コードギアス憑伝~敗北のルルーシュ~ (壟断)
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ルルーシュ歴01
始まりは唐突だった。
額の部分に強い衝撃が奔ったと思ったら頭部を覆っていたと思われるマスクが真っ二つに開かれた。
一体何が起こったのだろうか?
自分でも気づかないうちに被っていたダサい仮面が昔話で描かれる桃のように綺麗に割れてしまうという状況に立たされる意味が分からない。
三徹くらいした後に前後不覚になったところで仮面を被って遊んでいたところに突如現れたジャイアントな人に脳天唐竹割りを喰らわされたのかもしれない。
いや、それはないな。
いくらなんでもすでに故人であるあの偉人が俺の部屋に遊びに来ているはずがない。
まだ田舎のオカンに強襲されたとか、大人指定の映像作品を大音量で垂れ流していたところを隣人(三十路OLさん)に通報されて大家か警察が押しかけてきて頭部を殴られたとした方が現実的だろう。
どちらにしても俺が立ったまま寝ているという状況があった後に予想される状況だ。
しかし、それらのあり得ないけどあり得るかもしれない状況は、正解ではない。
「なんでっ、どうして!」
どこかで聞いたことがあったような少女風の声音を合図に改めて現在の世界を確認する。
「信じたくは……なかったよ」
俺の目の前に立って銃を突きつける少年が一人。
厨二的な全身タイツ風パイロットスーツ?を着用する姿から察するにレイヤーの方だろうと思う。
そのあっさりしたしょうゆ顔から察するに純日本人だと思われる。
くせっ毛のある茶髪寄りな黒髪は、かつらではなく自前のモノに見える。
年齢の頃は、10代後半か?
悲痛な表情から憤怒を込めた視線を俺に向けているのは何故だ?
「ル、ルルーシュが……?」
おっと、重要なワードが出ちゃいましたよ?
視界の端にペタン座りをしてながら驚愕に身を震わせる赤毛の少女の口から出た『るるーしゅが』という単語から周囲の状況がある程度予想できたが、結論はまだ出さないでおこう。
どちらかというとアングロサクソン系の血筋が強く出ていると感じるくっきりした顔立ちに白い肌。
目の醒めるような赤い跳ねっ毛に若さに反する我が侭ボディは、現実感に乏しい。
「……」
ひたすら三点リーダを続けるしかない状況でも脳天に染み渡るヒリヒリが現実であることを教えてくれる。
額から流れる朱い液体は、その痛みが負傷によるものだと伝える。
諦めよう、そして、受け入れよう。
今、目の前にある現実は、すべて虚構の世界を証明している。
「そうか……俺は――」
黒の騎士団を率い、神聖ブリタニア帝国に挑み、そして、たった一人の大切な者のために世界を手にしようとした魔神。
「ゼロ、か」
認めてしまえば理解は早い。
俺の目の前に立って銃を突きつけている少年は、幼馴染の美少年を狙っている『ウホッ』な感じの妄想を――正しさの隷属者にして物理的・生物的な限界を変態的に突破している超人、ブリタニアの白い死神こと変態KNFランスロットさんのデヴァイサーである枢木スザク君ですね、分かります。
そして、奥の方で可愛くペタン座りして絶望している赤毛の少女は、病弱お嬢様ブラコンおっぱいツンデレ筋肉着ぐるみなどの身体的な属性と体を張ったネタに定評のある黒の騎士団最強戦力のブリタニアぶちまけレンジKNFこと紅蓮さんに跨る紅月カレンちゃんですね、知ってます。
そんな二人と対峙する俺の正体は、
「貴方は私たち日本人を利用していたの? 私のことも……?」
絶望の表情と嗚咽混じりの問いを投げるカレンの姿が教えてくれる。
今の自分の身体を見下ろせば、そこにはぴっちりした黒い服装にオサレなマントを纏ったスタイリッシュな矮躯があった。
ルルーシュ・ランペルージ――とある映像作品の主人公。
それが今の俺だった。
何の前触れもなかったのは確かだ。
気づけばこの状況に居た。
唐突にもほどがある二次元憑依体験だが……悪くはない。
夢にしては知覚できるすべての要素がリアル過ぎる。
現実にしては認識できるすべての要素が荒唐無稽に過ぎる。
夢現の狭間にいるような感覚だ。
「はやく、君を逮捕しておくべきだったよ」
(はやく、君を○○○にしておくべきだったよ)
枢木スザクから発せられる言葉が自動的にルルーシュの貞操を狙っているという台詞に変換して聞こえてしまう。
どうやら俺の思考自体は平常運転のようだ。
「君を信じたかった……でも、君は嘘を付いたね。僕と、ユフィに……、ナナリーに」
断罪するように言う枢木スザク。
数多の二次創作により哀れな妄想の権化と化したスザクを知る者としては、現状をシリアスに感じ切れていない。
今すぐにでも撃ち殺されてしまうかもしれないのに現実と信じきれない状況は、俺から恐怖を奪っている。
それに結果としてスザクがルルーシュを殺さないと知っていることも大きい。
妄想大好きな俺の思考に平常運転を許している限り、厨二的なシチュエーションは羞恥を捨てれば単なる遊び場でしかなくなる。
「君は最後の最後に世界を裏切り、世界に裏切られた」
怒りのあまりに銃を構える腕が震えてているスザク君。
銃の引き金にはしっかりと指が掛かっているので震え過ぎると暴発して俺を殺しちゃうよ?
「君の願いは叶えてはいけない!」
状況からしてブラックリベリオンの終盤で拉致されたナナリーを救出しに来たところでスザク君に追いつかれたところだな。
スザク君の激昂から考えるに俺が知る歴史を過たずに辿った状況なのだろう。
ならば今の状況でスザク君の怒りを鎮めることはできない。
少なくともルルーシュというキャラクターにこの状態のスザク君を止める手立てはない。
精神的にも物理的にも貞操的にも……やはり、シリアスな思考にできないな。
怒り心頭なスザク君は既に銃を構えている。
変態的な超人スキルを持つスザク君が相手だとこちらがKNFに乗っていても勝ち目なんかない。
だというのにこちらの手にあるのは、使い方もよくわからない拳銃が一丁に自爆装置の流体サクラダイト製爆弾。
この状況をクリアするための条件はなんだ?
スザク君に捕まったところでシャルルんに記憶操作された段階で俺の存在がどうなるかわからない。
ただ消えるだけなら良い。
こんな夢幻の状態に未練はない。
遊べるだけ遊べればそれで良いんだ。
しかし、もし、万が一、
「このまま生きていけるなら……?」
いろいろとガン詰な状態だが、ここを突破した場合に齎される特典――絶対遵守の力。
ルルーシュの状況的に四面楚歌は間違いないが、それでも夢現の中だと仮定すればこれ以上にない遊び場だ。
自分の生も死も現実味がない状況だというのなら非現実を楽しむべきだ。
眠っている間に自覚する『醒めてほしくない夢』。
それは、醒めてほしくないと思えば思うほど目覚めは、現実は近づく。
ゆえに現実を遠ざけ、夢幻を歩む。
現実に勝る地獄は無限、夢幻に勝る楽園は有限。
ならばこそ、万を捨て、一を得る生き方をしてみても良いはずさ。
それにはまず、第一の関門――怒りに狂う騎士を宥めよ、だ。
「なあ、スザク」
「……何だ」
銃口を俺に向けたままのスザク君は、一応俺の問いかけに応える。
「ユーフェミアが死んだのは俺のせいか?」
「……ッ! 今さらそんなことを!!」
やば、メッチャ怒ってる。
今のスザク君にユーフィミアのネタは危ないか。
だが、現状を打破するには
「すべてはブリタニア皇帝とその共犯者V.V.に仕組まれたことなんだ。俺がゼロになったことも、ユーフェミアがあんなことになってしまったのも!」
「……どういうことだ」
ヨシヨシ、真面目なスザク君は俺の言い訳も一応聞いてくれそうだ。
「この絶対尊守の力、ギアスを俺に与えたのは、V.V.と名乗った子供だった」
「なっ、それは本当なのか!」
俺の言い訳に食いつくスザク君の驚きも当然だろう。
スザク君にゼロの正体とギアスの存在を教えた胡散臭い存在だからな。
「ああ、本当だ。シンジュクでお前と再会したあの後、カプセル内から出てきたあの時の女と一緒に逃げる途中でV.V.に接触した」
「……」
良し。まだ制限時間は残されてる。
スザク君は考えることを知っている少年だが、正しい判断に固執し過ぎてぶち壊すタイプだったからな。
「そこで俺は、V.V.に契約という名の脅迫を受けた」
「脅迫……?」
スザク君がV.V.と接触した場所は、皇族専用の旗艦の中だった。
考えが浅いところで右往左往するスザク君ならV.V.が帝国内でもそれなりの権力を持つ、もしくは権力を持つ者と関わりがある程度の予想はできるはずだ。
「V.V.は、現ブリタニア皇帝の使いを名乗り、俺に選択を持ち掛けてきた――生か、死かのな」
「そこで君は……生きるために」
「そうだ。俺はあんなところで死ぬわけにはいかなかった! ナナリーを悲しませないために!」
できるだけルルーシュを装い、ナナリーの事は殊更感情を込めて言った。
自分で言うのも惚れ惚れするぐらい迫真の演技だと思ったね。
まあ、姿形や声も同じなんだからよっぽどの奇行じゃなければそれらしくなるんだろうけど。
そんな俺を見るスザク君の体から徐々に怒りが落ち着いてくるのが感じられる。
怒り事態は消えてはいないが、真実を見極めようとする姿勢を見せ始めている。
このまま次の関門もクリアできるか?
「それでギアスを得たのか?」
「ああ、そうだ。俺は、生かされる代わりにブリタニアの敵となることを強要された」
一瞬目を見開いたスザク君はすぐに視線を細めて俺を睨みつける。
「何故、君にそんなことを……?」
そうだ。そこに疑問を持つだろう。
「スザクも知っての通り、俺には始めからブリタニアに対する恨みがあった。それは俺の父であるブリタニア皇帝も知っていたはずだ。何しろ、自分が廃嫡に追い込み、切り捨てた存在なのだからな」
俺の言葉にスザク君は何か思い当たるところがあったようだ。
それもそうだ。
ブリタニア皇帝は大々的に皇族同士の闘争を公認している。
「ブリタニア皇帝が言う進化のための争い。皇位継承権を持つ者たちの中でもやらされていたこと。つまり俺は、ブリタニアの進化のための噛ませ犬にされたのさ」
できるだけ自嘲気味に言う俺にスザク君の表情が困惑に歪む。
「アイツはこの為、我が母マリアンヌを死に追いやり、その際にナナリーを傷つけ、ナナリーの目と足を奪い、俺に反逆の意志を植えつけた!」
俺の叫びにスザク君が向ける銃口が揺れる。
どうやら俺の叫びはスザク君の精神に確かに食い込んでいるようだ。
「それなら……何故君は皇帝の思い通りに動くことを選んだ! ブリタニア皇帝を憎む君が何故!?」
スザク君は怒りと同情が混在した表情になる。
俺が次に何を言おうとしているのか察しがついたんだろうな。
いいぞ。これでこの関門もクリアできる。
「ナナリーの為だ!」
万感の思いを込める俺の言葉にスザク君はやっと銃口を俺から外す。
俺の言葉で、ルルーシュの置かれた状況を予想したスザク君に、ルルーシュを絶対の悪と断罪することはできなくなっているはずだ。
ここで、次の関門だな。
「……行政特区日本。ユーフィミアの願ったモノ」
「ッ!」
ルルーシュの口から出してはいけない名前。
ようやく銃口を下げたスザク君がまた俺に照準を合わせる。
ここで焦らない、焦る必要もない。
「俺とユフィはあの時、和解していたんだ」
「んなッ!?」
今度こそ憤怒が蘇ったスザク君は、その引き金をひく指に力を入れようとする。
「それなら何故あんなギアスを掛けた! なぜ、ユフィを殺したんだ!」
「コイツがすべてが狂わせたんだ!」
今にも引き金を引きそうになるスザク君に俺は左目を広げて見せる。
「見えるだろう? この模様がギアスの力の証! 俺はユフィに命令はしていない! この力が暴走してユフィにあんなことをさせたんだ!!」
本来であれば、ルルーシュの知る事実とスザク君の知った事実はかみ合うところとかみ合わないところがある。
そして、それらを整合しないままに対立する道を彼らは選んだ。
ルルーシュの決意もスザク君の決意もどちらも相応に強かったから仕方がない。
二人とも周囲の人間に影響を及ぼすけど、同じ道を別方向に流れているだけだった。
言ってみれば、車道の右車線と左車線みたいな関係。
まあ、これは俺の安い脳みそでの切り分けだから本質的には違うんだろうがな。
「でも……それならユフィを殺す必要はなかっただろ!」
「お前は、ユフィにあのまま日本人を殺させたかったのか?」
「そんなことない! あの後、ユフィは正気に戻ったんだ! だから、拘束するだけでも良かったはずだ!」
そりゃあそうだ。
俺があの時のルルーシュだったらグロースターを壊してユフィが外に出てきた時点で捕虜にして、ブリタニア軍にイレブンの虐殺をやめさせただろう。
その後は、『日本人、皆殺し』の命令が消えるまで拘束していればよい。
仮にギアスの効果が消えなくてもスザク君に引き渡せば、最悪、ユーフィミアがイレブンを殺さないようにスザク君は付きっ切りでユーフェミアを軟禁することになったはずだ。
そうすればスザク君が戦場に出てくる機会も減っていたかもしれない。
もっとも現状は、過ぎたことはどうにもならんということだけどな。
「違う! このギアスがユフィに強制したのは、『日本人を“皆殺し”にしろ』だ。たとえ、一時的にギアスの力を抑えられたとしても、ユフィは日本人を見るたびに殺さなければならないという衝動に駆られる。そんな状態を死ぬまで続けさせるわけにはいかない!」
「そうなった原因は、君がギアスを暴走させたからだ!」
ん~最後の関門は難易度高いぜ。
「その暴走が仕組まれたことだったんだ! 俺にギアスを与えたV.V.は、あの時、あの瞬間にこのギアスを暴走させたんだ!」
「そんな戯言を信じろと? 暴走させられたとしてもその力は君のモノのはずだろう!」
無茶を言う。
あの時のルルーシュにギアスの暴走状態をどうにかする術はなかった。
事前に暴走することを教えられていれば、前もってギアスを抑える例のコンタクトレンズを常用していたはずだ。
それを知らせなかったのは、C.C.の怠慢だろう。
マオのことから学べなかったのはC.C.もルルーシュも同じだけど。
「そうさ! この力は確かに俺の力だ。だから俺は――その責任を取った」
「そ、んな……」
「スザク。お前はかつて戦争を止めるために枢木ゲンブを殺した。その贖罪として、ブリタニアに支配されてエリア11となった日本という国に真の平和を築こうと、平和を守ろうとしていた」
スザク君の表情がどんどん悲愴なものになっていく。
いくらキュウシュウ戦線の時にユーフィミアに癒されたとしても父親のことはスザク君にとって消せない業だろう。
「それは……ッ」
「俺は、ギアスの力に、ブリタニア皇帝の思惑に踊らされた。だが、犯してしまった過ちに対する責任は俺にある。だから、俺自らの手でユフィを殺した」
俺の言葉にスザク君の動揺が大きくなる。
震える銃口はもはや訓練された軍人とは思えない。
あらゆる想いに雁字搦めにされたルルーシュやスザク君にとって、言葉はどんな凶器より深くその心を引き裂く。
スザク君は、父を殺してしまったことに対する贖罪として争いのない世界をブリタニアの中から築こうとした。
ルルーシュは、多くを奪われたからたった一人残された大切な人のために優しい世界を築こうとした。
そして俺は、ルルーシュがユーフェミアを殺した理由を自分の犯した過ちから逃げずに向き合い、責任を取ると言った。
「お前はユフィのために、これまでの自分を殺してまでも憎しみに身を任せた。ユフィはお前にとってそれほど大きな存在だった」
もはや後戻りはできない。
「だが、俺にとってもナナリーにとってもユーフェミアは大切な人だった」
「……今更何を」
ここでスザク君が引き金を引けば俺の死ぬ。
「俺は自分の過ちに責任を持った。そして、選んだんだ」
「やめろ……」
たった数分の憑依。
たった数分の虚言。
たった数分の命懸。
たった数分の悪意。
「スザクが枢木ゲンブを殺して俺やナナリーを選んだように」
「止めろと言っている!」
たった数分の………………。
「俺はユーフェミアを殺し、ナナリーが暮らせる世界を選んだ」
「あ、あああ、あああああああああああ!!!!」
これが正しいことなのかは俺が判断することじゃない。
俺の言葉はすべて空っぽの戯言。
だが、スザク君にとっては違う。
最も親しかった友人で、最も大切な者となったユフィを奪った敵で、最も憎む男になった――ルルーシュの言葉。
もっとはやくにお互いの考えをぶつけていれば。
もっとはやくにお互いの正体を知って入れば。
「ほんの少しだけ、救いがあったかもな」
様々な想いがスザク君の魂を蝕んでいる。
まだ完全に壊れたわけではない。
一時の揺らぎ。
「――それでも」
スザク君が回復する前にやるべきことが残されている。
俺は銃口をスザク君に向けた。
「“俺”には関係ない」
銃口から発射された弾丸は頭蓋を撃ち抜き、真っ赤な華を裂かせた。
「じゃあ、私たちは本当にただの駒だったっていうの!」
一人忘れていた。
「貴方にとって、私たちは……私は!」
弾丸が撃ち抜いたのはスザク君ではなく、俺の頭蓋。
横から弾を撃ち込まれ、脳漿を遺跡の壁に飛び散らせ、命を制御する場所の死によって体は重力に抗えず倒れ伏した。
注意一秒、怪我一生。
スザク君を攻略したからといって安心してしまっていた。
ゼロに心酔していたカレンちゃんの前で、彼女たちのことを一言も語らないで終わらせようとしたのが不味かった。
けどま、痛みのある死じゃなくて良かった。
ルルーシュ(俺)の生命力が失われることを感知した流体サクラダイトがその猛威を振るうためのカウントダウンに入った。
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ルルーシュ暦02
何だ、どういうこった?
脳漿炸裂ボーイとなったはずの意識が何故再起動している?
視界いっぱいに乱立するビジョンが鬱陶しい。
見せるならもっと落ち着いてみせてくれないもんかな。
「落ち着け、これは侵入者に対するトラップだ。作動させた奴が――ッ!?」
「ぬぁッ!?」
唐突に女の声が聞こえたと思ったら何処かへ投げ出されるような感覚に襲われる。
そして再びビジョンが流れていく。
今度のはそう珍しくない。
人間の暗部の総集編だ。
その中で一人の女が見えた。
いくつもの騒乱の中にある女。
何度も、何度も虐げられ、殺される。
殺されても、生き返り、死を許されない生の強要。
終ることのない死の繰り返し、それがどれほどの絶望を彼女に齎したのか俺には理解できない。
「残っているのは魔女としての記憶だけ。そもそも自分が人間だったのかさえ知らない。私を虐げた者も優しくしてくれた者も等しく時の中で消え去っていった。果てることのない時の中で――私、ひとり」
「……C.C.か?」
「ッ! ルルーシュ……じゃない? 何者だ」
俺がルルーシュでないとすぐに分かったようだ。
このショックイメージとやらのせいか?
さて、どうしたものかな。
こんな真っ白な精神世界?からは、さっさと抜け出したい。
そんな俺の思いが聞き届けられたのか次の瞬間には見慣れぬ機械に囲まれた座席に座っていた。
「ガウェインのコクピットか」
視線の先にはC.C.が恐ろしいほどの眼光で俺を睨みつけている。
「貴様は、いったい何も――」
いろいろと文句があるようだったが、問い詰める時間もないだろう。
何せ、ニュータイプ・オレンジさんが来るんだもん。
『私です、ゼロよ! 懺悔は今!』
皆に愛される忠義の騎士(笑)、オレンジ農園の幼妻持ち勝ち組な未来がまっているオレンジことジェレミア・ゴットバルトさんのご登場です。
ガウェインが複座型でよかった。
ただでさえ、KNFの操縦が下手なルルーシュの身体なのに俺自身が操縦知識皆無だからな。
自分の能力を弁えているあたり、ルルーシュは少しは考えている。
俺が持っているのは暴走したギアスの力だけ。
本来の俺自身が持っていた能力など現状を打破するために使えるようなものではない。
「ちぃ!」
舌打ちしつつも、端倪すべからざる機動をガウェインに強いるC.C.さん。
まともな思考ができない状態であってもジェレミアさんは帝国最強の皇帝直属部隊ナイトオブラウンズにも匹敵するほどの強敵だってのに。
「C.C.さんは、すごいな」
「煩い!」
怒られた。
あ~この後どうなるんだっけか?
ああ、そうか。
「ハーケンが来る」
「ッ!!」
ほとんど反射だったのだろう。
俺の言葉で、ジークフリートに背後を取られていたガウェインが急旋回することで背後からのハーケンをギリギリで回避した。
「くッ! お前はいったい誰なんだ! ルルーシュはどうした?」
「ぐぬぉおッ!!」
C.C.さん。今の状況で聞かれても急激なGが掛かっているので俺は喋れません。
ジークフリート相手に小休止など出来るはずもないので我慢しますから、勝って下さい。
物理的な問題の解決は今のところ俺には無理なんでね。
「何でこんな時に、こんな馬鹿げたことが起きる? 私に聞くな! お前の差し金じゃないのか!?」
とんでもない高軌道戦闘を継続しながらも誰かと会話しているようですね。
俺はもう首がやばいんだが。
「わからないだと? じゃあこれは誰の仕業なんだ!」
あの~、口論しているところ申し訳ありませんが、もうすぐスザク君が来てしまうのですが?
「レーダーに反応? こんな時にランスロット!」
モニターに拡大された白い機体。
湖の騎士の名を冠するKNF。
やっぱスザク君の立場と合わせて名称が決まったのかもね、設定的に。
『ゼ~~~ロ~~~!!!』
「きゃああ!!」
「ドハァッ!!」
すごく痛ってぇです。
ランスロットに気を取られている隙を付かれ、ジェレミアさんからすごく痛い背後からの攻撃。
コクピット内部にまで届いた一撃で周囲のモニターがほとんど死んだ。
背後を振り返ればジークフリートやランスロットが飛び交う大空が丸見えになっている。
まずいまずいまずい。
KNF戦では、C.C.さんが頼りだから俺は何もできない。
回線繋いでジェレミアさんを揺さぶる?
駄目だ。
今のジェレミアさんに揺さぶりをかけても暴走して、余計手に負えなくなる予感しかしない。
しかも、ランスロットinスザク君も到着済みなのでゼッテー死ぬですよ。
マジで死。絶対死!
どうする俺!
なんて、そんな危機感を感じながらもすでに終わっていました。
先のジークフリートからの攻撃がコクピットまで達したという事実。
一段下の操縦席にいるC.C.に致命傷はない。
まあ、どの程度の再生能力かは知らないが不死身らしいから心配する必要もないけど。
でも俺は駄目。
やけに体の感覚がないと思ったら腹部の半分くらいがショッキングなレッドに染まっちゃってるぜ!
あまりにもショックだったのか、俺のおが屑脳みそは痛みを感じないで済んでいる。
薄れゆく意識の端で、ランスロットとジークフリートがなにやらゴタゴタしているようで、ガウェインはというと中破して降下中。
ああ、5分も経ってないよ。
ルルーシュ暦03
無に沈んでいた意識が浮上するとそこは戦火の色に染め上げられるビル群のただなかだった。
二度あることは、三度目ある。
ジェレミアさんにジクられてからさらに時を遡ってブラックリベリオン真っ最中の東京租界に来ちゃいましたよ。
こんなガチの戦場に叩きこまれても指揮能力とか、軍略スキルとか皆無なんでどうしようもないんですけど?
しかし、俺が目覚めた場所は、幸いなことに最終段階に移っている場面だった。
「……そう、か。ゼロの正体はお前だったのか」
目の前には血濡れの女性が横たわって俺を見ている。
「ブリタニア皇族への怨み。ダールトンの分析はあたっていたな」
命に別状はないと思うけど早めの治療が必要と思われる女性が諦観したように呟く。
ちょっと話すよりまずは止血くらいしませんか?
「ナ、ナナリーのために、こんな事を……」
ああ無理して喋ると傷に触りますよ。
なんかごふっ、ごふっ、しながら吐血してますし。
これがギャグ世界なら吐血キャラということで心配する必要もないんだけど、この世界ってば俺を置いてけぼりにするシリアスがほとんどだから困っちゃうんだよね。
ギャグで済ますならシスコン皇女さまを茶化して危ないレベルの弩シスコンに変化させて楽しみたいんだけど。
そう、このお方こそルルーシュと対を成すハイスペックシスコンにして、選任騎士の旦那だとか、スケバンだとか、紫ババァ結婚してくれだとか、おぱいとか、腋とか、若返り現象だとか色々ネタにされながらもそれなりに人気を勝ち取っている神聖ブリタニア帝国第2皇女、コーネリア・リ・ブリタニアその人である。
何度も正すが、この世界ってば超シリアス。
だから俺は精神的な遊びしかできないわけで……弱ったところに『セクハラし放題だぜ、ひゃっふぅー!』というテンションに持っていくこともできない……現実ではね。
「傷の手当てをさせてもらえませんか。手当てといっても止血くらいしかできませんけど」
「くっ、ふざけた事を。捕虜になるくらいならば、死んだ方がマシだ。お前も道連れにして、な」
かなりしんどそうな状態でも威厳ある態度を崩しはしないし、最後まで諦めない人なんだろうね。
俺がおにゃの子だったら惚れて……いや、男だったらこのおぱいに惚れないわけがないか。
敵になったら容赦なしなリアル虐殺皇女でもちゃんとした手順を踏んで立ち合いをすればそれなりに評価してくれるっぽいんだよね、このお人は。
ああ、自棄になるしかないな。
こんな中途半端なタイミングじゃ。
「私のことが許せませんか?」
「何を今さら! ユフィを殺した貴様を!!」
でしょうね。
でも、仕方がない。
今の俺には、与り知らぬことなんですよ、それ。
ああ、そういえば今の状態なら視線を合わせるだけでいいんだっけ?
「このようなことになったのは、すべてブリタニア皇帝の企みだとしても、ですか?」
ここで使うのはやはりこれでしょ。
冷酷非常で謎の多い皇帝の名は、皇族やその周囲ならいくらでも粗を作れる。
つまり、困ったときの『全部○○が悪い!』みたいに『全部皇帝のせい』な感じで便利に使わせてもらってますよ、シャルルん?
「なん、だと……」
まだ信用していないみたいだが、まあいい。
いざとなれば『全部ルルーシュが悪い!』の要因であるギアスの力がある。
「我が母マリアンヌが暗殺された後、皇帝の命を受けたシュナイゼルが遺体を運び出したのだろう?」
「知って、いたのか」
驚いているようだが、まあそうなんだろうな。
そこにどんな思惑があったかを知らないコーネリアさんにその先にある真実は判別できない。
もちろん、俺もそんなものは分からない。
ついでに言えば、シュナイゼルも真相は知らないままにやったことだ。
「ええ、俺なりに調べましたからね。なあ、コーネリア。ヤツは、なぜそんな命令を下したと思う?」
俺を睨みつけながらも話は聞くつもりらしい。
負傷したところを抑えながらもしっかりと俺を見据えている。
「答えは簡単だ。母の死は皇帝の描いたシナリオの一つだったから」
「ッ、何だと!?」
「そして、俺の反逆もすべてヤツの思惑の一つ。母の死も、クロヴィスの死も、ユーフェミアの死も、すべてヤツのシナリオ通りだった」
口八丁手八丁?
まあとにかく必死に訴えるような俺の言葉にコーネリアさんの驚愕は大きくなる。
「そ、んな……。それなら……それを知って、いな、がら。何故、ユフィ…を」
当然そこに行くんだよな。
俺にはそこら辺の判断はできないから嘘を並べるしかない。
「ユフィの死が、私に皇帝の企みを気付かせてくれただけのこと。過ぎ去った時間は戻せない。俺がユフィを手にかけるところを見ていた皇帝は高笑いをあげていたらしいがな」
「皇帝陛下が……ユフィ、を?」
「死に追いやった。ユフィを俺に殺させることでエリア11の混乱を加速させたかったのだろうな」
俺の言葉を鵜呑みにはしていない様子だが、皇帝への不審は植え付けられたようだ。
そもそも今のシャルルんにとって大事なのは、マリアンヌと目指している世界であり、マリアンヌの子供であるルルーシュとナナリーはついでの様なものだ。
あとの皇族は、シャルルんにとってその他大勢でしかない。
だからこそ皇族に対してシャルル・ジ・ブリタニアという男を不審に思わせるのは容易だ。
もちろん、不審に思わせてもこちらの思い通りに動いてくれるかはその人次第だけどな。
『おい、戻って来い!』
背後で待機していたガウェインからC.C.の声が響く。
「ナナリーのことなら後回しで良い」
『なんだと!? いや、待て。何故ナナリーのことが分かった!?』
ルルーシュ(俺)の言葉が信じられないC.C.さんの声がちょっと怖い色を含んでいる。
「ナナリーがすぐに殺されることはないはずだ」
『ルルーシュ、お前ッ!?』
ナナリーのことを誰よりも考えているはずのルルーシュの口から出た言葉とは思えないことに行き着くとC.C.さんはまた静かになった。
おそらく例の声と会話しているのだろう。
それならこっちも手早く済ませよう。
「ナナリーが、どうかしたのか?」
コーネリアさんもナナリーに何があったのか気になるようだ。
「拉致されたんですよ。犯人は……言わなくてももうお解りでしょう?」
「皇帝陛下、なのか……」
「実行犯は、皇帝の協力者ですがね。大方、自分のシナリオから外れた私に対する制裁のつもりなのでしょう」
さきほどまでの会話と現在の状況からそれらしい言い訳は他に思いつかん。
ここでナナリーを見捨てるのは、ルルーシュ的にはあり得ないが、俺はルルーシュほど妹思いじゃないので、ナナリーの優先順位は低い。
「何故、助けに行かないのか、ナナリーを?」
コーネリアさんも妹思いなだけあり、ルルーシュのナナリーに対する依存度から俺の落ち着きようを疑問に思っているんだ。
何だかんだいって、マリアンヌの子であるルルーシュやナナリーのことをコーネリアさんは、ユーフィミアの次くらいには想っているんだろうか?
まあ、皇族として暮らしていた時のルルーシュたちのことは殆ど知らんから本当の所はわからんけどな。
「ナナリーを助けに行ったところで状況は好転しない。それに私は多くの兵の命を預かる身。そこは貴女も理解できるはずだ」
「……本当にルルーシュ、なのか?」
やっぱり疑われるか。
当たり前だな。
幾ら装っても育ちのまったく違う俺にルルーシュの在り方を模倣するなんてことは、土台無理な話さ。
いくら喋り方を真似ようとしても染み付いた言葉遣いはすぐにボロがでる。
「さて、コーネリア皇女殿下。この戦い、我ら『黒の騎士団』の勝利で終結させるためにお力をお借りしたい」
「ぐッ、ふざけるな……。貴様の言葉が真実だという確証はない。貴様に降るつもりはない」
始めから色よい返事は期待してない。
それに急がないとカレンちゃんや藤堂さんも持ち堪えられなくなる。
「俺の言葉には誰も逆らえないさ、コーネリア皇女殿下」
「なに?」
先ほどから掌で隠していた左目でコーネリアさんを捉える。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。私に永遠の忠誠を捧げよ、身も心も過去も現在も未来もすべてを!」
「んな? あ、あああ」
いきなりの言葉に一瞬の驚愕と嗚咽。
ギアスにどれほどの持続時間があるかは知らないが最低でも数ヶ月は持つはずだ。
力の失せた体は、そのままに妖しい色を宿す瞳が俺の方へと向けられる。
「コーネリアさん、俺の指示に従ってくれますね?」
俺の言葉に傷付いた身体に鞭打って反応するコーネリアさん。
肩膝をつき騎士の礼を取る。
「イエス・ユア・ハイネス――永遠に変わらぬ忠誠を御身に」
うわぁすごい違和感がある。
本来なら他者を傅かせる側の皇女が自分に跪く姿は何というか背徳的な支配欲を刺激する。
最後の最後になるまで完全に人を支配する命令をしていなかったルルーシュはそれなりにまともな人種だったのだろう。
たった一つの命令で使い切るより、永続的に支配できる命令をした方が効率が良いのにルルーシュは最後の決戦までそれをしなかった。
人の自由意思を奪い続けることは、死で終らせるよりある意味で人の尊厳を徹底的に貶めることだ。
ルルーシュはそこら辺に妙な矜持を持っているから魔神になり切れなかった。
それに比べれば、俺は人の尊厳を気にするような殊勝な人格ではない。
自由意思があるのに自由を奪われる、なんてことは日常的に起こりうる社会生活の一部だ。
持ち得た力を最大限利用して自分にとって最大の幸福を求めることは、意志ある者として当然のこと。
ルルーシュの存在を被っていると言っても俺は、俺自身の意思を曲げるつもりはない。
まあ、今はブラックリベリオンを勝利で終らせ…………拙い(汗。
「コーネリアさん。さっそくだが、ブリタニア軍をぉぉぉおお!?」
やば、瀕死の人に無理させすぎたか。
立ち上がろうと下らしいコーネリアさんが力尽きたように倒れこんできた。
夢というのは敗れるものだ。
コーネリア姫……重い。
豊満なおぱいの感触は確かに心地良いが、その鍛えられた身体を支えられるほどルルーシュのボディは強くないようだ。
「C.C.! 手伝ってくれ!」
俺の救援要請を聞き届けてくれたのかガウェインを器用に動かし、コーネリアさんごと俺を掬い上げる。
「ナナリーはどうするつもりだ」
さすがに出血が多かったのでコーネリアさんに応急処置のみを施して飛び立ったガウェインの中でC.C.さんが睨みを効かせながら聞いてくる。
「今はどうしようもない。それよりアッチの方角にハドロン砲照準、問答無用で発射!」
「何? いった、ッ!?」
唐突な俺の指示に戸惑いながらもC.C.さんだったが、彼女も怪しげな揺れを感じ取ったのか急いで俺の示した方角にハドロン砲を向ける。
そして、躊躇う事無く引き金を引いた。
『オ~~ル・ハイル・ブリタぁ』
建物を削りながら這い出てきたジークフリート。
その頭頂部でアホのように本体丸出しのジェレミアさんは、哀れ登場シーンの途中で塵となった。
「今のは……」
「ただのオレンジ農園経営者だ。きっと自慢のオレンジロボを披露したかったんだろ?」
曰く言い難い顔のC.C.さんには悪いが今はそれでころではない。
折角、ギアスを使ってコーネリアさんを引き込んだのに気絶しちゃってたらこれから後が面倒だ。
コーネリアさんが鶴の一声でブリタニア軍を止めてくれれば早々に戦いは終わるんだが。
「仕方ない。――藤堂、ディートハルト。聞こえるか」
『ゼロ! まだそちらは片付かないのか』
『どうかなさいましたか、ゼロ』
両者それぞれの戦況に合わせた声色の二人。
うむ。善き哉、善き哉。
「お前たちは大好きだ!」
キャラクター的にも中の人的にも超好みな二人の声を聴けて反射的に告ってしまつた。
『私も少々耳が悪くなったのでしょうか?』
『ぬぉあ!? ぐぅ、こんな時にふざけている場合か!』
本心が出てしまったが後悔はしていない。
俺も男だから二言はないのだ。
それにしても前線で戦ってる藤堂さんのところは戦況が大分辛そうだ。
確にギルフォードの率いる隊やグラストンナイツを相手にしている時にボケを喰らわされたら危険だろう。
「すまない。ようやくコーネリア皇女殿下を押さえることができたので少しばかり興奮しているのだ」
『ついにやったか!』
『おお、これで黒の騎士団の勝利が確実です』
双方ともにコーネリアさんの捕獲に驚いているようだが、士気上昇には大いに役立つ報のようだ。
「藤堂はオープンチャンネルでブリタニア軍にこのことを伝え、降伏するよう言ってくれ」
『分かった』
「ディートハルトは、メディア方面でそのことを頼む」
『心得ております』
まあ、演説力も交渉力もない俺が言うより、戦場に慣れている藤堂さんや広報関係者として皇族とも面識があったディートハルトさんなら効果的な停戦交渉ができるはず。
ここは帝国の先槍異名を持つ誇り高きコーネリア皇女の選任騎士ギルフォードが指揮する戦場だ。
下手な刺激は、彼の激昂を招き乾坤一擲の覚悟でコーネリアさんの奪還に動きかねない。
コーネリアさんの陥落が戦況を一気に好転させてくれればいいが。
簡単には終わらないだろうな。
それにこの戦場とは別に危険要因がこの街にはある。
「C.C.、アッシュフォード学園に向かってくれ」
「学園に? ナナリーは神根島にいるんだぞ」
「さっきも言っただろ? ナナリーのことは後回しだ。今は私を信じて急いでくれ!」
「誰だか知らないが、勝手すぎるな」
やっぱり気付いてるよね。
コーネリアさんを押さえた今、次に優先すべきは“例の爆弾”だ。
アッシュフォード学園に向かう途中でも交戦の続く場所はあり、そういった場所は頭上からハーケンを使って叩いた。
一応エナジーフィラーの交換を途中で行い、目的地であるアッシュフォード学園に到着する。
「アヴァロンのご到着か」
アッシュフォード学園の上空に浮かぶ見覚えのある艦に少しばかり焦りが出る。
まだセシルさんは外に出ていないみたいなのでゲフィオンディスターバーも破壊されずに残っており、最大の脅威であるランスロットinスザク君はしっかりと無力化できている。
スザク君が自由になったら対処のしようがない。
神根島の時みたいに二人で対話ができる状況ならともかく、黒の騎士団もアッシュフォード学園の生徒たちもたくさんいる状況でまともな説得ができるわけがないからな。
「C.C.、すぐにでもアヴァロンからKMFが出てくるから破壊してくれ。けど、パイロットは絶対に傷つけないように頼む」
「注文が多いぞ!」
俺の無茶なお願いにC.C.さんは悪態を付きながらもセシルさんが搭乗しているはずのKMFを両手のハーケンでバラバラにした。
『ゼロ!』
何人もの声が同時にスピーカーから伝わってくる。
アヴァロンにハドロン砲の照準を合わせたままガウェインから降りた俺は、ランスロットを捕獲している場所へと足を向けた。
ゼロを待っていた者たちの視線が突き刺さる。
「タイミングバッチリだったなゼロ。助かったぜ」
ネコに不意を付かれた玉城んは放って置こう。
ここで絡んでも時間の無駄だ。
「ゼロ! 君はよくも!」
君の前に姿を現せたね、とでも言いたいのかな?
でも、ごめんよ、スザク君。
君を罠に嵌めたのは俺じゃないんだ。
ていうか、今も君に構っている暇はない。
「枢木スザクの拘束は二重三重に彼のことは人の形をした最新型KNFだと思ってガッチガチに拘束するんだ!」
学園の生徒を人質にされ、ランスロットのコクピットから出ていたスザクを黒の騎士団の団員たちに拘束させる。
「ゼロォ!」
物凄い殺気を浴びせられるが無視だ無視。
いくら変態的な超常生命体級の身体能力を持つスザク君でもKNF固定用のワイヤーベルトで固定されればさすがに動けないだろう。
というか俺の指示を疑いなく行動に移す黒の騎士団メンバーの忠誠心に驚くとともにそれだけの可能性はあると思わせているであろうスザク君もすごいのだ。
狂犬もかくやというスザク君の恐ろしい眼光を躱し、人質にされていたアッシュフォード学園生徒会メンバーに声をかける。
「君が生徒の代表で良いな?」
「わ、私に何かようでも?」
テロリストの首領に声を掛けられても僅かな怯みも見せずに気丈な態度で応えるミレイ・アッシュフォード。
そのおぱいとハイテンションと意外と純なところとかも高評価だが、今は目の保養をしている暇はない。
「君はあそこに浮かんでいる艦に生徒たちを避難させられるように準備をしてくれ。今すぐに」
「え?」
そんな呆けた顔してる場合じゃないんですよ。
もう最強に凶悪なぶっ飛び嬢ちゃんがいるんだから。
「君たちの身の安全は私が保証する。だから、今は私の指示に従ってほしい」
「え、ええ分かった」
俺の指示を怪訝に思いながらもミレイちゃんは他のメンバーを引き連れて生徒たちが囚われている校舎へ向かった。
よし、次は団員たちにも避難の準備をさせないと。
「ラクシャータ! 上のアヴァロンに学園の生徒たちを収容する準備をするように話をつけてくれ」
「な~に? 随分と慌ててるじゃない。プリン伯爵と何かあるわけ?」
「そのプリン伯爵もぶったまげるようなことが起きるかもしれないんだよ!」
そんな落ち着き払っていられるのも今のうちだぞ。
「騎士団も全員避難できるようにしておけ」
『何か出てくるぞ!』
何かって、何が何なんだよ。
って、この学園で出てくるもんで、C.C.さんが知らせるもんっていえばアレですよね、憶えてます。
「全員、手を出すなよ!」
校舎正面の広場の石畳が左右に開き、骨組みだけのKNFガニメデが姿を現す。
学園に何故に隠しエレベーターらしき設備が?
マオが侵入した時にナナリーを捉えていた場所とか、この後も機密情報局が拠点にする地下空間とかもしかしてアッシュフォード家って実は秘密組織っぽい家系なのかな?
無駄な嗜好が駆け抜けるが、彼女の登場は現状でバッドエンドまっしぐらなフラグだ。
「ゼロは何処……教えて、ユーフェミア様の仇。ゼロはどこにいるのよぉぉぉ~~~~~~~~~~!!!」
あ~初っ端からすっ飛ばしてるな。
そのファミリーネームに恥じない才能を持ちながら間違った方向に尖った成長を続けるクレイジーサイコレズ、ニーナ・アインシュタイン。
例え不発に終わるとしても原子爆弾擬きを一介の女学生が一人で作り上げるなんてところがまた現実味を遠ざけるな。
「ゼロならここにいるぞ! ニーナ・アインシュタイン」
芝居がかった大仰な仕草でマントを靡かせて名乗りを上げる。
そんな俺の姿を確認したニーナちゃんは、定評のある顔芸を披露し、絶叫する。
「ゼ、ゼロォォォォ! ユ、ユユ、ユーフェミア様の仇ィィィィイイ!」
最高にクレイジってるね。
今にもガニメデin原子爆弾の起爆スイッチを押そうとするニーナちゃんの真ん丸眼鏡の奥に向かって平常運転の俺が叫ぶ。
「ニーナ・アインシュタイン! あらゆる意味で絶対に私を傷つけるな!」
「へっ? え、なんで? どうなってるの、これは!」
爆弾は不発に終わると分かっている。
それでももしかしたら何かの手違いで本来とは違う結果が待っているかもしれない。
だから、保険は掛けておくべきだ。
「ニーナ・アインシュタイン。その爆弾を安全に解体し、私を傷つける可能性を排除してくれないか?」
「わ、分かりました。すぐに解除、しま、す、うぅぅ」
目を見開き苦悶の表情でガニメデに搭載した爆弾の処理を始めるニーナちゃんの姿に一安心。
一般人に過ぎないニーナちゃんがギアスの力に抵抗しているそぶりを見せているのは、ドン引きだけどな。
どれだけユーフェミア大好きフリスキーなんだよ、このクレサレズっ子め。
『ちょ、今のは一体全体なんなわけ?』
突然爆弾らしきものを搭載した旧式KNFで登場したニーナちゃんを俺が言葉一つで鎮めた状況にラクシャータから困惑の声が漏れる。
それは他の者たちも同様であり、皆一様に俺を薄気味悪い何かのようなモノであると感じているらしい。
どうせ、ギアスを使って記憶操作すればなんとでもなるし、今更どうでも良いことだ。
「とりあえず、これで緊急ミッションは完りょ――」
「ゼロ! 上だ!」
ようやく一息つけるかと思ったところに重要ではないはずの玉置んが警告の声を上げた。
「やはり、貴様がユフィに!」
怒髪天なスザク君の怒りの声を捉えると同時にかの有名な
ぐふっ――スザク君は、キレたらKNF以上の戦闘力を発揮しやがるのか?
▼ ▼ ▼
こうして三回目のルルーシュが終った。
さて、いい加減に俺も気付いたことがある。
死ぬたびに俺はルルーシュの歴史を遡っている。
それ以外にもルールがあるかもしれないが、今のところ他の要素は不明。
こういう場合、基点となる時期までに条件をクリアして生存すれば、ループを脱出できるというのがテンプレだ。
さて、ここで問題になるのが「基点となる時期」と「クリア条件」なのだが。
これを知るゲームマスターはいるのか?
C.C.さんやC.C.さんと会話している何者か(――まあ、正体は知ってるんだけど)も俺のことは知らないようだった。
失敗して遡行した場合も、俺に対する情報は引き継がれないらしい。
C.C.さん関係の超常側の存在に分からないというのは、どうなんだろうな。
まあ、そういう設定ならば別にいい。
このまま失敗を続けていれば過去に戻れるってことだからな。
C.C.さんとの出会いか、スザク君と出会ったタイミング。
そこら辺の基点まで戻れれば、選択の幅は爆発的に増える。
ルルーシュが『ゼロ』になってしまうと路線変更がかなり難しいからな。
ハテサテ。
また覚醒し始めた意識が耳に激しい銃撃の音を捉えていますよ?
という事は、トウキョウ租界に黒の騎士団が攻め入ってすぐの当たりかな。
怒りのスザク君とか、コーネリアさんを相手にするのははっきり言って俺には無理。
あ~次も痛い死に方はしたくないな。
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