勇者の行動記録 (サトウトシオ)
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<第1話>

<概略>
Lv.70まで鍛え、勇者ロトになるはずだった男が独り、ダイの大冒険の世界に迷い込みました。
その後の彼の物語をたんたんと書いていきます。


苦戦の末に大魔王ゾーマを倒した。ゾーマへの最後の一撃は魔法使いのメラゾーマだった。ゾーマを倒したあと、玉座の間が崩れ始めたところまでは記憶しているが、そのあとどれだけの時間が経過しているのか、そして今、自分がどこにいるのかわからない。仲間たちはどこへ?ゾーマと戦っていたときに身に着けていたものもなくなっている、今身に着けているのはごくごく普通の服、それに袋の中に道具として魔法の聖水と薬草、キメラの翼、携帯用保存食が入っているだけ。

 

見覚えのない景色。ここはいったい・・・どうやら街道のようだが・・・

 

しかし悩んでいても何も結論が出ない、それならば行動に移さねば。ましてや暗かった世界も明るくなっている、ゾーマを倒したことは間違いないはずだ。そう考えラダトームへ移動するためルーラを唱えた、ラダトーム王への報告、そして仲間を探すためだ。だがルーラが発動しない。ではリムルダールはどうだ?アリアハンへは?しかしルーラはやはり発動しなかった。感覚的に魔法力を消費していることはわかる、だから呪文がなくなったとかそういうことではないのかもしれない。この調子だとキメラの翼の効果もないかもしれないから試すのはよそう。念のためメラを唱え、実際に魔法が使えることを確認し歩き始めた。

 

街道を道なりに歩く。道中、ライオンヘッドやガルーダといったモンスターと遭遇した。ガルナの塔やバラモス城で戦ったモンスターだが、なぜこんなところにいるんだろうか?ますます自分がどこにいるのかわからなくなった。ただそうはいってもモンスターは問答無用に襲ってくるため戦わねばならない、こんなところでやられてしまうなんてまっぴらである。手持ちに武器が一切ないものの魔法と体術を中心に軽くあしらい、順調に歩を進める。

 

さらに3時間ほど歩いた、空はとても赤い夕焼け、今までのアレフガルドではありえない光景だったはずだ。ちょうど峠を越えたあたりで遠くに城が見えてきた、街道のマイルストーンを除けば目が覚めてから初めての人工物である。遠くではあるものの少し安堵する。今のペースで歩き続けると到着までおよそ1日といった距離か。ただ見覚えのない城だ、少なくともこれまでの旅で知り得た情報で、こんな城や街、国家のことなんて聞いたことはない。

そう疑問に思いながらも野宿に適した場所を探すためさらに10分ほど歩みを続けると、遠目にその城から煙が複数立ち昇るのが見えた。火事?いやしかし火事で煙が複数というのはおかしいのではないか?モンスターの襲撃か?だが駆けつけるにしても城へは歩いて1日かかる、夜を徹して歩いても到着はおそらく明朝。しばらく判断に迷ったが、夜を徹して歩くことに決めた。

すでに日は暮れ始めている、夜間の移動は危険だがこの際しかたあるまい。袋の中に入っていた燻製肉を食し、ただひたすら街道を歩く。途中、体力回復のため2時間ほど仮眠し、さらに歩き続ける。夜明け前、薄明かりの中、城から逃げてきたと思われる5名ほどの町民と遭遇する。ケガやヤケドがひどいためホイミで治療した。体力が多い戦闘者ではないためホイミでじゅうぶんに回復できる。彼らの弁によるとやはりモンスターが攻めてきたというので間違いないようだ。またここから城まではおよそ2時間程度とのこと。歩き続けで疲れているが、歩を早めた。

 



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<第2話>

<第2話>

城門まで到着した、城下町である。家々は依然として燃え上がっており、すでに焼け落ちているものも多い。歩みを進めるとモンスターの攻撃で事切れたであろう住民の遺体、火事による焼死体、モンスターに応戦したであろう兵士の亡骸を多数見かけた。この街はもう全滅のようだ、30分ほど街の中を捜索したが生存者は見当たらない。せめて人々が街から逃げ出しているか、あるいは王城での立てこもりが無事にできていればいいのだが…と願う。

 

護身用として兵士の亡骸から「鉄の槍」と「鉄の盾」を拝借し身に付ける。目を覚ましてから今まではずっと素手による格闘と魔法での戦いであったため、このような一般的な装備でも非常に心強いものだと感じる。幸い、基本的な槍術は習得しているため特に手間取ることもない。

 

壊滅状態のこの街だがいまだに多くのモンスターが徘徊している、「がいこつけんし」や「くさったしたい」といった生きているものではないモンスターたちだ。どういう軍勢なのかは把握できないが、こういった不死モンスターたちはとにかく数が多い、倒しても倒しても次から次へと湧いてくるように出てくる。ニフラムでまとめて昇天させてもいいが、これだけの数だと魔法力も心配だ。幸い今の自分にとって大した敵ではないため、軽く槍でなぎ払いながら王城へ向かう。

 

壊滅状態の街を抜け王城へ至る。城というよりも神殿、といった言葉のほうが適切かもしれない場所ではある。ここでは残存兵や魔法使いら、それと…数名の賢者が不死モンスターたちと戦闘していた。見たところ戦闘は膠着状態…でもなさそうだ。単一局面では残存兵らのほうが優勢だがいかんせん数が違う。このまま時間が経過すればジリ貧、押し切られてしまうのは間違いないだろう。戦闘に介入することとする。

 

この城に攻めてきているモンスターたちはさほど強いものでもないため、槍で一気に片付けた。幸い、この程度のモンスターであれば鉄の槍でも武器が破損したりといった問題は起きない。そんな中、このモンスターたちのボスであろうひとりの人間の剣士が現れた。

 

纏う空気というか雰囲気が明らかに普通の人間とは異なるうえ、この不死モンスターたちを操っていたことを自供した。なにゆえこのようなことをするのか理解はできないが、既にハッキリと敵だとわかった以上、制圧するか、それができないのであれば仕留めるのみである。ただ相手は同じ人間である以上、不要な殺人は起こしたくない。やはり制圧を主軸に考えるべきであろう。鉄の槍を構え、一足飛びで相手の懐へ飛び込む。石突きで相手の鳩尾を狙い、一撃で「落とす」考えだ。自分の飛び込みよりも遅い相手の反応速度、この剣士は明らかに自分よりも格下だ。剣士はかろうじて身をひねり、石突きでの一撃を回避する剣士。しかし剣士の顔はおおよそ信じられないものを見るような状態であった。

 

そのまま追撃をしてもよいが、既に剣士は自分との格の違いを理解しているようだ。そこでこれ以上の攻撃はムダだろうと判断し、剣士との間合いを広げる。そして警告、「これ以上の戦闘は無意味だ、おとなしく捕縛されろ」と。だが剣士は納得する様子もなく自分語りを始めた、自分は最強の剣士、この程度では負けないと。自分語りで落ち着いたのか表情も戦闘前と同じように戻っている、まだ戦闘を続けるつもりなんだろう。なにかしらの切り札を隠し持っているのだろうか?見たところ、雰囲気と実力はともかくごくごく普通の剣士にしか見えないが…



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<第3話>

<第3話>

剣士の自分語りは続く、要約すると「大魔王様から頂いた鎧を身にまとえば攻撃も呪文も一切シャットアウト」とのことだ。疑問点がいくつか。大魔王様というのはおそらく大魔王ゾーマのことと思われるが、そのゾーマは既に自分自身で倒している。ゾーマから生前に受け取ったものなのだろうか?あるいは自分が知らない、別の大魔王が存在しているのだろうか?

もう一つは鎧についてだ。見たところ、腰に下げている異様な形をした剣と思われるものを除けば、鎧を隠し持っているような雰囲気はない。部下のモンスターたちに持ってこさせるのだろうか?また剣士の口上を信じるなら攻撃も魔法も一切シャットアウトということだ。自分自身が以前に身に着けていた、そして知る限り最高レベルの効果を持つ「勇者の盾」や「光の鎧」ですら、敵の呪文や吹雪などをやわらげる程度の効果しかなかった。それ以上の効果を持つものなど存在するのだろうか?

 

剣士の自分語りが終わり、不気味な剣をかかげ何やら呪文を唱えた。剣が光を放ち鎧となる、おそるべき仕組みだ、変形する剣など聞いたことがない。ただ現実に剣が変形し、鎧となったのは事実で受け入れなければならない。兜の額部分にはムチのようなものが据え付けられている、これが剣へと変形するのだろうか?

 

見る限り、たしかに物理攻撃に対しての防御力が高そうな鎧ではあるが、攻撃を一切シャットアウト…というのはいささか言い過ぎではないかとも思う。同等のレベルというと「大地の鎧」「鉄仮面」あたりか。もっとも、この国の兵士相手であればじゅうぶんすぎる防御性能ではあるのかもしれない。

 

そんな思案をしていたところ、先ほど助けた賢者らしきものが剣士に向けてメラミを唱えた。この賢者はメラゾーマも使えないのかと多少落胆するが、不死モンスターに負けている時点で、この国自体のそもそもの軍事力はそれほど高くないのかもしれないなと推察した。ともかく剣士に向けて放たれたメラミは直撃…するも剣士を燃やすこともなく時間とともに消滅してしまった。なるほど、「呪文を一切シャットアウト」とはこういうことか。完全に呪文を無効化してしまう、と。

 

自分でも試してみようと勇者の呪文「ライデイン」を唱え、剣士に直撃させたところ…どうやら効いてしまったようだ。呪文をシャットアウトする鎧といえど、金属であるため電撃を防ぐことはできないといったところか。

ライデインのダメージがかなり大きなものだったのか、剣士にはかなり応えているようだ。戦闘は継続できるであろうが、本領発揮は難しいであろうダメージと思われる。このまま「ライデイン」「ギガデイン」を連発すれば簡単に倒せてしまいそうだが、目的は制圧であるのでそれでは意味がない、この程度にしておかなければ。

そう考えていたところ、剣士はどこからか「キメラのつばさ」を取り出し、それを放り投げ退却した。戦況不利、このままでは負けると判断したのだろう。敵ながら賢明な判断だと評価する。

 

戦闘も一段落したため敗残兵たちのリーダーと思われる賢者へ聞いてみたところ、ここは「パプニカ王国」だそうだ。聞いたこともない国名である。

モンスターたちの襲撃で王都は壊滅、国王も戦死、唯一の王女は王都から待避しているとのこと。賢者たち敗残兵も最後の抵抗を続けていたが、まだ不死モンスターたちが徘徊しているため、このまま王女のもとへ撤退するそうだ。



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<第4話>

「パプニカ王国」という聞いたこともない国名。ここは自分がいたのとは別の世界ではないかと考え始めている。アレフガルドという未知の世界を経験した自分にしかできえない発想ではあると思うが、アレフガルドと同様、ここが別の世界であると考えれば容易にこれまでの不可解な点も説明がつく。見たこともない景色、自分が倒したであろう大魔王ゾーマとは別と思われる大魔王、未知の武具。異世界であることを考慮すればどれも納得がいく。幸い、未知のモンスターなどは見ていないし、ゾーマと戦ったときの自分の能力を発揮できている。「王者の剣」といった装備品は失ってしまったが、今のところ戦った相手は格下ばかりであったので、現地調達した鉄の槍と鉄の盾で間に合っている。もっとも、これからは少し厳しい戦いになるのかもしれないが。

 

ともかく当座の目標が定まった。この未知なる世界の冒険、倒さなければならない魔王がいるのであればそれを倒すこと、そして元の世界に帰還することだ。

自分が元いた世界とアレフガルドはルーラで相互に往復ができたが、この世界とではルーラでの相互の移動は不可能なようだ。必然的にこの世界を知るためには冒険が必要となる、自分が元いた世界でも国によって大きく生活が違っていた。この世界でも国や地域によって文化や風習も違うかもしれない。まずは冒険し、この世界を知ることが必要か。

 

 

敗残メンバーたちは撤退の準備をすすめている。詳しく聞くと「バルジ島」というところに行くそうだ。一行の中の魔法使いにルーラの使い手がいるようで、それによる移動とのことだ。地図を見せてもらったが、この敗残メンバーが陸路・海路で島を目指すというのはかなりの不安があるため、ルーラでの移動と聞いてひとまず安心だ。

一行のリーダーである賢者に簡単な経緯と事情を説明し、この世界の地図と装備品をわけてもらった。わけてもらったといっても軍の倉庫から引っ張り出してきたもののため、じゅうぶんに正規品である。最低限ではあるが一通りの装備が整ったため、ここから冒険を始められそうだ。

 

敗残メンバーたちがルーラで飛び立ったあとも少し探索を続けていたところ、おそらくはパプニカ国王であろうと思われる亡骸を見つけた。脇には高価そうな宝石がはめ込まれたナイフが転がっていた。国王が持っているようなナイフである、このパプニカ王国の国宝なのだろうか?このままでは永遠に失われてしまうであろうことを考え、ナイフを回収。パプニカ王国は復興した際には返却するように記憶しておこう。

 

今後の目的地をどこにしようか考える。先の賢者の話によると、ここから新たに旅をするのであれば、ベンガーナやカール王国を目指してはどうかとのことだった。ベンガーナは人が集まり、軍事、経済ともに活発な国だそうだ。またカールは、この世界の勇者として名高い「アバン」を輩出しており、世界でも指折りの騎士団を抱えているとのこと。

 

目的地として、最初はやはり賑わう場所がよいだろう。ベンガーナへ向かい、その後、見識を深めるためカール王国へというのが妥当な順番か。海路でベンガーナへ渡り、その後は陸路でカールまで向かうかたちだ。

別の大陸へ行くには必然的に海を渡る必要があるが、パプニカの港はすでに破壊されているためこの大陸内でどこか別の港を探さなければならない。まずはこの大陸内の探索、それと船の手配が最優先だろうか。大陸内を歩きまわって港を探すこととする。

 



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<この時点での勇者のステータス>

<この時点での勇者のステータス>

DQ3のように表記するとこんな感じでしょうか。

 

ゆうしゃ

せいべつ:おとこ

レベル:70

 

ちから:230

すばやさ:240

たいりょく:240

かしこさ:180

うんのよさ:190

さいだいHP:520

さいだいMP:390

こうげきりょく:266

しゅびりょく:181

 

装備品

E はがねのつるぎ

E てつのたて

E てつのよろい

E てつかぶと

 

所持アイテム

パプニカのナイフ(※海のナイフ)

やくそう

まほうのせいすい

キメラのつばさ

せかいちず

 

呪文

DQ3の勇者が使える呪文全部

おもいだす、メラ、ホイミ、ニフラム、ルーラ、もっとおもいだす、ギラ、アストロン、リレミト、わすれる、ラリホー、マホトーン、トヘロス、ふかくおもいだす、ベギラマ、ライデイン、ベホイミ、イオラ、ベホマ、ザオラル、ベホマズン、ギガデイン

 

ラダトーム王へ大魔王ゾーマ討伐の報告をする前にダイの大冒険世界へ転移してしまったため、ロトの称号は得ていません。なのでステータスで書くと、ごくごく普通に勇者。

またあまり種ドーピングをしていない勇者だったようで、まだステータス向上の余地はありそうです。もっとも既にこのレベルまで上がってしまった勇者なため、今いるパプニカ近辺のモンスター相手にレベルを上げるのは非現実的な選択かなとも思います。魔王軍の軍団長クラス相手でも簡単に倒せそうなので、バランやミストバーンといった相手と戦わないとレベルはあがらないのかも?

装備品についてはパプニカで受け取ったパプニカ軍制式採用の量産品を装備しているため、攻撃力・守備力ともに低めです。やはりはがねのつるぎじゃ伝説の武具には敵いません。この勇者の、この世界での最終的な装備は考えていますが、装備品なくてもギガデイン連発とかで案外なんとかなるのではないかなとも思っています。

ただステータスだけでみるとゾーマを倒すような勇者ですから、ダイの大冒険世界の序盤ではぶっちぎりです。武器や防具などなくてもライデインやギガデイン連発していれば無双できそうな感じです。中盤以降どうなるかはまだ未定ですが。

 

 

個人的にはこのはがねのつるぎ/てつシリーズ防具のころが一番好きです、DQ3では。ロマリアあたりでキャタピラーやさまようよろいにボコボコにされながらもお金をため、冒険がさらに広がっていくぞ!って感じでワクワクしませんかね?そんなわけでロマリア~ダーマ神殿あたりが一番の好みです、DQ3。



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<第5話>

<第5話>

パプニカから旅立つ前に気になることを確かめることにした、この世界のルーラの効力だ。自分が知っているように一度訪れた街を自由に移動できるか?という点が気になっている。昨日試したときは確かに魔法力を消費したが、ルーラの効果は発動しなかった。他の呪文と違って現時点では効果を確かめる術がない。なぜならまだこの世界の他の街に行ったことがないからだ。そこでパプニカの城門から30分ほど歩いき、パプニカを意識してルーラを唱えてみたところ無事ルーラが発動した。時間と魔法力を多少ロスしたが、必要な経費みたいなものと割り切り、再びパプニカから歩き始めた。

 

目指す目標地点はベンガーナと定めている、つまり海を船で渡る必要がある。パプニカから海へ向かい、ホルキア大陸を海沿いに歩き続ける。海沿いは街道になっており、漁村がいくつかあると聞いていたからだ。

道中、何度もモンスターと遭遇するがいずれも大したことはない。ある程度歩き回ってわかったが、このホルキア大陸にはそれほど強力なモンスターは生息していないようだ。

そうやって海沿いを歩いて2日。途中3つほど漁村を見つけ、ベンガーナのあるギルドメイン大陸への航海を交渉するがすべて失敗に終わる。3つ目の漁村では道中でモンスターを倒して得たゴールド(5,000G)を交渉材料として使ったがやはり失敗。いろいろと村の人の話を聞くと、最近は海のモンスターも増え、荒くれ者で知られる漁師たちも自分の村から大きく離れたがらないそうだ。さらに1日歩いて見つけた4つ目の漁村で10,000Gを手渡して交渉成立。手持ちの資金も宿代を除くとほとんどなくなってしまったが、ともかくこれでギルドメイン大陸への移動ができそうだ、旅を続けられる。この日は宿に泊まり、翌朝の出港に備える。

 

翌朝、といっても夜も明けきらぬ時刻だが出港。漁師によればこのあたりの海のモンスターは夕方から活動が活発化するそうだ。この時間からギルドメイン大陸を目指せば夕暮れまでには到着できそうとのことである。

これまでポルトガ王室の船やアレフガルドの小島の男からもらった船を利用したが、どちらも立派な船であった。ポルトガ王室の船は王家の船なので当然にしても、アレフガルドで利用した船も個人が作った船としては相当に立派なものだった。しかし今回は小さな漁船である。交通手段が他にない以上、ぜいたくは言えないがやはり比較してしまうというのは人間として致し方ないと思う。

 

途中やはり何度か「マーマン」「しびれくらげ」などのモンスターに襲撃されたが航海は続く。これらのモンスターはもはや敵ではない。船に接近する前にキガデインの一撃ですべて沈める。船に雷が落ちないよう気をつける必要はあるが、ただそれだけのことである。

 

大きな事故もなく順調に航海を続け、無事にベンガーナのあるギルドメイン大陸に到着。漁師へお礼をいい別れる。彼が無事に母港へ帰ることができるかという心配の種はあるが、ともかくここからはベンガーナを目指しての陸路である。

到着した漁村で携帯可能な保存食を買い溜め、徒歩で旅を続ける。村人によるとベンガーナの中心部までは旅慣れた人の場合で3日程度とのこと。

 



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<第6話>

<第6話>

漁村を出発し2日目の昼、とある洞窟を発見した。入り口付近は洞窟だが、足を踏み入れてみたところ、そこはなにかの研究所のようだった。人よりも相当に大きなものが入ることのできるサイズのカプセル、充填された培養液らしきもの、そこから考えられるのはおそらく何かしらの生物兵器の研究、あるいは人体実験の証。幸か不幸か今現在この洞窟内は無人である。破壊しておくべきか悩んだが、そもそもこれが魔王の手によるものかもわからなかったため実施しなかった。

 

順調に旅を続け、漁村を出て3日目の昼前にベンガーナへ到着した。ベンガーナは人の出入りも激しく、軍事・経済ともに活発な場所。デパートと呼ばれる大規模な商店も存在する。漁村を出てからかなりの資金が貯まったため、この街で装備を整えることにした。

パプニカ軍の制式採用装備は確かに悪いものではないが、ベンガーナで売られているものに比べると見劣りする。もっともアレフガルドで手に入れた装備と比較すると、このベンガーナで売られているものすら見劣りするがやはりぜいたくは言えない。

 

デパート内の武器屋・防具屋で「炎のブーメラン」「ゾンビキラー」「魔法の鎧」を購入し、これまで装備していた鋼の剣と鉄の防具一式を売り払う。購入したものはどれも一品モノとして入荷されており、この世界の店売りアイテムとしてはかなり上等なもののようだ、かなりの戦力増である。気になるのはこれらのアイテムが一品モノであるということ。自分のもといた世界ではある程度高価ではあるがごく普通に量産され店売りされていたもの(ブーメランを除く)だが、この世界では限定品のような一品モノとのこと。なかなか手に入らないアイテムだけに、ここベンガーナで手に入れられたのは運が良かったのかもしれない。

 

ベンガーナの街中で聞き込みをした結果、次の目的地であるカール王国へは定期便の馬車が1日1往復あることが判明した。馬車でおよそ1日でカール王国に到着するという。歩いて行くと3日とのことなのでここは定期便の馬車を利用することとした。利用料金は片道500Gとのこと。先ほど購入した装備に比べると実に安価である。

自分のいた世界やアレフガルドでも馬車を利用できれば旅の期間をかなり短縮できたのではないかとも思う。自分のいた世界では馬車という文化はほとんど発達しておらず、王族や一部の貴族が移動する際に利用する、あるいは旅商人が街と街を移動する際にその商材を運ぶため、といった程度の利用のみであった。一般の旅人・冒険者は徒歩で移動しており、馬車というものは普及していなかったのである。

 

翌日、定期便の馬車がカール王国に到着した。ちょうどドラゴンやヒドラといった竜族モンスターに街が襲撃され、ほとんど全滅状態であった。屈強な騎士団を持つと噂のカール軍だが、さすがにドラゴンの群れには敵わなかった…ということか。御者はその様子を見て、自分を降ろすとものすごい勢いでベンガーナ方向へ逃げ帰っていった。生存者がいないか捜索していたところ、斬り合う二人の騎士と、その付近でほぼやられかけた状態の騎士を発見した。戦闘中の二人は…身につけているものは、あたりに倒れている兵士と同じものであるから、片方は間違いなくカール騎士団の騎士だろう。剣の実力は、自分ほどではないがかなり高そうだ。純粋な戦士タイプの騎士と思われる。もう一人の騎士は…竜の装飾が柄に施され…自分が使っていた王者の剣と同じ輝きを放つ…おそらく材質はオリハルコン、間違いないだろう。アレフガルドでも王者の剣一本分しか見つからなかったオリハルコン、この世界にやってきてこうもすぐに巡りあうとは思ってもいなかった。そしてこのオリハルコンの剣を振るう騎士、何者だ?



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<第7話>

<第7話>

二人の騎士の戦いは互角…というほどでもなかった。たしかに傍目からは互角に見えるだろうが、オリハルコンの剣を持った騎士はほとんど本気を出していない。対するカール騎士は常時全力で戦っている様子だ。この調子で戦えば仮に武器が互角だとしても、いずれ決着は着くだろう。ましてや鋼の剣とオリハルコンの剣での斬り合いだ、鋼の剣が損壊するのも時間の問題だろう、勝負は見えている。

 

無駄な戦闘を続けさせるのも意味はないだろうと判断し、威嚇・警告のためメラの炎を両者が斬り合う方向へ向けて飛ばしたところ、こちらへ注意が向いた。その瞬間、カール騎士はオリハルコンの剣の騎士へ全力で斬りかかる…が、その剣が届く前に、オリハルコンの剣の騎士の額のあたりから出た光線のようなものにより一撃でやられてしまった。なにか未知の魔法や兵器なのか?まったく検討はつかないが、その威力はともかく、速度は「ピオリム」や「星降る腕輪」を使わなくてもじゅうぶん避けられるレベルだと感じる。もっともこの世界にそういった呪文やアイテムが存在するかわからないし、さらにいえば自分はピオリムを使えないし今の自分は星降る腕輪も持っていないため比喩として適切かどうかはわからないし、そもそもその表現自体に大した意味を持たないのかもしれない。

オリハルコンの剣の騎士がこちらを見て唐突に語り出す、自分は魔王軍・超竜軍団の軍団長、竜騎将バランであると。なるほど、軍団長という肩書が付くほどであれば、それなりの実力の持ち主なんだろう。ここまで見た限り、竜騎将バランは間違いなく相当な実力者だ。その辺のモンスターや以前に戦った剣士とはレベルが違うだろう、もし戦うなら本腰を入れなければとも思う。しかも武器の差が大きい、相手はオリハルコンの剣、こちらはゾンビキラーだ。ゾンビキラーも悪い剣ではないがいかんせんオリハルコン相手には分が悪い、剣で剣を受け止める、鍔迫り合いは避けたほうが懸命だろう。ゾンビキラーが簡単に折れてしまうだろうしな。必然的に戦い方は相手の攻撃をすべて避けるか、あるいは相手に剣を振らせない、この二択になる。

この竜騎将バランの隠している余力がどの程度かわからないが、さきほどのカール騎士との戦いを見る限り身体能力・戦闘能力そのものについては自分と同等以下、相手の剣撃を避け続けることはそれほど困難ではないと思っている。ただ以前戦った剣士のようにそこまで圧倒的な実力差があるというわけでもないだろう。もっとも全力を出す必要もないレベルとも思っている。

 

現時点で自分が竜騎将バランへ明確な敵対の意思を見せていないことから、あえてオリハルコンの剣について聞いてみた。その結果得られた回答はこうだ、「神から頂戴したオリハルコンの剣」と。その言を信用すると、オリハルコンを材料とした剣というのは間違いないだろう。見ればわかることだから、わざわざ隠す必要もないということか。

ともかくこれでオリハルコンの剣と直接斬り合うのは避けたほうがよいと明確に判断できたわけだ、じゅうぶんな収穫である。

ともかくここまでわかれば敵は魔王の手先、軍団長であろうとも倒すだけである。オリハルコンの剣は戦利品として頂戴しようと思う。どんな効果を持つのかわからないが斬撃武器としての能力だけであれば王者の剣に匹敵するはずだ、あらたに王者の剣と同等の剣を手に入れるまでの武器と考えれば必要十分すぎるものには違いなさそうだからである。

 

炎のブーメランを牽制として投擲、間髪入れずにゾンビキラーを構え突撃・一閃。オリハルコンの剣で防がれないように足元を狙う。竜騎将バランはブーメランを剣で弾くもののこちらの一閃を…空へ飛び上がり回避…空を飛ぶ…だと?

 



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<第8話>

<第8話>

自身の知る限りではあるが、翼の生えたモンスターや鳥、それから不死鳥ラーミア以外で空を飛ぶものなど聞いたこともない。パプニカ王国で聞いた限りだが、空を飛ぶ船「気球」なんてものも存在するそうだが、それしたって人間が単独で空を飛べるものはない、気球により空を移動する、といったほうが適切なんだろう。身体能力を活かした大ジャンプならともかく、敵は完全に空中で静止している。これはもう空を飛んでいるとしか考えられない。炎のブーメランを拾い再度投擲するも、今度も簡単に剣で弾き落とされてしまう。強力な呪文でもないし、やはりブーメラン自体はそこまで頼りにならないといったところか。

ともかく空を飛ぶ、いったいどういうことなんだと完全に理解不能だが、逆に竜騎将バランもこちらの突撃の速さに相当驚いているようだ。が、それだと戦闘が進まない。竜騎将バランはライデインを唱えこちらを攻撃するが、そのバランの手の動きから雷撃の軌道・攻撃地点を予測し軽く回避。回避と並行してこちらもギガデインで反撃、竜騎将バランへ直撃させる…も、なんと相手はオリハルコンの剣で雷撃を受け止め、剣に帯電させているではないか。ひょっとして呪文を受け止め、載せることがあのオリハルコンの剣の特殊な効果なんだろうか?

 

こちらも混乱しているが、竜騎将バランもそれ以上に混乱しているようだ。敵とはいえ互いに情報交換をしないと理解が追いつかない。そう考え竜騎将バランに一時休戦を申し出る。

バランと話をしてわかったのは以下の通り。この世界にはルーラのほかに「トベルーラ」という空を飛ぶ呪文があり、ルーラを使えるものはほとんど全員がこの呪文を使えるということ。ライデイン・ギガデインといった電撃・雷撃呪文はバランを含む竜の騎士と呼ばれるものしか使えないこと。自分の突撃・一閃はバランの反応速度を凌駕しており、そのためトベルーラで回避したとのこと。

 

にわかには信じがたいが、空を飛ぶということについてはトベルーラという呪文であることが確定したため、とりあえず解決か。竜騎将バラン以外にもトベルーラの使い手は数多いるようなので、これは習得しなければならない呪文だろう。空を飛ぶモンスターと同様、上空からの襲撃というのは非常に対処が難しい。ましてや高レベルの呪文を上空から連発されると文字通り手も足も出なくなってしまう。それを考えるとやはり習得は必須だ。それから当初の目的でもあるこの未知なる世界冒険・探索、これにも大きく役立つだろう。今までの行程はすべて徒歩、あるいは船であったため、ルーラとトベルーラを組み合わせれば大幅に時間短縮ができそうだ。

 

ライデイン・ギガデインは勇者の呪文、自分はそう認識しており、(特にギガデインは)使い手はそう多くないが、自分の元いた世界では自分以外にも勇者と呼ばれるものたちが習得しているだけに、この世界とは若干呪文の意味合いが異なりそうだ。たしかに勇者と呼ばれるものは魔法使いや僧侶に比べて絶対的に人数が少ないが、それでも使い手はいる呪文なのである。

ともかくこの世界ではライデイン・ギガデインは特定のものしか使えない、ということだ。そういう状況下で普通の人間である自分が、しかもより上位の呪文であるギガデインを使ったのだから、竜騎将バランも真っ青、といったわけである。

 



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<第9話>

<第9話>

すでに竜騎将バランと3時間ほど戦いを続けている、戦いといっても敵の攻撃は避け続けているわけだが。しかしブーメラン投擲から始まったこの戦闘の決着には時間がかかりそうだ。接近戦では武器の差こそあれど身体能力は自分のほうが上、ただし斬りつけようとするとトベルーラで上空へ逃げられてしまうためこちらからの剣撃は効果がない、もちろん全部逃げられてしまうわけではない。ただ自分ができる遠距離攻撃で効果がありそうなのは炎のブーメラン投擲か、「イオラ」、ライデイン、あるいはギガデインくらいで、この戦いではどれも決定打にかける。遠距離でのイオラは試していないが、そうそう当たるものでもないだろう。かといって竜騎将バランの攻撃もすべて避けられるレベルだ、剣撃にしろ体術にしろ、ライデイン・ギガデインにしろ、カール騎士を葬ったあの謎の光線にしても、だ。したがってこのままでは決着は…時間がかかる、ということだ。

余力で考えると体力も魔法力も高い自分のほうが有利だ、相手の攻撃はすべて回避しているのでダメージは一切受けていない。このレベルの戦闘を続けていれば疲労は溜まるが、あくまでもダメージはない、疲労だけならベホイミすらを使わずとも事足りるレベルだ。遠距離戦では完全な五分五分、しかし近距離戦ではそうではない。たしかに振りかぶるような斬撃はトベルーラで回避されてしまうものの、剣術とあわせた体術、あるいはほとんど接射状態のイオラであれば攻撃を当てられないわけではない。敵の攻撃をすべて回避しながらのため力の入った攻撃は当てられないが、少しづつではあるものの着実に相手にダメージを与えることはできる。当然ながら敵も回復呪文を使うが、この戦いを続けていけばそのうち魔法力を枯渇させることができるだろう。

このまま戦いを続けていけば、なにか大きな外的要因や奥の手・切り札がない限り自分の勝ちは見えている。竜騎将バランもそれを感じ取ったのかバックステップで間合いを広くとり、こちらを睨みつける。それは敗者の視線ではない。眼で物を言うという言葉があるが、それを地で行かんばかりの視線だ、まだ何か奥の手を隠している、ということだろう。間合いをとったバランの口からは、自身よりも強い相手と戦いは初めてだとのこと、そして奥の手はあるが今は見せるべきものではないといったことが語られた。そしてマントを翻し、ルーラでこの場を脱した。どこへ飛んだのかもわからないし、トベルーラも使えない自分にはバランを追うすべはない。

10分ほど待ったがバランが戻ってくる気配もないのでこの戦闘は終了した、と判断している。

 

カール王国はほとんど全滅状態だが、「バランと自分との戦闘」という単一局面では自分の勝ちと考えてよいだろうか、しかしパプニカで戦った剣士もそうだが、この世界の賢明な戦士はみな引き際に優れているのだろうか?そんなことを思う。

すでに事切れているカール騎士の近くへ行き「ザオラル」を唱えてみたが効果がなかっ。残念だがしかたない。ザオラルを唱え続けるほど時間的に、そして魔法力的に余裕があるわけでもない。残念だがカール騎士の蘇生は諦めることにした。

事切れたカール騎士の傍らに別のカール騎士がやってきた。自分とバランとの戦いの前からほとんどやられていた騎士である。バランにやられたのはカール騎士団長のホルキンス、そして自分はその弟だということを聞く。屈強なカール騎士団の騎士団長といえど、魔王軍の軍団長には敵わない、ということか。あるいは竜騎将バランが魔王軍のなかでもトップクラスの精鋭であるという可能性も否定はできないか。

 



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<第10話>

<第10話>

竜騎将バランは去ったもののまだカール城下にはバラン配下のドラゴンたちがうろついているため、生存者を探して周囲を駆けまわる。ドラゴンはたしかに強力なモンスターだ、以前に戦った際にはその炎や吹雪といったブレスに苦戦した相手だが、今の自分の相手ではない。ブレスを防ぐ防具などなくても、すべて避けてしまえばいいのだ。あるいは正面からブレスの中を突っ切ってもいい、やはり今の自分には大したダメージではないからだ。そうして2日ほどかけて城下のドラゴンたちをすべて全滅させた。今の自分の実力で全滅させるのに2日かかる…いったい竜騎将バランはどれだけのドラゴンを放っていたんだ…とも思う、この物量であれば確実にカール王国を壊滅させることができるだろう。生存者はやはり相当数いたため、彼らには回復呪文をかけ、そして城外へ避難させた。

冒険で宝物庫を探るのは基本だ、なにか優良なアイテムが入っている可能性も高い。そう考えカール王城の宝物庫を探った。これが平時であれば若干心が痛むが、今は戦時、ましてやカール王国はすでに壊滅済み。強力なアイテムはぜひともいただきたいところなのでその心の痛みは無視することにした。

宝物庫…というかある意味ここは備蓄庫なのかもしれないが、そこで見つけたもののうち使えそうなアイテムは星降る腕輪と「魔法の盾」、いくつかのキメラの翼、それとおそらくはこの世界の高名な人物によるものと思われる手書きの書物だ。キメラの翼は非常時に逃げ出すためだろうか?王国が壊滅しても使われていなかったことを考えると、星降る腕輪や魔法の盾ともども、この宝物庫の存在意義もそこまで高くないのでは?と変に疑ってしまう。星降る腕輪と魔法の盾についてはこのまま頂戴するとして、問題はこの書物をどうするかというところだ。

ザックリと流してみたものの、自分のいた世界と文字が違うため読むことができない。3部構成となっていることは挿絵からもわかるが、内容までははっきりと…といったところだ。ところどころ入っている挿絵により第1部は武術全般、第2部は呪法や技術について書かれていると思われるが、第3部については完全に理解不能である。かろうじてわからないでもない第1部・第2部にしても、挿絵だけで内容を理解できるほど簡単なものではないだろう。つまり現時点でこの書物は自分にとって不要なもの、と判断する。いずれ役に立つときが来るまで、あるいは他に必要な人が出てきたときのためにここに残しておくことにした。

 

ドラゴンたちをすべて退治した今現在、このカール王国でできることは限られている。城下にはこの他に人がいないためここを拠点に何かするというのも難しい。今やるべきことは何だろうか…必要なのはこの世界の情報と文字、新たな武具、トベルーラなどこの世界独自の呪文習得、そしてこの世界をともに旅できる仲間、といったところか。どれを優先するにしろ人のいる場所、知識人のいる場所でなければなにも成果は上がらないだろう。そう考え、カール王国を後にし、あらためてルーラを唱えてベンガーナへと飛んだ。この世界にきて、初めてまともにルーラを活用しているなと気づく。ここまでの旅は未知の地の冒険、すべて陸路あるいは海路であったため、ルーラの活用余地などなかったのだ。

ベンガーナに到着、適当な宿をとり街で情報収集をすすめる。街といっても道行く人に話しかけるのは明らかな不審者だ、やはりこういうときは酒場で食事でもしながら、に限る。そんなかたちで3日ほど街に滞在し情報を収集していたところ、デパートでのオークション開催情報を入手。オークション対象はドラゴンキラー、一品のみ販売されるそうで、価格は15,000ゴールド前後ではないか、ということだそうだ。自分のいた世界ではごくごく普通に市販されていたことを考えると、この世界の量産品はレベルが低いのではないか?と疑ってしまう。



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<第11話>

<第11話>

ゾンビキラーに替えてドラゴンキラーを入手すべきか悩むが、興味はあるのでオークションを覗いてみることにした。オークション会場には腕に覚えのあるのかないのか…な戦士、財テクというか販売のためであろう商人、それ以外にも何の目的で買うのかわからない人、野次馬というかギャラリーというか外野というか…そんな人たちで賑わっていた。賑わっているといってもどうやら口の悪そうな占い師風の老婆が悪態をついて戦士を冷やかしているようだ、たしかに身の丈にあった武器を使わないと宝の持ち腐れという形になってしまうが、しかしやはりそれなりの武器となるとブランドイメージのようなものがあるんだろう、欲しくなる気持ちは分からないではない。

オークションは先ほどの商人、身なりからは貴族と思われる少女の対決だった。最終的に商人…オークション司会者の紹介によるとゴッポルというそうだが、そのゴッポルが18,000Gで落札した。カール王国でドラゴンたちを倒して得た資金があったのでオークションに介入しようかとも思ったが、冷静に考えれば今使っているゾンビキラーとそう大差あるものでもないので控えた。

そんなこんなでオークションは盛況のうちに幕を閉じたわけだが、突如街をヒドラ・10匹のドラゴンが襲撃。またも超竜軍団か?竜騎将バランがまた別の国を襲撃しているのか?と勘ぐった、バランであれば止めなければ。

デパートから駆け出すが、あたりにはバランの気配はない、ただ単に暴れるドラゴンやヒドラがいるだけだ。5匹のドラゴンをすべてイオラの接射で倒し終わったころ、先ほどの貴族の少女、それに連れられたであろう少年たちが戦闘のために飛び出てきた。魔法使いの少年は…バランと同じく空を飛んでいる、これもトベルーラなのかと今なら冷静に考えられる。もっともその飛行速度はバランほどでもない、そこまでの使い手ではないということか。なんにせよ、トベルーラは早期に習得しなければならないなとあらためて思い直す。

最悪、この程度のモンスターであれば自分で全て倒せばいいだろう、そこでこの少年たちのお手並み拝見とすることにした。特にこの魔法使いの少年、竜騎将バランほどではないにしろトベルーラを使うわけでその点においては間違いなく自分よりも優れた能力を持っていると言える。何か他にも隠し玉があるかもしれないしな。

魔法使いの少年はそのまま5匹のドラゴンを引き連れて逃げる。そこで空を飛びドラゴンの炎を回避しながら呪文の詠唱を始める。さぁ何を繰り出すか、魔法使いだから自身にバイキルトとスカラをかけて肉弾戦…は冗談にしても、まず間違いなく攻撃呪文だとは思うが、ドラゴンに通用するレベルのヒャド系呪文を、この少年は使いこなせるのだろうか?

少年から放たれた呪文は見たことも聞いたこともないものだった、体感として非常に周囲が重くなっている、強力な力で押さえつけられているようなイメージだろうか?これもこの世界独自の呪文なのだろう、もうトベルーラのときほどは驚かないが、やはり理解の範疇を超えるものではある。ともかくその強力な力の場によってドラゴンたちにはプレッシャーがかけられつぶされてすべてお陀仏、であればよかったが2匹ほど生き残ってしまったようだ。そして魔法使いの少年は魔法力切れ、墜落。トベルーラを維持できなくなってしまったようだ。強力な呪文のようだが、魔法力の消費量がとんでもなく多いようだ、エキスパートであれば使いこなせる呪文なのだろう、少年には習得がまだ早すぎたのかもしれない。

ともかく少年は逃げまわるのも厳しそうなので助太刀、ドラゴンの口にゾンビキラーを刺し込み、口の中から撃破する。やはりゾンビキラーで鋼鉄レベルのウロコを持つドラゴンを直接斬りつけるのは気が引けるというものだ。



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<第12話>

<第12話>

いとも簡単に2匹のドラゴンを始末したからだろうか、魔法使いの少年は強さへの恐怖と羨望、両方を含んだような眼でこちらを見ている。ただ敵ではないと本能的に理解しているのか敵対心は感じない、少なくとも自分を救ってくれた相手とは考えているようだ。少年は魔法力だけでなく体力も消耗しているようなのでベホマをかけて回復をしてやる。ドラゴンを倒したところでひとまずこの戦いは落ち着いたので簡単に話を聞いたところ、少年はポップと名乗った。以前パプニカで話に聞いた、カール王国が世に送り出した勇者アバン、そしてその仲間だった大魔導師マトリフを師に持つそうだ。年齢不相応と思えるトベルーラや強力なプレッシャーの呪文を使うわけだと納得する。魔法力は足りていないようだが、これは経験を積めば問題なく補えるだろう、将来が楽しみではある。そして聞くところによると先ほどの強力なプレッシャーの呪文…ベタンというそうだが、彼の師である大魔導師マトリフのオリジナル呪文だそうだ。またまたこの世界独自の新しい呪文が出てきたが、大魔導師マトリフのオリジナル呪文であり知名度もほとんどなく、使い手は他にいないとのこと。広く伝わっていないというのも理解できる話だ。

 

手短に概要だけを聞いていたが、そんななか突如の落雷・雷鳴、これは間違いなくライデインの稲光だ。別にライデイン程度で驚く必要もないが、この世界での電撃呪文は竜の騎士の専売特許。すなわちここに竜騎将バランか、あるいはそれ以外の竜の騎士がいるということになる。竜騎将バランはこの世界のトップクラスの実力者だそうだから、敵の強さという面ではそう大した心配はしていないが、トベルーラと遠距離攻撃を主体とする相手だと長期戦が予想される。ともかくまだヒドラも残っているであろうことを考え、ポップを引き連れルーラでデパートまで飛ぶ。そこで見たのはドラゴンキラーを右手に装着し、ヒドラの死体近くで佇む少年であった。ただ普通の少年と明らかに異なるのは、ヒドラの返り血を全身に浴び、額には竜騎将バランのものと同じような紋章を輝かせている、というところだ。おそらくはこの少年がヒドラを倒したのであろう、それに対し恐怖を感じる街の人々。人外の強さに恐怖を感じるのはどこの世界でも同じかと思う、幸い自分のいた世界では強さを求めて旅をする冒険者が多かったことからそういったものに対する風当たりはそこまで強くなかったが、それでも皆無というわけではない。魔王勢力による侵攻があろうと武力での抵抗を好まない人は一定数いたのだ。

少年…ポップの言によると彼の名前はダイ…は紋章の輝きを止め、街の人々に話しかけるが、やはりその応答は鈍い。街の人たちの眼は人間ではないものを見る眼そのものだ。この迫害がダイ少年の未来を暗くしなければいいのだが…と案じる。

 

ふと何者かがダイ少年が人間ではない旨のコメントをする、何者かはわからないがゾンビキラーを抜きその気配の方へ突撃…するもそこは壁面。するとその壁面から不気味な仮面をかぶったものが出現、そのまま壁面から浮き出できた。自称「死神・キルバーン」、魔王軍からやってきたというキルバーンの発言によれば、ダイ少年を観察するためにドラゴンたちをベンガーナへ放ったそうだ。もっともこんなやつには用はない、こちらから突撃しながらギガデインを唱え直撃させたところ沈黙、行動停止した。死んだのかはわからないが確実に倒すためゾンビキラーを振りかぶったところ、ひとつ目の魔法使いが突如現れ、倒れたキルバーンを回収、そのまま消えてしまった。増援なのだろうか?ともかくキルバーンは去ったためベンガーナの街中に平穏は訪れた。



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<第13話>

<第13話>

死神・キルバーンを撃退し、傷ついた街の人達の治療にあたる。すでにこの世界で何度も同じような場面に遭遇しているが、回復呪文が使えるとこういうときに重宝する。ドラゴンたちの襲撃により数名死者が出たが、運良く全員ザオラルで蘇生することができた。カール騎士団長ホルキンスのときとは比べられない蘇生率だ。この世界にはザオラルの使い手が非常に少ないらしく、教会の神父やオークションに参加していた貴族の少女なども回復呪文とザオラルの連発に驚いていた。

 

街の人達の治療を終え一段落ついたので、さきほどの少年少女、そして占い師らから詳しく話を聞いてみた。なんと少女はパプニカの王女・レオナ、そしてダイ少年はやはり竜騎将バランと同じく竜の騎士であることが判明。貴族の少女と思っていたが、当たらずといえども遠からずといったところか。話を聞くとパプニカ王国で魔王軍の不死騎団、そして以前にも聞いたことがあるバルジ島で魔軍司令ハドラーと氷炎魔団を打ち破り、ここベンガーナには武器を求めにやってきたそうだ。なんでも復興作業中のパプニカではろくな武器が手に入らず、ダイ少年が使っている鋼の剣もかなり損傷がひどいため、新たな武器の入手は大きな課題となっているようだ。なるほど、オークションでドラゴンキラーを手に入れようとしていたのも納得のいく話だ。王女がオークションに参加しても問題ないのか?王国の政務費用なのでは?そしてオークションでは落札できなかったのに、なぜダイ少年がドラゴンキラーを装備しているのかなど気になる点はあるが、戦闘中ゆえしかたがないことだったのかもしれない。ただすでに戦闘は終わっているので、商人ゴッポルに返却すべきではないかとも思う。

 

レオナ王女一行は占い師ナバラとともにテラン王国へ向かうという。テラン王国は竜の騎士の伝承が古くから伝わっており、ダイ少年の疑問を解決するためにも向かう必要があると判断したようだ。一行へ竜の騎士である超竜軍団長・竜騎将バランのことを伝え、今の王女レオナ一行の実力ではかなわないだろう旨を何度も念押しした。あわせてパプニカ王国で入手した、国宝と思われるナイフを王女レオナに手渡した。王女レオナは賢者の卵だそうだがさすがに丸腰ではというのもある。それに本来は王国のものであり、使いもしないのに自分が所持し続けるものでもないだろう。ましてやそこまで大した強度のなさそうなナイフだ、変に装備続けるよりも体術で戦うほうがまだマシというのもある。そんなことを考えながらナイフを返却した。

 

レオナ王女一行との出会いを経て次なる目的は定まった、ポップ少年を指導した大魔導師マトリフを訪ね、その知識を共有してもらう、あわよくば新しく呪文を習得するということだ。特にトベルーラの習得は喫緊の課題だ、習得を急がなければ今後の戦いに苦戦しかねない。レオナ王女一行の話によるとバルジ島近くの洞窟にひっそりと暮らしており、人間嫌いだが目的を伝えればなんとかなるのではないか?とのことだった。レオナ王女からパプニカ王国の軍用馬を一頭、借りる許可・書状をいただき、一行と別れルーラでパプニカへ飛ぶ。以前来たときと違い結構な人々が戻ってきており、復興活動の真っ最中というったところか。特に城下町に用はないため、その足でそのまま王城へと向かうことにする。



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<第14話>

<第14話>

王城へ到着。衛兵に声をかけ上席者への取り次ぎを依頼しようと考えていたのだが、その必要はなかった。城門…といってもまだ復元が済んでいないので木造仮門なのだが、そこでの警備にあたっていたのは最初にパプニカを訪れたときに助けた兵だったためだ。こうなると話は早い、簡単ながらも用件を伝えるとあっさり入城が許されたためそのまま進んでいく。命の恩人である、そして王女の書状を持参しているというのは非常に効果が大きいようだ。この国の王女レオナは即位こそしていないものの、父王、その他一族も魔王軍に殺されているためパプニカでは最高の権力、あるいは権威を持つのだろう。納得できる話ではあるが、そんな最高権力者である王女が冒険に出てしまっているというのは国としてどうなんだろうか…という疑問もある。彼女はそういう性格なのだろうとムリヤリ納得するのが正解なのかもしれない。

そんなことを考えながら入城。案内兵に話を聞くと王女レオナ不在の今、最高指導者は「パプニカの三賢者」とのことだそうで、その三賢者のひとりでリーダー格の「賢者アポロ」が応対するとのこと。場内を走り回る謎の老兵(といっても50代くらいか?)を横目に、賢者アポロの応接室へ通される。そこにいたのはなんと最初にパプニカを訪れたときに助けた賢者であった。なるほど、あのときの彼がパプニカの三賢者であったわけか、そういえば名前を聞いていなかったなと今さらながら思い出す。あのときは自分も想定外のできごとに多少気が動転していたのかもしれないなと少し反省をした。

賢者アポロへ旅の目的…大魔導師マトリフに会い、様々なことを習得する、そのために軍用馬を一頭借りられないかという用件を伝えると、あっさりと断られてしまった。そのかわりに積極的な提案を受けた。ルーラで大魔導師マトリフの住む洞窟まで送迎するとのこと、そのほうが移動に要する時間も短いし、まだ見知った顔である自分のほうがマトリフの警戒も薄まるのではないか、とのことだった。なるほどもっともな話でもある、たしかに初対面の自分単独よりも、アポロを同伴させたほうが多少はマシだろう。交渉という観点からも多少は有利かもしれない。王女レオナの書状があるためパプニカで馬を借りられないということは考えてもいなかったが、それ以上の回答を得られたので満足ではある。

賢者アポロの時間がとれそうなのは夕方ごろとのことだった、今は昼過ぎなので多少間があくが、そもそもパプニカ王都から大魔導師マトリフの住む洞窟までは馬を走らせても1日はかかる。それを考えれば夕方まで待つのは大したことではない。アポロの話によると、どのみちタダで話を聞くような人ではないそうだ、パプリカ城下でちょっとした手土産でも買っていかないとなと考え、いったん城を出て街を散策することにする。

 

城を出てパプニカ城下を歩く。ダイ少年たちが不死騎団を壊滅させ、街の人々が戻ってきてはいるものの本来の状態を取り戻しているわけではないことは明白だ。木造の仮設建築物、屋台や露店などで賑わってはいるが、やはり石造りの住居や商店が建ち並ぶのが本来の姿なのだろう、不死騎団襲撃による結果である廃墟状態を知っているのでそう感じてしまう。ただパプニカは復興中の街だ、時間はかかるだろうが元の姿と同じかどうかはわからないが、石造りの住居が並ぶ街は元に戻るだろうとも思う。もっとも自分がそれまでこの世界にいるのだろうか?という不安も同時に感じはする。



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<第15話>

<第15話>

城下の散策には王宮の老兵がつきあってくれることになった、入城の際にすれ違った…というか走り回っていた老兵である。話に聞くと年齢は58歳、父オルテガと同年代のようだ。非常に話をしやすい、気さくな人物であることが短時間の会話でもわかった。

老兵の案内により城下町を散策してわかったことは、今のパプニカにはロクな店がないということだ。自分が冒険者であるためそういった用品を売っている店に着目してしまうというのはあるかもしれないが、たとえば武器屋では「ひのきのぼう」や「こんぼう」、あるいは「銅の剣」といった低レベルなものしか販売されていない。販売されているもっとも強力な武器が銅の剣、なのである。自分はアリアハン王からこのレベルの武器を受け取り旅を始めたが、それはアリアハン周辺には低レベルなモンスターしか存在しなかったから成立した話だ。今思えばアリアハン王からはもっと強力な武具を支給してもらいたかったがそれはともかくとして、パプニカは魔王軍から攻められるような場所、いくらなんでも…と思ってしまう。

この店で初めて見た「どたまかなづち」などという、とんでもなく奇妙でわけのわからないものまで売られていた。自分のイメージ力が不足しているのだろうか、これが武器なのか兜・帽子なのか、武器だとしてもこれでどうやって敵と戦うのかさっぱりわからない。仮に兜・帽子だとしても、こんなものをかぶって外を歩きたくはないし、そもそもバランスが悪すぎて歩いているだけで転びそうである。

パプニカ正規軍は兵は鋼の剣や鉄の槍を使っていたことを考えると、やはり物流が完全に途絶えてしまったことが相当大きく影響しているのだろうと推測する。ダイ少年がまともな武器を求めてベンガーナを訪れた理由もわかるというものだ。よくよく考えてみればダイ少年よりも魔法使いであるポップ少年のほうがよっぽど優れた装備をしている。魔法使いの武器としてはかなり優秀な部類に入る「輝きの杖」、「旅人の服」に「魔道士のマント」、攻撃力・守備力ともにじゅうぶんなレベルだろう。もちろん大魔王ゾーマと戦ったときの魔法使いと比べられるレベルではないが、しかし今のポップ少年の実力、そして戦う敵の戦力から考えれば必要十分といえる。それから比べるとダイ少年の装備は貧相すぎるといえるかもしれない。もっともポップ少年が身につけていた謎のベルト、あれはちょっといただけないが。

 

待ち合わせの時間となったため手土産…といっても酒、それとそれに合いそうな肴だ、ど3人でちょうどよさそうな量。それを片手に城門へ行くと賢者アポロはすでに準備を整え待っていた、用意のいい男だと思う。さっそくルーラで大魔導師マトリフの住む洞窟へ。ルーラで着陸すると、ちょうど外出から帰ってきた大魔導師マトリフであろう老人と遭遇。持ち物からみるにどうやら釣りの帰りらしい、しかも酒を飲みながら釣りをしていたようで顔が赤く、息が酒臭い。それなのにどういうわけかそこそこの釣果らしく、魚籠の中には10匹ほどの魚が入っていた。彼一人で食べるのであればじゅうぶんすぎる量だろう。酔っ払っているせいか釣果がよかったせいか、あるいはその両方か、ともかく大魔導師マトリフの機嫌は悪くないようだ。簡単に自己紹介を済ませると用件を抜きにして宴会が始まった、手土産の酒と肴も気に入ってもらえたようだ。とれたての魚、マトリフ秘蔵の酒、そして手土産の酒と肴、3人での宴会は日付が変わるくらいまで続いた。それくらいまでの記憶しかない、というのが正確なところではある。

 

翌朝、ものの見事に二日酔いの勇者・賢者・大魔導師が完成した。



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<第16話>

<第16話>

いかにベホマやキアリーといえど二日酔いの回復は無理だ、こればかりは酒が抜けるのを待つしかない、つまり我慢ということだ。3人ともふらふらで頭痛もひどいが、用件を話すことにした。

 

大魔導士マトリフとの話でわかったことを簡単にまとめるとこうだ。この世界では呪文を契約の儀式にて習得する、そして同じ呪文でも使い手によって威力や効果が異なる。また同時にふたつの呪文を使うものもいる、ということだった。

詳しく考えてみよう、まずひとつ目は呪文の契約についてだ。自分がいた世界ではその職業ごとに修行によるレベルアップで呪文を習得した。もちろん当人のセンスによって早い遅いはあれど、呪文というものは修行により身につけられるものだった。しかしこの世界では違う、本人のセンスというのはたしかに重要ではあるが、そのセンスとは呪文を契約できるかどうかという意味も含むのだという。このことはつまり、契約の可否次第では勇者の呪文を全て習得し終えた自分にも、新たな呪文を習得できる可能性があることを意味している。

ふたつ目は使い手によって…という点だ。自分のいた世界では誰が唱えてもメラはメラであった。つまり自分が唱えても、仲間の魔法使いが唱えても、モンスターが唱えてもすべてメラはメラで、効果は一様だった。それこそ大魔王ゾーマのマヒャドと、仲間の魔法使いのマヒャドも効果は同じだ。だがこの世界では違う、自分が唱えるメラと大魔導師マトリフが唱えるメラはあきらかに威力が異なる。さらに言えば大魔導師マトリフはメラの威力をつぎ込む魔法力によってコントロールできる。

回復呪文についても同様だ。自分のいた世界のベホマは一定の魔法力を消費し、一瞬にして体力と怪我を全快させるというものだ。それこそどれだけダメージを受けていようが毒に冒されていようが、一気に全快するのがベホマだ。しかしこの世界ではベホマの使い手の力量や魔法力により、回復に時間がかかったり、あるいは体力や怪我のどちらかしか回復できなかったりといったこともあるそうだ。

どちらがよいかということを考えると、敵にかけような呪文であればこの世界のほうが、回復呪文や味方にかけるような呪文であれば自分のいた世界のほうが優れているように思う。もっともそれはじゅうぶんな魔法力を持ったものでなければ意味をなさないのかもしれないが。

そしてここまで考えてわかった事実はこうだ、「自分のいた世界の呪文とこの世界の呪文は似て非なるもの」。呪文という概念・性質が異なるのだ。自分にできるかどうかはともかくとして、やり方次第では2種類のベホマも習得可能かもしれない、もっともそれ自体にどれだけの意味があるかはわからないが。

そして最後が同時に2つの呪文を使うものもいる、という点。たしかにこれまでは片手、あるいは両手から単一の呪文を唱えてきた。そもそも同時に2つの呪文をという概念すらなかったが、それができると…と考えたが、攻撃呪文の速射・連射性が格段に向上するくらいしか考えがわかない。呪文の連射は戦闘で役に立つ技能ではあるだろうが、果たしてそこまで必要なものなんだろうか?という疑問がないわけではない。

そんなわけで大魔導師マトリフからの座学は無事終了し、あとは必要な呪文や技能を身につけるだけ…なのだが、さすがにこれ以上は教えるのも面倒だとあっさり断られてしまった。そもそも気難しい人間であるマトリフにここまで教えてもらえたことのほうがある意味奇跡なのかもしれない。マトリフ曰く呪文を覚えたければそのへんの本棚にある呪文書を勝手に使っていいとのことなので、賢者アポロに手伝ってもらい呪文の契約を試みることにする。



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<第17話>

<第17話>

賢者アポロとパプニカの城門で待ち合わせをしたのは昨日の夕方だから、すでにかなりの時間が経っている。パプニカ王国の役職者であるアポロの仕事やプライベートを完全に無視してことを進めており、罪悪感を感じるもののこのような訓練機会もそうあるものでもない。申し訳なく思いながらも呪文の契約を行う。

呪文の契約は契約したい呪文に応じた魔法陣を地面や紙、布などに描き、その魔法陣の中で行う。アポロの話しによれば、この世界では呪文ごとに魔法陣が書かれた呪文書が販売されており、それを購入・使用することで契約を行うそうだ。契約に際して呪文書は消滅してしまう、したがって呪文書はある種の使い捨てアイテムのようなもの。しかもそれなりに値が張るものらしく、複数の呪文を習得しようとなると相応に費用がかさんでしまうそうだ。騎士団・軍・教会に所属する魔法使いや僧侶はその費用を所属組織から負担してもらえることもあるそうだが、冒険者であればその費用はやはり自己負担となる。それを考えるとコストバランス・コストパフォーマンスの見極めというのも必要になってくるのではないか、とのことだった。ましてや呪文書を購入したからといって必ずしも契約に成功するわけでもないし、契約に成功してもその呪文を使えるかどうか、つまり力量的に使えるかどうかはまた別問題であるから、やはり冒険者にとって呪文の習得というのはある種の賭けに近いのかもしれない。

幸い、カール王国でドラゴン相手に荒稼ぎしたゴールドもたんまりある。またここには大魔導師マトリフが保有する呪文書…しかもそれを自由に使ってもいいという恵まれた環境だ。必要な呪文の契約・習得を行うにはこれ以上ないと言えるかもしれない。

 

賢者アポロの補助もあっていくつかの呪文の契約に成功した。ヒャド、ヒャダルコ、メラ、メラミ、ギラ、ベギラマ、イオ、イオラ、バギ系、フバーハ、マホカンタ、ルーラ、ベタン。やはり自分は魔法使いでも僧侶でも賢者でもないので、高レベルの呪文は契約できなかったが、各系統一通りというのは今後なにかしらの形で役に立つはずだ。だがバギ系についてはどういうことか頂点であるバギクロスまで契約できた、これは完全に想定外で嬉しい誤算だ。以前は王者の剣を振りかざしバギクロスを発動させていたが、そのことがよい方向に影響したのかもしれない。これまでの戦闘スタイルを取り戻す一因になりそうだ。

フバーハは自分のいた世界とこの世界で効果がことなる呪文のひとつ。自分のいた世界では吹雪や炎といったブレスを和らげる効果だったが、この世界ではブレス以外にも敵からの攻撃呪文も対象となるようだ。こちらのフバーハの防御と敵の攻撃に力量差があれば完全に無効化することも不可能ではない、とのこと。

ルーラも同様に効果が異なる呪文だ。自分のいた世界では街と街を移動する呪文であったが、この世界では思い浮かべた場所へ移動するといった具合で効果が異なるのである。賢者アポロがこの洞窟までルーラで来れたのもそういう理由があったからだろうと推測している。

ベタンはベンガーナでポップ少年が使っていた大魔導師マトリフのオリジナル呪文だ。マトリフの顔が書かれた呪文書が5冊ほどあったが、これはマトリフが自分で書いたのだろうか?ともかく習得できた。ポップ少年が使うと魔法力も簡単に底をついてしまうようだが、自分であれば問題ないだろうと考えている。

 

今回契約できた呪文はバギクロスとベタンを除くと、戦闘力という面において決定打となるものではない。そのことは念頭に置く必要があるだろう。



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<第18話>

<第18話>

儀式により契約に成功した呪文も試してみないと実戦では使えない、これは新しい武器や道具を手に入れたときでも同様だし、これまで新しい呪文を習得したときも同じだった。

マトリフの住む洞窟の近く、少し開けた場所で練習を行う。だが異世界で契約したといっても攻撃呪文は知っている呪文だし、仲間の魔法使いや僧侶が唱えるのを何度も見ている。ベタンにしたってポップ少年がドラゴン相手に唱えていたのを一度だが見ている。特に大きな支障もなく呪文を発動させることができたし、その威力も想定通りである。やはり気になるのは呪文のコントロールだ。大魔導師マトリフがやっていたように投入する魔法力を調節することでその効果を変化させるということ、これも直感的にできないわけではなかった。たしかに魔法力を多く使えば呪文の効果は向上する、攻撃呪文であれば威力という形で非常にわかりやすい挙動を示してくれる。ただコントロールがとても難しい。例えば2倍の魔法力を使ってもメラの火の玉の威力が必ずしも2倍になるわけではない、うまく魔法力が呪文に変換されていないような感触だ。このコントロールにはやはり訓練が必要なのかもしれないが、しかしメラミやイオラ、バギクロスを多めの魔法力で放ってやれば効果的な攻撃を期待できるだろうし、訓練する価値はあるかもしれない。このあたりのコントロールのうまさというのが、マトリフの言っていた「センス」という言葉に集約されているのかもしれないなとも思う。

そして重要な呪文・ルーラだ。この世界のルーラは「街と街を移動する呪文」ではなく、「思い浮かべた場所へ高速で移動する呪文」だ。やり方次第では高速なタックルとして活用、剣撃であってもルーラの高速移動によりそのまま斬りつけるなんてことも可能だろう。実際に試してみたが星降る腕輪とピオリムを組み合わせたよりも高速で移動するわけで、なるほどこれは確かに戦闘に役に立つといえるだろう。

ずっと気になっていた呪文・トベルーラもルーラの応用で習得することができた。常に微小の魔法力を放出し続け現在地を維持する、あるいは目的地へ飛び続ける、そんなイメージだし、呪文というよりもちょっとした特技に近いのかもしれない。が、やはりこれもセンスという言葉があてはまるのかもしれない。常に魔法力を放出し続け、ということをできない人もいるだろう、それがルーラを使えてもトベルーラは使えないということにあてはまるのだと思う。これも消費する魔法力の量に応じて移動速度が変わるようだ、高速であれば多めに、といってもただ単に空を飛び続けるというだけであればイオラ1発の魔法力も使わないだろう、そう大した問題ではない。ともかくこれで冒険が非常に楽になりそうだ、これまでは徒歩あるいは船で世界を巡っていたが、トベルーラとルーラを使えば効率よく世界を、たとえば北方のリンガイアやオーザムへ行くのも非常に楽になるだろう。

この訓練の最中、大魔導師マトリフが洞窟から遠目でこちらを見ていることに気づいた。怪しんでいるのか単に見守っているだけなのかはわからないが、気づかないふりをしておいたほうが良さそうだ。

 

おぼえなければならないと判断したトベルーラだが、割とあっさり習得できてしまった。いろいろとオマケもついたが、目的であったトベルーラも習得できた以上、ここにはこれ以上の用はないとも思う。

そう考え大魔導師マトリフへ礼を言おうと思い洞窟へ戻ったところ、マトリフは出かける準備をしている。彼はどこへ向かうのか…?



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