その町にはとある言い伝えがあった。いわゆる都市伝説というやつだ。
それは「死体回収人」といい、名前通り死体を回収していく人の事だ。
見た目は黒スーツにシルクハット、奇怪なことに肌の見える部分には包帯が巻かれており、誰にも地肌が確認できないらしい。
出現条件としては、ただ人が死んで死体ができあがるだけでは駄目らしく、「人」が「人」を殺してできた死体じゃなければ駄目らしい。例えそれが交通事故等であっても。また、夜にしか出現しないとか。
そうして条件が整うと死体回収人はやって来る。どこからか、音も無く。闇夜に紛れて。
「―――――死体の事後処理、面倒ではありませんか?」
その声は不気味な程低く、まるで悪魔かなにかという。
「このまま、警察に捕まって、人生を棒に振りたくないですよね?」
そうして誘惑していくのだ。
ここで回収人の誘惑に乗ると、死体を回収してくれる。その場で。
それはまるで魔法のようで、本当に、一瞬でパッと消える。
しかしそれで終わりではない。
死体を回収した見返りを寄越せと言うのだ。
後出しとは卑怯じゃないか、と思うかもしれないが都市伝説とは大体そういうものだ。
その見返りというのはとても無茶な内容であり、脳を寄越せとか腕の骨を寄越せ、等ととにかく人の体の一部を要求してくる。
もしもそれに答えられなかった場合は自分が死体にされ、回収されるらしい。
死体にされるということは言わずもがな、殺されることである。
殺し方にもバリエーションがあり、急に体内から火が出、燃やされ焼死する、内臓や脊髄を引き抜かれる、頭を潰される――――――等と、残虐非道な殺し方ばかりだ。
そしてできあがった死体も回収する。
こうして死体回収人は死体を集める。理由は不明で、コレクションだとか、人体練成とか色々囁かれてる。
しかし、その真相は誰も知らない。知ることができない。
誰にも知られることなく死体回収人は闇夜に紛れ死体を回収する。今日もまた一つと―――――――
「これが、この町のやつなら誰もが知ってる都市伝説「死体回収人」だ。分かったかな、転校生君」
一通り説明し終えると男はニヤッとし、こちらに言いかけてきた。
「内容は分かった。あと僕の名前は転校生じゃない。」
「へいへい、分かってますよ、転校生君」
ほんとに分かってんのか、という言葉を飲み込む。言うだけ無駄だと思ったからだ。
「あとさ、その都市伝説、もしも死体の回収を断ったらどうなんの?」
「ん?ああ、断ったら人生エンチャットファイアだよ」
「はあ?なんだそれ。理不尽過ぎだろ。」
向こうから誘いかけて来て拒否したら燃やすってなんだよ。
「まあまあ、そう言うなって。所詮は、都市伝説だぜ」
「まあ、そうだけどさ」
よく考えれば、「口裂け女」や「カシマレイコ」の都市伝説も理不尽か。
口裂け女は向こうから勝手に来てキレるし、カシマレイコも人の夢に勝手出て質問に答えられなきゃ体の一部取られるし。
「しっかしお前、まさか俺と同じく都市伝説なんか好きだとわな。見た目はそういうの真っ向から否定しそうなのに」
「人を見た目だけで判断するんじゃない。あと、一応言っておくが僕は文系だぞ。」
「マジ?てっきり理系かと・・・」
そうこう駄弁っていると駅に着いた。僕らの通う学校は互いに家からそこそこ遠く、電車を使用している。
「葛城、今、何時だ?」
僕はさっきまで一緒に都市伝説の話をしていた最近知り合ったばかりの、ここでの唯一の友人、「葛城 徹」に尋ねる。
「ん・・・今は・・・あっやば!あと三分で電車行っちまうぞ!今逃したら三十分は来ない!急げ!」
そう言うと葛城は走りだした。
「ちょ、まっ」
葛城は思ったよりも速く、僕はその速さについてくのに精一杯だった。
「じゃ、俺こっちだから。また明日な」
「おう、また明日な」
別れの挨拶を交わすと僕は葛城とは反対の方角に向かって歩き出した。
「しかし、もうこんな時間か・・・」
携帯を出し、時間を確認すると10:34と表示されていた。
「早く寝たいな・・・」
家に帰ろうとする足取りは遅く、疲れが滲み出ていた。
「そういや、死体回収人が現れる時間帯か・・・」
ま、僕には関係ない話だな。人を殺す理由が無いからな。
それに、事故で人殺すこともない。歩きだし、凶器になりうる物もない。
しかし、僕は思いもしなかった。あんな形で、僕の人生を歪ませる、長い長い、一夜が始まるとは・・・
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