問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児― (gjb)
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キャラ設定 紫炎&碓氷

ネタバレも多少含まれます
別に見なくても支障はありません


赤羽紫炎 18歳

 

外見 赤髪赤眼のツンツン頭 (ディーふらぐの風間堅次の色違い)

 

服装 特にこだわりはなく、しろのTシャツに黒のジャケットが基本

 

性格 竹を割ったようなさっぱりとした性格。良くも悪くも誰にでも同じ対応をする。ただし耀絡みは別。耀にだけ激甘

 

 

ギフト

 

・火生灰塵

火種がなくても火を生み出せるギフト。熱量、大きさは自由自在。着火場所は自分の認識してる場所ならいくつでも可能。自分を含めた指定した人物には熱が伝わらない

 

・自由主義

自身の近くにあるものを自由に作り替える。ただし、作り変える前のものより質量を増やすことはできない。ギフトにも使用可能でやろうと思えば火生灰塵の火を氷に変えて使用することができるが、碓氷とキャラが被るのでやらない。やろうと思えば自身の体を女性に変えることもできる。現在ギフトカードに西洋の剣を日本刀に変えたものを入れている

 

・色彩付与

自分の周囲にあるものに色を自在につけれる。基本的には自身の炎につけて姿を隠すときにのみ使う

 

・約束の指輪

自身のほかにペアになってる人のギフトを弱体化したものを使うことができるようになる。紫炎は耀との婚約指輪感覚でつけている。これにより動物たちの声が聞けるようになった

 

・七つの大罪 『傲慢』

ある人物が魔王に対抗するために作ったギフトの一つ。ギフト単体でも意志を持つ不思議なギフト。最高で半径一キロの円分の空間を認識することができるが、戦闘中は大体半分程度に落ちる。認識した場所の空間と空間を好感して瞬間移動まがいのことができる。裏設定として自分自身の肉体という空間を操り、一定時間限界を超えてギフトのランクを一段引き上げる。これは他人でもできるが、対象は一人だけのみ

 

 

概要

箱庭に来る前は母親はすでに死亡し、父親は行方不明で一人暮らしをしていた。箱庭に来た当初(第三十九話まで)は父親が母親を殺害したと思い込んでいたが、巨龍襲来時にジョーカーに襲われたときにジョーカーが母親を殺害したことをほのめかし、父親への誤解は解けた。しかし、今までの態度もあり素直になれない思春期男子。

耀と恋人同士の関係だが、ちゃんと恋人になったのは巨龍の襲来後。それからはバカップルぶりをいかんなく発揮している。近頃耀がヤンデレ化してきたのが悩み。

運河極端になく、じゃんけんをしても負け、トランプではほとんど勝てない。どんなに知恵を凝らしてもブービーが関の山。

酒にはめっぽう強く、南側の酒蔵のほとんどを飲みつくしたほど(その時にほろ酔い程度)。実際は炎が体内に走ってるため、アルコールのほとんどは胃に行く前に飛ぶ(無意識)。それをのけても常人よりかは強い

料理が得意で、北側の料理大会に出場し、優勝をかっさらった。そのため、リリや碓氷、メイド組と日替わりで夕食を作っている。得意なジャンルは洋食・洋菓子。ただっし食べるのは和食の方が好き

 

-----------------

 

青川碓氷 17、8歳くらい

 

外見 青髪青眼の優等生ヘヤー(CODE;BREAKERの大神の色違い)

 

性格 礼儀正しい。基本敬語交じりだが、コミュニティの面々とは年相応に砕けた喋りになる

 

服装 スーツ。近頃執事服を私服にしようか迷い中

 

 

ギフト

 

水態三様(アクアチェンジ)

水を操るギフト。空気中の水分を集めて水に生成することも可能。水から氷、水から水蒸気、氷から水蒸気、またはその逆も可能。自分のギフトで水を水蒸気にして霧を作ると、ある程度の動きがつかめる。水分子に働きかけるギフトなので分子を振動させて冷水をお湯にすることも可能。

 

 

概要

この小説の第二の主人公(的ポジション)。箱庭の住人。八年前、紫龍に命を救われてから紫龍の付き人になっている。それ以前の記憶はないが、別に戻らなくてもいいと思ってる。旧ノーネームに紫龍が立ち寄るときはなぜか連れて行ってもらえなかった。現在はノーネームの一員であり飛鳥の恋人。八年間の紫龍との旅で武具の扱い、武道の心得は習得。イケメン+柔らかな態度で世話になったコミュニティでは必ず一人は好意を持たれたが、全然気づかない鈍感。紫炎ほどではないが運が悪い。料理も達者で紫炎並みの腕前。得意料理は和食・和菓子だが、好きなのは洋食。酒にめっぽう弱く、一口飲むだけで記憶がなくなる。



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番外編
バレンタイン①


続きが思い浮かばなかったから番外編を書きました
蛟魔王はそのまま階層支配者で、白夜叉も東側の支店にいる設定です


二月七日―――――

 

紫炎と耀はペリパット通りをいつも以上にくっ付いて歩いていた

 

「あと一週間だけど、どんなのが欲しい?」

 

すると、耀が突然そんなことを言う

 

「耀がくれるなら何でもいいぜ」

 

紫炎は何のことかすぐわかり、そう答える

 

「うーん。じゃあやっぱりあれかな?」

 

耀がそう言うと、紫炎は嫌な予感にかられる

 

「なあ、耀。一体・・・」

 

「あ~、テステス」

 

紫炎が聞こうとすると、マイクを通して声が聞こえてきた

 

「私はサウザウンドアイズの白夜叉だ」

 

白夜叉の声が聞こえ、周囲がざわつく

 

「皆のもの、一週間後にバレンタインデーがあるのは知っているな。なのでそれにちなんだゲームをしようと思っている」

 

白夜叉がそう言った瞬間、耀の手にギアスロールが現れた

 

「女性の手元にギアスロールが現れただろう?それが投票権の代わりだ。サウザンドアイズの支店にチョコをあげたい人物の名前を書いて出してくれればいい。期限は来週のバレンタインデー前日だ」

 

そういってマイクの音が途切れた

 

「それじゃあ、早速書いて出しに行こうか」

 

耀がそういって紫炎の腕を引っ張ろうとする

 

しかし、紫炎は動かずに耀を抱き寄せる

 

「なあ、一体誰に入れるつもり?」

 

「もちろん紫炎だよ」

 

耀がそういって紫炎にキスをする

 

「そうか。それなら出すのは後でいいよな。今日はもう帰ろうぜ」

 

紫炎が耀の耳元で囁くと耀は頬を赤くして頷く

 

「紫炎の部屋でいいよね」

 

「そうだな」

 

昼でも寒い冬の帰り道を二人は肩を合わせて歩いて行った

 

―――――――――――――――――――――――

 

飛鳥と碓氷は六本傷のカフェで白夜叉の言葉を聞いていた

 

「白夜叉って暇なのかしら?」

 

「だろうな。階層支配者の仕事は蛟魔王に丸投げらしいからな。この前逢った時に嘆いてたからな」

 

碓氷がそういって遠い目をする

 

「ところで碓氷君。来週なんだけど、どんなのが欲しい?」

 

飛鳥の言葉に碓氷は一瞬だけ迷ったが、すぐに言葉を発した

 

「手作りが一番うれしいかな」

 

「そう。手作りね。手作り」

 

碓氷の言葉に飛鳥は手作りという言葉を繰り返す

 

「あ、無理なら・・・」

 

「いえ、やるわ」

 

碓氷が言おうとすると、飛鳥はむきになって返す

 

「絶対に碓氷君においしいって言わせるから」

 

飛鳥が碓氷に向かってそう宣言すると、碓氷は笑いながら話す

 

「期待してるよ。ところでチョコの作り方ってわかるのか?」

 

碓氷がそう言った瞬間、飛鳥は碓氷から目を逸らす

 

「今から材料を買いに行って教えるよ」

 

「ありがとう碓氷君」

 

そういって二人は恋人つなぎで店から出た

 

―――――――――――――――――――

 

夕食の時間、紫炎と耀はすでに風呂に入っていた

 

「ふー、いい湯だった」

 

「ねー」

 

そういって二人は互いに食事を相手の口に運ぶ

 

「お二人とも。仲がいいのは分かりますが、少しはコミュニティの手伝いをしてください。今日もお昼に帰って来てからお風呂に入るまで部屋に閉じこもっていましたし」

 

黒ウサギが涙目で言うと、レティシアが口を開いた

 

「皆、突然ですまないが来週の14日は私用で1日空けさせてもらう」

 

「別に許可をとるほどの事じゃないだろ。俺と耀もその日1日自由に過ごすつもりだし」

 

レティシアの言葉に紫炎がそう答えると、黒ウサギは冷めた目で紫炎を見ていた

 

「そう言えば十六夜はどこに行ったんでしょう?朝にはいたはずですが・・・」

 

「十六夜さんなら白夜叉様に呼ばれたらしいです。明日にはかえってくるって言ってました」

 

碓氷の言葉に黒ウサギがそう答えると、紫炎は席を立った

 

「飯も食い終わったから女子陣が出たら教えに来てくれ」

 

そういって紫炎は自室に戻って行った

 

「それじゃあ、僕も自分の部屋にいますので」

 

碓氷も紫炎に続くように食堂を後にする

 

「それじゃあ私たちはお風呂に行きましょうか」

 

「うん」

 

「YES!」

 

そうして3人も食堂を出た



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バレンタイン②

一週間後の二月十四日、箱庭各所に白夜叉の声が響き渡った

 

「わっははは!皆のもの、先週から投票されたモノの集計が終わった。その結果を黒ウサギに発表してもらおう!!」

 

終始ハイテンションの白夜叉が扇子で黒ウサギの方を指す

 

そこにはひざ上まで伸びたセーターを着た黒ウサギがいた

 

「し、白夜叉様。や、やはりこのような格好は箱庭の貴族として威厳に関わります。せめていつもの格好に・・・」

 

「それでも十分エロいけどね」

 

紫龍が横で言うと、黒ウサギのハリセンがクリーンヒットする

 

そして女性店員が紫龍をスクリーンに映らない場所に移動させる

 

「変態」

 

そしてボソッと紫龍にそう言い放った

 

「黒ウサギ、もう中継は始まっとる。いい加減覚悟を決めんか」

 

「うぅ~。わかりました」

 

白夜叉の言葉に黒ウサギは観念したようだ

 

「それでは十位から発表します」

 

黒ウサギは自暴自棄になりながらも仕事に徹した

 

――――――――――――――

 

「黒ウサギも大変ね」

 

「そうだな」

 

街でその様子を見ていた飛鳥と碓氷が呆れながら呟く

 

「それにしても急にどうしたの?付いて来て欲しいって言う割には場所も教えてくれないし」

 

飛鳥が不思議そうに聞く

 

いつもならどこに行くか伝え、付いてくるかどうか律儀に聞いてくるのに今日は手を引いて強引に連れてこられた

 

「ちょっとここに頼んでたのを取りに来たんだ」

 

そういって碓氷が入って行ったのは・・・

 

「宝石店?」

 

「そ。すいません。頼んでたもの届いてますか?」

 

「青川様ですね。届いていますよ。少々お待ちくださいね」

 

店員はそういうと、店の奥に消えて行った

 

その時に飛鳥に微笑んだように見えた

 

「ねえ、碓氷君。何を頼んだの?」

 

「来てからのお楽しみで」

 

飛鳥の言葉に碓氷はいたずらっ子ぽく微笑む

 

飛鳥が疑問に思っていると、店員が出てきた

 

「お待たせしました、青川様」

 

「ありがとうございます」

 

二人はお代を払うと店の外に出た

 

「ねえ、それ何?」

 

飛鳥はさっき買った碓氷の手にある小さな箱を指さして聞く

 

「飛鳥へのプレゼントだよ」

 

「私に?」

 

碓氷の言葉に飛鳥が不審がる

 

今日はバレンタインであって誕生日でも記念日でもないからだ

 

「紫炎のいた世界の海外では男性が女性にプレゼントを渡す日らしいんだ。だから紫炎と話し合って自分の彼女にそれぞれ渡すってことになったんだ」

 

碓氷がそう言うと、飛鳥は顔を少し赤らめる

 

「そ、それじゃあ、あけていい?」

 

「どうぞ」

 

飛鳥は碓氷の言葉を聞いて箱を開けた

 

そこには小さなダイヤが付いた指輪が入っていた

 

「つけてみてくれないか?」

 

喜びのあまり固まっていた飛鳥に碓氷が声をかける

 

その声によって現実に戻された飛鳥はつけやすい自分の右手の人差し指につけようとする

 

「違います。こっちですよ」

 

碓氷はそう言うと飛鳥が持っていた指輪を自分でもって飛鳥の左手の薬指に付けた

 

「こ、これって」

 

「ええ。ちょっと早いかもしれないけど、これが僕の気持ちです」

 

碓氷が微笑みながら言うと、碓氷の胸に飛び込んだ

 

「うれしい。ありがとう」

 

飛鳥の行動に碓氷も抱きしめ返す

 

すると周りから拍手が起こった

 

「えっと・・・」

 

「い、行きましょ」

 

碓氷が困惑していると、飛鳥は恥ずかしさのあまり碓氷の手を引いてその場から離れた

 

 




順位の方は次の話に回します
ちなみにランキングに入っているのは現在登場しているキャラのみです


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バレンタイン③

「さあ、十位の発表です。十位はウィル・オ・ウィスプ所属、クリス・イグイファトゥスさんです」

 

黒ウサギがいつものように快活に言うと、横から紫龍がADのように黒ウサギに紙を渡した

 

「え、なんですかこれ?」

 

いきなり渡された紙に黒ウサギが困惑していると、紫龍はまんまADのように『良いから読め』と紙にかいて黒ウサギに見せる

 

「えっと・・・投票いただいた方からいくつかコメントを頂いてます」

 

紙に視線を向けて確認すると、いつものように笑顔でそう言う黒ウサギ

 

「えーと、『合コンした時に土下座されて仕方なく渡した』『直接頼まれたので仕方なく』『本命がいないと言ったら土下座で頼まれたから』・・・、さあ続いて第九位」

 

読んでいて居たたまれなくなったのか、すぐさま次の順位を発表することにした

 

「第九位は龍角を持つ鷲獅子所属、サラ様です。ってこれは大丈夫なのでしょうか?」

 

バレンタインのチョコの貰った数のランキングで女性の名前が出たので黒ウサギは白夜叉の方を見る

 

「別に構わん。異性と明記しておらんかったこっちのミスだ」

 

白夜叉がそう言うと、また紫龍が黒ウサギに紙を渡す

 

「理由としては『クールでカッコいい』というのが大半の意見ですね。他にも『そこらにいる男より男前』と言ったものがあります」

 

黒ウサギがサラの紹介を言い終わると紫龍が渡した紙を回収した

 

「えー、では第八位、サラマンドラ所属、マンドラ様です。『頼れる男って気がする』『クールな目つきが素適』などなどたくさんのコメントを貰いました」

 

「うむ。姉弟ならんでのランクインだな」

 

黒ウサギが真面目に紹介していると、白夜叉が呑気にそう言う

 

「第七位、サウザンドアイズ所属、蛟魔王様です。『伝説の方と会えるだけでもうれしい』『うさんくさいけどそこが良い』という意見が多くありました」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

北側某所、クリスはこのランキングを見て項垂れていた

 

「女性のサラ様より下・・・」

 

そんなクリスを見て、アーシャとジャックは恐る恐る声をかける

 

「た、たくさんいる中の十位って凄いな、クリス」

 

「ヤホ。それに貴男より上にいるのは五桁、四ケタの方々。知名度の差というものがありますから仕方ありませんよ」

 

二人がクリスにそう言うと、クリスは勢いよく立ち上がった

 

「だ、だよな。六桁の俺が十位に入れただけでもすごいよな。やっぱり上位は中層以上の人たちで・・・」

 

クリスが二人の言葉を聞いて元気を取り戻す

 

しかし、その途中でランキングの続きが聞こえてきた

 

『第六位はウィル・オ・ウィスプ所属、ジャック・オ・ランタンさんです。『カボチャだけど紳士的』『紳士的な態度に惚れました』などなど、十位にランクインされている同じコミュニティのクリスさんとは雲泥の差があるコメントを頂きました』

 

黒ウサギは元気な通る声でそう発表した

 

すると、またクリスが項垂れる

 

「ジャ、ジャックさんは長年箱庭で生きてるから評判がいいんですよね」

 

「そ、そうですよ。クリスも今は焦ってるだけで大人になれば落ち着いていい人になりますよ」

 

アーシャは問題なかったが、ジャックはフォローしようとして逆に今のクリスを貶めてしまった

 

「だよな。ジャックさんは不死の怪物としてもウィル・オ・ウィスプの参謀としても有名だもんな」

 

しかし、クリスには自分に都合の悪い言葉は聞こえなかったようだ

 

「同い年くらいで入ってるのは俺だけ・・・」

 

『第五位は七桁ジン=ラッセル率いるノーネーム所属、問題児筆頭の坂廻十六夜さんなのです。『唯我独尊の雰囲気が良い』『あの人に罵倒されたい』などなど多数のコメントを頂きました』

 

クリスが調子に乗っていると、黒ウサギの無情な声が聞こえてきた

 

クリスは涙目で二人を見る

 

すると、アーシャもジャックも気まずそうに視線を逸らす

 

「ちくしょーーーーーーー」

 

そんな二人を見てクリスはその場から走り去っていった

 

「あ・・・」

 

そんなクリスを見てアーシャは小さく声を漏らす

 

「クリス、行ってしまいましたね」

 

ジャックはアーシャに優しく声をかける

 

「確かに彼に負けたのは精神的ショックは大きいですね。こんな時は誰かが直接チョコを渡して上げるのが一番でしょうね」

 

「なっ!?」

 

ジャックが優しく微笑みながらアーシャに言うと、アーシャは顔を真っ赤にする

 

「昨日、夜遅くまで頑張っていたのでしょ?意地を張っているといつか後悔しますよ」

 

ジャックが優しく言うと、アーシャは少し考えた後、覚悟を決めた顔になった

 

「ジャックさん。私、クリスを探してきます」

 

「ヤホホ。いってらしゃい」

 

アーシャはジャックに一言告げると、クリスを追いかけた

 

「うまくいくといいんですが」

 

ジャックは父親のようなコメントを残して本拠の方に戻って行った



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バレンタイン④

ランキングを発表している途中、紫炎と耀はお風呂に入った後なのか浴衣を着ていた

 

「紫炎、チョコ美味しかった?」

 

「ああ。チョコも美味しかったぞ」

 

紫炎がそう言うと、耀は「きゃ」と言って顔を赤くする

 

「そう言えば紫炎はまだ出てないみたいだね」

 

「みたいだな」

 

二人はモニターの端の方にあるすでに発表されたランキングを見て各々感想を述べる

 

「紫炎はカッコいいからきっと上位だよ」

 

これぞバカップルという言葉を耀が言うと、紫炎は耀を抱きしめる

 

「嬉しいこと言ってくれるな。こんな可愛い彼女をもって俺は幸せだ」

 

紫炎も同じように返す

 

「それじゃあ、これは俺から」

 

紫炎は一旦耀を離し、包装された小包を渡す

 

「これは?」

 

「俺の元いた世界の外国じゃあバレンタインは男が女にプレゼントを渡す日なんだよ」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は小包を受け取る

 

「開けていい?」

 

「おう」

 

耀が紫炎の言葉を聞いて小包を開ける

 

するとそこには星をモチーフにしたピアスが入っていた

 

「これって?」

 

「身に着けれるものでまだあげてなかったものって言えばそれぐらいしか思いつかなかったんだ」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は頷く

 

「確かに。指輪と髪飾りも貰ったし、ブラも・・・」

 

耀が恥ずかしそうに言うと、紫炎はふきだす

 

「ブ、ブラはあげてないだろ」

 

「うん。けど、この頃ちょっと大きくなってきたから新しいのが欲しいなって思って」

 

紫炎は耀のその言葉を聞いて紫炎は気になったことを聞く

 

「まさか気に入らなかったか?」

 

「ううん。これも嬉しい。だって紫炎がくれたんだもん」

 

耀は笑顔で紫炎に言う

 

(やっぱかわいいな)

 

紫炎はそう思いながら耀の頭を撫でる

 

「ねえ、紫炎。これから私の下着を買いに行くのに着いて来てくれる?」

 

紫炎は耀のその言葉を聞いて少し考える

 

(耀の下着を選ぶってのはまあいいが、そう言うところに男が行くってのがなあ・・・)

 

紫炎が考え事に夢中で黙っていると、耀が少し寂しそうな表情になる

 

「ごめん。やっぱり迷惑だったよね。男の子にはああいうとこ無理だよね」

 

紫炎はそんな耀の顔を見て自分に嫌気がさす

 

「耀」

 

「え。うむっ」

 

紫炎は一言耀に言葉をかけると、いきなり耀にキスをする

 

耀はされた瞬間は驚いたが、すぐに受け入れる

 

少しして紫炎が耀から唇を離すと、耀の顔は少し赤くなっている

 

(いくら慣れたといってもやっぱりいきなりすると、顔は赤くなるか)

 

紫炎は耀の反応を少し確認すると、口を開いた

 

「耀。そんなことはない。付いていくよ。だからしょげた顔すんな」

 

「・・・うん。ありがとう、紫炎」

 

耀は紫炎に笑顔でそう言うと、仕返しとばかりに紫炎にキスをし返す

 

「それじゃあ、行こうか、紫炎」

 

「おう。ところで大きくなったって言ってたけど、AAから・・・」

 

紫炎が元のサイズからどれくらい大きくなったか聞こうとしたが、前のサイズを言った瞬間、殴られた

 

「何か言った?」

 

「い、いえ、何にもないっす」

 

耀が妙にいい笑顔で言うと、紫炎は鳩尾を抑えながら答える

 

そして数分してから二人は本拠から出た

 



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バレンタイン⑤

「さあ、続いて第四位。ジン=ラッセル率いるノーネームのリーダー、ジン=ラッセルでございます」

 

そう発表する黒ウサギの顔は少し嬉しそうである

 

前まではノーネームというだけで下に見られていたのに、今やこんな大掛かりの大会で名前を呼ばれるのだから

 

「えー、寄せられた理由としては『あのオドオドした感じがキュンキュン来ちゃう』『食べちゃいたいくらい可愛い』といった意見が大半を占めていますが、『知識も豊富で顔も、まあ、良いんじゃないかしら』というまともな意見もございます」

 

「十六夜君に続いてジン君か。若い世代が続くな」

 

紫龍がしみじみというと、白夜叉にぶん殴られた

 

「せっかくエロい黒ウサギの声でランキングを発表しておるのに、何故おっさんの声を聞かぬばならぬのだ!」

 

白夜叉が少しマジめで怒鳴る

 

「悪かったよ、白。それじゃあ、エロい黒ウサギちゃんを鑑賞しよう」

 

「うむ」

 

「じゃ、無いでしょうが!!このお馬鹿様方ぁぁぁぁああああ!!!」

 

その瞬間黒ウサギのハリセンが二人にクリーンヒットした

 

 

 

 

――――しばらくお待ちください――――

 

 

 

「さあ、続いて第三位です」

 

数分後、黒ウサギは何事もなかったように再開する

 

しかし、床には赤い液体がちらほらと飛び散っていた

 

「第三位はこちらもジン=ラッセル率いるノーネーム所属、赤羽紫炎さんでーす」

 

何処か投げやり気味で黒ウサギが紹介すると、今まで理由の書かれていた紙を渡す役が紫龍から女性店員に変わっていた

 

「理由としましては『料理の出来る男の人って良い』『私の彼氏にしたい』『顔がよくて料理ができるなんて最高』というのがほとんどでした」

 

「彼は今年の料理大会を全て優勝で飾ってますからね。それで知名度が上がったんでしょう」

 

黒ウサギの言葉に女性店員が自分の評価を付け足す

 

「それでは、第二位。第二位はこちらもジン=ラッセル率いるノーネーム所属青川碓氷さんです。理由としては『うちのコミュニティにいる時から好きです』っていうコメントがほとんどですね。他にはなかったのでしょうか?」

 

今までは最低二つあった理由の欄に碓氷はこのひとつのみ

 

これで合っているのか不安になった黒ウサギが首を傾げる

 

「しょうがないです。碓氷は鈍感ですから。・・・血は繋がってないのにそう言うところは似てるんですよ」

 

女性店員が黒ウサギの言葉に応えるように喋る

 

最後の方では少し頭を痛めるような感じだった

 

「そうなのですか。よくそんなのでこんなにモテますよね。こんなじゃ、碓氷さんに彼女が出来るのはまだ当分先になりそうですね」

 

黒ウサギが何気なしにそう言うと、女性店員は一瞬驚いた表情になったが、すぐに可愛そうなものを見る表情になった

 

「え?何ですかその目は?」

 

「なんでもないです。早く一位の発表に参りましょう」

 

「?」

 

自分の言葉にため息で返す女性店員の意図が分からず首を傾げる黒ウサギ

 

(まだ教えてもらってないんですね。でも見てたらわかると思うんですが・・・)

 

いまだに首を傾げている黒ウサギを女性店員は呆れた目で見る

 

「まあ、良いのです。では、第一位の発表です。第一位は・・・。これ間違いじゃないのですか?」

 

一位の人物の名前を見てあり得ないと思い、女性店員に見せる

 

「・・・間違いはないはずですからそのまま発表してください」

 

女性店員も一瞬訝しんだが、間違いではないだろう、と思い黒ウサギに続きを促した

 

「分かりました。第一位はサウザンドアイズ預かりの赤羽紫龍さんです。わーぱちぱち」

 

紫龍の名前を告げた後、黒ウサギは明らかにやる気を落としていた

 

「理由としましては『コミュニティの長である前に私を女として見てもらえたから』『愚痴を言い合っている内に好意を持った』と今回は特定の人のコメントみたいですね」

 

紙に書かれている事をそのまま言う黒ウサギ

 

「それではランキングは全て発表終わりましたね」

 

「はいな。それと投票の時に渡されたチョコは後日、サウザンドアイズがきちんと渡します」

 

「待て待て待てぃ。締めの一言は私に言わせろ」

 

黒ウサギが終わらせようとしたのを感じ取ったのか、今まで黙っていた白夜叉が出てきた

 

黒ウサギもそれを聞いて白夜叉にマイクを渡す

 

「では、締めの一言。黒ウサギは本当にエ」

 

「って何言ってるのですか、この駄神様ぁぁぁぁあああ!!!」

 

最後の最後まで苦労の絶えない黒ウサギだった




ランキングはここで終わりですが、ラストは次の話です


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バレンタイン⑥

ランキング発表が終わり、黒ウサギは軽く伸びをする

 

「お疲れ様だな、黒ウサギ」

 

「え!?十六夜さん。どうしてここに!?」

 

いきなり声をかけられ驚く黒ウサギ

 

「なに、その衣装は俺の発案だからな。出来れば生で見たかったんだ」

 

「そうなんですか。って何ですって!」

 

十六夜の言葉に再度驚く黒ウサギ

 

こんな恥ずかしい恰好をさせられたのだから当然だろう

 

「ヤハハハ。まあ、受け取れ」

 

十六夜はそう言うと、少し大きめのプレゼント用に包装された箱だった

 

「え、これは?」

 

「ん?紫炎の発案で女性陣にプレゼントを渡そうってなってな」

 

その言葉を聞いて黒ウサギには疑問が浮かぶ

 

「耀さんは赤羽さんから貰うとして飛鳥さんはどうするんですか?他にもレティシア様たちだって」

 

「まあ、メイド組は置いといてお嬢様は碓氷からだな。にしてもそんなに俺からのプレゼントが嫌か?」

 

あまりうれしそうじゃない黒ウサギを見て十六夜が聞く

 

「い、いえ。十六夜さんからプレゼントなんて珍しいと思いまして」

 

十六夜の言葉に黒ウサギは慌ててこたえる

 

「あ、開けてもよろしいでしょうか」

 

「おう。そのために渡したんだからな」

 

耳と顔を赤くしながら黒ウサギが聞くと、十六夜はいつも通り答える

 

黒ウサギが何が入っているかワクワクしながら開けると・・・

 

「・・・ハリセン?」

 

十六夜個人からのプレゼントという事であまり期待はしていなかったが、少し浮かれていた黒ウサギ

 

どんなプレゼントでも喜ぼうと思ったが、このプレゼントは予想の斜め上を通り越していた

 

「今まで散々叩かれてるから、もうボロボロだろ。これからもどんどんボケるから必要だろ?」

 

「そうですね。って自分が悪いって自覚してるなら少しは自重してください、このお馬鹿様!」

 

十六夜の言葉に黒ウサギはベシベシと何回か新しいハリセンで叩く

 

その顔はどこか嬉しそうだった

 

――――――――――――――

 

放送が終わった後、紫龍は誰にも気づかれないように外に出た

 

(まさか一位になるとは・・・。これ以上目立ちたくないんだよな)

 

「おい、紫龍」

 

紫龍がどこか一人で飲もうと思っていると、後ろから声をかけられる

 

「レティシアか。どした?」

 

紫龍が後ろを振り向いて声をかける

 

そこには大人バージョンのレティシアが立っていた

 

「・・・今日、何の日かわかってるんだろ?」

 

「ああ。さっきまで白に付き合ってたからな」

 

レティシアが問いかけると、紫龍が興味なさげに応える

 

「それで、だな・・・」

 

レティシアがもじもじしながらチョコの入った箱を紫龍に渡す

 

「今年もか。毎年義理チョコありがとな」

 

紫龍が笑いかけながら言うと、レティシアは少し不満げな顔をする

 

「義理じゃない。本命だといつも言っているだろ」

 

「はあー。お前は可愛いんだからこんなおっさんじゃなくていい男を探せよ」

 

紫龍がそう言うと、レティシアは紫龍に抱きついた

 

「お前もいい男の内に入る。少なくとも私の中では一番いい男だ」

 

レティシアが顔を赤くしながら言うが、紫龍は表情を変えずにレティシアを剥がす

 

「そこまで言ってくれるのは嬉しいが、俺にはもったいないよ」

 

紫龍はそう言うと、その場から歩き出した

 

「紫龍!」

 

しかし、レティシアに袖を掴まれたのでそちらを向くと、レティシアにキスをされる

 

「私は、本気だ。少しは私の事も見てくれ」

 

レティシアはそう言うと、目に涙をためてその場から走り去った

 

取り残された紫龍はとりあえずチョコを一口食べる

 

「甘ぇ」

 

 



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看病 バカップル 紫炎→耀 の場合

なんか急に書きたくなった

とりあえず後悔はない


「へくちっ」

 

「38度2分。風邪ですね」

 

可愛らしいくしゃみをする横で体温計の数字をよむ黒ウサギ

 

紫炎はおろおろとしているが、他のメンバーはその様子を呆れてみていた

 

「落ち着きなさい、紫炎君。ただの風邪よ」

 

「そうですよ。二、三日もすれば治りますよ」

 

飛鳥と碓氷がそういうが、紫炎はそれでもおろおろする

 

「鬱陶しい。そんなに心配ならずっと看病してろ」

 

「そうだな。今の精神状態で他のことをされてもお荷物だからな」

 

十六夜とレティシアは紫炎にそういってから部屋を出る

 

それを見て碓氷と飛鳥も出た

 

「それじゃあお任せしましたよ」

 

黒ウサギもそう一言告げて出て、部屋には紫炎と耀だけになった

 

「よ、耀、大丈夫か?」

 

「うん。ただの風邪だし。……へっくち」

 

紫炎の言葉に耀が答えた後、またもやかわいいくしゃみをする

 

「本当に大丈夫か?なんかしてほしいことはないか?」

 

「じゃあまず落ち着いて」

 

異常に心配する紫炎に耀も少し呆れながらそういう

 

紫炎はわかった、というと大きく深呼吸をする

 

そして少し落ち着いてから耀の横に座る

 

「すまん。慌ててた」

 

「ただの風邪なのになんでそんなに慌ててたの?」

 

耀がそう聞くと、紫炎は頭をかきながら告げる

 

「だってよ、こっち来てから俺らが病気になったのって耀がペストのギフトで黒死病になっただけだろ?もしかしたら未知のギフトのせいとか箱庭特有の病気とか思ってな」

 

「もう、心配し過ぎ。……へっくち」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は少し嬉しそうに返す

 

「してほしいことがあったら何でも言ってくれよ」

 

紫炎が耀の手を握りながらそういうと、耀は嬉しそうに手を握り返す

 

「それじゃあ一緒に寝てくれる?」

 

「ああ、それくらいだったら」

 

耀の言葉を聞いて紫炎は布団に入る

 

そして耀は紫炎に抱きつく

 

「えへへ、お休み紫炎」

 

「ああ。お休み耀」

 

二人はそういってキスをしてから抱き合って眠りについた

 

---------

 

「一体何やってるのよ!」

 

二人が心地よく寝ていると、飛鳥の声が響いた

 

「おい、飛鳥。病人がいるのに大声出すなよ」

 

「すぅー、すぅー」

 

紫炎は首だけ動かして飛鳥に注意をする

 

耀はよほど疲れているのか目を覚まさずに紫炎に抱きついたまま寝ていた

 

「だったら普通に看病しなさいよ!なんで一緒の布団に入ってるのよ」

 

「耀が一緒に寝てくれって頼んできたんだよ。風邪ひくとなんか心細くなるからそれでだと思うぞ」

 

怒ってる飛鳥に紫炎は耀を撫でながら答える

 

「特に耀は父親が行方不明になってから一人---まあ三毛猫とかはいたが---こうやって心配して看病してくれて甘えさせてくれるやつなんていなかっただろうからな」

 

紫炎がそういうと、飛鳥は何も言えなくなった

 

紫炎の境遇も似たようなものだと知っているので飛鳥はため息をついた後、二人に背を向ける

 

「今碓氷君がおかゆを作ってくれてるから春日部さんが起きたら教えに来てくれる?持ってくるから」

 

飛鳥はそういって部屋から出て行った

 

「さてもう一眠りするか」

 

紫炎はそういって耀を一撫でしてからもう一眠りつくことにした

 

---------

 

次の日、耀は完治した

 

「ぶいっ」

 

「ま、ただの風邪だったしな」

 

得意げにVサインをする耀に十六夜がそういう

 

「でも本当に大丈夫か?ぶり返すかもしれないから今日は休んでもいいんじゃないか?」

 

「大丈夫。昨日の遅れの分も頑張る」

 

過保護な紫炎に耀は気合の表情を見せる

 

そうしてノーネームはいつも通りの日常に戻って行った



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YES!ウサギが呼びました
プロローグ


「はぁ~、退屈だ」

 

1人の男が河原でたき火をしながら呟いていると

 

「見つけたぞ、てめー」

 

いきなり不良の集団が男に怒鳴り散らした

 

「どちら様?」

 

しかし、男はそしらぬ顔で聞いた

 

「なんだとふざけやがって、野郎どもやっちまえ」

 

リーダー格らしい男が他の不良たちに命令する

 

「めんどくせー」

 

 

 

 

 

「つ、つよ・・・・い」

 

「暇つぶしにもならなかったぜ。」

 

十分もしないうちに10人はいた不良たちが川に叩き込まれた

 

「ん?火が消えてる」

 

流石にあれだけ暴れまわればたき火も消えていた

 

「しゃあない、点けるか」

 

そう言って指を鳴らすとたき火にまた火が点いた

 

「ん?なんだ?」

 

いきなり空から手紙が降ってきた

 

周りを見回しても誰もいない

 

しかも宛名も自分の名前である

 

『赤羽紫炎様へ』となっている

 

「面白いじゃないか。一体誰からだ?」

 

手紙を開けてみると

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、

 我らの“箱庭”に来られたし』

 

読み終わった瞬間、眼下に見慣れない風景が見えた

 

「どうなってんだ?」

 

自分が落ちていることに気づくのに数秒有した



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第一話

「ぶはー死ぬかと思った。」

 

上空に呼び出されたと思ったら湖に落とされた

 

俺の他にも呼び出されてたらしく俺より少し遅れて出てきた

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「・・・・・・。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

ロングヘアーの少女とヘッドホンの少年はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞る。

 

「此処・・・・・・どこだろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

「よくあの状況で確認できたな」

 

素直に感心する

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちのも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「・・・・・・春日部耀。以下同文」

 

黒髪ロングの娘、ショートカットの娘と自己紹介が続く。

 

「そう。よろしく春日部さん。そこの赤い髪の貴方は?」

 

俺が焚き火用の木を集めようとしたらいきなり聞かれた

 

「おれか?俺は赤羽紫炎。よろしくな。」

 

「こちらこそ。それで、最後に、野蛮で凶悪そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶悪な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

 

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

 

我関せず無関心を装う春日部耀。

 

木を集めようとするのを止め寝転がる赤羽紫炎。

 

そんな彼らを物陰から見ていた影があった。

 

名を黒ウサギという彼女は、とある事情で彼らを召還した張本人なのだが、

 

(うわぁ・・・・・・なんか問題児ばっかりみたいですねえ・・・・・・)

 

召還しておいてアレだが・・・・・・彼らが協力する姿は、客観的に想像できそうにない。

 

黒ウサギは陰鬱そうにため息をついた。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「・・・・・・。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

「春日部もな。」

 

(全くです)

 

黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。

 

もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着きすぎているので出るタイミン

グを計れないでいた。

 

そのとき、ふと十六夜がため息交じりに呟いた。

 

「仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を捕まれたように飛び跳ねた。

 

「なんだ、あなたも気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気づいてたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「あんなもん隠れている内に入らないだろ。」

 

「・・・・・・へえ? 面白いなお前ら」

 

軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。理不尽な召集を受けた四人は腹いせに殺気の籠もった冷ややかな視線を出てきた黒ウサギに向ける。

 

「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「寝たいからパス」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。

 

しかし、その目は冷静に四人を値踏みしていた。

 

と、耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ? このウサ耳って本物なのか?」

 

今度は十六夜が右から掴む。

 

飛鳥は左から。

 

「ちょ、ちょっと待―――」

 

紫炎は興味無さそうに寝始めた



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第二話

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ。」

 

半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。

 

四人は黒ウサギの前の岸辺に思い思いに座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

 

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います!

ようこそ“箱庭の世界”へ! 我々は皆様にギフトを与えられたものたちだが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召還いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。

 

「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者”(ホスト)が提示した商品をゲットできると言うとってもシンプルな構造となっております」

 

今度は、耀が控えめに挙手した。

 

「・・・・・・“主催者”って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として前者は自由参加が多いですが“主催者”が修羅神仏名だけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“恩恵”(ギフト)を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て”主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者はかなり俗物ね」

 

確かにな

 

「俺からの質問だ。ゲーム自体はどうやって始めればいいんだ?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリと上げる。

 

「・・・・・・つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お? と驚く黒ウサギ。

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰します―――が、しかし! 先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの! 例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし“主催者”全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたと思ったのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが・・・・・・よろしいです?」

 

「待てよ、俺がまだ質問してないだろ」

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

 

ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなっていること、視線が鋭さを増したことに気がついた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

「・・・どんな質問でしょうか?ルールですか? ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは・・・・・・たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向けた。

 

彼は何もかもを見下すような視線で一言、

 

「この世界は・・・・・・面白いか?」

 

他の三人も無言で返事を待つ。

 

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

それに見合うだけの催し物があるのかどうかが三人+αにとって重要なことであった。

 

黒ウサギは一瞬目を瞬かせると、笑顔で言った。

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」



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第三話

黒ウサギに連れられて問題児たちが箱庭と呼ばれる天幕巨大都市の前まで来た

 

「ジン坊ちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」

 

階段で待っているローブを着た少年に黒ウサギが話しかけた

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」

 

「はいなこちらの御四人様が―――」

 

黒ウサギがクルリ、と三人を振り返り、

 

「・・・・・・・・・え、あれ?」

 

カチン、と固まった。

 

「もう一人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児”ってオーラを放っている殿方が」

「ああ、十六夜君のこと? 彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出していったわ。あっちの方に」

 

あっちの方に。と飛鳥があっさりと指差すのは上空4000メートルから見えた断崖絶壁。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう皆さん!」

 

「「うん」」

 

ガクリ、と黒ウサギが前のめりに倒れる

 

「別に大丈夫だろ。時間が掛かるだけで。」

 

「た、大変です! “世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「それはあれか?ドラゴンとかグリフォンとか、そういうのか?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます」

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?・・・・・・斬新?」

 

「やっぱ面白いな。この世界。」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、三人は叱られても肩を竦めるだけである。

 

黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

 

「はあ・・・・・・ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、皆様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、つやのある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、柱に水平に張り付くと、

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」

 

黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に四人の視界から消え去っていった。

 

巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。

 

「・・・・・・。箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが・・・・・・」

 

飛鳥はそうと呟き、心配そうにしているジンに向き直った。

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱き抱えているのが」

 

「春日部耀。こっちが」

 

「赤羽紫炎だ。よろしくな。」

 

ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥、耀、紫炎もそれに倣う

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

飛鳥がジンの手を引いて外門をくぐり、耀と俺はそれについていく

 

食事なら俺の聞きたいことも聞けるしいいか



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第四話

箱庭に入り、俺たち四人は手近にあった『六本傷』の旗を掲げている店に入った。

 

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶にコーヒー。あと軽食にコレとコレと」

 

「にゃー《ネコマンマを》!」

 

「はいはーい。ティーセット三つとコーヒーを一つ、ネコマンマですね~」

 

「「「「え?」」」」

 

・・・・・・ん? と耀以外が首を傾げる。

 

耀は信じられないものを見るような目で猫耳の店員に問いただす。

 

「三毛猫の言葉、わかるの?」

 

「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳の割に随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」

 

「にゃ、にゃにゃう、にゃーにゃ《ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘ガミしに行くわ》」

 

「やだもーお客さんお上手なんだから♪」

 

「箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」

 

三毛猫を抱き抱えて耀が弾んだ声で言う。

 

「ちょ、ちょっと待って。あなたもしかして猫と会話できるの!?」

 

珍しく動揺した声の飛鳥に、耀はこくりと頷いて返す。

 

「もしかして猫意外にも意思疎通は可能ですか?」

 

「うん。生きているなら誰とでも話はできる」

 

「へぇ~面白いな、その能力」

 

「じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、きっと出来・・・・・・る? ええと、鳥で試したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど・・・・・・ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

 

「「ペンギンッ!?」」

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

「幅、広すぎだろ。」

 

「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言葉の壁と言うのはとても大きいですから」

 

「そうなんだ」

 

「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」

 

「ということは、春日部のギフトは相応以上のものだってことか」

 

「そう・・・・・・春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

感心された耀は困ったように頭を掻く。対照的に飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟いた。

 

その様子は、出会って数時間の耀にも、飛鳥の表情はらしくないと思わせるものだった。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね、春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私? 私の力は・・・・・・まあ、酷いものよ。赤羽君は?」

 

「紫炎でいいよ。俺の力も酷いもんさ。コミュニティに着いたら教えるさ」

 

俺たちが話していると突然ぶしつけな声が聞こえてきた

 

「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

みれば、二メートルを超える大柄な体を窮屈そうにタキシードで包んだ変な男がいた。

 

「僕等のコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

ジンはガルドと呼んだ男をにらみつける。

だが、男はその視線を気にせず、

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人員を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ―――そう思わないかい、お嬢様方に、紳士様」

 

四人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろした。

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗った後に一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている・・・・・・ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧オォ!」

 

ジンに横槍を入れられ、牙をむいたガルドの姿が変わっていく。

 

肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。

 

「勝手に喧嘩すんじゃねぇ。ガルドと言ったか。用がないならどっか行ってくれ」

 

俺の言葉に冷静さを取り戻したのか、元の姿に戻った

 

「これは失礼しました。用というほどではないのですがこちらのジン君が喋りたがらない箱庭のことについて教えて差し上げようかと」

 

「ガルド! それ以上口にしたら」

 

「口を慎めや小僧ォ、過去の栄華に縋る亡霊風情が。自分のコミュニティがどういう状況におかれてんのか理解できてんのかい?」

 

「ハイ、ちょっとストップ」

 

険悪な二人を飛鳥が遮った。

 

「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえた上で質問したいのだけど―――」

 

飛鳥が鋭く睨んだのは、ガルド=ガスパーではなく、

 

「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況・・・・・・というものを説明していただける?」

 

ジン=ラッセルの方だった

 

「そ、それは」

 

飛鳥に睨まれたジンは言葉に詰まった。

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

「そうだぜ。俺も聞きたかったことだ。だんまりは良くないぜ。」

 

それを見ていたガルドは含みのある笑顔と上品ぶった声音で、

 

「レディに紳士様、貴方達の言うとおりだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし、先ほども言ったように、彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ“フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧―――ではなく、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見る。

 

ジンは俯いて黙り込んだままだ。

 

「そうね。お願いするわ」



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第五話

それからガルドが得意げに喋ったコミュニティの現状は散々と言っていいものだった。

 

「なるほどね。コミュニティの象徴でもある名も旗もないと。さらに魔王の存在ね。」

 

「そうです。だからこそコミュニティは名無しになることを恥とし、避けるのです。一方で、コミュニティを大きくするのなら、旗印を掲げるコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティも実際にそうやって大きくなりましたから」

 

「両者合意、ね」

 

ガルドは俺の視線に気づかず話を続ける

 

「そもそも考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます?商売ですか?主催者ですかしかし名もなき組織など信用されません。ではギフトゲームの参加者ですか?ええ、それならば可能でしょう。では、ゲームに勝ち抜ける優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか」

 

「普通は無理だな」

 

「そう、だからこそ彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華の縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」

 

「なるほど・・・・・・。しかし、なら黒ウサギは何なんだ?彼女は“箱庭の貴族”という貴種、と聞いているが、なんで“ノーネーム”に?」

 

「さあ、そこまでは。ただ私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。“箱庭の貴族”と呼ばれる彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」

 

「・・・・・・そう、事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」

 

飛鳥は含みのある声で問う。

 

その含みを察してガルドは笑いを浮かべていった。

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

 

「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

「黙れや、ジン=ラッセル」

 

怒りのあまりテーブルを叩いたジンを、ガルドは獰猛な瞳で睨み返す。

 

「そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」

 

「そ・・・・・・それは」

 

「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら・・・・・・こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」

 

ジンが僅かに怯んだ。

 

その様子にガルドは鼻を鳴らすと、

 

「・・・・・・で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」

 

「「は?」」

 

断られたガルド、俯いていたジンは思わず声を上げてしまった。

 

誘いをばっさりと切り捨てられ、ガルドもジンも飛鳥の顔をうかがう。

飛鳥は何事もなかったように紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。

 

「春日部さんは今の話をどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」

 

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」

 

飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。

 

「うん。飛鳥は今までの人たちと違う気がする」

 

「にゃ、にゃー《よかったな、お嬢・・・・・・お嬢に友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ》」

 

「俺も友達に立候補していいか?」

 

「う~ん。紫炎も違うしいいかな?」

 

「疑問形なのが気になるが…飛鳥は?」

 

「えっ?私も?…別にいいけど」

 

「それじゃあ改めてよろしく。」

 

ガルドとジンを放って話を進める

 

「理由をお聞かせていただいても…」

 

ガルドが口を開く

 

「そりゃあ可愛い女の子とは友達になりたいだろ」

 

「そっちじゃねぇ」

 

紫炎が的はずれな答えを返すとガルドが怒る

 

「なぜ私たちのコミュニティではなくノーネームに?」

 

「私、久遠飛鳥は―――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。」

 

「俺もだ。組織の末端で縛られるより自由気ままなノーネームの方がいいからな。耀も似たようなもんだろ?」

 

「私は友達を作りに来ただけだから。それにしても耀って・・・」

 

「友達には下の名前で呼ぶようにしてるんだ。だめだったか?」

 

「……別にいい。」

 

「ということだ。誰もお前のコミュニティには入らない。」

 

「お・・・・・・お言葉ですが、みなさま

 

「黙りなさい」

 

言葉を続けようとしたガルドの口はガチン! と音を立てて閉じられた。

 

本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、まったく声が出ない。

 

「貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私たちの質問に答え続けなさい」

 

飛鳥の言葉に反応して、ガルドは椅子に罅を入れる勢いで座る。

 

「ガルド=ガスパー・・・・・・?」

 

ジンは突然のことに口を挟めずにいた。

 

ガルドは完全にパニックに陥っていた。

 

どういう手段かわからないが、手足の自由が完全に奪われていて抵抗さえできない。

 

「お、お客さん!当店で揉め事は控えて」

 

ガルドの様子に驚いた猫耳の店員が急いで彼らに駆け寄る。

 

「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」

 

店員は首を傾げる。

 

「ねぇジン君。コミュニティの旗印を賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」

 

「い、いえ。そんなことはありません。旗印を賭ける事はコミュニティの存続を賭ける事ですからかなりのレアケースです」

 

「そうだよね。それを強制できるからこそ魔王は恐れられる。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に強制できたのかしら?」

 

「ほ、方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。コレに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

 

「なるほど。だが、そんな方法じゃ、組織への忠誠なんて望めないよな。どうやって従順に働かせている?」

 

「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

ピクリと飛鳥の片眉が動き、コミュニティに無関心な耀でさえ不快そうに目を細める。

 

「ほーう。大した仁義の持ち主だ。さすが紳士の皮をかぶった虎だ」

 

紫炎が軽口をたたいていると飛鳥が続ける

 

 

「それで、その子供たちは何処に幽閉されているの?」

 

「もう殺した」

 

場の空気が凍りつく。

 

「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食

 

「黙れ」

 

ガチン!と先ほど以上の勢いでガルドの口が閉じられた。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら・・・・・・ねえジン君?」

 

飛鳥に冷ややかな視線と凄みを増した声を向けられ、ジンは慌てて否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

「そう?それは残念。それよりジン君。箱庭も法を犯せば裁くようだが、この件は裁けるのかしら?」

 

「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが・・・・・・裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

パチンと指を鳴らす。それが合図だったのか、ガルドを縛り付けていた力は霧散し、自由が戻ったガルドはテーブルを砕き、

 

「こ・・・・・・この小娘ガァァァァァ!!」

 

雄叫びとともに虎の姿へ変わった。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・・・俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が

 

「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」

 

また勢いよく黙る。だが、ガルドは丸太のように太くなった腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かった。

 

「てめぇこそどういうつもりか知らないが俺の仲間に手を挙げたな。その意味がわかってんのか?」

 

紫炎が間に入りガルドの攻撃を受け止め言い放つ

 

殺気に満ちた目にガルドは動かなくなった

 

「それに魔王がどうとか言ったな。それなら願ったり叶ったりだ。」

 

「それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」

 

飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったが、目標を飛鳥に問われて我に返る。

 

「・・・・・・はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

 

「く・・・・・・くそ・・・・・・!」

 

ガルドは悔しそうに拳を引く

 

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ」

 

「えげつねー」

 

「そこで皆に提案なのだけれど」

 

飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。

 

飛鳥はガルドに視線を向け、

 

「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」

 

宣戦を布告した。

 

 



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第六話

ガルドと一悶着あった後、店のお代をガルドになすりつけて黒ウサギと十六夜を待ってる

 

「そういえば紫炎君のギフトってどんなのかしら?」

 

「そういえば気になる」

 

飛鳥と耀が聞いてくる

 

「俺のギフト?二人ほど大したものじゃないがこんな感じだ。」

 

俺はそういって手に炎を灯す

 

「発火能力ですか?」

 

「それに近いが少し惜しい。確かに自在に炎を出せる。しかしそれだけじゃない。灯した炎を自在に操れる。こんな風にな。」

 

そういうと俺は箱庭を草むらを発火させる。

 

「うきゃあ」

 

すると草むらから黒ウサギが声をあげて飛び出した

 

「なにするんですか!」

 

「で、あれを消すには念じるだけでも消えるし、普通に炎を消すようにしても消える。」

 

「って無視して話を進めないでください、このお馬鹿様ぁ!」

 

黒ウサギにハリセンではたかれた

 

「はははっ。悪い悪い。」

 

俺は炎を消した

 

「それより皆様なぜここに?箱庭を堪能してくださっていたのでは?」

 

「それは向こうにいる奴らに聞いてくれ。」

 

そういってジン達の方を指さした

 

それを聞いて黒ウサギはジンたちの方に行った

 

「面白いな、お前のギフト」

 

「そうでもないぜ。そんな事より世界の果てはどうだった?」

 

「おう。そりゃあ凄かったぜ。」

 

「そうなのか。やっぱ俺も行けばよかったな。」

 

そんな話をしていると

 

「な、なんであの短時間に”フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

 

黒ウサギが大声をだした

 

「しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦うなんて!準備している時間もお金もありません!!一体どういう心算があってのことです!聞いているのですか三人とも!!」

 

「「腹が立って後先考えずに喧嘩を売った。今は反省しています」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。

 

「けど、一番乗り気だったのは紫炎君よ。」

 

「どういうことですか、赤羽さん。」

 

「乗り気なのは認めるけど発案は飛鳥だ。」

 

俺がそういうと黒ウサギは飛鳥の方に向き直った

 

「けど大丈夫だ、黒ウサギ。俺は二人と違って全然反省していない。」

 

「それが一番だめです、この問題児様ぁぁぁあああ!!」

 

俺がそういうと再び黒ウサギにハリセンで叩かれる

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“契約書類”ギアスロールを見てください」

 

“契約書類”とは”主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催するために必要なギフトである。

 

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており“主催者”のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容を十六夜が読み上げる。

 

「“参加者”が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”―――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥達のチップは“罪を黙認する”こと。それも、今回だけでなく今後一切について口を閉ざすことだった。

 

「時間さえかければ彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供たちは・・・・・・その」

 

黒ウサギが言い淀む。彼女も“フォレス・ガロ”の悪評は聞いていたが、そこまで酷い状態になっているとは思っていなかった。

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ・・・・・・逃がせば厄介かもしれませんけど」

 

「大丈夫だ黒ウサギ。ガルドはそこまでたいした奴じゃない。なっ、ジン。」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンが力強くいうと黒ウサギは観念したようだ。

 

「はぁ・・・・・・。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす二人。

 

黒ウサギは慌てて二人に食ってかかった。

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを制した。

 

「いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「・・・・・・。ああもう、好きにしてください」

 

四人の召喚とその時の騒動、さらに十六夜を追いかけたりと丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力もなかった。

 

「俺のギフトの説明、まだ全部してないけど、まあいいかな?」

 

紫炎が誰にも聞こえないように呟いた



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第七話

俺たちは黒ウサギの提案で各々の持つギフトを鑑定してもらうことになった。

 

そこで、ノーネームと交流があったコミュニティを訪ねることになった。

 

その名は、

 

「“サウザンドアイズ”?」

 

「YES。サウザンドアイズは特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフトを鑑定すると何かメリットがあるのか?」

 

「自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」

 

同意を求める黒ウサギに、十六夜・飛鳥・耀・紫炎の四人は複雑な表情で返した

 

道中、黒ウサギを除く四人は町並みを興味深そうに眺めていた。

 

日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥は興味深そうに眺めて呟く。

 

「桜の木・・・・・・ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「・・・・・・?今は秋だったと思うけど」

 

「いや、春真っ只中だから咲いててあたりまえだろ?」

 

ん?っと噛み合わない四人は顔を見合わせて首を傾げる。

事情を知る黒ウサギは笑って説明する。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召還されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども・・・・・・今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

十六夜の疑問を黒ウサギは曖昧に濁して振り返る。どうやら着いたらしい。

 

“サウザンドアイズ”の旗は、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。

 

店の前では、看板を下げる割烹着の女性店員の姿があって、黒ウサギは慌ててストップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

・・・・・・ストップをかける事も出来なかった。

 

黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

 

飛鳥も意を同じくする。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「・・・・・・う」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

「俺たちは“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

十六夜たちは知る由もなかったが“サウザンドアイズ”の商店は“ノーネーム”の入店を断っている。

全員の視線が黒ウサギに集中する。

彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

「その・・・・・・あの・・・・・・私たちに、旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィ!」

 

「きゃあーーー・・・・・・!」

 

黒ウサギが店内から爆走してきた着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱きつかれ、少女と共に街道

の向こうにある浅い水路まで吹き飛び、ボチャン、と転がり落ちた。

 

それを、十六夜達は目を丸くし、店員は痛む頭を抱えた。

 

「・・・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

「そうだぞ、十六夜。」

 

ここで今までほとんど話に加わらなかった紫炎が口を開く

 

「ここは濡れた黒ウサギを俺たちを濡らした罰と思って笑うとこだろ。」

 

「確かに。因果応報」

 

俺の言葉に耀がすぐさま反応する

 

根に持ってたのかな?

 

視線をもどすと黒ウサギが何やら言い合ってるみたいだ

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

黒ウサギは胸に顔を埋めている白夜叉を引き剥がすと、頭を掴んで店に向かって投げつける。

 

クルクルと縦回転した少女を、十六夜が足で受け止めた。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

 

一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉と呼ばれていた少女に話しかけた。

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉さまだよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

 

ちょうどその時、黒ウサギが濡れた服を絞りながら水路から上がってきた。

 

「うう・・・・・・まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

濡れても気にしていなかった白夜叉は、店先で黒ウサギ達を見回してにやりと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは・・・・・・」

 

不敵な笑顔を浮かべる白夜叉に視線が集まり、

 

「遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

ウサ耳を逆立てて黒ウサギが怒る。

 

「まぁ、冗談はさておき話があるのじゃろ。話があるなら店内で聞こう」

 

何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店へ招く。

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定では」

 

しかし、女性店員が眉を寄せながら水を差す。

 

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪く

するのは仕方がない事だろう。女性店員に睨まれながら五人は暖簾をくぐった。

「いや~悪かったね」

 

紫炎が心を込めずに形だけの謝罪をして四人の後に付いて行った



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第八話

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人が通されたのは白夜叉の私室。

 

香のような物が焚かれており、風と共に五人の鼻をくすぐる。

 

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから五人に向き直った。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げ遣りな言葉で受け流す黒ウサギ。

 

その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています。ちなみに、白夜叉様がおっしゃった三三四五外門などの四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する人外魔境と言っても過言ではありません」

 

「おんしも、恩人に対して言うな」

 

物言いに苦笑する白夜叉に慌てて頭を下げる黒ウサギ。

 

手を振って白夜叉が気にしていない旨を示すと、黒ウサギは紙に上空から見た箱庭の略図を描いた。

 

それは、

 

「・・・・・・超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「けど、真ん中ほど高くなっているようだったからタマネギじゃね?」

 

うん、と頷きあう四人。

 

見も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 

対照的に、白夜叉はカカと哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例えるが、私はバームクーヘンに一票だ。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのはトリトニスの滝を棲みかにしていた、十六夜が素手で叩きのめした蛇神のことだろう。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り、カカと豪快に笑う白夜叉。

 

「白夜叉は一体いくつなんだ?」

 

紫炎が聞くと

 

「女子に年を聞くとは…」

 

「赤羽さん、失礼ですよ」

 

「そんなんじゃモテないわよ」

 

「紫炎は少し考えて発言すべき」

 

「なんだよ。ちょっと思ったことを言っただけでこんなに批判されるのか」

 

そんな言い合いも気にせず十六夜が話を続ける

 

「神格ってなんだ?」

 

「神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトのことだ。人に神格を与えれば現人神や神童に。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。更に神格を持つことで他のギフトも強化される。コミュニティの多くは目的のために神格を手に入れるため、上層を目指して力をつける。」

 

「へぇー。そんなもんを与えられるってことはオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

“最強の主催者”―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀・紫炎の四人は一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう・・・・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。

 

白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御四人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

「後悔すんなよ。」

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む

 

「そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か―――もしくは、“決闘”か?」

刹那、五人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

 

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

 

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「・・・・・・なっ・・・・・・!?」

 

あまりの異常さに、十六夜達は息を呑んだ。

 

遠く薄明の空にある星は、世界を緩やかに廻る白い太陽のみ。

 

唖然と立ち竦む四人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む四人。

 

「水平に廻る太陽と・・・・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽とこの土地はオマエを表現してるってことか」

 

十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤・・・・・・!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「・・・・・・っ」

 

白夜叉がいかなるギフトを持つのか定かではない。だが四人が勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。

 

「降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。あんたには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪えきれず高らかと笑い飛ばした。

 

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

 

一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく・・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・・・ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「俺も十六夜と同じ意見だ。“今回は”試されてやるよ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人とやれやれといった紫炎。

 

一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろす。

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください!」

 

「いいじゃねえか。大事になる前に止めたんだし。ほら、今回は空気呼んで止めただろ」

 

「黙らっしゃい! そもそも、“階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何? じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉に、ガクリと肩を落とす五人。

 

その時、彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ・・・・・・あやつか。おんしら四人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

 

すると体調五メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。

 

「グリフォン・・・・・・うそ、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

四人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

『ギフトゲーム名:“鷲獅子の手綱”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          赤羽 紫炎

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ”印』

 

「私がやる」

 

読み終わるや否やピシ! と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。

 

「にゃ・・・・・・にゃ、にゃー『お、お嬢・・・・・・大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』」

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。

 

キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

 

隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

二人は耀に言葉をかけ送り出す

 

「ちょっと待て、耀。」

 

「なに?」

 

「白夜で湖畔を回るにはその服装は寒すぎる。俺の上着でも使いな」

 

そういって紫炎は上に羽織っていたジャケットを耀に渡した

 

「ありがとう。それじゃあ行ってくる」

 

頷き、耀はグリフォンに駆け寄った。



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第九話

耀がグリフォンに駆け寄るが、グリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。

 

戦いの際、白夜叉を巻き込まないようにする為だろう。

 

耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をぎらつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った。

 

数メートルほどの距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

(・・・・・・凄い。本当に上半身が鷲で、下半身が獅子なんだ)

 

鷲と獅子。猛禽類の王と、肉食獣の王。数多の動物と心を交わしてきた耀だが、それはあくまで地球上の生物の話。“世界の果て”で黒ウサギや十六夜が出会ったと言った、ユニコーンや大蛇などの生態系を遥かに逸脱した、幻獣と呼び称されるものと相対するのは、これが初めての経験。

まずは慎重に話しかけた。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

「!?」

 

ビクンッ!! とグリフォンの肢体が跳ねた。瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。

 

耀のギフトが幻獣にも有効である証だった。

 

「ほう・・・・・・あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

白夜叉は感心したように扇を広げた。

 

耀は大きく息を吸い、一息に述べる。

 

「私を貴方の背に乗せ・・・・・誇りをかけて勝負しませんか?」

 

「・・・・・・グルル!?『・・・・・・何・・・・・・!?』」

 

グリフォンの瞳と声に闘志が宿った。

 

気高い彼らにとって、『誇りを賭けろ』とは、最も効果的な挑発だ。

 

耀は返事を待たず、続ける。

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。・・・・・・どうかな?」

 

耀は小首を傾げる。

 

確かに、その条件ならば力と勇気の双方を試すことができる。

 

「グルルル・・・? 『娘よ。お前は私に“誇りを賭けろ”と持ちかけた。お前の述べるとおり、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。―――だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』」

 

「命を賭けます」

 

即答だった。あまりに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きが上がった。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!? 本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。・・・・・・それじゃ駄目かな?」

 

「・・・・・・『・・・・・・ふむ・・・・・・』」

 

耀の提案にますます慌てる飛鳥と黒ウサギ。

 

それを十六夜と白夜叉が制する

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ、無粋な事はやめておけ」

 

「そんな問題ではございません!! 同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

 

「大丈夫だよ」

 

耀が振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いもなく、むしろ勝算ありと思わせるようなものだった。

 

「そんなこと言われても・・・赤羽さんも何か言ってくださいよ」

 

「なんでだ?」

 

「なんでって」

 

「耀が勝つんだ何の心配もないだろ。」

 

そんな話をしていると

 

「グルル・・・・・・。『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』」

 

耀は頷き、手綱を握って背に乗りこむ。

 

鞍が無いためやや不安定だが、耀はしっかりと手綱を握り締めて獅子の胴体に跨る。

 

ふと、耀は手袋を片手だけ脱ぎ、鷲獅子の強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに囁く。

 

「始める前に一言だけ。・・・・・・私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

「グル。『―――そうか』」

 

グリフォンは苦笑してこそばゆいとばかりに翼を三度羽ばたかせる。

 

前傾姿勢を取るや否や、大地を踏み抜くようにして薄命の空に飛び出した。

 

「うわ!?」

 

「「きゃあ!?」

 

衝撃で吹き付けられた雪を、両腕で顔を庇うことで防ぐ。

 

「いた! ・・・・・けど、あれは?」

 

山脈へ遠ざかっていく姿を発見できたが、グリフォンの翼が大きく広がり固定されていることに驚いた。

 

「鷲獅子って、飛ぶのに翼は必要ないのか?」

 

 

同じことに耀は逸早く気が付き、強烈な圧力に苦しみながらも、感嘆の声を抑えられずに漏らした。

 

「凄い・・・・・・! 貴方は、空を踏みしめて走っている!!!」

 

鷲獅子の巨体を支えるのは翼ではなく、旋風を操るギフト。

 

彼らの翼は彼らの生態系が、通常の進化系統樹から逸脱した種であることの証だった。

 

「―――グルルル。『娘よ。もうすぐ山脈に差し掛かるが・・・・・・本当に良いのか?この速度で山脈に向かえば』」

 

「うん。氷点下の風が更に冷たくなって、体感温度はマイナス数十度ってところかな」

 

森林を越え、山脈を跨ぐ前に、グリフォンは少し速度を緩める。

 

低い気温の中を疾風の如く駆けるグリフォンの背に跨れば、衝撃と温度差の二つの壁が牙を剥き、人間に耐えられるものではない。

 

これはグリフォンの良心から出た最後通牒。

 

耀の真っ直ぐな姿勢に思うところあっての言葉だろう。

 

だが、その心配を耀は微かな笑顔と挑発で返した。

 

「だけど、大丈夫って言ったから。それよりいいの?貴方こそ本気で来ないと。本当に私が勝つよ?」

 

手袋越しに強く手綱を握り締める耀。

 

「グルル、グルァア!『よかろう。後悔するなよ娘!』」

 

グリフォンも挑発に応じる。

 

今度は翼も用いて旋風を操る。

 

遥か彼方にあったはずの山頂が瞬く間に近づき、眼下では羽ばたく衝撃で割れる氷河が見える。

 

衝撃は人間の身体など一瞬で拉げさせてしまうほどだが、耀は歯を食いしばって耐えていた。

 

これだけの圧力、冷気。これらに耐えている耀の耐久力は少女を逸脱している。

 

(なるほど・・・・・・相応の奇跡を身に宿しているという事か・・・・・・!)

 

グリフォンは背中から聞こえる僅かな吐息に、驚嘆とも困惑ともいえる感情が湧き始め、苦笑を洩らす。

 

手心不要と悟るや否や、グリフォンは頭から急降下、さらに旋回を交えて耀を振るいかける。

 

鞍が無い獅子の背中は縋れるような無駄は無く、掴まるものは手綱だけになり、耀の下半身は空中に投げ出されるように泳ぐ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

流石にもう軽口は叩けない。

 

耀は必死に手綱を握り、グリフォンは必死に振り落とそうと旋回を繰り返す。

 

「「春日部さん!!」」

 

飛鳥と黒ウサギが耀を応援するため叫ぶ。

 

グリフォンは地平ギリギリまで急降下して大地と水平になるように振り回す。

 

それが最後の山場だったのだろう、山脈からの冷風も途絶え、残るは純粋な距離のみ。

 

勢いもそのままに、湖畔の中心まで疾走したグリフォン。

 

耀の勝利が決定し、飛鳥と黒ウサギが喜んだ瞬間―――春日部耀の手から手綱が外れ、耀の小さな体は慣性のまま打ち上げられた。

 

「!?『何!?』」

 

「春日部さん!?」

 

安堵を漏らす暇も称賛をかける暇もなく、耀の身体が打ち上げられ、グリフォンと飛鳥は息を呑んだ。

 

助けに行こうとした黒ウサギの手を十六夜が掴む。

 

「は、離し―――」

 

「待て!まだ終わって―――」

 

焦る黒ウサギと止めようとする十六夜。

 

すると耀の身体が突然動きを変えた。

 

決着がつき、慣性のまま打ち上げられたとき、耀の脳裏からは、完全に周囲の存在が消えていた。

 

脳裏にあるのは只一つ、先ほどまで空を疾走していた感動だけが残っている。

 

(四肢で・・・・・・風を絡め、大気を踏みしめるように―――!)

 

ふわっと、耀の身体が翻った。

 

慣性を殺すような緩慢な動きはやがて彼女の落下速度を衰えさせ、遂には湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

 

「・・・・・・なっ」

 

その場にいた全員が絶句した。

 

先ほどまでそんな素振りを見せなかった耀が、湖畔の上で風を纏って浮いているのだ。

 

ふわふわと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀に、呆れたように笑う十六夜が近づいた。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「・・・・・・違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか・・・・・・と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

興味津々な十六夜の視線をフイっと避ける。

 

そこに、

 

「やれやれ。まさか飛べるようになるとは思わなかった。あの時黒ウサギを止めたのは確信があったのか?」

 

紫炎が十六夜に聞く

 

「俺だって春日部が飛ぶとは思ってなかったが、どうにかなりそうだったからな」

 

「それは信頼してるってとっていいのか?」

 

すると、耀の傍に三毛猫が駆け寄った。

 

「ニャー!『お嬢!怪我はないか!?』」

 

「うん、大丈夫。服のおかげで凍傷にもならずに済んだ。ありがとう紫炎。」

 

「どういたしまして」

 

耀から服を返してもらうとグリフォンが近寄ってきた

 

「グルルルル。『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』」

 

「うん。大事にする」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。・・・・・・ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

首を傾げる白夜叉に三毛猫が説明する。

 

「にゃにゃにゃ、にゃー。『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』」

 

「ほほう・・・・・・彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出し、白夜叉に差し出す。

 

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰めた。十六夜、飛鳥、紫炎もその隣から木彫りを覗き込む。

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

 

「・・・・・・これは」

 

木彫りは中心の空白を目指して幾何学線が延びるというもの。

 

白夜叉だけでなく、十六夜、黒ウサギも鑑定に参加する。

 

表と裏を何度も見直し、表面にある幾何学線を指でなぞる。

 

黒ウサギは首を傾げて耀に問う。

 

「材質は楠の神木・・・・・・? 神格は残っていないようですが・・・・・・この中心を目指す幾何学線・・・・・・そして中心に円状の空白・・・・・・もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

 

「おそらくの・・・・・・ならこの図形はこうで・・・・・・この円形が収束するのは・・・・・・いや、これは・・・・・・これは、凄い! 本当に凄いぞ娘!! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは! これは正真正銘“生命の目録”と称して過言ない名品だ!」

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ? でも母さんが作った系統樹の図は、もっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、すなわち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、世界の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

熱弁した白夜叉だったが、耀はあっさり断って木彫り細工を取り上げた。

 

白夜叉は、お気に入りの玩具を取り上げられた子供のようにしょんぼりした。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

十六夜に問われ、白夜叉は気を取り戻すが、首を捻った。

 

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話できるのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

 

「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

黒ウサギの要求にゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

ゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったのだろう。

 

白夜叉は困ったように白髪を掻きあげ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を両手で包んで見つめる。

 

「どれどれ・・・・・・ふむふむ・・・・・・うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「黙秘権を行使する。」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに。」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く飛鳥と耀、紫炎。

 

困ったように頭を掻く白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。

 

すると十六夜・飛鳥・耀・紫炎の四人の眼前に光り輝くカードが現れた。



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第十話

カードを見てみるとそれぞれの名前と体に宿るギフトを表すネームが記されていた

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明”(コード・アンノウン)

 

ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”

 

パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム“生命の目録”(ゲノム・ツリー)“ノーフォーマー”

 

レインボーカラーのカードに赤羽紫炎・ギフトネーム“火色炎舞”“自由主義”(リベラリズム)

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。

 

黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「香典?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が会っているのです!?赤羽さんは不吉すぎます。このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは”ノーネーム”だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

白夜叉は自分のカードを取り出し説明を進める。

 

「ふぅん・・・・・・もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

十六夜は何気なく黒ウサギの持つ水樹にカードを向ける。

 

すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。

 

見ると十六夜のカードは溢れるほどの水を生み出す樹の絵が差し込まれ、ギフト欄の“正体不明”の下に“水樹”の名前が並んでいる。

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティのために使ってください!」

 

チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。

 

白夜叉は両者の様子を高らかに笑いながら見つめていた。

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった”恩恵”の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

「俺は主義がのってるんだが・・・これもギフトなのか?」

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

十六夜の声に、ん?と白夜叉が彼のカードを覗き込む。

 

そこには確かに“正体不明”の文字が刻まれている。

 

ヤハハと笑う十六夜とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。

 

「・・・・・・いや、そんな馬鹿な」

 

パシッと、表情を変えた白夜叉がカードを取り上げる。

 

真剣な眼差しでカードを見る白夜叉は、不可解とばかりに呟く。

 

「“正体不明”だと・・・・・・?いいやありえん、全知たる“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

パシッと十六夜がカードを取り上げる。

 

だが、白夜叉は納得できないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。

 

それほどギフトネームが”正体不明”とはありえないことだった。

 

(そういえばこの童・・・・・・蛇神を倒したと言っていたな。種の最高位である神格保持者を人間が打倒する事はありえぬ。強大な力を持っていることは間違いないわけか。・・・・・・しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に機能しないとはどういう・・・・・・)

 

『ギフトが正常に動作しない』。そこで白夜叉の脳裏に一つの可能性が浮上した。

 

(ギフトを無効化した・・・・・・?いや、まさかな)

 

浮上した可能性を、白夜叉は苦笑と共に切り捨てた。

 

修羅神仏の集う箱庭で、無効化のギフトは珍しくない。

 

だが十六夜のように強大な奇跡を身に宿す者が、奇跡を打ち消す御技を宿しては大きく矛盾する。

 

それに比べれば、“ラプラスの紙片”に問題があるという結論の方がまだ納得できる。

 

六人と一匹は暖簾の下げられた店前に移動し、耀は一礼した

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むものだもの」

 

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「その時は本気で相手してもらうぜ。」

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。………ところで」

 

白夜叉は微笑を浮かべるがスっと真剣な表情で俺達を見てくる。

 

「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

 

「ああ、名前と旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「なら、“魔王”と戦わねばならんことも?」

 

「聞いてるわよ」

 

「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

横目で黒ウサギがを見てみると黒ウサギの目は俺達から視線をそらしていた。

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

「“カッコいい”で済む話ではないのだがの………全く、若さゆえなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人と赤い髪の小僧。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

予言するように断言された耀と飛鳥は言い返そうとするが言葉が見つからないのか、それとも同じ元魔王の白夜叉の威圧感に黙ってしまう。

 

「おいおい、俺と飛鳥のギフトも見ずに随分な言いぐさだな。」

 

「これでも伊達に長生きしておらぬ。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」

 

「ご忠告ありがとう。だが、それを断言するのはまた今度本気のゲームをしに行った来た時にしてくれや。」

 

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」

 

「嫌です!」

 

「望むところだ!」

 

「望まないでください!」

 

黒ウサギが即答で返してくる。白夜叉は拗ねたように唇を尖らせた。

 

「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」

 

「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!って、十六夜さんも赤羽さんも『その手があったか!?』という顔しないでください!?」

 

怒る黒ウサギに笑う俺、逆廻、白夜叉。そのまま俺達は無愛想な女性店員に見送られながら“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇外門支店を後にした。

 

ノーネムへの帰り道、俺は耀に聞きたいことがあった

 

「なぁそのペンダント、父親から貰ったって聞いたけど優しい父親なんだな」

 

「うん。入院していた私に面白い旅の話もしてくれたし、このペンダントのおかげで友達もできた。」

 

「そうなんだ」

 

「どうしてそんなことを聞いてきたの?」

 

「なんとなくじゃ駄目か?」

 

「別にいいけど・・・それじゃあ紫炎の父親の話をして」

 

「・・・なんでだ?」

 

「なんとなくじゃ駄目?」

 

耀がいたずらっぽく笑いかける。

 

「もし話すなら、コミュニティに着いてひと段落してからだ。」

 

「なんで?」

 

「聞き耳たててる奴らには聞かれたくない。」

 

紫炎がそういうと黒ウサギと飛鳥がビクッっと肩を震わせる

 

「別にいいんじゃないの?」

 

「あんまり人に聞かれたくないんだよ。」

 

「いいじゃないですか、赤羽さん。コミュニティの仲間と親睦を深めると思って」

 

「その仲間にコミュニティの現状を隠してたやつには言われたくないな。」

 

紫炎がそういうと黒ウサギは悲しそうに前を向き歩き出した

 

「それなら私には教えてくれるのかしら?」

 

飛鳥が聞いてくる

 

「あんまり人に話したくないからパス。」

 

「じゃあなんで春日部さんだけに話すのかしら?」

 

飛鳥が不機嫌そうに聞いてくる

 

「別に話すと決めたわけじゃない。聞く気があるなら話すかもしれないだけだ。」

 

「それずるい。私話したのに。」

 

「まぁそのことについてもまずコミュニティに着いてからだ。」

 

紫炎はこれ以上の追及を逃れる為無理やり話を切り上げた



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第十一話

白夜叉とのゲームを終え、“サウザンドアイズ”の支店から半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居

住区画の門前に着いた。その門を見上げると、コミュニティの旗は掲げられていなかった。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この浜辺はまだ戦いの名残がありますので………」

 

「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

先程の一件により機嫌が悪い飛鳥。プライドが高い彼女からしてみれば見下された事実に気に食わなかったのだろう。

 

躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。すると、門の向こうから乾いた風を感じた。砂塵が舞い、俺達の視界を遮る。微かに見える景色は―――廃墟同然の荒れた大地だった。

 

「っ、これは………!?」

 

街並みに刻まれた傷跡をみた飛鳥と耀が息を呑んでいるが分かる。逆廻はこの光景にスっと目を細めながら木造の廃墟に歩み寄り、囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと残骸は音も立てて崩れていった。

 

「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは――――今から何百年前の話だ?」

 

「僅か三年前でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」

 

十六夜の言う通り“ノーネーム”の街並みは何百年の時間が経過して滅んだように崩れ去っているのだ。とても三年前まで人が住んでいたとは思えない程の有様だ。

 

「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 

「確かにな。これが魔王の実力ねぇ」

 

十六夜はあり得ないと言いながらも目の前の廃墟に心地よい冷や汗を流している。紫炎も同じように考えているようだ。

 

飛鳥と耀も廃屋をみて複雑そうに感想を述べた

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 

二人の感想は逆廻よりも重く感じた。黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。

 

「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進んでいく。飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続いていく。紫炎は何を考えているのかわからない表情をしている。だが、逆廻だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。

 

「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」

 

そう呟きながら逆廻も黒ウサギ達の後について行った。

 

歩いていると、廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。五人は水樹を設置するため貯水池を目指していると先客がいた

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調ってます!」

 

「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

黒ウサギが子供達に近寄っていくとワイワイと騒ぎ出して黒ウサギの元に群がっていった。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

 

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

 

「強いの!?カッコいい!?」

 

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。人数は二〇人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

 

(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

 

(・・・私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)

 

(聞き分けのよさそうな子供ばっかだな。)

 

四人が各々の感想を心に呟く。

 

すると黒ウサギが四人を紹介し始めた

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、赤羽紫炎さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

 

「そうだな。俺もそっちの方が気楽でいいわ」

 

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

飛鳥と俺の申し出を、黒ウサギが今まで一番厳しい声音で却下された。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」

 

「………そう」

 

黒ウサギが有無を言わせない気迫で飛鳥を黙らせる。

 

三年間実質コミュニティを一人で支えてきたのだからその厳しさ知ってるのだろう。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

二〇人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

「子供はこうでなくちゃな。よろしくな、お前ら」

 

「そ、そうね」

 

その大声に俺と逆廻は笑い、飛鳥と耀は複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

「あいよ」

 

逆廻はポケットからギフトカードを取り出し、水樹の苗を発現した。黒ウサギはその水樹の苗を受け取る。

 

しかし、水路自体は残ってるみたいだが所々ひび割れが目立つ

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうか?ウサ耳の姉ちゃん』

 

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

 

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

逆廻が瞳を輝かせ、黒ウサギに問いかけるが黒ウサギは適当にはぐらかす。それは妥当な判断だろう。逆廻がそんな面白いことを教えた瞬間、絶対龍がいる場所に向かうからな。これ以上この話題が不味いと思ったのか話を戻すためジンが貯水池の詳細を説明する。

 

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたきたときに時々使っていたので問題ありません」

 

「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

飛鳥がふっと思った疑問を忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えた。

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

 

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

 

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

 

「………そう。大変なのね」

 

飛鳥はちょっとがっかりした顔をしている

 

もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろうがそんなものがあれば水樹であんなに喜ぶはずがない

 

「それでは苗のひもを解きますので十六夜さんは屋敷への水門を開けてください。」

 

「あいよ」

 

十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。

 

黒ウサギが苗のひもを解くと大波のような水が溢れかえり、激流になり貯水池を埋め尽くす

 

水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ

 

「ちょ、少しマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」

 

今日一日、散々ずぶぬれになった十六夜はあわてて跳躍する

 

「うわあ!この子想像以上に元気ですね。」

 

「そうだな。貴種のウサギでも放り込んだら流れそうだな。」

 

「赤羽さん。不吉な冗談はやめてください。」

 

「悪い悪い。で、俺たちの寝るとこは?」

 

俺が黒ウサギに聞くと

 

「その前に赤羽さんにはやってもらうことがありますのでこの子についって行ってください」

 

「リリと申します。よろしくおねがいします。」

 

「赤羽紫炎だ。それじゃあ案内よろしく。」

 

「はい、こちらです。」

 

「それじゃあよろしくお願いしますね。」

 

「おい、黒ウサギ。」

 

「何ですか?赤羽さん。」

 

「お前の耳、明日灰になってるかもな。」

 

俺の言葉に黒ウサギはすごい汗を流している

 

それを無視してキツネ耳の少女に付いて行った



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第十二話

リリにつれてこられたのは

 

「風呂場?」

 

「はい。赤羽さんのギフトでお風呂を沸かしてほしいそうです。」

 

「しょうがない。」

 

そういうと紫炎は風呂場に入っている水に手を入れ数秒立つと

 

「ほい、終わり。」

 

「えっ!?もうですか?」

 

「ああ。けど一応冷めるかもしれないから薪くべるとことかある?」

 

「あっ、はい。こちらです。」

 

そうして薪をくべた後、火をつける

 

「これでしばらくは持つな。」

 

「ありがとうございます。赤羽さん。」

 

「素直に礼を言えるっていい子だな。よしよし。」

 

「あう~」

 

リリは恥ずかしそうに俯く

 

「さて、頼まれたことも終わったし、風呂までねるか。」

 

どうせ女性陣が先に入るし、外の客は十六夜に任せとけば大丈夫だからな

 

「それじゃあ私は館の方に戻りますね。」

 

「いや、その前にどこか寝転がれるとこに案内してもらえるか?」

 

「あ、はい。」

 

「その後、黒ウサギたちに上がったら起こすように言ってくれ。多分そこまでしてもらうと遅くなるからそのまま黒ウサギたちと風呂に入りな」

 

「えっ!?でも・・・」

 

黒ウサギが甘やかさないように育ててきたからプレイヤーと同じ環境で過ごすということが出来ないようだ

 

「。黒ウサギもそんな事では怒らないさ。もし怒っても俺が『子供を遅くに一人で帰すのが気が引けるから』っていえば大丈夫だ。」

 

「私なんかの事を考えていただきありがとうございます。」

 

「いいって。でももしそれでも言い返すようなら、『俺たちを騙してたんだからそれぐらいはしろ。もし、しなかったら本気で耳を燃やす』って言ったら大丈夫だ。」

 

「は、はい」

 

その後、リリに案内された場所で俺は眠りについた

 

――――――――――――――――

 

いくらか時が過ぎた

 

紫炎がまだ眠っているのを確認すると少女は本を紫炎の頭に落とした

 

「痛ってーーー。誰だ、て耀か。何しやがる。」

 

「お風呂あいたから起こしに来た。」

 

「そうだとしても本を落すとはどういう了見だ?」

 

「だって紫炎は声をかけても起き無さそうだし。」

 

「偏見だけでいきなり実力行使に移すな。」

 

まあ、確かに寝起きは基本的に悪いが・・・

 

「なんにせよ起こしてくれてありがとな」

 

そういって風呂場に向かおうとしたが耀に服を掴まれ阻まれる

 

「・・・どうした」

 

「約束」

 

「は?」

 

「だから約束」

 

何のことか思い出してみると

 

「まさか父親の事?」

 

俺がそういうと耀が頷く

 

「どうしても聞きたいのか?」

 

「うん」

 

耀がこちらを見据えて言い放つ

 

「じゃあ俺は風呂入るから」

 

「先に話して」

 

逃げようとするといきなり耀に押さえつけられた

 

「どうしても?」

 

「どうしても」

 

俺は諦めたように体の力を抜く

 

「話すから退いてくれ」

 

「本当に?」

 

「どうせ逃げても扉らへんに飛鳥と黒ウサギがいるだろうしな」

 

俺がそういうとあからさまに反応した

 

「それじゃあまず俺のギフトから説明するか」

 

「?それはもう聞いたけど?」

 

「その続きがあるんだ。」

 

俺がそういうと手に炎を灯す

 

「銀色の炎?」

 

「ああ。発火能力じゃないって言ったのはこういうことだ。ちなみに炎の操作でもない。炎を生み出すんだ。」

 

「その色は?」

 

「炎の色を変えてその色ごとの能力が使えるんだ。」

 

「「「えっ?」」」

 

俺が言葉を言った瞬間炎が俺と耀を包んだ

 

それに三人が驚きの声を上げる

 

「大丈夫だ、耀。銀色の炎は硬質化された炎で熱さは感じられないはずだ。」

 

「あっ、本当だ。でも、なんで?」

 

「この炎は吸音性なんだ。」

 

「そうなんだ。」

 

「だからここで話したことは他に言うなよ。」

 

「なんで?」

 

「思い出話は柄じゃないし、なにより他の奴らに聞かれるとどうなるか」

 

「あ~」

 

耀は多分十六夜の事を思ってるだろう

 

「話に戻るがまずこの炎を生み出す能力なんだがうちの家系の家長にだけ受け継がれるらしいだ。」

 

「へぇ~」

 

「それで子供のころからこの力を制御するため色々やらされてな。それで父親に散々しごかれてな。」

 

「それで父親が嫌いに」

 

「なったわけじゃないぞ。むしろそれは望んでた。普通の生活を送るためにな。」

 

自嘲気味に笑いながら話を続ける

 

「そっから小3くらいかな?それまで毎日修行だ。」

 

「毎日!?」

 

「ああ、おかげでみるみる制御できた。そのころには普通の炎は完全にコントロールできた。」

 

「そうなんだ」

 

「それからしばらくして事件が起こったんだ」

 

「事件?」

 

「父親が俺を殺そうとしてきたんだ。」

 

「!?」

 

「その時は母親が救ってくれて助かった。それから親父とは会ってない。」

 

「・・・・お母さんは?」

 

「その傷がもとで死んじまったんだ。おかげでそれから親戚をたらい回しで一昨年から一人で暮らしてたんだ。」

 

「・・・・・」

 

耀は黙ってしまった

 

「もう一度言うが誰にも言うなよ。そしてできればそんなしょげた顔はやめろみんなにばれちまうし、可愛い子には笑っててほしいんだ。」

 

俺はそういって耀の頬を引っ張って無理やり笑顔を作る

 

「痛い。」

 

そういって耀は俺の手を払う

 

「でも話してくれてありがとう。」

 

耀が微笑みながらいった

 

「俺こそ聞いてくれてありがとな。後、親父と俺のギフトが同じってことを話したってことにしといてくれ」

 

「うん。わかった。」

 

耀の言葉を聞き、俺は周りの炎を消す

 

「春日部さん、何の話をしてたの?」

 

「教えてください、耀さん。」

 

すると、飛鳥と黒ウサギが耀に詰め寄り聞いてくる

 

「紫炎のギフトについてちょっとね。」

 

約束通り黙ってくれているようだ

 

「そういうことだ。」

 

「本当にですか?」

 

疑り深く聞いてくる黒ウサギ

 

「お前がそれを言うか?」

 

「確かに」

 

「そうよね」

 

「まだ根に持ってるんですか」

 

黒ウサギが泣きながら聞いてくる

 

「別に根に持ってるわけじゃない。だが、これ以上聞いてくるなら本気でコミュニティを抜けるぞ。」

 

俺がそういうと飛鳥と黒ウサギは黙る

 

「それじゃあ俺は風呂入ってくるからお前らは先に寝とけ。」

 

俺は三人に一言告げて風呂に向かった



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第十三話

―――箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベット通り・噴水広場。

 

 

 

“ノーネーム”の屋敷で一日を過ごし、俺達“ノーネーム”は“フォレス・ガロ”のギフトゲームを挑むためにコミュニティの居住区に訪れようとする道中、“六本傷”の旗が掲げられている昨日のカフェテラスで声をかけられた。

 

「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」

 

昨日の猫耳店員が近寄ってきて俺達に一礼した。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

ブンブンと両手を振り回しながら応援してくれた。はは、元気だな………これは相当好き勝手にやられたんだろうな。心の中で苦笑しながら俺と飛鳥は強く頷き返す。

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「あんな虎ごときに遅れはとらん。」

 

「おお!心強い御返事だ!」

 

俺達の言葉に満面の笑みで返す猫耳店員………が、急に声を潜めて俺達に喋りかけてくる。

 

「実は皆さんにお話があります。“フォレス・ガロ”の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」

 

「居住区画で、ですか?」

 

それに答えたのは黒ウサギだった。その言葉を知らないのか飛鳥は不思議そうに小首を傾げる。

 

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」

 

「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」

 

「昨日の白夜叉のゲーム盤みたいなのか?」

 

「YES。その通りです、紫炎さん。」

 

他にも商業や娯楽のための自由区画、寝食や菜園などがある場所を居住区画というらしい

 

「しかも傘下に置いているコミュニティや同士は全員ほっぽり出していました」

 

「・・・・・それは確かにおかしいわね。」

 

「でしょ、でしょ。何のゲームか知りませんがとにかく気を付けてください。」

 

「ありがとな、猫耳少女。」

 

俺は少女の頭を撫でた

 

「・・・・ロリコン」

 

「ん?何か言ったか、耀?」

 

「別に」

 

「?」

 

耀の呟きが気になったが飛鳥たちがさっさと行ってしまっていたため詳しく聞けなかった。

 

 

 

「あっ、皆さん!見えてきました・・・けど」

 

黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様のようだ

 

なぜなら居住区のはずなのに森のように木々が鬱蒼と生い茂っていた

 

「・・・ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだし、おかしくないだろ」

 

「いえ、フォレス・ガロの本拠は普通の居住区だったはず・・・それにこの木は」

 

ジンがそっと気に手を伸ばす

 

紫炎も木に手を当て

 

「燃えないな」

 

ギフトを発動していた

 

「何しているんですか、紫炎さん。」

 

「あっ、契約書類があるぞ」

 

「話を聞いてください」

 

紫炎はジンの言葉を無視して今回のゲームの内容が書かれている契約書類を読んでいた

 

『ギフトゲーム名“ハンティング”

 

 ・プレイヤー一覧 赤羽 紫炎

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約ギアス”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

 

 ・敗北条件  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・指定武具  ゲームテリトリーにて配置。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                               “フォレス・ガロ”印』

 

 

「ガルドの身をクリア条件に・・・指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです」

 

ジンと黒ウサギから悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

飛鳥は心配そうに問う

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いえ、ゲーム自体は単純ですが問題はこのルールです。このルールだと飛鳥さんのギフトで彼を操ることも紫炎さんと耀さんのギフトで傷付ける事も出来ないことになります」

 

「どういうことだ?」

 

「“恩恵”ではなく“契約”で身を守られているのです。」

 

「すいません。僕の落ち度です。こんなことならその場でルールを決めておけば・・・」

 

ルールを決めるのが“主催者”である以上、白紙のゲームに承諾するのは自殺行為に等しい

 

「それなら何も言わなかった俺らも同罪だ。」

 

「うん。だから自分だけを責めないように。」

 

「紫炎さん、耀さん。」

 

ジンに少し明るさが戻る

 

「それにこのルールで絶対負けるなんてことはない。勝てる要素がある以上結果が出るまで弱音を吐くな」

 

「そ、そうですよ。“指定”武具と書かれているので何かしらのヒントがあるはずです。もしなければフォレス・ガロの反則負けです」

 

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし私も紫炎も頑張る。」

 

「・・・ええそうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するのにこのくらいのハンデは必要かもね」

 

愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギとやる気を見せる耀に飛鳥も奮起したようだ。

 

ジンと十六夜が何か話しているようだが気にしなくてもいいだろう

 

「さて、ああは言ったけど結構厳しいな。」

 

耀はまだしもジンと飛鳥はギフトが聞かなければ常人と指して変わらないはずだから実質戦えるのは紫炎と耀の二人だけだろう

 

しかし、そんなことを言っても何もかわらない。

 

参加者の四人は門を開け突入する



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第十四話

門の開閉がゲームの合図なのか、生い茂る森が門を絡めるように退路を断つ。

 

光を遮る程の密度で立ち並ぶ木々、その木々の下から迫り上がる巨大な根によって街路と思われる道は人が通れるような道ではなくなってると人が住んでいた場所とは思えない程であった。

 

ジンと飛鳥はいつ奇襲されるかと緊張した面持ちで周囲を警戒していたので心配させないように声を掛け、落ち着かせることにした。

 

「周りには誰もいないから安心しろ」

 

「そうだよ。もし隠れていたら匂いで分かる」

 

「………そう?春日部さんは犬にもお友達が?」

 

「うん。二十匹ぐらい」

 

「そう。なら紫炎君はなんで周りに誰もいないことが分かったの?」

 

飛鳥は耀の五感が優れているのですぐに信頼するが、紫炎はギフトも使わずになぜわかったか気になるようだ

 

「そんなの決まってんだろ。ただの勘だ」

 

紫炎がそういうと飛鳥は近くの石を投げ、耀はグリフォンのギフトで攻撃してきた

 

「危ないだろうが!」

 

ぎりぎりで炎で防げた

 

「自業自得」

 

「お、落ち着いてください。耀さん、ガルドの正確な位置はわかりますか?」

 

「分からないけど、風下にいるのに匂いがないから何処かの建物にいると思う」

 

「では外から探しましょう」

 

「それなら二手に分かれるぞ」

 

「それもそうね」

 

「どう別れるの?」

 

耀が聞いてくる

 

「戦力的に俺と耀は分かれた方がいいから」

 

それを聞いて飛鳥が少し不機嫌になるが真実なのでしょうがない

 

「こうが一番いいかな?」

 

それは紫炎が一人で他三人が一緒というらしい

 

「どこかに尖ったものはないかしら?」

 

「単独行動はだめ。」

 

飛鳥が武器を探してるのに対し、耀は象の重さを使って乗っかってる

 

「やめろ。潰れるから退いてくれ。」

 

「春日部さん。ちゃんと生かしておいてね。」

 

飛鳥が声をかける

 

「飛鳥。お前優し」

 

「とどめは私がさすんだから」

 

「ちくしょう。そんなことだと思ったよ。」

 

そんなことをしてるとジンが

 

「皆さん、真面目にしましょう。」

 

「そうね」

 

「ふざけすぎた」

 

「俺はいつでも大真面目だぞ」

 

紫炎がそういうとジンが石を投げる

 

不意打ちだったため、モロに食らった

 

「痛った~。何すんだよ、ジン。」

 

「いい加減にしてください。皆で力を合わせなければ勝てるものも勝てませんよ。」

 

ジンが怒りを露わにする

 

「そんなことは百も承知だ」

 

「それなら」

 

「けど、俺の戦闘力はお前ら三人合しても上だからだ」

 

「あら、それは聞き捨てならないわね」

 

「私も」

 

自分たちの力を過小評価する紫炎に二人は怒り心頭のようだ

 

「確かに飛鳥のギフトは強力だが、今回はガルド自身にはそのギフトを使えないようになってる。そうなると身体能力で優劣をつけることになる。」

 

紫炎がそこまでいうと飛鳥は歯を食いしばりながらも下がった

 

「それなら」

 

「耀の身体能力は確かにすごい。だからこそ二人を守ってほしい。」

 

「それなら二人づつで紫炎も一人連れてけばいい。」

 

耀も食い下がらず、意見をいう

 

「俺のギフトは炎のギフトだ。万が一にでも巻き込んだらシャレにならんからな」

 

「確かにそうだけど…」

 

「それじゃあ決まりだな。」

 

紫炎が移動しようとするとジンが声をかける

 

「それなら別にこの分け方でも良いですけど、まだ指定武具のヒント探しなのでガルドのところまでいかないでくださいね」

 

「そんなことは分かってるでしょ。ねぇ、紫炎君。」

 

「・・・・・」

 

ジンの言葉に紫炎は答えない

 

「ねぇ、紫炎君。なんで答えないのかしら?」

 

飛鳥が殺気を込めて聞くと

 

「さらばだ」

 

「駄目」

 

紫炎が逃げようとしたが、動き出しの瞬間に耀に掴まれる

 

「さて、覚悟はいいかしら?」

 

「良くない。良くないから放してくれ。」

 

「大丈夫。痛くなくなるから。」

 

「ちょっと待て。痛くないじゃなくて痛くなくなる?どういう意味だ!?」

 

「とりあえず腕の関節からかしら?」

 

「やめてくれ。悪かった。俺が悪かったから」

 

「もう遅い。」

 

そのあと数分紫炎の絶叫が聞こえたがその後は静かになった



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第十五話

紫炎の意識が戻った後、飛鳥と耀、ジンと紫炎がペアを組みヒントを探したが見つからなかった

 

「ヒントも武器も何一つなかったな」

 

「こっちもなかったわ。」

 

「もしかしたらガルド自身がその役目を担ってるにかもしれません」

 

「それなら耀のギフトで」

 

「もう見つけてる」

 

耀が樹の上に上り、遠くを見つめていた

 

「影が見えただけだけど、本拠にいた。」

 

耀の瞳は普段と違い、猛禽類を彷彿させる瞳になっていた

 

「そういえば鷹の友達もいたのね。けど、今はみんな悲しんでるんじゃない?」

 

「それを言われると少し辛い。」

 

しゅん、と元気がなくなる耀。

 

その後、四人は少し警戒しながら館に入る

 

「しかし、虎だから森の中で奇襲をかけると思ったらそんなことはなかったな。」

 

「けど、あんな自己顕示欲の強いガルドが自分の屋敷を荒らすとは思えません」

 

「それじゃあ代理人に頼んだのかなぁ?」

 

「代理に頼むにしても罠もなかったし、屋敷を荒らす必要はないわ。」

 

四人は少しだけ考える

 

「悩んでてもしょうがない。今、ガルドはどこにいるかわかるか?」

 

「多分、二階にいる。」

 

「それじゃあ手分けして一階を探すか。」

 

紫炎はそういうと一階と二階の間を銀色の炎で覆う

 

「これでガルドが来ようとしても時間稼ぎぐらいにはなる。」

 

「それなら一人ずつで探しましょうか」

 

「そうですね」

 

そうしてがれきを退けたりして隈なく探したが何も出てこなかった

 

「どうだった?」

 

紫炎の言葉に全員首を横に振る

 

「二階に行くか。」

 

「それならジン君は此処で待ってなさい。」

 

「どうしてですか?僕だってギフトを持ってますから足手まといには」

 

「違うわ。あなたには退路を守ってほしいの」

 

ジンは不満そうだったがしぶしぶ納得した

 

三人はその後順番に部屋を調べたが何もなかった

 

そして最後の部屋の扉に着いた

 

「準備はいいか?」

 

「ええ」

 

「うん」

 

紫炎が二人の声を聞き勢いよく扉を開けると

 

「―――………GEEEEEEEYAAAAAaaaaa!!」

 

昨日とは変わり果てた姿をしたガルドが白銀の十字剣を背に守りながら立ち塞がった。

 

三人が雄叫びに怯んでいるとガルドが突進を仕掛けてきた

 

それをなんとか紫炎が炎で受け止めるが、“契約”で守られているからか全然止まる気配がない

 

「お前ら逃げろ!!」

 

紫炎が叫ぶと飛鳥はジンの方に走ったが耀は部屋に入り十字剣を取ろうとした

 

「馬鹿、逃げろ」

 

耀の姿が見えたのか、ガルドは紫炎を気にもせず耀に襲いかかる

 

「えっ、きゃあ」

 

剣をとったが、想像以上に距離を詰められていた

 

ガルドの牙が耀に襲い掛かる瞬間

 

「えっ?」

 

「ぐわっ」

 

紫炎が耀を押し出して居場所が変わった

 

その為、ガルドの牙は紫炎に襲い掛かった

 

「GRRRRRRR」

 

「離せや、コラァ」

 

紫炎が残った力でガルドから逃れ、窓を割る

 

「飛び降りろ」

 

その言葉に耀は我に返り、紫炎を連れ飛び降りた

 

上を見てみるとガルドが追ってくる様子はなかった

 

「大丈夫なの!?」

 

耀が珍しく慌てた様子で聞いてくる

 

「見た目より大分ましだ。とっさに銀色の炎で体を包んだおかげで命には関わらんようだ。」

 

「良かった」

 

少し涙ぐんで笑いかける耀

 

「だが、さすがにすぐには動けそうにないから飛鳥たちと合流してガルドを倒せ。いいな?」

 

「わかった。それじゃあ待ってて。」

 

耀がグリフォンのギフトを使い飛鳥たちがいるであろう方へ飛んでいく

 

「さて、傷自体は内臓には届いてないが、出血が多すぎるな。」

 

紫炎は耀が見えなくなると自分の状況を再確認する

 

「ぐっ!?」

 

しかし、少し体を動かしただけで激痛が走る

 

「本格的にやばいな。意識が・・・」

 

あまりの出血量に紫炎は意識手放した

 

―――――――――――

 

「どこだ此処は?確か俺はガルドとのゲームで気を失っていたはず」

 

俺は何故かベットに寝ていた

 

「あっ!皆さん赤羽さんの意識が戻りましたよ」

 

「本当だ。良かった。」

 

何故か黒ウサギが喜び、耀が胸を撫で下ろしていた

 

「しかし、あんな小物にお前が傷を負わされるとは思わなかったぜ。俺の見込み違いか?」

 

「それは」

 

「少し油断と慢心があったのかもな。俺も食らうとは思わなかったし。」

 

耀が何かを言おうとしたのを紫炎が制し、十六夜の問いに答える

 

するといきなり横から平手打ちが飛んできた

 

「痛い」

 

「飛鳥!?」

 

「一人で独断専行して怪我した罰よ」

 

ふんっ、と鼻を鳴らし部屋を出ていく飛鳥

 

「それなら俺も」

 

「やめてください、十六夜さん。一応けが人なんですから」

 

拳を振り上げた十六夜をジンと黒ウサギが二人がかりで部屋の外に追いやる

 

部屋には紫炎と耀の二人だけになった

 

「ごめんなさい」

 

「どうした?いきなり謝ったりして?」

 

「だってそのけがは私のせいだし・・・」

 

「いや、これは俺の判断ミスだ。」

 

「でも、私が勝手に飛び出したから。」

 

「それがなくても多分一人で戦ってこれ以上の怪我を負ったかもしれない。焦らずに力をあわせとけば傷も負わなかった。だから俺の所為だ。」

 

「でも・・・」

 

「これからは助け合っていこうということでこの話題はもう終わりだ。」

 

無理やり話題を途切れさせる

 

「・・・わかった。」

 

「それじゃあジンが何処にいるかわかるか?」

 

「多分図書室」

 

「そうか、ありがとう」

 

俺はそういうとベットから降りて扉を開けた

 

「だめ」

 

「いや、もう治ったし」

 

「呼んでくるから待ってて」

 

耀が俺の話を聞かずに飛び出して行った

 

数分すると耀がジンを連れてきた

 

「連れてきた」

 

「あの~僕に何の用なんでしょうか?」

 

「聞きたいことがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「今回のゲーム、お前が気づいて俺たちに言ってないことはなんだ?」

 

「!?」

 

「おかしいと思ったのは最初の木を見たときの反応だ。何か知ってる反応だったからな」

 

「そ、それは・・・」

 

「それとこれは俺の勘だが、吸血鬼が関わってると思う。」

 

「なんでそれを」

 

ジンが驚きの表情で紫炎に詰め寄る

 

「ガルドに牙で噛まれたとき、血を吸われた感じがあったんだ。それでな。」

 

「そうですか。それでは僕が思うことを話します」

 

ジンが話したのは吸血鬼の仲間がいるということと、あれほどの木々を鬼化できるのはその人くらいということだった

 

「けど、仲間ならそんなことをする必要はないと思うんだけど」

 

「そうなんです。なので本当に彼女かどうか確信が持てないんです」

 

「いや、おかげで確信が持てた。多分そいつで合ってる」

 

紫炎がそういうと二人はまだわからないように首を傾げる

 

「おそらく、俺たちの事を聞いてコミュニティの力になるか試したかったんだろ。」

 

紫炎の説明になるほど、といった感じで頷く二人

 

「ありがとうな。これで疑問は解けた。」

 

そう言って紫炎は立ち上がりジンに礼を言い、外に出ようとした

 

「何しに行くの?」

 

それを耀に止められる

 

「いや、軽く運動を」

 

「駄目、今日は絶対安静」

 

結局耀に念を押され、その日は一日寝て過ごすことになった



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第十六話

次の日―――

 

俺が目を覚ますと黒ウサギと飛鳥の雰囲気がなにか険悪だった

 

「なぁ、耀。昨日何があったんだ?」

 

「私も聞いただけなんだけど・・・」

 

聞くと、元仲間の為に黒ウサギが自分の身を犠牲にしようとしたため、そのことで飛鳥と喧嘩をしたらしい

 

「なるほどね」

 

「私たちにできることがあればいいんだけど・・・」

 

「やれるとしたらペルセウスのコミュニティにどうやってゲームをするかだな」

 

二人が話していると

 

「あ、あの・・・」

 

「ん?リリか。どうした?」

 

狐耳の少女・リリがはなしかけてきた

 

「あの二人は何で喧嘩してるんですか?」

 

「いや、そういうわけじゃ・・・」

 

「私たちにできることはないでしょうか?」

 

この言葉に二人は少し心が温かくなる

 

「その気持ちだけで大丈夫だ。」

 

「そうだよ。ありがとう、リリ」

 

「それでも何かしたいんです」

 

「それならお菓子でも焼いて持っててあげな。心が籠ったものを無碍にする奴じゃないしな」

 

紫炎がそういうとどこかに歩き出した

 

「どこに行くの?」

 

「ちょっとコミュニティ内をぐるっと回ってみようかなってな。」

 

「そんな悠長なことしてられる時間はない。」

 

耀が怒った顔でこちらを睨む。

 

「十六夜を探してみようと思ってな。俺らの中じゃ一番頭が切れるからな。だから今日はコミュニティ内を探してみようと思ってな。」

 

「今日は?」

 

「なんか今日中に見つかる気がしなくてな。」

 

「あー」

 

耀が納得したように頷く

 

そして紫炎が館へと歩き出した

 

―――――――――――――

 

「ジン、ちょっといいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

紫炎が図書館でジンを見つけた後、廊下に引きずりながら聞いた

 

「なんか武器ないか?」

 

「それなら工房にありますけど・・・」

 

「よし行くか。」

 

「その前に、何故、今武器を?」

 

ジンの問いに紫炎がさも当たり前のように答える

 

「ペルセウスとの戦いが近いからだよ」

 

「聞いてないんですか!?ペルセウスはギフトゲームを取りやめたんですよ。それで」

 

「黒ウサギとの交換条件は知ってる。だが、話し合いの場には白夜叉が居たんだ。十六夜が居ないのは何か吹き込まれたからにちがいない。」

 

紫炎がそこまでいうとジンがはっとする

 

「ということだ。ほれ、早く工房に案内してくれ」

 

「分かりましたから、引きずらないで下さい。自分で歩きます。」

 

そうしてジンを離して工房まで案内してもらった

 

 



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第十七話

「へぇー色々あるんだな。」

 

工房に案内されて中を見てみるとたくさんの武具が置いてあった

 

「はい。コミュニティが潰されてもここの武具は手を付けられなかったので」

 

「なるほどな。なら途轍もない武具があるかもしれないんだな」

 

紫炎が目を輝かせていると

 

「かもじゃありません。ここにある武具の殆どが使い手を選ぶものです。」

 

その言葉を聞きさらに目を輝かせる

 

「それじゃあどの武器にしようかな」

 

紫炎が武器を品定めしていると禍々しい気配を放つ剣を見つけた

 

「へぇ~面白そうな剣じゃないか。」

 

「それは駄目です!ダーインスレイブだけは絶対に抜いては駄目です。」

 

「確か魔剣の代表格の一本だったか。」

 

それを聞き紫炎は鞘から抜くのを止めた

 

「わかってくれましたか。」

 

ジンがほっと胸を撫で下ろす

 

「いいね。役に立ちそうだから貰ってくよ。」

 

しかし、手放す気はないらしい

 

「・・・・。絶対に鞘から抜かないでくださいね。」

 

言っても無駄と悟り諦めるジン

 

「さて、他にはないかな?」

 

「まだ探すんですか!?」

 

「あたりまえだろ。抜いたら誰かの生き血をすべて吸い取るまで鞘に収まらない剣なんて早々使えん。今欲しいのは日頃から使える武器だ。」

 

紫炎がそういうとさらに工房を漁る。

 

「壊さないで下さいよ。」

 

「努力する。」

 

ジンの願いも自由すぎる男には意味がないらしい

 

「レプリカでもいいからなんかないか?」

 

「それですと、こっちに確かあった気がするんですけど・・・」

 

ジンがなにか思い当たる武具があるらしく探すのを手伝う

 

「紫炎さん、ちょっといいですか?」

 

その時、リリが工房の前で声をかけてきた

 

「どうした?」

 

二人は作業を一時中断し、リリに近寄る

 

「その、黒ウサのお姉ちゃんと飛鳥さんを仲直りさせるためにみんなでクッキーを焼こうと思ったんですけど・・・」

 

「窯の火の調整をしてほしんだな。」

 

「はい」

 

「ダメだ。今はゲームの準備を」

 

「よし、行こうか」

 

「って紫炎さん!?」

 

ジンが断ろうとしたが紫炎が即答で賛成した

 

「まずは年長組を集めて一緒につくるか」

 

「はい」

 

二人がジンを放って厨房に行こうとすると

 

「ちょっと待ってください、紫炎さん。武具探しをしなくていいんですか?」

 

「武具はまた今度でいいだろう。それより仲間の為に行動してくれる方が優先だ。」

 

「それもそうですね。僕も手伝います。」

 

紫炎の言葉に少し考えて答えるジン

 

「それじゃあ厨房に行くか。」

 

「ありがとうございます」

 

三人は和気あいあいとしながら厨房に向かった

 

――――――――――――

 

何時間かしてクッキーができあがった

 

「ありがとうございました、紫炎さん。」

 

「いいって。俺は大したことをしてない」

 

紫炎がしたことは火の管理だけ。

 

確かに大したことはしていない

 

「それじゃあ飛鳥お姉ちゃんに渡してきます。」

 

そういってリリ達が厨房から出て行った

 

「さてともう一回工房で探すか」

 

「そうですね」

 

「とりあえずレプリカから探すか。」

 

「それが良いです。それなら恩恵が少ないかもしれませんが負担はほぼないはずですから。」

 

二人はそう話しながら夜遅くまで武器を探した

 

ペルセウスとの決闘が決まったのを知るのは翌日の朝となった



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第十八話

『ギフトゲーム名:“FAIRYTAIL in PERSEUS”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

           久遠 飛鳥

          春日部 耀

          赤羽 紫炎

 ・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル

 ・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 ・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

 ・敗北条件  プレイヤー側ゲームマスターによる降伏

        プレイヤー側のゲームマスターの失格

        プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 ・舞台詳細 ルール

  *ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない

  *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

  *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                              “ペルセウス”印』

 

“契約書類”に承諾した直後、六人の視界が代わった。

 

六人は宮殿の門前に立っていた。

 

振り返ると、宮殿は箱庭から切り離され、未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。

 

「姿を見られれば失格か。ペルセウスを暗殺しろってことか。」

 

「伝説に倣えばルイオスは睡眠中ということでしょうか?そこまで甘くないと思いますが」

 

「YES。そのルイオスは宮殿の最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギたちはハデスの兜を持っていませんので綿密な作戦が必要です。」

 

「そうなると三つの役割が必要となってくるわね。」

 

飛鳥がそういうと耀が頷く

 

「だな。まずはジンと一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」

 

「春日部は鼻が利く。耳も眼もいい。不可視の敵は任せるぜ」

 

十六夜の提案に黒ウサギが続く。

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですからゲームマスターを倒す役割は、十六夜さんにお願いします」

 

「それじゃあ俺と飛鳥で囮だな」

 

「あら、私も囮なのかしら?」

 

飛鳥が不満そうに声を漏らす

 

しかし、飛鳥のギフトではルイオスを倒すには至らないことは事実だが、それでも不満なものは不満なのだろう

 

「悪いなお嬢様。譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味が無い。あの野郎の相手はどう考えても俺が適している」

 

「・・・・・・ふん。いいわ。今回は譲ってあげる。けど負けたら承知しないから」

 

飛鳥はしょうがないといった感じで納得した

 

「紫炎も囮なの?」

 

「ああ」

 

耀が聞いてきたので即答で返す

 

「紫炎なら一人でゲームマスターのとこまで行くと思ってた。」

 

「おいおい。俺がそんな身勝手に見えるか?」

 

紫炎が尋ねると

 

「「「「見える」」」」

 

十六夜以外の四人が即答した

 

「えっ、俺そんなイメージついてんの?」

 

「俺も聞きたいね。なんで囮に立候補したんだ?」

 

十六夜が紫炎に聞いてくる

 

「決まってんだろ。俺のギフトは目立つからな。」

 

「確かにそうだが使い方次第だろ?」

 

「そうだが、暴れまわりたいんだよ。」

 

俺の言葉を聞き、十六夜は笑い、他の四人はため息をついた

 

「なんだよ。別にいいだろ。十六夜一人いればおつりがくる相手だと思うぞ」

 

「そうとも限らないんです」

 

十六夜以外が黒ウサギに目を向ける

 

「ルイオスってやつはそんなに強いのか?」

 

「いえ、ルイオスさん自体はそこまでですが、問題は彼のギフトです。黒ウサギの推測が外れてなければ」

 

「隷属させた元・魔王様」

 

「そう、元・魔王の・・・え?」

 

十六夜の補足に黒ウサギが驚愕した

 

「もしかして十六夜さんてば意外に知能派ですか?」

 

「何を今更。黒ウサギの扉もドアノブを回さないで入ったろ。」

 

「・・・・・・。いえ、そもそもドアノブは付いてませんでしたから」

 

黒ウサギが冷静に突っ込みを入れる

 

「あ、そうか。けど、付いてても使わずに開けられるぞ。」

 

「俺も、俺も」

 

「……………。参考までに方法をお聞きしても?」

 

やや冷ややかな視線で紫炎と十六夜を見る、黒ウサギ。

 

二人はそれに答えるように門の前に立つ

 

「そんなもん」

 

「決まってんだろ」

 

二人は眼を合わせ

 

「「こうするんだ!!」」

 

門を蹴破った



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第十九話

十六夜たちと別れた紫炎と飛鳥が正門の階段前広間で暴れていた

 

「オラオラ、俺をもっと楽しませやがれ」

 

「同感ね。」

 

飛鳥は持ち出したギフト、水樹に乗りペルセウスの軍勢を水に沈めて行き、紫炎が打ち漏らしを剣で切っていく

 

「ええい。子供二人如きに何を手間取ってる」

 

「不可視のギフトを持つ者は他を探しに行け。ここは我々で抑える。」

 

二人が任された役割は囮だが、逃げ回るのは性分ではない

 

それで二人は逃げ回らなくても兵士の目を引くため、――――――屋敷を破壊することにした

 

「まとめて吹き飛ばしなさい」

 

飛鳥が言うと、水流が騎士はおろか宮殿の装飾と格式ある名画も巻き込まれた

 

「い、いかん。このままでは一階が水没してしまう」

 

「この分じゃ下は大丈夫そうだな」

 

「そうね」

 

紫炎は水流に巻き込まれないように水樹の上に乗っている

 

「死ねー」

 

「よっと」

 

余裕を見せていると上からヘルメスの靴で襲ってきたが苦も無く紫炎が迎撃する

 

「上にもいたな。あれは俺がもらうぞ。」

 

「別にいいけど大丈夫なの?」

 

飛鳥は紫炎が耀のように空中に居続けられないのを心配している

 

「大丈夫だ。あんな奴ら敵じゃないよっ」

 

「そのことではないんだけど」

 

紫炎が言い終わると空の敵に切りかかる

 

「ぐはっ」

 

切りかかり、紫炎が落ちていく

 

「紫炎君」

 

「ははは、自滅とは」

 

飛鳥が驚いたように声を上げるのを聞き、何も仕掛けがないと知り、嬉しそうに声を上げる兵士たち

 

「よっと」

 

「「「「えっ」」」」

 

全員が驚愕の声を上げる

 

なぜなら

 

「良かったぜ。練習したけど不安だったんだよね」

 

何もない空に立っていた

 

騎士たちのように道具で浮かんでるわけでも、耀のように風で浮いているわけでも、ましてや自身のギフトである炎を使ってる様子もない

 

「さてと、それじゃあいくぜ。」

 

紫炎は何かを蹴ったように加速し、空に浮かぶ騎士たちを倒して行った

 

「もう終わりか?それなりには楽しめたからいいか。」

 

紫炎がそういうと、そこに何もなかったかのように突然落ちた

 

紫炎は焦る様子もなく炎を出し、落下速度を弱めながら下りた

 

「紫炎君、あなた何したの?」

 

「俺のもう一つのギフト“自由主義”の力だ。まぁ知ったのはガルドのゲーム以降だがな。」

 

「それはどんな」

 

ギフトなのか?と、飛鳥が紫炎に尋ねようとした瞬間、紫炎が飛鳥の方へ日本刀を振り下ろした

 

「それはゲームの後だ。ここはもう取り囲まれてるんだからな。気を抜くな。」

 

「え、ええ。そうね」

 

飛鳥の後ろから来ていた兵士を切り倒した

 

「さて、ゲームが終わるまで相手してもらおうじゃないか。」

 

そうして、戦いが再開された

 

その後、数分して謎の光を浴びて気を失ってしまった

 

その間に十六夜がゲームに勝利したようだ

 

後で十六夜に聞くと元・魔王の力で石化されていたらしい



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第二十話

紫炎が石化から解けて休んでいると問題児三人が詰め寄ってきた

 

「さあ、紫炎君。話してもらおうかしら」

 

「私も知りたい。」

 

「さっさと話せ。」

 

「話すから威圧すんな。」

 

全員が談話室の椅子に座り、紫炎が話を始めた

 

「まあ、俺の知ってる範囲で説明すると、ある程度の霊格以下の物などを俺自身または俺の周囲にある間自由に作り替えるものだ。」

 

「ある程度の霊格ってどれくらいだ?」

 

「知らん」

 

「周囲ってどれくらいまで大丈夫なの?」

 

「詳しくは分からん」

 

「自由の定義はどれくらい?」

 

「武器とか存在してるものは質量、材質が同じまたはそれ以下の物にしか作り替えれん。」

 

「存在しているものは、ってことは他はどうなの?」

 

「例えば今日、空に浮いたろ。あれは空気を踏めるものに作り替えたんだ。」

 

律儀に全部の質問にできる限りこたえる紫炎。

 

「何か良く分からないギフトね。」

 

飛鳥がそういうと十六夜と耀も頷いた

 

「しょうがないだろ。発現して二日くらいしかたってないんだから」

 

「皆さん。レティシア様が目を覚ましましたよ。」

 

「それじゃあ行くか。」

 

「そうね」

 

「どんな人か楽しみ」

 

「そうだな。俺と耀は見てないしな」

 

全員が黒ウサギの声を聞き、外に出た

 

―――――――――――――

 

「「「「それじゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」

 

「「え?」」

 

レティシアが目を覚めているのを確認して四人が言った言葉をジンと黒ウサギは信じられないといった感じで四人を見た

 

「え? じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない? 貴方達はホントにくっ付いてきただけだったもの」

 

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」

 

「つーか挑戦権を持ってきたの俺だろ。」

 

「ということで所有権は2:2:3:2で残り1を黒ウサギということになった」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

 

「ギフトゲームで手に入れた賞品の所有権に対する正当な話し合い」

 

スパァン!!といままでで一番いい音をだして紫炎をハリセンで叩いた黒ウサギ

 

「んっ・・・・・・ふ、む。そうだな」

 

黒ウサギもジンも混乱する中、当事者であるレティシアだけが冷静だった。

 

「今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れた事に、この上なく感動している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

 

「れ、レティシア様!?」

 

黒ウサギの声は今までにないくらい焦っていた。

 

だが、彼女が困惑しているうちに、飛鳥が嬉々として服を用意し始めた。

 

「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げの無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」

 

「よろしく・・・・・・いや、主従なのだから『よろしくお願いします』の方がいいかな?」

 

「使い勝手がいいのを使えばいいよ」

 

「そ、そうか。・・・・・・いや、そうですか? んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめとけ」

 

「ところで、飛鳥さん。その服は何処から持ってきたんだ?」

 

「白夜叉が嬉々として持ってきたわよ」

 

「何してんだか?」

 

「あら? 気に入らないかしら?」

 

「はっはっは。・・・・・・超グッジョブに決まってるだろ」

 

意外と和やかな五人の姿に、黒ウサギは力なく肩を落とすのだった。

 

―――――――――――

三日後

 

黒ウサギの提案でパーティが行われることになった。

 

子供達を含めた“ノーネーム”総勢一二七人+一匹は水樹の貯水池付近に集まり、ささやかながら料理が並んだ長机を囲んでいた。

 

「えーそれでは!新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

 

黒ウサギの音頭に、ワッと子供達が歓声を上げた。

 

人数の九割以上が子供の歓迎会だったが四人は悪い気はしなかった。

 

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。私も思った」

 

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

「にしても豪勢だな。大丈夫なのか?」

 

実際“ノーネーム”の財政は、あと数日で金蔵が底をつくほどだった。

 

こうして敷地内で騒ぎながらお腹いっぱい飲み食いする、ということがちょっとした贅沢になることを知っている飛鳥は苦笑しながらため息を吐いた。

 

「無理しなくていいって言ったのに・・・・・・馬鹿な娘ね」

 

「そうだね」

 

「そう言うなって。黒ウサギからすれば同士も戻ってきてコミュニティも守られた。それが嬉しいんだろ?」

 

「だろうな。」

 

四人で話していると、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促した。

 

「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 

十六夜達を含めたコミュニティの全員が、天幕に注目する。

 

その夜も満天の星空だった。

 

空に輝く星々に異変が起きたのは、注目を促してから数秒後だった。

 

一つ星が流れた。

 

それは次第に連続し、すぐに全員が流星群だと気が付いて、歓声を上げた。

 

黒ウサギは全員に聞かせるような口調で語る。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」

 

「「「「え?」」」」

 

子供達の歓声の裏で、十六夜達は驚きの声を上げる。

 

「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

黒ウサギの説明に、十六夜達は完全に絶句した。

 

「---・・・・・・なっ・・・・・・まさか、あの星空から星座を無くすというの!?」

 

飛鳥の声と同じくして、一際大きな光が星空を満たし、そこにあったはずのペルセウス座が、流星群と共に跡形もなく消滅していた。

 

ここ数日で様々な奇跡を目の当たりにした彼らだが、今度の奇跡は規模が違う。

 

「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で鑑賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」

 

進行を続け、嬉々として杯を傾ける黒ウサギと子供達。

 

だが、十六夜達はそれどころではなかった。

 

「星座の存在さえ思うがままにするなんて・・・・・・ではあの星々の彼方まで、その全てが、箱庭を盛り上げる為の舞台装置ということなの?」

 

「そういうこと・・・・・・かな」

 

その絶大ともいえる力を見上げ、飛鳥と耀は呆然としている

 

「なるほど。また目標が出来たな」

 

「だな。」

 

十六夜と紫炎が目を合わせて言った

 

「ふっふーん。驚きました?」

 

黒ウサギがピョンと跳んで十六夜たちの元に来る

 

「やられたと思ってる。まあ、お陰様で新しい目標が出来たからな。なあ、紫炎。」

 

「ああ。」

 

「おや、なんでございましょう?」

 

「あそこに俺たちの旗を飾る。」

 

「それは・・・・とてもロマンがありますね。」

 

黒ウサギが満面の笑みで返したが、道のりは険しい。

 

奪われたものを全て取り戻し、その上でコミュニティを盛り上げなければならないのだから

 

「だから黒ウサギ。これから何があってもコミュニティを抜けるなよ」

 

紫炎の言葉に黒ウサギが罰の悪そうな顔をする

 

「さて、これから大変になるな」

 

そんな呟きをした紫炎だが顔は楽しそうに笑っていた



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第二十一話

ペルセウスの旗が空から落とされた翌日の朝――――

 

「紫炎さん。もう朝なので起きてください。」

 

「・・・後五分」

 

「そういってもう三十分たってますよ!?」

 

紫炎はリリに起こされていた

 

「皆さんはもう起きて朝ごはんを食べてますよ」

 

「分かった。自分で行くから先に食べてな」

 

「三十分前も言ってましたよ!?」

 

リリがいくら声をかけても紫炎が起きる気配がない

 

そんな時、

 

「リリ、どうしたの?」

 

「あ、耀さん。紫炎さんが起きないんですよ。」

 

耀が通りかかった

 

「放っておけばいいんじゃない?」

 

「そういう訳にはいきません。お布団を干さなきゃいけないんで。」

 

「それなら仕方がない。」

 

そういって耀は辞書並みに厚い本を持ってきて

 

「えい」

 

ゴンッ、と鈍い音を立てて紫炎の頭に落とした

 

「・・・おはよう」

 

紫炎が不機嫌そうに起きる

 

周囲を確認して今の状況を把握して、自分が悪いと思ったので文句を言わなかった

 

「おはよう。早く朝食食べに行ったら?」

 

「おう。そうするわ。」

 

紫炎が起きたのを確認し、耀は部屋から出て行った

 

「大丈夫ですか?紫炎さん」

 

「心配してくれてありがとうな。それと悪いな。俺、朝弱いんだわ。」

 

そういって紫炎がリリの頭を撫でる

 

「あうっ」

 

リリが恥ずかしそうに顔を赤くする

 

「それじゃ行くわ。」

 

「あっ、はい。」

 

リリの頭から手を放し、食堂に向かった

 

―――――――――――

 

朝食を食べ終えた後、紫炎はノーネーム内を散歩していた

 

「あれ、何してるんですか?赤羽さん」

 

 

すると、前から黒ウサギが来た

 

「散歩だが」

 

「いえ、そういうことじゃなくて・・・。十六夜さん達は自由に箱庭内を楽しんでるのになんでコミュニティ内にいるのかな?って不思議に思ったのですよ。」

 

「別にいいだろ。これから世話になってく建物見ても。」

 

それを聞くと黒ウサギが嬉しそうにニコニコし始めた

 

「?どうした?」

 

「いえ、なんでもありませんよ♪」

 

「?」

 

紫炎はよくわからないといった表情だ

 

「午後からは俺もギフトゲームに参加するつもりだから、昼食はここで食べるから」

 

「はいな。」

 

それから黒ウサギと別れ、一人でうろついた

 

――――――――

 

「あれ、紫炎さん。何してるんですか?」

 

「ああ、ジンか。ちょっと散歩。」

 

「そうですか。僕はてっきり何か問題を起こす前触れかと思ってました」

 

「何でだよ」

 

俺って信用ないな

 

「そういえば先日の工房で渡した武器の方なんですけど」

 

「この二本がどうした?」

 

俺はそう言ってギフトカードからダーインスレイブと日本刀を発現させた

 

「いえ、ダーインスレイブの方なんですけどレティシアさんから話があるから来てくれ、だそうです」

 

「面倒なんだが・・・」

 

「僕に言わないでくださいよ。」

 

ジンが呆れたように言ってくる

 

「しょうがないか。レティシアはどこにいるんだ?」

 

「呼んだか、主殿?」

 

「「!?」」

 

いきなり現れたからびっくりした

 

「どうした?」

 

「いきなり現れたからびっくりしたんだよ。そういえばこれについて話があるって聞いたが」

 

そう言ってダーインスレイブを見せるとレティシアの目が鋭くなった

 

「ここじゃなんだ。談話室ででも話さないか?」

 

「そうだな」

 

その視線に気づき俺が場所の変更を促すと、快く返事を返した

 

―――談話室

 

「この剣がどうかしたのか?」

 

紫炎が単刀直入に聞く。

 

「それを言う前に主殿はその剣についてどれくらい知っている?」

 

「抜いたら誰かの生き血を全て吸い取るまで鞘に収まらないってことくらいだ。」

 

「・・・まだ鞘から抜いてないのか?」

 

「ああ」

 

紫炎がそういうとレティシアは安堵の表情を浮かべる

 

「それで話ってのはこの剣を抜いたら伝説とは違い俺に危害が加わるってことか?」

 

「!?」

 

「何を驚いている。俺が伝説の事を言っただけで抜いてないとわかるのは伝説と効果が違う証拠だ。そして危害が加わると思ったのは俺が抜いてないと知ると安心した表情をしたからだ」

 

紫炎がそういうとレティシアが口を開く

 

「やれやれ、ジンから聞いたとおりだ。」

 

「・・・ジンは俺の事をなんて言ってたんだ?」

 

「いつもは自分勝手な行動が目立つが、仲間の事をちゃんと信頼し、全てを見透かしてるような奴だ、と言っていた」

 

「・・・・・」

 

そんな風に思われてるのか

 

「っと、この剣についての話だったな。」

 

「そうだった」

 

ショックで忘れるとこだった

 

「この剣は伝説とは違い、鞘から抜いてる間使い手の血を吸い取り、刀の強度を保っているんだ」

 

「そうか。・・・なんでそんなことまで知ってるんだ?元・使い手だったとか?」

 

そういうとレティシアは驚いた表情を見せた後、話し始めた。

 

「そのとおりだ。ただし、私が魔王を名乗ってた時代だがな。」

 

「なるほどね」

 

「わかっただろ。その剣を」

 

「元・魔王が使ってた剣。貰っとくぜ。」

 

「話を聞いていたのか!?それは命に関わる剣だ。さっさと工房に戻せ。」

 

レティシアが感情を露わにして詰め寄ってくる

 

紫炎は怯みもせず、言い返す。

 

「悪いがそれは無理だ。俺自身の力は魔王にはまだ及ばない。それまでこの刀が必要なんだ」

 

「しかしだな」

 

「それにこの刀が血を吸ってもすぐに死ぬわけじゃない。そうだろ?」

 

「だが、使い続ければ死ぬんだぞ!?死ぬのが怖くないのか?」

 

「どちらにしろ今の力じゃ魔王との戦いで死ぬ。それなら関係ないだろ」

 

「確かにそうかもしれないがその刀を持ってる限り、魔王と戦う前に死ぬかもしれないんだぞ」

 

「そうかもしれなし、そうじゃないかもしれない。」

 

いつまでも飄々としている紫炎にレティシアが悲しそうな目になった

 

「もう仲間が死ぬのは見たくないんだ」

 

その言葉に紫炎が驚く

 

「心配してくれてありがとうな。だが刀は手放す気はない。」

 

「くっ、勝手にしろ。」

 

「待てレティシア。」

 

部屋を出ようとしたレティシアに紫炎が声をかけると、レティシアの動きが止まる

 

「俺だって死ぬのは怖いし、仲間を死なせたくない。だから刀を抜くのは最終手段だ。魔王との戦いだったりな。」

 

紫炎が言い終わるとレティシアを追い越し、扉の前に立ち、

 

「オラッ」

 

「ふぎゃ」

 

扉を蹴破ると盗み聞きしていた黒ウサギに当たる

 

「自業自得だからな」

 

黒ウサギが反応するより早く言葉を返し、食堂に歩いて行った



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第二十二話

食堂に着くと十六夜達がもう席についていた

 

「おう、紫炎か。今まで寝てたのか?」

 

「んなわけないだろ。コミュニティ内の散歩だ」

 

「あら、それは本当かしら?結局朝食の時は来なかったんだもの」

 

「それはない。起きたのは確認したから」

 

「俺の頭に辞書を落して起こしたんだもんな」

 

それを聞き、十六夜と飛鳥が笑い出した

 

「笑い事じゃないぞ。当たりどこ次第じゃ結構な問題になるからな」

 

「起きない紫炎が悪い。」

 

うんうん、と頷く二人

 

「・・・。昼食、食べたらどうするんだ?」

 

話を逸らす紫炎

 

「これ見て」

 

飛鳥にチラシのようなものを渡される

 

「参加資格が男女ペアで報酬がギフトと・・米50キロ!?」

 

「参加しない手はないだろ」

 

「食料の足しにもなるしね」

 

「確かに魅力的だがルールが書いてないのは気になるな」

 

「別いいんじゃない?」

 

「そうだぜ。行ってからのお楽しみだ」

 

こいつらならそういうか

 

「それじゃあペアはどうする?」

 

紫炎がそう聞くと、

 

「何言ってんだ?出るのはお前と春日部かお嬢様のどっちかだ」

 

「「「へっ?」」」

 

紫炎だけでなく耀と飛鳥も聞かされてなかったらしい。

 

「どういうことよ?十六夜君。」

 

「そのまんまの意味だぜ。二人がこのゲームをクリアしてもう二人が他のゲームに参加して賞品をいただく。それがベストだろ。」

 

「・・・。」

 

それなら何故お前が出ないんだ?と、言いたいところだが、一人で確実に勝てるのは十六夜ぐらいだから仕方ないだろう

 

「それなら春日部とかな」

 

「私?」

 

「ゲーム内容が書かれていない以上、多様性があるギフトが必要になる。飛鳥のギフトも使い道は色々あるが戦闘の可能性も捨てきれないからな」

 

俺の言葉に飛鳥が一瞬不満そうな顔をしたが、しょうがないといった感じで紫炎を見た

 

「・・・。わかったわ。ただし、絶対勝ってきなさいよ」

 

「当たり前だろ」

 

「うん」

 

飛鳥の激励に首を縦に振る二人

 

「当然だ。負けたら一発ぶん殴らせてもらうぞ、紫炎。」

 

「遠慮しとくぜ。一回負けるだけで命を懸けるには嫌だからな」

 

「勝てばいいだけでしょう?」

 

「ゲームの内容によるだろ」

 

「あの~お昼の用意が出来たんですけど・・・」

 

リリが申し訳なさそうに言ってきた

 

「だそうだ。それじゃあ絶対勝ってこいよ」

 

「負けたら十六夜君に殴られた後、晩飯抜きね、紫炎君が。」

 

「ペナルティ増えてないか!?それと晩飯抜きだけなら耀もすればいいだろ」

 

「いやだ」

 

「だそうよ」

 

「それじゃあ」

 

「あなたは強制よ」

 

理不尽だー、という紫炎の叫びは問題児たちには何の意味もなかった

 

――――――――――

 

昼食を食べ終わり、ゲームの登録をし終えた紫炎と耀

 

「しかし、契約書類をみるかぎり単純なゲームだな。」

 

「うん。だけど油断禁物。」

 

「分かってるって」

 

『ギフトゲーム名“禁断の果実”

 

 ・参加条件 男女ペアであること

 

クリア条件  一番最初に舞台内のある果実を二人同時に食すこと

       但し、果実を食べるのは一回だけとする

 

ペナルティ条件  他の対戦相手にギフトで危害を加える

       

 

賞品   お米券(50kg分) シークレットギフト

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

                       

         

                サウザンドアイズ 印』

 

 

「しかし、サウザンドアイズが舞台区画を用意するほど大掛かりとは・・・」

 

「絶対白夜叉が関わってる」

 

そんな話をしていると

 

「それではスタート」

 

ギフトゲームが始まった。

 

その瞬間、紫炎が他の男性参加者全員をぶん殴って気絶させた

 

「さて行くぞ。耀」

 

「ちょっとまって。どう見ても反則でしょう」

 

さっさと果実を取りに行こうとしていた紫炎を止め、抗議に入る他の女性陣

 

「ギフトを使わずただの拳で叩きのめしたんだ。ペナルティには入らん」

 

紫炎の言葉に運営側がそうですね、と短く返した

 

「それじゃあ改めて行くか耀。」

 

「いいけど、やりすぎじゃない?」

 

「油断大敵だろ。だから邪魔されないように全員ぶん殴ったんだ」

 

笑いながらいう紫炎に呆れたように見ていた耀

 

「じゃあ“禁断の果実”でも探しに行くぞ。」

 

「そうだね。リンゴであってるよね?」

 

「多分な。大人数を想定したゲームなんだから謎解きより探す方に時間をかけるようにするだろ」

 

そういって探し始めるが

 

「リンゴの木がたくさんある」

 

「確かに殆どリンゴだったな」

 

「どれか食べればいいのかな?」

 

「そうじゃないと思うぞ。それなら木に模様なんかはつけないだろ」

 

そういってライオンの模様が刻まれた木を触る

 

「他にも蛇、狼、熊、狐、豚、山羊があった。」

 

「七本以外は何も刻まれてないからこれのどれかだと思うけど・・・」

 

「全然共通点がわからない。」

 

「いや、七匹の動物の共通点は分かった」

 

えっ?といった表情で耀が紫炎を見る

 

「七つの大罪って知ってるか?その罪ごとに動物の姿で表されてることがあるんだ。それがこの七匹。」

 

「へぇ~」

 

「だが、それとエデンの園の共通点が見つからん」

 

「イブやアダムの行動が関係あるんじゃない?」

 

そういわれてまた考え出す紫炎

 

「神の言うことを聞かずに食べた傲慢さ、食べた後に出る恥ずかしさは色欲、食べた理由が神への嫉妬とも限らないし」

 

「大丈夫?」

 

「だぁー、解釈次第で全部あり得るぞ」

 

「適当にどれか食べてみる?」

 

「それは他の参加者が来るまでしない。時間の優位はこっちにあるんだからぎりぎりまで考える」

 

「それじゃあイブとアダムが見つけた方法でも試してみる?」

 

「ふたりは元々木があった場所を知っていた。食べるなって言われてたから食べなかっただけでそれを食べようとしたのはイブがそそのかされたからで・・・」

 

「どうしたの?」

 

「おいおい、まさかこんなことじゃないよな。だったら他のでもいいと思うが」

 

「まさかわかったの」

 

「とりあえずはな。」

 

そういって紫炎は正解と思われる木に向かった

 

その途中、耀が

 

「答えがわかったってことは七つの大罪とエデンの園の関係が分かったってことでしょ。」

 

「・・・まあな」

 

「どういう関係なの?」

 

耀が聞いてくると紫炎が複雑そうな表情をする。

 

「・・・聞いても怒るなよ。」

 

「どういうこと?」

 

「それはYESと取るぞ。関係性だがまったくない」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「イブとアダムは知恵の樹、つまり禁断の果実を食べることで無垢を失ったとある。だから感情である七つの大罪はリンゴを食べ終わってから現れると推測した。だからリンゴを食べる前のこの段階ではブラフだと考えた。」

 

「それならどの木になるの?ヒントがなくなったよ」

 

「いや、イブはリンゴを食べるとき、蛇にそそのかされ食べたと伝説にある。ならそのまま蛇、と思ったんだ。」

 

「・・・単純すぎない?」

 

「俺もそう思うんだが、最初に言った通り謎解き自体は難易度が低いと思ってな。蛇の樹も結構奥の方にあるし模様に気づけなけりゃアウトだしな。」

 

そんな話をしてると蛇の樹までついた

 

二人がリンゴを手に持ち

 

「いくぞ、せーの」

 

同時にかぶりついた

 

その瞬間

 

「ただいま勝利条件を満たしたペアが出ました。勝者は“ノーネーム”春日部耀、赤羽紫炎ペア」

 

俺たちの勝利宣言をされた

 

―――――――――――――

 

優勝の景品である米の引換は明日にしようということで二人はノーネーム本拠に戻っていたが何故か二人の顔は赤い

 

それは景品授与の時、

 

 

「優勝おめでとうございます。こちら景品のお米券とギフト“約束の指輪”でございます」

 

「これはどんなギフトなの?」

 

耀が聞くと主催者らしき人物が答える

 

「これはお互いが指輪をつけて願えば赤い糸がお互いの場所につながるというものです」

 

それだけというような表情で見る耀

 

「しかしなんでそんなもんがこのゲームの景品なんだ?」

 

「それはこのゲームに優勝したカップルがお互い離れていても思っている、と示すものだからです」

 

「優勝したカップル?」

 

「はい。お二人もお似合いですよ」

 

この言葉を聞き、紫炎の顔が赤くなった

 

耀の方を見るとふいっ、と顔を逸らされたが耳が真っ赤だった。

 

「お米の方は期限は一週間になりますのでそれまでにお願いしますね」

 

最後の言葉には答えられなかった

 

 

 

 

そんなことがあり、二人は終始無言だった

 

そんな時、

 

「あら、二人ともどうしたの?顔が真っ赤だけど・・・」

 

飛鳥が声をかけてきた

 

どう説明しようか迷って耀を見るとまた目を逸らされた

 

嫌われたかな、と思ってると

 

「別に何もなかった」

 

耀がそう答えた

 

そしてこちらを睨む

 

誰にも言ううなということだろう

 

「何もなかったようには見えないのだけれど・・・」

 

「ゲームに勝ったんだが俺がミスリードに引っかかりかけてな。」

 

なるほどね、といった表情でこちらを見る飛鳥

 

「それじゃあ本拠に戻ろうぜ。」

 

俺の言葉に二人はそうね、と短く返し歩を進めた



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第二十三話

ギフトゲームが終わり本拠に帰って晩飯を食べていた

 

「そういえば紫炎。晩飯食べてるけどゲームには勝ったのか?」

 

十六夜が意地悪く聞いてくる

 

「ゲームには勝ったようよ」

 

飛鳥も同じように見てくる

 

「確かにミスリードに引っかかりかけたがそれが元でとけたんだぞ。なぁ耀。」

 

「あ。う、うん」

 

耀が気まずそうに答える

 

(今回のゲームの謎解きは殆ど紫炎のおかげなのに)

 

自分が授賞式の事を隠したい一心で紫炎の事を見たときに咄嗟についてくれた嘘がここまで長く続くとは思ってなかったのだろう

 

「そういうお前らこそ戦果はどうなんだよ?」

 

「なめんじゃねーぞ。」

 

そういって十六夜が出したのはたくさんの野菜

 

「俺はこれだけだぜ。」

 

これだけというがかなりの量のものだった

 

「私は十六夜君より少ないけど・・・」

 

飛鳥は肉を十数キロ出した

 

「いっておくがこれは午後の戦果だ。つまり今日一番戦果が少ないのはお前だぞ、紫炎」

 

言葉が出ない

 

「明日から頑張って起きてみようかなぁ」

 

いやでもいままで何しても(春日部に辞書を落される以外)昼までずっと寝てるしな

 

何より気分が乗らない。そんなのでゲームをしたとこで勝てる確率は格段に下がる

 

「まぁいいや。十六夜、明日この引換券をサウザンドアイズに行って引き換えてくれ」

 

「自分で行ってくればいいだろうが」

 

「五十キロを軽々持てるのはお前くらいだろ」

 

俺も無理すれば持てるがその日一日使い物にならないだろう

 

「そういえばあなた達、その指輪は?」

 

飛鳥が俺と耀がつけている指輪に気づく

 

「優勝した時貰ったギフト」

 

耀が短く答えると、

 

「そんならどういうギフトなんや」

 

「よくは知らないぞ」

 

俺は疑問に答えてやる

 

すると飛鳥が

 

「何がよく知らないのよ。さっき春日部さんが言ったじゃない」

 

「その後どんなギフトか聞いただろ?」

 

十六夜と飛鳥が首を横に振る

 

すると耀が

 

「さっき三毛猫が言ったんだけど・・・」

 

「お嬢、こいつはわしの声は聞こえません。適当に答えただけでっしゃっろ」

 

「誰が適当だ、猫の分際で」

 

全員が驚愕の表情をする

 

「あなたいつから猫の声がわかるようになったの?」

 

「俺が聞きたいぜ」

 

「まさかこの指輪で?」

 

「そうじゃないか?動物と話せるようになるギフトってとこか?」

 

「それじゃあ私、意味がない」

 

(いや、あの主催者が行ってたのを整理すると)

 

「おい、耀。フォーク持ってスプーンに変われって思ってみ」

 

「?わかった」

 

何かわからないといった表情だが一応言われたとおりにしてみるとフォークがスプーンに変わった

 

「「!?」」

 

飛鳥と耀は驚いたが十六夜はなるほどといった表情だった

 

「指輪をつけている者同士のギフトの共有といったところか?」

 

「完全じゃないと思うがな。俺は動物と喋れるだけ、耀は霊格ゼロのものにだけ作用するといったものだと推測してんだが」

 

「それじゃあ何でその推測に到達したんだ?」

 

十六夜の言葉に紫炎がばつが悪そうな顔になる

 

「もしかしたらと思っただけだ」

 

苦しい言い訳でかわそうとする紫炎

 

「・・・。まぁそういうことにしといてやるぜ」

 

十六夜は簡単に諦めたが、

 

「あら、私は是が非でも教えてほしいわ」

 

飛鳥が逃がさない

 

なので飯を急いで食べて、

 

「さらばだ」

 

逃げるとしよう

 

「逃がさないわよ。手伝って十六夜君、春日部さん」

 

「話したくないなら別にいいじゃないか」

 

「私もちょっと・・・」

 

二人の協力が得られなかったので飛鳥は

 

「ジンくん、黒ウサギ、行くわよ」

 

「えっ?」

 

「私たちですか?」

 

ジンと黒ウサギを引っ張って追ってきた

 

――――――――――――――――――

 

「あ~つかれた」

 

飛鳥たちの追走を逃れた紫炎は風呂に入っていた

 

「大丈夫ですか?紫炎さん」

 

「ほっとけ御チビ。素直にしゃべらない紫炎が悪い。」

 

「なんで全部話さなきゃならないんだ」

 

「別にそうは言ってない。だが、諦めが悪いやつにはさっさと喋った方が身の為ってことだ」

 

十六夜の言う通りなのですぐに押し黙る紫炎

 

「しかしなんでそんなに嫌がるんだ?」

 

「それは、な」

 

「やめましょう、十六夜さん。親しき仲にも礼儀ありです」

 

ジンが見かねて助け船を出す

 

「ちっ。しゃあねーな」

 

一応ジンをリーダーとみてるようなのでそれ以上は追及してこないようだ

 

「ありがとうな、ジン。」

 

「いえ、先ほどのお詫びです」

 

たしかに飛鳥に引っ張られた間何にもしてなかったしな

 

「じゃあ俺は先に上がるぜ。御チビ、ちゃんと後で図書館に来いよ」

 

「あ、はい」

 

「勉強熱心だね~」

 

「あ、紫炎。ちゃんと春日部に礼言っとけよ。何か知ってるようだったけど俺が聞いても何にも喋んなかったんだから」

 

「・・・諦めてなかったのかよ」

 

「大丈夫だ。俺も春日部が関わってるならそんなに聞かないさ」

 

その言葉を聞き、紫炎は風呂に勢いよく顔を突っ込んだ

 

それを見てニヤニヤしながら十六夜が出て行った

 

「あの~紫炎さん。何があったんですか?」

 

「ばんべぼばび(なんでもない)」

 

「それじゃあ先に上がってますね」

 

「ぼう(おう)」

 

ジンも上がり、紫炎も顔の火照りがさめてから風呂から上がった



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あら、魔王襲来のお知らせ?
第二十四話


レティシアを取り返してちょうど一か月が過ぎた

 

朝の少し早い時間、紫炎の部屋に三人の女子が飛び込んできた

 

「紫炎君起きてる!?」

 

結構大きな音が出ていたが紫炎が起きてる様子はない

 

すると耀が

 

「ちょっと下がって、飛鳥」

 

紫炎の頭に辞書を落し、紫炎を起こした

 

「・・・おはよう。」

 

まだ寝ぼけ眼の紫炎は何が起きてるかがわからないようだ

 

「いいから起きなさい、紫炎君。」

 

「・・・起きてるよ。朝が弱いからちょっと反応が鈍いだけだ」

 

「そうだよ飛鳥。紫炎はいつもこんな感じ」

 

「確かにこんな感じですね。」

 

紫炎の言葉にいつも起こしに来るリリといつも辞書を落す耀が答える

 

「なんで春日部さんが知ってるの?」

 

飛鳥の疑問はもっともだろう

 

「実は紫炎さんが起きるのは辞書を落した時だけなんですよ」

 

「リリが落とせないからって時々落して上げてる」

 

それを聞き、飛鳥は呆れたように紫炎を見る

 

「それでどうしたんだよ。用がないなら寝るぞ。」

 

「まちなさい。これを読んで」

 

そういって飛鳥が封筒を渡してきた

 

それを読んでいると紫炎の目がだんだん輝きだした

 

「おいおい、何だこの面白そうなのは。」

 

「でしょ。十六夜君を起こしに行くから用意しときなさい」

 

「OK。多分十六夜なら図書館にいるだろうから。」

 

それを聞くと飛鳥は飛び出して行った

 

「それじゃあ図書館で待ってるから。行こう、リリ」

 

そういって無理やりリリを連れていく耀

 

「俺もさっさと着替えて準備するか」

 

――――――――――――――――

 

それから十六夜達と合流して外に出たがジンから北に行くための手段を聞くと、とてつもなく不可能だったのでサウザンドアイズに来ていた

 

「というわけで招待者として北側まで連れてけやコラ」

 

「いつも通り口が悪いのぉ。まぁ招待者としてそれぐらいはやるが少し話したいことがある」

 

「楽しい話?」

 

「それはおんしら次第だな」

 

白夜叉と十六夜の話に耀が混ざる

 

「本題の前に一つ聞く。フォレス・ガロの一件以降おんしらが魔王のトラブルを引き受けるとは真か?」

 

「ええ。本当よ。」

 

「ジン。それはコミュニティ全ての方針と受け取っても良いか?」

 

「はい。コミュニティの存在を広めるには一番いい方法だと思いました」

 

「リスクは承知の上か?」

 

「覚悟の上です。」

 

「無関係の魔王も呼び寄せるかもしれんぞ」

 

白夜叉がジンを心配して聞いてくるので

 

「それこそ大歓迎だ。魔王との経験も積めるし、隷属させてコミュニティの力になる。」

 

「修羅神仏の集う箱庭でもこんなコミュニティはないだろ?」

 

「ふむ」

 

紫炎と十六夜が得意げに説明をした。

 

それを聞き、白夜叉は何か考え込むように瞳を閉じる

 

しばし、瞑想した後、口を開く

 

「それならば本題を話そう。これは東のフロアマスターからの正式な依頼だ。よろしいかな、ジン殿。」

 

「は、はい。承りました」

 

「さて、どこから話そうかのぉ。・・・」

 

一息つく白夜叉。

 

すると思い出したように話し始める

 

「ああ、そうだ。北のフロアマスターの一角が世代交代するというのはしっておるか?」

 

「え?」

 

「急病で引退だとか。そのコミュニティは五桁・五四五四五外門に本拠を構える“サラマンドラ”――――それがマスターの一角だ。ところでおんしらフロアマスターについてどれくらい知っておる?」

 

「私は知らないわ」

 

「私も」

 

「ある程度は」

 

「俺もだ。要するに下層の秩序と成長を見守る連中だろ?」

 

それを聞きジンが話始める

 

「しかし、北側は複数のマスターが存在しています。それは複数の種族がいてそれだけ治安が悪いですから。」

 

そういうとジンが悲しみで目を伏せる

 

「サラマンドラとは親交があったのですが頭首が変わるとは知りませんでした。後継は誰なんでしょうか?」

 

「おんしと同い年の末の娘のサンドラらしいぞ」

 

「さ、サンドラが!?彼女はまだ十一ですよ!?」

 

「あら、ジン君だって十一で私たちのリーダーじゃない。」

 

「そうですけど・・・」

 

「なんだ?御チビの恋人か?」

 

「ち、違います!失礼なことを言ううのはやめてください」

 

飛鳥と十六夜が茶化すと、ジンが怒鳴り返す

 

すると白夜叉が思い出したように話を横道に逸らす

 

「恋人同士といえば一ヶ月くらい前の」

 

「そういえば俺たちに何かしてほしんだろ?」

 

白夜叉が言おうとしたのは多分果実のギフトゲームの事だろう

 

そんなことを今言われたら二人が何言うか・・・

 

「おお、そうじゃった。実は今回の誕生祭なんだがサンドラのお披露目もかねておるんだ。しかし、サンドラがまだ幼いので共同で主催者をやることになったのだ」

 

「あら、それはおかしな話ね。北には複数のマスターがいるのなら北同士で共同にすればいいじゃない」

 

「うむ、まあそうなのだが・・・」

 

急に歯切れが悪くなる白夜叉

 

「大方、幼い権力者を良く思わないっていった、ありきたりな理由だろう」

 

十六夜が隣で助け船を出す

 

「ん・・・ま、そんなところだ」

 

「そう、神仏が集う箱庭の長でも思考回路は人間並みなのね」

 

白夜叉の言葉を聞き、飛鳥が不満そうに言った

 

「うう、手厳しい。・・・共同でやる理由は他にもあるのじゃが」

 

その言葉を聞き、耀が口を開く

 

「その話って長くなる?」

 

「ん?そうだな・・・短くとも後、一時間はかかるかの?」

 

「それまずいかも。黒ウサギに追いつかれるかも」

 

その言葉を聞き、問題児たちとジンは気が付いた

 

「白夜叉様、このまま」

 

「ジン君黙りなさい。」

 

そのまま引き留めてもらおうと口を開こうとしたのを飛鳥がギフトを使い阻止する

 

「白夜叉、このまま北に向かってくれ。事情は追々話す」

 

「何よりその方が面白い。俺たちが保証する。」

 

その言葉を聞き、白夜叉が笑う。

 

「そうか、面白いのか。ジンには悪いが面白いなら仕方ないの?」

 

ジンが何か言ってるような感じだが無視しよう

 

白夜叉が柏手を打つと途端に口を開いた

 

「ふむ。これで望み通り北側に着いたぞ」

 

「「「「は?」」」」

 

四人が素っ頓狂な声を上げた

 

疑問はあったが四人は期待を胸に外に出た



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第二十五話

外に飛び出すと熱風が頬を撫ぜる。

 

まず目に飛び込んできたのは北と東を区切る赤壁。

 

数多の巨大なランプが炎を灯し、挙句キャンドルが二足歩行で街を闊歩しているのが見える。

 

炎とガラス。常に黄昏色に染まる街。

 

東とはまるで違う文化様式に、紫炎達は大いに心躍らせた。

 

中でも特に瞳を輝かせた飛鳥が子供のように声を弾ませた。

 

「今すぐ降りましょう! あの歩廊に行ってみたいわ」

 

飛鳥が今までに見せたことのないような表情でいた

 

その時、何かが落ちてきた

 

「ふ、ふふ、フフフフ……!ようぉぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方!」

 

「逃げるぞ」

 

「逃がすか!」

 

予想よりずっと早く追いついてきた黒ウサギの登場に即座に飛鳥を抱えて跳ぶ十六夜。

 

遅れて耀が跳び、追って黒ウサギも跳んだ。

 

紫炎はそのまま突っ立ていた

 

「おんしは逃げんのか?」

 

「逃げてもすぐに追いつかれるからな。またここに戻ってくるのが面倒臭い」

 

「耀さん捕まえたのです! もう逃がしませんよ!!」

 

一瞬跳ぶのが遅かった耀が黒ウサギに捕まった。

 

余裕がなくなり過ぎて少々壊れ気味の黒ウサギは着地と同時に紫炎と白夜叉の方を見た。

 

そして耀をブン投げた。

 

「きゃ!」

 

「おっと」

 

反射的に耀を抱きかかえた紫炎

 

「白夜叉様、耀さんと赤羽さんの事をお願いします!黒ウサギは他の問題児様をとらえて参ります」

 

「ぬっ・・・・・そ、そうか。良く分からんが頑張れ、黒ウサギ。」

 

黒ウサギの勢いに負けて頷く白夜叉。

 

それを聞き、黒ウサギは十六夜達を追って行った

 

「すごい迫力だったな。」

 

紫炎が素直に感心してると

 

「ところでおんしらいつまでそうしておるつもりだ?」

 

白夜叉に言われて今の状況に気づき、二人は顔を赤く染める

 

「わ、悪い」

 

「私もごめん」

 

紫炎がゆっくり耀をおろす

 

「そういえばおんしらだったか。禁断の果実の優勝者は」

 

それを聞き、思い出したかのようにさらに顔が赤くなる

 

「ほ~う、なるほどな」

 

その様子をにやにやしながら見る白夜叉

 

「二人っきりにしてやりたいが黒ウサギにも頼まれておるし、少し話したいこともある。とりあえず中に入れ。」

 

白夜叉に促されて二人はそれについていった

 

「しておんしら何をしてあそこまで黒ウサギをおこらせたんだ?」

 

白夜叉に言われ耀が事の経緯を話始めた

 

「ふむ、なるほど。しかし脱退とは穏やかではない。ちょいと悪質ではないか?」

 

「それは・・・。で、でも黒ウサギも悪い。お金が足りないことを言ってくれれば私たちだってこんな強硬手段はしない」

 

「普段の行いが裏目に出た、とは考えられんのか?」

 

「だ、だけどそれも含めて信頼のない証拠。少し焦ればいい。」

 

「そっちの赤い髪の小僧はどう思う?」

 

・・・・・

 

「おい、小僧。」

 

「寝てるみたい」

 

「いつから寝ておったのかわかるか?」

 

「まだ、寝てないぞ」

 

大分眠そうに答える紫炎

 

「悪いな、少し意識が飛んでた」

 

「少し寝たら?」

 

「お言葉に甘えようかな。白夜叉、どこか寝れる場所はあるか?」

 

「ここで寝たらよかろう」

 

白夜叉がさも当たり前にいう

 

「邪魔にならないか?」

 

「別にかまわん。おんしらがわしが邪魔だというなら出てくが」

 

「寝ずに話聞くから続けてくれ」

 

白夜叉が高らかに笑う

 

「そういえば大きなゲームがあるって言ってたけど本当?」

 

耀が思い出したかのように話を逸らす

 

「本当だとも。特におんしたちには出場してほしいゲームがある」

 

「「二人に?」」

 

果実の件が脳裏に浮かぶ

 

「大丈夫だ。おんしたちに出てほしいのは別々のゲームだ」

 

そういってチラシを渡してきた

 

『ギフトゲーム名“生誕の篝火”

 

 ・参加資格及び概要

    ・炎に関係するギフトを所持

    ・決闘内容は当日発表

    ・ギフト保持者は殺さない限り、どのギフトも使用可能

 

 ・授与される恩恵に関して

    ・階層支配者の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ

                              “サラマンドラ”  印』

 

チラシを見ていると耀が白夜叉に質問する

 

「ね、白夜叉。この恩恵で・・・黒ウサギと仲直りできる?」

 

それを聞き、少し驚く紫炎と白夜叉

 

しかし、次の瞬間白夜叉は優しい笑みで頷いた

 

「出来るとも。おんしにその気があるのならな」

 

「それじゃあ出場する」

 

「それならおんしは・・・」

 

白夜叉が言葉を失う

 

なぜなら紫炎は答える前にすでに寝ていたのだから

 

「寝るの早い」

 

「その前にゲームの出場を聞きたかったのだが・・・ん?」

 

白夜叉がチラシを見ると焦げ跡で字が書かれていた

 

『昼になったら起きる。ゲームをちゃんと盛り上げてやる』

 

「ククク、面白い小僧だ」

 

「ところでいつが試合なの?」

 

「夕方くらいになるからおんしも寝ておけ。」

 

今の時刻は大体十一時前後になるので五時間近く時間がある

 

「それじゃあ、私もお昼くらいまで寝ておく」

 

「そうか、それならお休みだ」

 

「お休み」

 

そして耀も部屋で眠りについた



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第二十六話

―――――――境界壁・舞台区画。“火龍誕生祭”運営本陣

 

ここで白夜叉が渡してきたチラシのゲームの予選が行われる

 

今は“生誕の篝火”の最後の予選、紫炎の番である

 

これの隣では耀が“創造主の決闘”の予選が始まった

 

『“生誕の篝火”予選

 

  ・勝利条件 相手のたいまつの火を消す

 

  ・敗北条件 自分のたいまつが消える

        相手の殺害        

 

     たいまつは自分で持っても動かしても良い』

 

これが今日のルールらしい

 

「さてゲームを盛り上げてやるか」

 

この言葉を聞き、挑発と受け取った相手が槌を振ってきた

 

二人ともがたいまつを持ってる状態なので互いが互いを狙っている

 

それを軽くかわしたが叩かれた場所から火が噴き出た

 

「鍛冶師かなんかのギフトか」

 

「いまさら怖気づいても遅い」

 

続けざまに紫炎に槌を振り下ろす

 

「はっ、しゃらくせー」

 

そういって紫炎は右手に黄色の炎を纏い、そのままぶん殴った

 

「そのままつぶれろ」

 

相手が力を込めるが

 

「そんなんじゃ意味がねーぞ」

 

槌が紫炎の右手に押し戻されたと思ったら

 

「オラッ」

 

そのままかち上げ砕いた

 

欠片が炎に反射して花火のようにきれいだった

 

「なっ!?」

 

驚いている相手の懐に入り、たいまつをもやしつくす

 

「最後の決勝者は同時に決まった。二人は同じコミュニティだ。“ノーネム”の創造主の決闘は春日部耀、生誕の篝火は赤羽紫炎に決まった。決勝のゲームは明日以降の日取りとなる。明日以降のゲームルールは…もう一人の主催者にして今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

そ言って白夜叉が宮殿のバルコニーを譲る

 

出てきたのは色彩鮮やかな衣装を幾重にも着飾った幼い少女が出てきた

 

「ご紹介に与りました、北のフロアマスター・サンドラ=ドルトレイクです。以降のゲームにつきましてはお手持ちの招待状をご覧ください」

 

その言葉を聞き、俺は耀に聞く

 

「そういえばあの招待状って誰が持ってたけ?」

 

「そういえば誰だろう?」

 

「ま、後で白夜叉に契約書類を見せてもらってルールの確認でもするか。」

 

「そうだね」

 

耀と話してると三毛猫が紫炎の足をひっかいてきた

 

「にゃ、にゃー」

 

「悪い、耀。指輪をしてくれ」

 

「わかった。」

 

俺がそういうと“約束の指輪”を指につけてくれた

 

「お嬢に気安く話しかけんなや。お嬢だって嫌がってるやろ」

 

「そうなのか、耀」

 

「違う。嘘を言わないで三毛猫」

 

「嘘ちゃうで。だってあのときからお嬢はにゃ、にゃ」

 

何事と思い、耀を見ると指輪を外してた

 

「もうだめ」

 

少し頬が赤い気がする

 

「なあ、本当に嫌じゃないんだな?」

 

「うん。それは本当」

 

「それじゃあ何で三毛猫はそんなこと言ったんだ?」

 

「教えない」

 

これ以上聞いても無駄と判断した紫炎は、

 

「それじゃあサウザンドアイズの支店に戻るか」

 

「うん。ちゃんと明日の始まる時間も聞かなきゃね」

 

耀が少し悪戯っぽく言ってくる

 

「朝早かったら起こしてくれ」

 

「分かった」

 

歓談しながら支店に戻った

 

―――――――――――

 

支店に戻り、風呂に入った後、店員から移動方法について聞いたがまったくわからなかった

 

「十六夜、よくあんな説明で分かったな」

 

「俺的にはなんであれで分からないかが不思議だ」

 

「人間全員がお前と同じ頭の回転じゃないんだぞ」

 

「そりゃそうだが・・・。お前ならあれで分かると思ったんだが」

 

「買いかぶり過ぎだ。」

 

そんな話をしてると女性陣が上がってきた

 

「あら、そんなところで歓談中?」

 

声に反応して振り向くと耀たちは備えの薄い布の浴衣を着ていた

 

「・・・おお?コレはなかなかいい眺めだ。そう思わないか、紫炎、御チビ様?」

 

「はい?」

 

「まあな」

 

(思わず見とれてしまった)

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちるさまは自然に慎ましい誘導するのは」

 

そこまでいううと十六夜に何かがもの凄い勢いでぶつかった

 

「風呂桶?」

 

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

 

「白夜叉様も十六夜さんも赤羽さんもみんなお馬鹿です」

 

耳まで真っ赤にさせた飛鳥とウサ耳まで真っ赤にした黒ウサギの突っ込みだったようだ

 

「っておれも?何にも言ってないけど」

 

耀が近づいて尋ねた

 

「それじゃあそんな風には見なかったってこと?」

 

「そういうわけじゃあ」

 

そういった瞬間、耀に風呂桶で殴られ気絶した



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第二十七話

目が覚めると昼前までいた来賓室にいた

 

「それでは小僧も起きたことだし、第一回黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません!」

 

「始めます」

 

「断固始めません!!」

 

バカ二人と苦労人は放っておこう

 

少し耀に聞きたいこともあるし。

 

「なあ、今、どういう状況だ?」

 

「どういうって」

 

「風呂から上がって十六夜と喋ってるあたりから記憶が曖昧なんだよ。女性陣が着物なのは白夜叉の趣味だとして、風呂場の近くでしゃべってたはずなのにお前らが風呂あがった記憶がないんだよな」

 

それを聞くと耀が視線をずらし、

 

「知らない」

 

と答えるが紫炎は聞くのを諦めた

 

「春日部さん、少し強くたたき過ぎじゃないの?」

 

「そうみたい。何故か力が入った」

 

飛鳥と耀が何か喋ってるようだが紫炎には聞こえなかった

 

「そういえば聞きたいことがある白夜叉」

 

「なんじゃ、黒ウサギの審判衣装はレースで編んだ黒いビスチェスカートを」

 

「着ません!」

 

「着ます!」

 

「断固着ませんってば!!」

 

またバカ二人に振り回される黒ウサギ

 

「明日のギフトゲームのルールを知りたいんだが・・・」

 

「それならおんしらに送った招待状に書いてあるだろ?」

 

「誰が招待状を持ってるかわからないんだ」

 

紫炎の言葉に他の三人も頷く

 

「招待状をなくしてしまったんですか?」

 

「え~と、順番に思い出すと飛鳥と耀が俺の部屋に来て読んだ後返したな」

 

「その後私たちは十六夜君に招待状を読ましたわ」

 

「俺は読んだ後、手紙を書いて春日部に渡したぜ。」

 

「私はそれをリリに渡して黒ウサギに持ってくように頼んだ」

 

四人が話し終わった後、黒ウサギを睨むとしょぼんとしおれる黒ウサギ

 

「だから見せてくれ」

 

「しょうがない。」

 

白夜叉がそう言って二枚の契約書類を見せる

 

『ギフトゲーム名“誕生の篝火”本選

 

 ・決勝参加コミュニティ

     ・ゲームマスター“サラマンドラ”

     ・プレイヤー“ウィル・オ・ウィスプ”

     ・プレイヤー“サウザンドアイズ”

     ・プレイヤー“ノーネーム”

 

 ・決勝ゲームルール

     ・たいまつに炎を灯した数で競う

     ・お互いのたいまつはゲームごとに変わるステージにランダムに置かれる

     ・たいまつの数は合計で十五本

     ・総当たり戦で行い、灯したたいまつの数で合計が多いコミュニティの優勝

     ・優勝者はゲームマスターと対峙

     ・妨害はありだが殺しはその場で失格

 

・授与される恩恵に関して

    ・階層支配者の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ

                              “サラマンドラ”  印』

 

全員が二つの契約書類を見た

 

「なんだよ、プレイヤーの三チーム中二チームが一緒じゃないか。」

 

「言っておくが創造主の方の二チームは両方とも六桁の者たち。格上と思ってよい」

 

すると十六夜が何かに気づいたように喋った

 

「なるほど、“ネズミの道化”でラッテンフェンガーのコミュニティか。なら春日部の相手はさしずめハーメルンの笛吹きか。」

 

(どういう頭の構造してんだ)

 

紫炎が感心してると

 

「ハ、ハーメルンの笛吹きですか!?」

 

「どいうことだ小僧。詳しく聞かせろ」

 

突然シリアスになる白夜叉。

 

「すまんな。おんしらはまだ来たばっかだったな」

 

話を聞くとハーメルンの笛吹きはほろんだはずの魔王のコミュニティの仲間だったらしい

 

そしてジンがハーメルンの笛吹きの伝承を語った

 

「ふーむ。となるとほろんだ魔王の残党が火龍誕生祭に忍んでおる可能性があるな」

 

「YES。参加者が主催者権限を使えない以上それが一番可能性がありますね」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「一応、最低限の対策の為、わしの主催者権限を使って祭典の参加にルールをつけたのだ」

 

見てみると、一般のゲームの禁止、主催者権限を持つ者の入場制限、主催者権限の使用禁止、参加者以外の立ち入り禁止というものだった

 

「確かにこれなら主催者権限を使うのは不可能だな」

 

十六夜が納得したように頷く

 

「いや、そうじゃなくてなんで魔王がくるって確定してるようだったから。」

 

紫炎がそういうと全員から呆れたような目で見られた

 

「ちょっと待て。俺は何の説明も受けてないんだぞ」

 

そういったらみんなが納得した

 

「後でジン君か十六夜君に聞いたら?」

 

「今はゲームの説明してるから後でな」

 

十六夜と飛鳥により強制的にこの話は終了された

 

「なら、ゲームの方で質問だ。なんでホストの一角がプレイヤーとしてでてんだ?」

 

紫炎がそういうと白夜叉が恥ずかしそうに頬をかきながら説明した

 

「それが少し前に客人として迎えた奴が勝手に登録してな。今、いるコミュニティの名前で登録したらこうなったのだ」

 

「自由な人ね」

 

「そうですね」

 

飛鳥が言った言葉に少し悪意を込めて返す黒ウサギ

 

「普通はそういうのって八百長みたいに言われるんじゃないか?ホスト同士が結託したとか」

 

「そういうのを考えた上で自分が楽しめるならいいという奴なんだ」

 

「「迷惑なやつだな」」

 

十六夜と紫炎が声を揃えて言うと他の女子陣が冷めた目で二人を見た

 

「「こいつと一緒にするな」」

 

二人が互いを指して言う

 

「おいおい、十六夜。お前は一人で誰にも相談せず行動するなんてよくあることだろ?」

 

「それを言うならな、紫炎。お前は全員で足並みそろえるなんてしたことないだろ」

 

二人がメンチを切りながら言い合う

 

「やめんか、小童ども。屋敷を壊す気か。」

 

その言葉を聞き、二人はお互いに手を放す

 

「そうよ二人とも。両方おんなじ位よ」

 

飛鳥の言った言葉に黒ウサギと耀が頷く

 

「はぁ、そういうことにしとくか」

 

「そうだな」

 

興が削がれたかのようにすぐに落ち着く二人

 

「なんか似た者同士」

 

耀の呟きは聞こえなかったことにしよう

 

「おーい。白、どこにいる?明日の事で聞きたいことがあるんだが」

 

「「「「「白?」」」」」

 

「さっき言った奴だ。会った時からそう呼ばれておる。」

 

頭を抱えながらそういう白夜叉

 

「とりあえず呼んだら?」

 

「お主らが良いならいいが?」

 

「紫炎以外は関係ないからいいぞ」

 

「俺も別にいいよ」

 

(しかし、聞いたことがあるような声だ)

 

紫炎が考え込んでいると白夜叉が呼んだ

 

「おーい、龍。わしは貴賓室だ。」

 

するといきなりふすまが開いた

 

「おお、ここにいたか。ん?なんか見慣れないやつらがいっぱいだな」

 

「わしが呼んだコミュニティの面々だ」

 

「おいおい、ガキばっかじゃねーか。大丈夫なのか?」

 

「言ってくれるじゃねーか。今なら試されてやるぜ、本気でな。」

 

十六夜の言葉に耀と飛鳥が反応する

 

「やめてください、御三人方。紫炎さん、珍しく黙ってるなら止めるの手伝ってください。」

 

「おい、白夜叉。」

 

少し怒気の混じった声で紫炎が口を開く

 

「なんだ?」

 

「そいつが俺の対戦相手か?」

 

「そうじゃぞ」

 

それを聞き、紫炎が席を立つ

 

「テメーか」

 

殺気の満ちた目で睨んだ後、部屋を出ていく

 

「なんかあいつどっかで見たことがある気がする」

 

「おい、おっさん。あいつとどういう関係だ?」

 

「お前らから見たらおっさんかもしれんがまだ四十なったばかりで、白夜叉とかに比べたらまだまだ若いぞ」

 

「そんなこと聞いてない。あいつが怒ったのは初めて見る。赤の他人に怒るやつとは思えない」

 

「そうね。私がガルドに襲われそうになったとしても彼はあそこまで怒らなかったもの」

 

十六夜と飛鳥が噛みつく

 

「私、紫炎に聞いてみる」

 

耀がそう言って紫炎を追いかけた

 

―――――――――――――――

 

「紫炎!」

 

「ああ、耀か」

 

紫炎が屋根にいるのを見つけて耀が追いついた

 

「どうしたの?皆不思議がってたよ。」

 

「やっぱ不自然だったか。」

 

「うん。知り合いなの?」

 

「本人かどうかわからんが顔は知ってる顔だった」

 

紫炎が少し暗くなる

 

「あの顔を見ると思い出しちまうんだよ」

 

「思い出すってことは箱庭に来る前にあった人?」

 

「ああ、確認の為にフルネームと少しの質問をする必要がある」

 

紫炎がそういうと屋根から降り、耀と二人で元の部屋に戻った



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第二十八話

「さっさと教えろ、おっさん」

 

「そうよ、おじさん。素直に話した方が身の為よ。」

 

「おっさん、おっさん言うな。それなら白夜叉はクソババアじゃないか。」

 

「こんな美少女を捕まえてババア呼ばわりとはおんしには灸が必要だな」

 

「皆さん落ち着いてください」

 

二人で貴賓室前に来たのは良いが中の様子がコメディチックになってるのでシリアスな話をするのに向いてないので入りづらかった

 

「入りづらい」

 

「でも入るしかない」

 

「まあ、このまま有耶無耶にするのも手だが今聞かなきゃこれからに響きそうだ」

 

そう言って勢いよくふすまを開ける

 

「耀さん、連れ戻したんですね。止めるの手伝ってください。」

 

「紫炎君!?戻って来たなら教えてもらうわよ」

 

「こんな状況で隠し事はなしだぜ」

 

三人が各々聞いてくる

 

しかし、龍と呼ばれた男は紫炎の名前を聞き、何か考え込んでいる

 

「その前に確認することがある。そこの龍とやら」

 

「ん、ああなんだい?紫炎君」

 

「いつから箱庭にいるんだ?」

 

「十年くらいかな?ところでなんで私が異世界から来たってわかったんだい?」

 

「二つ目に自分自身の意思で箱庭に来たのか?」

 

「無視はひどいよ、紫炎君。まあ、そうだが・・・」

 

「三つ目、どうして箱庭に来た?家庭があったんじゃないのか?」

 

「なんでそんなことまで知ってるの!?・・・まあ、それは内緒だよ。」

 

ばつの悪そうな顔をする龍

 

「ねえ、なんでそんなこと聞いてるの?」

 

「そうですよ。」

 

流石に何かおかしいと思った飛鳥と黒ウサギが聞いてくる

 

「おい、紫炎」

 

何か感づいた十六夜が紫炎に声をかけた

 

それを紫炎が目で返し、十六夜は下がる

 

「最後に質問だ」

 

「なんだい紫炎君、さすがになんで聞かれてるか気になってきたんだが・・・」

 

飄々とする龍に対し紫炎は少し暗い表情をする

 

「・・・赤羽朔良、知ってるだろ」

 

「・・・はあ~、やっぱりお前か、紫炎。なんでお前がこんなとこにいるんだ?」

 

その言葉を聞き、紫炎が激怒する

 

「それはこっちのセリフだ、紫龍!!あんなことして逃げて、なんでこんなとこにいるんだ」

 

「ねえ、怒ってるとこ悪いんだけど、この人とどういう関係なの?」

 

「そうです。教えてください」

 

詰め寄ったのは飛鳥と黒ウサギ

 

十六夜は話の流れで耀は過去の話から

 

(あんなことして逃げてってことは・・・)

 

「おいおい、紫炎。父親に向かって呼び捨てはないだろ」

 

「「「!?」」」

 

「誰が父親だ!!あんなことまでしてよく言えるな」

 

「あれには理由があるんだが…どうせ聞く耳もたないんだろ?」

 

「聞く耳ぐらいあるさ、あんたをぶちのめせるのならな」

 

そういって紫炎の殺気が膨れ上がる

 

「それじゃあ今から勝負するか?」

 

紫龍がそういってギフトカードを出すと三つの太陽に照らされている奇妙な場所に移動した

 

「おいおい、こりゃあお前のとおんなじもんじゃねえか」

 

「ああ。あやつならそれぐらい簡単にするだろう」

 

十六夜が白夜叉にいうとしょうがないといった感じで喋る

 

「おい、龍。ちゃんとルールを決めてゲームをしろ」

 

「俺はそれでいいが紫炎どうする?」

 

「乗ってやる。明日もあるしな」

 

 

『ギフトゲーム名“誇りの炎”

 

 ・ルール説明

    ・気絶、降参をした方の敗北

    ・背を地面につけられても敗北

    ・但し、殺人はその時点で敗北

 

 宣誓 上記のルールに則って“赤羽紫龍”“赤羽紫炎”の両名はギフトゲームを行います』

 

 

ゲームが始まった瞬間、紫炎が炎を纏った拳で殴りかかる

 

「!?」

 

拳は空を切る

 

しかし、驚いたのはそこではなく、紫龍が動いたそぶりもなく消えたことだ

 

それは周りも同じようだ

 

「どういうことだ、白夜叉?これもあのおっさんのギフトか?」

 

「そんなもんは知らん。数日前に来たばかりと言っただろう」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。あれじゃあ紫炎君の攻撃が当たらないじゃない」

 

「だろうな」

 

「だろうなって・・・」

 

「それでもなんか考えるのがあいつだと思うが・・・そう思ってんのは俺だけか?」

 

ニヤリと三人に笑いかける十六夜

 

一方紫炎は

 

(瞬間移動の類か?面倒臭い。そんなもん対処ぐらいあるわ)

 

そしてもう一度駆け、拳を振るが空を切る

 

そして紫龍がそれを見て拳を一発いれようとした時、紫炎が最大出力の炎を出す

 

(同じ系統のギフトでも耐性があるだけでまったく効かないわけじゃないからな)

 

ましてや基本的にはほぼ同じ能力、多少の力の差があっても自分の最大出力なら拳は届かせずにある程度のダメージを与えられると・・・過信していた

 

「ガハっ」

 

紫龍は炎を何事もなかったかのように拳で殴り飛ばした

 

紫炎が拳で飛ばした後も特に追撃もせず、ただ立っている

 

「くそがっ」

 

紫炎は自信が誇る二番目に火力が強い赤色の炎で紫龍を襲う

 

それに対して紫龍は左手に小さな炎を灯しているだけである

 

入る、そう思った瞬間、紫龍の左手の炎が紫炎の赤い炎を焼き尽くした

 

「お前の炎は本来は俺より上だ。しかし、何故効かないかわかるか?」

 

紫炎がその言葉を無視し、今度は銀色の炎で襲う

 

しかしそれもすぐに焼け落ちる

 

「いい加減に気づけ。お前の炎が弱くなった理由を」

 

「うるせー」

 

今度は黄色い炎を纏いなぐりにかかる

 

(黄の炎は炎を食い、それを攻撃に換算する。いくらギフトを燃やす炎でも)

 

そう思い殴りにかかるが、一瞬にして炎が焼けちり、また殴り飛ばされる

 

「お前のもう一つのギフトが原因だ。色を増やすごとに元の炎熱から分配されてる」

 

紫龍が紫炎の頭を掴み、全身を炎で包む

 

「がああああああ」

 

「「紫炎(君)」」

 

耀と飛鳥が助けようとするが白夜叉と十六夜に止められる

 

「何でよ、十六夜君」

 

「前にも言ったぜ、お嬢様。あれはあいつのゲームだ。俺たちが手を出すのは無粋だろ」

 

「そうじゃぞ、おんしら。・・・まあ、死ぬ直前には助けてやる」

 

「でも」

 

「春日部、あの時紫炎は信じてたぜ」

 

十六夜はグリフォンの時のことを言う

 

「誰もあいつがやられっ放しで終わるとはおもってないだろう?ならあいつがなんかするまでみとこうや」

 

そう言ってもう一度視線を紫炎たちに戻す

 

「子供の頃は純粋な炎でよかった。だが小学生ぐらいから色を持ったお前の炎は曇った。だからあの時」

 

「があ!!」

 

その瞬間、紫炎の手から今までより大きい炎が出て、紫龍の顔面に拳を入れる

 

「・・・少しはあのころに戻ったんじゃないか?おい、審判。俺の勝ちだ」

 

「えっ!?でも赤羽さんはまだたってますよ?」

 

「よく見てみな。そのまま気絶してやがる」

 

そう言って紫炎のすぐ近くに移動し、少し押すと何の抵抗もなく倒れる

 

それを見て黒ウサギが、苦虫を潰したような顔で宣言する

 

「・・・勝者、赤羽紫龍」

 

「紫炎」

 

それを聞き、耀が紫炎に駆け寄る

 

「大丈夫!?答えて」

 

「落ち着いて、春日部さん」

 

「あ、飛鳥・・・。ごめん少し気が動転してた」

 

「はいちょっとごめんよ」

 

紫龍が耀たちをのけて紫炎に刀を刺した

 

「「「!?」」」

 

それを見た飛鳥、黒ウサギ、白夜叉は驚愕の表情を浮かべたが耀はそのままグリフォンの風で攻撃を仕掛ける

 

「危ないな、嬢ちゃん。下手したらおじさん死んでたかもよ?」

 

「黙りなさい」

 

飛鳥がギフトを使うがほとんど効かない

 

「落ち着け、春日部、黒ウサギ、お嬢様。」

 

「どうしてそんなに落ち着いてられるのよ。仲間が刺されたのよ」

 

「そうです。十六夜さんは何も感じないのですか!?」

 

「薄情者」

 

「だから落ち着け。紫炎を見てみろ。やけどは酷いが血は出ちゃいない。ならこの刀は何か特別な力を持ったものだ。ということは昔何があったかわからないがこれが理由なんだろ?」

 

全員が十六夜の言葉を聞き、もう一度紫炎のそばに駆け寄った

 

「いや~凄いね、君。良く分かったね。」

 

「ゲーム終わって殺すなら始まる前にするだろうと思ってじっくり観察してただけだ」

 

「けど、普通はさっきの子たちみたいに取り乱すよ?」

 

「別にあんたがあいつを殺したとしても俺は取り乱さないさ。冷静にあんたを殺そうとしたに違いない」

 

殺気交じりの目で紫龍を睨む十六夜

 

「敵わんな。しょうがない、こんなすごい仲間がいるのなら少しおまけだ」

 

そう言うと紫龍の手には紫炎と自分のギフトカードを持って重ね合わせた

 

「よし、これ紫炎に返しといて。十六夜君」

 

そういうと紫龍は消え白夜叉の方に出ていた。

 

白夜叉と紫龍が話し終わった後、元の箱庭に戻り各自、自分の部屋に戻った



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第二十九話

紫炎が目を覚ましたら十六夜がベットの横にいた

 

「よく寝てたな。もう三日も寝てたぞ」

 

「そうか。そういえば火龍誕生祭はどうなってんだ?」

 

「中止になった」

 

「は?」

 

「そしてこれが魔王の契約書類だ」

 

突然の展開に頭が付いて行かない紫炎

 

「簡単に言えばお前がボコられた次の日に魔王とのゲームが始まったんだ」

 

「それおかしくないか?白夜叉が対策とってたはずじゃあ・・・」

 

「始まったもんは仕方がないだろう。とにかく契約書類を読んどけ」

 

そういわれて契約書類に目を通す

 

 

『ギフトゲーム名《The PIED PIPER of HAMELIN》

 

 プレイヤー一覧、現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ(《箱庭の貴族》を含む)。

 

プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター、太陽の運行者・星霊、白夜叉(現在非参戦のため、中断時の接触禁止)。

 

プレイヤー側・禁止事項、自決及び同士討ちによる討ち死に。休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。休止期間の自由行動範囲は本祭本陣営より五百メートル四方に限る。

 

ホストマスター側勝利条件、全プレイヤーの屈服・及び殺害。八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

プレイヤー側勝利条件、一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 休止期間、一週間を相互不可侵の時間として設ける。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 《グリムグリモワール・ハーメルン》印 』

 

 

「おいおい、何だこのルール?同士討ち、自殺厳禁なんてあたりまえだろ?それに時間制限も・・・」

 

「相手にペストがいるんだ。再開日数を短くするのにしたことだ」

 

「!ペストか・・・。厄介だな。」

 

「ああ、しかも相手は新興のコミュニティらしくてな。人材を求めてるんだ。」

 

「それなら相手は必然的に時間切れを目指すな」

 

二人が話していると耀が入ってきた

 

「紫炎、大丈夫?」

 

「ん、耀か。俺なら寝たら治った。大丈夫だ」

 

「そう。よか…った」

 

「耀!?」

 

いきなり倒れこむ耀

 

「まさか春日部も黒死病にかかってたのか?」

 

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ。飛鳥か黒ウサギを呼んで黒い斑点を探させろ。」

 

「・・・そのことも含めて後で教える。おい、黒ウサギ」

 

「はい。調べるのでお二人は出て行ってください」

 

いきなり現れた黒ウサギに違和感を覚える

 

「おい、また盗み聞きしてたな」

 

「・・・そんなことは後回しですとりあえず出て行ってください」

 

そういわれて無理やり追い出される

 

「ったく、それで飛鳥の事を含めてって言ってたが何があったんだ?」

 

「ああ、先に言えばお嬢様は相手に拉致られたらしい」

 

「は!?ちょっと待てよくそれで冷静でいられるな」

 

「さっきも言った通り連中は人材集めが目的だ。それは交渉の席でも言っていた。とりあえず命の心配はない。」

 

「・・・」

 

「それに連れ去られて三日たってんだ。冷静にもなってるさ」

 

十六夜の目は叩きのめされて三日も寝込んでる奴が文句言うな、という目だった

 

「それとあのおっさんだがお前を叩きのめした日にこの手紙を残して消えたぜ」

 

そういって手紙を投げる

 

父親といわないのは十六夜なりの配慮なのだろ

 

「ありがとよ」

 

そういって開けると

 

『愛しの息子へ

 

 優しい父親より』

 

そう書かれていたので速攻で燃やす紫炎

 

「何考えてやがんだ、あいつは!」

 

「なんて書いてあったんだよ」

 

にやけながら聞いてくる十六夜

 

多分もう中身を見ていたのだろう

 

文句を言おうとした瞬間、燃えていた火が字を象り、文章になった

 

「「なっ!?」」

 

紫炎もそうだが流石に十六夜も驚く

 

そして二人はその火の文字を読む

 

『とりあえずお前のギフトは元々の状態に戻しておいた。それからどうするかはお前次第だ。それと武器を一つ追加しておいた。これはお前を思ってくれる仲間がいたから与えてやる。仲間を大事にしろよ』

 

「へぇーいいおっさんじゃないか」

 

「いきなり実力行使してくる以外はな。まあ、それで全部消えるくらい行動が早すぎるからな」

 

少し和解した感じで話す

 

「ん?続きだ」

 

『追伸 紫炎と十六夜君だっけ?女の子三人に対して男二人なんて羨ましすぎるぞ。特に黒ウサギっていうあのエ』

 

そこまで読んで紫炎が炎を消した

 

「さて、ギフトが変わったってことだからギフトカードで確認するか」

 

「ほい」

 

そういってカードを探し出した紫炎に紫炎のギフトカードを投げる十六夜

 

「なんでお前がもってんだよ」

 

「あのおっさんがなんかした後、渡すように頼まれたからだ」

 

「どうやって盗ったんだ?あいつは。」

 

「あの移動と関係があるのかもな」

 

「一部分でも移動ができるのか?」

 

二人は喋りながらドアに近づき、

 

「「オラッ」」

 

勢い良く開くとドアにウサ耳を当てている黒ウサギがいた

 

「おい、黒ウサギ」

 

「は、はい・・・。なんでございましょう?」

 

「耀の具合はどうだ?」

 

「・・・へ?」

 

怒られると思っていた黒ウサギが腑抜けた声を出す

 

「春日部の容体だ。早く言わないと胸とかもむぞ。」

 

「お馬鹿様!!何を言っちゃってくれてるんですか」

 

「盗み聞きした上、報告が遅いからだ」

 

「耀さんはやっぱり黒死病のようでした。今から治療具を取ってきます」

 

そういって逃げるように飛び出した黒ウサギ

 

「あいつ、未遂も含めたら五回目の盗み聞きだぞ」

 

「そうか、なら俺はあいつを今から追うから春日部にはお前がついてろ」

 

「別にいいが・・・。」

 

なんで俺?と聞こうとしたが十六夜が続けた言葉にそれを飲み込む

 

「春日部はお前が倒された日、ずっとそばにいたらしいからな」

 

それだけ言い残して十六夜が去って行った

 

「・・・そうか、ありがとうな。耀。」

 

十六夜の言葉を聞き、紫炎が耀の頭を撫でる

 

そして黒ウサギが来た後もその日一日耀についていた



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第三十話

「んあ。もう朝か。」

 

春日部が倒れて看病をしてたらそのまま寝ていたらしい

 

紫炎は珍しく誰にも起こされずに昼より前に起きる

 

耀を確認してみると少し苦しそうだがまだ大事には至ってないようだ

 

「そういえばあの後、ギフトを確認してなかったな」

 

そういってギフトカードを確認する

 

『赤羽紫炎・ギフトネーム“火生灰塵”“自由主義”“色彩付与”(カラーリング)

         

       “ダーインスレイブ”“日本刀”“約束の指輪”“リットゥ”

 

「火色炎舞が別れて火生灰塵と色彩付与に、それでリットゥが渡された武器か」

 

そこまで考察し、頭を抱える

 

(なんだよ、色彩付与って。全然使い道がわからん。)

 

するといきなり扉が開いた

 

「おーい、耀。倒れたって聞いたけど・・・ってお前誰だ?」

 

「俺は耀と一緒のコミュニティの仲間だ。お前は?」

 

「私はコミュニティ“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥスだ」

 

「私はジャック・オー・ランタン。そこのお嬢さんとは創造主の決闘の本選で戦ったものです」

 

そういって紳士なカボチャが握手を求めてきた

 

紫炎はそれに返す

 

「よろしく、ジャック。そこのツインテールよりあんたのほうが話が分かるようだな。」

 

「なんだと、この“名無し”。」

 

「おやめなさい、アーシャ。それとあなたも喧嘩を売らないように」

 

ジャックに諌められたアーシャは紫炎を睨み、紫炎は笑いをこらえている

 

「悪いな、ジャックさん。思った以上にこいつの反応が面白くてな」

 

悪びれずにいう紫炎にアーシャがきれた

 

「なんだと。名無しの分際で」

 

「落ち着きなさいアーシャ。ところであなたの名前は?」

 

「赤羽紫炎だ、ジャックさん」

 

「ヤホホホ。よろしく紫炎さん」

 

ジャックたちと話していると耀が目を覚ました

 

「ん・・・。紫炎?」

 

「よかった。起きたか。」

 

「あれ、私倒れてたの?」

 

「おう、目覚ましたか。耀。」

 

「ヤホホホ。おはようございます、お嬢さん」

 

「アーシャとジャックなんでいるの?」

 

驚いた表情で二人を見る

 

「アーシャが心配で来たいというので」

 

「ちょ・・・。何言っちゃってくれてるんですか。ジャックさん」

 

ジャックの言葉に焦るアーシャ

 

それを見て席を立とうとする紫炎

 

「どこ行くの?紫炎」

 

それを耀が止める

 

「いや、二人が話すなら席外した方がいいかなと思ってな」

 

「別にいいじゃん。なあ、耀。」

 

「うん。」

 

「それじゃあここにいるわ。」

 

その後四人で少しだけ歓談した後、アーシャ達が出て行った

 

「もうこんな時間ですか。アーシャ、もう出ましょう。」

 

「何でですか、ジャックさん。」

 

「ヤホホホ、それは無粋というものでしょう」

 

そういってジャックが俺と耀を見てくる。

 

それでもアーシャは何の事かわかってないようだ

 

「まあまあ、一度外に出ましょう。」

 

そういって俺と耀を残して去る時、俺にだけ聞こえる声で

 

「彼女のこと振り向かせたいなら自分から行動することだと思いますよ。」

 

「!?」

 

「驚くことでもないでしょう。いくらコミュニティの仲間が心配といっても一日付添をしてればわかりますとも」

 

ヤホホホ、と笑いながら去っていくジャック

 

「ジャックと何話してたの?」

 

「い、いや。なんでもない」

 

「なんでもない反応じゃない」

 

「いいじゃないか、別に」

 

じっ、っとこっちを睨む耀。

 

「うん。元の紫炎だ。」

 

「へ?」

 

「だって、お父さん見た時の紫炎は別人に見えたから」

 

「さっき、普通に話してただろ?」

 

「アーシャ達とは初めてあったから見せないようにしてただけかもしれないから」

 

「今もそうかもしれないぞ」

 

おどけて言う紫炎。

 

「大丈夫。目は口ほどに言うっていうから」

 

「そうか」

 

その瞬間ぐうぅぅ、と腹の音が聞こえた

 

耀を見ると真っ赤だった顔がさらに赤くなった気がする

 

「紫炎、はしたない」

 

少し拗ねたように顔を背ける彼女がとても愛らしく見えた

 

「そうだな。昼食持ってくるから一緒に食べるか?」

 

首だけが縦に頷くのが見えたので肯定と取る

 

すると、紫炎は思い出したかのように扉を思いっきり開ける

 

「ひゃあ」

 

「・・・おはようだ。紫炎」

 

「もう昼だ、十六夜。それとこれで六回目だぞ、黒ウサギ」

 

「い、いえ。今回合わせてまだ三回しか盗み聞きしてません」

 

「未遂も入れたらだ。そしてよく自白してくれたな。」

 

そういうと気まずそうに黒ウサギが視線を十六夜に移す

 

「盗み聞きの何が悪い。隠されてるものがあれば知りたくなる。黒ウサギのスカートのように」

 

「そうそう、黒ウサギのスカート、って何言ってくれちゃってるんですか、このお馬鹿様」

 

「コントしてるとこ悪いんだが状況わかってんのか?」

 

今、紫炎が十六夜の頭と黒ウサギのウサ耳を掴んでいる状態である

 

「盗み聞きしてたならわかると思うがここで昼食をとろうと思う」

 

「それがどうしたんだ?」

 

自分には関係ないといった表情で返す十六夜

 

「もし、昼食を持ってきたら黒ウサギの審判衣装を着替えさせるのを手伝おう」

 

「おい、その言葉嘘偽りはないか?」

 

「ああ、黒ウサギより早く、おいしい物を持ってきたらな」

 

その言葉を聞き、十六夜と黒ウサギが飛び出して行って

 

「扱いやすい」

 

そういって部屋に戻る紫炎

 

料理はほぼ同時に着いたので着替えさせないという結論になった



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第三十一話

ゲーム開始まで十八時間前になった

 

「なあ、耀。さっき十六夜が答えがわかったって言ってたが聞いたか?」

 

「何にも聞いてない。けどさっき話をしてる時にわかったって言った」

 

「まあ、それはステンドグラス側に任せとけばいいか」

 

「ふふっ。十六夜のこと信頼してるんだね。」

 

「まあな。あいつは桁が違う。頭も力もな」

 

紫炎が苦笑しながら言う

 

「でも絶対仲間を裏切らない。それだけは言えるな」

 

「・・・うん。そうだね」

 

二人は自然に笑顔になる

 

「紫炎、お願いがあるの」

 

耀が少し真剣な目で見てきた

 

「飛鳥の事か?探してやりたいが先に魔王退治からだ。待ち伏せでズドンって可能性もあるからな」

 

「・・・それなら仕方ないね」

 

耀が俯く

 

それを見て三毛猫が紫炎をひっかこうとした

 

「にゃーにゃー≪お嬢を悲しませおって。もう許さん。≫」

 

「三毛猫ダメ。わたしのわがままで紫炎までいなくなったら・・・」

 

三毛猫を抱きしめて止めた耀がさらに俯く

 

「だけどこれだけは約束する。俺達“ノーネーム”メンバーは全員生きて戻ってくる。だから待っとけ」

 

紫炎がそういうと耀の頭をわしゃわしゃ撫でる

 

「痛い。・・・でもありがとう」

 

そして耀が紫炎に笑いかけた

 

「にゃー≪もう我慢できん≫」

 

「痛たたた。やめろ、三毛猫。今、指輪してないからなんて言ってるかわかんないんだ」

 

三毛猫が紫炎の顔に飛び乗りそのまま引っ掻いた

 

「こら、三毛猫。」

 

「にゃー≪せやかてお嬢・・・≫」

 

「ダメ」

 

耀の言葉に三毛猫は紫炎の顔から離れ、耀の布団の上に戻った

 

「魔王に勝てる見込みがあるの?」

 

「ぶっちゃけっ見てみないことにはわからん」

 

その言葉を聞き、少し耀の顔が暗くなる

 

「だけど黒ウサギがとっておきがあるって言ってたしな」

 

「何それ?」

 

「神話上に登場する本物の武器を具現化できる紙片らしい。」

 

「すごいね。」

 

「ああ」

 

そういって紫炎が立つ

 

「ゲームまで少し寝る」

 

「うん。頑張ってね」

 

「おう」

 

そういって耀の部屋を出る

 

「おい、十六夜。いるんだろ?」

 

その直後、通路の陰に声をかける

 

「まさか気づかれてるとは思わなかったぜ。で、何の用だ?」

 

「魔王は誰が仕留めるんだ?」

 

「現状では黒ウサギだが、とっておきを使うために少し時間がいるんだとさ」

 

「お前はどうすんだよ。」

 

てっきり十六夜が仕留めるものだと思っていた紫炎

 

「俺は魔王の配下を倒した後、黒ウサギの為の時間稼ぎとそれをうまく当てる為に足止めってところだな」

 

「なるほどな。なら俺は魔王と戦って主力が集まるまでの時間稼ぎか?」

 

「ご明答。お前の炎ならペストの風も燃やせるだろ?」

 

「防御に回されたらわからんが、攻撃の時に防ぐぐらいなら出来るだろ」

 

「謙遜すんなよ。全員で生きて戻るんだろ」

 

そういって十六夜がニヤリと笑う

 

「俺だってお前の事を信頼してんだぜ。俺の足下ぐらいだと思ってるぜ」

 

「言ってくれるね」

 

「桁が違うんだろ?」

 

二人は笑いながら言い合う

 

「しかし、魔王ってのはどんなやつなんだ?」

 

「一言で言うなら斑ロリだ」

 

「は?」

 

「一目見ればわかるぜ」

 

「そうか、まあ明日の為にもう寝るわ」

 

「そうだな。」

 

そういって十六夜と別れる紫炎

 

その数分後黒ウサギの悲鳴が聞こえたが十中八九、十六夜が関わってると思ったので無視して寝た



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第三十二話

ゲームが再開された

 

それが合図のように激しい地鳴りが起き、風景が一変した

 

「これは、ハーメルンの街か!?街ごと召喚するなんて面白い相手じゃないか」

 

「そんなこと言ってる場合じゃありません。早く魔王を見つけないと」

 

「そうです、赤羽さん。探すのを手伝ってください。」

 

「おいおい、無茶言うなよ。俺は魔王の姿なんて見てないんだぜ」

 

そういうと二人はしょうがないといった感じで紫炎を放って探し始める

 

すると突然黒い風が襲ってきた

 

「おっと」

 

それを難なく燃やし、防ぐ紫炎

 

「驚いた。まだこんな人がいるだなんて。」

 

頭上から子供のような声が聞こえてきたので三人がその方向を見る

 

「“黒死斑の魔王”(ブラックパーチャー)」

 

「赤羽さん、あれが魔王です」

 

「へえ~あれが魔王ね」

 

紫炎は魔王を見つけた後、十六夜が言ってたことを思い出した

 

(ホントに斑ロリだ)

 

「赤羽さん!」

 

黒ウサギが叫んだ時、紫炎に黒い風が襲いかけてた

 

それを苦も無く燃やし尽くす

 

「この程度なら問題ない。焦んな、黒ウサギ」

 

「は、はい」

 

「ふーん。なかなかやるのね、あなた。」

 

そいうペストの目は玩具を見つけたような眼だった

 

「よそ見とは余裕だな」

 

紫炎がそういうとサンドラがペストに攻撃を仕掛ける

 

それを余裕で止めるペスト

 

「!?」

 

「ええ、余裕よ。」

 

「へえー、面白い。」

 

紫炎が日本刀とリットゥの二刀流で襲い掛かった

 

―――――――――――――――

 

「やっぱ強いな。さすが魔王様」

 

幾ばくかときが経ったが3人相手でもペストには傷一つ付けれていない

 

「箱庭の貴族、火龍の二人。がっかりだわ」

 

「なに!?」

 

「その点、そこの人間は少し楽しめそうね。神の武器とはいえレプリカで私の風を切り裂けるんだもの」

 

「それはこっちのセリフだ。死神の神霊とはいえ3人がかりで傷をつけれないとはちょっと傷つくぜ」

 

笑いながら答える紫炎にペストが見透かすように答える

 

「あら、私が見る限り、3人がかりなのに傷がつけれないんじゃなくて、3人がかりだから傷がつけれないように見えるけど?」

 

「どういうことですか!?赤羽さん!?」

 

「言葉通りよ。あなた達はただの足手まといよ。おかげで私は殺さない程度の力に抑えることが出来るんだもの」

 

サンドラの問いにペストが紫炎の心を読んだかのように答える

 

「随分過大評価してくれてんな。これで全力かもしれないぜ?」

 

「それはない。だって他の二人と違って全然疲れた様子はないんだもの」

 

ペストの言う通りサンドラと黒ウサギはすでに肩で息をしているが紫炎は何もないような感じで突っ立っている

 

「レプリカとはいえマルドゥックの炎の剣、リットゥを使いこなしてるのも評価する点ね」

 

「そりゃどうも。なら少し本気を出すか」

 

そういうと紫炎の炎が龍の形になった

 

それに色が付き、本物のようになった

 

「「!?」」

 

「本当に面白いわね、あなたのギフトは」

 

ペストの言葉が言い終わった瞬間、龍がペストに襲い掛かった

 

「でも、炎には変わりないわ」

 

苦も無く黒い風で防ぐペスト

 

「それは囮だー」

 

「!?」

 

刹那上からリットゥを振り下ろす

 

予測しえない行動にペストは驚き、今まで以上の風で紫炎を包み込んだ

 

「「あ、赤羽さん!!」」

 

「驚いた。いきなり上に現れるんですもの。思わず殺しちゃったじゃない」

 

「よ、よくも」

 

ペストの悪びれない言葉に黒ウサギが怒り、飛び込もうとした瞬間、ペストの後ろから刀が振り下ろされた

 

「くっ」

 

一瞬反応が遅れたペストだったが何とか防ぐ

 

「いいタイミングだと思ったんだが、この刀じゃ結構厳しいな。」

 

「な、なんで・・・」

 

黒ウサギとサンドラが呆然と、ペストが激昂の眼でその人物を睨んだ

 

「なんで死んでないのよ」

 

そこには何事もないように空に立っている紫炎がいた

 

「なんでも何もお前の攻撃を食らってないからだ」

 

「何?」

 

ペストが訝しげに紫炎を睨む

 

「おいおい、直前にあんな大ヒントを出してるんだぜ?こうやって出てきてるのを含めたらすぐわかるだろ?」

 

ペストと黒ウサギはそれを聞き、何か思いついたようだ

 

「ま、まさか」

 

「さっきのは炎だったんですか?」

 

「え?え?」

 

サンドラはいまだにわかっていない様子だが3人でどんどん話が進む

 

「ご明察。だが炎だけじゃあ色はつかない。だから一瞬本物と間違った。」

 

「ええ、まるで本当の人間のようだった。だから避けるのが遅れちゃった」

 

そういって出した左手には少しの切り傷があった

 

「色はどうやって付けたんですか?」

 

「俺のもう一つのギフト、“色彩付与”の力だ。“自由主義”で俺の炎限定に色を変えれるようにすることでさっきのように自分の思った通りの色が一瞬で着くようになったのさ」

 

「そう、説明ありがとう」

 

ペストはそれでさっきの紫炎が偽物だった理由がわかったがもう一つ疑問があった

 

(あれが偽物だったなら、本物はどこにいたの?不意を突かれていたとはいえ、切りかかるまで姿が見えなかった。色をつけるだけで自分が瞬間移動するわけないのに・・・)

 

その瞬間遠くで一際大きな振動が起こった



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第三十三話

強烈の揺れが起こり、黒ウサギとサンドラが少し嬉しそうな声を上げる

 

「今の揺れ、かなり大きかった」

 

「YES!十六夜さん達の決着がついたようです」

 

「ちっ、遅すぎるぞ。十六夜の奴。おかげでとっておきを見せちまったじゃないか」

 

ちらっとペストの方を見る紫炎

 

(これでこっちの手札を全部出したと思わせれればいいが・・・。そんなに甘くないかな?)

 

ペストは紫炎の言葉には耳も貸さず黙祷をしている

 

「・・・・・・止めた」

 

「え?」

 

「時間稼ぎは止めた。白夜叉だけ手に入れて――――皆殺しよ」

 

その瞬間、黒い風が天に上り、街に吹き荒れた

 

「今までの余興とは違うわ。触れただけで命に死を運ぶ風よ」

 

「なっ」

 

それを聞いた瞬間、紫炎は炎を鳥にかえ街の風を燃やそうとする

 

「無駄よ」

 

風に触れた瞬間、炎は霧散して消えた

 

「や、やはり“与える側”の力!死の恩恵を与える神霊の御業ですか・・・!」

 

「ま、まずい。このままじゃステンドグラスを探してる参加者が!!」

 

二人が風を避けながら説明してきた

 

「やらせるかよ」

 

そういって紫炎は腕に炎を纏いながら突っ込む

 

「だ、駄目です、赤羽さん。あの風を貫通するには物的なちからでは・・・」

 

紫炎がそのまま殴りかかるが、風に阻まれる

 

しかし、今度は炎は霧散せず、そのまま燃え続ける

 

「死が与えられるより、早く炎を出し続ければ問題ない」

 

「確かにそうね。」

 

すると、ペストは紫炎から離れ、街に風を向けた

 

そこに樹霊の少年が襲われそうになる

 

「くそっ」

 

紫炎が助けようと、飛び出すが間に合いそうもない

 

すると、

 

「DEEEEeeEEEEEN」

 

紅い鋼の巨人が黒い風を阻んだ

 

「今の内に逃げなさい」

 

「は、はい」

 

鋼の巨人の肩には見慣れた少女がいた

 

「飛鳥!」

 

「飛鳥さん!よくぞご無事で」

 

二人が仲間との再会を喜んでると

 

「よそ見なんて余裕ね?」

 

ペストが先ほどの紫炎の言葉を真似る

 

「前見て、前!」

 

飛鳥の言葉で前を見ると紫炎と黒ウサギに黒い風が迫っていた

 

「オイコラ、よそ見してんじゃねえぞ、この駄ウサギ!」

 

「カっ!」

 

黒ウサギは横から来た十六夜がギフトを蹴り砕き、助けられる

 

紫炎は炎を出し、今度は燃やした

 

「私のギフトが効かない?貴方達、」

 

「先に言っとくけど俺は人間だぜ、魔王様」

 

「俺もそうだぜ」

 

そういうと十六夜が左手で魔王に殴りかかった

 

ペストは防御したが、それでも吹っ飛ばされた

 

それをぼうぜんと見ていたサンドラと黒ウサギ

 

「・・・・・・。えっと、さっきギフトを砕きませんでしたか、あの人。」

 

「さ、さて?黒ウサギにも十六夜さんの事はよくわかってないんですよ」

 

この場にいる全員が決まったか?と思うほどの一撃だった

 

「そうね、所詮人間だわ。この程度なら死の風が効かなくても問題ないわ」

 

その言葉が聞こえた瞬間、ペストがいるであろう場所から八千万の怨嗟の声が衝撃となって十六夜と紫炎に襲い掛かる

 

不意打ちだったため二人ともまともに受けて吹っ飛んだが、そこまでの傷ではない

 

「星も砕けない分際では私は倒せないわ」

 

その言葉を聞いた瞬間、二人は同時に動いた

 

「「言ってくれるじゃねえか」」

 

その挑発を受けた十六夜はボロボロの右で構え、紫炎はダーインスレイブを抜こうとした

 

「ま、待ってください、お二人とも。そんな命がけな行動をとるより、作戦を尊重してください」

 

二人は黒ウサギの言葉を聞き、さがる

 

「ちっ、しょうがない。で、どうすればいい?指示を出せ黒ウサギ」

 

「今から魔王を討ち取ります。皆さんは魔王の隙を作ってください」

 

「それはいいが、あの風はどうする?このままじゃ他の奴らがどんどん死ぬぞ」

 

紫炎はその言葉を聞き、無意識に参加者の待機場所に目を向ける

 

「ご安心を。魔王は此処にいる主力ともども月にご案内します」

 

「「は?」」

 

次の瞬間、紫炎たちの視界は一変した

 

石碑のような白い彫像が数多に散乱する月の神殿を見てペストが叫ぶ

 

「チャ…“月界神殿”(チャンドラマハール)!軍神ではなく月神の神格を持つギフト・・・」

 

「YES。このギフトこそ我々月の兎が招かれた神殿。帝釈天様と月神様から譲り受けた月界神殿でございます」

 

「け、けど、ルールではゲーム盤から出ることを禁じられてるはず・・・」

 

「ちゃんと範囲内ですよ。少し高度が高いだけですけど。」

 

「・・・っ!」

 

「これで参加者側の心配はなくなりました。皆さんはしばしの間魔王を押さえつけてください。飛鳥さんはこちらへ」

 

黒ウサギの言葉を聞いた瞬間、三人は一斉にペストに攻撃を仕掛ける

 

まず紫炎がペストの周りの風を焼き払い、十六夜が殴りかかる

 

しかし、今回ペストは十六夜の攻撃を受け止めず、回避した

 

そこ狙ってサンドラが攻撃を当てるが瞬時に傷が癒えてく

 

「ハッ、なるほど!さっきの言葉は比喩でもなんでもなかったんだな」

 

「そうよ、私を倒したいなら星を砕くに値する一撃を用意しなさい!」

 

その瞬間、怨嗟の衝撃を十六夜の腹部に叩きつけるペスト

 

それにカウンターで左を叩きつける十六夜

 

両者は吹き飛び、月面に新たなクレーターを作る

 

「俺の相手もしてくれや、魔王様」

 

紫炎がそういうと炎を球状にして打ち出す

 

「くっ」

 

それをペストが避けるがそこに十六夜が拳を叩きつける

 

だが、いくらやってもペストが倒れる気配がない

 

流石の十六夜も連戦で体力が消耗して本来の力が出せないからである

 

その瞬間、黒ウサギが三人を追い抜きペストに突っ込む

 

「無茶だ、黒ウサギ。何を考えて・・・」

 

「死の風を吹き飛ばします。御三人は援護を」

 

灰色の大地を掛ける黒ウサギ

 

それにペストが死の風で襲い掛かる

 

「貴方さえ倒せば・・・」

 

「太陽に復讐を、ですか?ならこの輝きを乗り越えてごらんなさい」

 

その瞬間、太陽の輝きに似た光が溢れだし、黒ウサギを包み、鎧となった

 

その光を浴びた死の風は霧散して消えた

 

「そ、そんな・・・」

 

「なるほど。寒冷期に猛威を振るった黒死病も太陽の光には弱いんだな」

 

「インドラにチャンドラにスーリア・・・!護法十二天のうち三天も操るなんて、この化け物―――!」

 

ペストは後退し、最低限の守りを取る

 

「おっと。逃がさないぜ」

 

その瞬間、紫炎の炎が鎖状に変わり、ペストを拘束する

 

「今です!飛鳥さん。」

 

黒ウサギの声に王子、右手をかざして命を下す

 

「撃ちなさい、ディーン」

 

「DEEEEeeEEEEN」

 

インドらの槍は飛鳥の言葉に応じ、千の天雷を束ねてペストを襲う

 

「この程度で・・・」

 

「無駄でございますよ。その槍は正真正銘、帝釈天の加護を持つ槍。太陽の鎧と引き換えた、勝利のギフトを宿す槍なのですから」

 

『叙情詩・マハーバーラタ』の大英傑、カルナが手にしたといわれるギフト

 

太陽神の息子であるカルナが生来持っていた太陽の鎧をインドラに捧げた時に得たのが、ただ一度だけ穿てば勝利をもたらす槍

 

「そんな・・・私は、まだ・・・。」

 

「さようなら、黒死斑の魔王」

 

飛鳥が別れの言葉を告げると激しい雷光が月面を満たし、魔王と共に爆ぜた

 

勝利を確認し、紫炎と十六夜は拳を合わせた



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第三十四話

ゲーム開始から十時間後、ヴェーザー河が描かれたステンドグラス以外を砕き、残ったグラスを掲げ、ゲームが終了した

 

その二日後、活気を取り戻した街で祝勝会が開かれていた

 

その頃、紫炎は意識を取り戻した耀の病室で一緒に食事をしていた

 

「おいしいね、この料理」

 

「あ、ああ」

 

大量に持ってきたはずの料理が次々と消えて行った

 

しかし、耀はがっついて食べているわけではなく、ただ動かす手が早いだけである

 

「しかし、よく食べるな」

 

「だって、黒死病の時、全然食べれなかったんだもの」

 

少し、顔を赤く染めた耀だったが、食べる手は止まらない

 

「まあ、元気になってよかったぜ」

 

残る食事に手を伸ばそうとする紫炎

 

「・・・ありがとう」

 

「え?」

 

「なんでもない」

 

耀の顔がさらに赤くなり、食べるスピードがさらに速くなる

 

「よく聞こえなかったんだが・・・」

 

「にゃー≪お嬢を困らせるんやない≫」

 

「いたたた、ひっかくな。三毛猫」

 

「こら、三毛猫」

 

耀が叱ると渋々離れる三毛猫

 

「ったく、俺が何したっていうんだ」

 

そういって食事をとろうとする紫炎

 

すると、耀がこちらを見て

 

「ごちそう様」

 

「?」

 

何のことか良く分からなかったがすぐに原因が分かった

 

「全部おいしかった」

 

「おい、俺の分もあったんだぞ」

 

「そうなんだ」

 

悪びれずに言う耀

 

「しょうがない、喧騒は苦手なんだが・・・」

 

もう一度食事を取りに行こうとすると不意に耀に手を掴まれた

 

「どうした?まだなんかたべるのか?」

 

「え?いや、そういうんじゃないけど・・・」

 

紫炎が疑問に思ってると突然扉が開いた

 

「邪魔するぜ」

 

「ああ、十六夜か。話は終わったのか?」

 

「おう、それで俺は本当にお邪魔だったか?」

 

十六夜が繋がれた手を見ながら言ってきた

 

そういわれて耀が慌てて手を放す

 

「いや、俺は飯を取りに行こうとしたんだが…」

 

「ほーう」

 

十六夜が耀を見ると顔を逸らす

 

「耀?」

 

「紫炎。俺が飯とって来てやるから春日部のそばについていてやんな」

 

そういうと十六夜が有無を言わせず扉を閉じて出て行った

 

(なんなんだ?)

 

紫炎が困惑していると

 

「紫炎」

 

「ん?なんだ耀?」

 

「十六夜が帰ってくるまでもうちょっと話しよ」

 

「いいけど、疲れてないか?」

 

「うん。大丈夫」

 

「わかった。ただ、疲れたら無理すんなよ」

 

「わかってる」

 

そうして十六夜が帰ってくるまでの間、二人は歓談に耽った

 

―――――――――――――――――

 

魔王のゲームから一週間後、ノーネームに帰ってきた問題児たちは年長組達と農場跡地に来ていた

 

飛鳥が地精であるメルンと呼ばれる小さい精霊ならこの畑を戻せるかもしれないといったからだ

 

「むり!」

 

しかし、一目見ただけでこの反応

 

「・・・無理?」

 

「むり!」

 

飛鳥が聞きなおしても答えは同じ

 

すると、飛鳥は申し訳なさそうに皆に頭を下げた

 

「ごめんなさい。期待させるようなこと言って」

 

「き、気にしないでください。また機会がありますよ」

 

「そうだよ、飛鳥。また次のギフトゲームで勝てばいい」

 

黒ウサギと耀が励ます

 

「なあ、皆。焼畑農業って知ってるか?」

 

紫炎の言葉を聞き、十六夜が閃いたように口を開く

 

「おい、極チビ」

 

「ごくちび?」

 

「灰とかで土壌を回復したりした後、肥料などがあればどうだ?」

 

その言葉を聞き、少し考え込むメルン

 

「・・・できる!」

 

「本当!?」

 

「かも」

 

がくんとなる飛鳥

 

「でも、やってみる価値はありそうね。ディーン出番よ、年長組も手伝ってね」

 

「DEEEeeEEEN」

 

「はい」

 

そうして年長組達を引き連れ、飛鳥が林に木を取りにいった

 

「紫炎、よく焼畑農業なんて思いついたね」

 

「厳密には少し違うが、土壌を焼いて窒素組成を変化さして改良するんだ」

 

「へえー、よく知ってるね」

 

「まあな・・・」

 

「?どうか」

 

「おい、紫炎、春日部。お前らも手伝え」

 

「おう、わかったぜ。行こうか、春日部」

 

「あ、うん」

 

少し、遠い目をした紫炎が気になった耀だったが十六夜の声によって阻まれ聞けなかった



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第三十五話

魔王のゲームから帰って三日後の朝

 

「ご主人様、お嬢様方。おはようございます」

 

執事の姿で三人を食堂で迎える紫炎

 

それを見て問題児三人は少しふきだしてしまった

 

「何故こうなった」

 

それは前日の夜にさかのぼる

 

―――――――――――

 

「大丈夫ですか、レティシア様!?」

 

「落ち着け黒ウサギ。少しめまいがしただけだ」

 

レティシアが皿を落として倒れかけたところを見て黒ウサギが叫ぶ

 

「どうした、黒ウサギ?」

 

大声を聞き、近くを通りかかった紫炎が来た

 

「なんでもない。主殿は休んでてくれ」

 

「おいおい、こんな状況で休めるかって。黒ウサギ、箒と塵取りをとって来てくれ」

 

「わかりました」

 

そう言って黒ウサギが駆けて行った

 

「すまない、主殿。心配かけたがもう大丈夫だ。」

 

その瞬間、レティシアにデコピンが当たる

 

「少し休んでろ。飯は俺が作っとく」

 

「だが」

 

「安心しろ。俺はいつも昼まで寝てるから体力なら有り余ってる」

 

「いや、そういうわけじゃ・・・」

 

(料理はつくれるんだろうか?)

 

失礼になると思い、口には出さないレティシア

 

「持ってきましたよ・・ってなにしてるんですか、赤羽さん」

 

「料理を作ろうとしたんだが・・・」

 

「だ、駄目です。わたしが」

 

「いいから掃除しろ」

 

無理やり言い聞かせ掃除をさせる

 

「うし、作るか」

 

そう言って厨房に立った

 

それから少しして―――

 

「よし、出来たぞ。十六夜達に持って行ってくれ。あっ、これお前らの分ね」

 

そういって五人分の料理を黒ウサギに渡した

 

紫炎は年長組達の分も作り始めた

 

二人は怪訝そうに食べてみた

 

「「おいしい」」

 

「当たり前だ。こっちに来るまで毎日作ってたんだからな」

 

「けど、美味しすぎです」

 

「すごいな、主殿は」

 

「ご飯まだ?」

 

三人で喋ってると耀が来た

 

「ああ、そこに置いてるやつだ」

 

「あれ、紫炎?どうしたの?」

 

「レティシアの代わりに作ってるんだ」

 

「今日はリリの代わりに作ることになったんだがすこしめまいがしてな・・・」

 

そう言って割れた皿が入ってる塵取りを見るレティシア

 

「紫炎って料理出来たの?」

 

「これを食べてみてください」

 

黒ウサギが耀の分の料理を渡し、それを一口

 

「・・・美味しい」

 

「本当だな」

 

「意外ね」

 

「そうでしょ・・・って十六夜さんと飛鳥さん!?いつの間に」

 

いつの間にか来ていた二人も大絶賛の紫炎の料理

 

「来たならちょうどいい。後もうちょっとで出来るから子供たちの分を順に持って行ってくれ」

 

「もうですか!?百二十人分もあったんですよ!?」

 

「出来たんだから文句言うな。ほら持ってくぞ」

 

そう言って紫炎は三十皿くらいを炎で作ったカートに乗せた

 

「あっ、はい」

 

「しゃーねーな」

 

「そうね」

 

「うん」

 

そうして五人で手分けして百二十人分の料理を別館に運んだ

 

 

「すごいです、紫炎さん。料理出来たんですね」

 

「全然イメージと違うわ」

 

「うん」

 

「いや、あれくらい出来て当然だろ」

 

「そんなことはない。十分美味しかったぞ」

 

女性陣四人に褒められ少し照れる紫炎

 

「ところでなんでお前が作ってたんだ?」

 

十六夜が当然のことを聞いてくる

 

「レティシアが作ろうとしてたんだが疲れてそうだったから代わった」

 

その言葉を聞き、十六夜が悪い笑みを女性陣に向ける

 

「そうか、流石にメイド一人じゃ疲れが溜まるよな。しかも魔王との疲れの後だもんな」

 

「まあそうだな」

 

「そこで俺から提案がある」

 

「「「「提案?」」」」

 

女性陣が首を傾げる

 

「女性陣が一日だけレティシアと代わってメイドをするんだ。ちゃんとメイド服を着てな」

 

メイド服を掲げながら高らかに宣言する十六夜

 

「なんでそうなるんですか、このお馬鹿様!!」

 

「そうよ、なんで黒ウサギだけじゃないのよ」

 

「ちょっとなんでそうなるんですか!?」

 

「当然の思考だと思う」

 

そういった耀だったが、少し考えた後、とんでもないことを言い出した

 

「手伝いなら十六夜と紫炎でも出来る。燕尾服を着て」

 

「は?」

 

「おいおい、春日部。そんなもん流石に白夜叉でも」

 

「貰ってきてるわよ」

 

「その前に白夜叉様は何でそんなものを渡してるんですか!?」

 

「「黒ウサギの為」」

 

二人が声を合わせるが少しおかしい気がする

 

「メイド服は分かりますけど、なんで執事服まで!?」

 

「一回男装というものを見てみたいと言ってたわ」

 

それを聞き、へにょん、と倒れる黒ウサギ

 

それを無視し、問題児たちだけで話が進む

 

「おいおい、ここは数の多い女性陣がやるべきだと思うが」

 

「あら、力のある男性の方が向いてると思うけど」

 

十六夜と飛鳥は自分はやりたくない為、全然引かない

 

「ちょっと待て、お前ら。このままじゃ埒が明かん。公平に決めようぜ」

 

「それもそうだけど、誰がゲームのルールを決めるの?」

 

「おいおい、お嬢様。そうなると勝った一人以外がやるってことか?」

 

「けどそれだと少し多いかも」

 

「ああ、だからここは普通のじゃんけんで一回勝負。人数関係なしで負けた奴が黒ウサギと一緒にコスプレして明日一日手伝いな」

 

その言葉を聞き、全員が頷く

 

「ちょっと待ってください、私は決まりなんですか!?」

 

「「「「じゃんけん」」」」

 

「無視しないでください、この問題児様方!!」

 

「「「「ポン」」」」

 

ハリセンで叩かれても気にする様子もなく続ける問題児たち

 

結果

 

十六夜  パー

飛鳥   パー

耀    パー

紫炎   グー

 

 

「よし決まりだ」

 

「ちゃんと朝は早く起きて食堂で迎えるように」

 

「明日楽しみにしてる」

 

三人はそれぞれ紫炎に言葉を掛けながらいまだに納得せず叫んでいる黒ウサギを放って自室へ戻って行った

 

 

翌朝――――

 

「起きろ、主殿。昨日言われただろ」

 

「・・・」

 

レティシアが紫炎を起こしに来たが起きる気配がない

 

「聞いてはいたが本当に起きないな。・・・仕方がない」

 

レティシアが辞書を持ち、落す

 

「・・・・・・・・おはよう」

 

いつも通り辞書を落されて起きたが、いつもより早い時間の為、反応が鈍い

 

「起きたか。昨日の事は覚えているか?」

 

「・・・ああ、不本意ながら仕方がない」

 

「そうか。ならこれに着替えなければな」

 

そういってレティシアは燕尾服を手渡し、部屋を出る

 

紫炎はすぐに着替え、朝食を作り食堂前で十六夜達を待った



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第三十六話

「どうしてこうなった」

 

紫炎が項垂れていると耀が声をかけてくる

 

「えっと、よく起きれたね」

 

「まあな、って言いたいところだけど・・・」

 

「主殿は私が起こした」

 

少し呆れたように言うレティシア

 

それを聞き、少し拗ねたような感じになる耀

 

「そう」

 

足早に食堂に入っていく耀を見て不思議がる飛鳥と紫炎

 

「あ、おい。どうしたんだよ」

 

「どうしたのかしら?春日部さん」

 

「さあな」

 

十六夜が紫炎を見ながら笑っていたが二人は気づかなかった

 

 

――――――――――――

 

 

「いつもこんなことやってんのか、レティシアや年長組は」

 

「YES!けど、これも赤羽さん達が食料を調達してきてくれるようになったからです」

 

紫炎と黒ウサギは朝食の後片付けをしていた

 

すると申し訳なさそうにリリがやってきた

 

「すいません。本当は私たちの仕事なのに・・・」

 

「別にいいって。それより農園の復興、頑張ってくれよ」

 

「は、はい」

 

紫炎の言葉で明るさを取り戻したリリが農園へと走って行った

 

「さて、これが終わったら買い出しに掃除か」

 

「買い出しは私が年少たちと行きますので掃除をお願いします」

 

「おう、わかったぜ」

 

「では頑張りましょう」

 

 

―――――――――――――

 

「しかし、広いな」

 

食器の片付けも終わり掃除をしていた紫炎だったが、あまりの広さに少し休憩中

 

「大人数とはいえ、この広さを子供がやってたんだな」

 

しみじみと呟いていると声を掛けられた

 

「あら、紫炎君。サボりかしら?」

 

「飛鳥か。違うぞ、休憩中なだけだ」

 

「それは本当かしら?」

 

含み笑いを浮かべる飛鳥をみて紫炎が反論をする

 

「そうはいってもこの広さだぜ。休み休みしないと体が持たないぜ」

 

「それはそうだけど、これは決まったことでしょ」

 

少し意地の悪い笑みを浮かべて言い放つ飛鳥

 

「だー、やればいいんだろ、やれば」

 

「終わったら私の部屋にハーブティーとお菓子を二人分お願いするわね」

 

「この仕事量を見て、よくそんな事言えるな」

 

「ええ、言えるわよ。ところで返事は?」

 

「ぐっ・・・。かしこまりました、お嬢様」

 

その言葉を聞き、飛鳥は満足そうに去って行った

 

―――――――――――――

 

紫炎は食堂でお菓子を作っていた

 

「おっ、何してんだよ、紫炎」

 

「ん?十六夜か。飛鳥達のお茶会用のお菓子作りだ」

 

「それにしては豪勢だな」

 

「そうか?二人分ならこれくらいだろ」

 

「ケーキ2ホールは作り過ぎだと思うぜ」

 

紫炎はホールケーキにデコレーションを施したものを見ながら呟く

 

「けど、これくらいなら耀は軽く食べそうだな」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いや、別に」

 

その言葉を聞き、十六夜は肩をすくめた

 

「まあいい。後で黒ウサギに御チビを部屋に戻すように言っといてくれ」

 

「また付きあわせてたのか?」

 

「人聞きの悪い。御チビが勝手に付き合っただけだぜ」

 

紫炎はそれを聞き、しょうがないと呟く

 

「黒ウサギに伝えとくだけでいいんだな」

 

「ああ、それ以上はさすがにつらいだろ。今日の夕食も一人で作るんだからな」

 

ニヤリと笑い、去って行こうとする

 

「ちょっと待て。なんで一人って決まってんだよ。黒ウサギとかも・・・って聞けやコラッ」

 

紫炎が文句を言っていたがそんなものを気にする十六夜ではなく、そのまま去って行った

 

「帰ってきましたよ・・・って赤羽さんどうしたんですか?」

 

「あ、ああ。別に何でもねえよ」

 

さすがに頭を下げて項垂れてたら帰ってきた黒ウサギに不審がられた

 

(そうだ。どうせ作った奴は分からないんだから)

 

「なあ、黒ウサギ。今日の夕食なんだが・・・」

 

「あっ、今日買ってきた食材なら何でも使ってもいいので大丈夫ですよ」

 

黒ウサギはそう告げて出て行った

 

もうだれの助けもない、そう感じた紫炎は肩を落としながら飛鳥の部屋にお菓子とお茶を運ぶのだった



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第三十七話

「お嬢様、お茶とお菓子をお持ちしました」

 

飛鳥の部屋の前に着き、定例文のように告げる紫炎

 

「ええ、入っていいわよ」

 

「失礼します」

 

飛鳥の言葉を聞き、入る紫炎

 

見ると部屋には飛鳥しかいなかった

 

「こちらハーブティーとケーキでございます」

 

「あら、ありが・・・って大きすぎるわよ。しかも二個って」

 

「二人分だろ?こんなもんだろ」

 

「いくらなんでも私とレティシアじゃ無理よ」

 

飛鳥の言葉を聞き、驚いた表情をする紫炎

 

「レティシア?耀とじゃないのか?」

 

「春日部さん?誘ったけどあなたに頼むって言った瞬間逃げちゃったのよ」

 

何かしたんじゃないの?という目で紫炎を見る飛鳥

 

その時、部屋にノック音が聞こえた

 

「飛鳥居るか?私だ」

 

「あっ、レティシア。開いてるから入っていいわよ」

 

「うむ、失礼する」

 

そう言って入って来たレティシアはメイド服ではなくペルセウスから助け出してきたときの服装だった

 

「うん?主殿ではないか」

 

「あら、レティシア。今彼は使用人で私たちが主人なんだから名前で呼びましょ」

 

「別にそうじゃなくても名前で良いぜ」

 

「ん、そうだな。えーと、よろしくな紫炎」

 

「ああよろ・・・」

 

飛鳥が紫炎をじーと見る

 

「・・・よろしくお願いします。お嬢様」

 

それを聞き、飛鳥の視線が外れる

 

「それじゃあケーキ一個貰うわね」

 

「もう一個はどういたしますか?」

 

それを聞き、二人は呆れた目で紫炎を見る

 

「そんなに食べれるわけないでしょ」

 

「紫炎、私たちはそんなに大食いではない。他の人にでも渡しておいてくれ」

 

「かしこまりましたお嬢様方」

 

そういって部屋を出る紫炎

 

「さて、どうするか」

 

ケーキ1ホールを持って佇む紫炎

 

「あ」

 

「ん?」

 

すると耀が通りかかり目が合う

 

「良かった。ケーキあるんだけど・・・」

 

声をかけた瞬間、逃げられた

 

(俺、何したんだ?)

 

「って、考えてる場合じゃない」

 

「あれ、赤羽さん。どうしたんですか?」

 

黒ウサギが紫炎の目の前に現れた

 

「ちょうどいい。これ冷やしといて」

 

「あ、はい・・・」

 

紫炎はケーキを黒ウサギに渡し、耀を追いかけた

 

―――――――――――

 

「私どうしちゃったんだろう」

 

耀は自室に戻り、枕に顔をうずめている

 

(レティシアが紫炎を起こしに行ったって聞いた時、何かもやっとした。それだけじゃない。ガルドの時に庇ってもらってから紫炎の顔を見ると少し、ドキッっとする。こんな感情初めて)

 

≪お嬢、大丈夫か?≫

 

「うん。ちょっと・・・」

 

≪またあの小僧か!お嬢を困らせおって≫

 

「ううん。そうじゃないんだ・・・」

 

(なんかいつもと違う紫炎を見ると顔が熱くなるし、飛鳥に誘われた時も紫炎が持ってくるって聞いて・・・)

 

そこまで考えると顔が真っ赤になったのがわかり、さらに枕に顔をうずめる耀

 

すると、ノック音が聞こえてきた

 

(誰だろう?)

 

「はー・・・」

 

枕から少し顔をあげて声を出した

 

「あっ、良かった。部屋にいて。ちょっといいか?」

 

(紫炎!!)

 

紫炎の声を聞き、また顔が赤くなる耀

 

(どうして)

 

耀自身も何故顔が赤くなるのかわからず狼狽える

 

「耀。お前に俺が何をして怒らしたかわからないがすまなかった。」

 

「ち、違うの。怒ってる訳じゃ…」

 

「もし許せないなら・・・指輪を捨ててくれ」

 

「!?」

 

「それじゃあな」

 

それだけ言うと紫炎は去ろうとする

 

「ま、待って!」

 

すると耀が慌てて部屋から飛び出す

 

「よ・・・」

 

そして紫炎が言葉を発する前に抱き着いた

 

「お願いそんな事言わないで」

 

「す、すま・・・!!!」

 

耀が泣きながら紫炎に言ってきたため言葉を失う紫炎

 

「怒ってる訳じゃないの。ただ・・・」

 

そういって少し力を入れる耀

 

それを感じて抱きしめ返す紫炎

 

「っ・・・」

 

すると耀の顔が赤くなる

 

「悪いな。俺もお前に嫌われたと思って気が動転してたみたいだ。泣かすつもりはなかったんだ」

 

「ううん。私も変な態度とってたから・・・」

 

耀は顔をうずめながら喋る

 

「もういいか?こんなとこ誰かに見られたら・・・」

 

「いいけど、もうちょっとだけ・・・」

 

「・・・ああ、わかった」

 

「ありがとう」

 

それから数分そのままの姿勢でいた

 

「もう大丈夫か?」

 

「うん。大丈夫」

 

そういって二人は離れる

 

「ありがとう。落ち着いた」

 

「おう良かったぜ。そうだ、ケーキ作ったんだが」

 

「食べる」

 

即答した耀は立って微笑みながら紫炎に手を伸ばした

 

「行こ」

 

「・・・ああ」

 

それに応え、手を繋ぎながら二人は食堂に向かった



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第三十八話

手は繋いだものの、誰かに見られると恥ずかしいと理由で耀のギフトを使いながら食堂についた

 

「着いたな」

 

「うん。ケーキ」

 

目を輝かせながら言ってくる耀に苦笑しながら紫炎

 

「わかりました、お嬢様。少々お待ちください」

 

「ふふ・・・。わかった」

 

突然の執事の振る舞いに戻った紫炎がおかしく、笑いがこらえられなかった耀

 

それを気にせずケーキを探す紫炎

 

「えっと・・・。あった、あった」

 

それを耀に渡す紫炎

 

「おお~」

 

喜びと驚きが混じった声を上げる耀

 

「ご賞味ください」

 

「いただきます」

 

そういうと耀の手が素早く動き、ケーキが減っていく

 

「おいしい」

 

そう言いながらも手は止まらない

 

「そういってもらえて何よりでございます」

 

「お?美味そうなもん食ってんじゃねえか」

 

「十六夜。どうしたの?」

 

「いや、昼食も終わったのに食堂で声が聞こえたんだが・・・」

 

お邪魔だったか?という風な目で見てくる十六夜

 

しかし、耀は食事で気が付かない

 

「うるせーよ。さっさとギフトゲームに行けよ」

 

「おいおい、お前は今使用人なんだぜ。そんな口答えじゃだめだろ?」

 

飛鳥とのやり取りを思い出させるような言葉を投げかける十六夜

 

「やだよ。お前だって男に『ご主人様』なんて言われたくないだろ」

 

「むっ」

 

納得したかのように黙る十六夜

 

「それじゃあ黒ウサギはどこだ」

 

「知らん。自分で探せ」

 

紫炎が言うやいなや十六夜が飛び出して行った

 

「ごちそう様。あれ?十六夜は?」

 

今までケーキに集中していた耀だったがどうやら食べ終わったらしい

 

「さあな?」

 

適当に流す紫炎

 

「まあいいか。夕食楽しみにしてる」

 

「えっと、それは俺一人で作れと?」

 

コクリと頷く耀を見て腹を括る紫炎

 

「おっしゃ。任せとけ」

 

「ファイト」

 

親指を立てて言葉を送り、立ち去った耀

 

「さて、何作ろうか・・・」

 

悲壮な表情を浮かべて厨房に立った紫炎だった

 

――――――――――――

 

「やっぱり美味しいわね」

 

「だな」

 

「うん」

 

「紫炎はすごいな」

 

夕食で紫炎の作った料理に舌鼓を打つ飛鳥、十六夜、耀、レティシアの四人

 

「そういや御チビ様はどうしたんだ?」

 

「ジン坊ちゃんは部屋で食べてますよ。何でも読み終わるまで部屋を出たくないそうなので」

 

「へー、勉強熱心だな」

 

素直に感想を述べる十六夜

 

「ところで皆様方は今日、ギフトゲームに行かなかったようですが、何故でございましょう?」

 

「「「メイド服の黒ウサギと燕尾服の紫炎を見ていた方が面白いから」」」

 

「何言っちゃってくれてるんですか、この問題児様方は!!」

 

「でも、似合ってるってのは本当だぜ」

 

「えっ・・・」

 

十六夜の言葉に黒ウサギは顔どころかウサ耳まで赤くなった

 

「私たちは出て行った方がいいか?」

 

「い、いえ。だ、大丈夫でございます」

 

レティシアの言葉に慌てだす黒ウサギ

 

「そういえば紫炎は?」

 

「あっ、そういえばどこでしょう?」

 

耀の疑問に黒ウサギも疑問で返した

 

「おい、黒ウサギ!運び終わったらさっさとこっち手伝え。百二十人分運ぶのは疲れんだから」

 

「あっ、忘れてました」

 

そう言って黒ウサギが駆けて行った

 

「大変そうね」

 

飛鳥がレティシアを見ながら言う

 

「私は食事の用意はしない。食事はリリと数人の年長組が作っていた」

 

レティシアが飛鳥の言葉に反応し、付け足す

 

「風呂も沸かしたから順番に入ってくれ」

 

遠くから紫炎が叫び、言ってくる

 

「それじゃあ失礼するわね、十六夜君」

 

「おうよ。上がったら声かけてくれ」

 

「わかったわ」

 

そうして女性陣が風呂に入りに向かった」

 

―――――――――――――――

 

「ああー疲れた」

 

「お疲れ様です」

 

「おっさんみたいだぞ、紫炎」

 

女性陣が上がった後、紫炎、ジン、十六夜の三人で風呂に入っていた

 

「しかし、結構な仕事量だった」

 

「それにしても料理の腕前はすごかったです」

 

「全員大絶賛だったぜ」

 

褒め慣れていない紫炎は頬をかき、照れくさそうにする

 

「明日も頑張れよ、紫炎」

 

「ふざけんじゃねえ。やるなら俺以外だろ」

 

「いやいや、一日も二日もそう変わらんだろ」

 

「変わるわ!!」

 

流石に今日一日で疲れがわかり、もうやりたく無さそうな紫炎

 

「冗談だよ。けど、あいつらのメイド服は見てみたいだろ?」

 

「まあな」

 

「そこでだ、また明日も使用人をやるやつを決める為にじゃんけんしないか?」

 

「嫌だよ。また俺になるかもしれないだろ?」

 

「お前がパーさえ出せば大丈夫だ」

 

「本当か?」

 

訝しげに十六夜を見る紫炎

 

「大丈夫だって。俺を信じろ」

 

真っ直ぐに紫炎を見つめる十六夜

 

「おし、わかった」

 

そうして風呂から上がり、じゃんけんをしてみると

 

 

紫炎   パー

 

飛鳥   チョキ

 

耀    チョキ

 

十六夜  チョキ

 

 

 

「だましたな、十六夜!!!」

 

むなしい叫びだけが聞こえた




オリジナルは難しい・・・


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第三十九話

悪夢の執事体験から一週間後、今はリリと紫炎で買い出しに来ていた

 

「今日の晩飯は何がいい?」

 

「えっと、お魚が食べたいです」

 

「わかった」

 

あの日以降、紫炎はリリ達と毎日交代しながら料理を作っている

 

「せめて四日に一回にしてくれ」という紫炎の頼みは問題児たちの前では無意味だった

 

(まあ、美味しいって言われるのは悪い気はしないな)

 

そんなことを考えながら歩いていると魚屋までついた

 

「紫炎さん、どれにします?」

 

「そうだな・・・。照り焼きでもいいか?」

 

「はい。紫炎さんの料理は何でも美味しいですから」

 

「嬉しいこと言ってくれるね~。リリの料理だって美味しいぜ」

 

そう言って紫炎がリリの頭を撫でる

 

「あ、ありがとうございます」

 

狐耳と尻尾を揺らし、喜ぶリリ

 

「あ、紫炎。買い物?」

 

「おお、耀か。そうだけど・・・手に持ってるのはなんだ?」

 

耀が右手に持ってる紙袋が気になり聞く紫炎

 

「これ?サウザンドアイズに換金しに行ったら白夜叉がくれた」

 

「へえー。中身なんなんだ?」

 

「ケーキ」

 

紫炎が聞くと耀は目を輝かせて即答した

 

「そうか。・・・まさか一人で食うつもりじゃないだろうな?」

 

「・・・・・」

 

紫炎が聞くと耀は少し目を逸らす

 

「せめて飛鳥と分けろ」

 

「・・・わかった。」

 

そういうと耀は少し落ち込みながら帰路についた

 

「さて俺らもさっさと買い物を追われせて帰ろうか」

 

「そうですね」

 

夕食に必要なものを買い足し、紫炎たちも本拠に戻った

 

―――――――――――――

 

ノーネーム本拠に戻ると何故か紫炎の父・紫龍がいた

 

「おう、久しぶりだな。紫炎」

 

「リリ。黒ウサギ呼んで来てくれ。不審者を追っ払ってくれって」

 

「え、でもお知り合いなんじゃ・・・」

 

「いいから」

 

その言葉を聞き、リリが心配そうに紫炎を見ながら黒ウサギがいるであろう場所に走って行った

 

「おいおい、あんな年下まで手をだすのか?」

 

「用がないなら帰れ。今日は忙しいんだから」

 

「相変わらず冷たいな。誤解は解けたんだろ?」

 

「うるさい。あれが誤解でもお前が母さんを殺したのには変わりない」

 

その言葉を聞き、紫龍の表情が強張ったものに変わる

 

「・・・それは本当に俺が付けた傷が元なのか?」

 

「何を・・・」

 

「もしかしてお前、あの時の記憶、断片的にしか思い出せないんじゃないか?」

 

「そんなこと・・・」

 

紫炎は「ない」と言いかけたが何故か思い出せない

 

「そうかならしょうがないか・・・」

 

「おい、どういうことだよ」

 

紫炎が掴み掛るが、紫龍の表情は元の飄々とした表情に戻っていた

 

「さあね?」

 

「ふざけ・・・」

 

「あの無表情な娘、耀ちゃんだっけ?好きなんだろ?」

 

「なっ・・・」

 

いきなりの言葉に顔を赤くする紫炎

 

それを見て笑う紫龍

 

「いやはや、わかりやすい。若いっていいね」

 

ひとしきり笑い終わった後、しみじみと呟く紫龍

 

「うるさい。もう帰りやがれ」

 

紫炎が蹴って追い返そうとすると紫龍が何かを思い返す

 

「あっ。手紙があったんだ。これ渡しといて」

 

「おい、誰に渡せばいいんだよ・・・っていない」

 

自分の用件だけを済まし、相手の事を考えずに消えた紫龍

 

「はぁ~しょうがない。黒ウサギにでも渡しとくか」

 

「何がでございましょう?」

 

いきなり後ろから声を掛けられた紫炎が過剰反応するとその反応に驚く黒ウサギ

 

「び、びっくりした。黒ウサギか」

 

「びっくりしたのはこっちもなのですよ」

 

「ところでなんでいるんだ?」

 

それを聞き、黒ウサギはウサ耳をピーンと立てて怒る

 

「さっきリリが『紫炎さんが黒ウサギを呼んで来いって言ってました』って聞いたので急いで来たのですよ」

 

「あ~」

 

紫龍との言い争いですっかり忘れていた紫炎

 

「ところで赤羽さん、不審者はどこにいるんですか?」

 

「ああ、勘違いだったよ。あと、手紙」

 

そういって紫炎は手紙を黒ウサギに渡した

 

「は、はい。えっと・・・紫炎さん宛なんですけど・・・」

 

「えっ、マジで!?」

 

少し嫌そうな顔で聞き返す紫炎

 

「はい、白夜叉様から」

 

そう言って手渡された手紙を読む紫炎

 

『ちょっと伝えたいことがある。早めに来てくれぬか?』

 

(面倒臭いし、料理も作らなきゃいかんし今日はいいか)

 

そう思った瞬間、手紙から手錠が現れ、手に掛けられた

 

「は?なにこれぇぇぇええ」

 

すると、突然何かに引っ張られるような感覚があったと思うとサウザンドアイズの店前に来た

 

「あら、貴方ですか。ボスは中ですよ」

 

女性店員が早く入れという風に言い放つ

 

「その前にこれの・・・」

 

「ボスは中ですよ」

 

紫炎が手錠の事を聞こうとしたが女性店員は機械のように同じ言葉を繰り返す

 

それを聞き、これ以上は無駄だと悟った紫炎は店の中に入って行った

 

「うむ、来たか。ちょっと頼みたいことがある」

 

「頼みたいこと?」

 

紫炎が何だろうと次の言葉を待ってると、

 

「白、次は南か?」

 

紫龍の声が聞こえてきた

 

「・・・帰っていいか?」

 

「手錠を外さんで良いのか?」

 

してやったりという顔で見てくる白夜叉

 

「わかったよ、頼みってなんだ?」

 

「頼みというわけではないが、おんしの今の力を見せてほしい」

 

「待て、流石にお前に勝てるわけないぞ」

 

「当たり前だ。こちらで用意してある相手と戦ってもらう」

 

その言葉を聞き、紫炎が少し考え込み気になることを聞く

 

「そいつは消し炭にしてもいいのか?」

 

「くくっ、やれるものならな」

 

そう言ってこの前のゲーム盤入った

 

「これが今回の契約書類だ」

 

 

『ギフト名 “Gatekeeper of Abyss”

 

 ・プレイヤー名 赤羽紫炎

 

 ・勝利条件 プレイヤーがホスト側を死亡または降参させる

 

 ・敗北条件 プレイヤーが死亡または降参する

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ”印』

 

その瞬間、一匹の獣が現れた

 

「おいおい、ケルベロスかよ」

 

「実力的には六桁の最上位くらいだ」

 

その言葉を言い終わるか否かのタイミングでケルベロスが噛みつきにかかる

 

「おいおい、すごいやる気だな」

 

「そやつは元々下層と中層の間の番犬だったのだが、この前世代交代してな。本人はそれに承諾しておらぬから、おんしを倒したら戻してやると約束したのだ」

 

「勝手に約束するな」

 

炎で応戦しながら突っ込みを入れる

 

ケルベロスの一つの頭を炎の鎖で動きを止める

 

しかし残り二つの頭でも噛みつこうとする

 

紫炎は噛みつかれそうになると両手で炎を放出しながら防ぐ

 

「ふう。面倒臭い」

 

そういうと紫炎はギフトカードからリットゥを取り出す

 

(さてどうするか)

 

するとケルベロスは鎖を引きちぎり、こちらに走ってくる

 

それを紫炎は横っ飛びで避け、一番近い頭に剣を振り下ろす

 

「なっ!」

 

それを他の頭の歯で受け止める

 

「GRUAAAA」

 

「ガハッ」

 

隙を見せた紫炎に噛みつくケルベロス

 

「見込み違いだったか」

 

「誰がだ!」

 

白夜叉の呟いた言葉に返答が帰ってきたと思うとケルベロスの頭が一つ切り落とされた

 

「は、は、は・・・」

 

「ほほう。なかなかやるな」

 

「当たり前だ。・・・うぐっ」

 

紫炎が白夜叉の言葉に返した後、剣を鞘に戻した

 

「GRRRRR」

 

「うむ、わかった」

 

白夜叉がケルベロスと会話をしている

 

「はあ、はあ、はあー。・・・うしっ。まだやるか?」

 

「いや、こやつの負けで言いそうだ」

 

「あら」

 

やる気だったのにそれをそがれる紫炎

 

「ところで、紫炎。最後の攻防、どうしたのだ?」

 

「噛まれたと見せたのは炎で作った分身だ」

 

そういってもう一度分身を作る紫炎

 

「それはわかったが、それまでおんしはどこにおった?姿が見えんかったが・・・」

 

「ああ、基本一緒だ。炎に色を付けるんだ。ただし、移動する毎に色が変わるように設定するんだよ。けど基本的に自分の周りでしかこれは使えないんだ」

 

「ほう、それでも凄いと思うが・・・」

 

白夜叉がすこし呆れながら言う

 

「もう帰っていいか?」

 

「まてまて。ギフトゲームに勝ったのだ。ギフトを持って行け」

 

そういって白夜叉は一本の剣を渡してきた

 

「それとこれが本当の頼みなんだが、リットゥを返してほしいのだ」

 

「これか?別にいいぞ」

 

そう言ってそのまま白夜叉に投げ渡す

 

「ぬわっ!おんし、抜き身の刀を投げるでない」

 

「悪い悪い」

 

ぶつぶつ文句を言いながら剣をギフトカードにしまう

 

「それとさっき渡した剣は魔王にも対抗できるギフトだ」

 

「そんな立派なもん貰っていいのか?」

 

「構わんよ。だから命を脅かすギフトを使わんでもよい」

 

そういった瞬間景色が戻った

 

「誰から聞いたんだ?」

 

「さあのぉ?もう帰っても良いぞ」

 

これ以上聞いても無駄だと悟り、店を出る紫炎

 

外に出ると真っ暗だった

 

「謝ったくらいで許してくれる相手じゃないよな」

 

紫炎は覚悟を決めてノーネーム本拠に帰った

 

すると案の定、他の問題児たちからボコられ目が覚めたのは三日後だった



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そう・・・巨龍召喚
第四十話


魔王との戦いから一か月が過ぎ、ノーネームメンバーは今後の活動方針を話し合うため本拠の大広間に集まっていた

 

席は上座からジン、十六夜、紫炎、飛鳥、耀、黒ウサギとメイドのレティシア、年長組からの代表としてリリが座っている

 

このコミュニティでは会議の際、上座からコミュニティへの貢献度が高いものが座っていくらしい

 

リーダーであるジンが一番の上座で次席の十六夜は水樹の獲得を皮切りに、レティシア奪還や魔王とのゲームでの貢献が一番多い

 

十六夜の次の席の紫炎はゲームでの貢献は十六夜に劣るもののほかの二人と比べればかなりのものであり、さらに料理作りにも携わってることもありこの位置である

 

飛鳥は四番手の席で不満はあるようだが異論はないようなのでそのままの席でいるようだ

 

会議が始まると黒ウサギが嬉しそうに声をあげながら報告をあげる

 

「苦節三年・・・。とうとう私たちのコミュニティにも招待状が届くようになりました」

 

そう言って黒ウサギが三枚の招待状を見せる

 

「しかもこの内二枚はジン坊ちゃんの名前で貴賓客として来てほしいそうです」

 

その言葉を聞き、ジンが少し後ろめたい気持ちになる

 

「どうしたんだ御チビ様。俺よりいい席に座ってんのにそんな暗い顔して」

 

「だって、僕の名前で届いたって言いますけど・・・」

 

「おっと、ジン。それ以上の言葉を言うな。」

 

ジンの言葉を遮り、声を出す紫炎

 

「そうだぜ、御チビ様。俺たちはコミュニティ“ノーネーム”でお前がそのリーダーで名刺代わりでもある。俺たちの戦果は全てお前に集約されて広がってるんだ」

 

「それに俺は聞いただけだが、ペストとの交渉の際、大活躍だったそうじゃないか。これも立派な戦果の一つだぜ」

 

「十六夜さん、紫炎さん。ありがとうございます」

 

二人の言葉に少し明るさを取り戻すジン

 

「ところで今日集まった理由はその招待状の事かしら?」

 

三人の話が終わると飛鳥がジンに聞く

 

「それもありますが、その前にコミュニティの現状をお伝えしたいと思っています。・・・黒ウサギ、リリ。報告をお願い」

 

「あ、はい」

 

そう言って先に立ったのはリリであった

 

「えっと、備蓄に関しては問題ありません。最低限の生活を営むだけなら一年は持ちます」

 

「へえー、なんで急に」

 

「黒死斑の魔王が推定五桁の魔王に認定されて規定報酬の桁が跳ね上がったと白夜叉様が言ってました。これでしばらくみんなお腹一杯食べられます」

 

リリが嬉しそうに狐耳と尻尾を振りながら言う

 

「こら、リリ。はしたないぞ」

 

「あう・・・」

 

レティシアがリリを諌める

 

それに紫炎が口をはさむ

 

「別にいいじゃないか。俺たちが来るまでそんなことがなかったんだから嬉しかったんだろう」

 

「だがな、紫炎」

 

「それに俺らは声に出して言ってくれるほど嬉しいってことがわかって頑張って良かったって思える」

 

その言葉を聞き、レティシアがしょうがないといった表情をしながら座った

 

「それで終わりかい、リリ?」

 

「あ、いえ。五桁の魔王を倒す為に依頼以上の成果を上げた十六夜様達には金銭とは別途にギフトを授かることになりました」

 

「あら、それは本当?」

 

「YES!それについては後から通達があるのでワクワクしながら待ちましょう」

 

その言葉を聞き、紫炎たち四人は“面白そうだ”と思いながら顔を合わせる

 

「それではリリ。農園の復興状態を」

 

ジンがリリに話を振ると、目を輝かせ話始めた

 

「は、はい!農園の土壌は紫炎さんの発案とメルンとディーンの働きのおかげで全体の四分の一はすでに使える状態です。これでコミュニティ内のご飯を確保するのに十二分の土地が用意できました。田園に整備するにはもうちょっとかかりそうですけど、根菜類などを植えれば数か月後には期待が出来ると思います」

 

喜びはしゃぐリリを見て、飛鳥が得意そうに言う

 

「メルンとディーンが休まず頑張ってくれたんだから当然よ」

 

ふふんと、笑う飛鳥

 

「特にディーンは働き者で飛鳥さんがゲームに出場しているとき以外はずっと土地の整備をしてくれているんです」

 

「喜んでもらえて何よりだわ」

 

「人使いが荒いともいうけどな」

 

十六夜が茶化したので、黒ウサギが慌てて話を逸らす

 

「そ、そこで今回の本題なんですが農園区に特殊栽培の特区を設けて、霊樹や霊草を栽培しようと思うんです。」

 

その言葉に最初に反応したのは紫炎だった

 

「霊樹や霊草ってことは例えばモーリュとか」

 

「マンドゴラとか」

 

「マンドレイクとか」

 

「マンイーターとか?」

 

「YES♪って最初以外おかしすぎです。そんな超危険即死植物を子供たちに任せるなんて黒ウサギ的にアウトです!!」

 

黒ウサギが紫炎以外の三人に怒りを向けた

 

すると四人が一斉に口を開く

 

「「「「じゃあ妥協してラビットイーターで」」」」

 

「何ですか!その黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!!」

 

黒ウサギが激怒して四人を怒鳴り散らす

 

それを見ていたレティシアが呆れながら続きを話す

 

「主達には農園に相応しい牧畜や苗を手に入れてきて欲しいのだ」

 

「きて欲しいってことは近々そんな機会があるのか?」

 

紫炎の言葉にレティシアが流石だなと返し、続ける

 

「南の“龍角を持つ鷲獅子”(ドラコ・グライフ)連盟から収穫祭の招待状が届いているのだ。連盟主催ということもあり、種牛や珍しい苗を賭けるものも出るはずだ」

 

なるほど、と頷く問題児たち

 

「しかも今回は前夜祭からの参加を求められ、旅費と宿泊費は主催者が全て請け負うというVIP待遇。場所も境界壁にも負けない美しい河川の舞台“アンダーウッドの大瀑布”。皆さんが喜ぶこと間違いなしです」

 

黒ウサギが自信満々で答える

 

全員が楽しみにしているとジンがわざとらしく咳払いをし、問題児たちの注目を集める

 

「この収穫祭は前夜祭を入れると二十五日間にもなります。最後まで参加したいのですが長期間主力が居なくなるのはよくありません。なのでレティシアさんと共に一人は残って・・・」

 

「「「「嫌だ」」」」

 

途中で言葉を切られたジンだったが予想通り、といった表情でさらに言葉を続けた

 

「なら、せめて前夜祭を三人、オープニングセレモニーから一週間を全員で、残りの日数を三人と人数を絞らせて下さい」

 

その言葉を聞き、四人は顔を見合わせる

 

少しして耀が質問をする

 

「それだと二人が全部参加できるけど、どうやって決めるの?」

 

「それは・・・」

 

ジンが言いよどむ

 

普通は席次順で決まるのだが、異世界から来た問題児たちにはそれが普通ではない

 

どうしたものか、と悩んでいると十六夜から提案が出た

 

「ゲームで決めるってどうだ?」

 

「お!いい案だな」

 

「じゃあ、どんなルールにするのかしら?」

 

その案に全員が乗り気になった

 

「そうだな・・・。期日まで最も多くの戦果を挙げた奴が勝者ってのはどうだ?」

 

「乗った!」

 

「わかったわ」

 

「うん。・・・絶対に負けない」

 

三人が即答し、収穫祭参加を賭けたゲームが始まった



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第四十一話

ゲームが始まって次の日、紫炎、飛鳥、耀は北側六七八九〇〇外門に来ていた

 

理由は耀がウィル・オ・ウィスプの招待を受けたからその本拠に来たのだ

 

着いてすぐに紫炎は耀と飛鳥と別れ、一人歩いている

 

「しかし、北側はいつ来ても凄いな。東側とは全然違うな」

 

感心してみて回ってるといきなり頭に衝撃が走った

 

(金槌かなんかで叩かれたような・・・。まあ、工房とか色々あったし、誰かが手でも・・・)

 

そう思ってるとまた激痛が走る

 

(二回目か・・・。次来たら消し炭にする)

 

周りに気を配りながら殺気を増幅させる紫炎

 

「・・・大丈夫?」

 

「!?」

 

すると、目の前からいきなり声をかけられ驚く紫炎

 

(後ろからならまだわかる。けど、いきなり前から現れなかったか!?)

 

紫炎が考えこんでいるとその人物がまた話しかけてきた

 

「・・・頭、大丈夫」

 

「あ、ああ・・・」

 

そこで紫炎は、始めて彼女の姿を確認する

 

(耀とおんなじ位の娘かな?)

 

紫炎がそう思ったのは彼女が薄いウェーブを引いたツインテールに幼さの残る顔立ちに耀と同じ位の身長だったからだ

 

しかし本当に耀と同じ年齢か疑問に思ってしまう

 

(すげー巨乳・・・)

 

そうなのである

 

耀との違いはその豊満な胸である

 

「ん?」

 

その時、紫炎は彼女の手に金槌が握られているのに気づく

 

「さっき、俺を殴ったか?」

 

それを聞き、コクリと頷く少女

 

さすがに少女を消し炭にするようなことはできないので

 

「失礼」

 

声をかけ、デコピンを一発食らわせる

 

「・・・・・・・・痛い」

 

「これでおあいこだ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」

 

少女が額をさすりながら答える

 

「ところで何の用だったんだ?」

 

「?」

 

「いや、なんか用があったから金槌で叩いたんじゃないのか?」

 

フルフル、と首を横に振る少女

 

紫炎は少しむかついたのでもう一度デコピンをした

 

「・・・痛い」

 

「こっちの方が痛かったんだぞ」

 

少し呆れながら言う紫炎

 

すると、唐突に少女が口を開いた

 

「・・・私はウィラ。あなたは?」

 

「へ?・・・ああ、名前か。赤羽紫炎だ、よろしく」

 

「・・・赤羽?」

 

紫炎の名前を聞き、少し考え込むようなしぐさを見せる

 

「どうした?」

 

「・・・なんでもない」

 

紫炎が聞くとウィラは自己完結を済まし、向き直った

 

「・・・じゃあね」

 

「!?」

 

一言そう告げると視界から消えた

 

「あら?何してるの、紫炎君」

 

「どうしたの?」

 

すると、後ろから飛鳥と耀が声をかけてきた

 

「・・・いや、何でもない。ところでどこ行ってたんだ?」

 

「アーシャのところ」

 

「彼女の部屋、面白かったわよ」

 

少し笑いながら告げる飛鳥

 

「へー。ところでゲームって何時から始まるんだ?」

 

興味無さそうに返事をした後、聞く紫炎

 

「確か今日の夜、月が頂に上る時間だって」

 

今は日が沈み始めたくらいの時間である

 

「結構時間があるな。ここらへんうろつくか」

 

「そうね。それじゃあエスコートを頼もうかしら」

 

「うん」

 

そう言って二人は手を差し出してきた

 

「期待すんなよ」

 

紫炎が二人の手を取ろうとした時、

 

「ヤホホホ。皆さんお久しぶりでございます」

 

ジャックがやってきた

 

「ジャック、ゲームの準備はしなくてもいいの?」

 

耀が疑問に思ったことを聞く

 

「準備はさっき終わったところですよ。帰ってる途中に声が聞こえたので、用事もありましたし、会いに来ただけですよ」

 

ヤホホホ、と陽気に笑うジャック

 

「しかし、凄いですね。まさに両手に花、羨ましいですよ」

 

「まあ、他人から見たらそうかもしれんが、実際二人を同時にエスコートするなんて地獄に近いぞ」

 

趣味も時代背景も違う二人を相手にするのだから当然だろう

 

「それなら飛鳥嬢は私がエスコートして差し上げましょうか?」

 

「俺は別にいいが・・・」

 

ちらっ、と飛鳥の方を見て答えを待つ紫炎

 

「そうね。どうせなら土地勘のある人にエスコートしてもらった方がいいわ。春日部さんは?」

 

「私は・・・」

 

そう言って耀は無意識的に紫炎に視線を向ける

 

「ヤホホホ、春日部嬢は紫炎殿に任せて二人づつで回りましょう」

 

「それもそうね。それじゃあ、春日部さん。またゲームで会いましょう」

 

「おっと、ゲームといえば紫炎殿に伝えようと思ったことがありました」

 

その言葉に紫炎は少し嫌な予感がした

 

「それが最初に言ってた用事か?」

 

「ええ、彼女たちがゲームをしている時に本拠で待ってもらいたいんですよ」

 

「ゲームに参加するなってこと?」

 

「そういう訳じゃありませんが結果的にはそうなってしまいますね。実は私たちのコミュニティのリーダーが会って話したいそうなんですよ」

 

「そういうことなら仕方がない。コミュニティの名前を売るチャンスにもなるし。それじゃあ飛鳥と耀でゲーム頑張ってくれや」

 

紫炎が少し、諦めたような感じで言う

 

「ええ、もちろんよ」

 

「うん」

 

その言葉を聞き、紫炎が口を開いた

 

「よし、それならゲームまでの時間を楽しみますか」

 

「ヤホホホ、そうですね」

 

そう言って別れて行動しようとすると、ジャックが紫炎に近づき、小さな声で囁いた

 

「頑張ってくださいね」

 

「なっ・・・」

 

それだけ言うとジャックは笑いながら飛鳥を連れていった

 

二人が見えなくなると耀が口を開いた

 

「・・・私たちも行こう」

 

そういって耀が紫炎に手を出した

 

「ああ・・・」

 

紫炎がそれに答えて手を繋ぐ

 

「それじゃあ行こうか」

 

「うん」

 

そうして二人はゲームが始まるまで楽しく過ごした



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第四十二話

ゲームの始まる時間になり、耀と別れてウィル・オ・ウィスプの本拠についた紫炎

 

「さて、ウィル・オ・ウィスプのトップとの会話か。・・・緊張する」

 

始めての一人での交渉に臨むため、大分緊張している

 

「・・・どうしたの?」

 

「!!ウィラか。・・・いや、ちょっとな」

 

いきなりウィラがいたことに多少なりとも驚いた紫炎だったが、二回目だったのでそこまで表情には出さなかった

 

「・・・ふーん」

 

そのままウィラが紫炎の前に座った

 

「すまんがこれからウィル・オ・ウィスプのリーダーと話をするんで席を外してもらえるか?」

 

「?」

 

「いや、ウィル・オ・ウィスプのリーダーと話すから・・・」

 

「・・・だからいる」

 

「は?」

 

ウィラの言葉に間の抜けた声を出す紫炎

 

「・・・それじゃあ質問」

 

そんなのを気にもせず紙を持って続けようとするのを紫炎が止める

 

「ちょっと待て。・・・ウィラがウィル・オ・ウィスプのリーダーなのか?」

 

紫炎の言葉にウィラがコクンと首を振る

 

「その質問は重要なことか?」

 

その言葉にも首を縦に振る

 

それを見て少しシリアスになる紫炎

 

「・・・止めて悪かった。続けてくれ」

 

「・・・それじゃあ質問、耀ちゃんのどこが好きか?」

 

「なんだその質問は!?どこが重要なことだ!!」

 

紫炎は怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になりながらウィラに問い詰める

 

「・・・あなたの父親から渡された紙に書かれてるのをそのまま言った」

 

それを聞き、紫炎が紙をひったくり、内容を確認してから焼き捨てた

 

「話がこれだけなら今からでも俺はゲームに参加しに行くぞ」

 

紫炎が少し怒りながら言うと、ウィラは首を横に振った

 

「・・・まだある。こっちに来て」

 

そう言われて紫炎が後を付いていくと闘技場についた

 

「・・・紫龍からあなたと戦って試すように頼まれた」

 

その言葉を聞き、少し殺気が漏れる紫炎

 

「あんな奴の頼みなんて聞く気がない」

 

そのまま帰ろうとした時、ウィラが口を開く

 

「・・・怖いんだ。なら帰ってもいい」

 

その言葉を聞き、紫炎の動きが止まる

 

「誰が怖がってるだって・・・。いいぜ、その挑発のった!!」

 

簡単な挑発に乗る紫炎

 

(・・・紫龍の言われたとおりに言ったら、本当に受けた。単純)

 

頼みごとを断られることを前提に、さっきの挑発もウィラに吹き込んでいた紫龍

 

「それでどうやって俺を試すんだ?」

 

「・・・私が一撃を放つからあなたがそれを止めたらいい」

 

「上等!!」

 

紫炎がそういうとウィラの雰囲気が少し変わる

 

「召喚“愚者の劫火”」

 

ウィラがそう言うと蒼い炎が風のように紫炎を襲う

 

「なめんじゃねー」

 

紫炎がウィラの炎を上回る炎で燃やし尽くした

 

「おおー」

 

ウィラがそれを見て感心したように手を叩いている

 

「これくらい出来て当然だ。まあ、お前が本気を出したらどうなってたかわからんがな」

 

少し殺気を込めてウィラを睨む紫炎

 

「おいおい、そんな怖い顔で睨んでやるなよ」

 

「うるさい」

 

・・・・・・・・・・

 

「って、紫龍!?」

 

「・・・紫龍どうしているの?」

 

「いやなに、ウィラちゃんに会いに来ただけだよ」

 

いつもと同じような感じで言う紫龍

 

「黙れ、帰れ、失せろ」

 

紫龍を蹴りながら言い放つ紫炎

 

「紫炎・・・。会う毎に俺の扱いひどくなってないか?」

 

「・・・ナイス、紫炎」

 

「ウィラちゃん、酷くないか!?」

 

少し涙目になってきた紫龍

 

「用が無いなら帰れ」

 

「かえれー」

 

紫炎の言葉に同調してウィラも声を上げる

 

「用ならあるさ。ほい」

 

そう言って紫龍がギフトカードからネックレスを取り出し、紫炎に渡した

 

「それを渡しに来たんだよ」

 

「なんだ、これ?」

 

「ウィル・オ・ウィスプで作られた結晶が付いた特別なネックレスだ」

 

それを聞き、紫炎がウィラを見る

 

「・・・大丈夫。それは前に紫龍にあげたものだから私には関係ない」

 

「それならいいが、この結晶はどんなものなんだ?」

 

ウィラの言葉を聞き、紫龍に向き直る紫炎

 

「炎を蓄積できる結晶だ」

 

「俺にはまったく意味がないな」

 

紫炎のギフトは媒体が無くても炎を生み出せれるギフト

 

炎を蓄積できようが必要な時に自分のギフトで炎を生み出せれるのでまったく意味がない

 

そんな考えを見透かしてるかのように紫龍が発言する

 

「確かに俺達には意味はないが、他の奴らには暗いところとかで使えるからな」

 

「そうか。俺が蓄積させたものを渡せばいいからな」

 

納得したような紫炎を見て紫龍が悪い笑みを浮かべて続ける

 

「しかもネックレスだから“気になる女の子”にも渡せるな」

 

「なっ・・・」

 

紫龍の言葉を聞き、紫炎の顔が真っ赤になる

 

それを見て紫龍が大爆笑する

 

「・・・もうゲームが終わってる頃だから」

 

突然口を開いたウィラだったが、喋り終わると目の前から消えた

 

「それじゃあ俺も帰るか。耀ちゃんとうまくやれよ」

 

最後の最後まで紫炎をおちょくり、突然消えた紫龍

 

一人残された紫炎はネックレスに目を向けていたが、二人と合流するため、歩き出した

 

―――――――――――

 

ゲームが行われていた区画では今は食事会が始まっていた

 

「あ、紫炎だ」

 

「あら、遅かったわね」

 

紫炎を見つけた二人が寄ってきた

 

「おう。その様子を見るといい結果だったみたいだな」

 

「ええ、春日部さんがジャックから景品を奪ったのよ。ねっ」

 

「う、うん」

 

飛鳥の言葉に耀が少し歯切れが悪く答える

 

不思議に感じた紫炎だったが、何にも言わなかったので追及しないようにした

 

「それじゃあ紫炎君。どんな話し合いをしたの?」

 

「紫龍の知り合いらしくてそのことでちょっとな」

 

紫炎の言葉を聞き、二人が少し疑惑の目を向けるがすぐに解く

 

「まあそういうことにしときましょう」

 

「うん、そうだね」

 

そう言って二人が別々に移動しようとした時、紫炎が耀の手を掴む

 

「ちょっといいか」

 

「う、うん」

 

二人は飛鳥に気づかれないように人気のない場所に移動した

 

「悪いな、耀」

 

「別にいいけど、どうしたの?」

 

「ああ、これプレゼント」

 

そういって紫炎がペンダント耀の首にかける

 

「これは?」

 

「ウィル・オ・ウィスプ特製の炎を蓄積できるペンダントだ」

 

「本当に貰ってもいいの?」

 

ペンダントを握って上目づかいで聞いてくる耀

 

「もちろん。・・・それと蓄積された炎は所有者が危険にさらされた時、自動で守るようになってる」

 

そういいながら紫炎は結晶に触れながら炎を蓄積していく

 

「ありがとう」

 

「ああ、これからはずっとお前を守ってやれる」

 

「え・・・」

 

紫炎が言葉を発した瞬間、耀の顔が真っ赤になる

 

「どうした?大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「それならいいが、・・・無理はすんなよ」

 

紫炎が真面目な顔で耀に言う

 

「大丈夫だよ。でもなんでそんなに心配してくれるの?」

 

「えっ・・・。そ、それは・・・。その・・・」

 

「?」

 

紫炎がここまで歯切れが悪いのが珍しい耀

 

すると紫炎が何か覚悟を決めたように耀と向き合う

 

「耀、これは冗談じゃなく俺の本心だ」

 

「うん・・・」

 

耀が紫炎の言葉を待つ

 

「俺はお前の事が・・・」

 

「あら、春日部さんに紫炎君。こんなところで何してるの?」

 

飛鳥が声をかけた瞬間、紫炎と耀が過剰に反応し、飛鳥が驚く

 

「びっくりするじゃない。貴方達何してたの?」

 

「い、いや別に・・・。なっ」

 

「う、うん」

 

いきなりの事に大分挙動不審になってる二人

 

「?良く分からないけど、もう帰るわよ」

 

「ああ、分かった」

 

「そうだね。帰ろうか」

 

そうして三人はノーネームに帰って行った



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第四十三話

ウィル・オ・ウィスプのゲームを終えて二日が経った

 

紫炎と十六夜が二人だけで昼食を食べている

 

「はあ」

 

「どうしたんだ、紫炎。溜息なんかついて?」

 

「心配の言葉、ありがとう。それでにやけてなかったら完璧だぞ」

 

紫炎のため息の理由にある程度、あたりをつけている十六夜がにやけている

 

そんな話をしていると飛鳥が食堂に入ってきた

 

「あら、十六夜君、紫炎君。今日の戦果はどう?」

 

「俺は全然だ」

 

「俺はさっき起きた」

 

紫炎の言葉に飛鳥が呆れる

 

「貴男は自分では起きようとは思わないの?」

 

「思ってるんだけどなあ~。はあ」

 

「?」

 

またもため息をつく紫炎を不思議そうに飛鳥が見る

 

すると食堂の扉が開く

 

「お腹へった」

 

「あら、春日部さん。おかえり」

 

「飛鳥、ただい・・・」

 

耀が飛鳥を見つけて挨拶を返そうとすると紫炎が視界に入った

 

紫炎がそれに気づき、声をかけようとした

 

「おかえり、よ・・・」

 

その瞬間、耀が食堂からもの凄い勢いで去って行った

 

「ドンマイ」

 

十六夜が半笑いで紫炎の肩に手を置く

 

「何したか知らないけど、ちゃんと春日部さんに謝っておきなさいよ」

 

「わかってるんだけどな」

 

この二日間、紫炎はまともに耀と会話をしていない

 

(原因は多分あれだろうな・・・。気持ちも確認せずに早まった結果だよな)

 

嫌われた、そう紫炎は思い込み、さらに深いため息をつく

 

「それじゃあ俺はゲームをしに行くか」

 

「じゃあ、俺も・・・」

 

明らかに覇気がなくなった紫炎も立ち上がり、街に行こうとする

 

「おいおい、お前は先に春日部との関係修正が先だ」

 

「そうね。見てるこっちは何が原因かわからないから腹立たしいわ」

 

「そう言うけど全然、喋る機会がないんだよ」

 

三人が言い合ってると黒ウサギが顔をのぞかせた

 

「あのー、さっき耀さんが部屋で食べるから持ってきて欲しいと言ってたんですけど・・・」

 

何かあったんですか?と聞いてくる黒ウサギ

 

それを聞き、十六夜が話しかけてくる

 

「おい、良かったじゃないか。喋る機会ができたぞ」

 

「そうね」

 

「簡単に言うなよ。部屋にすら入れてもらえないかもしれないんだぞ」

 

無責任に言葉をかける二人に少し怒り気味に言う紫炎

 

「そんなもん仲が悪くなった自分を恨め」

 

そう言って二人は食堂から出て行った

 

「えっと、よろしくお願いしますね」

 

黒ウサギも去って行った

 

「・・・確かに喋る機会ではあるんだが」

 

「どうしたんだ?紫炎」

 

「レティシアか。気配を絶って後ろから声をかけるな」

 

レティシアが紫炎にいきなり話しかけたが、そんなに驚かなかった

 

「ふふ。悪いな。癖になってしまっているからな」

 

「別にいいさ」

 

紫炎がそう返すとレティシアが少し真剣な眼差しを向ける

 

「ところで紫炎。耀と何かあったのか?」

 

「・・・ちょっとな」

 

「言いたくないなら無理強いをしないが、・・・耀にちゃんと思いを伝えてやることだ」

 

「ぶっ」

 

ニヤリと口角をあげて去っていくレティシア

 

それを聞いて少し顔を赤くして吹き出してしまった

 

「・・・ちゃんとか」

 

紫炎は誰にも聞こえないくらいに呟き、耀の料理を持っていくことにした

 

―――――――――――――

 

紫炎が耀の部屋の前まで来た

 

「よし」

 

覚悟を決めてノックをする

 

「耀。昼食を持ってきたぞ」

 

「・・・うん」

 

少し間が開いた返事がした後、耀が下を向いて出てきた

 

「・・・ごめん」

 

「えっ?」

 

いきなり耀に謝られ、混乱する紫炎

 

「この二日間、まともに喋れなかったから・・・」

 

「いや、俺こそごめん。いきなりあんなことを言ったから・・・」

 

紫炎も耀の言葉を聞き、頭を下げる

 

「ううん、違うの。・・・嬉しかったの」

 

頬を染めながら紫炎を見て耀が言う

 

「え・・・。それって」

 

「でも、紫炎を見てると顔が赤くなっちゃって恥ずかしかったから・・・」

 

頬をかき、照れくさそうに言う耀

 

それを見て紫炎が口を開く

 

「耀。二日前は途中だったが今回は・・・」

 

「待って」

 

が、耀に止められる

 

「もし、全部が終わって気持ちが変わらなかったらもう一度言ってほしい」

 

「でも、お前の気持ちが変わってるかもしれない」

 

「それはない」

 

紫炎が口を開くと、耀がすぐに言い返す

 

「私の気持ちはずっと変わらないから」

 

そう言って耀が紫炎に抱き着く

 

それを紫炎が抱きしめ返し、喋りだす

 

「ああ、俺の気持ちも・・・」

 

と、言ってる途中に、ぐぅ~、と大きな音が聞こえた

 

「・・・ごめん。結構限界だった」

 

「いや、俺も何で来たのか忘れてた」

 

その後、料理を耀に渡し、紫炎はゲームに参加しに行った



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第四十四話

アンダーウッドの収穫祭の前夜祭の前日、全ての日数を出れる二人が決まった

 

一人目は十六夜、成果は“地域支配者”の証、外門の利権書

 

二人目は紫炎、大きな成果は肉牛と乳牛を七頭ずつと鶏三十羽と鳥小屋、さらに野菜の種を数十種類

 

 

その日の夕食は紫炎、黒ウサギ、リリが腕によりをかけて振る舞った

 

特に黒ウサギは魚をあげたものにとろみのある餡をかけたものが一番の力作のようだ

 

「やっぱり紫炎の料理は美味しいね」

 

「流石、サラマンドラ主催の料理大会で優勝するだけの実力はあるわね」

 

「まあ、そのおかげで今回のゲームに勝てたんだからな」

 

二日前にサラマンドラから料理大会の招待状が届き、そこで優勝し、成果のほとんどがそれの賞品だったのである

 

ペストとの戦いの休戦期間中に振る舞った料理が大好評だった為、呼ばれたらしい

 

「私は前夜祭が終わってからか・・・」

 

そう呟いた耀の表情が暗くなったのに気付いた紫炎

 

「耀。どうし・・・」

 

「黒ウサギ。これは酢漬けの方が美味い」

 

この十六夜の一言で食堂全部の空気が気まずくなった

 

―――――――――――――――――

 

十六夜がレティシアと入ると言い出したので今は一人で入っている紫炎

 

「はあー。一人で入るってやっぱいいわ」

 

広い浴場に一人でのびのびと入る紫炎

 

「そういえば一人で入るのってこっち来てから初めてだな」

 

少し感傷に浸ってると風呂場の扉が開いた

 

「お、十六夜か。やっぱ今、入るのか?」

 

「違う。私・・・」

 

「えっ!耀!?」

 

耀がタオルを巻いて入ってきた

 

それを見て紫炎はタオルを腰に巻く

 

「入るね」

 

「ちょ、ちょっと待て。なんで?」

 

「先に行っちゃうでしょ。少しでも長く一緒に居たくて・・・」

 

耀がそう言いながら近づいてくる

 

「迷惑だった?」

 

「そうじゃないが・・・。少し気恥ずかしい」

 

紫炎が顔を赤くしながら言った

 

耀も顔を赤くしながら言う

 

「私だって恥ずかしい」

 

そう言って二人は背中合わせになる

 

「悪いな」

 

「何が?」

 

「さっき飛鳥から聞いた。そんなに悩んでたんだな」

 

紫炎がそういうと耀の肩がビクッと震える

 

「俺にも言ってくれれば・・・」

 

「そんなことされても嬉しくない」

 

少し怒った声で紫炎の言葉に反応する耀

 

「飛鳥は確かにジャックたちの時は譲ってくれたけど、その後はちゃんと勝負として本気で取り組んでくれた」

 

「・・・そうだな。悪かった、そんなことして行けても嬉しくないよな」

 

「わかってくれたならいい」

 

そして耀が紫炎に寄りかかる

 

「ガンバって来てね」

 

「ああ」

 

耀の言葉を返した瞬間、風呂場の扉が開いた

 

「耀さん。気持ちいいですか?」

 

「今日は早いのね、春日部さん」

 

黒ウサギと飛鳥が入って来た

 

「「え!?」」

 

「「あ・・・」」

 

耀が紫炎から離れていく

 

「「きゃああああ」」

 

「ぐはっ」

 

二人が叫んだ瞬間、黒ウサギがヴァジュラ・レプリカで紫炎に攻撃した

 

モロに食らった紫炎が目覚めたのは日が昇る少し前だった

 

―――――――――――――――

 

翌朝、アンダーウッドに行く為に集まってるのだが十六夜がまだ来ていない

 

「まだヘッドホン見つからないのか」

 

あくびをしながら紫炎が言う

 

十六夜が風呂から上がるといつもつけていたヘッドホンがなくなっていたらしい

 

夜通し探していたらしく紫炎が起きた時にも探していたらしい

 

その時、十六夜は紫炎にも頼んで探していた

 

一時間ほど探すのを手伝った後、眠いからという理由で紫炎は手伝うのを止めた

 

「あっ、言ってたら来たみたいよ」

 

飛鳥が指さした方向を見ると十六夜がいたのだが・・・

 

「なんだそれは」

 

ヘッドホンの代わりにヘアバンドをしている

 

「頭の上に何かないと髪が落ち着かなくてな。それよりも話がある」

 

十六夜がそう言うと後ろから耀が出てきた

 

それを見て紫炎が十六夜に問いかける

 

「お前はそれでいいのか?」

 

「まあな。壊れたスクラップだが、あれが無いと困るんだよ」

 

十六夜が笑いながら言ってくる

 

「ありがとう、十六夜。頑張ってくるよ」

 

「おう。南側には幻獣がたくさんいるらしいから友達を百人くらい作ってこいよ」

 

「ふふ、わかった」

 

耀の言葉を茶化して返す十六夜

 

「それじゃあ私たちは行ってきますね」

 

黒ウサギを先頭に、ジン、飛鳥、耀、紫炎、三毛猫の五人と一匹が本拠を後にした



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第四十五話

紫炎たちは境界門を通って七七五九一七五外門“アンダーウッドの大瀑布”、フィル・ボルグの丘陵に着いた

 

すると、丘陵に冷たい風が吹いた

 

「きゃ・・・!」

 

「わ・・・!」

 

それに驚いた飛鳥と耀が声を上げる

 

それを気にせず紫炎は眼下の風景を見ている

 

「絶景だな」

 

紫炎のその言葉を聞き、二人もそちらを見る

 

「たしかに凄い水樹ね」

 

飛鳥達が見たのは樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市だった

 

「飛鳥、紫炎、下!滝の先に水晶の水路がある」

 

耀が大きな声で二人に呼びかける

 

「へー。綺麗だな」

 

紫炎の感想とは裏腹に飛鳥は何か考え込んでる様だ

 

「二人とも、上!」

 

それを聞き、二人は上を見る

 

そこには角の生えた鳥が何十羽も飛んでいた

 

それを見て紫炎は厳しい顔で、飛鳥は唖然としながら見上げていた

 

「聞いたことも見たこともない鳥だよ。やっぱり幻獣なのかな?黒ウサギは知ってる?」

 

「え、ええ。まあ・・・」

 

耀の言葉に黒ウサギが苦い顔で答える

 

「ちょっと見て来てもいい?」

 

「ダメだ」

 

興奮気味の耀を紫炎が手を掴んで止める

 

すると懐かしい声が聞こえてきた

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそわが故郷に」

 

白夜叉の試練の時にいたグリフォンだった

 

ちなみに紫炎は南に来ることが決まってから指輪をつけているので、言葉は聞こえている

 

「久しぶり。ここが故郷だったんだ」

 

『ああ。サウザンドアイズもバザーに参加するのでな、護衛の為に来た。ところで小僧、何故友の手を掴んでいる?』

 

「耀がペリュドンに近づこうとしてたから止めてたんだよ」

 

紫炎が上空を指さしながら言う

 

グリフォンがそちらを見て眼光が鋭くなる

 

『彼奴らめ・・・。あれほど警告したのにまだいるのか。余程人間を殺したいと見える』

 

「食人種なの?」

 

「違う。ペリュドンは人間を殺すだけ、言わば殺人種だ」

 

耀の言葉を紫炎が訂正を入れる

 

するとグリフォンが紫炎に興味を示す

 

『小僧、博学なのだな』

 

「南に来ることになってから幻獣について調べまくったからな。それと小僧は止めろ。俺には紫炎ていう名前があるんだ。わかったか、グリフォン」

 

『私も騎手からグリーと呼ばれている。種族で呼ぶのは止してもらおう』

 

二人が睨みあいながら喋る

 

言葉のわからないジンと飛鳥は何が何だか分からない様だ

 

「そんな危険な種だって知らなかった。ありがとう、紫炎」

 

会話を聞いていた耀が空気を変える為に紫炎に話しかける

 

その言葉を聞き、二人の空気が変わる

 

「別に礼なんていいさ。ところで街までどれくらいあるんだ?グリー」

 

『ふっ・・・。少し距離がある上、南側には野生区画というものもあり、道中は危険だ。私の背で送って行こうか?紫炎』

 

二人が仲良さげに話しているのを聞き、耀が嬉しそうに笑う

 

「俺は大丈夫だから、他のやつらを頼む」

 

「うん、お願い。それと私もグリーって呼んでもいい?私は耀で、向こうの二人はジンと飛鳥」

 

『別に構わん。それと友の名前は耀で、友の友はジンと飛鳥だな』

 

この会話を黒ウサギがジンと飛鳥に説明し、頭を下げて背に跨る

 

三毛猫は黒ウサギに抱かれている

 

『それでは行くぞ』

 

グリーがそう言うと翼で風を起こし、大地を蹴って飛び立つ

 

「わ、わわ」

 

グリーが瞬く間に外門から離れていく

 

耀は何とかついて行ってるが紫炎はまだ動いていない

 

『やるな。半分足らずの力で飛行しているとはいえ、二か月足らずで私に付いてくるとは』

 

「う、うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたから。けど紫炎が・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ。きっと追いついてきますよ」

 

耀と黒ウサギがまだ来ていない紫炎の心配をするが他はそれどころではなかった

 

ジンは最初に加速した時に風圧で飛んだが命綱のおかげで宙づり状態になっている

 

飛鳥はジンの二の舞にならないように手綱を掴んで歯を食いしばっている

 

三毛猫は黒ウサギに抱かれているおかげで落下の危険はないが風圧でもがき苦しんでいた

 

『お、お嬢!!旦那に速度を落とすように頼んでくだせぇぇえええ!!』

 

それを聞き、耀がグリーに声をかける

 

「グ、グリー。後ろが大変なことになってる」

 

『む?おお、すまない』

 

グリーが速度を緩める

 

すると何かが通り過ぎた

 

「おっと、行き過ぎた」

 

「紫炎!」

 

紫炎が後ろからもの凄いスピードで追い越し、前で止まった

 

『ほう?なかなかのスピードだな」

 

「俺はグリフォンの飛び方に近くてな、空気を踏めるものに作り替えてそれを蹴って加速してるんだ。だから勢いが付き過ぎるから少し遅れて動いたんだ」

 

紫炎が説明しながら宙づり状態のジンをグリーの背中に戻す

 

「あ、ありがとうございます」

 

ジンが紫炎にお礼を言う

 

それを聞いて紫炎が軽く手を挙げて反応する

 

「わあ・・・。掘られた崖を樹の根が包み込むように伸びているわ」

 

少し余裕ができた飛鳥が下を見て言う

 

「アンダーウッドの大樹は樹齢八千年と聞きます。今は木霊が棲み木として有名です」

 

『しかし十年前に魔王の襲撃を受けて大半の根がやられてしまった。多くのコミュニティの助けのおかげでようやく景観を取り戻している』

 

グリーの言葉に、言葉のわかる三人が魔王という単語に反応するが、グリーは気づかず話を続ける

 

『今回の収穫祭は復興記念も兼ねているから、絶対に失敗できない』

 

言葉に強い意志を込めながらいうグリー

 

紫炎がそれに答えるように言う

 

「任せとけ。俺らが盛り上げてやるさ」

 

「うん」

 

それに耀が頷く

 

そんな話をしながら地下の宿舎に着いた

 

三人と一匹をおろした後、グリーが翼を大きく広げた

 

『私は騎手と戦車を引いてペリュドン共を追っ払ってくる。耀たちはアンダーウッドを楽しんでくれ』

 

「うん。気を付けてね」

 

その言葉を聞き、グリーは旋風を巻き上げて飛び立つ

 

すると耀が少し困った様に紫炎に問う

 

「殺人種なんているんだね。もし、私があの幻獣からギフトを貰ったらどうなるんだろ?」

 

「やめとけ。間違いなく襲われるし、もしかしたら呪いを受けるかもしれないぞ」

 

「呪い?」

 

「どこかの神に己の姿と違った影を映す呪いを先天的にかけられたらしくてな。その解呪方法として人間を殺してるらしい」

 

「そう、なんだ」

 

紫炎から少し強めにくぎを刺され、肩を落とす

 

それを見て紫炎は、他の奴が見ていないのを確認し、耀の頭に手を置く

 

耀も置いた瞬間はびっくりしたが、紫炎の手だとわかり、顔を赤くする

 

すると上から声が聞こえた

 

「あー!耀じゃん。お前らも収穫祭に?」

 

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えた覚えはありませんよ」

 

全員が上から聞こえた声に反応し、見てみると、ウィル・オ・ウィスプのアーシャとジャックがいた

 

「アーシャ達も来てたんだ」

 

「まあね。こっちにも事情があって、サッと」

 

「こら、おやめなさい。アーシャ」

 

窓から飛び降りて耀たちの前に下りたアーシャをジャックがふわふわおりながら叱る

 

「あっ!失礼男までいる!!」

 

「誰が失礼男だ」

 

「こら、いい加減にしなさい、アーシャ」

 

ジャックに怒られ、肩を落とすアーシャ

 

するとアーシャは耀の方へ、ジャックは紫炎の方に歩み寄った

 

「先ほどは失礼しました」

 

「別にあれぐらいの暴言は慣れてる。それより無視されてる方がきついからな」

 

紫炎がジン、飛鳥、黒ウサギの三人を見る

 

「いえいえ、そっちではなく。いえ、そっちの方でもあるんですが・・・」

 

ジャックがそういうと紫炎にだけ聞こえるように囁く

 

「アーシャが話しかけなければもう少し春日部嬢に触れていられましたので。かなり進展があったようですね」

 

「なっ・・・」

 

ジャックの言葉に紫炎が顔を赤くする

 

ジャックはそれを見てヤホホホと笑いながら紫炎から離れて行った



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第四十六話

ノーネーム一同はジャックとアーシャに連れられて貴賓客が泊まる為の宿舎に入った

 

その中は半分が土で作られていたが、水樹の根のおかげか、空気が乾燥していなかった

 

「・・・凄いところだね」

 

耀がところどころ出ている根に座って感想を述べた

 

「確かにそうね」

 

「北側は建造物が多かったがこっちは自然に適して過ごしているって感じだな」

 

耀の言葉に飛鳥と紫炎が自分の思ったことを口にする

 

「YES!南側は箱庭の都市が建設された時、多くの豊穣神や地母神が訪れたらしいのでその名残かと」

 

「そうなのね。でも水路の結晶は北側の技術でしょう?」

 

飛鳥の言葉に黒ウサギが首とウサ耳を傾ける

 

「なんだ?気づいてなかったのかよ。似たようなのが誕生祭にあっただろ?」

 

紫炎の言葉にジャックが感心したように答えた

 

「良く分かりましたね。確かにあれは北側の技術ですよ。十年前の魔王襲撃からここまで復興できたのは、その技術を持ち込んだ御方の功績だとか」

 

「そ、それは初耳でございます」

 

誰なんだろうか?と言った表情でノーネーム一同が顔を見合わせる

 

ジャックは顎っぽいところに手を当てて説明を続ける

 

「実はアンダーウッドに宿る大精霊なんですが・・・十年前の傷跡が原因でいまだ休眠中だとか。そこで龍角を持つ鷲獅子のコミュニティは共存を条件に、復興と守護を担っているんです」

 

「という事はその復興を主導しているのが元北側出身者ってことでいいのか?」

 

「ええ、その通りですよ」

 

その言葉を聞き、紫炎はニヤリと笑い、黒ウサギはジャックの言葉に現在のノーネームの状況を重ねあわせている

 

(十年でコミュニティのトップに立つってことは、かなりの実力者って事か)

 

紫炎がそんなことを考えていると扉が一つ開いた

 

「ジャックさん、アーシャ。何してるんですか?早く主催者にあいさつしにいかないと」

 

すると、十五歳くらいの黒髪の男の子がいた

 

「そうですね。けど、まずはこの方たちに自己紹介しなさい」

 

「クリス=イグニファトゥスといいます。以後お見知りおきを」

 

クリスが丁寧にお辞儀をして自己紹介をする

 

「私は久遠飛鳥。こちらこそよろしく」

 

「春日部耀」

 

「私は黒ウサギと申します」

 

「で、俺は・・・」

 

「三人ともお綺麗ですね」

 

三人が自己紹介をした後、紫炎が名前を言おうとした瞬間、クリスが三人の手を握る

 

そのまま手の甲にキスをしようとする

 

「赤羽紫炎だ。以後よろしく」

 

それを紫炎が蹴って阻止した後、名前を言う

 

「ありがとう、紫炎」

 

「私もよ。いきなりで対処できなかったわ」

 

「黒ウサギもです」

 

紫炎が三人から礼を言われているとジャックが謝って来た

 

「皆さん、すいません。クリスは基本的にはいい子なんですが、美少女を見ると暴走してしまうんです」

 

ジャックが言い終わると、クリスが立ち上がった

 

「何してくれてんですか?」

 

顔は笑顔のクリスだったが、口調は少し崩れ、目は笑ってなかった

 

「おやめなさい、クリス。貴方が戦っても多分、勝てませんよ」

 

「そんなものやってみなければ分からないじゃないですか」

 

クリスの周りに火の玉が現れる

 

「くら・・・」

 

「オラッ」

 

火の玉が襲う前にクリスを蹴って、もう一度壁まで飛ばす紫炎

 

「あいつは一体なんなんだ?」

 

「火龍誕生祭の時にあなたと戦うはずだった者ですよ」

 

紫炎の言葉にジャックが答える

 

その間にアーシャが壁に突き刺さっているクリスを引き抜いている

 

「そういえばまだ主催者にあいさつに行ってないんだろ?一緒に同行していいか?」

 

「私はよろしいですが・・・」

 

紫炎の言葉にジャックが言葉を詰まらせ、クリスの方を見る

 

「ジャックさんなら手綱をとれるんだろ?」

 

「まあそうですけど・・・。皆さんはどうでしょうか?」

 

ジャックが黒ウサギ、飛鳥、耀の三人を見る

 

「ジャックさんが止めてくれるなら・・・」

 

「私もそれならいいわ」

 

「うん。私も」

 

三人が了承する

 

「じゃあ俺らは荷物を置いてくるから待っててくれ」

 

「ヤホホホ、同志の無礼な振る舞いのお詫びとして受け取っておきましょうか」

 

ノーネーム一同が部屋から出て行くときに、アーシャの叫び声が聞こえた

 

「ジャックさん!笑ってるなら手伝ってください!全然引き抜けないんですけど!!」

 

それを聞き、飛鳥が紫炎に喋りかけてくる

 

「紫炎君、少し強く蹴り過ぎじゃない?」

 

「そうか?」

 

まったく悪びれずに言う紫炎に飛鳥が呆れる

 

そうしていると、黒ウサギ、飛鳥、ジンがそれぞれの部屋に入った

 

そして耀の部屋の前まで来た

 

「じゃあ俺の部屋は少し離れてるとこにあるから少しかかるかも」

 

「うん」

 

紫炎の言葉を耀が返すと耳元で囁いた

 

「さっきはありがとう」

 

そう言って耀は部屋に入って行った

 

少し、照れくさくなった紫炎はそれを打ち消すかのようにダッシュで自分の部屋へと向かった

 



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第四十七話

紫炎たちは螺旋状に掘り進められた階段を上って、主催者の元へ向かっている

 

直線的には20mほどだが、螺旋状に進んでいる為、距離が少しある

 

しかし、ノーネーム一同は初めて来た都市に目を輝かせ楽しんでいる

 

すると、出店からいい匂いが漂って来た

 

「ねえ。あそこの店で売ってる“白牛の焼きたてチーズ”って」

 

「食べ歩きは主催者へのあいさつが終わってから・・・」

 

「美味しいね」

 

「いつの間に買ってきたんですか!?」

 

黒ウサギが耀の自由な行動に突っ込みを入れる

 

しかし、耀はそれを意を介さずに食べ続ける

 

飛鳥とアーシャがそれを羨ましそうに見ているのに耀が気付き、一言

 

「・・・匂う?」

 

「「匂う!!」」

 

「だって食べちゃったし・・・」

 

「「しかも空っぽ!!」」

 

耀が包み紙を開けていると飛鳥とアーシャが声を揃えて突っ込みを入れる

 

ジャックがその光景を見ながら笑っている

 

「ヤホホホ。賑やかな同志をお持ちで羨ましい限りですよ、ジン殿、紫炎殿」

 

「ええ。でもウィル・オ・ウィスプも賑やかさでは負けてませんよ」

 

紫炎の声が聞こえず、ジンが違う方を見ながら言う

 

ジャックもそっちの方を見ると紫炎とクリスが少し離れたところで店を楽しんでいた

 

「金魚すくいは俺の勝ちだぜ、クリス」

 

「うるさい。その前の輪投げじゃあ俺の勝ちだったからイーブンだ、紫炎」

 

「おっしゃー。次はあの射的で勝負だ」

 

「望むところだ。返り討ちにしてやる」

 

二人は友達同士で遊んでるかのようにはしゃいでいる

 

「どうしましょうか?」

 

ジンが困惑の表情でジャックに言う

 

「それは止めたほうが良いですけど・・・」

 

「いいじゃないですか、ジャックさん。クリスのあんな顔は初めて見ますし、何より嬉しそうですし」

 

アーシャが嬉しそうに言った

 

アーシャ達は子供の時に死んで地縛霊となったものを、ウィラが地霊として箱庭に連れてきている

 

なので遊びたい盛りで死んでしまったという事だ

 

「けど、いい加減止めないと・・・」

 

ジンが心配そうに紫炎たちの方を指さす

 

「あ、ふざけんじゃねえ。それは俺の綿菓子だろ」

 

「さっき、俺のチョコバナナを食べたのを忘れたとは言わせないぜ、紫炎」

 

「それとこれとは別だ!!」

 

「一緒だボケ!!」

 

二人が炎を放出する

 

すると、いつの間にか耀が紫炎に近づいていた

 

「喧嘩は駄目」

 

と言って頭にチョップを当てる

 

「ああ、悪かった」

 

すると紫炎はすぐに炎を収めて戦闘態勢を解く

 

それを見てクリスは涙目になりながら少し怒りながら言葉を発する

 

「俺が二対一で勝ったのを忘れんじゃねーぞ」

 

「別にいいぜ。それ以外で勝てばいいんだから」

 

紫炎がそう言って耀の肩を抱き寄せる

 

耀も特に抵抗せず顔を赤らめているのをクリスが見て

 

「ちくしょーーー」

 

泣きながら走り去って・・・

 

「待ちなさい、クリス」

 

「ぐへ」

 

行けなかった

 

ジャックに走り去ろうとした瞬間、殴られ気絶した

 

「へえー。紫炎君と春日部さんって」

 

「みたいですね」

 

一連の流れを見ていた飛鳥と黒ウサギがニヤニヤしながら二人を見る

 

「「っ・・・」」

 

二人はその言葉を聞き、急いで離れたが顔は真っ赤だった

 

「え?何が?」

 

アーシャ一人だけが何が何だかわからないといった表情をしている

 

それでも飛鳥と黒ウサギの二人は見てくる

 

「・・・先に行く」

 

空気に耐えられなくなった耀が飛んで行こうとするが紫炎が止める

 

「待て。どこに行けばいいか分からないだろ」

 

それを聞き、耀が渋々降りる

 

「ということでどこに行けばいいか教えろ」

 

紫炎が黒ウサギに問い詰めようとするがジャックが言葉を発する

 

「ヤホホホ。お気持ちは分かりますが、団体行動を乱すものではありませんよ?本陣までエレベーターがありますから時間はあまりかかりませんよ?」

 

「え?」

 

紫炎はそれを聞かず、喋りそうになかった黒ウサギの口をガムテープで塞いだ

 

「自由ですね」

 

「そんなことはどうでもいい。さっさと本陣まで行こうぜ、ジャック」

 

紫炎がジャックを急かすと、笑いながら進む

 

太い幹の麓に木造のボックスがあり、ジャックが手招きをする

 

「皆さん、乗ってください。全員乗ったら扉を閉めてベルを二回鳴らしてください」

 

「わかった」

 

耀がそう言って二回引っ張ると、上空の水樹の瘤から水がながれ、ボックスに繋がってる空き箱に水が注がれ、滑車が周り徐々に上がって行った

 

「原始的だが、確かに早いな」

 

「ヤホホホ。そうでしょう。っともう着きましたね」

 

本陣までついたボックスを金具で固定し、木造の通路に降り立った

 

少し幹を進むと龍角を持つ鷲獅子の旗が見えた

 

「旗が七枚あるわ。七つのコミュニティ主催してるのかしら?」

 

飛鳥が聞いてくる

 

「いえ、違いますよ、お嬢さん。主催しているコミュニティは六つ、真ん中にあるのは連盟旗と呼ばれるものです」

 

するといつの間にか起きたクリスが飛鳥の手を握り、説明してくる

 

それを振り払い、飛鳥がジャックにさらに疑問をぶつける

 

「連盟って何のために組むのかしら?」

 

「用途はさまざまですが、一番は魔王に対抗する為でしょうかね」

 

「「「魔王に?」」」

 

ジャックの言葉に三人が不思議そうに聞く

 

すると黒ウサギが答える

 

「YES!連盟加入コミュニティが魔王に襲われた時、助太刀のため、ギフトゲームに参加できるのでございます」

 

「へえー、そりゃ便利だ」

 

「まあ、絶対に可能かと言われればそうでもありません。あまりにも分が悪いと助けに来てくれないことも多いです」

 

黒ウサギの話を聞いていると、二人の代表が受付で入場届を出している

 

すると、受付をしていた樹霊の女の子が飛鳥に視線を向ける

 

「もしかして久遠飛鳥様でございましょうか?」

 

「ええそうだけど、貴女は?」

 

「私は火龍誕生祭に参加していた樹霊の一人です。飛鳥様には弟を助けてもらったとお聞きしたので・・・」

 

そこまで聞くと、飛鳥と紫炎は思い出し、頷く

 

それを見て受付の少女は深く頭を下げる

 

「ありがとうございます。おかげでコミュニティ一同、誰も欠けることなく帰ってこられました」

 

「それは良かったわ。それじゃあ貴方達が私たちに招待状を送ってくれたのかしら?」

 

「はい。大精霊は今、眠っていますので・・・。他には“一本角”の新党首にして龍角を持つ鷲獅子の議長、サラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

その名前を聞き、三人が首を傾げる

 

「ドルトレイクって確か・・」

 

「ええ、覚え違いじゃなければサラマンドラの・・・」

 

そこまで言って全員がジンの方を見る

 

「サンドラの姉である長女のサラ様の名前です。・・・もしかしたら北側の技術を流出させたのも―――」

 

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

ジンの言葉を遮った聞き覚えのない声の方に全員が振り返った



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第四十八話

後ろを振り返ってみると、二枚の炎翼で空を飛んでいる女性がいた

 

「サ、サラ様!」

 

「久しいな、ジン」

 

燃え盛る炎翼を消失させて幹に下りたサラは、踊り子を思わせるような格好である

 

その挙動を紫炎は、じっと見ていた

 

(なるほど。炎をああいう風に使えば飛べるのか)

 

すると耀がいきなり頬をつねる

 

「痛っ!!」

 

「・・・スケベ」

 

「?」

 

紫炎は何故耀が怒っているか分からない様子

 

それを見て耀が紫炎の腕にくっつく

 

「・・・一体どうしたんだ?」

 

「馬鹿・・・」

 

紫炎の言葉を聞き、さらに力を入れる耀

 

「こんなところで立ち話も何だ。皆、中に入れ。茶の一つくらい出そう」

 

サラが二人のやり取りに気づかず、本陣に入りながら言う

 

二人以外も顔を見合わせながら入って行く

 

「なあ、耀。どうしたんだ?」

 

「だって、さっきサラさんに見惚れてたでしょ・・・」

 

「は?」

 

耀の言葉に紫炎が何の事かわかっていないらしい

 

「じーっと見てたでしょ」

 

「ああ。あれは炎の翼で飛んでるのを見て俺でも出来るかなって思っただけだ」

 

「あっ、そうなんだ」

 

紫炎の言葉を聞いて耀がホッとする

 

「もしかして嫉妬?」

 

紫炎が言った瞬間、耀の顔が真っ赤になった

 

「大丈夫だよ。俺はお前だけを見てるから」

 

そう言って紫炎は耀を抱きしめる

 

「ちょっとくさかったか?」

 

紫炎が片手で頬をかきながら聞く

 

「うん。・・・でも、嬉しい」

 

耀が紫炎の言葉を聞き、顔を赤くしながら言う

 

「どうする?このまま二人だけで祭りを楽しむか?」

 

「うん。そうしようか」

 

二人がそんなことを言ってると黒ウサギが飛鳥とジンを掴んで髪を緋色にし、出てきた

 

「お二人とも、早く行きますよ!!」

 

そういって紫炎の首と耀の首元を掴む黒ウサギ

 

「え、何?」

 

耀が困惑していると飛鳥が説明してくれる

 

「白夜叉がブラックラビットイーターを発注したらしいのよ」

 

「そ、それより黒ウサギ。ちょっとく・・る・・・し・・い」

 

首を掴まれ、息も絶え絶えの紫炎

 

「そんなのはどうでもいいです。行きますよ」

 

怒っている黒ウサギは紫炎の言葉を無視して、展示物の保管庫へと向かった

 

――――――――――――――――――

 

「紫炎。大丈夫?」

 

「何とか。三途の川が見えた時はもうだめだと思った」

 

黒ウサギが猛スピードを出したので、ものの数分で保管庫までついた

 

黒ウサギは紫炎を気にせずヴァジュラ・レプリカで目標を焼きつくした

 

「何の音だ?」

 

「さあ?見に行ってきます」

 

倉庫の奥の方から声が聞こえてきた

 

それを聞き、黒ウサギが慌てだした

 

「ど、ど、どうしましょう・・・」

 

「その前にさっきの声、どっかで聞いたことがある気がするんだが?」

 

そんなこんなしてると声の主が現れた

 

「そこにいるのは誰だ」

 

「ひゃあ!!」

 

「ん?月の兎がなんで一人でこんなとこにいるんですか?」

 

「え?一人?」

 

黒ウサギが周りを見回してみると紫炎たちはいなかった

 

「ふー。どうにか気づかれなかったみたいだ」

 

紫炎は黒ウサギだけ残して物陰に隠れている

 

状態としては紫炎の両脇に飛鳥とジンが抱えられ、耀がおんぶされている感じである

 

「ねえ、なんで外まで出なかったの?」

 

「いや、ちょっと声の主が気になってな」

 

そう言って紫炎が黒ウサギの方を覗き見る

 

すると紫炎と同い年くらいの青髪の少年が黒ウサギと言い合ってる

 

「何であなたは展示物を燃やしたりするんですか!!」

 

「あんな自然の摂理に反した黒ウサギ限定の嫌がらせ植物は燃えて肥やしになるのが一番なのですよ」

 

黒ウサギが手をぶんぶん振りながらもう抗議している

 

「別に知らない人でしょ?」

 

耀が紫炎の隣で顔をひょこ、っとだし言う

 

「ああ、そうだな」

 

(二人分の声が聞こえた気がするんだが・・・。まあいいか)

 

そう思って四人が出て行こうとするともう一度聞き覚えのある声が聞こえた

 

「おおー。黒ウサギちゃんじゃないか。お久しぶり」

 

「え!?紫龍さん!?なんでこんなところに?」

 

紫龍の名前が出た瞬間、紫炎の動きが止まり、殺気が出る

 

「俺たちは白に頼まれてきただけだ」

 

「まさかあの怪植物ですか!?」

 

「ああ、あれの受け取りと、それまで他の展示品の警護も任されてた」

 

「それをあなたが燃やしてしまったんですよ」

 

「あれは燃やされても仕方のないものです」

 

そこからまた二人の言い合いが始まった

 

すると飛鳥がとんでもないことが言う

 

「紫炎君。紫龍さんに春日部さんとの事、言いに行ったら?」

 

飛鳥が笑いながら二人を見る

 

「ふざけんな。なんであいつに言わなきゃならんのだ」

 

「そりゃあ俺がお前の父親だからな」

 

「だまれ。俺は認めん」

 

紫炎が紫龍に向かって大声で怒る

 

「「「え!?」」」

 

突然現れた紫龍にジン、飛鳥、耀が驚く

 

紫炎だけが何事もなかったかのように続ける

 

「八年も放っておいて今更、父親面すんな」

 

「それを言われると反論しづらい」

 

「わかったなら俺らは行くぜ。おい、黒ウサギ。さっさと来い」

 

紫炎の言葉に黒ウサギが反応し、こちらに来る

 

紫炎たちはその後、保管庫から出た

 

「龍さん。いいんですか?」

 

「まあ、白には事情を説明すればわかってもらえるだろうから、問題はない」

 

「いえ、そちらではなく・・」

 

少年が呆れた様子で紫龍を見る

 

「息子さんの方ですよ」

 

「なおさら問題ない」

 

即答する紫龍にさらに呆れた目で見る少年

 

「そんな目でみるなよ。別にあいつがどうなっても良い訳じゃない」

 

「そうとしか聞こえませんが・・・」

 

「あいつも大人になってきてる、ってことだ」

 

それを聞き、少年はため息をつく

 

「わかりましたよ。けど、どうせ過保護に見守るのでしょ」

 

「もちろん」

 

親指を立てていい笑顔で答える紫龍

 

「少しは大人になってください」

 

少年はとても呆れた目で紫龍を見続けた



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第四十九話

保管庫を後にした紫炎たちは収穫祭を見て回っていた

 

「へえ。色々な苗とかあるな」

 

「こんな毛皮の商品もあるわよ」

 

飛鳥がそれを手に取り、皆にみせる

 

「民族衣装なんてものもあるんですね」

 

「これ可愛いね」

 

黒ウサギが持っている服に耀が感想をのべているとジンが何かに気付いたようだ

 

「その衣装って試着出来るみたいですよ」

 

「どうせなら三人で着てみたらどうだ?」

 

紫炎の言葉に三人は少し戸惑っているようだ

 

「でも試着すると時間かかっちゃうよ。それでもいいの?」

 

「別にいいよ。な、ジン」

 

「はい。お気になさらずに」

 

三人がその言葉を聞き、試着室のほうに向かって行った

 

ジンと二人だけになると紫炎にジンが喋りかけてきた

 

「十六夜さんのヘッドホン見つかったと思いますか?」

 

「多分見つかってないと思うぞ」

 

「どうしてそう思ってるんですか?」

 

「あれだけ探して無かったってことは隠した犯人しか分からない場所にあるってことだ」

 

なるほど、と言った表情で紫炎を見るジン

 

話題が途切れたので紫炎は話題を変える

 

「しかし、サンドラの姉が南にいるとはな」

 

「ええ、驚きましたよ」

 

「ということはサンドラもあんな美人になるってことだ。良かったな、ジン」

 

「な、何を言うんですか。別に僕とサンドラはそんな関係じゃありません」

 

それを聞き、紫炎がニヤリとする

 

「そんな関係ってのはどんな関係なのかな?」

 

紫炎の言葉を聞き、ジンが狼狽える

 

「そ、それは・・・」

 

すると何か思いついたのか紫炎に向き合うジン

 

「それは紫炎さんや耀さんのような関係です」

 

そういった瞬間、ジンは紫炎に殴られた

 

「次、茶化したら燃やす」

 

「先に茶化してきたのは紫炎さんのほうでしょ!!」

 

そんな低レベルな言い合いをしてると

 

「なにしてるのかしら?」

 

飛鳥が試着室から出て二人に言葉をかけた

 

「ちょっとな」

 

少し視線を向け軽く返す紫炎

 

すると後ろから黒ウサギと耀も出てきた

 

「どう・・・かな?」

 

耀が紫炎の前に出て聞いてくる

 

今の三人の格好は上は耀のいつも着ている様なノースリーブのシャツで、下はロングスカートといった姿だ

 

紫炎は普段見られない三人の姿に見惚れてすぐには答えられなかった

 

すると、飛鳥が近寄って紫炎の耳元で囁いてきた

 

「ほら、気の利いた一言を言ってあげたら?」

 

その言葉で我に返った紫炎はもう一度、耀の方を見る

 

なかなか言葉を出さない紫炎を見て耀が悲しそう俯く

 

「やっぱり似合わないか・・・」

 

「い、いや。可愛すぎて言葉が出なかっただけだ」

 

慌ててた紫炎は少し大きめな声で思ってたことを言ってしまった

 

それを聞き、耀は耳まで真っ赤になり、ショートした

 

「あ・・・・う・・・・え・・・っと」

 

「耀さん!?大丈夫ですか!?」

 

「とりあえず私たちは春日部さんを着替えさせるから、貴方達は待ってなさい」

 

そう言って三人は試着室の方に向かった

 

「えっと、・・・紫炎さん?」

 

ジンが紫炎に言葉をかける

 

「今、茶化すなよ」

 

殺気を込めて言う紫炎だったが、顔が真っ赤だった為全然迫力がなかった

 

「あの、紫炎さん。一回外に出ましょうか?皆こっちを見てますから・・・」

 

大声であんなことを言ったのだから当然であろう

 

そうして、三人が出てくるまで外で待っていた二人だった

 

――――――――――――――――

 

その後、ノーネームの面々はヒッポカンプの騎手やその他もろもろのギフトゲームの登録を済ませた後、宿舎に戻り、談話室で談笑していた

 

「しかし、思ったよりギフトゲームの数が少なかったな」

 

「YES!本祭が始まるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏を行うコミュニティも出てくるはずなのです」

 

紫炎の言葉に黒ウサギがいつも以上のテンションで返してきた

 

それを見て不思議に思った耀が疑問をぶつけた

 

「ねえ、黒ウサギ。もしかして前々からアンダーウッドに来たかったの?」

 

「ええと、昔お世話になった同志が、南側の生まれだったので少し・・・」

 

「同志ってことは・・・」

 

「ええ。魔王に連れ去られた一人で、幼かった黒ウサギをコミュニティに招きいれてくれた方でした」

 

その言葉を聞き、紫炎、耀、飛鳥の三人が顔を見合わせる

 

飛鳥が恐る恐る黒ウサギに聞いた

 

「黒ウサギはノーネームの生まれではないの?」

 

日々の黒ウサギの献身ぶりを見ている紫炎たちには驚愕の事実である

 

「はい。黒ウサギの故郷は東の上層の月の兎の区にだったとか。しかし、絶大な力を持つ魔王に滅ぼされてしまって一族は散り散りになり、一人放浪としていたところを招き入れてくれたのが今の“ノーネーム”なのです」

 

それを聞き、三人は悲痛な表情になった

 

「黒ウサギは受け入れてくれた恩を返すために、ノーネームの居場所を守るのです。そして、いつの日か皆様のようなな素敵な同志が出来たと紹介したいんです」

 

黒ウサギの言葉に三人が微笑む

 

「そう。ならその日、とても楽しみにしてる」

 

「俺もだ」

 

「私もよ。ところでその黒ウサギの恩人ってどんな人だったの?」

 

飛鳥がそう言うと、黒ウサギは遠くを見て昔を思い出してる様だ

 

「彼女の名前は金糸雀様。我々のコミュニティの参謀の方でした」



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第五十話

談話室を出た紫炎は、自分の部屋で考え事をしていた

 

(あの時、紫龍に言われて初めてあの時の記憶が曖昧なのに気が付いた。でも、なんであいつはそう思ったんだ?俺の記憶がない時に何かあったのか?)

 

紫炎は答えが出ずに頭を抱えている

 

すると、少し離れたところから凄い音が聞こえた

 

「な、なんだ?」

 

紫炎が外を見てみると、巨人が宿舎を殴ってるのが見えた

 

(あそこは、確か耀たちが泊まってる場所に近かったはず・・・)

 

紫炎は窓から外に出て、炎翼をはばたかせ、巨人に一気に近づいた

 

そして、日本刀で一気に切り落とした

 

「大丈夫か!?」

 

「う、うん」

 

「YES!ありがとうございます、紫炎さん」

 

「ありがとう」

 

耀、黒ウサギ、飛鳥の無事な姿を見て、紫炎はホッとする

 

すると、間髪入れずに巨人が三体、落下してきた

 

飛鳥がそれを見てギフトカードを取り出す

 

「だ、駄目です、飛鳥さん。地下都市で、巨人とディーンが暴れたらめちゃくちゃになってしまいます」

 

黒ウサギが慌ててそれを制す

 

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

 

「紫炎さんと耀さんと共に地表へ。都市内は黒ウサギにお任せください」

 

そう言って、黒ウサギは巨人の方にかけて行った

 

「黒ウサギ、大丈夫かな?」

 

「あいつ一人なら集中狙いされたりして分からんが、他にも人がいるんだ。大丈夫だ。耀、飛鳥を頼むぞ」

 

紫炎がそう言って一気に地表に出る

 

そこには二百人前後の巨人と、アンダーウッドの住人による“戦争”が始まっていた

 

巨人一人にこちらは十人ほど、人数をかけて戦っている状態だ

 

それでも人数で勝るアンダーウッド側が優勢に見えるが、混乱した戦場で統率がとれなくなっていた

 

(サラはどこに行ったんだ!?議長のあいつならこの混乱もどうにかなるはず・・・)

 

紫炎が周りを見ていると、耀が近づいてきた

 

「紫炎!」

 

「耀か。サラを探してく。この混乱した戦場を収めさせたいんだが・・・」

 

「サラならあそこにいるけど・・・」

 

耀が指さした方向を見ると、サラは他の巨人より少し小柄な巨人三体と戦っている

 

戦い方を見ると、小柄だがあの三体が主力のようだ

 

「お前らは普通の巨人を相手にしてろ。俺は向こうに加勢する」

 

紫炎はそう言うと猛スピードでサラの方に向かった

 

「よっと」

 

紫炎は巨人の顔を踏み、加速を止める

 

「サラ!お前は連盟の指揮をとれ。ここは俺がやる」

 

「だ、だがお前一人では・・・」

 

サラの言葉の途中で巨人の一体が紫炎に向かって剣を振り下ろす

 

紫炎は冷静に剣ごと巨人の腕を切り落とす

 

「これぐらいなんでもない」

 

「そ、そうか・・・。なら任せるぞ」

 

サラがそう言って飛翔し、連盟に激励の声をかける

 

「よし、やるか」

 

そう言って紫炎は炎を全身に纏う

 

すると、どこからかポロン、という音が聞こえた

 

その音が聞こえた瞬間、あたりが霧に包まれた

 

「何!!」

 

いきなり視界がゼロになり、わずかに隙を見せる紫炎

 

そこに巨人が拳を当ててくる

 

「まともに食らってたらやばかったかもな」

 

それを紫炎は左手一本で微動だにせずに受け止める

 

「それじゃあ、試し切りさせてもらうぜ」

 

紫炎は巨人の腕を伝い、顔の前まで行き、剣を振り下ろした

 

「ウォォォォオオオオ」

 

巨人は断末魔をあげ、真っ二つになる

 

すると、もう一体の巨人が斧を振り下ろしてきた

 

「お見通しだ。デカブツ」

 

紫炎は炎を薄く放出し、周りの状況を把握している

 

体をひねり、剣で斧をかち上げる

 

先ほどのように何の前触れもなく、不思議なことが起き無い限り巨人たちには紫炎に触れられない

 

「そっちか」

 

紫炎はニヤリと笑い、斧が振り下ろされた方へ飛び、巨人を横一線に切る

 

「弱すぎるぜ、お前ら。ちっとは楽しませろよ」

 

紫炎は久々の戦闘で回りの音などには気が付かずにいた

 

そして、最後の装飾が施された巨人は直接手で触れて燃やし尽くした

 

ちょうどその時にグリフォンたちが巻き起こした突風により、霧が晴れた

 

するとそこには、紫炎が倒した三人以外が同一の殺害方法で倒れていた

 

「一体誰だ?弱いとはいえ、この数をあんな短時間で・・・」

 

紫炎が呟いていると、ある人物を見つけた

 

顔の半分を仮面で隠し、ドレススカートと鎧をつけていた

 

恐らくそれらは白を基調としてたものだろう

 

「あいつか・・・」

 

確信を持ってその人物を睨む

 

なぜなら、その人物は全身を巨人の血で赤く染めていたからだ

 

耀たちとその人物が何やら話しているのを見た紫炎は、その人物が去った後二人の元に戻った

 

「お前ら無事だったか?」

 

「ええ」

 

「うん」

 

紫炎の言葉に少し苦々しく答える二人を見て不思議に思ったが、機嫌を取り戻してもらうために続ける

 

「ま、まあ無傷でよかった。巨人くらい楽勝ってことだろう」

 

紫炎の言葉を聞き、飛鳥は顔を逸らし、耀は紫炎の渡したペンダントを握り俯く

 

すると、飛鳥が口を開く

 

「紫炎君も無傷みたいね」

 

「あ、ああ。まあな。俺の相手は三体だけだったし」

 

自分を下げて二人に元気を取り戻してもらおうとする紫炎

 

「主力三体を相手にして無傷ね」

 

飛鳥が自分で反芻し、耀と二人で項垂れる

 

「やっぱり紫炎は強いね」

 

(私なんて普通の巨人一体にすら勝てなかったのに)

 

それをみて紫炎は、二人の頭を乱暴に撫でる

 

「い、痛い」

 

「何するのよ!」

 

いきなりの事に耀は頭を押さえ、飛鳥は怒りながら紫炎を見る

 

「何、落ち込んでんだ。お前らにはお前らのいいとこがあるんだぜ」

 

その言葉を聞き、耀はもちろん飛鳥も顔を赤くする

 

「な、何でいきなりそういうことを言うのよ!」

 

「不意打ちは卑怯」

 

「へ?何が?」

 

何の事だか分からない紫炎を見て、少し呆れた目で見る二人

 

「もういいわ。それより彼女・・・強いわよ」

 

飛鳥が先ほどの仮面の女性が去って行った方を見ながら言う

 

すると、安全を知らせる鐘が鳴り響いた

 

「とりあえず大丈夫みたいだな。宿舎に戻ろうぜ」

 

「・・・・・・・・あっ」

 

紫炎の言葉を聞いた耀が何かを思い出したような声を出す

 

それを不思議に思った紫炎が口を開く

 

「どうし・・・うわっ」

 

「きゃ」

 

耀は紫炎の言葉も聞かずに旋風を巻き上げ、凄いスピードで地下都市に戻って行った

 

「マジでどうしたんだ?」

 

いきなりの事で考えの追いつかない紫炎

 

「そんな事言ってないで早く追うわよ」

 

「おっとそうだった」

 

飛鳥の声で紫炎が耀を追おうとする

 

「ちょっと待ちなさい。私も連れて行きなさい」

 

「あ、忘れてた」

 

紫炎は飛鳥を担ぎ、地下都市に戻ると、黒ウサギがやってきた

 

「あ、紫炎さん。サラ様が今回の事でお話があるそうなので着いて来てください」

 

「え。でもな・・・」

 

紫炎が宿舎の方を見る

 

「大丈夫よ。私が代わりに探しておくわ。あなたご指名なんだから早く行ってきたら?」

 

飛鳥が軽く笑いながら言ってくる

 

「・・・わかった。それじゃあ行ってくる」

 

そうして紫炎は黒ウサギの後をついていった

 

――――――――――――――――――

 

本陣に着き、サラの話を聞いた紫炎達

 

「十年前の魔王の残党か」

 

「しかし、あの巨人族は一体どこの巨人族なんでしょうか?あの仮面、どこかで・・・」

 

その言葉を聞き、サラがゆっくり口を開く

 

「あいつらは箱庭に逃げてきた巨人族の末裔の混血だ」

 

「やはり」

 

黒ウサギは確信があったのか、頷く

 

「箱庭の巨人族は多くが異界からの敗残兵だ。その経緯から基本的に戦いを避ける、穏やかな気性なのだが、五十年前に“侵略の書”と呼ばれる魔導書を手に入れた部族が巨人族を支配し始めたのがきっかけだ」

 

それを聞き、黒ウサギの顔が険しくなる

 

「もしかしてそのゲーム名はLabor Gabalaと呼ばれるものでは?」

 

「知っているのか?」

 

「ウサ耳にはさんだ程度ですが、別名“来寇の書”と呼ばれ主催者権限で土地を賭けあうゲームを強制できる書だとか」

 

「そうだ。それで奴らはコミュニティを大きくしていった」

 

「だが、戦いに敗れ滅んだ」

 

いきなり、ドアの方から声が聞こえたので振り返ってみると紫龍が立っていた

 

周囲の目を気にせず続ける紫龍

 

「元々穏やかな性格なら敗れた後、なんでここを狙い続けるのかな?」

 

おどけて言う紫龍だが、目はサラをしっかりと見据えていた

 

それを聞き、サラは後ろの連盟旗をめくりそこの金庫から人の頭くらいの岩石を取り出した

 

「この瞳が原因だ」

 

「瞳?ただの岩石のように見えるが・・・」

 

紫炎が見たまんまの感想を言う

 

「巨人族に瞳・・・。まさかバロールの死眼か?」

 

「良く分かったな。その通りだ」

 

紫龍の推測にサラが肯定で返す

 

それを聞き、ジンと黒ウサギが驚く

 

「バ、バロールの死眼!!?」

 

「ご、ご冗談を!?見るだけで死を恩恵を与えると言われる魔王の瞳じゃないですか!!?」

 

それを尻目に紫炎が口を開く

 

「そんな強力なもんがあるなら一回の襲撃で諦めるはずないな。だから俺らを呼んだのか?」

 

紫炎の言葉にサラは首を縦に振る

 

「それは我々もですか?」

 

ジャックが不安そうに聞いてきた

 

彼らウィル・オ・ウィスプのメンバーは戦闘力は高いものの、本来は物作りのコミュニティ

 

ペストの時のように巻き込まれたならともかく、自ら手を出すのは主義に反するらしい

 

「奴らはギフトゲームではなく、直接侵略行為をするような無法者。それなら我々部外者ではなく、階層支配者に相談するのが筋、というものでは?」

 

クリスが反論するとサラが苦い表情をする

 

「今、南側には階層支配者はいないんだ。黒死斑の魔王が東側を襲った同時期に南側にも魔王がきたらしくてね、その時に討たれたらしいんだ」

 

相も変わらず軽い口調で言う紫龍

 

すると紫龍の後ろからあの少年が現れた

 

「私たちはサラ様が白夜叉様に南側の階層支配者の選定を頼まれましたが、そうそう相応しいコミュニティがいるわけでもございません。なので、龍角を持つ鷲獅子連盟の五桁昇格と階層支配者の就任を同時に行うことを白夜叉様から持ちかけたのです」

 

少年はそう言うと自分の出番が終わった様で、一歩下がる

 

「南側の安寧の為だ。両コミュニティにも力を貸してもらえないだろうか?」

 

「そうは言われましてもねえ・・・」

 

事情を聴いても渋るジャックを見てサラはバロールの死眼に手を載せた

 

「多くの武功を立てたコミュニティにはこのバロールの死眼を譲渡しようと思う」

 

「は・・・・?」

 

いきなりの事で言葉を失うジャック

 

「ウィラ=ザ=イグニファトゥスは生と死を行き来する力があると聞く。ならば我々の元で腐らせるよりそちらで力をふるった方が有益だろう」

 

「おっしゃる通りですが、我々以外のコミュニティに渡ったときはどうするのですか?きっと我々以外に使いこなせるものなど・・・いないと思いますよ」

 

ジャックはそう言いながらノーネームメンバーの方を見た

 

「安心してほしい。これを譲渡するのは此処にいるどちらかのコミュニティに限らせてもらう」

 

「ぼ、僕たちにもですか!?」

 

「し、しかし黒ウサギ達の同志には適性を持ってる人はいないと思いますよ?」

 

二人の言葉に何か思い出したようなサラ

 

「すまない。これを白夜叉様から預かってたのを忘れていた」

 

そう言ってサラは小箱を渡してきた

 

「なんだそれ?」

 

「これはお前たちが黒死斑の魔王のギフトゲームの勝利条件を全て満たしてクリアしたことによる特別恩賞だ」

 

それを聞き、ジンが小箱を開くとグリムグリモワール・ハーメルンの旗印が刻まれた指輪が入っていた

 

 



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第五十一話

サラの話が終わった後、紫炎は急いで耀の元に向かっていた

 

すると、三毛猫が何故か打ちひしがれていたのを見つけた

 

「ん?どうしたんだ、三毛猫?」

 

「小僧か。わしは、わしは何てことをぉぉぉおお」

 

三毛猫が紫炎に飛び込んできた

 

「うわ。どうしたんだ?落ち着いて話せ」

 

「小僧、良い奴やな。実はな…」

 

三毛猫の話を要約すると、十六夜のヘッドホンは自分が耀のカバンに隠し、それが壊れてしまい、耀がかなり悲しそうにしていたらしい

 

「それで?耀はどこだ?」

 

「お嬢は宿舎に行ってヘッドホンの残骸を探してどうにかしようとしとる」

 

「それじゃあ俺はそっちに向かうわ。お前は黒ウサギのとこにでも行ってろ」

 

紫炎は三毛猫にそう言うと急いで耀たちのいる宿舎へと向かった

 

 

 

 

 

「耀、飛鳥」

 

紫炎が声をかけると、耀があからさまに驚いた

 

「し、紫炎。あの、その・・・」

 

「大丈夫だ、耀。三毛猫に事情は聴いた。どれくらい残骸集まった?」

 

紫炎がそう言うと耀がそれを見せてくる

 

「そうだ。紫炎君の力なら戻せるんじゃないのかしら?」

 

飛鳥が隣で言うと、耀が期待を持って見てくる

 

「そんな目で見られると言いづらいんだが、俺のギフトだと解決策にならないぞ?」

 

「どういうこと?」

 

「問題点は二つある。一つ目は粉々になってるこのヘッドホン。俺のギフトは物を直そうと思うと対象のものが欠けてないことが前提となる」

 

紫炎がそう言うと、飛鳥と耀はヘッドホンの残骸を見る

 

自分たちが拾った欠片が足りていないことには気づいているのだろう

 

「で、でもがれきの回収が済んだ後、見つけられれば・・・」

 

耀が食い気味で紫炎に聞いてくる

 

それを飛鳥が制す

 

「それで二つ目の問題は?」

 

「それが一番の問題なんだが、直ったとしても俺から一定距離、離れると元の残骸に戻るんだ」

 

それを聞き、耀が落胆する

 

それを見て飛鳥が声をかけた

 

「やっぱりヘッドホンを直すより十六夜君の機嫌を取る方が現実的よ」

 

「でも、何が一番いいだろう」

 

「俺の考えでは、ラビットイーターと黒ウサギのセットを贈」

 

「るわけないでしょう、このお馬鹿様!!!」

 

紫炎のボケにいつの間にか来ていた黒ウサギがハリセンで叩く

 

そして耀が目を見開いて一言

 

「それ名案!」

 

「ボケ倒すのも大概にしてください!」

 

黒ウサギがもう一度ハリセンで叩く

 

ジンも一緒に返ってきたようで、腕には三毛猫が抱かれていた

 

「耀さん。詳しい話は・・・って紫炎さん!なんで黒ウサギのウサ耳を掴むんですか!?」

 

紫炎は黒ウサギの耳を掴んだまま窓の近くまで行くと、ポイッと投げ捨てた

 

そして、後ろにいるジャックに目を向けた

 

「ジャック、話したのか?」

 

「ヤホホホ。道中に話したのですが・・・どうやらまずかったようですね」

 

ジャックがカボチャ頭をかく

 

「まあ、ばれたなら仕方がないか」

 

紫炎が耀と飛鳥を見ながら言う

 

ジンが話を変えるかのように口を開く

 

「ヘッドホンは駄目そうですか?」

 

「・・・うん」

 

「それなら仕方がないですね。僕から代案がありますが、きいてもらえますか?」

 

その言葉に耀と飛鳥が驚く

 

すると紫炎が口を開いた

 

「代案ってのは、やっぱりラビットイーターと黒ウ」

 

「いい加減ボケるのをやめてください、このお馬鹿様ぁぁぁあああ!!!」

 

窓から上がってきた黒ウサギのハリセンで最後まで言い切れなかった紫炎

 

「少しくらいは真面目にしてください!!」

 

黒ウサギが紫炎に突っ込みを入れた瞬間、緊急を知らせる鐘の音がアンダーウッド中に鳴り響いた

 

すると、網目模様の樹の根から樹霊の少女が声を張り上げてこちらに呼びかけた

 

「巨人族がかつてない大軍で強襲してきました!」

 

直後、地鳴りが辺り一帯に響いた

 

―――――――――――――

 

樹の根から出た紫炎たちが見たのは壊滅状態の一本角と五爪のコミュニティが壊滅状態になっていた

 

「おいおい、一体この短時間に何があったんだ?」

 

紫炎は軽い口調で言うが、耀達は面を食らって驚いてる様だ

 

そこに傷だらけのグリーが隣に下りてきた

 

「耀!丁度いい。今すぐ仲間を連れて逃げろ!」

 

「え?」

 

「奴らの主力に先日とは比べ物にならない化け物がいる。お前達だけでも東に逃げて白夜叉様に救援を・・・」

 

グリーが耀に話しかけていると琴線をはじく音が聞こえた

 

それを聞いた瞬間、紫炎たちの意識が飛びかけた

 

「この音色の所為で見張りの意識が飛んだのか!?」

 

「ああ。今は仮面の騎士と龍殿のおかげで戦線を支えているが、何時までもつか・・・」

 

ちなみにグリーの言葉は耀と黒ウサギが周りに翻訳している

 

それを聞き、ウィル・オ・ウィスプの面々が驚きの表情を見せる

 

「仮面の騎士!?まさかフェイス・レスが参戦してるのですか!?」

 

「まずいぜ、ジャックさん。もしあいつに何かあったらクイーン・ハロウィンが黙ってないぜ」

 

「すぐに助けに行きましょう!」

 

ジャックが麻布に火を点け、巨大な業火を纏いアーシャとクリスが上に飛び乗って最前線に向かった

 

「その竪琴を持ってる巨人は仮面の人や紫炎のお父さんでも勝てないの?」

 

耀がグリーに問いかけるが、代わりに紫炎が答える

 

「いや、多分攻めきれないんだろう。恐らくこれは近くで聞けば聞くほど、効力が高いものだと思う。それと、耀。あいつを俺の父親なんて言うな」

 

少し、語調が強くなった紫炎に耀がごめん、と謝る

 

「紫炎の言うとおりだ。それで昨日はサラ様の力が抑えられていたそうだ。となればそれは神格級のギフトと見て間違いない。後、竪琴を持ってるのは巨人族ではなく、お前らと同じ人間だ」

 

「え?」

 

「深めのローブを被っていたが、巨人族が従っていたところを見ると、奴が指揮者なのかもしれん」

 

グリーの言葉を聞いていると、遠くで巨人族の雄叫びと、幻獣の断末魔が聞こえてきた

 

「巨人族の数、大体で良いからわかるか?」

 

「おそらく、五百人を超える大軍隊だ。戦闘を請け負う部隊が壊滅状態ではもう・・・」

 

グリーの言葉を聞き、耀は言葉を失ってしまう

 

そんな耀に代わって黒ウサギが翻訳すると、ジンが自信を持って言葉を紡ぐ

 

「大丈夫です。僕に考えがあります」

 

飛鳥と耀は何の事か分からない表情をしているが、紫炎だけは何か思いついたようだ

 

「なるほど。奴らがケルト神話の巨人の末裔なら、瞬間的にならそのギフトで混乱させれるな」

 

紫炎が先ほどサウザンドアイズから届いたギフトを指さし、言った

 

「しかし、それだけだと足りません。竪琴の術者を捕えなければ同じことの繰り返しです。術者を捕える為にも耀さん、あなたの力が必要です」

 

それを聞き、耀は眉を顰めた

 

「それは私に見せ場を譲るってこと?」

 

その言葉を聞いた紫炎は耀の前に立ち、

 

「ていっ」

 

「あたっ」

 

デコピンを当てる

 

痛かったのかデコをさする耀

 

「別に同情でお前に言ってるんじゃない。お前の力が必要だからお前に頼むんだ」

 

真っ直ぐに耀を見つめて言う紫炎

 

「お前にしかできないことなんだ」

 

「・・・わかった。作戦を教えて」

 

紫炎の言葉に耀が頷きながら答える

 

「それじゃあ、ジン。お前らの方は飛鳥と黒ウサギ、それとグリー頼めるか?」

 

「ああ、任せろ」

 

紫炎の言葉にグリーが頷くが、耀は不思議に思ったことを聞く

 

「紫炎はどうするの?」

 

「俺はとりあえずお前を上空に見つからないように運んだあと、自由行動」

 

それを聞き、全員から呆れた目で見られる

 

「何だよ、その眼は!いいだろ、別に暴れても」

 

「それなら私の方じゃなくて、ジンの方に行けばいい」

 

それを聞き、紫炎が反論をする

 

「あのな、耀。お前の役目はまずは誰にも見つからずに上空に行くことだ。俺のギフトならそれを難なく出来るぜ」

 

紫炎の言葉の後、耀と紫炎に炎が包んだかと思うと、二人の姿が見えなくなった

 

「え?あれ、耀さん?赤羽さん?」

 

「どこ行ったのかしら?」

 

「私は此処にいるよ?」

 

先ほどまで耀がいた場所から声が聞こえた

 

「驚いたか?」

 

紫炎が笑いながら炎を抑える

 

「詳しいギフトの説明は後でいいな。それと、上空着くまでグリフォンのギフトを使うなよ。炎が揺らぐから」

 

「え!?ちょ、ちょっと」

 

紫炎が話し終わると、耀をお姫様抱っこする

 

そして、炎で姿を隠した

 

「先行くぜ」

 

そう言って紫炎は上空に向かった

 



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第五十二話

紫炎は耀を上空に連れて行った後、いきなりお姫様抱っこをしたことで殴られ、その後下に下りて暴れていた

 

「弱いくせに数だけはいるなっと」

 

紫炎が喋りながら余裕で倒していると、サラが近寄ってきた

 

「余裕そうだな。ところで顔、どうしたんだ?」

 

「聞かないでくれ」

 

「?」

 

サラは良く分からないといった表情をしていた

 

「まあ、そのことはいいじゃないか。目の前の事に集中しようぜ」

 

紫炎はそう言いながら巨人を真っ二つにする

 

「俺は大丈夫だから、お前は連盟の連中を助けとけ」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

そう言ってサラが紫炎から離れて行った

 

「さてと、時間まで楽しまさせてもらうぞ」

 

紫炎がそう言いながら巨人に切りかかろうとすると、他の巨人が紫炎の剣に鎖を巻きつける

 

「げっ」

 

そこに巨人が斧を振り下ろしてきた

 

「ちっ」

 

紫炎がギフトカードからもう一本の剣を取り出して片手で受け止めようとする

 

剣と斧がぶつかる瞬間、その巨人が凍りついた

 

「危ないとこでしたね。油断大敵ですよ?」

 

声をかけてきたのは紫龍と一緒にいた少年だった

 

「全然危なくねーよ」

 

紫炎がそう言うと、鎖に捕まれている方の剣から炎を出し、鎖を伝って巨人を燃やす

 

「ほう。なかなかやるよ・・・」

 

少年が喋ってる途中に紫炎がその後ろに剣を振り下ろす

 

「危ないとこでしたね。油断大敵ですよ?」

 

紫炎が少年の後ろから斧を振り下ろそうとしていた巨人を切り捨て、先ほどの少年の口調を真似て言い返す

 

「なんですか?さっきの仕返しか何かですか?」

 

「仕返しって何のことだ?ただ巨人を切っただけだぜ?」

 

二人はメンチを切りあってる

 

「「やんのか、コラッ」」

 

紫炎は炎を手に灯し、少年は手に氷を纏わせる

 

巨人を無視して今にも殴り合いが始まろうとした時、

 

「何処に逃げたの、白夜叉あああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

戦場とは無関係の駄神の名を叫ぶ声が聞こえた

 

「・・・なんだ?この声は?」

 

「多分、うちのリーダーがギフトで呼び出した黒死病を操る元魔王だが・・・」

 

何故、白夜叉の名を叫んでいるのかが分からない二人

 

そこに巨人二体がそれぞれ二人を狙う

 

それを軽く受け止める二人

 

「お前、名前は?」

 

「青川碓氷。あなたは?」

 

「俺は赤羽紫炎だ」

 

二人は自己紹介を済ませると、各々巨人を倒す

 

すると、琴線のはじく音が聞こえ、周りが霧に囲まれる

 

「なあ、碓氷。勝負しないか?」

 

「勝負?殴り合いならこの戦いが終わってから…」

 

「違う違う。今から霧が晴れるまで巨人を倒した数、どうだ?」

 

ニヤリと笑いながら言う紫炎

 

「いいですね。数は自己申告で良いですか?」

 

「ああ、それじゃあ」

 

「「スタートだ」」

 

二人はそう言った瞬間、近くにいた巨人を倒した

 

「あらよっと」

 

紫炎は刀を軽く振り、どんどん巨人を倒していく

 

すると、小柄な巨人が紫炎に剣を振り下ろしてくる

 

それを軽く剣で受け止める

 

「おっと、昨日と同じ奴か。多少はやるようだが・・・」

 

そういいながら巨人との距離を縮め、直接手を触れる

 

「雑魚には変わりない」

 

炎を出し、燃やし尽くす

 

すると、霧が晴れてきた

 

「耀が上手くやってくれたんだな。それじゃあ・・・」

 

紫炎が安堵していると、巨人二体が攻撃してきた

 

「めんどくせー」

 

紫炎が刀に手をかけた瞬間、一体は燃え、もう一体は真っ二つに切り裂かれた

 

「おおー、紫炎。派手に暴れてるな」

 

燃え盛る巨人の方から紫龍の声が聞こえる

 

「おい、碓氷。お前は何体倒した?」

 

「無視は酷い!」

 

紫炎は気にせず碓氷の方に向かい、聞いた

 

「一斉に言いましょうか」

 

せーの、と声を揃えてそれぞれ巨人倒した数を言う

 

「「32」」

 

同数であった

 

「「・・・・・・」」

 

二人の間に沈黙走る

 

「あ、紫炎君。何してるの?」

 

すると、グリーに乗っていた飛鳥が紫炎に声をかけた

 

「飛鳥か。いや、ちょっとな」

 

「?」

 

言葉を濁す紫炎に飛鳥が疑問符を浮かべる

 

「それよりなんでペストはそんな恰好をしてるんだ?」

 

紫炎がジンに使役されているペストの格好に疑問を持つ

 

なぜならペストはフリフリのメイド服を着ていたのだ

 

「あんたには関係ないでしょ。それとも殺されたいの?」

 

ペストが殺気を込めて紫炎に言うと、この空気に似つかわしくない声が聞こえた

 

「おおー。ペストちゃん、やっぱりその服似あってるね」

 

紫龍の声が聞こえた瞬間、ペストがそちらに黒い風を送る

 

「あんた、いたのね。絶対に殺す!」

 

「お、落ち着いて、ペスト。あの人は味方だ」

 

「いいえ、あいつと白夜叉は私の敵よ」

 

「グリーさん、すいませんが地下都市に戻ってください」

 

ジンがペストを抑えようとしたが、抑えきれそうもないので黒ウサギがグリーに頼んで地下都市に戻って行った

 

「碓氷。紫龍と白夜叉は何やったんだ?」

 

「さあ?」

 

「おいおい、二人ともなんだ、その冷めた目は?泣きそうなんだけど・・・」

 

涙目で訴えてくる紫龍を無視して、周りを見渡す紫炎

 

「どうし・・・」

 

「お、見つけた」

 

そういって紫炎は視線を向けていた方へ飛んで行った

 

「どうしたんでしょうか?」

 

「まあ、青春ってやつだろ。お前もああいう風になったら?」

 

「?」

 

紫龍の言ってることがよくわかってない碓氷だった

 

―――――――――――――――――――――

 

「良かった、うまくいった」

 

耀は黄金の竪琴を奪った後、上空に逃げて周囲を気にしながら地下都市の方へ戻っていた

 

すると、下の方から見知った姿が見えた

 

「耀!」

 

紫炎が耀の名前を呼びながら近づいてきた

 

「紫炎、どうし・・・」

 

耀の言葉が途中で途切れる

 

何故なら紫炎に抱き寄せられているからだ

 

「無傷で済んで良かったよ。それとお前のおかげで巨人族の侵攻も収まった」

 

耀は紫炎の言葉を聞かず、顔を真っ赤にして抵抗する

 

それに気づいた紫炎が耀を離す

 

「悪い、苦しかったか?」

 

紫炎がそう聞くと、耀の右ストレートが決まった

 

「いきなりはやめてほしい」

 

「俺もそれは言いたい」

 

殴られた頬をさすりながら紫炎が返す

 

「早く戻ろう?」

 

そういって耀が紫炎に手を差し伸べる

 

「そうだな」

 

紫炎も耀の手を取り、二人で宿舎へと帰った

 

――――――――――――――――

 

巨人の強襲してきた次の日、紫炎は昼過ぎまで寝ていた

 

「久々に起こされなかった気がするな」

 

紫炎がそんなことをぼやきながら歩いていると、前から耀と飛鳥が走ってきた

 

「おはよう。どうしたんだ、そんなに急いで?」

 

紫炎が声をかけると二人は紫炎の腕を持つ

 

「付いて来て」

 

「その前に説明してくれ」

 

聞いてみると、ジンの代案としてヘッドホンを耀のいた世界から召喚したが、それはネコミミのあるヘッドホンだったらしい

 

何もなければそれを渡すらしいが、流石にネコミミは・・・、となったので代わりのものを探しに行くらしい

 

それを聞き、紫炎が少し考え込んでいる

 

「・・・ふむ。ちょっと失礼」

 

紫炎がそう言って、耀の持っていたヘッドホンを取って耀の頭に付ける

 

「ちょ、ちょっと」

 

「うん、やはり可愛い」

 

紫炎がそういうと真っ赤になった耀が照れ隠しで殴る

 

それを呆れた様子で見ていた飛鳥が声をかける

 

「そんなことしている暇はないでしょう。早く探しに行きましょう」

 

「そうだった」

 

飛鳥の言葉で我に返る耀

 

「・・・俺の行く意味は?」

 

「男の子の欲しいものがどんなものか見てほしいのよ」

 

「役に立つか分からんぞ?」

 

「とりあえず付いて来て」

 

紫炎に有無を言わさず、連れまわしたが結局よさそうなものがなかった

 

「やっぱ、そのヘッドホンを渡すしかないんじゃないか」

 

(少し、もったいないが・・・)

 

「何か不穏当なこと考えてない?」

 

耀の言葉に紫炎がわかりやすく動揺を見せる

 

「な、なんのことかな?」

 

それを聞き、二人は冷めた目で紫炎を見る

 

「貴方って人は・・・」

 

「・・・」

 

その目に耐えきれなくなった紫炎が口を開く

 

「何にもなかったことだし、宿舎に帰ろう。そうしよう」

 

紫炎はそう言いながら、二人を連れて宿舎に戻った

 

 



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十三番目の太陽をうて
第五十三話


ヘッドホンの代わりを探し終わった夜、紫炎は自室で寝転がっていた

 

「十六夜達が来るまでもうちょっとか」

 

紫炎が誰に言うでもなく呟いた

 

(明日はヒッポカンプの騎手があるし、早めに寝るか)

 

紫炎がそう思いながら目を閉じると琴線のはじく音が聞こえた

 

一瞬、意識が飛びそうになったが聞き覚えのある音に驚愕する

 

「この音、昨日の竪琴か!?」

 

紫炎が飛び起きて状況を確認しようとすると稲妻が落ち、宿舎が地盤ごと倒壊した

 

「あぶねーな」

 

紫炎は炎で体を包み込み、倒壊した岩などから身を守る

 

(耀たちは大丈夫か?)

 

紫炎が炎翼をはばたかせて耀たちの安全を確認しに行こうとした瞬間、後ろから仮面をつけた敵が攻撃を仕掛けて来た

 

「くっ」

 

それを何とか剣で防ぐ

 

「ふざけた仮面付けてる割にはいい攻撃じゃないか」

 

紫炎がそう言って構えると、仮面をつけた敵は目の前から突如として消えた

 

「!?」

 

(紫龍やウィラみたいなことができるのか?)

 

そう思い、紫炎は炎を纏い、迎撃態勢に入る

 

「・・・・・・」

 

数十秒間、沈黙が続くが何も起きない

 

すると、巨人族の襲来を知らせる鐘が響いた

 

それと、同時位に黒い封書の契約書類が降ってきた

 

「ちっ、時間稼ぎが目的か!?」

 

紫炎が焦りで炎が揺らいだ

 

その瞬間、仮面の敵が突っ込んできた

 

それを紫炎は紙一重で避けたはずだった

 

「がはっ」

 

拳が通り過ぎる瞬間、何かに引っ張られるような感触がしたと思ったら攻撃が当たっていた

 

紫炎は反射的に仮面の敵の頭を掴む

 

「面白そうなギフトだが・・・邪魔だ」

 

そしてそのまま燃やす

 

「さて、耀のところまで行くか」

 

「おい、小僧」

 

炎翼を出し、飛び立とうとした時、三毛猫の声が聞こえた

 

「どうした、三毛猫」

 

「お嬢が、お嬢が危ないんや」

 

「!!案内しろ」

 

紫炎が声を荒げて三毛猫に言うと、後ろから先ほど燃やしたはずの敵が襲い掛かってきた

 

「・・・おいおい、何で頭吹き飛ばした奴が動けてんだ?」

 

何とかそれを受け止めた紫炎が誰にいう訳でもなく、呟く

 

(さっき、引っ張られた感じからすると、糸かなんかで操ってんのか?なら、何で俺を操らないんだ?それとも操るのに手順がいるのか、もしくは生きてる人間は完全に操れないのか?)

 

そう思ってると、上空から仮面を付けた敵が三人ほど降ってきた

 

「ちっ」

 

それを見て紫炎が最大出力の炎を出し、目の前の敵を焼き尽くす

 

新しい敵が下りてくる前に三毛猫に伝えた

 

「三毛猫、悪いが新しいお客さんのようだ。ここは危険だから他のやつのとこまで行ってろ」

 

「せやかてお嬢が・・・」

 

「耀なら大丈夫だ!・・・大丈夫のはずだ」

 

紫炎が声を荒げながら願うかのように言う

 

それを見て三毛猫も察したようだ

 

「わかった。わしは本陣の方へ行っとくわ」

 

紫炎はそれを聞き、三体の敵を見据える

 

「悪いがすぐに消えてもらうぜ」

 

紫炎がそう言って空へ飛び、一体を真っ二つにする

 

そして、もう一体の方に手を向け炎を出し全身を燃やす

 

最後の一体に切りかかろうとすると、姿が見えなくなっていた

 

「ちっ、またか」

 

紫炎が焦りながら周りを見渡す

 

すると突如出現した仮面の敵に刺される

 

「ガハッ」

 

仮面の敵が剣を引き抜こうとすると、後ろから手が出てきて頭を掴む

 

「燃え尽きろ」

 

そういって、仮面の敵が灰になる

 

そして、刺されていた紫炎が消え、空中から紫炎が現れた

 

「これであらかた片付いたか」

 

紫炎が刀を鞘に戻しながら言っていると、仮面の敵が紫炎をいきなり囲んだ

 

「何体いやがんだ!!」

 

紫炎が刀に炎を纏わせて構える

 

「行くぜ。・・・あれ?体が動かない」

 

紫炎は何かに縛られている様な感覚に襲われる

 

「くそっ、うぜぇ」

 

紫炎が全身から炎を放出し、縛ってるものを焼き散らそうとする

 

しかし、縛られているであろう場所からは炎が出なかった

 

「ちくしょう、ほどけない」

 

紫炎がほどこうとして抵抗していると周りにいた仮面の敵が迫ってきた

 

「ちっ、動けないだけでやられる俺じゃ・・・」

 

炎をムチ上にして攻撃しようとすると、いきなり意識が飛びかける

 

刹那、紫炎を中心に炎が発せられ、仮面の敵が全て灰になり、紫炎の意識も通常に戻った

 

「危ないとこだったな、紫炎」

 

「うるせー、俺一人でもどうにかできたよ」

 

「意識飛びかけだった奴がよく言うよ」

 

「!?」

 

確かに意識は飛びかけたが、一瞬の事だったのでばれていないと思っていたが紫龍は気づいていたようだ

 

「まあ、手玉に取られてむかつくだろうがあいつは俺がもらうからな」

 

「なにいって・・・」

 

紫炎が反論しようとしたが紫龍の真面目な顔に押し黙ってしまう

 

「まあ、お前は契約書類でも読んでギフトゲームの準備でもしとけ」

 

「あ・・・。そういえば巨人も来てたんだった」

 

紫炎が緊急用の鐘が鳴っていたことを思い出した

 

「ああ、そっちの方なら碓氷とウィル・オ・ウィスプのクリス君が行ったから大丈夫だろ」

 

「そうかもしれんが、かなりの時間が有する筈だ。今からでも加勢に・・・」

 

「そちらなら大丈夫でございます」

 

「うお!黒ウサギか。どうしてそう言えるんだ?」

 

急いで上に向かおうとしていた紫炎に黒ウサギがいきなり声をかけた

 

「え~と、わかりやすく言えば十六夜さんが来ました」

 

その言葉を聞き、紫炎が納得する

 

「それで、お前は何でここにいるんだ?」

 

「あ、そうでした。審判権限が受理されたのでそれを宣言しに来たんでした!」

 

黒ウサギがそう言って高いところに上り、アンダーウッド全域に届くような声でジュリの報告をしに行った

 

「しかし、あの黒ウサギって娘、エロいな」

 

「あんたは自制ってことを知らないのか」

 

紫炎が呆れていると、上空の巨龍がアンダーウッドへと急降下し始めた

 

それだけで暴風が吹き荒れた

 

「おおー。流石最強種の龍の純血。動いただけでこれか」

 

「呑気なこといってんじゃねー。俺ら以外の飛べないやつは大惨事だぞ」

 

「そうだった。そうだった」

 

二人はそう言って炎翼をはばたかせ、飛べない者の救出に向かう

 

紫炎は最初にジンから救出した

 

「あ、ありがとうございます、紫炎さん」

 

「礼は後だ。他の奴のとこに向かうからしっかり捕まってろ」

 

紫炎がそう言って十六夜、クリス、碓氷を助けた

 

「おい、紫炎。お嬢様はどこだ?」

 

「そうだぞ。なんで男ばかりのむさい状況なんだ!?」

 

「貴男たちは少し黙りなさい。・・・まあ、何故同じコミュニティの仲間より私たちを優先したんでしょうか?」

 

十六夜、クリス、碓氷の言葉を聞き、紫炎、ジン、ペストが目を逸らす

 

「どうしたんですか?」

 

「いやな、ジンを助けた後、飛鳥を助けに行こうとしたんだが・・・・・・」

 

 

 

 

 

「お、飛鳥だ」

 

「呑気に言ってないで助けなさいよ」

 

紫炎が飛鳥に近づいて助けようとすると、誰かが横からかっさらっていった

 

「大丈夫かい?飛鳥ちゃん」

 

何時になく真面目な顔をした紫龍だった

 

「あ、ありがとうございます。けど、この格好は・・・」

 

飛鳥が恥ずかしがるのも無理はない

 

なぜなら今、飛鳥は紫龍にお姫様抱っこされている状態なのだから

 

「いいじゃないか。可愛い女の子にしかこういうのは似合わないんだからさ」

 

「答えになってませんけど!紫炎君、助けて」

 

話の通じない紫龍から逃げるため、紫炎に助けを求める飛鳥

 

「よし、飛鳥は無事そうだから次行くか」

 

「えっと、紫炎さん。良いんですか?」

 

「飛鳥の無事が確認されたんだ。良いだろ」

 

そう言って紫炎は他の人物を助けに行くため、その場を離れた

 

「あ、こら。待ちなさい!!」

 

 

 

 

 

 

「―――――――――という事だ」

 

それを聞き、十六夜は大爆笑、碓氷は呆れた顔を、クリスは羨ましそうにしていた

 

「あ、そう言えばアーシャとジャックさんを見なかったか?」

 

「いや?見てないぜ」

 

「とりあえず一旦下りるぜ」

 

紫炎がそう言って地面に下りる

 

「それならどこから探しましょうか」

 

「う~ん」

 

「・・・最初は救護所だな」

 

碓氷と紫炎が悩んでると、十六夜が違う方を向きながら提案する

 

「確かにあそこなら怪我した人が運ばれるからもし見つからなくても情報が得られるな」

 

「ああ、それに治療する奴も出るしな」

 

「「?」」

 

十六夜の言葉の意味が分からない紫炎とクリス

 

すると、碓氷が十六夜の見ていた方を見て紫炎に優しい目で見た

 

「どうか幸あれ」

 

「は?なに・・・」

 

瞬間、紫炎の後ろから飛鳥のシャイニング・ウィザードが決まり紫炎の意識が刈り取られた

 

「あの時はよくも見捨ててくれたわね」

 

意識の失った紫炎の頭を踏み続ける飛鳥

 

右手にはボコボコにされた紫龍が引きずられていた

 

それに気づいた碓氷が飛鳥に近づき謝りながら紫龍を蹴飛ばし、離れて行った

 

「あの人、いい人ね」

 

「ああ。そして、お嬢様。そこまでだ。これ以上はさすがに今後に関わりそうだからストップだ」

 

十六夜の言葉に渋々従う飛鳥

 

「それじゃあこいつを救護所に連れて行って、それから春日部やジャックの所在の情報でも集めようぜ」

 

「そうね」

 

「だね」

 

三人は紫炎を引きづりながら救護所まで向かった



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第五十四話

紫炎が目を覚ますと床に雑魚寝をし、両脇には十六夜と飛鳥がいた

 

「起きたか」

 

「ああ、なんで気絶したのかはわからんが・・・」

 

紫炎がそういうと飛鳥が顔を軽く逸らした

 

「それで、ノーネームの面々でいるのは、ここにいる奴の他に誰がいた?」

 

それを聞き、飛鳥は顔を俯かせ、十六夜は真剣な表情になる

 

「それは、黒ウサギが説明します」

 

すると、黒ウサギがボロボロになって気絶している三毛猫を抱え、ジンと共に暗い表情で現れた

 

三毛猫の姿を見て、責任を感じた紫炎が頭を抱えながら続きを促す

 

「それじゃあ、頼む」

 

「YES。まず、レティシア様ですが敵に連れ去られてしまいました・・・」

 

黒ウサギのウサ耳が垂れているのを見て紫炎はそれが事実だと瞬時に理解した

 

「そうか・・・」

 

「それで、耀さんなのですが魔獣に襲われていた子供を助けようとして・・・」

 

「魔獣と共に回収された子供を追いかけ、空に上って行ったそうです」

 

「・・・そうか」

 

紫炎は話を聞きながら、腕に力が入ってるのに気が付く

 

「焦るなよ、紫炎。龍角を持つ鷲獅子連盟の要人も連れ去られたようだから早けりゃ明日にも救援隊を組むだろうよ」

 

「YES!そのことについて今からそのことで会議が行われるそうなので皆さん来てください」

 

「わかった」

 

そうして黒ウサギの後ろをついて行って本陣に向かった

 

―――――――――――――――

 

紫炎達が本陣に着いて、会議が始まる時にいたコミュニティは五つ、人数は十一人

 

一本角の頭首にして、連盟の議長でもあるサラ

 

六本傷の頭首代行として、キャロロ

 

ウィル・オ・ウィスプの参謀代行フェイス・レスとクリス

 

サウザンド・アイズからは紫龍と碓氷

 

ノーネームからはリーダーのジンと十六夜、飛鳥、紫炎、黒ウサギが来ていた

 

黒ウサギは会議の進行役として口を開いた

 

「これよりギフトゲーム“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”の攻略作戦の会議をします。なので皆様は責任のある発言をしてください」

 

「分かった」

 

「はいは~い」

 

「もちろんだよ」

 

サラは誠実に答えたがキャロロと紫龍の緊張感のない返事に少し、いらっとする紫炎

 

とりあえず紫龍を殴ろうと思った紫炎だったが、後ろからの十六夜の声に止まった

 

「アンタもしかして東の外門で喫茶店やってる猫のウェイトレスか?」

 

「そうですよ、常連さん。いつもごひいきにありがとうございます」

 

「彼女は六本傷の頭首の二十四番目の娘でな。父親の命令で東側に支店を開いている」

 

「ふふ、ちょっとした諜報活動です。常連さんたちのいい噂もボスにちゃんと流れてますよ」

 

その言葉を聞き、悪魔三人が悪い笑みを浮かべた

 

「一店員であるアンタが南の収穫祭にいるわけか」

 

「しかし、そんな秘密を聞くとあの店には入れなくなるな」

 

「あのカフェテラスで立ててた作戦も全部筒抜けだったんでしょうね」

 

それを聞き、キャロロの顔から汗がだらだら流れ落ちる

 

「ここは一つ地域支配者として地域に呼びかける義務があるな」

 

「ああ。『六本傷の旗本に、間諜の影あり!!』。チラシの見出しはこんなもんか」

 

嬉々として話し合ってる紫炎と十六夜を見てさすがに焦りだしたキャロロ

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!そんなことされたらうちの店はやっていけなくなります」

 

「あら、そんなこと知ったことじゃないわ。さっき紫炎君が言ったとおり私たちは地域に呼びかける義務があるわ」

 

「まあ、それが嫌なら・・・」

 

わざわざ言い切らずに途中で止め、キャロロの次の言葉を待つ悪魔三人

 

キャロロは半泣きになりながら断腸の思いで言葉を紡ぐ

 

「こ、これからは皆様に限り、当店のメニューを一割引きに・・・」

 

「「「三割だ」」」

 

「うにゃああああ!!サラ様~」

 

耐えられなくなったキャロロが泣きながらサラに近づいた

 

「よしよし。これからは自分の役割をばらすようなことは止めような」

 

サラが辛辣な言葉を投げかける

 

問題児たちはというと、ハイタッチをして喜んでいた

 

そんな同志のあくどいやり口を見て、恥ずかしそうに俯くジンと黒ウサギ

 

すると、しばらく見つめていたフェイス・レスがゆっくりと挙手をして黒ウサギに問いかけた

 

「あの、話を進めませんか?」

 

「あ・・・了解なのですよ」

 

それを聞き、黒ウサギは会議を再開させた

 

「まずはゲームの方針を・・・と言いたいところですが、その前にサラ様からお話があるそうです」

 

その言葉に全員が首を傾げる

 

それを気にせずサラが口を開いた

 

「まずは最初に言っておくが、今から話すことは秘匿で頼む」

 

「?はい、わかりました」

 

ジンが代表として返事をし、その場にいる全員が頷いた

 

「まずは一つ目。黄金の竪琴が奪い返された際、バロールの死眼も盗み出された」

 

「本当なのですか!?」

 

「まあ、あれぐらいのレベルの巨人なら対して使いこなせないだろうよ」

 

紫龍が少し呆れたように言う

 

「ああ。だが、一応対策を練らなければならないとな」

 

「それで、二つ目は?」

 

巨人の方はもう興味がないのか、すぐに次の話を促す紫龍

 

「・・・。ゲーム休戦前に北と南から緊急連絡が入った。魔王の襲来は此処だけではないらしい」

 

「それは本当か?」

 

紫龍の眼に何か秘めたようなものが見えた気がした

 

「ああ。北の階層支配者サラマンドラと鬼姫連盟、そして東の階層支配者サウザンドアイズの幹部、白夜叉。以上3つのコミュニティが同時に急襲されている」

 

それを聞き、紫龍以外は一斉に息を呑む

 

箱庭に来て日の浅い三人もそれは異常事態だと気づいたようだ

 

すると、飛鳥が小声で紫炎と十六夜に話しかけた

 

「偶然じゃ、無いわよね」

 

「だろうな。階層支配者を倒すために強大な魔王が複数の魔王を統率してるってところか」

 

「だろうな。だが、それなら逆に納得した部分もある」

 

「納得?」

 

「どいうことだ!」

 

十六夜が『理解した』ではなく、『納得した』と言ったのが気になった紫炎とサラ

 

「ああ。その前にサラマンドラが魔王に襲われたってことは知ってるな?」

 

「当たり前だ」

 

十六夜の言葉に、サラはバカにされたと思い、少し怒った口調で返す

 

「それなら、その魔王はサラマンドラ自身が手引きしたというのは知ってるか?」

 

「なんですって!!」

 

飛鳥が声を荒げて十六夜に詰め寄る

 

「やめとけ、飛鳥」

 

「なんでよ、紫炎君。というよりあなたは何でそんなに冷静なのよ!?」

 

「だって俺、知ってたし」

 

紫炎がそう言った瞬間、飛鳥が頭突きを食らわせる

 

「まあ、確かに父上ならそれくらいはしかねないな」

 

紫炎の事を普通にスルーし、サラが続ける

 

「で、ではお父様は何故そのようなことを・・・」

 

「大方、サンドラが一人前だと周囲に認めさせるためだろうが・・・その辺はそこにいる少年たちの方が詳しいだろう」

 

それを聞いていた紫炎が頭を押さえながら椅子に戻る

 

「俺は詳しく知らんが、十六夜からそう聞いてる」

 

「ああ、俺もここで話を聞くまではそう思っていたが、どうやらそんな簡単なものじゃないらしい」

 

「というと?」

 

十六夜の言葉に首とウサ耳を傾け、聞く

 

「あの時のペストの狙いを思い返してみろ」

 

それを聞き、紫炎が何かに気づいたようだ

 

「そうか。確かにペストの狙いはサンドラじゃなく、白夜叉だったな」

 

その言葉を聞き、あの場にいた者全員が驚愕の表情をした

 

「なるほど。確かに南の階層支配者が討たれたのもその時期でしたね」

 

「う~ん。そうだったけ?」

 

紫龍の気の抜けた返事に碓氷と紫炎がキレて、扉の外に蹴飛ばし入れないようにした

 

「ちょっと、二人とも。結構痛かったんだけど。というか開けてほしいんだけど」

 

「さて、話を続けましょうか」

 

先ほどの事がなかったように碓氷がいい笑顔で続きを促す

 

「碓氷!この頃俺の扱いひどくないか!?」

 

「うるさい!!」

 

雑音が気になった紫炎が扉ごと蹴飛ばし、静かにさせる

 

「雑音も消えたことだし、続けましょうか」

 

「だな」

 

「いや、紫炎。流石にあれは・・・」

 

何事もなく進めようとする碓氷と紫炎にクリスが心配そうに扉を見ながら言う

 

「「大丈夫。あいつ(あの人)は殺しても死なないから」」

 

二人が声を揃えて行ったのを聞き、十六夜は爆笑で、他は呆れた眼差しで返す

 

そんな空気をぶち壊すかのようにフェイス・レスが手を挙げ、発言をした

 

「すいませんが、現階層支配者は今襲われている三組と、休眠中のラプラスの悪魔でよろしいでしょうか?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「もし、今襲われている階層支配者が全て討たれますと、全階層支配者を決める必要があります。敵の狙いはそれではないでしょうか?」

 

『全階層支配者』という聞き慣れない単語にフェイス・レス以外の全員が首を傾げる

 

「以前クイーン・ハロウィンからお聞きしたのですが階層支配者が壊滅、もしくは一人になった場合、暫定四ケタの地位とそれ相応のギフト、そして太陽の主権の一つを与えられ、さらに東西南北から他の階層支配者を選ぶ権限が与えられると」

 

フェイス・レスの説明を聞き、黒ウサギとサラが声を荒げる

 

「太陽の主権一つに、暫定四ケタの地位だと!」

 

「そんな制度があるなんて・・・」

 

「驚きだねー。そう思わないかい?飛鳥ちゃん」

 

いつの間にか戻って来た紫龍が飛鳥の横に座って呟いた

 

それを見て二人以外が驚くが、碓氷と紫炎は確認した瞬間、紫炎がドアまで蹴飛ばし碓氷が殴り廊下の奥の方まで飛ばす

 

「それで、その制度には前例があるんですか?」

 

また、何事もなかったかのように続きを促す碓氷

 

廊下の奥の方を見て、うわぁ、と呟いているクリスは放っておくことにする

 

「クイーンの話では白夜叉様と初代階層支配者のレティシア=ドラクレアの二名だけらしいです」

 

「レ、レティシア様が全階層支配者・・・。」

 

黒ウサギの驚いた表情を見て呆れ顔を浮かべるフェイス・レスと紫龍

 

「おいおい、箱庭の貴族の割に箱庭の騎士の由来も知らないんだな」

 

「黒ウサギは一族的にぶっちぎりで若輩なので。って紫龍さんなんでいるんですか!?」

 

「いやー、何とか戻って来れたよ」

 

紫龍の言葉の後、碓氷が紫炎の方へ蹴飛ばし、紫炎が扉絵殴り飛ばした後、最後は十六夜が殴り飛ばした

 

そして全員が席に戻るとフェイス・レスが何事もなかったかのように口を開く

 

「箱庭の貴族ともあろうお人が箱庭の騎士の由来も知らないのですか?」

 

「え!?それはさっき紫龍さんにも言われましたよね!もしかしてさっきの流れ全部無かったことにするつもりですか!?」

 

何やらわめいている黒ウサギに十六夜が助け船を出してやる

 

「ぶっちゃけ黒ウサギは箱庭の貴族(笑)だからな」

 

「その渾名を定着させようとするのは止めてください!」

 

流石に十六夜の言葉にキレた黒ウサギは先ほどの事を忘れているようだ

 

するとフェイス・レスが顎に手を当てて何か思案してる様だ

 

「なるほど箱庭の貴族(笑)でしたか」

 

「真面目な顔で返さないでください!」

 

フェイス・レスの言動に飛鳥がムッとして反論する

 

「ちょっと、二人とも。話の流れ的に箱庭の貴族(恥)でしょ!」

 

「それだ!」

 

「それだ!じゃないでしょう、このお馬鹿様!!」

 

久々に冴えわたる黒ウサギの突っ込み

 

すると今まで静観していた紫炎が口を開いた

 

「箱庭の貴族(恥)、少しは真面目になろうぜ」

 

「それはこっちのセリフなのですよ、このお馬鹿様!!」

 

これから数分黒ウサギ弄りが続くのであった



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第五十五話

「はあ、はあ。フェイス・レスさん、恥ずかしいところですが箱庭の騎士というのも初ウサ耳でございます。今回のゲームや主犯の手掛かりになるかもしれません。是非教えてください」

 

十六夜と紫炎をハリセンで黙らせた後、フェイス・レスにシリアスムードで話しかける

 

「私も詳しく知ってるわけではないので詳細は省きますが、全階層支配者となったレティシアさんがその利権と権力を手に、上層の修羅神仏へ戦争を仕掛けようとしたそうです」

 

それを聞き、ノーネーム一同は言葉を失う

 

いつものコミュニティ内の姉役からは想像もつかない内容なのだから当然であろう

 

すると、碓氷が疑問に思った箇所があるようで質問をぶつけた

 

「『仕掛けようとした』とはどういう事でしょう?」

 

「戦争を阻止しようとした同族の吸血鬼たちが革命を決起し、殺し合いの末に滅んだと聞いております」

 

「・・・それは本当に事実なのか?」

 

「此れについては当時を知るクイーンの話なので間違いないかと」

 

そんな話を聞いても今のレティシアを知る面々には信じ難かったが、サラは契約書類を見ながら何か納得していた

 

「なるほど。第四の勝利条件は当時の革命主導者を差し出して殺せという意味なのかもな」

 

「そうでしょうか?」

 

「ほかにどのような解釈がある?他の抽象的なキーワードと比べて格段にわかりやすい。ペナルティで追い込まれた吸血鬼が革命主導者を殺し…」

 

「…結果クリアは出来なかった。」

 

サラの言葉を紫炎が反論するように止める

 

案外まともな反論で言葉を失うサラ

 

「どちらにせよ現状、情報不足は否めない。だから地上を守る部隊とゲームクリアを目指す部隊と別れよう。あんたらの連盟なら空をかける幻獣もいるだろ?」

 

十六夜がそう提案すると、いつの間にか戻ってきた紫龍が口を開く

 

「それに攫われてる奴も気になる。連盟の重役のガロロの事もあるが、ゲストに死者を出すわけにはいかないだろ?」

 

その言葉を聞き、サラはその提案を快諾する

 

「精鋭を選出して二日後の晩には部隊を編成しよう。その時にはここにいるコミュニティの力を借りることになる。キャロロ、この形を最高主賓室にお通ししろ」

 

「はい、わかりました」

 

そうしてこの日の会合はお開きとなった

 

紫龍と碓氷はサラにまだ話があるらしく、まだ会議室に残り、フェイス・レスも紫龍に話があるらしく待つらしい

 

そうして残った、キャロロとクリス、ノーネーム一同がエレベーターで話し合ってる

 

ちなみに紫炎は此処に来る間に初めて契約書類を見た

 

「部屋に案内されたらすぐにでも謎解きにかかりましょう」

 

「YES!三人よれば文殊の知恵と言いますし、五人いれば何かいい知恵も浮かぶ筈です」

 

「ええ。耀さんとレティシアさんを助けるために謎解きを・・・」

 

「いや、謎解きならすんでいるんだが・・・」

 

「同じく」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

十六夜と紫炎の言葉にジン、飛鳥、黒ウサギ、クリス、キャロロが驚く

 

「まあ、俺はここに来るまでに、十六夜にこのゲームのサン・・・、サンなんたらってギフトゲーム名の意味とレティシアの『十三番目の太陽をうて』だっけ?それを聞いてわかった」

 

それを聞き、二人に向けられていた視線が十六夜一人に向けられる

 

すると、キャロロが口を開いた

 

「えっと、常連さん?貴方、会議の時『情報が少ないから敵城に部隊を送れ』って言ってませんでしたけ?」

 

「俺は『情報は少ないが、謎は解けたからクリアしに行こうぜ』って意味で言ったんだがな・・・」

 

十六夜が白々しく答える

 

「そんな風に誤解してくれて救援隊まで編成してくれるなんて良かったな、十六夜」

 

棒読みで続く紫炎を見てキャロロが口を開いた

 

「残念ですがこのことはサラ様に・・・」

 

「「全メニュー半額とは気前がいいな」」

 

「いやん♪するわけないじゃないですか」

 

二人の脅迫に冷や汗を流しながら満面の笑みを浮かべるキャロロ

 

それを見てクリスがキャロロの手を握り、何かのスイッチを入れたらしい

 

「お嬢さん。こんな可愛い笑顔をして東側で喫茶店を営んでるなんて」

 

「え・・・あの、その」

 

いきなりの事で困惑しているキャロロ

 

うるさいので紫炎が右手を挙げて、飛鳥に合図を送る

 

「黙りなさい」

 

合図を見てギフトを使った飛鳥

 

「よし、静かになったことだし行くか」

 

キャロロと黒ウサギが苦笑いを浮かべ問題児三人の道案内をした

 

―――――――――――――――――

 

ところ変わって会議室

 

「紫龍殿。話とはなんだ?」

 

「いや、サラちゃんは可愛いなって」

 

紫龍がそう言い終わった瞬間、碓氷の拳がクリーンヒット

 

「それだけなら私は救援隊の編成に向かうが・・・」

 

呆れた目で紫龍が飛んでいった方向を見ながら告げるサラ

 

「いやなに、この状況が三年前にそっくりだな、って思ったというのを伝えようと思ってな」

 

「!?」

 

「それと“ジョーカー”がいたから俺はそっちに専念するから」

 

それを聞き、サラが悲痛の顔を見せる

 

「そうか。・・・確か朔良殿の」

 

「それもあるが、三年前奴の部下五十二人を倒したのにあいつを逃しちまってるからそれの清算」

 

そう言って自嘲気味に笑う紫龍

 

「代わりと言ってはなんですが、私が地上組に残ります」

 

「確かに碓氷なら巨人くらいなんともないだろう」

 

無責任に紫龍が返す

 

「すいません。お話は終わりましたか?」

 

「おお、フェイちゃん。終わったけど、どっちに用がある?」

 

フェイス・レスの質問に紫龍がサラと自分を指しながら答える

 

それを聞き、少しだけサラの方を見たフェイス・レス

 

「・・・碓氷殿、貴方の能力がどんなものか見せてもらってもよろしいか?」

 

「ええ。出来れば水場があればがよろしいのですが・・・」

 

「うん。それなら私に付いて来てくれ」

 

視線に気づいた二人が席を外すと、フェイス・レスが口を開く

 

「さきほどの話、聞こえてきました」

 

「あ、そうなの」

 

頬を掻きながら恥ずかしそうにしゃべる紫龍

 

「やはり、まだ朔良さんの事を・・・」

 

「まあな。八年じゃ短すぎるよ。今は表情に出さないように他の女の子に声をかけてるんだよ」

 

そう言って大笑いする紫龍

 

「変わりませんね。・・・あの頃から」

 

「おいおい、あの時から大分老け込んでるはずだぜ?それにギフトもなぁ・・・」

 

「そういう意味ではありませんよ。・・・ところで息子さんにはどこまでお話したんですか?」

 

それを聞き、紫龍は顔を笑っているが、どこか後ろめたそうだった

 

「何にも話してないよ。この八年間の事も、八年前の真実も、あの頃のこともな」

 

「・・・話すつもりは?」

 

「ない。特にあの頃の事は絶対に話すつもりはない」

 

それを聞き、フェイス・レスが紫龍に話しかける

 

「どうしてでしょうか?」

 

「そうなると朔良の事も話さなきゃならんだろう?恥ずかしすぎるんだよ」

 

顔を赤くしながら言う紫龍を見てフェイス・レスが大きくため息をつく

 

「本当に変わってませんね」

 

そう言って出て行った

 

「しかし、ジョーカー相手だと使わなきゃいかんかな?」

 

紫龍がギフトカードから出したカプセルを持って呟いた

 

――――――――――――――――

 

キャロロに案内され、ノーネーム一同は主賓室に着いた後、救出の為の作戦を練っていた

 

「上空にある城に行くには俺以外は連盟の協力が必要になるんだが、ここはグリーに頼むのが良いと思う」

 

「そうですね。彼は耀さんを友人として扱ってるので協力してくれるはずです」

 

それを聞き、十六夜は腕を組んで少し、思案してから口を開いた

 

「それならそっちの方は任せる。なら待機組と攻略組の編成なんだが、巨人族との戦いが予想される待機組には御チビとペストを中心にして、攻略組は俺と・・・」

 

「私も行くわ」

 

十六夜の言葉を途中で遮り、飛鳥が声を出した

 

「十六夜君。貴方が大一番の勝負で私を危険から遠ざけて采配してるのは私なりに気づいているわ」

 

その言葉に十六夜は何も言わない

 

「でも、今回はすでに春日部さんとレティシアが敵に捕らわれてる。多少無茶してでも敵地に乗り込まなければ、助けれるものも助けられないかもしれない」

 

そう言った飛鳥の眼は決意に満ち溢れていた

 

「無理だ。お前は待機組の方だ」

 

紫炎が飛鳥にストップをかける

 

「どうしてよ!」

 

「まず、グリー以外に背に乗せてくれる幻獣なんているはずないからな。だから、自分で飛べる俺以外の一人って言ったら十六夜になる」

 

怒りで声を荒げていた飛鳥だったが紫炎の止める理由が案外筋の通ったものだったので黙り込んでしまう

 

「もし仮にだが、のせてくれる幻獣がいたとしてもお前じゃあ足手まといにしかならん」

 

流石に直接足手まといと言われて怒ったのか、飛鳥が声を荒げて反論する

 

「そんなことないわ!私は黒死斑の魔王を・・・」

 

「あんなの偶然と相性の産物でしかない。それこそまともに戦ったら勝負なんて成り立たないさ」

 

今まで黙っていた十六夜が見かねて口を開く

 

飛鳥が言い返そうと十六夜の方を向いたが真剣な表情をみて、言葉を失う

 

「けど、ペストと戦えるだけの実力があるなら話は別だ」

 

そう言ってニヤリと笑う十六夜

 

「まあ、ジンとペストの急造コンビの相手にはちょうどいいだろう」

 

どうせ勝てないだろう、と言った様子で言う紫炎を見て飛鳥が腰に手を当てて言い返す

 

「いいわ。紫炎君と十六夜君が間違ってたことを証明してあげるわ」

 

「ああ。せいぜい頑張ってくれ」

 

「じゃあ、今日はもう遅いし明日で良いな?」

 

「ええ、いいわよ」

 

そう言って解散となった

 

ジンは自分の意思とは無関係日程が決まって行くのを見て、唖然としつつも拳を握り気合を入れるのだった



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第五十六話

主賓室で話が終わった後、それぞれが自分の個室に戻っていた

 

紫炎は布団に入らず、窓から外に出ようとしていた

 

「どこに行くつもりだ?紫炎」

 

「・・・十六夜か。何、ちょこっと外へ散歩に・・・」

 

十六夜が窓から入ってきて少し驚く紫炎

 

「嘘をつくな。春日部が心配なのはわかるが一人で勝手に行動するな」

 

その言葉を聞き、紫炎の動きが止まる

 

「何でわかった?」

 

「わかりやすいんだよ。まあ、気づいたのは俺だけだが・・・」

 

そういって十六夜が紫炎の方に歩く

 

「もう一度言うぜ。一人で勝手な行動をするな」

 

「嫌だね」

 

「そうかよ」

 

その瞬間、十六夜が紫炎を殴る

 

「何しやがる」

 

「そんな風に睨んだって行かせねーよ」

 

「うるせー」

 

紫炎が十六夜を殴ろうと拳を振るが、簡単に止められる

 

「頭に血が上り過ぎだ。そんなんで行ったところで何にもできねーよ」

 

「はあ?何を・・・」

 

紫炎が何か言おうとした瞬間、十六夜が腹に拳を入れ眠らせる

 

「ったく、何があったか知らんが今の体力じゃ巨人ですら危ないんじゃないか?」

 

十六夜はそういって紫炎をベットに投げ捨て自分の部屋に戻った

 

――――――――――――――――

 

翌日の朝、地響きにより紫炎が起きる

 

「何だ。いててて」

 

まだ昨日十六夜に殴られた箇所が痛むらしく、その場所を押さえながら音のした場所へ歩いて行った

 

すると、地下水門前で十六夜がバケツを持って歩いていた

 

「ん?紫炎か。腹なんて押さえてどうしたんだ?」

 

「十六夜。一回殴らせてくれ」

 

そういって拳に炎を灯す紫炎を見て十六夜が高らかに笑う

 

「ヤハハハ。ぜってー嫌だね。そんなもん食らっちまうとどうなるか」

 

「ふざけんじゃねえ。俺より数段やばいパンチ力持ってる奴が何言ってやがんだ!」

 

「何やってんだ?お前ら?」

 

紫炎と十六夜が言い争ってると、布団を簀巻きにした状態で二つ背負ってる紫龍が来た

 

「何だっていいだろ。それよりなんだそれ?」

 

「布団」

 

「そういうこと聞いてんじゃねえー」

 

紫龍の言葉に紫炎は声を荒げ、十六夜は先ほどより大きな声で笑う

 

「それより、十六夜君。そのバケツは?」

 

「おっと、そうだった」

 

そういって十六夜が地下水門の方へ大股で歩いて行った

 

「で、お前は何しに来たんだ?布団なんか担いで・・・」

 

「ああ、これは・・・」

 

紫龍がなにか言いかけていると、布団から顔が出た

 

「いきなり何するんですか、紫龍さん」

 

「そうですよ!ほぼ初対面の人間を簀巻きにするってどういう神経の持ち主なんですか!!」

 

「・・・何やってんだよ」

 

布団から出てきた碓氷とクリスを見て、紫炎が紫龍に呆れた目で見る

 

「何って、こいつら強くしないと次に巨人が来た時、死んじまうからな」

 

「は?何言ってんだよ。クリスの実力は知らんが碓氷は巨人なんてどうってことないだろ?」

 

「普通のならな。ほら、小型の少しだけましなのがいただろ?あいつだとぎりなんだよ、こいつ」

 

そういいながら碓氷を指す紫龍

 

すると、少し暗い顔になる碓氷

 

「そうか?実力的には俺と一緒位だと思うんだが?」

 

「水場ならな。こいつ、水場じゃないとギフトの力が著しく落ちるんだ。普段なら気にすることじゃないが今回は念には念を入れて多少なりとも実力をつけさせようと思ってな」

 

それを聞き、紫炎が碓氷を見ると、気まずそうに顔を逸らす

 

「そうか・・・。ならクリスは?」

 

「普通に実力不足」

 

「うるせーー!」

 

普通に力が足りないことを言われ、涙目になるクリス

 

「二日で力がつくものなのか?」

 

「付けなけりゃ死ぬだけだ。あ、お前はギフト使うなよ。体力回復が優先だ」

 

「は?なんで・・・」

 

「ちょ、離してよ」

 

紫龍に理由を問い詰めようとした紫炎だったが、突如聞こえた大声で止められてしまう

 

「おお、おっさん。どうせ此処使うんだろ?」

 

「そうだけど、羨ましいな。美女二人を担げるなんて。俺なんて男なのに」

 

「どうでもいい。使うならさっさと使えよ」

 

「その前にこっちの状態に何かツッコミなさいよ!」

 

担がれている人間を無視して話をしてると、飛鳥からのツッコミが飛ぶ

 

「悪い悪い。てか、何で濡れてんだ?」

 

「十六夜君がバケツでかけてきたのよ」

 

「失礼なことを言うなよ、お嬢様。手が滑ったんだよ」

 

「滑ったならなんで私たちだけじゃなく何で黒ウサギやサラにまで水がかかるのよ」

 

「「何!?」」

 

それを聞いた瞬間、紫龍は布団を投げ捨て水門の方へ走り出した

 

クリスも投げ捨てられた瞬間、器用に抜け出し走って行った

 

「それじゃあ俺は二人を風呂に入れてくるわ」

 

「ああ、わかった」

 

「ちょっと待ちなさい。この状況でのコメントがそれだけなの!?」

 

飛鳥のむなしい叫びが聞こえてきたが紫炎は聞こえないことにした

 

「さて、碓氷はどうするんだ?」

 

「紫龍さんの修行を受けます。あの人、指導だけはピカイチですから」

 

「まあ、指導だけならな・・・」

 

碓氷と紫炎がしゃべっていると、水門のほうから爆音が聞こえた

 

「多分、黒ウサギだろうな」

 

「でしょうね。とりあえず私は紫龍さんを起こしに行きますが、あなたはどうします?」

 

「俺も行くわ。『ギフトを使うな』って言う真意を聞きに行く」

 

そういって二人が水門の方に歩いて行く

 

「赤羽さん!なんなんですか、あなたのお父さんは!?」

 

「よし、黒ウサギ。白夜叉と十六夜、どっちに引き渡されるのがいい?」

 

「なんでですか!?というよりなんですか、その選択肢は!!どっちもほとんど変わりないじゃないですか!!」

 

紫炎が黒ウサギに笑顔を向けながら軽い死刑宣告をする

 

「さっさと選べ。まあ、嫌なら紫龍っていうのもいいが」

 

「だから何でですか!?・・・まさか紫龍さんのことをお父さんって言ったからですか?」

 

「よし、この件が終わったら白夜叉に渡した後、十六夜、紫龍の順番で渡してやる」

 

「ちょっとなんでそうなるんですか!?聞いてるのですか!?」

 

「黒ウサギ、早く風呂に行こう」

 

紫炎に文句を言ってる黒ウサギを見かねて、サラが風呂に連れて行った

 

「さて、紫龍のとこにでも行くか」

 

そういって紫炎は水門の方に歩いて行った

 

――――――――――――――――――――――

 

吸血鬼古城の城下町で耀達はゲームクリアの為、黄道の十二宮を示す代物を探していた

 

ジャックは空から探し、残った耀とアーシャは他にも連れ去られていた子供たちと一緒に地上から探していた

 

「おいオマエラ、高いところには上るなよ。大きながれきは三人以上で退けるように。・・・石をぶつけられた?おい、ぶつけた奴は今すぐ謝らないと、逆さづりの刑だぞ、コラ!!」

 

喧嘩していた子供を見事に仲裁したアーシャに耀が近づく

 

「慣れてるね」

 

「ああ、クリスがね・・・」

 

そういって視線を逸らすアーシャ

 

「なるほど。仲がいいんだね」

 

「まあ、な」

 

アーシャが恥ずかしそうに頬をかく

 

「あ、もしかして・・・」

 

「な、何だよ」

 

「クリスの事好きなの?」

 

そういった瞬間、アーシャの顔がみるみる赤くなる

 

「な、何言ってんだよ!クリスは・・・そう、弟みたいなもんだよ」

 

「ふーん。応援するよ」

 

「だから違うって!・・・ん?」

 

アーシャが耀に向かって怒ってると何かに気づく

 

「どうしたの?」

 

「この結晶、うちのコミュニティのか?でもなんか違うような・・・」

 

「これは紫炎がくれた。あと、昨日自分の意志で蓄えた炎を使えるようにしてくれた」

 

耀がそう言いながらペンダントを愛おしそうに握る

 

それを見てアーシャがニヤリと笑う

 

「私の事より、耀はどうなんだよ。紫炎の事どう思ってんだよ」

 

「・・・大好き」

 

耀はそう言うと、顔が赤くなる

 

二人で話していたので他の子どもたちが不思議そうにこっちに問いかけてきた

 

「お姉ちゃんたち、どうしたの?」

 

「なんでもない。ほら、探しに行こう」

 

そういって耀たちはゲームの攻略の為に歩き出した



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第五十七話

紫炎と碓氷はクリスto紫龍を起こす

 

「さて、早速始めるか」

 

「その前になんで俺に『ギフトを使うな』って言ったんだ?」

 

「理由は色々ある。メンドクサイから言わないが」

 

紫龍がそういった瞬間、紫炎が殴る

 

「もういい。じゃあな」

 

「待て、バカ息子」

 

「誰が・・・」

 

紫炎が紫龍の言葉に振り向こうとすると、いきなり殴られる

 

「立て、今のお前の状態で俺に一撃でも当てれたら何処へでも行け」

 

「・・・上等!」

 

そういって炎を拳に纏わせて殴りかかる

 

しかし、軽くよける

 

「アホ。単調すぎる」

 

そういって紫炎を蹴飛ばす紫龍

 

「紫龍さん!なにするんですか!」

 

「おっさん!覚悟しろ!!」

 

「黙れ!お前ら!!」

 

二人が攻撃態勢を取ると、紫龍が声を荒げる

 

「あいつは自分の状態が何にもわかっちゃいない。そんな奴にはちょうどいいさ」

 

「それなら・・・」

 

「口で言って聞く奴じゃないしな」

 

そう言いながら紫龍は紫炎に近づき、紫炎のギフトカードを取り出し何かをしている

 

「何をしてるんですか?」

 

「う~ん。言ってもいいんだけど今は良いだろ。それと」

 

紫龍が紫炎の頭を持つと手の甲に何か紋章のようなものが浮かびあがる

 

「おっさん。紫炎になにしてんだ!」

 

「おっさん言うな。これでも結構傷ついてんだぞ。よし、終わった」

 

そう言いながら紫龍が紫炎から離れる

 

「さて、紫炎は誰かに任せてお前らは修行だ。こっち来い」

 

それを聞いた二人が紫龍に聞こえない程度で話をする

 

「おい、碓氷。本当にあのおっさん、信用できるのか?」

 

「今までなら即答できたんですが、あれを見ると流石に・・・」

 

「どうしたんだ。早く来い」

 

「しょうがない。行きますか」

 

「え!?マジで」

 

碓氷の言葉にクリスは嫌々ながら紫龍に挑んでいった

 

一時間後――――

 

「くっ・・・。紫龍の奴、本気で蹴りやがったな」

 

紫炎が腹と頭を抑えながら起き上る

 

「お!紫炎、起きたか。なら自分の部屋に戻って寝とけ」

 

「は!ふざけん・・・」

 

紫炎が拳を構え、炎を纏わせようとするが発炎しなかった

 

「ほら、ギフトも使えないんだしさっさと休め」

 

「てめえ、何しやがった」

 

「さあ?」

 

怒り気味で言った紫炎の言葉に紫龍がふざけた声で返す

 

「ふざけやがって・・・」

 

「し、紫龍さん。休憩はもういいです。早く続きを・・・」

 

「そうだぜ、いい加減当ててやる」

 

紫炎が紫龍に掴み掛ろうとすると、紫龍の後ろの方から碓氷とクリスの声が聞こえた

 

「もうちょい休んでろ。流石に強く殴り過ぎた」

 

「い、いえ、まだ一発も当てれてないんですから」

 

「そうだぜ、流石にこのままじゃ引き下がれないぜ」

 

そういいながら二人はフラつきながらも立ち上がる

 

「おい、どういう状況だ?」

 

「修行。お前が気絶してから、俺と二対一で戦ってたんだよ」

 

「そうか・・・。それより一発もくらってないのか?」

 

「ん?ああ、そうだ。だってこいつら攻撃が単調なんだよ」

 

そういって紫龍が二人の方に歩いて行った

 

「二人相手に無傷だと・・・」

 

「なかなかやるんだな、あのおっさん」

 

「ああ・・って、十六夜か。いつの間に」

 

いつの間にかいた十六夜に驚く紫炎

 

「ついさっきだ。それよりお前はどうしてたんだ?」

 

「そんなことはどうでもいいんだ。それより俺のギフトが使えなくなってるんだ」

 

「何?それはいつごろ戻るんだ?」

 

十六夜が真剣な表情で紫炎を見る

 

「・・・よくわからない。紫龍が何かしてるらしい」

 

「その通り」

 

「いつ戻るんだ?」

 

「明日、救援隊が出るころには戻してやるよ」

 

「今すぐ戻しやがれ」

 

「紫龍さんが突然現れるのはもう慣れっこなんですね」

 

碓氷のツッコミには誰にも反応せず、三人で話を進める

 

「戻すとお前、そのまま古城に向かうだろ?」

 

「・・・ああ」

 

「おいおい、いくら春日部が心配だからって足並みそろえなきゃいかんだろ」

 

「十六夜、お前にだけは言われたくないぞ」

 

紫炎が睨みながら言ってると紫龍が囁きかけてきた

 

「耀ちゃんが好きだからって焦り過ぎなんだよ」

 

「黙れ・・・」

 

紫龍の茶化すのを殺気交じりの目で返す

 

「余裕なくなり過ぎだろ」

 

「うるせー。さっさと・・・」

 

「えっと、常連さん。ちょっとよろしいですか?」

 

紫炎が紫龍の胸ぐらを掴み、詰め寄ってるとキャロロが壁からこちらを見ていた

 

「キャロロか。悪いが今はちょっと・・・」

 

「いえ、急ぎの用らしいので」

 

そういってキャロロは包帯を巻かれた三毛猫を抱いていた

 

「小僧、ちょっとええか?」

 

「三毛猫か。大丈夫だ、耀は必ず助けるからお前は休んどけ」

 

紫炎がそういってもう一度紫龍に向き直る

 

すると、キャロロは三毛猫を紫炎の顔の近くに持ってくる

 

「?なん・・・」

 

紫炎の言葉が全部言い切る前に三毛猫が紫炎の顔をひっかいた

 

「落ち着け、小僧。お嬢は大丈夫や。守られな生きていけんほど弱くはない」

 

その言葉を聞き、紫炎は紫龍から手を放した

 

「お、何話してたか分からんが、ようやくわか・・・」

 

紫龍の言葉を最後まで聞かず、殴り飛ばした

 

「ふー。ありがとな、三毛猫。おかげで頭が冷えたよ」

 

「それは何よりなんやけど・・・」

 

「大丈夫なんですか?あの人」

 

キャロロと三毛猫は吹き飛んだ紫龍の方を見て紫炎に尋ねた

 

「大丈夫だろ。それより十六夜、何でお前は此処にいるんだ?」

 

「ああ。お嬢様とペストを風呂に連れて行った後、ぶらついてたら音が聞こえてな。それで立ち寄ったんだよ」

 

「そうなのか。なら、俺は自室で休憩しとくわ」

 

そういって紫炎は自分の部屋へと戻って行った

 

「で、おっさんは何者だ?紫炎のギフトはどうやって封じてる?」

 

「十六夜君。君なら自分のギフトの事を喋るかい?」

 

それを聞き、十六夜が高らかに笑う

 

「ヤハハハ、違いねー」

 

「だろ」

 

そういって二人は大声で笑いあった

 

 



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第五十八話

紫炎は自室に戻った後、次の日まで寝ていた

 

起きてから紫龍に会いに来ていた

 

「さてと、ギフトを使えるようにして貰おうか」

 

「もう使えるぞ」

 

「は?」

 

紫炎が気の抜けた声を上げる

 

「お前が寝てる時に返し・・・」

 

紫龍の言葉を最後まで聞かず、殴り飛ばす紫炎

 

「時間の無駄だったか」

 

「待て」

 

立ち去ろうとする紫炎だったが紫龍の言葉を聞き、止まる

 

「お前はあの城に何しに行くんだ?」

 

「耀を・・・迎えに」

 

それを聞き、紫龍が満足そうな顔を浮かべる

 

「そうか。・・・そんなに耀ちゃんの事が好きなのか」

 

「・・・ああ」

 

殴られると思っていた紫龍は少し唖然としている

 

「聞き忘れてたことが一つあったわ」

 

「なんだ?俺に答えられることなら・・・」

 

「八年前の真実」

 

紫炎の言葉に紫龍の動きが止まる

 

「どうしても聞きたいのか?」

 

「ああ」

 

「・・・生きて帰ってきたら教えてやるよ」

 

「分かったよ」

 

そういって紫炎が部屋から出て行った

 

其れを確認した紫龍は誰に言うでもなく、口を開く

 

「おい、出てこいよ。今なら俺一人だぜ」

 

「あれ?気づかれちゃってました?」

 

すると、ノースリーブの黒いワンピースを着た黒髪の少女がいきなり現れた

 

「リンちゃんか。また同じ用件かい?」

 

「ええ。今回は良い返事を期待してますよ」

 

リンと呼ばれた少女がナイフを一本取り出しながら言う

 

「物騒だね~。何回も来てるけど、今回は実力行使かい?」

 

紫龍はそれも気にせず、いつもの調子で返す

 

それをみて、リンは笑顔を浮かべながら口を開いた

 

「ええ。今回こそ私たちの仲間になってくれますよね、紫龍さん?」

 

――――――――――――――

 

紫炎が紫龍の部屋から立ち去ってからしばらくして、救援隊の集合場所に来ていた

 

「おお、紫炎か。ギフトはどうだ?」

 

「ばっちりだぜ」

 

そういって炎を灯しながら答える紫炎

 

「紫炎、準備は良いのか?」

 

「グリーか。もちろんいいぜ」

 

グリーと紫炎が喋っていると、サラが前に出てきた

 

「皆、準備はいいか。これよりあの古城に行き、ゲームクリアを目指す。行くぞ!」

 

それを聞き、全員が飛翔していった

 

少しして、その場所に赤い仮面を被ったナニカが現れた

 

「・・・・・・」

 

それが両手を挙げると、地面から二日前紫炎を襲った仮面の敵が現れた

 

そして、手を振るうと仮面の敵は紫炎たちが飛び立った方へ向かう

 

いくらか空に浮いた後、いきなり燃え出した

 

「久々だな、ジョーカー。三年ぶりか?」

 

「・・・・・・」

 

紫龍がジョーカーと呼ばれる赤い仮面の敵の後ろから現れた

 

「いや、三年前は直接は会ってないか。なら、八年ぶりか」

 

そういった紫龍は殺気が膨れ上がっていった

 

「・・・なるほどな。なら、あの時の小僧はどこだ?」

 

「誰が言うかよ」

 

「残念だな。八年前とおんなじようにしてやろうと思ったのにな」

 

ジョーカーのその言葉に紫龍が炎を全身に纏わせる

 

「黙れ。もうこれ以上あいつを好きにはさせん」

 

そう言いながら紫龍は炎をジョーカーに放つ

 

それを横から出てきた仮面を被った人形で防ぐ

 

「ケケケ、何があったか知らんが八年前から大分ギフトの力が衰えてるな」

 

「てめーだけはちゃんと灰にしてやるよ」

 

そういって紫龍はギフトカードからカプセルを取り出し、それを飲んだ

 

すると、全身から炎が噴き出した

 

「なんだ。いきなり発炎量があがった」

 

「これが三年かけてお前に対抗するために作ったギフトだ」

 

そういって炎から出てきたのは赤い羽織を羽織った十代後半くらいの紫交じりの赤い髪の少年だった

 

「なんだ・・・。神格が・・・。お前、何をした!」

 

「悪いが喋ってる時間がもったいない。行くぞ」

 

―――――――――――――

 

紫龍が現れたくらいの頃、救援隊は上空千メートルの場所まで来ていた

 

「しかし、ここまで来ると絶景だな」

 

「ああ。それにグリフォンのこの疾走感、なんともいい気持ちだぜ」

 

「本気を出せばこんなものじゃないぞ。編隊を崩してもいいならこの五倍は速いぞ」

 

「行くか」

 

「「行くな」」

 

勝手に突っ走ろうとした十六夜をサラと紫炎がダブルでツッコミを入れる

 

「よし、行くか」

 

「「だから、いくな」」

 

二人のツッコミを聞かずに、もう一度言う十六夜に二人は頭を抱えながらもう一度ツッコミを入れる

 

古城まで半分くらいまでになると、急に十六夜が黙った

 

「どうした?」

 

「・・・箱の中に閉ざされた場所なのに地平線が見えやがる」

 

紫炎もそれを聞き、後ろを向きながら飛ぶ

 

「・・・確かに。急ぎじゃなけりゃあゆっくり見ときたいものだわ」

 

「春日部と二人でか?」

 

十六夜がにやけながら茶化す

 

しかし、紫炎は顔を赤くしながら軽く答える

 

「ああ」

 

「け!幸せ者め」

 

それを聞き、十六夜はつまならさそうにいい、もう一度景色に魅入る

 

二人は進みながらも、景色に魅入っていた

 

だから気づけなかった

 

「?」

 

最初に異変に気付いたのはサラだった

 

何やら黒い平面上の何かが現れた

 

「・・・・・・・ぁ」

 

それを目にした瞬間、一斉に血の気が引いた

 

「ぜ、全員にげろぉぉぉぉぉおおおお」

 

サラが退却命令を出すが何もかも遅かった

 

そこから現れたのは魔王・レティシア=ドラクレア

 

彼女はサラを見下したまま無情な一撃を放った

 

「・・・っ!」

 

サラは死を覚悟して目を閉じるが、何も起こらない

 

恐る恐る目を開くと、十六夜がサラを庇い左肩を貫かれていた

 

「お、お前・・・」

 

「サラ!後陣を下げさせろ」

 

紫炎がそういって十六夜達の前に出る

 

レティシアの形をした何かが紫炎を見定め、龍の影を無数の槍に変幻させた

 

「十六夜!長くは持たなさそうだ。早く来い」

 

紫炎はそういって刀に炎を纏わせ、影をはじく

 

(これは本当にレティシアか?威力が桁違いすぎる)

 

「くっ・・・」

 

紫炎が少しづつ捌ききれなくなってくる

 

「紫炎!」

 

十六夜がグリーの手綱を掴みながら、三叉の槍で影を弾く

 

「どう思う?十六夜」

 

「ああ?あれの正体の事か?まずはゲームとは無関係の“何か”ってことは間違いないよな」

 

「それにあの威力、神格の可能性があるぜ」

 

「ああ、となるとだ」

 

紫炎と十六夜は互いに顔を見合わせる

 

「おい、サラ。お前は戻ってろ」

 

「なっ、それは出来ない。飛鳥からも・・・」

 

「足手纏いだ」

 

サラが紫炎に言い返そうとしたのを十六夜がバッサリと断ち切る

 

「しかし・・・」

 

「「「ウオオオオオオォォォォォ」」」

 

サラがさらに言い返そうとすると、下から巨人の叫び声が聞こえた

 

「巨人族!馬鹿なあの距離をどうやって・・・」

 

「さあな。だが、下は誰か指揮を執らなければまずいんじゃないか?」

 

それを聞き、サラは苦い表情をする

 

「・・・分かった。無茶はするなよ、二人とも」

 

「努力する」

 

「出来ればな」

 

それを聞き、サラは急降下する

 

二人はそれを見送りながら喋る

 

「さて、左腕は大丈夫か?」

 

「力は入らないが、手綱くらいは握れる」

 

「それじゃあ、行くか」

 

紫炎の言葉が合図のように影が二人に襲い掛かった

 

 



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第五十九話

「「「ウオオオオオォォォォォ」」」

 

巨人が来襲する声がアンダーウッド全域に響き渡った

 

「お。巨人が来たのか。なら、こっちもさっさと終わらせなきゃな」

 

そういった紫龍から三つの黒い影が現れた

 

「・・・ククク。ようやく出したが、一匹足りないんじゃないか?」

 

ジョーカーが瓦礫の中から出てきながら言う

 

紫龍の方は頬などに少しだけ切り傷がある程度だ

 

「さて、八年前のけりつけさせてもらうぜ」

 

それを聞き、ジョーカーが笑い出した

 

「あの女の仇なら、あの小僧も殺すのか?殺したのはあいつの手だもんなぁ」

 

「黙れ!」

 

紫龍が叫んだ瞬間、一つの影がジョーカーに襲い掛かる

 

「GYAAAAAA」

 

「忘れたのか?俺の使役しているこの悪魔たちを」

 

「忘れるわけないさ。三年前、四体の悪魔とアンタの炎でうちのコミュニティを殆ど潰したもんな」

 

ケタケタとふざけるように笑うジョーカーを見て紫龍の怒りは頂点に達した

 

「ふざけんな!焼き殺せ、“憤怒のサタン”!」

 

「GYAAAAAAAAAAAA」

 

紫龍の言葉を合図に襲っていた悪魔が一度離れたと思うと、ジョーカーを覆うほどの炎を出しもう一度襲い掛かった

 

「はあ、はあ、はあ。戻れ」

 

紫龍がそういった瞬間、三体の悪魔は紫龍の体に戻って行った

 

「グッ・・・。カハッ」

 

その時、紫龍は吐血する

 

「もうか・・・。だが、ジョーカーも倒したんだ。これで・・・」

 

「何がだ」

 

いきなり聞こえた声に紫龍が反応して振り返ろうとすると、左腕を切り落とされた

 

そこから、何か黒い影が二つ出て行った

 

「く・・・。確かに手ごたえは・・・。グァァァアアア」

 

叫びと同時に紫龍が炎に包まれる

 

すると、少年の姿だった紫龍が元の姿に戻る

 

「ケケケケ。元に戻って力が弱くなったんじゃないか?」

 

そういったジョーカーは仮面が黒くなっていた

 

「確かに倒したはず・・・。グ、ガハッ」

 

「死にぞこないが。・・・まあ、確かにあいつは死んださ」

 

「あいつ?」

 

「ああ。だが、何もジョーカーは一枚じゃないんだぜ」

 

それを聞き、紫龍が何かに気づいたようだ

 

「・・・トランプ」

 

「ああ。あくまで呼び名だけど、な!」

 

「グアッ」

 

ジョーカーに蹴られ、壁まで吹っ飛ぶ紫龍

 

その後、ジョーカーは紫龍を無視し上空を見る

 

「あの小僧は上か」

 

「!・・・行か・・・せる・・か」

 

紫龍がよろよろと立ち上がり、ジョーカーに向かおうとする

 

「ケッ」

 

「グゥ・・・」

 

ジョーカーが指を軽く振ると、紫龍の右足が切り離された

 

「さっきの薬の副作用かどうか知らんが、ギフトを使えん奴に負けるわけないよ」

 

そういって紫龍を残し、ジョーカーは上空へと飛び立った

 

「紫・・・・炎・・・・・・」

 

――――――――――――――――――――

 

「「「ウオオオオオォォォォォ」」」

 

巨人は高原から一気に平野の先の丘に移動した

 

ただし、先日のように濃霧にまぎれて奇襲したわけではなく、突如として現れた

 

巨人が押し寄せたころ、碓氷はのーネームメンバーと一緒にいた

 

「やはり、このタイミングでしたか」

 

「呑気なこと言ってないで行くわよ」

 

巨人が大河を越え、堤防を壊そうとする

 

「遠いけど少しは持つかな?」

 

「え?」

 

碓氷の呟きに飛鳥が疑問で返す

 

すると、堤防の前に氷の壁が現れた

 

「前に川があって助かりました。この間にバロールの死眼対策を立てましょう」

 

「え、ええ。此処は『バロール退治』の伝承をなぞろうかな、って思います」

 

「ということは黒ウサギの出番だったりします?」

 

ケルト神話では必勝の加護を帯びた槍を撃ったことでバロールを倒したとある

 

『マハーバーラタの紙片』のインドラの槍も必勝の加護を帯びているのでそれに倣おうという事だ

 

「それなら巨人族の主な撃退はまかせましたよ、ペストさん」

 

「ふん」

 

ペストは碓氷が気に入らないのか少し機嫌が悪い

 

「あなた、何したの?」

 

「いえ、何も・・・」

 

その言葉にペストが反応した

 

「ええ、何にもしてないわよ。白夜叉や紫龍に着せ替えられてる時もね」

 

それを聞き、碓氷が目を逸らす

 

「まあ、それで彼を恨むのはお門違いよ」

 

「ええ、わかってるわよ。けど一言、言いたかっただけよ」

 

「・・・すいませんでした」

 

碓氷が罪悪感に負け、土下座をする

 

それを見て、機嫌を直したのか口角をあげてニヤリとするペスト

 

「もういいわ。巨人の方に行ってくる」

 

そういってペストは最前線へと向かって行った

 

「す、すいません」

 

「いえ。止めれなかった僕にも責任がありますので・・・」

 

ジンと碓氷の腰の低いもの同士が謝る

 

「それより巨人族の侵攻を食い止めましょう」

 

飛鳥がそういうと前線ではなく、地下都市の防衛線の方へと向かって行った

 

「それじゃあ僕も防衛線の方へ」

 

「前線じゃないんですか?」

 

「守りの方が性に合ってるんですよ。それに前線には・・・」

 

碓氷の言葉の途中、堤防の方で爆発音が聞こえた

 

「まさか巨人が・・・」

 

「いえ、多分クリスでしょう」

 

「クリスさんですか!?でも明らかに威力が違うと思いますが・・・」

 

「紫龍さんの下で修業したんですよ。そしたらああなったんですよ」

 

それを聞き、ジンと黒ウサギは唖然とする

 

「それでは僕は防衛線の方に向かいます」

 

そういって碓氷が飛び降りて地面に着くと、前線のほうで氷が突き出た

 

「碓氷さんも紫龍さんに修行をつけてもらったんですよね」

 

「多分そうですよね」

 

あまりの成長ぶりにジンと黒ウサギは顔を見合わせる

 

「「紫龍さんって何者!?」」

 

―――――――――――――――

 

紫龍の腕が切り落とされたころ上空では紫炎と十六夜がレティシアもどきと対峙していた

 

「この、野郎」

 

紫炎は弾ききれなかったのか影に切り裂かれた傷口がある

 

「大丈夫か、紫炎」

 

「ああ、何とか」

 

「一定距離離れると攻撃してこないが、それが逆に厄介だ」

 

「だな。・・・ん?」

 

紫炎が何か違和感を感じ、下を見ると黒い影が迫ってきた

 

「な、何だ?うわ!!」

 

影が紫炎にぶつかったかと思うと、紫炎を包んだ

 

「どうした、紫炎」

 

「いや、何か変なのがぶつかったような」

 

自分の体の状態を確かめ、異変が無いので気のせいだろうという結論に至った

 

「何にもないならもう一回いくぞ」

 

「ああ・・・」

 

紫炎が刀を構えて突っ込もうとすると、頭に何か声が響く

 

≪下だ≫

 

「え?うわ!」

 

頭に響いた声の通り、下を向くと黒い仮面のジョーカーが攻撃してきた

 

「ちっ、外したか」

 

「危な!」

 

避けた紫炎は炎で攻撃をするが、何かに切り裂かれたかのように炎が消える

 

「紫炎!」

 

グリーがそれを見て助けに来ようとする

 

「死にたがりが」

 

ジョーカーがグリーに向き直り、腕を振ろうとする

 

「やらせるかよ」

 

「ケ、お見通しだよ」

 

紫炎が切りかかろうとした瞬間、ジョーカーが顔だけ紫炎の方に向けると紫炎の皮膚が裂ける

 

グリーの方は何かに縛られてるように動けなくなっていた

 

「ふむ。弱いな」

 

「「誰がだ」」

 

十六夜が槍を振るうとグリーを縛っていた何かが切れ、紫炎も炎を纏い傷を焼いて塞ぐ

 

「なかなかやるようだな。さて、どっちから死にたい?」

 

「は!誰が・・・」

 

「下のおやじより楽しませてほしいものだ。私が行ったときには力を使い切っていたからね」

 

それを聞き、三人とも黙ってしまう

 

「来ないんだったら・・・こちらから」

 

ジョーカーがそういってグリーに襲い掛かろうとする

 

「・・・待てよ」

 

「うぐ!!なに!?」

 

すると紫炎の手から鎖が現れ、ジョーカーを拘束する

 

「・・・これ以上、好きにはさせねえ」

 

そういって鎖を引き寄せ、そのまま殴る

 

少し距離が開いた瞬間、殴った箇所から炎が噴き出る

 

「十六夜。すぐ戻るから、さっさとあのレティシアもどきを倒しとけよ」

 

紫炎はそう言うとさらに追撃を加える為、ジョーカーの飛んだ方へ向かった

 

「ケケケケ。死ね」

 

ジョーカーが追ってきた紫炎に向かって腕を向ける

 

≪掴め≫

 

また頭に響いた声の通りに動く紫炎

 

すると、ジョーカーに繋がってる糸のようなものを掴む

 

「掴まえたぜ」

 

紫炎がそれに火を点け、そのまま燃やす

 

しかし、全然効いていないのかそのまま喋り続けるジョーカー

 

「ケケケケ。効かねえよ。けど、どこかで見た気が・・・」

 

≪待たずに攻撃しろ≫

 

「グッ・・・」

 

また頭に響く声が聞こえ、頭を抑える紫炎

 

(なんだ、お前は?)

 

≪俺は元からお前の中にいるぜ。ただ、喋れるきっかけができたから喋ってるだけだ≫

 

(きっかけ?)

 

「油断大敵だ」

 

「ゴハッ・・・」

 

頭の中での会話に夢中になっていてジョーカーの接近に気づかず、攻撃をモロに食らってしまう

 

「死んだか?なら、上の奴を殺しに行くか」

 

「待てよ」

 

土煙の中から鎖が出て来てジョーカーの動きを止める

 

「またか?こんなもの・・・」

 

「待て、つってんだろうが!!」

 

紫炎が土煙から飛び出し、ジョーカーを殴り飛ばす

 

「その眼・・・。そうか、八年前のあの小僧か。それならあのおやじもお前の手で殺してやればよかったよ」

 

「あ?どういうことだ!?」

 

「言葉通りだ。八年前、あの時・・・」

 

ジョーカーが言葉を発しようとした瞬間、平野の方で強烈な光が発せられた

 

「な、なんだ!?」

 

「時間切れか。これで終わらせてやるよ」

 

そういったジョーカーから黒い影が出てきた

 

「何か知らんがそんなので・・・」

 

「GRAAAAAAAA」

 

紫炎の言葉の途中、黒い影から雷が放たれ紫炎を襲う

 

「な・・ん・・・だ。そ・・・・れ」

 

「簡単に言えば悪魔の思念体を自分の能力で具現化したものだ。唯の悪魔じゃないがな」

 

「ぐああああああ」

 

一旦やんだ雷が更に紫炎を襲う

 

≪見てられん。“色欲”如きに負けてもらわれても困る≫

 

紫炎の頭に声が響いたと思うと紫炎を包んでいた雷が消えた

 

「はあ、はあ、はあ。助かったとは思わないぜ」

 

「何を・・・」

 

いきなり独り言を言い出した紫炎に疑問を投げかけようとしたジョーカーだったが紫炎の左目が白くなり、その目のに紋章がうつり言葉を失う

 

≪あんな奴に負けるわけにはいかないからな。今回は特別だ、力を貸してやる≫

 

(上から目線なのが気になるが、ありがたく使わせてもらうぜ)

 

「・・・・ケケ。いくらスペックが高かろうが使い方次第なんだよ」

 

そういったジョーカーの右手に紋章が浮き出て、光だす

 

すると、黒い影がジョーカーを包みだす

 

「ケケケケ。“色欲のアスモデウス”は電気を操る。細胞を電気で刺激してやれば・・・」

 

包んでいた影が出てきた人物の中に消えていく

 

「こうなるわけだ」

 

ジョーカーは先ほどまでの姿ではなく、ピンクのふんわりとした髪の女性になった

 

「母・・さん・・・」

 

「ケケケケ。八年ぶりの再会だろう?また、こいつを殺したいなら俺に攻撃して来てみな。出来れば・・・」

 

喋っていたジョーカーだったが、いきなり腕が肩から焦げ落ちた

 

「母さんは死んだんだ。テメーを攻撃すること=母さんを攻撃することにはならねえ」

 

「・・・・この、ガキが!」

 

ジョーカーの肩から赤い腕が生える

 

「テメーのギフトは血ってところか」

 

「黙れ、クソガキ。八年前の事実を知りたくはないか?知りたければ・・・」

 

「そんな手には乗らねえよ」

 

紫炎が周りに炎を撒く

 

「血の糸で動きを止めようとしても無駄だぜ」

 

「うるせえぞ、クソガキ!!八年前と同じようにテメーは俺に使われとけばいいんだよ!!」

 

ジョーカーが血の糸と雷で紫炎に攻撃を仕掛ける

 

「無駄だ」

 

撒いた炎が自動で雷と血の糸を燃やし尽くす

 

「俺の前にその姿で戦いを挑んだことを懺悔しな」

 

紫炎がそう言うと周りに七つの黒い炎が現れる

 

「・・・“傲慢のルシファー”。段違いだぜ」

 

「死・・・」

 

「GYEEEAAAAAAAaaaaa」

 

攻撃しようとした紫炎だったが、いきなりの雄叫びに隙が出来てしまった

 

「ケケ」

 

「グッ・・・」

 

一瞬のすきを突かれ、モロに雷を受けてしまう

 

「くそ・・・。どこだ、どこに居やがる」

 

紫炎が目を開けると、ジョーカーの姿がなくなっていた

 

≪逃がしたみたいだな。それじゃあ俺は戻るぜ≫

 

頭の声が聞こえ終わった瞬間、左目が元の赤い瞳に戻り今までの痛みが返ってきた

 

「ぐぅぅぅ・・・。何が起こってやがるんだ?なんでゲームが再開を・・・。まさか上で何かあったのか!?」

 

そこまで思案すると紫炎は傷ついた体に鞭打って上空の古城へと急いだ



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第六十話

古城に着いた紫炎は体を引きづりながら歩いていた

 

「くそ!思うように体が動かん」

 

それでも龍が動き出してしまった為、体に鞭打って動き続ける

 

すると、数分歩いたところで誰かが倒れているのが見えた

 

「耀!?グッ・・・」

 

紫炎は駆け出そうとしたが、疲労の限界だったのか倒れる

 

それでも立ち上がり、無理矢理耀のそばまで移動する

 

そして、耀の状態を確認する

 

「足のけが少し酷いが、とりあえず大丈夫か」

 

紫炎が安堵していると物陰から二つの影が出てきた

 

「お兄さん。耀さんは無事でしょうか!?」

 

「兄ちゃん、嬢ちゃんの様子はどうだ?」

 

出てきたのは収穫祭の受付にいた木霊の少女と老人の猫の獣人だった

 

「とりあえず気絶してるだけみたいだ。ところで二人の名前は?」

 

「私はキリノです」

 

「俺はガロロ=ガンダックだ。兄ちゃんは?」

 

「赤羽紫炎だ。・・・って自己紹介してる時間がもったいない。急いでクリアを・・・」

 

限界だったのか紫炎は立とうとした瞬間、耀に乗っかるように倒れる

 

「おい、兄ちゃん。大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

(急がなきゃいかんのだが・・・、もう少しだけこのまま)

 

わざとじゃないが久々に耀に触れられて、少し癒される紫炎

 

「ん?紫炎じゃないか。なにやってんだ?」

 

「大丈夫かよ?」

 

すると、十六夜とアーシャ、ジャックが現れた

 

紫炎は急いで立ち上がろうとしたが、まだ体力が回復してなかったのかもう一度倒れこむ

 

「・・・ヤホホホ。皆さん、行きましょうか」

 

「そうだな」

 

「?」

 

「・・・なるほど。そういうことか」

 

紫炎の下にいた耀が目に入ったのかジャックと十六夜が笑いながら言うと、キリノは何のことかわからずガロロは二人の関係を気づいたようだ

 

「おい、待てお前ら」

 

「あんまり大声だすと春日部が起きるぜ」

 

「ヤホホホ。そうですよ。貴方達の体力の回復を待ってるほど時間もなさそうですしね」

 

そういって五人が歩き出した

 

「おい、待てって。おい、コラッ!」

 

紫炎の言葉は届かず、そのまま歩いて行った

 

一分ほどじっと体力の回復に努めた

 

「よし、何とか動けるな。それじゃあ・・・」

 

紫炎は耀をおぶり、十六夜達の後を追った

 

「ん・・・。ここは・・・」

 

「起きたか。大丈夫か?耀」

 

「え・・・・。紫炎?」

 

耀は起きると今の状態に気が付き、顔を赤くする

 

「ん、どうした?」

 

「な、なんでもない」

 

おぶられていたため顔は見られなかったが、手に力が入ってしまって強く握りしめてしまい紫炎に不審がられるが何とかごまかす耀

 

「それならいいが・・・。時間が惜しいし、少し急ぐぞ」

 

「う、うん。・・・・・・あ」

 

「どうしたんだ?やっぱりどこかけがを・・・」

 

「ち、違うの。その・・・あのヘッドホンがなくなったみたいなの」

 

「そうか。けど今はまだ探しに行くなよ」

 

「わ、わかってる」

 

そんな話をしながら玉座の間に着く二人

 

「お、来たか。別に二人でゆっくりしてても良かったんだぜ」

 

「アホか。今は一刻も争うんだぞ。ゆっくりするのはゲームが終わってからだ」

 

「疲れで春日部の上に倒れこんだんだから無理はするなよ」

 

「バカ、言うな!」

 

十六夜がにやけながら言った言葉に紫炎は顔を赤くして怒鳴り返し、耀も顔を真っ赤にし俯く

 

「まあ、それよりレティシア。一つ質問だ」

 

「何だ?」

 

「外の巨龍、あれはお前自身だろ?」

 

その言葉を聞き、レティシアが意外そうな顔を浮かべる

 

「ふっ、その通りだ。だが安心しろ。勝利条件をクリアすれば巨龍は消え、私の力は無効化されゲームクリアだ」

 

「・・・信じていいんだな?」

 

十六夜がレティシアを睨みながら言うと首を縦に振る

 

それを見た十六夜が最後の欠片を窪みにはめる

 

すると、契約書類が勝利宣言がなされた

 

『ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

     勝者 参加者側コミュニティ “ノーネーム”

     敗者 主催者側コミュニティ “     ”

 

*上記の結果をもちまして、今ゲームは終了とします

 尚、第三勝利条件達成に伴って十二分後、大天幕の開放を行います

 それまではロスタイムとさせていただきますので、何卒ご了承ください

 夜行種の死の恐れがありますので七七五九一七五外門より退避してください

 

                            参加者の皆様お疲れ様でした』

 

それを見た耀は鋭い目つきでレティシアを睨む

 

「・・・どういうこと?」

 

「そのままだ。十二分後に大天幕が開かれ太陽の光が降り注ぐ。その光で巨龍は太陽の軌道へと姿を消すはずだ」

 

「レティシアはどうなるの?」

 

その言葉を聞き、レティシアは苦い顔をする

 

そして懺悔するように呟いた

 

「・・・死ぬ、だろうな。龍の媒介は私だ。それにこの玉座の上にあるのは水晶体だから太陽が直射されることは間違いないだろう」

 

「だ、だって無力化されるだけだって・・・」

 

「あれは嘘だ」

 

自嘲気味に告げたレティシアに耀が紫炎から降りて胸ぐらを掴もうとするとその手はすり抜けてしまった

 

「な、何これ?」

 

「言っただろう?あの龍の媒介は私だと。此処にいる私はいわば精神体のようなものだ。本来なら私に触れると影が襲ってくるのだが・・・やはり十六夜が倒したらしい」

 

レティシアは苦笑しながら十六夜を見るが、十六夜は目を細めてそっぽを向く

 

「三人とも、辛い役目を騙すように押し付けてしまってすまない。しかしわかってくれ。私はもう二度と同志を死なせたくないのだ」

 

懇願するように三人に優しい目を向けながら言うレティシア

 

すると今まで黙っていた紫炎が急に口を開いた

 

「なるほどな。レティシアの言い分は分かった。要するに俺達“ノーネーム”の同志たちは絶対に殺したくないってことか」

 

紫炎の言葉にレティシアは安堵の表情を浮かべる

 

「それならレティシア、お前も俺たちの同志だ。絶対に死なせやしない」

 

「なっ・・・。バカなことはやめろ!おい、誰かあいつを止めてくれ。紫炎は・・・本気で龍と戦うつもりだ!」

 

レティシアが外に行こうと体を外に向けた紫炎を止める為に周りにいる全員に叫ぶ

 

すると十六夜が紫炎の肩をつかむ

 

「お前・・・本気か?」

 

「ああ」

 

十六夜の言葉に振り向いた紫炎の左目はジョーカーと闘った時のように、白い眼の中に紋章があった

 

「そうか。なら、手伝ってやるよ」

 

「十六夜!お前まで何を言っている!!」

 

「巨龍を倒すといったのさ。さっきまで気力が萎えてたんだがな、同じコミュニティのメンバーがやるなら協力するのはあたりまえだろ?」

 

そういった後、いつものように笑う十六夜をレティシアが更に言葉を続ける

 

「見損なったぞ、紫炎、十六夜。お前たちはもっと聡明な人間だと思っていたのに・・・。コミュニティを任せられる男達だと・・・」

 

「おいおい、レティシア。十六夜はまだしも俺の事は買いかぶり過ぎだ。俺は『仲間を見殺しにしたくない』っていう自分のエゴの為に半ば自殺するような男だぜ。・・・まあ、十六夜が手伝ってくれるなら自殺じゃなくなるがな」

 

そういって紫炎は十六夜を見ながら笑う

 

「お前たちは無責任だ。もし、お前たちが死んだら耀は、飛鳥は、ジンは、黒ウサギは・・・何よりコミュニティに残ってる子供たちはどうする。残された者の事を考えたらどうだ」

 

「ああ、残されたものは悲しむな。誰が死んでもな」

 

紫炎がレティシアを睨みながら言うとレティシアはだまってしまう

 

「レティシアの言ってることは正しいぜ。俺たち二人は無責任かもしれない。・・・けどな、責任を背負わない奴は臆病者で卑怯者だ」

 

紫炎が言い終わると、十六夜が何かに気づいたようで紫炎に声をかける

 

「紫炎。もし俺が言わなかったらどうしてた?」

 

「決まってんだろ。特攻」

 

それを聞き、さらに高らかに笑う十六夜

 

「レティシア。テメーは自己犠牲を貫く聖者のような奴だ。けどな俺はそんな奴より紫炎みたいな物わかりの悪い勇者を助ける方が百倍好ましいね」

 

「私も、行く」

 

十六夜が言い終わった後、耀がおぼつかない足取りで立ち上がる

 

紫炎は耀に駆け寄り、肩を貸す

 

「大丈夫か?歩けるか?」

 

「うん、何とか」

 

「やめとけ・・・と言いたいところだが、俺も似たようなもんだからな」

 

少し笑いながら、耀を元気づけようとする紫炎

 

「分かるか、レティシア。お前が同志を殺したくないのと同じくらい―――――いや、それ以上に俺達は仲間を見捨てたくないのさ。だから待ってろ。俺たちがお前を、完膚なきまでに救ってやる」

 

十六夜が耀と紫炎に聞こえない程度の声でレティシアに声をかけた

 

それを聞き、レティシアは顔を俯かせ髪で顔を隠す

 

「おい、二人とも。いちゃついてないで行くぞ」

 

「「いちゃついてない!!」」

 

十六夜が茶化すと耀と紫炎は顔を赤くしながら返す

 

そして十六夜を先頭に、紫炎が耀に肩を貸し、ついて行くという形になった

 

三人が去った後、ガロロは他の人たちも人払いをしてレティシアに話しかける

 

「いい仲間をもったな」

 

「ああ、私にはもったいないほどのな」

 

レティシアは泣いているのか少し声が上ずっていた

 

「あの子たちは同志を殺したくないってお前さんの思いを汲んで、命を懸けて救おうとしてくれてるんじゃないか」

 

「そんなことは最初から分かっているさ。だが、実際は死ににいくようなものだ」

 

「信じよう。待つのも仲間の務めだぜ」

 

諭すような声でガロロがレティシアに話しかける

 

レティシアはそれを泣きながら黙って聞いていた



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第六十一話

紫炎達が玉座の間を出て行った頃、アンダーウッドの麓では飛鳥が大樹を守る為巨龍の前に立つ

 

「ディーン。限界まで巨大化するわよ!急いで」

 

「DEEEeeeEEEN」

 

飛鳥の一声により、ディーンは大樹と同じくらいの大きさになった

 

(いくら大きくなっても私の力じゃ重量は十倍以上にはならない・・・)

 

飛鳥が少し不安に思っていると、碓氷が飛鳥の隣に降りた

 

「飛鳥さん、後ろに下がってください。僕が止めます」

 

「嫌よ。他の同志が頑張ってるのに私だけ逃げるなんて・・・」

 

「あんな不安そうな顔している女性に無理はさせれませんよ」

 

「!?」

 

自分ではそんなに表情に出しているつもりでは無かったが、それを見られてた思い顔を赤くする

 

「僕じゃあ激突するまで、数十秒ほどしか持ちませんからディーンで他の人を・・・」

 

「ふざけないで!私はアンダーウッドを守るためにここにいるの。人を逃がす為じゃないわ!」

 

飛鳥が碓氷に向かって声を荒げて反論する

 

すると、サラが炎翼をはばたかせ二人に近づいた

 

「何をしている二人とも!早く逃げろ!!」

 

「嫌よ!」

 

「逃げるにしても足止めが必要でしょう」

 

二人はサラの言葉に即答した

 

「私たちの後ろにはアンダーウッドがあるのよ」

 

「承知の上で言っている。早く逃げろ!」

 

「一体どこへ?このまま巨龍がアンダーウッドに突っ込めばどこにも逃げ場なんてありませんよ」

 

碓氷の言葉に一瞬たじろくサラ

 

「それにもし、ここが―――――“アンダーウッド”が巨龍に破壊されたら私の友人全員が悲しむわ」

 

「どうしても退かないのか?」

 

「もちろん」

 

「死ぬかもしれないんですよ?貴女がもし、死んでしまったら・・・」

 

「あら?退くぐらいならそっちの方がましよ。多分、私たちの仲間は全員そう言うわよ」

 

それを聞き、碓氷は少しだけ笑い声をあげる

 

「わかりました。私も手伝います」

 

「そうか・・・。それなら」

 

二人の覚悟が伝わったのか、サラは短刀を取り出し、自分の龍角を切る

 

「な、何をするの!?」

 

「・・・私の龍角は、強い霊格を持っている。神珍鉄とも溶けあうはずだ」

 

そういってサラはディーンに龍角をささげる

 

すると、伽藍洞の身体から赤い熱を帯びた風が吹き荒れる

 

「行きなさい、ディー・・・」

 

「飛鳥さん。後ろ!」

 

「え?」

 

碓氷の声に反応して後ろを向くと、黒い仮面だけが浮いていた

 

すると、その瞬間そこから雷が放たれた

 

「危ない!」

 

その瞬間、碓氷は飛鳥の前に立ち、代わりに雷を浴びる

 

「碓氷君!」

 

「ぼくは・・・大、丈夫です。あの雷はどうにかしますので巨龍の方は任せます」

 

「・・・っ。わかったわ、任せなさい」

 

碓氷の言葉に飛鳥は庇ってもらって自分が頼られているのを実感する

 

碓氷は仮面の方に視線を向け、周りに氷の破片を散らばせる

 

すると、もう一発雷が来ると氷を伝って地面に外れる

 

「消えてろ」

 

矢のような氷を作り、的確に仮面を打ち抜く碓氷

 

「これで・・・」

 

一瞬気を抜いた瞬間、またどこからか雷が碓氷を襲う

 

「碓氷君!大丈夫!?」

 

「な、なんとか・・・。けど、あれは」

 

見てみると、射抜いたはずの仮面の欠片が復元しさらに数が増えていた

 

(さすがにこの数は・・・)

 

「ワォォォォオオオン」

 

いきなり遠吠えがしたかと思うとすべての仮面がいきなり燃え出した

 

「今のは・・・」

 

「そんな事気にしてる場合じゃないわ。迎え撃ちなさいディーン」

 

「DEEEeeeEEEN」

 

飛鳥が叫ぶと、突っ込んできた巨龍にディーンが左腕を前に出し巨龍の動きを止めようとする

 

勢いが少し衰えたものの、まだアンダーウッドの方へ進んで行っている

 

「止まれぇぇぇえええ」

 

飛鳥がサラを抱きながら叫ぶ

 

巨龍はディーンの左手を噛みつきながら勢いは衰えない

 

(ダメ、このままじゃ・・・)

 

飛鳥が諦めかけた瞬間、巨龍の動きがいきなり止まった

 

―――――――――――――――――

 

時は少しさかのぼり、紫炎、耀、十六夜は古城の先端まで来ていた

 

「行く前に確認だ。まず俺が動きを止める、それで心臓が見えたら十六夜が一撃で仕留める。これでいいな?」

 

「私は?」

 

「十六夜を連れて行く役目とレティシアを助ける役目だ」

 

「分かった」

 

耀が紫炎の言葉に頷くと、目を閉じて集中する

 

(まだ合成獣とかまだ怖いけど、そんなことは言ってられない。今は十六夜を運びきるために空を飛べて尚且つ早い幻獣を模倣する)

 

すると、“生命の目録”は光となり、耀の履いていた革のロングブーツを包み込む

 

そしてブーツは白銀の装甲に包まれ、先端からは光の放つ翼が生えた

 

「出来た。後は十六夜を・・・」

 

「・・・驚いた。めちゃくちゃカッコいいじゃないか」

 

「ああ。凄いじゃないか」

 

二人は耀のブーツをまじまじと見た後、目を輝かせていう

 

すると、耀が少し恥ずかしそうに顔を赤くする

 

「ありがとう。・・・でも、紫炎が言った通り私は運ぶだけだから・・・」

 

「ああ、任せとけ。こんなカッコいいものを見せてもらったんだから、俺もとっておきを見せてやるよ」

 

「頼むぜ。俺も体力的に結構きついからそこまで長く止められそうにないが・・・」

 

紫炎がそう言いながら下を見ると、巨大化したディーンが見えた

 

「飛鳥にも協力してもらうか」

 

「飛鳥にも?」

 

「ああ。俺が止めた瞬間、ディーンで殴ってもらう。だから・・・」

 

「分かってるよ。しっかり一撃で決めてやるさ」

 

そういって十六夜はいつもと同じように笑う

 

そして紫炎が下を見ながら二人に言う

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

「うん」

 

「おう」

 

紫炎が飛び出したのを皮切りに、二人も続く

 

紫炎はそのまま自然に任せて落下していく

 

巨龍がディーンと接触したのを見て右手に力を入れる紫炎

 

すると、影が右手を包む

 

(やっぱりこの力、俺のギフトを底上げしてるような感じだ。けど、それだけじゃない気がするが・・・)

 

「今やることは一つ」

 

紫炎が手を軽く振ると、手の平から炎で作った鎖が現れ巨龍の首に巻きつき、動きを止める

 

「よし。飛鳥!」

 

巨龍の動きが止まると、ディーンが右手で巨龍を殴りあげる

 

すると、巨龍の身体が透過していき心臓に刻まれた極光が浮き彫りになった

 

「見つけたぜ、十三番目の太陽!」

 

十六夜は光の柱を束ねて一撃で巨龍の心臓を撃ち貫く

 

すると巨龍は静かに消えて行き、心臓から零れ落ちたレティシアを耀が抱き留めて右手を高く上げる

 

「良かった。・・・グッ」

 

紫炎は安心した瞬間、頭に痛みが走ったかと思うと意識を失って落ちる

 

「紫炎!」

 

それを見ていた耀が急いで紫炎に駆け寄ろうとする

 

(駄目!間に合わない)

 

レティシアを抱き、十六夜を浮かせている今の耀では紫炎に追いつくことが出来ない

 

それでも耀は紫炎を追う

 

地面に落ちると思った瞬間、横から何かが紫炎を助ける

 

「良かった。・・・でも誰が」

 

「おい、あそこだぜ」

 

耀が十六夜の指さした方向を見ると、狼が紫炎をくわえていた

 

「ウォン」

 

狼は紫炎を地面に置くと、アンダーウッドの方へと走り去った

 

それを少し見つめた後、耀は十六夜を地面におろしてレティシアを渡すと紫炎に駆け寄る

 

「紫炎!大丈夫!?」

 

「・・・・・・・zzz」

 

耀は紫炎を見ると、気持ちよさそうな寝顔を浮かべていた

 

「バカ、心配したんだから・・・」

 

涙目で紫炎を抱き寄せる耀

 

それを遠くから見守っていた十六夜は二人に気づかれないようにアンダーウッドに戻る

 

(春日部のギフトがあればちゃんと戻って来れるだろう)

 

自称空気を読める男である十六夜

 

「・・・あれ?十六夜?」

 

耀は一通り周りを見てみると、十六夜が居ないことに気が付く

 

「あの野郎・・・。気が利くじゃないか」

 

抱き寄せていた紫炎からいきなり声が聞こえ、驚く耀

 

「・・・・え。紫炎、いつから?」

 

「ちょっと前から」

 

それを聞き、耀は顔を真っ赤に染める

 

「それじゃあ戻ろうぜ。立てるか?」

 

「待って。その・・・」

 

もじもじしながら紫炎を見つめる耀

 

「・・・触った?」

 

耀の言葉を聞いた瞬間、紫炎はいきなり慌てだす

 

「わ、わざとじゃないぞ。その・・・、耀が抱き寄せた時にちょっとな」

 

それを聞いた瞬間、耀は耳まで赤くなる

 

「いや、その・・・。ごめん」

 

「・・・本当に悪いと思ってる?」

 

「はい、重々思っております」

 

耀の言葉に少し怒りを感じた紫炎は正座をした

 

「それじゃあ一ついい?」

 

「・・・俺に出来ることなら何でもするよ」

 

紫炎が耀を見つめて言うと、耀は顔を赤くして俯く

 

「・・・じゃあおんぶして」

 

「へ?」

 

「アンダーウッドまでおんぶして連れてって」

 

「いいけど・・・」

 

紫炎がそう言うと、背中を耀に向ける

 

そして耀はそれを見て紫炎の背中にくっ付く

 

(やっぱり紫炎の背中、落ち着く)

 

すると、耀は安心したのか紫炎の背中で眠ってしまった

 

「気分はどうですかお姫様、って寝ちまったか」

 

(寝顔もかわいいな。ってのろけすぎか)

 

紫炎は微笑みながらアンダーウッドへと歩を進めた



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第六十二話

耀をおぶっていた紫炎はアンダーウッドに着くと、十六夜に見つかった

 

「紫炎じゃないか。・・・なんで春日部が寝ててお前がおぶってるんだ?」

 

「いいじゃないか、別に。それで、耀の個室はどこだ?主賓室の個室、耀だけなかったろ?」

 

十六夜がそれを聞くと、今までそのことを忘れていたらしい

 

「そういえばそうだったな」

 

「はぁ~、しょうがない。それなら黒ウサギか飛鳥の部屋に・・・」

 

「紫炎君に・・・、春日部さんは何でおんぶさられてるのかしら」

 

「飛鳥か。そのことは聞くな」

 

二人で話していると、飛鳥がやってきた

 

「言いたくないなら別にいいけど。巨龍の突撃とかで部屋が減っちゃったから二人で一部屋になったみたいよ」

 

「そうなのか。それじゃあ部屋割りは・・・」

 

「黒ウサギとお嬢様、俺と御チビ、そして紫炎と春日部のペアでいいだろう」

 

十六夜が紫炎と耀に向かってニヤニヤとする

 

「ちょっと待て!それは問題があるだろ!!」

 

「どう分けても一組は男女ペアになるんだからしょうがないじゃない」

 

「それもそうだが・・・」

 

もっともな意見を出され、黙ってしまう紫炎

 

「荷物はもう部屋に置いてあるから」

 

「やっぱその部屋割りで決定なのか?」

 

「「もちろん」」

 

声を揃えて言う二人に紫炎はしょうがないといった表情を浮かべる

 

「部屋は俺が使ってた部屋でいいのか?」

 

「いや、その隣だ」

 

「なんでだ?」

 

「ベットがツインベットだからだ」

 

「はあ!?」

 

十六夜の言葉に紫炎は顔を赤く染める

 

「ちなみに十六夜君たちの部屋はベット一つにもう一人は雑魚寝なんだから良かったじゃない」

 

「良くねえよ!そっちの方がいいわ。飛鳥、部屋を変わってくれ」

 

「嫌よ。ちなみに私たちの部屋はシングルが二つよ」

 

「それじゃあ・・・」

 

「御チビがもう寝てるから無理だ」

 

それを聞いた瞬間、愕然とする紫炎

 

すると、紫炎の声が大きかったのか耀が目を覚ます

 

「ん・・・。紫炎?」

 

「悪い、起こしたか?」

 

「ううん。運んでくれてありがとう」

 

耀がそう言うと紫炎にさらにくっ付く

 

「大分進展してるな」

 

「ええ。私たちの気遣いが無駄にはなら無さそうね」

 

「気遣い?」

 

先ほど寝ていた耀は首を傾げる

 

「それは紫炎に聞きな」

 

「それじゃあお休み、春日部さん」

 

「うん。お休み、飛鳥、十六夜」

 

二人は軽いノリでその場を離れて行ったが、紫炎には二人の顔が悪魔の笑みを浮かべていたのを見逃さなかった

 

「あいつら・・・」

 

「どうしたの?それに気遣いって・・・」

 

「いや、それは・・・」

 

とりあえず紫炎は部屋が同じという事だけを話した

 

それを聞き、耀の顔は今まで見たことないくらいに真っ赤になる

 

「とりあえず部屋まで運ぶよ。荷物はもう持ってかれてるらしいからな」

 

それを聞いた耀は言葉を出さず、首を縦に振るだけだある

 

部屋に着くまでの間、紫炎は耀に話しかけるが全然言葉を発しなかった

 

「着いたぞ。それじゃあ俺は荷物を持って外に・・・」

 

「別にいい。一緒の部屋で・・・」

 

「へ?」

 

耀の呟いた言葉に紫炎と耀は顔を真っ赤にする

 

「ほら入ろう」

 

そういった耀は紫炎から下りて扉を開く

 

するとダブルベッドが視界に入った瞬間、耀が固まる

 

「ほらな。俺は寝るときに外で寝るから」

 

「と、とりあえずお風呂に行ってくる。だから部屋で待ってて」

 

そういって耀は着替えだけ持って風呂場へと走り去った

 

「部屋で、って。へ?」

 

置いてかれたのと耀のさっきの言葉に頭がフリーズする紫炎

 

部屋の前で突っ立ってると聞き覚えのある声により現実に戻る

 

「ヤホホホ。そんなところで立ってどうしたんですか?」

 

「は!ジャックさん。いえ、何でもありません」

 

「何でもないことないでしょう。部屋に何かあるのでしょう」

 

「ダ、ダメだ。見るな」

 

紫炎は見せないように努力するが、抵抗むなしく中のベッドと二つのカバンを見られてしまう

 

「おやおや。一つはあなたのだとしてもう一つは・・・。ヤホホホ、なるほど」

 

「な、なんだよ。何がなるほどだよ!」

 

「いえいえ。それではごゆっくり」

 

「ちょっと待て!なんか誤解してるだろ!!」

 

紫炎の叫びはジャックに届かなかった

 

ジャックが見えなくなると紫炎は言い訳をするかのように独り言を呟きだした

 

「ジャックの奴、何勘違いしてんだよ。耀の奴はまだ十四だぜ。やましいことなんて・・・」

 

紫炎の言葉が止まったかと思うと、いきなり壁に頭を打ち付けだす

 

「落ち着け、俺。耀がああ言ったのは俺を信用してるからだ。その信用を裏切るわけには・・・」

 

「紫炎さん、何やってるんですか!?」

 

「ジンか。何でもないよ」

 

「いえ、そんなわけないでしょ!?頭から血がでてるんですよ!?」

 

「大丈夫だ。ギフトですぐに血は止まる」

 

そういって紫炎は頭に火をつける

 

「そうですか、って火の勢い強くありませんか!?」

 

「え、そうか?熱さ感じないから全然分からないんだよ」

 

紫炎がそういって頭の火を消す

 

やはり火力が強かったのか、髪が少し焦げてた

 

「どうしたんですか?何からしくないんですが・・・」

 

「そうか?自分では全然感じないが・・・、そうなのかもな」

 

「僕はもう寝ますけど、気を付けてくださいね」

 

「おう、お休み」

 

ジンが見えなくなると紫炎は落ち着きを取り戻した

 

「ふー。少し血を流したおかげか落ち着いてきた」

 

「何が?」

 

「耀!?なんで浴衣?」

 

「なんとなく?」

 

「何故に疑問形!?」

 

いつものように耀にツッコミを入れていると、耀がいきなり笑い出した

 

「どうしたんだ?いきなり笑い出して」

 

「ううん。大したことじゃないの。やっぱりこうやって紫炎と二人っきりでいられると幸せだな、って思ったの」

 

「今この状況でそれを言うのは卑怯だぞ」

 

そういって紫炎は耀を抱き寄せる

 

耀も引き寄せられても慌てずに嬉しそうにする

 

「紫炎。・・・大好き」

 

「ああ、俺もだ」

 

「それじゃあ寝ようっか」

 

「そうだな」

 

紫炎がそう言うと、耀から離れて荷物を持って廊下に出ようとする

 

すると、耀に服を掴まれてかと思うとベッドに引き倒される

 

「何処に行くの?」

 

「いや、一緒のベッドで寝るって色々まずいだろ」

 

「紫炎なら大丈夫でしょ?」

 

それを聞き、紫炎は複雑な表情をする

 

信頼されているのか、へたれだと思われているのかが分からない

 

「わかったよ、外に出ないから放してくれ」

 

「分かった」

 

耀に放してもらった後、紫炎はベッドの端に移動する

 

「お休み」

 

「うん、お休み」

 

そう言った耀は紫炎にくっ付く

 

「あの・・・耀さん?」

 

「何?」

 

「離れてくれると嬉しんですけど・・・」

 

「いや。二日も離れてたんだから今日くらいは甘えさせて」

 

そう言った耀は紫炎を強く抱きしめる

 

流石に何か違和感を感じた紫炎が耀に尋ねる

 

「古城でなんかあったのか?」

 

「・・・ちょっとね」

 

「そうか」

 

紫炎はそれ以上は何も聞かずに耀の方へとむきなおり、そっと抱き寄せる

 

「・・・聞かないの?」

 

「言いたく無さそうだからな。無理には聞かないさ」

 

そういって紫炎は耀の頭を優しく撫でる

 

「ありがとう」

 

耀はそういうと寝息を立て始めた

 

「・・・寝たか。それじゃあベッドから・・・」

 

出ようとすると、耀が寝る前から掴んでいたのか紫炎の服を放していない

 

「・・・嬉しいんだけど、流石に不味いよな」

 

「ん・・・。紫炎」

 

耀が寝言を言った瞬間、手を握る力が強くなる

 

「はあ、これじゃあ外に行けないじゃないか」

 

紫炎はそう言うと微笑みながら耀の頭を撫でた

 

―――――――――――――――――

 

飛鳥は紫炎達と別れてからレティシアが寝ている部屋に来ていた

 

起きた時、一人だと不安になるかもしれないということだからだ

 

飛鳥がレティシアの金髪を羨ましそうに触ってる

 

「綺麗な髪。私もちょっとは自信があったんだけど、これを触っちゃうとな」

 

すると、ノック音が聞こえてきた

 

「すいません。よろしいでしょうか?」

 

「あら、碓氷君。いいわよ」

 

「失礼します」

 

碓氷が扉を開けると、寝ているレティシアが見えたので静かに扉を閉めた

 

「それでどうしたのかしら?碓氷君」

 

「いえ、今から東に帰るので挨拶をと思いまして」

 

それを聞き、飛鳥は少しさびしそうな顔をする

 

「それはまた、急な話ね」

 

「一応、私たちは今回の収穫祭を視察に来ただけですからね。それがこんなことになってしまって」

 

飛鳥はそれを聞き、残念そうな表情をする

 

「それってつまり・・・」

 

「魔王のゲームにも勝利できるほどの実力がある、そういう報告ができますよ」

 

ほぼノーネームの実力ですけどね、と笑いながら付け足す碓氷

 

それを聞き、飛鳥の表情を明るくする

 

「ということは・・・」

 

「ええ、五桁昇格はほぼ確実でしょう」

 

飛鳥はほっと胸を撫で下ろした

 

「それと、飛鳥さん」

 

「あら、何かしら?」

 

「巨龍に立ち向かう姿、かっこよかったですよ」

 

「なっ・・・」

 

最後に碓氷が言い残した言葉に飛鳥は顔を真っ赤にする

 

「飛鳥さん。今日はもう大丈夫ですよ・・・ってどうしたんですか?顔が真っ赤ですよ?」

 

すると、あわただしく入ってきた黒ウサギが飛鳥の顔が真っ赤になっているのに気づく

 

「な、何でもないわよ。それより早く寝に行きましょう」

 

「え?は、はい・・・」

 

飛鳥が無理やり黒ウサギを連れ出すことで話を切り上げることに成功した

 

――――――――――――――――

 

上空の古城にいたガロロ達は二翼の活躍により、無事に地上に着いた

 

「まさかコウメイの娘がきてたとは・・・」

 

「耀ちゃんの事か?」

 

「ああ・・・ってなんだこの狼は!?」

 

自室でくつろいでたはずなのにいつの間にか狼がいたので驚く

 

ちなみにこの狼は紫炎を助けた狼と同じである

 

「おっと、この姿だったのを忘れてた。ほら、俺だよ。紫龍だよ」

 

ガロロはそれを聞き、信じられないといった表情をする

 

「紫龍なのか?どうしたんだよその姿は」

 

「腕と足を切り落とされてからな。“サタン”の力で全身を炎に変えて、形を整えたらこうなった」

 

「あれじゃないか?憤怒を表す動物は狼だからな」

 

そう言いながらガロロは酒を取り出した

 

「おお。酒じゃないか」

 

「久々に呑もうじゃないか」

 

「一緒に呑むのって何年ぶりだ?」

 

「五、六年前だろ。あの時はコウメイもドラコもいたよな」

 

すると、二人の表情が寂しさを醸し出す

 

「この話は終わりだ。呑もうか」

 

「呑まないでください!帰りますよ、紫龍さん!!」

 

登場と共にツッコミをいれる碓氷

 

「そいつが息子か?」

 

「いや。古城に赤髪の奴が行ったと思うんだが・・・」

 

「ああ、あいつか。今、思えばちょっと似てるな」

 

そういって酒を一口飲むガロロ

 

それを見て紫龍は碓氷に目を向ける

 

「ダメです。紫炎に見つからないうちに東に帰るって言い出したのは紫龍さんの方でしょう」

 

「自分で言い出したんじゃしょうがないよな。ほら持ってけ」

 

ガロロは紫龍に酒瓶を投げ渡した

 

「サンキューな。それと悪いんだが、紫炎の奴を鍛えなおしてやってくれ」

 

「別にいいが・・・。あんたの息子ならそれなりにやるんじゃないか?」

 

「大罪の悪魔の事は教えただろ?それの扱い方を教えてやってほしいんだ」

 

「それならお前が教えてやったらどうだ?」

 

それを聞き、紫龍はガロロに噛みつく

 

「こんななりだからお前に頼んでんだろうが!」

 

「そんなに急ぐことでもないだろ?今扱ってるわけじゃ・・・」

 

「腕切り落とされた時に二匹逃げたんだよ。多分、一匹紫炎に取りついてる」

 

それを聞き、ガロロの表情が青ざめて行った

 

「確か単体でも五桁の最上位だったよな?そんなのが取りついたってことは・・・」

 

「だから頼んでるんだよ。今は何故か大人しいが、何時本性表すか分かったもんじゃない」

 

「わかったよ。それでお前の息子はどこまで知ってるんだ?」

 

ため息をつきながらガロロは紫龍を見る

 

「何にも知らない。よろしくな」

 

「何にも知らないってことはその悪魔の・・・」

 

「おっと、そこまでだ。碓氷にもそこまでは話してないんだ」

 

すると、碓氷が紫龍とガロロに詰め寄る

 

「悪魔の、なんですか?」

 

「さあ?何のことでしょう?」

 

「・・・はあ。いつかは話して下さいね」

 

「物わかりが良いね。それじゃあ帰るか」

 

そういって紫龍は碓氷を連れて部屋を出て行こうとする

 

「紫龍!ちょっと待て」

 

「ガロロ、なんだ?」

 

「お前さんの息子にどこまで話せばいい?」

 

それを聞き、紫龍は微妙な表情をする

 

「『待っててくれ』って言っといてくれ」

 

そう言い残して二人はアンダーウッドを後にした



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第六十三話

ゲーム攻略がなされた次の日、耀が目を覚ますと見知った顔が自分を見ているのに気付いた

 

「・・・紫炎?」

 

「起きたか。可愛い寝顔だったぞ」

 

その言葉を聞き、耀は少し疑問に思う

 

「もしかしてずっと起きてた?」

 

それを聞くと紫炎は罰の悪そうな顔を浮かべる

 

「・・・この状況で寝られるほど俺は無遠慮な人間じゃないんだよ」

 

「え?・・・あ!」

 

そういって耀は自分の手が紫炎の袖を握っているのと、浴衣が少しはだけて上から布団がかぶされてるのに気が付いた

 

「それに寝言もな・・・」

 

そう言って紫炎は顔を赤くする

 

「・・・私なんて言ったの?」

 

紫炎を見て更に顔を真っ赤にする耀

 

すると、それを見て紫炎がいきなり笑い出した

 

「ククク。嘘だよ、寝言なんて言ってなかったよ」

 

それを聞いた瞬間、耀の拳が紫炎を捕えた

 

「バカ。本当に言ったかと思ったじゃん」

 

「悪い。でも寝顔は可愛かったぜ」

 

耀は先ほど以上に顔を赤くする

 

「もういい。ご飯行こう」

 

「ああ、そうだな」

 

そういって二人は手を繋いで食堂へと歩いて行った

 

(寝言、ホントは言ってたんだけどな。まあ、おれの胸の内だけにしまっておくか)

 

紫炎はそう思いながら耀の寝言を思い出していた

 

『ずっと・・・一緒に』

 

それを思い出してると紫炎は顔が赤くなってるのに気付く

 

「紫炎、どうしたの?顔、赤いよ?」

 

「い、いや、なんでもない。なんでも・・・」

 

「嘘。何考えてたの?」

 

すると、耀は紫炎を下から覗き込む様に見る

 

「な、何でもないって。ほら、行こうぜ」

 

「あ・・・」

 

そういって紫炎は耀の手を引いて食堂に走り出した

 

――――――――――――――――

 

「は、は、は。疲れた」

 

「急ぎ過ぎ」

 

食堂に着いた二人は空いている席に座った

 

「あら?紫炎君に春日部さん、おはよう」

 

「おはようなのです、耀さん、赤羽さん」

 

そうしていると飛鳥と黒ウサギが二人に近づいた

 

「おはよう、黒ウサギ、飛鳥」

 

「おはよう、二人とも」

 

二人も挨拶を返すと、飛鳥が紫炎の耳元で囁いてきた

 

「昨日何か進展あった?」

 

「あるわけないだろ」

 

紫炎が目を逸らしながら言うと、飛鳥は何を勘違いしたのかニヤニヤ紫炎を見る

 

「目を逸らしてるってことは・・・」

 

「紫炎、久々に料理が食べたい。作って」

 

飛鳥が続けて言おうとすると、耀が紫炎の腕を引っ張って話を中断させる

 

「お、おう。わかった」

 

紫炎は耀の迫力に押され、キッチンに向かった

 

耀は紫炎が料理を作りに行ったのを確認すると飛鳥に詰め寄った

 

「紫炎と何話してたの?」

 

「か、春日部さん、目が怖いわ」

 

「何話してたの?」

 

「分かったわ。話すから離れて」

 

飛鳥が根負けしてそう言うと耀は元の席に戻る

 

「それで何話してたの?」

 

「昨日何か進展あったかな~って聞いてたのよ。それで目を逸らしてたのよね」

 

「ふ、ふーん」

 

「それでどうだったの?」

 

先ほどの仕返しとばかりに飛鳥は耀に詰め寄る

 

「な、何にもない」

 

「進展はあったみたいね」

 

「進展?」

 

飛鳥が何かに感づいていると、黒ウサギは何にも知らないのか頭にはてなマークを浮かべている

 

「具体的に何があったのかしら?」

 

「な、何にもなかった」

 

「あら?何にもないならどうして目を逸らすのかしら?」

 

「う・・・」

 

飛鳥がさらに詰め寄って来て耀は怯んでしまう

 

「さあ、夜、何があったか洗いざらい・・・」

 

「へい、お待ち!」

 

飛鳥がさらに問い詰めようとした瞬間、紫炎が皿を置いて注意を逸らせる

 

「あ、あら紫炎君。・・・怒ってる?」

 

「さあな。ほら、食べてくれ」

 

そう言った紫炎は笑顔だったが、目が笑ってなかった

 

「「「い、いただきます」」」

 

「いただきます」

 

そうして四人は静かに食事をした

 

食事をし終わると黒ウサギはレティシアの様子を見に行った

 

「さて俺は紫龍に話を聞きに行くから・・・」

 

「紫龍さんと碓氷君なら東に帰ったそうよ」

 

「は?」

 

「昨日の夜に碓氷君が言いに来たのだけれど・・・」

 

それを聞き、紫炎は頭を抱えた

 

「あの野郎、逃げやがったな。・・・まあ、答えは分かってるからいいんだけどな」

 

そう言った紫炎の顔が何かさびしそうに感じた耀は声をかけようとする

 

「しえ・・・」

 

「お、いい匂いがしてるな」

 

「おはようございます、皆さん」

 

しかし、突如入ってきた十六夜とジンによって阻まれた

 

「おお、二人とも。お前らの分ならちゃんと置いてあるから食べときな」

 

そういって紫炎は耀の手を取って食堂を出た

 

それを見ていた十六夜が口を開いた

 

「あの様子だと夜は何もなかったようだな」

 

「そうなのかしら?目を逸らしてたりちょっと様子がおかしかったのだけれど・・・」

 

「隠したいなら今みたいに二人っきりになるのを避けるだろうよ」

 

それを聞き、飛鳥は納得し、ジンは黒ウサギ同様わかってない様子だ

 

「しかし、紫炎もへたれだな。あれだけお膳立てしてやったのに何にも進展がないとは・・・」

 

「まあ、それだけ大事に思ってるってことじゃないかしら?」

 

「あの~、お二人とも何を話してらしゃるんですか?」

 

何の話か気になったジンが口を開く

 

「御チビは気にしなくていいぞ」

 

「ええ、そうね」

 

「あ、そうですか」

 

最初から期待していなかったのか、その言葉を聞き、ジンはそれ以上聞かなかった

 

―――――――――――――――――

 

紫炎と耀は食堂を出た後、部屋に戻り耀を着替えさせた

 

その後、ヘッドホンを探す為古城に来ていた

 

「ヘッドホン、壊れてなきゃいいけど・・・」

 

「手伝うって言った手前手伝うけど、これは・・・」

 

二人は昨日、耀が敵の幹部と闘っていた場所に的を絞って探すことに決めたが、かなり荒れはてていた

 

「やっぱり、他の人にも手伝ってもらおうか?」

 

「いや、大丈夫だ。ちょっとだけ集中させてくれ」

 

「うん。わかった」

 

紫炎が数秒目を閉じる

 

押して目を開いたかと思うと、左目は前のように白目の中に紋章が浮かび上がってきた

 

「よし。それじゃあ・・・」

 

「待って。昨日も思ったんだけど、その左目どうしたの?」

 

「ああ。昨日、偶然手に入れたギフトだ。寝不足できついがなんとか扱える」

 

そういって紫炎は左手を地面に付ける

 

(昨日の夜聞いたお前のギフト、『空間』に関するものともうひとつで間違いないな?)

 

≪ああ。って言ってもお前が今自分の意志で使えるのは、『空間把握』だけだけどな。昨日みたいに俺が力を貸さない限り・・・≫

 

(今はそれでいい。これから認めさせて引き出させてやるさ)

 

それを聞き、頭に響いた声が止んだ

 

「見つけた。大丈夫、壊れてないよ」

 

そういって紫炎は少し離れたところにあったヘッドホンを拾い上げた

 

「良かった。ありがとう紫炎」

 

「おう。それと悪いんだけど俺を下に連れて行ってくれ」

 

「え?わっ!」

 

紫炎が言い終わった瞬間、耀に向かって倒れる

 

「すまん。このギフトを使うと一気に消耗するんだ」

 

「わかった」

 

「悪い。下に・・着い・・・たら・・・・」

 

「寝ちゃった。・・・久々に寝顔見たかも」

 

魔王のゲームが始まってからはもちろん、収穫祭が始まってから個室で生活し、自由な時に起きるので起こす機会がなかった

 

「早く下りて紫炎の美味しいご飯を食べさしてもらおう」

 

そういって耀は“生命の目録”を白銀のブーツに代えて紫炎をおんぶする

 

「・・・好きだ、耀」

 

紫炎の突然の寝言を聞き、耀は顔を真っ赤にする

 

最初は起きてるんじゃないかと思ったが、結構深く寝ているようだ

 

「やっぱりもうちょっとだけ二人っきりで・・・」

 

耀は紫炎を下すと、膝枕をした

 

「私も好きだよ、紫炎」

 

こうして昼になるまで二人の甘い時間が過ぎた

 

――――――――――――――――

 

碓氷と紫龍は現在、東に戻って白夜叉のいるサウザンドアイズ支店にいた

 

「しかし、神格を返上して大分姿が変わったな、白」

 

「今のお主にだけは言われとうないぞ、龍」

 

ロリから和装の美人になった白夜叉だったが、人間から狼になった紫龍にはとても驚いていた

 

「しかし、この酒はうまいのう。いい土産を持って帰ってきたのう」

 

「だろ。けど、二人で飲むにはちょっと多すぎたか?」

 

「別によい。なにせ今日一日中飲むつもりだからな」

 

白夜叉がそう言うと、二人は盛大に笑った

 

ちなみに女性店員は仕事、碓氷は下戸だからという理由でこの部屋にはいない

 

「しかし、思った以上に不便だわ、この体」

 

「だろうな。しかし、本当におぬしは何者なんだ?流石に知りたくなってきたぞ」

 

「う~ん。誰も聞いてないか?正直、あんまり聞かれたくないんだよ」

 

それを聞き、白夜叉は扇子を広げ、いつものように笑う

 

「大丈夫だ。近くにはおらんよ」

 

「そうか。・・・誰にも話すなよ」

 

「分かっておる」

 

「それじゃあどこから話すべきか。じゃあ最初は―――――」

 

――――――――――――――――――――――

 

(なんだ、この状況は・・・)

 

紫炎は困惑していた

 

今、紫炎は耀に膝枕をされてる状況である

 

「まだ起きないのかな?」

 

耀はまだ起きてないと思い、頬をつつきながら楽しんでいる

 

(ここは起きるべきか。でもな・・・)

 

「何か楽しくなってきた」

 

耀がそういうと、頬をつつくほかに、引っ張ったり、頭を撫でたりして楽しんでる

 

(痛い。・・・でも嬉しそうな顔してるな)

 

そう思いながら紫炎は耀の顔を見るが、それがいけなかった

 

「え?」

 

「あ・・・」

 

耀と目があってしまった

 

「・・・えっと、起きた?」

 

「ああ、それじゃあ下に戻るか」

 

そういって紫炎は立ち上がると、耀がこちらに手を伸ばしてきた

 

「膝枕してたから足がしびれちゃった」

 

「ああ、わかった」

 

紫炎は耀がおんぶしてほしいと気づいたが、あえてお嬢様抱っこをした

 

「え!?ちょ、ちょっと紫炎!?」

 

「足がしびれてるならこれでもいいだろ?」

 

「う~」

 

紫炎が言うと、耀は少し涙目になりながら紫炎を見上げた

 

(やべ、超可愛い)

 

「わかった。恥ずかしいけど、このままで・・・」

 

「ああ、それじゃあ行くぞ」

 

そういって二人はそのまま下に降りた

 

案の定、十六夜や飛鳥に見つかり、色々言われたが二人は殆ど気にせず、そのままでいた



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第六十四話

紫炎と耀が古城から戻ると昼食はペストが作っていたのでそれを食べた

 

「ペストって料理出来たんだな」

 

「うん、意外」

 

「これで俺の料理する機会が減るな」

 

紫炎が心底嬉しそうに言うと、耀は少し不安そうな顔をする

 

「・・・やっぱり、料理ってできたほうが良いのかな」

 

「そりゃあ、出来て困ることはないだろうが・・・。いきなりどうした?」

 

「だって紫炎、料理する機会が減って嬉しそうだから。その、うまく言えないんだけど、将来的に・・・」

 

紫炎は耀のその言葉を聞き、吹き出してしまった

 

「な、何がおかしいの!?」

 

「違う、違う。そんな心配しなくてもいいってことだよ」

 

「ど、どういう・・・」

 

すると突然紫炎が耀の頭を引き寄せて小さな声で囁いた

 

「だって・・――――――――――」

 

紫炎が囁いた瞬間、耀の顔が真っ赤になりあまりの驚きにショートしたようだ

 

言葉を発した紫炎自身も顔を真っ赤にし、照れくさそうに頭をかく

 

「ほら、耀。食べようぜ」

 

紫炎がそういうと、耀は喋らずに首を縦にコクリと振る

 

しかし、食べるスピードは相変わらずだった

 

(やっぱ、よく食べるな)

 

紫炎はそう思いながら自分の食事に移ろうとすると、突然耀が口を開いた

 

「その、さっきの言葉、信じていいの?」

 

「ああ、当たり前だ」

 

「・・・それじゃあずっと待ってるね」

 

そういって耀は微笑みながらこっちを見つめた

 

それを見て紫炎はさらに顔を真っ赤にした

 

(やばいな。可愛い)

 

紫炎はそう思いながら先ほど自分の言った言葉を思い出す

 

『だって・・将来もずっと一緒にいるだろ?その、夫婦として』

 

(だ~、思い出すと恥ずかしすぎる。・・・けど耀の奴)

 

そこで紫炎は一回思考をとぎらせ、耀の方を見ると、もう食べ終わっておりこちらの方を見ていた

 

「あ、悪い。すぐに食べるわ」

 

「あ、ううん。別にゆっくりでいい」

 

「?そうか?」

 

そう言われて紫炎はもう一度食事に戻るが、また視線を感じる

 

(はあ、しょうがない)

 

「耀、ちょっといいか?」

 

「何、紫炎?」

 

「ちょっと量が多かったみたいだわ。少し食べてくれるか?」

 

「いいの?」

 

耀がそれを聞き、目を輝かせる

 

「別にいいよ。ほら、あーん」

 

「・・・あーん」

 

紫炎が差し出した瞬間、一瞬だけ耀は止まったがそのままパクリと食べる

 

「もう一口、あーん」

 

「あーん」

 

それを残っていた食事の三分の一まですると紫炎は残りを自分で食べようとすると、スプーンを耀に取られる

 

「どうした?耀」

 

「はい、あーん」

 

先ほどの紫炎と同じようにスプーンを向ける耀

 

「あーん」

 

「えへへ。あーん」

 

「あーん」

 

料理がなくなるまで二人は食べさせ続けた

 

「何か入りづらい」

 

「そんなことより仲良いな。・・・なあクリス」

 

「やらないぞ、アーシャ」

 

「わ、わかってるよ。そんな事」

 

「ヤホホホ」

 

食堂の前でアーシャとクリスのこんな言い合いがあったのはまた別の話

 

――――――――――――――――――――――

 

「あのー、紫龍さん?コレはどういう状況ですか?」

 

今現在紫龍と白夜叉は酒を頭から浴びたようにびしょびしょだった

 

「ちょっと昔話してたらエキサイトしすぎた」

 

「そのとばっちりだ」

 

「酒の席でふざけるな!このバカ師匠!!」

 

碓氷が珍しく怒り、紫龍の頭をグーで殴る

 

しかし、白夜叉はそんなことはなったかのように話を進める

 

「して、碓氷よ。少し頼みたいことがあるおだが、良いか?」

 

「・・・頼みごとの内容によります」

 

「そう警戒せずともよい。今回のゲームで活躍したノーネームに功績を授与したいと思ってな。うちの店員にも行かせるが、年の近いお主もついでに行ってほしいのだ」

 

碓氷はそれを聞き、不思議に思うことを白夜叉に聞く

 

「別にいいですが、魔王のゲームなのですから功績と言っても魔王・レティシアの隷属なんじゃないですか?」

 

「それはもっともな意見なのだが少し問題があってな。まずは全階層支配者について・・・」

 

「全階層支配者のことなら南にいる時にフェイス・レスさんから聞きました」

 

それを聞き、白夜叉は少々驚いた表情をしたが、すぐに元の表情に戻った

 

「それなら話が早い。魔王であり全階層支配者でもあるレティシアの隷属は“蛇遣い座”の主権も手に入れることになる。流石にそれは七ケタの、さらにノーネームが手に入れていいものではないからな」

 

「なるほどわかりました。それで授与する功績は何でしょう?」

 

「それを聞いてくるのがお主らの仕事だ。頑張って来い」

 

白夜叉はそういって奥の部屋に行った

 

流石に呑み過ぎていたのか、頭を押さえていた

 

「それで、紫龍さんはどうするんですか?」

 

「・・・気づいてたか。もちろん行かない。最低でも二週間は安静にしとかないと、人間の姿を維持するのがきつくなる」

 

紫龍もそう言って白夜叉と違う扉を開けて部屋に戻って行った

 

「それじゃあ僕も明日の事を聞いて、早めに寝ましょう」

 

碓氷はそうつぶやくと、女性店員がいるであろう場所へと歩き出した

 

―――――――――――――――――――

 

その日の夜、紫炎と耀はまた同じ部屋で寝ることになった

 

「なあ、耀。やっぱり俺、外で寝ていいか?」

 

「私と一緒じゃやなの?」

 

涙目+上目遣いで紫炎を見る耀

 

異性、それも自分の彼女にそんなことをされて断れるやつなんて一人もいないだろう

 

「グッ・・・。わかった、一緒に寝るよ」

 

紫炎はそう言うと、前日と同じようにベッドの端に移動する

 

しかし、耀も同じようにくっついてきた

 

「はあ。しょうがない」

 

紫炎はそういって耀の方を向くと、耀に抱き着いた

 

「紫炎、お休み」

 

耀はそう言うと、紫炎の胸にさらにくっ付いた

 

「ああ、お休み」

 

紫炎がそう返すと昨日とは違ってそのまま寝た

 

――――――――――――――――――――――

 

「おい、黒ウサギ。交代するからもう寝とけ」

 

十六夜がレティシアの部屋に入り、黒ウサギと交代しようとする

 

「す~、す~」

 

しかし、黒ウサギはレティシアのベッドの傍で寝息を立てていた

 

「ったく、こんな薄着でこんなとこで寝てたら風邪を引くぞ」

 

すると、元から自分で羽織るつもりだったのか布団を黒ウサギにかけてやる

 

そうして十六夜は黒ウサギの隣で本を読み始めた

 

「う・・ん。あれ?」

 

少しして黒ウサギが目を覚ますと寝る前と違う感触に少しだけ戸惑った

 

「起きたか。後は俺が見とくからお前はもう部屋に戻ってろ」

 

「え、十六夜さん!?あの、もしかしてこの布団・・・」

 

「ああ、そうだが」

 

「あ、ありがとうございます」

 

黒ウサギはウサ耳をパタパタと揺らしながら十六夜に向かって礼を言う

 

「いいってことよ。俺も可愛い寝顔を見れたことだし」

 

「ひゃう・・・」

 

十六夜がいつも通り、キザなセリフを言うと、黒ウサギの顔は真っ赤になる

 

「お休み、黒ウサギ」

 

「お、お休みなさいなのです~!!」

 

そういって黒ウサギは逃げるように部屋から走り去った

 

「いつも通り弄りがいがあるな」

 

十六夜はそういってもう一度本に視線を落した

 

―――――――――――――――――――――

 

「・・・夢の中だよな?こんな現実味のない風景見たことないし」

 

紫炎は今、抽象画に描かれている様な風景の真ん中にいる

 

「理解が早くて助かる。そうだよ、ここはお前の見てる夢だ」

 

いきなり声が聞こえたので、そちらの方を向くと、短い白髪の二十歳くらいの男が立っていた

 

「何者だ!!」

 

「分かりやすく説明するならこれかな」

 

そういって男は右手の甲を見せると、紫炎の左目にあった紋章と同じものがあった

 

「・・・それで何の用だ?」

 

「何、力試しをさせてもらいたくてな。其れによってはいくらか力を貸してやるよ」

 

「その言葉、忘れんなよ!」

 

そういって紫炎は腕に炎を纏わせる

 

「それじゃあ・・・俺に一撃与えれたらお前の勝ちでいいよ」

 

それを聞き、紫炎は少しキレかける

 

「なめてんのか?」

 

「一応、これはゲームだ。お前にも勝てる見込みがないとつまらないだろ」

 

紫炎はそれを聞いた瞬間、キレて殴りかかる

 

「なっ・・・」

 

しかし、男の目の前で何かに阻まれるかのように止まってしまう

 

「そんな攻撃じゃだめだな。せめてこれくらいじゃないとな」

 

男がそういうと、目の前から抵抗がなくなると紫炎に回し蹴りを食らわせる

 

「ちっ。丸腰相手に使いたくなかったが・・・」

 

紫炎はそういってギフトカードから剣を・・・

 

「あれ!?出ない」

 

「当たり前だ。此処は夢の世界。つまりはお前の精神の一部だ。外部のギフトであるギフトカードは使えん」

 

「そうか。やっぱり、炎で倒すしかないか」

 

紫炎はそういうと、手に炎を灯すと、オレンジ色だった炎が青色に変わった

 

「ほう。空気を取り込んで温度を上げたか」

 

「はっ。一撃で決めてやる」

 

「やれるならやってみろ」

 

男がそういうと、何か薄い断面のようなものが見えた気がした

 

(集中しろ。今の炎圧のまま一箇所に・・・)

 

すると、炎が一気に収束し始め、火球が出来上がる

 

「一つ質問だ。てめーを燃やしつくしても力は貸してくれるのか?」

 

男はそれを聞くと、大きく笑う

 

「ああ、出来ればな」

 

「じゃあ、行くぞ」

 

紫炎はそういって火球を高速で男に向かって打ち出す

 

その火球も薄い何かに阻まれるが、炎はその阻んでるものも燃やしている

 

「ほう。良い炎だ」

 

「はっ!随分余裕だな。このまま突き破ってやる」

 

紫炎がそういうと、火球はさらに燃え続ける

 

その瞬間、火球が阻んでいた壁のようなものを突き破る

 

「ふっ」

 

しかし、男は普通に手でその火球を払いのける

 

「なっ!」

 

流石に紫炎は驚くが、男は払った手を見ながら残念そうにつぶやく

 

「一発当たっちまったな。お前の勝ちだ」

 

「は!?防がれてるのに、俺の勝ちだって!?納得できるか!!」

 

「いいじゃないか。お前の勝ちなんだから」

 

男の気の抜けた返しに紫炎はある男を思い出し、いら立ちが頂点にまで達し、その男をぶん殴る

 

「その態度やめろ!腹立つ」

 

「出来るだけ努力するよ」

 

男がそういうと、だんだんと姿が薄くなっていく

 

「おい、どうしたんだ!?」

 

「言っただろ?ここは夢の世界だって。お前がもうそろそろ起きるんだろうよ」

 

「ちょっと待て。お前に色々聞きたいことが・・・」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!!」

 

「!?」

 

紫炎が大声を出して飛び起きると、横でもう起きていた耀が驚いていた

 

「はぁ、はぁ。悪い、耀。驚かしちまったか?」

 

「う、うん。ちょっとだけ。ところで、うなされてたみたいだけど、どうしたの?」

 

「少しな」

 

紫炎が罰の悪そうに言うと、耀はきょとん、とした表情になる

 

「それより、レティシアの付き添い、いつだっけ?」

 

紫炎のその言葉を言った瞬間、扉が吹っ飛んだ

 

「おい、紫炎、春日部。お楽しみ中悪いが交代だ」

 

「ノック位しろ、十六夜。それとお楽しみ中ってなんだよ。俺は今さっき起きたとこだ」

 

紫炎は寝起きなのと十六夜が非常識な入り方をしたため、大分機嫌が悪い

 

それに気づいた耀があわてて声を出した

 

「そ、それより、紫炎。先に朝ごはん食べに行こう。お腹減っちゃって」

 

「・・・わかった。それと、十六夜。悪かったな」

 

いきなり紫炎が謝り、流石の十六夜も驚いていた

 

「・・・ったく。飯食ったら早く来いよ」

 

そう言った十六夜は部屋から出てレティシアのいるであろう部屋へと戻って行った

 

「それじゃあ行くか」

 

「うん」

 

紫炎と耀は手を繋いで食堂へと向かった



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第六十五話

紫炎と耀は朝食を食べ終わった後、レティシアの部屋に行った

 

着いた瞬間、紫炎は十六夜から「遅い」と言われ、殴られて気を失い、耀に膝枕されている状態である

 

「紫炎もレティシアも寝顔可愛いな」

 

耀が紫炎の頬をつつきながら呟く

 

お昼ごろまで紫炎の頬をつついていると、レティシアが起きた

 

「ここは・・・」

 

「あ、気が付いた?二日も寝てたんだよ」

 

レティシアは耀の声が聞こえると、そちらに視線を向ける

 

そして紫炎と耀の今の状態を見て優しく微笑む

 

「ようやく恋人同士になれたのか?」

 

「うん」

 

耀が心底、嬉しそうに言うとレティシアが少し気になったことを聞いた

 

「ところでずっと、二人で待ってくれてたのか?」

 

「ううん。交代で付き添ってたの。起きた時にだれかいなかったらさびしいでしょ?」

 

「交代?」

 

レティシアが疑問に思ってると、扉が勢いよく開いた

 

「赤羽さん、耀さん。交代に・・・ってレティシア様!!いつ起きられたんですか?」

 

「黒ウサギか。先ほど起きたところだ」

 

「良かったのです。それでは皆さんにお伝えしてきます」

 

そういって黒ウサギは部屋を飛び出して行った

 

「ったく、落ち着きがない奴め」

 

「あれ、紫炎?いつ起きてたの?」

 

「黒ウサギが騒々しく入って来た時だ」

 

紫炎は不機嫌そうに言いながらのそりと起き上る

 

「しかし、わが主達には驚かされる。まさか巨龍を倒すとは。おかげでこうして生きていられる」

 

「おう、当たり前だ。お前にはこれから俺達のメイドとして働いてもらうんだからな」

 

「うん」

 

紫炎が笑いながら言うと、耀も微笑みながら同意する

 

「そういや、収穫祭はもう一度やり直すことになったそうだぞ」

 

「地下都市はボロボロになっちゃったけど、大樹を使ったギフトゲームをするみたい」

 

「ふふ、それは楽しみだな」

 

耀と紫炎の言葉にレティシアが笑いながら答える

 

「ヒッポカンプの騎手とかのエントリーもあるしちょっと席を外させてもらうぞ」

 

「後で皆と一緒に来るね」

 

紫炎と耀は微笑みながら二人で部屋を後にした

 

二人が出て行った扉を見ながら、レティシアは涙を流しながら呟いた

 

「私の太陽は空にあるものだけじゃなかったんだな」

 

――――――――――――――――

 

紫炎と耀がレティシアの部屋から出た頃、飛鳥は昼食を食べようと食堂の席についた

 

「あ、良かった。お久しぶりです、飛鳥さん」

 

すると、扉が開いて碓氷が入ってきた

 

「え、碓氷君!?どうして・・・」

 

「この前の魔王討伐の功績の授与を行うのでノーネームの皆さんに聞いて回ってるのです」

 

「あ、そうなの・・・」

 

飛鳥は『皆さん』という言葉を聞いて少し表情を暗くする

 

「それで飛鳥さんは何か欲しいものはありますか?」

 

「うーん。特にはないわね」

 

「そうですか。・・・ところでもう昼食は食べましたか?」

 

「え?ま、まだだけど・・・」

 

いきなりの話題転換に頭がついていかない飛鳥

 

「それじゃあ少し待っててくださいね」

 

碓氷がそういってキッチンの方に消えた

 

少し経つと、碓氷が皿を二つ持って戻ってきた

 

「お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞ」

 

「えっと、それじゃあいただきます」

 

そういって飛鳥は料理を口に運ぶ

 

「・・・おいしい」

 

「それは良かったです」

 

碓氷が飛鳥に微笑みながら返すと、飛鳥は顔を真っ赤にする

 

「どうしたんですか?」

 

「な、なんでもないわよ」

 

「?そうですか。それならいいんですが・・・。何か心配なことがあったら言ってくださいね。貴方の力になりたいんですよ」

 

碓氷がそう言った瞬間、飛鳥は頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にする

 

「本当に大丈夫ですか?風邪でもひいているんじゃあ・・・」

 

碓氷はそう言って、飛鳥の額に手を当てる

 

「な、な、な・・・・・・」

 

「うーん、熱は無いようですね。気を付けてくださいよ」

 

「・・・」

 

碓氷の言葉に飛鳥は無言で頷く

 

すると、碓氷が席を立った

 

「それでは僕は紫炎達にも聞きに行くので・・・」

 

「その必要はないぞ」

 

碓氷が最後まで言い切る前に扉から声が聞こえてきた

 

「よっ、碓氷」

 

そこには耀と手を繋いで立っている紫炎がいた

 

「・・・ねえ、紫炎君、春日部さん」

 

「なんだ?」

 

「何?飛鳥」

 

「いつからいたの?」

 

少し怒りが籠って二人に聞く飛鳥

 

「ついさっきだよな、耀」

 

「そうだよね、紫炎」

 

明らかな棒読みで顔を見合わせる二人を見て更に飛鳥は怒る

 

「本当はどこから聞いてたのよ」

 

「まあまあ、いいじゃないですか、飛鳥さん。どこから聞いていようと関係ないじゃないじゃないですか」

 

碓氷が無責任にそう言うと、紫炎は口を開いた

 

「そうそう、どこから聞いててもいいじゃないか。しかし碓氷も料理作れたんだな」

 

「全然ついさっきじゃないじゃない」

 

「まあまあ、飛鳥」

 

紫炎の言葉に怒りが頂点に達した飛鳥を耀が宥めていると、碓氷が飛鳥の前に立ち、口を開いた

 

「落ち着いてください、飛鳥さん。そんなに怒ると綺麗な顔が台無しですよ」

 

碓氷が真顔で言うと、飛鳥は顔を真っ赤にして走り去っていった

 

「ストレートに言うなぁ」

 

「何か意外」

 

二人がそう言うと、碓氷は何の事かさっぱりわかってない様子だった

 

「何の事を言ってるかわかりませんが、一つお聞きしたいことが・・・」

 

「功績の授与の事ならここに来る前にもう答えたぞ」

 

「うん。今は特に欲しいものはないって」

 

「そうなんですか。それの他にもう一つ頼みたいことがあるのですが・・・」

 

碓氷はそう言って手紙を出した

 

「これは?」

 

「白夜叉様からレティシアさんに起きたら渡してくれと頼まれてるものです」

 

「あっ!飛鳥にレティシアが起きたって言うの忘れてた」

 

碓氷の言葉に耀が思い出したように言うと、紫炎がニヤリと笑いながら碓氷に話しかけた

 

「碓氷、悪いが飛鳥にレティシアが起きたって伝えに行ってくれ」

 

「分かりました」

 

碓氷はそういってお辞儀をして飛鳥を追いかけて行った

 

「それじゃあ耀。何が食べたい?」

 

「紫炎の作ってくれるものなら何でもいい。おいしいから」

 

「OK。期待に応えれるようなもの作るよ」

 

紫炎はそういって調理を始めた

 

――――――――――――――――――

 

飛鳥は食堂を出た後、ペストと力試しをした場所まで来ていた

 

(なんで彼はあんな事を恥ずかしがらずに言えるのかしら)

 

先ほどの事を思い出し、飛鳥はさらに顔を真っ赤にする

 

「あすかー?」

 

「大丈夫よ、メルン」

 

顔を真っ赤にした飛鳥が心配でメルンが顔をのぞかせた

 

「飛鳥さーん。どこにいますかー?」

 

「えっ、碓氷君!?」

 

碓氷の声が聞こえると、飛鳥は反射的に物陰に隠れてしまう

 

「あれ?声が聞こえた気がするんだけどな?」

 

碓氷が周りを見回しながら入るが飛鳥は隠れている為見つからない

 

「あすかー?」

 

「あっ、こら!」

 

「ん?そこに誰かいるんですか?」

 

メルンが飛鳥が何故隠れたか分からず、声をあげると碓氷が飛鳥の隠れている場所に近づいた

 

「だれ?」

 

すると、飛鳥を見つける前にめるんが飛び出した

 

「僕は青川碓氷ですよ、精霊さん」

 

「めるん!」

 

「?・・・ああ、名前ですか。よろしくね、メルン」

 

「よろしく!」

 

一瞬何のことか分からなかった碓氷だがすぐに気が付いた

 

「しかし、群体精霊が一人でいるなんて珍しいですね」

 

碓氷はそう言いながらメルンを肩に乗せる

 

「うすい!」

 

メルンは肩に乗ると碓氷の頬を引っ張り楽しんでる

 

「痛たた。それにしても飛鳥さんはどこに居るんでしょうか?」

 

「あすか!」

 

メルンは飛鳥の名前を聞いた瞬間、碓氷の肩を飛び降りて飛鳥のところに戻った

 

「メルン。どうしたんですか?」

 

「うすい!あすか!あすか!」

 

メルンがそういって碓氷に飛鳥の場所を教える

 

すると、飛鳥は物陰から出てきた

 

「う、碓氷君。どうしたの?」

 

「飛鳥さん。こんなとこにいたんですね。紫炎から聞いたんですが、レティシアさんが目を覚ましたらしいですよ」

 

「そうなの?わざわざ伝えに来てくれてありがとう」

 

飛鳥が礼を言ってその場を後にしようとしたが、メルンが碓氷の肩に乗る

 

「うすいも!」

 

「こら、メルン!ごめんなさいね、碓氷君。忙しいんでしょ?」

 

「いえ、まだ余裕がありますから大丈夫ですよ。一緒に行きましょうか?」

 

碓氷はそういって、飛鳥に手を差し伸べる

 

飛鳥もそれを見てその手を取った

 

「本当にごめんなさいね碓氷君」

 

「いえいえ、好きでやってることですから」

 

「すき?」

 

「ええ、そうですよ、メルン」

 

メルンの言葉に碓氷が微笑みながら返すと、その笑顔を見て飛鳥は顔を赤くする

 

「うすい、あすか、すき?」

 

「「えっ!?」」

 

碓氷の言葉をどう理解したのか、メルンがとんでもないことを言う

 

すると、二人は顔を真っ赤にする

 

「ご、ごめんなさいね。メルンが変なこと言っちゃって・・・」

 

「い、いえ・・・」

 

二人の間に微妙な空気が流れ、黙ってしまう

 

「あすか?うすい?」

 

メルンは二人が何故黙ってしまったのか分からないようだ

 

少しすると、碓氷が口を開いた

 

「・・・行きましょうか」

 

「・・・ええそうね」

 

「いこー!」

 

メルンは嬉しそうに声を出して、二人は歩き出した



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第六十六話

碓氷が食堂を出た後、紫炎と耀は二人で食事をしていた

 

「ねえ、紫炎」

 

「どうした、耀?」

 

「碓氷って人、飛鳥を見つけられるかな?」

 

「多分、大丈夫だろ」

 

紫炎が昼食を食べながら答えるのを聞き、耀は少し疑問に思う

 

「何でそう思うの?」

 

「勘」

 

紫炎が即答すると、耀は深くため息をつく

 

「何だよ、そのため息。俺の勘って結構当たるんだぜ」

 

「でも、勘じゃん」

 

耀の返しに、紫炎は一瞬詰まるが言い返した

 

「なら、碓氷が飛鳥と会えたかどうかギフトゲームで勝負しようじゃないか」

 

「・・・わかった」

 

紫炎の提案に耀は少し悩んだ後、それを飲んだ

 

「それじゃあ、景品はどうする?」

 

「負けた方が勝った方の言う事を聞く、ってどう?」

 

「・・・OK。後悔するなよ」

 

「それはこっちのセリフ」

 

二人はそういって契約書類にサインをした

 

 

 

『ギフトゲーム名“運命の選択”

 

  ・ルール説明

     ・青川碓氷が久遠飛鳥を見つけられるかどうか

 

  ・勝敗条件

     ・見つけた場合、赤羽紫炎の勝利

     ・見つけなかった場合、春日部耀の勝利

 

  ・勝者は敗者に一度だけ命令を従わせれる

 

 宣誓 上記のルールに則って“春日部耀”“赤羽紫炎”の両名はギフトゲームを行います』

 

 

「それじゃあ、早速確認しに行くか」

 

紫炎のその言葉に耀が首を傾げる

 

「確認って、どうやって?」

 

「それは耀のギフトで見つけてもらうんだよ」

 

耀はそれを聞き、二度目のため息をついた

 

「まあ、いいけど・・・」

 

そういって二人は碓氷と、飛鳥を探し始めた

 

―――――――――――――――

 

「うすい?あすか?」

 

飛鳥と碓氷が歩き出してから全然喋ってないのを不思議に思ったメルンが声を出した

 

それでも一向に喋ろうとしない二人を見て、メルンは碓氷の肩に乗って頬をつねる

 

「あ!こら、メルン!!」

 

「だ、大丈夫です。メルンも寂しかったんですよ」

 

碓氷はそういってメルンを優しく撫でてやると、メルンは嬉しそうにはしゃぐ

 

「うすい!あすかも!」

 

「「え!?」」

 

メルンは余程嬉しかったのか、自分の主人でもある飛鳥にもやってほしいといった

 

「えっと・・・。いいですか、飛鳥さん?」

 

碓氷がそう問いかけると、飛鳥は顔を真っ赤にして首を縦に振る

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

そういって碓氷が飛鳥の頭を撫でる

 

「大分進展してるな」

 

「飛鳥、おめでとう」

 

「え!?・・・紫炎君、春日部さん?」

 

「二人とも。・・・見てましたか?」

 

いきなり現れた紫炎と耀に飛鳥は驚きのあまり言葉が続かず、碓氷は気になったことを聞く

 

「そんなことより飛鳥を見つけれたみたいだな」

 

紫炎はそういって一枚の紙を見せた

 

「何だ、それ?」

 

「さあな。それじゃあ俺らは先に行ってるから、お前らもゆっくりでいいからレティシアのところに来いよ」

 

紫炎はそういうと、耀を抱き寄せ、姿を消した

 

「消えた?」

 

「みたい、ね」

 

急に静かになり、二人は顔を見合わせる

 

「遅れると何言われるかわかりませんし・・・」

 

「紫炎君もああいってたんだし、ゆっくり行きましょう」

 

飛鳥がそういって碓氷の手を握る

 

「ですが・・・」

 

「どうせすぐに帰っちゃうんだし、今ぐらいゆっくりしても大丈夫だと思うけど・・・」

 

「・・・わかりました。一緒にゆっくり行きましょうか」

 

碓氷はそういって飛鳥の手を握り返す

 

「行きましょうか」

 

「そうですね」

 

二人は微笑みあいながら歩き出した

 

――――――――――――――――――――――

 

紫炎と耀は飛鳥達の前から消えて、人気の無い場所にいた

 

「言っただろ。俺の勘は当たるって」

 

紫炎は笑いながら先ほどの紙を見せる

 

 

『勝者 赤羽紫炎

    

    以降はこれを命令を行使するときに使用できます』

 

「しかし、何でまたこんな賞品を提案したんだ?」

 

「そ、それは・・・」

 

紫炎が耀に問いかけると、耀は目を逸らす

 

「俺に何を命令しようとしたんだ?」

 

「べ、別にいいじゃん。命令権は紫炎のものなんだし」

 

「言いたくないと・・・」

 

紫炎がそうつぶやくと、耀は顔を真っ赤にしながら頷く

 

「それより、紫炎の命令って?」

 

「さっき決めたとこだ」

 

紫炎がニヤリと笑いながら言うと、耀は不安になる

 

「そ、それで命令は・・・」

 

「そうかしこまるな。命令は『お前が何を命令しようとしたか、それを俺に教えろ』」

 

紫炎がそう言った瞬間、先ほどの紙が消える

 

すると、耀が先ほどより顔を真っ赤にする

 

そして、勝手に口を開こうとするのを手で押さえようとするが、それでも言葉を紡いでしまう

 

「ま、まだしてない恋人らしいことを・・し、してって。そ、その・・・・キス・・とか」

 

耀が言い終わると、恥ずかしさのあまり、手で顔を隠す

 

紫炎はそれを気にせずに耀を抱き寄せる

 

「あー。なんていうか、悪かった。こういうのは普通俺から言うべきなのにな」

 

「本当にそうだよ。紫炎のへたれ」

 

耀は紫炎の胸に顔をうずめながら返す

 

「耀」

 

紫炎がそういうと、耀のおでこにキスをする

 

「ふえ?」

 

耀は一瞬何をされたかわからずにおでこを触る

 

そして理解した瞬間、耳まで赤くなる

 

「もうちょいしたらレティシアの部屋に行くからな」

 

紫炎は口調こそは普段と変わりがないが、こちらも耳まで真っ赤である

 

「・・・うん」

 

「へー、大分進展してるな」

 

「「!?」」

 

紫炎と耀が声をした方を見ると十六夜が立っていた

 

「どうした?もう終わったと思って出てきたんだが、まだ続くのか?」

 

「続くか!!」

 

十六夜がにやけながら言うのを見て、紫炎は叫ぶ

 

しかし、耀は混乱して紫炎の言葉が耳に入っていないのか見当違いの言葉を放つ

 

「そ、その・・・紫炎がどうしてもっていうなら・・・」

 

「お、落ち着いてくれ、耀。服に手をかけるな!」

 

耀は余程混乱してるのか、紫炎の言葉が聞かずにいつもの上の服を脱いで、更に下の服にまで手をかける

 

「お邪魔になりそうだから俺は先に行ってるぜ」

 

「ちょっと待て!責任もって止めるのを手伝えや!!」

 

もちろん十六夜は紫炎の言葉を無視してその場からいなくなった

 

「紫炎、後もう少しだから・・・」

 

「耀、すまん!」

 

「へ!?」

 

紫炎がそう言うと、耀の顎を軽く持ち、顔を近づけていき・・・

 

「ふん!」

 

頭突きを食らわせる

 

「は!私、なにを・・・」

 

「おおー。正気に戻ったか。いてて」

 

耀は正気に戻る

 

しかし、頭突きをされた耀は大丈夫そうなのだが、した方の紫炎は頭を抑えている

 

「大丈夫?紫炎」

 

耀は脱いだ上の服をはおると、紫炎に近づいて心配の言葉をかける

 

「ああ、大丈夫だ。それじゃあ行くか?」

 

「うん」

 

耀が頷くと心底嬉しそうにくっつく

 

次の瞬間、二人の姿が消えた

 

―――――――――――――――

 

紫炎と耀が次に現れた場所はレティシアの部屋の前だった

 

「あれ?皆まだなのかな?」

 

「みたいだな。・・・っと、言ってたら来たみたいだぜ」

 

紫炎がそういって指さした方向には手を繋いで楽しそうに話しながら来ている飛鳥と碓氷がいた

 

「あ、紫炎君に春日部さん。もう来てたのね」

 

「みたいですね。それでは僕はこれで。また会いましょうね、飛鳥さん」

 

紫炎達を見つけた飛鳥と碓氷は二人に聞こえないくらいの場所で会話をした

 

碓氷が言い終わると、お辞儀をして去っていった

 

「碓氷の奴、もう帰ったのか?」

 

「ええ、東での仕事がまだ少しだけあるんですって。それが終わったら復興の手伝いの為にもう一度来るらしいわ」

 

飛鳥が嬉しそうにしゃべってると耀が口を開いた

 

「余程碓氷を気に入ったんだね、飛鳥」

 

「そ、そんなことないわよ!何を言ってるのかしら、春日部さんは・・・」

 

飛鳥が真っ赤な顔で否定するが全然説得力がない

 

「素直じゃない」

 

「でも割と反応は分かりやすい」

 

「何がよ!」

 

飛鳥が真っ赤に叫んでいると、レティシアの部屋の扉が開いた

 

「あの、耀さん、飛鳥さん、赤羽さん。言い争ってるなら中に入りませんか?」

 

「そうですよ」

 

すると、中から黒ウサギとサウザンドアイズの女性店員が出てきた

 

「何でアンタがここにいるんだ?」

 

「失礼な物言いですね。ちゃんと理由があって来てますよ。それに今日の境界門の起動はもう終わってるので帰ろうにも帰れないんですよ」

 

それを聞いた瞬間、三人は顔を見合わせ、すぐに女性店員の方に向きなおった

 

「碓氷の奴、それ知ってるのか?」

 

「多分・・・知ってると思いますが」

 

「けど、さっき今から帰るって碓氷君が言ってたけど・・・」

 

女性店員はそれを聞いて大きなため息をつく

 

「なら今すぐ呼びもどさなきゃいかんな」

 

紫炎がニヤリとしながら言ったのを耀が気づいて続ける

 

「そうだね。飛鳥、頑張って」

 

言われた瞬間、飛鳥は顔を赤くしたがすぐに元の表情になる

 

「しょ、しょうがないわね。碓氷君は私が呼び戻してくるわ」

 

そういって飛鳥が扉を開けると、碓氷を担いでいる十六夜が立っていた

 

「おお、サンキューなお嬢様」

 

十六夜はそういって飛鳥に碓氷を投げ渡す

 

「え?きゃあ」

 

飛鳥は支えきれずに倒れてしまう

 

「ふふ、やはり賑やかになってきたな」

 

「ええ、そうですね」

 

ジンとレティシアは言い争ってる問題児を笑いながら見守っていた



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第六十七話

碓氷が目を覚ますと何故かベッドで寝かされていた

 

「ここは・・・」

 

「お、目が覚めたか」

 

「紫炎?」

 

「境界門が今日はもう起動しないから一日泊まるんだってさ」

 

紫炎がつまらなさそうに碓氷に報告する

 

それを見て碓氷は何かに感づき、紫炎に話しかける

 

「春日部さんと一緒の部屋になれなくて不貞腐れてるんですね」

 

「そんなんじゃねえよ。この部屋の状況を確認してから言いやがれ」

 

そう言われて碓氷が部屋の状況を確認すると、ベッドが今自分が使ってる一つしかないことに気づく

 

「さっきまで床で寝てたから少し機嫌が悪いだけだよ」

 

「あ、なるほど」

 

紫炎が言い終わると、頭を掻きながら碓氷の方を見る

 

「そういやお前料理できたよな」

 

「ええ、まあ」

 

碓氷が紫炎の問いに答えるが悪い予感がする

 

「今から晩飯の用意をしに行こうと思うんだが・・・」

 

「・・・はあ。わかりましたよ。手伝えばいいんでしょ」

 

「わかればよろしい。さあ行くぞ」

 

紫炎が部屋から出て行くのを見て、碓氷は深くため息をつきながらついて行った

 

――――――――――――――

 

女性陣は碓氷と紫炎の料理を堪能した後、お風呂に入っていた

 

「やっぱり紫炎の料理、美味しかった」

 

「碓氷君の料理も美味しかったわ」

 

「YES!両方美味しかったです」

 

「ああ。紫炎の料理の上手さは知っていたが、碓氷と言ったか。彼もなかなかの腕前だったな」

 

レティシアが碓氷の事を褒めていると、耀が反論する

 

「確かに碓氷の料理も美味しかったけど、紫炎の料理が一番美味しい」

 

耀の言葉を聞いて、飛鳥が少しだけ怒りながら反論する

 

「あら?碓氷君の料理も美味しかったわ。紫炎君の料理よりね」

 

「ううん。紫炎の料理の方が美味しかった」

 

二人が言い争ってると黒ウサギがまずいと思い、声をかける

 

「ま、まあ二人とも美味しい料理を作るという事で・・・」

 

「「紫炎(碓氷君)の料理の方が美味しい」」

 

二人は声を荒げて黒ウサギに反論すると、黒ウサギはウサ耳をへにょりとしおらせる

 

「まあまあ。好きな人が下に見られるのが嫌なのはわかるが少しは落ち着いたらどうだ?」

 

レティシアが言い終わった瞬間、飛鳥の顔が赤くなる

 

「な、何を言ってるのよ、レティシア!」

 

「ん?違ったのか?」

 

「そ、それは嫌いではないけど・・・」

 

「素直じゃない」

 

「何がよ!」

 

耀と飛鳥が口げんかしていたはずなのにいつの間にか飛鳥を弄って遊んでいる

 

これが年寄りの功なのか、と素直に感心する黒ウサギであった

 

――――――――――――――――

 

女性陣が風呂に入ってる頃、男性陣は食堂で話をしていた

 

「しかし、碓氷の料理美味かったな」

 

「いえいえ、紫炎の料理には敵わないよ」

 

「結構美味かったぞ、碓氷。紫炎と同じ位に」

 

「ええ。本当に美味しかったです」

 

褒められ慣れてないのか碓氷は頬かき照れる

 

「ありがとうございます。でも僕より紫龍さんの方が料理は上手ですからね」

 

紫龍の名前が出た瞬間、キッチンの方から皿が割れる音が聞こえた

 

ちなみにキッチンの方ではペストが皿洗いをしている

 

「こら!ペスト!」

 

「ごめんなさい、ジン。むかつく奴の名前が聞こえたものだからお皿を握り砕いちゃった」

 

ジンは皿を落としただけだと思っていたので、先ほどのペストの言葉に少しだけ顔が青ざめる

 

「十六夜って料理しないのか?」

 

紫炎はそんなことも気にせずに、疑問に思ったことを聞く

 

「出来ないこともないが、お前ら程じゃねーよ」

 

十六夜が興味無さそうに返す

 

「そういえば結局部屋割りは俺は耀と一緒でいいんだよな」

 

「え?僕が紫炎と同じ部屋になるんじゃ・・・」

 

「いや?お嬢様と黒ウサギには言ってないがこうなってるぜ」

 

「あのー、僕も聞いてないんですが・・・」

 

ジンの言葉を無視して十六夜が碓氷に部屋割りの書かれた紙を渡す

 

そこには

 

『御チビ&十六夜

 

紫炎&春日部

 

レティシア&黒ウサギ

 

お嬢様&碓氷』

 

と書かれていた

 

「ちょっと待ってください!どう考えてもおかしいでしょう!!」

 

「悪い碓氷。俺も止めたんだが・・・」

 

「乗り気で参加してた奴が何言ってんだ」

 

十六夜がそう言った瞬間、碓氷が全力で二人を凍らせにかかる

 

しかし、十六夜は凍らされた部分を普通に殴ってもとに戻し、紫炎は炎を出して凍らされるのを防いだ

 

「危ないな、碓氷」

 

「まったくだぜ」

 

「ふざけんな!明らかにおかしいだろ、この部屋割り!!」

 

碓氷が声を荒げるが、十六夜と紫炎は白々しい態度をとる

 

「何がおかしんだろうな?紫炎」

 

「さあ?俺にはまったく分からないよ、十六夜」

 

「年頃の男女が同じ部屋なんておかしいでしょう!紫炎もそうおもわないんですか!?」

 

同じような部屋割りの紫炎が何故OKしたのか分からず、更に声量が大きくなる碓氷

 

「別にいいじゃないか。それくらい」

 

「まあ、そんなに嫌ならこう変えてやってもいいぜ」

 

十六夜はそう言いながら先ほどの紙を書き換える

 

『紫炎&春日部

 

お嬢様&碓氷

 

十六夜&黒ウサギ

 

御チビ&レティシア』

 

「さっきよりツッコミどこが多くなったのは気のせいでしょうか?」

 

碓氷が紙を見た瞬間、肩を震わせながら言う

 

「異論が出ないように全部の部屋を男女にしてみた」

 

「異論だらけだ!!」

 

十六夜の言葉に碓氷がキレる

 

「しょうがないな。十六夜、さっきの部屋割りで我慢しようぜ」

 

「だな」

 

「結局、何にも解決してないじゃないか!こうすればいいだけでしょうが!!」

 

碓氷が十六夜から紙を奪い取って書き直す

 

『十六夜&ジン

 

紫炎&碓氷

 

レティシア&黒ウサギ

 

飛鳥&春日部』

 

「これじゃあ面白味にかけるな」

 

「流石快楽主義者だな」

 

「面白味なんてなくていいんですよ!!」

 

こうして男三人の言い争いは十六夜が碓氷を殴って静かにするまで続いた

 

―――――――――――――――

 

女性陣は風呂から上がると、全員で食堂に移動していた

 

「もう、春日部さんもレティシアも変な勘違いしないでよね」

 

「勘違いなんてしてないと思うけど?」

 

「してるわよ!まあ、確かに碓氷君の事は嫌いではないのだけれど・・・」

 

飛鳥は耀の言葉には力強く返すが、最後の方は小さくつぶやくようになってしまう

 

「わかった。そういうことにしておいてやろう」

 

「そうだね」

 

「全然わかってないでしょ!二人とも!!」

 

ニヤニヤしながら喋っていた二人に飛鳥は顔を赤くしながら反論する

 

「お、落ち着いてください、飛鳥さん。もう食堂につきましたよ」

 

黒ウサギがそう言いながら食堂のキッチンを開けると、紫炎と十六夜とジンは普通に椅子に座っていたが、碓氷は床で気絶していた

 

「碓氷君!」

 

「紫炎、お風呂空いたよ」

 

飛鳥は碓氷を見て心配の声を出すが、耀は何も見えなかったかのように紫炎に報告をする

 

「それじゃあ風呂に入ろうか」

 

「だな」

 

耀の言葉を聞いた紫炎が立ちあがると、それに続くように十六夜が碓氷を担いで立つ

 

「ちょっと待って。なんで碓氷君は気絶してるのかしら?」

 

「十六夜が殴ったから」

 

「そうじゃなくて何でそんな状況になったか聞いてるの!」

 

紫炎が飛鳥の反論に少し黙ってしまう

 

ちなみに十六夜はジンを連れてさっさと風呂に向かった

 

「そうだな。風呂から上がったら話すから耀と一緒に部屋で待っててくれ」

 

「分かったわ。それじゃあ春日部さん、荷物を持って私の部屋に来てね」

 

飛鳥はそういって食堂から出て行った

 

「ちなみに部屋割りは黒ウサギがレティシアの部屋に移動するだけで他は前日と変わりなしだ。だから黒ウサギ、荷物を持ってレティシアの部屋に移動しとけ」

 

「分かりましたのですよ」

 

黒ウサギがそういうと、食堂から出て軽い足取りで元々自分がいた部屋に戻って行った

 

「それで、主殿。部屋割りは風呂に入る前に聞いたもので良いのか?」

 

「ああ。俺と耀を一緒の部屋にして仲を縮めようとしてくれたんだ。飛鳥にも碓氷と仲良くなってもらいたいからな」

 

紫炎は邪悪な笑顔を浮かべながら言う

 

「それじゃあ私は紫炎が来るまで飛鳥と喋ってて、紫炎が来たら碓氷と交代で良いの?」

 

「そうだな。そうと決まれば風呂に入るか」

 

紫炎はそういうと、食堂から出た

 

ちなみに紫炎が風呂に着くと、碓氷が服を脱がされて浴場に放り込まれて気が付いたところだった



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第六十八話

紫炎は風呂から上がると、文句をいまだに言っていた碓氷を気絶させて担ぎ、耀と飛鳥のいる部屋に向かった

 

「おーい。紫炎だけど開けてもいいか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

飛鳥が返事をしたの聞き、紫炎はドアを開ける

 

「いらっしゃい、紫炎」

 

「それより碓氷君はまだ起きてないの?」

 

「・・・ああ」

 

本当の事は言わない方がいいと思った紫炎は咄嗟に嘘をつく

 

「じゃあ行こっか、紫炎」

 

「だな」

 

耀の言葉に紫炎が頷くと、空いてるベッドに碓氷を投げ捨て二人で外に出ようとドアに手をかける

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい、紫炎君。その前になんで碓氷君が気絶したか教えなさい」

 

「碓氷が起きた時に聞いてくれ。どうせ明日の朝まで一緒の部屋なんだから」

 

紫炎がさらっと言うと、飛鳥の顔がだんだん赤くなる

 

「え?部屋割りは私と春日部さんが一緒なんじゃ・・・」

 

「耀と喋って待ってるようには言ったが、部屋割りまでは一緒とは言ってないぜ?」

 

「そうだよ。私たちも飛鳥と十六夜の好意を受け取ったんだから、飛鳥も私と紫炎の好意を受け取ってね」

 

耀はそう言いながら紫炎の腕に抱き着く

 

「そう言うことだ。文句なら碓氷が起きた後、十六夜にでも言ってくれ」

 

紫炎がそういうと、二人は飛鳥の目の前から一瞬で消えた

 

「そうよね、気絶してる間くらいは寝かせてあげててもいいわよね」

 

飛鳥はそういって碓氷が気絶しているベッドの横に移動する

 

「うすい~」

 

すると、メルンが飛鳥から離れて碓氷の布団に入る

 

「ふふっ。一日で随分懐いたわね。紫炎君には一週間くらいかかったのに」

 

飛鳥はメルンを撫でながら、碓氷のそばで目を覚ますのを待つのであった

 

―――――――――――――――――――

 

耀と紫炎はとりあえず自分の部屋に戻った後、耀が十六夜にヘッドホンの事を謝りたいと言い出したので十六夜とジンの部屋の前に移動していた

 

「や、やっぱり明日にしよう、紫炎」

 

「今から行こうって言い出したのは耀の方だろ。大丈夫、あいつならすぐに許してくれるさ」

 

「そ、そうだけど・・・。でもあんなに大事にしてたものを壊しちゃったんだから少しは怒ってるかも」

 

紫炎は耀のその言葉を聞くと、軽くため息をつく

 

「あのな、その理由だと今日じゃなくても謝れないだろ。だったら謝ろうと思った日に謝るべきだと思うぜ」

 

「・・・うん。そうだね」

 

「全部聞こえてるぞ」

 

耀が決意を固めた瞬間、扉が勢いよく開き、十六夜が立っていた

 

「い、十六夜・・・」

 

「それなら話が早い。ほら、耀」

 

紫炎はそういって耀の背中を押す

 

「そ、そのごめんなさい」

 

「別にいいってことよ。どうせ知り合いの素人が作ったスクラップだからな」

 

十六夜が笑いながら気にしてないように言うが、紫炎と耀はある一言が気になった

 

「し、知り合いが作ったものなんだ」

 

「そうだが、さっきも言った通りスクラップだから髪留めがわりに使ってただけだ。気に病む必要はねーよ」

 

十六夜はいつもの口調で言ってくれているが、耀は少しだけ暗い表情になる

 

「耀、俺はまだ十六夜とかと話すことがあるから先に部屋に戻っておいてくれ」

 

「・・・うん。ありがとう、紫炎」

 

そういって耀は一人で部屋に戻って行った

 

「それで?春日部をわざわざ帰して俺に話ってのはなんだ?」

 

「耀を帰したのは特に意味はないよ。話ってのは同盟相手をどうするかってことだ」

 

「それならもう考えてあります」

 

紫炎の言葉に部屋にいたジンがはっきりと答える

 

「へえー、自信ありって顔だな。それじゃあ頑張ってくれよな」

 

そう言った瞬間、紫炎が十六夜とジンの視界から消えた

 

「き、消えた?」

 

「ふーん。面白そうなギフトを手に入れたみたいだな、紫炎の奴」

 

消えた紫炎に付いて二人は各々感想を述べた

 

―――――――――――――――――――

 

レティシアは黒ウサギが寝てるのを確認した後、碓氷が持ってきた手紙を持って一人で食堂まで来ていた

 

「ふん。何が白夜叉からの手紙だ。あの男め」

 

口調こそ怒ってるものの、レティシアは少し嬉しそうである

 

「嬉しそうですね、レティシアさん」

 

「!?・・・貴女でしたか」

 

レティシアが後ろを振り向くと、サウザンドアイズの女性店員が立っていた

 

「起きたばかりですし、今日はもう寝たらどうですか?」

 

「そ、その前にこの手紙の内容、本当か?」

 

レティシアがそういって先ほどまで読んでいた手紙を女性店員に見せる

 

「ええ、本当ですよ」

 

「そ、そうか。そうと決まれば早めに休もう」

 

女性店員の言葉を聞き、レティシアはとても嬉しそうに自室に戻って行った

 

「本当に嬉しそうですね。あんな人のどこが良いのか」

 

女性店員はため息をつきながら自室に戻るのであった

 

―――――――――――――――

 

(僕は此処にきて何回気絶するんでしょうか)

 

碓氷は目を覚ますと見慣れない天井を見ながらため息をついた

 

「ん?」

 

身体を起こそうとした碓氷だったが何か和漢を感じ周りを確認してみると、メルンが自分の布団に入っていたり、飛鳥がそばで寝息を立てていた

 

「うすい?」

 

「すいません、メルン。起こしちゃいましたか?まだ寝てても大丈夫ですよ」

 

「わかったー」

 

メルンはそういって目をこすりながらもう一度寝始めた

 

「さて、飛鳥さんをこのままにしておくと風邪をひいてしまいますから・・・」

 

碓氷はそう言うと、ベッドから降り、飛鳥をお嬢様抱っこしてもう一つのベッドに寝かした

 

「さすがに同じ部屋で寝るわけには行きませんよね」

 

碓氷がそういって扉に手をかけ外に出ようとする

 

しかし、何故か扉がびくとも動かず、ドンドンと叩く

 

「うすい?」

 

「あ、すいません、メルン。うるさかったですか」

 

「だいじょうぶ」

 

目をこすりながら眠そうにメルンが答える

 

「どうしたの?」

 

「いえ、外に出ようと思ったんですが、扉が・・・」

 

「どうして?」

 

「どうしてって言われても・・・」

 

メルンが興味津津に聞いて来て、どう答えるべきか悩む碓氷

 

すると、メルンが碓氷に飛びつく

 

「ねよー」

 

「え?それはちょっと・・・」

 

「なんで?」

 

「なんでってそれは・・・。はあ、わかりました。この部屋で寝ますよ」

 

メルンは子供と同じだから何を言っても無駄だろうと悟った碓氷は観念して飛鳥と同じ部屋で寝る決心をするのであった

 

――――――――――――――――

 

東にいる白夜叉と紫龍は白夜叉の私室で飯を食べながら話していた

 

「しかし、おんしがあのコミュニティと関わりがあったとはな」

 

「関わりがあるってほどじゃない。ただ、ボスと他数人が友達ってだけだ」

 

「それは逆に凄いな。コミュニティ同士の利害を関係なしで知り合えたという事だろ?」

 

白夜叉が店で買ったラーメンを食べながら喋る

 

「しかし、なんでまたあのコミュニティと関わりがあるかどうか聞いてきたんだ?」

 

「ちょっとな。しかし、おんしが今食べているそれ、美味いのか?」

 

「案外いけるぞ。食うか?」

 

そう言って紫龍が差し出したのはドッグフードだった

 

「わしはいい。まだ尊厳を保っていたいからな」

 

「まあ、俺もそう思ってたんだが・・・。この姿だとこれが普通だろ?」

 

「まあ、確かにそうだが・・・。一応、おんしは人間だという事を忘れてないか?」

 

白夜叉がため息をつきながら紫龍に言う

 

「大丈夫大丈夫。まだぎりぎり覚えてるぞ」

 

「龍・・・。おんし、さっさと人間に戻った方がよいぞ」

 

さすがに白夜叉も呆れたようだ

 

「戻れたら戻りたいよ。元に戻ろうと思うなら二週間ってところか」

 

「そうなのか。・・・ふむ、ならあそこに行くのはそれくらいでもよいか」

 

紫龍は白夜叉の最後の言葉は聞こえなかったが、何か嫌な予感だけは感じ取った

 

―――――――――――――――――――

 

箱庭のとある場所、そこにはアンダーウッドを襲った面々が集まっていた

 

「失敗するにしてもここまでこっちの状況が悪くなるとはな」

 

「ええ。グー爺は負傷、魔眼も割れて手駒の魔王も奪い返されちゃうし」

 

「ああ。だが悪いことばかりじゃない。だろ?リン」

 

白髪の子供がニヤリと笑いながらリンに話しかける

 

「そうですね。紫龍さんには断られましたけど、その代わりにいいものを貰っちゃいましたしね。そういう殿下も何かあるんでしょ?」

 

「お!良く分かったな。一人になった時に面白そうな奴がいたから仲間にした」

 

殿下と呼ばれた少年がそう言うと、奥の方からフードを深く被った人間が現れた

 

「へー。でも、どれくらいの強さなんですか?」

 

「そうだぜ、殿下。ボンクラ連れて来ても上への点数にはならないぜ?」

 

ジョーカーがそういってフードの人間に突っかかる

 

「それじゃあ、お前のその身に直接教えてやろうか?」

 

「ケッ!人間如きが調子に乗りやがって。いいぜ、教えてもらおうじゃないか」

 

フードの人間はジョーカーの言葉がカンに触ったのか、挑発すると、ジョーカーも食って掛かった

 

「おい、ジョーカー。これでお前の方が死んだら被害を被るのは俺たちの方なんだぞ」

 

「その点についてはご心配なく。先ほどのジョーカーの言葉はこのマクスウェルが聞いたのでジョーカーが死のうとも殿下には何の被害もございません」

 

殿下の言葉に突然現れたマクスウェルが続ける

 

しかし、全員それに驚きもせずに普通の態度だった

 

「だがよ、殿下。俺がこいつを殺しちまったらテメーらは人を見る目が無いってことでマイナス評価だぜ」

 

ジョーカーが殿下とリンを睨みつけると、リンはフードの人間が到底勝てるはずないと思い、殿下の袖を掴む

 

「ああ、いいぜ」

 

殿下は笑顔で確信を持って答える

 

「後悔すんじゃねーぞ、クソガキ」

 

ジョーカーが言葉を発した瞬間、フードの人間に飛びかかる

 

雷を纏わせた手がフードに当たる瞬間、フードの人間が一瞬でジョーカーの後ろに移動していた

 

「弱いな」

 

「なん・・・」

 

フードの言葉にジョーカーが反応して後ろを振り返ると、自分の身体にフードの腕が突き刺さっていた

 

「終わりだ」

 

フードがそういうと、ジョーカーはフードの腕に吸い込まれるように消え、黒い仮面だけが残った

 

「ほう、中々の腕前の奴を拾ってきたな、殿下」

 

「当たり前だ。俺の人を見る目は確かだぜ」

 

マクスウェルの言葉に殿下はニヤリと笑い返す

 

「凄いですね。えーと・・・」

 

「そういえば、お前の名前は何だ?」

 

殿下が思い出したように聞くと、フードは落ちていた仮面を手に取り、自分の顔に付ける

 

「こいつと同じ名でいい」

 

フードはそう言うと、どこかに消えた

 

「変な人」

 

「だが強いだろ?それと、リン。あいつから貰ったと言っていたギフト、奴に渡しといてくれ」

 

リンはそれを聞き、少し困った顔をしたが、殿下の性格をわかっているので文句も言わずに探しに行った

 

「さて、旧ジョーカーもいなくなったことですし、代わりと言っては何だが私がお前たちについて行こう」

 

マクスウェルのその言葉に全員が顔をしかめる

 

しかし、ここで何を言っても変わらない上、下手をすれば今までの苦労が無駄になってしまうと感じた殿下は渋々了承をした



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第六十九話

殿下に言われた後、リンはジョーカーを追いかけていた

 

「ジョーカーさん。何処にいますか?ジョーカーさん」

 

「うるさい」

 

「あた」

 

いつの間にか現れたジョーカーがリンにチョップを食らわせる

 

「で、何の用だ?これからちょっと出かけるつもりなんだが」

 

「殿下から言われて紫龍さんから貰ったギフトを渡しに来たんです。というか、勝手に行動しないでください!」

 

「うるさい」

 

ジョーカーはそういってリンの頬を引っ張る

 

「い、いふぁいです」

 

「いいか?俺がお前らの仲間になろうと思ったのは俺の目的を達成するにはお前らについって行った方が早いからだ」

 

ジョーカーがそう言うとリンの頬を離す

 

「うぅ~。あなた他の目的ってなんですか?」

 

余程痛かったのか、リンは頬をさする

 

そして、紫龍から預かったギフトをギフトカードごとジョーカーに渡す

 

「俺の目的は二つある。一つはこいつらを全部集めること」

 

ジョーカーはそういうと、数秒ギフトカードを握ったかと思うと、リンに投げ返した

 

「それで、もう一つは?」

 

「それは教えない」

 

「え?うわ!」

 

ジョーカーがフードを被ったまま、器用にリンを肩車する

 

「勝手に行動するなっていうならお前が付いてくればいい」

 

「お、降ろしてください。それに何処かに行くなら殿下に許可を取らないと」

 

「そうなのか?それじゃあ、戻るか」

 

「その前に降ろしてください!」

 

リンが顔を真っ赤にして叫ぶと、ジョーカーは笑って地面に降ろした

 

――――――――――――――――

 

次の日の朝、飛鳥が起きるといつの間にかベッドで寝ていることに気が付いた

 

(えっと、確か私は碓氷君が起きるまでベッドの横で待っていたはずなんだけど・・・)

 

そう思いながら飛鳥はもう一つのベッドを見てみると、まだ碓氷が寝ていることを確認する

 

(途中で寝てしまったのは分かるとしてどうやってベッドに戻ったのかしら?)

 

もし、碓氷が途中で起きてベッドに寝かせてくれたとしたら、もう外に出ていると思った飛鳥が考えてると、碓氷が目を覚ました

 

「ふあ。あ、おはようございます飛鳥さん」

 

「おはよう、碓氷君。良く寝てたみたいね」

 

碓氷は飛鳥の言葉を聞き、昨夜起きたことを言おうとすると、メルンも起きた

 

「うすい?あすか?」

 

「あ、メルン起きましたか」

 

「うん!」

 

メルンが碓氷の言葉を聞くと、嬉しそうに碓氷にくっ付く

 

「本当によく懐いてるわね」

 

「動物は飼い主に似るって言うが、精霊もそうなのか?」

 

突如、扉の方から声が聞こえたので碓氷と飛鳥が振り返ってみると、そこには十六夜が立っていた

 

「い、十六夜君?」

 

「ど、どうしてここに?」

 

「ああ。扉につっかえ棒してたからそれを取りに来たんだ」

 

碓氷がそれを聞いた瞬間、十六夜の頭を掴んだ

 

「お前の所為か」

 

「どうかしたの碓氷君?」

 

昨夜の事を知らない飛鳥が聞いてくる

 

「えっと・・・。それは――――――――――――」

 

碓氷は少しためらったが、昨夜起きてから寝るまでの事を飛鳥と十六夜に話した

 

「なるほど。それで俺の所為か」

 

碓氷の話が終わると、十六夜は顎に手を当て、飛鳥は顔を赤くする

 

「十六夜さん、あなたが何のためにこんなことをしたか知りませんが、僕らに何か言うことがありませんか?」

 

「いくらでも感謝していいぞ」

 

「そうじゃないだろ!」

 

碓氷が大声を出して突っ込むも、十六夜はやれやれといった感じで碓氷を見る

 

「なんだ、迷惑だったか?」

 

十六夜がそう言った瞬間、碓氷の後ろで飛鳥が暗い表情になる

 

(そうよね。こんなに嫌がってるんだから・・・。何一人で舞い上がってたんだろ)

 

「そうですよ。もし、あなたが取り外すより飛鳥さんが先に出ようとしてたらどうしたんですか!?」

 

碓氷がそう言うと、十六夜と飛鳥が呆気にとられるが、十六夜はすぐに面白そうに笑いだした

 

「ヤハハハ、そりゃあ考えてなかったよ」

 

「ったく、少しは中にいる人たちの身にもなってくださいね」

 

碓氷はそう言いながら食堂の方に歩いて行く

 

(そっか。外に出られないから迷惑なのね。良かった)

 

飛鳥はさっきの碓氷の言葉を思い出しながら胸を撫で下ろすと、前に立っていた快楽主義者はニヤニヤ笑いながら飛鳥に話しかける

 

「良かったじゃないか、お嬢様。碓氷の奴、お嬢様と一緒の部屋だったこと自体は迷惑に思ってないみたいだぞ」

 

「な、何を言ってるのかしら?別に碓氷君がどう思おうと私には関係ないわ」

 

「そんなに片意地張らなくていいぜ、お嬢様。お嬢様があいつの事を好きだってことは黒ウサギ以外全員が気づいてるんだからな」

 

その言葉を聞いた途端、飛鳥は今までにないくらい顔を赤くする

 

「な、なんてことを言うのよ!碓氷君の事なんて・・・」

 

「ん?碓氷君の事なんて?」

 

「そ、その、嫌いではないわ」

 

絞り出したように飛鳥が言うと、十六夜はつまらなさそうにため息をつく

 

「あのな、お嬢様。ツンデレなのはわかるが、あの手のタイプはこっちから行動しなきゃ何にも進展しないと思うぞ?」

 

飛鳥は十六夜の言葉に黙り込んでしまう

 

「それに多分、あいつはモテるだろうからさっさと行動しないと手遅れになるぜ」

 

十六夜はそういうと、碓氷が進んだ方向とは真逆の方に進んでいった

 

「自分から行動する、か・・・」

 

飛鳥が十六夜の言葉を繰り返し、自分の胸の前で拳を握り、決意を固めて碓氷の後を追った

 

――――――――――――――――――――――

 

紫炎と耀は起きた後、二人で手を繋ぎながら食堂に向かっていた

 

「なあ、耀。今日、レティシア達を見送った後、どうするか決めてるか?」

 

「うん。ガロロさんに戦闘の基礎を教わろうと思ってる。紫炎は?」

 

紫炎は空いてる方の手を顎に当てて少し考えるそぶりを見せる

 

「・・・それじゃあ耀について行こうかな。良いか?」

 

「別にそんなこと聞かなくてもいいに決まってるじゃん。私だって紫炎と少しでも一緒に居たいんだから」

 

耀はそう言うと、顔を赤くしながら紫炎に体をくっつける

 

「うん、そうだな。なら、朝食は力のつくものを作らなきゃな」

 

「うん」

 

紫炎はそう言いながら食堂の扉を開けた

 

「「あ・・・」」

 

そこには飛鳥と碓氷が抱き合ってる場面が目に飛び込んできた

 

中を見た紫炎はすぐさま扉を閉めた

 

「お邪魔みたいだったな」

 

「だね。ちょっと時間つぶしにその辺を歩こうか」

 

「「何勘違いしてんだ(るのよ)!!」」

 

紫炎と耀が食堂から離れようとすると、碓氷と飛鳥が飛び出してきた

 

「大丈夫だ。勘違いなんてしてないぞ」

 

「うん、大丈夫だよ。だから私たちに構わなくていいよ」

 

「その反応が十分勘違いしてるのよ!」

 

「そうですよ!さっきのには理由があるんですよ!」

 

紫炎と耀が優しい目で二人を見てると、飛鳥と碓氷は顔を真っ赤にして反論する

 

「さっきのはその・・・」

 

「ゴキブリが出てきてそれに驚いた飛鳥さんが近くにいた僕に飛びついたんですよ」

 

「「ふーん」」

 

弁解する碓氷だったが、飛鳥はゴキブリに驚いたという事が恥ずかしいのか弁解する前に顔を赤くして黙り込んでしまった

 

紫炎と耀も全然信じていない目で碓氷を見ている

 

「何ですか、その目は?本当なんですよ」

 

「わかった、わかった」

 

「そうだね。そう言うことにしといてあげる」

 

「「だから本当だって!!」」

 

紫炎と耀は碓氷と飛鳥が叫んでるのを無視して食堂に入って行った

 

 



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第七十話

紫炎達はレティシア、碓氷、黒ウサギ、女性店員を見送った後、ガロロの下で訓練を行っていた

 

ちなみに飛鳥も耀が訓練をすると聞いてついてきた

 

「ったく、俺は耀の見学に来ただけなのに・・・」

 

「おい、坊主。無駄口を叩いてる暇があるならさっさと見つけろ」

 

「わかってるよ」

 

紫炎もついでだから鍛えてやると言われ、半ば強引に訓練に参加させられていた

 

その内容はガロロが隠したものをギフトを使って見つけるというもので、一人違う場所で行われていた

 

(面倒臭い。さっさと終わらせよ)

 

紫炎はそう思うと、“傲慢”のギフトを使い、周囲の状況を確認し、すぐに見つけた

 

「ほらよ、ガロロのおっさん。これで良いだろ?」

 

「おう、早いな」

 

「そんなことはどうでもいい。さっさと耀の場所に戻っていいか?」

 

紫炎は半ば無理矢理参加させられたことにより、少しいら立ちながら聞く

 

「ああ、もういいぜ」

 

紫炎はその言葉を聞いた瞬間その場から消えた

 

「本当に仲良いですね、あの二人」

 

先ほどまでどこかに隠れていたフェイス・レスが紫炎が消えたのを確認して出てきた

 

「あんたか。あの小僧、一途のところも親に似てやがるな」

 

「ええ、そうですね。それがどうかしましたか?」

 

ガロロが笑いながら言うと、フェイス・レスは少し怒った感じで返す

 

「い、いや、何にもねえよ。ただ似てるなって思っただけだよ」

 

「ええ、そうですか。それならわざわざ口に出さなくても良かったですね」

 

「わ、悪かった。だから殺気を抑えてくれ!」

 

ガロロが慌ててそういうと、フェイス・レスが殺気を抑える

 

「ふん」

 

すると、フェイス・レスは不機嫌そうに自室に戻って行った

 

(紫龍の野郎、あのフェイス・レスがあんなに感情をあらわにするなんて、何やらかしたんだ?)

 

――――――――――――――――

 

「ぶえっくしゅん!」

 

「凄いくしゃみだな、龍。風邪か?」

 

「そうなのかな?」

 

紫龍はそう言うと前足で器用にティッシュを掴み、鼻をかむ

 

「もうそろそろ境界門が起動する時刻じゃが、おんしはどうする?」

 

「俺はいいや。もし、ノーネームメンバーと鉢合わせになったら嫌だからな」

 

「そうか。それならわし一人で迎えに行ってくるぞ」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

紫龍はそういって白夜叉を見送った

 

――――――――――――――――――

 

その日一日の訓練が終わり、紫炎は十六夜、ジンと一緒に風呂に入っていた

 

「はあ~、疲れた」

 

「よく言うぜ。昼はほとんど何もしてないだろ」

 

「う・・・」

 

紫炎は朝の訓練が終わった後、耀の訓練の見学だけしていた

 

「まあ、訓練なんて強制でやったところでほぼ意味がないだろうしな」

 

十六夜はそういうと、風呂から上がって行った

 

「さて、俺も上がろうかな」

 

「待ってください、紫炎さん。少し頼みたいことがあります」

 

「頼み?」

 

今まで空気だったジンが紫炎に話しかけてきた

 

「同盟の事なんですけど、ウィル・オ・ウィスプに頼もうと思うんですが、確か紫炎さんってウィル・オ・ウィスプのリーダーと面識があるんですよね?」

 

「まああるけど、それがどうした?」

 

「いえ、ジャックさん達とは交友はあるのですが、リーダーにはまったく面識がないのでちょっとでも交渉を有利に進めたいので紫炎さんにも協力してほしんですが・・・」

 

紫炎はそれを聞き、少し考える

 

「別にいいぜ。ちなみに他の同盟相手は決まってんのか?」

 

「一応、六本傷には声をかけようと思ってます」

 

「わかった。お前は六本傷との事だけ考えてろ。ウィル・オ・ウィスプの方は絶対に成功させてやるよ」

 

「分かりました。お願いします」

 

二人はそうして風呂から上がった

 

―――――――――――――――――

 

クリスとジャックが同じ部屋でくつろいでいると、ノック音が聞こえてきた

 

「はーい、誰ですか?ぐはっ!」

 

クリスが扉に近づいて開けようとすると、扉が吹きとんでクリスもそれに巻き込まれて吹き飛んだ

 

「お?ちょうどジャックだけか。少し話したいことがあるんだが」

 

「いえ、私ひとりじゃないんですが」

 

ジャックはそういうとクリスが吹き飛んだ方を見る

 

すると、がれきからクリスが飛び出した

 

「コラ!紫炎!なにしやがんだ!!」

 

「何だ、いたのかクリス。邪魔だから少し席を外してくれ」

 

「その前に謝りやがれ!!」

 

クリスが怒鳴るのを見て、紫炎は少しため息をつく

 

「はいはい、悪かったよ。それじゃあ出てってくれ」

 

「全然悪いと思ってないだろ!」

 

紫炎の悪びれない態度にクリスが切れるが、それをジャックが止める

 

「お待ちなさい、クリス。それより二人っきりで話というのはそんなに重要なことですか?」

 

「ああ」

 

ジャックがそれを聞くと、クリスの方に向いて真剣な表情をした

 

「クリス、少し席を離してもらってもいいですか?」

 

「・・・分かりました。アーシャのところにいるんで終わったら呼んでください」

 

「ヤホホホ。わかりました」

 

少し悩んだクリスだったが、仕方がないといった表情で外に出た

 

「サンキュー、ジャック」

 

「ヤホホホ。別にいいですよ。それより何の用でしょうか?」

 

「ウィル・オ・ウィスプのリーダー、ウィラ=ザ=イグニファトゥスとの交渉の場を設けてもらいたい」

 

ジャックは紫炎の言葉に少し意外な表情をする

 

「何が目的で?」

 

「なに、俺達ノーネームは六桁昇格の為に旗が必要でな。それを連盟旗で補おうと思ってるんだ」

 

ジャックはそれを聞き、少し怪訝な表情をする

 

「とりあえず名前を貸せ、という事でしょうか?そのようなことなら・・・」

 

「違う違う。ちゃんとそっちにもメリットがある。それは交渉の場で話すが・・・」

 

どうだ、言わんばかりの目で紫炎がジャックを見ると、ジャックは観念したかのようにため息をつく

 

「分かりました。それなら明日、一緒に私たちのコミュニティに来てくれませんか?」

 

「おう、昼ごろにこっちに来ればいいのか?」

 

「はい。それでは待ってますよ」

 

紫炎はそういってジャックの部屋から出て行った

 

(さて、ああは言ったがメリットとか全然聞いてないんだよな。今からでもジンに聞きに行くか。いやその前に耀に明日のことを言うか。あ~どうしよう)

 

紫炎は散々迷った挙句先に耀の方に行くことに決めたのだった



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第七十一話

次の日、紫炎とジャックは一度東を経由して北に到着した

 

「ヤホホホ。ようやくつきましたね、紫炎君」

 

「ああ。それじゃあ、ウィル・オ・ウィスプの本拠に行こうか」

 

紫炎とジャックが軽く話をしながら本拠に向かっていると、ある小物屋の前で紫炎の足が止まった

 

「どうしました?」

 

「悪い、ちょっと寄っていいか?」

 

「まあ、別に構いませんが、彼女へのプレゼントを買うんですか?」

 

「ああ、ちょっといい髪飾りがあったからな」

 

紫炎はジャックの許可を得て、店に入った

 

「すいません。誰かいませんか?」

 

「はーい」

 

中に入ると、誰もいなかったので呼んでみると、奥から十二、三歳くらいの女の子が出てきた

 

「すいません。この髪飾りいくらですか?」

 

「えっと、銀貨二枚分です」

 

「二枚分・・・」

 

金額を聞いた紫炎は自分の財布の中身を見る

 

(ぎ、ぎりぎり足りない)

 

帰りの分の路銀を計算すると、銀貨一枚分が限度だった

 

「すいません。銀貨一枚に値引きしてもらえませんか?」

 

「うーん、すいません。これがぎりぎりの値段なんですよ」

 

店員が少し悩むが、はっきりと断った

 

紫炎はそれを聞き、外に出てジャックに相談を持ちかけた

 

「なあ、ジャック。銀貨一枚貸してくれないか ?」

 

「足りないのなら諦めたらよいのでは?」

 

「耀にどうしても買ってやりたいんだ。東に寄った時に絶対に返すから、頼む」

 

「分かりました。それではどうぞ」

 

紫炎の熱意に負けジャックが紫炎に銀貨を貸す

 

「サンキュー、ジャック。絶対後で返すから」

 

銀貨を貸してもらった紫炎はすぐに店に戻って行った

 

「本当に耀さんの事が好きなんですね」

 

――――――――――――――――――――

 

「紫龍さん、もうこれで仕事終わりましたよね?」

 

碓氷が紫龍に何かの書類を渡しながら、嬉しそうに問いかける

 

「うん、そうだな。これで今月分の仕事は終わりだな。しかし、何でそんなに急いでるんだ?」

 

「べ、別にいいじゃないですか。それと明日からアンダーウッドの復興作業の手伝いに行ってきますので」

 

紫龍の問いに碓氷は咄嗟にごまかす

 

「ふむ、ちょっと待ってろ」

 

碓氷の言葉を聞いた紫龍が店の方に消えたかと思うと、臙脂色を基調にして白で模様が描かれてるリボンを持って出てきた

 

「それは?」

 

「やるよ。気になるいつもリボンをつけてる娘にでもあげればいい雰囲気になれるんじゃないか?」

 

「なっ!飛鳥さんとはそう言う関係では・・・」

 

碓氷が紫龍の発した言葉に顔を赤くしながら答えると、紫龍の目が光る

 

「誰も飛鳥ちゃんの名前は言ってないぜ」

 

「ぐっ!」

 

紫龍の言葉に碓氷はさらに顔を真っ赤にする

 

「今日はもう境界門の開門の時間も終わったし、さっさと寝とけ」

 

「わかりました。おやすみなさい」

 

碓氷は恥ずかしさをごまかす耀に大声で返すと、自室へと戻って行った

 

「いやー、子供ってのは勝手に育っていくもんだね」

 

「なに、おっさんくさいこと言ってるのだ、龍」

 

紫龍がしみじみとしていると、白夜叉が入ってきた

 

「白か。どうしたんだ?」

 

「お前に客が来とるぞ」

 

白夜叉がそう言うと、後ろからレティシアが出てきた

 

「レティシア。三年ぶりだな」

 

「そうだな。しかし、本当に狼の姿なんだな」

 

レティシアはそう言いながら紫龍に近付き、毛を触る

 

「確かにここにいるって手紙を出したが、こんなに早く来るとは思わなかったぞ」

 

「なに、少し気分転換もかねてだ」

 

紫龍がレティシアの言葉を聞くと、肉球をレティシアの頭の上に置く

 

「それじゃあ、散歩にでも行くか?」

 

「いや、お前に会えただけで大丈夫だ。ありがとな」

 

レティシアは少し暗い表情をしながら部屋から出ようとする

 

「待て、レティシア。今日はもう遅い。紫龍に送ってもらえ」

 

今まで空気だった白夜叉がそんなことを言うと、レティシアの顔が少し赤くなる

 

「まあ、そうだな。それじゃあよろしくな、レティシア」

 

「い、いや、別にいいぞ。一人で帰れる」

 

「いいじゃないか。ほら行こうぜ」

 

紫龍はそういってレティシアの背中を押しながら外に出た

 

――――――――――――――

 

「すいません、お待たせしました。紫炎君」

 

ジャックがそう言いながら入口からウィラを連れてやってきた

 

「ああ。まさかウィラを起こしてくるって言って三時間も待たされるとは思わなかったよ」

 

紫炎は少しキレ気味で言うと、ジャックがウィラに話しかける

 

「ほら、ウィラ。同盟の話し合いですよ」

 

「まだ眠い。ジャックがやってくれたらいい」

 

「それは駄目です。私が最終的に決めるにしてもコミュニティのリーダーが意見を聞くのが大事なのです」

 

ジャックがウィラを諭すと、ウィラは頬を膨らませる

 

すると、紫炎がしびれを切らせて口を開いた

 

「とりあえず話を進めてもいいか?」

 

「あ、はい。ウィラ、とりあえず座りなさい」

 

ジャックに言われ、ウィラは渋々従う

 

紫炎はウィラが座るのを見ると、怒りを抑え、真剣な表情をする

 

「我らジン=ラッセル率いるノーネームとウィル・オ・ウィスプとの同盟の件についてお話させていただきます」

 

突然の紫炎の態度にウィラどころかジャックの表情も変わった

 

「それでは先日言っていた我々へのメリットというものを教えてもらいますか?」

 

「分かりました。まず一つ目に、連盟権限において私たちは魔王とのゲームの介入を確約します」

 

紫炎の言葉を聞き、ジャックは少し驚いた表情をする

 

「確約、でよろしいのですね」

 

「ええ。それともう一つのメリットについてはこちらを確認してください」

 

紫炎がそう言うと、一枚の羊皮紙をジャックとウィラに渡すと、ジャックはさらに驚きの表情をする

 

「こ、金剛鉄の鉱脈。それにこの量、本当にあり得るのですか?」

 

「みたいですね。って口調戻していいですか?」

 

「うん、お願い。気持ち悪い」

 

そろそろ限界の近かった紫炎のことばにウィラが思っていたことをそのまま告げる

 

「貯蔵量については俺はそこに書かれてあることしか分からない。だから、それを信じてもらうしかない」

 

それを聞き、ジャックが顎っぽいところに手を当てて考えるしぐさを見せるが、ウィラが先に口を開いた

 

「わかった。同盟を承諾する」

 

あっさり承諾するウィラにジャックがため息をつく

 

「それじゃあ、金剛鉄が取れたら精錬頼むぜ」

 

「ええ、任しておいてください」

 

こうして紫炎はウィル・オ・ウィスプとの同盟の話をつけた

 

――――――――――――――――――――

 

紫龍とレティシアはノーネーム本拠に向かっていた

 

「しかし、メイド服似合ってるな」

 

「そうか、そう言ってもらうと嬉しい」

 

紫龍の言葉を聞いたレティシアの顔が赤くなる

 

「やっぱり、元が可愛いと何でも似合うんだな」

 

「な、何をいきなり・・・」

 

「本当の事を言ったまでだが?」

 

真顔で言った紫龍の言葉にレティシアはさらに顔を赤くし、俯く

 

少し歩いて、レティシアが口を開いた

 

「なあ、紫龍。一つ聞いていいか?」

 

「なんだ?俺に答えれることがあれば答えるぞ」

 

「朔良のこと、まだ思ってるのか?」

 

朔良の名前が出た瞬間、紫龍があからさまに反応する

 

「ああ、そうだが」

 

「そうか、まだなのか」

 

紫龍の言葉を聞いたレティシアが少し残念そうな表情をする

 

「どうした?」

 

「なんでもない。お前が昔から変わってないなと思っただけだ」

 

「フェイス・レスにもそんな事言われたな。結構変わったと思うんだが」

 

「そういうところだ。もう一人で帰れる。送ってくれてありがとうな」

 

レティシアはそういって、一人でノーネームに戻って行った

 

「ま、もう近いしいいか」

 

紫龍もレティシアの後ろ姿が見えなくなったのを確認して、サウザンドアイズに戻った



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第七十二話

紫炎は同盟の話し合いの後、境界門の起動がもう終わっていたので一日だけ泊まることになった

 

そして、紫炎はだれに起こされるでもなく、朝早くに起きた

 

「おい、ジャック。さっさと行こうぜ」

 

「急ぐ気持ちは分かりますが、まだ起動まで少し時間がありますよ?」

 

紫炎の言葉にジャックが少し呆れ気味に言う

 

「何が起きるか分からんからな。早めに行く分には良いだろ」

 

「はあ、わかりました。それじゃあ行きましょうか」

 

紫炎に根負けしたジャックはしょうがないといった表情で境界門に向かった

 

―――――――――――――――

 

碓氷は南に向かうため、境界門に来ていた

 

「起動まであと二、三分か」

 

碓氷が時間を確認してそうつぶやく

 

「お、碓氷。お前も南に行くのか?」

 

「え!?紫炎?何で東に?」

 

「ああ、同盟を結びに北まで行っててな。その帰り」

 

紫炎がそう言うと、碓氷が納得する

 

「なるほど」

 

「ヤホホホ。お久しぶりです、碓氷君」

 

「あ、ジャックさん。おはようございます。という事は同盟相手って・・・」

 

「ええ、貴方の思ってるとおりですよ」

 

碓氷がジャックがいたことにより、ノーネームの同盟相手がウィル・オ・ウィスプだとわかる

 

「しかし、疲れた。流石に五分でここからコミュニティの往復はきつかった」

 

「え?確かノーネームの本拠って東のはしだったよな?」

 

「そうだが、どうした?」

 

「何でわざわざこの一番早い起動時間にしたんですか?お昼ごろにもう一度あるのに」

 

碓氷が不思議そうに聞くと、横からジャックが口を開いた

 

「早く耀さんに会いたいからですよ」

 

「あ、なるほど」

 

碓氷はそれもそうかといった表情をする

 

すると、紫炎が碓氷の肩に手をかけ、笑いながら問いかけた

 

「俺はそう言う理由だが、お前はどうなんだ?」

 

「え?そ、それはアンダーウッドの復興を早めに手伝おうと・・・」

 

「「嘘だね(ですね)」」

 

碓氷の言葉にジャックと紫炎が声を揃えて否定する

 

「何でそんな声を揃えて否定するんですか!本当ですって!!」

 

碓氷が声を荒げて否定するが、二人はそんなのを気にせずに続ける

 

「しかし、碓氷も飛鳥に早く会いたいんだな」

 

「ヤホホホ。そうですか、飛鳥さんの為ですか」

 

「だから・・・」

 

「わかってるんだから、はいて楽になっちまえよ」

 

紫炎のその言葉を聞いた碓氷はため息をついて、口を開いた

 

「わかりましたよ、言いますよ。飛鳥さんの事は好きです」

 

碓氷の言葉を聞いた二人はやっぱり、といった表情になる

 

「でも、絶対に飛鳥さんには言わないでくれよ」

 

「は、なんで?」

 

「当たり前だろ。俺が思っていても、飛鳥さんがどう思ってるのかわかんないし」

 

(その辺は問題ないんだよな)

 

紫炎がそんなことを思っていると、ジャックが口を開いた

 

「もうそろそろ境界門の起動の時間ですね」

 

境界門の起動が始まった

 

――――――――――――――――――――

 

「ふぅ。疲れた」

 

耀は訓練が終わり、自室でくつろいでいた

 

(紫炎早く帰ってこないかな?)

 

耀がそう思いながらベッドに寝転んでいると、部屋の扉が開いた

 

「ただいま、耀」

 

すると、そこに紫炎が立っていた

 

それを見た耀は紫炎に抱きついた

 

「おかえり、紫炎。早かったね」

 

「まずはお前の顔が見たかったからな」

 

紫炎がそう言うと、耀が顔が赤くなる

 

すると、耀はそれを隠すように紫炎に顔をうずめる

 

「そんなことより同盟の話どうなったの?」

 

「ジンに今から報告しに行くつもりだが、一緒に来るか?」

 

「行く!!」

 

紫炎の言葉を聞いて耀が顔をあげて答える

 

慣れなのか、顔の赤みが引くのが早くなった耀

 

「それじゃあ、行こうか」

 

そうして、紫炎と耀は俗に言う恋人つなぎをしながらジンのいる場所に歩き出した

 

―――――――――――――――――――

 

「ふう。疲れた」

 

飛鳥も訓練が終わり、自室で休んでいた

 

(それにしても私のギフト、せっかくみんなと対等に闘えるだけのものだと思ったのに・・・)

 

飛鳥がそう考えると、深くため息をつく

 

飛鳥のギフトは火花を発生させるだけのギフトを、鉄をも溶かす炎を発生させるギフトに底上げさせることができる

 

反面、それにギフトが耐えられずに数回の使用で壊れてしまうのだ

 

(訓練とはいえ無償で提供してもらうなんて少し気が引けるわ。今からでも言いに行こう)

 

飛鳥がそう思い扉を開けた

 

「・・・えっと、お久しぶりです、飛鳥さん」

 

「え、碓氷君!?」

 

すると、そこには今から部屋をノックしようとしていた碓氷が立っていた

 

「どこか行かれるんですか?」

 

「ええ、ちょっとね。それより今回も仕事?」

 

「いえ、今回は自分の意志で来ました」

 

飛鳥はそれを聞き、少し気になった

 

「それで何で私の部屋の前に?」

 

「それは、その・・・。これを渡しに来たんです」

 

碓氷はそういって紫龍に渡されたリボンを飛鳥に渡した

 

「え!?これって」

 

「貴女へのプレゼントです。つけてみてください」

 

飛鳥はそう言われて今までつけていたリボンを外し、手渡されたリボンをつけた

 

「どう、かしら?」

 

飛鳥がそう言うと、碓氷は顔を赤くしながら答えた

 

「ええ、似合ってますよ」

 

「ありがとう」

 

碓氷の言葉を聞いた飛鳥も顔を赤くした

 

「そう言えばどこか行くんでしたね。ついて行ってよろしいですか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

そう言って二人は肩が触れ合わない程度の距離を保ちながらガロロのいる場所に歩き出した

 

―――――――――――――――

 

紫炎と耀は部屋から出た後、ジンの部屋に着いた

 

「ジン、報告に来たぜ」

 

紫炎が扉の前で声をかけると、ゆっくりと扉が開いた

 

すると、ジンだけ出てきた

 

「あ、耀さんも一緒でしたか。立ち話も何ですし、どうぞ」

 

二人はジンに言われて部屋に入る

 

「あれ?十六夜は今いないのか?」

 

「はい、読みたい本があるそうなので。それよりどうでしたか?」

 

ジンの言葉に紫炎は笑顔で答える

 

「おう、もちろん成功だぜ。そっちも大丈夫だったんだろ?」

 

紫炎の言った言葉にジンは少しだけ暗い表情になる

 

「実は六本傷の方なんですが、頭首交代が近いそうなのでそちらに話を通すように言われてしまったので・・・」

 

「そうか。ならその時はいい報告を待ってるぜ」

 

紫炎はそう言うと、ジンの頭を撫でる

 

「あの、紫炎さん。やめてもらえませんか?」

 

子ども扱いされてるようで嫌だったジンが言うと、紫炎はすぐに謝る

 

「悪い悪い。それじゃあ俺らは昼食を食べに行くわ。行こうぜ、耀」

 

「うん」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は嬉しそうに紫炎の手に抱きつく

 

そうして二人は食堂に向かった



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第七十三話

問題児たち四人と碓氷がババ抜きをやっていた

 

「こっちだ」

 

最後まで残った碓氷が紫炎の残り二枚のうち、左の方を取った

 

「よっしゃー!」

 

「またか」

 

紫炎の手にジョーカーが残り、紫炎の負けが決定した

 

「弱いな、紫炎」

 

「そうよね、一度も勝ってないんじゃないかしら?」

 

「うん。確か十五連敗」

 

十六夜、飛鳥、耀の順番で言っていくと、紫炎は倒れこんだ

 

「何で勝てないんだ」

 

「「「運が無いから無理(だろ)」」」

 

三人の重なった声が紫炎を貫き倒れ伏した

 

「けど、本当に弱いな、紫炎。俺も結構弱い方なんだけどな」

 

十五戦した結果

 

十六夜 一位六回 二位五回 三位三回 四位一回

 

飛鳥  一位四回 二位四回 三位四回 四位三回

 

耀   一位四回 二位三回 三位六回 四位二回

 

碓氷  一位一回 二位三回 三位二回 四位九回

 

紫炎  最下位十五回

 

「一位とは言わない、せめて四位は取りたかった」

 

紫炎が切実にそんなことを言ってると、十六夜が話しかけてきた

 

「紫炎、黄昏てるとこ悪いが、約束覚えてるだろうな?」

 

「覚えてるよ。最下位の奴が一位の言う事を聞くんだろ。一個ずつ」

 

十六夜の言葉に紫炎が苦々しく言うと、耀は少し嬉しそうにする

 

(何聞いてもらおうかな?)

 

そんな耀とは裏腹に、十六夜は少し苦い表情をしながら紫炎に小声で話しかける

 

「おい、これは飛鳥と碓氷の本音を語らせるためにやったゲームだぞ。何お前が全部負けてんだよ」

 

「め、面目ない」

 

まったく、と言った表情で十六夜が見ると、紫炎は居たたまれなくなってきた

 

「四回何聞いてもらおうかしら?」

 

「あんまり無茶なのはやめてくれよ」

 

目を輝かせてる飛鳥に紫炎が言うが、全然聞いていない様子だ

 

「今日のところはもう寝ようぜ」

 

「だな。それじゃあ、お休み」

 

そう言って紫炎と耀は同じ部屋へ、碓氷は飛鳥を部屋に送った後、自室に戻った

 

十六夜はというと、

 

「あの、十六夜さん。終わりましたか?」

 

「おうよ。それじゃあ、行くか」

 

「はい」

 

今まで静観していたジンを連れて図書室へと向かった

 

―――――――――――――――――――――

 

碓氷は自分の部屋に戻った後、寝もせずに外を眺めていた

 

「楽しかったな。あんな風に同年代の奴と楽しく過ごしたのはいつぶりだっけな」

 

そんなことを呟いていると、ドアをノックする音が聞こえた

 

「あ、どうぞ」

 

碓氷が促すと、サラが入ってきた

 

「夜分に失礼する」

 

「別にいいですよ。何の用ですか?」

 

碓氷がいつも通りの笑顔で問いかけると、サラが少し照れくさそうに問いかける

 

「その、紫龍殿はいつ来られるのだ?」

 

「いや、僕はプライベートで来てるんで紫龍さんが来るかどうかわかりませんよ?」

 

「そ、そうなのか」

 

碓氷の言葉を聞き、サラは残念そうな表情をする

 

「どうしたんですか?」

 

「い、いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

サラはそう言うと、外に出て行った

 

「なんだったんでしょう?」

 

何が何だか分からないといった表情でサラを見送った

 

―――――――――――――――――

 

その夜、俺は夢を見た

 

そこでは俺は誰かを探しているみたいだ

 

ある部屋の前に着くと、俺はその前で止まった

 

いる、確かにそう感じた

 

俺は『俺』が誰を探してるのかは分からない

 

でもなぜかここにいるという事はわかる

 

俺がその扉を開けると、そこには肩より少し長い茶髪の女性がいた

 

俺は見たこともない『俺』の探していたこの女性に近づく

 

俺に気づいた彼女は、俺の方に向いた

 

後ろからでは分からなかったが、彼女は妊娠しているようだ

 

すると、『俺』がその女性のお腹に手を当てて嬉しそうに微笑むと、女性もそれを見て笑う

 

そんな『俺』を見て女性は唇に指を当てて、『俺』の方を見ている

 

『俺』はそれを見ると、女性の顎を持ってあげる

 

そして、『俺』と女性の唇が触れ合いそうになった瞬間、俺の意識が覚醒していった

 

意識が覚醒してく中、俺は先ほどの夢を思い出した

 

あの女性、見たことがない容姿だったが、何故か誰かわかった気がした

 

――――――――――――――――――――

 

私は夢を見た

 

その中で『私』は妊婦のようだ

 

なんとなくだけど、『私』は誰かを待ってる気がする

 

そして、お腹の子の父親はその待ってる人だ

 

そして、『私』はその人に会うのをとても楽しみにしていて、その人の事を本当に好きでいる

 

少しすると、『私』が待っていた彼が来た

 

そこには赤い髪を長く伸ばし、後ろで一つにまとめている大人しそうな雰囲気の男性だ

 

少し、息を切らしてる

 

彼は本当に『私』の事が好きなんだろう

 

そんなことを考えてると、彼は『私』のお腹に手を当てて幸せそうに微笑んでる

 

それを見ると私は自然と笑ってしまう

 

すると、彼と目が合う

 

『私』が唇に指を当てると、彼は私の顎を持ち上げ、唇を近づけてくる

 

唇が触れる瞬間、私の意識が覚醒してきた

 

夢の中だったけどわかる

 

彼は『彼』なんだと、直感的に感じた

 

―――――――――――――――――

 

朝になると、紫炎と耀は同時に目を覚ました

 

二人は目を合わせた瞬間、布団から飛び出した

 

「お、おはよう、耀」

 

「う、うん。おはよう、紫炎」

 

((あんな夢見た後じゃ顔を合わせずらい))

 

二人が同時にそんなことを思ってると、指輪をしたまま寝ていたことに気づいた

 

いつもは指輪を外して寝てるのだが、昨日は外し忘れたらしい

 

(指輪してたからあんな夢を見たのかな?って、考え過ぎかな)

 

紫炎がそんなことを考えてると、耀が背中を向けたまま話しかけていた

 

「私ね、夢を見たの。多分だけど未来の夢」

 

紫炎は耀の言葉を聞き、まさかと思う

 

「そこで私はある人の子供を身籠っていた。そのある人、わかるよね」

 

そう言うと、耀は紫炎に抱きついた

 

「耀。俺もな、夢を見たんだ。そこで俺はある人を探してたんだ。そしてその人は妊娠してたんだ」

 

紫炎はそう言いながら耀を抱きしめ返した

 

「耀、多分なんだけど俺らの夢はリンクしてたんじゃないか?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「お前の話を聞いてみると、俺の夢と一緒だったからな」

 

一緒という言葉を聞いて耀が顔を赤くしながら紫炎に問いかけた

 

「一緒ってことは、じゃあ・・・」

 

耀がそう言うと、唇に指を当てた

 

紫炎はそれの意味を理解し、顔を真っ赤にする

 

「な・・・。その、いいのか?」

 

「バカ、好きな人ならいつでもいいもん」

 

紫炎の言葉に耀が頬を膨らませながら反論する

 

紫炎は耀の言葉を聞き、耀の顎を持ち、軽く上げる

 

「いいか?耀」

 

「うん、紫炎」

 

そうして二人の唇が重なった



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降臨、蒼海の覇者
第七十四話


巨龍との戦いから二週間ほどたった

 

「あー、疲れた」

 

人間の姿に戻った紫龍が夕食を作っていた

 

「いい匂いがするな、龍よ」

 

「白か。お前も食べるか?」

 

「もちろんだ。おんしの料理は美味いからのう」

 

「嬉しいこと言ってくれるね」

 

紫龍はそう言いながら白夜叉に作った夕食を渡した

 

「おお。やはり美味そうだのう」

 

「それ全部食べていいぞ。俺これ食べるから」

 

紫龍がそう言って出したのは・・・

 

「ドッグフード?」

 

「狼の時に食べてて美味かったんだ」

 

紫龍がドッグフードを食べながら言ってると、白夜叉は深くため息をつく

 

「龍よ、人間に戻ったのだから人間の食べ物を食べたらどうだ?」

 

「飽きたらやめるよ」

 

紫龍のこの言葉に白夜叉はさらに大きなため息をつく

 

すると、扉が開いて女性店員が入ってきた

 

「オーナー、もうそろそろお時間です」

 

「そうか。その前に龍、もう一度聞かせてもらう。わしの代わりに階層支配者をやらないか?」

 

白夜叉の真剣な頼みに紫龍は・・・

 

「無理」

 

即答で断った

 

「二日前もそうだが、少しは考えんのか?」

 

「考えるまでもないだろ。全盛期ならまだしも、今の力だったら絶対に無理」

 

紫龍のこの言葉を聞いた白夜叉は残念そうにため息をついた

 

「しょうがない。それなら予定通り、黒ウサギを今から捕まえてあそこに行くか」

 

「どこ行くか知らんがいってらっしゃい」

 

「何言っておる。おんしも来るんだぞ」

 

白夜叉がさも当たり前そうに言うので紫龍は少し嫌な予感がした

 

「どこに行くんだ?そこに・・・」

 

「コミュニティ“平天大聖”じゃ」

 

紫龍の言葉を遮り、白夜叉が行き先を告げた

 

すると、紫龍が逃げようとしたので、白夜叉が何処からか出したロープで紫龍を縛って捕まえた

 

「白、マジでやめてくれ。俺の昔話聞いただろ?」

 

「さて、次は黒ウサギを捕まえに行くぞ」

 

紫龍が涙目になりながら口を開くも、白夜叉は意にも介さない

 

「おい、白。逃げていい?」

 

「ダメに決まってるだろう」

 

「だよねー。ところで俺の行く意味ってあるのか?」

 

「さて、黒ウサギはちゃんとコミュニティにいるかの?」

 

「おい、答えろ、白!ないなら連れてくんじゃねー!!」

 

自分の問いにはまったくと言っていいほど答えない白夜叉に紫龍が怒り気味で叫ぶ

 

「うるさい」

 

「ぐふっ」

 

白夜叉は紫龍を物理的に黙らせると、肩で担いだ

 

「さて、それでは行くか」

 

「はい、これも予定の内です」

 

白夜叉の言葉に冷静に女性店員が返すと、二人とお荷物一人はノーネームの本拠に向かった

 

―――――――――――――――――――――――

 

南では、前回のリベンジという名目で問題児四人と碓氷に加え、アーシャとクリスもくわえてババ抜きをやっていた

 

勝負は終盤に入り、紫炎とクリスが残っていた

 

「・・・こっちだ。・・・よっしゃー!!」

 

「ま、また負けた」

 

合計に二十回目のババ抜きが終了した

 

結果   一位 二位 三位 四位 五位 六位  最下位

 

十六夜  八回 四回 三回 四回 一回 なし  なし

 

飛鳥   四回 四回 四回 四回 四回 なし  なし

 

耀    五回 三回 四回 六回 二回 なし  なし

 

碓氷   二回 三回 二回 一回 四回 八回  なし

 

アーシャ 一回 五回 六回 四回 四回 なし  なし

 

クリス  なし 一回 一回 一回 五回 十二回 なし

 

紫炎   なし なし なし なし なし なし  二十回

 

 

「流石に二十回は疲れるな」

 

「そうね。これも何度も再戦を要求してきた紫炎君のせいね」

 

「けど、一度も勝てなかったね」

 

「前回と合わせて三十五回最下位ですね」

 

「え!そんなに!?」

 

「良かった。最後はぎりぎりだった」

 

「・・・」

 

紫炎以外の参加者が各々紫炎に向かって意見を言うが、紫炎は机に倒れこんでいた

 

「さてと、俺は自分の部屋に戻らせてもらうぜ」

 

「私もそうするわ。紫炎君が起きてもう一度、って言いかねないもの」

 

「ですね。それじゃあ、失礼します」

 

そういって、十六夜、飛鳥、碓氷が部屋から出て行った

 

「それにしても紫炎、本当に弱いな」

 

「そうだな。クリスも結構弱いのにな」

 

「なんだと!アーシャ!」

 

「・・・」

 

クリスとアーシャが言い争うが紫炎はいまだに顔をあげる様子がない

 

「二人とも、喧嘩するなら自分の部屋でして」

 

「「は、はい」」

 

耀が怒気を込めて言うと、二人は逃げるように自分の部屋に戻って行った

 

「ほら、紫炎」

 

「・・・zzz」

 

落ち込んでると思い、耀が紫炎の肩を優しく揺らすと、いびきが聞こえた

 

耀は怒って紫炎の頭を机に叩きつけた

 

「いったー。何が起きたんだ?」

 

「もう、何寝てるの」

 

「わ、悪い。疲れと最下位のショックで。ところでほかのみんなは?」

 

「もうみんな帰ったよ」

 

耀はそういうと、紫炎にもたれかかる

 

「二人っきりだよ」

 

耀はそう言いながら、唇に指を当てながら、紫炎を見る

 

これは合図だ

 

前回のババ抜きの時のいう事を聞かせる権利で耀が決めたことだ

 

「じゃあ、いいか?」

 

「うん」

 

紫炎の言葉に耀が頷くと、紫炎が耀の肩を持って口づけを交わした

 

「えへへへ」

 

唇を離すと、耀が幸せそうに微笑む

 

(“二人っきりになった時に合図を出したらキスをしてくれ”ってのを権利で使われてから十日くらいか、二人っきりになると必ずせがんでくるな)

 

紫炎が顔を赤くしながら頭を掻いていると、耀がずっとこちらを見ていた

 

「どうした?耀」

 

「えへへへ、なんでもない」

 

耀はそう言うと、紫炎の腕に抱きついた

 

「大好き、紫炎」

 

すると、耀が紫炎の頬にキスをした

 

「・・・へ?」

 

一瞬の事で紫炎は何が何だか分からないという表情をする

 

「そういえば私からしたのって初めてだっけ」

 

耀が悪戯っぽく微笑みながら言うと、紫炎は顔を真っ赤になったのを隠すように顔を逸らす

 

「そ、そうだな。それじゃあ、部屋に戻るぞ」

 

「うん、そうだね。ところで顔、何で逸らすの?」

 

「な、なんでもない」

 

「へえー、本当に?」

 

耀は紫炎の顔を何とか覗き込もうとする

 

「だぁ、もう」

 

紫炎はやくそ気味に叫ぶと、耀を顔が見えないように自分の胸に抱き寄せる

 

「はふ・・・」

 

(いい匂い・・・)

 

すると、耀はそのまま紫炎の胸で眠りについた

 

「・・・寝たか?よし戻るか」

 

紫炎はそういって耀をお姫様抱っこをして自分の部屋へと戻って行った

 

――――――――――――――――――――――――

 

黒ウサギはノーネーム本拠の周りを見回っていた

 

「よし、異常なしなのですよ」

 

そういうと黒ウサギは自室に戻ろうと、本拠のロビーに差し掛かると、聞き覚えのある声が聞こえた

 

「お疲れ、黒ウサギ」

 

「レ、レティシア様!先に寝たんじゃ・・・」

 

「そのつもりだったのだが、客が来てな」

 

「客?」

 

黒ウサギはレティシアの言葉を聞いて向かい側を見ると、縄を巻かれた紫龍が座っていた

 

「今頃気づくなんて酷いな、黒ウサギちゃん」

 

「し、紫龍さん!?なんで縄が、・・・それよりなんでここに!?」

 

少しパニック気味の黒ウサギがレティシアを紫龍から離しながらまくし立てる

 

「それを答える前に何でレティシアとの距離を取らせるのかな?」

 

「当たり前です!貴男様のような変態にレティシア様を近づけさせるわけにはいきません!!」

 

黒ウサギが紫龍を指さして堂々と言い放った

 

「俺のどこが変態か言ってみてくれないかい?黒ウサギちゃん。こんなダンディな・・・」

 

「そういう発言と現在の姿を見て言ってるのです!」

 

ド直球な発言に紫龍は少し項垂れる

 

「お、おい、黒ウサギ。少し言い過ぎだぞ」

 

「ですが・・・」

 

「別にいいよ、レティシア」

 

レティシアの言葉に反論しようとした黒ウサギの言葉を遮って紫龍が声を出した

 

「いつもの発言の事は効いたが、この状態が変態というならお前もそうなるぜ」

 

「なにを・・・。は!」

 

紫龍の言葉を聞いた瞬間、不吉な予感にかられた黒ウサギは後ろを向いた

 

そこにはロープを持った白夜叉が立っていた

 

「し、白夜叉様。いたんですね」

 

「うむ。後ろからこっそりとな」

 

白夜叉はそう言いながらじりじりと近寄っていくが、黒ウサギも離れる

 

「何の用でしょうか?」

 

「ちょっと来てもらいたい場所があってな」

 

「それはど・・・」

 

こでしょうか?、という前に背中に壁を背負ってしまい、白夜叉の餌食になってしまった

 

「よし、捕まえた。行くぞ!」

 

「はいはい。はあ、面倒臭い」

 

口では文句を言いながら、紫龍はちゃんと白夜叉について行こうとする

 

「待て、紫龍」

 

しかし、レティシアに袖を掴まれて阻まれてしまう

 

「ん?どうし・・・」

 

理由を聞こうとした紫龍の口はレティシアの唇によって遮られた

 

「これが私の気持ちだ」

 

レティシアはそう言うと顔を赤くしたまま去っていった

 

「ったく、どうして諦めてくれないかねぇ。俺はもう・・・」

 

紫龍は暗い表情を抑えて白夜叉たちの後を追った



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第七十五話

箱庭第四ケタ外門、六二四三外門

 

そこに白夜叉たちが降り立った

 

「ふははは、ここに来るのも久しぶりじゃのう。何年ぶりくらいじゃったか?」

 

姿だけ見れば美女の白夜叉なのだが、雰囲気が何故か婆臭い

 

「白夜叉様が平天大聖のコミュニティを訪れるのは約五十年ぶりだと聞き及んでます」

 

「俺が生まれるより前か。というかそれを知ってるという事は・・・」

 

紫龍がそういって女性店員を見ると、女性店員は鋭い目で紫龍を睨む

 

「聞き及んだ、と言ったでしょう。次、そんなことを言ったらどうなるか知りませんよ」

 

「はーい」

 

聞いてるのかどうか分からないような返事をする紫龍を女性店員はとても冷めた目で見ていた

 

「しかし、連絡しておいたのに迎えもなしとは何事じゃ」

 

二人のやり取りを無視して白夜叉が喋ると、黒ウサギは恐る恐る口を開いた

 

「あの、それは当然じゃないでしょうか。彼らの仏門嫌いはとても有名な話。帝釈天の眷属である黒ウサギはもちろんの事、白夜叉様も・・・」

 

「違うぞ、黒ウサギ。今の私は仏門に神格を返上しておる。腹を割って話すには今しか無いのじゃ」

 

真剣な表情で返す白夜叉を見て黒ウサギは覚悟を決める

 

「それより、白。俺らを連れてきた理由を教えろ」

 

紫龍が少しだけ怒ったように聞くと、白夜叉は表情を変えずに言葉を紡ぐ

 

「お主らには少し手伝ってほしいことがあるのだ」

 

この言葉を聞いて紫龍は嫌そうな、黒ウサギは気合の表情を表す

 

「分かりました。それで私は何をすればよろしいのでしょうか?」

 

「うむ、ではこれを着てもらおう」

 

白夜叉がそういって柏手を打つと、宙から今以上に面積が小さく卑猥な服が出てきた

 

「し、白夜叉様。何かの冗談ですよね?」

 

「何を言っておる。ちょうど審判衣装の更新時期も近づいておるからな。これを着て牛魔王を籠絡させるのだ。という訳でまずはこの前着てもらえなかったシースルーのビッチェスカー」

 

「トは穿かないと言ってるでしょうが、このお馬鹿様!!!」

 

スパーーーン!!と良い音を立てて白夜叉をハリセンで叩く黒ウサギ

 

「凄い音がしたな。白が何かしたのか?」

 

「そうなのですよ!こんなのを着ろとおっしゃるんですよ!!」

 

そういって黒ウサギは先ほど白夜叉が出した服を指さした

 

「ふむ。なるほど」

 

「こんなもの用意するなんてなにをか・・・」

 

「俺はこれが良いと思うぞ」

 

そう言った紫龍が手にしたのはシースルーのビッチェスカートを取った

 

「何で同じのを選ぶんですか、このお馬鹿様!!!」

 

スパーーーーーーーーーン!!と、先ほど以上の音を立てて紫龍に黒ウサギのハリセンがヒットした

 

「まったく、良い音させるのう。しかし、やはり紫龍もそれを選ぶか」

 

「当たり前だろ?黒ウサギちゃんのあの初心な感じに似合わず、ここまで大胆な衣装はとても扇情的。しかし、着ている黒ウサギちゃんの恥ずかしがってる表情とのミスマッチがまたこちらの背徳神をそそられる」

 

「その通りだ。おんし、中々わかっておるではないか」

 

二人はそういって固い握手を交わす

 

黒ウサギは少し離れた場所でため息をつき、女性店員は懐にしまっているギフトカードに手をかけた

 

(いくら白夜叉様が仏門に神格を返上したとはいえ、彼らの仏門嫌いは相当なものと聞く。それに紫龍や白夜叉様がなにかするかもしれない。私がしっかりせぬば)

 

女性店員がそう思うと、白夜叉は呑気な口調で口を開いた

 

「しかし、ここまで徹底的に人払いをしなくてもよいのに」

 

「そうだな。・・・ん?」

 

紫龍が白夜叉の言葉に応えると急に日差しが強くなる

 

最初は暖かな陽光のようだったが、徐々に日差しが強くなり肌が焦げるような熱線へと変わった

 

「こ、これは一体・・・」

 

「白夜叉様下がってください!」

 

黒ウサギは何が何だか分からない様だが、女性店員は誰かの攻撃だと思い、白夜叉の前に立つ

 

当の白夜叉は腰に手を当てて警戒もせずに、襲撃者がいるであろう場所を見ている

 

紫龍もそちらの方を見て襲撃者の姿を確認すると、頭を抱えた

 

すると、金色の羽が一枚、二枚と、ひらひらと舞い落ちる

 

「おんしに来訪の書簡を届けた覚えはないのだが、鵬魔王よ」

 

「来客があなた一人なら私もこんなことはしていないわ」

 

女性の声が響いたかと思うと、舞い落ちていた羽が白夜叉たちの周りを囲み、金色の炎のかべとなった

 

そして、空から金翅をはばたかせて襲撃者が降り立った

 

彼女は肩から背にかけて大胆に開いた雅な柄の衣服を着こみ、背からは金翅を顕現させていた

 

「人の姿に金翅のはね。・・・まさか大鵬金翅鳥!?」

 

「護法十二天にも匹敵する神鳥が魔王に落ちたと!!?」

 

黒ウサギと女性店員の二人は襲撃者の鵬魔王をみて驚く

 

しかし、白夜叉はそんな二人を気にせずに言葉を紡ぐ

 

「確かにあやつは金翅鳥だが、純血というわけではない。あれは家出中の姫君でしかない」

 

「家出中の・・・姫?」

 

白夜叉の言葉に二人はぽかんとする

 

「それに・・・のう?」

 

白夜叉がそう言うと、紫龍を見る

 

「なんだよ」

 

「いやなんにもないぞ」

 

紫龍が白夜叉の言葉にイラつきの言葉で返すと、白夜叉は笑いを隠しながら返事をした

 

「姫なんて気の抜ける呼び名はやめろ、白夜王」

 

「それならばそちもその呼び名を止めろ。止めぬというなら・・・そうだな、千年前と同じく迦陵ちゃんと・・・」

 

白夜叉がそこまで言うと、周りの炎が白夜叉を襲うが、炎は手のひらに収束され、陽炎すら残さない

 

(今の内に逃げとこう)

 

炎の壁が開くなったので紫龍は鵬魔王に見つかる前に逃げようとするが、白夜叉に見つかり、全身をロープでまかれた

 

「いつみても化け物ね。それよりそれは何?」

 

「後のお楽しみじゃ」

 

ロープの塊にしか見えない紫龍を見て鵬魔王が疑問符を浮かべるが、白夜叉はただ笑うだけだった

 

「そう。それより長兄に何の用?」

 

「それは奥で話すから玉座の間に通してもらえるか?」

 

「それはそこの帝釈天の畜生を連れてか?」

 

「む」

 

鵬魔王に畜生呼ばれされ、流石に怒った黒ウサギ

 

“箱庭の貴族”として誇りを持つ彼女だが、普段は権威を振るおうとはしないが、侮蔑された今回は違う

 

一歩前に出て、睨み・・・

 

「ほう、やるのか?」

 

・・・返されて、ウサ耳をへにょりとしおらせて数歩下がる

 

それを見て三人(紫龍はロープにくるまれて見えないが)は冷めた目で黒ウサギを見る

 

「黒ウサギ、流石にさっきのは格好悪いぞ」

 

「そんなのだから“箱庭の貴族(恥)”と仲間たちから言われるんですよ」

 

「い、今の後退は種族的な相性というものがありまして、ってなんでその呼び名を知ってるんですか!?紫龍さんから聞いたんですか!!?」

 

黒ウサギの言葉を聞いて女性店員は呆気にとられた表情を、鵬魔王は何か考え込む表情をする

 

「え?まさか本当に言われてるんですか?」

 

女性店員が純粋に驚いていると、紫龍は首を横に振った

 

それを見た黒ウサギは女性店員が紫龍から聞いていないと悟る

 

「う、うわあああああああああああ」

 

知らなかったからこそ黒ウサギの自尊心は深く傷つき、もはやよく分からない奇声をあげながら来た道を走り去っていった

 

それを見て、珍しくおろおろとしている女性店員を見て白夜叉が声をかけた

 

「私は良いから黒ウサギをを追ってやれ」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ」

 

白夜叉の言葉に女性店員と紫龍が返事をして黒ウサギを追おうとする

 

「おんしはこっちじゃ」

 

しかし、紫龍は白夜叉にもう一度捕まってしまった

 

「それより、迦陵ちゃん。牛魔王に会わせてくれんか?」

 

「長兄は不在よ。鬼姫連盟の救援に向かってから一度も帰って来てないわ」

 

「なんじゃと!!」

 

鵬魔王の言った真実に白夜叉は目を見開く

 

「言伝があるなら伝えておくけど?」

 

「いや、これは本人に直接伝えなければならばいし、不在ならばほかの候補者を探しに行かなければならん」

 

「候補者?」

 

何のことかわからない鵬魔王の表情を見て、白夜叉が口を開いた

 

「おお、言い忘れとった。今回の一件でわしは階層支配者を下りることになってのう。そのかわりに魔王との戦いの経験豊富な牛魔王に頼もうかと思ったんじゃが・・・」

 

どうしたものか、と言った表情をする白夜叉を見て鵬魔王が口を開いた

 

「ねえ、白夜叉。そこの男、赤羽紫龍でいいのよね」

 

「・・・ああ」

 

「ちょ、言うな、白」

 

紫龍のフルネームを知っていたことに少し驚いたがすぐに答える

 

「それならそいつに任せればいいじゃない。紫龍もそれなりの実力があるんだから」

 

「だあー、迦陵もそんなこと言うな!」

 

鵬魔王の言葉に紫龍が怒り気味で叫ぶ

 

「ふむ、少しは聞いていたがやはり知り合いか」

 

「ええ、ちょっとね」

 

鵬魔王が白夜叉の言葉を聞いて少し顔を逸らす

 

「それで、龍。ここまで迦陵ちゃんがおんしを買ってる理由は何だ?」

 

「さ、さあ?」

 

白夜叉が紫龍を睨みながら言うと、紫龍はわざとらしく目を逸らす

 

「・・・まあ、よい。それよりも一度聞くが」

 

「階層支配者はやらんぞ」

 

白夜叉の言葉を最後まで聞かずに紫龍が言うと、鵬魔王が呆れたものを見るような眼で紫龍を見る

 

「紫龍、あんた少しは考えて結論を出しなさいよ」

 

「考えてるよ。人間はお前らと違って二十年もしたら大分衰えるんだよ」

 

紫龍が鵬魔王の言葉に頭を掻きながらだるそうに答える

 

しかし、鵬魔王はそんな事は関係ないといった表情で続けた

 

「そんなの私か白夜王から神格を渡せばいいじゃない」

 

「そうしたとしてもまだまだ役不足だよ。七匹揃ってたら別だがな」

 

紫龍が右手を見ながら寂しそうにつぶやく

 

「そうなの。今、何匹いるの?」

 

「今のとこ一匹。憤怒な」

 

それを聞いた鵬魔王は少し考え込む表情をする

 

「それならばしかたない。これ以上黙っておくのも義理に欠けるな」

 

そういって一枚の書簡を白夜叉に渡した

 

「これは?」

 

「宰相から伝言。『その手紙は牛魔王陛下が助勢に立つ前に残したものです』だそうよ」

 

その言葉を聞き、白夜叉が驚きの表情をする

 

(私の来訪を予期していたのか?)

 

そうして白夜叉が書簡を開く

 

『南の大樹にて後継の目あり。心躍らせて参加されたし』と、書かれていた

 

「ククク。助かったぞ、迦陵ちゃん。後でお礼の品を送っておくぞ」

 

「感謝してると思うならその呼び方を止めてほしいわ」

 

白夜叉の言葉に鵬魔王は肩を落とす

 

「それではかえって黒ウサギでも弄るぞ、龍」

 

「へー」

 

「待ちなさい、紫龍」

 

白夜叉の言葉に紫龍が覇気なく答える前に、鵬魔王が紫龍を呼び止めた

 

「ん?どうした、迦陵」

 

「アンタは少し残ってなさい。少し話したいこともあるし」

 

紫龍がそれを聞くと、すごく嫌そうな顔をする

 

「なんで?」

 

「少し話したいことがあるの」

 

紫龍がそれを聞き、白夜叉を見ると首を縦に振る

 

「それじゃあ、残るわ」

 

「そう、ありがとう」

 

紫龍の言葉を聞いて白夜叉は帰って行った

 

「それで話ってのはなんだ?」

 

「神格の事よ。前みたいに渡そうかと思うの」

 

鵬魔王のその言葉を聞き、少し寂しそうな顔をする

 

「さっき言っただろ?いくら神格を貰ってもお前に『強いんだな。その・・・」

 

「わああああ!やめろ!それ以上言うな」

 

紫龍の言葉を遮り、鵬魔王が顔を赤くし、叫ぶ

 

「まあ、あの頃の強さはもう戻らないよ」

 

「そんなことは分かってるわよ。けどね、曲がりなりにも一度、私たちに一度勝ってる人間がここまで弱くなってるのは見てられないのよ」

 

顔の赤さが引いた鵬魔王は真剣な目で紫龍を見ながら口を開く

 

「・・・そこまで言われたら受け取らないわけにはいかないな」

 

少し目を閉じて考え事をしていた紫龍だったが、覚悟を決めた

 

「それじゃあ、目を閉じなさい」

 

言われるがまま、紫龍は目を閉じる

 

少しすると、鵬魔王の声が聞こえた

 

「目を開けなさい」

 

「おう、終わったか」

 

「ええ」

 

紫龍がそれを聞くと、腕や足を動かして感触を確かめる

 

「確かに少しは軽くなった気がするような・・・」

 

「ふん、何言ってるのよ。神格を持ったあんたの真骨頂はギフトを使ったときでしょ?」

 

「まあな。けど、少しはこのままの状態で力が入んなきゃ意味がねえ」

 

紫龍が一通り動作を確認すると、伸びをする

 

「さて、それじゃあ俺も帰るわ。色々とありがとうな、迦陵」

 

「別に礼なんていいわよ。けど、偶には顔くらいは見せに来なさいよね」

 

紫龍の言葉に鵬魔王が顔を軽く逸らしながら喋る

 

「そうだな。気が向いたら来るよ」

 

紫龍はそう言い残して白夜叉たちの方へと向かった

 

 



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第七十六話

紫龍たちが平天の旗本から東に帰ってから三日後、南では平和な時が流れた

 

朝、耀が目覚めると、紫炎はまだ眠っていた

 

「まだ、寝てるよね」

 

耀が紫炎が寝てるのを確認し、布団から出る

 

(紫炎が眠ってるうちに着替えなくちゃ)

 

一緒の部屋になってから二人は先に起きたほうが着替えてから起こそうと決めた

 

そして着替え終わった耀は紫炎の身体を揺らす

 

「ほら、紫炎。朝だよ」

 

しかし、それだけでは紫炎は起きない

 

(わかってるけどね)

 

耀はそれを予想していたので、本を手に取る

 

「えい」

 

「ぐはっ」

 

そして紫炎の顔面にそれを叩きつける

 

「おはよう、紫炎」

 

「ああ、おはよ。いつつつ」

 

紫炎は起きたが顔を抑える

 

「まったく、シャキッとしてよね。お腹の子が生まれて来てだらしなかったら許さないよ」

 

耀がそう言うと、お腹に手を当てた

 

「ちょ、ちょっと待て。俺はまだ何もしてない。・・・はず」

 

紫炎は自分は何もしていないという自信はあるが、なにせ同じベッドで寝てる訳である

 

何かの拍子で・・・、という考えが頭をよぎったので最後に自信なさげに付け足した

 

「その、悪いんだが俺は覚えてないんだが、でもきちんと責任は・・・」

 

紫炎がそこまで言うと、耀が紫炎の口に指を当てて途中でやめさせる

 

「大丈夫。冗談だよ」

 

「冗談?」

 

「うん」

 

耀のその言葉を聞き、紫炎はホッと胸を撫で下ろす

 

「でも、ちゃんと責任は取ってくれるんだよね」

 

「もしかしてそれを聞くためにあんなことを言ったのか?」

 

紫炎がそう言うと、耀は首を縦に振る

 

「紫炎が私を大切に思ってくれてるのは分かるけど、同じ部屋にいるのに何にもされないと不安になっちゃうよ」

 

耀がそこまで言うと、不安げな表情になる

 

「耀」

 

「え・・・、うむっ」

 

紫炎がそんな耀を見て、口づけを交わす

 

「そんな事言われたら我慢してた俺がバカみたいじゃないか」

 

耀はそれを聞くと、顔を赤らめて紫炎に優しく囁きかける

 

「本当にバカ。好きな人とならいつでもいいって言ったじゃん」

 

「・・・っ耀!」

 

紫炎は耀の言葉を聞き、我慢の限界を迎え、耀を押し倒す

 

「紫炎。いつでも良いって言ったけど、その、私初めてだから・・」

 

「ああ。優しくするよ」

 

紫炎はそういって耀の服に手をかける

 

「紫炎君、春日部さん!いつまで寝て・・る・・・の」

 

すると、ちょうどその時、朝食に来ない二人を起こしに来た飛鳥が扉を開けた

 

「ご、ごめんなさい。お邪魔だったみたいね。そ、それじゃ」

 

飛鳥がそう言うと、顔を真っ赤にさせて飛び出して行った

 

残った二人も見られたことを意識して顔を真っ赤にする

 

「・・・」

 

「・・・」

 

そして二人は数秒見つめあったままになる

 

「あのー、紫炎さんいますか?」

 

すると、リリが控えめに部屋を覗き込んだ

 

巨龍との戦いの後、サラたちがノーネームメンバーの活躍を広めてくれたのだ

 

それにより年長、年少組全員が昨日からアンダーウッドに来ていた

 

「リ、リリか。どうしたんだ?」

 

「あの、昨日私以外のお店を手伝う予定だった子が手を怪我しちゃったんです。なので今日のお店のお手伝いなんですけど、紫炎さんも手伝ってもらえませんか?」

 

リリの願いを聞いた紫炎はとりあえず耀ん視線を向ける

 

今日、耀と飛鳥と一緒に狩猟のゲームに参加しようと決めていたからだ

 

視線を向けられた耀は少し考えてから首を縦に振る

 

「わかった、手伝うよ」

 

そして紫炎はリリの願いを聞くことにした

 

「ありがとうございます。それよりお二人とも朝食をまだ食べていないみたいですけどどうしたんですか?」

 

それを聞いた瞬間、先ほどの事を思い出し、顔を真っ赤にする

 

「ね、寝坊したんだ。な、耀」

 

「う、うん」

 

流石に本当のことを言えない二人は咄嗟にごまかす

 

「そうなんですか。それでは今日はよろしくお願いします、紫炎さん」

 

リリはそういって部屋から出て行った

 

残った二人は少しだけ冷静さを取り戻した

 

「・・・飯、食いに行くか」

 

「うん。でもさ、その前に・・・」

 

耀はそういって目を閉じて紫炎の方を向く

 

「・・・終わったらすぐに飯食いに行くからな」

 

紫炎がそう言うと、耀は軽く首を縦に振る

 

そうして数分後、紫炎と耀は食堂で朝食を仲良く二人で食べた



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第七十七話

朝食を食べ終わった後、紫炎は耀と別れてリリが手伝っている店の手伝いをしていた

 

「リリ、シチュー作りに行ってくれ」

 

「はい、わかりました」

 

紫炎の言葉にリリが嬉しそうに裏に回った

 

「いや、よく働く娘だね」

 

この店の店主が紫炎に話しかけてきた

 

「ええ。あの娘はうちのコミュニティでも一番の働き者ですから」

 

「そうなのかい?それに君も良く働くねえ。顔も良くて料理も出来るんだからさぞモテるんだろ?」

 

店主が肘で小突きながら言うと、紫炎は少し照れる

 

「モテる、ってわけじゃありませんけど、彼女はいます」

 

紫炎がそう言うと、店主は残念そうな表情をする

 

「やっぱりそうか。独り身ならうちの娘を紹介したかったんだが・・・」

 

「それなら俺なんかどうですか?」

 

すると、どこからいきなりクリスが現れた

 

「・・・何の用だ、クリス。客として来てるならさっさと注文しろ」

 

「客じゃない。女の子を紹介してくれるって聞こえたから飛んできただけだ」

 

それを聞き、店主と紫炎は苦い顔をする

 

(・・・本物のバカだな)

 

すると、クリスの後ろから見知った顔が見えた

 

「紫炎にクリス、いいところにいた。今、忙しいか?」

 

碓氷が少し息を切らして来た

 

「こいつは暇だ」

 

「なんだ?俺に頼みごとか?何でも言ってみろ」

 

いつもより鬱陶しいテンションのクリス

 

「紫炎はどうだ?」

 

「いやいや、俺が手伝うって言ってるだろ?」

 

クリスを無視して碓氷は紫炎に話しかける

 

「俺は・・・」

 

「別に行ってきてもいいよ。もうそろそろ無料の立食が始まるからね。リリちゃんもちょうど抜けるし」

 

紫炎が断ろうとすると、店主が勝手に答える

 

「それじゃあ、手伝ってくれ」

 

「ちっ、わかったよ」

 

面倒臭そうに紫炎が言う

 

すると、裏からなにやら音がした

 

「・・・悪い。ちょっと先に裏を見てくる」

 

リリの事が気になり、碓氷に一言告げて裏に行った

 

「リリ、だいじょ・・・」

 

すると、目に飛び込んできたのは愛しの彼女である耀と気絶している飛鳥と女性店員だった

 

「何があったんだ?」

 

紫炎がとりあえず説明を求めると、いきなり耀が紫炎の手を握る

 

「飛鳥達が起きる前に早く行こう」

 

そういって耀はリリと紫炎を連れて飛び立った

 

「余程腹減ってたんだな、春日部の奴」

 

取り残された十六夜がそう言うと、碓氷達がやってきた

 

「紫炎、おそ・・・って何で彼女たちは気絶してるんですか!?」

 

碓氷が飛鳥達が気絶しているのを見て驚きの表情をする

 

「説明するのが面倒臭い。お嬢様でも起こして聞きな」

 

十六夜がそう言うと、その場から去っていった

 

碓氷もとりあえず飛鳥を起こして事情を説明してもらうことにした

 

「飛鳥さん。起きてください」

 

「う・・・ん。・・・碓氷君?」

 

目を覚ました飛鳥は目の前に碓氷がいることに少し困惑する

 

「大丈夫ですか?」

 

「え、ええ」

 

「すいませんが何が起きたか説明してもらっていいですか?」

 

碓氷の言葉に飛鳥は簡潔に事情を説明する

 

狩猟のゲームが終わった後、女性店員が耀にある生物を探すように頼んで一緒に探していたが、耀がしびれを切らしてここに急降下したらしい

 

「なるほど。だから紫炎もいないのか」

 

碓氷が納得していると、頬を腫らしたクリスが話しかけてきた

 

「ダメだ、碓氷。あの人結構ガードが固い」

 

そういってクリスは女性店員の方を指さす

 

「お前は何やってんだ」

 

「綺麗な人がいたらナンパするのが普通だろ」

 

クリスが堂々と言うので、碓氷は頭を抱える

 

「碓氷。もう見つけましたか?」

 

「いえ、まだですけど、クリスには手伝ってもらうようにはなりました」

 

碓氷がそう言うと、女性店員はとても嫌そうな顔をする

 

(何を言ったらこんな表情をださせれるんだ)

 

碓氷がそう思ってるとクリスが口を開いた

 

「探すのは二人一組にしませんか?それなら見落としもなくなると思うんですが・・・」

 

クリスの言葉に女性店員が大分嫌そうな表情をするが、仕方がないといったため息をつく

 

「分かりました。それじゃあ・・・」

 

「飛鳥さん、一緒に行きましょうか」

 

女性店員の言葉を聞いた瞬間、クリスが飛鳥の手を握る

 

「それじゃあ、碓氷君について行こうかしら」

 

飛鳥はクリスの手を払い、碓氷の手を持つ

 

「分かりました。それでは」

 

そういって碓氷は飛鳥の手を持って二人に一礼をしてその場から去った

 

「それでは・・・」

 

「私は一人で探しに行きます」

 

クリスが女性店員の方を向いた瞬間、彼女はそう告げて逃げるように去っていった

 

「・・・帰って寝るか」

 

一人取り残されたクリスは一人そうつぶやいて自室に戻った

 

――――――――――――――――――――――――

 

一方、飛び立った耀たちは立食会の場所へと来ていた

 

耀は人前なのか、いつもより少し遅いペースで食べているが、それでも早い

 

「な、なんだ、あの速さは?何かのギフトの類か?」

 

「いや、あれはそんなんじゃねえ。噛んで飲むのが異常に早いんだ」

 

「十年前の英雄を思い出させてくれるぜ。食糧庫からありったけもってこい!」

 

この料理人の言葉に他の料理人も気合を入れる

 

「おい、耀!様子見はもう終わりにしたらどうだ」

 

料理人の言葉が聞こえた紫炎は耀にそう言いかける

 

紫炎の言葉を聞いた耀はゆっくり食べることを止め、遠慮なしに食べるスピードを上げる

 

「・・・えっと」

 

リリは困惑した表情で紫炎を見る

 

「頑張れ、耀!」

 

「おう、嬢ちゃん頑張れ!」

 

「料理人、だらしねえぞ」

 

しかし、紫炎はそれを気にせずに耀の応援をし、周りの空気もそれに応じて熱くなっている

 

自分のツッコミで場を白けさしてはいけないと思い、立食会を諦めて年少組の面倒を見に行こうと、人の輪から出た

 

すると、その場にそぐわない冷めた声が聞こえてきた

 

「何だ?このバカ騒ぎは?」

 

「ノーネームの屑が意地汚く食事をしてるだけですよ」

 

「普段から碌に食事をとれていないんだろう。まあ、名無しである以上、この栄光も一時のものだろう」

 

「違いない。如何なる功績を積み上げようとも名無しに降り注ぐ栄光などありはしないのだから」

 

「そんなことはありません!!」

 

仲間を侮辱され、リリは普段とは比べ物にならないほどの大声を出した

 

――――――――――――――――――

 

「頑張れ、耀!」

 

紫炎は耀の方に向いて応援していた

 

「ほら、リリも・・・」

 

一緒に応援しようか、と言おうとすると、リリがいないことに気づく

 

(やばい。早く見つけないと)

 

紫炎はそう思って移動しようとする

 

「そんなことはありません!!」

 

すると、今から探しに行こうとした少女がいままで聞いたことがないような大声が聞こえた

 

何か嫌な感じがしたのだろう、耀も食べるのを止め大声が聞こえた場所に移動する

 

―――――――――――――――――――――

 

リリが大声を出したことでその場にいたほぼ全員が耀の食事からそちらに注目が集まった

 

「何だ?この狐の娘は?」

 

「私はノーネームの者です。同士に対する侮蔑の言葉、確かに聞きました!直ちに謝罪をしてください!!」

 

リリはそういって頬を真っ赤に染め、狐耳を逆立てて激怒する

 

しかし、取り巻きの一人が前に出て口を開いた

 

「ふむ。君の身分は分かった。しかし、君はこの方が誰だか分かってるのか?この御方は二翼のコミュニティのリーダーにして幻獣ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

取り巻きの言葉を聞き、リリは一瞬たじろくが、すぐに言い返す

 

「そ、そんなことは関係ありません!私は侮辱の謝罪を求めてるんです!!」

 

「ふん。ノーネーム如きに頭を下げていたらわがコミュニティの品が落ちてしまうわ」

 

グリフィスと呼ばれた男が尊大な表情でそう答えると、人ごみから紫炎と耀が出てきた

 

「如きとは好き勝手言ってくれるな」

 

二人の姿を見てリリは少し涙目になって二人の方に来た

 

そして耀が優しくリリを撫でてあげる

 

「とりあえず話は全部聞こえてきた」

 

「それがどうした?貴様も謝罪を求めろとでも言うのか?」

 

紫炎が出て来ても人を侮蔑した態度で話す

 

「いや、そんなことしなくてもいいぜ」

 

紫炎の言葉に周りやリリはもちろん、グリフィスの取り巻きも驚いている

 

しかし、グリフィスだけはそれが当然と言った態度で口を開いた

 

「ふん。ようやく自分の立場が分かったか」

 

「いや、違うよ。お前如きの言葉なんてなんとも思っていないだけだよ」

 

しかし、紫炎はグリフィスの態度を真似て言葉を返した

 

「貴様!グリフィスの様になんて口のきき方だ!!」

 

すると、グリフィスの取り巻きが戦闘態勢を取る

 

それを見て耀も生命の目録を白銀のブーツに変えて、戦闘態勢に入ろうとするが、それを紫炎が手で制す

 

「こんな奴らにお前まで出る必要はないよ」

 

それを聞いた瞬間、挑発と受け取った全員が一斉に襲い掛かる

 

紫炎も右手に炎を纏わせて迎え撃とうとする

 

「何をやっている、貴様ら!!」

 

すると、騒ぎを聞きつけてやってきたサラが大声をあげる

 

「彼らは私がゲストとして招いている。無礼は許さんぞ」

 

凛とした態度でグリフィスたちに向かって言い放つが、彼らの態度はあまり変わらなかった

 

「ふん。ノーネームをゲストに呼ぶなど、恥さらしでしかない。そんなざまだから議長の座も降ろされるのだ」

 

「どういうこと?」

 

今まで黙っていた耀だったが、サラが議長を降ろされると聞いて口を開いた

 

「そのままの意味だ。自分の龍角を切って霊格を落とすという愚かな行為をしたのだからな」

 

「サラは愚かじゃない」

 

グリフィスの言葉に怒った耀が前に出る

 

「おい、貴様!次期議長候補であられるグリフィス様になんて口のきき方だ!」

 

「冗談は止せよ。名無しの子供と言い争う低レベルな奴が議長になったらサラが命がけで守ったアンダーウッドが一日で潰れちまう」

 

「小僧!!」

 

紫炎の挑発に乗った取り巻き達が紫炎に襲い掛かる

 

「お前達!」

 

サラがまた大声を出して止めようとしたが、全員それを聞かずに紫炎に襲い掛かる

 

紫炎は避けようともせずにそのまま攻撃を受ける

 

「お前ら、拳を振るうってことは、それ相応の覚悟があるんだな?」

 

紫炎は攻撃が全然効いていない様子で口を開く

 

すると、その瞬間、紫炎を攻撃した取り巻き達の腕が一斉に燃え出した

 

「おい、紫炎!」

 

「心配すんな。威力は押さえてある。それよりも心配なのはあっちの方だぜ?」

 

紫炎がそういって上を指さすと、耀とグリフィスが対峙していた

 

「なっ!」

 

「今の耀があいつに手加減するとは思えないぜ」

 

紫炎の言葉を聞いたサラはすぐに耀を止めに行こうとするが、紫炎に止められる

 

「悪いけど、これはノーネームと二翼の問題だ。責任問題を問う場ならまだしもこの場では手を出させるつもりはない」

 

紫炎の言葉にサラが言い返そうとしたが、紫炎の冷たい瞳を見て黙ってしまう

 

「最悪の事態になる前には止めるつもりだ。けど、俺らの恐ろしさを少しは知ってもらいたいものだ」

 

紫炎はそういうと、口角を少し上げる

 

紫炎が言い終わったのが合図かのように二人が動く

 

二人が激突する瞬間、声が響いた

 

「そこまでや」



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第七十八話

耀が目を覚ますと、三毛猫を抱えたリリが覗き込んでいた

 

「良かった、耀様」

 

目を覚ました耀を見てリリがホッと胸を撫で下ろす

 

「ここどこ?」

 

「ここは救護所です。あの時に仲裁に入った人が耀様を殴って気絶させたんです」

 

それを聞いて耀はあらかたの状況を把握した

 

すると、黒ウサギがやってきた

 

「黒ウ・・・」

 

しかし、黒ウサギは耀にも目をくれずにリリに近づくと、頬をはたいた

 

「リリ!何危ないことをしてるんですか!!」

 

「ご、ごめんな・・・」

 

いつもと違う感じの黒ウサギに、はたかれたのも相まってリリは目に涙をためる

 

「黒ウサギ。怒らないであげて」

 

「そうはいきません!もしかしたら怪我を負ってたかもしれないんですよ!」

 

耀の言葉に黒ウサギは少しだけ強く返す

 

「でも、怪我がなくてよかった」

 

黒ウサギはそういってリリを優しく抱きしめる

 

「う、う、うわああああん」

 

そしてリリは黒ウサギの胸で大声を出して泣く

 

「・・・ところで紫炎は?」

 

一瞬聞くかどうか迷った耀だったが、どうしても気になったので空気を読まずに聞く

 

「確か、後始末をしに行くと言って十六夜さんを連れて行きましたけど」

 

「そうなんだ」

 

耀はそれを聞いて少し肩を落とした

 

――――――――――――――――――――――

 

アンダーウッド収穫祭本陣営に二翼のグリフィス、一本角のサラ、ノーネームからは紫炎と十六夜が来ていた

 

そして片目に眼帯をつけている男性が少し離れている場所で立っていた

 

「今回の一件だが、両者不問という事でいいな?」

 

サラの言葉に一番反応したのはグリフィスだった

 

「納得いかん!こいつは私のコミュニティを侮辱したばかりか、同士に火傷を負わせたのだぞ!それにあの小娘も身の程を知らずに私に・・・」

 

「ノーネームの女の子に大人げなくプレッシャーをかける奴に身の程をがどうとか言える立場じゃないだろ?」

 

「貴様!!」

 

紫炎の言葉にグリフィスが怒り、席から立つ

 

「はいはい、そこまでや。グリフィス君も落ち着いて」

 

「うるさい!それよりも貴様は一体何者だ?」

 

グリフィスが間に入ってきた隻眼の男性に向かって質問を投げかける

 

「それは俺も聞きたいな。これはノーネームと二翼の話し合いだ。龍角を持つ鷲獅子連盟の“議長”のサラがいるのは分かるが、こいつは関係ないんじゃないか?」

 

紫炎はわざわざ議長という言葉を強調してサラに問いかける

 

「この方は亡きドラゴ・グライフのご友人で、連盟のご意見番でもある方なんだ」

 

「サラちゃん、僕はそんな大層なもんじゃあらへんよ。昔、ちょっとドラゴ君たちの世話をしとった恩を一時の寄り木として返してもらっとるだけや」

 

隻眼の男性は苦笑しながらそう言うと、グリフィスは先ほど以上に鋭い目で見る

 

「貴様が何故ここにいるかは分かった。しかし、結局貴様は何者なのだ?」

 

「僕はこういうもんや」

 

隻眼の男性の出した蒼海のギフトカードには覆海大聖という文字が記されていた

 

「ふ、覆海大聖、蛟魔王だと!」

 

グリフィスの言葉を聞いた瞬間、十六夜の眉が少しだけ動く

 

「まあ、一応ご意見番って呼ばれとるからグリフィス君を殺させるわけにはあかんからな」

 

「ふん、あんな小娘如きにやられるわけなかろう」

 

「ちゃうちゃう。僕は人より耳が良いから聞こえてきたけど、君、グリー君の事悪く言ってたやろ?」

 

蛟魔王の言葉を聞いた十六夜が先ほどのように眉を動かす

 

「それがどうした?」

 

「僕が言いたいのは白夜叉の同士である彼の悪口を言ってるってのを万が一彼女の耳に入ったらどうなるか考えてみい、ってことや」

 

それを聞いたグリフィスは顔を青ざめる

 

「・・・ま、僕が止めたんはそう言う理由や。落日なんて若いうちから経験するもんやないで」

 

そういった蛟魔王はどこか暗い表情になる

 

グリフィスも何か反論しようとするが、蛟魔王の言ってることは正論なので言い返せず、しょうがなく扉から出ようとする

 

「待てよ、馬肉」

 

すると、今まで黙っていた十六夜が口を開く

 

馬肉呼ばわりされたグリフィスは足を止めた

 

「白夜叉の一件なんてそっちの都合じゃねえか。何で俺らが譲歩しなくちゃならねえんだ」

 

「いやいや、少年。気持ちは分からんでもないが君らの方もちょっとばかしやり過ぎやと思うで」

 

蛟魔王が十六夜の肩を抑えながら言うが、十六夜は止まらない

 

「はっ!先に口と手を出したのは向こうだぜ。行動するってことは大なり小なり責任がついてくる。それがコミュニティ全体の侮辱ってなるならコミュニティ同士の戦争になってもおかしくないぜ」

 

「・・・なるほど、一理あるな」

 

「なっ・・・」

 

十六夜の言葉に蛟魔王が納得すると、グリフィスが驚愕の表情を浮かべる

 

いくら彼がノーネームをバカにしている態度をとっていても、十六夜達が巨龍を倒したことを知っているので、十六夜達の戦闘能力が高いことを知っている

 

そんなノーネームの面々と戦争という事になれば、甚大な被害を受けることになるのは必須だろう

 

「だが、そんなことになったら折角サラが命がけで守ったアンダーウッドにも被害が及んでしまうからな。ここは箱庭らしくギフトゲームで決着をつけるのはどうだ?」

 

様子を見ていた紫炎が口を開くと、蛟魔王は頷き、十六夜も少し不満があるようだがむやみに血を流すようなことにはしたくないのだろう、グリフィスを睨みながら賛同する

 

「確か、二日後のヒッポカンプの騎手がこの収穫祭で一番大きなゲームだったよな。それで決着をつけるってのはどうだ?」

 

「負けた方が今回の謝罪を壇上で行うってのはどうだ?」

 

「・・・ふん、今から恥をかく準備でもしてるがよい」

 

グリフィスはそういって逃げるようにその場から去っていった

 

「すまんな君ら。よう我慢してくれたな」

 

グリフィスが出て行った後、蛟魔王がそういってくる

 

「別にあんたの為じゃない。・・・けど、悪いと思ってるなら少し話に付き合ってもらっていいか?」

 

紫炎がそう言うと、十六夜もにやりと笑いながら話しかける

 

「ああ、西遊記の蛟魔王って言えば、俺の世界じゃあ全然記述がなかったからな」

 

「まあ、別にええけど、何かつまみながら喋れるとこに行こうか」

 

蛟魔王がそう言った瞬間、扉が開いた

 

「紫炎!」

 

すると、耀が紫炎に抱きついてきた

 

そして後から黒ウサギ、飛鳥、リリが入ってきた

 

「・・・皆、食堂で蛟魔王“さん”の話を聞きにいくんだが、どうだ?」

 

十六夜がわざと“さん”を強調して言うと、飛鳥と黒ウサギが反応した

 

「え!蛟魔王さんってことは、あの西遊記の?」

 

「へえ。それはぜひ興味深いわね」

 

「それじゃあ、俺らは先に行ってるぜ、紫炎、春日部」

 

十六夜がそう言うと、二人が出て行く

 

すると、最後に出て行く蛟魔王が二人に声をかけた

 

「それじゃあ、待っとるで。春日部ちゃんに、赤羽君」

 

「あ、はい」

 

蛟魔王の言葉に紫炎は耀に押し倒されたまま返す

 

「紫炎。あの人にフルネーム教えたの?」

 

「いや。なんでそんなこと聞くんだ?」

 

耀は何か勘付いたのか、紫炎に聞くが何もわからないといった表情で紫炎は返す

 

「だって紫炎って、黒ウサギ以外の皆から紫炎って呼ばれてるのにさっきの人、赤羽君って」

 

紫炎はそれを聞いて少し驚く

 

「確かにそうだな。黒ウサギが俺のいない時に言っていたとしても、俺が赤羽だってのは分からないはずだしな」

 

紫炎が悩んでいると、耀が紫炎の袖を引っ張る

 

「お腹減った」

 

「・・・立食会、あんだけ食ったのに?」

 

耀の言葉に紫炎が呆れながら言うと、耀は真顔で言い返してきた

 

「あれは昼食。今回は夕食」

 

耀がそういうと、紫炎が前から思ってたことを聞いた

 

「そう言えばお前結構食べるけど、何処に消えてるんだ?全然変わらないよな、腹もむね・・・」

 

そう言った直後、紫炎の意識は途切れた



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第七十九話

紫炎達が会議をしている最中、白夜叉以外のサウザンドアイズの面々は逃げ出したラプラスの小悪魔という精霊を探していた

 

碓氷は途中まで飛鳥と探していたが、紫炎達が問題を起こしたと聞いて、別行動になった

 

女性店員は一人で探し、白夜叉は主催者として壇上に上がっていた

 

そこで彼女はヒッポカンプの騎手のゲームの際は女性は全員水着を着用するようにと宣言した

 

黒ウサギも女性店員もいない彼女が暴走するのは仕方ないだろう

 

そして紫龍は・・・

 

「おっちゃん、もう一杯」

 

「五年前と同じ位呑むね。年考えなよ?」

 

「まだまだいけるぜ。一樽はいける自信があるぜ」

 

精霊も探さずに酒を飲んでいた

 

「しかし赤羽、なんか用があったんじゃないか?」

 

「別に俺がいなくても大丈夫だよ。他が上手くやってくれるさ」

 

店主の言葉に紫炎が酒を飲みながら答える

 

「なにをしてるんですか?紫龍さん」

 

すると、紫龍の後ろから女性店員が黒いオーラを出しながら話しかける

 

「おう、もう見つかったのかい?」

 

しかし紫龍はいつもと変わらない態度で話しかける

 

「ええ、何とか。それよりまさかとは思いますが、ずっと飲んでたんじゃありませんよね?」

 

女性店員が殺気を込めて聞くと、紫龍は普通に首を縦に振る

 

すると、女性店員は紫龍に向かって薙刀を振り下ろすが、軽く止められてしまう

 

「危ないじゃないか」

 

「このダメ男!少しは手伝いなさい!!」

 

「そんなに怒ってると、可愛い顔が台無しだぜ」

 

紫龍がそう言うと、女性店員の首筋に息を吹きかけると、ひゃあ、と可愛い声をあげる

 

「こ、この変態!!」

 

女性店員が本気で怒り、紫龍に薙刀を持って追いかける

 

紫龍は店主に金を払って即座に逃げるのであった

 

――――――――――――――――――――――

 

夜になって紫炎は目を覚ますと、布団で簀巻きにされ、逆さづりにされていた

 

(やっぱ胸の事言ったから怒ったのかな?)

 

紫炎は自信なさげにそう思うと、ベッドで寝ている耀に視線を向ける

 

すると、耀はこっちに背中を向けて寝転んでいた

 

(自覚がなかったとはいえ、耀を傷つけちまったもんな。このまま寝るか)

 

紫炎が諦めのため息をつく

 

「・・・起きたの?」

 

すると、耀の声が聞こえてきた

 

「起こしちまったか。その・・・色々悪かった」

 

「反省してるの?」

 

紫炎に近づきながら耀が問うと、紫炎は首を縦に振る

 

「それじゃあ、何で私が怒ってるかわかる?」

 

目の据わった耀が紫炎に聞くと、紫炎は恐る恐る口を開いた

 

「その、胸の事を言ったから?」

 

「うん。そうだよ」

 

淡々という耀に恐怖を覚える紫炎

 

「本当に悪い。そんなに気にしてるとは思わなかった」

 

紫炎がそう言うと、耀は紫炎の頬を掴み、思いっきり引っ張る

 

「当たり前だよ。周りがあんなに大きいのに意識しないわけないじゃん」

 

(まあ、確かに)

 

紫炎が耀の言葉を聞いて、飛鳥と黒ウサギを思い浮かべると、耀の力が一層こもった

 

「痛たたたたた」

 

「何考えてるの?」

 

「ごめんなふぁいごめんなふぁいごめんなふぁい」

 

紫炎が勢いよく謝るが、耀の込める力は一層強くなる

 

「な・にかんがえてたの?」

 

耀はわざわざ“なに”を区切って言い、紫炎はさらなる恐怖に見舞われる

 

「あの・・・飛鳥と黒ウサギが一瞬、頭に浮かびました」

 

それを言った瞬間、紫炎は顔を思いっきり蹴られた

 

「もう知らない!!」

 

耀はそういって布団にもぐりこんだ

 

「悪かった、耀。許して・・・もらえないよな」

 

「・・・・・・・・」

 

紫炎が不安そうに告げるが、耀は全然反応しない

 

「寝てて聞いてないかもしれないが、言わせてくれ。もし許せないなら・・・」

 

「許さない」

 

紫炎の言葉を耀が遮って口を開く

 

そしてしゃがみこんで紫炎と同じ目線になる

 

「一生許さない。だから、一生私のそばにいて機嫌を取ってよね」

 

耀はそういって紫炎にキスをする

 

「ああ、わかった。一生傍にいるよ」

 

紫炎がそう言うと、耀は満足そうな顔をする

 

「絶対だよ。それじゃあ、お休み」

 

「え・・・。まさかこのまままで?」

 

「朝起きたら解いてあげる」

 

やはり根に持ってる耀は制裁をきちんとするのであった

 

―――――――――――――――――――

 

一方、食堂での蛟魔王の話が終わり、蛟魔王は一人、大樹の天辺で感慨にふけっていた

 

(昔話なんていつぶりやろか?)

 

閻魔大王の元へ七人の義兄妹と戦いを挑みに行った事、東海龍王の元へ神珍鉄の恩恵を掻っ攫って行った事

 

そして七人の義兄妹の中心人物である美猴王“斉天大聖”の事

 

(兵どもが夢のあとか)

 

昔の事を思い出した蛟魔王は手に持った杯を眺めていると、後ろから近づく気配があった

 

誰か確かめようとすると、紗蘭、と鈴の音が聞こえ、蛟魔王は心底意外そうな顔をする

 

「なんや、随分懐かしい御方の登場やね」

 

「うむ、おんしと会うのは本当に久しいな、蛟劉。何世紀ぶりだ?」

 

「前々から思ってたんだけど、白っていくつなんだ?」

 

白夜叉が紫龍をロープで縛って現れた

 

「しかし、よく僕がここにおるってわかったね。紫龍君からでも聞いたん?」

 

蛟劉がそういうと、白夜叉は紫龍を睨む

 

「龍よ。おんし、蛟劉の居場所を知っておったのか?」

 

「いや、五年前にここで会ったけど、もういないと思うじゃん」

 

白夜叉が殺気を込めて睨むと、紫龍は言い訳がましく口を開く

 

「あれ?その時に僕『当分は此処から離れるつもりはない』って言わんかったけ?」

 

「お前らと人間の時の感覚の違いを分かれ!」

 

紫龍が二人にツッコミを入れると、二人は高らかに笑う

 

「いやはや、紫龍君は相変わらず反応が面白いな」

 

「うるせー、蛟劉」

 

蛟劉の言葉に紫龍がぶっきらぼうに返すと、蛟劉は懐から手紙を出した

 

「これは長兄からや。今回の魔王騒動の主犯格らの情報らしいですわ」

 

それを聞き、二人はとても驚くが、蛟劉はのんびりとした口調で続けた

 

「百年ぶりに呼び出したと思ったら、お使いを頼むなんて人使い荒い義兄ですわ」

 

「それはお前の実力を信じてだろ。内容によるが、いつ魔王に襲われるかわからないからな」

 

紫龍がそう言うと、白夜叉が口を開いた

 

「なあ、蛟劉よ。おんしに一つ頼みたいことがあるのだが・・・」

 

「面倒事は御免や。そっちの紫龍君に頼んだらどうや?」

 

白夜叉の言葉に蛟劉はすぐに否定し、迦陵と同じく紫龍を推す

 

「はあ、おんしもか。まあ、無理強いをさせるわけにはいかんな。帰るぞ、龍」

 

白夜叉がそういって立ったので、紫龍も立ち上がると、蛟劉の脇腹に傷跡のようなものが見えた

 

「おい、蛟劉。それどうした?」

 

「あ、これ?喧嘩止める時に一撃貰ってしもうたんや。しかし、凄い女の子やったな。気を失ってるはずなのに一撃入れられたんや」

 

すると、白夜叉は驚きの表情を浮かべる

 

彼女には蛟劉に一撃入れれる女の子と言ったら一人しか思い浮かばないからだ

 

「まさか、黒ウサギに手を上げたわけではあるまいな!?」

 

「は?違う違う。僕が喧嘩を止めたんはグリフィスの小僧とショートカットの女の子や。確か春日部って娘やったかな?」

 

それを聞いて二人はとても驚く

 

二人の知ってる彼女の実力では蛟劉に手傷を負わせられるほどの実力を持ってるとは思わないからだ

 

「それと、そこに赤髪の男の子がおったんやけど、君の子やろ。名前は紫炎」

 

蛟劉が紫龍を指さしながら言うと、紫龍は頷く

 

「やっぱりか。結構似てたからすぐにわかったわ」

 

それを聞いて紫龍は疑問符を浮かべる

 

「そうか?レティシアやサラは気づいてなかったみたいだが」

 

「それは君を君としてしか見てないからや。僕は性格、というより本質が似てると思ったんや」

 

紫龍はそれを聞いてさらに頭をひねらせ、白夜叉はそれを聞いて納得したようだ

 

「しかし、あの女の子もやけど、君の息子は強そうやったわ。昔、君を最初に見かけた時のような感覚に襲われたわ」

 

そう言った蛟劉の目には何か秘めているようなものだった

 

紫龍には何か分からなかったが、同じ魔王だった白夜叉には少しわかるのだろうか、少しニヤリとする

 

(いくら強くても自分には勝たせない、という魔王の自尊心。枯れ木の流木に火をつけるとはな)

 

そして、白夜叉は蛟劉に向き直り、ニヤリと笑みを浮かべる

 

「おんしに一つは話がある」

 

「面倒事はお断りやで」

 

白夜叉の言葉に蛟劉は飄々とした態度で答えたが、白夜叉はその言葉を無視して次の言葉を紡いだ

 

「“斉天大聖”に会いたくないか?」




活動報告でアンケートをやってるので、意見よろしくお願いします


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第八十話

次の日、紫炎と耀はヒッポグリフの騎手の契約書類を見に行くと、女性参加者は水着着用とあったので耀の水着を探しに来ていた

 

「ねえねえ、どれがいいかな?」

 

そういって耀が紫炎に見せてきたのはセパレートタイプの水着と、ビキニタイプの水着、そしてスク水(旧タイプ)だった

 

「そうだな。まず、スク水は除外してもいいと思うぞ?というより、何でそれをチョイスしたんだ?」

 

「だって、男の人はこれが好きだって聞いたから」

 

「誰から聞いた!」

 

偏った知識を植え込まれた耀に紫炎が魂のツッコミを入れる

 

「誰って・・・白夜叉」

 

紫炎はそれを聞き、がっくりと肩を落とす

 

「耀、とりあえずそれはやめてくれ」

 

「・・・わかった」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は迷ったが、言う事を聞いてくれた

 

(まあ、似合わないわけじゃあないんだけどなぁ)

 

紫炎が耀のスク水姿を妄想していると、耀に思いっきり頬を引っ張られた

 

「ねえ、話聞いてた?」

 

「ふいまふぇん。ひいてまへんでした」

 

紫炎が正直に言うと、耀は深くため息をつく

 

「とりあえず一回試着してみようと思うから感想を聞きたいって言ったの。それじゃあこれに着替えてくるから」

 

そういって耀はセパレートタイプの水着に着替える為に試着室に入って行った

 

少しすると、耀は恥ずかしそうにしながら出てきた

 

「どう、かな?」

 

「あ、ああ。とっても似合ってる」

 

紫炎がそう言うと、耀はとても嬉しそうに微笑む

 

「そ、そう?それじゃあこれにしようかな」

 

「いいと思うぜ」

 

すると、耀が紫炎の腕に抱きつく

 

いくら小さいとはいっても、布一枚しか纏っていないので感触が腕に伝わってくる

 

「よ、耀?」

 

「折角水着に着替えたから、ヒッポグリフを選びに行かない?今なら濡れてもいいから」

 

小さいとはいえ胸を押し当てられて上目遣いで彼女が頼んで来たら断れる男がいるのだろうか、いやいないだろう

 

「そうだな。けど、この上着を着てくれ」

 

(他の奴に出来るだけ見せたくない)

 

紫炎はそういって上着を渡すと、耀は素直に着る

 

「それじゃあ、行こうか。これで私の水着姿を見られにくくなったし」

 

それを聞いて紫炎は自分の独占欲を見透かされて、恥ずかしくなる

 

「もう行くぞ!」

 

紫炎はそういって耀を抱きしめて、ヒッポグリフの貸し出し場まで飛んで行った

 

―――――――――――――――――――――

 

紫炎達が水着を選んでいる時、飛鳥は碓氷と一緒に水着を選んでいた

 

(み、南の水着ってこんなに面積が少ないの!?)

 

飛鳥が驚いている水着は、水着としては普通なのだが、昭和女子の彼女にとっては大胆なものだった

 

「あら?これは露出が少ないわね」

 

そういって飛鳥がとったのはスク水だった

 

「あ、飛鳥さん。それはちょっと・・・」

 

「そ、そう?」

 

そういって飛鳥はスク水を戻す

 

(そりゃあ、似合うかもしんないけど・・・)

 

碓氷がそう考えると、スク水を着た飛鳥を思い浮かべてしまう

 

頭を振ってその妄想を消し去ると、飛鳥がその行動を不信に思い、声をかける

 

「どうしたの?」

 

「い、いえ、なんでもないです。それより、良いのはありましたか?」

 

「ちょっと露出が多いものばかりだから、決めにくいわ」

 

少し悩んでいる飛鳥を見ていると、視界の端に黒ウサギが映った

 

「黒ウサギさんがいたんですけど、ちょっと意見を聞きに行きませんか?」

 

「・・・そうね、そうしましょうか」

 

一瞬暗い顔になった飛鳥だったが、すぐに元の表情に戻る

 

(二人っきりがよかったんだけど、しょうがないか)

 

そう思いながら、黒ウサギのところに行く

 

「あら?お二人ともどうしたんですか?一緒に水着を選んでいたのでは?」

 

「いえ、僕はどんなのが良いか分からないので黒ウサギさんに選んでもらおうかと思いまして」

 

それを聞いた黒ウサギの目が少し光った気がした

 

「分かりました。ちょうどいいのがありましたからどうぞ来てみてください」

 

「あ、ちょ」

 

飛鳥の言葉を待たずに黒ウサギは、水着を持って飛鳥と一緒に試着室に入って行った

 

少しすると、黒ウサギが満足そうに出てきた

 

「モチーフは『箱入りお嬢様の初めての水遊び』です。どうぞ」

 

黒ウサギがそう言うと、試着室のカーテンを開ける

 

するとそこにはパレオのついた赤いビキニの水着を着て、恥らいながら立っていた

 

それを見た碓氷は見惚れて言葉を失っていた

 

「く、黒ウサギ。やっぱりこれは大胆じゃないかしら?碓氷君も唖然としてるし」

 

「い、いや」

 

「飛鳥ちゃんの可愛さに見惚れてただけだよな」

 

碓氷が飛鳥の言葉を否定しようとすると、いつの間にか紫龍が現れて碓氷の気持ちを代弁していた

 

「し、紫龍さん!?」

 

「碓氷、若いんだから言いたいことはちゃんと言っとかないと後悔するぞ?」

 

「茶化さないでください」

 

紫龍の言葉に碓氷が顔を赤くしながら言い返すが、飛鳥は照れのあまり顔を赤くしたまま固まっていた

 

「それじゃあ、碓氷の本音を飛鳥ちゃんに伝えたことだし、黒ウサギちゃんに本題を伝えるよ」

 

「私にですか?」

 

紫龍の言葉に黒ウサギが警戒しながら聞き返す

 

「白から『私が水着を選んでやるから安心せい』だって。それじゃあ伝えたからな」

 

「え!?ちょ、ちょっと!」

 

紫龍は言う事だけ言うと、その場から消えた

 

「・・・ねえ、碓氷君。あの人はいったい何者なの?」

 

紫龍のギフトを見慣れていない飛鳥がいきなり消えたことに驚きながら聞く

 

「僕にもよくわかりません。あの人、昔のことを全然話したがらないので」

 

「そうなの。それじゃあ、着替えて春日部さん達と合流しようかしら」

 

「YES!そうするのですよ。・・・ん?」

 

黒ウサギが飛鳥の言葉を返すと、リリが水着を選んでいるのが見えた

 

「リリ、何してるんですか?」

 

「ひゃあ!く、黒ウサギのお姉ちゃん」

 

黒ウサギが声をかけると、リリが驚いてしまった

 

「リリ、どうして水着を選んでるんですか?」

 

「えっと、お手伝いの時に水着を着るように頼まれたんです」

 

「なっ!誰ですか、そんなことを頼んだのは!?」

 

黒ウサギが怒ってると、着替えた飛鳥と碓氷がやってきた

 

「どうしたの?黒ウサギ」

 

「そんな大きな声を出すと周りに迷惑ですよ?」

 

「飛鳥さん、碓氷さん。これが大きな声を出さずにはいられないのですよ!」

 

そういって黒ウサギはリリから先ほど聞いたことを言う

 

それを聞いて碓氷は苦笑するが、飛鳥はそうではなかった

 

「あら?それなら私はペストとレティシアの水着を選ぶわ」

 

「止めてください!」

 

ノリノリの飛鳥に黒ウサギが突っ込みを入れる

 

「頼まれたらしょうがないじゃない。心配ならあなたも一緒に選んだら?」

 

「・・・分かりました」

 

黒ウサギはこれ以上いっても無駄だと判断したので、しょうがないといった表情をする

 

「それじゃあ、僕はちょっと席を外しますね」

 

碓氷がそう言うと、飛鳥が少し寂しそうに聞く

 

「どうしてかしら?もう仕事は全部終わったって聞いたけど?」

 

「水着選びを手伝えるならついて行ってもいいんですけど、お二人が選ぶなら僕は別にいいかな、って思って」

 

碓氷がすまなさそうに言うが、飛鳥は碓氷の手を握る

 

「別に選ばなくてもいいから一緒にいてほしいの」

 

「え?」

 

「あ!」

 

飛鳥の言葉に碓氷は顔を赤くし、飛鳥も自分の言った言葉の意味を理解して顔を赤くする

 

「あれ?お二人ともどうしたんですか?」

 

何にも気づいていない黒ウサギが呑気に聞く

 

「い、いえ。何でもないです」

 

「そ、そうね。それじゃあ、碓氷君。一緒に他のところを見に行きましょう」

 

そう言って飛鳥は碓氷の手を握って他の場所へ走って行った

 

「本当にどうしたんでしょう?」

 

「さ、さあ?」

 

本当にわかってない様子の黒ウサギを見て、リリは苦笑するのであった

 



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第八十一話

「はいやっ!」

 

ヒッポカンプの貸し出し場に着いた耀はすぐさま試乗していた

 

紫炎はそんな耀を楽しそうに見ていた

 

「あ!常連さん、こんなところにいたんですね。探しましたよ」

 

すると、キャロロがやってきた

 

耀は紫炎に向かって探した、という単語を聞いた瞬間、少し反応した

 

「確かキャロロ、だったか。何の用だ?」

 

「名前うろ覚えですか!?ちゃんと覚えてくださいよ!」

 

キャロロが涙目になりながらツッコミを入れると、紫炎は高らかに笑う

 

「悪いな。それで何の用だ?」

 

「えっとですね、常連さんから預かってる旦那さんから紫炎を呼んでくれ、って頼まれたんですよ」

 

「三毛猫が?」

 

紫炎が何のようだろうか、と悩んでいると、耀が紫炎の横に降り立ち腕に抱きつく

 

「何の話してたの?」

 

耀が紫炎に笑顔で聞く・・・目を除いて

 

「み、三毛猫が俺を呼んでるらしいんだ」

 

「そう。それじゃあ、私も行く」

 

耀がキャロロを睨みながらそう宣言する

 

「あの、耀。その前に離れてくれないか?」

 

「紫炎、私のこと嫌いになったの?」

 

耀がそう言いながら涙を目に溜めて紫炎を見る

 

「う・・・。ダ、ダメだ。水着を着替えなくちゃいかんし、何よりいろいろとヤバい」

 

紫炎はそう言うと、耀を引きはがす

 

「うう~」

 

残念そうに耀がうなると、紫炎は耀にしか聞こえない程度の声で囁きかける

 

「後で埋め合わせてやるから、な?」

 

「・・・わかった」

 

少し残念そうに耀が離れて手を繋ぐ

 

「それじゃあ、耀が着替えてから行くから場所を教えておいてくれ」

 

「あ、はい。少し前まで修行してた場所です。待ってますからね」

 

キャロロはそういって足取り軽くその場から去っていった

 

「それじゃあ、着替えに行くか」

 

「うん」

 

耀はそういって、紫炎に体を寄せた

 

―――――――――――――――――――――――――

 

飛鳥と碓氷は黒ウサギたちから離れて行った後、少し離れた場所で食事をしていた

 

最初の方はちゃんと探していたのだが、気まずい空気のままだったので碓氷が提案して食事をすることになった

 

「おいしいですか?」

 

「ええ」

 

気まずい空気は少し残っているが、それでも先ほどよりもよっぽどましである

 

すると、何処からか出てきたメルンが碓氷の頭に乗る

 

「うすい?」

 

静かな二人にメルンが疑問の声を出す

 

碓氷はそんなメルンを撫でてあげた

 

「ひゃあ~」

 

すると、メルンは嬉しそうに声を上げる

 

「ごめんなさいね、碓氷君。メルン、戻ってきなさい」

 

「やだ!」

 

飛鳥の言葉をメルンは拒否の態度を示して、碓氷の頭にしがみつく

 

「別にいいですよ。この子のおかげでさっきの勘違いに気づけましたし」

 

「か、勘違い?」

 

「はい。『選ばなくてもいいから一緒にいてほしい』って言うのは、飛鳥さんが選んでる間にメルンの相手をしといてくれ、ってことなんですね」

 

碓氷がそう言うと、飛鳥が沈んだ表情になる

 

「そうよね。碓氷君はそういう人だったわよね」

 

「?」

 

突然小声でつぶやきだした飛鳥に碓氷は不思議に思う

 

「碓氷君、勘違いしてた、って言ったわよね?どんな風に勘違いしていたのかしら?」

 

「えっと、それは別にいいじゃないですか。僕の勘違いだったんですから」

 

飛鳥の言葉に碓氷が頬を掻きながら恥ずかしそうに言う

 

「いいから答えて!もしかしたら勘違いじゃないかもしれないから」

 

そう言った飛鳥の目は真剣だった

 

「そ、それは、その。二人っきりでいるだけで幸せだって思ってくれてたら嬉しいな、って思ったんですよ」

 

碓氷が恥ずかしそうに顔を逸らしながら言う

 

飛鳥はそう思っていてくれたと知ると、顔が赤くなる

 

「お、思ってただけですよ。勘違いってのは分かってますから、どうか今聞いたことは忘れてください」

 

飛鳥の表情に気づかずに、碓氷がまくし立てる

 

「ま、待って。私の話を聞いてほしいの」

 

すると、飛鳥が碓氷の手を握る

 

「は、話ですか?」

 

「ええ。私は・・・」

 

「あ!飛鳥さんに碓氷さん、こんなとこにいたんですね」

 

飛鳥の言葉を遮るように黒ウサギが登場した

 

「もう、酷いなのですよ。こっちはちゃんと選んでいたのに、お二人は食事ですか!?」

 

「く、黒ウサギのお姉ちゃん、そんなに怒らなくても・・・」

 

リリが飛鳥と碓氷の方をちらちらと見ながら黒ウサギを止めようと声をかける

 

「いいえ。飛鳥さんには一度・・・・ムグッ」

 

黒ウサギが飛鳥に説教をしようとすると、誰かに口を押えられてしまう

 

「おい、黒ウサギ。お前は一度空気を読むってことを知れ」

 

「い、十六夜君!?」

 

黒ウサギの口を押えたのはどこからか現れた十六夜だった

 

「ったく、黒ウサギもいい所でやってきたな」

 

「うん。後もうちょっとだったのにね、飛鳥」

 

そしてその後ろから紫炎と耀が出てきた

 

「それじゃあ、俺らは用事があるから後は二人で楽しんどきな」

 

そういって五人は去っていった

 

残された二人はまたも微妙な雰囲気になる

 

「うすい?あすか?」

 

一人取り残されたメルンは疑問の声を上げるのであった

 

――――――――――――――――――――

 

紫炎と耀は十六夜と別れた後、当初の目的通り三毛猫に会いに来た

 

「三毛猫、来たぞ」

 

「小僧、来たか。お嬢も一緒か。」

 

三毛猫は巨龍の時の怪我がまだ完全に治ってないのか、所々に包帯を巻いていた

 

「耀と一緒だと問題があるのか?」

 

「いや、手間が省けて良かったわ」

 

「手間?」

 

三毛猫の言葉に紫炎は少し違和感を覚えたが、それは三毛猫の言葉を聞いてはっきりとした

 

「実はな、ワイは此処に残ろうと思うとんねん」

 

「え!?」

 

三毛猫の言葉に耀が驚くと、三毛猫が続ける

 

「ワイはこんな怪我やし、それにもう長くないからな。ここでゆっくりしようと思うとる」

 

三毛猫がそこまで言うと、紫炎の方に向く

 

「小僧。お嬢の事、頼むで」

 

「ああ。言われなくてもわかってるよ」

 

紫炎はそう言うと、耀を抱き寄せる

 

しかし、耀は目に涙を溜めていた

 

「お嬢も悲しまんといてくれ。いつか来る別れが少し早まっただけや」

 

「でも、生まれて来てから一緒だったのに」

 

「耀・・・」

 

紫炎はそんな耀を見て三毛猫との絆の深さを実感した

 

「お嬢、そんなに思っていてくれはったことは素直に嬉しいわ。でも、もうお嬢はワイがおらんでも一人やないやろ?」

 

三毛猫が優しい声でそう言うと、耀が泣き始めた

 

「ありがとう、三毛猫」

 

「ああ。それと小僧、お嬢の事を幸せにしてやってくれな」

 

「ああ、一生かけて幸せにしてやるよ」

 

紫炎のこの言葉を聞いた瞬間、耀は茹で上がったように真っ赤になった

 

「プロポーズはまだ早いんとちゃうか?」

 

「保護者の許可を貰ってから言うのは逆に遅い方だと思うが?」

 

紫炎がそう言うと、耀に照れ隠しで殴られてしまった

 




活動報告にあるアンケートは大体八月の中旬くらいに締め切る予定です


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第八十二話

碓氷はあの気まずい空気に取り残されたすぐ後に女性店員に紫龍を探すのに手伝えと言われ連れ去られた

 

「碓氷!あのバカを見つけましたか!!」

 

「い、いえ」

 

(バカ呼ばわりされるなんて何したんだ?)

 

女性店員の途轍もない殺気を感じながらそう思う

 

「あんな恥ずかしい水着・・・」

 

女性店員が呟いた一言で碓氷は事の経緯を察した

 

「おっちゃん、ビールおかわり」

 

すると、探している男の気の抜けた声が聞こえてきた

 

「あっちですか。行きますよ、碓氷!」

 

「あっ、はい」

 

碓氷は返事をするが、頭では別の事を考えていた

 

(あんな空気で途中で抜け出してしまったからな。完全に嫌われたよな)

 

碓氷はそう思うと、大きくため息をついた

 

――――――――――――――――

 

飛鳥は碓氷と別れた後、自室にこもっていた

 

(焦り過ぎたのかしら。これから顔を合わせるのが気まずすぎる)

 

いくら待っても気づいてくれない碓氷なので自分から言おうとしたのに、黒ウサギの所為で途中でになってしまった

 

そんな風に思っていると、目から涙があふれてきた

 

「あすか?」

 

「なんでもないわ、メルン。なんでもない」

 

メルンが心配そうに声をかけると、飛鳥は涙を拭う

 

「ほんと?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

そういって飛鳥は笑顔に戻る

 

「それじゃあ、夕食まで寝ましょうか」

 

「うん!」

 

飛鳥はあの気まずい空気を忘れるかのように眠りについた

 

――――――――――――――――――

 

クリスとアーシャは二人きりで祭りを楽しんでいた

 

「いやー、お前と二人でいるってなんか久々な気がするわ」

 

「そ、そうだな、クリス」

 

クリスはいつもと変わらないが、アーシャは少しだけ舞い上がっていた

 

いつもは二人の他に、同じくらいの年のコミュニティの仲間やジャックがいる

 

なので、二人でこの距離なのは本当に久々なのである

 

「まずどこから回りたい?」

 

「え!?私が決めていいのか!?」

 

クリスの言葉にアーシャが驚く

 

いつもの自分に対する態度ならクリスが自分の行きたいところに行くか、別々に行動するものだと思っていたからだ

 

「何驚いてんだよ。『女性に優しい』が俺の信条だぜ?」

 

「で、でも、いっつも私の事を妹扱いしてたじゃないか」

 

「妹も女だろ?」

 

クリスが何を当たり前のことを、と言った表情を見せると、アーシャはがっかりとした表情になる

 

「まあ、今日はお前しかいないからレディとして扱ってやろうか?」

 

クリスがふざけた口調でそう言うと、アーシャは顔を赤くする

 

「そ、それじゃあ、頼む」

 

アーシャが恥ずかしそうに言うと、クリスは目を丸くする

 

「お、おう。じゃあ、エスコートをしたほうが良いか?」

 

「う、うん」

 

クリスがそう言うと、アーシャが頷いた

 

(今更冗談だった、って言い出せる雰囲気じゃねえ)

 

クリスはそう思いながらアーシャをエスコートした

 

―――――――――――――――――――

 

紫炎と耀は三毛猫と別れた後、その辺をぶらついていた

 

「なあ、耀。三毛猫ともうちょい一緒にいても良かったんだぜ?」

 

「うん、大丈夫。それに三毛猫も『未来の旦那と一緒におりや』って言ってた」

 

すると、紫炎が耀を抱き寄せた

 

「耀、大好き」

 

「えへへ、私も」

 

そうして、バカップルは廊下でキスを交わす

 

「な、な、な、何をしてるんですか、お二人とも!!」

 

すると、黒ウサギがそれを目撃して、顔を赤くして二人に向かって叫ぶ

 

「何って、なあ?」

 

「うん。キスだよね」

 

当たり前と言った表情で二人が言うと、黒ウサギは大分テンパっている

 

「な、何でそんな真顔でいえるんですか!?そ、そのキ、キ、キスって」

 

「まあ、人目のつくとこでやるなら抵抗はあるが、二人っきりなら普通だろ?」

 

「うん。私は人目が合っても紫炎となら別にいいけど・・・」

 

耀が紫炎に抱きつきながら言うと、黒ウサギはさらに慌てだす

 

「よ、耀さん!女の子がそ、そんな事を軽々しく言っちゃいけません!!」

 

「そんな事って言うほど過激なことは言ってないけど?」

 

「確かにそうだが、人前じゃあ俺はやるつもりはないぞ」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は不満そうな顔を浮かべる

 

「そんな顔するな。黒ウサギがいなくなったらもう一回してやるから」

 

「黒ウサギ。後で話を聞くから、今は空気をよんでね」

 

紫炎の言葉を聞いた耀はすぐに黒ウサギに辛辣な言葉を浴びせる

 

「耀さん、酷いです!それと、お二人とも!少しは自重してください!!」

 

黒ウサギが泣きながら言うと、紫炎がため息をつく

 

「あのな、俺らは恋人同士だぞ?キスぐらい普通だと思うが?」

 

「うん。それ以上の事は紫炎がへたれだからまだしてない」

 

紫炎と耀が喋っていると、キス以上の事と聞いた黒ウサギはその場に倒れてしまった

 

「何するか言ってないのに倒れたぞ」

 

「むっつりで純真だね」

 

耀がそう言うと、唇に指を当てた

 

紫炎はとりあえず軽くする

 

「さっき、へたれって言ったからとりあえずここまでな」

 

「本当の事じゃん」

 

紫炎の言葉に耀が頬を膨らませて拗ねる

 

紫炎はそれを見て頬を掻きながら耀に囁いた

 

「まあ、続きをするにしても黒ウサギを別の場所に移して部屋戻った後な」

 

紫炎が耀の頭に手を乗せて言うと、耀は顔を赤くして首を縦に振る

 

「それじゃあ、黒ウサギはどこに捨てるかだな」

 

「年長組のところでいいんじゃない?通り道だし」

 

「そうだな」

 

そんな風に話し合って、紫炎が黒ウサギを担ぎ上げようとすると、耀が止める

 

「私が運ぶ」

 

「・・・わかった」

 

一瞬呆気にとられた紫炎だったが、理由を察して素直に引いた

 

「それじゃあ、黒ウサギを放り投げに行こうか」

 

「だな」

 

そうして二人はその場を後にした

 

―――――――――――――――――――――――――

 

碓氷は女性店員と共に紫龍を捕まえた後、一通り紫龍を説教して一緒に行動していた

 

「ったく、あんなに怒らなくてもいいだろ?」

 

「そう思うなら自重してください」

 

紫龍の言葉に碓氷は大きなため息をつく

 

「そう言えば、お前今日は飛鳥ちゃんと一緒にいたんじゃないのか?流石に進展したんだろ?」

 

「進展なんてするわけないじゃないですか」

 

碓氷が暗い表情で紫龍の言葉を返す

 

「・・・何があったんだ?碓氷」

 

「何にもないです、何にも」

 

紫龍が少し真面目に聞くが、碓氷は何も喋ろうとしない

 

「まあ、飛鳥ちゃんとの仲が少しこじれてるのは分かったが・・・」

 

「言ってないのに何でわかるんですか!?」

 

碓氷が叫ぶと、紫龍はため息をつく

 

「分かりやすいんだよ、お前。特に飛鳥ちゃんの事となるとな」

 

「そうですか。でも、もう関係ないですよ」

 

碓氷が最初のような表情を浮かべると、紫龍はつまらなさそうな表情をする

 

「まあ、飛鳥ちゃんとはさっさと蟠りは無くしとけよ。収穫祭が終わったらサウザンドアイズを出るんだからよ」

 

紫龍の言葉を聞いた碓氷は驚く

 

「明後日じゃないですか!そんなの初めて聞きましたよ!?」

 

「初めて言ったんだから当たり前じゃないか」

 

紫龍がいつもの調子で言うと、碓氷はいつも通り殴ろうと拳を握るが、すぐに力を抜く

 

「そうでしたね、紫龍さんはそういう人でしたね」

 

「あら?いつもならそこで殴るとこだろ?」

 

紫龍の言葉を無視して碓氷は立ち去ろうとする

 

「待て待て。話は最後まで聞けって」

 

「東から出るんでしょ?ちゃんといつものようについて行きますよ」

 

「いや?今回はお前が残りたいなら残っても良いんだぜ?」

 

紫龍の言葉を聞いた瞬間、碓氷は少しだけ反応する

 

「・・・大丈夫ですよ。いつものようについて行きますよ。それが命を救ってくれたお礼ですから」

 

「まあ、それならいいけど。だけど、飛鳥ちゃんとの蟠りだけは絶っっっっ対、無くしとけよ」

 

「おやすみなさい」

 

紫龍の言葉を無視して碓氷は自分の部屋へと走って行った

 

「このままだと絶対に後悔するのに。しょうがない、十六夜君に許可を貰いに行くか」

 

紫龍は不穏当な言葉を言ってその場を後にした



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第八十三話

翌日、紫炎と耀は二人仲良く食事をしていた

 

「今日の騎手、誰にする?」

 

耀はスプーンに料理を乗せて紫炎にあーんとしながら聞く

 

「飛鳥になるんじゃないか?一番身体能力ないし」

 

紫炎はそう言うと、あーんと言って食べる

 

すると、食堂のドアが勢いよく開いた

 

「ここにもいない。紫炎さん、耀さん、飛鳥さんみませんでしたか?」

 

「見てないぞ?どうしたんだ?」

 

「そ、それが昨日から飛鳥さんの様子がおかしかったので、今日は一緒に朝食を食べようと飛鳥さんの部屋に行ったら飛鳥さんがいなかったのです。そしてこんな手紙が置いてたんです!」

 

そういって黒ウサギが二人に渡した手紙には『飛鳥ちゃんをちょっとだけ預からしてもらう。明日までには部屋に戻すから安心しててくれ』と書かれていた

 

耀はこれを見て二翼がノーネームの妨害の為に飛鳥を連れ去ったと思い、走り出そうとするが、紫炎に止められてしまう

 

「紫炎、飛鳥を探しに行かなきゃ」

 

「そうですよ!何でそんなに冷静なんですか!?」

 

「落ち着け、二人とも。何でこんなことをしたのかは知らんが、誰がやったかは分かった」

 

紫炎がそう言うと、二人は驚きのあまり目を丸くする

 

「あのな、もう一度この手紙を見てみろ。飛鳥のことを『飛鳥ちゃん』って呼ぶ奴に心当たりはないか?」

 

紫炎が呆れながら言うと、二人もその人物に気づいた様だ

 

「それじゃあ、俺が理由を聞いてくるからお前らは少し落ち着いとけよ」

 

そういって、紫炎が食堂のドアを開けようとすると、先にドアが開いて十六夜が現れた

 

「おい、お前ら何してんだ?」

 

「十六夜か。これ見ろ」

 

紫炎はそういって十六夜に手紙を見せた

 

「ほう、おっさんが言ってたのはこの事か」

 

「知ってたのか?」

 

「ああ。昨日、おっさんが来て教えてくれた」

 

十六夜がそんな風に言うと、紫炎は頭を掻きむしる

 

「その時に止めろよ。今回のゲーム、飛鳥のギフトが重要になってくるのに」

 

紫炎がイラついてるのを見て十六夜が黒ウサギに聞こえない程度の声で囁いてきた

 

「お嬢様と碓氷をくっつける為って言われたんだぜ?そんな面白そうなのを止められるか?」

 

「確かに・・・」

 

十六夜の言葉を聞いて紫炎は納得の表情を浮かべる

 

「何の話してるの?」

 

「私たちにも教えてほしいのです」

 

すると、置いてけぼりの女性陣が二人に詰め寄る

 

十六夜と紫炎はそんな二人を見て、アイコンタクトをする

 

[どうする?]

 

[春日部はともかく、黒ウサギに言うとこじれる可能性があるな]

 

[耀には俺から話すから頼んだぞ]

 

[わかった。任せとけ]

 

時間にして数秒でこれだけの意思疎通を見せる二人

 

「耀、教えるからこっち来い」

 

「うん」

 

「黒ウサギは俺が教えるからな」

 

「はいなのです」

 

男二人は自分の担当する女子を呼ぶ

 

紫炎は耀を胸に抱き寄せて耳に口を近づける

 

「耀、飛鳥の事だがな・・・」

 

「ひゃう!な、何をするんですか!?」

 

紫炎が耀に言おうとすると、黒ウサギが叫ぶ

 

「何って耳に息を吹きかけただけだぜ?それにしても可愛い声だったな」

 

十六夜が悪びれもせず、いつもの調子で言うと、黒ウサギは髪をピンク色にして走り去っていった

 

「飛鳥は碓氷と仲直りするために紫龍が連れ去ったんだって」

 

「へえー、そうなんだ」

 

黒ウサギの叫び声に一瞬驚いた紫炎だったが、別段気にせずに耀に飛鳥の事を伝えた

 

「少しきつくなるが、これくらいのハンデがあった方が面白いじゃないか」

 

十六夜が黒ウサギが出て行ったことを確認し、二人に告げる

 

「それじゃあ騎手は誰になるの?」

 

「普通に考えたら耀か俺になるな」

 

「なら、紫炎お願い。私はどうしてもやらなきゃいけない事があるから」

 

紫炎の言葉に耀が真剣な声音で言う

 

「個人的な感情をゲームに持ち込むのは許さん」

 

「で、でも・・・」

 

紫炎の言葉に耀が食い下がろうとすると、紫炎は耀の頭を撫でてやる

 

「けど、二翼を倒すには自由に飛べるお前が一番適任だから頼むぜ」

 

「紫炎大好き!」

 

耀はそういって紫炎に抱きつく

 

「おいおい、ここに俺がいることを忘れてないか?」

 

その様子を見ていた十六夜が呆れた風に言う

 

「悪い、耀しか見えてなかった」

 

「ごめん、紫炎しか見えてなかった」

 

二人はバカップル丸出しの言葉を言って、互いに抱きしめあう

 

すると、十六夜が思い出したかのように話しかけてきた

 

「そういや、お前ら昨日の夕食の時、来なかったよな?」

 

十六夜の言葉を聞いた瞬間、二人は激しく動揺する

 

「ふ、二人っきりで食べたかったんだよ」

 

「う、うん。そうだよ」

 

そんな二人の様子を見た十六夜がため息をつく

 

「落ち着け、二人とも。お前らの部屋の前を通り過ぎたのは俺だけだから安心してろ」

 

「「なっ!!」」

 

十六夜の言葉に二人は顔を赤くする

 

「それじゃあ俺は飯食うからお前らはさっさと準備しとけ。くれぐれも昨夜みたいなことをするんじゃねえぞ」

 

「「するか!!」」

 

二人は十六夜の言葉に声を揃えて返すと、外に出て行った

 

「紫炎のへたれを取り消さないとな」

 

十六夜は呟いてから作られていた料理に口をつけた

 

――――――――――――――――――――――

 

碓氷が目を覚ますと、真っ暗な空間で隣で飛鳥が寝ていた

 

「こ、これは一体・・・」

 

碓氷は困惑しながら昨夜の事を思い出す

 

すると、最後の記憶に紫龍の事がぼんやりと思い出された

 

(あのバカ師匠、一体何がしたいんだ。何で飛鳥さんと・・・)

 

碓氷はそう思うと、自分のスーツの上着を飛鳥に掛ける

 

「飛鳥さんが起きる前に脱出の糸口だけでも見つけないとな」

 

(もう会わない可能性があるとはいえ、これ以上嫌な記憶は残したくないからな)

 

碓氷は氷の槍を作り、地面に突き刺す

 

しかし、槍は地面に触れた瞬間、はじけ飛んだ

 

「なっ!あのバカ師匠、一体どこに連れてきたんだ」

 

実際ではありえない現象に碓氷は驚く

 

「質が駄目なら量で押し切ってやる」

 

碓氷はそういってギフトカードから大量の水を出し、龍の形に整える

 

そしてそれを地面にぶつけさせる

 

しかし、水の龍は地面にぶつかった瞬間、全て霧散した

 

「触れた部分だけじゃなく、龍を象ってた全ての水が霧散した?」

 

碓氷が悩んでいると、頭に何かが乗ってきた

 

「うすい!」

 

「メルン!?アナタもいたんですか」

 

メルンの登場により、少しだけ落ち着く碓氷

 

「さむい!」

 

霧散した水滴により気温が下がっているので、メルンが叫ぶと、碓氷の髪に包まる

 

「すいません。すぐに戻しますね」

 

碓氷はそう言うと、霧を集めて氷の彫像を作る

 

「すごい!」

 

それを見たメルンは嬉しそうに彫像に近づく

 

「うーん。あれ?ここはどこかしら?」

 

すると、飛鳥が起きる

 

「あ、飛鳥さん」

 

「え!?碓氷君!?」

 

二人がお互いの事を認識して固まる

 

すると、二人の手元に手紙が現れた

 

その内容を見て二人は顔を赤くした

 

――――――――――――――――――――

 

白夜叉が女性店員を着替えに連れて行ったので、紫龍は今一人でうろついていた

 

「一人だとつまらんな。碓氷が鈍感じゃなくて、飛鳥ちゃんの思いに答えてたらあいつをパシらせてたのにな」

 

紫龍がそんなことを呟いていると、少し離れた所から声が聞こえてきた

 

「ジョーカーさん、用事が終わったならもう帰りましょうよ」

 

「せっかく大きいゲームがあるんだ。ノーネームの面々の実力が見れるかもしれんぞ?」

 

紫龍はその会話が聞こえた瞬間、そちらの方に走り出した

 

しかし、そこには紫龍が思った人物はいなかった

 

(逃げられたか?いや、気のせいか)

 

紫龍が自己完結をすませると、白夜叉が意気揚々と帰ってきた

 

「おう、龍。此処にいたか。どうしたのだ?」

 

「いや、なんでもない。それより二人ともちゃんと着たのか?」

 

紫龍が言う二人とは女性店員と黒ウサギの事だ

 

「もちろんだ。反論など許すわけがなかろう」

 

「ほう、それは楽しみだ」

 

紫龍がそういうと、白夜叉は紫龍のつけている黒い宝石のついたペンダントに気が付いた

 

「それは何だ?誰かからのプレゼントか?」

 

白夜叉が紫龍を小突きながら言う

 

「こんなおっさんがもらえるわけないだろ。自分で作ったんだよ」

 

「ほう、おんしは宝石も作れるのか」

 

「材料さえあればつくれるぞ。お前の分も作ってやろうか?」

 

「では、頼もうかのう」

 

紫龍の言葉に白夜叉が答える

 

「それじゃあ、明日の朝に渡すから」

 

「うむ、楽しみにしとるぞ」

 

二人はそういって、自分の持ち場に戻った



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第八十四話

紫炎と耀はヒッポカンプの騎手の参加者待機場まで来ていた

 

「確かコミュニティごとに更衣室用のテントがあるらしいんだが」

 

「一体どこだろうね」

 

二人は腕を組みながら歩いていると、あるテントの前にジンがいた

 

「お二人とも、人前ではもう少し控えてください」

 

ジンは頭を抱えながら二人に告げる

 

開口一言目が注意の言葉なのだからジンの苦労がさらに増したのがわかる

 

「嫌だ」

 

しかし、その苦労を知ってか知らずか、耀はバッサリと切り落とした

 

「諦めろ、ジン。それより何の用だ?」

 

「昨夜、六本傷の頭首、ポロロ・ガンダックから要請を受けました」

 

それを聞いて紫炎は少し嫌な予感に襲われる

 

「実は今回のゲームの優勝者に南の階層支配者に相応しい人物がサラ様かグリフィスさんか選ぶというものです」

 

グリフィスの名前を聞いて、耀は途轍もなく嫌そうな顔をする

 

しかし、紫炎はジンの言葉に少し違和感を覚えた

 

「それは一体誰が決めたんだ?」

 

「多分サラ様だと思いますけど、詳しくは・・・」

 

紫炎はその言葉を聞いて、さらに不審に思った

 

(サラが自分の立場を守る為だけに俺らに厄介事を任せるか?誰かが裏から手を引いてるとしてもサウザンドアイズの面々は今回の事を知らないはずだからな・・・)

 

紫炎が考えていると、耀が水着に着替えて出てきた

 

「ねえ、紫炎。どうしたの?」

 

ずっと黙ってるのを不審に思った耀が紫炎に話しかける

 

とりあえず考えるのを止めた紫炎はジンを一発殴って、フードを深く被らせて前を見せないようにした

 

「し、紫炎さん。何するんですか!?」

 

「とりあえずそうしてろ」

 

ジンは怒るが、紫炎は気にせずに昨日のように上着を羽織らせた

 

「どうしたんですか!?」

 

ジンの声が聞こえた黒ウサギが慌てて更衣室から出てきた

 

紫炎は何の気なしに後ろを振り向く

 

そこには水着の黒ウサギが立っていた

 

「ぐあぁぁぁぁ、目がぁぁぁぁ」

 

・・・が、紫炎は耀の目つぶしにより、それを見ることはなかった

 

「耀さん!?何をしてるんですか!?」

 

「身体が勝手に動いた」

 

黒ウサギの言葉に耀は悪びれもせずに答える

 

「おう、待たせ・・た・・・な」

 

すると、十六夜がやってきたが、ジタバタするジン、のた打ち回る紫炎、水着の女子二人をいっぺんに目にしたので思考が追いつかない

 

「説明頼む、エ黒ウサギ」

 

「はいな、ってなんですか、エって!なんて言おうとしたんですか!?」

 

「説明頼む、エ」

 

「言わせないのですよ、このお馬鹿様ぁぁぁぁあああ」

 

十六夜が二回言う前に黒ウサギがハリセンで黙らせる

 

一人冷静な耀は『カオスだな~』と他人事のように静観していた

 

――――――――――――――――――――――――

 

テントのカオス状態が収まったのはレティシア達が着替えに来た時だった

 

「うう~、まだ目が痛い」

 

「ごめん」

 

「頼むぜ、紫炎。お前が騎手なんだからな」

 

黒ウサギは司会の為壇上に行った為、現在は紫炎、耀、十六夜の三人だけである

 

「しかし黒ウサギはエロかったな、紫炎」

 

十六夜が半笑いで話しかけてくる

 

「お前わかってて聞いてるだろ」

 

「は?何のことだ?」

 

紫炎の言葉に十六夜は半笑いのまま返す

 

ちなみに耀、紫炎、十六夜の順で座ってるので、十六夜が紫炎に話しかけると、十六夜は耀の様子が見える

 

(見えてなくても黒いオーラみたいなのが感じ取れるのに、正面から見ている十六夜が何にも感じ取って無いはずがねえ)

 

紫炎はその黒いオーラを怖がり、いまだに耀の方を向けてない

 

「ねえ、紫炎はどう思ったの?」

 

黙秘で貫こうとした紫炎だったが、耀の言葉は無視できない

 

何故なら無視すると後が怖いからだ

 

「よ、耀とはまた違ったベクトルの良さがあるな」

 

怒らせないように無難な答えを出せたと思う紫炎

 

「ほう。紫炎は黒ウサギの胸に見惚れてたのか」

 

すると十六夜が超弩級の爆弾発言をする

 

「ち、違うぞ、耀。今のは十六夜が適当に言った言葉だ」

 

紫炎が弁解をしようと耀の方を向くと、耀は頬を膨らませて怒っている

 

「信じてくれ。俺が好きなのはお前だけだ」

 

「知ってる」

 

「へ?」

 

紫炎の言葉に耀は顔を横にそらして拗ねているように答えた

 

「私も紫炎の事が好き。けど少しプレッシャーかけたら全然私の事信じてくれないんだもん」

 

ぷんぷんという擬音が似合いそうなほど、耀は頬を膨らませて紫炎を怒る

 

「悪い、耀。確かに俺は自分の事で精いっぱいでお前の事を見れなかったわ」

 

紫炎がそういって耀を抱きしめると、耀は一転して幸せそうな表情を浮かべる

 

「紫炎。今回のゲーム、頑張ろうね」

 

「ああ。そうだな」

 

紫炎はそういって耀の頭を撫でてやる

 

すると、耀は緩み切った表情になる

 

(また完全に忘れられてるな。此処はゲームに集中させるために注意するべきか、放っておくべきか)

 

十六夜は全然関係ないことで悩んでいた

 

―――――――――――――――――――――――――

 

レティシア、ペスト、白雪、リリは水着を着て観客席で飲み物や凍った果物を売っていた

 

「くっ!神格保持者の私がこんな格好をするとは・・・」

 

「それを言うなら私もよ。別に水着じゃなくてもいいと思うんだけど」

 

白雪、ペストの新米メイドたちは現在の水着の姿に不満を漏らしていた

 

「おい、お前達。きちんとしろ。リリを見習え」

 

先輩のレティシアは麦わら帽子を深く被り、顔を見えないようにしているが、二人よりかは幾分真面目に働いている

 

「斑梨~、斑梨のジュースはいかがでしょうか?氷菓子もありますよ」

 

リリは二尾をパタパタと揺らして声を出していた

 

「それじゃあ一つもらおうかな。リリちゃん」

 

「ありがとうございます、紫龍さん」

 

リリが嬉しそうに買った人物の名前を呼ぶ

 

すると、その人物の名前を聞いた瞬間、白雪とペストは心底嫌そうな表情になる

 

「紫龍、お前は主催者として壇上に上がってるのではないのか?」

 

レティシアは自分が思った疑問をぶつけてみると、紫龍は疲れた様子で答えた

 

「白夜叉が『せっかくラプ子がおるのだから今回のゲームを映像で見えるようにしよう』って言いだしてな。碓氷がいないから俺がラプ子たちを絶好の場所に移動さして戦闘に巻き込まれないように炎で守るようにとか色々してきたところなんだよ」

 

紫龍の愚痴にレティシアが笑う

 

「何だ?」

 

「いや、昔はよくゲームの愚痴の言い合いをしていたなと思ってな」

 

「そういやそうだったな」

 

レティシアの言葉に紫龍が返すと、リリが狐耳と首を傾げていた

 

「あの、お二人はいつごろからの知り合いなんですか?」

 

実は紫龍は問題児と黒ウサギがいないときにちょくちょくノーネームに来ていたので、リリとはいくらか面識はある

 

リリはその時にレティシアと紫龍が会ったものだと思っていた

 

「結構前だよ。ちなみにレティシアだけじゃなくて君のお母さんとも会ったことはあるよ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

リリが驚き、狐耳と二本の尾をパタパタと揺らす

 

二人の新米メイドも少しは驚いてる様だ

 

「アンタ、リリのお母さんにまで手を出してたの?」

 

「最低だな。リリ、危ないから隠れていろ」

 

・・・違う意味で驚いていたようだ

 

「お前ら俺を何だと思ってるんだ?」

 

「「変態」」

 

紫龍の言葉に二人のメイドが即答で返すと、紫龍は崩れ落ちた

 

「し、紫龍さん、大丈夫ですか?これサービスです」

 

「ありがとう、リリちゃん」

 

憐れんだリリが紫龍に斑梨を紫龍に渡す

 

紫龍はそんなリリを撫でてあげる

 

「そんな優しいリリちゃんにはプレゼントをあげるよ」

 

紫龍はそう言うと、爪で指に傷をつけ、ギフトカードからいくつかの鉱石を出した

 

そして、手から炎を出したと思ったら、すぐにそれを消した

 

すると、手の中には鉱石ではなく色鮮やかな宝石があった

 

「はい、どうぞ」

 

「宝石なんて高価なものもらえません」

 

紫龍が渡そうとすると、リリが狐耳をパタパタと揺らして断る

 

一方、メイドの二人はぽかんとした表情で紫龍を見ていた

 

二人は炎を恐れずに紫龍の手元を見ていたが、手品のようにすり替えたわけではなく、本当に鉱石から宝石を作り出したのだ

 

「素人の作ったものだから高くないよ。それでも受け取れないならノーネームへの寄付をリリちゃんに預けたと思ってくれればいい」

 

「素直に受け取っておけ、リリ。お前の為に作ってくれた宝石だぞ」

 

紫龍の言葉に戸惑っているリリをレティシアが背中を押してやる

 

「そ、それじゃあ・・・」

 

おどおどしながらリリは宝石を受け取る

 

「それじゃあ、俺はこれで。これ以上遅かったら白に何言われるかわからんからな」

 

「あ、ちょ」

 

ペストが声をかけようとすると、紫龍は逃げるように消えた

 

「なあ、レティシア。貴様はあの男と知り合いなのだろう?」

 

「ああ」

 

白雪も紫龍について疑問があるのでレティシアに聞くことにした

 

「あの紫龍という男、何者なんだ?」

 

「さあ?変態なんじゃないか?」

 

白雪の言葉にレティシアは先ほど二人のメイドが言った言葉を真似をして、言う

 

「ほら、そんなことを気にせずに売るぞ」

 

レティシアの言葉に白雪とペストは返す言葉もなかったので手伝いに戻った



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第八十五話

『ギフトゲーム名 ―――ヒッポカンプの騎手―――

 

・参加者資格

 

 一、水上をかけることができる騎馬と一チームに付き四名

 

 二、本部で水馬を貸し入れる場合、コミュニティの女性は水着着用

 

 三、騎手は交代してもいいが、必ず一人は馬上にいること

 

 四、騎手は証として腕輪をつけること

 

 

・禁止事項

 

 一、騎馬への攻撃

 

 二、水中に落ちたものは落馬扱いとし、その場で失格

 

 三、騎手が落下した時点でそのコミュニティは失格

 

 

・勝利条件

 

 アンダーウッドの激流を遡り、騎手が騎馬に乗った状態でゴールする

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します

 

 

                             “龍角を持つ鷲獅子”連盟 印』

 

 

 

紫炎、耀、十六夜の三人はスタート地点でもう一度契約書類を見ていた

 

「それじゃあ、最初の騎手は俺でいいな?」

 

「うん」

 

「ああ。絶対に落ちるなよ」

 

紫炎の言葉に二人は各々返す

 

ちなみに紫炎が耀にかけていた上着はここに来る途中、参加資格に反する、という事だったので今は脱いでいる

 

「紫炎、春日部。あっち見てみろ。多分、一番厄介な相手だぜ」

 

何かに気づいた十六夜が二人に声をかける

 

二人がそちらを見ると、レンタルの馬とは一際違う馬に乗っているフェイス・レスだった

 

「だけど、勝つのは俺らだろ?」

 

「違げーねー」

 

紫炎の言葉に十六夜は笑いながら返す

 

「あ、もうそろそろ始まるみたいだよ」

 

耀がそういって、指さした場所には壇上の映像が流れ始めた

 

――――――――――――――――

 

壇上では白夜叉から依頼を受けた黒ウサギが審判の為、水着で登場した

 

「大変長らくお待たせしました。ギフトゲーム“ヒッポカンプの騎手”を始めたいと思います。司会進行はこの黒ウサギが・・・」

 

「「「雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」

 

黒ウサギの全体像が出た瞬間、アンダーウッド全体を轟かす様な轟音が鳴り響いた

 

「ここに来てよかった。我等、生涯に悔いなし」

 

そういって吐血をし、倒れていくものが多数いた

 

―――――――――――――――――――――――

 

黒ウサギが立っている審判用の壇上とは別に少し離れたところの実況席に白夜叉と紫龍、そしてビキニ姿の女性店員がいた

 

「月の兎の200歳と言えばせいぜい第二次性徴を迎えたばかりのはず。それであのエロい発育は素晴らしいと思わんか?」

 

「知りません!!」

 

駄神の言葉に女性店員が五十割増しの声で答える

 

「いやいや、白。こっちも普段の割烹着姿のおかげでシミ一つない白い肌、主張しすぎない胸、それに下した髪がまた清楚な感じを・・・」

 

「黙れ、変態!!」

 

女性店員は顔を赤くして先ほどより声を荒げて紫龍を蹴飛ばした

 

そんな様子を笑いながら見ていた白夜叉はマイクを持って開会宣言をする

 

「諸君!ゲーム前に一言。黒ウサギは本当にエロいな!!」

 

白夜叉が言い切った瞬間、黒ウサギは手近にあった石を白夜叉に投げつける

 

その石は白夜叉の頭に突き刺さった

 

「うむ。結構痛いから早速本題に移さしてもらおう」

 

白夜叉が石を抜きながらそう言っていると、紫龍が白夜叉のマイクを奪った

 

「黒ウサギちゃんは本当にエ」

 

『言わせないのですよ、このお馬鹿様!!』

 

紫龍の言葉をとぎらせるかのように黒ウサギが石を投げると、それと同時にどこからか炎とナイフが投げられた

 

ナイフと石を受け止めた紫龍だったが、炎により後ろに吹き飛ばされた

 

そして落ちていたマイクを白夜叉が拾うと、何事もなかったように話始めた

 

「今回の収穫祭、サウザンドアイズは露店を出店することができなかった。その詫びと言っては何だが、ヒッポカンプの騎手の優勝者にはサウザンドアイズからも望みの品を贈呈すると宣言しておく」

 

白夜叉の言葉に会場は熱狂的な歓声と、参加していないものから後悔の声が聞こえてきた

 

「それではヒッポカンプの騎手の開催を宣言する」




短いですが切りが良いのでこの辺で

活動報告のアンケートはまだまだ募集中です


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第八十六話

白夜叉から開催の宣言がなされた途端、フェイスレスが仕掛けた

 

彼女は蛇蝎の魔剣を引き抜いて範囲内にいる参加者の水着を切り裂いて行った

 

「「「きゃ、きゃあああああ」」」

 

切り裂かれた者たちは悲鳴を上げる

 

紫炎は炎で作った剣で何とか防ぐ

 

その所為で一瞬出遅れ、フェイス・レスに先を越されてしまう

 

「やべ」

 

「バカ野郎、出遅れすぎだ」

 

十六夜は紫炎に怒りながら同じく出遅れた数組を水中に蹴り落とした

 

「悪い」

 

紫炎が謝りながら馬を走らせる

 

「しかし、あの仮面の奴、結構面白い奴じゃねえか」

 

「そんな事言ってる場合じゃねえだろ。急ぐぞ」

 

走りながらおちゃらけている十六夜を紫炎は凄いと思いながらも怒る

 

「喋ってる余裕があるならちゃんと手綱を操る」

 

十六夜の方を向いていた紫炎に水中から飛び出してきた幻獣が襲い掛かってたのを耀が蹴り倒す

 

「悪い。けど、一番余裕見せてたのは十六夜だぜ?」

 

「騎手が落ちったらその場で失格になるんだから気を抜くんじゃねえよ」

 

「二人とも余裕見せすぎ」

 

三人は口喧嘩をしながら他の参加者を脱落させていった

 

―――――――――――――――――

 

映像で問題児たちの事を見ていたメイド組とリリは苦笑していた

 

「み、皆さん凄いですね」

 

「無茶苦茶ともいうけどね」

 

リリが精いっぱいフォローするが、ペストがバッサリと切り落とす

 

「君たちの同士は相変わらずだな」

 

すると、サラが四人に話しかけてきた

 

「サ、サラ様!?確か貴賓室の方にいたのでは!?」

 

「深い理由はない。ただ『議長』としてではなく『個人』として祭りを楽しもうと思ってな」

 

リリの言葉にサラが優しく答える

 

レティシアはサラに顔が見られないように麦わら帽子を深く被る

 

「すまないが氷菓子とジュースを一個ずつもらってもいいか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

そしてサラは代金を支払う

 

「それでは。私はそこまで気にしていないからな」

 

サラはそういって去っていった

 

「知り合いなのか?」

 

「ちょっとな。昔、サラマンドラと親交があった時に相談に乗ってもらったことがあるんだ」

 

白雪の言葉にレティシアが少し恥ずかしそうに返す

 

するとサラが買って行ったのを見かけた人たちがたくさん来た

 

「おっと、話は終わりだ。仕事に戻ろう」

 

そうして四人は仕事に戻った

 

―――――――――――――――――――――――

 

『さあ、残り五チームになりトップはウィル・オ・ウィスプ。二位はノーネーム。そして三位から五位は二翼の選手たちです。いよいよアラサノ樹海の分岐路に入ります。此処からはどの経路を選ぶかで勝負が決まりますので直感を信じてください』

 

黒ウサギの実況を聞き、紫炎が耀の方を見る

 

耀はその視線の意味を察して飛び立っていった

 

「二翼か?」

 

十六夜もその意味を察したようだ

 

「ああ。あいつらは最短経路を知ってるだろうからな。それを抜きにしてもむかつくからな

 

「ヤハハハ、確かにな」

 

紫炎の言葉に十六夜は高らかに笑う

 

「けど、一位になるにはフェイス・レスを抜かなきゃならんから、こっちも最短経路で行くぞ」

 

紫炎がニヤリと笑いながら言うと、十六夜も何をするかわかったようだ

 

「OK。じゃ、行くか」

 

「ああ」

 

二人はそう言うと、まず騎手を交代する

 

そして紫炎は騎馬の前に立つと、騎馬に鎖を巻きつける

 

「行くぞ!」

 

そういって紫炎は前の木々を焼き払いながら、騎馬を引っ張って真っ直ぐ進んでいった

 

―――――――――――――――――――――――――

 

『えっと・・・』

 

会場から卑怯だ、という言葉に黒ウサギは困惑していた

 

確かにやり方としては常軌を逸していると思うが、契約書類に書いてある禁止事項には何一つ抵触していないのだ

 

黒ウサギは助けを求めて白夜叉の方を見る

 

「皆の言うことはもっともだ。だが、彼らは何一つルールは違反しておらん」

 

白夜叉がそう宣言すると、不満を漏らしていた者たちは納得はしていないが一応引き下がった

 

「ボス。彼らは確かにルールは違反していませんが、あの樹海を焼くなど・・・」

 

「大丈夫だ。後始末は全て龍がやってくれる」

 

白夜叉はそういってボコボコにされた紫龍を指す

 

「それならば、まあ・・・」

 

女性店員は少し言い淀む

 

紫龍が本当にあの焼けた樹海を直せるか分からないからだ

 

「心配するでない。あやつなら一日もあれば大丈夫だ。それよりゲームの観戦を楽しもうぞ」

 

女性店員の不安をかき消すように白夜叉は高らかに笑い、モニターに視線を戻した

 

―――――――――――――――――――――――――

 

突然出てきた手紙にはこう書いてあった

 

『碓氷。お前が飛鳥ちゃんと何があったかは知らん。けど、何も言わずに去るのは、ただ逃げてるだけだ。ちゃんと飛鳥ちゃんの事が好きっていうお前自身の本当の気持ちを自覚して、取るべき行動をとりな。飛鳥ちゃんを悲しませないように

                                        紫龍より』

 

碓氷はこの手紙を見て顔を赤くする

 

「ねえ、碓氷君」

 

すると飛鳥が同じように顔を赤くして碓氷に問いかけてきた

 

「ど、どうしました?」

 

「昨日、途中でいなくなったじゃない?だから聞いてほしいの、私の気持ちを」

 

飛鳥はそう言うと、碓氷の両手を握る

 

「私は碓氷君の事が好き。だからあの時に一緒にいてくれるだけでいいって言ったの」

 

飛鳥の言葉に碓氷はショートしかける

 

「これは私の気持ち。碓氷君、貴方の気持ち聞かせてほしいの」

 

そういって飛鳥は真剣な眼差しで碓氷を見つめる

 

「ぼ、僕は・・・。俺は・・・」

 

 



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第八十七話

やっと更新できた


「つ、疲れた」

 

折り返しの場所まで直進してきた紫炎は流石に疲れを見せていた

 

「とりあえず馬上で休んどけ。果実は俺がとってくるよ」

 

十六夜がそう言うと、二人は騎手を交代する

 

紫炎は馬上で休み、十六夜は果実をとる為、樹に上る

 

しかし、十六夜は樹の上に上ると、遠くを見て止まっていた

 

「どうした?十六夜」

 

「・・・絶景だなと思ってな」

 

紫炎の言葉に十六夜が少し気の抜けた声で返す

 

紫炎はそれだけでその景色の素晴らしさがわかった気がした

 

「けど、今はゲームに集中な」

 

「分かってるよ」

 

十六夜はそういって果実をとって下りてくる

 

すると、他のルートから一体の騎馬が現れた

 

「貴方達が来ることは予想していましたが、まさかこんな方法で先を越されるとは」

 

フェイス・レスは呆れながらも蛇腹剣を引き抜き、果実を一瞬で奪い去る

 

そして、二チームは膠着状態になる

 

紫炎達の後ろは滝となっていてそこから飛び降りれば迂回ルートであるアラサノ樹海を通らなくて済む

 

しかし、その滝はかなりの高さな上、激流の為に上るのを諦めたほどである

 

何の策もなく飛び降りれば死ぬことになるし、策があっても飛び降りるには少しためらいがある

 

一方、フェイス・レスの後ろはアラサノ樹海で紫炎達が作った道を真っ直ぐ進めば普通に勝てる

 

しかし、戻ろうと後ろを振り向く時のすきを十六夜は見逃すはずがない

 

その膠着状態を崩したのは突然の地鳴りだった

 

紫炎と十六夜は何が原因か分からなかったが、フェイス・レスだけは気づいて眼下を見下ろしていた

 

「“枯れ木の流木”と揶揄されたあの男がこんな遊びのゲームに?」

 

うわ言のように彼女らしからぬ言葉を紡ぐ

 

その先にいる男は十六夜達も知っている男だった

 

「いやー、寝坊してもうた。折角白夜王にねじ込ませてもろうたのに悪いことしてもうたわ」

 

胡散臭い関西弁を喋る蛟劉が最後の参加者

 

しかし、彼は先日のような親しみはない

 

絶対の自信と覇気を持って津波と共にこちらに猛追してくる

 

「十六夜、任せて大丈夫か?」

 

「ああ。けど、あの仮面の騎士までは手が回らないぜ」

 

「分かってる。それじゃあ、無事を祈っててくれ」

 

紫炎はそう言うと、後方の滝に飛び込んだ

 

フェイス・レスもそれを見て滝に飛び込む

 

「あら?彼一人で彼女の相手させるん?君も行かんでええの?」

 

蛟劉が笑いながら問いかけると、十六夜も返す

 

「ハッ!テメー一人残しといたらすぐに果実とって速攻で戻っちまうだろうが」

 

「否定できひんな」

 

「だからうちがゴールするまで遊んでてもらうぜ!」

 

十六夜はそういって蛟劉に殴りにかかった

 

――――――――――――――――――――――――

 

紫炎とフェイス・レスは滝に飛び降りながら、剣を交えていた

 

紫炎はギリギリながらもフェイス・レスの斬撃を受け切っていた

 

そして両方の騎馬が水面に近づくと、二人はお互い剣で弾き、距離をとる

 

フェイスはギフトカードから二本の槍を出し、水面に当たる直前にそれを振り下ろし、完全に勢いを殺して着地する

 

紫炎は両手から一気に炎を出して落下速度を弱めて着地した

 

着地は殆ど同時だったが、スタートの時に馬術の差でフェイス・レスに先を越されてしまった

 

「くそっ!負けてたまるか!!」

 

――――――――――――――――

 

碓氷は飛鳥の言葉を聞いて、戸惑っていた

 

自分だけが思えればよかった

 

飛鳥がどう思ってても構わなあい

 

ただ遠くから、自分の心の中だけで思っている気持だと思っあていた

 

しかし、実際は飛鳥も同じ気持ちだという

 

「僕は・・・。俺は・・・」

 

ただ『自分も同じ気持ち』という事を飛鳥に伝えればいいだけなのに、その言葉が出てこない

 

「ご、ごめんなさいね。こんな聞き方じゃ断れないわよねえ」

 

飛鳥はそういって碓氷の手を離して距離をとろうとする

 

「ま、待ってください」

 

しかし、それを碓氷が手を取って止める

 

「すいません。自分の気持ちをただ伝えればいいだけのはずなのに、すぐに言えなくて。そのせいで貴女のこんな悲しそうな顔をさせてしまうなんて」

 

碓氷の言葉を聞いて飛鳥は驚く

 

確かに内心はフラれたと思い悲しい気持ちにはなったが、表情に出したつもりがなかったからだ

 

「許してもらえるならもう一度チャンスを貰ってもいいですか?」

 

「・・・ええ」

 

「僕も・・・俺もあなたの事が好きです、飛鳥さん」

 

碓氷が顔を赤くして、絞り出すようにそう言うと、飛鳥は目から涙をこぼす

 

「嬉しい」

 

碓氷はそんな飛鳥を見て少しだけ思うことがあった

 

(紫龍さんには悪いけど、東に残る理由が出来たからな)

 

そう思いながら碓氷が飛鳥を見ていると、パチパチと拍手のような音が聞こえた

 

「誰だ!」

 

その瞬間、碓氷は飛鳥を庇うようにして、周りを見渡す

 

しかし、声がするだけで周りには誰もいない

 

「お二人が恋人同士になったことですし、私の役目はこれまでですね」

 

その言葉が聞こえた瞬間、闇に包まれていた空間が光に包まれた

 

――――――――――――――――――――――

 

紫炎達が滝から飛び降りたくらいの時、紫龍たちは呑気に酒を飲みながら観戦していた

 

「ほう。おんしの息子もなかなかやるな」

 

「でも、スタートが悪い。・・・ん?」

 

思い思いの感想を言ってると、紫龍が付けていた宝石が光る

 

「もうか」

 

「ん、何がだ?」

 

紫龍が呟いた言葉に疑問を持った白夜叉が聞くが、紫龍はそれを無視して宝石を放り上げる

 

すると、宝石が割れてそこから碓氷と飛鳥が出てきた

 

「きゃあ!」

 

「痛っ!」

 

飛べない二人は地面に落ちる

 

体制としては向かい合う形で碓氷が飛鳥の下敷きになっている

 

「ほら、飛鳥ちゃん。早くしないとゲームが終わっちゃうよ?碓氷、連れて行ってあげなさい」

 

「え?え?」

 

紫龍が出てきた二人にそう言うと、飛鳥は何が何だか分からず、周りを見渡す

 

すると、ゲームの映像がモニターに映っているのを見つけた

 

「今から急いで着替えに行けば間に合うよ?碓氷、案内してあげな」

 

紫龍の言葉を聞いた飛鳥が、碓氷の方を見る

 

碓氷は飛鳥の手を取って走り出した

 

「ほう。どうやったかは知らんが、宝石にあの二人を閉じ込めた理由はそう言う理由か」

 

二人の様子を見た白夜叉が紫龍にだけ聞こえるように囁く

 

「まあな。前言った通り、東から出てくからその前に手を打っておこうと思ってな」

 

紫龍のその言葉に女性店員が詰め寄った

 

「き、聞いてないですよ」

 

「え、だって言ったの白だけだし。それにお前は俺がいなくなっても別に何とも思わないだろ?」

 

紫龍が真顔でそう言うと、女性店員は顔を赤くする

 

「うるさい、このバカ男!!」

 

そして、紫龍を蹴飛ばす

 

「おい、おんしら。少しは静かにせい。今良い所なのだから」

 

白夜叉のこの言葉に女性店員は少し恥ずかしそうにしながらモニターに視線を戻した

 

紫龍は落ち方が悪かったのか、ピクリとも動かなかった




全然ネタがでてこない・・・


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第八十八話

紫炎は滝から飛び降りた後、フェイスの後ろを猛追していた

 

しかし、フェイスの蛇腹剣の攻撃の所為で中々近づくことができない

 

『さあ、ゲームもいよいよ終盤。現在はウィル・オ・ウィスプがトップ。しかし、ノーネームも良い位置につけています。これはどちらが勝ってもおかしくありません』

 

紫炎は黒ウサギの実況を聞き流していると、耀がやってきた

 

「紫炎!」

 

「耀か。っと、もうちょい余裕があればキスでもしてるんだが・・・」

 

紫炎が剣を防ぎながらそういうと、耀は頬を赤らめる

 

「もう。優勝出来なかったらお預けだよ?」

 

「何!?」

 

紫炎は耀の言葉を聞き、気合の入った顔になる

 

フェイス・レスはそれを気にせずに蛇腹剣で攻撃してくる

 

紫炎は今まで剣で受け切っていたが、今回は炎をムチ状にして蛇腹剣に巻きつける

 

「!?」

 

いきなり捕まれたせいで、急に止まってしまいそうになるフェイス・レス

 

しかし、手綱を握り、驚異の技術で何とかこらえる

 

「よし。耀、交代!」

 

「うん」

 

その隙に紫炎と耀が騎手を交代する

 

フェイスは蛇腹剣をギフトカードにしまい、走り出そうとする

 

「おっと、行かせるか」

 

紫炎がその瞬間、フェイスに切りかかる

 

出ばなをくじかれたフェイスを耀が抜き去る

 

フェイスも紫炎を槍で牽制しながら走り出す

 

「くっ、そ」

 

一旦離された紫炎だったが、もう一度フェイスに突撃する

 

フェイスはそれを見て、追い払うように槍を横に振るう

 

紫炎はそれを左手でそのまま受ける

 

その瞬間、紫炎は右手で炎を鎖状にしてフェイスの身体に巻きつける

 

「なっ!?」

 

そして、紫炎が槍で吹っ飛ばされると、鎖に繋がれたフェイスも引っ張られる

 

「まあ、今回は痛み分けってことで」

 

紫炎がニヤリと笑いながらそう言うと、二人は水に落ちた

 

そしてノーネームの優勝が決定した

 

――――――――――――――――

 

飛鳥はテントで水着に着替えて今からゲームに行こうとした時にノーネームの優勝の放送が聞こえてきた

 

「間に合わなかった」

 

心底残念そうな声で飛鳥が言う

 

今回のゲームは新しい自分のギフトの力を試すのと同時に、始めて肩を並べて戦えると思ったからだ

 

碓氷はそんな飛鳥を見て、頭を下げる

 

「すいません、飛鳥さん。うちのバカ師匠がご迷惑を・・・」

 

「良いわよ。碓氷君のせいじゃあ・・・」

 

飛鳥はそこまで言うと、言葉を区切って顔を赤くしてもう一度言葉を紡ぐ

 

「そ、それじゃあ悪いと思ってるなら、どこか人気の無い泳げる場所はないかしら?折角水着に着替えたから」

 

飛鳥の言葉を聞き、碓氷は少し考え込む

 

「・・・分かりました。少し離れたところにあるので」

 

碓氷はそういって飛鳥に自分のスーツを肩にかける

 

「ありがとうね、碓氷君」

 

「いえ、これくらいは当たり前です」

 

碓氷の言葉を聞いた飛鳥はは少しだけ不満そうな顔をする

 

「ねえ、碓氷君。なんで敬語なの?」

 

「癖ですけど・・・。どうしてですか?」

 

「だって、せっかくその・・・。気持ちを知ってもらえたのに他人行儀だから」

 

飛鳥が指を合わせながら恥ずかしそうにつぶやく

 

碓氷はそんな飛鳥を見て、嬉しく思う

 

「分かりました。それじゃあ行こうか、飛鳥」

 

「うん」

 

碓氷が手を出してそう言うと、飛鳥は嬉しそうに微笑んでその手を取った

 

――――――――――――――――――――――

 

「それでは、優勝チームのコミュニティ“ノーネーム”の方々です」

 

黒ウサギの言葉の後、紫炎達は優勝を決めて壇上に上がった

 

紫炎は水に落ちた時に濡れた服は自分のギフトで乾かしていた

 

十六夜は黒ウサギからマイクをひったくり、喋りだした

 

「昨日、俺達ノーネームと二翼とのゴタゴタがあったのは知ってるな」

 

十六夜の言葉に紫龍が「知らないぞー」と呑気に言ったので、白夜叉が殴って静かにさせる

 

「そしてその後の会議の時に二翼の長、グリフィスとこのゲームの敗者が壇上で謝罪をするという口約束をしていた」

 

十六夜の言葉に周りがざわつく

 

「それは本当の事や。僕が証人や」

 

すると、舞台の袖から蛟魔王がグリフィスを連れて出てきた

 

グリフィスは苦い顔をしているが逃げ出す様子はない

 

「それじゃあ、今回の謝罪をしてもらおうか。関わった奴らにな」

 

十六夜がニヤリと笑いながら言うと、紫炎がいつの間にかリリとジンとサラを連れて来ていた

 

「この三人と、後は耀にだ」

 

紫炎はそこまで言うと、グリフィスに近づき、囁く

 

「グリーの事は白夜叉がいるからここでは勘弁しといてやる」

 

殺気を込めた紫炎の言葉にグリフィスは黙ってしまう

 

一方、リリとジンはいきなり連れてこられて困惑している

 

しかし、十六夜が経緯を簡単に説明し、グリフィスが謝罪をしてその場は収まった

 

そしてグリフィスは苦い顔をしながら去っていった

 

「それでは優勝したノーネーム、望みのギフトを言ってみよ」

 

白夜叉が機を見て問いかけてくる

 

すると、十六夜が真剣な顔をする

 

「サウザウンドアイズのグリフォン、グリーをノーネームに迎えたい」

 

白夜叉はその言葉を聞いて少し驚く

 

「まあ、本人の了承を得れば良いが・・・。本当にそれでいいのだな?」

 

「くどいぜ、白夜叉。あいつの翼は俺の手足の代わりになくなったんだ。その傷が癒えるまででもうちのコミュニティに引き取らせてほしい」

 

十六夜の言葉を聞き、白夜叉は納得する

 

「わかった。返事を聞き次第、主らに報告しよう」

 

白夜叉はそういって高らかに笑って去っていった

 

「まあ、これで万事解決か」

 

紫炎が深く息をついてけだるそうに言うと、審判の役目が終わった黒ウサギが怒ってきた

 

「何が万事解決ですか!飛鳥さんの事が全然解決してないのですよ!!」

 

「黙れダメウサギ。そんなもん攫った本人に聞けばいいだろ」

 

ダメウサギとはなんですか!!、という黒ウサギの言葉を無視して実況席の方に目を向ける

 

しかし、そこには誰もいなかった

 

「・・・いないな」

 

「いないね」

 

「いないよな」

 

三人が淡々と述べると黒ウサギが一拍置いて髪をピンク色にして怒り出す

 

「何でそんなに冷静なんですか、御三人方!!」

 

そんな黒ウサギを見て三人はため息をついて口を開いた

 

「分かったよ、探しに行けばいいんだろう?」

 

「俺は店にいるかもしれないから探してくる」

 

「私と紫炎は人気がない場所を重点的に探しに行く」

 

紫炎、十六夜、耀が順番にそう言うと、黒ウサギが疑惑の目を向ける

 

「そんな事言って、黒ウサギの目をごまかして遊ぶつもりじゃないでしょうね」

 

黒ウサギの言葉を聞いて、紫炎は耀を抱き寄せる

 

「「「さらば」」」

 

そして三人はそれぞれその場から去っていった

 

その場に取り残された黒ウサギは項垂れ、ジンとリリに慰められるのであった




アンケートは明日が締め切りです


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第八十九話

飛鳥と碓氷は少し離れた湖に来ていた

 

飛鳥はそこで泳いでいたが、碓氷は湖の外で座っていた

 

「ねえ、碓氷君。泳がないの?」

 

「飛鳥さんは水着だけど、僕ははスーツですから。・・・うわっぷ」

 

飛鳥はそれを聞いて、不満そうな顔をして碓氷に水をかけた

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「敬語。二人っきりの時くらいはなくしてって言ったでしょ?」

 

「ごめん、飛鳥。癖が抜けるまではちょくちょく出るかも」

 

碓氷が謝ると、飛鳥は碓氷の隣に座る

 

「まあ、これから慣れていけばいいもんね」

 

飛鳥が碓氷の肩に頭を乗せながら言うと、碓氷は飛鳥の頭を撫でてあげる

 

「ひゅー、ひゅー」

 

すると、何処からか現れた紫龍が棒読みでそう言う

 

その瞬間、二人は離れる

 

「どうした?俺の事なんて気にせずに続きをどうぞ」

 

「「うるさい」」

 

紫龍の言葉が終わった瞬間、二人は紫龍を湖に蹴飛ばした

 

「酷いじゃないか」

 

「うるさい。用もないのにいきなり現れるからだ」

 

碓氷がそういって湖の水を槍状に変えて紫龍につきつける

 

「用ならあるよ。昨日話した件だ」

 

紫龍がそう言った瞬間、碓氷は動揺する

 

「紫龍さん、そのことは・・・」

 

「まあ、今日の夜にでも話す事にして、それまで楽しんどけ」

 

紫龍はそういってその場から消えた

 

「この事だけ言いに来たのか?」

 

紫龍が消えて、碓氷がうわ言のように呟く

 

すると、飛鳥が碓氷の後ろに立つ

 

「えい!」

 

「うわっ!」

 

そしていきなり飛びついて湖にダイブする

 

「ちょ、何を」

 

「ほら、スーツも濡れちゃったし、一緒に泳ぎましょう」

 

飛鳥が碓氷の手を握ってそう言うと、湖の方に引っ張った

 

「ま、待った。上着ぐらいは脱がさせて」

 

碓氷の言葉に飛鳥は渋々手を離す

 

碓氷は湖から出てスーツの上着の水分を飛ばして、しわにならないようにたたむ

 

「ごめん。スーツって水吸うと重くなるから」

 

碓氷がそういうと、飛鳥がまた手を握ってくる

 

「さ、泳ぎましょ」

 

微笑んだ飛鳥に見とれながら、碓氷は頷き湖に入った

 

―――――――――――――――――

 

紫炎と耀はレースが行われていた川の上流に来ていた

 

「水着に着替えたんだから泳ぎたかったんだ。付き合ってもらってありがとうね、紫炎」

 

微笑みながら耀がそう言うと、紫炎は思いっきり耀を抱きしめる

 

「やっぱ可愛いな」

 

耀はそれを受け入れる

 

「このままずっと抱きしめておきたいけど、何のためにここに来たか分からなくなるよな」

 

紫炎がそういって離れようとすると、耀が抱き寄せる

 

そしてそのまま川にダイブする

 

「・・・耀。こういうことするなら一言言え。危ないから」

 

紫炎が耀の頬を引っ張りながら言う

 

「驚かそうと思ってやってるから言ったら意味がない」

 

耀がそう言うと、紫炎の頬にキスをする

 

「ったく。そんな事されたらもっと抱きしめたくなるじゃないか」

 

紫炎がそういって耀を抱きしめ、キスし返す

 

「もうこれ以上は駄目」

 

耀はそういって紫炎を引きはがす

 

「どうしてだ?」

 

紫炎が耀に尋ねると、耀は顔を赤くしながら答える

 

「だって、これ以上されると我慢が出来なくなるから」

 

「耀!」

 

「だからダメ。今は泳ぎたい」

 

紫炎が我慢できずにもう一度抱きしめようとすると、耀は紫炎の頭を叩いて止める

 

「悪い。それじゃあこうならいいか?」

 

紫炎はそういって恋人つなぎをする

 

「うん。じゃあ、泳ごうか」

 

耀がそう言うと、二人は手を繋ぎながら器用に泳いだ

 

―――――――――――――――――――

 

「はあー、泳いだ泳いだ」

 

「うん、疲れた」

 

紫炎と耀は二時間ほど泳いだ後、着替えに戻っていた

 

「ふ、ふ、ふ。待ってたのですよ、お二人様」

 

すると、テントの前に黒いオーラを纏った黒ウサギが立っていた

 

「さあ、覚悟はよろしいでしょうか?」

 

黒ウサギがハリセンを持って一歩踏み出すと、紫炎が手で制す

 

「待て、黒ウサギ。せめて耀は着替えさせてやってくれ」

 

「まあ、それぐらいは待ちましょう。しかし、それまでは赤羽さんを説教しておきます」

 

黒ウサギがそう言うと、耀が更衣室の方に入って行った

 

「そもそも赤羽さんを含めた皆さんは落ち着きが足りません。それに・・・」

 

紫炎は黒ウサギの説教を黙って聞いた

 

五分ほどたつと、耀が着替え終わったのか、カーテンを少し開けてこっちを見ている

 

「・・・っていう事もありました。そもそも皆さんにはコミュニティの主力としての自覚が・・・」

 

紫炎は黒ウサギの説教がまだまだ続くと思ったので、黒ウサギの目の前に自分そっくりの炎を作り、耀のところまで見えないように移動する

 

「・・・耀」

 

「えっ!?紫炎?」

 

紫炎が耀に小声で言うと、耀がびっくりする

 

一瞬大声を出しそうになった耀だったが、今の状況を考えて小声で返す

 

「面倒臭いし、もう戻るか」

 

「うん。お腹も減ってきたし」

 

耀がそういうと、紫炎が傲慢のギフトを使い、その場を後にした

 

ちなみに黒ウサギが紫炎を偽物だと気づいたのは一通り愚痴が言い終わった三十分後の事だった

 

 



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第九十話

ゲームが終わって、夕食の時間

 

問題児四人と黒ウサギと碓氷が紫龍に呼び出せれて、食堂にやって来ていた

 

「さて、みんな揃ったみたいだし、話でもしようか」

 

紫龍はそう言いながらみんなの前に現れた

 

「し、紫龍さん!?一体どこから」

 

「黙れダメウサギ。話が進まん」

 

紫炎がそう言うと、黒ウサギがハリセンを取り出す

 

「余程お説教がされたいそうですね。お昼もにげられましたし、夜通しで、って耀さん!?なんで耳を、きゃあ!!」

 

紫炎を怒ろうとしていた黒ウサギの耳を耀が掴み、外に放り出す

 

そしてその後、紫炎の腕に抱きつく

 

「話の続きを言うと、飛鳥ちゃんをさらったのは俺だ」

 

紫龍はさっきの事をなかったかのように話を進める

 

「それは知ってる。それより何で俺らをここに集めたんだ?」

 

紫炎はいら立ち気にそう言うが、耀に抱きつかれていない方の腕で耀の頭を撫でている

 

「集めた理由は今回の件のお詫びってところかな」

 

紫龍はそういって事前に作っておいた料理を出した

 

「これだけ?」

 

常人には結構な量の料理が出せれたが、耀は残念そうにつぶやく

 

「まあ、食べながら新しく作ってあげるよ。それともう一つ重要なことがあるけどそれは飯を食い終わってから・・・」

 

「「先に話せ。気になるだろうが」」

 

紫炎と十六夜が声を揃えて紫龍にツッコむ

 

「・・・まあ、勿体つける事じゃないからいうけど、収穫祭が終わったら東から出て行くから」

 

紫龍が何でもないようにいうと、 飛鳥がいきなり立ち上がる

 

「そ、それは、碓氷君もついて行くの?」

 

飛鳥が残念そうにそういうと、碓氷が口を開いた

 

「紫龍さん、俺は東に・・・」

 

「いや?碓氷は今回の件の罪滅ぼしとして俺の代わりにノーネームに行ってもらおうと思っている」

 

碓氷の言葉を遮って紫龍はいつも通りの口調で言う

 

すると、飛鳥はホッと胸を撫で下ろす

 

「話は以上だ。まずは飯でも・・・」

 

紫龍はそういって料理の方に目を向けると、唖然とする

 

すでに皿は空っぽだったからだ

 

碓氷と飛鳥も今気づいたようで、驚いていた

 

「紫炎、十六夜君。一体何が起きたんだ?」

 

耀はすでに紫炎の肩に頭を預けて寝ている為、紫龍は二人に尋ねる

 

すると、二人は耀に視線を向ける

 

「もしかして短時間に一人で?」

 

紫龍が恐る恐る聞くと、紫炎は首を縦に振る

 

「それじゃあ俺は耀を部屋に戻しとくから」

 

紫炎はそういって耀をおぶり、その場を後にした

 

「しょうがない、作り直すか」

 

紫龍は少し残念そうに調理場の方に向かう

 

「僕も手伝いましょうか?」

 

「別にいい。ノーネームの皆に俺のイメージを変えるためにするから」

 

碓氷の言葉を紫龍は本音たっぷりで返す

 

「あの人、料理出来るの?」

 

飛鳥が心配そうに碓氷に耳打ちする

 

「出来ますよ。僕の料理の師匠でもありますから」

 

碓氷が普通の口調で返すと、飛鳥と十六夜は驚く

 

「そりゃあラッキーだぜ。そんな奴の料理も食えて、碓氷もうちに来て、さらにお嬢様にも恋人が出来たんだからコミュニティとしては万々歳だぜ」

 

「「なっ!?」」

 

十六夜の言葉に二人は顔を赤くする

 

「ん?間違ったことは言ってないと思うが?」

 

「それはその・・・間違いではないけど」

 

飛鳥は恥ずかしそうに顔を逸らしながら返す

 

碓氷も頬を掻いて曖昧に笑うだけなのを見て十六夜がため息をつく

 

「付き合って一日目で期待は薄かったが、ここまで進展しないもんか?」

 

「両方とも奥手だからね。あと、碓氷がとてつもなく鈍感だからくっつけるのにも大変だったんだよ」

 

十六夜の言葉に料理を持って出てきた紫龍が続ける

 

「紫龍さん。奥手なのは認めますが鈍感って言うのは訂正を求めます」

 

碓氷が紫龍を指さし力強く宣言する

 

「いや、鈍感」

 

「ああ、超鈍感」

 

しかし、紫龍と十六夜は即座に全否定する

 

「お前さ、前にいたコミュニティのユラちゃんって覚えてる?」

 

「?覚えてますけど」

 

いきなりの話題転換に頭がついていかない碓氷

 

「あの子お前の事が好きだったんだぞ」

 

「え!?そうなんですか!?」

 

紫龍の言葉に本気で驚く碓氷に紫龍はため息をつく

 

「あの子、プレゼントとか渡して大分わかりやすかったぞ?」

 

紫龍の言葉に碓氷はただただ驚いていたが、飛鳥は一つ聞きたいことがあった

 

「あの、他にはどうだったんですか?」

 

「そうだな。行ったコミュニティに一人は好意を持たれてたな」

 

紫龍の言葉に飛鳥だけでなく碓氷も驚く

 

「まあ、過ぎた話はそれくらいにして食べてくれ。力作だぞ」

 

無理矢理話を切り替えて紫龍が食事を促す

 

「それじゃあ、いただきます」

 

飛鳥はそういって一口口をつける

 

「おいしい」

 

「そりゃあ良かった」

 

飛鳥が素直に感想を述べると、紫龍は嬉しそうにそう言う

 

「紫龍さんは指導と料理の腕“だけ”はかなりのものですから」

 

碓氷がそういって料理に手を伸ばそうとすると、紫龍に手をはたきおとされる

 

「これはノーネムの皆へのお詫びだ。お前は自分で作れ。俺の分も一緒に」

 

紫龍の言葉に碓氷はため息をつきながらも渋々従う

 

「おっさん。そいつはノーネームによこすんじゃなかったのか?」

 

「明日からだよ、十六夜君。そしておっさんって言うのはやめてほしいな。地味に傷つく」

 

十六夜の言葉に紫龍がそう返すと、黒ウサギが戻ってきた

 

「皆さん!耀さんと赤羽さんはどこに行きましたか!?」

 

すぐに周りを確認し、二人がいないことに気が付いた黒ウサギはすぐにそう尋ねる

 

「俺ならここにいるよ」

 

「変態は黙ってください!!」

 

同じ苗字の紫龍がふざけて返事をしたのを黒ウサギは一蹴すると、紫龍は項垂れる

 

「お二人はどこなんですか!!」

 

「二人なら・・・ムグッ」

 

「二人なら出て右に曲がった突き当りの部屋にいるぜ」

 

黒ウサギが殺気を込めて聞くと、碓氷が喋ろうとしたので、飛鳥が口を押え十六夜が代わりに答えた

 

黒ウサギはそれを聞いた瞬間、部屋を飛び出して行った

 

「素直に教えたら面白くないだろ?碓氷」

 

「いや、面白さとか関係ないでしょ」

 

黒ウサギがいなくなったのを確認して十六夜が碓氷に言うと、碓氷はそんな十六夜を見てため息をつく

 

「それより十六夜君、さっき言ったのは・・・」

 

「うにゃあああああ。や、やめてください、この駄神様!!」

 

飛鳥が何処の場所なのか聞こうとすると、そんな叫び声とその後に爆音が響いた

 

「なるほど」

 

飛鳥はそれで納得したので食事に戻った

 

「碓氷、腹減った」

 

紫龍は飯を作るのをやめ、そう言うので碓氷はそちらに神経を移すことにした



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第九十一話

食事が終わって全員(紫炎と耀は除く)が風呂に入り終わった

 

紫龍は白夜叉と蛟魔王との三人で酒を飲んでいた

 

「美味い酒だ。龍、何処から盗んできたんだ?」

 

「白、それは酷い言いがかりだ。ちゃんと書置きは残してきた」

 

「取るって誰にも言ってなけりゃ、盗みと同じやで」

 

三人はそんな風に仲良く呑んでいると、ノック音が聞こえてきた

 

「碓氷です。紫龍さんいますか?」

 

「おう、入れ」

 

紫龍は碓氷にそう言うと、碓氷は失礼しますと言って入ってくる

 

「どうした?」

 

「少し話したいことがありまして」

 

碓氷はそう言いながら白夜叉と蛟魔王を見る

 

「龍、儂の部屋で呑みなおしておくからの」

 

「その子と話し終わったらちゃんと来てな」

 

二人はそういって空気を読んで外に出た

 

「それで話って?」

 

紫龍がそう聞くと、碓氷が頭を下げる

 

「今まで八年間お世話になりました」

 

紫龍はその言葉を聞いて面倒臭そうに頭を掻く

 

「別にそんな事言わなくてもいいって。逆に俺が謝らなきゃいけないくらいだし」

 

「いえ。命まで助けてもらって、生きる術を教えてもらったんですから当然です。それに・・・」

 

碓氷がそこまで言うと、目に涙をためる

 

「それに、俺にとってあなたは師匠である前に父親だと思っていますから。本当に今までありがとうございました」

 

碓氷は涙を隠すようにもう一度頭を下げる

 

すると、紫龍が碓氷の頭を乱暴に撫でる

 

「ガキのくせに面倒臭いこと考えてんじゃねえよ」

 

そういって紫龍は碓氷を部屋の外に出す

 

「俺にそんなことを言う暇があったら、飛鳥ちゃんと少しぐらい距離を縮めろ。バカ息子」

 

紫龍の言葉に碓氷は目を抑えて何とか涙を出ないようにする

 

「ありがとうございました、父さん」

 

碓氷はそういって一礼して戻って行った

 

「まったく、子供はすぐに大きくなりやがる」

 

紫龍はそう言うと、何処からか煙草を出して吸い始めた

 

その表情はどことなく嬉しそうだった

 

――――――――――――――――――――――――――

 

次の日の朝、紫炎と耀は一緒に風呂に入った後、一緒に食事をとっていた

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

いつも通り互いに食べさせていると、碓氷と飛鳥がやってきた

 

「二人とも、少しは周りの目を気にしたら?」

 

飛鳥がため息をついてそう言うが、二人は全く気にしてない

 

「周りの目なんてどうでもいい」

 

「そうそう。・・・っと、耀。ほっぺにご飯粒ついてる」

 

紫炎はそう言って、ご飯粒を拭って自分の口に入れる

 

「私の分・・・」

 

「がっかりすんな。ほら俺の分やるから」

 

紫炎はそういって自分の分の料理をスプーンで一掬いして耀の目の前に持って行った

 

耀はそれを嬉しそうに食べる

 

「・・・向こうで食べましょう」

 

「そうですね。何を言っても聞きそうにありませんからね」

 

飛鳥と碓氷がため息をついてそう言うと、少し離れた場所で食事をとることにした

 

「まったく、あの二人は何を考えてるのかしら」

 

箱入りの昭和女子である飛鳥にとって二人の大胆な行動はあり得ないものらしい

 

「でも二人っきりなら別にいいんじゃないか?」

 

二人っきりになったことで敬語を止めた碓氷がそう言うと、飛鳥は少し顔を赤くする

 

「ま、まあね」

 

そんな飛鳥の表情を見て碓氷は笑ってしまう

 

「な、何よ」

 

「いえ、可愛いなって思って」

 

碓氷が何気なしにそう言うと飛鳥は顔を真っ赤にする

 

「皆様、おはようございます」

 

すると黒ウサギがいつものテンションであいさつしてきた

 

「うるさい。朝っぱらからうるさいぞ、ダメウサギ」

 

紫炎が機嫌悪そうにそう言うと、黒ウサギは怒鳴り気味で紫炎に詰め寄る

 

「赤羽さん!なんですか、ダメウサギって!余程怒られたいみたいですね」

 

「そんな特殊な趣味は俺にはない。ただそのままことを言ってるだけだ」

 

「確かに」

 

耀が紫炎の言葉に同意して首を縦に振ると、流石の黒ウサギも涙目になる

 

「あ、あの耀さん。それ本当に思ってますか?」

 

黒ウサギの言葉に耀は首を横に振る

 

「大丈夫。黒ウサギが頑張ってるのは知ってる。ただ時々空気が読めない駄目なところがあるだけ」

 

耀のとどめの言葉に黒ウサギは涙をかみしめて自分の部屋に戻って行った

 

「どうしたんだろ?」

 

「さあな。それより収穫祭最終日楽しもうぜ」

 

紫炎がそういうと、耀は嬉しそうに紫炎の腕に抱きついた

 

そうして二人は食堂を出て行った

 

「あの二人は相変わらずだね」

 

「そうね」

 

二人は呆れた風にそう言う

 

「それじゃあ俺らも食べ終わったら行こうか」

 

「そうね。でもその前にちょっと着替えてもいいかしら」

 

飛鳥の言葉に碓氷は疑問を浮かべるが、あまり気にした様子もなく答える

 

「別にいいよ。それぐらい待つよ」

 

「そう。ありがとう」

 

そうして二人はゆっくりと喋りながら食事をした

 

――――――――――――――――――――

 

「紫炎。楽しいね」

 

「ああ」

 

紫炎と耀は互いに肩を寄せ合い、仲良く歩いている

 

耀の姿は薄い水色の浴衣を着ていた

 

「今度どこに行こうか」

 

耀のその言葉に紫炎は右手を顎にあて、左手を耀の頭を撫でながら考える

 

「そうだな。小物屋を回ってその後にグリーのとこにでも行くか?」

 

「うん。けど、それまでは二人っきりだからね」

 

耀はそう言うとさっきよりさらに強い力で紫炎に抱きつく

 

紫炎も耀の頭を撫でてやると、いきなり後ろから頭をはたかれた

 

「いやー、若いっていいね」

 

そこには酒瓶を片手に持って、すっかり寄ってる紫龍がいた

 

「黙れ、ダメ人間。さっさと失せろ」

 

頭をはたかれただけでなく、二人っきりのところを邪魔されたので少しキレ気味である

 

「その前に一つ教えとくよ。中央の広場で食べ放題と呑み放題がやってるぞ」

 

紫龍はそう言うと、その場から消えた

 

「し、紫炎。き、気にせず小物屋行こうか」

 

耀はそう言いながら口元の涎を拭う

 

「別に広場でいいぞ」

 

「ううん。食べ放題だと私一人でしか楽しめないから」

 

耀は何とか涎を拭ってそう言うと、紫炎はとりあえず耀を抱きしめる

 

「俺の為に我慢なんてしなくていいぞ。それに俺は呑み放題の方に少し興味あるし」

 

紫炎の言葉を聞いた瞬間、耀は顔を思いっきりあげる

 

「じゃあ、行く」

 

耀の言葉に苦笑しながら紫炎は耀と寄り添って中央の広場に向かった




真に勝手ながら私用でパソコンが一週間使えませんので、スマホ投稿になります
もしかしたら一週間以内に投稿できないかもしれません


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第九十二話

飛鳥と碓氷は手を繋いで収穫祭を楽しんでいた

 

飛鳥はピンクを基調にした浴衣を着ていた

 

「ねえ、碓氷君。向こうの方、少し賑やかみたいね」

 

「行ってみる?」

 

「うん」

 

碓氷の言葉に飛鳥は手を握り返す

 

そうして二人は手を繋いで賑やかな方に歩いていった

 

すると、中央の広場に人だかりが出来ていた

 

「すいません。一体なにがあるんですか?」

 

碓氷が近くにいる人に聞く

 

「ああ。中央で少女と少年が凄い勢いで飲み食いしてるんだよ」

 

その言葉を聞いて嫌な予感になる二人

 

そうして二人は人垣をかきわけて中央に行くと、予想通りの二人がいた

 

「何やってるんですか、紫炎、春日部さん」

 

碓氷が呆れたようにそういうと、先に気づいた耀が答える

 

「そこに料理があるから」

 

耀はそう言うと、もう一度食事に戻った

 

紫炎はそのまま何かを樽ごと飲んでいる

 

何を飲んでいるか気になった碓氷が紫炎に尋ねる

 

「なあ、紫炎。何を飲んで・・・」

 

「うるせえ!!」

 

すると、紫炎は碓氷に樽を投げつけた

 

「今、呑んでんだ!もう一樽おかわり」

 

紫炎はそう言ってまた樽ごと飲みはじめた

 

「だ、大丈夫?」

 

飛鳥が心配そうに碓氷に聞くと、碓氷は樽を紫炎に投げつけた

 

しかし、軽く止められてしまい、もう一度投げつけられた

 

「先に呑ませろ」

 

紫炎は少し苛立ち気に言う

 

碓氷は紫炎の様子がいつもと少し違うのに気づき、樽のにおいを嗅ぐ

 

「酒?」

 

「もしかして紫炎君、酔ってる?」

 

碓氷の言葉を聞いた飛鳥が耀に聞いてみると、耀は頷く

 

「大丈夫。半分意識はあるぞ」

 

やりとりを聞いていた紫炎はそう言うと、まだ酒を飲む

 

「私達はもうちょっとここにいるから」

 

耀もそう言って自分の食事に戻った

 

飛鳥と碓氷はそれを聞いて顔を見合わせて苦笑する

 

そして人の輪から二人は離れる

 

「飛鳥、どこか行きたいところとかある?」

 

碓氷がそう尋ねると、飛鳥は碓氷に向かって手を伸ばす

 

「エスコートしてくれるかしら?」

 

「・・・ええ。お任せあれ」

 

碓氷はそういって飛鳥の手を持ち、手を引いて歩き出した

 

――――――――――――――――――

 

二時間で食糧庫を半分にした耀は今、酔いつぶれた紫炎と一緒に部屋に戻っていた

 

途中で三毛猫も連れてきた

 

「よく寝てる」

 

耀はそう言いながら紫炎の頭を撫でる

 

「お嬢。こいつ全然起きる気配がありません」

 

三毛猫はそういって紫炎に肉球を押し付ける

 

「それじゃあ私はちょっと空けるからお願いね」

 

そういって耀は部屋から出て行った

 

「ったく、すごく思われとるやないか」

 

三毛猫はそういって紫炎に肉球をたたきつける

 

「ただいまー、ってあれ?ここじゃないか」

 

すると紫龍が陽気に入ってきた

 

「なんや!なにしに来たんや」

 

そんな紫龍に三毛猫は敵意を向ける

 

「何言ってるかわからんが、そんなに怒るな。部屋間違えただけだ」

 

紫龍はそう言いながら三毛猫の喉を撫でてやると、ゴロゴロと気持ちよさそうな音を鳴らす

 

「まあ、間違いついでに置いてくか」

 

紫龍はそういって色の違うギフトカードを四枚出して近くの机に置いた

 

そしてそのまま五分ほど撫で続けた後、紫龍は出て行った

 

そして三毛猫も紫炎の上で耀が帰ってくるまで寝ていた




何とか更新できた
これからは一週間以内で更新していきたいです


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第九十三話

次の日、ノーネームの主力の殆どが食堂に集まっていた

 

「皆さん。名残惜しいですが本拠に帰る日になりました。しかし、新しい同志も増えて万々歳の結果になりました」

 

黒ウサギがいつも通り天真爛漫な笑顔を浮かべて言うと、碓氷は少し照れる

 

しかし、黒ウサギの表情はすぐに怒った表情になる

 

「なのに・・・なのに何で赤羽さんと耀さんはここにいないんですか!」

 

「私たちに言われても分からないわよ」

 

黒ウサギの言葉に飛鳥が呆れたように言う

 

「俺は聞いてる。紫炎の奴が二日酔いだから春日部がついてるらしい」

 

十六夜が何でもないように言うと、黒ウサギは肩を落とす

 

「まあ、そっちの方は大丈夫だ。とりあえず年少組たちを迎えに行くぞ」

 

「はいなので・・・って耳を掴まないでください」

 

十六夜はそういって黒ウサギを引きずりながら出て行った

 

「それじゃあ私たちはそのまま集合場所に行けばいいのかしら?」

 

前日に帰る時は一番最初にグリーに運んでもらった場所に集合すると決めていた

 

「いえ、年長組の・・・ムグッ」

 

「ああ。先に行っていてくれ」

 

ジンが喋ろうとするのをペストが抑え、レティシアが口を開いてその場から去っていった

 

それを見て二人は顔を見合わせて笑う

 

「レティシアさん達にはばれてるみたいだね」

 

「そうみたいね。それより言葉に甘えて行きましょう」

 

飛鳥の言葉を聞いて、碓氷は飛鳥が手を出すより先に飛鳥の手を握る

 

そして、そのまま集合場所に向かった

 

――――――――――――――――――

 

飛鳥と碓氷が集合場所に着くと、すでに見知った顔がいた

 

「あ、二人とも。おはよう」

 

「春日部さん。それと、確かグリーさん、でしたっけ?」

 

「そうだ」

 

飛鳥が確認するようにそう言うと、グリーが答える

 

すると、いきなりしゃべったグリーに飛鳥と碓氷が驚く

 

「ん?ああ。白夜叉様からもらったコレで人間の言葉が喋れるようになったのだ」

 

「へ、へえー」

 

グリーの言葉に碓氷が驚いたまま答える

 

「それより春日部さん。紫炎君は一緒じゃないのね」

 

飛鳥がそう言うと、耀は無言でグリーの方を指さす

 

すると、グリーの背中の毛から手が出た

 

「頭いてぇ」

 

紫炎が呑気に起き上がると、グリーが体を思いっきり動かして紫炎を振り落した

 

「紫炎、いい加減降りろ。戦いで傷ついたのならまだしも、酒を飲み過ぎて頭を痛めてるだけなのは自業自得だ」

 

「うっ」

 

図星をつかれ、紫炎は頭を抑えながら項垂れる

 

「しょうがない。紫炎、黒ウサギたちが来るまでならいいよ」

 

耀はそう言うと、正座して自分の膝に手を置く

 

「悪い。甘えさせてもらうわ」

 

紫炎はそう言うと、何の恥ずかしげもなく耀に膝枕をしてもらって、そのまま寝た

 

「春日部さん。あのね・・・」

 

「碓氷も飛鳥にしてもらったら?」

 

飛鳥が耀に注意をしようとすると、耀がとんでもないことを言う

 

「な、な、な」

 

「お、落ち着いて」

 

飛鳥が恥ずかしさでショートしているのを碓氷が落ち着かせようと肩に手を置く

 

耀はそんな二人をよそに寝ている紫炎を撫でる

 

そんな光景をグリーはため息をついて呆れながら見ていた

 

―――――――――――――――――――――

 

数十分後、黒ウサギがやってきて紫炎は思いっきりハリセンで殴られた

 

耀は軽く説教をされただけだった

 

「大丈夫?」

 

「頭痛ぇ」

 

二日酔いの上にハリセンで叩かれたので頭痛が最高潮に達している

 

ちなみに、ノーネームは一番前に黒ウサギとジンと十六夜が、真ん中に碓氷と飛鳥、最後尾に耀と紫炎がいる

 

メイドたちはそれぞれバラバラに子供の面倒を見ていた

 

「黒ウサギの奴、加減ってもんを知らんのか?」

 

「そんなに痛かったの?」

 

耀はそう言うと、背伸びして紫炎によしよしと頭を撫でる

 

「うーん。二日酔いが一番の原因だな」

 

紫炎はそう言うと、耀を抱き寄せ、空いた手で耀の頭を撫でる

 

「こうしてるのが一番落ち着く」

 

「じゃあ、もうちょっとこうしとこうか」

 

耀がそう言うと、紫炎の腰に手をまわしてさらにくっ付く

 

「二人とも、いい加減にしろ」

 

すると、大人バージョンのレティシアが二人にチョップをくわえる

 

紫炎は二日酔いとの痛みも相まって頭を抱えてうずくまる

 

「痛い」

 

「い、痛ぇ」

 

「痛くしたから当たり前だ。二人とも、子供たちの前では控えろ」

 

レティシアが呆れ声でそう言うと、紫炎が頭をさすりながら立つ

 

「確かにやり過ぎた。しょうがないからこれくらいに抑える」

 

紫炎がそう言って手を出すと、耀が腕を組む

 

そしてレティシアはもう一度二人の頭にチョップをくわえる

 

「せめて手を繋ぐぐらいにしろ」

 

二人はその言葉に不服そうにしながらも、もうチョップを食らいたくないので黙って従う

 

「さて、みんなに置いてかれないように・・・」

 

レティシアがそう言いながら前を向くと誰もいなかった

 

そして遠くの方を見ると境界門が起動してるのが見えた

 

すでに子供たちや十六夜達は境界門をくぐってるようだった

 

「い、急ぐぞ」

 

あまりの出来事に紫炎は二日酔いの頭痛も忘れ、耀とレティシアの手を握って引っ張っりながら境界門に急いで向かった



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第九十四話

本拠に戻って三日が経った

 

碓氷もノーネームに慣れ、今は朝食を準備している

 

「ん?もう起きているのか。朝食の準備くらいは私たちがやるぞ?」

 

すると、レティシアとリリがやってきた

 

「いえ、紫龍さんと一緒に行動してた時はいつもこれくらいに起きてたんで大丈夫です」

 

「そうなのか。紫炎に見習ってもらいたいものだ」

 

「まあ、しょうがないですよ。紫炎が朝起きれないのは夜明けぐらいまでノーネーム本拠の周辺を見回ってるらしいですからね」

 

碓氷の言葉にレティシアが驚く

 

「だからいつも昼ごろまで寝ているのか」

 

「ま、それでも寝過ぎだと思いますけどね」

 

そんな風に話をしていると、紫炎以外の面々も集まってきた

 

「あら?紫炎君は今日も寝坊なの?春日部さん」

 

「うん。ベットから落としても起きなかった」

 

飛鳥の言葉に耀が少し残念そうに答える

 

「しょうがないのです。叩き起こして・・・」

 

「だめ。私が起こす。・・・ご飯食べたら」

 

黒ウサギがハリセンを持って紫炎を叩き起こそうとするが、耀に耳を掴まれて引き戻される

 

「まあ、まだ寝さしてもいいんじゃないんですか?」

 

「ダメ。昼までには起こす。これに出なきゃいけないから」

 

碓氷が笑いながらそう言うと、耀が怒った口調で碓氷を睨む

 

そして一枚のチラシを出すとそこには『ウェディング体験』という大きな文字があった

 

「ギフトゲームに勝てば出来るの。当日参加もできるし、飛鳥達も参加してみたら?」

 

その言葉を聞いて飛鳥と碓氷は顔を赤くする

 

「もう、耀さん。参加資格のところに『カップル限定』って書いてあるじゃないですか」

 

黒ウサギがそんな風に呑気に言うと、十六夜が口をはさむ

 

「この参加資格は『男女ペア』ってこと以外別段深い意味はないと思うぞ」

 

「そうなのでしょうか?」

 

十六夜の言葉に黒ウサギが首を傾げる

 

「け、けど春日部さん。そうするとあなたたちは体験できないかもしれないわよ」

 

「大丈夫。三組まで出来るみたいだから」

 

飛鳥の問いかけに耀はチラシの景品部分を指さしながら答える

 

「そ、そう。じゃ、じゃあどうしようかな」

 

飛鳥はそう言いながら碓氷の方をちらちらと見る

 

「そう、ですね。それじゃあ一緒に参加しましょうか、飛鳥さん」

 

碓氷がそういうと、飛鳥が嬉しそうに微笑む

 

「ふぁ~。おはよう」

 

すると、紫炎があくびをしながら入ってきた

 

「あ、おはよう。紫炎」

 

「お、耀。今日の昼だっけ?」

 

「うん。それじゃあ、一緒に食べよう」

 

耀がそういうと、紫炎は耀の隣に座り口を開ける

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

いつものように二人が食事をすると、紫炎は黒ウサギにハリセンで叩かれた

 

「お二人とも!一体何をしてるんですか!!」

 

黒ウサギが顔を赤くし、髪もピンク色にして二人に怒鳴る

 

「「食事」」

 

二人が声を揃えて何にも無いように答えると、黒ウサギはもう一度ハリセンで紫炎を叩く

 

「もう!少しは抑えてください!!」

 

「わかった」

 

紫炎が顔を机に顔をつけたまま手を上げて反応する

 

「分かったならよろしいのです」

 

紫炎の言葉に満足したのか食堂から出て行った

 

「ったく、何か俺にだけ当たりきつくないか?」

 

「確かに。お前何かしたのか?」

 

十六夜の言葉に紫炎が悩んでいると、碓氷が話しかける

 

「そう言えば昨日黒ウサギさんに言われたことはやったのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・え?」

 

碓氷の言葉を聞いた瞬間、紫炎は固まる

 

「まさか忘れてたのか?あんなに念を押されてたのに?」

 

「えっと、いつ言われてたっけ?」

 

「昨日朝食を食べた後、春日部さんが着替えに言ってる時にですよ」

 

碓氷の言葉に紫炎は必死で思い出そうとする

 

「何か言われてたような・・・」

 

紫炎の言葉に碓氷は呆れる

 

「『碓氷さんの歓迎会したいので今日の昼ごはんの後、メニューを考える為に碓氷さんにばれないように来てください』って、僕に気づかずに言ってましたよ」

 

碓氷の言葉に紫炎以外は苦笑いになる

 

紫炎はそれを聞いてもわかっていない様だ

 

「・・・とりあえず謝ってくるわ」

 

紫炎がそういって食堂を出て行くと、残った面々はさっきの話の続きをする

 

「それにしても黒ウサギの奴、碓氷に聞かれてたなんてらしいちゃらしいよな」

 

「そうね。それにしても碓氷君は覚えてたのに何で紫炎君は覚えてなかったのかしら?」

 

飛鳥がそこまで言うと、耀が口を開く

 

「えっとね。紫炎、昨日は朝食食べた後、私が着替えに行ってる間にもう一回寝てた」

 

耀の言葉を聞き、十六夜と碓氷が苦笑する

 

「もしそんな理由で聞いてないって知ったら黒ウサギはどうすると思う?」

 

飛鳥の言葉を聞いた三人は顔を見合わせる

 

「そりゃあ」

 

「まあ」

 

「ねえ」

 

次の瞬間、ハリセンの音が鳴り響いた



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第九十五話

お昼を過ぎたころ、四人は六本傷のカフェで食事をしている

 

しかし、何故か耀と飛鳥は不機嫌だった

 

「耀。延期なんだからしょうがないだろ」

 

「飛鳥さんも機嫌直してください」

 

「「うん」」

 

紫炎と碓氷の言葉に耀と飛鳥は力なく頷く

 

実はウェディング体験のギフトゲームに参加しようとしたのだが、アジ・ダハーカの分体が東で暴れたせいで区画が壊れてしまったらしい

 

「そう言えばそのチラシって何時頃貰ったんだ?」

 

紫炎が不思議そうにそう聞くと、耀が紫龍から貰ったギフトカードを手に持った

 

「えっとね、本拠に着いた次の日にこれから出てきた」

 

「それじゃあ俺らのエントリーの時に気づかなかったのか?」

 

紫炎が聞くと、耀の左フックが紫炎を捕えた

 

「エントリーするにはペア揃ってじゃないと無理って書いてるでしょ。それなのに全然起きないし、昼になったら十六夜と図書室に夜まで籠ってるじゃん」

 

耀の言葉に紫炎がばつの悪そうな顔になる

 

「へー、そうなんですか。図書室で勉強でもしてるんですか?」

 

碓氷が笑いながらそう言うと、紫炎は肩を落としながら喋りだした

 

「ああ。英語が苦手なのがばれてな、ギフトゲームに必要になってくるかもしれないからって昼飯から晩飯までの間、スパルタ教育だ」

 

紫炎がそういうと、暗くなる

 

「あの、なんかすまん」

 

冗談のつもりで言ったのが場の空気が悪くなったことに碓氷が謝る

 

「紫炎。私より十六夜といるほうが良いの?」

 

すると、耀が涙目+上目遣いで紫炎に詰め寄る

 

「そんなわけねーだろ。俺はお前といるのが一番幸せなんだ」

 

「嬉しい」

 

紫炎の言葉を聞いて二人は人目を憚らずに抱き合う

 

「あの、春日部さん?私たちもいるし、ここは外よ?」

 

飛鳥がそういうが、二人は離れる様子がなかった

 

「はあ、しょうがない。行きましょう、碓氷君」

 

「そうですね。あ、お金は置いときますから」

 

飛鳥と碓氷はそういってその場から離れて行った

 

「これからどうしよっか?」

 

「うーん、とりあえずもう少しこのままでいいか?」

 

「うん」

 

そうしてバカップルは店員に注意されるまでそのままでいた

 

――――――――――――――――――――

 

一方、本拠に残っている十六夜はロビーで何かの紙にペンを走らせていた

 

「あれ?十六夜さん、何してるんですか?」

 

「ん?黒ウサギか。紫炎にやらせる英語のプリントを作ってやってるんだ」

 

十六夜はそういって黒ウサギにその紙を見せる

 

その問題は中学生レベルのものだった

 

「えっと、これは誰にやらせる問題なのですか?十六夜さん」

 

簡単な問題を見て黒ウサギはもう一度聞く

 

「今年高校二年生になった十七歳の赤羽紫炎君にやらせる問題だ」

 

十六夜はいつものようにおちゃらけて言うと、黒ウサギはおずおずと手を上げる

 

「あのー、ここまで苦手なら無理やりやらせなくてもよろしいんじゃないでしょうか?確かにギフトゲームには英語が必要なのはあります。しかし、謎解きには十六夜さんや耀さんに任せればよろしいのでは?」

 

長年箱庭でギフトゲームに携わってきた黒ウサギはギフトゲームは適材適所で行うのが一番いい方だと心得ているのでそう発言する

 

「だからだ。謎解きやそれに見合った戦略を練るのはあいつが一番うまい」

 

するとさっきとは打って変わって真剣な表情で十六夜が言葉を発する

 

「そうなのですか。十六夜さんは皆さんの事をよく見てらっしゃるのですね」

 

黒ウサギがそういっていつものように天真爛漫な笑顔になる

 

「ああ。黒ウサギの胸が日々成長してるってことも知ってるぜ」

 

「さっきの事が台無しなのですよ、お馬鹿様ぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

さっきと同じように真剣な表情で十六夜が言った直後、箱庭に来てから一番のハリセンの音が本拠に響いた



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第九十六話

カフェで別れて数時間、四人は集合して本拠に帰っている

 

「楽しかった」

 

「ああ」

 

耀と紫炎が腕を組みながら笑顔で感想を述べる

 

碓氷と飛鳥は二人の後ろでよそよそしく手を繋いでいた

 

「あの二人は周りの目とか気にしないのかしら?」

 

「まあね。でも今回はそれに感謝だね」

 

碓氷はそういって飛鳥の手を強く握る

 

飛鳥は顔を赤くして軽く握り返す

 

「ねえ、紫炎。今日の晩御飯は誰が作るの?」

 

アンダーウッドから本拠に帰ってから年長組(基本リリ)、メイド組、紫炎、碓氷がローテーションで夕食を作ることになっている

 

「・・・誰だっけ?」

 

紫炎が少し考えるが、思い出せなかったので碓氷に聞く

 

紫炎が向いた為、飛鳥が手を離そうとする

 

しかし、碓氷は離れないように強く握る

 

「今日は確かお前だぞ、紫炎」

 

「え、マジ?何の料理にしようか?」

 

「紫炎の作る料理なら何でもいい」

 

紫炎が耀に聞くと、耀は嬉しそうな顔のままさらに紫炎に寄り添う

 

「ちょ、ちょっと碓氷君」

 

「もうこの二人には知られてるんだし、それにこうして飛鳥と手を繋いでると付き合ってるって実感できるんだ」

 

碓氷が飛鳥にだけ聞こえるようにそう言うと、飛鳥は顔を真っ赤にして俯く

 

「二人とも。俺らは夕食に必要なものを買いに行くから先に帰っててくれ」

 

紫炎が碓氷と飛鳥にそう言うと、碓氷が口を開いた

 

「何が足りないかわかるんですか?」

 

「ったりめーだ。食材関連は全部頭ん中に入ってるよ」

 

紫炎の言葉に碓氷は一瞬感心するが、すぐにある考えが思いつく

 

「食材覚えてるならある食材で作ればいいだろ?」

 

「馬鹿か。気を使ってるんだよ。そして気を使え」

 

紫炎はそういって耀と腕を組んだまま街の方に反転した

 

「碓氷君」

 

「え?うわ!?」

 

紫炎達が見えなくなると、飛鳥が碓氷の腕に抱きつく

 

「な、な、な」

 

「ふ、二人だけの時はもうちょっとカップルっぽいことをしようと思って」

 

そう言った飛鳥の顔は真っ赤だった

 

「で、でも・・・」

 

「紫炎君も気を使ってくれてるんだし、ね?」

 

碓氷の言葉を聞かずに飛鳥が上目遣いで見る

 

「わ、わかった」

 

碓氷が観念したように言うと、飛鳥が嬉しそうに微笑む

 

(胸が当たってるんだけどな・・・)

 

碓氷はそんな風に思いながら本拠近くまで腕を組んで歩いて行った

 

――――――――――――――――――――

 

ノーネーム本拠近くの草むら

 

「レティシアに言われて紫炎を呼びに来たんだけど・・・」

 

「うむ。これではどこに居るのかは聞けないな」

 

碓氷と飛鳥の腕組みをペストと白雪は静かに見守った




文が思い浮かばないorz


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第九十七話

三日後、ノーネームの食堂に紫炎と碓氷は二人同時に入った

 

「おはようございます、ご主人様」

 

「お、おはようございます、ご、ご主人様」

 

耀と飛鳥がメイド服を着て二人にそれぞれ挨拶をする

 

「やっぱ可愛いな」

 

「とっても似合ってますよ」

 

二人がそれぞれの彼女に言うと、耀は嬉しそうに紫炎に抱きつき、飛鳥は顔を赤くして俯く

 

二人共のメイド服はレティシア達と同じものだが、耀はニーハイを履いて絶対領域をつくっている

 

飛鳥は生足を出すのが恥ずかしいのか、パンストを穿いて完全に足を隠している

 

「それじゃあ、ご主人様。あーん」

 

「あーん」

 

二人は席につくと、いつものように耀が紫炎に食べさせる

 

「あ、あーん」

 

すると、飛鳥が恥ずかしそうに碓氷の口元にスプーンを持っていく

 

「あ、飛鳥さん!?」

 

「か、春日部さんがメイドはこうするものだって」

 

碓氷の言葉に飛鳥が答える

 

「歴史の教科書のメイド喫茶って項目に書いてあった」

 

視線を向けられた耀が平然と答える

 

そして何事もなかったように紫炎の方に向き直った

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

紫炎と耀は毎朝してるせいか、大分慣れている

 

「あ、あーん」

 

飛鳥は恥ずかしそうに碓氷の前にスプーンを持っていく

 

碓氷も顔を赤くして無言でそれに応じる

 

「それじゃあ、用事があれば何なりとおっしゃって下さいね。ご主人様」

 

食事をし終えると、耀が微笑んでスカートの端を持って紫炎にそう言う

 

紫炎は不意打ちだったのか、顔を赤くする

 

飛鳥も頑張って振り絞ろうと、顔を真っ赤にさせる

 

「飛鳥、無理に言わなくてもいいよ」

 

碓氷が見かねて囁くように飛鳥に話しかける

 

「うん、ありがとう。でも、用事があったら言ってね」

 

「ああ、わかった」

 

飛鳥がそう返すと、碓氷も笑って応じる

 

「ねえ、紫炎。何してほしい?」

 

「うーん。とりあえず、今はこうやって抱きしめてるだけでいいかな」

 

「うん」

 

耀と紫炎は相も変わらずにべたべたとしている

 

「とりあえずここから出ようか」

 

「ええ」

 

碓氷と飛鳥はそんな二人を遠い目で見ながら外に出た

 

「あの二人は全く変わりないな」

 

「ええ。こんなに短いスカートなんて初めて穿いたわ」

 

飛鳥が恥ずかしそうにそう言う

 

「でも似合っててとてもかわいいですよ」

 

碓氷が真顔で言うと、飛鳥は顔を真っ赤にする

 

「そ、その、ありがと」

 

飛鳥は嬉しいのを隠すように顔を背けた

 

「公共の場で何をやってるのですか、このお馬鹿様ぁぁぁあああ!!!」

 

すると黒ウサギの怒声とスパーーーーンというハリセンの音が鳴り響いた

 

「・・・これも相変わらずだね」

 

「そうね」

 

碓氷が呆れたように言うと、飛鳥もいつもの調子を取り戻したようだ

 

そして二人は手を繋いでその場を後にした



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第九十八話

朝食を食べ終わった紫炎と耀は図書室に来ていた

 

「ほら、ここ間違えてるよ」

 

「え、マジか」

 

そこで耀が紫炎に英語を教えていた

 

ちなみに耀はメイド服からスーツに着替えていわゆる伊達メガネをかけていた

 

耀曰く「まずは見た目から」らしい

 

「てか、耀。何でお前が英語を教えてんだ?」

 

今日、十六夜は用事があるらしく現在コミュニティにいない

 

なので今日は英語を勉強しなくてもいいと喜んでいたのだが、何故か朝食後に耀にここで待ってるように言われたのだ

 

「メイドの仕事はご主人様のお世話が仕事だからだよ」

 

「それなら何で俺はお前に勉強を見てもらってるんだ?」

 

平然と答えるように紫炎は少し疲れた声で答える

 

「苦手なことを教えるのもメイドの務めですから」

 

耀は胸を張りつつ答える

 

(あんまり答えになってねぇ。てか、張ると小さいのがめだ)

 

紫炎が心の中でそう思っているといきなり耀の右ストレートが紫炎の顔に直撃する

 

「あ、ごめん」

 

身体が勝手に動いた耀がとりあえず謝る

 

「ああ。ちょっと膝借りるぞ」

 

「どうぞ」

 

紫炎の言葉に耀が答えると紫炎は耀の膝に頭を乗せる

 

「お休み」

 

「昼食までね」

 

耀の言葉を聞いて紫炎は意識を手放した

 

―――――――――――――――――――――

 

昼食の時間、全員が食堂に集まっていた

 

紫炎は何故かボコボコに殴られていた

 

「どうしたんだ?」

 

「知らね。なぜかボコボコに殴られてた」

 

碓氷が聞くと紫炎はさも当然のように答える

 

その言葉を聞いた碓氷が耀の方を見てみると、少し頬が赤いのに気付いた

 

ちなみに飛鳥は耀に何があったのか聞いている

 

「お前なんかしたんじゃないか?」

 

「かもしれん。寝ぼけてた時になんかしたかも」

 

紫炎が悩んでいると、話し終わったのか飛鳥が碓氷の下に戻ってきた

 

「紫炎君、ちゃんと春日部さんに謝っておきなさい。行きましょ、碓氷君」

 

「あ、うん」

 

飛鳥は少しとげのある言い方で紫炎にそう言うと、碓氷と一緒に少し離れた場所に移動した

 

(俺、一体何したんだ?)

 

飛鳥の態度を見てますます自分が何をしたのか不安になってきた

 

(何したかわからんがとりあえず謝ろ)

 

紫炎はそう決心して耀の近くに寄った

 

「耀。すまん」

 

紫炎はとりあえず頭を下げる

 

「私こそごめん。今回はいきなりだったから心構えができてなかっただけで次回からちゃんと言ってくれれば私も覚悟を・・・」

 

「本当に悪かった。だから落ち着け」

 

いつも以上にテンパってるのか早口でしゃべっている耀を見て紫炎はもう一度謝る

 

そして耀は深呼吸をする

 

「・・・落ち着いた。それじゃあ食べよ?」

 

「ああ」

 

そして耀と紫炎は近場に座って食事をとった

 

(俺、何やったんだ?)

 

朝食を食べた後も紫炎はそのことについて悩み続けた



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第九十九話

飛鳥と碓氷は昼食を食べた後、街に買い物に来ている

 

飛鳥はメイド服からいつもの赤いドレスに着替えていた

 

「えっと、何を買いに来たんだっけ?」

 

「それが夕食の材料としか書いてないのよ」

 

飛鳥がそう言うと、碓氷にメモを見せる

 

「これは俺が作れというメッセージなのか?」

 

碓氷がその考えに至ると、ため息をつく

 

「それじゃ、少しこの辺を歩こうか」

 

「え!?でも、買い物が・・・」

 

碓氷の言葉に飛鳥は驚く

 

いつもの碓氷なら頼まれたことを最初に片づけるはず

 

しかし、今日はそれをほっといて自分との時間に割こうとしている

 

「いいんだ。今日の夕食はあるもので作るよ。今は飛鳥とのデートを楽しみたい」

 

「デ・・・!?」

 

碓氷の言葉に飛鳥は顔を真っ赤にする

 

「それとも飛鳥は俺とのデートより買い物をしたい?」

 

碓氷がそう言うと、飛鳥は碓氷の方を向く

 

「イジワル。そんな事言われたら答えは決まってるじゃない」

 

飛鳥はそう言うと、碓氷の手を握る

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「うん」

 

二人はそのまま街の方に歩き出した

 

―――――――――――――――――

 

紫炎と耀は昼食を食べ終わった後、腕を組んで街をブラブラ歩いていた

 

用もメイド服からいつもの服装に戻っていた

 

「本拠でもうちょっと一緒に居たかったけど、黒ウサギの奴」

 

「うん。仕事押し付けようとしてくるもんね」

 

二人は黒ウサギに対して愚痴を言い合う

 

しかし、実際は問題児全員が全然仕事をしない為黒ウサギが見つけ次第その仕事をさせようとしてるだけなのである

 

「まあ、夕食後なら二人っきりになれるよな」

 

「うん」

 

紫炎がそう言うと、耀は少し顔を赤くして紫炎の方に体を寄せる

 

少し歩いていると、ウェディング体験を申し込んだ教会までついた

 

そこはウェディング体験の為に準備をしていた

 

「いよいよ明日か」

 

「うん。絶対に勝とうね、紫炎」

 

耀が紫炎の方を向いて笑顔で言う

 

紫炎はその笑顔を見た瞬間、耀を抱きしめる

 

「ちょ、ちょっと紫炎」

 

「悪い、耀。こうでもしてないと今にも襲い掛かりそうだわ」

 

紫炎の言葉に耀はさらに赤くする

 

「バカ。こんなとこでいう事じゃないじゃん」

 

ここは結構な大通り

 

確かに紫炎の言葉はそんなところでいう事ではないが、今の二人の状況もそんなところでやるところではないと思う

 

「おし。落ち着いた。それじゃあ、いつものカフェに行くか」

 

「うん。今日はカップルパフェを食べようか」

 

耀はそういうと、嬉しそうに笑う

 

「ああ。それとわかってると思うが、『カップル』パフェだから一人で食うなよ」

 

紫炎がそう言うと、耀の目が泳ぎだす

 

「う、うん。わかってる」

 

「まあ、でもその後代わりに耀を食べさしてもらうからな」

 

紫炎が耀にだけ聞こえる声で言うと、一瞬で顔を真っ赤にする

 

「そ、それじゃあ行こ」

 

「おう」

 

耀が赤い顔のまま促すと、二人は腕を組んで歩き出した

 

(一人で食べよう)

 

耀が紫炎の言葉を聞いて耀はひそかにそう思った

 

―――――――――――――――――――――

 

耀と紫炎が本拠に帰ると、待ち伏せていた黒ウサギにハリセンで叩かれた

 

今は本拠にいるメンバーで夕食を食べている

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

「って、何やってるんですか!」

 

昼食の時と同じようにしていると、紫炎は黒ウサギにまたハリセンで叩かれた

 

「耀さんも女性として恥じらいをもって行動してください!」

 

黒ウサギが耀にそう言うと、耀はムッとして言い返す

 

「紫炎以外にこんなことはしない」

 

「そう言う事じゃなくて、人前でしないでくださいと言ってるのです!」

 

「それは無理」

 

黒ウサギの言葉に耀が即答する

 

「少しは我慢してください、この問題児様方ぁぁ!」

 

黒ウサギの声がノーネーム本拠に響いた

 



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第百話

翌日、紫炎、耀、飛鳥、碓氷の四人はウェディング体験のギフトゲームの開催場所にいた

 

「いよいよだね、紫炎」

 

耀が紫炎に向かってやる気満々でそう言ってくる

 

「ああ」

 

紫炎もいつになくやる気十分に答える

 

「紫炎、春日部さん。俺たちがいるのも忘れないでくれ。ね、飛鳥さん」

 

「え、ええ。が、頑張りましょうね。う、碓氷君」

 

飛鳥は恥ずかしいのか、顔を赤くしながら答える

 

『お待たせしました。今からウェディング体験をかけたギフトゲームを開催します』

 

四人が喋っていると、アナウンスが聞こえてきた

 

『今回はまず参加者を十二組になるようにふるい落としていきます』

 

四人はそれを聞いて少し驚く

 

周りを見てみると、最低でも五十組はいるであろう人数だった

 

「いきなり結構な人数を落とすな」

 

「でも私たちなら大丈夫だよ」

 

紫炎の言葉に耀が自信満々に答える

 

「私たちも頑張りましょうね、碓氷君」

 

「ええ。絶対に勝ちましょうね」

 

飛鳥と碓氷の方もお互いにやる気十分のようだ

 

『それではまずは扉を開けた先の特設会場に来てください』

 

アナウンスの声に従い扉を開けると、何か大きなアスレチックの様なものが見えた

 

『皆様にはこの巨大アスレチックをペアで挑んでもらいます。そして上位十二組が予選を通過といたします』

 

「存外単純だな」

 

アナウンスに紫炎が一人事を漏らすが、アナウンスはまだ続く

 

『なお、アスレチック内では必ずパートナーをお姫様抱っこで進んでもらいます。お姫様抱っこを解くと強制的にスタート地点に戻ってもらいます』

 

アナウンスのこの言葉を聞いた瞬間、飛鳥の顔が目に見えるくらい真っ赤になる

 

『それでは皆さん準備してください』

 

アナウンスが終わると、碓氷が飛鳥に近づく

 

「えっと。飛鳥、いいか?」

 

碓氷が顔を赤くして聞くと、飛鳥は余程恥ずかしいのか言葉を発さずに首を縦に振る

 

「じゃあ」

 

一言声をかけて飛鳥をお姫様抱っこする碓氷

 

「十六夜の言葉を借りるとお嬢様抱っこだな」

 

「うん」

 

紫炎と耀が二人を見てそう言う

 

ちなみに二人はアナウンスを聞いた瞬間、耀が飛びついてすぐさまお姫様抱っこをした

 

今は耀が紫炎の首に手をまわしている

 

「なあ、碓氷。一つ提案がある」

 

「なんだ?」

 

「互いの邪魔はしないってのはどうだ?」

 

「それはありがたい。その提案、乗るよ」

 

紫炎の提案に碓氷はすぐにそれに乗る

 

飛鳥のギフトはこういうゲームには最適だが、今は恥ずかしさが頂点に達して言葉を発せれない状態である

 

それに耀はペガサスのギフトにより、その状態のまま攻撃も出来る

 

総合的に考えて提案に乗った方が得という結論に至った

 

紫炎は碓氷が提案に乗ったのでその場から少し離れた場所に移動した

 

『それではウェディング体験をかけた予選のゲームを始めます!』

 

そしてゲーム開始の合図が出された

 



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第百一話

開始が宣言された瞬間、紫炎のいたところで爆発が起こった

 

「先に行かせてもらうぜ」

 

紫炎は自分の足に炎を纏わせて爆発を起こして進む

 

「親子揃って無茶苦茶だな」

 

碓氷はそうつぶやきながらも空気中の水分を氷の足場に変え、楽々と進んでいる

 

「碓氷君も大概ね」

 

飛鳥はそう言うが、紫炎は既に他の参加者から見えない場所まで進んでいるが、碓氷は少し先にいるくらいである

 

「お、碓氷も参加してるのか」

 

すると後ろから知り合いの声が聞こえてきた

 

「クリスにアーシャさん。あなた達も参加してたんですね」

 

そこには火の玉に乗ったクリスがいた

 

もちろん、アーシャをお姫様抱っこして

 

「ああ。アーシャにどうしてもって誘われてな」

 

クリスは何でもない風に言うが、アーシャは顔を真っ赤にしている

 

「それにしても二人だけか?紫炎や十六夜は?」

 

クリスの言葉に碓氷と飛鳥が疑問を抱く

 

「なあ、クリス。これが何のゲームか知ってるのか?」

 

「え?温泉街のペアチケットだろ?」

 

その言葉を聞いて二人はやっぱりかという感じになる

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもない。紫炎は大分先にいるよ」

 

碓氷がそう言うと、アナウンスが聞こえてきた

 

『おーっと。早くも最初の選手がゴールに到着しました。一位のペアは赤羽紫炎・春日部耀選手だ!』

 

「もうか。それじゃあ、俺もゆっくり行くのやめにするか。クリス、お先に」

 

碓氷はそう言うと、ギフトカードを出し、水を龍の形にし、その上に乗って猛スピードでゴールに向かった

 

「はや・・・」

 

アーシャはそのスピードにただただ呆然と見ているだけだった

 

「まあ、このスピードを維持すりゃあ三位は確実か」

 

クリスはそうぼやきながらマイペースに進んでいった

 

―――――――――――――――――――――――

 

結果、最初のゲームでは一位紫炎・耀ペア、二位碓氷・飛鳥ペア、三位クリス・アーシャペアであった

 

「次がどんなのか分からんが、この様子じゃあ、楽勝だな」

 

「うん」

 

ぶっちぎりの一位でゴールした二人がお姫様抱っこをしたままいう

 

「一応、巻き込まれないように俺がセーブしたからあんなにぶっちぎりだっただけで、本気を出せば接戦だったと思うぞ」

 

「春日部さん、紫炎君。いい加減やめなさいよ」

 

二位だった碓氷と飛鳥が各々二人に言いたいことを言う

 

「はあー。やる気でねー」

 

「な、別にいいじゃんか!着たいんだよ、ウェディングドレス!」

 

クリスはゴールした後、このゲームがウェディング体験をするためのものだと聞き、やる気をなくしていた

 

一方、アーシャはそんなクリスに激をとばす

 

『さあ、それでは本選のルールを説明します。本選では順位に応じて四組ごとに分かれてもらいます。そしてそこの残った一組がウェディング体験を獲得できます』

 

そうして、十二組を三つに分けたのが以下のとおりである

 

 

第一グループ

一位・六位・七位・十二位

 

第二グループ

二位・五位・八位・十一位

 

第三グループ

三位・四位・九位・十位

 

 

三グループに分かれて円形の闘技場に連れてこられた

 

『それではルールの説明です。簡単に言ってしまえば闘技場の外に相手を押し出して最後に残った一人が勝利です。但し、ペアで片手・片足を繋いだ状態で戦っていただきます。余程呼吸が合っていないと動くことすら難しいでしょう。もちろん殺しはご法度です』

 

アナウンスが終わると、それぞれのペアに二本のひも状のものを渡される

 

そしてそれぞれペア同士、片手・片足をその紐でつなぐ

 

「ん。結構動きにくいね」

 

「ああ。けど頑張って勝って耀のウェディングドレスを見たいな」

 

「私も紫炎のタキシード見てみたいな」

 

紫炎と耀は二人だけの世界に入って褒めあう

 

「う、ん。やっぱり動きにくいわね」

 

「ああ。でも頑張って勝ってウェディング体験しような」

 

「うん。ウェディングドレスを着てみたいわ」

 

碓氷と飛鳥もやる気満々である

 

「はあー。やる気は出ないが、わざと負けるのは癪に障るし頑張るか」

 

「お、おう。頑張ろうな」

 

クリスとアーシャもやる気を出す

 

『皆さん準備ができたようですね。それでは始めてください!』

 

 



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第百二話

紫炎達がギフトゲームをしている時、ジンと十六夜は今、ジャックに連れられて東側の六桁外門に来ていた

 

「ここに最後の同盟相手が?」

 

「ヤホホホ。そうですよ。もとは五桁だったのですが、先日いろいろあって六桁に落とされたコミュニティですよ」

 

ジンの言葉にジャックがいつも通り陽気に答える

 

「おい、御チビ様。なんかここ見覚えないか?」

 

「ええ。とても嫌な予感がしますね」

 

十六夜がいつものように笑いながら言うと、ジンは頷く

 

「!?貴様は」

 

「おー。やっぱりか」

 

すると、ルイオスの側近が出てきた

 

「ヤホホホ。顔見知りでしたか。では、改めて。最後の同盟相手はペルセウスです」

 

「なっ!?ジャック様、勝手に決めてもらっては困ります」

 

ジャックの言葉に側近が反論する

 

「ならコミュニティのリーダーと話しましょう。そのように先に連絡したはずですが?」

 

ジャックの言葉に側近が困惑の表情を見せる

 

「おい、さっさと案内を・・・」

 

「あれ?十六夜君にジン君も一緒なのか」

 

渋る側近に十六夜が急かそうとすると、聞き覚えのある気の抜けた声が聞こえてきた

 

「おっさん!?」

 

「紫龍さん!?」

 

「・・・。十六夜君、その呼び方やめてくれないか?四十の心を傷つけるのに十分の威力だから」

 

十六夜の呼び方に紫龍が割と本気でそう言う

 

「紫龍さん。これはあなたの入れ知恵ですか?」

 

「ヤホホホ。違いますよ。このカボチャ頭で考えた結論ですよ」

 

側近が怪訝な表情で紫龍を睨みながら言うと、すぐさまジャックが答える

 

「おい。そんな事よりこのおっさんとアンタらの関係はなんだ?」

 

「また!?」

 

十六夜が側近に詰め寄るが、紫龍は呼び方に対して不満を言う

 

「ん?知らないのか?紫龍さんは・・・」

 

「ヤホホホ。それ以上は駄目ですよ。彼もそれを望んでますしね」

 

側近が喋ろうとすると、ジャックが途中で遮る

 

「おいおい、めちゃくちゃ気になるじゃねえか。教えてくれよ、おっさん」

 

「人をおっさん呼ばわりする悪い子供に教えることなんかないですよーだ」

 

十六夜が知的好奇心から尋ねると、紫龍は子供の様に拗ねる

 

「あの、紫龍さん。出来れば教えてほしいんですけど」

 

いままで空気だったジンが恐る恐る紫龍に尋ねる

 

「・・・。まともに聞かれると、それはそれで答えにくい」

 

「おっさん。元々答える気無いだろ」

 

紫龍の言葉に十六夜がツッコミを入れる

 

「まあ、そう言うことだ。ルイオスには俺から言っといてやるよ」

 

「紫龍さん!」

 

紫龍が普段通りに喋ると、側近が叫ぶ

 

「いいじゃないか。最強種を一撃で屠ることが出来るプレイヤーがいるコミュニティと同盟が組めるんだ。損はないぜ」

 

紫龍の言葉に側近は言葉をだせない

 

「これでノーネームは六桁に昇格出来るな」

 

「ええ。けど、一応リーダーのルイオスさんに話を通さなくていいのですか?」

 

「いいのいいの。あのボンボン、自分の事しか考えないから。それに今は俺がここのコミュニティの臨時リーダーだし」

 

「え!?」

 

紫龍の言葉にジンは驚く

 

「おっさん、どういうことだ?」

 

いくら箱庭に来て一年も経っていないいざよいとはいえ、コミュニティのリーダーがほいほいと変わるわけがないのを知っている

 

なので臨時とはいえ外部の人間がコミュニティのリーダーになっているのが不思議のようだ

 

「昔なじみのよしみでここの最高難易度のギフトゲームをやったんだけどさ、年取ると力の下限が難しくなってきてね。やり過ぎてルイオス君が大けがしちゃってね。だから景品の代わりに臨時リーダーをしてコミュニティをまとめてるってわけだ」

 

紫龍は何でも無いように答えるが、十六夜は笑みが止まらなかった

 

一対一では圧勝していたとはいえ、ルイオスの元までコミュニティの仲間に頼った自分

 

見張りに気づかれず、さらに同じようにルイオスに圧勝した紫龍

 

ギフトの差があれど、自分より格上だと思う相手に十六夜は一つの感情が生まれる

 

「おい、おっさん。あんた、何者だ?」

 

「さあね?」

 

値踏みするような十六夜の瞳に気づいた紫龍は受け流すように返す

 

「おっさん。俺と勝負しろ。それが一番はえー」

 

十六夜は紫龍を睨みながらそう告げる

 

箱庭に来てたくさんの猛者と闘ってきた十六夜はある程度なら相手の強さがわかるようになってきた

 

しかし、十六夜から見て紫龍の強さがまったく見えない

 

確かめたい、その感情が今の十六夜の本心だった

 

そんな十六夜を見て紫龍は諦めたようにため息を吐く

 

「・・・十六夜君、白以外で一番強かったのは誰だ?」

 

「蛟魔王だ。といっても命を懸けたようなものじゃなくてヒッポカンプの騎手のゲーム内だけだ」

 

紫龍の言葉に十六夜は偽りなく答える

 

「五分。それだけならそれ以上の力を見せてやれるけど、どうする?」

 

紫龍はギアスロールを見せながら言うと、十六夜はそれをひったくる

 

「ハッ!それは楽しみじゃねえか。おっさん、それが本当なら死ぬ気でやらせてもらうぜ。死ぬんじゃねえぞ!」

 

十六夜はそう言って自分の署名したギアスロールを紫龍に見せる

 

それを見た紫龍はギフトカードから薬を取り出し、口にくわえる

 

「それぐらいしてくれないと遊ぶこともできないからね。それじゃあ、ゲームスタート」

 

紫龍がそう言うと、二人の姿が消えた



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第百三話

十六夜と紫龍が消えて取り残されたジンたち

 

「えっと、僕らはどうすればいいのでしょうか?」

 

「五分と言ってましたし、それぐらいなら待っていましょう」

 

「はあ、そうですね」

 

ジャックの言葉にジンは十六夜がやり過ぎないように祈る

 

そして五分が過ぎると、紫龍と十六夜が消えた場所から大量の煙が出た

 

そこに二つの影が映ってるので、十六夜と紫龍が帰ってきたのだろうと思う

 

「え!?」

 

煙から一瞬だけ紫炎より少しだけ髪が長い少年が見えた

 

見間違いかと思い、目を擦ってみると、いつも通りの紫龍が立っていた

 

「いやー、十六夜君強かったね」

 

「おっさん、一体なにも・・・ん・・・だ」

 

十六夜はそう言って倒れる

 

「十六夜さん!?」

 

「あら?やりすぎたかな?」

 

ジンは十六夜に駆け寄るが、紫龍はその場であっけらかんに答える

 

「彼を医務室まで」

 

「分かりました」

 

紫龍が側近の男に十六夜を連れていかせる

 

ジンはそれについていった

 

「少々やり過ぎなのでは?」

 

「気絶はさせたが目立った外傷はないはずだぜ」

 

ジャックの言葉に紫龍はいつも通りの口調で話す

 

「まあでも、見込み充分だったってのが加減できなかった一番の理由だな」

 

「!?」

 

紫龍がそう言って自分の脇腹を見せる

 

そこには殴られてうっ血したような跡があった

 

「まさか一撃もらうなんて全く思ってなかったからな」

 

紫龍は脇腹の傷を隠し、軽く笑う

 

「それより飲んだ薬の副作用などは大丈夫なのですか?」

 

「副作用なしの軽めの薬を飲んだから大丈夫だ」

 

「そうですか。それよりなんでここにいるのですか?」

 

ジャックが不思議そうに聞く

 

紫龍とペルセウスとの関係を知っているジャックだったが、何故今更紫龍がここにいるのか分からない様だ

 

「今日ここにいたのは本当に偶然だよ。今は箱庭中のギフトゲームをしてるところだからな」

 

紫龍の言葉にジャックはため息をつく

 

「いい加減どこかのコミュニティに入りなおしたらどうですか?」

 

「それは無理。俺にはまだ守るべき旗があるからな」

 

紫龍はそう言ってギフトカードを出すと、そこには大きな火とそれを崇める人々の絵が入っていた

 

「土地もなく今は俺だけとはいえ、この旗にはあの時の思い出が詰まってんだよ」

 

紫龍が昔を懐かしみながらギフトカードをしまう

 

「もうそろそろ十六夜君も目覚めるだろう。そうしたら今日はもう帰れ」

 

「それで彼が素直に帰ればいいのですが・・・」

 

紫龍の言葉にジャックがため息交じりで返す

 

「大丈夫大丈夫。きっと何とかなる」

 

紫龍の無責任な言葉にジャックはさらに大きなため息をはいた



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第百四話

ゲームが終わった後、紫炎、碓氷、クリスは着替えて控室にいた

 

決勝のゲームは一言で言えば三人の圧勝だった

 

三組とも動くことなく紫炎とクリスは炎で、碓氷は氷で全組フィールドから落としたのだ

 

「碓氷。お前異様に正装が似合うな」

 

「ああ。気持ち悪いぐらい似合ってる」

 

紫炎とクリスは碓氷に向かって失礼極まりない言い方で褒める

 

「クリス。お前は馬子にも衣装って言葉が似合ってるよ」

 

「何だと、こら」

 

碓氷もクリスに言い返す

 

今三人は女性陣がウェディングドレスに着替えるまでの暇つぶしをしている

 

「しかし、ウェディング体験って言いながら写真撮影で終わりか」

 

紫炎がそう言うと、ため息をつく

 

その様子を見る限り余程楽しみにしていたのだろう

 

「俺的にはさっさと終わるからいいけどな」

 

クリスは嬉しそうにそう言う

 

元々アーシャに半分騙されてきたようなものなので、早く終わることは嬉しいようだ

 

「皆さん、こちらの準備が整いました。彼女さんの控室に行ってください」

 

すると、スタッフらしき人たちが呼びに来た

 

「それじゃあ俺はこっちみたいだから」

 

「俺も」

 

そう言って三人は自分のパートナーの待つ部屋へと向かった

 

―――――――――――――――――――――

 

紫炎が二人と別れて耀の控室の前に着く

 

「ふぅ」

 

少し息を吐いて紫炎はノックをする

 

「耀、はいっていいか?」

 

「あ、うん」

 

耀が許可をすると、紫炎はドアを開ける

 

「お邪魔し・・・」

 

紫炎が一言声をかけながら部屋に入ると、言葉が途中で失う

 

「ど、どうかな」

 

途中で言葉を失った紫炎を不審に思いながらも、耀が勇気を出して聞いてみる

 

「悪い。見惚れてた」

 

紫炎が耀の言葉に気づいて正直な感想を言う

 

「ありがとう」

 

紫炎の感想に耀は微笑みながら返す

 

(やべ。直視できないぐらい可愛い)

 

紫炎は目を逸らしてそんなことを思う

 

すると、耀が紫炎の顔を無理やり自分の方に向かせてキスをする

 

「ちゃんと見てほしい。次いつ着るか分からないから」

 

耀は顔を赤くしながらそう言ってくる

 

「・・ああ。けど、着る予定はちゃんとあるからな」

 

「うん。紫炎との本当の結婚式の時にね」

 

二人は目を見つめあってそう言いあうと、もう一度キスをする

 

「すいません。もう準備できましたか?」

 

すると、カメラマンがノックをする

 

二人は驚いて離れ、招き入れた

 

――――――――――――――――

 

碓氷も飛鳥の部屋の前に着き、ノックする

 

「飛鳥。入っていいか?」

 

「う、碓氷君!?ちょ、ちょっと待って」

 

飛鳥は碓氷の声を聞いて慌てた声で返す

 

(着慣れてないウェディングドレスで手間取ってるのかな?)

 

碓氷は飛鳥が入室を拒んだのをまだ着替え終わってないからと勘違いする

 

(こ、心の準備が・・・)

 

飛鳥は二、三度深呼吸をする

 

「は、入っていいわよ」

 

飛鳥の言葉が聞こえたので碓氷は部屋に入る

 

「!綺麗だ・・・」

 

あまりの後継に碓氷は思った言葉がポロッと出てしまう

 

その言葉を聞いて飛鳥はゆでだこのように顔を真っ赤にする

 

「あ、ありがと・・・」

 

飛鳥はそういって碓氷の手を握る

 

碓氷もその手を握り返す

 

「・・・もし、結婚式挙げるなら洋風が良いな」

 

「え!?」

 

碓氷が何の気なしにそうつぶやくと、飛鳥は顔を赤くする

 

「あ・・・。そ、その口に出てたか?」

 

碓氷がそういうと、飛鳥はコクリと頷く

 

碓氷も飛鳥と同様顔を赤くする

 

「・・・さっきの言葉、嘘じゃないからな」

 

碓氷はそういうと、飛鳥を抱き寄せる

 

「うん」

 

飛鳥もそのまま体を預ける

 

二人はカメラマンが着くまでそうやっていた

 

―――――――――――――――――――

 

クリスもアーシャの待つ部屋の前に着く

 

「入るぞ~」

 

「あ、ちょ、まっ・・・」

 

クリスはアーシャの言葉を待たずに部屋に入る

 

「おおー。似合ってじゃん」

 

「そ、そうかな」

 

クリスのことばにアーシャは照れる

 

「それじゃあ撮ろうぜ」

 

「え!?もうちょっとこのままでもいいじゃないか」

 

さっさと終わらせようとするクリスにアーシャが止める

 

「何だよ。さっさと終わらせれば写真の事を気にせずにその格好でいられるだろ?」

 

クリスがそう言って頬を染めると、アーシャは少し固まる

 

「え、ええっと。そ、それじゃあ撮ろうか」

 

アーシャがそう言うと、カメラマンは撮りはじめる

 

(ったく、何か俺らしくない。いつもと違う格好のアーシャを見て、こんな気持ちになるなんて・・・)

 

クリスは写真を撮ってる間、そんな考えを巡らせていた



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第百五話

紫炎達はクリスたちと別れて本拠に戻っている

 

その最中、耀と飛鳥の二人は大事そうに撮った写真を持っていた

 

「えへへ~」

 

「うふふ」

 

二人はそれぞれ自分の彼氏の腕に抱きついている

 

「四人とも今帰りか?」

 

すると、買い物帰りのレティシアが後ろから声をかける

 

飛鳥と碓氷は慌てて離れる

 

「レティシアか。買い物袋一つ持つわ」

 

紫炎はそういうと、左手に耀を抱きつかせてまま右手でレティシアの持っていた

 

「お前達。人前では少しは控えろ」

 

「「無理」」

 

レティシアの言葉に二人は即答する

 

(気づかれてないかな?)

 

碓氷はレティシアの反応を見て先ほどの場面は見られていないのか、と思う

 

「まったく。少しは飛鳥と碓氷を見習え。私が声をかけた瞬間、腕組みを止めたではないか」

 

レティシアが二人を指さしてそう言うと、飛鳥と碓氷は顔を赤くする

 

「分かった。出来たらそうする」

 

耀はそう言うと、さらに紫炎に抱きつく

 

その様子を見てレティシアはため息をつく

 

「もういい。とりあえずそれは調味料だから、着いたら片しておいてくれ」

 

「あいよ」

 

レティシアはそう言うと、本拠まで飛んで行った

 

「それじゃあこれ片してからな」

 

「うん。早く行こ」

 

紫炎の言葉に耀は頬にキスする

 

そして二人は本拠に戻って行った

 

「相変わらずだね。あの二人」

 

「ええ。少しは周りを見てほしいけど・・・」

 

碓氷の言葉に飛鳥は途中で言葉を止めて碓氷の手を握る

 

「私たちも、少しは見習って進みたいわね」

 

飛鳥はそう言って碓氷の手をぎゅっと握る

 

「そう思ってるのは私だけ?」

 

飛鳥はそういうと、碓氷の方に向く

 

「・・・いや。俺もだよ」

 

碓氷はそう言うと、飛鳥を抱き寄せる

 

「う・・・ん。嬉しい」

 

飛鳥も碓氷の胸にうずくまる

 

数分そうしたあと、飛鳥は名残惜しそうに離れる

 

「それじゃあ、行きましょうか。遅くなると、黒ウサギもうるさいし」

 

「ええ。それと飛鳥」

 

「え・・・」

 

碓氷の言葉に飛鳥が振り返ると、碓氷は飛鳥の額にキスをする

 

「今はこれくらいで許してくれるか?」

 

碓氷がそう言うと、飛鳥の顔はみるみる赤くなっていく

 

「あ・・・う・・・。ありがとう」

 

「僕たちは僕たちのペースで歩いていきたいですね」

 

碓氷はそう言うと、飛鳥の手を握る

 

「けど、少し早歩きでもいいかなって思う僕もいるんですよ」

 

碓氷が笑顔で言うと、飛鳥は体を寄せる

 

「私も。だから隠すのはもうやめようと思うの」

 

「そう、ですね。まあ、知らないのは黒ウサギさんだけですけど」

 

碓氷の言葉に飛鳥はそうね、と言って苦笑する

 

そして二人はそのまま本拠の方に歩いていくと、黒ウサギが周りを見渡していた

 

「あ、良かったのです。飛鳥さん、碓氷さん。一緒のギフトゲームに出ていた耀さんと赤羽さんが帰ってきたのにお二人が帰ってこないのが心配で心配で」

 

「すこし寄り道をしていただけよ」

 

黒ウサギの言葉に飛鳥が答える

 

すると、黒ウサギは二人が手を繋いでいるのに気付く

 

「おや~。お二人とも今日一日で仲良くなりましたね」

 

黒ウサギが冷やかすように会二人に言う

 

すると、飛鳥は碓氷の腕に抱きつく

 

「それはそうよ。私と碓氷君は付き合ってるんだから」

 

「へ~。そうなんですか。・・・って、えええぇぇぇえええ!?」

 

突然のカミングアウトに黒ウサギの絶叫が響き渡った



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