☆一輪の白い花 (モン太)
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雪深い村

私の名前は(あい)。5歳なの。家は木造の藁葺きの屋根で貧しいけど、お父さんもお母さんも優しくてとても幸せ!ちょっと前から農作業のお手伝いをしているの。夏に稲を植えたり、秋に稲を刈って、いつも泥だらけになるけど、家族のためなら頑張れた。収穫したお米を水の国の都会へ売って、そのお金で冬を越すの。この村は霧が出やすく、夏は涼しく冬は毎日雪が降る寒くて湿気の多い村で、冬はいつも家で暖炉にあたりながら震えてたの。でも、いつもお兄ちゃんが私に毛布をかけて頭を撫でてくれる。それだけで体も心も暖かくなる。

 

私には双子のお兄ちゃんがいるの。お兄ちゃんって呼ぶといつも笑ってくれるからそう呼んでるの。名前は白。白い肌に綺麗な黒髪の名前に負けない、まるで女性の様に美しい私のお兄ちゃん。村には同年代の子供が居なかったからいつもお兄ちゃんと遊んでいる。私の世界はこの小さな村で完結しているけど、大切な家族とお兄ちゃんがいるだけで毎日が幸せに暮らせた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

今日は両親の畑仕事の手伝いは無く、朝に洗濯のお手伝いを済まして僕は妹とかくれんぼで遊んでいる。今は僕が鬼で妹が隠れている。

 

「白ちゃん、こんにちは。今日も藍ちゃんとかくれんぼ?」

 

「こんにちは。はい。」

 

僕が走っていると、近所のおばちゃんが話しかけてきた。この人は僕達が産まれた時からずっと世話をしてくれた人だ。この人以外にもこの村では、皆が優しくしてくれる。生活は決して裕福ではないけど、村全体が繋がっている感じだ。ちなみに村の皆は僕を白ちゃんと呼んでいる。僕は男なんだけど...

 

「本当に仲が良いのね」

 

「は、はい。」

 

おばちゃんの言葉に少し恥ずかしさを覚えながらもなんとか返事をして駆けていく。

 

妹を探すため近くの樹に登り、辺りを見回すと少し遠くの茂みに綺麗な水色の髪が見えた。僕は彼女の背後から静かに近づき声をかける。

 

「みーつけ「きゃあ!」った...」

 

急に後ろから声をかけられたのに驚いたのか、藍は悲鳴をあげて、尻餅をつく。そんな彼女に手を差し伸べる。

 

「大丈夫?」

 

「もう!お兄ちゃん見つけるの早いよ!」

 

余程自信があったのか、悔しそうに口を尖らせるものの、僕の手を取ってくれる。

 

「どうやって見つけたの?」

 

「えーと、少し樹に登って...」

 

「あーっ!ずるい!樹に登るのは、禁止って言ったでしょ!」

 

一回木に登って藍を見つけた事があった。その時は藍が駄々をこねて機嫌を直すのが大変だった。それ以来、藍から木登り禁止を言い渡されてしまっていた。僕はそのことをすっかり忘れていた訳ではなく、故意だったりする。

 

藍は如何にも、私怒ってます!という感じでそっぽを向く。僕はその姿に苦笑いするしかない。

 

「ごめん、僕が悪かったから...」

 

「............」

 

ダメ元で謝るが、藍は許してくれそうにない。

 

「なら、いいものを見せるから許してくれない?」

 

「....本当?」

 

「本当だよ」

 

「なら、許してあげます!」

 

彼女の透き通る橙色の瞳が輝く。彼女にはやはり笑顔が一番だと思う。この笑顔が見たいがために意地悪をしてしまうのは秘密だ。

 

僕は藍を連れて家の裏に回る。

 

「早く見せて!早く!」

 

「じゃあ、見ててね。」

 

僕は藍の目の前で手を翳し念じる。すると、僕の掌に水の球体ができる。

 

「わぁあ。凄い綺麗...」

 

藍の橙色の瞳を細まる。藍が喜ぶ様子を見てさらに力を込める。すると風が集まり、僕にはよくわからないけど水球が凍る。今僕にできる精一杯だ。

 

「凄い!私にもできるかな?」

 

「藍も練習すれば、きっとできるよ!」

 

それから、しばらく練習したけど...

 

「うーん、全然できない!」

 

「できない!できないよ〜!」

 

藍が駄々をこねてしまった。

 

「お兄ちゃんはどうやったら、できたの?」

 

「なんとなく、力を込めたらいつの間にか出来てたかな」

 

「ぶー! それズルい!」

 

「大丈夫!僕も手伝うし、藍もきっとできるよ。」

 

僕は周りの大人達からは、年齢の割に大人びていると言われる。やっぱり、手の掛かる妹を持つと兄はしっかりするものなのかな。でも、こうして甘えてくる妹はとても可愛かったりして、悪戯心がくすぐられる。

 

結局、藍が飽きるまで練習したけどその日には習得できなかった。

 

「あー!もう! 疲れた!」

 

「お疲れ。明日もやってみる?」

 

「うん!」

 

藍は悔しそうに口を尖らせるけど、僕が明日も練習してみるかと聞けば、花が咲いたような笑顔を向けてくれた。

 

この一途な少女なら、きっと習得できるだろう。とても楽しみだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その日の夜

 

私達家族みんなで囲暖炉で晩御飯を食べる。いつも木製のお茶碗に炊いた稗と畑で採れた野菜の糠漬け、豪華な時は味噌汁が付く。お母さんに料理をしてみたいと頼んでみたけど、まだ包丁を持つのは危ないから駄目って困り顔で怒られた。

食事をしている時もみんな笑顔で私もみんなで囲むこの時間が大好きだ!

 

「...でね。今日はお兄ちゃんが手品見せてくれたんだ!」

 

「へえ、どんな手品なんだ、藍?」

 

「うーんとね。それは秘密!私もできるようになったら、お父さんに見せてあげる!」

 

「それじゃあ、お父さん楽しみに待っておくよ。」

 

「うん!」

 

あれは、完璧にできるよになってからの披露するつもりだ!お父さんがどんな顔するか楽しみだな!

 

お父さんは楽しそうに私の話を聞いてくれたけど、突然険しい表情をする。

 

「今日、忍びが村の外でうろついてるという噂が村であった。」

 

その言葉にお母さんも顔を顰める。

 

「まったく...戦争、内乱...本当に忌々しい。やはり何事も平穏が一番だな。」

 

「でも、この村にいれば大丈夫。」

 

「...ええ、そうね。」

 

お母さんの返事に少し引っかかるものを感じたが、よくわからなかったから、気にしなかった。

 

「二人共、あまり村の森で遊ばないようにな。」

 

「「はい。」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あれから、半年ぐらい経ったのかな。季節はすっかり冬で雪が積もって村全体が銀世界になる。かなり時間かかっちゃったけど、私も水の手品ができるようになったの!まだ、凍らせたりはできないけど。

 

「お兄ちゃん!見て!私できたよ!」

 

「うん。よく頑張ったね、藍。」

 

お兄ちゃんが私の頭を撫でてくれる。子供扱いしてくるお兄ちゃんを怒ろうと思っても、私の頬が勝手に緩まってしまう。

 

「私これお母さんに見せてもいいかな?」

 

「うん。お母さんもびっくりして喜んでくれるよ。」

 

お兄ちゃんの優しい笑顔に心が暖かくなる。その笑顔に後押しされてお母さんのところへ駆けて行った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

お父さんは今日は、霧隠れの里に出稼ぎに出ていていないけど、お母さんはいるはず!と探してら、お母さん発見!お母さんは家の前で藁を編む作業をしていた。

 

お母さんは私達やってきた事に気付いている様子はなく、その顔は真剣そのものだ。作業の邪魔をしてしまうのは気が引けたが、今はこの喜びを分かち合いたい気持ちが強くて、声をかけた。

 

「お母さん!お母さん!」

 

「どうしたの、藍?」

 

お母さんがこちらを向いて微笑む。やっぱり、お母さんって美人だなぁ。幼いながらもそんなことを思う私。まあ、私達のお母さんなんだから、世界一の美人さんに決まってるもんね!

 

「お母さん、藍が見せたいものがあるんだって」

 

「あらあら、どうしたの?」

 

「今からお母さんに手品しちゃうの! お兄ちゃんに教えてもらったの!」

 

「ふふ、白もしっかりお兄ちゃんやってるわね。」

 

お母さんが微笑みを浮かべるとお兄ちゃんは顔を少し赤くして頬を掻いていた。私はその姿をとても美しいものの様に見えた。たまにお兄ちゃんは実はお姉ちゃんなんじゃないのか?って疑ってしまう事がある。だって、あんな綺麗な白い肌と黒髪は後ろから見れば、女の子だって思ってしまう。というか、前から見ても女の子の様に見える。

 

「じゃあね。お兄ちゃんも一緒にやろ!」

 

「うん。」

 

「じゃあ、いくよ!せーの!」

 

そう言って、私達はお母さんに水を使った手品を披露した。お母さんが驚いて喜んでくれると信じて。

 



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迫害

パンッ パンッ

 

霧の濃い朝の村に響き渡る音。

 

「え?」

 

その声を出したのは、果たして藍か兄の白のどちらから出たのかわからなかった。2人には何が起こったのか、わからなかった。顔を叩かれて、その勢いで尻餅を付く2人。ヒリヒリ痛む頬を押さえて藍は顔を前に向けるとあらゆる感情で歪められた母親の顔があった。

 

怒り、憎悪、悲しみ、絶望、この時の藍にはその幼さ故、一部理解できなかった感情もあっただが、幼い彼女でも一際わかる感情があった。

 

それは恐怖。

藍は初めて見る母親の顔にただただ呆然していた。

 

(あれ?お母さんに水の手品を見せて喜ばせようとしたのになんで叩かれたの?)

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

藍の中で感情がぐるぐるまわる。未だに心ここに在らずといった彼女をよそに、母親は2人を怒鳴りつけた。

 

「何をやっているのよ!このっ」

 

母親は再び藍達を殴ろうとして、顔をハッとさせ、直後涙で顔を濡らして2人を抱きしめた。

 

「ごめんね。...ごめんね。...ごめんね。...」

 

母親は2人を抱きながら、しばらくの間ずっと謝り続けた。2人は状況に追い付けず、未だに放心していたが、徐々に目に涙がこみ上げてくる。

 

「うわああぁぁぁぁぁん。」

 

怒り、悲しみ、恐怖。様々な感情がグチャグチャに混ざり泣き叫んだ。

 

その様を遠くから見つめている1人の男がいる事を知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから家に入った私達は、お母さんから色々と話を聞いた。

 

この村での掟。力を見せたら迫害される事。お母さんも力を隠している事。全てを理解する事はできなかったけど、力を隠せばいいって事はわかった。

 

その後はいつも通りの生活。今日は少しお父さんの帰りが遅かったけど、家族みんなでご飯を食べて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「きゃああああああ!」

 

そんな声と共に目覚めた。起き上がってみると僕の隣の布団が血に塗れていた。

 

「え?」

 

僕の後ろから、戸惑いの声があがる。どうやら藍も目が覚めたようだ。赤い布団には、昨日まで元気だったお母さんだった物があった。

 

そして、それを囲むように手に鎌を持っているお父さん。その周りにいる近所のおじさんやおばさん。皆、その目をギラつかせて僕達を見つめていた。

 

「..............お、お前達が悪いんだ。お前達のような奴らがいるから、争いが絶えない。」

 

頭が真っ白になった。何が起きている?

 

わけがわからなかった。でも、命の危機が迫っている事はわかった。

 

僕は体が硬直してしまっている妹を抱えて、後ずさる。

 

ふと、昨日のお母さんの話を思い出した。そして悟る。すでに僕達はこの村の一員では無いことに。僕達はこの村にとって外敵である事に。

 

僕達を囲む何人もの大人達。かたや何の力も持っていない2人の子供。

 

僕達ここで殺されるのかな?

 

まるで他人事のように感じた。それほどまでに追い詰められている事がわかった。

 

でも、藍はどうする?藍も殺されてしまうのか?

 

お父さんは鎌を振り上げる。

 

「これで化け物は居なくなる。」

 

その目はもう家族に向ける暖かさはなかった。

 

嫌だ、嫌だ!藍は、藍だけは守りたい!

 

焦燥で全身の感覚が無くなる。脂汗を流しながら、ガタガタと震える。どれだけ思考しても助かる方法がわからない。

 

「死ね。」

 

鎌が振り下ろされる。それはやけに遅く感じた。まるで時間が圧縮されたような感じだ。

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ!

 

「うわああああああああ!」

 

恐怖に耐えられなかった僕は、絶叫と共に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

何が起きたのか、理解できなかった。立て続けに変化する情況に頭が追いつかなかった。気がつけば、私の目の前には巨大な氷の結晶ができていた。それに貫かれて、絶命している大人達。氷の棘は家の屋根や壁も貫き、家を倒壊させていた。

 

お兄ちゃんは気を失ってしまった。

 

1人取り残された私。不安にかられてお兄ちゃんを揺する。

 

「う、うん」

 

お兄ちゃんはすぐに目覚める。お兄ちゃんは目の前の光景に呆然となるが、すぐに私に振り向く。

 

「立てる?」

 

「....................」

 

私は恐怖からか、声が出せなかった。でも、なんとか頷く事はできた。

 

「じゃあ走るよ。」

 

私はお兄ちゃんに手を引かれて走る。裸足で駆け抜ける村はとても冷たく、体を芯から冷やしていく。

 

「はあ、はあ、はあ。」

 

村から抜け、林に入る。木の枝が足に刺さって血が出る。

 

痛みに足が縺れ、躓いてこけてしまう。

 

「痛いよ〜。」

 

血が流れる足を見て、へたり込んでしまう。

 

お父さんに殺されかけ、昨日まで優しかった村の人々が憎悪の視線で見つめてくる。そんな情況で走る気力も体力も尽きてしまった。

 

涙が溢れてくる。

 

「............うぐ、えぐ。」

 

とにかく泣いた。顔を涙と泥でグチャグチャにしながら泣いた。

 

「!?」

 

すると体が軽くなったと思ったら、お兄ちゃんに背負われていた。

 

「しっかり、掴まってて!」

 

お兄ちゃんは、私を背負っている事を感じさせない速度で林を駆け抜けていく。

 

「は、疾い..............」

 

やっぱりお兄ちゃんの背中は暖かくて、安心する。

 

気が抜けた私は、一気に睡魔に襲われ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

林を抜けた先、霧隠れの里についた。空は既に太陽が沈んで暗くなっていた。朝に襲われて、ほぼ半日走り続けた事になる。普段はこんなにも力は出ないのに、今日は藍を背負っても力が漲ってくる。

 

ここまで来れば、村の人間も追っては来ないだろう。何せ忍びが沢山いる場所だから。何よりも力を恐れている人々には、忍びの隠れ里に進んで入る者はいないだろう。

 

でも、裏を返せば僕達にとっても必ずしも安全とは言えない場所だ。

 

とりあえず、人目につかない場所に移動しなきゃ。

 

僕達は街の路地裏に入り、腰掛ける。

 

「ん、うぅ。」

 

「目が覚めた?」

 

藍は薄く目を開け、周りを見渡す。

 

「ここは?」

 

「霧隠れの里だよ。」

 

それを聞いた藍は目を見開く。

 

「それって、前に行ったらダメって言われてた所だよね?」

 

「うん。でも、ここなら追って来れないでしょ。」

 

藍はこくんと頷く。

 

僕は藍を下ろす。

 

藍は力なく座り込む。相当疲れたのだろう。肉体的にも精神的にも。だが、それ以上に朝から何も食べていない。僕達の体は大人達のように大きくは無いから、長時間の絶食は命の危険があるはず。ましてや朝から動きっぱなしだ。

 

だけど、もう夜。今から食料を探して歩き回るのは危険。僕1人で探しには行けるけど、藍を残す訳にもいかない。

 

仕方ない。明日の朝まではじっとしておこう。

 

僕は藍を抱きしめて夜を明かした。



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温もり

「藍。起きれる?」

 

体を揺さぶられて目がさめる。

 

「おはよう。」

 

「おはよう。お兄ちゃん。」

 

目覚めた私を見たお兄ちゃんは、酷く安心した顔をした。

 

何かあったのかな?

 

ぐうぅぅ〜

 

.....................え?

 

そういえば昨日から何も食べてないんだっけ?

 

じゃあ、今の音って私?

 

自覚した瞬間に顔に熱がこもる。寝ぼけていた頭は一気に覚醒した。せめてもの抵抗としてお兄ちゃんを睨みつけるけど、ニコニコと笑われるばかり。

 

ぐぬぬ。

 

「じゃあ、食料を探そうか。」

 

お兄ちゃんは手を差し出す。私はその手を取って立ち上がる。しかし、

 

「あれ?」

 

突如、視界がぶれて意識が遠のく。

 

「おっと。」

 

すかさずお兄ちゃんが支えてくれる。目眩も一瞬ですぐに治る。

 

「大丈夫?」

 

「うん。ちょっと立ち眩み。」

 

「じゃあ行くよ。」

 

私はお兄ちゃんに手を引かれて歩く。霧隠れの里は朝なのに霧が深く、薄暗い。

 

しばらく歩いていると、露店を見つけた。お兄ちゃんが露店に近付く。

 

「すみません。僕達お金が無くて、食べる物に困っているんです。残飯で構わないので、恵んでくれないでしょうか?」

 

「....................」

 

店主さんはまるで何も聞こえていないかのように、こちらに見向きもせずに沈黙している。

 

「あの「うるさい!」............」

 

お兄ちゃんがもう一度声をかけようとするが、店主さんの怒号に掻き消される。

 

「薄汚いクソガキが。お前らのようなのがいると、商売にならないんだよ!金無いならあっちに行け!」

 

それでもお兄ちゃんは土下座して頼み込む。

 

「お願いします。すぐにここから離れますから、何か恵んでください。」

 

「.....................」

 

店主さんは目を瞑り、溜息を吐くと、店から出てきた。その手に鉄パイプを持って。

 

「お前らのような奴らは、今日が初めてじゃないんだ。奴らも生きるのに必死だから、拒絶しても引き下がらねぇ。そんな時はどうすると思う?」

 

そう言うと店主さんは鉄パイプを振り上げた。

 

まずい!

 

私はお兄ちゃんに駆け寄り、腕を掴む。

 

「こうやって黙らせるんだよ!」

 

鉄パイプが振り下ろされる。

 

私はお兄ちゃんの腕を引っ張って起こす。

 

空振った鉄パイプは地面を深く抉る。

 

私はそのままお兄ちゃんの手を引っ張って逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ、はあ、はあ。」

 

「ごめん、藍。助かったよ。」

 

走ってなんとか逃げ切った私達は、小さな橋に来ていた。

 

「大丈夫。お兄ちゃんがぶ、」

 

再び視界がぶれて意識が遠のく。思わず地面に膝をついてしまった。

 

「はあ、はあ、はあ。」

 

「藍!どうしたの!?」

 

お兄ちゃんが呼びかけてくれる。でも、それに答える力がない。私は橋の親柱にもたれかかる。

 

息を整えると少し楽になる。

 

お兄ちゃんも安堵の表情を浮かべる。

 

「藍。少しここで待ってて。」

 

「うん。」

 

お兄ちゃんは少し悩む素ぶりを見せながら、走っていった。

 

たぶん、私を1人にするのが不安なんだろう。でも、今の私じゃお兄ちゃんの足手まといになる。それならいっそ、動けない私を連れて行くより、お兄ちゃんが食料を確保した方がいいかもしれない。それでも駄目なら、仕方ない。

 

立ち上がろうと思ったけど、足に力が入らない。たぶん、この小さな体で何も食べていないから限界が近いんだろう。

 

自分の事ながら他人事のように感じた。もしかしたら、今日死んじゃうのかな。

 

嫌だな〜。死にたくないよ。お兄ちゃんがいないと寂しいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

僕は走る。藍はかなり衰弱している。早く栄養を補給しないと今日を越せない。霧隠れの里の人間に頼み込むのは、おそらく絶望的。今朝のように追い払われるのがオチだ。なら、どうする?

 

ある程度走ると、さっきとは別の店を見つけた。こっちの露店は野菜や果物を売っている。

 

頼み込むのが、無理なら盗むしかないか?あまりやりたくないけど。でも、やらないと藍が保たない。

 

幸いこっちの露店は後ろから忍び込み易そうだ。

 

僕は恐る恐る店の裏から侵入する。僕から1番近い林檎を狙う。

 

大丈夫。まだ誰も気付いてない。

 

徐々に林檎に近付く。

 

いける。あと一歩。

 

カランカランカラン。

 

「!?」

 

突如、鐘が鳴り響く。一瞬思考が停止するが、足に違和感を感じて確認する。

 

見ると足に糸が絡まっていた。その糸が鐘を鳴らしているようだ。

 

罠!?

 

店の人達が一気にこちらに向いて来る。僕を見つけた瞬間、鬼の形相になって怒鳴ってきた。

 

「このクソガキ!誰の商品盗もうとしてやがる!」

 

不味い!

 

僕はすぐに反転して逃げる。幸い糸は簡単に解けた。

 

クソ!やけに隙だらけだと思ったら、罠があったなんて。

 

路地裏に駆け込む。

 

「クソ!どこ行った!?探せ!」

 

数人の大人達が通り過ぎて行く。

 

「ふう〜。................!?」

 

気が抜けた瞬間、視界が揺れた。

 

やばい。僕もそろそろ限界かも。

 

けど、店を狙うのは無理だ。みんな対策している。きっと、僕達だけじゃないんだ。こんな事をするのは。

 

しばらく路地裏にいると雪が降り出してきた。

 

状況がどんどん悪化して行く。

 

フラフラな足取りで路地裏から出る。どうするか、考えがまとまらないまま街を歩くと、ゴミ捨て場が見えた。

 

そうだ。あそこなら。

 

僕はゴミ捨て場に近付く。少し待っていると、おじさんがゴミ袋をゴミ捨て場に捨てた。

 

僕はすぐにそれを漁ろうとするが、

 

『ワン!ワン!』

 

鳴き声が聞こえてきた。見ると犬がゴミを漁りにきたのか、僕を威嚇して来る。

 

心が悲鳴をあげる。

 

僕はその犬を蹴飛ばした。

 

ごめん!

 

『キャン!』

 

罪悪感で挫けそうになった。自分達が生き残るために、弱いものを蹴落とす。そんな行為に涙が出そうになった。

 

わかっている。彼も必死に生きているんだ。ほんの少しだけど、霧隠れの里を見てわかった。みんな貧しさに苦しんでいる。だから、この犬の気持ちもなんとなくわかってしまう。

 

でも、仕方ないんだ!

 

僕は自分にそう言い聞かせた。そうしないと今にも挫けそうになるから。藍のためにもここで折れるわけにはいかない。

 

そうしてゴミを漁っていると、

 

『グルルル』

 

さっきよりも幼い鳴き声が聞こえた。

 

僕は振り向いた。いや、振り向いてしまった。そして、その光景にショックを受けてしまった。

 

子犬だろうか?母親を守るように2匹が前に出て、威嚇してくる。

 

限界だ。

 

僕は悟ってしまった。涙が止まらない。心が折れてしまった。

 

彼、いや彼女は子供達のために食料を探していたんだ。僕達は母親を失い、父親を殺してしまった。こんなにも汚れた僕。

 

でもこの子達は、ちゃんと親子で支え合っている。それは、もう僕には絶対に手に入れれないものだ。それを今度は僕が奪ってしまうのか?

 

自分の妹を最優先に考えているのに、他人を心配してしまっている。僕はお兄さん失格だ。

 

ごめん、藍。ごめん。

 

僕は涙を流し続け、地面に蹲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

雪が降り始めて、しばらく。お兄ちゃんが橋に帰って来た。

 

お兄ちゃんは、出て行った時よりもボロボロになっていた。手には何も握られていなかった。

 

お兄ちゃんは私の顔を見て、小さく「ごめん」と呟いた。きっと何も取れなかったのが、後ろめたいのだろう。でも私はそんな事はどうでもよかった。

 

ただお兄ちゃんが私の所に帰って来た。それだけで良かった。

 

「おかえり。」

 

もうそれだけでいい。

 

「...........ただいま。」

 

お兄ちゃんが私の隣に座る。

 

「..........雪。降って来たね。」

 

「うん。でもお兄ちゃんが暖かいから寒くないよ。」

 

「僕も寒くないよ。明日はどうする?何かしたい事ある?」

 

地面に薄く積もった雪を眺める。

 

「........そうだな〜。雪遊びがしたいな。一緒に雪だるまを作るの。」

 

「僕は雪合戦がしたいな。きっと楽しいよ。」

 

「......うん、そうだね。」

 

視界がだんだんぼやけてくる。

 

「..........お兄ちゃん。私...........ちょっと眠たいかも。.........少しだけ、............少しだけ寝るから、.......このまま........このままここで一緒に..........」

 

「うん。僕はずっと一緒だよ。」

 

「........ありがとう、お兄ちゃん。」

 

そのまま瞼が閉じようとした時、

 

「くっくっく。哀れなガキだ。」



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鬼人

「くっくっく。哀れなガキだ。」

 

声をかけられた。

 

「お前らみてぇなガキは誰にも必要とされず、この先自由も夢も無く、野垂れ死ぬ。」

 

声をかけてきたのは、霧隠れの里の額当てをつけた忍び。年齢は18ぐらいだろうか?

 

馬鹿にしたような言葉。でもなぜかそれは自嘲の気配を感じさせた。

 

「お兄さん。僕と同じ目をしている。」

 

だからだろうか。こんな事を言ってしまったのは。

 

忍びのお兄さんは、目を大きく見開く。そして、

 

「お前ら、親はいないのか?」

 

「.............うん。昨日死んだ。」

 

「そうか。」

 

すると、お兄さんは懐から丸薬を取り出して、意識を失っている藍に飲ませた。

 

「お前も飲め。」

 

僕は無言で受け取り、丸薬を飲む。

 

お兄さんは藍を背負う。

 

「お前ら、俺に付いて来い。命が惜しければな。」

 

「..................」

 

正直選択肢なんて無いと思う。藍が助かるなら、迷うわけがない。

 

「今日からお前の能力は俺のものだ。」

 

「!?」

 

この人は僕達が血継限界だと知って、受け入れてくれるのか?

 

「..................」

 

僕はお兄さんに付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めると、霧隠れの雪の空では無く、木材の天井が目に飛び込んで来た。

 

「ここは?」

 

私は確か橋で死んだはず。そして、おそらくはお兄ちゃんも................。

 

「目が覚めた?」

 

声の方を見ればお兄ちゃんがいた。

 

「お兄ちゃん、ここはどこ?」

 

私は布団に寝かされていた。部屋の広さはそこまで広くはない。1人暮らし用の部屋なんだろう。私の家よりも狭い。そして、物が殆ど無い殺風景な部屋だ。

 

「そうだね。場所の説明をするなら、先に藍が寝てからの経緯の説明をするよ。その方がわかりやすいと思うし。」

 

そう言うと、お兄ちゃんは私にこれまでの事を話してくれた。

 

霧隠れの忍びに助けられた事。その忍びの名前は霧隠れの鬼人、桃地再不斬。ここはその再不斬の家。私は丸1日眠っていた。

 

「じゃあ、再不斬さんを呼んでくるね。」

 

そう言って、お兄ちゃんは部屋を出て行った。

 

「..................」

 

私達は助かったのかな。その再不斬さんはきっと命の恩人。どんな人なんだろう?怖い人だったら嫌だな。

 

ガチャ。

 

部屋から背の高い男の人が入って来た。その後に続くようにお兄ちゃんも入って来た。

 

鬼人って呼ばれるのも納得の相貌だけど、何故だろう?全然怖く無い。

 

再不斬さんは私をじっと見つめている。

 

「..........お前らは双子じゃ無かったのか?顔立ちはそっくりだが、目の色や髪の色がこうも違うとは。」

 

確かに私達は双子だけど、お兄ちゃんは黒髪黒目。だけど私は水色の髪に橙色の瞳。

 

「二卵性双生児だそうですよ。」

 

「ふん。なるほどな。」

 

よかった。お兄ちゃんが笑ってる。笑顔が帰って来た。

 

「そう言えば、お前には名乗って無かったな。俺は桃地再不斬だ。お前は?」

 

「私は藍。白お兄ちゃんの双子の妹です。」

 

「..........藍か。わかった。..........お前らはこれから俺が育ててやる。だが、タダって訳じゃねぇ。お前達は俺の道具として、戦い方を叩き込む。いいな?」

 

ここで断れば、結局はまた橋で命を落とすだけだ。どのみち私達に選択肢は無い。

 

お兄ちゃんは少し思案するが、すぐに

 

「わかりました。よろしくお願いします、再不斬さん。」

 

と答えた。なら、私も答えは決まっている。お兄ちゃんを救い、笑顔を取り戻してくれた人なんだ。なら大丈夫。

 

「私もお願いします、再不斬さん。」

 

再不斬さんは、私達の返答にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「よし。ならまずはこれを読め。」

 

再不斬さんは数冊の本と巻物を用意する。

 

「忍びたる者。文字が読めなければ、話にならん。文字の勉強ついでに忍びとはなんたるかを説明している書物を用意した。これを読んでまず忍びについて勉強しろ。」

 

「わかりました。」

 

「じゃあ、俺は出かけてくる。夜には戻る。」

 

ガチャ。

 

再不斬さんが出て行くのを見送って、早速本を開いてみる。中はびっしりと文字が敷き詰められている。

 

「ねえ、お兄ちゃん。私達って文字の勉強が目的なのに、いきなりこんなの読めないよ。」

 

「あははは。」

 

お兄ちゃんも同じような事を思っていたらしい。苦笑いを浮かべる。

 

それからは、再不斬さんが帰って来るまで本と巻物を広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しけた任務だったな。最近はつまらない任務が多過ぎる。

 

ツーマンセルでペアを組み。岩隠れに浸入。スパイ活動する任務だ。表はな。

 

裏の任務は、もしペアが捕まり情報を吐きそうなら、そいつを始末するのが裏の任務。

 

結局、ただの足手纏いをぶっ殺す任務になってしまった。

 

いい加減、あのいけ好かねぇ野郎に、従い続けるは癪だな。

 

先代の首切り包丁使いが死んだらしい。確か、抜け忍の枇杷十蔵だったか。その後継者に俺が選ばれた。来週は、首切り包丁を受け取る。

 

俺は任務が終わり、里に帰って来た。里の入り口の橋を渡っていると、ガキが2人座っているのを見つけた。おそらく、血継限界持ちで迫害を受けたガキだろう。

 

単なる気まぐれだった。任務の鬱憤を晴らすかのように、ガキ相手に暴言を吐いた。しかし、

 

「お兄さん。僕と同じ目をしている。」

 

さっき仲間を殺した男にこんな事を吐かすとはな。くっくっく。こいつは面白い。

 

こいつはいい道具になる。そう俺の直感が告げる。

 

俺は直感に従って、このガキを拾う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1週間の生活に必要な道具や食料を買った俺は、部屋に戻る。

 

ガチャ。

 

「あ、お帰りなさい。再不斬さん。」

 

「お帰りなさい、再不斬さん。」

 

「......ああ。」

 

荷物を机に置く。

 

「お前ら、読めたか?」

 

まあ、何の教養も無いガキじゃ無理だろうな。

 

「ええ、読めましたよ。少し、解読に時間がかかりましたが。」

 

俺は白の言葉に目を見開く。

 

こいつは驚いたな。やはり俺の直感が正しかった。

 

「さすがはお兄ちゃん!やっぱり凄いね!」

 

なるほど。白が読めたか。

 

どうやら、兄の方が優秀なようだな。実際、橋で見かけた時も白の言葉がきっかけだしな。妹の方は至って普通のガキか。

 

白は育て甲斐がありそうだな。

 

「ふふ。藍も僕が教えたらすぐに読めたじゃないか。飲み込みが早くてびっくりしたよ。」

 

藍もそれなりに頭はいいのか。まあ、こいつが居れば、白はより力を発揮できそうだしな。

 

「そうか、ならいい。それを読んだって事は、これからする事もわかってるな?」

 

「はい。修行ですね。」

 

「ああ、そうだ。」

 

白が嬉しそうに呟く。

 

「早く、再不斬さんの為に強くならないと。」

 

本当にこいつらは純粋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まずは、チャクラからだな。本で読んだだろ?」

 

「はい。身体エネルギーと精神エネルギーを練り合わせた力。」

 

「あらゆる忍術に必要な力の源。」

 

「なるほど。しっかりと読めているようだな。」

 

再不斬さんは目を細める。

 

「まずは目を閉じ、集中しろ。姿勢は自然体で力は抜け。」

 

再不斬さんの指示通りに、目を閉じ意識を手と足の接触している箇所へと集中する。この時に、手から足へと何かが僅かずつだが循環しているのが分かった。

 

今度はその循環している流れを、自分の思い通りに出来るか試してみると、止めることも増やすことも出来たのである。

 

これがチャクラなのかな?

 

目を開けて、この流れを忘れない内に繰り返していく。

 

「できたみたいだな。」

 

「はい。身体の中の流れみたいなのがチャクラですか?」

 

横を見ると、お兄ちゃんもできたみたい。

 

「そうだ。今日はこれでいいが。明日からは、チャクラを練る修行をするぞ。」

 

「「はい。」」



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雪一族

この1週間、再不斬さんの元でチャクラコントロールの修行をしてそれなりに成果が出てきた頃。

 

「白、藍。今から出かけるぞ。ついて来い。」

 

「「はい。」」

 

再不斬さんはそれだけ言うと家を出て行く。私達はそれについて行く。

 

再不斬さんの背中には、大きな大剣「断刀 首切り包丁」。数日前に水影から「忍刀七人衆」に任命されて、手に入れたそうだ。

 

その水影。四代目水影 やぐら。尾獣 三尾の人柱力でその力を完全に制御できる、霧隠れの最強の忍び。この人が、今の水の国の悪政を敷いてる張本人らしい。あんまり難しい事は私にはわからないけど、私達が村から追い出される間接的な原因らしい。

 

「ここに入れ。」

 

どうやら目的地についたみたい。

 

霧隠れの里の外。里を見下ろせる場所の小さな小屋。

 

「白、藍。俺がいいと言うまでここから出るなよ。何があってもだ。わかったな。」

 

「「はい。」」

 

ガチャ。

 

そう言うと、再不斬さんは私達を小屋に入れた。中は、再不斬さんの家と違い、苦無や手裏剣の忍具が沢山ある。

 

「どうするの?お兄ちゃん。」

 

「そうだな。ずっと何もしないのは退屈だし。チャクラコントロールの練習をしておこうか。」

 

「わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しばらくすると、外が騒がしくなる。具体的には、爆発音や金属音。そして、悲鳴が聞こえてくる。

 

私は退屈だったのと好奇心から外を覗こうと、扉に手をかけるのだが、

 

「ダメだよ、藍。再不斬さんが外に出るなと言ってたでしょ。」

 

お兄ちゃんに止められた。

 

「うぅ〜。気になるもん!」

 

駄々をこねる私にお兄ちゃんは苦笑いを浮かべる。

 

「じゃあ、これを練習してみよう。」

 

「なに?」

 

お兄ちゃんは、小屋の壁に向かって歩いて行く。そのまま壁に垂直に登りだす。

 

「おお〜!どうやったの?」

 

「足にチャクラをためるんだよ。そうすると壁に足が吸い付くんだよ。」

 

「やってみる!」

 

私は足にチャクラをためる。そのまま壁に足をかける。

 

「おお〜。」

 

壁に足が貼り付いた。そのまま二歩目も壁に貼り付いた。そして、三歩目。

 

「あれ?」

 

一歩目に出した右足が壁から離れない。

 

「うぅ〜、えい!」

 

足を剥がそうとして力んだ瞬間、今度は壁から弾かれて、床に激突した。

 

「いったあああい!」

 

私は床にのたうち回る。

 

「チャクラが多すぎると、逆に壁から弾かれるんだよ。だから、壁から足を離す時はチャクラを減らせばいいんだよ。」

 

「もっと早く言ってよ!意地悪。」

 

「ははは。藍があまりにも飲み込みが早いから、びっくりしちゃって、見惚れてたよ。一歩目で無理だと思ってたから。」

 

お兄ちゃんの賞賛の声に顔が赤くなる。

 

「そ、そうなの?」

 

「うん。藍は才能があるよ。」

 

「えへへ〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから数時間後。私の壁登りが大体できるようになった頃。

 

ガチャ。

 

再不斬さんが帰って来た。首切り包丁にべったりと血を付けて。

 

「二人共来い。」

 

私達は再不斬さんに連れられ、外に出る。里を見下ろすと、所々に煙が上がっている。

 

「先程、水影の暗殺を試みたが、手傷を負わせるだけで精一杯だった。幸い、数人の部下も殆ど手傷を負わずに逃げる事に成功した。」

 

再不斬さんに拾われて、数日の間に言われていた事だ。「俺はあのいけ好かない野郎をぶっ殺す」と。

 

「白、藍。残念だ。今宵限りで俺は水の国を捨てる。しかし、必ず俺はこの国に帰ってくる。この国を手中に入れてみせる。そのために必要なのは慰めや励ましや、なんの役にも立たない言葉じゃ無い。本当に必要なのは.........」

 

「わかっています。安心してください。僕は再不斬さんの武器です。言いつけを守るただの道具として、お側に置いてください。」

 

「...........いい子だ。」

 

再不斬さんは、何か言いたそうにしていたが、それを飲み込んでニヤリと笑った。

 

「これから、新しい拠点に移動する。」

 

「「わかりました。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここだ。」

 

再不斬さんについて歩く事、一週間。途中宿で休憩を挟んだりしたけど、だいぶ移動した。船の移動もあった。別に船酔いとかは無かったけどね。道中で小さな白髪の男の子とすれ違ったりもした。

 

場所は水の国と火の国、雷の国のちょうど中間に位置する島。その島の密林に囲まれた大きめの小屋。近くには小さな池もある。

 

「今日からここで暮らす。俺がいない時は小屋から出ずに雪兎の世話をしていろ。」

 

「「はい。」」

 

荷物を小屋に運ぶ。再不斬さんが巻物を広げる。巻物には中心に『具』と書かれている。そこに手を当てると、

 

ボフッ!

 

煙が上がり、忍具や鍋、その他の生活用品が出てくる。それを手に取り、小屋に運ぶ。

 

「今日はこれだ。」

 

荷物をある程度片付けたところで再不斬さんは3つ程巻物を取り出す。

 

「この巻物には、薬草について詳しく書いてある。医療忍術を扱えればいいのだが、それを扱える忍びは数が少ない。俺も医療忍術はできないしな。だから教える事はできん。代わりに薬草の知識は徹底的に叩き込め。」

 

「「はい。」」

 

「それと、血継限界についても俺が扱えるわけでは無い。その中から自分達でどの血継限界かを探し、技を磨け。」

 

そう言うと、再不斬さんは私達に小さな紙を渡して来た。

 

「それはチャクラ紙。チャクラの性質は5つあるのは知ってるな?」

 

「はい。水、火、風、土、雷ですね。」

 

「そうだ。この紙にチャクラを流すと流した人間のチャクラに合わせて、紙が反応する。」

 

再不斬さんもチャクラ紙を出して、チャクラを流す。すると紙が湿って濡れた。

 

「俺は水の性質だ。つまり水遁。まだ、忍術は早いが、性質がわかればどの血継限界かのヒントになるだろう。」

 

「なぜ、ヒントになるんですか?」

 

「血継限界には2つの種類がある。特異体質のパターンと秘伝忍術のパターンだ。まあ、そこの巻物を読めばわかる。この方法は、特異体質の見分けには役に立たないが、秘伝忍術の見分けのヒントになる。」

 

「なるほど。」

 

私はチャクラを流してみる。すると、再不斬さんと同様に紙が濡れた。お兄ちゃんの方を見ると、お兄ちゃんの紙も濡れていた。

 

「水の性質か。水の国で血継限界の秘伝忍術は、沸遁、溶遁、氷遁ぐらいだな。特異体質は屍骨脈だな。」

 

ん?

 

再不斬さんがあげた中で、ピンとくるものがあった。

 

確か、お兄ちゃんは水を凍らす事ができたはず。

 

「どうした、藍?何か気がついたか?」

 

「あの、お兄ちゃんは確か、水を凍らす事ができたはずです。だから、氷遁じゃないかなと思います。」

 

「なるほど。ならやってみせろ。」

 

「はい。わかりました。」

 

お兄ちゃんは両手をかざす。すると水の球ができ、そして凍らして、氷の球を作った。

 

「確かに、これは氷遁だな。なら、風の性質も持ってるはずだ。忍術は水遁と風遁をメインでやっていく。.......じゃあ、薬草の方に取りかかれ。」

 

再不斬さんはチャクラ紙を片付ける。そして、扉を開ける。

 

「俺は外に罠を仕掛けてくる。夕飯までには帰ってくる。そのうち、飯の作り方や罠の仕掛け方も覚えてもらう。いいな?」

 

「「はい。」」



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チャクラコントロールの修行も佳境に入る。

 

再不斬さんが池の水面を平然と歩いて中央までいくと、こちらを振り返った。

 

「お前達もやってみろ。」

 

「「わかりました。」」

 

壁歩きの要領で、片足だけを水に浸けてチャクラを調節していく。

 

壁登りよりも難しいかも。

 

なかなか、安定しない。チャクラが多すぎると水を弾いてしまう。少ないと沈む。

 

そうやって、バシャバシャと水を巻き上げていると、ようやく両足を水につけれた。

 

お兄ちゃんも水に立てたようだ。

 

そのままゆっくりと歩いて、池の中心まで歩いた。

 

「よし。今度は水面を揺らす。その状態でも水の上に立てるようにしろ。」

 

再不斬さんは水面にチャクラを放出して、波をたたせる。

 

いきなりの波に対して、慌てたことにより、バランスを崩し池に浸かるはめになってしまった。

 

「ほれ。もう一度だ。」

 

この後、十数回繰り返し、なんとか揺れた水面でも立てるようになった。

 

「今日は、水面を走れるようになるまで修行だ。」

 

それからもひたすら、池の水の上で走ったり、逆立ちしたりしていた。

 

しかし、

 

カランカラン

 

「「!?」」

 

再不斬さんが仕掛けた罠に何者かが、引っかかる音が聞こえた。

 

「白、藍!すぐに小屋に入れ!」

 

「「はい!」」

 

私達はすぐに小屋に入る。そして、部屋の隅の床の板をずらす。隠し扉だ。そこから地下に入る。

 

しばらく地下で息を潜めていると、上が騒がしくなる。

 

「大丈夫かな?」

 

不安な私はお兄ちゃんに問いかける。

 

お兄ちゃんは微笑むと私の手を握ってくれた。

 

「大丈夫だよ。再不斬さんは強い。どんな相手でも倒してくれるよ。」

 

「うん。」

 

1時間ぐらいしたところで、再不斬さんが隠し扉を開く。

 

「白、藍。出てこい。」

 

外に出ると、少し小屋の周りが荒れていた。

 

そして、その荒れた地面に倒れ臥す3人の死体。首と胴が別れた死体。胴体を真っ二つにされた死体。脳天から真っ二つになった死体。

 

それを見た私は、全身から血の気が引くのを感じた。暑くも無いのに汗が額から流れる。唇や手足の感覚が無くなり震える。最後に胃から込み上げてくるものに耐えきれずに吐き出してしまった。

 

「だ、大丈夫、藍!?」

 

お兄ちゃんが私に駆け寄る。

 

「..................」

 

再不斬さんは、私達の様子を静かに見ている。

 

ある程度吐いて、何も出なくなったところでようやく落ち着いてきた。

 

「はあ、はあ、はあ。」

 

「大丈夫、藍?」

 

お兄ちゃんが心配そうに私を見てくる。

 

「う、うん。」

 

「藍、中に「白、藍」......」

 

「白、藍。目を背けるな。この光景はお前達がいずれ何度も見るであろう光景。いくら術や体術ができても実戦、特に人の生き死にを体験しなければ、本当の意味で忍びにはなれない。」

 

「「................」」

 

「どうだ?この光景を見ても、まだ俺についてくる気はあるか?」

 

再不斬さんは私達を試す様に聞いてくる。

 

「はい。僕は再不斬さんの道具ですから。いつでも、どんな時でも側に置いてください。」

 

「藍はどうだ?」

 

「私も。再不斬さんについて行きます。」

 

私達の言葉を聞いた再不斬さんは、満足したのかニヤリと笑った。

 

「良いだろう。明日からは基本的な忍術をやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日は沈み、夜も更ける。

 

俺は池の側で座り、星を眺めていた。

 

正直、意外だった。白は意志が強かったから大丈夫だとは思った。だが、藍も答えるとは思わなかった。しかも、直前に吐いていたのにも関わらず。白の精神状態に藍は大きく関わる。だから、藍が無理なら二人共木の葉にでも送ろうかと考えていた。

 

ガチャ。

 

小屋の扉が開く音が聞こえた。

 

白か?

 

小屋の方を見ると、橙色の瞳と目が合った。

 

「どうした?明日から術の修行だ。早く寝ろ。」

 

「目が冴えちゃって。えへへ。」

 

「.................」

 

藍は俺の横に座る。

 

「................」

 

「................」

 

「意外だった?」

 

「..................」

 

「私ね。死体を見て怖かった、とても。でも、再不斬さんに拾われてから、ずっと夢見ている事があるんです。」

 

「................」

 

「私、強くなりたいです。」

 

「それこそ、意外だな。お前は荒事が苦手なタイプだと思っていたのだがな。」

 

「うん。怖いです。でも、再不斬さんも人殺しは本当は好きじゃ無いですよね。」

 

「くっくっく。霧隠れの鬼人に何を言う。」

 

「えへへ、確かにそうですね。」

 

「................」

 

「話逸れちゃいましたね。私の夢。それは、再不斬さんやお兄ちゃんを守れるようになる事です!」

 

「...........ふん。お前が俺を守るなんざ10年はえーよ。」

 

「えへへ。」

 

俺は、俺の理想のために戦い続ける。今もこれからも。そのためには力が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「今日は、変化の術と変わり身の術、分身の術。このあたりをマスターしてもらう。」

 

「「はい!」」

 

「まず手本を見せる。それを真似てみせろ。」

 

俺は一通り術を見せる。

 

「さあ、やってみろ。」

 

2人が術を真似る。

 

やはり白は才能もあり優秀なようだ。簡単に術を会得する。

 

藍はそれに対し、術の才能が無いのか、白にコツを教えて貰いながら何とか体得していく。それと、チャクラ量がかなり少ない。潜在チャクラ量も下忍レベルだ。これは忍びとしてはかなりのハンデになる。長期戦に向かないと言うより、できないな。だが、チャクラコントロールだけは、白よりも上回っている。壁登りや水面歩行は、影で白は何回も練習していたのに対して、藍はほぼ1回で出来ている。

 

白は普通に忍びとして、育てれば問題無いだろう。藍は繊細なチャクラコントロールを活かした体術使いが向いているだろう。

 

本当は、繊細なチャクラコントロールで幻術や医療忍術ができればいいのだが、術の才能が無いからな。

 

っと、どうやらできたみたいだな。術の才能が無いからと言っても、流石に変化の術や変わり身の術はできないと話にならない。

 

「よし。できたな。今日はそれをひたすら繰り返せ。」

 

こいつらがある程度動けるようになったら、ここも移動だな。早速追い忍が嗅ぎつけきたからな。



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移動

数ヶ月後、季節は夏になっていた。

 

隠れ家での生活にも慣れてきた。

 

キン!キン!

 

今は、再不斬さん相手にお兄ちゃんと一緒に組手をしている。

 

再不斬さんは忍術も体術も出鱈目に強くて、二人掛かりなのに一歩も動く事なく、私達をあしらう。

 

再不斬さんの周りを走り回る。そして、お兄ちゃんとアイコンタクトでタイミングを合わせて、

 

((瞬身の術!))

 

足にチャクラを集中させて、一気に放出する。私とお兄ちゃんで挟み撃ち。これで捉える!

 

ガシッ!

 

しかし、再不斬さんの懐に入った瞬間、私達は頭を掴まれてしまう。

 

「いい速さだ。だが、直線的すぎるな。」

 

そのまま、私達を地面に叩きつける。

 

「グハァ!」

 

しかし、

 

ボン!

 

私達が丸太に変わる。

 

変わり身の術だ。そのまま再不斬さんの背後に私達が踊り出る。お兄ちゃんは、素早く印を組む。

 

「秘術 千殺水翔!」

 

再不斬さんを囲むように水でできた千本ができる。でも、これだけじゃ再不斬さんを捉えれ無いだろう。

 

私はそれの援護をする。両手を前で合わせる。

 

「風遁 烈風掌!」

 

私の風遁で千殺水翔の速度を上げる。さらに、再不斬さんの地面から、お兄ちゃんの水分身が2体、再不斬さんに組みつく。

 

「ちぃ。」

 

再不斬さんは首切り包丁を一気に振り抜き、風圧で千殺水翔を飛ばす。そのまま、水分身を超速で切り裂く。

 

「「はあ、はあ、はあ。」」

 

再不斬さんは首切り包丁をしまう。

 

「合格だ。明日から移動する。準備をしておけ。」

 

再不斬さんを一歩でも動かす。術を使わせる。首切り包丁を使わせる。いずれかをさせれば合格。

 

この組手を繰り返し、今日ようやく合格できた。

 

「ふう。やっと合格できたね。」

 

「そうだね。藍がサポートしてくれたからね。瞬身の術もよかったよ。」

 

お兄ちゃんが撫でてくれる。

 

「えへへ。............あのね、お兄ちゃん。さっきのあの術はどうやったの?再不斬さんも使った事が無いよね?」

 

「ああ、さっきのやつね。あれは、雪一族の巻物に書いてあった秘伝忍術だよ。」

 

「じゃあ、私にもできるかな?」

 

「もちろん、藍ならきっとできるよ。なんなら今、手本を見せるよ。よく、印を見ておいてね。」

 

お兄ちゃんは片手であっという間に印を完成させる。

 

「秘術 千殺水翔」

 

空中に水の千本ができ、飛翔する。

 

「おお〜!」

 

私もお兄ちゃんの真似をしてみる。

 

「秘術 千殺水翔!」

 

......................

 

「うう〜ん。やっぱり、一回じゃ無理か〜。」

 

「時間はあるから、ゆっくりやっていこう。」

 

「うん。」

 

私はどうも忍術が苦手で習得に時間がかかってしまう。それでもお兄ちゃんは、付き合ってくれる。お兄ちゃんは、すでにある程度の水遁の術を使いこなしている。私は、風遁の術を2つしか使えない。水遁は1つもできていない。でも、瞬身の術だけは自信がある。速度だけなら、お兄ちゃん以上だ。

 

「さあ、中に入ろう。」

 

小屋に入る。すでに再不斬さんは荷物をまとめだしていた。

 

「来たか。1つ言い忘れていた事がある。」

 

再不斬さんは、私達に小さな本を渡してくる。

 

「それは、ビンゴブックだ。他里の情報や強い忍びの情報が書かれている本だ。その中身を頭に叩き込んでおけ。」

 

「「はい。」」

 

「これからは、お前達にも戦闘してもらう事があるかもしれない。基本的には、俺がやるが。その際の決まり事だ。追い忍は必ず始末しろ。あとは、好きにすればいい。あと、金稼ぎのために依頼や賞金首を狙う事もあるだろう。覚悟しておけ。」

 

「わかりました。」

 

ビンゴブックを開く。

 

デイダラ

・岩隠れの抜け忍

・火遁と土遁を合わせた禁術の爆遁の使い手

・あらゆる小国に爆破テロを仕掛けている

 

はたけカカシ

・木の葉隠れの上忍

・別名 写輪眼のカカシ

・千以上の術をコピーした事から、コピー忍者カカシとも呼ばれる。

・木の葉の白い牙 はたけサクモの息子

 

ダルイ

・雲隠れの上忍

・雷遁と水遁の使い手

・秘術 嵐遁の使い手で通常の雷遁よりも強力

・剣術にも長けている

 

干柿鬼鮫

・霧隠れ暗部

・大刀 鮫肌の使い手

・水遁の術を使う

・チャクラ量が多く、尾がない尾獣とも呼ばれている

 

他にも、人柱力や血継限界の一族の跡取り娘など、戦闘能力はないが、国際問題の火種になる人物も書かれていた。

 

「この量を覚えないといけないのか〜。」

 

「まあ、2人でやれば覚えられるよ。」

 

「そうだね。」

 

とりあえず、ビンゴブックは閉じて荷物の片付けをする。

 

荷物を一通り集めると、巻物に封印していく。

 

次に再不斬さんは変化の術をする。格好は笠を被った旅人といった感じだ。

 

「お前らも変化の術をやれ。」

 

「「変化の術」」

 

私達は茶髪の少年少女に変化した。再不斬さんに笠を渡される。

 

「お前達もこれを被っておけ。」

 

笠を被り、再不斬さんの後ろを歩いていく。

 

目的地は島の最北端、雷の国の国境。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

林の中を瞬身の術で駆け抜ける。再不斬さんは周りを警戒しながら、木々を飛び越えていく。

 

流石は再不斬さん。全力で走ってるのに後を追いかけるだけで、精一杯だ。瞬身の術なら、ちょっと自信があったんだけどな〜。

 

林を抜けて街道に出る。街道からは一転してゆっくり歩く。

 

「ここからは歩きだ。俺達は旅人だ。忍びの振る舞いは厳禁だ、いいな?」

 

「はい。」

 

「わかりました。」

 

そこから1時間、街道を歩いていると、街道の横にポツンと団子屋と思わしき小屋が見えてきた。

 

「あそこで休憩にする。言っておくが、お前達は何が起こっても旅人の振る舞いでいろ。非常事態には俺が動く。」

 

私達は再不斬さんの指示に頷く。店は狭く、軒先に置いてある長椅子が二つだけであり、片方には先客が居たため、もう片方へと再不斬さんと共に座る。

 

「団子三串とお茶を3つ頼む。」

 

「はい。かしこまりました。」

 

店員さんは、お茶とみたらし団子三串を持って来た。

 

「.................」

 

再不斬さんは出て来た団子を黙って食べている。それを見た私も団子を食べる。

 

「あ!美味しいよ!お兄ちゃん。」

 

「うん、美味しいね。」

 

私はお茶を啜るが、

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

「大丈夫!?」

 

「.........あっつい...」

 

「慌てて飲むからだよ。」

 

「........おい。」

 

熱いお茶に噎せていると、再不斬さんの不機嫌な声が聞こえた。

 

「静かに食べることはできないのか?」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

美味しい団子に舞い上がっていた私の気持ちは、一気に沈んだ。

 

「...............」

 

「...................」

 

「っち。団子2つ追加してくれ。」

 

「はい。かしこまりました。」

 

再び店員さんは二串の団子を運んでくる。

 

「お前達は、そこで食ってろ。俺は少しあたりを見てくる。」

 

再不斬さんはそう言うと、静かに歩いていく。

 

お兄ちゃんはニコニコと笑っている。

 

「どうしたの?」

 

「やっぱり、あの人はいい人だなと、思っただけだよ。」

 

「えへへ、そうだね。じゃあ、残りもいただきます!」

 

しばらく、お兄ちゃんと談笑していると、再不斬さんが帰って来た。

 

「食べ終わったか。なら行くぞ。」

 

「「はい!」」



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芽吹き

再不斬さんに拾われてから、1年が経っていた。私達も6歳になる。

 

今までは、ずっと再不斬さんに修行を付けて貰いつつ、再不斬さんの影に隠れていた日々だった。しかし、1年間修行し、ある程度戦えるようになってからは、賞金首狩りや悪どい依頼の手伝いをするようになっていた。

 

お兄ちゃんはその間にもどんどん力を付けて行った。とうとう、血継限界の氷遁にも目覚めた。戦闘能力も再不斬さんの評価で中忍レベルに達してるそうだ。

 

私は結局、殆ど進歩は無かった。お兄ちゃんに教えて貰った「秘術 千殺水翔」はできるようになった。お兄ちゃんに唯一勝てるのは、瞬身の術くらい。お兄ちゃん自身も並みの忍者よりも速いから、気を抜くとこの術ですら追い抜かれそうだ。

 

今、私達は林を駆け抜けている。木の上では再不斬さんが私達の動きを見ている。

 

瞬身の術で移動し、木に取り付けられた人体を模した的を千本で射抜く。

 

スパッ!スパッ!

 

20個の的を射抜くと、再不斬さんの水分身が現れる。

 

水分身は首切り包丁を振り下ろしてくる。私はそれを千本で受け止める。

 

普通の千本では、首切り包丁を受けた瞬間に折れてしまうが、風のチャクラを千本に流し、強度を上げている。

 

首切り包丁を受けた止めた状態で、即座に印を結ぶ。お兄ちゃん直伝のこの術は、片手で印を結ぶことができるのが利点だ。

 

「秘術 千殺水翔!」

 

水の千本が空中から、水分身を狙う。水分身は身体を伏せて、後ろに飛び退く事で回避する。そこに右手で持っていた千本を投擲する。

 

「風遁 烈風掌」

 

風遁で更に千本を加速させる。

 

「水遁 水陣壁」

 

水分身の周りを水の壁があらわれる。しかし、風のチャクラで強化し、風遁で加速している千本は水陣壁を貫通する。水分身は、屈んで千本を回避する。

 

その間にも瞬身の術で、水分身の背後に回り込む。

 

「風遁 風切りの術」

 

一筋のカマイタチが水分身に襲いかかる。そのまま水分身を切り裂く。バシャと音を立てて、水分身は水に還る。

 

更に加速。今度は水分身が2体現れる。

 

「水遁 水龍弾の術」

 

先手を取られた!

 

2体の水龍が襲いかかる。1体目を地面すれすれを滑空するように滑り込み避ける。2体目は足にチャクラを溜めて跳躍して回避。上空で2体の水分身に千本を投げつける。

 

2体の水分身は首切り包丁で千本を迎撃する。それを見て、着地と同時にすぐに次の術を発動する。

 

「風遁 風切りの術」

 

一筋のカマイタチが飛翔する。

 

「水遁 水陣壁」

 

だが、水陣壁にガードされる。そして、背後に別の水分身が迫り、首切り包丁を横薙ぎに振ってくる。

 

「風遁 烈風掌」

 

風を起こし、首切り包丁の軌道を上に逸らす。頭上を首切り包丁が通り過ぎるのを感じつつ、振り向きざまに風のチャクラを流した千本で首を切り裂く。

 

これで1体!

 

だが、私のすぐ後ろに首切り包丁を縦に一閃してくる水分身の気配を感じる。

 

瞬身で回避!

 

瞬身の術で回避しようとしたが、そこに氷の壁が現れて、私を守る。

 

私はすぐに離脱。そして、水分身の周りに氷の鏡が周囲を囲むように現れる。

 

「秘術 魔鏡氷晶」

 

雪一族の血継限界、氷遁。お兄ちゃんの奥義。

 

それを見届けた私は、勝利を確信する。

 

鏡の反射を利用した移動術。その速度は私には全く見えない。目で追えないのではなく、見えない。瞬身の術など霞む程の圧倒的疾さ。

 

氷の鏡を形成するまでの時間は多少かかるが、鏡ができればお兄ちゃんの独壇場。四方八方から飛来する千本に水分身は貫かれる。

 

四方八方から飛来しているように見えるが、常に高速で移動しながら、千本を投げているだけで、刹那の時間を切り取れば、鏡に映っているお兄ちゃんは1人。別に分身しているわけではない。移動速度が速すぎて、鏡に複数映っているように見えるだけだ。

 

千本に貫かれた水分身は水に還る。

 

氷の鏡も崩れる。そこからお兄ちゃんが現れて、私の元のくる。

 

「藍、お疲れ様。」

 

「お兄ちゃんもお疲れ様。流石だね!」

 

「藍も相変わらず速いね。僕が来たら既に1体倒してるしね。」

 

「ありがとう!」

 

そこに再不斬さんがやってくる。

 

「よし。これからサイレントキリングをお前達に叩き込む。」

 

「「はい。」」

 

「これから、霧隠れの術を使う。視界ゼロの状態で水分身を音だけで見つけるんだ。」

 

そう言うと再不斬さんは、2体の水分身を出す。

 

「霧隠れの術」

 

再不斬さんの霧隠れ術が発動する。数秒で周りは白い霧に覆われる。

 

本当に何も見えないな。

 

『心音、呼吸音、足音、血液が流れる音。様々な音を聞き取れ、神経を集中させろ。』

 

再不斬さんの声が響く。

 

指示通り、神経を集中させる。

 

うーん、わからない。

 

目を閉じて、余計な情報をシャットアウトする。

 

更に集中する。だんだん、自分が底のない海に沈んでいく感覚。

 

時間の感覚がだんだんわからなくなって来た。更に今立ってるのか、座っているのか?どのような体勢かもわからなくなってきた。

 

更に沈んでいく。

 

すると、私の世界を遮るモノを感じた。気がつくと無意識にそこまで走っていた。そして、千本で一閃。横薙ぎに振るう。

 

バシャ!

 

水分身を切り裂いた。それと同時に頭の中で直接、誰かの声が聞こえた気がした。

 

"おはようさん♩ようやくお目覚めかな〜♩"

 

この時、私が集中している時に足元の地面が凍っていたのを知る者は誰もいなかった。私自身でさえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2人を拾ってから1年が経った。俺は2人が水分身と戦闘している様子を眺めていた。

 

白と藍の才能は凄まじい。俺の目は正しかった。

 

藍は瞬身の速度と繊細なチャクラコントロールを駆使した体術。

 

白も藍には劣るが、かなりの速度だ。更に術の才能もある。早速、血継限界にも目覚めさせた。

 

藍はチャクラ量の少なさと術の才能が無い為、これ以上強くなるのは難しいかもしれない。血継限界も必ずしも、その一族である者が目覚めるとは限らない。だが、白はまだまだ強くなるだろう。道具として申し分無い。

 

2人が水分身を倒した。それを確認した俺は、2人の元へ行く。

 

「よし。これからサイレントキリングをお前達に叩き込む。」

 

俺の真骨頂は、霧隠れの術からの首切り包丁で敵を狩る、無音暗殺術だ。だが、2人がいる時は使っていない。

 

だが、2人もこれが使えるようになれば、より戦力増強が望める。

 

まあ、取り敢えずは霧の中で俺の足手纏いにならない程度には、動けるようになるところからだな。

 

俺は水分身を2体作る。

 

「霧隠れの術」

 

俺はすぐに木の上に飛び移る。音を探ると、すぐに白と藍を見つけた。

 

どうやらまだ2人共、水分身を見つけれていないようだ。

 

「心音、呼吸音、足音、血液が流れる音。様々な音を聞き取れ、神経を集中させろ。」

 

2人にアドバイスを送る。すると、2人共目を閉じ集中しだす。

 

くっくっく。たった一度のアドバイスで何をすれば音が拾いやすいのか、わかったのか。

 

まず最初に動いたのは、白だった。

 

白は氷の鏡を作り出し、鏡に入る。そして、光速で水分身に迫り、切り裂いた。

 

藍はまだ、水分身を捉えていない様でその場に留まっている様だ。

 

しばらく、その様子を伺っていると奇妙な現象を目の当たりにする。

 

藍の音が聞こえなくなったのだ。心音、呼吸音等の生体音が一切聞こえない。終いには、藍の居場所さえわからなくなった。

 

この俺が音を聞き取れないだと!?

 

俺が藍の様子を見に行こうとした時、藍が走り出した音が聞こえた。自慢の瞬身の術で一気に距離を詰め、水分身を屠った。

 

一体何だったんだ、今のは?

 

俺は霧を消して藍の元へ寄る。

 

「藍、何をした?」

 

俺の問いかけに、藍は首を傾げた。

 

「えーと、音を聞こうと集中して、気配を感じたから一気に走って倒しました。」

 

藍は戸惑いの表情を浮かべる。

 

「.......そうか。なら、いい。」

 

......自覚無しか。

 

そこに白もやってくる。

 

「要領はわかっただろう。これを何度も繰り返して、敵を見つけるまでにかかる時間の短縮をする。」

 

それ以降も霧隠れの術を使い、水分身を見つける練習をさせた。

 

特に変わった点は無く、2人共徐々に反応速度を早めていった。

 

まあ、いい。どっちにしろ、そろそろ2人に経験をさせなければならない。殺しの経験を。



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2度目の殺人

俺は岩隠れの抜け忍だ。雷の国から水の国への移動中の事であった。背後からの千本による奇襲。気配を消していたのか、千本が飛んでくるまで気が付かなかった。

 

俺は前方に転がり回避する。そこに2人の忍びがやってくる。

 

くノ一のガキか。見た所、実力は中忍と言ったところか。

 

しばらく睨み合っていると、水色の髪のガキが飛び込んでくる。

 

おお。いい速さだ。だが、俺に体術勝負は些か荷が重いんじゃないか!

 

俺は短刀を抜き、応戦する。ガキは千本にチャクラを流して、斬り込んでくる。

 

ほう。器用な奴だ。

 

だが、俺はガキの攻撃を全ていなす。全然当たらない攻撃にくノ一のガキの表情に焦りが見えた時。

 

「水遁 破奔流」

 

後ろにいたガキが水遁の術を発動。鉄砲水が襲いかかる。

 

いいコンビネーションだ。だが!

 

「爆遁 地雷拳」

 

鉄砲水を殴りつける。その瞬間鉄砲水は蒸発した。2人のガキは目を見開く。

 

俺の自慢の血継限界、爆遁。岩の爆破部隊にいた俺の爆遁は威力抜群だ。

 

動きが止まった隙をついて畳み掛ける。

 

「土遁 裂土転掌」

 

地面に亀裂を入れ、足場を崩す。

 

まずは1人目!

 

俺は水色髪のガキに飛び込む。

 

「土遁 岩拳の術」

 

爆遁でも良かったが、リーチはこっちの術が上!このまま叩き潰す!

 

だが、そこに

 

「水遁 水龍弾の術」

 

仲間を助ける為にか、後方の黒髪のガキが水遁を放ってくる。

 

だがな。水遁は土遁に弱いんだよ!

 

「土遁 土流壁」

 

土の壁を展開。水遁を弾く。だが、その隙に水色のガキは俺から距離を離される。そして、一目散に逃走を始める。

 

いい判断だ。実力差を理解したか。だが、逃がさねぇ。

 

そして、冒頭に帰る。

 

 

 

俺は2人のガキを追いかける。追跡に気が付いたのか、水色髪のガキが術を使う。

 

「水遁 霧隠れの術」

 

霧が立ち込める。

 

だが、甘いな。俺が気配を見失うようなヘマはしねぇ。ここで終わりだ!

 

俺は2人のガキを始末しようと、遠距離の土遁の印を組もうとした瞬間、視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「白、藍。こっちへ来い。」

 

再不斬さんに呼ばれ、走っていた方向を変える。再不斬さんの元に辿り着くと、先程戦っていた男の死体が転がっていた。

 

「良くやった。これで1000万両の収入だ。換金所に行くぞ。」

 

流石、サイレントキリングの達人だ。霧隠れの術で動きが止まったとほぼ同時に敵を仕留めてしまうなんて。

 

私達は死体を抱えた再不斬さんに着いて行く。

 

サイレントキリングの練習をしてから、私は気配を探るのが、格段に上手くなった。でも、再不斬さんやお兄ちゃんの様に音を聞いて相手の位置を確認している訳ではない。文字通り気配を感じるんだ。この事は誰にも話していない。お兄ちゃんも再不斬さんも音で相手を捉えていると思っている。

 

っと、どうやら換金所に着いたみたい。

 

「お前達はここで待ってろ。」

 

再不斬さんは死体を抱えて換金所に入る。

 

数分後、再不斬さんが出てくる。

 

「俺は今から、街に出てこれからの武器や食料諸々を調達して来る。先に隠れ家に行っておけ。」

 

「わかりました。再不斬さん、お気を付けて。」

 

「再不斬さん、隠れ家で待っています。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

再不斬さんはすぐに去って行った。

 

「藍、行こうか。」

 

「.......うん。」

 

素直に頷く藍を見る。少し顔色が悪そうだ。

 

やっぱり、チャクラ量が少ないのだろうな。戦闘技術や速度は凄まじいけど、こればっかりはどうしようもない。

 

僕は疲れが溜まっているであろう藍に合わせて、ゆっくりと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しばらく森を歩いていたが、ふと足を止める。

 

不味い。何者かに囲まれている。

 

冷汗が頬を伝う。数も4人。こっちの倍だ。しかも再不斬さんが不在。

 

咄嗟に藍の様子を伺う。やはり、藍も気が付いたのだろう、顔を青くしている。

 

足を止めたからだろう、4人の忍びが姿を現わす。霧隠れの忍び装束に仮面。追い忍だ。

 

"追い忍は必ず殺せ"

 

再不斬さんの教えが頭をよぎる。実は今まで任務や賞金首狩りで手を下した事は無い。いつも締めは再不斬さんがやっていた。

 

僕が彼らを殺さなければならない。それどころか、こちらの方が彼らに捕まってしまう可能性が高い。

 

緊張で喉が鳴る。

 

だが、こちらの葛藤は彼らには関係無い。すぐに仕掛けて来た。

 

短刀を構え、突貫して来る敵に僕達は左右に散って応戦する。

 

素早く振るわれる短刀を千本で受け流す。ちらっと藍の様子を確認する。

 

やはり、再不斬さんが居ない状況にチャクラも少ない状態。いつもの瞬身の術にもキレがない。

 

「秘術 千殺水翔!」

 

僕自身もチャクラが少ない為、千殺水翔に速度が乗らない。

 

結果、簡単に避けられてしまう。

 

再び、向かい合って睨み合う。

 

「大丈夫、藍?」

 

「はあ、はあ、はあ。う、うん。なんとか。」

 

大丈夫って言ってるけど、長くは持たないかも。

 

「水分身の術」

 

僕は水分身を2体作る。これで数だけなら、同数だ。

 

「片手印の水遁。......確か、雪一族の秘術だったはず。このガキ達、血継限界か。」

 

「なら、抹殺はせずに捕獲だな。」

 

「ああ。だが、ガキと言っても血継限界だ。油断するな。」

 

「了解。水遁 水乱波!」

 

敵の水遁が飛んで来る。

 

「水遁 水陣壁!」

 

即座に水の壁を作り防ぐ。

 

術を相殺してすぐに敵が懐に飛び込んでくる。水分身と共に体術で応戦するが、水分身はすぐに消されてしまう。

 

クソ!このままじゃ。

 

状況の悪化に焦りが募る。

 

「キャアアアアアアアアア!」

 

突如、悲鳴が響く。

 

僕はそちらに目を向けた。

 

そこには、胸から血を流し倒れていく藍の姿があった。

 

え?

 

世界が止まったかのような錯覚。思考が止まり、まるで血が抜けていっているのではないかと思えるほどに、血の気が引いていく。

 

「まずは、1人。」

 

「おい。貴重な血継限界だぞ。殺すなよ。」

 

「大丈夫だよ。まだ、息はある。それより、残りをやっちまうぞ。」

 

僕の周りに4人が集まってくる。だけど、僕はそれを気にかける事ができなかった。ただ、血を流し倒れている藍を見つめていた。

 

どうして?

 

殺すのが怖かった僕が、力を出すのを躊躇ったから?

 

でも、それで守りたい者を守れないなら意味が無いじゃないか。

 

こいつらが藍を斬った。

 

「...........殺す。」

 

「あ?なんか言ったか?」

 

僕の体からチャクラが溢れて来る。

 

「な、なんだ!?これは冷気?」

 

僕は即座に印を組む。

 

氷の鏡が4人を囲むように現れる。

 

「秘術 魔鏡氷晶!」

 

森に断末魔が響いた。

 

これで人を殺したのは2回目だ。でも、不思議と何も感じなかった。藍を護れたという一種の達成感の方が強く感じれた。

 

誰も藍を汚させない。そして、藍の手も汚させない。



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方針

「................あれ?」

 

ここは......?

 

私は目を覚ますと見慣れた木目の天井を視界に入れる。

 

私達のアジトだ。

 

いつの間に私は寝てたんだろう?

 

微睡む頭を右に傾けるとお兄ちゃんの寝顔があった。

 

やっぱり綺麗な顔だなぁ.........。

 

最近は凛々しい顔でカッコイイと思ってたけど、こうしていたら女の子みたいだなって改めて思う。

 

雪のように白い肌。どこまでも透き通った癖のないストレートな漆黒の黒髪。

 

私もこんな美人だったらなぁ。

 

男のお兄ちゃんに言ったら、怒られるだろうけど、やっぱり可愛いなと思う。

 

「痛!......」

 

起き上がると同時に胸に痛みが走る。

 

服を捲ってみると、胸元を包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 

「そういえば...........」

 

思い出した。私、追い忍に斬られたんだ。

 

あたりを見渡す。特に何かが変わった訳では無い。いつもと変わらないアジトの様子だった。

 

「..................」

 

助かったって事はお兄ちゃんが助けてくれたんだよね。

 

お兄ちゃんを改めて見る。

 

お兄ちゃんは穏やかな寝息をたてている。

 

きっと私の看病もしてくれたんだろう。

 

胸が温かくなる。

 

「..........ありがとう。」

 

私は小さく呟いた。

 

「..........っは!」

 

そこで、私は気づく。と同時に顔が赤くなる。

 

ちょ、ちょっとまって!

 

ここには、私以外はお兄ちゃんと再不斬さんしかい居ないじゃない!

 

私のむ、胸を見られた?

 

私は慌てて捲った服を元に戻す。そのまま自分の胸を掻き抱いた。

 

まだ6歳。全く発育してはいないけど、私もれっきとした乙女。

 

「.....ど、どっちだろう?」

 

お兄ちゃんか?再不斬さんか?どっちに見られたんだろう?...........包帯が巻かれているって事は、そういう事だもんね。

 

そうやって一人で悶々としていると扉が開いた。

 

「よう、目が覚めたか。.......何をしている?」

 

再不斬さんが入ってきた。再不斬さんはお兄ちゃんと私を確認して眉を顰めた。

 

「な、なんでもないです!」

 

胸元の手を素早く戻す。

 

「.......まあいい。早く白を起こして、部屋に来い。飯にするぞ。」

 

それだけを言うと扉は閉まった。

 

「.......ふう。」

 

思わず力が抜ける。気が動転して挙動不審になってしまった。

 

「お兄ちゃん、起きて。」

 

私はお兄ちゃんを揺する。

 

「う....うん?....!!藍!!?」

 

お兄ちゃんが目を覚ます

 

「うんおは....!!!」

 

その瞬間抱き締められる

 

「....心配したんだよ!また藍を失うんじゃないかって心配だった!!僕が護れなかったんじゃないかってすごく心配したんだ!」

 

というとお兄ちゃんがさらに強く抱き締める

 

「だから....もう絶対藍に触れさせない!....僕が藍を守る!」

 

「お兄ちゃん....嬉しいけど....傷口痛むから....」

 

痛い~

 

「は!....ご....ごめん」

 

と言ってお兄ちゃんは離してくれる。

 

だから私は手を握った

 

「藍....?」

 

「お兄ちゃん........私は弱いし、足手まといかもしれない.....でも、それでも!私はお兄ちゃんと再不斬さんと一緒にいたい!支えたい!」

 

「....藍........僕も藍と再不斬さんと一緒にいたい!再不斬さんが捕まるのなんて嫌なんだ....藍を失いたくないんだ!」

 

「....お兄ちゃん........ごめんね....これからは、もっと修行頑張って、お兄ちゃんを守れるように.........再不斬さんの足手まといにならないように努力するから.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

藍が目覚めた。僕は心の底から喜び、反射で抱きしめていた。

 

それから、しばらくお互いが涙ながらに自分の想いをぶちまけていた。

 

「おい!お前らいつまで寝てやがる!さっさと来い!」

 

再不斬さんが額に青筋をたてて、部屋に入って来た。

 

「「す、すいません!」」

 

僕達は慌てて、再不斬さんの後を追う。

 

先にご飯を食べてしまえばいいのに、律儀に僕達を待ってくれるこの人は、やっぱり優しい人だと思った。

 

先程の藍の言葉。

 

藍がそんなふうに考えていた事にショックを受けていた。

 

僕が迷わなければ、本当はあの程度の忍は簡単に倒せた。いくら疲労があっても僕には秘術がある。

 

藍を傷つけ、藍が思い詰めるような事をしてしまった。

 

僕は甘えていたのかもしれない。

 

再不斬さんの道具になると言っておきながら、手を下す事に恐れ、いつも再不斬さんに頼っていた。

 

その結果がこれだ。危うく、僕はこの世で一番大切なものを失うところだった。

 

藍を守り、再不斬さんの道具になる。

 

最初に誓ったはずじゃないか。

 

再不斬さんを、藍を、大切な人を守るためには容赦しない。忍びという道具として感情を捨てる。

 

僕は決意を改めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

あれから数ヶ月。

 

二人の年齢も7歳を超えた。

 

俺が敢えて追い忍を二人に嗾しかけた結果、白が覚醒した。

 

藍が手傷を負ったが、大きな収穫になった。その藍もあれから少し成長し、下忍でも上位に位置する実力にまでなった。

 

白も実力が大きく伸びた訳では無いが、敵に対する容赦が無くなり、術も技もキレが一段階上がった。

 

暫くは二人の心の傷を癒さなければならないが、それが終われば次は藍に人殺しの経験を積ませる必要があるな。

 

藍は白以上に甘いところがある。初めて死体を見たときの反応もそうだ。

 

白と藍の実力もどんどん離れていっている。双子の兄妹で守る側と守られる側という構図が出来上がっている状態は白の力が発揮されやすい状態ではあるが、このペースで差が開くと今度は藍が白の足手まといにしかならない。

 

二人にとってそれで良くても、俺の道具としてはそれでは困る。

 

早急に藍の成長も促さなければならない。

 

俺の理想のために。



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不死身の妖怪

「白、藍。立て。」

 

それは突然だった。

 

いつもの様に賞金首狩りを終え、木陰で休憩していた時だ。

 

再不斬さんが立ち上がった。

 

「この俺様が気付かなかったとはな、かなりの手練れの様だ。」

 

再不斬さんは首斬り包丁に手をかける。

 

その様子に私達も臨戦態勢に入る。

 

突如、目の前に2つの棺桶が現れる。

 

ギィっと無気味な音を立てて扉が開き、中から人が出てくる。

 

「「っ!」」

 

「.........こいつは」

 

私はこの2人を知っている。

 

再不斬さんに渡されたビンゴブックに載っていた。

 

でも、既にその欄は斜線が引かれ、死亡していた筈。

 

「お前らは逃げろ。俺がこいつらの相手をする。お前達のレベルではまだこいつらは無理だ。」

 

「いえ、僕達は再不斬さんの道具です。僕達も戦います。」

 

お兄ちゃんが千本を取り出して、構えるが足が震えているのがわかる。

 

最近はお兄ちゃんも強くなって、敵を沢山殺してきた。そのお兄ちゃんがこんな反応をするなんて。

 

「道具なら俺の指示に従え。簡単に無駄死にさせたら、それこそ道具の価値が下がるってもんだ。お前らが死んでいい時は俺が決める。わかったら、さっさと行け。」

 

でもそれは仕方ない事。相手は再不斬さんと同じ忍刀七忍衆。

 

通草野餌人と無梨甚八。

 

手元には愛刀を携えている。

 

「わかりました。でも相手は同じ忍刀七忍衆。しかも二人です。」

 

「フン.......。所詮死んだ奴らだ。俺様の相手じゃねぇ。」

 

「..........油断しないでください。」

 

「うるさい奴らだ。さっさとケリをつけてやるから安心しろ。」

 

再不斬さんは首斬り包丁を構える。これ以上は再不斬さんの迷惑だろう。

 

「.......行くよ、藍。」

 

「....うん。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

再不斬さんの指示に従い、森を逃走する。

 

私は不安になってお兄ちゃんに問いかける。

 

「再不斬さん大丈夫かな?」

 

「........わからない。」

 

いつもなら、間髪入れずに大丈夫と言う筈だけど、今回は弱気な回答になる。

 

それだけ今回の相手は部が悪い様である。

 

私は嫌な予感に駆られる。

 

「だけど、再不斬さんならきっとどんな相手でも倒してくれると信じている。」

 

「だから、強くなろう。僕達は再不斬さんに守られる存在ではなく、再不斬さんを守る道具になる為。」

 

「.........うん。」

 

そうだ。こんな守られてばかりじゃなく、1日でも早く役に立てるようにならなきゃ。

 

「.......!! お兄ちゃん!」

 

私は研ぎ澄ませた感覚に反応する気配が、唐突に現れた事を察知する。

 

「水分身の術」

 

私の呼びかけに直ぐに反応し、お兄ちゃんが水分身を2人作る。内1体は私の姿に変化する。

 

そのまま水分身を先行させ、私達は草むらに隠れて気配を消す。

 

「......お兄ちゃん、また来るよ。」

 

「わかった。」

 

再び棺桶が現れ中から、先程と同じ忍刀七人衆の栗霰串丸が現れる。

 

「.......不味いね。」

 

「.......上手く様子を見て逃げるしか無いよ。」

 

相手は再不斬さんクラスだろう。

 

対して私達は、精々中忍クラスのお兄ちゃんと下忍クラスの私だ。

 

いつもは水分身の再不斬さんの相手だけど、本体とはまだまともに戦えない。

 

「.........あれが長刀・縫針」

 

「刺繍針を大きくしたみたい」

 

水分身達が千本を取り出し、構える。

 

「久しぶりに現世に出たと思ったら、目の前に極上の獲物とはな。これは楽しめそうだ。お嬢ちゃん方、悪く思うなよ。」

 

栗霰串丸は長刀を投げ付けてくる。

 

水分身は左右に飛ぶ。

 

「藍!様子見は不要だよ。全力で行こう!」

 

「うん!風遁・烈風掌」

 

「秘術・千殺水翔」

 

お兄ちゃんは素早く片手印で水の千本を放ち、左手で千本を投げる。

 

それに合わせて私は烈風掌で加速をつける。

 

いつもの速攻のコンビ忍術だ。

 

術スピードなら私達の術では最速だが、これは通用するとは思えない。

 

案の定、栗霰串丸は長刀の糸を持ち、刀身を振り回す事で全て弾く。

 

瞬身の術で直ぐに栗霰串丸に接近する。

 

それに合わせて長刀を投げてくるので、姿勢を低くして避ける。

 

それを見た敵は更にクナイを投げてくる。

 

更に右手の千本を投げて迎撃。

 

そして懐に入り、相手に向かって切り結ぼうとした時、

 

「藍!後ろだ!」

 

咄嗟に首を左に傾ける。

 

その瞬間私の首筋を長刀が通り過ぎる。

 

糸で引っ張って戻したのか!

 

そのまま千本と長刀で鍔迫り合いになる。

 

「.....はあ、はあ」

 

変幻自在

 

長刀・縫針の戦い方は正にその言葉が当てはまる。

 

でも!

 

「秘術・千殺水翔」

 

片手印で即座に術を発動し、離脱する。

 

幾ら私が体術主体でも、此方は下忍レベル。向こうは忍刀七人衆。接近戦をやり続ける訳にはいかない。

 

それにどうやら、再不斬さん程強い訳でも無い。水分身でもどうにか戦えてるからだ。

 

そして、時間稼ぎは十分!

 

「藍、よくやったよ」

 

「氷遁秘術・魔鏡氷晶」

 

栗霰串丸を囲む様に氷の鏡が展開され、次の瞬間には全身をズタズタに引き裂かれ倒れ伏していた。

 

やはりお兄ちゃんの秘術の速度には反応すら出来なかった様だ。

 

「........なんとかなったみたいだね。」

 

「うん。でも流石に水分身のチャクラは限界だよ。直ぐに術を解いて離脱しよう。」

 

「この調子なら、再不斬さんの方も終わってるかもしれないしね。」

 

そうして、水分身を解こうとする。

 

しかし私は気付くべきだった。

 

ズタズタに切り裂かれているのにも関わらず、血の一滴も流していない敵の身体の異常性を。

 

宙を舞う塵。それが一つに集まり、次第に人型を模していく。

 

「待って、藍。様子が変だ。」

 

お兄ちゃんに言われて漸く、私も気がつく。

 

だが、既に栗霰串丸は完全に復活してしまっていた。

 

「どうゆう事!?死んだ筈じゃ無いの?」

 

「っく!とにかく逃げよう!勝ち目が無い」

 

水分身が即座に離脱を図るが、何の前触れもなく、水に還ってしまう

 

「いつ攻撃されたの!?」

 

「わからないけど、水分身がやられた以上、向こうも僕達本体を探しにくる筈。今のうちに逃げるよ。」

 

 

 

 

 

 

「もう見つかってるんだよな。」

 

 

 

「......え?」

 

背後から声がした。

 

振り向くと栗霰串丸が立っていた。

 

倒れ伏した栗霰串丸既にいない。

 

速い!でもどうして見つかったの?

 

「なんで見つかったのか?って顔だな。俺が無闇矢鱈に長刀を振り回してるだけだと思ったか?」

 

そう言われて、周りを見渡すと薄っすらと糸が空間を張り巡らせている事に気付いた。

 

「既に此処ら一帯は俺の結界の中だ。」

 

.......どうしたらいい?

 

正直、再不斬さんには劣ると言っても私達が逃れる可能性は限りなく低い。それほどの実力差がある

 

敵は既に目の前。話し合ってる時間も無い。

 

「藍.......。」

 

「.......うん、わかった。」

 

逡巡しているとお兄ちゃんが私にアイコンタクトで指示を飛ばしてくれた。

 

『再不斬さんが来るまで時間を稼ごう』

 

私は瞬身の術で敵に接近する。

 

「ほう。迷い無しとはいいね。お前らが水分身では無い事は分かってる。動きのキレが全然違うしな。」

 

必死に敵に食らいつく。時々敵の攻撃が掠めるが怯まない。

 

お兄ちゃんの氷遁秘術・魔鏡氷晶で敵を封じ込める為に私は敵を引きつけなくてはならない。

 

「ハアアァ!」

 

「下忍にしちゃぁやるな。だが......」

 

「.........え?」

 

突如私の体が動かなくなる。

 

「長刀忍法・地蜘蛛縫い。.........良く目を凝らしてみな。」

 

足元を透明な糸で絡め取られていた。

 

「糸の角度、長さ、たわみ具合で光の受け方は変わる。良く見える糸と見えにくい糸。それを使い分けて捉えるのがミソだ。」

 

「くっ。」

 

「まあ、此処からが本題だな。さっきの氷の術を使う嬢ちゃん、あんたは厄介だ。確実に無力化させるか。」

 

敵は動けない私を無視して、お兄ちゃんの元へと向かう。

 

「くっ。行かせない!風遁・風切りの....」

 

「おっと」

 

「ぐぅ!」

 

術を発動し足止めを狙うが、それに気付いた敵の行動が早かった。

 

操った糸でそのまま私の体を大の字に木に縛り付けて動けなくする。私は抜け出そうともがくが、肌に鋼線が食い込み血が滲むだけだった。

 

「嬢ちゃ〜〜〜〜〜ん。大人しくしてろ。俺はSMプレイは大好きだぜ。後でたっぷり可愛がって(痛めつけて)やるからヨォ。黙ってるんだな。」

 

「......藍!」

 

「待たせたなぁ。さっきは驚かされたが、もう油断しねぇ。あの術は出せねぇよ。」

 

「水分身の術」

 

「秘術・千殺水翔」

 

水分身が敵に突貫し、後方の本体から千本が投げられる。

 

敵は千本を弾くが、直ぐに背後に千殺水翔が飛来。水分身と挟み撃ちにする。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

敵は直ぐに水分身を倒す。だが、その隙に霧隠れの術を発動。すぐさま魔鏡氷晶の準備に取り掛かる。

 

だが、敵は背後の千殺水翔を無視してお兄ちゃんに斬りかかる。

 

お兄ちゃんは相手の行動に目を見開く。

 

背中に水の千本が刺さるが、塵が集まって修復される。

 

「俺の体は不死身だ。なら千本なんざ刺さろうが関係ねぇ。そんなに驚く事じゃ無いだろ?」

 

お兄ちゃんは再び、千本や手数、速度が速い忍術を駆使して対応する。

 

「さっきの嬢ちゃん程では無いが、あんたも中々の速さだな。術も多彩だ。だが、あの氷の術レベルじゃなきゃ、俺は倒せないぜ?」

 

もちろん、そんな事は分かっている。魔鏡氷晶の速度を見切った忍は今まで居ない。だけど、弱点もある。氷の鏡を展開するのに少し時間がかかってしまう。一度展開されれば、お兄ちゃんの独壇場になる。

 

だから、体術メインで体捌きが得意な私が前衛を担当し、お兄ちゃんが後方で魔鏡氷晶を使うのが鉄板だった。

 

今の水分身や手数の多い術を駆使して、氷の鏡を展開できる時間を稼ごうとしている。

 

相手もそれが分かってるからこそ、多少のダメージは無視して切り掛かっている。

 

「本当に器用だな。その歳で中忍レベルとは恐れ入った。でもな。」

 

「ガハッ!」

 

お兄ちゃんが急に膝をつく。

 

「刀身と糸に麻痺の毒を塗ってるんだ。」

 

「お兄ちゃん!」

 

「うん....?お兄ちゃん?.......お前男なのか?まあ、そんな事はどうでもいいか。これでもう動けねぇぞ。.......ああ安心しな、この毒で死ぬ事は無い。あくまでもこの刀で痛め付ける事が目的だしな。」

 

長刀を肩に乗せ、蹲るお兄ちゃんに栗霰串丸は近づく。

 

「よっと......。これでペット二匹捕獲完了。」

 

そしてお兄ちゃんも木に括りつけられた。

 

「お前の氷の術は厄介だな。先にこっちで遊ぶか。」

 

そういうとクナイでお兄ちゃんの右掌を無造作に刺した。

 

「ぐああああああああ!!!!!!」

 

「え?」

 

私は呆気に取られる。その間にも左掌を刺した。

 

「ぎゃああああああ!!!!」

 

「これで印は結べない。さてと………」

 

そのまま、右太腿を刺した。

 

「ぎゃああああああ!!!!!」

 

「クックック。いつ聞いてもこの悲鳴はたまらねぇな。」

 

こいつはお兄ちゃんを拷問して楽しんでるのか?

 

「やめてよ!!殺すなら、私を殺していいからお兄ちゃんは見逃して!!!」

 

「ああ?見逃す?そんな訳ねーだろ。嬢ちゃんこそよく麻痺毒に晒されて元気に喋れるな。ま、そこで見てな。こいつで遊び殺した後は嬢ちゃんだ。」

 

こいつはなんて言った?

 

お兄ちゃんを殺す?

 

それはだめだ。私が1人になっちゃう。

 

そもそもなんでこんな事になっちゃったんだろう?

 

この忍刀の所為か?

 

いや、こんな奴はきっとこの世界には履いて捨てる程いる。なら、きっとそんな奴らを退けられない私が悪いんだ。

 

お兄ちゃんに甘えて後ろで隠れているばかり。だから、今目の前で世界で一番大切な人が苦しみ、殺されそうになっている。

 

思考が冷えていく。

 

そうだ。いつも守ってもらってばかりいた。人を殺すのだって、怖いからとお兄ちゃんに任せていた。お兄ちゃんだって苦しい筈なのに。だからこれはきっと天罰。

 

でも、今ならまだ間に合う。こいつはあえて毒の塗っていないクナイで痛めつけている。なら、まだ治療すれば治せる。それでも目の前のこいつはなんとかしないと。

 

許せない。お兄ちゃんを苦しめるこいつが。お兄ちゃんの足を引っ張る私が。

 

怒りに呼応する様に、力がみなぎっていく。

 

プツン、パツン。

 

私を縛っていた長刀の糸が切れる。解放された私は地面に着地する。

 

異変に気が付いたやつが振り返ってくる。

 

「はあ?なんで縫針の糸を切れる?」

 

敵が驚いている。それもそうか。忍刀七人衆の一振りだ。そんな柔な刀なわけがない。それをこんな簡単にワイヤーを切断できるはずがない。

 

私自身もよくわからないが、解放されたなら好都合。こいつをさっさと倒せばいいんだ。

 

私は瞬身の術で懐に飛び込む。

 

「チィ!」

 

勢いそのままに千本を一閃。長刀を持つ右腕飛ばした。

 

そのまま隙を晒した敵に容赦なく、最大火力の水遁を叩きつける。

 

「水遁・破奔流」

 

鉄砲水が直撃して、粉々になりながら流される。血の一滴も出ない事が不思議だけど、気にしない。

 

すぐにお兄ちゃんに駆けつける。

 

お兄ちゃんに巻き付いているワイヤーも私が直接手で触れるだけで切れた。

 

これも不思議だけど、今はお兄ちゃんの救出が最優先。

 

お兄ちゃんを下す。だけど、背後で再び敵が復活した事を感じ取った。

 

とりあえず、お兄ちゃんを木に横たえさせて振り向く。

 

「しつこいなぁ。今忙しいんだけど。」

 

「このクソガキィ!!」

 

切りかかってくるが遅い。いや、私が速くなってるのか?

 

敵の攻撃を見切り、切り刻む。

 

だけど、いくら粉々にしても塵が集まって復活する。

 

分身か何かの術だな。きっと傀儡の術に近い何かだ。

 

「鬱陶しい。」

 

私はだんだん苛ついてくる。力がみなぎっている今ならこの術も使えるかもしれない。

 

得意技の風遁・烈風掌。その発展技。

 

「風遁・獣破烈風掌!!」

 

私の掌を象った風のチャクラを叩きつける。

 

一瞬で粉々になる。

 

でもどうせすぐ復活するよね。私には封印術がない。だから……

 

私は大きく跳躍する。眼下には復活しかけている敵。

 

「風遁・獣破烈風掌」

 

真下にもう一度術を放つ。地面を砕きながら、敵を粉砕。

 

「水遁・破奔流」

 

砕けてできた大穴に水を流し込む。

 

泥沼を作るのだ。

 

目論見を当たり、復活した敵は沼に沈んでいく。

 

「テメェ!!」

 

長刀を投げてくる

 

「風遁・烈風掌」

 

苦し紛れの投擲だ。簡単に弾ける。

 

そのまま完全に沈み込んだ。

 

「ふう。」

 

落ち着いた事で一気に疲労感が襲う。

 

元々チャクラ量が少ない私だ。大技を何発も使ってしまった。

 

お兄ちゃんに駆け寄ろうとするけど、足が縺れる。そのまま意識を失ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「如何でしたか、大蛇丸様。」

 

「まだまだ、精度が粗かったわ。2体1でも鬼人を仕留めれなかった。もう一方も中忍2人に敗北。やはり、人格は縛った方が良さそうね。無駄な遊び癖が出て隙を晒してしまう。」

 

「ですが、面白い発見もありました。」

 

「そうね。あの血系限界。既に絶滅したと思ってたのだけど、生き残りがいたのね。今はこの術の完成を急ぐけど、すぐに捕獲できるようにしたいわ。」

 

「お任せください。足取りを追えるように手配しておきます。」

 

「任せたわよ、カブト。」



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波の国

謎のゾンビと戦った時から、1年が経過していた。結局あれがなんだったのかわからない。再不斬さんと兄さんの見立ても同じで、やはり何かの操り人形だろうと言う事。なら、必ず裏で術者がいた筈なのだ。だけど、今となってはそれも追えない。

 

兄さんも一命を取り留めた。ほっとした。あそこで震えて何もできなかったら、今頃私は兄さんを失っていた。人を殺す事に抵抗があるかと思ったけど、案外簡単にやってしまった。それとも敵がゾンビだったからなのか?

 

現状は前と変わらず、兄さんが守ろうとしてくれている。だけど、私はいつでも自分の手を汚す覚悟ができていた。

 

いつまでも平和ボケしてられない事に漸く気が付いたのだ。兄さんを失いかけて初めて知った。

 

いつまでも2人の影に隠れてばかりではいられない。

 

再不斬さんも2人の忍刀を相手取りながらも勝利した。手傷を負ったけど、重症ではなかった。

 

この戦いを経て、再不斬さんはより盤石な拠点が必要と考えた。予想ではあるが、襲撃者がSランク賞金首だろうだから。私達を守りながら、戦える相手ではないらしい。きっと私達の血系限界もバレている。しかも、これだけ派手に暴れたことから、追い忍にも察知された筈。

 

それ故に安定した拠点と収入。それからクーデター時に散り散りになった仲間を集める事になった。

 

再不斬さんに引き取られて5年。

 

私達は波の国にやってきた。雇い主はガトーという世界有数の企業家だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「波の国は隠れ里がない。金持ちのガトーはいるが、身の回りの用心棒はただのチンピラ。故に俺達が奴の警護に当たる任務になる。」

 

「渡に船ですね。」

 

「だが、俺達は抜忍ゆえに報酬は足元を見られるだろう。それでも今は拠点が必要だ。一度盤石な基盤を作り、水の国へ向かう。数年はかかるだろう。しっかりと力を溜めれる。」

 

「私達も早く、力をつけましょう。兄さん。」

 

「そうだね。」

 

小さな船に乗り、移動しいている。幸い霧が立ち込めているから、見つかりはしない。

 

常に兄さんが警戒してくれているしね。

 

「白、過保護は止せ。」

 

再不斬さんが注意する。

 

「すみません、つい心配で。」

 

「兄さん、私なら大丈夫だから。」

 

あのゾンビとの戦いで発揮できた私の力。今は全然使えない。火事場のクソ力という奴だろう。

 

平時では水遁・破奔流と風遁・獣破烈風掌は一回づつしか使えない。それだけで、チャクラ切れになってしまう。

 

それでもこの2つの術が私の最大火力の奥義となっている。

 

氷遁には目覚めていない。才能がないのかわからない。だけど、全くできる気配はなかった。そもそもチャクラ量が少ないために、水遁と風遁を合わせようとするとすぐにチャクラが底をついてしまう。

 

対して兄さんは氷遁に更に磨きをかけていた。攻撃の魔鏡氷晶だけじゃなく、防御用の氷岩堂無も開発していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから、波の国に着いてからは主にガトーから任務を受けて報酬をもらうようになった。危険な任務もあったけど、安定した収入と衣食住がある環境には代えられない。

 

空いた時間も増えた事で薬草集めも兄さんと一緒にするようになった。

 

私達3人は誰も医療忍術を使える者がいない。だから、薬草などを集めて兵糧丸などを予め用意しておく。

 

危険とは隣り合わせなのは変わらない。だけど、以前よりは格段に安全になった。

 

だけど、心労は絶えない。

 

この国はガトーという独裁者によって絞り上げられている。大人も子供も痩せ細った人ばかりだ。

 

ガリガリの子供を見れば、あの村で迫害を受けた頃の自分を思い出す。私は兄さんがいたから助かった。でも、もし1人ならとっくの昔にあの世にいただろう。

 

任務で得たお金で少しばかり食糧を渡した事もあった。勿論顔を見られないように面をしてだ。兄さんだって心苦しい筈だ。それでも兄さんは私を護る為に見殺しにしている。その心境は筆舌に尽くし難いものだろう。そんな兄さんを差し置いて私は食糧を渡した。これはきっと再不斬さんや兄さんへの多大なる裏切り。

 

それでも2人とも何も言わなかった。

 

私の浅はかな罪滅ぼしでもなんでもない自慰行為。それを黙っていてくれる。

 

私はガトーに与する側だと言うのに。

 

ここでこの子供を助けた事によってこの先、より一層苦しい事が待ってるかもしれないのに。ここで見殺しにする方が救いになるかもしれないのに。

 

それでも私は自分の弱さに向き合えないまま、顔を隠して食糧を渡す矛盾した行動を取った。

 

私は無責任な人間だった。



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選択

再不斬さんの元に昔の仲間が集まってきた。クーデターを決行した時の仲間だそうだ。元が何人居たのか知らないけど、殆ど死んでしまっていた。帰ってきたのはたったの2人。

 

業頭と冥頭の鬼兄弟だ。実力は中忍で私と同レベルといったところ。兄さんは既に下級の上忍レベルといったところ。

 

「よく戻ってきた。」

 

「我ら鬼兄弟、再不斬様の元へ舞い戻りました。」

 

鬼兄弟の2人が此方を見てくる。

 

「再不斬様、その2人は?」

 

「こいつらは、白と藍だ。お前達の後輩だが、白の実力はお前達より上だ。妙な悪さはしない事だ。」

 

ちょっと、そんな事を言えば絶対怒るって!

 

内心で私が慌てたように、2人とも私達を睨んでいる。

 

「白と藍は下で待ってろ。俺は鬼兄弟と話す事がある。」

 

再不斬さんに促され、建物の下へ下る。

 

通り過ぎる時も睨まれていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

すぐに喧嘩でも売られるのかと思っていたけど、そんな事はなかった。

 

だけど、数週間後に唐突に模擬戦を仕掛けられた。

 

「おい、新入り。今日はどちらが上かわからせてやる。」

 

「………………」

 

「チッ、兄妹揃って澄ましやがって。」

 

なるほど。すぐに仕掛けてこなかったのは、兄さんが2人の相手をしていたからか。ここ数週間は兄さんも特に変わった様子はなかったから、返り討ちにしたんだろう。

 

その間は鬼兄弟は見かけなかった。

 

傷でも癒してたのか。それで治ったから次は私で鬱憤を晴らそうという訳か。

 

何とも思考が小物だなと見下せればいいけど、実力は伯仲。しかも不味い事に兄さんは再不斬さんと外出中だ。

 

勿論そこを狙ったんだろうけど。

 

とりあえず千本を構える。

 

泣き言を言ってられない。

 

「フン、ガキが。一丁前に忍びごっこか?」

 

鬼兄弟が仕込み徹甲を嵌める。

 

瞬間、業頭が突っ込んできた。

 

仕込み徹甲の爪が襲いかかる。

 

私は千本で受け止める。

 

ギキィ……

 

重い。首切り包丁程では無いけど、クナイよりはよっぽど重い。徹甲の爪の先から、紫色の液体が滴っている。

 

恐らく毒。麻痺毒か致死毒かはわからないけどなん擦り傷ですら致命傷になるだろう。

 

受け止めていない片手で印を結ぶ。千殺水翔で奇襲を狙う。

 

だけど、印を結ぶ前に頭上から冥頭が踵落としをしてくる。

 

後ろに飛んで回避。

 

「その術はもう見てんるんだよ。」

 

「同じ手が通じると思うな。」

 

そうか、兄さんと既に一戦交えているなら納得だ。

 

冥頭が徹甲を振りかぶってくる。

 

それを屈んで避ける。避ければすぐに、業頭が徹甲での乱れ突きを放つ。冷静に目で追いながら、顔を傾けて避けるが、1発頬に掠ってしまう。

 

不味いと思い、飛び退くがすぐに冥頭が追従してきて徹甲で殴りかかってくる。

 

再び千本で受け止める。普通なら簡単に折れてしまう千本だが、風のチャクラを流す事で強度を確保している。

 

そうして動きを止めれば、今度は体をチェーンが巻きつこうとする。チェーンは2人の徹甲にそれぞれ繋がっていて、チェーンには細かい刃物が付いていた。

 

あれに巻きつかれたら、無事じゃ済まない。

 

全力の瞬身の術で回避する。

 

だけどそれも見越されていたのか、着地した先で冥頭が待ち構えていた。毒付きの徹甲での一撃。

 

身体を大きく逸らして躱し、後ろに飛び退くと同時に千本を投げる。

 

「風遁・烈風掌!」

 

「チィ」

 

予想外の速度の千本に2人は足を止めた。

 

「はあ、はあ、はあ………。」

 

コンビネーションが厄介。どちらかが動きを止めれば、必ず片方がフォローしてくる。

 

「ちょこまかと鬱陶しいガキだな。」

 

「まあ、バテバテだ。その内終わる。毒も効き出す頃合いだ。」

 

頬に掠ってしまった。医療忍術を使えない私には早く戦闘を切り上げて、薬草等で解毒しないといけない。

 

「水遁・破奔流!」

 

水遁での最大火力技だ。一気に蹴りをつける。チャクラがごっそりと減るが気合で耐える。

 

押し寄せる鉄砲水に飲み込まれる2人。

 

「「ぐおおおおぉぉぉ!!!」」

 

「ハアッ 、ハアッ、ハアッ」

 

体力がギリギリになり、膝をつく。

 

かなりしんどいけど、これで。

 

水が引けば鬼兄弟の姿はいなくなっていた。同時に私は慌てる。

 

もしかして、殺してしまった?流石に小競り合いとは言え、再不斬さんの部下を殺してしまうのは不味い。

 

「うっ!」

 

疲れた身体に鞭を打って立ち上がる。かなりの力で押し流した。死んでいなければいいけど。

 

歩こうとした瞬間、背中に殺気を感じた。

 

振り返ろうにも力が入らない。僅かに視界の端にあの特徴的な徹甲の爪が見えた。

 

そういえば、鬼兄弟には水溜りに潜む術があった。辺りには私の術によって撒き散らされた大量の水。隠れるには打って付けだ。

 

そんな現実逃避をしても、私の身体は動かない。爪が突き刺さる。

 

そう思った瞬間、氷の壁が現れて爪は阻まれた。

 

こんな芸当、兄さんしかいない。

 

安堵した影響で身体に力が抜ける。倒れていく身体。それを兄さんが抱き止めてくれた。

 

「キサマ、割り込むとは卑怯だぞ!」

 

「そっちこそ、ニ対一は卑怯だと思いますよ。」

 

「なんだと!!「よせ、引くぞ。」チッ。」

 

2人はすぐに去った。

 

兄さんが現れたと言う事は再不斬さんも帰ってきたんだ。これ以上騒ぎを大きくする事は鬼兄弟にも不都合なのだろう。

 

「大丈夫?」

 

「うん、ありがとう兄さん。もう大丈夫。」

 

兄さんに支えられて立ち上がる。

 

だけど、体力を使い切った私はうまく立ち上がれず、足を縺れさせる。

 

「おっと、やっぱり大丈夫じゃないじゃないか。」

 

兄さんに再び抱きしめられた私はそのまま横抱きにされる。

 

「に、兄さん!!」

 

「どうしたんだい、藍?」

 

「こ、この格好……」

 

「ハハッ、なんだ恥ずかしがれるぐらい余裕があるなら、安心だね。」

 

「そ、そう言う訳じゃ、」

 

私が話している間に瞬身の術で移動して、ベッドに移動させられる。

 

「兄さん、早過ぎるわ。」

 

「藍の方がもっと早い瞬身ができるでしょ?」

 

「………誤差のようなものじゃない。」

 

赤い顔を誤魔化す為に捲し立てる。

 

でも本当はわかってる。兄さんがこうして茶化してくれる事で、責任を感じさせないようにしてくれている事。

 

そうして、傷と毒の治療が施され私は眠りについた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

青白い顔で眠る藍。

 

それを見ると自分の無力さに腹が立つ。

 

藍が僕を「お兄ちゃん」から「兄さん」に呼び方を変えた。

 

あのゾンビと戦った時から、藍は呼び方を変えていた。あの戦いから、藍は更に張り詰めた表情をする様になった。あの甘えん坊の藍が急に一人で何かしようとする様になった。でも人間はそんな簡単に変わる訳ではない。藍のそれは元の優しい性格の上から無理をして非情になろうとしているのがよくわかった。

 

再不斬さんもそれに気がついたのか、安定した場所を目指してこの波の国に来た。

 

藍にとってどちらが良かったのかわからない。波の国に来る前の生活は、日々命の危険が付き纏っていた。常に神経をすり減らしていた藍が時期に限界を迎える事は想像つく。波の国に着いてからは四六時中、気を張る事はなくなった。代わりに貧しい人間や僕達の様な子供を多く目にする様になった。生来の性格故、見捨てる事もできないのはわかっていた。だけど、彼女は自分がガトーに与している事を理解していた。だからこそ余計に苦しんでいる。

 

僕は彼女を守りたかった。薄い水色の髪を濁したくは無かった。綺麗な橙色の瞳を陰らせたく無かった。彼女の手を汚させたくはなかった。だけど、それはあのゾンビとの戦いの日に破られてしまった誓い。所詮僕なんてそんな程度の力しかない。きっと藍よりも術を覚えるのが早くて自惚れていたのだ。だから、肝心な時に彼女を護るどころか護られる様な事になる。

 

更に力を磨いた。だけど、彼女は今もこうして青い顔をして苦しんでいる。あの迫害された時から藍にはずっと辛い顔をさせている。

 

それでも現実は厳しい。僕達は更なる選択を迫られる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目覚めて、再不斬さんに呼び出される。

 

鬼兄弟はおらず、再不斬さんと兄さんの3人だけだった。

 

「目覚めたか。」

 

「すいません、ご心配おかけしました。」

 

「道具として機能すれば別にいい。」

 

気にも止めていない様子だけど、再不斬さん程の忍があの小競り合いに気がつかない訳がない。

「呼んだのは新しい任務を言い渡す為だ。……だが、この任務には拒否権がある。」

 

ガトーからの依頼ではないのかな?

 

「元々俺は自分の理想の為に戦ってきた。その日暮らしの賞金首狩りもガトーの援助も過程でしかない。いずれはここを出て霧隠れに戻る。だが、クーデターから5年。霧隠れの内情が現状どうなっているかはわからない。」

 

再不斬さんが話を進めていく内に兄さんの顔色が悪くなる。

 

何か察したのかな。

 

「俺と鬼兄弟は顔が割れている。だが、5年前には忍でもなかった田舎の村のガキの顔を知っている奴は霧隠れには居ない。」

 

「つまり潜入。スパイとして霧隠れの里に入り、内情を調査する任務。」

 

「そう言う事だ。だが、これはとても危険で長期的な任務だ。最悪、お前達はただの捨て駒になるかもしれないとも思っている。」

 

「だから、拒否権があると。考えて結論を出せと言う事ですね。」

 

「私やります。」

 

私が声を上げると二人がこちらを見てきた。再不斬さんは目を細めて。兄さんは目を見開いて。

 

驚くのも無理は無いと思う。だけど、私は任務を受ける覚悟だ。

 

二人が悩んでいるのは、きっと私のことだ。兄さんの実力なら、万が一があっても逃げ延びる事ができるだろう。だけど、私の実力では未知数。いや、正直なところ部が悪いのだろう。鬼兄弟相手に苦戦する。つまりは中忍2人がかりで手一杯になるのが私の実力。

 

きっと足手纏いになるから、連れて行かない方がいい。

兄さんが私を護る労力が無駄だから連れて行かない方がいい。

 

逆に波の国にいる方が精神衛生上良くないから連れて行った方がいい。

兄さんと離れた方が精神衛生上良くないから連れて行くべき。

 

様々な考えが2人の中にあると思う。結局は私が足枷になっている事実は変わりない。なら、私がいち早く意志を見せる。それで兄さんの悩みが少しでも減らせればいい。

 

「とても危険なんだよ。もしもの事があれば、助けられないかもしれない。」

 

その通りだと思う。恐らくお互い助けれる状況でない可能性の方が高い。

 

でも、いつまでも守ってもらっているからこそ私は強くなれないし、今も苦しんでいる。ならこれはきっといつかは越えなければならない危険。

 

「大丈夫、わかってる。お互い護り合えばいいんだよ。」

 

現実はそんなに甘くないだろう。もしかしたら見殺しにする可能性の方が高い。それでも心配してくれる兄さんを後押しするには必要な言葉。

 

「白、諦めろ。こいつは引かない。」

 

「………わかりました。任務を受けます。」

 

こうして私達は霧隠れの里ヘの潜入任務が決まった。



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霧隠れの内情

ビンゴブックを熟読し、特に霧隠れの忍については徹底的に洗い出した。

 

そこで見つけた今回の任務に於いて、重要人物。

 

それは白眼殺しの青。木の葉隠れの日向一族から奪った白眼を霧隠れで唯一扱える忍。この人の存在がある限り、変化の術での潜入は不可能。チャクラの活性化を白眼で見切られてしまう。

 

つまりは紛れ込むのでは無く、誰かに成り代わる必要がある。それでいて変化で顔を変える事ができない。……つまり結論は

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、そっちに行ったぞ!」

 

「フォーメーションCだ!」

 

「水遁・水龍弾の術!!」

 

「水遁・水陣壁」

 

視線の先では抜忍と追い忍が戦っている。

 

抜忍1人に対して、4人で囲んで袋叩きにしている。実に見事な連携で抜忍を追い詰めていき、最後は忍刀で首を刎ねていた。

 

私達2人は約3ヶ月程、この追い忍部隊を尾行している。抜忍である私達が、追い忍を追いかけるなんて変な話だ。

 

だけど、今回紛れ込もうとしている部隊が正に眼前の部隊だ。あのメンバーと入れ替わりを狙っている。

 

だけど、行動にボロが出ないように監視し、入れ替わる予定の人物の受け答えや使う忍術、得意戦術を観察する。

 

そしてある程度データが取れたと判断した為、今日入れ替わりを決行する事になった。

 

4人での内、2人は遺体を回収して去った。観察だと約1時間程で戻ってくる筈。

 

ツーマンセルで動く事で相方に異常があってもすぐに対応できるようにするためらしい。

 

今はちょうど2人入れ替えを狙ってる訳だから、好都合だけど。

 

「じゃあ始めるよ。」

 

「了解。」

 

「水遁・霧隠れの術」

 

兄さんが霧隠れの術を使う。みるみると視界は白い霧に包まれる。

 

サイレントキリングに関しては、実は兄さん以上に得意だ。私の特異体質によるところだと思う。音を頼りにしなくても、何となく気配を感じる事ができる。感知タイプとも違うようだけど、再不斬さんにも良くわからないらしい。

 

また気配消しも得意だ。霧に紛れて千本を投げる。

 

投げられた2本の千本は見事に2人の急所を貫き、血の一滴も流さずに絶命した。

 

即座に遺体から服と仮面を取り、着替える。遺体は兄さんが巻物の逆口寄せで回収した。

 

行われた時間はたったの7秒。だけど、この交代劇の準備に3ヶ月も使ったのだ。これくらい簡単にいってくれないと時間をかけた意味がない。

 

そうして待つ事、50分。遺体を運んだ2人が帰ってくる。

 

「異常はなかったか?」

 

「ああ、こちらに異常はない。」

 

「じゃあ、次のターゲットを狙うぞ。」

 

何食わぬ顔顔でフォーマンセルに加わる。

 

どうやら疑われてはいないみたい。特徴的な髪色は染めて黒髪にしたし、瞳もカラコンで黒目にしている。声色を変える訓練も問題なくやっていた。暗部の面を被っているから、この程度の変装でもバレなかった。

 

その後も追い忍として抜忍を2人仕留めた。

 

そしてそのまま霧隠れへと潜入した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

5年ぶりに戻ってきた霧隠れの里

 

クーデターの時の騒がしさはなりを顰め、何処か暗い雰囲気の漂う里内は以前と変わりなかった。

 

4人で里内を歩き、水影がいる里の中央の建物に入る。

 

今の恐怖政治を行なっている四代目水影。そんな政治体制故に警戒心が強く、水影本人を見る事はなかった。部屋の中にいたのは、警戒していた青。

 

「暗部追い忍部隊隊長の青だ。今日も水影様に変わって任務の成果を聞く。」

 

「本日は抜忍のザシとツー、トンネにロンの4人を仕留めました。」

 

「了解した。検死班の確認が済み次第。報酬を渡す。各自、明日の任務もよろしく頼む。……では、散!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

報酬が渡された後、4人は解散した。

 

殆ど会話はなかった。当然だろう。こんな状況じゃ誰を信じればいいのかわからない。碌に口も利けない環境だろう。私達にとっては都合がいいけど。

 

私達も怪しまれないように、すぐに家(元の体の持ち主)へ帰った。

 

案外バレなかった。恐らくだけど、青という人が付けていた右目の眼帯。あれの下が白眼何だろう。変化の術や水分身などのチャクラを使った偽装ならバレていたかもしれない。

 

水の国に入る際の暗号も3ヶ月間調べていたから問題なかった。

 

「口寄せの術!」

 

ボフンと白い煙が出る。中から白いうさぎ2体が現れる。

 

私が契約しているユキウサギだ。戦闘能力は皆無。故に警戒される事も無いし、路地を走らせていれば、見つかる事も無い。仮に見つかっても口寄せ動物とは思われない。それにかわいい。

 

1体には霧隠れ里の地図と水影いる建物の見取り図。青を直接確認したこと。水影は現れなかったこと。現在所属している追い忍部隊の構成員の事。またその戦闘能力を記した紙を飲み込ませる。

 

もう1体には明日の行動の予定をしたためて、それを飲み込ませる。

 

2体のユキウサギを家の路地に放つ。

 

地図を持たせたユキウサギは再不斬さんの元へもう一体は兄さんの元へ向かわせる。

 

こうして潜入1日目は終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「今回のターゲットは鬼灯三日月だ。」

 

「どんな術を使う?」

 

「主に水遁忍術だ。水鉄砲の術は派手さはないが、殺傷力と速度、何より発動時間が短い。不意打ちであの世行きになりかねん。注意しろ。」

 

「了解です。」

 

淡々と抜忍を追う。この日も同じように追い忍に紛れて任務を行う。

 

森を数時間移動すればターゲットを見つけた。

 

「水遁・水龍弾の術!」

 

三日月が術を放ってくる。

 

「水遁・水陣壁!!」

 

「水遁・水喇叭!!!」

 

メンバーの二人が防御と攻撃の連携で水龍弾を返す。

 

私が千本を構えて突っ込む。

 

クナイと千本で打ち合う。

 

この人結構強い!!

 

私の速度に対応してくる。

 

「水遁・水喇叭!!!」

 

「チィッ!!!」

 

それでも4対1は苦しいようで追い詰めて行く。

 

先輩がクナイを構える。

 

「終わりだ!!!」

 

だけど、あっさり躱される。いや、厳密には見当違いな所を振り抜いていた。

 

「ーーえ?」

 

「どういう事だ?」

 

他のメンバーも武器をからぶらせる?

 

「うわああああああ!!!!!!」

 

よくわからない状況の中、メンバーの一人が絶叫をあげる。気がつけば、他のメンバーも発狂していた。

 

どういう事?

 

そこで気がつく。

 

蜃気楼………

 

まさか、幻術?

 

そういえば、霧隠れの里には二代目水影の鬼灯幻月が蜃気楼を利用した幻術を使用していた話を聞いた事がある。この人も鬼灯一族。なら使えるのかもしれない。

 

「解!!!」

 

「「「!!!」」」

 

メンバーが全員、正気に戻る。

 

よかった無事で。

 

この時の私はスパイでありながら、偽りの仲間を本気で心配していた。今に思えば、本当に甘い事だと思う。

 

「蜃気楼を飛ばす!風遁・大突破!!」

 

風遁を使えば、敵は丸裸になる。

 

私は千本を投げる。その千本は三日月の首の秘孔を貫く。

 

こうして、三日月の捕獲に成功した。それと同時に私には幻術に耐性がある事に気がついた。

 

幸い誰にも気が付かれていないけど、その後の任務でも私には幻術が効いていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからは地道に追い忍の仕事と霧隠れの情報を集めていた。

 

里中心の地下には使い手のいない忍刀がある事。

 

双刀・ヒラメカレイ

 

この一本しか今の霧隠れには無いそうだ。しかも、もうすぐこの刀に選ばれる忍がいる事もわかった。長十郎という私達と殆ど歳が変わらない少年が持つようだ。

 

私と変わらない年齢で再不斬さんと同じ七人衆に選ばれるなんて、とんでもない天才だ。これは再不斬さんのクーデターの大きな障害になるかもしれない。

 

また、水の国の大名家でお家騒動があったらしい。ただ、これはしょっちゅう起こる出来事のようだ。

 

それから、大物として六尾の人柱力のウタカタという忍を霧隠れは必死に探している情報。

 

また、追い忍部隊として仕事をする事で追い忍がどうやって抜忍を追っているかもわかった。

 

これは私達が追い忍に追いかけられた時に役に立つだろう。

 

スパイ活動から既に4年。もう情報は出尽くしたと見ていい。

 

『今日の任務にて脱出しよう』

 

ユキウサギでの文通で兄さんから提案があった。

 

『了解』

 

手紙で返事する。

 

今の班は兄さんとは別になっている。定期的に班員を交代する事で不必要な連帯感を持たないようにしている。

 

再不斬さんの話で知っていたけど、とことん冷徹な里なんだなと思う。もし普通に霧隠れで育って、再不斬さんが事件を起こさなければ、兄さんとアカデミーで殺し合いをしていたかもしれない。

 

そう思うと背筋が凍る思いをする。

 

何はともあれ準備を始めよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日も抜忍を追いかける。

 

今目の前にターゲットがいる。

 

「水遁・水流鞭!」

 

追い忍の1人が水の縄が放つ。

 

「クソッ!」

 

縄が巻き付き捕獲する。

 

「雷遁・感激派!」

 

「グアッ!」

 

抜忍が感電して倒れる。

 

四人で遺体を取り囲む。

 

「遺体を運ぶぞ。」

 

「了解。」

 

一人が遺体に触れようとした瞬間、紫色の煙が辺りを包んだ。

 

全員が四方に散開する。

 

「新手か!?」

 

皆がクナイを構えて警戒する。だが次の瞬間………

 

「グッ!」

 

「うっ!」

 

「ど、毒か!?」

 

全員が体から力が抜け、倒れる。

 

これは煙幕ではなく、毒ガス。

 

全員が藻がき苦しむが、10分もしない内全員が死んでしまった。

 

そして毒ガスも完全に晴れ、この地方特有の霧に包まれる。その中から一人、起き上がる者がいた。

 

それが私。

 

身体についた土を払う。

 

この毒煙は私が仕込んだ物だ。もし3対1で戦闘になれば、私の実力では逃げきれない。だから、戦う事なく無力化を狙った。

 

私にはある体質がある。それは毒や薬物が効かない体質だ。

 

最初は私のチャクラ不足を補う為に兵糧丸を飲んだ時だ。全く効果が現れず、チャクラが回復しなかった。それから、兄さんとよく集めている薬草。これも実は私には効果が出なかった。

 

逆に栗霰串丸との戦闘時、奴のワイヤーには麻痺毒が塗られていた。それで兄さんは行動不能になったけど、私には効かなかった。

 

鬼兄弟との戦闘でもやはり毒が一切効いていない。

 

別に傷の治りが早い訳でも無い。だけど、どういう訳か人工の薬や毒には耐性がある事がわかった。今回はこの体質を利用した訳だ。

 

これで534人。

 

今まで殺してきた人数だ。この潜入任務を始めてから人を殺す事が圧倒的に増えた。いちいち嘆いている暇も無いから、心を無にしてきた。それを人は慣れというのだろうか。

 

もしそうなら、もし自分が好きなように生きれるなら、忍には絶対ならないなと思った。

 

再不斬さんの元にいた方が良かったかもしれない。後悔は毎日していた。だけど、それは兄さんに全て押し付ける事と同義。兄妹なんだ。苦しい事は二人で分け合えばいいんだ。

 

だからごめんなさい。

 

私は骸となった3人に心の中で手を合わす。

 

早く兄さんと合流しよう。

 

「どこへ行く?」

 

歩こうとした足が止まる。

 

振り返れば、右目に眼帯を当てた忍がいた。

 

「………青隊長。」

 

仮面の下で思わず、顔を顰める。いつも最大限警戒していた。気づかれている兆候は見えなかった。

 

強いチャクラを感じる。誤魔化しは効かないようだ。

 

「ここで何をしている?」

 

発する言葉が不可侵の熱波の如く押し寄せてくる。実力は再不斬さんクラス。

 

私では到底敵う相手では無い。兄さんでも善戦できるかといったところ。

 

何故バレたのか、今はどうでもいい。とにかく逃げに徹する必要がある。

 

霧隠れの術は白眼相手には意味をなさない。

 

千本を取り出す。

 

「いくつか問いたい。」

 

すぐに戦闘になるかと思われたが、相手は印を結ぶ様子を見せない。

 

どういうことかしら?

 

「再不斬とは、桃地再不斬の事か?」

 

何で知ってる?

 

ここまでバレているなら、私の背後関係も全て筒抜けのはず。隠し事は一切無意味か。

 

「………そうよ」

 

「では、いつ潜入した?」

 

「4年前ね。」

 

「そうか、ユキウサギは夏は茶色の毛並みになる。夏場でも白いユキウサギがいれば、知識がある者が見れば疑問を持つ筈だ。次は気をつける事だ。」

 

そういうと青は去っていった。

 

見逃されたのか?

 

何で?

 

疑問は尽きない。今の話を信じるなら、ユキウサギに警戒した青がユキウサギから私達のことを突き止めたのは間違いない。

 

しかも、あの調べっぷりからしてもっと前から私達の事を知っていた筈。ずっと見逃され続けていたのか。

 

わからないけれど、早く兄さんと合流しよう。

 

私は瞬身の術でその場を去った。



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次の任務

「よく戻ってきた。白、藍。霧隠れの状況を教えるんだ。」

 

白と藍が帰ってきた。正直生きて戻ってくる可能性は5分と見ていた。特に藍の実力はお世辞にも高くは無い。部の悪い賭けになると思っていた。

 

二人の報告は概ね手紙で見た内容と相違はない。特に藍の情報収集能力の高さは意外だった。戦闘は苦手でも観察眼と分析力に長けている事がわかった。これは藍が俺達の裏方で動いた方が能力を発揮できるかもしれないな。

 

もしこれが霧隠れの諜報部などにいれば、必要以上に知りすぎて、消されるタイプになっていただろう。

 

たしかに詰めの甘さもある。最後の最後に青に見つかったらしい。顔を青くして報告する彼女の様子を見るに完全に不意を突かれていたようだ。見逃された理由はよくわからない。藍の予想では青は寧ろクーデターを歓迎しているのではないかと言うが、真相はわからない。だが、生きて帰ってこれた事は評価できる。

 

白も実戦を積み重ねた事でより実力を付けた。もう俺レベルでもある程度戦えるぐらいにはなったか。

 

かなり盤石な体勢が出来てきた。あとは資金さえ解決すればいい。今はガトーというスポンサーがいる。こいつの任務を機械的やっていればいい。

 

最近は波の国の交易路に橋を掛ける輩の妨害工作をする任務ばかりで退屈だが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、再不斬!……タズナが消えた!!」

 

バタン!と扉を勢いよく開けて入ってくるグラサンの男。この男が波の国を牛耳っているガトーだ。

 

「……タズナ?」

 

確か橋作りのリーダー格の人物だったはず。

 

「橋建設の音頭をとっている人物です。」

 

「……なるほど、それで?」

 

「私の監視から逃げたんだ。何処かの里にでも助けを呼ばれては困る。すぐに見つけ出して、始末しろ!」

 

「任務という事だな?」

 

「ええい!なんでも良いわ!すぐに始末するのだ!!」

 

此方に怒鳴り散らすと部屋を出ていった。

 

「どうされますか?」

 

「戦闘能力もない唯の一般人だ。鬼兄弟でも過剰戦力だろう。……聞いてたな?早速準備にかかれ。」

 

「「はっ!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「口寄せの術」

 

ボフンと煙からユキウサギが現れる。

 

「鬼兄弟の監視をお願い。」

 

ユキウサギは言葉を発さない。だけど、意図は伝わったようで窓から飛び出していった。

 

「心配性だね。」

 

「一般人だけなら、確かにそうかもしれない。だけど、この国の人は皆貧しい。助けを呼ぼうにも忍びを雇えるだけの資本金はない。じゃあ逃げたのか?……多分それも違う。長年ガトーと争っていたんだ。ここで逃げ出すような人では無いと思う。なら安いお金でも助けてくれる忍の伝手があるかもしれない。だとしたら、その忍のメリットは?……… 依頼の報酬では無いのなら、波の国そのもの。この国は雨隠れの里のように大国に挟まれて、戦争では荒廃しなかった。でも物流の要所ではある。実際にガトーが牛耳っているのが証拠。こんな大事な場所なのに、隠里がない。こんな奇跡のような土地は他に無い。なら、他の国が支配力を強めたいと考えてもおかしくない。これなら、少ない報酬でも優秀な忍が派遣されるかもしれない。」

 

「考えすぎじゃないかな?」

 

「杞憂ならいいの。」

 

そうしてユキウサギと鬼兄弟を見送り、帰ってきたのはユキウサギだけだった。



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死神

「失敗したじゃとォ!!お前達が元腕ききの忍者だというから高い金で雇ったんじゃぞ!」

 

耳が早い事で、ガトーは鬼兄弟が暗殺に失敗し、捕らえれた情報を聞いて怒鳴りこんできた。

 

高い金なんて嘘だ。寧ろ抜忍である事から足元を見られているのは知っている。……今言っても荒れるだけだから言わないけど。

 

再不斬さんが首切り包丁を振り回す。

 

「ぐちぐちうるせーよ。今度は俺様がこの首切り包丁で…そいつを殺してやるよ。」

 

「…ほっ…本当に大丈夫だろーな…!敵もかなりの忍を雇ったようじゃし…。その上鬼兄弟の暗殺失敗で警戒を強めているとなると…。」

 

「この俺様を誰だと思ってる……。霧隠れの鬼人と呼ばせたこの桃地再不斬をな!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

波の国の島。その中の森を駆け抜ける。再不斬さんと兄さんの3人で走る。ターゲットはすぐに見つかった。既に島の中心近くまで入り込んでいた。タズナさんの姿も見えた。

 

忍は4人。3人は知らない子供。おそらく下忍。年齢は11〜13ぐらいかな。霧隠れ潜入していた時を思い出す。額当ては木の葉隠れのマーク。

 

最後の一人はビンゴブックで見た顔だ。写輪眼のカカシ。納得だ。この忍は再不斬さんクラスだ。任務の難易度が爆発的に跳ね上がった瞬間だ。

 

「お前達は様子を見ておけ。俺が行く。」

 

「僕も行きます。」

 

「これは命令だ。撤退の判断は藍に任せる。いいな?」

 

「………わかりました。」

 

「行くぞ。」

 

そう言うと再不斬さんは首切り包丁を投げて跳んだ。

 

だけど、流石はビンゴブックのAランク。すぐに攻撃を察知して躱す。そのまま再不斬さんと敵は睨み合う。

 

敵も再不斬さんの実力を察したのか、すぐに奥の手を使ってきた。

 

『あれが、写輪眼。』

 

『初めて見るね。………赤く光る瞳。確かにあの目立つ瞳は幻術をかける時の起点として優秀だ。』

 

『目そのもの能力としての極致の白眼。それに対し、コピーや幻術等の瞳術としての極致の写輪眼。』

 

伝説の血継限界。私達の氷遁以上の血継限界。それを再不斬さんクラスの忍が振るってくる。確かに一度様子見に徹して、能力を暴く事が先決か。なら尚更引き際は大事。

 

「さてと……俺はそこのジジイを殺んなくちゃならねぇ。」

 

再不斬さんが殺気を放つ。

 

3人の下忍がタズナさんを囲んで卍の陣で守る。

 

「つっても…カカシ!お前を倒さなきゃならねぇーようだな。」

 

再不斬さんは瞬身の術で移動。水遁が使いやすい水の上に移動。十八番の霧隠れの術を発動。だけど、霧は少し薄い。

 

「霧が薄めだね。」

 

「多分、再不斬さんも相手の能力を確かめようとしてるんだと思う。」

 

霧に乗じて再不斬さんは消える。そこからは敵と再不斬さんの水分身の応酬が始まる。結果的にこれは再不斬さんの勝利。池に敵を蹴り飛ばし、水牢の術で捕らえた。

 

勝敗は決した。

 

再不斬さんは水分身を一体作り出し、下忍3人を相手にし出した。

 

『せっかく白黒付いたのになんで遊び出しちゃうんだろう?』

 

『多分、再不斬さんは優しいから、下忍の3人には逃げて欲しいんだと思う。水分身も一体しか作らなかったし、この状況なら僕達を呼べば瞬殺できるけどしない。……そういうことだと思う。』

 

そして、水分身と下忍3人の戦いが始まる。水分身は本体の十分の一まで性能が落ちるけど、それでも3人との実力差は大きく、歯が立たない。だけど、誰も逃げ出す者はおらず、それどころか再不斬さんに一矢報いる事に成功。はたけカカシを救出するに至った。

 

機転がよく効く以上にあの精神力は凄い。あの再不斬さんの殺気を前に逃げずに食らい付く根性は見事。

 

そこからは敵に流れを掴まれる。水遁の術を悉くコピーされ、最後は印を先出しさせた上でそれをコピーして、再不斬さんを圧倒する。

 

こんな異常事態、嫌でも一つの可能性を想起する。

 

『幻術……』

 

『いつ掛けたか、わかる?』

 

『再不斬さんが風魔手裏剣を投げようとした時に、はたけカカシが止めた時だと思う。そこで写輪眼を直視した所為だと思う。』

 

「水遁・大瀑布の術!!!」

 

「な、なにぃ!」

 

とうとう再不斬さんの術スピードを越えて、再不斬さんが水流に飲み込まれた。

 

『兄さん、撤退の準備をお願い。』

 

『わかった……藍はそのまま隠れてて。』

 

『うん、わかった。』

 

兄さんが千本を取り出して、戦場に向かう。

 

「………何故だ。お前には未来が見えるのか…!?」

 

「ああ、お前は死ぬ。」

 

見れば、再不斬さんが追い詰められていた。如何に今回が敵状視察が目的とはいえ、再不斬さんをここまで圧倒できるはたけカカシの実力は本物だろう。

 

そこへ兄さんの千本が再不斬さんのツボを貫く。仮死状態となり、倒れる再不斬さん。

 

トドメを刺す瞬間の一瞬の気の緩みに割り込む乱入者に敵は警戒を強める。

 

だけど、兄さんは務めて追い忍の振舞いで敵を納得させて再不斬を回収、撤退した。

 

私もそれを木陰からそっと追いかける。視界の端で倒れるはたけカカシを見る。

 

恐らく、チャクラ切れ。派手な術も使用したが、それでもチャクラ切れが早い。あれが写輪眼を使うリスクなのかもしれない。それとも単純に写輪眼が肉体と合っていないか。「うちは」ではなく「はたけ」。つまりそう言う事なのかもしれない。

 

ある程度移動して、兄さんは再不斬さんを寝かす。

 

「まずは口布を切って、血を吐かせてから…」

 

兄さんはハサミを取って再不斬さんの口布を取ろうとする。

 

「…いい、自分で……やる…。」

 

再不斬さんが目を開き、兄さんの腕を掴んだ。

 

「もう生き返っちゃったんですか…。」

 

再不斬さんはゆっくりと起き上がり、千本を無造作に抜く。

 

「ったく手荒いな……お前は……。」

 

「あ!再不斬さんこそあまり手荒に抜かないでください。本当に死にますよ。」

 

「お前ら、いい加減その面を外せ。」

 

「前の任務での名残でつい。」

 

「だけど、お陰でバレませんでしたね。」

 

「1週間程度は痺れて動けませんよ。」

 

「でも…再不斬さんなら時期に動けるようになりますかね。」

 

「…全く、お前達は純粋で賢く汚れがない……そういうところが気に入ってる。」

 

「ありがとうございます。」

 

「霧が晴れましたね。」

 

「…次、大丈夫ですか?」

 

「次なら…写輪眼を見切れる。」

 

そうだ。写輪眼は結局のところ、視覚が要だ。なら写輪眼を封じるなら、目を封じればいい。再不斬さんの霧隠れの術は相性がかなりいい。しかも再不斬さんは目を閉じていても音だけで対象の位置を把握できる。

 

警戒すべきは風遁の術。霧を晴れさせように気をつけて戦えばいい。

 

次の本命に向けて戦術を考える。

 

私は自分の居場所を護る為に戦う。



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神性

再不斬さんが動けなくなってから、6日が経過した。

 

ガチャ。

 

扉から3人の男が入ってくる。ガトーとボディガード2人だ。

 

「あんたまでやられて帰ってくるとは、水の国の忍者はよほどのヘボと見える!!」

 

ボディガードが刀に手をかける。

 

居合斬りの構え。

 

兄さんから僅かに殺気が漏れる。

 

「まあ待て…」

 

それに気が付かないガトーが更に再不斬さんに近づく。そのまま手を伸ばしてくる。

 

「なあ、黙ってる事はないだろ……何とか……」

 

再不斬さんからも殺気が放たれる。次の瞬間、兄さんがガトーの腕を掴んだ。

 

「汚い手で再不斬さんに触るな。」

 

「ぐっ!お前…!」

 

ボディガードが刀を抜くが、兄さんにとっては遅すぎる。一瞬で刀を奪い、首に刃先を当てる。

 

「やめた方がいいよ……僕は怒ってるんだ。」

 

「次だっ…次失敗を繰り返せば、ここにお前らの居場所は無いと思え!!」

 

兄さんの殺気に当てられたガトー達はそう吐き捨てて出ていった。

 

「白、余計な事を。」

 

再不斬さんが兄さんを咎める。

 

「分かってます。ただ、今ガトーを殺すのは尚早です。」

 

さっきの再不斬さんの殺気。あれは間違いなく、ガトーを殺す気だった。

 

「ここで騒ぎを起こせば、また奴ら(追い忍)に追われる事になります。今は我慢です。」

 

「…ああ。……そうだな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「藍、薬草を取りに行くよ。」

 

「わかったわ、兄さん。」

 

兄さんに誘われて薬草を摘みに行く。忍び装束は纏わない。波の国で歩く時は一般人と同じように着物で移動する様にしている。一度忍び装束で出歩いた時の向けられる視線は冷たいものだった。

 

散々人を殺して、手を汚して、それでも人の視線に一喜一憂する未熟者。それに対して、再不斬さんに立ち向かう勇気ある子供。なんだか自分が恥ずかしくなる。

 

林の中で薬草を摘んでいると兄さんに声をかけられた。

 

「藍、ちょっと来て。」

 

呼ばれて兄さんの視線の先を追えば、1週間前に見た下忍の子供が寝ていた。

 

格好はボロボロ。修行でもしてそのまま疲れて眠ってしまったのだろうか。

 

敵地でここまで気を抜けるのは、臆病な私から見ればある意味羨ましい。

 

だけど、兄さんはどう判断するのか。子供でも敵である事には間違いない。

 

「こんな所で寝てると風邪をひきますよ。」

 

結局、兄さんは殺す事はなく、素知らぬ顔で起こしてあげる事にした。

 

ほっと溜息が出る。

 

少し緊張していたみたい。

 

「んーーー?アンタら誰?」

 

起きた少年は寝ぼけ目で此方に問いかけてくる。

 

あまりにも素直な反応に兄さんも私もクスッと笑ってしまう。

 

少年は顔を赤らめる。

 

兄さんは男ですよと言いたいけど、この子が可哀想だよね。私も初対面だったら女性だと思うもん。

 

「姉ちゃんらも朝から大変だな。」

 

「君こそ、こんな所で朝から何をやってたんです?」

 

「修行ォ!!」

 

「君…もしかしてその額当てからして忍者なのかな?」

 

「!!そう見える!?見える!?そう!オレってば忍者!」

 

「へー凄いんだね、君って。」

 

「へへっ。」

 

「何で修行なんかしてるんですか?」

 

「オレってばもっと強くなりてーんだ。」

 

「んー…でも君はもう十分強そうに見えますよ。」

 

「ダメ!ダメ!オレってばもっと強くなりてーの!」

 

「…………それは……なんの為に?」

 

「オレの里で一番の忍者になる為!みんなにオレの力を認めさせてやんだよ!それに今はある事をある奴に証明するため!」

 

とても真っ直ぐな子だなぁ。

 

10年前の私と兄さんもあの村でこんな風に生きていたなぁ。

 

「………それは誰かの為ですか?それとも自分の為?」

 

「…………は?」

 

「クスッ」

 

「!何がおかしいんだってばよ!」

 

「……君には大切な人は居ますか?人は…大切な何かを守りたいと思った時に本当に強くなれるものなんです。」

 

「………うん!それはオレもよく分かってるってばよ。」

 

とても真っ直ぐで強い眼差し。

 

兄さんも気に入ったのか笑顔を浮かべていた。

 

「藍、行くよ。」

 

「……うん。」

 

兄さんは立ち上がり、帰る。私もそれについて行く。

 

「君は強くなる。また何処かで会いましょう。」

 

でも一応訂正させてもらおう。

 

「あ…………それと…兄さんは男ですよ。私は女ですけど。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「藍。」

 

「はい。」

 

「僕は彼に夢を見たよ。」

 

「夢?」

 

「うん。あの子はきっと強くなる。そう思うんだ。」

 

「そうなのかな?でも、あの子も私達と似た境遇のような気がするね。」

 

「そうだね。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、再不斬さんの体調も回復した。

 

「大分戻りましたね。」

 

「よし!そろそろ行くか白、藍。」

 

「「はい。」」

 

船で静かに建設中の橋に近づく。橋の上からカンッカンっと金槌の音が聞こえる。

 

無線機からガトーの声が聞こえる。

 

『襲撃の用意はいいか!おい、再不斬!聞いてんのか、おい!』

 

バキッ

 

無線機を踏み潰す再不斬さん。いい加減鬱陶しいのだろう。

 

「そろそろ行くか、白、藍。」

 

「「はい。」」

 

「奇襲を仕掛ける。その為にはカカシをここに誘き寄せる。殺す必要はないが、上の連中は気絶させろ。」

 

「了解です。」

 

戦闘能力のない一般人を気絶させるのは簡単だった。

 

それからすぐに敵がやってきた。

 

「霧隠れの術」

 

「来るぞ!!」

 

すぐに霧に気がつくとは流石上忍。

 

「ね!カカシ先生これって……これってあいつの霧隠れの術よね!」

 

「久しぶりだな、カカシ。相変わらずそんなガキを連れて……また震えてるじゃないか……可哀想に……。」

 

10体の水分身で敵を取り囲む。

 

「武者振るいだよ!」

 

「やれ、サスケ。」

 

敵の少年が一瞬で水分身を消し去る。

 

凄い成長だ。前は一体の水分身に命懸けで戦っていたはずなのに、今は10体を一瞬で。それもたったの1週間。なんて才能……

 

「ほう、水分身を見切ったか。あのガキ、かなり成長したな。ライバル出現ってとこだな、白、藍。」

 

「そうみたいですね。」

 

「ええ。」

 

「どうやらオレの予感が的中しちゃったみたいね……。」

 

「あ!」

 

「あのお面ちゃん、どうみたって再不斬の仲間でしょ!しかも、もう1人。一緒に並んじゃって……。」

 

「どの面下げて堂々と出てきちゃってんのよ、アイツ。」

 

「アイツはオレがやる。ヘタな芝居しやがって……。オレはああいうスカしたガキが一番嫌いだ。」

 

「カッコいいサスケ君♡」

 

「大した少年ですね。いくら、水分身がオリジナルの十分の一程度の力しか無いにしても。あそこまでやるとは。」

 

「だが、先手は打った行け!」

 

「藍は下がって、僕が行く。」

 

「はい、兄さん。」

 

兄さんが瞬身の術で少年に突っ込む。だけど、少年も兄さんのスピードに反応している。

 

一体この1週間でどんな修行をしたのか。

 

「サクラ!タズナさんを囲んでオレから離れるな。アイツはサスケに任せる!」

 

「うん!」

 

「君を殺したくは無いのですが、引き下がっては貰えないのでしょうね……。」

 

「アホ言え…。」

 

「やはり…しかし次、貴方は僕のスピードにはついてこれない。それに僕は既に2つの先手を打っている。」

 

「2つの先手?」

 

「一つ目は辺りに撒かれた水。そして2つ目に僕は君の片手を塞いだ。したがって、君は僕の攻撃をただ防ぐだけ。」

 

兄さんは素早く片手で印を結ぶ。

 

「秘術・千殺水翔!」

 

「サスケ君!!」

 

水の千本が少年を襲う。

 

だけど、少年は見事に躱し手裏剣で反撃してくる。

 

手裏剣を躱す兄さんの背後をとる。

 

「案外、トロいんだな。これからお前は、オレの攻撃をただ防ぐだけだ!」

 

少年がクナイで斬りかかる。それを兄さんはガードするが、指先からクナイを投げられ、屈んで躱した隙に蹴り飛ばされる。

 

「兄さん!!」

 

明らかにいつもの兄さんより動きが鈍い。それは恐らく、子供に手をかけたく無いから力が出し切れていないんだ。

 

「ぐっ!」

 

「どうやらスピードはオレの方が上みたいだな。」

 

「ガキだガキだとウチのチームを舐めてもらっちゃあ、困るね。こう見えてもサスケは木の葉の里のNo.1ルーキー。ここにいるサクラは里一番の切れ者。そして、もう1人は目立ちたがり屋で意外性No.1のドタバタ忍者ナルト。」

 

「ククク…ククククッ……」

 

「?」

 

「白。分かるか、このままじゃ返り討ちだぞ…。」

 

「ええ、残念です。藍、心配はいらない。」

 

兄さんの雰囲気が変わる。辺りを冷気が走る。

 

これは……

 

「氷遁秘術・魔鏡氷晶!!」

 

勝負はついた。この術を突破できた人を私は見たことがない。

 

兄さんが氷の鏡に入る。

 

「くそっ!」

 

カカシさんが術の脅威を感じ取ったのか駆けつける。

 

「お前の相手は俺だろ?あの術がでた以上、あいつはもうダメだ。藍、お前はそこのガキの相手をしろ。」

 

「はい、再不斬さん。」

 

瞬身の術でサクラさんとタズナさんの前に立つ。

 

「くっ!」

 

「サクラさんと言いましたか。私は雪藍(ゆきのあい)と言います。引いては貰えませんか?」

 

「……悪いけど、サスケ君が戦ってるのに一人で逃げる訳にはいかないわ。」

 

「そうですか。……では参ります。」

 

瞬身の術でサクラさんの目の前に移動。そのまま右回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「キャア!」

 

「サクラ!!」

 

これでタズナさんを護る者が居なくなった。

 

「抵抗しないでくださいね。痛みはありません。すぐに楽になれます。」

 

千本を取り出す。

 

タズナさんの首のツボを狙って千本を構える。

 

「アンタ、私の事を舐めすぎじゃないかしら。」

 

腕をサクラさんに掴まれた。

 

なんて力。振り解けない。

 

「しゃーんなろー!!」

 

そのまま投げ飛ばされる。

 

空中で体勢を整えて着地。

 

「サスケ君!!」

 

サクラさんが蹂躙されているサスケ君にクナイを渡そうと投げる。だけど、兄さんはこれをキャッチ。

 

そこに死角から手裏剣が飛び、兄さんに命中した。

 

「兄さん!!」

 

ボーン!!!

 

煙が出る。

 

「うずまきナルト!ただいま見参!!オレが来たからにはもう大丈夫だってばよ!物語の主人公ってのは大体こーゆーパターンで出て来てあっちゅーまにィー敵をやっつけるのだぁー!」

 

確か薬草詰みの時に会ったナルト君。

 

再不斬さんが隙だらけのナルト君に手裏剣を投げるが兄さんが千本で止める。

 

「白、どういうつもりだ?」

 

「再不斬さん、この子は僕に。この戦いは僕の流儀でやらせて下さい。」

 

「…………手を出すなって事か、白。相変わらず甘いヤローだ、お前は。」

 

「藍も心配しないで。」

 

兄さんは再び鏡に入る。

 

「仕切り直しですね。」

 

「……そうね。」

 

サスケ君が火遁の術を使うが、氷は全く解けない。

 

ナルト君も加勢するが、兄さんには全く歯が立たない。

 

「まさかあの少年があんな術を体得していようとは。」

 

「あんな術?」

 

「これは血継限界だ!深き血の繋がり、超常個体の系譜。それのみ子々孫々伝えられる類の術だ。」

 

「そうです。カカシさんの写輪眼と同種。私達雪一族に伝わる氷遁。兄さんはその血に目覚めた忍。」

 

「ちくしょう…だから何だってんだ。こんなとこでくたばってられっか。オレには叶えなきゃなんねェ夢があんのにィ……!」

 

夢……

 

そんな物、とっくに忘れていた。私の夢。

 

それは兄さんと再不斬さんと平和に過ごす。

 

そうだ。目的はそうだった。

 

「僕にとって忍になりきる事は難しい。できるなら君たちを殺したく無いし………、君達に僕を殺させたく無い。けれど、君達が向かってくるなら………僕は刃で心を殺し忍になりきる。この橋はそれぞれの夢へと繋がる戦いの場所。僕は僕の夢の為に。君達は君達の夢の為に。恨まないで下さい。僕は大切な人達を護りたい。その人達の為に働き、その人達の為に戦い、その人達の夢を叶えたい。それが僕の夢。その為なら僕は忍になりきる。貴方達を殺します。」

 

「サスケ君!ナルトォ!そんな奴に負けないでぇ!!」

 

「やめろサクラ。あの2人をけしかけるな!」

 

「え?」

 

「そうですよ。自身の心配をされたほうがいいですよ。」

 

「例え万に一つ。あの技を破る方法があったとしてもあの少年は倒せない。」

 

「どーゆーことよ?」

 

「あいつらにはまだ心を殺し、人を殺める精神力はない。あの少年は忍の本当の苦悩をよく知っている。」

 

「………お前らみたいな平和ボケした里では本物の忍は育たない。忍の戦いに於いて最も重要な殺しの経験を積む事が出来ないからだ。」

 

「なら……」

 

カカシさんが額当てに手を当てる。

 

写輪眼か?

 

「悪いが……一瞬で終わらせてもらうぞ。」

 

「クク…写輪眼…芸の無ぇ奴だ。」

 

再不斬さんが走る。クナイを取り出し、右目に向かって刺突を放つ。それをカカシさんは左手でガードする。

 

「芸が無いと凄んではみてもやはり写輪眼は怖いか?」

 

「ククク……忍の奥義ってのは、そう何度も相手に見せるもんじゃねーだろ。」

 

「感謝しろ。2度もこの目が拝めるのはお前が初めてだよ。そして3度目は無い。」

 

「クク……。仮にオレを倒せたとしてもお前は白と藍には勝てねーよ。」

 

「先生…!」

 

「俺はアイツらがガキの頃から徹底的に戦闘術を叩き込んできた。アイツらは信じ難い苦境の中においても常に成果を上げてきた。心も無く命の概念すら捨てた忍という名の戦闘機械だ。その上、白の術は俺すら凌ぐ!血継限界と言う名の恐るべき機能!俺は高度な道具を獲得した訳だ。お前の連れているスクラップとは違ってな!!」

 

「他人の自慢話ほど、退屈なものはないな……。そろそろいかせてもらおう!」

 

とうとう写輪眼が現れる。

 

やはり禍々しい。最強の血継限界の一つに数えられるだけはある。

 

「まあ待て…話ついでにお前の台詞を借りてもう一つ自慢話をしてやろう。お前は前に確かこう言ったな。」

 

「!?」

 

「クク……俺はその台詞を猿真似したくてウズウズしてたんだぜ。」

 

「?」

 

「『言っておくが、俺に二度同じ術は通用しない』だったか?」

 

「!」

 

「俺は既にお前のその目の下らないシステムを見切ってんだよ。この前の闘い。俺はただ馬鹿みたいにお前にやられてた訳じゃない。傍に藍を潜ませ、その闘いの一部始終を観察させた訳だ。」

 

「え?」

 

サクラさんが此方をみてくる。

 

「白が血継限界なら、藍は頭が切れる。大抵の技なら一度見破ればその分析力によって対抗策を練り上げてしまう。」

 

「!」

 

「忍法・霧隠れの術。」

 

辺りを霧が包む。今まで一番濃い霧だ。視界はほぼゼロ。つまり、再不斬さんも本気だ。

 

「さて、話ばかりで退屈でしょう。再不斬さんも動き出した事だし、私達も始めましょう。」

 

「まだよ!写輪眼の攻略法って何!?」

 

どうやら力量差を自覚して、時間稼ぎを狙っているようだ。視界は無いけど、気配で確認する分に兄さんも再不斬さんも優勢。ならもう少し付き合っても大丈夫かな。

 

「簡単な事ですよ。写輪眼を使わせなければいい。」

 

「写輪眼を使わせない?」

 

「正確には目を使う闘いで無くせばいい。再不斬さんは音だけで獲物の位置を把握できるサイレントキリングの達人だ。濃い霧で視界を封じ、写輪眼を封じる。あとは音での闘いにすれば良い。再不斬さんと写輪眼は実は相性がとても良いと言えるんです。」

 

「そんな……」

 

「では行きますよ。」

 

瞬身の術で接近。

 

「消え……」

 

先程と同じように蹴り飛ばす。

 

「キャア!」

 

「サクラ!!」

 

そのまま飛んで行った方向に警戒をする。

 

「先程は油断しました。貴女はとてもタフで力も強い。今の程度ではまだ平気でしょう?ですが……」

 

倒れているサクラさんに千本を投げる。千本が両腕を貫く。

 

「くぅ……」

 

「腕を封じれば、それだけ体術も制限される。腕のツボを突きました。貴女は腕を動かすどころか、千本を抜く動作すらできませんよ。」

 

そして誰も守る人が居なくなったタズナさんに向かう。

 

「くっ!」

 

「逃げないで下さい。あまり苦しませたくありません。」

 

私は千本を構える。狙うは首の秘孔。

 

だけど、私の気配察知に飛び蹴りをしてくる人影を察知する。屈んで回避。頭上をサクラさんの足が通り過ぎる。

 

「え?」

 

不意打ちが決まらず、驚いた表情を浮かべる。

 

感知タイプのことを知らないのであれば無理も無い。

 

そのまま勢いを利用して今度は投げ飛ばす。

 

「うっ!」

 

「体術はサスケ君以上なの!?」

 

「大した精神力です。腕が駄目なら足。残念ですが、足も封じさせて貰いますね。」

 

千本を足目掛けて投げようとする。

 

しかし、私の気配察知に悍ましいチャクラを感じた。

 

「!?」

 

ドクン!

 

何だ!?この気配?

 

凄まじい殺意の気配。だけど、私はこの気配に強い親近感を抱く。

 

何なんだ?

 

だけど、これは再不斬さんでも兄さんの者でも無い。私が気配を感じた結果、あのナルト君だった。

 

不味い!兄さんが殺される!

 

私は目の前のサクラさんを無視して瞬身の術で跳ぶ。

 

跳んだ先で、ナルト君が兄さんを殴ろうとしていた。瞬身で割り込む。

 

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「くっ!」

 

「藍!?」

 

ナルト君の拳が腹に入り、思いっきり吹き飛ばされる。受け身を取ることすら不可能でそのまま橋の壁に激突して気を失った。



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感謝

「藍!!!」

 

吹き飛ばされた藍が壁に激突した。

 

気を失っている!?

 

駆け寄ろうと足を動かそうとするが、動けない。腕をナルト君に掴まれているからだ。

 

そんな隙を見逃す筈も無く、渾身の一撃を顔面に受けて僕も吹き飛ばされた。

 

被っていた面が割れる。

 

何とか立ち上がるけど、力が入らない。

 

トドメを刺そうとナルト君が飛び掛かってくるのが見えた。

 

…藍……再不斬さん…………僕はこの子には敵いません……………

 

…藍……再不斬さん……僕は………僕は…………

 

ナルト君の拳が迫ってくる。

 

ピタッ

 

だけど、それは寸前で止められた。

 

「お、お前はあの時の!!」

 

「何故、止めたんです?君は大切な仲間を僕に殺されておいて、僕を殺せないんですか?」

 

「クッソ!」

 

煽れば殴られたが、さっきまでの殺意は感じられない。

 

「よく勘違いしている人がいます。倒すべき敵を倒さずに情けをかけた……。命だけは見逃そうなどと。知っていますか?夢も無く、誰からも必要とされず、ただ生きることの苦しみを。」

 

「……何が言いたいんだ?」

 

「再不斬さんにとって弱い忍は必要ない。藍にとって護ってやれない兄は必要ない。……君は僕の存在理由を奪ってしまった。」

 

「何であんな奴の為に、悪人から金貰って悪いことしてる奴じゃねーか!!お前の大切な人ってあんな眉無しで良いのかよ!!」

 

「藍や再不斬さんの他にも大切な人はいました。」

 

「!」

 

「僕達の両親です。」

 

「!」

 

「僕達は霧の国の雪深い小さな村に生まれました。幸せだった……本当に優しい両親だった。でも……僕達が物心ついた頃、ある出来事が起きた。」

 

「出来事?一体何が?」

 

「この血…。」

 

「血ぃ!?」

 

「父が母を殺し、そして僕達を殺そうとしたんです。」

 

「え?」

 

「絶え間ない内戦を経験した霧の国では血継限界を持つ人間は忌み嫌われてきました。」

 

「ケッケイゲンカイ?」

 

「僕のような特別な能力を持つ血族のことです。その特異な能力のためその血族は様々な争いに利用されたあげく、国に災悪と戦禍をもたらす汚れた血族と恐れられたのです。戦後、その血族達は自分の血の事を隠して暮しました。その秘密が知られれば必ず死が待っていたからです。……僕達の母は血族の人間でした。それが父に知られてしまった。気づいた時、僕は殺していました、実の父をです。」

 

「…………」

 

「そして、その時僕達は自分の事をこう思った。……いや、こう思わざるを得なかった。そしてそれが一番辛い事だと知った。」

 

「一番辛い事?」

 

「自分たちがこの世にまるで、必要とされない存在だと言うことです。」

 

「!!」

 

「君はこう言いましたね。里一番の忍者になってみんなに認めさせてやると。もし君を心から認めてくれる人が現れた時。その人は君にとって最も大切な人になり得る筈です。…再不斬さんは僕達が血継限界の血族だと知って拾ってくれた。誰もが嫌ったこの血を好んで必要としてくれた。だから、嬉しかった。」

 

“今日からお前らの血は俺のものだ”

 

“白、藍。残念だ今夜限りで俺はこの国を去る。しかし、必ず俺はこの国に帰ってくる。この国を手中に収めて見せる!その為に必要なものは慰めや励ましじゃあない。本当に必要なものは……分かってます。安心してください。僕は再不斬さんの武器です。……フッ、良い子だ“

 

すみません、再不斬さん。僕は貴方の求めた武器にはなれなかった。

 

ごめん、藍。強いお兄ちゃんにはなれなかった。

 

「ナルト君、僕を殺してください。」

 

「くっ!」

 

「何を躊躇しているんです?」

 

「納得いかねぇ!!強い奴でいるってことだけが、お前がこの世にいて良いって言う理由なのかよ!!……闘う事以外だって何だって、他の何かで自分を認めさせりゃよかっただろ!」

 

「君と森で会った日。君と僕は似ていると思いました。君にもわかる筈です。」

 

「!」

 

「君の手を汚させる事になってすいません。」

 

「それしか、方法はねーのか。」

 

「はい。」

 

「君は夢を掴み取ってください。それからカカシさんに藍の事を頼みます。」

 

「ああ。……お前とは他の所で会ってたら友達になれたかもな。」

 

「ありがとう。」

 

君は強くなる。どうか、平和な世の中になりますように。どうか、藍が安心して生きていけますように。

 

「うおおおお!!!!」

 

ナルト君がクナイで刺してくる。

 

ゾクッ!!!

 

再不斬さん!?

 

咄嗟にナルト君の腕を掴む。

 

「ごめんなさい、ナルト君。僕はまだ死ねません。」

 

「え?」

 

魔鏡氷晶の鏡を作り出して、光速で移動する。

 

カカシさんと再不斬さんの間に割り込む。

 

目の前には眩いばかりの雷。

 

これを受ければ確実に死ぬ。

 

そのまま雷は僕の心臓を貫いた。

 

「ゴフッ……ざ、再不斬さん………」

 

貴方は生きて下さい。

 

藍もどうか死なないで。

 

僕は意識を失った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

白が死んだ。一瞬だ。カカシも白も超スピードだ。俺は間一髪で助かった。

 

流石は俺が見込んだ道具だ。素晴らしい働きっぷりだったぞ、白!

 

だが、白のスピードに対して俺の剣閃は鈍かった。

 

カカシに圧倒され両腕を潰された。

 

万事休す。

 

「おーおー派手にやられてェ。がっかりだよ、再不斬。」

 

ガトーが部下をぞろぞろと連れて現れた。

 

どうやら、こいつは金を払う気など毛頭無く、俺達とカカシ達の共倒れを狙っていたようだ。

 

こんな奴の為に白は死んだのか。

 

「カカシ、すまないな。戦いはここまでだ。俺にタズナを狙う理由が無くなった以上、お前と闘う理由もなくなった訳だ。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「そう言えば、此奴には借りがあったな。私の腕を折れるまで握ってくれたねぇ。くっ死んじゃってるよ此奴。」

 

ガトーが死体の白を蹴り抜く。

 

俺の中で何かが込み上げてくる。

 

「てめー!何やってんだってばよォコラァ!!」

 

「コラ、あの敵の数を見ろ。迂闊に動くな。」

 

「お前も何とか言えよ。仲間だったんだろ!!」

 

ガキが俺に吠えてくる。

 

今はうるさい。黙ってろ。

 

「黙れ小僧。白はもう死んだんだ。」

 

「あんな事されて何とも思わねぇのかよ!!お前ってばずっと一緒だったんだろ!!」

 

「ガトーが俺を利用したように俺も白を利用しただけだ。言った筈だ。忍の世界には利用する人間と利用される人間のどちらしかいない。俺達忍はただの道具だ。俺が欲しかったのはあいつの血であいつ自身ではない。……未練は無い……。」

 

「お前ってば本気でそう言ってんのか?」

 

「やめろ、ナルト。もう此奴と争う必要は無い。それに、」

 

「うるせぇー!!オレの敵はまだこいつだぁ!!!」

 

「…………」

 

「あいつは………あいつはお前のことがホントに好きだったんだぞ!!」

 

そんな事は知っている。

 

「あんなに大好きだったんだぞ!!」

 

うるさい、やめろ!

 

「それなのにホントに何とも思わねーのかぁ!!」

 

やめてくれ

 

「ホントに、ホントに何とも思わねーのかよぉ!!?」

 

「…………」

 

「お前みたいに強くなったら、ホントにそうなっちまうのかよぉ!!」

 

「…………」

 

「あいつはお前の為に命を捨てたんだぞ!!」

 

「自分の夢を見れねーで、道具として死ぬなんて、そんなの辛すぎるってばよ。」

 

ああ……

 

「小僧……それ以上は、何も言うな。」

 

俺は泣いていた。人の為に涙を流した事なんて今までなかった。道具として見てきた筈の2人。いつのまにか情が湧いていた。

 

「白は俺だけじゃない。お前らの為にも心を痛めて戦っていた。俺にはわかる。あいつは優しすぎた。………最後にお前らとやれて良かった。そう……結局はお前の言う通りだった。忍も人間だ。感情のない道具にはなれないのかもな………俺の負けだ。」

 

だからこそ、ケジメをつける。

 

「小僧、クナイを貸せ。」

 

「うん…。」

 

そして俺は致命傷と引き換えにガトーを殺した。

 

身体から血と共に力が抜ける。

 

ここまでか………

 

もう…さよならだよ、白…今までありがとう…悪かったなあ…。

 

ガトーの残党も島の住人が追い出した。

 

「終わったみたいだな、カカシ。」

 

「ああ。」

 

「カカシ、頼みがある。」

 

「何だ?」

 

「あいつの顔が見てぇんだ。」

 

「ああ。」

 

白よ。泣いているのか…。

 

藍、すまねぇ。お前の兄貴を俺が奪っちまった。

 

「……藍を頼む。今までは俺と白であいつを守ってきた。もうあいつを守ってやれる奴はいないんだ。」

 

「……分かったよ。」

 

ずっと側にいたんだ。せめて最後もお前の側で…

 

「できるなら、お前と同じ所に行きてぇなぁ。俺も……。」

 

……ありがとう、白、藍。



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目が覚めても

目が覚める。

 

あれ?私は……確か………。

 

起き上がって、周りを見渡す。

 

知らない場所だ。どこだろう?

 

そこで此方を見る忍を確認した。額当てを眼帯のようにつけている写輪眼のカカシ。

 

その瞬間飛びあがろうとして身体を縛られている事に気がつく。

 

そういえば、面が外されている。

 

「随分可愛らしいお顔じゃないの。……悪いね。拘束させて貰ってるよ。」

 

どういう事?拘束?つまり、私は捕虜って事?兄さんは?再不斬さんは?2人とも無事なの?

 

「色々と聞きたい事はあるだろうけど、まずはこれだけは言わせてもらうよ。ーー再不斬とお兄さんは亡くなったよ。」

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

「な、何を言ってるんですか?」

 

嘘だ。そんなはずはない。あの再不斬さんだ。あの兄さんだ。誰にも負けない!

 

ーーなら何でカカシさんがここにいるの?

 

うるさい!再不斬さんと兄さんが負けるはずがないんだ!!

 

ーー参謀役の貴女が無能だから死んだんじゃないの?貴女だけ生き残って、馬鹿みたいね?

 

うるさい!!うるさい!!うるさい!!!

 

「はい、落ち着いて。」

 

カカシさんに肩を掴まれて我に還る。

 

「女性の身体を弄るのは良くない事なんだけど、一応武器の類は取り上げてさせてもらったよ。」

 

「………別に構いません。私は捕虜なんですから。………それよりも早く尋問でも拷問でもすれば良いんじゃないんですか?……それとも民家では拷問はできませんか?」

 

「あら?良く見ているね。………拷問はしないよ。尋問はするけど。………まあ、喋りたくなかったら、話さなくても良いよ。」

 

「何が目的ですか?」

 

「まあ、目的は再不斬の伝言を君にも伝える事かな。」

 

「…………それはなんですか?」

 

「その前に君が知らないであろう。俺と再不斬の戦いと結末の一部始終を話すよ。その中で君への伝言も話す。」

 

「………わかりました。」

 

そうして聞かされたのは、桃地再不斬と雪白の最期。

 

「再不斬は君の事を大事にしていたよ。“すまなかった”とも“ありがとう”とも言ってたよ。」

 

「………そうですか。……すみません、少し1人にさせてください。…………逃げません。……拘束もそのままでいいです。だから、……1人させてください。…………お願いします。」

 

カカシさんは結局、拘束を解いてくれた。そして部屋を出てくれた。

 

「………うぅぅぐぅぅ。」

 

涙が溢れてくる。

 

「……ざ、再不斬さん………お、お兄ちゃん……うっ、ぐぅっ……ご、ごめんなさい。……わ…私が……弱かったから………。」

 

お兄ちゃんも再不斬さんも居ないなんて、私はどうしたらいいの?

 

「……お、お兄ちゃん………再不斬さん……私……どうしたら………いいか…………わからないよ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚める。どうやら泣き疲れて眠っていたらしい。窓から差し込む光が弱くなっている。

 

随分と時間が経ってしまったみたいだ。

 

「丸2日だよ。」

 

「……おはようございます、カカシさん。」

 

そんなに時間が経ってたのか。

 

「おはよう。ご飯を持ってきた。流石に2日も食べて無いとキツいでしょ。……悪いけど、君を食卓には案内できない。」

 

「ええ、敵だった私がこの家を彷徨いては、皆にストレスもかかるでしょう。……ご飯をいただけるだけ、ありがたい事です。」

 

そうして渡されたのは、茶碗一杯の白米にスープ。捕虜に与える食事にしては寛大だ。

 

「こんなに貰っていいのですか?」

 

「まあ、君は捕虜と言っても、明確な敵対関係では無くなったからね。ガトーが死んでしまった訳だし。」

 

「そうですか。……いただきます。」

 

美味しい。二日間何も入っていなかった胃袋に染み渡る。

 

「躊躇なくいくね。毒とか警戒されるかと思ったよ。」

 

私に毒や薬物は効力がない。だから、平気なのだけどわざわざ言う必要はないかな。

 

「これだけやってくれているんです。もう今更あれこれ言いませんよ。」

 

「……君は何歳なんだい?見たところ、ナルト達とそこまで変わらないでしょ。」

 

「……15歳です。兄さんとは双子です。」

 

「15ね。……再不斬のクーデターが10年前だから、5歳の時から霧隠れで忍をやってたのか?」

 

どうやら尋問が始まってるようだ。

 

成程、あからさまな尋問より、傷心中の私に優しさで接する事で口を開きたくさせる事が狙いかな。

 

「……さあ、どうでしょう。まあ、こういう尋問の手法は初めてだったので勉強になります。」

 

「………君は再不斬の言う通り、頭が切れるみたいだね。…………だったら、尚更此処で話した方がいいよ。木ノ葉には尋問や拷問を専門にした部隊もある。」

 

それはむしろ、どこの里にもあると思うけど。

 

「それに残酷な言い方をするなら、今の君に隠しだてするメリットは皆無に等しい。…………何せ、もう再不斬も白もいないのだから。」

 

「…………そう…………ですね。」

 

「悪いね。傷付ける言い方になっちゃって。」

 

「………わかりました。」

 

そうして私は今に至るまでの15年ノ短い人生を語った。

 

「……そして、貴方達がやってきた。」

 

「………そうか。君は5歳の時に村で迫害を受けて再不斬に拾われる。再不斬に忍の戦闘技術を教えられて戦ってきた。つまり、霧隠れの面はしてるけど、実際は霧隠れの忍者登録はされていないのか。だけど、霧隠れの暗部に潜入した事はあると……。随分と複雑な事情だね。」

 

カカシさん頭を抱えていた。

 

「とりあえず、君の処遇はオレが考える。正直、霧隠れに返す事も可能だけど、血継限界を忌み嫌っている霧隠れに君の居場所は無いと思う。……だから、木ノ葉へ連れていこうと思うけど、君の境遇が難しいだけに尋問や拷問とか、迫害を受けるかもしれない。だから、オレとの話した事を木ノ葉でどこまで話すかはちゃんと決めよう。」

 

まあ、そうなるでしょうね。

 

私自身、一体元何処所属なのか断言できない。正式に霧隠れの忍になった事はない。だから抜忍なのかも良くわからないし。そもそも忍者ですらないかもしれない。だけど、忍術は使える。

 

こんな厄介者を抱え込む事になったカカシさんは頭が痛いだろう。

 

「……いやー、でもよかった。最悪は写輪眼で聞き出そうかとも思ってたんだから。」

 

勿論それも警戒している。それは、情報を吐き出させる事ではなく、私に幻術が通用しない事を知られるかもしれない事だ。

 

写輪眼の幻術は、数多の幻術の中でも最強クラス。普通の忍ではまず抗えない。だからこそ、その性質を知られれば更に厄介な事になる。

 

カカシさんが強硬手段で来た場合も考えて、自分から話す事にした。

 

「……なら尋問なんてしなくてもいいじゃないですか?」

 

「………何事も信頼関係を構築するには、対話から始めないとね。」

 

「…………そうですね。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「此処ですか。」

 

「ああ、ここに2人は眠っている。」

 

兄さんと再不斬さんのお墓に連れてきてもらった。

 

私は2人に手を合わせる。

 

「………2人とも、私を護ってくれてありがとう。まだまだ辛いけど、2人の夢を引き継いでみるよ。ナルト君、サスケ君、サクラさん。きっとあの3人は兄さんの見立て通り、この世界を変えてくれるかもしれない。今なら私もそう思えるからさ。2人は安心して眠ってほしい。………さようなら。」

 

最後に涙を拭う。これ以上は涙を流さない。いつまでも泣いていちゃ、2人が安心できない。

 

私は立ち上がって墓を後にする。

 

「……もういいのかい?」

 

「ええ、別れは済ませました。」

 

「……そう。よし、出てきてくれ!」

 

カカシさんが森の方に声をかけると、ナルト君達3人が出てきた。

 

「……ナルト君。」

 

「お前はこれからどうするんだ?」

 

これから……

 

木ノ葉へ行って、身元の確認をして……いや、そう言う話ではないか。

 

「……私なりに再不斬さんや兄さんの意思を継ごうと思います。」

 

「まさか、また悪さするのか?」

 

「安心してください。ただ、誰かを守れるような人間になるってだけです。」

 

そう言うとナルト君はほっとした顔をする。

 

「そっか!」

 

「君は夢を叶えてください。兄さんは期待していましたよ。…勿論、私も応援しています。」

 

「……おう!」

 

「サスケ君、無事で良かったです。兄さんもサスケ君を殺さずに済んで安心していると思いますよ。」

 

「………アンタは……いや……」

 

サスケ君は何やら難しい顔をしている。

 

「私に答えられるかわかりませんが、遠慮なく聞いてください。」

 

「……じゃあ、アンタにとって兄とはどんな存在だ?」

 

それなら即答できる。

 

「私の半身です。」

 

「………そうか。」

 

どうやら私の答えでは納得できないのか、難しい表情は変わらない。

 

こればかりはサスケ君自身の回答を見つける必要があるだろう。

 

「サクラさん、何度も蹴り飛ばしたり、千本で刺して申し訳ありませんでした。」

 

「い、いいよ。任務だったんだし、それに殺す気はなかったんでしょ?」

 

「そうですね。……またどこかで会いましょう。」

 

「うん!」

 

スタッ、スタッ。

 

2人の忍が新たに現れる。

 

暗部の仮面をかぶっているが、霧隠れの物と違い、動物の面だ。

 

「我々は火影様直属の暗部。捕虜の護送でやってきた。」

 

成程。

 

「じゃあ、後はよろしく頼みます。くれぐれも丁重にお願いします。」

 

「了解です、カカシ上忍。」

 

「では、こちらの手錠をお願いします。」

 

私は手錠を嵌められる。

 

「一応は元敵の捕虜だからね。申し訳ないけど、木ノ葉までは我慢してくれよ。」

 

「大丈夫です。1週間お世話になりました。」

 

そうして私は暗部2人の先導の元、カカシさん達と別れて木ノ葉へ向かった。



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木ノ葉隠れの里

暗く狭い部屋。そこに座らされて縄で拘束される。目の前にはガタイの大きい男性がいた。

 

「オレは暗部の拷問・尋問部隊隊長 特別上忍の森乃イビキだ。名前は?」

 

「私は雪藍。」

 

「今から尋問を行う。嘘や黙秘はお互いに不幸な結果にしかならない為、お勧めはしない。…いいな?」

 

「わかりました。」

 

私はカカシさんと話し合って決めた内容を話す。霧隠れへの潜入などの複雑な事情を省き、再不斬さんの元で働いていた事だけを話した。

 

「……なるほど。カカシから聞いた内容と差異はない。」

 

「……なら、尋問など意味は無いんじゃ無いですか?」

 

「お前が嘘を吐く人物かどうかを判断する為だ。写輪眼を使って吐かせたようだからな。内容以上にお前の人間性の確認が重要だ。」

 

カカシさんがどうやら便宜を図ってくれたようだ。

 

「では、お前の身柄は火影様直属の暗部に引き渡される。そこで火影様直々に処遇が言い渡される。」

 

「わかりました。」

 

尋問は呆気なく終わり次の場所へと移動となった。

 

木ノ葉が巨大組織ってのもあるんだろうけど、随分と色んな所へたらい回しされている気がする。

 

段々と自分がどんな場所に向かっているのかわからなくなり、不安になってくる。

 

そうして、暗部の忍に案内された先は地下室のこれまた暗い部屋。

 

さっきとは違い拷問器具などは見当たらない。蝋燭が揺らめいているだけだ。部屋の中心には黒い着物を纏い、体の一部を包帯で隠し、杖を突いた老人がいた。その老人は此方を見るや否や目を細める。

 

「よくぞやってきた。……期待させて悪いが、ワシは火影では無い。……木ノ葉には大きく二つの暗部がある。一つは火影が管理する部隊。そして、木ノ葉の里を裏から守る『根』と言う暗部だ。ワシはダンゾウ。『根』のリーダーをやっているしがない老人だ。お前が連れてこられた意味が理解できたか?」

 

つまり、木ノ葉での所属はこの『根』の忍って事か。

 

「わかりました。」

 

火影様の所で処遇を言い渡すとは何だったのか?

 

「………不思議そうだな。現場から話が来た時点でお前の所属は決まっていた。ただ、火影が一度顔を見たいと言っていたのだが、今は中忍試験という他国を巻き込んだ催しがあるため、来れなくなっただけだ。」

 

「………そうですか。」

 

何か腑に落ちない。だけど、それを確認する事ができないなら仕方ない。

 

「何故、『根』かと言うとお前は木ノ葉の人間では無いからだ。正式な表の木ノ葉の忍にはできない。つまり、必然的に裏になっただけだ。」

 

「私以外にも、『根』には外部の人間がいるんですか?」

 

「殆どは木ノ葉の者で構成されているが、お前のような例もある。………ではこれからお前は『根』の者だと言いたいが、その前に試験のような物がある。」

 

「試験…ですか?」

 

「……そうだ。2人1組で野営と修行を行う。…まあ、合宿のようなものだ。これを通して、『根』に配属された時の連携や木ノ葉のルールや文化を学んでもらう。……因みに相方となる者はこちらから選定する。お前と同じ『根』の配属予備生だ。」

 

結構しっかりとした話で驚く。今までのたらい回しが何だったのかというレベルである。

 

「それから、暗部になるに当たって本命を名乗る事は許されない。今からお前は『シロ』と名乗れ。」

 

「……了解しました。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いい掘り出し物を見つけたものだ。

 

数年前に雪一族の生き残りを大蛇丸が見つけたという情報はあった。

 

大蛇丸がずっとマークしていた。その血継限界は波の国に潜伏しており、霧の忍刀七人衆の1人が側にいる事から手を出せないでいた。

 

だが、状況は一変する。その国の貧乏な老人が木ノ葉にやってきたのだ。そこに巣食う子悪党を倒してほしいという依頼をぶら下げて。チャンスだと考えたワシはその老人が木ノ葉に来るまでの道中を「根」の部下に護衛させた。結果的に上忍最強クラスのカカシが向かい、見事忍刀七人衆の1人を打ち倒してくれた。巻き添えの形で1人の血継限界が死んでしまった事は残念だが、まだもう1人残っている。あの小娘にとってタズナという老人はまさに死神だった訳だ。

 

そこからは簡単だった。情報を火影に渡さず、「根」の者を火影直属の暗部に見せ、何回か情報を下に流す事で、森乃イビキやカカシを騙して、雪藍を手に入れる事に成功した。

 

また、最近は大蛇丸が木ノ葉崩しの準備に奔走している為、雪藍にかまっている暇など無く、軽い取引だけで譲ってくれた事も大きい。大蛇丸にとって氷遁は魅力的ではあるが、それ以上に木ノ葉崩しの方が大事であり、更には写輪眼に執着していた訳だ。此方からヒルゼンを殺しやすいように侵入の手助けをする事で譲ってくれた。

 

まだ氷遁には目覚めていないようだが、これから目覚めればいい。所詮他国の者だ。薬でも何でも使えばいいし、大蛇丸の手を借りてもいい。それが駄目でも母胎として木ノ葉に尽くして貰えればいい。容姿は綺麗なものだから、相手に困る事もないだろう。血継限界の血族を増やす事で木ノ葉に貢献できる事もある。抵抗すれば手足を捥いで、飢えた男達にでも与えればいい。直ぐに次世代の血継限界が生まれるだろう。

 

まずは心を殺し、木ノ葉に忠誠を誓ってもらわねばならない。

 

それとヒルゼンには引退してもらわなければな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

暗部の人に案内された場所は広い草原。周りは森で囲まれている。

 

確かにこれなら、この広場での訓練や森の中での訓練などができる。いい立地ではないか。

 

すると後ろから誰かが近づいてくるのを感じ、振り返る。

 

視線の先には、黒髪に白い肌が特徴的な可愛らしい女の子がいた。

 

「初めまして、シロと言います。」

 

「……初めてまして、クロです。」

 

「貴女が『根』の入隊予定の方ですか?」

 

「…はい。シロさんもですか?」

 

年齢はナルト君達よりも下だろうか、見たところ10歳程度だ。

 

「そうです。なら私達がペアという事ですね。よろしくお願いします。」

 

「こちらこそお願いします。」

 

私達はお互いに握手した。



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姉妹

「クロー!そっち行ったよ!」

 

木ノ葉に来て1ヶ月が経っていた。クロと訓練場で過ごしながら、連携の練習をしていた。

 

「はい、姉さん!!」

 

クロがクナイを投げる。

 

だけど、獲物は野生の勘を働かせて巧みにクナイを避ける。そこに私が千本を投げる。

 

殺傷力は低いけど、的確に足のツボを貫く事で機動力を削ぐ。

 

「クロ!今よ!!」

 

「はい!!はあああっ!!!」

 

今度はクナイが全て命中した。痛みに悶え動きを止めた獲物をクロが忍刀で首を刎ねた。

 

「見事だったよ、クロ!」

 

「ありがとう、シロ姉さん。」

 

「今日は鹿肉か。とても2人で食べ切れる量じゃないよね。」

 

「それよりも、血抜きとかの処理が大変だよ、姉さん。」

 

私達は姉妹のように仲が深まっていた。

 

というのもこれまでの人生で接した人間なんて、兄さんと再不斬さんぐらいしか居なかった。年齢が近い女の子と一緒に居た事がなかったから、とても楽しく感じていた。

 

本当なら一緒に本を読んだり、普段何をしてるのか聞いたり、話したりして遊びたいのだけどここは暗部。やっている事は血生臭いことばかり、そこは残念だけど、それでも楽しかった。

 

クロは最初出会った時は本当にただの女子で、戦闘能力とかはなかった。

 

だから、私が忍術や体術を教えた。殆どが再不斬さんと兄さんの受け売りだけど。それでもクロの才能は凄くて、あっという間に成長していく。いつ、私が抜かされるかヒヤヒヤしながらも彼女の成長を応援している。

 

忍術の才能が無い私にはあまり手本を見せれないのだけど、印を教えただけで簡単に再現してみせた時は戦慄したものだ。忍術のレパートリーは完全に負けている。流石に体術と手裏剣術はまだ私に分があるけど。これすらも抜かされたら、私の立場がない。

 

適当に捌いて、焼いて食べた。火を起こすのは簡単だ。クロが火遁を使えるから重宝させてもらっている。初めて使った時は火力の高さにかなり驚いたものだ。今は自由にコントロールできている。

 

「じゃあ、また忍組手のお相手お願いします。」

 

「うん、わかった。」

 

食事を終えた後、2人で向かい合う。

 

「行きます!土遁・列土転掌!!」

 

私の足元で地割れが起こる。一瞬足を取られるけど、すぐに跳んで走る。

 

「土遁・土流壁!!」

 

クロは下がりながら、土の壁を作って私の進路を塞ぎに来る。

 

すぐに駆け上がる。下を見れば、更には後退していたクロが術を放ってくる。

 

「火遁・炎弾!!」

 

炎が迫ってくるが、すぐに壁を飛び降りて瞬身の術で迫る。

 

「うっ!」

 

クロがクナイを投げてくるが、千本を投げて迎撃する。

 

瞬身の術の速度と私が体術が得意なのはクロもよく知っている。だからこそ、徹底的に距離を離そうとしてくる。

 

それでも私の足を止める事は叶わず、懐に潜り込む。

 

「影分身の術!!」

 

成程、体術と速度勝負になれば勝てないから、2対1で対処する訳か。

 

「でも、私も全く忍術が使えない訳じゃないよ。水分身の術。」

 

作り出した水分身が影分身を襲う。

 

私はクロの本体を狙う。

 

繰り出してくる手掌を屈むと同時に足払い。

 

「キャッ!」

 

空中に投げ出されたクロの腹に左足を突き刺す。

 

「グゥ!」

 

体捌きと速度、千本の取り扱いは得意だけど、力が非常に弱い私は、直接打撃を狙う時は足技を使う。拳では殆どダメージが通らないからだ。

 

飛ばされるクロは空中で体勢を立て直し、クナイを投げてくる。その全てを千本で撃ち落とす。

 

そのまま忍刀を抜いて斬り掛かってくるが、千本で受け流す。

 

「そんな細い針でよく刀を受け流せますね。」

 

「チャクラコントロールで、針に風のチャクラを流してるのよ。」

 

「成程、また後で教えてください…よっ!」

 

横凪の一閃。少し首を逸らして回避、そのまま今度は千本で斬りかかる。

 

「くぅ!」

 

ギリギリでクロも私の攻撃を捌く。

 

小さく跳んで、踵落としを放つ。

 

クロは両腕でガードしてくると逆に空中の私に回し蹴りを放ってきた。

 

だけど、それも空中で体を捻って回避。

 

「ウソォッ!」

 

捻った時の回転を利用して蹴り飛ばす。

 

「本当に体術では敵いそうもありませんね。でも、軽いですよ。」

 

「それでも攻撃が当たらなきゃ意味ないよね?」

 

「そうですね。だからこそ……」

 

瞬間、背後に気配を感じる。どうやら影分身が水分身を倒したらしい。影分身の方がオリジナルに対しての弱体化がマシだとしても、もう水分身なら倒されてしまう程度には成長したのか。

 

でも水分身が倒されれば、水が撒かれる。それを利用させてもらう。

 

「秘術・千殺水翔」

 

地面に撒かれた水が無数の針となって影分身を貫く。

 

不意打ちを仕掛けたつもりだろうけど、私は気配を察知する能力に長けている。感知タイプと言っても過言ではないくらいに。

 

逆に不意打ちを食らった影分身は消滅し、煙を出す。

 

その煙に気を取られている隙に瞬身で回り込む。回り込んだ先にクナイがあった。屈んで避ける。

 

どうやら目で追えない瞬身だが、クロは直感で真後ろにクナイを振り抜いていたらしい。

 

「惜しい。風遁・烈風掌」

 

掌に風を纏いそのまま、手掌を放つ。

 

「キャ!」

 

吹き飛ばされたクロを瞬身で追いかける。そのまま地面に倒れた彼女に千本を突きつける。

 

「……参りました。」

 

「膂力が弱くても、こうして風遁を補助に拳を強化する事も可能よ。」

 

「…………それは姉さんくらいのチャクラコントロールがないとできないんじゃ……。」

 

私はクロの手を取って立ち上がらせる。

 

「とりあえず、シャワーを浴びようか。」

 

「そうね、姉さん。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねえ、シロ姉さんは何でそんなに強いの?」

 

シャワーを浴び終わって、紅茶を飲んでいたらクロに聞かれた。

 

「別に強くはないよ。クロよりも先に忍術を教えてもらっていただけよ。」

 

「そうですか。……シロ姉さんは何で『根』に入ろうと思ったの?」

 

「……入りたくてここにきた訳じゃないんだ。私には忍術の師匠がいたんだ。その人が亡くなってしまってね。行き場を無くした私を木ノ葉が拾ってくれただけなんだよ。」

 

「そうだったんですね。」

 

「私には同い年の兄さんが居たんだ。所謂双子って事だね。私よりも可愛らしい顔をしていて、女の子に見える事が密かなコンプレックスなそんな兄さんが居たわ。私の師匠や兄さんは私よりも遥かに強い忍者だった。………兄さんは本当に強かった。それは忍術だけじゃなくて、心も。いつも私を守る為に必死に戦ってくれた。……2人とも殉職しちゃったんだけどね。だから、私が兄さんの意志を継ごうって決めてるの。」

 

「………誰に殺されたんですか?」

 

…………っ

 

「……別に誰に殺されたかなんて気にしても仕方ないわ。」

 

「………でも、憎くないんですか?悲しくないんですか?……誰かに気持ちをぶつけたくなるものじゃないんですか?」

 

「……そう…ね。」

 

あの時を思い出す。2人が死んだと聞かされた時。2人の墓の前に立った時。その時の事を思い出すと今でも涙が出てくる。

 

「………悲しいわ。……でも、私が誰かを………傷つける所を……兄さんは見たくないと……思うの。…兄さんは平和を………願っていたもの。」

 

「でも、それは姉さんの気持ちじゃ………。」

 

私はクロに手で制止をかける。

 

「お願い。………これ以上は言わないで。」

 

「………わかりました。出過ぎた真似をして申し訳ありません。」

 

「……いいよ、心配してくれる気持ちは伝わったから。……クロはどうして『根』に来たの?」

 

「……私は生まれた時から親がいなく、物心ついた時には木ノ葉隠れの里の孤児院にいました。孤児院での生活は貧しくとも、色んな子供とマザーが見ててくれた事もあって、とても楽しい生活でした。だけど、孤児院の経営は苦しくて、年々食べ物が貧相になっていく事がわかりました。私は孤児院での生活が10年という事もあって、孤児院内で私よりも年上の人は殆ど居なくなり、気がつけばお姉さんになっていました。……そんな時にダンゾウ様から『根』へ入れば、孤児院に援助金を出してくれると相談を受けたんです。」

 

「…………成程。」

 

「10年も育ててくれた感謝と私の弟や妹達に笑って過ごしてほしくて、私は忍者になろうと決めたんです。」

 

そっか。この子は私みたいな流れ着いた者ではなく、ちゃんと誰かを助ける心が既にある。まるで兄さんを見ているようだ。

 

私にはクロがとても眩しく見えた。

 

「そうなんだ。だったら、もっと強くなれるように私も協力するよ。」

 

「はい!お願いします、シロ姉さん!」

 



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木ノ葉崩し

今日はクロと一緒に手裏剣術の修行をしていた。

 

森の木々を跳びながら、的目掛けて千本を投げる。クロの私に続いて手裏剣とクナイを投げて当てていく。

 

クロとの生活も2ヶ月が経ち、今も尚成長している。

 

「もう完璧ね。」

 

「ありがとうございます。」

 

クロの投げた手裏剣とクナイは的の全ての的の中心を射抜いていた。

 

「じゃあ、私のとっておきを教えようか。」

 

「とっておきですか?」

 

「見ててね。」

 

無数にある的を確認。木々の裏にも的がある事を確認して私は千本を構える。

 

真上にジャンプして四方に千本を投げる。また、時間差で更に千本をより早く投げる。

 

飛んで行った千本は悉く的を貫き、千本同士を当てて軌道を変えて、木々の裏の的にも当てる。そのまま着地。その場から移動することなく、ただの一回のジャンプで全ての的を射抜いた。

 

「す、凄い!!凄いです!!!姉さん!!!」

 

クロが大はしゃぎで褒めてくれる。何だか照れ臭くて恥ずかしい。だけど素直に嬉しくもある。

 

きっと兄さんも私に術を教えてくれていた時はこんな気持ちだったんだろう。

 

「原理は簡単。千本に千本を当てて軌道を変えるだけ。でもかなり難しいのよ。」

 

それからクロは何度も練習したが、習得は困難だった。とはいえ才能豊かなクロはどんどん吸収していく。

 

そんな時だ。

 

「ねえ、クロ。」

 

「何ですか、姉さん。」

 

「何だか里の方が騒がしくないかしら?」

 

「……そうですね。」

 

何となく、里の方角をぼうっと見ていたら、「根」の忍が2人やってきた。

 

「お前達、今から俺とキンの部隊として里へ向かってもらう。」

 

「今、里に音隠れという里の忍と砂隠れの忍が里を襲っている。」

 

「そんな!」

 

「人手が足りない。故にまだ正式な配属がされていないお前達にも里の守護の任務が回ってきた。……すぐに着替えて来い。」

 

「「はっ!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「大丈夫?」

 

「……うん。」

 

クロは不安そうな顔で頷く。初めての実戦だ。緊張もするだろう。

 

「先輩達から絶対に離れたらダメだよ。危険だと思ったら、真っ先に逃げていいから。」

 

「……ありがとう、シロ姉さん。」

 

偉そうな事を言っているが、私の実力も精々が上忍に手が届くか届かないか程度の中忍レベルだ。敵には私よりも強い人が履いて捨てる程いるだろう。

 

忍装束に着替えて、暗部の動物の面を被る。

 

「行こう。」

 

「……うん。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

里の状況は酷い有様だった。

 

砂隠れと音隠れの忍が里を襲っていた。木ノ葉の忍は暗部問わず戦っているが、単純に2対1の状況で常に数の劣勢を強いられている。

 

しかも、里の至る所で巨大な蛇が暴れまわっていた。まだ住民も避難しきれていないようでより守勢に立たされて苦しい状況だ。

 

私の口寄せとは比較にならない程の強力な口寄せ動物。しかもそれを複数体使役できるなんて。これを口寄せした忍が如何に強力であるかを物語っている。

 

「行くぞ!」

 

「はいっ!!」

 

先輩の号令で私も戦線に加わる。

 

私の持ち味は瞬身の速度!

 

止まらずに常に走り続ける!

 

目の前には3人の敵!

 

千本を投げる。

 

「風遁・烈風掌!!」

 

投げた千本を加速させる。

 

「チィ!」

 

あまりにも速い千本を回避するのは不可能。故に迎撃する。だけど、その隙に次の印を結び終えている。

 

「風遁・風切りの術」

 

「グアァ!!」

 

高速で飛ぶ風の鎌鼬が敵を切り刻む。

 

私の背後で何かが爆発する。

 

おそらく私目掛けて術を放ったけど、この速度で移動しているから当たらなかったんだ。

 

そのまま速度で圧倒して千本と風遁で処理していく。

 

だけど、空から何か巨大な物体が飛んできて、否応でも足を止めさせられる。

 

「シャアアアアア!!!!」

 

巨大な蛇だ。それも巨体に見合わない速度で動き回り、他の忍を蹴散らしていた。

 

尻尾の叩きつけがくる。瞬身の術で回避する。

 

「風遁・風切りの術!!」

 

風の鎌鼬を飛ばすけど、硬い鱗にはダメージが通らない。

 

クソッ!

 

私は基本的に速度で戦うタイプなのに!!こいつを仕留めるにはどうしても火力がいる!私の手持ちの術では二つ。だけど、街中で破奔流は無理だ。ならもう一つしかない!!!

 

今度は突進してくるが、これも難なく回避。

 

いくら速いって言っても、私の瞬身には敵わない。そして、隙は見逃さない!

 

「風遁・獣破烈風掌!!!」

 

巨大な手を象った風が大蛇に直撃。悲鳴を上げた大蛇は煙を上げて消滅した。

 

「ふう………。」

 

何とかなった………。

 

落ち着いたのも束の間、再び大蛇が現れる。しかも今度は三つの首がついた更に大きな蛇だ。

 

ちょっとは休ませてよ!!

 

攻撃パターンに変化はない。さっきよりも威力と防御力が上がったぐらいだ。

 

動きは見切っているだから、躱して術を当てるのは容易い。ただ、ダメージを与えるのが大変だ。

 

更に火力が必要か。

 

最近開発した新術を使うしかない。威力は破奔流や獣破烈風掌よりも上だけど、消費するチャクラもそれ相応に多い私の奥義。

 

右手に破奔流、左手に獣破烈風掌。その状態で術を放たずに両手を合わせる。二つの大きなチャクラを混ぜる。両手の中で暴れるチャクラを繊細なコントロールで手懐ける。そのまま両手を前に突き出せば、術は放たれる。

 

 

「忍法・颶風水禍の術!!」

 

 

巨大な水の竜巻だ。その大きな竜巻は大蛇を真っ二つに切り裂き、更には粉々に切り刻む。一瞬で消滅する大蛇。それと血の雨。

 

「…………」

 

自分でもドン引きするレベルの威力だ。こんな威力の術。通常なら無駄な火力だ。こんな物なんて、それこそ伝説の尾獣とかが相手じゃなきゃ使わないだろう。

 

私の血筋ならこれで氷遁になるはずなんだが、何故かできない。

 

でもこれはこれで凄い威力だから、使えない事は無いな。

 

とは言っても、早速この術のデメリットが現れ始めていた。

 

「はあ、はあ……はあ」

 

チャクラの殆どを失ってしまった。

 

ドスンッ……

 

「シャアアアアア!!!!」

 

また……

 

もう一体、蛇が出る。

 

流石にチャクラがしんどい。

 

大蛇が攻撃してくるが、瞬身で全て回避する。

 

「風遁・獣破「忍法口寄せ・屋台崩しの術!!!」!!」

 

なけなしのチャクラで術を放とうとした時、頭上から巨大な蛙が降ってきて大蛇を押しつぶした。

 

「全く、みんな右往左往して見てられんのォ!」

 

先輩や他の忍も集まってくる。

 

「……あの人は?」

 

「あの方は自来也様だ。」

 

あれが伝説の三忍。

 

私がチャクラをすっからかんにして、倒していた大蛇をこんな簡単に。

 

「だが、お主。なかなかやるのぉ。」

 

「…あ、ありがとうございます!」

 

「蛇はワシに任せておけ!」

 

「了解しました!」

 

私は立ち上がり駆け出した。

 

ビンゴブックでも見た事がある。

 

独特で多彩な術を操る伝説の三忍。蛙の口寄せを得意とし、実力は影クラス。

 

自来也様に大蛇を任して私は音と砂の忍を相手取る。

 

少ないチャクラを繊細なチャクラコントロールと体術で対処した。上忍にも出会ったが、私よりも実力が上な相手には無理をせずに、速度で引き離し逃げる。

 

そうして立ち回っていると、敵が撤退し始めた。こうして、木ノ葉崩しは終わった。

 

この戦いで多くの犠牲が出た。三代目火影の死亡が一番大きな犠牲だろう。

 

全ての人間を救えるようになりたいだなんて、神様のような事は言わない。だけど、もっと私が強かったら犠牲は減らせたかもしれない。兄さんと再不斬さんを失ったあの悲しみを繰り返さないように、更に強くなろうと思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「根」の訓練場に帰ってみれば、クロも無事だった。

 

「クロ!無事だったのね!」

 

「シロ姉さんも無事でよかったです!」

 

「怪我はない?」

 

「大丈夫です!ずっと先輩に着いていましたから!」

 

「よかった。私も大丈夫。少し疲れちゃったけどね。」

 

その日はすぐに食事を摂って眠りについた。この後すぐに砂隠れが音隠れに裏切られた事が明かされ、砂隠れが木ノ葉に降伏。この戦争に終わりが打たれた。



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悪意

最近どうにも現状がキナ臭いと感じている。

 

あの木ノ葉崩しの後に、里の様子を確認したいが為に口寄せでユキウサギに里の様子を確認させていた。

 

そこで噂程度はあるがこんな話を確認している。

 

『木ノ葉の【根】では、心を殺した忍を育成する為に、2人1組で生活させて殺し合わせる。』

 

あくまで噂だ。証拠がある訳でもない。だけど、そんな不穏な噂を耳にすれば否応にも不安になる。

 

クロにはこの話はできない。不安にさせちゃうし、噂話で本当かもわからない。

 

でも、現状私とクロはとても仲がいい。ここでもしクロと殺し合えと言われれば、それは正しく効果的なのではないのか?

 

噂だと切り捨てるには、あまりにも状況が合致している。もし本当なのだとしたら……。

 

私は密かに覚悟を決めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから数ヶ月後。危惧していた事態が現実となる。

 

その日、訓練場の森で初めてダンゾウ様が現れた。普段は「根」の先輩方が観に来る事はあった。

 

そして、ダンゾウ様から告げられた内容は2人で殺し合えという内容だった。生き残った方が「根」となる。この森から出られるには何方か1人だけとも。それだけを話してダンゾウ様は消えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

お互いに沈黙してしまう。

 

当然だ。今まで同じ釜の飯を食べた仲間だ。今からその相手を殺さないといけないなんて。

 

クロは目に見えて狼狽えていた。

 

でも、私はある程度覚悟をしていたから切り出せた。

 

「……ねえ、クロ。」

 

「………な、なんですか、シロ姉さん。」

 

クロが怯えた目で此方を見てくる。多分殺されると思ってるんだろう。

 

「……貴女は森を抜けなさい。私はここに残るわ。」

 

そういうと、クロは目を見開いた。

 

「……ま、まさか、姉さん。……死ぬ気なの?」

 

「…………」

 

「どうして!?……姉さんの方が強いのよ!」

 

「……私と貴女じゃ、志が全然違うわ。私はただここに流れついただけ。貴女は孤児院を助ける為にここにきた。」

 

「……でも、こんなの……」

 

「それに私には、あの世で兄さんと師匠が待ってるからね。……こんな死に方で残念だけど、少し早めに2人に会うのも悪くないかなって思ってる。」

 

「……それでも」

 

クロはそれでも苦しそうに顔を顰めている。本当に優しい子だ。でも、ここは突き放してあげないといけない。

 

「甘ったれるな!!!!」

 

「!!?」

 

「貴女が死ねば、孤児院はどうなるの?目的を忘れないで!いちいち目の前の出来事に振り回されて、孤児院の子供達にそのツケを払わせるな!!!」

 

怒鳴って見せれば、クロは泣き出してしまう。

 

「……貴女も孤児院のお姉さんなんでしょ?だったら、護ってあげなよ。」

 

クロの頭を撫でる。落ち着いたのか静かに頷いた。

 

「……ありがとう、姉さん。お世話になりました。」

 

クロは覚悟を決めた目で此方を見てくる。

 

「うん。貴女も誰かを護れるようになってね。」

 

そうしてクロは出ていった。

 

私は訓練場の中央、草原の広場で寝転がる。空はとても綺麗な青空だ。

 

思わず胸を掴んでしまう。

 

私はこの木ノ葉の里に兄さんと再不斬さんを奪われた。そして、木ノ葉の里に殺される。

 

胸に込み上げてくる苦しさ(憎しみ)を必死で押さえつけて、気が付いていないフリをする。そして口に出す。

 

「兄さん、再不斬さん。私も誰かを護れるようになったよ。クロっていう友達なんだ。2人にも紹介したかったな。……もうすぐ2人の処に行きます。」

 

口に出せば、かなり気持ちも楽なる。胸を押さえつけていた手を離し、大の字で寝転がっていた。

 

かなりの時間が経過していた。気がつけば、青い空が赤くなっていた。

 

私は起き上がり、歩く。

 

確か訓練場の東は崖になっていたはず。

 

やがて崖端に着く。下は川が流れていた。高さは50mはあるだろうか。何もせずに落ちれば、即死できる。

 

足を踏み出そうとした時に後ろから声をかけられた。

 

「何処に行こうとしている?」

 

驚いて振り返る。ダンゾウ様と複数人の「根」の者が取り囲んでいた。

 

私が気配に気が付かないなんて……。

 

どうやら自分が思っている以上に精神的に参っているようだ。

 

ダンゾウ様が無造作に何かを投げた。それは転がって私の目の前で止まる。

 

 

 

 

 

それはクロの生首だった。

 

 

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 

「全く、手間をかけさせる。」

 

「……な、なんで?」

 

「何故?……これはお前が我が『根』に属する為の儀式だ。普段であれば、何方かが生き残った者が『根』となるが、お前は血継限界だ。それを安易と失わせる訳にもいかん。だからお前の相方は実力がかけ離れた者を選んだのだ。だから、クロは初めからお前に殺される為にここにやってきた訳だ。」

 

「…そ、そんな。孤児院への援助は……。」

 

「無論援助はしている。次世代の木ノ葉の礎になってもらわねばならん。クロも孤児院が救われて喜んでおろう。木ノ葉の血継限界を生かす為に犠牲となったのだ。木ノ葉に貢献できる事を喜んでいるであろうな、あの世で。……さて。」

 

ダンゾウ様の視線がクロの生首から私へ移る。

 

「どうやらお前は『根』の考えに賛同できんようだ。だが、別に『根』になることだけが、木ノ葉への貢献という訳ではない。お前は血継限界だ。優秀な苗床として貢献してもらう。……お前達、手足を捥いで捕らえよ。」

 

瞬身の術で逃げた。

 

「ふむ、その身のこなし。うちはシスイを思い出させる。」

 

逃げながらも何人もの「根」の忍が斬りかかってくる。

 

必死にいなして走りながらも、私の思考はぐちゃぐちゃだった。

 

ーなんで?ーーどうして?ーー私だけいつもこんな目に遭う?ーー憎いーー木ノ葉がーー世界がーーいやだーーだめだーー木ノ葉に敵対したらーーまた滅ぼされるーー復讐?ーー兄さんは望んでないーーなら死ぬ?ーー嫌だーーじゃあーーどうしたらーーカカシさんーー助けをーーそれまで持ちこたえれる?ーー無理だーーそもそもーー木ノ葉の忍ーー信用ーーできないーーでもーーナルト君は?ーー兄さんの夢ーーわからないーーわからないーーわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。

 

「うわあああああああ!!!!!!!!」

 

絶叫と共に力が溢れ出す。

 

目の前に大きな氷の山ができていた。「根」の者は全員氷漬けにされていた。

 

「はあ!はあ!はあ!」

 

私はすぐに瞬身の術で走り出した。

 

森と山を抜けて、木ノ葉の結界を抜ける。

 

ここまで来れば、安心かな。

 

と安心した瞬間、後頭部に打撃を受けた。

 

「ガッ!」

 

脳震盪で意識を失う前に見えたのは、メガネをかけた忍。音符のマークがついた額当てだった。



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覚醒と新たな力

目が覚める。

 

薄暗い部屋に薬品の匂い。

 

ここは何処だろう?

 

確か私はクロを殺されて、ダンゾウに追われていたはず。

 

「あら、目が覚めちゃったわね。」

 

「申し訳ありません、大蛇丸様。睡眠薬の効きが悪いようで。」

 

声が聞こえた方を見る。

 

そこには白い肌に長い黒髪の着物を纏った男性。それとメガネをかけた男性。

 

確か私に攻撃してきた人のはず。

 

更にもう1人、白髪の長い髪の男性がいた。

 

「せっかくダンゾウにはプレゼントしてあげたのに、うまく手懐けられなかったようね。」

 

「でも、お陰でこうして手に入れることができた。」

 

「君麻呂、彼女が新たな6人衆のメンバーになる子よ。」

 

「はい、大蛇丸様。」

 

今大蛇丸って言ったよね。

 

大蛇丸…。ビンゴブックで知っている。木ノ葉隠れの伝説の三忍。三人の中で最も忍術に長けた忍。

 

……また木ノ葉。

 

ここまで来ると笑えてくる。

 

一体私が木ノ葉に何をしたというのか。そんなに恨まれるような事をしたのか?

 

確かに私は霧隠れの潜入中や賞金首を狩っていたりして、人を殺した事も何度もある。

 

霧隠れの忍にやられたら、理解はできる。だけど……いや、この考えは無意味だ。恐らく、あの時のタズナさんが連れてきた忍が雲隠れなら雲隠れに、岩隠れなら岩隠れに、偶々木ノ葉が来ただけの違いでしかない。他所の所が来たら、またそこで相応の扱いを受けていたんだろう。

 

だからと言って、大人しくしてはいられない。もう再不斬さんも兄さんも居ないんだ。自分の身は自分で守る。

 

そうだ。2人を失って尚、カカシさんや他人に甘えようとしたツケがこれなら、いい加減目覚めるべきだ。

 

両腕は壁に鉄の腕輪で拘束されている。

 

私の膂力では到底脱出できない。

 

だけど、私は確かにあの時、覚醒した事を知っている。あの感覚だ。

 

今思えば、再不斬さんと初めてサイレントキリングの練習をした時。あのゾンビと戦った時。そして、ダンゾウから逃げていた時も同じような感覚だった。

 

自分自身を深い水底に沈める感覚。

 

集中して解き放つ。

 

瞬間私の腕の拘束が弾け飛んだ。それと同時に氷の剣山が3人を襲う。

 

「大蛇丸様!!」

 

白髪の男性が身体から骨を出して、剣のように振るう。

 

氷の棘達は砕かれるが、即座に次の攻撃を放つ。

 

「氷遁・万華氷」

 

今度は氷でできた千本だ。空中に無数の氷柱ができるそれを射出。

 

今度はメガネをかけた忍が両手にチャクラを纏って弾いてきた。

 

これじゃジリ貧か。3対1な上、相手の方が格が上。しかも今初めてまともに氷遁を使い始めたんだ。ここで戦うには無謀過ぎる。逃げるしかない。

 

今度は氷剣山と万華氷を同時に放つ。弾かれるのは計算に入れて即座に次の術を発動。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

そしてそのまま瞬身の術で逃げ出した。

 

廊下を走る。正直構造がわからない。

 

背後の気配を鑑みるに追われている。

 

適当な部屋に転がり込む。

 

「フフフ、何処に逃げても無駄よ。ここは私の研究室なのだから。」

 

蛇の感覚気管は並大抵ではないらしい。一種の感知タイプか。

 

大蛇丸が私の逃げ込んだ部屋に入ってくる。

 

無数の気配がある。恐らく大蛇丸の僕達。ここで戦うのは以ての外。かと言って逃げる事も無理だ。せめて手傷と混乱が必要だ。

 

「氷遁・白氷龍の術!!!」

 

イメージは水龍弾の術だ。あれを氷で再現する。

 

無論こんな狭い部屋で使う技じゃない。

 

故に地下のアジトは大爆発。

 

即座に上へ逃げる。地上に出るが、よくわからない森の中だ。

 

次の瞬間、無数の蛇が頭上から降ってきた。即座に回避。

 

「カブトと君麻呂は別のアジトへの移動の準備をしなさい。私はちょっとこの娘と遊ぶわ。」

 

「わかりました。大蛇丸様。」

 

「潜影多蛇手!!!」

 

大量の蛇が襲いかかる。

 

速い!!

 

蛇が身体に絡みつき、首を噛みつかれた。

 

その瞬間、体が水になって弾けた。

 

「水分身ね。」

 

「はあ、はあ。」

 

「いい目をする様になったわね。甘さが無くなったわ。」

 

「……まるで、前から知ってるような口振りね。」

 

「勿論知ってるわ。貴女が以前戦った忍刀七人衆。あれを使役していた時の貴女なんて、見てて微笑ましかったもの。……随分と成長したものね。」

 

あの栗霰串丸のゾンビは此奴が操ってた訳か。

 

「あれはお前の仕業だったのか。」

 

「……私はずっと見ていた。ちょうど木ノ葉崩しで忙しかったからダンゾウにあげたけど、取りこぼしたのならいただくまでよ。」

 

「…………成程。つまりお前が元凶の一人という訳ね。」

 

頭が急速に冷えていく。

 

何かしら原因があるって事なら多少は救われるし、冷静になれる。

 

今の状況がただの偶然の重なりによる理不尽って言うわけではないのだから。

 

さっきまでダンゾウの所を逃げてきたばかりで、武器の類は一切ない。

 

なら作るしかないか。

 

「氷剣」

 

氷の直剣を作る。

 

大蛇丸はそれを見ると口から蛇を出す。

 

何とも気色の悪い術だ。

 

その蛇から刀が出てくる。

 

「これは草薙の剣よ。何方が上か遊んであげるわ。」

 

瞬身の術

 

一瞬で懐に潜り、斜めに一閃。それを草薙の剣で受け止めてくる。

 

かえす刀で横凪に剣が振るわれるが、屈んで躱し、足狩りを狙う。それを少し跳ぶ事で回避した大蛇丸を下から切り上げる。

 

ギリギリでガードされるが、大蛇丸は後ろへ後退した。

 

「そういえば、貴女は速度と体術が得意だったわね。部が悪いかしら。」

 

そうは言いながらも全てをギリギリでガードできるのは、流石影クラスと言ったところ。

 

氷剣を消して、今度は槍を作る。

 

「氷槍」

 

「とても多彩ね。魅力的だわ。」

 

長い舌を舐めわしながら、近づいてくる。

 

もう一度最速で踏み込んだ。

 

「潜影蛇手!!」

 

瞬身で突っ込んだ事が仇となる。蛇が身体に巻き付き噛みつかれる。

 

だが、今度は噛みつかれた身体が氷となる。

 

氷分身

 

そして、氷になった分身を起点に大蛇丸が凍結する。

 

すると口を大きく開けた大蛇丸が口から大蛇丸を吐き出した。

 

何あれ?

 

まるで蛇の脱皮……。

 

だけど、その動作は隙が大きい。槍で突く。

 

草薙の剣で受け止められるが、慌てない。片手で印を結ぶ。

 

「秘術・千殺水翔。」

 

水の千本が大蛇丸を襲うが逃げられる。

 

だけど速度は此方が上、すぐに追いかけて槍で刺した。

 

この氷槍はただの氷の槍じゃない。刺した対象の水分を利用して更に槍を無数に作る。つまり………

 

「ぎゃああああ!!!」

 

大蛇丸の身体から無数の赤い棘が生えてきた。

 

「罪の枝。」

 

私は少し距離を取り、印を結ぶ。

 

案の定、脱皮する大蛇丸。想定内だ。だから、出てきた瞬間にこの術を放った。

 

「忍法・颶風水禍の術。」

 

この日、大蛇丸のアジトは水の竜巻によって消滅した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ…はあ…」

 

何とか逃げる事に成功した。気配感知を最大限にして警戒した上で誰も気配を感じなかった。

 

大丈夫。さっきみたいなヘマはもうやらない。

 

逃げれた訳だけど、これじゃ私は抜忍って事になるのか?そもそも、まだ正式な「根」では無かったのだが。それをいうなら、水の国から出て行った時点で抜忍なのか?結局、自分が何者なのかよくわからない。立ち位置がよくわからない。だけど、一つ言えることは私に居場所なんて何処にもないって事だ。

 

まあ、そんなネガティブな事を考えてもしょうがない。

 

私は自分の掌を見る。

 

この力……多分忍術ではない。

 

私はチャクラ量が少なく、忍術の才能がないんだ。10年修行してようやくこのレベルで水遁と風遁を使えるようにはなった。でもすぐにチャクラが切れるはずなのだ。

 

しかし、さっきの氷遁は初めて使うのにあれだけ多彩に色々使えてしまった。今息が切れているのは、氷遁ではなく、颶風水禍の術を使った為だ。

 

更に言うなら、印を一切結んでいない。全て念じれば使えてしまった。それに私の腕を拘束していた鉄の腕輪を弾いた力やゾンビ達と戦っていた時にできたワイヤーを切断する力も不明だ。

 

今もまさに落ちてくる木の葉っぱが私の肩に当たった先からスパスパと裂けていく。

 

私が氷遁と呼んでいるこの力の正体はなんなのかわからないけど、使い方はわかった。

 

私のチャクラ量と忍術の才能では中忍レベルが限界だ。だけどこの氷遁なら上忍とも渡り合える。

 

状況は過酷だけど、生き残るには更に力をつけないといけない。



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新たな居場所

私が木ノ葉を抜けてから、2年が経過した。気がつけば、私はもう17歳になり大人になっていた。

 

やっている事は昔と同じだ。賞金首となっている抜忍などの犯罪者を捕まえる事。捕まえて換金所でお金に変えて生活する。

 

その間に氷遁も研究して完全に己の物にした。

 

あとは孤児となった子供達を見つけては砂隠れに送り届けてたりしていた。

 

あんまり無責任な事はしたくないけど、抜忍の身じゃ誰かを育ててあげる事はできない。そう考えると再不斬さんは本当にいい人だったなと実感する。

 

話が逸れたけど、現在の五代目風影は人格者らしいので、孤児を無下には扱わないだろう。

 

木ノ葉はダンゾウがいるのでダメ。霧隠れと岩隠れは冷酷な里だ。間違いなく酷い目に遭う。雲隠れは余所者に厳しい里だ。選択肢は砂隠れしかない。

 

今の私は霧隠れの追忍の服を着ている。やはりこれが一番長く着ていた事もあって落ち着く。それに木ノ葉の抜忍として指名手配されてしまっている。名前はシロで手配されている。だから、木ノ葉の暗部の装束で歩き回る事ができないのも理由だ。

 

ビンゴブックにはS級犯罪者として書かれていた。罪状はスパイ工作に同じ暗部を殺害した事による同胞殺し、そして里抜けだ。

 

スパイ工作に関しては完全に嘘のでっち上げ。後の二つの罪状に関しても、前後の事情を知れば真逆の評価になるだろう物ばかり。まあ、理由は何でもいいから、私を捕らえるか殺したいって事はよくわかる。

 

そして今日も孤児となっている子供を砂隠れへ送り届け終わり、砂漠を歩いていた。

 

「こんな所に霧隠れの追い忍がいるなんて珍しい事もあるのね。」

 

声をかけられる。ずっと付けて来られていたのはわかっていた。ただ敵意がないので放置していたんだが。

 

「血継限界の氷遁遣いの雪一族の生き残り。幼少時を忍刀七人衆の鬼人 桃地再不斬に拾われ、その後木の葉の『根』に所属。すぐに抜忍となり、現在は各国を転々とし、賞金首を狩って生活。また、戦災孤児などを助ける活動をしている。………名前は雪藍。」

 

その名前を他人に呼ばれるのは随分と久しぶりの事だ。

 

「……よく調べていますね。何者ですか?」

 

声をかけて来た人物は女性。黒地に赤い雲の模様が施されたマントを羽織っている。

 

「私は小南。……貴女を暁に迎え入れに来た。」

 

「……暁?」

 

「平和な世界を作る為の組織よ。」

 

「……成程。だから私の事を調べて声をかけて来た訳ですか。」

 

「貴女が平和を望んでいる人間である事は知っているわ。その上で声をかけたのよ。」

 

強いわね。

 

一眼見てそう感じた。大蛇丸にも引けを取らないレベルか。最も私自身もこの2年で多少は氷遁を中心に力をつけた。だから、逃げに徹する事もないのだけど。

 

「具体的には?」

 

「この世の人間、全てに幻術をかける。人々が争わないようにね。」

 

「……そんな事できる訳ないじゃない。」

 

「勿論、普通なら不可能よ。……だから特別な力を使う。」

 

「…特別な力?」

 

「尾獣よ。」

 

「…あの伝説の尾獣。実在するんですか?」

 

「実在するわ。」

 

「でも、そんな簡単な事ではないでしょう?……それに全人類に幻術をかけるなんて強引すぎるやり方よ。」

 

「そうでもしないと、争いが無くならない事は貴女も薄々は感じてるんじゃないのかしら?」

 

「…………」

 

確かに実感としてはその通りだと思う。だけど、理想論としては兄さんや再不斬さん、ナルト君などの夢が世界を平和にしてほしいとも思っている。勿論、理想論であり実現できるかは、恐らく無理だろうとは思っているけど。

 

私も彼らの想いを受け継いで、今の活動をやっているけど、根本的に解決しない事だってわかっている。

 

「尾獣を集めるのは簡単な事ではない。だから、資金が必要。そこで戦争などを依頼として引き受けて金を稼ぐ。各国は軍縮を進めている現状、暁を頼る事も増えるだろう。積極的に戦争に加担すれば、憎まれる事もある。だけど、憎しみの矛先が暁に向いてくれるなら本望。それで争いが減らせるなら安いものよ。」

 

そこまでわかってやるって言うんだ。

 

小南の気持ちが如何に本気であるかよくわかる。

 

「最終目的が平和実現の為の尾獣集めになる。だからメンバーは強い者ばかりよ。私のように本気で平和を考えているメンバーは皆無に等しい事も認めるわ。だから、他のメンバーにはこの平和活動は明かしていない。ただ尾獣を集めるだけと。平和を実現するために悪人を利用しているような物だと非難してくれても構わない。だけど、この問題は簡単な事では無いと貴女が一番知っているはずよ。」

 

「……そうね。簡単じゃ無いわ。」

 

「仕事さえきっちりやってくれれば、あとは何をしてもお咎め無し。貴女の孤児救援の活動も認められるわ。」

 

「………わかったわ。案内して。」

 

確かに理想論よりはよっぽど現実的ではある。だけど、幻術で人を操るなんて本当にそれで平和だと言えるのかしら。

 

だからと言って代案を出せない私には彼女の言葉を否定する力は無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

小南に連れて来られた先にはリーダーを名乗る男がいた。その人は顔中にピアスを開けて、特殊な目をしていた。

 

恐らく、写輪眼や白眼のような特殊な目。

 

確かこの忍界には三大瞳術があると言われていたはず。写輪眼、白眼、輪廻眼。

 

ならあれがその輪廻眼

 

逆口寄せの巻物から転移して来た場所は雨隠れの里。ここは初めて来る場所だ。

 

外は雨が降っている。

 

「俺はリーダーのペインだ。雪藍、これから暁の一員となってもらう。仕事以外では基本的に何をしても構わない。だが、裏切りは許されない。」

 

特に驚く事もない。裏切りを許さないのは何処でも同じ事だ。

 

抜忍を必死で追いかけている霧隠れなんかが一番の例だろう。

 

「額当てを出せ。これから暁への忠誠を誓ってもらう。」

 

私は追い忍の仮面を外して、額当てを取る。

 

よくよく見れば歪ね。仮面と服装は霧隠れで額当ては木ノ葉の額当てなのだから。

 

クナイを渡される。

 

そこまですれば察する事ができた。ペインの額当てには一本の傷が入っている。そう言う事か。

 

クナイを額当てに当てて横に引けば傷が付いた。

 

「これでお前は暁の雪藍だ。」

 

「……それについてだけど。」

 

「…何だ?」

 

「雪藍の名前は使いたくないの。シロも同様にね。」

 

どちらの名前もダンゾウと大蛇丸に知られている。だからずっと名前と顔を隠していたんだ。

 

「……なら何て呼べばいい?」

 

傷が入った額当てを巻き、仮面を被る。

 

「……そうね。今日からは暁のコンと名乗るわ。」

 

「いいだろう。……誰と組ませる?」

 

「相方がいないのは、ゼツだけね。」

 

「…そうか。だが、あいつは偵察が主な任務だ。戦闘能力は低い。実質一人になるが、実力は確認したのか?」

 

「まだ確認してないわ。」

 

「……そうか。まあ、一度紹介してみて考えるか。」

 

小南が指輪とマントを渡して来た。

 

指輪には空の文字が刻まれていた。

 

「それを左手の小指に嵌めて。」

 

言われた通りに指輪を嵌めて、マントに袖を通す。

 

「貴女は大蛇丸と戦闘経験があるわね?」

 

小南に聞かれる。そんな事も知っているのか。

 

「2年前の事ね。」

 

「大蛇丸は暁に属していた事があった。」

 

「!?」

 

「奴は我々を裏切った。我々の平和への思想を踏み躙り、利用して去っていた。暁は大蛇丸を追っている。大蛇丸の情報があるお前には期待しているし、大蛇丸やダンゾウから身を守るには暁はうってつけだ。」

 

「つまり、私は大蛇丸の後任という訳ね。」

 

「理解が早くて助かるわ。」

 

「行くぞ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次に移動した先は火の国と風の国の国境地帯だ。岩山を改造して外からはわからないようなアジト。

 

中に入れば7人の忍がいた。

 

全員が此方を見てくる。

 

「全員、集まってるようだな。……諸君、今日は新しいメンバーを紹介する。」

 

ペインの視線に促され、前へ出る。

 

「新たな同胞、名前はコンという。ゼツとツーマンセルを組んでもらう。」

 

私は目の前に並んでいるメンツを見て戦慄する。

 

皆、ビンゴブックで見た事がある者ばかりだ、それもS級犯罪者ばかり。自分も同じS級犯罪者だから、偉そうな事は言えないけど。

 

だけど、一人一人が影クラスの実力者ばかりだ。知らない顔もあるけど、この際それで弱い忍だとは思えない。

 

何だこの怪物集団は……

 

輪廻眼といい、底が知れない。

 

傀儡の天才……赤砂のサソリ

岩隠れの禁術の使い手……デイダラ

 

更に私の目を引く人が二人。

 

霧隠れの怪人……干柿鬼鮫

木ノ葉の天才……写輪眼のうちはイタチ

 

干柿鬼鮫は再不斬さんと同じ忍刀七人衆だ。だから何だと言う話だが、それでも気になってしまう。

 

うちはイタチ。この人はあのサスケ君のお兄さんだ。私に兄とは何だと聞いて来たサスケ君。うちはイタチの罪状を見た時から薄々勘づいている。サスケ君とうちはイタチには因縁がある。それはきっと私と兄さんとは違う、平和的なものではないだろう。

 

この二人には色々と話を聞いてみたいと思う。それだけのここに来た価値はあるかもしれない。

 

「こいつが新入りか。」

 

「いやー、俺も漸く先輩になれた訳だ!」

 

「こいつが大蛇丸の後釜か。まあまあだな、うん。」

 

「……ふん。」

 

「これはこれは、追い忍の面ですか。まさか同郷の方が現れようとは。」

 

「…………」

 

「誰が相方になるの〜?」

 

「ハナシヲキイテイナカッタノカ?オレタチトツーマンセルダ。」

 

何だこいつは?

 

体が左右に白色と黒色に分かれてるし、それぞれ人格があるみたい。しかも緑色の棘もある………。そもそも人間なのか?

 

「ん〜、そーなのー?……でもボク達は誰かと組むにはあまり向いて無いと思うけど。」

 

「ソレモソウダナ。……コナン、ジツリョクハタシカメタノカ?」

 

「いえ、確認できてないわ。偉く物分かりが良いから、話し合いで解決したわ。」

 

どうも話の流れ的に、私の実力を見たいようだ。

 

「誰か、コンと戦いたい者はいるか?」

 

ペインが問いかける。それに反応したのは三人。

 

「ここは先輩の威厳を見せてやらねーとなぁ。」

 

「随分と小柄で弱そうだなっ。オイラの芸術で確かめてやる!」

 

「同郷の方なら、一度手合わせしてみたいと思いましてね。」

 

大型の赤い鎌を背中に背負っている男性。

デイダラ。

干柿鬼鮫の三人だ。

 

私個人としてはやはり干柿鬼鮫が気になるところ。

 

ペインは三人を見渡し。

 

「飛弾、お前の能力は手合わせには向いていない。殺傷能力が高すぎる。鬼鮫、お前の術は規模が大きすぎる。デイダラ、お前がやれ。ただしあくまでも手合わせだ。術の規模は抑えろ。」

 

「チッ。」

 

「仕方ありませんね。」

 

「よっしゃー、了解だぜ、リーダー。」

 

「お前もそれでいいな。」

 

「……わかったわ。」

 

「おや、くノ一でしたか。」

 

他のメンバーも意外そうに此方を見てくる。

 

まあ顔を隠してるし、このマントでボディラインもわかりにくい。それにずっと黙ってたから驚くのも仕方ない。

 

岩の中のアジトから出る。

 

デイダラと向かい合う。

 

他のメンバーは遠巻きに取り囲むように立つ。

 

「オイラの芸術を見せてやる!」

 

デイダラが左右の腰に着けているポーチに手を突っ込む。

 

ビンゴブックで読んだ事がある。デイダラは物体にチャクラを持たせる禁術の使い手。あのポーチの中に粘土が入っており、その粘土は爆発する。

 

その能力は専ら遠距離タイプ。なら私の得意な体術に持ち込む。

 

接近なら私が、遠距離ならデイダラが有利になるか。

 

ボンと現れたのは、白い粘土でできた鳥。それの上に乗るデイダラ。

 

まさか空に飛ぶ気か?

 

手の届かない空から一方的に攻撃されるのは良くない。

 

私は千本を片手に走り出す。

 

それを見たデイダラが小型の起爆粘土をばら撒いてくる。足元に転がる粘土。

 

「喝!」

 

瞬身の術

 

得意の瞬身で加速。私の速度を見誤ったデイダラの起爆粘土は後方で爆発。

 

その速度をそのままに鳥の上に乗ってるデイダラを蹴り飛ばす。

 

「うおっ!」

 

勢いが付きすぎてかなり吹っ飛ばしてしまう。

 

鳥から下ろせたのはよかったけど、距離が離れてしまった。

 

だが、時間は与えたくない私は直ぐに瞬身で加速。

 

だけど、流石は影クラス。直ぐに私の速度の予測を合わせて起爆粘土が撒かれた。

 

今度は躱せないか……

 

「喝!」

 

「風遁・烈風掌」

 

爆発に巻き込まれるが、速度を落とさずにデイダラに接近。

 

デイダラも流石に距離が近い事を察し、クナイを取り出す。

 

「今の見えましたか、イタチさん?」

 

「ああ、爆発の瞬間に風遁で爆風を相殺した。」

 

「流石はイタチさん。……しかし、とても器用な方ですね。写輪眼でもなければ、あの様な芸当は中々できませんよ。」

 

「それもそうだが、あの瞬身の速度も脅威だな。恐らく暁で最速だぞ。」

 

「飛弾とは正反対だな。」

 

「うるせーぞ、角都 !!」

 

デイダラの懐に入る。

 

「チィ」

 

右手の千本を振るう。それをクナイでガードされる。即座に左手に持っていた千本を至近距離で投げる。

 

それもギリギリで躱されるが、頬を掠る。デイダラの意識が一瞬逸れた隙に、左回し蹴りを顔面に叩き込む。

 

「ぐあっ!」

 

続けざまに右回し蹴りを放とうとするが、眼前に起爆粘土が現れる。

 

即座に後方へ全力の瞬身で翔ぶ。

 

「喝!」

 

「くっ!」

 

ギリギリで爆風から逃げ切る。着地しようとした瞬間に再び起爆粘土が投げられる。

 

「風遁・烈風掌」

 

飛んでくる起爆粘土を風圧で押し留め……

 

「秘術・千殺水翔」

 

起爆粘土を全て水の千本で射抜く。

 

これで……

 

「!?」

 

だけど、デイダラの表情を見て防御が失敗している事を悟る。

 

「喝!!」

 

千殺水翔に貫かれたはずの起爆粘土が爆発。

 

「どうだ!!オイラの芸術はよ!!!」

 

爆発の煙が晴れる。中からは黒焦げの丸太が現れる。

 

「……残念だったな。」

 

「チィ、しぶといやつだぜ。」

 

「何カッコつけてる。女にタコ殴りされてたくせに。」

 

「サソリの旦那、無茶言わないでくれよ。あんなバケモン体術にまともに付き合えるかよ。……ま、女で小柄なのが幸いだな。攻撃が軽すぎて全然痛くねぇ。」

 

体勢を立て直して見れば、すでにデイダラは上空に飛んでいた。

 

「片手印のあの水遁秘術。……成程、彼女はどうやら雪一族出身の様ですね。」

 

やはり干柿鬼鮫にはバレるか。

 

「……雪一族。血継限界の氷遁か。」

 

「ええ、水遁と風遁を組み合わせる秘伝忍術。ですが霧隠れで迫害の対象となり、既に滅んだ一族だと思っていたのですが、生き残りが居たとは。」

 

此方の手の内の氷遁がバレたらな隠す必要もないか。

 

「氷遁・万華氷」

 

無数の氷柱を上空へ放つ。

 

「そうくるなら、こっちも応えてやる、うん!」

 

小型の鳥型の起爆粘土を放ってくる。どうやら追尾できる様で的確に氷柱を捉えてくる。

 

「喝!!」

 

氷柱が砕かれて降り注ぐ。

 

「中々、風情がありますねぇ。」

 

「……芸術だな。」

 

空から一方的に爆撃できるのは強力だな。

 

私は背中を丸める。

 

次の瞬間、背中から2対の氷の翼が生える。

 

「氷翼」

 

「……ほう。オレのコレクションにしてもいいな、あの小娘。」

 

氷の羽で空気を掴み、飛翔する。

 

「氷剣」

 

右手に氷の剣を作り、風のチャクラを纏わせる。

 

「へっ!オメーも空を飛べるのか、オモシレェ!!」

 

小型の鳥型起爆粘土が襲いかかる。

 

「氷遁・万華氷」

 

それを全て氷柱で迎撃する。

 

爆炎を烈風掌で晴らし、再度万華氷で弾幕を張る。デイダラも負けじと起爆粘土で応戦してくる。

 

「これじゃ忍の戦いじゃなくて、ドッグファイトだな。」

 

1000発以上の氷柱と起爆粘土の応酬。何度か隙ができ、氷剣で切り掛かるが巧みに躱されて、ドッグファイトの再開を繰り返していた。

 

「ハハハハハハ!!良いゼェ!!こんなにも芸術的で楽しい戦いはなかった!!!これが手合わせってんだから残念だな、うん!」

 

どうやらこれでも手加減してくれてるらしい。勘弁して欲しい。

 

私も氷柱じゃなくて、氷剣を射出する事もできるけど、あまりにも殺傷能力が高過ぎて本当に殺し合いになってしまう。

 

そして六度目の接近にて漸く、氷剣の突きが決まり、デイダラを捉えた。しかし……

 

……抜けない!!

 

貫いた感触がおかしい。違和感を感じて抜こうとしたが抜けない。

 

するとデイダラが白い粘土に変わる。

 

これは粘土分身か……

 

「オメーの術はかなり芸術的だが、オイラも負けてねぇ。」

 

鳥の腹からデイダラが出て下に脱出する。空中に身を投げたデイダラが印を結ぼうとするのが見えた。

 

私は氷剣から手を離し、離脱する。

 

でも、これじゃ爆風からの離脱は間に合わないわね。

 

「オイラの芸術を喰らいな、喝!」

 

咄嗟に氷翼で全身を包んだ。

 

次の瞬間、氷翼に衝撃が走る。

 

何とか爆風を凌いだ。だけど、氷翼が失われてデイダラと同様に落下する。

 

直ぐに空気中の水分を集めて、氷翼を形成。姿勢を制御してギリギリで着地できた。

 

デイダラも鳥型起爆粘土を生成してギリギリで落下を免れた。

 

「……そこまでだ。」

 

ペインの制止が入る。

 

デイダラが鳥型起爆粘土から降りる。

 

私も氷翼を消す。

 

「今のを見て文句がある奴はいるか?」

 

「ま、少なくとも足を引っ張りそうな奴ではないな。」

 

「私も異議はありませんね。」

 

「オレは先輩になれるんなら、何でも良いぜ。」

 

「……決まりだな。」

 

あまり手の内を晒さないように戦ったけど、意外とみんなにも認められたようだ。

 

後ろからいきなり肩を組まれる。

 

「おい!お前、オレと旦那でスリーマンセルを組もうぜ!!」

 

「……私はゼツとパートナーになるはずだけど。」

 

「良いじゃねーか!ゼツはずっと土ん中に潜ってるんだから、実質一人の様なもんだ。旦那もそう思うだろ!」

 

「……そうだな。オレもこいつの芸術的センスは気に入った。だが、造形がまだ甘い。オレが直々に指導してやる。」

 

「なっ!」

 

凄い良い笑顔で言ってくる。「なっ!」じゃないんだが………

 

「おいおい、デイダラちゃーん。女が入ってきた事がそんなに嬉しいんか〜い?」

 

「飛弾、黙ってろ。馬鹿だと思われる。」

 

「テメー、どっちの味方なんだよ、角都 !!」

 

助けを求めてペインを見る。

 

「はあ。勝手な事を抜かすな。コンはゼツとツーマンセルだ。だが、デイダラの言う通りゼツとコンが一緒に行動する事は少ないだろう。臨時でスリーマンセルを組ます事も考えてる。」

 

「よっし!!」

 

「ただし、それはお前達の所かは決まってはいない。」

 

「だったらオレ達の所で検討頼むぜ、リーダー。」

 

「よろしく、僕は白ゼツだよ〜。」

 

「オレハクロゼツダ。」

 

「…………よろしく。」

 

「では解散だ。」




「秘伝・者の書」のパラメータを参考に現暁メンバーのステータス

うちはイタチ
忍術5、体術4.5、幻術5、賢5、膂力3.5、速力5、スタミナ2.5、印5 35.5

干柿鬼鮫
忍術4、体術4.5、幻術2.5、賢3.5、膂力5、速力4、スタミナ5、印3.5 32

デイダラ
忍術5、体術3.5、幻術3.5、賢4.5、膂力3.5、速力4.5、スタミナ4、印3.5 32

サソリ
忍術5、体術4、幻術4、賢5、膂力3、速力4.5、スタミナ5、印4. 34.5

飛弾
忍術5、体術4、幻術3、賢3、膂力4、速力3.5、スタミナ5、印3.5 31

角都
忍術5、体術4、幻術3、賢4.5、膂力4、速力4、スタミナ4.5、印3.5 32.5

雪藍(氷遁なし)
忍術1、体術5、幻術2、賢5、膂力1、速力4.5、スタミナ5、印4.5 28

雪藍(氷遁あり)
忍術5、体術5、幻術4、賢5、膂力1、速力5、スタミナ5、印5 35.5


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初仕事

雨隠れの神の塔。そこに三人の忍が集まっていた。

 

一人は顔中にピアスをつけた男性。特異な目は不気味な気配を漂わせる。

 

一人は女性。紙でできた髪飾りをつけている。

 

一人は右目だけが空いた仮面を被った男。その穴からは赤い目が光っていた。

 

「ゼツからの連絡で大蛇丸の研究所跡からこれが見つかったわ。」

 

女性が指輪を取り出す。指輪には「空」の印が刻印されていた。

 

「間違いない、大蛇丸の物だ。」

 

「あの大蛇丸がこれを無くすとは考えにくいな。何かあったと見るべきだろう。」

 

「それについてだが、2年前に大蛇丸の元から実験体が逃げ出したそうだ。その時の戦闘でアジトは崩壊したと噂で聞いていた。……恐らくゼツが拾ったそれは、その時のものだろう。」

 

「マダラ、他にも何か知っているな?」

 

「ああ、その実験体の事も知っている。丁度いい。そいつを暁の大蛇丸の後任に入れようと思う。」

 

「大蛇丸のスパイではないのかしら?」

 

「ゼツが見張っている限り、その様子はない。むしろ、大蛇丸とダンゾウから逃げ回っている様だ。」

 

「ダンゾウ……。木ノ葉の「根」の長だったな。」

 

「その二人に追われて逃げ延びれるのは、中々の実力ね。」

 

「ああ、腕は申し分ない。……それに思想も我々に近しいものがある。」

 

「どう言う事だ?」

 

「そいつは戦災孤児などを助けては、砂隠れの孤児院などの施設に送り届けているらしい。」

 

「自分が追われている身の筈なのに、随分と悠長な事をするのね。」

 

「それだけ、弱者をほっとけない性格なのだろう。……勧誘は小南、お前が適任だ。主に平和を目指す者として勧誘すれば乗ってくるだろう。」

 

「………わかったわ。」

 

「そいつの名前と素性は?」

 

「名前は雪藍。血継限界の氷遁を使うくノ一だ。非常に汎用性が高い術を使うのが特徴だ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一眼見て、強いと感じた。

 

遠くから尾行しているが、全く隙がない。マダラからの情報では大蛇丸とダンゾウに追われていると聞いたが、2年間も捕まらないのも納得だ。そして、恐らく私の事も気がついている。

 

一緒に手を繋いでいる子供。恐らくマダラが言っていた孤児なんだろう。

 

遠い記憶がフラッシュバックする。遠い昔、弥彦に手を引っ張られた記憶。長門に助けられた記憶。自来也先生に育てて貰った記憶。そして、弥彦が死んだ記憶。

 

私は頭を振る。

 

今更感傷に浸っても仕方がない。

 

対象に目を向ける。手を繋いでいた子供はおらず、歩く方角も砂隠れから離れて行っている。多分、送り届けたんだろう。

 

事前情報は正しい様だ。

 

私は彼女に声をかけた。

 

やはり落ち着いた性格なようで、今までの勧誘と違い、平和に終わった。

 

だが、話していると不思議な感覚になる。私と彼女は何処か似ている。具体的な理由は無いけど、本能がそう叫んでいた。

 

彼女なら、もっと本音で話せるんじゃないかとも思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「リーダーから指令だよ〜。」

 

「イワガクレニイキ、ジンチュウリキヲイケドリニスル。」

 

私の相方のゼツが地面から生えてくる。土遁の類なんだろうけど、ビジュアルと合わさって気色悪い事この上ない。

 

「人柱力?」

 

「尾獣だよ、尾獣。」

 

「セイカクニハ、ビジュウヲフウインサレタシノビダ。」

 

成程、暁は尾獣を集めている。伝説の尾獣。

 

でもそんな存在を人の身体に封印してその人は平気なのかしら?

 

「ジンチュウリキハ、ビジュウトコオウシテ、ゼツダイナチカラヲハッキスル。」

 

そりゃそうだろう。実物は知らないけど、言い伝えによれば、チャクラの化け物。天災、天変地異。様々な逸話がある最強の妖獣だ。人の手に負えるものじゃない。

 

「だけど、メリットばかりじゃないんだよね〜。」

 

「ジンチュウリキニナッタモノハ、セイシンヲムシバマレル。ヤガテセイシンヲビジュウニノットラレルリスクガアル。」

 

やっぱり……。だから人柱なのね。

 

「ジンチュウリキハ、ソノキケンセイカラ、サトノモノニシイタゲラレテイルモノガオオイ。」

 

それを聞いて胸が痛くなる。勝手に封印させておきながら、遠ざけるなんて。そんな兵器みたいな扱い。

 

「実際、人柱力は過去に戦争道具として使われている実績もあるしね。」

 

「……そう。」

 

そんな人達を襲わないといけないのか。

 

確かに暁の仕事は人から恨まれる仕事が多そうだ。

 

でも今更嫌だとは言わない。どうせこの手は血に染まっているし、事実S級犯罪者の烙印を押されてる。

 

「ジンチュウリキノナマエハ、『ハン』トイウヤツダ。ビンゴブックデカクニンシテオケ。」

 

「……わかったわ。」

 

「道案内はボク達に任してね。それに特化した能力だからさ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここが人柱力のいる場所……。」

 

何もない岩壁地帯。それに人の気配もまるでない。一応国境線上は岩隠れのようだけど、里の中心からは大きく外れていた。

 

「じゃあ、後は頑張ってね〜。」

 

ゼツは地中に潜っていった。

 

気配を探る。本当に一人以外の気配を感じれない。

 

私はその一人だけ感じれる気配を辿る。

 

そこには全身に赤い鎧を纏った大きな男性。

 

身長は2.5メートルはあろうかと言う見た目。私よりも1メートルぐらいは高い。下手したら2倍ぐらいはありそう。

 

そんな大男に見下ろされる。

 

「何者だ。この里の者では無いだで。」

 

「暁と言う組織に属する者です。五尾の人柱力 ハンさん。申し訳ありませんが、平和のため、お命頂戴します。」

 

少し頭を下げる。

 

ハンさんの雰囲気が変わる。敵とみなしたんだろう。顔を上げると私の目の前に拳が迫っていた。

 

瞬身で逃げる。

 

空ぶった拳は地面に突き刺さり、大きな地割れを起こした。

 

凄い怪力。私の力じゃ、一撃であの世行きになりそう。

 

今度は背中から白い煙を出す。

 

あれは…蒸気?

 

「沸遁・怪力無双!」

 

熱っ!

 

「蒸気爆進!!」

 

凄い勢いで突進してくる。

 

蒸気の推進力で速力を上げてるのか……

 

瞬身で逃げまりながら、千本を投げるがまるで効いていない。

 

「噴推拳!!」

 

拳が振り下ろされる。それに巻き付くように体を捻る。

 

「噴剛脚!!」

 

今度は蹴りか……

 

空中で回転して蹴りを回避。隙だらけの背中に蹴りを入れようとする。

 

しかし、突如背中から白い尻尾が生えてきた。尻尾は鞭のようにしなり、遅い掛かってくる。

 

「風遁・烈風掌」

 

烈風掌を叩きつけて威力を殺して離脱。

 

今のは危なかった。いい不意打ちと言える。

 

「お前、只者じゃないだで。」

 

「…ふう。」

 

息を整える。

 

すると今度は全身から赤いチャクラが纏われる。

 

まるで尾獣のチャクラを纏ってるみたい……いや、実際に纏ってるいるんだ。

 

チャクラの尻尾の数は4本。纏われたチャクラはまるで沸騰しているようにポコポコと音をたてていた。

 

凄い力強さだ。これが尾獣の力。……確かにこれは里が兵器にしたがるのもわかる。だけど、兵器となってしまった者は悲惨だろう。こんな力を身体に留めて、心身健康でいられるはずがない。……いや、彼を手にかけようとしている私も同罪だ。今更、聖人ぶるのはよそう。怖気が走る。

 

地面を蹴って接近してくる。さっきよりも速度が上がっている。

 

まともに殴り合いに応じる気はない。拳を受け流して、ガラ空きの胴に術を叩き込む。

 

「風遁・風切りの術」

 

風の鎌鼬がハンの胴体に当たるが無傷。

 

やはりあのチャクラ自身が鎧の役目を果たしている。距離を取れば、チャクラの腕が伸びてきた。

 

とても便利ね。

 

身体を後ろに逸らして回避。チャクラの腕は私の後方の地面を掴むとそのまま飛びかかってきた。体を回転させて躱す。

 

「秘術・千殺水翔」

 

ダメージは期待していない。私が着地する為の時間稼ぎとしての牽制が目的だ。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

霧で視界を封じて跳ぶ。

 

頭上から踵落としを放つ。

 

ハンは全身から蒸気を出して、霧を払う。だけど、既に私は目の前。そのまま脳天に踵落としを決めた。

 

「風遁・獣破烈風掌」

 

踵落としでダメージは入らない。だけど、姿勢は崩せた。そこに獣破烈風掌を叩き込む。

 

ハンは吹き飛び、岩壁に叩きつけられた。

 

「ぐっ、ぐああああああ!!!!!!」

 

いきなり頭を押さえて雄叫びをあげる。

 

何?……なんだかさっきよりも空気が重くなったような…

 

次の瞬間、全身が赤黒く変色したも最早小型の尾獣と化したハンが現れた。

 

あれはやばそうね……

 

「水遁・破奔流」

 

鉄砲水を叩きつける。

 

まずは様子見。

 

そのつもりで放った破奔流は、腕を一振りするだけで弾け飛んだ。

 

そして、また腕を飛ばしてくる。

 

「人の事言えないけど、芸がないですね。」

 

最早手加減は無理ね。

 

私は全力の瞬身で回避していく。伸びた腕をはまるでそれ単体が蛇のようにしつこく襲いかかってくる。

 

猛攻を凌いでハンの背後を取る。

 

「忍法・颶風水禍の術」

 

水の竜巻でハンを吹き飛ばす。

 

流石にダメージが入ったようで、足元が覚束無い様だ。

 

これだけやって漸くダメージが入った。

 

スピード、防御力、攻撃力。全てが並の上忍では太刀打ちできない力。実に恐ろしい力だ。世界にはこんな猛者もいるんだなと感心する。

 

「グオオオオオオオォ!!!!!」

 

突如、ハンの身体が爆発した。

 

辺りが煙に包まれる。

 

もう勘弁してほしい。これ以上何があるって言うんだ……。

 

私が易壁している間に煙が晴れる。

 

そこには巨大な馬の怪物。

 

成程、これほどの巨体とチャクラが暴れ回れば、それは天災だの天変地異だの言われる筈だ。

 

「これが五尾の正体……」

 

「グオオオオオオオォ!!!!」

 

尻尾が振り下ろされる。

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

ガアァンと凄まじい音が響く。

 

殺さず、生捕か……随分と難しい要求で困るわね。そして、突進攻撃。

 

角を此方に向けて走ってくる。この氷の盾を壊す気なんだろう。

 

直ぐに離脱する。

 

直撃した氷岩堂無はバラバラに崩れ去る。

 

五尾が空気を吸い始める。

 

何か来る!

 

そして吐き出した瞬間、凄まじい蒸気が此方に飛んできた。

 

不味い、蒸し焼きにするつもりか。

 

私も同じように仮面をずらして、空気を吸い吐き出す。

 

「氷遁・氷精の吐息」

 

イメージは火遁・炎弾を氷のブレスで再現したもの。

 

蒸気と冷気がぶつかり合う。暫く、拮抗していたが、やがて冷気が勝り五尾を氷漬けにする。

 

わかってるこれじゃ終わらないでしょ!

 

予想通り、氷を砕いて出てくる五尾。

 

まあ、薄皮一枚凍らしただけだしね。

 

「グオオオオオオオォ!!!!」

 

五尾は口を大きく開ける。すると黒いチャクラと白いチャクラが集まり、球体を作り出す。

 

凄い密度のチャクラ……

 

氷岩堂無じゃ防げないわね。あんな物をぶちまけたら、この里そのものが消し飛んでしまうんじゃないかしら。

 

そしてそのチャクラが解き放たれた。

 

凄まじい速度で迫ってくる。

 

その球体に両手で受け止める。その瞬間

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

チャクラの球体が跡形もなく、消滅した。

 

「氷槍」

 

流石の五尾もこれには呆気にとられるのか、動きが止まっていた。そこを見逃さない。

 

瞬身で接近して槍を刺す。

 

「罪の枝」

 

五尾の身体から無数の棘が生えて、消沈した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

五尾が倒れれば、元の人間の姿に戻ったハン。全身を血塗れにした瀕死の重症だ。

 

「……死んじゃった?」

 

「大丈夫、まだ息がある。」

 

ゼツが出てくる。

 

「コレダケヤッテシンデイナイトハ、サスガハジンチュウリキダナ。」

 

「流石に疲れたわ。戻るわよ。」

 

両手の掌から少しばかりの出血がある。

 

術の発動のタイミングが少し遅れてしまっていた様だ。

 

「待つんじゃ、侵入者共。うちの里の人柱力に手を出してただ済むと思ってるのか!!」

 

振り返ってみれば、小柄で宙に浮いている爺さんとくノ一の女性に大柄な男性の忍の三人がいた。

 

ビンゴブックでも知っている。というか、有名人だ。まあ、これだけ大騒ぎしていれば、現れるのは当然か。

 

「土影ね。……ゼツ、五尾の回収をお願い。私は土影の足止めをするわ。」

 

「りょーかい。」

 

ゼツがハンを抱えて土に潜る。

 

「逃すか!熔遁・石灰凝の術!!」

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

ゼツに飛んでくる攻撃を氷の壁で防ぐ。

 

そのままゼツは地中に潜り込んだ。

 

「クソったれ!」

 

「落ち着くんだに。まずはあのお面のくノ一を倒さないとまた邪魔されるよ。」

 

土影達は今回の任務に於いて無関係。故に殺す必要もなければ、怪我をさせる必要もないよね。

 

「お前ら二人はワシのサポートじゃ。五尾を退けるだけの力があるんじゃ、お前らは足手纏いじゃぜ。」

 

「ふん、老ぼれが。腰にダメージが入ればすぐに交代してやるかな!」

 

「減らず口も大概にせいっ!塵遁・原界剥離の術!!!」

 

円錐型の光が私に向かって伸びてくる。

 

あれが全てを粉々にする血継淘汰の塵遁。つまりあの光に飲み込まれたら、最後粉々に砕け散る訳か。

 

瞬身の術で回避。

 

私の立っていた場所は、円錐型に消滅していた。

 

これは粉々というよりは私の崩壊凍結と同じような物ね。

 

「隙ありだに!」

 

横合いから岩のゴーレムが襲いかかる。

 

それを避ける。着地して周りを確認しようとするが。

 

「……!?」

 

「へっ!捕まえたぜ。」

 

足元のさっきの石灰凝が流れていた。

 

「塵遁・原界剥離の術!」

 

今度は円筒形の光が迫ってくる。

 

逃げれないか。……仕方ない。

 

右手に崩壊凍結を準備して光に手を叩きつける。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

パアァッン!!!

 

けたたましい音を立てて、術が弾かれる。その余波で周りの地面が消し飛んだ。

 

「こいつ、ジジイの塵遁を相殺しやがった!!!」

 

「何者じゃぜ……」

 

土影達に動揺が走る。

 

「兎に角、まだ足を縫い付けているうちにやってしまうぞ!!」

 

「そうだに!!」

 

ゴーレムが襲いかかってくるが実に遅い。

 

「氷遁・氷剣山」

 

地面のセメントを砕く。ゴーレムが来る前にそこから離脱。

 

着地するが、またもセメント。

 

「芸がありませんね。」

 

「それに引っかかるお前は更に間抜けって事だな!!熔遁・石灰凝の術!!!」

 

今度は全身を固められる。

 

「ジジイ、これで妙な術の印も結べないぜ!」

 

「よくやった、黒ツチ!!塵遁・原界剥離の術!!!」

 

確かに即座にこの呪縛を解くのは疲れるだろう。

 

殺戮の光はすぐそこだ。

 

「……仕方ありませんね。」

 

光が直撃する瞬間に術を発動。

 

「空間凍結」

 

光に飲み込まれた全てが消滅する、私を残して。

 

「………な、なんじゃと!?」

 

動揺している隙に全身のセメントを凍らして剥がす。

 

「接触凍結」

 

私に触れた者は皆、等しく凍りつく。

 

さて、ゼツはどこかな?

 

気配を探る。

 

見つけた。

 

既に遠くまで移動していた。

 

これなら時間稼ぎも十分だろう。

 

「氷遁・氷剣山」

 

地面から無数の氷の杭が三人に迫る。

 

ゴーレムが盾となって氷の針に貫かれる。だが、ゴーレムは持ち堪えて壁の役割を果たす。

 

加減しておいてよかった。塵遁で消しに来ると思ったのだけど。

 

敵が氷剣山に意識が逸れてる間に瞬身で離脱した。

 



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侵略

「ゼツ、出てきて。」

 

岩隠れから遠く離れた森までやってきた。

 

ゼツの気配が近くにある。私は声を出して呼ぶ。

 

すると木の幹からゼツが生えてくる。

 

「生きてたんだ。流石に尾獣と土影の連戦で死んじゃったと思ってたよ。」

 

「私も生きた心地はしなかったわね。……人柱力はどうしたの?」

 

「スデニアジトヘハコンダ。」

 

「凄い早足だね。」

 

「ま、そういう能力だしね。」

 

「バショハ、コノヘンデイイナ。イマカラマルイチニチハ、カカル。」

 

「……しんどいわね。」

 

「リーダーも待ってる事だし、さっさと始めよう。」

 

木陰に隠れるように座り、目を閉じて印を結ぶ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

気がつくと、全く違う場所に立っていた。

 

目の前には巨大な像。その像の小指の指先に立っていた。身体もシルエットだけがボンヤリと見えるだけ。周りを見渡せば、他のメンバーも同様だった。

 

隣は鬼鮫さんだった。とりあえず会釈する。

 

「全員揃ったな。」

 

「遅いぞ、待たせやがって。」

 

「悪かったわね。人柱力が強かったのよ。二度と戦いたくないわ。」

 

「まさか最初の任務でいきなり人柱力を狩ってくるとはな。」

 

「よく一人で狩れたもんだな。」

 

「へっ!俺なら一人でも楽勝だぜ!」

 

「一応、ボク達が道案内したんだけど…。それに土影にも追いかけられて、死ぬかと思ったよ。」

 

「何!ジジイとやり合ったのか!?」

 

「……ええ、土影様もお元気だったわ。」

 

「話は後だ。……時間が惜しい。始めるぞ。」

 

幻龍九封尽

 

尾獣をこの外道魔像に封印する術だ。尾獣そのものが大きなチャクラ故、封印には時間がかかる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

封印が終わる。人柱力だったハンは尾獣を抜かれた事で死んでしまった。

 

「皆、ご苦労。解散だ。」

 

リーダーの合図で次々と姿を消していくメンバー。

 

「おい!コン、いつかジジイとやり合った話、聞かせろよ!」

 

「……ええ。」

 

デイダラも消え、リーダーと小南と私だけになった。

 

「ねえ、リーダー。」

 

「何だ?」

 

「尾獣を抜かれた人柱力は皆死んでしまうものなの?」

 

「そうだ。」

 

「……殺さずに封印する方法はないの?」

 

「…………」

 

「……残念だが、それは無理だ。」

 

「…………わかったわ。」

 

私は術を解いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お疲れさん。」

 

「これで私のノルマは終わったのよね?」

 

「ソウダナ。」

 

「これからはどうしたらいいの?」

 

「特に変わらないと思うよ。適当に任務が有れば、それを熟す。あとは自由でいいさ。」

 

「そう。」

 

「ナラ、オレタチはココデカイサンダ。センニュウノニンムガアル。」

 

「了解。気をつけてね。」

 

ゼツが地中に潜っていった。

 

空を見上げる。

 

1日経ったようだけど、変わらぬ青空だ。

 

兵糧丸を口に入れる。

 

私に薬物の類は効力を発揮しないけど、空腹は紛れる。

 

別に初めてって訳じゃない。罪のない人間を殺す事は。戦ってる時も言い聞かせていたけど、今更善人面はしない。それでもストレスはかかる。人柱力のバックボーンを聞かされた事で余計にそう思う。

 

あの人が住んでる気配の無い岩壁地帯。

 

きっとハンさんは好きで彼処に住んでた訳じゃないんだろう。きっと、人柱力で嫌われて追いやられたんだろう。

 

実際、取り返しに来ていた土影も仲間を助ける為ではなく、兵器を盗まれたから取り返しに来てた感じだ。

 

仕切りに人柱力と連呼していたことがその証だろう。仲間と…同じ人間だと思っていたなら、そんな物みたいな呼び方じゃなくて、ちゃんと「ハン」と呼んでいたに違いない。

 

里から嫌われる事は何も他人事ではない。私もこの血継限界によって霧隠れで迫害を受けたのだから……。

 

出会い方が違えば、理解し合えたかもしれない。

 

そう思わずにはいられない。

 

平和な世界を目指すにも、過程での犠牲がどうしても付いてくるのは、何とも皮肉な物だ。

 

本当に現実は残酷だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからは特に大きな出来事は無かった。いつものように賞金首狩り、孤児の援助、薬草詰み、丸薬の生成。

 

それと時折入ってくる暁の任務。

 

大体が戦争の介入か情報収集だ。戦争介入は、雇われた私が武力を提供してお金を手にする。

 

情報収集は主に人柱力や尾獣の情報集めがメインだ。

 

1ヶ月程が経ち、私の元へ二人組がやってきた。

 

「うんうん!オイラとオメェのコラボ芸術!!何度やっても最高だな、うん!」

 

実はこの二人はしょっちゅう私の所にやってくる。

 

どうも気に入られたようだ。

 

微細の氷が煌めく爆炎に髪を揺らすデイダラ。

 

高い位置で纏めた金髪を揺らしながら、まだあどけなさが感じられる笑顔を向けてくる。

 

まあ、あどけないって言っても彼の方が1歳年上なんだけど。

 

「おい、デイダラ…」

 

それを眺めていた相方のサソリが不機嫌そうに声を上げる。

 

背の低い四つん這いの傀儡の中から低い声が響く。

 

「いつまで遊んでやがる。」

 

とってもイラついているのがわかる。

 

「いいじゃねーか、旦那。焦っても人柱力は見つかんないんだしな。」

 

「早くしろ。オレは待たされるのが嫌いなんだ。」

 

これだ……

 

サソリは会えば、早くしろ早くしろとうるさい。

 

「おい、コン。戦闘では速技なのに、それ以外だと鈍臭いな、お前。」

 

とうとう、私にも絡み出してきた。

 

「悪かったわね。……貴方だってそんな狭い所に詰まって身体に悪いわよ。」

 

「……余計なお世話だ、小娘。」

 

「小娘って……私デイダラと一歳しか変わらないのだけど。」

 

「それでも最年少に変わりない。」

 

「おい、コン。次は此奴を凍らせてくれ。」

 

デイダラが蝶々の起爆粘土を渡してくる。とりあえず、リクエスト通り氷でコーティングする。

 

「よし、喝!」

 

爆発と共に氷の結晶が舞い散る。

 

「くぅ〜、最高にクールだぜ、うん!」

 

「……ふん、ただ氷でコーティングしただけじゃねーか。細部の造形にもっと拘れ。芸術家名乗るんなら、そこからだ。」

 

サソリが講釈を垂れ始める。

 

「別に私は芸術家を名乗ってないけど。」

 

「何言ってんだ!こんなクールな術を持ってるんだ。芸術家気取ってないと損だぜ!」

 

そんなこんなで、二人と遊んでいたら、デイダラが思い出したように巻物を渡してきた。

 

「おっと、そうだ。お前に任務が来てたんだ。」

 

「何の任務なの?」

 

「……よくある戦争代行の任務だな。」

 

戦争代行……

 

「………具体的な内容は?」

 

「霜の国と雷の国が領土争いで戦争している。….まあ、雷の国が侵略しに来た訳だな。で、国力差が歴然でこのままじゃ霜の国が滅ぼされかけてる訳だ。そこで霜の国から依頼がきたって話だ。」

 

大国相手に小国が戦争って……

 

もっと政治的に上手くやれないものなのかな?それに霜の国も同盟国を募るとかさぁ。

 

まあ誰も喜んで雲隠れと戦争したいとは思わないか。

 

「つまり、防衛ね。」

 

というか防衛できれば上々。反撃は無理だろう。

 

「そういうことだな、うん!」

 

「ちゃんと伝えたからな。」

 

「わかったわよ。」

 



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防衛

戦争が始まる。きっと敵も味方も多くが犠牲となる。出来るだけ、犠牲者を減らしたい想いはあれど、そんな悠長な事も言ってられないのが戦争。今回、戦力を頼りに派遣されたからには、私が一番多くを殺してしまう事も考えられる。

 

今更ながら、どんどん兄さん達に顔向けできなくなっていく。きっと私が死んでも兄さんのいる天国には行けないだろうな。

 

でもそれもいいかもしれない。今の犯罪者の私を兄さんが喜んでくれるはずがないから。そんな姿を見せずに済むならそれもいい。

 

戦況は良くないようだ。当然だろう。雲隠れは忍五大国の一角を担う最強国家だ。それに小国一国で未だに生き残っていることが奇跡だ。理由として考えられるのは、その狭い国境。

 

狭い国境が、雲隠れの大群を押し留める効果があるんだろう。だから持ち堪えられる。少なくとも数の不利を緩和している。

 

だけど、質は覆せない。

 

雲隠れの豊富な人材に対し、霜隠れは殆どが中忍レベル。極僅かに上忍クラスが数名いる程度だ。

 

これでは雲隠れの名のある忍などには全く歯が立たない。

 

「依頼により、参上しました。暁のコンと申します。」

 

「良く来てくれた。霜隠れ上忍でここの指揮官を勤めているトーキだ。戦況は察しておろうが、此方が押されている。お主の働きで戦況が好転する事に期待しておる。」

 

『おい、女一人で大丈夫なのか』

 

『高い金を払ったんだぞ。これで失敗したんじゃ目も当てられない。』

 

ギャラリーの声が聞こえる。

 

もう少し聞こえないように言って欲しいものだ。

 

「わかりました。早速現場に向かいましょう。」

 

「ああ、頼む。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

最前線へ向かう途中で水分身を使う。15人程作って、国境の拠点に穴が開かないようにそれぞれを配置した。

 

本体の私は最も強力な敵がいる場所へ向かう。

 

拠点に着いた。戦況はやはり圧されていた。霧隠れの忍との戦闘で次々に簡易的な医療所に怪我人が運ばれる。腸が腹部から溢れだすを片手で押さえながら満身創痍の状態でやってくる者、重度の火傷で男女の区別すら付かない者。怒号や苦痛の声で溢れていた。

 

「援軍か!……よく来てくれた。」

 

此方に気が付いた霜忍が嬉しそうに駆け寄ってきたが、此方が一人だと気付いて一気に落胆してしまったようだ。

 

「申し訳ありません。援軍と呼べる程の力添えはできませんが、ご協力します。」

 

『俺たちは必死だってのに、外から来る連中は金儲けだけが目的なのかよ!』

 

小声が聞こえる。負傷した者達の目を見るに皆が似たような想いなのだろう。所詮は遊びに来ただけの外様。まあ、一人しか派遣しなかったリーダーもリーダーだ。とはいえ、暁は10人しかいないからどちらにせよ。大群をよこす事は無理だ。

 

そのかわり一人一人の仕事ぶりで数を補うとしよう。

 

「早速、頼む。ここから5km先まで敵が来てる!!何とか食い止めてくれ!!!」

 

随分と適当な指示だ。それ程までに追い詰められているのか。

 

「わかりました。では向かいます。」

 

瞬身の術で一気に戦場に向かう。

 

成程。大体が5対1。それに向こうは上忍が多数。……これでよく耐えれたものだ。

 

「何奴!?」

 

早速一人が刀で斬りかかって来る。

 

身体を半歩避けて、千本で首の秘孔を突く。

 

突かれた者は仮死状態となって倒れる。

 

こんな多勢に無勢の状況なら、霧隠れの術を使いたいのだけど、おそらく霜忍が対応できないだろうな。

 

とりあえず、これ以上敵にも味方にも死傷者が増えにくように、私にヘイトを集めよう。

 

「水遁・破奔流」

 

雲忍に向かって無差別に鉄砲水を浴びせる。

 

人数が多い事で適当に放ってもヒットする。

 

「はああ!!雲流・火炎斬り!!!」

 

破奔流から逃れた者が斬りかかってくる。

 

雲隠れも忍刀遣いが多いようね。

 

さっきと同じ要領で首に千本を突き刺そうとするが、クナイが飛んできて阻止される。

 

「姉ちゃん!サンキュー!!」

 

「アツイ!!もっとクールになりなさい。」

 

「「はああ!!雲流・三日月斬り!!!」」

 

木ノ葉流の三日月斬りは見た事あるけど、雲流は初めてね。

 

左右から男女が斬りかかってくる。

 

「風遁・烈風掌」

 

斬撃を風圧で逸らし、男性の腕を掴んで思いっきり、女性に向かって投げる。その投げた反動を利用して、飛んでくるクナイを回避。フリーになっている火炎斬りを放つ忍に千本を投げる。

 

「カルイ、オモイ!引きなさい!!」

 

「「ハイ!!」」

 

いい判断。即座に間合いを取り直す判断をしたのは、あの金髪の女性。見たところ、上忍で指揮を担っていると見ていいか。

 

凄い体付きね。線の細い私の体型とは正反対。暁のマントを羽織っていると余計に女性扱いされない私からしたら羨ましい事この上ない。

 

そんなどうでもいい事は、頭の隅に追いやる。

 

せっかく、数の有利を取ってるんだから、全員が突っ込んで団子状態になるのは避けたいよね。

 

「みんな、間合いは広めに取りなさい。」

 

「はあ!?何でだよ!…こっちが圧倒的に有利なんだから、さっさと決めちまおうぜ!」

 

「カルイの言う通りだぜ!ここはアツイ一撃で終わらせようぜ!!」

 

「もっとクールに相手の力量を見て言いなさい。相手はかなりの手練れよ。」

 

「やばいよ。こんなの相手にしないといけないとか……。ダルイ隊長じゃないと相手にならないんじゃ……」

 

「だあぁぁっ!お前はいつもネガティブなんだよ、オモイ!!」

 

随分と賑やかな小隊ね。さて……

 

「お話は終わりましたか?」

 

瞬身で彼らの目の前まで移動する。

 

「「「「!?」」」」

 

「水遁・破奔流」

 

彼らの目の前で鉄砲水を放つ。

 

刀を持っている3人が一斉に散開した。

 

いい反応。

 

リーダー格の女性は逃げずに術を放ってきた。

 

「雷遁・感激波!!!」

 

返す刀で雷遁を放ってきた。

 

「風遁・風切りの術」

 

「火炎斬り!!」

 

私の風遁を利用して、巨大な炎の斬撃が飛んでくる。

 

「水遁・破奔流」

 

「雷遁・感激波!!!」

 

これじゃイタチごっこね。

 

数は向こうが有利だから、仕方ない。

 

瞬身の術で距離を空ける。

 

「何て速さの瞬身だ……。」

 

「何をビビってんだ!!ビー様や雷影様に比べれば、遅いだろ!!」

 

「その二人を基準にしないといけない時点で、ヤバいって。」

 

「秘術・千殺水翔」

 

お喋りのところ悪いけど、奇襲させてもらうよ。

 

千殺水翔を囮に、もう一度瞬身で接近。アツイさんを蹴り飛ばす。

 

やっぱり、忍術合戦よりも体術の方が得意だ。

 

「アツイ!!」

 

「くっ!」

 

「このぉ!」

 

オモイさんとカルイさんが斬りかかってくる。

 

カルイさんの刀を左手の人差し指と中指でつまむ。所謂白羽取ってやつだね。

 

そのままオモイさんの刀の軌道へカルイさんの刀を持っていく。

 

カンッ

 

二人の刀が衝突して弾かれる。動揺しているオモイさんの足を引っ掛けて体勢を崩させる。

 

そこにサムイさんがクナイで妨害してきた。そのクナイを右手キャッチして、カルイさんに投げる。左手で千本をサムイさんに投げてこれ以上の妨害を阻止、そこで体勢を立て直したオモイさんが再び斬りかかってくる。前方に向かって跳躍して回避。

 

「バカめ!!4人相手に空中に跳ぶなんて自殺行為だ。」

 

成程、上手く嵌められた訳か。

 

下をみれば、ちょうど四方を取り囲むように全員がいる。

 

そして、クナイでが全方位から飛んでくる。

 

起爆札付きね。生半可な回避や弾き返しはできない。

 

私は空中で身体を捻り、千本をサムイさんとカルイさんのクナイに投げる。

 

衝突したクナイと千本は軌道を変えて、飛んでくる全てのクナイの軌道と起爆札の何枚かを射抜いた。

 

ドカァン!!!

 

爆風も計算に入れてクナイを弾き、爆風を利用して包囲網を離脱した。

 

近くで爆風に晒されたカルイさんとアツイさんが負傷する。

 

「くっ!」

 

「はあ、はあ…はあ。」

 

「はあ……はあ」

 

「…………」

 

私は何とか無傷で着地する事ができ安堵する。

 

ふう。今のは危なかったわね。少し油断しすぎかしら。

 

「……まだ、続けられますか?…引いてくださるのなら、追いかけるつもりはありませんが。」

 

「テメェ、舐めた口聞いてんじゃねぇ!!!お前なんか「やめろ、カルイ。引くぞ」……ちっ」

 

「今のを見ただろ。こいつはまだまだ力を隠してる。息一つ乱れていないんだ。私達よりも遥かに格上よ。恐らく、ビー様や雷影様でないとこいつを仕留めれないわ。」

 

「クッソ!!……雷影様に申し訳ねぇ!!!」

 

「とにかく今はあいつの事を雷影様に報告だ。行くよ!」

 

そうしてサムイ小隊は撤退した。

 

それから、同じ様に袋叩きに遭ってる霜忍の方の所に駆けつけては、雲忍を撤退に追い込んだ。

 

最初に破奔流を当てたことが幸いして、敵の足並みは崩れていた。お陰で此方の被害はかなり押さえれた。

 

私以外のところでも水分身が担当したエリアも被害を食い止める事に成功していた。

 

これで何とか霜隠れの人達の悲壮感を払拭できればいいのだけど……



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無色透明な紛争

「索敵はどうされていますか?」

 

トーキさんに夜の索敵を聞く。

 

「目視と夜間偵察だな。」

 

感知タイプはいないのかな?

 

夜の奇襲に対する防御力が段違いだと思うのだが……

 

「感知タイプの方はいらっしゃらないんですか?」

 

「残念だが、うちの里ではそこまでは望めん。」

 

「……そうですか。私は感知タイプですので、夜の警戒に参加させていただけませんか?」

 

「おお!感知もできるのか!!」

 

嘘なんだけどね。本当はただ気配に異常に敏感なだけだったりする。

 

「だが、一人では結局のところあまり効果が見込めないと思うが……」

 

「そこは水分身で補いますので、ご心配なく。」

 

「何から何まですまんな。」

 

「それは無事戦争を乗り越えれてから、また聞きます。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

やはり案の定、数ヵ所で奇襲を受けかけた。水分身が気がついて、対処してくれた事で大事にはならなかったが。

 

そして、本体がいる本拠地でも奇襲の気配を察知した。

 

霜の国が小国とはいえ、国である以上、大名はいる。

 

そこに暗殺者が来る事も想定には入っていた。それでも人間の警戒網は潜られていた。

 

大名の寝室に賊が侵入。賊は眠っている大名を布団の上から刀で突き刺した。だが、手応えに違和感を感じ、布団を捲る。

 

めくってみれば、人間ではなく丸太があった。

 

「こんな夜更けにどうされましたか?」

 

賊が刀を後ろに振るってくる。

 

私は身体を後ろに逸らし、そのままバク転。勢いそのままに刀を持つ手を蹴り上げる。

 

弾かれた刀は天井に突き刺さる。

 

着地と同時に千本を賊の顔面へ投げる。

 

賊は顔に飛んでくる千本をクナイで弾く。その隙に瞬身で賊に突っ込み首を掴んで、そのまま壁に叩きつけた。

 

その音を聞きつけて、続々と霜忍が駆けつけてきた。

 

「何事だ!」

 

「まさか、暗殺者か!?」

 

トーキさんが私に尋ねてくる。

 

「……どうだ?」

 

既に賊は奥歯に仕込んだ毒で自決していた。

 

「……残念ながら。」

 

この騒動で大名周りの警護がより厳重にされる事となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「昨晩は残念だったな。」

 

「ええ、あと少しで捕らえれたのですが、シキさんは大丈夫ですか?」

 

「オレの所は夜襲は無かった。だが、こうも劣勢ではいづれ限界が来てしまう。」

 

本当によく耐えていると思う。

 

それでもこのままではいづれ、雲隠れに軍配が上がる戦いなのは間違いない。

 

「では、また行ってきます。」

 

「ああ、すまないな。」

 

「いえ、雇われの身ではこれが限界ですから、気にしないでください。」

 

本当なら昔に再不斬さんの所でやっていた様に指揮も執りたいのだけど、流石にそれは越権行為だ。なら傭兵は傭兵らしく、前線で力を奮うだけの事。

 

今回も水分身で各拠点のカバーを行う。

 

「水遁・破奔流」

 

手順は前と同じだ。広範囲攻撃で撹乱を狙う。

 

それに釣られる形でやはり今回も手練れが集まってきた。

 

「雷遁・感激波!!」

 

電撃が水を伝って飛んでくる。

 

「風遁・風切りの術」

 

風遁で相殺しようとする。

 

「火遁・炎弾!!!」

 

風遁を巻き込んで、巨大な炎が飛んでくる。

 

これじゃあ、昨日と同じ。

 

瞬身の術で距離を離す。

 

「こいつが情報に上がってた例のくノ一か。」

 

「ジェイ、常に火遁の用意をしておけよ。ダルイ、お前は雷遁だ。」

 

「だるいけど、仕方ないな。」

 

成程、大物を当ててきた訳か。

 

ビンゴブックで確認した事がある。

 

血継限界の嵐遁

 

雷遁と水遁を組み合わせた黒い稲妻が特徴。

 

もう一人はシー。この人はチャクラ感知に幻術などのサポート能力に秀でている上忍。

 

このダルイとシーは雷影の側近に選ばれる程の忍だ。

 

もう一人も上忍だよね。

 

一人に対して、3人の上忍は過剰戦力だと思うんだけど……

 

しかも、私のチャクラ性質に合わせて雷遁と火遁で固めて、サポートまで付けてくる徹底ぶり。

 

恐らく昨晩の侵入といい、内通者がいると見て間違いないと思う。

 

これを乗り切れたら、内通者探しをしないといけないかもしれない。

 

まあ、その前に目の前の状況をどうにかしないと。

 

本当なら相性も悪いから逃げたいんだけど、雇われの身ではそれも許されないよね。常に結果を出さないといけない。

 

「チャクラ感知している分には大した事は無いんだがな。精々が下忍か良くて中忍レベルが限度なチャクラ量だ。」

 

「でもそれなら、尚更注意しなとっすね。その程度のチャクラ量でサムイ小隊を退けた訳ですから。」

 

「サムイからの情報だと大した術はなく、殆ど体術だけで圧倒されたそうだ。」

 

「4対1を覆せる体術って本当か?…それこそボスとかじゃなきゃ無理だろ。」

 

「いや、雷影様の体術はそれだけで尾獣クラスはあるからな。」

 

もういいかな?……わざわざ待つ必要もないか。

 

風遁は火遁で返されるし、水遁は雷遁で返されるよね。霧隠れの術は感知タイプのシーさんがいるなら意味ないし。

 

ならあとは氷遁のみか……

 

あまり使いたくないな……。血継限界なんて目立つ物を使いたくないし、こんな戦争の場で使ったら、後々相手からやっかみを受けるのは間違いない。

 

できるところまで頑張って、どうしてもダメな時に氷遁を使うとしよう。

 

瞬身の術

 

ジェイさんの背後に周り込む。

 

「なっ!」

 

ジェイさんの首に手刀を放つ。

 

だけど、流石は上忍。速度に驚きつつも、反射的にクナイを背後に振り抜いてきた。

 

首を少し落として回避。そのままジェイさんの腹を蹴り飛ばす。

 

追撃で追いかけようとすれば、起爆札付きのクナイが飛んでくる。

 

千本を投げて起爆札を射抜いて無効化し、瞬身でダルイさんの頭上から攻撃を仕掛ける。

 

何か印を結んでいた。それを阻止する。

 

「ダルイ!!上だ!」

 

「うおっ!!」

 

咄嗟に印をやめて、鉈の様な剣で千本を受け止められた。

 

的確な状況判断は流石だ。

 

即座に距離を離す。

 

「恐ろしく速いですね。」

 

「だが、雷影様ほどではない。」

 

「…….それでもオレ達じゃ、シーの援護が無きゃ反応が遅れちまうな。」

 

まずはこの中でも比較的倒しやすそうなジェイさんを落としたいところ。

 

面倒臭いけど、ジェイさん相手は水遁。ダルイさん相手は風遁と切り替えて戦うしかない。

 

「ダルイ、ジェイ、行くぞ!!雷遁・雷幻雷光柱!!!」

 

シーさんの身体から眩い光が放たれる。

 

目眩し!!

 

なら目を閉じて戦うしかないか。

 

私は気配を感知できるから、特に問題はない。

 

背後からジェイさんが斬りかかってくる。

 

「嵐遁・励挫鎖苛素!!」

 

前方からダルイさんの攻撃。

 

何か飛んでくるのを感知。

 

身体を回転させて、斬りかかってくるジェイさんの背後に周り、ダルイさんの攻撃の盾にする。

 

だけど、ダルイさんの攻撃はジェイさんを避ける様に曲がり、私を狙ってきた。

 

誘導タイプ!

 

すぐに瞬身で退避するが、更に追尾してくる。

 

もう一度、瞬身で今度はダルイさんの背後をとる。

 

流石にここまでは追尾できない様ね。

 

千本に風のチャクラを流して斬りかかる。

 

ダルイさんも刀に雷のチャクラを流してガードしてくる。

 

この人もチャクラ流しができるのか。

 

「クソ!こいつ何で動ける!?」

 

「雷幻雷光柱は、目眩しと幻術で相手を撹乱させる術だ。全く効果が無いなどあり得ないぞ!!」

 

え?そんな凶悪な術なの?

 

瞬身で距離を離す。

 

本当は得意な斬り合いで応じたいけど、足を止めてるとジェイさんに横から攻撃されるだろう。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

なら今度はこちらが目眩しだ。

 

「シー、敵はどこにいる?」

 

「…………」

 

「おい、シー?」

 

「シーさん!?」

 

悪いけど、シーさんを真っ先に気絶させた。サイレントキリングの本領だ。

 

「クソッタレ、嵐遁・黒斑差!!!」

 

黒い稲妻が走る。黒い稲妻を纏ったパンサーが此方に向かって走ってくる。

 

「どうですか、ダルイさん?」

 

「黒斑差が敵に向かってる。だけど、捕らえられていない。……さっきの雷幻雷光柱と霧隠れの術でも自由に動き回ってるから、恐らく感知タイプだ。…もっと早く気がついてたら、シーを助けれたんだが!!」

 

黒斑差から瞬身を駆使して逃げ回る。

 

速いわね。…それに見た目も凶悪そう。黒い雷ってどう見ても危険だよね。

 

「水分身の術」

 

黒斑差のターゲットを水分身に変えさせる。

 

水分身はジェイさんの背後に回らせる。

 

ジェイさんも背後の気配に気がついた様で、振り返ってくるが、水分身はそのまま飛び込み抱きつく。

 

「なっ!?」

 

そして、黒斑差は水分身に直撃。水分身はすぐに水に還る。だが、電撃はジェイさんの身体を焼いた。

 

「グアアアアアァ!!!!」

 

「ジェイ!?」

 

本体の私はダルイさんが動揺する瞬間を狙って、瞬身で懐に潜り込んで顎を蹴り上げた。

 

「ぐっ!」

 

上空へ打ち上げられるダルイさん。そしてそのまま、私も背後へ跳ぶ。

 

影舞葉

 

左足をダルイさんに絡ませ、自身を回転させて、右拳を叩きつける。

 

「ぐおっ!!」

 

更に左拳を叩きつける。

 

「ぐっ!!」

 

そして右足で踵落としを決める。

 

「ゴホッ!!!」

 

ダルイさんの口から血が噴き出す。そのままダルイさんを地面に叩きつけた。

 

霧隠れの術を解く。目を開いて、周りを見渡す。3人とも気絶して倒れている。

 

これで全員戦闘不能かな。中々、キツイ戦いだったわね。立ち回りで倒せたからよかった。でも、本当に疲れたわ。

 

その後は特に大きな山場も無く、防衛に成功した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜、今日も水分身に夜の警戒を任せる。

 

本体の私は気配を消して、前線基地に潜んでいた。

 

私は7年前に霧隠れにスパイで潜り込んだ事がある。だからこそわかる同類の臭い。霜側陣地に内通者がいる事を。そして、その目星も付いている。

 

やっぱり……

 

野営地から飛び立つ、一匹の梟。その足にくくりつけられた何かが見える。

 

千本で撃ち落としてみる。梟の足には何やら手紙が入ってる。

 

中身は、各拠点の配置。構成されている忍。その得意忍術と苦手戦法。本拠地の間取り。そして、私の情報。水遁と風遁の使い手である事等が書かれていた。

 

すると今度は雲隠れの里の方角から梟がやってくる。気配を消してそれを追いかける。

 

追いかけた先に誰かがいた。梟はその人の肩に止まる。何かを受け取ると、梟は飛び立とうとする。それを千本で打ち抜いた。

 

バッと振り返る人影。私は殺気を放ちながら、人影に問いかける。

 

「そこで何をされているんですか、シキさん?」

 

驚いた顔のシキさんもとい内通者は身体をガクガクと振るわせる。

 

「どうされましたか、そんなに震えて。上忍ともあろう方が、私程度の殺気で下忍の様に震えては情けない事ですよ。」

 

「くっ!」

 

瞬身の術

 

一瞬で内通者の目の前に移動して、千本で首の秘孔を突いて、気絶させた。

 

昨日と同じ失敗はしない。口の中に仕込んでいた毒を吐かせて、内通者をトーキさんの所へ運ぶ。

 

内通者を運べば、トーキさんは目を丸くして驚いていた。まさか、裏切り者がいたとは信じたくなかったんだろう。

 

証拠の手紙と梟を見せれば、内通者への尋問がなされた。

 

そして更に三日後には雲隠れからは白紙和平の提案がなされた。

 

投入した戦力とコストに対して、リターンが見合わなくなってしまった事が要因だそうだ。それだけ霜隠れの防衛力は強固なものだったんだろう。

 

送り込んだスパイも悉く、任務を失敗し、正面からの突破も強固な防衛に守られた結果、雲隠れが矛を収めたのだ。

 

ただ、この背景には他の五大国との関係も大きく関与している。五大国の一角が小国に遅れをとる事自体、外聞が悪い。

 

つまり白紙講和と言っているが、実際は霜の国には、此度の戦は無かったことにしろという要求があった。

 

霜の国も限界に近かった事で、これを承諾。結果、この戦争は歴史の闇に葬られる事になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

報酬をトーキさんから貰い、霜の国を去る。

 

「出てきて。」

 

声を出せば、相方のゼツが現れた。

 

「お疲れさん。」

 

「ありがとう…はい、これ。」

 

お金をゼツに渡す。

 

「角都 に渡しておいてね。……後、これはリーダーに。」

 

巻物を渡す。

 

「その中に今回の霜の国と雲の国の情報を纏めた内容が入ってるから。霜と雲の戦力と使用してくる忍術、戦法。霜の国の内情とか、雷の国の他国関係。…今回の講和で霜の国で内乱になるかもしれない。無かった事にされた遺族達が黙ってるはずがないと思うから。後、雲隠れに二尾と八尾がいるみたいだね。特に八尾は私よりも強いらしいよ。」

 

「ナラ、ヒトリデハナク、ツーマンセルノメンバーニ、ヤッテモラエバイイダケダ。」

 

「ところで、コンは角都達には会わないの?」

 

「私あの二人が嫌いだからね……特に飛段とは。会えば、また殺し合いになると思うからやめておく。」

 

「ソウカ。デハ、オレタチハ、ホウシュウヲモッテイク。」

 

そうしてゼツは地中に潜って行った。



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偵察

「コン先輩〜お疲れ様っす〜!」

 

声をかけられて見れば、私と同じようにお面を被った暁のマントを羽織った男性に声をかけられた。

 

「先輩は付けなくていいよ。トビの方が先に居たんだから。」

 

彼はトビという暁の見習いだそうだ。…振る舞いだけを見れば、下忍程度なのだけど、なぜSクラスのメンバーが揃っているこの組織に在籍できるのか……。どうにも不気味だなと感じてはいる。だけど、普段の振る舞いは至って、友好的なので無下にもできない。

 

「いや〜、コン先輩は優しいな〜。でもボクはまだ補欠ですからね!」

 

「今日は私に何か用事でもあるの?」

 

「いや〜、特にはないっす!ちょっとナンパしに来ました!」

 

「………凄く素直だね。でも私なんかより小南とかの方が美人だと思うよ。それにスタイルも良いし。」

 

「ボクは先輩みたいなスレンダーな女性が好きです!……それにペイン先輩が怖いし。」

 

「…あはは。ありがとう。」

 

「あれ、それだけっすか?」

 

「うん?それだけって?」

 

「……脈は無いみたいっすね。」

 

トビがガクッと肩を落とす。

 

少し可哀想なので、目の前にある団子屋に誘う。

 

「彼処で団子を食べない?少しお茶も飲みたいし。」

 

「おお!良いですね!!奢らせてください、コン先輩!」

 

「気にしなくていいよ、そんな事。」

 

とりあえず、席に座って適当に団子を注文。

 

出された団子を食べる為に仮面の下半分だけ出して食べる。

 

「顔出さないんですか?」

 

「出さないよ。トビも同じでしょ?」

 

トビも仮面の下に団子を運んで食べていた。

 

懐かしいな……。10年以上も前に兄さんと再不斬さんと団子を食べた事があったな。あの時は私が我が儘を言って沢山食べさせてくれたっけ………

 

「せっかく、仮面をつけてるんだったら、ボク達お揃いにしませんか?」

 

「私はこれ、気に入ってるから。」

 

「うぅ〜、先輩が連れない……」

 

嘆くトビを眺めながら、団子を頬張る。

 

「口だけ出てる先輩は何か色っぽいですね!」

 

「そのナンパごっこいつまで続くの?」

 

「ごっこじゃないです、先輩!」

 

「……それにしても、暁のみんなは逆に何で仮面しないんだろう?みんな誰かしらに狙われる身だと思うんだけど。」

 

「皆さんお強いですからね。返討ちにする自信があるんじゃないんすかね。」

 

「よくそんなに自信満々になれるよね、みんな。」

 

私には無理だな。何せ大蛇丸にダンゾウを筆頭に霧隠れや岩隠れにも指名手配されてる。しかも先の紛争代行任務の所為で雲隠れにも目をつけられてしまった。

 

その後もトビが元気よく話すのを相槌を打って聞いていた。

 

「……何だこの緩い空気は。」

 

そこに呆れた声をかけられる。

 

「あ、サソリ先輩!お疲れ様っす!!」

 

そう言えばサソリは一応傀儡に身を潜めているのか。

 

「サソリも食べる?」

 

「要らん。よくもまあ、抜忍でそんな呑気に食事ができるってもんだ。」

 

あ、そう言えばサソリは食事できないんだった。

 

「……ごめんなさい。」

 

「………はあ。お前と話していると調子が狂う。別に気にするな。好きでこの身体になった訳だ。」

 

許してくれるらしい。というか気にしていないようだ。

 

「トビ、こんな所で何してる?」

 

「はい!コン先輩を口説いてました!」

 

「……はあ、お前殺されるぞ。」

 

「何言ってるんですか、サソリセンパーイ。このボクを殺せる奴なんて………あ、」

 

サソリがいるんなら、相方もそりゃいるよね。

 

「おい、トビ〜。元気そうじゃねーか、オイラの芸術を味わいたいからやってきたんだよな、うん!」

 

トビの後ろからデイダラが現れる。デイダラはトビの頭をガシッと掴んだ。

 

「…デ、デイダラ先輩〜。やだな〜、そんな爆発しか取り柄のない芸術を食らったら死んじゃいますよ〜、あ、」

 

「……テメー、……死刑確定!!!喝!!」

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

トビがデイダラに爆破されて吹っ飛ぶ。

 

「……お前とトビが揃うと空気が緩すぎて、抜忍である事を忘れそうになる。」

 

「……あはは。」

 

「おい、コン。一人で団子食っても寂しいだろ?オレも食ってやるよ。」

 

戻ってきたデイダラが、トビの座っていた席にどかっと座る。そのまま、私とトビの団子を引ったくって食べてしまう。

 

トビに目をやると黒焦げになって倒れていた。

 

「トビは大丈夫なの?」

 

「あんな奴はほっとけばいいんだよ。」

 

「デイダラはいつもトビをいじめてるよね。」

 

「オイラを爆発させるあいつが悪い。」

 

倒れてるトビに塗り薬を渡す。

 

詰んだ薬草で作ったものだ。これは火傷に効く物筈。

 

自分の体質上、効果を確認できないのだけど。

 

「トビ、これを渡すから後で自分で塗ってね。」

 

「コン先輩〜〜。ありがとうございます。本当に優しい〜〜。」

 

「ピーピー泣くんじゃねーよ。うるさい。」

 

「……早くしろ、デイダラ。この馬鹿どもはほっとくぞ。」

 

「ちょっと待ってくれ、旦那。おい、コン。オイラにも薬をくれよ!」

 

デイダラはよく私に薬をせがんでくる。そろそろお金を取ってもいいよね。

 

「はい、どうぞ。」

 

「おう、サンキュー!」

 

とってもいい笑顔で受け取るデイダラ。

 

彼の爆弾を使った戦いの関係か、よく怪我や火傷をする事が多い。

 

ついでに傷薬も渡しておく。

 

「あんまり無茶な戦い方しないでね。」

 

「考えておくぜ!」

 

「この馬鹿に心配されるなんて、相当だぞ。」

 

「サソリも不死身だからって、油断しないでね。何だか、暁のみんなは自信過剰なんだから。」

 

「……ふん。」

 

「へっ、旦那も言われてるぞ、うん。」

 

「一度殺してやろうか…」

 

「まあまあ。落ち着いて。」

 

そうして、デイダラに引っ張られるトビとそれについて行くサソリの3人は去って行った。

 

結局、3人は何しに来たんだろう?……まさか、本当に遊びに来ただけとかじゃないよね。



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ツーマンセル

ゼツに呼び出されて向かって見れば、小さな小屋。

 

その中でデイダラが青い顔で眠っていた。

 

「ちょっと、どうしたの!?」

 

話を聞けば、どうやら頬と腕についた切り傷から毒が介入したようだった。

 

デイダラは意識はあるものの、グッと固く目を閉じ、毒の浸透に耐えている。 

 

「どうだ。解毒できるか?」

 

私の後ろでヒルコの尾がゆらりと揺れる。

 

「私に医療忍術の心得はないわよ。」

 

「普段薬を作ってるじゃないか。」

 

「薬は作れるけど、それだけよ。かなり強い毒。任務で?」

 

とりあえず解毒薬を用意する。

 

「いや、追い忍だ」

 

その呟きにサソリが小さく舌打ちした。

 

「どいつもこいつも、油断しやがって」

 

本当にそうだ。つい最近忠告したばっかりなのに。

 

「…う…」

 

デイダラが痺れと苦痛に顔をゆがめるのを見て、早速解毒薬を飲ませる。

 

「デイダラを狙って…」

 

「いや。砂の追い忍だ。それゆえ毒が強い」

 

「……え?砂の追い忍って事はサソリがターゲット?」

 

「他の抜け忍を追っていたようだがな。俺を知る奴がいて戦闘になった」

 

「じゃあ、デイダラは貴方をかばって?」

 

私の問いに、サソリが無言で踵を返す。

 

その動きに合わせたように、デイダラが小さくつぶやいた。

 

「避けた」

 

「え?」

 

視線の先、デイダラは痺れる腕を持ち上げて、人差し指でサソリを指す。

 

「避けたんだ」

 

「避けた」

 

もう一度言ってデイダラは腕をポトッと布団の上に落とし、苦痛に顔をしかめる。

 

短いその言葉に、大体のことを察した。

 

追い忍の毒の攻撃。

 

クナイか手裏剣かその手法や状況までは分からないが、サソリなら避けずとも傀儡を使ってうまくはじくと思い、デイダラは後方で何か仕掛けようと準備していたのかもしれない。

 

だが…

 

砂忍の扱う毒が強いのを知っていて…

 

デイダラが後ろにいるのを知っていて…

 

「避けたんだ…」

 

ジトリとサソリを睨む。

 

「フン」

 

サソリは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「そいつの油断だ」

 

「仲間でしょ。」

 

「砂の毒はきつい。傀儡に着くと、変色するかもしれないからな」

 

「……………はあ。とりあえず調合表見せて。」

 

「それはできない。オレの秘密だからな。」

 

「…ねぇ。まだゴネるなら私怒るよ。」

 

少し怒気を放ってサソリを睨む。

 

「……チッ。」

 

サソリが巻物を渡してくる。

 

「…5分だ。5分だけ見せてやるから覚えてさっさと返せ。」

 

早速目を通していく。

 

今自分の手持ちの薬草で解毒できるのか。

 

先に飲ませた解毒薬で副反応が起きないか、即座に頭の中で整理する。

 

そして巻物をサソリに返した。

 

「ちょっと待ってて。」

 

「早くしろ…」

 

「…………」

 

呆れて思わず睨みつけようかと思ったが、先に解毒薬を調合してからだ。

 

巻物を広げる

 

「口寄せの術」

 

調合器具を口寄せする。

 

頭の中で整理した薬草も口寄せして並べる。

 

そして作業すること、1時間。解毒薬が完成した。

 

「とりあえず、急拵えで作った物だけど、大分楽になると思う。…その前に毒抜きね。」

 

仮面を外す。

 

デイダラの傷口に口を当てて血と傷口周辺の毒を吸い出す。

 

「お前、直接吸って平気なのか?」

 

サソリが驚いた声を上げる。

 

「どうせ数時間も経ってしまっているから、傷口周辺の血液の毒素は薄くなってるわ。今のは解毒薬を飲んだ後にまた、傷口周辺の毒に侵されないように吸い出しただけ。」

 

まあ、本当の事を言えば、毒物に耐性があるだけなんだが。

 

傷口を消毒する。

 

「……う…」

 

強い痛みはないものの、違和感とピリピリとした刺激を感じ、デイダラが顔をしかめる。

 

沁みるけど我慢して。

 

「解毒薬を器に入れてもらえる?」

 

デイダラに多少は罪悪感を感じているのか、サソリは「分かった」と素直に手伝う意思を見せる。

 

そうして、3度作業を繰り返し、ようやくほとんどの毒を消し終えた。

 

「あとは明日の朝、解毒薬を飲めばもう心配はいらないと思う。だけど1週間は安静にしたほうがいいかも」

 

「そうか」

 

 サソリの低い声で返事する。

 

「コン。」

 

デイダラがまだ少し顔をしかめながら体を起こす。

 

「まだ無理だよ」

 

しかし、デイダラは割としっかりとした動きで起き上がった。

 

「いや、もうここまで来たら起き上がれる。うん」

 

両手を何度か握って、にっと笑う。目が合った瞬間、デイダラが驚いた顔をする。

 

「お前、そんな顔してたんだな。」

 

「どんな顔でもいいでしょ。」

 

「違いない。」

 

デイダラが小さく笑う。

 

「オイラ、毒の耐性は強いほうなんだ。子供の時から、免疫つけるために色々飲まされてるからな」

 

「そんな…」

 

壮絶な子供時代を垣間見て、言葉が出なくなった。

 

「今回のはきつかったけど、まぁ死ぬほどじゃねぇぜ。うん」

 

体を伸ばしながらまた笑う。

 

当たり前のように口にされた過去の事実。

 

「無理しないでね」

 

「うん?大丈夫だって。ありがとな、コン。」

 

「…うん」

 

サソリの声が続いた。

 

「デイダラ、動けるのか」

 

「あー。1週間もいらねぇけど、2・3日は難しいな…うん。痺れで手がうまく動かねぇ」

 

「役立たずめ」

 

チィッとヒルコの奥から聞こえた舌を打つ音に、デイダラのこめかみがピクリと揺れる。

 

「誰のせいっスかね」

 

「お前の油断だと言っただろう。オレの動きを見てなかったからこうなったんだ」

 

「いやいや、あそこは旦那がはじいてからの、オイラの喝だろ!うん!」

 

「お前の爆破ですべて飛ばしてからのオレだろ。普通に考えれば」

 

「くそー!かみ合わねぇ!」

 

痺れの残る手で髪をぐしゃっとつかみ、デイダラはむすっとそっぽを向いた。

 

「せっかくこの間手に入れた新しい粘土で盛大にやってやろうと思ったのによ。うん」

 

その言葉に、サソリが少しあざけるような口調で続く。

 

「二度と毒に負けないように、この間手に入れた【釉薬の秘伝書】から作った毒を飲ませてやろうか。新しい免疫が付くぞ」

 

「いらねぇ!」

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。あんまり騒いだら、もっと長引くよ。とにかく今は体を休んで」

 

私の言葉に従い、デイダラは体を横にする。

 

「でもよ。旦那、どうする?」

 

布団をかぶりながらのデイダラの言葉にサソリがしばらく黙してから答える。

 

「任務の日取りは変えられん。明日の夕方、オレが忍び込ませた手下の潜脳操砂の術が解けるからな。必ず落ち合わねばならない」

 

「明日任務だったの?」

 

「うん?ああ」

 

「でも明日はさすがに無理だよ」

 

サソリに視線を向ける。

 

「役立たずめ」

 

その言葉にデイダラが言い返すより早く、サソリは部屋から出て行った。

 

「む、むかつくぜ…。うん」

 

デイダラは顔をひきつらせながらフンッとそっぽを向いたが、すぐにこちらに振り返った。

 

「なぁ、コン。もう帰るのか?」

 

そのつもりにしていたが、デイダラの経過も気になり、首を横に振った。

 

「明日の朝まではいる」

 

デイダラは「そっか」と嬉しそうに笑った。

 

「デイダラは、なんで暁に入ったの?」

 

ついとそんな言葉が出てしまい、ハッとした。

 

質問には質問が返ってくる…。

 

私もあまり言いたくない過去を話さないといけない。

 

「それは…」

 

ぼそりとデイダラが口を開いた。

 

「それはイタチのやろうが…」

 

「え?」

 

思いがけない名前が出てデイダラを見る。

 

その視線に、デイダラは少し黙り「なんでもねぇ…」とそっぽを向いた。

 

どうやらイタチと何か関係しているようだったが、それ以上話す気がないデイダラの雰囲気に、私も口を閉ざした。

 

「それより、コン」

 

しばらくしてからデイダラが向き直る。

 

「大丈夫なのか?」

 

「何が?」

 

「……正直、今までお前を見てて、暁は合ってないんじゃないか?」

 

「え?」

 

「何でお前みたいな奴が抜忍をやってるのか聞かねぇよ。でも、無理してるんじゃないのか?」

 

「違うよ。別に無理なんかしてないよ。」

 

「そっか…」

 

同じように笑ったデイダラ。

 

突然サソリが低い声をかけてくる。

 

「とりあえず、明日からの任務は組織との話で鬼鮫と行く事になった」

 

「…え?」

 

「鬼鮫の旦那と?」

 

「日程は変えられない。だが我々は基本ツーマンセルだ。お前が動けないなら他に誰か連れて行くしかない」

 

それなら私は何なのだ。殆ど一人で活動しているぞ。

 

「それで、鬼鮫さんを」

 

「そうだ。ちなみにデイダラ、お前は明日本拠地に放り込みに行く。オレが帰るまで待ってろ」

 

その言葉に、デイダラは「ゲ…」と顔をゆがめた。

 

「ぜってートビがうるせぇ。うん」

 

うんざりしたようにそう言い、大きな欠伸を一つする。

 

「騒ぎすぎだよ。もう寝て」

 

デイダラはまだ何か言いたそうな顔をしてはいたが、さすがに体の疲労を感じたのか、促されるまま横になり、すぐに寝入った。

 

「明日こいつが起きたらすぐに出る」

 

「そっ。今度は二人とも仲良くね。」

 

サソリが何か言おうとしてくるが、無視して小屋から出た。とりあえず、明日の朝までは経過観察かな。



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兄の過去

翌日、私とデイダラ、サソリの3人は本拠地へと赴いた。

 

デイダラの体調も随分と良くはなったが、まだまだ本調子でないようだ。

 

「お前、またその面を被るのか。」

 

サソリにそんな事を言われる。

 

「どうしたの?別にいいじゃない。」

 

「いや、お前の顔なら出していた方が良いと思ったんだが。」

 

「そう?」

 

「ああ、敵を油断させるにはうってつけだ。」

 

「それって褒めてるの?貶してるの?」

 

「オレがわざわざ女の顔を指差して、貶す程に捻くれてると思ってるのか?」

 

捻くれてるように見えるけど…………

 

「そうなんだ。ありがとう。でも、それ以上に色んな大物に狙われてるから私は。やっぱり安易に顔は晒せないかな。」

 

「その割には昨日は簡単に顔を晒してたじゃねーか。」

 

「仲間の命と私の顔なら、比べるまでもないでしょ。」

 

「………テメェはやっぱりおかしいぞ。」

 

全く……素直じゃない奴が多いわね、暁には。

 

入り口には鬼鮫さんが待っていた。

 

「ではここで交代ですね。」

 

鬼鮫さんと私が交代になる。サソリと鬼鮫さんはすぐに任務に出て行った。

 

今回は私とイタチでツーマンセルを組む。

 

イタチを見る。久しぶりに見るイタチは随分と弱っていた。

 

「また、あの瞳力を使ったのね。…控えた方がいいって言ったのに。」

 

「……」

 

「はい、これ。薬もそろそろ切れるでしょ?…病気の進行も早くなるんだから、瞳力も程々にしたほうがいいよ。」

 

イタチに薬を渡す。一眼見て、イタチが肺に大きな病気をしていることはわかっていた。症状を和らげることしかできないが、薬を定期的に渡してある。本当はちゃんとした医者に見てほしいのだけど、抜忍の身ではまともな病院にも行けないようだ。

 

「……これからどう動くの?」

 

「空区に向かう。」

 

「……空区?」

 

「…………着いてきたらわかる。」

 

「わかったわ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

イタチの案内で向かった先は、廃墟ばかりの人の気配を感じない街並みだった。

 

二人で静かに足を進めていく。

 

「この先だ。」

 

イタチが見上げた大きな門には「空区」と書かれており、どうやら大きな街の入り口のようだ。

 

「行くぞ。」

 

「うん。」

 

門を潜っても、先程と同じように人気は無く寂れきった感じだ。

 

やや歩いてイタチが建物の中に入っていく。

 

中は暗く、壁や天井にはパイプがいくつも並んでいる。

 

「俺から離れるなよ、迷うぞ。」

 

「私は感知タイプだから、心配ないよ。」

 

「………それでも油断するな。」

 

いつもデイダラ達に口酸っぱく言っていた事を自分に言われて、思わず顔を赤くしてしまう。

 

言い返したくなったが、グッと堪える。

 

口喧嘩で勝っても虚しいだけだ。

 

「ここはうちは一族が利用していた武器屋だ。来るのはかなり久しぶりだがな。」

 

一応ビンゴブックでイタチの罪状を知っているだけに、来にくい場所なんだろうと察する。

 

何も言わない方が良いよね…………

 

「ここにいる武器商人のネコ婆に用がある。」

 

イタチの説明を聞いていると、少し先の暗闇から声が飛んできた。

 

「おい、珍しい奴が来たぞ。」

 

「ホントだフニィ。」

 

壁に反響して辺りに響く。

 

イタチは立ち止まり、その声の主を待つ。

 

ややあって、闇から現れたのは服を着た猫だった。

 

「久しぶりだな、デンカとヒナ。」

 

猫を見つめるイタチが小さく笑った。

 

いつも真顔で色々な表情を見せるイタチにしては珍しい反応。

 

呼ばれてその2匹はちょこんと座り、イタチを見つめた。

 

「本当にいつぶりだろうな。大きくなったな、イタチ。」

 

「デンカ、多分イタチには10年近く会って無いんじゃないかフニィ。」

 

お互い懐かしそうな表情で見つめ合う。

 

「で、一体何の用だい?」

 

デンカがスッと立ち上がる。

 

額には毛の模様なのか特殊なものなのか「忍」の文字が浮かんでいる。ゆらりと揺れるフサッとした長い尻尾。少し硬い質だが、よく手入れされている毛並みとピンと伸びた耳。

 

「可愛いね……」

 

デンカに向かって手を伸ばした。

 

「よせコン。こいつらは凶暴な忍猫で……?」

 

慌てて制止したイタチの声が途中で力を失った。

 

デンカは気持ち良さそうな顔で伸びていた。

 

「なっ…」

 

イタチが驚きの声を上げる。

 

「私。こうゆうの慣れているから。」

 

ユキウサギでよくやっている。

 

「んなゃあ〜。お前、中々…」

 

恍惚の表情でごろごろ喉を鳴らす。

 

「気持ち良さそうフニィ…」

 

「ヒナもこっちに来て。」

 

ヒナの頭を撫でる。

 

その一撫ですら気持ちいいのか、ヒナは私の体にすり寄った。

 

驚いた様子でそれを見ていたイタチが小さく笑った。

 

「お前は本当に不思議な奴だ」

 

柔らかいその笑顔を見て、デンカとヒナは目を細めて私に向き直る。

 

「へぇ…」

 

「フニィ…」

 

2匹ともふわりと飛び上がり、イタチの前に降り立つ。

 

「で?」

 

「武器を買いに来たのか?」

 

「いや、ネコ婆に用がある」

 

「ふぅん。持ってきたかフニィ?」

 

「ほら、またたびボトルだ」

 

イタチが懐から瓶を取り出してヒナの口にくわえさせると、ヒナは満足そうに笑った。

 

そしてデンカと共に先ほど出てきた薄暗闇の方へと歩き出す。

 

「ついてきな」

 

「案内するフニィ」

 

イタチと私は後に続き、その先にあったドアを開けて中に入った。

 

「わぁ…猫いっぱい」

 

部屋の中に何匹もの猫が思い思いにくつろいた。

 

どうやらデンカとヒナのような忍猫ではなく普通の猫のようだ。

 

数匹が私の足元にすり寄ってきた。

 

「可愛い」

 

「誰かと思ったら…」

 

部屋の中央に座る人物が二人を見据える。

 

灰色の髪を一つに束ねたややかっぷくのいい老婆…

 

鼻の頭が少し灰色に色づいており、頭に猫耳をつけている。

 

「イタチか?」

 

目を細め、静かに見つめる。

 

「はい。ご無沙汰してます。ネコ婆…」

 

姿勢を正すイタチに習い、私も背筋を伸ばす。

 

「まさかお前がここに来るとはねェ」

 

うちは一族の事件を知っているのだろう。

 

かもし出す雰囲気がやや警戒を現わし、どう対処するべきか考え込んでいるようだ。

 

しばらく言葉のないまま対峙し、ネコ婆はふぅ…と息を吐き出した。

 

「ま、他人のごたごたはどうでもいい。大口の顧客を失ったことは痛手だがな」

 

皮肉交じりに笑う。

 

とりあえずは受け入れてもらえたようでほっとした。

 

「で、なんだい?何か武器が必要なのかい?」

 

「はい、奥いいですか?」

 

「ああ…」

 

「私はどうしたらいい?」

 

「好きにしろ。」

 

そう言うとイタチは奥へ行った。

 

ええ〜……

 

ここまで来て、放置ですか。

 

「おい、あんた。」

 

「はい、何でしょう?」

 

「名前は?」

 

「コンと言います。」

 

「コンか……。あんた、イタチのしたことを知らん訳でもない。」

 

「…はい。」

 

何が言いたいのかわかる。何故、平気な顔して一緒にいるのか、気になるんだろう。

 

ネコ婆は少し遠くを見る様な目で溜息をついた。

 

「あの子の事は小さい頃から知ってる。幼くして戦争を目の当たりにし、命の在り方について考えるようになった。」

 

さっきの様子とは違い、優しい目つきになる。

 

「イタチは父親に言われて、時折一人でうちに買い付けに来てね。そんな話をよくしとったよ。」

 

それって何歳の事なんだろう。私がその問題に真剣に考えだしたのは、ここ2年ぐらいの事だ。

 

精神が成熟しすぎじゃないだろうか…

 

いや、兄さんも常に先を見据えて考えていた。私を守る為に。

 

やはり人は護るものがあると強くなれるんだなと思う。

 

それと同時に兄はやっぱり偉大だなと思う。

 

「そのうち弟が生まれて、一緒に来る様になって。自分が守るべき存在ができた事で、より生命の尊さを感じるようになり、とにかく争いのない世を望んでいた。そんなあの子がねぇ……」

 

それが今のサスケ君を形作っている物。

 

「争いの絶えぬ今を生きながら争いのない未来を願って、その矛盾の中で苦しんでいたのかね。それでもサスケだけは、というのがなんともな…。」

 

ネコを撫でる手を止める。

 

「他人が関与するものではないが、イタチもサスケもよく知っているだけに孫の様なもんだ。何があったか知らんが、他に道は無かったのかと思わずにはいられないよ。」

 

やっぱり、サスケ君はイタチ()を殺す事で復讐を遂げようとしてる訳ね。

 

イタチの悲しい瞳を思い出す。いつも苦しそうな瞳をしていた。

 

そしてそれは、イタチだけじゃない。鬼鮫さんも本質は同じ様な苦しみを感じていた。それはサソリも同じだ。

 

皆、何かしらの痛みを持って生きている。ペインも小南もトビだってそうだ。

 

暁に来てよかったと思うのは、私だけが不幸だという驕りを払拭させてくれた事だ。

 

「……大丈夫ですよ。兄弟なんですから。きっと分かり合える日は来ますよ。」

 

だからこそ、仮面を取って満面の笑みで答えた。

 

ネコ婆がフッと笑う。

 

「あんたみたいのが、あの子の側に居てくれて良かったよ。でも、その顔は男には目の毒だね。隠してた方がいい。」

 

「ありがとうございます。容姿を褒められる事はあまりないので。」

 

「それは随分と見る目のない奴らだね。」

 

「普段から顔は隠してますから。」

 

再び仮面をつける。

 

イタチとサスケ君。2人の行先がどうなるかはわからないけど、それでも2人が分かり合える日がきますように………

 

そんな事を願ってネコを撫でていたら、イタチが帰って来た。

 

「もういいのかい?」

 

「はい、欲しい物は一通り買いましたので。」

 

「ネコ婆様、ありがとうございました。」

 

私は頭を下げる。

 

「………お前は何もしてないだろ。」

 

イタチが呆れた声を上げる。

 

「では、行ってきます。」

 

「ああ、達者でな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

空区を後にして、森を歩く。

 

「結局、私はなんで連れて来られたの?」

 

ずっと疑問に思っていた事を聞いた。

 

「我々はツーマンセルで行動する決まりだ。……今回は武器を手に入れたかったしな。」

 

「え……それだけ?」

 

………その為だけに私を引っ張ってきたの?

 

何だか肩の力が抜ける。

 

イタチって天然なのかな………

 

そのまま暫くは無言で森を進んだ。基本的に無口なイタチだ。必要以上に口を開かない。私もそこまで口達者ではないので、最初は会話しようとしたけど、結局長続きしない。

 

「……ネコ婆様から聞いたのか?」

 

何をとは聞かない。

 

「…………何も聞かないんだな。」

 

「聞いて欲しいの?」

 

「違う。………ネコ婆様から聞いたのなら、俺を責めないのか?警戒しないのか?」

 

イタチが足を止める。

 

何だそんな事か。

 

「別に今までと変わらないよ。私も同胞殺しの罪がビンゴブックに書かれてるしね。」

 

「………そうなのか。」

 

シロの名前で名乗ってないから、ビンゴブックを調べてないんだろう。

 

「でも、それは貴方や鬼鮫さんの様な想いとはかけ離れてると思う。だから、貴方達の気持ちをわかってあげる事はできない。」

 

「どういう事だ。何が言いたい?」

 

「ビンゴブックに書かれている同胞殺しの罪はでっち上げって事だね。」

 

「なら、尚更何故何も聞かない?」

 

「そんなのサスケ君のお兄さんだから。」

 

そういうとイタチは大きく目を見開く。

 

「……まあ、意味わからないよね。私サスケ君の事知ってるんだ。昔会ったことあるし。……ネコ婆様越しだけど、イタチの事を聞いたから、今度は私の事を話そうか。……多分、そうすれば少しは納得できると思うよ。」

 

私は仮面を取って素顔を晒す。そしてイタチの目を見つめた。

 

イタチの瞳に私の顔と傷が付いた額当てが映る。

 

「私の本名はね、雪藍。多分、鬼鮫さんは勘づいてると思うよ。」



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兄と弟の面影を重ねて

「ビンゴブックには木ノ葉の元暗部で『シロ』って名前で載ってる。」

 

2年前と最近の更新ではあるけど、イタチなら常に最新の情報にしてるだろうから、後で確認できるだろう。

 

「ここまでで、既にサスケ君の事を知ってる理由はわかるでしょう?」

 

「………ああ。」

 

サスケ君周りは徹底的に調べているだろうからね。

 

「……サスケ君は強かったよ。当時私よりも強かった私の兄さんを体術で圧倒してたしね。しかもあの歳で火遁の術も使えてたし。私の師匠の水分身10体を瞬時に消し去ったりしてたね。」

 

「…………」

 

「それにお友達のナルト君とも仲が良かったよ。あの子がいれば、サスケ君はきっと大丈夫だよ。」

 

「サスケは俺のスペアだ。俺が新たな光を手にするためのな。」

 

「そう。」

 

「それに何故、お前は自身の身内が殺されて笑っていられる?……サスケを憎いとは思わないのか?」

 

「別に憎くは無いよ。お互いに任務で戦っただけ。偶々、相手がサスケ君だった。もしかしたら、相手が貴方だったかもしれない。ただそれだけよ。」

 

「……人の死はそんな簡単に割り切れるものではない。」

 

「ふふ、貴方は本当に優しいのね。安心して、本当にサスケ君の事は憎い訳じゃ無いのよ。……私の兄さんがサスケ君とナルト君に未来を託した。ならそれを信じてあげる事が妹の仕事よ。」

 

「…………」

 

「それにね。私も少しの間だけ、お姉さんをやった事もあるからわかるの。上から見た時に下の者がどれだけ危なっかしく見えるかも。心配で心配で仕方なかった。」

 

もう一度イタチの目を見る。

 

「だからこそ、貴方もサスケ君の事を信じてあげて。」

 

「…………ふん、くだらない。行くぞ。」

 

イタチは目を閉じて、再び前を向く。

 

「イズミ…………」

 

イタチが小さく何かを呟く。

 

「うん?何か言った?」

 

「いや、何でもない。」

 

だけど、イタチは何も言わず再び歩き出した。

 

ネコ婆様から話を聞いてしまったからには、殺されると思ってたのだけど、やっぱり貴方は優しいのね。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「で、武器の調達はしたけど、今度はどうするの?……イタチは何か任務を受けていないの?」

 

「………ある。」

 

あるなら、寄り道よりも先にそっちを優先したらいいのに。

 

「何?」

 

「大蛇丸とサスケの目撃情報があった。それを探る任務だ。」

 

ああ、大体わかった。

 

サスケ君と今会うかもしれないからと二の足踏んで、寄り道をしたら私にイタチとサスケの事情の一部を聞かれてしまった訳か。

 

本当に不器用な人だな。

 

「私より、鬼鮫さんと行った方がいい?」

 

「いや、大蛇丸は拠点を転々としている。早い方がいい。鬼鮫を待っている訳にはいかない。」

 

なら尚更、寄り道してる場合じゃ無いじゃん。

 

「そして、この先でその情報があった。」

 

前言撤回……。やっぱり、隙が無いよね、イタチは。自信過剰で油断ばっかりしている暁では珍しいタイプだ。

 

「この先に街でもあるの?」

 

「いや、街はあるが目撃されたのは、街道だ。……つまり、アジトがある可能性がある。」

 

「……なるほど。」

 

「ここだ。」

 

森を抜ける。目の前には石畳の道が奥まで伸びていた。

 

とりあえず街に入る。空区とは違い、此方はとても賑わっていた。

 

「ここから二手に別れましょう。」

 

「そうだな。6時間後にこの入り口で集合だ。」

 

「わかった、口寄せの術」

 

ボフンと煙が舞い。5匹のユキウサギが現れる。

 

「大蛇丸の痕跡を探してきて。」

 

ユキウサギ達は勢いよく走っていく。

 

「それが、お前の口寄せか。」

 

「うん。戦闘力は皆無だけど、あまり警戒されないから、情報収集に使ってる。」

 

「……そうか。では始めるぞ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「背丈が高くて、髪が長い男性を見ませんでしたか?」

 

街の商人などを中心に聞き込みをする。今は変化の術で普通の成人男性を装っている。

 

何軒かの店や宿の宿泊客を当たったが、情報は出なかった。

 

やっぱりもう既にここには居ないんじゃないのか。

 

そうしていると、ユキウサギの一匹が帰ってきた。

 

私の目の前でしきりに跳びはねる姿を見て何かを見つけたのだと察する。

 

「うん、わかった。連れて行って。」

 

ユキウサギについて行く。街から離れて街道を進んで行く。

 

街道の先には2人の子供がいた。男の子と女の子だ。一緒にシャボン玉を吹かせて遊んでいる。

 

この子達が何か知ってるのかな?

 

「こんにちは、こんな所で何してるのかな?」

 

努めて優しげな声色で声をかける。

 

「ここで遊んでるんだ!」

 

まあ、見たまんまね。

 

でもユキウサギが嗅ぎつけたなら何かあるはず。

 

「ここで何か見なかった?……変な建物とか、或いは変な格好した人とか?」

 

「うーん、わかんないなぁ。」

 

「あ!兄ちゃん。地下の秘密基地に連れっててあげようよ!」

 

「秘密基地?」

 

「そうだ!!なんかこの木の奥に誰もいない、地下部屋があるんだ。そこをオレたちの秘密基地にしてるんだ!!お前も連れってやろうか?特別大サービスでさ!!」

 

目を輝かせて、少年は言ってくる。

 

可愛らしいわね。……でも、気になるわね。実に怪しい。

 

「うん、連れって欲しいな。」

 

「よーし、行くぞ!」

 

「おう!!」

 

仲の良い兄弟だ。

 

2人の後を歩き、着いたのは無人の地下室。中は試験管などが、埃をかぶって並べられていた。

 

ここを空けて結構時間が経ってるのね。

 

2人は部屋の中央まで歩く。

 

そろそろいいかな…………

 

「………さて、下手な三文芝居はやめたら大蛇丸?」

 

「へえ〜、やっぱりバレてたのね。」

 

ボフンと少年の1人が消える。

 

片一方は影分身を変化させてたのね。

 

残った少年も煙に包まれる。中から黒髪に白い肌の男が出てくる。

 

私も変化を解く。

 

「……ほう。まさか貴女が私の後釜になっていたとはね。」

 

「私を誰だか、わかってるの?」

 

「勿論、アジトを壊された事も、あの時取り逃した事も覚えてるわ。」

 

「そう。」

 

仮面を取る。

 

「へえ〜、随分と美しく成長したのね。……以前にも増して、貴女が欲しくなったわ。」

 

「情報収集だけのつもりだったけど、まさか本命から現れてくれるとはね。いい加減、追われるのも面倒なのよね。……ここで死んでくれたら、嬉しいんだけど。」

 

「私、美しいものが好きなのよ。」

 

「……そんな事は聞いてないわ。」

 

右手に氷剣を持つ。

 

左手で千本を投げて、そのまま大蛇丸に向かって走る。

 

大蛇丸は屈んで避けてくる。そのまま術を放ってきた。

 

「潜影多蛇手!!」

 

向かってくる大量の蛇を氷剣で一閃。切り刻む。

 

そのまま距離を詰めて、切り刻む。

 

大蛇丸も草薙の剣で応戦してくる。

 

氷剣を振るう。それをガードしてくる。そこに左蹴りを入れる。体勢が崩れた大蛇丸を右足で顔面を蹴る。退けぞったところを斜めに剣を一閃。血の雨が降る。そのまま更に横凪に一閃。大蛇丸の胴体を切り裂く。

 

大蛇丸の口から大蛇丸が抜け出そうしてくる。だが、その口に氷剣を突っ込む。

 

「グアアァ!!」

 

大蛇丸が悲鳴をあげる。そこに更に畳みかけるように氷槍を生成する。

 

だが、背後から気配を感じ回避する。

 

避けてみれば、そこそこの大きさの蛇。

 

その口から大蛇丸が出てきた。

 

「氷遁・氷剣山」

 

大蛇丸が大きく後ろに飛んで回避する。

 

「随分と容赦無いわね。」

 

「貴方相手に手心を加える必要なんて無いわね。……さっさと捕まるか、死んでくれるかしら。」

 

「かなり嫌われてるわね。」

 

「一つ勘違いしてるようだから、言わせてもらうけど、もう貴方程度では私を倒せないわよ。三代目火影に印を結ぶ腕を奪われてしまう程度の貴方ではね。」

 

「言うじゃ無いの。青二才が!!」

 

「力の差を教えてあげる。氷遁・万華氷」

 

氷の氷柱が大蛇丸を襲う。

 

「確かに氷の弾丸の速度は上がったわね!!だけど、それだけよ!!!」

 

草薙の剣で全て弾く。

 

氷柱を全て氷剣に変える。

 

大蛇丸を挑発する様に嘲笑う。

 

「氷柱ならともかく、剣の弾丸ならどうする?」

 

氷剣が殺到する。

 

一本目は弾いたが、すぐに2本目、3本目と貫かれる。

 

堪らず脱皮を始める大蛇丸。

 

「芸がないわ。」

 

出てきた瞬間に氷槍で貫いた。

 

「罪の枝」

 

全身の内側から氷の槍で貫かれるが、大蛇丸の身体が萎んで行く。

 

変わり身の術ね。

 

私は大きくジャンプする。すぐ真下を大蛇丸が通過する。手には草薙の剣を持っていた。

 

あれで突こうとしたのね。

 

大蛇丸が目を見開いている。

 

跳んで天井に手をついて、反動で今度は下に向かって跳ぶ。

 

そのまま大蛇丸を顔面を踏みつけた。

 

「グアアッ!!!」

 

だけど、その瞬間死角から蛇が体に巻き付いてきた。

 

一瞬、気が逸れた瞬間。私の下で踏まれていた大蛇丸の首が伸びてくる。そのまま首を噛みつかれる。

 

「痛ぅ」

 

足元に氷剣山で攻撃するが、脱皮されて逃げられる。

 

「ぐっ!」

 

噛まれた首筋が熱を持つ。

 

「はあ、はあ……漸く捉えられたわ。私の事、侮っていたわね。」

 

「な…何をしたの……?」

 

「それは呪印。私のチャクラと仙術チャクラをでできた呪いよ。貴女にプレゼントしてあげる。」

 

「い…要らないわよ、こんなもの……」

 

首筋が熱い。

 

すると呪印が全身に広がり始める。

 

「ククク、早速効き始めてきたようね。……その呪印に適合できるものは10人に1人もいないわ。呪印に呑み込まれて普通は息絶える。だけど、貴女は貴重な血継限界。私の元へ来るのなら、死なないようにしてあげるわ。」

 

立っているのもキツくなり、膝をついてしまう。

 

その間にも呪印がどんどん広がって行く。巻きついている蛇の締め付けも強くなる。

 

でも、大体わかったわ。

 

「……ふふふ。」

 

呪印。確かに厄介だけど、何も万能な訳ではないでしょう?

 

「………何度も言わせないで。貴方如きが私に勝てると思わないで。」

 

「この状況でまだそれだけ言える精神力は見事だわ。」

 

大蛇丸の言葉を無視して、精神を整える。

 

「はああああああ!!!!!!」

 

瞬間、私の身体に巻き付いていた蛇がブチブチと千切れる。

 

「な、何!?」

 

身体を侵食していた呪印も引いて行く。

 

「馬鹿な!!呪印を精神力だけで、()()()()なんて!!!」

 

そして、そのまま呪印が消滅した。

 

「はあ……はあ……はあ」

 

そう。呪印は精神力で跳ね除けることができる。痛みが伴うけど、心の力と覚悟で耐えればいい。それは戦いに身を置く者として当たり前のことだから。

 

「……何度でも言うわ。貴方のような雑魚に私は倒せない。」

 

「くっ!なら、もう一回呪印をあげるわ!!」

 

大蛇丸が首を伸ばして身体に巻き付いてくる。そしてもう一度首に歯を立てようとする。

 

「何、これ!?」

 

大蛇丸の身体が凍結し始める。

 

「いい加減、学習したらどうかしら?私の身体に直接触れて無事で済むと思ってるの?」

 

「なら、さっさと呪印をくれてやるまでのことよ!!」

 

大蛇丸が首に噛み付くが違和感を覚える。

 

「この手応えは……」

 

噛みつかれた身体が氷の身体になる。

 

「氷分身。……よくできているでしょう?」

 

そのまま大蛇丸の背後に現れて、身体に氷槍を指す。

 

「グアアッ!!!」

 

「これで少しはわかったかしら?貴方如きが幾ら浅知恵を絞っても私には敵わないって事を。」

 

背中から腹を貫かれた大蛇丸が苦悶の表情で睨んでくる。

 

「…お……おのれ、雪藍ィィ………」

 

「脱皮できるなら、やってもいいわよ。そんなチャクラ残ってないよね。…………ここで貴方を捕らえて、暁に連れて行くわ。」

 

視線を地下室の入り口に向けると、イタチがやってきた。

 

「………ここまでのようね。」

 

大蛇丸の声が力を失って行く。

 

しかし、次の瞬間部屋が煙に包まれる。

 

!?……何?

 

「大蛇丸様!!!」

 

誰かの声が聞こえる。大蛇丸の増援か?

 

「風遁・烈風掌」

 

煙を払う。

 

だけど、大蛇丸の姿はなくなっていた。

 

「無事か?」

 

「ええ。ごめんなさい、取り逃したわ。」

 

イタチ部屋の中に入ってくる。

 

「逆口寄せの類だな。」

 

イタチが見渡してそう呟く。

 

「写輪眼でもチャクラの痕跡が見えない。」

 

「便利だね、写輪眼。………でも身体に悪いんだから、あまり多用しないで。」

 

「…………」

 

イタチが此方を見つめてくる。心無しか呆れられてる気がする。

 

「今のお前が言えた事ではないな。………かなりの消耗だ。隠してもわかる。それに仮面も外れてる。」

 

「仮面は大蛇丸を挑発する為に外しただけなんだけど。」

 

「なら、その首の傷はなんだ?」

 

「…………」

 

ぐぬぬ。

 

「………ちょっと噛まれただけよ。」

 

そう言うとイタチの目が光る。

 

「ちょっとでは無いな。大蛇丸は呪印を持ってる。無事では済まない筈だ。」

 

「それなら大丈夫よ。消しておいたから。」

 

「消した……?どうやった?」

 

「……うーん、気合い?」

 

「………はあ。」

 

溜息を吐かれた。

 

「……そんな事で消せる訳が無い。ちょっと動くな確認する。」

 

そう言うとイタチは私の首筋を写輪眼でじっと見てくる。

 

何だか、男性に首を凝視されると落ち着かない。

 

気恥ずかしくなり、頬が熱を持つ。幸いイタチは気が付いていない。

 

今のうちに仮面をつける。これでバレない。

 

イタチは少し怪訝な顔をしながらも、特に言及してこなかった。

 

「………確かに呪印は無いな。」

 

「……なら、まあよかったわ。最悪はクナイかで穿り出そうかとも思ったんだけど。」

 

「…………お前は馬鹿なのか?」

 

馬鹿とは失礼だな。

 

でも仕方ないじゃん。

 

あの呪印。大蛇丸の気配を物凄く感じて気持ち悪かったんだし。絶対に身体から追い出してやるって考えたら、それくらいの発想にも至ると思うけど。

 

「とりあえず、止血だ。」

 

「………はいはい。」

 

「とりあえず、上着を脱げ。」

 

「……それくらい自分でできるよ。」

 

「やりにくいだろ。」

 

そうだけどさぁ。

 

何だか、イタチとやりとりをすると兄さんを思い出す。

 

きっと生きていたら、今頃こんな風に守ってもらえたのかな…………

 

何だか涙が出そうになる。仮面をしておいてよかった……

 

「……コン?」

 

「何でもない。」

 

肩に手を置かれる。

 

思わずビクッと震えてしまった。

 

「……無理はするな。」

 

………やめてよ。今涙腺が決壊しそうになってるところでそんな優しさはずるいよ。

 

「………うん。…………平気…………ありがとう…………」

 

言葉に詰まりながらも何とか答える。

 

イタチは何も言わず、黙って包帯を巻いて行く。

 

私も言葉が出ずにお互い無言になる。

 

「……ほら、できたぞ。」

 

首を触ってみる。

 

綺麗に巻かれていることが手触りでわかった。首を動かせば引き攣ったような感じはするけど、普通にしていれば、全然苦しくない。

 

力加減も完璧なイタチは流石だなと思う。

 

「ありがとう。」

 

私も少し落ち着いて、普通に返事を返せた。

 

「………もう大蛇丸はいない。………戻るぞ。」

 

「……うん。」

 

外に出る。すっかり夜だ。

 

今回の大蛇丸。恐らく、暁を誘き寄せようと画策していたんだろう。

 

腐っても伝説の三忍だ。そう簡単に情報が出るはずがない。目撃情報だって、違和感を感じる。今回居たのだって大蛇丸だけだ。……サスケ君なんか影も形も無かった。あからさまにイタチを狙ってきたとしか考えられない。私が釣れたのは向こうに取っても予想外だったんだろう。

 

地下室の崩落と組織への報告を考えて本気で戦わずに、小手先の術ばかりで対応しようとした事も反省点か。確かに大蛇丸やイタチの言う通り、舐めていたんだろう。

 

ただ、できる事なら仕留めたかった。これでまた暫くは大蛇丸が付き纏ってくる事が確定したのだから。ダンゾウの遣いも絡んでくるんだ。鬱陶しい事この上ない。

 

そうしてイタチの後ろを着いて歩いていたら、イタチが咳込んだ。

 

「イタチ!」

 

慌てて駆け寄れば、イタチは顔を歪めながら息を整えようとしている。

 

「この街の宿に泊まろう。………そのコンディションじゃ夜の移動は無理だよ。」

 

イタチに肩を貸して、歩かせようとする。身長差があって、イタチの楽な姿勢にしてあげる事ができないけど、早く移動はするべきだ。

 

もしこの状況で追い忍にでも遭遇すれば不味い。

 

すると私の身体をイタチが押しのけようとする。

 

「これくらいは大丈夫だ。……問題ない。」

 

「私に力負けするくらい弱ってるんでしょ!……カッコつけないで!!」

 

「うっ!」

 

またイタチが胸を押さえ出した。

 

「……行くよ。」

 

そうして、イタチを引っ張って行く。

 

「何故…そこまでして……」

 

「………それは多分お互い様だと思うよ。」

 

「………っ」

 

イタチは驚いた表情をする。

 

何で驚くの?……もしかして、自覚無しであれだけ私に世話を焼いてくれてたの?……だとしたら筋金入りの兄貴肌だ。

 

宿に着き、お金を払い部屋を取る。イタチを壁にもたれさせるように座らせて、急いで布団を敷く。

 

暁の上着を脱がせて、布団に寝かせる。イタチの額には薄らと汗が滲んでいた。

 

何が大丈夫なのよ。……イタチといいデイダラといい。無茶ばっかりして………

 

巻物から薬を取り出す。

 

暁に来てから、異様に薬の消費量が増えたな。……それだけランクの高い抜忍は狙われ易く戦闘する事が多いって事ね。

 

イタチに薬を飲ませる。

 

「貴方は寝ていて、連絡は私がやっておくから。」

 

リーダーに大蛇丸の情報及び、大蛇丸の待ち伏せと元アジトの存在を報告した。そして、今移動できない事情があるから、サソリの任務が終わったら、鬼鮫さんを此方に来るように頼んでおいた。

 

報告を済ませて目を開けると、既にイタチは眠っていた。

 

仮面を外す。

 

イタチの額当てを外し、濡れタオルを置いてあげる。

 

「…うぅ……サスケ………」

 

魘されているようだ。

 

“サスケは俺のスペアだ。俺が新たな光を手にするためのな。”

 

「………本当に嘘吐きね。貴方も私も……」

 

イタチの艶のある髪を撫でる。少しイタチの表情が和らいだような気がした。



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師匠の面影

翌朝、イタチに起こされた。

 

「………あれ、私……」

 

イタチは身体を起こして、此方を見ていた。

 

ああ、そっか。昨日イタチの看病していたら、そのまま寝ちゃったのか。

 

どうやら座ったまま寝てしまっていたようだ。

 

イタチって寝起きは写輪眼じゃないのね。

 

どんなに身体がしんどい時でも常に写輪眼状態のイタチにしては珍しい。偶に万華鏡写輪眼を使いすぎて、写輪眼を維持できない事はあるけど。

 

「おはよう、イタチ。身体の調子はどう?」

 

「問題ない。……すまない、世話になったな。」

 

顔色も大分良くなった。

 

よかった。少しはマシになったね。

 

「いいよ、気にしなくて。私達は抜忍で仲間なんだから。………助け合わないと。」

 

「…………」

 

「もう一日は安静しててね。」

 

とりあえず着替える。着替えると言っても脱いでいた上着を羽織って仮面をつけるだけだ。

 

イタチも着替えて、目が写輪眼になっていた。

 

そして、少しして鬼鮫さんがやってきた。

 

「………どうですか、イタチさん。」

 

「……問題ない。明日には動ける。」

 

「そうですか。……今回は軽めの症状でよかったですね。」

 

「…ああ。」

 

これで軽い方なんだ……

 

「…今日はコンとツーマンセルを組みます。イタチさんはここで待機と命令が下りました。」

 

「…わかった。」

 

「貴女もそれでいいですね。」

 

「うん、わかったよ、鬼鮫さん。」

 

「……おや?」

 

鬼鮫さんが何かに気付いたようだ。

 

「…その首はどうされたんです?」

 

「ん?……ああ、これね。大蛇丸に一杯食わされたのよ。」

 

「ククク……貴女でも手傷を負う事が有るんですね。」

 

「何言ってるのよ。人間なんだから当たり前よ。」

 

「いや〜、貴女ならどんな攻撃でも躱しそうだなと思っただけです。……油断しましたね?」

 

何で鬼鮫さんもわかるのかなぁ。

 

「…………」

 

「沈黙は肯定と取りますよ。」

 

「と…とりあえず、イタチはここで待っててね!…行くよ、鬼鮫さん!!」

 

「はいはい……では行ってまいります、イタチさん。」

 

鬼鮫さんが笑いながら、着いてくる。

 

全く、何がおかしんだ!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「で、コンは何か任務を言い渡されてますか?」

 

「喫緊の任務は無いね。長期的な尾獣の調査だけかな。」

 

「では、私と同じですね。」

 

「じゃあ、私達2人共フリーみたいなものね。」

 

「そうですねぇ。では、二手に別れていつもの調査(サボり)でもしましょうか。」

 

「……まあ、やる事ないもんね。」

 

「また、夕方ここで落ち合いましょう。」

 

鬼鮫さんと別れる事になった。昨日もイタチと別れてたりしてたけど、あまりツーマンセル組んでる意味が無いような気がする。

 

変化の術で、黒髪の女性に変装する。

 

「ああ〜、もうダメだってばよ!!」

 

!?……今の声。

 

物凄く聴いた事が有る声が聞こえた。

 

森の方だね。

 

鬱蒼と生い茂った木々を少し掻き分けて見れば、青い瞳に金色の髪色のした少年が木にぶら下がっていた。

 

まさか、ここでナルト君に会うなんて………

 

でも、少し大きくなったね。

 

記憶のナルト君よりも幾分か、大人びた顔をしていた。

 

「んぅ?どうしたんだ、姉ちゃん?」

 

「貴方こそ、どうしたんですか?……それ、どうやってるんですか?」

 

「これか?……これはだなぁ…チャクラを足裏に集めて……木に張り付く……まあ、そん事はいいんだ!!俺ってば、修行中!!!」

 

「……す………凄いですね。忍者の方ですか?」

 

すると、ナルト君が木から飛び降りてくる。

 

「そう!俺ってば木ノ葉隠れのうずまきナルトってんだ!!」

 

「……ナルトさん」

 

「姉ちゃんはなんて名前なんだ?」

 

「私ですか?………クロと言います。よろしくお願いします。」

 

「おう!よろしくな!!」

 

「ナルトさんはどうして修行してるんですか?」

 

そう聞くと、うーんと少しだけ考えて口を開いた。

 

「みんなを護るため!」

 

眩しい笑顔でそう言い切るナルト君。

 

ーーああ、やっぱり今も尚、兄さんの意思はこの子の中で生き続けているーー

 

「それと、今は友達を救うためだな!……んでもって、火影になるため!!」

 

友達の事はサスケ君の事かな。今は大蛇丸と共に行動しているらしい。

 

“兄さんの言葉を信じる”

 

嘗て自分で誓った言葉。辛い現実に絶望して、忘れていた志。少しだけ思い出せたような気がする。

 

やっぱり、私はもう少しナルト君を応援したいな。

 

そう思った。

 

「……凄いです。じゃあ、きっとこれからもっと強くなれるんですね。」

 

「もちろんだってばよ!」

 

「応援していますよ。……じゃあこれで。」

 

「姉ちゃんも元気でな!!」

 

私はナルト君から背を向けて歩く。

 

思わず涙が出そうになる。

 

ナルト君は立派に成長していた。……対して私はどうだ?

 

今やビンゴブックに載ってしまう犯罪者だ。

 

ナルト君や兄さんが夢見た世界に私のような薄汚れた人間は必要ない。

 

でもだからこそ、まだまだ戦える。最期の時まで、血の一滴まで兄さんの意志を絶やさないように。

 

「あれ?…あの姉ちゃんは何しに来たんだ?」

 

遠くからそんな声が聞こえた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とりあえずあの森の方角へは近付かないでおこう。万が一でも素顔で会ってしまったら、色々厄介だ。

 

何故、私がここにいるのかだったり、そもそも抜忍の犯罪者だから捕まえようとするだろうし。

 

そんな事を考えて歩いていたら、肩を叩かれた。

 

「どうされた、御嬢さん?そんな顔していたら、美人が台無しだ。」

 

え?

 

ビックリした。これまた有名人だ。

 

とりあえず、警戒されないように声の主にニコリと微笑んでおく。

 

「いえ、何でもありません。」

 

「何でもない事は無かろう。こんな老ぼれで良ければ力をなるぞ。」

 

白銀の長い髪を揺らめかせ、その人物はニカッと笑い名乗りを上げた。

 

「こう見えて伝説と名のつく者。三忍の一人、この自来也様に解決できぬことはなし!だ」

 

胸を張ってそこにたたずむのは、大蛇丸と同じ伝説の三忍の自来也様。

 

今日は色んな人と鉢合わせるわね。

 

眼前の者を見つめ、私は心うちに生まれたすこしの動揺を抑え込み、もう一度笑みを浮かべ直して小さく会釈する。

 

「いえ、本当に何でもありませんので」

 

一般人の多いこの場所。いざ戦いとなれば、それを巻き込んでしまう。

 

この人クラスの忍をこんな場所で戦いたくない。

 

なんとかこの場をうまく去ることを選ぶ。

 

「失礼します」

 

スッと踵を返し人ごみに身を投じる。

 

しかしその私の手を器用に選び取り、自来也様が引き寄せた。

 

「まぁ、そうつれなくするな」

 

「…っ!いえ、本当に」

 

思わず本気で振り払いそうになり、慌てて取り繕う。

 

そんな私の前に竹の皮の包みが差し出された。

 

「ほれ」 

 

「え?」

 

「どうだ?この街の団子は絶品だ。一つ持っていくといい。」

 

随分と押しが強い。とりあえず受け取って去ろうかな。

 

「すみません。助かります」

 

しかし、その手が包みに触れそうになった瞬間。スッとそれが引かれた。

 

「……………」

 

気取られたかな…

 

一瞬緊張が走った。

 

しかし自来也様は変わらず無警戒な笑顔を浮かべ、機嫌のよい声で言った。

 

「その代わり、ちと付き合ってくれんかのぉ」

 

グイッと上げられたその手の中には酒の瓶があった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

小さな神社に案内される。一気に人気が無くなった。

 

やっぱり気づかれてる?

 

警戒するが、自来也様は特に何もなく酒を煽り出した。

 

「それでのぉ、わしのその活躍で事はすべて丸く収まったというわけだ。どうだ、なかなかに面白い話であろう」

 

ガハハと豪快に笑って酒をあおる自来也様。

 

その隣で私が、頬の引きつりを必死に抑えて「そうですね」と愛想笑いを返した。

 

「んーんー。そうだろう。すごいだろう」

 

すごいとは言ってませんよ…

 

思わず胸中で一言突込み、私は顔をそらして先ほどから絶え間なく注がれ続ける酒にちびりと口をつけた。

 

いつになったら解放されるのか…

 

先ほど自来也様に半ば無理やり連れてこられ、酒の相手をすることおよそ15分。

 

まださほど時間を取られてはいないものの、すでに一升瓶の中身は半分を切っており、そのペースの速さと自来也様の旅の自慢話に私はうんざりしていた。

 

一体なぜこんなことになってしまったのか…

 

偶々、今日この街を出歩いてしまった自分の迂闊さに、一気に酒を流し込みため息を漏らした。

 

「ん?どうした。何か悩みでもあるのか?」

 

空になった器に再び酒が注がれ、私は反射的にそれを受けて一口含む。

 

「世の中ままならないなと…」

 

手酌で継ぐ酒がトクトクと良い音を立てる。

 

「そうか。わしもどうにかしたいと思う事は多々有るのう。」

 

クイッと酒を喉に流し、自来也様は長い息を吐き出した。

 

「例えば、どうすれば女湯に潜り込めるのか。どうすれば、女を口説けるのか。どうすれば、お主といい思い出が作れるのか。」

 

気持ちよさそうに酒を飲む自来也様。

 

随分と欲求に忠実な方で……

 

これまた頬が引き攣りそうになる。

 

「例えば、どうすればこの世界で争いを無くせるのか。」

 

ドクン

 

心臓が跳ね上がった。

 

それは兄さんやイタチ。小南にナルト君達が持つ願い。私も兄さんの意志を継ぎ、考えるようになった問題だ。

 

さっきまでのおちゃらけた雰囲気から急な空気の変化について来れない。

 

「だがのう。わしはそれを弟子に託そうと思っとる。」

 

「どんなお弟子さんですか?」

 

問いかけてみる。

 

自来也様は、ハハと笑って器の中で揺れる酒を見つめた。

 

「猪突猛進。怖い物知らず。そしてうるさい」

 

それってナルト君じゃ。…あ、だからさっきナルト君がいたんだ。

 

その答えに、自来也様の言う弟子はやはりナルトであろうと私は確信する。

 

「大変そうですね…」

 

そう返して酒を飲み、新たに注がれる酒を自然と受ける。

 

「まったくだ。わがままで、自分勝手で、未熟なくせに一人前の口をたたきよる」

 

そういう自来也様の表情は柔らかい。

 

「その上頑固で、こうと決めたら譲らない。危ないことも平気でやりよる」

 

うなづきながら話を聞く私にに自来也は「まぁ呑め」と酒をすすめ、空になった器にすぐにまた注ぎ入れ、自身も新たに注ぎ直し、口をつけてフッと笑う。

 

て言うか今更だけど、朝っぱらからお酒を飲みすぎじゃないかしら。

 

「だがのぉ…」

 

空に見上げた自来也様は目を細めた。

 

「よいところもある。まっすぐで、純粋で、負けず嫌い。自分の大切なものを守るためならどんなに辛いことでもやり遂げる」

 

同じように空を見上げる。天気は快晴。

 

「そして、何よりも大切な物をちゃんと持っておる」

 

「何よりも大切な物、ですか」

 

「うむ。それは」

 

グイッと勢いよく酒でのどを潤し、自来也様はにっと笑って答えた。

 

「何事も決してあきらめないど根性だ」

 

「ど根性…」

 

「それを持っとるやつは、強い。そう簡単に折れはせん」

 

根性…

 

でもそうね。人は誰かを護りたいと思った時に本当に強くなれる。

 

「そうですね。」

 

思わずこぼれた言葉に自来也様がフフンと鼻を鳴らした。

 

「お主もそう思うか。」

 

私はほんの少し間を置き「そうですね」と短く答えた。

 

自来也様は最後の酒を互いの器に少しずつ注ぎ空になった瓶をトン…と小さく音ならして置いた。

 

「私は誰かを護ろうという意志が人を強くするものだと思います。」

 

「そうだのう。それもまた真理よのう。うむ」

 

と、まるで自来也様のその一言を合図にしたかのように、一匹の蛙がひょこっと姿を現した。

 

「おい。見つけたぞ」

 

カエルが言葉を発するのを見て、それが自来也様の口寄せと察する。

 

「おお、そうか。やれやれだな」

 

自来也様が大きくため息を吐きながら立ち上がり「ちと飲みすぎたかのぉ」とつぶやきながら竹水筒を取出し水を飲む。

 

「ちょっとばかし連れとはぐれていてな。探していたのだ」

 

「オレがな」

 

自来也様のてのひらほどの大きさのガマガエルが跳ねあがり、自来也様の肩に乗る。

 

「ではいくかのぉ」

 

体を一伸びさせる自来也様。

 

どうやらこれで解放されそうだと、胸中でほっと息をつき借りていた器を自来也様に返す。

 

それが自来也様の手におさまったと同時にガマガエルが今度は自来也様の頭に飛び乗る。

 

「では、私はこれで失礼します。」

 

 

 

「待て」

 

 

 

足を一歩踏み出したと同時に自来也様が呼び止めた。

 

寒い季節なのに生暖かい空気が流れた。

 

木々が揺れ、枯葉が舞う。

 

風の流れが消え、シンと痛いほどの静けさが落ちた。

 

その中に、自来也様の声が響く。

 

「まあそう急ぐ事も無かろう。」

 

明るく陽気な口調。

 

「こうしてあったのも何かの縁だ。」

 

笑いも含んだその声が、何故か空気を緊張させる。

 

「少し、話をしようではないか。」

 

カサリと枯葉が転がる音が響く。

 

「S級犯罪者のシロよ。」

 

私は振り返る。

 

「どうして気付かれたのですか?」

 

「……そうさあのう。お主から血の匂いがする。只者じゃないよなぁ。……それにのう、痺れ薬を幾ら飲ませても全く効きよる気配がない。」

 

そんな物を飲ませていたのか?

 

「随分と毒に耐性があるようだの。」

 

「それで?……その情報だけでは特定できないはずです。」

 

「…なに、オナゴのことなら、この自来也何でもお見通しよ。」

 

つまり、答えてはくれないと。

 

さて、どうするか……

 

大蛇丸ならともかく、この人は抜忍じゃない。手をあげれば更に罪状が重なっていく。S級犯罪者で今更そこを心配する必要はないのかもしれないけど。

 

でもナルト君の師匠に手をあげたくはない。

 

ナルト君には師匠を奪われた私みたいになって欲しくないから。

 

「見逃していただけませんか?三忍相手にとても敵いそうにありませんから。」

 

「ダメだのう。お主はS級犯罪者。里にあだなす者として、わしが処理する。」

 

参ったな。……どうするか。

 

そういえば自来也様は大蛇丸を追ってるって話は有名だ。昨日会ったばかりだし、そこを突いてみるか。

 

「では取引をしましょう。」

 

「耳を貸すメリットがないのう。」

 

自来也様が此方に足を進めてくる。

 

「大蛇丸。」

 

ピタッと自来也様の動きが止まる。

 

「大蛇丸の情報をあげます。……それなら如何ですか?」

 

自来也様の顔に一瞬動揺が見える。

 

いけるかな。

 

「だめだ。尚更お主を見逃す訳にはいかんのう。」

 

自来也様の表情を見て内心で溜息を吐く。

 

逆効果か。……仕方ない。全力で逃げるか。

 

自来也様が高速で印を結び始める。

 

「お主の得意技は瞬身の術。故に足を奪わせてもらう。忍法……」

 

「申し訳ありません、自来也様。これにて失礼します。」

 

私は全能力を使って自来也様の術が完成する前に離脱した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

直ぐに街の中心まで逃げた。

 

人混みの中でもう一度変化で人相を変えておく。

 

鬼鮫さんと落ち合う予定の定食屋の奥の個室に入っておく。

 

ユキウサギで鬼鮫さんを呼んでおく。

 

少しして、鬼鮫さんがやってきてくれた。

 

「どうされました。まだ待ち合わせ前でしょう?」

 

「この街から出た方がいいよ。」

 

「……どういうことです?」

 

「伝説の三忍 自来也が来てる。」

 

そういえば、鬼鮫さんの表情も険しくなる。

 

「どこで知ったんです?」

 

「……ごめんなさい、捕まりかけた。」

 

「…はあ、わかりました。イタチさんには申し訳ありませんが、すぐに移動しましょう。」

 

事態の重さに鬼鮫さんも重い溜息を吐く。

 

そうして、すぐに宿へと帰り、事情をイタチに説明。本拠地へ逆口寄せで移動した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

本拠地へイタチを送る。先にデイダラがいたが、特に喧嘩することなく落ち着いていた。流石に騒がれたら、これ以上面倒見る気も失せるところだ。

 

「ありがとう、鬼鮫さん。」

 

「……それです。」

 

「それ?」

 

なんだろう?

 

「何故私にだけは、敬称なんですか?」

 

「ああ、それね。……単に昔の癖なんだ。」

 

「癖?……以前に面識があったとは思いませんが。」

 

「うん。暁で初めて会ったのは間違いないよ。……ただ、私は昔ね。師匠の事をさん付けで呼んでたから、その癖が抜けなくて。」

 

「師匠というのは、再不斬の小僧ですか?」

 

「……あ、やっぱりわかってたんだ。」

 

「……氷遁を使った事でわかりましたよ。雪一族は今や絶滅と言って良い程の状態。……そして、再不斬もそれなりに有名ですからね。そんな再不斬の元に絶滅した筈の雪一族の子供がいた事も知っています。………そして、目の前で氷遁を使う者が現れたとなればわかりますよ。」

 

「うん、その通りだね。…忍刀七人衆は命の恩人みたいなものだから。一部の例外を除いてだけど。だから、どうしてもさん付けになってしまうんだ。」

 

兄さんを痛めつけた栗霰串丸とか、再不斬さんを襲った二人の事だ。

 

「……でも凄いね。あの再不斬さんを小僧呼ばわりするなんて、流石は鬼鮫さんだ。」

 

私は怖くてとてもじゃないけど、そんな事は言えない。

 

「そんな私と貴女は、今や肩を並べる様になった事実を自覚した方がいいですよ。……だから、不必要に警戒したり、油断してはいけない所で油断する。」

 

説教を貰ってしまった。

 

「……そ、その通りだね。」

 

何だか、再不斬さんに怒られている様な感じがする。

 

「……まあ、いいでしょう。で、これからは何と呼べばいいですか?……藍と呼びましょうか?」

 

「いや、変わらずコンでいいよ。」

 

「そうですか。わかりました。」

 

「……ねぇ、今度機会があったら、イタチと3人でスリーマンセル組まない?」

 

「…貴女のオママゴトに付き合ってあげれる程、暁は余裕がある組織だとは思えませんがね。」

 

「…ふふ、やっぱりバレるか。」

 

鬼鮫さんが再不斬さん役。イタチが兄さん役で私が加われば、あの時のスリーマンセルの復活だと思ったんだけど。………まあ、流石に悪ふざけが過ぎるよね。

 

「……デイダラとサソリが騒ぎかねませんしね。」

 

「ああ、確かにデイダラはいつも私と組みたいって言ってたもんね。」

 

でもサソリはそうでも無いと思うけどなぁ。

 

「…ですが、それも悪くは無い。」

 

「え?」

 

鬼鮫さんの口から出たとは思えない台詞に思わず、聞き返す。

 

「何でもありませんよ。」

 

鬼鮫さんはそういうと静かに笑った。

 

それを見て、私も笑う。

 

「ありがとう、鬼鮫さん。」



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本音

ビンゴブックが更新されていた。シロとは別にコンの名前で追加されていた。ランクはS級犯罪者。

 

相手は雲隠れだ。恐らくあの霜との戦争で介入した時に目をつけられてしまったのだろう。罪状はスパイ工作に大量虐殺だ。

 

スパイ工作は、寧ろ雲隠れのスパイを捕まえた事で恨みを受けてしまった為か。スパイ工作というよりはスパイ阻止工作が真実だけど、そんな事は当事者の雲隠れしか知らないから、ビンゴブックの方が真実になってしまうな。

 

大量虐殺は実はそこまであの戦争で殺した訳ではない。全く殺さなかった訳でも無いけど。出来るだけ殺さないように撤退させていた。

 

実は任務が終わり、霜の国を去る時に霜の国の一部の人間からは恨みを買ってしまっている。

 

それは私が雲隠れの忍を殺そうとしなかった事だ。その人達の言い分は「それだけの力がありながら、見逃す等ありえない。実はスパイで霜の国と雷の国の双方の疲弊が目的では無いか」と。

 

でも本音としては、仲間とか身内を殺された人が少しでも雲隠れにぶつけたかった憎しみを私に向けただけだと思っている。勿論、気持ちはよくわかる。せっかく敵を殺せそうな時にそれを見逃す等、雲隠れに仲間を殺された人が見たら、憎しみを抱く事もわかる。

 

まあ、それくらいには雲隠れの忍を殺めなかった。だけど、雲隠れとしてはメンツを潰されたことがかなり重いんだろう。

 

あの戦争は歴史の闇に葬られたが、やはり雪辱を果たしたいという想いはあるんだろう。ビンゴブックのS級犯罪者にするくらいには、雲隠れにも恨まれた訳か。

 

逆に岩隠れからは特に何も無い。あれからも変わらず、暁に依頼を出してくるくらいだ。人柱力に手を出したはずなのに。それぐらい人柱力は嫌われているのか。殺されても誰もが無関心。……それはそれで悲しい話だなと思う。………ただし、これに関しては手を下した私が何かを言える立場では無い。

 

これでビンゴブックには二人の名前が入った訳だ。同一人物である事を知っているのは暁のメンバーのみだけど。

 

……いや、大蛇丸もわかっているな。なら、ダンゾウにも伝わってる可能性があると見るべきか。

 

そう考えていると、換金所についた。ここはビンゴブックの賞金首を捕らえるか、抹殺して遺体を持っていく事で報酬が払われる施設だ。一見は公衆便所だが。

 

そして、そこには暁のマントを羽織り、白目と黒目が反転した様なミイラ男が立っていた。

 

相方は建物の中か。珍しいな。いつもなら、こいつが中でお金を受け取って、相方が外で待ってることが多いのに。

 

「……飛段は何をしてるの?」

 

声を掛ければミイラ男もとい、角都が此方に視線を向けてきた。

 

「お前がオレ達の元に来るとは珍しい。……他のメンバーは全員何かしらの任務がある訳か。」

 

「……飛段は何してるのか、と聞いてるんだけど。」

 

「……何故、オレがお前の様な暇人の質問に答えないといけない?」

 

「…………」

 

「…………」

 

ピキッ

 

お互いが睨み合い、換金所のアスファルトにヒビが入る。

 

「………ただのトイレだ。」

 

目を瞑った角都 が渋々答える。

 

実に下らない事で睨み合ってる事に呆れた様だ。

 

「そう。………これはゼツからよ。」

 

私はゼツから預かった任務の報酬を渡す。

 

ゼツは今、砂隠れへの偵察任務中だ。仕方なく、この二人の元へ来たわけだ。

 

「………今回は誰を殺したの?…どうせ任務外での殺人でしょ?」

 

「フン……。水の寺の僧侶だ。中々の実力者で報酬も弾んだ。……だが、お前が来たせいでそれも興醒めだ。」

 

「……お金が欲しければ、犯罪者を狩ればいいじゃない。……僧侶を襲撃する必要なんて全く無いわよね。」

 

「………オレが何をしようとオレの勝手だ。お前の説教など聞き飽きた。」

 

もういい………こいつと問答しても無駄だ。飛弾が来る前にさっさと帰ろう。

 

「あっそ。なら、もう帰るわよ。」

 

「んあ〜〜〜〜スッキリしたーー。おん……?おいおいおい!!コンちゃんじゃん!!」

 

「……ちっ」

 

「ん〜〜?何か舌打ちが聞こえた様な気がするな〜。先輩に対する態度がなってないんじゃねーの?」

 

五月蝿い方が出てきてしまった。

 

「…………」

 

確かに暁には悪人がいると小南は言っていた。それがこの二人なんだろう。………いや、自分もS級犯罪者だ。同じ穴の狢か。それでも、この飛弾は殺戮をモットーと言う信じられない宗教を信仰している。

 

そもそもジャシン様とは何だ?………神なんてこの世にいる訳がないのに。弱い人間の心が見せる幻想。依存先。それが神だ。……そういう意味では私の神は兄さんになるのかもしれない。

 

ジャシン様、ジャシン様と曰うこいつは、結局のところ人殺しを楽しみ、それを神の責任にしているだけだ。

 

様々な考え方が私とは相容れない。

 

まだ、金の為に人を殺している角都の方がマシだ。角都は無益な殺生はしない。……益が有れば容赦無く殺そうとするが。例えば、金になるだとか、目障りだとかで。

 

「……まだ不必要な殺しを続けてるの?」

 

「不必要な殺しなんじゃねーんだよ。これはジャシン様に贄を捧げる儀式だ!…オレはこれからも敬虔なジャシン教徒として、隣人を殺戮し続ける!!……見ててくれよ〜〜ジャシン様!!」

 

「……下らない理由で人を殺す必要はないでしょ!」

 

私がそう言うと、飛段はピクッと動きを止めた。

 

「嗚〜呼。ジャシン様を下らないとはね〜。クックック………こりゃあ、大罪だぁ。……謝っても許されねぇ!!」

 

飛段が三連鎌を取り出す。

 

「死に晒せ、無神論者が!!!」

 

大鎌が縦に振るわれる。

 

身体を横に一歩滑らせて、避ける。そのまま、飛弾の顔面に左足で蹴りを入れる。

 

「痛ってーな!ボケェ!!」

 

「その大鎌は横に振ってこそ効果があるんじゃないのかしら?……縦に振るんじゃ、ただ刀を振るうのと変わらないわよ。」

 

少し距離が離れる。今度は鎌を投げて来た。鎌には鋼鉄のロープが付いている。

 

「おい、飛段。やるならオレも混ぜろ。こいつは5億両の賞金首でもある。ビンゴブックには別名でもう一人分記載されているから、更に2倍の10億両だ。」

 

「………仲間殺しは組織への裏切り行為じゃないのかしら?」

 

「……別に問題ない。偶々、お前ら二人の仲裁に入り、事故が起きた事にすれば良い。」

 

「テメー、何自分は無関係装うとしてんだよ、角都 !!」

 

成程。まあ、こうなるんじゃ無いかと思ってたけどね。

 

「ジャシン様、見てて下さいよォォ!オレ本気出すから!マジ本気!腸とか引きずり出すからァよォォ!!」

 

飛段が切り込んでくる。

 

大鎌での大振りの為、躱したり、いなしたりするのは容易い。だけど、

 

「風遁・圧害!」

 

凄まじい突風が飛段を巻き込んで襲いかかる。

 

瞬身の術で離脱。

 

私のいた場所は見事に抉れている。

 

角都はマントを脱ぎ、全身から触手を生やす。両肩と頭上にはお面の化け物が付いている。

 

本当にこの二人は人間じゃないよね。

 

飛段が再びくる。私も瞬身で対抗する。

 

「はあ!?また瞬身か!オレの鎌と能力が怖いか!?アァ!!?コソコソ逃げ回りやがって!!」

 

「雷遁・偽暗!!」

 

電撃がくるが、それも躱す。すると角都が触手を伸ばして来た。

 

大量の触手を瞬身と身体捌きで避けていく。

 

「大した体術遣いだ。戦闘経験の差を感じさせない技量は見事だ。……だが、これはどうする?」

 

角都 のお面が一斉に口を開いた。

 

同時に火遁と風遁、雷遁が合わさった熱閃がくる。

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

私の前に氷の壁を作ってガードする。

 

すると地中から腕が飛んでくる。それも咄嗟に屈んで回避する。

 

「火遁・頭刻苦!!」

 

背後に回って来た角都が火遁を放ってくる。

 

「水遁・破奔流」

 

炎と水がぶつかって大爆発を起こす。蒸気で視界が悪くなる。

 

「痛っ!」

 

爆発で視界が悪くなり、意識を感知に振ろうとした隙を突かれて、黒い槍が私の頬を掠めた。

 

呪術・司死憑血

 

呪いたい相手の血液を取り込み、自身の血で書いた陣に入る事で発動する。効果は生体情報のリンク。お互いのダメージを共有する物。だが、飛段が不死身である以上、一撃必殺の奥義になる。

 

飛段が私の血を舐める。

 

すると身体が黒色に変色した。

 

「これで条件は整った。……オレと最高の痛みを楽しもうぜ!!!!」

 

不味い!!

 

飛段の元へ走る。

 

「周りをよく見た方がいいぞ、小娘?」

 

横から突風がくる。

 

「風遁・獣破烈風掌」

 

角都の風遁を相殺する。だけど、その間に飛段の陣が完成してしまう。

 

「チッ!」

 

私は再び飛段に向かって走る。

 

「オラァ!!」

 

飛段は手に持った槍で太腿を刺した。

 

瞬間、私の足に激痛が走り、転けてしまう。

 

「ハハハハハハハハハハッ!!!ざまぁねぇなぁ!!アァ!!?これでお前もおしまいだァッ!!!」

 

全く……ぎゃあぎゃあ五月蝿い。

 

こうなったら仕方ない。こんな奴でも仲間だからと思って手加減していけど、そうも言ってられない。

 

飛段を殺すしかないな。

 

不死の飛段。忍術や物理攻撃では死なない。だけど………この特殊な力は?……便宜上、氷遁と呼んでるこの力なら、どうだろう。

 

答えは本能が示してくれる。きっと殺せるだろう。……殺してしまうだろう。

 

わかってたから、ずっと躊躇ってた。だけど、そんな事も言ってられない。やるしか無い。

 

無論、無力化を狙う。でも、勢い余って殺してしまう可能性も覚悟しないといけない。

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

ニヤニヤと笑ってる飛段。決着は着いたとばかりに高見の見物を決め込む角都。

 

仮面をしていて良かったと今程に思った事は無い。こんな顔はきっと誰にも見せれない。兄さんにもイタチにも…………。

 

きっととても冷たい目をしているだろうから。

 

「さアァ!!オレと一緒に最高の痛みを味わおーぜェェ!!!むちゃくちゃ痛てーから覚悟しろよ!!」

 

飛段が喚いているが、関係ない。

 

私は静かに術を発動する。

 

「氷遁・万華氷」

 

「……フ」

 

角都が鼻で笑う。

 

そうだろう。普段の万華氷なら、飛段を攻撃するよりも心臓に槍を突き刺す方が早い。それに万華氷が当たってもダメージのフィードバックが私にも来る上に、飛段を陣から弾き出す力もない。

 

万に一つもここから逆転できない。

 

角都はそう考えているんだろう。間違いはないな。

 

私の周りに氷の千本が無数に浮かび出す。空気中の水分が氷の氷柱を形成する。それを射出するのがこの術。

 

でもこの氷遁は忍術ではない。故に私のイメージで形成されているだけだ。だから、氷柱を氷剣に変えて、圧殺する事もできる。

 

だから、今回は速度をイメージして射出した。

 

私の頭の中の最速は、兄さんの奥義。魔鏡氷晶。あの速度をイメージして射出した。それと同時に瞬身の術で飛弾に突っ込む。

 

飛段の両腕と胴体を撃ち抜く。

 

最早写輪眼ですら軌跡を追えない速度で放たれた氷柱の散弾。

 

「え?……グオォォ、痛ってーーーェェ!!!!」

 

あまりの速さに痛みがワンテンポ遅れてやってきたようだ。

 

そんな悶えている隙を私は見逃さない。

 

勿論、フィードバックは来る。だから、心臓や足は狙わなかった。脚さえ有れば私は戦えるから。

 

全身を氷柱に貫かれた痛みが私を襲うが、予め来るとわかって覚悟を決めていたので、動揺は無い。

 

角都も展開の早さに反応が遅れる。そのまま飛段を蹴り飛ばして、陣から弾き出した。

 

私も後方に蹴りの衝撃が来るが、着地する。

 

滝の様に血が流れて、地面に赤い水溜りを作っていく。

 

「はあ…はあ……。」

 

……やっぱり痛いね。わかってたけど。

 

でもこの術はある意味優しい術かもしれない。相手を傷つければ、相手がどんな風に痛みを感じるのか、肌感覚でわかる。

 

使い手がもっと優しい人なら良かったんだけど……

 

それともこんな身体になったからこそ、飛段はこんな性格になってしまったのかな。

 

「雷遁・偽暗!!」

 

電撃が背後から飛んでくる。瞬身で躱して距離を取る。

 

「……お前、痛覚がないのか?……何故動ける?」

 

「………何を言ってるの?ただ我慢してるだけよ。」

 

「我慢でどうこうできるレベルの負傷ではないはずだァ!!お前のそれは瀕死の重症って奴だぜェェ!」

 

五月蝿いな。何でもいいだろ。

 

こいつはまた陣に戻れば私を殺せるだろう。

 

だから、ここでトドメを刺す。

 

氷結とは温度低下によって物が凍る事。なら、温度低下とは分子の動きが鈍くなりやがて、停止すると絶対零度になる。

 

なら、停止させる対象を分子ではなく、生命の機能ならどうかな。きっと私がそれを想起した瞬間に飛段は死ぬんだろう。……何なら、この世界の生きとし生けるもの全ての生命活動を停止させれば、この世界は死の世界へと変貌するだろう。

 

あとは念じるだけ。腕は全く動かないけど関係ない。今もポタタタと血が滴ってる。

 

「氷遁・絶死凍「そこまでよ。」…」

 

目の前に紙でできた髪飾りを着けた女性が立っていた。ちょうど私達の真ん中。同じ暁の上着を着ている。

 

私はそれを見て正気に戻る。

 

それと同じくして、私は一人戦慄していた。

 

ーー今、私は何をしようとしていた?ーー

 

ーー私は取り返しの付かないことをしていたのではないのか?ーー何でこんな安易な気持ちで世界を滅ぼそうとしたの?ーー私は平和な世界を望んでいた筈ではないの?ーーナルト君の夢を応援していたんじゃないの?ーーイタチの事を心配していたんじゃないの?ーー兄さんの想いを受け継いだんじゃないの?ーー

 

ーーそれともこれが私が気が付いていなかった私の心の闇?ーー

 

「……コン、貴女も引きなさい。」

 

「え……」

 

「……もう二人は居ないわよ。」

 

既に飛段と角都は居なくなっていた。飛段が何か吠えてた様な気もするし、それを角都が諌めてた様な気がする。

 

「………ごめんなさい。」

 

「………」

 

小南が私の全身を下からじっと見つめてくる。

 

これだけ流血していれば気になるか。

 

「貴女に任務を伝えに来たのだけど、それじゃ無理そうね。」

 

「………大丈夫。これは私が招いた事だもの。責任は持つわよ。」

 

「……貴女…平気なの?」

 

「…ちょっと我慢してるだけよ。」

 

すると小南が呆れた様な目で見てくる。

 

「………貴女は馬鹿なの?」

 

「…あはは……」

 

そうかもしれないね。

 

さっきまで抱いていた気持ち(世界への憎しみ)に蓋をする。

 

まだこうして私を心配してくれる人はいるんだ。

 

「あれ……?」

 

足元が覚束なくなり、身体が倒れる。

 

だけど、すぐに小南に支えられる。

 

「血を失いすぎたわね。」

 

「……大丈夫よ。」

 

「いいから、少し寝てなさい。」

 

「…こ……なん………」

 

小南に血がついてしまう……

 

だけど、意思に反して私の意識はなくなった。



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残された者の想いと友達

目が覚める。

 

気づけば、コンクリートの無機質な天井が見えた。

 

どうやら、私はベッドに寝かされている。視線を少し右に寄せれば、点滴パックが宙に浮いていた。

 

「目が覚めた?」

 

「…小南。」

 

小南がベッドの側で座っていた。

 

「ここは雨隠れの私が所有している塔よ。」

 

「……じゃあ、これは」

 

「雨隠れの医療忍者に治療させたわ。」

 

「…あ、ありがとう。」

 

頬が熱くなる。

 

あれ?…そういえばお面がない。

 

「人工呼吸器をつけてたから、外させて貰ってたわ。何とか輸血して回復したからいいけど、死にかけてたわよ。……飛段は不死身だけど、貴女はそうじゃない。何故同じような戦い方をしたの?」

 

「何故って……飛段は不死身だから…きっと誰よりも傷を受けた事が多い筈だから……少しは、飛段の事が理解出来るかもしれないって…思ったから……」

 

小南は頭を抱えて溜息を吐く。

 

「……貴女は二人によく似てるわ。」

 

「二人?」

 

「弥彦と長門」

 

誰だろう?……どちらも聞いた事が無い。

 

「二人とも私の大切な人だった。」

 

過去形。…つまりそういう事なのかな。

 

「誰よりも人の痛みに向き合おうとする姿は長門に似てる。誰彼構わず、お節介を焼きたがるのは弥彦に似てるわ。」

 

「…………」

 

「私達、3人は孤児だったの。」

 

孤児。私がよく見つけては砂隠れの孤児院に連れて行ってる子達。

 

「ここ雨隠れはいつも内戦と或いは大国同士の戦争に巻き込まれてたわ。そこで孤児になった。でも、先生が助けてくれた。」

 

先生か。頭の中に再不斬さんが思い浮かぶ。

 

「先生は自来也先生よ。」

 

「え?……あの三忍の?」

 

木ノ葉の英雄。つい最近捕まりかけたあの人か。……ナルト君の先生でもあるのよね。

 

「そう。あの人の元で育てられたわ。」

 

あの人の元で修行して、何故今の抜忍集団を作る事になったんだろう。

 

ナルト君の師匠をするくらいだ。先生の想いに反してるんじゃないのか。

 

……いや、それなら私もそうか。きっと兄さんが願った未来はこんな未来じゃ無かった筈。兄さんが生きていたら、こんな手を真っ赤に染めた私を止めようとする筈だ。

 

「先生が木ノ葉へ帰った後、私達は話し合いで平和を目指す『暁』を作ったの。」

 

「それが始まりなんだね。」

 

「順調だった。雨隠れの長、『山椒魚の半蔵』と会合する迄は。」

 

聞いた事があるような無いような名前。多分私が生まれた頃には既に死んでいたのかもしれない。

 

「……フフ、貴女みたいに若い子には聞いた事がないかもしれないわね。でも、こっちの名前は知ってるでしょう?『志村ダンゾウ』なら。」

 

私は目を見開く。

 

何でここでその名前が出るんだろう?雨隠れと木ノ葉はあまり関係無いはずじゃ。

 

「当時、木ノ葉と岩隠れは戦争状態だった。二つの大国に挟まれていた雨隠れも戦場になった。そこにダンゾウが雨隠れに政治介入してきたのよ。」

 

「……成程、木ノ葉が有利に戦を進める為に雨隠れのリーダーと取引して、木ノ葉の味方になるように促した訳ね。」

 

「そうよ。それで半蔵がダンゾウに協力を依頼したのは、『暁』を潰す事。」

 

「何で?『暁』は平和を志す組織でしょ?」

 

「私達の理念がどうであれ、大きくなってきた『暁』に雨隠れが乗っ取られるかもしれないと危惧した半蔵が騙し打ちで、当時のリーダーだった弥彦を殺害したのよ。」

 

「………そんな。」

 

あまりの事に言葉を失う。

 

「……その時にダンゾウもそれに加担していたのよ。」

 

ダンゾウが……

 

大蛇丸といい。何故人は悲劇を生み出してしまうのか……

 

「…だから悟ったのよ。平和を実現する為は、相応の力がいる事を。矛盾もしてるかもしれない。だけど、綺麗事だけを吠えてそれでまた弱者が傷付く世界なら、私は許容できない。」

 

「………どうしてそこまで話してくれるの?」

 

「…………それは」

 

今まで淀みなく話していた小南が初めて言葉を詰まらせた。

 

「…………最初に言った通り、弥彦と長門に似ていたからよ。」

 

そう語る小南の目に一筋の涙が流れる。

 

きっと小南にとって二人は掛け替えの無い存在だったんだ。私にとって兄さんと同じように。

 

私はベッドの側に座っている小南の手を握る。

 

「大丈夫だよ。小南の想いはきっと叶う。勿論、私も応援してる。」

 

そう笑顔で答えれば、小南は「ありがとう」と目元を手で覆い隠した。

 

話の流れで何となくわかった事がある。さっき弥彦は殺されたと言っていたけど、長門の話がなかった。………つまり、リーダーのペインがきっと長門なんだろう。

 

それと私達はきっとお互いに似ている。髪色は違う。小南は紫色で私は水色。体型も小南はスタイル抜群。……って、そうじゃなくて、瞳の色。こじつけかもしれないけど、同じオレンジ色の瞳を持っている。そしてそこに映し出す想いも。

 

きっと私以上に色んなものを失ってきたんだろう。

 

それでも平和を願うという一点だけはブレない彼女は凄いと思う。いつもブレブレな私からすれば尊敬の念が絶えない。

 

「小南は強い人だね。」

 

「……私は強くなんか無いわ。いつも誰かの背中に隠れているだけよ。」

 

「なら、私と一緒だよ。……小南の強さはその優しさなんだから!…長門を支えてあげなよ。」

 

「……貴女、まさか…………ええ、そうね。」

 

「……私は後どのくらい寝ていないとダメ?」

 

「医療忍者の見立てであと1週間は寝ないといけないわ。」

 

1週間安静か。まあ、あれだけの重症で生きながらえただけでも良しとするか。

 

「任務は?」

 

「1週間ずれ込ませたわ。」

 

「……今回は融通が効くんだ。」

 

「私が直接ペインに話してあるからね。」

 

「そうなんだ。リーダーも貴女になら少し甘いのね。」

 

私が笑えば、小南も小さく「そうよ。」と笑った。



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恨み

1週間はあっという間に終わった。小南が話し相手になってくれたからだ。あと意外だったのはリーダーペインともよく話せた事だ。冷酷な気配を感じさせつつも、根は小南と同じだからか、飛段達とは違い常識人だった。それとトビも見舞いにやってきた時は驚いた。私の素顔に驚いていた。トビには見せた事がなかったなと思ったが、トビが雨隠れに出入りできる事に私は驚いていた。見習いでも本拠地に来れるんだなって驚いた。

 

そして1週間が終わり、小南から任務内容を聞かされてた。

 

「任務の内容は、今暁を嗅ぎ回ってる組織があるようなの。それの調査と可能であれば殲滅よ。」

 

「結構、大切な任務じゃない。よく後ろにずらしてくれたね。」

 

「大切だからこそ、万全の状態で臨んで貰わないといけないってリーダーの意見よ。」

 

それはきっと小南を気遣ってのものか。

 

「ツーマンセルは私と小南って事かな?」

 

「ええ、そうよ。」

 

「場所は?」

 

「草隠れに敵のアジトがあるとゼツからの情報よ。」

 

「じゃあ、最初は潜入だね。感知タイプで体術遣いの私が前衛、小南が援護と退路確保の後衛ね。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

草隠れは雨隠れから隣の国という事もあり、移動は二日で済んだ。

 

「それで、具体的にはどうなの?」

 

「具体的にとは?」

 

「やる事は聞いたけど、その背景を聞いてないんだけど。何で草隠れが暁を探ってるのかとかさ。」

 

「そうね。まず草隠れについてだけど、この里は木ノ葉や岩隠れのような大国ではなく小国よ。」

 

「そうね。」

 

「最近は大きな忍界大戦もない。平和な時代が10年以上続いているわ。だから、小国は仕事が減っているのよ。」

 

成程、戦わない軍隊を抱えている状態でもお金に余裕があるのは大国ぐらいだけだ。

 

それに小南は第二次忍界大戦と第三次忍界大戦を経験してる。戦争がどんなものかも知ってるんだ。

 

「だから、小国は大国のように任務を依頼として受けるんじゃなくて、積極的に依頼を取りに行ってるのよ。……ようは傭兵業。つまり、同業者ってことね。」

 

ああ……なんか読めた。つまり、暁が格安で戦争代行をしてるせいで余計に仕事が無くなってしまってるのが草隠れって事か。しかもメンバーはS級ばかり。クオリティも高い。小国がこのクオリティを再現するのは不可能だろう。

 

「だから、調査して本当か確かめる。本当なら制裁を加える。」

 

「あとは、情報源を洗う事もできればやりたいね。」

 

「………できればね。」

 

里に到着する。

 

見張りは4人。どうやって侵入するか。

 

「変化の術で入る?」

 

「……いえ、もし見破られたら侵入前から戦闘になるわ。そうなれば、調査どころでは無くなる。」

 

つまり、変化ではない侵入が必要ね。

 

「了解。じゃあ、私のやり方で潜入しようか。」

 

「方法は?」

 

「お得意のサイレントキリング」

 

私は追い忍の面を被る。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

霧で視界が悪くなる前に再び入口を見る。

 

門の左右に二人と櫓に二人。

 

千本を構える。霧が濃くなったところでジャンプして空中から千本を5本投げる。2本は門前の二人の首の秘孔を射抜き、3本目は櫓の右側に立っている人に。4本目と5本目が千本同士を衝突させて軌道を変えて、櫓の柱の陰になっていた人の首を射抜いた。

 

全員が意識を失ったのを気配で感知したところで着地。

 

「……イタチのような手裏剣術ね。」

 

「イタチもこれができるんだ。流石だね。」

 

「行きましょう。」

 

「うん。氷分身」

 

4体の氷分身を作り、門番達の人相に変える。

 

意識を失っている門番達は、口と手を縛って、木に括りつけた。

 

これで異常事態を知らせる事もできないし、印を結ぶ事もできない。

 

「あとは忍具を取っておかないと。ロープ切られちゃ不味いし。」

 

取り上げた忍具は小南に渡しておく。私が持っていても仕方がない。

 

私はクナイや手裏剣の練習をしていないから上手く扱えない。

 

剣に関しては、昔再不斬さんから手解きを受けてる。霧隠れ流の忍刀の7本を扱うための訓練法。

 

霧隠れの里では忍刀の訓練は必須らしい。それは将来の忍刀七人衆のメンバーになる為だとか。その技術を再不斬さんから受けついでいる。だから、氷剣や氷槍は扱えた。

 

千本術は主に霧隠れの暗部の技術。出来るだけ対象を傷付けずに、遺体や捕虜を運ぶ為の技術。そこから敵や抜忍の能力を自里に落とし込む為。

 

今に思えば、手裏剣やクナイの扱いではなく、千本術と忍刀術を教えていたことから、再不斬さんは将来、私達兄妹を霧隠れの暗部に潜入させる事をあの当時から考えてたって事になる。

 

「これでもしもの事があっても時間は稼げる。小南は起爆札の準備をお願い。私は持ってないから。」

 

「随分手慣れてるわね。」

 

「暁でも私は一人で任務をする事もあるからね。……それに再不斬さんの元にいた時は参謀役だったし。」

 

あの時はまだまだ未熟な参謀だったけど。

 

それに霧隠れ潜入時の経験もある。

 

「口寄せの術」

 

20体のユキウサギを召喚する。ユキウサギに私達の情報に纏わる物を探させる。

 

「さて、暫くは観光でもしておこうよ。」

 

「そんな悠長な事言ってていいのかしら?」

 

小南の台詞に思わず溜息が出そうになる。

 

「……暁のみんなは強いからさ。ゴリ押ししたがるけど、それじゃあ戦争では強くても情報戦では負けちゃうよ。ゼツがいるから上手く回ってるけど、いつも彼を使える訳じゃないんだから。実際、今は別の任務に出てる。」

 

「じゃあ、どうするの?……本当に観光する気なの?」

 

「そのつもりだよ。……ちゃんと地理の把握をしてね。」

 

「…そういう事ね。」

 

「あと暁のマントは脱ぐよ。草隠れが暁を敵視してるなら、この格好は不味いからね。」

 

マントを脱いで巻物にしまう。

 

「…………」

 

「何よ。」

 

マントを脱いだ小南の身体は凄かった。本当に色々と凄いな、うん。

 

思わずデイダラの口調を物真似するくらいには凄い。

 

気がつけば私は小南を睨みつけていた。仮面で顔隠しててよかった。

 

「何でもない。」

 

私は小南に背を向けて歩いた。

 

「…フフ」

 

後ろから鼻笑いが聞こえた。

 

ちょっと、小南!

 

貴女、絶対わかってたでしょ!!

 

小南に揶揄われて、頬が赤くなる。多分耳まで赤くなってる気がする。

 

笠を被って隠す。

 

「ほら、小南もこれ被って!!」

 

「はいはい」

 

“はいはい”じゃ無いわよ!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

里を小南と二人で練り歩く。雑貨屋さんで里の地図を購入し、大きな茶屋に入り、個室に入る。

 

「みたらし団子4つとお茶をください。」

 

頼めばすぐに出された。仮面と笠を取って団子を頬張る。

 

甘くて美味しい。

 

「……貴女、本当に遊びに来たんじゃ無いでしょうね?」

 

小南がジト目で睨んでくる。

 

「そういう小南だって、さっきは普通にアクセサリーとか買ってたじゃん。小南もなんだかんだ楽しんでるでしょ?」

 

「観光客を装ってるからよ。」

 

ホントかなぁ?

 

結構本気で楽しんでたように見えるけど。

 

私は周りに不審な気配がないか、確認してから地図を広げた。

 

「大体は地理の把握ができたね。調査と制裁。調査はユキウサギが戻ってきてから動こう。制裁は、私達二人しかいないから、起爆札を大量に使ってやろう。」

 

私は地図に印をつけていく。

 

「この赤の印は?」

 

「ここに起爆札をつけて発動させれば、被害を増やしながら、陽動と撹乱が効果的な所。それでもって、一般人に被害が出ないところをピックアップしてる。」

 

「…………」

 

小南がじっと此方を見つめてくる。

 

「別に一般人を気付ける必要が有るか無いかで選択できるなら、前者を選べばいいじゃない。選択できない時は仕方ないけど。……無理に悪人に合わせる必要はないでしょ。………それをして、後から自責の念に囚われている方が無駄な労力だと思うけど、小南?」

 

「………ええ、そうね。」

 

「今回は私達二人なんだからさ、好きにやろうよ。……潜入は主に私が担当するけど、暴れる時は起爆札を中心に小南がメインで動いてもらうんだからね。」

 

「わかったわよ。」

 

そうして話している間にユキウサギが1匹づつ帰ってきた。

 

成果の有ったものや無かったもの等、様々だ。

 

今度は青色で印をつけていく。と言っても一箇所だけだ。

 

「それだけの口寄せ動物でここだけしか見つからないのね。」

 

「それでもこれだけ見つかったらなら、上出来だよ。」

 

私はユキウサギを帰す。

 

「じゃあ、もう一回観光の続きに行こうよ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

再び街を練り歩く。今度は先程、地図に印をつけた場所に起爆札を張り付けていく。

 

流石に里を2周もすれば、夜になる。

 

宿を取って作戦会議をする。

 

「今夜寝静まった時を狙って、二手に別れよう。」

 

「じゃあ、感知タイプの貴女が地図上の青マークへの潜入。私は陽動かしら?」

 

「うん。穏便に潜入できればいいけど、流石に警備があるだろうし。そもそも制裁を加える事も目的だから、二つ同時に並行してやろう。」

 

巻物から暁のマントを出す。

 

「今からは寧ろ、暁であることをアピールするよ。」

 

私達は暁の衣を見に纏った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

草隠れの中心の地下。私は気配感知をしながら、潜り込んでいた。

 

夜も耽る頃、寝静まったはずの里が騒がしい。

 

小南が暴れてくれているんだろう。町中の至る所で爆発音が聞こえる。

 

仕掛けておいた起爆札が効果を発揮してくれてるようだ。

 

さて、里の上空で小南が飛行しながら、暴れているのを横目に目当ての物を手に入れる。

 

中身は暁のメンバーの能力や弱点などが事細かに記されている巻物。この部屋は草隠れの長、『草影』の部屋だ。間違いではないだろう。部屋は薄暗く、蝋燭の明かりが小さく揺らめいていた。

 

情報源は何処か調べる。

 

纏めた情報だけではなく、原本の出どこも確認する。

 

………どうやら、暁に恨みを持ってる者達から集めているのかな。

 

私についての情報源は霜隠れだった。

 

心当たりはある。霜隠れの一部の人間からは恨みを買っていた。今も霜隠れは内乱の危険を孕んでいるが、内乱には発展していない。それは何かしら、不満の吐口があったからか。

 

推測でしかないけど、草隠れに情報を得ることで固唾を下げたのではないのだろうか?

 

これなら、しっかり敵を殺した方が良かったのだろうか。

 

結局、雲隠れからも霜隠れからも恨まれる結果になるなんてね。

 

確かに半端な仕事だと思う。今度はしっかり仕事をするとしよう。

 

背後から気配を感じる。段々と近付いてきてる。

 

私はすぐに巻物をしまう。

 

「成程、外は陽動でその裏で情報収集。抜け目のない事だ、暁。」

 

振り返れば、『草』の文字が書かれた服を纏っている。

 

「貴方は草影様ですか。……いいんですか、こんな所に居て?…里が大変な事になってますよ。」

 

「フン……貴様ら暁を仕留めればそれで終わりだ。弱点は把握している。理由は言うまでもないな?」

 

「そうですね。」

 

結構強いね。小国と侮っていたけど、里の最強ってだけではある。

 

時間をかけると小南に迷惑がかかる。でも、この人を捉えれば、情報を一気に引き出せる。

 

この狭い空間では私の足があまり活きない。霜の国での戦闘が知られているなら、私の基本戦術は全て通用しないだろう。なら、氷遁を使う。だけど、絶対に逃がせないし、時間もかけられない。

 

仕方ない。奥義の一つを使うか。

 

「時間凍結」

 

能力の発動の瞬間。部屋の蝋燭の炎の揺らぎが止まる。

 

私は草影に向かって歩く。草影は私が歩き出したのにも関わらず微動だにしない。

 

動かない草影の首に千本を滑らせる。仮死状態にするツボだ。

 

そして次の瞬間、草影の体が倒れた。蝋燭の炎も小さく揺らいでいた。

 

私は草影を抱えて部屋を出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

任務も終わり、雨隠れへ帰還する。草影から情報を取るのは、リーダーがやってくれるそうだ。なら任せよう。私は幻術を使えないからね。

 

「後は私達でやっておくから、コンはもう休んでいいわよ。」

 

「じゃあ、お願いするね。」

 

私は雨隠れを後にした。

 

今回の任務も何とかなってよかった。小南にはいきなり看病させるような迷惑をかけちゃったけど、リカバリーできたかな。

 

最後は草影に見つかった時は焦った。かなり強引なやり方をやってしまった。実は自来也様から逃げる時も同じ技を使用している。

 

時間凍結。

 

文字通り、時間の動きを停止させる。ただ無制限にはできない。体感時間で30秒程度だ。それ以上は勝手に時間が動き出す。力を弱めた『時間遅延』なら1分程度持続できるけど、完全には止まらないし、0.5倍速といった感じだ。

 

関連技で『空間凍結』もある。此方は土影の塵遁を防御した技。文字通り空間を固定する。此方の方が制約は小さくて扱いやすい。氷翼がなくても、足場にして空中に立つ事などもできる。

 

とても忍術のレベルではない。やはり別の力だろうと思う。

 

能力の考察など、世界で私しかいないであろう事から結局の所よくわからない。

 

そんな事よりも今回の任務は楽しかった。女性と二人きりってのが久しぶりだったからかな。クロと過ごしたあの時は本当に楽しかった。あんなことが無ければ、今も一緒に過ごしていたかもしれない。

 

もう失わないように私は戦い続けようと思った。

 



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宿命

これで何度目だろうかな。

 

「あれが大蛇丸のアジトか。」

 

大蛇丸のアジトを突き止めた。今回は何としても捕らえる為に3人がかりで望む。

 

これで3回目になる。

 

どうやら私はトコトン大蛇丸と縁があるようだ。今回も大蛇丸のアジト潰しだ。ゼツが見つけたアジトは風の国の砂漠地帯あった。

 

大蛇丸も本当に凄いと思う。木ノ葉の追い忍から逃げながら、私達暁にも追われて生き延びてるんだから。

 

まあ、大蛇丸を完全に殺す事は不可能だろうと私は思ってる。

 

あの呪印を受けてわかったけど、あれは恐らく対象者のチャクラを吸収して、大蛇丸本人を復活させる術式。

 

そして、この仮説が正しければ、仮に殺せたとしても、世界の何処かでまた復活してしまうだろう。

 

非常に残念だが、大蛇丸が諦めてくれるまで、一生ストーカーされる事がわかっている。

 

そんな事を言っても組織に意向に逆らう気は無いから、地道にアジトの破壊はするけどね。

 

3人で砂漠を歩く。

 

今回の任務では、サソリが意欲を見せている。大蛇丸と因縁があるようだ。大蛇丸の悪口ならサソリと盛り上がりそうだ。そして、相方のデイダラ。デイダラは私を連れて行こうと喚いていた。リーダーも大蛇丸との戦闘経験が豊富な私が同行する事に異議はないようで、今回のメンバーが決まった。

 

「やっと、スリーマンセルだな!うん!」

 

「はしゃぐな。今回限りだ。……大蛇丸をぶっ殺す事は確定だからな。」

 

「じゃあ、サソリメインでいいね。私とデイダラはサポートって事で。」

 

「ああ。それから、コン。仮面は外しておけ。」

 

サソリからの提案だ。

 

意外だね。デイダラはよくそう言うけど、サソリが言うのは珍しい。

 

「今回は俺も本気で戦う。……オレの十八番の三代目風影は磁遁の砂鉄を扱う。砂鉄は黒いから視界が悪くなる上、デイダラの上空からのサポートも視界が狭いと巻き込まれる可能性がある。」

 

そう言う事ね。まあ、ここはサソリのアドバイスに従っておこう。

 

お面を外す。

 

「……さーて。オレも本気を出すか。」

 

ボフンとヒルコが煙に包まれる。中からサソリ本人が現れた。

 

赤毛の髪の毛に眠たげな半眼。とても整った顔立ちに幼さが残る顔つき。

 

「サソリも普段からそうしてればいいじゃない。……ヒルコの中なんて狭い所に居ないでさ。ルックスもいいんだし。」

 

「あれは基本的に防御用だ。お前みたいな陰気臭い仮面と一緒にするな。」

 

この野郎……せっかく褒めてあげてるのに、いちいち悪態を付かないといけないのか?

 

「なっなっ!!」

 

肩を叩かれる。振り返ると、デイダラが自分の顔を指さしていた。

 

「デイダラは今のままが一番アートだよ。」

 

「うん、うん!そーだよな!!お前はやっぱり、よくわかってる、うん!」

 

「単純なヤローだ。」

 

「……あはは」

 

なんだかんだ、いつものように賑やかに3人で歩く。遠くに大蛇丸のアジトを見据えながら。

 

「二人とも止まって。」

 

私が制止をかける。

 

「前方から、沢山の蛇が来てるわ。」

 

「大蛇丸の攻撃だな。」

 

「早速お出ましか。」

 

私は地面に片手をついて、冷気を流し込む。暫く冷気を流し込めば、蛇の気配は消えた。

 

「うん、大丈夫。」

 

「何をしたんだ?」

 

「地中の蛇を凍らせた。…もう死んでるから、大丈夫。」

 

「流石だな、アートだぜ。」

 

「デイダラは空を飛ぶ準備をしてて。」

 

「オーケー。」

 

デイダラが鳥型の起爆粘土を用意する。左目にもスコープをつけている。

 

アジトから大蛇丸が出てきた。

 

「組織から派遣されたのが、貴方達とはね。てっきり、イタチ君かと思ったのだけど。」

 

「よう、クソ野郎。ぶっ殺しにきてやったぜ。」

 

「できるかしらね。貴方達ごときに。」

 

サソリは三代目風影を取り出す。

 

デイダラも空に飛び、臨戦態勢だ。

 

「御託はいい。さっさとやるぞ。」

 

「私も最近新しい人形を手に入れたのよ。」

 

そういうと、大蛇丸の前に大きな棺桶が二つ出てきた。

 

見覚えがあった。あれは8、9年も前だ。忍刀七人衆のゾンビと戦った記憶が蘇る。兄さんを拷問してきたトラウマはよく覚えてる。

 

棺が開かれ、中から二人の男女が現れた。

 

一人は女性。緑色とオレンジの髪を束ねたくノ一。

 

クソッ、またダイナマイトボディか!!

 

一眼見て此奴は敵だと判断した。

 

大蛇丸が口寄せしてる時点で敵だけど。

 

でもそれ以上に目を引いたのが、もう一人の男性。

 

「ねぇ、あれって…」

 

「オイオイ、どう言う事だ?」

 

どう見ても三代目風影だ。

 

「三代目風影ってのは、旦那が始末したんじゃなかったのかよ。」

 

「ああ、だからこうして傀儡になってるんだ。」

 

「それはどうかしらね。…こうして私が蘇らせたからこそ、こうして今立っているとも言えるわ。」

 

すると、三代目風影が口を開く。

 

「……貴様、サソリか。よくもやってくれたな。……今回は以前のようにはいかないぞ。」

 

「恨み節は後でいいでしょう。さあ、始めましょう。」

 

大蛇丸は何か札がついたクナイを三代目風影とくノ一の頭に入れた。

 

「サソリ、デイダラ。…あれは穢土転生の術よ。」

 

「…なんだその術は?」

 

「死者を蘇らせて操り人形にする術よ。……生前のスペックが全て反映される訳じゃないけど、厄介な術よ。……何せ既に死んでるから、これ以上は死なない。ようは不死身ってことよ。」

 

「流石に一度見てるだけあって、看破されてるわね。」

 

「その術で3対1のをカバーしようって訳ね。」

 

「へッ、そんな死体じゃオイラ達は止められねぇ。芸術トリオを舐めんなよ!!うん!」

 

「砂鉄時雨!」

 

サソリが戦端をきった。

 

それと同時にくノ一が私に襲いかかってきた。

 

「…そいつは砂の血継限界のパクラだ。灼遁って言う火遁と風遁の合わせ技を使ってくる。お前の氷遁に対抗するためだろうな。」

 

サソリが教えてくれる。

 

「ありがとう、サソリ。」

 

クナイで斬りかかってくるパクラ。私も千本で受け止める。

 

視界の端で赤い球が見えた。

 

後方に跳んで回避する。

 

あれが灼遁……

 

彼女を守るように赤い熱の球が3つ、クルクル回ってる。

 

接近しずらいな。足を止めて鍔迫り合いなんかは絶対に無理だ。

 

まずは試しに…

 

「水遁・破奔流」

 

鉄砲水を浴びせる。

 

以前の栗霰串丸なら、これでダメージを負わせる事ができた。

 

「灼熱・過蒸殺!!」

 

水が蒸発して干上がってしまう。

 

炎の球が衰えない……?

 

風遁で火力を高めているのは勿論だけど、一切の減衰がない。

 

通常の火遁であれば、水遁で鎮めるか火力は落ちるのだけど…

 

分析していると今度は火球を飛ばしてきた。

 

遠距離も対応と……

 

通常の火遁が遠距離技が多いから、当然か。

 

避けて火球が地面にぶつかる。

 

砂漠の砂がドロドロに溶けている。

 

熱量が半端じゃないわね。

 

常に彼女の周りには3つの火球が配置されて守りを固め、遠距離は新たに生み出した火球を飛ばして攻撃する。

 

攻撃力が売りではあるけど、防御もできる優れ物。便利な血継限界だね。

 

千本を仕舞い。氷剣を作る。

 

遠近両方に対応してるんなら、得意な接近戦を仕掛けよう。

 

「ふん…ただのガキじゃない。その貧相な身体で逃げ足だけはまともみたいね。」

 

私が剣を持った事で接近戦をすると見たパクラが口を開く。

 

何で今煽った?その挑発は関係無いでしょ!!

 

「そういうおばさんは口が煩くて嫌になるわね。歳を取ると恥って概念がなくなるのかしら。ああはなりたくないわね。」

 

「口には気をつけた方がいいわよ、クソ餓鬼。」

 

「そっくりそのまま返してあげるわ。」

 

瞬身の術で懐に潜り込む。

 

横凪に剣を振るう。それをクナイでガードされる。

 

パクラを守っている火球が襲ってくる。屈んで回避。そのまま下から剣で切り上げる。それでもガードされる。

 

瞬時に次の火球がくる。

 

今度は軽く身体を捻って躱す。回転した身体の遠心力で剣を叩きつける。

 

それもギリギリでガードされる。また火球がくる。再び屈んで回避。今度は胴体を横凪に一閃。

 

パクラの腹を裂く。血液は出ない。代わりに塵が舞う。体勢が崩れた彼女に容赦せずに斜めに斬り下ろす。

 

そのまま胸元を横に割いて、蹴り飛ばす。

 

しかし、穢土転生のお陰か火球が消えずに襲いかかってくる。

 

それを左手で受け止めた瞬間に、凍らせた。

 

接触凍結

 

上半身だけのパクラが目を見開く。

 

「どうやら、貴女の灼遁より私の氷遁の方が上だったようね。……水遁・破奔流」

 

前回と同じだ。ここは砂漠。底無し沼を作って封じ込める。

 

これで私の方はカタがついた。

 

大蛇丸の方に向かおうとしたときに背後に気配を感じた。

 

振り返ればまたもや棺桶。しかし、中から出てきた者を見た瞬間、私の思考が停止してしまった。

 

「…ク……クロ………」

 

2年前、木ノ葉の『根』に所属するための訓練。その時に私の所為で命を落とした少女が此方を見ていた。



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代償

「…ク……クロ………」

 

「…シロ姉さん?」

 

手足が震える。指先まで感覚がなくなるようだ。砂漠の真ん中なのに、酷く寒い。なのに身体を流れる汗が止まらない。

 

ダンゾウと大蛇丸は繋がってる。なら、クロの生態情報を持っていても不思議ではない。

 

そう、理屈はわかる。だけど、心が拒否していた。

 

クロはダンゾウに騙されていた。私の為の生贄。それが彼女だと知った。

 

不幸ではある。だけど、しがらみからは解放されたはずなのだ。

 

なのに今も私の所為で彼女を苦しめる事になる。

 

それが我慢できない。次第に頭が熱を持つようになる。

 

「大蛇丸ゥゥゥゥウウウウ!!!!!!!」

 

大蛇丸を斬り殺そうと足を踏み出す。

 

「!?」

 

だけど、クロが回り込んできて進路を塞ぐ。

 

それだけで私の激情と脚が止まってしまう。

 

「あれ?…体が勝手に……」

 

クロは戸惑いの表情になる。

 

状況の目まぐるしい変化に戸惑ってるんだろう。

 

「……うっ!」

 

「クロっ!」

 

突如、クロが頭を押さえ出す。

 

「……なに、これ………?」

 

「クロッ!……しっかりして!!」

 

私がクロに駆け寄ろうとした瞬間、頬をクロの忍刀が割いた。

 

「痛っ…」

 

「い…いや、…体が勝手に……そんな…姉さんを殺すなんて………」

 

穢土転生の命令に抗おうとして苦悶の表情を浮かべるクロ。

 

「ね…姉さん……助けて………」

 

次の瞬間、クロから表情が抜け落ち、機械の如く斬りかかってくる。

 

クロッ!……意識が!

 

完全に操られてる。

 

左から斬撃が来る。それを氷剣で受ける。

今度は鋒を変えて、手を狙って来る。それに合わせて私も手首を捻って忍刀を弾く。

忍刀で突きが放たれる。氷剣の腹でガードする。

今度は右から来る斬撃を身体を左に動かして氷剣で受ける。

 

「あら、反撃しないの?…そのままじゃジリ貧よ。」

 

遠方から大蛇丸が煽って来る。

 

クロに攻撃なんて……

 

機械的に振われる刀をいなす。クロの剣は下忍レベル。精々が中忍レベル。このまま防御していれば私がやられる事はない。だけど、それで終わらない事も事実。

 

上段から振り下ろされる刀を弾く。晒された胴体に剣を振り抜く。

 

「貴女にその子の首を刎ねる事ができるのかしら?……また、殺す気なの?」

 

大蛇丸の声に私の剣がピタッと止まる。

 

脳裏に蘇る彼女の生首。

 

首を刎ねるつもりなどはない。それでも剣が止まってしまった。

 

そして、クロが上がっていた腕を振り下ろしてきた。

 

鮮血が舞う。

 

左肩から斜めに切り裂かれた。

 

ガクッと足に力が抜けかかる。

 

「フッ、これなら楽しめそうね。」

 

機械的に動いていたクロが止まる。

 

ビクッと震えたかと思えば、口を開いた。

 

『……お前の所為だ。』

 

「え?」

 

横に一閃される剣。

 

でもそれをガードする事ができなかった。砂漠に私の血が飛び散る。

 

彼女の口から出る怨嗟の声に恐怖し、身体が動かなくなったからだ。

 

『お前が私を騙した。』

 

「…ち、ちが……」

 

『お前が私を殺した。』

 

「……ち、違うの……」

 

『いいや、違わない。お前が殺したんだ。』

 

「……ご…ごめんなさい………」

 

砂漠が私の血の色で染まっていく。

 

『何でお前はのうのうと生きてるんだ?』

 

「…………」

 

身体に言葉と忍刀の刃が次々と刺さっていく。

 

『私はお前を一生許さない』

 

その言葉で遂に私は膝を着いてしまう。

 

涙で滲む視界の中、真っ赤になった砂に忍刀を振りかぶる影が見える。

 

それでも俯いたまま顔を上げる事ができない。

 

そうして目を閉じたその時。

 

頭上で金属同士がぶつかる音が響く。

 

顔を上げれば、クロの刀を砂鉄の棒で止められていた。

 

「おい、いつまで無様晒しているんだ、小娘。」

 

「……サソリ?」

 

「そいつはただの人形だろう?……惑わされて大人しく斬られるのは、罪滅ぼしでもないぞ。……ただの自慰行為だ。」

 

サソリは此方を見ているわけではない。大蛇丸と三代目風影の相手に集中している。デイダラも加勢して戦ってる。私だけが、俯いて泣いている。

 

「……いつまでそいつの魂を苦しませるつもりだ?姉妹なら、救ってやれ。」

 

クロの顔を見る。無表情に私の返り血を浴びた顔。返り血が涙のように、正気の無い瞳から流れていた。

 

私はゆっくりと立ち上がる。

 

「……ありがとう、サソリ。」

 

「……ふん」

 

本当は気が付いていた。さっきの言葉も大蛇丸が操作して、クロが吐き出した言葉のような錯覚をさせていただけだって事に。それに気がついていながら、斬られていた私をサソリは見抜いた。だから、自慰行為だと断じ、甘えるなと叱ってくれたんだ。

 

砂鉄が散っていく。自由になったクロが飛びかかってきた。私はそれを避ける事なく、クロの体を抱きしめた。

 

「ごめんね、クロ。」

 

「…………」

 

「……ゴフッ」

 

クロの忍刀が腹を貫いてきた。思わず血を吐き出してしまうけど、それでも離さない。

 

「辛い想いをさせて、ごめんなさい。……不甲斐無い姉でごめんなさい。……貴女を護れなくてごめんなさい。……それでも私は貴女の分も生きていくつもりよ。……だから、おやすみ、クロ。」

 

クロの身体から力が抜ける。

 

「ね…姉さん。」

 

塵が舞い上がる。

 

「……ありがとう…………」

 

クロの体が完全になくなり、中から知らない男性の遺体が出てきた。

 

これが穢土転生で生贄にされた人………

 

私は大蛇丸へと視線を向ける。

 

三代目風影同士の激しい大規模な戦いに、デイダラの爆撃と大蛇丸が口寄せした大蛇が暴れ回る戦場は混沌を極めていた。

 

お腹を押さえながら歩く。

 

重症ではあるけど、まだ戦える。

 

走る事はできない。お腹の傷が痛んで仕方ない。

 

でも、やれる事はできる。

 

「氷遁・万華氷剣」

 

虚空に無数の氷剣を作る。数百本の総列の氷剣の鋒を大蛇丸へと向ける。空が青いから見えにくくて丁度いい。物質感知系なら気が付かれているだろうけど。

 

私はサソリとデイダラに被害が及ばないタイミングで、数百本の剣を射出した。音速で飛来する剣弾を防ぐ事が叶わず、三代目風影が粉々に砕けた。

 

「なに……!?」

 

続けて、大蛇も氷剣の雨に晒されて死亡する。

 

「口寄せ・三重羅生門!!」

 

巨大な門が大蛇丸の前に現れる。氷剣の雨に門は粉々に破壊されるが、3枚目を砕き前の剣弾を撃ち尽くした。

 

「……ふふふ、残念だったわね。怒りに任せて、術を放っても私には届かないわ。」

 

「コン!!……大丈夫か!」

 

デイダラが此方に気が付いて、駆け寄って来る。

 

「空からの攻撃はどうしたの?」

 

「悪い、迎撃されちまった。……って、それよりもその怪我、大丈夫なのかよ?」

 

「……問題ないわ。さっさとあいつを倒そう。」

 

再生した三代目風影の穢土転生が突如解除される。

 

「あら?術の拘束が弱かったのかしら?」

 

どうにも、穢土転生の術を完璧には扱えていないようね。

 

大蛇丸は流石に不利を悟ったのか、アジトへと逃げ込む。

 

「逃すか!!」

 

デイダラが小型の鳥タイプの起爆粘土を追従させて、アジトごと爆破した。

 

「芸術は爆発だ!!…喝!!!」

 

「……おいおい。」

 

大蛇丸のアジトが音を立てて崩れ去った。

 

「どうするの?」

 

瓦礫の山を見て私は問う。

 

「…探すしかないだろ。」

 

どうやらこの山から大蛇丸の死体を探そうという事らしい。

 

「……悪いけど、私は傷の手当てをしたいから、休ませてね。」

 

「なら、オイラが傷を見てやる。」

 

「おい、それはこいつの自業自得だ。……俺一人でこの瓦礫の撤去させるつもりか?」

 

「でもよお、旦那……」

 

「こっちの瓦礫はお前がやった事だぞ、デイダラ。」

 

「あー、はいはいわかったよ。」

 

「二人とも覗いたら、殺すからね。」

 

「……てめぇが負った傷だろう。何偉そうな事を言ってやがる。寝言は寝て言え。」

 

そういうと二人は瓦礫に向かって歩いて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「痛ぅ〜」

 

服を脱ぎ、髪留めを外して水遁で汚れた体と傷口を洗う。

 

滝隠れの闇医療忍者に治してもらわないといけないわね。応急処置で包帯は巻くけど、結構重症。

 

体を清めながら考える。

 

今回のクロとの思わぬ再会で考えされる。ずっと目を逸らしていた自分の罪。

 

振り返れば、いつも流れに任せて誰かを失ってきた。兄さんも再不斬さんもクロも。不足の事態に対処できず、誰かに守って貰ってばかりの私。今回だって、サソリに助けられた。

 

いつまでも依存体質ではダメだ。だから私は失う。運が悪いとか、他の所為にするのも間違っている。全ては私に力がないからだ。

 

もっと力を得て、自分の行いに責任を持てるようになるんだ。

 

その責任こそが私が戦い続ける事で証明されるはずだから。

 

体を風遁で乾かして、服を着る。

 

誓いを胸に私は二人の元へ歩き出した。



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下位互換と上位互換

結局、大蛇丸の死体はアジトの瓦礫からは見つからなかった。

 

まあ逃げたんだろう。逆口寄せとかで。

 

あれから数ヶ月後、私も既に暁に属して1年以上過ぎていた。

 

今は岩隠れと石隠れの国境付近に立っていた。

 

「岩隠れの神経がわからないわ。」

 

「まあ、気にも止められていないのであれば、我々としても好都合ですよ。」

 

「……行くぞ。」

 

まさかの岩隠れから戦争代行の依頼を受けた。私が五尾の人柱力を攫ったはずなのに。

 

気にも留めていないなんて事は無いと思う。土影は取り戻そうと攻撃してきたぐらいだし。

 

なのに今日は何事も無かったように石隠れとの紛争の依頼をよこしてきた。

 

しかもメンバーを指名してきた。

 

イタチと鬼鮫と私だ。

 

「どういうおつもりなんですかね?」

 

「おそらく、五尾を取り返す際に障害になるであろうコンの能力が見たいと言ったところだろう。」

 

「あとは、イタチと鬼鮫は偶々だね。デイダラは土影との面識があるから、能力の調査は必要ないだろうからね。」

 

「では、角都と飛段になっていたかも知れませんでしたね。」

 

あの二人と一緒に任務なんて絶対嫌だけど。

 

まあ初見殺しな能力だから、今回は出なくて良かったと思う。

 

「なあ、アンタが五尾を捕まえたって奴か?」

 

そんな話をしていたら、後ろから声をかけられた。

 

振り返ってみれば、二人の男性の忍。額当ては岩隠れ。パッと見の実力は上忍かな。

 

もしかして、五尾を捕らえた報復に来たのかな?

 

「…………」

 

返事をせずに様子を窺ってみる。

 

意外にも敵意は感じられない。

 

「その面、やっぱりそうだな!」

 

するといきなり二人に肩を組まれた。

 

「オレはゲン。こっちはテツだ。」

 

「よろしくな!」

 

凄く友好的で戸惑ってしまう。

 

「……ええ、よろしくお願いします。」

 

「なんだ、なんだ?……元気がねぇな!……オレ達はアンタに感謝してるんだぜ!」

 

「……感謝ですか?」

 

話が見えない。

 

「あのバケモノを殺してくれて、ありがとうな!」

 

「…………」

 

「オレからも言わせてくれ、ありがとう。」

 

思わず、絶句してしまう。

 

私は本気でこの人達が何を言ってるのか理解できなかった。それと同時に心臓が凍えるような寒気を感じていた。

 

「根暗で何考えてるのかよくわからんし。」

 

「いつもオレ達、里の人間を殺意の目で睨んでくるしさ。」

 

「あんな、いつ暴走するか分からない怪物は早く居なくればいいって思ってたんだ。清々したよ。」

 

「ついでにもう一人もアンタらで殺ってくれよ!」

 

「ってな訳でオレ達はアンタらを信頼してんだ!だから一緒に戦おうぜ!」

 

一方的に捲し立てると二人は持ち場へと戻っていった。

 

その後も似たような人達から同じ言葉をかけられた。

 

主にハンさんを殺した事への感謝の言葉。

 

岩隠れが暁に依頼を出すのに躊躇いがない理由がわかった。

 

「………ごめん、二人とも。ちょっと、トイレに行ってくる。」

 

私は二人から分かれて茂みの中に屈んだ。

 

仮面を外して、私は胃の中の物をぶちまけた。

 

「……はあ…はあ……はあ。」

 

気持ち悪い………

 

私が殺したんだから、偉そうな事は言えない。それでも、これは幾ら何でも酷すぎる。

 

人間の無邪気な悪意に際限など無い。

 

頭がクラクラする。

 

彼らに仲間意識なんて持ち合わせていない。ハンさんだって、あんな誰もいない場所にいた時点で察してはいた。でも、これはあんまりだろう。

 

殺されて喜ぶ仲間なんて悪夢でしか無い。

 

人間がここまで気持ち悪い生き物だと初めて感じてしまった。

 

涙が出て止まらない。

 

本当に嫌になる。最悪の気分だ。

 

吐き戻すなんて、初めて死体を見た時以来だな。

 

そんな事を考えてたら、また吐いてしまった。

 

気分が悪い。暫く立ち上がれそうに無い。

 

蹲って気持ち悪さに耐える。

 

「……コン。」

 

背中を優しく叩かれた。

 

「………イタチ。」

 

イタチの写輪眼が心配気に揺らめく。

 

「…ごめん、すぐ戻るから。待ってて。」

 

「……無理はするな。鬼鮫と二人でも十分だ。お前は休んでろ。」

 

「…大丈夫。私も戦える。」

 

「……おい、コン。」

 

「ありがとう、イタチ。でも、本当に大丈夫だから。」

 

涙を拭って仮面を被る。

 

それを見たイタチが小さく溜息をつく。

 

「……わかった。だが、オレ達は3人しかいない。つまり全員がばらける。お前のフォローはできないからな。引き際を誤るなよ。」

 

「わかってる。」

 

「……行くぞ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦端が開かれ、私達3人はそれぞれ散った。石隠れの忍を蹴散らす。いつものように殺す事はできるだけ避けて、気絶か撤退を促す。特に問題もなく、進軍して行く岩隠れの忍達。

 

暁を使う必要なんて無いよね、これ。

 

そうは思いながらも、仕事であるからには全うはする。

 

そうして敵と戦っていた時に問題が発生した。

 

飛んできた火遁の術を回避した瞬間に身体の自由が効かなくなった。

 

視線を動かせば、私の陰が伸びて他人の陰と繋がっていた。

 

その人は木ノ葉の暗部『根』の動物の仮面を被っていた。

 

ダンゾウの手の者か……つまりこれは奈良一族の影縛りの術

 

火遁を放ってきた者も同じ仮面をしている。

 

追い忍か。

 

戦争とタイミングが被ったのか?

 

ダンゾウとオオノキが手を組んだ可能性があるね。

 

何はともあれ目の前の状況を打破しなきゃ。

 

「影首縛りの術!!」

 

私の体を這うように影の腕が伸びてきた。そのまま首を掴まれて、万力のような力で締められる。

 

「うっ…!」

 

私の力で振り解く事は無理だ。だから、妨害して術を外させる。

 

「秘術・千殺水翔」

 

片手で即座に印を結ぶ。

 

暗部の男の頭上に水の千本を浮かせて攻撃する。

 

その速度に対抗できずに迎撃ではなく、回避を選択した暗部。

 

結果、影の術は解除された。

 

すぐに離脱する。

 

危うく、殺されかけた。

 

ここは森の中で川が流れている。水辺が近い事は私に有利だけど、森の中は影の術を使われるこの状況じゃ不利か。

 

「影縫いの術!!!」

 

無数に枝分かれした影が襲いかかってくる。

 

速度は大した事は無い。手数が鬱陶しいけど。

 

私は影の一本一本を全て避ける。

 

「火遁・火龍弾!!」

 

もう一人が再び火遁を放ってくる。

 

「水遁・破奔流」

 

水遁をぶつけて相殺する。

 

「クソッ、速いな。捕らえられん。」

 

「構わない。そのまま影で攻め続けろ。プレッシャーにはなる。土遁・鋭槍」

 

目の前の地面から土の槍が伸びてくる。

 

それも身体を捻って回避。走り続ける。

 

影が見えないようにしないといけないかな。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

辺りを霧が包み込む。

 

「視界が悪い。影が見えないな。」

 

「問題無い。風遁「させませんよ。」!?」

 

相手の手が緩んだ隙に接近して首の秘孔を千本でついた。

 

気絶する男。

 

今の男の人は多分猿飛一族だろうね。

 

「チッ!…忍法・影「水遁・水牙弾」グアッ!!」

 

影の術が発動するよりも先に、川辺の水を槍にして奈良一族の男の足を貫いた。

 

イタチから教えて貰った術だ。

 

水辺が有れば、発動速度も早くてそれなりの威力があるいい術。

 

千本を投げて、奈良一族の男も気絶させた。

 

「やるねぇ、アンタ。」

 

声をかけられる。

 

新手か。

 

鬱陶しいなと思いながら、声の方をみればくノ一がいた。髪色は紫でそれを後ろで束ねている。和装に綱の回しを巻いたその独特な姿を見て確信する。

 

「今度は大蛇丸の部下か。」

 

これはオオノキとダンゾウが手を組んだ訳ではなく、ダンゾウがオオノキと大蛇丸を利用している感じかな。二枚舌外交的な事をダンゾウが裏で糸を引いてる感じがする。

 

それにしてもかなりの美人さんだ。童顔の私からすれば羨ましい事、この上ないね。

 

「アンタが氷遁遣いね。…私の下位互換の癖に粋がってるじゃないの。」

 

下位互換……つまり似た系統の術の使い手かな。

 

「アンタの氷遁と私の晶遁。どちらが上か教えてあげる。」

 

晶遁?……聞いた事はある。周囲のあらゆる物質を結晶化させる事ができる。攻守共に優れ、手数が多い事が特徴。

 

でも見た事はなかったな。

 

「小手調よ、晶遁・御神渡りの術!!」

 

くノ一が地面に手を着いた瞬間、ピンク色の結晶が地面を伝って此方に向かってきた。

 

「氷遁・氷剣山」

 

私も地面に足を鳴らして、氷の棘を走らせて相殺する。

 

「へえ、やっぱり全く同じ術もあるもんなんだね!!でも、氷じゃ結晶には勝てないわよ!!」

 

確かに実際の材質では強度差に天地もの開きがあるだろう。

 

「なら、手数でやってみましょうか。氷遁・万華氷」

 

氷の千本を放つ。

 

「晶遁・手裏剣乱舞!!」

 

水晶でできた六角形の手裏剣に迎撃される。

 

なるほど。術が似てるから、相殺され易いね。……結局いつも通り、体術で決めちゃおうか。

 

右手に氷剣。左手に千本を持って瞬身で接近する。

 

「くっ!!晶遁・翠晶刀!!」

 

右腕に沿う形の水晶の刀が形成される。

 

トンファーみたい。

 

自慢の速力で斬りつける。それを刀でガードしてくる。

 

右から左回し蹴りがくる。即座に屈んで回避。続けて、右足で回し蹴りがくる。それをジャンプして回避。跳んだ勢いを利用して回転斬りを放つ。

 

それを再びガードされた瞬間に左手の千本を至近距離から顔面へ投げる。

 

「くっ!!」

 

咄嗟に顔を傾けて避ける。その顔面に向かって右足で蹴り飛ばす。

 

「ガッ!」

 

吹き飛び転がるくノ一。

 

やはり、体術なら此方に分がありそうね。

 

もう一度、瞬身で接近する。

 

「このっ!!晶遁・紅の果実!!!」

 

振り下ろした氷剣が止められる。

 

結晶の防御壁ね。

 

「晶遁・翠晶迷宮の術!!!」

 

水晶の山を見ていると今度は水晶の壁に囲まれた。

 

「これでアンタを捕まえた。大蛇丸様に引き渡してやるよ。」

 

どうやら牢屋のような物らしい。

 

私は水晶の壁に手を添える。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

その瞬間、水晶が粉々に砕け散る。くノ一を守っていた水晶の山も粉々になる。

 

「なっ!?」

 

目を見開いて固まるくノ一。

 

「これで終わりですか?」

 

「テメェ、舐めた口利いてるんじゃないよ!!!晶遁・一糸光明!!!」

 

レーザービームが飛んできた。

 

水晶の光の屈折を利用した技ね。速度も威力も申し分なしよね。

 

凄まじい速度で放たれたレーザーは私の身体を貫いた。

 

「はあ……はあ…へっ!大した事無かったね!!」

 

貫かれて倒れる私の体。地面に倒れた瞬間、水に還る。

 

「それは水分身ですよ。」

 

くノ一を蹴り飛ばす。

 

「グアッ!!」

 

「あまり派手な術をポンポン使わないでください。周りに迷惑がかかります。」

 

うちの鬼鮫さんもド派手だけど。

 

でも派手だから強いって訳じゃ無いよね。こんな風に隙だらけだし。

 

「…い、いつのまに?」

 

いつの間に?

 

……ああ、いつ水分身と変わったのかって話ね。教える訳ないじゃん。まあ、イタチレベルの印の速度も自慢の一つだし。印をしたのが見えなかったんだろうね。

 

「……さあ、いつでしょうね。」

 

「このっ!晶遁・翠晶壁八の陣!!!」

 

またもや水晶に閉じ込めらる。今度はかなり壁が分厚い。先が見えないし、空も全く見えない。内部に空間もないから、指の一本も動かせない。

 

これ私じゃなかったら、即死だね。何とも酷い術だ。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

それでも私の術の前では関係ないね。

 

「……う…嘘でしょ………」

 

「芸が無いですね。その手の拘束は私には無意味ですよ。」

 

「この化物がっ!!晶遁・破晶降龍!!!」

 

水晶でできた龍が4体現れる。

 

だから、大技をポンポン使わないで欲しいんだけど………

 

この程度の術なら回避するのも容易い。だけど、ここは力の差を教えてあげて、心を折った方がいいかな。

 

「氷遁・白氷龍」

 

此方も氷の龍を一体だけ出す。ただし大きさは水晶龍の10倍の大きさだけど。

 

「……そ、そんな」

 

「私もやろうと思えば、派手な術を使えますよ。……では、さようなら。」

 

白氷龍を落とす。4体の水晶龍諸共呑み込んで。

 

地面が大爆発を起こして、クレーターができる。それと同時に周りに冷気が放出されて、木々が凍りつく。

 

やばいね。

 

これ以上、被害が広がる前に辺りを全体に空間凍結をかけて衝撃波を止めた。

 

落ち着いたところで空間凍結を解除する。

 

この辺り一体だけが、真冬になってしまった。

 

自然破壊だね。後で土影に怒られないといいけど。

 

くノ一は逃げたようだ。いちいち追いかけたりはしない。無駄だから。

 

さて、寄り道になってしまったけど、戦場に戻ろうか。本来の仕事は戦争代行だからね。

 

私は瞬身の術で前線に戻った。



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変わる心情

岩と石の紛争は呆気なく終わった。元々戦力差の大きい事に加えて、我々暁を3人も雇ったのだ。過剰戦力で一瞬で勝負がついてしまった。

 

任務の報酬をゼツに渡して、帰路に着く。

 

イタチと鬼鮫に別れを告げて、石の国へ向かう。

 

これからやる事があるからだ。

 

戦争が有れば、勿論そこには戦争孤児となった子供がいる。彼らを早急に保護してあげないといけない。

 

すぐに死んでしまうし、運がよくても犯罪者になる可能性が高い。

 

「水分身の術」

 

30人の水分身を作って戦争被害者の捜索にあたる。チャクラがもっと有れば、更に増やせるけど、私のチャクラ量じゃ、戦闘能力を極限に下げても30人が限界。鬼鮫さんのチャクラ量が羨ましい。

 

石の国が風の国のお隣で助かる。距離が短いからすぐに避難させてあげる事ができる。

 

倒れている子供を見つけては、兵糧丸と調合した薬を飲ませる。比較的軽度の症状の子供は近隣の医療所へ連れて行く。重傷者や両親が死んでしまい、完全に孤児になってしまった子供は石隠れの里や砂隠れの里へ預ける。

 

1週間かけて救助活動を行うが、全ての子供を救う事はできない。そこから後は遺体の収用作業に切り替える。

 

死体を漁る動物などを追い払って埋葬してあげる。全ての遺体を収用できるまでに2週間かかってしまう。

 

それが終われば、大きめの石を氷剣で削いで墓石にする。氷の花を添えて手を合わせる。この花は私が死なない限り、自然に溶ける事はない。

 

こんな事はただの自己満足。自分を慰めている行為に過ぎない。孤児院に子供を預ける事は必要な事でも、死んでしまった者達を埋葬する事に合理性はない。それでも、彼らが生きていた事を私だけでも覚えていてあげたいから、こんな事をしている。

 

「いつもこんな事をしているのか?」

 

「手伝ってくれてありがとう。」

 

ずっとイタチが見ていた事は知っていた。理由は知らないけど、特に何か悪さをしてる訳でもないから、無視していた。途中から遺体の収用もこっそり手伝ってくれていた。

 

「いつもじゃないよ。……できない事の方が多いよ。すぐに次の任務とかあったりもするからね。……鬼鮫さんはどうしてるの?」

 

「四尾の情報を集めている。」

 

「手伝わないの?」

 

「焦っても、簡単には見つからない。」

 

「それもそうだけど。」

 

鬼鮫さんばかり働かせるのも可哀想じゃない?……まあ、イタチの方が先輩みたいだから、いいのかもしれないけど。

 

イタチはじっと墓石を見ている。

 

「どうしたの?」

 

「何故顔を隠さない?……普段は面で隠しているのに、孤児を見つけた時などは面をしない理由はあるのか?」

 

「そりゃ勿論あるよ。……顔を見て感謝してくれたら嬉しいし、逆でも構わないからね。」

 

「………逆?」

 

「今回は戦争で攻撃側に回った訳だけど、こうして顔を出していれば、覚えてくれるでしょ?……例え私に恨みを持ったとしても、それが生きる原動力になってくれればそれでいいの。私への復讐を糧に力をつけるなら、それでも構わないって思ってるの。だから、孤児の子供達には顔を隠さないようにしてる。」

 

「………一つ聞いていいか?」

 

「……いいよ。」

 

凄い間を取って聞いてくると何を聞かれるのか身構えてしまう。

 

「………お前は何故抜忍になった?」

 

「抜忍になった理由?」

 

「そうだ。お前のこれまでの行動で、抜忍になる理由が見当たらない。」

 

「それはお互い様じゃないかしら?」

 

「………どういう事だ?」

 

「貴方も抜忍なんて何だか似合わないって思うのよ。」

 

「……オレのビンゴブックは知ってるだろ。……それが全てだ。」

 

「……なら、私もそれが全てよ。」

 

「…………」

 

イタチはどうも納得してくれないようだ。

 

「………はあ、そうね。貴方になら話してもいいかもしれない。」

 

直感的にこのイタチという人物と私は、似たような境遇を辿ってるかもしれないと思ってる。

 

「何処から話そうかな。………サスケ君と戦った事は知ってるよね?」

 

「……ああ。」

 

「じゃあ、その後の話からだね。」

 

木ノ葉に来てからの事を想起する。

 

思い起こされる沢山のトラウマに思わず表情を歪めそうになるけど気合で耐える。

 

「……ふふふ。」

 

「………?」

 

いや、この際この兄貴気取り相手にトコトン甘える事にしようかな。

 

「………あの後、一人生き残った私は木ノ葉へ送られたわ。そこでこれからの身の振り方を火影様に決めてもらう筈だった。」

 

「………筈だった?」

 

「そう、案内された先にはダンゾウが居たわ。」

 

「……!?」

 

イタチの目が見開かれる。

 

「私はよくわからないままに『根』の見習いとして、木ノ葉に身を置く事になったわ。…それからは『クロ』という年下の女の子と数ヶ月間、生活を共にした。そして、大蛇丸が木ノ葉を襲撃した後ぐらいに『クロ』との殺し合いを命じられたわ。」

 

「…………木ノ葉の暗部では有名な話だ。『根』では同じ釜の飯を食った仲間同士で殺し合いをさせる。真に心を殺した忍を作るためだ。」

 

「そうなんだ。………でも私の場合はちょっと事情が違ったのよね。」

 

「…どういう事だ。」

 

「一緒に生活してた『クロ』だけど、彼女は全く忍の訓練を受けていない女の子だったの。それこそアカデミーレベルの忍術しか扱えない正に一般人だったの。」

 

「……それはつまり、」

 

「そう。殺し合いじゃなくて、『生贄』。…それが彼女の運命。それを知らない私達は皮肉な事に姉妹と呼べる位には仲が深まったわ。そして、運命の日。私は彼女に生き残ってほしくて、自死を選んだの。」

 

「………だが、お前は生きてる。」

 

「彼女には明確な目的があった。木ノ葉の孤児院出身だった彼女は、忍になって孤児院にお金を落としたかったそうなの。それを聞いていたからね。…命を譲ったの。………だけど、ダンゾウはそれを許さなかった。血継限界の私を手元に置いておく為に『生贄』を捧げたのに、それを不意にしようとしたから。そして、『クロ』は目の前で首を刎ねられたわ。」

 

涙が出てくる。

 

「……ちょっと…待って、すぐに……落ち着くから。」

 

「…………」

 

イタチが無言で頷いてくれる。

 

本当に優しい人だな。

 

涙を拭って、深呼吸をして落ち着かせる。

 

「ダンゾウは『根』刃向かった私を許さなかった。手足を捥いで、血継限界を増やす為の苗床となれと言ったわ。」

 

あの時は本当に恐怖を感じたわね。逆に言えば、あそこ迄追い詰められたから氷遁に目覚めたのかもしれない。

 

「私はその場から逃げ出したわ。逃げてる中で氷遁にも目覚めたわ。そして木ノ葉から抜けた。」

 

「それが抜忍になった経緯か?」

 

「ちょっとだけ続きがあって、逃げた先で大蛇丸の手下のカブトに待ち伏せされてたのよ。結局、捕まって大蛇丸の元に連れて行かれたわ。そこで全ての真相も知った。」

 

「……真相?」

 

「ええ。私が『根』に連れて行かれたのもカブトが待ち伏せしていたのも、大蛇丸とダンゾウが繋がっていたから。」

 

「やはり、そこは繋がっていたか………。」

 

イタチがボソッと何か言った。

 

「うん?……どうしたの?」

 

「……なんでもない。」

 

「そう?……大蛇丸も私の事を狙っていたみたいで、危うく人体実験を受ける所だったの。だから、死物狂いで大蛇丸と戦って逃げたの。それから2年ぐらい経って、小南にスカウトされたって訳。暁なら大蛇丸とダンゾウから身を護りながら、孤児を助けたりできるって話だったから。………これが私の今までの話だよ。」

 

「そうか。」

 

「大蛇丸やダンゾウに復讐しようとは考えなかったのか?」

 

「え?」

 

「今のお前の力ならそれも可能だろう?」

 

「確かにそうかもしれないね。未だにダンゾウと大蛇丸からは捕獲の為の刺客が送り込まれてくるしね。……だけど、正直にいうと怖いの。」

 

体が震えてくる。

 

「もう大蛇丸より強い事は自覚してるんだけど、それでもあの時のトラウマでどうしてもダンゾウと大蛇丸は怖いの。任務で大蛇丸と戦う時は絶対に一人じゃない時しか戦えないのよ。前はイタチが駆けつけてくれているのを感知できていたから、戦えてただけなの。………失望した?実は私って凄く弱いの。」

 

そう言って笑ってやった。

 

「………別に弱いとは思わない。オレはお前程強い人間は中々居ないと思ってる。」

 

そう言いながら、イタチが私の頭を撫でてきた。

 

思わず目を見開いてしまう。

 

「お前の話を聞いていればわかる。……普通の人間ならそんな運命を呪い、闇に囚われる者が多いだろう。だが、お前は自分を見失っていない。」

 

「……そんな事無いよ。私だって世界が憎いって思ってしまった事もあるもん。」

 

「……だが、お前は他人を救う心を失っていない。気が付いていないようだが、人が信念を貫く事は容易では無い。ましてやお前のような境遇では尚更だ。」

 

「………信念なんて、大袈裟な。」

 

「………よく今まで頑張ったな。」

 

見開いた瞳から涙が溢れる。

 

限界だったのかもしれない。

 

自分はまだやれると思ってたけど、心は悲鳴をあげていたのかもしれない。

 

何でこんなにも簡単にベラベラとしゃべったんだろう?

 

イタチの写輪眼って事はない。私には幻術が通用しないから。

 

だから、これは素直な本心。

 

イタチ相手なら話していいかもしれないなんて上から目線。………本当は私がイタチに聞いて欲しかったんだ。

 

「……うぅ……グスっ…うぅ…………」

 

気がつけば私はイタチの胸で泣いていた。

 

背中と頭を撫でてくれる手が酷く優しい。

 

本当に限界かもしれない。

 

兄さんを重ねてるだけだと言い訳していたけど、この心が暖かくなる気持ちはまるで………

 

「……ありがとう、イタチ。」

 

本格的に駄目になる前に離れて涙を拭う。

 

「ごめん。私の所為で服が濡れちゃったね。」

 

「お前が気にする事じゃない。」

 

「そう。じゃあもう話はいいでしょ。鬼鮫さんを手伝ってあげたら?」

 

「………そうだな。」

 

「イタチ…………?」

 

「………いや、何でもない。では、オレは行く。」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

今度は自然に微笑む事ができた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

コン。本名は雪藍。

 

サスケが里の外で戦った最初の忍。カカシ小隊との戦闘後、木ノ葉へ護送された後の事は知らない。木ノ葉の忍になっているだろうということしかわからなかった。

 

だが、1年ほど前にその存在が暁に加わった。察してはいた。氷遁を使える者がこの世界では殆どいない。氷遁を使う時点で誰か特定する事は容易い。だが、何故抜忍になったのかわからなかった。

 

暁に入るという事は彼女もまたS級犯罪者。

 

だがビンゴブックには雪藍もコンも載っていない。実力だけは確かなものがあるが。

 

オレはサスケと木ノ葉を守る目だ。この新たな加入者が脅威になるか監視する。

 

だが、監視すればするほどに疑問が湧く。

 

オレを相手に全く警戒心がない。いや、オレだけではない。鬼鮫やデイダラ、サソリ、小南にペイン、そしてマダラに対しても本当に仲間であるかの様に振る舞う。暁はS級犯罪者の抜忍集団。集まってはいるが、お互い本当の信頼関係なんて構築している者などいない。振る舞いが抜忍のそれではない。

 

例外は飛段と角都にゼツ。

 

相方のゼツは飛段達に普段向ける敵意は無いが、あまり関わりを持とうとしていない。

 

人間に見えない見た目の為か?…だが、それならサソリも似た様な物だが。彼女なりの何か明確な線引きがあるのかもしれない。

 

オレが監視を続けていく中で、最も脅威を感じた事は、月読が効かなかった事だ。

 

忍界最強の幻術と言っても過言ではない。それが写輪眼でもない忍が抗ったのだ。しかも、彼女自身に自覚が一切無い。

 

それどころか、無理に使用して吐血し、心配までされる始末。

 

彼女は薬の知識が豊富であった。幼い頃から師匠に教わっていた様だ。彼女の薬を始めて飲んだ時は、その身体の軽さに驚いたものだ。

 

それからも彼女はオレに世話を焼き続けた。いや、オレだけじゃない。他のメンバーにも同様だ。嫌っているらしい飛段や角都にも説教しては殺し合いをしている。

 

どう見ても犯罪をする様な人間には見えなかった。

 

だから聞いた。何故、オレを恐れないのか?

 

ビンゴブックで知っているなら警戒する筈なのだ。同胞殺しの汚名を背負ったオレだ。自分の背中が心配になって当然なのだ。

 

理由は本名と共に教えてくれたが、的を得た回答ではなかった。サスケの名前が上がったが、本心ではない様な気がした。

 

だが、それ以上にサスケに危害を加えないか心配になった。正体が雪藍ならば、カカシ小隊に肉親を殺された恨みを持ってる筈だ。

 

だが、それに対しても恨みが無いと笑って答えた。その笑顔に嘘は無さそうだと感じた。それと同時に何故オレを恐れないのか、何となくわかった気がした。

 

そうして偶に一緒に行動し続け、気がつけばオレも彼女に世話を焼く様になっていた。

 

自身の信じがたい行動に驚愕した。

 

まさか、オレが彼女にサスケを重ねているとでもいうのか?

 

オレの困惑を他所に彼女はどんどんオレに懐いていった。

 

鬼鮫とも仲が良く、話し込んでいる所を目撃する事が多々あった。

 

『彼女との会話が心地良い』

 

鬼鮫がふと溢した言葉にオレは驚いた。鬼鮫もオレと同じ同胞を殺した過去を持つ。お互いどういう人間かわかっている様でわかっていないそんなある意味で似た者同士。

 

絶対に口にしないだろう言葉が、逆に鬼鮫の嘘偽らない本心を口にしたんだと確信した。

 

そうして1年が過ぎ、先程彼女が孤児を助ける所を確認する。前からそんな事をしているとは聞いていた。実際に目にしたのは初めてだったが。

 

何故、あの様な者が抜忍になったのか。

 

疑問が湧く。だが、サスケと木ノ葉を守る目の役割としては、そんな事はどうでもいい筈だ。

 

なのに、気になって仕方なかった。仲間を心配し、敵を殺さない様に無力化する。……死んだ他人が貶されているのを聞いて涙を流す。

 

そんな姿の何処かにオレの琴線に触れる物があったのだろう。

 

抜忍になった理由を聞いた。

 

オレ自身も理由がわからない。

 

こんな人間が抜忍になるにはそれなりに壮絶な過去があるだろうと何となくは察している。

 

だからなんだ?……それを聞いて自分を慰めたいのか?

 

オレもよくわからなかった。

 

彼女は口を開いた。だが、やはり内容は残酷な運命を辿った軌跡だ。話しながら、涙を流す彼女を見て、胸が痛くなる感情に戸惑う。もう話さなくていいと何度か言いそうにもなった。

 

最後に自嘲の言葉と共に壊れかけた笑顔を見せられて、思わず頭に手を置いてしまった。オレには似合わない慰めの言葉も言った。

 

泣崩れかけた彼女を抱きしめて、背中を撫でた。

 

何故、オレはこんな事をしている?

 

年下で慕ってくる姿にサスケを重ねたのか?

 

他人に世話を焼きたがる姿にイズミを重ねたのか?

 

人の痛みに涙を流す姿にシスイを重ねたのか?

 

そしてオレの腕から離れた彼女を名残惜しいと感じる己の心情を疑った。

 

戸惑いを隠せないまま、オレは彼女の元を去った。

 

オレはサスケの為に生きているんだ。目的を見失うな。サスケ以外の事は二の次だ。

 

そう言い聞かせても、脳裏にあの涙がこびりついて離れなかった。



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迷い

岩隠れの戦争代行から2ヶ月後。

 

私は滝隠れの森を歩いていた。

 

『集合しろ』

 

頭にペインの声が響く。

 

どうしたんだろう?

 

木陰に身を隠して、印を結ぶ。

 

直ぐに意識が跳ぶ。

 

外道魔像の指の上に立つ。

 

視線を下に向ければ、人間が倒れていた。

 

………人柱力を捕らえたのね。

 

誰が捕まえたんだろう?

 

そう考えてると、精神体でない二人が外道魔像の指に飛び移った。

 

どうやらデイダラとサソリが捕まえた様だ。

 

『さて始めるか…』

 

『これから三日三晩はかかる。皆、本体の方にも気を配っておけよ。…………それからゼツ本体で一応外の見張りをしろ。一番範囲のデカいヤツでだぞ。』

 

『ワカッテル』

 

『三日ですか………長いですねぇ。』

 

『そう思うならさっさと始めろ。』

 

そういうと皆印を結ぶ。

 

封印術・幻龍九封尽!

 

封印が始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そうして、三日程封印を進めているとゼツから連絡が来た。

 

『コノアジトノチカクニ テキガチカヅイテイルゾ。ソレモソウトウノテダレ…コノハ…ナハ マイト・ガイ。』

 

『…………誰だそいつは?』

 

ペインの質問にイタチが答えた。

 

『木ノ葉の上忍で体術を使う。かなりのやり手だ。甘く見ない方がいい。』

 

『…ああ…あの珍獣ですね。』

 

『体術遣いなら、コンと戦わせても面白そうじゃねぇか。』

 

『私はお断りよ。……わざわざ強い人と戦いたくないわよ。』

 

『…………あの術をやる。』

 

『それならオレが行く…。人柱力が中々見つからなくてな…イライラしていたところだ…』

 

飛段が声を上げる。

 

『イヤ…私が行きましょう。その人には個人的にちょっと因縁がありましてね…』

 

『そうだな…。あの術は暁の中でもチャクラ量の多いお前向きだからな…鬼鮫。それでもチャクラの30%は貰うぞ。』

 

『チィ…』

 

冗談じゃない。チャクラ量の少ない私でやれば、あっという間にすっからかんじゃん。

 

『やれやれ…やっと…あの時の蹴りの借りが返せそうですね。』

 

鬼鮫さんがライバル認定する人なんて、絶対やばい人でしょ。私が行くように命令されなくて良かったと思う。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『…マタキタゾ。コノハノシノビダ。』

 

『さて…今度は誰が行く?』

 

また木ノ葉の忍…

 

『どうして砂の忍じゃなくて、木ノ葉なんだろう?』

 

『砂と木ノ葉は同盟を結んでいる。一尾の捕獲によって木ノ葉に応援をよこしたんだろう。』

 

『なるほどね。』

 

『オレが行こう。鬼鮫が向かった事だしな。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

4時間程度経過した時、ペインの術が解けた。

 

『術が解けたか…しかし、かなり時間稼ぎはできた。これなら十分だ。良くやったイタチ、鬼鮫。』

 

『簡単に言ってくれる。アンタの術の生贄になって奴らに体を捧げたのは二人ともオレの部下だってのに。』

 

『フン…このオレの象転の術で少しの間でも暁のメンバーになれたのだ。二人ともに逆に感謝してもらいたいくらいだが…』

 

そういう話をしている間にも封印は終わりかける。

 

『ゼツ。象転の術に使った二人を処理しておけ。』

 

『………ワカッタ。』

 

『イタチ…。奴らの人数と特徴を教えろ。』

 

『木ノ葉のはたけカカシ。春野サクラ。九尾の人柱力のうずまきナルトだ。それに砂の相談役のチヨのフォーマンセルだ。』

 

!?

 

ナルト君!?

 

それに九尾の人柱力って…………!?

 

あまりの情報量に頭が混乱する。

 

………ナルト君は兄さんが夢を託した忍だ。火影になる事を目指して、世界に平和をもたらしてくれる願いそのものだ。

 

私の中で絶対に手を出してはいけない存在…………。

 

だけど、暁は抜忍になった私が唯一拠り所になれる居場所。折角、見つけた新たな生きる意味。

 

私の中でどちらも天秤に掛ける事なんてできない。

 

兄さん…………

 

私はどうすればいいの?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私が葛藤している間にも封印は進み。そして終わった。

 

外道魔像を口寄せしたアジトの外から音が響く。既にカカシさん達が到着したんだろう。

 

『外が騒がしくなってきたな。』

 

『もう一人、人柱力がいるんだってな。悪く思うなよ、イタチ。』

 

『…………』

 

!?

 

まさか、イタチのノルマって…………

 

『外の奴らはサソリとデイダラで始末しておけ。ただし人柱力は生捕にしろ。他は解散だ。』

 

『イタチ。九尾の人柱力はどんなヤローだ?』

 

『…………』

 

『教えてやれ。』

 

『…………一番最初に大声で怒鳴ってくる奴がそうだ。』

 

それって、やっぱりナルト君だ。

 

『ん?何だそりゃ?』

 

『もっと具体的な特徴はねーのか?うん?』

 

そのままイタチは連絡を絶った。

 

『チィ』

 

『連絡を待つ』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

意識が戻る。

 

だけど、私の頭は未だに霞がかっている。

 

訳がわからない………

 

ナルト君が九尾の人柱力?

 

そして、思い出す。

 

あの初めてナルト君と戦った。波の国での橋の上。あの悍ましい神性の気配。正体は九尾の力!

 

ノルマがナルト君だって事にイタチは異論を唱えていない。サスケ君の友達の筈なのに……。

 

どういうつもり何だろう。

 

イタチを問い詰めるべきか?

 

いや、今まさにサソリとデイダラがナルト君と戦おうとしているんだ。

 

私も駆けつけなきゃ!

 

…………でも、その時私はどっちの味方をすればいいの?

 

疑問に答えを出せないままに私は走り出した。



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失ったもの

瞬身で駆けつけた時には既に終わっていた。

 

ナルト君達の姿はなく、戦闘は終わっていた。ゼツとトビもいた。デイダラは重症の傷を負って、両腕を失っていて角都に繋いで貰っていた様だ。意外にも元気に動き回り、トビをいじめるデイダラは結構タフだ。

 

でも、相方のサソリがいない………

 

気配を感じない事に心胆が冷える。

 

「………サソリは、何処にいったの?」

 

そう聞くと、デイダラが目を見開いて少し視線を外した。

 

……まさか本当に

 

「………旦那は死んだ。」

 

「……そう。」

 

そんな気はしていた。不死身でも傀儡の体でも、確かに命の気配(暖かさ)を感じられたサソリ。長門の傀儡の様に()()を感じない事はなかった。

 

だけど、今は何も感じなかった。

 

信じたくなくて聞いたけど、デイダラの口から出た言葉なら信じざるおえない。

 

涙が流れる。

 

仮面で顔が見えない様にしていてよかった。

 

サソリには最近、クロの事で救ってくれたのに。何も恩返しできていなかったのに。

 

私達は抜忍。いつかはこんな日が来る事はわかってる。寧ろ私達暁の方が沢山の人を殺しているだろう。私達が迎える先には終焉しかない事はわかってる。

 

それでも私は抗う為に力を付けた筈なのに。

 

失う時は一瞬だ。

 

角都は直ぐに去り、トビがおちゃらけてデイダラが暴れていたけど、あまり反応できなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

崩壊したアジトに向かう。

 

瓦礫の隙間を埋める真っ黒な砂鉄。大量の傀儡。

 

これだけの砂鉄量と傀儡量は初めて見る。本当にサソリは全力で戦ったって訳だ。

 

……どう見ても指の数で操れる傀儡の量じゃないね。これが一国を落としたと言われるサソリの本気。

 

チヨさんが亡くなったとは聞いていたけど、それだけ強い人だったんだよね。

 

…………サソリのお祖母さん。

 

家族と殺し合うなんて…………

 

その苦しさはクロと刃を交えた私にはわかる。

 

もっと早く駆けつけていれば…………

 

あの優しいサソリの事だ。本当に辛かったかもしれないのに。

 

傀儡の残骸の中を歩く。

 

瓦礫の中、サソリの亡骸があった。

 

うつ伏せに倒れていた。苦しそうだから、仰向けに寝かせる。

 

サソリの顔は、意外にも穏やかな表情だった。

 

ふと、サソリの左右に倒れている傀儡を見る。

 

もしかして…………

 

仮面を外して頭を下げた。

 

勘違いならそれでもいい。でも、最後に抱きしめられて逝けたのなら、サソリの表情もわかる。

 

サソリはここに置いていこう。どっちにしても、ゼツが処理しないといけないから。

 

私はとある場所へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「久しぶりです。兄さん、再不斬さん。」

 

向かった先は波の国。

 

3年ぶりに2人の元へ戻ってきた。

 

もう二度と来る事は無いと思ってたし、抜忍になってからは各地を転々としていたから。…………それに何より、2人に合わす顔が無いと思っていたから。

 

でも、こうしてここに来たのはちょっとした近況報告と新たに二つの墓を建てたから。

 

クロとサソリ………

 

クロのお墓がだいぶ遅れちゃったね。

 

あの頃はダンゾウと大蛇丸に追われてそれどころじゃなかったんだけど。……ごめんね。

 

2人に手を合わせる。

 

ここに建てるお墓の数は増えてだろう。それでも、私は諦めない。

 

サソリも再不斬さんと同様に私の恩人だ。

 

だから、彼への感謝の気持ちを胸にこれからも戦っていく。たとえ、この先が地獄であっても。



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乙女心

サソリが亡くなった後、トビがサソリの後任として暁に正式に加入。デイダラの相方となった。

 

私は湯隠れの里に来ていた。波の国から比較的近いので、向かいやすい所は気に入ってる。暁とも裏ではビジネス関係を結んでいる事から入りやすいしね。基本的に平和主義で観光が主な産業だから、ゆっくり寛げる。地獄谷やジャシン教とかの話も耳にするけど、近寄る気は一切無い。

 

温泉で身体を温めて、観光地を巡りながら待ち人と落ち合う。

 

「相変わらず、遊び呆けていますねぇ。仮面もしないで、そんな呑気にやってるのは貴女とトビぐらいですよ。」

 

「こんにちは、鬼鮫さん、イタチ。」

 

「…何をしている?」

 

「温泉街を楽しんでるんだよ。」

 

「………はあ。」

 

「……まあ、ここの里の気質と貴女の性格はよく合ってると思いますがね。」

 

「一応は変化の術を使ってるし、問題ないよ。」

 

2人と合流してからも暫くは湯隠れの里を満喫していた。

 

日も暮れ出した頃、鬼鮫さんに言われた。

 

「そろそろ、気分転換は済みましたか?……いつまでもサソリの事を引き摺っても仕方ないですよ。」

 

「………うん。そうだね。」

 

「我々は抜忍だ。……遅かれ早かれ、こうなる事を覚悟した方がいいですよ。貴女自身も含めてね。」

 

「……わかってる。」

 

気持ちが揺れてるのは勿論、そこが大きいけど、それだけじゃ無いんだ……

 

「……では、私は先に宿に帰ってますよ。」

 

「わかった。」

 

鬼鮫さんが宿へと戻っていく。

 

それを私は見送り、後ろで黙って着いてきている人物に声をかけた。

 

「イタチは鬼鮫さんについて行かなくていいの?」

 

「……構わない。それにオレに用があったんだろう?」

 

「…………ふーん。わかってたんだ。なら話が早いね。」

 

私は屋台で買ってきたシャボン玉を吹かしながら、人気の少ない林の中にイタチと共に歩む。

 

「……イタチのノルマって、九尾なんだってね?」

 

「…………それがどうした?」

 

「ナルト君だって事も知ってるみたいだしね。」

 

竹筒に息を吹き込めば、透明な気泡が空を舞う。

 

「………何が言いたい?」

 

「私も既にノルマをこなした身だからさ。人の事を言えないけど、………本当にいいの?」

 

「………何を構う必要がある。組織からの命令はノルマを生捕にするそれだけだ。」

 

余りにも惚けた発言に思わず、声が低くなる。

 

「……ナルト君はサスケ君の親友なんだよ?」

 

「……お前は何か勘違いしているようだが、サスケの事などどうでもいい事だ。ただ、オレの器を測る為の物差しでしか無い。」

 

「………本気で言ってるのそれ?」

 

「……そもそも、ナルトやサスケがお前やオレに助けて欲しいとでも頼んだのか?……お前にとっては所詮他人事だ。気にするだけ無駄だがな。」

 

ブチッ

 

脳内で何かが切れる音が聞こえた気がした。

 

手に持っていたシャボン玉の容器と竹筒を地面に投げつけた。

 

「……この嘘吐き!!!………本当は誰よりも心配な癖に!!!………貴方なんか、一生サスケ君に恨まれていればいいのよッ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

イタチに怒鳴り散らして、暫く歩いていた私は片手を目に当てて天を仰ぐ。

 

…………やってしまった。

 

あの動揺した瞳を思い出す。

 

ナルト君を狩らないといけない事になって一番困ってるのは寧ろイタチだ。

 

それでも黙っているのなら、それなりの理由がある筈なんだ。

 

それに今のナルト君がどれだけの強さは知らないけど、私が暁に入った1年前の時なら、イタチがやろうと思えばいつでも捕獲できた筈。

 

今はデイダラを追い詰めるぐらいにはなってるのかもしれないけど、当時なら簡単に狩れた筈なんだ。

 

それが今も無事にいるのなら、やっぱりイタチには何か考えがあるのかもしれない。

 

とは言っても、あそこまで怒鳴ってしまったら、今更どんな顔で会えばいいのかわからない。

 

宿に戻る気にもなれないからと、温泉街をふらつく。

 

「……はあ。」

 

溜息が溢れる。

 

「どうかしましたか。」

 

聞き覚えのある声。

 

「何か困り事ですか?」

 

風に揺れるピンク色の髪。翡翠色の瞳。サスケ君に好意を抱いてる少女。3年前には実際に刃を交えた事もある。

 

そしてつい最近はサソリを打ち倒したくノ一。

 

サクラさん。

 

ゆっくりとそちらに視線を向ける。

 

まさか、ここで会うなんて………

 

「大丈夫ですか?」

 

不意打ちで驚いてしまい固まる私にサクラさんがにこりと微笑む。

 

「……え、ええ。少し、連れと喧嘩してしまって、ちょっとはぐれちゃいました。」

 

まあ、私が一方的にあそこにイタチを置いていったんだけど。

 

「……そうなんですか。私も人と逸れたんです。喧嘩ではないですけど。」

 

「そうですか。」

 

「というか、いつも勝手な行動をするやつで、気付くと何処かに行ってるんですよ。本当に困ったやつで。」

 

まさかだけど、ナルト君かな?

 

「まぁでも、声が大きくてうるさいし、髪の毛が金髪で目立つからすぐに見つかるとは思うんですけど」

 

気配感知に集中してみれば、大きな神性を感じることができた。

 

ナルト君か。

 

よりにもよって今このイタチと鬼鮫さんがいる状況でかぁ………

 

内心で溜息をつく。

 

まさか、2人だけでこんな所には来ないだろう。暁が尾獣を狩ってる事は知ってる筈だ。なら、カカシさんか自来也様も一緒に居ると見た方がいい。特に後者の場合は、私の変化を見破られた実績がある。

 

任務かな……

 

私が言えた事ではないけど、人柱力のナルト君を好き勝手に出歩かせるとは考えにくい。

 

「観光に来たんですか?」

 

「はい。似たようなものです。」

 

ニコリと可愛らしく笑う。

 

成程。情報は漏らさないようね。

 

サクラさんもすっかり成長したわね。

 

3年前のクナイを握って棒立ちしてた時とは比較にならないね。

 

サソリを倒せるくらいにはなったみたいだから、当然かもしれない。

 

そう思うと今の状況はかなり危険かもしれない。サクラさんにも私の変化が見破られるかもしれない事に思い至ったからだ。

 

「一緒に探しましょうか?」

 

とは言え、どうもあの一尾の一件以降、木ノ葉隠れが暁を完全に敵認定してしまったようなので、探れる事は探りたい。木ノ葉に実害は無くとも同盟国の砂の風影に被害が出た故だそうだ。だけど、砂以上に木ノ葉の熱の入りようがすごい。岩は人柱力を攫っても依頼をよこしてくるし、霧隠れも昔、暁によって三尾の人柱力の水影が命を落とした筈なのに、関心が薄い。木ノ葉が異常な程の敵対心を見せてる。

 

決してイタチと顔を合わせるのが気不味いとかではない。……そのはず…………

 

「え?ありがとうございます。……こっちが話を聞いてあげようと思っていたのに、わざわざ手伝っていただけるなんて。」

 

まあ、ナルト君は見つけてるけどね。

 

「気にしなくて構いませんよ。私も気分転換になりますしね。」

 

「あの、私サクラと言います。よろしくお願いします。」

 

「私はクロと申します。」

 

ニコリと微笑めば、サクラさんの頬が髪色と同じ色になる。

 

「似てる。」

 

「知り合いにそっくりな人でもいましたか?」

 

隣から酷く切ない声が聞こえる。

 

「はい。というか好きな人に。」

 

…………え?

 

サクラさんって、サスケ君の事が好きなんじゃ…………

 

まさかの百合趣味ですか…………

 

身の危険を感じて距離を取る。

 

「………あっ……そういう意味じゃなくて、ちゃんと男の人ですよ!!!」

 

サクラさんが顔を真っ赤にして捲し立ててくる。

 

…………そうよね。サスケ君が好きな筈だもんね。

 

私みたいなお兄ちゃん(ブラコン)趣味持ちみたいな人ではないよね。

 

サクラさんは咳払いする。

 

「……んぅぅ。今ちょっと事情があって離れてしまっているんですけど、大切な仲間で、私の大好きな人です。」

 

「どんな人なんですか?」

 

「とても強くてクールで、何でもさっとこなしてしまう人で、すごく人気があって。とても私なんか釣り合わないような素敵な人です。自分にも周りにも厳しくて、妥協を許さない。すごい人です。」

 

……凄いベタ褒めだ。こっちが恥ずかしくなりそうなぐらいの惚気をぶちまけてくるサクラさん。

 

考えるまでもなくサスケ君の事だろうね。

 

「でも」

 

サクラさんが続ける。

 

「本当はその人、すごく優しいんです」

 

少し伏せられたサクラの瞳には柔らかく穏やかな光が揺れている。

 

「優しくて、それから少し弱いところがあって、そのくせ意地っ張りで周りにそれを見せないで一人で悩むんです。寂しがり屋なくせに」

 

サクラさんは「フフ」と小さく笑った。

 

「それに、なんでも軽くできるように見せてたけど、本当は誰よりも練習してた。みんなが見てないところで必死に練習して、何でもないふりしてやって見せるんです。かっこつけて。頑張ってるところを見られたり言われたりすると嫌がるんですよ。もう、プライド高くて。でも本当に、本当に優しいんです。いつも私を、私たちを守ってくれていた」

 

笑んで細められた瞳がなお光を帯びてキラキラと輝いた。

 

………サクラさんの惚気が止まらない。

 

でも、その話を聞いてると兄さんを思い出すな。兄さんも私に努力している姿は隠したがってたな。

 

男の人はみんな格好つけばかり………

 

イタチだってそうだ。……本当に男って馬鹿ね。

 

「とても好きなんですね。彼の事が。」

 

サクラさんはこれでもかと顔を染めて、強くうなづいた。

 

「はい。」

 

「そうですか。」

 

「サクラさんは、その彼に想いを伝えたのですか?」

 

つい気になって尋ねる。 

 

サクラさんは少し気まずそうに笑って答えた。

 

「はい。まぁでも、見事な玉砕でしたけど。うざいって言われちゃいました」

 

「…あはは。………でも、サクラさんには想いを伝えれる強さがあります。なら、その想いは()()ですよ。」

 

その強さが少し羨ましい。

 

グッと両手を胸の前で強く握る。

 

「彼は今、一人でとても暗い場所にいるんです。きっとすごく苦しんでいる」

 

瞳が強く色づいてゆく。

 

「助けたい。そのために修行して、強くなった。あの人に比べたらまだまだかもしれないけど、それでも守られていただけの自分とは違う。絶対に助けだしてみせる」

 

握りしめた手が少し緩み、視線が私に戻される。

 

「でも、ちょっと気持ちが沈んでたんです。どんなに強くそう思っていても、時々落ち込んでしまって。だけど、すっごく元気が出ました。ありがとうございます」

 

「いや。それならよかったです。」

 

「はい」

 

サクラさんは元気に返して再び歩き出した。

 

その背に、私ははまた思わず言葉を投げた。

 

「どうして」

 

「え?」

 

振り返るサクラさんに、私は続ける。

 

「どうして貴方はそこまで彼を好きでいられるんですか?強くいられるんですか?」

 

サクラさんは少しも考えずに笑顔で答えた。

 

「信じているんです。自分を」

 

「自分を…」

 

「はい。彼を支えられるのは私しかいない。たとえ求められなくても、そばにいられるのは私しかいないって、勝手にそう信じているんです。気持ちが弱くなったり、不安にあったりすることもあります。でも、そんなときはそれより大きな気持ちで、今までよりもっと大きな気持ちで全部吹き消すんです。あの人の事が誰よりも好きだから」

 

その言葉に。笑顔に。強さに。

 

私はつい先ほどまで自分がくだらない感情に振り回されていたことが恥ずかしくなった。

 

そして目の前にいるサクラさんに尊敬を念を抱いた。

 

自分より、彼女は強い。

 

本当に皆、強いね。

 

そして自分に何が足りなかったのかに気付いた。

 

信じる事。

 

イタチの事情は知らない。だけど、彼を信じよう。本心は語ってくれないかもしれない。それでも、彼を信じようと思った。

 

信じる心を持てない私は本当に弱いね………

 

そう気付かせてくれたサクラさん笑顔で答えた。

 

「強い人ですね。」

 

「ありがとうございます。」

 

サクラさんは嬉しそうに答えた。

 

「その人が、早く戻ってくるといいですね。」

 

「はい」

 

力強く返事するサクラさん。

 

「あの、クロさんが探している人って、恋人ですか?」

 

「え?」

 

突然の質問。しかも今までに聞かれたことのないその内容に、思わず戸惑う。

 

「さっき、喧嘩したって話をしていた時の目が、すごく優しかったから」

 

「そう…ですかね…」

 

全く意識していなかったことに、恥ずかしくなる。

 

「やっぱりそうなんですね」

 

誰かにそんな事を聞かれたことも言われたこともなく、改めてその言葉を当てはめられると妙に落ち着かない。

 

だけど、胸の内側はじんわりと暖かい感じがした。

 

サクラさんはその様子に柔らかく微笑んだ。

 

「仲直りできるといいですね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「それにしても、一体どこに行ったんだろ。」

 

「そうですね。」

 

私もそれに続き足を進ませる。

 

「いっつも勝手な事ばかりで本当に困ったやつなんですよ」

 

「そうですか。」

 

「いつまでたっても子供っていうか、世話が焼けます」

 

「大変ですね。」

 

コロコロと表情を変えながら楽しそうに話すサクラさんに、私は一つ一つ短いながらも言葉を返してゆく。

 

そろそろ近付いてきたね。

 

ナルト君と顔を合わせる事はできない。

 

今回の変化の姿が『クロ』だから。前回あった時の事をナルト君が覚えていれば厄介だ。それに側にいるのは、自来也様。この姿で鉢合わせば、絶対に戦闘になる。

 

だから、ここら辺が潮時だろう。

 

「あ、サクラさん。彼がそうですか?」

 

私はかなり遠くに見えるナルト君を指さす。

 

サクラさんも気がついたようで、安堵の表情を浮かべていた。

 

「全く、本当に世話が焼けるわね!ありがとうございます、クロさ…ん……?」

 

サクラさんがキョロキョロと辺りを見回してる。

 

それを遠くから観察する。

 

やがて、サクラさんはナルト君の所へ歩いて行った。

 

すいません。流石に今この街で騒ぎを起こすわけにはいかないからね。

 

結構、面白い話を聞けたな。木ノ葉の事は漏らさなかったけど、楽しい話が聞けてよかった。

 

さて、宿に戻るか。

 

イタチはもう帰ってるかな?

 

逃げてても仕方ないか……

 

私は宿に向かって歩いた。



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カラス

宿の前で鬼鮫さんが立っていた。

 

「やれやれ、漸く帰ってきましたか。……夜遅くまで遊んでいると、皆さん心配しますよ。」

 

「…あはは。そんな子供じゃないんだから。」

 

何だかお父さんのような事を言う鬼鮫さん。

 

「イタチさんと喧嘩でもしたんですか?」

 

イタチが言ったのかな?

 

じゃあもう帰ってきてるのかな。

 

「珍しく、かなり落ち込んでましたからね。」

 

「………そ、そう。」

 

「イタチさんは貴女の部屋で待ってますよ。早めに話をつける事をお勧めしますよ。」

 

鬼鮫さんに背中を押され、宿に入り、私の部屋の襖を開けると、窓から街を見下ろすイタチがいた。

 

「……ご、ごめんイタチ。……さっきは言い過ぎた。」

 

畳を踏み締めて、襖を閉じる。イタチは此方を一瞥してから再び視線を外に向けた。

 

「……気にするな。さっきも言った筈だ。サスケは俺にとって己の器を測る物差しだ。今はあいつにそれ以上の興味など無い。」

 

「………うん。」

 

やっぱりイタチの口からはさっきと同じ台詞しか出てこない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………はあ。」

 

お互い沈黙していれば、イタチが小さく溜息をついた。

 

「………さっきはお前が聞いてきたな。今度はオレが聞いていいか?」

 

視線は相変わらず外に向いている。何だかイタチが私に視線を向ける事を躊躇っているように見えた。

 

「いいよ。」

 

「………何故……オレがサスケを気にかけている前提で話をする?……オレが何度否定しても、お前は前提を変えない。……ただの願望ならば、それを他人に投影するのはよした方がいい。………後で失望するだけだ。」

 

「……ふふ。」

 

何だそんな事か……

 

私が笑ったからか、イタチの視線が此方に向いた。

 

「そんなの貴方がお兄さんだからに決まってるよ。」

 

笑顔で答えれば、イタチが目を見開く。

 

「確かに私の願望かもしれないね。……だけど、貴方がとても優しい心の持ち主だって事を私は知ってる。」

 

彼とは一年だけしか知らない。だけど、何度も助けて貰ったし、敵も出来るだけ殺さない。私が殺す事に躊躇っている時は代わりに手を汚してくれる事もあった。…本人は否定するだろうけど。

 

「私はね、イタチ。貴方を信じてるから。」

 

サクラさんが教えてくれた言葉。……そうだ。兄さんを信じて戦ってきた今までと変わらない。それに気付いただけの事だ。

 

「何故、簡単に信じる事ができる?人は誰もが思い込みの中で生きている道化だ。……何度でも言うが、オレは同胞殺しのうちはイタチだ。お前が描いている理想の兄ではない。」

 

「……確かに私は貴方の過去は知らない。だけど、一つの事実はあるよ。…………今でもサスケ君は生きてる。それだけで十分じゃない。」

 

再びイタチは目を見開き、視線が下に落ちた。

 

「駄目だよ。目を逸らしちゃ。」

 

私は彼の頭を両手で優しく持って、視線を合わせる。

 

「目を逸らさないで、貴方は誰よりもサスケ君を愛してる。……その真実から逃げないで。」

 

ニコリと笑いかければ、イタチの目から雫が落ちた。

 

次々と溢れる雫にイタチが無言で再び俯く。

 

はあ、目を逸らすなって言ったのに………仕方ないね。

 

顔を隠して小さく震える頭をゆっくりと抱きしめた。

 

そうしてイタチが落ち着いたところで彼は立ち上がった。

 

「………コン。オレの…「いいよ。」……」

 

「鬼鮫さんは隣の部屋で待ってくれてるからね。あまり待たせる訳にもいかないよ。……また次に話してくれればいい。………だけど、これだけは言っておくよ。………ナルト君の事は貴方に任せる。信じてるから、イタチ。」

 

暫く私の目を見つめ、そのまま襖を開けて出ていった。

 

閉める最後の瞬間に「ああ」と短く答えてくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝の早朝。

 

鬼鮫さんと宿の廊下で顔を合わす。

 

「昨日はちゃんと話をつけれたようですね。安心しましたよ。」

 

「よくイタチが気落ちしてたなんて、わかったね。最初にパッと見た時はあまり変わって無さそうに見えたのに。」

 

「まあ、お互い長い付き合いですからね。なんとなくわかるんですよ。」

 

「へえ、ちょっと羨ましい特技だね。」

 

「因みに貴女は非常にわかりやすいですよ。」

 

「もう!!余計なお世話だよ。」

 

「そうですか。これは失敬。」

 

鬼鮫さんがからかってくる。

 

「………何も聞いてこないのね。気にならないの?」

 

不自然に干渉して来ない事が気になり、聞いてみた。

 

「………知らない方がいい事も世の中にはある。」

 

絞り出すように鬼鮫さんが答える。

 

「それは仲間を殺さないといけない時に迷うから?」

 

鬼鮫さんが目を見開いて、すぐに閉じた。

 

「貴女も大概、人の心を見透かしてくる。……偶に恐ろしくも感じますね。」

 

「大丈夫だよ。きっと鬼鮫さんにも見つかるよ。……信念を貫ける場所が。……安心できる場所が。……信頼して背中を預けれる場所が。………それともイタチじゃ不満?」

 

私が笑って聞けば、鬼鮫さんも笑顔になる。

 

「貴女には敵わないですねぇ。」

 

「ふふ。」

 

「貴女の表情から察するに、貴女自身の悩みも多少は解消されたようで何より。」

 

「……うん。そうだね。」

 

「では、我々は今日にでもここから出ていきましょう。三忍の自来也様がいるようですからね。」

 

「何だ。気付いていたんだ。」

 

「……あまり私をみくびらないでください。」

 

「あはは。それはごめん。」

 

そうして2人は湯隠れの里から去っていった。



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理想論

谷の国にゼツと2人で来ていた。

 

この国は風の国と火の国に挟まれている。この前の一尾を巡る抗争があったため。暁の情報を豊富に抱えているだろうと言う事でその情報を抹消する潜入任務を2人で終えたところだった。

 

「久しぶりにツーマンセルだったね。」

 

「オレタチハ ホカノメンバートハ ヤクワリガ チガウカラナ。」

 

「本当に人遣いが荒いよね、リーダー。」

 

「その能力に特化してるのはゼツだけだしね。……前線に立たないだけでも恵まれてるって考えたら?」

 

「コンも感知タイプじゃないか。手伝ってよ。」

 

「私も手伝ってるから、他のツーマンセルの案内役もこなしてるんだよ。」

 

「カンチタイプ ノ メンバー ガ オオケレバ クロウ シナカッタンダガナ。」

 

「サポート役が多いからね。感知タイプは戦闘能力が低い傾向だから、ゼツみたいに突出していないと暁には所属できないよ。」

 

「それもそうだね。」

 

私は隣を歩く、ゼツを盗み見る。

 

本当にこいつは突出してるよね、見た目が。

 

「普通に歩いてると目立ちまくりだね。……能力知らなければ、とても隠密が専門職だとは思わないよ。」

 

「……ジッサイニ ケッカヲ ダセバ モンダイナイ。」

 

「そうだね。」

 

そう話しながら歩いていると、ゼツが連絡を受けた。

 

「おっと、リーダーから連絡だ。二尾を捕まえたから、回収しろってさ。」

 

「ふーん。誰が捕まえたの?」

 

「ヒダン ト カクズダ。」

 

「……げっ、あの2人か。」

 

「まあ、そういう事だからさ。じゃあね。」

 

「はーい。」

 

手を振って見送る。ゼツは地中に潜っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そうして数日が経過した時、ユキウサギが情報を持ってきた。

 

どうも火の国の内側。特に国境付近で20の小隊が暁の捜索をしているらしい。

 

やる気満々だね。意気込みが凄い。

 

捕獲して尋問などで情報を吐かせる。或いは抹殺が狙いかな。

 

「水分身の術」

 

10体の水分身を作る。

 

囮だ。影分身なら情報も得られるんだけど、私は会得していない。使えるのは水分身か氷分身だけだ。氷分身は高性能だけど、此方が氷遁遣いだって一瞬でわかってしまうからね。

 

水分身で囮。ユキウサギで情報。これで影分身分の働きをしてもらおう。一応、水分身のチャクラ消費量は影分身と比べて燃費が良いっていうメリットもあるし。効率は悪いけど……

 

まあ、できないから仕方ないよね。

 

『二尾を封印する…今すぐ跳べ。最優先だ。』

 

リーダー長門から連絡だ。

 

意識を飛ばせば、すぐに封印を始めた。

 

『数日の間があったけど、よく死ななかったね。』

 

重症を負い、意識を失っている女性に目を向ける。

 

どうせ飛段の事だから、急所を攻撃したんだろう。よく殺さなかったな。

 

『人柱力は結構タフだからな。』

 

『これから三日はかかる覚悟しておけ。』

 

『三日かよ…。長げーな!こっちは雨だぜ。』

 

『飛段…お前が言うな。』

 

『木ノ葉の奴ら、もう少しで皆殺しにできたんだぜ。無神論者どもにジャシン教の存在を知らしめてやるところだったのによォ!』

 

相変わらずよく吠える。それにしても、木ノ葉の小隊がぶつかったのが、よりにもよってこいつらか。命拾いしたと言えるね。絶対に殺す前提でしか戦わないから。

 

この人柱力の生捕にすらリーダーに異を唱える程だ。

 

『木ノ葉は無神論者では無い。先代を神とし火の意志を思想に行動する。まあ、そんなものは戦う為の大義名分だとも言えるな…』

 

それでも、あるかないかでなら、あった方がいい。作られた大義すらなく殺しを楽しんでいる奴らがいるんだから。

 

『てめェ…そりゃオレを馬鹿にして言ってんのか!あぁ!?』

 

『いや…お前の戦う理由を別段馬鹿にしたつもりはない。オレも同じ穴のムジナだからな。戦争の理由なんてのは何でもいい。宗教・思想・資源・土地・怨恨・恋愛・気まぐれ…どんな下らない理由でも戦争するだけの理由になってしまう。』

 

長年、この問題に取り組んでいるであろう長門の口からは出る言葉には重みがある。

 

本当に争いをなくす事は難しいと感じる。

 

『戦争は無くならない。理由は後付けでいい…本能が戦いを求める。』

 

『誰もてめーの長ったらしい話は聞いてねーんだよ!オレにはオレのやり方ってもんがある。オレ自身の目的もある。全てを組織に委ねるつもりはねーからな!』

 

『暁という組織に属している以上、その目的にも協力してもらう。暁の目的が達成されればお前の願いもすぐに成就するだろう。』

 

……いや、それは無いよね。平和を目指してるんだから。

 

……嘘の目的を話すつもりか。

 

『フン…あれこれ格好つけたところで暁の目的はただの金集めになってるじゃねーか!角都と同じだ…戦う理由で一番嫌いなタイプだぜ!!』

 

ここだけ切り取れば、立派に聞こえるんだけどねぇ。

 

『そうだ…確かに当面の目的は金だ。…が、本来暁の目的は別の所にある。その目的の為に莫大な金が要るんだ。』

 

『オレはトビとコンの次に新入りだからな。オマエの口から詳しい事も聞いたことねー!オレのいねーとこでコソコソと…』

 

『……拗ねてるのか?フ…なら、そろそろ教えてやろう。暁の最終目的は段階を踏む事で達成できる。それは全部で三段階…まず第一が金だ。』

 

『チィ…』

 

『そして第二段階がそのお金を元手に忍世界初の戦争請け負い組織を作る事だ。』

 

どちらも既にやってる事だね。規模を大きくしたいんだろうけど。

 

『…オイオイ。それじゃ他の忍里のやってる事と同じじゃねーか。依頼をこなして報酬を得るって事だろーが。てめーは召抱えてくれる国も無ェ小さな里の長にでもなりてーのか?下らねぇ……』

 

やってる事だけ見れば、だいたいその通りだよね。……尾獣を集めようとしている事以外は。

 

『フッ…まるで違う…国お抱えの里とはな。順を追って説明してやる。強力な忍里を持つ国にとって忍ビジネスは、その国の収益において大きな役割を担っている。忍里は国内外の戦いに参入する事で莫大な金を稼ぎ、国の経済を支えてると言ってもいい。つまり国が安定した利益を得るには、それなりの戦争が必要になる。しかし、今の時代。小さな戦いこそ数あれ、かつてのような大戦は無くなった。』

 

それ自体はいい事何だけどね。

 

『国は里を縮小し、多くの忍が行き場を失った。忍は戦う為に存在する。国の為に命をかけて働いた見返りがこの有り様だ。』

 

問題はどうやって飯を食わせるかだもんね。

 

『忍び五大国はまだいい…国も里も大きく、信頼もある。他国から依頼も多く安定している。が…小さな国はそうもいかない。忍里の保有には戦時と同じかそれに近いレベルで平時にも莫大なコストがかかる。だからと言って里を縮小しすぎれば、突然の開戦に対応できない。………だから我々暁が作るのだ!国というものに属せず、必要な時に必要なだけの忍を用意し、必要な力を持って、あらゆる小国や小さな里から金で戦争を依頼として請け負う組織!』

 

理論の筋は通ってる。でも、とても難しいように思う。確かに暁のメンバーは強いけど、10人しかいない。それを成すだけの組織としての強さに限界があると思う。

 

『最初は、端金であらゆる戦争を一手に引き受け、戦争市場を牛耳り、さらには尾獣を使い市場の大きさに合わせて戦争を引き起こし、やがて全ての戦争をコントロールし、独占支配する!』

 

『…………』

 

『…それに伴い大国の忍里というシステムも崩壊….暁を利用せざるを得なくなる…そしてその先にある本当の目的に我々はたどり着く…目的の第三段階…』

 

リーダーが手を掲げた。

 

『世界を征服する…』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

三日後、二尾の封印が完了した。

 

『よし終わりだ。解散だ。』

 

『やっとか!』

 

『木ノ葉へ行くぞ、飛段。』

 

『角都、飛段。お前ら木ノ葉へ行くんなら、一つ忠告しとくぜ…うん。あそこにはうずまきナルトって人柱力がいる。そいつに遭ったら気をつけるこったな…うん。』

 

そうか。ナルト君達と戦ってサソリは死んじゃったもんね。

 

『オイオイオイ!てめーと一緒にすんじゃねーよ。デイダラちゃんよォ!角都に腕くっつけて貰った弱輩もんが!』

 

『首よりはマシだ…』

 

『ってオイ!コラ、角都!てめーはどっちの味方だ!?』

 

『…………』

 

イタチをチラッと確認するけど、特に反応ない。なら私も様子見だけに留めておく。

 

ナルト君側の心配は要らなそう。だけど、飛段と角都は心配だな。サソリもそうだったけど、不死身はどこか死ぬはずがない、負ける筈が無いと油断している。

 

まあ、彼らに直接言ったところで聞き入れては貰えないだろうけど。

 

『いいから行くぞ。』

 

『チィ…』

 

2人が去った。

 

この時に感じた嫌な予感が的中してしまい、結局この後2人が帰ってくる事はなかった。



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水分身

ユキウサギから連絡が来た。

 

音隠れの里の湖で、大蛇丸の勢力と木ノ葉の勢力が三尾を巡って争っているらしい。

 

様子の確認と捕獲されると厄介なので、それの妨害する為に水分身を派遣する。

 

そういえば、音隠れには来た事がなかったな。大蛇丸の根城の一つだって分かってはいたけど。危険すぎると思って避けていた。まあ、今回は仕方ない。

 

そうして、水分身の私がたどり着いた先には、湖の中心で3人が小舟に乗っていた。

 

何してるんだろう?

 

目を凝らす。

 

1人は大蛇丸の右腕のカブト

 

もう1人はこの前戦った晶遁遣いのくノ一。

 

もう1人は知らない。初めて見る顔だ。男の子だね。

 

男の子は頭に何かしらの器具を着けて、かなり疲弊している。それを心配そうに見守るくノ一。

 

様子を見るに三尾を制御しようとしてるのかな。男の子は大蛇丸の一味って言うよりかは、実験体かもしれないね。

 

どっちにしろ、止めるべきか。

 

私は茂みから出て、湖の水面を歩く。

 

向こうもすぐに此方に気が付いたようで、小舟を漕いで、カブトと男の子が去った。残ったくノ一が足止めかな。

 

私の姿をしっかりと確認してきたくノ一が凄まじい形相で睨んでくる。

 

美人が睨んでくると怖いわね。

 

そりゃ相手方からしたら、因縁あるよね。戦闘は避けれそうに無いね。しかも今の私は水分身。スペックが10分の1だ。

 

だからって、氷遁をおいそれと使えない。ユキウサギの情報通りなら、木ノ葉の忍もやってくる可能性が非常に高いから。

 

最悪は水分身だし、やられても構わない。

 

「お前はあの時の氷遁遣い!カブトが言ってた暁ってのがアンタだったとはね!」

 

あの時は暁の事を知らされてなかったのか。

 

まあ、今じゃこの近辺で暁の事を知らない者は少ないだろう。

 

「お久しぶりです。あの時は無事で何よりです。」

 

しっかり逃げれるように術を放った甲斐がある。

 

「このクソ餓鬼が!!!舐めてるんじゃねーぞ!晶遁・手裏剣乱舞!!!」

 

いきなり大量の六角手裏剣が飛んでくる。

 

千本を取り出し、私に当たる物だけを狙って迎撃する。

 

「このッ!!晶遁・御神渡りの術!!!」

 

結晶の棘が水面を走って此方に向かってくる。

 

足にチャクラを集めて跳んで回避する。

 

「晶遁・一糸光明!!!」

 

随分と容赦がないよね。

 

飛んでくるレーザーを空中で体を捻り、回転さて回避する。

 

着地と同時に瞬身で接近して千本で斬りかかる。

 

「チッ!晶遁・翠晶刀!!!」

 

あのトンファー型の刀が現れる。

 

水晶の刀で迎撃される瞬間に腕を引いて、フェイントをかける。その瞬間に相手の顎を蹴り上げる。

 

「グハッ!!」

 

即座にジャンプして相手の背後をとる。

 

影舞葉。

 

左脇腹を蹴り、右足で相手の胴体を絡める。そのまま体を回転させて、左手で殴って、右手で殴りつける。そのまま、左足で顔面を蹴り付ける。その際に右足を離して、最後に踵落としを決めて水面に叩きつけた。

 

「グゥッ……」

 

くノ一は蹲って痛みに悶えている。

 

「すごいですね。まだやれる気力があるなんて。」

 

くノ一が此方を睨みつけてくる。だけど、どうにも立ち上がれないようだ。

 

私が足を進めた瞬間。

 

「晶遁・破晶降龍!!!」

 

くノ一が術を放てきた。

 

今の私にこの術を正面から突破するのは不可能。

 

攻撃される瞬間に飛び退いて回避した。凄まじい水飛沫が上がる。

 

もう大技ばかり使って。ビショビショじゃない。

 

易壁としつつもくノ一の気配が遠ざかるのを感知した。

 

とりあえず退ける事には成功したね。ただ……

 

水飛沫が治れば今度は15人の忍に囲まれた。額当ては木ノ葉。見知った顔もある。

 

ナルト君とサクラさんだ。

 

「暁!!…やっぱり現れたね!」

 

「三尾を狙いに来やがったか!」

 

「オレ達がアンタを捕まえる。」

 

「此奴は二十小隊とも何度か交戦している奴だ。いつも逃げられている。逃げ足が速いのが特徴だ。」

 

「気をつけて、どんな能力を持ってるかわからないわ。」

 

「これだけの人数で袋叩きにすりゃあ、捕まえることもできるぜ!」

 

殆どが中忍。だけど、上忍も一部混ざってる。

 

5人が上忍で10人が中忍レベルか。

 

流石に15対1は無理だ。しかも水分身だと尚更。だけど、水分身だからこそ気兼ねもない。

 

「行くわよ!!」

 

凄まじい量の忍具が飛んでくる。

 

くノ一が巻物から大量の忍具を射出してくる。

 

自分に当たる物だけ目掛けて、千本を投げる。

 

弾かれた忍具が別の忍具に当たり、見事に軌道を逸らす。

 

「螺旋丸!!!」

 

背後からナルト君が攻撃。

 

屈んで躱しながら、術を発動している腕を掴んで此方に走って来ていたサクラさんへ投げ飛ばす。更に左右から蹴りを放ってくる二人組の対処に移る。

 

「「木ノ葉剛力旋風!!!」」

 

「牙通牙!!!」

 

頭上からも攻撃がきた。

 

「「八卦空掌!!!」」

 

前後から空気砲が放たれる。いや、チャクラ砲と呼ぶべきか。

 

「影縫の術!!!」

 

それだけじゃない。足元から、影が触手のように波を切り裂きながら迫ってくる。

 

更に視線を奥にやれば、くノ一の1人が此方に両手を掲げて構えをとっている。

 

あれは山中一族の心転身の術。罹れば一撃の危険な術。回避できれば、隙が大きい。でもこれだけ多勢に無勢なら、デメリットは皆無。

 

「水遁・水牙弾」

 

水遁で両サイドの蹴り技を放って来てる2人に攻撃。足元を崩す。

 

「水遁・破奔流」

 

前方のチャクラ空気砲を相殺し、波を起こして影を相殺しにくいようにする。

 

「風遁・風切りの術」

 

背後のチャクラ空気砲を相殺。

 

「風遁・烈風掌」

 

頭上から来てる突進体術の回転を利用。烈風掌でいなして、即座に離脱。心転身の斜線から逃れる。

 

着地した瞬間に黒い影を感じる。

 

見上げると巨大な腕が振り下ろされていた。

 

「部分倍化の術!!!」

 

膂力での勝負なんてできない。

 

やっぱり包囲網が苦しい。抜け出さなければ。

 

瞬身で張り手をかわして、離脱しようとする。

 

だが行手を無数の虫が遮って来た。

 

これは油女一族の寄壊蟲。

 

足を止めたのが不味かった。

 

「木遁・大樹林の術!!!」

 

背後から無数に枝分かれした樹木が襲いかかる。

 

これって、伝説の木遁忍術じゃ……

 

「忍法・超獣戯画!!」

 

小型の鳥が襲いかかってくる。

 

気配感知をする。

 

……いた。ユキウサギの場所を把握。私が歩いて来たところから動かずに岸辺にいるね。

 

それからトビも観察してる。

 

助けて欲しいんだけど、水分身だからいいか。

 

木遁の術に突っ込み、槍のように飛んでくる枝を体を回して回避する。

 

小型の鳥は体を回した際に千本で射抜いた。

 

近づく事でプレッシャーをかける。

 

無数に何度も枝分かれしては、襲いかかってくるが、回避は容易い。

 

遠距離からくる空気砲や影、忍具の雨に寄壊蟲の攻撃も全て術で相殺しながら、身体捌きと速度で回避する。

 

ただ、防戦一方。攻撃に移る事が全くできない。

 

遠距離攻撃が止んだら、次は螺旋丸に桜花衝などの体術攻撃に常に心転身の術に気を配って動き続けないといけない。

 

ジリ貧だね。ただ、貴重な情報も結構あるからできれば持ち帰りたいと思う。

 

攻撃の嵐の中、咄嗟に巻物に端的に情報を入れる。それを千本に巻きつける。

 

何度目かの忍具の雨。同じように迎撃と見せかけて、情報付き千本2本を投げる。

 

一本はトビの元へ、もう一本はユキウサギのところへ。乱戦状態で誰も気が付かない。

 

千本なんて小さくて細い針。クナイや忍具、起爆札が散乱している状態では誰も気にも止めない。

 

そうして適当に飛んでいったように見える千本はトビとユキウサギに届いた。

 

中にはメッセージを書いてある。

 

“木ノ葉と大蛇丸の手勢多数。デイダラを呼んできて。”

 

「何で掴まんねーんだ!!」

 

「恐ろしく速い。」

 

「術の印の速度も桁違いだわ。1人で全ての術を相殺して来てる。」

 

「体術も恐ろしく上手です。」

 

「なに、体術なら我々も負けてないぞ!なっ、リー!!」

 

「もちろんです、ガイ先生!!」

 

あれが鬼鮫さんの言ってた体術遣いね。

 

そして、あの影を操っているのが、飛段を倒したシカマル君。

 

その他は角都を倒した手練れ。

 

「はあ……はあ…」

 

息が切れる。流石に水分身のスペックでは厳しい。

 

颶風水禍の術なんて大技も使えない。水分身のチャクラが切れてしまう。

 

「とはいえ、相手も限界に近い。捉えて終わりだ。」

 

と次の瞬間、水面が爆ぜた。

 

凄まじい神性の気配を感じた瞬間には跳んでいた。お陰で巻き込まれなかった。

 

水面に着地。見上げれば巨大な亀の化け物。三尾ね。これだけ暴れてたら、そりゃ出てくるよね。

 

トビは未だに動いていない。

 

デイダラを呼んでって言ったのに………

 

同じ要領で三尾の情報と今し方、交戦した木ノ葉のメンバーと大蛇丸の部下三名の情報をトビとユキウサギに渡す。

 

千本はトビの顔スレスレを通り、木に刺さる。トビが腰を抜かす演技をしているけど無視。そんなものに構ってる余裕がない。

 

周りには木ノ葉の忍はいなくなっていた。今ので流された者やそうでない者も撤退したみたい。

 

包囲網が解かれて助かったけど、逃げ遅れた私は1人で三尾の相手をしないといけない。

 

情報としてはこれ以上はないだろう。適当に消えればいいけど、一応実力の確認は必要かな。水分身で勝てるとは思わないけど。

 

眺めていると、三尾の口元にチャクラが集まる。

 

すぐに足にチャクラを集中。

 

次の瞬間、大きな水弾が3つ放たれる。

 

瞬身の術で回避。回避した先で、今度は尾尻が叩きつけられる。

 

それもかわして走る。

 

破壊力は凄まじい。だけど、動きが比較的遅くて、直線的だから回避は余裕。

 

ただ現状の私では傷一つつけることはできないだろうけど。

 

再びチャクラが口元に集まる。

 

今度のは大きそうね。

 

黒いチャクラと白いチャクラが集まり球体を作る。

 

確か五尾も同じ技を使って来てたね。おそらく尾獣の奥義なんだろう。……技名は尾獣玉だっけ。

 

三尾に突っ込む。

 

ここで必要なのは退避ではなく、突貫。三尾の至近距離で尾獣玉を爆発させる。

 

尾獣玉で三尾にダメージを狙うと共に大きな水飛沫をあげて貰って、ここから逃げ出すためでもある。

 

次の瞬間、尾獣玉が放たれる。

 

突っ込んでた状態から今度は全力の瞬身で後方へ飛ぶ。

 

巨大な水飛沫が上がる。打ち上げられた水が雨のように降り注ぐ。

 

「ぐっ!」

 

何とか転がりながらも湖の岸辺にたどり着いた。

 

まあ、たどり着いたというか風圧で飛ばされたというべきか。

 

ただ、この程度の戦闘能力なら特に問題はなさそうだ。

 

「はあ…はあ……はあ」

 

だけど、水分身の私にとっては限界。

 

もう動けない。……だから背後からの気配に気付いていながらも回避できない。

 

背中から胸に手刀が貫通した。その手刀は雷のチャクラを纏っている。

 

これは雷切。

 

「ぐっ!」

 

「油断したな。」

 

そう言えば、さっきの包囲網ではカカシさんはいなかった。

 

「シカマルの作戦勝ちだな。……袋叩きで勝てればよし。駄目でも包囲網を抜ける為に能力を使えばよし。それが駄目でも敵が安心したところでオレが仕留めればよしだ。更には外からお前の戦いを分析する事もできる。」

 

「……成程、知将ですね。」

 

だけど………

 

「……それなら、今回は私の戦略勝ちですね。」

 

そう告げて、私の体は水に還った。



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覚悟

ユキウサギから情報を受け取る。

 

どうやら音隠れの湖には本当に三尾がいるようで、大蛇丸と木ノ葉との争いもかなりの激しい事がわかった。

 

ただ、三尾自体は動きが鈍いからデイダラなら簡単に捕獲できそうだ。

 

大蛇丸側も木ノ葉側もかなりお互いに消耗しているようで、三尾をどうにかする事は難しそうだ。

 

『三尾と四尾を封印する』

 

長門からだ。意識を飛ばす。

 

『遅いぞ。』

 

『ちょうど人柱力を狩ったところでしてね。逃げないように縛り上げてて遅くなったんですよ。』

 

『…よし…これで全員揃ったな。』

 

『ん?まだ飛段と角都が見えませんが?』

 

ああ、そうか。鬼鮫さんは知らないのか。私はユキウサギの伝令で先に知っている。

 

『そうですか…クク。あのゾンビコンビでも死ぬんですね。どうやって死んだのか見たかったですねぇ。』

 

『仲間にそう言う言い方はよせ』

 

『やったのは?』

 

『木ノ葉の連中だ。』

 

『マタ カカシト九尾ノ人柱力ノ小隊ダヨ。』

 

『強いですよね。あの小隊。デイダラさんもボコボコにされるわけだ。』

 

『トビ!!』

 

実際にあの小隊はとても強い。カカシさんにヤマトさんが反則級に強い。その上、中忍レベルなのにこちらのメンバーを何人も倒してる実績もある。本当に強いと思う。

 

『てめぇそれ以上言ってみろ!オイラのカンニン袋が爆発するぜ!!うん!』

 

『アハハハ。堪忍袋って我慢する為の袋であって…デイダラさんのは爆発袋でしょ。すぐにキレんだから。』

 

『てめぇトビ!コラァアア!!』

 

『デイダラ、静かにしろ。それじゃトビの言う通りだ。』

 

『チィ……』

 

『アハハハハ』

 

『それからトビ。お前はいつも一言多い。先輩は立てろ。』

 

『ハーイ!すいませ〜〜〜ん!』

 

『こんなんで人柱力を集めきれますかね…』

 

『ハァ…』

 

『と…そんな事より四尾の人柱力をさっさと封印したいんですがね…』

 

『待て…まだ話は終わってない。』

 

『何です?』

 

『もう1人殺された奴がいる。』

 

あれ?

 

そんな人は居ないはず。メンバーも全員揃ってる。

 

『もう1人?』

 

『………』

 

『大蛇丸だ。』

 

『…………』

 

え?

 

大蛇丸が殺されたの?

 

私のトラウマがあっさり殺されるなんて……

 

でも、すぐ復活するだろうけど。

 

ただ、そうなると。やった犯人ってまさか……

 

『暁を抜けて十年…殺す手間が省けたと言うところですか。しかし、あの大蛇丸を倒すとは大した手練れですね。誰がやったんです?』

 

『うちはサスケだ。』

 

やっぱり…

 

ちらっとイタチを見る。

 

『………』

 

特に反応はない。

 

『大蛇丸はオイラがぶっ殺すと決めてたのによ…うん』

 

『フッ…やりますね。さすがイタチさんの弟だ。』

 

『今、仲間を集め回ってる……それも厄介な忍ばかりをだ。』

 

『と言うと?』

 

『お前もよく知ってるだろ…霧隠れの鬼灯兄弟…あれの片割れだ。』

 

『…水月か。懐かしいですね。』

 

『それに天秤の重吾もいる。せいぜい気をつけろイタチ、鬼鮫。おそらくお前達を狙ってる。』

 

『………』

 

『他の者も一応うちはサスケの事は頭に入れておけ。イタチや鬼鮫の情報を得ようと暁を標的にするかもしれん。』

 

『鬼鮫、どんな奴なんだ。その水月ってのは…うん?』

 

『………十年も前だ…可愛い顔で笑う子でしてね…決まって相手の手足をぶった切ってから頭に止めを刺す事から…鬼人・再不斬の再来と呼ばれた神童ですよ。』

 

!?

 

何それ、そんな人がいるの?

 

再不斬さんと同等って事だよね。凄く気になるんだけど。

 

『そいつら面白そうだな。うん…』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

6日間の長い封印が終わった。2体同時はしんどいね。

 

『さて…どっち行くかな…うん。』

 

『どっちって?どっちとどっちの事言ってんスカ?』

 

『カカシ率いる九尾の人柱力か、うちはサスケか。』

 

『………』

 

ああ、そうか。水月君の事が気になったけど、会いに行けば確実にサスケ君と戦うことになっちゃうんだよね………

 

『どっちもやめましょうよ!大体ボクらのノルマは終わってるし!』

 

『冗談じゃねぇ…九尾の人柱力には殴られた借りがある。カカシには右腕やられたしな…うん。オイラが殺す筈だった大蛇丸を殺りやがった。うちはサスケも許せねぇ…行くぞ、トビ!』

 

『え〜〜〜〜!?』

 

デイダラとトビが消える。

 

困ったな。できればデイダラにはナルト君にもサスケ君にも手を出さないで欲しいんだけど……

 

そうは言っても、2人とも木ノ葉の忍だし、サスケ君はイタチがターゲットだろうから、暁とは敵対関係になるのは時間の問題。

 

どちらも無事で居てくれる事を祈るしかない。

 

サソリの時みたいに駆けつけるつもりはない。イタチを信じると決めたから。

 

ただそれでも、心配になる。ナルト君とサスケ君は兄さんの忘れ形見みたいなものだし。暁のメンバーは私の家族みたいな居場所だ。どちらも失いたくはない。だけど、敵対関係を避ける事もできない。

 

『いいんですか?イタチさん』

 

鬼鮫さんがイタチに聞く。

 

イタチは答える事なく去った。

 

きっと私には止める事もできないし、どっちが死んでも後悔するんだろうな。

 

そんな遣る瀬無い気持ちで通信を切った。



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産まれてきた意味

霜隠れに再び来ていた時の事だ。

 

前の依頼から一年ぐらい経過していた。あれからもしかしたら、内戦が起こってしまうかもしれないと危惧していた霜隠れだけど、意外と安定していた。

 

そんな時だ。ゼツから連絡を受けたのは。

 

『デイダラガ死ンダ。最後ハ己デ大爆発ダ。』

 

こればかりは覚悟していた。だけど、凄いショックだ。彼は一番私の面倒を見てくれた。一番仲良くできたメンバーだったと思う。胸に大きな穴が空いたような気がした。

 

……そんな。

 

涙が出そうになる。

 

覚悟していた。それでも凄く寂しい。

 

『あらら、またメンバーが減っちゃいましたね…彼は結構強かったと思いますが。で、どっちにやられたんです…?サスケか…九尾の人柱力か?』

 

『サスケダ。』

 

『ただしね…サスケも死んだみたいだよ。』

 

!?

 

『…………』

 

イタチが少し目を細めていた。

 

そんなサスケ君も……

 

全然想定していなかった……。まさか相打ち。

 

2人同時に失うなんて……

 

『道連れですか…』

 

『感謝するんだな、イタチ。デイダラが命懸けで厄介払いをしてくれたんだ。』

 

『んーー…あと何か忘れてるような…』

 

『トビも死んだみたいだよ。デイダラの奴、見境無く爆発しやがった。』

 

え?トビも……

 

彼ともある程度仲良くしていた。いつも何か本心を隠してるような感じだったけど、彼の悲しみもいつか癒えたらいいなと思ってた。……その彼もが………

 

余りにも急な死亡の知らせの連続に感情が追いつかない。

 

『そうそうトビでしたか…しかし、あの逃げ腰が逃げ遅れるとは…相当大した術だったんですね。』

 

『まあいい…あの程度の男なら幾らでも補充は利く。デイダラは惜しかったが…』

 

『陰鬱なこの組織を和ませる能力ならトビも大した能力者でしたがね。』

 

『オレは行く…せめて静かにデイダラをともらうとしよう。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

余りの事に呆然とする。

 

皆が抜忍。いずれはこうなる事は理解している。それでも、失う事は辛くて怖い。

 

どれだけの時間が過ぎていたのか、気が付けば夜になっていて、宿の部屋で布団にくるまり、窓から蛍を眺めていた。

 

「こんな所に居たのか……」

 

「……イタチ。どうして……」

 

「お前に話がある。」

 

………イタチから相談なんて珍しい事もあるんだね。

 

「………貴方、1人だけど。」

 

「鬼鮫の所には影分身を置いてる。」

 

え?それって逆じゃないの?

 

普通は影分身が来るならわかるんだけど。

 

そう思い、彼の顔を伺って確認する。

 

とても強い眼差し。覚悟を決めた目が此方を射抜いていた。

 

「…そう。とても大事な話なのね。」

 

「…………」

 

イタチは無言で頷く。

 

そのまま私の隣に腰を下ろした。

 

何故、今なのか?とか気になる事はあるけど、黙って聞こう。きっとあの時の続きだから。

 

「何から話せばいいだろうな。」

 

話出そうとして言葉に詰まり、イタチは苦笑いをした。

 

それだけでも私は驚く。こんな表情を初めて見たからだ。

 

それだけイタチにとって、本当に深い場所にあるものをさらけ出そうとしている。

 

「…貴方が話したい所から話してくれればいいよ。」

 

私も覚悟を決めて微笑む。

 

イタチは頷いた。

 

「初めて戦場を目の当たりにしたのは、4歳の頃だった。」

 

それは猫婆から聞いた話だ。私が4歳の時はまだあの村で平和に暮らしていた。

 

イタチはその時には戦場を体験していたんだ。

 

いたるところに屍。血の匂い。死の静寂。

 

「父にその場に連れてこられた。オレはその光景に動けず体が冷たくなっていくのを感じた。木の葉の額宛をつけている忍。そうではない忍。2度と動くことのないその者たちの表情は、どれも苦痛にゆがみ固まっていた。誰一人として、望んで死んだ者はいない…望まれて死んだ者もいない…」

 

イタチの黒い瞳に影がさす。

 

「力で何かを解決しようと収めようとした結末…その先に何があるのだろうか…」

 

「命は生まれ。命は、死ぬ…」

 

寂しげに。切なげに。ぽつりとこぼれた言葉。

 

「人は何のために生まれてくるのか…」

 

イタチの瞳から一雫の涙が溢れる。

 

「争うためじゃない。そんなはずはない。そんなことはあってはいけない。人は皆幸せになるために生まれてくるはずだ。それはこの世に生を受けた者が唯一平等に与えられる権利だ。生まれ落ちたその瞬間は、誰もが同じようにそれを与えられる。」

 

肯定されることを待つように黙したイタチに、私はうなずく。

 

イタチは安心したような笑みを浮かべた。

 

「オレはその時心に決めた。この世から一切の争いをなくす。そのために誰よりも優れた忍になろうと。」

 

イタチの想いは、里にとどまらず広く大きくすべてを見据えていたのだと知る。

 

「そんな夢を目指して、オレはアカデミーに入った。」

 

イタチはゆっくりと順を追って話してゆく。

 

6歳でアカデミーに入学し、7歳で卒業。10歳で中忍となり、11歳で暗部へと入った。

 

そして12歳で暗部の分隊長。

 

めまぐるしく進められてゆくイタチの人生。

 

そこには想像を絶する痛みが、闇があった。

 

中でも、8歳で仲間の死を目の当たりにしたことは、とっても衝撃的だった。

 

それがきっかけで写輪眼が開眼したことを聞き、その一件がイタチにとっていかに辛い物だったかがうかがえた。

 

それでも涙を流さず、一人その苦しみに耐えたのだと語るイタチは悲しげな眼で小さく笑った。

 

その後の中忍試験では、スリーマンセルが原則の中、ただ一人単独で試験を受け、すべての試験で他を寄せ付けない結果をたたきだし合格。

 

特に3次試験の対戦の場では、圧倒的な力を見せつける必要があったのだとイタチは言った。

 

そうすることで、観戦に来ている他里の【影】や大名たちに『木の葉にだけは手を出してはいけない』『木の葉にうちはイタチあり』と、知らしめなければいけなかったと…。

 

10歳。その幼さで彼はもう里を自分の手で、力で守るという自覚のもと生きていたのだ。

 

自身のその時とあまりにも次元の違う世界。

 

私はそれを改めて痛感していた。

 

だがイタチの突出した才が、彼を悲しみの運命へと導いてゆく。

 

「父は、オレを一族と里とのパイプ役にするためにオレを暗部へ入れたいとの考えを口にした。違和感を感じた。暗部入りはオレの目的でもあった。だが里とのパイプ役とはどういう意味なのか。そう思った。里の上役には架け橋だと言われた。同じことだ。だが、うちは一族も木の葉の人間だ。同じ里で生きる者同士をつなぐ。意図してつながなければいけない。元々つながっているものではないのか。その関係性はいったい何なのか。木の葉とうちはは、並立する存在なのか。なぜ分けて考える必要があるのか。オレには分からなかった。オレはうちは一族だが、木の葉の人間だ。それは違った考えなのか…」

 

溢れ湧き出るイタチの疑問。苦悩。

 

それをずっと一人で抱えてきたのかと、私は彼の手を繋いだ。とても冷たい手だった。

 

イタチは語り続ける。

 

「暗部へと入る前に、オレは実績をつけるという名目で任務を受けた。それは他里に情報を流しているスパイを暗殺するというものだった。木の葉の忍を殺すという任務」

 

スパイとはいえ、同じ里の人間。

 

里を愛するイタチにはどれほど辛かっただろう…

 

「妻も子供もいる男だった。子供は3歳と1歳。オレの友であったうちはシスイと共に任務に当たり、その命を消した…。あの男が死に際にふかした煙草の煙がいまだに…記憶に残っている。」

 

まるでこの場にその煙が立ったかのように、イタチは空を見上げた。

 

「そしてオレは暗部へと入った。だが、それが結果としてオレの道を閉ざすことになった。クーデターを取り仕切っていた父は、オレの暗部入りをきっかけに、その実行を決めた。里の中枢にオレがかかわることで、深い情報を手に入れ、期を計り動く。そう決めたんだ…」

 

「クーデター?」

 

「そうだ。当時、うちは一族はクーデターを考えていた。里への不満が高まっていた。うちはと里との歴史的な確執。それが燻っていた。」

 

イタチの体が、少し震えた…

 

「オレの夢が、一族を破滅へと進ませるきっかけとなった。」

 

そんな事はない。

 

そう言いたいけど、当時を知らない私に言える事ではない。

 

「オレはいったいどこへ向かっているのかとそう思った…」

 

イタチは本当は誰よりも繊細でもろい一面を持った人だと思った。

 

それでも強くあろうと自分を奮い立たせてきた。必死に。

 

きっとこの世界において彼以上の忍はいないんだろう。

 

「暗部に入り、里の一族への警戒を目の当たりにした。一族の居住地は里によって監視されていたんだ。いたるところに監視カメラが仕掛けられていた。それをモニターで監視する。それも暗部の任務だった。」

 

「ひどい…」

 

思わず言葉がこぼれた。

 

同じ里の人間。そこにある確執。胸の奥が痛んだ。

 

「オレも信じられなかった。だが、里からしてみれば里を守るための処置…」

 

浮かべた小さな笑みに、いまだにその時のショックがぬぐい切れていないことがうかがえる。

 

イタチは少し考えるようなそぶりを見せ、此方をちらりと見た。

 

「その原因は九尾だ…」

 

「九尾が…」

 

イタチはうなずく。

 

「封印されていたはずの九尾が突如里に現れ里を襲い、甚大な被害をこうむった。その時疑われたのがうちは一族だ。九尾の力を操ることができるのは写輪眼のみ。それが一族への疑念を集めた。それゆえ、この事件の後そういった体制がとられた。」

 

里の人々は九尾の事でうちは一族を疑い。疑われたうちは一族は里への不満を募らせた。

 

同じ里で暮らしていればいたるところで両者は顔を合わせる。

 

そのたびに負の感情が渦巻く。事態が悪化していくことが容易に想像でき、気持ちと共に体が重くなるのを感じた。

 

「初代火影となった千住柱間の一族とうちは一族は、もともとは争いを続けてきた者同士だ。過去からの積年があった。そこに九尾の一件。一族の不満は募り溢れた」

 

それでも、うちは一族への疑念は確証のない物で、3代目火影の深い思慮もあり、強行的に居住地を調べたり、一族の誰かを尋問にかけるようなことはなされず、その監視体制も疑いを晴らすためという3代目による考えもあったのかもしれないと、イタチはそう言った。

 

「3代目は決して里に暮らすうちは一族を疑ってはいなかった。それは俺も同じだ。父も、そして他の一族の者も里を愛していた。歴史や政治的なものへの確執はあったが、木の葉はオレ達うちはにとっても故郷だ。故郷を愛する気持ちは何ら変わらない。故郷を守るために強くなり戦ってきた…」

 

里を守るためにうちはは力を求め、強くなり、戦ってきた。

 

その大きくなりすぎた力から里を守るために、木の葉はうちはを警戒し始めた…。

 

どちらも里を守りたい…

 

根底はそこにあるのに…

 

「想いは同じなのに…」

 

胸の奥の痛みがどんどん強くなる。

 

その痛みをずっと抱えながら、イタチは両者の間で耐えてきたのかと息苦しさに襲われた。

 

「そうだ。どちらも同じだった。だが、うちは一族は【一族の誇り】に執着しすぎた。その枠にこだわりすぎた。そして里の対応が、さらにそれを膨張させた。そこに、【里側】【うちは側】という言葉が生まれた」

 

その言葉のはざまで、一族、そしてイタチは多くの中傷を受けてきたのだろうと、その様子を脳裏にめぐらせる。

 

「暗部に入って、オレが里の上層部に求められた事。それは、一族の間で秘密裏に行われている会合での内容を里に流すこと。うちはの不穏な動きに感づいた上層部は、今まで以上に細かに監視し最悪の事態を避けようとした。3代目はただ純粋にそう考え、別の者はオレが里を裏切らぬか監視の手段として。そして、また別の者は【反旗の証拠】をつかみ【静粛】という名のもと一族を排除しようとしていた。それぞれに、里を守りたいという心のもとにな」

 

いくつもの絡み合う策略の中をイタチは生きてきた…

 

その奥にあるものは【里を守る】という想いただ一つなのに…

 

それをめぐる大きすぎる闇を、一身に受け戦ってきた…

 

重く、苦しく、辛い…

 

そして何より恐ろしい…

 

それは、自分が感じている恐怖ではない。

 

イタチが感じてきた恐怖なのだと悟った。

 

だが、決して話すことをやめようとはしない。

 

私はそこにイタチの想いを感じていた。

 

受け止められる…

 

そう信じてくれている…

 

受け止めてほしい…

 

そう求めてくれている…

 

その想いが私の心を強くした。

 

少しして、イタチは再び話し出した。

 

「オレは里に監視されている事を一族には告げず、一族の会合の内容を里に流した。里の中枢である火影とつながれば、一族の暴走を止められる。そう考えた。だが、オレが里の情報を提供しないこともあり、一族の中にオレを疑う者が出始めた」

 

一族を守るための苦渋の決断が今度は一族の中に猜疑心を生んだ。

 

「お前は里と一族、どっちの味方なんだ。そう投げつけられた…」

 

フッと小さく浮かべたその笑みは、さみしく哀しげ。

 

「一族にとって、里は敵で、一族は味方。すでにその形は出来上がっていた。それでもあの時のオレは、まだ事は動いていない。まだ変えられる。そう思っていた。だが、もうすでに投げられた石は、坂道を転がり始めていたんだ…」

 

変わらず景色の中に浮かぶ蛍の光が一粒。イタチのほほを照らした。

 

それはまるで涙の一滴のように見えた。

 

イタチはどうしてか柔らかく笑った。

 

そのあまりにも柔らかい微笑みがひどく悲しみを伝えてくる。

 

「もう誰にも止められないところまで来ていたんだ…」

 

一族が決断したクーデター。

 

必死に止めようと奔走していたイタチが、それを悟った時どんな気持ちだったのだろう…

 

今、この笑みの向こうにどんな感情が、記憶がよみがえっているのだろうか…

 

どうあっても分かりきれないのだろうと、グッと唇をかみしめた。

 

「それでもあいつは、シスイはあきらめなかった。クーデターを止めるための唯一の手段があると、オレにその計画を打ち明けた…」

 

「唯一の手段?」

 

うなずいたイタチの瞳が一瞬赤く光る。

 

「シスイの万華鏡写輪眼に宿った特別な力、別天神(ことあまつかみ)。」

 

うちはシスイの万華鏡写輪眼。最強幻術だ。

 

「当時のオレも聞いたことのない物だった。特別な幻術だ。」

 

「その術を…」

 

「オレの父にかけると話してきた。その術で父を操り、父の口からクーデターの取りやめを一族に言い渡すと」

 

親友が自分の父に幻術を…

 

「あいつはオレの父にその術を使うことを心苦しく思っていた。だが、オレは一族を止めることができるなら、手段を問うつもりはなかった。父の心を自分の手で変えられなかったことは悔しかったがな…」

 

それでも止められなかった…

 

心のつぶやきが聞こえたかのように、イタチはうなずく。

 

「決起を決める会合の前、シスイは父に接触できなかった。その前にダンゾウに襲撃され深手を負った。そして事は取り決められた。」

 

イタチの親友を襲ったのはダンゾウだとイタチは語った。

 

シスイの瞳術でイタチの父を操り、クーデターを取り消したところで、一族の怒りが収まるわけがない。

 

ダンゾウにそう言われ、イタチは言葉を返せなかったと表情をゆがませた。

 

まさかダンゾウがそんな事を……

 

「父がしないのであれば、別の誰かが決起のために立つ。オレは心のどこかで分かっていた…」

 

転がりだした石は一つではない。

 

大きな一つを止めても、その後ろから転がる無数の石は、そう簡単に止めることはできない。

 

「それでも、その後の事を模索しながら、シスイの計画に一縷の望みを託した。だが、その望みも絶たれた。シスイが動くことで自分の計画が濁る事を危惧したダンゾウが、シスイを襲い、右目の写輪眼を奪い毒を盛った。その日、落ち合う約束をしていた場所に、息を絶え絶えに現れたシスイを見てオレは悟った…」

 

もう他に手はないのだと…

 

口にされずともその先には、それ以外の言葉はない…

 

そうか。それでイタチは家族を、友人を、一族を………

 

私はやるせなさに視線を落とした。

 

「あいつは残った左目をオレに預け、死んだ…」

 

息を吐き出すように言い放つと、イタチの体から力が抜けてゆく。

 

鋭く研ぎ澄まされた空気をまとうその横顔が、ゆっくりと此方に向けられてゆく。

 

小さく浮かべられた笑み

 

静かに流れ落ちる言葉

 

「オレが殺した」

 

夜の静寂が深まった。

 

「最も親しい存在を殺すことで、万華鏡写輪眼は開眼する」

 

聞いた事はあった。

 

だが、イタチの口から改めて聞き、鼓動が痛みを帯びながら大きく波打つ。

 

するり…とつながれていた手が解かれた。

 

「この手であいつを殺した」

 

その手をスッと伸ばし上げた。

 

「自分の命が助からぬと悟ったシスイは、オレに万華鏡写輪眼を開眼させるために…」

 

指の間からチラチラと見える光が、悲しみを、切なさを、痛みを膨らませる。

 

「オレがこの手で」

 

グッと手を握りしめる。

 

「この手で…」

 

イタチ…

 

この人は、どれほどのつらい物を抱えて生きてきたのか…

 

自分の想像をはるかに超える苦境、苦心…

 

今となっては取り除くことのできないその苦しみ…

 

その痛みは消えない。消してあげることはできない…

 

「オレがあいつを殺した」

 

自分の中に確認するような口調でつぶやかれる言葉。

 

握りしめられたイタチの手が、さらに固くなってゆく。

 

私はそのこぶしを、思わず包み込んだ。

 

「イタチ」

 

向けられたイタチの表情は、今までに見たことのない弱々しい笑み。

 

包み込んだその手を抱き寄せ、イタチを見つめる。

 

「貴方は悪くない」

 

気休めにもならない言葉。

 

だが、そう思いながらも言わずにはいられなかった。

 

貴方ははただ守りたかっただけなのだ…

 

一族を、里を、大切な物を…

 

「貴方は悪くない」

 

どんな事情があろうと、人の命を奪うことは決して許されることではない。

 

それが分かりきっているイタチには、そんな言葉は届かないのだろう。

 

受け入れはしないだろう。

 

それでも、どうしても言わずにはいられなかったその言葉に、イタチはほんの少しだけ肩の力を抜いた。

 

自然と指を絡めて強く握りあう。

 

「その日オレの万華鏡写輪眼は開眼した。」

 

その時の感覚がよみがえったのか、イタチはしばらく目を閉じて黙した。

 

「後は頼んだぞ…。シスイはそう言い残して逝った。木の葉を創設し、守り抜いてきた一族の誇りと名誉を。そして、木の葉の里を守ってほしい。それがあいつの願い。」

 

親友の想いを、言葉を思い出しながら、イタチはその姿を探すように空を見上げた。

 

「一族の誇り、名誉、うちはの名。それはもちろんオレにとっても大切な物だ。だが、それに執着するべきではない。それは正しきことを見失わせる。狭い了見に己を閉じ込めてゆく。その狭い世界の中で、里に反旗を翻し、己の意地やプライドを誇示する。そんなくだらない事にこだわる者たち。その犠牲となり、あいつは闇の中を耐え忍び戦い、そして死んでいった。」

 

イタチの体に力が入る。

 

「腹が立った…」

 

そんな単語がイタチの口から出るとは思いもしなかった。

 

私は思わず目を丸くした。

 

「誰も、何一つ大切な物が見えていない。愚かしい。そう思った。父に対してもだ。そんな愚かしい行為に先頭を切って走る父。そして父を矢面に立たせて、汚れた仕事をオレやシスイに命じ、陰でコソコソと蠢く者たち。」

 

その言葉の奥に、まだ語りきれぬほどの痛みを感じる。

 

「くだらない。里の平和こそが大切なのではないのか。それが一族の安穏なのではないのか。誰も気づかないのか。シスイの命を懸けた想いは、誰にも届かないのか…」

 

そこにあったのは、一族への落胆。

 

「何一つ大切な物に気づかぬまま、自分では動かずにオレへの不満をぶつけてきた父の側近の者たちを見て思った。こんな奴らのために、シスイは死んだのかと。」

 

哀しげな瞳で言葉を続ける。

 

「こんな奴らに生きている資格はないと…」

 

悔しさを滲ませる声。そこには非難の色が見える。

 

だが、それはイタチ自身へと向けられたものだった。

 

「同じ一族の者の命を、オレは奪おうとした。怒りに任せ刃を向けようとしたんだ。」

 

争いのない世界を目指している自分が同胞の命を奪おうとした。

 

「自分の中に潜む狂気を垣間見た。」

 

私にも何度か心当たりのある想い。

 

自責の笑みを浮かべイタチは次に優しく微笑んだ。

 

「そんなオレを止めたのはサスケだった。」

 

その瞳は、今までに見たことのない優しい色を浮かべていた。

 

初めてイタチの口からサスケへの本当の想いが吐き出されようとしている。

 

「オレの中の狂気が抑えきれなくなる寸前。あいつの、サスケの声が聞こえた。」

 

『兄さん!もうやめてよ!』

 

悲痛なサスケ君の叫び声。

 

見たことのない兄の姿に怯え、震え、それでもいつもの兄に戻ってほしいとの願いを込めたひと言。

 

「それがオレをつなぎとめた。あいつの兄という存在に、引き戻してくれた。いつもそうだった。己の道を、夢を、目的を。そして、この命の意味を見失いそうになったとき、オレを救ったのはサスケだった。」

 

目を細めて微笑む。

 

人が、これほど柔らかく微笑む姿を、私は見たことがなかった。

 

イタチにとってサスケ君は、何よりも愛おしい存在なのだと、改めて感じる。

 

「あいつが生まれたとき、小さな体の中に強い生命力を感じた。必死に生きようとする力。この世に、これほどまでに愛おしく、尊いものがあるのかとそう思った。何があってもオレが守ると、そう誓った。」

 

すべてをかけて、守りたい存在。守らなければならない存在。

 

「だが、守られていたのは、導かれていたのはオレだったのかもしれない。」

 

眉を下げてさらに微笑む。

 

「争いの絶えぬこの世への疑問。任務での痛み。里と一族の間に渦巻く闇。シスイの死。そのすべてにおいて、オレが心折れずに走り続けることができたのは、サスケがいたからだ。あいつのおかげで戦ってこれた。」

 

誇らしげなその表情。しかし、その奥に悲しげな色がちらりと見える。

 

「それなのに、オレはあいつを傷つけた。あの夜、決して消えぬ憎しみをあいつの心に刻み込んだ…」

 

イタチの瞳にはあの夜がよみがえっているのだろうか。

 

「クーデター前に一族を静粛する。うちはの名を、そして誇りと名誉を守るためにはそれ以外には道はなかった。それになにより、もしクーデターを起こしていたとしてもうちはは勝てない。いかに写輪眼を持つ一族と言えども、木の葉の里は落とせない。内戦の末にあるのは、うちはの敗北。両者の大きな被害。罪なき人々の死。そして、勢力の落ちた里への外からの攻撃」

 

「戦争…」

 

イタチは「そうだ」と、うなずいた。

 

「それは避けねばならない。それだけは、起こってはいけない。そのためには他に道はなかった…」

 

もし自分がイタチの立場だったらどうしただろうか…

 

そう思うと同時に、頭の奥がひどく重く痛んだ。

 

「残されたその道、それは一族の誰かの手によって行われる必要があった。他の者による静粛は、里に暮らす他の一族達に恐怖と疑念を抱かせる。『用がなくなれば、里によって消される』とな。だから、同じうちは一族の者の『乱心の末の事件』にしなければならなかった」

 

それができるのはイタチ以外にいなかった…

 

私は目を固く閉じ、うつむいた。

 

なぜイタチなのか。

 

こんなにも苦しい想いを、なぜイタチが負わねばならないのか…

 

だが、もしこれが他の者によるものであれば、周りの人間は、まっすぐには受け止めなかっただろう。

 

里すらも危惧する力を持つうちは一族を一晩で滅する。

 

並大抵の事ではない。不可能に近いと言える。

 

それでも、里が、周りがその事実を受け止めたのは、実行者が『うちはイタチ』だったからだ。

 

6歳でアカデミーに入学してから12歳で暗部の分隊長になるまでの、常識から逸した経緯。

 

そして、中忍試験での圧倒的な強さ。

 

納得させるだけの条件はそろっている。

 

揃ってしまっていたのだ。

 

『うちはイタチならできうる』

 

まるで、今までのすべてがそこへと向かうために仕組まれたかのように、事実として存在している。

 

「オレは決断した。サスケの命を守るという事を条件に任務を受けた。いや、その条件がなくともオレにはもうほかに道は残されてはいなかったがな。」

 

事が起こってしまってからでは一族の名を、里を守れない。

 

だからと言ってその命を…

 

極度に追い詰められていたイタチの胸の苦しみが伝わりくるようで、私は自分の胸元をギュッと握りしめた。

 

「だが、やはりオレにはサスケを殺すことはできなかっただろうからな。その条件を向こうから提示された事は唯一の救いだったかもしれない。サスケには生きてほしい。そしていつか、新しいうちはの形を作り上げてほしい。人々から利用され、恐れられ、切り捨てられるのではない。大切な物を守れる強い存在。必要とされる存在。すべての垣根を越え、平和へと人々を導くそんな存在になってほしい。闇を生きるオレとは違う、闇を照らす存在となってほしいんだ。」

 

溢れ止まらぬサスケ君への想いが、愛おしむ気持ちが、ひしひしと伝わりくる。

 

「あいつならできるとオレは信じている。そのために、あいつには生きる力を与えなければいけなかった。悲しみに打ちひしがれ、立ち止まっていてはダメだ。それではうちはの力を欲する者に利用される。戦いの絶えぬこの時代、オレ達の力はどこにおいても魅力的な物だからな。暁にしてもそうだ。オレにどんな目的があろうと、結果としてその力を利用されていることには違いない。強い力とは、己の意思とは反して気づかぬうちに利用される。利用しているようでいつの間にか逆になっている。そういう事がいくらでもありうる。」

 

イタチは目を細めて遠くを見つめた。

 

「真実と現実は、必ずしも一致するものではない。」

 

深みのあるその言葉は、苦しい現実を耐えてきたイタチだからこその物。

 

「たとえ知らぬ間に利用されていても、最終的にはそれをはねのける強い力とゆるがぬ『目的』を持っていなければならない。サスケも、オレも、自分にしかできない目的をな。」

 

「自分にしかできない目的」

 

うなずき、イタチは強い光をたたえた瞳で私を見つめた。

 

「オレの目的は二つある。一つはサスケの中から大蛇丸の呪印を消し去ることだ。」

 

私は黙ったまま言葉を聞き入れる。

 

「お前も一度受けたあの術だ。強力な力を得られるが、精神を蝕まれる。闇にな。術というよりは呪いのようなものだ。あれと同じものがサスケにも埋め込まれている。」

 

ほんの小さな火種を大火にする力があると、イタチは厳しい瞳で言った。

 

「呪印はサスケを一生苦しめ、2度と登れぬ闇の谷底へといざなう。だが、容易に取り除けるものではない。大蛇丸同様執念深く根の深い術だ。」

 

大蛇丸の顔が浮かんだのか、イタチは顔をゆがませしばし黙した。

 

そして、私をじっと見つめる。

 

「もう一つの目的。これはサスケの目的でもある。その目的を持たせるために、オレは見せなければいけなかった。両親を殺したオレの姿を…」

 

それは奇しくも、私が孤児達に期待している効果と似ていた。

 

「そうすることで、決してぶれない憎しみを、オレへの憎しみを植え付けた。どんな悲しみよりも強い感情。それがサスケの生きる力になる。そして、何者かに利用されようとも、最終目的がオレである限り、あいつは全てをはねのけてオレのもとへ来る。必ず…」

 

その先を。

 

「それこそが、オレとサスケの目的」

 

風が吹いた…

 

静かなその風が二人の髪を夜の中に揺らめかせる…

 

「呪印を封印したのち」

 

私はその先の言葉が聞こえぬよう耳を塞ぎたい衝動に駆られた…

 

言葉が零れ落ちる唇の動きが見えないよう、目を閉じたくなった…

 

だが、体が動かなかった。

 

目をそらすことができなかった…

 

自分の鼓動が聞こえるほどの静寂の中、イタチが静かに、穏やかな口調で告げる。

 

「サスケと戦い、サスケに討たれる。」

 

言葉の終わりと同時に、私両目から涙があふれ出た。

 

…本当に勘弁してほしい…

 

…知っていた…

 

覚悟の上で、そこへ向かっている。

 

それでもイタチの口から聞くその『目的』は、あまりにも痛みが強かった。

 

逸らせぬままの目から、涙が追い溢れてくる。

 

イタチはその涙ごと私のほほを両手で包み込んだ。

 

「藍。それがオレの求める最期なんだ。」

 

静かな声だった。

 

恐れも、迷いも、後悔もない静かな声。

 

久しぶりに呼ばれた本名。

 

それがまるでイタチの決意の強さを感じて、悲しみが一層深まった。

 

「うちは一族を殺したオレを討てば、サスケの名は【うちは一族の仇を取った英雄】として世間に認められる。そうなれば、木の葉の里はサスケを受け入れざるを得なくなる。あいつは里に帰れる。」

 

イタチはそのことを想像したのか、嬉しそうに微笑んだ。

 

その笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

 

「オレはもう戻れない。だが、あいつはまだ帰れる。故郷に」

 

必死にこらえていた様々な物が、嗚咽となって私の中からあふれ出た。

 

「それこそが、オレが兄としてあいつにしてやれる最後の事。」

 

どこまでもサスケ君の兄として生きる覚悟…

 

そして死にゆく覚悟…

 

その想いを乗せて、イタチは言葉を馳せてゆく。

 

「あいつは、里を、仲間を愛している」

 

愛に溢れた瞳…

 

「自分が生まれ育ったあの里を、誇りに思っているんだ。」

 

誇らしげな強い言葉…

 

「里に帰りたいと思っている…」

 

だけど、それは…

 

止まらぬ嗚咽に呼吸を遮られ、息苦しさに襲われながら、私は言葉を絞り出した。

 

「それは貴方も同じ」

 

イタチの胸元をぎゅっと握り、額を押し当てる。

 

伝わり聞こえるイタチの鼓動は、穏やかで優しい波打ち。

 

「どうして…」

 

この人は恐れないのだろう…

 

「オレはそのために生きてきた。」

 

「どうして…」

 

イタチは戻れないのだろう…

 

「オレは闇に生きる事を選んだ。」

 

「どうして貴方はそんなに優しいの…」

 

見上げた先で、イタチはやはり柔らかな顔で微笑んでいた。

 

「どうして貴方は、笑っていられるの…」

 

すべての苦しみを、闇を、痛みをその身に受けて。

 

それでもなお、穏やかに笑う…

 

「どうして…」

 

溢れて止まらぬ涙と共に繰り返されるその言葉に、イタチは一層優しい顔で返す。

 

「お前がいるからだ」

 

大きく、それでいて繊細な手が私の髪をなでる。

 

「お前は自覚が無かったかもしれない。だけど、お前がオレの心の支えになっていた。だから、オレは強くいられる。」

 

「イタチ…」

 

「藍…」

 

小さく震える肩を、イタチの手がやさしく支えてくれる。

 

「これが…」

 

瞳にほんの少し不安な色が揺れる。

 

「これがオレのすべてだ。」

 

「……う……」

 

私は今までのすべてを抱きしめるように、自分の胸をぎゅっとつかみ、ゆっくりとうなずく。

 

「オレはお前の思っていた人間とは違ったんじゃないか?」

 

確かにそうかもしれない…

 

涙で滲む視界の向こうに、必死にイタチを映す。

 

怒りに駆られ、狂気を覗かせる一面…

 

迷いも、悩みも、弱さもあった…

 

自分が知っていた、うちはイタチとは少し違っていた…

 

私はもう一度うなずき、イタチを見つめる。

 

「だけど、貴方の事がもっと好きになった…」

 

イタチの瞳から不安が消えてゆく。

 

どちらともなく唇を合わせ抱きしめあう。

 

「藍」

 

強い響きを持つイタチの声。瞳にも強い光が伴う。

 

「オレはサスケを呪印から解放し、サスケに討たれる。」

 

まるで自身の中に確認するかの様に、イタチは丁寧に言葉を紡いだ。

 

「サスケを頼む。」

 

私は無言のまま微笑んだ。

 

「お前に酷な事を言っている…」

 

イタチの声が少し震えた。

 

「オレの尻拭いをお前にやらせようとしている…オレは木ノ葉の為に動いている。暁の敵である木ノ葉の為だ。……お前にとって暁がどういうものなのか、なんとなくはわかってるつもりだ。……家族を仲間を殺すような事に加担させている。……かつて、オレが味わった苦しみをお前に背負わせようとしている。」

 

言葉を返せず、私はイタチの背に回した腕に力を入れる。

 

「何も話さず、消え去る事も考えた…」

 

同じようにイタチも力を入れる。

 

「だが、お前には話しておきたかった。知っていてほしかった。オレのすべてを…」

 

「イタチ…」

 

息が苦しいほどに互いを抱きしめる。

 

「お前の中に残しておきたかったんだ。オレの生き様を…どんなに業が深くても。」

 

私は、何度も強くうなずく。

 

「うん、全部忘れない…」

 

「ああ。忘れないでいてくれ…」

 

安堵の息が、言葉と共に私の耳元で揺れた。

 

二人は同じ決意の色を浮かべた瞳で見つめ合う。

 

「共に背負ってくれるか…」

 

強い光を放つその瞳から、本当に小さな涙が一粒こぼれた。

 

「イタチ…」

 

その涙は、蛍の光一つ分にも満たないほど小さい。それでいて今ここにある幾百のその光より美しく尊い。

 

私はイタチのその涙を、大切にすくい上げた。

 

「私はきっと貴方を愛してるんだと思うの。だからこそ、その想いを受け継いで共に歩むよ。」

 

「ああ。共に歩んでくれ」

 

結局、私はイタチや兄さんのように世界だとか里だとかで物事を考える事はできない。ピンっと来ないのが正直なところ。

 

それでも目の前のこの人の事なら十分理解できた。

 

私は瞳を閉じた。

 

二人の涙の粒が重なる。

 

喜びなのか、悲しみなのか、苦しみなのか

 

その涙の正体は分からない。

 

ただ愛しくてたまらない気持ちだけは、確かに感じることができる。

 

それは、切なく、そして優しい輝きを放っていた。

 

イタチが私の髪留めを外した。

 

そのまま二つの影が重なった。



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始まり

翌朝、少しの肌寒さを感じて目が覚めた。昨日まで感じていた彼の温もりが隣には無かった。

 

もう行っちゃったんだね。

 

少し寂しさを感じながら、身支度を整える。

 

シャワーを浴びて、服を着る。髪留めを留めて仮面を被り宿から出た。

 

まだイタチの気配は残ってる。

 

それを追うように歩いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

三日程、何をやるでも無く歩いた。

 

死んでしまった者。デイダラにトビ。

 

サスケ君はどうやら生き残ってたようだ。

 

そして、イタチ。多分、もう彼とは会う事も無いだろう。

 

きっとあれが最後だから、話してくれたんだと思う。

 

兄さん、再不斬さん、クロ、サソリ、デイダラ、イタチ………

 

皆の願い、想い、そして死が私を生かしてくれている。

 

ナルト君、サスケ君、サクラさん、カカシさん。

 

彼らは先に逝ってしまった者達の希望だ。

 

私は彼らの尸の上に立っている。ならばこそ、私は戦いに殉じよう。全てを無かった事にしない為に。

 

決意を固めた時、目の前には鬼鮫さんがいた。

 

「ここで何してるの?」

 

「ん?ああ、コンですか。…ここでサスケ君を待っているんですよ。」

 

「サスケ君を?」

 

「ええ、イタチさんの命令で彼以外をここから先に進ませないように足止めをとね。」

 

「そう。……じゃあ、私もここで待ってていいかな?」

 

「おや?…貴女ならてっきり、イタチさんの所へ行きたいと言うかと思いましたよ。」

 

「……そうかもね。でも、いいよ。信じてるから。」

 

でも、別れはもう済ませてるんだ。

 

これ以上会ったら、お互い決心が鈍ると思うから。

 

「………少し変わられたようだ。」

 

「……私が?」

 

「ええ、具体的には説明できませんがね。」

 

そうなのかな。自分でもよくわからないや。

 

そんな話をしていたら、4人小隊とぶつかった。

 

サスケ君も随分と背が伸びたね。

 

久しぶりに見るサスケ君。最後に見たのはもう三年前だ。

 

「アンタらは…!」

 

サスケ君の目が写輪眼になる。

 

こうしてみると本当に兄弟なんだね。

 

「ここからはサスケ君一人で行ってください。イタチさんの命令でしてね。他の方々はここで待って貰いましょうか。」

 

「…わかった。小隊で動いていたのは、元々一対一に邪魔が入らない様にする為だったからな……ちょうどいい。」

 

鬼鮫さんが止める。サスケ君はイタチにしか興味が無いようであっさりと鬼鮫さんの話を呑む。

 

「サスケ!それは駄目だ!こいつらを倒して全員で行くんだ!!」

 

ただ、くノ一の一人だけは異を唱えた。

 

「私は戦う気などありませんがね。無理矢理通ると言うなら容赦はしませんよ…」

 

「香燐…お前たちここで待て。これはオレの復讐だ。」

 

「チィ…」

 

そう言うとサスケ君は私達の後方へ走って行った。

 

きっとこれでサスケ君とイタチの因縁に決着が着く。イタチの死でもって……

 

胸が酷く痛む。だけど、これ以上は彼の覚悟に対する侮辱だ。なら見届けるとしよう。

 

「干柿鬼鮫…そして大刀・鮫肌。」

 

「…………」

 

「忘れたか?鬼灯満月の弟、鬼灯水月だよ。」

 

彼が水月君。再不斬さんと同格と言われてる忍か。

 

「おお…見違えましたよ!大きくなりましたね、水月。」

 

「ここでただサスケの帰りを待つのも何だから…暇つぶしに楽しく遊んで貰えないかな…鬼鮫先輩!」

 

そうして水月君が取り出した刀を見て硬直した。

 

断刀・首切り包丁

 

それは私の師匠の相棒とも言うべき刀。

 

何故、それを?

 

まさか、あの墓場から持ち出したのか?

 

「……水月君、それ…」

 

鬼鮫さんが手を出して私を止めた。

 

「……貴女が思ってる以上に今の貴女は危うい。ここで見ててください。それに向こうは私を指名しましたしね。」

 

そう言うと鬼鮫さんが前に出て、鮫肌を構える。

 

「お兄さんと違い、やんちゃですね。少し削ってあげましょう。」

 

「水月…サスケの言いつけを守らなくていいのか?」

 

そうして、鬼鮫さんと水月君が戦いだした。

 

最初は水月君の水化の術が珍しく感じていたけど、段々と目の前の戦いがどうでも良くなってくる。

 

どうしても意識は後方へ向く。

 

今もきっと二人の死闘は続いている。仲のいい兄弟だった筈なのに。

 

もし私が兄さんと殺し合うなんて事になったら、とても耐えれないなと思う。

 

再び、意識を前に向ける。

 

水月君は私と同じようで、剣捌きは悪くはないけど、腕力が足りて無い感じだね。

 

苛立ちかける気持ちを鎮めるべく、視線を他の二人に移す。

 

くノ一は此方にあまり警戒してはいないようだ。鬼鮫さんを難しい顔で睨みつけてる。

 

チャクラ感知ができる彼女なら、鬼鮫さんのチャクラ量が尾獣並みだって事がわかる筈。

 

だから、フリーになってる私よりも鬼鮫さんが脅威に感じるようだ。

 

まあ、実際に鬼鮫さんが本気で戦えばここにいる全員が巻き込まれて殺されるくらいには術の規模大きいしね。

 

そうして暫く時間が経過した頃。天候も悪くなり、やがてイタチの気配が消えた。

 

サスケ君の気配は健在。

 

………そう。終わったのね、イタチ。

 

「ヒマツブシ ハ モウ オワリ ニ シロ。」

 

ゼツが現れた。

 

「お前は?」

 

「ゼツ。」

 

「チィ、暇つぶしじゃねーよ。」

 

「それでは終わったのですね。」

 

「ああ、決着が着いたよ。」

 

「サスケは?」

 

このくノ一はサスケ君が心配なようね。

 

「無事だ。サスケが勝った。」

 

「で、サスケはどこだ?」

 

「スデニ アンゼンナ バショニヒナンサセタ。」

 

「安全な場所?」

 

「暁ノヒガシノアジトダ。オマエタチモ ソコニムカヘ。モウスグ、コノアタリニ 木ノ葉ノレンチュウ ガ ヤッテクル。」

 

「行こう。サスケの所に。」

 

「オマエハ ドウスル 鬼鮫?」

 

「イタチさんが亡くなったのなら、少し羽根を伸ばさせて貰いますよ。」

 

「コンハドウスル?」

 

「私も行きたい所があるの。」

 

「そう。勝手にすれば。」

 

ゼツは地中に潜った。

 

私も行こう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

波の国。彼らの墓がある場所だ。

 

兄さん、再不斬さん、クロ、サソリの墓がここにある。

 

やっぱり、首切り包丁は無いね。

 

再不斬さんのお墓には、首切り包丁を抜いた後の様な穴が空いていた。

 

ここにデイダラとイタチの墓が増えた。

 

彼らの死が私の今を形作っている。

 

貴方達の意志は消えない。それはこの世界と私の中で生き続けてる。

 

もう行くよ。まだ終わりじゃないからね。

 

彼らに背を向けて私は歩きだした。



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先行き

イタチが亡くなって、すぐに六尾が捕獲されて封印された。

 

今回は6日かかった。一体だけにもかかわらずだ。それだけ暁のメンバーが減ったと言う事だ。

 

もう残りは5人だけ。残る尾獣は2体。

 

九尾と八尾。

 

噂によれば、八尾は私よりも強いらしいし、ナルト君の強さはよく知ってる。

 

私にとって暁は大切なものだ。だけど、兄さんもイタチもナルト君を狩る事は望んでいない。なら、ナルト君の力を信じよう。ナルト君の夢が勝つか、暁の平和への構想が勝つか。

 

「十分羽は伸ばせたかい?」

 

ゼツが現れた。

 

「東のアジトに集合だよ。」

 

「スグニ ムカウヨウニ トノ コトダ。」

 

「…………」

 

「伝えたよ〜」

 

すぐにゼツは消えた。

 

色んなメンバーに声をかけてるのか。

 

とりあえず今はアジトに行こうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「コン先輩ー!」

 

アジトに着いた途端。トビが出迎えてくれた。

 

「生きてたのね。よかった。……怪我は無い?」

 

「大丈夫ですよ!ピンピンしてます!」

 

「そう良かったわ。」

 

アジトに入る。

 

「コン先輩にお話があるんスけど。」

 

後ろから声をかけられる。

 

「どうしたの?」

 

振り返るとトビが仮面を少しずらして、右目を見せていた。

 

「貴方、それ……」

 

写輪眼だ。

 

「お前もよく知ってるだろう。」

 

口調も全然違うし。

 

「オレの正体はうちはマダラだ。」

 

さらっと告げられた衝撃の事実。

 

「うちはマダラって、あの伝説の忍?」

 

「そうだ。」

 

「……そう。」

 

何で生きてるんだろう。それにもし本当にそうなのだとしたら、暁の本当のリーダーはこの人か。

 

「……それが本当の貴方なのね。」

 

まあ、マダラだからと言って別に今までの態度を変える気は無い。この人がどんな行動をするのかによるけど。

 

彼の後ろに着いて行くと鬼鮫さんとサスケ君達4人がいた。

 

「木ノ葉を潰すと言っても具体的にどう狙っていく?」

 

木ノ葉を潰す?

 

どういう事だろう。

 

「殺るのは上層部だ…それ以外は基本的に対象としない。」

 

「…あの、いきなりの事でよくわからないのだけど、何で木ノ葉を潰す事になったの?」

 

いきなりすぎて、意味がわからなかったので聞いてみた。

 

「後でオレが説明してやる。」

 

マダラが教えてくれるそうだ。

 

「上を狙えば下が盾になる。そう簡単には行きませんよ…アナタたち鷹とやらだけでは戦力不足ですねぇ。」

 

「鬼鮫先輩…あまりボク達を舐めない方がいい。あの時の遊びの決着はまだつけてないし…本気で…」

 

「やめろ水月。」

 

水月君は鬼鮫さんにかなり対抗意識があるようね。

 

「フッ…」

 

その瞬間、水月が瞬身の術で鬼鮫さんに斬りかかった。

 

私は即座に氷剣を生成。首切り包丁に空いてる穴に氷剣を差し込み、首切り包丁を止めて、そのまま水月君を蹴り飛ばした。

 

「うわっ!」

 

壁に叩きつけられた瞬間に、水になる水月君。

 

水化の術は便利だね。

 

「…水月君。その程度の力で首切り包丁を振り回さない方が良いですよ。……特に私の前では。」

 

「水月、てめーバカじゃねーのか、こんなとこで!」

 

「ボクの目的はそこの鮫肌だ…それを手に入れるためにサスケとくっついてただけだ。…ボクに蹴りを入れてくれた君もその内、斬り殺すけどね。」

 

ちょうどいいのかもしれない。水月君が再不斬さんの後任として相応しいか。私が戦ってみよう。

 

そう思い。水月君に向かおうとする私を鬼鮫さんが止めた。

 

「ここは話し合いの場だ。技のキレを見せる場ではありませんよ。」

 

まあ、そういう事なら。

 

「…わかったわ。」

 

「サスケ…どうするんだ?」

 

「分かった。やりたきゃ勝手にやれ水月。どうせまだそいつらには勝てない。」

 

「おお…言うね、サスケ。まあ、そのうち美味いフカヒレと淡白な刺身でも食べさしてあげるからさ。」

 

「そうは言っても暁も戦力不足だ。」

 

「人のことばっか言えないねアンタら。」

 

「我々の利害は一致する。これより鷹は暁と行動を共にしてもらう。」

 

「その話にオレ達が乗る見返りは?」

 

「尾獣をやる。」

 

「尾獣?」

 

「何も知らないのか?」

 

「あれだろ!九尾の仲間みたいなもんで尾の生えたチャクラの塊が具現化したーー」

 

「つまり何だ?」

 

「チャクラのバケモノだ。元々は初代火影がいくつか集めてコントロール下に置いていたものだ。忍界大戦の度に火影柱間はそれらを条約や協定の証に五大国を始めとする他国に分配し、パワーバランスを取ってきた。究極のチャクラ兵器と言ってもいい…悪くない条件だろう。」

 

「気前がいいな。」

 

「ただし暁を裏切ればちゃんと死んでもらう。」

 

「フッ…」

 

「…この世に尾獣は九匹います。今は七匹まで暁が集めてますから…あと二匹。」

 

「オレたちと鷹で残り二匹を手分けして狩る…それが我々の目的だ。」

 

「ってことは…九尾はまだってことか。」

 

「ナルトは暁が狩る。鷹はもう一方を当たれ。」

 

ナルト君とサスケ君を当てたくないようね。失敗のリスクが大きいでしょうし。向こうはサスケ君が木ノ葉に帰ることを願ってる。

 

サスケ君達は早速、雲隠れの里へと向かって行った。

 

マダラから今の状況を伝えられる。

 

「今、ペインと小南が木ノ葉へ向かってる。」

 

成程、その二人か…

 

ある意味この戦いが一番の山場かも。私が判断する上で。

 

長門も小南もナルト君も平和への願いを持ってる。ナルト君はより理想的な方法で、長門達はより現実的な方法で……

 

どちらが絶対的に正しくも間違ってる訳でもない。だけど、これが今後のこの世界の方向を決める物になりそうだなと思った。

 

ただ、イタチの想いを知った今なら、理想的な平和を現実的な方法で実現しようとしたイタチの意志を尊重したいと思う。

 

ナルト君が勝てば、現実的な側面でサポートしよう。私が戦い続ける事で……

 

長門と小南が勝てば、理想的な側面でサポートしよう。私が傷ついた人達を慰める事で……

 

「それで、どうしてサスケ君が木ノ葉を潰そうと考えたの?」

 

「オレがサスケにイタチの真実を話したからだ。」

 

「ちょっと、何で!!」

 

「やはりお前も知っていたか……。だからこそだ。サスケにはイタチの真実を知る義務がある。そして、彼が自分で考えて決断した事だ。」

 

そう言われるとそうだが……

 

「お前はどうする……」

 

どうするか…

 

わかっていた事だ。イタチの意志を受け継いだ時点でジレンマに陥る事は、だけどまだ私の答えを出せていない。

 

なら、長門と小南、ナルト君の先を見て判断しよう。

 

「……わからない。今までと変わらないわ。」

 

「そうか。好きにすればいい。」

 

「……ありがとう、マダラ。」

 



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目的

サスケ君の八尾の捕獲には失敗したらしい。身代わりの術で成り代わっていたそうだ。

 

やはり、八尾の人柱力はかなりのやり手だそう。

 

今は鬼鮫さんが八尾の捜索をしているそうだ。

 

それから、ユキウサギから情報を得て知った事。長門と小南相手にナルト君が勝利した事だ。

 

長門が死亡。小南が暁を抜けた。

 

そうか。……なら、私の取る選択も決まったね。

 

マダラは今、鉄の国に向かってた筈。

 

私も鉄の国へ行こう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鉄の国は猛吹雪だった。この国は侍が統治している国だ。どうもここにサスケ君を案内する為にマダラが来ているらしい。

 

なんでも五影会談を行うらしい。

 

そうして潜り込んだ先では、激しい戦闘があったのか、どこもかしこも侍が慌しく走り回っており、瓦礫なども散乱していた。

 

気配を消して、中を進めば五影とマダラが睨み合っていた。

 

私は通路の影に身を潜め、気配を消す。

 

そして、マダラの口から出た『月の眼計画』の全容。

 

これが長門や小南が言っていた全ての人間に幻術をかけるって言う真相な訳ね。

 

はあ……

 

思わず胸中で溜息が出る。

 

暁は平和を目指す為の組織。そう聞いて加入した。

 

……その暁が全世界に宣戦布告なんて、本末転倒もいい所だ。

 

それに今や、その想いで勧誘した小南も弥彦もいない。

 

本当に遣る瀬無い気持ちになる。

 

私はこんな事の為に戦ってきたのか……

 

こんな事の為にイタチやデイダラ、サソリは死んでしまったのか……

 

ただただ哀しい……

 

残ってる鬼鮫さんはどう思ってるんだろうか……

 

今は八尾を捜索してるようだけど、これを聴いたらどう思うのか……

 

とりあえず、去ってしまったマダラを追いかけよう。サスケ君の狙いは恐らくダンゾウ。マダラがわざわざサスケ君を案内したのなら、ダンゾウを追いかけている筈。

 

ダンゾウの気配はまだ感じれる。それを追う事にしよう。

 

「そこの物陰に誰か隠れてる!!」

 

あれは確か、シーさん。

 

成程、感知タイプだから気付かれたか。

 

次の瞬間、砂の弾丸が飛んできた。

 

跳んで回避する。

 

不味いな……

 

火影以外の四影に囲まれてる。プラスそれらの護衛達か。

 

まともにやり合えると思わない方がいいだろう。

 

今の砂の攻撃は風影様の攻撃か。

 

「此奴も暁か!!」

 

「……次から次へと」

 

「此奴は!?」

 

「貴様!!」

 

雷影様と土影様が睨みつけてくる。水影様も表情は険しい。風影様は無表情。

 

「知っているのですか?土影様、雷影様。」

 

「知っておるも何も、こいつに五尾を取られたんじゃぜ。」

 

「ワシの部下もこいつに殺された!!」

 

いや……雷影様の部下は殺してないよ。

 

言っても信じてはくれないだろうけど。

 

「若い男は好きだけど、女は邪魔なのよね。……それにその面をつけて水影の前に立とうだなんていい度胸してるわね。」

 

「今のうちにでも暁は一人でも多く減らしておくべきだ。」

 

特に注意すべきは勿論四人だけど、それ以外のサポート特化の存在も厄介だ。

 

そういえば、誰か忘れているような。

 

背後に殺気を感じた。

 

右手に氷剣を生成。振り向きながら剣を振り抜く。

 

バチンッと刀とぶつかる。

 

この人は侍のリーダーのミフネさん。

 

背後から斬りかかってくるとはね。油断してたかしら。

 

鍔迫り合いから、一瞬剣を引く事でミフネさんの体重を崩す。

 

崩れた所を氷剣で刀を絡めてミフネさんの手から刀を弾き飛ばす。そのまま体を回して斬りつける。

 

だけど、氷剣の斬撃が浅く、剣先に少量の血を垂らすだけとなる。

 

即座にミフネさんから意識を変える。

 

眼前には既に雷影様の拳が迫ってくる。

 

ジャンプして回避。そのまま雷影様の背後に着地。

 

あまり懐に入るような回避の仕方は危険だ。雷影様の雷遁瞬身は、伝説の飛雷神の術とも張り合える速度。幾ら、私の瞬身が速いって言っても、通常の瞬身では雷遁瞬身には敵わない。

 

それと、あの頑丈な肉体も脅威だ。膂力の低い私では体術でダメージを与える事は絶望的。更には雷遁チャクラの鎧までも纏ってる。風遁チャクラ流しで氷剣を強化しても厳しいだろう。

 

土影様の原界剥離の術は簡単に相殺できるから問題はない。

 

風影様の砂の攻撃はタイマン勝負であれば、相性は最悪。範囲攻撃に対しては速度も体術でも回避ができないからね。幸い、周りを巻き込む攻撃はできないだろうから、そうなると速度の遅い砂は脅威じゃない。

 

水影様も同様だ。沸遁が私にとっての有効打になるけど、他人を巻き込む性質上使わない。溶遁の術は速度が遅いから回避可能だ。

 

結果、一番の脅威は雷影様になるな。

 

「図に乗るなぁ!!」

 

雷影様の裏拳がくる。

 

首を下げて回避。ガラ空きの脇腹に風遁で強化した氷剣を叩き込むけど、案の定氷剣が砕けた。

 

即座に後方へ瞬身。

 

どう考えても、このまま雷影様と接近戦をしても勝てない。速度は勝てないし、力はもう比較すらできない。当たれば一撃で勝負がつくレベル差だ。

 

だけど、既に眼前に迫ってくる雷影様。

 

逃すつもりはないってことね。

 

咄嗟に千本を投げる。

 

「小賢しいわ!!」

 

顔面に投げたのに、全く避ける素振りは無しか……

 

幾らダメージは負わないとわかっても、顔に来たら本能的に避けそうなものなのに、大した胆力だ。

 

それだけ、影と言う存在を甘く見てはいけないってことね。

 

千本は雷影様の額に当たり弾かれる。

 

重流爆(エルボウ)!!!」

 

巨大な肘鉄がくる。

 

その腕に乗るように回避し、雷影様の後頭部に蹴りを入れる。だが、ダメージは無く逆に蹴りを放った私が押し出される。

 

問題はない。距離を離したいから、寧ろ好都合。

 

「連弾砂時雨!!」

 

「塵遁・原界剥離の術!」

 

少し距離が離れた瞬間に、遠距離技がくる。

 

普通の砂だと弱いから、速度の速い物で来たか。

 

「氷遁・万華氷」

 

こちらも万華氷で対抗。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

塵遁も相殺する。

 

「チョロチョロと大人しくセイッ!!」

 

やっぱり雷影様が速い。

 

そして、私にとって一番都合が悪いのが掴み技。

 

私の細い身体では、掴まれたら握力だけで、手足が潰れる。それで地面や壁に叩きつけられたら即死。良くて重症。

 

掴まれてしまったら、接触凍結で対抗するしかない。

 

「風遁・烈風掌」

 

掴もうとする腕に風遁を叩きつけて、無理やり離脱する。

 

これ以上は、この人達に構ってられないな。ダンゾウの気配がかなり遠くまで行ってしまってる。

 

本当は使いたくないけど、忍術だけではここからの逃走はできそうもない。

 

「時間凍結」

 

空間を漂っていた砂も、天井から落ちてくる瓦礫も、吹き荒れていた風も、全てが停止する。

 

私はダンゾウが逃げて行ったであろう壁の穴から外に出た。



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原典能力者

森を走る。ダンゾウの気配はある。それを追いかける青さんの気配も感じる。

 

このまま真っ直ぐ追いかけても、先に青さんに会ってしまうな。どうにか青さんをやり過ごすしかないか。

 

異変は突然起こった。

 

捉えていたダンゾウと青さんの気配が遠ざかった。

 

周りの景色は変わっているような感じはしないが、明らかに私が移動したと言う事だけはわかる。

 

私は足を止めた。周囲を見る。景色が変わったようには感じない。森の中だ。

 

だけど、遠くに飛ばされた感じがする。

 

なら、犯人は………

 

側に感じる気配。こいつか………

 

木陰を睨んでいると、そいつは出てきた。

 

全身白色。

 

白い髪に白い和服を纏い、白い袴を履き、白い上着を纏った男性。唯一、瞳の色だけが蒼い光を放っていた。

 

その男性はこちらを胡散臭い笑顔で見つめていた。

 

ただ、なによりも私を警戒させたのは、その気配。私が便宜上、氷遁としている忍術でない力をこいつから感じた。

 

ーー同類ーー

 

本能でそれを感じた。

 

「やあやあ♪ 始めまして♪」

 

口を開けば更に不気味さを増す。

 

「……貴方は何者ですか?」

 

問えば更にニヤニヤと笑い出す。

 

「そんなこと聞いちゃってさ〜♪ ホンマは気づいてるでしょ♪ ボクと君が仲間やって事にさ!」

 

「それはわかってますよ。その上で聞いてるんです。」

 

「…あ、そうだったの。アカンアカン♪ ボクはシンジ。君と同じ“剣気”の使い手や♪」

 

剣気?

 

何だそれは?

 

「私はコンと言います。」

 

「あれ?コン?……藍ちゃんや無かったっけ?」

 

何でそっちの名前を……

 

「不思議そうだね♪ ボクは君が初めて剣気を発現した時に声をかけた筈だよ♪」

 

ダンゾウに襲われた時か?大蛇丸から逃げ出そうとした時か?

 

そんな誰かに声をかけられた事なんてなかったはず。

 

だと言うのに、目の前のコイツの声は何処かで聞いたことがあった。

 

そうだ。私は氷遁を使う前から、この力を掴みかけてはいた。何故ならこの気配感知や幻術と毒物に対する耐性こそ、説明の付かない力だからだ。私の拘束などを破る不可視の刃も同様だ。

 

それを行使した最初の瞬間、12年前の始めて再不斬さんとサイレントキリングの訓練を行ったあの時

 

 

“おはようさん♩ようやくお目覚めかな〜♩”

 

 

「あれは貴方の声だったと言う事ですか。」

 

「お♪ ちゃんとわかってくれた?…いや〜、随分と成長したんだね〜。そないに強くなっちゃってさ♪…小指一つで世界を滅ぼせる力を持った感想は?」

 

「貴方に私の何がわかるの?」

 

「わかるよ〜。だって同じ力を扱えるんやからさ♪」

 

「……そう。今、忙しいからそこをどいてくれるかしら?」

 

右手に氷剣を生成。左手に千本を持つ。

 

「まあまあ、そう言わずにさ♪ ちょいと遊ぼうよ♪」

 

シンジもナイフを抜いてくる。

 

地面を蹴ったのは同時だった。

 

シンジがナイフを振り抜いてくる。千本で受け止めて、氷剣を振り下ろす。

 

シンジが体を横にずらして、回避してくる。それと同時に左から蹴りがくる。

 

屈んで回避して、千本を投げる。

 

しかし、投げた千本が敵に到達する前にこちらに飛んできた。

 

瞬身で後方へ逃げる。着地の瞬間に背後に気配を感じて、氷剣を背後に振り抜く。

 

ナイフで止められた。

 

鍔迫り合いをしながら、思考する。

 

今の現象は何?

 

あれがコイツの能力なの?

 

投げた千本がこちらに跳ね返ってきた。

 

それに移動した気配を感じなかったのに、突然背後に現れた。だとしたら、時空間忍術……

 

「考え事かい?」

 

シンジの頭を狙って、左手足で回し蹴りを放つ。

 

シンジは退けぞって回避してくる。そのまま、バク転の要領で私の顎を狙った蹴りがくる。

 

右手で受け止めて、氷剣で斬りつける。

 

しかし、シンジが空中で体を捻らせて回避される。そのままナイフで斬りつけてくる。

 

私も体を逸らして、顔面に蹴りを入れる。

 

それも左手でガードされる。

 

お互い距離を離す。

 

体術は互角ね。

 

今のまま続けてても千日手。

 

「いや〜♪ おもろいね〜♪ ……アホみたいな力を持ってるボクらからしたら、こういう斬り合いでの勝負は娯楽みたいなもんやなぁ♪」

 

「随分と余裕なのね。」

 

「そらそうやろ。…君もおんなじやろ?何で、そないに気を張ってるんかわからんわ。」

 

「…そうね。私も全力で戦った事はないかもしれない。いつも相手の力量に合わせて、自分の出力を変えてる事は否定しないわ。だけど、全力で無くても、本気で戦ってつもりよ!」

 

「なんやなんやぁ?真面目ちゃんかいなぁ〜。相手に失礼とか思っちゃてるん?」

 

コイツと問答しても、考え方が相容れないな。

 

さっさと終わらせる。

 

「氷遁・万華氷」

 

「ハイ、そのまま返したるわ。」

 

そう言うと万華氷がこちらに飛んできた。

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

氷の壁で止める。

 

さっきの千本と同じ現象……

 

「不思議そうだね〜♪ ボクの能力を教えてあげるよ♪ ボクの剣気は“空間の剣気”。能力名は『超神速』。君の能力は“停止の剣気”『凍結』。」

 

それでさっきの瞬間移動やら、空間操作を実現していた訳か。

 

「……何故、私の能力がわかるの?」

 

「そんなん、決まってるやん♪ 剣気は元々ボクの力なんやから!」

 

「………意味がよくわからないわ。」

 

「いや〜、元々凄いムカつく神様がおったんやけど、そいつを殺す為に剣気を身につけたんや♪ せやけど、あまりに力を持ちすぎて、何もかんもアホらしくなってもうたんや。せやから、ボクの力を何等分にも分けて、あらゆる世界にばら撒いたんや♪ それが君っちゅう人格を成し、受肉した姿が雪藍や♪」

 

どうやら、コイツは誰かに支配されるのが、気に食わない性格のようだ。

 

ニヤニヤとこちらを見て笑ってくる。

 

コイツの脳内では、今頃自身のルーツを明かされて驚愕している姿を想像しているんだろう。だけど……

 

「わざわざ私の根源を教えてくれてありがとう…………で、今更そんな事で私が揺らぐと思ってるの?」

 

より強い剣気を纏って威嚇する。

 

すると、一瞬ポカンとした顔を見せてすぐに笑い出した。

 

「あっははっははっは!!アカンアカン。君は思った以上に、強い子やったんやね♪ ええよ、剣気は心の強さに比例して強くなる♪ 精神が強い子は好きやで♪」

 

「私は貴方が嫌いよ。」

 

「そう邪険にせんといてや。気に入ったから、サービスや。……剣気は“神殺しの能力、性質は龍”。故に神性が高い相手ほど、毒性が増す。そんな性質があるんや。」

 

「ご高説ありがとう。……もう帰っていいよ。氷遁・万華氷剣」

 

「お!じゃあ、ボクも対抗して♪」

 

無数の氷剣を射出するが、シンジも無数の刀剣を虚空に出現させて相殺される。

 

「更に追加や♪」

 

今度は無数の鉄の筒を召喚する。

 

何だろう、あれは?

 

そう思った瞬間に一斉に鉄の筒が火を吹いた。

 

咄嗟に空間凍結で私の周りの空間を停止させる。

 

凄まじい轟音と煙が広がる。

 

何今の?

 

「へえ、凄いやん♪ 大砲の雨をそんな方法で防ぐなんて♪」

 

「…………たいほう?」

 

「あら、知らんの?……まあ、この世界にはないってことかな?核兵器とか知ってる?」

 

何だろう、どっちも聞いたことが無い……

 

「知らんみたいやね。まあ、君には通じないし、やる意味ないわ。……太陽をこの場に召喚しても、空間固定相手じゃ熱が通らんし……」

 

とんでもない事を言っていないか?

 

「でも、ボクならこの空間固定の壁もすり抜けられる♪」

 

そう言いながら、シンジが空間凍結の中を歩き出した。

 

馬鹿な……

 

この空間凍結を突破されたのは初めてだ。

 

そもそもマダラの時空間忍術に似てるんだ、コイツの能力。

 

だったら、実体化してる瞬間を狙うしかない。

 

もう一度接近する。

 

斬り合いを再開する。

 

遠距離で撃ち合っても、常に相手が『反射』や『透過』、『空間固定』をしてくるなら意味がない。それに『瞬間移動』もあるから、距離も関係ない。

 

それなら接近戦しかない。

 

体術の力量は互角。リスクは高いけど、そこを狙うしかない。

 

「氷槍」

 

急に突き技に変えた事で対応を変えざる負えない。そこを狙う!

 

「おっと!」

 

案の定、透過を選択してきた。

 

コイツも私も体術自慢ではあるけど、お互いに写輪眼を持ってるわけじゃない。

 

だけど、私には時間凍結や時間遅延で同様の効果を得る事はできる。

 

だから、本気での見切りなら私に軍配が上がるはず。

 

お互いの身体がすり抜け切る。その瞬間に術を発動。

 

以前、飛段相手に世界を滅ぼそうと仕掛けた術。規模を抑えればいい。

 

「氷遁・絶死凍結」

 

原理は簡単。私を中心に冷気を放出する。それだけに回避もできないし、術のスピードも速い。

 

瞬く間に森の木々が真っ白に凍りつく。

 

範囲は3キロ四方に設定。この設定を間違えれば、世界が滅んでしまう。

 

とはいえ、これで3キロ四方は生物も何もかもが絶対零度で凍結してしまった。

 

「チィ…」

 

思わず舌打ちが出てしまう。

 

これでも仕留めきれないか……

 

奴の周りの空間が歪んで見える。

 

空間能力を使って逃れていることだけはわかる。

 

「コワイコワイ♪ ……うん!君は合格♪ ……今度、招待状を送ろう♪ それから遊んでくれたお礼に君が行きたい所に送ってあげるよ♪」

 

そう言うと次の瞬間には違う場所に立っていた。

 

頭にはシンジの声が聞こえる。

 

『剣気遣いの見分けかたは、瞳の色だよ。蒼かオレンジの眼を持っていたら、可能性があるかもね♪……それから“特異点”は大切にする事をお勧めするわ♪』

 

特異点……

 

説明はしてくれないけど、それが何か何となくわかった。

 

きっとナルト君のことだろう。

 

もうアイツの気配は感じない。去ったのだろうか。

 

視線の先には血塗れでフラフラのダンゾウがいた。

 

そのダンゾウを挟むように肩で息をしているサスケ君と隻腕のマダラ。

 

2対1の状況でもダンゾウは善戦できたようね。

 

そう見ていた瞬間、サスケ君とマダラが回避行動を始めた。

 

ダンゾウを中心黒い球体が発生する。

 

あれは封印術かな。

 

「時間凍結」

 

時を止めてダンゾウに近付く。

 

ダンゾウの目の前にまで移動した所で時間を動かす。

 

「……き、貴様は……」

 

「お久しぶりです、ダンゾウ様。」

 

仮面を外して素顔を見せる。

 

「…雪藍……木ノ葉を抜けただけでは、飽き足らず暁に与する裏切り者めが…ワシが……お前の…居場所を与えた事を忘れた…恥知らずめが!」

 

「……そうですね。その点は申し訳無く思ってます。ただ、感謝している事もあります。」

 

「…………」

 

「……ただただ現実という物を教えていただけた点は感謝しています。現実を知らない小娘の教育という意味ではこれ以上無い教訓でした。」

 

「…皮肉…の……つもりか」

 

「……私に甘さは必要無いと教えてくれた事には感謝していますが、人間は機械ではなく、感情の生き物。効率と保身に偏りすぎた点が貴方の失敗だったと私は考えています。…それでは人心がついてきません。」

 

ただ、甘いだけでは現実は変えられない。

 

効率を求める過ぎれば、人心がついてこない。

 

政治とは難しいものだ。私は政治の中心に立った事のない人間。そこにどんな想いが有ったのかはわからない。私やイタチのように恨まれる事を覚悟した上での行動だったのかもしれないが、これが結末なら、そういう事だったんだろう。

 

「……しかしながら、貴方の木ノ葉を守りたいという想いは本物だったと思ってます。………その想いだけは大切にしてください。……それでは私はこれで失礼します。」

 

再び仮面を被る。

 

封印もそろそろ完成しそうだ。私もここから離脱しないと巻き込まれてしまう。

 

「…き、貴様だけでも……逃さぬ!」

 

ダンゾウが手を伸ばしてくる。

 

死にかけているダンゾウから腕を振り解くのは容易いだろう。しかし、今封印が完成しかけている状況で有れば、一瞬でも命取りだ。

 

「時間凍結」

 

捕まる前に時間を止める。

 

最悪は空間凍結を使えばいいけど、リスクを冒す必要ない。

 

一瞬ではあるけど、ダンゾウに挨拶ができてよかった。大蛇丸同様に私にとって因縁の相手だったからね。

 

さて最後の山場かな。

 

この為にダンゾウひいてはマダラを追いかけて居たんだから。

 

ダンゾウの封印術から抜け出した所で時間を進める。

 

ダンゾウの封印術は橋を抉り取って、破壊した。

 

凄まじい執念……

 

「アレは自分の死体に引きずり込んで封印する道連れ封印術………己の死に際で発動するように術式を組んでいたようだ。危なかったな…」

 

「次だ…木ノ葉へ向かう。」

 

マダラがダンゾウの死体に近付く。

 

「オレはこいつの眼を持っていく。サスケ…お前も焦らずアジトに帰って休め。瞳力の使いすぎだ…いずれ強がってはいられなくなるぞ。……光を失いかけてるその眼。…一人で木ノ葉へ行って何ができる?目的を達成させるには我慢も必要だ。」

 

マダラがダンゾウに触れた瞬間、ダンゾウがマダラの目に吸い込まれた。

 

あれはマダラの目の能力かしら。写輪眼にそんな能力はない。…なら固有の瞳術。万華鏡写輪眼か。

 

「サスケ…」

 

「………」

 

「一つ忠告しておく。あの女…いらないならちゃんと止めを刺しておけ、我らの事を知りすぎている。」

 

「我らだと…オレがいつお前の仲間になった?」

 

「フッ…まあいい………それで、お前は何しに来た…コン。」

 

マダラが此方に問いかけてくる。

 

私は答えた。

 

「暁を抜けるわ。」



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タイムリミット

橋の上からマダラを見下ろす。

 

マダラの仮面から覗く写輪眼が光っていた。

 

「その言葉の意味を理解して言ってるのか?」

 

「勿論、わかって言ってるわ。」

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙が流れる。両者共に睨み合う。

 

「理解できないな。……お前は暁に心を寄せていた筈だ。月の眼計画についても概要を知らされていた筈。」

 

「そうね。……でもその小南がナルト君に夢を託したのなら、私にとって月の眼計画に価値は見出せない。……暁は私にとって、家族みたいなものだった事も認めるわ。それでもね。許せないことがあるの。」

 

「…………」

 

「平和を願う暁が、世界に宣戦布告なんて笑い話にもならないわ。」

 

そう吐き捨てると、マダラは鼻で笑った。

 

「フッ…どうやら本当にわかっていないらしい。物事は綺麗事だけでは進まないという事を。それをわからせてやろうか、小娘。」

 

物事が綺麗事ばかりでは無い事なんて、今までの経験で嫌という程に知ってる。

 

今更、私の意志が揺らぐ事はない。

 

もう結末まで見据えているんだから。

 

私はその最期の時まで走り続けるだけ。

 

「暁を裏切れば、どうなるか。お前が一番よく知ってるな?」

 

「勿論、私がよく大蛇丸討伐に駆り出された訳だからね。」

 

「なら、容赦はしない。」

 

マダラが此方に駆けてくる。

 

「氷遁・万華氷」

 

やっぱりすり抜けるのね。

 

マダラは回避行動を一切取る事なく、接近してくる。

 

此方に向かって、左腕を伸ばしてくる。

 

さっきのダンゾウを吸い込んだ動作。五影会談でのサスケ君を吸い込んだ動作。

 

どちらも直接取り込みたい物に触れないといけない制約があるようね。

 

せっかく時空間能力を有してるのに、接近しないといけないなんて勿体ない能力ね。ただ、すり抜け能力がその欠点を補って余りある性能。

 

今は右腕を失って、左腕だけって事も幸いね。左手に注意してればいいだけから。

 

身体を逸らして顔面に千本を走らせるが、すり抜ける。

 

写輪眼で動きが見切られてるな。動きそのものは、それ程大した事はない。身体捌きはイタチの方が遥かに上。実際、組手をやった事があるけど、お互い1発も攻撃を入れる事ができなかったし。ただ、すり抜け能力が凶悪だ。しかも、写輪眼のお陰でタイミングも完璧だ。

 

サスケ君は此方に興味がないようで無反応。

 

サクラさんが何故かやってきて、そっちの相手で忙しそうだ。気配からして、カカシさんとナルト君も近付いてるね。

 

「流石のお前でも、オレの能力は攻略できない。このまま続けても、いずれオレがお前を捉える。」

 

どちらにしても、あまり時間はかけてられない。さっさと退かせるしかない。

 

両手に氷剣を作って、二刀流で突っ込む。

 

それに合わせて、マダラも突っ込んでくる。

 

左腕を突き出してくるが、それを無視して右手の氷剣で斬りかかる。

 

案の定、すり抜ける。

 

そして、氷剣が抜け切ったとほぼ同時に左手が私に触れそうになる。

 

即座に左手の氷剣を逆手持ちにして、身体を回転させて、左手腕を斬りつける。

 

不意を突いた一撃。

 

「チィ…」

 

思わず舌打ちしてしまう。

 

僅かな手応えしか感じなかった。

 

お互い身体をすり抜けて、距離を離し睨み合う。

 

マダラの左腕は服の袖が切れてはいるが、腕を飛ばす事ができていない。僅かに血が流れているだけだ。

 

写輪眼が厄介だな。普通なら、今ので腕を飛ばせた筈なんだけど。

 

「……惜しかったな。写輪眼を舐めすぎだ、小娘。」

 

視線をずらして見れば、カカシさんとサスケ君が戦っている。あとはナルト君だけか…

 

視線をマダラに戻す。

 

余裕そうな態度とは裏腹に私から一切視線を逸らそうとしてこない。

 

やっぱり、今の不意打ちで警戒されてしまってる。

 

次で決めるか……

 

残念で仕方ない。きっと、マダラともしっかり話していれば、分かり合えたかもしれない。飛段のように話が通じない訳ではないんだ。彼の写輪眼もやはり悲しみの色が強い。トビを演じていた時から、気が付いていたのに、あまり関心を示さなかったのは私だ。

 

だけど、これだけの事を仕出かす程度には覚悟も決まってる証拠。道は違える事になるだろうけど。それでも語り合えればよかった。

 

もうそんな時間はない。だから、ここで終わらせよう。

 

左手の氷剣を投擲する。同時に私とマダラが走り出す。

 

氷剣がすり抜ける。その瞬間にマダラを包むように術を発動。

 

「空間凍結」

 

「……これは」

 

マダラが見えない壁にぶつかるように停止する。

 

…よかった。シンジみたいに突破されない。マダラのすり抜けも空間凍結は越えれない。

 

マダラが即座に時空間転移をしようとするが、弾かれるように失敗する。

 

すり抜けが無理なら、転移も無理だよ。

 

身動きができなくなった、マダラに氷剣を振りかぶる。

 

マダラが仮面の左目の部分を砕いた。

 

何かしようとしてるのか?…させない!

 

そのままでマダラを切り裂いた。

 

今度は手応えを感じた。

 

マダラは身体から血を噴き出しながら、倒れた。

 

氷剣を消す。

 

サスケ君の方を見れば、ナルト君と螺旋丸と千鳥をぶつけ合っていた。

 

突如、背後に気配を感じて振り返って千本を振り抜く。

 

ガキンッ

 

千本が折れる。

 

背後には何故かマダラがおり、黒い鉄の棒で突きを放ってきていた。それを止めようとした千本が折れた訳だ。

 

身体を逸らして、左足でマダラの左腕を絡めて、そのまま右足で顔面を蹴り抜く。

 

だけど、すり抜けて失敗する。

 

即座に距離を取る。

 

「…そういうば、お前は感知タイプだったな。」

 

「…どうして」

 

私が切り裂いた傷が無い。治ったわけでも無い。服に切れ目がないからだ。

 

攻撃が空ぶったのか?…いや、手応えはあった筈。

 

「…さあ、何故だろうな。」

 

教えてはくれないようだ。ただ、割った仮面の左目が閉じられている。それが意味するものが何なのか、わからない。だけど、何かタネがあるのは間違いないだろう。

 

「さて、サスケもピンチなようだ。……お前を仕留めるにも輪廻眼が必要そうだな。」

 

そういうと、マダラが転移した。

 

サスケ君の横に転移したか……

 

「こいつらとはちゃんとした場を設けてやる…今は退くぞ。」

 

「……」

 

「代わりにボクがやるよ。どうせ九尾の人柱力は狩らないといけないんだし…」

 

ゼツが胞子分身を出す。

 

「ゼツ…お前じゃナルトを捕まえるのは無理だ。戦闘タイプじゃないお前に九尾はキツイ…。九尾はサスケにやらせる…オレの余興も兼ねてな…。それより鬼鮫が気になる…そろそろ、そっちへ行け。黒と合流してな。」

 

「…ハイハイ。わかったよ。」

 

ゼツが胞子分身を下げる。

 

「ナルト…!」

 

ナルト君が前に出る。

 

「うん…ただサスケにちゃんと言葉で言っときてー事があるんだ。」

 

「行くぞ、サスケ…」

 

「待て…」

 

「……?」

 

「……サスケェ…覚えてっかよ…。昔、終末の谷でお前がオレに言った事をよ。一流の忍ならってやつだ…。」

 

「………」

 

「直接ぶつかって…今は色々わかっちまう。オレ達ゃ一流の忍になれたって事だ、サスケ。お前もオレも…。サスケェ…お前もオレの本当の心の内が読めたかよ…。このオレのよ。それに…見えただろ?お前とオレが戦えばーー…」

 

「………」

 

「……?」

 

「2人共死ぬ。」

 

「!?」

 

「……!」

 

「……?」

 

「………」

 

「…………」

 

「お前が木ノ葉に攻めてくりゃ…オレはお前と戦わなきゃならねェ…。憎しみはそれまでとっておけ…。そりゃあ、全部オレにぶつけろ。お前の憎しみを受けてやれんのはオレしかいねェ!その役目はオレにしかできねェ!オレもお前の憎しみを背負って一緒に死んでやる!」

 

「……………何なんだ…?てめーは一体、何がしてーんだ!?何でオレにそこまでこだわる!?」

 

「……」

 

それはきっと…

 

「友達だからだ!!」

 

ナルト君は本当に凄いね。兄さんやイタチの見立て通りだ。

 

「サスケェ…お前と分かり合うにゃ一筋縄じゃいかねーって、初めて会った時から分かってた…そういやよ!拳で分かり合うのが、お前とのやり方なのは、間違いねーよな!さっきも言ったけどよ…。もうお互い一流の忍になれた事だしな!オレはまだ諦めてねェ!けど…ぐちゃぐちゃお前に言うのはやめだってばよ!……ったくよ。…口ベタなオレが説教なんてガラじゃなかったぜ!へへへ……もし行き着くとこまで行って、お互い死んだとしても…うちはでもなく、九尾の人柱力でもなくなってよ。何も背負わなくなりゃ、あの世で本当に分かり合えら!」

 

「オレは…変わりはしねェ!お前とも分かり合う気もねェ…!死ぬ気もねェ…死ぬのはお前だ。」

 

「もういい…ナルト。サスケはオレがやる。お前には火影になるって大切な夢がある…。サスケの道連れでお前が潰れる事はーー」

 

「仲間一人救えねぇ奴が、火影になんてなれっかよ。サスケとはーーオレが闘る!!」

 

「………」

 

「………」

 

「いいだろう………お前を一番に殺してやる。」

 

「オレってば………まだお前にちゃんと認めてもらってねーからよ!」

 

「…分かった…。サスケはお前に任せる…ナルト。サクラ、オレの体を頼む…」

 

カカシさんの瞳の模様が変わる。

 

あれがカカシさんの万華鏡写輪眼…

 

「止めておけ、カカシ。そんな術はオレには効かない。」

 

「……!」

 

マダラが止める。

 

せっかく、能力が見れるかもしれないと思ったのに…

 

イタチの万華鏡写輪眼は、月読と天照。

 

マダラは時空間能力。

 

シスイは最強幻術 別天神。

 

どれも強力な瞳力。サスケ君はおそらく、イタチと同じ物か類似能力だろう。

 

「行くぞサスケ。」

 

「マダラ………後で話がある。」

 

マダラ達が時空間転移で去る。

 

「……いつでも来い…サスケ。」

 

3人が一斉に此方を見てくる。

 

「さて、お前には色々と聞きたい事が山程あるからね。何で仲間割れしてたのとか……」

 

カカシさんがクナイを構える。

 

サクラさんも身構えてくる。

 

ナルト君も影分身を出している。

 

本当は彼らともしっかり話したいけど、時間がない。さっきマダラは輪廻眼を取ると言っていた。

 

輪廻眼は長門が持っている眼だ。なら、マダラは雨隠れに向かっている筈。あそこには小南がいるだろう。つまり小南の身が危ない。

 

時空間転移できるマダラの方が確実に早いのは間違いない。ここで時間を取られる訳にはいかない。

 

「……失礼します。」

 

「待つってばよ!!」

 

「時間凍結」

 

全てが停止した世界で私は瞬身の術で駆ける。すぐに離脱できた。

 

「時間遅延」

 

時間凍結程、力を使わない時間遅延に切り替える。完全には時間が止まらないが、時間の流れを遅くする事ができる。その上で私は通常通りの動きが可能。更に時間凍結が約30秒に対し、時間遅延なら1分の持続時間がある。

 

1分のあとは一呼吸のインターバルで繰り返し使える。

 

雨隠れに向かって全速力で移動する。何とか間に合ってくれればいいのだけど。



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約束

2日間、休まず走り続けて漸く、雨隠れに着いた。

 

いつもなら降ってる筈の雨隠れ降っていない…

 

嫌な予感を感じながらも、小南の気配を探す。

 

………いた。

 

すぐに見つけれた。だけど、かなり弱ってる。

 

瞬身で気配の元へ急ぐ。

 

「ハア!……ハア!…ハア…」

 

血塗れの小南が水面に浮いていた。

 

首に手を当てる。

 

「………」

 

脈はある。まだ、間に合う!

 

「時間凍結」

 

水面の波の動きが止まる。

 

停止した世界で小南抱えて走る。目指すは天使の塔。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

空間凍結を利用した階段で駆け上がり、塔の最上階に一気に登って入る。

 

「天使様!!」

 

塔に入れば、3人の雨隠れの忍がいた。

 

「天使様が重症よ。今すぐ治療して。」

 

「し、しかし……神様はどこに?……それにお前は何者だ?」

 

その警戒心は忍としては正しいものだろう。だけど、今この場では不必要だ。

 

「…いいから早く治療しなさい!!」

 

剣気を飛ばして、威嚇する。

 

ズバッ、バチンッ

 

壁や天井、床に無数の傷が発生する。

 

力加減を誤って、不可視の刃が出てしまった。

 

「「「わ、わかりました!!!」」」

 

だけど、威嚇した甲斐あって、すぐに動いてくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

医療忍者も駆けつけて、治療が行われ、翌日には小南が目を覚ました。

 

「目が覚めた?」

 

「……コン?」

 

「…よかった。」

 

「……貴女に助けられたようね。」

 

「…私はここに連れてきただけ。治療したのはここの忍よ。………少し、脅してしまったわ。ごめんなさいね。」

 

「…構わないわ。」

 

小南から話を聞き、何があったか確認する。

 

「……やはり、マダラは輪廻眼を奪って行ったのね。」

 

「……ええ、おそらく。」

 

「………小南はこれからどうするの?」

 

「…戦うわ。弥彦と長門の想いと夢の為に。」

 

「……わかった。でも、一応明日までは安静にしてね。焦っても結果に大きく変わる訳じゃないから。」

 

「貴女はどうするの?」

 

「私はちょっと行く所があるんだ。」

 

「…それは?」

 

「イタチとの約束を果たしに。」

 

「……そう。愛してるのね。」

 

小南が微笑んでくる。

 

思わず頬が熱を持つ。

 

「…………うん。でもそれは小南もでしょ?」

 

「そうね。お互い愛した人の為に戦う事に間違いは無いわ。」

 

どうやら意趣返しは失敗したようだ。

 

その点、小南はお姉さんだと思う。

 

「じゃあ、私は行ってくる。」

 

「ええ、いってらっしゃい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サスケ君の気配を探す。

 

………北のアジトか。

 

マダラは………南のアジトか。今は居ないね。好都合だ。

 

空を見る。

 

雨隠れの里では珍しい。快晴の空だ。

 

じゃあ、行こうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

北のアジトに来てみれば、誰もいなかった。

 

マダラも戦争前で忙しく動き回ってるね。

 

いや、誰もいない事はないか。白ゼツがいるね。

 

冷気を放出して胞子を殺す。

 

「時間凍結」

 

時間を止めて、中に侵入。白ゼツを崩壊凍結で粉々にして、サスケ君の前に立つ。

 

これで白ゼツからマダラに情報が行くまでの時間稼ぎにはなるかな。

 

時間を動かす。

 

「!?」

 

感知タイプじゃなくても、この距離で人が現れたら、誰でも気がつく。

 

例え今のサスケ君が目を包帯で包んでる状態でも。

 

「…誰だ?」

 

「お久しぶりです、サスケ君。」



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運命の再会

「………その声、マダラとやり合ってた奴か。…………オレに何しに来た?」

 

ベッドから起き上がって、警戒してくるサスケ君。

 

当然だね。マダラの敵なら、サスケ君にとっても敵の可能性が高いのだから。

 

「そう警戒しないでください。別に貴方に危害を加えるつもりはありません。………まずは自己紹介から……といっても以前に名乗ってはいますね。」

 

見えていないであろうけど、一応仮面を外す。

 

「私は雪藍。暁ではコンと呼ばれてます。3年ぶり、波の国以来ですね。」

 

「……あの時の………それにコンは確か大蛇丸が言ってた氷遁遣いか。」

 

それは一体どんな内容の話を聞かされてたんだろうか。まあ、今はそこは本題じゃない。

 

「さて、何しに来たか気になりますよね。………少しお話ししようと思いまして。」

 

「……マダラみたいな事を言う。…………胡散臭いな。……それともお前もナルトみたいに説教でもしにきたか?…何度でも言ってやる。オレは変わらねェ!!オレはイタチとうちはを否定する全てを破壊し尽くすッ!!」

 

そう。今のサスケ君の性質状態では、頭ごなしに説教しても通じない。ナルト君みたいに軽々しく、他人の気持ちが理解できるなんて、傲慢な事も言えない。

 

それでもこのままサスケ君を放置しておく事は、イタチの想いを継いだ私にはできない。

 

きっとイタチはサスケ君に甘いから、どんな道に進もうが、サスケ君がやりたいようにやるのが、一番だと考えてる。だけど、このまま木ノ葉の敵のうちはサスケと英雄うちはサスケなら、後者の方が本心では嬉しい筈。

 

私は所詮、うちは関係の部外者でしかない。そしてサスケ君は今、拒絶モード。だから、話す内容は予め決めていた。下手に暴れられても困るし、長話もできない。

 

「………今日はイタチの遺言を伝えに来ました。」

 

ピクッとサスケ君が反応した。

 

「……何故、お前がイタチのことを知っている?………イタチの生き様を知って、兄が他人にそれを漏らす事は無いという事をわかってる。他人のお前が知ってる筈が無い!……お前の嘘に付き合うつもりは無い!!」

 

相当混乱してるね。それを私に向かって言ってしまってる時点で、半ば可能性を考慮してる証拠。…まあ、そんな揚げ足取りしてる暇はない。

 

「……ええ。ですから、これは私が一方的に貴方に遺言を伝えるだけ。信じる信じないは貴方次第です。」

 

あえて、声色を低くして、興奮しているサスケ君を宥める。

 

「………いいだろう。話せ。」

 

「わかりました。イタチからサスケ君への遺言はシンプルです。『サスケ君には生きてほしい。そしていつか、新しいうちはの形を作り上げてほしい。人々から利用され、恐れられ、切り捨てられるのではない。大切な物を守れる強い存在。必要とされる存在。すべての垣根を越え、平和へと人々を導くそんな存在になってほしい。闇を生きたイタチとは違う、闇を照らす存在となってほしい。』これが、イタチの遺言です。」

 

「…………」

 

「今は時間がありませんが、機会があればイタチが貴方の事をどう思っていたのか。暁にいた頃はどう思っていたのか。あの事件の夜のイタチの心情。貴方への期待等。それらを話せる日が来るのを楽しみにしてます。」

 

「…………」

 

「サスケ君、覚えていますか?」

 

「……何だ?」

 

「貴方にとって兄弟とは何ですか?」

 

「…………」

 

「答えが出せたら、聞かせてください。では、マダラもこちらに気が付いたようなので、帰らせていただきます。」

 

私は時間凍結ですぐさまアジトから去った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アジトから離れて走る。

 

加速度的に気配が増えていく。

 

これはカブトの穢土転生か。マダラはカブトと手を組んだらしい。

 

それと大量の白ゼツかな。同一の気配から見てそうだろう。

 

穢土転生なら、強力な忍が口寄せされてるだろう。忍連合が苦戦してしまうのは必至。

 

数を減らす手伝いは必要だろうね。ただ、その前に挨拶しておかないといけない人に会おう。

 

氷翼を使って空を飛んで急ぐ。

 

彼方此方で戦闘の気配がわかる。

 

戦争が始まった。

 

今までと変わらない。規模は大きなっても、暁の任務で受けてた戦争と同じだ。死傷者を抑える戦い方が大切。

 

相手が穢土転生と白ゼツだから、普通の人間がいない点はいいのかもしれない。まあ、不謹慎だからやめておこう。

 

目標についた。

 

着地する。

 

戦場の真っ只中。穢土転生達と連合軍が睨み合っている。

 

氷翼を消す。砕けた氷が太陽の光を浴びて光の粒子となって、空気に溶けていく。

 

「暁!!」

 

「こいつは!!」

 

「敵の増援か!」

 

私を取り囲むように忍が集まり、武器が構えられる。

 

だけど、私の視線はその先に向く。

 

4体の穢土転生が連合軍と鍔迫り合いをしていた。

 

穢土転生体に見覚えのある人が一人いる。

 

あれはパクラさん。

 

「あの子供は!」

 

ただ今回は目当てではない。

 

カカシさんがこちら見てくる。

 

「お前は暁の…」

 

「…カカシさん。少しそこの二人を私に譲ってくれませんか?」

 

するとカカシさんと鍔迫り合いをしている穢土転生体が口を開く。

 

「………藍か。」

 

「…何!?」

 

「え!?」

 

カカシさんとサクラさんが驚きの声をあげる。

 

「いつまでその胡散臭い面を付けてる。さっさと外せ。」

 

「…………」

 

催促されたので、仮面を外す。

 

この二人を前に顔を隠す訳にはいかない。

 

 

 

 

「ええ。お久しぶりです、再不斬さん…………兄さん。」



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既視感

既視感はあった。

 

最初に情報を聞いたのは、飛段と角都と戦う前後の事。

 

五代目が暁の捕獲及び抹殺の為に放った二十小隊から度々会敵しては、逃してる暁がいる事を聞いた。

 

まともに戦う事なく逃げに徹する事と、会敵回数の多さから、影分身である可能性が高い事も挙げられた。他の暁はその戦闘能力の高さから逆に二十小隊が撤退するばかりだから尚更だ。

 

飛段と角都の討伐後、シカマルや五代目と暁の対策を練っていた時も要注意人物として挙げられた。

 

影分身で情報を集めている事から、能力に慢心しないタイプ。頭がキレて隙が少ないとのシカマルの分析だった。どうにか油断を誘わないと尻尾を掴ませてくれないだろうと結論が出た。いつも逃げに徹する事から、実はそこまで強くは無いんじゃないかとの意見もあったが、暁に限ってそれは無いとの判断が下された。

 

そして、三尾を巡って大蛇丸達と矛を交えながら、封印の機会を窺っていた時にチャンスが訪れる。

 

予め暁が現れる可能性が高い事は分かっていた。だから常に三尾のいる湖を感知タイプのメンバーで交代で見張っていた。

 

そして、現れた暁は大蛇丸の部下の血継限界の晶遁を使う紅蓮と戦闘になった。しかも相手は、ずっと能力が不明だった仮面の暁だった。

 

更に朗報だったのが、あの紅蓮を圧倒していた事だ。いつも逃げていた奴が、戦っていた。それもかなり強い。

 

恐らく本体だろうという事ですぐに、この時の任務で来ていた全員で囲んで捕らえる事で作戦が練られた。

 

シカマルが立てた作戦。

 

普段ならツーマンセルで動いている暁だが、好都合な事に一人。今は紅蓮と戦闘している事から、紅蓮に暁の能力を引き出して貰いつつ、体力を奪ってもらう。更に暁が紅蓮を退けて油断したところで、全員で囲んで捕らえる。保険でオレが外から監視する。16人、4小隊もいるからこそできる、贅沢な人員配置だ。更にはガイやヤマト、五代目の右腕シズネさんがいるこれ以上無いメンバーでの作戦。

 

ただ、ここで早速一つ目の誤算が出た。紅蓮が全く歯が立たなかった事だ。写輪眼で見切れない血継限界に、多彩な能力の晶遁はオレですら手こずっていた相手だ。それを体術だけで攻略してしまった。予想を大きく上回る戦闘能力に背筋に嫌なものが流れる。

 

それでも、その様子を見ていたナルトが作戦の続行を主張した。シカマルやヤマト、ネジなどの冷静なタイプは危険だと中止を主張したが、サスケに繋がる可能性があるならと結局敢行される事となった。

 

15人に囲まれる暁。詰みだ。普通であればだが。あれだけの戦闘能力を見せた奴だ。何が起こるかわからない。常に写輪眼で監視する。

 

だが、悪い意味で予想は的中する。写輪眼でも印を見切れない程の術スピード。四代目に迫る程の速度の瞬身にガイ並みの体術。そして白眼を使っているかのような危険感知能力の広さ。恐らく、感知タイプでもある事が予想される。まるで、木ノ葉の里でうちはイタチと対峙した時の緊張感を感じた。

 

だが、手こずってる内に三尾が暴れ出してしまった。

 

流石にこれ以上は危険過ぎるという事で撤退する事になった。

 

だが、オレは監視を続けた。オレは湖の中心から離れた場所にいるからだ。せめて、奴の能力を暴かなければならない。直感でわかった。こいつはイタチ並みに危険だ。

 

そして、三尾との戦闘が始まる。

 

相変わらず巧みな身体捌きで三尾をいなす様は凄まじいが、違和感を感じた。

 

幾ら何でも能力を使わなすぎでは無いか?三尾相手に余裕があるようには見えない。追い詰められているのは、この距離から見てもわかった。あれだけの基礎能力が有れば、ツーマンセルで尾獣を狩る事もできるだろう。だが、一人だ。出し惜しみしている場合では無い筈。

 

まさか、特殊能力が無いのか?確かにあそこまで基礎能力が高い忍は居ない。その点ではあの忍は忍界一の使い手だ。あれがイタチの可能性も考えられるが、恐らくくノ一だ。暁のマントでわかりにくいが、ボディラインから見て間違いない。しかも、ナルト達と年齢にそこまで差が無いように見える。

 

そして三尾がチャクラを溜めて、黒いチャクラの球体を作る。

 

流石にオレも身の危険を感じ、離脱しようとするが、まさかあの暁がその球体に接近し出したのだ。

 

ありえない自殺行為。あれ程の高密度なチャクラを喰らえば、五影でも死ぬレベルだ。それに突っ込むとは、何か能力があるのかと思ったが、なんとあの攻撃から離脱してみせた。

 

『なんてレベルの戦いをしてるんだよ、全く。』

 

思わず悪態をついてしまった。

 

そして確信した。特殊能力はないが、基礎能力だけで、五影レベルに達してる。それこそがこいつの能力だと分かった。

 

そして湖から着地する暁。あれに突っ込んで生還できるなんて、まともな神経ではない。だが、かなりギリギリのようでフラフラな姿は又と無い好機。これ程の使い手は本当に厄介だ。それを確実に仕留める。

 

やはり限界だったようで、簡単に仕留めれた。気が付いていたようだけど、身体が全く動いていなかった。万全だったらと思うと恐ろしいが、ここで打ち取れたのは僥倖。

 

だが、水分身だった。

 

一度も目を離していない。こいつが水分身を使ってる事は一度もなかった。

 

まさか、今までの戦い全部を水分身がやっていたのか!?

 

戦慄する。水分身は本体のスペックの最大でも10分の1しか能力を発揮できない。

 

少ないチャクラ量でできる実体のある分身では一番簡単ではあるが、一番弱い分身でもある水分身。

 

今までのが水分身。つまり本体は10倍の能力を有している事になる。

 

やはり、暁は油断できないと改めて認識する。この情報はすぐに五代目に伝えようと思った。

 

だが、それ以外にも気になった事がある。本当に些細な事だ。

 

髪色と仮面。別に水色の髪色が特別珍しい訳ではない。霧隠れの追い忍の仮面も珍しいものではない。

 

 

 

だが、既視感があった。

 

 

 

とは言え、当時は戦闘力の高さに目を奪われていた為、すぐに思考の彼方へと消えた。

 

その後、サスケが大蛇丸を倒したり、イタチを倒したり、自来也様が亡くなられたり、里にペインがやってきたり、五影会談でサスケが暴れたりと、情勢が著しく変化していき、その対応に追われる事になる。

 

次に相見えたのは、一人で先走るサクラを追いかけた先での事。

 

何故かマダラと戦っていた。あのマダラと互角に渡り合う様は、以前に感じていた危惧通りの戦闘力だった。だが、あの時はサスケの方が優先度が高く、また暁同士で潰しあってくれればと、放置した。

 

その後はまた逃げられた訳だが。一瞬で姿を消したあの術………。まるで飛雷神の術のようであり、あの暁が扱えるのなら、それは間違いなく、暁の中で最強と言っても過言ではない使い手だ。

 

でもそれ以上に気になった事があった。

 

マダラと戦っていた時に使っていた武器だ。彼女は()()()を使っていた。

 

 

 

くノ一で氷遁を使い、水色の髪色に霧隠れの追い忍の面を被る少女。

 

 

 

既視感はもはや無視できないレベルとなっていた。

 

 

 

里に帰った後、オレはすぐに調べた。

 

もしかしたら、あの子かもしれない。だとしたら……

 

オレは波の国で再不斬にあの子を託された。今頃里で平和な戦いの無い暮らしをしてる筈だと思っていた。

 

だが、もし彼女が暁だったとしたら………オレは…………

 

当時の事を調べたが、結果としてはわからないというのが、結論だった。

 

イビキの所まで来ていたのは確かだが、それ以降の足取りが追えなかった。

 

普通なら異常だ。あくまでも敵の捕虜だ。行方がわからないなんてあってはいけない。だが、当時の事を知っているであろう三代目は亡くなり、木ノ葉の里もペインが暴れた為に当時の資料が失われていた。

 

更に調べる必要ある。

 

今の今まで放置していて、今更どの面下げって感じだが、オレの予想が当たってたら、再不斬に顔向けできない。

 

だが、時間がそれを許してはくれなかった。

 

忍界大戦が始まってしまった。世界の命運を握る戦争だ。ナルトを守る戦いでもある。

 

…………敵は暁。

 

部隊隊長を任命された時に再確認された事実に、ガラにもなく手が震えた。

 

『顔色が悪いぞ?…流石のカカシでもこの戦争は緊張するんだな!…よし!我がライバルの為にもオレが一肌脱ごう!…オレ達の青春はこれからだ!!』

 

おまけにこうして、親友に慰めてもらう始末。このままじゃダメだと気合を入れた。オレの肩には忍連合の命がかかってる。

 

そうして始まった第四次忍界大戦。

 

オレの部隊が当たった相手がまさかの再不斬と白だった。最近何かと当時の事を思い出していた為、これも偶然なのかはたまた………

 

だが、状況は更に混迷を極める。

 

オレの部隊が展開している中に氷の翼を生やした天使が降りてきた。

 

もう一度見れば、3年前の姿がチラついた。

 

「…カカシさん。少しそこの二人を私に譲ってくれませんか?」

 

最早、声も彼女にしか聞こえなくなっていた。

 

そして、再不斬の口から決定的な言葉が出る。

 

「………藍か。」

 

「…何!?」

 

自分でも驚く程、白々しいセリフが出たと他人事のように思った。

 

これは単なる現実逃避だ。わかっていてもオレの頭は上手く働かない。

 

そして、明かされる素顔。

 

曝け出された顔はやはり知った顔。童顔な美しい顔立ちはあの頃のまま。しかし、その目付きが変わっていた。

 

一眼見て感じる。こいつは危険だ。

 

とても暗く冷たい眼をしていた。

 

だが、それはサスケのように憎しみに囚われ、闇に落ちた眼とはまた違う。サスケの方は憎しみというある意味人間らしいものがある。

 

だが、これはなんだ?

 

上手く言葉で表せない……まるで水晶を見ているかの様に透き通った冷たさを感じる。それでいて、闇に囚われている様な気配も感じない。狂気に陥ってる訳でもなく、理性を感じられた。

 

マダラの様な闇そのものの眼とも違う。うちはイタチの様な闇を映し出す眼とも違う。サスケの様な闇に囚われた眼とも違う。ナルトの様な力強い生命力のある眼とも違う。

 

言うなれば、抜き身の刀。それが一番しっくりくる言葉だ。触れるもの全てを切り裂く刃。

 

一体、どんな人生を歩めばこんな眼ができるようになるんだ…………

 

人は理解できないものを本能的に恐怖する生き物。

 

正にそれが視線の先にいた。



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感謝②

穢土転生体の兄さんと再不斬さん。

 

姿形はあの頃のまま。懐かしさを感じる。

 

とはいえ、死んで尚戦いを強いられるのは忍びない。

 

「ホウ……大きくなったな、藍。あれから何年だ。」

 

「3年ほどですよ、再不斬さん。………兄さんもお久しぶり。」

 

「………藍。凄く綺麗になったね。」

 

「ありがとう、兄さん。……兄さんも昔のまま、美しいよ。」

 

「……そこはカッコイイって言って欲しいかな。」

 

「フフ…それはごめんね。」

 

「………藍!」

 

横から声が聞こえたので、見るとサクラさんが凝視していた。

 

「……サクラさんも成長されましたね。」

 

「アンタ、なんで暁なんかに……」

 

「…それは今、のんびりと話してる余裕はありませんね。」

 

「………敵なの?」

 

横合いから2体の穢土転生が襲いかかってくる。

 

「来たぞ!」

 

「敵襲だ!!」

 

一人は爆遁のガリさん。もう一人は灼遁のパクラさん。

 

ガリさんが突っ込んできて、パクラさんが火球を飛ばしてくる。

 

「爆遁・地雷拳!!!」

 

「灼遁・過蒸殺!!!」

 

火球を受け止めると同時に凍らして、投げ返す。

 

ガリさんが殴りかかってくる。

 

即座に氷剣を作る。

 

私は顔を下に下げて、右足を大きく左へと踏み出す。そのまま右足に体重をかけて身体を回して、すれ違い様にガリさんの首を後ろから刎ねる。

 

「氷遁・万華氷剣」

 

虚空に4本の氷剣を作り、射出。ガリさんの手足を地面に縫い付ける。

 

私が投げ返した氷玉を避けたパクラさんがサクラさんに向かって火球を投げてきた。

 

「サクラッ!!」

 

「氷遁・万華氷剣」

 

氷剣で射抜いて、火球を爆発させる。

 

既に新たな火球が私に迫っていた。

 

サクラさんへの攻撃は囮って訳か。……でもまだまだ甘いですね。

 

火球を身体を逸らして避けると同時に、右手に持っていた氷剣を投擲する。

 

そのまま左手に氷槍を作り、投げる。

 

氷剣を火球で相殺されるが、すぐに氷槍に貫かれた。

 

「罪の枝」

 

次の瞬間、パクラさんの体から無数の氷の槍が飛び出す。そして、そのまま全身を凍りつかせて、パクラさんを拘束した。

 

「さて、外野は黙らせました。……改めて、カカシさん。二人を譲っていただけませんか?」

 

そう問えば、カカシさんは何か悩む様に黙り込んでしまう。

 

サクラさんもどこか緊張した表情になる。

 

「カカシ、代われ。……どうやら、アイツはオレ達と戦いたい様だ。」

 

「……再不斬。」

 

カカシさんが引いてくれた。

 

「口寄せの術」

 

突然兄さんが口寄せの術を使う。

 

6体の穢土転生が新たに召喚された。

 

歴代の忍刀七人衆か。

 

再不斬さんの手にも首切り包丁がある。

 

水月君が持っていたはずだけど…まあいいか。

 

私は二人に向かって歩こうと踏み出した。

 

「動くな暁!!」

 

だけど、私を取り囲んでいた忍が斬りかかってきた。

 

「駄目!!みんなやめて!」

 

サクラさんが制止の声を上げるが、止まらない。

 

「すいません。少し引いていただけませんか?」

 

剣気を放って威嚇する。

 

私を取り囲んでいた忍達の動きが止まる。

 

「……ありがとうございます。」

 

「随分と堂に入った事ができるようになったな、藍。」

 

「貴方が私を育ててくれたお陰です。」

 

「あの泣き虫で白に引っ付いてた頃とは、もう違うって訳か。」

 

「貴方には感謝しています。貴方が育ててくれたからこそ、今の私がある。」

 

「いいだろう。オレを止めて見せろ。」

 

兄さんが再不斬さんの方を見る。

 

「……藍。ボクは再不斬さんを守れなかったのか?」

 

「いえ、兄さんは再不斬さんを守れたよ。……再不斬さんが死んだのはガトーが裏切ったから。……そして再不斬さんは私達の事を道具だとは思ってなかった。ちゃんと愛してくれてたんだよ、兄さん。」

 

「………!!」

 

「………藍。余計な事をベラベラ話すな。」

 

「……」

 

「…藍、容赦するな。オレを超えてみせろ。…オレはもう死んだ。人間として死んだんだ!」

 

「ええ、これが貴方への恩返しとします、再不斬さん。……兄さん、少し待ってて。後でそっちに行くから。」

 

「………藍。」

 

「リー君。兄さんを少しの間、押さえていただけませんか?」

 

「は、はい!お任せください!!」

 

ニコリと微笑んで頼めば、リー君は顔を赤くして大声で返事してくれた。

 

「忍法・霧隠れの術!!」

 

「氷遁・氷剣」

 

「オレの得意技は覚えているな?」

 

「ええ、サイレントキリング」

 

「そうだ……行くぞ!」

 

背後!

 

横薙ぎに振われる首切り包丁の射線に氷剣を置く。

 

首切り包丁と氷剣がぶつかった瞬間に跳んで首切り包丁を躱す。

 

再不斬さんと力勝負なんてやっても無駄だから。氷剣で速度を殺したので、回避は容易い。

 

だが、再不斬さんも私の動きをよく知っているだけに対応が早い。そのまま下から斬り上げてきた。

 

空中に身を投げている私は回避できない、普通なら。

 

だけど空中での姿勢制御は私の十八番だ。

 

身体を回転させて回避し、千本を投げる。

 

再不斬さんは振り切った首切り包丁を大きく振り回して千本を弾く。

 

着地して向かい合う。

 

「体術は更に向上したな。」

 

「ありがとうございます。」

 

「次、行くぞ!」

 

再び霧に紛れていく再不斬さん。

 

今度は真正面から首切り包丁が振われる。

 

水月君の攻撃を止めた時と同様に、首切り包丁の穴に氷剣を差し込み、地面に突き刺して、強制的に止める。

 

そのまま回し蹴りをして、再不斬さんを弾き飛ばす。

 

「そういえば、再不斬さん。水影が代替りしたようです。」

 

「…何?」

 

「今は五代目水影になっていて、血霧の里では無くなったようです。」

 

「………そうか。」

 

「それから、私。こう見えても結構強くなったんですよ。だから、安心してください。」

 

「…………」

 

私は霧に紛れて気配を消す。

 

再不斬さんの気配を捉えて、風で強化した千本を走らせる。

 

「再不斬さん、本当にありがとうございました。」

 

再不斬さんの身体がバラバラになって倒れる。

 

「………ああ。オレも満足だ。」

 

再不斬さんの身体が崩れ去る。

 

視界を遮っていた霧が晴れていく。

 

再不斬さんが逝った。

 

次は兄さんだ。

 

兄さんを探してみれば、リー君にガイさんとサイ先輩が相手をしていた。

 

「兄さんを抑えていただいて、ありがとうございます。ここからは私が相手します。」

 

「君は……」

 

「…………」

 

ガイさんとサイ先輩は少し警戒心を見せる。リー君は全く警戒していない。

 

あまりにも純粋すぎて不安になるね。

 

「………藍。再不斬さんは?」

 

「……うん。先で待ってるよ、兄さん。」

 

兄さんと向かい合う。

 

「ガイさん、リー君、サイ先輩。どうしても信用出来ないなら、ここで見張ってもらって構いません。……そこのカカシさんやサクラさんのように。」

 

後方で二人の気配がビクッと動いたのを感じる。

 

「……先輩?」

 

サイ先輩が疑問の声を上げる。

 

「私も少しの間だけ、『根』に所属していました。だから、貴方は私の先輩に当たります。……まあ、この話はまた機会が有れば…」

 

「行くぞ、リー。」

 

「いいんですか、ガイ先生?」

 

「カカシが見ているなら、オレ達は不要だ。まだ、穢土転生の敵も他にいるからな。」

 

「わかりました、ガイ先生。」

 

ガイさんとリー君は別の戦場へ去っていく。

 

「秘術・魔鏡氷晶」

 

無数の氷の鏡が私を取り囲む。

 

「……兄さんの奥義。久しぶりに見るね。」

 

「藍も氷遁に目覚めたみたいだね。」

 

「私の氷遁は少し毛色が違うんだよね。だから、この術は使えないの。」

 

兄さんが鏡に入り込む。

 

鏡の反射によって、全ての鏡に兄さんが映し出される。

 

「ナルト君は成長したかい?」

 

「……うん。とっても立派になっていたよ。今じゃ里の英雄になってるよ。…火影になるのも時間の問題だよ。」

 

「なら…彼はもっと強くなる。」

 

「そうね。きっと里だけじゃ無くて、この世界すら救ってくれる存在になると思うわ。」

 

もうすっかり、私の方が背が大きくなった。それだけ、時間が経ったんだ。

 

全方位から千本が飛んでくる。

 

「時間遅延」

 

飛んできていた千本の動きが急激に遅くなる。

 

「秘術・千殺水翔」

 

飛んでくる千本を全て迎撃する。

 

「この術を破ったのは、これで二人目になるね。」

 

「兄さんの術が破られたのは、あれが最初で最後だったから……」

 

今度は更に多くの千本が飛んでくる。

 

私も千本を投げて、迎撃。迎撃しきれない物は千殺水翔と体術で全て回避する。

 

「……藍、ボクはね。君とここで再会できて嬉しい反面、悲しくもあるんだ。」

 

「兄さん…………」

 

「強く、立派に成長した姿は嬉しい。………だけど、藍には戦いとは無縁の暮らしを送って欲しかった。」

 

「………そうね。ごめんね。兄さん。」

 

「……謝らないでよ。これはボクが藍を守りきれなかったからだ。」

 

「そんな事はない!!兄さんはいつも私を守ってくれた!!!……これは世界中の誰にも否定させない!!!」

 

思わず声に力が入る。

 

「貴方は私にとって、最強で、最愛で、最も頼りになるお兄ちゃんだ!!!」

 

どうか届いてほしくて、全力で叫ぶ。

 

「………兄さん。確かに私は今でも戦い続けてる。だけど、幸せなんだよ。…色んな人に出会った。」

 

今までの思い出を想起する。

 

「クロって妹分ができた。いつも私に懐いてくれる可愛い子だよ。

 

サソリとデイダラって言う友達もできた。いつも一緒にいるととても楽しくて、よく話相手にもなってる。私を妹のように可愛がってくれる人達だよ。

 

鬼鮫さんって言うちょっと強面の人にも世話になってる。いつも私の行動を見て叱ってくるけど、なんだかんだ世話を焼いてくれる優しい人だよ。まるで父親みたいな人だね。

 

トビって友達もいるんだけど、今は喧嘩中。でも仲直りできると思うんだよ。いつも悲しそうにしてるから、きっと話せば分かり合えると思うんだ。

 

小南と長門って言う仲間もできた。同じ夢を追いかけてる同志。その人達もナルト君に期待してる。今も一緒に戦ってる人達だよ。

 

イタチって言うサスケ君のお兄さんにも会ったよ。いつも私を護ってくれる姿は白兄さんにそっくり。やっぱり兄さんという人種は似てくるのかもしれないね。………ついでに私の恋人。

 

兄さんに紹介できれば良かったなぁ。」

 

話してる内に兄さんの表情も柔らかくなってくる。

 

「……あはは。最後のはちょっと嫉妬しちゃうね。…………でも、幸せなんだね。」

 

「そう。兄さんのお陰だよ。」

 

千本の雨が止む。攻撃が決まらない事から、攻撃パターンが変わったか。

 

千本では無く、兄さんが千本を片手に突っ込んできた。

 

だけど、根本的に速度は変わらない。

 

斬りつけてくる兄さんの右手を左手で優しく包み込んだ。そのまま兄さんを抱き寄せる。

 

やっぱり、私の方が背が高くなったね。

 

兄さんに私の心音が聞こえるように強く抱きしめる。

 

「………ありがとう。愛してるよ、お兄ちゃん。」

 

お兄ちゃんの目から涙が流れる。

 

「うん。ボクもありがとう、藍。元気でね。」

 

抱きしめていた兄さんの身体が崩れ去った。同時に氷の鏡が砕け散る。

 

さようなら、お兄ちゃん。先に再不斬さんと待っててね。



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砕けた氷が空に消えていく。

 

それをボーッと眺めていたら、カカシさんに声をかけられた。

 

「お兄さんと再不斬にちゃんとお別れができたみたいだね。」

 

「私の我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました。」

 

カカシさんとサクラさんに頭を下げる。

 

サクラさんは目が真っ赤になっていた。

 

カカシさんも少し俯き気味になる。

 

「気にする事は無いよ。………あの二人は君にとって特別だろう。」

 

「………カカシさんこそ、気に病む必要はありませんよ。」

 

「………何の話だい?」

 

「私が今も抜忍をやっている事をご自身の責任に感じる必要はないという話です。」

 

カカシさんとサクラさんが目を丸くする。

 

「……だが、オレは再不斬から君を託されたんだ。それをオレは…」

 

「確かにそうかもしれませんが、私は貴方と再不斬さんの約束を知りません。……それにたらればの話をしても仕方ありません。」

 

カカシさんの目を見てはっきりと言う。

 

「貴方は木ノ葉のはたけカカシ。私は暁の雪藍。それだけが事実です。」

 

「…………」

 

「どういう過程かなんて意味がありません。結果として、S級犯罪者集団、テロ組織『暁』の構成員。それが全て。」

 

「…………」

 

「それに私は別に自分を不幸だとは考えていません。さっき、兄さんにも話した通り、私は色んな人の支えがあって生きています。これを幸せと言わず、なんと言うんですか?」

 

「だが、君が挙げたメンバーも…」

 

「そうです。暁の犯罪者です。……ですが、彼らと私に違いなどありません。私だけが特別では無いんですよ、カカシさん。…それに私だって、五尾の人柱力を殺害しています。私もれっきとした犯罪者なんですよ。……カカシさんの責任云々の話では、最早無いんです。」

 

「そんな……」

 

「ですから、私はこれからも色んな人の想いを受け継いで、償いをしないといけません。戦い続ける事こそが、私の人生。」

 

カカシさんも完全に黙り込んでしまった。

 

暗い雰囲気で悪いけど、今は戦争の真っ只中。犠牲者が増え続けている現状でずっとお喋りするわけにもいかない。

 

「……お話は以上です。これから私はある術を使います。」

 

「……ある術?」

 

「はい、穢土転生の数を減らす術です。」

 

「…どんな術なの?」

 

「穢土転生体の魂魄を殺す術です。」

 

「…………」

 

「…………?」

 

カカシさんの表情が険しくなる。サクラさんはよくわからないという表情だ。

 

「魂魄……つまり魂を殺す。通常人間は肉体を破壊される事で死ぬ。だが、魂はどうなる?……そのある意味な答えがこの穢土転生。…或いはペインが使った輪廻転生の術だ。輪廻転生は生身の肉体に魂を入れる。穢土転生は生贄に魂を入れる事で復活する。…彼女が言ったのは、その魂を攻撃する術だって事さ。」

 

カカシさんの説明でサクラさんも理解したのか、顔色が悪くなる。

 

「この術を使えば、穢土転生体が復活する事ができなくなります。」

 

「だが、それは輪廻の輪に戻すのでは無く、魂の殺害。つまりその魂魄は無に帰すと言う訳か。」

 

「そうです。穢土転生体でも転生が不可能となり、魂魄は死にます。つまり無になります。屍鬼封尽によって死神に魂を捕らわれる事とも違います。」

 

サクラさんの表情も険しくなる。

 

「そう。この術は穢土転生によって死者を弄んでいるカブトよりも見方によれば残酷な術です。……穢土転生された何千何万の人間を虐殺する事と同義。強者を選んで穢土転生されている事から、各里の先代の英雄等も多く含まれる。あらゆる人間から恨まれる事でしょう。ですが…………」

 

私は剣気を放ち、睨みつける。

 

「…………今を生きてる人々が救われるなら、私は迷わない。」

 

「「…………」」

 

私は強く念じる。

 

晴れていた空が暗くなっていく。上空に雲が発生しているからだ。

 

今忍界全体を覆う雪雲を剣気で作っている。この雲から降る雪は私が設定したものを溶かす能力がある。

 

今回は穢土転生の魂魄。

 

これを物質に設定すれば、建物や木々や地面に人間も溶かし殺す事も可能だ。

 

忍界全体と言う事で少し時間がかかるから、こうして話している。

 

「…まあ、脅しつけるような事を言いましたが、実際は穢土転生の全体の2割程度しか倒せないと考えられます。」

 

「……その根拠は?」

 

「この術は魂魄を溶かす雪を降らせる術です。…単純な話、天井のある建物や洞窟、或いは自身で傘の役目を成す術でも持っていれば防げます。故に予想として2割と見ています。」

 

だいぶ空も暗くなってきた。

 

そろそろ始めよう。

 

カカシさんとサクラさんも気が付いたようだ。空を見上げている。

 

「まさか雪を降らせるって、本当に自然の雲を呼び出すのか。……なんてデタラメな。」

 

「範囲は?」

 

「忍界全域です。」

 

「「は?」」

 

「冗談ではありませんよ。………と、忘れるところだった。」

 

私は首切り包丁を広い巻物に収納する。

 

「…再不斬さんの遺品ですからね。私の腕力では振り回せませんが、私にとって大切な物の一つです。」

 

突然、カカシさんに肩を持たれる。

 

「オレが部隊長だ。責任はオレが持つ。」

 

本当に優しい人だ。だけど……

 

「申し訳ありませんが、お断りします。」

 

「……何!」

 

「この暁の服を纏っている私を味方として見てくれる事は大変嬉しいですが、貴方は忍連合軍の隊長。しかも木ノ葉の顔でもある。仮に戦争に勝てたとして、戦後に禍根を残して、木ノ葉で第五次忍界大戦にでもなれば、何の意味もありません。忍連合ではこの術を使える人はいないんですよ。暁の服を纏った私以外には。」

 

「…………」

 

「…………」

 

カカシさんが印を結んでいく。凄まじい雷光が右手を包んでいる。

 

雷切か……

 

「あまり偉そうな事を言いたくありませんが、いい加減貴方も覚悟を決めてください。」

 

10を取ることは不可能。なら1を捨てて9を取る選択をする。

 

カカシさん。貴方の肩には忍連合の何万人もの命がかかってる。

 

その命と一人の汚名とじゃ、天秤の対としては余りにも軽すぎる。

 

私は既に覚悟を決めてる。今更ブレない。

 

1()を切り捨てる覚悟は出来てる。

 

カカシさんの雷切の光が消えていく。

 

雪誅月仙花(せっちゅうげっせんか)

 

死の雪がパラパラと降り始める。

 

徐々に雪の量も増えていく。

 

異変はすぐに起こる。穢土転生体の雪に触れた場所が、ボロッと崩れ出した。

 

私は空を見上げる。雪は止めどなく降り続ける。

 

「深深と溶けていくがいい。」

 

どれくらいそうしていたかわからない。

 

気が付けば、戦闘音が消えていた。

 

視線を空から前に戻せば、忍刀七人衆の穢土転生体は全て塵になっていた。

 

彼らは刀がメインである事から、自分の身を守れる術を持ち合わせていなかった訳だ。

 

敵が居なくなった事で連合軍が私の周りに集まりだす。

 

「この雪は後、30分は降り続けます。……この場は白ゼツにだけ気を張っていればいいでしょう。」

 

連合軍の面々をしっかりと見る。

 

まだ彼らは何が何だかわかっていない様子。でも構わない。今は理解できなくても、この暁の服と顔を覚えてくれれば、後で冷静になった時に思い出してくれる筈。

 

もうここには用はない。

 

氷翼を展開する。

 

「では私は向かう所があるので、失礼します。」

 

私は空に飛んで次の目的地を向かう。

 

やはり穢土転生は思ったより、減っていない。それでも連合軍が少しでも楽になれば構わまい。

 

飛ぶ先にはよく知った気配。

 

やはり貴方も穢土転生されていたのね、イタチ。



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共闘

途中目に映った白ゼツを万華氷で射抜きながら、夜通し飛び続けていた。

 

既に朝日は登ってる。

 

強い神性二つがイタチと長門に接触したのを感じる。

 

ナルト君とビーさんね。あと小南も近付いてる。

 

戦闘の上空までやってきた。長門の口寄せ動物とそれに乗るイタチ。その背後には長門。睨み合うようにナルト君がいる。

 

何だか黄金に輝いてる。ますます神性が大きくなったね。……つまり、九尾の力をコントロールできるようになってきたのかな?

 

ビーさんの持ってるあれは鮫肌。……つまり鬼鮫さんはもう亡くなったって訳ね。

 

今の私は暁の裏切り者だ。きっと鬼鮫さんと戦う可能性があった。それが無くなってよかったのかもしれないけど、私を大事にしてくれた人が亡くなるのはやっぱり悲しいね。

 

俯瞰しているとクルッとイタチが上空の私の方を見てきた。

 

その瞬間、私の全身が黒い炎に包まれる。

 

これが天照。

 

焦点が合うだけで発火する消えない黒炎。光の速度なら確かに魔鏡氷晶と同じく、回避は無理だね。それでいて、消えない黒炎なんて反則もいいところだ。

 

「接触凍結」

 

天照の黒炎を凍らせる。

 

ズルッと黒炎を凍らせた黒い氷が落ちる。

 

一瞬だったから、特に火傷もない。

 

カブトめ…………穢土転生を減らされた事で私を確実に排除しにかかったな。

 

イタチと長門が私の雪を受けて無事って事は、多分スサノオを使ったのかな。

 

地面に降り立つ。

 

「お前ってば、暁!」

 

ナルト君とビーさんが警戒する。

 

「天照を凍らせるとは、相変わらず規格外だな、藍。」

 

まあ、天照なんて神性の塊。寧ろ普通の炎よりも簡単に凍らせれる。

 

「イタチに言われたくないわね。」

 

近付いてきたナルト君が私の顔を見て指差してくる。

 

「あー、お前ってば藍!!」

 

「お久しぶりです、ナルト君。」

 

「ん?……暁にその声って、まさか!」

 

お面を取り出す。

 

「これの事ですか?」

 

「そうそう、それって!!!」

 

と話していると、イタチがナルト君の方に視線を向けようとしている。

 

天照か?…今度はナルト君狙い。

 

「さて、どうなるか……」

 

「ナルト君、天照が来ますよ。」

 

次の瞬間、ナルト君の口からカラスが出てきた。

 

「ヴヴヴ〜〜〜」

 

「カァーーー!!」

 

「やはり出たか…」

 

「ヴゥオオエエッ!!」

 

「カァーーー!!」

 

「な……なんでオレの口からカラスが…出てくんだよォ…」

 

イタチの術かしら?だとしたら………

 

「!?」

 

イタチの身体がびくりと動いた。

 

だが何も起こらない。

 

「天照じゃないのか?」

 

「こうなったか…」

 

「…どうなったんだ?」

 

長門の口寄せ動物に黒炎が発生する。

 

「え?…天照を外した?」

 

あのカラス…

 

左目が万華鏡写輪眼だ。

 

その眼とイタチの目が合ったタイミングでイタチの身体がビクッと動いた。

 

つまり、これはイタチが自身に幻術をかけて、カブトの支配から逃れたって事?

 

「あのカラス……お前のだな。あのカラスで何をしたんだ!?」

 

「上手くいった…」

 

「ああ…そういう事か……」

 

長門も理解したようだ。

 

長門にも黒炎がつく。

 

イタチがこちらにやってくる。

 

「うわ!来た!!」

 

「落ち着け…もうオレは操られていない。この敵の術の上に新たな幻術をかけた。よって穢土転生の術は打ち消された。『木ノ葉を守れ』という幻術だ。」

 

「!?」

 

「そのカラスは………オレの万華鏡写輪眼に呼応して出てくるように細工しておいたものだ。もしもの時の為にな…」

 

「どういう事だ。」

 

「そのカラスの左眼に仕込んでおいたのだ…うちはシスイ 万華鏡写輪眼 最強幻術 別天神!」

 

カラスの眼が普通の写輪眼になった。

 

「その幻術でオレは元に戻った。どうやらもう万華鏡は切れたようだが…」

 

一旦、話を止める。

 

「私は長門の相手をしておくわ。イタチはもう少し、ナルト君と話してて。」

 

視線の先で長門が神羅天征で黒炎を飛ばしていた。

 

「ああ、頼んだ。」

 

瞬身で長門の所に行く。

 

完全に意識がカブトに乗っ取られてる。

 

「氷遁・万華氷」

 

「神羅天征!!」

 

射出した氷柱が砕ける。

 

神羅天征は5秒のインターバルが必要。5秒も有れば、私の速力なら近付くのも簡単。

 

一気に接近する。

 

「修羅道!!」

 

腕が6本増える。

 

成程、それで対応しようと言うわけね。

 

更に腕から誘導弾が飛んでくる。

 

これって、千本で迎撃しにくいんだよね。

 

「氷遁・万華氷」

 

なんとか全て撃ち落とす。だけど、全ての弾が爆発して視界を遮る。

 

まあそれは構わない。感知できるし、ただ問題は……

 

長門に斬りかかる。

 

「神羅天征!!」

 

5秒以上かかってるんだよね。

 

吹き飛ばされる。

 

空中で姿勢を変えて木に着地する。

 

「小南!!」

 

大声で叫んだ瞬間、長門に向かって大量の起爆札が降り注ぐ。

 

ナイスタイミング。この距離じゃ突っ込んでもまた神羅天征で飛ばされるからね。私と小南でロッテ戦術に徹すれば、片方が神羅天征を引き受ければいいだけだから楽だ。

 

長門はパンダを口寄せして盾にしていた。

 

「藍、これはどういう状況なの?」

 

「長門が穢土転生の術で操られてるの。」

 

「小南!?」

 

「ナルト、話は後にしろ。」

 

長門がビーさんの所へ向かう。

 

「カンタンにはいかねーぜバカヤロー!コノヤロー!」

 

ビーさんが赤黒いチャクラを纏う。

 

尾獣化か……

 

「雷犂熱刀!!!」

 

ビーさんのパンチが入る。

 

「餓鬼道!」

 

あれは長門のチャクラ吸収。

 

随分と血色が良くなったわね。

 

「ビーのオッチャン、大丈夫か!?」

 

ナルト君が加勢に入るけど、カメレオンに捕まる。

 

「人間道!」

 

不味い!

 

あれは魂を抜き取って相手を殺す技!

 

ナルト君が抵抗して、螺旋丸を放つが餓鬼道に吸収される。

 

長門の背後に閻魔像が現れる。

 

カブトめ。ナルト君の魂を回収して、封印する気か……

 

ビーさんと小南も加勢するが、修羅道に絡め取られる。

 

輪廻眼は厄介ね。

 

口寄せ輪廻眼

 

視界共有を潰す。

 

千本を投げて、口寄せ動物の輪廻眼を射抜く。

 

「イタチ!!」

 

「ああ!」

 

スサノオの手刀が長門に叩きつけられる。

 

視界を潰せば、輪廻眼の視野の広さをなくせる!

 

「ナイス、イタチ!」

 

「何だこの忍者は!?はっきり言ってむちゃ強えーじゃねーかよ、バカヤロー!コノヤロー!」

 

「ペイン六道つって…六道仙人の力を持ってんだからそりゃ強えーよ!!」

 

「しかも、今は長門本人が動いてるからより多彩ね。」

 

「来るぞ…」

 

長門が黒い球を空へ投げる。

 

地面木々が吸い込まれていく。

 

「あの黒い玉。…相当の引力があるようだ。」

 

「何だありゃヨウ!」

 

「小南!あれは何!?」

 

「地爆天星…黒い球体を核に、星を作ってそこに閉じ込める術よ。」

 

「こ…この術を前にやられた!マジヤベーんだってばよ!!これも食らったら終わりだ!」

 

「おい…ナルト。」

 

「何ィ〜〜〜〜!?」

 

「食らって終わりなら、お前はなんで生きてる?」

 

「……」

 

「アハハハハ!なら大丈夫!この勝負!」

 

「笑ってる場合じゃなーい!!何でこの状況で余裕ぶっかませんだァァ!?前ん時は九尾の暴走でたまたま…!」

 

「余裕でいるんじゃない。分析には冷静さがいる。さっき長門が投げた黒い玉を破壊すればいい。各々の最強遠距離攻撃で一斉に中央を攻撃する!わかってるな、藍」

 

「了解」

 

「こんな状況じゃうまく中央を狙えねーってばよ!」

 

「狙わなくても当たる。この強すぎる引力を利用する算段だ。どんな術にも弱点となる穴は必ずある!」

 

皆がチャクラを練り始める。

 

「八坂ノ勾玉!!」

 

「神の紙者の術!!」

 

「尾獣玉!!」

 

「風遁・螺旋手裏剣!!」

 

「白氷龍」

 

大爆発が発生する。

 

瓦礫や土煙で視界はゼロ。だけど、私は全員の位置を感知できてる。

 

「イタチ、八時の方向。岸辺にいる。」

 

「了解」

 

スサノオから十拳剣が召喚される。

 

それを長門に突き刺す。

 

「すまないな…イタチ。」

 

「元へ戻ったか…十拳剣だ…すぐに封印する…何か言い残す事はあるか?」

 

「ナルト……オレは師匠の所へ戻ってお前の物語を見ておくとするよ……オレから言わせれば、お前は三部作目の完結編だ。…一部が自来也…完璧だった。だが、二部作目ってのは大概駄作になる。オレのようにな……師にも認めてもらってない。シリーズのできってのは三部作目…完結編で決まる!駄作を帳消しにするぐらいの最高傑作になってくれよ…ナルト!」

 

今度は小南の方を見る。

 

「小南……オレは先に言ってお前の事も見守るよ。一人にさせてしまうのは申し訳ないけど、オレ達弥彦との夢は今も目の前で生き続けてる。…だからありがとう。」

 

「長門……私にとっては貴方は駄作なんかじゃなかった。誰にも誇れる最高傑作だったわ。その続きもきっとそうなる。だから、安心して長門。さようなら。」

 

そうして長門は封印された。

 

「…このエドテンとか言う術…気に食わねェ!戦いたくねェ人と戦わされる……おそらく他の戦地でもそうなんだろ?」

 

「穢土転生はオレが止める。マダラはお前達に任せる。」

 

イタチが声を上げる。

 

まあ、妥当だろうね。穢土転生のイタチならカブトノ場所を逆探知してるだろうし。

 

「…ここへ来る途中に穢土転生の奴と戦った。砂の忍がそいつを封印したが、どうやら殺せはしないヨウだOK?この術は弱点の無い完璧な術だそうだOK?」

 

「さっき言ったはずだ。どんな術にも弱点となる穴が必ずあると。」

 

「どうだろうな…」

 

「まあ、こうして自由な身になった穢土転生体に逆襲かけられるのは、大きすぎるリスクだと思うけどね。」

 

「これはオレだからやれた事ではあるがな。」

 

「イヤ…オレが止める!さっきオレも言ったはずだ。…後はオレに任せてくれって!影分身の術!!」

 

ナルト君の影分身が出るけど、金色の光が無くなった。

 

結構チャクラ使ってるね。しんどそうだ。

 

「くっ…!」

 

「九尾チャクラモードの使いすぎだ…それ以上分身はするな、ナルト!」

 

「一人で無理をしようとするな。この穢土転生を止めるためにはオレが打ってつけだ。考えがある……」

 

「…この戦争は全部オレ一人でやる!!全部オレが引き受ける。…それがオレの役目なんだ!!」

 

「…………」

 

「ハア、ハア」

 

「ナルト。ここには5人の手練れがいる。貴方一人でやるより、手分けした方が効率的よ。」

 

「……それでも、これはオレが原因の戦争だから…」

 

「………ナルト君。それは手分けした方が死者を減らせるとしても、同じ事が言えますか?」

 

「…………」

 

「…お前は確かに前とは違い強くなった。力を得た。だがそのせいで大事な事を見失いかけてもいるようだな。」

 

「!?…………」

 

「…いいか。よく覚えておけ。お前を嫌っていた里の皆がお前を慕い始め…仲間だと思ってくれるようになったのは、お前が他人の存在を意識し、認められたいと願い一途に頑張ったからだ。」

 

「……」

 

「お前は皆のおかげでここまでこれたと言ったな。力をつけた今。他人の存在を忘れ驕り、個に執着すればいずれ…マダラの様になっていくぞ。」

 

「………」

 

「どんなに強くなろうとも全てを一人で背負おうとするな…そうすれば必ず失敗する。お前の父 ミナトが火影としてあったのは、母クシナや仲間の存在があったからこそだ。」

 

そう。私も今頑張れてるのは、兄さんに再不斬さん、イタチ等の支えてくれる人達がいるからだ。

 

「…お前の夢は確か父と同じだったな…なら覚えておけ。」

 

「……?」

 

「火影になった者が皆から認められるんじゃない。皆から認められた者が火影になれるんだ。…仲間を忘れるな。」

 

「………」

 

「ナルト、貴方は長門と弥彦の夢の続き。それは私にとっても変わらない。」

 

「ナルト…オレはイルカってのと約束してんだ、だいたい。お前を守るってな…一人じゃ行かせねーぞ!そもそも。オレはまだ生きてる ピンピン。」

 

「ナルト君、君は兄さんから夢を託された存在です。私も貴方を応援しているんですよ。」

 

「………確かに………オレが何とかしなきゃダメなんだって…思い込みすぎてたかもしんねェ…」

 

するとイタチがカラスを天照で燃やす。

 

まあ、もう使いものにならないし、敵に利用されるリスクが高過ぎるよね。

 

「何で!?」

 

「シスイの眼は十数年は役に立たない。…もうサスケの時には使えないだろうし。それにお前はシスイの眼以上のものを持ってる…それはシスイと同じ心だ。シスイが渡したかった本当のものはそれだ。もう眼はいらない。今のお前なら、こんな眼を使わなくてもサスケを止められる。」

 

「今ならアンタも直接サスケに会える!…今度こそーー」

 

「イヤ……」

 

「……!………」

 

「オレは一人で何でもしようとし…失敗した…今度は…それこそ仲間に任せるさ。」

 

「ただ強いってだけの忍じゃないな…アンタって奴は。」

 

「じゃあ、イタチと藍は穢土転生を止めに行って、私達はマダラを止めましょう。」

 

「そうだね。小南も死んじゃダメだよ。」

 

「ちょっと、待ったァ!!有耶無耶になってたけど、アンタってば味方なのか?」

 

「ナルト、これだけ一緒に戦ってるんだから、今更疑っても仕方ないわよ。」

 

「気持ちはわかりますが、マダラとやり合ってる所も見てますよね?」

 

「あ!そうだったってばよ。」

 

「おい、藍。マダラと戦ったのは本当か?」

 

「え?…まあ、ちょっとだけ。」

 

「……なんて、無茶な事を………」

 

「……いや、だってーー」

 

「はいはい、喧嘩しないの。」

 

「小南は相変わらず、お姉さんぶっちゃってさぁ!」

 

「……なんだか、暁のイメージが崩れるってばよ。……と言うか、藍は何で暁になっちまってんだ?」

 

チラッとイタチを見るが特に反応しない。

 

好きにしろって感じね。

 

「………話しても構いませんが、あまりにも話が脱線し過ぎる上に長話になってしまうので、またの機会でいいですか、ナルト君?」

 

「…まあ、チンタラしてらないってんなら仕方ないってばよ。」

 

「キラービー、小南…ナルトを頼む。」

 

「オウ!ヨウ!」

 

「ええ、わかってるわ。」

 

「行くぞ、藍。」

 

「うん。じゃあ、3人とも無事でいてね。」

 

こうして私達は二手に分かれた。



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兄弟の再会

カブトの穢土転生を止めるべく、イタチと一緒に森を駆ける。

 

イタチは穢土転生で操られていた時から、カブトの位置がわかっていたらしく、そこに向かってる。

 

「マダラと戦ったと言ったな。」

 

………その話題は痛い。

 

「しかも、さっきの話の流れだと一人で戦ってたのか?」

 

「……マダラに暁を抜けるって言ったら、戦闘になっただけだよ。」

 

「当たり前だ。……もっとうまくやれるだろ?」

 

「マダラのあの時空間忍術なら、不意打ちを受けるかもしれないからさ。正面から喧嘩売った方がいいって思ったんだ。」

 

「………はあ、もういい。……それで、昨日降った雪はお前の仕業か?」

 

「ん?ああ、そうね。」

 

「スサノオを無理やり使わされた。それ程の防御をしないといけない危険な術なのか?」

 

「あれは、穢土転生の魂魄を溶かす雪だよ。……まあ、そう設定しただけでそれ以外も溶かそうと思えばできるよ。」

 

「成程、カブトが焦ったのも頷けるな。だがーー」

 

イタチはこちらに向いてきた。

 

「さっきナルトにも言った事だが、お前にも当てはまる。……一人で全てを熟るとは思うな。確かにオレの想いをお前に託したが、お前一人でそれをやれとは言っていない。だから、ナルトやキラービーにも託したんだ。」

 

「……大丈夫だよ。私には今まで色んな人に支えられてるから。」

 

「それだけじゃダメだ。ナルトは今も多くの仲間がいるが、お前の仲間は小南以外、全て死んでしまってる。それでは結局、さっきのナルトと変わらない。心構えはしっかりしてても、現実で誰も支えてくれる人間がお前にはいない……それが心配でならない。」

 

「死んで尚、心配してくれるなんて、本当に貴方は優しいね。」

 

「冗談で言ってる訳じゃないぞ。」

 

「わかってるよ。……でもね、イタチ。私少し怖いんだ。………私が仲良くなった人達はみんな死んでしまう。小南も一度死にかけた。私と関わる所為で、誰かが死ぬのが怖いの。」

 

「…………」

 

「…………」

 

「成程。………なら、小南が助かった理由はなんだ?」

 

「……それは、小南が死にかけた所を助けたから。」

 

「なら、そうすればいい。仲間が危機に陥れば、お前が助ければいい。お前が苦しい時には仲間に助けてもらえ。当たり前な事だ。」

 

イタチが小さく笑った。

 

すっと胸の内が軽くなった様な気がした。

 

「………うん、ありがとう。」

 

雨が降ってきた。

 

その後、暫く森を駆けていたらサスケ君とすれ違った。

 

案の定、サスケ君が私達を追いかけて来た。

 

「待て!!…イタチなのか!?」

 

「…………」

 

「待てって…言ってんだろうが!!」

 

サスケ君のスサノオの手がイタチに伸びる。

 

それをイタチのスサノオの手が弾く。

 

ちょっと!私に当たりそうなんだけど!

 

「このスサノオ…やはりお前はイタチ…!」

 

「どうするの、イタチ?」

 

「…まさか…お前までコレを使えるようになっているとはな…」

 

「なぜアンタがここにいる!?死んだ筈だ!!」

 

「カブトの術…今のオレは穢土転生だ。今は止まってられない…やらなければならない事がある。」

 

「そんなの知るか!!アンタがこうしてオレの目の前にいる…聞きたい事が山のようにある!!」

 

「後にしろ…と言っても聞かないか…」

 

「アンタが言ったんだ!オレと同じ眼を持ってオレの前に来いと!ならなぜ逃げる!?オレに嘘をついた後ろめたさか!?それとも真実を語る勇気が無いからか!?オレはもうアンタの全てを知ってる…!だからオレは木ノ葉を潰すと決めたんだ!」

 

「お前と戦った時、言った筈だ……人は思い込みの中で生きている…そう考えられないかと。その現実は幻かもしれないと…オレの真実が本当に…」

 

「オレはもう幻の中には居ない!!アンタの幻術を見抜ける!これはアンタの眼だ!!」

 

「強気な物言いは変わって無いが…お前の後の事は人から聞いた…随分変わったと…」

 

「違う!!アンタがかつてオレの全てを変えたんだ!オレは死ぬ筈だった!両親と一緒にアンタに殺される筈だった!なのに…なぜオレだったんだ!?なぜオレだけ残した!?なぜオレが…!!父や母と何が違う!?なぜオレばかりが…」

 

「お前は当時何も知らなかった。うちは一族の愚考も何も…子供だった。そして、お前の為だけではない…オレはうちはであるお前の手でいつか裁かれたかったのだと思う。そのためにお前の中の憎しみを利用した。だから失敗したんだ。結局オレはお前に憎しみを与え、里を抜けさせ…罪人してしまった……お前が正しい道を歩いていく事を願っていたのに…オレは死ぬ以前より…お前が違う道に行かぬよう…分かれ道の無い一本道に誘い込むようにした。道案内の立て札を嘘と瞳力で書き換えてな。」

 

「…何も知らず、オレだけ呑気にその一本道を歩くだけか…!?オレはそんな道、望んじゃいない!!」

 

「ああ…確かにそうだ。どう行くかは自分で決めるものだ。」

 

「幾ら立て札を書き換えようと、もうオレの眼はその上塗りを見抜く!」

 

「フ………」

 

「何がおかしい!?」

 

「…いや………道案内は何も立て札ばかりじゃなかったんだな…」

 

ナルト君の事か……

 

「オレは本来、死人だ。これ以上は語るまい。」

 

「アンタは生前、オレに構ってくれず、いつも許せと額をこづき逃げるだけだった。死んだ今でもまだ逃げるのか!?」

 

「逃げてる訳では無い。言った筈だ。やらないといけない事があると。口寄せの術!!」

 

大量のカラスがサスケ君に纏わりつく。

 

「クソ!!」

 

「…お前はここにいろ。」

 

イタチがスサノオで岩肌を殴る。

 

「サスケ君、ほっといていいの?」

 

「……お前はサスケが入らないように見張っててくれ。」

 

「………はあ。サスケ君、かわいそう。」

 

イタチが岩壁に入っていった。

 

すぐにサスケ君がやってきた。

 

「そこをどけ。」

 

私は道を譲る。

 

あまりにもあっさりと開けた事にサスケ君が訝しむ。

 

「……いいのか?お前はイタチにここでオレを止めるように言われたんだろ。」

 

「イタチが勝手に言っただけで、私は了承してませんからね。…まあ、ナルト君に託した手前、あまり多くを語りたくは無いんでしょう。それに兄としてのプライドが邪魔して、素直になれないみたいですね。……まあ、私としては、せっかくお互いの事情を知ったのに、そんな事ですれ違ってる貴方達が不憫で仕方ないので、さっさと仲直りして欲しいと思っています。……だから、どうぞ。」

 

「………フン。好きにしろ。」

 

そしてサスケ君の後についていけば、イタチと大蛇丸みたいになってるカブトがいた。

 

こいつが兄さんと再不斬さんを弄んだやつか。

 

そんな事を一瞬考えたが、意外にも怒りが湧く事はなかった。

 

きっと私も同じ穴の狢だからだろう。

 

「………思うようにはいかないものだ。全く。」

 

イタチがこちらを悩ましげに見てくる。

 

私はそれにニッコリと微笑みで返す。

 

「………はあ。」

 

「追いついたぞ!こんなところで一体…!大蛇丸……なのか!?」

 

「クク、少し違う…」

 

「…!その声は…カブト…!」

 

「戦争協力の見返りがこのタイミングで自らボクの目の前に来ちゃうとはね…ラッキーだよ…」

 

「………」

 

イタチが鋭い目つきでカブトを睨む。

 

写輪眼で睨むと迫力が凄いね。

 

「!?どう言う意味だ?なぜお前達がこんなところで…」

 

「ややこしい状況だよね。ボクが簡単に説明しようか…」

 

「説明してろ…その隙に穢土転生は止めさせて貰う。」

 

「この術に弱点は無い…リスクもない…イタチ、君の方にはそれを説明したいんだけど…とにかく君が動くにもサスケ君が大人しくしてないと思うけどね。焦ると止められるものも止められないかもよ。」

 

この隙にまた雪でも降らせようか。

 

凄まじい神性を感じる穢土転生体がいつの間に出てるし、そいつの所為で大量に死傷者が出てる。今は五影で対処してるみたいだけど、時間稼ぎにしかなってない感じ。

 

ナルト君の方も九尾の力がより強くなってる。だけど、他の尾獣たちもいっぱいいるね。

 

剣気での技は印が必要ないから、棒立ちでもバレないのが利点だね。

 

雪誅月仙花(せっちゅうげっせんか)

 

一度この雪を凌いだ穢土転生体ばかりだから、あまり効果がないかもしれないけど、穢土転生体の行動を阻害はできる。

 

その間にもカブトは戦争の説明をしている。

 

「…ってのが戦争の話。で、君はうちは一族の仇であるイタチをまた倒したい。ボクがこの世に転生させちゃったからね。そして、イタチの味方をする藍の事も邪魔だ。つまりサスケ君とボクにとって、この二人が障害という訳だ。…どうだろう。ここは一つ協力して2対2で戦おうじゃないか?同じ蛇の力を持ち、同じ師を…」

 

「アレを師と呼ぶ気はない。…それにお前は何も知らないようだな。オレは今、イタチと話をする為にここまで追って来た。」

 

「………なら君は今…どっちの味方なんだい?」

 

サスケ君が手裏剣を投げる。それをイタチが迎撃した。

 

「何故だ!?こいつは大蛇丸と同じ…だとしたらオレの敵だ!そして今はアンタらの敵でもあるんだろ!」

 

「…分かった。話は後で聞いてやる…代わりにまずこいつを倒す…ただし殺すな。」

 

「!?」

 

「穢土転生の術者を殺してしまっては、術が永久に解けない。まずはこいつをオレの月読に掛け、その術を止める方法を聞き出す。…そして月読に嵌めたままこいつを操りオレがこの術を解く!」

 

「流暢にボクの倒し方を喋ってくれちゃって…口程上手くいくといいけど、この術には弱点もリスクもないってさっき…」

 

「どんな術にも弱点となる穴がある。この術の弱点とリスクはこのオレの存在だ!」

 

「私は手出ししないから、兄弟で仲良く生捕にするんだよ、イタチ、サスケ君。」

 

「…君が手出ししなくても、ボクは君を殺すよ、藍。ボクの穢土転生を沢山、減らしてくれた礼をしておかないとね。」

 

「…イタチ…アンタはいつもオレに今度だ、後だと嘘をつき、あげく死んだ。だから今度こそ、約束は守って貰う!」

 

「性格は死ぬまで変わらないが…オレは一度死んでる。そのつもりだ。」

 

「兄弟で仲間外れですか、面白い。」

 

そうして始まった戦い。

 

うちは一族のそれも万華鏡写輪眼の兄弟相手に意外にも善戦するカブト。

 

だけど、突然カブトの動きが止まる。

 

「これがイザナミね。」

 

「視覚じゃない瞳術とはどう言う事だ?」

 

「イザナミは自分と相手…二人の体の感覚によって嵌める瞳術だ。」

 

「どう言う事だ。」

 

「瞳力である場面を切りとって、錯覚を利用して無限ループを作り出す能力だ。勿論、失明する事と引き換えにする。イザナギと同じだ。」

 

「カブトの意識は幻のイタチとオレを相手にずっと無限に続くループの中で閉じこめられるって訳か…」

 

「いや、この術にはそのループから抜け出る道がちゃんと用意されてる。そもそもイザナミはイザナギの術者を戒め救う為に作られた術だからな。」

 

「ん?どう言う事?」

 

「イザナギはサスケも少しは知ってるようだが、アレは運命を変えるうちはの完璧な瞳術だと言われていたそうだ。己の結果に上手くいかない事が有れば、その結果をかき消し元に戻れる。言わば、都合のいい結果だけを選びとっていける仕組みだ。」

 

ならあの時のマダラの攻撃もイザナギだろうね。左目が失明していたし。

 

本当に反則ね。ならあの時、最低でも3回は仕留めないとマダラを止めれなかったって事になるね。…あのすり抜け能力相手に。

 

「大きな戦においてうちは一族が失敗できない時にイザナギが大きく貢献した。しかし、結果を思うままに変えられる術には失明以上のリスクがあった。その強すぎる瞳力は術者を驕らせ暴走させる要因となった。イザナギを使う者が一人なら問題は無い。だが、それを二人以上になると、うちは一族内で都合のいい結果の奪い合いが始まった。それを止める為にイザナミが作られた。視覚相手に視覚で嵌めれないからな。イザナギで都合のいい結果に変えようとすると、ループに囚われる仕組みだ。だが、イザナミはイザナギを止める為の術。ちゃんとループから抜け出る道も作られていた。」

 

「………!?」

 

「これは本来、うちはの仲間を傲りと怠慢から救う為の術だ。本来の己の結果を受け入れ、逃げなくなった時におのずとループは解ける。運命を受け入れるように導く術。抜け道のある術など実戦では危なくて使えない。そう言う意味でイザナミは禁術になっている。」

 

「だからカブトが己を受け入れたら、術は解けるのね。」

 

「そうだ。」

 

「何故こんな術をわざわざカブトに掛けたんだ?脱出できるってことは…」

 

「…こいつは昔のオレに似ていた。全てを手に入れたつもりで何でも成せると盲信しようとする。だからこそ、己の失敗に怯え、己に失敗は無いと自分に嘘をつく。結果、それを誤魔化す方法として他人を信用しなくなったのがオレだ。カブトの場合は他人の力までも自分自身の力だと思い込んだ。」

 

「………」

 

「こいつの事もわかるんだ。この忍の世に翻弄された者同士。どうしても自分自身を許し、認める事ができない事も…確かにこいつのやってる事は間違ってる。だが、こいつだけを責めるのも間違いだ。カブトにも気付いて欲しい。………オレが気付かされたようにな。」

 

イタチがこちらをチラッと見てくる。

 

ただサスケ君は納得いかないようだ。

 

「こんな奴の為に何で兄さんがそこまでする義理がある!?こいつと兄さんは違う!兄さんは完璧だった!」

 

「サスケ…オレはお前に別天神(ことあまつかみ)という瞳術を使ってまでお前を操る形で導こうとした。誰よりもお前を子供扱いし、守るべき対処としてしか見てなかった。お前の力を信用していなかった。……そんなオレにも信じる力を教えてくれた奴がいる。…………なんであれ一つとして完璧なんてものはない。だからこそ補うモノが必要だ。イザナギとイザナミのように。」

 

「…………」

 

「オレを見てオレに無かったものを探して欲しい。だからオレを完璧だったなんて言ってくれるな。まずは…ありのまま自分を自分自身が認めてやる事だ。そうしさえすれば誰にも嘘をつく事はなかった。お前にもオレ自身にも。………嘘に信用は無く、背中を預ける仲間はできん。そして嘘は本来の自分すら見えなくさせる。」

 

イタチがカブトの方に向く。

 

「………これより穢土転生の術を止める。」

 

イタチが再びこちらに振り向く。

 

「これで戦争の終わりが近づく。」

 

「なら…兄さん。アンタも…」

 

「…オレは木ノ葉隠れのうちはイタチとして…もう一度里を守る事ができる。もうこの世界に未練はない。」

 

「何故だ!?兄さんにあんな事をさせた木ノ葉の為に何でまた兄さんが!!兄さんが許せてもオレが木ノ葉を許せない!!この世に未練が無いだと!?オレをこんな風にさせたのは兄さんなんだぞ!!」

 

「お前を変えられるのは、もうオレじゃ無い。」

 

とはいえ、叫びながらも暴れないあたり、それなりに聞き分けが良くなっているように見える。

 

「だからせめて…この術を止める事がオレの今できること。ナルトに託した事を蔑ろにしない為にもな。」

 

「最後にちょっとは話してあげてもいいんじゃない?」

 

「オレは死人だ。オレの事ならお前に託してる。」

 

「〜はあ、頑固ね。」

 

イタチはカブトに月読を掛ける。

 

万華鏡写輪眼は伊達ではなく、一瞬で解術の印を引き出す。

 

「もう…何を言っても無駄なようだな。」

 

「………」

 

「アンタを見かけた時…トビやダンゾウの言った事が本当なのかどうか確かめたいとアンタに着いてきた。だが、確かめられたのはそれだけじゃなかった。……アンタといると昔を思い出す。…兄を慕っていた幼い日の気持ちをな」

 

「………」

 

「だからこそなんだ。昔のような仲の良かったオレ達兄弟に近づけば近づく程…アンタを理解すればするほど…アンタを苦しめた木ノ葉への憎しみが膨れ上がってくる。前にも増してどんどんそれが強くなる…アンタがオレにどうして欲しいのかは、わかってるつもりだ。アンタはオレの兄だからこそ、オレを否定するだろう。でもオレもアンタの弟だからこそ、アンタが何を言おうとも止まらない。ここで兄さんが里を守ろうとも…オレは里を潰す。」

 

「…………」

 

「さようならだ。」

 

“穢土転生の術…解”

 

後でフォローしてあげないと、サスケ君荒れそうだなぁ。

 

イタチの体が光出す。

 

塵が徐々に舞い上がる。

 

「まだ…間に合う……」

 

イタチがふらつきながら、こちらに歩いてくる。

 

「少しずつ意識が遠退く感じだ……」

 

いよいよイタチともお別れか……

 

胸が痛くなってくる。

 

寂しくなるな。ちょっとの間だけでも一緒にいて居心地が良かったから尚更ね。

 

「さよならの前に二人に話したい事がある。………藍。」

 

「………はい。」

 

「……オレはお前に助けられた。………お前から他人を信じる強さを教えてくれた。………お前が居たから最期まで戦えた。………お前はオレの代わりに沢山泣いてくれた。」

 

「私も貴方に沢山守ってもらった。……私が泣いてる時は、側に寄り添ってくれた。………いつも心配してくれた。……ありがとう。だから安心してね。」

 

「……ああ、こんなオレを支えてくれてありがとう。……だからこそ、オレを安心させてくれ。」

 

「……うん。………わかったよ、イタチ。」

 

上手く笑えているかな。

 

イタチを安心させなきゃいけないのに、思わず涙が少しだけ流れてしまった。

 

でも仕方ないよね。この胸の愛おしさは止められないから。

 

「サスケ。…お前が確かめたかった事を教えよう。…もう嘘をつく必要はない。…お前と別れたあの夜…。オレのやった事はトビやダンゾウの…言った通りだ。お前に…全ての真実を見せよう。」

 

イタチがサスケ君に月読を見せる。

 

私はそれを見る事は叶わない。

 

こんな時だけは、自分の幻術が効かない体質が無ければいいのにと思ってしまう。

 

「オレは…お前にいつも許せと嘘をつき、この手でずっと遠ざけてきた…お前を…巻き込みたくなかった…だが、今はこう思う。お前が父と母を…うちはを変える事ができたかもしれないと…」

 

実際、サスケ君の言葉でイタチは狂気を抑え込んでるものね。

 

「オレが初めからお前とちゃんと向き合い、同じ目線に立って真実を語り合っていれば…失敗したオレが今更お前に上から多くを語っても伝わりはしない。だから今度こそ、本当の事をほんの少しだけ。お前はオレのことをずっと許さなくていい…」

 

イタチがサスケ君の頭を合わせて目線を合わせる。

 

「お前がこれからどうなろうと、おれはお前をずっと愛してる。」

 

そのままイタチは光に包まれて昇天した。その時、イタチと目が合った。

 

『愛してる』

 

声は出ていない。だけど、確かにそう口が動いてた。

 

その微笑みは反則だ。

 

「うん………私も愛してるよ。」



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道程

穢土転生が解除された。これで戦争も有利になるだろう。

 

「………今なら、アンタの言ったイタチの遺言も少しは理解出来るかもしれない。……少しの間の短いやり取りだったが、イタチとアンタがどんな関係だったのかは察しが付く。……アンタが遺言やその他をイタチから受け取ってる事も察しが付く。………イタチは『新しいうちはの形を作り上げて欲しい』そう言ってたな。……ならば、知らないといけない事がある。」

 

「それは?」

 

「……オレはーー」

 

ドカッ!ガラガラ!!

 

岩壁が崩れ落ちる。

 

この気配は……あの二人か。

 

さっきまで目の前の事で一杯一杯だったから、気がつかなかった。

 

「見ーつけた!」

 

外から水月君と重吾君が入ってくる。

 

「あれ?なんで暁がこんな所にいるんだ?……戦争の最前線にいなくていいの?」

 

「こいつは暁じゃないらしい。」

 

「どういう事だ?」

 

「暁はもう抜けました。」

 

「あれ?その声……もしかして、ボクの事を蹴り飛ばした奴か?」

 

「……どうやらそうみたいだな。」

 

「ふーん、お面の下はそんな顔してたんだ。アンタの手足を切り落としたら、その綺麗な顔がどんな風に歪むのか見てみたいね。」

 

「やめておけ、碌なことにはならない。」

 

重吾君が水月君を諌める、

 

「水月君。……首切り包丁は欲しいですか?」

 

「………どうしてそんな事を聞いてくるんだ?」

 

「こいつは桃地再不斬の部下だ。」

 

「……再不斬先輩の部下に雪一族の双子がいた事はちょっと有名だったけど、まさか……」

 

「その片割れです。」

 

「…じゃあ、アンタが雪藍か?」

 

「はい、そうです。」

 

「ふーん、じゃあ尚の事、アンタと戦ってみたいね。」

 

「……勝手にやってろ。だが、今は後回しだ。」

 

「そうですね。水月君、機会があればお相手いたしますよ。貴方が再不斬さんの後に相応しいと判断すれば、首切り包丁を差し上げましょう。」

 

「……絶対だよ。逃げちゃダメだからね。」

 

嬉しそうに笑う水月君。

 

ちょっとデイダラに似てるかも。

 

「これがカブト…?なんかキモイね。この腹から出てるのなんとまるででっかい…」

 

「そいつはもう放っておけ。」

 

重吾君がアンコさんに近付く。

 

「生きてるな…」

 

「今更お前らがオレに何の用だ?わざわざオレを探してまで。」

 

「うん!そうそうそれがその…凄いのアジトで見つけちゃってさ…えっと…」

 

「さっきイタチとお前らが穢土転生を止めたと言ったな…だが、マダラとかいう穢土転生は止まってないようだぞ。」

 

「!」

 

すぐに気配を探る。

 

確かに大きな神性の気配がする穢土転生が変わらず暴れてる。

 

せっかく、雪を止めたのにもう一度降らせないといけないな。

 

………いや、マダラが穢土転生なら、トビはマダラじゃないのか?

 

どおりであまり強くなかった訳だ。

 

無論、あの時空間能力は凶悪な性能ではある。だけど、伝説として語り継がれる程かとは疑問に思っていた。

 

トビは一体誰なんだろう。

 

うちは一族だとは思うんだけど………

 

「…そうか……止まってないのか。」

 

「ボクとサスケが話してんの。水をささないでくれる!と…そんな事よりコレ!見てみてみ!」

 

水月君が巻物をサスケ君に渡す。

 

「なっ!すごいでしょ!?これがあればボク達 鷹がこの忍の世界を…」

 

「これだ…」

 

「?」

 

「全てを知る人間…」

 

サスケ君が立ち上がった。

 

「…とりあえず会わなければならない奴ができた。…オレは行く。」

 

「え?…誰?」

 

「大蛇丸だ。」

 

「はあ?」

 

「ん?」

 

「何言ってんの。大蛇丸は君がぶっ殺したはずじゃ…ボクは君がこれを…」

 

「あのしぶとい男の事だ。あれくらいで消え去るものか。あの胸糞悪い大蛇丸に会ってでも、やってもらわなければならない事がある。一族…里…全てを知る人間に会いに行く!」

 

大蛇丸か。

 

確かにしぶとい上に、おそらく世界中の呪印保持者に潜んでる筈。

 

だけど、とても危険だ。

 

私もサスケ君も大蛇丸に狙われるのは間違いないだろう。

 

サスケ君が何を望んでるのか知らないけど。

 

「大蛇丸に会うって、どういう事?それに全てを知る人間ってなんなの?」

 

「…お前らには関係のない事だ。」

 

「何だよ…訳わかんないね。んな事より…大蛇丸を復活させるなんてダメだ。その巻物の力を使うのに大蛇丸にお願いするつもりなんだろうけど…時間をかければ君にだってできるようになるって。そう思ったからこそ、君を探してわざわざこうして…」

 

「大蛇丸でなければできない事もある。」

 

イタチの教訓を早速活かそうとするのはいいけど、よりにもよって大蛇丸か……

 

話が少し長引きそうだから、先に雪を降らせておくか。

 

雪雲を剣気で作るように念じる。穢土転生はマダラだけか。

 

そこだけのカバーなら雪雲作成に時間もかからない。

 

雪誅月仙花

 

これでマダラに少しでも嫌がらせになればいい。まあ、スサノオがあるからあまり効果ないだろうけど。

 

サスケ君達は大蛇丸を復活させる準備ができたようだ。

 

万が一に備えて、サスケ君は守れるようにしておかないと……

 

「解邪法印!!」

 

アンコさんの呪印から蛇が出てくる。更にその蛇の口から大蛇丸が出てきた。

 

「……まさか…君達の方から私を復活させてくれるとはね。」

 

「大蛇丸、アンタにやってもらいたい事がある。」

 

「そんな事をいちいち説明しなくてもいいわ…アンコの中でずっと見ていたから…」

 

あの呪印に大蛇丸の意識もあるのか……

 

ますます気持ち悪さが増したね。あの時消しておいて本当によかった。

 

「なら、戦争のことも知ってるのか?」

 

「もちろん…ただそれについて一つだけ言っておくわ…水月。」

 

「?」

 

「私…この戦争には興味ないから。」

 

「えぇ!?」

 

「もう他人が初めてしまった戦争だしね…未だに興味があるとすれば…サスケ君…貴方のその若い体ぐらいよ…!」

 

戦争に無関心なのは意外だけど、やっぱり写輪眼への執着はあるようね。

 

「…と言っても、今の私にはそれを奪える程の力はないしね。………それに貴女も黙ってはないでしょう?…少し殺気を抑えてくれるとありがたいのだけど。」

 

「抑える理由がないわね。」

 

サスケ君が巻物を差し出す。

 

「奴らと会ってどうするつもり?」

 

「オレはあまりに何も知らない。奴らに全てを聞く。」

 

「…全て…?そんな事知らなくてもいいじゃない君はまだ子供なんだから。」

 

「そうじゃない。今はもう子供じゃない。…子供ではいられない。…そもそもの始まりはなんだったのか…オレはどうあるべきであり、どう行動すべきなのか…」

 

「復讐を迷ってるの?」

 

「違う。復讐自体を迷ってる訳ではない。イタチと再会し、前にも増して木ノ葉への憎しみは強くなった。……ただ…汚名を着せられ死して尚、木ノ葉の忍として里を想い、里を守ろうとしたイタチの気持ちとは……イタチとは?一族とは?里とは?…そして、全てを知り自分で答えを出し、己の意志と眼で成すべき事を見据えたい。」

 

成程ね。サスケ君なりに考えて行動している訳ね。

 

「………!?」

 

気配感知に凄まじい神性を感じる。

 

何コレ?

 

マダラ以上じゃない……まさか、十尾?

 

まだナルト君達が踏ん張ってる。連合軍も到着しつつあるね。まだ、少しは耐えられるか。

 

大蛇丸がカブトからチャクラを取る。

 

不審な動きはない。むしろ落ち着いてる。

 

「今のアナタ…悪くないわね。いいわ、協力してあげる。付いてきなさい。」

 

「…場所はどこだ?」

 

「フフ……アナタもよく知ってる場所よ。……アナタもついてくる?…藍?」

 

「私の名前を気安く呼ばないでくれるかしら。」

 

「フフ……相変わらず嫌われてるわね。……で、返答は?」

 

「いいわ。私も行く。サスケ君や木ノ葉に変な真似をしたら殺すから。」

 

「あら、ならアナタにならいいのかしら?」

 

「試してみればいいんじゃない?もう一度死にたいのならね。」

 

「おい、あんまり大蛇丸を煽るなよ!気が変わったらどうするんだよ!!」

 

「なら、やめておくわ。」

 

大蛇丸があっさりと引き下がる。

 

「あれ?……まあ、いいか。」

 

水月君も意外なようだ。

 

「まだ、殺されたくないからね。……アナタ、上手く実力を隠してるようだけど、行動の節々に常に余力が見えるもの。その気になれば、トビもマダラも簡単に倒せるんでしょう?」

 

「流石に買い被りすぎね。…そんな実力があれば、とっくに戦争は終わってるわ。……まあでも、貴方よりは強いからね。大蛇丸。」

 

「ククク……まあいいでしょう。………さあ行きましょう。」



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先人達の考え

大蛇丸が案内した場所は木ノ葉の里だ。

 

私は極僅かしかいなかった地だけど、随分と変わったようだ。

 

長門と小南が暴れまったようだけど、だいぶ復興も進んでいるようだ。

 

ん?

 

またナルト君の放つ力が増している。

 

この戦いの中でも成長していくナルト君は本当に凄いな。

 

「…行くぞ。さっさと案内しろ、大蛇丸。」

 

みんな足が止まっていた。感知タイプじゃなくても、感じれる程のチャクラ。

 

「……ここか。」

 

ボロボロの神社に案内される。どうやらうずまき一族の神社のようだ。

 

「ここは手付かずのようね。」

 

「ボロボロね…」

 

「そりゃこんな里の外れならね。」

 

神社の中に入る。

 

「どれだ?」

 

「さて…どこかに…」

 

色んなお面があるのね……

 

「あったわ。」

 

「何か気味が悪いね…見つけたんならさっさと行こうよ。」

 

「顔を隠すのが好きなアナタなら一個持っていったら、どうかしら?」

 

「結構よ。」

 

「…そう。なら全ての秘密が眠る場所へ行きましょう。」

 

木ノ葉の里は意外にも人が普通に行き交っていた。

 

「それにしてもこの時期に雪って、ちょっと早いんじゃない?ボクと重吾は裸足なんだし、寒いよね。」

 

それは私が降らせてる雪の所為だ。

 

サスケ君が電柱に上がって、里を眺める。

 

「何だサスケの奴…?」

 

「私が木ノ葉崩しをやる前と同じね。」

 

「何が?」

 

「たとえ彼や里が変わってしまったとしても、ここは彼の故郷に変わりない。感傷に浸り、過去をなぞることで、己の決意を再確認する時間が必要なのよ。」

 

「ふぅーん、ならアンタはもういいの?」

 

「?」

 

「感傷に浸りつつ、木ノ葉崩しの決意っての。………あのさ、よく考えたらボクらアンタの部下でトップメンバーだったでしょ?んで今…それが木ノ葉の中にいる………里の強者共は戦争でいないとなると、これってアンタにとってチャンスじゃないの?」

 

「フッ…そうかもね…でも一つ違ってるわ。」

 

「?」

 

「アナタ達はもう蛇じゃない。」

 

「まあ、妙な真似をしたら、私が許さないわ。」

 

「……そうかしら?貴女の愛しのイタチとお兄さんと再不斬を生き返らせてあげると言っても?」

 

「くだならない挑発には乗らないわよ。」

 

「……あら、結構本気で考えてたのだけど。」

 

「やる気もないくせに……貴方はただ私が動揺する様が見たいだけ。」

 

「貴女みたいな強者を手玉に取れる事以上に愉悦を感じれることもないものね。」

 

「それ以上に、兄さん達の生体情報を返しなさいよ。……それを持ってるって事は、兄さん達の墓場を荒らしたんでしょう?………こんな状況じゃ無きゃ絶対に許さないわよ。」

 

南賀ノ神社にやってきた。

 

跡形もないのね。

 

瓦礫の山だ。

 

「上辺はいい。大事なのはその下だ。」

 

下に潜る。薄暗い地下室だ。よく読めない石碑がある。

 

「なら始めるわよ。少し離れてなさい。」

 

大蛇丸がお面を被る。

 

「グアアウウッ!!」

 

大蛇丸の身体から死神が出てくる。

 

凄い!

 

十尾なんかを遥かに超える神性だ!

 

これが屍鬼封尽の死神。

 

…あのお面達は屍鬼封尽以外の術にも関連があるのかしら。だとしたら、うずまき一族って一体何者なんだろう。

 

死神が腹を割く。その瞬間大蛇丸の腹も裂けた。

 

「重吾、サスケ、水月…準備なさい!!」

 

「分かった。」

 

重吾君がサスケ君に仙力を与える。すると白ゼツが6体現れる。

 

大蛇丸も感知できていたみたいね。

 

白ゼツの本体は既に私が殺してたから、情報が遅れるのは分かってたけど、サスケ君の体に引っ付いてるから手を出せなかった。…だけど、今は好都合。

 

そして、大蛇丸は新たに体を白ゼツに乗り換え、重吾は失った肉体を白ゼツから奪う。

 

残り4体の白ゼツは穢土転生の生贄になる。

 

「さぁ来るわよ!!全てを知る者たち……先代の火影達が。」

 

4体の穢土転生。歴代の火影達。

 

彼らが……

 

「また大蛇丸とかいう忍か…!」

 

「どういう事だ?」

 

「我々を封印していた屍鬼封尽の術…おそらくはそれを解いたのでしょう。そしてその後、穢土転生を…」

 

「まさか…あの封印術を解くなんて……大蛇丸さん…どうやって?」

 

「私をみくびりすぎよミナト。元々はうずまき一族の封印術…今は無き一族の跡地や散らばってしまった文献をずっと研究していたのよ。術を失ってからね。」

 

「また穢土転生の術か。ワシの作った術をこう安易と…」

 

「それほど難しい術ではありませんよ。…ただ…作るべき術ではなかった……」

 

「!?」

 

「二代目…アナタのしてきた政策や作った術が後々厄介な事になってばかりでしてね…今回も…」

 

「貴様…また木ノ葉を襲う気か!?」

 

「ワシの命と引き換えにしてまでお前の術を奪ったというのに…なんたる事じゃ…!!今度は師であったワシまで穢土転生して木ノ葉に仇なす気じゃな!!」

 

「ハァ〜〜いつの世も戦いか。確かにあまりいい術とは言えぬな。扉間よ…だからあの時オレが言ったように…」

 

「兄者は少し黙ってろ。ワシはこの若造と話してる。」

 

「しかしだの…」

 

「黙れ」

 

「勘違いしないでください。私はもうそんな事をする気はありませんよ。だから人格も縛ってないでしょう?」

 

本当かしらね。

 

「今回は少し事情がありましてね。彼たっての希望で話し合いの場を設けたまでです。」

 

「オレはうちはサスケ。アンタ達火影に聞きたいことがある。」

 

「サスケ……か!?」

 

「うちはの者か…成程悪党につくだけはある。」

 

「そういう言い方はよせと言ったはずだぞ!!」

 

「兄者は甘いのだ。」

 

「オレの事はいい。三代目…イタチに何故あんな事を…」

 

「もう…知っておるようじゃな。」

 

「イタチは…うちは一族の復讐としてオレが殺した。その後にトビやダンゾウから本当の事を聞いた。そしてオレは木ノ葉への復讐へと走った。だが…アンタの口から聞いておきたい。イタチの全てを。」

 

「…そうなったか……………同胞を殺めさせた上…逆賊の濡れ衣を着せ、更には暁共を一人で監視させていた。」

 

改めて聞くとあまりにも酷い内容に胸が痛くなる。

 

「…イタチは小さい頃から誰も気に留めぬ先人達からの教えや印に気付き、一人でかつての忍達や里の起こりを感じとる繊細な子供だった…。そのせいかイタチは一族という縛りにとらわれる事なく、忍の先…里について考える事ができ…いつもそれら将来を危惧していた。7歳にしてまるで火影のような考えを持つ少年じゃった。」

 

何故、彼じゃなかったんだろう。

 

きっと彼が火影になれば……いや、彼以上に火影に相応しい人物はいない。それを使い潰すようなやり方で………

 

涙が出そうになる。

 

「ワシらはイタチ一人に全てを任せ、イタチはそれを任務として完璧に果たした。同胞を皆を抹殺し、反乱を止め…それに繋がる戦争を一人で食い止め…暁のスパイとして入り込んでまで里を守った。ワシにお前を里で守る事を条件に出してな。」

 

「……やはりそうか。」

 

「うちはの呪われた運命というやつよ。壊滅状態だとはな…クーデターを企てるに至ったか。いずれそのような事になるとふんでおった。マダラの意志を持つ反乱分子も燻っていたからな。」

 

「そう。うちはを追い込んだのは、二代目…アナタの作ったうちは警務部に端を発してるとも言えるわ。」

 

「何だと…?」

 

「犯罪を取り締まる側は時として嫌われ者になりやすい。更にそういう組織は権限が強い分、思い上がる。犯罪者を監視する為に警務部を牢屋と同じ場所に作り、うちはの家族を露骨に里の隅に追いやった。アレがマダラ分子を助長させたのよ。」

 

「扉間!あれ程うちはを蔑ろにしてはならぬと念を押して!」

 

「うちはにこそできる役職を与え!次のマダラが出たとしても対処できるよう考えた結果だ!兄者も知っているだろ…奴らうちはは…悪に憑かれた一族だ…!!」

 

でもそれは結局のところ、千手側から見たうちはの有効活用法であって、うちはの都合は入ってないよね。

 

「…まるでマダラはトラウマのようですね。そんなにうちはが怖いと?」

 

「若造が…お前はマダラを知らぬ。」

 

「二代目火影…アンタに聞く。うちは一族とはなんなんだ?…何を知っている!?」

 

「…千手一族が術では無く、愛情を力としてるのに対し、うちは一族は術の力を第一とした考えがあった。だが…本当は違うのだ…」

 

「!?」

 

「うちは程愛情に深い一族はいない。だからこそ、うちははそれを封印してきた。」

 

「…どういう事だ?」

 

「一旦、うちは一族の者が愛情を知ると今まで縛りつけてきた情の解放とでもいうのか…千手をも超える愛の力というものに目覚めてしまう。」

 

「…ならOKじゃん?」

 

「ところが、これが厄介なのだ。その強すぎる愛情は…暴走する可能性を秘めていた。」

 

「……」

 

「愛を知ったうちはの者がその強い愛情を失った時…それがより強い憎しみに取って代わり人が変わってしまう。ワシはそれを何度も見てきた。そしてそれにはある特別な症状が出るのだ。」

 

「…症状…?」

 

「うちはの者が大きな愛の喪失や自分自身の失意にもがき苦しむ時…脳内に特殊なチャクラが吹き出し、視神経に反応して眼に変化が現れる。それが心を写す瞳…写輪眼と言われるものだ。写輪眼は心の力と同調し、個人を急速に強くさせる …心の憎しみの力と共に……うちはには確かに繊細な者が多く、強い情に目覚めた者はほぼ闇に囚われ悪に落ちる。闇が深くなればなるほど瞳力も増し、手がつけられなくなる…マダラのようにな。」

 

別に憎しみだけが、強くなるものとは思わない。憎しみなんかに頼らなくても、イタチは強かった。

 

白兄さんは誰かを守りたいと思った時、本当に強くなるといつも言っていた。

 

イタチが強かったのも、サスケ君を守りたいと本気で思っていたからだ。

 

火影にもなるような人なのに、何故それがわからないのか。…うちはってだけで、悪党につく事はあるって、ちょっと酷すぎじゃないかしら。

 

無論、イタチにも写輪眼が宿っている事から、喪失感に苦しんだ筈。だが、憎しみに逃げない強さがあった。

 

「マダラは弟想いの男だった…貴様の兄以上だろうぞ。」

 

「ワシはうちはの力を里の為に貢献できるように形を整え、導いたつもりだ。だが、里の為に自ら自滅したのだとしたら、それも仕方ない事。奴らも木ノ葉の里の役に立ったという事だ。」

 

ダンゾウのような事を言う。…サスケ君が黙ってるから、何も言わないけど、私は結構頭に来ている。

 

「扉間、そういう言い方は止さぬか!話を聞いてるのは純粋なうちはの子だ!」

 

「大事なのは里だ。里が要よ。兄者もそれは分かっていよう。」

 

里が要でありながら、誰よりも里を想っていた人間を抜忍にして、追い出してるんだから、皮肉なものだ。

 

「気にしない。…純粋でもなければ、子供でもない。」

 

ピシッ

 

床の板に亀裂が入った。

 

知らず知らずのうちに熱くなってたみたい。剣気が漏れていた。

 

少し落ち着こう。

 

横を見れば、水月君が大蛇丸の腕にしがみついて、怯えた目でこちらを見ていた。

 

「初代火影…アンタに聞く…里とは何だ?忍とはそもそも何なんだ?」

 

「里………忍とは何ぞ?…か…」

 

「…イタチは、兄は木ノ葉に利用されたにもかかわらず、命懸けで里を守り、木ノ葉の忍である事に誇りを抱いて逝った。……同胞を殺してまで、己が死んでまで守ろうとする里とは一体何だ?こんな状況を作り上げた忍…それをよしとする忍とは何だ?アンタの言葉を聞いて…本当の事を知ってから、自分で答えを出したい。木ノ葉に復讐するのか………それとも…」

 

ここからの話は慎重にやってもらわないといけないね。どうにかサスケ君が踏みとどまってくれるといいけど。

 

それはそれとして、私個人で言えばここで話を聞く事に少し後悔している。

 

初代様から三代目様の話を聞いて思うに、どことなく傲慢さが感じられる。四代目はそもそも蚊帳の外っぽいからわからないけど。

 

無論、里の事を第一に考え行動するからこそ、火影だったんだろう。

 

トップが下の一族の一つ一つをしっかり把握するなんて不可能だし、それは担当の部下に任せる事こそが上の度量だとも思う。

 

だからこそ、自身の認識に齟齬があるかもしれないという謙虚さが見えない。

 

多くを語り合ったイタチと私ですら、彼の中の狂気を知らなかった。

 

人間なんてそんなものだ。その人自身でもないとその人の気持ちなんてわからない。それに逆も然り、自分では気が付かない自分の気持ちがあったりする。

 

それぐらいには、人間は複雑な生き物だ。

 

火影だからこそ、そこは致命的だと思うのだが。

 

「…木ノ葉への復讐だと!うちはの悪に憑かれた小僧が…ここでワシが………」

 

瞬間、二代目様からチャクラの風が吹き荒れる。大蛇丸が偶にやる威嚇に似てるけど、こちらの方がより迫力がある。

 

サスケ君に危害を与える訳にはいかない。彼はイタチの忘れ形見だ。

 

二代目様の圧力と同等の剣気を放って相殺する。

 

「扉間…」

 

ギン!

 

更に強い圧力で初代様が二代目様と私の圧を吹き飛ばす。

 

床の板がめくり上がってしまった。

 

重吾君がサスケ君を庇うように前に出る。

 

大蛇丸も穢土転生を縛る準備の為に印を結ぼうとしている。大蛇丸には珍しく、表情に余裕が見えない。

 

水月君は大蛇丸の影に隠れている。

 

場が少し混乱してしまった。私も大人気なく対抗してしまったけど。

 

「指を下ろせ…。」

 

「……分かった。そうチャクラを荒立てるな……兄者。」

 

「ガハハハ!!いや、すまんすまん!!」

 

「す…凄いですね…」

 

「…フン……」

 

「いや〜、お主もやるのう。顔色一つ変えずに、扉間に対抗できるとは、中々の忍を育てたものだな、猿飛。」

 

だが、三代目の表情には戸惑いがある。

 

「いえ、この者の顔に見覚えはありませぬ。額当てを見るに木ノ葉の忍のようですが…………お主、何者じゃ?……見たところサスケとそこまで変わらない筈じゃ。なら、ワシが知らない筈はないんじゃが……ミナトはわかるか?」

 

「……いえ、ボクも彼女の顔は見た事がありません。」

 

「…今は私のことよりも、サスケ君の方を優先していただけませんか?」

 

「ならぬ。貴様程の力を持ち得ながら、素性が知れんなどあってはならぬ。」

 

「そうじゃ!それにその衣は暁!…お主何者じゃ!?」

 

「そうもいってらないんですよ。今は時間もありませんから。」

 

「時間がない?」

 

そこで大蛇丸が引き継ぐ。

 

「今は戦争中です。うちはマダラが復活し、この世の忍を消すようです。」

 

「「「「!?」」」」

 

「…………いつの世も戦いか……」

 

「確かにここから二時の方向……何やら強いチャクラを感じる。」

 

二代目様は感知タイプでもあるようね。純粋なチャクラ感知をするタイプか。

 

そして四代目様はナルト君のチャクラに気がついたようね。この人の中にも、ナルト君と同じ神性を感じる。おそらく、九尾のチャクラを持っているに違いない。

 

「…嘘ではないようだな。…確かにマダラのチャクラを感じる。」

 

「ならワシらは戦場へ向かう!!」

 

「アナタ方は私の穢土転生の管理下にあり、その行動は制限される。戦場へ向かいたいなら、話を済ませてからです。」

 

「話は後じゃ!マダラが復活したと聞いて事の重大さがわかっておるのか!?」

 

「…私はこの子に付きます。サスケ君が納得しなければ、アナタ達を使ってここ木ノ葉を潰す事になりかねませんよ。…このタイミングで…」

 

「ぬぬぬ…!こんな術…!!」

 

「大蛇丸とやら、お前何か勘違いをしておる。前回よりも穢土転生の精度上げてしまった事が仇となったな。ワシらが本来の力に近い形でこの世に転生された今回…貴様如きの穢土転生に縛られるワシではないわ。そもそもこの術を考案したにのはワシよ。…兄者こうなっては致し方ないぞ。ワシは動く!」

 

だけど、大蛇丸が印を結べば、二代目様の動きも止められた。

 

「猿飛…かなりの忍を育てたものだ。」

 

「忍の神に褒めていただけて光栄です。」

 

「ガハハハ!!オレの細胞を取り込み、縛る力を上げておるのよ。扉間…少し勘が鈍っておるぞ。」

 

「不躾な物言いで申し訳ありませんが、そもそも火影様達は今外に出る事は叶いません。」

 

「どういう事だ?」

 

「今、外には穢土転生の魂魄を破壊する雪を降らせています。そのまま外に出れば、火影様達の魂魄は無に帰します。」

 

「え?外の雪って、アンタが降らせてるの?……どうりで何処に行っても雪が降って寒い訳だ。……ちょっと、アンタ少しおかしくないか?」

 

「だから言ってるじゃない、水月。この子が本気を出したら、どうなるかなんてこの状況から見てもわかるわ。サスケ君の麒麟だって、積乱雲を作るのに、大掛かりな準備が必要でしょう?…それを広範囲に長時間維持し続けている。……それにこれだけの事をしても、平気な顔をしてるのはやっぱり異常ね。」

 

「好き勝手に分析してるんじゃないわよ。」

 

「……私はね。アナタが私の呪印を精神の力だけで消し去ったあの時から、普通でない事を感じていた。……数多ある呪印でも私の呪印は特別性。一応、呪印を精神の力で押さえ込む事はできるわ。でも消し去る事なんてできないのよ。……サスケ君も身に宿した事があるからわかると思うけど、あの力は私の仙術チャクラに重吾の仙人化の力が宿っている。カブトの仙人モードの強さも知ってると思うけど、あの力を精神力で消し去った事がどれだけ異常な事か。」

 

「……今はサスケ君が優先じゃないの?」

 

「……そうね。アナタへの探究心は後回しにするわ。」

 

また、こいつに目を付けられたような気がしてならない。

 

「術は解きましたが、暫くはまだ降り続けます。それまで待ってください。」

 

「……いいだろう。だが、マダラは健在だ。どういう事だ?」

 

「おそらく、スサノオを使っているかと思います。まあ、スサノオを解けば一瞬で溶けて終わりでしょうが。」

 

「さて……では、その子を縛ってる蟠りを解いてやる方を先としようぞ。」

 

初代様が床に座り込む。

 

長話になりそうね。

 

「うちはの子がオレの話を聞き、どう判断するか分からぬが、この子を今無視すれば、必ず次のマダラとなろうぞ。…それでは戦争が終わり、勝ったとしても意味が無いの。」

 

「…ハァ…兄者の好きにせい。」

 

そうして初代様が話した内容は、マダラとの昔話。そこから最終的にどんな決意に至り、今があるかという話だった。

 

「忍とは耐え忍ぶ者………目標を達成する為に。」

 

あらゆる犠牲を耐える。里の平和の為に。

 

それが初代様の意志。

 

「オレにとってはそれが里作りだった。だが、マダラは別のモノを見つけたようだ。さっき大蛇丸が言った…マダラがこの世の忍を消すとは具体的にどのようなものかは分からぬが…」

 

「無限月読…里も忍も国も民も関係ない。ただ全てを幻術にはめ、己の思い通りに操る事だ。オレの兄が…マダラの弟が…そしてアンタ達が守ろうとしてきた全てを無にするものだ。」

 

「…………」

 

「兄さんは………柱間…アンタの意志を直接語る事もなく受け継ぐ者だったって事だ。そしてアンタ以上に耐え忍んだ。そして木ノ葉の忍である事を誇りだと語って死んだ。アンタを一番理解した忍がうちは一族だったとは皮肉だな。」

 

「ワシを含め、多くの者が初代様の火の意志を受け継いだ。ただワシは誰よりも甘い忍だったかもしれん…二代目様の里作りを上手く引き継げなかった。その為にダンゾウに…里の闇を背負わせてしまった。」

 

「ダンゾウも復讐としてオレが殺った。奴は最後、卑怯な手を使ってでも里を守ると公言していたがな。」

 

「…どうやらワシは火影として失敗ばかりしてしまったようじゃ。今のこのような外の状況を使ったのは、自分の責任でもあるの…」

 

「イヤ、三代目のせいじゃない。アナタはしっかり里の為に尽くされ全うされた。九尾の里襲来の時にオレが倒れてしまった。アナタに火影として期待されていたのに、その期待に沿えなかった。」

 

「私を差し置いてまで選ばれたのにね。皆、残念がってたわよ。」

 

「大蛇丸様、少し拗ねてます?」

 

「フフ…三代目の前だから少しね。……ただ、ダンゾウの件は失敗としか言えないわね。……彼がいなければ、ここまで悲惨なうちは一族の末路ではなかったでしょうし、ここにいる彼女もダンゾウの被害者だもの。」

 

「何、自分は関係ないみたいな言い方してるの?…お前も大いに関係者でしょ。」

 

「どういう事じゃ?」

 

「大蛇丸とダンゾウは裏で繋がっていました。…大蛇丸は木ノ葉崩しが目的。ダンゾウは火影の座が欲しい事から、アナタの殺害を大蛇丸に期待して。…大蛇丸を里に入れるように裏で便宜を図ったのが、ダンゾウという事ですよ。」

 

「………何たる事じゃ………」

 

「それでそこの小娘はなんの関係がある?」

 

「まあ、長話になりますが、私とダンゾウの陰謀に振り回された少女という事でしょうかね。……結果、世界から犯罪者として扱われた哀れな少女が彼女という事ですよ。……まあ、ある意味イタチ以上に酷い二の舞という事です。……イタチはクーデター阻止という明確な目的はあったけど、彼女はただただ私達のおもちゃにされたあげく、世界の敵認定を受けたわけですから。」

 

「だから、なんでお前は他人事のように言うのかしらね。」

 

三代目は完全に真っ青になり、黙り込んでしまった。

 

まあ、死んでしまった人間に言っても仕方ない。それに今更それを持ち出されても、もう遅いのだ。既に私は犯罪に手を染めてる。今更、過程の話をしても仕方ない。

 

「さあ…サスケ君、どうするの?里を潰すのか…それとも…」

 

サスケ君はどっちを選ぶか………

 

「オレは戦場に行く。この里をイタチを…無にはさせん!」

 

「「「「…………」」」」

 

よかった……

 

なんとかナルト君と足並みが揃いそうね。

 

「……決まりだ!」

 

初代様が立ち上がる。

 

「扉間、外へ飛ぶ準備ぞ!!」

 

「飛雷神を使おうにも、今は縛られておる…」

 

「大蛇丸とやら、お前はどうする?」

 

「お前はサスケに付くとさっきは言ったはずじゃがの?」

 

「もちろん同行しましょう。」

 

「え〜〜〜〜!!じゅ…重吾は?」

 

「オレも同行する。サスケを守るのはオレの役目だからな。」

 

「アナタも同行するわよね?」

 

「ええ、そうするわ。…もう雪も止んでる筈だしね。」

 

外に出てみれば、雪はちゃんと止んでいた。

 

戦場に向かうグループと五影を救出するグループに分かれる。

 

穢土転生とサスケ君と重吾君は戦場へ、残りは五影救出へ向かう。私はどちらでもよかったが、大蛇丸を野放しにするのも危険かと思い同行する。

 

サスケ君は火影達がいるから大丈夫だろう。

 

いよいよ、私もこの戦争に本格的に関わる事になりそうだ。



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懇願

五影救出に向かう直前に香燐さんが加わった。

 

医療忍術を使えるメンバーが居なかったので助かる。

 

その香燐さんはサスケ君と別グループという事に不満がある様子。

 

それにしても私って、つくづく大蛇丸と縁があるみたいね。全然、嬉しくないけど。

 

感じる五影の気配はとても弱々しい。全員やられてしまったようだ。

 

五影を蹴散らせるって、やっぱり本物のマダラは格が違うね。

 

「随分なザマね、綱手。」

 

「ゲェ…でっかいナメクジ…倒すのに塩どんだけいるかな?」

 

「あれは湿骨林から口寄せされたカツユの本の一部…あれでもすごく小さい方よ。」

 

「今はナメクジより五影だろ!大蛇丸様もいちいちそいつの言う事、気にしないでいいから、さっさと用事済ませてさァー。」

 

「サスケ君と離してこっちに連れてきたのが、そんなに不服?」

 

「その通…じゃねーよしィ!さっさ行くの…水月てめェー!!」

 

「何でボクが責められんの!ナメクジ見たら塩かけたくなるもんでしょ誰だって!!」

 

「水月君も香燐さんも落ち着いてください。今は五影を救出しましょう。」

 

「まずは綱手ね…行くわよ。」

 

綱手様の元まで移動する。

 

「無茶をしたようね、綱手。」

 

綱手様の胴体が真っ二つに裂かれていた。

 

これでまだ生きてるなんてすごい生命力。流石は初代様の孫という訳ね。

 

小さな無数のカツユが必死に胴体をくっつけようと蠢いてる。

 

綱手様も力を使い過ぎて、皺だらけの顔になってる。

 

「…大蛇丸…?」

 

カツユが臨戦態勢になる。

 

「カツユ…私は五影の処置をしにここへ来た。敵じゃないわ。」

 

「信じられる根拠がありません!ましてや、暁を引き連れているなら尚更です。それにアナタは死んだ筈です!!」

 

「怪しい行動をしたと思うなら酸で今度こそ本当に殺すといいわ…」

 

カツユと大蛇丸が睨み合う。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

綱手様が危ない……

 

「わかりました。アナタを信じましょう…」

 

今揉めてる場合じゃない。

 

それに変な真似をすれば私が止めればいいだけ。

 

「マンダと違って物分かりがいい…さて…ではまず…他の影達はどこ?」

 

「私の分裂体の中で回復中です。皆さん重症でなかなか…」

 

「しかし…カツユ…アナタがいて何故回復がこの程度なの?」

 

「私は綱手様の百豪の力に呼応して力を使う事ができます…今の綱手様はすごく弱っておいでで…私の力を充分に発動出来ないのです。」

 

「…そういうシステムだったかしら………まあ、よく思い出してみても、ここまで弱った綱手を初めて見るから…そうなのね…」

 

「口寄せが解けかかってるのをどうにか堪えつつ、回復に集中している状態です。なので、綱手様の体をうまく繋げる事もできず…」

 

「水月…綱手の下半身を持って上半身を繋げなさい。」

 

「え〜〜〜〜!バラす方が得意なんですけどォ!…うげェ…ナメクジが濡れてグネグネ気持ち悪いよぉ〜〜〜!」

 

「そりゃお前もだろうが!!人型の分、お前の方が気持ち悪いし、変だろ!」

 

「水月君、嫌なら私がやりましょうか?」

 

「暁の服を着たアナタも大蛇丸と同じです!ここで私が監視します!動かないでください!」

 

「……そういう事なので、水月君お願いします。」

 

「え〜〜〜〜!」

 

「お前、女にケツモチやらせるとか、恥がねーのか!」

 

「香燐…アナタは噛ませて回復させてあげなさい。」

 

「え〜〜〜〜!サスケ以外に噛まれるのヤダなぁ…ウチ。」

 

「あ!!サスケ好きを公言したね今!!」

 

「ちっ…違がァ…!!あんなクソヤローサスケ好き…くねーだろが!!ウチを殺しかけたのが…たまらない…違うかァー!!」

 

「何言ってんの!?………フン…サスケに噛まれる前から歯形だらけだろ君!!」

 

「るっせー!!今はサスケ専用なんだよ!!」

 

「開き直んな、入れ歯製造機!!…だいたいどういうシステムだよ、君の体は!君の方が変だろ!!」

 

「んだとォ〜コラァ!?」

 

仲がいいなぁ…………

 

「水月君、香燐さん。早くお願いします。…変なのはお互い様です。仲がいい事は大変よろしいですが、五影様方は一刻も許されない状況なんですよ。………私の手が滑る前にお願いしますね。」

 

少しだけ、殺気を出して微笑む。

 

二人はテキパキと作業を進めて、綱手様を回復させてくれた。

 

なんだ。やればできるじゃないか。

 

香燐さんの回復能力も素晴らしいね。感知能力にも長けてるし、これほど優秀なら、どこでも引っ張りだこだろう。

 

「綱手様、もう大丈夫です!」

 

「綱手、少しは私に感謝なさい。」

 

「…………里を裏切ったお前が今更……何故だ?」

 

「今は色々と興味の幅が広がってね。…昔は自らが風となり、風車を回したいと思ってたわ。でも今は、いつ吹くかも分からない他の風を待つ楽しさも知れた…その風を楽しむ前に密封されたくないからね。」

 

成程。昔は自分で事を動かす方が楽しかっけど、今はサスケ君の行末に期待している訳か。……こいつが何か仕出かすことは減ったって事かな。危険である事に変わりはないけど。…いつ心変わりするかわかったもんじゃないし。

 

「………相変わらず訳の分からん事を…だが、少し変わったか…」

 

「人は変わるものよ。…それか、その前に死ぬかの二つ。」

 

「まあいい。回復させてくれた事には感謝する。で、戦争の事は知ってるのか?」

 

「もちろん、だからこうして協力してるのよ、アナタに。」

 

「私が戦況を報告します。」

 

「!?…お前、どうやって戦場に!?」

 

「じゃあ、私達はもう行くわ。アナタは影達の回復に集中する事ね。」

大蛇丸達3人が去っていく。私もそれに追従する。

 

香燐さんの感知圏を離れたタイミングで再び姿を現す。

 

「綱手様、ご相談があります。」

 

「……お前は…………大蛇丸と一緒に行ったんじゃ……」

 

「大蛇丸に付いて行ってるのは分身です。」

 

「お前は、カカシが言ってた仮面の暁か?」

 

カカシさんがなんて言ってるのかは知らないけど、仮面を被ってたのはトビと私だけだ。

 

「仮面を被っていたのは私とトビだけですから、おそらくそうでしょう。」

 

「要件を言ってみろ。…チンタラやってる暇もあまりないだろう。」

 

一度深呼吸をする。

 

少し緊張する。

 

「…綱手様、貴女にお願いがあります。…………うちはイタチの名誉回復です。」

 

「………意味がよくわからん。」

 

綱手様は本当によく分からないのか、戸惑いの表情を見せる。

 

「うちはイタチに掛けられている汚名の返上に尽力をお願いします。」

 

きっと、これはイタチにとって余計なお節介だろう。彼の目的を一番に考えるなら、大罪人うちはイタチ。そしてそれを討ち取り里に貢献したうちはサスケ。この構図を破る事になる。そもそも彼は自分の名誉なんて求めてもいない。

 

でも彼を一番に考えるなら、偽りの罪で後世を悪人として語り継がせるなんて許せない。

 

そう。これは私のエゴだ。それでも、うちはイタチだって、木ノ葉隠れの英雄である事に変わりない。

 

「……お前が言ってる意味がわかっているのか?」

 

「はい。」

 

「………うちは一族虐殺。里抜け。此度の戦争の原因である暁の一員。……これだけの罪を犯してるのは事実だろう?」

 

「……間違いありません。」

 

「……とんだ寝言だな、小娘。さっさと去れ。私はお前のようなガキの相手をしてる暇は無い。」

 

「この穢土転生の術を止めたのが、うちはイタチだったとしてもですか?」

 

「………何?」

 

「うちはイタチはカブトに穢土転生されました。そして、穢土転生を乗っ取り、カブトに逆襲。穢土転生の術を解術する事に成功しました。これはひとえに木ノ葉を守る為。」

 

「…………仮にそれが事実だとして、何故木ノ葉を守る?イタチは暁の一員だろう。」

 

「ですが、木ノ葉のうちはイタチでもあります。」

 

「……イタチは里を抜けた抜忍だ。木ノ葉を守りたいのなら、抜忍にはならないだろう。それが全てだ。」

 

「………任務だからです。」

 

「……何の話だ?」

 

「うちは一族を抹殺し、全ての罪を背負って、抜忍になる事が木ノ葉からイタチに与えられた任務だからです。」

 

「………は?」

 

「更にイタチはサスケ君の憎しみを煽り、力を付けさせ、己を討ち取らせる事で、うちは一族の仇を討った英雄うちはサスケに仕立て上げ、誰にも手出しされない状況を作ろうとしていました。」

 

「………ちょっと待て!!理解が追いつかん!………うちは一族抹殺が任務?……何を言ってるんだ……うちはは木ノ葉最強の名門一族だ。里がそんな事を指示する筈が無い。バカバカしい。」

 

「……当時うちは一族は里へのクーデターを計画していました。」

 

「……クーデターだと?」

 

「…そうです。クーデターを画策する要因は里の成立ちまで遡ります。柱間様とうちはマダラの争い、千手一族とうちは一族の確執。水面化では解消されず、80年間も表立ってでは無くとも、溝がありました。その不満が爆発するに至ったのがクーデターです。」

 

「…それをお前が知ってるのは何故だ?」

 

「……イタチから聞きました。」

 

「………そんな話を鵜呑みには出来んな。」

 

「……当時を知っているのは、相談役とダンゾウ様に三代目様のみです。今、戦場では三代目様が大蛇丸に穢土転生されて戦っておられます。……仮に三代目様に聞けずとも、戦争の後に相談役に聞いていただければ、真偽を確かめられると思います。………それにサスケ君も既にその話を知ってしまってます。……サスケ君がイタチを倒した後、里に帰らず、逆に木ノ葉への復讐に走っているのはそれが原因です。」

 

「…イタチがサスケに話したのか?」

 

「……いえ、サスケ君にはトビとダンゾウ様が話したようです。三代目様とイタチも先程、穢土転生体で再確認していました。……また、ナルト君、カカシさん、ヤマトさんも同じ情報をトビとイタチから確認しています。」

 

「…………」

 

綱手様が難しい顔で黙り込む。

 

安易に信じていい話ではないけど、信じざる負えない状況を無視する事もできないと言ったところか。

 

「……だが、お前ら暁が木ノ葉に何をしたか、忘れた訳じゃない…」

 

地面に手を付いて頭を下げた。

 

「……どうしても許せないなら、私を木ノ葉の奴隷にしても構いません!!……それでもダメなら、今ここで私の頭蓋を砕いてもらっても構いません!!……虫のいい事を言ってる事は重々承知しています!!!……それでも!!それでも、どうかお願いします!!!」

 

「……土下座か。それは脅しのつもりか?」

 

「…………」

 

「……頭蓋を砕いてもいいと言ったな。」

 

綱手様が足を振り上げる気配を感じる。

 

次の瞬間、私の頭のすぐ左の地面が砕けた。視界の端で綱手様の足が地面を砕いているのが見えた。

 

一瞬、意識が逸れた瞬間にマントの襟を掴まれて、立ち上がらされた。

 

視界には綱手様の右拳が見えた。

 

顔面を殴られる。凄まじい力に視界が大きく揺さぶられる。

 

続けて、右足で腹を蹴り抜かれた。

 

ボキボキボキィ!!ブチブチブチッ!!

 

身体の中で色々なものが壊れる音が響いた。

 

襟を掴まれている為に吹き飛ばされる事なく、衝撃が全て身体を破壊し尽くす。

 

「ゴホッ!!!」

 

尋常じゃない量の血を吐き出す。内臓が何個か潰れたか…肋骨も何本か折れてしまったな。

 

更にもう1発パンチが顔面に向かって飛んでくる。

 

大きすぎるダメージで濁る視界に映る拳。

 

流石にこれは死んだわね……

 

だけど、顔面に入る前に止められた。

 

「………これだけやられても、避ける素振りも無しか……」

 

襟を掴んでいた手を離される。

 

全く力の入らない体はそのまま地面に崩れ落ちる。

 

「……お前の話を全て信じる事はできない。……が、猿飛先生に真偽を聞くだけ聞いてやる。」

 

「……あ………ありが……とう…ござい……ます………」

 

「………理解できないな。自分の命乞いならともかく、他人の名誉回復など。しかも、命懸けで頼みに来るなど、正気とは思えん。……何故、そこまでこだわる?」

 

そんなの決まってる。とてもシンプルで簡単な理由だ。

 

最後の力を振り絞って、顔をあげる。

 

血と砂でドロドロになった顔で綱手様を睨みつける。

 

「……愛する…人の為に………戦うことの……何が不思議………なんですか?」

 

「…………」

 

それでも、気力だけではどうにもいかずに再び地に臥してしまう。

 

「ヒュー…ヒュー……」

 

片方の肺も潰れてしまってる為か、呼吸が苦しい。

 

視界がどんどん濁っていく。身体の感覚も段々と鈍くなっていく。

 

すると、うつ伏せで倒れていた身体を仰向けに変えられる。綱手様が屈んで私のお腹に手を当てた。綱手様の手が緑色の光を放つ。

 

これは掌仙術。…………医療忍術。

 

「……な…何を………してるんですか?」

 

「…………黙ってろ。」

 

「………あ……貴女は……五影様の……治療を………しないと…………」

 

「………五影は今、カツユが治してる。問題ない。…………お前は味方なのか?」

 

「ナルト君と……サスケ君と………木ノ葉の味方……です………」

 

綱手様が私の顔にも掌仙術を使う。

 

「…顔は女の命だ。そんな潰れた顔で前線には行けないだろう。」

 

「………ありがとう……ございます。」

 

「……フン…治ったら、さっさと行け。いつまでも後方で油を売ってる訳にはいかないんだ。わかったな。」

 

「はい、綱手様。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大蛇丸と一緒にやってきた暁の服を纏う少女。

 

暁ではあるが、大蛇丸と共に私の治療に邪魔する事なく、去っていく姿を見て、一応は味方かと区切りを付けていた。

 

だが、大蛇丸が去った後から再び現れた。

 

こんなコソコソと二人きりになるタイミングで、火影の私と会おうとするあたり、やはり敵で暗殺を狙ったものかと警戒した。

 

そこで彼女が懇願してきた内容に困惑した。

 

『うちはイタチの名誉回復』

 

最初何を言ってるのか本当にわからなかった。

 

改めて聞いても、同じ回答が返ってくるだけ。

 

様々な疑問が湧いた。

 

疑問をぶつければ、スラスラと返事が返ってくる。だが、信じられない内容ばかりの返事だ。

 

火影である自分の知らない事実の列挙。とても信じられない。そもそもこいつは木ノ葉の忍ではない筈。

 

他里の人間が木ノ葉の事を知ってることも意味がわからない。

 

到底信じられないが、一応誰から聞いたのかと聞くと、イタチから聞いたそうだ。

 

話にならないなと思った。

 

だがその後の状況証拠の数々、ダンゾウやサスケにまつわる話。無視できない事実に頭を抱えた。しかし、状況証拠だけで、実際の証拠はない。当然だ。この状況で証拠は出ないだろう。

 

真面目に取り合うべきではない。だが、無視ではできないから、戦後に調査する必要がある。

 

事実でなければ、ただの暁の虚言だった訳だが、事実だった場合は木ノ葉がこの状況の遠因である可能性が出てくる。やはり、全く無視はできない。

 

それでも、この暁が……ペインが……先代が築き上げてきた里を破壊尽くした。

 

その時の怒りもあった為に、大人気なくその事を突いた。別に目の前の小娘がやった訳ではないのだが……

 

するとなんと土下座しだしたのだ。しかも私が簡単に踏み潰せるように私の足元で頭を差し出して。

 

何をそんなに必死なのか理解できなかった。

 

しかも、奴隷でも殺しても構わないなどと叫び出す始末。

 

そういえば、こいつはカカシが言っていたかなり危険な暁ではなかったか?水分身で三尾と渡り合ったと聞いている。

 

なら試してみるか?

 

足を振り上げた。

 

気配を感じているだろが微動だにしない。本当にやらないとたかを括ってるのか?

 

振り下ろして、顔面の横の地面を砕いても反応しない。やはり、寸止めすると読まれていたか?

 

その微動だにしない姿と破壊された里を見た時の見下すペインの傲慢な視線が混じる。暁共はどいつもこいつも舐めた真似をする。

 

全力で顔面を殴った。

 

私の力は忍界でも屈指だ。脳が揺さぶられ、首の骨にヒビが入ったのがわかった。

 

視線で追っている事がわかった。避けようと思えば避けれる訳だ。それでも受けてきた。

 

頭に血が登った私はそのまま腹を蹴った。血を吐き出す小娘。

 

こちらも視線で追っている事はわかった。

 

そして、死にかけている事も。それでも避けようとしない姿勢に私も少し冷静になった。

 

掴んでいた手を離せば、そのまま地面に倒れる小娘。その衝撃で更に血を吐き出していた。

 

猿飛先生に真偽を確かめると言えば、掠れた声で感謝を告げる暁。殴られて感謝の言葉を吐くこの少女の正気を疑った。

 

どうも何かがおかしい事に今更ながら感じ始めた。

 

そもそも、この暁がイタチの名誉回復を願う事が意味がわからない。他人な上に他里なのだ。

 

それに額当てが木ノ葉なのだ。だが、こんな忍を私が知らない。こんな水色の髪にオレンジの瞳の外見。珍しくはないが、それなりに派手なナリの顔。一度見ればわかる筈なのだ。

 

仮に変化の術だとしても、これだけ殴れば術が解けてるはず。

 

何故そこまで必死なのか聞いてみた。

 

死にかけの身体をブルブル震える腕で持ち上げる様を私は固唾を飲んで見守っていた。

 

『愛する人の為に戦うことの何が不思議なのか?』

 

焦点の合っていない瞳が私を射抜いた。

 

血と砂と青痣で汚れた顔がこちらを見つめていた。凄まじい意志の力に思わず後ずさってしまった。

 

虫の息の小娘相手に私は畏怖の感情を抱いた。

 

後に知った事だが、彼女は肉親と親友と恋人を失っていた。どれも木ノ葉が関わっていた。つまり、彼女にとって私は仇だった訳だ。きっと殺したい程に憎い相手だったに違いない。その相手に攻撃するでも罵声を浴びせるでも無く、一方的にボコボコに殺されかける。その心境は一体どんなものなのか。

 

そして、彼女は私と境遇が似ていた。私も弟と恋人を失った過去があった。

 

その時のショックで私は賭博ばかりのアテのない放浪の旅に出ていた。

 

荒みに荒みまくった私は再会した自来也にも「火影なんてクソだ」なんて吐き捨てた程だ。ナルトに出会い根性を叩き直されて今に至る。

 

だが、この少女は誰に慰めてもらうでもなく、己の意志だけで愛する人の為に戦っていた。

 

私よりも遥かに強い、心が。

 

私にはこの少女が眩し過ぎた。

 

気付けば、私はこの少女を治療していた。損傷した内臓と肋骨。腫れ上がった顔と首の骨を治す。

 

カツユの治療もスムーズに進み、五影達を出しても良かったが、あえてそのままにしていた。

 

今出せば、さっき私がやったように五影全員でこの少女を半殺しか、或いは殺すような事になると思ったからだ。

 

少女を完全に治して、我々から逃すように前線へ行かせた。

 

色々と思う所のある少女だった。

 

だが、今は感傷に浸ってる場合じゃない。戦争は続いてるんだ。

 

私はカツユから前線の状況を五影達と共有し、戦場へ向かった。



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参戦

戦場までは時間遅延を使いながら飛行する。

 

大蛇丸に付けていた氷分身は綱手様に瀕死にされた際に解けてしまっていた。

 

まあ、それは仕方ない。

 

途中で大蛇丸達を追い越した。わざわざ合わせる必要もないので構わない。

 

そして到着してみれば、トビが十尾の人柱力になっていた。右目は写輪眼で左目は輪廻眼になっている。

 

ナルト君は九尾の力を完全に物にしたようね。

 

それにしても、皆んな私がここにいるのにあまり反応がないわね。

 

暁の服を着てる私が居てもそれに反応してる余裕もないだろうけど。

 

いや………

 

遠目に同じ暁の衣を着てる小南が見える。

 

成程。……先に小南がいたからね。

 

トビもといオビトが地面に手を着いた瞬間、大きな花が四つ付いた木が生えて来た。

 

何だろう、あれ?

 

「この世は既に死んでいる。」

 

するとあの四つの花から尾獣玉がチャージされ始める。

 

なんて大きさの尾獣玉だ!

 

私の知ってる尾獣玉とはもはや比較にならない。しかも四つって……

 

「おい…ヤバイぞ……」

 

「4つも…一度にアレを…!?」

 

「あれでは土遁障壁を連合、皆でやっても間に合わん…!数が多すぎる…!」

 

「アレを飛雷神で飛ばすのは一人一つが限度だ…!四代目とワシで二つはいけるとしても、他の二つは無理だ!兄者は…!?」

 

「皆の者、諦めるなオレもおる!!玉の軌道さえ変えれば良いのだ!!火影達も手を打ち、海の外へ弾く!!皆は土遁の壁を頼む!オレは樹界降誕でアレを海へ打ち上げ導く!」

 

スケールの大きい話だ。ここから海までどれだけ離れてると思ってるんだ。

 

それができるぐらいには、射程距離が長い上に威力もあるってことよね……

 

「そうはさせん。」

 

オビトは黒い杭のような物を出して結界を作った。

 

「六赤陽陣!!」

 

「結界だ!!」

 

「これってまさか…オレ達…」

 

「…皆を閉じ込め尾獣玉を外へ弾けなくしたのか…」

 

「こうなったら、アレは飛雷神で結界の外へ飛ばす以外にないぞ。四代目…二ついけるか…!?」

 

「マーキングできない以上一つが限界です…方法はたった一つ…あの…」

 

「木ごと外へまるまる飛ばすつもりか?…させると思うか…アンタは誰も救えない。」

 

「………」

 

たった一つの方法が潰されてしまった。

 

どうするの……?

 

「父ちゃん…上手くいくか分かんねーけど、考えがあんだ…拳を合わせてくれっか。」

 

「…?」

 

ナルト君と四代目火影様が拳を合わせる。

 

何か出来そうな感じね。

 

「ナルト…そいつは何もできない…お前の母を守れもしなかった…己の部下も……明日が何の日か知ってるな?…ミナトとクシナの命日だ。…両親の死んだ日だ。…死ねば終わりだ…この世は……いいか」

 

「そうだった……なら明日は……オレの生まれた日だ。…いいか…終わりじゃねェ…」

 

オビトが黒い球体に包まれていく。

 

あれが防御壁にでもなるのかしら。

 

「オレがこの世にいる!!!…行くぜ、父ちゃん!!!」

 

「ああ!!」

 

さて…………どんどん尾獣玉が大きくなってるね。これだけの神性を放つ相手が使う尾獣玉なんて威力がどんな物なのか想像がつかない。

 

「大変なのはこっからだぜ、父ちゃん!」

 

すると突然、全員に朱いチャクラが纏われる。

 

皆んな朱いチャクラを纏ってる……

 

これはナルト君の九尾のチャクラ……

 

これだけの人間にチャクラを分けて、強化してるのか……

 

とんでもない規格外ね。

 

私も貰っておくべきかしら?……いや、今はそんな事をしてる余裕はないか。

 

「お前らにはオレのチャクラ渡してなかったな!こっちに来てくれってばよ!」

 

「フン…そんなチャクラでどうにかなるのか?」

 

「時間がねェ!早くしろ!!」

 

サスケ君を急かすようにナルト君が叫ぶ。

 

やっぱり、貰った方が良さそうね。

 

ナルト君に向かって走り出した瞬間、尾獣玉が放たれた。

 

ここからじゃナルト君までの距離が遠すぎる……間に合わない。

 

一瞬で悟った。そして、その瞬間には私の視界に映っていた忍連合全員が消えていた。気配は結界の外。

 

まさか、取り残された?

 

不味いわね。着弾まで一秒もない。崩壊凍結でも自分に向かってくる一つしか消せない。……なら、

 

「空間凍結」

 

あの木を覆うように空間凍結をする。ついでに念の為に私の身体を覆うようにも空間凍結をする。

 

そして、爆発。

 

私の視線の先で真っ黒に炭化した木が倒れた。

 

「どうなった?」

 

「またこのチャクラが守ってくれたんだ!!」

 

「いや…よく見てみろ。」

 

「結界の外にいる。」

 

「瞬身の術だな。」

 

「ナルトの奴、こんなことまでできたか!?」

 

「…ナルト君のチャクラだけじゃない…」

 

「こりゃあ、四代目火影の飛雷神の術で移動させたな!」

 

「…四代目…お前はこれで忍の皆を二度救ったことになるな。」

 

「…失敗の数の方が多いですから…まだまだこれからです。」

 

「何をした?」

 

「父ちゃんが連合の全員を結界の外へ飛ばしんたんだってばよ。」

 

「あの術で全員だと?」

 

「皆にはオレと九喇嘛のチャクラを前もって渡してくっつけてあったんだってばよ。とりあえず父ちゃんとチャクラと皆が…えっと…」

 

「間接的に…」

 

「そっ!カンセツテキにくっついてりゃいいんだから…父ちゃんのチャクラとオレと九喇嘛のチャクラをくっつけてみた…そんだけ!」

 

「影分身の原理を利用したのだ。己のチャクラを分散し、離しても少量でも消さずに残しておけば、本体が再びチャクラをコントロールしようと練った時、分散したチャクラは共鳴を起こして連動する。つまり、ナルトのチャクラに四代目のチャクラを接触させ、連合の皆に残っているナルトのチャクラと連結させたという事だ。そうだな…ナルト…」

 

「え!?…そうなの?」

 

「…もういい…」

 

「二代目のおっちゃんはオレの影分身のことも詳しいんだな…!」

 

「ワシが作った術だ!ワシの術だ!」

 

「力が湧いてきたってばよ!このままいくぞ!!」

 

「ナルト、威勢の良い声を上げ、格好つけるのは良いが…まさかとは思うが、仙術以外効かぬと忘れてはおらぬだろうな…?…お前も馬鹿ではない…」

 

「…………そうでした〜〜!!!」

 

「よし…お前は兄者以上の馬鹿だ。」

 

………仙術………つまり自然エネルギーでしか、ダメージが通らない訳ね。

 

オビトが黒い球体から出てくる。

 

「………貴様……!」

 

この結界の中は私しか残っていないから、すぐに見つかる。

 

私は仙術を使う事はできない。だけど、あれ程の神性が有れば、剣気で大ダメージを狙える。

 

剣気はチャクラではない。……全く無関係ではないが。

 

チャクラは身体エネルギーと精神エネルギーを合わせる。そこにプラスαで陰陽のチャクラを加える事で忍術・幻術・体術を駆使している。

 

剣気は精神エネルギーのみで機能する。シンジが言っていた精神の強さが剣気の強さになるとは、おそらくこの事を指してる。

 

「……何をした…?」

 

「何って、今二代目様が説明してたじゃない。」

 

「……そうじゃない。何故お前は無傷だ?…何故神樹が傷を負ってる?」

 

残念だけど、それに答える訳にはいかない。

 

「…この神樹は無限月読を行う為の希望の大木だ。……貴様の所為で無限月読までの時間がより必要になってしまった……。」

 

「オビト……もういいでしょう?…現実を見ようよ。…こんな妄想の世界に何の意味があるの?」

 

「……逆に聞くが、お前はこんな現実に一体何の意味がある?…お前の人生は失うばかりの人生だったはず。血継限界だっただけで、親に殺されかけ、村からは迫害を受けて追い出される。兄と師匠をカカシに奪われ、木ノ葉で出会った妹分はダンゾウに殺され、自身はダンゾウに性奴隷にされかけ、大蛇丸には実験体として追われる日々。やっとのことで得た安息の地の暁は、これもカカシやナルトに破壊された。そして、イタチはサスケに殺された。…お前程、この世界が如何にくだらないか、知ってる忍はいないはずだ。」

 

「……確かにこの世界を憎んだ事が一度も無いとは言わないよ。」

 

飛段と喧嘩した時に思わずヤケを起こしかけた事もあった。

 

「……でもそれは私だけじゃ無いと思うんだよ。オビトや小南の世代は戦争を体験してる。初代様から三代目様ぐらいなら、戦国時代を経験されてる。…きっと私とは比較にならない程、多くを失ってるはず。…私達だけが失う苦しみを知ってる訳じゃ無いんだよ、オビト。」

 

「……だから黙って現実を受け入れろと?」

 

「それに何かを失う事を人の所為にしてはいけないよ。……父親や村の人々が冷遇したのは、戦いを恐れたから。それは当たり前の気持ちだよ。……兄さんと再不斬さんは任務でぶつかったから。忍である以上、任務で殉職する事は最初から覚悟してる。……まさか、自分や仲間だけは絶対に死なないなんて考えてる訳じゃないでしょう?それを責めるのはお門違いだよ。……私を性奴隷にしようとしたのも、木ノ葉に血継限界の血族を増やす為、里を守りたいが為に力を求めた結果。大蛇丸も同様だ。…そんなの木ノ葉だけが特別じゃない。どこの里だってやってる事だよ。…イタチはサスケ君の為に命を懸けただけよ。」

 

「……フン。とんだ逃げ腰だな。」

 

「それに何度も言うけど、他人の所為じゃ無いよ。……私に力が有れば、話し合いで迫害も何とかなったかもしれない。私にもっと力が有れば、兄さんと再不斬さんを守れたかもしれない。私にもっと力が有れば、クロを守れたかもしれない。私に力があったから、ダンゾウと大蛇丸から逃げる事ができた。私にもっと力が有れば、サソリ、デイダラ、鬼鮫さんにイタチを守る事ができたかもしれない。………全部、私の実力不足が招いた結果だよ。他人の所為じゃない。………それに私は失ったけど、私も誰かを奪っている。五尾の人柱力のハンさんは私が殺した。岩隠れで迫害を受けて、苦しかったであろう人に追い討ちをかけたのは他でもない私だ。…それに暁は世界中に悲劇をばら撒いたんだよ。……だからこそ、私達は世界に憎しみや妄想ではなく、償いを返さないといけないんだよ。」

 

「……それこそ、綺麗事で妄想でしかない。綺麗事でしか物事を語れない小娘に現実を教えてやろう。そうすれば、少しはオレの言う事もわかるだろう。」

 

「氷遁・氷剣の術」

 

「オレをそんな剣で斬る事はできんぞ。仙術が使えないお前はただ逃げ回るだけだ。この結界の中をな。」



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本領発揮

「結界の中で逃げ回るだけだ。」

 

その瞬間、オビトが一瞬で目の前に来る。

 

速い!

 

右手が振られる。

 

身体を逸らして回避する。

 

黒い球が飛んでくる。

 

それを後ろに跳んで回避する。

 

雷遁瞬身よりも遥かに速いね。断然、私よりも速い。

 

「どうした?……デカイ口を聞いた割に逃げるだけか?」

 

「大丈夫。もう眼が慣れたから次は右腕を貰うね。」

 

「…フン、やれるものならな。今のザマでできるとは思えんがな。」

 

再び高速で迫ってくるオビト。

 

「時間遅延」

 

オビトの速度が半減する。

 

これなら、だいぶ目でも追いやすい。

 

この状態でも私の速度は変わらず動けるから、オビトから見れば私が4倍速になったようなものだね。

 

宣言通り、オビトの右腕を狙って、下から氷剣で斬りあげる。

 

宙を舞うオビトの右腕。

 

そのまま剣を振り下ろす。

 

だけど、流石は十尾の人柱力。すぐに黒い球が形態変化し、盾のように広がる。

 

まあ、そんなもの何の役にも立たないよ。

 

私は盾諸共オビトを斬り裂く。

 

オビトの血が飛び散る。体勢を立て直す為にオビトが距離を取ろうとする。

 

即座に氷槍を作り、後方へ逃げるオビト目掛けて投げる。

 

それを黒い球を形態変化させ、棒にして弾いた。

 

流石にそこまで上手くはいかないか。

 

弾かれた氷槍が地面に突き刺さった瞬間、

 

「罪の枝」

 

地面から無数の氷の杭がオビトに向かう。

 

屍骨脈の早蕨の舞のようだ。

 

それを黒い玉を形態変化させて薙ぎ払う。

 

凄い便利だねあの黒い玉。

 

「…………」

 

「…………」

 

お互い無言で睨み合う。その間に飛ばした腕と胸の傷が一瞬で癒えていく。

 

オビトも先程までの油断が無くなった。私の一挙手一投足に注意を払ってる。

 

私は時間遅延の一分のリミットがきた事で、一度動きを止めた為にできた睨み合いの時間。

 

時間遅延

 

もう一度能力を使って、オビトの背後に瞬身で回り込む。

 

その際、正面から斬りつけて回転をかけて背後からも斬りつける二重攻撃を放つ。

 

鮮血が舞う。

 

「くっ!!」

 

オビトが距離を取る。

 

「氷遁・氷精の吐息」

 

イメージしたのは、火遁の術。それを冷気の霧で再現したもの。

 

口から冷気を放つ。

 

黒い玉を盾にして防ぐ。すぐに凍りつくけど、逃げる事には成功したみたい。

 

「さっきのセリフを返してあげるわ。………大きな口を開いても逃げてばかりね。」

 

「……そうでもないぞ!」

 

オビトが指を刺してくる。

 

すると光が……足元を見ると、黒い玉が青白く光っていた。

 

成程、距離を離した際の置き土産か。……如何にも爆発しますって感じね。

 

好都合なので時間遅延を切って、空間凍結に切り替える。

 

視界が光と土煙に包まれ、轟音が響く。

 

オビトもこれで私を殺せるとは思ってないだろう。

 

ゆっくりと煙から出る。

 

時間遅延を使用している間は圧倒できても、切れてる間は、こちらが防戦一方になる。持続時間は一分しか続かない。

 

煙の中や煙から出た瞬間に襲われるかもしれない。だから、気配を気にしながら煙から出た。

 

だが、出てきてみれば、目を丸くしたオビトがいた。

 

「…何故死なない…?……何故無傷だ?……さっきもそうだ。十尾の尾獣玉を無傷で凌いだ……お前はオレの身体に傷をつける事ができた。……仙術が使えるのか?」

 

相当混乱している様子。まあ、時間遅延の隙間を狙われないのは好都合だが。

 

オビトの混乱もわかる。十尾の人柱力。…それは六道仙人と同じだ。

 

九尾の人柱力のナルト君ならともかく、ただの一血継限界が十尾の人柱力に追従どころか圧倒しているのだ。確かに異常だ。

 

だが、やりすぎなんて今更だ。水分身で三尾と戦ったり、五影会談での大立ち回り、オビトにイザナギを使わせる、忍界全域に魂魄を溶かす雪を降らせる等。

 

忍界の状況変化が目まぐるしいから、気が付かれていないが、私だけを注目している人がいればすぐに気がつく。それが大蛇丸なんだろうけど。

 

「……いや、隈取はない。なら、オレと同じ陰陽遁が使えるのか?…だが、千手もうちはの力も持っていない。輪廻眼の力も持っていない。……だとしたら、そもそもお前のその力はチャクラなのか?」

 

おっと、核心に近い考察が出た。だけど、そうやって口からダダ漏れな当たり、混乱が抜け切っていない様子。

 

あまりこれ以上考察されるのも不味い。氷剣を構える。

 

「……!?………フンッ…貴様が如何なる力を持っていようが、接近戦をしなければ問題はない!!」

 

「……おい!誰か結界に取り残されてるぞ!!」

 

「あれは……暁!!」

 

外の連合も気がついたようね。さっきの爆発で気が付かない訳もないか。

 

一瞬、意識は逸れた隙を突くかのように黒い玉を形態変化させて、槍のように伸びてきた。

 

塵遁より流動的に好きな形にできる優れ物。それでいて、エネルギーは尾獣玉以上。

 

時間遅延

 

能力発動は間に合った。だけど、迎撃できない。仕方ない。

 

左手で伸びてきた黒い槍を掴んで握りつぶした。粉々に砕け散り、空気に霧散していく、黒い粒子。

 

オビトがまた動揺する。今度は私が隙を突いて、瞬身で接近して胸を切り裂いた。

 

だが、逆にオビトが冷静になってしまう。

 

直後、オビトの背後に巨大な九尾化したナルト君と四代目火影様が現れる。巨大な仙術螺旋丸がオビトの背中に直撃する。

 

「……藍!!助けに来たってばよ!!!」

 

オビトもすぐに黒い盾を展開する。

 

結界を超えて、急に現れたことから飛雷神の術か……

 

「「オオオオオオ!!!」」

 

螺旋丸と黒い盾が同時に爆発し、両者吹き飛ぶ。

 

「硬ってーなぁ、あの黒いの!くっそー!!今度はガードされちまった。」

 

「やはり読まれていたな………飛雷神一辺倒の作戦では苦しいな…」

 

「あの黒いのぶっ壊すしかねーってばよ!」

 

「……どうする?」

 

「よォ〜〜しィ…!なら次はァ、この尾獣玉に仙術を加えてやるってばよ!」

 

「よし!いいぞ!」

 

「そっちの九喇嘛も協力してくれ!」

 

「そうこなくっちゃね!」

 

九尾化したナルト君が尾獣玉を作る。

 

私もナルト君の元へ駆け寄ろうとした時に事態は急変した。

 

オビトが両手を合わせる。

 

「始めようか。」

 

オビトの体から何かが出てくる。

 

さっきの大木よりも更に大きい。

 

結界が解かれた。次の瞬間、それが一気に樹木となって襲いかかってきた。



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神樹

凄まじい質量の大木が槍のように襲いかかってくる。

 

崩壊氷結

 

飛んでくる樹木の幹を消し去りながら後方へ逃げていく。

 

見ればビーさんやナルト君などのチャクラ量が多い人が特に狙われているようだ。

 

だけど、私に殺到してくる量も多い。崩壊氷結で消し去って入るが、大木は器用に崩壊した幹を己で切断して再び襲いかかってくる事を繰り返している。

 

「こいつチャクラを一気に吸収しちまうぞ!!!逃げないと死ぬぞ!!」

 

「助けてくれ!!」

 

「こ…こんなのありかよ…」

 

「一人一人確実に生きてるオレ達を狙ってくる…!」

 

助けに行きたいけど、私は至近距離にいた事と、何故か大量の幹が襲いかかってくる事で手が出せない。

 

チャクラ量なら、少ない方なのに……

 

大木の殺意が高い……

 

さっきのオビトとの戦闘で脅威に思われてるのか……まるで大木そのものに意識があるみたい……

 

かなりの時間、大木との格闘を続けて、後方にまで下がった。

 

大木の攻撃も止み落ち着いたが、周りの状況は最悪だった。

 

死屍累々………

 

大木にチャクラを吸い取られ、ミイラ化した人々。

 

……夢の世界を謳っている貴方が、地獄を生み出して、どうするのよ、オビト!

 

「…もう…だめだ…」

 

「こんなの……」

 

「もう…じっとしていろ…お前らは…充分耐え忍んだ。」

 

空を突く程に大きな大木。

 

………これが神樹

 

「忍は終わりだ…もう続けることはない。抵抗しないならば殺しはしない。後悔したくなくば、もう何もしないことだ。」

 

「何も…しなければ…助かるって…事か…?」

 

「…そうだ…もう死に怯え耐え忍ぶ事もない……夢の世界へ行ける…」

 

「諦めるな!!幻術の中に落ちれば死人も同然ぞ!!」

 

初代様が叫ばれるが、士気がどんどん落ちていく事がわかる。

 

皆、圧倒的なまでの力の差に絶望している。

 

まるで蟻と象ね。

 

「この大樹はオビトと密接に繋がっておるの…まるでチャクラを引き抜く手足…迂闊に近付けぬ。」

 

「随分弱腰ですね。アナタらしくない…猿飛先生。」

 

「待たせたね重吾にサスケ。」

 

「大蛇丸…遅かったではないか!で…五影は?」

 

「…回復してあげたから…弱腰じゃなければここへ来るでしょうね。」

 

「フン…皮肉を言うのは変わらんな。」

 

大蛇丸がやってきたか。普段なら、大きな戦力になるけど、これが相手じゃ多少の強化程度にしかならないわね。

 

すると突然、皆の様子がおかしくなった。

 

どうしたんだ?…皆ビクッと動いて固まった。

 

何か念話みたいなことをしてるのかしら?

 

「もう…終わりだ…」

 

「こんな事ならいっそ最初から…」

 

「そうだ…そのままでいい…悔む事のない世界に連れて行ってやる。」

 

するとサスケ君がスサノオで大木を切り裂く。

 

スサノオなら、剣の長さを自在に操れるもんね。………便利だな。

 

「ナルト…もう…終わりか?オレは行く。」

 

サスケ君のスサノオが突き進んでいく。

 

「行くぞ、重吾。」

 

「ああ……」

 

また、皆が何かを受信してる。

 

これはおそらく幻術が通じない体質が災いして、この念話が来てないわね。……剣気は強力だけど、こういう時は不便ね。

 

「無かった事になんかできねぇーんだよ!!」

 

よくわからないけど、皆の顔に生気が蘇ってる。

 

「サスケェ!!オレも行くってばよ!!」

 

「フン……」

 

「で…サスケ…お前…相手は仙術しか効かねェって分かってんよな!?」

 

「さっきのお前と一緒にするな。」

 

重吾君が呪印の力をスサノオに付与する。

 

「…香燐ほら…!アレってサスケの呪印模様だよね…」

 

「呪印の力は無くなってた筈だろ…」

 

「そもそも重吾の呪印は仙術の力。…かつて私の実験でその重吾のチャクラを注入して直ぐ呪印を解放したサスケ君だもの……サスケ君のスサノオが同じように重吾のチャクラに適応しても何ら不思議じゃないわ。つまり仙術スサノオってとこかしら。」

 

サスケ君は重吾君の補助で呪印の自然エネルギーを取り込んだスサノオでトビを攻撃していた。ナルト君も追従している。

 

「頼む!!我らの愛すべき子供達よ!!今こそ我ら忍の痛みから苦悩から挫折から…紡いで見せてくれ!!我ら忍のーー本当の夢を!!」

 

初代様が叫んでいる。

 

内容はよくわからないけど、皆んなの表情は力強い。

 

五影様も到着された。

 

これなら………

 

「ワシ達の代で…その夢についての会談はもう必要なそうだな。…違うか?」

 

「…そうですね。」

 

「当たり前じゃぜ。ただしここで勝たねばそれも成就せんぞ!」

 

「土影の言う通りだ。…もう負けは許されん。」

 

「よし!我らは広がって指揮を取るぞ!そして忍連合の最大の力を引き出す!それが我ら五影の本来の為すべきことだ。散!!!」

 

「よし!奴が戦いに気を取られてる内にあの大樹を切るとしようぞ!」

 

とりあえず、この神樹を切るのね。

 

私も参加するとしよう。空間凍結で固めた空間を空中に作り、そこに乗る。

 

俯瞰して見ながらの方がやりやすい。味方を巻き込む訳にもいかないしね。

 

「氷遁・万華氷剣」

 

空中に数十億の氷剣を作る。空を埋め尽くす氷剣の葬列。

 

それを音速で射出する。

 

氷剣は大木の幹や根っこを撃ち抜き、粉々に砕いていく。

 

これだけ神性が高いと氷剣の切れ味も凄まじく強化されるわね。気持ちいいくらいにボロボロになるわね。まるで豆腐を切ってるみたいね。

 

『剣気は相手の神性の高さによってその毒性が増す』

 

シンジの言ってた通りだ。

 

大木の枝がこちらに伸びてくる。

 

そりゃ、こんな派手な攻撃してたら、阻止しにくるよね。

 

「氷遁・氷槍の術」

 

右手に氷槍を作る。

 

それを伸びてきた枝に突き刺す。

 

「罪の枝」

 

氷槍を刺した場所からどんどんと奥へ、氷の棘が生えて大木を破壊し尽くす。堪らず大木が自ら枝を切り離した。

 

「やっぱり器用ね。」

 

すると伸びてくる枝の先が龍の形をしだす。

 

なんだか攻撃力を上げた感じかしら。

 

「氷遁・氷精の吐息」

 

口から息を細く吹くように冷気を吐き出す。

 

向かってくる枝を全て凍らせる。

 

そうしてると地面に大量のカツユが敷き詰められていく。

 

立ってるだけでチャクラと傷を回復できる大地ね。

 

すると空から何かが落ちてくる。

 

一体何が?

 

煙が晴れれば、ナルト君とサスケ君が倒れていた。

 

向かい合う形でオビトが睨み合っていた。

 

「何故起き上がる…!?お前は何の為に戦っているというのだ?仲間の為か、それともこの世界の為か?いいか…仲間にはいずれ裏切られる。そしてこの世界では愛は憎しみに変わる。お前もわかってる筈だ。かつて里の者もサスケもお前を裏切ってきた…そして自来也との愛がお前に憎しみを与えた。お前もオレと同じだ。積み重なる苦しみがいずれお前を変えていく。そして今、お前に更なる苦しみが襲う事になる。それでもお前は自分が変わらないと言い切れるのか!?またいつ仲間がお前を裏切るかもわからない。連合がまたいつ戦争をするかもわからない。そして、このオレに勝てるかもわからない。こんな世界の為にもう戦う意味は無い筈だ。もうこの世界も数分で終わる。そうしてまで何故戦う!?」

 

………え?

 

そんなに時間がもう無いのか……

 

どうしよう……少し強引にやるべきかしら。

 

「……自分の忍道だからだ。真っ直ぐ自分の言葉は曲げねェ。それがオレの忍道だからだ。」

 

…………うん。まだ大丈夫そうね。

 

「次で決着をつけるぞ、ナルト。」

 

「オウ!眠るのは明日。夢は自分で見る!!!」

 

ナルト君とサスケ君のチャクラが共鳴した。



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真数千手

サスケ君のスサノオがナルト君ナルト九尾に纏われる。

 

「かつてマダラがやったのも…こんな感じか。」

 

うん!……いいコンビだ!

 

「今更何をしようと変わらんぞ。………上を見てみろ……この天井の穴から何が見える?月だ。月夜の夢の世界へ向かう時は近付いている。大きく開いた地獄の穴を月の夢が埋めてくれる。やってその時がやってきたのだ!」

 

そういうとオビトは螺旋状の剣を掲げた。

 

「この剣は六道仙人の神剣、ぬのぼこの剣だ。もう貴様らはオレに勝てん…その想いの強さが剣に宿る…心の剣だ…仙人はこの剣でこの世界を創造した。」

 

九尾の尾に螺旋丸が作られる。

 

「サスケ…オレ達は一撃に集中する。ほんの小さなスキしかできねーだろう…見逃すなよ。」

 

「フン……」

 

「そしてオレがこの剣でこの世界を消す!」

 

ナルト君の同期の木ノ葉の忍達が螺旋状を構える。

 

オビトの黒い盾が螺旋丸に破壊される。

 

「はっ!!」

 

スサノオの剣とぬのぼこの剣がぶつかる。

 

よしっ!

 

想いが強さに乗る剣ならば、ナルト君の想いほど強いものはない!

 

剣同士ならナルト君とサスケ君が有利!!

 

予想通りにナルト君達の力がオビトを上回る。

 

ぬのぼこの剣が砕け、腹を裂かれるオビト。

 

オビトの体から尾獣のチャクラが漏れ出す。

 

そのチャクラをナルト君が掴む。

 

四代目様がチャクラを伸ばして、全員に掴ませる。

 

ようはこれを引っ張ればいいのね。

 

皆の動きが一瞬止まる。

 

何かしら?……また精神的なパスでも繋がったのかしら?

 

まあ、モロにオビトのチャクラと繋がってるから、オビトの思念体でも見えたのかもしれない。

 

「よっしゃあー!!皆ァ!!一斉にセーのォでいくってばよ!!」

 

剣気を使えば、おそらく神性が高い尾獣達を殺してしまう。

 

全力で引っ張る。剣気を使えない純粋な力のみで引っ張るのはしんどい。

 

「セーのォ!!!!」

 

でもだからこそ、皆と一緒に戦ってる気持ちになれる。

 

きっと今の光景こそが兄さんが、イタチが夢見た姿だから……

 

そして、オビトから尾獣が引き抜かれた。

 

「抜けたァー!!!」

 

抜け出たチャクラが尾獣になる。

 

オビトはそのまま地面に落下する。

 

四尾がナルト君に声をかける。

 

「約束を守ったな…!うずまきナルト。オレ達を本当に助けやがるとはな!」

 

「オッス!孫!!」

 

「へへ…」

 

「おっ…!おい!」

 

サスケ君が走り出す。

 

オビトにトドメを刺すつもりね。

 

「待てサスケ!!」

 

「奴は!?」

 

「奴はどうなった!?」

 

「あっちだ!まだ生きてる!」

 

するとカカシさんが突然現れて、オビトに馬乗りになる。

 

カカシさんも時空間移動ができるのか。…というより、あの空間の移動する感じからして、オビトとカカシさんの写輪眼は同一の物と見た方が良さそうね。

 

「カカシ…」

 

「サスケ、積もる話は後だ。急に出て来てすまないが、かつて…同期で友だったオレにこいつのケジメを付けさせてくれ。」

 

「カカシ先生!そいつは今…!」

 

カカシさんがクナイを振りかぶる。

 

それを飛雷神の術で現れた四代目火影様が止める。

 

凄い早い。…いや、早いというよりはシンジと同じで瞬間移動の類い…口寄せのような時空間忍術だろうね。…いくら瞬身が速い私でもアレに速度では敵わないだろうね。常に気配感知を最大に時間凍結も使わないといけないね。

 

「父ちゃん!」

 

「奴にトドメを刺す時だ!!」

 

「行くぞ!!」

 

「待て!」

 

綱手様が止める。

 

「オビト…チャクラを引っ張り合った時、君の心の中を見せてもらったよ。」

 

どんな心境だったんだろう。私には見えない物だ。

 

「随分息子がガミガミ説教したみたいだけど…どうやらそういうとこは母親譲りみたいだね。」

 

「……父ちゃん。」

 

「…でも本来それをやるのは君の役目だ。オビトを本当に理解し、何かを言えるとしたら…友達の君だと思うよ、カカシ。」

 

「……」

 

「そうだろ、ナルト。」

 

「………」

 

「ナルト、お前達と連合は初代様のサポートへ行ってくれ。マダラを封印するんだ。」

 

「あっ!そっか!あいつがまだだ!行くぞ、サスケ!!」

 

私がフォローする必要は無さそうね。オビトの事はカカシさんに任せよう。

 

遠くでナルト君の螺旋手裏剣の爆発が見えた。

 

「ナルトが投げたって事はあそこだ!あそこにマダラが居るぞ!!」

 

全員でマダラの方へ向かう。

 

だが、突如目の前に木造の巨大な千手観音が現れる。

 

今度は何!?

 

「おお〜、連合がいっぱい!!」

 

なんだあれは?……オビトが付けていたような面に似た何かが千手観音の上に立ってる。

 

「これはお祖父様の真数千手!!!……奥の手だ!!」

 

初代様の奥義?……何でこんな奴が使えるの?

 

「ねぇー!みんなに聞いていい?……うんこするときって、どんな感じ?」

 

……なんだ、この頭の悪い生物は?

 

だけど、発言とは裏腹に威圧感は凄まじい。

 

皆、足が止まってしまってる。

 

ただ、中身の気配からしてヤマトさんか?

 

取り込まれて、力を吸われてるのかしら……そもそもあのよくわからない生物も木でできてるし、間違いなさそうね。……つまり、白ゼツに近い生き物……

 

「木遁・挿し木の術〜!」

 

大量の槍のような木が降り注いできた。

 

貫かれた忍の身体を枝分かれする様にして木が貫く。

 

まるで私の氷槍の能力と同じ………

 

「ここから先へは通さないぞ!」

 

このままじゃ全滅だ。

 

なら、全て迎撃してやる………

 

「氷遁・万華氷剣」

 

空中に数十億の氷剣を作る。空を埋め尽くす氷剣の葬列。それを音速で射出する事に変わりはないが、今回は向こうが射出している挿し木をピンポイントで迎撃しないといけない。

 

「時間遅延」

 

世界の時間の流れを遅くして、しっかり一本一本撃ち落としていく。

 

大量の木片と氷の破片が連合の頭上から降り注ぐ。

 

「アイツは暁の!!」

 

「全部、撃ち落としてるのか!?」

 

「……す……すげー…」

 

「…オレ達、場違いだな…」

 

連合の皆の顔を確認する。

 

顔色悪いね。…もう皆チャクラ無くなってきてる。穢土転生の三代目様ぐらいしか元気ないね。

 

「やるね!藍ちゃん!!」

 

「……私を知ってるの?」

 

「そりゃあね!ボクもゼツの一部だから。」

 

こいつもゼツ………

 

そもそもゼツって一体何なんだろう?

 

相方だったのに結局、今になるまでわからないままだ。

 

「…ねぇ、あの暁って……」

 

「ああ、間違いない。あの三尾の時の暁だろう。」

 

「……ボク達、あんなのに戦いを挑んでたなんて…」

 

「…やっぱり、暁は出鱈目だな。……いつも逃げに徹する……そうじゃなくて、単に見逃されただけってオチだ。」

 

「安心してください。シカマル君、イノさん、チョウジ君。今は私も味方です。」

 

「五影会談で盗み聴きしていた小娘か。…多少は使えるようじゃぜ。」

 

「フン…!」

 

大量の弾幕の応酬の中、私に狙いを定めたのか、弾幕が集中し始める。

 

全体攻撃を継続しつつ、私の集中力を削ぎにきたか。

 

「氷剣」

 

氷剣を2本作り、両手に持つ。

 

「皆さん、私から離れていてください。」

 

氷剣の弾幕を超えてきた挿し木が私を狙って飛んでくる。

 

一本目を右手の氷剣で叩き落とし、2本目を左手の氷剣で打ち上げる。

 

「うわァッ!!」

 

弾かれた挿し木が連合の忍の近くに落ちる。

 

離れてって言ったのに………

 

仕方ない。

 

3本目は弾かずに私が大きく後方へ、人が少ない場所に跳んで回避する。

 

着地して再び、挿し木を弾きまくる。

 

「……アイツ、実は人柱力でしたとかないよな……」

 

「……正直、初代様やマダラクラスはあるんじゃないのか?」

 

「…流石にそれはないだろ……」

 

流石に数が多すぎるな。

 

手を止めて氷剣を消し、左手を翳す。

 

剣気を放てば、私に向かってきた挿し木は一瞬で全て凍って粉々に散った。

 

「ああ!また、手加減してたんだ!!」

 

「……手加減?」

 

何を言ってるのかしら?

 

「いつもさぁ、必死な顔してさ!互角を演じつつ、限界かなって思ったら、平気でこういう事してくるなんて、性格悪いと思うよ。」

 

「逆に聞くけど、何で自分の底を敵に見せる必要があるの?…それを悟らせたらだめでしょ?」

 

それにシンジにも言ったけど、相手によって出力は変えても、本気で戦ってるつもりだ。

 

「確かにそうだ。じゃあ、ボクも次行くよ!…木龍の術!!」

 

巨大な樹木でできた龍が襲いかかってくる。

 

「あれもお祖父様の術だ!チャクラを吸収して相手を縛り上げる木龍だ!!」

 

神樹に性質が似てるのね。

 

「氷遁・白氷龍」

 

とりあえず、こちらも龍で対抗する。

 

手間取るわけにはいかない。向こうの木龍の10倍の大きさの白氷龍を3体出して攻撃する。

 

一瞬で木龍を飲み込んだ3体の白氷龍が千手観音に殺到する。

 

「樹界降誕!!……からの頂上化仏!!!」

 

広範囲の森林が発生し、白氷龍の動きが一瞬鈍った瞬間に、無数の拳が白氷龍を粉々に砕いた。

 

目の前に広がる森林。普通じゃ考えられない速度で成長するそれは、まるで津波のよう。

 

氷剣山で迎撃したいけど、連合の皆を巻き込んじゃう………

 

「塵遁・原界剥離の術!!!」

 

「溶遁・溶怪の術!!!」

 

「雷虐水平千代舞!!!」

 

五影様方が前に出て、樹海を相殺してくださった。

 

「小娘ばかりに働かせては、五影の名が泣く!」

 

「子供は後方で大人しくしていなさい!」

 

「調子に乗るんじゃないぞ、暁!!!」

 

「……樹界降誕はこの戦争で飽きる程に見た!今更対処できん術ではない!!」

 

「なら、簡単に対応できない術ならどうだい?」

 

千手観音の額にある5つの顔から5属性のチャクラが迸る。

 

「五つの属性、全てを同時……!」

 

「ワシも忘れてもらっては困るのう!!五遁・大連弾の術!!!」

 

五大性質変化を一人で……!

 

「一度に同じ術を出して相殺させちゃうとはね…」

 

「フー…助かった……」

 

「へへ…三代目様を舐めるなってんだ!」

 

睨み合ってると、風影様が綱手様の所へ砂に乗って飛んできた。

 

「ゆっくり話をしてる暇は無い!火影、お前も来い!道中、ナルトを少しでも回復するんだ。」

 

「私にはもう医療忍術を使うチャクラはない。サクラを連れて行け…サクラならまだ少しは」

 

「何でナルトが…こんな!?」

 

話の様子を聞くに、ナルト君が重症のようね。

 

マダラにやられたか?

 

まずいわね……このままじゃ………

 

「うずまきナルト。うずまき一族だから粘りはするだろうけど…もうその子に何をしても、無理だよ。人柱力が尾獣を抜かれたら死ぬ…」

 

「それは絶対のルールだからね。」

 

白ゼツが現れる。

 

じゃあ、九尾は………

 

今度はマダラが六道仙人化する!

 

ナルト君がまだ粘れるなら、私は諦めるつもりはないよ。

 

焦ったらだめだ!

 

冷静に今的確に出来る事をやろう………

 

兄さん、イタチ………私はまだ戦える。

 

思考が冷えていく。

 

今、敵はこちらが敗北したと油断している。

 

白ゼツがノコノコ現れたのが、いい証拠だ。

 

時間遅延

 

今の油断してる奴らなら、一瞬で懐に入る事も出来る。此方を見てすらないのだから。

 

瞬身で接近し、氷剣で白ゼツの首を刎ねた。

 

そのまま、ヤマトさんに取り憑いてる奴に斬りかかる。

 

ヤマトさんが中に入ってるから、あまり深くは踏み込めない。

 

薄皮を剥ぐように斬らないと……

 

「ちょっ!痛い痛い痛い!!!」

 

右手部分を剥ぐ。

 

「痛覚はあるんだ。」

 

左手に槍のような物を作って、私を突き刺してくる。

 

さっきの挿し木の術かな。

 

左腕に左足を絡めて、そのまま顔面を蹴り抜く。

 

「痛い!」

 

絡めた足を解いて、相手が仰け反ってる隙に左手部分も剥ぎ取る。

 

「藍の氷の剣って切れ味良すぎない!?」

 

木遁なんて神性の高い術ばかりに頼ってるからよ。……私を倒したいのなら、写輪眼や木遁、尾獣などの神性に頼らない力で戦えばいいのよ。

 

……私の弱点は通常の仙術と八門遁甲あたりだろう。

 

カブトは色々継ぎ足した所為で神性が上がってたけど、おそらく自来也様の仙術とかなら私に刺さる。

 

八門遁甲も神性由来ではなく、人間の肉体に宿る力。第六の景門の戦いを昔、ゼツから映像を見せて貰った事がある。それでも凄まじい力だった。なのに神性は一切感じなかった。八門遁甲の陣なんかは五影を上回る力だ。元々体術は得意だけどそんなもの、八門遁甲の陣の体術相手じゃ何の意味もない。

 

この二つが私にとって相性が最悪だろう。この二つが相手じゃ剣気の特性が発揮されない。剣気無しの忍術のみの私は、上忍に食らい付いていける程度の力しかない。特に八門遁甲の陣は逃げに徹しても、生き残れるか怪しい。

 

「花樹界降臨!!!」

 

「うわぁ!!」

 

「こっちに来やがった!!!」

 

足元の連合に向かって、大量の木の幹や根が襲いかかる。

 

「チッ……」

 

私にじゃなくて、連合の方に攻撃した…!

 

「皆んなを助けなくていいの?」

 

「…クソッ!」

 

私は真数千手から降りて、樹界の中に降りる。

 

空間凍結をつかい、樹界を覆う。

 

「氷遁・絶死凍結」

 

一瞬で全ての樹木が凍りついた。

 

空間凍結も解く。

 

「さ…寒い……!」

 

「す、スゲェ…」

 

「氷遁・氷剣山」

 

凍りついた樹界を氷剣山で粉々にする。ほっといても、勝手に砕け散ってはいくけど、今は邪魔だ。

 

「中々のお手並み。だけど、花粉を吸ったら、痺れて動けないよ!……だから、これから逃げることもできない。頂上化仏!!!」

 

花粉?

 

まあ気にしない。どうせ効かないから。

 

振り返れば、空を覆い尽くす程の真数千手から放たれる拳。最早、数えるのも馬鹿らしい。

 

これ避けようと動けば、連合に飛んでくるでしょうね……

 

そのまま私は真数千手の拳の中に消えていった。



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チャクラの始祖

「やっと厄介な奴を殺せたよ。便意もきっとこんな感じでスッキリするんだろうな!」

 

真数千手の千の拳が振り下ろされた瓦礫には、暁のマントの切れ端が転がるだけだ。

 

「…そ、そんな……アイツぐらいしかまともに戦えてなかったのに…!」

 

「肉片も残らないぐらいに粉々にしちゃった。」

 

「……五影様もチャクラ切れ…もう穢土転生の三代目火影様しかいない!」

 

「おい!…あっちを見ろ!!」

 

「…神樹が……」

 

「……消えていく…」

 

「うんうん。スッキリしたし、順調そうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そうかしら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、真数千手が凍りつき粉々に砕ける。

 

「…え?……え?」

 

空中に投げ出され、呆気に取られてる奴の背後に瞬身で回り込む。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

奴の背中に手を当てれば、粉々に体が消滅する。

 

中から出てきたヤマトさんを抱えて着地する。

 

「大振りな術は破壊力や殲滅力はあるけど、隙も多いのよ。……と言っても、もう死んでしまってる相手に言っても仕方ないわね。」

 

それにしても………

 

「せっかくの暁の一張羅も吹き飛んでしまったわね。」

 

戦争が終われば、また小南にでも貰おうかしら。

 

あれはあれで、結構私の大切な物だし、戦後もあれを着るつもりだから。あれを着ていれば、暁だってわかるから。

 

………まったく。

 

少し、時間凍結のタイミングが遅れてしまった。

 

予想以上に真数千手のスピードが速かった。

 

流石は伝説の木遁忍術……

 

すると、いきなり地面が大きく揺れた。

 

「うわっ!!!」

 

「何だ!?」

 

「四時の方!隕石です!!」

 

見れば10個以上の隕石が降り注いでいた。

 

……あっちの方角はナルト君やマダラが飛んでいった方向だったはず。

 

「なんて数だ!」

 

「うわっ!!」

 

「振動に備えろ!」

 

「向こうで一体何が起きてんだろ!?あんなの異常だよ!!」

 

「ナルトが皆んなへ渡していたチャクラが消え…あのでかい樹も急に消えた…向こうで大きなことが起きているのは確かだ。それもおそらく良くない事が…」

 

「ワンワン!」

 

「なんだと!?」

 

「どうした、キバ!?」

 

「シノ…月だ!月を見てみろ!」

 

「これは…まさか!?」

 

「なんたる事じゃ!!」

 

月に巴模様が浮かんでいた。

 

……まさか、無限月読の準備が整ってしまった!?

 

だけど、神樹は消えたはず……なのにどうして……

 

考えていると突如、月が太陽のような光を放った。

 

眩しッ………

 

思わず目を細める。

 

皆の動きが突如止まる。

 

目が輪廻眼みたいに……まさか…………

 

「くっ…!」

 

また激しい揺れ……!

 

地面から大きな大木が生えてくる。そこから、蔦のような物が生えて人々を絡め取っていく。

 

……何だこれは?

 

私に向かっても伸びてきたので、全て粉々に凍りつかせる。

 

それでも巻き付いてこようとしてくるので、剣気による不可視の刃で切り刻んだ。

 

一人一人を剥がそうにも、取った先からまた巻き付いて埒が開かない。

 

………!?

 

ナルト君達がいる方角から、今までにない程の神性が発生した。

 

こっちで蔦を引きちぎってても仕方ない。根本から叩かないと……

 

新たな神性の発生源に向かって走ろうと一歩を踏み出した瞬間

 

「…え?なにっ!?」

 

地面が無くなった。

 

……いや、地面が溶岩になった。

 

……何でマグマ?

 

咄嗟に空間凍結の足場に立つ。

 

周りに生えていた神樹も無くなっている。……というより、異世界に転移させられた感じか……シンジみたいな事をしてくる。

 

神性は相変わらず感じれる。

 

そちらに向かって、空中を走った。

 

それにしても熱い………幻術でもなく、異空間を口寄せでもしたって訳か?………ただでさえ強かったマダラが六道の力を得たら、こんなことも可能って事ね。

 

あれかな?

 

空中に浮いている3人と、おそらくナルト君の影分身に掴まれている3人。

 

凄まじい神性を放つ存在と対峙しているナルト君とサスケ君。ナルト君は空を飛べるようだ。

 

カカシさんのいる所に合流する。

 

「カカシさん、マダラの姿が随分変わったように見えるのですが………」

 

「君は………」

 

「藍!?」

 

「藍ってば、浮けるのか!?」

 

浮いてるというよりは、立ってるという方が正しい。まあ、いちいち説明はしない。

 

「……まあ、それはいいでしょう。マダラはどうなったんですか?」

 

「話すと長くなるが………要はマダラも利用されていた訳だ、黒ゼツに。」

 

はて?……あの黒ゼツが……

 

ツーマンセルのペアではあったが、殆ど絡みがなかった。結局、一番よくわからないアイツが……

 

でもわからないからこそ、こうして今目の前の脅威になってるのかもしれないわね。

 

「それで、あれが黒ゼツの正体という訳ですか?」

 

「いや、そうじゃない。……黒ゼツがマダラに何かをした結果、あの神のような存在が出てきた。」

 

おそらく、六道仙人の更に上の存在……

 

信じられない程の神性を感じる。

 

五尾の時に感じてた神性が児戯のように感じられる。

 

神性が高ければ、剣気を強力にはなるけど、神性が高いということはそれだけ、相手の力量も高いって事になる。

 

実際、六道仙人化したオビトの相手は時間遅延を使わないと対応できないレベルに達していた。

 

あれとまともにやり合うなら、時間凍結をデフォルトに対応しないと戦えないだろう。神性が増しているから、こちらの攻撃が通りやすくはあるけど。

 

視線の先でサスケ君が天照を使う。

 

だけど、当たり前のようにあの黒炎を振り払う。

 

その隙にナルト君が飛び出す。

 

「動いた!」

 

「くらえ!!」

 

ナルト君が影分身を使い、襲いかかる。

 

「おいろけ 逆ハーレムの術!!!」

 

「え?」

 

思わず、声が漏れてしまった。

 

てっきり、何か秘策があるのかと思ったら、まさかここに来て、相手の意表をつくような術を使うとは……

 

カグヤがナルト君に殴り飛ばされる。

 

まあ、ただの変化の術だけど、決まれば中々だね。

 

とはいえ

 

「……ははは。ナルト君は面白いですね。…意外性ナンバー1忍者は伊達じゃないですね。」

 

乾いた笑いが漏れてしまう。

 

「これが忍の歴史だコノヤロー!!」

 

「……あはは。」

 

カカシさんも苦笑い。

 

だけど、これで隙ができた。

 

「今だ、ナルト!!」

 

「おう!!」

 

ナルト君とサスケ君が手を伸ばす。その間に敵が瞬間移動する。

 

いや、瞬間移動させられた?……ナルト君かサスケ君の能力かな。

 

次の瞬間、世界が変わる。

 

「変わった!?」

 

……雪?

 

景色が一変した。降り積もる雪と雪山。氷河に覆われた大地。

 

「ナルト、サスケ君は!?」

 

「この場所…また移動したのか!?」

 

「…これどっちの術の効果なの、ナルト!?」

 

「え!?えっとこれはたぶん…」

 

「敵の能力でしょう。…最初のマグマの世界と同じ要領で今度は氷の世界に来たんでしょうね。」

 

「一瞬で世界を書き換え、それが実体である事…まるで幻術だよ……これこそ。」

 

それは無い。私は幻術にかからないから。…実際、無限月読だって一切効く気配すらなかった。

 

「今度は氷の世界!?どういう原理?」

 

「とりあえず、下に降りましょう。」

 

氷の大地に降り立つ。

 

「サクラさん、鼻血出てますよ。」

 

指摘してあげると、慌てて鼻を拭うサクラさん。

 

「も、もしかしたら、私達だけこの世界に連れて来られたのかも?」

 

「イヤ…本体のオレはこの世界にいるってばよ…ただサスケは感知できねェ。」

 

降りる時に急に気配が消えたから、あれはサスケ君だった訳か。……まさかやられたとは考えたく無いけど………

 

「うっ!」

 

「「「!!!」」」

 

「………どこだ…?」

 

「オビト…!」

 

「カカシか…」

 

オビトが目覚めた。

 

「オレは…死んだ…はず…」

 

「オレが回復させた………でも…」

 

ナルト君は死者蘇生ができるのか………?

 

いや、雰囲気からしてそうでは無さそう。

 

「マダラは…どうなった?倒したのか?」

 

「イヤ…そうじゃなくなった。」

 

「?」

 

「オレがカンタンに説明すっから!ついでに皆に六道仙人やカグヤのこと…その封印のことも!」

 

「何があったか分からないが…まだ敵は倒していないんだな?なら…そこへオレを連れて行け。その間に話を聞く。」

 

「サスケは感知できねーし…本体がピリピリしてんのもわかる…向こうはあぶねーかもしんねーぞ!?」

 

「私達が足手まといか役に立てるかどうかは分からない。けど、役に立てる時にそこにいないで失敗したくないの。」

 

「どうせそのカグヤってのを倒さない事にはオレ達の世界も終わりだしな。残ってるオレ達だけで足掻いてみるしかないんだ。もうとっくに覚悟は決まっただろ…死ぬ覚悟は。」



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天人

死ぬ覚悟………

 

それなら、私はダンゾウと大蛇丸に狙われていた時からできていた。…いつ死んでもおかしくないし、死ぬよりも酷い目に遭うことも。

 

でも、それだけカカシさん達が追い詰められているなら……全て終わらせてもいい。

 

だけど、私としてはナルト君とサスケ君の行末を見守りたい想いはある。

 

ナルト君の説明を聞きながら走る。

 

「…信じられんが…とにかく、そのカグヤってのを封印するには、ナルトとサスケの二人の力が必要って事だな。」

 

「ああ!でもさっきも言ったけど、サスケが感知できねーんだ!」

 

「氷が…動いているな…」

 

視線の先で大きな爆発が発生する。

 

「あそこだ!」

 

氷河が動き、ナルト君本体を捉える。

 

そこに空間から穴が空き、現れるカグヤ。

 

「どうなってんのアレ…?」

 

どう見ても時空間忍術でしょうね。シンジがいれば楽なんだけど、オビトの神威でも入り込む事ができるんじゃないかしら。

 

「サスケは急に感知できなくなったと言ったな。」

 

「オウ」

 

「なら別空間に飛ばされたと想像できる。奴は時空間から出てきやがった。オレの瞳術とよく似た能力だ。」

 

「…入れるか?」

 

「…もう一度、奴が空間を繋げ開いたと同時にオレの神威と共鳴させれば、まず間違いなく入り込める。そこにサスケがいれば、こっちに連れて帰って来る事はできる…」

 

「よっしゃ!!ならオレは本体のサポートに回っから!」

 

「ただ……」

 

「!?」

 

「それには膨大なチャクラがいる…オレの時空間じゃないからな。向こうでチャクラが切れたら終わりだ。」

 

「ならオレも行く!本体も直ぐにやられたりはしねェ。オレは…強ぇーから。」

 

「分身のお前のチャクラでも足らない。」

 

「私の百豪のチャクラがあっても足りませんか?」

 

「それで限度いっぱいだ。二人ともオレと来い。」

 

「藍は行かないのか?」

 

「私のチャクラ量では足手纏いになりますよ。」

 

「え?…でも皆がチャクラ切れを起こしてる間もずっと派手に戦ってたじゃない。」

 

「ナルト君、私のチャクラ量感知できているでしょう?」

 

「……ああ。チャクラ量は下忍ぐらいしかないってばよ。甘めに見ても、中忍程度だってばよ。」

 

「…そんなチャクラ量でどうして………」

 

サクラさんが不思議そうにしている。

 

「サスケがその空間にいるかどうかもわからない。だがまずは奴の懐に入り…必ずサスケはオレが見つけ、お前の本体まで届ける。」

 

「……………オビト…オレの事、助けてくれてありがとう……そしてサスケまで…」

 

「………こんなオレに礼など言うな。敵を見てろ。」

 

「もう…面はねーんだな。」

 

「………オレは…カカシの友であり、お前の父の部下であり…サスケと同じうちはであり、そして……オレはお前と同じ夢を見た先輩…ーーだった。時間のないオレが今更詭弁垂れるつもりはない。ただ…せめてお前達より前を歩いて…死なせてくれ。」

 

「もう、トビじゃなくてオビトになったのね。」

 

「ああ、お前もそうだろう、藍。…今ならお前の綺麗事でも戦える。」

 

「ナルト…そしてサクラと言ったな。オレの体に触れておけ…いつでも別空間へ飛べるように。」

 

「ハイ。」

 

カグヤがこちらを見てくる。

 

「オレ達の事…バレてるな…やっぱ…」

 

まあ、こっちに来たら容赦なく斬り捨てるつもりだけど。

 

「神威で別の空間へ飛んだとしても、感知されることを考慮しておかないとな…」

 

だがカグヤはすぐにナルト君の本体へ向いた。

 

こちらを脅威とは思って無さそうね。…舐めてくれるとは助かる。これでオビト達も行動しやすくなる訳だ。

 

ナルト君本体に突っ込むカグヤ。

 

「ここは妾の空間だ。お前は何もできぬ。」

 

次の瞬間、ナルト君から蒸気が発生し氷を砕いた。

 

蒸気……五尾の能力ね。

 

そのままカグヤを殴り飛ばす。

 

ハンさんの時もそうだったけど、あの蒸気の力で馬力を上げてるのよね。……よく私、あれで死ななかったわね…

 

「多重影分身の術!!!」

 

凄い!……一体どれだけの数がいるのかしら?………本当に信じられないチャクラ量ね。

 

「今、ここはァ!オレの空間だってばよ!!」

 

ナルト君がカグヤに殴りかかる。

 

「う!!」

 

更に蹴りを放つ。

 

「ず!!」

 

背後から殴る。

 

「ま!!」

 

正面から挟むように蹴りを放つ。

 

「き!!」

 

そして、全てのナルト君が襲いかかる。

 

「ナルト一帯連弾!!!」

 

堪らず空間を開けて逃げようとするカグヤ。

 

そこにナルト君本体が向かう。

 

同時にオビトも神威で飛んで行った。

 

ナルト君の方は失敗したようだけど、問題ない。オビト達の方が今回は適任だ。

 

すぐにカグヤが戻ってくる。

 

「オリジナルは殺した…!何故…消えてない!?」

 

カグヤの袖の中の黒ゼツが叫ぶ。

 

何だか、黒ゼツの精神年齢が下がったような気がするけど気のせいかしら。

 

「こっちがうまく入れたようだね…オビト。」

 

ナルト君がカグヤを引きつけるように戦っている。

 

あまり苛烈にやると、時空間に逃げられてしまう。…かといって、影分身を全て失うような戦いをしてはいけない、難しい時間稼ぎ。

 

隣を見れば、カカシさんが俯いていた。

 

「大丈夫ですよ、カカシさん。」

 

「!?」

 

「彼らなら、上手くやってくれるでしょう。……それよりもカカシさんはナルト君達の先生です。彼らの動きは私よりもよく理解されてるはず。…だからこそ、ナルト君達も貴方を信用しているんです。写輪眼が無くたって、貴方にしかできない事があるんですよ。」

 

「………ああ、そうだな。」

 

カカシさんが再び、前を向く。

 

その瞬間、空間の穴が開き、サスケ君を連れてオビト達が帰ってきた。

 

「……やはり上手くいきましたね。」

 

視線が逸れた瞬間にナルト君がカグヤに貫かれる。

 

「これでもう心配は要らぬ。」

 

「まさか……!」

 

「ナルト!!」

 

だけど、そのナルト君も影分身。ボフッと白い煙を出して消えた。

 

「こ……こいつ!」

 

「ありがとな、サクラちゃん、オビト!!」

 

「何?大丈夫だったの!?」

 

「びっくりさせやがる。」

 

「サスケ!ちゃんとサクラちゃんとオビトに礼言ったか!?」

 

「………敵に集中しろ。」

 

カグヤがチャクラを放つ気配を感じた。

 

咄嗟に自分を剣気で覆う。

 

次の瞬間、私以外の全員が消える。

 

全員、また別の世界に転移したわね。

 

私は周りを見て、誰もいない事を確認する。

 

さて……さっきからずっと感じていた気配の元へ向かう。

 

時間凍結

 

時間を止めて気配の元にたどり着く。

 

時間凍結解除

 

空中で止まっていた雪が再び、地上に落ちていく。

 

「貴様、何者だ?」

 

そこにいたのは、白装束の二人。頭に角を生やしたカグヤのような気配を放っている。

 

「……暁の雪藍と申します。………貴方方は?」

 

「………フン。下等生物に名乗る名などない。……キンシキ、やれ。」

 

「……ハッ!」

 

白装束の大柄な男性が前に出てきた。

 

「我は大筒木キンシキ……参る!!」



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忍の歴史

「大筒木………成程、カグヤの関係者ですか…」

 

返答は斧での斬り下ろし。

 

背中に赤い光を纏い、そこから作り出した赤い光を放つ斧で斬りかかってきた。

 

身体を左へ半歩避ける。

 

振り切った姿勢の敵に左から氷剣を振り切る。

 

だが、相手も只者ではなくガードしてくる。それに意を介さず、今度は氷剣を振り下ろすが、それも弾いてくる。

 

敵は更にもう一本斧を生成して、二刀流で襲いかかる。

 

右からの斬撃を氷剣で弾く。

 

こちらも右から横薙ぎで斬る。

 

だが、弾かれる。

 

もう一度、左からくる斬撃を屈んで避ける。

 

身体を回転させて、遠心力をつけて左から斬りつける。しかし、それも上手く弾かれる。

 

相手が右から切りつけてきた斧に横から氷剣を刺し、そのまま地面に縫い付ける。

 

抵抗しようとしてきた左からの斬撃に合わせて、身体を空中で回転させて、左腕に左足を絡める。

 

千本を取り出し、風のチャクラを纏わせて斬りかかる。

 

相手は上手く首を動かして回避するが、角が吹き飛ぶ。

 

掴もうとしてきたので、即座に離脱。

 

「…………」

 

「…………」

 

成程………

 

やっぱり強いね。これ相手にまとも相手していたら、時間がかかりすぎる。

 

普段ならそれでいいんだけど、今の状況じゃ、いつまた転移が起こるかわからない。

 

さっきみたいなカグヤが側にいれば、カグヤのチャクラの高まりで察知できるけど、今は私だけがこの氷世界に残ってるからわからない。

 

ましてや、この人の後ろには更に格が上だろう大筒木がいる。

 

ナルト君達の迷惑になりかねない。

 

今いるのが氷世界だが、私の剣気の力が増す事はない。先程のマグマの世界でも変わらない。

 

悪い言い方なら、環境の恩恵は受けれないが、良い言い方をするなら、環境に左右されないとも言える。

 

「…………ごめんなさい。」

 

小声で謝罪の言葉を口にする。

 

今から行う事は、私としては禁じ手。

 

あまりにも反則すぎて、絶対に使わないと決めていた手だ。

 

いつも本気で戦い、向き合う事を念頭にしている私としては有り得ない選択肢。だけど今、ナルト君達はカグヤの相手で手一杯。そこにこの人達を引き連れる事はできない。

 

「時間凍結」

 

私の剣気の司る力は停止

 

能力名は『凍結』

 

その極致にある能力が『空間凍結』と『時間凍結』に『権能凍結』

 

『空間凍結』は空間の動きを停止させる。主に壁として使っていた。空間を停止させていることから、どんな攻撃も通さない防御として使えた。手裏剣やクナイから尾獣玉まで防いでくれる。威力の強弱は関係ない。これを突破するには、私の空間凍結以上の空間能力で干渉するしかない。シンジが正にそれだった訳だ。

 

『時間凍結』は30秒間、世界の時間を停止させる。また、対象物を限定すれば、半永久的に時間を凍結させることができる。簡易版の『時間遅延』は時間の流れを半分にするが、効果時間は1分だ。

 

『権能凍結』は指定した能力などを停止させて、機能させなくする能力。これを使う事は多分ない。“チャクラ”を指定して能力を使えば、その瞬間に相手はただの身体能力が高い一般人になるからだ。あまりにもフェアじゃない。

 

他にも私の中で禁術に指定しているものがあるが、今回はその中の『時間凍結』を悪用する。

 

全てが停止した世界で私はキンシキに近付き、肩に手を置く。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

すぐに手を離して、瞬身で高みの見物をしている人の肩にも手を置いて、崩壊凍結を使う。

 

即座に瞬身で離れる。そのまま背を向けてさる。

 

そのまま30秒が経過した事で時間が動き出す。

 

「……な…何だ、これは!?……グ…グアアアアアアア!!!!!」

 

「……グ…グオオオオオオオォ!!!」

 

背後から断末魔が響く。

 

崩壊凍結は私が手で触れた物を瞬時に凍結させて、分子レベルで粉々に砕く能力。

 

塵遁やデイダラのC4に近い能力だ。

 

今まで私はこの崩壊凍結を相手が放ってきた術を相殺する時にしか使ってこなかった。

 

それは人体に使えば、どうなるかわかっていたから。

 

振り返ってみれば、粉々になって塵になって、足だけの大筒木を名乗る二人組。

 

それも見ている間に、足も先まで塵になって空気に溶けていった。

 

……とても残酷な術だ。

 

これは相手と向き合う術ではなく、一方的に相手に『死』を押し付ける力。飛段すら死んでしまう力だ。

 

シンジが“小指一つで世界を滅ぼせる力”と言ったもの。もし私が地面に手をついてこの“星”に崩壊凍結を使えばどうなるか………

 

正にシンジの言った通りになるだろう。

 

………ごめんなさい。貴方達にも何かしら、想いがあったかもしれない。だけど、私が貴方達を何も知らずに一方的殺す。だから、どうか許さないでほしい。

 

そうしていると再び世界が変わった。

 

ナルト君達はあそこか………

 

遠くでナルト君達が見えた。

 

そこまで走っていく。

 

遠目にはサスケ君のスサノオが地面から飛び立つのが見えた。

 

そのまま、遠目で見えにくいけど、おそらくだろうけどカグヤと戦ってる。

 

そして側に来てみれば、カグヤの千切れた腕と黒ゼツが地面に縫い付けられていた。

 

空を見上げれば、ナルト君の猛攻でカグヤを追い詰めていた。

 

あっちは大丈夫そうね………

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

私ごと黒ゼツを氷岩堂無で包み込んだ。

 

「……藍、なんの真似だ?」

 

「……せっかく、暁では相方だったのにお互いよくわからないままだったから、ここで一度貴方と話してみたかったのよ。」

 

そう言いながら、黒ゼツの動きを止めてる黒い棒とカグヤの腕を崩壊凍結で破壊する。

 

ゼツは黒い全身を液体のようにくねらせながら立ち上がる。

 

「今更話す事などない……お前も母さん復活の糧でしかない!!」

 

地面に潜ろうとするゼツ。

 

「残念だけど、地面には逃げれないよ。この氷岩堂無は地面も覆ってるから。…ここは私と貴方だけの完全密室よ。」

 

「……貴様…!」

 

「………オビトはどうしたの?」

 

「ククク……あのゴキブリなら今死んだところだ!……お前も今更、楯突いて自分の過ちを清算できるとでも思ってるのか?……虫のいい話だ。まるで我が儘なクソガキだ。」

 

「……そうね。私は我が儘で子供だと思うわ。……でもね。私は自分の罪が清算されるとは思わないよ。…これはただナルト君とサスケ君の戦いの集大成。………私の償いはまだ始まってすらないよ。」

 

「……フン。口だけは一丁前だな!」

 

「ねえ。貴方は何故今まで戦ってきたの?」

 

「そんな事を聞いてどうする?…お前も裏切り者のオビトと同じ様に粉々になるのだからな!」

 

そう言ってくると、黒ゼツが私に取り憑いてきた。

 

左半身が黒ゼツに侵食されていく。

 

「……どうせ死ぬお前にも教えてやろう。………オレの役目は母さんの復活だ!全知全能の神となる!!……忍の歴史はオレが作り上げた劇のようなものだ。……中々の出来だったんじゃないか?…どいつもこいつも馬鹿みたいにボロボロになって、踊り狂って死んでいったがな!……お前もその馬鹿共の一人だ!…お前のようなクズにはお似合いの最期だな!!」

 

「………そう。教えてくれてありがとう。………でも、ごめんなさい。」

 

私は剣気を纏う。

 

それだけで取り憑いていた黒ゼツが爆ぜた。

 

ビチャビチャッ!!

 

黒い液体のようなものが地面に飛び散る。そのまま、黒い砂のような散っていく。

 

「……貴方の想いを聞かせてもらったわ。貴方は私のパートナーだったものね。最後に本音が聞けて良かった。………一人、孤独に数千年を戦ってきた貴方の気持ちは、ほんの18年しか生きていない私にはわからない。………だけど、それだけ母親を想える貴方はちょっと羨ましいわね。……私は5歳の時に既に失った物だから。……本当なら私もお母さんに甘えたかった。…でも、それだけ母親の為に頑張れる貴方を殺す事になって、本当にごめんなさい。……それでも安心して。貴方の母さんもすぐにそちらに送ってあげるから………」

 

黒い塵となった黒ゼツが完全に消える。

 

氷岩堂無を解く。

 

空を見上げれば、カグヤがナルト君とサスケ君に封印されていた。

 

「封印終了!!これでめでたし、めでたしだってばよ!!」

 

「そうなのね……………てェーー!!私達はどうすんのォ!!?この空間からどうやって戻るのよォー!!?」

 

「ア゛ーーー!!!」

 

ナルト君達も無事カグヤを封印できたわね。

 

私は再び剣気を纏う。

 

次の瞬間、ナルト君達と周りにいた尾獣達が消えた。

 

口寄せされたのね……

 

私は空に浮かんでいる大きな月を見上げた。

 

「…………」

 

氷翼で飛んで、月の頂点に降り立つ。

 

「……カグヤさん。貴女程の存在を封印だけで留めておくのは危険すぎる。申し訳ありませんが、貴女にも黒ゼツの所へ行っていただきたい。……黒ゼツにもすぐに送り届けると今、伝えたばかりですしね。……向こうでは、貴女の為に数千年、孤独に戦い続けた息子さんがいます。…仲良くしてくだされば、私も嬉しく思います。……さようなら。」

 

……最後はこの術で締めようと思う。

 

術の名前に兄さんの名前を付けたこの術で…

 

「白氷龍」

 

月の100倍もの大きさの龍を10体作り出す。

 

……これからは、新たな忍の歴史の幕開けが始まる。

 

私は白氷龍を月に向かって降らせた。



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エピローグ〜はじまり〜

ーーカカシ視点ーー

 

戦場に現れた藍。穢土転生された嘗の師匠と肉親相手にも、動揺する事なく対処していく。その様は流石は暁だと感心はするが、18歳の少女として見れば異常だ。

 

彼らとの戦いを監視していたが、その中で聞いた暁の意外な一面。

 

ある意味当然かとも思った。暁とはずっと敵対していたのだから、残虐な一面しか知らない。ただ、それは向こうも同じなだけ。

 

いっそ鮮やかな手並みで二人を無効化した彼女に声をかけた。

 

そこで話していく内に、何故彼女の眼を見て恐怖を感じたのかわかった。

 

覚悟が他人のそれと違う。

 

“だが、君が挙げたメンバーも…”

 

“そうです。暁の犯罪者です。……ですが、彼らと私に違いなどありません。私だけが特別では無いんですよ”

 

そう言う事を言いたかった訳では無かった。

 

“もう既に皆、亡くなった者達ばかりではないか……”

 

そう問いかけたかった。だが、暁のメンバーを殺したのは木ノ葉のメンバーだ。オレが言う資格は無い……

 

だから、オレは口を噤んでしまった。

 

そして語られる償いの人生。

 

彼女は若く、まだ18年しか生きていない。これから先の人生だって長いはず。それを償いに当てて、人生を台無しにする覚悟。

 

18歳の少女が固めていい覚悟じゃ無い。

 

そもそも彼女にとって、オレと言う存在は憎いはずなのだ。再不斬と兄を手にかけ、再不斬との約束……彼女を護る事ができずに抜忍にさせてしまった。彼女の仲間だった人間も木ノ葉が殺害した。

 

サスケは一族を殺され、兄を殺された木ノ葉に憎しみを抱いた。

 

ナルトは師匠であった自来也様を殺され、ペインに憎しみを抱いた。

 

オレ自身も嘗の戦争による遺恨によって、最初はチヨ婆様に憎まれていた。

 

……じゃあ、この子は?

 

どうして、憎しみのカケラも感じさせないんだ?

 

 

 

覚悟が他人のそれと違う。

 

 

 

自分でもよく分からない焦燥感に駆られて、言葉を紡ごうとしたが、彼女が次に放つ術を聞いてそれどころでは無くなった。

 

穢土転生を殺す術……

 

大規模虐殺……

 

忍界全域……

 

どれもこれもデタラメな内容。

 

だが、そんな事はどうでもいい。

 

彼女は戦争終結後、忍里に禍根を残さないように……自身が恨まれても構わない……戦争で死者を減らせるのならば……

 

そう語った。術もデタラメだが、それを使う覚悟もデタラメだ。

 

精神の怪物。

 

だからなんだろうか……彼女に写輪眼で幻術に掛けようとしたが、通用しなかったのは。

 

強すぎる精神力が幻術をはじいているのかもしれない。

 

そう思う程度には常軌を逸していた。

 

サスケ、ナルトや普通の人間のように憎しみに逃げる事もない。

 

オレだって仲間を失い、この世は地獄だと少なからず思った事があったぐらいだ。

 

戦争の中だけで見た、断片的なものがでしかないが、彼女は余り敵を否定するような発言はしないように見えた。理由を聞く事はあったが、それでも強く否定しているところを見ない。

 

それは元来の優しすぎる性格も起因しているのかもしれない。

 

だが、それだけの覚悟を決めさせる程度には、苦難な人生を歩んだんだろう。……歩ませてしまったんだろう。再不斬と約束したにもかかわらず。

 

次に顔を合わせたのは、カグヤとの戦場。マグマ世界で空中を走って現れた。

 

まさか、無限月読すら掛からなかったのか……

 

疑問が湧いたが、それどころではなかった。

 

しかしながら、同時に悟ってしまった。

 

もう彼女を止められる者は、きっと彼女のお兄さんかイタチしかいないと……

 

それを裏付けるかのようにカグヤ封印後、六道仙人によって現世に口寄せされた時に彼女は行方を晦ませていた。

 

六道仙人にあの世界に取り残されていないか尋ねたが、六道仙人にも見つけられなかった。

 

ナルトとサスケが最後の決着を付けて、戦争が終結した。

 

忍び世界は護られた。

 

サスケも木ノ葉に帰ってきた。

 

オビトとも決着をつける事ができた。

 

それでも心に小さな……それでいてどうしようもないシコリが残った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦争は終わった。沢山の犠牲や痛みを伴ったが、皆が心を一つに戦い、勝ち取った現実だ。

 

世界はこれから少しずつ良くなっていくだろう。

 

漠然とだけどそう思う。だけど、それは今すぐじゃない。

 

ビンゴブックには未だに犯罪者の名前が載っている。

 

格段に減ったけど、犯罪者が完全にいなくなった訳じゃない。

 

そんな犯罪者を捕まえては、賞金を得て生活している。以前のままだ。

 

少し違うところがあるとするならば、自分が狙われる事が格段に増えた事と、ビンゴブックの1ページ目に名前が書かれるようになった事だ。

 

コンやシロの名前はなくなり、雪藍の名前で統一されていた。賞金額はもう桁を数えるのが億劫な程の高値がついてる。

 

狙われる事が多い要因は何個かある。

 

元々の所属がはっきりしていない為、五大国全ての追い忍がやってくる。元霧隠れだったら、霧隠れの追い忍。元木ノ葉なら木ノ葉の追い忍が来る。だけど、しっかりとした所属がない私は各国の追い忍がやってくるのだ。

 

もう一つはシンプルに賞金額の高さ。その高さ故、実力の高い者や人数が多いチームが襲いかかって来る。

 

そして、一番大きな要因は私が最後の暁だからだろう。小南は現在、雨隠れの長になっている。暁ではあるんだけど、里のトップに据えられ、政治を行なっている小南の身元はしっかりしている。……対して、私は戦争で面をしないで大暴れした。ありとあらゆる忍が私の顔を記憶しているだろう。暁の衣と共に。

 

世界の敵である暁。政治的な駆け引きや人々の憎しみ。あらゆる思惑が交差している事だろう。その最後の生き残り。

 

それが私だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そっちに行ったぞ!!」

 

「了解!!風遁・大突破!!!」

 

吹き荒れる突風に対し、木を蹴り付けて大きく跳ぶ事で回避する。

 

跳んだ先で頭上から刀で斬りつけて来る気配に合わせて、千本で受け止める。

 

そのまま弾いて、木に着地すれば起爆札付きのクナイが飛んでくる。

 

千本を投げて軌道を逸らし、爆発の瞬間に瞬身の術で回避する。

 

「…どうやら本当に氷遁が使えないくらい弱ってるらしいな。」

 

「連日、各隊が攻撃し続けた甲斐がありますね。」

 

「だが、こいつに油断は絶対するなよ。」

 

「了解。」

 

今回は雲隠れの追い忍のスリーマンセルのようだ。

 

戦争での暴れっぷりから察して、勝てないと普通は思うのだが……

 

「……お前ら暁は絶対に許さない…オレのダチを殺した暁はな……!!」

 

そう、憎しみ……

 

勝てない相手にも挑み続ける理由はインプルだ。戦争で何かしらを失ったから。精神が肉体を凌駕するとは正にこのことか……

 

風遁が使える相手に霧隠れの術でサイレントキリングを狙う事はできない。

 

「秘術・千殺水翔」

 

「!?…散!!!」

 

跳んだ一人の風遁使いに千本を投げて、首の秘孔を貫く。

 

意識がそっちに逸れた隙にクナイを投げてきた男性に瞬身で近付き、同じく首を千本で貫いた。

 

気絶した二人が地面に倒れる。

 

「くっ……!ウオオオオオオォ!!!」

 

一人になり、逃げればいいのに、それでも向かって来る。

 

目には憎悪の闇が蠢いている。

 

すれ違い様に首を千本で射抜いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飛んできた手裏剣を千本で弾く。背後からクナイが飛んでくる。それも同じように千本で弾く。

 

更に起爆札付きクナイが頭上から飛んでくる。

 

千本を投げて起爆札を射抜き、クナイを弾く。

 

今度もスリーマンセルだけど、遠距離から狙って近付かない戦法か。

 

私の得意な体術での勝負はしないと……

 

「水遁・水喇叭!!!」

 

「雷遁・感激波!!!」

 

遠距離の水遁と雷遁攻撃か。

 

「風遁・風切りの術」

 

風遁を当てて相殺。

 

そのまま踏み込んで接近しようとするが、クナイが投げられる。即座にクナイで弾いたが、煙玉が付いていた。

 

辺りに緑色の煙が舞う。

 

「……暫く様子を見よう。」

 

「痺れ薬入りだ。……氷遁が使えない辺り、かなり疲弊しているだろう。…これで終わりだ。」

 

「………な…なあ、里に連行する前にちょっとだけ楽しまないか?」

 

「……そうだな。まあ顔はイケてるしな。……それにどうせ犯罪者だ。ちょっとくらいいいだろ。」

 

「…じゃあ、オレが幻術にかけておいておくわ。」

 

「幻術にかけると反応が悪くならないか?」

 

「…仕方ねーだろ。暁だし万が一逆転されたくねーだろ。」

 

「それもそうか。…なら、最初はオレからでいいか?」

 

「オイ!そこは幻術をかけるオレからだろ!!」

 

もう勝った気でいるなんて、随分と油断してくれてる。

 

サイレントキリングをするのに、わざわざ煙幕を焚いてくれるとは好都合。

 

せっかく警戒して距離を取っていても、これだけ隙だらけだと意味がない。

 

私は煙幕の中から千本を投げて、首の秘孔を射抜き気絶させた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦争を経て、大国同士ひいては世界の流れは平和へと進んで行っている。

 

だけど、小国はその限りではない。

 

未だにお金も領土も少ない小国は、世の中が平和になればなるほど、食っていく事ができなくなっていく。

 

だから、未だに小国同士で小競り合いが絶えない。

 

暁の衣を着ていても、もう暁は解体された組織。紛争の手伝いはしない。

 

代わりにその紛争で行き場を失った孤児を救出する事は続けていた。

 

流石に孤児院に暁である私は行く事ができないので、変化の術で姿を変えて送り届けていた。

 

前は風の国に送っていたけど、最近は最寄り国に送るようになった。

 

今の時勢なら非人道的な扱いは受けないだろうと考えて。あと孤児の子供の体力を考えてそうしている。

 

戦場跡に戻ればそこに転がる遺体を埋葬する。最後に氷の花を添えて祈る。

 

……随分と手慣れてしまった。……本当は慣れちゃいけない類のものなんだろうけど。

 

代わりに祈る時間を増やした。

 

それで彼らが救われるかはわからない。殆ど自己満足のようなものだ。それでもこの行為こそが自分が人間であると確認する為に行っている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うーん!やっぱり美味しいね!」

 

「本当に好きね、貴女。」

 

雨隠れの里の茶屋に来ていた。

 

私は国際的に指名手配された犯罪者。どこの里にも寄り付く事はできない。孤児院だって変化の術で送ってるぐらいだ。

 

ビンゴブックの1ページ目に載ってるからか、顔もすっかり覚えられてる。

 

例外はここ雨隠れの里だ。

 

雨隠れの里は小南がトップに立ってる。大国の木ノ葉と岩と砂に挟まれた小国で難しい政治の舵取りを行ってる。

 

今のところは大きな争いに巻き込まれてはいない。

 

そんな小南が便宜を図ってくれて、私は変化の術を使ってなら、里内を歩く事ができた。

 

今は茶屋の個室で小南とみたらし団子を食べていた。

 

「まあ、団子は好きだね。」

 

「あまり食べ過ぎると太るわよ。」

 

「いいの!私はスレンダーなんだから!!」

 

「……そう?まあ、確かに細いわね。」

 

その小南の視線が私の胸元に向けられる。表情も少し微笑ましそうに見て来る。

 

「………何よ。馬鹿にしてるの?」

 

「…フフ。気にしなくていいわ。……どうせあっても肩が凝るだけだし。」

 

ぐぬぬ……

 

小南がバッと私の皿の団子を取って頬張る。

 

…ああ。私の団子が……

 

「…確かに中々の味ね。」

 

「……小南は太いんじゃないの?」

 

「あら、拗ねてるの?」

 

「…………」

 

「…フフ、ごめんなさいね。後で追加してあげるから。」

 

このお姉さんにはまだまだ勝てないらしい。

 

仕返しとばかりに小南の皿に手を伸ばす。

 

「…っ……」

 

背中が引き攣って傷が痛む。

 

「貴女、大丈夫なの!?」

 

先程とは打って変わって、こちらを気にかけてくれる小南。

 

身体の強張りは一瞬だったけど、それに気付けるとは流石は元暁。

 

「大丈夫だよ。ちょっとした軽い怪我なんだから。」

 

「うちの医療忍者に見せた方が良さそうね。」

 

「いやいやいや……本当に軽い怪我だって!」

 

「じゃあ、何してたの?」

 

「…………」

 

「何してたの?」

 

「…………」

 

「…………」

 

小南の目がこちらをじっと見つめてくる。話すまで逃さないと言わんばかりだ。

 

「……あはは……」

 

「…………」

 

「……い…いや〜ちょっとね…今までに殺しちゃった人達の家族の所に土下座しに行ったらさ、土下座した状態で背中から包丁をね…」

 

「はあ……」

 

小南が大きな溜息を吐く。

 

「………時々…いや、いつも思うけど、貴女って本当に馬鹿ね。」

 

「……あはは」

 

小南が再びこちらを真剣な目で見てきた。

 

「……ねえ。貴女、雨隠れに来ない?」

 

それはきっと私を想っての提案なんだろう。

 

「……私の産まれは雨隠れじゃないよ。」

 

「そんな事知ってて言ってるのよ。……このまま、今の生活を続けられると本気で思ってるの?」

 

ありがたい申し出だ。

 

だけど、これに頷く事はできない。今ですら、国際指名手配犯を匿ってくれているんだ。雨隠れは大国に囲まれた小国。政治の舵取りは大国以上に難しいもの。

 

どこにも寄り付けない私を心配してくれるには嬉しいけど、これ以上小南の足を引っ張るわけにはいかない。

 

「ありがとう。……でも私は今のままでいい。」

 

「……そう。」

 

小南は小さく呟いた。

 

小南ならもっと強く言ってくると思ったんだけど、意外にもあっさりと引き下がった。

 

「意外そうね。……遺族に土下座するぐらいだもの。………それだけ意志が強いのなら、断られると思ってたから。」

 

なるほど。

 

「でも、これだけは覚えていて。私は貴女の味方よ。どうしても辛くなったら、いつでもここに来ていい。」

 

「うん、ありがとう。小南もこれから大変だろうけど、頑張ってね。」

 

あまり長居するのは、小南に迷惑がかかるだろう。

 

気にしなくていいと言ってくれているが、これ以上甘える訳にもいかないので、雨隠れの里を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「土遁・土流壁!!」

 

投げた千本が土遁の壁に阻まれる。

 

またまた襲撃を受ける。

 

今回は見知った顔だった。

 

「ゲンさんにテツさん。お久しぶりです。」

 

この人達は以前、岩隠れと石隠れの紛争の時に会った人達だ。

 

私が狩った五尾の人柱力 ハンさんに対して、殺してくれてありがとうと言った、良くも悪くも印象に残っている人達だ。

 

あとの二人は知らない顔だ。

 

「……おい、お前らこいつの知り合いか?」

 

「いーや、全然。」

 

「オレも知らねー。」

 

ん?…ああ、そうか。あの時は面をしていたからわからない訳か。

 

「…だよな。」

 

「いいから、やるぞ!!……こいつはオレ達の仲間のハンを殺した奴だ!! ハンの敵討ちとして、ここで絶対に仕留める!! 気を緩めるなよ!!」

 

「「「おお!!」」」

 

ゲンさんがこの小隊のリーダーのようだ。

 

でも、今の口振りなら、私がハンさんを殺したってわかってるよね。……なら、やっぱり私の事もわかってるんじゃ……なんでしらばっくれるのかしら?

 

いやそれを議論しても仕方ないか。今は敵なんだから。

 

「土遁・地動核!!!」

 

私の地面が下がる。

 

すぐにジャンプして離脱。

 

無数のクナイが飛んでくる。

 

空中で身体を捻って回避。

 

千本を投げる。

 

「土遁・土流壁!!!」

 

壁に阻まれるが、それはフェイク。別の方向み投げた千本同士を当てて起動を変えて、壁に回り込むように千本を誘導する。

 

横からくる千本に気が付かずに首を射抜いた。

 

まずは一人……

 

「土遁・黄泉沼!!!」

 

私が着地しようとした地面が底無し沼になる。

 

「水分身の術」

 

真下に水分身を作る。水分身はすぐに沼にハマってしまう。その水分身の背中を蹴って黄泉沼から離脱。

 

跳んだ先にいたテツさんが刀を振るう。それを空中で回転して躱し、すれ違い様に首に千本を刺して気絶させる。

 

「チッ、撤退だ!!」

 

「了解!!」

 

ゲンさんともう一人の忍が気絶した二人を抱えて逃げていった。

 

素早い撤退の指示に感心する。最近は憎しみに駆られ、最後の一人まで向かってくる人達ばかりだった。

 

ひとまず危機は去ったということで落ち着いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

波の国にある私が建てたお墓には、デイダラとイタチと鬼鮫さん、長門にオビトが加わった。

 

随分と増えてしまったなと思う。

 

兄さんと再不斬さんのお墓は、案の定荒らされていた。おそらくカブトの仕業だろう。

 

綺麗に直したけど、二人の遺体はもうここには無い。

 

最初に見た時は思わず放心してしまった。込み上げてくる物に耐えられず、涙を流しながら片付けた。

 

カブトに聞いたけど、すでに遺棄されたそうだ。

 

当然かと思った。あれだけの穢土転生を操ってたんだ。生体情報を得た後に遺体を管理するなんていちいちやってられなかったんだろう。

 

なんとも思わなかった訳ではないけど、ここでカブトを責めても仕方ないし、孤児院達の目の前で殴り飛ばせば、それこそまた憎しみの連鎖になる。

 

せっかくナルト君達が憎しみの連鎖を断ち切ったんだ。

 

私も痛みに耐え忍ぶとしよう。

 

服の袖から一通の手紙を取り出す。

 

表紙には『雪藍様』と書かれている。

 

中身はまだ見ていない。

 

この手紙はカグヤを滅した時に、一人始球空間に取り残された私の元にやってきたシンジに手渡された。

 

『これは前に言った招待状や♪ 心の準備ができたらそれを開いてな♪』

 

この手紙を渡され、ついでに始球空間からの脱出を手伝ってくれた。

 

それを思い出して、再びしまう。

 

殆どやるべき事は一通りやった。

 

水月君のところへも赴いた。相手をしてあげると言ったのに終始逃げ回っていた。と言っても、私の方が足が早いので逃れるわけがないのだが。

 

最終的に首切り包丁は水月君に渡した。扱えない私が持ってるよりも、誰かに使ってもらった方がいいだろう。もう私はここに来ることもないだろうから尚更だ。

 

サイ先輩とは、結局話す機会には恵まれなかった。水月君のように大蛇丸の下につきながらも、ある程度自由の効く身ではないから仕方ない。

 

ユキウサギを口寄せしては定期的に情報を集めさせてる。今までは暁から情報を得ることができていたけど、今は自分で世界情勢を確認しないといけない。

 

紛争などの火種や紛争そのもの、災害などの調査をしてもらってる。実際に有ればそこに赴き、救助を行う。

 

そんな一匹が帰ってきた。

 

お墓の前で座っていた私の膝の上にちょこんと座るユキウサギ。

 

“特に異常はなし”

 

「…そう。ありがとう。」

 

ユキウサギを抱き上げて背中や頭を撫でる。そうすると気持ちいいのか、目を細めて私の顔に頬擦りしてくる。

 

「……ふふ、くすぐったいよ。」

 

かわいい。

 

私に甘えてくるユキウサギが突如、飛び跳ねて走り去る。

 

「…あらら、怖がらせちゃったかな。」

 

「ユキウサギは臆病な性格ですからね。……私によく似ています。」

 

「あれは君の口寄せかい?」

 

「……ええ。そうですよ。」

 

「じゃあ、君みたいに強いんだろうね。」

 

「あの子達に戦闘能力はないですよ。可愛かったから契約したんです。」

 

「………かわいいとかで口寄せ契約するのも珍しいね。」

 

「そうですか?……まあ、9歳の時に契約したんですから、その時の私の感性なんてそんなものですよ。再不斬さんにも実用的な奴にしろと怒られました。」

 

索敵や探索をさせているけど、カカシさんの忍犬の方がそっち方面でも上だ。

 

「ところで、こんな所にやってきていいんですか?……まさか、次の追い忍が貴方って訳でもないでしょう、火影様。」

 

「……いやいや、オレはまだだよ。今は引き継ぎ中。」

 

「そうですか。それは失礼しました、カカシさん。」

 

「隣……いいかな?」

 

「ええ、どうぞ。」

 

ずっと後ろから話しかけていたカカシさんが横に座る。人2人分程空けて。

 

私がストレスを感じない絶妙な距離感。こういうところは大人だなって思う。

 

カカシさんが目の前に並ぶお墓に視線を向ける。

 

「………随分と数が増えたね。」

 

「ええ、ここに遺体が眠ってる訳ではありませんが、彼らは私を守って散った英雄達です。」

 

「誰が眠ってるのか、聞いてもいいかな?」

 

「……白兄さん、再不斬さん、クロ、サソリ、デイダラ、長門、イタチ、鬼鮫さん、オビト。」

 

「オビトもいるのか……」

 

「暁に入ったのが、一番最後で年齢も一番下でした。だからか皆、私を妹や娘のように可愛がってくれました。」

 

「……クロというのは知らないな。暁なのか?」

 

「…いえ、彼女は木ノ葉で出会った妹分です。黒髪の似合う可愛らしい女の子でした。」

 

「そうか。……その子もここに有るって事は……」

 

「ええ、彼女も亡くなってます。……本当はサイ先輩がいる時に話したかったんですが、機会に恵まれませんね。……実は私は『根』に所属していたんです。」

 

「……『根』に……どうして?君はあの後、孤児院に送られたはず…」

 

「話すと長くなるんですが、構いませんか?」

 

「……珍しいね。前の時もあまり話したがらなかったのに。」

 

「まあ、尋問ですからね。」

 

「写輪眼も効かないし、話してくれる分には構わないよ。そもそも写輪眼のカカシじゃなくなったしね。」

 

「いつ気付かれましたか?」

 

「戦争中のあの雪の忍術を使う時だね。」

 

ああ、あの口論の時か。確かにカカシさんの目を見て話していた。

 

「写輪眼相手に全く警戒しないで、視線を合わせてくるから、何かの罠かと疑っていたんだけど……まさか、本当に警戒していなかったとはね。」

 

「……最近は幻術にかかるコツがわかってきたんですけどね。」

 

「わざわざ幻術にかかる訓練なんてしなくていいでしょ。」

 

「普通はそうですよね。……でも戦争中にいのさんの心伝身の術に繋がらなかったんですよね。おそらく精神に作用するあらゆる干渉を弾いてるんだと思うんです。」

 

「その口振りだと、意図して幻術を防御してる訳じゃないのか……」

 

「生まれつきの体質っぽいんです。」

 

ついでに毒物や薬物に対する耐性も。

 

「皆が心を一つにして戦っているのに、私だけ蚊帳の外のように感じました。……ここまで覚悟しておいて、今更女々しい事に寂しさを感じたんです。」

 

デイダラがイタチの幻術対策に左目を鍛えていた。それを参考に私も右目にチャクラを集中させ、脱力する事で精神干渉を受け付けれるようになった。

 

だけど、長続きはしない。チャクラを集中させて、脱力するという矛盾する行動を行わなければならないからだ。いわば、水中でいつまでも息を止める事ができないのと同じである。

 

「話が逸れましたね。……私が『根』に来るようになったのは、元を辿れば再不斬さんと一緒に行動していた時にまで遡ります。」

 

「そこまで遡るのか。」

 

「ええ。10年ぐらい前の話ですからね。……当時、大蛇丸は穢土転生の術の試験運用を行おうとしていました。その時の試運転に使われたのは、忍刀7人衆。そして対戦相手に同じ7人衆の桃地再不斬が狙われました。実験は半ば失敗。穢土転生で甦らせた忍は実力も劣る上に感情に流される欠点が見つかった。…だが、大蛇丸にとってこれはただの失敗ではなく発見もあった。それは桃地再不斬に引っ付く2人の血継限界の子供。……大蛇丸とダンゾウ様は裏で繋がっていました。両者共に血継限界を欲していました。とはいえ再不斬さんが付いていた事で手出しされる事はありませんでした。」

 

「大蛇丸とダンゾウが裏で………」

 

「そこで偶然、タズナさんが木ノ葉にやってきました。これをチャンスだと考えたダンゾウ様はタズナさんが木ノ葉に来るまでの道中を『根』の忍に護衛をさせました。そして、雇われたのが貴方達『第七班』だった訳です。」

 

「そうだったのか……」

 

「桃地再不斬が居なくなり、フリーになった私に早速、ダンゾウ様は接触してきました。カカシさんが引渡しにやってきていた火影直属の暗部……あれが実は『根』です。」

 

「……まさか」

 

「私の所有権を巡って、大蛇丸とダンゾウ様で密約があったみたいです。私をダンゾウ様に渡す代わりに、木ノ葉崩しの際は大蛇丸の里への侵入の手助けと大蛇丸の邪魔をしない事。それと三代目火影を殺す事で合意していました。ダンゾウ様は火影の座が欲しい。大蛇丸も木ノ葉崩しとして火影の首が欲しい。利害が一致していた訳なんです。」

 

とはいえ、ダンゾウは木ノ葉を守ることを目的とし、大蛇丸は木ノ葉崩しが目的だから、最終的にはぶつかっていただろう。

 

「そうして、私は『根』に配属されました。……サイ先輩に聞けばわかるかと思いますが、『根』にはある仕来たりが有ります。それは……」

 

「……仲間同士での殺し合い。」

 

「知っていましたか……その通りです。そこで私のペアになったのがクロです。」

 

「それでその子と……」

 

「まさか、再不斬さんと同じ境遇になるとは思いませんでした。……ですが、私は再不斬さん程、強くも優しくもありませんでした。……これも何の因果なのか、クロは孤児院出身でした。ダンゾウ様から忍になれば、孤児院への支援金を送る事を約束されて『根』にやってきていました。この話を聞いていた私はクロに命を差し出そうとしました。……当時、ダンゾウ様の思惑や大蛇丸との面識がありません。ただ、流されるままに『根』にやってきた私と強い志を持ったクロなら、彼女こそ今後生きていくのに相応しいと思ったんです。」

 

「でも、彼女は……」

 

「しかしながら、私の想いとは裏腹にダンゾウ様はそれを許しませんでした。普段であれば殺し合いの勝った方が『根』になるはずです。ただ、今回私は血継限界でした。それも最後の生き残りです。初めからダンゾウ様は私が生き残る選択しか用意していませんでした。実際、クロの実力はアカデミーを卒業した程度です。私に勝てるはずがありません。その事実を突きつけられながら、ダンゾウ様はクロを殺し、私にその生首を投げつけてきました。……『根』の方針に従わない私は『根』に相応しくない。でも、私は雪一族唯一の生き残り。『根』に入る以外でも木ノ葉に貢献する事はできるとダンゾウ様は言いました。」

 

「……それは?」

 

「 それは……血継限界を増やす母胎としての活用法です。」

 

「…………」

 

「抵抗するなら、手足を捥いで苗床にすると言い、実際に手足を捥ぐように命令された『根』の忍に襲われました。……必死で抵抗し、逃げた私は……」

 

「もういい……」

 

カカシさんに遮られた。

 

「……君にとって辛い話だろう。今までの流れでもそれは大体察しはつく。」

 

「お優しいんですね。」

 

「…優しくは無いさ。君がこんな状態になるまで気が付けなかった。…再不斬に君の事を託されていたと言うのに……」

 

「……そうかもしれませんが、あまり信用しない方がいいですよ。あくまでも私は暁なんですから、一方的に木ノ葉に不利な話をしているだけかもしれません。…何せ証言者になるであろうダンゾウ様はもう居ないのですから。」

 

「……そんな事をする君じゃ無いでしょ。」

 

「……お気遣いありがとうございます。ですが、今この場では不要です。…こんな話。事実だとしても公にはできないでしょう。…この話を持っているだけでも木ノ葉に対する脅しになる。木ノ葉が何かしようものなら、他国にこの話を持っていけばいい。木ノ葉は私に手出しできなくなる。…わざわざ次期火影様になる貴方に話したのはそう言う意味もあるんですよ。……不都合でしたら、今この場で私を殺しても構いませんよ。口封じも時には必要になるでしょうから。」

 

「…………はあ。君はシカマル以上に頭がキレるね。再不斬の言った通りだ。」

 

「……では話を戻しますね。…………必死にダンゾウ様から逃げた私はそこでカブトに待ち伏せされていました。今思えば、当然のことです。ダンゾウ様と大蛇丸は繋がっていたんですから。……気絶させられ捕らわれた私でしたが、氷遁に目覚めた事で大蛇丸に対して大暴れして、なんとか逃げおおせました。……そのまま2年程、ダンゾウ様と大蛇丸の追手から逃げながら、各地を転々とする日々を過ごし、小南と出会い暁に入りました。……当時、暁は裏切り者の大蛇丸の粛正に躍起になっていました。大蛇丸との戦闘経験のある私はそれを期待されてスカウトされました。私は自分の身の安全を確保したい。利害が一致したと言う訳です。」

 

「………なるほど」

 

「暁に入ってからの生活は思いの他、平穏でした。組織から下される任務をこなしていれば、基本的に各々自由にしていいと言う決まりでした。……まあ、その任務の中に尾獣狩りがあった訳ですが。…尾獣は各忍里が保有しています。それに手を出せば、その忍里から睨まれる。結局のところ、暁は滅びの運命を辿る事になりました。…ただ、木ノ葉が早い段階から暁を敵として動く事も、他里が人柱力を奪われても、あまり関心がなかったのも意外でした。」

 

「……意外とは?」

 

「直接尾獣や人柱力を奪われた訳じゃ無い木ノ葉が、早い段階で火の国の各地で小隊を放ち、警戒していた事です。…それに対して岩隠れや霧隠れ、雲隠れなどは直接人柱力を奪われたにも関わらず、無関心でした。…まあ、雲隠れは雷影様の弟さんが襲われれば、流石に怒ったようですが。」

 

「…各里で反応が違った訳か。」

 

「…無関心な里の人柱力は、里で冷遇されている者が多かったように思います。……私が狩った五尾の人柱力であるハンさんは、その後岩隠れの忍に感謝されたぐらいです。」

 

その忍も今や仇打ちとして襲ってくるようになったけど。

 

「……そんな辛い想いをされてるハンさんを殺したのは、他でもない私です。…私だって虐げられる側の気持ちを知っていたにも関わらず……」

 

「…………」

 

「……今目の前のお墓の彼らも私を守って死んだ人達……私は彼らの屍の上に立っている。なら、彼らの想いを受け継ぎ、感謝と償いをしないといけない。」

 

「……君はまだ若い。…これからの人生を全て台無しにするつもりか?」

 

「………暁は沢山の人に悲劇をばら撒いた。この服を着る者として、責任は必ず果たさないといけないと思ってます。」

 

それに仮に私の真実を公表して、私が許される事があったとしても、それは木ノ葉の立場が悪くなるだけの話。その所為で再び戦争にでもなれば本末転倒。何の為にナルト君達が平和を勝ち取ったのか分からなくなる。……結局、取れる選択肢は無い。私1人と忍界に住む何億人との命の重さなんて、比べるまでもない。

 

「……それはお兄さんを含め、ここに眠る彼らもそんな事を望んじゃいないと思うよ。君だけが苦しみ、耐え忍ぶのは。皆で耐え忍ぶならまだしも、1人に苦痛を押しつけて、平和を謳歌するのは、無限月読と変わらない。」

 

「………耳が痛い事を言いますね。」

 

私は改めて、氷の花をそれぞれの墓標に飾っていく。

 

「別にこの行為自体に意味などありません。」

 

「え?」

 

「人が生きてきた最後の標。私がこうして飾り付けるのは、こうあって欲しいと願うからです。自分が死んだ後も誰かの記憶に留まっていたいという願望なんです。」

 

「それは……極論なんじゃないかい?」

 

「そうですね。でも同時にこうも思うんです。それは遺す側の意見であって私達、今を生きる人間にとってはそうではないのだとも。」

 

「…………」

 

カカシさんは目を閉じる。あまり納得はしていないようだ。

 

「墓標の前で手を合わせる。そして故人を想う。それは遺された者が死を受け入れる為の儀式です。私達は死に向かって生きてます。ですが、それは決して生が無機質だと言う訳ではありません。」

 

「…………」

 

「それは私やカカシさん、そしてナルト君達も同様に今を生きる人達が体現し、この戦争の結末こそがその証明だったと思います。」

 

要は自己満足でしか無いと言う事だ。だけど、人はそれが無いと前には進めない。

 

「…………ナルトとサスケは君に感謝していたよ。」

 

「……お二人が…」

 

「…イタチの名誉回復を五代目に相談したんだね。」

 

ああ、その話か。

 

「イタチの話も公にはできないけど、里の上層部では今回の戦争に於いて、穢土転生を止めた功績として、過去の罪を清算する事を決めた。……それと同じくして、サスケの罪も許される事になった。…こっちは無限月読の解術の功績もある。………その話をサスケにしたら、多分君が働きをかけたんだろうって言ってたよ。」

 

成程……

 

「ナルトも君達が最初に戦い、忍としての道を示してくれたからこそ、ここまで戦ってくる事ができた。そう言ってたよ。……オレとしても、君には救われて欲しいと思ってる。…もう一度木ノ葉に来ないか?……今度はちゃんと君を守れるように皆で働くから。」

 

「……そうですか。過分なお言葉ありがとうございます。…ですが、私は考えを変えるつもりはありません。」

 

それでなくても、私は暁だったんだ。今回の戦争の原因だし、その私を庇おうとすれば、せっかく次期火影のカカシさんの立場が悪くなる。

 

「私の力は綱手様やサクラさんのように人を癒す力ではありません。色々と大義名分を言いましたが、所詮は人殺しの力……薄汚れた暴力です。そんな薄汚れた暴力の先にでも、誰かが救われるなら、私が流れる最後の血の一滴になりましょう。」

 

「…………強情だね。」

 

「……ふふ、申し訳ありません。でも、ナルト君風に言うなら『真っ直ぐ自分の言葉は曲げない』って事ですかね。………私は戦いの人生を完遂する。」

 

それにこの世界にはナルト君とサスケ君がいる。

 

ナルト君はお兄ちゃんの想いが……

 

サスケ君にはイタチの想いが……

 

彼ら2人なら、きっとこれからも世界が良くなっていく。もう私がアレコレ裏から手を回す必要もない。

 

だから、これからの戦いの人生の舞台はこの世界じゃない。

 

「さようならです……カカシさん。」

 

「……はあ。やっぱりこうなるんじゃ無いかと思ったよ。」

 

カカシさんが手で合図を出す。

 

するとナルト君とサスケ君とサクラさんが出てきた。

 

「追い忍にしては、顔ぶれが豪華すぎると思いますが。」

 

「オレってば、藍のような難しい事はよくわかんねー。だけど、一人で抱え込むのは間違ってるって事はわかるってばよ!!……もう止まれないってんなら、オレが止めてやる!!」

 

「……ナルト君。大きくなりましたね。兄さんの言っていた事は覚えていますか?」

 

「…ああ、“誰かを守りたいと思った時、人は本当に強くなれる”…だろ?」

 

「ええ、貴方の忍道に変わりはありませんか?」

 

「へっ!オレは今でも『真っ直ぐ自分の言葉は曲げねー』それがオレの忍道だ!!」

 

「……サスケ君。貴方にとって兄弟とは何か?……答えは出ましたか?」

 

「オレにとって兄弟とは、人生の道標であり、目標であり、超えるべき壁であり、今を共に歩むものだ。…オレはまだ兄を超える事はできていない。そんな兄を支えてくれたアンタには感謝してる。…そして、今尚兄の生き様を体現しているアンタを止める事こそ、イタチへの感謝の気持ちだとオレは考えてる。」

 

「……サクラさんも、今の貴女の忍道を教えてください。」

 

「……私はこの馬鹿な二人を支える。それが私の役目よ。…アナタがサスケ君を助けてくれたからこそ、今こうして帰って来てくれた。だから、私も感謝してる。二人がアナタを止めるってんなら、私も二人を手伝う。それが忍道よ!」

 

「………そうですか。」

 

………うん。もう満足だよ。

 

今、私はお墓の前で座ってる。対して彼らは3人とも臨戦態勢だ。先手は取られるな。

 

ナルト君が黄金の輝きを纏う。サクラさんも百豪の呪印が額から広がっていく。

 

次の瞬間、ナルト君とサスケ君が私を挟んで急に出現する。

 

ナルト君の速度は雷遁瞬身以上。サスケ君は輪廻眼の力ね。

 

私を捉えようと腕を伸ばしてくる。

 

時間凍結

 

世界の流れを止める。

 

ここで戦う訳にはいかない。ここは私とみんなの大切な場所だ。

 

場所を変える為に海に出る。二人の忍術は規模が大きいからね。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんとなく、自分の軌跡を振り返りたくなった。そんな理由から、波の国の中に入った。墓参りに立ち寄る事はあったけど、街中にはずっと来ていなかった。

 

3年前の波の国はとにかく貧しくて、悲惨な国だった。

 

久々に来てみれば、随分と人が増えていた。橋ができた影響は大きく、交通の要所として賑わっていた。飢えで苦しんでいる人の姿はなく、皆顔には笑顔が咲いていた。

 

これもナルト君達の功績だ。橋の名前は

『なると大橋』

 

正に英雄、うずまきナルトに相応しい門出だった訳だ。

 

タズナさんも元気にされていた。あの一家も変わらず元気に暮らしていた。イナリ君の隣には女の子が歩いていた。多分、彼女さんだろう。彼らも幸せそうだった。

 

次に訪れたのは、水の国。私の生まれ故郷の村に来た。

 

もちろん中には入らない。この顔を覚えてる人はもういないだろうけど、髪色と瞳の色であらぬやっかみを受けるかもしれないし、そもそも暁の服を着ている私を見て騒ぐ人もいるかもしれない。

 

遠目から見た村の様子は特に変わり映えしていなかった。13年前と変わらず、皆農村暮らしをしている。相変わらず雪がよく降っているけど、人々はそれなりに幸せそうに暮らしていた。

 

元気に走り回ってる子供達も見えた。何だか昔の兄さんと私を見ているようで微笑ましかった。

 

私は服の袖から手紙を取り出す。シンジからの招待状。

 

『雪藍様』

 

手紙を開いた。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし。』

 

その瞬間、景色が光に包まれた。




名前 雪藍

誕生日 1月9日
年齢 18歳
身長 157cm
体重 44kg
血液型 O型
性格 温厚・素直・一途・自己犠牲的
好きな食べ物 みたらし団子
嫌いな食べ物 油っこいもの
戦ってみたい相手 四代目火影・うちはイズミ
好きな言葉 愛
趣味 氷の花の作成・アート制作

使用忍術
S 奥義・極意レベル
A 禁術・超高等忍術
B 上忍レベル
C 中忍レベル
D 下忍レベル
E アカデミーレベル

風遁
烈風掌 D
風切りの術 C
チャクラ刀 B
獣破烈風掌 A

水遁
千殺水翔 B
水牙弾 B
破奔流 B
霧隠れの術 D
水分身 C

颶風水渦の術 S
口寄せの術 C (ユキウサギ)

ステータス
忍術1、体術5、幻術2、賢5、膂力1、速力4.5、スタミナ5、印4.5 28

ステータス(剣気)
忍術5、体術5、幻術4、賢5、膂力1、速力5、スタミナ5、印5 35.5


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