ネコの手も狩りたい【完結】 (puc119)
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プロローグ
やっぱりハンマーってカッコイイですよね
「ネコさん、ネコさん。そろそろ新しい防具を作ろうと思うんだけど、何が良いと思う?」
美味しそうにチーズをほおばっているネコさんに聞いてみる。
そして、ちょっと顔とかについちゃっているところが可愛らしい。ふふっ、君って案外おっちょこちょいだよね。
「うニャー、ご主人が好きな防具を作れば良いと思うニャ」
いや、私もそれが一番だとは思っているんだけどさ。どうしてもひとりじゃ決めきれないなから相談しているんだけど……
だって、私はまだこの村でハンターになったばかりだもの。
そんな私がこのベルナ村へ派遣されてそこそこの時間が経ったと思う。
最初は私ひとりで大丈夫なのか本当に不安だった。それでもなんとか此処まで頑張れているのは、このネコさんのおかげなのかなって思う。
武器はベルダーハンマー3に防具はベルダー一式。大型種だってまだドスマッカォしか倒せていない。でも、私はちゃんと進めていると思う。
ネコさんも私も初心者同士。でも、何故かこのネコさんはすごく頼りになる。他のネコさんもそうだったりするのかな?
「じゃあ、ネコさんはどの防具が好き?」
「じゃあって……ん~そうだニャー。ドスマッカォの防具とかで良いんじゃないかニャ。アレなら倒せるし」
なるほど、ドスマッカォか。倒したことあるもんね。私ひとりじゃちょっと心配だけど、ネコさんと一緒なら大丈夫だと思う。
「あとは、ザザミ防具も良いと思うニャ。ザザミが相手ならご主人の武器とも相性が良いニャ」
「そうなの?」
私が今使っているのはハンマー。別にハンマーじゃないとダメだとか思ってはいなかったけれど、ずっと使っているせいか、今じゃ他の武器を使おうと思わなくなった。それにハンマーはあの人が使っていた武器だから……
それにしてもザザミ防具かぁ。ダイミョウザザミの素材を使うってことだと思うけど、まだ戦ったことはないんだよね。確か砂漠に出るモンスターだったと思う。
「でも、ダイミョウザザミって絶対に強いよね?」
問題はそこだ。
私はまだまだ初心者ハンター。受けたクエストもベルナ村から頼まれたクエストだけだし、自分の実力には自信がない。
「ドスマッカォよりは強いと思うニャ。でも、ご主人がやるならボクも頑張るニャ」
……そっか。うん、それなら私も頑張ってみようかな。
ダイミョウザザミがどれくらい強いのかはわからない。でも、二人でなら、きっとなんとかなるんじゃないかって思うもの。
「それじゃあ、ネコさん。ダイミョウザザミをお願いしても良いかな?」
「了解したニャ」
ダイミョウザザミかぁ……どんなモンスターなんだろうね? ゲネポスとヤオザミを倒す必要があったから、砂漠へは2回行ったことがある。でも、其処で大型種と戦うのは初めて。
む、むぅ、緊張してきました。
「大丈夫、ご主人なら倒せるニャ」
ふふっ、ありがとう。でも、やっぱり私ひとりじゃ厳しいと思うから、今回もお手伝いよろしくね。
「よしっ、それじゃあ、早速行こっか」
「うニャ!」
私がこのネコさんと出会ったのは今からもう一ヶ月も前のこと。
ベルナ村へ来たばかりの私は何をすれば良いのかわからなくて、随分とおろおろしていたんじゃないかな。そんな私を見かねてか、ベルナ村の村長さんがネコ嬢さんに頼んで、このネコさんを紹介してくれた。ネコ嬢さん曰く、このネコさんも私と同じように狩りの経験がないから、一緒に成長出来るんじゃないかって。
そして、ネコさんが私のオトモになってくれた。それが私とネコさんの出会い。
最初はちょっと堅い感じの性格なのかな? なんて思っていたけれど、別にそんなこともなく、私よりも色々な知識はあるし、相談にも乗ってくれる。今では、オトモと言うより一緒に戦う頼りになる仲間と言った方があっているくらい。
だって、私が今もこうして前へ進めているのはきっとこのネコさんのおかげだから。
「うニャー。砂がヒゲにあたってピリピリするニャ」
「頑張れそう?」
もしかしたら、頼りないご主人だって思われているかもしれない。
でも、私なりに頑張ってみるから、これからも一緒に戦ってくれたら嬉しいなって私は思うんだ。
「頑張るニャ」
うん、一緒に頑張っていこうね。
今回のクエストは『砂に潜む巨大蟹!』。場所は砂漠でメインターゲットはもちろんダイミョウザザミ。クリアできる自信は……あまりないかな。クエストが始まる前なのに、そんなことを言ってしまったら、きっとネコさんに怒られてしまうけれど、やっぱり自信はない。
なんとか倒すことができれば良いけど……
「着いたニャー! 暑いニャ……」
ベルナ村から飛行船に乗ること暫く、漸く砂漠へ到着した。
まぁ、砂漠だもんね。そりゃあベルナ村と比べたらどうしても暑く感じてしまう。私なんてクーラードリンクを飲まなきゃ体力だって減っちゃうし。
支給品ボックスからアイテムを受け取り、ポーチの中へ。
それから、ひとつ深呼吸。
「よしっ、行こっか!」
「ニャ!」
そして、大きな声を出す。
こうでもしないと、緊張で固まってしまった身体はなかなか動いてくれやしないのです。でも、こうすれば身体が動いてくれる。前に進むことができる。
それじゃ、ひと狩り行きますか。
最初ですので短め
次話からはネコさん視点が多くなる予定です
更新はかなりのんびりしたものになるかと
では、次話でお会いしましょう
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第1話~横から貫通ブーメラン~
1mちょっとの可愛らしい大きさ。手足も短く、二足歩行するよりも四足歩行した方が速く移動できる。色の種類は茶ブチで、くるりと丸まった尻尾とピンと立った耳が特徴。サポート傾向はアシストで、ブメ3種に遠隔強化、緊急撤退持ち。
ゴール……とは流石に言えないけれど、多分普通に使う分には十分な能力だと思う。
モンスターからちょっとでも攻撃をくらえば吹き飛んでしまうけれど、素早さを生かして立ち回り、遠距離からブーメランを投げるだけだから攻撃はほとんどくらわない。
そんなアイルーが――どうやら俺のことらしい。
いや、ホントどうしてこうなったんだろうね? 誰か説明くらいしてくれたって良いだろうに。
「ネコさん、ネコさん。ダイミョウザザミが何処にいるのか教えて」
「今はエリア3にいるニャ!」
アイルーの特徴は色々とあるけれど、その中の一つがこの千里眼発動。なんでか知らないけれど、MHXになってからはやたらとモンスのエリチェンが多くなった。だから、このスキルはかなり助かっています。
まぁ、それもゲームの中のお話なんだけどさ。ただ……今までの経験的に、多分この世界もゲームが基準となっているのだろう。
そして、そちらの方が俺としても有り難い。
「え、えと……エリア3ってどこだっけ?」
ご主人、地図取らなかったのか……
「水があって、ヤシの木が生えているエリアニャ」
あのヤシの木の葉っぱ面白いよね。こう、葉っぱから葉っぱへ飛び移って遊んだりできてさ。
そんな話は良いとして……このご主人は、まだまだ新米ハンターだ。大型種だってドスマッカォしか倒していないし、防具は初期防具のまま。そして使っている武器はハンマーと言う……いやホント、何故その武器を選んだ。スラアクとか弓とか強いし使いやすい武器は沢山あるんだけどなぁ。
ただ、ハンマーが一番カッコイイ武器だと言うことだけは俺だってわかっている。
MHXとなっても結局、モーション値は変わらなかったし、もらえた専用の狩技も笑うしかないようなものだった。なんだよ、大挑発って……
近接系の頂点から叩き落とされ、今では邪魔者扱い。それでも、ハンマーはカッコイイし使っていて一番面白い武器と言うことに変わりはない。
そして、そんなハンマーを使っているこのご主人のことは嫌いになれそうにない。だって、このご主人だってきっとハンマーを好きだと思ってくれているのだから。そんな人は貴重な存在なんです。
まぁ、別にTAをしているわけじゃないんだ。この世界ではどんな武器を使っていようが、文句を言われることはないと思うけれど。
「あっ、じゃあクーラードリンクはいらないんだ」
うん、いらない。てか、旧砂漠って意外と暑いエリアが少ないんだよね。ただ、このマップはどのエリアも戦い難いんだよなぁ……段差を作るのは良いと思うけれど、エリア2とかなんで坂道になんてしたんだろうか。
お願いだから、もっと平らで広いエリアを作ってください。
「よ、よし。じゃあ、改めて出発だね!」
「うニャ!」
走り出したご主人を追いかけるように俺も出発。
この世界に来てからもう一ヶ月もの時間が経った。慣れた……と言うわけでもないけれど、モンハンの世界へ飛ばされるのはこれが初めてではない。
でもなぁ……
どうして、今回はネコなんだろうね?
ご主人に続いてエリア3へ。
「……でっかいね」
そして、エリアへ入って直ぐにダイミョウザザミを発見。その姿は今まで戦ってきたどのモンスターよりも強そうに見えた。うむ、悪くない緊張感だ。
モノブロスの頭骨をヤドとし、別名は盾蟹。一応、あのヤオザミが成長した姿だと思ったけれど、どうして此処まで大きくなれたのかはわからない。てか、ヤドにしているあのモノブロスって明らかに普通のサイズより大きいよね。あのサイズのモノブロスとか絶対に戦いたくない。
「大丈夫、ご主人なら勝てるニャ!」
どうにもこのご主人は自分に自信がないらしく、直ぐ弱気になってしまう。そりゃあ、まだ駆け出しのハンターなのだし、実際ご主人は上手いハンターじゃない。けれども、ダイミョウザザミで止まっているわけにはいかないのだ。
このご主人はあの四天王たちを倒せるくらいにならないといけないのだから。
「……うん。頑張る」
大丈夫、甲殻種は打撃武器が通るし、相性の悪い相手じゃない。初期防具でも即乙はしないだろうし、時間をかければきっと倒せる相手。
それに今は俺もいる。どれくらい力になれるのかはわからないけれど、精一杯頑張るからご主人も頑張って欲しい。
そんな言葉を交わしたところで、まだ此方に気づいていないダイミョウザザミへ、とりあえずブーメランを一発。サクッとサポゲを溜めてブメ2種を発動させねば。
「い、いきます!」
そう大きな声を出してから、ご主人が一気に近づきザザミに向かってローリングをした。
そして、ザザミを踏むようにして高く跳び上がり、ハンマーをズドン。
ご主人のスタイルはエリアル。A2連が決まればホームランよりもモーション値は高いから、かなり強いとは思う。ただ、A2連って当てにくいし外した時の硬直がちょっと面倒なんだよね。正直、俺は苦手です。
ただ、ザザミが相手ならジャンプ攻撃で大ダウンをしてくれるからかなり戦いやすいはず。
今、俺が使っている武器はマッカォネコダガー。本当なら俺も打撃武器が良かったけれど……まぁ、今更嘆いたところで仕様が無い。今できることを精一杯やれば良いんだ。
ダウンを奪えるように、できるだけ脚を狙いながら立ち回りつつ、貫通ブーメランの技が使えるよう、とにかく今はサポゲを上げることを優先。
「乗った! 支援お願い!」
ナイスご主人。
前作までは乗り攻撃中にモンスへ攻撃すると、モンスが怯んでしまい、乗りが失敗になってしまったが、今作からはそれがなくなった。乗っていないハンター達の攻撃でも乗りゲージは増加するように。
まぁ、それが良いのか悪いのかは何とも言えないところだけど……
「あっ、ごめん。失敗した」
残念ながら乗りは失敗。まぁ、初見モンスターだししゃーなしだ。
「ああ、もう。ネコさんはなに笑っているのさ」
いや、なんかこの状況が懐かしくてさ。そう言えば、アイツも最初は良く乗りを失敗していたなって思ったんだ。アイツとご主人は違うけれど、やっぱり何処かで比較してしまう。今でも、元気にやっていると良いんだけどねぇ。
さてさて、狩りに集中集中。
サポートゲージも溜まったし、此処からは全力でいかせてもらおうじゃあないか。
その後は、別段危ない場面もなく討伐完了。
ご主人も2回目の乗りは成功させてくれたし、スタンだって取れていた。それにしても……良いなぁ、ハンマー。俺もこの姿じゃなかったら絶対にハンマーを担いでいたのに。ブシドーハンマーとか本当に面白いよね。
「ああ、疲れた……」
お疲れ様です。最初と比べてかなりハンターらしくなったと思うよ。とは言え、まだまだ序盤。もっともっと上手くなる必要がある。
俺もご主人の足を引っ張らない程度には頑張らないと。
「それじゃ、剥ぎ取ったらベルナ村へ帰ろっか」
「うニャ」
人間ってのは案外適応力があるらしく、最初は違和感だらけだったこの喋り方にも慣れてきてしまった。元の身体へ戻ったときもこの癖が残っていたらどうしよう。あの彼女に何を言われるのかわかったものじゃない。
ただまぁ、そんな先のことを考えても仕方ないんだ。今はこの小さな身体でできることはやっていこう。
「ダイミョウザザミも倒せたし、これで防具作れるかな?」
「あと、6体くらい倒せば作れると思うニャ」
「……え、そんなに?」
まだまだ長い道のりが続く。焦ったって仕様が無いんだ。のんびりのんびりと進んで行こうか。
ご主人が立派なハンターとなってくれるよう、俺も全力でサポートするから、どうかこれからもよろしくお願いします。
なんて、恥ずかしいことを心の中でそっと思ってみた。
はい、第1話でした
主人公はネコさんのつもりです
かなり手探り状態で書いていますので、今後どう話を進めていくのかは決めていません
のんびりのんびりと書いていきます
では、次話でお会いしましょう
振り向きへホームランもよろしくね(小声)
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第2話~お酒回らず赤い顔~
無事、ダイミョウザザミを倒すこともできベルナ村へ到着。
どうやらご主人はザザミ一式を作るらしいし、ザザミをあと数体ほど倒す必要はあるだろう。下位ザザミ防具一式で発動するスキルは……確か、ガード性能だけだったと思う。そしてご主人が使っている武器はハンマー。だから完全に死にスキルだ。
ただ、一応空きスロは5つあるし、5スロスキルくらいなら発動させられる。それにザザミ防具の見た目はかなり好きです。男性の場合はラガーマンだけど、女性のザザミ防具ってすごく良いよね。完成するのが楽しみ。
まぁ、それにまだ序盤と言っても良いような時期だし、今は防御力さえあればどんな防具だろうと良いと思う。だから俺からは色々言いません。どうしても詰まってしまった時に言えば良いのですよ。
こんな姿なせいで言えないってのもあるんだけどさ。ご主人が俺のことをどう思っているのか分からないけれど、俺ネコですし……
そんなことを考えつつ、コップに入った達人ビールを喉へ流し込んだ。
「……君ってネコなのにビール好きだよね。他のネコさんもそうだったりするの?」
呆れたような表情をしながらご主人が俺に聞いてきた。
ん~……それはどうなのだろうか。気がついたらこの世界に来ていて、その時にはもうこのご主人のオトモとなることが決まっていた。だから、ネコの知り合いなんていないし、ネコたちがどんな生活をしているのかもわからない。
「ネコそれぞれだと思うニャ」
そんなことを伝えても仕様が無いから、当たり障り無い言葉を落とす。
しかし、今の俺って代謝系とかどうなっているんだろうね? まぁ、そもそもアイルーの代謝系がどうなっているのも知らないんだけどさ。
ただ、この姿になってもビールが美味しいことには違いない。でも、タンジアビールの方が俺は好きだったかな。
「ネコさんにも色々いるんだねー」
そんなものだと思う。ただ、あまり深く聞かないでね。直ぐにボロが出ちゃうから。
できれば、このご主人と良い関係でありたい。ネコである俺のこともちゃんと気遣ってくれる素敵な人なのだから。
「そう言えば、ザザミ素材はあとどれくらい必要だったニャ?」
ザザミは嫌いなモンスターじゃないし、10体くらいなら喜んで戦うけれど、一応聞いてみる。
「えと……確かあと甲殻が4つと爪が1つだったと思うよ」
あれ? あともうそれだけなの? あの相棒もそうだったけれど、運が良すぎじゃないですか? きっと俺がやってもそんなに素材は集まらないだろう。なるほど、これが格差社会か。
ふむ。じゃあ、ザザミを倒すのはあと1回で済みそうだ。他に必要な素材は確かドスファンゴの素材だったよね。う~ん、思った以上にすんなりと防具はできそうじゃないか。いや、まぁ、良いことなんだけどさ。
「ついでだしさ、ネコさんの防具もザザミにしない?」
多分、ご主人は善意で言ってくれたのだと思う。今俺が装備しているのはマッカォ一式。それからザザミ防具にすれば防御力はかなり上がる。かなり上がるのだけど……
「……ボ、ボクは遠慮するニャ。今の防具で大丈夫ニャ」
あの見た目はいただけない。好きな人もいるだろうけれど、俺は遠慮したい。そんなこと言っている余裕なんてないかもしれないけれど、嫌なものは嫌なのだ。
それにほら、防御力が低かろうと攻撃を喰らわなければ良いのだし。
「別に遠慮なんてしなくても大丈夫だよ? 端材も出るし」
いや、うん。そうなんだけどさ。
「それにほら、ペアっぽくていいと私は思うんだ」
ああ、うん。確かに同じモンスターの素材を使った防具ならペアっぽくなるのだけど、あの見た目はなぁ……
「と、とにかくボクは大丈夫ニャ」
無理やり、話を終わらせてみる。
そんなことをしたせいか、ご主人は少しばかり不満気だったけれど、これは許してください。ネコだってオシャレしたいんです。
残念なことにネコの防具はネタ路線へ走っているモノが多々ある。昔はそれはそれで良いと思っていたけれど、いざ自分がそれを着て全力で戦えるかとなると……その自信はあまりない。
いや、まぁ、ネコが格好をつけたって仕様が無いとは思っているんですよ? でも、ほら、譲れないことだってあるんだ。
最終的なネコの防具は二つ名ディノ防具に白疾風手裏剣になると思う。そんな中、武器はできるだけ強い方が良いけれど、防具の方はそこまで重要じゃないと思っている。近接ネコだと流石に厳しいけれど、今の俺はブメネコ。手数を減らせばモンスターの攻撃を喰らわずに倒すことだって難しくはない。まぁ、流石に一発で乙るような防御力だとマズイんだけどさ。
しっかし、こんなことになるのなら、もっとネコの練習をしておけば良かったね。ゲームの中でもこの世界へ来た時もハンマーばかりを振り回していたせいで、基本的な立ち回りすらよくわかっていない。練習あるのみと言ったところか。
ああ、そう言えば、どうしてこのご主人はハンマーを使っているのだろうか? 残念なことにハンマーを使うハンターは少ない。決して弱い武器ではないけれど……ハンマーってクセが強いもんね。
だからこそ面白いのだが。
「ご主人ってどうしてハンマーなんかを使っているんだニャ?」
だから聞いてみた。
ゲーム中ではモンスターによって武器や防具を変えることが多かったけれど、この世界では基本的に同じ武器や防具を使い続ける。そんな世界の中でどうしてこのご主人がハンマーを選んでしまったのか気になったんです。
「んとね、私も最初は片手剣を使っていたんだ」
使いやすいもんね、片手剣。俺もゲームの中ではお世話になったなぁ。エリアルデスパライズで擬似ハメとかよくやりました。
「でも、昔バルバレの闘技大会を見に行ったとき、ちょうど有名なハンターさんが出ていたんだけど、その人の使うハンマーがすごくカッコ良かったんだ。それで、私もハンマーを使ってみたいと思ったんだよ」
へー、バルバレにはハンマーで有名なハンターがいたのか。
俺がバルバレにいたときはそんなハンターなんていなかったと思うけれど……まぁ、俺がいたときとは時間軸が違うだろうし、そもそも世界線だって違うかもしれない。
でも、そんな有名なら俺も一度見てみたい。
「そのハンターって今もバルバレにいるのかニャ?」
「ううん、確か大老殿へ行くことになって、そこでもすごく活躍して……今は、消息不明みたい」
あら、そうなのか。それは残念だ。ハンマー使いは希少種だから会って見たかったんだけどなぁ。ただ、このご主人みたいにそのハンターを見てハンマーを使ってくれる人が増えたのなら、きっとそのハンターだって満足しているだろう。
……そんなことはないか。
「私も詳しくは知らないんだけどね。そのハンターさん、急に消えちゃったんだって。あと、同じパーティーだった笛使いのハンターさんも消えちゃったとか聞いてるよ」
ブレスワインをちびちびと飲みつつ、ご主人がそんなことを教えてくれた。
急に消えてしまった笛とハンマーのハンターねぇ……なんだか親近感の湧くお話だ。ほとんどいないとは聞いているけれど、クエストから帰ってくることのできなかったハンターだっている。どんなに腕の良いハンターだろうと、失敗するときは失敗するのだ。それは仕方の無いことなのかもしれない。
「ホント、何処へ行っちゃったんだろうね? 同じパーティーだった操虫棍と弓を使うハンターさんはちゃんと残っているみたいだけど……」
追加でもう一杯達人ビールを頼もうとしたとき、またご主人が言葉を落とした。
同じパーティーだった虫棒と弓使い……? それもまた何処かで聞いたようなお話。いやいや、まさか、そんな……ねぇ?
「え、えと、そのハンターのパーティーってそんなに有名だったのかニャ?」
「そりゃあ、有名だよ。だって、あの蛇王龍を倒しバルバレを救って、大老殿でも巨戟龍を倒したパーティーなんだもん。むしろ一番有名なパーティーなんじゃないかな?」
……ダラにゴグマジオスを倒したパーティー。その内訳はハンマー、笛、虫棒、弓。そして、今はハンマーと笛のハンターがいない。
ああ、うん、流石にこれは俺の勘違いじゃない気がしてきた。まだ確証はない。ないけれど……きっとそう言うことなんだろう。
「ネコさんって、すごく知識が偏ってるよね。モンスターに関する知識とかはすごいのにさ」
だって、この世界の人間じゃないですし。まぁ、今は人ですらないんだけどさ……
「ネコだから仕方無いニャ」
「そうなのかなぁ……」
しかし、驚いたな。まさか、まだ世界が繋がっているとは思わなかった。
確かに、MHXはMH4との繋がりがある。けれども、此処まで直接繋がっているとは思わなかったんだ。
とは言え、そのことがわかったこところで、俺がやることは変わらない。今更、あの相棒や弓使いの少女と一緒に戦えるとは思っていないし、そもそも一緒に戦うことなんてできない。
それなら、今、自分ができることを全力でやるだけだ。
あのパーティーに負けないくらい、このご主人が有名になれるよう、俺も全力でサポートしよう。そう言うものだと思う。
「それにしても、あのハンマーを使っているハンターさん、かっこ良かったなぁ。私もいつかあのハンターさんみたいに……って、どうしたのネコさん、顔が赤いよ?」
……アルコールのせいってことにしておいてください。
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第3話~とりあえず防具で~
「ネコさん、ネコさん。今日はダイミョウザザミのクエストがないみたいだけど、どうする?」
ダイミョウザザミも無事に倒すことができ、その打ち上げをやった次の日。
今日も今日とて、ご主人の防具を完成させるためザザミと戦いたいところではあったけれど、どうやらザザミの狩猟クエストがないらしい。
メインターゲットじゃなくて良いのなら、ザザミと戦うことのできるクエストはあると思うけれど……それがどのクエストだったのかは流石に覚えてません。ヤオザミの狩猟クエストとかがあれば怪しいけど、もしかしたらドスガレオスやドスゲネポスが出るかもしれない。それなら違うことをした方が良いのかな、なんて思う。
「うニャー……じゃあ、ドスファンゴの討伐クエストはあるかニャ?」
ザザミ防具にはファンゴ素材が必要。そして、マップが孤島ならベストなんだけど、ドスファンゴって孤島で出ないよね……
ご主人が今、使っている武器はベルダーハンマー3、と正直かなり弱い。しかし、ベルダーハンマー4にすることができれば、武器倍率は10上がり、何より切れ味が緑となる。斬り方補正の関係で、やっぱり斬れ味は緑まで欲しいのです。
斬り方補正さえなければ、“鈍器”スキルも有用だったかもしれないんだけどなぁ……
「えとえと、ちょっと待ってて聞いてくるから」
そう言って、ご主人はベルナ村の受付嬢の元へとてとてと走っていった。
孤島が良いと言ったのは、孤島ならハンマーの強化に必要な“ベアライト鉱石”が採取できるからと言う理由。上位の渓流でも採取できるけど、現在のレベルじゃ上位のクエストなんて受注できません。最初はこのベアライト鉱石がどこで採取できるのかわからず、俺も苦労したなぁ。ベルダーハンマーの見た目はかなり好きだったから他のハンマーを使おうとも思わなかったし。あのゴツゴツした見た目、本当にカッコイイよね! しかもオプシドハンマーへ派生していけば、その見た目は変わらず強さもなかなか。長い間お世話になりました。
俺もまたハンマー使いたいなぁ。ホント、どうして今回はネコなんだろうね。
そんなことを考えていると、ご主人が戻ってきた。さて、クエストはあったのかな?
「んとね、ドスファンゴ一頭の狩猟クエストはないみたいだけど、渓流でブルファンゴ20頭の討伐クエストがあって、そのクエストにドスファンゴが出るんだって。これでもいいかな?」
ぐぅれいと。それだけの数のファンゴを倒せば素材はきっと十分なはず。普通にやると獣骨がなかなか集まらないのです。
これで、ファンゴ系の防具素材は全部手に入るだろうから文句なし。ドスファンゴが相手ならご主人でも倒すことはできるだろうし、心配なのは素材が集まるかどうかだけ。そればっかりは運だからどう仕様も無いんだけどさ。
まぁ、俺が剥ぎ取ったり採取した素材もご主人のモノになるから、足りないってことは多分ないと思うけど。
「それで大丈夫ニャ!」
「ふふっ、それなら良かった。それじゃ行こっか」
此処で武器を強化することができればかなり楽になるんだけどなぁ。まぁ、それはまた今度と言うことで。素材ツアーとかあれば良いけど。
「ん~……風が気持ちいい」
飛行船の甲板の上。目を閉じながらご主人がそんな言葉を落とした。
以前、俺がこの世界へいたときの移動手段は、ほとんどがガーグァの引く馬車だった。あのガタゴトと揺れる馬車の乗り心地は決して褒められたものでもなかったけれど、それなりに気に入っていたと思う。
でも、飛行船ってのもまた良いものだね。何より馬車と比べて移動時間が全然かからないし。移動中って暇なんだよね。
「あまり端にいると落ちるから気をつけるニャ」
「さ、流石にそんなドジなことはしないから大丈夫だよ」
うん、大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配じゃん。あの相棒なんて寝ぼけてよく馬車から落ちたし。まぁ、ハンターなら例え飛行船から落ちようが無傷な気もするけど……。少なくとも200mくらいなら余裕だろう。それくらいの高さなら何度か飛び降りたこともある。
「ネコさんってさ。私のオトモになる前は何をやっていたの?」
目を開け、此方を向いてからご主人が聞いてきた。
また、応え難いことを……
このご主人なら正直に言っても信じてくれそうだけど、絶対に余計なことを背負わせちゃうよなぁ。有り難くないことに、この世界だと俺のパーティーって有名だったらしいし。だから、ご主人にそれを伝えるのはあまりよろしくない。
「ぷらぷらと生きていたニャ」
モンハンのゲームをやって、モンハンの世界へ飛ばされて、帰ってきて、また飛ばされて、また帰ってきて、気がついたらまたモンハンの世界。しかも、今回はネコって、ネコって……
「そ、そうなんだ……」
苦笑いされた。
ごめんね。申し訳ないけど、全てを伝えることなんてできないんだ。きっと俺はまた消えてしまう。だから、ご主人にはそんな奴のことまで背負わせたくない。
この世界のことは気に入っているけれど、俺はイレギュラーな存在。そんな奴がいつまでもいたら、何処かでおかしくなるんじゃないかって思ってしまう。
きっとあの相棒も怒ってるよなぁ。我ながら随分と自分勝手な奴だって思う。なんて謝ったら良いのかわかったものじゃない。
とは言え、俺が頑張らなきゃいけないのは変わらない。こんな身体だし、そんなに役には立たないだろうけれど、できる限りやるだけだ。
「……ネコさんのお話もいつか聞かせてよ?」
いつかそんな未来が来ると良いね。
ご主人の言葉に対して、約束することなんてできなかったけど、俺は――うニャ。と言って頷いてみた。これから長い付き合いとなるだろうけれど、よろしくお願いします。
そんな気持ちも込めて。
そんな感じの雑談を暫く続け、目的地である渓流へ到着。
多分、ご主人も渓流へ来るのは初めてなんじゃないかな。
「涼し気な場所……。うん、悪くないかも」
そりゃあ、良かったよ。旨味の少ないマップではあるけれど、何度も来ることになるであろう場所。タマミツネと戦う日は本当に楽しみだ。
「よーし、それじゃあ出発!」
「うニャ!」
ご主人が支給品も受け取り、クエストスタート。
ドスファンゴの現在位置はエリア5。でも、どうせ直ぐに動いちゃうんだろうなぁ。今作はエリア移動が本当に多いと思うんだ。もう少し落ち着いてくれたって良いだろうに。
ご主人に続いて、エリア4へ。其処には、昔人が住んでいたんじゃないかって思われる建物。今じゃ、ジンオウガやナルガにドボル、そしてタマミツネや金銀夫妻とモンスターの蔓延る場所になっているけれど、集落とかがあったのかもね。
そんなエリア4には何頭かのブルファンゴの姿。一頭、一頭戦う分には何の問題もないけれど、集団で来られるとなかなかに鬱陶しい。
「えと、最初にドスファンゴを倒した方が良いかな?」
ああ、それはそうかもしれない。
ブルファンゴを倒していれば、絶対に合流され、剥ぎ取り中に邪魔される未来しか見えない。それに、もしドスファンゴを倒す前にブルファンゴを20頭倒してしまったらクエストも終わってしまう。
「それが良いと思うニャ」
さて、ドスファンゴの位置は……ああ、このエリアに来てくれるのか。うん、有り難いです。てか、千里眼って便利だね。今作はどうにもモンスターを見失いやすいからなかなかに助かる。ペイントし忘れることも多いし。
「ご主人、来るニャ」
「うん、了解」
エリア5へと繫がる道から、ゆっくりと歩いて来たドスファンゴ。攻撃技は突進と振り払いだけ。けれども、それが強い。
初見は本当に苦労したなぁ……
そして、俺たちのことを見つけたドスファンゴが一気にこっちへ突進をしてきた。
それをサイドステップで躱し、ブーメランを2回当てる。ネコはとにかくサポゲを上げないと戦力にならない。ご主人がサクッとスタンを取ってくれれば楽だけど、初見だしそれは流石に難しいよなぁ。
「えっ? ちょ、ちょっと、動き速くないですか?」
わーわー、言いながら必死でドスファンゴの突進をローリングで躱すご主人。見ていてなんだか微笑ましい。
大丈夫。ハンマーでドスファンゴが相手ならひたすらスタンプを……あれ? ご主人のスタイルって確か、エリアルだったよね。エリアルだとスタンプが……
ああ、うん。
よ、よし、此処は俺が頑張ろう。
~語句説明~
読み飛ばしても問題ありません
~斬り方補正~
あまり知られていないことですが、モンハンにおいて剣士のモーションは「振り始め」「中間」「振り終わり」の3段階に分かれています
この中で「振り始め」と「振り終わり」の2つにはダメージが0.3~0.7倍になるマイナス補正がかかります
そしてその補正は斬れ味が“黄色”以下の場合で適用されます
斬れ味が緑以上の場合、斬り方補正はどの段階でヒットしても1.0倍となります
斬れ味が黄色以下の武器で攻撃した時、同じ部位でも弾かれたり弾かれなかったりするのは、この斬り方補正が原因だったりします
つまり武器の斬れ味は緑以上が望ましいねってことなのですが、MHXでは“鈍器”と呼ばれるスキルが追加されました
この鈍器スキルは斬れ味が悪ければ悪いほど攻撃力がアップするスキルです
斬れ味が橙以下となると攻撃力が30もアップする素敵なスキルではありますが、此処で前述の斬り方補正が関わってきます
鈍器スキルを発動させた場合、斬れ味が悪い方が良いのですが、斬れ味が黄色以下ですと斬り方補正が発生します
結果、鈍器スキルをつけても切れ味は黄色以下では逆に火力が落ちてしまうようなことも……
また、斬れ味が緑の武器は斬れ味が白の武器と比べて約0.8倍まで攻撃力が落ちてしまいます
そして、この差をひっくり返すのはかなり厳しいのが現状です
鈍器は魅力的なスキルですが、難しいものですね
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第4話~急には止まれません~
「うわっ、ちょ、ちょっと待って!」
そんな叫び声みたいものを落としつつ、ご主人がまたファンゴの突進を喰らって吹き飛ばされた。
むぅ、これはちょいとマズイことになっちゃったね。いくら初期防具とは言え、相手がドスファンゴだから流石に乙ることはないと思うけれど、ご主人がどうにも上手く戦えていない。
ドスファンゴの突進を一生懸命避けていたせいか、俺たちのことに気づいていなかったファンゴも含め、このエリアにいる全員が集合してしまっている。
俺が超音波笛の技を持っているから、やろうと思えばドスファンゴ以外全員を何処かへやることはできる。でも、できれば貫通ブーメランの技を発動させておきたいんです。アレを使わないと本当に火力が出ないし。
だから、ご主人。もう少しだけ頑張ってくれ。
「ああ、もう! 数が多すぎるよぉ」
ファンゴ自体は強くないし、ハンマーなら相性だって良い。でも、コイツらって集団で襲うと強いんだよなぁ……
あと、せめてご主人のスタイルがエリアル以外だったらもう少し楽だったと思う。スタンプを連打しているだけで良いのだし。
此方に向かって突進してきたブルファンゴを躱し、ソイツへブーメランを一発。其処で漸くサポートゲージを2まで貯めることができた。本当なら巨大ブーメランの技だって発動させておきたい。でも、今はそれよりも超音波笛が優先。
まぁ、とりあえずは貫通ブーメランの技だけど。そして、貯めたサポートゲージ2つを使い、貫通ブーメランの技を発動。これでようやっと戦力になるくらいの火力が出る。
お待たせしました。
最低限の準備が整ったところで、ご主人にご熱心なドスファンゴへ貫通するようになったブーメランを2発。ドスファンゴからのヘイトを溜めてご主人のサポートです。
ブーメランがドスファンゴへ当たると、多段ヒットのエフェクトが弾けた。貫通系の攻撃はこれが気持ち良い。
そんな攻撃を続けていると、ドスファンゴも流石に鬱陶しいと感じたのか此方を向いてくれた。順調順調。
「ネ、ネコさん! ちょっと回復するから頑張ってて!」
おう、任せろ。ちょっと頼りないかもしれないけれど、できるだけ頑張るから。その間、ご主人はしっかりと回復してくれ。
此方を狙っている相手はドスファンゴも含めて計3頭。ん~……最初にブルファンゴを倒しちゃった方が楽かな? サポゲの節約もできるし。
そう考え、ドスファンゴを視界の外へやらないよう立ち回り、ブルファンゴから倒すことに。剥ぎ取りの量は減ってしまうけれど、これは仕方無いと考えよう。
サイドステップで距離を取りつつ、貫通ブーメランをブルファンゴへ。弾ける多段ヒットエフェクト。これで打撃武器だったらスタンだって取れたんだけどなぁ……ホロロネコパラソルとか早く作りたいね。
愚痴だのなんだの溢しつつ、ブルファンゴへひたすらブーメラン攻撃。2頭目のブルファンゴも倒し、このエリアに残っているのはドスファンゴのみ。超音波は使わなくても済んだし、サポゲのたまり具合も順調。
うむうむ、ネコだって頑張ればできるやつなんだ。
「よっし、準備完了。ありがとうネコさん!」
さらに、ご主人も戻ってきてくれたらしい。どういたしまして。
ブーメラン2種を発動できているし、サポゲも十分。残る相手はドスファンゴのみ。さてさて、反撃開始といきましょうか。
「……なんか、思ったよりあっさりと倒せちゃったね」
「お疲れ様ニャ」
目の前には横に倒れ、動かなくなったドスファンゴの姿。
ご主人のスタンと乗り攻撃が良いタイミングで決まったこともあり、ドスファンゴのエリアチェンジはなし。それは、運が良かったと言うところ。
どうでも良いけど、ニャンターの状態でドスファンゴに乗ると面白いよね。今回はできなかったけれど、機会があれば挑戦してみたいところ。
それじゃ、剥ぎ取り剥ぎ取り。
ザザミ防具に必要で今回狙っているのは、獣骨が4つと大猪の皮が2つ。大変な量ではないし、多分このクエストだけで揃うはず。
「あっ、皮出た」
そりゃあ良かったよ。おめでとう。
「これであとはブルファンゴを倒すだけだね。それじゃ、あともう少し頑張ろっか!」
了解です。
今はベルナ村へ戻って冷たいビールを飲みたいところ。美味しくビールを飲むためにも、もう少し頑張ってみるとしよう。
ドスファンゴさえ倒してしまえば、後はもう危ないような敵もいない。鉱石系の採掘や、虫なんかの採取も行いつつ問題なくクエストは終了した。
少しだけ心配していた獣骨もちゃんと手に入れることができたし、今回の収穫は文句なしだ。
ただ、アレだね。最初に防具を作ってしまった方が良いと思っていたけれど、やっぱりご主人の武器を強化した方が良いかもしれない。なんとかクエストをクリアすることはできているものの、やっぱり火力が足りていない。ブルヘッドハンマーを作ると言うのも……ああ、でもアレの強化には蛙や雪獅子素材が必要か。
ん~……此処は一度、孤島の採取ツアーにでも行ってベアライト鉱石をサクッと取ってきてしまった方が良さそうだ。やること多いなぁ……
「ああ、疲れたぁ……」
ため息と共に、そんな言葉をご主人が落とした。お疲れ様。確かに面倒なクエストではあったけれど、収穫は十分だと思うよ。ファンゴ素材って色々な武器や防具に要求されるし。
「それにしても……ネコさんって上手いよね。倒れたところとか見たことないし」
いや、まぁ、だってネコだもん。スタミナは無限でハンターと比べて判定も小さい。そして使っている武器はブーメランと安全な場所から一方的に攻撃ができる。無茶さえしなければ、乙ることはほぼないと思う。
それに、自分で言っていて悲しくなるけど、今の俺ってチートみたいな存在ですし……
本当なら、貫通ブーメランの技を使うには、ナルガを倒す必要が。巨大ブーメランを使うにはドスゲネポスを倒す必要がある。そして、今の俺はそのモンスター達を倒していないのにも関わらず、それらの技を使いまくっている。この段階じゃ、貫通ブーメランだけでもかなりヤバい。
だから、今の状態の俺はかなり異常な方だろう。まぁ、レベルが低いから其処までぶっ壊れているわけでもないんだけどさ。
それでも、この段階にしては異常な強さなはず。
ただ、どんなに言ったところで俺はネコなんですなぁ……
「ご主人も直ぐに上手くなるから大丈夫ニャ」
「ふふ、そうなればいいね」
今はまだご主人の足を引っ張るほどではないと思う。でもそれは、このご主人がまだまだ新米のハンターだからと言うだけ。
一方俺はと言うと、サポート行動はもう揃ってしまっているからこれ以上の伸び代がほとんどない。そして技術的な成長ってのもほぼないだろう。だって俺、上手くないし……
だからこれから先の未来、ご主人がどんどんと上手くなっていく中、俺だけがその場へ取り残されてしまうことになる。ご主人がすごいハンターになってくれるのはもちろん嬉しいけれど、ちょっと複雑な気分。ネコじゃなく、ハンターだったらもう少しなんとかなったとは思うんだけどなぁ。ホント、辛いものです。
そんな俺がいつまでこのご主人と一緒にいられるのやら……
「迎えも来たみたいだし、帰ろうか」
「うニャ」
相変わらず悩みの多い人生ですよ。
我武者羅にハンマーを振り回しているくらいが俺には丁度良いんだけどねぇ。もう少し器用に生きることができれば、この人生も変わっていたのかな。
「ああ、そだ。これからの予定ってどうしたらいい?」
帰りの飛行船へ乗り込みながら、ご主人が俺に尋ねた。
「お酒が飲みたいニャ」
「ああ、うん。それは私も飲みたいけどそうじゃなくて、次はどんなクエストへ行けばいいのかな? ってこと」
それを悩んでいるんだよね。
多分、防具はザザミを一度倒せば必要な素材は集まるはず。そして、武器の強化素材も孤島へ一度行けば十分だろう。
「ご主人は、武器と防具どっちを作りたいかニャ?」
「えと……じゃあ、武器で」
了解。それじゃ、次は孤島へ行くとしようか。
こんなことになるのなら、ザザミやドスファンゴと戦う前に行っておけば良かったって思わなくもないけれど、まぁ、ふらふらと回り道をしながら進む人生だって悪くはないはず。
初めてこの世界へ来た時は、HRの飛び級なんかもして、かなりの駆け足となってしまったんだ。今回くらいはのんびりのんびりと行こうか。そっちの方がこのご主人にも合っていそうだし。
なんて言い訳してみたり。
この作品も長くなりそうです
と、言うことで第4話でした
前作と比べてかなりのんびりとした作品に……なるのかな?
またご主人さん視点を書いてみたいと思うところ
では、次話でお会いしましょう
~余談~
読まなくても問題ありません
今回は“属性ダメージ”について書かせていただきます
長いです
~属性ダメージ~
前作でダメージ計算について少し書きましたが、あの時は“物理ダメージ”のみを書いていたので、今回は“属性ダメージ”について書かせていただきます
モンハンでモンスターへ与えるダメージは……
(物理ダメージ+属性ダメージ)*全体防御率
で計算されます
物理ダメージは以前、書かせていただいたので、簡単にしか書きませんが
物理ダメージ=武器倍率*モーション値*斬れ味補正*会心補正*武器補正*物理肉質
と言った感じの計算です
一方、属性ダメージですが……
属性ダメージ=武器属性値*武器補正*耐属性*斬れ味補正*会心補正
と言った感じです
物理ダメージよりちょっと計算が楽ですね
各単語の説明ですが……
・武器属性値:各武器の属性値
・武器補正:大剣や弓などの溜め攻撃や双剣にかかります
・耐属性:攻撃を当てるモンスターの属性の通り具合。肉質の属性版
・斬れ味補正:物理ダメージとは違い、斬れ味緑が基準で白なら緑の1.125倍、赤なら0.25倍の補正がかかります。物理ダメージの補正と比べ上がり幅は大きくありません
・会心補正:スキル“属性改心”発動時のみかかります。また、武器によってかかる補正値は異なります
と、上記の値をかけ合せたものが属性ダメージとなり、計算するのは面倒なわけですが、物理ダメージと大きく異なるのが、属性ダメージには“モーション値”が関係しないと言うことです
つまり、ハンマーのホームランをモンスターへ当てたときと、ハンマーの横振りを当てたときの属性ダメージは変わりません
そう考えると、属性ダメージを増やすには、モーション値が低いだろうがなんだろうが、とにかく攻撃を当てまくるのが一番となります
スキルで属性強化をしまくってる片手や双剣は多いのに、属性強化盛り盛りの大剣やハンマーが少ないのはそんな理由だったりします
双剣の手数なら属性に極振りした方がダメージが出る気も……
属性値や耐属性の関係で属性ダメージは物理ダメージよりも出ないことも多いですが、ウラガンキンの破壊される前の顎や、銀レウスの破壊前の頭のように、物理ダメージは全然入らないけれど、属性ダメージならかなり入るモンスターもいます
はい、そんなところでしょうか
今回、伝えたかったのは、属性ダメージを出したいならとにかく手数を増やすのが一番と言ったところです
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第5話~集会所はまた今度~
「えと、じゃあ次は孤島の採取ツアーでいいんだよね?」
「うニャ。孤島ならベアライト鉱石が取れるはずだから、それでご主人の武器が強化できるニャ」
現在、やりたいことは新しい防具作成と武器の強化。どちらも一度クエストへ行けばできることだけど、ご主人も武器の強化がしたいと言うことで、まずは武器を強化することに。武器の斬れ味は緑まであった方が絶対に良いし、正しい選択だと思う。これでご主人の火力が一気に上がる。それで防具ができれば、もうあの四天王たちとだって戦えるくらいだと思う。
「ホント、ネコさんってなんでも知ってるね」
まぁ、MHXだってそれなりにはプレイしたもの……ただ、二つ名モンスター全てとは戦っていないし、触っていない武器もあるとか、やり残していることがあるんだよなぁ。それに、プレイ時間の半分くらいは火山で燃石炭を掘っていた気がする。そのせいでユクモ村の貢献度だけおかしかった。
流石にこの世界で金冠マラソンをしたりすることにはならないと思うから、できればもう少しやり込んでおきたかったな。技術的なことがさっぱりな俺には知識や経験を溜め込んでカバーするしかないのだから。
「ん~……採取ツアーかぁ。なんて言うか最初にネコさんと会った時のこと思い出すよ」
ご主人と初めて一緒に行ったクエストは……ああ、特産ゼンマイの採取だったかな。初めてのクエストと言うこともあってか、緊張でガチガチになっていたご主人は見ていてなかなか面白かった。俺も俺で、いきなりネコになっていたものだから、かなり混乱していたし。
そんな俺もご主人もまだまだ新米。ただ、あの頃よりも多少マシにはなっているのかなって思うんだ。道のりはまだまだ長いし、ゴールなんて全く見えない。それでも、ちゃんと進めているはず。
「それじゃ、サクッと素材を集めてくるニャ!」
「うん、そうだね。頑張っていこー」
必要なベアライト鉱石数はたったひとつ。採掘できる箇所は沢山あるし、出ないと言うこともない。大型モンスターの乱入もないから、のんびり採取に専念するとしよう。
「そう言えば、ご主人のHRっていくつなのニャ?」
孤島へ着き、早速エリア1の採取ポイントで採掘。
そんなことをしながら、ご主人に聞いてみた。ご主人のため素材集め、頑張ります。
「そりゃあ、HR1だよ。だってHRを上げるには、龍歴院経由で依頼されたクエストをクリアしないといけないんだもん」
ふむ、やはりHRは1のままなのか。そして、龍歴院経由のクエストねぇ。俺がモンハンの世界へいた時は集会所のクエストのみで、村クエをやることはなかった。つまり、集会所クエストのみ縛りと言った感じ。でも、今回はその逆のパターンってことなのかな。
そうなると、村クエの終盤にある上位レベルのクエストはかなり苦労することになりそうだ。正直、集会所縛りよりもよっぽど難易度が高い。素材とかどうやって集めれば良いのやら……流石に下位武器、下位防具じゃ厳しいぞ。
「でも、一応私だって龍歴院に所属するハンターだから龍歴院のクエストを受けることはできるはずだよ」
うん? そうなの? てっきり龍歴院から頼まれない限りクエストを受注できないのかと思ってた。
「じゃあ、どうしてご主人は龍歴院のクエストを受けないのニャ?」
あっ、やた。ベアライト鉱石が出た。
うむ、これでご主人の武器が強化できるぞ。確か、次の強化にはドラグライト鉱石が必要で、下位の状態だとアレは火山でしか出なかったはず。だからベルダーハンマー4には長い間お世話になりそうだ。
って、あら? ご主人の手が止まっているけど、どうしたのだろうか。もしかして持ってきたピッケルが全て壊れたのか?
「い、いや。だって……龍歴院のクエストってひとりじゃ難しいって聞いてるし、一緒に戦ってくれって他のハンターさんに声かける勇気ないし……」
……ああ、うん。なるほど。それなら仕方無いね。ま、まぁ、アレだ。頑張れご主人。超頑張れご主人。
何と言うか、ご主人のその理由ってゲームでもよくあるよね……ようはアレでしょ? 一緒に遊んでくれる友達もいないし、見ず知らずの人間と一緒に……いや、うん。この話はやめておこう。無理に傷を抉る必要はないのだから。
「ご、ご主人にはボクがいるから大丈夫ニャ!」
なんとかご主人を励ましてあげたいところだけど、俺にはこれくらいしかできません。ただ、このご主人だって上手くなってきているとは思う。だから、集会所クエストだってクリアすることはできると思うが……まぁ、そこはご主人の気持ち次第か。いつかの相棒みたく、急に進み過ぎたら戸惑うことだってあるのだ。
その相棒も、今じゃ超有名なハンターだと言うのだから分からないものなんだけどさ。
「……うん、ありがとう。いつも助かってるよ」
俺の言葉にご主人はそう言ってから笑ってくれた。
このモンハンの世界へ来た時、今までずっと自分のために頑張ってきた。だから、今回くらいは他人のために頑張ってみよう。この小さな身体にできることは少ないけれど、きっとできることはあるはずだから。
必要な鉱石も早々に集まり、残った時間は虫やキノコ、鉱石の採取と魚釣りを行った。今作のモンハンでは装備の強化に虫やら鉱石やらを結構使うから、できるだけこまめに採取しておきたい。魚釣りは小金魚や黄金魚狙いです。お金はあって困るものじゃないし。
「アイテムポーチもいっぱいになっちゃったし、そろそろ帰ろっか」
「うニャ」
俺が集めた分のアイテムも合わせればかなりの数となるはず。今日は大収穫です。これで、武器の強化ができるはず。それで次は防具の作成、と。
比べたって仕方無い気がするけど、あの相棒と比べて、このご主人はかなり順調だ。だって、アイツと初めて行ったクエストでは、2乙してくれたし。一方、このご主人はまだ0乙。そして、防具が完成すればさらに乙り難くなる。
……あれ? もしかしてこのご主人ってかなり上手い? いや、まぁ、そのことに文句はないけど。
「これで武器が強化できるんだっけ?」
「そのはずニャ」
飛行船へも乗り込み、後は帰るだけ。アイテム整理をしたら今日もお酒をいただくとしよう。あのチーズファウンテンとお酒は良く合うのです。猫はイカやエビなんかを食べれば中毒を起こすはずだけど、そんなこともなく、人間の時と同じように美味しくいただける。まぁ、“猫”じゃなくて“ネコ”だし、色々と違うのだろう。
「じゃあ、武器を強化している間、暇になっちゃうね。ネコさんは何か予定とかある?」
ん~……どうしようかな。武器が完成するまで2日ほどはかかるだろう。その間、ご主人は武器がないからクエストへ行けないが、俺は別。前回ご主人が武器を強化していた時も、俺はネコ専用のクエストとかやってたし。
今回もまたネコ専用のクエストをやっていても良いんだけど、あのクエストって採取クエストばかりで正直、物足りないんだよね……だから本当は大型種と戦いたいところだけど、ご主人を置いてそれもなぁなんて思うのですよ。
ふむ、それなら仕方無い。また採取系のクエストを進めておこう。此処で頑張っておけば、いつかレウスとかを任せてもらえるようになるかもしれない。
「ボクはまたネコ専用のクエストをやってるニャ」
「ふふ、了解。頑張ってね」
おう、頑張るよ。できれば、例えご主人が有名なハンターとなっても、それに恥じないようなオトモとなりたい。
だから捨てないでもらえると嬉しいです。と言うのが本音。
さて、武器が完成するまで2日ほど。
そして、久しぶりのソロプレイだ。たぶん、難しいクエストはないと思うけれど、思う存分楽しませてもらうとしよう。
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第閑話~いつかの思い出~
主人公がモンハンの世界へ行く前のお話です
本編とは関係ありません
笛の彼女と主人公がただただMHXを遊んでいるだけのお話となります
「……むぅ、また最小が出なかった」
時刻はそろそろ日付が変わるくらいと言ったところ。
もうそんな遅い時間だと言うのに、例のごとく、俺の部屋で彼女とモンハンを続けていた。多分、今日も朝になるまで続けることになりそうだ。明日も休みだから、別に遅くまでやっていても問題はないけれど、徹夜はやはり辛い。
「ん~……2体同時より、獰猛化クエの方が良いのかな。どうする? 息抜きに違うモンスターでも狩る?」
「こっちのが効率は良いと思うけど……うーん、もう少し頑張る」
現在はケチャワチャの最小金冠を目指してひたすらマラソン中。クエスト名は『超☆メモ帳~奇猿狐狩猟編~』と、遺跡平原でケチャワチャを2頭倒すクエスト。
……しっかし、アレだね。我らの団のお嬢はやっぱり好きになれない。別に嫌いだとかは思わないけれど、流石にキャラが濃すぎると思うんだ。チラリと見える太ももは良いけど、あの性格がなぁ……
やっぱり受付嬢の中ではモガ村のアイシャが一番好きです。今作でもルームサービスは彼女にやってもらっているし。因みに、我らの団のお嬢の名前はソフィアらしいよ。
さて、そんな余談は良いとして、問題なのはケチャワチャなんですよ。いや、別にケチャワチャが強くて困るとかそう言うことじゃなくて、むしろケチャワチャは強くない方だし。MHXになって少し強くなったとは思うけれど、問題になるほどじゃない。
2頭同時クエストで、これならサクッと集まるだろうと思っていたけれど、どうしてなのやら小さいのが全然出てくれない。まぁ、まだ100頭も討伐していないのだし、文句を言えるような状況ではないけど。文句を言って良いのは250頭倒してからだと思っている。
「このクエストって本当に最小出る?」
「金冠wikiには確認報告があったはずだよ」
嘘だったら絶対に許さないが。
流石にもうケチャワチャ素材はいらないし、これでこのクエストでは最小が出ないとなると、この数時間が無駄になる。
「わかった。頑張る」
彼女が今、使っている武器は笛じゃなく、双剣。
最初は彼女が笛で、俺がハンマーを使っていたけれど、それを数回やったところでお互いに満足しました。俺も今はハンマーじゃなく、弓を使っています。装填特射凄烈弓超強い。今作の壊れ武器筆頭だと思う。単純な物理火力も恐ろしいけれど、属性値もぶっ飛んでる。そして、ソレを一気に最大まで溜めることのできるブシドースタイルがさらにブースト。スロットも2で入れられる瓶も優秀。正直、調整ミスとしか思えない。
「これの金冠が出たら、次は何やる?」
二頭が合流しないよう、一人が一頭を担当し別々にわかれての狩猟。それでも、スタート位置が悪いと合流されちゃうんだけどさ。モンスターの目の前から始まる猫飯スキルとかあれば良いのにね。
「やりたいのは特にないけど……貴方は何かある?」
やりたいものねぇ。何かあるだろうか。
正直、同じモンスターをひたすら狩り続けるのは精神的によろしくない。だから、本当なら金冠が出ていないモンスターを順々にやっていけば良いのだけど、一々装備を変えるのもなぁと言ったところ。
「ああ、じゃあ二つ名モンスターでも適当にやろっか」
「……了解」
まだ戦っていない二つ名モンスターは沢山いる。情報はほとんど調べていないし、戦うのが楽しみだ。二つ名レウスなんかはすごく強いと聞いている。二つ名ナルガとかも戦っていて楽しかったし。
「っと、よし。討伐完了。そっちはどんな感じ?」
「もう直ぐ倒せると思う」
なんて彼女が言った瞬間、討伐完了の知らせが出た。
う~ん、やはり双剣も強いな。確かに、今回は俺の立ち回りもまずかった。それでも、これはなかなかのタイム。炎と雷は組んであるけど、他の属性も防具を組んでみようかな。
ああ、そうだ。肉を焼くのを忘れていた。弓を使っているせいで、強走薬の減りがヤバいんです。本当は強走薬グレートを使いたいけれど、どうにももったいなくて……
「キノコ大好きでも入れれば?」
俺が肉を焼いている場所へ大樽Gを置くと言う、なんとも鬱陶しいことをしながら彼女が言った。音楽でタイミングはわかるけれど邪魔です。退かして……コラ、爆発させてって意味じゃなくて……ああ、もう吹き飛んじゃったじゃん。暇なのはわかるけど、もう少し落ち着きなさいよ。
「空きがないです」
5スロスキルの特定射撃強化を抜けば入れられるけど、それを抜くことは流石にできない。まだ集中を抜いた方が火力は出そうだ。
「……火力厨」
失礼な。別にそこまでこだわってはいません。防具の見た目とかちゃんとこだわってます。本当なら弾薬節約がつくけど、見た目が終わってたから削ったりしてるんです。
それに、ほら。キノコ大好きは確かに便利だけど、強走薬を飲めば問題ないから別に良いんだ。強走薬だってクエストが終わってからの1分間に肉を焼けば良いだけだし。
因みに彼女はキノコ大好きがついていたりします。双剣も弓と同じように強走薬が必要な武器。ただ、弓と違って欲しい5スロスキルってあまりないよね。エリアルなら飛燕とかがほしいけど、彼女ブシドーだし、別にキノコ大好きでも良いと思う。そもそも他人のスキルに色々言うようなことはしません。ゲームなのだし、やっぱり自分の好きなようにやりたいよね。流石にそれは……ってのがあったら言うとは思うけど。
さて、今回の敵も別に小さくは見えなかったし、どうせダメなんだろうなぁ。
なんてことを思いながら、報酬などを受け取りサイズの更新を願っていたけれど、予想通りサイズの更新はなし。
なかなか出ないものだねぇ。
「……違うのやろ」
うん、俺も良い加減違うモンスターと戦いたいです。
「了解。何やる?」
「二つ名クマと戦ってみたい」
そう言えば、クマも二つ名がいるんだったね。あのクマが強くなるところとか想像できないけれど……どうなのだろうか? ただ、クマは頭に攻撃が届かないから苦手です。まぁ、最初だしハンマーで行くけど。弱特発動する部位があると嬉しいが。
「あいよ。じゃあ、クマさん行くか」
「うん」
そんなことで、戦う相手は二つ名クマさんこと、紅兜アオアシラに決定。普通のクマさんはちょっと可哀想になるくらいの弱さだけど、二つ名はどうなのやら。
マップは孤島。エリアは2。その場所が二つ名クマさんの初期位置だった。
そしてクマさんの見た目だけど――
「……アカアシラ?」
アオアシラです。
いや、まぁ、彼女の気持ちもわかる。“紅兜”なんて言う名前だし、紅いだろうとは思っていたけれど、こんな感じになるとは思っていなかった。てか、何その見た目。マジ怖いんですけど。あの可愛らしかったお前は何処へ行ったんだ。
う~ん、随分とゴツイ見た目になっちゃったな。とは言え、二つ名クマは最初に戦える二つ名モンスター。だからそんなに強くはないはず。
とりあえず、ハンマーを溜めながら近づき、挨拶変わりのスタンプをぶち込もう。
近づいて来た俺たちに気づき、此方を向くクマさん。其処へ最大まで溜めたハンマーを……
「おお……クマが吠えた」
振り下ろそうとしたところで、クマさんの咆哮が響き、耳を塞いでしまった。
いや、これは聞いてない。初見殺しも良いところだ。
そして、長い戦いが始まった。
彼女の武器は先程と同じ、属性特化炎双剣。俺は弱特超会心ナルガハンマーとどちらも決して弱い装備ではない。弱い装備ではないと言うのに……
「うわっ、コイツ魚飛ばして来たぞ」
「腕を振ると風圧が……ぐぅれいとじゃない……」
このクマさんったら超強いのね。
バインドボイスに風圧。さらに地面まで揺らしてくる。そして何より、肉質が滅茶苦茶堅いらしい。後で調べてわかったけど、打撃とガンナーは弱特が発動する部位が何処にもなかった。んで、属性耐性も割とおかしいレベルで高い。此処までの肉質だと毒武器や爆破武器、あとは水爆なんかで戦う方が良いかもしれない。
結局、HRの上限開放済みの二人で戦って15分針近くもの時間がかかった。所詮クマさんだと思って完全に油断してました。怒り時の火力もなかなかだったし、二つ名クマのレベル10はなかなかに苦労しそうだ。
てか、このクマさんとはHR2の段階から戦えるわけだけど、そんな時に戦って勝てるのか? どう考えても火力が足りないと思う。
まぁ、二つ名クマさんは防具も武器もイマイチだし、人気はないんだろうなぁ。
「……強かった」
「いや、アレはちょっとやりすぎだろ。ソロじゃ戦いたくもないぞ」
ただ、良い息抜きにはなったと思う。今まで弱いと思っていたモンスターにボコボコにされるのはなかなか面白い。二つ名ディノや二つ名ナルガとかも良いよね。通常種と同じ避け方をしたら、逆に攻撃を喰らってしまうような動きをしてくれるし。全てのモンスターに対して全部同じ動きをしているだけじゃあ、つまらないのだから。
さて、これでクマさんも倒してしまったわけだけど……
「次、どうする?」
「うー……ケチャで……」
いや、そんな嫌なら別にやらなくても……
まぁ、いつかはやらなきゃいけなくなるんだろうけど。
はぁ、サクッと出てくれないものかねぇ? リタマラは性格的に合わないし、ただただそれだけを願います。
「……もし」
「うん?」
次は俺も双剣で行ってみようかな。なんて考えていると彼女が声をかけてきた。
「もし、もう一度あの世界へ行けたら、何をしたい?」
あの世界……それはつまり、モンハンの世界ってことだと思う。
俺と彼女は2回あの世界へ行っている。1度目はダラ・アマデュラを倒したところで。2度目は、ゴグマジオスを倒したところでまた元の世界へ。
どうやったらあの世界へ行けて、どうしてあの世界へ行くことができたのかはわからない。ただ、こうやって遊んでいるゲームの世界へ行けるのは楽しかったと思う。
できれば、また行きたいかな。
「そうだなぁ。そろそろハンマーもアレだし、次はネコとか良いかもしれないな」
「貴方には似合わない」
ですよねー。それくらい分かっています。
「やっぱりハンマーを使いたいよ。それくらいにはこの武器が好きだし。君は?」
「私は……うん、私も笛を使うと思う」
まぁ、そんなものだよね。
自分の使っている武器が強くないのは分かっている。けれども、好きな武器がハンマーってことには変わらない。
だから、もしまたあの世界へ行けたとしても、俺はハンマーを担ぐだろう。
それこそ、ネコにでもならない限り。
そう思うんだ。
「ただ……もし、あの世界へ行けたとしてもやっぱり貴方と一緒がいい」
……え、えと。あ、ありがとうございます。
相変わらず彼女が何を考えているのかわかりにくい。それでも、ちゃんと俺のことを想ってくれていることはわかるから、それが嬉しかった。
いや、滅茶苦茶恥ずかしいんだけどさ。
「うん。俺もできれば君と一緒に行きたいかな」
俺がそう言うと、彼女は可愛らしく笑ってくれた。
あの世界かぁ……多分、次に行けるとしたらMHXの世界なんだろうけれど、どんな感じなんだろうね? あの相棒や弓ちゃんは今でも元気でいるだろうか。
考えたって仕方無いことだけど、もう一度彼女たちとは会いたいって思ってしまいます。前回もまた中途半端に別れてしまったわけだし……
まぁ、いつあの世界へ行っても良いように、ちゃんと知識も溜めておこうかな。相棒さんとか滅茶苦茶上手くなっちゃったし、もうサポートくらいしかできないだろうけど、できることはやっておきたいのです。
うん……また皆で一緒にわいわいしながら狩りをする日が来ると良いね。
そう思います。
と、言うことで第閑話でした
これから先、笛さんの出番がないような気がしたので、ちょこっと登場させてみました
そんな本編が始まる前のお話です
それでは次話でお会いしましょう
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第6話~ネコまっしぐら~
「ボクはクエストに行ってくるから、ご主人はゆっくり休むと良いニャ」
「うん、わかった。ネコさんだし大丈夫だとは思うけれど、気をつけてね」
ご主人の武器を強化するため、孤島の採取ツアーへ行った次の日。素材も集まり、無事ご主人の武器が強化できるようになったわけだけど、予想通り武器の強化には時間がかかった。
武器が完成するのは明日の夕方。その間、ご主人は武器がないからクエストへ行くことはできない。けれども、俺は武器もあるわけだから、クエストへ行くことができる。
そんなわけで、今日は俺ひとりでクエスト行ってきます。
「うニャ。気をつけるニャ」
俺がそう応えると、ご主人は優しく笑ってくれた。……ホント、良い人だと思う。少なくとも、仕える相手がこのご主人で良かったと思えるのだから。
まぁ、とは言っても、今回やるクエストはネコ専用のそれもかなり序盤のクエスト。正直、乙る方が難しいレベルじゃないだろうか。クエスト内容を聞いてみないとわからないけれど、この段階じゃ採取クエストくらいしかなかったと思う。
「それじゃ、行ってくるニャ」
「ふふ、いってらっしゃい」
さて、久しぶりのソロクエストだ。
「あっ、こんにちは、ネコちゃん! 今日はハンターさんと一緒じゃなくて、ひとりみたいだけど、どうしたの?」
ご主人と別れ、ベルナ村の受付嬢の元へ。見た目的には集会所の受付嬢の方が好きだけど、性格はこの受付嬢の方が好きだったりします。まぁ、それでも一番はアイシャだけど。
「今日はボクひとりでクエストを受注しに来たニャ」
「ふふっ、そうだったんだ。ちょっと待ってね、ネコちゃん専用のクエストは……ああ、あった! えと、『古代林のキノコ生態調査』って言うクエストがあるけど、受けてみる?」
ん~、クエストの内容的に特産キノコか深層シメジの納品クエストだよな。深層シメジの取れる場所は奥の方だからちょっと面倒だけど、苦労するようなクエストじゃなさそうだ。
「クエストの内容はどんなものニャ?」
「えとね、深層シメジを8個の納品だって」
残念。深層シメジの方だったか。まぁ、別に急いでいるわけでもないのだし、ゆっくりとやっていこうか。久しぶりにエリア10にいるシェンガオレンとかもみたいし。
しかし、どうしてあんな場所にシェンガオレンがいるんだろうね。最初に見つけたときは滅茶苦茶驚いた。もしかしたら裏ボスで出るんじゃないかとか思ったもの。まぁ、シェンガオレンとは戦ってみたいけど、数回戦えば満足しそうだ。戦い方がワンパターンなこともあって直ぐに飽きるんだよね……
「ソレをお願いするニャ」
「はーい。わかりました。それじゃ、いってらっしゃ~い! がんばってね」
了解です。まぁ、のんびりとやってきます。
う~ん、絶対に時間も余るだろうし、此処はご主人のために素材とかお金を集めておこうかな。ザザミを倒したら直ぐに防具を作るだろうし、その時にお金が足りなかったら悲しいもんね。
ネコと言うこともあり、アイテム整理もいらないし、持っていくものも何もない。一応、爪護符の効果は乗るけれど、そんなもの持ってないです。
そんなわけで、飯も含めクエストへ行く準備は早々に終わり、直ぐに古代林へ向けて出発。古代林は大きな島にあるため、飛行船ができるまで調査ができなかった。だから、色々と分からないことが多いと聞いている。
とは言え、ベルナ村から古代林はかなり近く、また馬車じゃなく飛行船で移動することもあって、移動時間もそれほどかからない。だから、上手く行けば一日で2回クエストを受けることだってできるかも。まぁ、流石に止められると思うけど。古代林のクエストを受けるのは俺たちだけじゃないのだから。ただ、村クエだったり集会所だったりと、色々な場所からクエストを受けることができるのだし、その辺を管理しているギルドも大変そうだ。
「っしゃ、それじゃ行くか!」
支給品ボックスから取り出す物もないから直ぐに出発。その前に大きな声をひとつ。今回はひとりと言うことで、語尾に“ニャ”とかはつけません。
ただ、アレだね。今までずっとニャーニャー言っていたせいで、違和感がすごい。慣れとは怖いものだ。
さてさて、そんなことは良いとして、とりあえずサクッと深層シメジを集めるとしようか。素材集めなんかはその後にしよう。
深層シメジを採取できる場所は古代林のエリア9、10、11と奥の3エリアのみ。古代林は戦いやすいエリアが多いし、好きなマップだけど奥のエリアへ行くのが時間かかるんだよね。近道のひとつでもあれば良かったのに。
まぁ、そんな文句を落としたところで仕方無い。今は他にやらなきゃいけないことがあるのだから。
……そんな久しぶりのソロクエスト。そのことで舞い上がっていたのだかなんだか知らないが、その時の俺は気づかなかった。千里眼効果が教えてくれていたエリア2にいる大型種の存在に。
エリア1でリモセトスやオオサンショウウオみたいな生き物、そして水中を泳ぐ謎の生物などを横目に、奥のエリアを目指してダッシュ。うむうむ、古代林のエリアは好きだ。見るものが沢山あってただフラフラするだけでも面白いよね。
ネコのスタミナは無限と言うこともあってか、思っていたよりも奥へ行く時間はかからないかもしれない。やっぱり採取系のクエストはネコの方が楽かもね。問題があるとしたらモドリ玉を使えないことくらいだろうか。
そんなことを考えつつ、エリア1を抜け、エリア2へ入った時だった。
「いや……これは驚いたな」
そんな予感なんて何もなかった。
そもそもこのクエストに乱入はないはずだし、乱入だとしても出現が早すぎる。と、なると、コイツは最初から此処にいたのだろう。確かに、ゲーム中でもいきなりコイツと出会うことはあった。所謂、トラウマクエスト的な感じで。しかし、それとも今回は状況が違う。いや、だってネコ専用クエストでこれは流石にやらないだろ。ようは、ギルドの手違いと言ったところか。
重厚な紅蓮の甲殻。荒々しさを感じる顔。そして、何よりも特徴的なのは蒼く染まった身体の半分ほどにもなる巨大な尾。
つまり――斬竜ディノバルドがそこにいた。
まさかこんなことになるとはねぇ。
まだ此方には気づいていないみたいだが、さてどうするか。
……戦うか? いやいや、流石に無理だって。此方はネコでしかも武器も防具もマッカォ。どう考えたって、攻撃力と防御力が足りない。即乙だって考えられるし、ノーダメでもクエスト時間以内にクリアできるのかも怪しい。でも、戦って……いや、落ち着きなさいよ。此処で戦ったところで何のメリットもない。いくら失うものが少ないとしても、戦うのはマズイ。観測船だってこの状況を見ているだろうし、ギルド側のことを考えると、直ぐにリタイアした方が良いくらいだ。リタイアしないとしても、このエリアは無視して、エリア6経由で奥のエリアを目指せば良い。千里眼があるから帰りだって道を選べば安全に……だから落ちつけよ。こればっかりは勝てる相手じゃないだろッ!
……ただ――きっとこんなチャンスは二度とない。
確かに、武器と防具は弱いものだし、俺のレベルだって低い。でも、スキルとサポート行動は最終系。そして、今はソロ。迷惑をかけてしまう仲間もいない。
ああ、うん。これはもう止められないかな。
……ホント、いつになっても成長しないことで。
バカだよなぁ。自分でもそう思うくらい。
リタイアするか、このディノなんて無視してさっさと奥へ行き、深層シメジを集めるか。それが絶対に正しい判断。
でもさ、やっぱり思ってしまうのですよ。
――より強い敵と戦いたいって。
勝てるわけない相手だってことくらいわかっている。それでも、抗ってみたいじゃないか。自分の限界へ挑戦してみたいじゃないか。
帰ったらきっと色々な人から怒られるかもしれない。どうして無茶したんだって。それでも、この性格ばかりは治ってくれやしないんだ。
目を閉じ、ふっと息を短く吐き出す。
そうしてからゆっくりと目を開けた。見えてきたその世界に色はもうない。
その白黒の世界で、背中へ担いでいたブーメランを手に取り力を込めた。
この小さな身体に何ができるのかなんて知らない。それでも、せっかく訪れたこのチャンスを逃したくはない。
ようやっと此方に気づいたディノバルド。その顔面に向かってブーメランを投げつけた。
そんじゃ、ひと狩りいきますか。
ディノさんの乱入と言えば、村クエの波乱の萌芽ですよね
きっと何人ものハンターさんがあのディノさんに挑んだことでしょう
私もデスルーラ用のタクシーとして使わせてもらいました
さて、その波乱の萌芽ディノさんですが、通常よりも体力が2~3倍らしいです
まぁ、このお話のディノさんは普通のディノさんだと思いますが
では、次話でお会いしましょう
~余談~
ロケハンがてら……
レベル:26
サポート傾向:アシスト
装備:下位ドスマッカォ防具、下位ドスマッカォ武器
スキル:遠隔強化、ブーメラン上手、会心強化【大】
サポート行動:貫通ブーメラン、巨大ブーメラン、緊急撤退
のネコさんで村クエディノと戦ってみました
結果ですが……うん、まぁ、そうなるよねって感じです
気になる方は是非試してみてください
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第7話~再会~
「んしょと。運転お疲れ様。ありがとね」
飛行船で此処まで運んでくれたネコちゃんにお礼の言葉をひとつ。そんな言葉を落とすと、ネコちゃんがペコリとお辞儀をしてくれた。
今までの移動はほとんど全部が馬車での移動だったから、飛行船での移動には慣れていなかったけど、これもまたいいものだね。ただ、できれば弓ちゃんも一緒に来て欲しかったんだけどなぁ。
まぁ、あの子はユクモ村でやらなきゃいけないことがあるみたいだし、仕方無いんだけどさ。
「おや、アンタが大老殿から派遣されたハンターかい? 噂には聞いていたけど、本当に若いんだねぇ。あたしは此処、龍歴院でギルドマネージャーをやっている者だよ」
えと、この後はどうすればいいのかな? なんて思っていると年配の女性から声をかけられた。ああ、貴方がギルドマネージャーでしたか。何と言うか、ちょっと怖そうですね。
てか、此処まで私たちの噂は届いているんだ……やりにくいなぁ。
「あっ、はい。そのはずです」
「なんとも頼りなさそうだけど……まぁ、いいさ。実力は確かなものだろうし」
そうでもないんですなぁ。確かに私たちのパーティーは強かったと思うし、多くの古龍だって倒してきた。でも、それはあの
まぁ、そんなことを言うと、謙虚だね。とか言われてまた持ち上げられるから言わないけどさ。
「えと、それで私は何をすれば? 凶暴なモンスターが現れたと聞いていますが」
私が此処、龍歴院へ来た理由はソレ。なんでも最近になって凶暴なモンスターが現れたから、どうにかしてくれと、私へお願いが来た。大老殿の方は私が抜けても十分回せるくらいのハンターがいるから、じゃあと思ってソレを引き受けることに。正直、自信はない。活動するギルドが違うからってことで、武器や防具もいつもと違うのだし……大丈夫かなぁ。
「古代林にね、ディノバルドって言うモンスターが現れたんだよ。ディノバルドがいたんじゃあ、研究員達の研究だって進まない。だからアンタにはソイツの狩猟を頼みたいんだ」
ディノバルド……一応、噂くらいなら聞いているけど、確かすごく強いモンスターだったよね。それを私ひとりでかぁ。やっぱり無理言ってでも弓ちゃんを連れてきた方が良かったかも……
「はい、わかりました。できるだけ頑張ってみます」
心配だらけではあるけれど、頼まれたのだから頑張らないと。今はあの二人がいないのだから。
「さて、あたしからは以上だよ。残りはクエストカウンターにいる嬢ちゃんから聞いておくれ。アンタの活躍期待しているからね」
……はい、頑張ります。
ギルドマネージャーから言われたようにクエストカウンターへ。たまには遊んで来いってことで、一週間くらいの時間をもらっているけど、困っている人もいるからクエストは早めにやっておきたい。それが終わったら私も弓ちゃんのいるユクモ村へ行こうかな。温泉が有名だって聞いているし。
「あの、大老殿から来たんだけど、クエストを受注してもいいかな?」
クエストカウンターには、同じ服装の女性が二人と大きな本を背負ったネコちゃんがいた。
この場所も集会所だと思うけど、大老殿やバルバレと比べてハンターの数はかなり少ない。私がいた場所はいつもうるさいくらいだったから、何とも新鮮な感じ。
「あっ、はい。お話は聞いています。お待ちしておりました」
茶色がかった髪の女性はそう言った。
「え? え? も、もしかして、貴女が噂のハンターさんですか!?」
一方、金色の髪をした女性はそう言い、いきなり手を握られた。
はい、多分その噂のハンターです。ただ、私はそんなすごいハンターじゃないんだけどなぁ……
「こら、やめなさい。ハンターさんも困っているじゃない」
「あっ、すみません。つい……」
大丈夫です。これくらいは気にしないし、もう慣れているから。本当はもう少し静かに暮らしたいところなんだけどさ。
「ううん、気にしてないから大丈夫だよ。えと、それでクエストは……」
「はい、ハンターさんにはディノバルドの狩猟をお願いします。非常に凶悪なモンスターですが、ハンターさんならきっと大丈夫だと信じています」
むぅ、なんともやりにくい……ホント、どうしてこんなに有名になっちゃったんだろうね? 2年前は大型モンスターなんてひとりじゃどう仕様も無いようなハンターだったのに。
噂ばかりが一人歩きして、私はどんどんと置いていかれる。あの二人はまた消えちゃったし、ホント上手くいかないことばかりです。
「うん、わかった。それじゃあ、そのクエストをお願い」
「はい、それではお気を付けて」
こりゃあ、本当に失敗できませんなぁ。初見モンスターだって言うのに、大変なことになっている。ホント、有名になったって良いことが何もない。
「……あれ? そ、そのクエストってもしかして古代林?」
少しばかり慌てた様子の金色髪の女性。どうかしたのかな。
「ええ、そうだけど……何か問題があるの?」
「え、えと……さっき、古代林にネコちゃんが一匹で出発したばかりなんだけど……」
ん~……どう言うことだろう。ネコちゃんって、アイルーのことだよね。この地方ではネコちゃんだけでクエストへ行くのかな?
「えっ? 嘘。それはマズイわよ。だって今の古代林にはディノバルドが……それにそのネコってあのハンターさんのネコよね? 今から引き返すこともできないし……」
どうにもマズイようだけど、私にはよくわかりません。
多分、ネコちゃんがクエストへ行ったのは良いけど、其処にはディノバルドがいて、そのネコちゃんの実力じゃ危ないってことかな。ギルドも大変だなぁ。
「よくわかんないけど……直ぐに私が行くよ? 其処でそのネコちゃんとも合流すれば大丈夫じゃない?」
どの道、ディノバルドを倒さないといけないのには変わらない。ネコちゃんを探すのには苦労しそうだけど、まぁ、探せばきっと見つかる。
「ホント!? それじゃあ、お願いします! ネコちゃんは深層シメジを取っているはずだから、9、10、11とか奥のエリアにいると思うわ! 多分、ディノバルドのことが怖くて震えていると思うの。どうか助けてあげて」
そうだよねぇ。ネコちゃんたちにとって大型モンスターなんてすごく怖いだろうし。うん、了解。きっと助けてみる。
さてさて、ゆっくりしている時間もなくなっちゃったし、急いで向かうとしよう。それじゃ、ひと狩り行くとしようか。
現在、私が装備しているのはジンオウガ防具に、エイムofトリック2とどちらも下位の装備。今まで装備していたのはG級の装備だったからそれと比べると、やっぱり心もとない。まぁ、ギルドが違うのだし、それも仕方無いのかな。
龍歴院を出発して、目的地である古代林には直ぐに到着。緊急事態でもあるから、かなり急いでくれたみたい。ネコちゃんが無事でいてくれれば良いけど。
支給品ボックスから地図を取り出して、エリアを確認。あの金色髪の女性曰く、ネコちゃんはエリア9、10、11にいるんだっけかな。むぅ、ベースキャンプから結構遠い。古代林に来るのはこれが初めてだし、大変そうだ。
とりあえず、ネコちゃんと合流しよう。それで、ネコちゃんを安全なベースキャンプまで送って、ディノバルドはその後かな。はぁ……クエストの終了時間までに倒せるかなぁ。
そんな文句を言っている時間も惜しいから直ぐに出発。奥のエリアを目指す途中で、ディノバルドを見つけたらペイントをしておこう。初めてのマップで初めて戦う相手。できることは全部やっておきたい。
「よしっ! 行きます!」
いつも通り、大きな声を出して気合を入れる。それはあの彼がいつもやっていた行動。そのはずなのに、今では私にすっかりと染み付いてしまった。
……またいつか、会える日が来るといいんだけどなぁ。
ベースキャンプを抜けた先のエリア1には、確かリモセトスとか言う名前の大きな草食竜の姿があったり、今までのマップとは雰囲気が全然違うこともあって、少しばかりテンションが上がった。本当ならもっとゆっくりしていたいけれど、今ばかりは急ぐ必要がある。
そして、エリア2へ到着。そのエリア2で直ぐにディノバルドだと思われるモンスターを見つけた。
ただ、アレです。ちょっとディノバルドの様子がおかしいんです。
普通のモンスターは、ハンターに気づかない限り暴れたりすることがほとんどない。たまに小型種を襲っていたりすることもあるけれど、それでもそれほど暴れ回らない。
そうだと言うのに、ディノバルドはすごかった。口から炎を出すわ、長い尻尾を振り回すわと大暴れ。なるほど、確かにこれは凶悪なモンスターだ。
なんて、随分と的外れなことを考えていたけれど、そのディノバルドが暴れている原因は直ぐにわかった。
――多分、ディノバルドのことが怖くて震えていると思うの。
あの女性はそう言っていた。そう言っていたはず。
そうだと言うのに、その小さな身体を使ってネコちゃんが全力でディノバルドと戦っていた。
……いや、なんかもう、すごい光景です。
私はオトモを連れて行かないからよくわからないけど、ネコちゃんってあんなに戦えたんだね。ネコちゃんって直ぐにやられちゃうイメージだったんです。私もオトモをつけようかなぁ。
これなら助ける必要はないのかな。なんて思ったけれど、それでも此処まで来たのだし私も手伝うことに。とりあえず虫を飛ばしてエキスを取ろう。
そう思ったとき、ディノバルドはエリア6の方へ移動していった。
「むぅ、流石に脚は引きずらないか。体力はあとどれくらいなのやら……」
そして、そんなネコちゃんの声。その声は思っていた以上に余裕を感じられた。
なんだこれは。聞いていたのと違うぞ。
「え、えと。ネコちゃん? ちょっといいかな?」
とりあえず、ネコちゃんに挨拶。う~ん、最初はベースキャンプへ送ろうと思っていたけど、この様子なら一緒に戦った方がいいかも。
「うわぁっ!? あ……あれ? なんで他のハンターが……って、は? えっ?」
急に私が声をかけたせいか、ネコちゃんは酷く驚き固まってしまった。
ごめんね。そりゃあ、いるはずのないハンターがいて、声をかけられたら驚いちゃうよね。
「えと、私はディノバルドが現れたってことで派遣されたハンターで、君を助けに来たわけなんだけど……どうしよっか? 多分、ベースキャンプにいてくれてもいいと思うけど、一緒に戦う?」
「あっ……え、えと、そうだな……ニャ。うん、俺……じゃなくて、ボ、ボクも一緒に戦うニャ」
未だ混乱状態のネコちゃん。見ていてなんだか微笑ましい。
ただ、ひとりで戦わないといけないと思っていたのに、これは嬉しい誤算。バルバレのギルドマスターにも言われたけれど、私にはソロよりもパーティーの方が合っている。
「よしっ、それじゃ、サクッと倒そう!」
「う、うニャ!」
う~ん、どうにもネコちゃんの調子が悪そうだ。もしかして、私のことを知っていたりするのかな? そうだとしても気にするようなことじゃないんだけどなぁ……
ただ、何と言うかこのネコちゃんなら大丈夫なのかなって思う。それがどうしてなのかはわからないけど、きっと間違いではない。
短い間だけどよろしくね。
相棒さんとご主人さんを書き分けられない気がしてきました
と、言うことで第7話でした
久しぶりの相棒さん登場
色々と勘違いしていてなんだか面白いです
次話は久しぶりの共闘となりそうです
では、次話でお会いしましょう
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第8話~共闘~
ネコちゃんとも合流することができ、ディノバルドを倒すことに。
最初の予定とはかなり変わってきちゃっているけど、まぁ、どの道ディノバルドは倒さないといけないんだし、丁度良いと考えよう。
「ネコちゃんはまだ一度も倒れてない?」
「あっ、うニャ。もうちょっとで危ないところだったけど、まだ! なんとか、ギリギリで! 大丈夫ニャ!」
もう直ぐにでもやられてしまうってことを必死に伝えようとするネコちゃん。
ただ……どう見たって嘘です。それにさっきまでの動きでその言葉はちょっと信じられないよ。嘘つくの下手だね。
嘘をつくのが下手と言えば、あの彼もそうだったなぁ……
まぁ、そんなことは良いとして、どうにもこのネコちゃんには警戒されているみたい。そりゃあ、いきなり現れたのだから、警戒するのもわかるけど、もうちょっと信じてくれてもいいのにね。今だけとは言え、私と君はパーティーなのだから。
こうやってネコちゃんと会話をすることなんてほとんどないし、私は君と仲良くなりたいんだけどなぁ。
そんな言葉を交わした後、ディノバルドを追ってエリア6へ。
エリア6はかなり広いエリアで、しかも段差は少なく斜面にもなっていない。うん、戦いやすそうなエリアだ。
そのエリア6の奥の方にディノバルドはいた。
ネコちゃんがどれくらいのダメージを与えていたのかわからないけど、まだ脚を引きずっていなかったし、これは大変かもしれない。
さてさて、とりあえずはエキスを集めないと。でも、どのエキスがどの部位で取れるかわからないんですなぁ。あの彼がいればきっと教えてくれたのだろうけど……
「頭と尻尾が赤、胴体が橙、後ろ脚が白。乗り頼んだニャ!」
「ふえっ!? あっ、あ、うん。わ、わかった!」
おおぉ……驚いた。
まさか教えてくれるとは……いや、有り難いんだけどさ。
……オトモのこと真剣に考えてみようかな。
そして、私たちに気づいたディノバルドの咆哮が響いた。なんともフワフワした感じがするけれど、どうしてなのやら、悪い気分じゃない。
なんて言うか……今ならなんだってできるんじゃないかって思うんだ。きっとそれはただの気のせいだけど、今日の調子は悪くなさそうだ。
それじゃ、サクッと倒させてもらおうかな。
――――――――――
キノコを取りに来たはずが、ディノバルドと戦うようになって7分くらいと言ったところ。
最初は、絶対に勝てないよなぁ。なんて随分とネガティブな思考でいた。それでも、やっぱり強い相手と戦いたくて挑むことに。ホント、成長しないなぁって思うけれど、やっぱり楽しみたいんです。
それで気づいたのだけど……予想以上にディノバルドが強くない。ラウンドフォースなんて言われる薙ぎ払い大回転や、赤熱化した状態の尻尾攻撃を喰らっていないからまだわからないが、他の攻撃は緊急撤退による回復が充分間に合うレベル。てか、気をつければ攻撃なんてほとんど喰らわない。
二つ名ディノばかりやっていたせいで、モーションを覚えていなかったし、もっと苦労すると思っていたけど、そうでもない。攻撃を始めて直ぐに怒り状態になったことから、ダメージも充分通っているはず。
う~ん、これじゃあ、アレだけカッコつけていた自分が恥ずかしくなってくる。いや、でも、こんなに弱いとは思っていなかったんだ。
だから、ディノバルドの方は良いのだ。多分、これなら俺ひとりでも勝てると思うし。
それよりも問題なのは……
「乗ったー!」
「な、ナイスニャ!」
この人ですよ。
いや、本当に驚いた。ソロクエストのはずが、いないはずのハンターから声をかけられてまず驚き、その声をかけてきた相手を見てまた驚いた。
てか、どうしてお前が此処にいるんだよ。俺が言えたことじゃないけど、大老殿はどうした。ドンドルマはすごい頻度で極限化個体や古龍に襲われるんだから、ちゃんと防衛しなさいよ。
はぁ……まさか、こんな場所で相棒と再会するとはねぇ。人生わからないものだ。もし、俺だとバレたらどうなることやら……そんなの想像したくもないです。
「おっし、成功!」
流石です。やっぱりこの相棒って上手いよなぁ。虫棒が弱体化したとは言え、相変わらずの強武器であることに違いはない。そして、その武器を使っている奴の実力がちょっとヤバい。あの相棒が此処まで成長して嬉しいのやら、悲しいのやら……
相棒の乗りが決まり、ダウンしたディノバルドの顔面へひたすら、貫通ブーメランをぶつける。相変わらず多段ヒットする感覚が素晴らしい。ま、まぁ、ハンマーの方が良いけどねっ!
緊急撤退分のサポゲもあるし、これなら罠だって使えるかもしれない。いや、流石に使いませんよ? 其処までサポゲに余裕はないし。
ダウンから起き上がったディノバルドの咆哮。それをステップでフレーム回避。最初は何度も失敗したけれど、咆哮のフレーム回避のタイミングはなんとなく覚えてきたと思う。剣士と比べて、気持ち早めな感じだと避けられます。
そして、ディノバルドがあの大きな尻尾を口に咥えた。怒り状態+赤熱状態。モーション値は130とかだったかなぁ。
「えっ? なにこれ。何が起きるの?」
尻尾を咥え、何かを溜めているような状態のディノバルド。
目標はどうやら俺で、後ろ足の近くにいる相棒には当たらないはず。最初にこの技を見たときは本当に驚いた。エフェクトやらなんやらですごく豪快だよね。
そして、ギギギ――と刃物を擦るような音が響き、周囲を一刀両断するディノバルド最大の技が放たれた。
……まぁ、それも今じゃ、ただのチャンスタイムなわけなんだけどさ。
ディノバルドが溜め始めた時から、移動しておきブーメランを構えて溜め、攻撃が終わり直ぐ前まで来たディノバルドの頭へブーメランを投げつけた。
確かに、この攻撃は強い。強いけれども、その攻撃の後は確定で威嚇が入る。ゲームの中では、ハンマーのホームランや大剣の溜め3を叩き込むためにこの位置を必死で覚えたものです。それを身体が覚えていてくれた。まぁ、個体の大きさで左右されちゃうからいきなりは無理だけど。
「……え、えと、なんかすごい攻撃だったね」
そんな緊張感のない相棒さんの言葉。ホント、お前は変わらないね。そんな君を見て、少しばかり安心しました。
その後、口内に溜めたエネルギーを爆発させてのダウンと、相棒さんが乗り攻撃を決めてのダウンを1回ずつ取ることに成功。
そして、その乗りダウンが終わったところで、ディノバルドが倒れ、動かなくなった。
最初はどうなることかと思ったし、途中から相棒が来て、さらにどうなることかと思った。本当にどうなることかと思った。……とは言え、今の段階でディノバルドを倒せたのだし、なかなか良かったんじゃないかな?
「おおー、すごい倒した! ふふっ、ネコちゃんもお疲れ様」
「お疲れ様ニャ」
さてさて、剥ぎ取り剥ぎ取り。ディノ武器や防具を作るかわからないけれど、あって悪いものじゃないだろう。イシャターでも作れれば良いけど、絶対にこれだけじゃ素材足りないよなぁ。
「ネコちゃんのことは詳しくないんだけど、君ってすごくうまいんだね!」
「ああ、うん。ありがとニャ。でも、きっと君の方が上手いと思うニャ。今日はたまたま調子が良かっただけニャ」
むぅ、やりにくいなぁ……それになんて言うか罪悪感がヤバいんです。だって、この相棒は俺が俺だとわかっていないわけですし。
「それじゃ、ボクは深層シメジを集めないとだからもう行くニャ。ハンターさんも帰り気をつけるニャ」
だから、逃げることにしました。
臆病者とか何とでも言ってください。だってこれ以上はきっとボロが出ちゃうと思うんだ。この相棒さんって、かなり聡いんだよね……
「そう言えば、ネコちゃんはキノコを取りに来たんだもんね。ん~……それじゃあ、ソレ私も手伝うよ。ネコちゃんのおかげでディノバルドを倒すこともできたんだし」
お願いします。心の底から遠慮したいです。今ばかりは、相棒さんの優しさが辛い。
「そ、そんな難しいクエストじゃないから、ボクひとりでも大丈夫ニャ! ハンターさんも疲れているだろうし、早く帰って休むと良いニャ!」
「ふふっ、ありがとう。でも、遠慮なんてしなくていいんだよ? それに私はほとんど戦ってないもの。きっとネコちゃんの方が疲れているはず。だから、私も手伝うよ。確か、深層シメジはエリア9、10、11だったよね?」
ああ、これはダメだ。絶対に断れない流れだ。どうしてこうなった。
相棒さんったら意外と頑固だし、此処まで来たらもう素直に帰ってくれることもないだろう。そうなると、きっと帰り飛行船も一緒なわけで……いや、何を話せば良いんだよ。下手なこと言ってバレる未来しか見えない。でも、こんな姿になって『ニャーニャー』言ってることとか絶対に知られたくない。
「……それじゃ、お願いするニャ」
「よしっ、それじゃ行こっか!」
こりゃあ、ディノバルドよりよっぽど難易度が高いぞ。
なんて随分と失礼なことを思った。
ロケハンしてスキルって大切なんだなって思いました
もうちょっと強いと思っていたんだけどなぁ……
と、言うことで第8話でした
相棒さんとのお話はもう少しほど続きそうです
では、次話でお会いしましょう
ご主人さんの存在がどんどん薄く……
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第9話~送る言葉は~
「よし、これで7つ目! ネコちゃんの調子はどう?」
現在は古代林のエリア9。結局、相棒さんを説得することができず一緒に深層シメジの採取中です。
「ボクも3つ持ってるニャ」
そして、相変わらずと言うか何と言うか、この相棒の運がすごい。確かに深層シメジは出やすいと思うけれど、まさか1つのエリアだけで目標の8つまで集まるとは……
うむうむ、これで目標も達成したわけだし、あとは帰るだけだな。本当に運が悪いと8つ集まらない時とかあるし、相棒が一緒に来てくれて助かった。
「あっ、じゃあこれでもう足りるんだね」
「うニャ。納品に戻るニャ」
採取に夢中となっている振りを続け、クエスト中も相棒とはできるだけ喋らないように気をつけた。多分、バレることはないと思うけれどやっぱり用心した方が良いと思うんだ。
「う~ん、もうちょっとかかると思ってたのに、あっさり終わっちゃったね」
「助かるニャ」
一応、ソロ用のクエストだしなぁ。そりゃあ二人でやれば直ぐに終わる。
さてさて、これで帰ることになるわけだけど、帰ったら帰ったらでまた面倒なことになってそうだ。多分、今回のことはギルド側のミスで俺はそんなに悪くないと思うけど……まぁ、面倒なことになったらこの相棒に全部押し付けて俺は逃げるとしよう。すまんな相棒。
「そっか……ねぇ、ネコちゃん」
「どうしたニャ?」
何処か遠くの方を見ながら言葉を落とす相棒。その顔を俺からは見ることができない。
「私さ、古代林に来たのって初めてなんだ。だから、できればで良いけど、もうちょっと探索してもいいかな?」
……まぁ、そう思うよな。初めて行くマップってのはやはりワクワクする。だから、相棒のその気持ちはよく理解できた。
できるなら、さっさと帰ってしまいたいところ。けれども、相棒のその提案を断ることは流石にできないだろう。
「了解したニャ」
「うん、ありがとう」
……ホント、ごめんな。
こんな姿じゃなければ、もっと違う接し方ができたはずなんだ。そして、例えこの姿だろうと、もっとちゃんと接してあげることだってできるはず。けれども、俺にはそこまでの勇気がないのですよ。無駄なプライドが邪魔ばかりをして、身動きなんて碌にとれない。
ホント、損な性格だよなぁ。
ディノバルドをあっさりと倒すことができ、また、深層シメジも早々に集めることができたため、のんびりと探索できるくらいの時間はあった。
相変わらず、俺はあまり喋らなかったけれど、それでも相棒は楽しんでいるように見えた。エリア10のシェンガオレンであったり、エリア8から見える壮大な景色。そして、エリア1にある大きな滝などなど。
俺自身も此処までちゃんと探索するのは初めてで、新しい発見もあったし、かなり楽しんでいたと思う。それに、この相棒とは長い付き合いなんだ。今はちょっと居心地が悪く感じてしまうけれど、それでも、一緒にいると安心できる仲間だと思ってしまう。だって、この世界へもう一度来たいと思っていた理由はこの相棒と会うためでもあったのだから。まぁ、この相棒が俺のことをどう思っているのかはわからないけど。
「ん~……なんだか、久しぶりにクエストが楽しいって思えたよ!」
「それは良かったニャ」
クエストを楽しいと思えた……か。はっきりと聞いたことはなかったけれど、俺たちと一緒にいた時はどう思っていたんだろうね? あの時だってきっと辛いこと、大変なことが沢山あったはず。それでも、この相棒はいつも楽しそうに見えたんだけどなぁ。
「それじゃ時間だし、そろそろ帰ろうか」
「うニャ。お疲れ様ニャ」
俺がその言葉にそう応えると、相棒は優しく笑ってくれた。そんな笑顔は随分と大人びて見えたと思う。
そのクエストの帰りの飛行船では、俺が寝たふりをしていたし、相棒も話しかけてくるようなこともなく、特に会話はなし。
本当は話さなきゃいけないことがあるんだと思う。けれども、何を話せば良いのかなんてわからないのですよ。こんな姿となってしまった自分にできることなんてほとんどないのだから。
もし、この姿じゃなく、人間の姿だったらちゃんと話すことはできたのかな? そんなことを考えたって仕方の無いことではあるけれど、その時の俺はどんな言葉をこの相棒へ送るのだろうか。
帰り道はそんなことばかりを考えていた。
そして、特に問題もなくベルナ村へ到着。
「ネコさん! 大丈夫だった? ケガとかしてないッ!?」
到着すると、飛行船の降り場にご主人がいて、いきなり抱きしめられた。
お、おぅ……嬉しいけど、もうちょっと優しく抱きしめてもらった方が俺は嬉しいです。
「べ、別に大丈夫だったニャ」
「はぁ……ホント心配したんだよ?」
それは申し訳ない。
こりゃあ、あれだ。自分からディノへ突っ込んでいったなんて絶対に言えませんね。何を言われるのかわかったものじゃない。
「ハンターさんもありがとうございました! 貴女のおかげで私のネコさんもこうして無事に……」
相棒に向かって頭を下げるご主人。
なんとも複雑な気持ちではあるけれど、俺のことをちゃんと思っていてくれたんだとわかって、それが嬉しかった。うむ、ご主人のため俺も頑張らないとだな。
「あっ、いや、そんなお礼を言われるほどじゃ……それに、もし私が行かなくてもそのネコちゃんだけでディノバルドは倒していたと思うよ?」
うん、俺もそう思う。正直、あのディノバルドはあまり強くなかったし。
ただ、あの場にいなかった人たちはそんなことを思わない。それに、この相棒は有名なハンターなんだ。だからきっと、今の相棒のセリフだってただの謙遜としか思われないだろう。
現にご主人だって、目を輝かせながら相棒を見ているし。多分、この相棒が此処まで有名になったのは、実力はもちろん。この性格も関係しているんだろうなぁ。コイツはちょっと遠慮しすぎなんだ。その性格のせいで逆に目立ってしまっている。
有名になるってのも大変だねぇ。そんなの俺は全力でお断りしたいです。
そのあと、例のごとくベルナ村の受付嬢から滅茶苦茶謝られもしたけれど、此方からは気にしてないと伝えておいた。てか、むしろこの段階でディノと戦えたのだから感謝しているくらいだし……
他にも色々と面倒なことがあるだろうと思っていたけれど、俺はそれで解放された。ただ、相棒さんはダメでした。ディノのことを聞きたいとか言う龍歴院の研究員たちに連れていかれました。
観測船があるのだし、俺が戦っていたこともバレているかと思ったけれど……まぁ、早く解放されたのだから文句はない。
「それにしても、ネコさんはあのハンターさんと一緒にクエストをやったんだよね。いいな~、せっかくのチャンスなのにさっきは慌ててたせいで全然会話できなかったし……」
少々落ち込み気味のご主人。
うん、あれだ。切り替えが早いのね。
「サインとかしてもらえば良かった……」
サインって……それほどにあの相棒が有名なハンターってことなんだろうけど、なんだか信じられません。
「サインならボクがしてあげるニャ」
「ネコさんのはいいよ。価値ないし」
お、俺だって、前にこの世界へいた時は握手してください。くらいは言われたことのあるハンターなのに……あの相棒と同じパーティーにいたのに……
まぁ、今はこんな姿だし、そんなことを言っても仕様が無いけど。あと、俺が恥ずかしいから相棒さんからサインをもらうのはやめてもらえると嬉しいです。
そして、その日の夜。
色々とあった日だったし疲れていると思っていたけれど、どうにも寝ることができなかった。
……ふむ、ちょいとお散歩でもしてこようかな。
そんなことを思い、ご主人を起こさないよう、そっと身体を起こして家を後に。
そう言えば、当たり前のようにご主人と一緒に生活しているけど、やましいことは何もしてないです。着替えの時だって見ないようにしてるし。
ただ、このご主人ってかなり無防備なんだよなぁ……一緒にシャワーへ誘われたときは本当に困った。まぁ、それも俺がネコだからだろうけど。
家を出て、上を向くとそこには満天の星空がどこまでも広がっていた。うむうむ、やはりこの世界の星空は何度見ても飽きない。
俺は溶岩島のベースキャンプから見る星空が一番好きだけど、ベルナ村から見る星空だってそれに負けないくらい綺麗だ。
バルバレや大老殿と違って、ベルナ村の夜は人が本当に少ない。料理屋もやってないし。だから明かりも少なく、星空が映えるのだろう。
そんな星空を見ながら、オトモ広場へ移動。昼間はネコ嬢が歌っていたりフェニーに遊ばれていたりと騒がしい場所だけど、夜になるとそんな昼間のことが嘘みたいに静かな場所となる。
そんな場所から見る星空が俺は好きだった。
今日もまたひとりそんな場所で、何かしらの想いを馳せながらのんびりとあの星空を眺めるとしよう。
けれども、どうやらその日はいつもと勝手が違い、俺が訪れる前に先客がひとり。
「あら? ネコちゃんだ。こんな時間にひとりでどうしたの?」
相棒さんでした。
お前こそ何故此処にいる。
流石に逃げることはできないだろうし……ホント、今日は色々と起こる日ですよ。
本当は相棒さんとの会話までのつもりでしたが、いつも通り文字数が増えてきたので止めました
と、言うことで第9話でした
相棒さんとのお話はもう少しだけ続くそうです
てか、多分次話が一番深くなる気がします
では、次話でお会いしましょう
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第10話~また~
「とりあえず、こんばんはネコちゃん」
「……こんばんはニャ」
はてさて、こりゃあまた困ったことになっちゃったね。
俺はひとりでのんびりと星空を眺めていたかったんだけどなぁ。俺と相棒以外には誰もいない二人だけの世界。そんな世界で話なんてしたら、絶対にボロが出る。
とは言え、流石に直ぐに帰ったらおかしいよなぁ。
「それにしても、ベルナ村って夜は皆寝ちゃうんだね。私なんてずっと研究員さんたちに捕まっていたから、夕御飯だって食べてないのに……」
そりゃあ、アレだ。何と言うかご苦労様です。
そう言った相棒だったけれど、食べるものを持っていないわけではないらしく、干し肉のような物とお酒らしき物を持っているのが見える。つまり、相棒が此処にいるのは飯でも食べに来たと言ったところか。
「……ネコちゃんも私と一緒に来てくれれば良かったのに。ディノバルドのことは私よりも詳しいでしょ?」
「ボクはネコだから難しいことはわからないニャ」
俺がそんな言葉を落とすと、相棒はため息をひとつ落としてから、静かに笑った。そんな相棒の姿は昔に見たソレと比べて、やはり大人びて見えてしまう。
此方の世界と元の世界では時間の進み方が違うけれど……成長、するんだもんな。そんな相棒を見ていると、最初に出会った時のことばかりを思い出す。
「せっかくだしさ、お話しようよ。お話」
そう言ってから、自分が座っている隣を相棒はポンポンと叩いた。
……正直なところ、今すぐにでも逃げ出してしまいたいところ。けれども、やっぱり罪悪感だとかそう言うものがあって、その提案を断ることはできそうになかった。
大きな石の上、相棒の隣に座ってみる。今の季節はよくわからないけれど、夜の空気に当てられた石の表面はやたらと冷たく感じた。
隣に俺が座ったことを確認して、また小さな笑をひとつ落とす相棒さん。
「……ネコちゃんはさ、私のこと知ってるんだっけ?」
ポツリポツリゆっくりと、相棒は言葉を落とし始めた。
そりゃあ、もう知ってますとも。それもかなり詳しく。だって、最初にこの相棒とパーティーを組んだのは俺なのだから。
「噂は聞いているニャ」
まぁ、そんなことを言えるはずがないんですけどね。
だから、今の俺にはこんなことしか言えません。
「そっか。……私もね、昔は強いハンターに憧れたんだ。皆から尊敬されるようなハンターに」
昔は、か。つまり、今はもう違うってことなんだろう。
俺はどうだったかなぁ……確かに強いハンターには憧れたけれど、尊敬されるようなハンターには憧れなかったかな。ただひたすらに狩りを楽しめていればそれで満足していた。
「私もどうしてこうなっちゃったのかなぁ、って思うけど、今こんな状況になるとさ、もうよくわかんなくなっちゃうんだ。そりゃあ、皆のために頑張ろうとは思うし、私にできる限りのことはやってる。でも、やっぱり――周りの期待が重い」
……これはきっと相棒の嘘偽りない本心。
そう言えば、昔から君はそうだったもんね。確かアレは、飛び級をして上位ハンターになれるときだったかな。あの時もそうだった。
「……私はそんなすごいハンターじゃないんだけどなぁ」
いや、間違いなく貴方は最高のハンターです。少なくとも俺が今まで見てきた中では。武器種が違うから直接比べることはできないけれど、あの4人のパーティーで一番上手かったのはこの相棒だ。それだけは確かなこと。
どうしてそのことがわからないのかねぇ。
「それもこれもね、きっとあの二人がいけないんだ」
「……あの二人ってのは誰ニャ?」
話の流れ的にどう考えても俺と彼女のことです。なんだこの胸が締め付けられるような想いは。
「んとね。もしかしたら知ってるかもしれないけど、ハンマーを使ってた彼と狩猟笛を使ってた彼女のこと。それで特に彼の方がいけない!」
い、いや、確かに色々と飛ばしながら進んだ気もするけど、君にはそれだけの実力があってですね。
それにほら、今はこうして立派なハンターとなったわけですし……まぁ、それが問題らしいんだけど。
「そ、その二人はどうしてるのニャ?」
「そんなの私が聞きたいよ! 勝手に私を引き上げて、勝手に消えて……漸く諦められたと思ったらまた帰ってきて、また私を勝手に持ち上げて……そして、また勝手に消えちゃった」
それは、あの……本当にすみませんでした。
でも、最初にパーティーを組もうって言ってきたのはこの相棒からなんだよなぁ。そこからたった2ヶ月でバルバレの英雄にしたのは俺たちが原因だろうけど。
もうちょっとゆっくり進めても良いとは思っていたけど、進むことができるのに止まっているのは苦手なんだ。俺もあの彼女も。
「……その二人のこと怒ってるかニャ?」
「そりゃあ怒ってるよ!」
ですよねー。
でも、仕方無いんです。俺たちもどうやってこの世界へ行けるのかわからなかったし、消える時だってほぼ一瞬だったし。それに、いくら相棒とは言え全てのことを話すことはやっぱりできなかった。まぁ、多分かなり気づかれていたと思うけど。
「……でも、それ以上に感謝してるし、やっぱりもう一度会いたいかな。だって、あの二人がいた時はずっとずっと楽しかったもん」
何処か諦めたような表情で相棒はそう言った。
……罪悪感で本当にヤバい。多少は俺たちのことを思っていてくれたら嬉しいと思っていたけど、まさか此処までとは思っていなかった。
いっそのこと、此処で本当のことを言えばどうなるのだろうか。
もし、此処で本当のことを言ってしまったら、どうなってしまうのだろうか。
そんなことばかりを考えてしまう。
メンタルはそんなに強くないんです。だからこれ以上は本当にマズイ。どうにか話を反らしたいけど、どうすりゃ良いんだろうか。
……そう言えば、この相棒は俺のことをどう思っているんだろう。それを聞くのは怖いし、なんだかずるい気がするけれど、どうしても気になってしまう。嫌われてはいなかったんじゃないかと思うけど……
「はぁ……まぁ、そんなことを言ってもしょうがないんだけどね」
そうでもないですよ? あの彼女はいないけれど、俺は此処にいますし。
「君のご主人さんってさ、やっぱりあの飛行船乗り場にいた女性のハンターなの?」
「うニャ。ハンマー使いのハンターニャ」
そして、そのハンマーを使い始めたのは俺が原因らしい。ハンマー使いが増えるのは嬉しいけれど、武器が武器だけになんとも複雑な気分だ。
「ハンマー……か。でも、珍しいよね。私もハンマーを使っているハンターさんってほとんど知らないし」
うん、俺も知らない。
カッコイイ武器だと思うんだけどなぁ。確かにパーティーじゃちょっとアレだけど、ソロなら普通に戦えるくらいの強さはあると思う。
「……ハンターさんのパーティーにいたハンマー使いのハンターはどんなハンターだったのニャ?」
話の流れもあったけれど、やっぱり自分がどう思われていたのか気になってしまい、結局聞いてしまった。
でも、やっぱりずるい気がして、言ってから激しく後悔。どうして、自分から墓穴を掘るようなことをしているのやら……
「んとね。すごく変わった人だったよ。リミッターが外れると勝手に滅茶苦茶な行動を始めるし、それでいて変に私たちへ気を遣うし、でも、意地悪だし」
聞かなきゃ良かったわ。
何一つ褒められなかった。其処までぶっ飛んでいなかったと思うんだけどなぁ。てか、普通にショックだ……
今日だけで俺のメンタルはどれだけボコボコにされているのやら。
「……でも、一番頼りになる人だった。私に色々と教えてくれたのは彼だったし、最初は私と彼、二人のパーティーから始まったんだ」
……やっぱり聞かなきゃ良かったって思う。それほどに、相棒の言葉は今の俺に重かった。
恥ずかしさやら、罪悪感やらで今直ぐにでも逃げ出したいところ。
「彼と一緒に行くクエストはいつも楽しかったし、今の私がいるのは彼が原因で、彼のおかげ。本当に上手くてカッコ良くて……私の大好きな人。そんな人だったよ」
涼しい夜だと言うのに顔が暑い。
俺こそ、そんな人間じゃなかったんだけどなぁ。俺はただ、この世界へ来て純粋に狩りを楽しんでいただけなんだ。そんな俺にこの相棒を巻き込んでしまった。それは……失敗だったのかな。
「それなのに、彼ったら勝手に消えちゃったんだ。もしかしたらまた会えるのかな。って思うけど、もう会えないんだろうなぁって思う自分がいて……でも、やっぱりもう一度会いたくて。そんな今の私を見たら、彼はなんて言ってくれるんだろうね?」
そんな相棒の言葉を聞いて、プツリ――と俺の中で何かが切れた。
座っていた石の上から退き、大きく伸びを一度。
「ネコちゃん……?」
こんな状態の俺がこの相棒にできることなんて何もない。それでも、言っておかなきゃいけないことがあるだろう。だって、この相棒が此処まで自分に自信がないのは、きっと俺がはっきりと言ってあげなかったことが原因なのだから。
「はっきりと言っておく」
「へっ? あっ、う、うん」
語尾に変な言葉はつけない。今ばかりはネコの俺じゃない状態で言葉を伝えたかったから。
バレる? 知るかそんなもん。今はそれ以上に大切なことがあるだろう。
「お前はもっと自分に自信を持て。お前は俺が見てきたどのハンターよりも上手いんだ」
「えっ、ちょっ、あの……いや、そんなことないよ。だって、笛ちゃんとか、あの彼の方が……」
混乱気味の相棒。
確かにあの彼女もかなり上手い。けれども、それ以上にこの相棒は上手かった。そしてもちろん、俺よりもずっと。
「俺が言うんだから間違いない。どれだけお前を見てきたと思ってるんだ。だから、もっと自信を持ってくれ……」
きっと俺はまた消えてしまう。
そして、いつか絶対に会えなくなる日が来ると思うんだ。そうなった時も、この相棒がひとりでも頑張れるようになっていてもらいたい。
実力は文句なし。あとは気持ちだけ。
「…………」
ポカンと口を開け、固まる相棒。
俺も俺で、もう自分が何を言っているのか分かってません。絶対にいらんことまで言ったよなぁ。
う、うむ。流石にこれ以上はダメだ。恥ずかしさとかそんな感情でどうかなりそうだ。
「
だから最後にそんな言葉を落として俺はその場を後にした。
ああ、もう! 今日は寝ます。おやすみなさい!
多分、まだきっと大丈夫……なのかなぁ
と、言うことで第10話でした
ようやっと、相棒さんのお話が終わりっぽいですね
次話からはまたご主人さんと頑張るお話となりそうです
では、次話でお会いしましょう
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第11話~だってネコですし~
「あれ? 随分と眠そうだけど、昨日は寝られなかったの?」
家を出て、二人でお散歩をしていると、くはっと大きなアクビをひとつ。そんなアクビをしたところで、ご主人から言葉をかけられた。
「うニャー……ご主人の寝言がうるさくて寝られなかったニャ」
「えっ、嘘!? わ、私、変なこと言ってなかった?」
あの相棒と会話を終えた後は、直ぐに家へ戻り寝ようとしてみました。
でもね、気分が高揚していたんだかなんだか知らんが、全然寝られないのね。うわぁ、絶対いらんこと言ったよなぁとか考えながら、もんもんとしていたら朝ですよ。
ホント、何をやってるんだか……
「うニャ。『アカムの3連飛鳥文化なんて聞いてない』とか言っていたニャ」
「いや……それ、絶対に嘘じゃん」
はぁ、昨晩は本当に失敗だったよなぁ。次に相棒と合った時、どんなことを言われるのだろうか。俺の姿が姿だけに流石にバレてはいないと信じたいけれど、怪しまれているのは確かだと思う。頭のおかしいネコとでも思ってもらっていれば良いが……
まぁ、言ってしまったものは仕方無い。今更変えることなんてできないんだ。それなら前向きに生きてみよう。
「ネコさん、今日は何か予定とかある?」
ん~……今日はどうしようかね? ご主人の武器が完成するのは今日の夕方。だから、今日もご主人はクエストへいけないのだけど……はて、どうしたものか。俺は昨日みたいに、ネコ専用クエストへ行くことができる。でも、なんか調子が出ないんだよね。
それもこれも、きっとあの相棒のせいだ。
「今日は一日、のんびりしているニャ」
「あっ、そうなんだ。それじゃあ、私はどうしよっかなぁ」
暇になっちゃったね。初期武器で良いなら武器はあるし、クエストへ行くことはできるけれど、別に焦って何かをやる必要もない。それなら、のんびりと過ごすのも悪くはないかもしれない。
ああ、闘技大会を見に行くのもありかもしれないね。今日開催されているかは分からないけど。バルバレとかと比べて、ハンターが本当に少ないんです。
「そう言えば、あのハンターさんってまだ此処にいるのかな?」
あのハンターさんってのは、多分相棒のこと。
えと……どうだったかな。確か、休みをもらっているから当分は、此処にいるみたいなことを言っていた気もするけど……
ただ、俺が会いたくないんだよなぁ。あんなことを言っておいて、どんな顔をして会えば良いんだよ。
「……多分、まだいると思うニャ」
うむ、ご主人は会いに行きたいとか言うと思うけれど、俺は遠慮しておこう。どうかひとりで会ってきてください。
「ホント! それじゃあ、せっかくの機会なんだし会いに行こうよネコさん!」
ああ、やっぱり会いに行こうとするのか。
俺が言うのもアレだけど、別に会ったところで良いことなんてないと思うよ? 面白い奴ではあるけどさ。
「ボクは遠慮するニャ。ご主人だけで行ってくると良いニャ」
しまったな。こんなことになるのなら、クエストへ行くと言えば良かったね。今からでも間に合うだろうか。
「えー、ネコさんも一緒に行こうよー」
多分、ひとりで会いに行く勇気がないから俺と一緒に行きたいんだろうなぁ。人見知りなのは知っていたけど、頑張ってよご主人……
「やっぱりボクはクエストへ行ってくるニャ」
一緒に行かないと言った俺へブーブーと文句を言うご主人を残し、クエストを受注しに受付嬢の元へ。調子はあまり良くないけれど、まだ討伐クエストはないだろうから問題ないはず。採取クエストなら時間をかければクリアできる。少しずつ少しずつ積み重ねていこう。
「ごめんね、ネコちゃん。今日はネコちゃん専用のクエストがないんだ」
……これは困ったぞ。
受付嬢の元へ、クエストを受注しに行ったのは良いけれど、肝心のクエストがなかった。いや、ホントどうすっかね。
はて、どうしたものかと困っていると、ぽんぽんと誰かに肩を叩かれ、後ろを向くと良い笑顔のご主人の姿。
「クエストなかったね!」
……そんなにですか? そんなにあの相棒とひとりで会いに行くのが怖いのですか? 俺はそんなご主人の将来が心配です。
ネコ専用のクエスト以外を受けるって言う選択肢もあるけれど、それはご主人に申し訳ないし、何よりご主人のことがなんだか可哀想になってきた。
「……わかったニャ。ボクも一緒に行くニャ」
「ホント!? ありがとうネコさん!」
どういたしまして。
いや、でもホントどんな顔をして会えば良いのやら……
何とも気が進まないまま、ご主人と一緒に龍歴院……まぁ、つまり集会所へ向かった。とは言え、よくよく考えると相棒と会える可能性はあまり高くないはず。アイツだって昨日は遅くまで起きていたから寝ているかもしれないし、もしかしたらクエストへ行っているかもしれない。そうなれば、このご主人だって諦めるはず。
うむ、きっと大丈夫だ。ご主人には申し訳ないが、此処は俺の気持ちを優先させてもらおう。
どうかどうか相棒さんと出会いませんように。
「あら? 昨日のネコちゃんと、そのご主人さん……だっけ? やほー、おはようだね」
はい、相棒さん普通にいました。ご飯食べてました。
うん、まぁ、お腹空くもんね。そりゃあ、ご飯食べるよね。
「ネ、ネコさん、ネコさん。本物だよ! 本物がいるよ!」
慌てたように俺の頭をバシバシと叩くご主人。痛いよ……てか、少しは落ち着きなさい。
そう言えば、俺たちもまだ朝食を食べていなかったね。相棒と一緒に食べるのは遠慮したいけどお腹空いたなぁ。
「え、えと、それで今日はどうしたの?」
少々困り顔の相棒さん。
俺だってどうしたものかと困っています。
「……ご主人が君と会いたかったみたいだから、会いに来たニャ」
俺がそう伝えると、恥ずかしかったのか、またバシバシとご主人に頭を叩かれた。こんな調子で大丈夫だろうか……
「あっ、そうなんだ。ん~……それじゃあ、一緒に朝食でも食べる? 私もひとりで寂しかったところだし」
相棒さんったら優しいのね。まぁ、あのパーティーの中でも一番大人っぽい性格だったし、ちゃんと他人のことを考えている奴だった。でも、今は優しさが俺の心を傷つけます。
因みに、あのパーティーで一番子供っぽいのは弓使いの少女で、次はあの彼女だと思う。俺は……どうだったんだろうね?
「は、はい! 是非、ご一緒させてください!」
そんな緊張していたら、せっかくのご飯の味がわからないよ? まぁ、多分それを言ったところで意味ないと思うけど。
そして、相棒さんと一緒に朝食を食べることに。今は全力でこの場から逃げ出したい気分です。
最初、相棒が食事代を全部出してくれると言ったけれど、流石に其処は遠慮してもらった。この相棒のことだし、お金は沢山持っているから、飯の一回をおごるくらいなら何ともないとは思う。でも、ほら、同じパーティーにいたこともあるから、踏みとどまりたいところがあるのですよ。
「へー、それじゃあ、槌ちゃんはまだハンターになってから1ヶ月くらいなんだ」
「槌……ちゃん? えと、は、はい! だから毎日わからないことだらけです……」
どう見ても緊張していますと言った感じの様子のご主人。見ていて此方が恥ずかしくなる。頑張れご主人。超頑張れご主人。
「ネコちゃんもそうなの?」
そして、俺へ話題転換。本当に勘弁して欲しい。
「チーズが美味しいニャー」
昨日のこともあり、俺の自由のためにも今ばかりはこの相棒と距離を置きたい。そんなわけで、食事へ夢中になっている振りを全力で行います。
「んもう、ネコさんったらまたそんな顔にチーズをつけちゃって……それにほら、ハンターさんがせっかく話かけてくれているんだから、ちゃんと応えないと」
どうか俺のことは放っておいて、ご主人は相棒さんとお話していてください。きっと話したいことだって沢山あるだろうし。
「ふふっ、自由だね、君は」
そんな俺に対し、相棒はそう言ってから笑っていた。
……いつの日かちゃんと話したいと思っているけれど、きっとまだその時ではないはず。もしかしたら、それはただ俺が逃げているだけなのかもしれない。でもさ、やっぱりそんな勇気なんてないわけですよ。それに、このご主人のために頑張ると決めたのだ。それを投げ出したくはない。
名誉や栄光なんていらない。俺は俺の好きにこの世界を楽しませてもらう。そのためにも、この相棒に気づかれたくはない。
なんか、もうダメな気もするけど……
「え、えと……ハンターさんはこれからどんな予定なんですか?」
「う~ん、それをどうしよっかなって思っているところなんだ。ネコちゃんのおかげで、ディノバルドもあっさりと倒しちゃったし、時間はあるんだけど……」
“ネコちゃんのおかげ”って言葉をやたらと強調された気がする。
別に俺がいなくとも、この相棒ひとりでディノバルドはあっさりと倒すことはできただろうに。ホント、何を考えているのやら。
「あっ、そ、それじゃあ、良ければですけど……」
「うん? どうしたの?」
よしよし、食事も終わったし、顔についていたチーズも取れたぞ。
さて、この後はどうするのだろうか。正直、俺は眠いから一眠りしたいところなんだけど……
「私と一緒にクエストへ行ってもらえませんか?」
そして、そんなご主人の言葉が響いた。
トントン拍子に話は進む。ただ進む方向があまりよろしくない。
「うん、大丈夫だよ」
んで、相棒さんもご主人の提案をあっさりと受け入れた。
俺の意見? そんなの通るわけがないし言えるわけがない。だって俺、ネコですし。
胃の痛くなる時間はまだまだ続きそうです。
ご主人と一緒にクエストへ行くかと思っていたら、ハンマーが完成していませんでした
相棒さんとクエストへ行くことになりました
おかしいね
と、言うことで第11話でした
相変わらず寄り道だらけの作品ですなぁ……
そして、次話は二人と一匹でのクエストに……なるのかな?
では、次話でお会いしましょう
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第12話~遠いからこそ面白い~
「クエストへ行くのはいいけど、何のクエストへ行くの?」
俺はまだクエストへ行くと言っていないけれど、流れ的に俺も一緒に行かないとだよなぁ。しかしまさか、また相棒と一緒にクエストへ行くことになるとは思わなかった。
「え、えと、それはまだ決めてなくて……あと、実はまだ武器が完成してないから直ぐには行けないんです」
ああ、ご主人ったら何の考えもなしに、相棒さんを誘ったんだ。それほど緊張していたってことなのかねぇ? まぁ、このご主人は声をかけられないから集会所のクエストを受けられないくらいなんだ。それなのに、相棒へこうやって声をかけたのはかなり頑張ったんじゃないかと思う。
「ありゃ、そうだったんだ。武器は何時頃完成するのかな?」
「あっ、えと、確か今日の夕方だったかと。だからクエストへ行くのは明日になってしまうんですが……」
無理をすれば今日の夕方には出発できそうだけど、まぁ、其処までする必要もないか。ご主人がこれだけ頑張っているんだ。その頑張りのためにも相棒には一緒に行ってもらいたいけど……
「うん、それなら大丈夫だね。私もまだまだ時間はあるし」
それは良かったよ。
これでご主人の頑張りも報われると言うもの。俺の気持ちは複雑だけど、今ばかりはご主人のことを第一に考えよう。
「それでクエストは……あっ、じゃあ、ネコちゃんが決めてよ」
……何故、俺? こんな機会なのだし、其処はご主人か相棒さんが決めれば良いと思う。ただのオトモである俺が決めるのはどうなのだろうか。
「えと……どうしてボクが決めるのニャ? せっかくなのだし、ご主人やハンターさんが決めた方が良いと思うニャ」
正直なところ、行きたいクエストはある。今のご主人はまだまだ駆け出しのハンター。だからどうしてもまだ行けないマップがあって、集められない素材がある。その素材を集めておけばかなり美味しい。
そして、俺の言葉に対して相棒は――
「……その理由、言った方がいい?」
そう言った。
クスリと何処か意地の悪い笑みを浮かべながら。
……えっ? なに? も、もしかしてバレてるの? それともただのハッタリ?
う、うーん、本当のところがどうなのかは分からないけど、そんなことを聞けるわけがない。はぁ、なんだか相棒にしてやられた気分だ。
唯一の救いは俺たちの会話に対して、ご主人が首を傾げていること。流石にこのご主人へいらないものを背負わせたくはない。
「……わかったニャ。じゃあ、ボクが決めるニャ」
「うん、私はそれがいいと思うよ」
「お願いね、ネコさん」
色々と思うこともあるけど、まぁ、丁度良いと考えよう。
多分、この相棒が一緒なら下位クエストは全部いけると思う。あのディノバルドと戦う許可が下りていたくらいだし。
んで、俺が今一番行きたいのは“火山”のクエスト。そこなら次の武器強化に必要な“ドラグライト鉱石”を採取することができる。てか、下位だと其処でしか採取できない。一応、オオナズチからも取れるけれど現実的ではないだろう。
しかし、現在のご主人の装備は初期防具一式とかなり脆い。だからディノバルドだったりブラキ、ウラガンキンなんかと戦うのは厳しそうだ。ショウグンならギリギリ行ける気もするけれど、いや、アレも厳しいか。
そうなってくると……まぁ――
「火山の採取ツアーが良いと思うニャ」
そんなところになるのかな。
そして、次の日。ご主人の武器も無事強化が終わり、クエストへ行く日となりました。
因みに、昨日はクエストへ行く話が終わったところで、流石に疲れていたのか俺に限界が来て家へ帰りずっと寝てました。まぁ、その前の日は色々あったもんなぁ。そうなってしまうのも仕方無いと言ったところ。
それにこの身体のせいか、以前よりも睡眠が多く必要になったと思う。元気ドリンコでも飲めれば良いのだろうけど。
「うー……緊張するね、ネコさん」
いや、そうでもないです。むしろ、しっかり寝られたから、今日は調子が良いくらいです。
今は火山へ向かう飛行船の上。今回は採取ツアーだし、危ないことも特にない。乱入モンスターも確かラングロトラだけだと思う。
ただ、このご主人は初めての集会所クエスト。それでいて、憧れ(?)のハンターと一緒なんだ。緊張してしまうのも仕方無いのかな。
「ちょ、ちょっと私は中で休んでいるから、もし火山に着いたら起こしに来てくれる?」
「了解ニャ!」
う~ん、せめてクエスト中はいつもの調子になってくれれば良いけど、この様子じゃそれも厳しいかもしれない。
せっかく勇気を振り絞って相棒を誘ったんだし、もっと話しかけたりとかすれば良いのにね。やっぱりいきなりってのは難しいのかねぇ。
ご主人を見送ってからはひとりに。飛行船の甲板の上で感じる風は心地よく。眺めだってなかなかのもの。ただ……大丈夫だとは思うけど、もし飛竜に襲われたりしたらどうするんだろうね? 炎のブレスでも喰らえば爆発しそうだ。
「あれ? 槌ちゃんはどうしたの?」
そんなことを考えていると相棒さんの声。
むぅ、また二人きりですか。今度こそ何を言われるのやら。てか、“槌ちゃん”ってのはご主人のことで良いんだよね?
「……うニャ。今は中で休んでいるニャ」
「えっ? もしかして、体調が悪かったりとかしたの?」
体調が悪いと言えば悪いけど……問題はないと思う。
「別に問題ないと思うニャ」
「そうなの? それなら良いけど……」
正直、俺は不安です。何事もなくクエストが終わると良いんだけどなぁ。素材は確かに欲しいけど、今は無事に終わってくれることばかりを願います。
「……今は“ニャ”ってつけるんだね」
そんな相棒の言葉にトクリと俺の中で何かが跳ねた。
こう言うのは本当に勘弁してください。頭だって別に良くないし、心理戦だとかそう言うのは苦手なんです。
「そ、そりゃあ、ボクはネコだから仕方無いニャ」
ジト目で俺を見つめる相棒さん。マジ怖い。
だから、俺は目を逸らしました。伝えなかった俺が悪いし、もうなんかダメな気もするけれど、やっぱり本当のことなんて言えるわけがない。
申し訳ないことだけど、こればっかりは許して欲しいんだ。
「……別に教えてくれないのは慣れてるからいいんだけどさ。だって、昔からそうだったもん」
やめてください。俺の心に突き刺さります。
いや、ホント、悪いとは思っているんだ。でもさ、もし本当のことを言ったところで仕様が無いじゃん。俺はこんな身体だし、今はあのご主人がいる。そんな状態でこの相棒と一緒にいられることはやっぱり難しいと思うんだ。
なんて言い訳をしてみたり……情けないなぁ。
「だから、私は君が話してくれるまでもう聞きません。待つのだってもう慣れたし、きっと君には君の事情があるだろうし、なんか君をいじめてるみたいだし……」
うん、正直今にも泣きそうです。
「でもね、いつか……いつの日か教えてくれたら私は嬉しいな」
そう言って相棒は静かに笑った。
……今では遠い昔のように感じてしまうけれど、こんな会話を相棒とした記憶がある。あの時は確か、遺跡平原採取ツアーの帰り道だったかな。
そして、その時、同じような会話をしたけれど――結局、相棒に俺のことを話すことはしなかった。
「……今度こそ、いつか話せるよう頑張ってみるよ」
もしかしたら、また話すことができず別れてしまうのかもしれない。でも、今度ばかりは話すことができるよう頑張ってみる。今はまだできないけれど、ご主人と一緒に君の隣に立てるようなハンターとなったとき、今度はちゃんと話をしてみようと思う。
「約束だよ? 今度こそ! ちゃんと! 全部! 話してよ?」
あー……ん~……そんなはっきりとは約束できないかなぁって思ったりするのですが……やっぱりほら、自分のことを話すのって勇気がいるし。
てか、そもそもこれ以上話す必要ってあるの? だってもう俺だって分かってるだろうし……いや、口に出すことが大切なのも分かるけどさ。
「が、頑張ってみます……」
これで、やらなきゃいけないことがまたひとつ増えてしまいました。ホント、この人生なかなか上手くはいかないものですね。
「そう言えば、君なら強いモンスターが出るクエストを選ぶと思っていたけど、どうして採取ツアーにしたの?」
そして、ようやっと話題転換。俺はもう疲れました。まだクエストが始まってすらいないのにね。不思議だね。
「ん~……ご主人がまだ初期防具だからなぁ。それに大型種と戦った経験も少ないし」
相棒の言葉に対し、俺がそう言うと……
――私の時は、そんなこと考えてくれなかったくせに。
なんて言葉が聞こえた気がした。でも、きっと気のせいだろう。気のせいであってくれ。
それに、あの時だって一応、相棒のことを考えて……ああ、うん。あんまり考えてなかったね。何段階かすっ飛ばしてた気もするし。
「はぁ……」
そして、相棒さんのため息。
心が折れそうだ。
「……優しいね、君は」
そんなことはない……と思う。
今だって、目の前の人間に此処まで気を遣わせてしまっている。いくら気が置けない仲とは言え、俺は迷惑をかけすぎだ。
ホント、いつになっても成長してくれないものですよ。
「ま、まぁ、とりあえず今日はよろしく頼む。危ないことはないと思うけど、あのご主人をフォローしてくれれば嬉しいよ」
どうにも空気がまた先程の感じに戻りそうだっため、無理やり終わらせてみた。
「うん、わかった。君の頼みだし私もできるだけ頑張ってみるよ」
そうしてくれると有り難い。
ホント、いつも頼りにしています。
そんな会話をしてからしばらくして、火山へ到着。
ギリギリで踏みとどまっていた状態から、完全に一歩進んでしまった気もするけれど、どうにかまだ落ちずに空中へいられているんじゃないかと思う。ほら、空中はセーフなんだ。
ホント、相棒さんにはいつもいつも迷惑をかけっぱなしだ……いったいどれほどの借りができているのやら。
「うわっ、火山って本当に暑いんですね」
そして、ご主人もちゃんと起きてきてくれました。いつもの調子とまではいかないけれど、なんとかなるレベルだとは思う。
「えと、槌ちゃんはクーラードリンク持ってきてる?」
「はい! ちゃんと持ってきています!」
旧砂漠ならまだなんとかなるけれど、火山でクーラードリンクを忘れたら悲惨だ。とは言え、その辺はご主人もしっかりしていたようで助かった。
さてさて、それじゃサクッと目的の素材を集めてくるとしようか。
その後の採取ツアーは特に何の問題もなく終了。
途中でやはりラングロトラが乱入してきたけれど、戦うことはやめておいた。倒したところで旨味は少ないし、何よりやっぱりご主人が緊張やら何やらで動きが硬かったから。俺がよろしく頼むと言ったからか、相棒さんも一生懸命ご主人に声をかけていたけれど、どうやらそれが逆効果だったらしく、声をかける度にさらに動きは悪くなった。暑いエリアで顔を白くしているハンターとか初めて見たわ。
う~ん、上手くいかないものですね。ご主人にはその相棒くらいすごいハンターになってもらいたいのだけど……
とは言え、収穫はかなりあった。ドラグライト鉱石は十分な量が手に入ったし。貴重な虫であるドスヘラクレスも採取できた。うむうむ、上出来上出来。
「帰ったら打ち上げやろうよ、打ち上げ!」
一方、帰りの飛行船ではしゃぐ元気な様子の相棒さんの姿が。それがなんとも懐かしい感じがして、何処か面白かった。
俺もアレだけ話ができたおかげか、以前よりはこの相棒へ普通に接することができるようになったと思う。
「うニャ。ボクもビールが飲みたいニャ」
暑い場所にずっといたのだし、今ばかりは冷たいビールを喉へ流し込みたいところ。
とは言え、ご主人はどうなんだろうか? クエストが終わった時も随分辛そうに見えたけど……
「ご主人、大丈夫かニャ?」
「……私はもうダメかもしれません」
頑張ってくれご主人。確かに酷いものではあったけれど、あれくらいならギリギリでセーフだと思うぞ。
「……でも、せっかくだし、私も打ち上げに参加したいです」
「ホント! ふふっ、それは楽しみだね」
きっとこれで当分の間、相棒とクエストへ行くことはないだろう。それに、もしかしたらもう一緒に行くことだってないのかもしれない。
けれども、今回のことはこのご主人にとって大きなものとなるだろうし、目標だって見えた。その目標は随分と遠い場所にあるけれど、そのくらいの方が面白い。
やらなきゃいけないことが多すぎて目が回りそうになる。それでも、今回はかなり大きな収穫だったんじゃないかと思うんだ。
いつかまた隣に立てるよう、全力でやってやろうじゃないか。
そんなことをそっと心へ誓ってみました。
と、言うことで第12話でした
随分と引き伸ばしてしまいましたが、今度こそ相棒さんパートは終わりだと思います
終わりだと信じています
次話こそきっとご主人さんとネコさんのお話
では、次話でお会いしましょう
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第13話~一人と一匹なら~
「それじゃ、ザザミを倒すために出発ニャ!」
「……うん、頑張ろうね」
色々と寄り道をしてしまった気もするけれど、ご主人の防具を完成させるため、ようやっとザザミを倒す日が来ました。
ご主人の武器だってそれなりのものだし、これで防具ができてしまえば、下位クラスの村クエなら全部クリアできるんじゃないかなと思う。
後は俺の装備だけど……どうすっかね? 先日ディノバルドを倒し、素材が手に入った。ご主人の武器を作るにしても、牙が足りずまだ作れない。それなら俺の武器を作れば良いんじゃないか? なんて考え、加工屋へ向かったが、斬竜の尾刃片を要求されました。鬼かと思いました。
ディノの尻尾は本当に出ないんです。一応、捕獲報酬でも出た気がするけれど、その確率はかなり低い。そうなると尻尾を切らなきゃいけないわけですが、アイツの尻尾って狙い難いんだよなぁ……
そんなわけで、ディノ武器は諦めることに。そうなると、ザザミ武器なんかが候補に上がるけれど、残念ながらあの武器は近接型。ブメネコの俺が使っても恩恵が少ない。
つまるところ、俺の装備も当分はこのままっぽいです。
ホロロ、レイア、ガララの状態異常武器。あとはナルガ武器なんかが目標になると思う。まぁ、それよりもご主人の方を優先しないとなんだけどさ。
そして、そのご主人だけど……
「ご主人、元気出すニャ」
昨日のせいか、どうにもご主人に元気がない。まぁ、クエスト中もそうだったし、打ち上げでも酔い潰れるしと散々だったもんね。
「あー……うー……やっぱり呆れられちゃったよね……」
いや、あの相棒は気にしてなかったぞ。むしろ、昔の自分を見ているようで応援したくなる。とか言ってたし。きっと最初なんて誰だってそんなものなんだろう。どうか一生懸命頑張って、立派なハンターとなってくださいな。そのために俺もできる限り手伝うからさ。
「あのハンターさんは気にしてなかったニャ」
「……ホント?」
うん、ホント。だから、ご主人も元気を出してくれ。いくら一度倒した相手とは言え、ご主人は初期防具。そして、ザザミも油断ができるような相手ではないのだから。
うん? ああ、そっか。これで防具が完成してしまうと、今のご主人の防具を見ることはなくなってしまうのか。むぅ……それはちょっと寂しいな。今作の初期防具……つまりベルダー装備のことだけど、すごく良いよね。ユクモ一式も好きだったけれど、それ以上にベルダー装備は好きだ。
MHXのOPに出てきたベルダー一式のハンマー使いの少女に惚れたのは俺だけではないと信じたい。
後は、今作の受付嬢装備であるサージュ一式とかもすごく好みです。ザザミ一式も嫌いじゃないけれど、正直見飽きたと言うか何と言うか……MHP2Gをやるときは必ずザザミ一式を最初に作っていたし。
いや、ザザミ一式が可愛いことに違いはないけどさ。
さてさて、防具談義はこの辺にしておこうか。だって終わりが見えないもの。
「本当ニャ。それに今は目の前のクエストに集中した方が良いニャ」
「……うん、そうだね。ありがとうネコさん」
どういたしまして。
これですっかり元通り。とは流石に言えないだろうけれど、多少は元に戻ってくれたかな? 目的地である旧砂漠まであと少し。こんなところで止まっているわけにもいかないのだ。どうかどうか頑張ってください。
そんなわけで2回目のザザミ討伐クエスト。
「乗ったよ! ネコさん支援お願い!」
「ナイスニャ。ご主人」
どうなるかなぁ。なんて思っていたけれど、その辺はご主人もしっかりしているらしく、動きに問題は見えない。
エリアルハンマーだしザザミとは戦いやすいってのもあるだろうけれど、やっぱりこのご主人はなかなか上手いかもしれない。
「よっし、成功!」
ぐぅれいと。
確か、要求素材には爪があったはず。だから今回は一生懸命爪を狙います。ただ、破壊報酬条件は両爪破壊なんだよね……なんとか壊せれば良いけど。ご主人が大ダウンを奪ってくれることを願おう。
できるだけ正面には立ちたくないけれど、攻撃はステップ連打で無理やり回避。この身体にも随分慣れてきちゃったなぁ。
「ん~……よいしょと」
ブレスの終わりに、ご主人の溜め3カチ上げがザザミの頭へ直撃。其処で、本日2回目のスタンを奪った。
「あっ、やた」
2乗りで2スタン。相手の体力もそろそろなくなるはず。そうだと言うのに、両爪の破壊はまだ終わっていない。
「ご主人。左爪を狙うニャ!」
「あっ、うん、了解です!」
多分、報酬で出るとは思うけれど、壊せば確定。ソレを狙わない理由はない。
そして、スタン中のザザミの左爪へご主人のホームランが入ったところで、ザザミの爪の表面が砕けた。ナイスです。
これで後はもう倒すだけ。うむうむ、順調順調。
「おおー! 前の時よりも早く倒せた気がする!」
両爪の破壊が終わって直ぐ、ダイミョウザザミは倒れた。
うん、確実に前よりも早いね。まぁ、あの時のご主人の武器はかなり弱い武器だったし、そりゃあタイムだって良くなるだろう。0分針ではないと思うけれど、5分針で倒せたとは思う。
「お疲れ様ニャ」
「うん、お疲れ様」
さて、これでご主人の防具は作れるだろうし、次は……ホロロとかだろうか? カブラやハプル、クックにフルフルとまだ戦っていないモンスターは多いけれど、そろそろ動きがあって良いと思う。
ただ、テツカブラの素材はご主人の武器強化に使うし、戦っておきたいかな。
「剥ぎ取りも終わったし、帰ろっか」
「うニャ」
此処までは何の問題もなく進めている。このままの勢いでいければ良いけれど……まぁ、どうせそんなに上手くはいかないよな。
もし、このご主人が止まってしまうようなことがあった時、俺はちゃんとフォローしてあげることができるのだろうか。
「あ~……疲れたぁ」
帰りの飛行船上。ぐったりと言った感じのご主人。
クエスト自体はかなりサクっと終わったし、その疲れている原因は……昨日のことなんだろうなぁ。
「あのハンターさんってまだベルナ村にいるのかな?」
「ユクモ村へ行くと言っていたからもういないと思うニャ」
なんでも、あの弓使いの少女がユクモ村にいるらしく、会いにいくんだと。あと、温泉に入りたいとか言っていた。多分、まだ開いてないだろうけど……そのことは伝えなかった。
有名なハンターは色々な場所へ飛ばされて大変ですね。弓ちゃんもタマミツネを倒してくれとか言われてユクモ村へ行ったんだろう。ただ、俺はちょっとあの弓ちゃんが苦手です。腹黒いんだよ、あの子……
「そっかぁ……じゃあ、やっぱりもう会えないのかな?」
ん~……そうかもしれないね。また会おうね! なんて相棒は言っていたけれど、アイツも忙しいそうだしなぁ。俺たちが大老殿へ行くことはないだろうし、会うのは難しいかもしれない。俺だって相棒のことは好きだし、また会いたいところではあるけど。
「はぁ……もっと色々とお話したかったなぁ」
ご主人ったら全然会話できてなかったもんね。もう少し頑張って欲しいとは思うけれど、それほどにあの相棒はすごい存在なんだってことが分かって、それが少し誇らしかった。
「お話ならボクが聞いてあげるニャ」
「いいよ、ネコさんは」
……なんだか最近、俺の扱いが雑になってませんか? お願いだから、捨てることだけは止めてほしいのだけど。
「いいよね、ネコさんはあのハンターさんとあれだけお話ができて」
ご主人だって話をする機会は沢山あったと思うけど……
それに俺の場合はあの相棒と色々とあったわけですし、そりゃあ話くらいする。まぁ、そのことをこのご主人は知らず、俺も言うつもりはないんだけどさ。
「ご主人が気にしすぎなのニャ」
「だって、相手はあの有名なハンターさんなんだもん。そりゃあ緊張しちゃうよ。ネコさんはあのハンターさんのことを知らなかったから……」
知らなかったから、か。もし、俺がこのご主人の立場だったら、俺も緊張して話せなくなるのかな? いや……そんな姿、想像できんぞ。憧れのハンターと一緒にクエストへ行きたいとは思うだろうけれど、その理由はご主人が思っていた理由とは違う気がする。
負けず嫌いなこの性格。自分よりも上手い奴を見たら、きっとソイツよりも上手くなろうと足掻くだろう。相手がハンマーなんかを使っていればなおさら。
自分にそんな実力がないことくらい分かっていると言うのに……
「それなら、ご主人もあのハンターさんくらい上手くなれば良いのニャ。そうすればきっと、今度は緊張なんてなく話せると思うニャ」
「い、いや、流石にそれは無理だよ。私なんてまだまだ駆け出しのハンターで下手っぴだし……」
ん~駆け出しのハンターの中ではかなり上手いと思うけど……少なくとも、下手ではない。それに、駆け出しってことは、どっかの誰かと違い、まだまだ伸び代が沢山あるはず。直ぐに上手くなることなんてないし、自分が上手くなったかどうかは分かり難い。
まぁ、つまりはコツコツ頑張るしかないってことだけど、やっぱり目標はあった方が良いと思うんだ。最初から諦めていたって仕様が無いのだから。
「大丈夫、ご主人ならきっとあのハンターさんに負けないくらいの凄腕のハンターになれるニャ。そのためにボクも頑張るから……ご主人も頑張ってほしいニャ」
この小さな身体にできることは少ない。
それでも、精一杯頑張ってみるから、ご主人も頑張ってほしいと思うのですよ。
「……ありがとう。うん、そうだね。私も頑張るから、これからもよろしくね、ネコさん」
「うニャ!」
まだまだ、序盤。やらなきゃいけないことが沢山あるけれど、なんだか良いパーティーになってきた気がします。
ご主人もそんなことを考えていてくれたら嬉しいです。
ハプルボッカのことをずっとハプルポッカだと思っていました
でも、間違えている方は多そうですね
と、言うことで第13話でした
これで防具も完成しますし、進めていくことができますね
次話は……未定です
では、次話でお会いしましょう
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第14話~現状維持ってことで~
「ネコさんネコさん。次はどんなクエストへ行こっか?」
前回、ダイミョウザザミを倒したところでご主人の防具の素材も揃い、ようやっと新しい防具を装備できるように。悪いことなんて何もないけれど、此処までは順調過ぎて少し怖い。このペースでいったい何処まで行けるのやら……
あと、例のごとく、ご主人の防具が完成するのはもう少し先になります。
「うニャー。村長に聞けば良いと思うニャ」
そろそろ何かのイベントがありそうだし。てか、せっかくベルナ村へ派遣されたのだから、村のためにも頑張らないと。まぁ、もうディノを倒してしまったわけだし、メインイベントは終わっちゃった気もするけど……
あとは、集会所のクエストを進めてHRを上げるってのも良いかも。ただ、ご主人は嫌がりそうなんだよね。
このご主人の実力なら集会所だってなんとかなると思うんだけどなぁ。
「うん、わかった。それじゃあちょっと聞いてくるね」
お願いします。
村長の元へ走っていったご主人を見送ってから、傍にいたムーファを撫でて毛玉をいただく。使うことはないと思うけれど、集めておいて損はないだろう。こうやってちょこちょこ集めておかないと、いつか苦労しそうだし。てか、毛玉くらいいくらでも取れそうなんだけどなぁ……
そうやってムーファを撫でつつ、毛玉を集めつつ、乗ってみたりして遊んでいると、ご主人が戻ってきた。
「ふふ、楽しそうだね」
うん、なかなかのモフモフ具合で面白いよ。
まぁ、そんなことは良いとして、クエストの方はどうだったのだろうか。
「えとね、村長さんに聞いたら、古代林にテツカブラが出て、それのせいで龍歴院の調査員の人たちが困ってるんだって。だから、テツカブラの狩猟をお願いされたよ」
了解。
なるほど、テツカブラか。随分と昔のことになってしまったけれど、俺と相棒でテツカブラと戦った時は苦労したなぁ。ああ、いや、あの時はロケット生肉が鬱陶しかっただけで、テツカブラ自体はそうでもなかったか。
「わかったニャ」
「よし、それじゃあ頑張って倒そっか」
うむうむ、シナリオ通りとは言え、正直此処でテツカブラは有り難い。これで蛙油が手に入ればご主人の武器も更に強化。てか、それで武器は最終強化だ。それより強化するには上位の素材がいるわけですし。まぁ、いつまでもベルダーハンマーを使うことはなく、四天王やゴアの武器を使うことになりそうだけど。
とは言え、それも先のお話。今は目の前の課題に集中しようか。
「よっし、到着! ん~……夜の古代林って初めてだから、なんだかわくわくしちゃうね!」
古代林に着くと、まずご主人が元気の良い言葉を落とした。
どうやら今回は夜の古代林だそうです。まぁ、夜になったところでマップが変わるわけでもないんだけどさ。ただちょっと暗くて見え難くなるくらい。
それでも、夜の古代林は結構気に入っている。
「……月が大きいニャ」
元の世界のソレと比べ随分と大きいが、真ん丸に輝く月はなかなかに綺麗なんです。
いや、月じゃないのか? ああ、でもモンハンの中でも“月”と言う言葉は出てきたはずだし、月で良いのかもしれない。まぁ、深くは考えないでおこう。ご主人に聞いてみても良いけど、またボロが出そうだし此処は我慢。
ただ、遠い宙の向こうで輝いている奴が綺麗なことには違いない。それだけで今は十分だ。
「それじゃ、サクッと倒してこよっか!」
「うニャ!」
ああ、そうだ。ご主人にテツカブラのことを何も言っていなかった。このご主人なら大丈夫だとは思うけれど、どんなモンスターかくらいは教えておいた方が良いよね。本当は此処へ来るまでに教えておきたかったけど、いつも通りご主人寝てたしなぁ。
「ご主人、テツカブラだけど大きな蛙みたいなモンスターニャ。大きな牙を使って岩を掘ったり、掘った岩を砕いて攻撃してくるニャ」
「あー、えっと、うん、ありがとう。でも、テツカブラは私も知ってるし大丈夫だと思うよ。多分。確か……顔が怖くて咆哮も大きなモンスターだよね?」
あら? テツカブラのことは知ってるのか。そりゃあ良かった。何処で知ったのかはわからないけれど、知らないよりは良いだろう。
「そうだニャ。あと、あの咆哮も一応、ローリングで躱せるニャ」
流石に咆哮のフレーム回避まで求めないけれど、チャレンジしてみるのも悪くない。それにエリアルで咆哮に合わせてローリングすれば、怯み時間も短い。これからバインドボイス持ちのモンスターと戦うことも増えるだろうし、覚えておけばきっと役に立つはず。
ただ、エリアルのローリングの無敵時間ってちょっと独特なんだよね……普通のローリングに慣れてしまった俺には上手くできません。エリアルのローリングって無敵時間が普通のローリングよりも長かったりするのかね?
「あっ、そうなんだ。わかった、やってみる」
うん、やってみてくれ。テツカブラは咆哮のタイミングもわかりやすいし、良い練習になると思うから。
「テツカブラは今、エリア3ニャ」
「了解! それじゃ、改めて出発だー!」
そんな掛け声をしてから、ご主人と一緒にテツカブラのいるエリア3へ。雑魚モンスターもマッカォだし、これなら苦労することもないはず。
「う、うーん、やっぱり顔、怖いね……」
まぁ、“鬼蛙”なんて呼ばれるくらいだし、可愛い顔はしてない。口の中にカブトムシがいるところはお茶目だと思うけど。MHXでもカブトムシはいただろうか。よく覚えてないや。
「よしっ、いきます!」
さてさて、集中集中。
ブメネコならテツカブラとの相性はかなり良い。サクッと倒させてもらおうか。
そして、俺のブーメランとご主人のカチ上げが決まったところで、テツカブラが俺たちに気づき、夜の古代林にその咆哮が響いた。
その咆哮をフレーム回避し、ブーメランを2発。急いでサポゲを貯めないと。
「あっ、ホントだ。躱せた」
俺のアドバイスのおかげか、ご主人も咆哮のフレーム回避に成功……うん? 成功? マジでッ!?
い、いや、ちょっと待て。確かにフレーム回避をしやすい相手ではあるけれど、そんなちょっと言ったくらいでできるものなのか? このご主人は上手い。それは分かっている。分かっているけど……
「よっし! 乗ったよー!」
あっ、うん。ナイスです。
しっかしねぇ……今更だけど、このご主人、な~んか怪しくないですか?
その立派だった両牙は砕かれ、仰向けに倒れて動くことのなくなったテツカブラ。2乗り2スタンで多分、0分針。それは上出来すぎる結果。
「討伐完了! ネコさんもお疲れ様!」
「うニャ。お疲れ様ニャ」
初心者にしてはやたらと上手いと思っていた。きっとあの相棒みたいにセンスがあるんだろうとかそんなことを。
しかしだ。よくよく考えるとあの相棒と同じくらいセンスがあるってことがもうおかしい。それにアイツだって最初の頃は色々と失敗を繰り返していた。それと比べてこのご主人は失敗がなさすぎる。モンスターに吹き飛ばされているところも見るけれど、その後のリカバリーが抜群に上手い。その結果が、未だ0乙と言うものに繋がっているんだろう。
ただ、ご主人は自分のことを新米ハンターって言ってたんだよなぁ。テツカブラのことは知っていたみたいだけど、ドスマッカォやダイミョウザザミ、ドスファンゴのことは本当によく知らないみたいだったし。
「ネコさーん、剥ぎ取りしようよー」
「あっ、うん。直ぐ行くニャ」
う~ん……やっぱり何か隠してるよなぁ。初々しさを感じることが多々あったから、見逃してしまっていたけれど、このご主人を新米ハンターと言うのには無理がある気がする。
てか、これで本当に新米だったとしたら悔しい。新米ハンターが初見モンスターの咆哮をフレーム回避とかどうやったらできるんだよ。もしかしたら、偶々なのかと思っていたけれど、怒り咆哮も当たり前のように回避していたし。因みに、俺は失敗しました。
んで、このご主人が新米ハンターじゃないとすると……何が考えられるだろうか。ご主人はバルバレで俺が出場した闘技大会を見たと言っていた。でも、このご主人を集会所で見たことはないんだよなぁ。龍歴院ほどではないけれど、バルバレだってハンターの数は少ない。だから、バルバレのギルドに所属していれば顔くらいは見ていそうなものだけど……
そうなると……他のギルドに所属していたか
――俺やあの彼女と同じ世界から来た人間か。
そんなところになりそうだ。ただ、ソレを聞いて良いのかが分からない。ご主人が此処にいるのには、きっと何かしらの理由があるのだろうから。俺と同じ世界から来たのなら、色々と話したいこともあるんだけどさ。
ただねぇ……俺だってこう、色々と隠しているわけですよ。そうだと言うのに、ご主人だけの秘密を聞くってのはちょっと……なんて思うわけですよ。後ろめたさとか罪悪感とか。
それならもう良いのかな? 誰だって秘密の一つや二つあるだろう。それにご主人が自分から言わないってことは、まぁ、そう言うことなんだろう。
これからも一緒にクエストを続けていく仲だとは思うけれど、今の状態に不満はない。それはただの逃げかもしれないけれど、あの相棒のことを見習って俺も待つことにしてみよう。いつかご主人が自分のことを話してくれるその日まで。
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第15話~くるくる回る~
昨日は夜のクエストだったと言うこともあり、テツカブラを倒してベルナ村へ戻ってくる頃には、既に空が明るくなり始めていた。
今はこんな小さな身体をしているとは言え、それなりに丈夫なはず。けれども、流石に徹夜は堪えたらしく、ベルナ村へ戻ってから直ぐに寝てしまった。そして、起きたらもう夕方。完全に昼夜逆転してしまった気がする。
う~ん、夜のマップも嫌いじゃないけれど、これはちょっと問題かも。寝不足のままクエストへ行くのは勘弁してもらいたいところ。
未だに寝ているご主人を残してとりあえず家を後に。それにしても、このご主人って本当に良く眠るよね。まぁ、寝起きは良いみたいだから問題はないけど。
さてさて、ひとりで出てきたのは良いけれど、どうしようか。ご主人をおいて先にご飯を食べるのも申し訳ないし……
「おや? 今日はハンター殿と一緒ではないのか?」
そんなことを考えていると、ベルナ村の村長が話しかけてきた。
「ご主人はまだ寝ているニャ」
「そうか。先日のクエストは助かったよ。ハンター殿にもそのことを伝えておいてくれ」
了解。
この村へ来てからまだそれほど時間は経っていないけれど、あのご主人はかなり活躍していると思う。受けたクエストは全て問題なくクリアしているわけだし。
「ふむ……しかし、困ったな。ハンター殿に頼みたいことがあったのだが……」
あら、そうなの? 雰囲気的に新しいクエストだと思うけど、なんだろうか。ホロロホルルの狩猟とかだとすごく嬉しい。そろそろ俺も新しい武器が欲しかったところですし。
「それならボクが起こしてくるニャ」
「いや、流石にそれは……ああ、でも、できればお願いするよ」
ふむ、どうやら急ぎの用事みたいですね。それならご主人を早く連れてこないと。
村長の話を聞いて直ぐにまた家へ戻り、スピスピと寝ているご主人をペシペシと叩いて起こすことに。
「あぅ……な、なにごとですか……?」
「村長がご主人に用事があるみたいニャ」
身体を起こし、大きなアクビをしているご主人へ伝える。集会所はさっぱりなのだから、その分村クエを頑張らないと。
「ん~……了解! よし、それじゃ行こっか」
「うニャ」
相変わらず、ご主人の寝起きは良いらしく、直ぐに元気な声を出してくれた。
ゲーム的に言ったら、次はあのディノバルドが乱入してくる、深層シメジの採取クエストのはず。でも、前回俺と相棒でディノバルドも倒してしまったし、そうなると……なんだろうね?
「おお、ハンター殿、休んでいたところ申し訳ない」
「ああ、いえ、そんなお気にせず」
ご主人と共に村長の元へ。
はてさて、どんな用事なのやら。ホロロだと良いなぁ。ホロロが良いなぁ。
「先ごろ、龍歴院から火急の知らせが届いた。どうやら、先日古代林で夜間調査を行っていた調査隊がモンスターに襲撃されたらしい」
また襲われちゃったのか……何と言うか、調査隊も大変なんですね。いっそのことハンターと一緒に行動した方が良いんじゃないんだろうか。
そして、どうやら今回のターゲットは――
「そのモンスターの名はホロロホルル。別名、夜鳥とも呼ばれておるモンスターだ」
うむうむ、これは有り難い。残念ながらご主人の武器や防具の強化にホロロ素材を使うことはないだろうけれど、俺的にはかなり嬉しいです。ホロロのネコ武器……ホロロネコパラソルは斬れ味も緑まである睡眠武器。そして、ブーメラン特化でもあり、これが嬉しい。あと、打撃武器だからスタンだって取れます。ホロロ装備の防具はあまり好きじゃないけれど、武器は見た目も可愛い。
「調査隊の中には、その大きな瞳を見た瞬間寝てしまった者もいると聞いている。危険なモンスターではあるが、ハンター殿にこのホロロホルルの狩猟を頼みたい」
う~ん、ホロロの鬱陶しいのは睡眠より、あの混乱攻撃な気がするけど……あの攻撃を食らうとやらなくても良いのにオトモが吹き飛ばしてくれるし。あと、混乱状態が治った瞬間もちょっと鬱陶しい。
てか、この世界であの技を喰らったらどうなるんだ? ゲームの中ではスティック操作が逆になるだけだったが……うん、ちょっとどうなるか試してみたい気もする。
「は、はい。分かりました! 私にできる限り頑張ってみます!」
う~ん、ホロロの狩猟かぁ。戦いたい相手ではあるけれど、得意な相手でもないんだよね。身体が小さいから動きは速いし、隙もあまりない。それでいて、滑空攻撃の判定はおかしいし……まぁ、強い相手でもないから大丈夫だと思うけど。
そして、今回も夜の古代林でのクエストとなりそうだ。昼夜逆転が加速しますね。
ホロロの睡眠攻撃でも喰らえば治るだろうか? なんてバカみたいなことをチラッと思った。
「ネコさんネコさん。ホロロホルルってどんなモンスターなの?」
村長の話を聞いた後、飯を食べてから直ぐに出発。直前までしっかりと寝ていたせいか、珍しくご主人も起きている。
んで、ホロロだけど、フクロウ……って言っても伝わらないよね。
「鳥竜種のモンスターで、すばしっこく濃い青色のモンスターニャ」
空中咆哮や、滑空、飛びかかり攻撃とかを見る限り、多分、骨格はレウス系統だと思うけれど、アイツは色々と特別だからなぁ……
「ん~……やっぱり強いモンスター?」
「強いと言うより、鬱陶しい感じニャ。あと、テツカブラと同じように咆哮も大きいから気をつけるニャ」
あの咆哮ってフレーム回避できるのかね? 性能があればできた気がするけど、ネコで成功したことないんだよなぁ。ただ、エリアルなら大丈夫だとは思う。
あと、気をつけるとしたら、睡眠攻撃と混乱攻撃か。睡眠攻撃は俺が叩くか、元気ドリンコでも飲めば良い。ただ、混乱攻撃はどうしよう。一応、にが虫や小タル爆弾で復帰できるけど、ちょっと面倒なんだよね。まぁ、其処は実際に戦ってみて考えるとしよう。時間に余裕はあるだろうから、慎重に戦えば良いのだ。
「う、うーん、私でもなんとかなるかな?」
「ご主人ならまず大丈夫だと思うニャ」
残念ながらまだ新しい防具は完成していない。けれども、無茶さえしなければきっと大丈夫なはず。それくらいこのご主人は上手い。
「わかった。よし、頑張ります!」
うん、そうだね。いつも頼りにしています。
「そう言えば、村長がテツカブラを倒してくれて助かったって言っていたニャ」
「うん? そうなんだ。ふふ、それは嬉しいね」
……ちょっとずつだけど、このご主人もベルナ村の皆から頼りにされるハンターになってきていると思う。HRはまだ1。けれども、ちゃんと進めているんじゃないかと思うんだ。
その後、暫くご主人と雑談していると、夜の古代林へ到着。
頭の遥か上の方で輝く月が今日も綺麗だ。
「ホロロホルルはエリア4にいるニャ!」
「了解!」
支給品も受け取り準備は完了。
はてさて、ホロロはどんなものなのやら。
ご主人と一緒にホロロのいるエリア4へ。色のせいでどうにも見え難いけれど、確かにその姿を確認することはできる。
「アレが、ホロロホルル……なんだよね?」
「そうだニャ」
怒るとちょっと怖いけれど、見た目は可愛い方のモンスターだと思う。身体を膨らませて鱗粉を撒く時とか特に。少なくとも、フルフルよりはよっぽど可愛い。あの相棒がこのホロロホルルを見たらどんな反応をするだろうか。
「行きます!」
ご主人がそんな大きな声を出したところで、ホロロが此方へ気づき、咆哮。一応、フレーム回避を試してみたけれど、残念ながら失敗。多分だけど、ネコのローリングは剣士のソレと比べて無敵時間が短いと思う。素直に範囲外へ出るか、ガードをした方が良いかも。
一方、ご主人はフレーム回避に失敗したものの、エリアルのおかげで怯み時間も短く、直ぐに起き上がってからホロロを蹴ってジャンプ。そして、ハンマーを振り下ろしていた。うむ、俺も頑張らないと。
飛ばれると、俺の攻撃は当たらない。ただ、遠距離武器とホロロの相性はかなり良いはず。
空中からの飛びかかり攻撃を躱して、お返しにブーメランを1発。色々と試してみたいことはあるけど、最初は慎重に行こう。
ペシペシと一生懸命ブーメランを当て、頑張ってサポゲを貯める。
「あれ? なに、これ……身体が……」
そんなご主人の声が聞こえ、其方を見るとなんかフラフラしていた。そのご主人の周りには金色に輝く鱗粉。なるほど、混乱か。
う、うーん、どうにか助けてあげたいところだけど、助けようがないんだよね。頑張れご主人。
とは言え、此方はサポゲも貯まり、貫通ブーメランを使えるように。んで、ホロロは……ああ、ご主人を狙ってるわ、大ピンチだわ。混乱状態のハンターを優先的に狙うとは聞いていたけど、ホント容赦ないな。
「ご主人、避けるニャ!」
「い、いや、何がなんだか……」
結果、滑空攻撃を喰らってご主人が吹き飛ばされた。
むぅ、思っていた以上に混乱攻撃が辛いのかな。だって、ご主人ったら同じ場所をひたすらグルグル回っていたし。
「あっ、治った。ネコさん。回復するからちょっとの間、頑張って!」
了解です。どうかしっかりと体制を整えてくださいな。
さて、これは思っていたよりも苦労しそうだ。
なんかポンポン進むなぁって思っていましたが、よくよく考えると今やっているのは村クエでしたね
集会所へ行く日は来るのやら……
では、次話でお会いしましょう
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第16話~ネコなりにできること~
誤字報告感謝です
「んもう。また、何が何だかわからないことに……」
そんな言葉を落としながら、また同じ場所をクルクル回り始めるご主人。そして、ホロロはそんなご主人目掛けて滑空攻撃。
う~ん、どうにも上手くいかない。俺はまだ食らっていないからわからないけれど、どうやら混乱攻撃がかなり辛いらしい。ご主人も頑張ってその混乱攻撃を喰らわないようにはしているものの、近接武器じゃそれも厳しい。今回は相性がよろしくないんだ。
ただ、このご主人ならもっとあっさりいけると思っていたんだけどなぁ。まぁ、その分、今回は俺が頑張るとしよう。
それからも、ご主人はホロロに対してかなり苦戦している様子だった。睡眠攻撃を食らった時は俺がなんとかしてあげることができる。しかし、混乱攻撃ばかりはどう仕様も無い。試しにと思って、俺も一度混乱状態になってみたけれど、アレだね。予想以上にヤバいです。頭で思っていることと身体が違う動きをするってのはかなり慌てる。流石にその場でクルクル回ってしまうほどではなかったけど。
そんなどうにも上手くいかないことが続き、ホロロはエリアチェンジ。
「う~ごめんね、ネコさん。足、引っ張っちゃって……」
「別にボクは気にしないニャ」
苦手なモンスターだっているのだし、これはしゃーなしだ。俺だって、ブラキみたいに苦手モンスターがいる。
それにしても、このご主人はよくわからないな。テツカブラと戦った時とは動きが全然違う。珍しく乗りも失敗していたし。
「ホロロはエリア5へ行ったニャ!」
「……うん、わかった。ありがとう」
むぅ、ご主人に元気がない。乙ったわけでもないし、全く戦えていないわけでもない。だから、そんな気にすることじゃないと思うんだけどなぁ。初見モンスターだし、仕方無いのだ。ちょっとずつ慣れていけば良い。
エリア5へ移動し、ご主人がホロロへカチ上げから横振りを決めたところで、本日1回目のスタン。ナイスです。
俺も貫通&巨大ブーメランの準備は出来ていたから、そこで一気にダメージを稼ぐ。クエストが始まりもう10分針近い。体力だってそんなに多くないはずだし、そろそろ倒せるくらいだとは思う。
そして、スタンが解けたホロロはさらに疲労状態へ。大チャンスです。
しかし、脚を引きずりながらもホロロがエリアチェンジをしようとしていた。できれば此処で、倒しちゃいたいのだけど……
「乗った!」
タイミングは完璧。本日2回目の乗り。流石です。
疲労状態だし、大丈夫だとは思うけれど、俺もブーメランを投げて一生懸命サポート。頑張れ頑張れ。
「よしっ! 成功!」
乗りも成功し、ホロロがダウン。
さてさて、なかなかに苦労したけれど、これで終わりにしましょうか。
乗りダウンしたホロロホルル。その顔へご主人のホームランが決まったところで、ソイツは動かなくなった。
「はぁ……良かった」
「お疲れ様ニャ」
せっかくモンスターを倒したと言うのに、ご主人はやはり元気がない。アレだけ大変だったんだ。ソレを乗り越えることができたのだし、もっと喜んで良いと思うんだけどなぁ。
そして、ホロロを倒せたことで俺の武器も強化することができます。必要な素材は確か、端材と夜鳥の羽鱗。夜鳥の羽鱗は確定報酬だったはずだし、素材が足りないと言うこともない。ご主人も俺が武器を作ることは許してくれるだろうし。
ありがとう。今日の素材、大切に使わせていただきます。
「本当にごめんね、ネコさん……」
「だからボクは気にしていないニャ。元気を出すニャ」
帰りの飛行船。先程からご主人に謝られっぱなしです。確かに今日のご主人は今までと比べて動きは悪かった。けれども、こうして無事にクリアすることができたのだし、文句なんて何もないんだけどなぁ。
「初めてのモンスターは上手く戦えなくて……」
しゃーなしです。それもハンマーなら特に。他の武器ならまだ良いかもしれないけれど、ハンマーは相手の動きを覚えて、漸く普通に使えるくらいの武器なんだ。そして、今回の相手はホロロホルル。動きや攻撃技が独特だし、アレは仕方無い。
どうでも良いことだけど、ホロロホルルの肉って美味しいらしいね。今度食べてみようかな。
「でも、ホロロホルルってあんなに強かったんだね。これから大丈夫かなぁ」
まぁ、村クエくらいなら大丈夫だとは思う。集会所は……どうだろう。俺もあんまり自信ないです。
「新しい防具も完成しているはずだし、大丈夫だと思うニャ」
とは言え、いくら防御力が上がったところで、心が強くなるわけじゃないんだ。精神的なことばかりはどう仕様も無い。ただ、絶対に考えすぎだよなぁ。あの相棒もそうだったけれど、何をそんなに心配しているのやら……。それほどに失敗が怖いってことだろうか。
俺はこの世界の人間ではない。だから、どうしても考え方に差が出てしまう。今回もそれが原因なのかね? こう言う時、あの相棒がいてくれれば助かるんだが……
「うん、そうだね。今度はもっと頑張ってみるよ」
「頑張れニャ。あと、前回、テツカブラを倒したから、ご主人の武器はまた強化できるはずニャ」
これでまた装備が強くなりますね。
ただ、その間またご主人がクエストへ行けなくなっちゃうんだよなぁ。今作はやたらと武器強化が多いし、もうひとつハンマーを作っておいた方が良いかもしれない。
いっそ、ハンマー以外の武器を担ぐって言う選択肢もあるけどさ。
「あっ、そうなんだ。それじゃあ、その間また暇になっちゃうね。ネコさんはどうするの?」
ん~……村にいても仕様が無いしなぁ。
「またネコ専用のクエストをやっているニャ」
じっとしているのは苦手だし、それが良いと思う。正直、ネコ専用のクエストをやる意味はあまりないけれど、困っている人がいるのなら頑張ってみよう。まぁ、ネコに頼むくらいだし、そんなに困ってはいないんだろうけどさ。
「了解。う~ん、私はどうしようかなぁ」
武器がもうひとつあれば良かったんだけどね。余っている素材で何かできたりしないだろうか。前回、火山へ素材ツアーに行ったおかげでドラグライト鉱石が結構あるはず。それならアイアンハンマーとか良いかもしれない。あとは、ウォーハンマーとかか。他にもありそうですね。MH4の頃ならアクセルハンマーくらいしかなかったけれど、今作は武器の種類も多いから悩みどころだ。
それから、俺なりに一生懸命ご主人を励まそうと頑張ってみた。とは言え、そう言うのは苦手ですし、俺の言葉がどれくらいご主人に届いたのかはわからない。
ホント、このご主人は自分にもっと自信を持って良いと思うんだけどなぁ。
そして、ベルナ村へ到着。前回のクエストもそうだったけれど、今回も夜のクエストだった。まだちょっと薄暗いけれど、空は少しずつ明るくなり始めている。流石にちょっと眠いです。ただ、これで一度寝てしまったら次に起きるのはきっと夕方。なんともすごい生活だ。
「はふぅ……ん、とりあえず私は寝ようかな。ネコさんは?」
大きなアクビをしてからご主人が言った。
ん~……まぁ、此処で生活リズムを戻したところで、意味なんてそんなにないだろうから俺も寝ようかな。
「ボクも寝ることにするニャ」
「了解。それじゃ家へ帰ろっか」
報酬なんかも受け取れるけれど、それは起きてからで良いかな。こんな早い時間じゃ加工屋も開いてないし。焦る必要なんてないのだから、のんびりと行こう。
そんな会話をご主人として家へ戻ろうとした時だった。
「あっ、やっと帰ってきてくれた」
どうにも聞き覚えのある声。
「えっ……」
その声の主の方を向き、固まるご主人。
「……えと、どうしてハンターさんが此処にいるのニャ?」
まぁ、つまりアレですよ。どうしてなのかさっぱりわからないけれど、相棒さんがいました。いや、ホントどうしてコイツが此処にいるんだろう。
さっきまでの眠気なんて吹き飛びました。それくらい驚きました。だって、もう会えないんじゃないかとすら思っていたのだから。
「んとね、弓ちゃんと合流するためにユクモ村にいたんだ」
うん、それは聞いてます。
「そこであるモンスターの狩猟をお願いされたんだけど、そのモンスターがどうにもかなり強いらしくて……」
なるほど、此処までは理解できるぞ。
「だから、ちょっとネコちゃんの手を借りたいなって思ったんだ」
意味がわからない。
この相棒とあの弓ちゃんの実力ならどんなモンスターだって倒せると思う。G級の古龍種だってソロで倒せるくらいだし。それなのに、助けを求めるのもわからないし、その助けを求める相手が俺ってことがまたわからない。だって俺、ネコだもん。
「そんなわけなんだけど……ちょっとネコちゃんを借りても良いかな? たぶん、二日くらいはかかると思うけど」
そんな人をまた物みたいに……
いや、まぁ、俺もやらなきゃいけないことはないのだから、手伝うくらい良いのだけどさ。
「は、はい! 大丈夫です! 私も武器が完成するまではクエストへ行けませんし……」
「ありがとう。ごめんね。もし、何か困ったことがあったら今度は私たちが行くから」
あっ、それは助かるかも。この相棒が手伝ってくれるのはかなり大きい。もし大連続クエストとか、運搬クエストがあったら呼ぶとしよう。それにこの相棒ならご主人に良いアドバイスだってできそうだ。
「急いだ方が良いからもう行くね。ありがとう槌ちゃん」
「あっ、いえ、そんなそのくらいならいくらでも」
ご主人、そのセリフは流石に傷つきます。
てか、もう出発するの? あと、俺の意見とかは聞かなくて良いんですか? それに話の内容的に、あの弓ちゃんがいるんだよね……何を言われるのか分かったものじゃないし、一言も喋らないでおこうかな。
「それじゃあ、またね槌ちゃん」
「はい! また! ネコさんも気を付けてね」
お互いに手を振るご主人と相棒さん。
俺には何が起きているのかさっぱりです。ホント、どうなることやら……
次話は多分、ご主人さん視点のお話です
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第17話~二匹目~
「はぁ……何をすればいいのかな」
武器の強化を加工屋さんに頼み、今はクエストへ行くこともできない。頼りになるネコさんもあのハンターさんと一緒に行っちゃったし……どうしよう。
それにしても、前回のクエストは本当に失敗だった。ネコさんは気にしてないと言っていたし、一生懸命私を励ましてくれた。けれども、どう考えたってあのクエストは私が足を引っ張ってたよね……
ネコさんはあれくらい気にしないと言った。そう言ってくれた。けれども、それはあのネコさんが知らないから。
私が初心者ハンターじゃないってことを……
確かに私はこのベルナ村へ来たばかりのハンターで、集会所のクエストなんてやったことがない。でも、このベルナ村へ来る前からハンターはやっていたし、それなりの数のモンスターを倒してきた。そうだと言うのに、前回のクエストは散々な結果。ホロロホルルと戦うのは初めてで、ハンマーだってこのベルナ村へ来てから使い始めた。それでも、彼処まで何もできないのは流石に凹んだ。
もし私が本当に初心者ハンターだったらまだ良かったと思う。でも、私はそうじゃないのだ。それなりの経験を積んでしまったハンターなんだ。
そして、そのことをあのネコさんは知らない。だって、もし知っていたら、あんな優しい言葉はかけてくれないもの。
本当はネコさんにちゃんと伝えないとダメだと思う。でも、そのことを伝えてしまうのはやっぱり怖い。だって、あのネコさんはすごく上手いし、私よりずっとずっと多くの知識がある。それこそ、私のオトモなんかじゃなく、あのハンターさんのオトモになるくらいの実力が。
そんなネコさんが私のオトモをやってくれていることは嬉しい。でも、私なんかよりももっと良いハンターのオトモになってもらいたいって思って……ただ、あのネコさんと別れてひとりでハンターをやる勇気はなくて……
ホント、どうすればいいのかなぁ……
「おお、ハンター殿。先日は、ホロロホルルの狩猟ご苦労だった。改めて礼を言う」
どうしたものかと悩んでいたら、村長さんの声。
「ああ、いえ……あれはネコさんが頑張ってくれたからで、私はそんな……」
「ははっ、そんな謙遜しなくても。それよりだ、ネコ嬢のお嬢さんがハンター殿を探しておったぞ。なんでも、新しいオトモを紹介したいとか」
謙遜なんかじゃなくて事実なんですよね……只今、そのことで滅茶苦茶凹んでいるところです。
そして、ネコ嬢さんが私に、か。そう言えば、あのネコさんと初めて会った時もこんな感じだった。オトモは2匹まで連れて行けるし、まだ枠はある。それに、いつの日かあのネコさんとは別れてしまう日だって来るかもしれない。だからこれは有り難いかも。
「分かりました。行ってみます」
今度のネコさんはどんなネコさんなんだろね。仲良くできればいいけど……
「いらっしゃいませ、ハンターさん~」
オトモ広場へ行くと、今日も元気にネコ嬢さんが挨拶をしてくれた。ネコ嬢さんの見た目は小さな女の子だけど、そのとんがった耳を見る限り竜人族だと思う。だからもしかすると、私よりも年上だったりするのかな?
「こんにちは。村長さんからネコさんを紹介してくれるって聞いてるけど……」
「はい~。先日、新しいアイルーちゃんが来まして、是非ハンターさんのオトモに、と思ったんです」
それにしても、このネコ嬢さんってどうやってネコさんたちを見つけて来るんだろう。ハンターの中には旧砂漠とかへ行き、クエスト中に直接スカウトする人もいるって聞いているけど、ネコ嬢さんもそうやって探してくるのかな? いや、ちょっとそれは想像できないや……
「ほらほら、アイルーちゃんもハンターさんに挨拶して」
そう言ってネコ嬢さんが紹介してくれたのは、真っ白な毛が特徴のネコさんだった。
「……えと、初めまして、にゃ」
ふふ、緊張しているのかな? 言葉使いがなんともたどたどしい。あのネコさんだって最初は……ああ、うん、最初からあんな感じだったね。むしろ、私の方が緊張していた気がする。
「このアイルーちゃんも前回紹介したアイルーちゃんと同じように、まだ狩りの経験はありません。ただ、私の勘でしかありませんが、立派なオトモになると思いますよ!」
おおー、それは頼もしい。今のネコさんもかなり頼もしいけど、やっぱりパーティーは多い方が良いよね。
「うん、ありがとうネコ嬢さん。それじゃ、これからよろしくね。えと……白ネコさん」
ネコさんって呼んであげたいところだけど、それじゃあ、あのネコさんと被っちゃうもんね。それにこんなに綺麗な色の毛をしているんだ。白ネコさんって呼び方はなかなか合っていると思う。
「よろしく……にゃ」
もしかしたら、こう言う性格なのかもしれないけれど、どうにも白ネコさんに元気がない。私としてはこれから一緒に戦っていくのだし、仲良くなりたいのだけど……
う~ん、これは仲良くなるまで色々と苦労しそうだ。
「それではハンターさん、良い狩りを~」
「うん、ネコ嬢さんもまたね」
ネコ嬢さんに別れを告げ、新しくオトモとなってくれた白ネコさんと一緒にオトモ広場を後に。
さて、これからどうしよっか?
「これからの予定はどうするの、にゃ」
とりあえず、と言うことで白ネコさんと一緒にご飯を食べることに。
「えと、今武器の強化をしているから、それが完成するまでクエストへは行けないんだ。だから、特に予定は決めてないよ。白ネコさんは何かやりたいことある?」
「特にないけど……あっ、武器と防具が欲しい、にゃ」
まぁ、そりゃあ、そうだよね。武器は確かマッカォのがあったと思うけど、防具は余っていないから、新しく作らなきゃだ。端材の関係でザザミ防具なら直ぐにできると思う。
そして、気になったことがひとつ。
「ん~……別に無理して“ニャ”って付けなくてもいいと思うよ?」
この白ネコさんの喋り方はどうにも無理をしている気がしてしまう。
「……でも、ネコなのに“ニャ”って言わないのは変じゃない?」
それはどうなんだろう。確かにあのネコさんはいつもニャーニャー言うし、今まで会ってきたアイルーさんたちもニャーニャー言っていた。だからと言って、言いにくいのなら言わなくていいと思う。
「うん、別に変じゃないと思うよ。少なくとも私はそう思う」
それくらいで嫌ったりはしないし、安心してほしいかな。
「そっか……それじゃあ、ニャーニャー言うのやめる」
うんうん、そっちの方が絶対にいい。あのネコさんがどう思うのかはちょっとわからないけど。ただ、あのネコさんも優しいし、何も言わないとは思う。
自分らしさってのはやっぱり大切なんじゃないかな。
「ご主人さんは何の武器を使っているの?」
「ハンマーだよ」
使い始めたばかりだし、全然上手く使えない。私の目標はあのハンマー使いのハンターさんのようにハンマーを使うことだけど、いつになったらあんなに上手くなれるのかなぁ。
そして、私の返事に白ネコさんは酷く驚いたような顔をした。あのネコさんの時もそうだったけれど、ハンマーを使うのってそんなに変なのかな?
「え、えと……どうしてハンマー?」
それもあのネコさんと同じ質問。
「昔にね、ハンマーを使うハンターさんがいて、その人がすごくカッコ良かったんだ。そんなハンターさんに憧れて私も使い始めたんだけど……難しいんだね、ハンマーって」
エリアル以外のスタイルにした方が良かったりするのかな? やっぱり最初はギルドスタイルで練習したりとか。
きっと私は片手剣の方が上手く使えると思う。でも、せっかく新しい場所で頑張るって決めたんだ。だから新しい自分になるためにも新しい武器で頑張ってみたい。そう思うんだ。
「よし、それじゃあ私の武器が完成したら、白ネコさんの装備を作ろっか。白ネコさんはどの武器がいい?」
「それじゃあ、ナルガクルガの装備がいいけど……ナルガクルガと戦ったことはある?」
えと、ナルガクルガってのは確か、迅竜のことだよね? 滅茶苦茶強いモンスターだって聞いてる。これはまた、いきなりすごいことを言ってくれるアイルーさんだ。
「戦ったこと、ないです……」
頼りないご主人でごめんね……
「あっ、いや、そんな私が我が儘を言っただけだから、気にしなくても……え、えと、じゃあリオレイアは?」
さっきから、この白ネコさんの要求が予想以上に高い。なんだろうね、この気持ちは。
そして、リオレイアかぁ……このベルナ村へ来てからはまだ戦ったことがない。戦ったことはないけど……
「うん、リオレイアならなんとかなると思うよ」
でも、この白ネコさんはいきなり大型種と戦って大丈夫なんだろうか? リオレイアなら私ひとりで倒したことはあるけれど、やっぱりひとりじゃ厳しい。
ああ、でも新しい防具だってできるしなんとかなるのかな?
「じゃあ、レイアの装備にする」
「了解。出発するのは武器が完成してからになっちゃうけど、大丈夫?」
「大丈夫。私も頑張る」
……白ネコさんって狩りの経験ないんだよね? それでいてこの自信は何処から来るんだろう。私はよくあのネコさんから『ご主人はもっと自分に自信を持つニャ』なんて言われるけど、この白ネコさんを見習えば良いのかな?
難易度高いなぁ……
とは言え、最初はどうなるかなぁって思っていたけれど、この白ネコさんともなんだか上手くやっていけそうだ。ちょっと無口……と言うか、独特の雰囲気のあるアイルーさんではあると思う。でも、私との相性はそんなに悪くないんじゃないかなぁって思います。
だから、これからもよろしくね、白ネコさん。
次話もこの一人と一匹のお話となりそうです
相棒さんたちのお話はそれが終わったらかと
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第18話~勘違い~
「よしっ! それじゃ頑張っていこっか!」
「おー」
場所は森丘という私が初めて来るところで、目的は雌火竜リオレイアの狩猟。
私の新しい防具も完成し、今はザザミ一式を装備している。以前までつけていたベルダー一式と比べて防御力もかなり上がったんじゃないかと思う。白ネコさん曰く、10倍くらい強くなったみたい。流石にそれは信じられないけど、強くなったことは確か。これからは強いモンスターも増えてくるだろうし、私も頑張らないと。あと、ハンマーもちゃんと強化しました。
新しい防具の見た目だけど……なんだろう。カッコイイと言うよりは可愛い感じ。装備していて少し恥ずかしいです。この装備はネコさんに勧められたものだけど、あのネコさんってこう言う装備が好きなのかな……
そんな私がリオレイアのクエストを受けたのは、白ネコさんの装備を作るため。だって、今の白ネコさんは頭にどんぐりネコヘルムを被っているだけで、胴装備は無し。武器だって、間違えて作ってもらっちゃったマッカォネコダガーと、強い装備じゃない。
だから私はリオレイアみたいに強いモンスターじゃなくて、ドスマッカォとかそのくらいの強さのモンスターを倒して装備を整えてからの方がいいと思った。だって、この白ネコさんはまだクエストへ行った経験がないのだから。
そうだと言うのに、白ネコさんは……
――レイアなら大丈夫。頑張れば倒せるから。
なんて言ってくれた。それは随分と頼もしいセリフだけど、正直不安しかない。ホント、その自信は何処から来るのだろう。いや、そりゃあ頑張れば倒せると思うけどさ……てか、いきなり大型種と戦うのって怖くないのかな?
そんななんとも不思議な感じの白ネコさんだけど……何を考えているのかよく分からないアイルーさんみたいです。昨日出会って一日一緒に過ごしたわけだけど、マイペースと言うか何と言うか……
ただ、ちゃんと私のことも考えてくれているみたいだから、悪い子ではないと思う。あのネコさんはどちらかと言えば熱血っぽい感じだけど、この白ネコさんはクールな性格。ほぼほぼ正反対な性格の2匹だけど、あのネコさんと仲良くなれるかなぁ。
「……初期エリアは5」
「了解。ありがとう」
う~ん、それにしてもリオレイアかぁ。こうして戦うのは何時以来だろう。最初は本当に苦労したなぁ。倒せないことはないと思うけど、苦手です。空を飛ぶし、火を吐くし、毒状態にされる尻尾攻撃は強いし……
むぅ、いきなり不安になってきた。
「私も頑張るから大丈夫」
そして、どうやらソレが表情に出ていたらしく、白ネコさんにそんなことを言われてしまった。情けないなぁ。でも、ありがとう。私も頑張るね。
「うん、一緒に頑張ろう!」
オトモに心配されているようじゃダメだ。色々と考えちゃうところもあるけど、ネコさんから言われたように、あのハンターさんくらい上手くなるって決めたんだ。それなら我武者羅でもいいから前へ進もう。
ネコさんと一緒にエリア5を目指していたけれど、途中でリオレイアが移動しちゃったみたいで、エリア2へ逆戻り。
リオレイアが移動したことは白ネコさんが教えてくれました。
そして、エリア2へ。
緑色の甲殻に覆われ、巨大な翼に長い刺のある尻尾。雌火竜リオレイア。陸の女王。ソレがいた。
白ネコさんがブーメランを当てたところで、リオレイアが私たちに気づき、大きな咆哮を出した。できるか分からなかったけど、とりあえずローリングをしてみる。
完全に咆哮を躱すことはできなかった。でも、その怯み時間はいつもよりもずっと短い。ネコさんからいいこと教えてもらっちゃったね。これはかなり助かります。
右腰へハンマーを構え、ブレスを吐き出したリオレイアの頭へ溜めていたハンマーを振り上げる。リオレイアの弱点は頭のはずだし、ひたすらに其処を狙っていこう。
突進を躱してからローリング。そのままリオレイアを蹴って飛び、全力でハンマーを振り下ろした。乗ってダウンを取らないと、私の腕じゃスタンなんて取れない。
一方、白ネコさんの様子だけど、怖がることなんて全くなく、ひたすらブーメランを投げつけていた。もしかしたら、経験がないからその怖さを分かっていないだけかもしれないけど、素直にすごいと思う。だって、初めての狩りでいきなり大型種のそれも飛竜種相手にちゃんと戦えているのだから。
そして、私も4回目のジャンプ攻撃で漸くリオレイアの背中へ乗ることができた。
「乗った! 援護お願い!」
「了解」
リオレイアは何度か戦ったことのある相手、初見モンスターだと失敗しちゃうことが多いけれど、リオレイアなら大丈夫。
そんなことで、乗り攻撃も無事、成功。
ダウンしたリオレイアの頭の前へ行き、ハンマーを2回振り下ろしてから、ぐるりと一回転してアッパー。
そこで、一回目のスタンを取ることができた。
「ぐぅれいと」
そんな白ネコさんの声。うん、ありがとう。頑張ってもう一回はスタンを取ってみるね。
スタンしたリオレイアへさっきと同じことを二回。それが終わったところで、リオレイアは起き上がり、また大きな咆哮を出した。
口からは炎が溢れているところを見るに、どうやら怒り状態になったみたい。此処からが大変だ。
怒り状態となって飛んだリオレイアは一気に私の場所まで飛んできた。
あっ、これはマズイぞ。なんて思って慌ててローリングをしてみたけれど、リオレイアは空中でグルリと回り、その尻尾が私に直撃。吹き飛びました。
この攻撃、嫌い。だって、全然避けられないんだもん。
吹き飛ばされた私は毒状態に。ただ、思った以上にダメージは少ない。新しい防具を作っておいて本当に良かったと思う。
「ちょっと回復するから、少しの間頑張って!」
「……おまかせー」
ダメージは少なかったけれど、毒状態のままと言うのはちょっとマズイ。だからリオレイアはちょっとの間白ネコさんに頼んで私は回復。初めての狩りなのにゴメンね。
アイテムポーチから解毒薬と回復薬を取り出して一気に飲み込む。回復薬の味はあまり好きじゃないけど、文句を言っている場合じゃない。私も早く戦闘へ戻らないと。
そんな準備も終わり、再び戦闘へ戻ろうとしたけど、リオレイアは既にエリアを移動するために地面から脚を離していた。
「……あーレイア行っちゃうレイア」
そんな言葉を出しつつ、飛び去っていくリオレイアを見上げる白ネコさん。ちょっと可愛い。
とは言え、此処まではかなり順調だと思う。白ネコさんも普通に戦えているみたい……てか、初めての狩りとは思えないくらいだ。
「ご主人さん、ご主人さん」
斬れ味が落ちてしまったハンマーを研いでいると、白ネコさんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
何か問題でもあったのかな? 今のところは何の問題もなかったと思うけど……
「えと、サマーソルトだけど」
ん~……サマーソルトってのは確か、私がくらっちゃったあの攻撃だよね。そう呼ぶこともあるって聞いたことがある。あの攻撃は本当に苦手だ。どう避ければいいのかがわからないんです。
「レイアに対して縦方向じゃなくて、横方向に避ければ良いと思う。ギリギリまで軸合わせをしてくるから、ソレをしっかりと見ながら横にコロンって」
……アドバイスをされてしまった。それも今日初めて狩りをしているアイルーさんに。
いや、このアドバイスは有り難いし、なるほどそうやって避ければいいのかって思うけど、なんだろうね、この気持ちは。
「……あと、レイアはしっかりと振り向いてくれるモンスターだから、突進の後とか無理やり頭を狙うんじゃなくて、尻尾のしたくらいで振り向きを待ってから攻撃すれば良いと思う」
そう言えば、確かに無理やり頭を狙っていたかも。なるほど、だから私は壁際で突進を連発されたのか。
「うん、わかった。ちょっとやってみる」
「頑張って」
……この白ネコさんって本当に今日が初めての狩りなの? 流石にそれは信じられなくなってきたのですが。
その後、白ネコさんからのアドバイス通りに色々と試してみた。
失敗してまたあのサマーソルトを1回くらっちゃったけど、そのあとは普通に避けられるように。どうやら今までの私はちょっと慌て過ぎていたみたい。しっかりと見れば、避けるのも難しくないし。
そして、突進の後は尻尾の下辺りで振り向きを待つと言うのもやってみた。たまに白ネコさんの方へ走っていっちゃうこともあるけど、頭すごく狙いやすいです。面白いくらいにハンマーが頭へ入る。
リオレイアはちょっと苦手なモンスターだったけど、今回のクエストのおかげでその苦手意識もかなり減ったと思う。それもこの白ネコさんのおかげです。
「よっし! 討伐完了! お疲れ様、白ネコさん」
「うん、お疲れ様」
倒したリオレイアからせっせと剥ぎ取りをしながら言葉を落とした白ネコさん。なんかもう熟練のハンターさんみたいだ……
さて、白ネコさんの装備のために私も剥ぎ取りをしないと。
「……白ネコさんってさ、本当に今日が初めてのクエストなの?」
帰りの飛行船で、疑問に思っていたことを聞いてみた。これで、初めてだと言われても驚きだし、初めてじゃないと言われても何があったのかと思う。
「ん~何と言うか……初めてと言えば初めてだけど、初めてじゃないと言えば初めてじゃないって感じ」
……うん? どう言う意味なんだろう。もしかして、私と同じように、このベルナ村でのクエストは初めてってことなのかな。この白ネコさんもかなり上手いみたいだし、きっと有名なハンターさんとかのオトモだったんだろうなぁ。これはまた頼もしいアイルーさんが私にオトモに……
「よくわかんないけど……白ネコさんがハンマーに詳しいのもその影響?」
あそこまで的確なアドバイスなんて普通はできない。つまり、この白ネコさんは昔ハンマーを使うハンターさんのオトモだったのかなって思った。
「うん、ハンマーばかりを使う人をずっと見てきたから」
そう言った白ネコさんは何処か恥ずかしそうに……でも、ちょっと誇らしげで嬉しそうだった。ただ、その表情の裏には悲しそうなモノが少しだけ見えた気がする。
この白ネコさんの過去に何があったのかわからない。でも、私のオトモになるまで1匹でいたと言うことはきっと……
流石にそこまでは聞けない。
ハンマーを使うハンターさんと言うと、直ぐにあの人が思い浮かんだ。でも、きっとそれは違うだろう。だって、あのハンターさんはオトモを連れていなかったと聞いているし。
うん……私じゃそのハンマーを使うハンターさんの代わりになんてなれないけれど、君のご主人として精一杯やってみます。
「そっか……ちょっと頼りないご主人かもしれないけど、これからもよろしくね、白ネコさん」
「うん、私もご主人さんが有名なハンターとなるよう頑張る」
ホント、私のオトモは頼りになります。
私なんかにはもったいない気がしちゃうけれど……私なりに頑張ってみるので、そんな私を助けてくれれば嬉しいかな。
これはまた、色々と勘違いしているパーティーとなりそうですね
彼が帰ってきたらその勘違いがもっと加速するんだろうなぁ
次話は、彼と相棒さんたちのお話の予定です
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第19話~予想外~
寝不足のせいか目蓋は重く、いつもより若干狭くなった世界へ差し込んだ陽の光はやたらと眩しく感じた。
昨日もほとんど寝てないから、ホント眠いんです。
正直なところ、今すぐに寝てしまいたい。それも自分の家でゆっくりと。しかしながら、そんなことはできそうにないわけですよ。
「ん~……早起きするのも気持ちがいいね!」
大きな伸びをしながら俺の隣に立っている奴が、そんな言葉を落とした。
「君もそう思わない?」
「ひたすらに眠いです」
だってそもそも俺は寝てないんだ。早起きとかそう言う話じゃない。
はぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろうね? せめてご主人が一緒にいてくれればまだ良かった気がする。ご主人がいれば、面倒なことになった時、押し付けられるわけですし。
けれども、今は俺とこの相棒さんの二人きり。逃げることなんてできるわけがない。コイツもコイツで何を考えているのやら……
「……んで、どうして俺が行かないといけないの?」
本当にそれがわからない。
相棒曰く、強いモンスターがいるから手伝ってくれとのことだったけど、この相棒ならまず大丈夫だろう。それにあの弓ちゃんもいるっぽいし、俺なんて絶対にいらない。だいたい、あの二人でダメなら俺だって無理です。
「んもう、またそんなこと言って。……別に手伝ってくれたっていいじゃんか」
あっ、いやそれは……まぁ、はい。そうですね。お手伝いします。
はぁ……立場弱いなぁ。それもこれも全部俺がいけないんだけどさ。ホント、申し訳ないとは思っているわけですよ。
「……それに、どうせ君から私たちのところには来てくれないんでしょ?」
「そりゃあ、そうだろ」
だって、今は他にやらなきゃいけないことがあるし、お前ら二人でも充分やっていけてるみたいだし。
「そこは嘘でも違うとか言ってよ……」
ため息混じりの相棒さん。
とは言っても、そもそもこんな姿だ。俺がいたところで戦力になんてほとんどならないと思うぞ? 武器も防具も下位装備。そんな状態でお前らが普段戦っているG級のモンスターを相手にするとか絶対無理です。G級モンスターってのはそれほどに強いのだから。
「そう言う問題じゃないの」
そう言う問題じゃないのか……
でも、足を引っ張るのは嫌なんです。そして何より、今はご主人を立派なハンターにするため、頑張らないといけないんです。
「それで、その強いモンスターってのは?」
相棒が龍歴院へ来た理由なんかを考えると、なんとなくどのモンスターがターゲットなのかわかるけど、一応聞くだけ聞いてみる。
しかし、このままじゃ、この相棒さんがパッケージモンスターを全部倒しちゃうんじゃ……
「んとね。ナルガクルガって言うモンスターだよ。なんでもすごく強いんだって」
おろ? ナルガが相手なの? ユクモ村だし、タマミツネが相手なんだろうって思い込んでいた。確かにナルガの危険度はタマミツネと同じだし、強いモンスターと言えば強いモンスターだけど……いや、お前らなら絶対大丈夫だろ。
ナルガはMH4Gに出ないモンスターだけど、癖が強いモンスターでもない。確定行動も多いし、理不尽な当たり判定もない。2Gの時と比べればかなり優しくなったと思う。
「ナルガねぇ……ホントに俺が行く意味あるの?」
ナルガ素材が手に入ると考えれば嬉しいし、ナルガは戦っていて面白いモンスター。だから、そこまで文句はない。だからと言って、この相棒さんや弓ちゃんと一緒に戦うとなると……まぁ、色々思ってしまうわけですよ。
「……多分、私たち二人でもなんとかなると思う」
でしょうね。俺もそう思うもん。
てか、相棒がそんなことを言うなんて珍しいね。いつもはもっと控えめな……ああ、そっか。今回はソロじゃなくて弓ちゃんがいるから強気なのか。昔からそう言う奴だった。
ただ、この相棒ならソロでも問題なくいけると思う。本当にこの人上手いんです。
「だから、これは私のワガママです! それにこうやって色々と繋がりを作っておかないと、君ってまた何処かへ行っちゃいそうなんだもん」
あー……そう言われると俺からは何も言えないわけでして……それにまた消えることになってしまうと思う。今までの流れ的に今回はオストガロアを倒したところでだと思うけど。
「……ホントはさ。君を大老殿へ連れて行きたいところなんだ」
…………コイツは何を言っているんだ? ものすごいことを言っているわけですが、そのことを分かっているのだろうか。
「そんなことできるの?」
半分くらい俺のせいだけど、この相棒と弓ちゃんはかなり有名なハンター。そんなハンターがいきなりわけわからんネコなんて連れてきたら色々と問題になりそうだ。しかも大老殿は選ばれたハンターのみが集まる場所。いくらオトモとは言え、対して活躍もしてないようなネコが其処へ行けるとは思わない。
「うん、大丈夫だと思う。それくらいの意見が通るくらいの仕事してるもん。向こうだって私に違うギルドへ行かれたくないだろうし」
あの……相棒さん、腹黒くなってません? こんなこと言う人じゃなかった気が……なるほど、あの弓ちゃんの影響だな?
「……でもさ、今の君には槌ちゃんがいるし、そんなことできない。それでも、やっぱり君とは会いたかったからこうやって無理矢理でも呼んだんだ」
ああ、そう言うことですか。良かった。もしかしたら、大老殿へ連れて行かれるんじゃないかと思ってかなり焦った。あのご主人もかなり上手いハンターだと思うけど、前回のホロロ戦のことと言い、何処か引っかかるところがある。俺にできることは少ないけど、オトモなりにできることをちゃんとやりたいんです。
それにしても、相棒も色々と考えていてくれたんだね。
「だから、今日はよろしくね」
「ああ、できるだけ頑張ってみるよ」
ひとり足りないけれど、久しぶりのパーティー。嫌だ嫌だと言いつつ、実は楽しみにしている自分もいたりします。
ただ、できるならあの彼女も一緒にいてくれたら良いのになって思った。
そして、無事ユクモ村へ到着。
少しばかり漂ってくる硫黄の香りと純和風の建物。ゲームをやっている時も思っていたけれど、この村の雰囲気が一番好きかもしれない。
「君ってこの村へ来るのは初めてなの?」
「うん、初めてだよ」
嘘ではないです。ゲームの中では何度も訪れたけれど、実際に来るのは初めて。だからちょっとワクワクしてます。
でも、それ以上に今は眠い。少しでも気を抜いたら寝てしまいそうだ。寝ぼけて変なことを口走らなければ良いが。
「あっ、お帰りです。……って、良いハンターとはネコのことでしたか」
眠気を紛らわすため、ぐしぐしと目を擦っていると、誰かがとてとてと近づいてきてそんなことを言った。
防具はレウス一式、武器はラギア弓であるボルトアロー。そんな装備の女の子。幼さを感じる顔立ちも少しばかりの成長を感じた。
「あれ? 言ってなかったっけ? このネコちゃんが前に言っていたアイルーちゃんだよ。ディノバルドを倒すときは手伝ってもらったんだ」
「はい、ネコと言うのは今初めて聞きました」
ふむ、どうやら相棒は俺のことを話してはいないらしい。この子の場合、知らないフリをしている可能性もあるけど……ま、まぁ、この様子なら多分大丈夫だろう。てか、この子には本当にバレたくないです。相棒さん以上に、何を言われるか分かったものじゃない。
「とりあえず、今回はよろしくお願いします。はじめましてですね。弓を使っている者です」
そう言ってから弓ちゃんは丁寧に頭を下げた。見た目は可愛いし、外面は本当に良い子なんだけどなぁ。この子のファンも多いみたいだし。
「初めましてニャ。よろしくお願いするニャ」
俺がそう言うと、隣にいる相棒さんの視線が強くなった。
いや、流石に無理だって、言えませんって。はぁ、これはまた胃が痛くなりそうだ。回復薬でも飲めば治るのかな? いや、ネコだから飲めないのか……
「それで、この後はどうしますか?」
「ん~……どうしよっか? 直ぐにクエストへ行かなくて良いはずだけど……あっ、じゃあ温泉に入りたい」
直ぐにクエストやらなくて良いんだ……いや、まぁ、俺としても今は寝たいから有難いんだけどさ。あと、一日あれば新しい武器を作ってもらえるしそれも美味しい。いつまでもマッカォ武器じゃ厳しいんです。ただ、これでナルガを倒せばナルガ武器も作ることができるんだよなぁ……
まぁ、いっか。睡眠武器はあって困らないし作ってもらうことにしよう。
「そう言えば、名物なのにまだ温泉へ入っていませんでしたね。それじゃあ、明日に向けてゆっくりと休みましょうか」
ナルガかぁ、まず大丈夫だとは思うけど、確一とかだとやばいよなぁ。それならいっそ防具も作ってもらっちゃおうかな。人間の装備と違ってネコの装備は早く作ってもらえるし。
ただ、ホロロ防具の見た目ってあまり好きじゃないんですよ。そんなことを言ってる場合でもないけど。
「そだね。それじゃ、集会浴所へ行こうか。ほら、ネコちゃんも行くよ」
「遠慮するニャ」
さてさて、加工屋の元へ行こうか。装備のことを頼んだら、もう今日は寝よう。今ならいくらでも寝ることができそうだ。
「……ネコちゃんなのに恥ずかしいの?」
意地の悪い笑をしながら相棒さんはそんなことを言った。最近は相棒さんにいじめられっぱなしだ。
……いや、そりゃあ、お前らと温泉へ入るのは恥ずかしいよ。それにほら、色々と問題があるのですよ。言わなきゃバレないことではあるけれど、何処から漏れるのか分からない。そうなった時、あの彼女に何を言われる……てか、何をされるのか分からない。あの彼女、怒ると怖いんです。それもすごく。
相棒も本気ではなかったと信じたいけど、さっさと逃げることにした。自分の平穏な未来のために。
そして、次の日。
加工屋へ頼んでいた装備も完成し、準備は整いました。防具の防御力は驚きの2.5倍。これだけ固めれば流石に確一はないだろう。
んで、昨日だけど、加工屋へ頼んだ後はさっさと寝てしまいました。とにかく眠かったってのもあるけれど、起きていたら何をされるのかわからないし。
さてさて、それじゃあナルガと戦ってきますか。調子も悪くないし、パーティーのメンバーには文句なし。サクッと倒してこよう。
けれども、その前にひとつ。
「ボクの武器は睡眠武器だから、爆弾を持って行ってほしいニャ」
せっかくの睡眠武器なのだし、一度は睡眠爆破をやっておきたいよね。流石に一回は眠らせることができると思う。
「了解」
「はい、分かりました」
そんな準備をし、飯を食べてから渓流へ出発。目的はナルガクルガの討伐。
そう言えば、下位集会所クエストに渓流でナルガの討伐クエストってあったかな? 捕獲クエストはあったと思うけど……まぁ、ゲームとは違うし、そんなことを考えても仕方無いか。
「よし、それじゃ出発だー!」
「はい」
「うニャ」
渓流に着いてから相棒さんが元気な声を出し、それに続いて俺たちも声を出した。それがなんとも懐かしい感じで、悪くない気分だった。
「ナルガクルガはエリア6にいるニャ」
「了解!」
そう言えば、体験版もナルガのクエストは渓流だったなぁ。なんだか色々と懐かしい気分になる。
うむ、戦い慣れた相手ではあるけど、油断せずにいこう。この二人なら大丈夫だと思うけど、一応二人はナルガクルガと初見なわけですし。
そして、エリア6へ到着。
「……え、えと相棒さん?」
「うん? どうしたの?」
其処にナルガクルガはいた。確かにソイツがナルガクルガであることに違いはない。見慣れた相手であることにも違いはない。
けれども、ソイツの姿を見て身体は固まった。
「アレが今回のターゲットなのか?」
「うん、そうだよ。初めて見たけど、ナルガクルガって白くてカッコイイんだね。もっと黒いのかと思ってた」
昨日、早々に寝てしまい、クエストの詳細を聞かなかった俺が悪いのだと思う。
でもさ、こんなこと予想できるわけがない。
通常種よりも一回り大きく、その全身には白色の文様。
つまるところ、今回のターゲットはナルガクルガの特異個体……白疾風ナルガクルガらしい。
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第20話~無理~
強い敵との戦いは面白い。
一度ボコボコにされ、こんな奴勝てるのか? なんて思いながら戦略を練り、立ち回りを考え、そうしてギリギリで勝つことのできるような相手との戦いは本当に面白いと思う。
とは言え、流石にこれはなぁ……
「よーし、それじゃ頑張ろー!」
「はい!」
なんとも元気の良い二人。一方、俺はほとんど諦めています。
普通のナルガ程度どうとでもなったと思う。そして、このメンバーなら上位ナルガだって倒すことはできただろう。けれども、白疾風は流石にキツい。二つ名モンスターの中では体力が低い方ではあるけれど、下位装備のハンターが挑んで良い相手ではないのだから。
まぁ、そんなことを言っていても仕様が無い。できる限りのことをやってみようか。
「ちょっとタイムニャ!」
だから、まずは色々と話し合う必要があると思う。
場所は変わって、白疾風ナルガのいたエリア6の隣にあるエリア5。
「えと、いきなりどうしたの?」
本当はクエストが始まる前に確認しておけば良かったと思う。でも、まさか相手が二つ名だなんて思わなかったんだ。話している時間ももったいないくらいだが、必要経費と割り切ろう。
「二人の防具は強化してあるかニャ?」
まずは防御面。二人共、下位防具だから、ビターンなんかを喰らえば確一も有り得る。そうなってしまうと、流石にどう仕様も無い。
「うん、私も弓ちゃんの防具もちゃんと強化してあるよ。重鎧玉が沢山あったし」
おお、それは良かった。
えっ? てか、もしかしてフル強化? そうだと嬉しいけれど、ちょっと豪華過ぎません? いくら下位防具とは言え、フル強化すればガンナーでも200、剣士なら400くらいの防御力になったはず。それだけあればまず確一もないだろう。まぁ、俺は無理なんですけどね。ビターンなら一撃で乙ると思う。
「了解ニャ。それで、あのナルガだけど……」
ん~……これは言った方が良いのかな。防御力は足りているのだし、下手に意識させない方が戦えるかもしれない。二人共普通のナルガとすら戦った経験がない。そんな中で白疾風ナルガと普通に戦ったってどうせ勝てやしないんだ。それならビギナーズラック的なモノへ賭ける方が良い気もする。
「えと……尻尾攻撃をすると真空波のような風の刃を一緒に飛ばしてくるから気をつけるニャ」
だから、あのナルガが普通のナルガではないことや、このクエストが上位の……それもかなり高難度のクエストへ当たることは伝えないでおいた。
「……どうしてそのことを知っているのですか?」
そして、弓ちゃんからの質問。
まぁ、ただのネコがそんなことを言えば、疑問に思うわな。そんな弓ちゃんの質問を受けた俺を見ながら、クスクスと笑う相棒さん。楽しそうだなコノヤロー。
「ナルガクルガとは戦ったことがあるからニャ」
それは半分が嘘で、もう半分が本当のこと。そもそもアレ、普通のナルガじゃないわけだから、もう嘘も何もない気がするけど。
「……なるほど、分かりました。ようは強いから気をつけろってことで良いですか?」
「そうだニャ」
理解が早くて助かります。
弓ちゃんはブシドースタイルと、ナルガに対して相性はかなり良い。このパーティーの中では一番のダメージソースになるはず。俺はそもそもまともに戦えないだろうし、相棒もギルドスタイル。通常種と比べて隙が少ない白疾風ナルガが相手となると少々キツい。何より、初見ってのが痛い。
それにしても、なんとも懐かしい気分になる。大老殿で初めて極限化モンスターと戦った時も、こうやって作戦……と言うか話し合いのようなことをしてから戦った。
うん、悪い気分じゃあないな。
さて、話し合いも終わり、いくらかの希望は見えた。ちょいと厳しい相手ではあるが、精一杯抗わせてもらおうか。
そして、エリア6へ戻り、再び白疾風ナルガの元へ。
「翼と尻尾が赤、前脚が白、頭と胴体が橙、頼んだニャ!」
「了解!」
俺がそう伝え、相棒の飛ばした虫が当たり、此方に気づいたナルガ。んで、ソイツの咆哮が響いた。
できれば挑戦してみたいところだけど、どうせできやしないから、フレーム回避は諦め咆哮はガードします。
通常のナルガもそうだが、コイツらはとにかく動きが早い。直ぐにステップされ距離を取られてしまう。通常のナルガなら距離を取られたところで、怖い遠距離攻撃はないが……この二つ名ナルガはちょっと面倒なんです。
「尻尾振り。真空波が来るニャ!」
「おおぉ、な、なんか飛んできた……」
2連ステップで距離を取ってからの尻尾振り攻撃。それに合わせて飛んでくる風の刃。これが本当に鬱陶しいんです。
ブシドースタイルならジャスト回避するだけで良いが、そうじゃない場合はフレーム回避か軸避けをしないといけない。ただ、そんなことをしていると手数が減っちゃうんです。だから、できればナルガに張り付きたいところなんだけど……
ネコで白疾風ナルガと戦うの初めてなんです。立ち回りが本当にわからない。弓と同じように立ち回れば良いと思うが、どうにも上手くいかない。
いや、ホントどうすっかね。
なんて思っていると、尻尾から飛ばされた真空波が俺に直撃した。ダメージは体力の5分の2ほど。思っていたよりは痛くないが、回復薬のないネコにとってはかなり痛いダメージ。しかも、コレが通常攻撃なわけで、ビターンだったり飛びかかりはもっとすごいダメージだろう。さらに、怒り状態になんてなったらもっとダメージは大きくなるわけですよ。
正直、心が折れそうです。こんなのどうしろってんだ。
「乗ったよー!」
「ナイスです」
どうにも今回の俺は戦力になりそうもありません。しかし、流石と言うべきか、この二人は頼りになる。うむ、時間はかかってしまうがとにかく安全に行こう。今の状況はどう考えても回復が追いついてないわけですし。
そして、相棒の乗りは無事成功。
サポゲを2つ消費して貫通ブーメランの術を発動。行ける時にダメージを稼がないと。
乗りダウンから起き上がったナルガは一度ステップ。その目は赤く光って見えた。つまり、怒り状態。
さて、此処からが大変だ。どうにか攻撃できるチャンスがあれば良いけど……
怒り状態となった白疾風ナルガ。ヤバいだろうなぁ、とは思っていたけれど、そんな予想以上だった。
速かった動きは更に加速し、隙がほとんどない。通常攻撃で体力の半分以上を持っていかれ、此方からはほとんど攻撃できない。
ビターンが直撃した弓ちゃんはベースキャンプへ送られていってしまったし、俺ももうドングリが残っていない。相棒の表情からも余裕は消え、まさに絶望的な状況。
此処までだと、怒り状態になったらもう攻撃は諦めた方が良いレベルだ。
「や、やっと怒りが解け……ああ、何処か行っちゃう」
怒り状態が解けたナルガ、しかし、直ぐにエリチェン。疲労状態っぽかったし、多分エリア2で食事だろう。せっかくのチャンスなんだ、急いで向かわないと。
しっかし、こんな調子で勝てるのだろうか……怒り状態にすることはできたのだし、ダメージはそれなりに入っているはずだけど、此方はあと2乙でクエスト失敗。クリアできる気がしない。俺はあと何回、死と隣合わせのフレーム回避をすれば良いんだろうか。
「エリア2に行った。急ごう」
「うん。了解」
ただ……やっぱり勝ちたいよなぁ。
エリア2へ向かうと、食事中のナルガとキャンプから戻ってきた弓ちゃんがいた。
俺たちのことなんて無視して食事に夢中のナルガ。其処へブーメランを当てたところで、一回目の睡眠を取ることができた。
「寝た! 攻撃ストップ!」
「え、えと、爆弾を置けば良いんだよね?」
うん、頼む。白疾風ナルガの睡眠時間はかなり短いと思ったし、急がないと。
相棒と弓ちゃんが爆弾を置いてくれたのを確認し、最初に爆風が当たるように気をつけながら直ぐに起爆。できればもう一回は寝かせたいのだけど、どんなものでしょうね。
爆弾で叩き起こされたナルガ。まだ疲労状態は続いているし、今はとにかくダメージを稼ぎたい。
「シビレ罠置きました!」
ナイス。
弓ちゃんが置いてくれたシビレ罠へナルガを誘導。怒り状態になったら落とし穴も置いてもらおうかな。拘束時間は確かかなり長かったと思うし。
シビレ罠にかかったナルガの頭へ全員で総攻撃。できればスタンも取りたいが、コイツは耐性値がなぁ……ハンマーじゃないとスタンなんて取れる気がしない。
疲労状態だったこともあり拘束時間はなかなか長く、かなりのダメージが入ったと思う。けれども、それだけのダメージが入ったってことは……
「はぁ……また怒り状態ですか」
まぁ、そうなりますわな。
頑張れ弓ちゃん。超頑張れ。とは言え、俺も心が折れかけている。
どうやら最近は微温湯へ浸かり過ぎていたらしい。確かに、ディノも弱いモンスターではなかったが、予想よりずっと弱かった。
けれども、コイツはそれこそレベルが違う。
「尻尾叩きつけ! その後、回転攻撃に派生するから気をつけるニャ!」
一応、HR5から戦える相手と言っても、二つ名モンスターはそんなに甘くない。
完全になめてたよなぁ。このメンバーでナルガくらいならって随分と甘い考えだった。
この世界がそんな甘いもんじゃないってことくらい分かっているだろうに。俺は何回同じ失敗を繰り返せば学習するんだ。
「あっ、しまっ……」
再び、弓使いの少女がベースキャンプへ。
これで2乙。つまり、もう後がない。
「……ちょっと厳しいね」
「ああ……これは無理だろうな」
どれくらい体力を削れているのかも分からない。ただ、良くてもまだ半分くらいしか削れていないだろう。そうだと言うのに、此方はもう乙ることができないとは……
つええなぁ。ホントに、つええよなぁ。もう笑うしかできないくらいの強さだ。この世界で此処までボコボコにされたのは初めてかもしれない。
怒り状態のナルガは弓ちゃんを倒したところでエリアチェンジ。少しだけ期待したが、脚はまだ引きずっていない。
「……このままやって勝てると思う?」
不安そうな相棒の顔。
「どうだろうな……正直、勝てる気なんて全くしないけど」
だって、アイツは今の俺たちが戦って良い相手じゃないのだから。いくら実力のあるハンターだとしても、下位装備で挑むのは少々キツい。
「ただ……」
だからこそ――
「勝ちたいって思うんだ」
言い訳はもうしない。今はただ、アイツを倒すためだけに全力を出してみよう。勝てるかどうかなんて知らん。これで負けたら俺はその程度の実力だったってだけだ。
一度目を閉じ、ゆっくりと深呼吸。
クエストを初めて10分くらい。カチリ――と、俺の中の何かが漸く噛み合ってくれた。
目を開けた視界から色は消え、音はもう聞こえない。
行動パターンはゲームと同じ、フレーム回避のタイミングも覚えた。
普通にやったって絶対にクリアできないクエスト。それなら無理でも無茶でも無謀でも、この小さな身体にある少しばかりの意地を張らせてもらおうか。
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第21話~限界~
ナルガを追って再びエリア6へ。
鬱陶しいことに、ナルガの目は怪しく光っていた。つまり、怒り状態。俺の防御力で大技を喰らえば一発で乙ることだってあるだろう。
それでいて、此方は2乙。ドングリも残っていないし、まさに絶望的状況。
馬鹿みたいに心臓は暴れ、呼吸だって荒れている。自分の呼吸と心臓以外の音は消え、視界からは色も消えてしまっていた。
けれども、時の流れは遅く感じ、今なら1F単位の動きだってできるんじゃないかってくらいだ。それは随分と久しぶりの感覚。
つまり――悪い気分じゃあない。
もう色々と考えるのも、うだうだと言い訳を重ねるのもやめようか。目の前のコイツを倒すことは難しい。それでも、ただで負けてやれるほど、俺はできた人間じゃない。
「来るよ!」
誰かの声がした。そして、ナルガは長い時間の構えから連続飛びかかり攻撃。
敵の行動ひとつ一つで空気が震える。
相手の攻撃は速い。つまり、その分フレーム回避はずっとやりやすい。
最後の飛びかかりを軸避けしてから、尻尾の傍へ。回転攻撃に派生。威嚇が確定。
回転攻撃、フレーム回避。そして、威嚇中のナルガの顔へブーメランを2発。反時計周りでの尻尾振り。ステップなしで軸避け。ブーメランを顔へ一発。時計回りでの尻尾振り。ステップでフレーム回避。反撃は間に合わない。
……此処まで戦って漸く、コイツにどう立ち回れば良いのかがわかってきた。まず、飛びかかり攻撃と、尻尾叩きつけ攻撃以外のフレーム回避はそれほど難しくない。尻尾振りも根元部分は判定が厚いけれど、尻尾へ対して垂直に避けることを意識すれば避けられる。
ただ、一番問題なのが距離を取られること。距離を取られると、此方から反撃できなくなり、相手はひたすらあの真空波を飛ばしてくる。だから、できる限り張り付く必要があった。
けれども張り付こうとすると、どうしても相手から攻撃を受ける頻度は増える。死と隣合わせのフレーム回避を何度もしなければいけなかった。普通に考えたら、そんな馬鹿なことはするべきじゃない。
それでも、今ばかりは馬鹿なことをさせてもらおう。どうせ普通にやったって勝てない相手。それに、今なら何回でもフレーム回避を成功させる自信はある。
再び、ナルガが飛びかかり攻撃の構えをした。
軸をずらしてから此方もブーメランを構え、連続飛びかかり攻撃を始めたナルガの進行ルートへブーメランをひとつ。そして、すれ違いざまにブーメランをもう一発。
そこで、足怯みからのダウンを奪った。
「ナイス!」
顔の前に移動し、とにかくブーメランを叩きつける。
怪しく光っていたナルガの目も戻り、今は通常状態。畳み掛けるチャンス。
「乗ったよ!」
誰かが乗ったことを確認してから、切れていた貫通ブーメランと巨大ブーメランの術をかけ直し。その二つの術を発動させたところで、乗りが成功。
ダウンしたナルガへ3人でラッシュ。其処で、本日2回目の睡眠を奪った。
「っと、爆弾調合して……ああ、さっきしたんだった。あっ、弓ちゃん落とし穴お願い」
「はい、分かりました」
ひとりが爆弾をもうひとりが落とし穴を設置したところで、起爆。怒り状態となり、ステップをしたナルガが落とし穴の中へ。ナイス。
再び、3人で落とし穴へ入ったナルガの顔へ総攻撃。
落とし穴から出たナルガは直ぐに、尻尾叩きつけ攻撃の構えを見せた。
「弓ちゃん、あの攻撃来るよ!」
「っ! りょ、了解です!」
叩きつけを軸避け、ブーメランを一発。尻尾の刺を抜く動作はなし。回転攻撃、威嚇が確定。
回転攻撃、フレーム回避。威嚇時にブーメランを2発。尻尾振り攻撃、フレーム回避。ブーメランを一発。そこで、もう一度足怯みのダウンを奪った。
「……すご」
「世の中には上手いネコもいるものですね……」
ダウンしたナルガへ全員で総攻撃。
そして、起き上がったナルガが脚を引きずった。
「おおー、あと少し!」
脚を引きずり、エリチェンをする前にブーメランを当て、ダメージを稼ぐ。けれども、残念ながらエリア6で倒しきることはできずナルガはエリチェン。
とは言え、これで本当にあと少し。寝る場所はエリア9。急いで向かうとしよう。
そう考えてから、動き出そうとした時だった。
「えっ? ネ、ネコちゃんどうしたの?」
あら? 足が動かない。なんだこれ。
白黒の視界は少しずつ少しずつ狭くなり。自分の呼吸と心臓の音すら聞こえなくなり始め……俺の意識は其処で途切れた。
―――――――――――
パチリと目を開け、身体を起こすと心地よい風が自分の身体を撫でた。
「あっ、おはよう、ネコちゃん。身体の調子は大丈夫?」
そんな相棒さんの声。
え……え? 何これ、何がどうなってんの?
クエストはどうなったんだ、とか。此処はどこなんだ、とかで頭がちょいと混乱。
自分の周りを見て、どうやら飛行船の上らしいことは分かった。けれども、此処へ来るまでの記憶がない。
「ク、クエストは? クエストはどうなったんだ?」
「んもう、そんなことより自分の心配をしなよ。急に君が倒れちゃって、私たちだって心配したんだから。はぁ……クエストは成功だよ。討伐じゃなくて捕獲だけど」
おおー、捕獲できたのか。そりゃあ良かった。攻撃を食らった記憶はないけど、俺が3乙目を決めちゃったのかと思って滅茶苦茶焦ってたんだ。
クエストが無事に終わったことがわかり、一気に疲れの波が押し寄せてきた。身体が重く、なんだか頭もボーッとする。戦っていた時間は30分くらいだと言うのに、情けないなぁ……ゴグマジオスの時はもっと長い時間戦えていただろうに。
とは言え、クエストは成功したらしいし、良しとしよう。これで失敗していたら流石に申し訳ない。俺みたいな名も知れていないネコがクエストを失敗したところで、世間は何とも思わないだろうが、相棒や弓ちゃんみたいなハンターがクエストを失敗したとなると、色々噂になりそうだし。
「それより、身体は? 大丈夫なの?」
「うん? ああ、大丈夫ニャ。ちょっと疲れが残っているくらいニャ」
正直、今直ぐにでも寝たいくらい疲れています。
まぁ、相手はあの二つ名ナルガなんだ。疲れるのも仕方無い。ホント、よく勝てたよなぁ……。流石はこの二人と言ったところだろう。それに、俺も装備を新しくしておいて本当に良かった。睡眠爆破が2回できたのはかなり美味しい。
「お疲れ様でした。ネコって皆、貴方みたいに上手いのですか?」
そして、弓ちゃんが登場。
俺は疲れたしもう一眠りしたいんだけど。
「えと……それはわからないニャ。ただ、ボクよりも上手いアイルーは沢山いると思うニャ」
多分、きっと……いるのかなぁ。俺はかなり特殊だし……ま、まぁ、世界は広いんだ。きっと上手いネコだって探せばいるだろう。
「そうですか……世界は広いのですね。終盤の貴方みたく、あんな滅茶苦茶な戦い方は久しぶりに見ました。貴方を見ていると色々思い出します」
そんな弓ちゃんの言葉を受けてか、相棒が吹き出した。
……こんな時、どんな顔をすれば良いのだろうか。そんな滅茶苦茶でもなかったと思うんだけど……。それにアレくらいしないと勝てる相手じゃないだろうし。てか、そもそも俺の攻撃がどれくらい通っていたのかわからない。ダメージソースのほとんどはこの二人だったと思っている。それなりに攻撃していたと思っていたけど、結局俺はスタンを取れなかった。つまり、まぁ、その程度の戦力だったってこと。
せめて剣士ならもう少し戦力になれたと思うけど……難しいものですなぁ。
「とりあえずさ。クエストも無事に成功したんだし、帰ったら打ち上げやろうよ、打ち上げ」
いつかのように、嬉しそうな顔をしながら相棒がそんな言葉を落とした。
ん~……打ち上げかぁ。参加しても良いけれど、それに参加しちゃったら帰りが更に一日伸びちゃうよね。待ってくれているかは分からないけど、ご主人を一人にしておくってのも……それに、あまり帰りが遅いともしかしたら、新しいネコを雇ってちゃったりするかもしれない。そうなったら流石に泣く。割と崖っぷちの状況なんです。
「えと、ボクはそろそろベルナ村に戻ろうと……ああ、いえ、是非参加させていただきます。打ち上げ楽しみだニャ」
わーい、皆で打ち上げだー。
断ろうかと思ったら、相棒さんにすごい顔をされた。『お前の秘密、バラすぞコノヤロー』的な顔だった。弓ちゃんにバレるのだけは回避したいんです。弓ちゃんにバレたら絶対にネチネチといじめられる。
ホント、立場弱いなぁ……
そして、次の日。
あの二人と別れる時が来ました。色々とあったけれど……うん、なかなかに楽しめたと思う。
「ホントに素材いらないの? どちらかと言うと君がもらった方が助かるんじゃない?」
「ボクにはまだ必要ないから大丈夫ニャ」
あと、二つ名ナルガの素材はもらわないことにしておいた。此処で素材をもらっておけば、白疾風ネコ装備一式ができると思う。そして、白疾風ネコ装備は強い。ものすごく強い。多分、上位装備でも上から数えた方が早いくらいだろう。
だから、此処でもらっておけばかなり助かるのだけど……やっぱりほら、あのクエストで俺は倒れちゃったわけだし、素材をもらうのは申し訳なく思っちゃうのですよ。下位ナルガくらいなら良いかなぁって思っていたけれど、二つ名ナルガは流石に無理です。ちっぽけなプライドが邪魔をするのです。
それに、あのご主人と一緒に装備も強くしていきたいなって思うんだ。
強い装備には憧れるけれど、それをこんな形で手にするのはちょっと違う。別に楽して手に入れたとも思っていないけれど、少しずつ少しずつ成長していった方が絶対に面白い。
モンハンはソレが面白いと俺は思っている。
「う~ん、君がそう言うのなら……」
うん、それで良いんです。
せっかくこの世界へ来ることができたんだ。それなら全力で楽しみたい。今回は寄り道するくらいで丁度良いのです。
「それじゃ、ボクは帰るとするニャ」
「うん、またねネコちゃん」
「また会いましょう。私も今度はもう少し上手くなりますので」
いや、弓ちゃんは今でも十分すぎるくらい上手いと思うけど……ソロで古龍をバシバシ討伐するハンターが何を言っているんだか。今回は相手と防具が悪かっただけでしょうが。
そんな二人と別れの言葉を交わし、飛行船へ。
さてさて、それじゃご主人のところへ戻るとしようか。今回は完全に寄り道となってしまったけれど、たまにはこう言うのだって悪くはないはず。
あの二人に負けないよう、俺も頑張って上手くならないとだ。
~お遊び的な予告~
※この通りになるとはかぎりません
てか、なりません
「あっ、お帰りネコさ「……えっ? ボ、ボクは捨てられ「うニャー、今日もチーズが美味し「私はフェニーよりプーギーが「あっ、ちょ、タ、タイムで「……いや、あのネコ、上手くね?「それじゃ、サクッと倒してこよっ「乗ったー「ぐぅれい「世界は広いニャ…「ブシドースタイルって初め「振り向きへ合わせてスタ「……ねぇ、もしかして貴方っ「あー、ハンマー振り回し「だって、あの人が使ってい「……ダブル属性強化速射ライト「やめたげて「闘技大会かぁ…「んで、どうして、お前がいる「メンバーだけは豪華だ「……ただし、相手はアルセルタ「2分くらいで終わ「えっ……ネコさんがあの「釣勝負だ「あっ、黄金魚狙いの術は……おいコラ、目を合わせ「貴方がいたからきっと私が「ネコだってやればできるん「それでも私はハンマーが好「でも、浮気は許さな「ち、違う! 俺は笛さん一筋で「イカ可愛いで「イカじゃない、まだイカじゃ「シャガルマガラは戦ったことのあ「いやほら、ラージャンも木から落ちるって「だから、あのゴリラは木に登ら「……獰猛化は聞いてな「ん~、この4人が揃うのって本当に久しぶ「世界を救って以来じゃ「……負ける気はしな「そんじゃ、もっかい世界を救うとしましょうか」
「……え、コイツ倒して終わりじゃないの?」
では、次話でお会いしましょう
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第22話~思ってたのと違う~
実際に得られたものは何もなかったけれど、あの二人と会うことができたし、ナルガだって倒すことができた。それだけでも十分価値のある遠征だったんじゃないかなって思うんだ。
ユクモ村からベルナ村へと向かう飛行船の上で、そんなことを思った。
さてさて、これでようやっとまたご主人のクエストを進めることができる。ご主人の装備は完成しているはずだし、俺も新しい装備となった。これだけの装備があれば、村の下位クエストくらい一気に進めそうだ。
前回、ホロロを討伐したし、次は……なんだったかな? 確か、まだ四天王ではなかったはず。その前にナルガとかレイアとかと戦ったような気がするし。
ふむ、もしかしたら、またナルガと戦うことになるかもしれないな。まぁ、今度は流石に上位や二つ名ナルガじゃないわけですし問題ない。通常ナルガは戦っていて面白いモンスター。うむ、戦うのが楽しみだ。
前回、ボコボコにされた分、次は頑張らせてもらおうか。
そんな感じで、少しだけ遠い未来へ、大きな期待と少しの不安。そんなものを抱えつつ、色々と考えつつ飛行船で揺られること暫く。漸くベルナ村へ帰って来た。
ユクモ村とは違い、草の匂いが風に乗ってふわりと届いてくる。なんとものんびりしたような雰囲気だけど、この雰囲気も嫌いじゃあない。
「あっ、お帰りネコさん……だよね? 装備が変わっちゃってるけど。それで、あのハンターさんたちとのクエストはどうだった?」
飛行船から降りて直ぐ、ご主人がとてとてと此方へ向かって走ってきてから、そんな言葉を落とした。そのご主人の姿は、俺がユクモ村へ行く前のものとは違い、ザザミ装備となっている。ベルダー一式じゃなくなってしまったことは残念だけど……うん、ザザミ一式も良いよね。すごく似合っていると思う。
「そうだニャ。強い相手だったけど、あのハンターさんたちが上手かったからなんとか……えっ?」
ご主人へユクモ村でのことを報告しようとしたとき、あることに気づいた。
その、ですね……ご主人の隣になんか知らないけど、ネコがいたんですよ。それもレイア一式と、かなり良い装備のネコが。
「え、えと、あの……ご主人?」
「うん? どしたの?」
いや、その……
「そ、その隣にいるアイルーは誰ニャ?」
えっ? なにこれ。どう言う状況? もしかして、アレ? 俺じゃダメだった? 捨てられちゃう? 俺、捨てられちゃう? それとも、これからはひたすら交易へ回されるとかですか?
「あっ、えとね。ネコ嬢さんから紹介してもらったアイルーさんだよ」
お、おぅ。なるほど、それは分かった。それは分かったけど……えと、これから俺はどうなるのかな? 村クエならオトモを2匹まで連れて行けるけど、集会所とかとなると……
「ほら、白ネコさんもネコさんに挨拶して」
「……よ、よろしく、にゃ」
「あっ、うん。よろしくニャ」
そう言ってから件の白ネコと肉球を合わせたけれど、俺の内心はかなり荒れています。だって、一番恐れていたことが起こり始めているのだから。
こりゃあ、もしかしたら本当に相棒さんたちの所へ行くことになるかもしれないな。
しっかし、この白ネコが装備しているのってレイア装備だよね、もしかして、俺がユクモ村へ行っている間にレイアを倒したのだろうか。んで、その時この白ネコも一緒に……い、いや、流石に大丈夫だろ。流石に俺より上手いってことは……ない、よね? この白ネコさんただのアイルーだよね? テオのスーパーノヴァにも突っ込んで行き、全力で笑いを取りにいってくれるただのネコだよね?
「なんか、二人とも硬いけど……緊張してるの?」
そりゃあ、緊張しますとも。だって、少ないオトモ枠がかかっているのだから。お願いだから、頼むからベンチ行きだけは勘弁してもらいたい。
「き、気のせいだと思うニャ」
「いや、ネコさん吃ってるじゃん」
それだけ慌ててるんです。
俺はそんな様子だと言うのに、白ネコはと言うと、なんとも余裕そうな表情。てか、何を考えているのか分からない。
それに、よくよく考えると本物のアイルーと一緒って色々とマズくないですか? だって、本物のアイルーからすれば、どう考えたって俺は異常に見えるはず。このご主人は今までアイルーと接する機会が少なかったから問題なかった。けれども、今回は本物のアイルーなんだ。ご主人は誤魔化せてもこのアイルーを誤魔化せる気がしない。
この状況……かなりヤバいぞ。
「まぁ、とりあえずご飯にしよっか。その後、何かのクエストへ行こうと思うけど、ネコさんは行けそう?」
正直に言えば、昨日の疲れは完全に抜けていない。けれども、今はとにかくご主人にアピールをしないとだ。休んでいる場合じゃないだろう。
まぁ、装備だってしっかりしているんだ。村クエくらいならどうとでもなると思う。たぶん、きっと。
「ボクは大丈夫ニャ」
「白ネコさんは?」
「……大丈夫にゃ」
う~ん、しかし、この白ネコはどうしたものか……今までを見る限り、話したがりな性格ではないっぽいけど、その分何を考えているのかわからん。心の中では俺に対しての敵意でいっぱいかもしれない。
はぁ、どうしてこう狩り以外のことで悩まないといけないのやら。もういっそ本当のことを話して……いやいやそれはダメだ。絶対にご主人へ迷惑がかかる。多分、いつかボロの出る日は来るだろうけれど、それまではなんとか頑張ろう。
「それで、何のクエストへ行くのニャ?」
「んとね、確かナルガクルガって言うモンスターだったはずだよ。場所は……渓流だったかな」
ああ、やっぱりナルガか。しかも場所は渓流と。それならあのままユクモ村にいても良かったかもしれない。まぁ、そんなことを言っても仕方の無いことだけど。
とは言え、ナルガは有り難い。動きは少し違うが、俺は二つ名ナルガと戦ったばかり。それなら少しはまともな動きもできるだろう。
んで、気になるのはこの白ネコだ。ゲームの中のオトモは残念な奴らばかりだったけれど、この世界のオトモはどんなものなのやら。ちょっと意地汚いが、下手だったら嬉しいなぁと考えてしまうのも仕方無いことだと思うんだ。
そんなことも実際クエストへ行ってみれば分かる。不安は大きいけれど、俺もご主人のため今は精一杯頑張るだけだ。
飯を食べた後、直ぐに渓流へ向けて出発。
ご主人がナルガと戦うのは初めてらしいけれど、渓流へ来るのは2回目。それなら少しは気持ちも楽かな?
一方、白ネコだけどクエストへ行く途中も俺と会話をすることはなかった。俺も俺でどんな会話をすれば良いのかわからないから、話しかけることもしない。これからも長い付き合いとなるかもしれないのだから、仲良くなっておきたいところだけど……やっぱり、ほら難しいんです。
嫌っているわけじゃない。でも、意識はしてしまう。う~ん、いつか慣れる日が来ると良いのだけど……ギスギスした雰囲気は勘弁願いたいです。まぁ、それも俺の頑張り次第か。
「よっし、到着! それじゃ、サクッと倒してこよっか!」
「うニャ!」
「にゃー」
支給品ボックスからアイテムを受け取り、ご主人がいつもの声を出してから出発。
ご主人の防御力もかなり上がっているし、多分ナルガは大丈夫だと思う。とは言え、このご主人も良く分からないからなぁ。ホロロ戦みたく変に苦戦してしまうこともあるかもしれない。その時は俺が頑張らないと。
「ナルガクルガはエリア6にいるニャ」
「うん、了解。ありがとう」
それにしても、まさか二日連続で渓流へ来るとはなぁ。人生なかなかどうして分からないものです。
ひとりと二匹でエリア6へ向かうと、直ぐにその姿を確認することができた。昨日と違ってその色は黒く、また身体もそれほど大きくは見えない。
うむ、普通のナルガクルガだ。これでまた二つ名とかだったら迷わずリタイアです。いや、まぁ、流石にそれはないと思うけど。
「あっ、思ってたより可愛い見た目なんだね」
あ~……う、うん、そうだね。可愛らしい方では……あるのかなぁ。元ネタには猫も含まれているだろうし、可愛いと言うのも分からなくはない。とはいえ、MHP2Gで俺はコイツに何度もボコボコにされた記憶があってその印象が強い。ただ、最初は苦戦するけれど、戦いを重ねていくうちに簡単に倒せるようになるナルガは、本当に良いモンスターだと思う。こう言うモンスターがもっと増えれば良いけど……どっかのブラキとかは勘弁願いたい。
さてさて、そんなことよりも今は狩りに集中しないと。普通に戦えば勝てる相手ではあるけれど、油断できるような相手でもないのだから。
俺たちに背を向けているナルガへブーメランを一発。
それで、俺たちへ気づき、振り向いてからナルガが咆哮。そして、ソレをフレーム回避。何故か二つ名は上手くできないけど、コイツなら咆哮のフレーム回避だってできます。
フレーム回避も無事決まり、ブーメランを当てつつ白ネコを確認。ちょっとだけ自慢するような感じで。
そしてその白ネコだけど、咆哮で怯むことなく、普通にブーメランを投げてました。しかも、頭へ的確に。
ステップやガードをしているようにも見えなかったし……な、なるほど防音の術持ちか。う、うむ、なかなかやるじゃないですか。
良いなぁ、防音の術……
あの二つ名ナルガと違い、通常種は尻尾攻撃から真空波を出さない。だから二つ名のときと違い、尻尾振りの当たらない位置で立ち回るように。
そして、飛びかかり攻撃を躱したところで、ナルガが回転攻撃をした。流石に回転攻撃を避けられるほど遠くの位置にはいないため、ソレをフレーム回避。
ふふん、昨日アレだけ戦ったおかげで攻撃なんて喰らう気がしない。んで、白ネコさんは……ああ、普通に攻撃してるわ。俺と同じように回転攻撃フレーム回避成功してたわ。
……いや、このネコ、上手くね?
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第23話~明るい未来のために~
ご主人さんからもう一匹、オトモがいることは聞いていたけれど、これはちょっとマズイ。ご主人さんはどうにか誤魔化すことができた。でも、今ホロロ装備をつけているこのネコは本物のアイルーなのだから、流石に誤魔化しきれない。
最初は別に私が本当のアイルーじゃないってバレちゃっても良いのかなぁ、なんて思っていた。けれども、どうやらこの世界は前回私が来た時の世界と繋がっているらしい。そして、前回私たちはそれなりに活躍してしまった。
絶対に尾鰭が付いてしまっているけれど、ご主人さん曰く、私たちはすごく有名なハンターなんだって。そうなってしまうともう無理。絶対にバレたくない。私は静かに、自分の好きにこの世界を楽しみたい。
だから、できる限りこのホロロネコには怪しまれないよう気をつけたいのです。とは言っても、同じパーティーなのだし、全く関わらないわけにもいかない。すごく困った。
けれども、有り難い事にこのホロロネコの方から私に声をかけてくるようなこともないし、とりあえずは一安心。いつか絶対にボロが出るんだろうなぁとは思うけれど、できるだけ頑張ってみる。語尾だって一生懸命『ニャ』って付けてみる。
でも、なんで今回はネコなんだろう……私は普通のハンターが良かったし、あの彼と一緒が良かったし……ホント、上手くいかないなぁ。今までが上手くいき過ぎてたのかな?
とにかく色々な不安を抱えたままクエストへ出発。目的はナルガクルガの討伐。
ナルガは慣れているし、嫌いなモンスターでもない。それにこの装備なら私ひとりでも倒せる相手。でも、どうだろう。もし此処で、いつも通り戦ってしまったら怪しまれるんじゃないかと考えてしまう。だって、普通のネコがそんなに上手いわけないもん。普通のオトモなんて、地面へ潜っている時間の方が長いくらいじゃないだろうか。
ただ、クエストで手は抜きたくない。やるなら全力でやりたい。だから、クエスト中だけは色々と考えるのをやめて、全力で狩りに集中することにした。そして、それは間違った考えじゃないと思う。きっとあの彼だってそうするだろうから。
このホロロネコには怪しまれちゃうだろうけど、こればっかりは譲れない。もし、怪しまれてもゴリ押せばどうにかなる……はず。
そんなことを思いつつクエスト開始。
ナルガの初期位置はエリア6。この世界の渓流へ来るのは初めてだけど、慣れているマップで慣れている相手。負ける要素は何もない。
それじゃあ、ひと狩り行かせてもらおう。
エリア6へ入ると直ぐにナルガを発見し、あのホロロネコがブーメランをぶつけた。そしてナルガが私たちへ気づき、開幕咆哮。
あれ? オトモってハンターが攻撃するまで大型種に手は出さなかったような気が……なんて思ったけれど、そんなことを考えていても仕方無い。今はとにかくサポートゲージを貯めないと。
私は防音の術があるから咆哮は気にせず、頭へブーメランをぶつけられる。一方、ホロロネコは特に咆哮で怯むこともなく、私と同じようにブーメランをナルガの頭へぶつけていた。
ああ、なんだ。フレーム回避か。…………フレーム回避!? ネコが!?
いやいや、ちょっと、ちょっと待って。それは流石におかしい。確かに、ご主人さんからこのホロロネコはすごく上手いと聞いていた。とは言え、いくら上手いと言ってもネコなのには変わらない。だから、足を引っ張らないくらいのネコなのかなぁ。くらいにしか思っていなかった。
そもそも、オトモがステップをするところなんてまず見ない。見るのはダッシュでモンスターへ突っ込んでいって吹き飛ばされる姿ばかりだ。そうだと言うのに、フレーム回避となると上手いネコとかそう言う問題じゃない気がする。
う、う~ん、この世界も広かったってことなのかな。この世界でオトモをつけたことがなかったからそんなこと全く知らなかった。
とは言っても、これは悪いことじゃない。だって、このホロロネコがそれだけ上手いのだから、私が全力で戦っても怪しまれることは少ないはず。
ナルガの回転攻撃をフレーム回避してから、また頭へブーメランをぶつける。あのホロロネコを見ると、彼方も同じようにフレーム回避に成功していた。
……うん、すごいネコもいたんだね。ゲームの中のオトモこれくらい上手ければ、喜んで一緒に連れて行くのに。ホロロ戦を抜かして。
……ふむ。とりあえずこのクエストはなんとかなりそうだ。ご主人さんも結構上手いし、失敗することはないはず。
後は、私の普段の行動で怪しまれないかどうかだけど……そっちは自信ないなぁ。にゃーにゃー言う癖をつけないとだ。
「乗った! 支援お願い!」
「ナイスニャ!」
ぐぅれいと、にゃ。
あぅ……ご、ご主人もナルガとしっかり戦えているし、これなら大丈夫。ただ、今回は色々と苦労しそうだ。
いや……にゃーにゃー言うのって結構恥ずかしいんだよ?
その後、ナルガは特に問題なく討伐完了。ご主人も2回スタンを取れていたし、あのホロロネコも睡眠を一回取っていた。すげー。私もちゃんと毒にさせました。仕事しました。
「よっし、討伐完了! 初めての相手だったけど結構あっさり倒せちゃったね」
そりゃあ、まぁ、実質3人のハンターで村クエをやっているようなものだし、早く倒せるよね。あのホロロネコのスキルは詳しく分からないけれど、少なくとも貫通ブーメランと巨大ブーメランに緊急撤退。あと、ブーメランの溜め時間が短かったし、ブーメラン上手の術は持っていると思う。……ゴールネコじゃねーか。なんでこんなネコが普通にいるんだ。
いや、まぁ、私も同じスキルを持ってるけど。
「お疲れ様ニャ」
「お疲れ様、にゃ」
ご主人さんからこのホロロネコも新米のオトモだと聞かされている。こんな新米のオトモがいてたまるかとは思うけれど……そう言うこともあるのかな? そしてそれは嬉しい誤算。だってもしかしたら、このままバレずにいけるかもしれないのだから。
ただ、せっかくこの世界へ来たのだし、あの二人とは会っておきたいなぁ。私たちが急に消えてしまったせいできっとすごく迷惑をかけたはず。それにあの二人になら今の私の状況を話しても良い。それくらいの仲なのだから。いつか会える日が来れば良いけど。
「うん、お疲れ様。剥ぎ取りも終わったし帰ろっか」
「うニャ!」
そう言えば、ご主人さんって集会所クエストはやらないのかな? このご主人さんとこのホロロネコの実力なら下位集会所は全部クリアできそうだけど……まぁ、焦る必要もないんだ。ご主人さんのペースに合わせてのんびり進めていこう。
そして、帰りの飛行船。
ご主人さんは前回と同じようにちょっと会話をしたところで直ぐに寝てしまった。つまり、今はあのホロロネコと二匹だけ。なんとかなるかなぁって思っていたけど、実際にこうなると超気まずい。まぁ、そう思っているのは私だけなんだと思う。
う、う~ん、流石に会話のひとつくらいしないと変だよね。同じパーティーなのだし仲を悪くはしたくない。ただ、なんて会話をすれば良いのやら……アイルー同士ってどんなお話をしているんだろう。
「え、えと……あの、好きな魚はなに、にゃ?」
ボーッと飛行船から見える景色を眺めていたホロロネコにとりあえず、ネコっぽい会話をしてみる。多分これで大丈夫なはず。そのはずだ。
「えっ? あっ、え、えと……そ、そうだニャ……サ、サシミウオとかすごく好きだニャ」
急に私が声をかけたせいか驚いた様子のホロロネコ。
なるほど、サシミウオが好きなんだ。うん、うん……えと、それでこれからどうやって会話を広げれば良いんだろうか。全く分からない。
ん~……まぁ、これで会話もできたし良しとしよう。私は十分頑張った。サシミウオってどんな味だったかなぁ。そもそも食べたことがない気がする。MHXでは裂傷状態の時にお世話になるけど、MH4Gではモスジャーキーがあったもの。モスジャーキーは美味しかったなぁ……
「えと、じゃあ、君はどんな魚が好きなのかニャ?」
む、聞き返された。
これは困った。まさかそんなことになるとは思っていなかった。う~ん、とは言え此処で無視するのもおかしいよね。さて、どうしようか。
「えと……じゃあ、ドス大食いマグロが好き、にゃ」
食べたことはない。てか、フエールピッケルとか入ってるし正直食べたくない。おい、こら。じゃあ、なんでそう答えたんだ私。
「あ~……う、うん、ボクもアレは美味しいと思うニャ。また食べてみたいニャ」
マジですか。アイルーにとってはアレ美味しいんだ。私は遠慮したいんだけどなぁ。
けれども、どうやらこの質問も上手く躱すことができたっぽい。上出来上出来。この様子ならなんだか本当にいける気がしてきた。少なくとも、現時点でこのホロロネコに怪しまれてはいないはず。
その後も、好きな肉とか好きな飲み物とかの会話をそのホロロネコとした。よくよく考えると好きな食べ物の話しかしてないけれど、それなりに仲良くなれたのかなぁって思う。このホロロネコも悪い性格じゃなさそうで助かった。きっとこれからも長い付き合いとなるだろうし、なんとも良い流れ。
最初はどうなることかと思っていたけれど、どうやら思っていた以上に私の未来は明るいらしい。
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第24話~少し前へ~
う~ん……どうしてなのか分からないけど、パーティーの空気が重い。
白ネコさんが新しいオトモになってネコさんが帰ってきて初めてのクエストは十分過ぎるくらいの結果だった。そうだと言うのに、空気が重いです。
もしかしたら、私がそう思っているだけなのかもしれないけれど、これは気のせいじゃないと思う。白ネコさんはあまり自分から話す性格ではないし、ネコさんもネコさんで話したがる性格でもない。
とは言え、せっかくクエストを終えて打ち上げをしているのに喋っているのはほとんどが私。ネコさんと白ネコさんが会話をしているところは全く見ない。
「ネコさんネコさん、次はどのクエストへ行けば良いかな?」
多分、この二匹の仲が悪いってわけではないと思う。でも、緊張して話せないって感じでもないんだよね。
そうだとしたら、何が原因なのやら……
「ご主人の装備も完成しているし、どのクエストでも良いと思うニャ」
うん、ネコさんはいつも通りに見える。少なくとも私との会話では。クエスト中だって特に変わったようにも見えなかった。ううん、むしろいつもより張り切っていたように見えたもの。
「じゃあ、白ネコさんは何か行きたいクエストある?」
私がそう声をかけると、チーズを食べちびちびとワインを飲んでいた白ネコさんは驚いたらしく、その身体を僅かに動かせた。
「えと、わた……ぼ、ぼくは特に行きたいクエストもないからご主人さんが決めて良いにゃ」
……ああ、うん。なるほど。だいたい分かりました。
てか、白ネコさんはどうしてまた『ニャ』って言い出してるんだろう……私は別に気にしないって言って、白ネコさんだって普段通りの喋り方になったはずなのに。
その時と今で違うことと言えば、ネコさんがいることくらい。つまり白ネコさんはネコさんがいるから、ちょっと無理した喋り方になっている……ってことなのかな? それが正しいか分かんないけど。
この二匹のアイルーさんたちはすごく上手い。他のアイルーさんたちがどうなのかは分からないけれど、多分、此処まで上手いアイルーさんは少ないと思う。だって、他のアイルーさんたちがこのネコさんたちくらい上手ければ、ニャンターの数はずっとずっと増えていたはずだもの。
けれども、ニャンターの数はかなり少ないのが現状。しかも、ニャンターさんたちに任せられるクエストって採取系が中心、とそれほど難しいクエストじゃない。だから、ニャンターはそのくらいなんだろうなって思う。
そうだと言うのに、この二匹は本当にすごいんです。少なくとも私よりはずっとずっと上手いし、私とネコさんたちのどっちがオトモなのか分からないくらいだ。
そんな二匹が私なんかのオトモをしていていいのかなぁって思うけれど、そこは素直に感謝。
そして私としてはこのままオトモを続けてくれたら嬉しいなって思うのです。だから、できればこう言う重い雰囲気を回避したいのだけど……本当にどうしたんだろうね?
白ネコさんの様子は明らかにおかしいし、ネコさんもネコさんで自分から白ネコさんに話しかけていないってことは何かしら意識しちゃってるんだと思う。
う~ん、困りましたなぁ。
とは言っても、クエストは何の問題もなくクリアできていたし、これでいいのかなって思う自分もいたりするわけですよ。新しい環境になって、ちょっと戸惑っちゃっているだけとかそんなことも思います。
パーティーがバラバラになってしまうのは嫌だけど、何と言うかそこまでの深刻さ感じないと言うか……私もよくわかんないけどさ。
きっと時間が経てば解決してくるんじゃないかなって思うところです。もしかしたら、それはただ私が逃げているだけかもしれないけれど、どうすればいいのかが分からない。
難しいよね。人と人との関係って。
いや、まぁ、今回はネコとネコとの関係なわけですが。
――――――――――
……どうにもパーティーの雰囲気がよろしくないみたいで、ちょいと困っているところです。
ご主人もそのことを感じているのか、昨日の打ち上げはあの人見知りなご主人が頑張って一生懸命会話をしようとしていた。そのことに申し訳なさを感じるけれど……いや、どうすれば良いんだろうね?
相変わらず、あの白ネコが何を考えているのか分からないのですよ。
昨日、ナルガを倒した後の帰り道、あの白ネコから俺に話しかけてきてくれた。それは嬉しいことではあるけど、まさか好きな魚を聞かれるとは……
もしかしたら、アレがアイルーの間でよく行われる普通の会話なのかもしれないから、驚きはしたけどちゃんと会話をしてみた。なんとかやり過ごすことはできたけど、怪しまれていないだろうか。そんな不安ばかりが膨らむ。
「ご主人、今日は何のクエストへ行くのニャ?」
あの白ネコは上手い。それもかなり。
ご主人曰く、あの白ネコは俺と同じように狩りの経験がほとんどないアイルーだと言っていたけど……流石にそれは信じられんぞ。だって、あのナルガ戦とか明らかに、モーションを覚えているような立ち回りだったもん。初見で飛びかかり攻撃と、回転攻撃後は確定威嚇になるとかどうやったら分かるんだよ。
まぁ、つまり新米のネコではないってことだと思う。頼むからそうであってくれ。
「えとね、村長さんに聞いたら、イャンガルルガが古代林で暴れまわっているからどうにかしてくれって頼まれたよ」
とりあえず、あの白ネコの過去には色々あったってことだと思う。有名なハンターのオトモだったとかそんな感じ。そうだとしてもアレは上手過ぎると思うが……
んで、さらに良く分からないのが、あの白ネコの性格だ。向こうから話しかけられはしないと思っていたら、話しかけてくるし、そこから会話を広げようとしても上手く広げてくれないし。ホント、何を考えているんだろうか。
とは言え、大きな戦力が増えたのは嬉しい。俺の立場がかなり怪しくなってくれたが、ご主人にしてみればあの白ネコの加入は大きいはず。このメンバーなら村クエはもちろん、集会所だって下位なら余裕だと思う。
「緊急クエストかニャ?」
「うん、そうみたい」
ふむ、次の目標はガルルガか。鬱陶しいモンスターではあるけど……まぁ、大丈夫か。ガルルガが相手ならハンマーを使うご主人との相性も悪くない。
クエストの方は問題ない。しかし、パーティーの方がなぁ……雰囲気を重くしているのは俺があの白ネコに対して色々と考えてしまっていることが原因。だから、俺が割り切れば良いだけなんだけど、それがなかなか厳しいのですよ。
難しいよね。人と人との関係って。ああ、まぁ、今回はネコとネコとの関係か。
一度、あの白ネコとしっかり話した方が良いのかなぁ。気は進まないが。
クエストへ行く準備も終え、飛行船に乗り込み古代林へ向けて出発。
いつものようにご主人は寝てしまったから、現在はあの白ネコと二人だけ。昨日の帰りもそうだったけど、相変わらず超気まずい。そう思っているのは俺だけなのかね。
さて。
さてさて。いつまでもこの状態を続けるのはよろしくない。
やっぱり気は進まないけれど、少しばかり頑張ってみるとしようか。
「あの、ちょっと良いかニャ?」
ちっぽけな勇気を振り絞って、流れる景色を見ていた白ネコに声をかけてみる。
そうやって、俺が声をかけるとあの白ネコは驚いたらしく、ビクっと身体を震わせた。
「え、えと、どうしたのにゃ?」
ああ、良かった。どうやら会話はしてくれるらしい。これで無視されたら流石に泣くところだった。
んで、大事なのは此処からだ。どうしても色々と考えてしまうことはあるけれど、このままじゃご主人に迷惑をかけてしまう。それも俺の我が儘で。でもそれはよろしくないことで、俺が頑張らなきゃいけないこと。
「んと、何とも伝えにくいけどさ……その、君とは同じパーティーなのだし、仲良くしたいなって思ったんだニャ」
こんな時だって上手い言葉は出てこない。だからその分、気持ちを込めてみる。きっと、嘘偽りない言葉なら伝わってくれるだろうから。
「あっ、うん。ぼ、ぼくもその方が良いと思う、にゃ」
そして、俺の言葉に対しどうにもぎこちない感じで白ネコは言葉を落とした。
……なんだろう。こんな反応をされると、もしかしてアイルーから見ると俺って怖く見えるのかな? って思ってしまう。確かに今はホロロ装備だからちょっと怖く見える気もするけど。
それとも、本物のアイルーから見ればやっぱり俺はおかしく見えるってことなのかねぇ。
とは言え、一応俺の言葉は伝わってくれたみたいだし、この白ネコも俺の言葉に形だけかもしれないけど、同意はしてくれた。
今はちょっとお互いに上手く接することはできないけれど、前に進むことはできたんじゃないかなって思う。
「それなら良かったニャ。あのご主人を立派なハンターにするためお互いに頑張るニャ」
「わかった。ぼくも頑張るにゃ」
そう言ってから、手を挙げまたお互いの肉球を合わせてみた。
それがなんだか懐かしい感じがして、何処か心地良い。今となっては随分と昔の出来事となってしまったけれど、あの時もこうやって挙げた手を合わせたことがあった。
その時と姿は変わってしまったけれど、きっと変わらないものだってあるはず。そして、そう言うものを大切にできたら良いなって思ってみたりします。
うむうむ、まだまだ上手くいかないことは沢山あるだろうけれど、とりあえず一山越えることはできた気がします。
せっかくこの世界へ来たのだし、全力で狩りを楽しみたい。それなら、こう言う問題はサクッと解決していくのが一番だ。うだうだと悩んでしまう性格ではあるけど、ちょっとずつ頑張っていきます。
不器用な俺には、それくらいで丁度良いと思うんだ。
とりあえず乗り越えたっぽいです
次話からはまた狩りを続けることとなりそうですね
そろそろ集会所も進めさせないとなぁ
では、次話でお会いしましょう
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第25話~広がる世界~
現在の場所は古代林のベースキャンプ。古代林は夜のクエストが此処最近多かったけれど、今回のクエストは昼間。頭の遥か上の方で輝いている太陽のおかげで、ムシムシさがより一層感じられた。
「よし、それじゃ行こっか!」
「うニャ!」
「にゃー」
いつも通りの言葉を落としたご主人に対し、俺とあの白ネコも元気な声を出した。
このクエストへ来る途中、この白ネコと多少の会話をし、お互いに頑張っていこうと言った感じに落ち着いた。相変わらず何を考えているのかは分からないが、多分悪いネコではないと思う。仲良くなるのにはもう少し時間がかかると思うけれど、それでも少しは打ち解けることができたのかな。
さて、今回のクエストの目的はイャンガルルガの討伐。この白ネコもいることだし、まず問題はないだろう。ただ、ご主人からガルルガのことを何も聞かれなかったけれど、良かったのかな? サマソもあるし、嘴による2連叩きつけや、尻尾攻撃で毒状態になることなど色々と面倒なことも多いが……
特に、小タックルからの2連叩きつけと尻尾攻撃の運ゲーを強いられるのが本当に鬱陶しい。まぁ、今作は当たり判定もかなり良心的になったから前作よりはマシだと思うけど。それと、ネコならほぼノーモーション突進にさえ気をつければ攻撃を喰らうことは少ないと思う。
「イャンガルルガはエリア4にいるニャ!」
「うん、了解!」
ちょいと不安なところもあるけれど……まぁ、サクッと倒させてもらおうか。
エリア4へ入り、直ぐにガルルガの姿を確認。
しかし、こんな序盤でガルルガと戦うことになるとは最初思わなかったなぁ。主に、前作の狂竜化個体が原因だけど、ガルルガと言えば滅茶苦茶強いイメージがあった。いや、ホントにアイツは強かったんだ。ガルルガのギルクエとかトラウマでしかない。
とは言え、それも過去のお話。今作になってからは本当に戦いやすい相手となった。
そんなガルルガに対して、挨拶代わりにブーメランを一発。それで俺たちに気づいたガルルガ。
「よしっ、行きます!」
乗りとスタンお願いします。ガルルガは毒にならないから、白ネコの出すダメージは減る。俺も一度くらいは寝かせないとだ。
此方に気づき、申し訳程度の軸合わせをしてから直ぐに突進。それをステップで避けてから、ペシペシとブーメランを当て、サポゲを稼がせてもらう。
「乗ったよー」
ナイス。
うむ、今回はご主人も問題はなさそうだ。テツカブラの時と同じように、ガルルガのことは知っていたってことなんだろう。
乗り支援とサポゲを稼ぐため、背中にご主人が乗っているガルルガへ俺と白ネコでひたすらブーメランをぶつける。サポゲも貯まり、貫通ブーメランと巨大ブーメランの術を発動。
そして、乗りが成功しダウンしたガルルガへ三人でラッシュ。
それは、俺と白ネコのブーメランのエフェクトのせいでもうなんかすごい光景だった。エフェクトを派手にしてくれるのは良いが、今作はそのせいでモンスの動きすら見えなくなっちゃう時とかあるんだよなぁ……特に獰猛化個体の攻撃や、餓狼を発動させた双剣は本当に酷いと思う。何が起こっているのか全く分からずに吹き飛ばされることが何度あったことか。
んで、ダウンから復帰する直前にご主人のホームランがガルルガの頭へ決まり、スタン。
良いなぁハンマー。超カッコイイ。ネコも面白いとは思うけど、ハンマーと比べて大技がないからちょっと地味なんです。振り向きへホームランが決まった時とか本当に楽しいよね。
そんなことを考えつつ、スタンしたガルルガへブーメランを一発。
そのブーメランが当たった瞬間、ガルルガが寝てしまった。
「……ごめんニャ」
これでスタンの意味がほぼなくなりました。いつかこうなるだろうとは思っていたし、調整なんてできるわけがないけど、実際にソレが起きてしまうとやはり凹む。
「あー……どんまいにゃ」
「ナイスネコさん!」
白ネコは俺を慰めたが、ご主人は嬉しそうだった。ごめん、ご主人。せっかく取ってくれたスタンを消してしまって。
そのままご主人は嬉々として、寝ているガルルガの顔の前へ爆弾を置いた。うん、まぁ、ご主人も喜んでいるし良しとしようか。
その後は特に問題なくガルルガの討伐が完了。
いや、いくら村クエとは言え、このパーティーかなり強いぞ。ホロロ戦のときのようにご主人が上手く戦えないこともなかったし、相変わらずあの白ネコは上手いし。てか、俺よりも上手いかもしれん。TAでもしてみないと分からないけれど、動きが明らかに玄人のソレだ。もしかして、この世界のネコって皆上手かったりするのか? いやいや、まさか、そんな……ねぇ?
「よし! 終わり! お疲れ様だね」
「お疲れ様ニャ」
「お疲れ様にゃ」
四天王と戦う前に、ご主人の新しい武器を作っておいた方が良いかなぁ。なんて思っていたけれど、この様子なら問題ない気がしてきた。そうなると、次の武器はどのモンスターの武器が良いんだろうね? ガルルガのハンマーも良いとは思うけれど、確か直接生産はできずクックピックから派生させないとだったよなぁ。ああ、そうか前回倒したのだし、ナルガハンマーとか良いかもしれない。ナルガハンマーなら最終的にもかなり強いハンマーになる。
うむ、ご主人が何の武器を作れば良いか相談してきたときはナルガハンマーをオススメしておこう。
そして、このクエストをクリアしたってことはいよいよ……
「ん~……四天王かぁ」
「うん? どうしたのネコさん」
いや、なんでもないです。
もし選べるとしたら、最初はガムートにしておきたいところだ。アイツならエリアルスタイルであるご主人と相性がかなり良いのだし。
逆にディノバルドなんかはかなり辛いと思う。ライゼクスとタマミツネは……う~ん、どうだろう。失敗することはないと思うけれど、楽に倒すことは難しそうだ。動きさえ覚えちゃえばライゼクスなんかすごく楽になるんだけどさ。
「剥ぎ取りも終わり! それじゃ、帰ろっか」
「うニャ!」
そう言えば、ずっと村クエを進めているわけだけど、集会所はやらないのかな? 今作の村クエのラストは一応、あの四天王と塔の秘境で戦うクエストだったはず。アレをクリアすればエンディングも流れたし。あのエンディングには驚いたなぁ……
まぁ、そんなことは良いとして、集会所はどうするのかってことだ。正直に言うと、俺は集会所クエストもやりたいです。村クエにも高難度クエストがあるけれど、アレはソロ用のクエスト。集会所と比べてしまうと難易度はやっぱり低い。それにまだ戦っていない二つ名モンスターだっている。ソイツらとだって戦いたい。
う~ん、とは言っても俺はオトモでしかないわけですし、ご主人に合わせるしかできないんだよなぁ。
クエストから戻り、とりあえず村長に報告。
村長曰く、頑張っているおかげで、龍歴院の研究員たちからのご主人の評価はなかなか高いっぽい。まぁ、これだけのペースでクエストをクリアしていっているんだ。そりゃあ評価だって高くなるだろう。
そして、その後はいつものように打ち上げ。今日もビールが美味しいです。
「……ご主人さん」
「うん? どうしたの白ネコさん」
そんな打ち上げをしていたとき、珍しくあの白ネコがご主人に話しかけた。どうしたんだろうね。
「集会所へは行かないのにゃ?」
そして、そんな質問。
どうやらこの白ネコも集会所へ行かないことが気になっていたらしい。ナイス質問だ、白ネコ。
まぁ、この白ネコくらいの実力があれば集会所のクエストだってやりたいんだろう。それにご主人だって十分上手いわけだし、集会所へ行っても何の問題もないはず。
「あーうー……その、集会所のクエストは難しいって聞いてるから、どうしても……」
「ご主人さんなら大丈夫だと思うにゃ」
うん、俺もそう思う。それに、このメンバーならまず大丈夫だろう。どうしても厳しいようなら、あの相棒を連れてくれば良いわけだし。……いや、アイツがいると逆にご主人の動きが悪くなるか。頑張れご主人。
「そうかなぁ……ネコさんはどう思う?」
「ボクもご主人なら大丈夫だと思うニャ」
よし、なんだか良い流れだぞ。
ただ、これでもし集会所へ行くことになった時、俺ってどうなるんだろうね? オフラインならオトモを2匹連れて行けるわけだけど、オンラインだと、ソロでも1匹しかオトモを連れて行けない。そうなると、俺かこの白ネコのどっちかしか行けないわけなのですが……
「そうだよね……いつまでもHR1のままじゃカッコ悪いし……」
そう言えば、ご主人ってまだHR1だったね。
此処まで来ると逆にすごい。だってHR1のまま、エンディングが見えるほど進められているわけなのだから。HR1のままエンディングを迎えたハンターなんて、きっとほとんどいないだろう。
「うん、わかった。ベルナ村のクエストが落ち着いて来たら集会所へ行ってみることにするね」
おおー、それは良かったよ。せっかくこの世界へ来たのだし、オストガロアとかとは戦ってみたかったんだ。色々なモンスターと戦えるのは嬉しい。
「え、えと、それで……集会所ってオトモはどうなるのにゃ?」
あら、奇遇ですね、白ネコさん。俺も同じことを思っていました。なんだ、思ったよりも気が合うじゃないか。
「ん~……私が誰かとパーティーを組んだりしなければ、白ネコさんとネコさんも一緒に連れて行けるはずだよ」
マジか! それは嬉しい。
置いていかれるのは遠慮したかったし、俺ひとりがついていき、この白ネコをおいていくのもなぁって思っていたところなんだ。しかし、それは良かった。ご主人には申し訳ないが、このままボッチでいてもらおう。その分の働きはするから。
これでまたやれることが広がった。
つまり、とりあえずは村クエをクリアして、それから集会所って感じになるのかな。うむうむ、やることが多いってのは悪いことじゃない。
それはまだまだ先のことになりそうだけど、このご主人を有名なハンターにするって言う目標も少しずつ見えてきた。
やることが増えたって主人公は喜んでますが、完結までどれくらいかかるのやら……
では、次話でお会いしましょう
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第閑話~いつかの本音~
MH4G時代の弓ちゃんと主人公のお話となります
「えと、今回の相手はゴア・マガラでしたっけ?」
クエストの準備のため、いつも通り肉と魚の煮込み料理を注文し、それを食べているところで弓ちゃんが聞いてきた。KO術が発動するからいつもこの料理だけど、良い加減飽きてきたなぁ。違う料理で攻撃力が上がりつつKO術の発動する料理があれば良かったのにね。
いや、流石にそれはわがままか。
「うん、ゴアと言えばゴアだけどなりかけてる方だったはず」
通称は渾沌に呻くゴア・マガラ。ゴア・マガラの特異個体。一応、シャガルになるための脱皮に失敗した個体とかそんな感じだったと思う。詳しくは俺も分からないけど、シャガルの出す成長阻害物質のせいで脱皮しきれなかったとかなんとか。
モンハンには色々なモンスターがいるけれど、その中でも渾沌に呻くゴア・マガラは設定がかなり重いモンスターだと思っている。無茶な成長をしてしまったためか、寿命も短いと聞いている。
「なるほど、白黒の方でしたか」
そう、そっちの方。またアイツが現れたんだってさ。
寿命も短いから放っておいても良い気がするけれど、ギルド的に渾沌に呻くゴア・マガラは“存在してはならないもの”らしく討伐をお願いされた。
そして、今回はソイツを俺と弓ちゃんの二人で討伐です。
本当は相棒や彼女も加えた4人で戦いたいところだけど、残念ながら彼女たちは防衛作戦の方へ行ってます。なんだってこのドンドルマはモンスターにしょっちゅう襲われるのやら……
この大老殿のギルド……まぁ、G級のギルドに所属しているハンターの数は多くない。けれどもそんなこととは関係なしにクエストが来るものだから、最近は4人でクエストへ行けないことが多くなってきている。本当に酷い時は4人全員が別々のクエストへ行く時もあるし……
そんなわけで今回は弓ちゃんと二人です。
気球を使わせてもらえるらしいし、ガーグァの引く馬車で行くよりは時間はかからないけれど、天空山はやはり遠い。開発中の飛行船が待ち遠しいですね。
「了解です。それじゃあサクッと倒してきましょうか」
うん、そうだね。一度戦ったことのある相手だし、問題はない。それにアイツは隙も多く良心的なモンスター。3スタンを目標に頑張るとしましょうか。
「あっ、でも前回のテオ・テスカトル戦の時みたいなことはやめてくださいよ?」
あ~……はい。気をつけます。
いや、だってあの時はあと少しでスタンを取れそうだったんだもん。結局、間に合わずスーパーノヴァで蒸発したけど。
この大老殿へ来て、それなりの時間が経った。ちゃんとした装備を用意できていなかった序盤はかなり苦戦もした。けれども、それなりに順調に進めていると思うんだ。相棒のHRは300を超えているし、あの彼女や弓ちゃんのHRも200を超えている。俺はまだ200に届いてないけど……
ま、まぁ、それは良いとして、現在は全員の装備も整っているしあのゴグマだって倒せるくらいだろう。古龍種を倒し、極限化個体だって何頭も倒してきた。ギルドからもかなり信頼されていると思う。
そして、そんな俺たちのパーティーはそれなりに有名らしく、最近は街の中を歩いていると声をかけられることも多い。……主に女性陣が。
い、いや、俺だってちびっことかおっさん達には人気があったりします! ただ、できることなら、女性の方たちからも声かけられたいと思ってみたりしないこともないんじゃないかなぁって……
「浮気ですね。帰ったら笛さんに報告します」
「いや、思うくらい許してよ」
油断も隙もあったものじゃない。
そして、男なら誰だって女の子にモテたいと思うはずだ。
「弓ちゃんだってカッコイイ男の人から声をかけられたら嬉しいでしょ?」
あの相棒さんほどではないけど、弓ちゃんだってよく声をかけられているし、何か思うところくらいはあるだろう。
「いや、別にそうでもないですが……」
あら、そうなのか。
じゃあ、そこは人それぞれってことにしておこう。ホント、便利な言葉だよね。
ただ、俺だって別に人気者となりたくてハンターをしているわけじゃない。モンスターと戦うのが面白いから続けているだけだ。そう考えると今の状況にはかなり満足しているし、周りからあまり注目はされたくない。自分のペースでハンターをやっていたいです。
いや、まぁ、今の俺が言っても言い訳にしか聞こえないわけですが……
「それにしても……最初、先輩はあの人とくっつくのかと思っていました」
ああ、うん。それはあの加工屋のおっちゃんにも言われた。
因みに、先輩ってのは俺のことで、あの人ってのは相棒さんのことです。しっかし、弓ちゃんは相変わらずズバズバと言ってくる子なことで。
ん~……どうなんだろうね? もしかしたらそんな未来もあったかもしれない。だって、この世界で一番長い付き合いなのはあの相棒なのだから。それに、相棒から嫌われているわけでもないだろうし。
とは言え、やっぱり越えられない壁ってものがあるわけでして……
「別に笛さんと先輩がくっつくことが変だとは思いませんが」
この弓ちゃんは俺と彼女がこの世界の人間ではないと言うことを知らない。正確に言うと、あの相棒にも教えてないけれど……目の前で消えたりしたんだ。流石に色々と察しているはず。
いつかそのことも伝えないといけないよなぁ。
この世界の人間ではない俺と彼女。
今はこうしてまたこの世界へ戻って来てしまったけれど、戻って来られるとは思っていなかったし、そうなると俺とあの彼女が付き合うようになったのも、それほどおかしいことではないのかなって思う。ただ、そんなことは全く予想していなかったわけでして、あの時は驚いたなぁ。
そんな雑談をしながらゆっくりと天空山を目指す。なんとも緊張感の抜けている気がするけれど、気張ったところでプレイングがよくなるわけでもない。心に少しの余裕を持っているくらいの方が全力を出せたりする。
俺はそう思います。
「っしゃ! 行くか!」
「はい!」
天空山へ着き、この臆病者の身体が少しでも動いてくれるよう、大きな声を出す。それにこれはもう習慣になってしまっているし、やらないとなんだか変な感じになっちゃうんです。
そして、現在の装備だけど弓ちゃんはラギアX一式に武器はシャガルの弓であるTHEイノセンス。一方俺は……まぁ、複合装備です。この世界じゃ複合装備のハンターなんてほとんどいない。だからちょっとずるい気もしてしまうけれど、やっぱり自分の欲しいスキルはある。
そんなわけで、銀レウスの防具を軸に組み、発動スキルは見切り、挑戦者、弱特、業物、回避性能、おまけに火属性攻撃強化と言った感じ。多分、もう少し火力を盛ることができると思うけれど、それはゴグマを倒してからで良いのかなって思っている。今はこのくらいで十分。あと、武器はセルレハンマーの生極叛逆槌カダルレギオンです。
さてさて、それじゃあひと狩り行くとしようか。
「麻痺瓶入れます!」
「了解」
地雷が本体とまで言われるようになってしまった白色のトカゲと違い、渾沌に呻くゴア・マガラはかなり良心的なモンスターだ。
一発一発の攻撃はかなり派手で火力も高い。けれども、理不尽な当たり判定ではないし、回避性能があればかなり快適な狩りを行える。
「あと一発で麻痺りますよ!」
ナイスです。
そろそろ2回目のスタンも取りそうだから頭は諦め、尻尾を狙うことに。近接武器は俺だけだからスタンプも連打できる。自分の自由に戦えるのって気持ちが良いよね。どうしてもヘイトは弓ちゃんに取られてしまうけれど、まぁ、このくらいなら大丈夫。
そして、弓ちゃんの攻撃が当たったところでゴアが麻痺。
頭へ行こうかちょっと迷ったけれど、コイツなら頭くらい何時でも狙えるし良いかと思い、変わらず尻尾を狙うことに。
麻痺が解けたところでハンマーを右腰へ担いで溜めながら近づき、ゴアの頭へカチ上げ。そこで本日2回目のスタンを奪った。
「ナイスです!」
ありがとう。
うむ、やっぱりハンマーは面白い。ただ、できればもう少し強化してくれたら嬉しいと思うのですが……次回作はどうなるのかねぇ。
とは言え、弱体化されたところで担ぐのはどうせハンマーなんだ。そりゃあ強化されれば嬉しいけれど、俺がハンマーを使うのは強いからって言う理由じゃない。この武器が一番面白いと思っているから使っているんだ。
そして、その面白さが色々な人へ伝われば良いと思っているんだが……難しいものですなぁ。
戦い始めて10分くらいと言ったところ。
3回目のスタンを取って直ぐ、渾沌に呻くゴア・マガラは動かなくなった。なんとか目標の3スタンを取ることはできたけれど、ギリギリだ。まだまだ練習が足りませんね。
「お疲れ様、弓ちゃん」
「はい、お疲れ様です」
とりあえずこれでギルドからお願いされているクエストはもうないはず。つまり、次のクエストは久しぶりに4人で行くことができるのかな? そうだと嬉しいが。
ただ他のメンバーが上手いせいで、4人だとあっさり過ぎるくらい直ぐにクエストが終わっちゃうんだよね……それは悪いことじゃないけれど、何と言うかやはり寂しい。あの相棒さんなんか、最初に出会ったときと比べると恐ろしいくらい成長しちゃったし。大老殿の中でも一番上手いハンターなんじゃないだろうか。
因みに、その相棒さんが担いでいる虫棒は蛇帝笏ペダンマデュラです。超強いです。ただ、あの性格は相変わらずなもので、やはり自分に自信がないらしい。ホント、もう少し頑張ってほしいものなんだが。
さて、それじゃ帰るとするか。
ガーグァの引く馬車だと二日以上かかってしまう道のりが気球なら一日で済む。家でゆっくりと休む時間も確保できるようになったし、有り難いものですね。
「帰ったらどうします?」
「そうだなぁ。とりあえずあの相棒たちと合流しようか」
今後の打ち合わせだってやっておきたいし、何か行きたいクエストがあるかもしれない。
本当は俺も生産ハンマー最強である、ミラガルズイーラを作りたいけれど……それにはミラボレアスを倒さないといけない。しかし、残念ながらミラのクエストなんてあるわけがなく、当分はセルレハンマーを担ぐことにします。
「はい、分かりました」
それじゃ、俺は一眠りするとしようかな。それほど疲れているわけでもないけれど、気球に揺られながら寝ると言うのも悪くないのだから。
そうして目を瞑り少しばかりすると、丁度良い気球の揺れ具合と心地よい風のおかげか意識は徐々に沈み始めていった。うん、今なら気持ちよく寝られそうだ。
「先輩、先輩」
そうだというのに、俺の身体を揺すってから弓ちゃんがそんな言葉をかけてきた。
んもう、なんなのさ。
「どうしたの?」
目を開けないまま、弓ちゃんへ言葉を落とす。
「いえ、特に何の用事もないです」
……いや、じゃあ何故声をかけたんだよ。せっかく気持ちよく寝られると思っていたのに。
その後も俺が寝そうになる度に弓ちゃんから声をかけられ続けた。
うん、まぁ、ようはアレだ。暇だったから俺で遊んでいるだけなんだろう。だってこの子笑ってるもん。それくらいで怒る性格でもないし、多分この弓ちゃんもそれを分かってやっているはず。君が楽しそうで俺も嬉しいよ……
なんだか最近は本当に俺の立場が弱くなっている気がします。
「だってこのパーティーは先輩以外皆女性ですし、それも仕方無いかと」
そうなんだよねぇ。3人できゃっきゃと楽しそうにしているときとかあって割と気不味い思いをしていたりします。ハーレムと言えば聞こえは良いけれど、そう言う性格ではないし、俺にはあの彼女がいますし……
「でも、このメンバーを選んだのって先輩じゃないんですか?」
いや、そんなことはないぞ。
最初は相棒が声をかけてきて、次はあの彼女だけど……ああ、うん、やっぱり彼女からパーティーへ入れてくれって言ってきた。そして、弓ちゃんもそうだったと聞いている。
つまり、俺から誘ったことはなかったりします。
「あれ? そうだったのですか。てっきり私は先輩があの人や笛さんを誘い込んだのだと」
どうしてそうなった。だいたい、俺にそんな勇気はありません。基本奥手だし、そもそも最初は全部ソロでクリアしてやろうと思っていた。
「そうだったのですか……でも、周りの人達からみると先輩はそう言う人だと見られているらしいですよ? 先輩が女性の方々から人気がないのもそのせいかと」
えっ、ちょ、ちょっと、なにそれ。初めて聞いたぞ。
てか、どうしてそんな噂になっているのさ。
「どうせ、先輩に嫉妬したどっかの誰かが広めたのでしょう。悪い噂なんてそんなものですよ」
うわぁ……そうだったのか。誰かに恨まれるようなことをした覚えはないけれど、こう言う問題はまた別だからなぁ。
ん~……じゃあ、もしかしてアレか? もしその噂がなくなれば、俺も女性陣たちみたく人気が出たりとか……あっ、それはなんだか嬉しいかも。人気者になって縛られるのは勘弁してもらいたいが、やっぱりキャーキャー言われたいって思う自分がいたりする。
「でも、そんなこと別に良いじゃないですか」
えー、そうでもないよ? だって嫌われるのは嫌ですし、憧れられたりすると嬉しかったりするのだから。何より、女性の方々から声をかけてもらうのは夢だったりする。
「だって、先輩には笛さんがいますし」
……はい。そうですね。
変なことを考えてすみませんでした。心より反省します。
「それに……あの人や闘技大会の受付嬢さん。そして――私もいます。それ以上は流石に贅沢では?」
クスクスと人のことをバカにするように。しかし、心から楽しそうに弓使いの少女が言葉を落とした。
「……そうだね。それに俺だってちゃんと感謝しているよ」
色々と言いたいこともあったけれど、今ばかりは素直な気持ちを言葉にしてみた。
でもやっぱりそれは恥ずかしかったから、小さな小さな言葉で。
「うん? 今、何か言いましたか?」
「いんや、なんでもないよ」
全く……このパーティーのメンバーは俺なんかにゃもったいない奴らばかりだ。
いつもありがとう。頼りにしています。もしかしたらまた消えてしまうかもしれないけれど、それまでは一緒にいてくれると嬉しいかな。
主人公と弓ちゃんの関係ですが、お互いに本音を言い合える仲といったイメージを私は持っています
と、言うことで閑話でした
本編の方が落ち着いてきたたので、此処へ入れることに
これからも、閑話はちょこちょこ入ってきそうですね
では、次話でお会いしましょう
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第26話~終わりにハイタッチ~
「うニャ? 闘技大会?」
「うん、ネコさんたちの実力なら良い結果を出せそうだし、どう?」
先日、緊急クエストであるイャンガルルガの討伐も完了し、さて今日はどのクエストへ行くのかな? なんて思っていたら、ご主人から予想外の提案をされた。
う~ん、闘技大会ねぇ。出場することは問題ないし、ちょっと出てみたいと思うところもあるけれど、闘技大会へ出場しても旨味が少ない。クロオビチケットだったり肉は手に入るけれど、そんなに必要なものでもないしなぁ。
そして、ネコさん「たち」ってことは、俺とあの白ネコで出場しろってことなのだと思う。そうなると正直、どうにも気が進まない。だって、闘技大会ってことは実力がはっきりと見えてしまうわけでして、もしそれでこの白ネコが俺よりも上手いと分かってしまったらかなり凹む。世の中知らない方が良いことだってあるのだ。
「白ネコさんも出てみない?」
「あ~……う~ん、じゃあ出るにゃ」
マジか。
断る理由もないから白ネコがそう言うのなら俺も出るけど……
「よし、それじゃあ手続きしてこよっか」
む、むぅ、話がどんどん進んでしまう。
ネコ専用の闘技大会ってどんな内容だったかなぁ。ペアならそれほど苦労せず、Sランクを取ることができた気がするけれど、この世界ではどんなものやら。
そんなわけで、今回は俺と白ネコが挑戦する闘技大会のお話らしいです。
闘技大会は、闘技場で行われる。そして、その闘技場だけど、どうやらバルバレにある闘技場らしい。確かにゲームでもMHXとMH4の闘技場は同じだったもんね。あの闘技場は慣れているし良いのだけど、移動しないといけないからちょっと面倒だ。
んで、今回俺と白ネコが出場する闘技大会は「ドスマッカォ討伐」と、ドスマッカォ一頭の討伐です。ドスジャギィやドスランポスなんかと同じ鳥竜種だけど、動きが独特で正直得意ではない相手。できることならSランクを狙いたいところだけど、どうなることやら……
「それじゃあ、ネコさんたち頑張ってね! 私は応援席で見ているから」
「ご主人の恥にならないよう頑張るニャ!」
現在の場所は闘技場の控え室。今となっては随分昔のことになってしまうけれど、俺の物語の始まりは此処からだったなぁ。
それからもう数年もの時間が経ってしまった。俺も少しは成長することができたのだろうか。
ご主人とも別れ、まだ闘技大会が始まるまで時間はあるけれど、少しずつ少しずつ緊張感は高まってきた。大きく伸びをしてみたり、壁にある歴代の記録なんかを眺め、どうにか緊張感を紛らわす。
懐かしい感じやら緊張やらで、なんとも言えない気分だけど、悪い感じはしない。
そして、壁にある歴代の記録を眺めていた時、とある記録に目が止まった。この記録は……
「見たらわかると思うけどー、その記録はねー。あのハンターさんの記録なんだー」
おお……びっくりした。き、急に声をかけないでください。
慌てて後ろから声をかけてきた人物を確認。
……ああ、そっか。此処はバルバレの闘技場なんだもんな。そりゃあ彼女だっているはずだ。
「ソロでSランクを出した唯一の記録。流石にペアの記録には勝てなかったけれど、それでも飛び抜けていたから、こうやって飾ってあるんだよー」
なんて言った彼女――バルバレの闘技大会受付嬢は何処か誇らしげにも見えた。
イャンクックの討伐。タイムは4分10秒。ソロSランク。俺にひとつ前へ進ませる勇気を与えてくれた記録。あの物語の始まり。
「……そのハンターさんは今、何処にいるのにゃ?」
そして、闘技場の受付嬢に対し、あの白ネコがそんな質問をした。
えと……君の直ぐ隣にいますよ。ちょっと姿が変わっちゃってるけど、君の隣にちゃんといますよ? まぁ、そんなこと言えるわけがない。
「……私たちもねー。わかんないんだー。待っている人は沢山いるのにねー。ホント……自分勝手」
こ、心が痛む。
これから闘技大会が始まると言うのに、俺のメンタルは既にボロボロだ。いや、まぁ、全部俺のせいなんだけどさ。でもさ、今はこんな身体なわけですし、仕方無いと思うんだ。
それもただの言い訳なのかねぇ……
「それじゃあ、君たちは頑張ってねー。ネコの強さを見せつけてやれー」
おう、俺たちの名前が刻まれるよう、できる限り頑張ってみるよ。
歴代の記録の中に今回、俺たちが挑戦する内容の記録は見当たらなかった。それだけ闘技大会に参加するネコの数が少ないってことだろう。他のネコの実力も知っておきたかったんだが、まぁ、仕方無い。
それに、俺たちのあとにもうひと組、挑戦するネコがいるみたいだし、他のネコの実力は其方で確認するとしよう。
さて、さてさて。そろそろ始まる時間だ。
この白ネコの実力なら問題ない気もするが、一応作戦くらいは立てておいた方が良いのかな。
「君はどんなスタイルを選んだのニャ?」
「えと……コレクトにしたにゃ」
あら、俺と同じなのね。まぁ、この白ネコもブメネコなのだし、そりゃあそうか。
因みに、コレクトはブメ3種持ちです。多分、このスタイルが一番安定して良いタイムを出せると思う。
んで、どうやって戦うかだけど……この闘技大会のことをよく覚えてないんだよなぁ。ゲームはあの彼女と一緒にやったわけですが、作戦も何も立てずにあっさりSランクを取れたと思う。ソロSには挑戦していなかったし、パターンの構築なんて全く出来ていない。こんな調子で大丈夫かなぁ。あまり酷い内容だとご主人に申し訳ない。
そして、闘技大会の始まる時間が来た。
「目標は?」
あの白ネコにそんな質問。
「もちろんSランク」
了解。随分と高い目標に感じてしまうけれど、この白ネコの言葉なら信用できる。
目指す目標は同じで、心はひとつ。ペアでの闘技大会はあまり慣れていない。だから、今回は頼りにしているよ。
久しぶりの闘技大会。全力でいかせてもらおうか。
「っしゃ! 行くニャ!」
「うにゃ」
そんな大きな声を出してから、闘技場の中へ。
そして、準備エリアを一気に駆け抜け、大きな歓声の聞こえるドスマッカォの待つエリアへ二人で走り込んだ。
エリアの中へ入ると、歓声はさらに大きく聞こえ、飲み込まれそうになる。ただ、やはりこれは悪い気分じゃない。
「最初ボクが乗るニャ!」
「わかったにゃ」
別に乗らなくても良い気もするけれど、最初はとにかくサポゲを貯めたい。必要なジャンプ攻撃は確か2回。それで貫通ブーメランの術が必要なサポゲを貯めることができれば、後はもう倒すだけ。
俺たちに気づき、近づいて来たドスマッカォへ段差を利用してとりあえずジャンプ攻撃を1回。
攻撃が当たってから直ぐに納刀し、もう一度段差の上へ。そして、未だ発見時の威嚇をしているドスマッカォへもう一度ジャンプ攻撃。その攻撃が当たったところで乗り。
「ぐぅれいと」
そんな白ネコの声が聞こえた。まず失敗はしないと思うけれど、サポート頼みますよ。
ドスマッカォの背中に乗り、その背中をサクサクとナイフで斬りつける。斬りつけるスピードがハンターの時よりも早くできないけれど、乗りゲージの貯まる速度も遅かったりするのだろうか。
とは言え、乗りは何の問題もなく成功。その瞬間、五月蝿かった歓声が更に大きくなった。
「尻尾をやるから、頭頼んだニャ!」
「了解にゃ」
貫通ブーメランの術が使えるようになるまでは、どうしても近接攻撃が中心となってしまう。そして、SAの少ないネコ2匹で同じ部位を狙うのはちょっと難しい。だから、最初は役割分担が大切なんです。
乗りダウンからの威嚇が終わったところで、サポゲも貯まってくれた。直ぐに、貫通ブーメランの術を発動。そして、あの白ネコも俺とほぼ同じタイミングで同じ術を発動させるのが見えた。
……やっぱりコイツ、上手いよなぁ。新米でないのは確かだろうし、何と言うか狩りに慣れている感じがすごく伝わってくる。
さてさて、集中集中。サポゲも貯まり準備は完了。もう乗るつもりもないし、此処から一気に畳み掛けるとしようか。
その後、ドスマッカォが怒り状態となってから直ぐに、一回目のスタン。スタンが解けたあと、なおも怒り状態が続くドスマッカォに少し苦戦をしてしまったけれど、尻尾怯みによる大ダウンを白ネコが奪い、さらにドスマッカォは疲労状態に。そこでラッシュをかけ、2回目のスタン。
そして、そのスタンが解けるくらいのところで、ドスマッカォが吹き飛び、動かなくなった。
タイムを確認。時計には2分43秒と表示されていた。完璧と言うわけじゃないし、もっとタイムは縮められると思う。それでも5分切り。文句なしでSランク。
頭が割れそうなほどの歓声が闘技場に響く中、白ネコに向かって手を挙げる。そんな俺の行動に白ネコが気づいてから手を挙げ、お互いの手の平をぶつけた。残念ながらこんな身体のせいで、良い音は響かなかったけれど、そんな白ネコとのハイタッチはなかなかに気分が良かった。
「お疲れ様ニャ」
「うん、お疲れ様にゃ」
相変わらず何を考えているのか分かり難い奴だし、取っ付き難いところもある。それでも、今回のことで少しはコイツとの距離も縮まってくれたんじゃないかなって思う。
お疲れ様でした。
ただ、少しだけ遠い未来でこの闘技大会に出たことをちょっとだけ後悔してしまったりします。
それはよくよく考えずとも分かること。普通のネコがそんなに上手いわけないのだから。詳しく教えてくれなかったから、どの時点で気づいたのか分からないけれど、どうやらこの闘技大会に出場したくらいから彼女は薄々気づき始めていたらしい。
俺も俺でこの白ネコさん、な~んか怪しいなぁ。とは思っていたけれど、まさか彼女だとは思いませんでした。いや、だってネコになってるなんて想像できんよ。
そして、あまり目立ちたくはないなんて言っておきながら、あんな結果を出してしまったものだから、ちょっとずつちょっとずつ今のようなゆっくりとした生活から離れていくことになります。すまんなご主人。
でも、それはまだまだ先のお話。
未来は誰にもわからない。だからこそ面白いのかなって思ってみたりします。
第2章スタート的なイメージです
全部で何章構成かは分かりませんが……
次話は皆で闘技大会の見学とかかな?
では、次話でお会いしましょう
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第27話~思うところもあるけれど~
自分が出場する闘技大会も終わりとりあえず、ほっとひと息。
相変わらず、歓声がバカみたいに大きく聞こえる。思っていた以上に緊張していたのか、ドスマッカォを倒して直ぐに疲れが一気にきた。
今は冷たいビールがすごく怖いです。
「これ、手とか振った方が良いのにゃ?」
そして、なんともマイペースな様子の白ネコ。
「ん~……まぁ、手を振ってあげれば観客も喜ぶと思うニャ」
いくつかミスもあったし、タイムだってそこまで良いものでもない。けれども、今回俺たちが出したタイムは記録としてちゃんと残るだろうし、ネコ専用の大会でSランクは初めてなはず。思った以上にあっさりだったから達成感はあまりないけれど、少しくらいは誇っても良いのかな。
「やっぱり、恥ずかしいからやめておくにゃ」
……ああ、うん。そうですか。まぁ、それは君の好きにしたら良いと思います。
さてさて、それじゃ俺たちも引っ込むとしようか。ご主人だって待っているだろうし、何よりこの後にある他のネコの闘技大会が気になる。闘技大会に出場するくらいなのだし、そのネコの実力はそこそこあるはず。
はてさて、その実力はどんなものなのやら。
「あっ。お疲れ様! ネコさんと白ネコさん」
闘技場の観客席を目指していたところで、無事にご主人と合流。その途中、名前も知らない幾人かのハンターから、オトモにならないかと声をかけられたが、それはもちろんお断りした。俺のご主人はひとりだけなのです。そして、その気持ちはあの白ネコも同じらしい。話したがる奴ではないから、分かり難いこともあるけれど、この白ネコもちゃんとご主人のことを考えてくれているんだね。
そのことがなかなかに嬉しかった。
「うニャ。頑張ったニャ」
「すごかったよ! だってネコさんたちSランクでしょ? 歴代1位だよ! 1位!」
確かに歴代最高のタイムではあるけれど、俺たち以外の記録がそもそもないからなぁ。あれくらいじゃ、直ぐに抜かれてしまうと思う。
とは言え、目立ってしまったのは確かなこと。ご主人に不利益なことが起こらないと良いけど……
「この白ネコが上手かったからニャ」
「えっ? ちょっ、ちがっ……ぼ、ぼくはちょっとブーメラン投げてただけにゃ」
そして、お互いにあのタイムの原因を押し付け合う。
正直なところ、どっちのおかげってのはないと思う。俺ひとりじゃあのタイムは出せないし、この白ネコだってソロでは……む、無理だよね?
「ふふ、仲良いんだね。でも、二人が頑張ったからだと思うよ?」
仲は……良いのかなぁ。いや、悪いとは思っちゃないですよ? ただ、ちょっとこう……ライバル心と言うか何と言うか、そう言うモノがありまして。そんなことを思っているのは俺だけかもしれないけどさ。
「それで、この後はどうしよっか?」
「ボクは闘技大会が見たいニャ」
「ぼくも見たいにゃ」
あら、白ネコさんもですか。こう言うときは本当に意見が合いますな。もし、こんな姿じゃなくお互い、人間の姿だったらもっと仲良くなれたりしたのかもね。そんなこと考えたって仕方の無いことだけど、なんとなくそう思った。
「うん、了解、それじゃ観客席の方へ行こっか」
闘技場の観客席まで移動し、暫くすると直ぐに目的の闘技大会が始まった。
内容はゲリョスの討伐、と俺たちがやったものよりも難易度はちょっと高いもの。それに挑むネコは2匹。
そして、気になるネコの様子だけど……
「……よわっ」
そんな声が隣に座っている白ネコから聞こえた。
うん……そうだね。こう言っちゃアレだけど、あのネコたちすごく弱いね。勇猛果敢にゲリョスへ突っ込んで行くのは良いと思う。でも、とにかくタイミングが悪い。どうして尻尾振り回しているのに其処へ向かってダッシュするんだよ。あっ、ほら。また閃光が来るからガードを……ああ、ダメだこりゃ。
う~ん、やっぱりネコはこんなものなんだろうか。それともこの2匹のネコが例外的に弱いとか……
いや、観客の反応的にそれは違う気がする。此処の観客は、この世界へ来たばかりの俺みたく下手なハンターに容赦なくヤジを飛ばしてくる。けれども、今はヤジなんてほとんど飛んでいない。つまり、これがいつも通りなんだろう。
てか、こんな調子じゃタイムを競うとか言うレベルじゃなく、そもそもクリアできない気が……もしかして、俺たちが挑んだ闘技大会も挑戦者がいなかったんじゃなくて、クリアできたネコがいなかっただけなのか?
そして、そうなると、だ。
ゲリョスに蹴散らされる2匹のネコから目を離し、隣に座っている白ネコへ視線を移した。相手も何かしら思うことがあったらしく、白ネコと目が合う。
君は何者だい?
結局、あのネコたちが闘技大会をクリアすることはできなかった。ゲリョスは怒り状態にすらなっていなかったし、多分体力の半分も削れていなかったと思う。
「あのアイルーさんたち勝てなかったねー」
そんなご主人の言葉。
このご主人は今日の結果を見てどう思っているのだろうか。今回の結果を考えるに、俺とこの白ネコが他のネコとは違うと思ってしまっているはず。どうにも勇気がないから聞くことはできないけれど気になる。
「調子が悪かったみたいニャ」
さてさて、これでまたややこしくなりそうだ。
ホント、この白ネコは何者なんだよ。アレか? 俺と同じ世界から来たのか? いや、そんなこと聞けないけどさ……
それに、今のところは何の問題も起きていない。だから、例えこの白ネコがどんな存在だろうと良いのだけど……やっぱり気になってしまう自分がいたりするんです。う~ん、今回は色々と秘密の多いパーティーですね。もちろん、俺も含めて。
「ご主人、そろそろベルナ村へ帰りたいニャ」
「うん、了解」
ただ、今日も収穫はあった。分からないことも増えたけれど、何が分からないのか分かったのは大きい。
さて、それじゃ、ベルナ村へ帰るとしようか。あまりのんびりしていると、また色々な人から声をかけられそうだし。
それに此方はまだ村の四天王も倒していないくらいなんだ。やらなきゃいけないことは沢山ある。
ベルナ村へ戻ってきたところで、無事闘技大会を終えたって理由で打ち上げ。冷たいビールは今日も美味しいです。
ご主人も、俺たちがSランクを出したことが嬉しかったらしい。あの白ネコはどう思っているんだろうね?
「そう言えば、ご主人」
「うん? どうしたの?」
とりあえず一段落したわけですので、これからまた色々なモンスターを倒していくことになるはず。その前に聞いておきたいことがあった。
「ご主人はエリアルスタイル以外を使わないのかニャ?」
確かにハンマーのエリアルスタイルは強い。エリアル特有のジャンプA2連のモーション値はなかなかだし、最大まで溜めてもスタンプにはならないから、パーティーでも使いやすい。けれども、どうしても相性の悪い敵がいるんです。ディノとかゴリラとか。
だから、エリアル以外のスタイルも使えればと思った。できればブシドースタイルが良いと思う。
「うん、ずっとエリアルでいこうかなって思っていたけど……違うスタイルも練習しておいた方が良いかな?」
できればその方が良いと思う。まぁ、好みの問題もあるから難しいところではあるけど。
「……ブシドースタイルは練習しておいて良いと思うにゃ」
そして、そんな白ネコの言葉。
ああ、やっぱり君もそう思っていたんだね。ブシドーハンマーはカッコイイし俺もオススメします。溜め1と溜め2のモーションが変わってしまうけれど、ジャスト回避からのカチ上げやスタンプは本当にカッコイイと思う。俺がゲーム中、ブシドーばかりを使っていたってのもあるんだけどさ。
後はギルドスタイルもオススメです。MHP3以降のハンマーに慣れている人はやっぱりギルドスタイルが一番しっくりくるよね。
ストライカーは……うん、まぁ、スタンプが強いと思う。ホント、もう少し使える狩技があれば良かったんだけどね。
「う~ん、二人がそう言うのならブシドースタイルを練習してみようかな」
うむ、それは良いことだと思うぞ。勝手はかなり違うけれど、慣れればブシドースタイルもかなり面白い。ジャスト回避が連続で成功するとバシュンバシュンなってまるで自分が上手くなったみたいに思えるのも良い。
「楽しんでいるところ申し訳ないが、ハンター殿ちょっとよろしいか?」
ブシドーについて雑談をしていると、ベルナ村の村長がご主人に声をかけてきた。多分、またクエストの依頼だろう。
「あっ、はい。大丈夫です。えと、それでどうしましたか?」
「先程、ココット村からとあるモンスターの討伐をハンター殿に頼みたいとの連絡が入った」
あら、ココット村からですか。てか、こう言う感じで依頼が届くこともあるんだね。それだけご主人が有名になってきたってことだろうか。うむうむ、それはまた喜ばしいことだ。
そして、ココット村からの依頼と言えば……
「どんなモンスターですか?」
「電竜、ライゼクスと呼ばれるモンスターだ。私も詳しくは知らないが、かの空の王者である、リオレウスと渡り合うこともできると聞いている」
やはりライゼクスか。それはMHX看板モンスターの1匹。
自分の縄張りへ侵入するもの全てを攻撃対象とし、その攻撃の手を緩めることは決してない。その凶暴性と残忍さは生態バランスを破壊し、ギルドからかなり警戒されているモンスター。設定だけなら、ライゼクスが一番危険なモンスターになると思う。攻撃も一発一発が重く、部位荷電状態となった時の攻撃が本当にキツい。
どうやらそんなモンスターが今回の討伐対象らしい。
「はい、分かりました。私にできる限り頑張ってみます」
「ああ、頼んだ。ハンター殿ならきっと討伐してくれると信じている」
ライゼクスはそれほどに危険なモンスター。
危険なモンスターなわけですが……いや、まぁ、うん。油断せずにいこう。ご主人は四天王モンスターと初めて戦うわけですし。
「と言うことで、次はライゼクスって言うモンスターを倒すみたいだけど……ネコさんたちは大丈夫?」
「ちょっと怖いけれど頑張るニャ」
「がんばるにゃ」
これでライゼクスを倒せばご主人もさらに有名になるはず。そして、ライゼクスならブシドーの練習に丁度良い。
こんなところで立ち止まっているつもりもないし、サクッと倒して前へ進ませてもらおうか。
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第28話~睡眠中に強溜めスタンプ~
「私、ブシドースタイルって初めてだけど大丈夫かな?」
森丘へと向かう飛行船の上で、心配そうにしながらご主人が言葉を落とした。
今回のターゲットは電竜ライゼクス。MHX看板モンスターの1匹であり、攻撃一発一発が重くなかなかに強い相手。
「最初は戸惑うと思うけれど、直ぐに慣れると思うニャ」
ジャスト回避した後、狙った部位へ上手く攻撃できなかったり、そもそもジャスト回避に慣れなかったりと最初は大変だと思う。
けれども、此処でブシドーが使えるようになっておけばディノ戦では絶対に役立つ。それに、予備動作がちゃんとあるライゼクスならブシドーの練習にも丁度良い。だから、ご主人には是非此処でワンランクアップしてもらいたいところです。
「うん、わかった。頑張ってみる」
あと、これでライゼクスの素材が手に入れば、ライゼクスのハンマーであるエムロードビートを作れるのも大きいです。エムロードビートの見た目はハンマーと言うよりも斧だけど、まぁ、カッコイイことは確か。そしてエムロードビートができてしまえば、もう下位クエストは十分だろう。
「それじゃ、私はちょっと寝てくるから、着いたら起こしてもらえるかな?」
「わかったニャ」
どうかゆっくりと休んでください。ライゼクスは今まで戦ってきた相手の中で一番強いモンスターなのだし。
色々と心配なことはある。あるけれど、正直今回は大丈夫だろうと思っている。ライゼクスさん、慣れちゃえばそんなに強いモンスターじゃないし。当たり判定がすごく薄いのよね。股下で適当にローリングするだけでほとんどの攻撃を躱すことができる。部位荷電状態で攻撃力が上がるけれど、肉質も軟化してくれる。体力が多いイメージもないし、新モンスターの中ではかなりの良モンスターなんじゃないかな。
そして何より、俺とあの白ネコがいる。クリアは問題ないだろう。
ただ、やっぱり俺はハンマーを使いたかったなぁ。
「……どうして貴方は色々と詳しいのにゃ?」
もし自分がネコじゃなく、人間の姿だったらどうなっていたのか、なんて考えたって仕方の無い妄想をしていると、あの白ネコが声をかけてきた。
そりゃあ、気になりますよね。
「ん~……ボクにも色々あったんだニャ」
本当に色々とあったんです。自分で言うのもアレだけど、かなり特殊な経験をしていると思う。
そして、それは俺だけじゃなく――この白ネコだってそうなんだろう。
だって、普通のネコはあんなに上手くないもん。ただ、俺から色々と聞くことはやめておきます。気になることではあるけれど、現時点でこのパーティーはちゃんと機能している。それを乱したくはないんだ。
「……そっか。ぼくも色々とあったにゃ」
うん、でしょうね。むしろ、何もなかったと言われたらそっちの方が驚く。
「色々ありすぎちゃって、何が何だかわからないにゃ」
そう言って、白ネコは静かに笑った。
お互いに悩みが多いものですね。相変わらず何を考えているのかわからない奴ではある。でも、何も考えてないってわけではなさそうだ。
「とりあえず、今はご主人のために頑張るニャ」
「うん、わかってる。頑張るにゃ」
いつか自分のことを話せる日が来れば良いと思う。でも、あの相棒にすら俺は全部を話していないんだ。そんな俺に自分のことを話せる日なんて来るのかねぇ……
ホント、悩ましい人生です。
「よしっ、準備完了! それじゃ、サクッと倒してこよっか!」
「うニャ!」
「にゃー」
結局、あの後も白ネコと深い話をすることはなかった。俺がそう感じているだけかもしれないが、お互いに距離を置いちゃってる感じです。仲は悪くないと思うけれど、やっぱり自分のことを話すのには勇気がいる。そして、その勇気が俺にはないのですよ。
つまり現状維持。便利な言葉。
「ライゼクスはエリア4にいるニャ!」
「了解です!」
さてさて、狩りに集中しなければ。
このご主人がブシドースタイルを使う初めてのクエスト。最初だし、まず上手くはいかないはず。だから俺たちが頑張ってサポートしないとです。
とことことご主人の後をついていき、ライゼクスのいるエリア4へ到着。
「すごく、つよそうだね……」
全身は黒色の甲殻に覆われ、その所々に見える金色の甲殻。ハサミを思わせる二股の尻尾。大きな翼は蝶類のように透き通り、その姿は見蕩れるほどに綺麗だった。
ライゼクスはモンスターの中でも見た目がかなりカッコイイ方だと思う。そして何より、見た目だけならすごく強そうなんです。
そんなライゼクスへ向かっていつものようにブーメランを一発。
此方へ気づき、開幕咆哮。さて、クエストスタートだ。
「おっ、おお!? バ、バシュンってなって……えっ、この後どうすれば……」
咆哮をジャスト回避したらしいご主人が騒がしい。一応、ブシドーの動きは昨日教えておいたつもりだったけど、あの時はお酒が入っていたしなぁ。忘れちゃってるかもね。
「ジャスト回避後、右腰へハンマーを構えればカチ上げに派生するニャ!」
「りょ、了解です!」
翼を使った攻撃を避けながら、ライゼクスの股下へ潜り込みおまけでブーメランを当て、ご主人へ指示。ただ、ブシドーのカチ上げって普通のカチ上げと踏み込みがちょっと違うんだよね。慣れればアレはアレで使いやすいと思うけど。
「あと、もっと溜めるとスタンプになるにゃ。踏み込みながらやると使いやすいにゃ」
「あっ、うん。わかった」
白ネコさんがご主人にそんな言葉を落とした。
そうなんだよねぇ。踏み込みながらじゃないとスピンアタックになっちゃうから、そこは気を付けないと。スピンアタックのモーション値はホームランと同じだけど、出るまでが遅すぎるせいでとにかく使いにくい。だから、モーション値は10落ちるけど、強溜めスタンプの方が出も速いし使いやすいと思う。
「あぅ……バシュンバシュンなって何がなんだか……」
ライゼクスの攻撃が来るたびにご主人がジャスト回避。エフェクトも派手でカッコ良く見えるけれど、さっきから全く攻撃ができていない。
頑張って。最初は皆そんなもんだよ。
サポゲも貯まり、ブメ2種を発動。ようやっと此方の準備は完了です。
一方、ライゼクスも怒り状態で、両翼は荷電状態。面白くなってきました。
それからも、ご主人はブシドースタイルにかなり苦労しているように見えた。
「寝た! 攻撃ストップニャ!」
「あっ、ごめっ……と、止まらないです!」
とは言え、流石はご主人。一度、部位荷電状態の単発ブレスが直撃して吹き飛ばされはしたけれど、その他の攻撃はほとんど喰らっていない。頭もちゃんと狙えているみたいだし、最初でこれなら上出来と言ったところ。
「……ナイス、スタンにゃ」
それはご主人の腕が良いってのもあると思うが、元々ブシドースタイルがあっていたのかもしれない。あの笛の彼女や相棒なんかは、立ち回りで攻撃を喰らわないようにするタイプで、あの二人にはブシドースタイルはあまり合わないと思う。でも、俺や弓ちゃんみたいなタイプはフレーム回避を多様するからブシドースタイルはなかなか合っている。多分、ご主人もそう言うタイプなんだろう。
「ごめん! ホント、ごめんね、ネコさん」
「い、いや、そんな謝らなくても気にしてないから大丈夫ニャ」
そして、そろそろ倒せるかなぁってくらいで、俺が二回目の睡眠を奪い、その瞬間ご主人の強溜めスタンプがライゼクスの頭へ入り、一回目のスタンを奪った。
水爆一回分が消えてしまったけれど、どうせもう爆弾はないのだし、気にしてないと言ったのは本当のことです。それに強溜めスタンプが睡眠中に入ったのなら十分だ。
ご主人もブシドースタイルに少しくらいは慣れてくれたかな? 確かにエリアルスタイルは強い。ただ、やっぱり色々なことをできた方が絶対に良い。まぁ、それが難しいんだけどさ。
「お、おおー。足引きずったよ!」
クエストが始まって多分まだ10分は経っていないと思う。ご主人も今回はライゼクス自体に苦労していなかったみたいだし、なかなか良い感じ。やっぱりこの白ネコがパーティーに入ったのが大きいのだろう。ホント、このパーティーなら下位の集会所くらい苦労せず進むことができそうだ。
「ライゼクスはエリア5へ行ったニャ!」
「了解です! あっ、捕獲した方が良いかな?」
ん~……どうだろう。捕獲するメリットは剥ぎ取りじゃ出ない、若しくは出にくい素材が出ることと、クエスト終了後の時間が40秒短縮されること。
ただ、今作は捕獲報酬が2枠の時も多いし、報酬目当てでの捕獲は微妙になっちゃったんだよね。それに今は急いでいるわけでもないし、そもそもこの世界じゃ捕獲したところで帰りが早くなるわけでもない。
うむ、此処は倒しちゃった方が良さそうだ。
「……エムロードビートって電竜の尻尾必要にゃ?」
そんなことを考えていると白ネコが俺に言葉をかけてきた。
ああ、捕獲なら報酬で尻尾が来るんだったか。
「いや、最終強化まで一度も要求されなかったと思うニャ」
俺もエムロードビートの最終強化である電竜砕カクルハまで作ったけれど、ライゼクスの尻尾を切った覚えはない。俺はハンマーを使っていたし、彼女も笛だったし。てか、尻尾を斬ったことのあるモンスターがどれだけいるのやら……
そして、ハンマーは、他の武器と比べて尻尾を要求されることって少ない気がする。多分、製作者もその辺のことはちゃんと考えてくれているんだろう。もちろん、ディオステイルみたく普通に要求される武器もあるけどさ。
「えっと、結局どうすれば良いのかな?」
「倒しちゃって大丈夫ニャ」
相手の体力はあと僅か。サクッと終わらせてきましょうか。
――――――――――
「それじゃ、今日はお疲れ様でした!」
ベルナ村に戻って直ぐ、いつものように打ち上げです。
ライゼクスだけど、俺がちょっと考え事をしている間に寝てしまい、其処へご主人がホームランを叩き込んだところで討伐完了。
つまり、四天王のうちの一匹を倒したと言うこと。これでまたご主人が有名なハンターに一歩近づきました。ガムートはどうとでもなるだろうし、タマミツネもなんとかなると思う。苦労しそうな相手はディノバルドくらいじゃないかな。
「お疲れ様ニャ」
「うにゃ」
ああ、今日も冷えたビールがすごく美味しい。クエストを頑張ったあとはビールに限りますね。もう、このために頑張っていると言っても良いかもしれない。
「ライゼクス強かったねー」
「うニャ。怖かったニャ」
ライゼクスを倒したことだし、素材さえ足りていればご主人の新しい武器ができる。武器倍率も今の武器よりも高いし、雷属性と会心率もある。これで武器も安心ですね。
そして、今回のクエストの感想であったり、これからの予定なんかを話している時だった。
「やっほー、槌ちゃんとネコちゃん。遊びに来たよー」
前回別れた時からまだ2週間も経っていないはず。
「えっ? あっ……こ、こんにちはです!」
声をかけてきた人物を見て慌てたようにご主人が挨拶。
はい、相棒さんがまた来てくださりやがりました。
こりゃあ、また面倒なことが起きそうだなんて思い、誰にも気づかれないようそっとため息をひとつ落とした。
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第29話~離れたからこそ~
大量の誤字報告に感謝、感謝
「え、えと、今日はどうされたのですか?」
さて、相棒さんがこうしてまた来やがったわけだけど、何の用事があるのやら……
申し訳ないけれど、これからご主人もどんどん忙しくなるだろうし、クエストを手伝うのは勘弁してもらいたいところ。むしろ、此方が手伝ってもらいたいぐらいなのだから。
「近くまで来たからちょっと寄ってみたんだ。槌ちゃんとも会いたかったし」
そうやって相棒さんが言うと、ご主人はすごく嬉しそうな顔をした。まぁ、憧れているハンターに会いたかったと言われたのだからそりゃあ喜びはするだろう。
そしてどうやら、面倒なことにはならなそうですね。また二つ名モンスターと戦うことになるとかは遠慮したいです。強い敵とは戦いたいけれど、今は他にやらなきゃいけないことがあるのだから。
んで、さっきから白ネコがワインの入ったグラスを持ったまま固まっているけれど、どうかしたのかな? 急に有名なハンターが現れたから驚いているのだろうか。
「って、あれ? 初めて見るネコちゃんがいるけど……そのネコちゃんも槌ちゃんのオトモなの?」
「はい、最近オトモになってくれた子です!」
相棒の言葉に対し、ご主人がそう応えると相棒さんがものすごく良い笑顔になった。絶対に意地悪なこと考えてるよ、これ。
「へー、そっか、そっか……うん、パーティーも賑やかになって楽しそうだね」
まぁ、そうですね。確かに賑やかにはなったし、この白ネコのおかげでパーティーもかなり強くなった。それはすごく良いことなわけですが……やっぱり色々考えちゃうんだよなぁ。
「あっ、ちょっとネコちゃんを借りても良いかな? 話したいことがあるんだ」
「はい! いくらでもどうぞ!」
だから、ご主人はそうやって俺のことを物みたいに扱わないでほしいのですが……力関係的には物扱いされてもおかしなことじゃないけど。
はてさて、この相棒が話したいこととはなんでしょうね?
相棒さんに言われ、ご主人たちから少し離れた場所へ。
「新しいオトモ増えたんだね!」
すごく良い笑顔。何を考えているのか分かったものじゃないし、分かりたくもないかな。だってコイツ、絶対に悪いこと考えてるもん。
「……そうだな」
今のパーティーに文句は何もない。ただ、ちょっとゴタゴタしちゃっているせいで、少しの失敗だけで崩壊してしまいそうな感じがある。人間関係とかそう言うことで。
そう言う問題を考えるのは苦手なんです。俺が初めてこの世界へ来たときも、色々と問題のあるパーティーだったけれど、そこはあの彼女が頑張ってくれたりしたおかげでどうにかなった。俺ひとりじゃどうなっていたのやら……
「あの白ネコちゃんってどんな感じなの?」
「……上手いよ。ひたすらに上手い。少なくとも俺と同じくらいは」
俺よりも上手い気がしないでもないけれど、そこはほらプライドとかが邪魔をしたので、そう言ってみました。
あの白ネコにどんな過去があったのかは知らないけれど、ネコよりも下手と言うのはちょっと凹む。
そして、そんな俺の言葉に相棒は酷く驚いたような顔をした。
「えっ? ほ、本当ですか? 君と同じくらい?」
「うん」
いや、俺だって最初は驚いたよ。でもそれは事実なんです。パーティー的には有り難いことだけど、気分はやっぱり複雑。
俺程度の実力じゃ無双することなんてできないし、勇者様プレイをしたいわけでもない。そうだと言うのになんともモヤモヤするんです。苛立つと言うよりは、悔しいと言う感じが強いわけですが。
「ほえー、そんなアイルーちゃんがいるものなんだね。ちょっと信じられないけど……バルバレでアイルーちゃん専用の闘技大会を見に行ったとき、君ほど上手いアイルーちゃんいなかったもん」
そうなんだよなぁ。
闘技大会に出るくらいなのだし、あのネコ達だって下手ではないと思うんだが、やっぱりネコはネコだった。だから余計に分からなくなるわけですよ。
「ふふっ、じゃあもしかしたら槌ちゃんのオトモをクビになっちゃうかもね」
……なんでこの人はそんな良い笑顔で鬼みたいなことを言うのだろうか。俺が今一番心配していることなのに。
クビになるのだけは嫌なんです。せっかくこの世界へ来たのだから、やっぱりモンスターと戦いたい。その気持ちはこの小さな身体になったところで変わらないのですよ。
「でも、もしクビになっても私が拾ってあげるね! 弓ちゃんも君とまた会いたがっているみたいだし」
冗談なのか本音なのか……
ただ、正直嬉しい提案ではあります。保険をかけているみたいだし、まるで自分の実力に自信がないみたいですごく気分は悪いけれど――
「そ、その時はよろしくお願いします……」
そう言葉にしてしまうくらいは追い込まれていたりするんです。
いや、自分でも情けないなぁって思っていますよ? でもさ、あんな上手い奴が一緒にオトモやっているとそう思っちゃうんです。
「えっ? はい? い、いや、そりゃあもしそんなことになったら直ぐ、君を捕まえに行くけど……え? そ、そんなにあの白ネコちゃんって上手いの?」
はい、そんなに上手いんです。1匹でも問題なくクエストをクリアしていってしまうくらいには。集会所でもオトモは2匹まで連れて行けるそうだけど、今の立場はかなり崖っぷち。不安しかありません。
ホント、こればっかりは予想外だった。何と言うか……窓際社員が転職先を探しているような状況です。
「……クビになると決まったわけじゃないけど、もしかしたらまたお世話になるかもしれないかな」
そうやって俺が言うと、相棒さんはなんとも複雑な顔をした。
――――――――――
旧砂漠でテオ・テスカトルの討伐を終えた帰り道。
ちょっと遠回りになってしまうけれど、彼や槌ちゃんと会っておきたいなぁって思い、ベルナ村を訪れた。やっぱり彼とは会いたかったから。色々とあったけれど、あの彼とはそれなりに長い付き合い。今はちょっと小さな体となってしまっているけど、あの彼であることに違いはない。
それにこうやってちょこちょこ会っておかないと、あの彼って直ぐに何処かへ行っちゃいそうだし。
そして、ベルナ村へ着くとちょうど打ち上げをしているところ。そこには見覚えのないアイルーちゃんが一匹。白色の毛が特徴的なアイルーちゃんだった。
オトモは2匹まで連れて行けるわけだから、新しいオトモが増えても不思議じゃない。あの彼がいるのだし、増やさなくても良いとは思うけど。槌ちゃんだって彼の実力は分かっているだろうし。
それで、その白ネコちゃんを見たとき、ちょっと色々と思うところがあった。それは、意地悪なことのように見せかけた私の本音。やっぱり私もあの彼と一緒に狩りをしたいんです。先日のナルガクルガとの戦いはかなり厳しいものだったけれど――それ以上に楽しかった。それはあの彼がいたからだと思う。
だから、私はもしクビになったら私たちが拾ってあげると言った。そうなれば嬉しいなって思うけど、あの槌ちゃんだって彼がいなくなったら困るだろうから冗談のような口調で。
ただ、彼からの返事には驚きました。
――そ、その時はよろしくお願いします……
彼の実力を考えたらクビになるわけがない。そうだと言うのに、そんなことを言うんだもん。
彼は色々と考え過ぎちゃう人(今はネコだけど……)です。長い付き合いなのだし、それはよく分かっている。私に対してよく、自信を持て! だとかあの彼は言う。彼だって自分に対して自信を持ってないくせに。
今では私もそれなりに有名なハンターとなってしまったけれど、私からして見ればやっぱり彼は私よりもずっと上手い。その知識量もそうだし、ハンターとしての実力も。私にとって彼は憧れのハンターで、大切な人。それはアイルーちゃんの身体となってしまった今も変わらない。
そんな彼が、あの白ネコちゃんが自分と同じくらい上手いと言った。最初はただのお世辞かなぁって思った。
そして、あのセリフ。
フルフェイス防具のせいで彼の表情は見えない。でも、どんな表情をしているのか予想できちゃった。
う~ん……あの彼と同じくらい上手いアイルーちゃんですか……正直、そんなの信じられるわけがない。先日見に行ったアイルーちゃんの闘技大会も――ああ、うん。ネコだもんね、仕方無いね。って感じだったし。
けれども、あの彼はやっぱり上手い。それは小さな体となってしまった今も変わらない。ナルガクルガと戦ったあのクエストのことを考えるに確かなこと。
そもそも、彼と同じくらい上手いアイルーちゃんが沢山いるのなら、ハンターなんていらない。だから、あの白ネコちゃんが異常なんだと思う。実際にあの白ネコちゃんの動きを見ていないからなんとも言えないけど……
ただ、彼の口調的に、嘘ではなさそうです。
「今日は直ぐに帰っちゃうのか?」
むぅ、あの彼と同じくらい上手いとなると……私には笛ちゃんくらいしか思いつかない。
そう言えば、笛ちゃんはどうしたのかな? 彼が話をしてくれないせいで、二人の詳しいことは未だに知らない。彼が話してくれないせいで!
「一日二日くらいならのんびりできるよ。ドンドルマは弓ちゃんが頑張ってくれているし」
私が知っていることと言えば、あの二人がこの世界の人間ではないと言うこと。後は、元の世界でも彼と笛ちゃんが一緒にいるってことくらいだ。
「……それ、直ぐに帰らなくて良いのか?」
う~ん、笛ちゃんはこの世界へ来てないのかな? もし、あの白ネコちゃんが笛ちゃんだと言うのなら全部繋がるのだけど、彼の口調的にそうではなさそうなんだよね。
てか、そもそもどうして彼はアイルーちゃんになっているのさ。そう言うものだと思っていたけど、改めて考えると意味が分からない。
「相手はオオナズチだし弓ちゃんなら大丈夫だよ」
相変わらず不思議な人だね、君は。
そして悩んでいる彼には申し訳ないけど、今の状況は……何と言うかちょっと嬉しいです。
「ああ、それくらいなら大丈夫そうだな。そんじゃ、そろそろご主人のところへ戻ろうか。打ち上げもまだ始まったばかりだし、君も参加したらどう?」
彼は色々と考え込んでしまう人だ。でも、その考え込んでしまったことは全て自分の中へ押し込んでしまう。
もっと私たちを頼りにしてくれたって良いのに、全部自分でどうにかしようとする。私から彼に相談することはあっても、彼から私に相談してくれることはほとんどなかった。だから、私は彼の弱い部分を知らない。それは彼の良いところで、悪いところ。
「えっ? いいの? そりゃあ、是非参加したいけど」
そんな彼が今はこうやって私に悩みを話してくれている。
少しは信頼されていたのかなって思えてそれが嬉しい。
「うん、ご主人だって喜ぶと思う」
今はこうして離れ離れとなってしまったけれど、何処かで繋がっていたのかなって思える。少し離れてしまったからこそ、繋がりが強くなることもあるのかな?
「ふふっ、ありがと。それじゃあ、よろしくね」
もうあの頃に戻ることはできないけれど、今は今で結構楽しいって思える自分がいたりします。
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第30話~やっぱりなしで~
……驚いた。
この世界にいることは知っていたし、いつか会いたいなぁって思ってはいたけど、まさか本当にあの娘と再会できるとは思っていなかったから。それもこんなにも早く。
とは言え、本当に有名なハンターになっちゃったんだね。それはあの彼が原因だけど、私もちょっとは関係あるから悪いなぁって思う。ただ、同じパーティーの仲間が有名になるのは誇らしい。私は遠慮したいけど。
「えと、槌ちゃん。私も打ち上げに参加して良いかな?」
あのホロロネコと何かしらの会話を終え、戻ってきてからあの娘はそう言った。
「は、はい! もちろんです!」
どうにも緊張気味のご主人さん。憧れのハンターだって言っていたもんね。緊張してしまうのも仕方無い。
あの娘とこうやって再会できたことは驚いた。けれども、これは嬉しい。信じてもらえるのかは分からないけど、あの娘には今の私のことを話しても良いと思っていたし。
そして、あのホロロネコだけど……やっぱり普通のネコではないんだと思う。他のネコを見たことがなかったから、最初はまだよく分からなかった。でも、先日の闘技大会へ行って他のネコを見ることができ、あのホロロネコの異常さを理解。いや、まぁ、フレーム回避を多用している時点でおかしいとは思っていたけど。
ただ、そうなるとこのホロロネコは何者かってことになる。
本当にただのネコなのか――私と同じような人間なのか。
でも、前者の可能性はかなり薄いと思う。それはあの闘技大会のことであったり、ホロロネコが過去の話をしてくれないことからそう考えた。
じゃあ、後者。私と同じ人間となると……望んでしまうことがあるのです。そうであったら良いなぁって思ってしまうのです。
それは酷く自分に都合の良いことで、そんな都合の良いことなんてあるわけがないとも思う。でも、あのホロロネコのハンマーに関する詳しさだったり、その性格だったりと全てが全て私の望んでしまっている方向に進んでいる。
その分、私の考えが間違いだった時は落ち込むと思う。だから、本当のことを聞くのは怖かった。今の状況だって不満に思っているわけではないのだから。
それでも、自分の気持ちには嘘をつけないわけで、どうしたものかなぁって思う。
「ありがとう。それと初めまして。白ネコちゃん」
ご主人さんの隣に座ったあの娘がそう私に声をかけてきた。
初めましてじゃないんけどなぁ。まぁ、私が私だとあの娘は知らないわけだしそれも仕方無い。あの娘と再開できたのは嬉しいけど、なんとも複雑な状況だ。
「……ハンターさんにちょっと話したいことがあるにゃ」
そんななんともモヤモヤした状況は嫌だったから、早々に動くことにする。あのホロロネコが彼かどうかは分からない。でも、もし彼だとしたら色々が繋がる。それに、この娘とホロロネコは親しいみたいだし、話をする価値は十分にある。
「えっ? う、うん。わかりました」
振り回しちゃってごめんね。でも、こればっかりは伝えた方が良いと思うの。
さっきのホロロネコみたいにご主人たちから少し離れた場所へ。
「えと……それでどうしたのかな?」
そう言えば、さっきはどんな話をしていたのかな? 戻ってきたホロロネコのテンションが低かったから、楽しい話をしていたわけではなさそうだけど。
さて、まずは何から話をしよう。私が私であることを伝えちゃった方が楽だけど、伝えにくい。どうやって話せば良いのか全然わからない。
「あのネコって何者?」
だから、まずはあのホロロネコのことを聞くことにした。
「ん~……どう言えば良いのか分からないし、私もあのネコちゃんから直接教えてもらったことはないんだ。だから、今の君にはまだ教えられないかな」
まぁ、そうだよね。
今の私はただのネコでしかない。そんな私に教えることはできないってことだと思う。でも、この娘のこの言い方は、まるで……
「つまりね……君は誰なのかな?」
私を真っ直ぐ見ながら、あの娘がそう言った。
「あの彼の彼女。貴方と同じパーティーのひとり」
はい、言ってやりました。
悩んでいるのは苦手だし、こう言うのはさっさと進めてしまいたい。
そんな私の言葉に対して、あの娘は特に驚くようなこともなかった。察しの良いこの娘のことだし、なんとなく予想はしていたのかな。
「……そっか。うん、色々と繋がった。ふふっ、久しぶりだね、笛ちゃん。ちょっと小さくなった?」
「中は変わってないから大丈夫」
それに私だって少しは大きくなったのだ。この娘にはまだ負けてるけど……どこがとは言わない。言いたくない。
さて、此処までは良いのだ。問題はこの後。今のパーティーに不満はないし、あのご主人のためホロロネコと一緒に頑張ろうと思っている。でも、できれば知っておきたい。
ばくばくと暴れる心臓。僅かに乱れる呼吸。
それ以上に膨らむ期待。
「それで、あのネコは?」
私が聞いた。
「……さっきも言ったけど、直接教えてもらってはないんだ。でも――間違いなくあの彼なはずだよ。私に対してはもう隠す気もないみたいだし」
あの娘が答えた。
そっか。そうなんだ。……うん。よかった。
本当に良かった。
最初にこの世界へ来た時はずっと私ひとりだった。あの彼と会うまで一年の間。……その期間は辛かったかな。どうしてこんなことになっちゃったのかなぁって思いながら、でも何かをしていなければ壊れてしまいそうだったから、ひたすら狩りを続けていた。誰かに頼ることなんてできなかったから、ひとりでずっと。
そして、あの彼と出会ってからそんな生活とは一気に変わった。それからは楽しかったと思う。心の底から。あの時、私の中にあったちっぽけな勇気を振り絞って彼へ声をかけて本当に良かったと思う。
それから色々とあったわけだけど、どうにかできたのは彼のおかげだと思っているし、そんな彼を好きになったのも自然だと思う。
ダラを倒して元の世界へ戻り、それでもまた彼と再会することができた時は本当に嬉しかったし、ずっと一緒にいたいと思った。
その後、またこの世界へ来ることになったけれど、その時は彼と一緒だったからそれだけで私は満足だったし、あの娘たちとも無事合流することもできた。
そして、元の世界へまた戻り、気がつけばまたこの世界。身体は小さくなっているし、そもそも人間の体じゃない。
何より――あの彼がいない。そのことが一番辛く感じた。
けれども、今日こうやって彼と再会することができたのだし、私はもう大丈夫。これで私は前に進むことができる。
本当に良かった……
「それで、笛ちゃんはこれからどうするの? 彼にはまだ伝えてないみたいだけど」
うん、まだ伝えてない。予想……と言うより、あの彼だったら良いなって思ってはいたけど、確信していたわけじゃなかったから。
「確認もできたから話しちゃおうと思う。ただ、貴方たちのところへ行くことはできないかな」
また4人一緒にクエストに行きたいと思っているけど、今の私はあのご主人さんのオトモ。だから、あのご主人さんのために頑張りたい。それにあの彼が一緒なのだから、きっとあのご主人さんを立派なハンターにするお手伝いがちゃんとできるはず。
自分で言うのもアレだけど、私たち以上のオトモはいないと思う。世界を2回も救ったオトモはそんなにいないだろうから。
「そっか。ふふっ、槌ちゃんもいいオトモさんがついてくれたね。うん、笛ちゃんたちなら安心だ。それにしても、笛ちゃんはこうして素直に教えてくれたって言うのに、あの彼はどうして素直に教えてくれないのやら……」
そう言う性格だもん、仕方無い。あの彼は何か悩みがあっても、全部自分の中へ押し込んでしまうような性格。
私は思うことがあったらちゃんと言って、っていつも言っていたんだけどなぁ。
「それじゃ、そろそろ戻ろっか。あっ、槌ちゃんには教えるの?」
「ううん、ご主人さんにはまだ秘密にしておく。もし知ったら多分混乱させちゃうもの」
どうやら、私たちのパーティーを尊敬しているらしいし、あのご主人さんがハンマーを使い始めたのはあの彼を見てかららしい。そんな存在が今、こうやって自分のオトモをしていると知ったら色々大変そうだ。
だから、ご主人さんには申し訳ないけど伝えないでおく。
「うん、そうだね。槌ちゃんには教えない方が良いかも……」
さて、お話も終わったし戻らないとだ。
そうしたら彼に私のことを伝えて……あの彼のことだし、まだ私が私だとは気づいていない。ふふっ、私が私だと知ったら、彼はどんな反応をしてくれるだろうか。きっとすごく驚いてくれるはず。
今まで恥ずかしさを抑えてにゃーにゃー言っていた甲斐も……うん?
うん?
「ちょっと待って」
「えっ? あ、うん、どうしたの?」
ちょっと待って、待ってください。
いや、そうじゃん、私はあの彼の前でずっとにゃーにゃー言っていたのか。
私が……にゃーにゃー?
ヤバい。
本当にヤバい。ちょ、ちょっと待って、待ってください。これは恥ずかしい。すごく恥ずかしいです。
でも、あの彼だって私と同じようにニャーニャー……いやいや、そう言う問題じゃなくて私がにゃーにゃー言っていたことが問題でして、私が私と伝えると言うことはそんな恥ずかしいことをしていたと教えるようなものでして、自分で言うのもアレだけど、彼の前では一生懸命クールっぽいような女の子を目指していたんです。私も彼の前では良い格好していたつもりで、やっぱり彼の前ではそうやって格好をつけたかったわけです。だって好きな相手の前なわけですし。そうだと言うのに、こうして伝えてしまうと私が今まで一生懸命コツコツと積み上げてきたものをぶち壊してしまうわけで、それは心からマズいと思うわけで……いや、じゃあどうするかってことだけど、どうしよう。ああ、これはマズいぞ。記憶か、彼の記憶を消せば私の痴態も消すことが……
「記憶を消すのってどうすれば良いかな?」
「いや……何言ってんの?」
残念ながら今の身体は小さい。昔だったら笛でスタンプをするだけだったけど、今じゃそんなこともできない。大タル爆弾でも使えば……
ああ、でもそんなことをしたら私の存在自体……いやいや、落ち着け。そもそも記憶を消すことができるのかもわからない。
……うん。決めました。
「やっぱり、彼にはまだ教えない」
「あっ、はい。わかりました」
それが正解だと思う。
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第31話~これからも~
「ご主人、ご主人。これからの予定はどうするのニャ?」
相棒さんと白ネコが戻ってきところで、ご主人に質問。
あの二人がどんな会話をしたのか気になるけれども、皆がいる場所で話をしなかったと言うことは、まぁ、そう言うことなんだと思う。それなら深く聞くことはやめておこうと思うところです。同じパーティーの仲間ではあるけれど、秘密の一つや二つくらいはあるものだから。
ただ、どうして相棒さんはそんなに良い顔をしてらっしゃるのですか? 此方はストレスやらなんやらで大変だと言うのに。
「う~ん、どうしよっか。特に村長さんに頼まれているクエストもないし」
ライゼクスも倒したわけだしゲームだと、次はガムートかタマミツネのはず。そして、その2頭を倒したらディノバルド。それがMHX村クエのシナリオだった。
けれども、今は特にやることもない、と。ん~……それならどうしようか。ご主人の防具は今のままでも問題ないはずだし……
ふむ、こう言うときはあの白ネコに聞いてみるか。
「君は何か行きたいクエストあるかニャ?」
そうやって俺が聞くと、白ネコはびくっと身体を震わせ、酷く驚いた顔で俺の方を見てきた。いや、そんな驚くような事じゃないと思うけど……
てか、そう言う反応をされるとちょっと傷つきます。
「え、えと、私は特にない、かな」
そうか。そうなってしまうと……どうすっかなぁ。
……うん? 今の白ネコの口調、おかしくなかった? 特に注意していたわけではないけど、確かこの白ネコも語尾にニャってつけていたし、一人称も俺と同じようにボクだったと思った。
まぁ、そんな口調なんて気にしたって仕方無いか。
「あっ、で、でも、ライゼクスを倒したのだし、ご主人さんの武器を作った方が良いと思う」
ああ、そっか。そのことをすっかり忘れていました。
「武器ってライゼクスのハンマーのこと?」
こてりと首を傾げたご主人。
うん、エムロードビートって言うハンマー。ハンマーっぽくない見た目だけど、アレはアレでカッコイイです。
「……うん、強い武器だから作っておいて良いと思う」
そうだね、時間もあるみたいだし、丁度良い。あと、先程から白ネコさんがチラチラと俺を見てくるのはなんなんだろうか。もしかして顔にチーズでもついているのかな? 今日は気をつけていたんだが。てか、それくらい教えてくれても良いのに。
「うん、わかった。白ネコさんが言うなら頼んでみるね」
素材、足りると良いね。できればレベル2まで強化しておきたいけど……流石にそれは厳しいか。
ああでも、せっかく相棒がいるのだし、集会所のライゼクスを倒しに行くのはアリかもしれない。2頭倒せば流石に素材だって足りるだろう。
「ハンターさんはこの後、どうする予定ニャ?」
「んと、今日はもう帰ろうかなって思っているよ。気になることは色々とあるけど、私がいると余計にわちゃわちゃしちゃいそうだし」
あら、そうなんだ。それで今日は珍しくお酒を飲んでいなかったんだね。てっきり遠慮しているのかと思っていた。
ふむ、相棒の言葉の意味はよく分からないけど、そう言うのなら仕方無い。
それじゃあ、リオレウスやウラガンキン辺りを倒すことにしようかな。レウスの防具はかなり優秀だし、素材はあって良いはず。
その後は、日が傾くくらいまで4人でのんびりと料理を摘みつつ雑談をして過ごした。そんな打ち上げも相棒が帰るところで終了。
どうにもモヤモヤすることはあるけれど、あの相棒と話をすることができ、そのモヤモヤも多少は晴れてくれたと思う。だから相棒さんには素直に感謝です。
そして、その日の夜。
適度にアルコールが入ってくれたせいか、どうにも寝付けられずご主人や白ネコを起こさないようこっそりと抜け出してみた。夜ってのはひとり考え事をするのに丁度良いのです。
オトモ広場へ移動し、今宵も真ん丸に輝いてくれているお月様らしき物を見上げながら、ホッとひと息。月が、綺麗ですね。
さてさて、これからどうなるのかねぇ。前回と前々回、この世界へ来た時は、自分がやりたいことをやるだけで良かった。けれども、今回はそういかない。
だって、俺はご主人のオトモなわけですし。
そのことに不満はなく、あのご主人のため頑張ろうとも思えている。ただ、今までと勝手が違うせいでどう動いていけば良いのかがわからないのですよ。とりあえずは村クエを進めていけば良いと思っているわけですが、集会所の方はどうなるのやら……
そもそも、何処まで村クエを進めるのかもわからない。村クエと言っても上位レベルのものだってあるのだ。そして、今の装備でそのクエストをクリアできる自信はないかな。
ホント、これからどうなるんだろうね。
「え、えと……こんばんは?」
そうやって、ひとりうだうだ考え事をしていると、あの白ネコの声がした。
もしかしたら、俺が部屋を出たときに起こしてしまったのだろうか。そうだとしたら申し訳ない気分になる。
「こんばんはニャ」
月の綺麗なこの晩。相手の一番の特徴である真っ白な毛は月の光を浴び、いつもよりいっそう綺麗に見えた。
さて、そんな白ネコさんがこんな場所へ来てどうしたんでしょうね? 正直なところ、この白ネコさんはちょっと苦手なんです。会話は上手く続かないし、そもそもどんな会話をして良いのかもわからない。多分、相手もそう思っているだろうけどさ。
「こんなところで何をしていたの?」
「月を見ながらボーっと考え事をしていたニャ」
どうせ答えなんて出ないだろうに、どうしても考えずにはいられない。それくらい未来へ不安があるってことなんだろう。
さてさて、この白ネコさんとはどんな会話をしたものか。前のパーティー……まぁ、つまり相棒や笛の彼女たちのパーティーほど仲良くなるのは難しいと思っているけれど、同じパーティーのメンバーなのだからやっぱり仲良くなっておきたい。少なくとも仲が悪いよりは良いと思うんだ。
「そう言えば、“ニャ”って言わなくなったけど、どうしたのかニャ?」
とりあえず、ちょっと気になっていたことを聞いてみた。
そんなことを聞くと、何故か知らないけど、バシバシと叩かれた。いや、ホントなんで叩くのさ。
「わ、私は“にゃ”なんて言ってない!」
最初に会った時からずっと言ってたんだけど……むしろ、言わなくなったのはついさっきからだ。それにネコなんだし別ににゃーにゃー言ってもおかしくはないと思うけど……俺も最初は人前でニャーニャー言うのは恥ずかしかったが、最近はなんだか慣れてきました。まぁ、流石に相棒とかの前だと恥ずかしいけどさ。
しかし、困ったな。会話の内容のチョイスに失敗してしまった。難しいね、会話って。
う~ん、なんとも距離が測り難い。それに何処か避けられているような気もするんだよなぁ。そんな変なことをした覚えもないのに……
――――――――――
あの娘に自分のことを話してから、どうにも心がざわついてしまい、寝ることだってできなかった。寝付きは良い方だと思っていたのだけど……
そんなんだから、一度冷静になってみようと思い部屋を抜け出して外へ。
ただ、あの彼も抜け出していたことにすら気付けなかったのだから、それくらい動揺していたってことだと思う。
そんな気分のままオトモ広場へ行くと彼の姿。小さな体となってしまっているけど、それが彼であることに違いはない。
その彼を見つけた瞬間、バクバクと暴れる私の心臓。
ああ、困りました。冷静になろうと思って此処へ来たのに、これじゃあ逆の結果となってしまう。ホント、どうして貴方が此処にいるの……
とりあえず、一生懸命冷静な振りをしつつ、彼に挨拶をして、此処で何をしていたのか聞いてみた。ただ、もう語尾に変な言葉はつけない。つけられるわけがない。
元々、にゃーにゃー言うのは恥ずかしかったし、さらにそれを彼の前で言うのは流石に無理。
「そう言えば、“ニャ”って言わなくなったけど、どうしたのかニャ?」
そして、そんな彼のセリフ。
もしかしたら、私がにゃーにゃー言っていたことは気づかれてなかったんじゃないかなぁって期待していたけどダメでした。しっかりバレていました。非常にマズい状況です。
彼の言葉を聞いて、私の中で恥ずかしさやらなんやらが爆発。だから、彼をペシペシと叩きながら、自分でもどうかと思うような言葉を落とした。そんな言葉を落としたところで、私がにゃーにゃー言っていた事実は変わらないと言うのに。
こんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。どうせいつかバレてしまう日は来ると思うけれど、できるだけその日を遅らせる必要がある。
「んと……きっと君にも色々と事情があると思うニャ。ボクはそれでも良いと思っているし、ボクから詳しく聞くこともしないニャ。でも、君とは同じパーティーなのだから、やっぱり仲良くなれたら良いなって思うニャ。あっ、でも、だからと言って無理やり仲良くなりたいとかじゃなくて……君だってボクに対して色々と思うところがあるはずだし……」
わたわたと慌てながら、ちょっと早口にそんな言葉を落とした彼。
心が非常に痛む。私の態度が原因で彼にものすごく迷惑をかけてしまっているのだから。
えとえと、違うんです。私だって貴方とは仲良くなりたいと思っている。でも、今はちょっと無理と言いますか、そもそも貴方と私は付き合っているわけでして、だから安心してもらって良いけれど、そんなことを言えるわけがなくて……ああ、ど、どうすれば良いんだろうか。
それにしても、あの彼がニャーニャー言っているって考えるとちょっと面白いし、これはこれで可愛くてアリだと……こらこら、今はそんな状況じゃないでしょうが。
防具のせいで彼の表情は見えないし、そもそもネコの姿。でも、彼がどんな表情をしているのかはわかる。だって、それくらいは長い付き合いなんだもの。
きっと、今はあの申し訳なさそうな顔をしているはず。それは他人へ気を遣いすぎる彼がよくするあの表情。そんな彼に対して私は何かを言わなければいけないのだ。いつもいつも、彼には頼りっぱなしだけど、そんな彼を少しでも助けてあげられるように言葉を出さないといけない。
「え、えと、その……私は話すことが苦手なの」
「……うニャ?」
ゆっくりで良い。
やっぱり全部のことを話すのは無理だけど、それでも何かを伝えることはできるはず。
「だから、上手く言葉にすることはできない」
「うニャ」
きっとこの世界でも彼とずっと一緒になるだろうし、私はそうしたい。
自分のことを話さないくせに、都合の良いことばかりを望む酷く我が儘な人間だって自分でも思う。それでも、やっぱり彼には嫌われたくないし、一緒にいたい。それが私の本心。
その本心を全部話すことはやっぱりできない。それでも、一部だけなら言葉にすることができるから、そっとそっと口に出してみる。
「でも……あ、貴方のことは、嫌いじゃない、よ?」
むしろ、大好きです。
全部のことを話すことはできなかったから、言葉を選びながらゆっくりゆっくりと私がそう言うと、彼は静かに笑ってくれた。
私の想いも少しくらいは伝わってくれたのかな? 伝わってくれていれば嬉しいな……
「そっか……うニャ。それなら良かったニャ」
私はそんな我が儘な人間ですが、どうかこれからも貴方の隣にいさせてくれたら嬉しいなって思います。
つまるところ――これからもよろしくお願いします。
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第32話~崖下から……~
「ネコさん、ネコさん。村長さんから次はガムートって言うモンスターの討伐をお願いされたよ!」
白ネコから本心……のようなものを聞くことができた次の日。
今日も今日とて元気の良いご主人さんが、とてとてと走りながらそんな言葉を落とした。
ふむ、次のモンスターはガムートか。確か、ディノバルドやライゼクスと比べてそれほど危ないモンスターではないと思った。そもそもアイツ、草食性だし。
ただ、食糧難なんかが起こると凶暴性が増し、一度暴れだすと大きな被害が出るとかそんな感じだったはず。
そしてそのガムートだけど、う~ん……まぁ、まずこのパーティーが負けることはないと思う。ただ、ご主人の今のスタイルはブシドー。そんなブシドースタイルでも戦えなくはないと思うけれど、やっぱり相性は良くない。
ふむ、申し訳ないが、ご主人にはエリアルスタイルに戻してもらおうかな。ガムートが相手なら絶対にエリアルスタイルの方が良いわけですし。
「白ネコさんはガムートがどんなモンスターか知っているの?」
「うん、知ってる。大きなぞうさん」
大きな象さんって……いや、まぁそうだけどさ。
そして、ご主人の武器ですが素材も足り、無事エムロードビートの作成が可能だそうです。素材運に恵まれていて羨ましい限りだ。ただ、例のごとく完成するのには数日かかるから、ご主人の武器はベルダーハンマーのまま。
「ああ、うん。そうなんだ……すごく強そうだね」
「問題なく勝てるはずだから大丈夫。あと、エリアルスタイルにしておいた方が良いと思う」
そんなご主人と白ネコの会話。どうやら白ネコもエリアルの方が良いと思っていたらしい。
うむ、やはりこの白ネコとはなんだかんだ気が合うな。これで俺からご主人に言う手間が省けた。
昨晩、この白ネコと会話をして、どうやらそれほど嫌われていないことが分かった。本心ではどう思っているのか分からないけど……ま、まぁ、それでも一応、相手も表向きは仲良くしてくれるはずだし、良しとしようか。
それに心なしか、白ネコから俺に話しかけてくれるようになった気もする。それがちょっと嬉しいです。相変わらず何を考えているのか分からん奴だけど、悪い奴ではないはず。それが分かっただけでも十分だろう。
「あっ、そうなの? うん、了解。それじゃあエリアルスタイルに戻してくるね」
うん、それが良いと思う。エリアルスタイルだと、どうしてもモンスターの動きが見えないことが多くて、動きを覚え難いけれど、ガムートが相手なら動きを覚えてもなぁってところだし。
「よし、それじゃ準備ができたら早速出発しよっか!」
「うニャ!」
「おー」
まぁ、とりあえずは全力でガムートを倒すとしようか。まだまだ躓くような段階ではないのだから。
「よしっ、到着! 寒いねっ!」
ベルナ村を出て飛行船で揺られること暫く。時刻は昼間。ようやっとガムートのいる雪山へ到着です。そう言えば、寒いマップへ来るのはこれが初めて……だっけ? 砂漠や火山のように暑いマップへ行ったことはあるけど。
まぁ、上位クエストでもないのだから、支給品はあるし、問題は特にないはず。消散剤も持って行くように言ったし大丈夫だろう。
そう言えば、ネコが雪だるま状態になった時ってどうなったかな? ゲーム中でなった覚えがないからちょっと不安だ。オトモがなった時は全く動けなくなっていたような気もするけど、ニャンターならまた別だったりするのだろうか……いや、雪だるま状態にならなきゃ良いんだけどさ。
「ガムートはエリア8にいるニャ」
「了解!」
つまり、一番上のエリア。ベースキャンプからはかなり登る必要があります。
雪山ってベースキャンプからモンスターのいる場所まで遠いのが面倒だよね。パーティープレイで自分が乙り、その後直ぐにモンスターが討伐されたりすると剥ぎ取りが間に合わないことも多い。上位クエストでもベースキャンプスタートだったりするとちょっとガッカリするし。
MH4から登場したマップと比べて戦い難くもないし、それほど嫌いってわけじゃないけれど、とにかくベースキャンプの位置がなぁ……
まぁ、そんなことを言っていても仕様が無いか。
「ガムートってすごく大きなモンスターなんだよね? ハンマー、頭に届くかな……」
エリア1にある小さな崖を登りながらご主人が言った。
確かにガムートは大きいけれど、頭には届くと思う。顔も大きいし。ただ……
「今回は無理して頭を狙わなくて良いと思うニャ。頭は弱点だけど前は危ないから、後ろ脚を攻撃したり、ジャンプ攻撃をオススメするニャ」
突進だったり、長い鼻を使っての叩きつけなど、慣れていないとガムートの正面はかなり厳しい。逆に、後ろ脚を攻撃していれば相手からの攻撃はほとんど喰らわないと思う。とは言え、後ろ脚の場所にいても攻撃を喰らうことはあるし、ガムートもガムートで車庫入れを多用するから、ずっと張り付くのは難しそうだ。
「あっ、ネコさんもガムートのこと知ってるんだ。えっ、じゃあ初めてなのは私だけ?」
うん、そう言うことになっちゃうね。ガムートと戦ったことはないけれど、知っていることは確か。それに、どうせあの白ネコだってガムートのことは知っているだろう。
ただ、今のご主人はエリアルスタイルだし相性は良い。そして何よりこのご主人ならまず大丈夫なはず。適当に飛んでA2連をやっているだけで勝てるんじゃないだろうか。乗ってくれれば、俺と白ネコでラッシュもかけられるし。
「ご主人なら大丈夫だから自信を持つニャ!」
「うぅ……が、がんばります」
そんなような話をしながら、ご主人、俺、白ネコの順番でガムートのいるエリア8を目指す。
そしてその途中、エリア4にある崖を登っている時だった。
現在のご主人の防具はザザミ一式。作りやすいし見た目は可愛いし、とかなり人気のある防具なんじゃないかな。その見た目はチアガールのような格好で、その腰はスカートだったりします。
んで、崖を登る時、ご主人の次に俺が登るわけですから、そのですね……まぁ、見えちゃうじゃないですか。スカートの中が。ほぼ不可抗力的に。
ローリングをした時とか、倒れた時とかだって見えるけど、アレはクエスト中でそんなこと意識している余裕なんてない。でも今はただの移動中でして。ふむ、白か。えとえと、そもそもこのご主人はそう言うことに対して無防備過ぎるんだ。あの相棒や、彼女はそう言うことをちゃんと気にしてくれたし、弓ちゃんなんかはガードがすごく硬かった。ああいや、だからと言って狙っていたわけじゃないからね?
う~ん、それにしてもご主人のコレは俺がネコだから……
「うニャッ!?」
そんなことを考えていると、白ネコに吹き飛ばされた。
えっ? え? なに? なにごと?
「あれ? 何かあったの?」
崖を登り終わったご主人が聞いてきた。えと、俺にも何が何だかさっぱりです。
え……ホント、どうして俺は白ネコに叩かれたんですか?
「ブナハブラがいた」
いや、絶対嘘じゃん……
「ご主人さんの次は私が登る」
ああ、うん。はい、わ、わかりました……
なんだろうか、そりゃあ確かに見てしまった。でも、アレは不可抗力的なもので、自分から見ようと思っていたわけじゃないんだけど、罪悪感がヤバい。
てか、俺と白ネコの順番が変わったところで、今度は白ネコにパンツタイムが移るだけだと思うんだが……
ただ、白ネコさんからの不機嫌オーラがすごいからそんなこと聞けたものじゃない。う~ん、多少は仲良くなれたのかと思っていたけど、むしろ悪化してしまったのかも。本当にチラリと見えてしまっただけだから気分はなんとも複雑だ。
そんなこともありつつガムートのいるエリア8に到着。
てか、このパーティーにおける俺の立場がどんどん落ちている気がする。白ネコ怖いよ、白ネコ。
「……ああ、うん、ホントに大きいね」
「大きいニャ」
そして、エリア8には巨獣が一頭。雪山のエリア8だってそれほど狭いエリアではないはずなのに、ガムートのせいでやたらと狭く感じてしまう。
「えと……どうやって戦えばいいのかな?」
「ひたすらジャンプ攻撃で大丈夫」
まぁ、それが一番だよね。正面で上手く立ち回り、鼻による叩きつけを誘導するのも良いけど、なかなかに難しい。それなら何も考えず、ひたすらジャンプ攻撃をしていた方がサクッと倒せるかもしれない。
「うん、わかった。ふぅ……よしっ、いきます!」
さてさて、もう後戻りなんてできるわけがないんだ。それならサクッと倒させてもらおうか。
ご主人がガムートへ突っ込んでいくのを確認してから、俺と白ネコはほぼ同時にブーメランをガムートに向かって投げつけた。
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第33話~きっかけ~
「ご主人! 脚の叩きつけが来るニャ!」
「りょ、了解!」
ガムートと戦い始めて5分くらいと言ったところ。最初はその大きさに驚いたし、今まで戦ってきたモンスターと動きが全然違う。
ネコさんのアドバイスもあって大技はくらっていないけれど、それもいつまでもつのやら……
ネコさんの言葉を聞き、直ぐにガムートからローリングで距離を取る。その瞬間、ガムートが大きく足踏みをし地面を揺らし、更に脚についていた雪の塊を飛ばした。どれくらいの威力か分からないけど、アレをくらってしまったらちょっとマズいんだろうなぁ。
う~ん、それにしてもガムートの動きが覚えにくい。そもそも身体が大きすぎるんだ。それに私はぴょんぴょんしているだけだから、余計に覚えられない。
ハンマーを使い始めてそれなりの時間が経ったけれど、未だ上手く使えている気はしない。ネコさんも言っていたけど、ハンマーはモンスターの動きを覚えないといけない武器なんだって。そして、私はソレができていないだろうなって思うんだ。
私もあのハンターさんのようになりたいんだけどなぁ……
脚に付いていた雪が取れたガムートへ近づいてからローリング。そのままガムートを蹴り上げてジャンプしてハンマーを振り下ろした。そこで、今日2回目の乗り挑戦。さっきは失敗しちゃったから今度は頑張らないと。
「支援お願い!」
「ナイスニャ」
前回の乗りを失敗しちゃったのは、スタミナが足りずガムートの長い咆哮を耐えられなかったから。でも、今回はスタミナも十分だし、ガムートの暴れる感じも掴んだ。
だからもう失敗しません。
「ぐぅれいと」
乗りに成功するとそんな白ネコさんの声が聞こえた。ごめんね、頼りないご主人で。
えとえと、ダウンを取ったら頭へいかないとだ。ガムートの攻撃は正面に対してがほとんど。だから、普通なら私じゃ近づくことができない。ダウン中くらいしかいけないのです。
そんなダウン中のガムートへ右にハンマーを構え、最大まで溜まったところで頭に全力で振り上げた。このパーティーで私がどれくらいの戦力になっているのか分からないけど、とりあえず一回くらいはスタンを取らないと。
そうやって何か仕事をしていないと押しつぶされそうになっちゃうんです。責任だとかプレッシャーみたいなものに。
このパーティー……と言うか、あの2匹のアイルーさんは本当に上手い。あの2匹だけでもガムートは簡単に倒しちゃうだろうし、私なんていらないと思う。そんなこと痛いくらいわかってる。
あの2匹は優しいからきっと私についてきてくれると思うけど、それでもやっぱり思っちゃうことがあるんです。……本当に色々と。
どうやったって私はネコさんたちほど上手くはなれない。それでも、私なりに頑張ってみたいから乗りだったりスタンだったり仕事をしたい。ネコさんたちの力に少しでもなれるよう。
それじゃあダメだってこともわかっているんだけどさ……
でも、どうすれば良いのかがわからないのです。
「よっし、討伐完了! お疲れ様だね!」
「お疲れ様ニャ」
「お疲れ様」
結局、何の問題もなくガムートの討伐が完了した。
村長さんから聞いていたけど、ガムートは決して弱いモンスターじゃない。むしろ、強いモンスターなはず。そうだというのに、このパーティーで戦っていると、そんなことを全く感じない。
それは良いことだと思う。思うんだけど……私の心はざわつく。このままで良いのかなって。
白ネコさんがパーティーに加わり、ネコさんたちが出場した闘技大会を見てから、そんなことばかりを思うようになってしまった。
四天王なんて呼ばれているモンスターも、私たちはこれで2頭目の討伐。ベルナ村に来てまだ2ヶ月くらいだというのに。それはきっと異常な早さだ。……少なくとも私にとっては。
随分と贅沢な悩みだって思う。自分のオトモが強すぎて悩むなんて。多分、そんなハンター私以外にいない。
ネコさんたちに対して嫉妬……ではないだろうけど、やっぱり色々と思ってしまうのです。それは私に実力がなく、私の心が弱いせい。でも、どうすれば良いのかなんてわからない。ネコさんと出会うまではずっとずっとひとりだったから、パーティーにおける役割だとか立場とかが私にはわからない。
本当、このままじゃ良くないと思うんだけどなぁ。
じゃあ、どうするの? ってお話なわけでして。でも、解決案は浮かんできません。だって、この問題は私に実力ないからというのが原因。そりゃあ、私だって上手くなりたい。上手くなりたいけど……気持ちだけじゃどうしようもない。
ホント、パーティーって難しいなぁ。
ベルナ村来て、今度はひとりで頑張ってみようと思った。でも、なかなか上手くはいかないね。
皆と会えればあの頃みたくまた、がむしゃらに頑張れるような気がしたから。
――――――――――
まったく……油断も隙もあったものじゃない。いくらネコの姿だからと言って、隣に私がいると言うのにあの彼は……ちょっとスカートの中が見えたくらいでニヤケちゃって。流石に今は大丈夫だとは思うけど、あの彼を狙っている人も多そうだから心配してしまうんです。
いや、じゃあ、早く本当のことを教えなさいって話だけど、やっぱりそんな勇気はなかったり。だって恥ずかしいもん。
ん~……それにしても、なんだかご主人さんの様子がおかしい。
せっかくガムートを倒したと言うのに、あまり嬉しそうには見えない。クエスト中、ご主人さん
じゃあ、何を悩んでいるのかって話だけど……私たちのことなんだろうなぁ。自慢しているみたいでアレだけど、私と彼はご主人さんよりも確実に上手いし、ダメージだってご主人さんよりも稼いでいると思う。
そのことはご主人さんも良く分かっているはず。多分、ご主人さんが悩んでいるのはそのこと。
ご主人さんは確かに上手い。駆け出しハンターなんかには見えないし、少なくとも下手なハンターじゃない。でも、ご主人さんが使っている武器が武器だし、やっぱり私たちとは主に知識や経験からくる実力の差がある。
つまりそれは、あの娘の時と同じ悩み。
でも、あの娘の時はその悩みを消してしまうほどの実力があった。スイッチの入った彼と並んで戦えてしまうくらいの実力が。けれども、それはあの娘だからできたことで、あの娘がちょっと異常なんだ。それをご主人さんに求めることは流石にできない。
ご主人さんの実力や、あの彼と私がオトモになっていることから、いつかこうなるだろうなぁとは思っていた。嫉妬とはまた違うだろうけど、劣等感だったりそう言うことは感じてしまうだろうから。例えその相手がネコだとしても。
そんなこの問題を解決するのはちょっと難しい。私と彼がただのネコじゃないってことを教えれば解決しそうではあるけど、そうしたらまた別の問題が発生しちゃう。
だからこんな時、ご主人さんの悩みを聞いてあげられる人がいれば良いけど、今の私はただのネコ。そして、あの彼もこう言うことは苦手。そもそも多分、彼はご主人さんの様子がおかしいことに気づいてない。そうなると、あの娘が適任だと思うけど、あの娘もすごく忙しいしなぁ。
「よしっ、それじゃ帰ったら打ち上げしよっか」
「うニャ! 冷たいビールが飲みたいニャ」
う~ん、困った。今はどうにかご主人さんが頑張っているけど、今にも潰れちゃうんじゃないかって思ってしまう。そして、それは避けたい。
ただ、恥じらいだとか色々なことがあって私も上手く動けないわけでして……
悩んでいることはあの娘の時と同じように見えるけど、あの娘とご主人さんは違うのだから、やっぱりこれは全然違う問題。だから、あの娘の時と同じようにはいかない。
そもそも、ご主人さんはこれからどうしたいんだろうか。彼や私はモンスターと戦うこと、つまり狩りが好きでハンターをやっている。あの娘の場合は、モンスターに困っている人たちを救うためハンターをやっている。
じゃあ、ご主人さんは?
実力は確かに、私たちの方がある。でも、私たちはオトモなのだからご主人さんに合わせなきゃいけない。それはあの彼だって同じ意見なはず。だから、ご主人さんがどうしてハンターをやっているのかは気になった。
ただ、ご主人さんに合わせるため、私たちが手を抜くのは絶対に正解じゃないはず。やれることは全力でやるべきだ。礼儀だとかそう言うことを抜かしたとしても。
「ふふ、今日は寒いマップだったのにネコさんはまたビールを飲むの?」
「クエストを終わった後はビールって決めているんだニャ」
正直なところ、私たちにできることはほとんどない。オトモの方が上手いと言うのは複雑だと思うけど、割り切ってしまうのが楽。それに、こうやって問題なくクエストをクリアできているのだし、ご主人さんだって下手なわけじゃない。時間はかかっちゃうだろうけど、ご主人さんひとりでも今のガムートなら倒せると思う。それくらいの実力はある。だからもっと自分に自信を持ってもらえれば良いけど、それを私から言ってもお世辞としか思われない。
今は、何か考えが変わるようなきっかけが欲しい。でも、それもやっぱりご主人さん次第だ。
はぁ、相変わらず悩み事がなくなりませんね。
きっかけ……か。
クエストが終わってからひとりで色々と考えてみたけれど、結局良い案は浮かばなかった。彼ほどじゃないけど、私だってこう言うのは苦手なんだ。
このままじゃマズいってのは分かってる。でも、どう動けば良いのかが分からない。つまり、現状維持。非常によろしくない状況。
ベルナ村に着いてから、とりあえず村長さんに報告し、その後はいつものよう打ち上げをすることになった。
「それじゃ、今日はお疲れ様でした!」
「お疲れ様ニャ!」
「お疲れ様」
ご主人さんは笑い、明るく振舞ってくれているけど、その笑顔の裏に少しばかりの影が見える。それは他人の表情ばかりを気にしてきた私だから分かることなのかも。
そんなご主人さんの力になってあげたい。なってはあげたいんです。
「うニャー。今日もビールが美味しいニャ!」
そう言っていつも通り美味しそうにビールを飲む彼。私がこれだけ悩んでいると言うのに全く、この彼は……
「ふふ、本当にネコさんはビールが好きなんだね」
「美味しいから仕方無いニャ」
昔から貴方は変わらないね。でも、彼はそれで良いと思う。それは彼の弱みだけど、それ以上に私はそんな彼に救われているのだから。
そうなると、やっぱり此処は私が頑張らないとなのかなぁ。
「……って、あれ? あっ、ちょ、ちょっと席外すね」
美味しそうにビールを飲む彼を横目に悩んでいると、急にご主人さんがそう言ってから立ち上がった。えと、どうしたのかな。
私たちから離れ、とてとてと走っていくご主人さん。
そんなご主人さんが気になり、走っていった先を見ると――
「うん? 団長さんじゃん」
画面越しに何度も見たあのキャラがいた。
ようやっとご主人さん中心のお話が始まりそうです
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第34話~ご主人が貴方で~
打ち上げの途中、急にご主人が立ち上がり何処かへ走っていった。そんなご主人の様子が気になり、其方の方を見てみると――
「うん? 団長さんじゃん」
MH4、4Gの主要キャラのひとり。我らの団の団長がいた。
MHXでもベルナ村に団長がいることはあったから別におかしなことじゃない。それは良いんだが……ご主人と団長との関係は? ってことになる。
俺だって団長とは何度か話をしたことがあるし、団長も団長で顔は広いだろう。ただ、ご主人の様子を見るにただの知り合いって感じでもなさそうだ。そうなると……まぁ、そう言うことなのかなって思ってしまう。
最初にご主人と会った時、ハンターになったばかりの初心者ハンターと言われた。だから、初めのうちはその言葉を信じていたし、きっと元々才能のある人なんだろうって思っていたんです。
でも、どう考えたってあのご主人、初心者ハンターじゃないよね。初心者にしては流石にうますぎる。とは言え、ご主人だってそのことを隠したがっているようだったから聞くことはしなかった。
そして今日、この状況を考えるに……
初めてこの世界へ来たとき、あの団長と出会い、俺は我らの団へ所属するのかと思っていた。だってそれがMH4のシナリオだったから。
けれどもそんな予想は外れ、どこの旅団に所属することもなくあの相棒や彼女と一緒にパーティーを組むことに。別にそのことに対して何か文句があったわけではないけれど、どうしても気になることがあった。
この世界にはあの団長がいるのだから我らの団に所属しているハンターがいるはずで――それはどんなハンターなのかって。
だって、ゲームではソイツが主人公だったのだから。
う~ん、まだ何とも言えないところではあるけど……そう言うことなのかな? 我らの団と関わることはないだろうと思っていたのに、こんなこともあるんだね。
ご主人と団長がどんな話をするのか気になったけれど、もし俺の予想が正しければきっと積もる話もあるはず。だから今は、ご主人が戻ってくるまでのんびり待つとしよう。
ご主人さんが帰ってくるまでの間は、ちびちびとビールを飲んでいた。俺の正面には白ネコが座っているわけだけど、どうにもこの白ネコとは会話が噛み合わない。だから2匹の間で会話をすることもなかった。まぁ、以前本人も話すことが苦手と言っていたし、無理して話すこともないのかなって思う。それに俺だって、沈黙を無理やり会話で埋めたいと思うようなタイプでもないし、良しとしておこう。この白ネコと仲良くなりたいとは思うけれど、近づきすぎるのも良くないと思うんだ。
そんな言い訳を頭の中でしていると、団長との話が終わったのかご主人は戻ってきてくれた。
これで、また我らの団に戻ることになったとか言われたらどうしようか。そうなってもご主人についていきたいけれど、ついていって良いのか分からない。
「さっきの人は知り合い?」
ご主人が帰ってきて直ぐ、白ネコがご主人に尋ねた。
「うん、ちょっと昔……このベルナ村へ来る前、お世話になっていたんだ」
お世話に、か。その言葉だけじゃ何も分からないけど、少なくともご主人と団長の間で色々なことはあったはず。もし、MH4の主人公がこのご主人だったと言うのならなおさら。
防具無しでダレンの背に乗り、ナグリ村やチコ村、そしてシナト村の人々の助けとなり、天廻竜をひとりで倒す。そんな物語があったのかも。ただ、あんまり深いことは聞けないよなぁ。知っているからこそ聞きにくいことだってあるのだから。
「え、えと、それでネコさんたちに相談……と言うか、お願いがあるんだ」
さてさて、此処からが本題だ。悪いことばかりが頭の中に思い浮かんでしまうけれど、何をお願いされるのやら。
「どんなお願いニャ?」
「そのね、さっきの人からあるクエストを頼まれたんだ。それでそのクエストなんだけど――私ひとりで行きたいって思ってる」
うん? なんか思っていたのと違う感じだ。そして、ひとりでってのはまたどうしたんだろうか。きっとご主人にもご主人の考えがあると思うけど……まぁ、気になっちゃうよね。
「お願いを聞くのは良いけど、それはどんなクエストなのかニャ?」
「……シャガルマガラって言うモンスターの討伐だよ」
……なるほど。
ゲームの中で村クエのシャガルと戦うのは確かディノバルドを倒した後だったはず。だからゲームを基準に考えると戦うには少々早い。とは言え、ご主人の実力なら勝てるだろうし、もしご主人が我らの団のハンターだったと言うのなら、きっとシャガルとも戦ったことがあるはず。
「……どうしてご主人さんひとりで行くの?」
ああ、やっぱり君も気になるよね。
俺も白ネコもいくらネコとは言え、足手まといになるほどではないはず。それにシャガルだって弱いモンスターじゃないんだ。だから連れて行った方が良いと思うんだが……
「……私もね、色々と考えたんだ」
ひとつ、大きく呼吸をしてからご主人がぽつりぽつりと言葉を落とし始めた。
「私はネコさんや白ネコさんほど上手くない」
ん~……それはどうだろうか。俺もこの白ネコもスキルが揃っているから戦力になっているわけで、純粋な上手さで言うと微妙な気がする。それにネコと人間を比べてもなぁと思うところ。
少なくとも俺はこれ以上スキル的な面で強くなることはない。今はどうにか戦力になれているけれど、これから先……高難度クエストなんかになってくるとそれもかなり厳しくなる。一方、ご主人はまだハンマーを使い始めたばかりだし、これからどんどん腕が良くなっていく。焦ったって仕様が無いけれど、どうなることやら……
「だからね、最近は私なんていらないんじゃないかなって思っちゃってた。ただ、やっぱり私もハンターでいたいから、せめてと思ってネコさんたちの力になれればいいなぁ、なんて思うようになったんだ」
え? ご主人そんなこと考えてたの? 話が急すぎて、俺は今の状況にちょっと混乱気味なのですが……だって、ご主人にそんな素振りはないように見えたし。
それにご主人だって慣れていない武器でアレだけ戦えているのだから、そんな気にするような事じゃないと思う。俺と違って伸び代がまだたくさんある。
とは言え、ご主人がそう思っていたのなら俺から言えることは何もないわけですよ。
確かに、自分よりオトモの方が上手いとなったらショックだし悔しい。もし、ゲームでそんなようなことになったら俺はオトモなんて連れて行かなくなる。そんな俺の考えとご主人の思っていることは全然違うかもしれない。でも、きっと同じ部分もあるはず。
「ただ、そんな考えのままじゃダメだってわかってる自分がいて……でも、どうすればいいのかわからなくて……そんな自分を変えたかった。自分を変えるきっかけがほしかった」
ふむ……ご主人の気持ちを全部理解できたわけじゃない。できたわけじゃないけど、ご主人がどうしようとしているのかくらいはわかってきた。
「だからさ、今回はいい機会だって思ってる。今の私を変えて、ネコさんたちの主人として恥ずかしくないハンターを目指すきっかけになるって」
シャガルをソロで倒すってのは、そのきっかけを作るため、ってことなんだろう。ただ、それでご主人が変われるのかは分からない。きっかけがあったところでソレを活かせるかどうかは全部自分次第なのだから。
でも、ご主人がそう言うのなら俺は応援するだけだ。できれば俺もついて行って一緒に戦いたいけれど、それじゃあ意味がない。
これはご主人専用のクエスト。それならご主人ひとりで頑張らないといけない。
「……ご主人ひとりでシャガルマガラは倒せそうかニャ?」
「え、えと……それはあまり自信ないかも……」
ご主人……其処は嘘でも大丈夫とか言おうよ……
いや、確かにシャガルは古龍だし強い敵で自信が湧かないのもわかるけどさ。
「でもね……それでも私は頑張ってみる。自信はないけど、頑張ってみる。だから、無事に私が帰って来たらまたよろしくね。ネコさん、白ネコさん」
なんとも頼りない感じだったけれど、ご主人さんはそう言って笑ってくれた。
「うニャ!」
「わかった。がんばって」
そんなご主人の言葉に俺と白ネコが言葉を落とす。
「うん、ありがとう。頑張るね。それに私もシャガルマガラとは色々あったんだ。そんなことも含めて今回は丁度良かったって思っているよ」
ん~……やっぱりご主人は我らの団のハンターだったってことなのかな? この世界の我らの団がどんなことをしていたのかは分からない。でも、抗竜石が開発されたのは我らの団のおかげで、俺も抗竜石には何度もお世話になった。他にもあの旅団のおかげで色々な人々が救われてきたはず。
そう考えると、このご主人ってかなりすごい人だよね。あの相棒なんかも今じゃすごいハンターだけど、世界への貢献度ならご主人だって負けていない気が……
「それで、シャガルマガラのいる場所が結構遠いから、暫くは帰って来られないんだ。ネコさんたちなら大丈夫だと思うけど、クエストへ行く時も気をつけてね」
まぁ、禁足地……と言うか天空山って本当に遠いもんね。なるほど、つまりその間は白ネコと2匹だけになるのか。
な、なにをして時間を潰そうか……これはまた胃が痛くなりそうだ。ご主人が早く帰ってきてくれることをひたすらに願おう。
いや、やっぱりあの白ネコは苦手なんですよ。
「よし、それじゃあそう言うことでよろしくね!」
俺には話が急すぎてついていけてないけれど、とりあえずご主人はこれで前へ進めるようになるはず。だから悪いことではないんだろう。
それにしても……思っていた以上に頼りにされていたんだね。こんな身体のせいでどうにもそんな感じはしなかった。
うむうむ、きっとご主人ならシャガルだって倒してくれるはず。だってこのハンターはもっともっとすごいことをやってきたのだから。
こうして今、改めて思うんだ。本当に良いハンターのオトモになれたんだなって。
ご主人も色々と考えてしまっているわけだけど、俺はご主人のオトモであることを誇りに思っています。だから、こうしてご主人のために頑張ろうと思えている。そしてそれは、ご主人が我らの団のハンターであると知らなかった時からずっと。
それほどにこのご主人は良いハンターだって思うんだ。
次話はご主人さんがシャガルと戦うお話となりそうです
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第35話~あの頃の自分~
このベルナ村へ来る前、私はとある旅団に所属していました。
それはバルバレへと向かう砂上船でその旅団の団長と出会ったのが始まり。最初はバルバレのギルドに入ってそこでハンターを目指そうと思っていた。
でも、団長さんに私が気に入られ、旅団に入らないかと誘われたんです。その頃の私は狩りに一度も行ったことのない初心者ハンターで、そんな私を誘ってしまって良いのかなぁなんて思った。でも、団長さんや、その旅団に所属していた加工屋さんはすごく素敵な人で、その誘いを受けることに。
それからは本当に大変だったなぁ。
私は新米中の新米ハンターだったから、最初は失敗ばかり。ジャギィだって倒せなかったし、大型種なんてとてもとても。
失敗する度に私は凹んで、落ち込んで……でも、その度にあの団長さんが――
お前さんなら、できるできる!
と励ましてくれた。その団長さんの言葉に私はどれだけ救われたんだろう。それほどに団長さんの言葉は私の力になってくれた。
だから、あの頃の私は今よりもずっとずっとがむしゃらに頑張れていたと思う。ゴア・マガラとの戦いや、筆頭リーダーさん達との出会い。そして、シャガルマガラとの戦い。
今、思い返してみても本当に失敗ばかり。でも、旅団の人達は皆優しくて、そんな失敗ばかりの私をいつも応援してくれた。
正直、辛かったです。
本当に大変でした。
でも、それ以上に楽しかった……かな。
シャガルマガラを倒してからは、ドンドルマへ移り、そこでまた色々なことがあった。極限化個体なんて呼ばれるモンスターとの戦いや、クシャルダオラからの防衛戦とか。
自分で言うのもおかしいけど、それなりに私も頑張っていたと思う。今では当たり前のように使われている抗竜石の開発に私も関わっていたりするのだから。ただ、集会所には全く行かなかったから私のことを知っている人はやっぱり少ない。それに、そんな私よりももっともっとすごい人たち……あのハンターさんたちがいたから余計に私は目立たなかったんだろうなぁ。
別に、有名になろうとか、そう言うことは思っていない。でも、自分の力を試したいなぁとかもっと上手くなりたいなぁって思う自分がいて、私はベルナ村へ来た。
そんなことがあったのです。
私は旅団を抜けてしまったわけだけど、旅団の皆とは今でも仲良くできるだろうし、会えるのなら会いたい。だから、団長さんを見つけてお話ができたときは嬉しかったな。ベルナ村で頑張ると決めたのだから、またあの旅団に戻ることはないけど、アレだけ一緒に旅をした仲間。だから色々と思ってしまうよね。
そして、団長さんからとあるクエストをお願いされた。内容はあの古龍シャガルマガラの討伐。
シャガルマガラはすごく強いモンスターで、私じゃ失敗してしまうかもしれない。でも、このパーティーなら……あのネコさんと白ネコさんのいるこのパーティーならきっと倒せる。倒してしまう。それははっきりとわかった。
ただ、いつまでもネコさんたちに頼りっきりじゃダメなんです。私自身がもっと成長しないといけないんです。だって、私はあのネコさんたちのご主人なんだから。
今のままじゃダメ。私は変わらないといけない。
だから、これはきっと良い機会なんだ。きっとこれは私が変わるきっかけ。
そう思うのです。
「それじゃ行ってくるね!」
禁足地へ向かう準備は完了。そして、私を見送りに来てくれた頼もしすぎるオトモさんたちへ言葉を落としてみた。
「うニャ、ご主人ならきっと大丈夫だと思うから頑張ってくるニャ!」
「……気をつけて」
武器は漸く完成したエムロードビート。スタイルはブシドー。昔シャガルマガラと戦った時とは色々と違うけれど、もう後には引きません。あの頃みたく、もう一度がむしゃらに進むのだ。
「ふふ、うん、頑張ってくるね。ネコさんたちも仲良くしていないとダメだよ? よし……行ってきます!」
そう言ってから飛行船へ乗り込む私へ、ぶんぶんと手を振ってくれるネコさんたち。見ていてすごく和む。見た目はこんなに可愛いのに、その実力は私よりもずっとずっと上。でも、2匹とも私のことをちゃんと考えてくれる優しいアイルーさん。そんなネコさん達が私のオトモで本当に良かったと思う。
きっと私はひとりじゃ何もできない人間だ。けれども、いつだって周りの助けがあって、今こうしてどうにか立っていることができる。ソロで行くクエストだってひとりとは感じない。
ひとりじゃ何もできない私が頑張れているんだ。ホント、周りに恵まれている人生です。
それじゃ、ひと狩りいくとしましょうか!
天空山のベースキャンプ隣に位置する禁足地はベルナ村からかなり遠く、こうやって飛行船が開発された今でもなかなかの時間がかかってしまう。
クエストの時間は長くないけれど、またベルナ村へ戻るのはきっと三日後くらいになっちゃうんだろうなぁ。その間、ネコさんたちは大丈夫かな?
あのネコさんと白ネコさんの実力ならどんなクエストへ行っても大丈夫だと思う。だからそのことを心配していない。じゃあ、私は何を心配しているのかって話だけど――
「仲良くしていてくれればいいけど……」
そう言う事なんです。
別にあの2匹の仲が悪いと思っているわけじゃない。けれども、あの2匹が話をしているところとか見たことないんだよね……
それは、あの白ネコさんが大きな原因だと思うけど、ネコさんもネコさんで白ネコさんに対してちょっと引いているところもあるしなぁ。
私としては皆でワイワイしたいのだけど難しいものです。
私はネコさんと白ネコさんの過去にどんなことがあったのかは知らない。アレだけの実力があるのだし、きっと過去に色々なことがあったと思うんだけど……そこにはどんな物語があったのかな? 私が私の話をすればあの2匹も自分のことを話してくれるかな? そうだと嬉しいな。
うんうん、もし今回のクエストが無事に成功したら、私のことをちゃんと話してみよう。今まではずっと喋らなかったけれど、これで私が変わることができれば今度こそ話をすることだってできるはず。
それはつまり、私が初心者ハンターじゃないってことを教えてしまうこと。もしかしたら、それでネコさんたちが私から離れていってしまうかもしれない。でも、もういいんです。だっていつまでも黙っているのは心苦しいし、やっぱり同じパーティーの皆には私のことを知ってもらいたい。それでやっと私は前へ進むことができるはず。
それにしても、こうやって振り返ってみると私って頼りないご主人だなぁ……悩んでばかりで全然動けていない。そんな私のことをあのネコさんたちはどう思っているんだろうね? 聞くのは怖いけれど、やっぱり気になってしまう。
さてさて、それよりも今は目先のクエストに集中しないと。
多分、私が一番上手く使える武器は片手剣だ。あの旅団にいた時、ずっと使っていたものだし。でも、せっかく新しい場所で頑張ろうって思ったのだから、新しい武器を使おうって思ったんです。じゃあ、どの武器にしようかなって悩んで……選んだのはハンマーだった。
この世界に多くのハンターがいるけれど、ハンマーを使う人は少ない。流石に狩猟笛を使うハンターよりは多いと思うけれど、それでもハンマー使いのハンターさんは少ないんです。
そんな武器を選んだのは私が闘技大会を見てしまったから。それは恐暴竜――イビルジョー討伐の闘技大会だった。イビルジョーと私は戦ったことはない。けれども、そのモンスターがどれほど強いモンスターなのかは知っていた。
そんなモンスターの闘技大会に出場していたひとりのハンターさん。武器はハンマー。闘技大会は基本二人で出場するものだし、難易度だってそう設定されているはず。そうだと言うのに、そのハンターさんはひとりで出場していた。
当時の私は知らなかったけれど、その頃からそのハンターさんや、そのハンターさんのいるパーティーはかなり有名だったらしく、その闘技大会の盛り上がりはすごかったなぁ。
そして、その闘技大会の内容もその盛り上がり以上にすごいものだった。闘技大会は私も何度か見たことがあったけれど、そのハンターさんの動きは他のハンターと全然違うんです。
その動きを一言で言うと滅茶苦茶。相手の攻撃なんて関係なしに突っ込んでいき、攻撃は無理やりローリングで回避。確かに、闘技大会はその討伐時間を競うものでもあるけれど、彼処までするハンターさんは見たことがない。
でも、それが何よりカッコ良くて――憧れた。
私もあのハンターさんみたいに戦ってみたいって。
だから、私はハンマーを使っています。最初はすごく使い難い武器だと思っていたけれど、少しくらいは慣れてきたんじゃないかって思う。
私なんかじゃ、とてもじゃないけど、あのハンターさんみたいになることはできない。だからと言って諦めたくもない。少しでもあのハンターさんに近づけるよう頑張ってみるんだ。
今回の相手はすごく強い。そんなことわかってる。もしかしたら、ダメかもしれない。そんなことだってわかってる。
未だ慣れていない武器に、慣れていないスタイル。そして敵はあのシャガルマガラ。
どう考えたって分が悪い。もっと良い方法なんてたくさんあった。
でも……だからこそ――頑張りたいって思うんだ。
いつだって私は崖っぷちだったし、余裕なんて何もなかった。でも、ネコさん達がパーティーに加わってくれてからその感覚は薄れていたのかも。
だから……もう一度、あの頃の感覚を取り戻させてもらおう。余裕なんていらない。崖っぷちでいい。私は追い込まれているくらいが丁度いいんだ。
仮眠もしたし、身体の調子も悪くない。頼れる仲間が今はいないけれど、心細いとは感じない。
飛行船から降り、天空山のベースキャンプへ。支給品も受け取り、準備は完了。
ひとつ、大きく深呼吸。一度禁足地の中へ入ってしまえば、私が倒すか倒されるまで戻ってくることはできない。
そんな追い込まれている状況。でも、そんな状況は嫌いじゃない。
無意識に心臓は暴れ、呼吸の感覚だっていつもよりずっと早い。冷めた血液が全身を回る感覚。それは、初めてゴア・マガラやシャガルマガラ、極限化セルレギオスやクシャルダオラと戦った時と同じもので、ずっとずっと私が忘れていたもの。
懐かしい感覚。
ただ、これは悪いものじゃない。
「……よし、行きますっ!」
一度大きな声を出してみた。
その瞬間、私の中の何かが噛み合って……視界から色が消えた。
さて、あの頃の私を取り戻し、前へ進ませてもらうとしましょうか。
もうご主人さんが主人公で良いような気がしてきました
次こそ、シャガルとの戦いになりそうです
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第36話~私は前へ進みます~
――うん? シャガルマガラはどうして故郷へ戻ったのか? そうだなァ……故郷が、恋しくなったのかなァ。
私がシャガルマガラと戦う前、団長さんは確か、そんなことを言っていた。
天を廻り戻る龍。
もしかしたら、団長さんの言うようにシャガルマガラはただ故郷へ戻ってきただけなのかもしれない。自分の生まれ故郷が恋しくなって、戻ってきただけ。
もし、そうだとしたらシャガルマガラを倒すことに対して色々と思ってしまうことがある。思ってしまうことはあるけれど……
「それでも私は君を倒さないといけないんだ」
だって、私はハンターなのだから。
それにシナト村の伝承や、今までの経験からシャガルマガラを放っておくことはどうしたってできない。例え、君に悪気がなかったとしても……ただ生きてきただけだとしても見逃すことはできないんだ。
シナト村の大僧正によって閉じられた扉は、あの時と同じように開いていた。その扉を抜け、禁足地へ足を踏み入れるといつか見たあの古龍と同じモンスターの姿。
その龍は色の消えた視界でもはっきりとわかるほど白く、そして――輝いていた。
君が何を思い此処へ来たのか。そんなことわかりはしない。それでも私は君を倒さないとダメなんだ。手は抜かない。私の全力で戦わせてもらう。
禁足地へ入ってきた私にシャガルマガラが気づき、目が合った。
今は頼れる仲間はいないから、私ひとりで君を倒さないといけない。手足が震える。不安です。怖いです。
それでも、私は前へ進む。
目が合ってから直ぐ、シャガルマガラの咆哮が響いた。
それをジャスト回避して、直ぐにハンマーを右腰へ。
――ジャスト回避した後は直ぐに溜めて良いと思うニャ。ハンマーなんて溜めながら歩くのが癖になるくらいで丁度良いニャ。
そんなネコさんのアドバイスを思い出す。
咆哮が終わり、顔が下がったところで溜めていたハンマーをシャガルマガラの顔へ。弾けるスタンエフェクトと手にかかる僅かな重み。それはハンマーと言う、一発一発が重い武器だからこそ感じられること。
――ブシドースタイルは戦い方がちょっと特殊ニャ。ハンマーは特にジャスト回避後の攻撃が強いから、態と攻撃を喰らうように立ち回って、無理やりジャスト回避をして攻撃した方が強かったりするニャ。
そんなアドバイスをネコさんから受けたけれど、その時の私はよくわかっていなかった。態と攻撃を受けに行く。そんな危ないことをする必要がわからなかった。
でも、今は何故かそのアドバイスを素直に受け入れられる気がするんだ。
シャガルマガラが私の後ろの方へ黒いブレスのようなものを放った。そして、その着弾点からは3本の黒い線。確か、時間差でその黒い線に沿ってブレスが飛んできたはず。一度戦ったことのある相手なんだ。これくらいは覚えている。
右手による叩きつけをローリングなしで躱した瞬間、何かが弾ける音。音を聞き直ぐに後ろを振り向くと予想通り、先程のブレスが飛んできていた。それをジャスト回避。
また直ぐに右腰へハンマーを構え、一度ハンマーが光ったところでシャガルマガラの頭へ振り上げた。
――カチ上げした後、直ぐにローリングをしたくなるけれど、まずは相手の動きを見て、次にどんな行動をするのか予想するニャ。ハンマーはとにかく相手の動きを考えるのが大切だと思うニャ。
直ぐにローリングはせず、シャガルマガラの様子を確認。
後退し、突進の構え。
今の私はジャスト回避なしでも避けられる位置。けれども、あのネコさんのアドバイス通り、態と突進中のシャガルマガラへ突っ込み、無理やりジャスト回避。
ジャスト回避はそれほど難しいものじゃない。けれども、やっぱり怖い。怖いものは怖いのだ。だって失敗したら大きなダメージを喰らうだろうし、今はソロだから回復をすることだって危険。でも、今ばっかりは無茶してみようと思う。あのハンマー使いのハンターさんがしていたみたいに。
ジャスト回避してからハンマーをまた直ぐ、右腰へ。それを今度は最大まで溜める。
――出の遅いスタンプは相手に大きな隙がある時か、振り向きを狙うと良いニャ。相手の動きを予測して、そろそろ振り向きそうだなぁって時に頭がくる位置へスタンプを置いておく感じニャ。
ハンマーを最大まで溜め、シャガルマガラの尻尾の近くで待機。
そして、シャガルマガラが私の方を向き始めたところで、溜めていたハンマーを開放。大きく前へ踏み出しながら、ハンマーを振り上げ全力でソレを振り下ろす。
振り下ろされたハンマーは、まるで吸い込まれてるんじゃないかってくらい上手くシャガルマガラの顔へ直撃。
そこで一回目のスタンを奪った。
カチリ、カチリ――と私の中の何かがひとつずつ嵌っていく。色の消えた白黒の世界はいつもよりずっとずっと鮮明に見えるし、時の流れが酷く遅く感じる。
まるで自分が自分じゃなくなってしまったように思えるけれど、どうしてか悪い気はしない。辛く苦しいはずの狩りが今はひたすらに面白く感じてしまう。
「あはっ」
だから、私の口からそんな乾いたような笑い声がこぼれた。
スタン中のシャガルマガラの顔へハンマーを振り下ろし、振り上げる。一度、二度、叩きつけてからグルリと回りその勢いを活かしてシャガルマガラの顔へホームラン。その全ての攻撃がシャガルマガラの顔へ吸い込まれていく。
心臓は暴れっぱなし、息も荒くチリチリと頭の奥が痛む。でも、何処か冷静な自分がいて、相手の動きははっきりと見える。
うん……今の私ならなんだってできそうだ。
スタンから起き上がったシャガルマガラはそのまま跳び上がり、黒色の何かを撒き散らせながら大きな咆哮をあげた。
その咆哮をジャスト回避。そして右腰へハンマーを構え、また最大まで溜める。
その溜めたハンマーを降りてきたシャガルマガラの頭へ叩きつけた。
――ハンマーは使い難い武器ニャ。一発一発の動作は遅いくせに大した威力はなく、もっと強い武器はたくさんあるニャ。パーティーじゃ頭を上手く狙えないことは多いし、仲間の邪魔をしてしまうニャ。
このベルナ村へ来て、ハンマーを使い始めたけど、その間はずっとパーティーだった。使い難い武器だって私も思ったし、頭なんて全然上手く狙えない。
そのせいか、私はハンマーの本当の強さを知らなかったんだと思う。
――でも、ソロならハンマーは一気に輝くニャ。仲間を吹き飛ばしてしまう心配もないからスタンプを気にせず使えるし、モンスターもしっかりと振り向いてくれるニャ。
ネコさんからもらった沢山のアドバイス。その一つひとつが私の中で面白いくらいに嵌まっていく。
――そして何より、ハンマーは使っていて一番面白い武器だってボクは思うニャ!
……うん、そうだね。今更になって漸く私もわかった。
あの人が使っていた武器だからってことだけでこの武器を使い始めたけれど、今はハンマーを使っていて面白いって感じる。
私はまだこの武器を上手く使えない。それでも、こうして初めてソロでこの武器を使ってみて気づいた。この武器の強さや面白さに。
気づくのがちょっと遅すぎたと思うけれど、私はそんなに器用な性格じゃないんです。それに、気づけないよりはよっぽどいい。
――確かにハンマーは強い武器じゃないニャ。威力は低いし、動きは遅い。使い難いし、ガードだってできないニャ。でも、そんなこと以上に面白いし、カッコイイ武器なんだニャ。だから……ボクはハンマーが好きニャ。
うん、今なら私も胸張って言えると思う。
この武器が好きだって。
シャガルマガラと戦い始めて……どれくらいの時間が経ったのだろう。時の流れが遅く感じるせいで、それはわからないけれど、なかなかの時間が経ったはず。
スタンも3回取り、シャガルマガラの角の破壊も終わっている。運良く大きなダメージは受けていないけれど、流石に私が疲れてきたのか細かいミスも出るように。
そろそろ、キツい。でも――それ以上にこの戦いが面白い。
それは自分でやっていて怖いぐらいに攻撃が上手く当たっていることもあるし、何より初めてこの武器をちゃんと使えていると思えたから。
シャガルマガラの突進。
それをジャスト回避し、またハンマーを右腰へ。尻尾の近くで待機。
そして、大きく踏み出しながらハンマーを振り上げ――振り向きへスタンプ。
もう何回叩いたのかもわからない顔へ吸い込まれていくハンマー。スタンエフェクトが弾け、手にはしっかりとした重み。
その攻撃を受けたシャガルマガラは――大きな叫び声をあげ、終に動かなくなった。
「……ありがとう。これで私は前へ進めます」
謝ることはしない。だって、私と君との関係はそう言うものなのだから。どっちが悪くてどっちが正しいのか。そんなことわからないけれど、私は前へ進みます。
「ん~……疲れたぁ」
シャガルマガラが倒れたことで、暗かった空は晴れた。いつの間にか視界に色が戻り、晴れた空はしっかりと青く見えている。
……空、綺麗だな。空ってこんなに綺麗だったんだ。これならネコさんたちにも見て欲しかったな。重苦しい空気も抜け、今はすごく気持ちが良いし。
そして何より――
「私、勝った……んだよね?」
クエスト中の記憶はどうにも曖昧だけど、確かに私は勝ったはず。目の前に倒れているのはあの古龍シャガルマガラ。
シャガルマガラと戦うのはこれが初めてではないし、前回も討伐することはできた。けれども、今回はあまりにも上手く行き過ぎていて、これが本当に現実なのか信じられない自分がいたりする。
「あっ、剥ぎ取りしなきゃ」
なんとも感情がふわふわしてしまっていたから、これが現実だってわかるように独り言を溢す。
自分を卑下するつもりはないけど、私は上手いハンターじゃない。そんな私だったから今の状況がどうにも信じられなかったんです。
本当なら今は喜ぶ場面。でも、まだ心の中だったり、頭の中はちょっと混乱していたから喜ぶのはもう少し時間がかかりそうだ。
「よしっ、剥ぎ取り終わり! ん~……それじゃ、帰ろっか」
今はまだ素直に喜ぶことはできない。でも、ベルナ村へ戻り、あのネコさんたちの顔を見ることができれば、今の状況が現実だってわかってきっと喜べるはず。
このクエストで私は変わることができたのかな。そうだと嬉しいな。
どうやら予想以上に疲れていたらしく、飛行船に乗り込んで直ぐ私は寝てしまった。しかも、移動中ほぼずっと。だからクエストの帰り道の記憶はありません。目を閉じ、気がついたらもうベルナ村。夢だって見ないほど疲れていたんです。
さてさて、色々あったけど、私は無事にクエストをクリアすることができたんだ。今ばかりは胸張って、ネコさんたちにクエストクリアできたことを伝えないと。
それからネコさんたちに、改めてよろしくお願いしますって私は言うんだ。
ふふっ、そんな私にネコさんたちはなんて声をかけてくれるかな? 相変わらず頼りないご主人ではあるけれど、少しは見直してもらうことはできたかな?
そんなことを思いつつ、飛行船から降り、私の家へ。
そして、一歩進めたことで見えてきた未来に様々な想いを馳せている時だった。
「あっ、ハ、ハンターさん! 大変なのっ!」
なんて、随分と慌てた様子のベルナ村受付嬢さんが私に声をかけた。
え、えとえと、何がどうしたのだろうか。
「おお、ハンター殿、クエストご苦労だった。そして、だな……どうか、落ち着いて聞いて欲しいことがある」
受付嬢さんに続き、此方も此方で随分と深刻そうな表情のベルナ村村長さん。
何がなんだかさっぱりだけど、ホントどうしたんだろう。もしかして凶暴なモンスターが現れたとか……でも、なんだろう。そう言うことではない気がする。
もっと、私に直結することと言うか……いや、ただの勘でしかないんだけどね。
でも……悪い予感だけはよく当たってしまうのだ。
「古代林から帰る途中だったハンター殿のオトモ2匹の乗る飛行船が……消息不明になった」
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第37話~会話って難しい~
……気まずい。
ご主人がシャガルのクエストへ行ってしまってから、まず思ったのはそんなことだった。
現在の場所はベルナ村。当たり前だけど其処にご主人はいなくて、俺と白ネコだけ。多少は打ち解けることができてきているのかもしれないけれど、この白ネコと二人だけと言う状況はやっぱり気まずかった。いや、俺がそう思っているだけなのかもしれないけどさ。
何より俺の立場がちょっと特殊すぎるんだ。この白ネコはこの世界のアイルーなはず。一方、俺はアイルーじゃなく中身は人間だし、そもそもこの世界の人間じゃない。せめて俺が、この世界の人間かアイルーだったらまだ会話に困らなかったかもしれない。けれども、流石にこの白ネコと俺は離れすぎている。共通性が少なすぎるわけですよ。
ホント、どうしたものか……
「ご主人さん行っちゃったけど、どうするの?」
ん~……どうしよっか。ご主人から白ネコと二人でクエストへ行く許可はもらっている。それにこの白ネコと一緒なら下位クエストくらいは全部クリアできると思う。それこそテオとかだって行けるんじゃないだろうか。まぁ、そんなクエストを受注させてくれるわけないけど。だって俺たちネコですし。
そうなるとネコ専用のクエストへ行くのが無難、ただ、なんかもったいないんだよなぁ。どうせなら使える素材とか集めておきたい。それに俺もこの防具飽きてきちゃったんだよね。
「君は何か行きたいクエストとかあるかニャ?」
もし防具を作るとなるなら作りたい防具がある。元の世界へいた時もオトモにはいつもその防具をつけさせていたものが。どうせならそれを作りたいなって思うのです。
「ううん、私は特にない」
あら、そうなのか。
じゃあ此処は俺の我が儘を通してもらっても良いのかな? ご主人と一緒にそのモンスターと戦ったことはまだないから、ちょっと申し訳ないところだけど。
「えと、じゃあさ、クエストだけど……ゴア・マガラいいかニャ?」
戦い慣れている相手でもあるし、クリアはそれほど難しくないはず。それに何よりあのゴアネコ防具が好きなんです。あと、ネコのゴア装備って見た目も良いけど、武器なんかは名前もおしゃれだよね。
「防具のため?」
「うニャ」
白ネコの質問に、俺がそう答えると何故かクスリと笑われた。別にそんなおかしなことを言った覚えもないのに、何処か恥ずかしい。
「うん、わかった。それじゃあゴアのクエスト行こ」
君なら問題ないと思うけど、よろしくお願いします。
そんなわけで、ネコ2匹でゴア・マガラと戦うことになりました。
―――――――――――
ご主人さんひとりでシャガルへ挑戦することとなり私たちは暇に。
シャガルかぁ……ハンマーとの相性も悪くないし、あのご主人さんが我らの団のハンターなのだとしたら、戦ったこともあるはず。それにあのご主人さんのことだ。シャガルくらいならソロでもまず大丈夫だろう。
ちょっと頼りないところもあるご主人さんだけど、彼女が上手いのは確か。このクエストがきっかけとなり自信をつけてくれれば良いけど。
そして、暇になった私たちは、どうやらゴアと戦うらしい。ゴアと戦う理由はあの彼が防具を作りたかったからと言うもの。そう言えば、ゲームの中でも彼はいつもオトモにゴア防具をつけさせていた。そんなことを思い出してしまったから、私の口からクスリとひとつの笑い声。
結局のところ、この世界にいようが元の世界だろうが、人間の姿だろうがネコの姿だろうが彼は変わらない。それが良いことなのか悪いことなのか、そんなこともわからないけれど、やっぱり安心できる。
「それじゃ、早速出発するニャ!」
「りょーかい」
そして、今回は初めて彼とふたりきりでのクエスト。闘技大会もふたりだけだったけれど、あの時は彼が彼だと知らなかったし、闘技大会はまた別。
だから今回はちゃんとした初めてのふたりだけのクエストと言うことで、その……うん、まぁ、色々と思っちゃうよね。いや、彼は私が私だと知らないわけですが。
流石にデートみたいだとは思わないし、こんな殺伐としたデートはお断りしたいところ。でも、ちょっぴり楽しみにしている自分がいるのは仕方無いと思うんだ。それくらいには彼のことが好きなわけですし。
「えと……君はゴアと戦ったことがあるかニャ?」
クエストへ向かう準備も終え、今は古代林へと向かう飛行船の上。
ベルナ村の受付嬢さんには、クエストを受けようとした時に止められたけれど、どうにか受注させてもらえることに。見た目はちょっと頼りないかもしれない。でも、中身はちゃんとしたハンターだから安心してください。
「うん、何度か」
ゲーム中では嫌になるくらい戦ったし、この世界でもそれなりの数のゴアと戦ってきた。MHXになってから特に新モーションが増えたわけでもないし、問題なく倒せると思う。
「うニャ。それなら安心ニャ。ボクはちょっと自信がないから頼りにしてるニャ!」
そんな彼の言葉を聞き……吹き出しそうになった。危ない危ない。
この発言もきっと私を私だと知らないからなんだよね。申し訳ないって思ってしまうけれど、今の状況を楽しんでいる自分がいたりする。だって今の彼は私に向けている姿ではなく、この世界のアイルーへ向けている姿なのだから。
でも、やっぱりいつもとあまり変わらないね。
ただ、今なら私に見せてくれないような姿を見せてくれたりするのかも。なんてちょっぴり黒いことを思ってしまう。
どうしよっかなぁ、何を聞いちゃおうかなぁ。ふふっ、なんだか面白くなってきた。
「貴方ってあの操虫棍のハンターさんとどんな関係なの?」
とりあえずは聞きやすいところから。そして最終的に私のことをどう思っていたのかまで聞いてみたいけど……流石にそれは難しそうだ。
「うニャ? ああ、うん。えと、ギルド側の手違いでクエスト中に出会ったことがあって、そこで知り合ったニャ。それでちょっと前、あのハンターさんとクエストへ行ったんだニャ」
んと、確か私がこの世界へ来たとき彼がいなかったのは、あの娘と一緒にクエストへ行っていたから……だったかな。ふ~ん、その前にもう彼はあの娘と出会っていたんだ。それは初めて知った。
しっかりしているように見えてかなり抜けている彼のことだ。多分、無意識のうちに下手なことを言ってあの娘に気づかれちゃったんだろうなぁ。まぁ、あの娘もあの娘でかなり聡いけど。
「……それだけ?」
ちょっと意地悪だけどもう少し突っ込んで聞いてみる。だってこんなの今しかできないことだから。それに彼ならこのくらいで怒るような性格でもない。彼は将来、尻に敷かれるタイプだ。だから今のうちから……えと、い、いえ、なんでもないです……
「へっ? えと、あの、いや、べ、別にそれ以上は何もない、ニャ」
明らかに動揺した様子の彼。それが見ていてすごく面白く、思わずまた笑ってしまいそうになったけれど、どうにか我慢。
ただ、少しばかり彼のことが可哀想になってきた。多分、あの娘にもこうやっていじめられたんだろうなぁ。でも、こう言うことやりたくなっちゃうよね。うん、彼には悪いけど仕方無いと思う。
「え、えと、君はあのハンターさんのことを知っていたのかニャ?」
「うん、だってあのハンターさん有名だし」
改めて思う。
なんて生産性のない会話だろうと。いや、私から始めた会話なんだけどさ。この会話をあの娘に聞かせてあげたらどんな反応をするだろうか。あの娘ならすごく笑ってくれそうだ。
「ああ、うニャ。そうだニャ。あのハンターさん、有名だニャ」
ふふっ、やっぱり複雑だよね。同じパーティーだった人がすごく有名なハンターになっちゃうってのは。私たちも元の世界へ戻らず、あのままずっといたらそうなっていたのかな? そんなことを考えたって仕方が無いし、有名になんてなりたくないけど色々と思ってしまう。
ただ、あの娘も今は楽しいようだし良いのかな。そして、私も今は楽しいです。彼はどう思っているのか分からないけど。
さてさて、これ以上この会話を続けたって彼も困るだろうし、これくらいにしておこう。本当はもう少し続けたいけど、やっぱり彼に嫌われたくはないから。
「貴方はゴアと戦ったことあるの?」
それじゃあ、今回のクエストのことについて話をするとしよう。ゴアが相手だし、そんなに気をつけることもないけど、話をしておいて悪いことはないはず。
「あ~……ん~……まぁ、あると言えばあるニャ」
初めてこの世界へ来た時もゴアの防具作ったもんね。
「でも、自信はないニャ」
またまた、そんなこと言っちゃって。
間違いなく貴方は凄腕のハンターなのだから、もっと自信持って良いのに。今はちょっと小さな身体だけど、中身は立派なハンター。
変なところで遠慮してしまうこの彼の性格も変わらない。
「わかった。じゃあ、一緒にがんばろ」
そう言って笑ってみた。
色々と溜め込んでしまう彼の性格。きっと今だって彼の中は悩みでいっぱいなはず。その悩みが少しでも減るように私は笑ってみる。
全部を話すことはできなくても、私にできることはきっとあるはずだから。
「うニャ。よろしくお願いするニャ!」
この彼と一緒なんだ。それは誰よりも頼もしいパートナー。
負ける要素は何もないし、それじゃ、サクッと倒してきましょうか。
ご主人さんが頑張っているのにこの2匹は……
なんて思わなくもないですが、まぁ、自由にやってもらいましょう
そして、白ネコさん視点にしたせいでお話が全然進まない……
この2匹のお話ですが、少なくとももう2話はかかりそうです
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第38話~非日常の非日常~
あの白ネコとふたりきりになり、最初は気不味いと思っていたけど……なんか思ってたのと違う。
あの白ネコは自分からあまり喋らない性格。そうだと言うのに、何故か今日はやたらと話しかけてくる。しかも、すごく答えにくいことばかりを。いや、ホント何があった。
話しかけてくれることは良いんだ。俺だって白ネコと仲良くなっておきたいわけですし。それは良いんだけど……今までと全然違うから正直戸惑いが大きい。君、こんな性格じゃなかったよね?
「わかった。じゃあ、一緒にがんばろ」
しかも、ですね。その、何と言うか……ああ、いや。やっぱりなんでもないです……多分、この白ネコのギャップに驚いてとかそう言うことだと思う。そうであってくれ。もう既に罪悪感でいっぱいなんだ。
「うニャ。よろしくお願いするニャ」
とりあえず今は目の前のクエストに集中しないといけない。失敗することはないと思うけど、気を引き締めておいて損はないはず。
きっとご主人だって今頑張ってくれているはず。それに負けないよう俺も頑張るとしよう。
それじゃ、サクッと倒してきましょうか。
それからも、白ネコさんとの会話は続いた。そのどれもが答え難いようなものばかりで、俺は疲れました。どうしてクエスト前にこんな疲れにゃならんのだ。
まぁ、多少は打ち解けてきたって感じがしないでもないし、これはこれで良いのかな? 相手が何を考えているのか相変わらず分からないけど。
そして、ようやっと目的地である古代林へ到着。
ゴアの初期位置はエリア6と、広く地形も平でかなり戦いやすいエリア。どっかの地底火山とか旧砂漠とか言うマップとは大違いだ。段差はまだ良いとしても坂になっているのは本当に遠慮してもらいたい。
「っしゃ! 行くニャ!」
支給品ボックスから受け取る物もないし、古代林に着いてから直ぐに出発。
そして、いつものように大きな声をひとつ。これをやらないと始まらないのだ。
「おー」
いつもならご主人の後を俺と白ネコが並んでついて行くけれど、今回はそのご主人がいない。だから、今日はふたりで並んでふたりが先頭。
相変わらず、君のことはよく分からないけど、今日も頼りにしています。
そして、エリア6へ到着。
真っ黒な身体に大きな翼。MH4看板モンスター。ゴア・マガラが其処にいた。相変わらず怖い見た目なことで。
「今回は寝ても無視して攻撃して大丈夫ニャ!」
「うん、わかった」
そんな声をかけてから、ほぼふたり同時にブーメランをゴアに向かって投げつけた。クエストスタートです。
その設定もあってか、同じ骨格のシャガルと比べ、ゴアの動きはかなり鈍い。風圧の怯みも前作と比べゆるくなったから、回避不可能のジャンプブレスはなくなったし、気をつけるのはほぼノーモーションから繰り出される突進くらい。他の攻撃は予備動作も分かりやすいし、理不尽な当たり判定もない。
そして何より、ネコとの相性がかなり良いんです。
まぁ、つまりですね。
「……これは0分針いけるかも」
正直、今回はかなり余裕な相手です。
0分針はちょっと厳しいかもしれないけれど、決して狙えないわけじゃない。スキルが揃っているネコはそれくらい強いんです。まぁ、装備以外はほぼ揃っているのだから、下位相当の村クエで苦労することの方がおかしいわけですが。
「……脚引きずった」
「うニャ。もう少しニャ」
ネコの一番のデメリットはその火力の無さだと思っている。ブメネコのMPS自体はそれほど低くないけれど、計算値通りの火力なんてまず出せない。だって、相手動くし。
とは言え、俺がご主人の装備でハンマーを担ぐよりは絶対に火力を出せていると思う。
ただ、やっぱりハンマー使いたいよなぁ……
足を引きずったゴアは隣のエリア5へ移動。あともう少しです。エリチェンされちゃったし、流石に0分針は無理かな。
「サポゲ貯まったから罠置けるけど、捕獲する?」
エリア5へ向かっていると、白ネコがそんなことを聞いてきた。
んと、捕獲だと確か触覚が報酬でくるんだっけかな。ただ、報酬枠が2枠になっちゃうこともあるんだよなぁ……
そうなると、特に狙っている素材があるわけでもないから倒した方が良い気がする。俺の防具を作るためにも今は素材の質よりも量が欲しいわけですし。
「いや、今回は倒そうと思うニャ」
「わかった」
てか、この白ネコはよく罠を置けるまでサポゲ貯められたよね。俺なんてサポゲが貯まっても直ぐ使っちゃうから、罠分まで貯めるなんてまずできないんです。こう言うところで性格が出る。ただ、この性格って奴がなかなか変わらないから困ったものなんですよ。
さて、それじゃ、あと少しだけ頑張ってみるとしようか。
どうやら、エリア6の時点でかなりダメージを与えていたらしく、エリア5へ入ってからは本当に少し攻撃するだけでゴアを倒すことができた。
「ふぅ……お疲れ様ニャ」
「お疲れ様」
防具のためにも、有り難く素材の剥ぎ取り。きっと長い間お世話になるだろうし、この素材は大事に使わせてもらおう。正直、ホロロ防具って好きじゃなかったから新しい防具が楽しみだ。
武器は……どうしよう。睡眠武器も睡眠武器で便利なんだよなぁ。
「それじゃ、帰るニャ」
ご主人が帰ってくるまでまだ時間はあるはずだし、もしかしたら、もうひとつくらい何かのクエストへ行けるかもしれない。まぁ、帰りの飛行船で白ネコと相談しながら決めるとしよう。今回は俺が行きたいクエストへ行ったのだし、次は白ネコの番。
そして、あのご主人も無事クエストをクリアできていれば良いけど。ご主人なら大丈夫だとは思っている。でも、やっぱり心配してしまうんです。どうかどうか、無事成功してくれることを俺は願っています。
「うニャ? 天候が悪い?」
クエストをクリアし、ベルナ村へ戻るため飛行船に乗り込むと、飛行船を操縦するネコから――天候が悪いためいつもと違うルートで帰ると言われた。
「そうなんだニャ。だから申し訳ないけど、いつもよりベルナ村へ帰るまで時間がかかると思うニャ」
そう言って、相手は頭を下げた。いや、別に君が悪いわけじゃないんだから、そんな気にしなくても良いのに。
天候が悪くなると言えばアマツを思い出すけど、今の俺じゃ流石にアマツは倒せません。
「どれくらいかかるの?」
「古代林をぐるっと回るからいつもの倍くらいかかると思うニャ」
ああ、それくらいで済むんだ。それくらいなら何の問題もないです。馬車なんかと比べて、飛行船の乗り心地はなかなかのもの。それに別に焦ったって仕方が無いんだ。たまにはゆっくりのんびり行こうか。
「了解ニャ。それじゃ、安全運転でお願いするニャ」
「ご主人が帰ってくるまでまだ時間があるから、何かクエストへ行こうと思っているけど、君は何か行きたいクエストあるかニャ?」
天候が悪いせいか、いつもよりも吹く風が強く感じる飛行船の上。
ただ、こう言ういつもと違う時ってなんだかわくわくするよね。どうせそんなことないだろうけど、何か特別なことが起きるんじゃないかって期待しちゃうせいで。
今は落ち着いてきたけれど、飛行船に乗って暫くは非日常的な光景が何処か嬉しくてずっとそわそわしていた。ひとりで何を興奮しているんだか……白ネコはどう思っているんだろうね?
「ん~……特にない、かな」
あら、そうなのか。しかし、そうなると困ってしまう。俺もこれで新しい防具を作れるから、行きたいクエストなんてないし。
はてさて、どうしたものかなぁ。
ああ、ご主人のために今後使いそうな素材を集めておくのはアリかもしれない。そうなると……レウス素材あたりだろうか。
ただ、ネコだから閃光玉はなし。それはちょっとキツい気がする。いや、この白ネコもいるし、倒せるとは思うけどさ。
ふむ……それじゃあ、次はレウスでも倒しに行こうかな。今作のレウス防具はやたらと優秀だし、素材はいくらあっても良いはず。
そして、そのことを白ネコに伝えようとした時だった。
青色のレーザーのようなものが俺たちの乗っていた飛行船を貫いたのは。
飛竜なんかに襲われても大丈夫なように、この飛行船はかなり丈夫に作られているはず。レウスのブレスなら数発程度喰らっても大丈夫と聞いているし。
しかし、そんな飛行船を青色のレーザーは見事に貫いてくれた。
そんなもの喰らってしまえば――
「……下へ参りまーす」
まぁ、そうなるわな。
てか、かなりヤバい状況なのに、随分余裕そうだね君……
「つ、墜落するニャ!」
叫び声のような飛行船を操縦するネコの言葉が聞こえた。
ああ、やっぱりダメですか。落ちますか。
下を見ると大きな大きな穴が見える。現在の場所は普段、俺たちが訪れない古代林の奥深く。
青色のビームに古代林深奥ねぇ……こりゃあまた面倒なことになったものですよ。
落ちているのがわかるくらいの速度で進む飛行船。
その先にはまるで俺たちを飲み込むんじゃないかって思えるような大穴。
「……竜ノ墓場だ」
俺と同じように下を覗き込んでいた白ネコがぽそりと声を落とした。
やっぱりそうでしたか。う~ん、非日常的なことに少しだけ憧れていたけれど、流石にこれはなぁ……
「うニャー……本当にごめんニャ……これは流石に無理ニャ……」
操縦士のネコの落ち込みようが半端ない。まだ死ぬって決まったわけでもないのにね。
ただ、俺たちが向かっているこの穴の先にアイツがいることは確かだろう。いつもと違ってギルドからの支援はないし、もし本体の方が出てきたら流石に勝てる気がしない。
考えれば考えるほどちょいとマズい状況。だって今回のクエストの失敗は死に直接繋がっているのだから。
「これは……厳しいかな?」
「普通に考えたら無理だと思うニャ。ただ……逃げることなんてできないし、やるだけやってみるニャ」
今の俺たちにはそれくらいしかできやしない。
ラスボスだかなんだか知らないが、それでも、精一杯抗わせてもらおうか。諦めるのはもう少しだけ後にして、今はやれることを全力でやる。
やり残していることが沢山あるんだ。こんなところで止まってやれるほど素直な性格はしていない。
もしかしたら、これが最後のクエストになるかもしれない。
でも、やっぱりそれは嫌なわけですよ。こんなところで終われない。だから、まぁ……
「がんばろ」
「……ああ、そうだな」
ちょいと頑張ってみるとしよう。
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第閑話~いつかの戦い~
MH4G時代のお話となります
新キャラが出ますが、このお話以外で出番はあるのやら……
「皆ってさ、兄弟とかいるの?」
久しぶりに4人全員揃ってのクエストを終えての帰り道、相棒さんがそんなことを聞いてきた。
「俺は兄がいるよ」
そんな相棒さんの質問に、素直に答えてしまいちょっと後悔。だって、俺と彼女はこの世界の人間でないわけで、家族の話などをしてしまうと、何処からボロが出るのか分かったものじゃない。
いや、まぁ、相棒も弓ちゃんも俺たちが普通と違うことは分かっていると思うけど。
「あっ、そうだったんだ。んじゃあ、ふたり兄弟ってこと?」
「うん」
兄とは歳が離れすぎているせいで、お互い距離をあけてしまっている気もするけれど、仲は悪くないと思う。
「……私は妹がいる」
そうぽつり答えたのは笛の彼女だった。
彼女の妹さんと何度か会ったことがあるけれど、うん、姉妹なんだなぁって感じ。姉妹揃ってとにかくマイペースなんだ。ただ、この彼女に比べるとよく喋る方かなぁと思う。あと、見ていて二人の仲は良さそうだった。
「あっ、私は兄弟いないです」
そんな弓ちゃんの声。うん、なんとなくそんな気はしていた。ただ、弓ちゃんはしっかり者だし弟とかいるのかなぁとは思っていたりも。
はてさて、それにしてもそんな話をしだした相棒さんはどうしたんだろうね。
「んじゃあ、君はどうなの? あと、どうしてそんな話を?」
「えと、私も妹がいるよ。それで、どうしてこの話をしたかってことだけど……んと、久しぶりに全員揃ったからちょっと聞きたくなったんだ」
そう言った相棒の顔はなんとも複雑そうだった。何を考えているのやら……
とは言え、相棒が言っていたように、4人全員が揃って狩りへ行くのは久しぶりのこと。前回全員が揃ったのはダラ・アマデュラ亜種のクエストだったかな。大老殿ももっとハンターの数を増やしてくれれば良いのだけど……難しいんだろうなぁ。一応、大老殿って上位のさらに上、G級クエストへ挑むハンターが集まる場所ですし。
今回のクエストは銀レウスの討伐。場所は塔の頂。このメンバーならそれほど苦戦はしないだろうな。なんて最初は思っていたけど、結果は文句なしで0分針。想像以上にこのパーティは強いです。
「当分またこの4人が揃うことってなさそうですもんね」
だよなぁ。
因みにだけど、別れてクエストへ行く時、俺と笛の彼女が一緒に組むことは少なかったりします。今のところ俺と弓ちゃん、相棒と彼女で組むパターンが一番多いかな。
別に俺と彼女でパーティーを組んでも良いのだけど、ふたりの使っている武器が武器だけにどうしても火力が足りない。いくらスタンを取ったところで畳み掛けられないんです。次回作ではハンマーの火力が上がっていることをひたすらに願っている。まぁ、そもそも元の世界へ帰れるのかも分からないんだけどさ。
「……今日は楽しかった」
「うん……そうだね」
何処となく湿っぽい雰囲気。どうしてこうなった。別にパーティー自体がバラバラになるわけではないのだし、そんな心配するようなことじゃないと思うんだけど……
ただ、俺だって変わっちゃったなぁ。なんて考えてしまったりもしている。この大老殿へ来た時から、俺たちのパーティーはそれなりに有名ではあったけれど、それでもいつも4人揃ってクエストへ行けていた。
でも、いつからだろうか。パーティーが別れてクエストへ行くことが多くなっていった。それまでも装備に必要な素材の関係でパーティーが別れることもあった。けれども、そうではなくギルドからお願いされ別れてクエストへ行くことに。最初は特例だとか、別れるのは今だけだろうとか、そんな気持ち。
それが今じゃ、4人揃ってクエストへ行くのなんて、大連続クエストやウカム、アカムなどのクエストくらいだ。今回みたいに、それほど強くないモンスター単体クエストで4人が揃うことなんてほとんどない。
別にそのことへ文句があるわけではないし、俺たちにそれだけ期待してもらい、俺たちがその期待に応えないといけないことも分かっている。
ただ、何と言うか……もう昔みたいにはなれないんだなって思うと、どうしても込み上げてくる何かがあったりしてしまう。
こんなことになるなんて全く思ってなかったんだけどなぁ。
「よしっ、とりあえず帰ったら打ち上げしよう! 打ち上げ!」
「はい、そうですね」
相棒さんと弓ちゃんの元気な声。いつも通りの感じに戻ってくれたかな。
う~ん、それにしてもこれから先、俺たちはどうなることなのやら。未来なんて誰にも分からないけれど、どうしても考えずにはいられない。
ただ、願わくは皆で笑っていられるような未来になりますように。
俺はそれだけを願っています。
なんてことを考え出してしまったせいで、相棒さんが皆の家族のことを聞いたことなんてすっかり忘れてしまっていた。
そして、ちょっとだけ遠い未来で、どうして相棒があんなことを聞いたのかが分かる。
前置きが長くなってしまったけれど、今回は相棒の妹さんとのお話です。
―――――――――
「あっ、やっと起きてくれた」
目が覚めると何故か相棒さんがいた。意味が分からない。
えと、一応此処って俺の家なんですけど……
「あー……おはよう」
「うん、おはよう!」
今日はクエストへ行く予定もなく久しぶりに訪れたフリーの日。先日まで鬼のようにクエストへ行っていたこともあり、溜まった疲れをとろうと思っていたんだけど……さて、この相棒さんは何の用事があって俺の家にいるんでしょうか。
一応、3日ほどの休暇だからほとんどのクエストを手伝えると思う。ただ、できれば遺跡平原だとか近い場所だと嬉しいです。ホント、疲れが溜まっているんです。
「んで、どうしたの?」
「あー……えと、そのですね。ちょっと君に頼みと言うか、お願いと言うかがあったりして……」
どうにも歯切が悪い相棒さん。よっぽどの事じゃない限りこの相棒の頼みだったら普通に聞きますよ?
「うん、それで?」
「んと……ちょっと説明しにくいから一緒に来てもらっていい?」
ん~……なんだと言うのだろうか。深刻な問題ってわけではなさそうだけど、どうして良いのかが分からないって感じなのかな。
まぁ、相棒の頼みならしゃーない。俺に何ができるか分からないけど、できる限り頑張ってみるとしよう。
何がなんだか良く分からないまま、相棒さんの後に続いて向かったのは大老殿だった。ん~……やっぱり一緒にクエストへ行って欲しいとかそう言うことなのかな。
なんて考えながら、大老殿へ入って直ぐのことだった。
「貴方がお姉ちゃんのパーティーにいるハンターね!」
防具はガルルガX、武器はジンオウガの大剣であるガオウ・ガルバルクを担いだ少女が近づいて来てそんなことを言われた。
この大剣少女さんは、どちら様ですか? それにお姉ちゃんってのは……俺には今の状況が全然分からないんですが。
「え、えと、初めて会ったと思うから言うと――私の妹です」
なんとも申し訳なさそうに相棒さんがそう言った。そんな相棒さんの言葉を受け誇らしげに胸を張る大剣少女改め妹さん。
そう言えば、いつかのクエストの帰り道で相棒も妹がいるとかなんとか言っていたような気がする。そんなことすっかり忘れていたが。
なるほど、妹さんでしたか。そう言われて改めて見てみると、確かに相棒と似ている気がする。多分、歳は弓ちゃんと同じくらいだろう。
「うん、初めましてだね。君のお姉さんとパーティーを組んでいる者だよ。よろしく」
てか、姉妹揃ってG級ハンターってのはすごいな。まぁ、この相棒の妹さんなのだし、きっとこの子も滅茶苦茶上手いんだろうなぁ。
とりあえず、そんな妹さんに挨拶をしつつ握手――をしようとし、右手を出したが何故かその手はパシリと叩かれた。
そして――
「貴方に勝負を挑むっ!」
なんて言われてしまった。
いや、どういうことだよ……何がなんだか分からないから、相棒の方へ顔を向けると、本当に申し訳なさそうな顔をしながら、俺にだけ聞こえるような小さな小さな声で『ごめんね』なんて言葉を落とした。
「あー……色々と聞きたいことがあるんだけど、どうしてまた勝負なんて?」
だいたい、勝負ってなんだよ。何を勝負するんだよ。どっちが先に卵の運搬ができるかとかそう言う勝負だろうか。
「私が貴方より優秀なハンターだって証明したいの!」
……うん? 言ってる意味は分かるけど、意味が分からんぞ。だって、その証明をしてどうなると言うのだろうか。
「安心してくれ。君の方が優秀なハンターだよ」
「そういうことじゃない!」
そう言うことじゃないのか……
むぅ、なんだかこの子とは相性が悪いな。そもそも何をしたいのかがさっぱり分からない。
「だから! 私が勝負に勝って優秀なハンターって証明したら、貴方の代わりに私がお姉ちゃんのパーティーに入るってことっ!」
……すごいことを言われた。
「いや、俺たちのパーティーへ入りたいのなら歓迎するよ?」
5人パーティーとなってしまうけれど、相棒の妹さんだと言うのなら他のメンバーだって歓迎するだろう。ただ、もしそうだと言うのなら、ギルドに話をしておかないとだ。この妹さんだって装備を見る限り優秀なハンターなんだろうし。
「それじゃ、貴方がいるから意味ないの! 貴方の悪い噂はいっぱい聞いてる。そんな人と一緒のパーティーはいやだもん」
心が折れそうだ。なんで此処まで言われないといけないのだ。そんな悪いことしてないのに……してないよね?
――どうせ、先輩に嫉妬したどっかの誰かが広めたのでしょう。悪い噂なんてそんなものですよ。
いつかの弓ちゃんの言葉を思い出す。
はぁ、多分この妹さんが聞いた噂ってソレだよなぁ……誰だよそんな噂を流してくれた奴は。いや、そりゃあ俺だってかなり恵まれた環境にいると思っているけど、そう言うのは勘弁してほしい。
それから、なんとか妹さんを説得しようとしてみたけど、まぁ、俺の話を聞いてくれません。この子だって悪気があるわけじゃなくて、ただ俺と言う悪い奴から相棒を守ろうとしているのが分かるだけに強く言いにくいし……
そんなことで結局、その勝負を受け入れることに。ホント、流されやすい性格だ。
そして気になる勝負の内容だけど、G級ソロ用クエストでより早い時間でクエストをクリアした方の勝ちと言う内容。クエストは明日決めるんだってさ。
つまりTA勝負ってこと。ハンマーで大剣相手に勝てる気がしない。大変なことになりました。
「ホンっト、ごめんね! 何度も何度も君はそんな人じゃないって言ったんだけど、あの子全然聞いてくれなくて……」
もう何度言われたのかも分からない言葉を相棒が落とした。
あの子、相棒の言葉も聞いてくれないのか……確信犯ってのは流石に言い過ぎだけど、今回はそれに近いものがある。なんとも難しいものだ。
う~ん、どうしたものか。クエストの内容にもよるけれど、やっぱり勝てる気はしない。闘技大会ソロクックとかなら勝てると思うけど、普通のクエストはなぁ……
「まぁ、しゃーない。自信はないけど、できるだけ頑張ってみるよ。あんまり気にしないでくれ」
このパーティーを抜けるつもりなど微塵もない。とは言え、これはどうしたものか。
「それじゃあ、私は旧砂漠夜のディアブロスにするけど、貴方はどのクエストにするの?」
日を改め、次の日。
おお、ディアと戦うのか。すごいな……俺の武器が武器ってこともあって、ディアはちょっと遠慮したい。
さてさて、俺はどのクエストを選ぼうか。本当なら――アルセルタスで。と言いたいところだけど、流石にそれは認められないだろう。
だから、レイアにしようかなと思っていた。アイツなら慣れているし、そこそこのタイムを出せる。しかし、妹さんが選んだのはディア。そのせいで、ディアより難易度の低いレイアは選び辛い。金レイアって選択もあるけど、アイツ強いんだよなぁ……
「ふふん、別に私の不戦勝でもいいんだよ!」
「ああ、はいはい。ちゃんと勝負するから待ってくれ」
だいたい、TAでハンマーが大剣にどうやったら勝てるんだよ。良い勝負ができるのは蟹くらいだぞ。
一応、俺も大剣用の装備はあるけど、そもそもこの世界じゃ闘技大会以外で大剣って使ったことがないんだよなぁ。
こんなことならヘビィ装備でも組んでおくべきだった。今更文句を言ったところで仕様が無いが。
ん~……大剣、か。
普通に考えて俺が妹さんにTAで勝てるとは思わない。それならもう、開き直ってしまった方が良いのかな。
それができるかは分からない。けれども、もし上手くいけば……
「ん、決めた」
「言っておくけど、あんまり弱いモンスターはダメだからね!」
大丈夫。一般的にディアよりは強いとされているモンスターなはずだから。
「遺跡平原の激昂ラージャンにするよ」
それなら文句はないだろう。
「はっ? え? ラ、ラージャン? あ、うん。それなら別にいいけど……」
俺の言葉が予想外だったのか、妹さんは酷く驚いた顔をした。
まぁ、ゲーム中で最も狩られたモンスターとは言え、アイツが強いことには変わらない。そんなものを選べばそりゃあ驚かれるだろう。もし普通に挑戦した場合、15分針くらいになりそうだし。
「そ、それじゃあ、私はもう出発するけど、もう決定だからね! やっぱりラージャンはなしとかはダメだからね!」
「分かってるって。そんじゃ俺は君が帰って来たら出発するよ。大丈夫だとは思うけど、気をつけてな」
俺がそう言うと、妹さんはむぅっと顔を顰め――言われなくともっ! なんて言いながら足早にクエストへ出発していった。
此処から、旧砂漠まではあまり遠くない。明日の朝にはクエストから戻って来ているだろうし、あんまりのんびりしている時間はないのが残念なところ。
あの妹さんの実力は分からないが、20分針とかでクリアしてくれないだろうか。それなら楽な気持ちで挑戦できる。
「ちょ、ちょっと! なんでラージャンなんて選んだのさ。もっと違うモンスターだってあったじゃん! あの子から話を聞いて君なら大丈夫だろうって思っていたのに、これじゃあ……」
妹さんが出発して直ぐ、相棒が怒ったようにそんな言葉を落とした。
いや、とは言え、他に選択肢ってあまりないと思うよ? 古龍系は論外だし、グラビとかやってられないし。あと、TAならハンマーを使う俺より君や弓ちゃんのが良いタイムを出せると思う。まぁ、今回は大剣を使わせてもらうけど。
「ほら、勢いってあるじゃん」
「何やってるのさ……もし君が負けても絶対、このパーティーから抜けさせないけど、やっぱり私は君に勝ってほしいよ……」
今にも泣きそうな相棒さん。
何ともこそばゆいです。でも……ありがとう。
「大丈夫、俺だって負けるつもりはないから」
なんて相棒が少しでも安心できるよう、言葉を落としてみたけれど、その顔は晴れてくれやしなかった。う~ん、難しいものだ。
「あっ、いた。なんだか面白……じゃなくて、大変なことになっているみたいですね。色々な方が先輩の噂をしていましたよ」
そんなことを言いながら、とことこと弓ちゃんが近づいて来た。多分、クエストから帰ってきたところだろう。あの彼女と一緒にクエストに行ったはずだったけど……ああ、ドスプーギーのとこにいるわ。あの彼女も相変わらずだ。
「聞いてよ弓ちゃん! この彼、よりによってラージャンのクエストを選んだんだよ!」
むぅ、相棒さんのラージャンに対する気持ちがすごい。多分、
「……バカですか?」
いや、弓ちゃんも弓ちゃんでそんなストレートに言わなくても……
俺だって勝算が全くないわけじゃないんだ。上手くいけば、サクッと倒せるかもしれないわけですし。
なんか、どんどん自信がなくなってきたけど……相棒に勢いって言ったのは案外本音だったりします。
「どうしてラージャンを……いくら先輩でもラージャンを討伐するのは時間がかかると思うのですが」
「あー……今回はさ、ハンマーじゃなく大剣を使おうと思うんだ」
「余計にダメじゃないですか。何考えてんですか」
……味方がいない。俺の周りは敵だらけだ。
「ま、まぁ、言っちゃったもんはしゃーないって。それよりさ。あの妹さんってやっぱり結構上手いの?」
このまま続けてもふたりに虐められるだけだったため、話題を変えてみた。いや、ふたりとも俺を思って言ってくれているのはわかっていますよ?
「……うん、すごく上手いよ。だってあの子はパーティーじゃなくてひとりの力で大老殿まで来たんだもん」
これはもうダメかもしれませんね。
どうしよう。土下座すれば許してもらえたりしないだろうか。あの感じじゃ俺が言っても聞いてくれないだろうが。
……まぁ、なるようになるか。
その後も、相棒さんと弓ちゃんから色々な言葉を浴びせられた。全く関係ない愚痴のようなものも混ざっていた気もするけれど、これでふたりのストレスを解消できたのならそれで良いとしておこうか。俺のメンタルはボロボロだけど……
「大剣使うの?」
相棒と弓ちゃんから逃げるように帰ろうとした時、ようやっと彼女が声をかけてきた。ドスプーギーとたくさん遊べたおかげか、いつもより機嫌が良さそうに見える。
「流石にハンマーじゃ厳しいからね。それに一応、大剣装備もあるし」
「そっか。貴方なら大丈夫だと思うけど頑張って」
「うん、ありがとう。できるだけ頑張ってみるよ」
多分だけど、彼女は俺がやろうとしていることに気づいていたのだろう。だから、他のふたりとはまた違った言葉をかけてくれた。
ホント、成功してくれれば良いけど、どんなものやら……
1話にしたかったですが、1万字を超えてしまったため2話に分けることに
相棒さんの妹さんが出てきちゃいましたね
せっかく出てきたのですし、これからも出してあげたいところですが、出番あるのかなぁ……
次話はこの続きとなりそうです
では、次話でお会いしましょう
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第閑話~いつかの抜刀溜め3斬り~
前話の続きとなります
なんとも不安な気分を抱えたまま、皆から逃げるように集会所をあとにした。
今回俺が戦う相手はラージャン。元の世界では一番戦った相手だし、この世界でも何度か戦ったことがある。まぁ、元の世界では虫棒、この世界ではハンマーがほとんどだったけど……
とは言え、慣れた相手であることに違いはないし、大剣ならラージャンとの相性もかなり良い。今回はソロ用クエストなわけだから、普通に戦っても10分針はいけるんじゃないだろうか。……多分。
そうやってなんとか自分に自信を持たせようとしながら、家へ戻り武器や装備を確認。それは作ったのは良いものの一度も身につけていない防具で、握っていない武器。そんな装備で俺はTAをするわけですよ。ホント、何考えてんでしょうね。
流石にぶっつけ本番でTAに挑むほどの勇気がなかったため、装備の確認後、こっそり大剣を担いで遺跡平原の採取ツアーへ行ってみた。
其処で溜め3の感覚だったり、ローリングから横殴りで踏み出す距離感の確認。そして、乱入してきたアルセルタスで試し斬り。そんな試し斬りだけど、やっぱりなれない武器と言うこともあってか、少しばかり手こずってしまった。ただ……アレだね。大剣ってすごく使いやすい武器ですね。どっかの鈍器とは大違いだ。
まぁ、使いやすい武器だから面白いとか、その武器をずっと使いたいとは思わないんだけどさ。やっぱり俺はハンマーが一番好きです。
遺跡平原の採取ツアーから戻ってくると、時刻はもう夕方。本番は明日。少しばかり緊張してきました。緊張したところで仕様が無いけれど、緊張してしまうのも仕方無いのかなって思う。
その日はそのまま寝てしまおうかとも思っていたけど、どうにも心がざわついていたため、フラフラとお散歩へ出かけることに。
「よ、君もお散歩かい?」
そんなお散歩をしていると、相棒さんとばったり遭遇。
「うん。なんかさ、落ち着かなくて」
そう言って相棒は照れくさそうに笑った。
……いや、なんで君が緊張してるんだよ。な~んて思いはするけれど、この相棒だって色々と複雑な気分だろう。だって、大切な妹さんだもんな。
「……私ってさ、こんなんだから昔からドジばっかりで、あの子には本当に迷惑をかけたと思う」
あー……うん。なんか簡単に想像できるぞ。しっかり者に見えて抜けているのがこの相棒だし。
「そんな私がハンターになるなんて言っちゃったから、あの子には『お姉ちゃんじゃ無理だ』ってすごく止められて……でも、やっぱり私はハンターになりたかったから、ほとんど飛び出すような形で家を出てきたんだ」
この世界へ来てそれなりの時間が経ったけれど、未だにハンターと言うものがどんな存在なのか理解できていない。モンスターの蔓延るこの世界で、ハンターと言うのはきっと俺が考えている以上に大切な存在なはず。
そして、何よりも危険が伴う仕事。そんな仕事を自分の大切な人が携わるとなれば……まぁ、そりゃあ止めることだってあるだろう。
この相棒も今では大老殿で一番のハンターと言って良いほどの実力だが、俺が初めて会った時はとてもじゃないが腕の良いハンターと言えなかった。
「君はどうなれば良いと思う?」
「……正直、私もよくわかんない、かな」
真っ赤な夕日に照らされた相棒の顔はなんとも複雑そうなものに見えた。
「そりゃあ、君と別れるのは嫌だよ。ただ、あの子と一緒にいられるのならそっちの方が良いと思ってる」
そうだよなぁ。とは言え、俺にできることはほとんどないわけでして、それがまた難しいところ。負けるつもりはないけれど、勝てっかなぁ。厳しいよなぁ。
そもそもTAは苦手なんです。だって俺は、TAを諦めてしまった人間なのだから。
「でもさ……君が負けるところはやっぱり見たくない」
……あー、お、おう。そう言ってもらえると嬉しい、です。
何度も言うように負けるつもりはないし、もちろん全力でやるさ。それに勝負となればやっぱり頑張りたいって思える。昔、何処かで消してしまったと思える種火はきっとまだ残っていてくれたんだろう。残念なことだけど、元の世界じゃ俺なんて並のPSしか持ち合わせていなかった。そんな俺がTA勝負だなんて笑い話も良いところ。そもそもTAをする土台にすら立てていないのだから。
ただ、まぁ……そんなものを抜きにして、やるだけやってみるってのが正解なんだろう。
「おう、ま、できるだけやってみるからさ。そんな心配すんなって」
「そう言うのなら、ちゃんとした武器使おうよ……」
それとこれとはまた別のお話なんです。
そして、次の日。妹さんが戻ってきて、俺がクエストへ行く日が来ました。
相棒とはあの後直ぐに別れ、その日は直ぐ寝ることに。寝られんかなぁなんて思っていたけれど、睡眠時間は十分だし、身体の調子も悪くない。この世界に来てから俺の心も多少は強くなってくれたってことだろうか。
「11分35秒! どうだー!」
見ているだけで、此方が嬉しくなるような笑顔で妹さんが報告。文句なしで10分針。複合防具じゃなくこの成績なら十分と言ったところ。流石です。
ハンマー装備でそれより早いタイムでラージャンを倒すのは厳しい。だから、まぁ、間違った選択ではないと思うんだ。
そんな俺は、セルレギオスの大剣である叛逆刀ローグレギオンに、防具はレウスと希ティを中心に組み合わせた複合防具。発動スキルは大剣二種に納刀、攻撃【超】と言ったもの。もっと良いスキルの組み合わせがあると思うけど、大剣装備はこれしかないんです。
しっかし、11分台か……普通にやったら絶対に勝てないよなぁ。14分くらいなら罠や乗りを使ってなんとかなると思っていたんだが。
「ふふん、次は貴方の番だよ! って、アレ? ハンマーじゃないの?」
きっとクエストの内容もかなり良かったのだろう。今日の妹さんは絶好調だ。
「いや、ほら。せっかくだし、君の武器と同じものを使った方が良いのかなって思ったんだ」
なんて言い訳してみたり。本当はハンマーじゃ勝てないだけです。
「バ、バカにして……これで負けたら本当に代わってもらうからねっ!」
そうならないことを願うばかりです。
……うん、やっぱり負けたくはないよな。なんとも特殊なTA勝負だけど、勝負だと言うのなら勝ちたい。それに何より、このパーティーを抜けたくはないんだ。
「アレだけ言ったのに、本当に大剣で行くんだ……」
心配そうな相棒さんの顔。安心してくれとは言えないけれど、もう少し軽い気持ちでいてくださいな。まぁ、そんなことだって言えたものじゃないけどさ。
「もし負けたら鼻で笑ってあげますね。それじゃ、頑張ってきてください」
相変わらず辛辣な弓ちゃん。でも、きっとこれが彼女なりの励ましの言葉なんだろう。
うん、頑張ってくるよ。
「……大剣、似合わないね。でも、貴方なら大丈夫だと思う」
そして、最後はあの彼女。
そのくらい知っているさ。自分でも良く分かっている。ただ、今回ばかりはこの武器を使わせてくださいな。
「うん、ちょっとずるいかもしれないけど、サクッとやってくるわ」
「気にせずやっちゃえ」
ありがとう。そう言ってもらえると救われます。
3人からの言葉を聞くこともでき満足。
何度も何度も言うけれど……今回、負けるつもりは微塵もない。もし俺が負けてしまったとしても、なんだかんだで、俺がこのパーティーを離れることはないと思うんだ。ただ、それでも手なんて抜かない。普段はどうしてもやるのを躊躇ってしまうけれど、今だけはやらせてもらおう。
他に見ている人がいないソロと言う状況。元の世界で溜め込んだ知識をフル活用し、ちょいとやらせてもらおうか。
相手よりも強い相手で、相手と同じ武器。それでこの勝負に勝つことができれば流石にこの妹さんだって俺を多少は認めてくれるはず。
食べる料理は魚と穀物の煮込み料理。その料理で攻撃力アップは発動しないけれど、TA勢御用達の“ネコの弱いの来い!”が発動してくれる。上がらない分の攻撃力は鬼人薬グレートを飲めば良いわけですし。
さて、準備もできたし、出発するとしましょうか。
見送りに来てくれた同じパーティーの3人に手を挙げてから、クエストへ向けて出発。
ホント、サクッと終わらせることができれば良いんだけどね。
普段はうるさいくらいの道中もひとりと言うことで非常に静か。そのことに寂しさを感じるようになってしまった自分がいて、そのことが何処か面白かった。
そうやって、ひとりで馬車に揺られること数時間。遺跡平原ベースキャンプへ到着。相手の初期位置はエリア4。正直、其処は戦いやすいエリアじゃない。まぁ、そんな文句を言っても仕様が無いわけですが。
「っしゃ! 行くか!」
そんないつも通りの声に誰かが何かしらの声を落としてくれることもない。ソロだもん、仕方無いね。
いつも通りの声を出してから、ベースキャンプを離れ、エリア1を抜けエリア4近くへ。其処で、鬼人薬グレート、強走薬グレート、怪力の種を飲み込み、さらに応急耳栓をセット。そんな準備をしてから、ラージャンの待つエリア4へ。
エリア4へ入って直ぐ、ラージャンの姿を確認。短く呼吸をしてもう一度気合を入れてから、一気に近づきそのラージャンの横で抜刀溜めを開始。
そして、俺に気づき此方を振り向いた瞬間、抜刀溜め3をその頭へ、叩き込んだ。それで、ラージャンが怒り状態へ。
ローリングをし直ぐに納刀して、ラージャンのデンプシーを躱してから、デンプシー後のラージャンの脚へ抜刀斬りを一回。
さて、これで準備は完了。後は闘気硬化状態となる前に飛鳥文化をしてもらえれば……
2連ケルビステップで離れるラージャン。バクステ、回転攻撃が確定。バクステ位置で溜め始め、バクステしてきたラージャンへ溜め2。
むぅ、本当は溜め3まで入れたかったけど……まぁ、大剣は慣れてないし、仕方無いんかねぇ。
回転攻撃後、ラージャンが小さくバックステップ。
飛鳥文化が確定。来た。
いきなり訪れたチャンスに暴れる心臓。ただ、此処で飛鳥文化を喰らってしまえば意味がない。落ち着け、と自分に言い聞かせながら、飛鳥文化を躱し、3回目の飛鳥文化の位置で抜刀溜を開始。
そして、飛鳥文化が終わり、威嚇中のラージャンの胴体へ抜刀溜め3斬り。
その攻撃が当たると、ラージャンはゴロリと横へ転がった。
……マジか、えっ、これ? 本当にいけるんじゃないか?
不安と期待は半分半分。そんな気持ちのまま、一度ローリングをしてから納刀し、未だ大ダウン中のラージャンの横で抜刀溜め開始。
んで、ラージャンが大ダウンから起き上がる直前に溜を解放。起き上がった瞬間に、抜刀溜め3斬りがラージャンの腕へ。
――その攻撃で、ラージャンが再び、ゴロリと横に転がった。
つまり、また大ダウン。
先程と同じように、ローリング、納刀。そして、抜刀溜め3の準備。
……まぁ、つまるところアレですよ。
この勝負、勝ちました。
元の世界では、“転倒ハメ”なんて呼ばれていたと思う。それは蔦ハメなんかと同じようにソロでもできる数少ないハメのひとつ。
やり方は簡単。飛鳥文化の隙なんかに溜め3を入れ大ダウンを奪い、後はタイミングよく溜め3を入れ続けるだけ。
ただ、これができるのは蔦ハメなんかと違い、ソロ用クエストだけ。集会所やギルクエのラージャンじゃ成功しないだろう。発掘大剣を担いでネコ火事場でもすればいける気もするけど、試したことないです。
そんなこの転倒ハメだけど、要求されるスキルはそれほどキツいものじゃないし、コツさえ掴めば面白いようにハマる。まぁ、そのコツを掴むのが難しいんだけどさ。
「ふぅ……討伐完了」
詳しいタイムは聞かないと分からないが、まず0分針確定なはず。もしかしたら3分台も出たかもしれない。ただ、最後の最後で溜め3が遅れ、失敗してしまったため、ハメきることはできなかった。元の世界じゃアレだけ練習したんだけどなぁ……
とは言え、これでこの勝負には勝つことができたわけだし、良しとしましょうか。
それじゃ、皆のところへ帰るとしましょうか。
「えと……んじゃあ、この勝負は俺の勝ちってことで良いかな?」
「…………」
ムスっとした顔で俺を睨みつけてくる妹さん。
頬が膨らむところはどうやら姉妹共通らしい。
帰って来てからギルドの人にタイムを聞いたところ、3分40秒だったらしい。いくらソロ用とは言え、早すぎる。いったい何があったのかと滅茶苦茶驚かれた。
いや、まぁ、ハメを使えばこんなものだって。今回はちょっと特別なだけです。
「あー……その、さ。俺の噂とか色々聞いちゃってるみたいだし、実際、俺だってそんなできた人間じゃないとは思ってる。でも、もう少し信用してくれればなって思うんだ。そんな俺の言葉なんて信用できないのなら、せめてお姉さんの言葉を信じてもらえないかな?」
どうしても悪いことってのは広がりやすいし、耳に残ってしまう。でも、きっとそれはこの妹さんが見ず知らずの誰かから聞いたもののはず。だから、相棒みたいに信頼できる人物から改めて聞けば、その考えも多少は変わってくれるんじゃないかな。
てか、そもそも、この妹さんは俺のどんな噂を聞いたんだろうか……
そして、妹さんは俺の言葉に対し、何も返事をせず逃げるように何処かへ行ってしまった。
うーん、あの子だって悪い子じゃないんだ。だからできれば仲良く……は無理だとしても、嫌われない程度の関係になりたいのですが……これは難しそうですね。
「あっ、行っちゃった。んもう、あの子は……それにしても、君ってハンマー以外も使えたんだね。てか、むしろハンマーより大剣のが上手い?」
そんな相棒さんの言葉。
「いんや、流石にハンマーの方が上手く使えると思うよ。今回が特例ってだけ」
ラージャンが相手なら、そりゃあ大剣の方が早く倒せる。でも、だから上手く使えるのかと言えばそれは違う。
それにさ、やっぱりハンマーの方が使っていて楽しいから、これからも俺はハンマーを担ぐよ。
「いや、だってラージャン相手にあのタイムって……まぁ、君のことだからもうそんなに驚かないけどさ。でも、本当に良かったね! 私はもうダメだと思って、どうやってあの子を説得しようかずっと考えてたもん」
そりゃあ、ご迷惑をおかけしました。本当はハンマーでこのタイムを出せれば良いのだけど、それは厳しいからなぁ。だから、もっともっと上手くハンマーを使えるようにならないとだ。
「そ、それじゃあ、私はあの子のところへ行ってくるね。あの子だって今なら私の話も聞いてくれそうだし」
申し訳ないけど、お願いします。
俺の言葉は届かないだろうけど、相棒の言葉ならきっと届いてくれると思う。
そして、とことこと妹さんを追いかけ、走っていった相棒さん。ちょっと心配なところもあるけれど、まぁ、あの相棒なら大丈夫だろう。頼りにしていますよ。
「これからは大剣を担いだらどうです? とは言え、おめでとうございます」
「だから、今回は特別なんだって。そして、ありがとう」
今日も今日とていつも通りの様子の弓ちゃん。
大剣はすごく強い武器だし、ハンマーとはまた違った面白さがある。ただ、飽きるんだよなぁ……俺、個人的な感想ですが。
「……練習しておいて良かったね」
「うん、久しぶりにあの頃のことを活かせた気がするよ」
そう言えばだけど、この二人はこんな状況になってどう思っていたんだろうね? もし……もし、俺がこのパーティーを抜けるとなったらどんな反応をしてくれたのだろうか。
そんなやたらに後ろ向きなことが少しだけ気になってしまった。ただ、なんとなくどんな反応をしてくれるのかは予想できるから、それ以上は考えないように。
言葉にしなければ伝わらないと言うけれど、きっと言葉にしなくとも伝わることがあるはずだから。
それからだけど、あの時、相棒が妹さんへどんな言葉を送ってくれたのか分からないものの、多少はその感情も柔らかなものになってくれたと思う。
ただ――
「貴方のことはやっぱり嫌い!」
だそうです。
心が折れそうだ。ホント、悪いことしたわけじゃないと思うんだが……
んで、妹さんだけど、俺たちのパーティーへは加わらず、これからも基本はソロでやっていくようだ。けれども、俺以外の3人とはそれなりに仲が良いみたいで、一緒に食事をしたり、クエストへ行ったりはしているみたい。俺は誘われたことないけど……
「あの子も、本当に君を嫌っているわけじゃないと思うよ? ただ、あの子って不器用だから、君とどう接していいのかがわからないんじゃないかな」
相棒さんはそう言ってくれたものの、本当のところはどんなものなのやら……嫌われていないと良いんだけどね。
と、まぁ、そんなお話がありました、とさ。
俺、個人的な気持ちだけど、あの妹さんは嫌いじゃない。ただ、それは俺の気持ちってだけ。一方通行な想いなわけです。
そして、それから少しだけ遠い未来。俺がネコになってからこの妹さんが関わるお話がまたあったりするわけだけど……それはまた今度の機会に話をするとしようか。
「あら? やたらと不機嫌そうだけど、どうしたの弓ちゃん」
「あの子、私とキャラ被ってません?」
……うん、それは俺もちょっとだけ思った。
女性キャラしか出ねーじゃねぇか、どうなってんだ
そして、どうやら妹さんも本編に出てくれるみたいですね
そんなにキャラ増やして大丈夫なのかなぁ……
今回のお話で出てきたハメですが、『ラージャン 転倒ハメ』で調べれば動画が出てきいますので、興味がある方は見ていただければ、どんなものかわかりやすいかと
ハメのやり方は簡単そうですが、本編でも書いたようにコツを覚えるまでは意外と大変だったりします
そんなところは蔦ハメにも似ていますね
次話からは本編に戻ってくれそうです
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第39話~自分にできること~
空はどす黒い霧のようなもので覆われ、お世辞にも良い天気とは言えそうにない。安全なベースキャンプは遥か頭上。飛行船は大破し、とてもじゃないがもう使えはしないだろう。それでもって足元は積もり積もった大量の骨だらけ。
そして、これだけの竜の骨を集めた奴が俺たちの飛行船を壊した犯人だったりする。
「え、えと……此処はどこなのニャ? それに飛行船もこれじゃ帰れないニャ……」
現状を理解していないのか混乱状態の飛行船を操縦していたネコ。
まだアイツの姿は見えないけれど、どうせ直ぐに出てくるはず。そしたらまたパニックになるよなぁ……なんとも運の悪いネコだ。
「竜ノ墓場って言われてる場所。危ないから貴方は隠れていて」
そんな言葉を落とした白ネコの様子はいつもと変わっているように見えなかった。この白ネコなら今の状況がちょっとマズいことくらい分かっているはず。それでも、この冷静さは流石です。
今までは乙ることを気にせず挑むことができた。けれども、今回はそれができない。だから柄にもなく今は緊張しているんです。
「……どうしよっか?」
コテリ首を傾げ、白ネコが聞いてきた。
ホント、どうすっかなぁ……ギルドだって俺たちに何か問題があったと気づいてくれるはず。だから、ギルドからの助けが来るまで地面に潜るなり、安全な場所に隠れているのが一番だと思う。それに、今回はいつものクエストと違うんだ。慎重になりすぎるくらいが丁度良い。
この白ネコと俺なら、アイツの撃退くらいならできるだろう。でも、それは相手が下位レベルならって話。もし、上位レベル……つまり、アイツが本気で来たら流石に勝つことは無理だ。
そんなことで滅茶苦茶悩んでいるわけですよ。
「ふふっ、もしかして緊張してる?」
クスクスと笑いながら、白ネコにそんな言葉を落とされた。
……いや、そりゃあ緊張くらいしますよ。だって今回の相手は今作のラスボスなのだから。この白ネコは随分と余裕そうだけど、それはやっぱりアイツのことを詳しく知らないからってことだろうか? そうは思えないけど、何を考えているのやら。
「大丈夫。貴方と私なら倒せる」
これはまた、随分と信用してもらえていることで……
確かに俺だってこの世界のネコの中では上手い方だと思うけど、実際はそんなに上手いわけじゃないんだけどなぁ……
そして、地面が揺れ――轟音を響かせながらアイツが現れた。
逃げることなんてできやしない。
腹、括るしかないんかね?
――――――――――
「うニャ!? な、なんか出てきたニャ!」
積もった骨の地面を突き破り、轟音を響かせながら現れたのは、長い2本の首と骨で覆われた大きな胴体。
最初にこれと戦った時は、私も何がなんだかよく分からなかったなぁ。まぁ、それはゲームのお話だから、今とはまた違うわけだけど。
「……戦うかニャ?」
そして、いかにも緊張していますと言った様子の彼。
それは普段の彼なら絶対にしないようなこと。だから、そのことが少しおかしくて、無意識のうちに私の口からは笑のようなものが溢れた。
「やるだけやってみよ。無理っぽかったら潜れば大丈夫」
どうして彼がこんなにも緊張しているのかというと、多分、彼の予想していなかったことが起きたからってことだと思う。昔からそうだったもん。知らないことは苦手だもんね。
それに、ギルドの援助がないせいで、一度も乙ることができないってことも彼の足を引っ張っちゃってるんだろう。いつもなら、例え3乙したところで、身の安全は一応保証されている。でも、今回は違う。乙ることが直接“死”に繋がっているんだ。
だから、この彼はきっと此処まで緊張してしまっているんだと思う。
「……了解ニャ。ボクも頑張ってみるニャ」
うん、そうしよ。やっぱり逃げるのは嫌だもの。
彼の強みは、この世界でもゲームと同じように動き回ることができること。危険など顧みず我武者羅に突っ込んでいけること。
でも、今回はそれができない。だから、きっと此処は――私が頑張らないといけない場面なんだ。
私は彼ほど、ひたすらに進むことができない。
私はあの娘ほど、上手く戦うことができない。
そんな私だから、彼やあの娘に対して負い目を感じることは沢山あった。
それでも……そんな私でも今だけは頑張ることができそうだ。だって、私もあの彼のパーティーの一員だったのだから。
一乙したら終わり? そんなこといつもと何も変わらない。私はいつだって、どんなクエストだってその想いを忘れることなく、この世界を進んできた。
例えこの世界がどんなにゲームと同じ設定だろうが、それだけは忘れたことがない。
私は彼と違って、この世界がゲームの世界と簡単に割り切れなかった。だからこそ、今できることがあると思うんだ。
さて。それじゃあ、ひと狩りいくとしよう。
「貴方は隠れていて」
多分、戦力にはならないだろうから、飛行船の運転ネコにそんな言葉をかける。流石に潜っていれば大丈夫……なはず。
「ニャ、ニャンターさんたちはどうするのニャ?」
「……アレと戦ってみるニャ」
そして、彼がそんな言葉を落としたところで、オストガロアの咆哮が響いた。
やっぱりモンスターと戦うのは怖い。でも、きっと大丈夫。私と彼なら負ける気はしない。
「それじゃ戦略は?」
「基本はバリスタで。今回はとにかく安全に戦うニャ」
了解です。
ただ、今回だけはお願いだからスイッチ入れないでね。そうなったら流石に止められないもの。
オストガロアの形態は第一段階。つまり、まだ龍っぽい。
けれどもソレは仮の姿。第二形態――つまり、本当の姿は龍と言うよりも、イカとかオウムガイと言った感じ。下位ではその姿になることがないはずだし、そうなったら今の私たちじゃまず勝てない。
でも、もし本当の姿にならないとしたら今の私たちでも十分勝てるはず。それに何より……やっぱり負けたくない。
彼ほどじゃないけど、私だって負けず嫌いなんだ。
「っ! 突進来るニャ!」
「了解」
この状態のオストガロアの攻撃パターンは主に、その巨体による突進と双頭を使った噛み付き、突き上げ。あとは、なんの成分だか分からない青色の液体のブレスと攻撃パターンはそれほど多くない。
だから、そんなに攻撃を喰らうことはないと思うけれど、相手の火力が分からないから、どうにも攻め難い。
オストガロアの突進を躱してから、双頭に向かってブーメランを投げつける。サポゲも溜めたいし、攻撃しないと、今回のメイン火力になるだろうバリスタの弾も落としてくれない。
因みに、オストガロアが突進をしてくるときは、独特の鳴き声みたいなのがするし、本体からオーラみたいなのが出る。突進はなかなかにキツい技だけど、注意していれば躱すのも難しくないかな。
突進が終わって直ぐ、オストガロアがその双頭を振り上げるのが見えた。
「触腕の叩きつけ! 先端を狙ってくれ!」
了解。
ふふっ、余裕がないのかな。口癖治っちゃってるよ?
そんなことが気になってしまうってことは集中しきれてないってことだけど、今はそれくらいが丁度良いと思う。だって、ふたりしてテンパっちゃうのはやっぱりマズイから。
2つの触腕による叩きつけは、オストガロアの正面(本当は真後ろだけど)にいれば当たらない。
そして、叩きつけを避けてから、弱点である触腕の先へブーメランを投げつける。その肉質は……えとえと、60くらいだったかな。
そうやって、ふたりで弱点を攻撃したおかげか、オストガロアは怯み、キラリと何かを落とした。できれば直ぐにでも拾いたいところだけど、もう少しだけ我慢。
「うん? 怯み値が低いけど、これは……」
ぽそりと聞こえたそんな彼の声。
うん、そうだね。いくら弱点にラッシュを叩き込んだと言っても、流石にこれは怯むのが早い。まだ分からない。油断なんてできるわけがない。けれどもこれなら――
「サクッと倒しちゃおっか」
「うん……やれるだけやってみよう」
厳しい状況なのは変わらない。
けれども、希望は見えた。
今までだって沢山ギリギリの状況はあった。そんな状況に慣れたとは流石に言えないけれど……彼と一緒なら負ける気はしない。
小さな身体となってしまった私と彼。でも、その中身が変わらないと言うのなら、今回も勝たせてもらうとしようか。
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第40話~今ばかりは~
身体が上手く動かない。嫌な汗は止まってくれやしないし、呼吸だって上手くできやしない。
それが自分らしくないことくらい分かっている。けれども、状況が状況だけに良い改善策が見つからないんだ。
一乙したら終わり。そのことを考えないようにすればするほど、泥沼のようなものに嵌っていってしまう。
流石にこれは困りました。
さてさて、どうすっかなぁ。怯み値が低いことを考えるに、コイツが下位程度の力な可能性は高い。それなら、俺とこの白ネコが負けることはないだろう。
だからと言って、いつも通り動けるのかと言うとそうじゃあないんだ。
怖いものは怖いのだから。
「……安心して。きっと勝てるから」
「ありがとニャ」
むぅ、先程から白ネコに随分と格好の悪いところを見せてしまっている。よろしいことじゃない。
「怖くて当たり前。それが普通」
あー……まぁ、そうなの、かな? 確かに、今までは自分が安全な場所にいるって思っていたのかもしれない。そんなはずないってのに。
いつからそうなってしまったのかは分からない。でも、ちょっと俺はこの世界を舐めすぎていたんだろう。
そして、そのツケが今になってきた。
「……はぁ」
震える足を無理やり動かし、オストガロアの突進を躱すと白ネコのため息が聞こえた。
「いつも通り戦えとは言わない。そんな状況じゃないことくらい分かるから」
「……うニャ」
多分、呆れられてるんだろうなぁ。どう見たって今の俺は動きがおかしいのだし。
でもさ。やっぱり難しいのですよ。
「無茶して無理して……それでも進むことができるのは貴方の強み。それは私にできないことだし、そのままで良い。それでも、貴方なら大丈夫。貴方はこんなところで止まっているようなハンターじゃない。それに……少しは私を頼ってほしい、かな」
この白ネコは俺がどんな経験をしてきたのかなんて知らないはず。そうだというのに、よくもまぁ、そんなことを言えたものだって思ってしまう。
ただ……うん、ありがとう。君のおかげで身体は軽くなった気がするよ。
随分と格好の悪いところを見せてしまった。きっと今日だけで、俺の評価はどん底まで落ちてしまっただろう。
それで良いさ。
そっちの方が俺には合っているのだから。
けれども、俺だってあのパーティーの一員だったんだ。それならやらなきゃいけないことがあるだろう。
落ちるところまで落ちた俺の評価。あとはもう、上げるだけだ。
「うん、了解。今回はよろしくお願いします」
「お任せー」
短く息を吸ってから、大きくその空気を吐き出す。
いつも通りとはいけない。自分にそれだけの実力がないことも分かっている。それでも、ツギハギだらけの自信を身に纏い、この小さな身体で胸張って行かせてもらおうか。
目を閉じてから、ゆっくりと目蓋を上げる。
その世界にもう色は――
「うニャ!?」
カチリ――と自分の中の何かが噛み合おうとした瞬間。あの白ネコに叩かれた。
んもう、何をしますか。
「そこまでやれとは言ってない」
「あっ、はい」
む、むぅ、なんとも注文の多いネコさんだ。
ただ、手足はもう震えない。だから、この白ネコには素直に感謝。
それじゃ、改めて……
「っしゃ! 行くかっ!」
「おー」
さてさて、そろそろ反撃させてもらおうか。
この状態のオストガロアの攻撃パターンは少ない。いや、第二形態の方も攻撃パターン自体はそんなにないけど……
ま、まぁ、とにかく今の状態のオストガロアの攻撃はそんなに怖くない。それに多分コイツは下位個体。即乙だってしないとは思う。
だからと言って、攻撃なんて喰らいたくもないが。
「潜った! 片方の触腕お願い!」
「りょ」
触腕がふたつ同時に潜った場合は、だいたい突き上げからのビームをグルグル出す、良く分からない攻撃をする。要は好き放題殴ることのできるチャンス。ただ、残念なことに、触腕は先っぽ以外肉質が柔らかくない。
やっぱり狙うなら、叩きつけのあと触腕の先を攻撃する方が良いかも。
「……破壊、完了」
ナイスです。
多分、さっき怯みをとった方の触腕だと思うけど、とりあえず片方の触腕を引っ込めることに成功。これでもう片方を壊せば大ダウンを奪うことができ、弱点を狙える。
ビーム攻撃が終わり、触腕は再び定位置へ。
それなりに怯みを奪っているおかげか、地面にはいくつもの落し物が見える。できれば拾いたいところだけど、もう少しだけ我慢。今回ばかりはノーダメでいきたいから、慎重になるくらいが丁度良い。
定位置にある触腕の攻撃は叩きつけとなぎ払いがメイン。叩きつけは先っぽを殴ることのできるチャンスだけど、なぎ払いが少々面倒くさい。攻撃範囲は広いし、判定時間が長いからフレーム回避も不可。
「なぎ払い! 緊急撤退で!」
だから、なぎ払いが見えたら直ぐに緊急撤退。
ガードをした方が手数は増えるけれど、安全にいきたいんです。
それに、本体というブーメランを投げつけ放題のサポゲ供給機がある。因みに、サポゲは肉質に非依存で、各モーションにサポゲの貯まる値が決まっています。だから、とにかく攻撃を当てれば当てるだけでサポゲは貯まる。
緊急撤退でなぎ払いを躱し、地中から地上へ。
そして、直ぐに触腕の叩きつけ。チャンス到来。
叩きつけられた触腕の先へ白ネコと二匹で猛ラッシュ。其処で、ふたつ目の触腕の破壊に成功し大ダウン。
大ダウンを見てから直ぐ、背中にある虹色に輝いている弱点へダッシュ。大ダウンの時間はそんなに長くないけれど、弱点を殴ることのできる少ないチャンスを逃したくはない。
そんな、むき出しとなった弱点へ二匹で攻撃。
……やっぱり大ダウンの時間が短いから、あまり攻撃できなかったけれど、それなりのダメージは入ったはず。
大ダウンから起き上がったオストガロアは、本体ごと地面の中へ。
「……バリスタ拾う?」
「うん。ただ、突き上げのビームだけは気をつけてくれ」
「了解」
此処までは順調。
ただ、やっぱりいつもと違うせいか、滅茶苦茶辛い。頼むから早く終わってもらいたい。
落し物である、古びたバリスタ弾を限界まで拾い、バリスタが設置されている場所へ。
オストガロアはマップの外周にある水辺に現れ、噴出口から青色の粘液を撃ち出しながら優雅に遊泳中。そんなオストガロアの背中へ先程拾ったバリスタを撃ち込む。
たまに、ピンポイントで青色の粘液が飛んでくるから、その場合は直ぐに退避。
半周ほど遊泳したところでオストガロアが停止。
此処で怯ませることができれば大ダウン。できなければ、今度は青色じゃなく赤色の龍属性のブレスを撒き散らしてくる。
アレをやられるとキツイから、なんとか怯ませたいんだけど……
そんな想いが届いたのか、白ネコのバリスタが当たったところで、オストガロアがまた大ダウンをした。
ナイス!
白ネコのいる場所からオストガロアは近いけれど、俺は位置が真逆。同じ場所でバリスタを使えないのだから仕様が無いけれど、やっぱり面倒くさい。
流石に弱点を殴るのは間に合わないから、代わりに触腕の先を攻撃。殴らないよりはマシと言ったところです。
そして、起き上がったオストガロアは再び地中へ。
いったいどれくらいのダメージが入っているのやら……
「……もうちょっとかな?」
「そうだと嬉しいんだけどなぁ」
心の底からそう思います。
此処まで俺と白ネコはお互いにノーダメージ。どうにかこのままいきたいところだけど……そんなに甘くないことも知ってます。
地中へ潜っていたオストガロアがマップの中央に出現。
そして、開幕時以来の咆哮をあげた。
その瞬間――オストガロアは青色に発光し、景色が一変。
青色の世界へと変わってしまった。
つまり、怒り状態。
でも、それはダメージが通っていたということ。怯んでいる時間はない。悲観することは何もない。
「もう少しだけ頑張ってみるか」
「うん、分かった」
うだうだと悩むのはもうやめよう。
この特殊なクエストが始まってから随分と時間はかかってしまったけれど……漸く面白いって思えてきたのだから。
お前が本気じゃないことは分かっている。お前が本気を出したら、勝てないことも分かっている。
けれども、今ばかりはこの小さな手で――ネコの手で狩らせてもらおうか。
ふふっ、
本当に下らない洒落だけど、どうしてかそんな言葉が面白かった。
「むっ、集中」
「ご、ごめん」
クスクスと笑っているところを見られたのか、白ネコに怒られた。失礼しました。
ただ、もう負ける気はしない。
どうせお前とはまた戦うことになるだろう。だから、どうか今ばかりは負けてくださいな。
怒り状態となったオストガロアの叩きつけ攻撃。ソレを躱してから触腕の先端にブーメランを。怒り状態なため、攻撃力は上がりスピードだって上がった。
とは言え、変わったのはそれだけ。其処に負ける要素はない。
「……ありがとう。お前のおかげで、俺はまた進むことができるよ」
そして、もう一度やってきた叩きつけを躱してから、その先端へ攻撃したところで、オストガロアの悲鳴のようなものが聞こえ、地中へ潜っていくのが見えた。
「……クエスト完了?」
ん~……どうだろうか。
ああ、うん。大丈夫だ。遠くの方へ行くのが見えるし。
「どうやらそうっぽいね。どうにか撃退できたみたい」
今回は運が良かった。もし第二形態になられていたら勝てなかっただろうし。
まぁ、そもそもオストガロアと戦うことになってしまったのだから、運は悪かったって言った方が良さそうだけど。
それはともかく……
「お疲れ様ニャ!」
「うん、お疲れ様」
俺ひとりじゃ絶対にクリアできなかったクエスト。
こうしてどうにか、やり過ごすことができたのはこの白ネコさんのおかげです。ありがとう。
ただ……ホント、今回は疲れました。お願いだから、今後はこんなことが起こらないようにしてもらいたい。
相変わらず知らないことが起きると、もうダメなんです。成長しませんねぇ……
この白ネコには情けないところを見られてしまったし、今後は色々と影響が出てきそうだ。ギルドに見られていないってのは有り難いけれど、やっぱり普通に戦いたいものです。
自分に足りていないものを考えさせられるクエストって言えば、聞こえは良いし、この白ネコともまた仲良くなれたのかなって思う。
だから、きっと得られたものもあったんじゃないかな。そう思うのです。
今頃はきっとご主人だって、ひとりで頑張っているはず。そんなご主人に負けないよう、俺も頑張ったつもりだけど……帰ったらなんて説明しようか。
そして何より――
「……帰り、どうしよっか?」
ホント、どうしようね?
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第41話~一難去って~
「ネ、ネコさん! 大丈夫だった? 怪我とかしてない!?」
白ネコと一緒に飛行船から降り、ベルナ村へ到着するとディノバルドと戦った時のように降り場の近くにはご主人の姿が。
そして、俺たちを心配する言葉を落としてから、2匹まとめて抱きしめられた。
「う、うニャ。ずっと隠れていたからなんとか大丈夫だったニャ」
それは嘘だけど、本当のことなんて言えるわけがない。怒られるのも心配されるのも嫌ですし。
だから、そのことだけは事前に白ネコと話し合っておいた。あと、ずっと隠れていた飛行船を操縦してくれたネコとも。
操縦ネコは、どうしてそんなことをするのか分かっていないようだったけれど、どうにか納得してくれました。
「良かったぁ……クエストから帰って来たらネコさんたちが消息不明になったって聞いたから、すごく心配したんだよ?」
そりゃあ、ご迷惑をおかけしました。
とは言え、アレばっかりはどう仕様もなかったしなぁ。戦いを挑んだのは自ら進んでだけど、あの場所へ落ちてしまったのは俺のせいじゃないし。
「白ネコさんも大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。余裕だった」
ご主人の言葉に白ネコはそう答えた。
うん、そうだね。君はずっと余裕そうだったね。……どっかの誰かさんと違って。
ホント、格好悪いところを見せちゃったよなぁ。まぁ、これからまた頑張って俺の評価を上げていくとしよう。
どうにかして、オストガロアを撃退したわけだけど、それで安心できたかと言うと、そうでもなかった。だって、また何時アイツが帰ってくるのかなんて分からないのだから。
下位相当のオストガロアなら何度来ようが倒すことができると思うけれど、本気で来た場合は勝てない。迎えが来てくれるかどうかも分からなかったし、精神的には撃退した後の方が疲れたかも。
俺はそんな状態だったと言うのに、この白ネコさんったらまぁ、マイペースなのね。
落ちているバリスタの弾で遊び始めるわ。探検してくる。とか言って何処かへ行こうとするわ。疲れたから寝る。とか言ってすやすや夢の世界へ旅立つわと、とにかく自由だった。その余裕は何処から来るのやら……
ただ、そんな白ネコのおかげで気持ちは楽になったと思う。だから、こっそりと感謝している自分がいたり。
それに多分白ネコがそんな行動をしたのも……いや、流石にソレは考えすぎなのかな?
因みに、救助の飛行船は1日も経たないくらいに来てくれました。2、3日はかかるかなぁって思っていたけれど、流石です。
「そんなことより、ご主人のクエストはどうだったニャ?」
「そんなことって……ホントに心配してたんだよ?」
いや、だって結局アイツは下位個体だったわけですし……
そんなもの結果論でしかないけれど、危険なことは何もなかった。ただ俺の恥ずかしい姿を白ネコさんに見られただけです。
「はぁ……うん、クエストはどうにかクリアできたよ。それもネコさんのアドバイスのおかげだね!」
俺のアドバイス? シャガルと戦うことに対してアドバイスなんてしたかな。いや、まぁ、ご主人がそう言うのだから何かを言ったとは思うけどさ。
とは言え、それは良かった。
多分、ご主人がシャガルと戦うのは初めてじゃないんだろう。それでも、慣れない武器――それもハンマーを使い、ソロで古龍を倒すことができたのは凄いこと。これでご主人も自分に自信を持つことができただろうか。そうだと良いけど……
「それは、おめでとうニャ!」
「おめでとうご主人さん」
ソロでシャガルを倒すことができたんだ。これはもうご主人も一流のハンターと言って良い。
そんなご主人の足を引っ張らないよう、俺も頑張らないとなぁ。
「えっ、あ、うん。ありがとう」
あら? ご主人に元気がない。もっと喜んで良いことだと思うけど。
ん~……俺たちのことを気にしているのかな? ホント、そんな気を遣わなくて良いんだけどなぁ……
ああ、そう言えば俺たちもゴアを倒したのか。オストガロアのせいで大事なことを忘れていた。ゴアを倒すことができたのだし、これで俺の防具も新しくすることができる。
「ご主人ご主人、新しい防具と武器を作りたいんだけど、大丈夫かニャ?」
「えと、うん。それはもちろん良いけど、何の装備にするの? あっ、シャガルマガラの素材使う?」
そっか、シャガルの装備も作ることができるのか。
確かにシャガル装備も強いけれど、シャガル防具ってあの天使みたいな見た目になるやつだったよなぁ。
ああ、うん。どう考えても俺には似合いませんね。
「ゴアの素材を使った装備にするニャ」
「うん、了解。白ネコさんはどうする?」
「じゃあ、私はシャガルの装備にする」
あら、白ネコはそっちにするのか。まぁ、シャガル装備――アンヘル防具の方が防御力高いもんね。あと、武器もシャガルの方が強かったはず。
ん~やっぱり俺もシャガル装備の方が良いのかな。ただ、やっぱりゴア装備は魅力的だし……
「貴方はゴア装備の方が似合うと思う」
ゴアとシャガル何方にしようか悩んでいると、白ネコからそんな言葉をかけられた。
あっ、やっぱりそうですか? そうだよなぁ、流石に天使は俺に似合わないよな。この白ネコみたいに真っ白で綺麗な毛並みなら似合うんだろうけど。
「じゃあ、ネコさんはゴア・マガラ装備で、白ネコさんはシャガルマガラ装備ってことで良い?」
「うニャ!」
「うん、お願い」
これで毒と睡眠はなくなってしまうけれど、火力は上がる……はず。いや、水爆と毒ダメを考えると微妙か?
ま、まぁ、とにかく新しい装備なんだ。それだけでワクワクしてくる。
それから、加工屋へ行き素材を渡してから二匹分の装備をお願いした。ネコの装備は早く完成するし、明日にはきっと出来上がっているはず。
新しい装備、楽しみだね。
さてさて、それじゃ色々あったことだし打ち上げをやろうか! なんて思ったけれど、今回色々とありすぎたせいで、龍歴院の研究員への事情説明だのなんだのをさせられることに。
その後も、ベルナ村の受付嬢にギルドを代表してってことで謝られたりなんかも。今回は誰かが悪かったとかそういうことじゃないのだし、俺は気にしてないんだけどなぁ。いや、建前とかそういうのが大切だってことも分かっているけど。
そんなわちゃわちゃがあってから漸く打ち上げ。
「これからの予定はどうするのニャ?」
いつも通りのビールを飲みながらご主人に質問。
ああ、今日もビールが美味しい。
「んと、私も詳しくは知らないけど、龍歴院の人から呼ばれてるんだ。多分、クエストの依頼だと思うからそれをやることになると思うよ」
あら、そんなことがあったんだ。
うむうむ、それだけこのご主人も頼りにされてきているってことかな? それだと嬉しいけど。
でも、そんなイベントがゲーム中であっただろうか。龍歴院のイベントは全部、集会所クエスト関連だった気がするけど。
まぁ、どんなクエストが来ようとも、俺は全力でやるだけです。ガムート戦以来の全員で行くクエスト。きっと新しい装備だろうし、楽しみだ。
そして、次の日。昨日に頼んでいた新しい装備が完成しました。
「……天使と悪魔?」
俺と白ネコの新しい装備を見て、ご主人が最初に落とした言葉がそれだった。
別に狙っていたわけじゃないけれど、うん、確かにそうだね。俺は悪魔と言うより、死神とか亡霊って感じだけど、白ネコのアンヘル装備の隣に立てば、そう思ってしまうのも仕方無い。
「ネコさんってフルフェイスが好きなの? あっ、似合ってるとは思うよ」
「別にそんなことないニャ。ボクの作る防具がたまたまそうだっただけニャ」
俺が好きなネコの防具は、このゴア装備と骸装甲装備。……ああ、うん。どっちもフルフェイスだね。いや、でも、ホント両方良い装備なんだよ?
それにしても、白ネコとは見事に対照的な装備になってしまいました。
そう言えば、あの彼女もオトモにはアンヘル装備をつけさせていたなぁ。そんなことをついつい思い出してしまいます。
「それじゃ、私はちょっと龍歴院に行ってくるけど、ネコさんたちはどうする?」
「ボクは此処で待っているニャ」
昨日ことでまた何か聞かれたら面倒だし。
「私もそうする」
あら、君もですか。
「了解。あまり時間はかからないと思うけど、それじゃあちょっと行ってくるね」
うん、行ってらっしゃい。
良い報告であることを願っているよ。
「……どんなお話をされるのかな?」
ご主人が龍歴院へ向かって直ぐ、白ネコがそんなことを聞いてきた。
「ん~……ボクも分からないニャ。多分、ご主人が言っていたように、何かのクエストの依頼だと思うニャ」
ただ、龍歴院ってことはやっぱり集会所のクエストだよなぁ。まぁ、下位クエストなら大丈夫だと思うけど。
タマミツネとかその辺のモンスターかな? ラギアなんかは苦労しそうだから遠慮したいところです。
「君はどう思うニャ?」
「私もわかんない。でも、そろそろ動き出すんじゃないかな。そんな時期だと思う」
動き出す? なんのことですか?
そんな白ネコの言葉の意味は分からなかったけれど、どうやら何か感じているものがあったってことだと思う。
俺はそんな感じ全然しなかったんだけどなぁ……
それからは、お互いの防具を見てみたり触ってみたりして、ご主人が帰ってくるのを待った。
その天使の輪っかとかどうやって浮いてるんだ? いや、似合ってるとは思うけど。
昔と比べてこの白ネコと二匹だけになっても慌てなくなったと思う。それも多分、お互いに。最初の頃なんて二匹してどう接して良いのか分からなかったもんね。でも、今となっては緊張することもないし、二匹だけでいても苦にならない。
この白ネコはどう思ってくれているのだろうか。
そして、時間にして一時間もしないくらいだと思う。ご主人が帰って来てくれました。
ただですね、そのご主人の様子が少しばかり……てか、かなりおかしいのですよ。顔とか青くなっているし。
「……何があったの?」
白ネコだっておかしいと思ったんだろう。だから、まず白ネコがそんな質問をした。
「その……何から説明したらいいのかわかんないんだけど……」
えっ、もしかしてかなりマズい感じですか? このパーティーがバラバラになるのだけは避けたいのですが……
「うニャ。ゆっくりでも良いから、話してほしいニャ」
「うん、ありがと。そのですね……」
俺が言葉をかけると、少しだけ言葉を落としてからご主人は大きく深呼吸をした。
何を言われたのか分からないけど、そんな反応をされるとこっちまでも緊張してしまう。
「上位ハンターになるための緊急クエストをお願いされちゃったんだ」
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第42話~思い出話はまた今度~
「あっ、えと、正確に言うとお願いされたってより、やってみないかって言われたの」
まだ頭の中で整理ができていないのか、どうにも落ち着かない様子のご主人。
それにしても、上位ハンターになるための緊急クエストねぇ……流石にそれは予想外だ。
とは言え、これは悪いことじゃない。ご主人がどう思っていたのか分からないけど、俺は上位クエストは受けたいと思っていたのだから。それにご主人と白ネコの実力なら、例え上位に行っても大丈夫なはず。
俺がどの程度活躍できるかは心配だけど、どうせなら難しいクエストへ挑戦したい。
「……緊急クエストの内容は?」
そんな白ネコの言葉。
確かにそれも気になります。ゲームなら上位へ上がるための緊急クエストはオストガロアの撃退だった。けれども、オストガロアは俺たちが撃退してしまったわけですし、オストガロアのクエストになるとは考えにくい。
「鋼龍――クシャルダオラの討伐だって聞いてるよ」
ああ、クシャだったのか。
流石に相手は下位個体だろうし、勝てない相手じゃない。俺としてはテオの方が得意だけど、クシャでも問題なしです。因みに、俺が一番苦手なのはナズチだったりします。
テオと違って大技もないし、ナズチと違って妙な戦い難さもない。だから、クシャは良い相手だと思う。
ただ――
「それで、ご主人はどうするのニャ?」
問題はそこです。
俺はご主人が上位ハンターになってくれれば嬉しく思うし、ご主人なら大丈夫だと思う。でも、ご主人がそう思っているのかはまた別のお話。
俺はご主人のオトモなんだ。ご主人が決めた道を一緒に通るだけ。
「どうすればいいのかなぁ……そりゃあ、上位ハンターになりたいって思ってもいるけど、やっぱり自信はないんだ」
あのシャガルをソロで倒したくらいなのだし、自信を持って良いと思うんだけど……
それに、これまでご主人がクリアしてきたクエストだって、そんな簡単なものじゃなかった。上位ハンターになる資格はあるだろうし、ギルドだってそれを認めてくれているはず。
「……私はご主人さんについていく」
「ボクもそうだニャ」
そして、俺と白ネコの言葉。
村クエだってまだやり残したものがあるはず。それを全部クリアしてから上位ハンターを目指しても遅くない。
だから、どうかご主人のやりたいようにやってくださいな。
例えどんな道を歩もうが、俺はご主人の助けとなれるよう頑張るから。
「……うん、ありがと」
いくら我らの団に所属していたと言っても、このご主人に集会所クエストの経験はないはず。そうだというのに、いきなり上位ハンターにならないかと聞かれたんだ。そりゃあ戸惑ってしまうのも仕方無い。
はてさて、ご主人はどんな道を選ぶのやら。
「私はね。ネコさんたちと比べたらやっぱり上手くない」
「……うニャ」
空を見上げながら、ぽつりぽつりご主人が言葉を落とした。
「ここまで来ることができたのも、ネコさんと白ネコさんのおかげ。私はひとりじゃ絶対に無理だったと思う。そんな私が上位ハンターになんてなったら、ネコさんたちにもっともっと迷惑をかけちゃうと思うんだ」
別にそんなことないと思うんだけど……そもそも、俺がこうやって狩りを続けられているのはこのご主人のおかげだ。ご主人が俺をオトモとして雇ってくれたから、またこの世界を楽しむことができている。
そこに感謝をすることはあっても、迷惑をかけられているなんて思うことはない。
そんな俺の気持ちは、届いてくれやしないんだろうか。
それは言葉にしなければ伝わらないことだけど……それも難しいのですよ。素直な気持ちを出すってのは、やっぱり怖いから。
そのことを少しばかり寂しく感じながら、ご主人の顔を見てみたけれど、その表情はよく見えなかった。
そして――
「そんな私だけど……そんな私ですが、これからもついてきてくれますか?」
上げていた顔を俺たちの方へ向け、随分と不安そうな顔をしながら、ご主人はそんな言葉を落とした。
つまり、その言葉の意味は……
「うニャ!」
「私も頑張る」
今回は断っちゃうんだろうなって思っていた。それも仕方無いと思っていた。
けれども、どうやらご主人の気持ちだって俺に届いていなかったらしい。
とは言え、きっとまだまだ時間はあるんだ。俺はネコでご主人は人間。その間にある壁は厚く大きなものかもしれないけれど、少しずつでも近づくことができるんじゃないかって思う。
「ありがとう。頼りないご主人かもしれないけれど、これからもよろしくね」
そう言ったご主人は何処か恥ずかしそうにしながらも、笑ってくれた。
そんなご主人の笑顔が、やたらと魅力的に見えてしまうのも仕方の無いことだと思う。
此方こそ、これからはあまり力になれないかもしれないけれど、精一杯頑張るのでよろしくお願いします。
「よしっ、それじゃ私は、龍歴院に行って緊急クエスト受けますって言ってくるね!」
うん、行ってらっしゃい。
あっ、でも、そのクエストに俺たちもついて行って良いのかな? 以前、ご主人が集会所でもソロなら二匹までオトモを連れて行けるとは行っていたけど……
てか、もういっそのこと、俺と白ネコはニャンターとして登録してもらった方が良いと思う。そうすれば、あの相棒が来たときでも皆で行けるわけですし。
まぁ、それは無事ご主人が上位ハンターとなってから考えることか。今は目の前のクエストに集中しないと。
「……貴方は武器どうする?」
ご主人が龍歴院へ走っていって直ぐ、白ネコさんが声をかけてきた。
あー……武器はどうしようか。今の俺の武器はランタンofキャットと龍属性の武器だから、クシャとは相性の良い武器。でも、睡眠武器で一回でも眠らせた方が美味しい気もするんだよなぁ……
「君はどうするのニャ?」
「私は前の武器に戻そうと思ってる」
まぁ、そりゃあそうか。
白ネコの新しい武器――THEキャットハートも龍属性の武器だけど、クシャと戦う時、やっぱり毒武器はほしい。
あーうー。これはなんとも悩ましいところだ。睡眠と龍属性攻撃、どっちも捨てがたい。
それはつまり、裏を返せばどっちでも良いってことなんだけどさ。
ん~……よし、決めました。
「えと……じゃあ、ボクも前の武器に戻すニャ」
水爆を含めても、ランタンofキャットのダメージを出せるか分からない。けれども、眠らせればその間に武器を研いだり回復することもできる。だから、そっちの方が良いのかなって思った。
せっかく新しい装備を作ったのだし、どうせなら一式になりたいっていう気持ちもあるけど、少しばかり我慢するとしよう。
それにしても、クシャが相手かぁ……行動によっては全然降りてくれない時があるから、本当なら持てるだけの閃光玉を用意したいところだけど、ご主人、閃光玉持ってるかなぁ。
ネコが閃光玉を投げられれば一番だったんだけどね。それか、投げるブーメランの角度を変えられるとか。いや、まぁ、できないことを願っても仕方無いのですが。
作戦……と言うほどでもないけれど、どんな武器でクシャと戦うのか決めた後、ご主人が戻ってくる前に自宅へ戻り、武器の変更。
今の俺はゴア防具にホロロネコパラソル。正直、あまり似合ってない。やっぱりネコは一式装備が一番か。ハンターみたく、複合防具じゃないとやってられないってわけでもないですし。
そして、武器を変えてからまたベルナ村の広場へ。
「あれ? ネコさんたち、武器戻しちゃったんだ」
「うニャ。クシャルダオラならこっちの武器の方が良いと思ったんだニャ」
丁度良いタイミングで戻ってきてくれたご主人。その表情はもう不安そうに見えなかった。
大丈夫、ご主人の実力があればクシャくらい……って、ああそうか、我らの団に所属していたのだろうし、ご主人ってクシャと戦ったことあるのかな。MH4Gはそんなシナリオだった。
まぁ、アレは錆クシャだけど……
そして、ご主人には色々と聞かないとだ。我らの団のこととか、そういうことを。オストガロアのせいで、その機会を失ってしまったけれど、きっとご主人にだって沢山の物語があったはず。
無理して話してもらうほどじゃないけど、できればご主人の物語を聞いてみたいかな。
そんなご主人の話を聞けば――俺も自分のことを話せるような気もする。
……自分のことはずっと黙っていようと思っていた。けれども、最近はそのせいで上手く動けないことばかり。
だから、もういっかなって思うんだ。だって、身動き取れなくなるよりはよっぽど良いと思うから。
「ん~……私はよくわかならないから、ネコさんたちに任せるよ。あっ、それでクエストだけど準備ができ次第出発してくれって。私はいつでも行けるけど、ネコさんたちは?」
「ボクはいつでも大丈夫ニャ」
「私も」
あら、これは直ぐに出発することとなりそうだ。あと、俺たちがついて行っても問題はないみたいだね。
さてさて、いくら相手が下位モンスターと言っても、古龍種で集会所クエスト。これは気合入れて頑張らないとだな。
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第43話~練習ってことで~
「うーん……やっぱりこっちの地方は寒いね」
「ボクはネコだから大丈夫ニャ」
現在はクシャのいる雪山目指し、飛行船で移動中。そんな中、あの白ネコはいつも通り眠っています。暇さえあればあの白ネコは眠るんだ。
今回の相手はあの古龍だけど、ご主人もクシャと戦ったことがあるみたいだし問題なく倒せると思う。なんとも曖昧な記憶だけど、ご主人が装備しているザザミ一式で即乙はないはずだし。
「いいなぁ。私も今ばっかりはネコになりたいよ」
いや、そんな良いものでもないよ? 小回りは利くし、スタミナも無限だから動きやすいけれど、やっぱり俺はハンマーを振り回したいです。
「ネコさんに言われたから、閃光玉を調合分と強走薬を持ってきたけど、何に使うの?」
「閃光玉はクシャが飛んだ時で、強走薬は切らさないようずっと飲んでおくと良いニャ」
流石に調合分まで使うか分からないけど、閃光玉は持っていて悪いことじゃない。俺と白ネコは閃光玉を投げられないわけですし。それに、このパーティーじゃ飛んだクシャには何もできないんです。
んで、ハンマーでクシャと戦う時、強走薬があるとすごく楽になる。本当はどんなクエストでも強走薬を飲んでおいた方が良いけれど、そんなポンポン手に入る物じゃない。でも、まぁ、こんなクエストくらいは良いと思うんだ。
「うーん、別にスタミナが切れて困ったことはないんだけど……」
「今回は特別ニャ。クシャが飛んでいない時は、ずっと溜めていた方が良いから、スタミナが足りなくなるのニャ」
その扱い難さに定評のあるハンマーだけど、良いところだってちゃんとある。
そのひとつが、溜めながら歩けること。有り難いことに、ハンマーで溜めている時は風圧が無効になるんです。だからクシャみたいに、常時風圧を喰らうようなモンスターと戦う時はずっと溜めているくらいの気持ちでいくと楽に戦える。
「あと、以前も言ったように、無理して頭を狙うんじゃなく、振り向きを狙うと戦いやすいニャ」
クシャの場合は特に、そんな感じでいった方が良い。下手に後ろ足なんかを狙うと事故が起きる。
クシャの頭が小さいせいで狙い難いけれど、頭破壊による龍風圧解除と頭怯みの大ダウンがかなり美味しい。
「あっ、うん。その感じはシャガルマガラと戦った時になんとなく掴んだよ」
おろ、そうなんだ。
ああ、それで以前、俺のアドバイスのおかげ。とか言っていたのか。
とは言え、それは良いことだ。綺麗に振り向いてくれるモンスターは減ってしまったけれど、ハンマーの基本はやっぱり振り向きを狙うことだと思う。そして何より、振り向きへホームランの気持ち良さは本当にすごい。
「とりあえず、基本は溜めてて、クシャルダオラの頭をずっと狙うって感じで良いのかな?」
「うニャ。そうすればサクッと倒せると思うニャ」
これでクエストをクリアできれば、晴れてご主人も上位ハンター。
勢いそのままに止まらず突き進んで行こうか。
「うう、やっぱり寒い……」
「ホットドリンクを飲むニャ」
日が完全に沈んだところで雪山に到着。
太陽が出ていないせいで、今日は余計に寒く感じる。まぁ、ネコである俺にはそれほど関係ないけど。暗くてちょっと戦い難いかなってくらいだ。
「……クシャの初期エリアは8」
「うん、ありがとう白ネコさん」
寝起きのせいかまだボーッとしているように見える白ネコ。
この白ネコのことだから大丈夫だと思うけれど、クエスト中はお願いしますよ。クシャ戦で毒武器を担ぐ人は重要ですし。
支給品ボックスの中にはホットドリンクや毒投げナイフ。そして閃光玉。
さらに村クエと違い、応急薬や携帯食料は4人分。とは言え、俺と白ネコはアイテムを使えないため全部ご主人のアイテムポーチの中に。
「よし、準備完了! それじゃ、行こっか!」
「うニャ!」
「おー」
ホットドリンクを飲んでからご主人が大きな声を出した。クエストスタートです。
「エリア8ってガムートと戦った場所だよね?」
「うニャ。一番高い場所ニャ」
雪山は本当にそれが面倒なんだよね……
だから、連戦をするときは雪山より氷海の方が俺は好きです。雪山でキャンプスタートの時の面倒くささはなかなかのものですし。
以前、ご主人さんの次に俺が崖を登ろうとしたら怒られたことがあった。だから今回は、ご主人に続いて白ネコが登ったところで俺が登ることに。
俺だって、見ようとして見ていたわけじゃないんだけどなぁ……
そして、クシャの待つエリア8へ到着。
風が、強い。
「……行きますっ!」
クシャの影響で、いつもよりずっと風が強いし、舞い踊る雪のせいで視界も良くない。
一応、俺もこの世界でクシャと戦ったことはあるけれど、油断はできません。気を引き締めていこう。
クシャを見つけて直ぐに、ご主人が持っていた毒投げナイフをクシャへ投げつけた。
そのことで俺たちに気づいたクシャの咆哮。
風が、さらに強くなった。
「真正面はブレスと突進が来るから、少しだけ軸をずらして立ち回るニャ!」
「了解です!」
咆哮をしたクシャは直ぐにご主人へ向かって突進。
まずは頭破壊を最優先に。中距離で立ち回るブメネコなら風圧の影響は受け難いけれど、龍風圧で事故るのを避けたい。
「投げナイフ終わったから、私も攻撃するね!」
「……ありがとう。頭をお願い」
ご主人の毒投げナイフのおかげでとりあえず、クシャは毒状態に。これで毒状態が続く120秒は龍風圧を防ぐことができる。あとは、白ネコがその毒状態を何処まで維持できるかが重要。お願いしますよ。
さて、俺もさっさと眠らせて爆弾を頭へ入れさせてもらおうか。
本当は、俺も頭を狙いたいけれど、サポゲが貯まるまではとにかく何処でも良いからブーメランを当てる。
「あっ、飛んじゃった。え、えと、閃光玉投げます!」
よろしくお願いします。
突進から、振り向きブレスをして飛び上がったクシャ。飛ばれると本当に何もできないから、ご主人さん頼みです。
まぁ、正直なところ、前作よりもクシャの滞空時間が減ったから、閃光玉無しでも十分戦えちゃったりします。だから、今回は閃光玉を使う練習っていう思いだったり。
此処で閃光玉を上手く使えるようになれば、この先で役に立つことは必ずある。
飛び上がったクシャが俺めがけてブレス。
そして、ソレを躱した瞬間、視界が真っ白に。
「……ぐぅれいと」
「おっ、おおー、成功した!」
視界が戻ると、其処には空中から叩き落とされたクシャの姿。
何度か失敗するだろうと思っていたのに、流石です。
「ああもう! 頭、動きすぎだよ……」
バタバタと暴れるクシャの頭へご主人が一生懸命ハンマーを振り下ろしていたけれど、見事に三振するのが見えた。
まぁ、こればっかりはなぁ……俺もコイツは良く三振するし。
ダウンから起き上がったクシャは未だピヨり状態。其処で一気にサポゲを稼ぎ、ブメ2種発動。
クシャの睡眠耐性はキリンと同程度。多分、2回くらいなら問題なく眠らせられるんじゃないかな。
ピヨりの解けたクシャは怒り状態となり、風圧を身に纏った。とは言え、まだ毒は続いているし、動きが速くなるくらいであとは特に問題なし。
「あっ、ヤバ……」
な~んて、思っていたらクシャのブレスがご主人に直撃して、吹き飛ばされていくのが見えた。
いくら戦いやすい相手とは言え、ノーダメはやっぱり無理か。突進も出が早いせいでよく引っかかった覚えがある。
ブレスを喰らったご主人は氷ヤラレ状態になります。けれども、強走薬を飲んでいるので、問題なし。やっぱりクシャが相手の時は強走薬があると楽だよね。ホットドリンクもいらなくなるし。
「ごめん! 回復するからちょっとお願い!」
了解。任された。
吹き飛ばされたご主人を巻き込まないよう、ご主人から離れた位置でブーメランをクシャへ投げつける。あまりヘイトを稼ぎたくないけど、今ばかりはこっちを狙ってくださいな。
そして、俺のブーメランがクシャの後ろ脚に当たったところで、ゆっくりとクシャが倒れた。
「寝た! 攻撃ストップニャ!」
睡眠時間は……40秒だっけ? よく覚えてないや。まぁ、できるだけ急ぐとしよう。
「えと、爆弾を置けばいいんだよね?」
「うニャ。あと、爆弾を置いたら、武器を研ぐと良いニャ」
流石にそのくらいの時間はあると思う。
クエストが始まってから、此処までで5分ほどが経過。白ネコのおかげで毒も維持できているし、これで爆弾のダメージも入る。スタンもそろそろ狙えるだろうし、其処で頭も破壊できるだろう。
「準備完了です! 起爆お願い」
「……おまかせー」
爆弾を起き、武器を研いだところで、白ネコがブーメランを投げつけて起爆。本当はご主人に爆風を利用して、ジャスト回避からのカチ上げを決めてもらいたいところだけど……流石にそれは厳しいか。
それに此処まではかなり順調に来ているんだ。変なことはやらないようにしよう。
それにしても、ネコって思っていた以上にクシャと戦いやすいんだね。あの小さな頭を狙うのは大変だけど、攻撃は喰らう気がしないし、頭を諦めればかなりの手数を出せる。飛びさえしなければ、かなり楽に倒せそうだ。
でも、やっぱりハンマーを使いたいよなぁ……
さてさて、無理なことを願っても仕様が無いんだ。此方のペースのまま、一気に倒させてもらうとしましょうか。
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第44話~この特別な日に~
クシャルダオラと戦うのは、これが初めてじゃないし、あのドンドルマの戦闘街で戦った時もソロじゃなく、パーティーでの戦いだった。
あの時は大変だったなぁ。それまでクシャルダオラと戦ったことなんてなかったから、どう戦って良いのか分からなかったし、かなり危ない時もあった。
そして、今もこうしてまたクシャルダオラと戦っている。上位ハンターになるための緊急クエストってことで。
最初に戦った時は本当にキツかった。どうにか撃退することはできたけれど、もう一度やってまた撃退できるか分からない。
そんなんだから私はクシャルダオラがどうにも苦手だったんです。
私にとってクシャルダオラはそんな相手。そんな相手なのだけど――
「ブレス来るニャ!」
うん、了解。
ネコさんに言われた通りに、基本は溜めながら移動。そして、ブレスを吐き終わったクシャルダオラの頭へ溜めていたハンマーを振り下ろした。
「ナイスニャ!」
そこで、今日一回目のスタン。
クシャルダオラは苦手だと思っていた相手。けれども――今は負ける気がしない。
あの時と使っている武器も違うし、場所も違う。そして何より、パーティーのメンバーが違う。だから、あの時と同じわけがないんだけど、何と言うか……私も成長できているのかなって思えて、それが嬉しかった。
それにしても! ダウンしたクシャルダオラの頭は叩きにくい!
んもう、なんだって、こんなにバタバタ動くのさ。せっかくスタンを取れたのに攻撃が全然当たらない。
「……全部、当てようとするんじゃなく、最初の振り下ろしが当たるようにだけ意識して。そうすれば流れで全部当たるから」
「えっ、あ、うん。了解です」
あまりにも私の攻撃が当たらなかったからか、白ネコさんからそんなアドバイスをもらってしまった。
とりあえず言われたように、バタバタと動く頭をしっかりと見て、最初の振り下ろしを当てるように意識。
1発目ヒット。続いて、2発目も。そして――グルリと回ってからのホームランもまるで吸い込まれているんじゃないかってくらい綺麗に当たってくれた。
「ぐぅれいと」
ありがとう。
な、なるほど、こういうこともあるのか。勉強になります。
「あと、もう少しだと思うから、頑張るニャ!」
大丈夫、私はまだまだ戦えるから。
それにしても……ホント、君たちは何者なんだろうね? 相手はあの古龍クシャルダオラ。そんな相手だと言うのに、私たちが圧倒している。
相手が弱いわけないし、私ひとりじゃ絶対にこうも上手くいかない。ここまで上手くいっているのはどう考えたって、このネコさんたちのおかげ。
いつか、いつの日か……私は君たちのお話も聞きたいかな。
頭破壊も完了し、ついにクシャルダオラは脚を引きずった。
私は何度かブレスや突進を喰らっちゃったけれど、危ない場面はほとんどない。一方、ネコさんたちが攻撃を喰らっている姿は見ていない。
分かっていたけど、私とレベルが違う。
「寝た! ストップニャ!」
そして、今にもエリアを移動しようとしていたクシャルダオラがネコさんの攻撃によって3回目の睡眠。
えと……もう爆弾はないんだけど、どうすれば良いのかな?
「ご主人、ご主人。此処に立つニャ」
どうすればいいのか分からず、おろおろしていると、そう言ってネコさんがクシャルダオラの顔の前でぴょんぴょん跳ねた。かわいい。
よく分からないけど、ネコさんに言われた通り、私もクシャルダオラの顔の前に。
「うニャ。それで反対側を向くニャ」
反対? 何が何だかさっぱりです。
でも、とりあえずネコさんの指示通り反対側を向き、自分の身体の右側にクシャルダオラの頭が来るように立ってみる。
「オッケーニャ。それで後はその場所でホームランをすると完璧ニャ」
い、意味が分かりませんぞ。
だって、私はクシャルダオラに横を向けているから、いくら此処で攻撃しても当たらない。
「……とりあえずやってみて」
「あっ、はい」
白ネコさんにまで言われたら仕方無い。
ホント、どういうことなのやら……
何が何だかわからないまま、ハンマーに力を込めてホームランを出すために、一度ハンマーを振り下ろす。もちろん攻撃はクシャルダオラに当たらない。
「そのまま続けるニャ」
う、うーん。これ、やる意味あるのかなぁ……
ネコさんの言葉を聞きながら、もう一度ハンマーを振り下ろす。でも、やっぱり攻撃は当たらない。
もうどうとでもなれって思いながら、グルリと回ってそのままホームラン。
そして――そのホームランがクシャルダオラの頭へ直撃した。
「ナイスニャ!」
えっ。
「……クエスト完了」
え?
白ネコさんの言葉を聞いてから、クシャルダオラを見ると、確かに、くたりと横になってもう動くこともなさそうだった。
つまり、クシャルダオラ討伐完了。上位ハンターとなるための緊急クエストクリア。
「え、えと、ネコさん? 最後のは……」
討伐したクシャルダオラから剥ぎ取りをしながらネコさんに聞いてみる。
ホームランが当たったのは良いけど、何が何だか私には分からなかったし。
「えと、なんとなくご主人も分かってると思うけど、ホームランは縦振りと違って、自分の身体の右側から出す攻撃ニャ」
あー、そう言えば、そうだったね。そのせいで、私の右側に立っていたネコさんを何度か吹き飛ばしちゃったこともあるし。
「それで、睡眠中のモンスターに与える最初の攻撃はダメージが大きいニャ。だから、ハンマーで一番威力が高いホームランだけを当てるために、言ったんだニャ」
ほえー。それはまた……
なんだろう、上手い言葉が見つかりません。
「寝たときは基本的に、爆弾で良いけど、ああやって叩き起こすのもありだニャ」
そんなこと考えたこともなかった。べ、勉強になります。この知識をまた使う場面が来るのか分からないけど……
「……これで上位ハンター。おめでとうご主人さん」
「おめでとうニャ!」
ありがとう。それも君たちのおかげだよ。
やっぱり私ひとりじゃこんな場所まで来ることなんてできなかったもの。
そして、上位ハンターかぁ……つまりこれからは上位のクエストを受けなきゃいけないってことだよね。ソロ用のクエストばかりを受けてきた私が上位クエストなんて大丈夫なのかな。
な~んて、不安はやっぱりあるけれど……このネコさんたちがいれば、きっと大丈夫だと思う。
だから、これからもよろしくね。
「よしっ、それじゃ、帰ったら打ち上げしよっか!」
「うニャ!」
「りょー」
どこまで進めるのかなんて分からないけど、行けるところまで行ってみよう。
――――――――――
クシャルダオラを倒してからベルナ村へ。
これで私も上位ハンターとなったわけだから、表彰だったりギルドマスターの有り難いお話とかあるのかなぁ。なんて思っていた。
けれども、そんなことはなく『上位ハンターおめでとう。これからも頑張ってくれ』くらいしか言われませんでした。
面倒なことにならなくてそれは嬉しいけど、何と言うか拍子抜けって感じ。本当にこれで上位ハンターになれたのか実感も湧かない。
「ご主人、ご主人。お酒が飲みたいニャ」
「打ち上げー」
「あっ、うん。そうだね。よし、せっかく上位ハンターになれたんだし、今日は豪華にいこっか」
そして、相変わらずのネコさんたち。ネコさんはよく、白ネコさんがマイペース過ぎて困るってボヤいているけど、私から見れば君もなかなかだと思うよ?
何かが大きく変わったように思えてしまうけれど、実のところはそんなに変わってないってことなのかな? それがいいことなのか、悪いことなのかは分かりません。
今日は無事、上位ハンターになることができた特別な日。
そんなことで、普段は使わない高級お食事券を使っていつもよりもずっと豪華な打ち上げとなった。
どうにもふわふわとしてしまって、これが現実なのか、夢なのかも分からないくらい。そして、そんな生活はここベルナに来て――ネコさんと出会った時からずっとずっと続いている。
流石に私だって分かる。ネコさんがただのアイルーなんかじゃないってことくらい。ただ、それを聞いていいのかが分からなかった。
でも、少しだけ特別な今日というこの日。期待してしまうのです。
もう長い付き合いとなったネコさんが私に話してくれるんじゃないかって。そう期待してしまうのです。
打ち上げも終わり、帰宅。
いつもなら、直ぐに寝てしまうところだけど、どうにもその日は寝ることができなかった。いつもより、お酒だって沢山飲んだ。でも、酔っている感じはしないし、疲れているはずなのに、全然眠くない。
そんな状態で、目を閉じボーッとしていると、隣でゴソゴソと何かが動く気配。
そして、誰かが家の扉を開け、静かに静かに出て行くのが分かった。
目を開け、隣を確認。
そこには、スピスピと気持ちよさそうに眠る白ネコさんが薄暗い視界の先に。
でも、見えたのは白ネコさんだけ。つまり、ネコさんがいない。
トクリ――と私の中の何かが跳ねた。
きっとここで動かなきゃ、また色々と理由をつけて私は動かない。だから、私は動くことにしました。白ネコさんを起こさないよう、そっとそっと。
起き上がってから、静かに扉を開けると心地良い夜風が家の中に。
もう私は止まらない。進め。
ネコさんがどこへ行ったのかは分からない。でも、確信を持って私はオトモ広場へ向かった。どうしてなのか私も分からないけど、きっとネコさんはそこにいるって思ったから。
そんな私の予想は当たり、オトモ広場にある大きな石の上、ネコさんがいた。
「うニャ? あっ、もしかしてボクが起こしちゃったかニャ?」
照らしてくれるのは月明かりだけ。ネコさんも黒い装備だから、こんな夜じゃその姿は目立たない。
そうだと言うのに、ネコさんの姿ははっきりと見えた。
「ううん、今日は寝られなかったんだ。だから、私もちょっと夜風に当たろうと思って」
「了解したニャ」
そんな言葉を交わしたところで、私はネコさんの隣に座った。
夜風に晒された石はやたらと冷たく感じる。
「ネコさんはどうして外に?」
聞きたいことが沢山あった。
けれども、やっぱり私にはそれを聞く勇気がないんです。ここまで来ておいて、止まってしまうんです。
「ボクはちょっと寝られそうになかったから、抜け出したんだニャ」
そっか。
もう長い付き合いになると言うのに、私の心臓は暴れっぱなし。
あれ? 私ってネコさんといつもどんな会話をしてたっけ。
そんなことすら分からないや……
目を閉じてみました。
少しだけ肌寒いかなってくらいの風がそよぎました。聞こえるのはバクバクと暴れる私の心臓の音ばかりです。
そんな自分を落ち着かせるため、一度大きく深呼吸。
「ふふっ、夜の空気もまた美味しいニャ」
笑いながら落としたネコさんのそんな言葉が聞こえた。
そうだね。これは昼間とはまた違った空気だ。
……うん。少しだけ、勇気を出してみようかな。
「……ねぇ、ネコさん」
「うニャ?」
いきなりネコさんのことを聞くのはやっぱり無理。
それは無理だけど。
それは無理だから……
「私さ。このベルナ村に来る前からハンターをやっていたんだ」
まずは自分のことから話してみようと思う。
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第45話~距離を縮めて~
詰まって出てくれないと思っていた言の葉は、あっさりと出てきてくれた。
柔らかな夜風がそよぐ。
その風に乗った草の香りが僅かに私まで届いてくれた。
はい、言っちゃいました。言ってやりました。
流石に、今の言葉をなかったことにはできない。もしかしたら、これで私とネコさんの関係は崩れてしまうのかもしれないし、やっぱり自分のことを話すのは怖い。
でも、もう戻ることができないというのなら、私はこのまま進むしかないんだろう。
「……そっか」
そして、私の言葉に対してネコさんはそんな返事をしてくれた。
何を言われるのかな? これからどうなってしまうのかな? 今の私にはそんな不安ばかり。怖いなぁ……
それでも、私はこのネコさんに聞きたいことが……聞かなきゃいけないことがあるんだ。
ネコさんたちの手を借りずにシャガルマガラを倒すことができた。
クシャルダオラを倒して上位ハンターになることもできた。私はちゃんと前に進むことができている。それでも、私とこのネコさんとの距離は変わらないまま。
きっとこれから先、私ひとりじゃ止まってしまう。
そんな私にはこのネコさんがいないとダメなんです。だから、もう少しだけ勇気を出してみようと思う。
「それでさ、ネコさんは――貴方は誰ですか?」
それはずっとずっと聞きたかったこと。
随分と時間がかかってしまったけれど、それを漸く私は聞くことができた。
「……そだね。そろそろ自分のことを話すには良い機会、だよなぁ」
そう言ったネコさんの表情はやっぱり見えやしなかったけれど、多分、笑ってくれていたと思う。
「別に信じてくれなくても良い。夢だと思ってくれて構わない。ボク……俺だってこれが現実だとはどうしても思えないから」
いつもとは違う口調のネコさん。
でも、きっとこれがこのネコさんの“素”なんだろう。
「……それでも、話してくれると私は嬉しいな」
「ふふっ、了解」
ネコさんの肩が僅かに揺れた。
「俺もさ。このベルナ村に来る前からハンターをやっていたんだ。ネコじゃなく――人間として」
そして、何処か嬉しそうにネコさんはそんな言葉を落としてくれた。
ネコじゃなく、人間として。
それはとてもじゃないけれど、信じられるようなことではなかった。そうだというのに、どうしてか疑問とか否定とかそんな気持ちはなく、ストン――と私の中へ落ちてくれた。
それくらいこのネコさんは、私にとって不思議な存在だったってことだと思う。
「あと、まだ俺が人間だったときは、あの操虫棍のハンター……まぁ、あの相棒と同じパーティーのメンバーだったよ」
……そっか。そうだったんだ。
このネコさんはあのハンターさんと同じパーティー…………はい?
「ちょっと待って!」
「あっ、はい」
ちょ、ちょっと待ってください。
えっ……え? あのハンターさんと同じパーティー? このネコさんが?
「そんなの聞いてない!」
「だって、言ってないし……」
まぁ、そうだけど……いや、そうじゃなくてっ!
このネコさんが元人間ってことはまだわかります。いや、よくよく考えると意味わかんないけど、そっちのことはいいの。そんなことよりももっと大きな問題があるわけです。
だ、だって、あのハンターさんと同じパーティーだったってことはつまり……
「も、もしかして、ハンマーを使っていましたか?」
「あっ、うん。はい」
やっぱりそうですよね!
つまり、このネコさんは行方不明になったあのハンマー使いのハンターさんで、私はそのハンターさんに憧れてハンマーを使い始めたわけで、それを私は何度も何度もこのネコさんに話してしまったわけで、尊敬しているとかカッコイイとか、挙げ句の果てには好きとまで言ってしまった記憶があったりなかったりするわけで……
穴掘ってください。入ります。私が。
「なんで? いや、ネコさんは何やってるのさ!」
「そ、そんなこと言われても、俺だってなりたくてネコになったわけでもないし……」
うわぁ、うわぁあ……
え? こういう場合、私はどうすればいいんですか? 相手はあの伝説のハンターさんで、そんなハンターさんに対してかなり失礼なことだったり……てか、私なんかのオトモをしちゃってるよ! すごい! 私のオトモすごいぞ!
いやいや、そんな場合じゃなくて、むしろそんなすごい人が私のオトモをやっちゃってることが問題で。
「え……じゃ、じゃあ、あの操虫棍のハンターさんとすごく仲が良く見えたのも……」
「うん。俺からは言ってないけど、なんかバレちゃったみたいだから」
そうですよね! 同じパーティーの仲間ですもんね! そりゃあ仲がいいよね!
お、おかしい。こんな予定じゃなかったのに、どうしてこうなった。
私としては、優秀なハンターさんのオトモをやっていた。くらいにしか考えていなかったのに、そんな予想の遥か上をいってしまった。
元人間ってのは意味わかんないし、それでもってあの伝説のパーティーのひとりとかもうホント意味がわからない。
そんなハンターさんが私のオトモで、雑談をしながら一緒に茸の採取をしたり、ふたりでボーっと釣りをしたり……
と、とんでもないことを私は……
「え、えと……じゃあ、ネコさんはやっぱりドンドルマへ行くのですか?」
そういうことになりそうだ。
このネコさんにはそれだけの力があって、きっと多くの人たちがネコさんの――あのハンターさんの帰りを待っているのだから。
そうだというのに
「え? いや、戻らないよ。これからもご主人のオトモを続けるつもりだけど……あー、やっぱり迷惑だったりする?」
なんてネコさんは言いました。
いやいや、迷惑だなんてそんな……本当なら、私みたいなハンターがこのネコさんに例えお願いしたって一緒にクエストへ行ってくれることなんてない。
このネコさんは上位のさらに上――G級のモンスターをバシバシ倒してしまうようなハンターなんです。ネコさんたちのパーティーはあの蛇王龍を倒し、巨戟龍ですら倒した。
つまり、この世界を二度も救ってくれたハンター。
そんなハンターさんが私のオトモって……
「迷惑では、ありません。ネコさんには感謝してもしきれないくらい。でも、やっぱり貴方は私なんかのオトモでいていいような人じゃ……」
「いや、今の俺、ネコだし昔ほど頑張れないぞ? それにあの相棒や弓ちゃんがいるんだ。あのふたりがいれば俺がいなくても大丈夫だよ」
そう言ってから、ネコさんはまた笑った。
う、うーん。この人なら、今のままでも充分活躍できそうだけど……それくらい上手いし。
「で、でも、また伝説級の古龍が現れた時、貴方がいないと……」
「大丈夫。その時はご主人と一緒に俺も頑張るから」
すごい、極々自然な流れで世界規模の災害に巻き込まれた。流石はあのハンターさんだけある。全くもって冗談に聞こえない。
「私にはそんな実力が……」
「ん~、ご主人なら大丈夫だよ。何度も言ってきたけど、ご主人にはそれだけの実力があるし。それにさ、俺だってまだまだ上手くないんだ。だから、一緒に頑張ろう。そのために俺も全力でサポートするからさ」
そう、なのかなぁ……やっぱり私にはそんな自信が全くないのだけど。
ただ、あのハンターさんにそう言われたことはやっぱり嬉しかった。例え、それがお世辞だとかそういうことだとしても。
「だから――これからもご主人のオトモを続けさせてもらえますか?」
そして、ネコさんのそんな言葉。
……ホント、私は幸せ者だ。きっと、こんなことを言われるハンターは私以外にいない。このネコさんとパーティーを組みたいハンターは数え切れないほどいると思う。
でも、あのハンターさんから、そんな言葉をかけてもらえるハンターは絶対に多くないのだから。
「……本当に私でいいのかな?」
「もちろん。それくらいご主人のことは信頼しているし頼りにしている。それに、ご主人のことはその性格のことや色々なことを含めて……好きだよ」
それは、どう考えたって私なんかにもったいない言葉。
そうだというのに、ネコさんはそんな言葉を私にかけてくれた。
ホント、昔から私は仲間に恵まれてばかりだ。そんな私でも成長できるのかな? 成長できるといいなぁ。
やっぱり、私なんかがこのネコさんと釣り合う訳はないって思う。それでも、ネコさんにここまで言ってもらっちゃったんだ。それなら私は頑張らなきゃいけないし、頑張れるんじゃないかなって思う。
「うん、わかった。それじゃあ……これからもよろしくね、ネコさん!」
「うニャ。よろしくニャ」
頭の中は相変わらず、混乱したまま。何が起きているのかだって、本当のところはよくわかっていないのかもしれない。
それでも、この今日を通してネコさんと私の距離は少しだけ縮まってくれたんじゃないかなって思う。
うーん、私も上位ハンターとなったばかりだし、明日からは大変になりそうだ。
そうだというなら、気張っていきましょうか。なんて、私は思うのです。
このネコさんがあのハンターさんだってことはわかったし、ネコさんがあれだけ上手い理由はわかった。
それじゃあ、そのネコさんと同じくらい上手い、あの白ネコさんは何者なんだろうね?
白ネコさん、大変です
貴方の彼氏が浮気しそうです
では、次話でお会いしましょう
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第46話~サクサクっと~
「ネコさんネコさん、次からは何をすればいいと思う?」
「うニャー……とりあえず防具を作るのが良いと思うニャ」
ご主人さんが上位のハンターとなった次の日。朝食を食べながら、今後の予定を決めてみる。
上位のクエストは下位のクエストと比べて、やっぱり難しい。
このご主人さんの実力なら大丈夫だと思うし、私と彼がついているのだから問題なく進むことはできると思うけれど、やっぱり上位用の装備がほしい。
ただ、上位序盤って良い防具がないしなぁ……特に、ご主人さんの使っている武器にあっているのは全くないと言って良いくらいだと思う。
つまりはどんな防具でも良いってことだけど。
「ん~、防具かぁ……何の防具がいいかな?」
「ある程度の防御力さえあれば、本当に今は何でも良いと思うニャ」
同意見。
どうせもう少し進んだら、四天王の防具やレウス防具を作ることになると思う。今回作るのはそれの繋ぎくらいって感じ。
「いや、何でもいいって言われても……」
そうだよね。困っちゃうよね。
ん~……私たちの時は何を作ったっけ。
私はボーンSであの彼は……ああ、そっか。こっそり村クエを進めてアークSを作ってたんだった。アレは絶対に許さない。一緒に進めようって言ったのに、ひとりだけ先にエンディングも見てたし。
ま、まぁ、それは良いとして……やっぱりご主人さんの参考にはなりそうにない。
上位シャガル防具を作ることができれば良いけど、この世界はそんなにシャガルがいないし、そもそも今のご主人さんに上位シャガルマラソンをやらせるのも……
「じゃあ、アオアシラ防具とかで良いと思うニャ」
「アオアシラって……クマさんだっけ?」
「うニャ。クマさんニャ」
どうやら、ご主人さんの防具はアシラSになりそうだ。
クマさんなら楽に倒せるし、悪くない選択だと思う。赤い方のクマさんはちょっと戦いたくないけど。
この世界では二つ名モンスターと戦うことになるのかな? 戦いたいって思う気持ちもあるけれど、全部のモンスターの最大レベルまで戦うのは遠慮したい。
「よしっ、それじゃ、今日はアオアシラのクエストへ行こっか」
「うニャ」
「おー」
上位ハンターとなって最初のクエストはクマさんに決定。
ということは、渓流になるのかな? 孤島でも出るけど、集会所上位にはそんなクエストがなかったはずだし。
それにしても……なんだかご主人さんと彼の距離が近くなったように思えるのだけど、気のせい?
距離といっても物理的なものじゃなくて、精神的なもののこと。本当になんとなくだけど、ご主人さんと彼との間にあった壁のようなものが一枚なくなったように感じる。
何か、あったのかな?
彼の姿が姿だから、別にご主人さんに取られるとかそういうことは思わないけれど……あのふたりを見ていると、どうにもモヤモヤする。
そろそろ私も私のことを話さないといけない時なのかなぁ……
―――――――――
ご主人が上位ハンターとなり、ご主人の話を聞き、俺の話をした次の日。
初めての上位クエストはアオアシラの討伐に決定した。
どうやら、ご主人は俺たちのパーティーに対して色々と思うところもあったらしく、そのことは言わない方が良いのかなとも思ったけれど……なんか、ほら勢いってあるよね。多分、深夜テンション的な感じ。
そして俺のことを知り、かなり混乱状態となったご主人。
そんなご主人を見て、言わんきゃ良かったわ。なんて最初は思っていたけれど……その後は、以前とほぼ変わらないくらいの様子で接してくれている。
俺が話をしたことで何が変わったのかは分からない。
もしかしたら、ご主人にただプレッシャーをかけるだけになってしまったのかもしれない。それでも、俺は以前よりご主人に接しやすくなった。
自分のことを話すのは怖いものだけど、そのことに全く意味がなかったわけじゃないだろう。
それにあの話ができたから、今度こそご主人のためだけに頑張れるんじゃないかなって思う。
目指すは一流のハンター。
大丈夫、このメンバーなら四天王だろうが、オストガロアだろうが、サクッと倒していけるさ。
因みに、ご主人は俺に対して敬語を使おうとしていたけれど、流石にそれは遠慮してもらいました。だって、俺が昔どんなハンターだっただろうが、俺はご主人のオトモなわけですし。
それに、俺は今まで通り接してもらえるのが一番だ。
「よし、到着! それじゃサクっと倒してこよっか!」
「うニャ!」
「おー」
そして、今回のクエストの目的地である渓流に到着。
あとは、クマさんを倒すだけだ。まぁ、相手が相手だし、苦労することはまずないと思う。気をつけることと言えば……えと、気をつけることと言えば……ヒ、ヒップアタック?
二つ名はちょっとアレだけど、普通のクマさんはなぁ……
「えと、上位のクエストは支給品がないんだよね?」
「うニャ。そのうち来るけど、支給品は期待しない方が良いニャ。あと、ご主人」
「そっか。それは大変だなぁ。それで、どしたの?」
上位になったら、応急薬程度じゃ回復が間に合わなくなるし、どの道支給品はいらないと思う。それこそ高難度クエストになれば、回復薬グレートでも回復が間に合わなくなる。
「これから使うことになるから、虫や鉱石を集めておいた方が良いと思うニャ」
アシラSの必要素材は知らないけど、どうせ王族カナブンとかを要求されるだろう。それと鉱石の方は武器の強化に使う。カブレライト鉱石とか欲しいです。
上位序盤は装備を整えるまでが大変。少しずつ集めておけば後々楽になる。
「あっ、うん、分かった。それじゃ、色々集めながら行こっか」
それが良いと思います。
初めての上位クエストってことで、ご主人は緊張しているかもしれない。ただ、今回の相手が相手ってこともあるのだし、気張らずのんびり行けば良いさ。
それから、ピッケルポイントや虫が取れる場所で採取。あと一応、倒木からユクモの堅木なんかもいただいておいた。
どれくらいの時間、採取をしていたか分からないけれど、成果は上々。これだけでも、このクエストへ来た意味はあったと思う。いや、まぁ、メインディッシュが残っているわけだけど……
「そ、それじゃあ、倒しに行くよ!」
ちょいとばかし緊張気味のご主人。ただ、相手はあのクマさん。油断するのは悪いことだけど、今回ばかりはホントに楽な気持ちで良いと思う。
どうせ、あの白ネコだって余裕だろうし。
そんな俺と白ネコだけど、武器は元のものに戻しました。つまり、俺がゴア一式装備で、白ネコがシャガル一式装備。
毒と睡眠がなくなるのは痛いかもしれないけれど、やっぱりネコなら一式装備が似合うよね。
そして、アオアシラのいるエリア5へ到着。
お待たせしました。
「あっ、思ったより小さいんだ。え、えと、私はどこを攻撃すればいいの?」
「……ご主人さんはお尻をお願い」
俺の代わりに白ネコが答えてくれた。
そだね、そこが一番柔らかいし、一番安全だ。
まぁ、アオアシラなんて前脚を抜かせば全身が急所みたいなものだし、正直なところ、攻撃できるなら何処でも良いんだけどさ。
「了解です!」
さて、そんじゃ、ひと狩り行きますか。
「……あれ? もう倒したの?」
多分、戦っていた時間は6分くらいだと思う。
「お疲れ様ニャ!」
「お疲れ様」
今回のターゲットであるアオアシラの討伐を完了。
途中で、ご主人が捕食攻撃を喰らって高い高いされたぐらいで、後は特に危ないこともなし。現実の世界でこんなでかいクマにあったらまず終わりだろうけれど、モンハンの世界の中のアオアシラの強さはそんなもの。
少なくともこのメンバーで苦労するような相手じゃない。この感じならご主人の防具も問題なく作ることができそうだ。
「よ、よし、それじゃあ、剥ぎ取ったら帰ろっか」
そんなわけで、初めての上位クエストは予想通りあっさりと終了。
これで防具が完成したら次は武器。上位になったばかりの時期はやることが多くて大変だ。
「これからは防具が完成するまで、アオアシラと戦うってことでいいのかな?」
サクサクと倒したアオアシラから素材をはぎ取りながら、ご主人がそんなことを聞いてきた。
「うニャ。とりあえずは防具作りで、次は武器の強化になると思うニャ」
「やること多いんだね……」
そればっかりはなぁ。
それに、例えいきなり強い防具を作ることができたとしても、面白くない。モンハンなんて、ある装備を作るための装備を作るための装備を作っているくらいの時の方が面白いと思うんだ。まぁ、それは俺がそう思っているだけだけど。
「う~ん……あっ、じゃあさ。もし私の防具が完成したら皆でユクモ村へ行こうよ。ネコさんはこの前行ったけど、私も行ってみたい。足湯とかあるって聞いてるし。ふたりはそれでも大丈夫?」
いや、確かに俺はユクモ村に行ったけど、足湯には入ってないよ? あの時は色々ありましたし。
「私は大丈夫」
「ボクも問題ないニャ」
ん~……やりたいことは多いけど、別に焦ってやる必要もない。それなら色々と楽しみながら進めていくくらいで丁度良いのかな?
ま、とりあえずは目先の目標をひとつずつクリアしていこうか。
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第47話~湯けむりの村で~
前作を入れても、初めて名前のあるキャラが出ます
「ん~……討伐完了っ!」
ご主人が上位ハンターとなり、これでもう5回目のクエスト。
これでご主人も上位クエストに少しは慣れてくれたかな? まぁ、上位クエストと言ってもクマさんとしか戦ってないわけだけど。
「お疲れ様ニャ!」
「お疲れ様」
多分、これで素材は足りたから防具を作ることはできるはず。んで、次は武器を強化することになりそうだ。
新しい武器かぁ。何が良いんだろうね? ご主人が今使っている武器はライゼクスのハンマーであるエムロードビート。それを強化することができれば一番だけど、上位のライゼクスと戦えるようになるのはまだまだ先のお話。
そうなると、オブシドハンマーを作っていくのが良さそうだ。見た目はカッコイイし、性能もそれなり。オブシドハンマーを作っておけば、上位クエストクリアくらいはできると思う。
「ご主人ご主人。素材は足りそうかニャ?」
「うん。多分、大丈夫だと思うよ。ふふ、これで私も上位防具だね!」
そっか、それは良かった。
「ネコさんたちも新しい装備作る? 端材も出ると思うし、アオアシラの装備なら作れると思うけど」
ん~……どうだろう。アシラネコの性能が分からないから何とも言えない。確か、武器は棍棒だったから打撃なはず。けれども、近接専用だとしたら今の武器の方が強いし……
「……私たちはこのままの装備の方が良いと思う。アシラ装備の方が弱いから」
あら、そうだったのか。んじゃあ、やっぱり近接武器ってことなのかな?
それにしても、この白ネコはよくそんなことまで知ってるよね。ネコに関する知識は俺よりあるのかもしれない。
まぁ、この白ネコはホンモノのネコだと思うし、当たり前と言えば当たり前のことだけど。
「あっ、そうなんだ。じゃあ、私が新しい防具を作るだけになっちゃうね」
「ボクたちは装備を作ってもらったばかりだから問題ないニャ」
今後、二つ名モンスターと戦うことができれば、二つ名装備。それができなければ……装備はどうしようか。流石に、この下位武器のままってのは厳しい。
ああ、火力は捨てて状態異常武器にするってのはアリかも。麻痺武器とか便利だ。
「うん、わかった。よし、それじゃ帰ろっか」
まだ上位クエストは始まったばかりなんだ。止まることはしないけれど、のんびりいくとしよう。
ゲーム通りなら、上位最初の緊急クエストはあのガノトトスの狩猟。ハンマーとの相性が最悪な相手だし、かなり苦労することになるはず。多分、そこが最初の難所。ガノトトスをすっ飛ばし、次へ進むことができれば良いんだけどなぁ。
「それでは、これからユクモ村へ行きます!」
渓流から龍歴院へ戻り、ご主人の防具作成依頼も完了。
今日は打ち上げしてそれで終わりかなと思っていたら、随分と嬉しそうにご主人がそんなことを言った。そう言えば、防具作りが終わったらユクモ村へ行きたいとか言ってたね。俺はすっかり忘れていたけれど、ご主人の嬉しそうな表情を見るに、ずっと楽しみにしていたんだろう。
「あっ、ホントに行くんだ」
ぽそりと俺まで届いた白ネコの言葉。
うん、どうやらそうらしいね。確かに足湯はあるけど……ユクモ村ってそんな面白い場所だっただろうか? ゲームをやっていた時も、懐かしいなぁ。くらいにしか思わなかった。雰囲気とかを含めて一番好きな場所ではあるけど。
「了解ニャ」
とは言え、ユクモ村へ行くことに不満はない。俺はオトモですし、ご主人が行くというのならそれについていくだけだ。
その後、早速ユクモ村へ向けて出発。
そう言えば、相棒や弓ちゃんは温泉に入ったとか言ってたっけ。ゲームの中では足湯しかなかったけれど、もしかしたら大きな温泉へ入ることもできるのだろうか。
まぁ、ネコなら足湯でも全身入ることができるから、別に俺は大きな温泉へ行かなくても良いけど。
ユクモ村へ向かう飛行船の上で、ご主人は終始気分が良さそうだった。観光とか好きなのかな? まぁ、このご主人は我らの団にいたわけだし、きっと色々な場所を訪れているはず。その時のことを思い出しているのかな、なんて思った。
このモンハンの世界にはそれなりの時間いるけれど、観光みたいなことをするのは俺も初めて。やったとしても採取ツアーくらいだったと思う。だから、たまにはこういうのも良いのかなって思ってしまう。
モンスターと戦うのも面白いけれど、他の楽しみ方があってもきっと問題はないはず。
「おおー、すごい! なんだか変な匂いがする!」
そして、ユクモ村へ到着。これで俺は2回目です。
相変わらずの硫黄臭に、坂道に建てられた純和風の建物はなかなかに映えてくれる。
うん、やっぱりこの村の景色は好きだ。
「どこに行けば足湯に入れるのかな?」
「多分、上の方だと思う。あと、温泉は入らないの?」
あー、ユクモ温泉たまごとか食べたいな。何処かでもらうことはできないのだろうか。
今日だってクエストへ行ってきたのだし、それなりの疲れが溜まっている。だから温泉に入って、何か美味しいものとお酒をいただきたいところです。
「なるほど、上の方にあるんだ。それで、温泉だけど……私はまだ入ったことがないんだ。だから、とりあえず足湯に入ってみようと思ってるよ」
「わかった。それじゃ、行こ」
うむうむ、せっかく来たのだし、今日はのんびりゆっくり過ごすとしよう。ユクモの村長もクエストを受けると言えば、きっと快く家だって貸してくれるだろうし。
そんじゃ、とりあえずはのんびり温泉に……うん?
あの坂の下の方を歩いてるの、あのアイシャじゃ……
えっ? ホンモノ? ホンモノのアイシャ? モガ村の看板娘であるあのアイシャ?
いや、確かにゲーム中でもユクモ村へいたけれど、まさかこの世界で会うことができるとは……
「よし、それじゃ、とりあえずネコさんも足湯に……あれ? ネコさーん、どこ行くの?」
後ろからご主人の声が聞こえた気もしたけれど、今はそれ以上に大切なことがある。
アイシャらしき人物を見つけてから直ぐに全力でダッシュ。
「あ、あのちょ、ちょっと良いかニャ?」
そして、後ろから声をかけた。
緊張のせいか声が震える。
「おおっ? これはまた元気のいいネコちゃんですけど……どうしました?」
ノリと勢いだけで話しかけてしまったけれど、さてどうしたものか。
何でもありませんでした、は流石にマズい。
「え、えと、貴方はモガの村の人かニャ?」
「ほい、そうですよー。ハンターズギルドで働いています。それで……ネコちゃんはどうしたのですか?」
うわぁ、うわー! ホンモノだ! ホンモノのアイシャだ!
「握手、握手してほしいニャ!」
一生懸命小さな手を伸ばして、アイシャに頼んでみる。
こんなことがあるのなら、色紙とか持ってきてサインをしてもらえば良かった。あと、すごく写真を一緒に撮ってもらいたい。
「ほいほいっ、そんな慌てなくても大丈夫ですよ。それにしてもネコちゃんにまで私のことが知られているとは……いやぁ、私も有名人になったものですね!」
そりゃあ、人気投票でもぶっちぎりで貴方が一位でしたし、キャラがキャラってこともありかなり印象的だったからなぁ。
一生懸命伸ばした俺の手をアイシャは優しく握ってくれた。これだけで今日此処へ来た意味がある。
ゲーム中ではこのアイシャからいくつかクエストをお願いされたはず。だから、もしかしたら今日も何か頼まれるかもしれない。
そんなことを思い、何か困っていることはないか訪ねようとした時のこと。
「うニャッ!?」
パシンと誰かに頭を叩かれた。それも結構な強さで。
何事かと思い、後ろを向けばあの白ネコの姿。えっ? なんで俺、叩かれたの?
「ご主人さんが待ってるから」
「え、あっ、うん。うニャ」
何がなんだか分からないけど、白ネコさんがすごく怖い。
いや、そりゃあ勝手に飛び出してきたのは悪いと思っているけど、其処まで怒ることじゃ……それにアイシャはゲームの中で俺が一番好きなキャラなんだ。これくらいは許してもらいたい。
その後は、よく分からないけど、怒ってる様子の白ネコさんに引きずられるよう足湯のある場所へ連れて行かれた。
「あっ、帰ってきた。んもう、ネコさんはどこに行っていたのさ」
「ちょっと有名人を見つけたから、握手をしてもらっていたニャ」
足湯の場所へ行くと、ご主人は既に足防具を外し、足湯を楽しんでいる様子だった。
う~ん、もうちょっとアイシャとお喋りしたかったのだけど……まぁ、そのうちまたチャンスは訪れてくれるか。これからはご主人にユクモ村へ何度も来るよう誘導することにしよう。
そんなことを考えつつ、防具を脱ぎ足湯の中へ。
人間と違って全身入ることができるし、こんな時ばかりはネコで良かったと思える。
「どう? ネコさん、温泉の調子は」
「うニャー……良い湯加減ニャ」
いつもはシャワーだけだけど、この疲れが抜けていくような感覚はなんとも心地良い。
「いいなぁ。私も後で大きな温泉に行ってみようかなぁ」
それが良いと思う。
せっかく温泉が有名な場所に来たんだもん。楽しみたいよね。
そうやって、のんびりと温泉へ浸かっていたけれど、何故か何度もあの白ネコにお湯をかけられた。何がしたいんだコイツは。
まぁ、今ばかりはのんびりゆっくりとこの温泉を楽しませてもらおうか。
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第48話~嘘だらけの本音~
「うニャ? うニャ!?」
目を閉じ、温泉を楽しんでいるっぽい彼へ、ぱしゃぱしゃお湯をかけると驚いたような声を出した。ちょっと面白い。
とは言え、アレはいただけない。
確かに、彼がモガの村の看板娘を好きなことは知っていたし、この世界であのキャラに会えば喜ぶだろうとも思っていた。けれども、まさかあそこまでとは……
彼に浮気だとかそういう気はないってことくらいは分かっているけれど、やっぱり気分は良くない。
だから、八つ当たりのようにまた彼へ向かってお湯をかけた。
「うニャ!?」
「ふふ、今日はなんだかネコさんたちも楽しそうだね」
そうだね、ちょっと楽しい。彼がどう思っているのか分からないけど。
彼がどういう性格なのかは私も分かっているし、そんな性格だから私も好きになったんだと思う。ただ、それでもモヤモヤしてしまうことはあるし、私だってもっと彼に甘えたい。
じゃあ、自分のことを話せってことだけど……それはまた別のお話。何かきっかけとかそういうものがあれば良いんだけどなぁ。
「ご主人さんは大きな温泉へ行かないの?」
せっかくユクモ村へ来たのだし、温泉には入っておいた方が良いと思う。私はこの足湯で充分満足だけど。
「うん、そうだね。白ネコさんたちを見てたら私も温泉へ入りたくなっちゃった。ネコさんたちも行く?」
もし彼が行くと言ったら全力で止めよう。流石にそれは許さない。
それにしても……ご主人さんもご主人さんだ。確かに私たちの見た目はただのネコだけど、中身は人間。そうだと言うのに、このご主人さんは色々と無防備すぎる。
いや、まぁ、私たちがネコじゃないってことをご主人さんが知らないのだから仕方の無いことなんだけど。
「へっ? あ、えと、ボ、ボクは遠慮するニャ。此処で充分満足ニャ」
良かった。どうやらまた叩かなくても良いらしい。
ここ最近、やたら彼とご主人さんの距離が近い気がしていたから、少し心配だった。
「あっ、う、うん! そっか、そうだよね! そ、それじゃあ、白ネコさんはどう?」
……あれ? なに、この空気。
いつものご主人さんなら、多少無理やり気味でも彼を連れて行こうとする感じなんだけど……
「私も此処で満足。ご主人さんはゆっくり楽しんできて」
「あ、了解。それじゃあ、どれくらい時間がかかるかわからないけど、ちょっと温泉に行ってくるね」
……なんだろう。もしかして、私の知らないところで、何かあったのかな? ここ最近のふたりのことを考えると、何かあったって考えるのが自然。
ただ、そんなこと聞けるわけがないし……
マズい。もしかして私だけ仲間外れ? これは私のことを話さなきゃいけない日が本当に来るかもしれない。
足湯から出たご主人さんはふらふらと何処かへ。ゲームじゃ此処以外に温泉はなかったけれど、多分、何処かにちゃんとした温泉もあると思う。
ん~……その間、私たちは何をしていようか。流石にずっと温泉の中にいたらのぼせちゃう。
「……これからの予定は?」
彼には色々と聞きたいところがあったけれど、とりあえず無難な質問を。
お互いに遠慮するような関係じゃないけど、やっぱりまだ話したり聞いたりするのは怖いから。
「んと、とりあえずご主人の武器の強化になると思うニャ」
まぁ、普通に考えたらそうだよね。もう上位ハンターになったのだから、流石にいつまでもエムロードビートでいるわけにもいかない。
「オブシドハンマー?」
「うニャ。それが良いと思ってるニャ」
ふふっ、貴方もそうだったもんね。
と、なると強いモンスターと戦えるようになるまで、ご主人さんの防具はアシラSで武器はオブシドハンマーになりそうだ。防具の方は頼りないけれど、それだけの装備ならかなり進むこともできると思う。
それから暫くの間、私と彼との間に会話はなく、ただただ温泉へその身体を溶かし続けた。
「うニャ……たまにはこういうのも悪くないニャ」
彼の言葉が何処か遠くの方から聞こえる感覚。
うん、そうだね。たまにこうやってのんびりするのも悪くないかも。
この世界へ来て、色々なことがあった。本当に色々なことがありました。ただ、その間、こうやってのんびりしている時間はなかったと思う。
特に、私が初めてこの世界へ来た時や、大老殿へ行くことになってからは毎日が忙しかった。せっかくモンハンの世界へ来たのだから、やっぱり多くのモンスターと戦いたいって思う。だから、それを悪いと思ったことはないけれど……ちょっと私たちは急ぎすぎていたのかもしれない。
そりゃあ、私たちだって有名になってしまうはずだ。この世界で私たちがやってきたことは明らかに異常だったのだろうから。
ああ……長いこと温泉へ入っているせいか、自分が何を考えているのか分からなくなってきた。そろそろ出ないとマズイかな。思考が、まとまらない。
でも……もう少しほど、この気分を味わっておきたいな。
「……ねぇ」
無意識のうちに自分の口から出た言葉。
そんな言葉ですら酷く遠くの方で聞こえた。
「うニャ?」
私の呟きに答えた彼。
何を思い、私が彼に話しかけたのかは分からない。変なことを言わなきゃ良いなぁ、なんて、今の自分を客観的に見る自分がいた。
くるくると回る思考。
積もり溜まったそれらがくるくる、くるくると私の頭の中で回った。
「貴方のことが好きです」
そして私の口から落ちたのは、そんな言葉。
それは嘘偽りない言葉であったけれど、いくつもの嘘が重なったもの。そんな言葉を私は落としてしまった。
「……そっか。うん、ありがとう」
優し気な彼の言葉が聞こえる。
どうして私がそんな言葉を落としてしまったのかが、分からない。無意識のうちにぽそりと溢れてしまった理由がよく、分からない。
「だから、これからも一緒にいてくれると私は嬉しい」
多分、多分だけど……不安だったんだと思う。
私と彼はこんなにも近い距離にいると言うのに、最近になってそんな彼が何処か遠くへ行ってしまうような気がしていたから。
そんな不安があったからあんな言葉を落としちゃったのかなって思う。
そして、私の言葉に彼は――
「……ごめん。俺も君のことは嫌いじゃないけれどさ、他に好きな人がいるんだ。待っていてくれているのかは分からないけれど、いつか帰らなきゃいけない。だから……俺はその言葉に応えることができないかな」
なんて言葉を落とした。
ふふっ、あーあ……フラれてしまいました。
でも、悪い気分じゃない。だって、彼の言う好きな人ってのはきっと……
そうであってほしいな。そうであったら良いな。
今、此処で私が私のことを話したら彼はどんな表情をしてくれるだろうか。そんな酷く自分勝手なことを思ってしまう。遊び半分で振り回してしまうのは良いことじゃないというのに。
結局のところ、私が自分のことを話さないから、勝手にひとりで不安になっていただけってことなんだろう。この彼はずっとずっと変わらないままだったというのに。
ごめんなさい。こんな我が儘な私で。
ありがとう。こんな我が儘な私に。
それでも、これからもまた一緒に居てくれれば私は嬉しいです。
私の気持ちを彼に伝え、彼からもその気持ちを教えてもらった。
お互いに、随分と可愛らしい見た目となってしまったけれど、きっときっとその中身は変わっていないはず。
そんなことを分かったことが嬉しくて、そんなことが分かったところで、私の意識は途切れた。
温泉は良いものだけど、ちょっと長い時間入りすぎちゃったね。
パチリと目を開けると知らない天井だった。
起き上がってから周りの様子を確認すれば、やはり見たことのない景色。どこの建物の中なんだろう。
「あっ、大丈夫? 白ネコさん」
そして、ご主人さんの声が聞こえた。
ああ、そっか。あのまま倒れちゃったのか。なんとも申し訳ないことをしてしまった。
「……うん、大丈夫」
ご心配をおかけしました。
ご主人さん以外に人影は見当たらない。あの彼は何処かに行っているのかな?
「ふふっ、温泉は良かったけど、のぼせちゃうのは問題だね」
「うん、問題だ」
……意識が途切れる前のことを思い出す。
忘れてなんかいない。私がどんな言葉を彼に落としたのかはっきりと覚えている。
うわぁ……わ、私はなんて恥ずかしいことを……
「うーん、まだ顔が赤いし、もう少し休んでいた方が良さそうだね」
いや、それは多分また違った理由で……
だって、次からどんな顔をして彼と会えば良いのか全く分からない。もし、ただ私がフラれただけなら問題はないけど、私と彼の関係は……まぁ、その色々ありますし。
それに彼だって私にどう接して良いのか分からないと思う。もういっそのこと、のぼせていたから何も覚えていないってことにした方が良いかも。
いや、でも、此処で彼に本当のことを話す良い機会かもしれないし……あぅ、どうしよう。
……うん、まぁ、とりあえずは様子見ってことにしておこう。
そろそろ白ネコさんにも頑張ってもらいたいところ
次話からはまたモンスターと戦う日々に……戻ってくれるかなぁ
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第49話~仕方無いね~
「それじゃあ、オブシドハンマーって武器を作ればいいのかな?」
「うニャ。それで大丈夫ニャ」
ユクモ村での観光も終わり、現在の場所はベルナ村。
これからはまたモンスターと戦う日々が始まりそうだ。そして、今はご主人の新しい武器を作成しようとしているところ。
「でも、せっかく作ったのに、エムロードビートは強化しなくていいの?」
いや、できればエムロードビートを強化していきたいんだけど、素材がなぁ……
だって、ライゼクスは一回しか倒してないし。
「それができればそうしたいけど……ご主人、電竜の逆鱗は持っているかニャ?」
エムロードビートをレベル3まで強化することができれば絶対にそっちの方が強い。ただ、ライゼクスの逆鱗がなかなか出ないんですよ。
あと、ゴアの触覚も要求されたりも。まぁ、そっちは前回、俺と白ネコで行った時に入手済みですが。
「あるよ」
だから、此処は一度比較的作りやすいオブシドハンマーを……うん?
「え? 持ってるの? 逆鱗」
「うん、前倒した時に出たもん」
……運、良いんだ、ご主人って。
よ、よし、それじゃあ、オブシドハンマーじゃなくてエムロードビートにしよう。レベル5の強化に獰猛化素材を要求されるけど、斬れ味と会心率は優秀だから、なかなかに強い武器。獰猛化モンスターと戦えるようになるまでの繋ぎとしては充分。
ただ、見た目がハンマーっていうより、斧なんだよね……だから正直、俺は好きな武器じゃありません。一方、オブシドハンマーはすごくカッコイイから大好き。
「それじゃあ、エムロードビートを強化してもらえば良いと思うニャ。あと、オブシドハンマーも一応、作ってもらった方が良いニャ」
「わかった。それじゃあ、加工屋さんのところに行ってくるね」
ちょっと予想外のことが起きたけれど、別に悪いことじゃない。予定よりは良い武器ができるわけですし。
……逆鱗の入手確率ってどのくらいだったかな。
「結局、この後はどうするの?」
ご主人との会話が終わったところで、とことこと白ネコが近づいてきてからそんな言葉を落とした。
う~ん、どうしようか。ご主人の武器と防具が完成するのは明日。その間、クエストへ行くことはできないし……
「え、えと、ご主人の装備が完成するまで特に予定はないけど……君は何かやりたいこととかある?」
てか、白ネコさん? ちょっと距離が近いですよ? いや、別に君のことを嫌っているわけじゃないですけど……ほら、前回のことがあったので、俺としてはどのくらいの距離を保てば良いのかとかよく分からないわけでして……
残念なことに俺はモテるような人間ではありません。告白されたことだって、あの彼女にしかなかったし。ですので、こういう場合、どうすれ良いのかとか分からないのですよ。例え、相手がネコだとしても、適当に扱って良いはずがない。
「ううん、私は特にない」
そして、一番の問題は何かっていうとですね。
その……告白されてしまったせいか、どうにも白ネコさんのことが気になってしまうというか、何というか……
ほら、よくあるじゃん。好きと言われたせいで、その相手のことが気になっちゃうこととか。
……自分で言っておいてアレだけど、小学生みたいだな。
はぁ、何を緊張しているんだか。
さ、さて、そんなことは良いとして、これは暇になってしまいましたね。ご主人をおいて、俺と白ネコだけでクエストへ行くって選択もあるけど、正直、今はこの白ネコとふたりだけになりたくない。
ネコだけどチキンなんです。
「ネコさーん、加工屋さんに頼んできたよー」
お疲れ様です。
ん~……ホント、この後はどうしよっかなぁ。
俺としては早くご主人のHRを上げて強いモンスターと戦いたいのだけど、そもそもクエストへ行けないとなると本当にやることがない。
ゲームの時みたく、武器防具が一瞬で完成してくれれば良いのにね。
「ご主人、ご主人。何かやりたいことはあるかニャ?」
やれることはないのだし、またユクモ村へ行ってものんびりするとかでも良いかも。あとは……闘技大会とか?
「特にないけど……あれ? もしかして暇になっちゃった感じ?」
ご主人の言葉にコクリと頷いてみる。
はい、そうです。暇になってしまいました。
ホント、どうすっかなぁ。装備なしで行く古代林探索ツアーとか……いや、何を言っているんだ俺は。
「そっかぁ。それじゃあ、今日もまたお休みになっちゃうね」
ですね。
とは言え、やれることがないのなら仕方無い。今日もまたのんびりさせてもらおう。
その後は、とりあえずご飯でもってことで、ベルナ村ではなく龍歴院で食事をすることに。その後の予定は決まってないし、今日はもうずっとムーファの背中の上でゴロゴロしていようかな。たまにはそんな日があっても良いだろう。
な~んて思っていたわけなんだけど……
「あっ、見つけた。やほー槌ちゃん。ひっさし振りだね!」
なんでか知らないけど、相棒さんがいました。
なに? あんた暇なの?
しかも相棒だけじゃなく、その近くには弓ちゃんと……相棒の妹さんの姿も。大老殿でトップの3人が全員揃ってしまった。大老殿が心配だ。
「あっ、あ。お、お久し振りです!」
そして、相変わらず相棒さんを見て緊張してしまうご主人。
俺のことは慣れたけど、相棒さんはまだダメらしい。なんだろう……なんとも複雑な気分。
「今日はどうしたのニャ?」
「んとね、ナルガクルガが今度は古代林に現れたから私たちが来たの」
どうせ、白疾風のことだよなぁ。
確かにアイツは強いけど、この3人を呼ぶのは流石に戦力過多な気がする。
「なんて理由もあるけど、皆で遊びに来たんだ。弓ちゃんとこの子はベルナ村に来たことなかったし」
うん、そんなことだろうと思った。
白疾風ねぇ……まぁ、アレだ。頑張ってくれ。一度戦っているのだし、このメンバーならまず大丈夫だろう。多分このメンバーなら、オストガロアでも余裕で倒せると思う。
「槌ちゃんたちはこのあとクエストへ行くの?」
「い、いえ、武器と防具が完成してないので、今日はクエストへ行かない予定です」
そんなご主人さんの言葉を受け、相棒さんが俺の方を見ながらなんとも意地の悪い笑みを浮かべた。
嫌な予感。
「へぇ……あのね、私たちは3人だから後ひとりの空きがあるんだ」
ほら見なさい。言わんこっちゃないわ。
「だからね、ネコちゃんか白ネコちゃん一緒に来ない?」
おろ? 白ネコも誘うんだ。てっきりまた俺が連れて行かれるのかと思った。
ふむ、それじゃあ此処は白ネコに任せるとしよう。白疾風とはもう戦っちゃったし。
「……私は調子が悪いから貴方に任せる」
白ネコに先手を打たれてしまった。調子が悪いとか、どう見たって嘘です。
「ボクも今日はダメっぽいから遠慮す……うニャ!?」
「お姉ちゃん! このアイルーが前言ってたネコ?」
断りの言葉を落とそうとしたら、後ろから誰かに抱きかかえられた。
俺、知ってる。これ、ダメなやつだ。
「え、えと、うん。そうだよ。この前私たちと一緒に行ってくれたネコちゃんだね。ネコちゃんなのにすごく上手いんだ」
余計なことを……
相棒の妹さんとは何度か関わりがあるけれど……正直、俺との仲は良くないです。てか、一方的に俺が嫌われています。
「ホント! それじゃあ、このネコを連れて行こうよ!」
また、そうやって俺のことを物みたいに扱って……お願いだから、俺の気持ちも大切にしてもらいたい。
「そうですね。貴方なら安心ですし、それが良いかと」
そして、畳み掛けるような弓ちゃんの言葉。逃げ道を完全に塞がれてしまった。マジ容赦ない。
「あー……そ、それじゃあ槌ちゃん、またネコちゃんを借りてもいいかな?」
「はい! どうぞお好きに使ってあげてください」
心が折れそうだ。
あと、妹さん? 良い加減、下ろしてもらえませんか?
「よし、それじゃあ、早速出発だね。ネコちゃんは準備できてる?」
「できてないニャ」
「了解。頑張っていこー!」
お願いですから話を聞いてください。
「白ネコさん。私たちはどうしてよっか?」
「……今日はのんびり過ごせば良いと思う」
すごい、大勢いるのに誰ひとりとして俺の味方がいない。おかしいね。
結局、その後も俺の言葉を聞いてもらえず、クエストへ連れて行かれることになった。
唯一の抵抗として、3人パーティーじゃオトモは連れて行けないってことを言ってみたけれど、ちゃっかりご主人が俺と白ネコをニャンターとして登録していたらしく、問題なく連れて行けるんだって。そんな大事なことをご主人は相談もせず勝手に……
いや、まぁ、別に文句はないけど。
因みに、相棒さんと弓ちゃんの装備は、前回の物を上位にしたもので、妹さんはレギオス一式に、大剣もレギオス大剣。この3人の実力のことも考えると絶対に俺はいらない。
「それじゃ、頑張ってね、ネコさん!」
「がんばってね」
クエストへ出発する俺へブンブンと手を振るご主人と白ネコ。
……はい、頑張ってきます。
ん~……白疾風かぁ。
色々と文句があるところではあるけれど、前回俺は最後まで戦うことができなかった。そのことを少しばかり悔しく思っている自分もいるから、自分で思っているよりはこのクエストも悪くないかもしれない。
メンバーがメンバーということもあり、今回はあっさりとクリアできると思う。
それでも、まぁ、せっかくの強いモンスターと戦えるチャンスなんだ。頑張って行ってみようか。
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第50話~物語の中心は~
「……ネコさん行っちゃったね」
「うん、行っちゃった」
嵐のごとくというか、何というか……ぽつり残された私と白ネコさん。
ネコさんはあまり乗り気じゃなかったみたいだけど、私なんかが止められるはずもなく、ネコさんたちはクエストへ行ってしまいました。
あの操虫棍のハンターさんに、弓使いのハンターさんもいた。大剣を担いでいたハンターさんは誰だか分からないけれど、多分すごく上手いんだろうなぁ。
伝説とまで呼ばれているパーティーの4人中3人がさっきまで此処にいたわけだけど、実感が湧かない。ネコさんの見た目が見た目だからなぁ……いや、ネコさんが上手いのはよくよく分かっているけど。
さて、前にネコさんからのお話は聞くことができた。
それは信じられるようなことじゃないけれど、納得はできている。だって、これまであのネコさんと一緒にクエストへ行ってその動きだとか色々なことを見てきたから。
あのネコさんのことは分かった。分かってしまった。だから、分からないことが増えてしまった。
「……ねぇ、白ネコさん」
「どうしたの?」
そして、今日はソレを聞く良い機会なのかなって思います。
「せっかくふたりだけなんだしさ。お話でもしよっか」
「……そうだね」
ネコさん――あのハンターさんと同じくらい上手い貴方は誰ですか?
「えと、それじゃあホットミルクをふたつお願いします」
「かしこまりましたニャ」
龍歴院でアイルーさんに飲み物を注文。
甘いホットミルクをちびちび飲みながら、のんびりのんびりお喋りでもしよっか。
とは言え、うーん、何から話せばいいんだろうね? 白ネコさんとは別に緊張するような間柄じゃないけれど、なんとも緊張してしまう。
何処か遠くをぼーっと眺めている白ネコさんは何を考えているのか分からないし。
「……ご主人さんって、ベルナ村に来る前からハンターだったの?」
そして、遠くの方を眺めている状態のまま、白ネコさんが言葉を落とした。
あのネコさんには私のことを伝えた。だからもう隠すつもりもないし、自分のことを話すのも抵抗は少なくなったと思う。
それでも、やっぱり緊張してしまいます。
「うん。ある旅団にね、所属していたんだ。そこで色々な場所を訪れながら、ハンターをしていたよ」
あのネコさんほどではないけれど、私も私で色々な経験をしていると思う。ホント、あの頃は大変だった。
でも、それ以上に面白かったかな。
「色々な場所に行った。色々な人と出会った。時間が流れるのは速かったし、大変なことばかり。そんなことがあったんだ」
懐かしいなぁ。私はもうあの皆と別れてしまったけれど、また会いたいって思うし、元気にしていればいいなって思う。
まぁ、あの皆が元気じゃないところなんて想像できないけどさ。なんてことを思ってひとり静かに笑ってみた。
「……そっか。じゃあ、どうしてご主人さんはベルナ村に?」
「自分の実力をさ。試してみたくなっちゃったんだ。それまでだってハンターだったけれど、HRだって上げたかったし、やっぱりもっと上手くなりたかったから」
それで、自分に自信を持つことができたらまた旅団に戻ろうと思ってる。団長さんも私がそうなるまで待つと言ってくれたし、私もまた皆と一緒に旅をしたい。
うん、私のお話はそんなことくらいかな。武器防具なしでダレン・モーランの背中に乗ったりとか、本当に色々なことがあったけれど、色々とありすぎたせいで何を話せばいいのか分からない。
だから、次は――
「白ネコさんのお話も聞きたいな」
運ばれてきたホットミルクを受け取り、そんな言葉を落としてから、コップへそっと口をつけてみた。
温められた牛乳とハチミツの香りが広がる。口の中に広がったそれは熱く甘く……優しい味がした。
「あ、あっつ……むぅ、もうちょっと冷ます」
……白ネコさん、ネコ舌だもんね。
「えと、私のお話?」
ホットミルクの入ったコップをそっと机の上に置き、首を傾げながら白ネコさんが言葉を落とした。行動のひとつ一つがかわいい。
「うん、白ネコさんのお話」
「そっか、私のお話かぁ」
あのネコさんは私になんて想像ができないような経験をしてきたはず。そして、あのネコさんと同じくらい上手い白ネコさんだってきっと……
そんなお話を聞かせてくれれば私は嬉しいな。
「ん~と、じゃあ、言っちゃうけど……私もあのネコと同じパーティーのひとりだった」
…………は?
「あれ? もしかして、彼から聞いてなかった? もう教えてもらったのかと思ってたのに」
え? い、いや、聞いたとか聞いてないとかじゃなくて……え?
だって、だってですよ? あのネコさんと同じパーティーだったってことはですよ? つまりそれは……
「え、えと、あのパーティーの誰かのオトモだったってこと?」
「んーそうじゃなくて……マズい。ちょっと待って。さっきのなし」
いやそんな、なしって言われても……
それにそうじゃないってことも意味が分からない。
「じゃあ、確認だけど彼――あのネコからは何か聞いた? 昔のこととか」
グルグルと回る思考。まさに混乱状態。ホロロホルルの攻撃を喰らった時だってここまでじゃなかった。
「えと、その……元人間で、あの操虫棍のハンターさんと一緒のパーティーだったってことは……」
「あっ、なんだ、聞いてたんだ。うん、私もそのパーティーのメンバーだったの。今はネコだけど元は人間」
お願い。ちょっと待って。話についていけてない。
確かに、あのパーティーのメンバーは元4人で、現在はふたりが行方不明。そのうちひとりがネコさんで、じゃあもうひとりは? って思っていたし、それがこの白ネコさんだっていうのなら、色々と繋がるけど……え?
「その、じゃあ、ネコさんはそのことを知っているの?」
「ううん、知らないと思う。知ってるのはあの娘……あー操虫棍使いのハンターとご主人さんだけ」
とんでもないことを教えられてしまった。つまり、この白ネコさんが行方不明になっている最後のハンターさん。つまり、狩猟笛を使うハンターさんってこと。
ああ、なるほど、それであのハンターさんは白ネコさんもクエストに誘おうと……えっ? じゃあ、もしかしてさっきってあのパーティーの全員が揃っていたの?
そして、私のオトモが2匹とも大変な人たちなんですが……
「あーえー……ちょ、ちょっと待ってね。どうにも混乱しちゃって……」
「あと、私はあのネコの彼女」
「お願い! ホント待って!」
さっきから白ネコさんの落とす言葉が自由すぎる。てかなんだ、ネコさんって彼女いたんだ。ちょっと残ね、いやいや、それはいいとして、私はネコとどうやって付き合おうと……違うそうじゃない。えっと、ネコさんと白ネコさんはあのパーティーのメンバーで、そのことを知っているのは操虫棍のハンターさんと私だけ。それで、白ネコさんがそのパーティーのメンバーだったことをネコさんは知らなくて、白ネコさんはネコさんのことを知っていて。でも、ふたりは付き合っていて……いや、意味分からんぞ。関係が複雑すぎる。
「えと、まずだけど、どうして白ネコさんはネコさんに教えてないの?」
ネコさんたちの関係がここまで複雑なのはそれが一番の原因だと思う。それでいて、白ネコさんはネコさんのことを知っていて、そのことをネコさんは気づいていないっていうのが物事をまた複雑にしている。
「そ、その、ほら、はずかしいから……」
その気持ちは分からないでもない気がするけど、そこは言ってあげようよ……
「だって、ネコになるとか意味分かんない」
うん、そうだね。私も意味が分かんないや。
ネコさんと白ネコさんの人生はちょっと波乱万丈過ぎると思う。本当ならギルドに報告した方がいいけど、流石に信じてもらえないよね……
「りょ、了解。それじゃあ……白ネコさんはどうしてネコさんのことに気づいたの?」
「あんな上手いネコいるわけないもん」
ですよね! それは私も思ってました!
ただ、その言葉はすごくブーメランだと思う。白ネコさんだっておかしいレベルで上手いし。オトモを連れていた経験がなく、ネコさんと白ネコさんふたりともおかしかったから、そこまで真剣に考えなかったけど、やっぱりおかしいよね!
「……それに、私は彼の彼女だし」
急に惚気けないでほしい。どう反応していいのか分からない。あと、独り身の私にその言葉はよく刺さります。
「……でも、ネコさんは白ネコさんのことに気づかないんだね」
あっ、マズい。白ネコさんが目に見えて落ち込んでいる。完全に失言だった。
ああ、困った。いや、その……べ、別に、嫌味のつもりとかじゃなくてですね。思ってしまったことをつい……
「多分だけど……あの彼はわざと気づかないようにしているんだと思う」
「わざと……?」
どういう意味だろう。白ネコさんの言葉がよく、分からない。
「うん、わざと考えないようにしているんだと思う。元々、他人のことを深く聞く性格じゃないし」
あー、なるほど。それはなんとなく分かる、かも。
ネコさんって自分のことも話さないけど、聞くこともしないもんね。
「でも、私から言うのはなんだか嫌だから、やっぱりまだ彼には教えないようにする」
そんな白ネコさんの気持ちも、なんとなく分かるような気がした。
私には彼氏なんていませんけどねっ! はぁ……
えっと、なんだっけ? もう何が何やらさっぱりだけど……ちゃんと繋がってくれたことは多い。
つまり、私のオトモはあのパーティーのふたりだった、と。道理で、私がこうも順調に前へ進むことができているはずだ。こんなにも恵まれたハンターは絶対にいない。
「……白ネコさんのこれからの予定は?」
「ご主人さんのために一生懸命、オトモとして頑張る」
それはネコさんと同じ答え。
……私は恵まれすぎだ。
本当に私なんかがいいのかな? あまり考えたいことじゃないけれど、やっぱりそんなことを思ってしまう。プレッシャーとかそういうもののせいで。
「多分、私たちのせいでプレッシャーとかを感じていると思う。でも、ご主人さんならきっと一流のハンターになれると思うし、そのために私たちも協力するから……だから、頑張ってほしい」
それもまたネコさんと同じような言葉で、やっぱり私にはもったいない言葉だった。ふふっ、ネコさんたちはホントに仲がいいんだね。
ネコさんから話を聞いたときに頑張っていこうと決めた。
その気持ちを変えるつもりもない。
「りょーかいですっ! それなら、これからもよろしくね、白ネコさん!」
「うん、よろしく」
なんだか、追い詰められてしまったような気分になるけれど……私が上手くなるのにこれ以上の環境はきっとない。それなら全力でソレに甘えて、全力でやってみるだけ。
うだうだと考えるのは苦手。そうだというのなら迷わず進めばいい。それくらいが私に合っている。
それにしても……なんだか急に大きなことに巻き込まれちゃったような気がします。端っこの方で見ているだけだと思っていたのに、気がつけば中心近くまで来てしまった。
そして、その中心にいるのはきっと――
……うん、私があのふたりについていけるかなんて分からないけど、できるだけ頑張ってみよう。
胸張ってネコさんと白ネコさんのご主人だって言えるように。
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第51話~似た者同士~
古代林へと向かう飛行船の上。
半ば強制的に連れて行かれてしまったこともあり、どうにもテンションは上がらない。せっかく強いモンスターと戦えるというのに、もったいないね。
「ねぇ、ねぇ、貴方ってニャンターなの?」
そして、先程から相棒の妹さんの絡みがすごい。なんだっていうんだ。
俺の気持ちなど無視して、無理やり捕まえ、今は妹さんの膝の上。逃げてもダメでした。直ぐに捕まります。
「……うニャ」
相棒に助けを求める視線を送ってみても、苦笑いされるだけ。いや、助けてよ。
「すごい! じゃあ、じゃあ、貴方もハンターみたいに戦うんだ!」
何が楽しくてこの妹さんはここまで俺を構うのだろう。ネコなんてドンドルマにだって沢山いるってのに。
いや、まぁ、ニャンターがいるのは此処くらいだけどさ。
それほどにニャンターが珍しいってことなのかな。
女の子に抱きかかえられている今の状況は決して悪いものじゃない。けれども、残念ながら俺と妹さんの仲は良くなかった。もし、これで俺だとバレたら……
そんなこと考えたくもない。嫌な汗が止まりません。
いや、この妹さんが良い子だってことは知っていますよ? ただ、俺との相性が悪すぎるんだ。
「戦いはするけど、ネコだからやっぱりハンターさんたちと比べて上手くはないニャ」
「えー? でも、貴方はすごく上手かったってお姉ちゃん言ってたよ?」
相棒の方へ顔を向けた。顔を逸らされた。
んもう、アイツはまた余計なことを……
「そ、それより、今回の相手はやっぱり強いのかニャ?」
なんとも嫌な予感しかしないから話題を転換。
多分、今回の相手は白疾風だと思う。前回は相棒と弓ちゃんが下位装備だったため、かなり苦労してしまったけれど、今は全員が上位装備。メンバーの技術力に文句はないし、これならサクッと倒すことができそうだ。
「私はよく知らないけど、ちょっと変わったナルガクルガが相手だって。楽しみだね!」
なんとも緊張感のないセリフ。ただ、コイツらが普段戦っている相手と比べれば、そう思ってしまうのも仕方の無いことなんだろう。
白疾風かぁ……俺はどう立ち回れば良いんだろうね? いっそ端っこの方で採取をしていた方が良いかもしれない。そっちの方がネコっぽいし。ただ、やっぱり戦いたいんだよなぁ……
その後も、妹さんの手から逃れることはできず、捕まえられたまま古代林まで行くこととなった。俺はもう疲れました。
そして、古代林へ到着。
「よーし、着いたー! 頑張るぞー!」
相変わらず元気の良い妹さん。
言動なんかはすごく子どもっぽいけれど、これでもG級モンスターをソロでバシバシ倒してしまうすごいハンターだっていうのだから不思議だ。
「ネコちゃん、ナルガクルガの場所分かる?」
そんな相棒さんの声。
「エリア4にいるニャ」
狭いエリアもあるけれど、ほとんどが平坦なエリアだから古代林はかなり好きなマップ。坂道エリアなんて誰も得しない。
「了解。よし、それじゃ出発だー!」
「はい」
「おー!」
「うニャ」
相棒の掛け声に皆で元気良く応えてから出発。
そう言えば、4人で行くクエストは本当に久しぶりだ。前回4人で行ったクエストは……ああ、そっか、ゴグマジオスになるのか。あの彼女がいないから、あの時とはメンバーが若干違うけれど、懐かしいものです。
ふふっ、また元の世界へ戻ることができたら彼女に自慢するとしよう。
エリア1、2を抜け、メインターゲットのいるエリア4へ。其処には通常種と比べ、ひと回り大きな体に、全身には白色の文様のあるナルガが一頭。
や、久しぶり、リベンジしに来たよ。
二つ名モンスターの中でも白疾風の体力は少な目。だから、麻痺や罠を使って一気に畳み掛けたいところ。ただ、状態異常にできる武器がなぁ。確か、ラギア弓も麻痺瓶は入らないはずだし。
まぁ、できないことを願っても仕様が無い。そんじゃ、サクっと倒させてもらおうか。
俺がブーメランを投げるのと同時に、相棒の虫が白疾風へ向けて放たれた。
そんな攻撃を喰らわせたところで、白疾風が俺たちを発見。そして、咆哮をフレーム回……ああ、うん。まぁ、無理だよね。咆哮は素直にガードをするとしよう。
ん~……尻尾振り攻撃のフレーム回避のタイミング覚えてるかなぁ。なんてことを考えつつ、次の攻撃に備える。
そんな俺の横をダッシュで駆け抜けていく少女がひとり。その少女は未だ咆哮モーションが終わっていない白疾風を踏みつけ――飛んだ。
そして、白疾風の頭へ背中に担いでいた大剣を叩きつけた。
俺が相棒の妹さんと一緒にクエストへ行くのはこれが初めて。俺、嫌われてましたし。
妹さんが上手いことは知っていたけれど……これはそんな予想以上かもしれない。
「弓ちゃん! あの真空波くるよっ!」
「は、はい。分かっています!」
白疾風と戦い始めてそろそろ5分といったところ。
その戦況は――此方が圧倒していた。
あの相棒はもちろんだけど、一度戦ったおかげか、弓ちゃんの動きもかなり良い。そして、何より――
「…………」
妹さんがちょっとすごいぞ。
クエストを始める前はアレだけ騒がしかったというのに、始まってからは一度も言葉を出していない。多分、それだけ集中しているってことなんだろう。
それでもって、初見の相手だというのに、攻撃は喰らわないわ、白疾風の回転攻撃で跳躍してから乗りを決めてくれるわ、と動きがちょっとヤバい。完全にスイッチが入っちゃってる。マジ怖い。
エリアル大剣は俺も使ったことがあるけれど、あんなにカッコイイんだ……
一方、俺はというと、タゲが散り過ぎているせいで全然貼り付けない。これじゃあ、ダメージも稼げてないよなぁ……
妹さんが回転攻撃を踏みつけ跳躍。そして、そのまま本日3回目の乗りへ。
妹さんの乗りと相棒が奪う脚怯みのおかげもあって、あのすばしっこい白疾風にほとんど何もさせていない。さらに、ダウンを奪えば弓ちゃんが超火力攻撃で一気にダメージを稼ぐ。
すごいことは分かっていたけど、このパーティーかなり強いぞ。この3人ならレベル10だってクリアできそうだ。
勢いそのままとでも言えば良いのか、結局、白疾風にエリチェンをされることもなく討伐完了。ゲームだとレベル2は捕獲のはずだけど、今回は討伐でも良いそうです。
「おおー、倒した! お疲れ様っ!」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様ニャ」
う~ん、これなら俺が来る意味はなかったんじゃないだろうか。ペシペシと攻撃はしていたけれど、このパーティーの中じゃ一番ダメージを稼げなかったと思う。
てか、他のメンバーが頼もし過ぎるんだ。前回アレだけ苦戦したのが嘘みたいです。
白疾風を倒した後、使うことはないけれど一応、剥ぎ取りをしておいた。今回も報酬はいただかないでおくつもり。素材集めはやっぱりご主人と一緒にしたいから。
そんなこんなで、二度目の白疾風クエストも無事終了。
「へい、相棒さんや」
「うん? どしたの?」
帰りの飛行船へ乗り込みながら、相棒さんへちょいと質問。
「お前らってこの後、どうすんの?」
「ん~……本当は龍歴院やベルナ村をゆっくり観光したいんだけど、直ぐに帰らないといけないんだ。今回のこれだってかなり無理やりだったし」
あら、そうだったのか。それは少し寂しいかも。一日くらいならゆっくりできると思っていたんだけど……いやぁ、大老殿のトップハンターは忙しいですね。
「了解。まぁ、頑張ってくれ」
「むぅ、君が戻って来てくれれば私たちだってもうちょっと楽になるんだよ?」
そう言われると俺も弱いわけでして……いや、悪いなぁとは少しくらい思っていますよ?
相棒の言葉に何も言い返すことができなかったから、笑って誤魔化してみた。そんな俺を見て、相棒さんはため息をひとつ。
とは言え、今の俺が戻ったところでなぁってのが本音。人間の姿ならまだしも、この姿じゃ流石にG級モンスターと戦うことはできない。戦力になりません。だから、相棒には頑張ってくれとしか言えないわけですよ。
「……それとさ、君の妹さんってクエスト中はいつもああなるの?」
クエスト中の妹さんはまさに別人といった感じ。
笛の彼女なんかはよく転がってくるクンチュウにブチ切れてスイッチが入っちゃったり、相棒も相棒でフルフルが相手だとトリップすることはあったけれど、あの妹さんはソレらとはまた違った感じだった。集中していることは分かるけれど、アレじゃあ見ていてちょっと怖い。
「うん、君ほどじゃないけど、あの子のクエスト中はだいたいあんな感じだよ。でもあの子、ムラっ気なんだ。だから、はまらない時は全然かな」
マジかぁ、世の中には色々なハンターがいるんだな。あと、俺ほどじゃないってどういうことだよ。
そして、相棒の言葉を受け、文句のひとつでも言ってやろうと思ったら、また誰かに抱きかかえられた。んもう、なんですか?
「ネコネコ! 見てた? 私の活躍!」
俺の何が妹さんをここまで駆り立てるのだろうか……
そんな妹さんと俺を見ている相棒さんは苦笑い。んで、弓ちゃんは……あら? なんだか険しい顔をしているけど、何かあったのかね?
「……うニャ。見てたニャ。すごく上手かったニャ」
ムラっ気らしいけど、今回は鬼みたいに強かったね。この姉妹は揃ってバケモノだ。
「ホント!? じゃあさ、じゃあさ、私のオトモにならない?」
「え……い、いや、ボクにはご主人がいるからそれは無理だニャ」
あと、俺をオトモにするのは本当に止めておいた方が良いと思うよ? 別に俺は君を嫌ってないけれど、君は俺を嫌っているわけですし。
「えー、一緒に大老殿行こうよ。私もネコと一緒に戦いたい!」
そんなこと言われても……
多分、これが妹さんの素なんだろうけれど、俺の知っている妹さんとは全然違うせいで、さっきから戸惑ってばかりだ。誰だよ、あんた。
その後も、妹さんに絡まれ続けた。行き帰りの道中の方がクエストよりも疲れたと思う。ああ、早く帰ってビールを飲みたい。
そして、龍歴院へ到着。
ちょっともったいないかなって思ってしまうけれど、クエストの報酬は前回と同じように受け取りませんでした。
「それじゃ、私たちはこれで帰るね」
「うニャ。大老殿でも頑張れニャ」
大老殿へと向かう飛行船の前で皆と別れの言葉を交わす。
ホントに忙しいんだね。大変そうだ。
「ネコネコ! 絶対にまた来るから、私のオトモになることをちゃんと考えておいてよっ!」
俺に向かってブンブンと手を振る妹さん。最後の最後まで元気な様子で何よりです。ただ、俺が君のオトモになることはないと思う。
「よーし、帰るとしよっか。次はもうちょっとのんびりできる時に来るね。それじゃ、またね。槌ちゃんと白ネコちゃんにもよろしく伝えておいて」
あいよー。
その次ってのがいつなのかは分からないけれど、それまで俺も頑張ってみるよ。
相棒と妹さんに続き、最後に飛行船へ乗り込んだのは弓ちゃんだった。
そう言えば、今回は弓ちゃんと全然喋ってなかったね。まぁ、弓ちゃんも自分から話すような性格でもないし、こんなものなのかもしれないけど。
「今日はありがとうございました」
礼儀正しい挨拶。ただ、その中身は真っ黒だったりします。
「うニャ。此方こそありがとうニャ」
そんな言葉だけを交わしたところで、弓ちゃんは飛行船の中へ。
大丈夫だとは思うけど、相棒のことよろしく頼むよ。
そして、未だ飛行船の上からブンブン手を振る妹さんに苦笑いをしていると、弓ちゃんが顔だけを俺の方へ向けた。
それで――
「言ったことありますが私、耳が良いんです。それじゃ、また来ますね――
なんて言葉を最後に落とし飛行船へ乗り込んでいった。
ああ、うん。
いやぁ……まいったね、こりゃあ。
まぁ、バレてしまったものは仕方無い。どうせやることは変わらないのだし、アイツらに負けないよう俺も頑張っていくとしようか。
小さくなっていく飛行船を見送りながらそんなことを思った。
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第52話~準備完了~
大老殿へと向かう飛行船の上。
沈みかけの太陽は真っ赤に染まり、綺麗な景色が広がっていた。目を閉じればそよぐ風を感じ、それもまた気持ちがいい。
「あの……ひとつ聞いても良いですか?」
そんな感じで、黄昏を楽しむ私に弓ちゃんが声をかけてきた。
因みに、あの子はちょっとはしゃぎ過ぎたせいか、今はすやすやと睡眠中。
私と違って、あの子はパーティーに所属していない。だから、あのネコちゃん――彼を一生懸命オトモにしようとしていたのかなって思う。だって、ずっとひとりじゃやっぱり寂しいもんね。
「うん、どうしたの?」
弓ちゃんが何を聞きたいのかはだいたい分かる。多分……彼のことだろう。察しの良い弓ちゃんのことだ。2回目にもなれば薄々であっても何かを感じるはず。
いや、まぁ、あんなに上手いネコがいるはずないのだし、そりゃあ怪しむわけだけどさ。あの彼も隠したいのか隠したくないのかよく分からない。とは言え、あの彼、不器用ですしなぁ……
「えっと、今日もついてきてくれたあのアイルーのことですが……」
ほら、やっぱり。
それで問題なのはここから。あのネコちゃんが彼であることは間違いない。けれども、彼からそのことを直接は教えられていないし、多分、彼も隠しておきたいことのはず。だから、私から教えてしまうのはちょっとマズい。
ん~……ま、いっか。
弓ちゃんだって同じパーティーだったんだ。仲間外れにするのは可哀想だもんね。
「気づいた?」
「その、ふたりの会話が聞こえていまして……」
あら、それでバレちゃったのか。それじゃあ、もう仕方無いね。とは言え、どうせいつかはバレること。それが少しだけ早くなっちゃっただけなんだろう。
「本当にあのアイルーが先輩なのですか?」
「どうやらそうみたいだよ。ふふっ、あの彼がネコちゃんだなんて似合わないのにね」
笛ちゃんは元々ネコっぽかったし似合ってるけど。
そう言えば、まだ彼はあの白ネコちゃんが笛ちゃんだってことを知らないのかな? どうせ知らないんだろうなぁ……
槌ちゃんも含めて普段はどんな会話をしているんだろうね? きっとすごく面白い光景なんだろうなぁ。こっそり見てみたいかも。
「いや、確かに似合いませんが、そもそもどうして先輩がアイルーに?」
「それは私も分からないし、多分、彼もどうしてなのか分からないと思うよ」
相変わらず不思議な人だ。
多分、彼と笛ちゃんがこの世界の人間じゃないってことが関係しているんだと思うけど、やっぱり意味が分からない。
……ネコちゃんじゃなく、人間だったらまた皆で一緒にいられたのに。
こうして彼や笛ちゃんと再会できたことは嬉しいけれど、上手くいきませんなぁ。
「そう、ですか……」
「あと、あの白ネコちゃんは笛ちゃんだよ」
「なるほど……はい!?」
こっちは多分、教えちゃっても問題ないはず。
彼のことは……うん、まぁ、きっと大丈夫。
「え? その白ネコって、先輩と一緒にいたあのアイルーですか?」
「うん、どうやらふたりともアイルーちゃんになっちゃったみたい」
ホント、あのふたりは何をやっているんだろうね……
そんなふたりをオトモにしちゃっている槌ちゃんも大変だ。その辺は笛ちゃんがなんとかフォローしてくれるとは思うけど、大丈夫かなぁ。
「……何者なんです? あのふたりって」
それは……私も分からない。
でも、あのふたりが悪い人たちじゃないってことは分かるし、それだけで充分なんじゃないかなって思う。今でこそ、私は伝説のハンターだとか色々と言われるけれど、それはあのふたりのおかげ。
私をそんなハンターにしておいて、ふたりがのんびりしていることに色々と思うところもあるけれど、嫌いになれるわけがない。
あのふたりは今でも私にとって大切な仲間なんです。
「それも私には分からないかな。でもさ、またこうやって皆が揃ったんだもん。ちょっと姿は変わっちゃったし、簡単に会うことはできなくなっちゃったけど、消えちゃったわけじゃない。だから、良いのかなって思うんだ」
言いたいことはたくさんあるし、不満だらけ。でも、消えてしまったわけじゃない。
もしかしたら……というより、きっとまた、あのふたりは消えてしまう。それは避けられないことで、仕方の無いこと。
でも、また消えてしまう前に全部を話してくれればそれで良いのかなって私は思います。
ふふっ、ホント勝手な人たちだ。
「……ふむ、それもそうですね。また会える日が楽しみです」
「うん、そうだね」
とはいえ、これであのふたりとサヨナラってことはないと思う。それは私の願いも入っているけれど、あのふたりがいてそんな簡単に終わるわけがないのだから。
こうして離れてしまったからこそ分かる。中心にいたのはいつだって――あのふたりだ。
そんなものに巻き込まれてしまった私たち。だからきっと私たちの物語はまだ終わっていない。
な~んて私は思うんだ。
よし、それじゃ、彼に負けないよう私も頑張るとしよう。
今はちょっと忙しいけれど、ここを乗り切れば少しは落ち着けるはず。そうしたら今度は皆でのんびりする時間も取れると思うから。
その時が楽しみです。
―――――――――
「ネコさんネコさん。見て! 新しい防具だよ!」
相棒たちとクエストへ行った次の日。
ようやっとご主人の上位装備が完成しました。
防具はアシラS。クマ耳のようなものが付いたフードに、腰巻のようなものが特徴。ザザミ防具も良かったけれど……うむ。アシラ装備も可愛いじゃないか。流石は人気防具だけある。
「うニャ。似合ってると思うニャ」
「ホント? ありがと!」
女性は可愛い防具がたくさんあって良いよね。複合装備を組む時とか、性能よりも見た目を大切にしてしまうことも良くあった。
次は是非ミツネSを作ってもらいたいところ。ガンナーのミツネSの方が好きだけど、剣士だって可愛い。ああでも、ガムート装備も捨て難いな。あのモコモコ具合もなかなかなのだし。あとは王道のキリンSや大雪主防具なんかも……
なんてことを考えていたら、何故かまた白ネコに叩かれた。
あの……最近、俺のことをペシペシ叩きすぎじゃないですか?
「……ご主人さん、武器の方も完成したの?」
不満の意を込めて白ネコに視線を送ってみたけれど、見事にスルーされた。
むぅ、なんなんだろうか。男なら誰だって……あれ? そういえば、全く気にしてなかったけど、この白ネコって女性……で良いんだよね?
いや、そもそもアイルーって性別があるっけ? ああ、でも、ネコートさんやイモートなんかは女性か。それに、アイルーのボイスで性別も決まっていた……ような気がする。
じゃあ、この白ネコは女性ってことで良いのかな。てか、そうじゃないと困る。この白ネコには好きなんて言われてしまったわけだし。
「うん、そっちも完成したよ。えと、オブシドハンマー2とエムロードビート3でいいんだよね?」
まぁ、そんな白ネコのことは良いとして、ご主人の武器は無事完成。これでガンガンクエストを進めることができますね。
「それで大丈夫ニャ」
エムロードビートの次の強化には上位ライゼクス素材、オブシドハンマーの強化には……竜玉だったかな。
そうなると、オブシドハンマーが先に強化できるわけだけど、竜玉かぁ。それは苦労しそうだ。一応、今の段階でも戦うことのできるロアルからも出るけど確率が低い。確率的にはガノトトスが一番。でも、ガノは嫌い。戦いたくない。
竜玉って勝手に集まってるイメージだけど、いざ集めようとすると面倒だよね。
う~ん……武器の強化は苦しくなったらするって感じで良いのかな。今はまだゴリ押しで良いと思う。
「えと、それで……これからはどうしよっか?」
「……集会所のクエストをクリアしていけば良いと思う。そうすれば、ご主人さん宛に緊急クエストが届くはずだから」
緊急クエストかぁ。何になるんだろうね? まぁ、ガノトトスじゃなきゃなんでも良いけどさ。
「了解です! それじゃあ、クエストを受注してくるね」
お願いします。
この段階なら面倒なモンスターもいない。それにこのメンバーなら苦労することもないはず。ジョーが乱入してきたらまた別だけど。
「……ナルガのクエストはどうだったの?」
クエストカウンターへ向かうご主人を見送っていると、白ネコが喋りかけてきた。昔と比べれば本当によく話をしてくれるようになったと思う。
それはきっと良いことなんだろう。ただ、やっぱり未だに俺は緊張します。白ネコはあまり気にしてないようだけど、ユクモ村ではあんなことを言われたわけですし……
「すごく強い相手だったけど、他の皆が上手かったからあっさり倒せたニャ」
相棒や弓ちゃんはもちろんとして、妹さんが本当にすごかったんです。俺はほとんど何もしてないといって良いと思う。あの3人がいればドンドルマも安心だ。
「そっか、私も行きたかったな」
いや、君はその誘いを断ったじゃん。
いったい何を考えているのやら……
まぁ、でも久しぶりに皆とクエストへ行けて俺も楽しかったかな。また、そんな機会があれば良いけど、アイツら忙しいからなぁ。
せめて、もう一度くらいはまたあの4人でクエストへ行きたいのだけど、それは叶わぬ願いなんだろうか。
ホント、難しいものです。
「クエスト受注してきたよー!」
な~んて、少しばかり湿っぽくなっていると元気なご主人の声。
「何のクエストニャ?」
さてさて、そんな気持ちは切り替えて目の前のことに集中しましょうか。
「んとね、渓流でロアルドロスを倒してくれだって」
了解。
丁度、竜玉が手に入るチャンスだし、尻尾の切断を狙ってみるとしよう。
そんじゃ、今日も元気に行ってみましょうか。
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第53話~やっと~
「思ったけど、最近は渓流ばっかだね」
ロアルドロス狩猟のため、渓流へ到着。
そして、渓流のベースキャンプでご主人がぽそりと呟いた。
まぁ、今までずっと防具作りのためにクマさんと戦ってたし、それも仕方無い。それに渓流は嫌いなマップじゃない。景色は綺麗だし、うろうろしているだけでも楽しいよね。
「……ロアルの場所はエリア7」
「了解です!」
ロアルかぁ……一応、ロアルのハンマーもあるけれど、あまり強くないんだよね。狂走エキスを取れるのは美味しいけれど、それ以外の旨味は少ないと思う。
「ネコさんネコさん。私は頭を叩けばいいんだよね?」
「うニャ。ボクたちが頑張って尻尾を狙うから、ご主人はそれで大丈夫ニャ」
多分、無理だとは思うけれど、できれば竜玉を手に入れておきたい。そのためにも頑張って尻尾の切断をやってみます。ただ、尻尾なんて普段は狙わないから、切断できる自信がない。尻尾を切断する前に倒しちゃうかも。
ま、やれることは全部やっていこうか。
「んー……初めてロアルドロスを見たけど、ちょっと可愛いね」
渓流のエリア7。其処でメインターゲットを発見。
そう言えば、ご主人がロアルと戦うのは初めてになるのか。まぁ、スタイルもブシドーだし、ロアルなら問題ないと思うけど。可愛いかどうかはノーコメントで。ただ、フルフルよりは可愛いと思う。
「よし! 行きますっ!」
スタン耐性がちょっと高いけど、頑張ってください。2スタンでも取ることができれば充分だと思う。
クマさんほど弱くはないにしろ、ロアルは強い相手じゃない。貫通火炎弾の撃てるライトが4人揃えば、ハメ殺しに近い形で倒すことができるくらいだろう。攻撃力も高いわけじゃないし、気をつける攻撃も……えと、回転攻撃くらい? そんなロアルの通称はバナナとかポンデライオンとか。
水中戦は鬼のように強かったんだけどなぁ。
やたらと好戦的な
「あたっ……おっ? な、なんか走り出したよ!」
走り出したロアルにご主人が轢かれた。
でも、どうやらダメージはそこまでないっぽいです。
頭の前にいて怖い攻撃もアレくらいだし、今回もサクっと倒すことができそうだ。うむ、防具を先に作っておいて良かったね。
誰に向かって走り続けているのか分からないロアルを横目に、溜まったサポゲを使ってブメ2種を発動。これで準備は完了。白ネコの方も準備できているっぽいし、一気に畳み掛けようか。
そこからは特に問題もなく安定した狩りが続いた。
「こんのっ……えいっ!」
そして、ご主人が回転攻撃をジャスト回避してからのカチ上げが決まり、本日一回目のスタン。ナイスです。
「ご主人、頭じゃなくタテガミを狙うニャ!」
「了解っですっ!」
別にタテガミの部位破壊報酬が欲しいわけじゃないけれど、肉質的に頭よりタテガミの方が柔らかかったはず。それなら狙える時はそっちを狙った方が良いだろう。
しっかし、なかなか尻尾が切れんぞ。白ネコと一緒に頑張って狙っているけれど、全然切れない。むぅ、やっぱり下位武器じゃ厳しいのかな。白ネコは良いとして、俺はもう武器を変えた方が良いかもしれない。
「おっ? な、なんか壊れました!」
ご主人の声を聞いてから、チラリ其方の様子を確認すると、ロアルの特徴でもある立派なタテガミが砕け、白色の肌が見えていた。まさに皮を剥いたバナナといった感じ。
てか、壊れるの早いな。ご主人の攻撃がそれだけタテガミに吸われていたってことだと思うけど。
「あー……ポンデリング壊れちゃった、ポンデリング」
そして、ぽそりと聞こえた白ネコの声。
そうだね、ポンデリングが壊れちゃ……うん? ポンデリング? え、いやなんで君がその言葉を――
なんて考えていたところで、ロアルの尻尾振り攻撃が直撃して吹き飛ばされた。
「よっし! 討伐完了だね!」
多分、5分針だと思う。
あの後、討伐する直前でどうにか尻尾の切断をすることも。ただ、捕獲はできなかったし、尻尾から竜玉も出ませんでしたとさ。
まぁ、そんな上手くいくわけがないのですよ。モンハンなんてそんなもんだ。
「……お疲れ様」
「お疲れ様ニャ」
それにしても……先程の白ネコの言葉がどうしても気になってしまう。きっとこの白ネコにも白ネコの事情があるだろうから、俺から聞かないようにと思っていたし、気にしないようにとも思っていた。
けれども、あの言葉は流石に……
う~ん、これはどうしたものか。この白ネコが普通のネコじゃないことは分かっていたけれど……つまりはそういうことなわけですよね?
そうなると、俺としても願ってしまうことがあったりするわけで、でもそんな都合良くいくわけがないとも思ってしまうわけで……どうしたものやら。
期待が外れてしまうとやはり辛い。そうなると自然と保険をかけたくなってしまうのも仕方無いと思うんだ。
「ねぇ、白ネコさん。次はどのモンスターと戦えばいいかな?」
どうして俺がこの世界へ来たのか分からない。これで3回目のモンハンの世界ということで、もうそういうものだと無理やり納得してしまった自分もいるけれど、やはり意味が分からない。
「装備は完成したし、ご主人さんの好きに選んで良いと思う。緊急クエストは選べないから、その前に戦いたい相手がいたらそれで良いと思う」
それに、そもそもネコって……
あー、ハンマーを振り回したいなぁ。
「うーん、私は特に戦いたい相手なんていないんだけど……じゃあ、ネコさんは戦いたい相手っている?」
「ラージャンと戦いたいニャ」
とりあえず、分かったのは、あの白ネコがこの世界の人間ではないということ。そして多分だけど、此処がゲームの中の世界だとも知っているんだろう。
そうなると、まぁ、この白ネコが
「了解、ラージャンだね! ラージャンっ!? い、いや、それは無理だって……」
うーん、それをどうやって確かめたら良いのやら。
もし、この白ネコがあの彼女だとしたら、納得できることは多い。でも、逆に引っかかることもあるんだ。ユクモ村のあのこととか色々と。
答えを出すための素材はたくさんある。でも、どの素材を使って良いのかが分からない。
……とはいえ、あの白ネコが俺と同じ類の人間だと分かったことは大きい。俺だってそれなりにモンハンをやってきたけれど、やっぱり知らない知識はあるのだから。今までのことを考えるに、この白ネコの知識はなかなかなもの。この世界においてその知識は充分な戦力になる。
ただ、やっぱりモヤモヤしてしまうわけです。
その……まぁ、やっぱり俺だってあの彼女が一緒にいてくれたら嬉しいわけですし。
「え、えと、じゃあ次のクエストはまた私が決めちゃうね」
「……うん、それで良いと思う」
どうすっかなぁ……どうして俺はこんな時ばかり臆病になってしまうのだろうか。サクっと聞いてみて、それで違ったら違ったで別に良いだろうに。
この世界で俺が迷ってしまうのはこんなことばかりだ。これじゃあ、モンスターとの戦いにだって集中できない。
それが悪いことだって分かってはいるんだけど。
「よしっ、それじゃ帰ろっか!」
ホント、困ったものです。
渓流からの帰りの飛行船。
流れる景色をのんびり眺めながらボーっと考え事。これからのこととかそういうことを。
「……何を考えていたの?」
そんなことをしていたら、あの白ネコが声をかけてきた。
クエストが終わった後、いつもならご主人と一緒にさっさと寝てしまうというのに、今日はどうしたんだろうね?
「色々なことニャ」
「……そっか」
この白ネコが誰なのかは分からない。分からないけれど……一緒にいると何処か安心する自分がいたりする。
最初はそんなこと全く思わなかったんだけどなぁ……
もし、これでこの白ネコがあの彼女じゃなかったとしたら、そんなことを思ってしまったこれも浮気になるのかな? 少なくとも、あの彼女から怒られるのは確かなことだろう。
あー……これはダメだ。どうにもよろしい感じじゃない。色々と言い訳を重ねて逃げようとしている自分がいる。
ああ、もう! 知らん。こうやってうだうだと考えるのは苦手なんだ。
予想なんて外れて当たり前。それくらいの気持ちでいけば良い。
だから、大きく呼吸をしてみた。この臆病な自分が少しでも動いてくれるように。
そうしてから――
「……やっと気づいたの?」
言葉を落とそうとしたけれど、それよりも白ネコの方が早かった。
だから、今回だって最初に言ったのは彼女の方からなんです。情けないことではあるけれど、この彼女には負けっぱなしだ。
ただ、まぁ、やっぱり俺がこの彼女に勝てることはないっぽいです。
「……確信があったわけじゃないよ。ただ、そうだったら良いなって思っただけ」
「鈍感」
「おっしゃる通りで……」
返す言葉もない。
この彼女がいつ俺のことに気づいたのかは分からない。でも、彼女はずっと待っていてくれたってことだろう。
「君はいつ、俺が俺だと?」
「ずっとずっと前から」
ほら、やっぱり。
申し訳なさでいっぱいです。
「それなら、教えてくれたって良かったじゃん……」
申し訳なさだったり、恥ずかしさだったりと色々な感情で溢れてしまったから、八つ当たりのような言葉を落としてみる。
「それじゃ意味がない。……私は貴方に気づいてもらいたかったから」
あーそれはまた……本当にすみませんでした。
いや、俺だって、な~んか怪しいなぁ、とは思っていたんだよ? まぁ、それを口にしなかったのが問題で、それはただの言い訳なわけですが。
「あと、ご主人さんとあの娘はそのことを知ってる。私のことも貴方のことも」
あら、そうだったんだ。相棒さんは良いとして、ご主人もか。
えっ? じゃあ、もしかして知らなかったのは俺だけ? 先日は弓ちゃんにもバレちゃったし……
ま、まぁ、バレてしまったものは仕方無い。やることは変わらないのだし、もう開き直っていこう。
「……これでやっと進めるね」
「そうだな。少なくともこれでもう迷うことはないと思う」
別に何かが変わったわけじゃない。
けれども――モヤモヤは一気に晴れてくれた。目指すゴールが何処かは分からないけれど、迷わず進むことはできそうだ。
ん~……これからは忙しくなりそうだ。
でもきっと、それくらいが合っている。それなら、一気に駆け抜ければ良いんじゃないかな。
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第54話~逆境~
なんとも時間はかかってしまったけれど、漸く迷わず進むことができそうだ。
もうちょっと早くできたんじゃないかって思うけれど、まぁ、今更そんなことを思っても仕方無い。それに、こうやって彼女とまたこの世界へ来ることができたのだし、それ以上望むのは贅沢だろう。
そして、ロアルを倒した後、ベルナ村へ戻りいつも通りの打ち上げ。そこで、俺や白ネコのことをご主人に説明した。
「えと、とりあえず、おめでとう……でいいのかな? とは言っても私がやることは変わらないし……うん、だからこれからもよろしくね!」
ああうん、よろしくお願いします。
もうちょっと、ごたつくかなぁと思っていたけれど、思いの外あっさりといった感じ。このご主人の適応力はなかなかだと思う。
まぁ、ご主人も言っていたように、やることは変わらないんだ。そうだというのなら、ただひたすらに進めば良い。
「それで、次は何のクエストへ行くのニャ?」
「ん~……まだ決めてないよ。明日、どんなクエストがあるか聞いてそこで決めるつもり」
了解です。
あっ、口調は変えないことにしました。なんだかんだでこの口調にも慣れちゃったんです。白ネコが彼女と分かり、恥ずかしいところもあるけれど……慣れって怖いね。
「でもさ、本当にネコさんたちは私のオトモなんかをやっていていいの?」
「……むしろ、私たちが此処にいた方が良いと思う」
ああ、うん。それは俺も思う。
ゴグマやダラは倒してしまったから、大老殿は大丈夫だろう。まだミラが現れていないけど、相棒ならなんとかしてくれるはず。大老殿は頼んだぞ相棒。
それに、こっちだってオストガロアがいる。ご主人にそのことは言えないけれど、きっと俺たちがオストガロアと戦うことになるはずだから。
「うーん、よく分かんないけど……そう言うのなら私も頑張ります!」
オストガロアってそんなに強くないし、ご主人なら大丈夫だと思うけど……うん、俺たちも頑張ります。
ん~……やっぱり今回もオストガロアを倒したら終わりなのかな。できれば色々な二つ名モンスターとも戦ってみたいなぁ。
流石にこの世界で最小マラソンとかはしたくないけれど、できるだけ多くのモンスターと戦いたい。紫毒姫とかすごく強いって聞いていたし、戦うのがすごく楽しみなんだ。
ご主人に俺たちのことを伝えたことで、ちょいと時間はかかってしまったけれど、ようやっとパーティーになれたって感じ。
まだまだ上位の序盤ではあるけれど、これからは一気に進むことができそうだ。
んで、その日の夜は白ネコと色々な話をしたわけですが……ひたすらに俺が怒られていただけなので、省略します。別に浮気なんてしてないのに……
いつものことだけど、彼女にはやられっぱなしだ。
そして、次の日。
「今日はケチャワチャのクエストへ行きます!」
「うニャ!」
「……了解」
今回のターゲットはケチャ。ってことは、遺跡平原だよね。MHXになって多少は強くなった気もするけれど、苦戦するような相手じゃない。それにケチャならご主人も戦ったことがあるだろうし、今回はサクっと終わらせられそうだ。
「そういえば、ネコさんたちの装備ってどうしよっか?」
それは、もうちょっと我慢かな。現時点で作れる装備は今装備しているものと、ほとんど強さが変わらないだろうし。
「ご主人のHRが5になったら新しい装備を作れば良いと思うニャ」
できれば獰猛化モンスターの装備を作りたいけれど、その前に何か作らないとだよなぁ。流石にこの武器じゃ火力が足りない。そうなるとナルガやレイア、ガララ辺りが良いかもしれない。
「……ご主人さんの最終的な武器は何が良いと思う?」
そんな白ネコからの質問。
「斬れ味が白はほしいから、比較的楽に作れるナルガハンマーが良いかなって思ってるニャ」
最終強化するのにアカムウカムを倒さないとだけど、レア素材は要求されないし攻撃力は充分。エムロードビートの最終強化であるカクルハも悪くはないけど、雷玉を要求されるからキツいと思う。
あとは、グランドスパイクもありです。物理期待値はあの武器が一番なはずだし。
まぁ、ご主人が作りたいものを優先するけど。
――操…モー……切り替……すか?
「うニャ? 今、なんて?」
「? 私は何も言ってないけど」
あら? 確かに、今声が聞こえたはずなんだけど……
「よし! それじゃあ早速出発しよっか!」
「おー」
うん? ご主人でもないっぽいし……気のせい?
ん~……よく分からんけど、このクエストをクリアすればそろそろ緊急クエストのはず。頑張って行きましょうか。
――――――――――
「ご主人、ケチャワチャはエリア4にいるニャ」
「はい、了解です!」
昨晩、ネコさんたちからお話を聞かせてもらった。
ふたりの間でどんな会話があったのか分からないけど、これで、たまにふたりの間で流れる変な空気はなくなるのかなって思う。
このふたりが自分のことを話したことで、私はもう逃げることができなくなってしまいました。それくらいの方が私には合っているけれど……やっぱり怖い、かな。
ホント、この人生何が起こるか分からないものだね。だって、憧れていたハンターさんたちとパーティーを組むことになるだなんて、とてもじゃないけれど考えられないもん。
私としてはネコさんたちが私のオトモでいてくれることは嬉しい。でも、ネコさんたちの本当の気持ちはどうなんだろうってやっぱり考えてしまう。
そう言えば、ネコさんと白ネコさんはどうしてハンターになったのかな? このクエストが終わったら聞いてみよっかな。
ケチャワチャのいるエリア4へ到着。
私がまだ旅団に所属していた時は、何度も何度もこのモンスターにやられた。だからこそ、戦い慣れた相手。もう負ける気はしない。
私たちに気づいたケチャワチャの咆哮をジャスト回避してから、その頭にハンマーを振り上げ。
私も少しは成長できているのかな? そうだといいな。
ネコさんたちほど私は上手くない。並んで戦えるほどすごいハンターなんかじゃない。でも、諦めたくはないし、諦めるつもりもない。
きっと、私がネコさんたちほど上手くなることはないと思う。それでも、頑張ってみようと思うんだ。なかなか動こうとしないくせに、負けず嫌いなこの性格。それなら、とことん自分を追い込んで無理やり動かせばいい。
逆境でいい。
逆境がいい。
そんな状況で漸く私は動いてくれる。
大丈夫、私ならできるできる。
右手による引っ掻き攻撃。ジャスト回避。そして、頭へ振り上げ。
あの伝説のパーティーのうち、ふたりが私のオトモになってくれている。そんな恵まれた環境はこれ以上にない。だから、そんな環境に全力で甘えさせてもらう。
戦い始めて数分。
「お? 乗ったニャ。援護を頼むニャ!」
スタンはまだ1回だけど、ダメージはかなり入れることができていると思う。
ケチャワチャが脚を引きずったところで、珍しく……というか、初めてだよね? ネコさんがモンスターに乗りました。ナイスです。
できればお手伝いしてあげたいところだけど、近づけば吹き飛ばされちゃうから、援護は白ネコさんに任せて私は砥石。
そして、ネコさんの乗りは無事、成功。
さて、それじゃこのクエストも終わらせようか。
右腰へ構え、溜めていたハンマーで、ダウンしたケチャワチャへスタンプ。直ぐにローリングをしてから1回、2回とハンマーをケチャワチャの頭へ振り下ろす。
そして、ぐるりと回ってから渾身の力を込め――もう一度、その頭へハンマーを叩き込んだ。
「よっし! 討伐完了!」
多分、まだ私は片手剣の方が上手く使えると思う。でも、ハンマーもかなり使えるようになったんじゃないかな? ふふ、それもネコさんのおかげなんだろう。
「おおー、0分針いったかも……お疲れ様ニャ」
「お疲れ様」
うん、お疲れ様。
ネコさんたちがあのハンターさんたちという実感はやっぱり湧かないし、どう接するのが正しいのかも分からない。むっずかしいなぁ。
でも、昔のお話とか色々なことを私は聞きたいです。それは私にとっておとぎ話のようなもので、きっと信じられないことだってたくさんあると思う。それでも、私はそんなお話を聞いてみたい。
そして、いつかそのお話の中に私も登場できるようになればなぁ、なんて思っていたり。
ふふ、流石にそれは贅沢かな?
戸惑うことはあると思う。怖いって思ってしまう。不安だらけだ。
それでも今、私は楽しいです。
「……これ、最小だったりしないかな?」
「どうだろうニャ。最小はもっと小さいと……てか、え? 流石に最小マラソンとか嫌だぞ?」
ただ、なんだろうね? 疎外感というか何というか……
はぁ……彼氏、いいなぁ。
~属性貫通弾について~
久しぶりに何かを書いてみたいと思います
そんなことで、多分本編では登場しないだろう属性貫通弾について書いていきます
いつも通り飛ばしてもらっても何の問題もありません
では、始めます
MHXになり内蔵弾というものが追加されました
調合やアイテムの受け渡しができないというデメリットはありますが、アイテムポーチを埋めることもありませんし、かなり大きなメリットを持っている弾です
その内蔵弾の中に属性貫通弾という弾があります
MHXとなりライトボウガンのハンターさんの数が恐ろしく増えたのは多分、これが原因です
属性貫通弾はLv1とLv2があり、名前の通り、貫通する属性弾です
Lv1は最大3ヒットで物理が2、属性が20
Lv2は最大5ヒットで物理が2(3?)、属性が25(23?)となっています
反動はやや小以下から無反動で撃つことができます
弾性能はそんなものですが、これがかなり強いです
というのも、MHXではスキルで特定射撃強化(内蔵弾の威力が1.2倍)となかなかにぶっ壊れたスキルがあります
これにW属性強化(各属性強化+属性攻撃強化)をつけるとさらに属性が1.2倍となります
トリプル属性強化って感じですね
それで、トリプル属性強化した属性貫通弾Lv2の威力ですが、ロアルドロスに貫通火炎弾Lv2を撃ち込んだ時のダメージを適当に計算すると……属性だけで60ダメージとなります(頭、タテガミ、背、背、背にヒット。部位ごとに小数点以下切捨て。全体防御率は非考慮)
因みに、ハンマーの物理期待値No.1のグランドスパイクでホームランをロアルのタテガミに入れた時の期待ダメージは137ほどです(攻撃猫飯+爪護符。スキル:匠、弱特、超会心。物理期待値:304.92)
比べてみると思ったよりダメージが出ていないように思えますが、ホームランを1回喰らわせるより、属性貫通弾を3発以上入れる方が絶対に速いし楽です
さらに、武器によっては属性貫通弾を速射できるライトボウガンもありますので、恐ろしい火力になります
事実、マラソン部屋では属性特化したライトボウガンハンターさんをたくさん見ることもできます
4人集まれば、二つ名ウラガンキンLv10も3分切りが可能に……
また、何の意味もないですが、ひるませ続けることでガノトトスを水中から出させないこともできます。ひるむ度に飛び上がるガノトトスは見ていて面白いですが……
そんな感じで属性貫通弾はMHXのバランスブレイカーと呼んでも良さそうです
まだ使ったことがない方は一度使ってみることをオススメします
本当に強いです
とはいえ、それもG級がないからできることで、次作であると思われるG級では新しい弾やスキルがなければ今ほど猛威を振るうことはないかと
はい、そんなところでしょうか
数値で表示されないため、属性弾の威力はどうしても分かり難いですが、特化させればかなり強いです
最小マラソンなどでは是非使ってみてください
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第55話~乙った数だけ~
「聞いて聞いて! 私たち宛に緊急クエストが届いたって!」
ケチャワチャを倒した次の日。さて、今日も元気に行ってみましょうかと思っていると、元気の良いご主人の声が響いた。
緊急クエストが届いたってことは、ソレをクリアすればHRが5になるはず。HR5になれば俺と白ネコの装備を作ることもできるし、美味しい。
ただ……
「……緊急クエストの内容は?」
「んとね、ガノトトスの狩猟だって」
ゲーム通り、か。
そして、考えられる中で最悪の相手。このパーティー……特にご主人じゃガノは相性が悪すぎる。できればガノとは戦いたくなかったんだけどなぁ。
「私、ガノトトスと戦うの初めてなんだけど、どんなモンスターなの?」
「大きな魚ニャ」
さて、これはどうすっかね。
白ネコが毒武器で、俺が睡眠武器を担ぐのは決まりとして……問題なのはご主人。初見でガノトトスはちょっとキツい。3乙だって考えられる。
「ああ、うん。それは分かってるんだけど……えと、強いのかな?」
「……今まで戦ってきたモンスターの中では一番強い。正直、私は戦いたくない」
あの亜空間タックルがなくなったのは良いけれど、尻尾回転攻撃はやたらとトリッキーになりやがったし、這いずりはホーミング。ブレスの種類もさらに2種類追加。そして、あのタイミングをどうしても覚えられない風圧付きの強タックル。
剣士で一番戦いたくない相手。流石、昔から剣士殺しモンスターとして有名だっただけある。
「へ? えっ、ガノトトスってそんなに強いモンスターなの? 確か、危険度は4だったと思うけど……」
どうしてか分からないけど、MHXになってから危険度が下げられたんです。実際の強さは危険度5の中でも上から数えた方が早いくらいの強さだと思う。
フルーミィシリンジや、パールセレブパラソルでも担いでくれば別だけど、剣士で挑むとなると本当にキツい。
一度、戦ってみないと分からないけど、今回は苦労することになりそうだ。
「少なくとも油断できるような相手じゃないニャ。それでもとりあえず、頑張ってみるニャ」
「う、うん、そうだね!」
どうしても無理そうだったら相棒とか呼ぼうかな……
いや、できる限り自分たちだけで頑張ってみるけどさ。
「ご主人! タックル来るニャ!」
「っつ! それはっ! 分かってるけどっ!」
マップは渓流。エリアは7。
状況は、かなりマズい。
尻尾側へ避けたご主人にガノのタックルが直撃。相変わらずの理不尽な当たり判定。そして、ご主人はそのままベースキャンプへ。
「……これで2乙。厳しいね」
後がなくなりましたね。珍しく白ネコさんの顔も険しい。
厳しいことは分かっていたけど、ホント強いな、おい。
「ドングリはまだ残ってるかニャ?」
「私はもうない」
あら。俺だってドングリをひとつ使ってしまったし……こりゃあ、クリアは無理っぽいですね。
ここまでで、睡眠は2回。その2回とも爆弾を入れることはできているし、白ネコが毒にもしてくれている。それでも、ガノが倒れてくれない。弱っているかどうかの目安である背びれも元気なままだし……
そもそもガノは、攻撃できる場所が少な過ぎるんだ。ジョーもそうだけど、どうしてお前の脚はそんなに細いんだ。この美脚水竜め。
ブーメランを上方向へ投げることができればもっとダメージを稼ぐこともできるってのに、まともに攻撃できるのはブレスの時くらい。そのブレスの時だって、新モーションのせいで顔横に張り付くことができない。
そして何より、ガノの攻撃力が高過ぎる。
「とりあえず俺たちもベースキャンプに戻ろう。寝ればドングリも回復するし」
「了解」
まだ、諦めたわけじゃないけれど……これは作戦を考える必要がありそうだ。
「皆、ホントごめんっ!」
ベースキャンプに戻る途中でご主人と合流し、現在はベースキャンプ。其処で、ご主人に謝られてしまった。
「……こればっかりは仕方無い。だから、落ち込まないで」
寝たことで俺たちのドングリは回復。これなら乙ることはないと思う。ただ……ご主人は厳しいよなぁ。秘薬も切らしてしまったみたいだし、本当に絶望的な状況。
「うぅ、ごめんね……」
そして、ご主人の落ち込みようがヤバい。
今回は本当に相手が悪いのだし、白ネコも言っていたように仕方無いことなんだが……モンハンなんて乙ってなんぼのもの。どうか元気を出してください。
とはいえ、これはどうしたものか……
――操作…ードを切り替えま…か?
そして、またあの声が聞こえた。
うっさいわ。んもう、なんだってんだよ。こちとら、どうやって戦うか真剣に考えているのだから、黙っていてほしい。
「……リタイアする?」
そんな白ネコの言葉。
まぁ、それもひとつの手ではあると思う。このまま戦ったところで勝てる気はしないのだし。
「それは……ああ、うん。でも、そっちの方がいいのかな……」
酷く落ち込んだ様子のご主人。
「今回は失敗しても仕方無いクエストニャ。だから、ご主人に任せるニャ。ただ……自分に嘘をつくのは良くないと思う」
このまま戦ってもクリアは無理だろう。やれることはやったつもりだけど、まだやれることはあったはず。
だから、さっさとリタイアしてもう一度、作戦を練り直すのはあり。
でも――
「そっか……ごめん、本当にごめん。でも、戦ってみてもいいですか?」
やっぱり逃げたくはないよね。
「もちろん」
「了解ニャ!」
頑張れご主人。
全部が全部上手くいくはずがないんだ。乙りながら覚えれば良い。乙った数だけハンターは成長するって俺は思っているよ。
そしてその日、俺たちのパーティーは初めてクエストを失敗した。
「……どうやって戦えば良いと思う」
その帰りの飛行船。白ネコさんと作戦会議。
ご主人はいつものように寝ています。疲れだって溜まってしまっただろうし、3乙は心にかなりくる。これで、変なことを考えなきゃ良いけど……
「う~ん、とりあえず次はもっとガンガン罠を使っていこう。後は、釣りカエルを使うとか……」
ただ、それは根本的な解決にならないわけですよ。付け焼刃も良いところ。
一番はご主人がガノのモーションに慣れてくれることだけど……そんな簡単なものじゃないしなぁ。いっそ、エリアルスタイルになってもらった方が良かったりするのだろうか? ただ、火力が足りないせいで、ラッシュをかけられないんだよなぁ。
いっそ、今からでもご主人にボウガンを作ってもらうってのも考えられるくらいだ。ハンマーとガノじゃそれほどに相性が悪い。
その後も白ネコとふたりで、うんうん考えてみたものの良い案が出ることはなく、結局ご主人がガノに慣れるしかないといった結論に。
ここさえ乗り切ってしまえば楽になるのだけど、厳しいものです。
そして、龍歴院に戻り、ギルドマスターから次は頑張ってくれと言われてから、皆で食事ついでに作戦会議。
んで、緊急クエストだけど、また受けることはできるっぽいです。まぁ、緊急クエストの内容はガノのままなわけですが。
「今日は、本当に、すみませんでした……」
ご主人は相変わらずの落ち込みよう。
別に気にしなくて良いって何度も言ったんだけどなぁ。今回悪かったのはご主人だけではないのだし。ブメ猫なのに、ヘイトを全然稼げなかった。そうなればご主人が狙われるのだって多くなってしまう。
「……気にしなくて良いよ? それより次、どうするのかが大切」
うむ、そうだね。
まぁ、良い案なんて何も浮かばなかったわけですが。
「……帰り道で私も色々と考えてみました。でもね、このまま戦ってもまたやられちゃうと思う」
口には出さないけど、俺もそう思う。1、2回程度で相手の動きを把握するのは難しいのだから。でも、戦わないと仕様が無い。それに、俺はいくらでも付き合います。
「だからさ……次は――片手剣を使おうと思うんだ」
……うん? ご主人からすごく予想外な言葉が聞こえたぞ。
確かに片手ならハンマーよりは戦いやすい。あの鬱陶しいタックルもガードをすれば良いわけですし。
「え、えと、でもご主人、片手剣なんて持ってるのかニャ?」
ただ、その片手剣がない。適当な片手なら直ぐに作れると思うけど、如何せん攻撃力が足りない。
そうなると、毒束でも作るのかな? 現時点でもゲリョスとなら戦えるし。
「その、ですね……こっそりナルガクルガの片手剣を作っていまして、それを使おうかな、と」
ああ、ヒドゥンエッジか。
ん~でも、現時点で作ることのできるヒドゥンエッジは流石に攻撃力が低過ぎるから、それならまだハンマーの方が良いと思うけど……まぁ、時間をかければ倒せないこともない……のかな。
いや、やっぱり厳しくないですか? ヒドゥンエッジの会心率は良いけど、属性がないから物理でごり押すしかない。正直、良い案だとは思えないのですが……
「……じゃあ、これからは片手剣を使うの?」
「ううん、今回だけにしようと思ってるよ。やっぱり私はハンマーを上手く使えるようになりたいし」
あっ、なんか嬉しい。
うんうん、やっぱりハンマーは楽しいよね。HR5になったらナルガやレイアと戦えるようになるし、頭をガツンガツンしてあげようね。
「それに……片手剣を使うといっても、そんなに使わないと思う」
え、えと……どういうことですか?
確か、ご主人が我らの団にいた頃は片手剣を使っていたはず。その頃のことをよく知らないけど、まぁ、何かしらの考えがあるってことなんだろう。
「それじゃあ、ご主人はどうやって戦うのニャ?」
エリアルスタイルで乗りの固定ダメを稼ぐとか? どの道、厳しいと思うけど。
そして、そんな質問へのご主人の答えは――
「その、ですね。爆弾を使おうかなって……」
まさかのSB。
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第56話~誰よりもスタイリッシュに~
「その……ご主人? 爆弾を使うってのはどういう意味ニャ?」
多分、SBのことだろうけど、確認のために質問。
「え、えと、だからね。爆弾をいっぱい持って行って、後はとにかく爆弾を置いて片手剣で起爆させるって戦い方だけど――あぅ、やっぱり変だよね……」
はいSBでした。
……SB。スタイリッシュボマー。主に抜刀時でもアイテムを使える片手剣で用いられるスタイル。そのやり方は簡単。スキル、高速設置を発動させ、後はモンスターの隙を突き爆弾を置いて起爆させるだけ。大量の大タル爆弾を使うから素材とお金がカツカツな序盤は厳しいし、味方を巻き込むパーティープレイじゃ御法度。
けれども――その威力は絶大。特に、上位クラス程度の体力が少ないモンスターが相手なら。
「確かに、旅団の人たちからもそんな戦い方をするハンターなんていない、とか言われたけど……でもね、でもね、これがすごく強いんだよ!」
ああうん。それは知っています。SBは俺もソロでお世話になりましたし。
しかし、よくご主人はそんな戦い方を……ゲームの中ですら、SBをやっているハンターは少ないと思う。
さらに、この世界のハンターたちは基本的に安全な戦い方を求めるし、下手したら自分が危険な状態になるSBなんて絶対にやらない。
MHXになってからはエリアルスタイルのおかげで、片手じゃなくてもSBができるようになった。それに、蟲纏いと金剛心を発動させた操虫棍で、4人集まれば裏ボスを0分針で倒すことができる変態的なSBもある。まぁ、あの戦い方にはスタイリッシュさの欠片もないけど。
そんな感じでそれなりに有名な戦い方ではあるんだけど、ホントよく思いついたね……昔のご主人がどうやってモンスターと戦っていたのかすごく気になる。
「戦い方はそれで良いとして、スタイルはどうするの?」
そして、白ネコの質問。
「ブシドーで行こうかなぁって思ってるよ」
ブシドーボマーかぁ。片手のブシドーボマーはジャスト回避後にキャンセル爆弾置きができたはずだし、すごい火力になりそうだ。ただ、ちょっと難しいんだよね。
とはいえ、これならガノだって倒すことができそうだ。爆弾のダメージだけで倒せるとは思わないけれど、全体力の3分の2くらいは持っていってくれるはず。
う、うーん、戦っているところを見ていないから、まだなんとも言えないけど……はてさて、どうなるのかな?
――――――――
「よしっ! それじゃリベンジといこっか!」
「うニャ!」
「おー」
現在の場所は夜の渓流。
このパーティーになり、初めてクエストを失敗してしまった日から2日後。前回と同じガノトトスの狩猟です。今日は頑張ります。
担いでいる武器はハンマーじゃなく、ナルガクルガの素材を使った片手剣。これまでずっとずっとハンマーを使ってきていたけれど……やっぱり片手剣はしっくりくる。
前回は私が3回倒れてしまい、クエスト失敗。そんな自分が情けなかったし、ネコさんたちには本当に申し訳ないって思っている。けれども、何処か安心してしまった私もいた。
私はネコさんたちほど上手くない。今まではどうにか順調に進むことができていたけれど、私の実力を考えればそんなに上手くいくわけがないんだ。失敗なんてせず、進み続けることができれば一番。でも、きっと何処かで止まってしまう時は来ると思っていた。だから、前回失敗してしまったのは悪いことだけではないのかなって思う。
ただ、もう失敗はできません。これ以上は流石に止まっていることができない。
本当はハンマーでガノトトスを倒したかった。でも、何度考えたって、やっぱり私の腕じゃハンマーでガノトトスを倒すことができない。
だから、今回は……今回だけはこの武器を使わせてもらおうと思う。
これ以上、逃げることはできない。これで失敗したら打つ手はない。そんな崖っぷちの状況。でも、それでいいんだ。
「ガノは前と同じようにエリア7にいるニャ」
「了解です!」
片手剣――それは私があの旅団にいた時に使っていた武器。
でも、そんな私の戦い方は普通じゃなかったと思う。看板娘にはもちろん、あの団長さんからも引かれるくらいだったし。
けれども、私にはそれくらいの戦い方しか思いつかなかったんです。だから、これが私の限界なんだろう。
そして、ガノトトスのいるエリア7へ到着。
そのエリアにある川の水面に見える大きな背びれ。ただ、まだ私たちには気づいてないっぽいです。それに気づいてもなかなか水の中から出てきてくれないんだよね。そうだっていうのに、相手はブレスを飛ばしてくるし……ずるい!
「ご主人、煙玉を使ってくれニャ」
「あっ、はい。了解です」
ネコさんに言われ、持ってきた煙玉を使用。
よく分からないけど、ネコさんがガノトトスを釣ってくれるんだって。うん、意味分かんないね。
「ご主人さん、ご主人さん、此処に落とし穴をお願い」
そして、次は白ネコさんがぴょんぴょん跳ねている場所へ行ってから落とし穴を設置。因みに、罠と爆弾は調合分まで持ってきてます。
「此処でいいかな?」
「えと、もう少し左が良い」
……やたらと細かいんだね。別にそんな気にすることじゃないと思うけど。
「かかった! ガノトトスが釣れるから準備をするニャ!」
白ネコさんに言われた位置へ落とし穴を設置して直ぐ、ネコさんの声が響いた。
おおー、すごい、ちっちゃなネコさんが本当にガノトトスを釣ろうとしている。ただ、どう考えても体格的にネコさんが水中へ引きずり込まれそうだ……
手伝った方がいいのかな? なんて思っていると、ネコさんがガノトトスを釣り上げた。そして、釣り上げられたガノトトスはさっき私が置いた落とし穴の中に。バタバタと暴れるガノトトス。なんだこれは。
……さて、ちょっと予想外のことが続いてしまったけれど、始めさせてもらおっか。
私の戦い方を。
落とし穴に嵌った状態のガノトトス顔の横に大タル爆弾を設置。
そして、背中に担いでいた片手剣で抜刀斬り。その爆風をジャスト回避してからまた直ぐに、大タル爆弾を設置して起爆。ソレをもう一度だけ繰り返して、次はジャスト回避から飛んで、ジャンプ攻撃。
爆発で視界は悪いし、火薬の匂いが酷い。でも、それは懐かしい景色で懐かしい匂いだった。
うん、ブシドースタイルで来たのは正解だったかもしれない。私が爆風に巻き込まれることは少なくなりそうだし。
ああ、懐かしいなぁ。今じゃ、遠い昔のことのように思ってしまうけれど、どうやら私の身体はちゃんと覚えてくれていたみたいだ。
漸く罠から抜け出したガノトトスの動きに注意しながら、大タルと爆薬を調合。この瞬間が一番危ないけれど、身体が勝手に動いてくれる。
調合した大タル爆弾を威嚇中のガノトトスの足元へ設置。直ぐに起爆し、ジャスト回避から爆発で怯んでいる相手へジャンプ攻撃。
「寝た! 攻撃ストップニャ!」
そこで、ネコさんの攻撃でガノトトスは睡眠状態へ。
「ご主人さん、また落とし穴をお願い」
了解です!
白ネコさんに言われてから直ぐに落とし穴を調合。
「罠は此処でいい?」
「其処じゃ入っちゃうから、もうちょっと離した方が良いニャ」
……私がこんな変な戦い方をしているのに、ネコさんたちが特に何かを言ってきたりしない。最初に私が片手剣と爆弾を使うと言った時は少し驚いていたけれど……
ま、まぁ、そうだというのなら、全力でやればいいんだ。
本当は、もう少し驚いてくれた方が嬉しいなって思う私がいたりします。
ネコさんに言われた場所へ落とし穴を設置してから、まだ寝ているガノトトスの頭の前へ大タル爆弾をふたつ設置。抜刀斬りで起爆からジャスト回避、ジャンプ攻撃。
そして、起きたガノトトスはさっき仕掛けた落とし穴の中へ。
また大タル爆弾を調合して、直ぐに設置して起爆。今度はジャンプ攻撃じゃなく直ぐに大タル爆弾を設置して、また起爆。
これが私の戦い方。他のハンターたちがどうやって戦っているのか私はよく知らないけど……大タル爆弾をメインに使うのは私くらいなんじゃないかなって思う。
昔、私が旅団に所属していた時、どうしてもリオレイアが倒せなかった時に、この戦い方を思いついた。自棄糞気味に大タル爆弾を使ってみたら、それが予想以上に強くて――あれ? これなら爆弾をたくさん使えばいいんじゃない? なんて思ってからこんな戦い方に。
最初は何度も何度も自分が置いた爆弾の爆風に巻き込まれたし、上手く爆弾を使うことだってできなかった。それでも、あの頃の私がシャガルマガラを倒すことができたのだって、この戦い方のおかげだと思う。
「お? 乗りました! 援護お願い」
「ナイスニャ!」
落とし穴から抜け出したガノトトスに爆風を当て、ジャスト回避からジャンプ攻撃をしたところで、乗り。
さっきから怖いくらい上手くいっている。てか、ガノトトスに何の攻撃もさせてない。
そして、ネコさんたちの援護もあり私の乗りも成功。
よしっ! 一気に畳み掛けよっか!
――――――――――
……ご主人のSBが予想以上に上手いぞ。流石にこれは驚いた。片手のブシドーだって初めてなはずなのに、完璧に使いこなしている。
落とし水爆落としから乗りも成功。さらにその間、ご主人の大タル爆弾のダメージも入っているし……
相棒だったり、弓ちゃんだったり、妹さんだったりと今までこの世界でも上手いハンターは見てきた。けれども、ご主人はそんなハンターたちとちょっと違う。ご主人が上手いのは確か。何とも説明し難いけれど……どちらかといえば、俺や白ネコ側に近い気がする。ご主人からはそんな上手さを感じる。
「シビレ罠使うね!」
「た、頼んだニャ」
そして、乗りが成功したご主人は一度だけ大タル爆弾を起爆させてから、ガノの足元にシビレ罠を設置。すごいぞ、何も教えてないのに、ご主人がガノを完全にハメてる。ガノさんったら釣り上げられてから一歩も動けてないのですが……
それにそろそろ、また俺が睡眠を取るだろうし……
そんな予想は当たり、ご主人が起爆させ黒煙が広がった景色の先、やっとシビレ罠を壊すことができたガノはパタリと横に。うん、まぁ、睡眠耐性低いもんね、仕方無いね。
前回、アレだけ苦労したのが嘘みたいだ。
「……捕獲の方が良い?」
ご主人が寝たガノの頭の前に爆弾を置く姿を眺めていると、そんな白ネコの声。
「いや、できれば竜玉が欲しいから討伐の方が良いと思うニャ」
「ん、了解」
捕獲すると報酬数が減るし、ガノの場合は捕獲するメリットなんてほとんどないんじゃないかな。ゲームならクエスト時間が40秒早くなるから、捕獲はありだけど。
「起爆するよー!」
あっ、はい、お願いします。
多分、そろそろ倒せると……ああ、倒したわ。お疲れ様でした。
うーむ、やっぱりSBは強いな。0分針は間違いないだろう。睡眠のタイミングや乗りが上手くいったのもあるけれど、今日のご主人は本当に輝いていたと思う。
「おおー倒した! 倒したぞー!」
「……お疲れ様」
「お疲れ様ニャ」
とはいえ、これでご主人のHRは5。HR5になれば俺たちの新しい装備を作ることもできる。ん~……何を作ろうかな。
それにご主人がSBをできると分かったのも大きい。もし、この先また止まってしまう時があったらこの方法を使えば良いわけですし。
それにしても……やっぱりハンターは色々なことができて羨ましいなぁ。俺や白ネコなんて武器を変えるぐらいしかできない。
それは酷く贅沢な願いではあるけれど――また、人間の姿でモンスターと戦いたい。
そんな想いがやたらに強くなった。
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第57話~選んだスタイルは~
ガノを倒したことでご主人のHRは5に。これでナルガなんかとも戦うことができるようになったから、俺と白ネコの装備を強化することができる。装備を強化できれば、今よりももうちょっと楽になるのかなと思う。
ただ……この先、相対的に俺と白ネコの火力は落ちてくる。だから、ご主人の負担も増えてきてしまうわけだけど、何処まで進めるんかね。なんとも情けないことだけど、俺の実力じゃ獰猛化モンスターは厳しいです。
まぁ、別に獰猛化モンスターとは戦わなくても、オストガロアと戦えたはず。そう考えれば、ラスボスを倒すくらいなら問題ない。
とはいえなぁ……なんとももどかしい気分です。
「ネコさーん。次はどのモンスターと戦えばいいかな?」
うーん、どうしようか。
有り難いことに、ガノから竜玉が出たため、ご主人のオブシドハンマーは強化ができる。んで、次の強化に必要な素材はテツカブラの素材と、ユニオン鉱石だったはず。そうなると、地底火山でテツカブラと戦うのが良い気もするけど、もうナルガハンマーを作っちゃった方が良い気がしてきた。
ただ、ナルガハンマーを使えるぐらいまで強化するには、上位ゴアの触覚が必要。さらに、上位ゴアと戦えるようになるのはHR6から。別に焦っているわけではないけれど、無駄はことはあまりしたくないんだよなぁ。
「うニャ……ん~、君は何か行きたいクエストとかあるかニャ?」
どうにも自分じゃ決められそうになかったので、白ネコさんからの助言を求めることに。
「別に何でも良いと思うけど……それじゃあ、ガララかガルルガかナルガで」
「了解です! それじゃあ、どのクエストがあるか聞いてくるね」
白ネコの選択は麻痺か毒か物理特化か、といったところ。その中なら、どれでも良いと思う。正直、全部欲しい。
うーん、やりたいことや選択肢が多すぎるせいで、どうにも決めきれない。有り難いことだけど、悩ましいものです。いっそのこと、二つ名ナルガや二つ名ガルルガと戦うのもアリなんじゃないかと思ってしまう。むぅ、カッコつけて白疾風素材をもらわなかったけれど、今更になって後悔してきた。
一番効率が良いのは、各々で必要な素材を取りに行くことだよなぁ……
でも、そんなこと提案したらご主人が泣く。まぁ、焦る必要はないんだ。のんびり皆で進んでいくとしよう。
「……やっぱり今回もオストガロアを倒したら終わりなのかな?」
そして、俺の方を向くことなく、ぽそりと白ネコが言葉を落とした。
「さぁ、それは俺にも分からんよ。ただ、今までのことを考えるにそうなると思う」
この世界へ来たのはこれで3度目。そして、今までの2回は両方とも、ラスボスを倒して終わりとなってしまった。それに物足りなさを感じるけれど、どんなに俺が願っても仕方の無いこと。
「勘でしかないんだけどさ……なんか今回は違う気がする。私も、よく分かんないけど……」
そう言った白ネコの顔は不安そう……ではなかったけれど、なんとも複雑な顔だった。
今回は違う、か。
……もし、オストガロアを倒した時、俺たちが元の世界へ戻ることができなかったら、どうなるんだろうね?
この世界は好きだ。それでも、元の世界を捨てられるほどの覚悟はない。少なくとも、今は。それに、ネコの姿じゃなぁ……
「俺だって分かんないよ。でもさ、まぁ、頑張っていこう。それくらいしか俺たちにはできないんだから」
「……うん、そうだね」
こんな時、白ネコが――この彼女がいてくれて本当に良かったと思う。やっぱり不安はあるし、自分の中にある弱さを出してしまう時もあるのだから。
「ネコさん、白ネコさん。ガララアジャラのクエストがあったから受注してきたよ!」
そして、今日も元気なご主人の声が響いた。ガララ、了解です。
ガララならご主人も戦ったことがあるはず。手強い相手でもないし、今回も問題なくクリアできそうだ。
「それで、ガララはどうやって戦えばいいかな?」
ん~……どうだろう。ご主人の今のスタイルはブシドー。弱点は頭だし、囲まれた時に脱出が楽なエリアルスタイルの方が楽そうだけど、別に後ろ脚を殴ってるだけでも倒せるしなぁ……
「……秘境から飛び降りて三角岩より小さければぐぅれいと」
こら、最小マラソンの話はやめなさい。ご主人さんが首を傾げちゃってるじゃないですか。それにこの世界じゃ秘境スタートができません。あと、この世界で最小マラソンなんて絶対にしたくないぞ。
「エ、エリアルスタイルの方が楽に戦えると思うけれど、ご主人の好きなスタイルで良いと思うニャ」
「あっ、そうなんだ。ん~……じゃあ、ストライカースタイルとかでも大丈夫?」
あー……ストライカーかぁ。別に悪いわけじゃないけど、悪いわけじゃないんだけど……なんだろう。試してみたくなっちゃったのかな?
「ああ、うニャ。大丈夫だと思うニャ」
ストライカーハンマーだって決して弱いわけじゃない。スタンプの威力はホームランと同じくらいなのだし。実際、ハンマーTAじゃギルドの次に人気があったはず。だから、弱くはないはずなんだ。ただ、ホームランを出すことができないから、俺はあまり好きじゃないかな。あと、ハンマーは狩技がなぁ……
俺がもっと上手くハンマーを扱えれば良いアドバイスもできた。でも、ストライカーハンマーはさっぱりなんです。多分、スタンプをメインで立ち回れば良いと思うけど。
「了解! それじゃあ、次はストライカースタイルで行ってみるね」
うん、頑張ってください。俺からはそれくらいしか言えません。
まぁ、今回は相手が相手だし、問題はないと思う。
「……ご主人さんって狩技はいつもどうしてるの?」
そして、白ネコの質問。
そういえば、どうしていたんだろうね。ストライカーなら狩技を3つ使える。普通の絶対回避を使っているところは見たことあるけど、残りはどうするんだろう。
ストライカーハンマーのテンプレは絶対回避2種とスピニングメテオだったはず。でも、臨戦ってご主人できるのかな。
「そっか。今回はひとつだけじゃないもんね。う~ん、それじゃあ、絶対回避とスピニングメテオと……タ、タイフーントリガーだっけ? それにしてみるね!」
「絶対回避【臨戦】はできないのかニャ?」
タイフーントリガーよりはオススメします。
「できるけど……あっ、そっちの方が良かったりするの?」
うん、すごく今更だけど、ハンマーの中では一番使える狩技だと思う。
他の狩技は……当てるのが難しいけど、スピニングメテオはモーション値が悪くない。タイフーントリガーは……ごめん。使ったことないです。硬直キャンセルと追撃に使う感じで良いのかな? ただ、両方の狩技にいえることだけど、ヒット数を稼いじゃうから斬れ味消費がキツいんだよね……
てかご主人、臨戦できたんだ。全く知りませんでした。
「うニャ。斬れ味も回復できるから便利ニャ」
「うん、分かった。それじゃあ、絶対回避は臨戦にするね」
あっ、タイフーントリガーは使うんだ。
まぁ、色々と試してみるのが一番だし、これはこれで良いのかな。
「よし、それじゃあ、準備をしたら早速出発しよっか!」
「うニャ!」
「おー」
極論をいってしまえば、ハンマーで一番強いスタイルはギルドスタイルだと思っている。ブシドーのジャスト回避は確かに便利で強いけれど、どうしても手数は減ってしまうし、カチ上げがないことと、溜め1によるホームランキャンセルができないのはキツい。エリアルのA2連は強いけれど、それで弱点を殴り続けるのは現実的ではなく、ローリングによる細かい位置調整も難しいんだよなぁ……
だから俺は、結局ギルドスタイルが一番強いのかなって思うんだ。まぁ、ブシドースタイルばかり使っていた俺がそんなことをいっても、説得力なんて全くないわけですが。
ただ、なんとも自分勝手な願いではあるけれど、できればご主人には最終的にギルドスタイルを使ってもらえたら嬉しいなって思う自分がいます。ストライカーは使ったことがないし、ブシドーやエリアルスタイルだって嫌いじゃない。
でも、俺が好きになったハンマーはギルドスタイルのハンマーなのだから、それをご主人も気に入ってもらえたらなって思うんだ。まぁ、そんな随分と自分勝手な願いをご主人に伝えられるわけがないんだけどさ。
それに、ご主人がハンマーを好きだと言ってくれただけで、俺は充分満足しています。
確かに、強い武器ではないかもしれない。確かに、使いやすい武器ではないかもしれない。それでも、ハンマーは魅力的な武器だし、俺が一番好きな武器。そして、そんな武器を気に入ってくれたことは本当に嬉しい。
さてさて、次の相手はガララアジャラ。
ご主人のため、今日も頑張っていってみましょうか。
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第58話~オールラウンダー~
「それじゃ、今日も頑張っていこっか!」
「うニャ!」
「おー」
場所は原生林。メインターゲットはガララアジャラ。
さて、今日のご主人はストライカースタイルなわけですが……大丈夫かなぁ。いや、別にストライカースタイルが悪いって思っているわけじゃないんだ。ただ、ハンマーといえばやっぱりホームランなのかなって俺は思っているから、そのホームランを出すことができないストライカーはどうも……
「えと、今回は溜め攻撃をメインに使えばいいんだよね?」
「うニャ。それで良いと思うニャ」
ストライカーならMPFも縦3より、スタンプ連打の方が高いと思う。
パーティーでスタンプ連打はオススメしないけれど、俺と白ネコはブメネコだし、スタンプに巻き込まれることもないはず。
「ご主人さんは後ろ脚をお願い」
「はい! 了解です」
とことこと3人でガララのいるエリア5を目指しながら、簡単な作戦会議。後ろ脚怯みからの大ダウンは美味しいです。まぁ、今回は相手が相手だし、ゴリ押しでどうとでもなると思うけど。
因みにだけど、俺と白ネコの武器はゴアとシャガルの武器に戻しました。やっぱりネコなら一式が良いよね。
そして、エリア5に到着。
メインターゲットを発見。
「……むぅ、ちっちゃくない」
いやだから、別に最小じゃなくても良いと思うんだけど……以前も言ったけど、最小マラソンはやりたくないです。二つ名モンスとかどうすれば良いんだ。
さてさて、それじゃ頑張っていきましょうか。
ネコの姿じゃ緊急回避ができないから、咆哮は全部ガードすることに。俺も防音の術が欲しかったです。
チラとご主人を見ると、見事に耳を塞いでいた。そんなご主人をガララが見逃すわけもなく、いきなり囲まれてしまってます。
まぁ、流石に即乙はないだろうし、俺はサポゲを稼がせてもらうとしよう。
何度もいうように、ガララはそんなに強いモンスターじゃない。他のモンスターにはない動きが多いし、獰猛化個体の強さはちょっとおかしいけれど、初見は誰もいないし今回は通常個体。
「ん~……よいしょ」
ご主人のスタンプがガララの後ろ脚に当たり破壊。ナイスです。
「ご主人、頭を狙うニャ!」
「了、解、ですっ!」
お願いします。ガララさんはスタン耐性が低いし、1回なら直ぐに取れると思うよ。それにストライカースタイルならブシドーじゃできなかったカチ上げが使える。スタンだけならストライカーが一番早く取れるかもしれない。
そして、最初はかなり不安だったけれど、ご主人の動きも悪くない。カチ上げを出そうとしたのに溜めすぎたのか、グルグル回っている姿が何度か見えたくらい。初見じゃないモンスターが相手の時のご主人はすごく頼もしいです。
防音の術がある白ネコさんはストレスフリーで戦えているし、今回は俺もそれなりに手数を稼げている。前回のガノはかなり苦労したけど、アレがちょっと特別だったってことなのかな。
HR5で戦うモンスターはご主人も戦ったことのあるモンスターばかりなはず。苦労しそうなモンスターは……ヴォルガノスとかになるのかな。エリアルスタイルで行けばあっさり倒せそうだけど。
「スタン取ったよ!」
「ぐぅれいと」
よしよし、とりあえずこのガララは倒すことができそうだ。てか、俺が使わなかっただけでストライカースタイルって強いかもしれない。スタンプメインで立ち回るのだし、少なくともソロならかなり良さそうだ。
さて、これでガララを倒すことができれば、俺と白ネコの武器を強化することもできる。それで防具は……どうしよう。確か、ガララのネコ装備ってターバンを巻いて立派なヒゲも付く防具だったよね? うーん……正直、好みじゃありません。少なくとも、白ネコさんは嫌がると思う。
ま、それはコイツを倒してからまた考えるとしよう。
咆哮はちゃんとガードし、もし囲まれてしまっても緊急撤退を使って脱出。そんなことを少し意識するだけで、ネコならかなり楽に戦える。体が大きいからサポゲのチャージにも困らないし、時間はかかったとしても、やっぱり苦労する相手じゃないみたいです。
「よっし! 討伐完了!」
そんなわけで特に危ないこともなくクエストクリア。
「お疲れ様ニャ」
「お疲れ様」
……前々から思っていたけど、ご主人ってすごく器用だよね。
メイン武器は片手剣なはずなのに、今じゃ普通にハンマーを使いこなしている。しかも、ストライカースタイルは今日初めて使ったというのに……むぅ、これが才能か。
才能があるといえばあの相棒だけど、あの相棒だって操虫棍以外は全く使えなかったりする。試しにハンマーを使わせてみた時なんて……まぁ、そんな話は良いや。とにかく、ご主人はかなり器用だ。それも今まで会ったことのないタイプって感じ。
「ご主人、ストライカースタイルはどうだったニャ?」
「ん~……よく分かんないけど、戦いやすかったと思うよ」
サクサクと剥ぎ取りをしながらご主人と雑談。
マジかー。それなら俺もストライカーを使っておけば良かった。集中抜刀会心でもつければかなり良いかもしれない。
「……ご主人さんって器用だよね」
ぽそりと聞こえた白ネコの言葉。
ああ、やっぱり君もそう思うよね。俺も丁度そう思っていました。
「え゛? い、いや、そんなことはないと思うけど……」
この世界のハンターは基本的にひとつの武器しか使わない。聞いた話によると、スタイルだってほとんど変えないらしい。そうだというのに、このご主人は武器やスタイルを変えても普通に戦えている。俺や白ネコにとってそれは、別に驚くことじゃないけれど、この世界じゃきっと違うはず。
まぁ、自力でSBなんて思いつくハンターが普通のはずはないんだけどさ。流石は元主人公。
「ううん。普通は慣れてないスタイルをそんなに上手く使えないもの」
だよなぁ。
俺もブシドースタイルに慣れるのにかなり時間がかかった。この白ネコさんだって色々なスタイルを試してみたものの、上手く使えないってことで最終的にはギルドスタイルに落ち着いちゃっていたし。
「えー……でも私、上手く戦えてないよ?」
いや、充分すぎるくらい戦えているんだけど……
確かに、ものすごく上手いというわけではないし、まだ失敗も目立つ。けれども、初めて使ったのにも関わらずアレだけ動くことができれば充分。
そのことはもっと自信を持っても良いと思う。
「アレだけ動けていれば、なんの文句もないニャ。だからご主人はもっと自信を持って良いニャ」
「……うん、私もそう思う」
「そう、なのかなぁ」
うん、そうだと思う。ぶっちゃけ、ちょっと嫉妬してしまうくらいには上手い。少なくとも俺じゃ初めて使うスタイルでこのご主人ほど上手く立ち回ることなんてできないわけですし。
もしかしたらだけど、このご主人ならどんな武器で、どんなスタイルでも上手く戦えるかもしれない。もし余裕があったら今度はガンナーとかもやってもらおうかな。
そんな感じで、出発前はかなり不安に思っていたクエストも内容は文句なしで終わった。
相棒だったり弓ちゃんや妹さんみたく、かなり上手いハンターを見てきたせいで、少しばかり霞んでしまっていたけれど、やはりこのご主人は上手いハンターだ。
とはいえ、これからご主人はどのスタイルで戦うんだろうね? 何度もいうように俺はストライカーを使ったことがないせいで、ストライカーとどのモンスターの相性が良いのか分からない。まぁ、今の段階なら苦労することもないだろうし、好きなスタイルで戦えば良いと思っているけど。
そして、ガララを倒したことで俺たちの武器も強化できる。麻痺は美味しいし、物理火力も上がるんじゃないかな? これでご主人がエリアルスタイルを使えば麻痺乗りスタンループも夢じゃない。
ご主人の新しい防具はHR6となってからで大丈夫だろうし、其処までは一気に進ませてもらおう。
「ネコさんネコさん、次はどうしよっか?」
龍歴院へ戻り、いつものように打ち上げ。
次かぁ、次はどうしようかなぁ。今やらなきゃいけないのは俺と白ネコの防具作りに、ご主人の武器作り。そうなると……
「ナルガクルガのクエストがあればそれで良いと思うニャ」
それくらいしか思いつかない。
なんだかナルガとばかり戦っている気もするけれど、ナルガは戦っていて楽しい相手だし、文句はない。それにやっぱりナルガハンマーは強いんです。期待値的にはティガハンマーの方が少しだけ上だけど、個人的に見た目はナルガハンマーの方が好き。
「了解です! 白ネコさんは何か行きたいクエストってある?」
「私は特にない、かな。だからナルガで良いと思う」
うむ、どうやら次はナルガで決まりっぽいですね。
これでナルガを倒せば、俺たちも上位ナルガ武器を作ることもできるし、かなり美味しい。
「……そうなると、ご主人さんはどのスタイルで行くの?」
「あー……どうしよっかなぁ。えと、前回ナルガクルガと戦ったときはエリアルスタイルだったし、次は……うん、じゃあギルドスタイルにするね!」
……ギルドで行くんだ。それは予想外。
いや、でも此処で縄跳びを覚えてくれれば、今後がかなり楽になるのだし、悪い選択ではないのかな? まぁ、そんな直ぐに覚えられるようなものでもないけど。
とはいえ、俺のやることは何も変わらない。サクっと倒してしまいましょうか。
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第59話~その背中を追いかけて~
「それじゃ、ナルガとの戦い方を説明するニャ」
「よろしくお願いします!」
第……何回かはわかんないけど、ネコさんの戦い方講座(ナルガクルガ編)です。現在はナルガクルガ討伐のために古代林へと向かう飛行船の上。しっかりとネコさんから教えてもらわないとだ。
因みに、白ネコさんはすやすやとお休み中です。ウカムルバスのサマーソルトがなんたらとか、よくわかんないことを呟いているけど、ネコさん曰く、アレは寝言だから放って置いていいみたい。白ネコさんはどんな夢を見ているんだろう……
今回の私のスタイルはギルドスタイル。それはもっとも一般的なスタイルで。使っているハンターさんもギルドスタイルが一番多いと思う。バルバレとかだとギルドスタイルしかないし。
「今回、ご主人には“回避”を覚えてもらいたいニャ」
回避? それはどういう意味だろう。
「えと、その……回避っていうのは?」
「簡単に言うと、ローリングでモンスターの攻撃を無理やり躱すことニャ」
ああ、なるほど。つまり、ローリングで咆哮を躱すのと同じってことだよね。それで、今回は相手の攻撃をローリングで躱す、と。
いや……難易度高くないですか? だ、だって、咆哮とは違って、もし失敗したら実際に攻撃が当たっちゃうわけだし。
「本当はそうならないのが一番だけど、どうしても無理やり躱さなきゃいけない場面はあるニャ。そして、ナルガはその練習に丁度良いのニャ」
先生大変です。そんなのできる気がしません。
「……それってコツとかあるの?」
「ん~、こればっかりは感覚だし……えと、とにかく相手の動きを見ることが大切ニャ!」
……ネコさんって根性論で物事を語るときがあるよね。やればできる! みたいな感じ。いや、そりゃあ、やらなきゃできないわけですが。
「あとは、相手の攻撃に対して直角に入ることを意識すれば躱しやすいニャ」
うーん、そんなことを言われてもイメージが湧かない。ネコさんも一生懸命、身体も使って教えようとしてくれているけど、よくわかんないや。
「あー……つまり、モンスターの攻撃に自分から突っ込んで行けば良いニャ!」
そうなのかなぁ。なんか違う気がするけど。
「それと、尻尾振りとかの攻撃は根元よりも、振りの速い先端の方が躱しやすいから、それも覚えておくと良いニャ」
う、うーん、よくわかんないけど、攻撃を躱す時はモンスターから遠い方がいいってことかな。
「とにかく実践あるのみニャ!」
……不安だ。
「よし、それじゃ、サクっと倒してこよっか!」
「うニャ!」
「おー」
ネコさんの助言を受け、次は実践編。
ネコさんだし、間違ったことは言ってないと思うんだけど、如何せんネコさんの言葉は私に理解できないことばかり。
ただ、シャガルマガラと戦っていた時みたいに、急にネコさんの言葉がしっくりくる時もある。今回もそうなってくれればいいけど。
「初期エリアは4番ニャ」
了解です。
ナルガクルガと戦うのはこれで2回目。前回はネコさんたちに頼りっきりとなってしまったけれど、今回は私も頑張ります! ただ……ネコさんから言われたことを実践できるかどうかは難しそうだ。
ネコさんたちと一緒にナルガクルガのいるエリア4へ。
夜ということもあって、ナルガクルガの黒い体はその闇に溶けこんでいるように見えた。
「それじゃご主人、頑張って実践してみるニャ」
「あっ、はい。頑張ります」
ネコさんから言われたのは、相手の攻撃に対して直角に入ることと、攻撃の先端で躱すこと。
とはいえ、そもそも私はブシドースタイルでもないと、ローリングで攻撃を躱すなんてことをしない。片手剣を使っていた時はガードを多用していたし、ハンマーを使っている時も、モンスターの攻撃はその攻撃が当たらない場所まで避難していた。
でも、今回はその攻撃をローリングで避けることを学ばないといけない。
確かに、モンスターの攻撃が当たらない場所まで避難できないことは何度もあるし、これで躱せるようになれば私にとって大きな武器にもなる。
よ、よし、とにかく頑張ってみよう。
ネコさんと白ネコさんのブーメランが当たったところで私たちに気づいたナルガクルガ。
ナルガクルガはモンスターの中でも攻撃が速いモンスター。ネコさんは速いから躱しやすいって言っていたけど、私にその言葉の意味はやっぱりよくわからなかった。
昔、ネコさんから言われたように、基本的にハンマーを溜めながら移動。
そして、ナルガクルガの後で待機し、私の方を振り向き始めたところで、溜めていたハンマーを振り下ろす。
振り下ろされたハンマーは相手の頭へ吸い込まれ、ハンマー特有のエフェクトが弾けた。
よしっ、いい感じ。振り向きへスタンプを合わせるのは慣れてきた気がします!
そんな私の攻撃が当たったところで、ナルガクルガの目は赤く光り、大きくステップ。つまり、怒り状態。
赤く光った目は暗い夜の中、不気味なほどに目立っていた。
とりあえず、怒りからの咆哮を終えたナルガクルガの頭へハンマーでカチ上げ。
「尻尾振り!」
カチ上げをして直ぐ、ネコさんの声が聞こえた。
私の場所はナルガクルガの真正面。今からどんなに早くローリングをしても、攻撃の届かない場所まで避難することは無理。つまり、いきなりネコさんに言われたことを実践する時が来たわけです。
トクリ――と私の中の何かが跳ねた。
やたらと遅く感じる時の流れの中、ナルガクルガの振る尻尾へ向かってローリング。
結果、尻尾攻撃が直撃して吹き飛ばされました。
ああ、うん。そりゃあそうなるよね。
「惜しかったよ」
吹き飛ばされた私に白ネコさんがそんな言葉をかけてくれた。
そ、そうなのかなぁ……
それから何度もローリングでナルガクルガの攻撃を躱せるようチャレンジしてみたけれど、ほぼ全て吹き飛ばされました。今度は躱せたかな? なんて思えることもあったけれど、ローリングをしていたから本当に躱せていたのかはわからない。
そんなこともあって今回はいつも以上に多く攻撃を喰らってしまっています。おかしい。攻撃を喰らわない練習をしているはずなのに……
「怖いかもしれないけれど、できるだけ攻撃を引きつけてからローリングをしてみて。感覚でしかないけれど、あともう少しだけテンポを遅らせれば躱せると思う」
「りょ、了解です……」
白ネコさんからもアドバイスをもらってしまった。むぅ、本当に上手くいかない。
飛行船の上で教えてくれたネコさんのアドバイスもなんとなくだけどわかってきた。だから、あと少しだと思うんだけど。
もう少しだけテンポを遅らせてみる、か。
「回転攻撃! そのあと、確定で威嚇ニャ!」
ネコさんの声が響いた。
ナルガクルガの回転攻撃は攻撃は範囲がすごく広く、かなり速い攻撃。その後に威嚇することはわかっていても、毎回毎回吹き飛ばされているせいで、その威嚇中に攻撃ができていない。
モンスターの動きをよく見て、攻撃に対して直角に。そして、攻撃をできるだけ引きつけてからローリング……
またゆっくりとなってしまった世界で、ネコさんと白ネコさんの言葉がグルグルと回る。
頭でだって理解していない。身体も覚えていない。
だったら――今理解して、今覚えればいい。
やたらと遅く見えるナルガクルガの回転攻撃。
そして、引きつけて、引きつけてその回転してきた尻尾へ対して直角にローリング。
「ぐぅれいと」
馬鹿みたいに大きくなった自分の心臓の音以外に、そんな白ネコさんの声が聞こえた。
吹き飛ばされてもない、ダメージも受けていない。か、躱せたのですか?
よくわからない。よくわからないけれど、まだクエストは終わっていない。直ぐにハンマーを腰へ構えて溜め。そして、回転攻撃を終え威嚇中のナルガクルガの頭へカチ上げ。
そこで、このクエストが始まって初めてのスタンを取った。
「あっ、え……」
言葉が出てこない。
相手の攻撃を躱し、こちらから攻撃。
言葉にすればたったそれだけ。でも、なんだろう。たったそれだけのことなのに、やたらと高揚している私がいた。
「ラッシュをかけるニャ!」
そんなネコさんの言葉も何処か遠くの方で聞こえるし、すごく手が震える。息が荒い。心臓が暴れる。
どうしてなのか私だってわからない。でも……そんな状況を心の底から楽しんでいる私がいることはよくわかった。
「ん~っと、お疲れ様ニャ!」
「……お疲れ様」
「あっ、う、うん。お疲れ様だね!」
私が攻撃を躱してからのスタンを取った後、ナルガクルガは直ぐに脚を引きずりエリアチェンジをした。そのナルガクルガを追いかけ、私がスタンプをその頭へ入れたところで討伐完了。
今回は私が吹き飛ばされてばかりだったせいで、クエストの時間はいつもより長いと思う。でも、何というか……今まで一番、戦っていて面白いって思えた。
「ご主人ご主人、回避のコツはつかめたかニャ?」
倒したナルガクルガから剥ぎ取りをしていると、ネコさんが声をかけてくれた。
「流石にコツはつかめてないよ」
最後に相手の攻撃を躱すことはできたけれど、自分で躱せたと思えたのはあの1回だけなわけですし。
「むぅ、それは残念ニャ。とはいえ、ローリングで攻撃を回避するのはすごく難しいことだし、ゆっくりと覚えていけば良いと思うニャ」
うん、難しいことは今回のクエストでよくよくわかりました。
ネコさんたちはきっと、当たり前のようにやっていることなんだろうけれど、私にはまだまだ無理そうです。
「……でもね」
「うーニャ?」
きっと私じゃネコさんたちほど上手くなることはないと思う。精一杯、頑張ってみるつもりだけど、それでもネコさんたちにはとどかない。それほどに私とネコさんたちとの距離は離れているんです。
けれども、今日のクエストでそんなネコさんたちの背中が見えた気がする。
もしかしたら、それはただの思い上がりかもしれない。でも、そんな気がするのです。
「自分でもよくわかっていないんだけど、何というか……今日はすごく楽しかったです!」
そんな私の言葉を受け、ネコさんは笑ってくれた。
私とネコさんたちは根本的に何かが違う。それは人間とネコの違いってことじゃなく、精神的な面で大きな何かが違うんだろうって意味。
そんなネコさんたちと私だけど、今日はその違いが少しだけわかった気がします。
どんなに頑張ったところで、私はネコさんたちに追いつくことはできやしない。それでも、私だってネコさんたちのご主人なんだ。だから私は精一杯抗ってみたい。
それに、私にはネコさんと白ネコさんがついている。それならきっと大丈夫だろうって思ってしまいます。
ふふっ、調子に乗りすぎかな? でも、このネコさんたちについていくのなら、それくらいで丁度いいんじゃないかって思ってみたり。
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第60話~あの頃と比べて~
半分以上が相棒さんのお話となっています
「討伐、完了です!」
原生林でリオレイア討伐クエストも無事終了。
ご主人は前回、ナルガと戦った時と同じギルドスタイル。当分はギルドスタイルを練習するんだって。うむうむ、ブシドーやエリアルハンマーも良いけれど、やっぱりギルドスタイルが良いよね。
「お疲れ様ニャ」
「お疲れ様」
前回、かなり曖昧にだけどフレーム回避のやり方をご主人へ教えてみた。当たり判定だとか、無敵フレーム数の話なんてできなかったこともあって、上手く伝えられなかったと思う。
それでも、ナルガとの戦いの最後でご主人も回転攻撃をフレーム回避ができていたし、教えて良かったとは思っている。
ご主人にも言ったように、フレーム回避はできるだけ避けた方が良い。というより、フレーム回避をしなければいけない状況にならないよう、立ち回るのが一番。けれども、やはりフレーム回避が必要になってくる場面はある。だから、それを覚えておくことは大切だと思っている。
それに、フレーム回避が成功すると、なんか、ほら……自分が上手くなったように思えるよね。そんな楽しみ方があっても良いんじゃないかな。
それと、俺と白ネコの武器がガララ武器になりました。ナルガ防具の生産もお願いしてあるし、これで全員が上位装備に。この装備ならもうHR5のクエストは余裕だと思う。ヴォルガノスっていう癖の強いモンスターはいるけれど……まぁ、ゴリ押しでどうとでもなるモンスターだし、多分大丈夫。
「お? こ、紅玉が出たよ!」
サクサク剥ぎ取りをしていると元気の良いご主人の声が響いた。
「おめでとうニャ」
「おめでとう」
レイアの本体剥ぎ取りから紅玉は出ないし、落とし物から出たのかな。
「……なんだか二人ともリアクションが薄いね」
ああ、うん。いや、だってねぇ。
残念なことにレイアの紅玉を使うハンマーはほとんどありません。そして、紅玉を使うハンマーの性能も……レウス防具が優秀なこともあって、レウスの紅玉が足りなくなった記憶はあるけど、レイアの紅玉が足りなくなった記憶はなかったり。
とはいえ、何かの防具に要求されるかもしれないし、出ないよりは良いことだと思う。
それにしても、紅玉を落とすってどういう状況だったんだろうね? まぁ、モンスターの中にはビックリして心臓を落としちゃう一角竜だっているわけですが。
「まぁ、いいや。それより、次はどのモンスターと戦えばいいかな?」
ん~……次は本当に何でも良いと思う。戦いたいモンスターはHRが6にならないと戦えないわけですし。だから次は、素材集めも兼ねてショウグンとかで良いんじゃないかな。火山は鉱石系の素材が美味しい。
「……ご主人さんが戦いたいモンスターで良いと思う」
そんな白ネコさんの意見。
そうだね。別に焦る必要なんてないし、のんびりのんびりと進めていこう。
「あっ、そうなんだ。んと……じゃあ、次は私が決めちゃうね」
了解です。
ガノでちょっとつまずいてしまったものの、これからはもう詰まることもなさそうだ。また詰まりそうになってしまった時は、ご主人がSBをすれば良いわけですし。順調順調。
こんな身体になってしまい、最初はどうなることかと思っていたけれど……案外どうとでもなるものなんだね。まぁ、それもご主人さんと白ネコのおかげなんだろうけど。
またこうして、この世界へ来られたことに不満はない。
ただ……やっぱりハンマーを使いたいよなぁ。ハンマーを使うご主人を見ていると、そんな想いが強くなるばかり。
現状に不満はない。ないけれど……あの相棒たちと一緒にハンターをしていた時期と今とを比べると、どうしてもモヤモヤしたものを感じてしまう。
また離れ離れになってしまったわけですが、相棒さんってどんな生活をしているんだろうね? あの相棒が元気じゃないところなんて想像できないけれど、そんなことが気になった。
――――――――――
「今後の予定ですが、狂竜化したラージャン、セルレギオス、ディアブロスが確認されたので、それらの討伐を。また、古龍が戦闘街へ近づきつつあるとの情報も入りました。そして、六日後に貴族の方々との会食の予定も入っています」
「全部パスでお願いします」
「無茶言わないでくださいよ……」
どうしてこうなったのか本当の理由は分かんないけど、最近はとにかく忙しい。
先日は久しぶりにバルバレへ行ってダレン・モーランの討伐を。その後直ぐに大老殿へ戻るように言われて戻ってきたら、イビルジョーの討伐。そして休む暇なく、今度は狂竜化モンスターのフルコース。なんだこれは。
「あのさ……最近、私の仕事多くない?」
「そ、それは……」
モンスターが現れ、困っている人がいるのだからクエストを受けるのは別に良い。そのことは別に良いんだ。
でも、最近は私がやらなきゃいけない仕事の数が明らかに多い。狂竜化モンスターや古龍種の討伐クエストとかだったらまだ分かる。けれども最近は、燃石炭の納品クエストだとか、卵の運搬クエストだとか、別に私じゃなくても問題ないクエストまでやらされている。あと、会食とかイベントごともやたらと多い。
そのせいで、あの彼と彼女がいるベルナ村へ行く時間が全然ないんです。身体を休ませる時間はあるし、弓ちゃんと
それはまるで、私を大老殿へ縛り付けようとしているみたい。
そして、その考えは間違いじゃないんだろう。
「……すみません。貴方にばかり苦労を」
私の言葉に対して、ギルドの人は酷く申し訳なさそうな顔をした。
むぅ、別に君に対して怒っているわけじゃないんだ。いつも我が儘を聞いてもらって感謝しているし。
「はぁ……了解しました。狂竜化モンスターと古龍のクエストは受けます」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
きっとこの人も上から色々と言われて苦労しているんだろうなぁ。自分のことだけど、私なんかの世話を任せられ大変そうだ。
「でも! 会食には参加しません!」
だって面白くないもん、あれ。
それに、私みたいな人間に貴族様たちとの会食なんて似合わない。
「えっ……いや、むしろ、会食だけは出ていただきたいのですが……」
そんなこと言われても嫌なものは嫌なの。
お酒は大きなグラスでグビグビっと飲みたいし、マナーなんて気にせずお肉へ齧り付きたい。いくら値段の高い料理もマナーだとか、貴族のご機嫌を気にしていたら味なんて分からない。
「お願いしますよぉ……今回の貴族の方はギルドの後援者でもあるんです。大老殿の顔でもある貴方に参加していただければ、きっと支援金も……」
あ、あぅ、そう言われると断れない……
はぁ。ホント、どうして私はこんな立場になっちゃったんだろうね? 流石にもう自分が下手なハンターだとは思わない。でも、噂ほどの実力はないし、私よりも上手いハンターはいる。
そうだというのに、ここまで私が持ち上げられているのは……うん、絶対にあのふたりのせいだ。今度あのふたりに会ったら積もり積もった不満をぶちまけよう。
「……分かりました。会食も参加します」
「すみません、本当に……」
会食は本当に遠慮したいけれど、此処まで言われてしまったら仕方無い。私の代わりに誰かを参加させるにしても、あの妹じゃ貴族の方に何をするか分からないし、弓ちゃんは貸しを作るのが怖い。ホント、損な役回りですよ……
「仕方無いことだって分かっているから、別にいいよ。連絡ありがとね」
「はい、よろしくお願いします」
さて、とりあえず次は狂竜化モンスターたちで、その次はもしかしたら古龍。それで、六日後には会食、と。うへぇ……やること多いなぁ。
……多分だけど、ギルドの人たちがこうまでして私の自由を奪っているのは――あのふたりが消えてしまったからなんだと思う。
私たちのパーティーは此処、大老殿でも一番なんて言われていた。そうだというのに、ゴグマジオスを討伐して、あのふたりは消えてしまった。それは大老殿にとっても大きな損失だったはず。
そんなことがあったせいで、大老殿も過保護ってレベルで私を縛り付けているんだと思う。私にとっては良い迷惑でしかないけど。
別に私は何処かへ行ったりなんてしないのに……
むぅ、考えれば考えるほど、あのふたりに対しての怒りの感情が出てくる。
だって、私はこうやって苦労しているっていうのに、どうせあのふたりは槌ちゃんも一緒にのんびり過ごしているはず。いやまぁ、ハンターなのだし、のんびりはしていないだろうけど、少なくとも私よりは自由に生きていると思う。
今の生活に文句があるわけじゃない。
あるわけじゃないけれど……あのふたりと一緒にハンターをしていた時期と今とを比べると、やっぱりあの頃の方が楽しかったかなって思ってしまう。
……ホント、ずるいよね。
別の世界から来ただかなんだか知らないけれど、勝手に私をこんな存在にしておいて、最後まで責任をとってはくれないんだもん。
槌ちゃんも一緒に大老殿に来てくれれば良いのに。ネコの姿とか関係ないもん。ただ、傍にいてくれるだけで私は……
ああもう! 湿っぽいことを考えるのは終わり! 今は他にやらなきゃいけないことがあるのだから。あのふたりは、次にベルナ村へ行った時、縛ってでも連れてくれば良いんだ。
とりあえず今は、今後の予定を妹、弓ちゃんと話し合おう。それで、この忙しさを乗り切ったら無理やりにでも長い休みをもらいます! 大老殿を抜けるとか言えば、流石のギルドだって少しは私の意見を聞いてくれるだろうし。
それに最近は本当に頑張っているのだから、長い休みをもらったって問題ないはず。
はい、決まり! そうします。
くそぉ、あのふたりめ待ってろよ。嫌がるかもしれないけど、今度会ったらとことん私に付き合ってもらうぞ。
とはいえ、どうせあのふたりを前にしたら怒りの感情なんて消えてしまうんだろう。そして、今の怒りの感情だってきっとただの……
まぁ、あのふたりと会いたいっていうのは嘘偽りのない本心なんだ。そうだというのなら、私の思うがままに動けば良いはず。
ふつふつと湧いていたモヤモヤも、あのふたりとまた会えることを考えていたら、いつの間にか晴れていた。ホント、あのふたりはずるい人たちですなぁ。
ふふっ、次に会えるのが楽しみだ。
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第61話~その物語に私も~
「くはっ……」
温かな陽の光を浴び、ムーファの背中の上で寝ている俺の口からは大きなあくびが出た。
先日、特に問題もなくレイアを倒すことに成功。んじゃあこの調子でどんどん進んでいこうかと思っていたけれど、ギルドの人から最近お前らは働きすぎだからちょっと休めと言われてしまった。
そんなわけで今日は完全なオフ日です。
大老殿にいた時なんかは、休日なんてほとんどなかったし、別にそれを辛いと感じていなかった。だから、こうやって休日らしい休日を味わうのはなんとも新鮮な気分だ。まぁ、焦る必要なんてないのだしのんびりやっていこう。
とはいえ、クエストへ行っちゃダメとなるとどうしても暇になる。バルバレや大老殿と違い、闘技大会を見るにしても長距離の移動が必要で、それが面倒くさい。仲の良い奴がいるわけでもないし。
お酒でも飲もうかと考えたけれど、昼間から飲むのは遠慮したい。だから、ムーファの背中の上で日向ぼっこなんかをしているんです。ムーファのモフモフ具合はなんとも気持ち良いし、これなら今直ぐにでも寝ることができそう。
「あっ、こんなところにいたんだ」
やわらかな日差しとモフモフの毛に眠りを誘われて、うとうとし始めていたらそんな声。
このまま寝てしまおうと思っていたけれど、声をかけられたのだし仕方なく、其方を向くと白ネコさんがいた。
「……何やってるの?」
「特にやりたいこともないし、このまま寝ようと思っていたんだ」
バルバレにいた頃は、よくプーギーで暇を潰していたけれど、ベルナ村にプーギーはいない。そんなわけでムーファと戯れています。ただ、予想以上に心地が良いから今はこのまま寝てしまいたい気分。
「……私も乗って良い?」
「えー……ムーファなら他にもいるぞ?」
いくらネコとはいえ、2匹も乗ってしまったらムーファだって迷惑だろう。それに、この白ネコさん寝相は良いけど、あの寝言がなぁ……あの寝言にツッコミを入れているだけで一日が終わりそうだ。
ともかく、一緒にお昼寝するにしても場所が悪いと思う。ムーファはそんなに大きくないんだ。
そして、俺がその提案に渋ったせいか彼女は随分と不機嫌な様子になった。いや何故、不機嫌になる。俺だってたまにはひとり静かにのんびりとお昼寝をしたい。
何が其処まで彼女を駆り立てるのか分からないけれど、それからも白ネコさんは俺の睡眠の邪魔をし続けた。2匹のネコが騒いでいるのだし、ムーファだっていい迷惑だろう。
なに? 貴女暇なの? せっかくの休日くらいおとなしくしていなさいよ。
―――――――――
「うー……私も乗る」
「いやだから、ふたりも乗ったら狭……ああもう、こら引っ張るな」
何をやっているのかよく分かんないけど、ムーファに乗ったネコさんとそのムーファに乗ろうとしている白ネコさんが騒いでいた。
いや、ホント何をやっているんだろう……
ギルドの人たちに心配されてしまい、今日は久しぶりの休日。最近は色々なことがありすぎたせいか、そんなことを思う暇すらなかったけれど、そういえば全然休んでなかったね。
そんな久しぶりの休日だけど、今日は一日自由行動ってことに決まり、私はいつもより長く寝て、それからはネコ嬢さんやベルナ村の受付嬢さんとお喋りをしていた。
そうしていたらそろそろお昼の時間。それじゃあ一緒にお昼でも、と思いネコさんと白ネコさんを探していたところです。
多分だけど、白ネコさんはあのムーファに乗りたいわけじゃなくて、ただネコさんと一緒にいたいだけなんだろうなぁ。ネコさんはそれくらい気づいてあげてほしいし、白ネコさんもちゃんと一緒にいたいって言えばいいのに……
まぁ、つまりですね。目の前でカップルがいちゃついているわけですよ。
このふたりにその自覚はないだろうけど、私に対する嫌がらせだろうか。
とはいうものの、ふたりを見ていても別に不機嫌になったりはしません。
だって、このふたりを見ていてもアイルー2匹が遊んでいるようにしか見えないし。その小さな身体を使ってわちゃわちゃしている姿は見ていて和む。いや、そりゃあ私だって彼氏がほしいわけですし、白ネコさんいいなぁって思っているけれど……
私はソフィアみたいな性格じゃないんです。恋愛とか憧れちゃうんです。ただ、色恋沙汰はさっぱりだからなぁ。
なんとも和やかな雰囲気のふたり。とてもじゃないけれど、これがあの伝説のハンターさんたちなんて信じられないし、この姿を見て信じる人もいないと思う。
私は一緒にクエストへ行っているし、今まで何度も何度も助けられた。だから私は信じることができるけれど……うん、まぁ、いっか。ネコさんたちも、自分のことはあまり知られたくないみたいだもんね。
さてさて、もうこのまま放っておいてもいい気もするけれど、お腹も空いてきたから声をかけるとしよう。
「ネコさん、白ネコさん。楽しそうなところアレだけど、これから一緒にお昼を食べない?」
結局、ネコさんはムーファの上から引きずり下ろされ、その代わりに白ネコさんがムーファの上へ。そんな状況になっていたふたりへ声をかけた。
このふたりは何をしたいんだろう……
「うニャ? もうそんな時間だったのかニャ」
「……うん、私もお腹空いた」
うーん、本当によく分からない人たちだ。
その実力はよく分かっているし、ネコさんたちがどれほどすごいハンターだったのかも知っている。でも、このふたりを見ていても威厳……というか、そのすごさが全然感じられない。ふたりのことは本当に尊敬しているし、私なんかのオトモをやっていていいのかなぁっていつも思っている。でも、何といいますか……なんだろうね?
「えっと、じゃあ食べに行こっか」
「うニャ」
「了解」
謙虚ってのとはまた違うと思う。ただ、もうちょっとくらい自分たちのことを誇ってもいいのにって思っています。
だって、このふたりはそれだけのことをしてきたのだから。
「ネコさんたちってさ。やっぱり色々なモンスターと戦ってきたの?」
ネコさんたちと一緒にお昼の時間。相変わらずネコさんの顔にはチーズがついちゃってるけど、上手く食べられないのはネコの身体のせいなのかな?
そして、せっかくの機会だから、色々と聞いてみることにした。
「ず、随分と曖昧な質問ニャ……えと、そりゃあ、まぁ、色々なモンスターと戦ったことがあるニャ」
ああ、ごめん。もうちょっと質問の内容を絞れば良かったね。
ネコさんたちがどんなハンターだったのかは知っているけれど、その詳しい話を聞いたことがない。ネコさんたちはまさに雲の上の存在といっていいようなハンター。そんなハンターさんたちのお話を聞きたかったんです。
「んと……じゃあ、今までで一番苦労したクエストは?」
このネコさんたちの苦労する光景が想像できない。でも、きっとネコさんたちだって苦労したクエストはあったはず。
「ん~……なんだろうニャ。君は何かあるかニャ?」
少しだけ考えてからネコさんは白ネコさんに尋ねた。
私の場合は、シャガルマガラかクシャルダオラのクエストが一番大変だったかなぁ。特に、シャガルマガラは私ひとりで戦わなきゃいけなかったし、本当に苦労しました。
「……G級ジンオウガの捕獲クエスト」
「いや、アレはあの相棒が捕獲玉を全部外したから、現地で調合しなきゃいけないのが大変だっただけじゃ……」
えと、その“相棒”さんってのは、あの操虫棍のハンターさんのことでいいんだよね? どんな状況だったのかわからないけど……あんなすごい人でも失敗するんだね。
そして相変わらず、白ネコさんの発言が自由だ。これまで一緒に生活してきてわかったけど、この白ネコさんって結構抜けているところがあります。計算しているとかじゃなく、素で。それが白ネコさんの良いところでもあるし、いい人であることは確か。そして、白ネコさんのことも好きだけど……白ネコさんには振り回されることが多いです。
昔からこうだったのかな?
「あっ、そういえば、ネコさんたちってどうやって知り合ったの?」
最初は三人のパーティーだったってことは知っているけど、それ以上のことは知らない。いや、まぁ、知っていたらおかしい気もするけど……
「んと、最初は俺と相棒さんがパーティーを組んで、次にこの彼女が。それで……あー、まぁ色々あって弓ちゃんがパーティーに入ったって感じニャ」
あっ、そうだったんだ。
それじゃあ、最初はこのふたりのパーティーだったわけじゃないんだね。ああ、それでネコさんはあのハンターさんのことを相棒なんて呼ぶんだ。
ふーん、じゃあ――
「どうして、ふたりは付き合ったの?」
このふたりはすごく仲もいいし、息も合っている。だから、別に付き合っているのがおかしいとは思わない。
でもほら、やっぱり気になるじゃないですか、色々と。
「うニャー、チーズが美味しいニャ」
「……すみません、ブレスワインをひとつ」
……どうやら私の質問は無視される流れみたいです。
私にはそんな経験がないからわからないけど、やっぱりそういうことを話すのは恥ずかしいのかな? 私にはそんな経験がないからわからないけどっ!
うーん、私ももうちょっとこのふたりに気を遣った方がいいのだろうか。やっぱりふたりだけの時間ってのはほしいだろうし。
もし、あの操虫棍のハンターさんとまた会うことができたら、昔はどうしていたのか聞いてみようかな。緊張しちゃって聞けない気もするけど……
それからは、ネコさんとあのハンターさんが初めて一緒に行ったクエストの話だったり、あのダラ・アマデュラやゴグマジオスのお話なんかをふたりから聞かせてもらった。
まだ昼間だったけど、白ネコさんがお酒を頼んじゃったし、休日だからいっか。ってことになりお酒を飲みしなふたりのお話に耳を傾ける私。
流石は伝説のハンターさんたちのお話ってこともあり、私には想像もできないようなお話をたくさん聞かせてもらった。
でもそれ以上に、伝説のハンターさんたちだって私と同じように悩んだり、止まってしまったりしたお話も聞かせてくれた。
それは当たり前といえば当たり前のこと。でも、ネコさんたちのしてきたことは、そんな当たり前を忘れさせてしまっていたんです。
今日、ネコさんたちのお話を聞いて、改めてネコさんたちのすごさを知らされた一方、また少しだけネコさんたちとの距離が近くなった気がします。聞かせてもらったお話は純粋に面白かったし、私も頑張らないとなぁって思えた。
だから、聞いて良かったんだと思う。
今の私にそんな実感はないです。
でも、もしかしたら……もしかしたらだけど、今の私も未来じゃ伝説なんていわれるかもしれない。私がこのふたりの物語に登場することができるのかもしれない。
だって、私のパーティーにはこのふたりがいるのだから。
そう考えるとプレッシャーがすごい。ただ、それ以上に頑張りたいなって思う自分がいるんです。
有名になりたいわけではない。
伝説を作りたいわけでもない。
でも、私が物語の登場人物となることができるのは悪い気分じゃない。
主役じゃなくていい。脇役でいいんだ。
台本なんてありません。けれども、私なりに精一杯頑張ってみます。それが私の役目なんじゃないかな。そして、そうなればいいなって思うのです。
今日はそんなことを考えてしまう休日でした。
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第62話~悪気はないんだ~
「よしっ、それじゃネコ、頑張って行くぞー!」
「……うニャー」
場所は遺跡平原のベースキャンプ。そんな場所で今日も今日とてすごく元気な様子の妹さんが大きな声を出した。
「それでネコ。ライゼクスは何処にいるの?」
「エリア7ニャ」
比較的、平らなエリアではあるけれど、あの段差が鬱陶しいエリア。落とされると登るのが面倒だし、俺は好きじゃありません。遺跡平原で戦いやすいのはエリア3くらいだ。
「了解! それじゃ改めて頑張って行くぞー!」
「うニャー」
……さて、そろそろ今がどんな状況なのか説明した方が良い頃だろう。
正直、俺だってどうしてこうなっちゃったのかなぁ、なんて思ってはいるけれど、なってしまったものは仕方無いんだ。
現在、このクエストへ来ているのは、俺と妹さんだけです。それで、メインターゲットはライゼクス。それは本来ならHR6となってから戦う相手。そんなクエストを受けているわけですよ。
それじゃ、そんなことになってしまった過程やら経緯やらを説明させていただきますね。
――――――――――
「おろ、クエストはなかったのかニャ?」
「んと、あるにはあるんだけど、今の私たちじゃ受けられないって言われたんだ」
一日の休養を取らされた次の日、ゆっくり休むこともできたから改めて頑張っていこう、と気合を入れたものの、肝心のクエストがなかった。
バルバレや大老殿と比べて、龍歴院はハンターの数も少ないけれど、届くクエストの依頼も少ないらしい。そんなこと、大老殿にいた頃じゃ考えられませんね。
「……HRが足りてないからってこと?」
こてりと首を傾げながら白ネコがご主人へ尋ねた。
「うん、ライゼクスとガムート、あと、タマミツネのクエストはあるんだけど、私たちのHRじゃまだ受けちゃダメなんだって」
むぅ、それは残念。そろそろ緊急クエストが届いても良い頃だとは思うけど、流石にまだ無理だったか。
このメンバーなら四天王だって問題なく倒せるとは思うけど、ダメと言われてしまったら仕方が無いね。
「それじゃあ、今日はどうするのニャ?」
「うーん、どうしよっか。素材ツアーとかなら行けるし、行ってみようかなって思ってるけど」
まぁ、それが無難ですね。それに今後、鉱石系は必要になる時が来るだろうから、火山の素材ツアーには行っておいた方が良いと思う。
そして、そんなようなことを話している時だった。
「戻ってきたぞー!」
そんなすごくすごく元気の良い声が龍歴院に響いた。
何事かと思い、その声がした方を向くと、其処には3人のハンターの姿。はい、そうですね、相棒さんたちですね。因みに、大きな声を出したのは妹さんです。
それでもって、何かを探しているかのように、キョロキョロと顔を動かす妹さん。
「あっ、いた!」
そして見つかりました。捕まりました。
本当は緊急撤退をしたかったけど、サポゲが溜まってなかったんです。
「ネコネコ! 久しぶり!」
「うニャ……ハンターさんたちはどうしたのニャ?」
妹さんに両腕でがっちりと拘束されたまま聞いてみた。
いや、ホント、妹さんはどうしてここまで俺に構うのだろうか。俺なんかを構ったって面白くはないだろうに……
「やほー、お久し、槌ちゃんにそのオトモちゃんたち。んと、今日はクエストを受けに来たんだ。なんかたくさん出たみたいだから」
そう言って、相棒さんが俺の質問に答えてくれた。
ん~……つまり、相棒たちがライゼクスとかのクエストを受けるってことなのかな。龍歴院ってそんなにハンターの数が少ないのだろうか。
「そんな理由もありますが、久しぶりに休日をもらえたので遊びに来たって理由の方が大きいです」
そして、弓ちゃんが補足をしてくれた。
ああ、なるほど。龍歴院だってそこまでハンターの数が足りていないわけじゃないか。まぁ、そりゃあそうですよね。
しっかし、遊びに来たのにクエストを受けるとは……なんだろう、もうちょっと何かなかったのかなって俺は思います。
それにしても……この流れはアレだ。妙な既視感を覚えるぞ。
「そんなわけだからネコ! 私と一緒にクエストに行くぞ」
ほらみなさい、言わんこっちゃない。
クエストへ行くのは別に良いんだけど、できればご主人を連れて行ってもらいたいです。せっかくの機会なんだし。
それで、素材ツアーは俺と白ネコで行ってくれば良い。
「えっと、ネコちゃんには前みたいに手伝ってもらいたいんだけど、今回は槌ちゃんや白ネコちゃんにも手伝ってもらいたいんだ」
……うん? どういうことですか相棒さん。
「へっ!? わ、私もですか?」
「うん、そうだよ。今回は私たち3人が別々のクエストへ行くから、それについてきてもらえればなぁって思ってるんだ」
なるほど、理解しました。
まぁ、そっちの方が効率良いし、この3人ならそれができちゃうもんな。
この段階で行くことのできないクエストへ連れて行ってくれるのは有り難い。有り難いけど……そうなりますと、誰が誰について行くのかってことになる。ただ、俺は嫌な予感しかしません。
「分かったニャ。それじゃあ、ボクは操虫棍のハンターさんについて行くニャ!」
妹さんはもちろん、前回バレてしまった弓ちゃんも遠慮したい。そうなると、相棒と一緒に行くのが一番良い。先手必勝。俺は相棒さんを選びます。
「うん? ネコは私と一緒に行くんだよ?」
……ダメか。やはり妹さんからは逃げられないのか。
「えっと、それじゃあ、私は槌ちゃんと一緒に行くね。よろしく!」
「あっ、は、はい! よろしくお願いします!」
そうなると、白ネコと弓ちゃんのペアか。
「よろしくお願いします。白ネコさん」
「……うん、よろしく」
かなりあっさりと決まってしまった。そして、俺の意見は全く取り入れてもらえませんでした。いや、分かっていたけどさ……こういうことを決める時は昔からそうでしたし。
ん~……俺と妹さんペアもちょっと危ないけど、相棒とご主人ペアは大丈夫だろうか? 相棒のことだし、上手くフォローしてくれるとは思うけど、ご主人って相棒の前だと固まるからなぁ。モンスターと戦えるのか心配だ。
「それで、どのペアがどのモンスターと戦うのニャ?」
このメンバーなら乱入でもされない限り、どのペアがどのモンスターと戦っても問題なくクリアできるはず。例え、ご主人が戦力にならなくなったとしても、相棒ならソロでも大丈夫だろう。
「ん~別に誰がどのモンスターと戦ってもいいと思うけど……えと、じゃあ、私と槌ちゃんはタマミツネと戦ってくるね」
タマちゃんかぁ。ご主人は初見なわけだけど……まぁ、うん、頑張れご主人。
「それじゃあ、私と白ネコさんはガムートと戦ってきます」
了解。
じゃあ、残ったライゼクスを俺と妹さんで行けば良いのか。何も起こらず平和なまま終われば良いけど……いや、平和なクエストってのもおかしいか。
「よし、じゃあそれで決まり! クエストへ行く準備はできてる?」
「うニャ。いつでも出発できるニャ」
できれば出発したくないけど、そんなこと言ったら何を言われるのか分かったものじゃないから、それは言わないでおきます。
ん~……俺から見てもなかなかにすごいメンバーが集まってると思ってしまいますね。大老殿のトップ3に、MH4の主人公もいるんだ。すごく豪華なメンバーじゃないか。そして、どうせだったら、あの頃のメンバー4人で行けたらなぁ、なんて思っていたりいなかったり……
今回のペアで一番安定しているのは弓ちゃんと白ネコペアだろう。ご主人がいつも通りの動きができれば違うけど、なんかダメな気がするし。
俺と妹さんペアは……ど、どうなるんでしょうね? 正直、不安しかありません。ホント、何も起こらないことをただひたすらに願っています。
――――――――――
と、まぁ、そんなことがあったんです。
本当にいきなりのことだったから、かなり慌ててしまったけれど、こういうのも悪くないかもしれない。やっぱり強いモンスターと戦うことができるってのは、嬉しいものなのだから。
さてさて、今回の相手はあのライゼクス。妹さんだし、問題なく討伐することはできるだろう。あとは、俺がどのくらい戦力になれるかといったところ。
「ネコネコー」
「うニャ?」
エリア7へ向かっていると妹さんが声をかけてきた。龍歴院からもうずっとお喋りを続けています。
妹さんは良い子なんだけど、ホント俺との相性がなぁ……
「やっぱり私のオトモにはなれないの?」
「……ボクにはご主人さんがいるから無理ニャ」
そして、もう何度交わしたかも分からない言葉。
確かに妹さんと俺の相性は悪い。だからといって俺が妹さんを嫌っているわけではないし、別にオトモになったって良いとも思っている。
でも、今の俺にはご主人がいるんだ。だから、君のオトモになることはできません。申し訳ないけど、それを分かってもらえれば嬉しいかな。それに、君には相棒や弓ちゃんのことを任せたいんです。俺と白ネコじゃあもう、あのふたりの隣に立って前みたいに一緒に戦うことはできない。だからその分、妹さんに頑張ってもらえればなぁと思っています。
「そっかぁ、どうしてもダメかぁ……」
ごめんね。この小さな身体じゃできることが少ないんだ。
でも、そんな小さな身体でできることは精一杯頑張ってみるから、できるだけやってみるから、今日はよろしくお願いします。
「うん……わかった! それじゃあ、ネコがクビになるまで私は待つことにするよ」
「うニャ! ……うニャ?」
刺のようなものを感じるけど……多分、妹さんに悪気はないんだと思う。
そういえば、相棒さんにも似たようなことを言われたなぁ……流石は姉妹ってだけある。
「早くクビになればいいね!」
そう言った妹さんはすごく良い笑顔だった。
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第63話~誰よりも自由で誰よりも……~
別に非日常的なことを求めていたわけではないと思う。
だって、このモンハンの世界へ来たというだけで、もう充分すぎるほどの非日常を体験することができているのだから。
けれども、きっと心の何処かでこの日常に慣れてしまっていた自分がいたんだろう。
欲が出てしまっていた。求め始めたら、切りなんてないことくらい分かっていたはずなのに。
3度目となるこのモンハンの世界で、今度はネコの姿に。そんなおかしなことなど、普通じゃ絶対に味わうことなどできやしない。だから、それ以上の刺激を求めても仕方無い。
そう思っているつもりだった。
ただ、まぁ……せっかく訪れた機会なら全力で楽しんだ方が良いって俺は思うんだ。どうせやるなら徹底的に。
何をやったって後悔することになる。それでも、自分に嘘をつき続ける理由にはならないだろう。
それに、このまま普通に終わるとも思っていなかった。だって、この馬鹿げた物語がそんな普通のまま進むわけがないのだから。
「ちょ、ちょっと! ソイツはターゲットじゃ……ああもう! ホントに、貴方って奴はっ!」
強引に付き合わせる形となってしまい、妹さんには申し訳ないと思っているけれど、目の前にエサをぶら下げられ、我慢できるような性格じゃないんだ。
手は抜かない。やるなら全力で。崖っ縁で良い。崖っ縁が良い。非日常で味わうことのできる、自分の限界を超えたモノとの戦い。それが何よりも心地良い。
あの時はやられてしまった。それもこれも全て自分の実力がなかったのが原因。あれからもう随分と時間が経ってしまったし、あまりにも遅すぎるリベンジマッチだけれども……何というか、お前には負けたくないかな。
随分と昔のように感じていた。でも、どうやらちゃんと身体は覚えてくれていたらしい。そんな状態は、悪くない。
そして俺は、
それじゃあ、ひと狩り行かせてもらおう。
今、此処で、あの時のリベンジマッチといこうか。
――――――――
「今回、私たちが戦う相手、ガムートってどんなモンスターなんですか?」
氷海へ向かう飛行船の上で、白ネコさんに尋ねてみた。
「ん~……象さんかな」
「なるほど、分かりました」
さっぱり分からない。
本当、白ネコさんは相変わらずといいますか、なんといいますか……姿は大きく変わってしまいましたが、その中身はやはり変わらないものですね。
「えっと……弓ちゃんはもう知っているんだっけ? 私たちのことを」
多分、先輩と白ネコさんがネコの姿になっていることをってことだと思う。
「はい、先輩から直接教えられてはいませんが、それは知っています」
不思議な人たち。
私が先輩とこの白ネコさんに抱く感情はそんなことばかりです。
私はあの人ほど、先輩と白ネコさんのことを知りません。それはそのふたりが私に教えてくれないというのもありますが、私が深く聞かないからというのも大きな理由だと思います。引け目を感じている……とまでは流石にいいませんが、やっぱり遠慮してしまっていることはあるのでしょう。長い付き合いではあるものの、私が一番の新参者でしたし。
それに私のハンターとしての実力も、あの人や先輩、そして白ネコさんと比べ、ひとつ二つほど低いこともよく分かっています。
私だって、決して実力のないハンターではありません。ハンターのトップが集まる大老殿の中でも私はかなり上位の実力があると思っています。それでもあの3人と比べてしまうと、どうしても越えられないほどの差があります。
詰まるところ、あの3人が異常なんです。
「そっか、それなら楽で良いね」
「はい、どうか気にせず、いつも通りでいてください」
いつか並んでみたいとは思っていますが……きっと私じゃ届かないんだろうなぁ。目標があるのは良いことですが、その目標があまりにも高すぎるせいで、ちょっと凹みます。
「うん、分かった。弓ちゃんならガムートくらい苦戦しないだろうし、サクっと倒してこよう」
「はい、今日はよろしくお願いします」
そんな会話をした後は作戦会議。
作戦会議といっても、私は基本的に後脚を狙い、白ネコさんが麻痺を取ったら弱点である頭を狙うといった本当に簡単なものです。後はガムートの行動なんかを少し。
私は初見モンスターが苦手なので、かなり心配ですが白ネコさん曰く、どうにかなるそうです。不安だらけだ……
それにしても、白ネコさんは本当にブレませんね。慌てている場面などは見たことがありませんし、あのパーティーの中でダウンした回数は一番少ないです。
因みに、一番多いのは私で次はあの人だったりします。先輩もスイッチさえ入らなければなかなかダウンしませんし。
そんなことを経て無事、氷海へ到着。
「それじゃ、頑張っていこー」
「はい」
私は先輩とペアを組むことの方が多かったですが、白ネコさんと一緒にクエストへ行ったことは何度もあります。ただ……そのことを懐かしいと思ってしまうくらいには、昔のことのように感じてしまいます。
それほど時間は経っていないはずなのに……不思議なものですね。
「……ガムートの初期エリアは3」
「戦い難い場所ですね」
私は坂道のあるエリアは苦手です。照準を合わせるのが難しいので。
さて、そんな愚痴は良いとして……頑張っていきましょうか。
「足踏み。避難して」
「了解です」
ガムートと戦い始めてそろそろ5分を超えたくらいです。
的は大きいし、動きも速くはありませんがやはり初見モンスターは上手く戦えません。大きすぎるせいで、次にどんな行動をしてくるのか読めませんし……
白ネコさんに言われて直ぐにガムートから避難。
そうして直ぐに、ガムートは大きく足踏みをし、その脚に付いていた雪塊を撒き散らしました。
「装甲取れた。チャンス。あと、そろそろ2回目の麻痺を取ると思う」
「はい。分かりました」
流石、というべきでしょうか。相変わらず白ネコさんはクエスト中も余裕そうです。私なんてクエストになると全く余裕なんてなくなるというのに。
4人でクエストへ行っていた時は、クエスト中も先輩と白ネコさんはよく喋りながら戦っていました。私には分からない内容も多かったですが、何処を狙うとか、罠を使おうとかそういうお話をしながら。
でもそれだけじゃなく、帰ったら何を食べようかとか、次はどの武器を作ろうか、とかそんなクエストとは関係のない話をしながら戦っている時も。あの人はそんな会話に混ざる余裕もありましたが、私にはとても無理です。目の前のモンスターのことを考えるので精一杯。他のメンバーの動きだったり周りを見る余裕すら……
もっと余裕を持って戦うことができれば良いってことは分かっています。でも、私はあの3人のように戦うことはやっぱりできません。それほど、私とあの3人とで差があるのです。
「よっし、麻痺取った。頭お願い」
「流石です」
こんなにも近くにいるというのに……本当に遠い存在だ。
それでいて、驕ることもなければ私を貶すこともない。ずるい人たちだと思います。そんな人たちを嫌いになれるはずがないのだから。
変わってしまったこともありますが、きっときっと変わらないものだってあるはずです。先輩と白ネコさんを見ているとそんなことを考えてしまいます。
「……クエスト完了。お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」
エリア3からエリア9へ。そしてまたエリア3へ戻ってきたところでガムートを討伐しました。多分、15分くらいかかったと思います。体もアレだけ大きいのですし、体力も多そうですね。
「うん、弓ちゃんがいると早く終わって助かる。ありがとう」
あぅ……白ネコさんに褒められるとはずかしい。でも、それ以上に嬉しかったり……
尊敬している方に褒められれば、そりゃあ嬉しくもなります。そして、お礼を言わなきゃいけないのは私の方なのですが……
どうにかダウンすることはありませんでしたが、上手く戦えていたかというと……どうでしょう? 初見にしては頑張った方だと思います。
「いえ、白ネコさんがいてくれたからですよ。私ひとりじゃ厳しいですし」
謙遜とかじゃなく、本音です。
一度戦ったことのあるモンスターならともかく、初見のモンスターは本当に苦手ですので。
「でも、前より上手くなったと思う」
「そうだと良いのですが……」
その実感はありません。ホント、前よりも上手くなっていれば嬉しいです。まぁ、それでもあの3人にはまだまだ届かないわけですが。
ネコの姿になんてなっていますが、白ネコさんはやっぱり上手かった。以前、あの人と一緒に見た闘技大会に出場していたネコとは比べ物にならないほど。
「それじゃ、帰ろ」
「そうですね」
剥ぎ取りも終え、あとは帰るだけ。お疲れ様でした。
「ネコの姿ってどんな感じですか?」
帰りの飛行船で白ネコさんと雑談。
白ネコさんのことだし、昔みたく直ぐに寝てしまうでしょうからそれまでの間、少しだけ。ホント、昔からよく眠る方だったんです。
「ん~……思ったより快適。あと、世界が広く見える」
へー、そういうものだったのですか。ネコになるのはちょっと遠慮したいですが、どんな感じなのかは気になります。
「他のペアは大丈夫かな?」
「あの人のペアは大丈夫だと思いますが、先輩のペアは……まぁ、大丈夫ですよ」
あの人の妹さんもあのネコが先輩とは知らないはずですし。
まぁ、バレたらどうなるか分かったものじゃないですが。
「なんか、バレちゃいそうだよね」
「……はい、私もそんな気がします」
抜けているしなぁ先輩。
バレたらバレたで面白そうではありますが……帰って来たらどんな感じだったのか聞いてみるとしましょう。
「白ネコさんのご主人さんはどんなハンターさんなのですか?」
目をぐしぐしこすっているし、白ネコさんがもう眠そうだ。だから、これが最後の会話となりそうです。せっかくの再会。だからもっとお話を続けていたいところですが……仕方なしです。
「ちょっと頼りない時もあるけど、上手いよ」
そうですか、それなら安心ですね。
多分、あのご主人さんは数多くいるハンターの中で、オトモに最も恵まれたハンターなはずです。世界を2度も救ったことのあるオトモはそんなにいないでしょうし。
そんな会話をしたあと、私から話しかけることは止めました。白ネコさんも限界でしょうし。
別に疲れているわけではありませんが、私も龍歴院へ着くまで目でも閉じていることにしましょうか。
私はそんなことを考えていたわけですが……どうしてか、白ネコさんがなかなか寝ようとしない。目蓋は下がり始めているし、明らかに眠そうな顔。それでも、白ネコさんは起きていました。
「えと……今日は寝ないのですか?」
白ネコさんは昔から自由な方です。ちゃんと周りに気を遣ってくれますが、本当に自分に素直な方だと思う。どっかの先輩も少しは見習ってほしいですね。もちろん、私も見習わないといけないと思っていますが。
「……うん、せっかく弓ちゃんと再会できたし今回は起きてる。お喋りしよ。お喋り」
……よく素面でそんな恥ずかしいことを。聞いている私の方が恥ずかしいです。
でも、まぁ……うん。ありがとうございます。
それから、白ネコさんと昔のことだったり今のことを、のんびりのんびりお喋りしていました。けれども、やっぱり眠かったらしく龍歴院へ着くまでずっととはいかず、白ネコさんは途中でダウン。
本当に自由で……優しい人だ。
そして何より、私と再会できたことを白ネコさんも喜んでいてくれたことが本当に嬉しかった。
もう、私たちが昔みたいな関係に戻ることはないでしょう。それでも、昔のことがなくなるわけじゃない。きっと今も繋がってくれている。そんなことを実感させられました。
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第64話~少し羨ましい~
「えと……槌ちゃん?」
「は、はい! なんでしょう!」
多分、こうなるんだろうなぁって予想はある程度していたけれど、実際そうなってしまうと気分は複雑です。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?」
「す、すみません……」
つまりですね……さっきから槌ちゃんがどう見ても緊張していますって感じで、ちょーっとマズイなぁって思っているわけです。前回、槌ちゃんと一緒にいったクエストは採取ツアーだったから良かったけれど、今回は狩猟クエスト。この様子だと色々と危ない。
むぅ、困ったものですなぁ。
だいたい、どうして槌ちゃんは私にだけこんなに緊張するのさ。あの彼や笛ちゃんとは普通に話ができるのに、私だけダメっていうのは理不尽だ。てか、普通に凹む。
まぁ、そんなことを槌ちゃんに言ったら余計に萎縮されそうだけど……
しまったなぁ。こうなるんだったら槌ちゃんは弓ちゃんに任せた方が良かったかもしれない。槌ちゃんの境遇が私に似ていたから、その助けに少しでもなれたらって思い、槌ちゃんとペアを組んでみたけれど、どうにもよろしくない感じだ。
いやぁ、ホントどうしましょうか。
「えっと、槌ちゃんってタマミツネとは戦ったことはあるの?」
もう何でも良いから槌ちゃんの緊張を解さないと。私ひとりでもなんとかなるとは思うけど、槌ちゃんのためにもなるから一緒に戦ってもらいたい。
「いえ! 初めてです!」
なるほど、初見か。
私だってタマミツネと戦うの初めてだし、いやぁ……困りましたな。まずったなぁ。これで槌ちゃんが3回ダウンでもしてしまったらどうなるか分かったものじゃない。あの彼も私と行った初めてのクエストはこんな気分だったのかな?
「了解。初めて戦うモンスターだし、難しいかもしれないけど、頑張ろうか」
「は、はい! よろしくお願いします!」
とはいえ、まぁ、前回よりはまだいい方なのかな? 私がそう思いたいだけなのかもしれないけど……
今回のクエストの場所は原生林。せっかくだし、私としてはあまり行くことのないマップの方が良かったけれど、そんなことを言っても仕方無い。それに原生林も景色は綺麗だし、嫌いな場所ってわけじゃないから文句はありません。
うーん、どうやって戦おうかなぁ。クエストが始まってみないと分からないけど、今回はたくさん乗ったり罠を使った方が良いかもしれない。こんな時、あの彼や白ネコちゃんがいれば適切なアドバイスをしてくれるのだけど……あのふたりは今いない。だから、私が頑張らなきゃいけないんだろう。
でも、自信ないなぁ。不安だなぁ……
「え、えと、あの。ハンターさんに聞きたいことがあるのですが……」
あら? まさか槌ちゃんから話しかけてくれるとは思わなかった。なんだろう。何かあったのかな?
「どしたの?」
「その、私のオトモ……つまりネコさんと白ネコさんのことなんですが」
「うん、あのふたりが?」
えっと、槌ちゃんはあのふたりの正体を知っているんだっけ? ……いや、確かまだ知らなかったはず。むぅ、色々と面倒くさいなぁ。あのふたりも、うだうだ悩まず全部話しちゃえばいいのに。
「その、あのふたりって昔はどんな感じだったんです?」
うん? もしかして、ふたりのことを知っているのかな。
「ちょっと待って。あれ? もしかして槌ちゃん、あのふたりのことを……」
「あっ、はい。教えてもらいました!」
なるほど、それなら話も早いや。そかそか、あのふたりもちゃんと自分のことを話すことができたんだね。それなら一安心。
「了解。それで、あのふたりだけど……」
うーん、昔はどうだったかって聞かれてもなぁ。確かに私が一番長い付き合いではあるけれど、知らないことが多すぎる。
ただ、言えるのは――
「今と変わらない、かな」
それだけは確かなこと。
いくら小さな姿になっちゃってもあのふたりはあの二人だった。彼は彼で相変わらず無駄に気を遣うし、変に臆病だけど、やるときはちゃんとやってくれる。笛ちゃんも笛ちゃんで自由な性格は変わらないけれど、ちゃんと周りの人たちのことを考えてくれている。
「あっ、やっぱりそうだったんですか」
「うん、あのふたりはいつもあんな感じだったかな」
さてさて、どうして槌ちゃんがそんな質問をしたかってことだけど……やっぱり色々と考えちゃってるんだろうなぁ。
それはきっと、あの頃の私と同じようなもの。
――私なんかが一緒にいていいのかな。
そんな不安が槌ちゃんにあるはず。
槌ちゃんの実力はよく知らない。けれども、あのふたりと比べたらやっぱり劣って見えてしまうと思う。それも自分のことだから余計に。
私もそのことをずっとずっと悩んでいた。それに今だって私があのふたりと釣り合うとはやっぱり思えない。私だって最初と比べればかなり成長したと思っているけれど、それでもあのふたりとは釣り合わないんです。だって、あのふたりは何か違うんだもの。根本的に。私たちと何かが。
「……不安?」
「そう、ですね……」
だよねー。
私のときは、あのふたりもまだ、ただのハンターだった。でも、今は違う。私がいうのもアレだけど、超有名なハンターなんだもの。これは槌ちゃんも本当に苦労していそうだ。
「そりゃあ、不安ですし、私なんかのオトモしてもらってすごく申し訳ないです。でも、だから頑張らないといけないのかなって……私じゃ、あのふたりに並べるほどのハンターになることはできません。だからといって、それを言い訳にして逃げたくないなって思っています」
……どうやら私は勘違いしていたみたいです。
確かに私と槌ちゃんの境遇はすごく似ている。でも、槌ちゃんは槌ちゃんであって私じゃないんだ。そんな当たり前の考えが抜けていたんだと思う。
「……そっか。強いね、君は」
「あっい、いえ! そんな! そんなことは……それにこんな生意気なことを……」
少し、羨ましい、かな。実際、槌ちゃんに嫉妬している自分だっている。
だって、あの時の私はそこまで思えなかったのだから。言い訳にして逃げようとしていた私がいたのだから。
あーあ、ホンっト羨ましいなぁ。私もまたあのふたりと一緒の時間を過ごせたらなぁ。
槌ちゃんを見ているとそんなことばかりを思ってしまう。その願いが叶う可能性はほとんどないことだってちゃんと分かっているのに。
「よし、そろそろ着きそうだし、お喋りはここまでにしよっか。初見の相手だし気を抜かず頑張っていこー」
「はい! 頑張ります」
やっぱりまだ不安はあるけれど、私が思っていたよりもずっと槌ちゃんは強い子だ。これならきっと今回のクエストだって問題なくクリアできるはず。
そうだというのなら後は私が頑張るだけ。まだまだ槌ちゃんとはお話したいこともあるけれど、それは帰り道ですればいい。今はとにかくクエストに集中しないとです。
――――――――――
「槌ちゃん! また、あのブレスが来るよ!」
了、解、ですっ!
タマミツネと戦い始めてどのくらいの時間が経ったのかは分からないけれど、随分と長い時間戦っている気がする。
けれども、どうにかまだダウンせずに戦えているし、自分でも驚いたけれど、動きも悪くない。憧れのハンターさんと一緒にクエスト。そんな状況、私なら絶対に固まってしまうと思っていたのに……いや、まぁ、固まらないのはいいことなんだけど。
タマミツネから吐き出されるブレスをジャスト回避。そして、直ぐにハンマーを腰へ構えて、そのハンマーをタマミツネの頭へ横からカチ上げ。
「おおー! ナイス!」
そんな攻撃が当たったところでタマミツネは大ダウンをした。
タマミツネと戦うのはこれが初めてだし、やたらと動きが速いせいで攻撃をなかなか当てられない。それでもどうにか戦えているのはハンターさんのおかげなんだろう。
乗ってくれるし、罠も使ってくれる。私が攻撃を喰らえば直ぐに生命の粉塵だって惜しみなく使ってくれる。まさに至れり尽くせりな状況。そこまでされたのだから、私も頑張らないと。
大ダウンしたタマミツネへ横振りから縦振り。そして、ぐるっと回ってから――全力でホームラン。
そして、このクエスト2回目のスタンを奪った。
気持ちはふわふわと浮いているのに、身体は勝手に動く。何かを考える前に、身体はもう動いている。そんな頭と身体がバラバラの状況だっていうのに、怖いくらいにはまっていた。
「よし、ラッシュかけて! これで終わらせよ!」
「了解です!」
これも成長したってことなのかな? なんとも実感が湧かないけれど、全てが全て良い方向へ繋がっている。
緊張で動けなくなるだろうって思っていた。頭が真っ白になって何も考えられなくなるだろうって思っていた。そうだというのに、自分でも不思議なくらい冷静な私がいて、その私が身体を動かしてくれている。
それはゴア・マガラやシャガルマガラと戦った時と同じような状況。
うーん、いつもこんな状態になることができれば私ももうちょっと活躍できるのになぁ。なんて思ってみたり。
そして、スタンをしたタマミツネへ私が2回目のホームランを叩き込んだところで、相手は動かなくなった。
はぁー……何といいますか、今回は本当に疲れました。
主に、緊張だとかそういうことで。
「おおー、討伐完了だ。お疲れ様、槌ちゃん」
「はい! お疲れ様ですっ!」
とはいえ、今回は恥ずかしいことにならなくて一安心。前回は本当に酷かったからなぁ……
だから、私も少しは成長できているんじゃないかって思うんだ。ただ、欲をいえばもうちょっとハンターさんの動きだとかを見られればなぁって思っています。
そんな余裕が私にできるのはいつになるのやら……
「それじゃ、剥ぎ取りして帰ろうか。帰り道はまたゆっくりお喋りでもして」
「は、はい。今日は本当にありがとうございました!」
今日も問題なくクエストをクリアできたのは、どう考えたってこのハンターさんのおかげ。私なんかをクエストへ連れていってくれたこともそうだし、色々とお世話になってしまい、感謝するばかりです。ホント、私は周りの人たちに恵まれてるなぁ……
さてさて。確か、ネコさんが私はタマミツネの防具にすればいいとか言っていたと思う。流石に一回で全ての素材が手に入るとは思えないけれど、たくさん素材が手に入ればいいなぁ。
倒したタマミツネからサクサクと剥ぎ取りも終え、後は帰るだけ。水玉っていうすごく珍しそうな素材も手に入れることができたし、なかなかの収穫でした!
そして、その帰りの飛行船でハンターさんとした会話だけど、昔のお話とか、ネコさんと白ネコさんが付き合っていて、その対応とかはどうしていたのかってことを聞きました。
それで、思ったんだけど……どうしてネコさんはこのハンターさんと付き合わなかったのかなぁって……
い、いや、ネコさんと白ネコさんの仲が良いのは知ってるよ? でも、その……何といいますか、そっちの方が自然といいますか……それほどに、ネコさんとこのハンターさんの仲の良さを知ったんです。それにハンターさんだってきっと……
そんなこと言えたものじゃありませんが。
ま、まぁ、そのことはいいとして、ネコさんたちの対応だけど、別に気は遣わなくていいそうです。急にいちゃつき始めることもあるけど、何か一般的なものとはズレているから、見ていて微笑ましいとか言っていた。
そう言われるとそんな気もする。あのふたり、変わってるからなぁ。
「ハンターさんって今回はのんびりできそうなんですか?」
「うん、今回はちゃんと休みをもらったから、少なくてもあと一日はゆっくりできるよ」
それは良かった。漸く私もこのハンターさんと普通に会話ができるようになってきたのだし、もっと色々な会話をしたい。それにできれば弓のハンターさんからも話を聞いてみたいし、ネコさんたちがハンターさんたちとどんな会話をするのかも気になる。
それに今回は私もちゃんと戦うことができたのだし、ネコさんに報告しないとだ。私もちゃんと成長することができたのだと。
うんうん。龍歴院に戻って皆と会うのが楽しみです!
次話はようやっと主人公のお話となりそうです
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第65話~ネコの手は借りない~
なんとも気は重いけれど、クエストはもう始まっているのだから、頑張る必要がある。相手は電竜――ライゼクス。正直、ネコなら苦労するような相手でもないし、妹さんほどの実力ならソロでも討伐できるだろう。
とはいっても、現時点では戦うことのできない相手であり、ライゼクスの素材はご主人の武器の強化に使う。そうだというのなら、気張っていきましょうか。
妹さんと一緒に移動し、ライゼクスのいるエリア7へ。
俺の装備だけど、今回は麻痺武器ではなく、ナルガ武器となっています。つまり、ナルガ一式装備。火力だってそれなりに出るんじゃないかな?
「よしっ、それじゃあ、まずは私が乗るから支援お願いね!」
「了解ニャ」
妹さんのスタイルはエリアル。前回の白疾風討伐クエストでは動きがすごかったし、あの調子で今回も戦ってくれれば、サクっと終わらせることができそうだ。
そして、俺たちに気づき、ライゼクスの咆哮が響いた。
とりあえずソレをフレーム回避してから、ペシペシとブーメランを当てる。多分だけど、今回は俺たちが一番楽な相手と戦っていると思う。タマちゃんは動きが素早いせいで、クエストの時間はどうしてもかかってしまうし、ガムートも弓ちゃんと白ネコのペアだとそれなりの時間がかかりそうだ。
ライゼクスが弱いモンスターだとは言わない。でも、やっぱり相性ってあるよね。
「乗った! 支援を……あぅ」
クエストが始まってすぐ、妹さんがライゼクスに乗ってくれたけれど……振り落とされました。
「ごめん……」
「別に気にしないニャ」
ん~……なんだか、妹さんの様子が前回と違うぞ。
妹さんとクエストへ行くのはこれがまだ2回目だから何ともいえないところだけど、クエスト中はもっと淡々と戦うイメージだった。そうだというのに、今は無駄な動きが多いし、モンスターの動きが見えていないのか、被弾も多い。
そういえば、相棒さんがこの妹さんはムラっ気とか言っていたっけ。まだ何ともいえないけれど、きっと今日は調子の悪い日なんだろう。
ふむ……そうだとしたら俺が頑張らないとですね。
それからも妹さんはやはり調子が出ないらしく、かなり苦戦しているようだった。防具が優秀なおかげで乙ることはなさそうだけど、回復をするために戦闘から避難することがかなり多く見られる。
そんなこともあり、あまりダメージを与えることができないまま、ライゼクスはエリアチェンジ。
ん~……流石に失敗することはないだろうけど、このクエストは時間がかかりそうだ。罠とか持ってきてないかな?
「くっそぉ……ネコネコ! アイツ強いね!」
「うニャー。すごく強いニャ」
まぁ、調子の悪い日だってあるだろう。今回はソロじゃないんだ。そういう時は仲間を頼れば良い。それがパーティーってものだと思う。
「ライゼクスはエリア4に行ったニャ。頑張るニャ!」
「うん、了解」
油断していたわけではないと思う。
だって、例え妹さんが全く戦力ならず、俺ひとりになってもこのライゼクスを討伐することはできるだろうから。けれどもそれは、相手がライゼクス一頭だったらというお話。
「うわっ……ネコ! イビルジョーがいる!」
つまりですね。乱入のことをすっかり忘れていたのですよ。
う~ん、妹さんの状態が状態だし、ジョーと戦うのはちょっと無理があるよなぁ。下手したら3乙する可能性だって充分ある。
採取ツアーで乱入してきたジョーに俺たちがやられたあのときみたく。ただ……戦ってみたいというこの気持ちは本物なんだろう。誰のためでもなく、自分のためだけに。
それでも、妹さんにライゼクスにこやし玉を投げるって言おうとした。
そんな時だった。
――…作モー…を…り替……すか?
あの声が頭の中でまた響いてくれたのは。
トクリ――と自分の中の何かが跳ねる感覚。
「っつ……ボ、ボクがこやし玉をライゼクスに投げるニャ」
「よし、ナイスだネコ! 頼んだよ!」
――操……ードを切…替えま…か?
何故か頭の中で響き続ける声。前は一回だけ聞こえて終わりだったってのに……ああ、もう。何がどうなってんだよ。とてもじゃないが、こんな状況で集中できる気がしないぞ。
――操作モ……を切り…えますか?
それでも、どうにかこやし玉をライゼクスに当てることは成功。ただ、響き続ける声のせいでコンディションは最悪だ。
しかも、本当に鬱陶しいことに、響く声はどんどんと大きくなってくれている。直ぐにでもボリュームを0にしたいところだけど、その方法が分からない。
――操…モードを切り替…ますか?
「おおー、ライゼクスが移動した。よくやったぞネコ! それで、ライゼクスは……あれ、ネコ? どうしたの?」
頭の中で響く声が大きすぎるせいで、妹さんの声だって聞こえてこない。
ガンガンと声が響き、立っていることだって辛い。ライゼクスは何処かへ行ってくれたが、このエリアにはまだイビルジョーがいる。こんな馬鹿みたいなことをやっている余裕なんてないというのに。
――操作モードを切…替えますか?
響く。響く。
声が――響く。
――操作モードを切り替えますか?
「……はい」
そんな声を出した瞬間。ガツン――と鈍器のようなもので頭をぶん殴られた感覚がした。目眩と頭痛でバランスを崩し、両手を地面へ着く。
そんななんともよく分からない、フラフラふわふわとした感覚のままゆっくりと立ち上がってみる。
そうしてから見えてきた世界は――いつもよりもずっと小さく見えた。
アレだけうるさかった声はもう聞こえない。
「……は? え、え……なんで貴方が?」
そんな、ぽそり呟いたような妹さんの声だってしっかりと聞こえてくれる。
そして、背中には随分と懐かしい重さを確かに感じることができた。ああ、そっか。いつもはこんな高い場所から世界を見ていたんだっけかな。
手、動く。
足、動く。
首をグルリ回すとポキポキと心地良い音が響いた。
つまり五体満足。コンディションは、悪くない。
ん~っと大きくひと伸び。別に身体が凝り固まっていたわけではないけれど、すっかり慣れてしまった身体とは少々大きさが変わってしまったせいで、なんとも不思議な感覚だ。
今の自分に何が起きているのか。どうしてこんなことが起きてしまったのか。それは分からない。けれども、もらえたこのチャンスを生かさないのはもったいない。
「や、久しぶりだね。妹さん。もしかして、髪切った?」
問題なく声も出てくれたけれど、久しぶりに聞いた自分の
「あっ……あの……な、なんで貴方がいるのさ! 私のネコを何処にやった!」
「いや、ネコは君のものじゃないだろ……」
そんなことを言った記憶はありません。俺はご主人のオトモです。
「んで、どうして俺がだけど……どうしてだろうね? そればっかりは俺も分からないかな。ま、とりあえずこのクエストを無事終わらせようよ。話はその後、のんびりすれば良い」
ついつい癖で『ニャ』って付けそうになるけれど、どうにか我慢。この身体で語尾に『ニャ』なんてつけていたら流石にどん引きだ。
……さて。
さてさて。せっかく身体が戻ってくれたんだ。あの小さな身体だって決して悪いものじゃなかったけれど、どうせならこっちの方が俺は嬉しいかな。そうだというのなら、精一杯楽しませてもらおうか。
背中に担いでいたハンマーを手に取ってみる。
その手に取ったハンマーはゲームの中でもよくお世話になったナルガハンマー……つまり、ヒドゥンブレイカーだった。
そして、どうやら防具もナルガのものらしい。
ん~……ネコの時の装備が反映されているのかな? 正直、レウス防具とかの方が有り難かったけれど、防具無しという状況よりはマシ。何より、この身体に戻ることができたんだ。それ以上に有り難いことなんてないだろう。
そして、俺たちが騒いでいたせいか、ようやっとイビルジョーが此方に気づいた。
確か、あの時は下位武器に下位防具……だったかな。今の装備が上位の装備なのかは分からないけれど、状況はよく似ている。
別に、コイツと戦う必要なんてどこにもないんだ。けれども、きっともうこんなチャンスは二度とない。
それは自己満足でしかないけれど、どうせならやれるだけやってみたいじゃあないか。それにどうせ、どこまで行ったって自己満足の世界なんだ。それなら自分くらい満足させてやりたい。
天を向き、大きな咆哮をあげてから俺たちの方へ近づいてくるイビルジョー。
そんなジョーを見てから、目を閉じ短い呼吸を一度。
1スタンだとかそんな生ぬるい目標は設定しない。やるなら全力で。手は抜かない。これで失敗したのなら俺の実力はその程度のものだったってこと。
自分で自分を追い込み、絶対に逃げさせない。
カチリ――と自分の中の何かがハマった。
ゆっくりと目を開け、見えてきた世界にもう色はない。
もううだうだと考えるのを止め、あとはもう目の前の敵に集中するだけ。ネコの手はもう借りない。この身体でできる精一杯を出し切ろう。
そんじゃま、ひと狩り行きましょうか。
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第66話~神様の気まぐれ~
「ちょ、ちょっと! ソイツはターゲットじゃ……ああもう! ホントに、貴方って奴はっ!」
慌てたような、怒ったような妹さんの声が響いた。
いや、ホント申し訳ないですが、コイツとだけは戦わせてください。やっぱり、負けっぱなしのままで終わらせたくはないんだ。
次はいつ訪れてくれるのか分からないこのチャンス。絶対に逃がさない。
俺たちに気づき、咆哮をあげ、近づいてきたジョーの頭へとりあえず溜め2。その溜2攻撃はカチ上げだった。つまり、スタイルはブシドーじゃない。溜の早さからストライカーでもないことが分かるし、ローリングは普通だから、ギルドスタイルで決定。
つまり、今はこの世界で一番慣れている状態。悪くない状態だ。
さて、とはいうもの、今の装備は上位と下位のどちらなのだろうか。防具の方は下位でも良いけれど、武器まで下位武器だとしたらちょいと面倒くさい。
金レイアでもいれば弾かれるかどうかで、斬れ味の確認ができるんだが……まぁ、どうせやることは変わらないんだ。何も考えず全力でやれば良い。
カチ上げからのローリングをすると、ジョーの尻尾振り回転攻撃が来た。2回連続は確定。さらに、頭を狙える大チャンス。
1回目の尻尾振りをフレーム回避してから、頭の来る位置を確認。
そして、2回目の尻尾振りを始めたところで、ハンマーを振り下ろし始め、回ってきた頭へ縦1。空中へ縦2。
それでもって――ホームラン。
40、15、50……105。スタンまであとカチ上げ2回、か。
ホームランを頭へ叩き込んだところでジョーは怯み、その怯んだジョーへ妹さんが斬りかかった。
久しぶりなせいで、どうにも集中しきれていないけれど……そっか、今回はソロじゃないもんな。それなら勝機は充分にある。
ホームランを叩き込んだ後のジョーは右後脚を大きく振り上げ、四股踏みの動作。ソイツをローリングなしで避けてから、振動をローリングでフレーム回避。
直ぐに、右腰へハンマーを構え、頭へカチ上げ。これで145。スタンまであとカチ上げ1回。
なんとも面倒なことに、ジョーは怒り状態になると弱点が頭から胸へ変わってしまう。だから、スタンを取るのなら非怒り状態の時の方が良い。怒り状態でスタンを取っても前脚に吸われるせいで胸へ攻撃できないんだ。
余計なことは考えず、とにかくジョーの動きに集中。情けないことに、俺の集中力は長く続かない。だからやれるときは容赦なく、一気に畳み掛ける。
ジョーのショルダータックル。頭側へローリングで回避。ハンマーを直ぐに右腰へ。
「スタン取るぞ!」
そして、ジョーの顔面へもう一度カチ上げ。
其処で、今日1回目のスタン。
面白いくらいに身体がよく動いてくれる。ネコの時には味わうことのできなかった、モンスターへ攻撃を叩き込む感覚が本当に心地良い。
俺にはやっぱりハンマーが一番合っているんだろう。
スタンを取り、ダウンしたジョーの動きに注意しながらホームランを2セット。起き上がり、威嚇中のジョーへさらにホームランを1セット。
このジョーとの戦いが、心の底から楽しいって思える。その感覚はネコの時じゃ覚えなかったもの。だから、今ばかりは全力で楽しませてもらおう。
「乗った! 支援!」
妹さんがジャンプ攻撃から乗りへ。ナイス。そして支援了解です。
今の自分の防具が下位なのか上位なのかは分からないから、無茶はしないよう、安全に攻撃できるスタンプで乗りの支援。
乗りダウン後はまず確実に怒り状態になるだろうから、ここでできるだけダメージを稼いでおきたい。2回目のスタンは……まぁ、ジョーが疲労状態になってから狙うとしよう。
今度は妹さんの乗りも無事成功し、ジョーが再びダウン。
先程と同じようにホームランを顔面に3セット。弾けるスタンエフェクト。確かに感じるヒットストップ。これだからハンマーはやめられない。
起き上がったジョーは予想通り怒り状態へ。咆哮をフレーム回避してから、弱点である胸へカチ上げ。
ここに来て、ようやっと集中力も上がってきた。まだ感覚を掴みきれてはいないけれど……相手の攻撃を喰らう気はしない。ゴリラやテオほどではないけれど、ジョーとは何度も何度も戦ったんだ。ネコの時には活かしきれなかったその経験を今は活かすことができる。
上を向きながらジョーが2歩後退。
ローリングで距離を詰め、ブレス中のジョーへ横振りからのホームランをその胸へ。
結局、この世界ではジョーの闘技大会でソロSを出すことができなかった。その時に覚えた悔しさとかそういうものを含めて全部ぶつけさせてもらうとしよう。
もしかしたら、1発でも攻撃を喰らえば、それだけでベースキャンプ送りだったかもしれない。回復薬だって持ってきてないし、この身体で戦うのは本当に久しぶりのこと。
それでも、その時だけは負ける気がしなかった。
それに、ご主人へアレだけ偉そうに立ち回りとかハンマーの使い方を教えてしまったんだ。下手なことなんてできたもんじゃない。
「すまん! 砥石をくれ」
「それくらい持ってこい!」
とはいえ、今回は相手が良かったってのもあると思う。
確かにジョーは弱い相手じゃないけれど、攻撃のパターンは覚えやすいし、無茶をせず、立ち回りさえ気をつければノーダメでクリアするのも難しくない。
あとは自分がどれだけ集中して戦い続けることができるのかってだけ。
「2回目乗る! その間にさっさと研げ!」
そして、クエストが始まったばかりの頃は調子の悪かった妹さんの動きも、かなり良くなってきている。ライゼクスとの相性が悪かったってことなのかな。
ネコの姿となってから戦ってきた相手の中では一番の強敵。1発でも攻撃を喰らえば乙る緊張感。いくらハンマーを叩きこんでも終わりの見えない絶望感。
ただ、それが良い。
できることなら自分の集中力が続く限りずっと戦っていたいくらいだ。
ゲーム中では満足にできなかった動きができ、ネコの姿では味わえなかった爽快感を味わえる今が本当に面白い。
2回目の乗りも無事成功し、妹さんからもらった砥石のおかげで斬れ味も復活。
現在、2スタンに乗りも2回。少々名残惜しいと思ってしまうけれど……そろそろ終わりの時間だろう。
今回はソロじゃないのだし、残念ながらリベンジマッチとはいえないかもしれない。だから、次にまた戦える機会を楽しみにしているよ。
乗りダウン中のジョーへ縦1、縦2。そしてグルリと回り、その反動を活かして――ホームラン。
ありがとう。
お前のおかげで大切なことを思い出すことができた。お前のおかげで俺はまた一歩前へ進むことができる。
ホームランを叩き込んだジョーは大きな悲鳴をあげ……動かなくなった。
イビルジョーの討伐、完了です。
「ん~……っしゃ! お疲れ様、妹さん」
さてさて、ジョーも討伐することができたし、ジョーから剥ぎ取りをしたら、次はライゼクスだ。頭を狙いやすい相手だし、アイツなら振り向きへホームランも狙える。もしかしたら3スタンだっていけるかも。
いや~、やっぱりネコの姿より人間の姿の方が面白いな! これからは何も気にせずハンマーを振り回す日々を送ることができると思うと、ワクワクが止まらない。
何が起きて人間の姿に戻れたのかは分からないけれど、これからの生活が本当に楽しみだ。
そんなウキウキ気分のまま討伐したばかりのジョーから剥ぎ取りをしようとした時だった。
ガツン――と再び、あの鈍器で頭をぶん殴られたような感覚。しかも、さっきよりもずっと強い。そんな衝撃のせいで、ほぼ無抵抗のまま地面へ倒れてしまった。
そして、気がつくと――
「……うそ……だろ」
やたらと世界が大きく見えるようになっていた。
1mちょっとの可愛らしい大きさ。手足も短く、二足歩行するよりも四足歩行した方が速く移動できる。色の種類は茶ブチで、くるりと丸まった尻尾とピンと立った耳が特徴。サポート傾向はアシストで、ブメ3種に遠隔強化、緊急撤退持ち。そんな姿の奴が――どうやら俺のことらしい。
つまり、ネコの姿に逆戻りみたいです。神様の気まぐれはそれほど長く続いてくれなかった。
ウキウキ気分から一転。気分は最悪です。
そして何より――
「…………」
妹さんの俺を見る目がちょっとヤバい。
いや、こんなのどうすれば良いのさ。ただ、別に今回の俺は悪くないよね? 一時的に人間の姿へ戻ったのだって、俺のせいではないわけですし。
「あーその、えと……は、ハンターさん! 次はライゼクスも頑張って討伐するニャ!」
「…………」
お願い! 無言はやめて。一番心にくるし、どうすれば良いのか分からないから。
……いや、ホントうっそだろ、おい。
ああなんで、どうして……せっかく俺の素敵なハンマーライフが始まると思ったらまたネコって、ネコって……
「……話はクエストが終わったら聞くから」
「あっ、はい」
このクエストが終わらなければ良いのにと思った。
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第67話~あの頃からずっと~
いつもより少し長くなってしまいました
「それじゃ、説明して」
クエストを終えて龍歴院へ戻る飛行船の上。さぁ、始まりました。お待ち兼ねしていない尋問のお時間です。
どんな言い訳をしようか考えながらライゼクスと戦っていたけれど、ここに来て妹さんの調子は絶好調に。言い訳をちゃんと考える時間もなくライゼクスの討伐は完了。どうしてライゼクス直ぐやられてしまうん……
「えーと、ですね……気がついたらネコの姿になっていまして……」
「意味わかんない」
いや、そんなことを言われても、俺だってどうしてそうなってしまったのか分かりません。
そもそも、なんで俺がこの世界へ来ているのかだって分かっていないんだ。本当に分からないことだらけです。
それにしても妹さん怖いよ、妹さん。ただ、怒ると頬が若干膨らむところは姉妹共通ということが面白い。
「……じゃあ、どうしてさっきは人の姿だったの?」
「いや、それも分からないんだ。人間の姿に戻れたのはアレが初めてだし、どうして戻れたのかも分からない」
俺だってできれば人間の姿になってハンマーを振り回していたい。ただ、それができないからこうやって小さな身体で頑張っているんです。
なんとも頼りない姿だけど、それくらいしか俺にはできない。
「貴方が貴方だってことを皆は?」
「知っているよ。相棒も弓ちゃんも、俺のご主人も」
隠しきれるとは思っていなかったけれど、まさかほぼ全員にバレるとは思っていなかった。とはいえ、隠し事は苦手だからなぁ。
「じゃあ、どうして……」
「うん?」
「どうして貴方は戻ってこないのさ!」
今までにないくらいの大きな声で妹さんが言葉を落とした。ど真ん中のストレート。まるで容赦がない。
それは、言われるだろうなって思っていた言葉。でも、それに対する良い言い訳はやはり思いつかなかった。
「……お姉ちゃん、貴方とまた一緒にパーティーを組みたいっていつも言ってた」
ああ、これは……予想以上に心にきますね。
それはあの相棒と会う度に言われていたことではあるけれど、ここまで直接的に言われたことはなかった。それに、自分の中で相棒に対してやっぱり後ろめたさがあったこともある。
「……この姿じゃ、例え大老殿に戻ったところで何もできないよ?」
「そういう問題じゃない! 例えどんな姿だろうと、貴方がそこにいるかどうかが問題なんでしょ!」
ずっとずっと先送りにして、見て見ぬ振りを続け、逃げ続けてきた問題。
そんなものがようやっと目の前に現れてくれた。だからもう逃げることはできないんだろう。
そもそも最初はこの世界が前の世界と繋がっているとは思っていなかった。ネコの姿だったし、ベルナ村からのスタートだったし……だから俺はご主人のオトモとして頑張ろうって決めたんだ。
この世界がまだ繋がっていることを知ってから、色々な道を選べたと思う。それこそ、大老殿に行ってまた相棒たちと一緒にパーティーを組むことだって。それでも俺はご主人のオトモになることを選んだ。
自分の中にしっかりとした何かがあったわけではないと思う。軽い気持ちであったことも否定しない。
それでも、それは俺が選んだ道であり、その道を選んだ理由は――
「……君の言うように、大老殿に戻った方が良いんだと思う」
「じゃあ!」
「でも……ごめん。やっぱり、まだ戻ることはできない」
ご主人を放って大老殿に戻れないっていう理由もある。必ず来るだろうオストガロアとの戦いがあるっていう理由もある。
そして何より……ここで大老殿に戻るなんていう、そんな中途半端なことはしたくないんだ。
それにさ、やっぱり俺はひとりのハンターとしてこの世界を歩んでいきたい。例え小さな身体だろうと、例えオトモっていう存在だろうと、俺はハンターとしてこの世界にいたいんだ。
それは俺が大老殿に行ってしまったらできないこと。だから俺はこれからも此処にいたい。
全てのことを妹さんに教えることはできないし、理解してもらおうと思わない。きっと最低な奴だと思われているだろう。
それでも、俺はこの道を選びます。
「どうしても戻らないの? ここまで言われても貴方は戻ってくれないの?」
「……ごめん」
申し訳ないと思っている。本当は全部説明したいとも思っている。でも、今の俺にできるのは、ただひたすらに謝ることだけだった。
「ただ、もし元の姿に戻ることができて、こっちでやらなきゃいけないことが終わったら……きっと戻る。必ず戻れるかどうか約束することはできないけれど、そうできるよう頑張ってみるよ」
今の俺に言えるのはそれくらいだ。
人間の姿に戻れるかどうか分からない。オストガロアを倒した後もこの世界にいられるかどうかも分からない。でも、もし人間の姿に戻ることができて、オストガロアを倒せたらまた相棒たちのいる場所へ戻ります。
それだけは約束する。
「……本当に? また戻ってくる?」
「ああ、必ず」
それは低い可能性だと思う。運の悪い俺のことだ。そうなる可能性は本当に低い。
でもさ、今までずっとずっとその運の悪さに付きまとわれてきたんだ。こんな時くらいは自分の都合の良いように、運良くいってくれたって良いんじゃないかって思うんだ。
「貴方のやりたいことってのが何かわかんないし、全然納得できない」
でしょうね。
「それと! そのやりたいことってのが終わったら戻ってこい! 別に人間の姿じゃなくてもいい。ネコのままでもいいから戻ってこい!」
「えっ、いやそれは……」
大老殿で受けるクエストじゃネコが活躍できる気がしないから、それはちょっと許してもらいたいのだけど……
「ダメ、決定! それで、このことはちゃんとお姉ちゃんに全部貴方から話をすること。どうせ私にはまだ隠していることもあるだろうから、そのことも含めて全部!」
あー……それはちょっと難しいかなって思ってみたりするのですが。いや、だって此処がゲームの世界だとは流石にいえませんし。あの相棒ならあっさり受け入れそうだけど、そればっかりは言わない方が良いと思う。
ただ、まぁ……色々と話さなきゃいけない時なんだろう。こんな機会でもなければこの臆病者はきっと動かない。
あの相棒には今まで何度も何度も迷惑をかけてしまっている。そして、これからも。そうだというのなら、色々と話をしないといけない、のかな。
ネコの姿のままでも戻るというのは……まぁ、うん。仕様が無い。これだけ俺の我が儘を聞いてもらえているんだ。それくらいは受け入れます。
「分かった。約束する」
いかにも私、怒ってます、というような妹さんに向かって言葉を落としてみた。
許してもらえたわけではないと思う。でも、なんとか妥協はしてくれたんじゃないかな。
そして、最後に妹さんが――
「あと……やっぱり貴方のことは嫌いだ!」
なんて言葉を落としたところで、その会話は終わった。
今回は全面的に俺が悪いわけですから、何も言い返せない。
さて、どうにか妹さんを乗り切ることができたわけですが……次は相棒さんが待っています。そんなことをいったら失礼だけど、まさに一難去ってまた一難。
今日は長い一日になりそうだ。
「あっ、帰ってきた。どう? 特に問題は……あれ? 何かあったの?」
龍歴院へ戻ると既に全員がいた。
そして、帰ってきた俺と妹さんへ相棒が言葉を落とし、様子のおかしいことに気づいたのか首を傾げた。
はい、本当に色々とあったんです。ホント、どうしてこうなったのやら……
既に日は落ち、お酒を飲み始めるのには丁度良い時間。けれども、今はその前にやらなきゃいけないことがある。本当は逃げ出したいところだけど、約束までしてしまったんだ。もう逃げることはできない。
「へい、相棒」
「へ? あ、あうん。どうしたの? てか、語尾……」
もう語尾は良いんです。どうせ此処にいる皆は知っているわけだし。
皆の視線が俺に集まっていることが分かる。むぅ、やたらと緊張しますね。
「ちょっと話があるんだ」
さてさて、これでもう本当に逃げられなくなっちゃいました。
手足は震えるし、嫌な汗が止まらない。恥ずかしいことだけど、古龍種と戦う時なんかよりも今の方がよっぽど緊張しています。
「えと、色々と聞きたいことがあるんだけど、どうしたの?」
ベルナ村のオトモ広場へ移動してから、相棒さんと対面。
さて、何から話をしたものか……
「クエスト中、少しだけだけど人間の姿に戻った。あと、妹さんにバレました」
とりあえずはそのことから。
今更だけど、あの彼女――白ネコも連れてきた方が良かったかもしれない。できる限りのことを話そうって思っている。そして、それは俺に関わることだけじゃないのだから。
「へ? ほ、本当ですか! え、えと、あの子にバレちゃったのはいいとして、それで……」
驚き、でも嬉しそうに何かを期待しているような相棒の顔。
……さて、問題なのはここからですよ。きっとその言葉を伝えたら、この相棒は落ち込むと思う。それでも、伝えなきゃいけない。そういう約束で、それが相棒のためになるのだから。
馬鹿みたいに暴れる心臓を落ち着かせるため、ひとつ大きく深呼吸。
そうしてから、俺は言葉を落とした。
「戻らないよ」
余計な言葉は加えない。言い訳もしない。けれどもそれは、色々なことを詰め込んだひと言。
そんな言葉を受けた相棒の顔は、嬉しそうな顔から何ともいえない表情になった。悲しんでいるというか、怒っているというか……なんともいえない表情に。
「……なんだ。戻ってきてくれないんだ」
そして、静かに笑った。
憂いの見える表情で、諦めたように相棒は笑った。
押し寄せる罪悪感の波。後悔ばかりが自分の中で膨らむ。そうなるって分かっていたから言いたくなかったんです。でも、それは言わなきゃいけない言葉だった。
「それは、槌ちゃんがいるからっていう理由?」
「……いや、俺がまだ此処にいたいからだよ」
詰まるところ、俺が相棒たちの元に戻らないのはそんな理由だ。
ネコの姿だからとか、ご主人のためとか、オストガロアと戦うためとか、そんなものは全て体の良い言い訳。結局は俺がまだ此処にいたいから戻らないってだけだ。
「ふふっ、そっか。それなら仕方無いね」
夜空を見上げた相棒。つられて上を向くと、星空と一緒にそんな相棒の言葉が落ちてきた。
視界いっぱいに広がっている星空は、吸い込まれそうになるくらい綺麗だった。
「うん、君がそう思っていたんなら仕方無いや。……あーあ、私は君とまた一緒に生活したかったのになぁ。昔みたいに皆でわいわい騒ぎながら進んで行きたかったのになぁ」
「……ごめん」
それだけしか、言えません。
「ホンっト、君って自分勝手だよね。知ってる? 今回の休みをもらうために私は、狂竜化モンスター3頭にクシャルダオラとほぼ休み無しで戦ったんだよ? それで、久しぶりに会えるのを本当に楽しみにしていたのに、君からもらえたのはそんな言葉」
相棒さんの言葉が心に突き刺さる。
妹さんの言葉もかなり効いたけれど、これはこれでまた心にきます。正直、もう泣きそうだ。
ただ……この相棒はそれ以上にダメージを受けているんだろう。
「本当にごめん」
「ふふっ、君ってなんだか会う度に謝ってるよね」
今の俺にはそれくらいしかできないからなぁ。
「でもさ……君はそれでいいって私は思ってる。そりゃあまた君と一緒にいられれば私も嬉しいよ? ……でも、それは私が君を縛っていい理由にならないし、君は槌ちゃんと一緒にいた方がいいってこともわかってる」
俺に背中を向け、言葉を落とし続ける相棒がどんな顔をしているのかは見えない。
ただ、その姿は俺が知っているものよりもずっと大人びて見えた。
「ただ、やっぱり納得できないこともあります。だって、私はそんなに素直な性格じゃないもん。だから……だから、ひとつだけお願いを聞いてもらってもいいですか?」
くるりと此方を向いてから、相棒はそんな言葉を落とした。
お願い、か。もしかしたら、無茶なことを言われるのかもしれない。もしかしたら、全てを話せとか言われるのかもしれない。
そうだとしても、その言葉に対する俺の返事は決まりきっていた。
「ああ、俺にできることなら何でも」
「うん、ありがと。じゃあさ――」
さて、何を頼まれるのやら。相棒のことだし、何でもってことにかこつけて、今直ぐ大老殿に来い、とかは言わないと思う。
でも、簡単なお願いではないだろう。
「それはできないって言って」
「……は?」
なんか、思っていたのと全然違うのが来た。
てか、普通に意味が分からない。
「だからさ、これから私が言う言葉に、できない。って言ってほしいってこと。難しいことは考えないで、余計な言葉も加えないで。ただただ――それはできない、って」
えっ、い、いや、お願いの内容は分かったけど……え? そんなことで、それだけで良いんですか?
ただでさえ、色々なことがあったせいで、頭の中はぐちゃぐちゃなんです。そんな状態で、まともなことなんて考えられるわけがない。
「あ、ああ。それは良いけど……そんなことで良いのか?」
「……うん、それだけでいいの。それでやっと私は前へ進むことができるから。……よしっ! それじゃお願いね」
正直、何がなんだかさっぱりです。
ただ、まぁ、それで相棒が進むことができるというのなら……それでいいのかな。
「君のことが好きでした。だからずっと私と一緒にいてください」
トクリ――と何かが跳ねる。
吸い込まれそうな星空の下。
声が、響いた。
「それは……できない」
色々な言葉が溢れそうになったけれど、どうにか我慢して言葉を落とした。
そんな予想なんて全くしていなかった。頭の中は本当に真っ白。夢か現か。何がなんだか分からない。昔っから想定外のことは本当に苦手なんです。
「……ありがとう」
そして、俺の言葉に相棒はそう言った。
この会話に、どれほどの意味があったのかは分からない。それでも、相棒は見蕩れるような笑顔をしてから言葉を落としてくれた。
「あー……フラれちゃったなぁ。せっかく勇気を出して言ってみたのに、フラれちゃった」
何が楽しいのか分からないが、くるくると笑いながら言葉を落とす相棒さん。一方、俺は未だに混乱状態です。
てか、えっ? なに? さっきの告白はなんだったの?
色々と聞きたいことがあった。
でも、楽しそうに笑っている相棒を見ていると、言葉は出てこなかった。
「よしっ、スッキリしました! これでこれからも頑張れそうです! ありがとね。こんな茶番みたいなことに付き合ってもらって」
「ん……いや、これくらいならいくらでも」
さっきのやりとりなんて、傍から見れば本当にただの茶番だったと思う。
それでも、それをすることで相棒は前に進むことができると言った。だから、きっとただの茶番ではなかったんじゃないかな。相変わらず何を考えているのか分からない奴だけど、きっときっと何かの意味があったんだと思う。
「それじゃ、皆のところへ戻ろっか」
「えっ? いや、俺が言うのもおかしいけど、その……聞かなくて良いの? 俺や白ネコのことを」
今回の一番大きな目的は、今まで隠していたことを話すっていうもの。
まだ、頭の中は整理がついてないから、上手く話せるかどうか分からないけど、ちゃんと話そうと思っていた。
「うん、それはもういいの。少なくとも、今は」
……そう、ですか。
そう言われると俺からは何もいえないわけでして……うーん、ホント何を考えているのやら。俺には分からないことだらけです。
「よし、じゃあお酒を飲むぞ、お酒を」
「お酒は良いけど、頼むからご主人の前で酔い潰れたりはしないでくれよ……」
そんな感じで結局、自分のことを話せはしなかった。
何というか……相棒さんにしてやられてしまった感じ。
俺と相棒の交わした会話にどんな意味があったのか。それはやっぱり分からない。でも……あの会話のおかげで相棒だけじゃなく、俺も前へ進めたような気がする。
何処かに置いてきてまったものを、今になって拾うことができ、これからは後ろを気にせず進むことができる。
そんな気がするんだ。
前作を含めてもう140話以上書き続け、何といいますか……ようやっと一区切りつけることができた気がします
前作を書き始めた頃は登場する予定すらなかった相棒さんが、こんなにも素敵なキャラとなってくれ、私としても嬉しい限りです
では、次話でお会いしましょう
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第68話~変わらない代わりに~
……白ネコさん、お願いします
相棒との会話を終え、皆のいる場所へ戻り、それから打ち上げをしたわけだけど……そんな打ち上げのことはよく覚えていない。それほどに、あの相棒との会話が効いたってことなんだろう。
あの相棒がどうしてあんなことを言ったのか。その本当の理由はやっぱり分からない。そりゃあ、色々な想像はできる。できるけれども……本当の理由は分からないよ。
昔から、そういう類のことが苦手だったっていう自覚はある。それでも、あの相棒にあそこまで言わせてしまう自分が情けなく……酷く惨めに思えた。
この世界へ来たのはもう3度目。元の世界で溜め込んだ知識を活かし、多くのモンスターを倒してきた。けれども、俺は止まってばかりだ。
そして、俺が止まってしまう原因は狩りのことじゃなく、何時だって人と人との関係のこと。
悩んでばかり。後悔してばかり。そんな度に周りの仲間に助けられてきた。
詰まるところ、全く成長してないってことなんかね。人間的に。
どれだけ多くのモンスターを倒そうが、どれだけ優秀な防具で身を固めようが、その中身はポンコツのままだ。
このままじゃダメだって分かっている。そんなままでも前へ進まなきゃいけないってことも知っている。そうだというのに、俺は止まってばかりだ。進歩が見られない。
そんな俺が此処まで歩んで来ることができたのは、頼もしい仲間たちのおかげ。そんなことだって分かっているつもりだったんだがなぁ。
……難しいよね。人間って。
確定行動もなければ、絶対的な攻略法もない。理不尽なハメ技を容赦なく使ってくるし、こっちの攻撃が届かないことばかり。そんなせいで、どんなに強いモンスターよりも戦いにくい。戦い方が俺には分からない。
だいたい、あんなことを言われた俺はどうすりゃ良いんだ。
例え、どんなに距離が離れようと、世界を越えようと、あの相棒が俺にとって大切な仲間であることに変わらない。あんなことを言われたのは確かに驚いた。でも、だからといって今までの関係を崩してしまう理由にはならんだろ。
今はご主人のオトモとして戦っているし、オストガロアを倒した時、俺たちがまた消えてしまう可能性は高い。けれども、あの相棒とまた一緒のパーティーを組みたいというのは本当のこと。それこそ――元の世界を捨てても良いと思うくらい。
それなのに、あんなお別れの挨拶じみたことを言われてしまうと……
まぁ、それもこれも俺が相棒に伝えなかったからなんだろう。何にビビっているのか知らんが、どうしてこの身体はこんな時ばかり臆病になってしまうのだろうか。
感情と行動の矛盾。言葉にしなければ伝わらない。そんなこと痛いくらい分かっているはずなのに……
その日は、そんなことを延々と考え続けていた。
このままあの相棒と別れてしまうのは絶対に避けたい。
それがどのくらい残ってくれているのか分からないけれど、どうやら勇気を出さなきゃいけない時が来たんだと思う。
―――――――――
……さて、これはどうしたものだろう。
あの彼じゃなく、何故か私に目を付け始めた妹さんもどうにかしなきゃいけないけれど、それよりももっと面倒なことがある。
その内容がどんなものだったのかは分からない。でも、楽しい内容じゃなかったことは確か。
だって、明らかに彼の様子がおかしいもん。
話があると言ってからあの娘と一緒に席を離れ、戻ってきたらこの有様。あの彼のことだし、どうせまた、余計なことで悩んじゃっているんだと思う。彼の様子がおかしい時の原因はだいたいそんなもの。
そして、あの娘だってそうだ。
明るく普段通りに振舞おうとしているのがよく分かる。ふたりでどんな会話をしたのか知らないけど、また面倒なことになったなぁ。こんなことになるのなら、無理矢理でもついて行けば良かった。
あのふたりの仲はすごく良いし、相性だって良い。けれども、そのせいでハマってしまう時はとことんハマる。良い方向へも、悪い方向へも。そして、今回はどうやら後者だったらしい。そんなことは今までに何度もあった。
さてさて、問題なのはここから。とりあえず彼が悪いのは確かだ。どうせ、あの娘にちゃんと伝えられなかったせいで、すれ違いが生じたとかそんなことが原因だと思う。それで、悪い方へ考えがちなあの娘が何かしちゃったんだろうなぁ……
あの彼が、ああなってしまうのはよくあることだから問題ない。放っておいても何とかなると思う。だから、今はあの娘の方をどうにかしないと。
「っと、うん? どしたの、白ネコちゃん」
打ち上げも終わり、後は寝るだけ。でも、このまま明日になるのはよろしくない。
だから、私がちょっとだけ頑張ってみる。
「……ガールズトークしよ」
結局のところ、このメンバー中での私の役割は変わっていない。
「……それで、何があったの?」
まどろっこしいのは無し。単刀直入。そうでもしないと、この娘はいらないことを喋って自爆する。
「あー……やっぱり分かります?」
「分かる。だって、アレだけの時間を一緒に過ごしたんだもの」
馬鹿にしないでほしい。今は離れてしまい、一緒のパーティーを組むことができなくなってしまった。だからといって、昔のことがなかったことになるわけじゃない。
こうして離れた今だって、この娘は私の大切な仲間で大事な親友だ。
「笛ちゃんも変わらないね……」
い、いや、そんなことはない。ちゃんと成長したし、これからもちゃんと大きくなる。どことは言わないけど。
「貴女だって変わってないこともある」
やたらと大人びて見えることもあるけれど、この娘はこの娘のままだ。
それに、例えこの娘が変わったとしても、私のこの娘に対する気持ちまでは変わらない。
「そう、なのかな? 私もよく分かんないや」
泣きそうな顔をしながら言葉を落としたあの娘。
どうやら思っていたよりも状況はよろしくないらしい。むぅ、ボケるにボケられなくなった。
「それで、何があったの?」
それじゃあ、そろそろ本題に入るとしよう。このまま続けたらこの娘、泣き出しそうだな勢いだし。
「その……彼に告白しました」
…………うん?
「ごめん。何言ってるか分かんなかった。もっかい言って」
「えっ、あっ、いや……だから、そのぉ……彼にですね、好きだと告白を……」
……ちょっと、待ってね。
流石にこれは予想外だ。開幕初手で最終兵器を使われた気分。不意打ちもいいところ。
いや、ちょっと、本当に待ってほしい。言っていることは分かるけど、意味が分からない。だいたい、
そして何よりそんなことは……そんなことをしたら――
「……なんでそんな傷つけるようなことを?」
傷つくに決まっている。
それくらいはこの娘だって、分かっているはず。
「あぅ、そうだよね……やっぱり彼、かなり傷ついていたよね……」
「違う、そっちじゃない」
あの彼は別に良いんだ。そんなのいつものことだし。それに、よくメンタルをボコボコにされているせいか、あれで彼はなかなかに打たれ強い。
でも、この娘は違う。そうじゃない。
「私が聞きたいのは、どうしてそんな自分を傷つけるようなことをしたのかってこと」
何を思って、そんなことをしたのかは分からない。でも、それが正しい選択だったとは思えなかった。今回はお互いに傷つきあったところで、その傷を帳消しにできるようなメリットはないと思う。
まぁ、この娘のことだし、半分は勢いだったんだろうなぁ。
「……だって、私はもう笛ちゃんたちと一緒にいられない」
叫ぶように、けれども静かに静かにあの娘は言葉を落とした。
そんなあの娘の目には雫が溜まり始めている。
「私はもうあの彼の
そして、言の葉とともに雫がこぼれ落ちた。
……ふむ、なるほど。だいたい分かった。
この娘がここまで凹んでしまっているのは、多分ご主人さんと一緒にクエストへ行ったのも原因だと思う。あのご主人さん、今はすごく良い感じだし、影響されちゃったのかな。しまったなぁ、ご主人さんの心配しかしてなかった。
さて、予想以上にシリアスな感じになってしまったけれど、これくらいなら問題ない。結局のところ、今回だっていつも通りのすれ違いだもの。
それくらいならよくあることだ。
私にできることは少ない。でも、ここは頑張らなきゃいけないところ。それが私の役割なのだから。
「……もし、貴女が私よりも早く彼に告白をしていたら、あの彼と付き合っていたのは貴女だったと思う」
「へっ? え、えと……う、うん」
あまりそういうことを想像したくないけれど、あの彼とこの娘が付き合う可能性は充分にあった。それこそ――私と彼が付き合う可能性よりも。
それほどに、この娘と彼の仲と相性はよく見えた。それに、言葉として聞いていなかったけれど、この娘が彼を好きだったのは確か。
この娘の境遇を考えれば、そうなるのは自然なこと。そして、あの彼だって私と付き合っていなければ、この娘の告白を受け入れたはず。それも確かなこと。
じゃあ、どうしてそうならなかったのかというと、私が横からかっさらったってのはもちろんある。
でもそれ以上に、この娘が引いてしまったというのが大きい。それは、私のことを考えてってのもあるし、自分じゃ彼と釣り合わないとか思っていたんだろうなぁ。この娘はそういう性格なんだ。
悪い方へ悪い方へ考え、一歩引いてしまう。いつもそうだとは言わないけど、この娘はそんな性格。私とは正反対だ。
そんな性格だもん、色々と溜め込んじゃうよね。そして、今回はその溜め込んでいたものが出てきてしまった。きっとそういうこと。
「貴女はもっと自由に生きて良い」
「……それが難しいんだ」
うん、まぁ、そうなんだけど。
なんだ、窮屈な生き方をしている自覚はあったんだ。
「それに……私はまだ貴女のことを大切な仲間だって思っている。そして、あの彼だってそう思っているはず」
それだけは確かなこと。
「……でも、笛ちゃんたちはまた消えちゃうんでしょ?」
「そうかもしれないし、それは私たちが決められることじゃない」
普通に考えれば、今回はオストガロアを倒したときに消えてしまうはず。私たちの意思なんて関係なく。
「じゃあ……」
「でも、もし消えずにこの世界に残ることができたら、また貴女と一緒にいるって約束する」
そうなる可能性は低いし、随分と自分勝手なことを言っているってことも分かっている。
それでも、ここは私が我が儘に言わなきゃいけない場面。あの彼とこの娘が言わない代わりに私が言わなきゃいけない。
「……その時、彼も一緒にいてくれるかな?」
「大丈夫、引きずってでも連れて行くから」
そんなことには、まずならないと思うけど。
「ふふっ、相変わらずだね」
それが私だもん。それだけは変えられない。
その目にまだ涙は残っているけれど、漸くあの娘が笑ってくれた。これで少しは元に戻ってくれたのかな。そうだと良いな。
……むぅ、それほど長い時間、お喋りをしていたわけじゃないけれど、そろそろ眠い。
けれども、まだ言わなきゃいけないことが残っている。
「それとだけど……」
「うん」
この娘は私にとって大切な仲間であり親友。
この世界の人間がNPCとしか思えなかった私を変えてくれた存在。この娘にはあの彼と同じくらい救われたし、今もこうしてこの世界を楽しめているのはこの娘のおかげ。
返しきれないほどの恩があって、あのパーティーにいたのがこの娘で良かったと心から思っている。
そんな存在ではあるけれど――
「彼の隣だけは譲らない」
それだけは譲れない。
彼と付き合うようになった今でも、この娘は私のライバルだ。少しでも油断をすれば彼を取られてしまってもおかしくない。そんな危機感。それほどに、彼とこの娘の仲は良い。
「一日だけでもダメ?」
え? あれ? そ、そういう話をするの?
「え……え? あ、あー。ん~……い、一日くらいなら……いや、でも……」
「ふふっ、冗談です。そんなことを言ったらあの彼だって困るだろうし。それにしても、そっか。そうかぁ、もしかしたらまた一緒にいられるかもしれないんだね」
あっ、良かった、冗談か。本当に良かった。もし真剣に頼まれていたら断れなかったと思う。いや、私だってこの娘に対して後ろめたさはやっぱりあって……ま、まぁ、それはいいや。
「うん。それは約束するし、そうなるよう頑張ってみる」
何を頑張れば良いのか分からないけど。消える時は本当に突然消えちゃうからなぁ……
いっそのこと、オストガロアを私たち以外のハンターに倒してもらうってのもアリかもしれない。ただ、あの彼だってオストガロアとはやっぱり戦いたいからなんとも難しいところ。
「そう言ってもらえれば私もまた頑張れそうだ。ありがとう笛ちゃん。あー……ホント、そんな未来になればいいなぁ」
そうだね。今の生活だって楽しいけれど、そうなったらもっと楽しいと思う。
どうしても元の世界には未練がある。でも、捨てられないほどには、この世界のことが私も好きになっている。
そんなこと、昔の私じゃ全く考えられなかったというのに。
だからきっと、私だって変わっているんだ。そして、それは悪い方向にってことばかりじゃないはず。
まだ完全に元通りってわけではない。それでも、あの娘の調子はかなり戻ってくれたと思う。
この娘には随分と苦労をかけてしまっている。そのことを申し訳ないって思っているけれど、今の私にできることはそれほど多くない。
だから、私にできるのはこれくらいだ。
そして、そんな会話をあの娘とした後だけど、結局朝までお喋りを続けることになった。いつもなら直ぐに寝てしまう私も、こんな時くらいはちゃんと起きていられるらしい。
そんなお喋りの内容は……割愛ってことで。
これで、この娘とはまた暫くの間お別れ。
けれども、きっと再会できる。そして、昔みたいにまた一緒にいることができるはず。そうなる可能性はすごく低いし、何の確証もない。
そうだというのに、そんな予感がした。
さて、私にできるのはここまでだ。あとはあの彼に任せるとしよう。
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第69話~この世界で~
さて、次の日になってしまったわけですが……どうすっかね?
どんな言葉を相棒に伝えれば良いのかを考えていたら、結局朝になってしまった。それでも、良い案は何も浮かんでいない。
そして、何故か白ネコさんがいないんですよね。全然気付かなかったけれど、そういえばそもそも帰ってきていなかった気がする。夜は直ぐに寝てしまうあの彼女がいないってのも珍しい。ん~……もしかして相棒たちと一緒に寝ていたりするのかな? まぁ、そんなことを気にしている余裕なんてないわけだけど。
それにしても、ホントどんなことを伝えれば良いのやら……
そして、そのままお別れの時間となってしまいました。
あの相棒にどんな言葉をかけるのかは、まだ決めていない。でも、何も言わずにこのまま別れるのだけは避けたいのですよ。
「よし、それじゃ私たちはこれで帰ります。クエストを手伝ってもらってありがとね。槌ちゃんにネコちゃんたち」
いつもと何も変わらない様子の相棒さんが言葉を落とした。
残されている時間はもうほとんどない。
「は、はい! こちらこそありがとうございました! また機会があれば是非一緒に……」
そして、未だ緊張気味のご主人。どうやらクエストは上手くいったみたいだけど、やはり相棒の前だと緊張するらしい。それでも、ご主人は確実に成長している。ハンターとしても……きっと人としても。
そうだというのに、俺は止まったままだ。この世界へ来て、変わったことだってある。けれども、結局のところその中身が成長をしていない。
じゃあ、どうするかってことだけど、それが分からない。
「……またね」
その眠そうな顔を隠しもせず、小さな声で言葉を落とし、大老殿へ向かう3人に手を振る白ネコさん。昨晩は何をしていたのやら……
さて、そうなるといよいよ次は俺の番です。
何も言わないわけにはいかない。何かを言わなければいけない。けれども、良い言葉なんて何も思いつかない。口下手なこの性格がたった一日考えただけで変わるわけがないのだから。
洒落た台詞回しや、気の利いた口回しなんて思い浮かばない。
言葉に落とし何かを伝えようとしたって、どうせその全てを伝えることなんてできやしない。そんな性格なんです。
だから、こんな場面でも俺は少ない言葉を落とすことしかできない。それが今の俺の精一杯。
けれどもその分、積もり溜まった想いを乗せて、言葉にしてみようと思うんだ。
「へい、相棒」
「うん」
俺の言葉を聞き、相手は不安そうな顔をした。
その言葉が君の望んでいるものかどうかは分からないけれど、俺から言えるのはこれくらいだ。
「今度は消えない。そして、俺の方から行く。だから待っててくれ」
未練がないといったら嘘になる。そんな簡単に捨てられるものでもない。
けれども、もう決めました。この世界で生きていこうって。
それは俺が決められることではないし、そのために何ができるのかも分からない。でも、その想いを言葉にするのは大切だと思うんだ。
だから、再会を約束する言葉にそんな想いを乗せてみた。
強いモンスターと戦うのは心の底から面白いって言える。でも、この世界へまた来たいと思ったのはそのことだけじゃない。この相棒とまた一緒にいたいと思ったからだ。
じゃあ、それも言葉にしろよって話なわけですが……流石にそれは許してください。
「うん……わかった。待ってる」
予想していなかったのか、酷く驚いたような顔をしてから、はにかむように笑い、そんな言葉を落としてくれた。
やっぱりまだ全ての想いを言葉にすることはできないけれど……伝わってくれたかな。伝わってくれていれば良いな。
「それじゃ……またねっ!」
「ああ、きっとまた」
そして、お別れの時。
俺と相棒のやり取りを見ていた妹さんはぶっすーとした表情をしながら、『貴方は来るな!』なんて言って飛行船の中へ。意地悪くクスクスと笑う弓ちゃんは何も言わず、一度頭を下げ、手を振りながら。最後に乗り込んだのは相棒だったけれど、此方に背中を向けていたせいで、その表情を見ることはできなかった。
とはいえ、アイツがどんな表情をしているのかは予想できる。
あの相棒さんには本当にいつもいつも迷惑をかけてばかりだ。でも、今度はそんな相棒の愚痴だって聞いてやれるし、正面から向き合うことだってできるはず。
根本的に無茶苦茶なこの世界。それならきっと理屈はいらない。
さて、これでもう元の世界には帰るに帰れなくなったわけですが……どうなることやら。
ここまでしておいて、流石にいつものように消えるわけにはいかない。この世界へ残る理由は元々あった。今度はそこに俺の想いも含めてみる。
誰に祈れば良いのかなんて分からない。けれども、そんなわけでどうかお願いします。
「……元の世界に戻らないつもり?」
相棒たちの見送りを終えて直ぐ、白ネコさんが声をかけてきた。まぁ、そりゃあ聞かれますよね。
チラとご主人さんを見ると、放心状態といった様子。きっとご主人にとって、相棒たちと過ごしたこの時間は夢のような時間だったんだろう。あの様子じゃ暫くはクエストも無理そうだ。
「うん、そのつもりだよ」
もしかしたら、ご主人にこの会話を聞かれてしまうかもしれないけれど……まぁ、その時はその時。それにご主人になら話しても問題ない。
んで、この世界で生きることだけど……ひとりで勝手に決めてしまって申し訳ないです。でも、もう決めました。俺はこの世界を選びます。
とはいえ、この彼女を捨てることなんてできないわけですよ。……俺だってやっぱり彼女のことは好きなわけですし。
「だから、その……俺はこの世界で頑張ろうと思うわけでして、もしよろしければ君も一緒に……」
落とされるそんな言葉がたどたどしいのは、ご愛嬌ってことで。
そもそも、この世界へ残れるのかも分からない。だから、この会話に意味なんてないかもしれない。けれども、相手の気持ちは知っておきたいし、自分の気持ちは伝えておきたい。
さてさて、そんな俺の考えをこの彼女はどう思ったのやら。
「そこに貴方が居てくれるのなら」
そして、俺の言葉に彼女はそんな返事をしてくれた。
その言葉はつまり、一緒にいてくれるってことの意味なはず。
「ありがとう。悪いな、いつも」
「それでいい。私はそんな貴方が好きなのだから」
……なんでこう。この人はそういうことを普通に言うんだろうか。言われる此方の身にもなってもらいたい。ふたりだけの時ならまだしも、こういう時は反応に困る。
「でも、浮気は絶対に許さない」
へっ? あれ? もしかして、さっきの相棒さんへのセリフは白ネコさん的にアウトですか? ちょ、ちょっと待ってください。そんなつもりは微塵もなかったのですが……
「い、いや、そんなことしないって」
怪しい時もあるかもしれないけれど、俺は白ネコさん一筋です。それに、そういうことはちゃんと自分の中でも分けることができている……と思う。
「どうして貴方の周りに集まるのは女の子ばかりなの?」
そんなことを俺に言われても……俺が集めているわけじゃないですし。ただ、そんな能力があったらすごく素敵だと思う。俺だって男なわけですから、そう思うくらいは許してください。
それに俺だって男の友人が欲しいっていつも思っていた。悲しいことだけど、男の友人といえるのはバルバレにいるあの加工屋くらいなんです。その次となると、バルバレのギルドマスターとか大長老とかになってしまう。俺の交友関係なんてそんなもんだ。
「大丈夫、浮気なんてしないよ」
「……ん、それならいい」
信頼されてないってことはないと思うけど……まぁ、普段の行いのせいといったところでしょうか。
さて。さてさて、相棒たちも行ってしまったし、次は俺たちだけで頑張らないとだ。
現在のHRは5。そして、とりあえずの目標はオストガロア討伐。それで最終的には人間の姿に戻り、この世界へ残ることだけど……どうすれば良いんだろうね? こればっかりは考えても本当に分かりません。
とはいえ、ずっと残っていたモヤモヤも少しは晴れてくれたんだ。それなら先だって見えてくるはず。未来なんて誰にも分からないけれど、その未来が少しでも良いものになるよう足掻くことはできる。
そうだというのなら、頑張ってみるのも悪くない。
そんなわけで気持ち新たに進んでみましょうか。
ここ最近続いていた雰囲気もようやっと終わり、これからは進んでくれそうです
主人公も悩んでいましたが、男性キャラを出してあげれば良かったなぁと思っています
ゴリゴリの筋肉キャラとか良いですよね
では、次話でお会いしましょう
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第70話~順調?~
「うーん、ディノバルドかぁ……やっぱり強いんだよね?」
「うニャ。弱いモンスターではないニャ。ただまぁ、ご主人なら大丈夫だと思うニャ」
地底火山へ向かいながらご主人と会話。
今回のターゲットはディノバルド。それはMHXのメインモンスターっていっても良いような相手。躱しにくいような攻撃はしてこないし、かなり戦いやすい相手だと思うけど……やっぱり初見は厳しいよなぁ。ディノはナルガみたく、パターンを覚えて戦うモンスターなわけですし。
ただ、そういうモンスターの方が戦っていて面白いよね。初見だとボコボコにされるけれど、何度も何度も戦うことで少しずつ戦い方が分かってきて、最終的には自分の思ったように戦えるモンスターとか本当に素敵。ナルガがそういうモンスターの筆頭だと思うけれど、ディノもそういうモンスターだと思っている。
はぁ……ホント、ハンマーで戦いたかったなぁ。あの時、中途半端にハンマーを使わせてもらっちゃったせいで、そんな想いが余計に強くなってしまった。
「ともかく、これをクリアできればご主人もHR6ニャ。だから頑張るニャ!」
「うん、了解です。どうなるか分からないけれど、頑張ってみるね」
初見は本当に大変だと思うけど、お願いします。
現在のご主人のスタイルはブシドー。ディノは攻撃の予測がしやすいモンスターだし、相性は良いと思う。出の早い攻撃も尻尾振り攻撃(弱)と噛み付きくらいじゃないだろうか。そして何より、ハンマーとの相性がかなり良い。頭は柔らかいし、狙いやすい。まさに良モンスター。
それでこれをクリアできればHRは6に。そうなればゴリラやジョー、キリンなんかと戦えるようになる。ご主人の防具や武器だってそろそろ強化しないとだし、やらなきゃいけないことがたくさんあります。
そのためにも気張っていきましょうか。
「むぅ……やっぱり地底火山は暑いね」
火山だもん仕方無いね。俺だってできれば古代林とかで戦いたかったです。
暑いのは良いとして、地底火山の地形の悪さはどうにかならないものか。せっかくの良モンスターとの戦いなのに、あの地形のせいで全力で楽しめない。
「……ご主人さんはディノがどういうモンスターなのか知ってるの?」
寝起きでまだなんとも調子の出てなさそうな様子の白ネコさん。まぁ、戦い始めればいつもの調子に戻ってくれると思うけど。
「ん~……実際に見たことはないよ。すごく強いモンスターだって聞いてるくらいかな」
なんだかんだ下位じゃ戦わなかったもんね。俺は一度戦うことができたけど。アレは良い経験でした。
「……そっか。最初は大変だと思うけど、頑張って。あと、無茶はしないように」
「はい! 了解です!」
ご主人は割と自分から突っ込んでいくタイプだったりします。今まで、そういうタイプの人はいなかったから何とも不思議な感じ。俺は主に弓ちゃんから無茶するなって言われる側でしたし。
さてさて、流石に3乙はないと思うけど、2乙くらいは覚悟しておかないと。それに相手はあのディノ。俺だって気を付けないと乙る……ことはまぁないと思うけど、ピンチになることはあるだろう。それに手を抜く理由なんてないのだし、全力でいかせてもらいましょうか。
「ディノはエリア8にいるニャ」
「了解! よっし、それじゃ頑張っていこっか」
うん、できる限り頑張ってみるよ。
ただですね、ちょいと問題がありまして……どうにもやる気が出ないというか、何といいますか……
今回の相手はあのディノ。MHXで登場した新モンスターの中では戦っていて一番面白い相手。だから、戦うことをもっと楽しみに思って良いはずなんだけど……ん~、なんだろう。自分でも良く分かんないや。こんなことは今までなかったのだけどなぁ。
まぁ、きっと戦い始めればこんな感情だってなくなるか。
「え? な、何が起きるんですか? これ」
「ご主人! ディノのかかとが安置ニャ!」
自分の長い尻尾を咥え、最大火力技であるラウンドフォースの準備。そして、金属同士の擦れる音と共に、その技が放たれた。
当たり判定は短いからフレーム回避をしても良いけど、それをするほどの攻撃でもないから、攻撃が当たらない場所まで移動しておく。それで、攻撃後のディノへ直ぐにブーメランを投げつけた。
今は戦い始めてそろそろ5分といったところ。
白ネコさんからのアドバイスもあってか、心配していたご主人も問題は特になし。俺はディノと戦ったことがあるし、そもそもネコなら攻撃なんてほとんど喰らわない。そんなだから、危ない場面なんてほとんどありません。
正直、もっと苦戦するだろうって思っていた。それがこの調子。
いや、決して悪いことじゃないし、むしろ良いことなんだけど……なんだろうね、このモヤモヤした感情は。
「おっ? 移動したよ!」
「……エリア2に行ったみたい」
「了解!」
ふむ、どうやらこのクエストも問題なくクリアできそうだ。まぁ、このメンバーならそうなりますよね。白ネコはもちろんだけど、ご主人だってかなり上手いわけですし。順調順調。
そんじゃ、今回もサクっと終わらせましょうか。
そして、その後も問題なくディノ討伐が完了。ご主人もどうにか1スタンを取ることができていたし、かなり良い感じだ。このパーティー、ホントに強いです。
それでもってHRは6に。おめでたいですね。
「お、おおー! 倒したーっ!」
「……お疲れ様」
「お疲れ様ニャ」
……結局、ディノと戦っている間もあのモヤモヤはなくなってくれなかった。その原因だけど……多分、今の状況が良すぎるからだと思う。
ゲーム中でもネコはあまり使っていなかったこともあり、ハンマーと比べて上手く戦うことはできていない。けれども、スキルやサポート行動はもうほぼ理想的な形になってしまっているし、これ以上強化することもできない。そうなってしまうと、普通のモンスターにはまず負けない。それに、このメンバーならよほどの相手じゃない限り問題なく倒してしまう。
詰まるところ、どうにも緊張感がないんです。乱入してきたディノとの戦いや、二つ名ナルガと初めて戦った時、そして前回のジョーとの戦いの時のようなあの緊張感が。
それほどに、このパーティーが強いってことだけど、やはりそこには物足りなさを覚えてしまう。ひと言でいうとモチベーションの低下。それなら、縛りプレイでもって考えたけれど……今はソロじゃなくパーティー。他のメンバーに迷惑をかけるわけにはいかない。
どうしたものかなぁ。
俺はあの相棒みたく、困っている人のためにハンターをしているわけでもなければ、お金や名声がほしいわけでもない。ただただモンスターと戦うのが面白いからハンターを続けている。
でも、この先の未来で、モンスターと戦うことに面白さを見出せなくなったらどうなるんだろうね。いくらモンハンが好きとはいえ、ずっとやり続けるのはやはり飽きる。逃げ道がない。そして何より、ネコのままだと……
いやぁ、これは困りましたね。元の世界ならそれは別におかしくない問題。けれども、こんな馬鹿みたいな理由でモチベーションが低下するなんて、この世界じゃ俺くらいだろう。そして、これは自分だけの問題。自分でどうにかしないといけない問題なんです。
せめて人間の姿になることができれば他の武器を使うとか、スキルを変えることで戦い方を変えるとか色々できるんだけど……
いや、できないことを考えても仕方無い、か。
今はまだ大丈夫。オストガロアと戦うという目標があるし、何よりご主人のオトモとして頑張ろうと思えているから。今は目標も目的もある。
問題になってくるのはその後。どうにかしてこの世界へ残ることができ、相棒の所へ戻ることができたとしても……
あー……ホント、何を悩んでいるんだか。自分で自分のことが馬鹿らしくなってきた。せっかくこの世界へ来ることができたんだ。それなら全力で楽しめよって話。
自分に嘘をつくのは苦手なタイプ。とはいえ、モチベーションくらいどうとでもなりそうなものなんだけどなぁ。
「よーし、剥ぎ取りも終わったし、帰ろっか。これでHRも上がったし今日は盛大に打ち上げやろ!」
「うニャ」
「……了解」
未来のことなんて誰にも分からないけれど、考えておいた方が良いのは確かなこと。帰ったら色々と話をしてみないとですね。特に、ご主人はどうするのかとかそういうことを。
最小マラソンとかTAとかやれることはいくらでもあるんだ。あとは自分の気持ち次第。
まぁ、その気持ちをどうにかするのが難しいわけですが。
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第閑話~いつかの会話~
MH4Gの頃の相棒さんと主人公のお話になります
「ディアブロスって確かあの砂にもぐっちゃうモンスターだったよね?」
砂漠へ向けてガタゴトと進む馬車の上で相棒がそんな言葉を落とした。
「そだね。大きな2本の角が特徴の奴」
今回の相手は角竜――ディアブロス。
ディア自体は別に嫌いなモンスターじゃないし、苦戦することもないとは思うんだけど……正直、ハンマーでアイツと戦いたくはない。嫌がらせなんじゃないかってくらいアイツの頭の打撃肉質が硬いんです。斬れ味が紫でも弾かれるとか本当に勘弁してもらいたい。せっかく音爆弾を使ってもハンマーじゃダメージを全然稼げない。
「うわぁ、やっぱりかぁ……ふ、ふたりでも何とかなりそう?」
いや、お前ならひとりでも大丈夫だと思うぞ? MH4G壊れ武器であるペダンを担いでいるわけだし、閃光玉を使えばハメ殺せるくらいじゃないだろうか。
「まぁ、大丈夫だろ。時間はかかるかもしれないけど、倒せない相手ではないんだし」
怒り状態で砂へ潜られると何もできんしなぁ。
とはいえ、苦戦するような相手ではない。極限化個体だと流石に面倒だけどさ。
さてさて、そんなわけで今回は相棒さんとふたりでディアのクエストです。今頃、あの彼女と弓ちゃんは、ジンオウガの討伐へ向かっているはず。最初は俺がジンオウガと戦うはずだったけど、あの彼女に無理やり交換させられた。最近はプーギーで遊べていないみたいだし、きっとストレスとか溜まっていたんだろう。
「あぅ……ちゃんと指示とかサポートしてよ?」
「え? いや、ホント大丈夫だと思うぞ? ま、まぁ、サポートはちゃんとするけどさ」
大老殿で一番のハンターが何を怖がっているんだか。ディアより強いモンスターなんて今まで何度も倒してきただろうに。
「あっ、てか、相棒とふたりでクエスト行くのって久しぶりだな」
「ん~……そういえば、そうだね。私はずっと笛ちゃんと一緒だったし」
俺は弓ちゃんと一緒だったからなぁ。弓ちゃんのことは嫌いじゃないけれど、あの子とのクエストの帰り道はずっといじられ続けるから疲れるんだよね……
まぁ、あの子はそれを楽しんでいる様子だし、もうこれでも良いのかなって思っていたりします。
「それで、今回はどうやって戦うの?」
どうしよっかね? アーティラートを作りたいから、できれば穿角がほしいけど、ローグレギオンがあるからどうしてもほしいってわけじゃないんだよなぁ。
それならサクっと倒しちゃった方が良さそうだ。
「相棒は腹の下で暴れまわっていてくれれば良いよ」
ディアは腹が弱点だし、それが一番良さそうだ。あと、足怯みの転倒も美味しい。虫棒を使えばディアさんったらコロコロ転んでくれる。
「またそんな適当な……」
そんなこと言われても、他にいうことなんてないですし。
1スタンくらいは取るけれど、俺も今回頭はそんなに狙いません。頭の硬い相手ってのはどうにもやりにくいんだ。
因みに、相棒さんは安定と信頼のレギオス一式防具です。
少し前だけど、金冠マラソンでもしてるんじゃないかってくらいの頻度でセルレと戦う機会があった。どうやら極限化個体の影響で、通常セルレたちが大量に現れてくれたらしい。そのおかげで、セルレ素材には困りません。
それで、極限化セルレも俺たちが戦うことになるんかねぇ。なんて思っていたけれど、それは誰かが倒してくれたらしい。そのセルレを倒してくれたのは多分、我らの団のハンターなんだろう。俺はまだ会ったことがないけれど、どんなハンターなのやら。ハンマー使いのハンターだったら嬉しいんだけどなぁ。あと、サインとかもらいたい。その我らの団のハンターのおかげで俺たちも抗竜石を使えるわけですし。
さてさて、そんなことは良いとして、今日も今日とて元気良く行きましょうか。
「ま、どうとでもなるでしょ。頑張っていこう」
「そだね、頑張ります!」
「潜った! 音爆投げるから頭を頼む!」
「了解!」
予想通り、というか、こうなるよなぁ。といった感想。
相棒はかなり心配していたみたいだけど、問題は特になし。いや、だって、相棒さん上手いもん。それもおかしいレベルで。
現在は1スタンで、片方の角の破壊に成功。ただ、そろそろディアも力尽きるだろうし、もう1本の角の破壊は無理そうだ。片方だけでも破壊できたことを喜ぼう。
非怒り状態で砂に潜ってくれたディアへ音爆弾を投げ、拘束。
「ナイス!」
頭は相棒にお願いしてあるから俺はその反対方向の背中を攻撃。
横振りからのホームランを2セット叩き込んでから納刀。そして、ディアが砂から飛出てきたところで閃光玉を使って叩き落とす。ディアと戦う上ではお決まりのコンボ。
「乗りますっ!」
あ、いや、多分もう倒せると……まぁ、良いか。うん、お願いします。
そんな予想は当たり、相棒さんのジャンプ攻撃が当たったところで、ディアは動かなくなった。閃光玉を使いまくったってのもあるけど、ほぼほぼ拘束もできていた。エリチェンもなし。もしかしたら0分針かもしれないくらいのタイム。上出来上出来。
「あら? あー……うん。よ、よっし! お疲れ様!」
「うん、お疲れ様」
ディアだって弱いモンスターではないんだ。そして、俺が担いでいるのはディアと相性の悪いハンマー。きっと俺だけなら15分針とかになってしまうだろう。それでもこの早さで討伐できたのは……まぁ、この相棒のおかげといったところ。ただ、本人にはその自覚がないんだろうなぁ。
「……あっさり終わっちゃったね」
「苦戦するよりは良いんじゃないか?」
倒したディアからサクサクと剥ぎ取りながら雑談。その素材を使うことはないと思うけれど、有り難くいただきます。
例えG級になろうと装備が整ってしまえばこんなものです。そこに相棒ほどの実力があればそりゃあ、クエストだってサクっと終わってしまう。
「ああ、うん。そうなんだけど……なんかさ、もう終わりなのかぁって思って……」
……うん? どういう意味だろうか。相棒さんはそんなモンスターと戦いたがるようなキャラじゃなかったと思うけど。
そりゃあ、アレだけの移動時間をかけたのにクエストが早く終わってしまい、そこに物足りなさを感じないこともない。でも、早く終わることに文句はないぞ。
「ま、しょうがないか。よし。それじゃ、帰ったら打ち上げやろ、打ち上げ!」
「ああうん? まぁ、それは良いけど」
なんだというのやら。
そして、クエストの帰り道。さっさと寝てしまっても良いけれど、ふたりでのんびり雑談。
「笛ちゃんたちの方もそろそろ帰り始めてるかな?」
「どうだろ。あっちは原生林だし、もう少しかかるんじゃないか?」
クエストにかかる時間は変わらないだろうけど、原生林はちょっと遠かった気がする。
それにしても、なんだか懐かしい気分だ。
上手く言葉に表すことはできないけれど、こうやって相棒と何でもないような会話をするのは久しぶりって感じがする。もう懐かしいと思えてしまうほど、この相棒とふたりでハンターをしていたことが昔になってしまったってことなのかな。
「ん~……じゃあ、先にふたりで飲んでる?」
「んなことしたら、あのふたりが帰ってくる前にお前が寝ちゃうでしょうに」
俺は別にそれでも良いけど、どんなに言ってもコイツは飲みすぎるからなぁ。
今は頼まれているクエストも特にないんだ。あのふたりが帰ってくるのをのんびり待つとしよう。
「あー……うん、そだね。よ、よし、待つとしますぞ」
それが良いと思う。
しっかし、G3クラスになってからはなかなか進みませんね。毎日のようにクエストをクリアしているけれど、ラスボスであるゴグマの情報は全く入ってこない。アイツとの戦いは楽しみにしているんだけどなぁ。
装備はこれ以上強化できないし、他にやれることなんて金冠マラソンくらいだ。ただなぁ、流石に金冠マラソンはなぁ……
なんてことを考えながら、ゆっくりと流れていく景色を眺めていたら、ふと相棒さんが本のようなものを取り出すのが見えた。そろそろ寝ようかと思っていたけれど、ちょっと気になる。
「なにそれ?」
「んとね、なんか落ちてたから拾っておいたの。ほら、移動中って暇でしょ?」
なんか落ちてたって……買った本じゃないんだ。
ただ、本は読まないし、俺には関係なさそうだ。全武器の攻撃力とか、全モンスターの肉質が書かれた本とかがあれば読むんだけど。
「本とか読むんだ」
「む、失礼な。私だって本くらい読みます」
それは失礼。
あの彼女なんかは元の世界でもよく本を読んでいたし、これは教えてあげた方が良いかもしれない。ああでもあの彼女は直ぐ寝ちゃうし、移動中に読んだりしないかも。
「そっか。んで、なんて本なの? それ」
「『貴方に好きと言いたくて』って本だよ」
ああうん。なんとも女の子が読みそうな本ですね。きっと俺には似合わないだろう……だって、どう考えたって恋愛ものの本じゃん。恋愛ものは嫌いってわけじゃないけど、あのむずむずする感じが苦手なんです。
俺はもっとこう、熱くなるようなお話が好きです。いや、まぁ、そんな本があっても読まないと思うけど。
「それ、やっぱり恋愛ものなのか?」
「うーん、そうなのかなぁ。私もまだわかんない」
なんだそれは。
「まだ半分も読んでないけど、コメディ……だと思う」
「題名とのギャップが酷いな」
「そんなのこの作者に言ってよ」
それもそうだね。
……物語、か。
事実は小説よりも奇なり。なんて言葉があるけれど、本当にその通りだと思う。だって、この俺の人生ほどおかしなものはないだろうから。
意味わかんないよな。ゲームの世界へ来るとか。それも一度じゃなく二度も。そんなこの俺の人生を物語にしてみたら、意外と面白いのかもしれない。そんな物語を少しは読んでくれる人もいるだろうか。
な~んて思ってみたり。
小説は小説、事実は事実。そういうものだと思います。
さてさて、それじゃそろそろ寝るとしましょうか。打ち上げになったらどうせこの相棒が騒ぎ始める。その時のために少しは体力を戻しておかないとだ。
「あっ、寝るの? それじゃ肩貸してよ」
目を閉じ、身体から力を抜き、眠る体勢へ移ると隣からそんな声。
お好きにどうぞ。
相棒の声を聞いてから直ぐ、感じた肩へかかる僅かな重み。そんなものと、ガタゴトと心地良い揺れを楽しみながら俺は夢の世界へ旅立った。
本編が落ち着いてくれたのでちょいと閑話を
前作のことを思い出しながら書いてみました
なんでもない会話をしているだけでしたが、このふたりの会話は書きやすくてありがたいものです
では、次話でお会いしましょう
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第71話~言葉にできないけれど~
「ご主人は今後もずっと龍歴院でハンターを続けるのかニャ?」
HR6になるための緊急クエストであったディノバルド討伐を終え、いつもより少しだけ豪華な打ち上げ。いつ飲んだってビールは美味しいものだけど、こういう日に飲むビールはより美味しく感じる。
そして、そんな打ち上げをしながらご主人に聞いてみた。
この世界へ残り、相棒のところへ戻ると決めたのは良いけれど、俺はご主人のオトモ。ご主人ならそのことを許してくれると思う。でも、俺だけの都合で勝手にサヨナラしてしまうのはあまりよろしくない。
「あれ? 言ったことなかったっけ。んとね、私が龍歴院でハンターをしているのは、自分の実力を確かめたいと思ったからなんだ。今はまだ無理だけど、自分が成長できたと思ったら、私がいた旅団に戻ろうと思ってるよ」
あー、そういえばそんなようなことを言っていた気もします。すっかり忘れていました。なるほど、つまりご主人は我らの団に戻るってことか。
ん~……それなら俺もスッキリとした感じで別れることができる……のかな? とはいえ、どの道このネコの身体ってのが問題だよなぁ。この身体じゃなぁ、ネコじゃなぁ……
「ネコさんたちはどうするの?」
「……あの娘の所へ戻ろうと思ってる」
ご主人の質問に対して、俺が言葉を落とす前に白ネコさんが答えてくれた。
この白ネコがどうしたいのか。その気持ちはまだ聞いていない。俺の提案に賛成はしてくれたけれど、彼女は本当にそれでも良いと思ってくれているだろうか。ただ、そのことを聞いたら怒られそうなんだよなぁ。それくらい分かれ、とか言って。
「あっ、やっぱりそうなんだ。うん、私もその方がいいと思うよ。この世界のためにも」
いや、別に俺はこの世界のためを思っているわけじゃなく、ただあの相棒と一緒にいたいからってだけなんだけど……まぁ、いっか。
詰まるところ、ご主人が立派なハンターになったと思えた時が、このパーティーの解散ってことなんだろう。正直、ご主人の実力ならもう十分だと思わないでもなかったり。だって、ご主人上手いもん。まぁ、その実力に気持ちがついてきていないってことなんだろう。
じゃあ、何処がゴールになるのかって話だけど……やっぱりラスボスになるんだろうなぁ。俺みたく、ゲームをプレイした人間からしてみればラスボスであるオストガロアなんかより、獰猛化ラギアとかの方が強いと思ってしまう。ただ、何かをゴールにするのならラスボスって存在は丁度良い。
「了解ニャ。それじゃあ、ボクたちもご主人が立派なハンターになれるようこれからも頑張るニャ」
「うん、よろしくね」
さてさて、どうやらやることは何も変わらないようです。そうだというのなら頑張るだけだ。
ご主人のHRが6となり、ゴールも見えてきた。でも、俺たちが行きたいのはそのゴールのさらに先。今回ばかりはゴールして終わりじゃダメなんだ。それじゃあ何の意味もない。
……そうだというのに、そのゴールの先は相変わらず見えてこない。ホント、困ったものです。
ねぇ、神様。どうにかなりませんか?
これからのことだとか色々と考えたかったから、打ち上げ後ひとり星空を眺めながら考えごとをしてみる。
吸い込まれそうになるくらい綺麗な星空を見ていると、自分の小ささが良く分かった。悩んでばかりのこの人生。そんな悩みだってこの星空に溶けてくれたらなぁ、なんて思ってしまいます。
そう思ってしまうのも俺が逃げているってことなんだろうか。
さてさて、そんな言い訳は置いておくとして、ちょいとばかし真剣に考えてみましょうか。
現在のご主人の防具はアシラ一式。その見た目は可愛いし、正直そのままでいてもらいたいって思わないでもないけれど、流石にアシラ一式じゃこの先がキツイ。そうなると新しい防具を作ってもらいたいのですが……何が良いんだろうね?
ご主人のプレイスタイルが広すぎるせいで、どうにも良い防具が思いつかない。
火力を求めるだけならレウスSで問題ない。ただ、そうなると武器の斬れ味が白は欲しいわけでして、プレイスタイルの幅が狭くなる。
むぅ、ゲームだったらマラソンも楽でスキルも優秀なフィリアSを作れば良いだけだったんだけどなぁ。まぁ、できないことを願っても仕様が無い。
そもそも、武器とか防具を俺が決めてしまって良いんだろうか。ご主人の実力は文句なしなわけですし、ご主人が選んだ方が――
「……何を考えているの?」
星空を眺めることも忘れうんうん考えていると、そんな声。その声を聞いただけで安心してしまう自分がいた。
「ご主人の装備とかこれからのことをさ、考えていたんだ」
真夜中といっても良い時間だけど彼女は寝なくて大丈夫だろうか。
とはいえ、こうやって来てくれたことは嬉しかったりします。
「私はご主人さんの好きな装備で良いと思うけど……」
ああ、やっぱりそう思います? そうだよなぁ。俺が勝手に決めるのはよろしくないよなぁ。
ただ、好きな装備で良いよってご主人に言った時、素直に決めてくれるだろうか。多分だけど、何でも良いよ、とか言われると思う。
まぁ、その時はその時か。
「そっか。それじゃあ明日、何の装備を作りたいかご主人に聞いてみるよ」
「……それで良いと思う」
俺の言葉に対し、彼女はそう言って静かに笑った。
ん~……そうなるともう考えることもなくなってしまいましたね。明日もクエストに行くだろうし今日は寝ようかな。
考えなきゃいけないことはある。けれども、いくら考えたところで答えなんて出やしないのだから。
「……もし、この世界に残ることができたらどうなるのかな?」
寝るとしよう。そう思っていたけれど、俺の方を見ることなく白ネコさんがぽつり言葉を落とした。
「さあ? それは俺にも分からんよ。もしかしたらG級があるのかもしれないし、新しい世界――MH5があるのかもしれない」
残念ながら、この世界へ来るまでに続編の情報などは発表されなかった。だから次がMHXの続編になるのか、新しいナンバリングタイトルが出るのかも分からない。
できれば俺だってG級や新しいモンスターと戦いたい。けれども、どうなるのかはやっぱり分からない。
「ただ、モーション値の検証とか大変だよなぁ……」
俺がこの世界でどうにか頑張れているのは、この世界の人たちが持っていない多くの情報を持っているから。モンスターの肉質、モーション、スキルやモーション値。そんな情報。
けれども、もし新しい場所へ行くことになればその情報全てを使うことはできなくなる。wikiもなければ攻略本だってない。今まで他人任せだった情報を全て自分で集めないといけない。
それはこの世界じゃ普通のことだけど……むぅ、大変そうだ。改めて、そんな情報なしでアレだけ頑張れている相棒さんのすごさが分かる。
「うん、大変だと思う。でも、貴方はそれくらいの方が良いんじゃない?」
どうだろうね。
確かにぬるま湯に浸かっているのは好きじゃない。でも、そんな世界で俺が頑張れる自信はありません。
ホント、贅沢な悩みだ。
「まぁ、もしそうなったらのんびりやるとしようか。いっそのこと金冠集めとかしたりしてさ」
「ふふっ、うん。楽しみにしてる」
そだね、それはそれで楽しいかもしれない。
……この彼女が居てくれて良かったと思う。だって、俺ひとりだったらそんな未来を楽しみになんてできないだろうから。俺ひとりだったら心なぞとっくの昔に折れていただろう。そんなもの想像したくもない。
意味も分からず異世界へ飛ばされたこの俺の人生が幸せか不幸せかは分からない。でも、周りの人たちに恵まれているのは確かなこと。恥ずかしいから言葉にすることなんてできないけれど、彼女たちには感謝するばかりだ。
いつの日かそんな気持ちを言葉にすることができれば良いけれど、それがいつになることやら……
その後も白ネコさんと何の意味もないような雑談を続けることとなった。分かりもしない未来のことを思いつつ、そんな未来でどんなことをしようかとか、そんなことを。
明日のためにもさっさと寝た方が良かったと思う。でも、そんな何でもないような会話には――救われる。
いくら自分の好きな世界とはいえ、やはり漠然とした不安だとか心配があるんだ。それはどうしたって晴れることのない悩みで、向き合わなければいけない課題。そんな時、この彼女の存在が本当に有り難かった。
それはただの傷の舐め合いかもしれない。でも、それで俺は救われている。
ホント、周りに恵まれすぎですね。
そんな俺があの彼女たちに何かできているのだろうか。そんなことが、この世界を歩むと決めた俺の一番の課題になりそうだ。
課題は山積み。やらなきゃいけないことは沢山。
ただ、この人生それくらいが丁度良いのかもしれない。な~んて思っていたりします。
さてさて、HRも6となったわけですし、またひとつ気合を入れて頑張っていくとしましょうか。
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第72話~できればガンナー装備で~
「えと……それ、私が決めちゃってもいいの?」
ご主人のHRが6となった次の日。今日も今日とて頑張ってクエストへ行きたいところだけど、どのクエストへ行くのかは決めていない。HRも6となれば選択肢は色々だ。
そんなわけで、ご主人に作りたい防具や武器があるか聞いてみることにした。正直なところ、今の装備でもなんとかなるんじゃないかなぁと思わなくもないけれど、やっぱり強い装備が欲しいよね。それにただ漠然とクエストをクリアしていくよりも何か目標があった方がやりやすい。
「うニャ。ご主人の好きな装備で大丈夫ニャ。どうしても決められないようならボクと白ネコで決めちゃうけど……」
とはいえ、いきなりなんでも良いよ。なんて言われても困るよね。元の世界なら防具のスキルや耐性、見た目が分かっていたから自分で決めるのも難しくはないのだけど、この世界じゃそうはいかない。てか、この世界で装備を決めるとき、皆は何を基準にして決めるんだろうね?
「あっ、そうなんだ。んと、じゃあさじゃあさ、作りたい防具があるんだけどそれでいい?」
おろ、そうだったんだ。むぅ、それならもっと早く聞いておくべきだった。
「うニャ。もちろん大丈夫ニャ」
てっきりなんでも良い。って言われるものと思っていたから少し驚いた。あの相棒だったらまずそう言っただろうし。
うーん、やっぱりどこかでご主人と相棒を同一視しちゃっているのかな。ふたりの性格が全然違うことくらい分かっているつもりなんだけどなぁ。
「ありがと! えとね、ゼクスSって防具を作りたいです! この前、雑誌で見たらすごくかっこよかったんだ!」
あー……ライゼクス防具かぁ。
「え? な、なんでふたりとも黙っちゃうんですか? もしかしてあんまりいい防具じゃ……ない? で、でもね、でもね! ホントにカッコイイんだよ!」
いや、うん。カッコイイ防具だとは俺も思います。ゼクス防具はガンキン防具と同じようなカッコ良さがある。
ただ、強いとか使いやすい防具か聞かれると……うーん、といったところ。攻撃スキルは連撃のみで、あとはスタ急と……何がつくんだっけ? とにかくオススメの防具っていわれるような防具ではないかな。空きスロも少なかったはずだし。
まぁ、とはいえ、ご主人が作りたいと言っているのだし、それを否定するつもりもありません。自分の好きな防具を作りたい気持ちは俺もよく分かるから。
それにライゼクスなら武器の強化もできるわけですし、一石二鳥といったところ。
「……了解。それじゃあこれからはライゼクスマラソンだ」
何か言いたそうな顔をしながら、白ネコさんがご主人に言った。
連撃スキルも悪くないんだけど、ハンマーとの相性がなぁ……剣士なら手数の多い片手や双剣向けのスキルです。
「あー……そ、その防具で大丈夫そうですか?」
「うニャ! 問題ないニャ」
欲を出せばもっと違う防具が良かったけれど、とりあえずの目標ができたことはかなり良い感じ。ゴールが見えているのとそうじゃないのとではやっぱり、気持ちの入り方が違うのだから。
「ただ、ミツネSっていうすごく良い防具もあるから、もし気持ちが変わったらその防具もオスス……うニャ!?」
そこまで言ったところで白ネコにぶっ叩かれた。
「……貴方の趣味をご主人さんに押し付けるな」
いや、だって可愛いじゃん、ミツネ防具。
それにしても最近、俺の扱いが酷くないですか?
とりあえずの目標も決まり、早速ライゼクスを倒すため森丘へ向けて出発。
上位のライゼクスと戦うのは初めてってことで、ご主人のスタイルはブシドー。防具を作るとなると、マラソンをすることになる。他のスタイルもここで練習しておきたいところです。
因みに、俺と白ネコはとりあえずのナルガ武器。麻痺武器の方が良かった気もするけれど、相手が相手だから負けることはないと思う。
「防具を作るんだし、やっぱりいっぱい倒さないとダメかな?」
「……5頭くらい倒せば作れると思う」
まぁ、どうしたってそれくらいはかかっちゃうよね。ユニクロクエがあれば良かったんだけど、そればっかりはしゃーない。
「た、大変そうだ……」
「練習だと思って頑張るニャ!」
ライゼクスとハンマーの相性は良いし、それほど苦にはならないはず。焦ったって仕様がないんだ。のんびりのんびりと進んでいこう。
「うん、そだね。カッコイイ防具のため頑張ります!」
ライゼクス防具かぁ……俺としては、やっぱりカッコイイ防具よりも可愛い防具にして欲しかったと思うところです。あんまり言うとまた白ネコさんに叩かれるから思うだけですが。
もし人間の姿に戻ったら、ミツネ防具を白ネコさんにお願いしてみようかな。複合以外の装備姿の彼女は貴重なんです。とある部位が控えめなこともあって似合わない防具は多いけれど、ミツネ防具ならきっと似合うはず。……たぶん誤魔化せるだろうから。
「……何を考えてるの?」
「帰ったら何を食べようか考えていたニャ」
そして、できれば相棒にも色々な装備をお願いしたい。王道だけど、キリン防具とか本当に素敵。あとはアスリスタ防具もいいよね。あと、弓ちゃんには是非ミツネ防具を……うむ、その時のためにも上手い言い訳を考えておかないとだ。
「…………」
白ネコさんの視線がマジ怖い。思うくらいは許してください。自分の夢は大切にしたいんです。
白ネコさんがいることもあって元の世界じゃ女性キャラを使いづらい。そのせいで、女性キャラに色々な防具をつけさせることができないんです。だから、この世界では色々と見たいんだ。
さてさて、兎にも角にも今はライゼクスのクエストに集中しましょうか。
……いや、まぁ、集中してないのは俺だけなんだろうけどさ。
「初期エリアは4ニャ」
「了解です! よし、頑張っていこっか!」
どうにか白ネコに怒られることもなく、森丘へ到着。
ライゼクスが相手なわけだし、できれば0分針を目指したいところです。このメンバーなら0分針だっていけると思うけど、狙うのならちゃんと作戦を考えた方が良いのかな。ん~……まぁ、どうせ何度も戦うことになるのだし、最初は様子見ってことにしましょうか。
そして、ライゼクスのいるエリア4へ。
サイズは大きくも小さくもない。これを倒せばとりあえずご主人の武器が強化できるはず。んで、次の強化には獰猛化素材が必要となるわけですが……獰猛化モンスターと戦えるようになるのはまだまだ先のこととなりそうです。
俺たちに気づき、ライゼクスは開幕咆哮。
ご主人がソレをジャスト回避するのを横目に俺もブーメランで攻撃。クエストスタート。今更苦戦するような相手じゃない。
そんじゃま、サクっと倒させてもらいましょう。
「ん~……よいしょと。あっ、スタン!」
「ぐぅれいと」
脚怯みでダウンしているライゼクスの頭へご主人の強溜めスタンプが直撃。そこで本日2回目のスタンを取った。
それにしても……ホントご主人めちゃくちゃ上手くなったよね。俺よりも上手いんじゃないだろうか。
あれだけスタイルをころころと変えているのに、完璧に適応できている。それは俺じゃあ絶対にできないこと。いいよなぁ、器用って。
ご主人なら例えガンナーになったとしても普通に戦える気がする。流石に今からガンナーを目指すのは厳しいけれど、今度提案してみようかな。ガンナー防具は良い防具も多いわけですし。
ご主人がスタンを取り、3人でラッシュ。そろそろ体力もなくなるだろうし、これなら本当に0分針も狙える。しかも今回は罠を使っていない。いやぁ、怖いくらい順調ですね。
俺が初めてこの世界へ来た時――つまり、相棒と彼女の3人でパーティーを組んでいた時は、それなりに苦戦していた。けれども、今は苦戦なんてほとんどしていない。それは俺と彼女がネコってこともあるけれど、何よりもご主人の腕が良いからだろう。
今じゃ相棒さんは文句無しで一番のハンターだけど、あの頃はまだそこまで上手くなかった。そう考えると、ご主人なら相棒と並ぶくらいのハンターになれるのかな。まぁ、虫棒一点特化の相棒と、オールラウンダーのご主人とじゃ比べるのも難しいわけですが。あの相棒さん、虫棒以外は本当にさっぱりだからなぁ……
そんなことを考えていると、スタンから起き上がったライゼクスが脚を引きずり始めた。MH4Gの頃なら閃光玉を使ってエリチェンの時にハメることもできたけど……まぁ、いっか。
物足りなさを感じないといったら嘘になる。けれども、今ばかりはその気持ちを抑えてみよう。きっといつの日か絶望的な難易度のクエストを受けなきゃいけない時が来るだろうから。今はその時のための準備期間ってことで。
その後は、寝ているライゼクスの頭へご主人のホームランを叩き込んだところで討伐完了。
「おおー、すごい! なんかあっさり倒せた!」
「……お疲れ様」
「お疲れ様ニャ」
とりあえず、これで装備作りのための一歩目を踏み出すことができた。
そして、ご主人の装備が完成すれば、あとはもうラスボス目指して一気に進むだけ。アレだけ遠いと思っていたものが其処まで近づいている。
まぁ、やっぱりまだその実感は湧かないんだけどさ。
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第73話~その先に何がありますか~
「あっ、あ! 高電膜! 高電膜出たよ!」
ご主人の新しい防具――ゼクスSを作り始めてもう一週間。これで討伐したライゼクスは5頭目にもなる。
予定通りではあるけれど、ちょいとかかりましたね。
「おめでとうニャ」
そして、ついにご主人の防具に必要な素材が全て揃った。ノヴァクリスタルや王族カナブンなんかは既に用意してあるし、あとは加工屋に頼むだけ。エムロードビートを強化するだけの素材も足りているはずだし、かなり良い感じ。
終わりが、近づいてきました。
まぁ、終わりになんて絶対になってほしくないんだけどさ。ただ、そうならないため、俺に何ができるのかはやっぱり分からなかった。
それで、ご主人だけど、相変わらずのオールラウンダーっぷりを見せてくれている。
最初はブシドースタイル。次はギルドで、その次がエリアル。そして今はストライカースタイルです。マラソンをするんだし、色々なスタイルを練習するのに丁度良いとは言ったけれど、まさか一回ごとに変えるとは思わなかった。
それだけコロコロとスタイルを変えているのだし、戦い難いだろうなぁ、なんて他人ごとのように考えていたけれど、ご主人ったらそんな素振りなぞ見せず普通に上手いのね。きっとソロでもそれほど苦労することなくライゼクスを倒せるだろう。
なるほど、これが主人公補正か。ずるい。俺にもその補正がほしい。
残念ながら、元の世界じゃストライカースタイルは触っていなかった。だから、ことストライカースタイルに関してはほとんど何のアドバイスもできていない。それにエリアルスタイルだって、バッタしかしていなかったからまともなアドバイスはできなかった。それでも、ご主人は上手く使い熟している。
一度、どのスタイルが一番使いやすいか聞いた時は――
『ん~……特にない、かな』
なんて言われてしまった。
マジ羨ましい。一度でいいから俺もそんなことを言ってみたいものだ。
逆に言えば、自分のスタイルを確立できないってことだけど、モンハンなんて絶対にそっちの方が良い。モンスターに合わせてスタイルや武器を変えられるのが一番なのだから。
ただ、ご主人にその異常っぷりの自覚はないらしく、今でも俺にアドバイスを求めてくる。割と困っています。エリアルとストライカースタイルは絶対にご主人の方が上手く使えているんだけどなぁ。ギルドとブシドーなら俺の方が上手く……つ、使えていたらいいね。
ま、まぁ、とにかく今後のメイン装備の素材はこれで集まりました。今はそのことを喜ぼう。最近は休む暇なんてなくクエストへ行っていたわけだし、ちょいと休憩ってことで。
「ふふ、むふふ。これで私もついにゼクス防具を……」
なんだか怖い笑を浮かべるご主人。
相棒のフルフル好きもそうだったけれど、女性の好みはよく分からない。いや、ゼクス防具、カッコイイとは思っているけどさ。フルフルは知らん。可愛くはない。アイツが異常なんだ。
「……とりあえず、おめでとうご主人さん。それで、これからはどうするの?」
剥ぎ取りをしながら白ネコがそんなことを聞いてきた。
ん~どうすっかなぁ。とりあえずご主人の装備が完成するまで待つとして、その後は……どうしようね? 正直、ご主人の装備が完成してしまえばオストガロアが現れても問題なく勝てると思う。とはいえ、オストガロアと戦うにはHRが7にならないといけないわけですよ。だから、今はHR7になるための緊急クエストを受けたいのだけど、流石にまだ無理だよなぁ。
「ご主人は何か行きたいクエストとかあるかニャ?」
「ゼクス防具かぁ、カッコイイなぁ……」
……話を聞いてくださいよ。ご主人ってこんなキャラだっただろうか?
「あー……こ、今後の予定は打ち上げの時にでも決めよっか」
「りょー」
その頃にはご主人の調子が戻っていることを願うけれど、防具が完成したらまたトリップするんだろうなぁ。
「それじゃ、今日はお疲れ様でしたっ!」
マラソン中は流石に……と、遠慮していたせいで、久しぶりとなった打ち上げ。まぁ、俺はこっそりひとりでお酒を楽しんでいたりいなかったりしましたが。いや、だって戻ってくると他にやることないんだもん。
これからもこの世界で生きていくと決めたんだし、何か趣味みたいなものも見つけないとだ。飲酒が趣味ってのも色々とアレですし。この世界の人達の趣味ってどんなものがあるんだろうね?
ただ、今くらいはちょいと飲み過ぎるのも良いだろう。
そして、加工屋へお願いして再びトリップしたご主人も多少は落ち着いてくれた。
「防具ができたらどうしよっか! あっ、絵とか描いてもらえないかな!」
落ち着いてくれた……のかな? まぁ、新しい防具ができて喜ぶのは分かりますが。
ただ、ご主人のコレはちょっとなぁ。
「……似顔絵ならバルバレにいる闘技大会の受付嬢が上手い」
こら、白ネコさんもいらんことを言わないの。
いや、確かにあの受付嬢の絵はなかなか上手いけどさ。俺たちがダレンを倒した時、俺の似顔絵を彼女に書いてもらったわけだけど、かなり上手かったし。
「へー、そうだったんだ。お願いしたら描いてくれるかな?」
どうだろうか? 白ネコが元の姿なら描いてくれそうだけど、今はネコですし。あと、例え俺が元の姿だったとしてもあの受付嬢はただじゃ描いてくれないと思う。多分、何かの闘技大会へ出場するのを条件に、とか言われる。そんなことが容易に想像できます。
「ネコさんと白ネコさんは描けないの?」
「……私は無理」
「ボクも無理だニャ」
白ネコの画力は分からないけど、俺の画力はすごいぞ。味があるとか笑えるとかじゃなく、普通に下手です。だいたい、絵が描けたら挿絵とか載せてるわ。いや、何の話だよ。
「そっかぁ、じゃあやっぱり頼まないとだね」
別に描いてもらわなくてもいいんじゃ……まぁ、ご主人の好きにしてくださいな。
「……それで、今後の予定は?」
ああ、そうか。それを決めないといけないんじゃあないか。ご主人のせいで話がずれてしまった。
現在のHRは6。古龍種やアカム、ウカムは無理だけど、このHRにもなればほとんどのモンスターと戦うことができる。メリットはほぼないけど、ゴリラやジョーなんかとも戦えるわけですし。
「ご主人は何か行きたいクエストはあるかニャ?」
本日、二回目の質問となります。
「うん? えっと、私は特にないけど……てか、そもそも装備がないから私は戦力にならないし」
オブシドハンマーはあるし、防具もアシラがある。だから、十分すぎるくらい戦力にはなると思うよ。ただ、行きたいクエストは特になし、と。
ふーむ、それなら俺が選んじゃってもいいのかな?
「君は?」
「……私も特には」
白ネコさんも特になし。つまり、決定権は俺にありそうですね。
うむうむ、それなら今回は俺が選ばせてもらおう。
「それじゃあ、ボクはゴア・マガラのクエストに行きたいニャ」
ゴア防具が欲しいんです。どうせいつか作るつもりだったし、今は丁度良い機会だろう。ゴア相手なら負けることもないと思う。てか、このメンバーで苦戦するような相手って何になるんだろうね? ガノの時みたく、ご主人がSBを使い始めたら本当に負ける気がしない。
「防具?」
「防具ニャ」
白ネコさんの言葉に俺がそう返すと、彼女は呆れたような顔をしながらも優しく笑ってくれた。ごめんね、いつも付き合わせちゃって。
さてさて、ご主人はどうなのだろうか? ご主人ならゴアに負けることはないと思う。でも、メリットが何もないんですよね。MH4の頃のゴア防具は優秀だったけれど、今作のゴア防具は……まぁ、前作が優秀すぎたんだろうけど。
「ゴア・マガラ……か」
ぽそりと聞こえたご主人の声。
……ああ、そっか。そうだよな。ご主人とゴアの間には色々なことがあったんだもんな。そりゃあ何かを思ってしまうのも仕方の無いことだろう。
「うん、分かった。ゴア・マガラなら私も戦力になると思う」
いや、いつだってご主人はこのパーティーのメイン火力なんだけど……
とはいえ、そんなご主人の言葉は普段じゃ聞けないようなものだった。あの相棒もそうだったけれど、どうにも自分に自信がないらしく、いつだって一歩引いてしまっていた。そんなご主人には珍しいセリフ。
「ありがとニャ。それじゃ、次はゴア・マガラのクエストをお願いするニャ」
ゲームなら場所は原生林だったはず。金冠マラソンの時、秘境探索を発動させた記憶があるし。
それで、ゴアを倒してもうひとつ何かのクエストへ行けばご主人の装備は完成。さらに緊急クエストだってそろそろ届く頃。ホント、順調ですね。
――それこそ怖いくらいに。
そんなことを考えてはダメだって分かっている。でも、考えずにはいられないわけですよ。
このまま行けるはずがないって。
いくらゲームをプレイし、この世界で伝説なんて呼ばれていようが、中身は極々普通の人間でしかない。物語の主人公みたく、何度でも何度でも立ち上がれるほどの心は持っていない。
この先に何があるのか。そんなこと考えたって分かりやしない。いつだって不安だらけだ。それでも、進むしかないというのだから、難しいものです。
ただ、もし俺がダメになってしまったとしても、今は頼りになる仲間がいる。ひとりじゃない。そんな存在が本当に大きいって改めて思う。
だから、今の俺にできるのは全力でモンスターと戦うことくらいなんだろう。そう思うのです。
さて、そんじゃま、明日も頑張っていきますか。
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第74話~言の葉ひとつ~
「よしっ、それじゃゴアをサクっと倒すニャ!」
いつもより少しだけテンション高めのネコさんが、原生林のベースキャンプで大きな声を出した。多分、自分の作りたいものを作れるってことでテンションが高いんだと思う。白ネコさんはいつも通りだけど。
本日の目的はネコさんの防具を作ること。
メインターゲットは――ゴア・マガラ。
それは、私にとって何かを思わせてしまうモンスター。私の物語の始まりはダレン・モーランだったけれど、あの物語の中心にはゴア・マガラもいたのだから。
そんなんだから、やっぱり色々と考えてしまった。これから私たちが戦うゴア・マガラと私が戦ったゴア・マガラは違う個体。でも、同じゴア・マガラなんだ。
何ともいえないモヤモヤとした感情が溢れ出す。
きっと……きっとネコさんたちなら本当にサクっとゴア・マガラを倒してしまうんだろう。例え、どんなに私が足を引っ張ろうとこのふたりなら、あのゴア・マガラを簡単に倒してしまう。
現に、私がシャガルマガラと戦っていた間、ネコさんと白ネコさんはゴア・マガラを倒している。その場に私はいなかったし、その後に起こったことが起こったことだったから詳しいことは聞いていないけれど……多分何の苦労もなく倒してしまったはず。それだけの実力がこのふたりにはあるのだから。私なんかでは到底届かないほどの実力が。
「ご主人! ゴアはエリア5にいるニャ!」
ゴア・マガラは本当に強いモンスターだと私は思っている。実力者揃いの筆頭ハンターさんたちのパーティーですら一度ゴア・マガラに負けてしまっている。
その後、どうにか勝つことはできたけれど、筆頭ハンターさんたちの力がなければ、私じゃ倒せなかった。私にとってゴア・マガラはそれだけの相手。でも、ネコさんたちにとってはきっと違うんだろう。
――次元が違う。
そんなこと分かってる。分かりきっている。ネコさんたちはこの世界を何度も救ってくれた伝説のハンターさんたちで、私なんかと比べていいような存在じゃない。
でもさ。いや……だからこそ、かな? 余計にモヤモヤとした感情が出てきてしまう。
考え。想い。意識のズレ。それも根本的なもの。今までも感じていたソレが今になって余計に感じるようになってしまっている。
「……ご主人さん?」
「あっ、うん。ごめん。ボーっとしてた。了解! 頑張ります!」
いけない、いけない。今はクエスト中。考えずにはいられないことだけど、今は目の前のクエストに集中しないと。
「うニャ! ボクも頑張るニャ」
「……私も」
うーん、ホント何なんだろうか。この感情は……
――――――――
なんだかご主人の様子がちょいとおかしいけれど、大丈夫だろうか? まぁ、今回の相手はあのゴア。きっと昔のこととか色々なことは思い出しているんだろう。
とはいえ、獰猛化個体はアレとして、このご主人の実力なら通常ゴアくらいならサクっと倒せるはず。初見相手のモンスターを苦手としているご主人もゴアならきっと問題ない。
そして、ゴアを倒せば俺の防具を作ることができます! ネコならスキルを気にせず自分の好きな防具を付けられるのが本当に有り難い。いや、まぁ、そりゃあできることなら俺も人間の姿の方が良いんだけどさ。
さてさて、とりあえず今はゴアを倒すことに集中しましょうか。前回の戦いでネコならゴアとの相性が良いのは分かった。まず負けることはないだろう。というより、余裕で倒せると思う。ソロならまだしも今はパーティーでメンバーがメンバーですし。
俺の防具を作るだけなら、今回はゴアを倒すだけで問題ない。ただ、ここで上位ゴアの触角を手に入れておけばナルガハンマーの強化に使うことができる。エムロードビートがあるのだし、ナルガハンマーはいらない気もするけれど、やっぱり色々なハンマーを担ぎたいよね。ナルガハンマーもカッコイイし。うむうむ、そうだというのなら、触角を狙う価値はあるだろう。
ただ、剥ぎ取りじゃ出ないんだよなぁ……まぁ、ゴア素材なんてあまり使わないし、報酬枠の関係で得られる量の減る捕獲でも問題はないと思うけど。
それじゃ、今後の俺のメイン防具を作らせてもらうためにも此処はサクっと倒させてもらおうか。
「麻痺取った! ご主人、触角を狙うニャ!」
「りょ、了解!」
予想通りで想像通り。ゴアとの戦闘はかなり順調。
ご主人のスタイルはブシドー。ゴアが相手なら、ほぼノーモーションの突進以外はモーションも分かりすいから、ジャスト回避も難しくない。それに何よりゴアって頭を叩きやすいんだよね。スタン値の減少速度は速いけれど、2スタンくらいなら楽に取れるはず。
そして、麻痺中のゴアへご主人のジャスト回避からの溜め2が当たりゴアがスタン。触角の破壊も確認できているし、完璧です。
今回は厳しいと思うけど、これなら0分針だって狙える。これでゴア防具や武器が優秀ならゴアマラソンもしたんだけどなぁ。あと、挑戦者の弱体化もなかなかに大きい。
麻痺からスタン。んで、スタンの解けたゴアの頭へブーメランを1発ぶつけたところで、狂竜化解除と落とし物をひとつ。さらに、脚を引きずるモーション。
「ご主人、罠って持ってきているかニャ?」
「へ? あ、うん。持ってきてるよ」
うむ、それなら捕獲にしよう。
ナルガハンマーの強化に必要な触角はふたつ。部位破壊報酬でひとつは出るだろうから、もうひとつは捕獲報酬でいただこうか。まぁ、そういう時に限って出ないものですが。
「触角が欲しいから今回はゴアを捕獲したいニャ。ゴアはエリア8で寝るはずで、寝たら罠を置いてほしいニャ」
「よ、よく寝る場所まで知ってるね……うん、わかった」
そりゃあ、まぁ、最小がほしかったからゴアとはこのマップでかなり戦いましたし。
脚を引きずったゴアがエリアを移動し、流石に寝ただろうって頃に俺たちも移動。
そして、寝ているゴアの脚元へご主人がシビレ罠を設置し、捕獲玉を投げて捕獲完了。ほい、クエストクリアです。
ご主人にゴアの滑空攻撃に合わせてホームランを当てることとか教えようかとも考えていたけれど、それはまた今度にしよう。今はクエストクリアできたことを喜ぶ場面です。
「お疲れ様ニャ!」
「……お疲れ様」
これで俺も、一番好きな防具を身につけることができると思うとテンション上がります。帰ったら直ぐ、加工屋へ依頼するとしよう。
そんな感じで俺はひとりで喜んでいた。
けれどもですね、どうにもご主人の様子がおかしいのですよ。
「…………」
ご主人は捕獲が完了したゴアの傍に立ち、じっとそのゴアを見つめていた。いつもならクエストをクリアした時、一番喜んでいるはずの人だというのに。
「ご主人? どうしたのニャ?」
じっとゴアを見つめるご主人の表情は、何ともいえない顔だった。
怒っているわけでも、喜んでいるわけでも、悲しんでいるわけでもない。でも、無表情でないことは確か。
「……ホントにサクっと倒しちゃうんだね」
俺の質問に最初は応えず、暫くの間、ゴアを見つめ続けたご主人の落とした言の葉がそれだった。
……本当のことや、詳しいことは分からない。でも、ゴアとご主人の間で何かしらの物語があったことは知っている。だから、ご主人がゴアに対して何かを想っていることだって分かっていた。
それでも、今のご主人が何を考えているのかがどうにも掴めない。
だからきっと、俺とご主人との間では何かがズレているんだろう。根本的に。
「えと、ご主人?」
「……別にさ、苦戦したかったーとか、あっさり倒したくなかったーとか、そんなことを思っているわけじゃないんだ。……でもね。私にはやっぱり分かんないや。そりゃあ、ネコさんたちがすんごいハンターであることは知ってるし、私なんかとは色々と違うことも分かってる。それでも……私にはネコさんたちのことが分からない」
ああ、なるほど……なんとなく、なんとなくだけど、ご主人が何を言いたいのかは分かった。
それはきっとあの相棒もずっとずっと思っていたことで、それでも言葉にはできなかったこと。
俺とご主人の間にあるズレ。
考えとか、想いとか、意識とかそれらのズレ。
それは、俺たちが伝説のパーティーと呼ばれているとか、この世界では実力者とされていることが原因じゃなく――全て俺と白ネコがこの世界の人間ではないことが原因なんだろう。
そんなことから来たズレがご主人を揺さぶってしまっている。
でも……だからといって、どうすればその問題を解決できるっていうのだろうか。
誤魔化す?
何も喋らない?
そりゃあ、一番簡単な解決方法くらい分かっている。けれどもそれは、ずっとずっと俺たちが躊躇ってきたもの。それを今から踏み出すのはどうしても躊躇してしまう。
ただ……この機会を逃したらダメな気もするんだ。
ひとつ、大きく呼吸をしてみた。
自分の心臓の暴れているのがよくわかる。こういうことに関しては小心者なんです。でも、これ以上ご主人を迷わせてしまうのはよろしくない。
「……ねぇ、ネコさん。貴方は、誰ですか?」
だから――前に進んでみるとしよう。
チラリ白ネコの方を見ると、こくり――と頷いてくれた。それはつまり、ずっとずっと中へ隠していたものを出してもいいという合図。
本当ならもっともっと早く伝えなきゃいけなかったんだ。ご主人にも、あの相棒にも。
ホント……そのせいでどれだけ俺は彼女たちを傷つけてしまったのだろうか。まさに自己嫌悪。自分の臆病さが嫌になる。
馬鹿みたいに口の中が乾く。出さなきゃいけないはずの言葉が重い。
だから、もう一度だけ大きく息を吸った。そして、ご主人を真っ直ぐと見つめてから――
「ボクは……俺たちはこの世界の人間じゃない」
ひとつ、言の葉を落としてみた。
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第75話~嘘と真の境界線で~
「え、えと、それじゃあ説明をお願いできますか?」
場所はベルナ村にある俺たちの部屋の中。やや緊張気味といった様子のご主人が言葉を落とした。これから話す内容は、俺たちの未来に大きな影響を与えるものなんだ。緊張してしまうのも仕方が無い。
できることなら飯でも食べながら話をしたかったのだけど、他人に聞かれても良いような内容でもなかったため、この場所で話をすることになりました。
クエストが終わってついに秘密にしていたことを言ってしまったけれど、その後の空気はかなり重かったです。ご主人も困っていたし、俺たちも俺たちでどうしたら良いのか分からなかった。ただ、今回はしっかりと話さなきゃいけないことなんです。
「……うん、分かった。さっき彼が言ったけれど、私と彼はこの世界の人間じゃない。だから、どうしてもご主人さんたちとは考え方が違う」
それで、どうやってご主人に説明するかだけど、白ネコ――彼女が説明してくれるらしい。
最初は俺が全て話そうと思っていた。けれども彼女が、お前じゃ不安だから私が話す。みたいなことを言い、こうなりました。
正直、それは嬉しい提案だったり。
ご主人に全てを伝えようとは思っている。でも、話さなきゃいけないことがあまりにも多すぎて、俺じゃあ上手く伝えることはできないだろうから。だってさ、ご主人たちのいるこの世界が、俺たちのいる世界じゃゲームだなんてどう伝えればいいというのやら。
そもそも、ゲームって言葉がご主人は分からないと思う。同じ言語を使っているとはいえ、世界観が全く違うのだから。
とりあえず、今は彼女に任せます。
いや、自分でも情けないなぁとは思っていますよ?
「こことは、違う世界……それは、どんな世界だったの?」
ご主人は人間からネコになってしまった俺たちを受け入れた。だから、適応力……というか包容力みたいなものは人一倍あると思う。それでも、今回は話が荒唐無稽すぎる。きっと聞きたいことがたくさんあるだろう。
「……この世界とすごく似ているけれど、全く違う世界、かな。そんな世界でも私と彼はハンターをしていた」
……うん? 別に俺はハンターなんてしてなかったんだけど。極々普通の学生でしたし。もちろん、彼女も。
彼女がどんな話をしようとしているのか分からず、その顔をチラリと見てはみたけれど、やっぱり何を考えているのかは分からなかった。
いきなりぶっ飛んだことをする彼女ではあるけれど、今回はちゃんと考えているはず。俺は余計なことをせず彼女に任せましょうか。
「ちょ、ちょっと待ってね。あー、えっと……白ネコさんたちがいた世界は、この世界と何が同じで、何が違うの?」
「使われている武器、防具、アイテムの性能とモンスターは同じ。でも、モンスターの数とハンターの数は比べ物にならないほど元の世界の方が多い。一日に行くクエストの量も全然違う。そして何より――狩りが娯楽になっている。そんな世界」
ああ……なるほど、ねぇ。
彼女が俺たちの世界をどう説明したいのか、なんとなく分かった。それなら、ご主人だって理解しやすいかもしれない。
つまり、彼女が説明しようとしている俺たちの世界は……ゲームの話だけってことだろう。
文化、慣習は元の世界とこの世界じゃ全然違う。それを全て説明するなんてことは難しい。けれども、俺たちがプレイしていたゲームの中だけを俺たちの世界ってことにすれば、難易度はぐっと下がる。
彼女が話そうとしていることは嘘じゃない。けれども――真実でもない。
ただ、ご主人が抱えてしまっているモヤモヤは解消できると思う。
「狩りが娯楽……よく、分かんないけど、そのハンターやモンスターの数の違いってどれくらいなの?」
「ハンターの正確な数は分からない。でも、モンスターは無限にいる。だから、この世界と違ってモンスターを倒しすぎて生態系が壊れるってこともない。毎日、モンスターをボコボコにしてた」
元の世界だと、あの伝説の黒龍ですら一日でものすごい量が倒されてるもんな。あれじゃあどっちがモンスターか分からない。
「例えばだけど……えと、ギルクエ100のラーラーってどのくらいで回せる? あと、一日で倒す量も」
ご主人の方を向いていた彼女が俺の方を向いてから、そんなことを聞いてきた。
ん~……4人パーティーのヘビィハメで考えて良いのかな? えっと、準備時間や討伐後のロード時間を考えると――
「ラージャン2頭なら7分かからないんじゃないかな。んで、一日で倒す量だけど……多い日だと100頭は倒してたと思う」
「……はい? 7分? 一日で100頭? あ、あのラージャンを、ですか?」
うん。それくらいはやっていたと思う。MH4だけでラージャンは1000頭以上倒したはず。ギルクエをやり始めてHRなんて直ぐにカンストしました。
まぁ、ラーラーだと武器の見た目がアレだったから、桃ラーとかの方が人気だったけど。
「……4人パーティーでアカム討伐の最速タイムは?」
「あー……俺は55秒だったかな」
「何それ、意味わかんない」
この世界じゃちょっと考えられないだろうけど、そういう世界だったんです。全モンスター100頭討伐やゴリラ1000頭討伐とかやっているハンターは、この世界じゃきっといないだろう。でも、元の世界にはそんなことをやっているハンターが少なくはない。
「そんな感じの世界なの。だから、この世界と似てはいるけれど、全然違う世界」
ご主人と俺たちの間にあるズレ。
それはさっき彼女が言ったように、この世界で生きるために必要なことが、元の世界ではただの娯楽となっていることだろう。
元の世界にも色々なハンターがいた。
ただひたすらに早く討伐できることを目指すハンターや、縛りを付けてモンスターを狩るハンター。モンスターを討伐することだけを目標としているハンターや、討伐を目標とせず、楽しく狩りができることを目指しているハンターも。
ただ、それらの多くのハンターは自分が生きるためにやっていたわけではなく、ただただ自分で見つけた楽しさを追いかけていただけ。
だから、この世界と元の世界では同じ狩りでも根本的なズレがある。
「それでネコさんたちはあんなに上手いんだね……」
いくらゲーム中とはいえ、経験量だけはすごいからなぁ。
もし、モンスターがゲームとは違う動きをしていたらどうなっていたかは分からないけど。この世界がゲーム通りで助かりました。
「その……じゃあ、やっぱりその世界でも白ネコさんたちは凄腕のハンターだったんですか?」
……凄腕のハンター、か。
何を持って凄腕のハンターとか、上級者と名乗れるのかは分からない。
けれども――
「いや、違うよ」
俺なんかがそんなハンターを名乗れないのは確かだろう。
1000時間を超えるプレイをした。HRポイントだってカンストしていた。金冠マラソンも終え、勲章も集めた。
それでも、俺は上級者なんてものになれなかった。
数え切れないほどのハンターたちが俺たちの上にいつだっていたのだから。TAに手を出し、そのことがよく分かった。どれだけ知識を溜め込んだところで、それを生かしきれなかった。
「どれだけ甘く見ても俺たちは中級者レベル。そんなものだよ」
情けないことではあるけれど、それが事実。
下を見ても仕方ないけれど……上はあまりにも遠い。
「そう、だったんだ……」
幻滅されてしまっただろうか? この世界では上級者とされているハンターが、その程度の実力しかないと分かって。でも、こればっかりはちゃんと伝えておかないといけないこと。
自分が凄腕のハンターだったと言葉にするのは簡単だ。しかし、そんな嘘の言葉にどれだけの意味があるっていうんだ。そんなもの言っていて悲しくなるだけ。自分を大きく見せたところで、実際に大きくなるわけではないだろうさ。
「それで、そんなネコさんたちはどうしてこの世界に?」
「この世界に来たのはこれで3度目だけど、それは私たちにも分からない。それに……いつ私たちがまた消えてしまうのかも」
今までの経験を考えるに、俺たちが消えてしまうのはラスボス――オストガロアを討伐した時だろう。けれども、そこで消えてしまうのかは分からないし、それまで消えないという保証もない。
ホント、分からないことだらけですね。
「私たちの話はそんなところ。そんな世界から来ているせいで、ご主人さんとは考え方がちょっと違う」
「……そっか」
何とも複雑そうな顔をしたご主人。
まぁ、いきなりこんな話をされたらそんな顔にもなるだろう。
俺たちにとって狩りは楽しむためのものでしかない。この世界のハンターたちのように命懸けのものではなかった。
それはこの世界じゃ失礼なことなんだろうけれど、今更その考えを変えることも難しく、変えたところでそれにどんな意味があるのかも分からない。
「それじゃあ……やっぱり白ネコさんたちは元の世界に帰りたいのかな?」
「ううん。もうそうは思わない」
ご主人の質問に彼女が答えた。俺と全く同じ気持ちの言葉で。
そうだね。もう、決めたんだ。
思ったところで何かができるわけではないかもしれない。でも、思い、言葉にすることはきっと大切だと思うんだ。
目を閉じてみた。
なんだかんだ緊張していたのか、いつもより自分の鼓動が速いことが分かる。ずっとずっと隠してきた自分のことを話すってのはそれくらい大変ってことなんだろう。
「私たちは――この世界を歩いていく」
目を閉じ、真っ暗な世界に彼女の声が響いた。静かに、でも、しっかりとした意思を感じられる声が。
「……へっ? ちょ、ちょっと待って! あ、あの、白ネコ、さん……だよね?」
そして、彼女の言葉に続いて直ぐに、何とも間の抜けたご主人の声が聞こえた。
閉じていた目を開ける。えと、何事ですか?
そこにいたのは――
「……おおー、もどった」
見慣れた……でも、久しぶりとなってしまった――人間の姿の彼女だった。
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第76話~分かれ道~
フラグだとか伏線だとかそんなものは全くない。本当にいきなりのことだった。
「えと……改めてはじめまして。狩猟笛を使っていた者です」
真っ白な毛が特徴だったネコの姿から一変。
けれども、それは見慣れた姿で聞きなれた声。その彼女がそんな言葉を落としてからペコリとご主人へ頭を下げた。
つまるところですね……笛さんが帰ってきました。いや、まぁ、元々いたわけだし帰ってきたって表現もどうかと思うけど。
「おっ、おぅ、あっ? お?」
元の姿に戻った彼女の姿を見て混乱気味のご主人。てか、ちょっと落ち着いてください。
「……久しぶり、だね」
「ああ、久しぶり」
そして、俺の方を向き、優しく笑いながら彼女はそんな言葉も落としてくれた。
この世界へ来てからどのくらいの時間が経ってしまったのかは分からない。でも、この彼女の姿を見るのが久しぶり、と思えるくらいの時間は経ってしまったってことなんだろう。
「あっ、あと、えっと、握手! 握手をお願いします!」
いや、握手ってご主人……その目の前にいる人は今の今まで貴方のオトモだったわけなんですが。
しっかし、どうしてこのタイミングで元の姿に戻ったのやら……いや、まぁ、俺が一度元の姿に戻った時もいきなりだったわけですけど。
この世界へ残るという覚悟の言葉を落としたからとかそんな感じなのだろうか。ただ、俺だってその覚悟はしているはずだし、実際に言葉にしている。う~ん、なんか違う気がする。うむ、よく分からんな。
それに彼女だって俺の時みたく、またネコの姿に戻ってしまうかもしれない。そんなこともあって今の状況をどうにも素直に喜ぶことができなかった。
「……握手はいいけど、私は私のままだよ?」
「あっ、うん。それは分かってるんだけど、その、ほらやっぱりホンモノだから……あっ、べ、別に白ネコさんのことを疑っていたわけじゃないよ!」
まぁ、ネコの姿じゃどうしても実感なんて湧かないもんね。
さてさて、彼女が元の姿に戻ったのはいいんだ。それはいいとして……
「それで、これからはどうする予定ニャ?」
問題なのはそれ。
こんなことがあったせいで忘れてしまいそうになるけれど、今は俺たちのことを話したところ。そして、その話を聞いたご主人の反応はまだ聞いていない。
あんな話を聞かされたんだ。ご主人だって色々と思うところはあるはず。それこそ、今後も俺たちがオトモを続けていいのかってことも含めて。まぁ、彼女がこのままネコの姿に戻らないのならまた違う話になりそうですが。
「あー……えっと、そだね。話を聞かせてくれたんだもんね」
自分たちの話をし、彼女は元の姿に戻った。そんな大きな出来事があったというのに、何故かその時の俺は冷静な方だったと思う。それはたぶん、この先の未来を想像できていたからなんじゃないかな。これからの俺とご主人の関係や、彼女のことを。
心の準備はこの時からできていたってことだと思う。
「うん、ありがとね。正直、聞かせてくれたお話がぶっ飛び過ぎていたけど、ネコさんたちと私の間にあったものが何のなのかは分かった」
「……それで、ご主人さんの答えは?」
本当に心の広い人だと思う。このご主人は。
こんな意味の分からないふたりをオトモにし、こんな意味の分からない説明を受け、こんな意味の分からない状況に立ち会ってしまっている。
それでも、このご主人は前に進む。迷わない。自分の目指すものへ向かって、ただひたすらに。
悩み、迷ってばかりの俺にとってご主人は眩しい。
「これからもよろしくね、ネコさんに、えっと、白ネコさんでいいのかな?」
良いご主人に会うことができました。この人が俺のご主人で本当に良かった。
それは今まで何度も何度も思ってきたことだけど、改めてそう思わされてしまう。それほどにこのご主人はすごい人なんです。
「うニャ、よろしくニャ」
「よろしくお願いします」
とりあえずこれで大きな問題がひとつ解決しました。
ただ、新しく大きな問題が起きてしまったわけで……いや、喜ばしいことではあるんですが、きっと俺の望んでいるような未来にはならないんだろうなぁ。
彼女が元の姿に戻ったことで興奮してしまったのか、それからご主人のテンションがすごかった。握手とかサインとか……
あの相棒の前だと緊張してしまって何もできないご主人だけど、彼女だと大丈夫らしい。まぁ、今までもずっと一緒に生活してきたもんね。
それで、彼女の姿だけど、俺が元の姿に戻ったときと同じようにネコの装備がそのままハンターの装備に反映されていた。つまり、現在はナルガ防具一式です。ただ、人間の姿なのだし、直ぐに複合装備になると思う。その前にミツネ一式を装備してもらいたいんだけどなぁ……
「……これからどうしよっか?」
疲れて寝てしまったご主人を置き、彼女とふたりでオトモ広場へ移動。彼女はまだネコの姿に戻っていない。そして、たぶんもうネコの姿になることもないのだろう。
人間の姿になった彼女はやっぱり新鮮な感じがした。……ホントに、本当に戻ったんだね。
「俺はご主人のオトモを続けるよ」
何度も何度も考えた。今だって考え続けている。もし人間の姿だったら何をしようかって。
やりたいことはいっぱいある。より強いモンスターと戦うとか、また相棒たちと一緒にパーティーを組みたいとか。
でも今はネコ。そうだというのなら、俺がしなきゃいけないのはひとつしかないだろう。
「君は?」
彼女が人間の姿に戻ったのは本当に嬉しいこと。ただ、やっぱり自分自身がこの姿だとどうにも、ね。ホント、俺がネコだなんて似合わないよなぁ。
「これからも貴方とご主人さんと一緒にいたい。いたいけど……それが無理だってことは分かってる」
……まぁ、そうだろうね。
この彼女の所属は大老殿。そんな彼女が簡単にこれからも俺たちと一緒にいられるわけがないのだから。
もし、この彼女が無名のハンターだったらそれもできたかもしれない。けれども、そんなことができないくらいには有名になってしまった。あの相棒を見ているとそれもよく分かる。
そんなこと全く望んじゃいなかったってのにね。
「相棒のことよろしく頼める?」
ご主人以上に、あの相棒には色々な負担も背負わせてしまっている。本当はそれだって俺がどうにかしてあげなきゃいけないもの。
そうではあるけれど、今ばかりはこの彼女にお願いします。
「うん、任せて。貴方こそ、ご主人さんのことよろしくね」
おう、任せとけ。きっとあの相棒や君に負けないくらい有名なハンターにしてみせるよ。ご主人の実力は十分。あとは、その実力をこの世界へ見せつけるだけだ。
ひとりじゃ抱えきれないから役割分担。それはひとりじゃ絶対にできないこと。それほどにこの世界に馴染んでしまったってことなんだろう。
ありがとう。いつも助かってるよ。
「……それじゃ、私はもう行くね」
「うん? もう行くの? ご主人に何も言わなくていいのか?」
流石にクエストへ行くのは無理だと思うけれど、もう少しくらいゆっくりする時間はあるはず。それに、わざわざこんな遅い時間に移動しなくても……
「いいの。たぶん……泣いちゃうから」
はにかみながら言葉を落とした彼女。
……そっか。それなら仕方無いのかな。
「それに、直ぐとは言えないけれどきっと私は帰ってくるから」
ん、了解。その時は相棒や弓ちゃんも連れてきてあげてね。それまで俺とご主人は待っているよ。
「分かった。それじゃ、ま、頑張ってくれ」
「そっちこそ、貴方は貴方らしく全力でやって」
分かってます。ご主人に俺たちのことを話したんだ。もう遠慮することは何もないだろう。
この姿じゃできないことは多いけれど、やれることはたくさんある。やれるだけやってみせるさ。
そんな言葉を交わしたところで、いきなり彼女に抱きしめられた。
「……ちっちゃいね」
耳元で聞こえる彼女の声。
その表情は見えない。
「君が大きくなったんだろ」
今まではずっとずっと同じ道を歩んできた。ただ、これからは少しだけ違う道を歩んでみよう。君は君の道を。俺は俺の道を。大丈夫、きっとまた会えるはずだから。その時は俺も元の姿に戻っていたいのだけど……どうなることやら。
「浮気は許さないから」
「するわけがないだろうに」
だいたい、この姿じゃ浮気も何もない。
「ひとりで何処かへ行かないでよ?」
「その時はちゃんと声をかけるさ」
満天の星空の下に響くふたつの声。
そんなふたつの声が再びこの星空の下に響くのはいつになってしまうのだろう。
「待ってるから」
「うん、俺も待ってる」
俺の言葉を聞いて満足してくれたのか、彼女は抱きしめていた両腕を放した。
星明かりに照らされた彼女の瞳は湿っているようにも見える。
大丈夫。大丈夫、きっとまた会えるさ。世界を何度超えても続いてきた君と俺との関係が、そんな簡単に壊れるはずがないのだから。
「……それじゃ、またね」
「ああ、またな」
そして、そんな言葉を交わしたところで彼女と別れることに。此方を振り向くこともなく夜闇の中へ彼女が消えていく。
次にまた会えるのがいつになるか。それは分からない。寂しくないと言ったら嘘になる。これからのことを考えると不安だらけだ。
それでも、きっと良い機会なんだろう。彼女にとっても、もちろん俺にとっても。少しばかりお互いに依存しすぎていた。そんなふたりが別れ別々の道を歩む。そこで止まってしまうのか、それでも前へ進むことができるのか。それは自分次第。
「ん~……っしゃ! 頑張りますかっ!」
星空の下、大きな声を出してみた。自分が前へ進めるような勇気が出るように。
少しだけ寂しい道のりとなってしまうけれど、進んでみるとしよう。我武者羅に。ひたむきに。
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第77話~険しい道のりだからこそ~
「えー! 白ネコさん帰っちゃったの?」
あの彼女が人間の姿に戻り、また大老殿へ戻ることになってしまった次の日のこと。予想通りの反応をご主人がしてくれた。
いや、俺だって一応もう少しくらいのんびりしていきなって言ったんだよ? ただまぁ、結局のところそれはあの彼女がどうしたいのかってことですし、あれ以上引き止めるのは無理です。
「うニャ。ご主人によろしくって言っていたニャ」
「あぅ……いきなりすぎるよ。それに結局まだサインだって……」
いきなりなことは確かですね。とはいえ、あの彼女は動き出したら止まらないからなぁ。真っ直ぐな性格というか頑固というか……
そして、サインは別にいいでしょうが。それまでどれだけの時間を一緒に過ごした相手だと思っているんだ。
「サインならボクが書いてあげるにゃ」
「いいよ、ネコさんのは」
……だから、どうして俺のだけそんな扱いをされるのですか? ちょっとだけ傷つく。いや、まぁ、他の3人と比べたら俺に花がないことくらいはよくよく分かっていますが。
「うーん……じゃあ、これからはまたネコさんとふたりで頑張らなきゃいけないってことでいいのかな?」
「うニャ。白ネコもできたら戻ってくるとは言っていたけれど、それも大変だろうからまたボクとご主人だけニャ」
相棒の様子を聞く限り、あの彼女も大老殿に帰ったら忙しくなるだろう。そりゃあ俺としてもやっぱりあの彼女が隣にいてくれれば嬉しいけれど、彼女は彼女で俺は俺でやらなきゃいけないことがある。役割分担。今回はそんなことなんだ。
だから、これからは最初の頃みたくご主人と俺だけで頑張らなきゃです。とはいえ、このご主人の実力があれば大丈夫だろう。獰猛化モンスターの連続クエストとかになれば厳しいけれど、オストガロアまでは問題ないはず。
「白ネコさんも大変なんだね……でも、ネコさんは本当に私なんかと一緒にいていいの?」
「うニャ。例えボクが大老殿に戻っても戦力にはならないニャ。だから、ボクはこれからもご主人のオトモとして頑張るニャ」
大老殿のことは彼女たちに任せます。例え黒龍なんかが現れたとしても、あの相棒がいるだけで十分だろう。ただ、メンタル面はやっぱり心配。けれども、あの彼女が大老殿にいてくれるのならそれも安心だ。
あの彼女が抜けたことで、此方の戦力は大幅に低下してしまった。それでも、良い感じに別れることはできているんじゃないかな。
「うーん、ネコさんはもっと自分の好きなようにやっていいと思うけど……」
いや、今でも十分すぎるくらい好き勝手やっているよ。そのせいでどれほどの迷惑をかけてしまっているんでしょうね? だから、これ以上の我が儘は流石にマズいだろう。
「まぁ、でもそれはネコさんたちが決めたことだもんね。よっし、私たちも頑張っていこっか!」
「うニャ!」
それがいいと思う。
他人のことを気にする前にまずは自分のことを頑張らなきゃいけない。それにあの彼女が人間の姿に戻ることができたってことは、俺もそうなる可能性があるってこと。
やっぱりネコの姿よりも人間の姿でハンマーを使いたいんです。大丈夫、俺の未来はきっと明るいはずだ。
ただ、ご主人に言われた言葉が何故かやたらと心に残った。
自分のために、か。
とはいえ、この姿じゃなぁ……
「それじゃ、私はどんなクエストがあるか聞いてくるね」
「了解ニャ。ボクは昨日頼んでおいた防具を受け取りに行ってくるニャ」
現在のHRは6。できれば緊急クエストが来て欲しいところだけど、どうだろう? それはちょっと早いかな。
まぁ、止まっているわけじゃいないんだ。できることをひとつずつやっていけばいい。それに今回から俺もゴア装備になるわけですし、気分は悪くない。
色々と状況は変わってしまったけれど心機一転、頑張っていきましょうか。
ご主人がクエストカウンターへ行っている間に、注文しておいた防具を受け取り早速装備。
決して強い防具ではないけれど、ネコのゴア防具は一番好きなんです。例え、ネコだろうと防御力が大切なことも分かっている。でも、やっぱり自分の好きな装備にしたいよね。
そして、せっかく新しい装備になったのだし、鏡でもないかなとフラフラしているところでご主人が戻ってきた。はてさて、再びふたりになって最初のクエストはなんでしょうね。
「えっとですね、ネコさん」
「うニャ」
「私たち宛に緊急クエストが届きました」
なるほど、来ちゃいましたか。
いや、悪いことではないですよ? むしろ嬉しいことです。
「それで、クエストの内容はどんなものニャ?」
ゲーム通りならHR7になるための緊急クエストはセルレだったはず。セルレならご主人も戦ったことがあるのだし、なかなかに美味しい相手。とはいえ、ゲーム通りじゃないことも多かったし、どんなクエストが来たのかは分からない。
「……テオ・テスカトルです」
うん? テオ?
あ、あら? でも、テオって確かHRを解放した後じゃないと戦えなかったはずじゃ。村クエでもテオのクエストはあったけれど、そっちだって受注できるのはHR解放後。そうだというのに……いや、この段階でテオはちょっときついぞ。白ネコがいてくれればまだなんとかなった気もするけど。
ただ、じゃあ他のクエストでって頼むことはできないし、俺たちが前に進むには倒すしか道がない。これはまた険しい道のりになりそうだ。
でも、そんな状況が嬉しかったりする自分がいた。
「了解ニャ。それで、ご主人はテオと戦ったことはあるのかニャ?」
一回でクリアできる気はしない。実際に戦ってみないと分からないけど、今まで戦ってきた相手と比べて火力は段違いなはず。
これでご主人が初見となれば、クエストクリアはまさに絶望的だ。
「んとね、ナグリ村ってところで一度依頼されたから、戦ったことはあるよ」
ああ、そう言えば、MH4の時、掘り当てたとかいってテオのクエストを受けることがあったっけかな。なるほど、MH4からテオのモーションも得には変わってなかったし、これなら……いや、それでも厳しいか。
「分かったニャ。今回は撃退でも大丈夫かニャ?」
討伐はかなりキツい。ただ、撃退でも良いとなれば気持ち的にもかなり楽になる。最悪、ご主人にSBをやってもらえば撃退分のダメージくらいは稼げるんじゃないだろうか。
「最終的に倒さないとHR7にはなっちゃダメって言われました……」
マジかぁ。そうなるとSBでも厳しそうだ。
ん~……最終的に討伐すればいいのだし、2回に分ければいけるか? いやでも、本当にそれでいいのだろうか。SBだって立派な戦術だ。ただ、それをしてしまってご主人がどう思うか……ご主人はハンマーで頑張りたいと言っていた。その気持ちは大切なことだし、できる限り尊重してあげたい。
「ねぇ、ネコさん」
「うニャ?」
「たぶん、私は片手剣を使った方が今回のクエストをクリアできる確率は高いと思う」
うん、俺もそう思っていました。
でも、ご主人がこんな言葉を落とすってことは――
「それでも私はハンマーで頑張ってみたいんだ。クリアできないかもしれない。また今回もネコさんの足を引っ張ちゃうと思う。それでも……ハンマーを使っていいですか?」
このご主人が我らの団を離れ、こうしてここでハンターをしているのは自分の実力を確かめ、より上を目指したかったから。
つまりはそういうこと。そして、そんなご主人を俺は全力でサポートするだけだ。だから、このご主人の言葉に返すものなんて決まりきっている。
「もちろんニャ。ちょっと大変だと思うけど、ボクも精一杯頑張るニャ」
やっぱり自分の好きなように戦いたいもんな。例え効率が悪くても、例え回り道だとしても自分の好きなように歩んでいきたい。オトモである俺はそんなご主人を全力で応援します。
「……うん、ありがと。よーし、それじゃ頑張って倒そっか!」
此処に来て今までで一番きっついクエストが来てしまったことは確か。
相手は古龍テオ・テスカトル。そんな奴を倒せる確率は残念ながら高くない。けれども、そんなクエストを俺は――
「あぅ、き、緊張してきた……」
テオのクエストのマップは火山。
BCからテオの待つ初期エリアまでは遠いけれど、あの段差や坂のせいで戦い難い地底火山じゃなかったのは幸い。
「今回、ご主人は無理に頭を狙わない方が良いと思うニャ。基本は後ろ脚を攻撃で、頭は大きな隙ができた時にだけ攻撃するのが良いニャ」
ご主人のスタイルはブシドーをお願いした。ジャスト回避からじゃないとカチ上げを使えないから、ブシドーハンマーでテオと戦うのはあまりオススメできない。そうではあるけれど、とにかく生存率を上げたいんです。
それに後ろ脚を攻撃しているだけならブシドーでもそこそこの火力にはなると思う。回避性能に細菌研究家、そして耳栓もつけばギルドスタイルで快適な狩りを行える。ただ、今のご主人の装備にそこまでのスキルを盛るのは無理です。だからブシドーで行くのが一番良い選択だと思うんだ。
「了解です!」
あと、俺の装備だけど、できたばかりのゴア防具にナルガ武器にしました。麻痺武器を担ごうかかなり悩みもしたけれど、とにかく火力を出すことに。ふたりパーティーで2回くらいしか取れない麻痺武器は美味しくないと思う。
「うニャ。今回はとにかくダウンしないように気をつけるニャ。あと、ご主人、スーパーノヴァって分かるかニャ?」
頭を諦めるってことはノヴァを諦めるってこと。MH4Gからモーション値は落ちているものの、このご主人の防具じゃノヴァを喰らえば乙るだろう。だから、それだけは気を付けないと。
「えっと、あのすごい爆発するやつのこと?」
「うニャ、すごい爆発するやつニャ。怒ってから100秒くらいであの技をやるから、とにかく気をつけるニャ」
「いや、そんな100秒とか言われても……」
うん、自分で言っておいてアレだけど、無理ですよね。
まぁ、例えノヴァを喰らう範囲にいても絶対回避を使えばなんとかなるし、ジャスト回避でもいいんじゃないだろうか? 起き攻めをされたら知らん。そればっかりはどう仕様も無いです。
他に何か言っておくことは……ん~、これくらいなのかな。
テオは戦い慣れた相手だけど、やっぱり戦ってみないと分からないことが多い。今回だけでクリアできるとは思っていないんだ。今回は様子見って気持ちで行くくらいが丁度良いのかもしれない。
……テオ・テスカトル。
きっと苦手にしているハンターは多いだろう。でも、アイツほどハンマーで戦うのが面白い相手はいないと思っている。そんなこともあって、心の底からハンマーでテオと戦いたいって思うんですよ。
自分の好きな武器で、自分の好きな相手と戦えるってことがどれだけ良いことだったのか。この小さな身体となってしまってから、そんなことをよく考えてしまいます。
ま、できないことを求めても仕方無いんだ。今できることを全力でやるとしよう。
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第78話~誰がため~
……実際のところ予想はしていた。こうなるんだろうなって。
ご主人が優れたハンターであることは確かで、此処まで順調に進めているのもご主人の実力があったから。
まだまだ雑な行動が見られることは多いし、ハンマー使いのハンターとして一流とはいえない。それでも、俺よりも確実にある才能を……そのオールラウンダーっぷりを見せつけてくれている。
そんなご主人ではあるけれど、やはり苦手なモンスターくらいはいる。
「誠に申し訳ありません……」
「ボクは気にしてないニャ。それに今はとにかくテオの動きに慣れることが大切ニャ」
HR7になるための緊急クエストの内容は古龍テオ・テスカトルの討伐。
もしかしたら――なんてことも思ったけれど、どうやらそこまで甘くはないらしい。
突進を連続で喰らったご主人が乙。無理に頭は狙わなくても良いとは言ったけれど、それでも引っかかってしまうらしい。
クエストが始まってまだ5分針もいっていない。この様子だと今回もクリアは難しいだろう。
……このクエストはこれで2回目。1回目はほぼ何もできずご主人が3乙。
ハンマーを使っていることもあり、今までのご主人はほぼモンスターの頭だけを攻撃していた。けれども今回はそうではなく安全にいきたいから後ろ脚をメインに攻撃してもらっている。多分そのせいもあって立ち回りが安定しないんだろう。とはいえ、テオの頭を攻撃するのはそんなに簡単なことじゃない。難しいものです。
「あぅ……なんだか勝てる気がしないです……」
うーん、ホントどうしようね? 一番の解決策はご主人に片手剣を使ってもらうことだけど、それじゃあ意味がない。ハンマーでテオを倒さなきゃいけないんだ。
いっそのことエリアルスタイルを使うとか……ないか。ブシドーで避けきれていないのにエリアルになんてしたら余計に被弾が増えるだけだろう。
俺が麻痺武器を担いで拘束時間を増やすって方法もあるけれど、火力は落ち、結果として戦っている時間は増えてしまう。それじゃあなぁ……
つまり、このクエストばかりはご主人がテオに慣れるしか方法がないんだ。
「そんなことはないはずニャ。まだテオの動きに慣れていないだけニャ。だから、こればかりは何度も何度も戦って慣れるしかないニャ!」
そんな言葉を落とすくらいしかできない自分が嫌になる。
いくら世界を救ったことのある人間でも、今ばかりは自分の小ささを思い知らされる。
「はい、頑張ります……」
「うニャ! 頑張れニャ!」
状況はまさに絶望的。このクエストをクリアできる未来が全く想像できない。
ただ、もしご主人と俺の立場が逆だったとしたら――こんなにも面白い状況はないんだろうなって思ってしまう。勝てるはずがないと思ってしまう相手にどう戦うか必死で考え、何度も何度も失敗しながら挑む。そんな状況は絶対に面白い。
だから、今のご主人は本当に羨ましい。この姿の俺じゃあそんな状況には絶対にならないから。
モンハンでクエストクリアを考える上で大切なのは大きくわけて4つ。
1つ目は武器防具。2つ目がスキル。3つ目がアイテム。そして、4つ目がプレイヤースキル。それらを変えるだけで、クリアなんてできる気がしないと思っていたクエストでもあっさりクリアできてしまう。
そして、倒したい相手に対し、それらのことを考え実践する時が本当に楽しいって俺は思う。
けれども、このネコの身体ではプレイヤースキル以外を変えることができない。
武器は現在選べる中で最高の物を用意した。傾向はアシスト、スキルはブメ3種で固定。アイテムは使用できない。できるのは……俺が上手くなることくらい。ただ、自分のプレイヤースキルを上げるのにどれだけの時間がかかるのかってことはよくよく分かっている。
何を言いたいかって……今の状況を全く楽しめていないんだ。
アレだけ強いモンスターと戦いたいって思っていた。そして今、そんなモンスターと戦うことができている。そうだというのに、高揚感だとかそういうものが全くない。これじゃあただの作業だ。
それはテオという戦い慣れすぎたモンスターが相手ってこともある。けれども、何より問題なのは今の俺がネコってことなんだろう。
ご主人の力になりたい。でもこれ以上、俺には何もできない……
そんな、もどかしさや遣る瀬無さもある。
「ふー……よしっ、それじゃリベンジ行きますっ!」
「うニャ!」
こんなところで止まりたくなんてない。止まりたくなんてないけれど……俺に何ができるというのだろうか。
マップは火山。エリアは6。
ちょっと邪魔な岩が生えているけれど平地が多いし、かなり戦いやすいエリア。
「怒った! 塵粉に当たったら直ぐにローリングで消すニャ!」
かなり時間はかかっているものの、怒らせることはできている。だからダメージは与えているはずだけど……倒せる気がしない。
正直なところ、テオに関してはG級の方が戦いやすい。塵粉を出したあとは噛み付き爆破は頭を狙えるし、超火力の前方ノヴァだって剣士ならまず喰らわない。
まぁ、そんなことをいっても、相手は上位モーションしかしてこないのだから仕様が無いけれど。
「りょ、了解です!」
怒ったってことはスーパーノヴァまでのカウントダウンが開始ってこと。
一応、ノヴァ対策に絶対回避はとっておくようにご主人に言ってはあるけれど、喰らうときは喰らう。そして喰らえばまず即乙。頭を狙わない関係で怒り解除は厳しく、ご主人がノヴァを喰らわないよう祈るばかり。
怒ったテオ相手に俺は頭を、ご主人が後ろ脚を攻撃。流石に怒り解除は無理だよなぁ……そして、テオは後ろ脚怯みの後が怖い。怯んだ後の行動が早すぎるんだ。
ご主人だって多少は慣れてきていると思うけれど、多分テオ自体が苦手なんだと思う。いつもと比べてご主人の動きが明らかに悪いし、被弾の量も本当に多い。
テオとは嫌になるほど戦った。そんなこともあってコイツが相手なら俺は被弾0で立ち回ることができる。けれどもご主人は……
「あっ、まず……か、回復します!」
飛びかかり攻撃に引っかかりご主人が被弾。
本来ならテオはHR解放後に戦う相手。そんなこともあり火力がヤバい。回復薬グレートじゃ回復が間に合わないし、次は秘薬の調合分まで持たせた方が良いかもしれない。
回復するご主人の位置を確認して、テオが俺を狙ってくれるよう……ああ、ご主人狙いだわクソが。
「そっち向いた!」
「えっ? ちょ、まって!」
そして、ガッツポーズ中のご主人にテオの突進が直撃。秘薬を飲んでいたのかどうにか乙ってはいない。
ただ、この短時間で攻撃を連続で喰らえば……うん、まぁ、ピヨるよね……大ピンチです。しかも、そろそろノヴァの時間なわけですよ。
そんな予想は当たり、未だスタン状態のご主人の真上に飛び上がるテオ。
これで2乙は確定。
クエストが始まりようやっと5分針といったところ。
つまり、もう、後がない。
だから……もう、もういいかな。
このクエストもクリアはまず無理だろう。俺にできることは全てやっていると思う。それでも、このクエストをクリアするのには届かない。
それは俺の実力不足が原因ってのももちろんある。本当に上手いハンターならこの時間で討伐することだってできているだろうから。でも、俺にはそれだけの実力なんてない。
でもさ、どうせダメだっていうのならせめて楽しみたいじゃん。
せっかくこの世界に来てこんな形のまま、自分で何ひとつ納得できないままクエストを失敗したくない。
だからこれは俺の我が儘だ。ご主人が乙った時は俺もベースキャンプまで戻っていたけれど、それもなし。
ご主人のためだとか、オトモだからだとかそんなことはもう知らない。
誰のためでもない。
今ばかりは
そして、ご主人の真上でテオが爆発すると同時に、ガツン――と鈍器のようなもので頭をぶん殴られた感覚とあの声が頭の中で響いた。
『操作モードを切り替えます』
状況はまさに絶望的。
それでもまぁ……反撃開始と行こうか。
――――――――――
何度やっても上手くいかない。
どれだけ気をつけてもテオ・テスカトルの攻撃に当たってしまうんです。今までだって強いモンスターと戦ってきた。でも、それらのモンスターにはまだ勝つことのできる未来が見えていたんです。
そうだというのに、今回ばっかりはそんな未来が見えない。見えるのは私がテオ・テスカトルにやられる未来ばかり。
私がそんな状況だからネコさんには本当に迷惑をかけちゃってると思う。口や表情には出さないけれど、内心はこんな私に呆れているはず。
正直、心が折れそうだった。
考えちゃダメだって分かっている。でも、考え出すと止まらない。自分が上手く戦うことだけを考えなきゃいけない。
それがもう……私にはできない。
あのハンターさんに憧れて使い始めた武器。頑張ろうって決めた武器。このハンマーっていう武器を使うことにはたくさんの意味を込めている。私はこの武器で頑張りたい。
ネコさんからたくさんたくさんアドバイスをもらった。
それでも私はこんなにも下手くそだ……
頭の中は悔しさだとかそんな気持ちでいっぱい。そんな気持ちなんて私はいらないのに。
テオ・テスカトルを倒さなければ私は前に進めない。ひたすらに我武者羅に戦わないといけない。そんなことは分かっている。
でも……そんな相手にどう戦えばいいのかが分からない。いくらアドバイスを受け取っても、どんな言葉を送ってもらっても、私には何も見えない……
ボロボロの精神状態。そんなんだから、やっぱり私はテオ・テスカトルの攻撃をまた喰らってしまった。
グルグルと回る景色の中、攻撃をしたテオ・テスカトルはさらに私の真上に飛び上がった。
ああ……マズイな。これは、避けられないや。
アレだけ注意しろって言ってくれたのに、本当にごめんネコさん……
そして、私の視界は真っ白に。
どれほどの攻撃を喰らってしまったのか分からないけれど、また私は倒れてしまった。指一本動かない。つまり、またダウン。きっと直ぐにネコタクによってベースキャンプに運ばれる。
そんなことにももう慣れちゃったな……
ゆっくりと。でも確実に薄れ始める私の世界。次に目を覚ますのは当たり前の光景になってしまった火山のベースキャンプ。そこでまたネコさんに励まされるんだろう。
ホント、悔しいなぁ。
そして、もう全部を諦めて目を閉じようとした時だった。
「またいつ戻ってしまうのか分からないから、あまり伝えられないかもしれない。でもさ、精一杯頑張ってみるから、できるだけ急いで戻ってきてもらえると俺は嬉しいかな」
私がずっとずっと憧れていたあのハンターさんがそんな言葉を落としてくれた。
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第79話~振り向きへホームラン~
違和感すら覚えるようになってしまった本当の自分の身体を軽く動かし、状態を確認。
火山の熱気のせいで少々息苦しさを感じるものの、悪くはない。やはりこの身体の方が俺には合っているんだろう。
「ま、それもそうか」
さて、さてさて。
目の前には大技であるスーパーノヴァを放ち、俺の大切なご主人をベースキャンプに送ってくれた奴が1頭。
「よ、久しぶり。元気だった?」
古龍テオ・テスカトル。それはあのゴリラの次に俺が戦った相手。
つまり、何度も何度も倒し、何度も何度も倒された相手ってこと。だから、コイツにも色々と思い出があるんだ。ホント強いもんな、お前。
そんな相手だからこそ……まぁ、負けたくはないわな。
とはいえ、まさかこの身体に戻るとは思っていませんでした。こうなるのなら事前に教えてほしかったし、せめてご主人が乙る前に戻ってほしかった。
いや、戻ってくれたことは嬉しいよ? 嬉しいけれど……マップがなぁ。
ネコなら問題はないけれど、今は人間。そしてこのマップは火山のエリア6。つまりですね……めっちゃ暑いわけですよ。ネコだからと思いクーラードリンクなんて持ってきてないし、回復薬もない。もちろん砥石も、だ。
暑いエリアでのスリップダメージは3秒で1。今は体力がMAXではあるけれど、例えテオから何も攻撃を喰らわなくても450秒で俺の体力は尽きる。せっかくこの身体に戻ることができたというのに、暑さが原因で乙ってしまったなどカッコ悪すぎる。
身体が戻ったことでテンションが上がり、ご主人相手にちょいとだけ格好つけてしまったせいで、ご主人がいるベースキャンプにも戻りづらい。さらに、攻撃を喰らってしまえばその時間はさらに短くなるだろうし、テオの体から吹き出す炎のスリップダメージもある。
つまり、被弾0+制限時間つきの縛りプレイといったところ。絶望的な状況は変わらない。
「ただまぁ……そのくらいが丁度良いかもな」
だってそのくらいの方が絶対に面白いのだから。
そんなことを考えたところでテオが俺の方を向いた。どうやらノヴァを撃ったにも関わらずエリアチェンジはないらしい。
ごめんな、ちょっと待たせた。
テオと目が合ったところで目を閉じ――ひとつ、大きく深呼吸。
手なんて抜かない。最初から全力全開。
そして、目を開け見えてきた世界から色が消えた。
さんざん我慢したんだ。今ばかりは自由にやらせてもらおう。だから、ひと狩り行かせてもらいましょうか。
俺に向かって突進してきたテオをローリングで躱し、ハンマーを右腰へ構える。武器はナルガハンマー、防具はゴア一式。あとはスタイルの確認だけ。
とりあえず、普通のローリングだったためエリアルは除外。あと、ハンマーの溜まる速度も慣れたいつものソレ。つまり、今のスタイルはギルドかブシドー。
そして、突進を終え、再び俺の方を向いたテオの頭に一度光ったハンマーで攻撃。
出た攻撃は振り下ろしだった。
つまり――
「ブシドー、か」
欲をいえばギルドスタイルが良かったけれど……まぁ、エリアルじゃないだけマシだろう。それに被弾が許されない今の状況ならブシドースタイルが一番美味しい。火力が足りるかは知らん。ご主人が早く戻ってくれることを祈ろう。
俺に向かっての炎ブレス。それをジャスト回避してから、限界まで溜め、ブレスの終わりに踏み込みながら強溜めスタンプをテオの頭へ。テオさんったら大きい頭のくせしてやたらと首に吸われるから、スタンプはできる限り頭の先へ置くのがポイントです。
……被弾が許されないこの状況。本当ならテオの体から出る炎のスリップダメージを考えても後ろ脚を狙うのが正解だと思う。ジャスト回避なんてせず軸避けしていた方が絶対に安全。
でも――それじゃあ面白くない。
1発でも喰らったら終わりだからこそ、ギリギリの状況だからこそ危険な方へ飛び込んでいきたい。自分が愚かなことをしているのは分かっている。どう考えたって非合理的だ。
それでも、俺が求めている狩りってのはこういうものなんだ。理屈じゃない。心躍る方へ。胸膨らむ方へ俺は進みます。
それに、今ばかりはコイツの攻撃を喰らう気はしない。だから、これで良い。これが良い。
強溜めスタンプをぶち込んだテオは、その翼を羽ばたかせ塵粉をばら撒いた。もしかしたらと思ったけれど、残念ながら遠距離ではなく、近距離爆破。
その大きな翼を羽ばたかせ始めたところで、テオの頭の前へ移動し、ハンマーを振り下ろす。
縦1と縦2を当てたところで、テオがその牙を鳴らし、塵粉が爆破。テオを中心に反時計周りで爆破する最初の爆破をジャスト回避してから強溜め1をテオの顔面へ。当たったのは頭ではなく首。
そして、怒り状態になったテオの咆哮が火山に響いた。
ソレをジャスト回避し、もう一度テオの顔面へ強溜めカチ上げ。
カチリ、カチリ――と自分の中の何かが噛み合っていく感覚。頭の中で思い描いていた自分と今動いている自分が少しずつ重なっていく。
「あはっ」
ヤバい、超楽しい!
なんだこれ。なんなんだこれ。
飽きるほど戦った相手で、飽きるほど使った武器。それでもこんなにも楽しいって思えるじゃないか。
怒り咆哮からの突進。ジャスト回避。此方を向いたテオに強溜めカチ上げ。
直ぐにローリングをせず、少しだけ待ってから爪攻撃をジャスト回避。んで、もう一度カチ上げ。スタンはなし。ん~……もうスタンをするはずなんだけど何発か首に吸われていたか。
ブレス。ジャスト回避から限界まで溜め、強溜めスタンプ。踏み込みすぎたせいで頭ではなく首へ。
爪攻撃、ジャスト回避無しのローリングで回避。
攻撃をしているテオへローリングで位置調整をしてから、ハンマーを右腰へ構えることなく尻尾へ縦1。さらに、空中へ縦2。
そして――
振り向きへホームラン。
小さくなってしまったものの確かに感じることのできるヒットストップ。弾けるスタンエフェクト。そこでようやっとテオがスタン。
コイツとは戦ってきた数が違う。嫌になるくらい戦った。それでも、お前との戦いは本当に楽しいって思えるよ。テオの次にする行動が分かる。どう立ち回れば良いのかが分かる。ホント、いつもこうなら良いんだけどさ。
頭の肉質も軟化するし、ブシドーならノヴァだって怖くはない。だから、別に怒り解除を無理に狙う必要はないけれど、やっぱりハンマーなら狙いたくなってしまう。
ハンマーは決して強武器じゃない。けれども、コイツが相手の時は本当に輝くことのできる武器なんだ。
まぁ、例えコイツが相手じゃなくとも俺はハンマーを担ぐんだろうけどさ。それくらいにはこの武器が好きなんです。
スタンをしたテオに縦1からホームランを2セット。
それをぶち込んだところで、テオが誰もいない方へ突進をした。どうやらエリアチェンジらしい。その瞬間、白黒だった視界は元通りに。今回はかなり早いけれど集中力切れ。この状態でさっきまでの動きができるかというと……その自信はありません。体力もそろそろヤバイし、砥石も使いたい。早くご主人戻ってきてくれないかなぁ。
なんてことを考えていると、テオが飛んでいったエリア7とは逆のエリア5の方からとことこと走ってくるハンターが見えた。
ナイスタイミング。集中力も切れているし、体力もヤバめ。これは助かります。
「あっ、えと、ネ、ネコさんテオ・テスカトルは?」
いかにも急いで来ましたといった様子のご主人がそんな言葉を落とした。お疲れ様、心よりお待ちしておりました。
こちらは既に2乙で後がない。けれども、まだ俺の身体は戻っていないし負ける気もしない。
「多分だけど、エリア7に移動したと思うよ」
ご主人にはハンマーを使う上で色々とアドバイスをしてきたつもりだ。けれどもいくら言葉で説明したところで伝わらないことはたくさんある。やっぱり見てみなきゃ分かんないもんな。俺だってネットで上手い人の動画を見て勉強した。
俺がハンマー使いとして上手いということは流石にできない。よくて中級者。そんなものだ。
けれども、きっと何かを伝えることはできると思う。残された時間がどれくらいあるのか分からないし、その時間の中で何を伝えるかなんて考えていない。だから、俺にできるのはいつも通り我武者羅にハンマーを振り回すことだけ。
「あっ、はい! 了解です! そ、それじゃあエリア7へ行けばいい……ですか?」
俺の身体が戻った影響だろうか、ご主人がどうにも硬い。確かに身体の大きさとかは変わっちゃったけど、中身は変わってないんだけどなぁ。お願いだから戦っている間は固まらないでね。せっかく掴み取ったこのチャンスをクエスト失敗なんて形で終わらせたくはないのだから。
さてさて、それじゃご主人も来てくれたし、サクっと倒してきましょうか。
「うん、そだね。ただ、その前に……クーラードリンクをもらえるとすごく嬉しいです」
ちょいとカッコ悪いけど、こればっかりは許してほしいって思います。
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第80話~憧れと並んで~
「いや~、結構ヤバい状況だったからホント助かったよ。クーラードリンクありがとね」
そう言って私の目の前にいるハンターさんがカラカラと笑った。
そんな目の前にいる人は私がずっとずっと追いかけてきた人。数年前に一度この人が出た闘技大会を見てから、私はずっとこの人を追いかけてきた。
目の前にいるのはそんな存在のハンターさん。
「え、えと、うん。そんな、大丈夫……です」
ヤバい。緊張してしまってクエスト中だというのに身体が固まる。
確かに目の前にいるこの人は私の憧れの存在。けれども、今まで……というか今だって私のオトモなはず。そんなことくらい私だってよく分かっているし、今更緊張するような相手じゃないことだって分かっている。
でも、理屈じゃないんだ。緊張してしまうものは緊張してしまう。
「んと……なんだか固まっちゃってるぽいけど、俺はご主人のオトモだよ。確かにちょいと身体が変わってしまった。でも、俺は俺のまま。だから、今まで通りに接してくれた方が助かるのだけど……」
はい、それは分かってるんです。でも、身体がいうことを聞いてくれないんです。
「それに……あまり時間は残ってないと思う。どうなるのかは俺も分からないけれど、いつまたネコの姿に戻ってしまってもおかしくないんだ」
そう言ってハンターさんは何かを諦めてしまったかのように、笑った。
また、戻ってしまう。この夢のような時間はあまり残されていない……
「だからさ、せめて今くらいは精一杯楽しんでやろうぜ」
そう言ってから笑うネコさん。
ネコさんからは、ハンマーを使う上でたくさんのアドバイスをもらってきた。それは全て言葉としてのアドバイス。本当ならその言葉をもらえるだけでも十分すぎるくらい。
でも、やっぱり言葉だけじゃ分からないんです。どれだけ的確なアドバイスをもらってもイメージができない。身体が、動いてくれない。
「さっきも言ったように、またいつ戻ってしまうのか分からないから、全てを伝えることはできないと思う。それでも、俺なりにこの武器の楽しさを伝えてみるから、ご主人も頑張ってそれを感じてもらえれば嬉しいかな」
「……はい! よろしくお願いしますっ!」
そんなネコさんの言葉を聞き、少しだけ固まっていた身体が軽くなってくれた気がする。
そうだよね、こんなチャンスは普通なら絶対にないこと。それなら固まっている場合じゃないんだ。そうだというのなら、この訪れてくれたチャンスをしっかり掴まないと。
「っしゃ、それじゃ、行くかっ!」
「おーっ!」
気合は十分。
やっぱりテオ・テスカトルには勝てる気なんてしないけれど、この人と一緒なら大丈夫。そう思えるんだ。
「あっ、ちょっと待って。砥石と回復薬ももらえると嬉しいです」
……何というか、姿が変わってもやっぱりネコさんはネコさんなんだなって思った。
ネコさんにアイテムを渡してから、テオ・テスカトルを追いかけ、火山のエリア7へ移動。
真ん中に溶岩の池があるせいで、お世辞にも戦いやすいエリアじゃないと思うけど、平だし私はそこまで気にならないかな。
「さっきまでは後ろ脚を狙うようにしてもらっていたけど、今度は頭を狙っていこう」
「えっと、いいの?」
エリア7へ入ったところでネコさんがそんな言葉を落とした。テオ・テスカトルはまだ私たちに気づいていない。
「うん。やっぱりハンマーなら頭を叩いた方が絶対に面白いもん。どうせ残されている時間は少ないんだ。それなら乙なんて気にせず、楽しんだもの勝ちだろうさ」
そんなネコさんからの提案は嬉しかった。
後ろ脚の方が安全なことくらいは私だって分かる。でも、いつもは頭しか狙わなかったこともあって、どう動けばいいのかが良く分からなかったんです。
いや、まぁ、頭なんて狙ったらもっと酷いことになりそうだけど。
「分かりました! で、でも、あんまり自信はないです……」
私がそんな言葉を落とすと、ネコさんはクスクスと笑った。その笑顔は少しだけドキリとするから心臓によろしくない。
「そんなものだよ。だからこそ――面白いんだ」
そして、私にそんな返事をしてからネコさんはテオ・テスカトルのいる方へ。
その瞬間からやっとこのクエストが始まった気がした。もう既に2回もダウンしてしまっている奴がいますけど……
私たちに気づいたテオは咆哮を上げてから、その大きな翼を羽ばたかせた。
「近距離! 反時計回りに爆破!」
咆哮をジャスト回避し、そのまま羽ばたかせているテオ・テスカトルへハンマーを振り上げながらネコさんが叫んだ。
え、えと、近距離だからテオ・テスカトルから離れればいいってことだよね?
なんとことを考えたけれど、ネコさんはテオ・テスカトルの頭の前で攻撃を続けたまま。自分で近距離爆破って言っていたのに、意味が分かりません。
そして、ネコさんが言っていたように、テオ・テスカトルを中心に反時計回りに爆発。
ヤバいと思い、アイテムポーチの中から生命の粉塵をガサゴソと探索。けれども、爆発による噴煙の先に見えたのはジャスト回避からハンマーを右腰へ溜め、相手の頭に向かってハンマーを振り上げるネコさんの姿だった。
「テオは突進と飛びかかりの出が早いから攻撃後は常に警戒するように!」
そして、またネコさんがそんなアドバイスをしてから、テオ・テスカトルが私の方へ向かって突進をしてきた。
その突進をローリングでどうにか躱すと、私の方へ向き直ったテオ・テスカトルが口から炎のブレスを吹き出した。
「ブレスの時は脚にホームランか頭に強溜めスタンプが入る! 頑張れ!」
目まぐるしく変わっていく状況。
そんな中でもネコさんは私にアドバイスをしながら戦っていた。
ブレスの終わりに、ネコさんが右腰へ構えていたハンマーを大きく振り上げ叩き落とす。パキン――とハンマーの攻撃が頭に当たった時にでるエフェクトが光った。
「ほい、こんな感じ。それじゃご主人もやってみようか」
いやいや、ちょっと待ちなさい。何を言っているんだこの人は。
私が? さっきまでのネコさんの動きを? 流石に無理ですよ……
そんな私の思いが表情に出てしまっていたのか、続けてネコさんが言葉を落としてくれた。
「大丈夫。ご主人ならきっとできるよ。だって君は俺とあの彼女のご主人なんだから」
そして、またあの笑顔。カラカラと笑いながらも優しさのようなものを感じてしまう。私なんかに向けるにはもったいない表情だ。
ただ、そのおかげで少しだけ頑張れるような気がしてきた。もしかしたらそれは気のせいかもしれない。でも、今ばっかりは気のせいでいい。それで少しでも私が動いてくれれば。
……よっし! 気合入りました。頑張ります!
それからネコさんがもう一度攻撃したところでテオ・テスカトルは怒り状態に。
「塵粉が当たったら直ぐにローリング! でも、絶対にテオから目を離さないように!」
私よりも確実に多くの攻撃を当てながら、アドバイスを続けてくれるネコさん。
「後方爆破! チャンス! ご主人は左で」
そんなひとつひとつの動きに見蕩れ、ひとつひとつの言葉を聞き入ってしまいそうになる。私にとってこの人はそれほどの存在なんです。
フワフワと身体が中へ浮かんでいるような感覚。夢か現か。そんなことも分からない。
でも、今がすごく楽しいなって私は思うんだ。
怒り状態のテオ・テスカトルのブレスをジャスト回避無しで躱してからハンマーを右腰へ。
そして、ブレスの終わり際に頭に向かって……
「あっ、ごめっ、スタンプ出ます!」
今まではネコさんも白ネコさんも近距離では戦っていなかった。そんなこともあり、スタンプまで溜めてしまう癖が。ただ、今はネコさんも私と同じようにテオ・テスカトルの頭を攻撃している。そこへ私がスタンプをしてしまえば……
どうかネコさんには当たりませんように……なんて思いながらハンマーを振り上げ叩き下ろす。
けれども、私がハンマーを振り下ろした先にはネコさんが。これは……まぁ、直撃ですよね……。ほんっとうにごめんなさい!
振り下ろされた私のハンマー。それを――ネコさんはジャスト回避。そこから直ぐにテオ・テスカトルの頭へネコさんがハンマーを振り上げた。
「おっし、スタンいただき! さっきと同じようにご主人は左で!」
なんだ。
なんなんだろう、この人は。まるで私と次元が違う。この人が上手いことはよくよく知っている。でも、此処までとは思っていなかった。モンスターの動きだけじゃなく、私の動きまで視界に捉えそこからミスのない行動。
――この人が見ている世界には、何が映っているのだろうか。
ああ……本当に、遠いなぁ。
でも、それが何よりも誇らしく……嬉しかった。
ネコさんがテオ・テスカトルからスタンを取り、ダウン中の相手に私とネコさんで同時に攻撃。
そして、ダウンしてから2回目の私とネコさんのホームランがテオ・テスカトルの頭へ吸い込まれた瞬間、相手は動かなくなった。
「あら? なんだ、思っていたよりダメージは入っていたのか。とはいえ……っしゃ、これでクエストクリアだな!」
心の底から嬉しそうな表情で言葉を落とすネコさん。
「どう? 戦っていた時間は短かったし、あんまり上手くはなかったけれど……何か感じてくれたかな?」
本当に短い時間だった。それこそ、残酷なほどに。
ネコさんのあの動きを私が真似することはできないと思う。もっともっと今のネコさん見ていたかったし、ゆっくり教えて欲しい。
それでも、ネコさんの動きはしっかりと見ていました。
「何を掴むことができたのか、私は分かんない。でも……楽しかったです!」
それは心から私が思うこと。
モンスターと戦っていて面白いって思えることができた。それはこのネコさんのおかげなんだろう。
「ふふっ、そっか。それなら良かった。ん~……俺も久しぶりに楽しいって思えたなぁ。ありがとう、ご主人。……さてさて、それじゃどうせもう時間なんだろう。まぁ、アレだ。もしまた戻ることができたら、また一緒に相手の頭を叩いてやろうぜ。それまで俺はご主人のオトモとして頑張るからさ」
そして、そんな言葉を落としてくれた瞬間――ネコさんの身体が見慣れたいつものソレへ戻ってしまった。
どうやら私の夢はここで終わりらしい。
それでも、十分すぎるくらいの意味はあったと思うんだ。
「むぅ、やっぱり戻っちゃうのかぁ……まぁ、しゃーない。それじゃ、テオから素材を剥ぎ取ったら帰るニャ。これでご主人のHRも7。帰ったら打ち上げするニャ!」
そういえば、これHR7になるための緊急クエストだったっけ。
テオ・テスカトルにボコボコにされたり、ネコさんの姿が戻ったりと色々ありすぎたせいでそんなことすら忘れてしまっていた。
HR7かぁ……気がつけばもうそんな場所まで来ちゃったんだね。
正直、私がそんな場所に立っていられるほどの自信はありません。でも、このネコさんと一緒なら……そう思うのです。
「うん、そだね。今日くらいはパーっと騒ごっか!」
「うニャ」
貴方が私のオトモで良かった。
もう何度も何度も思ったことだけど、今日のネコさんを見て改めてそう思う。
いつまで貴方が私のオトモでいてくれるのかは分からない。だからこそ、それまでの間どうかこの頼りないご主人をよろしくお願いします。
「あっ、そうだ。ねぇねぇ、ネコさん」
「うニャ? どうしたのニャ?」
「サインください」
断られました。
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第81話~離れていても~
「はふぅ……」
心地良い日差しを受け、モッフモフなムーファの背の上で寝転がる俺の口からは何とも気の抜けた声が出た。仕方無いね、それくらい気持ちが良いのだから。
今日は久しぶりの休日ってこともあるけれど、テオを倒したことで俺たちのHRも7となり一段落。今くらいはのんびりさせてもらおう。
テオを倒し、HRが7となってからご主人のやる気がすごかった。もしかしたら人間の姿の俺を見て……なんてことをチラと考えたけれど、なんか恥ずかしいからそうじゃないと思うことに。
そして、ご主人がやる気なら俺も頑張らないと、な~んて思っていたけれど、肝心のクエストがない。いや、中型種や小型種の討伐や採取クエストなんかはあったんですが、大型種……それもテオみたいにHR7にならないと受けることのできないクエストがありませんでした。
そんな現実を受け、せっかく気合の入っていたご主人もなんともいえない表情に。
それでここ最近は久しぶりに村クエをやっていました。
クシャを倒し、上位ハンターとなってからはほとんど手付かずとなっていた村クエ。はてさて、どんなクエストがあるのやら、なんて考えながらベルナ村の受付嬢の元へ。
そこで紹介されたのは全部で3つ、ライゼ、ミツネ、ディノのクエストだった。そして、迷うことなくそのクエストを受けることに。
ただ、ですね……俺たちはもうHR7で、しかも武器防具が揃ってしまっている。そんなハンターが村クエ、それも下位レベルのクエストを受けても、直ぐにクリアしてしまうわけですよ。頭なんて狙わず、もう何も考えず、ただ縦1からのホームランを続けているだけで簡単に倒してしまう。
「……終わっちゃったね」
「……うニャ。終わっちゃったニャ」
苦労なんて何もなかった。一瞬といって良いくらいだった。それだけ成長したってことではあるけれど、ご主人の表情は複雑なそれ。きっと思っていたのと違ったんだろうなぁ……
村クエをクリアしたことで、村長からは何度もお礼を言われたけれど、何を言われたのかは覚えていません。早いタイムでモンスターを倒せたことに文句はない。文句はないのだけど……こういうことじゃないんだよなぁ。いや、まぁ、村クエを受けるって時点でこうなるんだろうなぁとは思っていましたが。
やっぱり村クエは序盤に進めておかないと、ただの作業になっちゃうよね。モンハンの難しいところだ。
そんなことはあったけれど、まだ集会所にHR7になって初めて受けることのできるクエストは届いていない。そんなわけで今日は丸々一日お休みです。
ああ、ムーファの背中が気持ち良い。
「あっ、ネコさん。こんな場所にいたんだ。さっきね、『狩りに生きる』をもらってきたよ」
もうこの良い気分のまま寝てしまおうと思っていたら、そんなご主人の声が聞こえた。
因みにだけど、『狩りに生きる』ってのはこの世界で刊行されている月刊情報誌のことです。読んだことないから何が書かれているのか知らないけど。
「ハンマー特集はあるのかニャ?」
「ないと思う……」
じゃあ、いいや。
モンスターの肉質だとか状態異常耐性値なんかが載っていれば読みたいけれど、多分そんなものは載っていない。どうせどこどこのハンターがどんな成果をあげたとか、また第三王女の犠牲者が出たとかそんなことだろう。色々と言いたいことはあるけれど、とりあえずギルドは、なんでもホイホイ依頼を受けてしまうのをやめた方が良いと思う。俺が依頼文をちゃんと読むことは少ない。ただ、まともな依頼ってあんまり多くないイメージです。まぁ、あのワガママ王女を放っておくと何をしでかすか分からんし、仕方無くギルドも依頼を受けているんだろう。そんなことをしなきゃいけないギルドも大変だ。
「でも今回の表紙は白ネコさんだよ」
「え……マジ?」
「うん、本当」
そ、そんなこともあるのか……そりゃあ、またなんとも似合わないことで。
ああ、そういえば相棒なんかはよく取材を受けていたような気もする。確か、弓ちゃんもあった。俺は取材なんてされたことないけど。フシギダネ。
てか、なんだ。もうあの彼女が戻って来たっていう情報は回っていたのか。ん~……まぁ、有名なハンターであることに違いはないだろうし、そんなものなのかな。
「それで、どんなことが書いてあるのニャ?」
「まだ読んでないから分かんないけど、今回の主は白ネコさんへのインタビューみたい」
あの彼女へインタビューって……きっと取材する人も苦労したことだろう。あの彼女は基本、そういうことが嫌いですし。マタタビに釣られたアイルーが書いたとか、そんなところだろうか。
最初は全く興味がないと思っていたけれど、あの彼女のことが載っているのなら話は別。モッフモフの背中と別れ、お昼寝の時間を後へ回すことに。
「あっ、読む気になったんだ」
「うニャ」
どんなことが載っているのか気になります。
ムーファの背中から降り、ご主人が手に持っていた雑誌を見ると、確かに表紙へあの彼女が載っていた。当たり前だけど、人間の姿の彼女が。
多分だけど彼女がネコに戻ることはもうないんだろう。羨ましいことだ。
そして、表紙に載っている彼女だけど――
「えっと……あー、うん。可愛いとは思うけど、白ネコさんは何をやっているんだろ……」
雑誌の表紙にはいつも通り、眠たそうな彼女の顔が。
ただ……
「多分だけど、笑って。って言われて笑えなかったからこんなことになったんだと思うニャ」
両手で自分の口角を上げ、無理やり笑っているような表情を作っている彼女。ただ、目は眠たそうなままで、なんともシュールな画面だ。
うむ、この雑誌は取っておくことにしよう。あの彼女に見せた時の反応が面白そうだし。
「な、なるほど……確かに白ネコさんってあんまり笑わないもんね」
あーんー……そうでもないよ。あの相棒なんかと比べると、確かにあまり笑わないけれど、ご主人の前なら結構笑っていたと思う。ただ、仲良くない人の前では表情が固まってしまうだけ。
本当に自由な性格の彼女だけど、あの娘、人見知りなんです。そんな性格でよく雑誌の取材なんて受けたと思う。
表紙をめくると、アイテムや商人、ギルドの宣伝のページがいくつか続き、それを過ぎると彼女へのインタビューの記事が載っていた。
Q:ここのところずっと姿が見られないようでしたが、どちらに?
A:遠い場所にいた。
Q:そこでは何を?
A:ブーメランを少々。
Q:これからの予定は?
A:がんばる。
Q:読者の方々へひと言お願いします。
A:がんばります。
「…………」
「…………」
とりあえず記事を読んでみたけれど……なんだろうね、これ。どうコメントして良いのか分からない。そりゃあ、俺もご主人も無言になるわ。なんて中身のないインタビューだろうか。
「情報雑誌としてこれでいいのかな……」
ダメだと思うけど、インタビューを受けている人間があの彼女だからなぁ……編集部も苦渋の決断を強いられたことだろう。俺がいうのもアレだけど、もう少しまともなコメントをしてあげなさいよ。そういうところはあの相棒や弓ちゃんの方が上手くやっていそうだ。俺はそもそもインタビューされないから論外ってことで。
まぁ、あの彼女が元気そう(?)ってことも分かったし、これはこれで良いのかな。きっと今頃は相棒たちと一緒に狩猟笛を振り回していることだろう。
相棒さんへのフォローはよろしく頼んだよ。
「あっ、まだインタビュー続いてたよ」
いや、良い予感がしないしもう良いのだけど……これ以上はインタビューをしていた人が可哀想になってくる。
Q:ずばり、好みの男性のタイプは?
A:1mちょっとの可愛らしい大きさ。色の種類は茶ブチ。くるりと丸まった尻尾とピンと立った耳が特徴のサポート傾向はアシストで、ブメ3種に遠隔強化持ち。防具はゴアSネコホラーの人。
「これ、ネコさんのことだよね?」
……俺からはノーコメントで。
ホント何を言っているんだろうあの彼女は……どれくらいの人間がこの雑誌を読んでいるのか知らないけれど、決して少ない人数ではないはず。どうして俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
Q:それ、好みなネコの話ですよね(笑)そうではなく、好みな人間のタイプをお願いします。
A:じゃあ……ハンマーを使う人。
「……これもネコさんのことだよね?」
お願い! 俺に振らないで! 分かってる、分かってるからっ!
いや、あの彼女からこうやって気持ちを伝えられるのは嬉しいですよ? でもさ、何か違うんだ。こうじゃない。てか、色々おかしい。なんでその質問だけ饒舌になってるんだよ。
そんな記事のせいでせっかくの休みだというのに、一気に疲れてしまった。
こんな機会だし、ひと通りその雑誌を読もうかとも考えていたけれど、俺はもう疲れました。これ以上読むのはやめておきます。
……全く、顔が熱いったらありゃしない。
そんな状態の俺が最後に目にした記事は――
Q:貴方と同じパーティーだった、今もなお行方不明になっているハンターさんはどうしていると思いますか?
A:それは私にも分からない。でも……もし私たちが危ない状況になった時、あの彼は戻ってきてくれる。あの人はそういう人。
そんな、ものだった。
今までずっと一緒にいた人間と別れることとなり、そのことに寂しさを覚えないといったら嘘になる。少しばかりの分かれ道。けれどもきっとその道はまた繋がってくれるはず。
それは間違った考えじゃないと思うんだ。
「……俺も頑張らないとだな」
心地良い日差しを受けながら無意識に落ちたそんな言葉は、空へ上り、消えていった。
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第82話~お願いと未来~
「……操縦ありがと、お疲れ様」
「またの利用をお待ちしているニャ!」
ドンドルマまで運んでくれたネコへお礼の言葉をひとつ。
久しぶりに吸い込んだドンドルマの空気はやたらと澄んでいるように感じる。
……はぁ、帰ってきちゃった、か。
また、と約束はしたものの、私がまた彼の隣に立てるようになるのはいつになることやら。あの娘の様子を見ていたけれど、すごく忙しそうだった。それは私と彼がいないからってこともあるけれど、少し私たちは有名になりすぎてしまったんだと思う。あのパーティーの中でそんなことを願っていた人は誰もいなかったというのに。
さて、来てしまったものは仕様が無い。私の隣にあの彼がいないのはやっぱり寂しいけれど、私は此処で頑張るって約束した。だから、私は動かなければいけない。
とはいえ、いきなり大老殿へ行く気にもなれなかったから、とりあえずは自分の家へ向かうことに。
まだ、残ってくれていれば良いけど。なんてことを思いつつ、懐かしいとすら感じるようになってしまった早朝のドンドルマの街中を歩き自分の家を目指す。
そして、ゆっくりと自分の家の扉を開けると――
「あー……なんで、この娘がいるんだろう……」
何故かあの娘が私のベッドの上で寝ていた。
確かにこの娘とは早いうちに会っておきたかったから丁度良いといえば丁度良い。けれども、此処は私の家のはずで、この娘がいるのはやっぱりおかしいし、どうして私のベッドの上で寝ているのか分からない。
そんな私の家の様子は長い時間空けていたのにも関わらず、思った以上に綺麗な状態だった。もしかしたら、この娘が掃除とかしてくれていたのかな? そうだとしても私の家で寝ているのはよく分かんないけど。
「ああ、フルフルが……ひんやり……」
すぴすぴと気持ち良さそうに寝ているあの娘から、何かが聞こえた。夢の内容はよく分からない。分かりたくもない。私はフルフルが好きではないし。
アレの何処が可愛いんだろう……
「……ねぇ、起きて」
気持ち良さそうに寝ているところ申し訳ないけれど、ペシペシ叩いてとりあえず起こしてあげることに。
「あぅ……そんな、亜種まで……ふふっ、可愛い奴め」
「可愛くない。可愛くないから。ほら、起きて」
相変わらずというか、なんというか。どうにも抜けているように感じてしまう娘だけど、その実力は誰もが認める一流のハンター。彼や私のように、違う世界から来た人間ならまだ分かるけれど、この娘はこの世界の人間。ご主人さんや弓ちゃんだってかなりの実力があるとは思う。
でも、この娘だけはレベルが違う。つまり、この娘が異常ってこと。
「……はっ! 起きます! ってなんだぁ、笛ちゃ……笛ちゃん!?」
「やほ、おひさし」
ようやっと私にとって地獄絵図のような夢から覚めてくれたらしい。
さてさて、何から話をすれば良いのやら。
「あっ、えと……え? えっと、あの、笛ちゃん……だよね?」
「うん。やっと身体が戻ったから帰ってきた」
あの娘が起きてくれたところで、私はお着替え。
アイテムボックスから、愛用していた狩猟笛であるラーガレギオンと銀レウス防具を基本とした防具を取り出し装備。装備はちゃんと保管されているらしい。良かった。
「そういえば、どうして貴女が私の家にいるの?」
装飾品も付いたままだし、これなら今直ぐにでもクエストへ出発できそうだ。ただ、この身体で動くのは久しぶりだし、リハビリしたいなぁ。
「へっ? あっ、えっと、その、昨日クエストから帰ってきて笛ちゃんの部屋を掃除していたんだけど、眠くなっちゃったからそのまま……ちょ、ちょっと待って。そんなことより、笛ちゃんは……」
ああ、やっぱり貴女が私の部屋を掃除してくれていたんだ。うん、ありがとう。
寝起きってこともあるだろうけれど、どうやらあの娘は混乱しているらしい。
防具の装備も終え、漸くちゃんとあの娘の方を向くことができた。
さて、とりあえず言っておかなきゃいけない言葉がある。この娘には長い時間待たせてしまったし、きっときっと今も不安に思ってしまっているだろうから。
「大丈夫。私はもう消えないから」
あの娘を真っ直ぐと見ながらそんな言葉を私は落とした。
確証があるわけじゃない。なんとなくそう思っているだけ。けれども、それはきっと間違いではないはず。
――だって、私はもうこの世界で生きていくと決めたのだから。
そして、そんな言葉を落としたところで、あの娘に抱きしめられた。
「……ごめんね。待たせちゃった」
「ううん。気にしてない。戻ってきてくれただけで私は嬉しいから」
私と彼がいなくなったことでこの娘にはどれだけのことを背負わせてしまったのか。きっと大変だったと思う。きっと逃げ出したくなったと思う。それでもこの娘は今日までこうして頑張ってくれていた。
まだあの彼はいないけれど、これからはこの娘が背負っていたものを私も背負うことができる。
罪滅ぼし、なんてことは思わないけれど、これからは私も一緒に頑張るから、どうかどうかまた一緒にいてくれると嬉しい。
「……申し訳ないけど、あの彼が戻るのはもうちょっとかかると思う」
「そっか……残念だけど、しょうがない、よね。あっ、笛ちゃんはこっちに来ちゃって大丈夫なの? 槌ちゃんだって困るんじゃ……」
「んー……彼がいるからそれは大丈夫なはず」
いくらネコの姿とはいえ、あの彼が止まってしまうところは想像できない。頼りないところもあるけれど、狩りに関してだけはあの彼なら大丈夫。きっとHRだってすぐに7になるだろうし、そろそろオストガロアと戦う準備だってしているかもしれない。
それに流石はMH4で主人公をやっていただけあって、あのご主人さんだってすごい人だ。あのふたりならきっと大丈夫。
さて、再会の挨拶はこれくらいにしておこう。
なんていうか、私も恥ずかしくなってきちゃったし。
「とりあえず私は大老殿の大長老のところへ行こうと思うけど、貴女はどうする?」
「あっ、それじゃあ私もついていくね。弓ちゃんはバルバレに行ってるから今はいないけど」
バルバレ? なんでまたそんな場所に……まぁ、この娘がいればドンドルマの平和は守られるし、問題はない……のかなぁ。
うーん、弓ちゃんとも会っておきたかったけれど、それなら仕様が無い。
「えと、このままの格好じゃまずいし、ちょっと着替えてくるから待ってて」
「りょ」
むぅ、大長老にはなんて報告しようか。
流石の私でも、自分がいなかったことがこのドンドルマにとってどれほど大きかったことなのかは理解している。色々聞かれたら面倒だなぁ……
あの娘の準備が完了するまで、アイテムボックスの整理。随分と長い間帰っていなかったから、自分がどんなアイテムを持っていたのか把握できていない。
いっそのこと私も笛以外を使ってみようかな。どう使えば良いのか分からないけれど、ガンランスとか良いかもしれない。
そんなことを考えつつ、あの娘を待っていると予想よりもずっと早くドタバタと騒がしい音がした。
「お、お待たせしました!」
そしていかにも急いで準備してきましたといった様子のあの娘の姿。別に急がなくても良かったんだけど
そんなあの娘の装備だけど……
「えと……その防具はどうしたの?」
私の記憶が正しければ、この娘の防具はシルソル一式だったはず。そのはずだったけれど、今身につけている防具はどう見たってシルソルじゃない。
青と白、そして少しの金色が入った派手な見た目。
それは私がMH4Gをしていた時によく見た防具だった。
「うん? あっ、えとね、スターナイトって防具なんだけど……なんか私のために用意してくれたみたいで、せっかくだから最近はずっとこの防具にしているんだ」
スターナイト防具。それは、複合装備だらけのMH4Gにおいて高難度クエストでも十分すぎるほどの火力を出せた唯一といって良いくらいの装備。
つまり、今のこの娘はこの世界で1本しかないダラ・アマデュラの操虫棍であるペダンを担ぎ、防具はスターナイト一式。
……ギルクエ140にでも行くつもりだろうか?
つまり、それくらいの装備ってこと。
「あー……もしかしてあまり良い防具じゃなかったかな? でもね、せっかく私のために作ってくれた防具だし……」
「ううん。それで大丈夫だと思う。というか、それ以上ないくらい」
護符、装飾品無しで挑戦者+2、業物、心眼、乗りマスターが付く。それでもって匠スキルは4ポイントあるし、空きスロットは11。どう考えても調整ミスの防具。
ペダンだけでもおかしいのに、そこへさらにスターナイト防具って……それでいてこの娘の実力を考えるとインフレも良いところだ。
「そうなんだ。よく分かんないけど。うん、それじゃあ当分はこの装備でいくね」
それが正解だと思う。
……良いなぁ、スターナイト防具。イベント防具だったし、この世界じゃ作れないと思っていた。
さ、さてさて、ちょっとどころじゃない驚きはあったけれど、そろそろ大老殿に行かないと。大変になるのはここからなのだから。
「ムォッホン! よくぞ戻ってきてくれたな、若き狩人よ」
大老殿へ行き、私が戻ってきたことを大長老へ伝えると、いつもの調子で咳払いをしてから、大長老が言葉を落とした。
うーん、それにしてもおっきい人だ。これくらい大きいのだし、イャンクックくらいなら素手でも倒せそう。
「……久しぶり。もしかして頭、伸びた?」
「ふ、笛ちゃん! 一応ほら、偉い人なんだからっ!」
一応じゃなくて偉い人だと思う。
「良い、ワシは気にしておらん。ヌシが戻ってきてくれたことが何よりも喜ばしいことだ。こうして戻ってきてくれたのだ。ヌシがいない間、寂しそうにしていたドスプーギーも喜ぶだろう。そして、もちろんドンドルマにいる皆も喜ばしく思っておるであろう」
きっと期待されているんだろうなぁ。
とはいえ、私の使っている武器が武器だけに、ソロだとその期待に応えられるような働きはできない。この娘と一緒なら例え黒龍だろうと問題なく倒せるけど。
うーん、これはソロでも頑張れるよう真剣に新しい武器を考えないといけないかも。
「ヌシが今まで何をしていたのかワシからは聞かん」
おお、それはありがとう。私もどう答えたら良いのか分からなかったし嬉しい。
「とはいえ、ヌシの仲間には伝えると良い。誰よりもヌシのことを心配していた者たちなのだから」
うん、それは分かってる。
私は道を選び、もう進み始めてしまっている。そうだというのなら逃げる必要もない。
「それでだけど……ひとつ、お願いを聞いてもらって良い?」
「うむ、聞こうか」
龍歴院の方はあの彼に任せ、私はこっちで頑張ると決めた。けれども、あの彼の物語から私が外れるつもりはない。
「オストガロアの討伐に私とこの娘を向かわせてほしい」
絶対に訪れるであろう未来。
そして、そんな未来に私は関わらないといけない。それこそ、なんとしてでも。
「……モンスターや飛行船の消失が起き、その原因はオストガロアだろうという報告が龍歴院から届いておる。しかし、何故ヌシはそのことを?」
「それが、あの彼に関わることだから」
大長老からの質問へ、答えにならない言葉を落とした。
それは私と彼しか知らない未来のお話。めちゃくちゃなことを言っているのは分かっている。それでも、私はそれに関わらないといけない。
「うむ、そうか……あのハンマーを使う若き狩人に関わる、か」
独り言のようなものを溢してから大長老は目を瞑り、上を向いた。
「確かに、龍歴院からもしもの時はこの大老殿のハンターを、ということを依頼されておる。例えオストガロアがどれほど凶悪なモンスターだろうと、ヌシたちならば、ワシとしても自信を持って送り出すことができる」
あー……オストガロアくらいならネコの彼ひとりでも討伐できると……いや、まぁ、そんなこと言えないし、私としてもオストガロアと戦いたいのだから丁度いっか。
「それなら良かった。それと、もしオストガロアが現れたら、龍歴院にいるハンマーを使う女性のハンターとそのオトモアイルーを一緒に連れて行ってもらいたい」
時間はかかるけど、私ひとりでもオストガロアなら倒すことができる。そこにこの娘がいればまず失敗しない。
でも、それだけじゃダメ。そこにあの彼がいないと意味がない。
ネコの姿の彼だって好きだけど、やっぱり彼には人間の姿に戻ってもらいたい。そのためにも、オストガロアを倒す時、彼がいる必要がある。
無理やりでもなんでも、やれることは全力でやる。形振り構わずできることは全部やる。
「ふむ……そのハンターとオトモはヌシが認める者たちか?」
「私が命を預けて良いって思えるくらいには」
大長老の言葉へ私がそう返すと、大長老は静かに笑った。
「ムォッホン! 戻ってきたばかりだというに、ヌシは相変わらずの性格だ。しかし、嫌いではない。分かった。ヌシの願い龍歴院にはワシから伝えておこう。全責任はワシが持つ。ヌシたちは自信を持って向かってくれ」
「良かった。ありがとう」
かなり無茶な要求だったと思うけれど、なんとかなるものだ。
それもこれも、きっと私たちのいない間もずっとこの娘が頑張ってくれていたからだろう。そうでもなければ、いくら世界を救ったパーティーのひとりでも此処までのことを聞いてもらえるとは思えない。
「……その願いは必ず叶えてみせよう。しかし、だな。あー……ヌシにはやってもらいたいことがあるのだ。その自覚はないかもしれぬが、ヌシが戻ってきてくれたことは大きなものであり……まぁ、とにかくこの大老殿のために少しばかり働いてもらいたい。ヌシの性格を考えるに少々難儀かもしれんが……」
どうにも歯切れの悪い大長老。
何をお願いされるのか分からないけれど、私の願いを聞いてもらったのだし、私だって向こうの願いを聞く必要がある。
古龍種や極限化モンスターとかだろうと頑張ります。むしろ、せっかくこの身体に戻ったのだし、今は多くのモンスターと戦いたいくらい。
「無茶な願いを聞いてもらったのだし、私にできることならやる」
「う、うむ。それは良かった。詳しいことはギルドの者から聞くと良い。それでは、今後も狩猟に励むと良い。重ね重ねとなるが、よくぞ戻ってきてくれた」
そんな言葉を聞いたところで大長老の元を後に。
私と大長老のやり取りを見て何がなんだか分からない、といった表情をしているあの娘。
「長くなっちゃうけど説明、した方が良い?」
ご主人さんには私と彼がこの世界の人間でないことを伝えた。この娘もそれは知っていることだけど、私たちから直接伝えたことはない。
「……全部、教えてくれるの?」
「貴女がそれを望むのなら」
この場にあの彼はいないけれど、もう伝えてしまっても良いはず。
「そっかぁ。やっと全部教えてもらえるのかぁ……」
私の言葉を聞き、あの娘は何とも複雑そうな顔をした。
この娘とは長い付き合い。もう気を遣い合うような仲ではない。けれども、このことばかりは触れないようにしていた。お互いに。
「ん~……うん。やっぱり今はまだ聞かない」
「良いの? もう隠すつもりもないし、全部話せちゃうけど」
「うん、いいの。あの彼とね、約束したんだ。今度はちゃんと全部話してもらうって。だから私はもうちょっとだけ待ってみる」
いつの間にそんな約束を……ホント、この娘とあの彼の距離は複雑だ。
近すぎるようにも遠すぎるようにも感じる距離。
それがちょっとだけ羨ましくも思えた。
「……それで、私は何をすれば良いの?」
どんなお願いをされるのか分からないけれど、できるだけ早く終わらせたかったから、早速ギルドの人のところへ。やらなきゃいけないこと、多いなぁ。
「お久しぶりです! いやぁ、貴女が戻ってきてくれて私たちは本当に嬉しく思ってますよ!」
「ああうん、久しぶり」
ただ、ごめん。貴方のこと覚えてない。
心から嬉しそうにくるくると笑っているし、そんなこと言えたものじゃないけど。
「え、えと、それで私は何をすれば良いの?」
「あっ、すみません。つい舞い上がっちゃって……えっとですね、色々とやっていただきたいことがありまして……まずは貴女が戻ってきてくれたことを多くの方へ知らせなきゃいけないので、号外や『狩りに生きる』の取材でしょうか。その後、貴族の方々との会食があり、新しくG級ハンターが増えるのでその式典への参加。また、バルバレで開かれるダレン・モーラン到来によるお祭りや……」
……あれ? なんか、思ってたのと違う。
取材? 会食? 式典への参加? お願いだからちょっと待ってほしい。
その他にもギルドの人は色々言っていたけれど、私はもうほとんど聞いていなかった。
なるほど、大長老がやたらと言葉を濁していた理由はこれか。
「あー……わ、私もできる限り手伝うから頑張ろうね、笛ちゃん!」
こんなことになるのなら、ネコのままでいたかったって心の端っこの方でチラと思った。
――――――――
真っ白とも真っ黒ともいえる空間だった。
立っているのか寝ているのか。浮いているのか沈んでいるのか。
今の自分の状況が全く分からない。
あれ? 俺は何をしていたんだっけ?
意識は何処までも曖昧で、思考がまとまらない。夢か現かも分からず、何が何やら……
今の俺がいるのはそんな世界だった。
自分の姿を確認することはできない。けれども、そんな世界でたったひとつだけはっきりと分かる存在がいる。
「うニャ!」
何処までも曖昧な世界でそんなネコの声が響いた。
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第83話~迷わず進め~
黒でも白でもあり、上も下もない空間。
正直、何がなんだか全く分からなかった。
「うニャ!」
そんな意味の分からない世界にいる1匹のネコ。
そのネコに見覚えは、ない。
今まで自分が何をしていたのかも分からず、どうすれば良いのかが分からない。今はとにかく、この状況の説明をしてもらいたかった。
唯一分かるのもネコがいるということだけ。
「うニャ! むニャむニャ……うニャ!」
意味が、分からなかった。
えっと……そもそもこのネコは何なんだろうか。『うニャ』とか『むニャ』とか言われても俺に何を伝えたいのか分からない。
たぶん、アイルーなはずだし、できれば人間の言葉を使ってもらいたいのだけど……
「……キミには悪いと思っているニャ」
そんな俺の願いが通じてくれたのか、やっと俺にも理解のできる言葉をあのネコが落としてくれた。
悪い? 何のことだ?
「でも、キミの力が必要だったニャ……そして、キミしかいなかったニャ」
俺の、力……?
せっかく意味の分かる言葉を落としてくれるようになったというのに、そのネコの言葉は相変わらず分からなかった。
「本当に悪いとは思っているニャ。ただ、もう少し……もう少しだけ、キミの力を貸してほしいニャ。ボクのためにも――あの子のためにも」
あの子……それは誰のことで、俺は何をすれば良いんだ? 頼む、頼むからもう少し分かりやすく説明してくれ。
お前は……君は誰なんだ?
「小さな身体でできることは少ないけれど、その身体だからこそできることがあるのニャ。だから――迷わず進むニャ」
そんな言葉を聞いたところでその世界は崩壊した。
―――――――――
目が覚めた。
ただ、寝起きのせいかどうにもボーっとしてしまい、今の自分の状況がよく分からない。
えっと、此処は……ああ、飛行船か。それで俺は何をしようとしていたんだっけかな。
フワフワと浮いてしまい、どうにも思考が固まらない。飛行船に乗っているってことは何処かへ向かっているってことだけど、はてさて、何処に向かっているんだ?
相棒ほどではないにしろ、比較的寝起きは良い方だと思っている。そうだというのに、どうにも……今までこんなことなかったんだけどなぁ。
「あっ、ネコさん起きたんだ」
回ってくれない頭を必死に動かしていると、そんな声が聞こえた。
その声は……ああ、そうだ。俺のご主人だ。俺はそのご主人のオトモで、今は……何をやっていたんだっけ?
「ああ、うん。おはよう。それでご主人、俺は何処へ向かっているんだっけ?」
「あー……もしかして、ネコさん寝ぼけてる? 口調がおかし……あっ、おかしくはないんだけど、戻ってる? っていうか……」
そんなご主人の言葉を聞いたところで、やっと頭が回り始めてくれた。
そっか、今の俺はネコで、だから『ボク』だとか『ニャ』だとかいうようにしていたはず。
……いや、ちょっと待て。そんなこと普通忘れるか? どんなに寝ぼけていようが、流石にこれはマズいだろ。変な物を食べた記憶もないし、何が起きてるってんだか……
「う、うニャ。ちょっと寝ぼけているみたいニャ。そ、それでご主人、ボクたちは何処へ?」
「だ、大丈夫? ……んとね、ほら、ギルドマネージャーから『アンタたちの実力を知りたい』とか言われてアカムトルム討伐のクエストに行くところだよ。えっと、ホントに大丈夫? 体調が悪いようならクエストはリタイアした方が……」
心配そうな表情で俺を見つめ言葉を落とすご主人。
あー……思い出してきました。
ご主人と今日もクエストないねー、暇だねー。みたいなことを話していたら急にギルドマネージャーに呼ばれ、そんなことを言われたんだっけ。
それで頼まれたクエストの内容は覇竜――アカムトルムの狩猟。何があっていきなり実力を知りたいなんて言われたのか分からないけれど、クエストがあるのは嬉しかったし、文句無しでそのクエストを受けることになった。つまり、今はアカムのいる溶岩島へ向かっているところ。
……いや、ホントなんでそんなことも忘れていたんだよ。
「心配無用ニャ。ちょっとボーっとしていたけれど、もう大丈夫ニャ」
「それならいいんだけど……」
心配かけてごめん。でも、もう大丈夫です。たぶん……
「相手はあのアカムトルムだもん。私だけじゃ絶対に倒せないよ」
ん~……ご主人なら倒せそうだけど。
と、いうか――
「ご主人はアカムと戦ったことはあるのかニャ?」
確か、MH4のイベントの中にアカムと戦うものがあったはずだけど……何のイベントだったかなぁ。あまり印象的なイベントじゃなかったせいかどうにも思い出せない。
「うん。一応あるよ」
おお、それは良かった。
詳しい話を聞いたことはないけれど、ご主人はMH4の村クエ全イベントをクリアしているって考えて良さそうだ。
「ただ、その時は片手剣だったし、持っていった爆弾だけじゃ全然足りなくて……もうなんか必死で、よく覚えてないんだ」
あー……そういえば、ご主人の戦闘スタイルはSBでしたね。
アカム相手にSBとかよくやるよって思うけれど、そんなご主人のことは嫌いじゃない。自分の頑張ろうって決めたひとつの筋を通したい気持ちはよく分かるから。
「確かに、アカムは強いモンスターだけど、ご主人なら大丈夫ニャ。今はブシドースタイルかニャ?」
「大丈夫かなぁ……うん、出発前にネコさんから言われたしブシドーだよ」
ああ、うん。じゃあ大丈夫だ。
確かにアカムは強い。強いモンスターなんだけど……ブシドーハンマーなら負ける気がしない。
ATMなんて呼ばれていた頃や、閃光ハメにより1分もかからず倒されていた頃と比べれば、MHXのアカムは強いと思う。MHXでもHR解放後じゃないと戦えない相手ですし。
流石は古龍に匹敵するとまで言われるモンスターだけあり、その体力は多く、一発の攻撃がかなり重い。
とはいえ、その攻撃一発一発は見極めやすいし、ブシドー殺しの多段攻撃もほとんどない。
つまりですね、武器種とスタイルによってはかなり楽な相手だったり……貫通ヘビィでも担いで来れば一方的にボコボコにできるくらいだと思う。
「アカムはハンマーと相性の良い相手ニャ。潜り時と突進さえ気をつければ頭にずっと張り付いていられるニャ」
嬉しいことに、昔からアカムはハンマーと相性良い数少ないモンスター。相手の攻撃さえ見極められれば、弱点である頭を攻撃し続けられます。頭は大きいし、高いスタン耐性なんてなかったかのようにスタンが取れる。どっかの頭は小さく飛んだり、当たり判定のおかしいブレスをしてくる崩竜さんとは大違いだ。
「いや、それはちょっと怖いのですが……」
まぁ、そう思うのも仕方無いけど、ブシドースタイルなら相手の動きが分かりやすい頭の前にいる方がむしろ安全な気もする。アカムはそういう相手なんです。
「騙されたと思ってやってみるニャ」
「うー……が、がんばります」
……残念なことにハンマーと相性の良いモンスターは少ない。そんなこともあってハンマーを使うハンターも少ないんだろう。
けれども、ハンマーは相性の良い相手なら本当に面白い武器なんだ。
確かに強い武器ではない。でも、これほどに使っていて飽きない武器はない。
「そういえば、ご主人は誰の依頼でアカムと戦ったのニャ?」
MH4はそれなりにやったけれど、村クエのストーリーを全て覚えているわけじゃない。ギルクエの発掘防具集めや、全モンスター100頭マラソンで精一杯でした。
「えとね、チコ村っていうアイルーちゃんたちの暮らす小さな小さな村があるんだけど、その村にいるアイルーちゃんの依頼で戦ったんだ」
あー、思い出した。そういえば、あの臆病なオトモアイルーの依頼でしたね。
ゲームを進めているときは、どうせクシャが最後の依頼なんだろうなぁ、なんて思っていたらアカムで驚いた覚えがあります。
アカムトルム……か。
そんなことを考えたとき、頭の奥がズキリと痛み、思わず顔を顰めた。
む、むぅ、まだ寝ぼけているのかな? 別段俺はアカムトルムに特別な感情を抱いているわけじゃないんだが……この世界へ来て初めてアカムと戦った時も、確か閃光ハメを使い何の問題もなく倒したはずですし。
「うニャ。一度戦ったことがあるなら大丈夫ニャ。もうあとは迷わず進むニャ!」
「はぁ、私だってそうしたいけど……でも、そうだね。此処まで来たんだもん。よっし、頑張りますっ!」
うん、頑張れ。胸張って、自信持っていきましょう。
ご主人にはそれだけの実力があるのだから。
迷わず進め。
俺も誰かにそんな言葉を言われた気がするのだけど……アレは誰の言葉だっただろうか。
そんなことを思い出すのはもう少しだけ先の未来で、この小さな身体で歩んだお話が終わる時。
実感なんてほとんどなかったけれど、どうやら終わりが近づいてきたらしい。
分かってしまった方も多いかと思いますが、分からない振りをしていただければ、と思います
では、次話でお会いしましょう
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第84話~前にしか進めない~
あれは、いつのことだったかな。
それほど昔の記憶ではないはずなのに、そんなことも思い出せやしない。今だってそうだけど、本当に色々あったもんね。自分のことではあるけれど、私だってなかなかに変わった人生を歩んでいると思う。
それは、時間の流れが遅く感じるあの村の海岸。いつもいつも下ばかりを向いてしまい、その真っ白な毛並みが特徴のアイルーさんが私に言ったんだ。
私の勇気を分けてほしい、って。
臆病な自分が嫌で、そんな臆病を何処かへ連れて行ってほしいから。
それでその時の私はアカムトルムと戦った。
勝てる気なんて全くしなかったし、どうやって戦ったのかだって覚えていない。ただただ必死だった。あのアイルーさんのため、私のできる限りを出して頑張ろうと。
私の勇気をあのアイルーさんへ渡すことができたかどうかは分からない。それでも、私にできる限りはやれたんじゃないかなって思うんだ。
そして、どうにかアカムトルムを倒すことができた後、そのアイルーさんは暫くの間、私のオトモになってくれた。
今はチコ村に戻っているはずだけど、多分、あのアイルーさんなら大丈夫。きっときっとその小さな身体の中にあるおっきなおっきな勇気でチコ村にいる皆を守ってくれているはず。
そんなことを考えてしまったのは、今回戦う相手があのアカムトルムだからってことなんだろう。
勇気、か。
「でも私、臆病なままだよ。ずっとずっと、ずっと……」
無意識のうちに溢れた独り言。
このクエストをクリアすることができれば、そんな臆病な私と別れることができるのかな。
目的地である溶岩島に近づいている影響か、涼しかったはずの風も随分と温かくなってきている。此処まで来てしまったらもう、戻ることもできない。
臆病な私。
そんな私は確かに好きじゃない。けれども、そんな私だってきっと私なんだ。そんな私を私が追い出してしまったら、誰がその私を拾ってくれるのだろうか。
その答えはきっと出ない。
あのアイルーさんみたいに、自分の中にある臆病を何処かへやってしまうのも大切なこと。けれども、その臆病だって私の一部だというのなら、大切にしてあげたいなって私は思うんだ。
それは望みすぎだろうか。
「ご主人、そろそろ目的地に着くニャ!」
「うん、了解。ふぅ……よっし、頑張って行こっか!」
「うニャ!」
最初は心配だったネコさんの様子も今では元通りに見える。
あの時はひとりだった。でも、今はひとりじゃない。それが何よりも頼もしく嬉しく……ずっと続けば良いなって思ってしまう。
ただ、それじゃあ私は成長しないんだろうなぁ……
今、やることではない。
でも、今やらないといけない気がした。
だから、このクエストを通して、私っていう存在と真正面から向き合ってみようと思う。
あのアイルーさんが変われたように、私も変わることができるのかなって思ったから。
「行けそうかニャ?」
クーラードリンクと鬼人薬を飲み、一応の準備は完了。ただ、心の準備ができたかっていうと、そうではなかったり……
相手はあのアカムトルム。いくらネコさんがいるとはいっても、怖いものは怖い。
それでも私は前に進むしかない。だから――
「はいっ! 行けるよ!」
無理矢理でもなんでも、いくら臆病な自分が足を引っ張ろうとしても、私は止まらない。
アカムトルムとブシドーハンマーでの戦い方は事前にネコさんから色々とアドバイスをもらった。
アカムトルムの攻撃は一発一発がすごく大きい。けれども、しっかりと動きを見ればジャスト回避も難しくなく、頭に張り付いていられるんだって。
それができる自信はない。ベルナ村に来てからハンマーをずっと使っているけれど、あのハンターさんのような動きはまだまだできません。
でも、やらなきゃできないんだ。私にとってあまりにも高い目標だけれど、どうせ目指すのならそのくらいが丁度良い。私はそう思うんだ。
そして、ネコさんに返事をして直ぐ、私たちはベースキャンプからアカムトルムのいるエリアへ飛び降りた。
周りが溶岩で囲まれているせいか、クーラードリンクを飲んだにも関わらず、身体の芯まで届く熱気。暑さと緊張性で、もう手には汗をかき始めている。
そんな場所にアカムトルムはいた。
「最初は咆哮があるから、近づいてソレをジャスト回避ニャ!」
私に届いたネコさんのアドバイス。
クエストが、始まった。
前脚を地面に付けていた状態から、後ろ脚だけで立ち上がるアカムトルム。そして、今まで戦ってきたどんなモンスターよりも大きな咆哮をあげた。
ネコさんから言われたように、その咆哮をどうにかジャスト回避。
「咆哮後に降りてくる頭には判定があるから、攻撃は完全に頭が降りてきてからするニャ」
ジャスト回避から直ぐにハンマーを右腰へ構え、アカムトルムの頭が完全に降りてきたところで、大きく踏み込みながらスタンプ。
相手はベルナ村に来てから、一番大きく、一番強いモンスター。手足が震え、呼吸が乱れる。
振り下ろしたハンマーがアカムトルムの頭へ当たり、打撃武器独特の光が舞った。
ただ……どうしてなのかは自分でも分からないけれど、調子は悪くなさそうだ。
私は頭が良いわけじゃない。一生懸命考えたって空回りしてしまうことばかり。
人一倍勇気があるわけでもない。いつだって私は臆病で、直ぐに緊張してしまうし、手足も震える。
そんな不器用な私。
だから、前にしか進めない。
カチリ――と自分の中にある何かが噛み合った。
視界から消える色。遠ざかる音。
そんな世界はいつもよりずっと鮮明で……今ならなんだってできるような気がした。
――――――――――
「噛み付き! その後尻尾攻撃が来るから、頭を追いかけるように回避するニャ!」
相手が相手ということもあり、クエストが始まる前、ご主人は見るからに緊張していた。ゲームの中ではなんとも残念な扱いをされることが多いとはいえ、アカムが強いモンスターであることは確か。だから、それも仕方の無いことだろうって思っていました。
けれども、いざクエストが始まってみると、ご主人の動きがかなり良い。
タゲがご主人へ向くように、俺はご主人の真後ろからブーメランを投げつけているから、ご主人の動きがよく見える。
そんなご主人へアカムが攻撃をしようとする度に、アドバイスをしているわけですが、そのアドバイス通りの動きを完璧にしてくれます。
いくらアドバイスをしているといっても、言われたことを実際に行動とするのは簡単なことじゃないというのに。
あれ? ご主人ってこんなに上手かったっけ?
いや、まぁ、ご主人が上手いのは確かなんだけど、此処まで理想の動きをするとは……てか、俺がハンマーを担いだ時より良い動きにも見える。
アカムさんって頭は大きいけど、首に吸われることが多いんだよね。そうだというのに、ご主人の攻撃は今のところ全てが頭へ入っている。いや、すげぇな、おい。
「怒った! 最初と同じように咆哮をジャスト回避するニャ!」
ダメージもかなり入っているのか、アカムはもう怒り状態へ。この調子なら1回目のスタンだってそろそろ取ることもできそうだ。
なんて予想は当たり、咆哮が終わり、アカムの頭が降りてきたところへご主人の強溜めスタンプが当たってスタン。
「ナイスニャ!」
おお……もう1回目のスタンか。テオの時は散々だったけれど、今日のご主人はちょっとすごいぞ。
いくら一度戦ったことがある相手とはいえ、片手剣とハンマーでは戦い方が全然違うはず。それなのに、此処までの動きができるとは……なるほど、これが主人公の力か、
てか、さっきから、俺が騒いでいるばかりでご主人が何も喋ってくれない。
いつもだと、俺のアドバイスを受けたらちゃんと返事をしてくれるのだけど……それにご主人の雰囲気がちょっと怖い。
何というか、白疾風と戦っていた時の妹さんに近い感じ。多分、クエストに集中しているってことなんだろうし、俺の言葉は届いているようだから、問題はない。でも、なんだかご主人が遠くへ行ってしまったみたいでちょっと寂しいです。
な~んてことを考えながら、スタンをしたアカムの頭にブーメランを投げつけていると、足元からマグマが吹き出し、ふっ飛ばされた。これだからこのマップは……
さてさて、どうやらご主人のことはあまり心配しなくとも良さそうだ。
そうだというのなら、俺自身が精一杯頑張るだけ。
短く、呼吸を一度。ご主人に何があって此処まで良い動きができているのかは分からないけれど、そんなご主人の足を引っ張ることだけは避けたい。いくら慣れている相手とはいえ、もう一度気合を入れ直し、集中。
きっと俺がこのご主人のオトモでいられる時間は長くないんだ。確実に終わりが近づいている。
もうすっかり慣れてしまったこの小さな身体。でもその中身は変わっていないはずなんだ。お前なんかではもう止まらない。
未来もゴールも見えないけれど、今はただ、全力で走ってみるとしよう。
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第85話~ボーダーライン~
ハプルやドスイーオスのような例外はいるものの、ほとんどのモンスターにおいて“頭”というのは弱点になる。モンハンなんてものは高難度になればなるほど、より早いタイムを求めれば求めるほど、その弱点にどれだけ攻撃を入れられるかが大切。
そう考えると、相手の弱点である頭にだけ攻撃をし続けるハンマーという武器は実に合理的なのかもしれない。まぁ、いくら弱点を攻撃したところで、ハンマーの火力じゃなぁ……って思ってしまうんだけどさ。
そんなハンマーを使い、モンスターの頭を攻撃していると、相手はスタン状態になる。スタンは取れば取るほど相手の耐性値が上がってしまう関係で取り難くなってしまうけれど、ソロでハンマーを担いだ場合、普通なら2回は取ることができる。
そして、このスタン回数ってのはおおよその目安になるんだ。
自分がどれだけ頭に攻撃できているのか、とか。そのクエストの調子だとか……相手の残り体力や、自分の火力の目安に。
自分の火力と、取れるスタンの関係は反比例。火力が出ていれば出ているほど、取れるスタンの回数は減ってしまう。威力が低く、そこそこのスタン値である横振りを多用すればその限りではないけれど、そんな戦い方をするハンターはいないだろう。
つまり、スタンを取りすぎるってことはそれだけ自分の火力が出ていないってこと。
そして、俺はそのボーダーラインが4スタンだと思っている。
4スタンを取ってまだ相手が倒れないとしたら、自分の火力が足りていなかったってこと。それは技術的にではなく、武器自体の倍率の低さが原因であることが多いんじゃないかな。
4スタン。それが今使っている武器の火力が足りているかどうかのボーダーライン。俺はそう考えていた。
「っつ……ナ、ナイスニャ!」
そして今、そのボーダーラインを――越えた。
アカムと戦い始めて、もう30分近くになるんじゃないだろうか。
ご主人の動きがかなり良いこともあって此処までは0乙。危ない場面だってない。それでもって、これで4スタン。
ただ、どう考えたって使っている武器の火力が足りていない。
正直、予想はしていた。相手は体力の多いあのアカムで、ご主人と俺の使っている武器は獰猛化モンスター素材がいらないところまでしか強化していないのだから。
それでも、ソロじゃなく俺もいる。そして、相手は相性の良いアカムだ、なんて思っている自分もいた。
いやぁ……完全に舐めていましたね。ご主人がどう感じているのか分からないけれど、流石に俺は厳しい状況です。
これほどまで長い時間戦っているのにも関わらず、ご主人の集中力は多分まだ切れていない。流石です。俺は……ちょっとヤバい、かな。だってパーティーで4スタンなんて体験したことないのだから。
「ソニックブラスト! 顔から離れるニャ!」
「……っつ! 了解ですっ!」
4スタンを取ってからのラッシュ受けてもまだまだ元気に見えるアカムさん。ホント、良い加減倒れてもらえないだろうか。
そして、このクエストが始まってから初めてご主人が俺の言葉に反応してくれた。それは嬉しいことではあるのだけど……多分、集中力も切れ始めているってことだよなぁ。
上がりに上がった耐性値の関係で、もうスタンを取るのは無理だと思う。終わりが見えない。厳しい状況です。
「ご主人、あと少しで倒せると思うから頑張るニャ!」
ソニックブラストを終えたアカムの頭へスタンプを叩き込むご主人へ言葉を送る。自分に言い聞かせるような言葉を。
まっずいなぁ、このままじゃ倒しきれずにクエスト終了だってあるぞ。
どうにも嫌な予感ばかりが頭の中で膨らむ。
そんなことを考えていると、アカムの潜り攻撃にご主人が巻き込まれた。
「定位置! マップの下! 回復は追いかけた後にするニャ!」
怒り状態で定位置への移動だから、次の行動はほぼ確定でソニックブラスト。そうだというのなら、とにかく安置へ移動しないと。此処で1乙でもしたら精神的にかなりマズい。
いくら火力のない武器を使っているとはいえ、4スタンも取っているんだ。アカムの残り体力だって多くはないはず。そのはずなんだ。
俺の言葉へ返事はしてくれなかったものの、その言葉はしっかりと届いているらしく、潜ったアカムを追いかけるようにご主人も移動。
溶岩島エリアの下の方って溶岩が近く、戦える場所が狭いから苦手なんだよなぁ。まぁ、今はそんな愚痴を溢している余裕だってないわけですが。俺も俺で色々とギリギリなんです。
マップ下へ移動したアカムは予想通り、ソニックブラストを放った。怒ってなければ音爆で大ダウンを取れたのだけど……まぁ、こればっかりは仕方無い。
4スタンも取ってしまったことで、本当にゴールが見えない。それが精神的にキツい。
ソニックブラストを終えたアカムへご主人はハンマーを振り下ろし、俺はその真後ろからブーメランを投げつける。お願いだから早く倒れてくれと、もう祈るような気持ちで。
そんな思いが届いてくれたのか、ご主人のホームランが入ったところで、ついにアカムは悲鳴を上げ倒れてくれた。
つまり、討伐完了。
……ゴールが全く見えず、時間切れまであるんじゃないかとすら思えたのは本当に久しぶりだ。それも相手は1頭のみ。超強化個体のイベクエをクリアした気分。
ああ、ホント疲れたなぁ……戦っていて楽しいとかじゃなく、今回ばかりはただただ疲れました。こんなにも大変なクエストをクリアできたのだし、もう少し達成感だとかそういうものを味わいたいところだけど、今はその実感すら湧かないほど疲れたんです。
「あっ……え? た、倒した……の?」
「うニャ! これでこのクエストは完了ニャ!」
ハンマーを構えたまま、棒立ちでもう動かなくなったアカムを見つめるご主人から言葉が落ちた。
確かに、俺たちはアカムを倒すことができた。でも……なんだろうね? このフワフワと浮いてしまうような感覚は。そんな感覚のせいで本当にアカムを倒すことができたのか実感が湧かないんだ。
それはソロで超高難度やドギツい縛りをしてクエストをクリアできた時の感覚とよく似ている。終えた直後は自分でもよく分からず、後から少しずつ少しずつ実感の湧いてくるあの感覚に。
「はぁ。そっ、か。それは良かった……」
そして、そんな言葉を落としたところで、ご主人の身体から一気に力が抜けた。
傍で戦っていたこともあり、小さな身体を使ってどうにかご主人の身体を受け止める。これだけ長い時間集中し続けていたんだ。そりゃあ疲れもするだろう。
お疲れ様。
「うー……あー……ほっ! とりゃっ! あっ、あ? はっ!」
「おはようニャ」
なんだかよく分からないことを呟いていたけれど、ご主人が起きてくれました。
現在は飛行船の上、溶岩島からの帰り道。
クエストを終え、倒れてしまったご主人を運ぶのは大変でした。ネコタクアイルーや飛行船を操縦するネコにも手伝ってもらいどうにか飛行船へ。お神輿を担いでいるみたいでちょっと面白かったけど。
残念ながら、ご主人が倒れたせいで剥ぎ取り回数は減ってしまった。ただまぁ、アカム素材はそんなに使わないだろうし、良しとしましょう。あの時のご主人なんてどうやっても起きそうになかったし。
「あ、うん。おはよ……う? って、あっ! あ? あれ? アカムトルムは……た、倒せた……んだっけ?」
「うニャ。ちゃんとアカムは倒せたから大丈夫ニャ」
戦っていた時は本当にキツかったけれど、結果だけみれば0乙なのだし、案外余裕だったのかもしれない。じゃあもう一回どうぞ、と言われたら遠慮しますが。ただ、ハンマーを使って良いのなら喜んでいくんだろうなぁ。
「おおー! そうだよね! 私たち倒せたんだよねっ!」
「うニャ」
ようやっとご主人も実感が湧いてきたのか、心の底から嬉しそうに笑いながら言葉を落としてくれた。
ゲーム中じゃアカムなんてそれほど苦労する相手じゃないだろう。でも、今のこの装備であのアカムを倒せたことは誇って良いことなんじゃないかな。
いやぁ、ホント、苦労しましたね。オストガロアなんかよりよっぽど強いんじゃないだろうか。依頼された時のことをよく覚えてないけれど、何を思ってあのギルドマネージャーは俺たちにアカムのクエストに行かせたのやら……オストガロアとの戦いが迫ってきているとか、そんな理由なら嬉しいです。
「そっかぁ。倒せたのかぁ……ふふっ、なんだか実感が湧かないや」
そんなものだよ。でも、クリアできたことは事実なんだ。きっとそれはご主人にとっても大きなものになると思う。
きっかけを掴むのは難しい。ただ、そのきっかけってのは案外簡単に掴むことができると思うんだ。このクエストがご主人のきっかけになってくれたら良いなって俺は思います。
さて。
さてさて。
さっきは分からない、なんていったものの、今までの経験や、ゲームのシナリオなんかを考えるに、オストガロアとの戦いはもう目の前だろう。
それはつまり、ご主人との別れや、この世界でこれからも俺が歩いていけるかどうか分かるのも、もう目の前まで来ているってこと。
この小さな身体となってからご主人には本当にお世話になっている。
だから、言わなきゃいけないことがあると思うんだ。例え、このお話がどんな結末を迎えるとしても。この世界を歩んでいくと決めた。けれども、その願いが叶うのか分からない。出会いが突然訪れるものならば、別れだって突然訪れてしまうもの。
今までは準備をする暇もなく、終わりを迎えてしまった。ただ、今回ばかりはそんな結末にしたくない。だから、もう少しだけでも時間が残っていると嬉しいなって思います。
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第86話~はじめの一歩~
あのアカムトルムを倒したのだし、いつもならパーっと打ち上げをするところだけど、今回ばかりはクエストから戻って直ぐにギルドマネージャーの元へ向かった。
俺たちの実力を確かめたい。
俺たちがアカムのクエストを受けたのはそんな理由。そして、実力を確かめてどうしたいのかってのを考えると……まぁ、その先に待っているのはあのラスボスなんだろうなって思う。
「……戻ったかい。待っていたよ」
ギルドマネージャーの元へ行くと直ぐにそんな言葉をかけられた。
いつもなら緊急クエストクリアの報告とかはご主人だけに任せていたけれど、今回ばかりは俺も一緒です。だって、これでオストガロアと戦うのはご主人だけとか言われるのはマズいわけですし。もしそんなことを言われてしまったら、何としてでも説得する必要がある。
「アンタたちならまず大丈夫だろうと思っていたけれど、まさかこんなにもあっさりとあのアカムトルムを倒すとはねぇ……流石といったところさ」
あー、あっさりじゃなくかなり苦戦したわけですが……正直、俺の心は折れかけていました。まぁ、倒せたのは事実なのだし別に良いか。いらないことは言わないようにしよう。
「……アンタたちも聞いてるとは思うけれど、此処最近、飛行船とモンスターの消失が立て続けに報告されている」
ギルドマネージャーさん大変です。俺はそんなこと初めて聞きました。
ご主人はそのことを聞いていたのだろうか。まぁ、ゲームと同じ状況なわけですし、今更驚くことでもありませんが。
……正直なところ、俺はこの世界における古龍の脅威ってものを理解していない。ダラの時もゴグマの時も、ゲームと同じだなぁ、くらいにしか思っていなかった。
けれども、きっとオストガロアも含め、俺たちが倒してきた相手ってのは、この世界にとってまさしく脅威なんだろう。やっぱりそんな実感なんて湧かないんだけどさ。
「つまりね、オストガロアが活動を再開したってことさ」
うーん……多分、生唾を飲み込み、『つ、ついに来たのかッ!』みたいな感じで驚かなければいけない場面なのだろうけれど、今までギルドマネージャーと全く話をしていなかったことと、ゲーム通りってことがあり、どう反応して良いのかが分からない。いや、これが大事件だってことはちゃんと伝わってきますよ? ただほら、やっぱり俺にはオストガロアの恐ろしさってのが分からないんだ。
うむ、こういう時も黙って聞いているのが一番か。
「今はまだ竜ノ墓場へ向かった調査団の報告待ちさ。しかし、だ。もうゆっくりしているような時間はあまりないだろうね。……そこで、我々はオストガロアを討伐することに決めたんだよ」
ん~……これはどうなんだ? 今直ぐに出発しなければいけない感じなのか? できればご主人と俺の武器を強化する時間をもらえると嬉しいのですが。
今の俺とご主人の状態でもオストガロアを討伐することはできると思う。ただ、もしかしたらこれがネコの姿で受ける最後のクエストとなるかもしれない。その先に何があるのか……それは分からない。そんなわけで色々と準備をしたいんだ。俺にはまだやり残していることが多すぎる。だから、もう少しだけ時間がほしい。
「そして、オストガロアの討伐はG級ハンターが集まる大老殿に依頼したよ。ギルドからの命令ってのもあってね」
……うん? あれ? 何それ。ちょっと待ってね。えっ? 俺たちがオストガロアのクエストに行けるんじゃなかったんですか?
いや、そりゃあ、俺たちなんかより大老殿のハンターに任せた方が良いとは思うけど、流石にそれは……
だいたい、じゃあなんでアカムのクエストへ俺たちを行かせたんだってなる。
「ただねぇ、これはアタシたち龍歴院の管轄するエリアで起きたこと。アタシとしてもできれば龍歴院のハンターにオストガロアの討伐を行ってもらいたかった。けれども、それを任せられるようなハンターはウチにはいないし、ギルドの命令を無視するわけにもいかないのさ」
ああ、なるほど。そういう展開、か。
随分と回りくどい言い方をしてくれたものだ。バルバレのギルドマスターもそうだったけれど、ギルドを管理している人ってのはそういうクセでもあるのだろうか。
「そんな時、大老殿の大長老から知らせが届いた。オストガロアの討伐に大老殿からはふたりのハンターを派遣するってことと……龍歴院にいるハンマーを使う女性のハンターとそのオトモアイルーを一緒に連れて行ってほしい、とね」
今までは静かだった心臓がそんなギルドマネージャーの言葉を聞いたところで大きく跳ねた。
ブツブツに切れていた断片が繋がっていくこの感覚は嫌いじゃない。
「ふ、アタシが何を言いたいか、もう分かるだろう? 相手はあのオストガロアだ、いくら大長老からの願いとはいえ流石に実力のないハンターを送り出すことなんてできない。そして、アンタたちの実力はしかと見せてもらった。だから……頼んだよ、お若いの。いや――我ら龍歴員のハンター」
あの大長老が今の俺とご主人のことを知っているとは思えない。そうだというのに態々、俺たちを指名したってのはきっと……
別れてからまだひと月も経っていないっていうのに、随分と仕事の早いことで。それでも、あの彼女には感謝するばかりだ。
ようやっと今の自分の状況を理解することができたから、ご主人の様子を確認してみることに。そんなご主人だけど……ポカンと口を開け固まっていた。
……ああ、うん。そうだよね。そりゃあそうなるよね。話についていけないよね。
「あの、えと……え? 私がオストガロアの討伐クエストへ行くってこと、ですか?」
「そうだよ、お若いの」
そして、ギルドマネージャーへ対してそんな質問をし、その答えを聞いたところでまた固まった。
ご主人がどれくらいオストガロアのことを知っていたのかは分からない。でも、オストガロアが危険なモンスターだってことくらいは分かるはず。超頑張れご主人、超々頑張れご主人。
「はぁ……アンタはもっと自分に自信を持ちな」
そして、固まってしまっているそんなご主人を見て、ギルドマネージャーはため息をひとつ。
ご主人に自信を持ってほしいっては俺も同意見です。ご主人はそれほどにすごい人なのだから。本人にはその自覚がないようだけど……
「確かに、あのパーティーと比べたらアンタは小さい存在かもしれないよ。けれども、だ。古龍――クシャルダオラからドンドルマを守り、あの極限化個体に対抗できる抗竜石の開発の中心にいたのは間違いなくアンタだ。胸を張って良い。アンタは立派なハンターだよ。そんなアンタだからアタシもこのクエストを頼むことができるのさ。どうか、自信を持ってこのクエストを受けておくれ」
うむ、ギルドマネージャーも良いこと言うじゃあないか。
このご主人はMH4、4Gの主人公だったんだ。確かにダラやゴグマみたいに世界を巻き込む天災を防いだわけじゃない。
けれども、このご主人があの主人公だとしたら、それに負けないくらいの活躍をしてきたはずなんだ。それも俺とは違いひとりで。そんなご主人が立派なハンターじゃないわけないだろう。
「は、はいっ! 精一杯頑張ります!」
「ああ、頼んだよ」
うむうむ、なんだか良い感じだ。
ゲームをやっていた時、このギルドマネージャーはなんだか冷たく怖いイメージがあったけれど、こうして生で見るとその印象は全く違う。カッコイイ人じゃないか。
「さて、オストガロアの討伐だけどね、大老殿からハンターが来るのはもう少しかかるそうだ。どの道、竜ノ墓場を調査中の調査団が帰ってくるまで待つ必要もある。ただ、遅くとも7日以内にはアンタたちにはオストガロアの討伐へ向かってもらうことになるだろうさ」
おっ、思ったより時間があるじゃないか。それだけあるのなら、何かのクエストへ行き、武器を強化するくらいはできそうだ。
まぁ、ゲームみたいに話を聞いたら直ぐ出発ってのもおかしな話か。
さてさて、ギルドマネージャーの話も聞けたし、ご主人と今後の予定を決めないとだ。多分、大老殿から派遣されるハンターは……あれ? ふたりってことは、あのパーティーのうち誰かひとりは来ないってことなのか。いや、相棒の妹さんや見たこともないハンターが来る可能性だってあるし……ま、まぁ、それも直ぐに分かるか。今は自分たちのことに集中しよう。
そんじゃま、アカムを倒した打ち上げをまだやっていないのだし、それをしながら今後の予定でも決めるとしようか。なんて思いながらギルドマネージャーの元から離れようとした時だった。
「ちょいと待ちな、そこのアイルー」
ギルドマネージャーに呼び止められてしまいました。しかも、ご主人ではなく何故か俺の方が。
すっごく嫌な予感がする。
「ど、どうかしたのかニャ?」
流石にネコとかないから、お前は行っちゃダメ、なんて言われたらどうしよう。例え此処で人間の姿に戻ったとしても行けそうにないし……あれ? もしかして結構マズい状況?
「今は状況が状況だけど、時間さえあればアンタのことも調べたいものだよ。アンタに何があったのかはアタシにも分からない。ただ、きっとアンタはそういう
「……何を、言いたいのかニャ?」
「アンタがクエスト中どんなことをしてきたのかくらい、アタシたちは把握してるってことさ」
あー……つまり、それってしっかり見られていたってことですよね?
俺が、元の姿――人間に戻った時のことを。あの時、観測船は飛んでいなかったと思うんだけどなぁ。
「えっとぉ……俺が誰だかまで分かってる感じだったり?」
「もちろん分かっているさ、龍歴院を馬鹿にしないでもらいたいね。……運命、なんて言葉はあまり使いたくないが、きっとアンタはそういう運命にあるんだろう。世界規模の天災と立ち向かわなければいけない運命に」
……これも運命、なんですかねぇ。
ただまぁ、そうだよなぁ。例えこの世界に来ることができたとしても、ゲーム通りに進むって決まっているわけじゃないのだから。俺の知らないところで名前も知らないハンターがダラやゴグマを倒すことだって十分考えられる。
けれども、これまでも今回も、俺はあのゲームと同じような道を歩んできている。そう考えると、運命って言葉はしっくりくるかもしれない。
「2回も世界を救ったんだ。3回も4回もアンタにとっちゃ変わらないだろう。だから……もう一度この世界のことをよろしく頼むよ」
「うニャ!」
正直なところ、世界を救うだとかそういうことはあまり考えていなかった。オストガロアを倒した先にある未来。俺が考えていたのはそのことばかりだ。
ただ、ギルドマネージャーの言葉を聞き……頑張らなきゃなって思えた。
あまりにも規模が大きすぎるせいで、想像なんてできない。けれども、この世界を歩んで行くと決めたのだし……まぁ、この世界のため頑張ってみるのも悪いことじゃあないはず。
未来がどうなるのかなんて分からない。
今だって不安でいっぱいだ。
それでも明るい未来のため、最初の一歩ってことで……もう一度、この世界を救ってみるとしよう。
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第87話~ひと狩りいこうぜ~
「あうぅ……おおぉ……」
ギルドマネージャーとの会話を終え、ご主人とアカムを倒したことの打ち上げをすることに。ただ、ちょいとばかしご主人の調子がよろしくない。せっかく注文したビールも飲まずに机に突っ伏しちゃってます。
まぁ、いきなり大事を任されてしまったのだし、それも仕方の無いことなんだろう。
「ホントに私なんかがこんな大役を任されちゃって良いのかなぁ……」
「ギルドマネージャーも言っていたように、ご主人なら大丈夫ニャ。胸張っていれば良いニャ」
だって、貴方にはそれだけの実力と器があるのだから。
この世界はゲームと違うところもあるけれど、間違いなく貴方は主人公だった。そして、きっと今だって……
俺はそう思います。
「ギルドマネージャーからあんなお願い事をされ、嫌だったかニャ?」
「そ、そんなことはないし、むしろ嬉しかったりするけどさ……」
もごもごと言葉を濁し、少し恥ずかし気な様子でご主人は言葉を落とした。
ご主人はあの相棒と同じように、自分の実力をよく理解してなく、また自分に自信を持てていない。比べたって仕様がないけれど、そんなところはよく似ている。
ただ、このご主人があの相棒と違うのは――
「むぅ……よっし! そうだよね。せっかく私に頼んでくれたんだし、精一杯頑張ります!」
「うニャ。ご主人はそれで良いと思うニャ」
不安を抱えながらも、例え自分に自信を持てなくとも前へ進むことができること。
俺にはゲームで得た知識があるからオストガロアと戦うことには別段、不安だとかそういうものはない。でも、もし俺がご主人の立場だったら、やっぱり止まってしまうと思う。目の前へ急に現れた壁に対してきっと上を見ることしかできない。
そうだというのに、このご主人は前へ進む。本当にカッコイイ人だと思うし、そんな人が俺のご主人であることが誇らしかった。
「えっと、でもまだ時間があるんだよね? その間、どうしよっか」
そうなんだよねぇ。ゲームとは違いフラグを回収したら直ぐにイベントが起こるわけじゃない。
けれども、今回はそんなことが本当に有り難い。
「オストガロアと戦う前に、ご主人とボクの装備を強化するのが良いと思うニャ」
それが一番だと思う。
此処で長い時間休みにしてしまうのはもったいないし、身体だって動きを忘れてしまうかもしれないから。
「了解です! んと、じゃあライゼクスを倒すのが良いのかな?」
ご主人が今担いでいる武器は、エムロードビート4。その強化に必要な素材は確か獰猛ライゼクス素材。
色々と考えてみました。どんな武器を使ってもらうのが良いのかなって。普通に考えたらこのままエムロードビートを強化していくのが良いってのも分かっている。
……ただ、せっかくご主人がハンマーっていう武器を使ってくれているなら、って考えてしまうのですよ。
だから、これは俺の我が儘みたいなもの。
「獰猛化ナルガクルガのクエストに行きたいって思っているニャ」
「あら? ナルガクルガ? え、えと、どうして……なのかな?」
俺の武器を強化することもできるから。とか、アカムを倒したことで大竜結晶が手に入ったから強化しやすい。とか、期待値ならライゼハンマーより高いからとか、理由をつけようと思えば色々な理由をつけることができる。
でも、俺がご主人にナルガハンマーを使ってもらいたいって思うのは――
「……俺が元の世界で一番使っていた武器だから、かな」
それだけの理由です。
ハンマーを担いでくれている貴方に、自分の好きだった武器を使ってもらいたいって思っているだけ。そんな我が儘。
「そっか……はい、わっかりました! それじゃあナルガクルガのクエストに行こっか!」
そして、俺の言葉を聞いたご主人は本当に良い笑顔でそんな言葉を落としてくれた。
断られることはないだろうと思っていたけれど、すんなり受け入れてくれたようでほっとしました。
「そっかぁ、そうかぁ。ネコさんが使っていた武器かぁ……ふふっ、私なんかに使いこなせるかな?」
「心配しないでもご主人なら大丈夫ニャ」
相手は何度か戦ったことのあるナルガクルガ。例え獰猛化だろうが失敗するようなことはないはず。
ご主人もハンマーを使うのが本当に上手くなったと思う。こうしてハンマー使いのハンターが増えてくれたことは俺としても嬉しい限りです。
ありがとう。
ハンマーという武器を使ってくれて。
「よーし、それじゃあ、サクっと倒してこよっか!」
「うニャ!」
場所は古代林。いつも通りのご主人と俺の声が響いた。
古代林。それは、俺とご主人のふたりが最初に行ったクエストのマップであり……多分、このふたりで行く最後のマップ。そう考えると、終わりってことにするには丁度良いのかもしれない。
それにしても……このクエストがあって本当に良かったです。
これで獰猛化ナルガのクエストはありません、とか言われたらちょっとどうして良いのか分からないし。受付嬢にこのクエストがあるかどうか聞いた時、俺の心臓は暴れっぱなしでした。
そして、現在のご主人のスタイルはギルド。どうやらオストガロアのクエストもギルドスタイルで行くみたい。
ご主人にどうして、ギルドスタイルを選んだのか聞いてみたら――
だって、私がこの武器を使いたいって思ったハンターさんが使っていたスタイルだから。
と、恥ずかしそうにしながら答えてくれた。
そんな言葉を聞いている俺の方が恥ずかしかったです。ただそれ以上に、嬉しく思ってしまいます。
エリアル、ブシドー、ストライカーと、MHXになってから戦い方の幅は増えた。でも、その武器を楽しみたいのなら、やっぱりギルドスタイルが一番なのかなって俺は思ってしまう。それも新しい時代の流れについていけてないってことなのかねぇ。
「ねぇねぇ、ネコさん。私、獰猛化モンスターって初めて戦うけど、何か気をつけた方が良いことってある?」
ナルガの待つエリア4を目指しながら、ご主人がそんな言葉を落とした。
「んー……特にないニャ。ちょっと体力が多い相手って思うくらいで良いと思うニャ」
攻撃のタイミングは通常種とは変わるし、攻撃力や怯み値だって高くなる。あと、疲労状態にならないってのもあるけれど、変に教えてしまうよりいつも通り戦った方が良いだろう。
てか、獰猛化モンスターってそもそもなんなんだろうね。ゲーム中で詳しい説明はなかったと思うけど。
MH4の狂竜化モンスターとかはしっかりとした説明があったんだけどなぁ。
「あっ、そうなんだ。それじゃあ今回もなんとかなりそうだね。ふふっ、よろしくね、ネコさん」
「うニャ。一緒に頑張るニャ」
ご主人なら大丈夫だと思うけれど、油断はしないでね。即乙はないと思うけど、獰猛化状態のビターンとかきっとめちゃくちゃ痛いから。
なんてことを話しながら、エリア4へ。
薄暗い景色の中、その景色に溶け込みながら動く相手が今回のターゲット。
きっとこれが俺とご主人のふたりだけで行く最後のクエスト。そうだというのなら、この小さな身体にできる限りを出し、頑張ってみるとしましょうか。
「よーっし、討伐完了! お疲れ様、ネコさん!」
「うニャ。お疲れ様ニャ」
ご主人からアカムと戦った時ほどのすごさは感じなかったものの、ご主人の動きは本当に良かった。尻尾振りや回転攻撃のフレーム回避は見事で、スタンも3回。
……いつもは自分で使っていたせいで良く分からなかったけれど、ハンマーってカッコイイ武器なんだね。
使っていて面白いし、見ていてカッコイイ。後は火力さえあれば本当に良い武器なんだけどなぁ。
ま、それでも俺にとっての一番はハンマーっていうのは変わらないんだけどさ。
クエストを終え、ベルナ村へ戻って直ぐ、俺とご主人の武器の強化を依頼してからまた打ち上げ。クエストが終わったあとのお酒はやっぱり美味しいのですよ。
それからオストガロアのクエストが始まるまで、他のクエストへ行くことはなかった。
その間、ご主人とは色々な会話をしました。
ご主人が我らの団にいた時の話や、俺の話。一緒にお酒を飲みながら、やわらかな風を感じながら、星空を見上げながら……本当に色々な会話をした。今まではできなかった会話を、今までで空いてしまった時間を埋めるように。
この世界へ来るのは今回が3度目。ネコの姿っていう今までとはちょっと違う状況で、最初は戸惑いだらけだった。
やっぱり俺はハンマーが好きだし、せっかくモンハンの世界へ来たのだからハンマーを振り回したかった。
……けれども、今となってはこの姿で良かったのかなって思えてしまうくらいだ。
それは、俺のご主人がこの人だったからってのが一番の理由なんだろう。
察しの悪い俺のことだ。もしかしたら違うのかもしれない。でも、多分、きっと……俺は今直ぐにでも人間の姿に戻ることができると思う。どうしてなのかは俺も分からないけれど、そんな考えはアカムトルムとのクエストへ行った辺りからずっとある。
けれども、アカムのクエストも今回のクエストも俺はこの小さな身体を選んだ。そして、オストガロアのクエストもこのネコの身体で行こうと思っている。
それは、この小さな手で……この小さなネコの手で狩りたいってのと、ご主人のオトモでまだいたいからっていう理由。
小さな小さな手でできる、小さな小さな恩返し。そんな思いがあるのですよ。
ご主人とゲームの中の主人公は違う人物だ。けれども、きっと重なることだってあるはず。画面を通して俺はずっとずっと貴方のことを見てきて――貴方に憧れた。自分よりも数倍も大きいモンスターへ勇敢に立ち向かう貴方の姿に。
そんな貴方へ、きっと俺は恩返しをしたかったんだ。
きっときっとそういうこと。
いつだってそうだ、俺の周りにいてくれるのは素敵な人ばかり。それは本当に有り難いことです。
獰猛ナルガを倒してから二日後。
依頼していた俺の猛ナルガネコ手裏剣と、ご主人の夜行槌【常闇】が完成。
完成したナルガハンマーを嬉しそうに確認するご主人の姿を見て、俺も嬉しくなった。MHXでは俺が一番お世話になった武器です。どうか大切に使ってください。
そんなこんなで、此方の準備は完了。もう後は進むだけだ。
そして、ようやっとその時が来ました。
「おっひさしー、槌ちゃんにネコちゃん!」
「……久しぶり、ご主人さん」
いつも通り元気な様子の相棒と、白ネコ――つまり、笛の彼女が此処、龍歴院へ到着。
どうやら、大老殿から派遣されたふたりのハンターってのは、この相棒と笛の彼女だったらしい。どんなハンターが来るのかちょっとドキドキしていたけれど、このふたりなら安心だ。
それにこのふたり以上のハンターはきっといないだろう。
「や、久しぶり。君が大長老へ頼んでくれたの?」
あの彼女へそんな言葉を落としてみる。
ご主人と俺を選んだのが大長老自身の考えとは思えない。だから、きっと誰かがそんな提案をしてくれたはず。
そしてその提案をしてくれたのは、やっぱりこの彼女なんだろう。
「久しぶり。そう、私がお願いした。がんばった」
「そっか。お疲れ様」
「うん。ありがとう」
武器は完成したし、相棒と彼女が来てくれたことで準備は完了。
積もる話もありますが、のんびりお喋りする前にちょいとやらなきゃいけないことがある。
これで、最後だなんて思いたくはないし、そんなことにさせたくない。
俺にとってこれはただの通過点でしかないけれど……まぁ、いつもよりちょいと多くの気合を入れるくらいはしても良いだろう。
それじゃ、ひと狩りいくとしましょうか。
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第88話~エラー~
大老殿から派遣されたふたりのハンター……つまり、相棒と笛の彼女と合流してから、オストガロアのクエストへ向かうのは思っていた以上に早かった。
どうやら、竜ノ墓場へ向かっていた調査団もいつの間にか帰還していたらしい。ゲーム中だと確か、連絡が途絶えたその調査団を助けるため、クエストへ行くことになったと思ったけれど……まぁ、無事なようで何よりです。
せっかくあのふたりと再会できたのだし、俺としてはもう少しのんびりしていたかったってのが正直な感想。そんな暇がないことはよくよく分かっていますが。
「あっ、ひ、久しぶり」
「う、うん。久しぶり」
笛の彼女と挨拶をした後、相棒さんとも挨拶をしてみたのだけど……なんか気まずい。前回会った時があった時だったからなぁ。こんな調子じゃまずいって分かっているけれど、想いなんてものはそう簡単に割り切れるものじゃないんだ。
気を遣い合う仲でもないのだし、いつもの調子に戻ってくれることを願うばかりです。
そして、オストガロア討伐に向けて俺たちは出発。
竜ノ墓場のある場所は一応、古代林なのだし移動時間はそれほど長くないだろう。どうにもその実感は湧かないけれど、今後の俺の未来が決まる分岐点はもう目の前まで近づいているらしい。
「それじゃ、オストガロアと戦う上での作戦会議を始めるニャ」
集まったメンバーがメンバーだし、正直適当に戦っても勝てるとは思う。ただほら、一応ね。
「はい、お願いします! それで、えっと……ネコさんってオストガロアと戦ったことはあるの?」
相棒や笛の彼女がいるせいか、やや緊張気味のご主人がそんな言葉を落とした。ただ、相棒と一緒に行った火山の採取ツアーの時ほど固まっているようには見えない。そんなところにも、このご主人の成長を感じる。
「うニャ。ボクと彼女……あー、白ネコは何度か戦ったことがあるニャ」
ご主人には俺と彼女のことを説明したこともあって、すごく話しやすい。元の世界で溜めた知識を活かせるって素敵なことです。
「あっ、やっぱりそうなんだ」
とはいえ、マラソンをしたほど戦ったことはなかったり。
最初は形態変化だったり超大技があったから戦っていて楽しかったけれど、それも直ぐに飽きちゃいました。アイツの素材もライトを作るくらいしか使った記憶がない。
「……それで、どうやって戦うの?」
そんな彼女の声。
ネコだった時の声に慣れてしまっているせいか、どうにも違和感が……
「んと、ボクは基本的にバリスタで戦うニャ。皆は触腕をお願いするニャ。それで、弱点を殴れる時は相棒と君が……え、えと、相棒さん? どうかしました?」
戦い方の説明をし始めたのは良いのだけど、何故か相棒さんが、ぶっすーとした表情で俺の方を見ているものだから、気になって仕様が無い。
「……槌ちゃんには全部話したんだ」
…………あかん。
「そっかー。一番付き合いが長いはずの私にはまだ何も話してくれないのに、槌ちゃんには全部話したんだね。へー……そうなんだ」
「あっ、い、いや、その……たまたまご主人には話しをする良い機会があったってだけで、別に君をないがしろにしているとか、そういうわけではなくてですね……」
相棒さんと俺の様子を見ているご主人はおろおろしてしまっているし、あの彼女はそんな俺たちを見てただ笑っているだけ。
まだクエストは始まってすらいないってのに、嫌な汗が止まらない。なるほど、これがラスボスの脅威ってわけか。
「ちゃ、ちゃんとこのクエストが終わったら話すから今は、ほら……ね?」
拗ねてしまった相棒さんをどう扱って良いのか分からず、なんとも情けないような状態のままそんな言葉を落とすと、相棒はどこか楽しそうに笑った。
「ふふっ、約束だもんね」
「そうだな……大丈夫、今度はきっと話せると思うから」
なんて、まるで自分へ言い聞かせるかのような言葉を落とした。……ごめんな。いつもいつも待たせてばかりでさ。
きっとあと少し……本当にあと少しだと思うからもう少しだけ待っていてほしい。
「え、えっと、じゃあ続きを話すニャ」
やり残したことや、やらなきゃいけないことはまだ沢山ある。
だから……まだ消えられないよなぁ。
相棒さんにはドキリとさせられたけれど、その後は特に何事もなく作戦会議も終了。相棒さんとの間にあったぎこちなさも大分良くなってくれたと思う。
んで、その作戦をまとめると、俺が拘束弾も含めたバリスタを担当で、残りの三人はひたすら殴る。ただ、大ダウンを取った時、弱点を殴るのは相棒さんと笛の彼女だけ。できればご主人にも弱点を攻撃してもらいたいけれど、乱戦の中SAのないハンマーであの小さな弱点を殴るのはちょっと無理です。
また、対巨竜爆弾は笛の彼女に任せることに。彼女が担いでいる武器は轟鼓【虎鐘】。攻撃【大】に耳栓、保険でだるま無効を吹くように頼んだけれど、流石に仕事量が多すぎるだろうか? ただ、この彼女なら問題なくやってくれると信じています。
相手の攻撃は口で説明しても分からないだろうから、それはクエスト中、俺と笛の彼女で他のふたりへ伝えることに。一番気をつけなきゃいけないのは、あのビームだけど……このメンバーならビームを撃たせずに討伐してしまうんじゃないだろうか。0分針は無理でも5分針は出せると思う。
さて、作戦会議も終わったし、後はもうオストガロアを倒すだけ。
待ち遠しい、ってほどではないにしろ、オストガロアの本気状態と戦えることは楽しみだ。早く竜ノ墓場へ着かないものだろうか。
そんなことを考えながら、アイテムポーチの中を整理。今回はアイテムポーチいっぱいにアイテムを入れてきました。
「……ネコなのに、そんなにアイテムを持ってどうするの?」
そして、そんな俺へあの彼女が声をかけてきた。
砥石や回復薬、調合書にいにしえの秘薬調合分、と高難度クエスト用のアイテムポーチとなっています。
「念のため、って感じかな」
このクエストで使うことはないはずだけど、何が起こるのか本当に分からない。だから、しっかり準備しておいたんです。テオのクエストの時は色々と格好悪かったからなぁ。
っと、そうだ。この彼女に見せようと持ってきたものがあったんじゃないか。
それは貴重なアイテムポーチひと枠分を使ってまで持ってきたもの。
「そういえばさ、この『狩りに生きる』だけど――」
アイテムポーチの中から、忘れずに持ってきた情報雑誌を彼女に見せ……たところで、直ぐに彼女に取り上げられ、飛行船から投げ捨てられた。
ああ、せっかく持ってきたのになんてことを。
「……次、ふざけたら貴方をぶん投げる」
めちゃくちゃ恥ずかしいのだろうか、顔がすごく赤い。何この子、面白い。
いつもいつも、俺はいじられる側だったのだし、今回ばかりは俺が頑張ってみるとしよう。
「今までやってたのは、ブーメランを少しょ……ああ、待って! ごめん。嘘です。お願い! 俺を掴まないでっ!」
たまには、と思い彼女をからかってみたらこれだ。
「何やってるのさ……」
そして、俺たちを見て、ため息混じりに相棒さんがそんな言葉を落とした。
お願い相棒さん、この人止めて。
「って、そういえば弓ちゃんは今回来なかったんだな」
あの彼女に投げ捨てられないよう、必死で抵抗しながら気になっていたことを聞いてみる。まぁ、例え弓ちゃんが来てもクエストへ行けるのは4人までなのだし、来ても仕様が無いといえば仕様が無いんだけどさ。
「んとね、弓ちゃんは今、大老殿じゃなくてバルバレにいるんだ。私も詳しくは聞いてないけど、新人ハンターの教育? みたいなことをしてるんだって」
あら、そんなことをしていたのか。
うーん、あの弓ちゃんが新人教育、ねぇ……大丈夫だろうか。教育される新人のメンタルがもてば良いが。あの子、ホント容赦ないからなぁ……
そして、全力で抵抗したおかげか、彼女にぶん投げられることもなく、気がつけば目的地はもう見えていた。
「竜ノ墓場……」
そんな目的地を見たご主人が言葉を落とす。
俺と白ネコはこれで二度目だけど、竜ノ墓場が不気味に見えるのは変わらない。オストガロアが原因なんだろうけど、瘴気みたいなのが溢れていてなんとも怖いんです。
……あの時はお互いに全力で戦えなかった。けれども、今回ばかりは言い訳をせず、全力で戦うことができそうだ。
別に、お前が弱いモンスターだなんていわない。それでも、今回は俺たちが勝たせてもらうよ。
前回は直接相手のいるエリアへ降りてしまったけれど、今回はベースキャンプからスタート。
打ち合わせ通り、拘束弾を含めたバリスタは俺が。爆弾は笛の彼女が担当。
「音爆弾は任せた」
「……うん、頑張る」
俺は主にバリスタを使う関係で、クエスト中指示を出すのが難しい。
そんなことで、細々とした動きの指示は全て彼女に任せることに。演奏に爆弾に指示と、彼女のやらなきゃいけないことがめちゃくちゃ多くなってしまった。それでも、この彼女なら安心して任せることができる。
そして、彼女の演奏する笛の音を聞き終わったところで、準備は完了。
「……っしゃ! 行くかっ!」
「おおー!」
「おー」
「えっ? あっ、おおー!」
ちょいとだけご主人が俺たちのテンションについていけてないみたいだけど……まぁ、ご主人ならきっと大丈夫なはず。今回も頼りにしてますよ。
そんなこんなで4人一緒にオストガロアの待つエリアへ向かって飛び込んだ。
どれくらいの量があるのかも分からない骨の上へ着地し、エリアへ入って直ぐに見えたのは骨に覆われた巨大な本体と双頭。
「うわぁ、かわいくない……」
そんなオストガロアを見て相棒がぽそりと言葉を落とした。お前はラスボスに何を求めているんだ。
「……イカカワイイデス」
そして相棒さんに続いてあの彼女もぽそり。まだイカじゃない! イカじゃないから!
んもう、なんだってんだこのふたりは……ラスボスが相手ってことで少しだけ緊張していた自分がバカみたいだ。
……さて、それじゃクエストスタートといきましょうか。
できれば相棒にエキスの場所を教えておきたかったけれど……ごめん。流石にオストガロアのエキスの場所は分かんないや。
彼女の演奏のおかげで、開幕の咆哮は安全にスルー。打ち合わせ通り、俺以外の3人がオストガロアの触腕へ向かうのを横目に俺はバリスタ弾の発射台へ。
別に最速タイムなんて求めちゃいないけれど、どうせやるなら全力で。容赦なしの待ったなし。
そして、咆哮が終わって直ぐのオストガロアへ向かって俺は拘束弾を撃った。
索餌形態なんてさっさと終わらせて捕食形態になってもらうとしよう。
拘束弾がオストガロアへ当たったところで、触腕の先端に3人がラッシュをかける。拘束が解け、ラッシュが終わるとオストガロアは地面へ潜った。どうやら無事ダメージは足りていたらしい。
オストガロアが潜ったところで、タゲを散らせないため、バリスタ弾の発射台から離れ俺も3人がいる近くへ。そんなところで、地面が揺れ、触腕だけが飛び出してきた。
そこで今度は全員でラッシュ。
「周回形態! ご主人もバリスタを!」
ラッシュ後、触腕が地面へ潜ったところで指示。
「了解ですっ!」
あの突進が本当に鬱陶しいから、索餌形態はできるだけ短い時間にしておきたい。
さてさて、此処まで見事に打ち合わせ通りなわけですが……まぁ、集まったハンターがハンターなのだし、こうなるよなぁ。超大型種は初見じゃない人間がいるだけで、本当に楽になる。
いくらラスボスとはいえ、きっとこんなものなのだろう。
周回形態へ入り、エリアの周りにある水中を泳ぐオストガロアへ俺とご主人がバリスタで攻撃。そして、バリスタの攻撃による大ダウン。
あの彼女が指示をしてくれたのか、大ダウンをし、攻撃できるようになった弱点に彼女と相棒がまたラッシュ。
もう、なんか可哀想になってくるくらいオストガロアがボッコボコにされている。一応、ラスボスなのにね……
大ダウンが終わり、オストガロアはまた地中へ。
さてさて、これでようやっと本番だ。あの時は此処まで来ることができなかった。少し時間はかかってしまったかもしれない。
それでも、俺は此処まで来ることができた。そして、こんなところで止まるつもりもない。一気に行かせてもらいましょうか。
ここからはどうしてもパターンを組み難い。
あんな巨体のくせしてその動きは速いし、触腕の先端へ付ける4種類の骨塊は鬱陶しい。
ただ、まぁ……俺たちも結構強かったりするよ。
破壊できる骨塊は彼女が音爆弾を投げて直ぐに破壊。俺はバリスタで、ご主人はハンマーでひたすら攻撃。誰かがダメージを受けたら、調合分まで持ってきている粉塵を相棒が使う。
とにかく安全に。
無茶をしない。無理もしない。でも……容赦はしない。
1回目の大ダウンでは、オストガロアに登って直ぐの場所に彼女が爆弾を置いてから、彼女と相棒が弱点へ、ご主人と俺が触腕の先端にラッシュ。
もし、相手の体力バーを見ることができたら、きっとすごい勢いで減っているんだろうなぁ。
「……これで全部、終わっちゃうね」
バリスタ弾を撃ち切り、古びたバリスタ弾を拾っている俺にあの彼女がそんな言葉を落とした。
「きっと終わらないさ。そのために頑張ってきたんだから」
元の世界に未練がないってのは嘘になる。
でも、俺がこの世界を歩んで行くと決めたのは本当のこと。
「うん、そうだね。大丈夫、もし貴方が何処かへ行ってもきっと私が見つけてあげるから」
ふふっ、その時はお願いしますよ。
なんて会話を彼女としていたところで――
「クエスト中!!」
相棒さんの怒ったような声が響いた。
そんな光景が何処か懐かしくて……でも、それが嬉しくて、それはやっぱり俺がまだ消えたくないってことなんだろうなって思った。
現在のオストガロアの様子は、口元から出ていた青色の粘液ガスは消え、代わりに赤黒い龍属性エネルギーが溢れ始めている。つまり、瘴龍ブレス形態。これで龍属性エネルギーが完全に溜まれば、モーション値250というどう考えてもやりすぎとしか思えないブレスが飛んでくる。
けれども、粘液ガスが消えたことで、弱点の頭も攻撃ができるように。
どうやら、本当に終わりが近づいてきてしまったらしい。
先程拾った古びたバリスタ弾を打ち終え、残しておいた拘束弾を発射。
きっと、これが最後のラッシュ。
相手はMHXのラスボスであるオストガロア。けれども、危ない場面なんてなかったし、もしかしたら0分針だって出るかもしれない。
お前の本当の強さはよく分からない。それでも……今回は俺たちの勝ちってことで。
ありがとう。これで俺は前に進めます。
もし、この俺の願いが叶うというのなら――今度はG級で会いましょう。
それじゃ、また。
それは、拘束弾からのラッシュが終わって直ぐのこと。
あのオストガロアから断末魔の悲鳴が上がり、最後の力を振り絞ったオストガロアは天へ向かって瘴龍ブレスを発射。
その瘴龍ブレスは竜ノ墓場の天井を貫き、満ち溢れていた瘴気のようなものすら蹴散らした。
天井が崩れ落ち、積もり積もった骨の雨が降る中、ゆっくりと倒れこむオストガロア。
つまり……クエスト、クリアです。
そして、どうやらその時がやってきたらしい。
最後の最期に放った瘴龍ブレスを見て慌てるご主人と相棒。
「っつーー!」
けれども、そのブレスが安全なことを知っていたあの彼女は、俺の方を慌てたように向いた。
オストガロアが貫き、見えるようになった空を見上げた後、確かめるように……ゆっくりと自分の手を見つめてみた。
いつかのように、鈍器で殴られたような感覚はなかった。それでも……その手は小さな小さなあの手ではなく、確かに俺がよく知っている本当の自分の手だった。
そんな俺を見た彼女は嬉しそうな表情になってから――直ぐに、曇り空へ。
彼女の表情を確認し、もう一度自分の手を見つめてみる。
それは確かに、俺の……人間の姿の俺の手だ。
けれども、そんな手は――薄くなり始めていた。
「――――っ!」
あの時のように……今までと同じように、どうやら少しも待ってはくれないらしい。崩壊を始めた世界の中、叫ぶような誰かの声が聞こえた。
誰かが、俺に向かって手を伸ばしてくれている。
崩れ始めた世界と自分の身体。
そんな中、俺も必死でその手を伸ばした。誰かが伸ばしてくれた、その手を。きっと繋ぎ止めてくれるソレを掴まなきゃって思った。
だから、俺も手を伸ばしたんだ。以前よりもずっとずっと大きくなってくれたはずの手を。
そして、伸ばしたその手が何かを掴むことはなかった。
――――――――――
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第89話~恩返し~
真っ白でもあり、真っ黒でもある空間。
自分の存在すらも曖昧で、今、自分がどんな状況なのかも分からない。
そんな世界で唯一分かるのは、目の前に一匹のネコがいるということ。
「うニャ」
そして、そのネコは何処か嬉しそうにそんな言葉を落とした。
オストガロアを倒し、結局俺はまたあの世界から叩き出されることになってしまった。アレだけあの世界を歩んでいこうと決めていたのにも関わらず、だ。ホント、人生うまくいかないものですね。
ただ……いつもなら、あの世界から叩き出された後は直ぐに、元の世界に戻っていたはず。そうだというのに、今回はこんなよく分からない世界にいる。
自分の状況は全く分からない。
けれども、何故かやたらと冷静な自分がいて、どうしてなのやら今の状況をあっさりと受け入れることができていた。
「久しぶりニャ」
ああ、久しぶり。
……久しぶり?
ネコの言葉に対して、自然に溢れてしまった自分のセリフに対して違和感を抱く。
そして曖昧に、朧気に……水面へ落ちた雫の作る波紋のように、自分の中にあったであろう記憶のようなものが広がっていった。
つまりそれは、この目の前にいるネコと俺が初対面ではないっていうこと。なんとも曖昧な記憶しかないけれど、きっと何度かは会ったことがあるのだろう。そう考えると、先程自然と溢れてしまった自分のセリフにも納得がいく。
「君には本当に感謝しているニャ。……ありがとニャ!」
あいよ。どういたしまして。
俺がこのネコのために何ができたのかは……やっぱり、よく分からない。
もしかしたら、このネコと俺の間で何かしらの約束事をしたのかもしれない。けれども、そんな記憶は曖昧で朧気だ。
このネコと俺の間で何があったのかは知らない。それは分からないが……まぁ、どうやら俺はきっちりその役目を果たすことができたらしい。それならもう特にいうことはない。
「キミのおかげであのハンターさんもまた一歩、前へ進むことができたニャ。ボクは満足ニャ」
あのハンターさん、ねぇ。そのハンターさんってのはやっぱり……ご主人さんのことなのか?
そんな俺の質問に対し、目の前にいるネコは――ニャふと言ってから笑った。
そっか。
正直まだ分からないことだらけではあるけれど、三度目となるモンハンの世界で俺があの小さな身体となってしまったのは、あのご主人のためでもあるってことなのだろう。
俺があのご主人に対して何ができたのか……その具体的な答えは直ぐに浮かばない。確かに、ネコとなりご主人のオトモなのだからと、頑張ったつもりではある。それで良かったってことなのかねぇ。
ん~、俺がネコの身体になった理由はなんとなく分かったんだが……どうしてあの彼女までネコの姿になったんだ?
「……ボクが見たかったからニャ」
何をさ。
「あの子と同じ姿のオトモが旦那様のために頑張るところを、ニャ」
あの子と同じ、姿……?
あの彼女は俺と違い、真っ白の毛並みが特徴的な姿だった。だから、白ネコ。
「……ボクじゃ、あの子に“勇気”を与えてあげることはできなかったニャ。むしろ、ボクのせいであの子は臆病になってしまった。自分の中にいる勇気を追いやり、臆病を表に出させてしまったニャ」
それは、何処かで聞いたことのあるようなお話。
自分の頭の中へゲーム中、何処かで誰かが話してくれた記憶が広がる。
「ボクはもうあの子の傍にいることはできなくて、それでも何かをしてあげたくて……そんな時、あのハンターさんがあの子の臆病を何処かへ連れて行ってくれたニャ! それが本当に嬉しくて、そんなハンターさんに恩返しをしたかったのニャ!」
……ああ、なるほど。ようやっと分かった。
MH4、4Gの主人公であったご主人。そんなご主人がしてきたこと。ゲームの中、俺が動かしていたキャラとあのご主人は違う人物ではあるけれど、きっときっと重なることもある。
そういうことなんだろう。
つまり、お前はチコ村にいたあの臆病なオトモアイルーの――
「ニャふ」
俺の質問に対して目の前にいるネコはそれだけしか言ってはくれなかった。
けれども、俺の考えていることは間違いじゃないはず。
つまるところ、三度目となるこのモンハンの世界で俺に与えられた役割は、ネコの恩返しといったもの。なんだってそんな面倒なものを俺に、なんて思ってしまったりもするが……悪い気分ではなかった。
俺だって、あのご主人に対して何かしらの恩を返したいって思っていたのだから。
ご主人はそのことを知らないが、2000時間近くプレイしたゲームで俺が一番お世話になったのは、1000頭以上狩ったラージャンでも、2000回以上使ったハンマーでもなく、俺の代わりとなってずっと動いてくれていた主人公。つまり――あのご主人だ。
だから、そんなご主人に少し変わった形でも恩返しをすることができたのは素直に良かったって思えている。
それにしても……じゃあ、俺が白ネコで良かったんじゃないか? あの臆病なオトモアイルーの性別は不明だが、きっとオスだろう。それなら、あの彼女じゃなく、俺が白ネコの方が良かったと思う。そして俺が白ネコになっていれば、あの彼女までネコになる必要はなかった。
「キミに白ネコは似合わないニャ」
笑いながら、何処か楽しそうに言葉を落とすネコ。
さよですか。うん、まぁ、俺も白ネコは似合わないと思うけどさ……
「それに、キミひとりだけじゃ寂しいだろうと思ったニャ。ひとりより、ふたりニャ!」
そんなネコの言葉に何かを言い返すことはできなかった。……情けないことではあるけれど、ひとりで歩いていけるほど強くない。
最初はあの白ネコが誰なのかも分からず、ホント大変だった。でも今となっては、あの彼女が傍に居てくれたことは本当に良かったと思う。
そのことは感謝……するべきところなのかな? 良い方に考えれば、俺とあの彼女がまたモンハンの世界へ来ることができたのも、このネコのおかげってことなのだし。……たぶん。
あー……んでさ、俺ってこの後、どうなるんだ? できればだな、その……あの世界へ戻りたいんだが。
「安心するニャ。もう直ぐ。キミはあの世界へ行けるはずニャ!」
そりゃあ良かったよ。
相棒との約束はまだ果たしていないし、あの彼女がいない元の世界ってのも寂しい。きっと出るであろうモンハンの新作は気になるが……あの世界を歩んでいけるのなら、俺はそっちを選びます。
「ただ、えっとぉ……う、うニャ。ちょっとニャ。ちょっとだけキミは遅れちゃうニャ」
え……なにそれ。
んと、つまり俺はオストガロアを倒した時に戻れるってわけじゃない……ってことで良いのか?
「うニャ!」
いや、そんな自信たっぷりに頷かなくても……此方は不安だらけなわけですし。
「でも、きっとキミなら大丈夫だと思っているニャ。何度も世界を越え、あの世界を何度も救ってくれたキミの物語が良い加減な終わり方をするわけがないニャ!」
根拠も何もあったものじゃない。本当に大丈夫だろうか……
相棒とあの彼女のいる世界へは行けるが、このネコ曰く、ちょっとだけ遅れる。そのちょっとってのはどのくらいなのやら。ニュアンス的にオストガロアを倒してから二日後とかではないだろう。100年後とかなったらたまったものじゃない。
「ネコは気まぐれなのニャ!」
それに振り回されている俺の身にもなってほしいです。
とはいえ、きっとこればっかりは仕方の無いことなのだろう。このネコの本当の気持ちまでは分からないが、その小さな小さな手で頑張ってくれたことはなんとなく分かった。
今までずっとネコの姿をしていたんだ。それなら俺だってネコの気持ちくらい分かるようになる。
なんてね。
「……流石にふたりも残すのは大変だったニャ。ごめんニャ。ボクにできるのはこれが限界ニャ」
気にすんな。
あの世界を歩ませてくれるってだけで、俺は感謝しているよ。
「うニャ! それじゃあ、そろそろお別れニャ」
もうそんな時間、か。
なんだろう……何て言葉をお前にかけてやれば良いのか分からない。お前と俺との間にある関係がどの程度なのかは知らない。ただ、これでお別れってなると少しだけ寂しいかな。
ま、とりあえず――ありがとな。
「ボクこそ、ありがとニャ。もし迷ってしまった時、前へ進んでみるのもボクはいいと思うニャ」
大丈夫、今度こそ迷わず進んでみせるさ。あのご主人がそうだったように。
俺がご主人にできたことは分からない。でも、俺がご主人から教えてもらったことだけはしっかりと分かる。だからきっと、良い経験だったってこと。
「ニャふふ。どうニャ? ネコも悪くないニャ」
……もしかして、俺がゲーム中のオトモのことを散々バカにしていたことを根に持っていたりするのだろうか。
いや、まさか、そんな……ねぇ?
ただ、そうだなぁ……うん。当分は遠慮したいところだけど、ネコも悪くはなかったよ。
「うニャ!」
でも、やっぱり俺はハンマーが好きかな。
なんて言葉を俺が落とすと、呆れたようにあのネコが笑った。
この性格ばっかりは変えられないからなぁ。ま、きっとそれほどにハンマーという武器が魅力的ってことなんだろう。
そんじゃ、休憩もできたことだし行くとしますか。
良い言葉は見つからないが、ちゃんと感謝している。
本当にありがとな。そして、さようなら、だ。
「ニャふ、さよならニャ。……ボクにできるのはこれが限界だったニャ。別にクリアする必要なんてないし、無視してくれて良いニャ。でも、この小さなネコの手が借すことのできる最後の贈り物ニャ。だから――頑張れニャ!」
……うん? なんですか、それ。
そんな抽象的なことを言われても俺には分からないのだが。
ま、それも行ってみれば分かることか。そうだというのなら進んでみるとしよう。きっと今の俺にはそれくらいが丁度良い。
「それじゃ、行ってくるニャ!」
行ってきます。
――――――――――
オンラインへ接続します。
――――――――
あの曖昧な世界を抜けて直ぐ――風が吹いた。
自分の様子を確認すると、すっかり見慣れてしまったあの小さな姿ではなく、確かに人間の姿の自分であることが分かった。
顔を動かした時、音が響いた。それは防具と防具とが擦れ合う音。そして、背中にはもう久しく感じていなかったあの重み。
もうすっかり慣れたといっても良いかもしれないが、これが夢なのか現実なのかはやはり分からない。
それでも、確かなことがひとつ。
此処、モンハンの世界だわ。
「っと。とりあえず、戻って来ることはできた……のか?」
無事、モンハンの世界へ来ることができたのは良いが、今、自分のいる場所がさっぱり分からない。何処だよ、此処。
風が、強かった。
かなり高い場所にいるのか、周りの景色を眺めてみても、見えるのは広がる雲海ばかり。月と太陽すら同時に見えていることからも、此処が相当高い標高であることは間違いないと思う。
多分、此処は何処かのマップの何処かのエリアなのだろうけれど……こんな場所知らん。強いて言えば塔の頂上に近いが、MHXにあるのは塔の秘境だけだったはず。それにエリア全体が濡れているし、なんだかよく分からん赤い閃光が地面を走っている様子は塔の頂上って感じじゃない。
ん~……じゃあもしかして、新マップなのか? その可能性はかなり高そうだ。これが、あのネコの言っていた最後の贈り物ってやつなのかねぇ。クリアがうんぬん言っていたし、なんか違う気がするけど。
いくら考えてみたところで、分からないものは分からない。
そんなわけで、とりあえず散策してみることに。モドリ玉でもあればもしかしたら、BCへ行くことができたのかもしれないが、残念ながら持ってきていません。調合書に秘薬調合素材まで持ってくるともうポーチはいっぱいだ。
地面や壁に走っている赤色の閃光が気になりつつも、何か拾えそうなアイテムを探す。そして、クレーターのようなものの中心に突き刺さっている何かを見つけた。
はて、これはなんだろうか。こんなもの俺は初めて見たぞ。
拾ってみようとも思ったが、なんだか怖いのでとりあえず止めておくことに。
うーん、とはいえ他に拾えそうなものもないし、此処以外のエリアへの行き方も分からない。いやぁ、流石にこんな高い場所から飛び降りるのはなぁ……
さてさて、どうしたものかと思い、空を見上げてみる。
そして、見上げた空に見えた赤いひとつの点。
なにアレ。空にあるオブジェクトなんて飛行船くらいし……あら? なんだか俺の方へ近づいてきて……ちょっ! まっ! ホントにこっちへ来るんかい!
空に赤い点が見えると思っていたら、その点は一気に大きくなり――
俺からローリング4回ほどの距離へ着弾した。
……さて、つまりはアレ、だよな。
あのネコの言っていた贈り物ってのは――これか。
初めて見るマップの初めて見るエリア。そして……初めて見る相手。
音すらも置き去りにする速さで着弾したソレは、ゆっくりと起き上がってから俺の方を向いた。
頼りになるいつもの仲間はいない。ソロ。ハンマー。深く考えないでも分かる。状況はよろしくない。
「……初見モンスは本当に苦手なんだけどなぁ」
それでも、ま、やるだけやってみましょうか。
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第終話~それでも俺はハンマーが好き~
名も知らぬモンスターへ。
名も知らぬハンターより。
4度目となったモンハンの世界は見知らぬマップの見知らぬエリアからスタート。
身につけている防具はゴアS。安心感すら覚えるようになった背中に感じる重みは、俺がハンマーを担いでいるっていう証拠。
そして、そんな俺の目の前にいるのは――
「誰なんだろうな。お前」
見たこともないモンスター。
音すらも置き去りにする速さで着弾したソイツは、銀色に輝く鱗で覆われていた。4本の脚に爪のような翼。戦ってみないと分からないが、骨格は多分ゴアやシャガルと同じ、マガラ骨格。
この世界へ来る前、あのネコはクリアする必要はなく、無視してくれても良いと言っていた。
相手の強さは全く分からず、初見モンスターは本当に苦手だ。それは俺がハンマーという武器を担いでいるってこともあるが、そもそも俺が……
とはいえ、確かにあのネコは頑張れと言ってくれたんだ。これが最後の贈り物だっていうのなら――
「頑張んないと、だよな」
きっと、そういうこと。
背中へ担いでいたハンマーを両手でしっかりと掴む。そして、アイツと目が合った。
「っしゃ! 行くかっ!」
大きな声を出してみた。あの臆病な自分が少しでも前へ進んでくれるよう、大きな声を。
クエスト、スタート。
ハンマーを手に取り、目が合ってから直ぐ、アイツの咆哮が響いた。俺の身につけている防具がゴアSなら回避性能が発動しているはず。別に狙っていたわけではないし、もっと良い武具なんていくらでもあっただろう。それでも、今回ばかりは有り難い。
相手の咆哮は短く、初見だというのに咆哮のフレーム回避は成功。回避性能ってホント素敵。
ま、問題なのは此処からなんだろうけどさ。
咆哮を回避して直ぐに、ハンマーを右腰へ構えて溜めからのカチ上げ。
溜め速度とローリングは普通。溜め2攻撃もカチ上げ。つまり、今の俺はギルドスタイル。良いスタイルを引けたようで何よりです。
初見モンスターってことで、相手の攻撃方法が全く分からない。だから、最初はとにかく相手の動きをしっかりと見て、攻撃パターンを覚えたいところなんだが……バカみたいに出の早い引っかき攻撃が直撃した。引っかき攻撃で吹き飛ばされたおかげで喰らわなかったが、その攻撃の後直ぐに、翼脚の叩きつけ。
えっとぉ……なにこれ。攻撃が速すぎるんですが……
ゴグマはアレとして、シャガルやゴアのようなマガラ骨格とハンマーの相性はかなり良い。頭は常に狙える位置にあり、予備動作から次の行動を予測しやすく、振り向きもしっかりしてくれている。そして、コイツもそのマガラ骨格。
とはいえ、これはちょっとなぁ……
翼脚での叩きつけ後、ちょっとやめてほしい速さのサイドステップ。そこから、今度は翼脚を槍のように形状変化させてからの突き刺し攻撃。横へローリングで回避。そこへ逆の翼脚でまた突き刺し攻撃。直撃。やってられん。
……幸いなことにダメージ量は多くなく、俺のアイテムポーチには調合分までぎっしりと回復アイテムが詰まっている。まぁ、それでも足りない可能性も出てきているわけですが。
俺を吹き飛ばしてから、相手は素早くバックステップ。そして、俺に向かって走り出したかと思えば、翼から龍属性っぽい光を出しながら有り得ん速さの滑空攻撃。
ソレをどうにかローリングで回避。んで、俺を通り過ぎていったアイツはまた直ぐに、もう一度滑空攻撃をしてきやがった。
その滑空攻撃が直撃し、また転がされる。あと何回転がされることやら……
減った体力を秘薬で回復。
翼脚による突き刺し攻撃。ガッツポーズ中に直撃。さらに俺が気絶。俺の方を向く翼脚。そこから多分、龍属性を纏った赤いエネルギー弾。直撃。ダメージはそこまでない。
バックステップからバカみたいに速い低空飛行の突進攻撃。回復薬で体力を回復。翼脚による突き刺し攻撃。直撃。気絶。
バックステップ。低空飛行突進攻撃。それを緊急回避。
緊急回避をした俺を過ぎて行ったアイツは俺の方じゃなく、何故か上を向いた。
そして、翼から赤いエネルギーを噴射し、爆音を響かせながら離陸。
普通に考えればエリアチェンジ。けれども、アイツが離陸した後もロケットエンジンのような音は鳴り続けている。
つまり、アイツはまだこのエリアにいるはず。
頭の中に浮かんだのはレウスのするワールドツアー。
「ってことは……」
上を向いた。
見えたのは赤い点。
耳鳴りのような高い音。近づく赤い点。
そして、爆音が響いたのとほぼ同時に俺は吹き飛ばされた。
何が起きたのかも分からない。
多分、今の攻撃がアイツの持つ一番の大技なのだろう。しっかしねぇ、あんな攻撃どうしたものか。
ハンマーのカチ上げや大剣の斬り上げを喰らった時と同じように、上空へ吹き飛ばされ、背中から地面へ着地。
仰向けのまま見上げた空はいつもよりもずっとずっと近く見えた。
このクエストが始まり、既に5分ほどの時間が過ぎてしまっていることだろう。そうだというのに、俺にできた攻撃は最初にぶち込んだカチ上げだけ。
一方、俺はサンドバッグのように相手の攻撃を喰らい続けている。いくら調合分まであるとはいえ、これじゃあ回復薬が足りない。
「……まいったね、こりゃあ」
溢れる独り言。昔っから独り言は多い方なんです。
スタンを取るどころか、そもそも攻撃ができない。
相手の攻撃はどれも速く、範囲もなかなか。近距離は引っかき攻撃と、翼脚の叩きつけ。遠距離は低空飛行突進に赤いエネルギー弾。
そして、今しがた喰らったワールドツアー(仮)。
回避するのに手一杯ですらない。そもそも回避できていないのだから。それに、どうせコイツの攻撃はもっと種類があるのだろう。怒り状態になったらどうなるかなんて考えたくもない。
これだから、初見モンスターは苦手なんだ。コイツに勝てる未来が全く想像できない。
はぁ……ここまでボコボコにされたのはいつ以来だろうか。ゲーム中では嫌になるほどそんな体験をしてきた。でも、この世界に来てここまでされたのは初めてかもしれない。手も足も出ない。こんな状況は。
どうやら今までは何かを忘れ、ぬるま湯に浸かりすぎていたらしい。
この惨状に目を閉じたくなる。諦めても良いんじゃないかって思えた。
これだけ攻撃を喰らったにも関わらず、相手の行動パターンは不明のまま。攻撃スピードが速すぎる。ハンマーじゃ追いつける気がしない。何より今は、頼りになる仲間のいないソロプレイ。
「ああ、困ったな……」
どうすれば良いのかが分からない。勝てる気が、しない。
まさに絶望的。
そんな状況が――
「俺、負けたくないや」
何よりも面白いって思えた。
目を閉じてから、仰向けに倒れていた身体をゆっくりと起こす。
起き上がってから長く息を吐きだし、ゆっくりと吸い込む。うーん、勝てっかな? 勝てないよなぁ……でもさ、やるだけやってみたいんだ。
相手が初見モンスターだからだろうか。今回は少しばかり時間がかかってしまった。情けないものです。
それでも、カチリ――と自分の中にある何かが噛み合った。
音が消えた。
目を開ける。見えたのは白黒の世界。
相手が相手だ。反撃にすらなるかも分からないけれど……頑張ってみるとしよう。
大技後のためか、威嚇中のアイツを見ながら、いにしえの秘薬を飲み込み体力の完全回復。ちょいと時間はかかったけれど……おっし、準備完了です。悪いな、待たせちゃってさ。
威嚇が終わって直ぐ、翼脚を使った突き刺し攻撃。ソレを相手に向かってローリングしながら無理やりフレーム回避。
コイツに距離を取られると一方的に攻撃され続ける。だから、とにかく前へ。
「はぁ……別にな。知らなかったー、とか気づいてなかったーってわけじゃないんだ」
回避後、直ぐにハンマーを右腰へ構え、もう片方の翼脚の突き刺し攻撃を軸避けしてからの溜め1、振り上げをアイツの頭へ。
「ただ……ずっと目を逸らし続けていたのは確かだよ。それに、きっと認めたくなかったんだろうなぁ」
振り上げ後、相手のサイドステップへついていくように横ロリ。
引っかき攻撃をもう一度ローリングでフレーム回避。そこへ、翼脚を使った叩きつけ攻撃。けれども、被弾は無し。安置は頭の下。
俺の方を向いていた翼から赤い光が溢れ始めた。……近距離でもエネルギー弾を飛ばしてくるのか。
左右、無理。
後ろ、多分無理。
――もし迷ってしまった時、前へ進んでみるのもボクはいいと思うニャ。
誰かの言葉を思い出す。だったら――前へ。
「……俺さ」
相手の翼から出たエネルギー弾はローリングで前へ突っ込んだ俺の直ぐ後ろで爆発。さらに、相手はバックステップをしながら続けてエネルギー弾を発射。
ローリングを終えて直ぐ、相手の頭へ縦1。弾けるスタンエフェクト。確かに感じるヒットストップ。
エネルギー弾を2連で発射後のアイツは威嚇。確定の可能性大。
そんなアイツの頭へもう一度ハンマーを振り下ろす。
そして、ぐるりと一度周り、その反動を利用して――ホームラン。
「モンハンが下手なんだ」
ホームランが当たったところで、怯んだアイツ。有り難いことにどうやらダメージはそこそこ入っているらしい。これなら……コイツを倒すことだってできる。
「上級者を気取っておきながら、謙遜のように中級者とか言っておきながら……実際のところはそんな腕なんてない」
怯み後、直ぐに引っかき攻撃。ソレをフレーム回避しつつ頭の下へ移動し、ハンマーを右腰へ。翼による叩きつけを安置でやり過ごしてから、頭へカチ上げ。
その攻撃が当たったところで、相手の後頭部と翼脚の先端から、赤色のエネルギーが吹き出した。やっと怒り状態、か。
「他の皆が簡単にクリアしてしまうような相手でも、俺は何度も何度も練習してやっと倒すことができる。初見モンスターなんてホント無理。勝てる気がしない」
怒り時の咆哮をフレーム回避。そして、頭へカチ上げ。そこで、一回目のスタンを奪った。
スタンをした相手へ、縦1からのホームランを2セット。
さてさて、怒り状態のコイツはどんなものなのやら……
「必死に知識を溜め込んで、何度も何度も練習して、何度も何度も乙ってやっとできるのが並の……他の奴らにとっては当たり前のプレイング。俺にはその程度の実力しかない」
スタンから起き上がり、相手は右前脚を引いた。鬱陶しいことに非怒り時よりも動作はかなり速い。それは、翼脚による突き刺し攻撃の前動作。それを見てから、ハンマーを右腰へ構えつつ左前脚へ移動。続く右翼脚による突き刺し攻撃を避けてから、頭へカチ上げをしつつ、逆側の翼脚による突き刺し攻撃を軸避け。
出の早い引っかき攻撃をフレーム回避。続くはずの叩きつけを避けるため、頭の下へ移動。
しかし、相手がやってきたのは叩きつけの時と違い少し間を置いてから、翼脚を地面へ突き刺すような攻撃。初モーション。直撃。クソが。
「これでもさ、プレイ時間はかなり長い方だと思うんだ。そうだってのに、ネットで動画を上げているような奴らの動きなんて全くできない。ホント、嫌になっちゃうよなぁ」
怒り状態でもダメージ量はそこまでではない。回復はせず、絶対回避【臨戦】を使って離された距離を埋める。
叩きつけと、今喰らった地面への突き刺し攻撃。その前動作である引っかき攻撃は同じように見えた。そうなると……怒り、非怒り時の差? それとも択ゲー?
地面への突き刺し攻撃は叩きつけと違って、少しの間がある。だから、引っかき攻撃を回避後、ローリングで相手の股下や、引っかき攻撃をしてきた脚の方へ回避する時間だってあるはず。ただ、それじゃあ叩きつけ後にも攻撃ができない。安置の分かった叩きつけ後はできるだけ攻撃を入れたい。
そのふたつの攻撃に予備動作の違いがあれば良いんだが……
「それでもって、俺がメインに使っている武器はハンマーだってよ。ただでさえ下手だってのに、どうしてそんな武器を使っているんだって話」
離された距離を詰めると、また直ぐに引っかき攻撃。叩きつけと突き刺し攻撃の見極めができないため、相手の股下へローリングで回避。そして、相手がしてきたのは叩きつけだった。
残念ながら怒り、非怒りは関係無し。勘弁してもらいたい。
「もっと強くて使いやすい武器なんていくらでもある。そんな武器を使えば、この下手クソだってもう少しはマシなプレイングができることも分かっている」
……別にさ。無理して頭を狙う必要なんてないんだ。
そりゃあ、頭が弱点の相手は多いし、その弱点を叩くのがどれだけ大切なことかは分かっている。でも、今俺がやっているのはTAなんかじゃない。どれだけ時間がかかろうが、比較的安全な相手の後脚だけを攻撃し続けて倒したって良い。
「でも――それじゃあ面白くない」
だから、どれだけ難しいだろうが、俺はお前の頭だけを狙い続けるよ。
俺が担ぐと決めたコレはそんな不器用な武器なんだ。そして、そんな武器だからこそ、俺が担ぎたいって思ったんじゃないかな。
叩きつけを回避後、相手はサイドステップ。
さらに俺の方を向いている翼脚が赤く、光った。
バックステップをしながらエネルギー弾を飛ばす相手を追いかけるように、前へローリング。後で爆発音。頭の位置を確認してから、その頭へ縦1。
相手は続けて2発目のエネルギー弾を発射。そこへ縦2。発射後、威嚇。威嚇時の頭の動きに合わせ、少しだけディレイをかけてから、ホームラン。
とりあえず、この攻撃だけは安定して攻撃を入れられそうだ。そんな攻撃を増やしていきたいところだが……難しいものです。
「俺はそんな人間だよ。面倒くさく、矛盾だらけ。普通の人よりも少しだけ多くモンハンをプレイして……普通の人よりも少しだけモンハンが下手」
ホームランを叩き込むと、俺の方を向いていた翼脚はアイツの背中を向くように変化。そこから直ぐに、右前脚を引いてからの翼脚による突き刺し攻撃。
左前脚の方へハンマーを右腰へ構えながら移動し、突き刺し攻撃後にカチ上げ。
そういえば、その前の突き刺し攻撃と、地面への突き刺し攻撃の時も、あの翼は俺を向いていなかった気が……
翼の向き、か。
悩んでいる時間はない。間違いでも良い。とにかく全部試せば良いんだ。相手の動き全体を見ていた状態から、少しだけ相手の翼へ意識を向けてみる。
「きっと傍から見たら俺はおかしなことをしているんだろう。どう考えても自分には合っていないゲームを、どうしてそんなに続けているんだって思ってしまう」
カチ上げ後、相手のサイドステップ。翼の向きは先ほどと違い俺の方を向いている。
引っかき攻撃。フレーム回避から頭の下へ移動し、ハンマーを右腰へ。相手が次にしてくる行動を予測した立ち回り。きっとそれはハンマーを使うハンターにとって何よりも大切な行動。
合っているかなんて分からない。それでも良い。この下手クソはそれくらいしなければ勝てないのだから。
「でもさ、仕様が無いじゃん。それくらいモンハンが好きになってしまったんだから」
頭の前へ移動して直ぐ、相手がしてきた行動は叩きつけだった。そこへ、ハンマーでカチ上げ。
まだ……まだ分からない。たまたま相手が俺の予想通りの動きをしてくれただけなのかもしれないのだから。そうではあるけれど、やっと未来が見えて来た。
カチ上げを受け、怯んだアイツの翼の向きを確認。その向きは俺じゃなく、アイツの背中を向いていた。
怯み後、直ぐに右前脚による引っかき攻撃。ソレをフレーム回避しつつ、祈るような気持ちで頭の前ではなく右前脚の方へ。
引っかき攻撃後、叩きつけは引っかき攻撃と同じ側の脚で。地面への突き刺し攻撃は逆側の脚で行ってくるはず。だから、同じ引っかき攻撃でも次にしてくる行動のため、違う動きが要求される。
引っかき攻撃から少しの間。そして、次の攻撃は地面への突き刺し攻撃だった。予想が、当たった。
バラバラだった何かがひとつずつ噛み合っていく。
パターンも決めずに戦えるほど俺は上手くない。パターンを決めたところで、できるプレイングなんて大したものじゃない。
それでも、まぁ……きっとお前を倒すことができるくらいのプレイングはできるんじゃないかな。
「……多分、俺がそこまでモンハンを好きになってしまったのは、ここまで下手だったからだと思うんだ」
地面への突き刺し攻撃をやり過ごしたところで、相手の頭へカチ上げ。それで2回目のスタン。
頭の奥の方がチリチリと痛む。気がつけば呼吸はバカみたいに荒くなっているし、心臓の鼓動だってかなり早くなっている。
頼むから、まだ切れないでくれよ。もう少し……もう少しだけ耐えてください。
スタンをした相手へ、縦1からのホームランを2セット。
スタンから起き上がった相手は怒り状態が解けたのか、後頭部と翼の先端から溢れていた赤色の光は消えていた。
「下手だったから、長い時間楽しみながらプレイすることができた。下手だったから、クリアできた時や上手くできた時の喜びが大きかった。……そういうことだと思う」
少々見辛くなってしまったが、翼の先端の向きはアイツの背中の方。
そして、2回目のスタン後の最初の行動は、後ずさってからのゴアやシャガルと同じような2連小突進。それが直撃。
突進の向きは固定なはずだから、反時計周りするだけで簡単に避けられる。ただまぁ、ソレをいきなりやられたらそりゃあ無理です。
突進直撃後、流石に体力が心配だったため、調合して直ぐに秘薬を飲み込みガッツポーズ。そこへ、翼脚を使った突き刺し攻撃が当たり、さらに吹き飛ばされた。今更そんなことを嘆いても仕方無いが、小タル爆弾を持ってくれば良かった。
相手の状態を確認。翼は背中向き。バックステップ。そして、あのバカみたいな速さの低空飛行突進。
多分、もう一度でも攻撃を喰らえば、此方は気絶する。気のせいかもしれないが、コイツの攻撃の気絶値は高い。ここで気絶をすると、やっと作り始めることのできた良い流れがぶっ壊される。それだけはマズいんだ。
滑空攻撃を緊急回避。起き上がってから直ぐに、通り過ぎて行った相手を確認。小走りからの滑空攻撃。ソレを絶対回避【臨戦】で相手を追いかけるように回避。
とにかく今は相手に距離を取られないにようするのが大切。
滑空攻撃後の翼の向きは俺の方。
新モーションさえなければ、次は引っかき攻撃か、エネルギー弾の発射なはず。
翼の先端が赤く光った。全力で相手へ向かってローリング。
エネルギー弾を躱してから、決めたパターン通り相手の頭へ縦1からのホームラン。ソレを当てたところで、相手は怒り状態へ。
できれば、もう少しくらい怒らないでほしかったんだけどなぁ……怒り状態のコイツの攻撃速度はちょっとヤバいんだ。
「ま、しゃーないか」
そういうものなんだろう。
此処まで戦ってやっとコイツの攻撃パターンが分かってきた。
コイツの戦闘スタイルはふたつ。ひとつは翼脚を使った突き刺し攻撃や、滑空や普通の突進攻撃をしてくるスタイル。もうひとつが、翼脚からエネルギー弾を飛ばしてくるスタイル。
そして、その見分け方は翼脚が前方を向いているか、後方を向いているか。
「……いや、初見じゃそんなもの分からんって」
それでも、俺が気づけたのは……きっと俺が今担いでいる武器のおかげなんだろう。不器用に、真っ直ぐに、どんなに攻撃がキツかろうが相手の頭だけを叩きつけることしかできないこの武器のおかげ。
「攻撃範囲は狭いくせに、出の早い攻撃なんてない。やっとの思いでコンボを繋げて出せる最大威力の攻撃さえ、決して褒められるほどのものじゃない」
そんな武器を担いでいるせいで、俺は上手くなれないのかもしれない。この武器じゃなければ、もっと簡単にお前を倒すことだってできるかもしれない。
でも、そんな武器を担いでいたおかげで、俺は此処まで来ることができたんだ。だから、この武器だけは手放せやしないんだろう。
「それでも俺はハンマーが好きだよ」
使ってみれば分かる。
本当に面白いんだ、この武器は。
怒り状態となった相手の翼の向きは前方。
引っかき攻撃。頭の下へ移動し、叩きつけ攻撃後の相手へカチ上げ。
カチ上げ後、逆脚での引っかき攻撃。同じように頭の下へ移動してから、叩きつけ後にもう一度、カチ上げ。怯みはなし。翼の向きは後方のまま。
「もし、俺がもう少しだけ上手かったら。もし、お前がもう少しだけ弱かったら。もし……俺がこの武器を担いでいなかったらきっと――」
別に狙っていたわけじゃない。俺にそんな実力なんてないし、そもそも見てから間に合うようなものじゃないのだから。
ホント、もっと上手くなりたいんだけどなぁ。
カチ上げ後、当たればラッキーくらいの気持ちで横振り。けれども、相手は大きくバックステップしたため、空振り。
その次の俺の行動は頭で何かを考える前に――身体が勝手に動いた。
バックステップで距離を取った相手を追いかけることはせず、横振りから空中へ縦2。相手は勢いを付けるように半歩後退。
縦2を振り下ろしてから直ぐに、ぐるりと周る。もう考えたって仕様が無い。当たればラッキー。それくらいの気持ち。
ただ……何故か外れる気はしなかった。
そして、アイツがしてきたのはあのバカみたいな速度の低空飛行突進。
そこへ、ハンマー最大威力である、ホームランを叩き込んだ。
「この勝負はお前が勝っていたんだろうな」
たまたま相手が滑空攻撃をしてきて、たまたまホームランが当たり、たまたま怯み値が噛み合ってくれた。俺じゃあそんなものは狙えない。
だから、これはただの偶然ってわけなんだが……ま、モンハンじゃよくあることだ。
ホームランを叩き込んだところで、相手は空中から落下しダウン。
「ありがとう」
ダウンした相手の頭へ縦1。
「もう4回目にもなるこの世界で最初に戦えたのがお前で良かった」
さらに縦2。
「次はさ、俺ももっと上手くなってくる。だから、その時まで――」
そしてぐるりと周り、その反動を活かしてから……ホームラン。
「さようなら。名も知らないモンスター」
弾けるスタンエフェクト。腕へかかる重みとなって感じたヒットストップ。
音が戻ってきた世界で最初に聞いたのは……相手の悲鳴だった。
「はぁ……疲れた」
でも、楽しかったんじゃないかな。
お疲れ様。ありがとう。できることなら、またもう一度、お前と戦えることを願っているよ。
次話のエピローグを書いたところで、この作品の本編は完結となります
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エピローグ
かなり苦戦したものの、どうにか名前も知らないモンスターを倒すことはできた。それは良いんだ、それは良いのだけど――
「こっからどうすれば良いんだろう……」
いやぁ、困りましたな。
とりあえず、倒したモンスターからは有り難く素材を剥ぎ取らせてもらいました。初見ってことが大きいけれど、相手はかなり強かった。そうだというのなら、武器や防具もなかなかの性能なはず。まぁ、その装備を作るためにはコイツとは何度も戦わないといけないわけですが。
……てか、あれ? そもそもコイツを倒してしまって良かったのか? 目の前に現れたものだから何の疑問も持たずに戦ってしまったが、あまりよろしいことじゃなかったのかも……ま、まぁ、やっちゃったものは仕様が無い。もしギルドから怒られるようなことがあっても、命の危機だった、とか言えば大丈夫だろう。……たぶん。
んでだ。モンスターも倒したことですし、俺は帰りたいのですよ。
けれども、その帰り方が分からない。他のエリアに通じてそうな道は見当たらないし、モドリ玉も持ってきていない。
いかにも此処から飛び降りてくださいね、っていう感じの場所はあるのだけど……今俺のいる場所ってすっごく高いんです。今、俺がいるのは雲よりも上なんです。アタリハンテイ力学のあるモンハンの世界といえども、流石にそこから飛び降りるのは怖い。
観測船でも浮いていてくれれば良いのに、それも見当たらず、見えるのは太陽と月だけ。ホント、どうすっかね。
此処で待っていれば誰か来てくれたりしないだろうか? なんて淡い期待を抱きつつ、暇を潰すため、エリア内をもう一度探索してみることに。
多分アイツが原因なのだろう、壁に走る赤い線をボーっと見たり、エリア内に落ちているアイテムを拾ったり。
そんな現実逃避の探索で拾えたのは龍殺しの実となぞの骨くらいです。すごくいらない。あの赤い線は……なんなんだろうね、これ。
いやはや……これはもうアレですね。いよいよ覚悟を決めて飛び降りなきゃいけない頃なんでしょうね。
そんなわけで5分ほど目を逸らし続けていた、此処から飛び降りられますよ、って感じの崖へ向かうことに。
そして、その崖から少しだけ身を乗り出し下の様子を確認。
「うわぁ……下が見えない」
雲しか見えなかった。もう泣きそうだ。
たぶん、此処から飛び降りるのが正解だとは思うんだ。思うんだけど……この高さはいくらハンターでもダメな気がしてならない。
ようやっとこの世界へ戻って来て、滅茶苦茶強いモンスターを倒したってのに、落下死は笑えない。
でも、このままじゃ先に進めない。
「よ、よーし、飛び降りるぞ。こっから飛び降りるからな!」
誰に当てるでもなく、自分へ言い聞かせるような言葉を落としてみる。この臆病者が少しでも前へ進むことができるよう。
……いや、でもやっぱり怖いからもう少し様子を――なんて本当に情けないことを考え始めた時だった。
「……えいっ」
後からそんな声。
そして、トン――ってな感じで誰かが俺の背中をやや強めに、具体的にいうと俺を崖から突き落とすくらいの強さで押してくれた。
そうなると……まぁ、あれだ。もう落ちるしかないのですよ。
いきなり誰かの声が聞こえ、いきなり誰かに背中を押され、気がつけば俺はもう空中。
本当に意味が分からなかった。先程倒したモンスターが急に現れた時なんかよりも驚いた。
でも、アレは……今聞こえたあの声は――
重力を受け、自由落下をし続ける俺の身体。
眼下に見えるのは真っ白な雲ばかり。その先広がる世界は、まだ見えてこない。
風を切る音がうるさかった。
あの雲の先には、これからの俺の未来には――どんな世界が広がっているのだろう。今はまだ何も見えてこない。だからこそ、面白いのかもしれない。
これまでの人生で、最も長い時間の自由落下中、俺が考えていたのはそんなことだった。
――空から女の子が降ってきた。
なんて言葉がくれば、きっときっと素敵な物語の始まる合図。
けれども、降ってくるのが俺みたいな野郎だってなると……残念ながら期待できるような物語ではないだろう。
ま、それくらいが丁度良いんだけどさ。
今までと違い、もう元の世界へ戻ることはないだろう。そう考えると、ようやっと物語が始まってくれたんじゃないかって思う。
最初なのだし、少しくらいはカッコつけた方が良いのかもしれない。とはいえ、そんなことが俺に似合わないことくらいよくよく分かっているわけですよ。
そうだというのなら、何事もなかったように、いつも通りの自分でいるのが一番なんじゃないかな。
「あっ、笛ちゃん。上の様子、は……どうだっ……」
かなりの滞空時間だったからどうなることかと思ったけれど、無事着地に成功。アタリハンテイ力学万歳。
そして、着地して直ぐに誰かの声が聞こえた。
アレだけ長い時間落ち続けたのにも関わらず、未だ雲の中。そんなこともあって聞こえた声の主の姿ははっきりと見えてこない。
それでも、それが誰なのかくらいは分かった。だって、それくらいの時間を一緒に過ごしてきたのだから。
「……っと。や、久しぶり。もしかして待った?」
せっかくの再会なんだ。洒落た言葉のひとつでも落とすことができれば良い場面。そうだというに、俺の口から落ちたのはそんな言葉だった。
こんなことになるのなら、何かセリフでも考えておけば良かったのかもしれない。とはいえ……まぁ、そんな言葉だってこの俺には似合わないのだろう。そうだというのなら、これくらいが丁度良い。そう思うことにしておこう。
そんな俺の言葉を向けた相手は、ポカンと口を開けながら、じっと俺の顔を見つめた。
「……ううん。大丈夫。そんなに待ってないよ」
そして、そんな言葉。この世界で俺が始めてパーティーを組んだ相手は、くしゃりと顔を歪めながらも――笑ってくれた。
……そっか。それは良かった。いつもいつも君には待たせてばかりだったもんな。
俺がこの世界へ戻ってくるまでどれくらいの時間がかかってしまったのかは、まだ分からない。また長い時間待たせてしまったのは確かなこと。それでも、俺なりに精一杯頑張ってみたつもりです。
だからまぁ、許してもらえると嬉しいかな。
聞きたいことだったり、聞かなきゃいけないことはたくさんある。けれども、今はこうしてまた再会できたことを喜ぶ場面なんだろう。
泣き始めてしまった相棒さんを前にどうしたものか、困っていると、俺が立っている直ぐ後ろに誰かが着地した音が聞こえた。
「……あのバルファルクは貴方が?」
担いでいる武器は珍しく狩猟笛ではなく、ライトボウガン。
そんなあの彼女が再会後、最初に落としてくれた言葉がそれだった。
……バルファルク。それがたぶん、あのモンスターの名前なんだろう。
できることならもう一度戦いたいものです。
「うん。戻ってきたらさ、なんかいたから戦ってみたんだ」
この状況を察するに、このふたりはあのバルファルクを探していたってところだろう。それを俺が倒してしまったわけだけど……まぁ、やっちゃったもんは仕様が無い。
それにどうせ、このふたりは俺がまだ見たこともない多くのモンスターと戦っていたはず。だから、今回くらいは俺がいただいてしまっても良いだろう。
「へ? え、バ、バルファルク、倒しちゃったの?」
「……そうみたい。この上のエリアで倒れてた」
本当に大変だったんですよ? 初見モンスターはとにかく苦手なんです。
「あーえー……そ、そっか、それじゃあ今回のクエストは完了だね! 隊長さんにも報告しないとだ」
隊長さん? 誰のことだろうか。分からないことが多すぎる。その分、楽しめるってことなんだろうけれど、今は何が何やら……って感じです。
てか、そもそもとして、此処は何処で、このふたりは此処で何をしていたのだろうか。
「……それじゃ、龍織船に戻ろ」
龍織船。また知らない言葉。さっきから完全に置いてかれてます。
ホント、俺はどのくらいの時間この世界から離れていたのやら……
その後も何が何だか分からないまま、ふたりについていくと、気がつけば大きな飛行船の上にいた。どうやら、これが龍織船ってものらしい。
飛行船にはそれなりにお世話になったけれど、此処まで大きな飛行船は初めて見る。もしかしたら、此処がMHX続編の拠点だったりするのだろうか? まぁ、それを確かめる方法はないんだけどさ。
俺たちがいたマップ(遺群嶺というらしい)から龍織船に戻って直ぐ、ふたりが隊長さんと呼んでいた人物へクエストの報告を行った。
それなりに有名だったらしい俺が急にこの世界へ戻ってきたことや、そんな俺がバルファルクを倒してしまったせいで、かなりバタバタとしてしまったが、隊長さんも喜んでいたし、結果としては良かったっぽいです。
なんだかよく分かんないけれど、この龍織船にとってあのバルファルク討伐は大きな一歩となったんだってさ。
そのバルファルク討伐のため、あのふたりは頑張っていたらしい。
逃げ足が早く、直ぐにどっか行っちゃう、とあの相棒はバルファルクに対し愚痴を溢していた。……きっと相棒にとってバルファルクはあまり強くないモンスターなんだろうなぁ。
そして、相棒と彼女のふたりがどうしてこの龍織船にいるのかって話だけど、どうやらこの龍織船と行動を共にしている、集会酒場っていう場所で活動をしているからだそうだ。
その集会酒場だけど、此処最近になってできたものらしく、まだ所属しているハンターは少ない。けれども、集会酒場が主に受け付けているクエストはG級。そんなわけで実力のあるこのふたりが配属……というか、ほぼ無理やり此処に移ったと言っていた。あと、ついでに俺の所属も大老殿からこの集会酒場になっていた。
戦線で頑張っていたハンターが抜けてしまった大老殿の未来が心配だ。いや、まぁ、俺はほぼほぼ名前だけの登録だったわけですので、戦力にはなっていなかったわけですが。
そんなことをいっきに説明されたわけだけど……正直、まだよく分かっていません。いきなり多くのことを説明されてもついていけない。
とはいえ、ゆっくりとでも良いからこの環境に馴染んでいければ、と思う。焦る必要はない。今度こそ、時間はあるのだから。
因みに、オストガロアを倒し俺が消えてから、またこの世界へ戻ってくるまでに約半年の時間が経過していたらしい。
あのネコの言葉もあり、そもそもあのふたりのいる時間に戻れるのかすら分かっていなかったんだ。その程度の時間なら問題なしです。
なんてことを俺が言ったら――
「ふふっ、これで私の方が年上だ」
だなんて、あの彼女に言われてしまった。
元々、あの彼女には負けっぱなしなわけだし、今更って感じもするけれど、これで更に差が開いてしまいました。ホント、遠い存在だ。
バルファルクを倒したことの報告をするため現在、龍織船はドンドルマへ向けて空を飛んでいる。
完全に日が沈んだ今、夜風がやたらに涼しく感じた。
「あっ、ここにいたんだ。どう? 少しは慣れた?」
バルファルクとの戦いもあって身体は疲れているはず。けれども、どうにも自分の意識はフワフワと浮いてしまい、寝ようにも寝られなかった。こうしてこの世界へ無事戻って来られた実感がどうにも湧かない。
そんなわけで、龍織船の船首に腰掛け、夜空をボーっと眺めているとそんな声。
「流石にまだ慣れないかな。何が何だか……ってのが本音だよ」
声の聞こえた方へ顔を向けることなく、元の世界じゃまず見ることのできないあの夜空へ言葉を落としてみた。
そんな俺の隣へ、誰かが座った。
「……そっか。まぁ、そりゃあそうだよね。私だって、君がこうして戻ってきてくれた実感が湧かないもん」
風を切る音が聞こえる。
少し手を伸ばせば届くんじゃないかってくらいの星空が、俺の直ぐ上に広がっていた。それは何度見ようと飽きることはなく、ずっとずっと眺めていられるもの。
昔は、そんな景色をあと何回見ることができるのかって思っていた。でも、もうそんな心配はしなくて良い。
……やっぱり、実感なんて湧かないよなぁ。
相変わらず、不安だらけの人間なんです。そんな人間ではあるけれど、もう止まっているのも良い加減飽きてきたところだ。
本当に時間はかかってしまった。相手はもう待ってもくれていないかもしれない。
「……俺さ」
「うん」
お互いの顔を見ることもなく落とし合う小さな言の葉は、夜風に流れ……直ぐに消えた。
最初に交わした約束からもうどれくらいの時間が経ってしまったのかも分からない。そのことには申し訳なさでいっぱいだ。そもそも今更、あの約束を果たす意味なんてないのかもしれない。
それでも、君に伝えなきゃいけないことが……伝えたいことがあった。
「この世界の人間じゃないんだ」
ゆっくりでも良い。
カッコ悪くて構わない。
それでも良いから……止まってしまった物語をもう一度始めてみようと思う。
――――――――
あれから、俺と彼女たちとの関係で何か変わったかというと……特に変わったことはなかったりする。結局のところ、俺は不器用にハンマーを振り回すことしかできないし、あの相棒は不安そうに……でも何処か嬉しそうに隣に立ってくれているし、あの彼女は相変わらずの自由っぷり。
「うへぇ……ラ、ラオシャンロンって思っていたよりずっとおっきいんだね……あれ、ホントに倒せるの?」
4度目の訪れとなるこのモンハンの世界。
慣れてしまったといっても良いくらいではあるけれど、今回は頼りになる前情報は一切無し。難易度高いなぁ……
「……初めて戦うから楽しみ」
ひとりでこの世界を歩んでいけるほど、俺は強くない。そんな俺が、此処まで来ることができたのは……この彼女たちのおかげなんだろう。
恥ずかしいから、そんなこと言えたもんじゃないんだけどさ。
「あら? そうだったんだ。ん~……まぁ、俺もラオは久しぶりだし、どうせモーションだって変わってるだろうし、初見みたいなもんだけど」
今までが上手くいっていたとは言えない。それに、これからは上手くいかないことだらけだろう。
やっぱり未来なんて見えないけれど、迷惑をかけてしまうと思う。足を引っ張ってしまうと思う。壁にぶつかる度、止まってしまうと思う。
「えー、何それ。不安しかありませんぞ……」
「……大丈夫、失敗してもちゃんと謝れば許してもらえると思う」
「ラオは来るまでもう少しかかるし、謝罪の練習でもしとくか」
つまりは、どうかこれからもよろしくってことで。
「失敗すること前提で話すのやめようよ!」
心配いらないさ。世界を3度救い、世界を4回越えたところで離れることはなかったんだ。ちょっとくらいの困難なんて敵じゃない。
「ま、大丈夫だろ。サクっと倒して帰ったらパーっと打ち上げでもしてやろうぜ」
「あっ、結局いつも通りなんだ」
「……今日は私もビールにする」
例え迷いながらだとしても胸張って、自信持って行けば良い。やるだけやって、できるだけ頑張って、ダメならそれで。それくらいで良いだろう。
それにやっと此処まで来たんだ。それならもう楽しんだ者勝ち。
さてさて、それじゃ――
「っしゃ! 行くかっ!」
「おおー!」
「おー」
ひと狩りいくとしよう。
と、いうことでエピローグでした
随分と長くなってしまいましたがこれで本編は完結となります
読了、お疲れ様でした
とはいえ、色々と書き残していることや、どうせなら丁度100話で終わらせたいと思っているため、あと3話、後日談的なものを投稿する予定です
のんびりゆっくり投稿していこうかなと思っています
この作品のあとがたりはソレを投稿し終わってから書く予定です
それでは、また何処かでお会いできることを楽しみにしています
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後日談
後日談~その1~
それじゃ、のんびり続きを書いてみるとしましょうか
エピローグが終わってから直ぐのお話となります
この世界へ戻ってきてから、2日の時間が過ぎた。バルファルク討伐の報告も終えたらしいし、とりあえずは一段落といったところだろうか。
バルファルクの報告を終えたことで、この龍織船の功績も認められたらしく、これからは各地でモンスターの研究と対策にあたるそうだ。んで、俺が今所属している集会酒場もその龍織船にくっついているわけですから、これからは色々な場所へ飛び回る生活が続くんじゃないのかな。
……4度目となる今回、俺が元の世界へ戻ることはきっともうないんだと思う。ま、そんな実感なんて湧かないんだけどさ。
それに今回はゲームをプレイしていないこともあって今までみたいに、知識を活用することが難しい。これから担ぐことになるだろうG級武器の期待値や、防具のスキル。テンプレ装備や新しい戦い方。そして、どんなモンスターたちが待っているかすら今の俺には分からなかった。つまるところ、攻略情報無し縛りって感じ。難易度高いなぁ……
それは楽しみであるのと同時に、やっぱり不安に思ってしまう。
初見モンスターを含め、自分の知識にないことへの対処が本当に苦手なんです。そんな俺がどの程度頑張れるのやら。
そんな愚痴のようなことを、隣へ座っているあの彼女に溢してみた。
「……別に焦る必要はないと思う。ゆっくり楽しも」
それもそうだね。
これから先、何が起きるのかなんて分からないけれど、今回ばかりはゆっくり楽しむことができそうだ。せっかく自分の好きな世界へ、自分が望んだよう来ることができたんだ。そうだというのなら、精一杯楽しんでみましょうか。
「ん、了解。とはいえ、君の方が俺よりも半年早く楽しんでいたわけだし、色々と教えてくれると――」
「楽しくなかった」
俺の言葉を遮るように、あの彼女が言葉を落とした。その表情は見えない。
「……楽しくはなかったよ」
俺が消えていた半年間。彼女たちがどんな生活を送っていたのか。その詳しい話は聞いていない。
それでも、この彼女がどんな想いを持っていたのかは理解できた。
「ごめん。遅くなって」
「……探した。本当に探した」
これ以上、早く戻ることなんてできなかった。だから、別に俺が悪いわけではないのかもしれない。けれども、彼女を待たせてしまったのが事実であるのなら、やっぱり謝らなくちゃいけないんだろう。心から。気持ちを乗せて。
「別にネコの姿でも良い。どんな世界でも構わない。でも――これからはずっと私の傍に居て」
誰よりも自由で、誰よりも強い彼女が落とした言葉。
そんな言葉が俺の胸を締め付けながらも、ストン――と心の中へ落ちてくれた。
「うん、約束するよ」
その約束を守れるかどうかはやっぱり分からない。それでも、自分にできる限りのことはやるつもりです。
自分の好きな相手なんだ。それくらいはやりたい。やらなくちゃいけない。
自分のためにはあまり頑張れないような人間だけど、この彼女のためならこんな俺でも頑張れる。そう思います。
そんなあの彼女にしては珍しい一面を見てから暫く、今日も今日とて元気な様子の相棒さんがとことこと俺たちの方へ走ってきた。
「おおー、ふたりともいる。これなら丁度良いね!」
はて、何の話だろうか。今はちょいとだけセンチメンタルだから、できれば明るい話題だと嬉しいです。そういう気分だって大切にしなきゃいけないのだろうけど、やっぱり明るい方が俺は好きかな。
「どったの?」
「んとね、さっき酒場のマスターからやっとクエストの依頼をされたよ! それで、ソレをクリアしたらG級のクエストを受けられるんだって」
あら、それはまた嬉しいお知らせじゃないですか。
ってか、あれ? このふたりはまだG級のクエストを受けていなかったんだ。てっきりもうバリバリにG級のモンスターたちを倒しているのかと思っていた。
ん~……じゃあ、龍織船の方がゲームでいう村クエ的な扱いだったってことだろうか。んで、集会酒場が集会所的な。
ま、クエストへ行くことができるのならもうなんだって良いんだけどさ。
ポケモンでカントー地方へ行けると分かった時。ドラクエで船を入手できた時。
世界が一気に広がるあの感覚は嫌いじゃない。この先にある未来を考えると、ワクワクが止まりません。
「……クエストの内容は?」
「上位のディアブロスだって。場所は砂漠だから初めてのエリアだよ!」
おおー、今回はディアがいるのか。ハンマーで戦うにはちょっとアレだけど、それもまた嬉しい情報です。これで亜種もいるようならアーティを作ることができそうだ。
そして場所は砂漠、と。旧砂漠ではないってことで良いんだよね? ディアと一緒に復活したといったところだろうか。旧砂漠エリア2のような変化が起きていないことを願います。段差はまだ良いとしても、坂は本当にやめてほしい。
「了解。そんじゃ、とりあえずサクっと倒してG級に進むとしよう」
「うん、そだね!」
「……久しぶりに笛を担げるから楽しみ」
そういえば再会したとき、この彼女はライトボウガンを担いでいたもんね。せっかくだし俺も今回は色々な武器を使ってみようかな。
それでも、やっぱり最初はハンマーを担ぐんだけどさ。
その後、なんだかんだ初めての訪れとなる集会酒場へ移動。
その集会酒場だけど、まだできて直ぐってこともあってか俺たち以外にハンターは誰もいなかった。そんな集会酒場にはダンディーなおじさんとお姉さんの姿。最初は、ダンディーな方が酒場のマスターだと思っていたけれど、どうやらマスターは女性の方らしい。なかなかに雰囲気のある二人組で、どうやら昔はハンターをしていたんだって。ただ、ちょっと怖そうだから怒られることはしないよう気を付けよう。
因みに、この集会酒場は『ホーンズ』という名前で、マスターが私財で作ったとも。
その他には、道具屋と武器防具屋。そして、なんだかよく分からないちっこい女の子がひとり。そのちっこいのは『わぉ! わぉ!』叫んでいるだけで、何をしているのかは分からなかった。なんなんだコイツ。いや、可愛らしいとは思うけどさ……
龍歴院も決してハンターの数は多くなかったけれど、今回はそれ以上。てか、俺たちしかいない。いかにも、これから物語が始まりそうな雰囲気がして何とも良い感じだ。
今後、ハンターの数も増えていくのかね。そうだというのなら、頑張らないとだ。気張っていきましょう。
本当に久しぶりとなるこのメンバーで行くクエスト。そんなことに、色々と思うところがあったりなかったりします。
良い仲間と出会えました。今、言えるのはそれくらい。
さて、そんじゃま、まずは最初のクエストってことで、ひと狩りいくか。
――――――――――
あの彼がこの世界へ戻ってきてくれてから、もう2週間もの時間が過ぎました。早いものですねぇ。
……オストガロアを倒したあの時、彼はまた消えてしまった。
オストガロアを討伐できたことを喜ぶ槌ちゃん。まるで、何かを掴もうと右手を伸ばしたまま、地面へ膝をついた笛ちゃん。そんなふたりの間にいた私。
けれども、そこにあの彼はいなかった。
ああ、また……またダメだったんだ。
何が起きたのか理解した私は、それくらいのことしか考えられなかった。
唇を噛み締め、俯く彼女に何て声をかければ良いのかは分からなかったし、たぶんどんな言葉を送ろうがあの時は届かなかったと思う。
彼がこの世界の人間じゃないことは知っていた。そして、いつの日か、また別れが来てしまうことも。
これで彼が消えてしまったのは3度目。でも、そのことに慣れることはなく、ただただ悲しくなるだけだった。
そんな彼と同じ世界の人間である彼女。きっと誰よりも彼が消えてしまったことを悲しんでいるはずの人。
そうだというのに、笛ちゃんの行動は本当に早かった。
オストガロア討伐によってお祭り状態となった龍歴院のことや、式典のことは全て無視。龍歴院へ戻り、最初に笛ちゃんのした行動はギルドマネージャーへ、この地方でG級クエストを受けることのできる場所や、新しい拠点を聞くことだった。そこで、今私たちのいる龍織船のことを聞くことができ、今度はその龍織船への配属を目指すよう行動。
どうしてそんな行動をしたのか、その理由は彼女から聞いていない。けれども、それがあの彼のためなのは確かなことだった。
一見、やたらと行動的になっただけで、普段通りの笛ちゃんにも。
けれども私だって、笛ちゃんとは長い付き合いなんだもん。彼女が普段通りじゃないことはよく分かった。微かに感じる怯えや不安。それらの感情を彼女が口に出すことはなかった。でも、分かってしまうんです。
そんな彼女の力に少しでもなれるよう私も頑張ってみた。力になれたかは分からない。でも、それは私にしかできないことだったんです。
大好きな人が消え、ひとりになってしまった気持ちが分かる私にしか。
それから、元々所属していたキャラバンに戻る槌ちゃんや、バルバレで活動を続けている弓ちゃんにも彼に関する情報を集めてもらうようお願いしたり、龍織船のため色々なクエストを受けたりと忙しい日々が続きました。
半年。6ヶ月。それは決して長い時間ではないはず。そうだというのに、本当に長く感じた。自分たちのしている行動が正しいのかなんて分からないし、そもそもあの彼が戻ってきてくれる確証がない。
そんな辛い日々の中でもあの彼女が弱さを見せることはなかった。
本当に、強い人だと思う。
……だって、私にはそれができなかったから。あの時の私にはただただ待っていることしかできなかったから。
そんなこと、考えたって仕方の無いことだけど、私もこの彼女のように強ければ――
「強いね、笛ちゃんは」
今は、遺群嶺でイャンクックの討伐を終え龍織船へ戻ってきたところ。
武器と防具を見てくる、といって加工屋さんの所へ彼が行ってしまったところで、あの彼女に話しかけてみた。
「……うん。やっぱり笛は面白い」
ズレてしまった言葉と言葉。それが何処か面白くて、クスリと笑ってみる。
……結局のところ、私はこの彼女についていくことしかできなかった。私だって、あの彼とまた会いたかった。それは嘘偽りない本当の気持ち。
けれども、この彼女を見ていると、そんな私の気持ちも色褪せて見えてしまう。そんなせいで、なんともいえない気持ちになってしまう。
「えと……ありがと。貴女がいてくれて良かった」
そして、突然のお礼の言葉。
「……私、何もできなかったよ?」
どんなことを思い、彼女がいきなりこんな言の葉を落としてくれたのかは分からない。でも、この彼女がどんなことに対して、この言葉を送ってくれているのかは分かった。
「そんなことない。私ひとりじゃダメだった。貴女がいてくれたから」
「……そうなの?」
「そうなの」
そっか。
それなら良かった。
本当の気持ちは分からないけれど、こうして言葉にしてくれただけで私は救われる。
あの彼のことは好きです。大好きです。でも、それと同じくらい、この彼女のことも大好きなんです。そんなふたりがいるだけで、今は……今くらいは満足できそうだ。
きっと、傍から見ているだけじゃよく分からない会話だったと思う。
それでも、私と彼女の間ではしっかりとした意味を持つ会話。そんなことが嬉しくて、やっぱり私はクスリと笑ってみた。
そんな時だった。
ドン――と、大きな音が響き、飛行船が大きく揺れたのは。
「……なんだろ?」
「うーん、なんだろね」
揺れは直ぐに収まってくれたけど、何が起きたのかは分からない。寝ぼけていた飛竜種が飛行船とぶつかったとかかなぁ。
それくらいのことであってほしいところ。
「今、めっちゃ揺れたけど何があった!」
そして、バタバタと慌ただしく私たちのところへ来た彼。
「私たちも分かんない。とりあえず、上に出て様子を確認しよ」
何がなんだか分からないまま、飛行船の甲板へ。
その甲板では、先の衝撃もあってからやたらとざわついていた。
「す、すみませんッ! ちょっと操縦をミスっちゃったみたいでっ!」
そして、ペコペコと龍織船の人たちに謝るひとりの女性の姿。
「あっ、ご主人」
「……イサナ船だ」
どうやら、そういうことらしいです。
さっきの衝撃は、槌ちゃんが所属しているキャラバンの飛行船がぶつかったからってことみたい。危険な状況ではないみたいで、一安心です。
槌ちゃんにも、彼が戻ってきたことを手紙で伝えておいたし、今回は会いに来たってことなのかな? あの彼も人気者ですなぁ。
そんな槌ちゃんのところへ、あの彼は走っていった。
姿は変わって……というより、戻ってしまったけれど、槌ちゃんと彼も長い間、一緒にクエストへ行った仲間。きっと積もる話もあると思う。
「笛ちゃんは行かなくて良いの?」
「私が行くとご主人さん、緊張して上手く喋れなくなるから」
……まだ、そんな状態なんだ。笛ちゃんだって、それなりの時間一緒にいたはずなのにね。
じゃあ、あの彼が相手でも槌ちゃんは緊張しちゃうんじゃ。
なんてことを思ったけれど、遠くから見ている限りは普通に話をしていた。あの彼の手を掴み楽しそうに笑う槌ちゃんと、同じく楽しそうに何かを話す彼。
「えっと……あのふたり、仲良いんだね」
どんな会話をしているのかは分からなかったけれど、ふたりの仲が良いことはよく分かった。
いや、まぁ、うん……そ、そういうものなのかな?
「……そうみたい」
そして、そんなふたりの様子を少しだけムスっとした表情で、あの彼女は眺めていた。
妬いているんだろうなぁ。妬いていますなぁ。こういう時の彼女は本当に分かりやすい。
……でも、あの彼なら大丈夫だよ。
一番近くで見ていた私がいうのだから間違いない。あの彼は本当に笛ちゃん一筋なんです。
「ホント、嫌になっちゃうくらい……」
「うん? なに?」
「ううん、なんでも。それじゃ、私たちも槌ちゃんのとこ行こ。せっかく来てくれたんだもん。やっぱりお酒も飲みたいよね!」
私の大好きなふたりがいる今。
100点満点! ……とはやっぱりいかないけれど、それなりに満足できています。だから、そんな今を楽しみたいなって私は思うんだ。
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後日談~その2~
望むには遠すぎて
諦めるには近すぎて
「わぉ! 相棒、きいてきいて!」
「あの、だからな? 俺はお前の相棒じゃないと何度言えば……」
どうしてこうなったのかは分からない。けれども、また変なのに懐かれてしまったものだ。別に特別なことをしたわけじゃないんだけどなぁ。
何が面白いのだか分からないけれど、今日も今日とて楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながら、俺へ声をかけて来たちっこいのを前にため息をひとつ。昨日だってアレだけ燥いでいたというのに、元気なことで。
そんな最近の俺の悩みの種であるちっこいのの名前はミルシィという。
そのミルシィだけど、いつ来ても今俺がいるこの集会酒場にいるんだ。んで、そこで何をやっているかっていうと……えと、何やってんだろ。絵を描いている時が一番多いだろうか。一応、ホーンズコインという、クエスト終了後に報酬と一緒にもらえるアイテムの交換も行っているが、どうしてミルシィが此処にいるのかはよく分からない。
てか、そもそも此処は酒場なわけで、そんな場所に小さな子どもがいるのはどうなのだろうか。ミルシィが作るデザートは美味しいらしいけど……
「今日はどこへ向かって飛んでるのかなぁ? とっても楽しみだね!」
「ああ、うん。そうだな。楽しみだな」
可愛らしいし、話しているだけで元気をもらえたりもする。この集会酒場でミルシィはマスコットキャラ的な感じだ。それに俺だってミルシィを嫌っているわけでもない。
じゃあ、何が問題かって……
「それでね、相棒!」
この俺のことを“相棒”と呼ぶことなんです。
いや、別にどう呼ぼうが俺は構わないのですが、俺とパーティーを組んでいるひとりの方がちょいとですね。
「……やっぱり仲、良いね。ミルシィの相棒さん」
冷めた視線と声。マジ怖い。
別に、コイツだってミルシィのことを嫌っているわけじゃないんだとは思う。ただ、ミルシィが俺を相棒と呼ぶ度にコイツは酷く冷めた視線を俺に向けてくるんです。一応、言っておくけど、ミルシィが俺のことを相棒と呼んでいるのは、俺がそうさせているわけではありません。ミルシィが勝手に言っているだけだ。むしろ、俺はその呼び方、変えないか? って何度も言っている。まぁ、聞いてくれないんだけどさ。こんなんどうしろってんだ。
因みにだけど、ミルシィはあのカティ――つまり、ネコ嬢の妹らしい。これだけ可愛らしいのだし、きっと元の世界の方でも人気があるんだろうなぁ。
「え、えと、それで今日はどのクエストへ行くんだ?」
どうにも怖い雰囲気がするから話題転換。この相棒さんったら直ぐ怒るんだ。大雪主かお前は。
「……んとね、イャンガルルガをどうにかしてくれだって」
変わらず、むっすーとした表情の相棒さん。
「あいよ、了解。今日はあの彼女がいないし、まぁ、あまり無茶せず戦おう」
「うん、そだね」
さて、どうして今日はあの彼女がいないかって話だけど……ただの二日酔いです。
先日、というか昨日、俺たちはラオシャンロンの討伐に成功した。そして、帰ってきたら酒場のマスターが大きな宴会を開いてくれたんです。
お酒に強くないってこともあり、普段のあの彼女はあまりお酒を飲まない。けれども、その時はマスターに捕まってしまった。ダメでした。死にました。
そんなわけで今日、あの彼女はお休みです。
んで、ラオシャンロンと戦った感想だけど……なんだろう。そもそもアレと戦ったのがかなり昔ってこともあり、何かが変わったという印象は受けなかった。ただ、エリアがふたつだけとなり、MHP2Gの頃よりはマラソンも楽になるんじゃないかな。貫通ガンナーを揃えればかなり楽に倒せると思う。まぁ、この世界じゃそんなポンポンラオと戦えないわけですが。
俺と彼女が移動式大砲で遊んでいたこともあり、砦の耐久値が半分を切ったのは焦ったけれど、クエスト自体に苦労はしていないと思う。相棒さんは余裕なんて全くなさそうでしたが。
ま、まぁ、結果として無事クリアできたのだし、良しとしておこう。笛さんはどうかゆっくり休んでいてくださいな。
「ん~……このふたりでクエストに行くのって久しぶりだな」
龍歴院にいた頃は、そもそもお互いの所属が違ったし、ドンドルマにいた時だって、相棒とふたりだけでクエストへ行くこともほとんどなかった。なんとも新鮮な気分です。
「何時以来だろ? 昔はふたりだけだったのに、変な感じだね」
懐かしいものです。お互い色々なことがあったっていうのに、よくまぁ、此処まで続いているものだ。
そんじゃま、そんな新鮮な気分のまま行くとしましょうか。相手はガルルガ、とハンマーで戦いやすい相手。3スタンくらい取るつもりで気張っていこう。
「てか、そういえばよく今回は酔いつぶれなかったな。昔なんて打ち上げの度に酔いつぶれてくれたから運ぶのが大変だったんだぞ?」
「へ? あっ、え、えと……あーまぁ、うん。ほら、私もお酒に強くなったんだよ!」
そうなの? まぁ、それならそれで何の文句もありませんが。
メインターゲットはイャンガルルガ。場所は遺群嶺。
それは俺が戻ってきた場所ということもあり、少しばかり特別なマップだ。とはいえ、戻ってきてからもうそれなりの時間が過ぎ、この遺群嶺にも慣れてきてはいるんじゃないかな。
因みにだけど、現在の装備は俺がレウス一式にナルガハンマー。相棒はディノ一式に麻痺操虫棍。そしてあの彼女だけど、基本はベリオ一式にティガ笛。ただ、ナルガライトや毒双剣だったりと色々な武器を使っている。一番楽しんでいるのはあの彼女なんじゃないだろうか。あと、ミツネX防具を装備してもらえるよう現在全力で交渉中です。
せっかくなのだし、俺だって色々な武器を試してみたかった。けれども、如何せんリアルラックがないせいで素材もなかなか集まらず、結局ナルガハンマーを担ぐことに。まぁ、そのナルガハンマーですら天鱗が出ないせいで最終強化までいってないんですが……
ま、まぁ、俺はハンマーが好きだから良いんだけどね! ……はぁ。
最終的には複合装備になるとは思っている。けれども、今までのような知識がないせいでどうにも防具を組みづらい。そんなわけでとりあえずは色々な防具を作らないといけなそうだ。時間はあるのだし、のんびりやっていこう。
「そういえばさ、君ってどうして笛ちゃんと付き合ってるの?」
遺群嶺を目指して進む飛行船の上。風を感じながら、ボーっとこれからのことだとかを考えていると、隣にいた相棒から何か聞こえた。
「…………」
「なんで黙るのさ」
いやだって、何て答えれば良いのか分からないんだもん。てか、コイツはいきなりなんてことを言い出したんだ。
あの彼女と付き合い始めてなんだかんだ長い時が過ぎた。どうして俺があの彼女と付き合ってるのかっていったら、あの彼女に告白され、それを俺が承諾したからってことだけど……この相棒が聞きたいのはそういうことじゃないんだろう。
「えっと……いきなりどうした?」
「だって、聞いたことなかったんだもん」
そりゃあ、そうでしょ。そんな恥ずかしいこと俺だって言いたくないし。
え? なんですか? もしかして俺に言えと? アルコールが入っているならまだしも、素面の状態でそれを言えと?
「あー、どうしてかって言ったら、そりゃあまぁ……」
「うん」
うっわ、なんだこの状況。どうやったって逃げられそうにない。
ホント、なんだって今日の相棒さんはこんなにグイグイ来るんだ。もしかして、まだアルコールが抜けていないんじゃないだろうか。
「お互いに協力して色々な困難を乗り越えてきた……とかかなぁ」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。我ながら酷い回答だと思う。流石にこれはない。
「じゃあ、私でも良かったじゃん!」
「それはダメだろ」
「なんでそこだけ即答なのさ……」
むしろ、即答できない方がマズいだろうに。
もし……もしも、の話だけど、あの彼女よりこの相棒の方が早く俺に告白していれば、俺はこの相棒と付き合っていたのかもしれない。
バルバレにいた加工屋や弓ちゃんにも言われたこと。俺はこの相棒と付き合うだろうと思っていた、と。けれども、そんなことを考えたって仕様が無いし、何よりこの相棒と付き合うってことが全く想像できなかった。
確かに、この相棒とは仲も良いし、男女の関係としては少し近すぎるのかもしれない。でも、なんだろうね。この相棒は相棒なんだ。俺自身よく分かっていないけれど、そんな答えがしっくりくる。
……さて。
良い加減、俺の中にあるちっぽけな勇気を振り絞らなきゃいけない時だろう。
どうして相棒がこのタイミングであんなことを聞いてきたのかは分からない。それでも、いつもみたく適当に流しちゃダメなことくらいは分かる。
「好きなんだ。あの彼女のことが」
だから、一瞬だけ恥ずかしさだとか、俺の邪魔をしようとする奴らを追いやり、素直な気持ちを乗せ言葉にして落とした。
どうして、俺があの彼女と付き合っているのか。そんなもの、ひとつしかない。ただ、あの彼女のことが好きだから。それだけなんだろう。
細かい理由だとか、小さな要因はいっぱいある。けれども、一番の理由は俺があの彼女のことを好きだったからってこと。
「……そっか」
ぽっぽこ怒っていた表情から一変。急に憂いを帯びた表情に。そんな相棒の顔がやたらと大人びて見えた。
この世界では一番付き合いの長い相手。最初は頼りなく見えたし、そんな奴とパーティーを組んで良いものか本当に不安だった。
そうだというのに、今じゃこのパーティーどころか、この世界で一番のハンターとなっている。いつまで経っても成長できないどっかの誰かとは大違いだ。
「はぁ……うん。それなら仕方無いね」
――ごめん。
なんて言葉がついつい出かかったけれど、どうにかその言葉を飲み込む。
「遠いなぁ。嫌になっちゃうくらい遠い」
「こんなにも近くにいるのにな」
「ホントだよ……」
好きとか、嫌いとか、難しいよね。これなら古龍討伐の方がよっぽど簡単だ。
「じゃあさ、それ、笛ちゃんにちゃんと伝えてあげてる?」
「そりゃあ、もちろん、もち……うん?」
あれ? そういえば、あの彼女に直接、好きだって言ったことはないような……い、いや、流石にそれは……
あー……うん。
「一度もないな」
「何やってるのさ!」
そんなこと言われても、ないものはないんです。自分でも驚いているくらいだ。
おっかしいな、付き合い始めて結構長いはずなんだけど……まぁ、そういうこともあるか。別段、珍しいことでもないだろう。よくあることだ。
「いや、ほらアレだ。言葉にしなくてもあの彼女とは通じ合っているから」
「はっ倒すぞ」
怒られた。マジ怖い。
「え? ホントに? 本当に一度も言ったことないの?」
「はい、ありません」
そんな俺の言葉に対して相棒さんはため息をひとつ。
なんだか、今日は相棒さんに振り回されっぱなしだ。いや、いつものことか。クエスト以外のことはだいたいこんな感じですし。
「ちゃんと言葉にして伝えてあげようよ……」
やめてください、心が痛みます。
いや、だってねぇ? その、ほら、そんな言葉を落とす機会ってなかなかないじゃないですか。流石に一度もないってのは自分でもどうかと思うけど。
「言葉にして伝えた方が良い感じですか?」
「フラれちゃうよ?」
……マジか。そこまでか。
でも、いざ言葉にするってなると……いやぁ、やっぱり難しいものですよ。今更恥ずかしがるようなことでもないはずなのに、おかしなものです。
その後も、相棒さんから説教をされ続けた。俺のメンタルはボロボロだ。まさか、こんなことになるとは……
そんな状況で挑んだクエストだけど……まぁ、うん。一乙だけで済んだのだし良しとしましょう。
……ちゃんと言葉にして伝える、か。
流石にフラれるってことはないと思う。とはいえ、このままってもの良くはないだろう。
いつもいつもあの彼女には負けてばかりだった。そんな俺があの彼女に勝てるとは思っていないけれども……まぁ、やるだけやってみるとしよう。
次話で完結となります
では、次話でお会いしましょう
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後日談~その3~
この作品を通して、モンハンを好きになってくれた方がひとりでもいれば私は幸せです
別にこれで何かが終わるわけじゃない。けれども、ひと区切りつけるのには丁度良いんじゃないのかな。
幾度と世界を越えようと続いてきたこの物語。
そんなものにひと区切りをつけようと思う。
本当に色々なことがありました。今では遠い昔のことように感じてしまうほどになってしまったけれど、今でもそれらの記憶ってものはしっかりと残ってくれている。
初めてこの世界へ来たとき、何が何だか全く分からず、随分と情けない状態だった。だって、ほぼ何もできないままドスジャギィに乙らされるくらいだったんだ。そんなこと、今じゃ考えられない。
でも、あの時あのドスジャギィにやられたからこそ、今があるのかなって思ってしまう。やられたことが悔しくて、どうにかしたくて……
そんな俺が選んだ道は絶対に遠回りだった。それでも、あの頃の俺がただひたすらに闘技大会へ出場し続けたおかげで、大切な仲間たちと出会えることができたんだ。ホント、懐かしいものです。
そんなハンターが今じゃ周りから一流のハンターだとか言われるくらいなのだから、人生ってものは分からないものだ。
きっと、俺ひとりじゃ此処まで来ることができなかった。いつだってそうなんです。俺が今、こうやって立っていられるのは周りにいた人達のおかげ。恵まれていますねぇ。
「おーい、そろそろ出発するって!」
物思いにふけていると、今日も今日とて元気な相棒の声が聞こえた。
「あいよ、直ぐ行く」
アイテムの準備もばっちり。背中に担ぐはもちろんハンマー。そんじゃま、気張ってきましょう。
クエストへの出発口へ向かう途中、酒場のマスターやミルシィ、そして幾人かのハンターから激励の言葉をもらった。
最初は俺たち以外のハンターなんていなかったというのに、此処も随分とまぁ賑やかな場所になったものだ。ただ、この世界はきっとそれくらいが丁度良いんだろう。
初めてこの世界へ来たときはHRの飛び級なんかもしたっけかな。2度目となるこの世界は毎日毎日が滅茶苦茶忙しかったし、3度目の世界も身体が身体だったせいでどうして良いのかが分からず、ゆっくりしている時間は少なかったと思う。
その頃と比べ、今回は随分とゆっくりとした時間を歩んできた。先日も弓ちゃんがいるバルバレへ遊びに行ったりしたし、ご主人さんだってちょくちょく龍織船へ来てくれる。このパーティーが別れてクエストへ行かなきゃいけない時もないし、やろうと思えば金冠マラソンをする余裕だってあるだろう。
つまりは、まぁ……思う存分この世界を楽しめているってことですよ。
そんな俺ではあるけれど、此処まで来てしまいました。
「……緊張しているの?」
飛行船へ乗り込んで直ぐ、あの彼女が声をかけてきた。
「そりゃあ、まぁね」
それを確かめる方法はない。けれども、今回俺たちが挑む相手は間違いなくゲームのラスボスだろう。
そんな相手は俺たちがラオシャンロンと戦っている時に発見されたらしい。なんでもラオ並の大きさを持つモンスターで、その見た目はまるで砦のようだったとか。
名前はアトラル・カ。超大型モンスター。まさにラスボス。これから俺たちが戦う相手。
例のごとく、そのアトラル・カってモンスターはかなりの危険性を持つモンスターらしく、ギルド的には一刻も早くどうにかしてもらいたいんだと。俺としてはそんなモンスターと戦えるってことが嬉しいばかりです。
とはいえ、相手がラスボスってなると、やはり考えてしまうことがある。
――また、俺は消えてしまうんじゃないかって。
考えないようにはしているけれど、それは無理というものだろう。だって、今までずっとそうだったのだから。
そんな不安だとか、そういうものがあってそれが表情に出てしまっていたのだろう。
迷ってばかり、直ぐに止まってしまうこの性格。こればっかりはなかなか変わってくれないものです。だから、そんな時は――
「ま、考えたってしゃーない。とりあえず前へ進んでみるよ」
きっとそれくらいが俺には合っている。
「ふふ、ご主人さんの真似?」
「いんや、そう言われたんだ」
「えと……誰から?」
名も知らないお節介なネコから、かな。
あのネコとどれだけの言葉を交わしたのかも分からないけれど……信じているよ。もう俺たちが消えることはないってさ。
アトラル・カのいるは広大な砂漠にある旧砦跡というマップ。今はただの廃墟でしかないが、どうやら昔はその名の通り砦が築かれていたらしい。戦いやすいエリアだと良いんだがなぁ。
今回戦うアトラル・カは前情報一切無しの完全な初見。行動パターンなんて知っているわけもないから、事前に打ち合わせをしておくこともできやしない。
そんなわけで、旧砦跡に向かうまでは結局いつも通り三人で雑談をしているだけとなってしまった。ラスボスが相手ではあるけれど……まぁ、俺たちにはそれくらいが丁度良いのかもね。
「よ、よーし、頑張りますぞー!」
そして、旧砦跡のベースキャンプへ到着。
相棒さんの口調がちょっとおかしいけれど、この人、緊張するといつもこうなんです。
……ふむ。
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「え……何言ってんの?」
いや、せっかくラスボスが相手なんだし、それっぽいことを言わなきゃいけないかなって思ってさ。それに一度くらいこのセリフは言ってみたかったんです。
そして、そんな俺に悪乗りをした彼女が続けて言葉を落とした。
「……此処は私に任せて先に行って。大丈夫、直ぐに追いつくから」
「皆で戦おうよ!」
うむ、なんだかんだでいつも通りだ。
緊張したって仕様が無い。目一杯楽しみましょう。せっかくこの世界へ来たんだ。できる限り楽しみたいよね。
「なんだかなぁ……こんなんで良いのかなぁ」
「これくらいが丁度良いだろ」
「……私もそう思う」
今回のクエストもこの世界のことだとか、色々なものがかかっている。だから、ゲームをしている時と全く同じよう楽しむことはできないかもしれない。
ただ、それはそれ。これはこれってことで。
「ふふっ、それもそうだね」
……さて、準備は完了。
後はもう進むだけ。
「っしゃ! 行くかッ!」
「おおー!」
「おー」
いつも通りの三人で、いつも通りのかけ声。クエストスタートです。
ベースキャンプを抜け、アトラル・カが待っていると思われるエリアへ。
そして、そのアトラル・カは直ぐに見つけることができた。できたのだけど……
「……あれ? なんか小さくないか?」
たぶん、アレがアトラル・カなのだと思う。初めて見るモンスターだし。ただ、そのモンスターは予想よりもずっとずっと小さいんだ。
「ん~……アレを倒せば良いのかな?」
相棒さんもちょっとどうして良いのか分からない様子。まぁ、そうなりますよね。俺だって混乱しています。
そのモンスターの見た目だけど、大きさはイャンクックくらいで色は黄色、見た目は……カマキリって感じです。全くもって強そうには見えない。
ラスボスなのだし古龍種か飛竜種だとばかり思っていたけど……あれ? まさかの甲虫種ですか? なにそれ、聞いてない。
「……とりあえず、倒せば良いと思う」
そんな笛の彼女の言葉。マジ容赦ない。
とはいえ、まぁ、それもそうか。よく分かんないけど、きっとコイツが全部悪いはず。……たぶん。違ったらすまん。
俺たちの存在に気づいたアトラル・カ(仮)は少しだけ近づいて来たと思ったら咆哮をあげた。
あら珍しい。甲虫種っぽいのに、バインドボイス持ちですか。ただ、その咆哮の怯み時間はかなり短め。
咆哮後、俺はバリスタ。彼女は演奏。相棒がエキス採取。特に決めていたわけではないけれど、このパーティーにおける役割はいつもこんな感じです。ダメージソースはほぼほぼ相棒さん頼み。
そして、尾の先から糸を飛ばしている時に俺の撃ったバリスタ弾が当たると、アトラル・カ(仮)が転倒した。もう何が何だか分からないけれど、たぶんチャンス。
そんなわけで、転倒中の頭へハンマーでカチ上げを一発。その瞬間、ピキン――と打撃武器特有のエフェクトが弾けた。
つまりそれは――
「コイツ、スタン取れるぞ!」
超大型種だろうと思っていたから、スタンは諦めていた。けれども、状況は一変。そうなればもうやることはひとつ。
何が何でもスタンを取りたくなってしまいます。
「よし、相棒。乗れ! 乗るんだ!」
「またそうやって簡単に言う……結構大変なんだよ?」
だって、どうせスタン耐性も高いだろうし、相手の行動パターンも分からない。乗りでもしてもらわないとスタンを取れない。
初見のラスボスからスタンとか取ったらもう最高だろう。
そんな気持ちはあったのだけど、アトラル・カ(仮)はフラフラ歩きながら俺たちから離れ、また咆哮をあげた。何やってんだろ、コイツ。行動パターンが全く読めない。
なんてことを思っていた時だった。また尾の先から地面へ向けて糸を発射。
地面が揺れた。
そして、その地面から現れた巨大な瓦礫の山。そこへアトラル・カが飛び込んでいったかと思ったら、瓦礫の山が動き出した。
「なにこれ、なにこれなにこれ!」
「い、いや、俺だって分からんって!」
「……でっか」
何が起きているのか本当に分からない。瓦礫の山はまるで生き物のよう。まさに、超大型モンスター。ギルドの人間が見たのはきっとこの姿だったんだろう。
……いや、こんなのどうやって戦えば良いんだよ。どうすれば良いのか全く分からん。
「あっ、足の爪? っぽいところが柔らかそう」
俺と相棒がいきなり現れた超大型モンスターにあわあわしていると、笛の彼女が冷静に言葉を落とした。
そんな彼女の言葉を聞いてから、足の爪っぽいところを見ると、確かに爪のひとつだけ色が違った。
ああ、うん。すごく弱点っぽそうだ。なんか、こう……いかにも此処を攻撃してくださいね、って感じです。
そんなわけで相棒と彼女は右脚を俺は左脚の弱点っぽいところを担当。本当は三人一緒の場所を攻撃したかったのだけど、俺の武器、ハンマーですし……
それからはもう、何ていうか、色々とすごかった。
爪を攻撃していると直ぐに相手がダウンすることが判明。さらに、そのダウン中にピッケルによる採取や、脚から背中? の部分へ乗ることできるらしい。
そんなわけで、とりあえずダウンするまで爪を攻撃し、採取や背中に登って探索を繰り返すことになった。緊張感も何もあったもんじゃない。
背中へ上り、邪魔な瓦礫などを壊すと大きな繭のようなもの発見。全力でソレを攻撃。そんなことを繰り返しているうちに、アトラル・カはまた元の小さな姿に戻ってしまった。
ただ、今度のアトラル・カは背中に撃龍槍を装備しており、ソレを使っての攻撃なんかをしてくるように。
まぁ、それで強くなったかというと……うーん、どうだろう。
「よーし、今度はほら……翼! 翼とか付けてよ!」
「……火とか吐けばぐぅれいと」
そして、勝手なことを言うふたり。
いつもなら相棒がそういうのを止める役割なのに、今回は何かのスイッチが入ってしまったらしい。これ、ラスボスなんだけどなぁ、これで良いのかなぁ……
元の姿に戻ったアトラル・カに暫く攻撃を続けると、また地面へ糸を発射し、あの瓦礫の山を掘り出した。
「えー……さっきと一緒じゃん!」
さっきと一緒だった。
てか、この相棒は何に対して怒っているんだ。
その後は今までの繰り返し。爪を攻撃してダウンを取り、背中に登って繭を攻撃。それを続けていると、今度は口っぽいところへ入れるようになり、その先にはこれまた巨大な繭がある。その繭を攻撃していると、アトラル・カはまた元の小さな姿に。
なんだろう。たぶん、これがラスボスなんだろうけれど、ダラとかゴグマ、オストガロアの時のような雰囲気が全くないせいで、どうにも……いや、ちゃんとダメージは入っているだろうし悪いことではないと思うんだけどさ。
それに形態がコロコロ変わるおかげで戦っていてなかなかに面白い。そんなアトラル・カが強いかっていうと……まぁ、うん、って感じですが。
4度目の形態変化を行ったアトラル・カは大きな車輪のようなものを装備。
その車輪を使った広範囲攻撃や、地中から取り出した撃龍槍を使った攻撃はなかなかに大きなダメージだったけれども、パーティーがパーティーだ。こちとら、3度ほど世界を救っているわけですし、それくらいで負けるはずがない。
そして、このクエスト初となる乗りを相棒が成功させ、奪った乗りダウンへラッシュ。さらに、そこでこちらも今日初となるスタンを奪った。目標、達成です。
前情報は一切無し。攻略方法は不明。今回はそんな相手。
でも、まぁ――十分に楽しめたんじゃないのかな。例え、知識がなかったとしても楽しむことのできるモンハンはやっぱりすごいと思うんだ。
スタンから起き上がったアトラル・カに、俺のカチ上げと彼女の後方攻撃。それが当たった瞬間だった。アトラル・カの腹部から大量の糸が噴出。さらに、エリアを囲んでいた砦の城壁のほとんどが一気に崩れ落ちた。
「お? おおー、倒した! お疲れ様!」
「……お疲れ様」
うつ伏せに倒れ、もう動くことのなくなったアトラル・カを確認してから、自分の手を見てみた。いつもならこのタイミング。身体は薄くなり、世界が崩壊する。
けれども、俺の手は確かに存在してくれていた。
ああ……よかった。
ただただ、そう思った。
そんな俺の様子を見ていたふたり。そんなふたりへ何か言わなきゃいけないとは思った。でも、こんな時だって良い言葉は何も浮かばない。
「えっと、まぁ……これからもよろしく」
つまりは、そんなところです。
そして俺の言葉に対し、目の前のふたりは笑ってくれた。
色々と心配をかけました。あと、ありがとう。
「……これからはどうしよっか?」
倒したアトラル・カから剥ぎ取りをしていると彼女が声をかけてきた。
ん~……どうすっかね? 特に二つ名がそうだけど、まだ戦っていないモンスターはいるし、俺もそろそろ違う武器を試してみたかったりする。金冠集めなんかも含めやりたいことが沢山残っている。それら全部をやるのは大変そうだ。
だからこそ、面白いんだけどさ。
「そうだなぁ……」
ただ、その前にやっておきたいことがひとつあるわけですよ。
この彼女を抜かしてふたりでクエストへ行ったあの時、相棒に言われたってのもあるけれど、やっぱり負けっぱなしってのはねぇ。
それに、立てたフラグを回収しないのはもったいない。
だから――
「帰ったらさ。結婚しませんか?」
今回ばかりは俺から言葉を落としてみる。
いつもいつもこの彼女には先に言われてばかりだった。でも、これだけは俺から先に言いたかったんだ。
そんな俺の言葉を受けた彼女は、口を開いたまま固まった。
「あと……君のことがずっと好きでした。だから、これからもずっと一緒に居てください」
これじゃあ順番がまるで滅茶苦茶だけど、それは彼女に俺がやられたこと。負けっぱなしってのはやっぱり嫌なんです。
「……はい。よろしくお願いします」
そして、固まっていた状態から戻った彼女はそう言って言葉を落としてくれた。
そんなことがありましたとさ。
――――――――――
それからのお話だけど、やっぱり別に何かが変わったわけではなかったりします。あの彼女に結婚しようと言ったは良いものの、式の予定だとかそういうものも決めていませんし。
そんなわけで、結局今日も今日とていつもの三人でクエストへ向かう毎日です。
どうやら、酒場のマスターが二つ名ディアブロスと何かしらの因縁があるらしく、今度はそれが目標になるんじゃないのかな。
俺が彼女に告白をしてから暫くの間、相棒さんの荒れっぷりはすごかったけれど、今ではなんか開き直った感じです。
重婚がどうたらとか、なんだか怖いことを言っていたりしますが、俺としては早く良い人を見つけてくれればなぁ、と思うところ。そんなことを言うとまた怒られるから口にはしません。あの彼女には甘いのに、俺に対して最近の相棒は本当に容赦がないんだ……
さて、だらだらと続けてしまっても仕様が無い。随分と長くなってしまったこのお話を良い加減終わらせてみることにしよう。
あの時――このモンハンの世界へ来た時から始まった物語。
それは鼻で笑われるようなものだったのかもしれないけれど……それくらいが丁度良いんだろうさ。だから、どうかどうか笑ってやってくださいな。
なんてね。
別にこれで何かが終わるわけじゃない。何かが始まるわけでもない。
けれどもまぁ、これでとりあえずのひと区切りってことにしたいと思う。
読了、お疲れ様でした
この作品を書き終わり、色々と書きたいことはあったりしますが、それはいつも通り活動報告へ書こうと思います
この作品を読んでくれた全ての方に感謝を――
ありがとうございました
では、またいつかお会いしましょう
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