会が始まります。もちろん彩加も一杯登場させます。

また次回。


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第二章:俺と彼女の生徒会スクールライフ
第二章、開幕!


はい、どうも、アイゼロです。

個人的に、アンチ葉山の作品も好きですが、八幡との皮肉なやり取りも大好きです。

それではご覧ください。


『俺と彼女のハイスクールライフ』シリーズが第二章へ突入するという事で、ここから八幡とオリヒロオリキャラによる生徒会が主体となって物語が進んでいくので、改めて人物紹介をしたいと思います。あらすじも含まれてるかも。

 

《原作キャラ》

 

比企谷八幡

 

濁った眼に脳天のアホ毛が特徴の、猫背で捻くれた性格。小学校時代にあったとある出来事のせいで、他人に興味が無くなり、誰も近づかせない雰囲気を自発的に纏っていた。さらに、濁った眼は相手の深奥の本性を見据え、さらに濁らせることで【ロットアイ】という忌々しくも、頼りにしている能力が生まれてしまった。しかし、凛、飛鳥、彩加に出会う事で心が変わり始める。

八幡の『本物』は彼女である新島風音。第二の『本物』は、友達の凛、飛鳥、彩加。

【ロットアイ】の詳細は7話参照。

 

 

戸塚彩加

 

女子と思ってしまうほどの容姿や顔をした美男子。テニス部部長。中学時代、男子に告白されたことがある。怒ると怖い。

 

 

葉山隼人

 

容姿端麗文武両道、座右の銘は『ONE FOR ALL ALL FOR ONE』の、イケメンリア充。教室の後ろでグループをかまえている。その正体は薄い仮面をかぶった似非道化だったが、八幡と関わりを持ったことで、その仮面は剥がれつつあり、心境にも変化が・・・。それ以降も八幡には何度も助けてもらってるため好印象。生徒会選挙の際は八幡の応援演説を務める。

後々八幡とは仲良くなるかもしれないね。

 

 

 

 

《オリヒロ》

 

新島風音(あらしまかざね)

 

紺色のセミロングでおっとりとした性格。前と比べて八幡に対し大胆になってきたが、いざ自分が先制されると、ウブになり、恥ずかしくなる。八幡とは同じ日に同じ病院で生まれ、家も間近。小学校卒業を機に、八幡と付き合う事に。今まで一度も喧嘩や揉め事をしたことがない。

 

もう結婚の約束までしている。八幡との不変の愛。

 

 

 

《オリキャラ》

 

九重凛(ここのえりん)

 

黒髪サイドテールで、元気で積極的な性格。飛鳥とは小学校からの親友。一人っ子。飛鳥と共に一年のころから同じクラスの八幡を認識していた。最初は話しかけることに躊躇っていたが、2年の6月に八幡の雰囲気が変わったため、遠足のグループを決める際に話しかけた。その後、八幡の事情を知り、友達になった。

 

 

八重島飛鳥(やえじまあすか)

 

茶髪のポニーテールで、落ち着きのある控えめな性格。下に双子の妹と弟がいる。そのため、彩加の頭を撫でるなどの姉御肌気質がある。凛と同様八幡の事情を知り友達に。他にも料理や家事をこなすなどの主婦力もある。

 

 

 

以上、このメンバーで物語を進めていきますのでよろしくお願いします。

 

それと、二章からは台本形式を無くします。結局自分が決めました。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

第二章もよろしくお願いします。

また次回。


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28話:俺と彼女の新生徒会スタート

はい、どうも、アイゼロです。

28話突入。

新章スタートという事で、少し文章の雰囲気を変えました。

それではご覧ください。


第二章への幕開けという事で、引き続き生徒会室を漁る。

 

まず、テレビに冷蔵庫、これは茶を飲むときのポッド。生活用品も豊富にある。ショーケースの本棚には文豪の小説や参考書。賞状やトロフィーが飾られている。ファイルには文化祭や体育祭、遠足や修学旅行、さらに生徒会議事録の書類がまとめられている。

 

「なんか、私物みたいなものもある」

 

パラパラと色々書類を目に通していると、横にいた凛がブックカバーのついた本を見ながら呟いた。凛がそのカバーを外すと、女の子のキャラが描かれている表紙、ライトノベルだ。絶対私物だ。逆に学校側の物だったら引くわ。しかも、見事に全巻揃っている。

 

「これ、持って帰らなかったのかな?」

「何でだろうな?結構分厚いブックカバーだから、大事な物だと思うんだが・・・」

 

何か事情があってここに置かせてもらってるかもしれない。そう思った俺達は、この本は大事に保管することにしよう。・・・・読んで大丈夫かな?

 

「でも、所々に私物があるよ。生徒会って結構自由なんだね。さすが書記の席。ペンが豊富」

「副会長席はパソコン置いてあるよ。これは私物じゃないと思うけど、よっぽどやる気があったんだね」

 

どうやら、それぞれの役職ごとにそれに合った私物を持ってきていたようだ。

 

それじゃあ俺の席にも何か隠されてるかもしれない。そう思った俺は、会長席の周りを漁り始める。・・・お?何か厚い本が出てきた。

 

『部下を従わせる100の方法』

 

きっとかなり前の生徒会長の私物だろう。城廻先輩がこれ読んでたら怖すぎる。しかも従わせるって・・・。この時の会長が独裁主義者だったのか、はたまた他の生徒会役員が好き勝手してたのか・・・。凄いどうでもいいな。

 

「じゃあお前ら、一旦座ってくれ」

 

着席の合図を出すと、即座に座った。あ、何だろう、この初めて味わう感じは・・・。改めて長になったと実感できる。

 

「生徒会って、何するんだ?」

「八幡知らないの!?」

「いや、学校の行事に携わることくらいは知ってるぞ。ただ、それ以外は何してんだろうって気になってな」

 

ほら、アニメとかの生徒会って仕事ないときも集まって遊んだりしてるからさ、気になっていたんだ。現実だと何もない日は普通に帰ると思うんだけど。

 

そのことを話すと、うーんと顎に手をやって考えている。

 

「折角私達だけの部屋ができたんだし、好きなだけ喋りたいよね」

「そうだね。楽しそうだから、無い日も皆で集まろっか」

 

生徒会室私物化決定の瞬間であった。飛鳥と風音の意見により、特に仕事がない日や事情がない日も集まることになった。こんな緩くていいのか生徒会・・・。それに、そもそもそんな会話するほど話題とかネタあんのか?いや、愚問だったな。女子高生が話題を尽くすことなんてないと思う。最近の女子高生は小さなことでも騒げるのだから。頑張れ作者。

 

 

 

物漁りも終わったため、席に着いたものの、何をしようか?

 

「へえ、可愛いね!」

「でしょ?気に入っちゃったんだ」

「凛に似合ってるよ」

 

そんなことを考えているうちに女子だけで会話に花を咲かせている。やっぱ同性同士のほうが色々と盛り上がるか。特に女子高生は色々な物に手を付けてるからな。

 

今となっては邪魔者でしかない俺は椅子をくるりと半回転させ、後ろの窓に向けた。今日は曇りだな。外は寒いかもしれない。運動部は今日も頑張ってるなぁ。頑張れ彩加。葉山も走り回ってるな。・・・ん?あれ?一色か?サッカー部のマネージャーだったのか。そういや、あれからどうしたんだろうか?まぁいっか。

 

ちらっと後ろに目を向けると、凄い盛り上がっている。俺はこの時、完全に空気と化した。

 

「・・・」ドロドロ

 

別に寂しくないから。今までだってこういう空気化なんて日常茶飯事だったんだから、慣れっこ慣れっこ。1人でいる時間が減ったから、耐性低くなったなんてことないから。寧ろ久々の孤独感で結構気持ちがいい。

 

俺は机の引き出しに何故か入っていた折り紙で、ペガサスを作り、風が吹いた瞬間に遥か上空へ飛ばした。やはり羽も動かないし、体の軸もずらせないから普通に飛んでいく。紫と黒の混合ペガサスだ。拾ったものは忽ち不幸をもたらす。呪いあれ・・・。

 

しばらく運動部の活動風景を眺めていると、彩加がこちらに気づき、手を振ってくれた。俺も振り返す。じゃあ、今からそっち行くわ。

 

窓を開け、俺が窓に手と足をかけると、彩加が目を見開いて、腕を勢いよく振り、早まらないで!とでも言いたげな表情と涙目で訴えている。・・・可愛いな。その反応癖になりそうだ。

 

「八くん、この後・・・って、何してるの!?早まらないで!」

「八幡!ストップストップ!飛鳥窓閉めて!」

「よいしょ!」

 

風音に横から抱き着かれ、凛に肩を掴まれ、飛鳥は窓を閉めた。そうですよね。同じ部屋にいる奴が突然3階の窓に手足ついてたら、そりゃビビるよな。本人そんな気さらさらないのに。

 

「どうしたの八幡!いきなり自殺衝動に駆られたの?」

「いやぁ、外に彩加がいたから、ついな。ロットアイしてるから大丈夫なんだが・・・・」

「もう~、それでも心臓に悪いからやめて」

 

と、風音に顔を近づけられ、注意された。ちょっとでも前に進んだらキスできそう。

 

「わりぃな。それで、何か俺に用か?」

「うん。この後皆でご飯行こうってことになったの。皆生徒会役員になれたお祝いにって」

「いいんじゃねぇか。じゃあ彩加も誘おうぜ。ちょっと声かけてくる」

「だから窓から行かないの!」

 

そーらをじゆうに、とーびたーいなー♪。って頭の中で流しながら、飛び降りてみたかったなぁ。

 

 

校舎から出て、彩加がいるテニスコートに向かう。

 

「あ、八幡、皆。どうしたの?」

「おう、彩加。風音達が今日飯行こうって言いだしてな。彩加も行こうぜ」

「本当!うん、行くよ。そういえば八幡!何で急に窓から飛び出そうとしてどうしたの!?ビックリしたんだから」

 

持っていたラケットを鼻先に突き付けながら、ムッとした表情で問われた。それに関してはなにも返せません。彩加、怒ると怖いんだな。

 

「知ってるか?地下に住んでいる人間は空を飛ぶことを夢見てるんだ」

「分かった?」

「はい」

 

渾身のカッコつけた言葉を送ったが、彩加の怖い笑顔で一蹴されてしまった。

 

完全下校になったら校門で待ち合わせする約束とし、俺はマッカンを買うため1人自販機に向かった。

 

「あ、先輩」

「・・・・・・・・・え?俺か?」

「そうですよ。ここ先輩しかいませんから」

 

確かに周囲を見渡しても誰もいない。突然横から話しかけてきたのは、一色だ。サッカー部が練習で着ているビブスの入った籠を抱えている。

 

「まだお礼言えてませんでしたね。会長の件はありがとうございました」

「そりゃどういたしまして。俺もお前に会長になられたら困ってたからな」

「なんですか?もしかして私が会長になったら会える時間がないって遠回しに言ってるんですか?ごめんなさい会って間もないのにそれは気持ち悪いですドン引きします」

「お前、面白いな。安心しろ。俺には生涯を共にする最愛の彼女がいるんでな。お前なんて眼中にない」

「あー、新島先輩ですね。・・・それにしても、眼中にないはさすがに効きましたよ」

「逆に眼中にあったらそれこそ気持ち悪いだろ・・・。じゃあな。精々葉山に振り向いてもらえるよう頑張れよ」

 

マッカンを片手に、手を少し上げながらその場をクールに去る。

 

「ば、ばれてる・・・何者?」

 

 

生徒会室の前に着くと、何やら中が騒がしい。というか悲鳴が聞こえる。なんだなんだ?と思い、恐る恐るドアを開けると、新聞紙を丸めた棒を持つ飛鳥、ファイルで何かを叩く体勢の凛、ゴミ袋を抱える風音。なんだこれ?俺がいないこの数分間に何故こんな異空間になったのだ。

 

「あ、八くん!アレが!」

「アレって?」

「G!」

 

成程。あの名前すら声に出したくないという、あの醜い生物ですか。コードネームG。ただいま俺が捕獲いたします。

 

「あ、出てきた!」

 

飛鳥が声を出した方へ行き、ゴキブリを見つけた瞬間、即座にそいつをつまみ上げた。こいつは素早過ぎるからな。見極めが大事なんだ。それとさ、俺がこいつを掴んだ瞬間、皆俺から逃げたよ。いや、気持ちはわかるけど。なんか複雑だな。

 

こいつもこいつで大変なんだよ。餌を求めてやってきただけなのに、その醜い姿と醜い動きのせいで、見られただけで殺されてしまう。

 

「可哀想に。危うくその尊い命が失われるところだったな。ほら、マッカンもってけ。大丈夫だ。お前のしぶとさならこれだけで何年もやっていける」

 

さすがにマッカンはあげられないので、自然に返してやった。頑張って生きろよ。

 

「私、ゴキブリにここまで感情移入してる人初めて見たよ」

 

凛が小さい声で言ったが、ちゃんと聞こえた。俺はドラクエでも作戦は命大事に、だったからな。だって死んだ時点でゲームオーバーなのだから。生きている限りは抗え続けられる。どんなことにもな。

 

皆が落ち着いたところで、G出現により散らかった物などを整理し、再度席に座った。

 

「さて、まだ完全下校まで1時間あるが、何をする?」

「今のうちに生徒会の決まりとか掟みたいなもの決めた方がいいんじゃない?」

「それいただき」

 

風音の意見により、早速お互いに意見を出し合う。なんか生徒会っぽくなってきた。

 

・・・・・・・・

 

40分にわたる意見を出し合った結果、俺らの生徒会での掟が決まった。途中から雑談になっちゃったけどね。話題転換力が凄まじい。

 

1『先代も結構持ってきてるから、私物持ち込みOK』

 

2『会長と副会長のイチャイチャはほどほどに』

 

この2つを主に守り、生徒会活動をやっていこうという事になった。なんだよ2つ目・・・。ちなみにこれ提案したのは飛鳥だ。

 

『不純異性交遊は認めません!』って指さされて言われた。さすが姉御肌の飛鳥だ。別にする気ないのに・・・。俺と風音は、愛の王道を行く。

 

 

完全下校が目前のため、俺達生徒会は校門で彩加を待つ。

 

「そういや、どこ行くんだ?」

「そういえば決めてなかったね」

「うーん、折角だから焼肉とか?」

「焼肉か・・・。じゃあそこにしよっか。八くんもいい?」

「問題ない」

 

10秒もしないで、焼肉に決まった。久しぶりだな焼肉。・・・・思い出す。中学の時、遅くに家に帰ったら家族は俺だけ置いて焼肉を食べに行ったんだ。ショックだったが、風音の家で飯を食えたから、それは焼肉よりも価値があった。あの時の風音は、親の前でも普通に食べさせようとしてたんだ。食べたけど。

 

「おまたせー」

 

部活が終わった彩加と合流したため、近場の焼肉店に行くことに。叙々苑は学生じゃ無理だから赤門だ。

 

 

焼肉店って、近づいただけで匂いがして食欲が増してくるんだよな。

 

店員に案内され、お座敷型の席に座った。

 

適当に肉をたくさん凛が注文し、先にドリンクがきたので、乾杯をすることに。ここにはマッカンなんて無かった・・・。

 

「じゃあ、会長の八くん。乾杯の音頭」

「え?・・・・じゃあ、乾杯・・・」

「普通だ」

 

うるさいぞ飛鳥。普通が一番だ。俺が一番色々普通じゃないけどね。

 

「八幡。生徒会長就任おめでとう」

「おう。サンキュー、彩加」

「まさか八くんが会長になるなんて、今まで思っても無かったよ」

 

風音の言葉で昔の事を思い出す。昔の俺が高校では生徒会長をやるなんて言われても信じられないだろうな。あの頃は風音と家族以外はどうでもいいと思っていたし。

 

「ありがとな。お前らに出会えてよかったわ」

「どうしたの!?八幡らしくない!」

「八幡がイケメンな事言ってる!全然似合わない」

 

ひ、ひでぇ・・・。自分でもこれはさすがになぁ、って思ったけども。これが一番だと思ったんだよ。感謝の言葉は遠回しにしてはいけないんだ。

 

「ありがとうございます♪」

 

俺達が色々話している間に、彩加は届いたお肉を店員さんから受け取っていた。そして次々とテーブルに乗せていく。・・・・凄い量だ。

 

「じゃあ、取り敢えず食うか」

「そうだね。美味しそう♪」

 

 

 

焼肉というのは、焼く係と取る係というのは定められていない。誰かが焼いて誰かがとる。不平等に見えて実はそうでもないんのだ。互いが焼き合い、譲り合う。不思議と焼肉だと平等が成立するのだ。

 

ただ焼肉にも気を付けなくてはいけないことがある。それは食中毒だ。何年か前はユッケが原因になり、販売停止となった。そして、生肉を掴んだトングで焼いた肉をとったことで菌が付着し、食中毒を起こした事例がある。最悪死に至る。そのことは前もって風音達に注意した。役員の身体を気遣うのは会長の務めなのだよ・・・。

 

そんなことを考えながら、俺と風音、飛鳥は目の前の光景に戦慄している。何故かというと・・・

 

「あ、店員さんおかわりください」

「あ、僕も」

 

凛と彩加の食いっぷりがとんでもない。これで白米4杯目だ。横浜の時はそれなりに食うんだな、とは思ってたが、ここまでくるともはや恐怖だ。

 

「八くん、あーん」

 

この状況でもやるんですね・・・。ありがたくいただきますよ。

 

 

 

「じゃあ、明日から生徒会頑張ろうか!」

 

おー!っと俺以外手を挙げて意気込んだ。

 

「彩加も遊びに来ていいからな。」

「うん。じゃあたまにお邪魔するね♪」

 

 

彩加たちと別れ、俺と風音は肌寒い空の下、帰路に就いている。

 

「八くん、頑張ろうね」

「おう」

 

一言会話をし、お互い家に着いたため、また明日と風音に挨拶をしようとしたら、風音が勢いよく抱き着いてきた。そして、自分の唇を俺の唇に重ねた。

 

「頑張れるおまじない♪じゃあね八くん」

「また明日な」

 

もうこれだけで5年は頑張れそうだ。

 

こういう愛情表現は常にやると特別だと感じられなくなると言われているが、そんなことはあまりないんじゃないかと思う。幸せだと感じられるなら、それはもう特別なのだから。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

さて、ここからが鬼門です。サブタイトルに、話のネタ。オリジナルが多めだから頑張ろう!

また次回。


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29話:俺と彼女の企画ペティション

はい、どうも、アイゼロです。

29話突入。

材木座が息していないという感想をいただきました。言えることは、材木座はちゃんと登場させます。ていうか出したいです。ただ、そのきっかけを考え中です。

それではご覧ください。


今日も一日がんばるぞい。

 

季節もすっかり冬真っ盛り。外へ出るや否や冷たい空気が肌を攻撃し、温かい息は白い息と化す。マフラーと手袋が恋しい季節となりました。教室は暖房が効いているため、廊下へ出ようとする生徒は数え切れる程度。

 

そんな俺は生徒会室に向かう途中。風音にもらったマフラーを巻き、片手には冬に愛飲しているホットでクールなMAXコーヒーだ。常温だそれは。

 

同じクラスだから凛と飛鳥と共に行くと思われていると思うが、今日はたまたま別行動だ。後に生徒会室で集合する。

 

「あ、八くん♪」

 

生徒会室に入ると、先に来ていた風音が嬉々として俺を迎え入れた。彼女の笑顔が温かい。なんだったら半そで半ズボンで雪の中を走れそうだ。嘘です。死んでしまいます。

 

「よう風音。あったけぇな」

「~♪」

 

来て早々にハグ。もうバカップルとでも何とでも呼べ。誰もいないからイチャイチャしていいんだよ。掟の意味がないな。

 

「八くん温かい♪」

 

風音も温かいな。主に俺の腹に直撃している、膨らんだ胸部が・・・。また大きくなったか?もうこれ以上大きくなると他の奴らに見られてしまうじゃないか。俺が1人1人八つ裂きにしなくてはいけない。重い?重いな。

 

「八くん、声、出てるよ・・・」

 

うわぁ、出ちゃったよ。自覚はあるのに無意識にやってしまう癖。その名も『声に出ちゃった。てへ』が。風音は少し困ったような表情で、頬を朱に染めながら、周りを見回した。

 

「今なら、誰もいないし。ちょっとなら、触ってみてもいいよ?」

 

風音ぇ!いつからそんな破廉恥な人になってしまったのですか!?そんな子に育てた覚えは・・・・・ないな、うん。成長を見届けたくらいだ。

 

いや、でも、いいのか?なんて考える前から、俺の手は風音の胸に向かって伸ばされていた。理性が強くとも、彼女の触ってみる?には勝てないらしい。

 

片手で風音の両肩を覆うように抱き、もう片方の手で胸部へと。そして掌に柔らかいものが触れ、一回だけ揉み、極上の感触を味わい、風音がんっ、と声を出した瞬間

 

「ヨーソロー!」

「八幡、風音来たよ~。・・・って、何やってるの!?」

「「あ・・・」」

 

 

 

現在、俺と風音は飛鳥に正座させられています。目の前の飛鳥は腕を組み、仁王立ちをしている。書記に正座させられる会長と副会長。・・・・面白い絵だろうなぁ。

 

「全く。掟を忘れたの?誰もいないからって、その、む、胸を、揉もうなんて!?」

「無理して言わなくていいぞ」

「うるさい!2人共分かった!?」

「「善処する(します)」」

「分・か・っ・た?」

「「はい・・・」」

 

怖いよ、飛鳥。

 

凛は自分の席でこの滑稽な光景を腹を抱えながら笑っていた。

 

 

「さて、前言った通り、皆集まったな。というわけで、ネットで生徒会はどういうことをやるのか大体調べてきたから報告させてもらおう」

「それ、生徒会長としてどうなのよ?」

 

いいじゃないか。生徒会長が生徒会の仕事をネットで調べたって。ほら、総理大臣だって裏で『総理の仕事』ってヤフってるかもしれないじゃん。大臣失格だそいつ。

 

生徒会の仕事というのは、『行事の企画、運営』『アンケート実施』『ボランティア』などがある。

 

「へえ、行事の企画もできるんだね」

 

風音が感心したようにつぶやいた。確かに、学校側から色々運営を任されるのが主流だと思っていたが、自分たちから企画してもいいとは驚きだ。内容の審査はあると思うけど。

 

折角だからやってみよう、という事になり、企画を考える。まずは一からではなく、他の高校にあって、総武高にないものがテーマだ。

 

「そう言えば、ここって日本の行事でイベントとかやってないよね。七夕とかクリスマスとか、ハロウィンとか」

 

最初に口を開いたのは飛鳥だ。

 

「ここは進学校だからじゃないのか?あまりそういうのには手を出してないんだろう」

「じゃあ、何か考えて学校に申請しようよ。案外通るかもしれないよ」

「いいねそれ!楽しそう。八くん、どんなのがいいかな?」

「え?それ俺に聞いちゃう?一番無縁そうだろ?こういうのは女子が決めてくれ。得意だろ?」

「うわ、会長がそれ言っちゃう?仕事してないじゃん」

「そんなことねぇよ。お前らが企画を決めて、俺が教師陣に申請しに行く。そして無理矢理通させる」

「野蛮!」

 

暴挙に出るかどうかはあとにして、実際こういう割り振りの方が効率もいいし、いい案も思い浮かぶと思う。俺は流行に疎い。基本ニュースしか見ていなくて、ほとんど風音に教えてもらっている。あの、スノー?って撮影アプリなのか?風音にそれで撮られて笑われたのは覚えてる。いつかし返しする。げへへ。

 

そして、風音達による、女子の会議が始まった。ここから俺は傍観者であり暇人である。

 

『仕事をしない生徒会長』。俺にピッタリの称号だ。

 

・・・・寝ようかな。

 

 

眠りから目覚めた。なんか、別の人の人生を体験した気がする。なんて事あるはずもなく、目を閉じたまま、意識を取り戻した。

 

耳には、近くで話し声が聞こえる。風音達だ。

 

「寝ちゃってるね」

「悪戯しちゃおうよぉ♪」

「いいねそれ」

「ええ!そんなのダメだよ・・」

「心配しなくても、落書きとかじゃないよ」

 

ははーん、さては俺が寝てることをいいことに何かするつもりなのだろう。落書きじゃないとなると一体何をする気なんだ?

 

すると、頭から何かを被せられた感じがした。そして、パシャっと撮影した音が聴こえた。

 

「これとか?」

「あ、八くん可愛い」

 

何を付けたのか物凄い気になるがまだ目は開けない。反撃のチャンスを窺っている。もちろん風音にな。さすがに彼女の前で他の女子に悪戯なんてするはずがない。

 

目の前には女子3人。左が風音。目を閉じても、居場所が分かる。風音がどんな動きをしているのかも、分かってしまう。色んな壁を越え過ぎて最早境地に達している。

 

「風音・・・」

「夢の中でも風音か。ラブラブだね~」

「聞いてるこっちが恥ずかしいよ・・・」

「嬉しいなぁ♪」

 

もちろん嘘の寝言だ。見事に引っかかってくれている。

 

「なーに?八くん♪」

 

今だ!

 

風音が一歩こちらに近づいた瞬間、腕を引っ張って抱きしめた。突然の出来事にわあ!っと可愛い声をあげて、俺の胸板に顔を押し当てた。俺は腕を掴んだ後、風音の腰に腕を回した。

 

「え?あ、は、八くん?」

「愛してる・・・」

「・・・・ふふ♪」

 

頭を撫でたが、まんざらでもない様子。これ悪戯というよりご褒美だな。

 

「八幡、起きてるでしょ?」

「寝てます。・・・・いてぇ!」

 

飛鳥をだますことができず、突然頭に衝撃が与えられ、頭をさする。目を開けると、片手には俺を叩いたであろうハリセンを持っていた。

 

「見せられる私たちの身にもなってよね!」

「さすがに私も恥ずかしかったな・・・」

「・・・はい」

 

 

「はい。3人で考えた企画がこれ」

 

風音に一枚の紙を渡された。俺はいくつかのイベントを読み上げる。

 

『球技大会』『クリスマスイベント』『ハロウィン仮装大会』『バレンタインイベント』

 

うん、どう考えても通らなそうだ。球技大会は良しとして、日本の行事を取り入れるのは悪くないが、進学校で通じるかどうか・・・・。

 

でも、折角考えてくれたわけだし、俺は何もしなかったわけだから、取り敢えず申請しに行こう。

 

職員室へ行き、生徒会の顧問である鶴見先生に出した。やはり渋った表情。

 

「う~ん、どれもこれも悪くはないけど、ちょっと厳しいんじゃないかな?」

「やっぱり?」

「やる気があるのはこちらとしても嬉しいけど・・・。折角だし、理事長に出してみれば?」

「え?理事長いるの?」

「うん。ここの校長。理事長兼校長だよ」

 

万能というか、普通にすごいな。そんなすごい人だと、根っから真面目だからこの申請も通るか分からなくなってきた。一応説得するための言葉は頭の中で並べてる。

 

校長室の前に立ち、ドアをノック。すると、入りなさいと許可をいただき、失礼しますとその部屋へ入った。

 

「何か用かね?生徒会長殿」

「・・・・・」

 

まず言わせてほしい。何その口調。それにその待ち構え方。シンジの父親みたいにしちゃってさ。

 

「あの、いくつか企画を考えたので、見てもらおうと思って来ました」

「ふむ、こちらへ」

 

なんなんださっきっから。ていうか、その構え俺が入った時からやっていたし、俺らが来ることも知っていない。という事は、ずっとその構えをしていたという事になる。ちなみに俺以外は外で待機している。

 

「成程。面白そうだな。早速仕事をしてくれているとは、私も嬉しい」

「じゃあ」

「だが、ここは県内有数を誇る進学校、総武高校だ。イベント自体は悪いわけじゃないが、勉強の妨げになるのもまた事実」

 

やはり渋々とったところか。理事長の言ってる方が正しいのも事実だが、行事が少ないという意見が多いのもまた事実。

 

「しかし、進学校とってもやっぱり息抜きは大事だと思うんです」

「確かに」

「こういう楽しいイベントがあったら、喜ぶ生徒も大勢ですよ」

「確かに」

「受験生への息抜きにもなりますし、それに、ここを志望校にする中学生も増えると思いますよ」

「確かに」

「生徒が増えるというのは学校側としてもありがたいんじゃないですか?」

「確かに」

「だから、進学校でも一日だけという事で、こういうイベントをやった方がいいんじゃないかと思います」

「確かに」

「あんた反論する気あんのかぁ!?」

 

さっきっから聞いてりゃ、同意しかしてねぇじゃぇか。あの謎の威厳何だったんだよ。

 

「言われてみれば確かにそうだな!実にいい。気に入ったよ!」

 

この学校は一癖も二癖もある人が多いと思っていたが、まさか理事長もその1人とは。こんな愉快痛快なおじさんを初めて見た。千葉ランドのプリンスだ。意味わからん。

 

「ところでシンジ」

「比企谷八幡です!何いきなり息子扱いしてるんすか!」

「いやあ、声が似てるってよく言われるんだよ。自分でも面白くなってしまってな。はっはっは!」

 

確かに声は似ているな。雰囲気とかも似ている。きっと似ていると言われたときにそっちに寄せたのだろう。

 

「中々良いんじゃないか?私もイベントが少なくて、寂しいと感じたこともあるんだ」

「じゃあ・・・」

「前向きに検討しておくよ。こういうことをしてくれる生徒会がいて私も嬉しい」

「あ、ありがとうございます」

 

失礼します、と言って理事長室を出た。何というか、随分と絡みやすい人だったなぁ。アニメの話とかも通用しそう・・・。あわよくば仲良くなれそうなまである。

 

「どうだった?」

 

緊張の趣で、外で待機していた風音、凛、飛鳥は前のめりで聞いてきた。

 

「上目遣いが可愛いなぁ」ナデナデ

「いや、違うでしょ八くん!」

「「どうだったの!?」」

「わ、悪い悪い。前向きに検討してくれるって。意外と絡みやすい理事長で助かった。面白い人だ」

「何それ会ってみたい・・・」

 

 

後日、LHRの時間。クラスに報告があると、担任から言われた。全学年がそうらしい。

 

「急ではあるが、来月に球技大会をやらないかと理事長から申し出だ?皆はどうしたい?」

 

俺達生徒会が考えた企画だ。まさか、本当に通るとは・・・。担任からの急な問いかけにざわざわと賭博でも始まりそうな雰囲気に、喧騒し始めた。

 

しかし、その喧騒は、不満の声ではなく、どちらかというと、面白そうとプラス思考に皆が喋っている。

 

「先生。その球技の種目は何ですか?」

「男子はサッカーとバスケ。女子はテニスとバレーだ」

 

考えたのは誰なのかさておき、割といいチョイスだ。受けもそれなりに良いように見える。ここまで不満がないとなると、逆に不安なんだが・・・。運動苦手な奴にとっては嫌な行事になるんじゃないか?

 

「運動苦手な奴にとっては気乗りしない人もいるだろうが、安心してくれ。理事長が直々に配慮してくれている」

 

あの人どんだけ力入れてんだよ・・・。1つの行事にそこまでやるなんて、寂しいってレベルじゃないぞ。けど正直助かりました。そこらへんなんて考えていなかったもんで・・・。早速反省点が見つかってしまった。

 

「どうする?やるか?」

 

果たしてみんなの答えは・・・・・・。CMの後で!

 

 

「いやあ、よかったねぇ。やることになって」

 

凛は椅子に背中を預けながら、だるそうな声で言った。

 

「そうだなぁ。まさか賛成が8割とはな」

「その内2割は反対されたけどね」

 

ここでナイツのネタはやめてくれよ・・・。初仕事なだけに気にしてるんだよ。あの碇ゲンドウ・・・じゃないや。理事長いなかったら危うかったしな。マジで理事長リスペクトっすわ。

 

「風音は球技何にするんだ?」

「テニス」

「同じくテニス」

「以下同文」

「バレー人気ねぇ・・・」

「八くんは?」

「バスケ」

「「意外」」

 

風音以外皆驚いている。

 

「はっ、舐めんなよ。俺の影の薄さは幻並みだ。シックスマンだ」

「八幡の場合、本当にできそうで怖いよ・・・」

 

いやいややらねぇから。ロットアイは力まで底上げされてしまうから、仮にもイグナイトパスしたら、壁にボールがめり込む。それかパスを受ける人の手首が折れる。

 

ちなみに彩加もバスケだ。足を使うスポーツがあまり得意ではないらしい。

 

球技大会まで1ヶ月。その間は体育の時間は球技大会の練習に費やすとのことだ。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

先週『君の名は。』を見てきました。それに影響されて、このシリーズで入れ替わりネタやろうかなぁ?なんて考えてたりします。

次回は久しぶりの、八幡と風音のいちゃこら回。

また次回。


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30話:俺と彼女の結婚プロミス

はい、どうも、アイゼロです。

30話突入!

今回は糖分多めのいちゃこら回。久々の小町登場。

それと、作者本人すら忘れかけているんですが、八幡は眼鏡をかけています。詳しくは11話参照。

それではご覧ください。


朝、目が覚めると、そこは八くんの部屋だった。別に入れ替わってはいないよ。ただ単に今日は八くんの家で一日中一緒にいるだけ。八くんの両親は私の両親と新島家で談笑する予定。小町ちゃんはこの家にいます。久々に3人と遊ぶのは久しぶり。

 

どうやら私が先に起きたらしく、八くんはまだ横で熟睡中。いつ見ても寝顔は幼くて可愛らしい。久しぶりに、やってもいいよね。うん、最近甘えられてないからいいよね。

 

全身八くんの上に覆いかぶさり、再び私は眠りについた。

 

 

 

 

まぁ何という事でしょう。横で寝ていたはずの可愛い彼女、風音は俺にしがみついた形で覆いかぶさりながら寝ているじゃありませんか。前までは抱き着くだけで恥ずかしがるほどだったというのに、成長したんだなぁ。お兄さん嬉しいよ。

 

とはいえ、どうしようか。多分乗っかられてからしばらく経っているため、体が重いと感じている。耳元で風音の寝息が聴こえていて、軽く興奮状態の俺。

 

まず抱きしめるのは当たり前として、その後どうしようか。・・・・・あれれ?考えているうちに無意識に手が風音のハリのある臀部に向かっていってるぞ。

 

到達。まだ数回しか触れていなかったが、いい。胸とはまた違った感触に、俺はおぉ、と感嘆の声を漏らす。

 

己の欲望を解放し、優しく揉む。風音が悪い。こんな誘っておいて、俺が何もしないわけがないだろう。俺は彼女を大事にするあまり『私って魅力ないの?』って不安がらせるような男じゃない。多分。

 

「んぅ、ぁあ」

 

寝息が突然喘ぎに変わった。顔を見ると、先程よりも顔が赤くなっている。何故女性というのは、睡眠中でも触られたくない場所を触られたら、そうやって反応をして、認識をするのだろう。不思議。なんかこれだと語弊があるな。風音のしか触ってないからね。

 

「八くん・・・」

「おう、おはよう風音」

「お尻、触ってるよ・・・・」

「わざと。嫌か?」

「ううん。たまにはこうやって触れ合わないと」

 

そう言って、風音も俺の胸板などをなぞるように指で触り、その後に掌で頬を撫で始めた。目を閉じ、少し唇を前に出す。

 

ピピピピピピ

 

期待に応えようと、俺も同じ行動をしようとした瞬間、セットしていたアラームが無情にも鳴り響いた。

 

それでもかまわず、おはようのキス。アラームごときで、俺らを止められると思ったら大間違いだ。

 

時刻は10時。とっくのとうに互いの両親は談笑しているだろう。小町も起きているはずだ。

 

「「おはよう」」

「おはよ~」

 

リビングに入ると、ぶかぶかTシャツを着て、ソファで雑誌を読んでいる小町がいた。それ俺の・・・。

 

「お兄ちゃんと風姉、生徒会に入ったんだよね」

「ああ。俺が会長、風音が副会長だ」

「はぁ、なんか、お兄ちゃんが会長なんて、信じられないなぁ。風姉もそうだけど、お兄ちゃんをここまで変えた人を見てみたいよ」

「そんじゃあ、遊びに来いよ。そいつらも役員だし」

「八くんの妹だって言ったらすんなり通してもらえそうだね」

「それって職権乱用じゃ・・・。まぁそう言う事なら行こうかな♪小町も総武高入ったら生徒会入るし」

「おう。まだ庶務が空いてるから入学と同時に入れられるぞ」

 

生徒会長特権をここで使う。多分理事長ならOK出してくれるはずだ。

 

「本当に!やったー!」

「じゃあ受験勉強頑張らないとね」

「はーい♪」

 

半ばはしゃぎながら、自分の部屋へ戻ってしまった。やる気を出すのは良いがほどほどにしてほしいところだ。朝から勉学は良いと言われているけど。俺らがモチベーションとなるなら、兄と義姉である俺達は嬉しい限りだ。

 

「お兄ちゃん、風姉、教えて」チラ

「・・・はいよ」

「いいよ~」

 

 

どうも、小町です。昼ご飯を食べ終えた小町達はリビングでまったりとしています。小町はこの日はお兄ちゃんたちのおかげでかなり集中して勉強に取り組めました。本当、お兄ちゃんと風姉の教え方が上手過ぎてスムーズにシャーペンが動いた。

 

さて、そのお兄ちゃんたちですが、ソファで

 

「あ~、癒される」

「ふふ、痛くない?」

「全く。最高」

 

お兄ちゃんは風姉に膝枕をしてもらっています。風姉はお兄ちゃんの頭を撫でています。もう、甘々。今日のお兄ちゃんは結構甘えん坊になり、風姉のお腹に顔を押し当てた。

 

「今日はやけに甘えん坊だね」

 

そう言って、お兄ちゃんの頭を包むように抱き、片方の手でアホ毛をいじり始めた。

 

「・・・」ぐびぐび

「小町、そんな大量に無糖コーヒー飲むと、体壊すよ」

「じゃかぁしい!そんなに小町の口から砂糖吐き出させたいわけ!・・・って、呼び捨て?」

「あ、妹をちゃん付けおかしいって思ってね」

「そっか。ってそうじゃなくて!話をそらさない!」

「逸らしたの、小町だよね・・・」

「あのね、2人きりの時は別にいいよ。2人きりだったら何してもいいし、何だったらとっととゴールしてもらって、したい事すればいいよ。でもね、ここに小町がいるの。もう見ていて、小町うんざりだよ!」

 

この2人といると、無糖コーヒーは必須なのだ。無糖コーヒーが一瞬にしてマッカンのように甘くなる。生徒会役員の人たち、大丈夫なのかなぁ。

 

お兄ちゃんが起き上がった。お?やっとだ。・・・と思った矢先、今度は風姉がお兄ちゃんの腕に抱き着き、頬ずりしている。

 

お母さん!お父さん!小町もそっちに連れてってーーーーー!小町、嘆きの叫び。

 

 

3時になりました。3時のおやつという事で、小町はお兄ちゃんたちとお菓子を作ることになりました。思ったんだけど、正しくは15時だよね?何で3時のおやつっていうんだろう。

 

ここにいる3人は全員料理ができるから、難しいお菓子を作る。その名もアップルパイとガトーショコラ。

 

最初はアップルパイを作る。カスタード入りだよ♪。作業工程はカット!

 

調理の中盤、小町は調理器具やオーブンを担当。ふと、横目にお兄ちゃんたちを見る。横に並びながら、キッチンで食材に手を付けている様は、さながら夫婦のようだ。

 

「うし、できた。半分は向こうの親たちにあげようぜ」

「そうしよっか。じゃあ行ってくれるね」

 

風姉はできたてのアップルパイとガトーショコラを、お皿に乗せ、ラップで包み、目の前の家で談笑している親たちに差し入れとして、持って行った。

 

そうだ、ずっと疑問に思ってたことがあったんだ。風姉もいないことだし、折角だから聞いとこう。

 

「ねえねえお兄ちゃん」

「ん?なんだ?」

「お兄ちゃんと風姉って、いつ結婚するの?」

「結婚?・・・。そうか、結婚。・・・いつにしようか・・」

 

意外だ。お兄ちゃんの事だからてっきり結婚について話すと、照れてキョドリそうだと思っていたけど。さすがは5年付き合ってる事だけはある。表情は真剣だ。

 

「渡してきたよー」

「あ、風音。ちょっと聞いていいか?」

「ん?何?」

「俺達、いつ結婚する?」

「・・・えぇ!結婚!?どうしていきなり!」

 

風姉が戻ってきた直後、小町と全く同じ内容で聞いたお兄ちゃん。なんの変化球もないストレートな質問に、風姉は顔を赤くして、耳にかかった髪をかき上げながら、チラチラとお兄ちゃんを見ている。可愛い。

 

「可愛い」

 

あ、お兄ちゃんもやっぱりそう思ってた。

 

「でも、結婚かぁ。いつにしようか・・・」

「そうだよなぁ。就職して安定したら、結婚が普通なんだが。我儘言うと早く風音と結婚したい」

「私も八くんと早く結婚したいな。八くんだから、将来の仕事なんて心配ないし」

「何そのえげつないくらいの信頼・・・。凄い」

 

彼氏の就職にそこまで信頼を注ぐ彼女って、もしかして風姉だけなんじゃないかな?不安な表情すらしていない。

 

「あ、八くん。あのさ」

「ん?」

「私達、同じ誕生日でしょ?」

「うん」

「お互い同時に18歳になるわけじゃん」

「ああ。・・・・・まさか」

 

お兄ちゃんは何か勘付いた様子で、風姉を凝視した。小町でも分かった。

 

「来年の8月8日にさ、市役所行って、籍入れようよ」

 

おおっとぉ!ここでまさかのプロポーズ!!しかも、婚約ではなく結婚!ああでも、あくまで約束だから婚約になるのかな?とにかく高校生にして、結婚!小町、どうしていいかわからないよ!興味本位で聞いたのがバカだった!ていうか、小町何でここにいるの?もういらなくない?

 

「風音・・・・。そうだな、そうするか」

「うん♪」

 

お互い、結婚を了承し合い、お互い小町でも強く見える程抱き合った。もう見てらんない。悪い意味じゃなくてね。

 

「あ、あのー、ちょいとよろしいでしょうか?」

「ああ、悪いな小町。なんだ?」

「親への確認は、いいの?」

「「あ、そっか。行ってくる」」

「そうそう・・・・・ってええ!今!ちょ、ちょっとぉ!」

 

小町の発言で重要なことに気づいた甘々バカップルのお兄ちゃんと風姉は、いそいそと目の前にある新島家の家へと訪問しに足を運んだ。いくら何でも早すぎると焦燥に駆られた小町は後を追うように走った。走るって言ってもすぐそこなのにね。

 

 

「親父、母ちゃん!」

「お父さん、お母さん!」

「な、何八幡、急に入ってきて。ビックリしたわ」

「どうしたの?風音」

 

俺と風音はお互い結婚すると誓いを立て、親にもその報告し、了承を得ようと、目の前の家なのに小走りで親の元へ来た。

 

「あの、俺と風音、来年の8月8日に結婚しようと思うんだ」

 

風音と手を繋ぎながら、覚悟と決心を背負って、結婚宣言をした。この親たちは、俺達が付き合っていることに歓迎し、幸せを願いっているが、結婚となれば話は別になってくる。結婚というのは、人生最大の幸福と共に、責任も降り注ぐ。婚姻届けという紙一枚が、そのすべてを詰めている。なんか話反れたな。とにかく、そう簡単には行かないんじゃないか、という事だ。

 

手を繋いでいる方の風音の手が一層と強くなった。気持ちは同じなのだろう。後ろに追いかけてきた小町も、少し緊張の趣だ。

 

「「「「そっか。お幸せに」」」」

 

しかし、当の親たちは、いつものようなフラットな表情と口調で、軽々と結婚を認めた。いやちょとまてちょとまてお兄さん!あまりにもあっさりと了承したから、俺と風音は戸惑いを隠せない。

 

「じゃあ、アレだそっか」

 

すると、風音のお母さんが掌をパンッと叩き、何かを取り出した。それを俺達に渡す。

 

「未成年の場合は親の確認が必要だから、はいこれ」

 

渡された紙は、なんと婚姻届けだった。しかもとっくに親が埋める欄が埋まっている。後は俺達の名前や詳細を書いて市役所にもっていけば成立だ。まだできないけど。

 

「あの、そんなにあっさりでいいんすか?」

「なんか、色々言うと思ったんだけど・・・」

「別に今更2人の関係に口出ししないわよ。だって、他の人となんて絶対に付き合わないでしょう」

「「うん」」

「ほらね、だから私達親も、2人には結婚してほしいと思ってるの。それだけよ」

「お前ら、幸せになれよ!」

 

風音の母に続いて、父親も俺達にエールを送る。

 

「八幡、絶対に幸せにしろよ」

「そうよ、八幡。しっかりね」

 

親父、母ちゃん・・・。なんか、拍子抜けというか、ホッとしたというか、腑に落ちないというか、もうよくわかんねえや。

 

 

俺と風音は俺の部屋に戻り、目の前の婚姻届けを眺めている。

 

「残った空欄書こうぜ」

「うん。そうだね♪」

 

ニコニコと隠すこともしない笑顔でペンをとり、すらすらと書き込む。本当、用意周到過ぎて、親怖いわ。

 

「風音。名字はどうする?新島か比企谷」

「比企谷がいい」

「そうか。分かった」

 

その後も、着々と空欄を埋め込み、最後の印鑑を押した。

 

「よし、これで後は市役所に出すだけだ」

「来年の誕生日までは大切に保管だね」

「ああ。・・・すげぇ急だったけどな」

「だね。けど、私は嬉しいよ♪」

「・・・俺もだ」

 

お互い顔が見えなくなるほど密着し、それぞれの身体に腕を回した。

 

「やっぱり八くん、がっしりしてるね」

「そうか?風音なんて強く抱きしめたら今にも折れそうで怖いわ」

「私、そんなやわじゃないよー。ほら、もうちょっと強く抱きしめて」

 

要望通り、回していた腕の力を強くした。風音の柔らかくて華奢な肢体が、俺の身体に温かく包まれる。とってもいい匂い。

 

 

小町は今日、貴重な体験をしたと思います。物心がついたその日から一緒にいたお兄ちゃん、風姉が、本日結婚の約束を、目の前でしました。元凶は小町なんだけどね。それでも、大好きな2人が結ばれるのは小町も大変喜ばしいし、舞い上がるほど嬉しい。今の小町的にポイント高い!これ久しぶりに言ったなぁ。

 

その高揚感をぶつけるべく、夜ご飯もちょいと奮発してお肉を一杯使ったり、食後のデザートとして3時に作ったお菓子をひと手間加えて食べたりと、小町の方がはしゃいでしまいました。てへっ。お赤飯美味しかった。

 

さ~て、婚約した人同士は部屋で何を話しているのかな~?あまりいい趣味とは言えないけど、好奇心の方が勝ってしまってるのです。

 

「八くんは将来なんの仕事するの?」

 

お?どうやら就職やら仕事関係の話のようだ。それもそっか。結婚するんだから、将来設計はちゃんとしないといけないし。・・・・そう言えばお兄ちゃん、何したいんだろう。前から風姉を幸せにするって言ってたけど、教えてはもらってなかったなぁ。

 

「笑うなよ?」

「笑わないよ」

「・・・・教師」

「へぇ・・・・ええ!八くんが教師!」

 

ええええええ!!!お、おおおお兄ちゃんがきょ、教師!あ、あのお兄ちゃんが!あ、あれかな?反面教師としてかな?

 

「何してんだ小町?」

「え?・・・は!」

 

小町は気付いたらドアを開けてお兄ちゃんの部屋に入っていた。脳の許容量を超える衝撃事実に、体が勝手に動いていたのだろう。

 

「それよりも、お兄ちゃん教師になるの?」

「聞いてたんだな・・・・。まぁ、結構前から決めてたことだ」

「どうして教師に?」

「そうだな、なんていうか・・・。まず公務員だから安泰」

「八くんらしい回答・・・・・。そう言う事聞いてるわけじゃないのに・・・(-_-)」

「分かってるって。・・余計なお世話って気もしてならないが、もしかしたら、俺と同じような人もいるかもしれないし、イジメに困ってる奴に手を差し伸べたいって思ってんだ」

 

お兄ちゃんは気恥ずかしそうに顔を少し下に向けながら、教師志望の理由を話した。確かに、お兄ちゃんなら向いているかもしれない。まず基本的に教えるのが上手いし、何より、普通の人とは違い、色々な事を経験してきたお兄ちゃんなら、きっといい教師になる。ずっと小町が見てきたのだから確かです。あ、でも風姉の方が長いんだった。妹以上に付き合いが長い彼女って、今考えてみれば凄いなぁ。

 

「八くんが教師かー。意外と似合うかも」

「意外とってなぁ・・・」

「いいと思うよ。・・・・私からも、教えてほしい事があるからね」

「へ?」

 

風姉の意味深な発言に、訝し気な表情になるお兄ちゃん。すると、風姉は耳元で小町には聞こえない距離で囁いた。小町には言えないことなのかな?

 

「・・!?なっ、おい風音、お前いつからそんなむっつりになった?」

「お、女の子だってこう思うときはあるの!男だけだと思ったら大間違いだよ」

 

何言ったのーーーー!?めちゃくちゃ気になるんですけど!聞こうとしてもはぐらかされるし!これ絶対気になって眠れなくなるよー!うわああああ!お兄ちゃんと風姉顔赤いんだけどー!

 

そして、その後も、風姉の発言は、知る由もなかった。

 

まぁ、とにかく、結婚おめでとう。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回は戸塚回です。オリキャラは少ししか出ません。

また次回。


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31話:俺と彼女の彩加カンヴァセイション

はい、どうも、アイゼロです。

31話突入。

なんとか10月中に投稿できて良かった。思いのほかネタが浮かばなかったんだ・・・。

6月に予約していた俺ガイルのゲームを買って、夜中にやってます。前作はやってないです。

いろはすぅぅぅぅぅぅぅ!!

それではご覧ください。


今日も今日とて生徒会室には、全員そろっている。皆暇すぎ。

 

今日は俺からの議題だ。内容は『歩きスマフォ危険』だ。スラスラ~っとホワイトボードに書き込む。

 

「前から注意を受けている、歩きスマホ禁止。だが、全く効果がなく、最近増えてばっかだ」

「確かに、自転車乗りながらとか、本当に危ないよ」

 

近頃増えている、歩きスマフォ、ながらスマフォ。危ないと知っていながらも、その勢いは収まるどころか悪化している。

 

「けど、どうしていきなり?」

「それなんだけどね・・・」

 

俺の代わりに風音が説明してくれるようだ。そう、今朝あったんだよ。これを議題にする理由が。

 

あれは、朝の登校中の頃だった。

 

いつものように、腕を組み、キスをしながら登校「してないよ!」・・失礼。世間話をしながら登校していると、数メートル先にスマフォを持った小学生2人が歩いていた。

 

何やらスマホに夢中の小学生は信号が赤なのにも気づかず、横断歩道を渡っている。そして、突っ込んでくるトラック。ここまで言えばわかるだろう。

 

いち早く察知した俺は風音にカバンを預け、アイシールド21の如く、光速で小学生を抱え、トラックを回避。いや、平然と話してはいるが、ガチで危なかった。

 

生徒の模範となる会長は小学生にきつく注意し、風音の下に戻った。当の風音は若干膨れっ面だった。理由はおそらく小学生が女子であり、つい父性が出て頭を撫でてしまった事だ。

 

全くぅ、小学生相手に嫉妬とは可愛いなぁ!っと思いっきり抱きしめて頭を撫でた。

 

「そんなことがあったんだよ」

「いる?ねえ、2人のいちゃこらしたところいる?」

「凛、その無糖コーヒー一口頂戴」

 

さりげなくする気もなく、堂々と甘い出来事を言われて、ブラックコーヒーを口に含む2人。

 

「さて、その歩きスマフォだが、最近それに特化したアプリが流行っているのは知っているか?」

「ポ〇〇ンGO?」

「そうだ。現にその小学生もそれをやっていた。おかしくないか?歩きスマフォは危険だと言われているのに、それを促進させるアプリを作るなんて」

「おーい、怒られるぞ。色々と」

「さすがに俺も作者も怖いからここまでにしておこう」

 

結論:歩きスマフォは、何を言っても無駄なので自己責任。

 

 

「八幡。来ちゃった♪」

「おう、いらっしゃい」

 

俺らが企画した球技大会に向けて、体育の授業はその球技の練習になった11月の中旬。ジャージを着て、凍てつく寒さに耐えながらも、真剣にスポーツに打ち込んでる姿が目に焼き付く。けど、やはり渋々といった人も目に映る。こればっかりは仕方がない。全校生徒全員が喜ぶ行事なんて、絶対存在しないのだから。ん?序盤のアレは何だって?茶番だ。

 

そんな中、ここ生徒会室に1人の男の娘が現れた。無論彩加だ。

 

「えっと、どこに座ればいいのかな?」

「んー、俺の膝来るか?」

「もうっ、からかわないでよ!子供じゃないんだから」

 

俺の冗談にムッと頬を膨らました。俺は苦笑交じりに空いてる庶務の席に促し、常備されているお茶を用意した。

 

「ありがとう」

「おう。どうだ?部活は」

「いい調子だよ。皆上手くなってきてるし、それに、前よりも僕を頼りにしてくれてて、嬉しいな」

「そうか・・・。大丈夫なのか?プレッシャーとか」

「まぁ、ないと言えば嘘になるけど。それも全部試合で出して、結果を残すの!」

 

なんとも彩加らしい回答だ。男らしく拳を強く握り、だがそれが可愛く見えてしまう。

 

「じゃあ、今度試合あるとき、見に行っていいか?風音達と」

「うん!僕もみんなが来てくれるとやる気出るから♪」

 

嗚呼、なんて前向きで純粋な子なんだろう・・・。逆にちょっと心配になってきちゃうレベルだ。子作りとかできるのか?もしかしたら筋斗雲乗れるかもしれないぞ。何故俺はそこまで心配してるんだ?

 

と、余計なお世話という自己完結をしたところで、彩加の方を見ると、肩が凝っているのか自分の手で肩を揉んでいる。

 

「肩凝ってんのか?」

「そうなんだよね・・・。腕を振ってばかりだから」

「俺で良かったら揉んでやるぞ」

「え?いいよそんな。八幡迷惑でしょ?」

「んなことねぇって・・・。ほら」

「あ、気持ちいい」

 

言葉通り、彩加が気持ちよさそうにしているため、しばらくこうすることにした。しっかし、うなじを見る限り、白い肌だな。とても男子高校生には見えない。見た目もそうなんだけどね。そういや、ずっとジャージだな。制服着た彩加を見たことがない。ここの高校は登下校も授業もジャージOKだからなんだろうけど、制服嫌いなのか?

 

今考えてみれば、彩加と2人だけで会話とかしたことなかった。今は風音達は少し用があって遅れている。折角だから、色々話とかした方がいいかもしれない。

 

「なぁ彩加。俺らって、まだお互いの事わかってねぇとこあるだろ?」

「え?・・・あー、確かにそうだね。それ聞かれると、八幡の事知りたくなっちゃったよ」

 

お、おおぅそうか。俺の事が、ね・・・。げへへ、じゃあまずどこから知りたいんだぁ?俺も彩加のイロイロな事知りたいなぁ・・・。腐女子歓喜回になるか?なりません。

 

とにかく、男だけの会話という事で、色々話すことになった。まずは、最初にも言ったが彩加が常時ジャージの件について。

 

「制服は、あまり着ないかな。基本ジャージだよ」

「着ないのか?」

「そうだね。これの方が動きやすいし」

 

総武高も結構緩いところがあるもんだ。皆も思っただろうが、いくらジャージがOKでも、学校の行事によっては制服着用が絶対あるんじゃないかと。それがないのだ。さっき俺が言ったように、彩加の制服姿は見たことがない。職場体験も、遠足も、始業式も、彩加は全部ジャージだ。

 

そんなわけで、彩加に頼み込み、制服を着てもらうことになった。単に俺が見たいだけなんだけどね。

 

「どうかな?」

「・・・・・似合ってるな、うん」

 

何でしょうねぇ。もう男装趣味の女子にしか見えません。さらに彩加の照れた様子がそれを促進させている。

 

「カッコいいかな?」

「可愛いぞ」

「可愛い!?カッコよくないの?」

「カッコイイっちゃカッコイイんだが、可愛くもある」

「むぅ・・・。着替えてくる」

 

 

「彩加は好きな異性のタイプとかあるのか?」

「ええ!いきなりどうしたの?」

「いや、男子高校生同士の会話ってこんなこと話す・・・んじゃないのか?やべ、俺男同士で会話全然したことなかった」

「実は、僕もなんだ・・・。部活の事しか話さない」

 

彩加はあはは、と眉を八の字にし、困った表情をしながら、乾いた笑みを漏らした。俺も男子同士で会話なんて、したことがない。だって俺の周り女子しかいなかったし。あ、自慢じゃねぇぞ。小町と風音だけだからな。俺の周りが女子だらけとかどんな夢物語だよ・・・。

 

「じゃ、最初に質問した奴でしゃべってみようぜ。好きな異性のタイプは?」

「う~ん、あんまり考えたことないからなぁ。中学からテニスばかりしてたから」

 

早速会話が途切れてしまった。意外というか、予想してたというか、あまり女性に興味を示していないように見える。しかし、校内で話す相手は大抵女子だ。

 

男子というのは、女子と初対面のときはまず、上から下までくまなく見る。簡単に言えば、品定めだ。自分にとって好みな人、可愛い人には、自然と胸や下半身に目がいってしまったりするのだ。その視線から逃れるため、女性の方も防衛本能というのが発動する。前に風音から教えてもらったが、女子はこういう視線には敏感らしい。中には例外もいるけどな。

 

その例外が彩加だ。彩加は話しかけてきた女子に対し、ちゃんと目を向き合わせて会話をしている。他に視線を逸らすことなく、相手の目を射抜いている。もう純粋過ぎて、こちらが恥ずかしいよ。

 

「彩加って、女子に興味とかあるのか?」

「それは、僕だって男の子だし、興味はあるに決まってるよ」

 

だよなー。良かった。これで興味ないとか言われたらどう返そうか超困ってたところだし。俺の中で戸塚彩加男好き疑惑が浮上するところだった。逆に好かれた男子は意外と喜びそうだけどな。俺とか。嘘だ!嘘だぞ!冗談だ!・・・あー、でもちょっとは嬉しい。

 

「んじゃ、一つずつ質問するぞ。年は上と下、同い年。どれがいい?」

「年下かな。一番守ってあげたいって気がする」

 

なにこのイケメン過ぎる回答。なんか眩しいんだけど。

 

「髪型は?」

「ロングが好き」

「性格とかは?」

「う~ん、性格か分からないけど、頼ってくれたりする人が好き」

 

意外と兄気質のある彩加であった。

 

しかし、意外とぺらぺらと教えてくれているな。こういうのって結構友達に対しても躊躇してしまうものだと思っていたんだけど。

 

 

 

「八幡は風音の事大好きだよね」

「そうだな。もう風音しか愛せないし。結婚の約束もしてるしな」

「結婚!おめでとう八幡!素敵だね♪」

「お、おう、ありがとな」

 

彩加の裏表のない祝福の言葉に、戸惑う俺。結婚って、人によってはタブーな単語と聞いたことがあるから、彩加の言葉に多少面をくらった。別に彩加はそういう事は思ってないと思っていたけど、前にそんなこと聞いたら、やはり不安になってしまうものだ。

 

例えば、結婚式に招待された女性が帰るとき、ゲーセンに寄ってパンチングマシン使うとか・・・。

 

〈職員室〉

 

「へっくしょん!なんだ?誰か私の噂をしてるのか?・・・これが男性であることを祈りたい・・・くぅ、結婚したい」

 

 

 

 

 

「僕もそういう相手、見つかるといいなぁ」

「でも彩加って引く手数多だろ?美少年だし」

「そんなことないって。けど、今はテニスに集中したいし」

「ま、これから大学とかあるから、そこで見つかるかもしれないだろ。自分にどストライクな人が」

「それもそうだね。先の事なんて分からないし。そういえば、八幡はどこの大学行くの?」

「俺か?俺は、電車で行ける国立だな。風音もそこだ」

「さすが学年一位二位だね♪僕はまだ決まってないんだ」

「彩加も頭いいからいいとこ狙えるんじゃねえか?学年30位以内には入ってるだろう」

 

7クラスある中で学年30位以内は優秀な方だ。それが進学校なら尚更だ。彩加は部活で部長もやって、テニススクールにも通っているのに、成績を維持し続けいる。小さな身体だけど、ポテンシャルを相当秘めている。俺達5人の中では間違いなく一番努力家だろう。

 

「そうだけど、やっぱり不安なんだよね。特にテスト返却。毎回ドキドキしてるんだよ」

 

その気持ちは分からなくもないな。学年一位か二位は確実だから、そこではドキドキしないけど、問題はその後だ。風音とテストを見せ合う時。俺が勝ったら風音はムッとして可愛いし、俺が負けたらどや顔可愛いし。ぶっちゃけ、俺に得ばっかある。俺ら優秀じゃね?

 

彩加はまだ考え中でテニスに集中したいらしい。もうすぐ冬の大会があるとの事だ。これは風音達と見に行こうと思う。

 

 

「あ、そろそろ休憩終わるから、もう行くね」

「そうか。頑張れよ」

「うん♪」

 

彩加は時計を見て確認をした後、笑顔で手を振りながら生徒会室を去った。何故男の笑顔であれだけ癒されるのだろうなぁ。

 

今日は珍しく彩加と2人きりで話をしたな。いや、ほぼ初めてなんじゃないか?それにしても、彩加の意外な一面も見れたし聞けたし。女子がいないこの暇な時間が有意義になった。一番驚いたのは、女性に興味があるという事だ。あ、いや、別にホモだとか思ってなかったから。改めて認識したらって話だ。その好みも普通に教えてくれたし。なにより彩加の事を知れたのは、柄にもなく嬉しいと思った。

 

・・・・それにしても風音達遅いな。なにしてんだ?

 

1時間近くたっても来ない風音達に若干の疑問を抱くと同時に、俺は庶務の席に置いてある見覚えのないものが目に入った。その正体は、リストバンドだった。魂と装飾されているため、如何にも男前!と思わせる。十中八九、彩加の物だと思う。

 

そうとわかれば善は急げだ。渡しに行こう。

 

 

久しぶりのベストプレイスは心地がいい。

 

俺は、テニスコート付近にある、今まで昼食の時に使っていた場所へきた。最近は凛達と教室で食ってるからな。

 

テニスコートを阻んでいる金網越しに、彩加の姿を確認した。左右に素早く動いてラケットを振るっている。他の部員も、サボる人は少なく、やる気のある人も結構いる。

 

「彩加ー」

「あれ?八幡。どうしたの?」

「忘れもん、お前のだろ?」

「あ!ありがとう。わざわざごめんね」

「問題ない。じゃあな」

「あ、折角だし、テニスやってかない?」

「いやぁ、疲れるし、遠慮するわ」

「そっか。八幡会長で忙しいもんね。ごめんね」

 

ぐっ、今は特別忙しくないし、この後も暇を持て余すことしかないから、凄い罪悪感が・・・。そんな申し訳なさそうな顔で覗かないでくれぇ。

 

「す、少しなら、していいかな」

「本当!いいの?」

「ああ、少しは体動かさないとな・・・」

 

結局俺は、約1時間、ジャージでラケットを借りて、彩加とラリーをしたとさ。

 

 

足と腕に疲れを感じ、少々猫背になりながら、生徒会室へと足を運ぶ。運動不足がここにきて支障を来したな。かといって、運動する気なんてさらさらないけどね。今のように、たまーにするくらいがベスト。

 

季節は現在冬だから、自販機もホットが増えた。当然マッカンも。毎年思うんだけど、やめてくんねぇかな?俺はマッカンはホットじゃなくてクールで飲みたいのに。ホットはそこまで好きじゃないんだよ。まぁ飲むけど。疲れたし、好物だからね。

 

生徒会室に入ると、既に風音、凛、飛鳥たちがいた。

 

「あ、八くん。随分遅かったね」

「いや、お前らが遅かったんだからな。少し外出てたんだよ」

「八幡何で汗かいてるの?そんなに歩いたの?」

「彩加とテニスしてた」

「いいなぁ、私たちもやりたかった」

「球技大会の練習がてらにね」

「部活の邪魔になるからやめとけ」

「えー、八幡だけずるい」

「俺は誘われたからやっただけ」

 

テニス部は冬に大会があるし、彩加の友達だからって特別扱いもよろしくない。

 

今日も特にすることも無く暇で、女子たちが会話を弾ませているのを、俺は傍観しているだけ。これが日常となった。

 

今日彩加がきたことは言ったが、会話の内容は話していない。人生初、男子同士の会話ができたのだから。記念だ記念。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

カンヴァセイション=会話

序盤のアレは作者がニュースを見てふと思った事です。深い意味はないよ。

というわけで、戸塚回でした。次回は、もうとにかく色んなネタをぶっこみます!

ではまた。


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32話:俺と彼女の会議リンプアロング

はい、どうも、アイゼロです。

前回色んなネタをぶっこみます!と言いましたが、先延ばしにすることにしました、すいません。いい加減原作に入らないと、と思ったので・・・。

それではご覧ください。


意外と盛り上がった球技大会も無事終わり、今年も残すこと僅かとなった12月中旬。吐く息は白く、LEDイルミネーションが街を輝かせ、それと同様に、恋人がいる人も目を輝かせながら、徐々に近づいているクリスマスを楽しみに、校内は盛り上がりを見せている。

 

校内掲示板も、クリスマス関連のポスターが貼られている。俺はもう、この盛り上がり方で暑苦しく、半そで半ズボンになりたい気分だ。

 

俺も風音がいるからデートでもする、と思っているかもしれないが、外には出ない。風音の部屋でクリスマスを過ごします。親?妹?皆出かける。

 

周りはすでにクリスマス一色。幸せオーラとリア充爆破の怨念が混じり合う日本の行事。

 

そのさなか、生徒会室のドアがノックされた。俺はどうぞ、と入室を許可する。

 

「失礼する」

「ん?理事長?」

『理事長!?』

 

訪問者はなんと理事長だった。風音達がそれを知って驚いている。そういえば、校長兼理事長だってことを教えるのを忘れてたな。風音達からすればただの校長がきたと思っていたんだろう。

 

「なんですか?」

「ちょっと話があってね。ほら、君たちが案を出してくれたクリスマス企画の事でだ」

「本当ですか!」

 

凛が嬉しそうに目を輝かせながら立ち上がる。おお、まさかアレも通ったというのか。そんなにイベント起こすと逆にこっちが疑問に思うぞ。いいのか?進学校だぞ?いや、考えてきたのは紛れもなく俺らなんだけどな。

 

俺は理事長と話し合うため、対面で座り、お茶を用意した。

 

「さっきも言ったが、クリスマスイベントの件だ」

「本当に通ったんすね」

「それが、通るかは君たち次第になってね。海浜総合は知ってるだろう?」

「はい。そこの高校と何か関係が?」

「実は、海浜総合からクリスマスイベントをやらないかって誘われてね。簡単に言えば合同イベントをやろうとの事だ」

 

海浜総合というのは、駅からさほど遠くない距離にある、総武の次に有名な高校だ。中学を卒業した奴らの進路は大体この総武高と海浜総合に進学する。

 

「今その誘った子が待合室にいるんだ。よかったら来てくれないか?」

「あ、はい。それで、誘って来た人って誰なんですか?相手も理事長?」

「いや、君と同じ、生徒会長だ」

 

 

 

待合室にて・・・・。

 

「初めまして、僕は海浜総合の生徒会長の玉縄だ。お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を生んでいこう」

「は、はぁ・・・」

 

待合室に座っていた玉縄という人物は、俺を見るや否や爽やかな笑顔を向け、握手を求めながら自己紹介をした。

違和感を感じざるを得ないような自己紹介に若干困惑しながら、出された手を握る。

 

「比企谷八幡だ」

「ともにアライアンスを結んでイベントを成功させよう」

 

・・・・・何言ってんだこいつ?こわ・・。

 

 

 

「と、ういのが俺が抱いた第一印象」

「な、成程・・・」

 

先程の情報を、生徒会室に戻って風音達に話した。

 

「つまり、ビジネス用語を頻繁に使ってくるってこと?」

「その通りだ。しかも明らかに高校生が使うような言葉じゃない」

「例えばどんな感じ?」

「ん~・・・いや、俺もどう表現すればいいのかわからない。後日にイベントの会議があるから、そこで直に聞いてもらおう」

 

そもそも俺はビジネス用語をあまり知らない。高校生であんなカタカナ使う事なんて滅多にないからな。ていうか、あの玉縄という奴。何故あそこまでそんな言葉を選んだかのようにわざと並べて話していたんだ?しかもあの手の動き。演奏の指揮者みたいだったぞ。

 

けど、だからといって断るのもちょっとあれだ。理事長的には合同イベントをやってくれたら宣伝にもなるし、それに球技大会でもかなり助けてもらったからな。

 

 

合同イベントを請け負った数日後。今日が初めての会議だ。場所はあの超有名大型商業施設、マリンピア。略してマリア。なんか外国人の名前みたいだな。夕方だと奥様方の姿が目立ち、学校帰りの生徒が寄る場所でもあるためちらほらと、放浪しているのが目に映る。

 

今回行われる会議の会場のホールについた。中に入ると、いくつもの机と椅子が揃えてあり、既に海浜総合の生徒が集まっていた。

 

俺らが入ると、玉縄はこちらに歩み寄ってきた。

 

「良かったよ。総武と一緒に企画できてさ。お互いにリスペクトできるパートナーシップを築いてシナジー効果を生んでいけないかと思ってさ」

『は?』

 

のっけからいいパンチ放ってくるなー。何言ってんのか全くわからん。風音達も後ろでは?って口で言ってるし。っつーか、俺と会った時と同じこと言ってる・・・。

 

「それでは、会議を始めます」

 

慣れた手つきで会議を始め、軽く頭を下げた。

 

ついに会議が始まる。初めてなのにどうしてこうも不安に駆られるんだろうか。この不安は杞憂であってほしい。

 

「じゃあまず、前回と同じくブレインストーミングから始めようか」

 

前回という事は、一回こいつらだけで話し合ったのか。不安がぬぐえないままだったため、かまえていたけど、普通のブレストか。細かい定義は色々とあるが、簡単に言えば集団で自由にアイディアを出していくってことだ。

 

 

「それでは一旦休憩に入ります」

 

1時間近く続いた会議は、玉縄の指示で中断され、休憩時間に入った。さて、ここで俺らが会議をして、分かったことを言おう。

 

全くわからん。

 

一体前回は何を話していたんだろうか。話しが全く見えてこないし、何言ってんのか分からない。玉縄だけだと思ったら、あっちの生徒会も同じだった。カタカナばっかり。

 

こいつらは気付いているのか?会議が全く進行していないことに。何一つ決まっていないことに。いや、自覚はないな。向こうは何故か満足顔をしているし。

 

・・・・ああ、分かった、いや、分かってしまった。こいつらは今を楽しんでるだけなんだ。中身なんて全くない。

 

「言葉の使い方が微妙に違うときがある。この人たち、覚えたての言葉を使ってるだけだよ」

「ああ、全くその通りだ」

 

横にいた風音がため息交じりに呟いた。国際教養科の風音は、ビジネス用語をある程度学んでいるため、分かっている部分が多いだろう。一方、凛と飛鳥は終始、は?とでも言いたげな表情を続けていた。

 

「大丈夫か?お前ら」

「全然大丈夫じゃない」

「何?あの人たち?言ってる事全然分からないんだけど」

 

凛たちもこのありさまだ。まさか、初会議でここまで参らされるとは思わなかった。

 

「あれ?風音?」

 

どんな神妙な面持ちの中、何とも軽い口調で俺の彼女の名を呼んだ。誰だ?聞こえた限り女子だったが。良かった~。これが男子なら俺速攻で八つ裂きにしてたわ。

 

「あれ?かおり!」

「久しぶり!比企谷もいるじゃん!」

 

俺達の前に現れたのは、海浜総合の制服と纏った、黒髪ショートボブの女子だった。俺達に気兼ねなく話しかけているが、俺はこいつを知らない。風音は仲がいいのだろうか、ちゃん付けじゃないあたり相当な信頼関係があるのだろう。

 

「誰だ?」

「同中のクラスメートに誰って、ウケる」

「いやウケねえから」

「同じクラスで委員長やってたかおりだよ」

「いや、知らない」

「まぁ、比企谷人間不信だったからね。ウケる」

 

確かに中学の時は、まだ人間不信で誰にも興味を示さなかった。風音が仲良く友達と喋っているのを横目に毎日黙って本を読んでた中学校生活を送った。

 

・・・ん?待て。何故そのことをこのかおりという人物が知っているんだ?

 

「あれ?比企谷知らなかったの?風音が皆に言ってたんだよ。比企谷が人を怖がってるからそっとしといてやれって」

「・・・えぇ!」

 

どうりで平穏に過ごせたわけだ。おそらく、風音からこの元クラスメイトに伝わってクラスにも伝わったという事か。委員長なら全員に伝えられるからな。

 

「ごめんね八くん。今になって考えると、八くんを1人にさせるようなことしちゃった・・・」

「いやいや、何気に病んでんだよ。寧ろありがたかったぞ」

 

浮かない顔をして伏せてる風音に頭を撫でる。確かに俺から人を遠ざけるような事を言ったと思うが、もし俺に話しかける奴がいたとしたら、俺は相手に不快な思いをさせたかもしれない。そう思うと、風音のとった行動は正しいと俺は思う。

 

「お前、名字は?」

「折本」

「折本か・・・。お前も生徒会なのか?」

「いや、私はお手伝い。ていうか、比企谷が生徒会長って、超ウケるんだけど」

 

ほ、ほぅ、そうですか。まぁそうですよね。中学3年間目立たなくて一人だった奴が、高校で生徒会長ですものね。笑いものですよね。しかも人間不信だという事をクラスに知れ渡ってたのに。

 

「比企谷、克服したの?」

 

折本は、机にうなだれている凛と飛鳥を見てそう聞いてきた。

 

「まぁ、色々あってな。克服はできたんじゃないか?」

「自分でもよくわかってないんだ。ウケる」

「いや、ウケねぇよ」

 

笑いのツボがおかしい人だ。何か言う度に笑うとはな。

 

可笑しい人と言えば、やっぱりあいつだな。ちょうどいい、あの玉縄について少し教えてもらおう。

 

「なあ折本。今の会議、理解できたか?」

「え?いやいや全然。何言ってるかわかんないし」

 

おーい、お前たちのお手伝いさんにも伝わってないぞ。それに今更だが折本達話し合いに参加してなかったし。一体何のために呼んだんだよ。助っ人頼んでるんなら少しは理解されるように話し合えよ、全くよぅ。

 

かくいう俺らも会議に参加できていないんだけどな・・・・・・。

 

さて、一体どうなるのやら・・・。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ビジネス用語って難しいね。サイトの一覧表見ながら書いてました。だけど、会議の描写はしません。原作とあまり変わらないので。

あ、球技大会はぼーなすとらっく的な番外編として投稿するつもりです。

また次回。


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33話:俺と彼女の停滞ビジネスダンス

はい、どうも、アイゼロです。

33話突入。

7時間バイトで満身創痍だったのに、ネタがどんどん溢れてきた。勢いに乗って書いていたら、太陽が昇っていた。学校午前中だけだったけど、マジつらたんだった。

それではご覧ください。



昨日の会議から翌日。本日二回目の会議が同じ場所で開かれる。

 

「では、昨日に引き続き、ブレインストーミングからやっていこう。議題はイベントのコンセプトと内容面でのアイディア出しを」

 

玉縄が議事を進行していくと、海浜生徒会の面々が次々と挙手をし始めた。そして次々とアイディアが披露されていく。

 

実はこの会議の前日、あらかじめビジネス用語を少しかじってきたのだ。これで多少は相手が何を言ってるのかが理解できる。相手に合わせることも重要なんですよね。社会の闇が垣間見えた気がした。

 

「やっぱり若いマインド的な部分でのイノベーションを起こさないと」

「そうなると俺達とコミュニティ側とのWIN―WINな関係を作ることが望ましいね」

「そうなると戦略的なコストパフォーマンスが必要に…」

 

……何コレ?昨日と全く同じ感想を抱いている。それは総武高の生徒会面々もそうだ。

 

こいつらは一体何の話をしているのかが分からない。何がしたいのか、どうさせたいのか、そもそも成功させる気があるのか。

 

「皆、もっとロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」

 

玉縄が険しい顔で重々しく言うが、それ意味全く一緒だからな。お前はルー大〇か?トゥギャザーすんのか?勝手にしててほしい。

 

そもそも、これはクリスマスイベントの会議のはずだ。何故イノベーションなりWIN―WIN関係なり戦略的コストパフォーマンスの話になっている。一体なぜそこまで関係者を増やすことを提案しているのか。まだイベント内容自体が決まっていないのに、何故決まったことを前提にして会議をしているのかが俺には、もちろん風音や凛、飛鳥も理解ができない。

 

 

「さて、あの意識高い系の厄災共、玉縄と不愉快な仲間たちをどうしようか」

「八くん、何でそんな大規模になってるの?」

「いや、ある意味間違ってないよ・・・」

「何言ってるか分からないもんね」

「えっと、何で僕もいるの?・・・」

 

あの訳わからんブレインストーミング(笑)から翌日の昼休み。俺達生徒会一同+彩加は生徒会室に集まり、弁当を口に運びながら、会議を始めた。

 

彩加には気になったところを突いて質問をしてほしいと頼んだ。

 

「そのクリスマスイベントってどういうものなの?」

 

早速彩加が開口一番にそう聞いてきた。ここで一旦イベントについて整理しよう。

 

日程はクリスマスイブ。場所はコミュニティセンターの大ホール。目的は地域交流、地域貢献を主眼としたボランティア活動。対象は近くの保育園にいる園児、デイサービスに通うお年寄りだ。

 

「はぁ、もう最悪バックレる」

 

凛は背もたれに体を預けながら、怠そうな声を吐いた。

 

「本当ならそうしたいが、理事長に迷惑がかかるからなぁ」

「その玉縄君って人、どんな感じなの?」

「どんな感じか……。『皆、ブレインストーミングを始めよう。ともにリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を生もう!皆、ロジカルシンキングで論理的に考えるんだ』」

 

そっくりそのまま玉縄の真似をした瞬間、生徒会室で爆笑の嵐が吹きあられた。何故俺はこんなに恥ずかしい思いをしているんだ…。

 

「八くんそっくり!」

「八幡手の動き凄い!」

「声まで似せて…」

「八幡ふざけてるようにしか見えないよ…」

 

はい、玉縄の真似をしたら、笑われ恥ずかしい思いをするという結果が出ました。よってあいつは恥ずかしい人間認定です。これを平気でみんなの前でやる海浜生徒会マジである意味リスペクトだ。覚えたての言葉遊びなら尚更だな。

 

さて、そろそろ本格的に会議だ。昼休みだからそこまで時間もない。

 

「こっちで先に内容を考えちまうか。先に意見出しゃ、こっちが主導権を握れる」

「対象が保育園児とお年寄りだからね。その2つに関連づいた方がいいよね」

「クリスマスだから、サンタと子供?」

 

彩加の何気ない一言に、その場にいた彩加以外全員、重大なことを忘れていることに気づいた。意識高すぎる会議のせいですっぱりと頭の中から消えていた。最も単純で、定番な行事。

 

『サンタさん』

 

「それだよ彩加!ナイス!」

「生徒会庶務認定!」

「ちょっとぉ!乱暴にしないで!勝手に認定しないでぇ」

 

凛と飛鳥が半ば興奮気味で、彩加の肩を揺らした。『あ~、うぅ~』と可愛らしい唸り声をあげている。

 

「けど、どうやってサンタ出現させるの?」

 

そうだ、問題は風音が今言った、サンタ出現のタイミング。いきなりサンタ登場じゃ混乱を招きかねない。そもそも、イベントの内容が細かく決まったわけじゃないから、まずはそこを決めて、その内容によってサンタのタイミングを考えた方がいい。

 

と、ノリに乗ったところで、昼休みの予鈴が無情にも鳴り響き、会議はここで終了した。

 

 

 

 

そして、第3回目の会議が始まる。

 

玉縄が始まりの挨拶をすると同時に、俺らは今日の昼に思い浮かんだアイディアを提案した。すると、玉縄は『これはまた斬新なアイディアだね。立候補に入れよう』と、珍しく日本語をしゃべりながら、ホワイトボードに書いた。これで、少しは変わったと思った矢先、

 

「折角だし、派手なことしたいよね」

「そうだね。もっと規模感を大きくしたい」

「ちょっと待て。それだと人員と時間が足りない」

「ノーノー違う違うそうじゃない」

 

これである。なんか5回も否定はいられたんだけど。

 

「ブレインストーミングは相手の意見を否定しないんだ。どうやって可能にするか、それを皆で話し合うんだよ」

 

はぁ、ダメだ。こいつらは言葉遊びに夢中過ぎて、気付いていない。本来ブレインストーミングは4つの原則がある。『結論厳禁』『自由奔放』『質より量』『結合改善』。だから、海浜総合の生徒会のブレストはあながち間違っていない。この原則に則って会議をしている。

 

だが、それだけだ(・・・・・)

 

中身が全く無く、ただただブレインストーミングを楽しんでいるだけ。ただその気になって、勝手に自己満足して、停滞していることすら気付かないまま、悪戯に時間を弄している。

 

「じゃあ、一旦休憩入ろうか」

 

ここでイライラしていたってしょうがない。少し頭を落ち着かせよう。

 

 

「大丈夫八くん?疲れてない?」

 

風音はそう言って、俺の顔を覗き込みながら、頭を軽く撫でた。ああ、疲れが一瞬で吹き飛びそうだぜ。

 

「どうする?」

「私たちの提案も、普通に忘れられてる気がする…」

「ああ、おそらくな」

 

果たして俺らはここにいる意味があるのだろうか?いや、ない。俺らの否定発言はすべて一蹴されるのだから。

 

「ねえ、比企谷」

「どうした?折本」

 

そこへ現れたのは、今回のイベントで生徒会のお手伝いとして来ていた、元クラスメイトの折本がやってきた。声音だけで、うんざりだという事がすぐわかる。

 

「なんか、発言すら許されないような状況だったよ」

「まさしくその通りだね」

「かおりも大変だね…」

「同情するなら知識をくれ…」

 

折本と会議への不満を漏らす俺ら。いつの間に凛と飛鳥も折本と仲良くなってるし。本当怖いわ。そのコミュニケーション能力。同情するならそれをくれ。

 

そんな下らない事を考えながら、玉縄を横目に見ると、少し違和感があった。

 

何やらチラチラとこちらを見ている。いや、正確には……折本か?そして今度は俺の方へ視線を向け、すぐに戻した。

 

今の玉縄の目は俺の知っているものだった。昔散々見てきて、散々向けられ、慣れたもの。『嫉妬』だった。

 

…………なるほどな。そういう事か。

 

「お前ら、耳かせ。いい事思いついたぞ」

「八くん、その笑み、不気味だよ……」

「比企谷、凄い悪い顔してるよ……」

 

 

 

「へぇ、ウケる!面白いじゃん」

「い、いいのかな?それやっても」

「大丈夫だと思うよ。八くんだから」

「風音もその八幡に対する信頼度、最早狂気だよ!」

「でも、楽しそうじゃん!やるだけやろう!」

 

俺の考えた作戦に、全員が快く引き受けた。はっきり言って物凄い大胆だけど、イベント成功にはこれしかないと思った。今この作戦を実行したら、後は玉縄達次第になる。

 

まぁ、本音を言えばこれがやりたいだけだ。

 

「じゃあ、ブレインストーミングの続きを始めようか」

 

玉縄が毎度同じ挨拶で、ブレストを始めようとした瞬間、俺は立ち上がって

 

「あぁ~、やってらんねぇ。俺ら帰るわ」

 

と、けだるげな声で、目を濁らせながら、言い放った。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

前書きのバイトから帰ったら、犬が一匹増えてました。今回も知らぬ間に飼われてて草。

また次回。


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34話:俺と彼女の解決クリスマスイブ

はい、どうも、アイゼロです。

結構間が空いてしまった……。この頃自分の時間が作れなくて、疲れ気味だ。だからといって、作品には影響させてません。

いただいた感想で、hachimanだという意見がありました。俺的にはあまりhachimanにしたくはなかったのですが、自然になってしまったのでしょう。取り敢えず様子見で書いていこうと思います。八幡とhachimanの間が理想。

それではご覧ください。


「あぁ~、やってらんねぇ。俺ら帰るわ」

 

俺の言い放った言葉に現場が凍り付いた。

 

「帰るぞ。いつまでもこんな時間使う暇もねぇ」

 

俺がそう指示すると、風音達もカバンを肩にかけ、俺を先頭に会議室を出ようとした。

 

「待て。どういう事だ!一緒にイベントを成功させるためにアライアンスを結んだじゃないのか?」

 

最初に止めたのはやはりこの会議のリーダーである玉縄だ。俺らを、主に俺の方を睨みつけながら、説得を試みている。俺がもうちょっとノリノリな性格だったら、ディオみたいに無駄無駄叫んでたかもな。しかし、今の状況でもカタカナを使うとはやはり重症だな。

 

「玉縄の言う通りだ。俺達はイシューを明確に持って会議をしていたはずだ」

 

どこが?

 

「そうだ。こうやって二校で合同イベントをやるオポチュニティなんてあんまりないんだぞ」

 

あ?なんだってなんだって?その機会を逃したのは紛れもなくお前らだ。俺らだってこんな機会逃したくないから、案を出そうとしているのに、お前らがそれを保留にして忘れるから進まないんだ。

 

「俺らはお前らの言葉遊びには付き合ってられないんだ。やるならどうぞ4人でご勝手に」

「4人?」

 

今海浜総合側の人間は助っ人合わせて6人。俺の言葉と人数が合っていないため、それを不審に思ったのか辺りを見回した。

 

「じゃ、私達も帰るね。行こ、千佳」

「え?う、うん」

 

それと同時に折本は隣の友人と席を立ち、帰る準備をして、凛達の隣に立った。

 

「き、君たちもか?」

「だって何言ってるか全然分かんないし、ウケないし」

「そ、そんな」

「前はそんなカタカナ使ってなかったよね?どうしたの突然。覚えたての言葉使って楽しんでるんだったら、どうぞ4人で遊んでて」

 

うわお、辛辣~。今の玉縄は図星を突かれた様な顔で、呆然としてしまっている。やっぱ惚れた人に言われる程クるものはないんだな。男ってのはそれくらい単純なもんだ。

 

総武高生徒会+折本達は、そのまま会議室を出た。

 

「う~ん、結構気持ちよかった~!玉縄の顔マジウケたし」

「かおり、声のトーン低くて私も少しビックリしたよ」

 

俺らの後ろでは腕を上にグーンとあげて腰を伸ばしている折本と、気まずそうな表情の友達が歩いている。隣の友達が今言っていたビックリしたという事は、折本はあまりあの声を出さないという事だ。相当うんざりしてたんだろうな。

 

 

これでクリスマスの合同イベントは実行される前に幕が降ろされた。さて、この後なんだが…。

 

「どうすっかなぁ……」

「何か考えがあったんじゃないの?」

「ん?ねえぞ」

 

俺の計画性の無さに風音達が掌で額を抑え、ため息をついた。今回はさっきの状況を見て突発的に思い浮かんだものだから、後先はあまり考えれていない。

 

「大丈夫なの?」

 

心配そうな顔の飛鳥がそう聞いてきた。

 

「ぶっちゃけると、よくわからねぇのが今の現状だ。もう日程も場所も目的も、対象者も決まっている。ここでリタイアは無理だ」

 

俺が言った事に腑に落ちないのか「どういう事?」と聞き返した。だが、ここで補足説明は不要。合同イベントが切り離された今、海浜総合も俺達と同じ状況下にある。

 

「まぁ、少ししたらわかるだろ」

 

と、俺に注目する風音達に一言だけ言い、今日はここで解散させた。

 

「よし、帰るぞ風音」

「うん。……本当に大丈夫なの?」

「心配性だな風音は。大丈夫なんじゃねぇの?」

「私が聞いてるのに~」

「じゃ、はっきり言う。大丈夫だ」

「なんか策があるの?」

「ああ。……知ってっか?男っつーのは惚れた女には馬鹿正直で単純なんだよ」

 

 

翌日。寝相で眼鏡を壊して幸先悪いなと落ち込んだ朝でした。久しぶりにこの腐った眼が復活だな。別に死んでたわけじゃないが、やはり少し視線を感じた。そりゃ生徒会長が突然目が腐ったなら誰だって気になるだろうよ。お願いだから陰口だけは止めてよね。

 

俺達はいつものように放課後、生徒会室に集まった。

 

「どうかね?イベントは。順調か?」

 

入室してきたのは理事長だ。なんとまぁ、タイミングがいいのか悪いのか。つい昨日あんなことがあったため、風音達は言い淀んでいる様子。

 

「正直、順調とは言えません。けど、何とか間に合う範囲です」

「そうか。慣れるのに時間がかかるようなイベントだからそこは仕方がない。頑張ってくれ」

「はい」

 

それだけを言いに来たのか、理事長はあっさり帰っていった。

 

「八くん、間に合う範囲なの?正直そうは思えない」

 

風音がムッとした顔で聞いてきた。風音、ちょっと怒ってるな。

 

「ま、理事長にああ言った以上、やるしか選択しねぇよ」

「何でそんな自分から首を絞めていくんだよ……」

 

呆れてため息をついた凛。おい、あまりの呆れっぷりに男口調になってるぞ。

 

「大丈夫だよな?」

『こっちの台詞だよ!』

 

いや、もう自分がやったことに不安しかねえよ。今思えばいくらでも手段はあったはずなのに、なんであんな選択肢を選んだんだろう。答えは簡単。俺が腹を立ててただけです。イライラと俺の性格の悪さがこのアイディアを持ってきたのです。よって、僕は悪くない。

 

ま、とにかく会議室に行こう。俺の思い描いた状況になれば一気にこのイベントは進む。……多分。

 

 

『すまなかった』

『………は?』

 

マリア(マリンピア)の会議室に入った瞬間、玉縄達がこちらを見て頭を下げてきた。これには思わず皆呆然としてしまった。

 

「君の言う通り、俺達は合同イベントで浮かれてた」

「それで、つい意識して覚えたての言葉を適当に扱ってたんだ」

 

等々、海浜総合の生徒会役員が口を揃えて謝罪を申し上げた。ここにいる皆はこの光景に呆然としてしまった。俺以外。

 

大体予想できたことだ。玉縄が惚れた女、折本にあんな事言われたら、そりゃ直す以外選択肢なかろうよ。ただ、こんな正面切って謝られるのは予想外だった。てっきり会議の休憩中にこっそり言われるのかと思っていた。

 

「まぁ、使うなって言ってんじゃない。ただ高校生で使うような言葉じゃねえから、周りの奴らが理解できなかったんだ。会議も停滞したままだしな。内容すら決まってない」

 

皮肉交じりにそう言うと、玉縄達は顔を俯かせ、一気に沈んだ空気になった。

 

「はぁ、会議始めるぞ。リーダーだろ?」

「あ、ああ!」

 

 

 

それからというものの、今までがまるで茶番だったように、スムーズに進んだ。それはもう、ね。時間がないから、急ぎ足でアイディアを出し合い、初期とはボリュームダウンしたものの、海浜総合のバンドに出張コンサート、演劇に決まった。演劇は近くの保育園の園児たちにやってもらおうという意見が下りた。……なんか、一気に忙しくなったな。

 

「後は、飾りつけだな。予算も限りがあるから、ここは節約したい」

「あんなでけぇホールに飾りか。確かに高コストだ」

「……まああくまで対象は高齢者が多い。ここは手作りの低クオリティでいいだろう」

「誰に頼むんだ?」

「小学校に連絡をするよ。そっちに保育園を頼んでいいか?」

「おっけ」

 

このように今まで決まってなかったことが次々と解消され、問題は演劇内容と人手になるところまできた。これにはサザエさんも「まあなんということでしょう」と絶賛するに違いない。

 

凛と飛鳥には折本とその友達と演劇内容のアイディア出しと、衣装の作成を頼んだ。飛鳥が服作れる人で良かった。さすが家事全般こなす女子だ。

 

「風音、行くぞ」

「私もあそこに混ざりたかった」

「いや、マジで一緒に来てくれ。通報される」

「理由が悲しすぎる」

 

 

双葉保育園に着いた。外はもう夕方のため、空が紅く染まり、お迎えのお母さん方がちらほら見える。実はここの保育園、俺達が通ってた場所だ。何人か見覚えのある保育士がいる。

 

「あの、ちょっといいですか?」

「っ……はい、何でしょう?」

 

保育士さんに声をかけ、こちらを見た瞬間肩を少しビクつかせた。今ので結構傷ついた。今一度眼鏡のありがたさを思い知りました。

 

「風音、頼む」

「はいはい」

 

風音は俺の頭を2回軽く撫でるように叩いて、保育士さんの対応にあたった。

 

しっかしまぁ、10年も経つと色々と変わってるなぁ。あのジャングルジムなんて俺達があの時は茶色一色だったのに階層によって色が分けられている、遊んだことないけど。砂場も面積広くなってるし、遊んだことないけど。滑り台の数も1つ増えてる、遊んだことないけど。

 

「ケツだけ星人ー!ぶりぶりー!」

「おいやめろよ!!」

 

……うん、最近の子供は活発で元気なんだな。

 

それにしても、小さいころの記憶って案外結構残ってるもんだな。っつーか、俺と風音外でで遊ばなすぎだろ。どんだけ室内にいたんだよ……。

 

「八くーん。明日子供たちに聞いてみるだって」

「そうか。サンキュー」

「………頭撫でてくれないの?」

「はいはい」

 

言われた通り、風音の頭に手を置き、2往復程撫でた。そして保育園を出ようとすると、意外な人物と遭遇した。

 

「比企谷、新島?」

「ん?あー……川…」

「川崎さんだよ」

「そうそれだ。おう、奇遇だな」

「何してんの?こんなとこで」

「まぁちょっとしたイベントだ。生徒会の仕事」

「ふーん。頑張ってんだ」

「まぁな。そう言うお前は?」

「……妹を迎えに来たの」

「あ、さーちゃーん!」

 

川崎がそう言った途端、後方から可愛らしい声が聞こえた。その正体は1人の女の子でこちらに、いや、川崎の方に向かって走ってきている。ふむ、どうやらあの子が川崎の妹か。

 

「さーちゃん!ただいま!」

「おかえり、けーちゃん」

「この人たちは?」

「私の知り合いだよ。ほら、自己紹介」

「うん!川崎京華です!よろしくお願いします!」

「比企谷八幡だ。よろしくな」

「新島風音です。よろしくね京華ちゃん」

 

嗚呼、なんて礼儀正しいいい子なんだろう。思わず俺も風音もかしこまった自己紹介で返したよ。きっと親孝行な子になるに違いない。

 

「はちまんだから……はーちゃん!」

「ちょ!けーちゃん!」

「いいって。そっちの方が覚えやすいだろ」

「かざねだから、かーちゃん」

「か、かーちゃん……。かーちゃん…」

 

指を刺しながらかーちゃんと連呼される風音。微妙な表情で少し落ち込んでるように見える、何とも形容しがたい状態だ。にしてもかーちゃんて…。少し笑みがこぼれてしまった。

 

「八くん今笑ったでしょ!」

 

そしてそれを見逃さない風音。

 

「わりぃわりぃ。もう行こうぜ。じゃあな川崎」

「うん、ありがとう。じゃ」

「またねー」

「ばいばーい!」

 

俺達は川崎姉妹と別れの挨拶をし、保育園を出た。

 

 

イベントの準備も順調に進む中、迎えた放課後。昇降口で風音と合流した。

 

「かおりから連絡があって、結構長い時間のイベントだから、食べ物出した方がいいんじゃないかだって」

 

何で会議で言わないのかはさておき、確かにその通りだ。演劇にバンド演奏、オーケストラだとかなりの時間を食うからな。せめて腹に入れておきたいだろう。

 

園児と高齢者を考慮すると中々難しいな。

 

「私ケーキ食べたい!」

 

と、真っ先の手を挙げたのは凛だ。お前が食うわけじゃねぇよ…。

 

でも、クリスマスだからありだな。採用。

 

「飛鳥ってケーキ作れるか?」

「作れるよ」

「よし、じゃあ風音と頼む」

「えー、私は?」

「お前料理自体できないだろ。他の奴らと裏方だ」

「ちぇ~」

 

拗ねて口を尖らせる凛は置いといて、作るものはケーキと風音経由で折本に伝えた。数分後、返事がきた。

 

【誰が作るの?こっち作れる人いないよ】

 

さすがに当日2人でいくつものケーキは無理があるな。時間だってかかるし、かといって前日に作り置きするのは衛生上避けたい。でも俺の数少なすぎる知り合いでケーキ作れる奴なんて…。…………あ、あいつ作れんじゃね?

 

 

 

「つーわけで、助けてくれ」

「そ、それで私の所に来たのね……」

 

訪れたのは以前風音と所属していた奉仕部だ。ケーキ作りに悩んでいたら、この雪ノ下が前に依頼でクッキーを焼いたことを思い出して、こうして依頼をしている。

 

「どうせ暇だろ?」

「あら、それは嫌味かしら?眼鏡が無くなって不審者に戻った生徒会長さん」

「うっせぇ、ほっとけ」

「雪乃、八くんは眼鏡無いからって不審者じゃないよ!カッコいいよ」

「冗談よ。暇なのは事実だし、依頼は受けるわ」

「ありがとう雪乃。その日になったら連絡するね」

「ええ。…その、頑張ってね」

「うん♪」

 

恥ずかしがる雪ノ下に風音は元気よく笑顔で答えた。なんだかんだ言って信頼されてるなぁ。それと風音と連絡先交換してたんですね。俺には聞きもしなかったのに。別に拗ねてないから。

 

再び読書に励む雪ノ下を横目に、終始空気だった凛と飛鳥を連れて部室を出た。

 

「雪ノ下さんと知り合いだったんだ。2人共」

「前に話したろ。あれが奉仕部だ」

「へぇ、1人だけなんだ」

「うん。皆事情があってやめちゃったんだ」

「まぁ本人は1年の頃と同じ環境に戻っただけとか言ってるけどな」

 

取り敢えずケーキ作りの問題は解消された。そのことは今日の会議で言えばいい。

 

 

会議が始まった。

 

会議室の隅っこには小学生が数人おり、ハサミやテープをもって折り紙を折っている。玉縄が呼びかけた助っ人小学生だな。

 

集団で貸し借りをして飾りを作っている。その集団から離れたベンチに座って、1人で黙々と作業している子に目がいった。つーかよく見たら留美じゃん。

 

「よう」

「………」

「む、無視かよ」

「どちら様ですか?」

「いや、覚えてるだろ。忘れたとは言わせねぇぞ」

「冗談。眼鏡かけてないから一瞬わかんなかったよ、八幡」

 

そう言って眉を下げて笑うのは、夏休みに会ったぼっち小学生の留美だ。奉仕部の活動で小学生の林間学校をサポートして、留美の依頼を受け、見事汚い手で成功させたのだ。

 

「あれからどうなったんだ?」

 

少し距離を置いた隣に座り、俺も折り紙と鋏をもって作業を始めた。すると

 

「別に手伝わなくていい。1人でできる」

 

と、冷たく一蹴された。だが俺は全く動じず質問を続けた。風音のジト目の『別にいいよ…』に比べれば傷一つつかないぜ。あの時はマジで凹んだ。

 

「私は特に何もなってないよ」

「そうか。ま、何もないなら問題ないな」

「何?心配してたの?」

「ぜ~んぜん」

 

ぶっきらぼうに答えると、ムッと眉間にしわを寄せて睨んできた。全然怖くないし、なんだったら可愛いぞこいつ。もしかしたら将来雪ノ下並みになるかもな。

 

「……(ドロドロ)」

 

「八幡、小学生と親し気に話してない?」

「本当だね。しかも凄い可愛い子だし、八幡にビビってるようにも見えない」

「八幡子供好きとは聞いてけど、まさかね……」

「いやいや十分あり得るよ。けど、偏見は良くないよ。世の中色んな人いるんだから。恋人がいるロリコンがいてもおかしくないし」

「(面白いからもう少し黙ってよ~♪)」

 

お前ら丸聞こえだぞ、ごらぁ。あいつらあとでとんでもねえ仕事与えてやるからな。覚悟しとけ。

 

 

 

 

翌日、保育園の方から許可がもらい、早速当日使うホールに来てもらった。そこで服のサイズを確認しつつ、衣装づくりに入り、園児には軽くリハーサルをしてもらう。

 

「あれ?川崎さん?」

 

風音の声につられてその方向を見ると、昨日会ったばかりの川崎が妹と一緒にいた。

 

「あ」

「おう、また会ったな。つっても同じクラスだが」

「けーちゃんが率先して演劇したいって言ったらしくて……」

「あ、けーちゃん出るんだ!」

「それで、私も衣装作りを手伝うつもり。得意だし」

 

お、それは助かるな。正直風音と飛鳥だけじゃ無茶だったところだ。ありがたい。

 

ちなみに演劇の内容を決めてたと川崎に教えると、既に園児たちが今日保育園で何の劇をするか決めてたらしい。

 

 

迎えたイベント前日のクリスマスイブ。一時はどうなるかと思ったが、どうにか形になった。今日やることはイベントのテーブルと椅子の用意、ケーキの材料の買い出し、演劇のセット、海浜バンドの楽器用意、くらいだな。

 

「ありがとう、君のおかげで何とか成功しそうだ」

「なんだよ急に…。っつーか俺だけじゃねぇよ」

「そうだな。他の皆にも礼を言うつもりだ」

「…何であんなビジネス用語を乱用してたんだ?」

 

そう問うと玉縄はあはは、と恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

 

「舞い上がっちゃっただけだ。初めての生徒会長で自分から企画して…。まぁ、調子乗っただけなんだ」

「分からなくもない」

 

俺だって会長になった当初、『ぼっちで人間不信だった男が推薦人50人以上集めて生徒会長とか、めっちゃドラマ~』って言っちゃってたし。心の中ではなく、この立派な口でね。風音にも小町にも呆れられた。

 

それにしても調子乗っただけとはね。一体どれくらい勉強すればスラスラビジネス用語が出るのか知りたい。

 

「ちょっと八幡ー!こっち手伝ってー!」

「玉縄ー、これ頼む」

 

役員がお呼びなのでここからは会長共々作業開始だ。

 

 

「あ~疲れた」

 

時計を見ると、既に時刻は22時を回っていた。準備がとにかく大変だった。走り回ったり、手を動かしたりだの

 

両親はイブという事で夫婦でどっか行ってるし、小町は友達の家に泊まっているらしい。おいおい、彼女持ちの男を家1人にさせるとか狙ってるんすかねぇ?邪な煩悩が働いちゃうでしょうが。

 

ベッドでうつ伏せになりながらそう考えていると、背中から何かがのしかかられた。柔らかくて少し重みを感じる。まるで人間が乗ってるかのようだ。

 

「八くんお疲れ」

「お前もな、お疲れさん」

 

案の定風音が乗っており、身動きを盗られた俺。ここから襲われるのか俺は……。あ、なんか怖くなってきた。色んな意味で。

 

「八くーん、今日はイブだよ~?」

「だな」

「ほら、イブの日に彼氏彼女が誰もいない家に2人きりだよ?何かない?」

 

こいつもうまんま誘ってんじゃねぇか…。そんなに俺とパッコリヤりたかったのか?いや俺もしたいと思った事なんて何度もあったけど。けどまだ高校生。我慢して2人で暮らし始めたらって心では決めてたんだが、…………もうだめだ。

 

レアメタルをも越える俺の強靭な理性は、いとも簡単に崩れ去った。

 

勢いよく起き上がり、風音の両肩を掴んで、反転。俺が押し倒した形になった。

 

「知らねえからな。風音、もう遅い」

「…うん。いいよ」

 

風音の唇に強いキスをして、俺はゆっくり両手で制服に手をかけた。

 

2人で過ごす聖なる夜は、突如計画変更して、性なる夜へと変わっていった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

あ、ちなみに言っておきますが、このシリーズ、八幡と風音の間の子供が独り立ちするまで書きますよ(真顔)。このシリーズが終わるとき、俺は一体何歳になってるのでしょう。現在16歳。今月誕生日。

また次回。


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35話:俺と彼女の初詣ミーティング

はい、どうも、アイゼロです。

最近あまり筆が上がらず、調子悪い日が続いちゃってます(汗)明日テストなのに、投稿してていいのかな(焦燥)

さて、いよいよ原作から抜け始めますよ。その前に球技大会編を書けって話だよね。はい、書きます。

それではご覧ください。



目を覚ました。部屋はカーテンの隙間から入る陽光で少し明るかった。

 

俺の隣には風音が気持ちよさそうに眠っている。全裸で。

 

帰宅後、風音に迫られた俺は我慢できずに処女を奪った。なんか言い方がアレだが他に思いつかない…。だから当然俺も全裸だ。敷いている白いシーツについている赤い血が今夜の出来事を物語っている。外からは鳥の囀りが聞こえる。これが所謂朝チュンというやつか。

 

時計を見ると、既に10時という大遅刻だ。まぁいっか。あんな激しい夜を送ったんだし。いやちゃんと優しくしたよ。ぶっちゃけすげえ気持ちよかった。

 

今更だけど、俺、童貞卒業した。

 

「ん……あ、おはよう八くん」

「おはよ。どうだ?調子は」

「腰のあたりに違和感あり」

「そうか。まあ中には出してないし。安心しろ」

 

出そうになったら一度抜いて外に出した。これ以上生々しい話はやめよう。

 

 

生徒会長と副会長が同時遅刻は異様だろうな。案の定、平塚先生に厳しく注意された。だけど、合同イベントの準備で疲れてたんだろうって注意だけで済んだ。きっと風音も向こうで同じこと言われてんだろうな。それもあるけど、やっぱ激しい夜を送ったから、腰痛なんだよね。なんて事は口が裂けても言えない。ましてやこの人の前ではな…。

 

「大丈夫?八幡。疲れ取れてる?」

 

彩加が心配そうに眉を八の字にしながら尋ねてきた。今日も可愛いな。

 

「疲れは取れてるんだがな。まぁ寝不足だ」

「風音は起こしに行かないんだ」

「風音も寝坊で遅刻だ」

「ええ、2人そろって?……ははーん、さては」

 

え?もしかしてお気づきでございますか?年頃の女子高生特有の妄想が働いてしまってます?おいやめろ、会長と副会長の不純異性交遊なんて知られたらとんでもないニュースだ。何より、彩加の前だぞ?

 

「クリスマスで浮かれて遅くまで遊んでたんでしょ!全くこれだからベタベタリア充は…」

 

凛がバカで助かった。隣の飛鳥を見ると、ハッと何か気付いた様子で若干顔が赤い。このビッチが。彩加も気づいてない様子だし、真実を察したのは飛鳥たった一人だった。後でからかってやろう。

 

「俺らの遅刻はどうでもいい。それより、今日が本番だ。気合入れろよ」

「て言っても昨日で準備ほぼ終わってんじゃん」

「そうだけど、取り敢えず俺と凛は会場の見回りだ。調理は風音と飛鳥、雪ノ下にまかせる」

「うん、まかされた」

「…八幡、僕って行っても大丈夫?」

「別に問題ないと思う。海浜も生徒会じゃない奴連れてるし」

「じゃあ部活が終わったら行くね!」

「分かった」

 

冬は部活終わる時間が若干短くなるし、イベントもそこそこ夜までやるから十分間に合うだろう。

 

 

「クリスマスイベントの会場はこちらでーす」

 

イベント開幕が迫る中、あちこちから案内の声が響き渡る。両生徒会の各自で呼び込みをしている。俺も一応案内しているが、一方的に話しかけられて困惑している。こういう時ってどういう対応したらいいのか全くわからない。取り敢えずマニュアル笑顔。すると

 

「あ、悪魔じゃ…」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」

 

おじいちゃんは震えながら狼狽え、おばあちゃんの方は何やら念仏を唱えている。いや悪魔じゃねえし、死んでねえから、失礼にも程があるだろこんちきしょう。

 

「おーい、そっちはだめ!こっちこっち。あそこの席空いてるから」

 

凛は園児の対応をしっかりとこなしている。その姿がなんか似合ってて、幼稚園の先生とか保育士に向いてるんじゃないかと思った。一人っ子のくせに子供の扱いが分かっているように見える。

 

「ねえお姉ちゃん!クリスマスなのに何でゾンビがいるの?」

「ぷ!…ち、違うよ。イ、イベントの案内をしてる人!」

「あのお兄さん人間なの!?」

「あっははははははは!!!」

 

とうとう限界がきたのか、腹を抱えて目に涙を浮かべながら爆笑する凛。あいつ絶対許さない。今からでも眼鏡を買いに行きたい!もうやだ!俺のライフはもうゼロよ!今俺の願いが叶うならば、眼鏡が欲しい!それでは聴いてください、眼鏡をください。

 

案内を一通り終えた俺は、心の中で替え歌を歌いながら、調理室に訪れ、暗黒オーラをまき散らした。俺のこの様子にケーキを作っている風音達は眉を八の字にしている。ああ、最早あまり心配されてないなこれ。

 

「ど、どうしたの?」

 

飛鳥がそう聞くと、後ろにいた凛が答えた。

 

「そ、それがね。ぷ、くく」

「いつまで笑ってんだよ……」

「………あー、成程」

「お?さすが彼女。やっぱり分かった」

「大体予想はついたよ。八くん、伊達だけど眼鏡渡しとく」

「おおマジか!サンキュー風音愛してる。できれば学校で渡してほしかった」

「私もすっかり忘れてて…。私も愛してるよ~」

「「いちゃいちゃしない!」」

「一応私もいるのだけれど……」

 

雪ノ下は呆れた顔でケーキに生クリームを塗っていた。お勤めご苦労様です。

 

 

イベントもそれなりの盛況を見せ、成功に終わった。

 

「ありがとう。おかげでいい思い出になった」

「そりゃよかった」

「機会があったらまたやろう!」

「いや、正直勘弁してほしい」

「ええ!」

「疲れたし、めんどい」

「いいじゃないか!ともにシナジー効果を生んで、もっと大きいイベントを!」

「じゃあ俺達が納得できる企画ができたらな」

「ふっ、受けて立とうじゃないか!見てろよ」

 

うええ、なんか俺挑戦状送りつけたみたいになってしまった。諦めさせようとしたのにかえってやる気にさせたらしい。受けて立つとか正直やりたくないから、勘弁してほしい。

 

「じゃあな」

「ああ。また次のイベントで会おう」

「風音ー、比企谷ー、またねー」

「じゃあねー、かおりー!」

 

海浜総合と別れを告げ、こうして合同イベントの幕は降ろされた。

 

凛がノリノリで打ち上げしようと言ってきたが、疲れてるから後日にやることになった。

 

 

「「ただいまー」」

 

比企谷家に入った俺と風音はカバンを部屋に置き、リビングに入ると比企谷家族と新島家族がテーブルとその上に乗った赤飯と七面鳥を囲っていた。毎年この家族でクリスマスを過ごしているのだ。…何で赤飯?

 

「何で赤飯なの?」

 

風音も気になったのか、親に問いかけた。けど、返事が返ってきたのは俺の妹小町からである。

 

「あ、小町が提案したの」

「え?どうして?」

「お兄ちゃんと風姉、大人の階段上ったんでしょ?そりゃ祝うしかないって。今の小町的にポイント高い!」

 

……………………。数秒の沈黙。今の小町の発言を理解するのに10秒程要してしまった。え、待て、何で知ってる?

 

「何で知ってるって顔してるね。そりゃ朝お兄ちゃんの部屋に行って、全裸の2人見れば一目瞭然でしょ?」

 

何いいぃぃぃぃぃぃ!!!ま、ま、まさかのあの光景を見られた!しかも妹に!ええええええ!!!

 

隣の風音は未だかつてない程顔を赤くして、顔を覆い隠してしゃがみこんでしまった。穴があったら入りたいと本気で思ったのは初めてだ。今すぐ逃げ出したいが、既に俺は白目で意気消沈している。

 

それなのに容赦なく、次は親の猛攻が始まった。

 

「「やっとかお前ら」」と、両父親

「「いつするんだろうってこっちが気になったわ」」と両母親。

 

嬉し半分呆れ半分の親共。何でそんな息子と娘の性事情を気にしていたのか。

 

そもそも第一発見者の小町はまだ中3なのにあの光景を見せてしまったことに少し申し訳なく思っている。今はけろっとしているが、きっと刺激が強くて迷惑かけたかもしれない。

 

「あー、悪いな小町。なんか見せちまって」

「本当だよ!ビックリしたんだから!お兄ちゃんたち起こそうとしたら、全裸で抱き合って寝てたんだから!明らかに事後じゃん!」

「おい小町、事後って言い方はよせ。ていうか本当にすんませんした。風音に迫られて我慢できなかったんです!」

「え、風姉から誘ったの?」

「やるわね、風音」

「もうやめてぇ!」

 

耐えきれなくなってそう叫んだ風音は、依然として顔が赤い><のような表情をした。このまま『演技ですからあ!』って言ってくれないかな。可愛すぎて俺の心がぴょんぴょんするから。ぶひぃ。

 

 

いたたまれなくなった俺達は一旦部屋に戻った。

 

「うぅ、まさかあんなに早く知られることになるなんて……」

「けど、よく考えたら予測できた気もするな。ちょっと急ぎ過ぎたか?」

「でも、私達付き合ってもう6年だし、婚約だってしたんだから……そろそろ、と思って」

「そうか。俺より先に我慢できなくなったんだな」

「う、言い返せないのが悔しい…。そ、そもそも八くんが何もしてこないからじゃん!」

「えー、俺はちゃんと結婚してからするつもりだったんだけどなぁ……。これに関しては風音が俺より変態だったとしか」

「そ、そんなことないもん!あんだけ私の体中舐め回しておいて!」

「おいおいおい待て待て!今それを言うな。恥ずかしくなってくるだろ!それを言ったら風音だって俺のちん」

「わあああああああ!言わないで言わないで!?」

「2人共いつまでそんな痴話喧嘩してるの!?早くしてよ!聞いてるこっちが恥ずかしい!」

「「は、はい!!」」

 

ドアが突然勢いよく開いたと思ったら、鬼の形相をした小町が鋭く睨み付けた。その小町から激しい叱責を受けた俺と風音は背筋をピンと伸ばし、礼儀正しい返事をした。目がライオンみたいで怖かったな……。

 

 

親から温かいまなざしをされながらも、席についてクリスマスパーティが始まった。基本こういうのは小町が仕切っているが、普段から会ってる仲だし、特にこれといった特別なことはしない。俺ら子供は精々親の談笑をBGMにゲームしたり、適当に喋ったりしている。

 

「どうだ?小町。勉強の進み具合は」

「うぇぇ、今話す話題それ?……」

「お前の受験が終わらない限り話すぞ。で、実際どうなんだ?」

「………微妙。それも全教科」

 

ふむ、どうやら相当追い詰められている状況だという事が分かった。

 

「先生はなんて言ってたの?」

「かなり頑張らないと受からないって」

「じゃあかなり頑張らないとね!」

「うぅ、風姉が鬼教官……」

「ま、小町にはそれくらいがいいんじゃないか」

「それどういう意味!?」

 

そのまんまの意味だ。小町は昔っから甘やかされて(主に親父)育ったから、かなり厳しめの方がちょうどいい。

 

 

年が明けると同時に、凛たちからあけおめのメールが送られてきた。Eメールとかじゃなくて、遠足以降全く使ってないLINEとやらに送られてきた。そして次に送られた内容は、初詣皆で行こうという話だ。

 

「家にいたい」

「ほら八くん行くよ。早くしないと遅刻する!」

「何でこんな寒い中人込みに行かなきゃいけないんだ……」

「さっさと靴履くごみいちゃん!折角誘ってくれたんだから」

「へ~ぃ」

 

これでもかというくらい防寒具を装備した俺は、両腕に彼女と妹に抱き着かれながら、強引に目的地へと歩きだした。両手に華だが修羅場かたらしにしか見えない。

 

 

 

「おまたせー」

 

集合場所に到着し、風音達と雑談をすること数分、最初に来たのは彩加だった。可愛らしく手を振りながらこちらに駆け寄ってきている。今日はかなり寒いから彩加の白い頬が若干赤くなっていて、もう眼福です。嗚呼、もう神様の悪戯としか思えない。

 

「戸塚さん、明けましておめでとうございます!」

「おめでとさん」

「おめでとうー」

「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」

 

新年の挨拶を交わし、さらに待つこと数分。凛と飛鳥とも合流した。

 

「お兄ちゃん、この人たちが生徒会メンバー?」

「そうだぞ。ほれ自己紹介」

「初めまして!お兄ちゃんの妹の比企谷小町です。お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」

「八幡の妹?可愛い!!」

「八幡とはあんまり似てないね」

「八幡!?今八幡って言いましたか!……ごみいちゃん………」

 

おい、今説明するからその軽蔑した目を止めなさい。別に愛人枠とかそういうのじゃないし、風音一筋だからごみいちゃん言うな。泣くぞ。

 

「なーんだそういう事か。いやいや小町はわかってたよ。お兄ちゃんが愛人とかそんな度胸ないって」

「分かってくれればいいがさりげなく俺をディスるのやめようか、妹よ」

「それにしても、お兄ちゃんにも親友と呼べる人ができるなんて、小町嬉しい。あ、今の小町的にポイント高い」

「まぁ、そうだな……」

 

俺が遠足でこいつらと知り合うまでは、小町はずっと俺の心配をしてくれてたんだ。あまりそういう面は見せなかったけど、時々風音に俺の事を聞いていて、心配させてると自覚したんだ。だから今こうして小町を安心させてやれたのは良かったと思っている。

 

「心配かけたな。俺はもう大丈夫だ、小町」

「ロットアイは?」

 

優しく頭を撫でると、無言でそのまま胸板に顔を埋めて抱き着いてきた。小町も結構なブラコンだと思うんだが。

 

「ブラコンだね」

「微笑ましいねぇ」

「兄想いなんだね♪」

 

風音以外の皆から、小町の第一印象が言い渡された。『ブラコン』だってさ。その声は小町の耳に届いたらしく、バッと勢いよく俺から離れた。ちょっと悲しくなってきた。もっと抱き着いててほしかった。

 

「小町は別にブラコンじゃありませんよ!」

「でも文化祭で思いっきり抱き着いてきたじゃねえか」

「お兄ちゃん黙ってて!?ていうかなんでそれ今言ったの?」

 

顔を赤くして涙目になった小町はその後も必死に説得したが、見事にみんなの優しい目で流されてしまった。そこまで必死にされると兄である俺は結構複雑な気分になるから、抑えてほしい。俺は抑える気ないけどな。小町の事だったら1時間は語れる。

 

持ち前のコミュ力であっという間にみんなと打ち解けた小町と共に、初詣を終らせた。小町は当然合格祈願。彩加達のは教えてもらえなかったが、俺と風音は小町と同じ合格祈願だ。無事総武高に受かって生徒会に入れてやりたい。中学時代楽しめなかった妹との学校生活を楽しみたい。俺の自分勝手な願望でしかないが、もちろん小町に勉強を無理強いさせるつもりは毛頭ない。

 

ふと隣の小町を横目に見ると、必死にお願いしているようなオーラがビンビンに感じれた。どうしても総武高に入りたいのか、はたまた結構やばい状態なのか。お兄ちゃんちょっと心配になってきた。わかんないところがあったら絶対に俺か風音に聞いてほしい。

 

「お兄ちゃんお守り買って♪」

「はいよ」

 

ねだられた俺は即座に学業成就のお守りを小町に渡した。巫女服っていいな。風音に着てほしい。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

そろそろ現在進行中のシリーズの進みが悪くなってきたので、新作出したいと思います。初のクロスオーバー作品です。俺ガイル×○○○です。いつになるかわからないけど、そちらも是非読んでいただけると嬉しいです。

また次回。


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36話:俺と彼女の料理教室バレンタイン

はい、どうも、アイゼロです。

えー、大変お待たせしました。続きです。

このシリーズも一年目に入りましたね~。時の流れは早い早い。一年前の読んだら、今と結構違ってて自分でもビックリした。

それではご覧ください。


ある日、生徒会メンバーで床にちりばめられた福豆を掃除している時、生徒会室のドアがノックされた。風音がちょっと待ってください!と言い、スピードを上げ、福豆を回収する。俺達は今、人間ダイソンだ。

 

「全く!凛があんなこと言うから、大変じゃない!」

「だって節分だもん!豆撒きたかったの!」

「そもそも何で俺達生徒会室で巻いてたんだよ!」

「八く~ん、終わらないよぉ~」

 

情けない声を出す彼女を横目に落胆する。事の発端は今日が節分だというわけで、凛が巻きたいと駄々をこねたのだ。誰も来ないだろうと思って許可したのが運の尽きだった。しかも警戒していた客も来たし。

 

「あの……」

 

扉越しから聞こえた客人の声に耳を疑った。聞き覚えのある透き通った声だ。全員聞いたことある声に一斉に扉の方を見る。すると、凛がドアを開けると、意外な人物が立っていた。

 

「雪ノ下さん!」

「こんにちは」

「どうした?こんなとこ来て。それと今汚いから、お前みたいな清潔な人は入ることをお勧めしない」

「どうやらそのようね。…私も手伝うわ」

 

何度か止めたが、結局頑固の雪ノ下に掃除を手伝ってもらった。それだけではなく、所々散らかっている所も、ついでに掃除しようと言われ、約30分生徒会室を掃除した。

 

「私物化してるのなら、もう少し綺麗に使ったらどう?そもそも何故ここで豆まきを……」

「すまないな。うちの会計が」

「私のせい!皆楽しそうだったじゃん」

「ありがとう雪ノ下さん。はい、お茶」

「ありがとう。八重島さん」

「それで、何でここに来たんだ?」

「相談があるのよ。…その、もうすぐバレンタインでしょ?」

 

…………ん?今こいつなんて言った?ばれんたいん?今の雪ノ下の発言を聞いた皆を見ると、表情が固まっている。

 

「ゆ、雪乃?もう一度言って」

「だから、バレンタインの事で相談しに来たのよ」

 

嘘……だろ……。あの火をも凍てつかせる鋭い眼光に、周りを寄せ付けない冷気を纏った氷の女王様がバレンタインなんていう乙女チックなものに興味を持ったのか………。ていうかこいつが人を好きになるところが想像できないんだけど……。

 

飛鳥は若干顔を赤くして手で口を押えている。凛はニヤニヤとに口角をあげていて、俺と風音は未だに理解が追いついていない状態だ。

 

「お前、雪ノ下雪乃か?」

「私今とんでもなく失礼なことを言われている気がするのだけど」

「雪ノ下さん、好きな人いるの?」

「私じゃないわよ。ちょっと依頼を受けたの」

「依頼?」

 

 

どうやら雪ノ下はバレンタイン関係の依頼を受けて、それを承諾したらしい。依頼者は俺らも知ってる人たちで驚いた。雪ノ下は奉仕部の理念に従って、皆の指導をするつもりらしいが、人数がそれなりにいるため、場所に困ってるから、ここに来たというわけだ。

 

「場所だけでも何とかならないかしら?」

「…クリスマスイベントで使った調理室を使えるか理事長に聞いてくる」

「助かるわ」

 

 

 

 

「どうだった?」

「二つ返事でOKもらったぞ……。いいのかあんな軽いノリで」

 

あの人が理事長でいいのか?企画について色々説明したのに、すぐ了承したから、まるで意味がなかった。

 

「良かったね雪乃。使えるって」

「…ええ、ありがとう」

「じゃ、企画書作るね」

 

書記の飛鳥は率先して企画書を書き始めた。

 

「そういや、材料はどうするんだ?そもそも何人くらいいるんだ?」

「あくまで予想だけど、10人くらいかしら。けど、それは仕方がないわね。皆に言って各々準備してもらうわ」

 

雪ノ下は礼を言って、生徒会室を出た。後は企画書を理事長に承認してもらい、日程と時間を教えるだけだ。場所は前行った事あるから、雪ノ下は覚えてるだろう。

 

「私達は参加しないの?」

 

凛が不思議そうに首を傾げそう聞いてきた。元々俺達は参加する気はないが、企画書を出すのはあくまで俺らだから、当日はその場に居合わすことになる。参加するのは可能だな。

 

「雪ノ下に聞いてみたらどうだ?」

「分かった!」

 

凛は颯爽と生徒会室を出た。そういや、凛だけ料理ができないんだったな。そもそも風音と飛鳥が凄いんだよな。一度飛鳥の弁当食ってみたけど、美味かったし。

 

「せんぱーーーーーい!」

「うお!……ど、どうした?」

 

凛が出て数秒後、勢いよくドアを開けて入ってきたのは、以前生徒会選挙の一件で知り合った一色いろは。サッカー部のマネージャーで葉山に好意を抱いている後輩だ。今は何故かジャージ姿で涙目になりながら、息が荒くなっている。何かあったのだろうか。

 

「せんぱい、大変です!」

「風音ー」

「はーい」

 

風音に一声かけ、冷蔵庫からいろはす天然水を持ってきてもらい、一色に渡した。いろはがいろはす飲んでいる。しかし、こんな焦っている様子だと結構な大事のように思える。来客だし、ちゃんと対応しなくてはいけないな。

 

「葉山先輩!チョコもらわないんですよ!どうしたらいいんですか~!」

 

………またバレンタインか。

 

 

「………というわけなんです!」

「成程ね」

 

要は先程言った事のまんまか。葉山はチョコを受け取らない。もしかして俺は食いきれない量のチョコを貰うからいらないという皮肉なのか。まさかね、あんな聖人君子(笑)なら1人残らず貰うはずだ。けど、いらない、か。確かに俺も気になってしまう。

 

「単純にチョコが嫌いなんじゃねぇの?」

「そんな事ありません!この間、差し入れのチョコ食べてました!」

「じゃあ何でだろうな。そもそも何故俺の所に来たんだ?」

「え?先輩と葉山先輩仲良いじゃないですか」

「よし、その認識は改め直せ。ただ同じクラスでたまに喋るただの知り合いだ。OK?」

「球技大会一緒に出てたじゃないですか!」

「あくまで人数合わせだ。俺は友達いないからな!」

「……なんか、すいませんね」

 

やめて、その同情した悲しい目で謝らないでくれ、俺が虚しくなるだけだろうが。

 

「ふん、俺は別に役員だけで十分楽しんでるし、彼女いるからぶっちゃけお前よりいい思いしてるぜ?おい?」

「うわ、何でしょう、今物凄く目の前の先輩を殴りたいと思いました」

 

真顔で怖い事を言ってきた。今のドスの効いた低い声は一体どこから出したのやら……。三竹蘭ちゃんに似てたぞ。ていうか、早くアフターグロウのガチャ来いよ。一体いつになったら俺のスターを消費させてくれるんだ。もう溜め過ぎて5000個超えたぞ。

 

「それよりも、葉山先輩にチョコ食べてもらいたいんです!

「いや、そう言われても葉山が食わないって言ったんじゃ、もう無理なんじゃないか?」

「それを何とかするために、ここに来たんじゃないですか!」

 

何で好きな先輩にチョコを渡すために相談する場所が生徒会室なんだよ…………。学校の便利屋と勘違いしてないか?あながち間違いでもないんだろうけど。ていうか奉仕部は?これこそ奉仕部の専売特許なはずなんだが…。

 

「そうだよね!やっぱり好きな人にチョコ食べてもらいたいよね!」

「分かるよいろはちゃん!私も毎年八くんにチョコ食べてほしいもん!」

「ほら先輩!女の子にとってバレンタインはと~っても大事な日なんですよ!」

 

……………はぁ。

 

 

「つーことがあったわけだ」

「そ、そうか。君が珍しく誘ったから、何かと思ったらそういう事だったんだな」

 

呆れた顔で溜息をつきながら、コーヒーを啜る人物は、今回の重要参考人である葉山隼人だ。以前生徒会選挙で世話になったこともあり、その時飯を奢ると約束したためサイゼリアに来ている。

 

「で、何で貰わねえんだ?」

「答えに困る質問だな……。まぁ一つは食べきれないんだ」

 

あ?なんだこいつ喧嘩売ってんのか?今葉山はモテない男子全員を敵に回したぞ。

 

「言っとくが皮肉じゃない。本当の事だから」

「うるせえ俺は自慢を聞いてるんじゃねえ。それで、もう一つは?」

「昔の話なんだけど、中学一年生の頃かな。その時もバレンタインでチョコを貰い過ぎて、さすがにもう食べきれないと思ってんだ。それで、限界がきて拒否したら、泣かしちゃってね。それ以来、チョコは貰わないようにしてるんだ」

 

てっきり葉山なら全部食いそうだと思っていたけど、モテる男子もそれなりに苦労してるんだな。貰われなかった女子も可哀想だとは思うが、葉山がモテる事は周知の事実だから、工夫して配慮もできたはずだ。これに関してはどちらも悪いだろう。

 

「というか、いろはが相談した事、俺に言っても良かったのか?」

「お前に聞くのが一番手っ取り早いだろ」

「君もデリカシーがないな。彼女持ちのくせに」

「うるせえ。俺にそんなもの求めるな」

「まぁ、君が何を言おうと俺は貰う気はない」

「…………そうか。分かった」

 

葉山本人から断言された以上、もうどうすることもできないな。一色には悪いが諦めてもらおう。

 

「そういえば、優美子と姫菜が雪ノ下さんにチョコの作り方を教わるそうだよ」

「ふーん、それで?」

「君がそれに関与していると仮定しよう。……さっき言ったように俺はいくら優美子たちに作ってもらっても貰わない。………ただ、いろはと俺もそこへ連れてって『試食』という形にすれば、俺は食わざるを得ないよな?」

「お前……」

「じゃあ俺はもう行くよ。何とは言わないけど、頑張りな」

 

そう言って葉山は腕時計を確認しながら、サイゼリアを出て行った。確かに葉山の言う通り、これなら一色の相談も解決するし、葉山は貰わないことを知らない三浦たちも悲しむことがない。取り敢えず解決方法は分かった。三浦たちは一色から聞かせよう。

 

しかし、まさか本人から解決策を教えてくれるとは思わなかった。試食なんて考えに至らなかった自分がなんか悔しい…。あいつ意外と頭が良いんだな。

 

 

 

 

「まぁ、そんなわけだ。昼休みにでも三浦たちに知らせてこい」

「何で葉山先輩に直接言っちゃうんですかぁ!」

 

葉山に解決策を教えてもらった日の翌日。朝のHRが始まる前に一色のクラスへ訪れ、事の顛末を話した。折角教えたのにも関わらず、何故かご立腹である。

 

「何怒ってんだよ……」

「サプライズであげたかったんですよ!」

「そんなこと知るか。食ってもらえるようになっただけでもありがたいと思え」

「むぅ…。まぁ、食べてもらえるならよかったです。先輩、ありがとうございます」

「礼なら葉山に言え。今回はあいつに助けられた」

「はい、そうします」

 

一色は元気よく笑顔で教室に戻り、友人の輪に入っていった。あいつ女友達いたんだな。人の事言えないけど。

 

教室に戻る最中に風音に、一色もチョコづくりに参加することを電話し、雪ノ下に伝えるよう頼んだ。場所提供するだけのつもりが、まさかこんなに苦労するとは思わなかった。

 

…そういや忘れてたけど、凛達は参加するのか聞いてなかった。今風音に聞いてみよう。

 

「どうしたの?」

「風音達もチョコ作んのかと思ってな。ほら、色々を手間も省けるだろ」

「あー、作るよ。雪乃にも許可貰ったし。折角借りたからね」

「そうか。楽しみにしてるな」

「まかせなさーい。今年も美味しいの作るから!」

 

風音のチョコは不思議なことに年を重ねるたびに美味くなっているのだ。一度そのことが気になり、中学二年の時に風音に聞いたところ、年を増えると同時に八くんへの愛情も増えているのです!とめちゃくちゃ恥ずかしい事をどや顔で言われたっけな。

 

 

以前クリスマスイベントで使われた厨房施設は、チョコの甘い匂いが漂っていて、空腹感が増している。

 

「皆張り切ってるな」

「そりゃあ、奉仕部に依頼するほどだからな」

「まさか、本当に君が関わっていたとは思わなかったよ」

「はっ、いくら何でも白々しすぎるぞ。性悪イケメン」

 

悪戯な表情で隣に移動した葉山は苦笑しながら、チョコづくりに励んでいる三浦たちを見つめている。以前は雪ノ下と三浦は仲が悪いようだったが、今は特に揉めることなく、雪ノ下の言った通りの手順で着々と作り上げている。由比ヶ浜の姿が見当たらない限り、まだ奉仕部との蟠りは解けていないようだ。原因は突き放すような発言をした俺なんだけど…。

 

風音の方も見たいが、お楽しみは取っておきたいため、敢えて見ない。

 

しかし、料理ができないと豪語していた凛も割と上手くできているように見える。ちゃんと雪ノ下の意図もくみ取っているようだ。一体誰にあげるのかは知らないがけど、そもそも凛は恋愛にはまだ興味持っていないと言っていたし。

 

「八くん、あ~ん」

 

横から突然現れた風音にチョコが乗ったスプーンを差し出され、それを口に運んだ。

 

「…うめぇ……」

 

思わず声に出してしまう程の美味さだった。何でだ?また去年よりも美味くなっている。……このまま年と共にチョコも進化させてけば、GOD〇VAが百均と思えちゃうチョコが作れるんじゃないかと本気で疑う。

 

「なぁ、また進化してないか?一体何をしてんだ?」

「八くんへの愛情♪」

「お前高校生にもなってそんな恥ずかしい事言うなよ」

「事実だからね。愛してるよ~」

「はいはい、俺も愛してるよ」

 

鼻歌交じりで風音はチョコづくりを再開した。しかし、あの美味さは今年もかなり期待できる。

 

「あー、暑いなー。2月なのにここは暑い」

「なんだその小学生みたいな冷やかしは」

「俺も、お互い信頼できる恋人がほしいな」

「あ、お前好きな人いんだろ?Yって奴」

「覚えてたのか……」

「誰だ?雪ノ下か?三浦か?由比ヶ浜か?それとも飛鳥か?」

「そんなグイグイ質問するな。俺が教えるわけないだろ」

「分かってるよ。……まぁ、でも飛鳥は無いだろうな」

「ちょっとそれ私に失礼じゃない!」

 

あ、聞こえてらっしゃった…。

 

「葉山せんぱーい、試食お願いしま~す♪」

「ああ、今行くよ」

 

一色はあざとさ前回の甘ったるい伸びた声で葉山を女子の集団の輪へと誘った。何度も言うが、モテる男は大変なんすね。……何故か一色は一口葉山に食わせた後、こっちに寄ってきた。

 

「はい、せんぱい」

「いいのか?」

「葉山先輩にチョコ食べてもらえたのも先輩のおかげです。そのお礼」

「そうか、なら遠慮なく」

 

……おお、中々いける。そういえばこいつ、雪ノ下にほとんど教わっていなかった気がするな。もしかして、料理できるのか。意外だ。

 

「美味いな」

「やった♪あ、ちなみにそのスプーン葉山先輩も使ってました!」

「ぶふ!」

「はや×はちキマシタワー!!」

「ちょっ!姫菜擬態!鼻血がチョコにかかるし!」

 

一色の一言で大惨事になっている。おい葉山、こっちを見るな。今見たらさらに酷いことになるぞ。あの腐女子のせいで。

 

一色は何食わぬ顔で自分の場所に戻り、再開した。

 

 

 

 

風音から大本命のチョコを貰い、その他にも飛鳥や凛、三浦や海老名に一色、さらに雪ノ下と川崎にも義理を貰った。場所提供と葉山拒食の件のお礼だそうだ。こんなにチョコもらえるなんて生きてきた中で初めてだな。昔から風音のだけで満足していたが、これはこれで嬉しい。結局葉山は貰わなかったらしい。ここなら人目がないのに、もったいない奴だ。

 

こうして、雪ノ下の料理教室も終わり、各々帰途に就く。……しかし、ただ一人だけが、自宅とは違う方向へ歩いていくのを、俺は黙認していた。

 

 

「なんだろう、話って」

 

僕、戸塚彩加はテニススクールが終わったころ、とある女子から話があるとメールが届き、その場所に向かっています。女子のお誘いなわけだから、僕も男子だし当然何とも思わなくはない。本能かどうかは知らないけど、自然と気持ちが高揚している。

 

言われた集合場所に辿り着くと、既にその女子がそこに立っていた。

 

「お待たせ、飛鳥」

「ううん、そんなに待ってないよ、彩加」

「それで、話って?」

「……これ、受け取って」

 

飛鳥の手から差し出されたのは、綺麗にピンク色でラッピングされた物だった。そして、今日はバレンタインだったと気付いた僕は、中身がチョコだという事をすぐに理解した。

 

僕はそれをありがたく受け取り、少し興奮気味にお礼を言った。

 

「ありがとう!飛鳥、嬉しいよ!」

「…喜んでもらえて嬉しいな。一生懸命作ったから」

「僕のために…。そう言われると余計嬉しくなるよ。開けてもいい?」

「え!あ、できれば、家に帰ってからでお願い……」

 

飛鳥は顔を赤くしながら、それを悟られたくないかのように口元をマフラーで隠した。僕にはそれがよくわからなかったけど、言う通りにしようと思った。

 

「分かった。今から家に帰るのが楽しみになった♪」

「…ふふ。受け取ってくれてありがとう。じゃあ、また明日」

「うん!また明日ね。お休み」

「おやすみなさい」

 

 

 

 

家に帰った僕は着替えを済まし、もらったチョコと対面している。何でか分からないけど、ちょっとドキドキするな。今まで何度かチョコは貰ったことはあったんだけど、このドキドキは初めてで少し緊張しちゃってる。

 

「よし」

 

開けてみればわかる、と僕は思い、丁寧にラッピングを解いて、チョコを露わにした。

 

チョコは、ハート型のチョコで、チョコペンで文字が書かれていた。書かれていたのは、『Dear Saika』。Dearの意味は、親愛なという意味で、直訳すると、『親愛なる彩加へ』。

 

「え?…飛鳥?」

 

僕は自分の手を頬に当てる。いつもより熱く感じ、心臓の鼓動がテニスをした後のように速くなっていた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

Twitterでも言ったけど、クラスメイトに読んでもらって面白いと言ってもらえました。嬉し恥ずかし、きゃーー!////

また次回。


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37話:俺と彼女の外出ストーキング

はい、どうも、アイゼロです。

もうタイトルが苦しくなってきた。どうすりゃいいんだこれ……。ここまで来たらもう突き通すしかないし。本当に微妙な所だ。

それではご覧ください。


バレンタインから数週間が経った今、とうとう小町の受験の日が訪れた。

 

「では、行ってくるであります!」

「おう。精一杯やれよ」

「今まで得た知識を全部搾って頑張ってね!」

「もうちょっと普通の応援が欲しいんだけど……。うん!小町頑張る!」

 

自信にあふれた小町の返事をもらい、俺と風音は見守るように見送った。小町の背中は、いつもより大きく感じた。

 

「八くん、今からデートしよ」

「どうした?急に」

「なんか、落ち着かなくて」

 

落ち着かないのは俺も同様で、妙にそわそわしてしまう。きっと俺達が受験するとき、親もこんな感じ……だったのか?俺ら学年主席と次席とるくらいだったから、そこまで心配されてなかったかもしれない。

 

「そうだな。俺らがそわそわしたって仕方ねぇし。どこか行くか」

 

 

今日は高校受験当日だから、高校生の私は休みだ。最っ高だね。というわけで暇だったから、飛鳥を誘って遊びに外へ出ました。

 

「何するの?」

「決めてない」

「相変わらずの無計画だね」

 

基本私は予定は組まないようにしている。しようと思えばできなくもないけど、予定通りにする自信がない。それに、先に決めちゃったら、遊びたい場所があった時に行けないし、予定が狂ったら何故か落ち込んで存分に楽しめない。だから、こうして自由に歩いている。飛鳥といるのも楽しいし。

 

「はい、凛」

「ありがとー♪」

 

飛鳥はたまに自分で作ったお菓子を私にくれる。うん、美味しい。

 

「……ねえ凛。あれって八幡たちじゃない?」

「ん?…んー、そうだね」

 

目を凝らして飛鳥の視線の先をみると、我が生徒会の会長と副会長が並んで歩いている姿が見えた。確実にデートだね。

 

「よし、後をつけよう」

「え、ダメだよ!のぞき見なんて」

「飛鳥、考えてみて。四六時中一緒にいる男女がどんなデートするのか気にならないの?」

「うっ、それは確かに気になるけどさ」

「ほら、行くよ!」

「ちょっと~!」

 

こうして、私達の甘いバカップルへの尾行が始まった。八幡って風音と2人きりの時は眼鏡外してるんだ……。

 

 

八幡たちを追い続けて数十分。最初に辿り着いたのはあまり人がいないバッティングセンターだ。デートスポットとしてはそこまで有名じゃない場所だ。そもそも風音って運動できるのかな?

 

風音はどうやらバッティングは自信が無いらしく、速度60キロの所に入った。対する八幡は80キロだ。こっちは少し予想外で以外にも遅い方を選んでいた。これって、彼氏側が打って彼女側が傍観するものじゃないの?

 

「当たった!」

「何で凛が楽しんでんの!」

「だってただ打つ姿見るのもなんだし」

 

速度のコースごとに壁があって助かった。これなら見つからないし、声さえ出さなければ気付かれないで済む。本当に凛は行き当たりばったりで付き合わされるこっちの身にもなってほしいよ。もう慣れたけどね。

 

私は再び2人のバッティングを見ていると、風音が受付カウンターの横のショーケースの中を見ていた。中に入っていたのは、ホームランの的に当てた人へ送る景品のブタのぬいぐるみだ。もしかして、アレが欲しいのかな?

 

「どうした?風音」

「八くん、あのぬいぐるみ欲しい」

「あれか。でもあれ、獲得条件が120キロのだぞ」

「八くん、使って」

「…はいよ。使えるもんは使っとくか」

 

突如、八幡の目が泥水が入っているかのように濁りだした。久しぶりに見た、八幡のロットアイ。ず、ずるい!

 

そして、八幡はロットアイで軽々と120キロの速球をホームランの的に当てた。やっぱりすごい。……けど力入れすぎ。ホームランの的ヒビ入っちゃってるじゃん!

 

「ありがとう八くん」

「お前本当にぬいぐるみ好きだな」

「うん、触り心地いいからね。可愛いし」

 

風音は嬉しそうにブタのぬいぐるみを抱きしめている。この時だけ幼さを見せられて可愛いと思った。なんだろう、女子からしてもあの笑顔は思わず頭を撫でたくなるね。

 

「うわあ、抱き合ってる……。外では普通にカップルしてると思ってたのに、どこでもするんだ」

 

凛が珍しく戸惑いながら、あの光景を見ている。なんか、見てるこっちが本当に恥ずかしくなってくる。未だにあの甘い光景には慣れていない。

 

 

 

 

 

次に八幡たちが入ったのは、大型ショッピングモールにあるおしゃれな喫茶店だ。私達は八幡たちが入った数分後にばれない位置に座り、観察中。今更だけど、良い趣味とは言えないね。でもここまで来たんだから、最後まで見てやる。

 

「美味しいね♪ここのスイーツ」

「飛鳥本当に甘い物に目がないね……。まぁ美味しいけど」

「そっちの少し貰っていい?」

「じゃあ交換ね」

 

凛から貰ったケーキを食べながら、八幡たちのいる席に目を向ける。……向こうも交換し合ってるようだ。ただし、食べさせ合い…。周りの目なんて気にしていない様子だ。一部の店員さんはこの光景を見て微笑ましいのか、笑顔を絶やさないでいた。

 

「はい、あーん」

「別に対抗しなくてもいいでしょ……」

「そう言いながら食べてるじゃん」

 

 

 

 

そろそろ日も沈む夕方の頃、八幡たちはホテルが並ぶ道を進んでいる。結局ずっとストーキングしてしまって、それは今でも続行中だ。

 

けど、さすがに飽きてきたから、ここまでにしよう。これ以上の尾行なんて失礼だし、なんか罪悪感が……。

 

「凛、もう帰ろう」

「そうだね。取り敢えず、八幡と風音がどれだけバカップルなのかは嫌という程思い知ったし」

「あはは、それは確かにそうだね…」

 

他愛の無い会話を凛と楽しみながら、家路に就く。就こうとしたが、それは横から現れた集団によって遮られた。

 

「なぁんだ?こんなとこに女2人なんて不用心だなぁ?ひひ」

 

その中の1人が金属音を鳴らしながら、嫌な笑みを浮かべて近づいてきた。それに倣って周りの人たちもニヤニヤとしだす。気持ち悪い。

 

「どいてください。私達帰るので」

 

凛は私の手を強めに引っ張り、この場を抜け出そうとした。だけど、それも憚れてしまう。

 

「おいおい、ここがどこだか分かんねえで来たのかぁ?明らかに誘ってんだろ?」

 

気味の悪い男の発言に、私は周りの建物を見回した。よく見ると、ピンク色の看板が多くて、明らかにそういうホテルなのだと、今更ながら認識した。それと同時に、嫌な予感が頭をよぎる。

 

「おいこいつら連れてけ!久しぶりの上玉だぜ!」

『おう!』

「…っ!来ないで!」

 

リーダー的な男の合図とともに、私達を取り囲むように近づいてきた男たち。……怖い、嫌だ。恐怖心で体が震えて、腰が抜けてしまう。隣の凛も、私の手から伝わるほど震えている。足も言う事を聞かず、固まって動かない。

 

こんなことなら、最初から尾行なんてするんじゃなかった……。涙目のせいで視界もぼやけている。助けて……彩k

 

「ってぇ!?」

「「え?」」

 

私の腕を掴もうとしていた男は、突如叫び声をあげながらその場にひざまずいた。顔を手で押さえて、その手の指の間から、血が流れていて、あまりの痛さに唸り声をあげている。

 

何が何だか分からずに、ただその男を見ていたら、すぐそばに転がっているテニスボールに気づいた……。もしかしてと思い、私はボールがボールが飛んできたであろう方向に目を向けた。

 

向こうには、テニスラケットを構えた1人の男。容姿は女子だけど、頼りになって男気がある、私の想い人。戸塚彩加だった。

 

「ああ?なんだ?ってあっちも女かよ」

「僕は男だ。…それよりも、その子たち解放してくれないかな?僕の大切な人達なんだ」

「ハハハハハ!!そう言って解放するやついるかっての!おいお前ら、あいつも捕まえちまえ」

 

リーダーは気味の悪い高笑いをして、彩加を捕まえさせようと部下に命令した。だけど、それに応えられる人は、既に一人もいないことを私達は知っている。

 

「ったく、何やってんだよこんなとこでよ…」

 

既に私達の会長、ロットアイ状態の八幡によって殲滅させられていた。私達にはそれらが速すぎて、気が付いたら全員が虫の息になっている。……多分、力を入れすぎたのか、10Mくらい吹っ飛んでいる男もいる。

 

「大丈夫?2人とも」

「ありがとう、風音…」

「……怖かった」

 

八幡の隣にいた風音は私達の肩を掴んで、自分の方に抱き着かせた。その瞬間、さっきまで震えていた恐怖心が消え、代わりに目から大粒の涙が流れ始めた。

 

「もう大丈夫だよ。八くんと彩加がいるから。…………………泣いている所悪いけど、後でお説教ね♪」

 

聖母のように優しかった声音は、突如冷たい声音に変わり、笑顔はそのままだけど、目が全く笑っていなかった。嗚呼、今までにない程怒っている…。その怒りのオーラを発している風音に肩をビクつかせた私と凛は、すぐに涙が止まった。

 

「「はい…」」

 

 

 

 

全く、バカでかいボールが打つ音が聞こえたと思ったら、まさか飛鳥と凛が襲われてたなんて想像もつかないだろ。ていうか、テニスボール打つだけで普通あんな音鳴らねえよ。どんだけ彩加強く打ったんだ……。

 

その彩加は、飛鳥たちを襲おうとした集団のリーダーの横を通り過ぎて、俺の所に駆け寄った。

 

「ナイスショットだ彩加。ぶっちゃけアレなかったら気付かなかった」

「僕も八幡たちが近くにいたなんて思わなかったよ!それに…………僕今でも怒ってるから」

 

そう言って彩加は完全に無表情になり、男を睨みつけた。ここまで彩加が怒りを露わにしているのは初めて見た。いつも笑顔を振り撒く天使から、怒りで堕ちた堕天使と化している…。怖え、今度から彩加を怒らせるのはやめておこう。

 

「な、何だお前ら!?いきなり何を………。お前、ヒキタニ…!」

「あ?……あー、お前よく見たら、あの時の主犯格の1人じゃねえか。随分と落ちたもんだな」

「うるせえ!?俺はお前のせいで人生狂わされたんだよ!?」

「自業自得だろ」

 

こいつは、小学生の時俺をイジメていた主犯格の1人だ。そして、こいつの振りかぶったカッターで、俺の肩に傷をつけた張本人。主犯格は全員転校したんだが、こいつは千葉に残ってたんだな。にしても、てっきり改心すると思いきや、こんなになるとはな。

 

「まさかここで因縁の奴が現れるとはな!?何をしたか知らないが、借りは返させてもらうぞ!?」

 

男は懐からカッターを取り出し、刃を限界まで伸ばし、大きく振りかぶりながら走ってきた。同じ事する気かよ。

 

カッターが俺の眼前に来る直前に男の手首を掴み、徐々に力を入れながら握る。次第に男は苦痛の声をあげ、悶えた。カッターと手が離れた瞬間、男の鳩尾に拳を一発。男の身体は力が無くなって、その場にゆっくりと倒れた。

 

「ふぅ。……やばい、久しぶりに長く使ったせいで負担が凄いな。飛鳥、凛、大丈夫か?」

 

肩で息をしながらも、後ろにいた役員の安否を確認した。

 

「うん。…ありがとう、八幡、彩加」

「ごめん。迷惑かけて」

 

2人は暗い表情のまま、俯いてしまった。

 

とにかく、落ち着かせるため、近くのファミレスに入ろうと提案して、行くことになった。まず、俺も休みたい。今は立ってるだけで精一杯のせいで、彩加に肩を借りている。

 

 

「さぁて、人様のデートを尾行した挙句、襲われそうになって、俺達に助けられたわけだが?何か言い訳は?」

 

サイゼリヤのテーブル席で私と凛は八幡に怖い顔で問い詰められています。これに至っては何も返す言葉がない。

 

「「ごめんなさい………」」

 

正直に私と凛は頭を下げて謝った。

 

「ったく、心配させやがって。彩加がいなかったらやばかったぞ」

「もう2人だけであんなとこ行っちゃだめだよ!ちゃんと周りを見てね」

「「以後気を付けます」」

 

彩加に助けられたことに嬉しいと感じたけど、それ以上に心配を掛けてしまった罪悪感の方が大きい。

 

その後も八幡たちから無事でよかったと安心されて、その場の暗い雰囲気はほとんどなくなった。なんていうか、切り替えが早すぎてこっちがついていけないんだけど………。

 

「ところで、いつから尾行してたの?」

 

段々と笑顔を取り戻した私と凛に、風音が真剣な目で質問をしてきた。やっぱり覚えてたか………。その質問に隣にいた凛が、気まずそうに呟くように答えた。

 

「バ、バッティングセンターの前から」

「それ最初からじゃん!?じゃあ、私が八くんに甘えてる光景も……」

 

顔を真っ赤にした風音の言葉に、私達はうんとしか言えなかった。正直あれはこちらも恥ずかしくなるほど甘い光景だった。

 

風音は両手で真っ赤に染まった顔を押さえて、俯いてしまった。可愛い、なんかこう、庇護欲を掻きたてられる。

 

「今更恥ずかしがらなくてもいいだろ」

「逆に何で八くんそんな落ち着いてんの!」

「いつもの事じゃねえか」

「そうなの!?」

 

どうやら風音には無自覚だったらしい。今でも、たまに私達の前で八幡に甘えている姿を見せているのに……。

 

自然と私は笑みをこぼした。凛も八幡たちの面白い言い争いに笑っている。もうあんなことは忘れよう。そう思った私も、彩加たちとの会話を楽しんだ。

 

「あ、心配かけた罰として、飯はお前らのおごりだからな」

「「………はい」」

 

 

家に帰ったら、既に小町が晩御飯を作って食べていた。

 

「へえ、小町が必死に受験してるときにそんなことがねー」

 

小町にデートの途中で遭った出来事を話した。小町は感心しながら、自分で作ったカレーを頬張っている。

 

「本気で怒った戸塚さん。小町興味あるなー」

「凄かったぞ。天使が堕天したからな」

 

あの時は突然無表情になって、彩加が怒りを露わにしたから、俺も驚きを隠せなかった。

 

けど、それよりも驚いたことがあった。それもそのはずだ。ロットアイという能力は、俺の心理を映したものでもある。誰も信じられなくなり、人間嫌いになった俺のモノクロを表した世界。ロットアイは風音と小町以外、皆白黒のはずだった。

 

それなのに、彩加、飛鳥、凛。この3人は、ロットアイ状態でも色がはっきりと認識されていたのだから。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

さて、どうしようか。このシリーズは八幡と風音の子供が独り立ちするまで書くと言っちゃいましたが、大丈夫なのか……。これ完結するとき、俺とっくに社会人になってる気がする。今のペースだと間違いなくそうなる。

ここからはほとんどオリジナルで、たまに原作キャラと絡ませる方向にいきます。主に葉山とか雪ノ下かな。もしかしたら、あの由比ヶ浜も、無きにしも非ず(今の所ね、確証はない)。

次回は八幡たちは高校三年生スタートです。ストーリーは亀進行だと思いますが、付き合ってくれるとありがたいです。

また次回。


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38話:俺と彼女の進級セパレート

はい、どうも、アイゼロです。

38話突入。

ちょっとここからブーストかけていきますよ。活動報告で文字数少なくして更新頻度を上げてほしいと言われたのでお望み通りそうします。

それではご覧ください。


ついに高校三年生になっちまった。時が立つのは早いものだと毎年思わされる。きっとすぐに社会人にでもなってしまうのではないか。

 

それにしても、一年経ったのか……。

 

この1年間は今までの、これからの人生の中でも一番濃く、刺激的な一年を迎えたと思う。いや間違いない。人に興味が無かった俺が部活に入れられて、友人ができて、生徒会長になった、童貞捨てた、これは関係ないか。

 

人間的に成長した一年でもあった。一年経ったというのに、このような出来事がつい最近起きたかのように錯覚してしまう。時間というのは不思議だ。

 

「同じクラスになれるといいね、八くん」

「お前は国際教養科だろ。第一お前理系の方が得意じゃねえか」

 

隣を歩いている彼女、風音も少し変わったところが見受けられた。俺に友人ができたことによって俺に対するイジリが多くなり、悪戯もよくしてくる。

 

「お兄ちゃん、何かいい事あったの?目に光が灯ってる」

「いや、一年経ったんだなってちょっと耽ってた」

「そっかぁ。確かに一年前のお兄ちゃんと今のお兄ちゃん比べたら月とすっぴんだからね」

「スッポンな」

 

もう1人隣を歩いているのは、総武高の制服を身に纏った小町だ。見事に総武高に合格し、俺と風音から合格祝いでプレゼントした水色のリュックを背負っている。何度見ても可愛い。

 

横から凛を先頭に飛鳥と彩加が現れた。

 

「あ、八幡おはよう」

「よう。お、彩加もいるのか」

「さっきそこで合流したんだ」

「良かったね~飛鳥」

「うるさい!」

「小町ちゃん制服可愛いよ」

「ありがとうございます戸塚さん」

 

飛鳥をいじる風音と凛。誰にも言っていないのに飛鳥が彩加を好きなのは周知の事実となってしまっている。その彩加は小町と話している。身内じゃない女性に制服可愛いと言える彩加ってすごいと思う。未だに男なのかと疑ってしまう場面が多い。

 

凛が俺の方へ向き、口を開いた。

 

「同じクラスになれるといいねぇ」

「そーだなー」

「うん。超どうでもよさそうだね」

「別に放課後会えるからな。もし、違うクラスになっても俺のボッチ飯が復活するだけだし」

「会長がボッチ飯ってどうなのよ………」

 

割とありだとは思うぜ。ただ会長になっただけで、あくまで戻るだけなのだから。久しぶりにベストプレイスに行ってみようか。

 

高校三年生からは文系理系にクラスが分かれるが、この場にいる普通科は全員文系を選んでいるため、同じクラスになる可能性は十分にある。唯一国際教養科である風音は可能性ゼロだ。

 

「そういえば、どうして八幡と風音ってクラス分けようとしたの?八幡だって教養科余裕でしょ」

「そうだけど、理由は2つある」

 

まず一つは、国際教養科は9割が女子を占める。男子は1人か2人という極わずかな人数しかいない。そのせいか年々教養科に入る男子が減っているのが事実。あそこに入った男子を俺は尊敬に値すると思っている。

 

2つ目は……

 

「俺と風音は昔から一緒にいるんだ。家も目の前、生まれた病院も誕生日も一緒。本当にいつも一緒なんだ」

「けど、ずっと一緒なのも考え物だと思ってね。そこでお互い違う科に行こうってことにしたんだ~。私は元々教養科に興味持ってたし」

「というわけだ」

 

歩きながら、長々と説明すること数分。話を聞いた一同は意外だという顔をしている。

 

「なんだかすごいまともな理由だね」

「ちょっと想像してたのと違う」

「小町も初めて聞きました」

 

一体どういう考えをしていたのかはこの際聞かないことにした。とにかくずっと一緒にいるとお互い甘えてしまう事を危惧しての選択だ。

 

「けど、あまり意味なかったよね。結局放課後イチャイチャしてるし」

「自分で言うかそれ」

 

そう言って腕に抱き着いてくる風音。こいつの言う通り、あまり意味を成さなかったかもしれない。実は俺より風音の方が甘えてくるのだ。おそらく皆は逆だと思っているかもな。

 

飛鳥と凛は呆れたように口を開く。

 

「この光景はいつまでも慣れそうにないね」

「僕もたまに恥ずかしくなるかな…」

「小町は慣れましたよ……。物心ついた頃から一緒でしたから…」

「なら、慣れるまで今まで以上にくっついてあげようか?」

『いらん』

 

 

 

 

 

 

進級直後はすぐに授業は無く、説明を受けたり、資料を渡されるくらいだ。新一年生のやることはどこの学校でもお馴染みの学校案内。

 

ちなみにクラスはというと、やはりそれぞれ違うクラスとなった。俺はF組。彩加はB組。凛と飛鳥がC組だ。俺が一番離れた教室になっている。風音は変わらずJ組だ。

 

だが、前と同じクラスの奴も少なからずいる。よりにもよってあの葉山達だ。おかしいだろ。何故俺ら生徒会は離れたのに、葉山グループの文系組はくっついているんだ……。葉山に由比ヶ浜、三浦か。戸部は理系に行ったのか……。意外過ぎるが、おそらく海老名目当てではないかと予想しよう。

 

 

昼休みになり、風音が作ってくれた弁当を片手に、久しぶりのベストプレイスへ向かう。凛たちと昼を共にして以来あまり行っていないから、半年ぶりになる。今の季節だと景色も良くて風当たりもよさそうだ。

 

目的地に着き、弁当を口に運んだ。うむ、絶品。弁当を食いながら、テニスコートで練習をしている風景を見る。彩加の姿は見えるが、あいつは一体いつ飯を食べているんだ?

 

「あ、お兄ちゃんいた」

「せんぱ~い」

 

聞き覚えのある2人の声がした方へ振り向く。すぐ隣に小町と一色がいた。何故?

 

「お兄ちゃんこんな可愛い後輩がいたなんて、成長したね~」

「うるせえよ。それよりどうやって知り合ったんだよ……」

「実は道に迷っちゃって。いろは先輩に案内してもらったの」

「先輩の妹だって知った時、目を疑いましたよ。全然似てないですから」

「悪かったな。で、何でここに?」

「お兄ちゃんの言ってたベストプレイスが気になって来ちゃった。いろは先輩が教えてくれたの」

 

俺の隣に座り、おそらく購買で買ったパン類を食べた。何で一色が知ってるんだよ……。俺ここで一色と会うの初めてだぞ。

 

「あんな哀愁漂わせた背中してたら、覚えますよ」

 

呆れたように一色が言う。そんな寂しそうにしていたのか?逆に俺は誰も近づくなオーラ全開に出していたはずなのに…。

 

「そういえばお兄ちゃん。いろは先輩から聞いたよ。奉仕部の時に助けてくれたって」

「その言い方は少し語弊があるな。助けたわけじゃない。機会を与えただけだ」

「捻くれは相変わらずだ。まぁそこがお兄ちゃんのいいとこでもあるけど。小町的にポイント高い」

「はいはい。そういや一色、あれからどうしたんだ?」

 

一色の依頼によって雪ノ下が主犯格を追い詰めたが、一色がそれを止め自分に任せろと言ったきりだったのだ。だから、あの後何が起こったのかは誰も知らない。

 

「雪ノ下先輩みたいに追い詰めた後に男子に可愛く見られる必勝法を伝授させました」

「仲良くなったのかよ……。つーか怖…」

「敵になるよりかはマシです」

「それもそうだな」

 

男子を勘違いさせる必勝法なんて怖すぎるだろ。今から男子に注意勧告しに行きたいレベルだ。

 

「一色。悪いが小町をよろしくな」

「はい。先輩の頼みというのであれば仕方がありません。じゃあ小町ちゃん、早速連絡先の交換しよう」

「はい!」

 

コミュ力お化けというのはこういうことだと畏怖した瞬間であった。

 

「では、小町ちゃんの保護は任せてください!」

「そこまでしていただかなくて結構です!」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

多分今話から時間を飛ばし飛ばしで書いていきます。あまり細かく書きすぎると進まないのが痛い程思い知ったので……。

また次回。


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39話:俺と彼女の由比ヶ浜結衣アンアルター

はい、どうも、アイゼロです。

久々に早めの更新だ。文字数減らしたからね。

タイトルで察した方もいると思いますが、誰も予想できなかったでしょ?これ。

それではご覧ください。


梅雨に入り、雨具が必要不可欠となる時期となった。外は湿気で煩わしく、霧も発生して視界が悪い。校内はエアコンが置かれているため集中できる環境だが、外に出たときの差が激しくやる気も削がれる。俺は梅雨は嫌いだ。

 

今日も生徒会の集まりが終わり、家路に就こうとする。今日は珍しく1人での下校だ。凛と飛鳥はクラスの友人と遊びに行き、風音はバレー部に所属している神童に助っ人を頼まれ、体育館に行っている。小町もクラスの人と遊ぶらしい。

 

このまま帰っても暇だし、たまには1人でぶらぶらするかと予定を決め、靴を履き傘を取ろうとする。まぁなんということでしょう、俺の傘が見当たりません。十中八九盗られた模様……。くそ、ビニール傘だったからか、せめて名前でも書いておけば良かった。

 

しょうがない。風音の用が終わるまで待つか。

 

「あ…」

「ん?」

 

声のした方へ顔を向ける。そこには眉を八の字にしている由比ヶ浜結衣が立っていた。彼女とは二年生の修学旅行の時以来、奉仕部の依頼の件で気まずい関係となっている。それなのに同じクラスになってしまった。

 

そのまま帰ればいいものの俺をちらちら見ながら立っているため、取り敢えず話しかけることにした。

 

「なんだ?」

「あ、ええと、今日は1人なんだなって」

「皆用事あってな。こんな日もある」

「そっか……。もしかして、帰れないの?」

「傘盗られたんだよ。だから風音待ち」

「あはは。そうなんだ…。あたし、傘二つ持ってるから貸そっか?」

「いや、遠慮しとく」

 

相手が違ったら、おそらく借りていただろう。別に由比ヶ浜を嫌っているわけではなく、先程言ったように彼女とは蟠りが存在している。それに借りを作りたくないのも理由の一つだ。これをきっかけに仲直りなんて虫のいい話だし、何といっても今更過ぎる。

 

「ヒッキー、待って」

 

このままこの場を去って風音のいる体育館に向かおうとしたが、由比ヶ浜に止められてしまった。心の中で溜息をしながら、由比ヶ浜の方へ顔を向けると思わず怪訝な顔になった。

 

「ちょっとだけ、話があるの」

 

瞳はほんの少し涙ぐんでいて、唇を固く結び、手と足は震えている。が、目はしっかりとこちらを射抜いていて、一目で真剣だという気持ちは伝わってきた。

 

「………分かったよ。話せ」

「うん。………ごめんなさい!」

「………は?」

 

いきなり頭を下げて謝られてしまった。これじゃまるで俺がフラれているみたいじゃないか…。

 

「何が?」

「高2の修学旅行とか、勝手に依頼受けちゃったことだよ。ごめん。ずっと気にしてて…」

 

あー、あれか。別にそこまで気にしてなかったから忘れてたわ。

 

「別にそんくらいの事で謝んなくていいぞ」

「だって、結局ヒッキーたちに任せっぱなしで、しかも勝手に退部したんだよ?かざねんとのデートも台無しに仕掛けたんだよ?いくら謝っても足り、足りない、よ……」

 

とうとう涙を流し始めてしまった由比ヶ浜。失礼だが、頭がそこまで良いわけではなく、楽観的な人だと思っていたから、そこまで気にしていることに驚いた。ていうか、まず涙を止めなくては…。この絵面はまずい。生徒会長が女子を泣かせたなんてシャレにならん。

 

「取り敢えず、泣き止んでくれ」

「…ごめん」

 

涙が止まるまで待つこと数分。俺から話を切り出した。

 

「お前、すげえな」

「え?……」

「だってよ、それってもう半年以上前の事だろ。なのにずっと気にしてて、こうして謝るなんて簡単にできる事じゃねえよ」

「…そうなの?」

「ああ、そうだよ。こういった状況の場合本人は自分の非をすぐに忘れて、目の前から謝りもせずに消えるんだ」

「そんな失礼なことしないし!」

 

だからこいつは凄い、純粋でいい子なんだ。こういう人は今時珍しすぎて馬鹿にされる世の中なのが非常に勿体ないと思ってしまう。本当、世知辛い世の中になりましたね。

 

「とにかく、俺も風音も気にしていないし、気にする必要もない。これでいいか?」

「あ、ありがとう……。そ、それとね、もう一つ謝らなきゃいけないこととお礼があるの」

 

俺は一体由比ヶ浜にどれだけ恨むようなことをされたんだ……。覚えがない分恐怖が増してしまう。

 

「入学式の日、犬を助けたでしょ。うちのペットなの。助けてくれてありがとう。遅くなってごめん。もう二年も経っちゃったし……」

「何で俺だって分かったんだ?」

「生徒手帳落としてたもん。それに、ボンネットに手着いて飛ぶなんて、ヒッキーくらいしかできないでしょ。ほら、ロットアイ」

 

あー、そんなのあったね。読者も忘れかけてるから俺も忘れかけてたわ。

 

「何度も言おうと思ってたんだけど、遅すぎだよね……」

「確かに遅いな。どうして言えなかったんだ?」

「それは……」

 

まぁ大方俺がボッチだったからだろうな。凛と飛鳥には近寄るなオーラ出てるって言われたし。

 

奉仕部の時にいつでも言えたんじゃないかと思ったが、過ぎたことはどうでもいい。今こうして謝られたんだから、変に責めたてるわけにもいかない。何も意味がない。

 

「どっちでもいい。二年前の事なんて今考えたってしょうがないしな」

「ごめん」

「もういいぞ。と言っても無駄そうだな。じゃあ、一つ条件を出そうか」

「何?」

「修学旅行時の依頼の件。もう1人謝らなきゃいけない人物がいるだろ」

「あ………うん…」

「どうすればいいのかはわかってるんだろ?」

「うん、行ってくる!」

 

由比ヶ浜は涙を拭い、拳を握って奉仕部へ向かった。

 

ミリ単位の心の隙間が埋まった俺は風音がバレーをしている体育館に向けて足を運ぶ。しかし、蟠りが消えたのにも関わらず、何も感じない……。気にしてないどころか、元々存在していなかったかのようだ。失礼すぎるだろ俺。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は自分の悪い癖を無くしてみました。いつもの俺だったら由比ヶ浜が雪ノ下に謝る所まで書いてます。

さて、まさかの由比ヶ浜と和解というね……。そう、全てはこのためだったのですよ。まぁ、またしばらく登場しないけどね。

さて、予想できた人いるかな?

また次回。


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40話:俺と彼女の夏季休暇前プレパレーション

はい、どうも、アイゼロです。

40話突入。

サブタイトルが相変わらず思い浮かばない。文字数を少なくしたデメリットがここにもあったか。大分無理があると思うが、プレパレーションは準備という意味だ。ほぼ的外れだな。すまんぼう

それではご覧ください。


夏休みが刻一刻と迫る日々。浮かれる者もいれば受験勉強でピリピリしている者もいる。大学に進学する人、就職をする人はこの夏はあまり暇にはならないだろう。無論、俺達生徒会役員も受験対策で遊ぶ暇もない。

 

場所は違えど全員この夏は予備校に通い、大学に向けて入試対策を行う。凛からは「八幡と風音って予備校行くんだ……」と驚かれたのが心外だった。俺だって行きたくないよ。こんな暑い中、歩いて勉強しに行くなんて。けど、行け行けと風音がうるさいから仕方なく行くだけだ。入試対策や過去問、予想問題などはあちらの方が優れているから、風音もそれが目当てというか狙いだ。

 

今の時期、生徒会の仕事はそれほど多いわけではなく、精々終業式で軽く演説する程度だ。会長の席から見えるのは飛鳥、凛、風音がスマホの画面を見せ合いながら、話に花を咲かせている光景だ。何でも最近駅の近くに大型ショッピングモールができたらしい。風音が俺にその画像を見せてきたが、中々に大きて綺麗だ。できたばっかだから当たり前か……。

 

「今度彩加も連れて行かない?」

 

風音からの提案だ。夏休みも近いし、皆が集まれる余裕は十分あるから問題ないだろう。それに、画像を見せられた俺も気になってしまった。

 

後ろの窓を見やると、そこにはテニスコートが広がっている。その中にはこの炎天下でラケットを振るテニス部部員。俺の視線は自然と彩加に移る。……ちょうどいい、喉が渇いていたから、ついでに彩加に差し入れ渡すか。

 

 

 

 

マッカンを煽りながら、片手にスポーツドリンクを携え、テニスコートに足を運んだ。彩加の姿を確認すると同時に、あちらも俺の存在に気づき、こちらに駆け寄ってきた。

 

「八幡、来てたんだ?」

「ちょっと通ったからついでにな。練習抜けて大丈夫だったのか?」

「すぐ戻るから、大丈夫」

「そうか。なら手短に。ほれ、差し入れだ」

「ありがとう!八幡」

 

差し入れのスポドリを受け取ると、それはもう嬉しそうに笑った。何この笑顔。この笑顔が見れるならもう毎日のように差し入れするぞ。天使超えて女神だ。いや、男だから男神だ。これなんて読むの?おしん?だんしん?おがみ?どっちなーんだい!

 

「僕、こうやって友達に差し入れ貰うのって憧れてたんだよね」

「初めてなのか?」

「今までは、なんていうか社交辞令的な感じだったから、純粋に友達から貰うのは初めてなんだ」

 

早速スポドリを口に運ぶ彩加。

 

「八幡、テニスやってく?」

「ん?あー、そーだなー」

 

この後戻っても読書かスマホを弄るだけだし、それはそれでありかもしれない。そういや、前もテニスに誘われたことあったっけな……。

 

ふと俺は一年前の事を思い出した。まだ俺が彼女しか信じられなかった時期。体育で1人で壁打ちをしている時、あのべぇべぇ野郎の戸部の球を後ろ向きで打ち返した出来事を。その日の昼、彩加にどうやったのか聞かれた事を思い出した。

 

「少しやってくわ」

 

 

 

 

 

ジャージに着替え、ラケットを握りテニスコートに入る。対峙しているのは彩加。

 

お互いラリーを続ける。ここで驚いたことがあった。普段運動していないせいか、振っている腕が重くなり、俺は肩で息をし始めた。対する彩加は息1つ切らしておらず、余裕綽々とラケットを振っている。一年前は筋トレでばてていたのに、相当な努力を続けてきたのかと尊敬の意を向けた。

 

じゃあ、そろそろ見せるか。

 

ボールを打ち返した俺は咄嗟に後ろを向いた。彩加に背中を見せる形になっている。【ロットアイ】

 

「え、八幡!?」

 

彩加は驚きの声をあげたが、しっかりと球を打ち返した。そして俺は、一年前と同じようにボールを見ず、後ろ向きで打ち返した。

 

「あー!八幡飛ばし過ぎ!」

「え……、あー」

 

加減したつもりだが、俺が打ち返した球はレーザービームの如く、一直線に明後日の方向へ向かってしまった。

 

後で取りに行かなきゃ。

 

 

あれから吹っ飛んでいったボールを戻し、彩加に見せてくれてありがとうと、何故かお礼を言われた。運動不足のせいか、ロットアイを使ったのは数秒だったのにも関わらず、若干疲れてしまった。だけど、運動する気はさらさら起きない。不思議だね~。

 

生徒会室に戻ると、先程までスマホを見せ合っていた風音達は、何故かどこから持ってきたか分からない旅行雑誌を開いていた。楽しそうにしている風音達の離れた来客用のソファには、総武高で理事長と校長を掛け持ちしている人物がいた。

 

「比企谷君。待っていたよ」

 

相変わらずの碇ゲンドウ似の声である。

 

「何かあったんですか?」

 

生徒会役員が旅行雑誌を広げている原因を理事長だと決めつけ、質問をした。しかし、理事長が言葉にするよりも先に風音が俺の目の前まで近づき、ある物を見せてきた。白の封筒に習字のような達筆な文字で黄金賞と書かれている。いや、そこは普通に金賞でいいだろ……。

 

「見てこれ!理事長が当てたんだって。温泉旅行のチケット」

「温泉?」

「実は新しくできたショッピングモールで抽選会が行われていたんだ。それに当たってね。だけど、都合が悪いから、君たちに譲ったんだ」

 

新しいショッピングモールといったら、さっき風音が俺に見せてきたアレか。それにしても、理事長は随分と強運なんだな。

 

「もらっちゃっていいんですか?」

「構わないよ。取っておくのも勿体ないからね」

 

それに色々と学校行事に貢献してくれているので、そのお礼という意味もあるらしい。ここまで言われてしまったら、貰わないという方が失礼だ。ありがたく受け取ろう。

 

用はそれを俺に伝えるだけだったらしく、理事長は生徒会室を出た。

 

 

 

温泉旅行にはもちろん彩加も誘い、旅行の準備はあの新しくできたショッピングモールに行くこととなった。

 

最初に話していた受験の話は一体どこへ行ってしまったのだろうか…。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

このシリーズは八幡たちが高校を卒業すると同時に完結になります。というか、作者的には今年中に完結させたい所存。

また次回。


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41話:俺と彼女の温泉コンサルテイション

はい、どうも、アイゼロです。

コンサルテイションは相談という意味です。

それではご覧ください。


夏の凄まじい日差しを頭から浴び、あの耳つんざく忌々しい鳴き声を発するセミ、熱したフライパンのようなアスファルト。俺達生徒会と彩加は、キャリーバッグを引きづりながら、夏の猛攻を全身で受けていた。

 

夏休みに入ってからわずか数日。てっきり8月に行われるかと思っていた温泉旅行が始まっている。俺は集団の最後尾を歩いており、前には風音、飛鳥、凛、彩加が夏の暑さに参りながらも楽しそうにしている。小町も来ればよかったのなぁ。

 

理事長から貰ったチケットはグループで10人以内だったため、小町も誘ったんだが断られてしまった。あいつなら絶対に行きたい!行きたい!ってはしゃぐと思っていたから、断られたときは、生真面目な騎士がオネエ旅芸人という事を知った時くらいに衝撃だった。

 

駅から降りたときは高層ビルやマンションなど非常に都会的だったが、目的地へ向かう道中、段々と緑が増えていき、いつの間にか空気がおいしい大自然を歩いていた。周りには緑が生い茂る木々、鯉が泳ぐ川、旅行先でたまに見かけるよくわからない鳥居が見受けられる。

 

そして俺達が宿泊する温泉宿舎に着いた。見た目はおそらく皆がイメージするような宿舎そのものだ。グーグルで温泉宿舎って画像検索すれば出てくるような見た目をしている。第一印象は由緒正しそう(小並感)。

 

意外と大きいね、と宿舎を見上げる凛。東京に来た田舎者のようにキョロキョロする飛鳥と彩加。俺の腕にくっついている風音。こいつだけ平常だ。

 

中に入り、仲居に予約した部屋へ案内をしてもらった。ちなみに部屋はだだっ広いところを一つしか予約していない。さすがにこれに関しては俺と彩加は物申したが、それじゃつまらないだの気にするなとか八幡たちなら信頼できるなど、嬉しいような嬉しくないような、そんなやるせない思いで一部屋にしたのだ。

 

「疲れたー!」

「もう歩けない……」

「八くん、抱いて~」

 

部屋に入るな否や女性陣は倒れこんだ。さすがにあの炎天下で荷物引きずったらこうなるか。男性陣の俺と彩加は汗は結構掻いているが、疲れはそこまで感じていない。ていうか抱いてってこの場で言うんじゃありません。もっとオブラートに包んでください。今のは風音的に抱きしめろって意味だ。

 

「こんな暑いのに抱きしめたら余計暑くなるだろ」

「とか言いつつ八幡抱きしめてるね……」

「抱いてと言われて抱かない男はいない」

「僕的には時と場所は考えてほしい」

 

彩加から珍しくお咎めを喰らってしまった。この暑い中訪れた宿舎なのに、俺らのせいでさらに暑くなったか。よしどんどん暑くさせようか。

 

更に強く抱きしめようとした矢先、風音が何か思いついたように口を開いた。

 

「折角だし、もう温泉入っちゃう?朝から夜まで入れるらしいし」

「マジで!入る」

「私も入りたい!」

「八幡、僕たちも行こう」

「いや、俺は風音と家族風呂…」

「私は八くんと家族風呂…」

『そんなの許すかぁ!』

 

俺と風音は2人から頭にチョップを喰らった。おそらく本気で振り下ろした模様。めちゃくちゃ痛い。

 

痛みに頭を押さえていると、不意に彩加に袖を引っ張られていた。顔を向けると、僕を一人にする気?と頬を膨らませ、拗ねていた。ああ、もう可愛すぎ!

 

 

「気持ちがいいね」

「そうだな」

 

さすが温泉宿舎。まだ真っ昼間でそこまで疲れていなかったが、何かが体から抜け落ちた感覚に陥る。

 

温泉はかなりの大きさを誇っているが、彩加と肩がくっつきそうでくっつかない距離で入っている。先程から横目で流しているが、男なのに病的なほど綺麗な白い肌に、火照った頬が妙にエロイ。男なのに!おかげで横に顔を向けられない。何だかイケナイ気がして……。

 

「生徒会、どう?」

「さほど忙しくないな。まぁその分行事が来るとバタバタするし。けど、やりがいはあるんじゃないか」

「そっか。前の八幡と比べたら凄いよね。今じゃ色んな人から信用されてる」

「はっ、ホントだよな。昔の俺に教えたら、絶対に信じてくれねえだろうな」

 

彩加を横目に苦笑交じりに皮肉を吐いた。話題を切り出した当の彩加は何故か浮かない顔をしている。

 

「なんかあったのか?」

「………うん。八幡さえ良ければ、聞いてほしいな」

「寧ろ俺なんかで役に立てるのか?」

「もちろんだよ。寧ろ八幡にしか言えない事なんだ」

 

すると彩加は意を決したようにこちらを向いた。彩加の目は俺の顔をしっかり射抜いており、俺のしょうもない顔が映っている。やべ、泣きたくなってきた。とうとう自虐すら傷つく程弱くなってしまったか。

 

「僕、好きな人がいるんだ」

 

俺は今自分がどんな表情をしているのか分からない。いくつかの相談内容は予想していたが全てが外れ、まさか恋の相談がくるとは…。

 

俺の顔を見た彩加は眉を八の字した。

 

「やっぱり変?」

「いやいやいやいや、全然そんなことないぞ。それが変だったら、世の人類皆変だから」

「そ、そっか。……話に戻るけど、その子の事をいつの間にか目で追ってて、たまに子ども扱いしてくるけど、それも何だか温かくて、恋、しちゃった」

 

ぐああああああああああ!!なんだこれは!なんだこのもやもやした気持ち。何で俺の方がドキドキしてんだよ。そして純粋過ぎる。何故下心を一切感じないのだ?こいつ本当に男か?

 

取り敢えずそれだけ言いたかったらしく、言い終えた途端顔をトマトのように赤くして潜ってしまった。

 

「彩加。なんとなく言いたいことは分かった。告白しようか迷ってるだろ?そしてその原因は、受験だな?」

「……やっぱり八幡に隠し事通じないな。全部当てられちゃった」

 

まぁ好きな人がいるって言われたら、こんな考えすぐに思いつく。それにしても、受験という壁は誰もが諦める理由に使ってしまうものだ。自分の将来がかかっているという重圧、取り残されないようと必死になる焦燥感、これでいいのか?と体中を駆る不安。感じ方は人それぞれだが受験生ならばどれか1人は抱える重荷になっている。

 

「八幡はどう思う?」

 

このどう思うという問いはおそらく、告白をする時期の事を聞いているのだろう。彩加の選択肢にはした方がいいのかどうかなんて最初からない。

 

「俺から言えることはあくまで一般的な見解だ。俺という個人的な意味は特にない。もし志望校が一緒だとしても、別だとしても、告白はした方がいい。今の彩加の悩みは受験に影響を及ぼす可能性もある。告白の結果がどうなるかは分からないが、そこは彩加次第になるんじゃないか?」

 

今俺の言ったことは誰にでも言える事だ。なんの捻りの無い一般論。一通り喋り終えると、彩加はこちらを見ながら目を見開いていた。きっと心のどこかで俺らしい他とは違う言葉を期待していたのかもしれない。え?俺って他と違うの?ちょっと悲しい。

 

「悪いな。俺にはこれぐらいしか言えねえ」

「ううん!そんなことないよ。相談に乗ってくれただけでも嬉しかったのに、ちゃんと答えてくれて僕嬉しいよ!」

 

両手を横に振って否定に入る彩加。その度に水音がバシャバシャと小さく響き、温泉の湯が水粒が飛び散った。その粒は俺の顔面へと…。

 

「あ、ごめん」

「お返しだ」

「わぷ、やったな八幡!」

 

あの恋愛相談はどこに行ったのか、俺と彩加の温泉の水かけっこが始まった。

 

「八幡、僕決めたよ」

「ん?」

「この夏休みで告白するよ」

「……そうか。健闘を祈ってるぞ」

 

 

八幡たちが温泉を楽しんでいる中、女湯の方でも恋愛話に花を咲かせていた。

 

「凛、風音。私、近いうちに告白するよ」

 

相談をした飛鳥は、凛と風音の助言により告白を決心していた。

 

「それで、近いうちって正確にはいつ?」

「………さあ?」

『ええ……』

 

どうやら飛鳥の告白はもう少し先になってしまうようです。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

この八オリシリーズは今年中に完結させたいと思います。八幡と風音の子供が独り立ちするまで書くと一度言ったんですが、何個か理由があります。

新作八オリ書きたい、続ける自信がない、潮時。最近そう感じることが強くなってきました。なので、今年中に八幡たちが卒業する所まで書いて完結させようと思いまーす。

また次回。


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42話:俺と彼女の相思イントゥイション

はい、どうも、アイゼロです。

大変長らくお待たせいたしました。やっと更新できた。数日前にスランプ抜けた。

それではご覧ください。


温泉を堪能した俺達は一度部屋に戻り、これからどうするかを考えた。温泉に入ったはいいもののまだ昼を少し過ぎた時間だ。これからホテルの周りにある色々な所に行く余裕がある。これからどうしようか話し合おうとしたが、凛が部屋に入った途端いきなり布団を敷き始めた。

 

「え、いきなり寝るの?」

「そりゃ温泉で疲れ取ったら眠くなるでしょ。というわけでお休み飛鳥」

 

凛は枕に顔を埋め、うつぶせ状態で眠ってしまった。てっきり外に行こうと元気を出すと思っていたが、予想外の行動に出られ少し困っている。

 

「もう、折角の旅行なのに。けど正直私も少し休みたいから部屋にいようかな。三人はどうするの?」

「俺と風音は下の販売店に行く予定だ」

「僕はゲームコーナーで遊んでくるよ」

 

彩加の口から予想できない言葉が発せられて寝ている凛以外の全員が顔を向かせた。確かにこのホテルにはレトロゲームとか並んでいるコーナーは見かけたけど誰もいなかったぞ。そもそも彩加ってゲームするのか。

 

「え?やだなぁ。僕だってゲームするよ」

「…彩加、私も行っていい?」

「でも休むんじゃ」

「ゲームコーナーあること知らなくて、私もゲーム好きだから一緒に行こう!」

「うん。対戦とかしよっか」

 

 

〈八幡と風音の場合〉

 

「お土産でも買うの?まだ早いと思うけど」

「ああ、小町へのお土産もそうだが折角の旅行だ。菓子類を大人買いしてパーティと洒落込もうぜ」

「でもお金大丈夫なの?」

「心配無用だ。この理事長から貰ったチケットには商品券にも使えるんだ。それも五千円分」

「…理事長、本当にこれ私達にあげて良かったのかな?」

「そこは俺も同意見だ」

 

今まで見たこともねえよこんなチケット。一枚だけで10人以内のグループに商品券にも利用できるなんて、ショッピングモールの抽選会の賞品にするレベルを遥かに超えている。黄金賞と言っていたがしっかり的を射ていたか。

 

「風音、このチケット渡すから菓子類適当に頼む。俺はお土産見てくる」

「任された」

 

 

 

 

〈飛鳥と彩加の場合〉

 

「結構あるなー」

「こういう昔のゲームって他じゃあまりないから、目移りしちゃうね」

 

ホテルの一角に聳えるゲームコーナーに並んでいるのは昔懐かしの格闘ゲームやアーケードゲーム等々、UFOキャッチャーも置いている。

 

「ダライアスも置かれてる!まだあったんだ」

「う~ん、これは知らないなぁ」

「30年も前のやつだから、知ってる方が珍しいよ。僕やったことあるから、一緒にやろ」

「うん♪」

 

 

 

 

 

 

小町へのお土産を一通り買い終えた俺は先に買い物を終らせた風音が待つロビーに足を運ぶ。取り敢えずあいつが喜びそうなストラップとお菓子を購入した。

 

「待たせたな。…すげえ買ったな」

「うん。ピッタリ五千円使ってやりました♪」

 

ピッと右手で可愛く敬礼する風音。そして左手には袋から溢れるお菓子の数々。今ここで風音の主婦力を見せつけられたような気がした。

 

「俺らの用事終わったし、彩加達の所行ってみるか?」

「うん、私もゲームしたい。と、その前にこの荷物部屋に置いていこう」

 

そう言って俺の裾を掴み、隣を歩き始めた。そういえば最近、いや多分ずっと前から風音のスキンシップが控えめになっている。高2の始まりの時はとことん俺に甘えていて、まあ俺も結構甘えてたけど風音ほどではない。奉仕部の部室でも普通に抱き着いて、小学生の林間学校や修学旅行も然り。けど三年生になってからはそんなことを外ではあまりしないようになった。肩をくっつけて歩くぐらいだ。単純に大人になってきたという事かもしれない。

 

「ふぅ、結構重かっ……。えぇ!?」

「ど、どうした?」

「八くん待ってて!入らないで!」

「え、お、おう」

 

風音は部屋の扉を開けるや否や大声をあげて俺に見られまいと勢いよく扉を閉めた。一体凛が寝ているこの部屋がどんな状態になっていたんだ?気になるが俺が見ちゃいけないものなら詮索するのはよそう。めっちゃ気になるけど。

 

「さ、ゲームコーナー行こっか」

「なんだったんだ?」

「八くん、知らぬが仏だよ」

「なんだそりゃ……。まあいいや」

 

知らない方がいいなら、このままにしておこう。

 

「(凛の寝相が悪すぎてはだけてたなんて言えない。言ったら想像するかもしれない。八くんも一応男なんだから)」

 

 

八幡の交友関係が広がるにつれ、風音の愛も少し重くなってしまったようだ。

 

 

彩加と飛鳥が遊んでいるゲームコーナーにやってきた八幡と風音。ゲームコーナー自体そこまでの大きさではないため、すぐに二人の姿が確認できた。八幡たちは声をかけようとしたが、躊躇った。

 

「また負けた~!」

「僕の五連勝だね♪」

「次はあれで勝負!」

「受けて立つよ」

 

2人プレイのゲームで遊んでいる二人がとても楽しそうに遊んでいる姿を見たから。互いに教え合って競っていていい雰囲気を醸し出している。

 

八幡と風音は目を合わせる。お互い何かを察したようでゲームコーナーを後にし、ホテルのロビーに向かった。二人とも邪魔してはいけないという気持ちがあった。そして察したのはそれだけではない。

 

温泉で受けた相談、学年一位と二位という優等生の勘の鋭さで二人は一つの答えに辿り着こうとしていた。

 

「(もしや彩加の好きな奴って……)」

「(ん~?飛鳥の好きな人ってもしかして…)」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

この先、更新しても雑だと思われるかもしれませんが、どうか完結までよろしくお願いします。

このシリーズ完結させたら引退します。

また次回。


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43話:俺と彼女の暗雲メモリアル

はい、どうも、アイゼロです。

お久しぶりです。久しぶりに投稿なんですが、続きではなく、最新話の43話の改訂版です。個人的にもっと面白くできるんじゃないかと思った所存です。

それではご覧ください。


ホテルのロビーで彩加たちと合流した俺達は凛の寝ている部屋に戻ることにした。そろそろ食事が運ばれる頃だ。さすがにもう起きてるだろ。

 

「あ、やっと戻ってきた。もう料理来てたよー」

 

昼寝ですっかり元気を取り戻した凛のテーブルの前に並ぶのは豪華な料理。テレビで見たことあるようなものが色々と置かれていて、見てるだけで腹が減ってきた。

 

「もう30分以上待ったし。こんな豪華な料理を目の前でお預けなんて拷問だよ!」

「悪かったよ。早く食おうぜ」

 

各々自分の位置に座り、乾杯の音頭は凛がとった。目の前に並ぶ刺身や鍋物などの和食に舌鼓を打つ。

 

「私が寝てる間に何してたの?」

「彩加とゲームコーナーで遊んでた」

「八くんと買い物」

「えー、いいなぁ。じゃあ、この後皆で遊ぼうよ」

「明日にはここ出るし、そうすっか」

 

凛の言葉に皆が頷き、明日の予定を計画しながら、箸を止めることなく食事を進める。

 

おそらく、こうして5人で遊ぶ機会は当分訪れないだろう。皆、目指すもののために受験を選択し、忙しくなる。勿論俺も、風音も国立を目指しているため、勉学を怠るつもりはない。俺らにとって今この時間はとても貴重な物だ。

 

 

可笑しいなぁ。先程の話ではこの後、ホテル内で遊戯をすることになっていたはずだ。それなのに食事を終えた途端、皆満足そうに横になり始めた。おーい、食ってすぐ横になると胃液が逆流して癌になる可能性があるぞ。

 

「遊びに行くんじゃなかったのかよ」

「なんか食べたら、動くの面倒くさくなっちゃって」

「じゃあさ、折角だし色々話さない?ほら、こうやって集まるのって結構難しくなってくるし…」

 

風音が少し寂し気に話を切り出す。それを聞いた皆も顔を下に向け、表情を曇らせた。この様子だと、この先余裕がなくなることは分かっていたようだ。

 

「思ったんだけどさ、私達学校でいつも一緒にいたり、休日遊んだりしてるけど、自分たちの事ってあまり話したことないよね?だから色々話そう」

「あー、言われてみればそうかもね」

「じゃあ折角の機会だし、八幡と風音の事、しつこく聞こうか。ぐっへっへ」

 

俺と風音を交互に見て目を輝かせる飛鳥と、ゲスな笑いを浮かべる凛。

 

風音の提案は流れで採用され、テーブルの上にお菓子やお茶を出して、お喋り空間を作り出した。

 

 

比企谷八幡と新島風音の幼児時代。彼らは幼稚園では、いつも二人くっついて遊んでいた。

 

広場を駆けたり、遊具で戯れるなど、そこらと変わりないただの園児だ。この頃の八幡はもちろん目は普通で友達もいたから、楽しく過ごせていた。

 

帰りはそれぞれ母親が迎えに来ており、ここでも楽しく喋りながら家路に向かっていた。

 

「ままー、きょうはね、ねんどでお花つくったのー」

「ぼくはひこうきー」

 

無邪気で可愛い子供たちの話に、母親は優しい笑みを浮かべながら返す。八幡と風音にとって、この時間は大好きだった。無論、母親たちもこの時間を楽しく過ごしていた。

 

 

小学校からは、クラスが別々になったため、二人でいる時間は前と比べて少なくなった。小町を含め登下校も共にしていたが、小学五年生に進級した途端、その頻度は減ってしまった。

 

原因は虐め問題である。他の人よりも目が特徴的だった八幡は格好の的になった。最初は友人同士の冗談、いじりかと思って笑って済ませていたが、聡明な八幡は、それが違うものだと気づいた。

 

「人を貶して楽しむのが遊びで、一緒になってするのが友達なら、そんなのいらねえよ」

 

それ以来、八幡は完全に1人になった。校内でも風音や小町と関わることを避けた。八幡の心は、次第に灰色に染まりつつあった。

 

「八くん最近冷たくない?どうしたの?」

「……女子といると友達にからかわれるからな」

「でも、登下校くらい一緒にいようよ。小町ちゃんも怒ってるよ」

「……たまにならいい」

 

最初は物を隠されたり、ちょっかいを出される等の軽いものだったが、段々とエスカレートしていくのが、虐めの特徴である。

 

身体的、精神的ダメージを負おうと、八幡は平然としていた。いや、無理をした、我慢していたと言った方が正しいだろう。風音の前では悟られないよう、何事も無かったように、平気な顔をし続けた。全ては、家族や好きな人に心配されないために。

 

だが、小学生に長く続く事を隠し続けるのは難しい。いじめが始まってから半年以上経ち、ついに風音に気づかれてしまった。

 

「八くん!何で今まで言ってくれなかったの!?」

「言ったらお前までイジメられるかもしれないだろ。いいんだよ、こういうのは放っとけばいずれ飽きる」

「でも半年以上も続いてるんでしょ。私が絶対に放っとかない。先生とかお父さんに言うよ」

「先生にはもう言った」

「……本当に?」

 

いくら周りと比べて大人びていても、所詮はただの小学生。毎日続く攻撃に耐えきれる程のメンタルは持ち合わせておらず、一度担任に相談をしたことがあった。八幡も話を聞いてくれた先生には、少なからず信頼を寄せていた。

 

「じゃあ、何でまだ続いてるの?」

「簡単な事だろ。ただ注意しただけでやめるわけがない」

 

実際に先生がした事は、加害者に注意をしただけ。しかも、あろうことか八幡の名前すら出していたのだ。そうすれば悪化するのは目に見えている。

 

『次にチクったら、殺すぞ』

 

虐めグループのリーダーは、傷だらけの八幡にそう言い放った。つい先程、風音に見つかる前に起こった出来事である。

 

「そんな……」

「この事は誰にも言うなよ。心配かけたくねえから」

 

八幡はフラフラな足取りで、その場を去ろうと風音の横を通るとき、腕を掴まれた。治っていない傷や痣が地味に痛く、顔をしかめながら、風音の顔を見た。その瞬間、八幡は初めて見る風音の表情に、思わず目を見開く。

 

眼からは涙が流れており、唇を噛みしめていた。

 

「なんだよ。いてえな」

「全然力入れてないよ。ちょっと触っただけでも痛がってるのに、いつまで我慢するつもりなの?もし取り返しのつかない事になったらとか考えないの?二度と消えない傷ができたら、どうする気?」

「お、おい。急にどうした?」

 

弱々しく、掠れ声で八幡に抱き着いた。八幡は自分が傷ついているから泣いていると思っているが、少し違う。確かにその気持ちもあるが、それ以上に風音は悔しがっていた。何年も一緒に過ごしているのに、気付かなかった自分自身に。大好きな人が傷ついているのに、自分は呑気でいたことに。

 

「…八くんはどうしたい?」

「は?」

「私は、八くんを傷つけた人を許さない。私の事も。あの人たちも」

「風音……」

「私はどうなってもいい。それで八くんが傷つかなくなるのなら」

「それじゃ俺が我慢ならねえな。お前が傷つくかもって思うと」

「八くん…」

「どうしたいって聞いたな?今決めた」

 

『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ』

 

ふと頭に、この前見てたアニメが過った。

 

「やり返す」

 

 

その日を境に、俺と風音は復讐を決意した。やり返しと言っても、殴る蹴るじゃあいつらと同じになるからしない。せいぜい証拠を見せるだけだ。大勢の前でな。

 

たかが小学六年生じゃやれることは限られている。だからその中で俺達はできることは、録画と録音だけだ。いや、いくら考えた所でこの方法しかないだろう。

 

家族に見つからないよう、こっそりビデオカメラを学校へ持っていき、現場を風音が撮影。その度に風音に泣かれて、申し訳ない気持ちになった。すげえ心が痛い。

 

イジメている奴らは俺達が復讐を企てている事なんて、考えてもいないだろう。非常にやりやすく、録画に録音、写真、全て一日で揃ってしまった。標的である俺も助かったわ。いや、マジで痛い。

 

「ようやく解放されるな」

「うん。…八くん、約束して。これからは、もう1人で抱え込まないで。もっと私を頼って」

「…分かったよ。俺も痛いのはこりごりだ」

 

俺は風音の頭を撫でながら、続ける。

 

「サンキューな。お前が止めてくれなきゃ、卒業までずっとこのままだった」

 

風音は口を開くことなく、俯きながら小さく頷いた。表情は見れない。

 

復讐を決行するのは、早速明日だ。

 

 

作戦決行当日、昼休みが終わり五時間目に入ろうとしていた。俺はいつものように机に向かって椅子に座る。そして何故か筆箱がない。ちなみにこれもいつも通りだ。悲しくね?

 

まぁ、筆箱どころか、教科書もノートも使わないけどな。今、風音が授業をサボって、ある所に行っているはずだ。

 

復讐の作戦というのは、それほど難しくない。まず、風音が放送室に行く。イジメ現場で録音したものを流す。そして、俺が教壇に立っている担任に録画した映像を見せる。そのために昨日父さんからDVDプレイヤーを借りたのだ。ごめんな、父さん。こんな使い方して。後は写真を教室中にばらまくだけだ。なんなら上も脱いでやろうか?

 

授業に入り、静かとなった教室で、俺は頭の中で復讐のおさらいをした。それと同時に、今日まで半年も張っていた気が落ちていく感覚に陥る。今日で、終止符が打たれる。

 

ここで、校内放送のチャイムが流れた。

 

「……きたか

「はーい皆、ちゃんと放送聞いてねー」

 

担任の先生は一旦授業を中断し、生徒に放送を聞くよう促した。

 

これから流れるのは、誰も予想しない、残酷で、過激で、耳を塞ぎたくなるような音だ。俺が毎日嫌という程聞いた音だ。心して聞くといい。

 

『ドゴッ!ドカッ!…パシンッ』

 

効果音のように流れる殴る音、叩く音が校内に響き渡る。先生、生徒も状況を呑み込めず、呆然としていて、静かな教室に、痛々しい打撃音が広がる。

 

そして、人の声も流れ始めた。

 

『おら、立てよ』

『何でお前みたいな奴が頭いいのかわっかんねー』

『弱いくせに調子乗るな!』

 

加害者の声だ。これらの声の主は、当然この教室内にいる。クラスメイトの皆、その主に目を向けた。

 

「…は?なんだよこれ!」

「意味わかんねえよ!」

「なんで……」

 

当の加害者三人は、勢いよく立ち上がり、その衝撃で椅子が倒れた。皆の視線は、一斉に彼らに降り注ぐ。

 

「俺達こんなの知らねえよ!」

「何見てんだよ!」

「こんなの嘘に決まってんだろ」

 

今までしてきた行いが公になったことで、三人は焦りを見せている。おそらくこの事態を逃れるために、まだ未熟な脳をフル回転させて言い訳を考えているだろう。しかし、それでも放送は止まらない。汚い嘲笑、鈍い音、高笑い。次々と流される音の情報が、三人を追い詰める。

 

「なあ、信じてくれよ!」

 

涙目でクラスメイトに懇願するが、通用しなかった。何故なら、クラスメイトは彼らがいじめをしていることを知っているからだ。ずっと俺を横目に見て見ぬふりを続けていたからな。

 

次は俺の番だ。

 

俺は、教壇を挟んで担任の前に立ち、上を脱いだ後、イジメ現場のDVDを流して見せた。担任は口に手を当て、瞳孔を震えさせている。

 

「ど、どうして……」

「ちょっと注意したくらいでやめると思ってたんですか?俺の名前も出しやがって」

「違うの!私はそんなつもりじゃ」

 

担任が何か言っているが、俺は耳を貸さず、写真をにばら撒いた。状況に頭が追いつかず、好奇心で行動するクラスメイトはその写真を拾う。拾った者は加害者の三人から俺へと視線を移す。中には小さく悲鳴を上げた女子もいた。

 

『5年3組比企谷八幡君は、酷いいじめを受けています。今5年3組の教室では、その現場の映像や写真が公開されています。八幡君をイジメていたのは、同じく3組の、広田泰道(ひろたやすみち)杉浦智樹(すぎうらともき)森谷淳(もりやじゅん)

 

録音した分の放送が終わると、突如風音の声が流れてきた。風音、それは聞いてない。寧ろ、あいつらを逆撫でさせてしまう。

 

「失礼します!」

 

突然教室に入ってきたのは、生徒指導の先生だ。その人を先頭に教頭先生もいる。これも予想外で反応に困ったが、取り敢えず助かった。

 

「そこの三人、今すぐ私達と職員室に来なさい」

「比企谷君。新島さんから事情は聞いたよ。もう大丈夫だ」

 

教頭先生からその話を聞くと、ひょこっと後ろから風音が顔を出してきた。笑顔でピースサインをしてきて、思わず笑みがこぼれる。

 

『うああああああああ!!!』

「お、おい!待ちなさい!」

 

全てを洗いざらい暴かれた三人は自暴自棄になり、俺に向かって走ってきた。完全に目がイってしまっている。

 

今までなら、ここでいつも震えて殴られるのを待っていたが、今は何故か全く怖くない。それに遅く見えて、振りかぶってきた拳を受け止めてしまった。一瞬蹴とばそうと思ったが、そこは抑えて押し返した。

 

教頭先生と他の先生が押さえにかかった。大人と子供じゃ力の差は歴然であり、二人は何もできず、身体の力が抜けたかのようにぐったりした。

 

「…は?」

 

落ち着きを取り戻しつつある俺は、今気づいた。自分自身の異常に。

 

色が、ない…。

 

全てが黒と灰色に支配されている。まるで、昔のモノクロテレビでも見ているかのようだった。おまけに身体の底から力が湧き出てくるように身体が熱い。360°見回しても、モノクロ世界が出来上がっている。この不思議な現象に、俺は頭が回らず、その場で固まった。

 

「森谷君!何をしているの!」

「うるせえ!死ねヒキタニー!」

 

真後ろから担任と森谷の叫びが聞こえた。

 

「ッ!?……え」

 

一瞬、何をされたのか理解ができなかった。後ろを振り向いた瞬間、俺の肩にナニかが勢いよく振り下ろされていた。見るとじわりじわりと服が血で染まり始めた。森谷が持っていた物は、業務で使われる大きいカッター。そこで、やっと自分が何をされたかを、理解し、同時に激しい痛みに襲われた。

 

教室は悲鳴に包まれ、大人の怒号が響く。切られた方を押さえ、その場に跪く。このショッキングな出来事に反応したのか、視界は段々と色づいてきた。

 

「!…カハッ!ゴフッ」

 

身体の力が抜けたかと思ったら、猛烈な疲労が俺を襲った。100Mを全力で走った直後とかそんな生ぬるいものじゃない。まるで体の細胞一つ一つが錘になったかのようだ。体がいう事を聞かず、俺はその場に倒れた。

 

「八くん!?八くんっ!」

 

風音の焦燥しきった叫びが鼓膜を震えさせる。しかし、その声も次第に薄くなっていき、視界が真っ黒にシャットダウンされた。

 

 

「で、目が覚めたら病室のベッドにいたというわけだ。後から聞いた話では、その三人は遠くに転校したらしい」

 

『……』

 

静まり返る空間。先程までの和気あいあいとした楽しい空気は凍えて消えた。

 

「な、なんかわりぃな。変な空気になって」

「八幡、今ロットアイになってみて」

「は?」

 

若干しかめっ面の飛鳥がそう言った。

 

「ちょうど去年でしょ?昔の事ちょっと話してくれたの」

「あー、確かに。もうそんな経つんだね」

「そこで私達言ったでしょ?八幡に色を認識させるって。どう?色はついてる?」

 

そういえばこの目と昔の話をしたとき、飛鳥に私達に色を付けさせると言われた。人生で初めてそんなことを言われた俺は、あの時不覚にも涙を流してしまったのだ。それがきっかけで、こいつらを完全に信頼を寄せた日でもある。

 

最後にロットアイを使ったのは、凛と飛鳥を助けたとき。その時は既に色がついていることには気付いていた。

 

俺は久方ぶりに目を濁らせ、モノクロの世界を映した。周りにある物すべてが白黒になっていく。

 

風音の方を向いた。変わらず色はついている。

 

凛、飛鳥、彩加を見る。色は、完全についている。初めて会った時の白黒とは違い、鮮明に色づいていた。

 

「全員、色ついてるぞ」

「ほんとに!やったね」

「おめでとう八くん。人間不信克服したね」

 

風音が後ろから抱き着き、目の前では凛たちがハイタッチを交わしている。それを見て、俺の中で何かが満たされ、熱いものがじわじわと心を蝕んでいく。涙は出ていない。ただ、心の底から安心した。

 

「まぁ、何だ、サンキューな」

「なーに水臭い。あーあ、なんか空気が重たくなっちゃった。八幡、罰として全員分のジュース」

「いや、今明らかに良さげな雰囲気だったろ」

「八くんいってらっしゃーい」

「おい」

 

 

当然、ホテル内の売店は閉まっているため、ホテルの隣にあるコンビニで調達。夏の夜風はひんやりと心地がよい。俺はゆっくり歩きながら考える。

 

小学生時代の話をしている時、ロットアイを使ってあいつらに色があることを確認した。それと同時に俺の中の人間不信が無くなったことを意味しているのかもしれない。目を濁らせたとき、違和感があった。ロットアイは身体能力が向上するファンタジーくさい非常識な力で、一時的に体も軽くなる。だが、あの時は体の変化があまり見受けられなかった。

 

横に広がる森林。その中で古く腐っている木に目を付け、ロットアイを使用。スマン、ちょっと使わせてもらいます。

 

渾身の力を絞って、拳で討った。

 

「…マジか」

 

結果は、木が少しグラついた程度で、殴った形跡も無く、傷一つ無かった。同様に、俺の手にも傷はなかった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

続きはかなり先になりそうです。ていうかなる。完結はまだまだかかりそうです。

期間が空いたのに、投票、お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます。

また次回。


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44話:俺と彼女の消滅カース

はい、どうも、アイゼロです。

新年あけましておめでとうございます。高校二年生から書き始めてから、今年で私は社会人になります。

2019年は就活だったり、病気が見つかったりとか色々ありましたけど、無事笑って新年を迎えられて良かったです。唯一の心残りは、復活宣言したのにも関わらず、一話も投稿できなかった事。

それでは、ご覧ください。


呪いが消えつつある。

 

夜風が枝葉を揺らす音が鮮明に響く。コンビニ袋を片手に、もう片方の握り拳を見つめる。傷は一つもないが、殴った木もあまり傷がつくどころか、少し揺らいだ程度だった。拳から目を離し、再び目の前に広がる森林に目を移した。

 

忌々しい呪いの力。それを使っているのにも関わらず、モノクロ世界に少しずつ彩が戻り始めていた。いや、気のせいだ。夜だからきっとそう見えるだけだ。明るくなれば、また白黒の世界が広がる。

 

では何故木は倒れなかった?今までだったら容易に折ることができた。それができなかった。けど、少し色が見える。凛と飛鳥、彩加にロットアイを使った時も違和感を感じた。消えるはずがなく、一生付き合っていくと思っていた力が無くなりつつある現状に、困惑と疑念がループする。

 

夜風によって、ガサっとビニールが音を立てた。

 

「やべ、ぬるくなっちまうな」

 

パシりにされていた事を思い出し、早足で宿舎に戻る。

 

分からないことを、ましてやにわかには信じられないモノに時間を割いても仕方がない。取り敢えず任務を完了させてしまおう。

 

 

遅いと文句を言われながらも、各々注文した飲み物を配る。朝から電車移動やこの宿舎まで歩いたり、ここでも遊んだというのに四人は疲れは感じさせないぞと言わんばかりに元気に談笑している。

 

「何でお前らそんな元気なんだよ…」

「えー?八幡が体力ないだけじゃない?」

「夜はこれからだよ八くん」

「明日は観光だから、ほどほどにしとけよ」

「はーい、先生」

「はいは伸ばさない」

 

この場合だともうしばらく続きそうだ。風音達から少し離れ、背もたれに身体を預けて四人を見守る。先程凛が言ったように、俺は体力はあるわけではない。確かに疲れてはいるが、ここまで体が重いと体調不良を疑ってしまう。こんな時に風邪とか絶対嫌なんだけど。マジちょーありえないんですけどー。どんだけ~。

 

ショックを受けそうになったが、このだるさの正体はすぐに思い立った。ここに戻ってくるまでにしていた事を思い出す。

 

ロットアイ使い過ぎたー。

 

この力は使った時間の分身体への負担がのしかかり、限界まで使おうものなら身体が鉛のようになって一歩も動けなくなってしまう。外で違和感を持ったせいで5分程使ってしまい、今のように体が重くなって動けない。ロットアイ消えそうなら、このだるさも軽減してくれよ。何で都合悪いものは残しとくの?俺に恨みでもあるの?ちょうどいい、俺もお前の事大嫌いだからな。決着つけるか?お?

 

見えない力と喧嘩腰になりながらも、疲れは睡眠欲へと変わり、瞼が重くなる。せめて、ベッドに……。

 

 

 

 

「…あ、八くん寝ちゃった」

「本当だ。いつの間に…。ってもうこんな時間か。さすがに寝よ」

「そうだね。八幡どうするの?」

「重いからこのままでいいよ。じゃ、おやすみー」

 

意外と塩対応の風音に苦笑をもらした三人は、言った通りに各々の布団へ潜った。

 

 

『もう、必要ないな。こんな呪い(もの)

 

 

「…ッ、ってぇ」

 

目を開けてまず襲ってきたのは、節々の痛み。座ったまま寝ていたせいで、首から腰に掛けて鈍い痛みが走る。視界がはっきりとすると、陽の光がカーテンで遮断され薄暗い空間が広がり、四人は気持ちよさそうに布団で寝ている。起こしてくれても良かったじゃん。四人いて何で放置を選択したの?

 

軋む体でしばらく立ちすくむ。何だか不思議な気分だ。一年前はただの友人だったのに、今はこうして一緒に生徒会として活動し、旅行に来ている。ましてや寝ている姿を晒すなど、実は今でも考えられない。前だったら絶対に反対していたし今でもどうなのかと考えているが、今回は押しに押されて了承した感じだ。風音と付き合ってから、こういったものには堅い考えを持つようになったけど、それも少しは寛容的になった気がする。…いや本当にスヤスヤだなこいつら。凛が寝相悪いのは容易に想像できるけど、飛鳥と彩加が動いた形跡が全く見えなくて逆に怖い。

 

時間を確認すると7時ちょい過ぎだ。この後は観光するために10時には出るからまだ時間はある。こいつらはまだ起こさなくていいだろう。それまでは、朝の温泉でも堪能しようか。椅子に座りながら寝たせいで、バキバキになった身体を癒そう。

 

 

「ああ~」

 

思わず声が漏れる程気持ちがいい。やはり温泉とはいいものだ。

 

「……必要ない」

 

ふと夢で聞いたかもしれない言葉を呟く。それは所詮夢であって起きたらすぐに忘れるもの。実際ほとんど覚えていないが、何故かこの言葉だけは鮮明に頭に残っている。これが何を指しているのか分からない。心当たりもない。ましてや何故こうして気になっているのかも分からない。

 

まぁ、どうせ夢だ。嫌でもすぐに忘れる。

 

「八幡」

「ん?」

「あ、やっと反応した。もー、三回目」

 

声がした方を見ると、そこには彩加が立っていた。頬を膨らませ、指を三本立てている。可愛い。温泉から立ち込める湯気が所々彩加の体を隠し、中々にセンシティブな光景が広がっていた。煩悩退散。

 

「あー、すまん。ぼーっとしてた」

「のぼせてない?」

「大丈夫だ」

 

そっか、と短く返事した彩加は俺の隣に座って肩まで浸かった。

 

「よくここにいるって分かったな」

「朝早く部屋から出るとしたら、ここかなって。それに座ったまま寝てたから、身体痛めてるんじゃないかって風音が」

「いや起こせよ。何で放置したの?」

「僕もてっきり起こすと思ったから意外だった」

 

彩加から風音の冷たい対応を聞き、呆れたと同時に驚いた。

 

俺の変化に伴い、風音も少しずつ変わったのかもしれない。物心がつく前から俺の隣にいた風音は、今まで優しすぎた。その元凶は俺にあり、風音にトラウマを植え付けたのも俺だ。だから下手に言及できずに、いや、甘えていた。心配させたくない思いで甘えてしまっていたのだ。冗談を言い合う事を避ける程に。

 

「ど、どうした?」

「八幡」

「え?…え、え、何」

 

何をしたかと思えばいきなり俺の頬を両手で包み、目を覗いてきた。その美女顔負けの美少年と鼻の先が付くか付かないかの距離に俺の心臓は鼓動の速さを倍にした。……待て待て待て、こいつは男こいつは男。風音以外で興奮してはいけない。

 

その時間は長く続かなく、すぐに終わった。

 

「ごめんね、何でもない」

「え?いや、すげえ気になんだけど」

「昨日色がついたって言ってたから、何か変わったかなぁって。でも濁ったままだね」

「うっせ。俺はこの目好きだ」

「うん。八幡らしくて好き」

 

万が一にもこの目が輝きを取り戻したら、俺のアイデンティティ無くなってしまうのか…。

 

 

その日、俺達は観光を目一杯楽しんだ。

 

受験という現実から離れ、またいつ訪れるか分からないこの安らぎと楽しい時間を共有した。予め計画を立てていた観光地巡り、グルメを堪能した俺達はまるで旅番組をしているように感じた。

 

その時間は本当にあっという間に過ぎ去って行き、気付けば宿舎に戻って夕飯や入浴を終えて就寝前になっていた。

 

皆一日中歩き回ってさすがに疲れているのか会話があまり広がらず、重い瞼を必死に持ち上げ布団を敷き始めている。そんなに疲れるまで観光できたのなら、非常に充実した日になったに違いない。かく言う俺も久しぶりの観光で気分が上がっていたから、横になったらすぐに眠れそうなくらいフラフラだ。

 

「もう寝るのか?」

「うん。もう喋る気力もない」

「寝よ」

「僕限界」

「八くん電気消して」

 

どうやらさっさと寝たいらしい。

 

俺は電気を消して布団に入った。皆は既に寝静まったのか布団が擦れる音すらせず、静寂な空間が生まれている。

 

この旅行で分かったことがある。おそらくきっかけはこいつらに色がついていると気づいた時。

 

 

 

呪い、ロットアイが消えた。

 

昨日の夜に消滅の兆しはあったが、今日で完全になくなったらしい。

 

眼をドロドロに濁すことができない。力が出ない。身体に負担がかかる感覚がない。

 

発動条件は無く、思いのままに操っていた力が突然消えるのはどういう感じなんだろう。厳密に隠していたわけではないから、村人になりすました英雄とはまた違う。寧ろ役に立つことが多かったから、本当に呪いだったのだろうか。

 

正直喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない。忌々しいと思っていたけど、役に立っていたし便利だとも思っていた。それと同時にイジメによって生まれた力に頼ってていいのかと苦悩する時もあった。

 

様々な思いが体中に駆け巡る。それでも俺は、心から良かったと思っている。これで俺も、普通の人になったと。

 

まだ風音には言っていない。この事を知ったらなんて言うんだろうな。多分喜んでくれるんじゃないだろうか。風音も小町も頼るときはあったがこの力は好きじゃなかったからな。

 

色々考えてももう疲れて頭が回らないからさっさと寝てしまおう。明日皆と別れた後に風音に話すことにした。

 

 

充分な睡眠から目を覚ます。時間は7時ちょい過ぎと何とも健康的な時間に起きたもんだ。

 

チェックアウトまで時間もあるため風音達は起こさず、静かに外出着に着替え宿舎の外に出た。どの季節も基本朝は涼しいが、夏となればすぐに猛暑になってしまう。全く、嫌になるな。

 

自然に囲まれた宿舎なだけあって空気は美味いし、風も心地がよい。寝起きだった意識が一気に覚醒し始めた。ここで冷えたマッカンでもあればさらに気分が良くなるんだが、生憎宿舎の自販機には無かった。コンビニに行くのも面倒だった俺は冷えたココアを飲んでいる。朝ココアも悪くないし、実は健康にも良いのだ。作るの面倒くさいから家ではやらないけど。

 

「随分早起きだね」

「ん?風音か。おはよ」

「おはよー。部屋から出るところ見たから、どこ行くんだろーって思ってね」

「こうして自然を体に取り込んでたところだ」

「確かに気持ちいい」

 

風音も先程の俺と同様に身体を伸ばしながら深呼吸をした。

 

今言ってしまおうか。毎日会っているからいつでもいいんだが、別に先延ばしにする理由も必要もない。

 

「なあ。もし俺からロットアイが消えたらどうする?」

「何急に?まぁ役に立つことはあったけど、消えたら消えたでそりゃ嬉しいに決まってるよ」

 

使う度にぶっ倒れそうな程疲れるのはうんざりだったけど、風音の言う通り結構役に立つ場面はあった。

 

「そうか」

「何でそんなこと聞いたの?もしかして、消えたの?」

「…みたいなんだ。力も入らないし、白黒にもならない」

 

そう言うと風音は両手で俺の顔面を掴んだ。勢いよく眼鏡をぶん取られたせいで結構痛かった。おいそのまま掴んどけよ。落とすな落とすな。

 

「…いつも通り濁ってるね」

「そりゃどうも」

「何で突然消えたの?」

「さぁな。何はともあれ、無くなってよかったと思ってる」

「うん。私も」

 

結局最後まで分からずじまいの力だった。今まで気にすることを止めていたけどこうも突然だと却って気になる。

 

パァン!

 

風音が俺の顔の前でねこだましをした。

 

「うぉっ!」

「はい、もうロットアイは忘れる!まだ旅行中だよ。考えるのは後!」

「…そうだな。おし、一旦忘れる。もう忘れた」

「それでよし」

 

後はチェックアウトして帰るだけなんだけどな。

 

 

チェックアウトを済ませ、後は帰るだけとなったが時間に余裕があるため観光地付近のレストランで昼食を取ることにした。

 

料理が来る前にドリンクを口に含みながら談笑が始まる。

 

「はぁ、楽しかったね」

「また遊びたいなぁ。次は卒業旅行だね」

「全員無事に進学できたらの話だけどな」

「八くんそういうこと言わないの!そう言う人に限って落ちるんだよ!どうせ一位と二位しか取ってないから楽勝だと思ってるんでしょ!」

「よくお分かりで」

「もう!」

「あはは、まぁでも皆なら大丈夫だよ。僕も……………多分」

 

笑って楽しむ雑談ムードから、どんよりと俺の目のように濁った微妙な空気が生まれてしまった。皆顔を下に向けている。

 

「で、生徒会の話なんだが」

「その清々しい話題転換に驚きなんだけど」

「冗談だ。…ま、ここにいる全員受かんだろ」

「うっわー、てきと~」

「適当じゃねえよ。俺が保証する」

「八くん?……」

 

風音は不思議そうな面持ちで俺の方を向いて呟く。こんな根拠もへったくれもない暴論を言う俺に違和感を持ったのだろう。何しろ俺はこういうのが嫌いだからだ。確証の無い、現実性皆無、後先考えずに理想を掲げる。今の俺の発言は下手したら人の人生に大きく影響を与えてしまうかもしれないものだ。無責任にもほどがある。

 

じゃあ何故嫌いなのに言ったのか。その問いに対する答えは酷く単純だ。ただ言いたかったからだ。こいつらと学校を卒業したい、進学しても遊んだり馬鹿なことをしたい。全ては俺の勝手なエゴ。小学生のようなガキくさい我儘だ。

 

だけど俺がこいつらを信じているのは本当だ。ぶっちゃけるが凛も飛鳥も彩加も頭は結構良い。志望先にもよるが落ちる確率の方が低い。

 

俺の発言を不思議に思ったのは風音だけではなく、全員が俺の方へ顔を向けている。あらやだ恥ずかしい。

 

「どした?」

「いや、八幡もそんなこと言うんだなぁって」

「そうそう。なんか意外。結構な現実主義だから」

「でも八幡に言われて少し自信がついたよ」

「お、おう…」

 

なんかプラスに捉えてくれたみたいで助かった。今回は思わず口にせずにはいられなかったが、今後は気を付けなければいけない。こういう発言は不安な人ほど効果覿面だからな。

 

「話を戻して生徒会だ。理事長から立候補者が揃ったと連絡が来た。二年の修学旅行が終わったらすぐに選挙が始まる。そこで俺らは終わりだ。以上」

 

「はーい」

「はい風音」

「もうやることは無いの?」

「ほぼ無い。立候補者の書類を確認するくらいだろ」

 

砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲んで一息挟む。

 

生徒会の話は終わり、これから夏休みに予定があるのは彩加だけになった。二週間後に大会が控えていて、勝てば続き、負ければ引退の大事な試合。その日は俺らも応援しに現地へ赴くことになっている。これに関しては飛鳥が妙に熱が入ってて楽しみにしている様子だ。

 

それが終わったら夏休みは当分会うことも無いだろう。それぞれ予備校なり塾に本格的に受験に集中しなきゃいけない。余裕で受かると言ったがもちろん半分は冗談だ。俺と風音も予備校に集中するつもりだ。

 

というかそもそも何故俺はここまでこいつらに会えるか会えないかで頭を使っている。なんだかんだ言って俺が一番寂しがっているのか。いつの間にか随分と侵食されてしまったみたいだ。そりゃロットアイも消えるだろうよ。

 

そんな考えに辿り着いた俺は変に恥ずかしくなってしまい、考えるのを止めた。

 

 

自分達の最寄り駅に到着し、その場で解散にした。

 

帰宅したときにはカマクラしかいなかった。両親と小町は朝から出掛けていると連絡があったから、まだその真っ最中だろうお。部屋に荷物を置いてベッドに横になった。まだ昼の2時だけど疲れが溜まっていて眠気もある。

 

寝るか。

 

 

自宅に荷物を置いてシャワーを浴びた後、八くんの部屋に入ると外着のままベッドで不格好に寝ている姿が目に入った。荷物も無造作に倒れている。

 

「だらしないなぁもう」

 

溜息をつきながら寝ている八くんの横に座る。八くんの方に向くと見慣れた寝顔、その中で私は目を注視した。

 

ロットアイが消えた、か。これほど喜ばしい事実があったというのに、あまり実感が湧かない。それもそうだ。自分が持っていたわけでもないし。ただこうもあっさり消えたと言われたら気になってしょうがない。

 

目をドロドロに濁して白黒の世界を創り、力を上げる。その代償に歩くことが難しくなるほどの疲労が襲う呪いの力。腐っている目がさらに酷くなることから、私は安直にロットアイと名付けた。

 

発現した当初は私も八くんも嫌っていた。こういう症状がずっと続くなら何かの精神的な病だと思って気が楽になるんだろうけど、意のままに操れるから余計に怖かった。私以上に八くんはしばらく悩み続けていて、私は慰めたり元気づけたりすることしかできなかった。医者に相談も考えたけど、こんな話を信じてくれるとは思えなかった。だから、私は自分で調べることにした。この事は八くんには言っていない。

 

気になったキーワードは【防衛機制】。受け入れがたい状況、または潜在的な危険な状況に晒された時に、それによる不安を軽減しようとする無意識的な心理的メカニズムの事を指す。防衛機制にもいくつか分類されているけど、八くんは精神的防衛に当てはまると考えている。

 

原因はイジメだと分かりきっている。受け入れがたい状況が防衛機制として機能した。それがロットアイ。白黒はおそらく八くんの心理状態を表していて、過剰過ぎる自己防衛によって力が働いたんだと思う。

 

発現してから何週間か経って力を使わない限り体には異常がないと分かった私達は次第に気にしなくなった。そして徐々に八くんは使い方を学び、高校入学時にはしっかり使いこなせていた。最初は私も使い度に怒ったり注意していたけど、呪いと向き合って笑ったり楽しんだりしている姿を見て、怒るに怒れなくなった。普通じゃないものを受け入れて前向きになっている八くんを見て、私はそれを支えようと決めた。

 

そっと八くんの頭を撫でた。

 

「……風音?」

「そんな体勢で寝てるとまた体痛めちゃうよ。それと、せめてシャワー浴びてから寝てね」

「そうするか」

「一緒に浴びる?」

「いい」

「はっ!ついに私の身体に飽きちゃったの?これがマンネリ化か…」

「ち、ちげえよ。普通に疲れてんだ」

「冗談だよ~。寧ろ私が飽きさせないから」

「そんなこと考えなくても飽きないから」

「え~そんなに魅力的?恥ずかしいなぁ~」

「お前どうした?頭でも打ったか?」

「多分どっちかというと八くんが私に対して態度が変わった気がする」

「そうか?」

「うん。甘えん坊じゃなくなった」

「まるで今までは甘えん坊だったみたいな言い方だな」

「比較的控えめになった気がする」

 

私がそう言うと八くんはそうか?と首を捻った。

 

「じゃあ、私はここで裸で待ってるから」

「何でそうなる?」

 

 

「本気だったのかよ…」

 

シャワーを浴び終え、部屋に戻ると宣言通り裸になっていた。着ていた服や下着が床に無造作に置かれている。当の風音は裸なんだろうけど、掛布団で首から下を覆っていて全貌は見えていない。

 

「しかも絶対に寝たふりだろ」

 

こんな笑顔で寝てる人見たことがない。まだかな~ってオーラが見えてしょうがない。何これ?Yesって認識でOK?

 

欲には忠実に生きていきたいと考えているから、ここは従ってしまおう。俺は着たばっかのパジャマを脱いだ。なんか恥ずかしいから下着は脱いでいない。

 

ベッドに入ろうとすると、風音の身体がはっきりと見える。うん、綺麗だ。今すぐにでも触りにいきたいが、風音と少し話したいことがあるため我慢する。

 

「風音」

「ん?」

「ありがとな」

「…ん?何が?」

「ロットアイが消えて、昔の事を思い出してな。ロットアイで悩んだり苦しんだりしたときに、気遣ってくれたり支えたりしてくれただろ」

「当たり前だよ。八くんが苦しんでると私も辛いし」

「それに消えたのも風音のおかげだ。一歩踏み出す勇気をくれたから、俺は今こうして充実した学校生活が送れている。だから、ありがとう」

「なんだかむず痒いなぁ…。八くんが幸せなら私も幸せになれるから」

 

この言葉が一番幸せかもしれない。

 

…。

 

沈黙が続く。このまま寝てしまうのもありだったが、こういう状況になったのならもう最後までやってしまった方がいい。

 

掛布団を勢いよく剥がし、風音の上に覆いかぶさる。

 

「は、八く、ッ!」

 

強引に唇と唇を合わせる。

 

「……いいか?」

「…うん」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

めちゃくちゃ長く続いちゃったこのシリーズも次回で完結させます。

このシリーズについて色々語りたくてたまりませんが、次回に一気に話したいと思います。

一応今回でずっと謎だったロットアイの種明かし?をしたつもりです。そこまで厳密な設定じゃありませんけどね。
必要か必要じゃないか聞かれたら、私は必要だと答えます。物語を進めて展開させるには必要な力でした。

それではまた次回。


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最終話:俺と彼女の契約マリッジ

はい、どうも。アイゼロです。

長く続いてしまったこのシリーズもついに完結です。長かった…。

約3年ぶりの更新となりました。もうとっくに俺は社会人です。

入籍の流れがありますが、軽く調べた程度なので、実際は違うのかもしれないです。その辺は目を瞑っていただければ。=独身。

それでは、ご覧ください。


温泉旅行から1週間が経った。夏の暑さは依然と猛威を振るい続け、外に出るとじりじり肌が焼かれているように感じ、セミの大合唱は鳴くことが仕事と言わんばかりに人々の鼓膜を震わせる。2日に1回は熱中症、日射病患者を運ぶ救急車のサイレンが聴こえ、一層体調管理に身が引き締まる。受験生にとって勝負時である夏の中での体調不良は何よりの敵だ。

 

俺と風音含め、彩加達は日々受験勉強に追われ、予備校にも足を運び続けている。それぞれやるべきことをこなしながら、それでも一週間に一度は全員でグループ通話を行い、近況報告や勉強の教え合いなどを行ったりもしている。メリハリ大事。

 

そして俺と風音の誕生日を明日に控えた8月7日。今日は特に授業も無かったのだが、先日行われた模試の結果が今日発表されるため、こうして自習室で勉強しながら待機している。結果だけを貰いに来ているから午前中には終わるはずだ。結果の内容は点数や志望先への合格率等々、進路を決めるうえでの選択肢にもなる。

 

明日の予定としては午前中に婚姻届けを提出し、昼に彩加たちと学校で誕生日会が開かれる予定だ。

 

明日のことを考え胸が躍る中、俺は予備校の自習室で受験勉強に励んでいる。その隣には風音が座っており、俺と同じく胸とシャーペンを躍らせている。

 

しばらくするとお互い手が止まっていた。

 

「どうした?ボーっとして」

「八くんこそ。…ちょっと明日の事考えてて」

「俺も同じだ。どうもソワソワするなこれ」

 

明日の事を考えるとどうにも実感が湧かない。明日結婚するのに普段通り予備校で勉強なんて、もしかしたら世界中で俺達だけ?いや、世界の広さを侮るなかれ。もしかしたら、この予備校に同じような奴がいるかもしれない。絶対にいない。

 

「小さい頃からずっと隣にいたから、いざ結婚となってもあまり実感がないね」

「ああ、俺も同じこと考えてた」

「あんまり意識しなくてもいいのかな。あくまで一つの契約だし」

 

風音の結婚に対する考えが結構あっさりとしていることに少し驚いた。それも相手がずっと一緒にいる俺だからというのも理由の一つかもしれない。

 

「あ、私達の番号呼ばれたよ」

「おう」

 

俺達の受験番号が呼ばれ、結果が書かれた紙を受け取った。

 

「どう?」

「まぁ、こんなもんだろって所だ」

「同じく」

 

俺と風音の志望先である国立大学への合格率はA判定だった。油断大敵に変わりはないが結果自体は申し分ない。次に気になったのは順位だ。この予備校内での順位が書かれている。予備校生の正確な人数は分からないが、その中で俺が11位、風音が9位だった。学校では1位と2位を取っているが、外に出ればこんなものだろう。有名大学等の名門を目指している者がいる中でこれだったら上々である。

 

「引き続き油断せず、だな」

「そうだね。じゃあ、帰って明日の準備しようか」

「おう」

 

 

8月8日午前。

 

入籍の手続きは滞りなく行われ、特に何事もなく俺たちは夫婦となった。前準備を親父とお袋に相談しながら入念の行ったためか、あっさりと終わり、役所を出た俺と風音は未だに実感がなかった。

 

「思ったよりもあっさりだったね。逆に役所の人はびっくりしてたけど」

「態度にこそ出ていなかったけど、年齢見て目が泳いでたな。そりゃ高校生同士だし、結構珍しいんじゃないか?」

 

ちなみに高校生同士で結婚する割合は10%にも満たず、そのほとんどは破局の運命を辿っているらしい。一度未成年の結婚についてネットで調べていたが、大体がそんなことを言われていた。そりゃそうだ。ただでさえ高校から付き合った異性と結婚する確率すら低いのに、心身共に未熟なまま生涯のパートナーを決めてしまえばその後のトラブルなど容易に想像がつく。

 

さも他人事のように言っているが、俺と風音はその未熟の類に入る年齢である。この先なんて、現状大学進学しか見えていない。お互い大学卒業後の目標はあるけど、将来への道までは考えられずにいる。

 

「八くん」

「ん?」

「これからもよろしくね」

「お、おう。そうだな。どうしたいきなり」

「なんか、もっと楽しくなりそうって思って」

「大変なことのほうが多い気もするけど、それも含めて、ってことか?」

「そうそう」

 

風音は満面の笑みで俺に顔を向ける。それは一瞬にして俺の不安を消し去った。その笑顔はカンカンと照っている太陽よりも眩しいものだった。

 

その光は俺の中の不安の雲を振り払われてしまった。この先にある壁なんて余裕で飛び越えられると思わせられるほどに綺麗さっぱりと。

 

「そうだな。俺らなら大丈夫か」

「大丈夫!」

 

 

今日は忙しい日になる。市役所の次に来たのは総武高校。夏休みにも関わらず、校内校外では部活の賑わいを見せている。

 

学校の中は生徒が両手で数えられる程度の人が行き来している。普段多くの生徒が行き来する校内も、長期休暇によって閑散とするこの雰囲気は新鮮に感じられて俺は嫌いじゃない。

 

この後は生徒会室で凛達が誕生日と結婚を祝うために集まる予定がある。この日のために皆予定を空けてくれていた。ありがたい限りだ。

 

そのありがたみを楽しみにしながら、自販機で2つ買ったマッカンを出口から取り出す。もう一つは生徒会室で待っている風音の分だ。

 

「あれ?比企谷」

「ん?…なんだお前か」

「なんだとはご挨拶だな」

 

俺の返事に呆れ顔を見せる葉山。これはまた意外な人物が話しかけてきた。そもそも学校にいる事自体が意外だった。

 

葉山も飲み物を買った後、ちょっと話そうかと促され窓際に移動した。

 

「それにしても奇遇だな。今日はたまたまここに用があってきたんだけど、まさか会うとはね」

「こっちもそうだよ。何の用だ?」

「いや特に何も。友人を見かけたら普通声かけるだろ」

「用無かったら普通通り過ぎるだろ」

「君だって生徒会の友人を見かけたら声くらいかけるだろ?」

「…」

 

まずい、否定できない自分がいる…。確かに葉山とか戸部だったらまだしも、彩加を見かけたら話かける気がする。初めて葉山に言い負かされた気がした。

 

そんな俺の反応を察してか葉山は肩をすくめて笑みを浮かべた。

 

「だろ?」

「うっせー」

 

むかつくが友人を持った今、改めてこいつの言ってることも少しは分かってきた気もする。

 

一泊置いて葉山はもう一度口を開いた。

 

「君には感謝している」

「なんだ急に気持ち悪い」

「酷いな。この1年半のことだ。色々と君に助けられた」

「今更なんだよ。礼ならその時その時にもらってる。それに、結果的にそうなっただけで後はお前が色々動いたんだろ」

 

実際奉仕部に依頼が来たからであり、俺自身が面白そうと思って今まで受けてきたのだ。俺たちの仕事はそこまでで、後々の対処や人間関係の修復で動いたのは葉山だ。だから何度も礼をもらう必要はない。

 

「それでも、俺が変われたのは君がいたからだ」

「わかったって皆まで言うな。それ以上の礼は受け付けんぞ」

「そうか、ならもう言わない」

「そうしてくれ。それと、やっぱ俺の真似はしない方がいいな」

「ああ、もうやりたくないし、なんだったら文化祭以降そんなことしていない」

「そもそもあんな状況になること自体早々ないだろ」

 

文化祭で起きた相模実行委員長失踪事件は、葉山の機転によって事なきを得た。その方法というものが俺が小学生の林間学校で実施した、残酷な選択肢を迫り、恐怖を煽るという方法だった。あの時とは状況が違うのによく応用したものだと思ったが、何よりも葉山がそれを実行したことに驚いた。当時や今の様子を見るに不本意極まりないと言った様子である。あの時妙にすっきりした顔をしていたくせによく言うよ。

 

マッカンを一口飲みこみ、俺は口を開いた。

 

「まぁ、そうだな。俺も、お前には改めて礼を言いたいとは思っていた」

「…君がお礼?」

「おい」

 

何故か疑惑の目を向けられた。ちょっと失礼すぎやしませんかね?なんか前にもこんなやり取りがあったような気がする。

 

「俺が生徒会長になれたのはお前の力があってこそだった。それに、お前は俺に何度も助けられたと言ったが、実際お前の協力がなきゃ解消できない依頼もあった」

 

チラリと葉山を横目に見ると、ぽかんと放心状態のような表情をしていた。

 

「いやいや、それは君に助けられたお礼で手伝っただけだよ」

「それでもだ。お前が俺のおかげで変わったように、俺もお前がいたから変われたんだ。だから、サンキュ」

 

葉山は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。我ながららしくない事を言っていることは自覚している。前の俺ならこんなことを言った日にはきっと枕に顔をうずめて悶絶するだろう。…いや、ちょっと嘘だ。実は今結構恥ずかしい。なんだったらやっぱり言わなきゃよかったとすら思えてきた。うわ恥っず。

 

「らしくなかったな。忘れてくれ」

「そう言って忘れる人を俺は見たことないよ。それに、比企谷から意外な言葉を聞けたからな。忘れないよ」

「チッ、やっぱお前性格悪いわ」

「お互い様だ」

 

今までを振り返ると、こいつとは何かと奉仕部を通じて一緒に行動することが多かった。普段机に突っ伏していた俺と常に周りに人がいた人気者が、今となってはこういう小突き合いや冗談を言い合うような関係になった。

 

片手にもう一つ持っていたマッカンを思い出した。

 

「そろそろ行くわ」

「ああ、時間くれてありがとう。それと、誕生日おめでとう」

「……おう」

 

何で知ってんだよ。教えたことあったっけ?

 

 

『誕生日と結婚おめでとうー!』

 

3人の祝言とパンッと軽快なクラッカーの音が生徒会室に響いた。その次には拍手喝采。そのスポットライトに当たる俺と風音は、誕生日のほかに今回は結婚ということもあり妙な照れくささがあった。

 

乾杯をして皆一口ジュースを煽った後、凛が口を開いた。

 

「まさかこんなにも早く同級生に結婚おめでとうって言うとはね」

「しかも学校で」

「本当、おめでたいよね。僕の方は八幡と2人で話した時に聞いてたけど、未だに実感がないよ」

 

何故か俺らよりも感慨深げに溜息を吐いた。

 

「実感ないのは私たちも同じかなー。え?私本当に苗字変わったの?って」

「いやだってまだ結婚して全く時間経ってないじゃん」

「…確かに」

 

確かに実感がないと言えば、正直全くない。

 

そもそも人が結婚したと実感するときはどんな時なんだろうか。やはり結婚式や指輪なのだろうか。だとすると、まだまだ先だな…。一体何年後だっていう話だ。学生生活まだまだ続くぞ。

 

「じゃあ、ここでプレゼントターイム!はい、これ私たち3人から」

「え、マジで。おお、ありがとな」

「みんなありがとう!開けてもいい?」

「いいよいいよ。開けちゃって」

 

凛が一瞬その場を離れて持ってきたのはラッピングがされた箱だった。

 

開封の許諾を得た俺たちは、まずラッピングを丁寧に剥ぐ。次に姿を現したのは木箱だった。木箱=高級という発想のせいか、俺と風音はまさかと思い咄嗟に3人に顔を向けた。顔を向けられた3人は驚きつつも俺たちの表情で何を言おうとしたか察したのか、首を横に振った。

 

「な、なぁこれ」

「いやいやいや、そんな想像してるような高いやつじゃないから!最初から木箱に入ってただけ!」

「よかったー。高級品とかだったら逆に困ってたよ」

 

安堵の息を吐きつつ、木箱を開けるとそこには茶碗と箸が2セット入っていた。それぞれ黒と水色に分かれている、所謂ペアセットというものだ。

 

「これなら普段使いできるでしょ」

「ああ、ありがとうな3人とも。ありがたく使わせてもらう」

「うん、それと2人で暮らすときも使えるなーって思ってね」

「何で俺らより気が早いんだよ」

 

茶碗を一度木箱にしまう。

 

彩加がジュースを一口飲んだ後、俺たちに質問を投げた。

 

「2人はいつから同棲するとかって決めてるの?」

「特に決め手はないが、大学入ったらそのうち、とかか」

「でもねぇ、もはや同棲しても同棲って感じしなさそうなんだよね」

「そうなの?」

「そうだな…。お互いの家に行き来することがもう日常だから新鮮味がな…」

「あー、なるほど」

 

続けてお菓子を飲み込んだ飛鳥が話に入ってきた。

 

「んー、逆に近すぎるとそういう弊害があるんだね。やっぱりいいことだけじゃないんだ。」

「ううん、悪いことはないよ?八君と一緒にいられるだけでもう十分満たされるし」

「俺たちは寧ろその新鮮味を味わう時期が早かっただけだろ。中学から付き合ってるんだからな。だから、今じゃ一生隣にいてくれるだけでいい」

「新婚のくせになんかもう言ってることが熟年夫婦なんだよねこの2人」

 

凛が呆れたように溜息を吐く。はぁ~甘い甘いと言わんばかりにブラックコーヒーを飲む。そしてチョコ菓子を食べる。甘くしたり苦くしたり忙しい奴だ。前までは微糖すら飲めなかったはずなのだが、すっかり克服している。9割俺らが原因だ。

 

「あっ!そうだ!一つ気になったことがある!」

「どうしたの凛?急に大声出して」

「名前!今更だけどさ、風音ってなんで八君呼びなの?八幡は普通に風音って呼んでるけど」

「えー?うーん…」

 

凛の思い付きに風音は首を傾げて考え込んだ。

 

言われてみればそんな話は今までしたことがなかった。そもそも俺が八君呼びに対して最早当たり前すぎて疑問すら浮かぶことがなかった。

 

「あ」

「お?何か思い出した」

「いや、そもそも八君としか呼んだことがない気がする。多分初めて喋った日から…。だから何で呼んでるのかも、いつからなのかも理由はないかも」

「確かに最初から八君だったし、それが当たり前すぎて何とも思ってなかったな」

 

俺が風音と呼ぶのも同じ理由だ。今の今まで呼び名という事に関しては考えもしなかった。もちろん、交際相手には下の名前で呼ぶのが普通という事は知っているが、あだ名で呼び合うことも珍しくはない。別に今更変えたとしても意味がなさそうだ。

 

「じゃあさじゃあさ!八幡って呼んでみてよ」

「え?…別にいいけど…」

 

凛の思い付きにキョトンとしながらもうなずく風音。

 

別に今更名前で呼ばれたところでどうってことはないだろう。日ごろから凛達にはそう呼ばれているから、すっかり慣れてしまっている。いくら風音の口からだとしても今更ドキドキ照れるなんてことはない。

 

「…八幡」

 

……。

 

…ん?え?、良くね?今更名前呼びでときめいたんだけど。新鮮味感じちゃってる?このときめきピッチピチの中学生以来だ。そして何よりも俺の顔を覗き込むように上目遣いで呼んできた風音がくそ可愛い。しかも風音も恥ずかしかったのか頬が若干赤みを帯びていて、可愛さが何杯も増している。おいお前ら、俺の彼女可愛くない?

 

口角の上がる口を押えて自分でもわかるほど目が泳いでいる俺、赤くなった顔を俺から逸らす風音に、思わず3人が叫ぶ。

 

「いやいやいやいや何で恥ずかしがってるの!?今までそれ以上のことしてたでしょ!」

「今更そんなことで照れる!?さっきの熟年夫婦の雰囲気は?」

「急に中学生みたいになってるよ2人とも!」

 

いや、ね?まさかここまで破壊力があるとは思わないじゃん。ここでまた新しい風音が見れたのよ?やばいじゃん。もう語彙力死んでしまって戸部みたいなべぇべぇ状態だ。

 

「これを気に呼び方変えたりする?」

「いやぁ…。八君が一番いいかも。いずれは八幡って呼ぶと思うけど」

「まぁ、なんだ。良かったがいつも通りが落ち着くな」

 

 

用意していたお菓子やジュースもなくなりつつあり、誕生日会からただの雑談に切り替わり始める。

 

最後にいただくのは、誕生日ならではのケーキ。誕生日会を開く話をしているとき、俺と風音は金銭面を考えて遠慮していたところを、なんと理事長がケーキの差し入れを持ってきてくれていたのだ。流石に予想外が過ぎて驚きを隠せずにいた。

 

理事長が誕生日を知っていたのは俺たちが今日生徒会室を使う許諾を得るために説明したからだ。それがまさかサプライズで使われるとは思わなんだ。つくづくイベントごとが好きな人だと改めて実感した。

 

しかもホールではなく、一人分サイズで色々種類が豊富に揃っているものだった。気の利き方がもはや恐怖の域。理事長には一生頭が上がらん。

 

そんなありがたいケーキをいただきながら話は弾んでいく。

 

「ほんとにしつこいんだよね。毎回授業終わりに誘ってくるの!本当勘弁」

 

今の話題は凛と飛鳥が通っている予備校で、事あるごとにナンパみたいなことをしてくるという愚痴だ。

 

「てっきり予備校で友人作って遊ぶくらいはすると思ってたがそうでもないのか?」

「いやぁ、何人かとは話してるし昼ごはん一緒にいたりするけど、なんか2人でどっか行こうとか言ってきて。断ってもきりがなくてうっとおしかった…」

 

溜息を吐く凛の横に座っている飛鳥が変わって話をつづけた。

 

「だからね、凛と付き合ってるってことにしたの」

「……えぇ?」

「ぶふっ」

 

はい?え?付き合ってることにした?ほら、完全予想外の言葉に隣に座っている彩加が声を上げているし、風音なんかジュース飲んでたせいでちょっと噴き出している。

 

「いやそれがさ、私が絡まれてるときに飛鳥が咄嗟に『私たち付き合ってるので!』って言ってきてさ。本当びっくりした」

「しかも飛鳥からなんだ…」

「で、効果はいかほど?」

「誘われることはなくなった」

「どんな反応された?」

「凄い目泳いでた。『え、ああ、あ、そう、なんだ』って」

 

当然の反応である。だが、確かに考えてみればかなり効果的なやり方かもしれない。デリケートな問題でもあるから、下手に嘘だぁとか揶揄うことも躊躇われる。…何でこんな冷静に分析してるんだ俺は。

 

「おかげであっという間に噂が広がったよ…」

「ごめんって。だってああするしかなさそうだったんだから」

「別に気にしてないよ。もう絡まれることもなくなったし、夏休みしか行かないところだし」

 

手を合わせて謝る飛鳥に肩をすくめた凛。所詮は予備校での繋がりでしかないと割り切っている様子。効果的なやり方だが、お互い信頼している2人だからこそできる方法だ。

 

噴き出して口の周りについたジュースを拭きながら風音が口を開く。

 

「凛もよく反応できたね。そういう意図だって気付いたんでしょ?」

「付き合い長いから!中学からの大親友!」

「ちょ、ちょっと急に何!?」

 

凛が飛鳥の肩に頭を乗せてすりすりと擦る。この2人も何かとくっついていることが多い。

 

微笑ましい空気を余所に彩加が話しかけてきた。

 

「八幡と風音はそういうナンパとかあったの?」

「俺はなかったけど、一度風音が誘われているところを見た」

「……一応聞くけど、無事なんだよね?」

「おーい彩加?どういう意味だこら」

「ごめんごめん。冗談だよ」

「普通に追っ払ったよ。あの男は運が良かった。ロットアイが残ってたら両手の骨を粉砕してた」

「「「消えて本当に良かった…」」」

 

俺の発言に3人はドン引きして安堵の息を吐く。まるで化け物扱いである。

 

「そうだな。ロットアイが消えたのはお前らがいたおかげだ。こんな俺と友達になって、色々経験させてくれたから、呪いを手放すことができた。本当にありがとう」

「八幡……」

「八君……」

「何良い雰囲気に持っていこうとしてんの!八幡十分怖いよ!」

 

エモの空気に持っていこうとしたが凛の突っ込みによって制止された。

 

ともあれ3人が俺に対して化け物のような存在でもあるという認識について今度問い詰めておこう。

 

 

盛り上がった誕生日パーティもお開きとなった。

 

解散したときには既に日は半分沈んでおり、オレンジに染まった空の下帰路に就く。

 

「う~んっ、楽しかったね」

「そうだな」

 

お互い固まった体を伸ばす。今日は久しく一日中外にいたおかげで疲れも感じている。昼からこんな時間まで凛達との話に花が咲くとは思わなかった。お互い週一で話をしているにも関わらず話題が尽きないのは流石今時JKだと感心する。俺か?いくらコミュ障を克服したと言っても話題提供はまた別だぞ?途中から聞き手に変わったに決まっているだろう。徐々に空になっていく引き出しが四次元ポケットに勝てるとでも?

 

「今まで誕生日って家族とだったから、新鮮で楽しかったね」

「ああ、友人に祝ってもらうってこんなに嬉しいことなんだなって」

 

実は友人に誕生日を祝われるのは今回が初めてである。理由は察しろ。昔の俺だったら、俺のせいで友人に祝ってもらえなくてごめんと謝っていただろうけど、今では良い意味でそんな風に考えることはなくなった。

 

「風音」

「ん?」

「…ありがとな」

「わ、どうしたの急に」

 

家の前に着いた途端、俺は風音を抱き寄せた。風音は一瞬の困惑を見せたがすぐに応えるように俺の背に手を回した。

 

「今までのこと全部?」

「今までって、幼稚園まで遡っちゃうよ?」

「いや、主に去年だな。俺の背中を押してくれたから今がある」

「そのお礼ならもう何度も受け取ってる。これ以上もらうと溢れちゃうよ」

「…言わずにはいられなかった」

「ならしょうがない」

 

そのまま無言で夕陽を背景に互いを抱きしめ続ける。周囲に人はいないため視線を気にすることはないが、きっとそうでなくても抱きしめていたかもしれない。結婚という新たな節目に、今までの恩が溢れてきてしまったのだ。

 

「じゃ、また明日な」

「うん!」

 

そうして俺たちはお互いの家に帰る。

 

俺たちにとって、結婚をしたって特別変わることはない。

 

この1年半、俺自身や周囲の環境は変化し、また新たな人間関係を築くことができた。だがそれでも、俺と風音の生活が変わらない。

 

またいつものように、お互い用もないのに顔を合わせて過ごし、家で飯を食い、遊びに出かけたり、勉強に励む。俺と風音は、これからもいつも通りの平穏な日常を過ごしていく。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

まずはお待たせしてすみませんと、お気に入り登録や投票ありがとうございました。

長く続いた処女作も今回で完結です。

高校2年生になったと同時に始めたのですが、今では社会人3年目です。時の流れは残酷。

書かない日が長く、それこそ1年くらい続いたせいで、少々拙い文章になったり、なかなか案が浮かばなかったりありましたが、何とか書き切れてよかったです。

少なくとも俺は満足に書けた!!!自己満足!!!

何はともあれ、感想、お気に入り登録、投票ありがとうございました!本当支えでした。

これからも別の作品で縁があれば読んでもらえると嬉しいです。

また。


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