Dark Knight (のんびり屋さん)
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001

「ソフィー、行けい!」

「ほいよ、ジョン!」

 

ジョン、と呼ばれた男がソフィー———十代入ったばかりと思われる小柄な少女を持ち上げ、何処かへ向かって投げる。ソフィーは即座に受け身の姿勢を取り、敵がうじゃうじゃと行き来する通路へ着地した。

 

「敵だ、攻撃しろ!」

「お仕事完了っと」

 

ソフィーは一塊の粘土を大きな機械に付け、敵の頭上を宙返りして機械から離れた。様々な閃光をひょいひょいと避けながらポシェットに手を突っ込み、リモコンを取り出す。赤いボタンを押すと、ボンッ! という音と共に先程の粘土が爆発した。爆弾だったのである。

軽い爆発にも関わらず、敵は大パニックだ。

ソフィーは機械の破損を確かめると、狭い通路の壁を蹴り上げた。薄い蓋がとれ、様々な色に点滅するパネルが現れる。ソフィーはそれを弄りだした。

引き金を引くと、殺傷力のある閃光が同時に幾つも飛び出る中型銃を手に持った銃を構え、そっと近寄って来たジョンが囁く。

 

「上手くやってくれよ。俺たちの命も懸かってるんだからな」

 

当たり前よ———そんな言葉が思い浮かぶが、ソフィーは黙って作業を続けた。ジョンの言う通り、命が懸かっているのだ。

 

ソフィー・ライトは、見掛けはごく普通の少女だった。

一つの三つ編みに編んだ黒髪に、ブルーブラックの瞳。顔は中性的で、賢そうな雰囲気を出している。

実際、彼女は数十年に一度、という程の賢さを誇る少女だった。いや、純粋な賢さでいえばボスの方が断然上なのだが、頭の回転の良さはピカイチである。

彼女は特に機械の操作が得意で、潜入などにはもってこいの人材だった。

そんなソフィーは、幼い頃からとある組織に籍を置いている。

それは———Dark Knight(ダークナイト)。闇の騎士と呼ばれる組織だ。

これは、主にイギリスで活動する組織。もちろん、表立って活動することは滅多にない。裏の組織だ。暗殺組織を潰したり、国民が知るべきでない裏の治安を保つ役割をしている、イギリス王室・首相が直接命令を下すような組織。国民には、その存在と恩恵しか知られていない謎の組織。その組織に彼女は配属されていた。

 

ソフィーはデニムのジャケットのポケットをまさぐり、カードキーのようなものを取り出した。光沢のある黒いカードの印に触れると、空間にAR投影され、何かのマップのようなものが現れた。カードをパネルに押し付けると、画面に様々な記号が追加される。

 

「建物の情報は全て掴めた。パスワードも、ある限り全て集めたわ。一応出来る限り扉はロック解除したけど、このパネルは色んなところにあるからいつ閉じられるかはわからない」

「了解だ。ボスに伝えろ」

「報告済み」

「よっしゃ、行くぞ。メアリーの奴は何をやってんだ」

「さあ? んじゃ、こっちに行こう」

 

ソフィーはパネルの蓋を閉め直すと、ジョンと走って目的地へ急いだ。途中、急に防火扉が閉まったりと危険なことがあったが、その度に解除して進む。

 

「おい、ソフィー! 監視カメラで見張られてんぞ! 解除しろ!」

 

ついに小走りを始めたジョンは怒鳴った。

 

「出来るけど、時間が掛かる! だから———もういい、やりゃいいんでしょ」

 

ジョンにギロリと睨まれたソフィーは、閉じた防火扉の前のパネルに向かった。

ネットサーフィンをする感覚で情報を洗っていくが、監視カメラの切り替えやオフのスイッチは見つからない。ジョンが腕時計を見て、もうすぐ五分だ、と呟く。

潜入任務時は、同じ場所に五分以上留まるな———ジョンが口を酸っぱくして言っている五分が、どんどん迫っている。

ソフィーは最終手段に出た。ポシェットから小型レーザー銃を取り出すと、パネルの外側に撃ち込み、パネルを外す。そして、直にコードを弄りだした。

監視カメラに繋がっている線を見つけ、レーザーで器用に破壊。監視カメラは全て切れた。

 

「五分だ。急ぐぞ」

 

ジョンの声に迷わず従い、通路を走る。

一キロは走ったんじゃないかと思ったあたりでジョンは止まった。

 

「目的地前だ。ソフィー、お前にとっては今回最後の大仕事、一番重要な部屋のロックを解除せよ、だ」

 

ジョンからの信用されているような視線を受け、頑丈そうな扉の左右についているパネルの片方へ近付く。パネルの脇についている細い長方形の穴に、ソフィーは黒いカード———ブラックカードを差し込んだ。

パネルに数多くの情報が開示される。指を素早く走らせ、パスワードを入力し、内部の機密情報へアクセスする。

 

「ジョン、ビームを」

 

ジョンが、掌で油断なく構えていたビーム銃を扉に向け、一発放った。それを見て、ソフィーが頷く。

 

「今のでバリアーは破壊された。こっから手榴弾とか時限爆弾使って扉を破壊してもいいけど、建物への影響などを考えて穏便にロックを解除する。扉本体には電流が流れているから、気をつけて」

「それを先に言えよ」

 

ジョンが扉に触れようとした手を引っ込めた。ソフィーは気に留めず、カードを抜いてポシェットに入れ、レーザー銃でパネルを破壊した。そのまま背後に銃口を向けながら、太腿に装着していたナイフで扉を固定していたネジを外す。

 

「これ、電子管理されているように見えて、最終的にはネジとかボルトで固定していたみたい」

「お前、十分過激なやり方じゃねえか。まあいい。突撃準備開始。俺が前、お前が後ろ。レーザーは失神モードに設定しろ。絶対に保護対象は傷付けねえようにな」

「了解、リーダー」

 

レーザーのモードを切り替え、左手には、ボタンを押すとレーザーが飛び出し、一メートルの長さで収束する光剣の柄を握る。

ジョンが真っ黒のブーツを扉に当て、カウントを始める。

 

(ワン)(ツー)(スリー)———」

 

ジョンが扉を蹴って開け、中型レーザー銃をぶっ放した。一番手前の警備員の股を蹴り上げ、もう一人を殴って戦闘不能にする。

ジョンが正面奥に向かって敵をなぎ倒していくのとは反対に、ソフィーは脇にいる敵を処理に走った。ポシェットから転げ落ちた手榴弾を蹴り上げて爆発させ、心臓目掛けて正確にレーザーを放つ。

部屋の奥からジョンの声が響いた。

 

「対象発見! 撤退に入る!」

 

ソフィーは左手のストッパーを外し、ボタンを押して光剣で敵を斬った。扉から中型レーザー銃を背負った敵が流れ込み、こちらに目掛けて一斉発射する。気絶した男を盾にしつつ、後退。レーザー銃をポシェットに戻し、煙幕ボールを数個手に取る。

ジョンが対象を抱えて奥から飛び出てきた。中型レーザーは捨て、小型レーザーを器用に使って確実に敵を片付けていく。

ソフィーは深呼吸すると光剣を掲げ、敵目掛けて突っ込んでいった。ボールは敵の顔へ直接叩きつけ、容赦なく光剣を振るう。

気配でジョンが背後にいることを確認し、煙がもくもくと立ち上っている中を最速で抜けた。ジョンは対象を抱え直す。

 

「こりゃ、ずっと走りっぱなしはキツそうだ。短縮ルートは無いのか?」

「そんなものは存在しない。けど———」

 

ソフィーは頭上へ光剣を向け、円型にくり抜いた。

 

「無いなら作ればいい」

「よっしゃ。俺から行くぞ」

 

ボディスーツの腰のベルトから細いワイヤーロープを頭上に投げ、それをつたってジョンは登って行った。ソフィーもそれに続き、目眩しの煙幕を投げる。

 

「煙幕切れ。此処からはレーザーに頼るしかない」

「了解。光源を」

 

真っ暗な天井裏で、ソフィーはティッシュとコードの火花で松明をつくった。

 

「これは私が持つ。後に続いて」

 

ジョンは時折、衝撃を与えると爆発するミニ爆弾を落としながらついてきた。対象はぐったりしている。

ソフィーは無線機を取り出した。

 

「ボス。こちらはコードネーム光。応答せよ」

『こちらボス。位置は掴んでる。ジャックに向かわせるから、頭上に注意して』

 

その瞬間、頭上で爆発が起こった。その音がしっかり聞こえたらしく、『ジャックのおっちょこちょい』というボスの声が流れる。

頭上にぽっかり空いた穴からは満月が見える。地上だ、とソフィーが認識するより早く、大柄なジャックの顔が穴を覗く。

 

「ジャック、キャッチしろ」

 

ジョンが対象を放り投げ、ジャックがしっかりと受け止めた。「レディファーストだ」と茶化して場所を空けるジョンの肩を光剣の柄で殴ってから、ソフィーは地上に出た。

スピーカーからボスの声が聞こえる。

 

『これにて任務終了。基地へ帰還せよ。……早く帰って来てよね。こっちも忙しいんだから』

「そう言うなよ。ボスが一番暇だったろ?」

『……ソフィー、ジョンに一発食らわしたれ』

 

ボスの冗談めいた口調に、ソフィーはピッキング用の小型爆弾をジョンの腹で爆発させる。ボスが満足そうな顔をしているのが、ジョンにはよくわかった。オチは、腹を抱えながら崩れ落ちるジョンであった。



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