魔法科の御伽魔法書 (薔薇大書館の管理人)
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魔法科高校の劣等生~短編集~
秋分の日短編~読書の秋?~


いよいよ…、この時が来ました~~~!!!!!

去年の今頃…、ROSEのチーム掲示板にて、うちが企画した『4コマ妄想漫画』でみんなと一緒に作った物がついに~~!!

これを作るのに、2時間ほどはみんなで一人ずつお題に沿って、作って、投票して作ったな~~!!いずれ漫画にして、サークルに乗せようと温めていたこれを~~!!!

いま!!ここで投稿します!!

少し?キャラ崩壊していると思うので、温かく見てあげてください!!

では、どうぞ!!



 ここは、魔法大学付属第一高校の図書館…。

 

 

 魔法大学が所蔵するこの国の魔法研究の、最先端を収めた文献資料や機密文献が、この図書館に収められている。そして、これらの文献は魔法大学系列でしか閲覧できないようになっている。一般人なら閲覧は不可能だが、非公開文献を収められた魔法科高校に通う在学生には、閲覧資格が認められており、魔法を学ぶ者達にとっては、まさに魔法の宝庫ともいえる。

 しかし、非公開文献だけが揃っているわけではない。あらゆる方面の一般的文献や書籍も置いている。

 そのため、魔法研究だけでなく、部活や趣味への知識を深めるために、今日も魔法科生徒たちが、この図書館に足を運んでいた。

 

 

 その生徒たちの中には、二科生にして、風紀委員を務める司波達也の姿もあった。

 

 

 当番の日は見回りをするが、今日はオフの日だ。

 

 そこで、深雪が生徒会の業務を終えるまでの間、図書館で暇を弄ぶことにしたのだが…。

 なぜか今日は、特別閲覧室での非公開文献を閲覧し、研究資料を作る…訳ではなく、一般に開放されている面長のテーブル席にて読書していた。

 

 他の生徒たちの驚きの視線を浴びながらも、害がないので、無視して読書に集中する達也の顔は、ゆったりとした座り方と違って、真剣そのものだった。

 

 

 何をそんなに真剣に読んでいるのかというと…。

 

 

 

 『~あの人に癒しを与えるマッサージツボの極意書~』

 

 

 

 

 …と書かれた桜色の表紙のかなり幅がある文献を読んでいたのだ!!

 

 

 確かにこれでは、視線を集めるのも無理はない。達也は悪目立ちして、全校生徒に知られているし、その達也が真剣に読んでいる文献の内容がこれじゃ、注目せずにはいられない。しかしずっと見ていては、興味があるのかと勘違いされては困ると視線を逸らしていく。

 

 

 一方、達也は文献の内容に釘付けになっていて、脳内でツボの位置と効力を再現していて、気にも留めていなかった。

 

 

 (…なるほど。かなり使えそうな点穴があるな。 実践にも使えそうだ。明日の朝練の時にでも、師匠を相手に試してみるか…。) 

 

 

 先日、引退した摩利の後釜として、風紀委員長に抜擢された花音がちょっとした暴行事件へと発展しそうになったところを、達也が花音に”快楽点”を刺激したことで、何事もなく事態を収拾した。その時、八雲に教わった点穴の効果に興味を持った達也は、点穴に関する文献を何冊も書棚から取り出し、読書していたのだ。今読んでいる文献が取り出してきた最後の文献だった。

 

 そしてふと顔を上げると、下校時刻が迫ってきていることに気が付く。

 

 

 (もうこんな時間か…。そろそろ深雪も、生徒会業務を終える頃だろう。

  点穴に関する文献をあらかた読破したことだし、行くか。)

 

 

 取り出してきた文献を軽々と持ち上げ、書棚に戻していき、最後のマッサージツボの極意本を片付けようとした時、達也に声をかけてきたクラスメイトが笑顔で近づいてきた。

 

 

 「達也君、迎えに来たよ~~。」

 

 

 「悪いな、文献片付けてからそっちに行くから、先に戻っていてくれないか?」

 

 

 「そんな水臭い! 後その一冊だけなんでしょ?なら、今から戻っても、達也君と一緒に向かっても同じ。

  だったら、二人でみんなと合流した方がよくない?」

 

 

 「…そうだな。エリカ、少し待っていてくれ。片づけてくる。」

 

 

 何を言っても、待っているだろうなとエリカを先に行かせる事を諦め、書棚に文献を片付けようとする。しかし、エリカの興味津々な問いかけの方が早く、文献を書棚にいれることができなかった。

 

 

 「…ねぇ、達也君?その本って、何が書いてあるの?」

 

 

 「この書籍か?これには、マッサージツボの極意が記載されたものだ。今日、閲覧した文献は要約すると、こんな感じだな。」

 

 

 「へぇ~…、なんか意外。達也君がマッサージ…。ぷっ!!」

 

 

 達也が優しくマッサージするのを想像し、思わず笑いがこぼれるエリカに、達也は首をかしげる。

 

 

 「なぜ、笑うんだ?エリカ。」

 

 

 「ええ~~!! だって、達也君がマッサージって…。なんだか想像できないっていうか。」

 

 

 そう言いつつも、『達也君にそのツボを教えてもらって、ミキに試そうかなぁ~』…といたずらを企む含み笑いになるエリカだった。

 

 

 「…俺も人並みには疲労を解消したいと思っているさ。それに何より、生徒会業務で疲れている深雪の身体を解してやりたいと考えるのは、兄として当然じゃないのか?」

 

 

 真面目な顔で答える達也に、エリカから笑いが消える。その代わりに呆れへと変わる。

 

 

 「あ…、なるほどね~! うん、シスコンな理由なら納得だわ!」

 

 

 「…なぜそこでシスコンに繋がるんだ?」

 

 

 溜息をこっそりと気付かれないように漏らすと、さっさと話を切り上げ、深雪と合流するため、書籍を書棚に戻す。

 

 

 話はこれで終わりという達也から発せられる雰囲気に、エリカは目を見開く。本当は、達也と二人で話したくて、達也を呼びに行くという役目を獲得してきたのに、これでは、意味がなくなる。

 

 でも、もっと二人でいたいと思う一方、達也がずっと深雪ばかりに気を配っていることにムカついてもいた。

 

 

 

 

 

 

 ドォォォォ――――――――ン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 だからか、エリカはその衝動をぶつけた。…書棚に。

 

 

 

 書籍を戻し終え、図書館の出入り口に向かおうとした時、エリカの腕が達也の通路を塞ぐ形でいきなり書棚に叩き付けてきた。

 壁ドンという、エリカの行動に驚くが、ポーカーフェイスを保ったまま、達也はエリカに話しかける。いや、話しかけようとした。

 

 

 「エリカ、どうし………」

 

 

 「あたしだけを見なさいよ!!」

 

 

 「…………」

 

 

 突然のエリカの怒声に、今度は少し戸惑いを見せる達也。

 

 エリカがこんな公共の場で叫びだすほど怒るとは思わなかったからだ。空気を読むあたり、おそらく気に障るような事でもしたのだろう。ここは穏便に済ませるために、謝っておこうとエリカを真っ直ぐに見つめる。

 しかしそこで、エリカが目に今にも溢れだしそうな涙を溜め込みながら、キリッと見つめ返してくる。怒っていながらも強い瞳で見つめてくるエリカに、達也は…

 

 

 「…脇ががら空きだぞ?」

 

 

 「きゃっ…!!きゃははははは!!! ちょっ…、たっ…、達也君っ…、きゃはははは!!くすぐっ…たいって!! 」

 

 

 …と、エリカの脇を擽りはじめた。これぞいわゆる”こちょこちょ”である。

 

 

 (もしかして、エリカは勝負を挑んできたのか?)

 

 

 エリカの好意を見当違いの方向で、受け止めた達也だったが、エリカを擽るという行為に、失策だったと反省する事になる。

 エリカの予想以上に大きな笑い声が図書館内に広がり、職員に叱責を受け、待っていた深雪たちと合流するときには、既に下校時刻を過ぎていた。

 帰り道の際に、なぜ遅かったのかという質問がレオからもたらされたが、達也とエリカはもう触れたくもない話だったので、別の話に切り替えて、みんなと別れた。

 

 しかし、それを良しとはしなかった人物が達也の身近に一人…。

 

 自宅に帰り、部屋着に着替え終わってからリビングに入って早々に、肌寒さが舞い込んできた。

 

 

 「…お兄様、お待ちしておりました。

  では早速…、エリカと図書館で何をされていたのでしょうか?詳しくお話を伺わせていただけますよね?」

 

 

 部屋に冷気を発している本人…、深雪が満面の笑みで、楽しげな口調でおねだりし出した。その笑みには、達也を軽く非難していた。

 

 

 (やれやれ…。)

 

 

 達也は、ため息を飲み込み、深雪の機嫌が直るまで慎重に話し、頭を撫で続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい!!テーマ『読書の秋』でROSEみんなでアイデアを出し合い、投票した結果がこれでした!!
まさかの達也の人格崩壊につながりかねない勢いだったな~。
四コマ漫画としてのプロットだったから、理解できるように持っていくのに神経使ったわ!!でも楽しかった~~!!

メモをずっと残していて、採用されなかったみんなの案もしっかり書いていて、一人でそれを見て、爆笑した!!
オチの案では、くろちゃんからの『あごクイ♡』とか、マサやんからの『エリカ、ミユキが後ろで笑っているぞ?(ぞわぞわ)』っていう案もあった!!

ちなみに、うちは『床に押し倒して、壁ドンならぬ、床ドン!!そして…「じゃ、今習得したツボを実践するぞ、エリカ。…覚悟してもらう」』

 って!!ぐわっ!!(悶え血)

 こんなの達也に言われたら、『や、優しくしなさいよね…?』って返すわ!!



 はい…、一人で暴走し続けた今日のうちでした。


明日は、本編に戻るので、よろしくお願いします!!


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達也と八雲の組手修行!?

はい、去年のチムイベでまたまた取っておいたものです!!
その時、ゲームで「八雲の組手修行」というイベがやっていて、コラボ企画としてみんなで投票していったネタです。

だんだん、やべ~~!! 完全に達也が変わった~~~!!

となっていき、今も、吹き出し中です!!

それでは、腹筋崩壊の可能性もあるこれを、お披露目します!!


 

 

 

 

 

 ここは、忍術の使い手、九重八雲がいる九重寺。

 

 

 まだ朝日が昇っていない段階から、いつものように朝稽古にやってきた達也は、山門を潜り抜けた瞬間、門人たちからの総がかりを受け、いつものように倒していた。

 

 

 「相変わらず、達也君は凄いね~。ますます体術に磨きがかかっているじゃないか~。この分だと、体術では僕も君に負けるかもしれないね~。」

 

 

 「今頃、登場とは余裕ですね、師匠。」

 

 

 「ふふふ~ん。忍びという者は、時には戦況を見極めるために息を殺して観察する事も必要なのだよ。」

 

 

 「そうですか、隠れて覗き見とはいい趣味ですね。」

 

 

 「あれ?なんでそうなるんだい?」

 

 

 「ところで、本日の修業はなんですか?」

 

 

 「もう終わりかい?残念。」

 

 

 残念だと言う割には、まったくそうは見えない笑みを浮かべる八雲に、達也は話に乗らなくてよかったと本気で思った。

 

 しかし、次の八雲の言葉には、呆れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日の修業は……

 

 

 

 

 

 

 

 

        坊主頭を撫でる修行だよ~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………何で、そうなるのですか。」

 

 

 冷たい眼差しで八雲を見つめる達也。しかし、八雲はその視線を面白そうに受け止め、話を進めていく。

 

 

 

 「坊主頭を撫でられたら、その時点で強制リタイアだからね。撫でられないように、逃げるのもよし。組手による攻撃でのみ認める。後、この寺の敷地内で修行するから、達也君。」

 

 

 「……まだ参加するとは言っていませんが?」

 

 

 「まぁ、まぁ~~!! 騙されたと思って、やってみようよ、達也君。これは結構鍛えられるんだよ。ある一点だけに限定された場所に、どのように攻撃、防御をするか…。戦術を練るのにも、かなり頭を鍛えられる有難い修行さ!!

  ほら、見てみるがいいよ。」

 

 

 八雲に促されて視線を向けた先では、既に門人達が互いのつるハゲ…いや、坊主頭を撫でるためになぜか白熱した組手を繰り広げていた。

 

 達也は、八雲の思いつきの修業だと…、ふざけたただの冗談だと思っていたため、目の前に繰り広げられている何とも言えない闘いに、若干引いていた。

 

 しかし、門人達がこの修業をしているのに、今更「やりません」とは言いにくい。

 

 

 結局、達也もこの修行を受け入れるしかなかった。

 

 

 承諾した時の八雲の「掛かった!!」というニマリとした笑みには、咄嗟に拳が出てしまった達也だった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしていま、達也と八雲の決戦が繰り広げられようとしていた。

 

 

 対峙する二人を門人たちが囲む人の輪ができていた。

 達也が修行に参加した瞬間、間を擦り抜けるような素早い動きで戦っている門人たちの坊主頭を撫で、リタイアにしていく。

 達也に飛びかかる門人もいたが、呆気なく撃沈され、つるっとしたハゲ……じゃなくて!!坊主頭を撫でられる。

 そして終盤では、八雲も参戦してきて、門人達全員が二人によってリタイアにされた。

 

 残ったのは、達也と八雲だけ。

 

 

 門人たちは、二人の今にも始まる戦いに目を凝らしていた。

 

 

 

 「ふ~~~~ん……。」

 

 

 「何ですか、師匠。人の顔をあまりじろじろ見ないでください。」

 

 

 「いや~、なんか思ったのと違うっていうか?

  折角達也君が坊主になったというのに、全然面白くないんだ。」

 

 

 八雲の言ったとおり、達也は修行をするにあたって、坊主頭を撫でる修行だからと、バリカンで達也を丸刈り…坊主頭にしたのである。

 しかし、あまりにもきちっとした顔立ちに、鋭い視線が相まって、笑うというより、決まっていると言った方がぴったり合うくらい、達也には坊主頭が似合っていたのだ。

 

 坊主になったら面白いだろうなと、楽しみにしていたが、納得してしまったモノを笑う事は出来ない。八雲は残念だと嘆いた。

 

 

 達也としては、後で『再成』で元に戻す事もできるため、別に問題はないが、笑われるのは不愉快だ。

 

 さっさと終わらせて元に戻そうと思っていると、いつの間にか八雲が達也の目の前に現れ、まじまじと達也の顔を見ていた。そして、次の瞬間、素早く達也のおでこに何やら墨をつけた筆で書いたのだった。

 

 

 八雲が気付かれずに移動してきたことに驚き、反応が一瞬遅れた達也はまんまと八雲にやられた。

 

 

 「うん!! くくくくくく!!達也君、いいよ!それ!! さっきは美坊主って面影だったけど、それは面白いよ!!」

 

 

 

 お腹を抱えて、笑い出した八雲に、何を書いたかと不機嫌を隠さない眼差しで見つめる達也。八雲はまだ笑いながら、懐から鏡を取りだし、達也に投げ渡す。

 

 それを片手で受け取り、自分の顔を映して見てみる。

 

 

 

 その鏡に映る達也の額には、なんと…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『肉』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (どこかの漫画で見た事あるな…)

 

 

 そう思いながら、額に書かれた文字を拭き取ろうとするが、一向に落ちない。

 

 

 「…どういう事ですか」

 

 

 「それ…、油も混ぜているから、なかなか取れないよ。くくくくくくく!!」

 

 

 

 つまり、油性マジックと同じか…!!

 

 

 

 厄介な落書きをされた上、今もなお笑われている達也。

 しかも、達也達を囲んで一部始終を見ていた門人達も笑いを堪えるのに必死で、顔を背けたり、身体が痙攣している者もいた。

 

 

 

 この状況にやはりこの修行を徹底的に断ればよかったと後の祭りの考えを持ちながら、達也はジト…と八雲を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 ★ オチ その壱 ★

 

 

 

 

 

 

 そして、達也は、『分解』で額の文字の墨を綺麗に落とす…という考えよりも、八雲に仕返しをする方に意識が剥いた。

 

 

 笑い転げてしまっている八雲に気配なく近づき、八雲から筆を取り上げ、八雲にもおでこに大きく『肉』!!を書いた。

 

 

 すると、『肉』を額に宿した二人は、再び真剣な面持ちで対峙し、なぜか組手ではなく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりプロレス試合を始めたのだったあああああ!!!

 

 

 

 観衆として、門人達も取り囲みながら、声援を送り、朝から活気溢れる『坊主頭を撫でる修行』は、結果的に八雲の勝ちで幕を終えた。

 

 あと一歩の所まで追い込んだ達也だったが、敵わず、修行を終えた後、深雪の待つ家へと走っていった。

 

 

 

 坊主頭のままで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 ★ オチ その弐 ★

 

 

 

 

 

 達也が物凄い殺気で八雲を睨み、それを楽しむかのように笑みを浮かべながら、負けじと八雲も達也を睨みつける。

 

 

 二人に緊張が走る中、ついに二人が交差する。

 

 

 

 

 達也と八雲が坊主頭を合わせた瞬間、二つの頭が突如光りだし、地面は割れ、雲を裂き、空からフリーザーが舞い落ちてきた。

 

 

 地面に墜落する間一髪で、フリーザーは目を覚まし、空へと舞いあがる。

 

 

 「あの、ここは一体どこでしょう?」

 

 

 得体の知れない世界にやってきたフリーザーが地上で頭をこすりつけながら、力比べをしている達也と八雲に話しかける。

 しかし、二人は互いの事しか見ていない。

 

 完全にフリーザーは視界の外だった。

 

 

 自分を完全無視されたフリーザーは、怒りを覚え、二人の抹殺…、いや、この世界を滅ぼし、自分のコレクションに加える事を決めた。

 

 

 「この私を無視するとはいい度胸ですね。まずはあなた達から死んでいただきましょう。」

 

 

 そう排除宣言したフリーザーは達也達に突進していく。

 

 

 

 「私の戦闘力は530000です…ですが、もちろんフルパワーであなたと戦う気はありませんからご心配なく…」

 

 

 

 「「邪魔だ(だよ)」」

 

 

 

 

 ドゴオオオオォォォォォォ~~~~~~~~~~~ンンンンンン!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 真剣勝負中の二人に横槍を入れようとしていたフリーザーは二人の掌底を受け、行き良いよく飛ばされる。体勢を整えようとするが、達也が飛行魔法で飛ばしているため、制御が不可能。

 

 

 フリーザーは裂けた雲に吸い寄せられるように飛んでいき、雲の中へと戻っていく。

 

 

 「この俺が負けるかーーーーっ!!!!!

  お…俺は宇宙一なんだ…!だから…だから貴様はこの俺の手によって、

死ななければならない…!俺に殺されるべきなんだーーーっ!!!」

 

 

 

 興奮して、言動が変わっても、状況は変わらず、フリーザーは元の世界へと戻っていった。

 

 

 実にフリーザーにしては、あっさりというかなんというか…。

 

 

 

 達也達に邪険に扱われたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 めでたし、めでたし。

 

 

 




終わった~~~!!

以上で、もうハチャメチャな魔法科崩壊ストーリーが完成しました。

何故かきん肉マンやドラゴンボールのキャラや展開が出てきて、驚きとともに、吹きだしたのを思い出したな。

オチを二つ用意しましたが、その弐は、実はまさやんのアイデアで、凝ってたので、特別編として投稿させていただきました!!
フリーザーが魔法科の世界を侵略できるときは来るのか!?



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クリスマスイブ短編「私…、お兄様とラブラブになりますっ!!」

達也をキャラ崩壊させます!! 全力で!!

そしてかなりの覚悟をもって見てください!!

あ、メリークリスマス!!



 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は年に一度のクリスマス・イブ。

 

 

 この日は想い人と一緒に幸せな夜を過ごす特別な日…。

 

 

 女性なら夢見るこの聖夜を深雪も満面の笑みを浮かべて喜びを噛み締めていた。

 

 

 「ふふふ。今日はお兄様と二人きりで過ごせます! 深雪は嬉しいですわ。」

 

 

 クリスマスの飾りつけをしながら、達也と二人きりという状況に嬉しがる深雪。水波もいるのだが、テーブルに置手紙を残して出て行ってから戻ってこない。

 帰りの遅い水波も心配だったが、久しぶりに達也と二人きりになれるという事が上回り、「水波ちゃんが気を効かせてくれたのね。」と解釈し、心の中で感謝を伝えるのだった。

 

 

 「…これでいいかしら? 忘れているものはないですわね?」

 

 

 一通りのクリスマスの飾りを終え、(それにしても凝った演出をしているが)おかしな点がないかを確認する。

 

 

 「……料理も出来上がりましたし、ツリーも問題ないですね。雪彫刻も…はぁ~、何度見ても立派ですわ~~!!」

 

 

 得意の冷却魔法で大気から雪を作りだし、見事な達也の雪でできた彫刻を作り上げ、目がある度に頬を赤らめ、物思いに耽る深雪。

 雪彫刻達也は、深雪によってドレスコードされ、達也なら普段…、いや本人からは絶対に着ないだろうプリンス衣装を着ていた。そして、腰を折り、掌を上に向け、そっと差し出し、笑みを浮かべる様はまさしく「美しい姫君、僕と踊ってくれませんか?」という夢見る女子には憧れのシュチュエーションをもたらしていた。

 

 そんな雪彫刻達也を見つめ続けながら、水波の帰りを待っている深雪だったが、背後から声を掛けられ、身体が跳ねる。

 

 

 「綺麗な飾りつけだね、深雪。 手伝えなかったのがもどかしいくらいだ。」

 

 

 「お、お兄様っ!」

 

 

 突然の本物の達也の登場に慌ててカーテンを閉めて、雪彫刻達也を隠し、振り返る深雪。そんな深雪を見て、訝しく思った達也だが、深雪が息を吐き出すのを見て、思った以上に驚かせてしまったらしいと思い、申し訳ないと謝る。

 

 

 「すまない、驚かせすぎたな。」

 

 

 「い、いえ!滅相もありません!」

 

 

 「そうか?有難う?」

 

 

 必死に大丈夫だと首を強く振り続ける深雪の様子にどこか違和感を感じた達也は無意識に疑問符を使ってしまった。

 しかし、気を取り直し深雪との会話を楽しむ事にする。

 

 

 「深雪、疲れただろう?ここまで立派に飾りつけしたんだ。俺に何かできる事ならするぞ?」

 

 

 会話を楽しむより、最愛の妹に労いをする達也。実は達也も飾りつけや準備を手伝うと言ったが、深雪が頑なに達也に手伝ってもらう事を拒んだため、出来上がるまでリビングには入れなかった。深雪は達也を驚かせて喜ばせようとしていた。それに飾りつけを手伝ってもらった事で達也の研究する時間が削られる事に胸を痛めるほど、申し訳ないと思っていた。だから、達也にお願いして水波と一緒にクリスマスの準備をしていたのだった。

 達也も深雪のお願いを受け入れ、何かあれば声を掛けるようにと伝えて、地下室で地下室で研究をしていた。

 その間、水波が買い出しに出かけたので、一人で完成させた深雪を水波が帰って来るまで労いたいと思うのは、達也にとって当然の行いである、……………はずだった。

 

 

 

 「さぁ、深雪遠慮しないで何でも言ってごらん?」

 

 

 「え!!?  何でもですか!? お、お兄様に? 」

 

 

 「そうだ、可愛い妹の願いを叶えてあげたいんだ。」

 

 

 「もう…、お兄様ったら! 可愛い妹だなんて…。ふふふ。」

 

 

 「ああ…、間違えたね。”愛しい妹”だった…。」

 

 

 「え?」

 

 

 自分にだけ見せてくれる優しい笑顔だった達也が急に真剣な眼差しになり、深雪の顔に自分の顔を近づける。

 真っ直ぐに、しかも近距離で達也に見つめられ、固まる深雪。

 

 

 「お、お兄様…?」

 

 

 動揺のあまり、声が裏返りながらなんとか達也に呼びかけるが、達也はそれをスルーした。

 

 

 「俺は深雪がこの世界で一番愛おしい…。こんなにも胸が熱く、鼓動が跳ね上がるのも深雪…、お前しかいない…。 まったく、罪深いな…、深雪?

  お前が俺の心を全て……持って行ってしまうのだから…。」

 

 

 深雪の黒い髪を右手で掬って、その紙に口づける達也。そして上目遣いで心の奥まで見通す鋭い目が深雪の鼓動を跳ねらせる。

 

 

 「お、お兄様!? どうしたのですか? い、いつものお兄様ではありません!」

 

 

 「いつものって、俺はどんな奴なんだ?深雪のその柔らかくてかわいらしい唇を動かして甘い声で言ってほしい…。」

 

 

 今度は耳元ではっきりした口調でなおかつ愛おしそうに囁く達也の声が深雪の思考を停止させる。

 

 いつもの達也ではないと理解してはいるものの、こんなにも自分に愛を語ってくれる達也なら自分は全てを捧げても構わないと、一線を越えそうになっている深雪は、達也の甘いお願いを口にし出す。

 

 

 「お、お兄様は、いつも深雪を守ってくれてます。ずっと私に寄り添ってくれています…。とても妹想いの方ですよ…。」

 

 

 「うん、そうだね。でもそれっていつもの俺じゃなくても、いいんじゃないか?現に今の俺は違わない…。ありのまま、深雪に愛を捧げている。」

 

 

 「お兄様…♥」

 

 

 「だが……」

 

 

 

 

 

 

 達也の言葉が嬉しくて、顔が真っ赤になる深雪は綻ぶ口元を手で隠す。しかし、その手を達也の大きくてたくましい手が取り上げ、顔を近づけ、深雪の頬を優しく、そして厭らしく舐める。

 

 

 「キャっ!」

 

 

 驚きのあまり、叫んでしまうが、その叫びさえも愛おしそうに聞き入れ、微笑を見せる達也。

 

 そのまま近距離を保ったまま、数センチの距離でお互いが見つめ合う。

 

 

 「だが深雪、間違っているぞ?」

 

 

 「間違って…、いるですか?」

 

 

 「俺は妹想いなんてものに収まるほどお前への愛は小さくない。

  ……深雪、お前が欲しい。…お前だけが欲しい。深雪の全てが欲しいんだ…。

 

  流れるようなこの黒髪も、透き通るような瞳、氷の彫刻のような美しい白肌…。そしてお前の心も…。

 

  なぁ…、深雪…? 俺の女になってくれ…。 妹として俺を愛するのではなく、一人の男として愛してくれないか?」

 

 

 真っ直ぐに吸い込まれそうに深雪の心に入ってくる達也の気持ちに深雪は涙を流す。それを見て、達也は苦笑し、言葉を紡ぐ。

 

 

 「………やはり俺を兄ではなく、異性として愛するのは嫌か…?」

 

 

 「そ、そんな事はありません!!」

 

 

 さっきよりも涙を流し、達也の言葉を否定する深雪。そのまま達也の胸に飛び込み、腕を背中に回して抱きしめる。

 

 

 「深雪は嬉しいのです! お兄様と一緒に居られて嬉しかったです!でも、いつもお兄様に妹として見られるのは、寂しくて、悲しかった…。実の兄妹ですから、いずれお兄様が………、他の女性と結ばれると思うと、胸が苦しかったです。………お兄様と結ばれる事はないと思ってましたから…。

 

  でも、深雪は今、その夢が叶い、嬉しいのです!

 

  お兄様と添い遂げる事が出来る事が嬉しくてたまらないのです!

 

  ……お兄様、どうかわたしをお兄様の御嫁様にしてください♥」

 

 

 深雪は自分を見下ろす達也の顔を縋るように見つめる。

 

 達也は微笑を浮かべると、深雪の頬に優しく触れ、見つめ返す。

 

 

 「良いのか…? 」

 

 

 「………はい、お兄様。深雪をお兄様だけのものにしてください…。」

 

 

 こうして、達也と深雪は唇を交わし、お互いの熱を肌で感じ、絡み合うのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 「……………………深雪、深雪。起きなさい、深雪。」

 

 

 聞き忘れる事のない達也の声を耳にし、深雪は目を覚ます。目を開けるとそこには深雪の顔を覗き込む達也の顔があった。

 

 

 「!! お兄様!!」

 

 

 「そんなに慌てて起き上がらなくてもいい。もう少しこのままでもいいから、ゆっくりと体を起こしなさい。」

 

 

 「……はい、…お兄様? いつも通りですね?」

 

 

 深雪はあんな事をしたのだから、もっと情熱的に囁いて起こしてくると思っていたが、冷静な態度のままの達也に疑問を覚える。そして、しばらくして慌てて自分の身なりを確認する。

 

 

 (あら? 私、いつの間に服を着ていたのかしら?)

 

 

 達也に脱がされ……こほんっ、こほんっ、されたはずなのにきっちりと着ている服の状態に疑問が止まらない。

 

 

 「私は一体?」

 

 

 「覚えていないのか、深雪? お前の願いを聞いてやると俺が言ったら、『では、お兄様…、膝枕してもらっても構いませんか?』とお願いされて、膝枕したはいいが、よっぽど頑張ったんだな…、すぐに眠りに入ったんだ。」

 

 

 「え…、えええっ!!」

 

 

 (じゃあ、今までのは全て夢ですのっ!!)

 

 

 

 甘くて苦い自分の恋が実ったと思いきや、全てが夢だったと思い知り、脱力する深雪。そんな深雪を心配する達也の膝に頭を乗せ、これは夢だと思い、再びあの世界に戻るために目を瞑る。

 

 

 しかし、すっかり目が覚めてしまい、これが現実だと理解した深雪は激しく落ち込み、達也から頭をなでなでされる事で、機嫌を取り戻す。膝に座るというおまけつきで。

 

 

 「……これもこれでありですわ。」

 

 

 そう呟く深雪は、夢の達也の事を思い出し、一人で含み笑いするのだった。

 

 

 そして、なぜ深雪が自分を見て笑うのか、理解できず、水波が重い荷物を抱えて帰って来るまで、良くわからないまま深雪を甘く労う。

 

 

 「お兄様…。」

 

 

 「何だ?深雪。」

 

 

 「メリークリスマス…。」

 

 

 「ああ…、メリークリスマス。」

 

 

 

 水波の帰宅で二人きりの時間が終わりを告げるのだった。

 

 

 




ごわぁ!!

(吐血)

こ、これは~~!! 完全に甘すぎるだろ!!そして、夢オチ。ほーちゃんの達也と深雪をイチャイチャさせるというネタとくろちゃんのリア充撲滅ネタを取り入れた結果…。こうなりました。

明日ももしかしたら、クリスマス短編すると思います!



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クリスマス短編 皆でクリパ!!

今日も短編だ~~!! 主に同級生グループでの集まりになるね。
昨日の投稿文と最初はつながっている部分があるので、読んでみてね!


 

 

 

 

 湯気が顔から沸騰するように白い肌が真っ赤に染まった深雪は、普段通りにするべく、ちょっとだけ自分自身に魔法を使った。身体に回る血液を常温に冷やし、活発だった脈も正常の速さに戻す。上がり気味だった鼓動も落ち着き、達也とも会話できるようになった。しかし、未だに顔は見れずにいる。

 そこに、水波が帰ってきた。

 

 

 「遅くなり申し訳ありません、達也兄さま、深雪姉さま。ただいま戻りました。」

 

 

 「おかえりなさい、水波ちゃん…。あら?ドどうしたの?浮かない顔してるわ。」

 

 

 「あ、あの、本当に申し訳ありません!」

 

 

 突然頭を下げて、謝りだす水波の態度に深雪はどう声を掛けたらいいか分からない。買い物で遅れたからといって、ここまで謝る水波は初めてだ。だが、達也は水波がなぜ謝っているのか、知っていた。いや、知ってしまったと言うべきか。

 水波だけでない複数の気配を感じる事で…。

 

 

 「へぇ~! ここが達也君達の家ね~。ちょっと意外だったかな~。」

 

 

 「そうだよな~。達也たちの事だから、もっと大きくて豪華な洋館に住んでいると思ってたぜ…。」

 

 

 「ふ、二人とも…! 勝手に上がったらだめだよ~~!!」

 

 

 「柴田さんの言うとおりだよ、いきなり押し掛けるなんて礼儀がなっていない。」

 

 

 「あら~?そう言う二人も一緒にお邪魔してるじゃない?」

 

 

 「「あ…。」」

 

 

 「隙あり! …達也く~~~ん!! サプライズ訪問しちゃった~~!!驚いた~~!!」

 

 

 腕を引っ張って止めようとしていた二人から腕を解放し、リビングに現れたのは、疑いようのなく、エリカだった。その後にレオ、慌てて美月、幹比古の順で入ってきた。

 

 

 「ああ、驚いた。」

 

 

 「その割には、全然驚いた顔してないじゃん!?」

 

 

 「水波が敷地に入ってきた時点で分かっていたからな。初めは驚いたが、もう平気だ。」

 

 

 「……相変わらず、達也君にはサプライズは効かないようね。」

 

 

 「どうも。」

 

 

 「褒めてないって!!」

 

 

 達也がエリカに軽く言葉のお返しをして、レオ達に顔を向ける。

 

 

 「それで?いったいどういう事だ?」

 

 

 「いや~、今日はクリスマスだろ?休日だし、幹比古と色々遊び回って、解散しようかと思ったところに、重そうな荷物を持って、急いで帰ろうとする桜井と会ったんだ。」

 

 

 「だけど、桜井さんがガラの悪い男子に絡まれていたから、助けて荷物を持ってあげる事にしたんだ。」

 

 

 レオと幹比古の説明で、一瞬だけ水波を見ると、唇を噛み締めていた。日頃から深雪のガーディアンとして励むために鍛えている水波は既に成人男性を瞬殺できるほどの腕前だ。しかし、それを人通りが激しい場所でする訳にもいかないし、荷物もあったため我慢していたのだろう。それがこの事態になった始まりであるため、今更だが後悔する水波だった。

 

 

「それで、私と美月が鉢合わせして、水波ちゃんと一緒に来たわけ!」

 

 

 「ごめんなさい、達也さん。」

 

 

 悪戯好きな笑顔を浮かべるエリカとその対照的とも言える申し訳ないという顔をして謝る美月を交互に見て、達也は小さくため息を吐く。

そして、深雪と水波に視線を向け、苦笑しながら話す。

 

 

 「とにかく水波が無事帰って来てくれてよかった。ここでエリカたちを帰すのも悪いし、このままパーティーでもするか?」

 

 

 「良いですね、お兄様。 料理も多めに作っておりましたし、みんなでした方がきっと楽しいですから。ね?水波ちゃん?」

 

 

 「あ、はい…。深雪姉さま。」

 

 

 ここで帰すと、エリカとレオが意気投合して拗ねそうだったので、まだクリスマスパーティーを始める前でもあったし、エリカたちを誘った達也。達也の決定に深雪が逆らう事はない。ほんの少しだけ不服だったが、逆にさっきまでの気まずさに戻らなくてもいいと考える事で、甘い夢とも決別する。

 そして、水波も自分が招いてしまったことなのに、達也も深雪も咎める事はなく、エリカたちを歓迎するので、受け入れる事にした。

 それでも、せめてこの家にある四葉家に関する物には絶対に視界に入れないようにしようと肝に銘じる水波だった。

 

 

 

 

 

 こうして、達也と深雪と水波の三人で行う予定だったクリパは、突然の訪問で司波家を訪ねてきたエリカたちも急遽加わって、一気に賑やかになる。

 

 大きな七面鳥の肉をレオと達也は大食い競争をしたり、深雪達女子がどこから用意したのか、マイクを持って、カラオケする。

 

 そんな風景を傍から見ながら達也は、「たまにはこういう休日もいいかもしれないな…。」と笑みを浮かべる。

 

 

 「達也君!そんな所にいないで早く早く~~!!」

 

 

 「わかった、今行く。」

 

 

 「お~い、準備できたぜ!」

 

 

 「それでは、いきます。」

 

 

 「あら、何をしているの?水波ちゃんも早く来なさい。」

 

 

 「ですが、深雪姉さま。そうすると……」

 

 

 「タイマー機能がついているはずだ。それを使って入っておいで、水波。」

 

 

 「…分かりました、達也兄さま。」

 

 

 ガチッ

 

 

 

 「早く、よし! じゃあみんな~、行くわよ~!せ~~~のっ!!」

 

 

 

 

 「「「「「「「メリークリスマスっ!!」」」」」」」

 

 

 

 パシャっ!!

 

 

 

 達也たちの楽しそうな笑みを映した今日だけの記念撮影が一枚、見事に撮れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文章力が落ちてしまった。ごめんよ~。明日は、本編に戻るから~~!!


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ①

2月10日に芸遺作最新刊が発売されます!!いえ~~い!それにちなんで、新入生総代の三矢詩奈の個性を打ちの妄想で披露したいと思います!それほど長くはないので、お付き合いよろしくお願いします!


 

 

 

 

 

 

 

 

 達也たちは沖縄での任務を終え、ほのかと雫と一緒に久米島遊覧を満喫している中、話題が今年の新入生の話になった。

 

 

 「今年の総代は、また女の子なんだよね?」

 

 

 「そうよ。」

 

 

 「十師族なんだっけ?」

 

 

 「ええ。三矢詩奈さん。三矢家の末の御嬢さんよ。まだお会いしたことは無いのだけど。」

 

 

 「そうなんだ。だったら猶更、あまりゆっくりはしていられないね。」

 

 

 「そうね。残念だけど。」

 

 

 深雪がそう言った時、深雪だけでなくほのかも気落ちしたお顔をしていた。ほのかも生徒会役員だから、入学式の準備に取り掛かる必要があるからだ。

 

 

 「……とにかく、こっちにいる間はのんびりしましょう!海は少し早いですけど、私達が泊まっているホテルのプールで泳ぎませんか?結構広いんですよ!」

 

 

 気を取り直したほのかが、達也に迫っている。

 それを見ている深雪の表情から少し余裕がなくなってきた、と深雪と話をしていた雫は思った。

 そして、ほのかに迫られている達也は今回の旅行でかなり迫ってくるほのかの対処にどう向き合うべきが未だに思案しながら付き合うのだった。

 

 

 それから深雪とほのかの達也の取り合いが始まる訳だが、この時深雪もほのかも今年は更に波乱な新学期を迎えるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 一方、達也たちが沖縄で遊覧を楽しんでいる頃、神奈川県厚木に屋敷を構える十師族の一人、三矢家では達也たちの話題にもなった少女、三矢詩奈が先程届いた荷物を開け、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 「見て見て見て見て!! やっと届いたわ!第一高校の制服~~!!…どう?」

 

 

 「そうですか、俺も一応届きましたけどね。お嬢様と同じ第一高校の制服が。」

 

 

 「あんたの事はどうでもいいのよ!あんたは私の使用人なんだから!それよりも主人が”どう?”って聞いてるんだから、答えてよ~~!!」

 

 

 詩奈は傍に控えていた同じ年齢層である使用人に届いた荷物から制服を取りだし、その制服を自分の身体に当てて、似合うかどうか問いかける。それをざっと見た使用人の少年は、一回だけ頷くと、返答する。

 

 

 「いいんじゃないですか? ガサツな部分があるお嬢様を清楚に見せてくれる逸品だと思います。」

 

 

 「ちょっと!!何よ、それ~~!!生意気な口をきくんじゃないわよ!」

 

 

 「本当のことを言っているだけですが、何か?」

 

 

 「その減らず口が嫌なのよ~~!! もう、何でこいつが私の使用人なのよ~~!!幼馴染じゃなかったら、今頃クビよ~~!!」

 

 

 「その幼馴染として忠告しておきますけど、学校ではお淑やかにしておいた方がいいと思いますよ?少なくとも、あの人の前では…。」

 

 

 急に少年が意味深な言葉を口にしたかと思ったら、詩奈は顔を真っ赤にして、頭から湯気を出す。

 

 

 「う……、分かってるわよ…。あんたなんかに言われなくても、そのつもり!

  ……こんな事で嫌われたり、距離を置かれたりされるのは嫌だもの!だから…、くれぐれも学校では私に生意気な言動は振ってこないでよね!」

 

 

 「それはどうでしょうかね? 俺、基本お嬢様の近くにいますんで。」

 

 

 「しないでよね…?」

 

 

 「…………善処します。」

 

 

 詩奈が魔法を発動しようとCADに手を翳したのをみて、慌てて言葉を慎む。反論しなくなった使用人を見て、邪魔はしてこないと悟った詩奈は会いたくてしょうがない人物を思い浮かべ、スキップする。

 

 

 「ふふふ♥ ようやく私も一高生…!この日をどれだけ待ち望んできた事か…!

 

  早く、早く…、逢いたいですわ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……………司波、達也様~~♥」

 

 

 

 

 恋焦がれる主人の後姿をポーカーフェイスで見つめる少年は、しばらく夢から覚めないと踏んで、詩奈の私室を後にするのだった。

 

 

 




はい…、新入生総代の詩奈ちゃんを達也LOVEという設定にしてみました。そして詩奈の幼馴染を使用人にして、二人で入学するという、原作沿いの設定を知っている限りで披露してみました!


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ②

妄想の上でのストーリーなので、原作との違いとか比べるのが楽しみだったりする。


 

 

 

 

 

 

 二〇九七年、入学式。

 

 

 

 

 第一高校の門前にて、校舎を眺めるのは、今年の新入生総代の三矢詩奈。そしてその後ろで欠伸をしながら付き従うのは、幼馴染であり、詩奈の使用人でもある青年、美浦太一(みうらたいち)だ。

 詩奈は目を輝かせて、うっとりとした表情で校舎を見上げている。

 

 

 「ああ……、ついにこの一高へ通えるのね…!ずっと待ちわびていた高校ライフ~!! あの人と逢えるなんて~!!」

 

 

 「だからって、何もリハーサル前の自己紹介をするために、わざわざ予定の二時間前に来なくてもいいんじゃないですか?お嬢様。…俺、はっきり言って眠い。」

 

 

 「何よ、それでも男なの? 根性見せなさいよ!いつ何があるか、わからないから前もって行動することは別に悪くないでしょ?」

 

 

 「……ご立派な言い分ですが、せめてその顔で言うのはやめてくださいませんか?」

 

 

 「え? どんな顔? あ、可愛いって言いたいのね!」

 

 

 「いや、まるで遠足前の幼稚園児みたいにわくわく、そわそわで眠れずに目の下にクマを作っている顔ですね。」

 

 

 「えええええ~~!! そ、そんな~~!! 何でそんなの分かるのよ!? 出かける前にちゃんとファンデーションでクマを隠したのに…。香水もほんのりとしたのよ!?一睡もできずに夜が明けてしまいましたっていうのがバレバレだわ! 太一に見破られるんだもの。きっと達也様だってお見通しだわ!!」

 

 

 「…………大丈夫です、お嬢様。クマは見れませんから。俺の思い過ごしでした。」

 

 

 まさか自分の言ったとおりだった事に内心、少し驚く。しかし、幼馴染が故に大体の事は知っている。それを今更になって驚く自分に苦笑したくなる太一だった。

 

 

 「…本当に本当!?どこもおかしなところはない!?」

 

 

 太一に詰め寄って確認を取る詩奈は、大きな目を真っ直ぐ太一に向け、見上げる。慎重で言うと、太一の方が頭一つ分高いため、太一は詩奈を見下ろし、若干照れる。詩奈の上目使いには昔から弱い太一は、目を逸らし、返事する。

 

 

 「大丈夫ですって。ちゃんと決まってますよ。…ただし、頭の中身までは保障できませんけど。」

 

 

 照れ隠しに余計な事を言う太一の言葉は詩奈の耳にばっちりと伝わり、詩奈は頬を膨らませて、怒り出す。

 

 

 「もう! 何でそんな事言葉しか出てこないのよ! 私はトップの成績で合格したんだから!」

 

 

 「いや、そっちの方は保障できますよ?俺が言っているのは、こせ………うぐっ!!」

 

 

 太一は詩奈の肘を横腹にダイレクトに喰らい、悲鳴を漏らす。

 

 

 「今度生意気な事を言い出したら………、今以上の痛みを与えるんだからね?」

 

 

 心無い笑みを浮かべて、怒る詩奈に太一は命の危機を肌に感じ、口を閉ざす。………とりあえず今だけは。

 

 

 「そうね~…、早く来てしまったのはしょうがないわ。時間まで敷地内を歩いてみましょう。」

 

 

 そう言うと、詩奈は門を潜り、一高内へと歩いて行った。その後を横腹を手で押さえながら太一は付き従うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




達也に会いたくて、早く来てしまった詩奈。可愛いな~。そして、幼馴染の名前が分からないので、勝手に「美浦太一」にしてしまいました~。


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ③

さて、詩奈の願いを少し叶えてあげますかな?


 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと~~!! 太一!!何とかしなさい~!!」

 

 

 「俺に言われても、事態は変わりませんって。」

 

 

 「もう~~!!この役立たず~~!!」

 

 

 半泣きになりながら、太一に文句を言う詩奈。その詩奈が何をしているのかというと…、

 

 

 「どうしてこうも敷地内が広いのかしら!?御蔭で迷ったじゃない!」

 

 

 …道に迷っていたのだった。

 

 

 「お嬢様が先々と進むからですよ。好奇心旺盛といいますか、目新しい物には興味が尽きず、他が目に入らなくなる…。原因を申し上げるならこれですね~。」

 

 

 「ううぅぅ…。悪かったわよ、でも~…! 今はそれよりも早く生徒会室へ行かないと!!約束の時間に遅れちゃう!!」

 

 

 「ですが、その肝心の場所を把握できない状態ですよ?無闇に動いて更に迷子になるよりかは、通りかかった在校生に聞いた方がましだと思いますけどね。」

 

 

 「………本当にここを誰かが通るのかしら?」

 

 

 太一の言い分も頭では納得はしているものの、詩奈は気が気でならなかった。だって、迷子になってもうすぐ小一時間は経過しているのに、誰にもすれ違ったり、姿を見かけたりしていないのだ。今いる所は、樹木が覆い茂っている場所で、森のようなところだ。さっきから人とすれ違うかもと人工の道を歩いているが、一向に出会う気配がない。そんな状態で人と会うどころか、ここに在校生が通り過ぎるのかが怪しいものだ。

 疑問を詩奈に突き告げられた太一は自分でも心の中でそう思っていただけに言葉を詰まらせる。

 

 

 「……………通らないかもですね。今日は入学式ですから。限られた在校生しか学校に来てはいないでしょうし、ましてや新入生がこんな森っぽい所へ来るはずもないですしね。…物好きな人なら話は別ですけど。」

 

 

 「それは私のことを言っているのかしら?太一?」

 

 

 「さぁ?俺はあくまで一般論を言ってみただけですから?誰もお嬢様だとは一言も言ってませんからね?」

 

 

 「その口ぶりが怪しいんだけど…。はぁ~、もうこのやり取りも飽きたわ。」

 

 

 「お嬢様、どうしましょうかね?」

 

 

 「こうなったら、ひたすら歩き続けるしか…、太一がマップを持っていてくれてたらよかったのにね。」

 

 

 今更ながらそう呟く詩奈だったが、太一が肩をすくめて反論する。

 

 

 「そんな無茶を言わんでくださいよ。いきなり起こされて、登校する準備して、着いてきたんですよ?挙句にお嬢様の荷物も持っていたんですから。急かされて情報端末を持ってこれなかったのを怨みたっぷりで見つめられても困りますって。」

 

 

 責任転嫁をし合いながら来た道を引き返していた詩奈と太一だったが、まだ出口の見えない中で、徐々に詩奈の体力が削られていく。精神的にも余裕がなくなってきた詩奈はついに涙を流し始めた。それを隣から見た太一は、気まずそうな顔をしてあやしにかかる。

 

 

 「あの~…、お嬢様? 大丈夫ですよ、俺がいますから! そんなに泣かなくても…、不安なのは分かってますから。」

 

 

 「そうじゃないもん…。」

 

 

 「…え?」

 

 

 「確かに不安はあるけど、太一がいてくれているから大丈夫…!でも、私が少しくらい大丈夫だって、軽はずみに校内探索をしたばかりに達也様にご迷惑をかけてしまう自分が情けないのよ…! 折角達也様にいい女として見てもらおうと思ったのに、これじゃ約束も守れない親の名を騙るだけのただの身勝手な女としか印象を持たれないわ。

  そうなったら、私…どうしたらいいの?」

 

 

 涙を流し、後悔し、自分を責める詩奈の泣き顔に太一はぐっと自分の気持ちを固く持つために手の甲を強く抓る。そして痛みで理性を保ち、泣き続ける詩奈の頭をポンッと撫でる。

 

 

 「大丈夫ですって。 司波先輩はこれくらいの事でお嬢様を嫌ったりしませんよ!それに俺もお嬢様を止めずに一緒に探検してましたから。俺も一緒に謝ります。

  お嬢様がどれだけ頑張ってこの一高へ入学したか…、俺は知ってますから。」

 

 

 そう宥める太一の言葉に落ち着きを取り戻したのか、泣くのを止めた詩奈は、目に残る涙を手で拭い、まだぎこちないが笑みを浮かべる。

 

 

 「うん…、ありがとう、太一。少し元気出てきたわ…。」

 

 

 「いいえ、俺はお嬢様の使用人ですから。いつだって傍にいますよ?」

 

 

 詩奈と太一が顔を見合わせて微笑み合っていると、自分達が今まで歩いていた茂みから草が踏み付けられていく音が聞こえてきた。咄嗟に太一が詩奈を背中に庇う形で前に躍り出る。二人ともCADに手を翳す。ここは校内だという事は二人とも認識はしていた。そして校内では許可なしに魔法を発動してはいけない事も。しかし、茂みから現れるものが自分達に害するものだという可能性だってある。もしもの場合はやむを得ないが魔法を使う事も視野に入れ、戦闘態勢に入る。

 

 

 緊張した雰囲気を醸し出す二人の前に、茂みから堂々と現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やはりここにいたか、見つかってよかった。…三矢詩奈と、三浦太一で間違いないな?」

 

 

 「あ、あ、貴方は…!」

 

 

 突然の登場に詩奈は言葉が喉に引っかかって口パクを何度もする。そして太一も意外感が強かったのか、目を見開いて固まっている。

 そんな二人を見つめながら、本人達であると視て理解した一高の制服を着た男子生徒がそう言えば自己紹介してはいなかったと、二人の警戒心を和らげる意味も込めて、微笑を浮かべながら挨拶する。

 

 

 

 

 

 「俺は三年の司波達也だ。俺の事は知らないかもしれないが、生徒会に所属している。二人を迎えに来た。」

 

 

 

 

 

 まさかの達也の登場に詩奈は驚愕と感動と羞恥で顔を真っ赤にし、太一はただただ力が抜けた状態で立ち尽くすのだった。

 

 

 




詩奈の願いが叶いましたね。達也にいち早く会いましたがな。達也もヒーローのごとく現れたな~~。

これはこれは、面白くなりそうだ。


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ④

達也様~~!!助けて~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 「た、達也さ……、司波達也先輩ですか? お目に掛かれて光栄です。私、三矢詩奈と申します。こちらが、私に仕えている…」

 

 

 「美浦太一です。以後お見知りおきを。」

 

 

 「ああ、よろしく。」

 

 

 達也の自己紹介を聞き、慌てて背筋を正し、令嬢らしく詩奈がお辞儀し、挨拶する。それに続いて太一も挨拶する。

 太一が自己紹介をするのを顔を向けて達也から目を逸らした詩奈はその一瞬の間に涙を振り払い、淑女の笑みを浮かべる。達也の方へ再び顔を向けた時には、不安などは一切感じさせなかった。その切返しの速さに達也も心の中で頷き、好印象を受けるのだった。

 

 

 (この子が三矢家の末の令嬢か…。 教養もしっかりと受けているようだな。これなら深雪とも息が合う先輩後輩に慣れるかもしれないな…。それよりも、気になるのはこの少年か…。)

 

 

 詩奈に向けていた視線を一瞬だけ太一の方へ向けた達也は、突き刺さんばかりの視線を投げてくる太一を見返す。

 

 自己紹介し終えた後、ずっとこちらを見てくる太一の窺い見る眼差しに達也もまたずっと気づいていた。だが、あまり好印象とは言えないまるで疑っているような感情が込められた視線は、達也にとってはお馴染みの視線なので、軽くあしらう程度しか思っていない。

 

 達也の振る舞いは堂々としており、億さない姿勢をしていた。

 

 それを肌で感じ、太一は初対面でありながらも気が抜けない相手だと思うのだった。

 

 

 そんな達也と太一の言葉にはならない緊張感が行き交う中、達也と逢えた事で頭の中がいっぱいになっている詩奈はその気持ちを知られないように自分を押さえつつ、話かける。

 

 

 「先程は失礼な態度をお取りしまして、申し訳ありませんでした。それと、私達を探してくださっていたのですね? それも重ねて申し訳ありませんでした。」

 

 

 「いや、気にする必要は無い。君達が登校している事は既に校内の監視カメラの記録から遡って知っていたからね。その記録を辿って、君たちを見つけられてよかった。」

 

 

 「そうだったのですか…。私達、情報端末を持っていなかったもので。」

 

 

 「そうか…、なら生徒会室に呼びの情報端末があるから、今日はそれを貸してあげよう。…その前にまずはこの演習林から抜け出そうか?」

 

 

 「はい…!」

 

 

「美浦君もついてきなさい。」

 

 

 「……よろしくお願いします。」

 

 

 詩奈と太一の感情の起伏の差は明らかだったが、そこには触れずに達也は二人を連れて出口へと歩き出す。

 

 その背中を追って歩く太一は、警戒心を捨てきれずにいた。

 

 

 対して、詩奈はというと。

 

 

 (ピンチの時に助けに来てくれるなんて、まるで王子様そのものだわ~~!夢にも憧れた王子様との出会いのシチュエーション~~!! これは運命の出会いっていうのかしら?そうよ!絶対そうよ!!

  やっぱり私、達也様を諦めるなんてできないっ!絶対に私の夫になってもらうんだから!!)

 

 

 …とメルヘンな思想を抱いたお姫様気分を満喫するのであった。

 

 

 

 

 

 




忙しくてギリギリになってしまい、申し訳ありません。

太一はなぜそこまでして達也に警戒しているのか…。それもまた明らかになる時が来るでしょう。
そして詩奈…、深雪と達也との婚約の事、知っているのか?


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ⑤

せめて火花が散る前に終わらせよう…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也の先導により、ようやく演習林から抜け出した詩奈と太一は、ひとまず安どのため息を漏らす。ずっと緊張状態が続いていたため、校舎が見える場所まで出てやっと自分達が危機を脱したと思えたのだ。

 

 

 「一時はどうなる事かと思いましたが、無事に脱出する事が出来て何よりですわ。これも達也さ……、司波達也先輩のお蔭ですね!」

 

 

 詩奈の反応に達也は「感謝されるようなことはした覚えはないんだがな」と詩奈たちの救出をそれほど深く考えていなかっただけに、詩奈の熱意を持て余していた。…熱意と言っても達也にとっては、先輩に向ける尊敬のものだろうと受け取っていたが。

 

 

 「ああ…、いや、それほど大したことはしていない。それよりも、悪いが式まで少し時間が押している。生徒会室で打ち合わせをする予定でもあるし、少し急ぐが、構わないか?」

 

 

 「もちろんです!」

 

 

 自分達が迷子になっていた事で、時間が迫っている事に気づき、力いっぱい返事する。

 

 詩奈の返事を聞いて、太一も頷く。二人の了承を確認した達也は、一瞬視線を外したが、意を決したような顔を見せると、詩菜を抱いて走り出す。

 

 

 「え!?」

 

 

 「!!」

 

 

 突然の事で詩奈は目をぐるぐるさせ、動揺を露わにする。同じく太一も驚愕しながら、達也の後を追う。そして驚愕の後は、ただひたすら達也に怒りを込めた視線で睨み続けるのだった。

 

 

 詩奈はこの状況をどう処理すればいいのか、熱っぽくなった頭で考える。

 

 

 いわゆる”お姫様抱っこ”をしてもらっている詩奈。メルヘンな思想を持っている詩奈にとってはまさに夢心地とも言える。それに、詩奈は達也にお姫様抱っこされるのをずっと願っていたのだ。このような形で叶うとは思わなかったが、実際に自分の方と太腿の裏に大きな男性の手が抱えて、揺れなどを一切感じさせない丁寧な抱っこをしてくれている達也の手の感触を全神経を集中して感じ取っているし、更に達也に恋心を抱く。

 

 

 「三矢さん、悪い。 後で小言は聞くから、今は生徒会室へ行く事にだけ集中させてくれないか?」

 

 

 「……ええ、…結構ですよ?」

 

 

 顔を赤らめ、羞恥に塗れる顔面を手で隠しつつも、視線は時折達也の横顔を拝む詩奈。

 

 

 (小言なんてそんなことしません!!むしろ、抱いてくれてありがとうございますわ!!これで今日は達也様の夢を見ながら眠る事が出来ます!

  もう…、幸せすぎてこのまま達也様の腕の中で気を失いたい…♥)

 

 

 完全に萌えている詩奈を微動だにせず運び続ける達也は、校舎に入ると早歩きになって、廊下や階段を歩く。

 

 

 そしてついに生徒会室の前に着いた後、生徒会室への入室のベルを鳴らすのだった。

 

 

 『…はい、あ、達也さん!………え?』

 

 

 ドアの先で激しい動揺を見せる気配を感じた達也は、一刻も早く入れてもらうために口を開く。

 

 

 「ほのか、入れてくれないか?」

 

 

 『はい…! どうぞ、たつやさん。』

 

 

 ロックを解除する音が鳴り、ドアが開く。その開いたドアから身体を滑らせ、達也は生徒会室へと戻ってきたのだった。

 

 後ろには太一が不機嫌を隠そうともしない態度で入る。

 

 

 そして…、詩奈は達也にお姫様抱っこしてもらったまま、入室する。

 

 

 

 この思いがけない事態に生徒会室にいた当事者を除く全員が驚きを見せる。

 

 

 そして、次には寒さを感じるのだった。

 

 

 




達也にお姫様抱っこか~~!!良いな~~!!してもらいたいものだ!!

でも、この後、ブリザードになったりしないよね?


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ⑥

前回は深雪の目の前で、後輩をお姫様抱っこしましたからね~。どうなるでしょうね~。やっぱり、氷漬けになる…、のかな~。


 

 

 

 

 

 

 

 「達也様、お帰りなさいませ。ところで、いつまで抱いていらっしゃるおつもりですか?」

 

 

 達也がお姫様抱っこしている衝撃に固まっていた生徒会。その中で深雪が初めに復活し、驚愕の色から嫉妬の色へと変わり、口調や声色、表情は笑っていたが、生徒会室の温度だけはやけに寒かった。

 突然の室内の温度の低下に詩奈は事象干渉力の高すぎる深雪の魔法に感嘆しつつも、白い息が見えるほど寒くなってきたため、身体を小さくする。太一も寒かったが、上着のボタンを外し、詩奈に渡そうとする。しかし、ここは達也が迅速に対応する事で、心配はなくなる。

 

 

 「深雪、落ち着きなさい。」

 

 

 詩奈を優しく下ろした後、右手を上げ、何かを払い去るような仕草をする。すると、室内を襲っていたいような寒げは嘘のように消えていた。

 

 下ろされて、少し拗ねていた詩奈は、深雪の魔法を止めた達也の未知の魔法に仰天し、また尊敬の念を向けるのだった。太一は、達也が深雪の方へ歩み寄ったのをこれ幸いと思ったかはわからないが、すぐさま詩奈の傍らに近寄り、気を引き締める。

 

 

 「落ち着いたか? しばらくはコントロールもできていると思っていたんだがな…。」

 

 

 「申し訳ありません、達也様。その…、達也様が彼女を運んでおりましたので、動揺…、してしまいました。」

 

 

 達也に頭を撫でられながら、嫉妬した理由を告げる深雪。目を逸らし、はにかんで言う深雪は、傍から見れば告白シーンに見えるほどだった。そしてもう一人の当事者である達也は、深雪が魔法を無意識に発動させた理由が自分にあるという事を知り、罰が悪そうに苦笑して、更に優しく撫でながら、深雪に謝る。

 

 

 「悪かった。御前の気分を害するようなことをした俺が悪い。 ごめん、深雪。」

 

 

 「いえ!達也様が理由もなく、このような行動をされたのではないと深雪は信じておりますから!」

 

 

 「知っておりますから!」ではないのは、深雪自身もまだ達也が抱き上げたかったという浮気心があったのではないか?という疑念が捨てきれないためなのかもしれない。

 それは深雪だけではなく、ほのかもさっきからずっと達也へ潤んだ瞳を向けて、詩奈と何もない事を否定してほしいと願っていた。

 水波もまた深雪が暴走してしまうのは勘弁だと、達也の言葉を待っている。泉美は深雪の心を掻き乱した挙句に、それでもまだ愛されている達也へ嫉妬というより憎悪に近い感情を乗せた眼差しを向け、耳を澄ましている。

 

 達也は、室内の自分に対する圧迫した空気を否応なく思い知り、ため息を吐き出したいのを堪え、弁明をする。

 

 

 「深雪、お前の心配するようなことは無い。三矢さんを運んだのは、式が始まるまでの間に打ち合わせを終わらせておきたかったから、その時間を確保するためだ。

  後は……」

 

 

 そう言って、一度言葉を切ると、詩奈を見てから水波に顔を向け、話しかける。

 

 

 「水波、悪いが三矢さんに治癒魔法をかけてやってくれ。」

 

 

 「「「え?」」」

 

 

 「…………なんだって。」

 

 

 「……畏まりました、達也様。」

 

 

 達也の命を受け、詩奈に近づき、達也の方を見ると、達也が足元へ視線を移したので、水波も詩奈の足を見る。

 

 

 「申し訳ありませんが、失礼します。」

 

 

 「え、え? あ、だ、大丈夫です! 私、怪我なんて…、いっ!」

 

 

 短い悲鳴を上げる詩奈の顔は少し痛そうに歪む。水波が詩奈の足首を触ったからだ。詩菜の表情を見て、太一は目を丸くし、すぐに眉をひそめる。

 

 

 「これはかなり強くひねってますね。これは相当痛いと思いますよ? ここはやせ我慢するより、治癒しておきましょう。 …ここは達也様の言うとおりに。」

 

 

 「………はい。」

 

 

 「達也の言うとおりに。」という水波の言葉に押され、観念した詩奈はずっと我慢していた足を差し出し、大人しく水波に治癒魔法をかけてもらった。

 その傍らで、達也が深雪に途中だった弁明を再開する。

 

 

 「彼女がどうやら足を怪我していたからな。 歩くのはこれ以上無理だと思って、抱きかかえていたという訳だ。」

 

 

 「そうだったのですね、さすが達也様です! 」

 

 

 「ああ、だから深雪の考えていた”浮気”じゃないからな?」

 

 

 「!! …み、深雪はそんな事一度だって思っていませんよ?」

 

 

 人の悪い笑みを浮かべ、からかう達也に頬袋を作って、抗議する深雪はいつの間にか仲睦まし気な雰囲気を作り、そうはさせまいとほのかが意を決して向かって行き、二人の攻防を水波に治癒してもらいながら、羨ましいのと悔しいのが混じり合った視線を向ける詩奈だった。

 

 

 




実は怪我していた詩奈を労わって姫抱っこしていた達也。カッコいい~~!!
でも、ブリザードは起きたな…。


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ⑦

誤解は解けたものの、深雪と詩奈の挨拶…、どうなる事やら。


 

 

 

 

 

 

 

 

 達也の浮気疑惑?はなんとか誤解だと分かり、生徒会室内は一段落した空気に包まれる。そしてそんな中、深雪が詩奈に目を向け、歩み寄る。詩奈も水波の手当がちょうど終わり、優雅に椅子から腰を上げると、自ら深雪へと歩み寄る。お互い歩み寄り、人一人分が入れるほどの距離を保つと、笑顔を浮かべ合う。

 

 二人を見守っていた他の面々は、まるで西部劇での決闘を固唾となって見守る気分を味わっていた。

 

 それくらいのまた違った空気へと変えた深雪と詩奈の見つめ合いは、深雪が先に動いて終了する。

 

 

 「おはようございます。初めまして、三矢さん。第一高校生徒会長の司波深雪です。」

 

 

 「おはようございます。初めまして、三矢詩奈です。お見知りおきを。」

 

 

 にっこりと笑い掛ける深雪に対し、表面上は笑顔で返す詩奈だったが、内心は闘争心や嫉妬を感じる瞳をしているのは明らかな雰囲気を纏っていた。

 

 

 (この方が、四葉家の次期当主、司波深雪…。そして達也様の婚約者…。やはり強敵ですわね…!)

 

 

 深雪と真正面で対峙している詩奈は背中に嫌な汗を掻くのを肌で感じながらも、意思を折らせまいと身体から沸き起こる恐怖とも闘いながら、目の前の深雪を見定める。

 

 なんといっても、深雪は四葉の後継者。そして、達也も。

 

 『四葉家は十師族の中でも突出した存在であり、他の十師族とは別格…、別格過ぎる。絶対に敵を回しても、怒りを買う真似もしてはいけない…。』既に成人している兄や姉が自分にそう言い聞かせてきた。だから四葉家を軽んじてはいけないと幼少時からの教えで学んでいる。だが、達也が四葉の人間だと知った時、既に詩奈は恋に落ちていた。九校戦を鑑賞していた時、達也の見せる技術や作戦、そして戦いぶりが詩奈の目には王子様にしか見えなくなるくらい、、魅力的だった。

 それからはひっそりと思いを育んでいたが、達也が四葉家の人間だと知り、意外感もあれど、納得もした。そして同じ十師族なら結婚もできると嬉しさに満ち溢れた。

 …だけどそれはほんの一瞬の事。同時にもたらされた深雪との婚約を知り、絶望した感覚を今もなお覚えている。それでもまだ想いを告げる前に、闘う前に負けを認めるなんてできなかった。それならと、詩奈は猛勉強をし、生徒会入りができるように新入生総代を狙い、その目標が達成できた。これで、正々堂々と同じテリトリーでアピールできる…。

 

 

 「では、入学式の打ち合わせを行いましょう? いいかしら?」

 

 

 「はい、問題ありません。よろしくお願いいたします。」

 

 

 いよいよ深雪という恋のライバルと達也を巡って闘う事に深呼吸をして、席に座る。先程見た深雪の乱れた様子で、ますます四葉家の恐ろしさを上乗せさせるものとなったが、同時に恋する女性らしい姿も見れ、自分と変わらないところもあると観察するのだった。

 

 

 (人間らしい部分を見て、ほっとした~。でも、例えあの四葉家の直系であったとしても、やはり達也様に私の事を知ってもらえないまま、『好き』と言えないのは、嫌です!だから、深雪先輩!私は負けません!!)

 

 

 改めて達也への気持ちを実感し、心の中で深雪とライバル認定した詩奈は、入学式の打ち合わせに真剣に耳を傾け、流れを確認するのであった。

 

 

 




四葉の直系だと知り、恐れを抱きながらも捨てきれない恋心…。詩奈が本気モードで挑みにかかります!
それを深雪も女の勘で理解している事でしょう。そして二人の熱きオーラで隠れていましたが、もちろんほのかもいますから!
あと、原作発売まで3日。残り2回でうちの妄想詩奈ちゃんは完結させるので、よろしくお願いしますね!


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ⑧

達也じゃなかったら、胃を痛めるんだろうな。…乙女の激戦に巻き込まれて。


 

 

 

 

 

 

 

 「…はい、答辞の内容はこれで問題ありません。」

 

 

 「ありがとうございます、深雪先輩。」

 

 

 「うん、詩奈ちゃんらしかったですよ。深雪お姉さまに褒められたのだから心配はいりませんわ!」

 

 

 「う、うん…、ありがとう。泉美ちゃん。」

 

 

 入学式での打ち合わせも済み、気楽なムードが流れる。そしてそれまで上級生として振る舞っていた泉美が詩奈に話しかける。同じ首都圏内に住んでいるし、年齢が近い事から昔から交流を持っていたのだ。いつものように接してくる泉美にほっとした詩奈だったが、やけに深雪の事に執着を見せ、我を忘れている様を目撃してしまい、虚を突かれた感じを受けた。しかし、達也のいる場所でみっともない姿を見せる訳にもいかず、己の精神力をフルパワーで発揮し、笑顔をキープするのに成功するのだった。

 

 

 「それでは、そろそろ会場へ行きましょうか。準備も必要ですので。」

 

 

 「そうだな、既に幹比古も会場に来ているだろうし、警備の事で話しておきたい事もあるからな。」

 

 

 「は、はい! 私もよろしければお手伝いいたします。」

 

 

 泉美が深雪へ提案したのを、達也が汲み取り、それを更に詩奈が答える。泉美は不本意だと言わんばかりに達也を睨むが、深雪の顔色を窺ってみると、曇っている表情をしていたので、思わず凝視してしまう。

 

 

 「深雪お姉さま?」

 

 

 「…お、…達也様。入学式の準備は私共が先にしておきますので、達也様は少しばかりこちらでお休みになっていてください。少々お疲れの御様子だとお見受けいたしました。」

 

 

 突然、達也にそう言いだした深雪にこの場の全員が絶句した。しばらくして達也が口を開く。

 

 

 「問題ない。深雪に仕事を押し付けるほど疲れてはいないさ。」

 

 

 それは安易に「疲れている事を認めている」ような言い草だった。

 

 

 「ですが、今朝は早くから登校しての準備や見回り等をされておりましたし、いくら達也様でもご無理はよくありません。幸い、まだ式まで時間はありますし、吉田君との打ち合わせは今すぐでなくても大丈夫ですから。…お願いします。」

 

 

 心配する表情で、上目遣いでお願いする深雪。その仕草は深雪の美貌を更に魅惑的にし、泉美だけでなく、ほのかも水波もそして、詩奈も見惚れるほどのものだった。

 

 

 (…これが魔性の女の魅惑なのね。確かに…、これは威力あるわ。…勝てる感じがしない)

 

 

 妙な敗北感を感じた詩奈は、深雪のお願いを達也が断るとは到底思えなかった。そしてそれは正しかった。

 

 

 「……わかった。十五分だけ少し休憩させてもらう。時間になったら、会場に直行する。それでいいか?」

 

 

 「はい、大丈夫です。…私の我が儘を聞いていただいてありがとうございます、達也様。」

 

 

 「別に我が儘だと思っちゃいないさ。深雪が俺の身を案じて言ってくれた事は分かっている。寧ろお前を不安にさせてしまった俺が悪かったな。」

 

 

 「そ…」

 

 

 「あ、あの!」

 

 

 達也と深雪が二人の世界を作りだそうとしているのを、直感で妨害しないとまずいと感じ取った詩奈が会話に入り込む。

 

 

 「わ、私、実は朝食を食べずに来てしまって…。こちらの庭とかで食べようと思っていたんです。もしよろしければ、一緒に食べませんか?」

 

 

 そう言ってピクニックとかで持ち運ぶ籠を取りだし、中から多彩なサンドイッチを取りだしてきた。それを見て、泉美が顔を輝かせる。

 

 

 「わぁ~、詩奈ちゃんのサンドイッチです! 私、大好きなんですよ!」

 

 

 「こちらは、三矢さんがお作りに?」

 

 

 「はい、私、お菓子とか料理とか、作るのが好きなので。良かったらどうぞ?司波先輩♥」

 

 

 深雪に話しかけられていた詩奈は、サンドイッチを取りだすと真っ先に達也に渡した。それを達也は受け取り、食べる。

 

 

 「…美味い。ありがとう、三矢さん。」

 

 

 「あ、有難うございます!!」

 

 

 達也から褒められて、湯気が上がりそうに顔を真っ赤にし、喜びを噛み締める詩奈をジト目で見る深雪とほのか。そしてサンドイッチを物欲しそうに見つめる泉美であった。

 

 

 




泉美がなんだか香澄っぽくなった気がする。それにしても、詩奈がサンドイッチを武器に仕掛けてくるとは。
そう…、詩奈が早く登校したのは、こういった意図を望んでの事。しかし、同是食べるなら天気も晴れているし、庭やベンチで食べようと場所探し&探検をした結果、迷子になったという訳ですよ!

いよいよ明日でうちの詩奈が終わります。原作と見比べてみて、どう違っているか…。今からでも楽しみだな~~。


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乙女合戦の幕が上がりますっ! ⑨

今日でうちの詩奈ちゃんの話が完結します!!

そして明日は原作発売~~!!

今日のニコ生放送なんとか入り込んで達也様を拝む事が出来ました!


 

 

 

 

 

 

 

 

 思いもかけずに達也と二人きりで少し遅めの朝食を食べる事も出来た詩奈は、食べ終わった後、一緒に会場へと向かう。隣で歩く詩奈の歩幅に合わせて歩いてくれる達也に大人な雰囲気を感じた詩奈が夢心地だ。

 

 

 (ああ…、もう幸せすぎて答辞が上手く頭に入ってこないかも…!)

 

 

 恋する乙女の気持ちと新入生総代として、また十師族に名を連ねる者として、恥を掻いてはいけないという緊張とが詩奈の心の中にせめぎ合っていた。

 

 

 「大丈夫だ。答辞といっても、三矢さんがこの学校で何をしたいかをありのまま話せばそれで終わりだ。何も深く考えて語るものでもない。…それに大半は答辞の内容にはあまり気にしてはいないさ。」

 

 

 詩奈が緊張していると分かったんだろう。達也が前を向きながら詩を励ます。途中から口調が強すぎたと感じた達也は、意識して口調をほんのりと柔らかくしてみる。

 

 

 「そうなのですか?」

 

 

 「ああ…、答辞っていっても、さほど時間はかからないし、入学式の項目の中では最もシンプルなものだろうな。」

 

 

 詩奈の緊張を解すために不安要素等をさりげなく低くしていく達也の言葉に詩奈は笑いを堪えられず、溢す。詩奈の笑い声を聞き、達也が顔を向けてくる。

 

 

 「何か可笑しな事でも言ったか?」

 

 

 「いえ、何も。…司波先輩のお蔭ですっかり元気になりました。もう大丈夫です。ありがとうございます。」

 

 

 「そうか、困ったことがあればできる限り力にはなる。…舞台裏から俺達がついているからな?」

 

 

 詩奈の子犬のような視線で尊敬と嬉しさを大量に向けられた達也は言わなくてもいい事まで口に出す。それほど達也にとって好意的な視線に対する反応に弱いのだ。そうとは知らない詩奈は、達也が言った「俺達がついている」を「俺がついている」と都合の良い聞き間違いをして、違う意味でのはりきりを見せ、達也がそのはりきりを答辞に向けた意気込みだと勘違いさせたまま、入学式が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 「それではお疲れ様でした。御先に帰らせていただきます。」

 

 

 「はい、気を付けて帰ってくださいね?」

 

 

 「お気遣いありがとうございます、深雪先輩。」

 

 

 入学式が終わり、詩奈は深雪達と別れて、一人で門まで歩く。

 

 本当は達也と一緒にいたかったので、自分も手伝うと申し出たが、先程足をくじいてしまった事もあって、今日は大事を取って帰るように打診されたのだ。…その打診したのは達也だったが。

 治癒魔法をかけたとはいえ、連続して魔法を行使しなければ完全には治らないのは詩奈も分かっている。入学式の間も効果が切れ始める前に水波に治癒魔法をかけ直してもらっていた。この事実から手伝うどころか足を引っ張ると理解したため、今日はこれで帰る事になったという訳だ。(しかし一番の効力はやはり達也から打診を受けた事は間違いない)

 

 

 「お嬢様、お疲れ様っす。」

 

 

 それで、門まで歩いてきた詩奈だったが、不意に後ろから声を掛けられ、悲鳴を上げそうになった。しかし、唾を呑み込んで間一髪で踏みとどまる。そして振り返って知っている顔が目に入り、ほっと息を溢しながら文句を言う。

 

 

 「もう…、後ろからこっそり話しかけないでよ。太一!」

 

 

 「すみませんでした、お嬢様。答辞…、決まってましたね。良かったですよ。」

 

 

 「当たり前じゃない…! そのために一生懸命原稿を書いたんだから!」

 

 

 褒められて嬉しかった詩奈は目を逸らし、拗ねた表情で頬を膨らませる。しかしその口元は緩んで嬉しさを隠しきれていない。太一はいつものデレる詩奈の顔を見て、笑い出す。

 

 

 「そうですね、お嬢様が夜を充血させて眠たいのを必死に堪えながら何度も書き直して最終的に机で寝落ちするというまるで受験生の猛勉強ぶりをしたんですからできて当然でしたね。」

 

 

 「結局馬鹿にしてるんじゃないっ!!」

 

 

 自分がからかわれていたと気づいた詩奈は、怒って先を進みだす。それを未だに笑いながら太一が後を追う。

 

 

 「ついてこないでよ! しばらく太一の顔なんて見たくないんだから!」

 

 

 「そう言っても仕方ないでしょう、お嬢様。俺の家はお嬢様と同じですし。それに足を盛大にくじいて今もやせ我慢しているお嬢様を放っておいたら俺がこの高校に入った意味も使用人である意味もなくなりますって。」

 

 

 そう言いながら、詩奈を軽く抱き上げた太一はそのまま最寄駅まで歩き出す。

 

 

 「ちょっと!!太一!下ろして!」

 

 

 「怪我人は黙って人の言うこと聞いてくださいよ。それともこのまま家に帰るまでやせ我慢した結果、更に足を痛めて痛がって情けない顔をしたままあの人に会う気ですか?」

 

 

 「…………」

 

 

 太一が誰を指したのか、言われなくても理解した詩奈は暴れていたのに動きを止め、沈黙する。そして、太一を見上げて羞恥を感じたまま、詩奈が太一にお願いする。

 

 

 「じゃ…、お願いします。」

 

 

 「………はいよ、お嬢様。」

 

 

 詩奈が誰のために公共の場で姫抱っこされるのを我慢しながら、自分に運ばれているのか…。その理由を頭を振り絞って考えなくてもいい分、太一には心が曇る感覚を与えるだけであった。

 

 

 元々、太一は数字落ちした一族で”三浦”が本来の苗字だった。しかし、禁忌を犯した事で剥奪され、訳あって三矢家に主従関係を契約しているのだ。そして太一は魔法の才能が著しく低いため、詩奈と一高には入れたものの、二科生としての入学となった。

 

 使用人としていつも詩奈を護れるように…。そう思って今まで特訓もしてきた。そして年の近い詩奈と過ごす内にいつしか詩奈に恋心を抱くようにもなった。だけど、気付いたら詩奈は達也に好意を抱くようになり、以前と同じなのに、どこか寂しくもあり、悔しくもあった。

 

 

 そんな気持ちで初対面した今日、太一は詩奈の想い人である達也と対峙して、「こいつは危ない。…詩奈を譲っては駄目だ…!」と今まで隠してきた想いに火をつけたのだった。

 

 

 「…俺も負けていられねぇ~。」

 

 

 こそっと呟いた太一の秘めた決意は、詩奈の耳には入らず、風に乗って消えていく。ただし、その風は太一の想いを更に強くするものとなった。

 

 

 

 一方で、詩奈も今日の経験から、深雪だけでなく、ほのかも恋のライバルだと知り、更に増えるであろう達也を巡るライバルに負けられないと更なるアピールをする事を決意し、帰ったら早速お菓子作りをしようと計画を練るのであった。

 

 

 

 この二人の決意が乙女合戦の幕を上げる一年になるのは、明白。

 

 

 「今年こそは、面倒事に巻き込まれなければいいが」と願ってもいる達也の希望は、今年も消え失せる事は言うまでもない…。

 

 

 

 




はい…、これで詩奈ちゃんの話は終わって、再びアイドルストーリーに戻ります!

さて…、いよいよ明日原作が発売されますからね~、どこまで当たっているか、実際の詩奈と幼馴染がどういった関係なのか…。比べてみるのが楽しみだぜ!



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マギクス・ファンタジー・クエスト Ⅰ
 ~序章~


 やっと、この時が来た~!!

 これを投稿できることに感謝!!

 それでは、楽しんでいただけたらと思います。どうぞ!!


※この話は、ゲーム「魔法科高校の劣等生 スクールマギクスバトル」でのプレイ仲間を主体に登場させています。原作命!という方はお控えください。


 ここは、魔法が当たり前に存在する世界。

 

 『魔法』は画期的な文化として根付き、年々研究者によって生み出されつつあった。

 

 その魔法も『魔法式』という記録にまとめることで、売り買いもされ、誰でも使用で

 

 きるようになった。そして今では魔法は生活する上で必需品となっていた。

 

 

 

 そんな世界を支配する国が、『イレギュラー帝国』。

 

 物資も軍需も魔法も圧倒的で、瞬く間に世界をその手に治めた。

 

 その大役を果たし、今なお、国の繁栄を極める国王の名は、ウンエーイ。

 

 彼は、更なる帝国の軍備強化・魔法発達のため、『魔法師ギルド法』を制定した。

 

 

 『魔法師ギルド法』

 

 

 魔法を使う事で仕事する組合(ギルド)を創設・運営を認める法だ。

 

 これにより、国全土に魔法師達が歓喜を挙げ、どんどんギルドを立ち上げていき、

 

 数々の依頼を受けるようになった。

 

 しかし、これはほんの腕試し程度で、魔法師達の目的は別にあった。

 

 

 

 それが、「魔法試合」だ!

 

 ギルド入会を条件にギルド同士で戦う魔法競技。この試合に勝利すれば、報酬がもら

 

えるし、参加するだけでも最低限の報酬はもらえるのだ。生活の足しになるし、魔法力

 

も高められるしであっという間に魔法師の登竜門となっていった。

 

 

 

 

 

 

 そんな繁栄の道をたどる帝都マギカサのとある店の奥部屋にて…話し声がかすかに染み渡っていた。

 

 

 「どうだ、うまく進んでいるか?」

 

 「はい、お陰様で、順調に物事は運んでいます。さすがはこの帝国にはん、」

 

 「おまえはいつも軽口をたたくな…。私が何のためにここまで足を運んできたか忘れた

 

  というのか?」

 

 「いえ、そのような事は。」

 

 

 部屋には中央に部屋の半分を占めるであろう大きさの円卓が置かれており、そこには1本

 

 のろうそくだけが存在をゆらゆらと主張していた。その明りで映し出されるのは、その

 

 円卓を正面で向き合っている二人の人物の手だけだった。二人とも、さほど変わらない

 

 手をしており、逞しい男の手をしている。ただ違うところがあるとすれば、ろうそく

 

 の火で淡く、そして眼光のような輝きを放つ黄金の指輪をしているかの違いだけだ。

 

 

 「ただ、英知溢れる御身に仕えられるこの喜びを、尊厳を、お伝えしたかっただけなのです。」

 

 今にも興奮し、声を荒が得たくなるような息遣いを交えたその言葉にもう一人の男はただ無言を貫いた。

 

 いや、言葉は発さなかったが、この明かりが部屋の隅まで行き届いていない空間でも 

 肌にも感じる鋭い悪寒を剣で貫かんばかりに投げていた。

 

 しかし、当の投げられた本人はそれを楽しむか如く、この場では似づかわしくない

 

 愉快な含み笑いをした。

 

 

 「……時間だ。 私は戻るとする。くれぐれも気を付けることだな。」

 

 そういうと、席を立ち、扉のほうに雄々と歩いていき、どうやって開けたのか、物音もなく、部屋を後にした。

 

 残された気さくな男はこれから起こるであろう出来事に不敵な笑みを醸し出した。

 

 

 

  

 

 




 うん、初めての投稿。緊張した。

 序章ということで、説明書きになっちゃったかもだけど、許してね!


 次回は主人公登場するよ!


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旅立ちの時


 さあ、前から練っていたこのストーリー、皆のためにも楽しく、笑いありでやっていくぞ!!


では、どうぞ!!


 

イレギュラー国はいくつもの部族が集合して出来た連合国。

 

そのうちの一つであるシズク族は他部族にはないほどの膨大な財力を持つ一族である。

 

帝都に人気の商店を多く出店し、さらに国営施設への多額の寄付金を行っているために、他部族より領土が広く、一人当たりに屋敷を一棟の所有が当たり前なのだ。

 

 

そんなシズク族の領外れにある丘の上の屋敷からにぎやかな声が広がっていた。

 

 

「くろ、お誕生日おめでとう! 立派に成長してくれて、パパ、感激だよ。」

 

「ウシオ君。はしゃぎすぎですよ。 くろ、お誕生日おめでとう。」

 

「お姉さま。お誕生日おめでとう、ございます! 僕、お姉さまの誕生日、お祝いできてうれしいです!」

 

家族からの祝言を受けた、今日が16歳の誕生日であるくろちゃんは嬉しさのせいか、身体が小刻みに震えていた。

 

「ありがとうございます。これも父上、母上、ワタル、そして従業員の皆様方のおかげです。」

 

従業員達が壁に張り付いているかのように微動だにせず、立っているため、いつもの気さくで、優しく温かみのある彼らを知るくろちゃんは、彼らの仕事に対する姿勢を尊重する思いで、少し堅苦しいあいさつになってしまった。

 

まあ、たとえ、いつも通りに気楽にしたとしても、家族全員、従業員を家族同然のように暮らしているから、咎めないけど。

 

「16歳か。いよいよこの時が来たんだな。……パパも一緒に行こうか?やっぱり心配だし。」

 

「ウシオ君は心配よりもくろがいなくなるのが、寂しいだけでしょ?

 『16歳になれば、帝都へ旅に出て、ギルドに入り、己を磨く』これは私たち家族の決まり事よ。」

 

「うっ、分かっているが…、可愛らしい我が娘にしばらく会えないのは、パパ、つらい!」

 

そういうと、今まで、抑え込んでいたのか、涙がポロリ、ポロリと大粒をこぼし始め、本格的に泣き出してしまった。

 

そんな父の様子に皆呆れながらも、思いは分かるためか誰も止めはしなかった。

 

しばらくしてから、落ち着いてきたのか、ウシオは口を開いた。

 

「…家のことは心配するな。くろはくろのしたい事、やりたい事をして来い。そして旅をして、いろんな経験をして来い。その経験はきっとくろをもっと成長させてくれる。」

 

 

これからの旅へのエールを送るウシオは先ほどの泣き崩れた態度はもう残っていなかった。家族を支える当主の器を醸し出していた。…まだ、目元は赤く腫れていたのは、見なかったことにしよう。

 

「ウシオ君の言ったように、旅に出ると、そこはあなたが知らない世界があります。それを知り、自分を知り、前進していきなさい。」

 

「お姉さま。 僕も、お姉さまに恥じぬように鍛錬に励みます。」

 

今日最高の飛び切り笑顔付きで姉へのエールを送ったワタルはやっと言えたとほっとした。

 

その可愛らしい言動を向けられたくろはいつの間にかワタルに飛びついて抱きしめていた。

 

「ワタル、かわいい!!本当にかわいい!!もう十分に偉いよ~!はあ、可愛過ぎて連れて行きたいくらい!!」

 

ほっぺすりすりしながら、ワタルを愛でてブラコンを発揮して、充電終えると、昨日のうちにまとめていたバッグを持ち、急ぎ足で玄関口まで歩いて行った。その時、黒髪のショートヘアが窓からの風に靡ぎ、日の光が楽しみで仕方がないとでも言っているかのようなくろちゃんの顔を照らしていた。

 

くろの後を見送りのため、皆が付いていき、その顔には、微笑ましさが滲んでいるもの、涙を堪えているもの、心配で少し青白くなっているものなど、様々な表情をしていた。

 

 

 

「じゃ、早速、行きます! みんなも体に気を付けて」

 

身体を180度回転させ、足を進めようとしたが、呼び止められる。

 

「くろ、待って。 これを誕生日のプレゼントで渡しておくわ。これからの旅に絶対、必要になるはずよ。」

 

そういって渡されたものは、CAD(術式補助演算機)。

 

魔法を発動するための起動式を呪文や魔法書なしで使用できる、魔法師にとっては必須のツールだ。

 

「ウシオ君と私で選んだ、最高級のものよ。あなたが使える魔法の起動式はある程度入れてあるわ。旅の間でも、試してみなさい。」

 

くろの頭を優しくなでながら、愛しそうにほほ笑んだ。

 

くろは欲しがっていたCADが大好きな母上からプレゼントされたのがうれしく、抱きついた。

 

「ありがとう…。大事にするね。」

 

その後は、従業員達ともハグして、別れを惜しんだ。

 

そしてみんなのくれた温かみを胸に秘め、いま、くろちゃんは旅に出るのだった。

 

 

 

くろちゃんの姿が見えなくなるまで、見送った一同は景気づけに自らの仕事の向かっていった。

 

ただ一人を残して…。

 

 

 

 

 

「……あれ? パパには抱きついてくれないの?」

 

 

 






よし、くろちゃん、冒険に出たよ!!


ウシオパパ、かなりの娘ラブだったな~…。


次回はあの人と運命の邂逅を!!


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”迷いの森”

マザコン、ブラコンなくろちゃんのイメージがこれでガラッと変われば…!


 「ふぅ~。涼しい風に、心地よい太陽の日差し、鳥の鳴き声。

  冒険の醍醐味ともいえる風景を鑑賞しながらの旅が満喫できる~!

  って思っていたのに、何でこうなるの~!!」

 

 

 叫ばずにはいられなかったのか、森をやっと抜け、帝都へと続く道を歩いていたくろちゃんは先ほどから続く出来事に嫌気がさし、雲もない、青々した快晴の空へと鬱憤を晴らしていた。

 

 

 

 時を遡る…。

 

 

 

 シズク族領を離れ、ギルドに入るために帝都へと向かっていると、大きな森に着いた。この森は帝都に行くには絶対に通らなければならない場所で、太陽の日差しまで、殆ど遮るほどの高い樹が至る所にあり、広大なため、この辺りの民には”迷宮の森”と言われ、恐れられていた。

 

 「そういわれても、ここを通らないと、帝都にはまず着けないし、ギルドに入ろうとしている身なんだから、何があっても大丈夫でしょ!」

 

”迷宮の森”に関してまったく危機感を持たずに、さっさと入ろうとするくろちゃんにいきなり怒声が飛んできた。

 

 

 「おい!!そこのお前! この森に入るな! 出てこれなくなるぞ!!」

 

怒声を放った方へくろちゃんは向くと、そこにはアウトドアな服装をした、黒髪短髪の若者が走ってきた。かなり鍛えているんだろう、服越しからでもわかるほどの引き締まった筋肉質な身体つきをしていた。

 

 

 「誰ですか?私、早く行きたいんですけど?」

 

 「何をバカな事を言って…! いや、俺はこの森の入り口を守っている門番のシュンだ! それより、悪い事は言わねえから、この森に入る事だけはやめろ!!マジで危ないからな!」

 

 

そういうと、頼んでもいないのに、この森について話し始めた。

 

 

 何でも、一度中に入ったら、帰ってこない人が数十人いたそうだ。

 

 運よく、戻ってこれた者もいたが、あまりの恐怖を体験してきたのか、何があったか頑なに話そうとしなかったらしい。それ以来、民がこの森に入る事がなくなった。それがこの森に伝わる言い伝え。だから、もし帝都に行くなら、森を入るのではなく、空を飛んでいくことをお勧めする。

 

 

 と、門番の…名前はなんだっけ?

 あ、そうそう。ションにあれこれ聞かされた。(シュンだよ、くろちゃん。)

 

 

その情報をもとに、どうするか思案することにしたくろちゃん。

 

手持ちのCADには飛行魔法の起動式は入っていない。

あれは、つい最近、帝都の一部の魔法式専門販売店でのみ販売された新魔法。

数ある魔法式の中でも、難度が高く、高級魔法式の類に入るものだ。

それを買うための値段はちょっと稼いだだけでは買えないレベル。まあ、シズク族の私にはその問題はあっさりスルーだけど。

 

だから、そもそも飛行魔法で空から森を抜けるなんて無理。使用者の相子量が一定の限度を達するまで使用できるけど、使用した後は相子枯渇で魔法が使えなくなる。更に、例え魔法式を持っていたとしても、この広大で、未知な森を飛行魔法で通過できるとは思えない。何かあった時のためにも、万全の状態でないと。

 

というわけで、この案は却下。答えはただ一つ。

 

 

 「御親切にありがとう。でも、飛行魔法は持っていないので、森の中を歩いていきます。」

 

 「そうか。分かったよ。気を付けて行って来いよ。ああ、そうだ。これをやるよ。」

 

そういって、門番の人にもらったのは、魔法ランタンだった。

 

 

火を灯す部分に加熱系統魔法が施されていて、起動式を展開し、読み込むと、灯りが付く、旅人には便利な物品一体型CADだ。

 

 

 「この森は見たとおり、森の樹木が日差しを遮っているから、かなり暗くて、視界が悪すぎるんだ。そのせいで、俺なんか、木の根っこに足を引っ掛けて転んだり、泥沼にはまり掛けたからな。」

 

これからの冒険に気分をリフレッシュさせようとしたのか、人懐っこい笑顔でランタンを渡した。

 

 

 「ありがとう。ありがたく、使いますね。………それでは、行ってきます!」

 

 

門番にお礼を言い、ランタンを持って、森へ入っていくくろちゃんを門番は手を振って見送った。

 

しかし、くろちゃんの顔には先ほどまでの明るく、可愛らしい表情は一切なく、逆に気を引き締め、先を見据えた好戦的な表情になっていた。

 

 

 




《物品一体型CAD》…日常生活で使用する道具に単一魔法の起動式を組み込まれたもので、相子を流せば、誰でも使える便利な魔法アイテム。


いや~、小説読むのが好きなのに、文章力がないな~。と思っていましたが、うまくいってよかった。

でも、運命の邂逅はお預けになってしまいました。ごめんなさい。

次回は魔法バトルまでいけたらいいな(笑)


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不発の罠

 今日はこどもの日。


 「湯船にショウブ入れたから、香り搔いてみてね。」っていわれて、

 入ったけど、全然におわないよ~!!


 「うわぁ~。ホントに暗いや。これじゃ、方向感覚も鈍ってくるわね。」

 

 

 魔法ランタンで先を照らし、足元に気を付けながら、進んでいた。

木の根っこが細かく乱れており、先ほどから、躓いて転びそうになるのだ。

それでも何とか転ばず、歩き続けてしばらく経ってから、くろちゃんは自分が同じところを通っている事に気が付いた。

 

 

 「…やっぱり、この場所はさっき通った場所だね。念のためにとつけておいた目印あるし。」

 

 

 くろちゃんが言ったとおり、”迷宮の森”と呼ばれているだけに以前に使用されていた森の人工道を歩いていても、迷うだろうとあらかじめ、樹木に自らの相子を流し、マークを付けておいたのだ。その結果、そのマーキングした樹木が目の前にあった。

 

 

 くろちゃんはため息をついた。

 

 

 「ここで時間割いている場合じゃないんだけどな~。いい加減にしてくれないかなっと。」

 

 

 愚痴を言い終わないうちに、自分を基点とした振動系魔法を発動した。

 

 

 

 

 

『音波連鎖(チェイン・アンデュレーション)』

 

高周波の音の波動を発動基点を中心として、球体上に連鎖的振動をさせ、対象物にダメージを与える攻撃型魔法。波動の強度によっては三半規管を麻痺させる効果あり。

 

 

 

 

 くろちゃん以外は誰もいないこの森の中で発動しても、ただ、草や樹木の枝葉が揺れ動くだけ。まったく意味のないものになるはずだった。

 

…そう本来なら。

 

 

しかし、この魔法によって、事態は急変化した。

 

周りの樹木から突如、呻き声を上げながら、落下してくる者、覆い茂る草陰から何かが倒れる物音、互いに言い合う声など、一気に人の気配が漂い始めた。

 

 

 「そろそろいいかな。 うんうん!初めて発動してみたけど、結構イケてたよね!?

  この母上がくれたCAD、性能がいいな。とにかく魔法発動が楽! さすが、母上が認めたものだわ!」

 

 

 CADの性能とマザコン発揮で自分が今、痛い目に合わせた怪しい集団をまるで存在しないかの如く、無視し、浮かれていた。

 

 しかし、ふと我に返り、さっきのダメージでよろめきながらも、地面から力を振り絞って何とか立った筋肉質な身体つきをした男に声が聞こえる適度な距離まで近づいて行った。

 

 そしてくろちゃんはいたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔でその男に暴露した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「またお会いしましたね! ションさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「ションじゃない!! シュンだ!!」

 

 

 とっさに答えたためだろう。先ほどのダメージの影響で、まだ頭がはっきりしないのに、正体を隠すつもりが、つい明かしてしまった己の恥を悔いるのと一緒になって、顔色が一層悪くなり、せっかくの筋肉質な身体が平ぺったいもやしのようになって、リーダー格のはずが、その迫力さえ霧散していた。

 

 

 ただそれでも憎き敵でも見るかのように、剥き出しの闘志を秘めた眼差しをくろちゃんに向けた。戦意を失わなかったのは、それなりの場数を経験しているからか。…それか、己のプライドを傷つけられた腹いせか。後者にありそうだけど。

 

 

 だいぶ体の感覚も戻ってきたのか、くろちゃんに問うてきた。

 

 

 「なぜ、分かった!?

  俺達は気配も姿も上手く消していたはずだ! 計画は完璧だった!

  お前みたいな素人魔法師に見透かせるはずがないんだ!!」

 

 

 怒気を露わにし、誰が見ても明らかにくろちゃんを徹底的に見下した態度で、自分が絶対的なのだとアピールしてきた。

 

 そんなシュンをみて、くろちゃんは今まで抑えていた感情が一気に爆発した。

 

 

 

 「ぷっ!! ……くっくっく!!  キャハハハハハハ!!!もうダメ!!

 

  ぐぁ!! きゃはははあははハアハアははあは!!!!おなかが痛い!!

 

  ここまでとはね~!!!」

 

 

 

 

 くろちゃんの爆笑が森中に響き渡り、森の中なのに、こだまとなっていった。

 

 

 笑われている当のシュンはというと、青白い表情でも怒気を含んでいた表情から一転、怒りで顔面が赤くなり、額には深いしわが刻まれていた。

 これではせっかくの女受けしそうなルックスが台無しだ。

 

 

 「よくも……!!  この俺を笑い、侮辱したな…!!」

 

 

 「ひっひっく…。 だって、あんた。自分が犯したミスも気づいていないのに、自分がまだ有利だと思っているんだもん!

 

  笑うな!って言う方が無理だわ!」

 

 「何を!! 馬鹿な!!」

 

 「そしてもうあんたの思うような展開には絶対にならないよ。こっからは私のペースで終わる…!」

 

 

 

 

 シュンの全てを見抜いていたくろちゃん!!

 

 シュンの計画とは一体。

 

 そしてとうとう魔法バトル勃発!!

 

 

 

 

 




 パソコンが勝手に再起動するというハプニング。


 あと少しで投稿だっただけに、初めからの文章書きはきつかった…。


 


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リーズニングタイム~冴えたる推理~



 盛り上がってきたな~。

 そして、書きたい事がどんどん増えていく。

 シャーロック・ホームズになってしまったくろちゃんの活躍!!


 をどうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 「くっ!! 俺はエリートだ!! 間違いなどあるはずがない!! 黙れ!!」

 

 

 よほどの自信があったのか、荒々しい呼吸をしながら自分が正しいのだと強く主張するシュン。

 

 くろちゃんは頭を抱えながら、深い溜息を吐いた。そしてこの平行線の流れにいい加減に嫌気が差し、この流れを断ち切るため、口を開いた。その開いた口元は少し吊り上っていた。

 

 

 「救いようのないバカとはこの自称”エリート”のような人のことを言うんだな~。

  勉強になったよ。 だったら…、その”エリート”の顔を崩してあげるよ。」

 

 「ふん! 素人魔法師のお前に何ができる!? 生意気なっ!」

 

 「あれ~? さっき、私の魔法で痛い目にあったのは誰ですか?

  はぁ~…。あんた、え~っと…、そう!ショータロウだっけ!?

  まだ気づいていないようだから言うけど、あんたが私の周りにいる事を知っていたから、対人魔法を発動したんだけど。…この意味わかる?」

 

 「シュンだ!! ショータロウではない!! とうとう一文字も被らなくなったじゃないか!! 何度言えば分かっ……るぅ…。 !!!!!」

 

 

 くろちゃんの言葉でようやく状況が読み込めてきたシュンは深い思考に陥っていった。

 

 

 

 (こいつは俺たちの動きを読んでいた? だから魔法を使ってきたというのか?

  ありえない! このエリートの俺が間違いなどしない…!するはずがないんだ!!

  でも、もしもだ。もしもそれがあったとしたら、この手の上で踊らされているような感覚、状況にも頷ける…。 お、俺は何か、ミス、をしたのか…?)

 

 

 自分がどこでミスをしてしまったのか?果てしない思考が永遠に続きそうになったが、くろちゃんの次の台詞に一気に現実に引き戻された。

 

 

 

 

 「最初に会った時からだけど??

  おかしいと思ったんだよね~。誰も近寄らない森の入り口で門番がいる事に疑問を持ったのが始まり!」

 

 

 「……………。」

 

 

 (何を言われた…?  最初からだと…!? じゃ、じゃあ!気づいていながら、この森に足を踏み入れたというのか!?)

 

 

 

 シュンはくろちゃんの言葉が理解できなかった。そして今まさに、動揺の渦に呑み込まれていた。

 

 激しく動揺しているのがシュンや仲間達の雰囲気で辺りに伝わり、静まり返った。

 

 くろちゃんはシュンの驚きに満ちた顔にニヤッと満足そうな笑みで返し、これからの展開に向けて、挑発という名の推理を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっと、何から話そうかな。あっ、そうそう。こんな森に門番なんているかな~?って疑問だったけど、旅人が足を踏み入れないようにって理由で地元の民がしていると思って最初は納得していたんだよね。でもあんたの服装や言動であっさりその考えは消えたよ。

 

 

 アウトドアな服装していたから、身体を動かすことに長けている。

 そして袖からはCADがちらっと見えたから魔法師だという事も分かった。

 

 

 でもここからが不思議でいっぱいだった。

 

 

 あの時のあんたの履いていたブーツには泥がびっしりとついて汚れていた。

 ここ最近はよく晴れていて、今日も快晴だ。雨が降っていないのに、泥が付くなんてありえない。

 この謎は森に入って、仮説から確信に変わったなぁ~。

 森を歩いていて、本当に泥沼見つけた時、あんたは地元の民ではないなとほかの情報と照らし合わせて結論した。

 地元の民でも森に入らないのに、足を運んでいるのは変でしょ!?

 それにあんただって自分から言ってたし。」

 

 

 

 

 『木の根っこに引っ掛けて転んだり、泥沼にはまりそうになったからなぁ~。』

 

 

 

 シュンはその時の事を思い出し、失言だったと今さらになって、理解した。

 

 

 

「地元の民ではなかったとしたら、森に入る前の言動も納得した。普通なら、旅人が危険に飛び込もうとするのを必死に何とか止めようとするはずだもん。森の怖さを知っている地元の民なら。でも、あんたはそれはなく、逆に選択を狭め、森に入る選択を選ぶように誘導していた。

 飛行魔法なんて、つい最近発売されたばかりなのに、使えばいいと言ってきた。帝都へ行くはずのルートへはこの森を絶対通らないといけない。でも、地元の民は森を何十年も通っていない。

 

 

 

 

 だったら、なぜ帝都でしか買えない魔法式の情報を知っているのか?

 

  

 

 そこで結びついたのが、地元の民に扮した帝都の魔法師。

 

 

 

 そうとわかれば、簡単だったわ!!

 

 こんな人気のない森だもの。用もないのに、わざわざ、地元民に変装しているのはおかしい。何か企みがあるはず。

 

 そして、帝都の魔法師なら、絶対にギルドに入っていると思って、組織的計画を練っているとも考えた。

 

 

 だから、あんたたちの誘いを受けて、ここにいるって訳!

 

 

 

 ああ!!それと、あれ!!実に面白かったよ!!あの魔法ランタン!!

 

 

 加熱系魔法に見せかけて、実は光波振動系魔法イビル・ゾーンを仕込んで、催眠効果を利用して、道に迷わせ、自分たちの思い通りの場所に誘き寄せるとは、よく考えたよね~!」

 

 

 《イビル・ゾーン》

 

 イビル・アイの光信号を周囲に発生させる領域魔法。

 

 

 「まぁ、私は自分自身に情報強化の防御フィールドを張っていたから、効き目はかなり薄かったけど。操られている振りするのは、神経が磨り減るわ。」

 

 

 

 くろちゃんの推理が終わり、シュンはいや、ここにいる人間(くろちゃん以外)は目を丸くし、あっけにとられていた。

 

 

 たったその程度の状況観察と情報だけで、俺達の企みだけでなく、正体まで見破られていたとは思いもしなかったのだ。

 

 

 

 

 シュンは本能的に直感した。

 

 

 

 この女は甘く見てはいけない…。

 

 

 ここで、息の根を止めておかなければ…!!

 

 

 

 そしてまだ感覚が麻痺している手が、意識しないまま、胸のホルスターに収めている愛用の小銃型CADにゆっくりと動かしていた…。

 

 

 






 シュンの小物っぷりが目に余る…。



 そしてくろちゃんの観察眼、やばすぎる!

 カッケぇ~…!!


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初の魔法戦闘 (マジックバトル)

ああ…、明日は母の日だ。


 プレゼント、何にするか決まっていない。


 母「明日は楽しみね~…。」


 プレッシャー感満載の笑みを向けられた。

 やばいかも…!! (汗)


 

 

 

 

 得体のしれない恐怖に駆られ、愛用の小銃型CADに手をかけた瞬間、くろちゃんに向けて引き金を引いた。それと同時に、加重・移動系魔法『オペレッション・バズーカ』を発動した。

 

 

『オペレッション・バズーカ』

 

…大気の圧迫密度を限界値まで高め、その圧迫弾を対象物に向け、放ち、押し潰す魔法。

 圧迫密度を調整すれば、骨折までの威力の弾丸になる。

 

 

 

 余談だが、魔法発動には起動式を展開、それを自らに取り込み、読み込んでから魔法式を構築しないと発動はできない。並みの魔法師なら、発動までにそれなりの秒数が必要になるだろう。しかし、シュンはそれよりも断然早い処理能力で魔法発動したのだ。

 

 

 今の魔法で吹き飛ばされ、押しつぶされたと仲間の誰もが、思った。

 

 

 

 シュンも己の中に渦巻いていた恐怖や脅威が消えていくのを感じ、力の抜けた笑いを溢しつつあったが、徐々に高笑いへと変わった。その笑いには嬉しさと安心、プライドが入り混じっていた。しかし、その笑いは長くは続かなかった。

 

 

 「いや~、びっくりした!まさかあそこまでの腕前だったとは。

  三流だと思っていたけど、それなりに鍛えているだけあるわ!

  見くびっててごめんね~。」

 

 

 「なっ!!」

 

 

 くろちゃんは先ほどから一歩も動いていない状態で、立っていた。傷も見当たらない。予想外の結果にシュンは驚きを隠せなかった。

 

 

 「馬鹿な!ヤマザキ一族秘伝の”クイック・ドロー”を防いだだと!!」

 

 

 「へぇ~!! これがさっきのが”クイック・ドロー”なんだ!CAD早撃ちに優れた一族が帝都にいるって話は聞いていたけど、実物見れて勉強になったよ。ヤマザキ一族のシュン?」

 

 

 またもや、情報露呈してしまったシュンはもう開き直って自棄になった。

 

 「くっ! お、教えてやったんだ!!おい、お前ら!! 何ボザッとしている!?俺たち”ブルーム(花弁)”の力を見せつけてみろ!!」

 

 

 そういうと、シュンは手首にしたバンドを付けた腕を天高く掲げた。

 そのバンドには八枚の花弁が連なった花の紋章が描かれていた。

 

 

 今まで、あっけにとられていた仲間たちが、シュンの言葉に我を取り戻し、臨戦態勢に入った。

 そして、次の瞬間にはくろちゃんは取り囲まれていた。人数的にはシュン達”ブルーム”の方が圧倒的有利。

 

 

 「やれ! 木端微塵にしてやれ!!」

 

 

 一斉にそれぞれの得意魔法を撃ち込んできた。ある者は、加熱・放出系魔法で火炎放射してきたり、ある者は、振動・移動系魔法で土を津波のように操りしてくろちゃんにめがけて放たれた。

 

 その激しい魔法の嵐を受けて、図様しい威力の爆発が起きた。爆風で辺りの樹木の枝が折れて、人も飛ばされ、ゴウゴウっと爆風の凄さを物語っていた。

 

 

 しばらくしてから、シュンは閉じていた瞼を開け、くろちゃんが立っていた場所を直視した。そこにはまだ、パチっパチと火花が飛んでいたり、爆煙が立ち込めていた。

 仲間たちもこの現状にひどい有様になっているであろう存在を想像し、雄叫びを上げて、喜んだ。

 

 「シュン!! やったな。 これで俺たちの計画が外部に漏れる心配もなくなったぜ!!」

 

 

 「あ、ああ…。そうだな…。」

 

 

 ただ、シュンは胸に引っ掛かりを覚えた。仲間たちの攻撃魔法があそこまでの威力をもたらすものだったのか?

 

 

 その考えはすぐに証明された。

 

 

 「危ない、危ない!! ちょっと~!! 可愛いレディになんて物騒なもんを向けてんのよ!!」

 

 

 突如、声がした方向へ皆が顔を向けると、爆煙が見る見る上空に集まりだし、球体状になった後、どこからか、水滴が発生し、綺麗さっぱりと消えた。

 そして爆煙が消えたと同時に、くろちゃんがケロッとした顔で姿を現した。

 

 

 「間に合ってよかった~!『能動空中機雷《アクティブ・エアー・マイン》』があと少し遅かったら、やばかったよ。」

 

 

 くろちゃんは『能動空中機雷』を全方位のアクティブシールドとして展開し、相手の魔法と地雷源の振動の爆発で相殺していたのだった。

 

 

 ここまでの戦いで、遠距離魔法では攻撃にもならないと察し、ブルーム仲間の数人がナイフや大剣を取り出し、仕掛けてきた。

 

 集団での戦闘訓練を相当積んできているのか、攻撃する仲間の速度を後衛があげたり、防御魔法を施したりという連携攻撃ができていた。そして、その攻撃をくろちゃんは紙一重で躱すのが精いっぱいになりつつあった。

 

 

 くろちゃんは魔法力が強く、すでに魔法に関して高い素質を持っていたが、あくまで魔法だけの素質。戦闘に必要な身のこなし方や近接戦闘はまだひよこ当然だった。

 

 

 相手の攻撃をかわしつつ、『フォノン・メーザー』、『チェインスピーカー』、『レーザーライフル』などの主に振動系魔法で応戦しているが、肉弾戦を仕掛け出した彼らに少しずつ押され始めた。

 

 

 

 

 

 

 数分後、

 

 

 

 

 くろちゃんは息を荒げながらも、何とか立っていた。身体には、避けきれなかった刀傷や痣が見える限りの場所に複数あった。

 

 

 その姿を見て、シュンは攻撃をやめるように仲間たちに合図をし、くろちゃんに話しかけた。

 

 

 「そろそろ限界のようだな? どうだ? 馬鹿呼ばわりした奴らにいたぶられる気分は!? お前の最期くらいは俺が蹴り付けてやるよ…! もう体力も魔法力も底尽き掛けているお前に防ぐ術はないだろうからな。」

 

 

 そうして、小銃型CADをくろちゃんに照準を合わせた。

 

 

 ここで、くろちゃんの旅は終わるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、それは尚早だった…!

 

 

 

 

 「ふふふふふふふふ。 終わりなのは、ハァ~、ハァ~、あんたたちよ…!

  ホントは、使いたくなかったけど、しょうがないよね。

  ごめんね…。」

 

 

 

 そうつぶやいた直後、辺りの樹木たちが一斉に震えだした。

 

 その突然の展開に、ブルームたちは樹木たちが笑っているように感じた。

 

 そして樹木たちの震えがさらにヒートアップし、何かのマークが浮かび上がり、光り出した。

 

 それは、くろちゃんが迷わないようにと目印にしていたマークだった。

 

 

 

 「ホントにごめんね…。 樹木さんたち…。」

 

 

 

 そうして発動したのは、『共振破壊』。

 

 

 

 光り出した樹木たちが一斉に破裂し、その破裂した木片や衝撃波が辺り一帯を襲った。

 

 

 

 そして、うっすらと暗かったこの空間に太陽の眩しい日差しが一つ、また一つと照らし出した。

 

 

 




 とうとう、魔法バトル、終わった~!!


 今回はオリジナル魔法や原作魔法も含め、頑張って織り込んでみました。

 素晴らしい活躍しましたくろちゃん。


 逆に明日の私は…、どうなっているだろうか。


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更なる脅威


 母の日という事で、手作りの夕食を披露!!

 初めて作るおかずも好調!!


 成功してよかった!!


 

 

 

 

 

 

戦闘が終結し、戦いの場となったこの場所は、暗く澄んだ森の姿を失くしていた。

 

 

 そして、そこには魔法の衝撃の爪痕がくっきりと残されていた。

 

 所々に、地面が円状にへこみや亀裂が入っていたり、爆風で折れた枝が散乱していた。…倒したブルーム達も同様に。

 

 そんな中、一人だけ、辛うじて意識があった。

 

 

 「はぁ…。 はぁ…。 さすがに…、魔力尽きた…か…。」

 

 

 ひざまづきながらも、呼吸を整えようと数度、深呼吸した。その後、ゆっくりと顔を上げ、辺りを見渡し、現状を把握していった。そして、満面の笑みを浮かべ、

 

 

 「やった!! 私の大勝利だね!! 計画通り!! さすがくろちゃんだわ!」

 

 

 そう、くろちゃん以外は全員、ノックダウンしていたのだ。

 

 くろちゃんは初の実戦、魔法戦闘に勝利し、身体をぴょん、ぴょんと万歳をしながら、大いに喜んだ。しかし、魔力だけでなく、体力も限界だったのか、すぐに疲労を見せ、その場に崩れ落ちた。

 

 

 「ま、まずは、回復しないと全力で喜べないや…。

  えっと、回復…、回復っと。」

 

 

 かなりの疲労困憊で、地面に寝転んだまま、肩にかけていたショルダーバッグに手を突っ込み、魔法アイテムを探し出す。取り出したのが…、

 

 

 

ジャジャジャ~ン!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クロチャンハ『安眠導入機(サウンド・スリーパー)』ヲトリダシタ!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

体力回復魔法アイテムの一つで、安眠できる特殊な超音波を発し、体力を半分回復させてくれる旅での必需品。

※ただし、害がない超音波だが、気分悪いという事で、一部使わない人もいる。

 

 

 くろちゃんはさっそくアイテムを使って、回復した。

 

 

 「これで、しばらくは大丈夫でしょ。 あとは…、」

 

 

 体を起こしたくろちゃんは倒れているブルーム達に駆け寄り、荷物を漁り始めた。

全員の荷物を調べ上げ、手には大量のアイテムをドザッと抱えていた。

 

 

 「ふふん!! いいものばっかり持っているな~。探していたものもあったし、案外いいトコのギルドだったかもね。」

 

 (金銭面の事だよね!!?)

 

 

 敵のアイテムを戦利品として手に入れることは認められているため、後で文句を言うのは筋違い…。関係ないか!

 

 

 大量の戦利品の中から、くろちゃんが取り出したのは、

 

 

 

ジャジャジャ~ン!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クロチャンは『ショートブレッドMP』ヲテニイレタ!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

これも魔法アイテムで、見た目はショートブレッドのお菓子だけど、食べると、MP(魔法力)が回復する優れもの。つまり、魔法師には必須アイテムというわけだ。

おいしそうにブレッドを食べ、魔法力を全回復した。

 

 

 「助かった。もう手持ちなかったんだよね~。ははは。」

 

 

 …くろちゃんが言ったとおり、ここまでの道のりで、CADの試しも兼ての魔法特訓、壊れた橋で立ち往生している放牧民と牛を反対側までいけるように、魔法で、土を盛り上げたりする等の人助けで、手持ちのショートブレッドをすべて使っていたのだ。

 

 (せめてこうなると考えていたなら、アイテム確認しておこう?)

 

 

 とまぁ、さておき!

 

 回復も終わり、さて帝都に行こうかと軽く準備運動しながら、倒れているブルーム達を観察していると、ふと思いついたのか、

 

 

「あっ、そうだ面白い事考えちゃった! ふふふ…。」

 

 

 ゆっくり、ゆっくりとした足の動きで、徐々に彼らの方へと歩き始めるくろちゃん。

その顔には悪知恵が働いたいたずらっ子のような妖艶な目つきと舌でちょこっと舐めずって、吊り上げた唇が印象深く張りついており、この後の彼らの末路を少し、垣間見せる気がした…。

 

 

 

 

 

 

 「…よし!!これでいいでしょう!! 満足したし、行きますか!!」

 

 

 こうして、少し離れた場所にある帝都へと続く森の道を見つけ、くろちゃんは再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 「…ふぅ。 まさか一人でここまでの実力を発揮して、彼らを撃退するとはな~。

  驚きの連続だったよ♪ まぁ、まだまだ未熟な部分もあるけど、優秀なのは確かだ。」

 

 

 「…あの子の最後の『共振破壊』で吹き飛ばされ、気絶していたのは誰だったかな…?」

 

 

 興奮気味な片方にジト目と呆れ声でもう一人がツッコミを入れた。

 

 

 「あ痛っ!! そこを突きますか!? 油断していたのは、謝るけどさ!

  私らの仕事が半分も片づけてくれたようなもんだし、将来有望でしょ!?

  間違いないって!!」

 

 

 

 森の道を進むくろちゃんを木の上から観察する者が二人、いた。

 

 

 

 この二人は先ほどの一件を全て見ていたのだ。

さすがに危険だと判断すれば、自分達の存在を認識させない程度で介入するつもりだったが、彼らの仕事に差し支える前に無事、蹴りをつけれたため、事なきを得たのだった。

 

 

 「さて、残りの仕事もさっさと片付けて、あの子を追いかけますか!!

  気に入ったし、ぴったりだと思わないか!?」

 

 

 「そうだね。…ただし、また暴走するのだけはやめてくれないかな?

  後の処理をするこっちの身にもなってくれ…。」

 

 

 「わかってる♪ 私に任せておいて大丈夫だ!」

 

 

 「…(本当に大丈夫か?)…だったら、早く仕事を終わらせて、後を追わないと!」

 

 

 「はいは~い! ちょっと考えがあるから、やらせてほしいことがあるんだけど?」

 

 

 

 このような会話の後、疾風の如く、木の上を移動し、彼らの作ったアジトから大量の物品を運び出し、空中に浮かぶマットに積み込んだ。もう一人はルンルン気分で、すでに捕縛されていたブルーム達を……捕縛していた。

 その後、ブルーム達がどうなったかはくろちゃんはまだ知らない。(当たり前だ!)

 

 

ようやく、暗い迷宮めいた森を抜け、新鮮な空気をめいっぱい吸い込んで、外の空気を味わっていた。

 

 

 「う~ん!! うまいな~、頑張ったご褒美としてはいい感じだわ!

  それにこの経験は課題もできたことだし、帝都までには少しでも鍛えとかないと!」

 

 

 と、決心を露わにした。

 

 

くろちゃんは今回のバトルで自分の体力や近接戦闘の技術が乏しいことに身に染みて痛感した。ブルーム達は魔法や戦闘技術を駆使して、自分と一体となっていた。さっきは防戦一方だったから、彼らのような身のこなしや格闘技など、身につけておかないと、次も同じような敵を相手にする場合は、今回と同じ結果になるか、最悪でもそれよりひどい結果になるだろう。そうならないためにも、まずは体力アップや身体を柔軟にしようと考えたのだった。

 

 

 「でも、さっきのでもう疲れたし、帝都までの道のりを考えても、アイテムが持つかわからないし、今日はのんびりと景色を満喫しながら、先に進も…」

 

 

 今日の計画を練りながら歩いていた時、突如、目の前からピュッ!!と何かがこめかみ付近を通り過ぎた。

 後ろの方で、ドズンッと音がしたから、恐る恐る振り向くと、地面にずっぼりと刺さった斧がそこにあった。柄の先端部分には鎖が付いていて、ズズズズズッと引かれ、動き出した。そして、その鎖の方向にまた振り向くと、くろちゃんの身長の3倍はあるんじゃないかって程の巨大な鎧の亡者が数十メートル離れた道のど真ん中に立っていた。

 

 

 そしてくろちゃんは顔を空に向けて、息を吸い込み、鬱憤を晴らす…。

 

 

 「ふぅ~。涼しい風に、心地よい太陽の日差し、鳥の鳴き声。

  冒険の醍醐味ともいえる風景を鑑賞しながらの旅が満喫できる~!

  って思っていたのに、何でこうなるの~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして現在に至るわけである。

 

 

 

 

 くろちゃんは鬱憤を晴らした後、再度鎧の亡者を見て、呆然となっていたが、じんわりと痛みが走る左の頬をゆっくりと手で触れると、何かの液体が滴り下りる感覚を感じた。その手を見つめると、赤黒いものが付いていた。ようやく頭が再起動してから、それが自分の血だと分かり、斧が掠めた時に頬を切ったと気づいた。

 

 「なっ…!!」

 

 

 くろちゃんはぶるぶると体を震わせた。顔はうつむいていた。さすがに、ショックだったかと思ったが…、

 

 

 「なっ…!! 何をしてくれたんだ~!!!! 乙女を怒らせた事を後悔出せてやる~!!」

 

 

 うん、怒りが爆発しただけだったみたい。 

 

 

 そうして、くろちゃんは大股で、力強く、亡者へと突進していった。

 

 

 

 

 

 そんな激しい怒りで我を忘れたくろちゃんは頬の傷のほかに、左の横の髪束がバッサリと切られて、半分おかっぱ状態になっていた。






 女にとっては髪が命!!っていう事がわかったわ~。


 これを読む君たちへ!!

 女の髪を甘く見たら、逆鱗が来るよ!!


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亡者VS連携攻撃



 今日は雨だな~。


 雨の時は必ずあれに遭遇する。


 しかも必ず一回は!!


 あれとは一体?  という方は、小説の後で!!


 

 

 

 

 

 

 

「おりゃ~~~!!! よくも!!よくも、私の髪をこんなにしてくれたわね~!!許すまじ~!!」

 

 

 鎧の亡者に突進しながら振動・収束・移動系魔法『バーナー』を亡者にめがけて発動した。可燃性のガスに火をつけて飛ばす魔法だから、鉄製の鎧を装備しているため、効果は抜群だと命中した時、くろちゃんは思った。

 

 

 「お、お、お、お、おおおおおおぉぉぉぉ~~~~~!!!!!」

 

 

しかし、鎧の亡者はダメージどころか鎧に傷一つもついていなかった。

空気が震えるほどの雄叫びを上げ、斧を振り下ろす。だがくろちゃんは驚いた。斧はくろちゃんではなく、亡者の前にじっと立っている少女に向かって振り下ろされていく。

 

 

 「あっ、危ない!! 避けて!!」

 

 

くろちゃんはとっさに大声で、叫んだ。しかし、少女は一歩も動かないうちに、斧がまっすぐに地面に振り下ろされた。その衝撃で、地面が割れ、爆風がくろちゃんを襲う。くろちゃんは何とか凌ぎながら、少女の安否を確認しようとした。ただ、頭の中では先ほどの光景が焼き付き、否応でも少女の哀れもない姿を想像してしまう。

 

 

 くろちゃんは唇がかみしめ、無力感を感じた。まだ、顔も名前も知らないけど、もし、『バーナー』の魔法よりも強力な攻撃魔法を使っていたら…、斧が振り下ろされる前に倒していたら…、こんな結果にならなかったのではないか?助けられたのではないか?

 そう思ってしまう。

 

 

 「くっ…。 これじゃ、立派な魔法師になんてなれない。」

 

 

 悔しさを噛み締めていたくろちゃん。そんなくろちゃんの肩をチョンチョンっと後ろからつつく者がいた。先程の思いを抱えながら、なんだ?と思い、振り返るとほっぺに指がぷくっとささった。その顔が面白かったのか、いたずら?を仕掛けた相手はふふふと笑い声を漏らした。

 

 そこにはさっき亡者の斧の餌食になった少女と同じ服装をした年はくろちゃんと同じ少女が立っていた。

 

 

 「驚いた? 私、光波振動系魔法『幻影投影』で光の屈折で作ったダミー像と入れ替わったの。さっきやられたのはそのダミー。」

 

 

 そう答えられて、もう一度さっきまで少女がいた場所へ目を向けると、確かに、想像していた悲惨な結果にはなっていなかった。

 

 

 

 「よかった~。 大丈夫? けがはしてない?」

 

 

 「うん。大丈夫。それよりもこっちも助けてくれてありがとう!

  いきなり現れたかと思ったら、襲いかかってきたから、防御魔法や幻惑魔法で攻撃を躱しつつあったけど、さすがに躱しきれなくなった時、あなたが来てくれたから命拾いしちゃった!」

 

 

 そして共闘する事になった二人は、今までの戦闘で得た情報を素早く交換し合っていた。今も『幻影投影』でダミーを相手に亡者を振り回しているけど、いつまでも続くものではないからだ。

 

 ここで、分かったのは、普通の打撃技や魔法は効果が見れないという事。くろちゃんたちよりもはるかに巨大な身体つきだから、こっちから近接戦闘してもあっさり負ける…。ここは遠距離魔法で大ダメージを与えるような強力な魔法を繰り出すしかない。ただ、意外に見た目と反して、動きに無駄がないというか、素早いのだ。それを何とかすれば…。

 

 

 「あっ、それなら私に考えがある。動きは私が封じるわ!あなたは最後の一撃に集中して!」

 

 

 「わかった。お互いくれぐれも気を付けよう!」

 

 

 そして行動を開始した。くろちゃんは徐々に鎧の亡者に近づき、魔法をかけやすい場所まで『幻影投影』で誘き出す彼女の背中を見ながら、誰かがいるってこんなにも心強く感じるものなんだな~っと実感していた。実は、さっきのブルームの戦闘の疲労もまだあるし、魔法力も後もう少しで切れるとこだった。だから、ラストの一撃だけに集中できるのはありがたかったのだ。

 

 

 彼女は『幻影投影』で誘き出した後、『蟻地獄』を発動した。

 

 

『蟻地獄』

…地中の土を下方へと押し固めることで地表に穴を掘ることなく、地中に空洞を作り、足を乗せることで陥没する落とし穴を作る魔法。

 

 

 

 それによって、見事に亡者は落とし穴に片足をすっぽりと埋まってしまい、身動きが取れなくなった。

 

 

 「「 チャンス!! 」」

 

 

そこに尽かさず、くろちゃんが『スモークボール』の要領で、大量の土石を圧迫凝固した大型鉄球並みの大きさの土石を『ロックプレス』と単一の加重系統魔法とのマルチキャストで亡者の頭上に落下させた。

 

 亡者にかかった圧力はおよそ100万トン。

 

 原形を留めることはないレベルだ。

 

 

 

 二人での連携攻撃が功をなし、二人はハイタッチして、勝利を分かち合った。

 

 

 「やったね!」

 

 

 「上手くいったね!」

 

 

 お互いで褒め合い、強敵の撃破に現を抜かしていた。

 

 

 その油断が突然のピンチへとつながった。

 

 

 あのとてつもない攻撃を受けたはずの亡者が土石を押し上げ、這い上がってきたのだ。

 

 

 先ほどの攻撃は確かに当たっていた。亡者の鎧は完全に潰れており、使い物にはならないにも拘らず、その眼光だけは獲物を捕獲したような怪しい赤い閃光をしていた。地面を這いずりながら近づいてくる動きや姿がまるでゾンビのよう。

 

 

 さすがにくろちゃんたちもあまりの恐ろしさに、声も出ず、腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。

 

 

 そしてそんなくろちゃん達に近づく赤黒い人型をした亡者は顔をがくがく震えながら、着々と二人へと接近していった。

 

 

 

 くろちゃん達、絶体絶命!!

 

 

 

 





 猛スピードの車やトラックが水溜りをはね、私をびしょ濡れにするのだ。


 前回は5回。



 今日は左右1回ずつのずぶ濡れです…。

 訴えようかな…。 「ずぶ濡れ罪」で!!


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私の目的

 いよいよ、帝都への旅編は終了!!


 

 

 

そうだ。防御魔法を!

 …、無理か。もう魔法力が尽きた。魔法は使えない。

 

 

 

 …もう、だめだ!ここで私終わってしまうのかな…?

 

 

 

 二人で強く抱きしめ合い、そんなことを考えていた。

 

 亡者は何か呻き声で聞き取れないけど、何かを言っていた。そして、私たちに手を伸ばしてきた。

 

 思わず、恐怖で目を瞑った。

 

 

 

 

 その時、乾いた悲鳴が聞こえた。

 

 

 びっくりして、ギュッと瞑っていた眼を開けると、そこには身体?から液体を勢いよく噴出させながら、俯せに倒れていく亡者の姿が目に入った。

 

 

 ドッズンっ……!!

 

 

 それからはびくりとも亡者は動かなかった。ただ、何か呟いていた。

 二人はなんて言っているか聞こうと身体を前かがみにしようとした時、後ろから二人の頭を優しくポンポンと撫でる手が降ってきた。

 

 

 「うん、お疲れ様。 よくここまで頑張ったよ! 後はゆっくり休んでおいた方がいいから、じっとしていな。

  …この子ら、よろしく!!」

 

 

 「…はぁ、分かった。…見た感じ大したけがはしていないようだな。これなら、大丈夫か…。二人とも、動くなよ。」

 

 

 いきなりの人の出現に驚いた二人だけど、言われたとおり、じっとすることにした。直感だけど、この人たちは悪い人たちじゃない。

 

 

 そして私たちに声をかけてくれた人は、もう動かない亡者のそばに寄って、何かをしていた。気になって覗こうとしたら、それを遮るかのようにもう一人が私たちの前にしゃがみ込み、手当てをしてくれた。その際に、くろちゃんの髪も元通りに直った。直しているとき、くろちゃん以外はその髪を見て、笑いをこらえていたが、くろちゃんは考え事をしていたため、気づかなかった。

 

 

 「…よし、これで大丈夫。暁彰!! 終わった!? 次はこっちよろしく!!」

 

 

 私たちを手当てしてくれた人、暁彰と呼ばれた人は亡者のそばまで行き、右手を亡者にかざした瞬間、塵となって、風に乗って跡形もなく、消えてしまった。

 もう一人の人は、亡者に手を合わせていた。何か儀式的なものだろうか?

 

 

 そしてくろちゃん達を助けた二人はしばらく密談をして、くろちゃん達に振り返った。

 

 

 「さて、もう大丈夫だよ! 君たちは帝都に向かっているんだよね?」

 

 

 こくこくと二人は頷く。

 

 

 「だったら、私らも帝都に帰る途中だから、よかったら、一緒に行く?さっきのようなもんが出ても大変だしね?」

 

 

 まったくの同感だったので、即了承する。

 

 

 「では、出発進行~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 という事で、合計4人の旅となったわけで、道ずから自己紹介をすることに。

 

 

 「じゃ、まずは私たちからね!! 私は、マリ族のマサユキ。みんなからはマサヤンって愛称で呼ばれているから、そう呼んでくれて構わないよ。

 

  で、こっちが、タツヤ族の暁彰! 口数少ない方だけど、面倒見がいい仲間だから、気軽に話してみてね!」

 

 

 くろちゃん達を助けた麗人のような美貌をした女性、マサユキは自分だけでなく、仲間の紹介までした。

 

 紹介された男性の方、暁彰は目礼をすると、また先を見据えて黙り込んだ。

 

 その後、慌てて、くろちゃんが自己紹介をする。それに続いて、さっきまでくろちゃんと戦っていた少女も自己紹介をする。

 

 

 「私、くろちゃんと同じくシズク族のちゃにゃんって言います。よろしくお願いします。」

 

 

 「くろちゃんに、ちゃにゃん…か。 かわいい名前だね。

  ところで、二人は友達?駆けつけてる際に戦いぶりを見ていたけど、タイミングぴったり合っていた。会ったばかりの人間との連携には見えなかったけど?」

 

 

 「いえ、初めてです。 攻撃の時に役割を決めただけです。」

 

 

 「へぇ~。そうなんだ。ふ~ん…。案外、二人ともいいパートナーになれるんじゃない? そうだ、バディになっちゃいなよ!」

 

 

 「「え?」」

 

 

 「帝都の魔法師ギルドに入ると、仕事やプライベートでもパートナーと過ごす事がしょっちゅうなんだけど、一度パートナーを決められると、変更はできないんだ。だから、性格の合わないパートナーと組まされるなんてよくある事なんだよね。」

 

 

 「詳しいんですね。」

 

 

 「…そりゃ、俺達、帝都のギルドに所属する魔法師だし?

  それに、依頼された仕事の帰りだから?知ってて、当たり前。」

 

 

 急に話に加わった暁彰さんにびっくりしたけど、更に帝都の魔法師だと聞いてくろちゃんとちゃにゃんは驚いた。それなら、あの亡者を一撃必殺で倒したのも納得だ。

 

 

 「そうだったんですね。ところで、どんな仕事を依頼されたんですか?」

 

 

 ちゃにゃんが丁寧に聞いてみたが、

 

 

 「ごめん。依頼内容については依頼を請け負った魔法師と依頼人しか知ることは許されないんだ。もし、それが漏れたことで更なる危険が生じた場合、両者とも色んな意味でやばくなるからね。」

 

 

 マサユキにやんなりと断られる。

 

 

 「ご、ごめんなさい。 軽く聞いてしまいました。 深く反省します。」

 

 

 「別に謝る事じゃないよ。これからギルドに入るんでしょ?だったらそのアドバイスをしたってことで覚えておくといいよ! それに依頼終了すれば、あっという間に知ることになるし。」

 

 

 「そうなんですか?」

 

 

 「そうそう。面白いよ~。とくに私らのギルド”ROSE~薔薇の妖精~”は自由気ままな連中が多いから、依頼された仕事は何かしらおまけがついてくるよ。それが笑える、笑える!!」

 

 

 マサユキはそういうと、何かを思い出したのか、おなかを抑えながら、笑い出した。

 

 ・・

 あの結果がもう少しで、くろちゃんの耳に入ると思ったら、更に笑えた。なんだか、くろちゃんとは同じにおいがする。

 

 

 マサユキの考えていることがわかる暁彰は呆れて、ため息を吐く。そして、くろちゃんとちゃにゃんに話しかけた。

 

 

 「二人はどうしてギルドに入ろうとしているんだ? 言っとくが、ギルドはみんながいいところとは限らないぞ? 」

 

 

 鋭い目つきで問うた暁彰だが、別に怖がらせようとしているわけではない。ただ、二人を心配して、目つきが細まっただけだ。

 

 

 「私は、”16歳になれば、帝都へと旅に出て、そこでギルドに入って魔法師としての修業を積んでこい”っていう家訓があって、それで、ギルドに入って立派な魔法師を目指し、自分をもっと鍛えたいんです!!」

 

 

 くろちゃんはぐっと拳に力を入れて、語った。そして、ちゃにゃんは、言うべきかどうか悩んだが、正直に話すことにした。

 

 

 「私が帝都に来たのは…、婚約者を探しに来たんです。」

 

 

 この言葉にくろちゃんとマサユキの意識に雷の衝撃が襲った。婚約者の存在によほどのショックだったのか、しばらくは思考停止に陥った。代わりに暁彰が続きを促す。

 

 

 「婚約者は帝都一の魔法師になりたくて、そのために帝都のギルドに入るために、旅に出ました…。彼が帝都に着いたその後も、連絡を取り合っていたんですが、ちょうど二週間ほど前から音信不通になってしまって…。それで、心配になって、私も帝都へ行こうって決意して、旅に出たんです。そして、ギルドに入ったら、彼の情報が聞けるんじゃないかって…!」

 

 

 涙を流しながらそう語るちゃにゃん。その決意の固さを知り、暁彰はハンカチをちゃにゃんに渡し、

 

 

 「そうか。大丈夫だ、ギルドに入っていたのなら、何かしらの情報は残っている。きっとその婚約者の事も分かるはずだ。だから、めげずに探そうな。」

 

 

 頭をポンポンと撫でた。

 

 

 「はい!!」

 

 

 その言葉に勇気づけられたちゃにゃんはもう涙は見せていなかった。

 

 

 「ねぇ! あの大きな城が見えているのって…!まさか帝都!!」

 

 

 くろちゃんが遠くに見える城の高塔を指差し、マサユキに聞いてきた。

 

 

 「え…、あ…、そう。 あの城が見える場所が帝都だよ。」

 

 

 先ほどの衝撃がまだ続いているためか、いつもの溌剌とした元気がない。そうとは知らないちゃにゃんがくろちゃんの腕を引っ張りながら、はしゃぐ。

 

 

 「くろちゃん、早く行こう!!帝都だよ!」

 

 

 そういって二人はまだ先の帝都に向けて走り出した。

 

 

 そんな二人を後ろから眺めるマサユキと暁彰は真剣な表情をして話していた。

 

 

 「上手く聞きたい事、聞いてくれちゃったね、暁彰?」

 

 

 「マサユキが話を聞きそうになかったから、聞いたまでだよ。」

 

 

 「そんなことない。聞こうとしたから!

  それよりも、どうしようか…。」

 

 

 「今はまだ時期尚早すぎる。多分、いや十中八九壊れてしまう。

  だから、時を待つしかないだろうな。」

 

 

 「そうだな。あの子が支えになってくれたら…、いいけど。」

 

 

 「そのための計画は練っているはずですが? ギルドリーダーのマサユキさん?」

 

 

 ふっと、悩ましいな~って顔で苦笑したマサユキはこの話はもうおしまいとくろちゃん達の後を追って走っていった。その後を暁彰と大量の荷物を積んだマットが猛スピードで追いかける。

 

 

 

 それから数時間後、目的の地、帝都・マギカサに一行はついた。

 

 

 

 





 とうとう、新展開に持って行けた!!


 これからはもっと驚愕展開をしていきたいな。


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悩みの種

 うん、この物語の第一幕が終わり、帝都編なったわ~。

 ここから本領発揮できたらいいな~。


 

 

 

 

 「「うわぁ~!! 凄~い!!」」

 

 

 帝都の城下町の検問を抜け、城下町の中心広場に来たくろちゃん達一行は初めての帝都入りを果たしたくろちゃんとちゃにゃんの魔法アイテムの調達を兼ねて観光していた。ちなみに暁彰は仕事で回収した荷物を依頼主に届けるため、一旦一行から離れる事になった。しかし、

 

                   ・・・・

 「いいですか、マサユキさん。絶対に、余計な事はしないでください。

  分かってますよね? 私が戻るまで、何事もなく観光していてください。」

 

 

 マサユキに顔をググッと近づけながら、忠告する。こうしておかないと、何をするかわからない、トラブルメーカーだからだ。…言っても聞くかわからないけど。

 

 

 「わかってるよ。ちゃんと二人の魔法アイテムを調達した後、軽~くこの辺りを案内しているから! 私に任せれば、万事うまくいく!」

 

 

 そういうと、親指をぐっと突き立って、ウィング込みで笑みを向ける。

 

 (…それが余計に心配になるんだけどな。)

 

 

 まだ納得しきれていないが、この荷物がある限り、動きが制限されるため、早く終わらせるしかないと回れ右をして、離れていった。暁彰が去るのを、手を振って見送ったマサユキは御守り役がいなくなったのをいい事に目いっぱい遊ぼうとした。

 

 

 「さて、二人とも、ちゃちゃっとアイテム調達したら、遊びに行こう!

  とっておきの場所を教えてあげるよ!」

 

 

 「本当ですか!? 楽しみです!!」

 

 

 「うんうん!! 見渡す限りでも、いろんな露店が出展されていて、賑やかだし、見ているこっちも楽しくなるっ!!」

 

 

 「楽しそうだね~。でも、分かるな~。私も帝都に来たときは君達みたいにはしゃいだな~。」

 

 

 「じゃ、あの露店街に行きましょう! あそこなら魔法アイテムもそろってますよね!?」

 

 

 くろちゃんは勢いよく駈け出そうとしたが、マサユキに止められた。

 

                               

 「…あそこの露店街もいいけど、私の行きつけの魔法アイテム店の方がきちんとしたもの売っているし、気のいい人だから、割引してくれるよ!

  そっちに行こう! これからの事も考えたら、そっちの方が付き合いが良くていいと思うよ!」

 

 

 なんだか捲し上げられた感があったが、ここでは先輩のマサユキさんのいう事を聞いた方がいいかなと思い、二人ともこくんと頷く。それを確認して、申し訳ないと謝りながら、その魔法アイテム店に行くことになった。

 

 

 

 

 

 チリーン~~…

 

 

 「おばちゃ~ん!! ありがとう!! また、よろしく頼むね~!!」

 

 

 マサユキが店主にあいさつしながら、店を出る。一方、くろちゃんとちゃにゃんは大量の魔法アイテムを抱えながら、驚きとうれしさを織り交ぜた表情で、店を出た。

 

 

 「ね? こっちに来てよかったでしょ?」

 

 

 「はい! 親切な店主さんで、見た事ない魔法アイテムの事も詳しく教えてくれた上に、割得で買わせてくれたんで、嬉しいです!」

 

 

 「でも、こんなにたくさんのアイテムをあんなに安くしてくれて、売上とか大丈夫かな?」

 

 

 「ああ。それなら大丈夫。 あのおばちゃんはやり手だし。」

 

 

 「「えっ?」」

 

 

 慌てて何でもないと言葉を濁すマサユキだったが、次の面白い場所に連れて行ってあげるといわれ、そっちに二人の意識を変えた。

 

 

 

 

 

 そして着いたのは、帝都の娯楽施設の中でも、最高級のエンターテイメントが詰まったカジノ”ノジーカゴールド”

 

 

 ここでは、帝国が運営するイベントや魔法試合で手に入れたガチャキューブや金銭で遊ぶ施設だ。特にスロットはそれらを使うと、魔法式やコスチュームももらえ、運が良ければ、なかなか手に入らない最高級の魔法式がゲットできる場合もある。そうすると、普通に買うよりもずっとお得な場合もあるから、このキューブスロットは魔法師達には大人気なのだ。

 

 

 「よし、二人とも! これからのためにパワーアップするなら、これをするのは必須!!! 最高級魔法式を当てるぞ~!!」

 

 

 「「「おおおお~~!!」」」

 

 

 こうして三人はスロットに夢中になり…

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 「で、スロットで金品全てつぎ込んでしまって、手持ちがなく、追い出されてしまったという事ですか?」

 

 

 三人はカジノの前で正座していた。そしてその三人の前には、仁王立ちする暁彰が不機嫌ですと言わんばかりのオーラを放って、見下ろしていた。三人は居たたまれない思いをしていたが、マサユキは暁彰に身体をロープでしっかり縛られていて、少し行き苦しい思いもしていた。内心はこれもいいかもっと思っていたりして。

 

 

 「わたしは、なんて言いました? 余計な事はするなって言ってませんでしたか?

  これは、余計な事だと思うのですが?

  あなたにはそれさえもわからないという事ですか?」

 

 

 言葉の矢がマサユキに次々と突き刺さる。

 

 

 「はぁ…。まったく、依頼を早く終わらせてきましたが、遅かったというわけですね。仕方がないです。これは目を離した私にも責任はありますし。三人とも、ここで待っていなさい。…、ちゃにゃん、この二人をしっかり見張っていてください。」

 

 

 そういうと、暁彰はカジノの中に入っていった。

 

 

 暁彰に言われたとおり、ちゃにゃんは二人を監視していた。

 

 

 「ちゃにゃん、これ、外してくれないかな?」

 

 

 「くろちゃんのも、お願い?」

 

 

 そう、マサユキとくろちゃんは互いにロープを交互に縛られていて、片方が動けば、もう片方は余計縛るという、どう縛ったらこうなるというレベルの捕縛をされていた。それを、見つめるちゃにゃんは縛られてない。

 

 こうなった結果は、くろちゃんとマサユキが手持ちがなくなり、ちゃにゃんの分まで、使い切ってしまったためである。止められなかった連帯責任でちゃにゃんも叱られたが、二人よりまともなため、縛られなかったのだ。

 

 

 「申し訳ありませんが、それは、できません~。」

 

 

 「くっ! 暁彰もここまでしなくても! 帰ったらぎゃふんと…」

 

 

 「帰ったらぎゃふんと…? で、何をするつもりですか?」

 

 

 急にマサユキの背後に現れた暁彰にマサユキは冷や汗をかいて、言い訳をしていた。

 

 

 そして、暁彰は三人に袋を渡した。その中身を確認するくろちゃんとちゃにゃんは驚いた。自分達のカジノにつぎ込む前の金品に戻っていたのだ。

 

 

 「さすが~。暁彰にはいつもお世話になりますね~。」

 

 

 「いつもあなたの尻拭いはごめんです。これで、大丈夫だと思いますが?」

 

 

 マサユキは無視して、二人に確認する。そこへちゃにゃんが遠慮気味に問う。

 

 

 「あの、私の分だけ少し多いようですが? これは一体?」

 

 

 「…ああ、それですか。 それは依頼料ですよ。私、あなたに依頼しましたよね?”この二人をしっかり見張っていてください”と。

  その依頼のお礼ですよ。」

 

 

 それを聞いて、ちゃにゃんは袋を見ながら、絶句した。

 

 

 「では、ギルドに帰りますよ? …それとその私が工面した金品は借りですからね。後でしっかり返してもらいますよ?」

 

 

 言い終わると、マサユキとくろちゃんを抱え、歩き出す。ちゃにゃんはその後をひょこひょこと続く。そして、マサユキとくろちゃんは縛りがきつくなり、ぐったりとなる。

 

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは思い知った。暁彰さんには逆らってはいけないと!!

 

 

 

 一方、暁彰はもしかして、悩みの種が増えたのでは…?と屍化とした二人を抱え、先を考え、苦笑した。




 暁彰はギルドの母ちゃん的存在だからな~。

 逆らってはいけませんよ~。

 ギルド思いの方ですから!!(笑)


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ようこそ、ROSEへ!!


 破天荒で、自由気ままなギルド”ROSE”


 それが、うちらだぜ!!


 

 

 

 

 城下町の中心街から歩いて30分後、

 人通りから外れ、野原が広がる場所にポツンと建物が一軒建っていた。

 煉瓦造りの3階建てで、建物の周りを赤や白の薔薇が咲き誇った草の茂みで囲っていた。そして、その入り口には金属製で作られたアーチがあり、その中央には”ROSE~薔薇の妖精~”と書かれていた。

 

 それを一行は潜り抜け、暁彰は抱えていたマサユキを落とし、玄関のドアを開ける。

 

 「ただいま。 仕事終わらせてきた。」

 

 

 「おお!! お帰り!! 待ってたよ!……マサユキは相変わらずだね。」

 

 

 暁彰がマサユキを縛るロープを引っ張りながら引き摺る様をみて、ギルドにいたメンバー皆が仕方ないって顔と暖かな目で見つめる。

 

 暁彰はくろちゃんの縄を解き、寛いでいるように言って、マサユキを引き摺って奥に向かっていった。ようやく自由になったくろちゃんは縛られていた箇所を摩りながら、ギルドの中を見回した。

 

 オープンな広さに多数の円状のテーブルがいくつも置かれ、そこには何グループか飲み物を飲みながら、団らんしている。そして、左側には大きなモニターがあり、各地のニュースや依頼書、娯楽番組等が映し出されている。そして、右側にはカウンターバーがあり、奥にはモニターよりさらに大きなステージがあった。ステージの両脇には2階へと続く階段がある。

 

 ギルド内をまじまじと観察していたくろちゃんとちゃにゃんはふと声をかけられた。

 

 

 「ん? 君達、さっき暁彰たちと入ってきた子達でしょ? どうした?

  もしかして、ギルドに入る新入り?」

 

 

 「あ、はい、一応検討しているところです。」

 

 

 「私も。」

 

 

「え? そうなの? うちで決めればいいのに。 他のギルドよりもうちらの方が絶対何倍も楽しく過ごせるよ!」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんの応答を聞き、さっきまで、モニターで依頼書を見つめていた女性が話に入ってきた。

 

 

 それを機に、ギルド内にいたメンバーが集まりだした。

 

 

 「まぁ、二人の思うことだってあるさ。 ああ、申し遅れてたね。私は、ホームズ。このギルドの総司令長を務めている。 何かギルドの事で分からないことがあれば、教えてあげるよ。」

 

 

 一番にくろちゃん達に話しかけた探偵衣装を身に着けたほんわかな女性が話した。そして、次に声をかけてきた元気はつらつとして話しする女性が続いた。

 

 

 「私はミナホ。 一応、このギルドのイベント企画実行委員長という役職を持っていま~す。 イベントの際はぜひ参加してね!!」

 

 

 ミナホが話し終えると、寄ってきたギルドメンバーが次々に自己紹介をする。そして、最後に

 

 

 「私が、このギルドの前衛隊長を受け持っている、御神です。主に、攻撃系の魔法が得意だから、特訓とかなら付き合うよ。 よろしく。」

 

 

 宝石が付いた緑の三角帽に、チェック柄の入った足首まで伸びたワンピースを着た女性が、にこやかに笑いながら、自己紹介してくれたところで、奥から人がやってきた。

 

 

 「はいはい。みんな~。注目!! これから重大発表します!!ステージに目線固定!!」

 

 

 ステージで鼻高になる男性をみんな、何が始まる事やらと見つめた。

 

 

 「今度は何~!! まさやん!!」

 

 

 「「えええええぇぇ~~~~!!」」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは驚いた。目の前の人は男性だ。イケメンだし、体格だって男らしく腹筋が割れているしで、どう見てもくろちゃん達が知るさっきまでの女性とは全然違う。

 

 怒声を浴び、いたずらが成功したマサユキは笑いながら謝る。

 

 

 「ごめん、ごめん。私って本当は男なんだよね~。ミナっちが作った魔法薬で性別変換させてよく仕事しているからさ~。仕事中はそのことは言えないしで、黙ってたんだけど…。普通は驚くよね!」

 

 

 「まさやんの場合は、女体化して、擦り寄ってくる男共の滑稽な哀れもない姿を拝んでみたいからってだけでしょ? 薬を作るうちは大変だよ…。」

 

 

 「そ、そんなことはないから! 仕事で男が絡むときしか使っていないから!!」

 

 

 「そういえば、まさやん。カジノの入り口に正座でしかも縛られていなかったっけ?相変わらず、派手な事をしてますね~。」

 

 

 含み笑いをしながら、御神はいう。

 

 

 「そうそう。今はその話でもちきりだよ!! ”ROSEリーダー、またもトラブってる!?”ってモニターで帝国中にモニター配信されてたよ。」

 

 

 「まぁ、いつもの事だよね! 私たちは、それをいつものようにモニターで観戦してたよ~!!」

 

 

 そういうやり取りでギルド内からドッと歓声が沸く。

 

 

 「ごほん。この話を横に置くとして…、その際に出会ったくろちゃんとちゃにゃんの歓迎を行おうと思います!! では…、みんな~!! 飲んで、食べて、盛り上がれ~!!」

 

 

 「「「「「「「「「おおおおおお~~~~~!!!!」」」」」」」」」

 

 

 その雄叫びが歓迎会の始まりの鐘の如く、どこからか現れた食事とパーティーグッズで盛大に二人を祝った。くろちゃんとちゃにゃんは心の内で、このギルドなら自分らしく過ごせそうとギルド入りを決めたのだった。

 

 

 夜遅くまで続いたこの歓迎会のあとの早朝、ギルドの帝国情報が詰まった新聞が届けられる。朝になれば、モニターにでも見られるだろう。その朝、帝国中に広まる事件が一面を飾っていた。

 

 

 





 まさやん、大丈夫。

 かっこいいリーダーだよ!!

 みんな、愛してますよ、リーダーを!!


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爆笑一大事件!



 爆笑になるかは皆さん次第。

 楽しんでくれたらいいナ。


 

 

 

 

 くろちゃん達がROSEに到着し、歓迎会が催された翌日の朝、帝都中に一大事件が新聞の一面にピックアップされて広まった。そして、モニターでも今日の一大メインニュースとして取り上げられていた。それは…、

 

 

 

 『”ROSE~薔薇の妖精~”、またまた事件を珍解決!

            ”ブルーム(花弁)”の悪事を暴く笑劇!!』

 

 

 

 という見出しが大きくはっきりと書かれていた。

 

 この記事を見た者はまたやらかしたなと呆れ返る者や、その記事内容と写真に爆笑したりする者などで朝からにぎわっていた。…当の本人たちは飲み過ぎ、食べ過ぎ、はしゃぎ過ぎで、今も寝ているが。

 

 ギルドに関する記事や依頼後の詳細記事は帝都の『ギルド依頼管理局』で管理される。そこで、公開許可が下りたものが記事や話のタネに流れることができるのだ。

 

 さて、どんな内容の記事かというと…、

 

 

 依頼したのは、全帝国魔法商売連合会(略して、帝魔商連)。

 

 依頼内容は、魔法アイテムの奪還、森の身辺調査。

 

 魔法アイテムの地方商売のため、出張に出掛けた者がなかなか連絡を残さない。調べてみると、皆、”迷宮の森”という場所で消息を絶っていた。”迷宮の森”の噂を聞き、当初は森に迷って出られずに彷徨っているのだろうと気にもせず、追加の捜索兼商人達の出張を再度行ったが、結果は同じ。このままでは、商売に差し支えてしまうとのことで、ギルドに依頼をした。そしてその依頼を受けたのが、”ROSE~薔薇の妖精~”だったわけである。

 

 依頼を受け、二人のROSE魔法師が独自の手法で調査した結果、そこでは、森に入り込む商人や旅人をターゲットに魔法アイテムや物品を強奪する集団がいたという。さらに詳細に調査した結果、その集団は手首に八枚花弁の紋章が入ったバンドをしていたことから、ギルド”ブルーム(花弁)”のルーキークラスの集団であることが判明した。

 巧みな方法で、ターゲットを森で迷わせ、アイテムを強奪する彼ら。

 

 ROSE魔法師達は依頼内容に記載されていたように、『魔法アイテムの奪還』に踏み切る。そして、”ブルーム”のルーキー達の一斉捕縛を成功させる。強奪方法の証拠も事前に用意していたため、依頼終了後に事件を通報したROSE魔法師の連絡により、事件現場へ急行した帝国警察魔法隊(ケイマ)は無事、ルーキーたちの検挙を成し遂げた。

 

 

 ここで、終われば、ROSEは大手柄を上げたといえる。しかし、ここで終わらないのが、ROSEである。

 

 

 実行犯であるルーキー達の顔には、誰だか判別できないくらいにたくさんの落書きがされており、髪形まで変わっていた。長髪は綺麗に整えて切られている。髪が短いものにはリボンやカチューシャでデコレーションしていた。一番ひどかったのは、リーダーのション。(だからシュンだっ!!) 

 髪を小さな女の子みたいにツインテールにされた上、顔には厚化粧の上から、「俺はション!!」(だ・か・ら、俺はシュンだって~!!)

 と書かれていた。

 

 

 

 この仕業は思いつきでいたずらしたくろちゃんである。

 

 

 

 だが、まだここで終わりではない。

 

 

 さらに、彼らは身ぐるみをベリベリと剥がされて、(服の破れた残骸がそこらじゅうに落ちていたから)パンツ一丁にされ、体中に落書きされていた。落書きの中には、落書きされたものの心の淵が書かれたような文章もあり、目を覚ました実行犯の一人がそれを読まれると、顔を赤らめ、縛られている状態でケンケンっとしながら、逃亡を図ろうとした。無論、ケイマが逃亡を許すわけないが。

 ケイマは到着後、現状を目のあたりにし、沈黙したという。若干は爆笑する者もいたらしい。

 ルーキー達の捕縛は様々で、完全に縛られている者もいれば、四つん這いにされてる者、なぜか組体操のピラミッドをしている者、そして極めつけは、集団の中で、一番太った者を両手足を縛って豚の丸焼き体勢にさせられた上、その周りを囲んで踊る者達がおり、その後ろでは、なぜか拝む者達までいて、一番目立っていた。

 

 

 

 これらはすべてマサユキの仕業である。くろちゃんのいたずらを観察していたマサユキの悪戯心に火が付き、さらに追加した結果がこれである。縛っていない者には、マリ一族秘伝の錯乱効果をもたらす香水を使った。

 

 

 

 そういう事で、”ブルーム”の悪事がこういった形で露呈してしまい、ギルドにはケイマが家宅捜索し、更なる証拠を上げ、ギルドを徹底的に取り締まった。

 

 

 …という内容の記事が新聞やモニターに掲載されていた。

 

 

 

 

 その記事を昼過ぎにようやく見たROSEメンバーは拡声器並みの大爆笑がギルド内に鳴り響いた。

 

 

 「ぶはっ!! ハハハハハ、何これ!!? ハハハハ!! さすが、まさやん!

  やることがいつも凄すぎる!!」

 

 「これは、今までの中で、最高傑作じゃない!!?」

 

 「俺ならここまではしない。」

 

 「ここまでは…って、少しは悪戯するんだ?」

 

 「お腹痛いって!! ちょっと…、誰か、病院に連れて行ってくれ…。」

 

 

 そんな受けのいい人が集まったROSE。この後、ケイマがやってきて、マサユキが連行される事はギルドメンバーにとっては常識だという事は横に置いといて…。

 

 

 「あの~、ルーキー達の顔を弄ったのは、私なんですけど?」

 

 

 記事を見たくろちゃんは責任を全てROSEとマサユキに被せたみたいで、気が重くなり、自白をギルドのみんなにしたが、一蹴してしまう。

 

 

 「ああ、それ? 大丈夫。 こういうのはこのROSEの専売特許みたいなものだし。」

 

 

 「そうそう、それに連れていかれた奴らも、口は割らないと思うよ?」

 

 「仮にもギルドに入っていた奴らが、初心者魔法師にコテンパンにやられたなんて、プライドの高い魔法師が集まったギルド”ブルーム”が自らの恥を晒すような真似はしないよ。」

 

 

 口々にくろちゃんを励まし、連帯責任だと言ってくれるROSEメンバーに心を打たれ、ついにあのセリフを口にするくろちゃん。

 

 

 「私!! このROSEに入って、みんなと仲間になりたいです!!」

 

 続いて、ちゃにゃんも、

 

 「私も!! こんなに楽しいギルド、入れずにはいられません!!」

 

 

 その言葉を聞いたROSEメンバーは待ってましたと言わんばかりに盛大に二人を迎えた。そして、くろちゃんとちゃにゃんにマサユキが手を伸ばす。

 

 「これから、ROSEの一員として、共に楽しんでいこう!!」

 

 「「はい!!」」

 

 二人はマサユキの手と握手を交わす。

 

 

 

こうして、二人は正式にギルド”ROSE~薔薇の妖精~”に入会した。

 

 

 

 

 

 

 

<補足>

 

 「よし、二人とも正式に入ったことだし。あれ、言っちゃうか。」

 

 マサユキは笑顔を張り付けて、にやにや笑う。何か不自然だと思うくろちゃんとちゃにゃんだったが、すぐに驚愕の表情へと変わる。

 

 「じゃ、みんな! たった今から、ギルドリーダーはくろちゃんに決まり!!空枠だった後衛隊長はちゃにゃんに決まり!! 私は相談役となるんで、後はよろしく!!」

 

 ウィンクと舌を出して、決めポーズをするマサユキ。あまりの決定で、目をぱちくりするくろちゃんとちゃにゃん。

 

 「これは二人に会った時から人選は決めてたんだよね~。 前から、リーダー交代しようって思ってたし。」

 

 

 「まさやんの後継者か…。いいんじゃない! うちは賛成。 なんか…、おんなじ匂いがするし。」

 

 と、ミナホが賛成の意を示すと次々に賛成の声が上がる。

 

 この状況に流されまいと、くろちゃんは反論する。

 

 「えっ! 何でリーダー!? もっと経験者が…。ほら、ホームズさんとか、RDCさんとか、御神さんとか!!」

 

 

 「いや、私たちはリーダーはしたくないや。補佐とかの方が気楽だし。性に合ってるし。」

 

 

 名を上げられた他のメンバーも云々と頷き、これまた一蹴される。

 

 

 もはや反論はできないとがっくり肩を落とすくろちゃんとちゃにゃん。

 そんな二人を早速訓練するため、御神はギルドの訓練場へと連れてく。

 そして、マサユキはケイマに引きずられながら連行される。

 その両者をほかのメンバーが手を振って見送る。

 

 

 いまさらになって、ROSEの自由奔放さを身に染みたくろちゃんとちゃにゃんだった。

 

 (でもまぁ、後悔はない、かな。)

 

 






 なんと、豪快な連中なんだ!!


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NST!! 出動!!(前篇)

 ROSEでよく見られる光景…。

 うちらにとってはお馴染み展開だけど…、どう思うかな…?


 

 

 

 「つ、疲れた~。今日の特訓もハードだった。」

 

 

 息を切らしながら、ギルドの地下に創設されているイメージシチュエーションアクティブルームで御神とホムラによる猛特訓を受けていたくろちゃんとちゃにゃん。

 

 終了した時は、既に日は傾き、ほかのギルドメンバーは夕食を食べていた。くろちゃん達も美味しそうな食事を目の前に涎を垂らしながら、テーブルに向かう。

 

 

 「それにしても、くろちゃんもちゃにゃんもギルドに入った時と比べて格段にレベルアップしたんじゃないか?」

 

 「そうだね。この調子なら、魔法試合にも参加できるよ。」

 

 絶賛されたくろちゃんとちゃにゃんは互いの顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。食事という名のメンバーとの団欒も一通り済んだ頃、ギルドの玄関の扉が開く。

 

 

 「ただいま~。 仕事終わらせてきた~。 食べ物~。」

 

 

 腹の虫を鳴かせながら、帰ってきたミナホはチャチャッと夕食を食べると、気合を入れ直し始め、

 

 

 「じゃ、お風呂に入ってくる。」

 

 とみんなに行ってから、2階の大浴場に向かった。

 

 それを見たちゃにゃんは今日は早めに寝るため、風呂に入ろうとミナホの後を追って浴場に向かった。

 

 その姿を見送ったメンバーは慌ただしくなった。そして、それを待っていました!というかのようなタイミングでマサユキがステージに現れる。

 

 

 「よし! 今日も来ました!! この時間!! 待ちに待ったこの時が!!

  NST!! 出動準備ができ次第、目的地へ向かう!!

  隊員は速やかにこの場に集結せよ!!」

 

 

 マサユキの号令を聞き、ホームズ、御神、ホムラがステージに集まる。3人は左右に小型カメラを着けた眼鏡を装着し、愛用のCADまで、点検し始めた。マサユキは、何かのリモコンを弄って、確認している。

 

 それを見て、どこかに殴り込みにでも行くのかと思ったくろちゃんは近くにいたギルドメンバーのサガットに尋ねてみた。

 

 

 「これからどこかに行くの?」

 

 「え? あ、うん。これからギルド内で攻防戦が起きるよ。これは、ROSEにとっては一種のお約束とでもいうのかな? 」

 

 そう言って、サガットはくろちゃんの耳元で詳細を話したら、目をキラキラに輝かせて、瞬発的な動きでステージに行き、マサユキに参加を表明した。

 

 マサユキはニヤッと不敵な笑みを浮かべ、「来ると思ったよ…。」と呟き、歓迎した。ほかのメンバーも納得の表情で迎えた。

 

 

 「では、これより、出動する。今回は、ホムラっちがこちらに回ってくれた。目標はミナっち、ちゃにゃん、RDC!! どんな手段でも構わない!! 今度こそ、目に物を拝むぞ!!」

 

 

 「「「「おおおお~~~!!!」」」」

 

 

 「では、参る!! 覗きし隊!!(略して覗き:N、し:S、隊:TのNST)ファイト~!!」

 

 

 こうして、変態(このギルドではヘムタイと呼ぶ。)が集まった覗き集団が獲物を狙って、風呂場に向かっていった。なお、くろちゃんは、興奮で鼻血を出しながら、突き進む。マサユキも既にカメラを録画モードにして、鼻下伸ばしてターゲットに向かう。二人は生粋の変態(ヘムタイ)素質だったのだ。

 

 その二人を見て、やっぱり同じにおいだったとギルド全員が自分たちの予感が当たった事に納得と若干の呆れが入り混じった目で見届けた。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

 

 『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』でマサユキ達の動向を視ていたミナホはまたか…と湯船につかりながら、ため息を吐いた。今日のこっちの仲間はちゃにゃんとRDC。戦力としては対抗できるが、正直、今回は耐えられるかどうかわからない。いつもNSTを行動不能にしているが、覗きの執念が違うのか、マサユキだけはいつも最後の関門になってしまう。それを防ぐのにも苦労が絶えないのに、今回はくろちゃんまで参加するのだ。観察するあたりでも、二人の体質はまるで同じ。これまで連戦連勝してきたミナホもこれには呻き声を上げずにはいられなかった。

 

 

 「…、二人とも、来たよ。 今回はパワーアップしているから、くれぐれも気を抜いてはだめだよ!!」

 

 

 「返り討ちにしよう。」

 

 

 「は、はい!! 純情乙女を守って見せます!!」

 

 

 防水加工したCADを手に、3人は湯船から出て、防衛準備に入った。

 

 

 

 

 

 

 再び、NSTサイド。

 

 「今回は勝てそうな予感。ばっちり録画するぞ!」(●REC)ジ~~~~~~ 

 

 壁に沿ってかに歩きをしながら進む中、ミナホ達が仕掛けた第一トラップフィールドに近づいてゆく。

 

 

 こうして、何とも言えない変な意地の攻防戦が始まった。

 

 

 

 

 

 …後篇に続く。




(●REC)最近よく見る代物だわ。


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NST!! 出動!!(後篇)

 実際に今、攻防戦したらどうなるんだろう!?


 

 

 

 

 

第一トラップフィールドが発動。ちゃにゃんが仕掛けた『幻影投影』で大浴場までの道を分断し、RDCの精霊魔法『濃霧』で深い霧を発生させ、視界を奪う。

 

 「ミナっち、仕掛けてきたな。みんな、はぐれてはだめだ。道順は体に刻みついている。感覚を忘れず、進むぞ!!」

 

 

 マサユキの合図で、NSTは一塊になる。しかし、RDCにかかれば、それは無駄な足掻きといえる。RDCは即座に『木霊迷路』を発動。NSTの三半規管を狂わせ、方向感覚を見失わせる。

 

 しかし、ここで惑わされないのが、NST。

 

 未然にこういう攻撃をしてくると経験上、予測していたため、最新の魔法アイテムを装備していた。

 NSTは振動波や周波等に対抗できる周波阻害魔法の起動式が格納されたヘッドフォンをしていた。これにより、どんな振動系魔法で錯覚や感覚麻痺を仕掛けようとも、その周波に応じて自動的に阻害する振動魔法を発動させ、中和するように変数化されている。事実上、ただヘッドフォンを身に着けるだけで、相手の錯乱を防げるという訳だ。だから、RDCの『木霊迷路』が効かず、ただいま、視界が悪い状態の中をヘムタイが突き進んでいる。ちなみに彼らのメガネは録画機能付きのカメラを搭載した普通のアイテムである。

 

 

 「う~ん、Rっち、木霊は解いていいよ。ちゃにゃっちはそのまま続けて。」

 

 少し考えながらRDCに魔法解除を指示するミナホ。魔法が阻害されている事をRDCも分かっていたからすぐに聞き入れて、解除する。しかし、この第一トラップフィールドが成功する、しないではNST撃破に大きく関わってくる。RDCはミナホの考えを聞くべく、問いかける。

 

 「このままじゃ突破されるけど、どうする? ミナっち。」

 

 

 「こうなったら、あれを使うか。 何とも皮肉な事だけど。」

 

 取り出したのは、半透明の緑色の液体が入った小瓶だった。

 

 「それは? 」

 

 ちゃにゃんが小瓶の中を覗き込みながら、尋ねる。

 

 「あまり匂いを嗅がない方がいいよ。 即効性だしね。 もしかして、これを?」

 

 小瓶の中身を知るRDCがちゃにゃんに軽く注意をする。そして、苦笑気味に確認する。ミナホは頷き、小瓶の蓋を開けると、液体を単一の加熱系魔法で蒸発させ、気体化させると、『スモークボール』で5つに分け、密集させる。後は、『エレメンタルサイト』でNSTの位置を確認して、5つのスモークボールをそれぞれの顔面に移動させ、魔法を解除する。すると、NSTの動きに変化が表れ始める。さっきまで一塊で進んでいたはずが、徐々に乱れ始め、あらぬ方向へ行ったり来たりし出した。

 

 小瓶の中身の正体は、マサユキのマリ一族秘伝の錯覚・感覚麻痺効果の香水だった。これは、マサユキがミナホが開発した性別変換の魔法薬と交換で渡したものだった。何かに使えればと取っておいた香水を使ったが、自分の香水で墓穴を掘る事になったマサユキ。ミナホが言ったとおり、本当に皮肉な事だ。

 

 こうして、ちゃにゃんの『幻影投影』と合わさって、隊の分断に成功する。いや、半分成功した。ホームズ・御神・ホムラのチームとマサユキとくろちゃんのチームに分かれる。本来は、くろちゃんをホームズ達の行動させるつもりだったが、同じにおい同士で引き付けあうのか、全く離れずにこのような分断になってしまった。これには、防衛チームも苦笑するしかなく、心の中ではやはり似た者同士は怖いなとまったく同じ考えをしていた。

 

 それでも防衛チームは次の第2トラップへと移行する。

 

 

 

★★★

 

 

 ホームズサイド

 

 

 「どうやら、マサヤン達とははぐれたみたいだな。」

 

 「ヘッドフォンしていたのに。やるね!ミナっち達!!」

 

 「引き返す?」

 

 のんきに会話するホームズ達は濃霧と香水の効果が切れたため、再度浴場に向かう事にする。しかしそれを許す訳がない防衛チームが仕掛ける。いきなりホームズ達の頭上に熱湯が降り注ぐ。

 

 「「「熱っ!!!」」」

 

 そこに尽かさず、ドンッ!! ドドドドドドドッ~~~!!!

 

 あまりの轟音に服を脱ぎながら、音がする方を見ると、廊下一杯の大きさの鉄球が猛スピードで迫ってくるのだ。これにはムンクの叫びという絵画のようにヒィ~~!!となって、全力全身でホームズ達は逃げ出した。

 

 「こ、これはっ! 今までなかったよ~!!」

 

 「おいら、もうやばす!!」

 

 「そんな事より、どうするよ~!!」

 

 全力で逃げるが、一向に止まる気配がない。更に一本通路が続いていて、横廊下が見当たらない。ちゃにゃんが『光学迷彩』で横廊下を屈折投影で隠しているからだ。一か八かでホムラと御神が横壁に突進するが、運はミナホ達に傾いたようで、見事に壁に激突した。頭が錯乱状態の二人に「こんな時に~!!」と突っ込むホームズ。このままでは、鉄球がやってくるのも時間の問題。

 

 ホームズはCADを操作する。そして、とうとう間近まで迫ってきた鉄球に勝負を挑む。

 

 「反撃してやるぞ! 『殴打』だ!」

 

 ホームズは自身の腕を重点的に座標固定し硬化させ、鉄拳攻撃を繰り出した。まさに鉄球VS鉄拳の珍しい構図の対決だ。この決着は、まさかの鉄球を粉砕した鉄拳の勝利で幕を下ろす。

 

 「さづが、ほおにゅづだお!(さすが、ホームズだよ!)」

 

 「はふかぁた~。(たすかった~)」

 

 壁の激突の影響がまだ続いて呂律が回らないホムラと御神。それでもホームズに賞賛を送る。ホームズはふふんと鼻高々になるが、油断したのが運のツキ。ホームズの上にタライがバキィ~ンと言う音を立てながらホームズの頭にグリーンヒットする。その場に倒れるホームズは逆上せていた。そこに、逆方向からの鉄球が三人を襲い、踏み付けられ、完敗する。

 

 「よし、三人は始末した。後は、マサユキとくろちゃんだね。」

 

 三人を壁に貼り付けて、CADを取り上げる防衛チーム。ホームズは肉体的に丈夫なため、すぐに目を覚ます。そして、負けたために今は、口を尖らせて不貞腐れ中。

 

 構っている時間はないため、ホームズは無視して、残りの排除に防衛チームは向かう。その際に、ホームズ達を張り付けにした壁は『光学迷彩』で隠す。

 

 

 

★★★

 

 

 

 マサユキサイド

 

 

 「…どうやら、みんなはやられたようだ! くそっ! 安らかに眠れ。民の事は忘れない。」

 

 (勝手に殺すな!)

 

 

 「どうしましょ!隊長! ここで引くのはNSTの名誉に傷がつきます!」

 

 (いやいや、そんな大層な名誉じゃないだろ!)

 

 

 二人は大浴場の入り口まで来ていた。ここまで来たら、後には引けない。いや、元より引く気はないっ!!鼻血を垂らしながら、慎重に入ろうとする二人の録画機能付きカメラ搭載メガネが消え去る。ミナホが『雲散霧消』を使ったからだ。もう、防衛チームは付き合うのが面倒になってきたため、害虫駆除に本格的に乗り出した。

 

 「カメラがっ!! これでは、録画が!!」

 

 「大丈夫だ。我が愛しい相棒よ。そのための秘密兵器を用意しておいた。」

 

 (いつのまに相棒までの仲になったんだよ!)

 

 

 そこで取り出したのが、出動前にマサユキが確認していたものだった。

 

 「ジャジャ~ン! ”ドローン”だ!!」

 

 「どろーん?」

 

 最近帝都で販売された機械で上空を飛びまわりながらも機体に搭載したカメラでリモコントローラーについている画面に映し出される映像が見れるのだ。本当の仕様はドローンに特化型CADと同じ機能が付いているため、起動式を自分で調整できる。そして、奇襲作戦などに役立てる代物のはずだ。それをマサユキは覗きのために大幅に改造した。

 

 「それでは、発進!」

 

 胸に期待を乗せて、ドローンを見送るマサユキとくろちゃん。しかし、それはものの数秒で儚くも散っていった。

 

 RDCの『雷導子』で攻撃され、完膚なきまでに壊された。マサユキ達は間一髪の所で障壁魔法を展開し、雷撃は食い止めたが、目の前の夢が潰えた。しばらく、沈黙が続いたが、それでもあきらめないのが、ヘムタイ魂。床を這い蹲りながら浴場に向かおうとするマサユキとくろちゃんは粘々した物体に捕らわれてしまう。

 

 「なんだ?これは…。」

 

 「それですか~? トリモチですよ~?」

 

 マサユキの独り言に答えたのは、微笑を浮かべてマサユキ達を見下ろすちゃにゃんだった。その近くには、RDCとミナホまでいた。三人とももう目が笑っていない…。

 

 ものすごいオーラを放つ三人にマサユキとくろちゃんは背筋が凍るような悪寒を感じる。

 

 「見事に引っかかってくれました。 ありがとうございます。」

 

 「いや、あの、その…。引っかかりたくて引っかかったわけじゃ…。」

 

 「まぁ、せっかく捕獲したことだし…、害虫駆除を始めますか…。」

 

 「では、そうしましょうか…。 二人ともいいよね?」

 

 

 

 

 「「いやややああああぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!!!!!」」

 

 

 

 ギルド中に広がる悲鳴を合図にこの攻防戦は終了した。

 

 

 

 

 攻防戦が終わり、ぼろぼろになった状態でホールに戻ったくろちゃんはよぼよぼとしていた。そんなくろちゃんにホールにいたみんなは激励の言葉を述べる。

 

 

 「がハハハハ! くろちゃんもよくやったけどな~。 あの一瞬に障壁魔法を出せただけでも立派だよ!」

 

 とサガットがくろちゃんの背中を力いっぱい叩きながら、励ます。でも、くろちゃんは背中が痛い事よりもどうして攻防戦の内容を知っていたのかが気になった。

 

 その理由はモニターを見て分かった。モニターには先ほどの攻防戦が見事なカメラ角度で撮られ、流れていた。その映像には肌露出高めの風呂上がりのミナホ達が鮮明に映っていた。しかも、どっちか勝つか、賭け事までしていた。

 

 

 (…みんなもヘムタイじゃないか!?)

 

 

 と突っ込みを入れるくろちゃんだった。

 

 





 魔法と古典的な仕掛けで防衛…。


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コスチェンジ!!


ROSEイベの原点だよね!

 実際にやりましたネタを使います!


 

 

 

 

 

今日はROSEの恒例のチームイベントがあるらしい。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは中心街にあるクエストタワーに行く際に、ミナホから聞かされ、今日は終わったら、早めに戻るように言われた。ギルドでもホームズや御神が騒いでいて、何かの準備をしていた。

 

 気になりながらもレベルアップのため、クエストタワーで次々と攻略をしていくくろちゃんとちゃにゃんは敵魔法師にみせた変わり人形を相手に戦っている最中だが、気楽に話をするほど余裕を見せていた。

 

 「ねぇ、イベントって何するんだろうね?」

 

 「さぁ、分からないけど、ほーちゃん達が張り切っていたから、楽しそうなのは分かるよ。」

 

 「じゃ、ミナっちが言っていたように、早めに帰るかな。後、少しでこのクエストタワーも完全攻略できるし、楽しみは取っておかないとね。」

 

 「そうだねっ! っと…。 最上階は日を改めてと行きますか。」

 

 

 現在のフロアをクリアした二人はクリア魔法師専用のエレベーターに乗って、受付まで下りて行った。

 

 くろちゃん達が今、攻略中のこのクエストタワーはギルドに入りたての初心者用の実戦戦闘訓練施設である。フロアは全100階まであり、全フロアを攻略すれば、晴れて一人前と認められ、魔法試合やイベントクエストに参加する資格を得られる。これらの行事はまたの機会で話すとして…。くろちゃんたちは通常なら半年かかる攻略をたった5日で最上階のみを残す所まで来ていた。御神やホームズ、ホムラ、ほかのメンバーの特訓によって、成長が桁違いに上がっていた。

 

 

 ともかく、二人は受付で、今日の成果を記録し、今日の稼いだポイントをガチャや強化アイテム、金品に代えて、ギルドに戻る。

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 「「ただいま~!!」」

 

 

 ギルドに戻った二人はステージ上のセッティングに夢中になるミナホに近づいて、イベントの説明を聞くことにする。

 

 「今日のチムイベは”ファッションコンテスト”だよ! うちがテーマを発表するから、そのお題に沿ったコスチュームに着替えて、ステージで披露!その後、観戦するギルドメンバーが投票し、優勝者を決めるって流れになっているんだ!」

 

 

 嬉しそうに説明するミナホは二人にも出場を勧める。

 

 

「絶対に楽しいよ!参加してみて!」

 

 

 「いいよ! 元々参加してみたかったんだ! 」

 

 

 「ところで、注意事項とかあるの?」

 

 

 二人が出場表明をしたところで、ミナホはちゃにゃんの質問に答える。

 

 

 「まず一つ目は、コスチュームは自分たちが持っているものから選んで着替えること!他人から借りるのはNG! それがばれたら、失格だから、気を付けてね!あと、エントリー者にも1票だけ投票することができるけど、自分以外の人に入れること!

  まぁ、これくらいかな?」

 

 

 「?どうして、コスを借りたらいけないの?」

 

 疑問に思って、尋ねるくろちゃん。

 

 

 「このイベはイベントや魔法試合でも役に立つからね。ほら、魔法アイテムにもそれなりの力があるように、コスチュームにも体力・魔法力・防御力を補佐する物ってあるでしょ?状況に応じてコスを変え、より自分を強化し、守る…。今回のイベはそれを鍛えるために開いてるんだ!」

 

 ミナホの説明でそこまで考えていたのかと感心している二人だったが、ミナホは内心たった今作った尤もらしい文句です~。と語っていた。本当はただ盛り上げたいだけなのである。

 

 

 「じゃ、二人とも参加することだし、テーマ、言っておくね!

  テーマは…”これで笑いを取る!”だから! よし、いう事も言ったし、うちは準備に戻るよ、じゃね~。」

 

 

 ステージに戻るミナホを見送る二人はミナホに聞こえないように話す。

 

 

 「”笑いを取る”って…、笑えるコスでどう相手にダメージ与えるんだろう?」

 

 「腹痛起こさせて、動けなくなったところをグザッてやるとか?」

 

 

 二人はテーマについて若干不安を覚えたが、くろちゃんは内心笑いを堪えている部分もあった。

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 チムイベ、”ファッションコンテスト”が開催される時刻となり、とうとう始まった。

 

 参加者はみんなお馴染みのメンバー。個性的な服装でそれぞれがステージに現れた。

 

 

 ●エントリー1  くろちゃん

  頭にはシルバーのピカピカに光るティアラに、黄色のマントが付いた白雪姫風のピンクのワンピース。ちなみにスカート丈はパンティーが見えるか見えないかのラインを攻める!そして太腿までの白いタイツ。

 

 

 「私はプリンスプリキュア!! ご覚悟はよろしくて♪ (’ ▽ ‘)」

 

 

 (余談だが、くろちゃんが出てきた途端、マサユキが大量の鼻血を噴射し、”たまんねぇ~!!”と叫んでいた。)

 

 

 ●エントリー2  ホームズ

  鬼をイメージした服装で鬼の角のカチューシャに、足の付け根までしかないもうパンティだといっていいだろう、黄色の縞々模様を履いていた。なお、胸にもパンティーと同じ柄の布が巻かれている。だが、男性のホームズが胸まで隠す必要があるのか?だが、その異質な感じも魅力が伝わるらしく、若干黄色い声援が聞こえた。

 

 「泣く子はいねがー!! 。(‘ W ’)。」

 

 

 ●エントリー3 ちゃにゃん

  袖口の山形の模様の水色の羽織に、組紐、黒袴。だが、なぜか豊胸な胸のあたりは包帯で巻かれていた。だから、羽織が靡くと見える肌とくびれのラインが観戦者のヘムタイ魂を昂らせる。

 

 「みんな―集まれぃ。殿方からの御挨拶だー。(^3^)/」

 

 (ぶっひょ~~!! たまんねぇ~! ●RECジ~~ マサユキ献血中に大量鼻血噴射

  くろちゃんも同じく大量鼻血噴射)

 

 

 ●エントリー4 ミナホ

  惑星をイメージしたペンダントに、ウサギの耳のカチューシャ、シルクテイストの星を散りばめたデザインのガウン、ウサギのしっぽ付のピンクショートパンツ。

 

 「うちは付きの住人であり、姫を守りに来たぴょん。(‘ ◇ ’)

  何っ! 姫に怪我が! おのれ!! 月に変わってお仕置きぴょんだ~!」

 

 (いつもながら設定が懲りすぎるミナホ)

 

 

 

 以上のエントリー者のファッションを披露した後、投票に移った。

 

 もし、優勝すれば、モニターのファッション殿堂入り録に自分の栄誉が刻まれる。ここ最近はホームズの連覇だったため、皆、力が入る。

 

 

 「それでは、集計が終わったので、発表いたします! 今回の優勝者は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  くろちゃんとミナホの同率優勝です!!」

 

 

 

 ミナホの発表と同時にくろちゃんとミナホにライトがあてられる。握手喝采を受ける二人。くろちゃんは初参加にして、初優勝を収めた。ホームズは連覇を逃し、体育座りで、ぐるぐると指を回し、不貞腐れた。

 

 

 こうして、今回のファッションコンテストは幕を下ろした。次のファッションコンテストではどんなコスで魅せてくれるのか!

 

 

 

 マサユキはくろちゃんとちゃにゃんのどっちに投票するか、悩んだ結果、ちゃにゃんに投票した。理由は…、

 

 「ちゃにゃんの方が露出が大胆だったから! いいもの見せてもらったぜ!」

 

 親指を突き立て、キラッと歯を煌めかせて笑うマサユキの顔には未だに鼻血がぼたぼたっと床に滴り落ちていた。もう片方の手には録画機能付きのカメラ、上空にはドローンが存在を隠しきれずにいた。

 

 

 

 そこへ、くろちゃんが駆け寄ってきて、マサユキに焼き増しを頼む光景が見られた。そこから、ちゃにゃんとホムラとミナホのくろちゃん・マサユキの捕縛劇が始まったのだった。





 最終的にこうなるのか!


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カウントダウン


 よし、ここからが見せ場だ!


 

 

 

 

 

 「よし、今度の魔法試合にとうとうくろちゃん達を参加させるか!」

 

 

 マサユキが自信満々の笑顔でいきなりギルドメンバーに言い放った。しかし、一瞬沈黙したが、すぐにそれぞれの会話に戻る。

 

 

 「ちょっと! 聞いて! 二人とも力もつけてきたし、そろそろ魔法試合にも参加させようかなって…! みんなの意見を聞かせてほしいんだよ。」

 

 「何をいまさら。 そもそも二人を試合に出すことは元々決定事項だし、おいらたちの話を聞かなくてもいいはずだよ。」

 

 「それに、今日は、二人ともクエストタワーの完全攻略に行ったんだから、今日にでも正式に一人前の資格をもらえるでしょ。 慌てなくても大丈夫だよ。」

 

 「まさやんって、くろちゃんにご執心だからな~。あんまり構ってばかりいると、嫌われる…、いや、逆に二人で暴走するかな?」

 

 

 みんな言いたい放題言って盛り上がる中、マサユキは俯きながら言い放つ。

 

 

 「みんな、好き勝手言って…。 こんな事をしている間にも、進行しているんだぞ…!」

 

 いつにも増して深刻な表情のマサユキに皆は会話をやめ、マサユキの言葉を待ちつつ、ギルドの抱える問題に触れるのかと冷や冷やしていた。そして、とうとう顔を上げ、大声で叫んだ。

 

 

 「私が大好きなあのギルド”愛しドル”が魔法試合で徐々にオタク達を虜にするために大胆になってきつつあるのだぞ! これは早く魔法試合に参加して拝まないっ……と…。」

 

 

 「いい加減だまれっ…。 ヘムタイ相談役。」

 

 暁彰がマサユキを踏み付けて、暴走を止める。みんなもよくやったという顔で称賛の意を示す。撃沈されたマサユキだったが、顔はなぜか踏まれて嬉しいと書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、みんなで夕食を食べ終わった後、ホールでミーティングする事になった。

 

 

 「みんな、今日、くろちゃんとちゃにゃんがクエストタワーを完全攻略し、一人前の証、マギクスバッジを手にして帰ってきた。これにより、本格的に依頼を受けるだけでなく、魔法試合、イベントクエストでも参加できるようになった!まずは二人を祝福だ~!!」

 

 

 進行役のマサユキは最初は落ち着いた雰囲気だったが、徐々に興奮状態となり、いつものノリに戻ってしまう。先程、くろちゃんとちゃにゃんの祝福会をした後のため、メンバーの中には既にダウンしてしまっている者もいる。一刻もベッドに運んで、縛り上げないといけないメンバーのため、マサユキに先を急がす。

 

 

 咳払いをして、マサユキはくろちゃんに質問する。

 

 

 「くろちゃんはギルドにはランクがある事は知ってる?」

 

 

 「うん。ランクによってギルドに依頼される仕事のレベルが変わって、それを決めるのが、魔法試合とイベントクエストだってクエストタワーの受付嬢に聞いた。」

 

 

 「そうなんだ。まぁ、一応説明するようには言われているし、簡単に説明するよ~。」

 

 モニターにリモコンを向け、ギルドのランク説明の資料が表示された。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ランク付けは帝国魔法師ギルド上位機関がギルドの成績や仕事依頼の達成度によって選定する。ランクは次の5つ。

 

 〇ランクS

  帝国ギルド上位機関によって、選ばれたたった1つのギルドに与えられるランク。

  主に、帝都の警備監督、帝都の重心、有名人からの依頼等の帝国に関する仕事が巻かされる。

 

 〇ランクA 定員:30ギルド

  商人や店を運営する者からの仕事依頼、帝都の大部分の捜査活動依頼などを担当。ギルドに訓練場を創設可能。

 

 〇ランクB 定員:150ギルド

  一般人からの依頼を担当。 捜査活動依頼の際は、ランクAギルドのサポート。

 

 〇ランクC 定員:500ギルド

  店のお手伝い程度の依頼を担当。

 

 (〇ランクD) 定員:?

 依頼なし。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ピラミッド型に図を表示して、説明したマサユキは最後に近づくにつれ、表情が引きつり始めたが、くろちゃんとちゃにゃんはモニターに注目しているため、気づかなかった。

 

 「質問はある?」

 

 

 「えっと、ROSEって、ランクどこに入るの?」

 

 

 「ROSEはランクAだな。 だから、割と自由に動けるのさ。」

 

 

 「じゃ、ランクSはどこのギルドなんですか?」

 

 

 ちゃにゃんの質問で、ギルドが一気に静まる。くろちゃん達は訝しみ、聞いてはいけないことだったかと話を変えようとした。

 

 

 「ランクSは”アスカ”だよ。」

 

 

 重苦しい雰囲気の中、くろちゃんの質問に答えたのは、ギルドでも前衛に特化した魔法師、hukaだった。一つの魔法だけで、大ダメージを与える彼女はギルドの中でも戦力として数えられている。そんな彼女が落ち込んでいる。くろちゃん達もギルドに張り込む空気でどれくらいのレベルのギルドが否応でも分かった。

 

 

 「”アスカ”は全員魔法力や体力が桁違いの強さを持ったメンバーで構成されていて、ほぼ無敵を誇っている。」

 

 

 「イベントでも魔法試合でも、その強さでいつも一位を手にしているんだ。あいつらに勝つにはそれなりの力と作戦を練っておかないと、一瞬で撃沈される。」

 

 

 サガットと暁彰の説明でさらに”アスカ”の脅威をひしひしと感じる。

 

 「でも、”アスカ”には勝った事があるし、それほど恐れなくても大丈夫!みんなで協力すれば、倒せない事はないから!」

 

 場の空気を一掃しようとミナホがいつもより明るい口調と声色で声かける。

 

 

 「そ、そうなんだ! 心配ないですね! そ、それで今度の魔法試合に参加するって言いましたけど、いつですか?」

 

 ミナホに合わせて、ちゃにゃんも参加しつつ、話を次の魔法試合に移す。そうすると、さっきまでの空気が嘘のように生気を復活させた。

 

 

 「明日だけど? 」

 

 

 「「明日っ!! 」」

 

 「そうそう。で、明日はくろちゃんのギルドリーダーとしてのお披露目も兼ねているから、頑張ろうね!」

 

 

 マサユキはこれでおしまいというかのようにメンバーを解散させて、明日の備えて早めの就寝をするように言うと、二階の寮部屋へ上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドに横になったくろちゃんはなかなか眠れず、寝返りを何回もしていた。明日は自分がリーダーとしてみんなをまとめないといけない。上手くできるかわからない…。わくわく感と不安感が入り混じって興奮していたが、ようやく安眠導入機が効いてきて、まぶたが重くなってくる。やっと眠れると思いながら、ふと疑問に思って、言えなかった事が頭の片隅に浮かんだ。

 

 (そういえば、何でランクDは曖昧な記述しかなかったんだろう?…。)

 

 

 だけど、それを考える意識は既に深い眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都のとある店の奥部屋…

 

 

 

 部屋を暗くしたこの部屋に年は20歳代ほどに見える好青年がモニター越しである人物と会話していた。相手の方は非表示にしていて映らない。

 

 「明日の準備はどうだ?」

 

 

 「滞りなく準備完了はしておりますよ。 これでも一流商人ですからね。」

 

 

 「…だが、この前は失敗しただろう?」

 

 

 「それは耳が痛いですね~! これは恥ずかしい。 何しろまだ未熟者が指示していましたので…。」

 

 

 「それはお前の選任が悪かったという事だろう。」

 

 

 「相変わらず厳しいお人だ。 でも、その者を主犯としましたので、ばれてません。」

 

 

 「…そういう事にしておこう。 だがまた失敗するようなら…、言わなくても分かるな?」

 

 

 「そりゃあもう! ご期待に沿えるように努めさせていただきます!」

 

 

 男の何を考えているか伺わせない笑みを浮かばせ、拝謁する。そして画面の向こうの声の主は用がないというかのように無造作に切る。

 

 

 この気さくな男はやれやれと手振りをし、この部屋を後にする。

 

 




なんだか、やばす?


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魔法試合


 これこそROSEの絶好調だよね!


 

 

 

 

 

 今日は待ちに待った魔法試合当日。ギルド内も浮き足立ち、モニターの前に全員集まっていた。

 

 

 魔法試合は帝国ギルド連盟がランダムに対戦ギルド、対戦場所、時間もランダムに決めるため、朝一番に参加ギルドに発表される仕組みになっている。場所や時間を間違えただけで不戦敗し、ランク落ちするギルドや魔法師もいるため、この発表は魔法試合の参加者には息も詰まるほどのものだ。(実際に息を詰まらせたら、試合にも出られないけど。)

 

 

 魔法試合発表時刻になり、モニターに試合運営のマスコット、マジバトが現れた。帝国が名のある魔法師に作らせた人工頭脳を搭載した鳥類型CAD.会話もでき、魔法も自分の思考の元で、行使できる。ただし、暴走する事も考慮して、ストッパーの起動式も内蔵されている。鳩に似せていて、片目には鼻掛けメガネがおしゃれに掛けている。帝都の至る所で起きる魔法試合を飛び回り、実況するのだ。

 

 …と、話が逸れたが、マジバトが画面に現れ、発表する。

 

 

 「おっはよう~!! 今日も快晴。 明日も快晴。 魔法試合も快晴!君の心も快晴か~い!!」

 

 

 「「「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 ギルド内に吹雪が吹く幻影が見えた。

 

 

 「おいおい。ノリが悪いぞ~!! 楽しまなきゃ!」

 

 

 「どうやって乗れっていうんだよ。 いつもながらサブい。」

 

 

 ギルドを代表して、みんなのムードメーカーである剣崎兵庫が突っ込むが…。

 

 

 「よっしゃ! じゃ、今回の対戦ギルドを発表するぞ!」

 

 

 「って! 無視か!Σ(ー口ー;)」

 

 

 相変わらず自分のペースで話を進めるマジバト。

 

 

 「対戦ギルドはこいつらだ! ”精霊”と”ノワルナ”だ!」

 

 

 「ノワルナ…か。 相手にとっては不足なし。」

 

 マサユキがニヤニヤと呟く。

 

 

 「第一試合はギルド”精霊”との対戦。今から3時間後にマギクススクールの校庭で対戦だ。

  次に第二試合はギルド”ノワルナ”との対戦。第一試合終了後から2時間後にクエストタワー最上階にて対戦。

  以上が今日の対戦カードだぜ! う~ん! 盛り上がってきたな~!」

 

 

 「相手にとっては不足はないが、対戦場所の位置が少し離れている。クエストタワーの事は…まぁ、お互いランクAだし、大丈夫だろう。」

 

 

 暁彰がマジバトの情報をもとに、対戦時間と場所を考慮し、調整していく。

 

 

 「じゃ、健闘を祈るぞ! 」

 

 

 そういったかと思うと、いきなり剣を取り出し、「ケン、ケン」と言いながら画面の正面まで来ると、「トウ~~っ!!」と言って剣を振り下ろし、画面は切れた。

 

 

 それを見ていたギルドメンバー全員、静まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、第一試合”精霊”との魔法試合が始まろうとしていた。くろちゃんは戦況を見つつ、指示しないといけないため、頭の中でイメトレをしていた。そこに、ホームズが肩をたたいて、励ます。

 

 

 「大丈夫さ。今まで訓練してきたことをそのまますればいいだけさ。それに、何よりギルド全員がいるんだ。何かあっても、絶対フォローしてやるよ。」

 

 

 「うん、ありがとう。試合の時はよろしくね。 総司令長ホームズ!」

 

 

 「おいらもよろしくな。 リーダー兼後衛隊長、くろちゃん。」

 

 

 それから持ち場について、試合の合図を待つ。くろちゃんはその間、持ち物の点検に入る。CADに魔法試合報酬記憶キューブ。

 

 魔法試合は報酬がもらえるため、その報酬を記憶するキューブが渡される。勝敗だけでなく、試合での貢献度でも報酬がもらえるため、このキューブがないと、報酬がもらえないのだ。ちなみに、対戦場所には観測領域魔法が展開するため、その魔法のおかげで、データを取ることができる。

 

 

 そして、相手ギルドの”精霊”が現れ、試合時刻が迫ってきた。

 

 試合の合図のランプが赤から、黄色、そして青となり、ブザーが響き渡る。

 

 

 「魔法試合、開始~~~!!」

 

 

 ブザーと一緒にマジバトが試合の宣言をする。それを合図に一斉に両者、魔法を展開する。

 

 相手ギルドの”精霊”は早速攻撃魔法を打ってきた。『氷炎地獄(インフェルノ)』・『凍火』等の全体攻撃に、『ブリオネイク』・『激震の共振破壊』等の単体攻撃を仕掛けてくる。

 

 それに対し、ROSEは後衛が『ブラックアウト』・『無風領域』で相手の防御を低下させ、魔法力も低下されていく。更に、前衛が『召精』で自分の魔法力を増加させた。強力攻撃魔法を前衛は受けるが、後衛のホームズが『オキシシャワー』や『リラクゼーション・ソーン』の回復魔法を発動する事で、前衛は回復をしながら、相手の攻撃を躱し続けてゆく。その間、後衛陣がサイオン弾や『遠当て』で着々と相手の攻撃する。

 

 

 相手ギルドはROSEの攻撃を訝しく思いながら、攻撃を続ける。先に前衛をダウンさせれば、後衛の攻撃ではまっとうな威力の攻撃はできないからだ。だが、いくら攻撃しても、すぐに回復されてしまい、一向に倒れない。”精霊”に焦りが見られ始める。

 

 

 それを目敏く見ていたくろちゃんは前衛に指示を出す。

 

 

 「今だ! 前衛は攻撃開始! 回復隊は攻撃に回って!」

 

 

 それ合図に、前衛は待ってましたと攻撃に転じる。

 

 

 前衛の御神、暁彰、ルー、huka、サガットは強力攻撃魔法を繰り出す。

 

 サガットは『地割れ』を、ルーは『破城槌』、『直列地雷』を、御神は『ランド・スプリング』を、暁彰は『爆裂』を、hukaは『フォノン・メーザー』を発動した。

 相手の前衛はこれくらいなら凌げると思っていたが、一発で撃沈される。

 

 

 「な、なぜ!?」

 

 

 「コンボパワーだよ。」

 

 

 相手の問いかけに御神が答える。相手は返事が返ってくるとは思っていなかったが。

 

 ”コンボパワー”はギルド内で魔法発動をすると、コンボが加算されていき、それに応じて、魔法力も上がっていくシステム。観測領域魔法の特性を利用したのだった。これにより、魔法力が飛躍的に上がったROSEの攻撃を”精霊”は防げなかったという訳だ。

 

 しかも、既に魔法力を全て攻撃に尽くしたため、復活する魔法力も尽きてしまった。後は、ROSEの一方的な攻撃タイムとなる。

 

 ROSE後衛がサイオン弾で稼いだコンボをやめ、気絶した相手の有効な『地鳴り』に魔法を変更し、撃ちまくる。

 

 ”精霊”の前衛が全滅し、後衛の連携が乱れる。『マルチ・アロマ』で御神達の防御を下げようとするが、初めに後衛が魔法力を低下させたため、威力は米粒程度。

 さらに、攻撃魔法を必死に展開するが、『風刃乱斬』や『能動空中機雷』をするがやはり弱っているため、威力が発揮されずに、どんどんポイントに差が生まれる。

 

 

 そして、とうとう試合終了ブザーが鳴り響き、圧倒的大差でROSEが勝利した。

 

 「くろちゃん、いい感じに指示できたじゃない!?」

 

 

 「タイミングもばっちりだったし、よかったぞ!」

 

 

 みんなでハイタッチし、祝いあった。

 

 

 それから、第二試合でも前の試合の疲れを感じさせず、圧倒的大差で今回の魔法試合の完全勝利を果たしたのだった。

 

 

 

 ギルドに戻った後、

 くろちゃんは報酬記憶キューブに貯まったポイントを嬉しそうに掲げた。ちゃにゃんも同じく初めての報酬にくろちゃんが何をするか参考に聞いてみた。

 

 「くろちゃんは貯まったポイントで何をするよ?」

 

 

 「ふふん! 新しいカメラを買うんだ! 防水加工付の最新録画用カメラを!」

 

 

 「絶対に買わせないっ!!」

 

 

 ちゃにゃんはくろちゃんの記憶キューブを取り上げ、逃げた。それをくろちゃんが追いかけ、追いかけっこがギルド内で勃発した。

 

 

 






 カメラから離れないのね~。


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イベント参加!?


 ゲームのイベントにはこんなものかっていうものがあります。

 今開催されているイベを題材にしてみました。


 

 

 

 

 

 先日の魔法試合が自信につながり、くろちゃんとちゃにゃんはその後の魔法試合でも、順調な滑り出しをしていった。そして、記憶キューブからの報酬で手に入れた魔法式・コスチューム強化アイテムや魔法アイテム・CAD等の点検、交換等をギルドのホールでワイワイとしていた。

 

 

 「ただいま~。ふぅ、今回のイベントクエストはやばいねぇ~。」

 

 

 「ああ、でもまだこの前のイベントよりはマシだと思えば、何とかなるさ。」

 

 

 「うちは完全無課金で行くから、どうしてもイベント記憶キューブを貯めたいんだよね~。じゃないと、ウルトラレア魔法式が手に入らん!」

 

 

 愚痴を言いながら、帰ってきたミナホとルー、剣崎兵庫は今開催されているイベントクエストから帰ってきた。話を聞くだけでも、かなりの鬱憤が溜まっているらしい。

 

 

 「お帰り~。 どうしたの?そんな顔して。 なんか納得できませんって顔しているよ。」

 

 

 「そうだよ、まさに納得できませんよ!」

 

 

 さらに後からhukaがギルドに帰ってきて話に加わる。どうやらみんな思う所があるらしい。この際だから、イベントクエストについて聞いておこう。いずれは出る予定だし。

 

 

 「イベントクエストって実際に何をするの?優秀なみんなから聞いておきたいな~って。」

 

 

 くろちゃんはみんなの機嫌を損なわないように気を付けて問いかける。それを集まったみんなはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの勢いで身を乗り出してきた。

 

 

 「イベントクエストって甘く見ない方がいいよ!」

 

 

 ルーの一言でイベントクエストの概要説明が始まる。

 

 

 イベントクエストは帝国ギルド連盟が定期的に行うイベントの事で、イベントの内容によって趣旨がガラッと変わる代物だ。様々なイベントもあり、体力だけを使ったイベントもあれば、限られた魔法力を使いながら敵魔法師や仲間内と戦ったり、他の魔法師と協力して戦闘したりとその時に応じて求められるものが違ってくる。

 様々なバリエーションでイベントを行う上で、多種多様な面でも対応できる魔法師になれるという売り文句で参加者を募ったりしているが、時には『これは遊びだろっ!?』と言いたくなるものもあったりするのだ。それが、今まさに今回開催されているイベントクエストだった。

 

 

 「今回のイベントは題して”プリンスのカレ食材調達”ってやつなんだ。」

 

 

 「違うよ、フカっち。 ”プリンスのカレ―食材調達”だよ。恋人を食材にしたり、ハーレムしたりしてどうするんだよ~。」

 

 

 フカっちの何気ない間違いをミナホが想像して突っ込む。

 

 

 「そんな事するイベントならとんでもない事になるね、この帝都は。ハハハハっ!!

  まぁ、それはさておき、このイベントはいわゆる”買い物”なんだよね。」

 

 

 「何でも、”俺はカレーというものを作った事もないから買い物ができないのさ。そこで、食材の選び方が分からないから、参謀に任せるよ。”ってことで、カレーの食材を買ってきて、それを持ってきた量と品質でポイントを手にしていき、イベント用の記憶キューブにデータが記憶されるんだ。」

 

 

 「何その、俺様感満載な理由は。」

 

 

 「つまりプリンスは楽をして、カレーを食べる事ができるという事?

  それはあまりにも非常識だわ~。」

 

 

 今回のイベント内容を聞いたくろちゃんとちゃにゃんは呆れるしかなく、イベント運営する帝国やギルド連盟へ怒りや講義を念で飛ばしまくった。

 

 

 「俺達も出たくはないが、一回出ると、個人やギルド別のランキングに自動的にランキングインしてしまうから、最後までしないといけないし、何より次回のイベントは参加表明してからの発表になるからな。取り消し無用のため、出るしかないんだ。」

 

 

 暁彰も加わり、どれだけイベントの内容に高低差があるが、思い知ったくろちゃん達。イベントに出ようとしていた気持ちが後ずさりする気分だ。だが、希望がミナホの言葉で持ち上がる。

 

 

 「でも明日で今回のイベは終わるし、うちらもそこそこの順位で維持しているし、大丈夫だよ。その翌日にはもうイベが始まるし、今回みたいな後には協力連携戦闘がある可能性があるから参加する価値があると思うよ!」

 

 

 「ほんとう!? ミナっち!」

 

 

 「うん、あくまで予想だから当てにはしないでね。」

 

 

 「それなら、参加する! 手強くても断然力が沸くってもんさ!」

 

 

 まだどんなイベントになるか分からない内に意気込むくろちゃんに、剣崎兵庫が一つアドバイスする。

 

 

 「あ、でも最下位に近い順位は絶対にとってはだめだよ! 場合によってはギルド脱退命令や魔法師のランク下げもあるし。」

 

 

 「「なんと~~~!!」」

 

 

 驚きのあまり、見事にシンクロするくろちゃんとちゃにゃん。

 

 

 「でも、この二人はいい順位を出すと思うよ。それこそ、今回のイベに今から出ても、1000位以内には入るよ。確か5000位ほど出てるから。」

 

 

 「そうだね。 大丈夫だよね。 ぶはははははは!!」

 

 

 冗談交じりで今回のイベの事を話し、みんな今日は解散にしようとしたところ、マサユキが玄関のドアを勢いよく開け、笑顔満面で最悪な報告する。

 

 

 「くろちゃん、ちゃにゃん! 君達、まだイベント参加した事がないって言ってたよね!? だから、イベント参加表明してきたよ! 相談役としての仕事をしてきたから!」

 

 

 「えっと、その参加表明というのは次回のイベントの事だよね…?」

 

 

 おそるおそるちゃにゃんがマサユキに問いかける。そうだと言ってほしいとこの場にいる誰もがそう思った。しかし、運命は残酷だった。

 

 

 「え~、違うよ! 今回のイベント、カレー食材調達の方だよ! 楽しいよね、買い物するだけで、プリンスに会えるんだよ!」

 

 

 この場の全員に稲妻が落ちたような衝撃が走った。そしてしばらくみんな固まった後、無邪気な笑顔を今も続けるマサユキに駆け寄り、怒りを爆発させた。

 

 

 「何てことしてくれたんですか~~!?」

 

 

 「そんな勝手な事をするな! それは有難迷惑っていうんじゃ~!!」

 

 

 「あのイベが何で楽しいんですか~! 日頃から買い物なんてしないのに!」

 

 

 「ていうか、プリンスに会えないからね! プリンスなんていないんだから!」

 

 

 「「「そうなの!!?」」」

 

 

 猛攻撃を受け、杜撰な顔になっていくマサユキは何かなんだかさっぱり分からないまま、ただみんなから縛られ、身包みをはがされ、簀巻きにされ、外にぶら提げられ、夜を明かしましたとさ。

 

 

 なお、くろちゃんとちゃにゃんは寝る間も惜しんで、カレーの食材の調達に出掛け、何とか1000位以内で終了する事が出来ましたとさ。

 

 






 意味不明なイベントがあったもんだ。

 …まぁ、実際にあるんだけど。


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不穏な動き

 序章から出てきていた気さくな男、ついに重い腰を上げてきたな。


 

 

 

 

 

 帝都のとある店の奥部屋にて、再び、不気味な会話が行われていた。今回もモニター越しの会話だったが、気さくな男は今、じわじわと追いつめられていた。

 

 

 「…また、失敗したようだが、いつまで遊んでいるつもりだ? 私はお前が思っているほど、寛容ではないぞ?」

 

 

 モニター越しの男性は鋭い瞳孔をし、部下に威圧する。モニター越しでも伝わる殺気が男の身を縮ませる。冷や汗を搔きながら、それでも笑顔は崩さない。

 

 「それは申し訳ありません。まさかあそこまで力をつけていたとは想像しませんでした。かなり鍛えてあげたんでしょうね。本当に、喰えない連中ですよ~。」

 

 

 「あ奴らの動きを抑え付けとかなければ、こちらも容易には動けまいぞ?

  …もしや寝返ったわけではあるまい?」

 

 

 「それは決して、断じてありえませんね~! 私はね、あなたと同じで幸せそうにして生活している者達を恐怖のどん底に突き落とし、永遠の苦しみを味わらせるのが、至上の喜びなんですよ。それが堪らないんで、こうしてあなたの計画に賛同して表では健全に商売をして、裏で実験をしている訳ですから。自分からこんな最高で、贅沢な日常を手放したりはしませんよ。」

 

 

 不気味で狂った笑いを漏らす男。彼は次なる計画を企てていた。そんな彼を察し、モニターの男も計画を思いつく。

 

 

 「なら、そのお前の働きを今度こそ示せ。これ以上、見苦しい結果を報告すれば、お前のその首が地面に転がっているかもしれないぞ。心得とくんだな。」

 

 

 「…畏まりました。 確かに一層心得る必要がありそうです。では、そろそろあの計画を行いたいのですが、許可をいただいても? 」

 

 

 「ああ、許可する。 不必要なモノは吾輩にはゴミと同じだ。 構わんさ。」

 

 

 「ありがとうございます。 では、さっそく取り掛からせていただきます。この前は失敗しましたからね~。腕に振るって最高のショーをご覧に入れましょう!」

 

 

 気さくな男はわざとらしくお辞儀する。それを確認すると、モニター越しの男は回線を切った。その後、静かになったこの部屋でこの男、カバリン・サイは歯切りをしながら、モニターを睨みつけた。

 

 

 「まったく…。あの方もそうだが、一番気に食わないのは私の計画を悉く妨害するあ奴らです。 こうなったら、許可も受け取ってますし、あれを導入しましょう。

  もしかすると、私が直接手を加える事もあるかもしれませんね。それも悪くはない…です。 …フフフ、ガハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 高笑いをするカバリンの瞳には怪しげな光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 その頃の帝都中では、新たなイベントクエストが開催され、多くの魔法師達が参加していた。もちろん、くろちゃんとちゃにゃんも例外ではない。今日も張り切って、参戦していた。

 

 

 「よし、倒した!! 」

 

 

 「なかなかの強敵だったね。 でもその分、高ポイントゲットできたんじゃない?」

 

 

 「いや~、助かった! 救援要請に応じてくれてありがとう! 」

 

 

 「いえ、大丈夫です。 此方こそポイントいただきましてありがとう!」

 

 

 「じゃ、また救援要請した時、近くにいたら応援に来てくれ。逆の場合も駆けつけるからな!」

 

 

 そう告げると、さっき共闘した魔法師は別の場所へ向かった。それを見送り、清々しい笑顔でちゃにゃんに話しかける。

 

 

 「ミナホの言うとおり、戦闘イベでよかったよね。こういうイベの方が私たち合っていると思わない!?」

 

 

 「うん。これの方が、報酬もがっぽりだしね。」

 

 

 今回のイベントクエストは救援要請型の戦闘イベントだった。

 

 参加する魔法師に事前に参戦ポイントと救援ポイントを配布する。配布といっても、イベント記憶キューブにデータ情報をインストールするだけなんだけど。

 一人の魔法師に与えられる参戦ポイントは実績が高いほど多くなる。言い換えると、その魔法師に見合ったポイントを与えられるのだ。その参戦ポイントを使って、戦闘をしたいレベルを決め、ポイント配布時にもらったレベルボールで、その化成体や人形を呼び出す。レベルにはEASY・NORMAL・HARD・V.HARD・EXTREMEに分かれており、ノーマルまでは自力で戦えるレベルで救援は出来ない。救援が認められるのはハードからだ。しかし、エクストリームだけは、一定の戦闘による経験値を貯めないと呼び出すことはできない。

 一人で戦ってみて、倒せなさそうなら、救援信号弾を空に撃ち、応援に来た魔法師と標的を倒すというものだ。見事倒すと、救援要請した者、された者も報酬ポイントが与えられ、貢献度によってはアイテムさえもらえる。

 ただし、気を付けるのは、参戦ポイントも救援ポイントもレベルによって、消費ポイントが違うという事だ。レベルが難しくなるほど、ポイント消費が激しい。だから、化成体等を呼び出す時や救援に行く時はポイントの確認が必要となる。ちなみに、これらのポイントは時間経過によって回復していく。24時間回転しているため、どんな時でもイベに参加できる。

 

 今回のイベントでは、帝都中をフィールドにしているため、自分に合った場所で戦闘可能。倒す化成体や人形も不参加者には攻撃しないようにインプットされている。だから、安心して、帝都中で暴れられる…、いや、魔法師向上ができるのだ。

 

 

 ROSEメンバーも朝からこのイベントに参加して、夢中になっている。夕食まで参戦して、互いに報告し合う事を予定としている。くろちゃん達も負けないように、次の化成体を呼び出すため、参戦ポイントを確認する。その時、パァ~~~~ン!!という信号弾の音が辺り一帯に響く。信号弾を見ると、赤色で光っていた。

 

 

 「くろちゃん! あれは、エクストリームだよ! こんな市街地であれを呼び出したの!」

 

 

 「いくら不参加者は怪我はしないって言っても、建築物は一応壊れるんだけどな。よっぽどの自信家かあるいはおっちょこちょいとか?」

 

 

 「でも、さすがにこのままではやばそうだよ? 向こうから地響きや土煙が上がっているし。」

 

 

 二人は顔を見合わせ、救援ポイントを確認する。救援ポイントは何とかギリギリ応援できるポイントだった。

 

 

 「ちゃにゃん、行こうか!?」

 

 

 「うん、行こう!」

 

 

 こうして、二人は戦闘が行われている市街地まで飛行した。

 

 

 




 次回はサブキャラが出るかも?


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予想外の救援要請

「さぁ、はじめようか…小娘共~!!」(誰か)

 私のコーナーに入ってくるな~!!


 

 

 

 

 飛行魔法で信号弾があげられた市街地まで飛んできたくろちゃんとちゃにゃん。あまりにも酷い土煙で視界が悪い中を自分たちに空気の層で作った障壁魔法を展開する事で、視界をクリアにする。救援要請をした魔法師と接触するために応援に来たことを告げながら探していると、倒壊した家屋の瓦礫の影に蹲っていた。

 

 

 「大丈夫!? けがはない!? 君が救援要請した魔法師だね。」

 

 

 「助けに来たよ。 立てる?」

 

 

 くろちゃん達は蹲る魔法師の状態を見て、ダメージが少ないことを確認し、共闘を持ちかける。だが、蹲る魔法師は身体を震えさせ、一向に動こうとしない。怖気づいたのだ。その状況に腹立ったくろちゃんがその魔法師にビンタする。

 

 

 「怖気づくくらいなら、何でこんな場所でエクストリームレベルを呼び出した!!?

  帝都中がフィールドでもこんな一般人が多い中で戦えば、どうなるか分からないわけないよね!!?

  呼び出した責任を負えないくらいなら、このイベントから降りるべきだっ!」

 

 

 くろちゃんの激昂でビンタされた魔法師は頬を抑えながら、くろちゃんを目を真ん丸にして、見つめ返した。そこへ、呼び出されたエクストリームレベルの人型戦車が姿を現す。腕に仕込まれた散弾銃が此方を向く。

 

 

 「ちっ。 ちゃにゃん、行くよ!!」

 

 

 「あれで行きましょう! …君はどうします? このまま、見学するもよし。逃げるもよし。くろちゃんの言葉を考慮して考えてね。」

 

 

 ちゃにゃんが言いたい事を言ったという顔でくろちゃんと人型戦車の方へ走り出す。

 

 「ちゃにゃん、お願い!」

 

 くろちゃんの掛け声を頷きで返し、ちゃにゃんが『蟻地獄』と『地雷原』を発動。

 『蟻地獄』で足場を崩され、転倒する。そして、『地雷原』の振動で装備する火機が損傷し、使用不可となる。動きと厄介な武器がなければ、後はこっちが攻撃するのみ!

 

 くろちゃんは手のひらサイズの小型銃携帯CADを取り出し、得意な魔法の一つである『フォノンメーザー』を一発、ど真ん中に命中させた。命中した箇所には熱線によって空いた穴の回りが融けていた。これで操縦席を格納する部分を狙ったため、終わったと思った。しかし先程攻撃した箇所も見る見ると直っていき、何事もなかったかのように動き出した。これには、二人とも驚き、口をぽかんと半開きにする。そして、ターゲット捕捉された二人は散弾銃の雨から逃げ出した。

 

 

 「ちょ、これってありなの~~!!」

 

 

 「喜ばしておいて突き落とすとか、趣味の悪い戦車だよ!」

 

 

 「えっと、この場合は”趣味の悪い設計者”だと思うよ~!!」

 

 

 全力全開逃げるのみとなる二人は一旦作戦を練り直ししようと瓦礫の陰に身を隠す。それにしても、この人型戦車は今まで戦ったエクストリームレベルの人型戦車とは違う。さっきの連携攻撃で仕留める事が出来たから、今回もした訳だが、損傷が何事もなく直る事がなかった。それを二人は不思議に思った。

 

 

 「ねぇ、くろちゃん、これはもしかしてイベントクエストに見せかけた戦闘なんじゃない?」

 

 

 「…そう思う根拠は?」

 

 

 「いくら市街地でもこんなに暴れてたら、さすがにイベント運営委員が来てもおかしくないよね?でも、運営委員は来ないばかりか、市街地に住む人ひとり見かけないもの。害はないって言っても、危ないからね。この場を離れようと逃げる人はいるはず…。なのに、誰一人いない。それに念のため、ギルドのみんなに救援要請をしておいたんだけど、結構時間が経っているのに誰も応援に来ない。 

  ねぇ? おかしいでしょ?」

 

 

 「…確かに。戦闘に集中していて気付かなかったけど、言われてみれば人の気配がないな~と思った。 それにしてもさすが、ちゃにゃんだね! ほーちゃんの観察力並みだね。」

 

 

 「まだまだほーちゃんやくろちゃんには及ばないけどね。

  …だから、これが故意に仕組まれた空間だったとしたら、さっきの人型戦車に起きた現象も理解できるかもって思ったんだけど。」

 

 

 ちゃにゃんの推理を聞き、顎に手を当てて、考え込む。そしてゆっくりと口を開く。

 

 

 「大丈夫。ちゃにゃんの推理、多分合ってる。私もおかしいと思っていたけど、あの怖気づいてた魔法師はまだ初心者だった。一人前の証のバッジを身に着けておくのが義務付けられているのにそれが見当たらなかった。

  だったら、一人前の魔法師だと認められないと参加できないこのイベントクエストにエクストリームレベルを呼び出すどころか、参加すらできないよ!」

 

 

 くろちゃんの言葉にはっと何かに気づき、頷きがえす。

 

 

 「つまり、この救援を頼んだのはあの魔法師ではなく、別の誰かってことだね。でも、一体どこに?」

 

 

 「ちゃにゃんも言っていたようにこの近くに人の気配は感じられない。ってことは遠隔操作しているのかな?」

 

 

 「それなら、あれを操作できなくなるまで、叩けばいいんじゃない?」

 

 

 「…それで行きますか!!」

 

 

 こうして二人は再チャレンジと勢いよく立った。しかし、いきなり二人を大きな影が包み込む。日陰になった影をじっと二人は見つめ、顔を上げると、殆どゼロ距離に人型戦車が立っていた。

 

 

 「は、はははは。 くろちゃん…、これって…」

 

 

 「はは…ははは。 うん。 やばす!!」

 

 

 最悪の展開に固まる二人に人型戦車の腕の銃が向けられる…。

 

 




なんだかピンチ~!!


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窮地での出会い


 友との出会いは最高の瞬間!


 

 

 

 

 

  絶対絶命のピンチに陥ったくろちゃんとちゃにゃんに人型戦車が散弾銃を豪快に撃ってきた。咄嗟にちゃにゃんが単一の移動系魔法で瓦礫を浮かし、盾にした。更に距離を取るために瓦礫を移動させ、積木みたいにして壁を作ったり、ジグザグに配置する事で接近する時間を稼いだ。

 

 

 「マジやばす!! ちゃにゃんが咄嗟の判断で魔法使ってなかったら、今頃は蜂の巣状態になってたね~。」

 

 

 「くろちゃん、それは笑えないから。せめてチーズって言って。美味しいから。」

 

 

 「私ら、食べ物かい!」

 

 

 危機を脱して冗談を言うほど精神面が回復した二人は再度挑戦しようとする。が、人型戦車の獰猛な攻撃は止まず、さらにヒートアップする。なんと、散弾銃の雨が終わったと思ったら、広範囲の火炎放射を放ってきた。あっという間に火の川となる。二人は瓦礫に隠れたまま動けずにいた。

 

 

 「ちょ! 反則じゃない! これ!」

 

 

 「反則も何も、存在そのものが反則だよ。くろちゃん、今更すぎ。」

 

 

 「これじゃ、近づけないよ~! 一歩でも瓦礫から出ると、豚の丸焼きだから!」

 

 

 「大丈夫! くろちゃんはそんなに太ってないから”豚の丸焼き”より”馬の丸焼き”だから。 まぁ、それはよこに置いといて。 多分武器自体の威力もそうだけど、あの火炎放射、魔法で強化しているんだよ。」

 

 

 「…ちゃにゃん。鋭い指摘ありがとうだけど、ほっとかれたら寂しいよ~。

  きぃあああああ~~~!!」

 

 

 遣り取り中に突然くろちゃんが悲鳴を上げながら瓦礫から出ないぎりぎりの距離を保ちながら走り回った。背中に手を添えて。

 

 

 「熱っ!! あちちちち! 背中が~!!」

 

 

 「ああ、そうか。瓦礫に背中をくっ付かせていたから、火炎放射で温まった瓦礫で背中が火傷したんだね。納得したよ。

  それにしてもこの光景、あれに似てるね。前にどこかの国の絵本を見た事があるけど、正しくそんな感じだったな~。なんだっけ?」

 

 

 「冷静な分析はいいから、冷やして~!! どんな絵本だったかは気になるけど!!」

 

 

 「そうそう!思い出した。 ”カチカチヤマ”っていうお話で、悪さをする狸をウサギが懲らしめるんだけど、その中で狸に薪を背負わせてそこに火をつけるんだよ!狸はおかげで背中を火傷して、くろちゃんみたいに走り回る。そしてウサギは最後の止めに味噌をた~っぷり火傷に塗りたくる。っていう場面があった!!」

 

 

 「私は悪くないから~!! 悪いのはあっちの火炎放射してる方だから~!!」

 

 

 「味噌はないけど、はちみつならあるよ。塗ってあげようか?」

 

 

 「今は断る! 火傷が治ったら、存分に塗ってもいいよ! はちみつたっぷりと身体に塗った姿で…。 ブヒィッ!(鼻血)」

 

 

 「こんな時にヘムタイ妄想はやめろ~!」

 

 

 戦闘中にこんな事をしている場合ではないけど、ROSEの持ち前の自由さが二人にも沁みついている事が分かったという事で、戦闘開始。

 

 

 ちゃにゃんは市街地に張り巡らされている水道管から移動系魔法『メイルシュトローム』で水竜巻を作り出し、火炎放射で熱せられた瓦礫や地面に突撃させる。一気に冷やされたため蒸気が発生する。それを利用して、くろちゃんが『冷却領域』を展開し、すぐ様火山自体のような熱地獄だったのに、氷が地面に張ってヒンヤリした冷凍庫のようになる。

 

 「よし!フィールドはこっちに味方にした! 後は厄介なアイツだけだね。」

 

 

 「じゃ、もう少し近づかないと視認しづらいよ。冷気で視界が悪いし。」

 

 

 蹴りをつけるため、瓦礫の上に登り、瓦礫から瓦礫へと飛びながら接近する。無論、地面は凍っているから滑って転ぶからだ。しかし、人型戦車の厄介さがまた起動する。くろちゃん達にピンポイントで火の玉を撃ってくる。躱しながら距離を縮めていくくろちゃん達は後10mの距離まで迫ってたが、火の玉の往来で魔法発動どころか躱すので精いっぱいとなっていた。そこに、人型戦車が火の玉をどんどん密集させていき、家一軒程の大きさへとなっていく。

 

 「あれは、やばす!」

 

 

 「あの大きさは確かにやばすだね~。 NST撃沈するために仕掛けた鉄球の倍以上ほどあるわ~。」

 

 

 「比べる余裕があるちゃにゃんはすごいね~。 また秘策があると?」

 

 

 「もちろん………、ないよ!」

 

 

 「ないんかい!」

 

 

 火の玉に未だ苦戦している二人に火炎の大玉がとうとう放たれる。これを喰らったら、豚の丸焼きどころか跡形もなくなるな~とくろちゃんが考えていた時、二人の前に突如現れた人影が火炎の大玉を真っ二つに切り裂いた。斬られた火炎の大玉は左右に飛んでいき、家屋に衝突して、爆発する。くろちゃんとちゃにゃんは見事な剣捌きに思わず拍手する。そして、振り返ってくろちゃん達に顔を見せた人影に二人は驚いた。

 その人影は先ほど怖気づいていた(くろちゃんにビンタされた)魔法師だった。

 

 

 「すみません! 僕、近接戦闘しかできないんで、僕が囮になります!

  その間に二人は安全な場所を確保した上で、魔法をお願いします!」

 

 

 そういうと、人型戦車に走り出す。手に持った双剣で散弾銃の弾を弾き、自らに加速系魔法をかける事で、スピードを最大限に発揮し、その威力で一撃を与える。くろちゃん達は大丈夫だと判断し、家屋の屋根に上る。そして、そこから人型戦車を対象にした『凍火』を発動。これで火機類は封じた。火機を封じられた人型戦車はさっきの火炎の大玉を作り出す。しかし、魔法発動に使われている腕を初心者の魔法師に斬り落とされ、不発に終わる。

 そこに損傷が治る前に、くろちゃんが小銃型携帯CADを取り出す。くろちゃんは改良型の『フォノンメーザー』を発動。任意の座標に発射ポイントを作り出す改良型。超高振動により量子化し熱線と化した音が人型戦車の顔面手前の地点で生じる。更にループキャストで足元から頭上までの回りに多数の地点を生じさせ、一気に撃つ。大量の熱線を受けて、人型戦車の原形が分からなくなるほど、損壊した。そして、動力を失ったそれはバラバラに崩れ去った。

 

 

 息キレを起こしながら瓦礫と化した人型戦車の前で立ち尽くす魔法師にくろちゃん達が駆けつけ、話しかける。

 

 

 「君、あの時は助けてくれてありがとうね。後、ナイスアシスタントだったよ。」

 

 

 「なかなかいい剣捌きを持っているんだね。」

 

 

 二人に話しかけられて、照れる魔法師。さっきの戦いとは印象が違う。二人はオンオフの差が激しいんだな~っと思った。

 

 

 「とにかく、難は無事去った事だし。まだ、自己紹介していなかったね。

  私は、ギルド”ROSE"のちゃにゃん。」

 

 「同じくギルド”ROSE”のくろちゃんだよ。…さっきはビンタしてごめんね。」

 

 

 「うううん、大丈夫だよ。僕は…、僕はシンバ!今日この帝都に着いたばかりの戦闘魔法師(見習い)だ!」

 

 

 「「よろしくっ!!」」

 

 

 こうして、くろちゃん達は窮地の戦闘の末に戦闘魔法師(見習い)のシンバと友達になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ちっ! 後もう少しだったのにな~。 設計、甘くしずぎたのかな?

  でも、いいデータは取れましたしね。 次の計画に移行しましょう!」

 

 

 くろちゃん達をドローンから送られてくる映像で観察していた怪しげな男はふてぶてしい笑いをするのだった。

 

 





 まさかお前の仕業か!
 って、誰だ?


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得体の知れない魔の手


 泥沼にはまっていく予感が…。


 

 

 

 

 人型戦車との戦い後、シンバと食事しながら、帝都の事やシンバの故郷の話などを語って過ごした。あれだけの戦闘した後にまたイベントに参戦するような気分ではなかったし、友達となったシンバにもいろいろ話を聞きたかったからだ。そうして、夕暮れまで一緒に帝都を観光案内した後、シンバは知り合いの店に泊めてもらう事になっているというからとその店の前で別れ、くろちゃんとちゃにゃんは帰路につく。

 

 

 「思い返せば、今日はホント大変だったね、くろちゃん。」

 

 

 「そうだよね。でも結局誰があんな人型戦車を呼び出したのか分からないよね。」

 

 

 二人はあの後、駆けつけてきたイベントクエスト運営委員に事情を話し、救援要請が誰がしたのか聞いてみた。最初はくろちゃん達の説明に訝しく思っていた運営委員も残骸と化した人型戦車を調べる内に真剣で、眉間に皺を作り出したので、くろちゃん達の事情説明を信じ、本部に確認を取ってくれた。しかし、返答は意外なものだった。

 

 

 「確かに、君達には救援要請がされていたみたいだけど、要請者が不明だっただけでなく、君達と同じ距離にいた別の魔法師達には救援要請が届いていなかったらしい。普通は救援要請した者の近くにいる魔法師には必ず要請報告しているんだけどな。」

 

 

 説明しながら運営本部でもよく把握出来ていないと頭をかきながら答えてくれた。その答えにくろちゃん達は運営側の管理ミスという考えは頭から消した。そして、ちゃにゃんは確認のつもりで聞いてみた。

 

 

 「では、要請が何者かに故意に行われたという事はあれは運営側が用意したものではないという事ですね?」

 

 

 人型戦車の残骸を指さして、運営側がイベントクエストに出さなくても独自に製作した物かという意味も兼て問う。

 

 その意味を理解した運営委員は被りを入れ、全否定する。

 

 

 「あんなに戦闘面を重視し、強化した巧妙な設計や攻撃力を強めた起動式を取り入れた危ない人型戦車を作ったりしないよ。イベントクエストではあくまで参戦者の能力に合った戦い方をするようにプログラムしている。過度な攻撃をするようにはしていない!」

 

 話している間に怒りを露わにする運営委員。落ち着くように持っていたぶどうジューズをちゃにゃんは手渡す。それを受け取り、喉を潤わせた運営委員はイベントで呼び出した化成体や人型戦車の戦い方を教えてくれた。(極秘だが、特別に話してくれた)

 

 

 呼び出された化成体や人型戦車は呼び出した魔法師の顔認証を行い、運営本部が管理する参戦者のリストからその魔法師の得意魔法や不得意魔法、戦闘スタイル、分析力などのデータをピックアップし、それをもとにした戦いをする。ある時はその魔法師の得意な魔法を使える展開に持っていき、経験を積ませる。ある時はピンチを作り、不得意な魔法を使うように導き、撃退させる。そうする事で魔法師の向上を図っているのだと得意げに話してくれた。

 

 

 運営委員の説明を聞き、納得した二人は伝える事は伝え、シンバとこの場を離れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 ギルドに帰ってきた二人は今日の出来事をギルドメンバーに話した。それを聞いたみんなというと…

 

 

 「それはやばかったな。 」

 

 

 「戦闘にも慣れてきた成果だね。 よく頑張ったよ。」

 

 

 「そういえば、結局イベントクエストのポイントってどうなったんだ?」

 

 

 いつも通りにのんきに話すメンバーにあっけにとられつつも聞かれた質問に答えるくろちゃん。

 

 

 「うん、一応救援で参戦したし、人型戦車も倒したから、エクストリームレベル撃退分の戦闘ポイントはもらった。ただし、それに付随する報酬分はなしって。」

 

 

 「まぁ、そうだろうな~。運営本部も知らない人型戦車と戦ったんだから。本来はイベントとまったく関係はないから報酬どころかポイントさえもらえないけど、くろちゃん達は救援要請を受けて戦ったわけだから、半分融通させるしかなかったんだな。」

 

 

 運営本部の心の内を暴露するホームズは可愛そうにとここにはいない運営本部の人に手を合わせる。

 

 

 「わかった。私たちも同じイベントに参加している仲間だ。くろちゃんの話しっかり受け取ったから、今日はもう休んだ方がいい。ちゃにゃんも。私たちも気を付けてイベントに臨むからさ。」

 

 

 マサユキに体を休めるように言われた二人は確かに今日の予想外の戦闘で溜まった疲労で眠気に襲われていた。まだ言い足りない感はあったが、酷くなった眠気には逆らえず、部屋へと向かう。

 

 

 二人が階段を上がっていき、寮部屋へと向かったのを見送ったギルドメンバーはさっきまでのんきにしていた場の空気を変え、一気に重苦しい空気になった。

 

 

 「ついに動き出してきたっぽいね。」

 

 

 「狙いはROSEかな?」

 

 

 「だろうな。しかし、それだとターゲットがまだ判別で…」

 

 

 「それはもうはっきりしている。 みんななら相手を倒す時、まずどこに目を付ける?」

 

 

 「………そういう事か。 そう考えれば、全て納得するな~。」

 

 

 「今まで遠まわしだったけど、とうとう向こうも切羽詰ってきたって事ね~。」

 

 

 「むしろ、これは暴走に近いような感じがする。カンだけど。」

 

 

 「マサユキ、で、どうする?」

 

 

 みんなが口々にしゃべる中、暁彰がマサユキの意見を求める。

 

 

 「これよりただいまをもって常時、警戒していてくれ。ただし、あくまで隠密にだ。気付かれてはいけないからな。 何かあったらすぐに連絡するように!」

 

 

 「「「「「「「「「「「「「「「「おお!!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてこの場のギルドメンバー全員の意志がこの夜一致団結した。

 

 

 

 

 まだくろちゃん達には言えない秘密を抱えている仲間たち。果たしてそれはROSEにどんな未来を運ぶのか…。

 

 





 本当にどんな未来だろう? 覗き大会in温泉とか?


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蔓延る不吉な噂

昨日発売のジャンプのワンピース、やばす。

サンジの姉と弟登場! その姉とルフィが!!

これは…!! 恋のハリケーン暴走するね!


 

 

 

 あの要請者不明の戦闘から3か月経ち、今日も帝都中の魔法師が新たな数々のイベントに参戦していた。そんな中、くろちゃんとちゃにゃんはギルドのみんなに頼まれた魔法アイテムやCAD調整器具などの買い出しのため、マサユキに帝都についた初日に、案内してもらった魔法アイテム等を扱う店”speranza(スペランツァ)”に来ていた。あれ以来、すっかりくろちゃん達もここの常連だ。

 

 

 「タスカリ―マス! この魔法式、扱ってる?」

 

 

 「あるわよ。でも、会得には少し時間かかると思うけど…?」

 

 

 「これは、ホムラの頼まれ物。なんだか新しいCADが手に入ったからそれに入れる魔法式を調達しているみたい。」

 

 

 「あの子ね。 それならこの魔法式も入れたら、コンビ魔法で効果が更に発揮できるわよ。」

 

 

 「そうなんだ! でも、ホムラっちには頼まれていないし…。」

 

 

 「大丈夫。これは私が提案したものだし、頼まれていたこの魔法式と合わせて…、この値段はどう?」

 

 

 提示された金額を見ると、二つの魔法式の購入金額よりも大幅に安い提示金額だった。もう一つレア魔法式が手に入るくらい。

 

 

 「じゃ、それでお願い!タスカリ―マスに、いつもありがとう!」

 

 

 「いいわよ。私が勝手に言ったことだしね。 じゃ、この魔法式の仕様書も添えておくわ。これで分かるはずよ。」

 

 

 「こんなに優遇してくれるなんて、タスカリ―マスにはホント頭が上がらないね。」

 

 

 ちゃにゃんが頼まれたアイテムを袋一杯に詰めた袋を抱えて、店主のタスカリ―マスにお礼を言う。

 

 

 「いいんだよ! ROSEのみんなは私のお得意様だしね。それにみんな私の助言を聞いて買ってくれるから、商売相手としてもうれしいわ!」

 

 

 タスカリ―マスの話でここにこの前の戦闘で不足した回復アイテムを買いに行くといったときに、みんなが買い出しを頼んだ意味が分かった気がしたくろちゃんとちゃにゃん。

 

 

 「ところで、ギルドのみんなは元気かい? 」

 

 

 「はい! 今はみんな、ROSE指名で来た依頼を分担して遠出してたり、仕事に行ったりしてますよ。」

 

 

 「そうそう。イベントクエストにも出られないくらい。」

 

 

 「そう…。それはよかったわ。 最近のイベントクエストはどこか異常だから。」

 

 

 「「??」」

 

 

 意味深な口ぶりで話すタスカリ―マスにくろちゃん達はこの前のクエストの事を今話しているのかと思った。しかし、それを尚早だった。

 

 

 「二人は聞いていないかい? イベントクエストで最低順位を取った魔法師は消えてしまうって話。」

 

 

 「ああ、それ。魔法試合に参加するためにみんなから説明を受けた時にちらって話してたっけ。」

 

 

 「イベントや魔法試合の成績でランクが下がったり上がったりするっていう説明の時だね。」

 

 

 「そのあたりの知識だね。 あくまで噂だが、最近ではイベントでは最低順位者から100位以上の者まで少しずつ消えていき、突如消息不明になる。魔法試合でもランクDになった者は同じく突如姿を消すんだ。実際に目の前で消えたのを見た者までいる。」

 

 

 「でも目撃者がいるなら、噂なんてならないんじゃ?」

 

 

 「その目撃者は帝都の警魔隊に報告した翌日に消えた者達と同じように突如消えたそうだよ。その日に目撃者の証言をもとに調べようとしていたから、結局分からずじまい。だから確証がないから”噂”なのさ。」

 

                ・・・・・・

 帝都でそんなことが今起きているかもしれないと知った二人は自然とこの前の人型戦車の事を思い出していた。もしかしたら、あれに遭遇して…。

 

 

 考え込んでいたくろちゃんだったが、店に来客が来たため、中断する事になる。

 

 

 「いらっしゃい。 じゃ、あんたたちも十分気を付けるんだよ。何か起きる悪い予感がするのよ。」

 

 

 くろちゃん達を心配してくれるタスカリ―マスに大丈夫と笑い掛け、店を後にする。

 

 

 「くろちゃん…。」

 

 

 「うん、わかってる。 危ない橋は渡らないから。今はまだ。」

 

 

 くろちゃんの回答にちゃにゃんは少し安心して、ギルドに戻る最中、シンバに出会う。

 

 

 「シンバ!! 久しぶり! 」

 

 

 「もう帝都での暮らしは慣れた?」

 

 

 「うん! お陰様で順調すぎるくらい。 あ、そうそう。二人に報告する事があるんだ!」

 

 

 「なになに?」

 

 

 「実は僕、あの最強ギルドの”アスカ”に入ったんだ!! 凄い名誉な事だよね!!」

 

 

 「「ええええぇぇぇぇ~~~!!」」

 

 

 あまりの衝撃的な驚きを受ける二人。あのランクSの、帝国が認めた魔法師ギルド。そこにシンバが仲間入りしたのだ。これは驚かすにはいられない事だった。

 シンバは照れて顔を赤らめている。

 

 

 「まだ僕は、未熟だけど、二人に追いつけるように頑張ります!! では、僕はこれで!!」

 

 

 元気に走り去るシンバを呆気にとられて見送るくろちゃんとちゃにゃん。あまりにも衝撃的な出来事にその後、どうギルドの戻ったかわからない。

 

 そして、その夜、更に驚きの発表を受ける事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージに上がったマサユキから発表される。

 

 

 「今朝、マジバトから今度の魔法試合の対戦ギルドの発表があった。…………」

 

 

 対戦相手の名前をなかなか言い出せないマサユキに暁彰が代わりに発表する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「対戦相手は”仮装舞踏会”と”アスカ”です。」

 

 

 

 ”アスカ”と対戦する事になったROSE。くろちゃんは複雑な思いでこの発表を受け止めた。

 




これをハンコックが知ったら、ショックで寝込んで、女豹のような形相でサンジの姉を石に変える為にどこまでも追いかけるんだろうな…。



 というのはさておき、とうとう最強との対戦だね。うちらもそろそろ勝ちたいね…、アスカに!!


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最強の実力

いよいよアスカとの対戦だ~!!!


 

 

 

 とうとう魔法試合の当日になった。

 

 

 ROSEのみんなは真剣そのものの眼差しで最初の魔法試合を待っている。

 

 第一試合は因縁の”アスカ”。そして第二試合は同じランクAの強豪ギルド”仮装舞踏会”どちらも気を抜くわけにはいかない試合だ。この試合の組み合わせが決まってからみんな自分たちのできる限りの準備をしてきた。今の愛用魔法を訓練でスキルアップしたり、アスカ専用作戦の見直しをしたりと準備してきた。くろちゃんとちゃにゃんにとっては初の”アスカ”との対戦だ。ギルドのみんなの入れこみ様も見てきたし、最強と評される帝国きっての魔法師ギルドだと聞いていたため、わくわくすると同時に不安でもあった。

 その緊張しているくろちゃんをちゃにゃんが手を握って励ます。

 

 

 「大丈夫。くろちゃんも頑張ってきたもの。最強の力を知るいい機会だし、勉強させてもらおう?

  だけど…、負ける気はないよ!! お互いに全力で行こう!」

 

 

 くろちゃんを励ますちゃにゃんの手は震えていた。くろちゃんは自分を励ますと同時にちゃにゃんも自分自身で励ましているんだなと理解した。そう思うと気分は楽になった。ちゃにゃんとは色々といつも過ごしてきた。今では、大事な親友だ。そんな親友と同じ気持ちで迎えるこの試合。ちゃにゃんがそばにいれば、何でもできるような気がした。

 

 

 「…うん!! 絶対勝とう!!」

 

 

 だから…、顔を上げたくろちゃんもちゃにゃんの顔も笑っていた。

 

 

 ROSEの魔法試合開催場所は二試合とも帝都のマジックコロシアムだった。ROSEの面々は既に来ていた。まぁ、若干名は遠征の仕事や遅刻をしているが。本音を言えば、全員そろって戦いたかったが、仕方ない。

 

 

 試合開始時刻の5分前にアスカがコロシアムに集結した。その中にはシンバもいた。その姿を確認して、くろちゃんとちゃにゃんは一層負けられないと思った。

 そこへアスカの集団の中から一人こちらへ歩いてきた。そしてくろちゃんの前に立ち止まって話しかけてきた。

 

 

 「君がROSEのギルドリーダーのくろちゃんだね? アスカのギルドリーダーのtakaだ。よろしく頼む。」

 

 

 「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

 くろちゃんは差し出された手を握り返し、握手をする。それが終わると、takaは仲間たちの元へ帰っていった。

 

 

 (あれが、"taka"…か。)

 

 ずっと会いたかったtakaに会って、身体から放たれる偉大なオーラをその背を見つめながら感じていた。

 

 

 takaはいつもイベントクエストでは必ず10位以内には入る凄腕の魔法師だ。彼がこの前のイベントで救援要請をした数は桁違い。そしてハイレベルの戦いをすることが多いが、参加者全員が応援に出かけるほどだ。人を集めるそのカリスマ性を持った魔法師にくろちゃんは会いたいと思っていた。それが叶ってうれしかった。ちなみにそのtakaと並ぶくらいの実力の持ち主であるsaradaもこのギルドの一員である。

 

 アスカにはとにかく魔法力・体力ともに総合力が全員高い能力を持っている。一筋縄ではいかないのは分かっているが、戦う前から放棄するわけにはいかない。改めて気合を入れ直し、試合に臨む。

 

 

 そして、マジバトがやってきて、試合開始時刻を宣言する。

 

 

 「いよいよこの時が来たぜ~!! 両者とも頑張れよっ!!

  では………はじめっ!!」

 

 

 合図とともに、ROSEは早速アスカの能力を削りにかかる!!

 

 ROSE前衛は自分達の防御力を上げにかかる。まずはそうしないと、アスカの攻撃を防ぎきれないからだ。そして、後衛はアスカの魔法力・防御力を下げる。アスカの魔法を抑える作戦だ。

 

 しかし、それは不発に終わる。前衛が試合開始直後に全員倒されたからだ。防御力を上げる前に強力魔法を受け、一撃で沈む。それでも、難とは前衛のみんなの防御力を上げようと残りの魔法力を使う事で、復活し、仲間にも防御魔法を発動するが、一発展開するのがやっとで、すぐに倒される。後は時間を空けて復活し、攻撃するために残す。後衛は限界までアスカの防御力を削り、後はコンボパワーを稼ぐためにサイオン弾を放ち続ける。

 これは予想されていたため、作戦通りだが、最初の攻撃で得たポイントを終盤で越えなければいけないため、厳しいのは事実だ。

 

 

 一方、アスカはコンボパワーはあまり気にしていない。そもそもそれに頼るほどではないのだ。全員が総合力が高い上に、強力攻撃魔法を何個もCADに入れている。

 開始直前に彼らは、アスカの前衛は強力攻撃魔法を撃ち込む。その魔法がこれまた凄い。

 『限定型パンデモニック』、『重圧の破城槌』、『卒倒のドライミーティア』、『激震の共振破壊』、『絶対零度のニブルヘイム』等の全体攻撃魔法で一撃必殺を与えた。

 これらの魔法は期間限定で発売されたモノやイベントや魔法試合等でもらうガチャではなく、相当の金銭で買わなければ手に入らないモノばかりだ。つまり普通の魔法師でも手に入れる事が難しい貴重な起動式である。超レアな起動式であるがゆえに、普通に市販されている『破城槌』や『ドライミーティア』、『共振破壊』より威力は何倍も発揮される。

 これをまともに受ければ、立ってはいられないだろう。実際にROSEは開始と同時に前衛が倒された。

 

 

 それからはROSEの主戦力を一時的に無力化したため、自分達の魔法力・防御力のアップやROSEの魔法力ダウンの補助魔法を発動する。『サーキュレーションバリア』・『堅固のパンツァー』で自分達の防御アップ。『ジャミング・フィールド』でROSEの魔法力をダウン。『ヴァーチャル・ビューイング』でROSEの防御力をダウン。

 

 

 攻撃を止めたアスカにROSEが貯めたコンボパワーが切れない内に攻撃を開始する。

 

 「みんな~!! 攻撃に移行して! コンボ隊も強攻撃に移行!!」

 

 

 くろちゃんがアスカの動きを見て、攻撃開始を指示する。本当はもう少しコンボに回したかったが、時間とこちらの被害を考えてこれ以上は無理だと判断したのだ。

 

 

 くろちゃんの指示で、復活待機していた前衛が復活し、自分達で一番威力が高い攻撃魔法を発動する。

 御神は『ブレッシャー・クッション』を、ルーは『直列地雷』、『破城槌』を、サガットや暁彰、huka、ホムラも次々に攻撃をし出す。

 後衛もサイオン弾から強攻撃魔法に変換して撃ち出す。そして、かなり粘ったアスカの前衛を全員倒す事ができた。そして、それを機に、前衛は気絶者に効果抜群の『地割れ』、後衛は同じく効果抜群の『地鳴り』で反撃をする。その攻撃魔法が功をなし、アスカとのポイント差を縮めていく。しかし、それでもまだ足りない。

 

 『ヘビィ・メタル・バースト』や『フォノンメーザー』、『ディバイドレーザー』でさらに応戦。それでも全然届かない。アスカもコンボきれないように定期的に前衛が復活したり、後衛が攻撃したりしている。

 

 

 

 そして、魔法試合終了5分前、

 

 何とか踏みとどまり、ラストスパートを掛けたいくろちゃんは突然後衛から前衛に加わる。

 

 『能動空中機雷』で攻撃する。そしてそれを後衛としてちゃにゃんがRDCから教わった『濃霧』を使って援護する。これで相手の攻撃を避けられると思った。しかし、突如くろちゃんの目の前に人影が現れる。

 

 

 その人影はシンバだった。

 

 

 シンバは濃霧で視界を塞ぐ前に動き出し、戦闘魔法師の持ち味ともいえる相手の位置を気配で把握し、くろちゃんの目の前に飛び出した。突然の襲撃に驚くくろちゃん。防御シールドとしての『能動空中機雷』をCADにインストールしているが、シンバとの距離がたったの2mでは近づきすぎて使えない。

 くろちゃんは防御魔法を使う事が出来ずにシンバの移動・加重系統魔法の『登龍』によって重力と慣性を上乗せされた双剣を受けた。あまりにも破壊力のある攻撃を受け、くろちゃんは重傷を負った。

 

 

 この時には既に圧倒的なポイントの差があり、逆転は不可能だった。

 

 

 それを知ったくろちゃんは、痛みと試合の現状にただ茫然と座っていた。そしてROSEにしか聞こえない声量で言った。

 

 

 「だめだ…。 勝てない…。 もう諦めよう…。 こんなの勝てるはずがない。」

 

 

 その言葉を言った2分後に試合終了の合図のブザーが鳴る。

 

 

 「そこまで! 第一試合の魔法試合、勝者はアスカ~~!!」

 

 

 マジバトが盛大に勝者を発表する。自分達の勝利に喜び合うアスカ。それとは正反対に、肩を落とすROSE。

 

 

 試合が終了し、回復魔法をそれぞれするが、このアスカとの試合で受けたダメージ(主に精神ダメージ)が次の”仮装舞踏会”との試合にも縺れ込み、今日の魔法試合をROSEは完敗で終了した。

 

 

 

  くろちゃんは最強ギルド”アスカ”の実力を痛いほど、その身をもって経験した。

 

 




 強豪と戦った後って、なんだか心がざわつくよね。


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仲間との衝突

人生生きる中、苦難だってあるさ…。


 

 

 

 

 アスカとの魔法試合を終えたその夜。

 

 ROSEギルドのホールにはギルドメンバー全員が集合していた。重苦しい空気に加え、沈黙が続いていたが、やがてこの空気に耐えきれなくなったマサユキがいつもより明るい声でメンバーに話しかける。

 

 

 「みんな~!! 今日もお疲れ! みんなよく頑張ったと思うよ! 

  今日は完敗だったけど、これは次のステップになるからさ!」

 

 

 「何言ってるんだよ~。マサユキは。遅刻してきてたでしょ~!」

 

 

 「それは面目ない! でもその後は必死に魔法をぶちかましてやったぜ!!('▽‘)/」

 

 

 「当たり前の事をしたんだから、威張らんでいいんだ!!」

 

 

 マサユキの機転のお蔭で、徐々にみんなの雰囲気が元に戻る。アスカとの試合が初めてではないからかみんな、復活が早い。さっそく、今回の試合の分析と対策に乗り出した。

 モニターにはアスカとの試合の録画映像が映し出されており、データや戦略履歴を同時に表示しながら、検証する。

 

 

 「アスカはやっぱり桁外れの強力で超~~~~~~!! レアな魔法の起動式をほとんどの魔法師が持っているため、最初にそれを使用する事で反撃できないようにしているね。」

 

 

 「うちらだって課金ガチャをしてても、なかなか出ない代物を向こうは大量に持っているからね~。魔法に関してはこの際は仕方ないわ。」

 

 

 「しかも、その魔法を全員がかなり使いこんでいるから、相当な威力にまで発揮するよ。」

 

 

 「うん。勝負のカギを握るのは前衛が倒されて復活した後の攻撃!できれば、前衛は攻撃一本化したらいいと思う。アスカみたいに。」

 

 

 「でもさ、問題は防御アップとか魔法アップができなくなることだよな。あれって、前衛で使える魔法が多いじゃん?俺たち後衛には応援でカバーするしかないぜ?」

 

 

 「それにアスカは最初の一斉の一撃必殺全体魔法を撃ち終わっても、また全体魔法で攻撃してくる。前衛があっという間に同時に倒されることもあるよ。」

 

 

 「…分析の結果、アスカは全員9割は全体魔法を使用している。残りの一割はサイオン弾や『山津波』等の単体魔法を使用している。

  つまりアスカは全体魔法を重視しているという事だ。

  そしてみんなが言ったとおり、開始とともにこちらを潰しにかかる戦法だ。名づけるなら…、”攻撃は最大の防御”作戦だな。」

 

 

 「暁っち…。さすが! 的を得た作戦名ですね!」

 

 

 アスカとの試合の分析を兼て反省点を語るメンバー。だがただ一人だけ、その輪の中に入らず、今もアスカの実力に打ちのめされている者がいた。メンバーに加わって反省点を話していたちゃにゃんはそれに気づき、声を掛ける。

 

 

 「…ねぇ、くろちゃん? 今日はいい経験できたことだし…、あっちでみんなと次の試合での対策、考えない? 」

 

 

 「…何で、そんな事するの? 勝てるわけないのに。 あんな底知れない力見せつけられてどうやって勝つ気なんだよっ!!」

 

 

 答えていくうちにだんだん声を昂らせたくろちゃんの顔には涙が溢れていた。ちゃにゃんはなんて声を掛けたらいいか分からず、その場に立ち尽くす。くろちゃんの大声でくろちゃん達に注目していたみんなもどう答えたらいいかわからない。再び沈黙が流れる中、みんなの輪の中からミナホが飛び立ち、くろちゃんの元へ歩き出す。

 

 くろちゃんの前に立ったミナホはくろちゃんの肩を持ち上げ、立たせる。そして、次の瞬間、メンバー全員が予想していなかった事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアジシシィィィィィィ~~~~~ンンンン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ミナホはくろちゃんの頬を手を振りかぶって思い切ってビンタしたっ!!

 

 

 あまりの光景に言葉を飲み込むギルドメンバー。思考が凍結し、成り行きを見守る。

 

 

 「うちが何で、くろちゃんを叩いたかわかる?」

 

 

 ミナホがビンタで頬が真っ赤に腫れ上がるくろちゃんを怒りの眼差しで見つめる。ミナホの問いかけに頭が追い付かず、言葉が出ない。それをミナホは答えられないと判断し、話を続ける。

 

 

 「今回の魔法試合…、アスカとの勝負に私たちが負けたのは…くろちゃん!君の所為だからだよ!」

 

 

 ミナホがくろちゃんに憤怒していた。いつもギルドのために一生懸命に過ごすミナホの元気な笑顔とは対照的だった。

 

 

 「なぜあの時! あんなことを言ったの!? 理由を答えなさい!」

 

 

 「…あの時?」

 

 

 辛うじて言葉を絞り出したくろちゃんの返答に更にミナホの怒りが燃え上がる。

 

 

 「分からない!? 試合終了の数分前にくろちゃんは言ったわよね?

 『だめだ…。 勝てない…。 もう諦めよう…。 こんなの勝てるはずがない』って。どういうつもりであの時ああ言ったのかってこっちが聞いてるの!!」

 

 

 ミナホは近くのテーブルを拳で強く叩いた。その手には軽く血が流れる。

 

 

 「あれ…は…、アスカの力を…、思い知って…。」

 

 

 「だから? だから何? そんなの理由になんてならないよ。あの時、ギルドの皆全員、最後の力を出して戦っていた。まだポイントは差があったけど、ぎりぎりまで攻撃魔法を撃ち出していたら、アスカのポイントを超えるか超えないかの境界線までいけてた。もしかしたら勝ってたかもしれない。勝てなくても、僅差でいい勝負もできた。」

 

 ミナホがつばを飲み込み、声を限界まで出し続ける。

 

 「でも、くろちゃんが諦めの言葉を呟いた事で、みんなが辛うじて保っていた戦意の糸がブチって切れた。みんなの心を折ったんだよ!!くろちゃんが!!」

 

 

 そこまでいうと、荒げていた息を整えるために呼吸を数回する。そこに、この場を見守っていたホムラと御神が二人の間に入って、仲介に入る。

 

 

 「まぁ、ミナホ、落ち着いて。 そこまで怒んなくても…」

 

 

 「だったら、御神っちは最後まで攻撃した? 諦めたよね?」

 

 

 「………………」

 

 

 ミナホの仲介に入った御神は否定しなかった。事実、くろちゃんの言葉を聞いて心が緩んだのは確かだからだ。その無言の肯定で、俯いていたくろちゃんの手が血が滲むほど強く握られる。

 

 

 「うちはね…、どんな時でも逃げないで、諦めないで、向き合ってほしいの!!今回の試合にはうちは最後まで戦って、今度こそ勝ってやるって目標を持ってた。そんな一生懸命に戦う人にくろちゃんはあの言葉を言った…。踏み潰された気分だった。うちの頑張りを全てなかったかのように言われた感じだった。 

  それだけでなく、未だに落ち込んで勝てるわけがないと決めつけている!そんな風に考える暇があるなら、せめて作り笑いでもいいから前を向いて笑ってろっ!!」

 

 

 ミナホがそう怒りのメッセージを送ってしばらくしてくろちゃんは玄関の扉を開け、外に出て行った。

 慌てて、サガットがちゃにゃんに後を追うように言って、ちゃにゃんがくろちゃんを追うために、外に出て行った。

 残されたメンバーはミナホに優しく声を掛ける。

 

 

 「何もあそこまで言わなくても…。」

 

 

 「うん。うちも自分の気持ちが入りすぎたかなって思った。でも、間違ったとは思ってない。」

 

 

 「…でも、もしくろちゃんが返ってこなかったら。」

 

 

 「うちはくろちゃんを信じるよ…。 これはくろちゃんが乗り越えないといけない大きな壁なんだ。それを乗り越えない限りはくろちゃんはここで立ち止まって今以上に強くはなれない。

  うちはね、まさやん。このギルドを支えるリーダーになったくろちゃんにはもっと大きく成長してほしいんだ。人生は苦難があって、幸福がある。それをくろちゃん達にも教えてあげたいんだ。」

 

 

 ミナホのギルドを想う一途な思いにギルド全員が感動する中、ミナホはくろちゃんとちゃにゃんが出て行った扉をずっと見つめ続けた。

 

 

 (くろちゃん…、頑張って…!!)

 

 

 「…でも、まぁ…、言い返してくれてもよかったんだけどな…。」

 

 

 ぼそっと、独り言をつぶやいてくろちゃん達の帰りを待つのだった。

 

 





クぅ~~!! うちは泣いてないからな!(泣)


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”自分”という名の壁


どちらかというとこっちが衝突だったかも…?


 

 

 

 

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんが辿り着いたのは帝都の外れにある廃れた時計塔だった。

 

 ここは、二人が帝都に来て間もなく、散歩している時に見つけた二人だけの秘密の場所。時計塔を登って見る帝都や空が好きで、何かあれば、ここに来ていた。

 くろちゃんが早歩きでここまで来て、時計塔に上る。ちゃにゃんは黙ってくろちゃんの後に続く。そして、時計塔の窓に腰掛け、蹲るくろちゃんにちゃにゃんがしばらくしてから話しかける。

 

 

 「くろちゃん、悩みがあるなら、私、聞くよ? ほら、話してみれば楽になるって言うじゃん?」

 

 

 「……………」

 

 

 「…私もくろちゃんの悩んでいる事、分かるよ? ねぇ、一緒に解決しようよ?」

 

 

 「私の何が分かるっていうの!? 分かった気でいないでよ!」

 

 

 「!! 私だって! くろちゃんと同じ思いだよ!!

  アスカは強い、強すぎる! でも、それだけで悩んでいる訳じゃないじゃん!!くろちゃん、試合終了5分前に急に前衛に加わったでしょ?くろちゃん焦って思わず作戦にはない行動した…。くろちゃんだけじゃない…。私もくろちゃんを手助けした。同じだよ…?私もギルドのみんなの足を引っ張った。」

 

 

 「…それは、私が前衛にでしゃばったからで、ちゃにゃんはいつも通りに私を補助してくれただけだよ。悪いのは私…。」

 

 

 蹲るくろちゃんは声を押し殺しながら泣きた。震えるくろちゃんの背中を見るちゃにゃんも涙を流す。

 嗚咽を漏らしながら、くろちゃんは背中を受けながら、ちゃにゃんに話す。

 

 

 「…うぅぅ! 本当はっ! 分かってた! 今回の試合は私がみんなを乱したってことは! ミナっちに言われたことも心の中で納得してた! だから、言い返せなかった…!

  悔しいっ!! 悔しいよっ!! アスカに負けて悔しいっ!! あの時、自分で自分の力量をここまでだって決めつけたのも悔しいっ!! ものすごく悔しいっ!!」

 

 

 「…でもっ!! それだけじゃないよねっ!? それだけであんなに落ち込まないよねっ!! シンバの事だよねっ!?」

 

 

 ちゃにゃんの”シンバ”の名を聞いて、身体が跳ねる。図星だと語る背中をちゃにゃんが涙を流しながら、話し続ける。

 

 

 「くろちゃんと私の連携魔法を物ともせずに、くろちゃんを倒したシンバに挫折されたんだよね?シンバは私たちの親友だった。それとともに可愛い後輩だった。

  だけど、いつの間にか強くなってて、最強ギルドに入ってて、もう試合に出れるようになってた。そしてくろちゃんを倒して随分と一人前になってた。

  それを見て、くろちゃんは自分に自信が持てなくなったんだよね?」

 

 

 ちゃにゃんの言葉に反論せず、聞いていたくろちゃんはずっと背中を向けていたちゃにゃんに身体ごと振り返り、泣いて腫れ上がった目元が窓から入る月の光で照らされる中、くろちゃんはちゃにゃんに全てを打ち明ける。

 

 

 「そうだよ…。確かに、アスカの攻撃で焦ったのもそうだけど、シンバが私を超えてしまったのが信じられなかったんだ。シンバは私たちの事を尊敬してくれてたし、『いつか絶対超えてみせますっ!!』って会うたびに話してたから…。それが嬉しくて、その時は喜んであげようって思ってた。でも、あんな形でいつの間にか私たちを飛び越えちゃったんだって実感して…、素直に喜べなかった。

  シンバに負けた…。シンバはこれからももっと強くなるだろう。何だってあの”アスカ”にいるんだもの。そしたら、シンバが目標とする私が下になって、追いかけるようになったら、シンバはどう思うんだろう?って。そう思ったら、この先どうすればいいかわからなくなった。」

 

                           ・・・

 くろちゃんの心の内を聞いたちゃにゃんは自分も同じ思いだったと言いたかった。

 

 

 ちゃにゃんもシンバの事を可愛い後輩として、親友として接してきた。だけどそれが砕けた時、くろちゃんみたいに悩んだ。でも、ギルドの前向きに反省する話を聞いているうちに、前向きに考えてみる事にした。そうしていくと、ある考えに辿り着き、次に自分達が何をするべきかに気づいた。

 

 ちゃにゃんはそれを伝えるために、くろちゃんの隣に座って、外の空気を吸い込む。くろちゃんもちゃにゃんと一緒に外に身体を向きなおし、外の空気を吸う。仇やかな風の気持ちよさに、自然と気分が落ち着いてゆく。

 

 そして、ちゃにゃんとくろちゃんは空に浮かぶ星を見詰めながら、話す。

 

 

 「ねぇ、くろちゃん。 シンバは強くなった。 シンバは私たちを目標に一生懸命頑張った。」

 

 

 「うん、そうだね。 そして超えてしまったね…。」

 

 

 「という事は、シンバはもう私たちの可愛い後輩じゃなくなった。シンバは私たちと同じ土俵に立ったんだよっ!」

 

 

 「??」

 

 

 「シンバは一人前の魔法師となって、逞しく成長し、私たちの前に立った。

  だったら、もう後輩じゃなくって…、」

 

 

 

 「ライバル…。」

 

 

 「うん。 立派に成長したシンバがライバルと呼べるようになった。なら、そのように振る舞っていこう!」

 

 

 「ライバル…か。 ははは。ちゃにゃん、いい事考えたね! 確かにそうだ!!

  そう考えたら、今まで悩んでいたのかウソみたいに納得した。ライバルだって認めたらこんなにじっくり来るんだね~。」

 

 

 「やっと、笑ったね!」

 

 

 「そうだね。 ミナっちのいうとおり、笑うっていい事だね!」

 

 

 「「ははははははははははっ!!」」

 

 

 二人揃って、笑い合い、空を眺めてたら、流れ星が目の前を過ぎていった。

 

 

 「ああ!! 流れ星がっ! 願い事できなかった!!」

 

 

 ちゃにゃんが残念そうに叫ぶと、くろちゃんがさっき星が流れた空に拳を突き上げながら、ちゃにゃんに言った。

 

 

 「願い事もそうだけど、私はさっきの流れ星に誓うよ。

  もう何かあっても、困難な事があっても、私は立ち止まらないっ!!

  ちゃんと前向いて、走ってみせるよ!」

 

 

 「…私も!! 諦めないっ!! くろちゃんと一緒に、隣で歩いていくよっ!!」

 

 

 「ははは。ちゃにゃん、ありがとう! もしちゃにゃんが悩んでいるときは、今度は私が聞いてあげるよ。」

 

 

 「ありがとう。」

 

 

 こうしてくろちゃんとちゃにゃんは二人で頑張って進む事を誓って、夜が明けるまで、星を眺め続けた。

 

 





 うわ~~~~ん!!
 
 友情っていいもんだな! (号泣)


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レベルアップ!!


ある意味でのレベルアップ・・・になるのかな?


 

 

 

 

 

  明け方まで時計塔で寝落ちしてしまったくろちゃんとちゃにゃんは起きてすぐに急いでギルドに帰った。

 

 さすがに、起きてすぐだから、身体はしんどい。でも、気分は絶好調だった。

 

 

 「みんな、心配してるかな? 結局朝まで寝てたし。」

 

 

 「ハックシュン~~!! ズズズっ!! とにかく早く帰るに越したことないよ!

  寒い~!! 夜は冷えるわ~!!」

 

 

 若干鼻水を垂らしながら走るくろちゃんは身体を温めるため、全力で走った。そして、ギルドの扉を開ける。

 

 

 「「ただいま~~!!」」

 

 

 ギルドに帰ってきた二人は目の前の光景に驚いた。何とギルドの皆が全員ホールで雑魚寝していたのだ。椅子を背もたれして寝てたり、テーブルにうつ伏せになって寝てたり、様々な寝方でみんなはそこにいた。

 

 その光景に言葉が詰まっていると、ホームズがあくびをしながら、起き上がる。そして扉に立ち尽くすくろちゃん達を見て、寝起きの顔から満面の笑顔になって、みんなを大声で起こす。ホームズに起こされたみんな(数名は殴られて起こされる)はくろちゃん達に寄り添って、「お帰り!」と帰りを迎えてくれた。

 

 くろちゃん達の帰りをずっと待っていたみんなの暖かさに触れたくろちゃんはミナホを探していた。ミナホはカウンター席に座っていた。くろちゃんはミナホに駆け寄って、ミナホに頭を下げる。

 

 

 「ミナっち!! 私、みんなに迷惑かけた。 ミナっちにも心配かけてしまった。ギルドリーダーなのに、らしくなかった!! ごめん!!」

 

 

 くろちゃんの謝罪を聞いたミナホは「そう。」というと、カウンターの中へ入っていく。くろちゃんはだめかなと思ったが、ミナホの言葉に思わず頭を上げる。

 

 

 「くろちゃんの大好きな料理、作ってあげる! 何を食べる?」

 

 

 「えっ…、じゃ、牛丼で!」

 

 

 「ははは。朝から牛丼!? くろちゃんらしいね。 わかった。作ってあげる。ちゃにゃんも食べる?」

 

 

 「うん!!」

 

 

 「……くろちゃん、うちもごめんね…。ビンタ、痛かったよね?」

 

 

 「………ううん。大丈夫。ちゃんと受け取ったから!!」

 

 

 くろちゃんの言葉を聞いて、無言のまま、リクエスト料理を作るミナホの目には一筋の涙が零れた。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 それから3日経った天気も晴れて気持ちいい風が吹く午後。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは課金ガチャをするために、カジノ”ノジーカゴールド”に来ていた。

 

 

 「……くろちゃん。本当にするの?」

 

 

 「マジだよ!! これに賭けてるんだから!!」

 

 

 「だからって、なんでこれなの?」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんのこのやり取りは既に10回はしていた。というのも、二人は今、課金ガチャ専用のスロットキューブの前にいた。そもそも、何でカジノにいるのかというと…。

 

 

 「やっぱりレベルアップしないとアスカには勝てないよね。」

 

 

 「そうだよね。作戦とか立てて、戦ってもやっぱり魔法力の差がありすぎるから、どうしてもそこで劣ってしまうんだよね。」

 

 

 「!! そうだ!! なら、アスカと同じになればいいんだ!ちゃにゃん、行くよ!!」

 

 

 「えっ!! どこに行くの~!!」

 

 

 とくろちゃんに半ば引かれるように来た場所がこのカジノだったという訳だ。

 

 

 そしてくろちゃんは今、金銭を使って手に入れたガチャキューブを持って、スロットに挑戦しようとしていた。ちゃにゃんは帝都に着いた初日に酷い目に遭ったことからあまりここにいたくないし、くろちゃんの巻き添えになりたくなかったから、止めに入る。しかし、くろちゃんは耳を貸さず、スロットを回そうとする。

 

 どうしてそこまでスロットをしたがるのかと理由を尋ねると、くろちゃんから信じられない言葉を聞く。

 

 

 「だって、まずは強力魔法の起動式が欲しいじゃん!? アスカと同じようになるには、アスカが持つ超強力な魔法の起動式を持つべきでしょ!だから、今まで貯めに貯めたこのお金を全てつぎ込んだこのキューブでスロットし、当てるんだ!」

 

 

 「確かにその考えはあると思うけど…、レベルアップのためにまずは超レア起動式をゲットするって…。そんなにうまくいかないって。」

 

 

 「後、これからのための運試しも兼ねて!! てへっ!」

 

 

 「おみくじ気分かいっ!!」

 

 

 思わず突っ込みを入れたちゃにゃんだが、ふとくろちゃんの言った言葉を思い出し、止める気持ちが消え、逆に挑戦してほしいという気持ちに変わった。

 

 

 「うん。わかった。そこまで意志が固いんなら、私は見守るから。頑張ってね~!!」

 

 

 「ありがとう!! じゃ、行くぞ~!! これだけ準備したんだから、超レア起動式が必ず当たるはず!!」

 

 

 こうして課金ガチャ専用スロットキューブを全財産を賭けて4回、回した。その光景を後ろでちゃにゃんは微笑しながら見守る。ただその笑いは微笑ましい微笑というよりは、裏がありますという黒い微笑にしか見えなかったが。

 

 

 スロットを回し終え、カジノから出てきたくろちゃんとちゃにゃんはそれぞれ、いい笑顔をしていた。

 

 

 「ほら!! ちゃにゃん!! 見て見て! 起動式がこんなに手に入ったよ!! しかも新作起動式までゲットできたなんて…! とうとう運もくろちゃんに向いてきたね!」

 

 

 興奮して、ゲットした起動式の入ったCADをちゃにゃんに見えるように掲げ、嬉しそうに話すくろちゃん。くろちゃんが言ったとおり、今回のスロットで手に入れた起動式は回した回数にしてはかなり得と言えるほどの収穫をした。

 

 『結界』・『日陰の陣』・『強震の地割れ』2つの合計4つの起動式を手に入れた。しかも、全てまず手に入れるのが難しい超超レアな魔法なのだ!さらに、『日陰の陣』はつい3日前ほどに新作として発売された起動式。

 これらを手に入れて、興奮せずにはいられないのは致し方ないだろう。現にくろちゃんはちゃにゃんの周りをスキップしてはしゃいでいる。

 

 ちゃにゃんもまさかここまで行くとは思っていなかったため、一緒になって、喜んだ。

 

 

 「よかったね! 早速この魔法を使いこなせれば、アスカにも勝てるようになるよ!」

 

 

 「そうだね。まずは特訓して、技術力を磨かないと! 手に入れたからと言って、すぐに思い通りに使えるなんていかないからね。

  ちゃにゃん、ギルドに戻って地下の特訓場で試してみようと思うから、付き合ってくれる?」

 

 

 「いいよ。 私も見てみたいし。 楽しみだね。」

 

 

 ちゃにゃんの了承も得て、子供のように走ってギルドに向かう背中を見ながら後に続くちゃにゃんはくろちゃんに気づかれないように不気味な笑いをしていた。

 

 

 (ふふふ・・・。これで、覗きのための道具や魔法アイテムを買うために貯めていたくろちゃんのお金がこれですべてなくなった…。

  しばらくは、新しい魔法の特訓に集中するだろうし、安寧が続くわ!

  さて…、くろちゃんはこの事にいつ気付くかな…。ふふふふふふ!!)

 

 

 ちゃにゃんの心の内を知らないくろちゃんは純粋に喜んでくれていると疑わず、前を向いて走り続ける。

 

 くろちゃんはまだこの時は知らない…。それはのちに、後で後悔…、する事に繋がるかもしれない。趣味にお金を回せなくなったと嘆くくろちゃんが目に浮かぶ…。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 元気にギルドに向かって走るくろちゃんとちゃにゃんの姿をうす暗い路地から見る人影がいた。その人影はいつもと変わらない笑顔でいるくろちゃんとちゃにゃんのを見て、ほっと息を吐いて、安堵する。

 

 アスカとROSEとの魔法試合でROSEが惨敗した時から、くろちゃん達が気になっていたため、ギルドを抜け出して隠れて様子を見ていた。大丈夫そうだと納得し、人影は更に路地に入っていく。

 

 

 (ありがとう…! くろちゃんとちゃにゃんはそのままでいてください!

  後………、僕の事、親友だって、言ってくれてありがとうございます!

       ・・・・・・

  そして…、ごめんなさい…。)

 

 

 心の内でくろちゃん達に話しかける人影は身体を震わせ、歯軋りをしながら歩いて路地の奥に姿を消した。その人影が通った地面には、水滴が点々と落ちた跡が残されていた。

 

 





まさか、心配でわざわざ…!(号泣)


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探せっ!!

最近もっと自分に国語力があればと痛感する日々です。

この先はドロドロになるかも?


 

 

 

 

 

  アスカとの惨敗から2か月経ったある日の午後。

 

 

 晴れ渡る陽気な風が吹くこの日は帝都で年に一度に開かれる開国祭がいよいよ明日に迫り、祭りの準備で帝都中が活気になっていた。出店を道という道の至る所に設けられており、明日の祭りに備えての大詰めをしていた。

 さらに、祭りを楽しみにする者は既に浮かれて、酒を飲んだり、大食い競走大会等が開かれていた。

 

 

 もちろん、初めて帝都の祭りを見る者も帝都の熱気に楽しみにしていた。そのうちの一人であるくろちゃんとちゃにゃんも帝都の祭りにわくわくしていた。……今日の午前中までは。

 

 くろちゃんとちゃにゃんは今、帝都中を走り回っていた。走りながら周りを見渡し、探し物をするかのように声を掛けたり、籠やツボの中を覗き込んだりしていた。実際に捜していた。…親友のシンバを。

 

 

 その理由は少し遡った午前中にあった。

 

 

 祭りがあるため、仕事の依頼やイベントクエスト、魔法試合も一時中断となり、暇を持て余していたROSEメンバー。鍛錬もしていたが、約2週間前からずっとこの調子のため、飽きていた。多少の運動をしていたが、みんな心ここにあらずで過ごしていた。

 

 そんな中、モニターにメッセージが届いた。それを開くと、祭りの準備に入る前にしていたイベントクエストの順位結果発表だった。すると、一斉にみんながモニター前に集まり、順位結果の確認をし出した。自分の順位を確認すると喜んだり、悔しがったりとギルド内が明るくなった。くろちゃんとちゃにゃんもモニターを見て順位を確認する。

 

 

 「え~と、私の順位は…。あ、あった! 473位だって!よっしゃ! 500位以内に入ったから、イベント専用コスチュームをゲットだ!」

 

 

 「…私も500位以内だからくろちゃんと同じだ!」

 

 

 「何位だったの?ちゃにゃん。」

 

 

 「内緒。」

 

 

 「何~!! 教えろ! というよりモニター見た方が早い! ていっ!」

 

 

 「あっ…。」

 

 

 「………283位。 なぜこんなに差が?」

 

 

 「くろちゃんが攻撃を準備している間に、私が遠距離魔法とか補助魔法とかでサポートしているからかな?ははは。  (後もう少しでしょうgゲットできたのに!)」

 

 

 乾いた笑いで話を逸らそうとしたちゃにゃんだったが、くろちゃんがモニターに釘付けになって固まっていたから、不発に終わる。しかし、ずっと固まっているため、声を掛けてもびくとも返事をしないくろちゃんに訝しく思ったちゃにゃんはくろちゃんが凝視するモニターに映る順位表を見る。そしてちゃにゃんもくろちゃんと同じく固まった。二人とも信じられないという顔で順位表を見ており、驚きのあまりに口が開きっぱなしになっている。

 二人が驚くのも無理はなかった。なぜならくろちゃん達が見ている順位表は最下位から100位数えたイベント参戦者のリストで、その中には二人が見知っている人物の名が記されていた。”シンバ ランクD落ち”と。

 

 飛び出していた意識を回復し、現実にひき戻った二人は血相を変えて、外に飛び出した。シンバを探すために。

 

 

 これが、今二人が慌てて、探し物…、シンバを探して、祭りだとはしゃいではいられない理由だった。

 

 

 二人は必死になって探すが、帝都には祭りのために各部族から遊びに出てきたり、この祭りで商売繁盛させようと商人が各地からやってきていたため、人通りがいつもより倍以上も人が集まっていた。この非常に困難な状況でシンバを探すのは昔絵本で見た”ウォーリーを探せ”と同じ位の難易度を感じた。

 

 

 「はぁ、はぁ、くろちゃん。はぁ、シンバを早く探さないと…!」

 

 

 「うん! はぁ、分かってるけど…はぁ、 こんなに人が多いとな~。」

 

 

 息が切れながらも必死にシンバを探すくろちゃん達には焦りの表情が垣間見えた。それもそのはずで、帝都で広がるあの不気味な噂があるからだ。

 

 ”最低順位だけでなく、そこから遡った順位まで突如消えてしまう”という噂。

 

 もしあれが本当ならすぐにでもシンバの安否を確認しなければ!

 

 

 二人には今この事しか頭にはなかった。

 

 

 しかし、探しても見つからなくて、途方に暮れていた。そこへちゃにゃんが閃いたようにくろちゃんに提案する。

 

 

 「くろちゃん、ほら、シンバと最初に会ったあの場所! まだあそこは調べてなかったし、行ってみない!?」

 

 

 「そうか! その可能性はありだね! 行こう!」

 

 

 一刻も早く行くために、シンバと初めて会った市街地まで飛行魔法で飛んで行った。

 

 

 

 

 

 そして市街地に着き、シンバを探す。

 

 あの時の戦闘の後はすっかり修復しており、平穏な日常を思わせる市街地の中を二人は探し回った。そして、市街地のパークに一人だけでベンチに座る少年を見つけた。

 

 ゆっくりと近づくと、シンバは唇をぎゅっと結んで、身動きせずに座っていた。やっと見つけた安心感で二人は身体の力が抜ける。

 

 

 「よかった~! 探し回ったよ。 シンバ~!!」

 

 

 「無事でよかった。 そうだ、おなかペコペコだから、何が食べに行かない?」

 

 

 ちゃにゃんが言ったとおり、ごはん抜きで探し回っていたため、さっきから腹の虫がなっていたのだ。今もなり続けているくろちゃんのお腹の音にシンバが含み笑いをするが、ベンチから一向に立ち上がろうとはしない。くろちゃん達は訝しく思っていたが、ベンチの背に貼られた貼り紙で納得した。

 そこには、こう書かれていた。―――”ペンキ塗りたて注意!!”と。

 

 貼り紙から再びシンバに顔を向けると、シンバは罰が悪そうな顔で苦笑した。シンバは今、塗りたてのべンチに座って、服にべンチが付いただけでなく、半乾きだったために服が見事にくっ付いて動けなかったのだった。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんはとりあえず、シンバをROSEギルドに連れて行き、一緒に明日の祭りに行くことを約束した。

 

 

 その後、市街地のパークで怪現象が発見されるというニュースが翌日の朝の一面に載る。

 パークのベンチに少年の衣類だけが残され、あたかも、少年が服だけを残したまま蒸発したのではないかと。持ちきりだった。

 

 

 

 この怪現象の真相を知るくろちゃんとちゃにゃんとシンバは冷や汗を搔きながら、お互いの顔を見合わせ、唇に人差し指を当て、秘密を共有するのだった。

 

 

 





本当はここで、あいつを出したかったけど、シンバが可愛そうだから、もう少し先延ばしを…。祭りを楽しめよ、シンバ!


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涙の裏切り

もっと文章力があればと最近思う。

この先はドロドロになるかも…?


 

 

 

 祭りの前日だけに、前夜会が帝都の各地で催され、盛り上がっていた。ROSEでもギルド内でプチパーティーが開かれてみんなで豪華な食事をしていた。もちろん、シンバも一緒に。

 

 ランクDになったシンバはアスカを追放され、最近は野宿していたらしい。

 

 くろちゃんとちゃにゃんはあんなに努力して強くなったシンバがあんな順位を取って追放されたのか考えても分からなかったが、とりあえず見つかってよかったし、この場で理由を聞くなんて空気の読めない事をする気がなかったため、落ち着いてたら話を聞こうと目線で確認し、二人はパーティーに没頭した。

 

 ギルドの皆もシンバの訪問には歓迎しており、一緒に踊ったり、歌ったりと盛り上がっていた。

 

 …途中からいつものように入浴の時間になり、NSTとの攻防戦を繰り広げたが。

 

 結果はもちろん、NSTの惨敗。ちなみに今回、くろちゃんは入浴チームに加わっていて、誰でも帰るお手頃ビリビリマット、ビリビリ床や粘々シートを各地に配置し、撃退した。

 

 

 (くろちゃんがこっち側に回るとか、新鮮だわ~!!)

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 夜も明けて、とうとう帝国の開国祭がついに始まった。

 

 

 ギルドのみんなは後で合流する事になり、先にくろちゃんとちゃにゃんとシンバが中心街に行き、遊びに出かけた。

 

 食べ物や飲み物の出店が長蛇の列の如く、左右に並んでおり、人の行き交い、活気溢れる風景は見ているだけでも、楽しさが心の奥底から湧いてくる。

 

 さっそく、目当ての食べ物を見つけ、三人は食べ歩きながら、満喫する。

 噴水広場では帝国中を旅する芸人が踊りや芸を披露して観客を魅了していた。中でも周りの風を自分の思うがままのように操り、花びらを体に纏わせながら可憐な舞を踊る踊り子の見世物はその後の芸が披露されても、鮮明に記憶し、感動が残るほどの圧巻なものだった。

 

 

 「はぁ~~。 あの踊り子の演舞はよかったな~。」

 

 

 「そうだよね~。 花の妖精かと思ったもの!」

 

 

 「確かに素敵でしたね~。 惚れ惚れするくらい…。」

 

 

 芸の披露が終わり、再び帝都中を歩きだした三人は先ほどの演舞の感想を言い合っていた。シンバの感想にくろちゃんとちゃにゃんは目を輝かせて、シンバをからかい始めた。

 

 

 「なになに? 『惚れ惚れするくらい』? もしかしてあの踊り子さんに一目惚れした?」

 

 

 「なっ!! 違っ!! そんなんじゃ!」

 

 

 「恥ずかしからなくてもいいよ…。気持ちは分かるよ。あんな色白で体型も左右対称の上、陶器のような脚線。花の妖精って言ったけど、あれはもう女神だね! 天から愛されてきた女神って感じだもんね!

  踊り子さんの舞を見ていた男共はみんな失神してたからね~。」

 

 

 「ぼ、ぼくはそんな疾しい事なんて!」

 

 

 「えっ。 私たちは疾しい事なんてこれっぽっちも言ってないけど?ただの事実を話しているだけ。

  もしかして…、シンバはどんな妄想していたのかな~?」

 

 

 シンバはこの事態をどうすべきが悩み、焦りだした。親友とはいえ、少女であるくろちゃん達の自分に対する印象を下心ありまくりのガキだと思われるのだけは阻止しようと弁解するが、すればするほどあらぬ方向へ進んで行っているようで、このループ状態から一刻も早く逃げたかった。

 結局、からかい満足したくろちゃんが出店のチーズケーキに目が止まり、出店の方に走っていった事でシンバは解放された。

 

 

 こうして一日中、祭りを楽しんだ三人はずっと歩き続けていたため、休憩する場所を探し、買い込んだお菓子等を食べようとベンチを探した。しかし、人通りも多いためか、空いているベンチが見つからない。

 

 

 「どうしよう。なかなか見つからないね。」

 

 

 「痛たたた…。もう足がパンパンだよ~。さすがに疲れた~!!」

 

 

 「…じゃ、この先の路地を通ったら僕のお気に入りの空き地があるんだ。そこなら誰も来ないし、ゆっくりと休めるよ。あと、祭りの締めくくりの花火ももしかしたら見れるかも。」

 

 

 「ホントに!! 行く行く!!」

 

 

 「では、お言葉に甘えて。」

 

 

 「わかった。じゃ、ついてきて。こっちだよ。」

 

 

 シンバの提案でシンバの秘密の場所ともいえる場所へ足を運ぶ三人。

 

 しばらく路地を歩くと、本当に人通りがなくなり、空き地に着いた。

 

 その空地には草一本も生えていなくて、両隣には数十メートルもする建物が空き地を挟んで建っていた。そして両隣の一階部分には店が開いていて、灯りが外の路地に零れていた。

 

 くろちゃんとちゃにゃんはこの不気味な空間にある空き地に違和感を感じ、ここに連れてきたシンバに尋ねてみた。

 

 

 「…ねぇ~、ここがシンバのお気に入りの場所?」

 

 

 「何か想像していたのと違い過ぎるというか…。」

 

 

 二人の質問にずっと二人に背中を向けていたシンバはそのままでくろちゃん達に話しかける。

 

 

 「今日は楽しかった…。本当にありがとう。こんなに楽しく過ごせたのは初めてだった。 僕もくろちゃん達と一緒のギルドに入ればよかったな…。」

 

 

 突然の告白に状況が把握できないくろちゃんとちゃにゃんは首を傾げる。

 

 

 「ちょっと、シンバ? 何言ってるの? 大丈夫?」

 

 

 「大丈夫…。 これが僕の最期の仕事だから…。

  今までありがとう…。 そして…、…っく! ごめんねっ!!」

 

 

 振り返ったシンバは涙を流して、泣いていた。それと同時に顔半分は口が裂け、嘲笑っていた。正反対の表情をするシンバは背中に背負っていた双剣を手に持ち、くろちゃんとちゃにゃんに襲い掛かった。

 

 

 

 「ごめんね~~~~!!!」

 

 

 そう謝罪し、涙をぽろぽろと流しながら、双剣をくろちゃんとちゃにゃんに目掛けて振り下ろした。

 

 




シンバの身に何が起きたのかは、次の戦いの後で!



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理由なき戦い~First~


バトル大好きなみんなに…、精いっぱい努める事を誓います!


 

 

 

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんに目掛けてシンバは双剣を振り下ろす。それを、二人は横飛びして回避し、更に、後方へジャンプしてからシンバとの距離を取る。体勢を整え、魔法をいつでも発動できるようにCADに手を掛ける。

 

 くろちゃんはいきなりシンバが襲ってきた事が信じられなかったが、さっきの涙といい、言葉といい、シンバの意志で襲ってきたようには見えない。逆側でくろちゃんと同じくCADに手を掛けて魔法発動の準備しているちゃにゃんもシンバの意志ではないと考えていた。

 

 

 「シンバっ!! どうしたの!? シンバはこんな風に友達を傷つける人じゃないはずだよ!?」

 

 

 「誰かにやらされているんじゃない!? そうなんでしょ!? だったら、こんな事はやめなさい!」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんが説得するが、先程の攻撃を避けてからその場で立ち尽くし、双剣を地面に突き立てているシンバに反応はない。

 

 緊張感が張りつめる中、どう対処するべきか思考を巡らせていると、ふいにシンバが動き出す。しかしその動きは人間の動きとは思えないほどのものだった。関節があるのかと疑いたくなるくらい、腕や足がくねくねと動き、力が入っていないのに一歩踏み出す。まるで、糸で操られているマリオネットみたい。

 

 

 「くろちゃん! これって、もしかして…!」

 

 

 「うん、『セルフ・マリオネット』の改良版みたいな魔法で操られているのかも! 

  なら、起動式を破壊すれば!」

 

 

 『セルフ・マリオネット』とは、移動系魔法で自身の肉体を移動系魔法のみで動かす魔法で、普通は自分自身に掛ける事で、無意識に動かす事で、相手に予測を超える動きで攻める事ができる。まぁ、体の動きを魔法に任せる事になるから、咄嗟の相手の行動や魔法に対処ができないっていうデメリットもあるが。

 

 という事で、この魔法を使っても、大抵は自身の身体にマッチした動きを可能にする魔法だ。しかし先ほどのように関節があるのか疑う余地があるほどの動きをする魔法をシンバが自分で発動するわけがない。だから、その改良された魔法を掛けられて誰かに操られているか、組み込まれて操られたのかとくろちゃんは考えた。

 

 ちゃにゃんも同意し、起動式を破壊するために無系統魔法を展開する。いや、しようとした。

 

 ちゃにゃんが無系統魔法を展開しようとした時、シンバがちゃにゃんに高速で掛けてゆく。まるで、起動式を破壊されないようにするためのようだ。

 高速で動いているため、目で視認するのが難しい。あっという間にちゃにゃんの背後に回ったシンバが右手の剣を思い切りちゃにゃんに斬りかかる。

 

 

 「ちゃにゃん! 後ろ!! 避けて!」

 

 

 くろちゃんはちゃにゃんにシンバの位置を伝える。しかし、剣の軌道に加重系統魔法を重ねる事で更に斬れ味を出す一閃の方が速い。このままだと、ちゃにゃんは上半身と下半身を半分にされてしまう。この場に第三者がいれば、その光景が頭を過っただろう。しかし、当のちゃにゃんはもちろん、くろちゃんもそんな恐怖は微塵も顔に出ていない。出ているのは、不敵な笑みだった。

 

 

 「シンバ、私たちを舐めてもらったら困るよ。これでも一応、シンバの親友であり、ライバルだからねっ!!」

 

 

 「うんっ! そうだよ、シンバ!! こんなところで倒されるほど柔じゃないわっ!!」

 

 

 すると、ちゃにゃんは姿を消し、シンバの斬れ味の乗った横一閃は空を斬った。斬られた空気が風になり、離れているくろちゃんの所まで凄い風圧が襲う。もしまともにちゃにゃんが受けてたら、身体真っ二つで済まなかったとくろちゃんはその威力を噛み締めながら思った。そんなくろちゃんの思いとは違い、未だ涙を流し続けるシンバの首が傾げる。

 

 

 「あ~、危なかった。さすがにあれをまともに喰らってたらヤバかったね、くろちゃん?」

 

 

 くろちゃんとまったく同意見を口にして、くろちゃんの隣に現れたちゃにゃん。額に手を翳して、遠くを見る仕草をして自分がさっきまでいた所をまじまじと見る。

 くろちゃんは大丈夫と思ってても、やっぱり心配していたため、ちゃにゃんの無事に安堵の息を漏らす。

 

 

 「修得していてよかったね。」

 

 

 「シンバには負けられないから。」

 

 

 ちゃにゃんは近接戦闘魔法を修得していた。加速系魔法で、物体を特定方向へ向けて加速する『アクセル』を自分に掛けて、くろちゃんまで高速で走り抜いたのだった。

 くろちゃんとちゃにゃんはあのアスカ戦以降からシンバの近接戦闘魔法と技術に対抗するために、対策や魔法の特訓をしてきた。それがこんな形で披露するとは思わなかったが。

 

 

 自分の攻撃をまたもや躱されたシンバはちゃにゃんとくろちゃんの姿を目で確認すると、とてつもない笑みを浮かべた。

 

 その笑みに思わずくろちゃんとちゃにゃんはぞっとする。

 

 シンバの人懐っこい周りを明るくするいつもの笑みではなく、最高の獲物を見つけたというような獰猛な猛獣が狂気を逸した笑みだったからだ。

 

 

 「じゅじ~~~~ぅぅぅぅっぺ…!」

 

 

 その笑みをくろちゃん達に固定したまま、双剣を舐め回す。

 

 

 「ねぇええ!! 僕と遊ぼう~~~~!!ひひひひゃひゃ!!」

 

 

 狂った笑いが今、この場に響き渡る。

 

 





徐々にバトルを盛り上げていきたいなと思います。


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理由なき戦い~Second~


 徐々に壊れていくシンバ・・・!!(泣)


 

 

 

 

 

 

 突然のキャラ崩壊を起こしたシンバ。可愛げのある優しいシンバはもういなくて、逆に殺戮に徹した意地の悪い性格になった。いや、意地の悪いなんて可愛いものじゃない。殺戮を楽しむ危ない性格になってしまった。

 そのシンバがこうなってしまい、くろちゃん達は驚いて、悲鳴を上げるかと思ったが…。

 

 

 「ぷぷぷうぅぅぅ~~~~~~!! 何あれ! チョー受けるんだけど!はははははは!!」

 

 

 「そんなに笑っては…!! っぷう!くくく…あの変化には確かにギャップがありすぎるけど…!!」

 

 

 突然のシンバの変化になぜか大爆笑。どうやら性格のギャップ萌えを引き起こしたらしい。

 

 そんな暇じゃないんだけどな~。(気楽突っ込み)←お前もな!

 

 

 「遊ぼうよ~~!! 血を見せて~!!」

 

 

 大爆笑するくろちゃん達に狂気笑いをするシンバが突っ込む。お腹を抱えて笑っていた二人はCADを操作する。そして『サイドステップ』を発動し、自身にかかる慣性質量を減らしつつ、不規則に高速移動する事で、シンバの威力の乗った剣筋を躱す。二人が特訓していた近接戦闘対策でスピードにはスピートで対抗という論理を開拓した結果だ。

 

 自分の攻撃がなかなか当たらないのをシンバは不満そうに子供っぽく反論する。

 

 

 「何で斬らせてくれないの~~!! パァ~って血が飛ぶの、僕みたいのに~!!」

 

 

 「だって血、流したくないし。」

 

 

 「うん。正論だね。それにしても、性格って変わると別人みたいだよね。」

 

 

 「今のシンバは自我がないって事かな? それとも、演技とか?」

 

 

 「前者じゃないかな? 取りつかれているなら、最初のあの動きにも納得だけど。」

 

 

 「確かにそうだ!」

 

 

 「二人だけで楽しそうにするの禁止!! 僕も混ぜてよ!! もちろん僕の遊びでね!!」

 

 

 すると双剣を交わらせ、擦り合い耳の痛い金属音を放つ。くろちゃんとちゃにゃんはあまりにも酷い金属音に手で耳を塞ぐ。シンバは金属音を振動系魔法で増幅させる。

 小細工な攻撃に苦しむくろちゃん達にシンバは無邪気に笑いながら、片方の剣を地面に突き立て、もう片方の剣で金属音を出し続ける。そして手の空いた手を懐へ入れて、小銃型のCADを取り出した。

 

 

 「なっ!! シンバ射撃魔法、覚えてたの!」

 

 

 「近接戦闘魔法師だから、好まないと思って可能性を低く見積もっていたんだけど、甘く見てたね~。」

 

 

 耳を塞ぎながら、シンバを見ていたくろちゃん達は強くなろうと新しい事に挑戦していたシンバを褒めつつ、この状況に苦笑いする。

 

 

 「キャハハハ!! まずは、動けないように手足を吹き飛ばしてあげる!

  その後に生きたまま切り刻んであげる!!」

 

 

 楽しそうにCADをくろちゃん達に向け、引き金を引く。

 

 移動・放出系統魔法『ディバイドレーザー』で、レーザーを拡散させ、発射する。拡散されたレーザーは広範囲に広がり、くろちゃんとちゃにゃんに多数のレーザーが向かう。

 

 二人はいまだ、金属音に手を塞がれていて、魔法を発動できない。

 このままでは死なない程度に蜂の巣状態だ。

 

 

 そして、ついに『ディバイドレーザー』がくろちゃん達を直撃し、あまりの威力に地面に着弾したレーザーで土煙が舞う。煙が風で流れた地面にはレーザーの跡がくっきりと残っている。

 

 

 金属音をやめて、変わり果てたくろちゃん達の姿を料理してやろうと歩み寄ってきたシンバ。

 

 

 しかし、シンバの笑みが無表情に変わる。あの結果から当然あるべきくろちゃん達の血まみれの姿がどこにもない。

 

 慌てて回りを観察し、姿を探すシンバに声が空から降り注いだ。

 

 

 

 

 「まだまだだよ! 私たちだって強くなってるんだから!」

 

 

 「お仕置きが必要だね。」

 

 

 その声のする空へ顔を向けた時、上から重力が降ってきて、地面に叩きつけられるシンバ。

 

 

 

 「こっからは私たちが遊んであげるよ…、シンバっ!!」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんはすっかり暗くなった空に浮かぶ月明かりを背後に受けながら、宙で立っていた。

 

 

 「「どやっ!!」」

 

 

 ドヤ顔も添えて…。

 

 

 





少女バトル化していくね~。
でも好きだ~。(@>▽<@)


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理由なき戦い~Third~

 余裕もできて、強くなったのは分かるけど、…自由だな~。


 

 

 

 空に浮かぶくろちゃん達を地面に重力で押さえられ続けているシンバが首をゆっくりと動かし、くろちゃん達に目を向ける。その眼には怒りが感じられる。

 

 怒鳴りたいが押さえられ続けているため、言葉が出ない。

 

 だから呻き声を上げて、ただひたすらくろちゃん達を睨むしかない。

 

 そんなシンバを見て、何を思ったのか突然くろちゃんが「キャ――――!!」と悲鳴を叫ぶ。スカートを抑え付ける仕草付きで。

 

 

 「ちゃにゃん~!! 今、シンバが私のスカートの中をじーっと見てたよ!!」

 

 

 「やっぱり? さっきからそんな感じに見えてたんだよね。まぁ、私はショートパンツ履いているから別に見られても大丈夫だけど?」

 

 

 「何だと!? ちゃにゃん! そこは乙女としてパンツ一丁でスカートを穿くべきだよ!」

 

 

 「…一体何を期待しているのかな?くろちゃん? シンバよりも先にやられたい?」

 

 

 「大丈夫です! 頑張らせていただきます!(…それも悪くないかも。(///▽///)***)」

 

 

 くろちゃんのヘムタイ気質が出たところで、未だに空に浮かぶくろちゃん達を睨むシンバを今度は真っ赤な顔になって、重力を更に強くする。

 

 

 「シンバのエッチっ!! 私のいちごパフェ柄のパンツを見てガタガタ喜ぶなんて最低っ!!」

 

 

 シンバは更に強まった重力の中、必死に耐えていた。身体は重力の所為で、ビジビジと音を立てて、骨が疼いている。疼いているというよりは折れる一歩前までに迫っている。内臓も刺激され、血を吹き出す。その状況に更にくろちゃんはヒートアップする。

 

 

 「鼻血出して、萌えるなんてとんでもないエロだねっ! 産んでくれたお母さんが泣くよ?」

 

 

 酷い妄想をするくろちゃんに今まで黙ってたちゃにゃんが突っ込む。

 

 

 「いや、エロで、ヘムタイなのはくろちゃんだから! 抑え付けられて骨が悲鳴を上げて、内臓の損傷で血を吐いただけだから! どんなフィルターレンズを目に入れたらそんな妄想ができるのっ!?

  そして一番気になるのは…、」

 

 

 「何?」

 

             ・・・

 「何でパンツの柄がいちごパフェなの!?」

 

 

 「何でって、いちごパフェが好きだから。」

 

 

 「普通はいちごパンツが主流でしょっ!」

 

 

 「えっ、だめ~? じゃ、今度いちご大福のパンツ穿くわ!」

 

 

 「そういう意味じゃな~い!!」

 

 

 パンツの事で漫才の如く議論するくろちゃんとちゃにゃん。”だからバトル中だから。いくら親友でも、こうまで変わってたら、何をしてくるかわからないのに。油断大敵だ。そしていい加減飛行魔法を解除しろ。無駄な体力消費に繋がるし、そうやってシンバの真上で浮かんでいるからパンツがどうのこうのっていう事態になるんだ!”と真面な人間がこの場にいたらそう言っただろう。

 

             ・・・・

 しかし、この場にはそれを突っ込む人間はここにはいない。

 

 

 

 ところで、くろちゃん達が無事なのは、『サイドステップ』で攻撃を躱していた時に加重系魔法で、自身の周囲に接触した物や魔法攻撃の威力を変化させる障壁を展開する『グラビティフレーム』をマルチキャストしていた事で双剣の斬れ味の乗った剣筋を緩和し、さっきの『ディバイドレーザー』もブロックしたのだった。

 

 

 すっかりとシンバ対策を研究し、練っているだけに抜け目がない。

 

 しかし、シンバはこの程度で終わらなかった。というより、遊び足りなかった。

 

 

 「…ぅぅうおおおおおおお~~~~!!!」

 

 

 力を振り絞り、右腕を振り上げると、拳を地面に撃ち込んだ。すると、拳を撃ち込んだところから地面に亀裂が入っていく。『殴打』で腕の周囲を硬化させて、くろちゃんの加重系魔法の威力を利用して撃ち込んだのだ。

 

 そのため、地面に亀裂が入ったために、地面が砕け、くろちゃんが設定した”シンバを基点とした周囲の地面への重力加重”の加重系魔法が破綻し、魔法が解除される。

 

 自由になったシンバは鋭い目つきで、歯も剥き出しにし、足元に重力慣性の魔法を発動し、ウサギのような高いジャンプ力を発揮し、飛行するくろちゃん達に迫る。シンバの手には拳でも剣でもなく、魔法で繰り出した空気を固めて集めた鋭い爪があった。

 

 

 「斬らせろ~~!!」

 

 

 凶変したシンバは目を充血させ、瞳孔が開き、血に飢えていた。

 

 

 そんなシンバに咄嗟の反応に強いちゃにゃんがシンバに『落雷』を命中させる。威力は動きを鈍らせる程度だが、長時間重力で抑え付けられていたせいで、呼吸が乱れてさっきの攻撃で体力は精いっぱいだった。

 

 シンバは剣術や高速移動など戦闘的な面は強く、体力もそれを支えるだけの力はあったが、まだ未発達の身体で無理をして、身体を痛め続けていた。

 

 だから、落雷の衝撃を受け、地面に落ちたシンバの身体は全身打撲や骨折等で痣が多数でき、これ以上の攻撃は困難だった。

 

 

 飛行魔法を解除し、シンバと一定の距離を保った後、シンバにくろちゃんは問いただす。

 

 

 「シンバ…。自我がまだあるなら、答えて。シンバにこんな事させた奴がいるはずでしょ? 誰か答えなさい。」

 

 

 「…………」

 

 

 「このままではいいように利用されるだけだよ? 教えて?」

 

 

 「…………」

 

 

 「だめだね…。」

 

 

 一向に無口なシンバにこれ以上は無理かと思い、ちゃにゃんが無系統魔法を展開する。せめてシンバに掛けられた精神干渉系魔法?を解除するため、サイオンを圧縮させていく。

 

 すると、ずっと無口だったシンバが大声で笑い始めた。目はずっと空を眺めているけど、目には空は映っていなくて、殺気交じりの視線を投げていた。

 

 高笑いを気が済むまでした後、突然止め、苛立ちと殺意を強めたオーラを放つ。

 

 それが、どんどん集まっていき、目に見えるようなどす黒い霧へと変貌する。

 

 そして、シンバはもう動くのも痛くて立てないのをお構いなしに立ち上がり、だらりと骨折で使えない腕を垂らして、前かがみになる。

 

 

 「何で…何で…何で何で何で何で何で何で!!!!!

  何で切り刻ませてくれないの~~!! 血が噴き出すあの最高な瞬間が好きなのに~~~!!」

 

 

 激昂したシンバの怒りの言葉は発するたびに空気が痛むような錯覚がした。

 

 

 「シンバ? 落ち…」

 

 

 くろちゃんがシンバの心情を落ち着かせようとするが、禍々しくなっていくオーラがシンバに引き付けられるかのように集まっていき、その力に持っていかれないようにするしかなかった。どんどん集まっていくそのオーラに包まれながらシンバは瞳孔を開き、くろちゃんとちゃにゃんの姿を見詰める。

 

 

 「でも、もういいや…。僕、もうこんな遊び疲れた。

 

  だからね~、もっと恐怖を与えてあげる遊びに変更するよ!

 

  最高の絶叫を聞かせてっ!!」

 

 

 その言葉を最期にシンバはどす黒いオーラに包まれ、呑みこまれた。

 

 そして、辺り一帯から同じオーラを呼び寄せているかのように蛇のような動きでどんどん集まっていき、大きくなる。

 

 くろちゃんとちゃにゃんは距離を取りつつ、大きくなる塊を観察する。

 

 そして、現れたのが…、

 

 

 

 

 

 

 

 得体の知れない禍々しい身体をし、鋭い牙を無数に剥き出しにし、全長が両隣の建物と同じくらいの高さ(くろちゃん達の10倍位)をした化け物だった。

 

 もうそこにはシンバの姿は一切なかった…。

 

 その化け物はくろちゃん達に向かって雄叫びを放つ。それだけなのに腰に力を入れてしっかり立ってないと吹き飛ばされるほどの威力だ。なんとか耐えた後、再び化け物を凝視する。

 

 

 「…シンバ。」

 

 

 あまりにも信じられない光景にくろちゃんとちゃにゃんはぽつりとシンバの名を呟いた。

 

 




 いちごパフェパンツにいちご大福パンツ…。

 それってどこで売ってるんだろう…?


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理由なき戦い~Final~

毎回どうやってバトらせるか必死に考える私。

一方的にならないようにしないと。


 

 

 

 化け物になったシンバが腕を振りかぶって二人に向かって叩きつける。『サイドステップ』で高速移動し避けるが地面に叩き付けられた衝撃波で吹き飛ばされる。あれを直撃していたら、潰されていた。

 

 くろちゃん達にもそれを理解し、さっきまでは余裕な表情も見られたが、今はただ真剣そのものだった。ようやく自らの命の危機だと感じ取った二人はこの化け物を倒さないといけないという考えが芽生えた。しかしそれと同時にそれは命を奪い合うという事も芽生えた。二人は今まで戦ってきたが、戦闘不能にするか、機械や化成体の場合は壊したりしていた。もちろん、帝都での旅の途中に襲われた鎧の亡者の時も、止めはマサユキがし、くろちゃん達は命を奪わなかった。

 

 つまり命を奪い合う本気の戦闘をしてこなかったくろちゃん達にとって、この戦いは恐れるものばかりだった。

 この化け物を倒す。それは、シンバの命を絶つという事。それはあまりにも二人にとっては残酷なものだった。倒さなければ自分が殺される。でも自分達が倒せばシンバが死ぬ。この状況にくろちゃんとちゃにゃんは悔いた。

 

 もっと早くに、こうなる前に魔法を解除させてあげれば…!

 

 二人はそう思っていた。

 

 悔やみながらも度重なる化け物の腕や脚、しっぽを使った打撃攻撃を躱しながらどうするべきか悩んだ。戦いの最中にそれを悩むのは自分の命を危険に晒す事だと分かっていても考えずにはいられなかった。

 

 すると、自責の念と最善の打開策に駆られている二人の頭に直接話しかける声が聞こえた。

 

 ”助けて…。 苦しい…。”

 

 

 「この声…、シンバ!?」

 

 

 ”助けて…! 僕をここから出して…!”

 

 

 助けを求めるシンバを声を聞いて、くろちゃんとちゃにゃんは顔を見合わせ、視線でシンバを助けるために化け物を倒す事を決意する。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは化け物の観察を打撃攻撃を躱しながら行い、特性を見極める。パワーも優れ、瞬発力もある。試しにちゃにゃんが『光学迷彩』や『幻影投影』を発動し、屈折で作るダミーや風景に同化するが、すぐに見極められ、ちゃにゃん本人に攻撃する。どうやら嗅覚で匂いを嗅いで見抜いているようだ。

 

 

 「何だが巨大化した獰猛な猛獣みたいな感じだね~。」

 

 

 「そう考えたら、納得する。」

 

 

 分析の結果、猛獣判断された化け物と化したシンバにくろちゃん達はついに動き出す。

 

 

 

 二人は得意な連携による遠距離攻撃を組み込む。

 

 

 

 まず化け物の視界と嗅覚を阻害するべく、ちゃにゃんが『濃霧」を化け物の周囲に展開する事で視界を奪う。もちろん、くろちゃんと自分の視界は確保する。

 くろちゃんはちゃにゃんの濃霧と同時にマサユキから教わった『マルチ・アロマ』で強烈な臭いを発するエキスが入った複数の液体を空気中に放出し、液体同士を調合したものを濃霧に混ぜて、化け物の嗅覚を奪う。

 

 もちろんこの一帯に濃霧を張っているため、くろちゃん達にも鼻が曲がりそうなほどの臭いを吸う事になるが、そこは魔法師だ。自分自身の顔に空気で作ったエアマスクを魔法で覆っているから臭いに影響を受けない。ただしマスク内の空気がなくなる前に解除するか、新鮮な空気を取り入れないと持たないが。

 

視界と嗅覚を奪われ、濃霧の中を走り回りながら振動系魔法やレーザー魔法を化け物に撃ち込んで攻撃するくろちゃんとちゃにゃんに苛立ち、怒声を放つ化け物と化したシンバ。

 

 そして化け物シンバは反撃に出る。

 

 濃霧と強烈な臭いを消すため、口から火炎の咆哮を放ち、身体を回転させ、周囲に火炎攻撃する。図様しい勢いの火炎方向であっという間に濃霧も臭いも消え去り、辺りは火の海になった。両隣の建物にも炎が燃え広がって、危ないが、中の住人は気付いていないようで、この場とは正反対で、場違いな楽しそうな話し声が聞こえる。

 

 火に包まれながら、高笑いする化け物シンバは視界がクリアになったため、姿を見せたくろちゃん達に目掛けて特大の火炎の咆哮を放つ。広範囲の咆哮に高速移動での攻撃回避は無理と判断し、くろちゃんが『能動空中機雷』をアクティブシールドとして展開し、防御する。それによって、火炎の咆哮と振動による衝撃で相殺する。

 

 

 威力を弱められた化け物シンバは一向に弱ったくろちゃん達にならなくて怒りで鋭い牙がギリリっと歯軋りした。そして、今度は自分の体毛を次々と引っこ抜き、大きな毛の一本ずつに硬化魔法を展開した。硬化魔法がかかった体毛は鋭い槍のようになり、それが無数に空中に浮いてくろちゃん達を狙う。

 

 

 「くろちゃん…、これって…やばくない?」

 

 

 「うん…。 やばす!!」

 

 

 その瞬間、無数の槍のような体毛が一斉に降り注いだ。

 

 くろちゃんは再び『能動空中機雷』で体毛の槍と交戦するが、あまりにも一斉にしかも一か所を集中攻撃され、突破される。突破された体毛は地面に突き刺さったり、ちゃにゃんが『フォノンメーザー』や『ヒートボール』で撃ち落とす。

 

 

 「危なかった。今のがまた来たら、今度は防げるかわからないよ?」

 

 

 「そうだね。体毛とかいってもハゲになってないし…。」

 

 

 くろちゃんの言うとおり、体毛を引っこ抜いた場所は既に新しく生え変わっており、十円ハゲのようになっていなかった。体毛といっても禍々しいオーラを体現させたものだから、毛が尽きる事はない。

 そんな攻撃を数回、降り注いだ。

 

 

何とか持ちこたえたくろちゃん達は反撃に出る。

 

 

 「予定とは少し違うけど、まだ立て直しは出来る!」

 

 

 「むしろやりやすくなったと思えば、いいのね!」

 

 

 火の海のフィールドをまずくろちゃんが両隣の建物に設置されている水道管や水上タンク等から移動系魔法で水を集める。そして、『メトロシュトローム』で渦巻き状の水で放水し、火の海を消し去る。最後に水を化け物シンバに掛ける。

 

 火が消え、びしょ濡れになった化け物シンバとフィールドにちゃにゃんが超レア魔法『ニブルヘイム』を発動させ、凍りつかせる。

 

 氷で足場を固められ、腕も凍りつき、動けなくなった化け物シンバは脱出しようと暴れる。その間に、ちゃにゃんが再び『濃霧』を発動。火の海を消した時にできた蒸気と『ニブルヘイム』での冷気でフィールドは湿度が高くなり、濃霧が更に威力発揮で濃くなる。

 そして、空気中の蒸気を水分に変えて、更に化け物シンバの身体を濡らす。

 

 

 暴れて氷を砕き、腕が自由になった化け物シンバは深くなった濃霧に視界を奪われる。匂いで探ろうとするが、先程の水をくろちゃん達が被って匂いを消していた。

 

 

 「さぁ、これで終わらせるよ!」

 

 

 「いくよっ!!」

 

 

 くろちゃん達は準備が整い、止めを刺す。

 

 

 二人で同じ振動・放出系魔法『這い寄る雷蛇』を発動し、化け物シンバに電撃を浴びせる。濃霧による霧雨と『メトロシュトローム』での水の攻撃で濡れきった身体が更に威力を高める。

 

 

 「がががあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 図様しい威力で辺り一面に電撃というより雷撃が降り注ぎ、雷撃の一部が地面に流れる。くろちゃん達は体毛の攻撃の時に頂戴していた体毛を一本確保しておいたのを『避雷陣』にして、雷撃から身を守る。

 

 

 そうして、『這い寄る雷蛇』の攻撃が終わった後、化け物シンバは黒焦げになっていた。まぁ、元々から黒かったけど、焼けた臭いや焦げた部分は特に黒くなっていた。

 

 そして、意識を失った化け物シンバは地面に倒れた。

 

 

 「…倒せた。」

 

 

 「やったね。倒したね」

 

 

 「…って、そんな事よりシンバを助けないと!」

 

 

 勝利を噛み締めるくろちゃん達だったが、シンバを救出するべく、倒れた化け物の中を必死に掻き探す。禍々しいオーラは徐々に霧散して言っているが、それでも、絵図にしてはこの光景はかなりグロく見える。

 

 それを気にも留めずにくろちゃん達はシンバを探し、心臓部分で蹲って気を失っているシンバを見つけた。

 

 慌てて外に引っ張り出し、呼吸と脈を確認しようと手を持った瞬間、どこからか拭いてきた風、鎌鼬のような風でシンバの胸部に深く抉るように斬った。

 

 突然の事で、意識が追い付かなかったくろちゃん達はただ、もう動かなくなったシンバの亡骸を見続ける。

 

 

 

 

 そんなくろちゃん達に優雅に話しかける声が舞い込んでくる。

 

 

 「こんばんは。御嬢さん達。

  今日はいい夜ですね~。

 あ、申し遅れました。私、カバリン・サイエンと申します。以後よろしく!」

 

 

 魔法で膨らませた地面の上にこれまた優雅に舞い降り、同時にお辞儀する男は、半分だけピエロの仮面をし、紳士帽子に蝶ネクタイ、色鮮やかなスーツの上になぜか白衣を身に着けて突如、くろちゃん達の前に現れた。

 

 




ああ…。 出てきたね~。


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道化魔法師のマリオネット

ピエロは気を付けるんだ!

と叫ばずにはいられない。昔からピエロが苦手な私からの助言だ!(ガタガタ)


 

 

 

 

 異様な容姿をした紳士風のピエロが現れ、この場に似つかわしくない含み笑いをしながらくろちゃん達を見続ける。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは目を息をしていないシンバに釘付けにして、突然現れた紳士風の男、カバリンに問う。

 

 

 「あんたが…、シンバを殺したの…?」

 

 

 「ええ。そうですが、何かお困りでも?

  この者があなた達を襲ってましたので、助けてあげたのですが?」

 

 

 「助けた…?シンバはもう解放された後だった! どうして殺したの!!?」

 

 

 ちゃにゃんが涙を流し、怒りを混ぜた表情でカバリンを見つめる。その表情を見て、カバリンは興奮し、高笑いをする。

 

 

 「いいっ!! その顔、すごくいいです!! それを見たかったんですよっ!!

  はい、すみませんね~。嘘をつきました。謝るとしましょう。」

 

 

 そういうと笑いながら、丁寧にお辞儀をする。しかし、その顔は気さくな笑顔をしており、謝罪感がゼロだ。

 

 

 「いい加減な事を言うなっ! どういうつもりでシンバに、手をくだしたのっ!!!?」

 

 

 カバリンの態度に腹が立ち、くろちゃんがずっとシンバに釘付けにしていた視線をカバリンに向け、思い切り怒りを込めて睨む。

 

 くろちゃんの表情もまたカバリンには褒美のように興奮し、気さくな笑顔のまま話すが、顔半分のピエロの仮面がその気さくな笑顔をを嘲笑っているかのように見せる。

 

 

 「いや~、何簡単な事ですよ。使い物にならなくなったので、処分したのです。

  不用品をいつまでも持っているのは気持ちが悪いですしね~。

  お嬢様たちも嫌でしょ?」

 

 

 カバリンの告白にくろちゃん達は言葉を失う。

 シンバを道具として思っているカバリンに怒りが今までないくらいにまでこみあげてくる。

 

 

 

 「シンバは道具じゃないっ!! あんたみたいなやつのおもちゃでもないっ!!」

 

 

 「その償いを今、ここで払わせてあげるわよっ!!」

 

 

 二人はCADに手を翳し、いつでも戦闘に入れるだけの準備をする。臨戦態勢を取るくろちゃんとちゃにゃんを見て、カバリンは面白くないのと腑に落ちない気持ちを覚え、ため息を盛大にした。

 

 

 「困りますよ~。 私は戦いなどこれっぽっちもする気はありませんよ?

  私はね~、ちゃんと私のマリオネットが仕事をするか、観察と分析に来ただけですからね。あなた達みたいに準備とかしてませんから~。」

 

 

 と、弁解するカバリンはなぜか玉やスティックをジャグリングしながら会話し、ショーを見せるピエロを披露する。

 

 不可解な言動にくろちゃん達はカバリンが何をしたいのか理解できずにいた。

 

 訝しく思うくろちゃん達の顔を見て、カバリンが首を傾げる。

 

 

 「おやおや、どうしました?もしや、これは気に入りませんでしたか?

  それは困りましたね~。

  私の十八番なのに~。」

 

 

がっかりするカバリンだったが、すぐに気さくな笑顔に戻り、今度は玉乗りしながら話し出す。ただし、今度の話の内容は衝撃的なものだった。

 

 

 「やはり、シンバの最終形態みたいなマリオネットとのお遊びの方がよかったんですかね~。彼に『オーバーマリオネット』を組み込んでみたのですが、あれは今までのマリオネット実験体の中では最高作品でした!

  これまでの実験体はどうしてもすぐに壊れてしまいましたからね~。彼は異常に優秀でした!

 ガハハハハハハハハハハ八!!!!!」

 

 

 「実験体…。 お前はシンバ以外にもあんな姿にしてもてあそんでいたのっ!!」

 

 

 「下衆が…!」

 

 

 「おやおや、それは私にとっては褒め言葉ですよ。私はね、道化魔法師であると同時に研究者でもありますからね~。

  研究熱心に取り組んで完成した作品をお披露目したいと最高のショーをお見せした次第ですっ!!」

 

 

 「なぜこんな事を…!」

 

 

 「なぜって? 私は裕福にしている者達を地獄に落とすのが好きでしてね~。彼らが泣いて喚いて命乞いをしながら切り刻まれて血を吹き出し、息絶える瞬間が好きで好きで好きで好きで~~~~!!

  こういったショーを私は披露して、どんどん広めていきたいのですっ!!」

 

 

 カバリンの悪気がない笑顔での独白はくろちゃん達の背中に冷や汗を走らせる程の脅威を感じらせた。それと同時にこのピエロ紳士がシンバを操っていた事に実感が沸いてきた。

 豹変したシンバの性格がこのピエロ紳士の本性とまったく同じだっ!!

 

 

 「では、お嬢様達とのお話、楽しかったですよ~! 私はここで退場させていただきます。次なる実験もありますので、これにて。」

 

 

 マント代わりの白衣を翻し、この場を去ろうとするカバリンにくろちゃんは「待てっ!!」と叫ぶが、歩みを止めないカバリンを取り逃がす。

 

 しかし、颯爽と去るカバリンが急に動きを止めた。

 

 

 「これはこれは…。まったく精巧に作られたものですね~。」

 

 

 カバリンは目の前に壁があるかのようにノックする。

 

 実際にそこには壁があった。正確にはカバリンを囲むように球体の障壁魔法の改良版が展開していた。

 

 カバリンは捕獲されたのだ。

 

 

 「悪いけど、あんたをただで逃がすつもりはないよ?下衆野郎がっ!」

 

 

 「やっと正体を現してくれたんだから、待った甲斐があったんじゃない?」

 

 

 「じゃ、そういう事だから詳しく聞かせてもらおうか?バカリン?」

 

 

 そういって、くろちゃん達の前に現れたのは、頼もしい仲間達、暁彰、ホムラ、マサユキだった。

 

 




カバリンの野望が徐々に明るみになる…!
 
 やっぱりピエロは怖い!!


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仕組まれていた…

カバリンの独白はやばす。


 

 

 

 

 

 

「おやおやあなた達も隠れて観察ですか? 私と同じですね~。」

 

 

 障壁魔法で囲まれ、逃げ場を絶たれてなお、断然余裕を見せるカバリンは気さくな笑顔で顎に手を置きながら、事態を楽しんでいた。

 

 

 「お前と一緒にしてほしくはない。 見守っていたと言ってくれ。」

 

 

 「暁~。それは求めなくていいと思うよ。ていうか、求めても意味ないと思う。」

 

 

 暁彰は少し苛立ちながら、くろちゃんとちゃにゃんの元へ行き、二人の傷を回復する。そして、横たわるシンバの遺体を診て、バッグから布を取り出し、シンバに寝かしつけるように掛けた。

 

 

 「それにしても、薄情というものですよ?お嬢様達がピンチでしたのに、助けずに見守る?なんて。よほど大切にしていないって事ですね~。」

 

 

 カバリンが三人にそういい返す。くろちゃん達へ動揺を与えるためだ。

 

 

 「大切にしてるからこそだよ。仲間としてそばで見守ってきて、二人が特訓し、強くなって成長していく姿をずっと近くで見てきた。だからこの程度なら倒せない訳がないと思った。信じていたからこそ、この戦いを託したんだ、君には分からない事だろうな~。バカリン?」

 

 

 真面目にカバリンに話すマサユキの言葉にくろちゃんとちゃにゃんは嬉しさが込み上げてくる。

 

 

 「…あなたは先程から失礼な方ですね~。私は”カバリン”と申します。お間違えないようにしてください。」

 

 

 

 「なるほど、バカリンさんですね。そう呼ばせてもらいますよ。名前通りに馬鹿な真似をしてくれますね。」

 

 

 無論わざと挑発しているマサユキは声や顔では笑っているが、目は笑っていない。蔑んだ瞳でカバリンを見つめる。

 カバリンも先程までの気さくな笑顔ではなくなり、笑っているピエロの片仮面と正反対の無表情でマサユキを見つめる。

 

 

 「…あなたみたいな生意気で、私に刃向う人は私の最も嫌いな人種ですよ~。そういう輩は斬り刻んでやりたくなるんですよっ! そうさせてくれませんかね?」

 

 

 「答えは聞かなくても分かってるでしょ?もちろん”NO”だ。逆に返り討ちにしてやるけど?」

 

 

 「口数が減らない餓鬼ですね~。」

 

 

 「そんな餓鬼にまんまと策に嵌ったのはあんただけどな~、バカリン?」

 

 

 「…………………」

 

 

 「まぁ、とにかくようやくあんたを拝む事が出来たし、あんたのショーもここまでだ!」

 

 

 そういうと、マサユキは暁彰からシンバの双剣を受け取り、カバリンの鼻先を斬るように剣を振り降ろし、目の前で剣先を止める。カバリンの紳士帽子の唾に剣で切れた跡が残り、前髪も一房さらりと落ちる。

 

 

「…へぇ~、私の事は随分と前から知っていたようですね、その口調だと。」

 

 

 「そうだよ。色々とROSEの周りを嗅ぎ回してくれていたからね。気付かないほど勘は鈍くないんだ。俺達は。」

 

 

 「そうですか…。それは残念です。何せ私は道化魔法師ですから。種を見破られてはショーが面白くなりません。ですが、全てバレているのなら仕方ありませんね~。」

 

 

 わざとらしくため息を吐き、くろちゃんとちゃにゃんに顔を向け、気さくな笑顔を作り、見つめる。ただしその眼には実験体を見るかのような眼差しだった。

 

 

 「お嬢様達には言っておかないとですね! 実はそこに倒れている不用品は…」

 

 

 「「「黙れっ!!」」」

 

 

 カバリンが何かを言おうとする言葉をマサユキ、ホムラ、暁彰が同時に制する。鬼の形相でカバリンを睨みつける。その三人の顔を見て、カバリンは含み笑いをし、制止を聞かず、くろちゃん達に爆弾発言をする。

 

 

 「そこの不用品は私の命令でお嬢様達に近づくように仕組んだマリオネットなんですよ~!!

  そして、あの時の人型戦車は私の殺戮兵器の最新型でした。その実験も兼てあの戦闘を作り出したんです!

  いいデータが取れて私は超ハッピーでした! 更に実験体も補充できましたし、嬉しい限りでした!! がハハハハハハハハ!!」

 

 

 カバリンの独白を聞いて目を大きく開け、あの時の…シンバと出会った時の事を思い出すくろちゃんとちゃにゃん。

 

 

 確かに、あの時はおかしいと思ったこともカバリンの独白ですべて納得した。

 

 なぜシンバしかあの場にいなかったのか?どうして救援要請ができなかったのか?なぜ戦闘場所が市街地だったのか?

 あの人型戦車の戦い方も今回の化け物と化したシンバの戦い方に酷似していた。

 

 

 「…じゃ、全て…仕組まれていた事だったの…? シンバと友達になったのも??」

 

 

 思考が追い付かない状態でくろちゃんが呟いた言葉を肯定するようにカバリンは頷く。

 

 

 「市街地の住人の姿が見えなかったのは、あんたが実験体として連れ去ったから?」

 

 

 冷静であろうとするちゃにゃんは聞かずにいられなかったあの時の疑問を恐る恐る問う。そうでないように祈りながら。

 しかし、ちゃにゃんの祈りはあっさりと途絶えた。

 

 

 「ええ、しっかりと今も実験達として活躍してくれてますよ?

  特に女子供はいいですね~。私の欲する悲鳴や言葉を言ってくれるんで、癒されますっ!!」

 

 

 興奮し、カッコよくポーズを決めるカバリンの言葉に耐えられず、くろちゃんは小銃型CADを取り出し、『フォノンメーザー』を発動する。いや、しようとしたが、それを暁彰の『術式解体』で起動式が霧散に散った。

 

 

 「……くろちゃん達の怒りは分かる…! 俺も同じだ…! だが、もう少し待ってくれ。こいつには聞かなければいけない事がある。」

 

 

 そう言って、くろちゃんを宥めた暁彰にくろちゃんとちゃにゃんを任せ、ホムラが雷撃魔法の起動式が組み込まれたロープをカバリンにきつく縛り上げる。

 

 

 

 

 

 そして、マサユキがカバリンに質問する。

 

 

 

 

 

 

 「お前の雇い主…、黒幕は誰だっ!!!」

 

 

 

 

 

 




ギルドの時とは違うマサヤンに感動!!

(順番間違えて投稿したため、再度投稿しています)


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置き土産


さぁ吐いちまえよ~! 田舎の母ちゃんが泣いてるぞ~。

 (ライト攻撃)


 

 

 

 

 

 「黒幕ですか?いきなりですね~。」

 

 

 「お前だけで計画した物ではないはずだ。そしてお前より格がある奴だろう?」

 

 

 「………それを言ったとして私にはなんも得がありませんね~。拷問されたとしても私は拷問するのも好きですが、されるのも好きなんです。そう簡単に口は割りませんよ。」

 

 

 涼しい顔で話をはぐらかそうとするカバリンにマサユキが視線で合図し、ホムラは頷いてCADを操作する。すると、縛り上げているロープから雷撃が放たれ、カバリンは

骨の髄まで雷撃を浴びた。

 

 

 「もう一度だけ聞くから、耳の穴を広げてよお~く聞いとけっ!!

  黒幕は誰だっ!!」

 

 

 マサユキは憤りを隠そうとせずにカバリンに黒幕の正体を問いただす。

 

 しかし、カバリンは答えようとはしない。むしろ無駄だと言わんばかりにずっと笑っている。

 

 

 「あなたもおかしな人ですよ~。私が黒幕の事を言わないなんてわかっているはずです。あなただけでなく、そこのお嬢様たち以外の皆全員。

  私の事をずっと調べていたあなた達ならすでに見当がついているのでは?

  そして私もまた簡単に斬り落とされる身であると。

  それを分かった上でなぜこんな無駄な事をするのか私には理解できませんね~。」

 

 

 カバリンの言葉にくろちゃんとちゃにゃんは驚く。自分たち以外のROSEメンバー全員がこの事を知っていた!?

 

 その事実に驚いていると、マサユキがカバリンに更に雷撃を浴びさせる。

 

 

 「その通りだよ。お前は黒幕を吐かない。だが、今までお前は失態を繰り返している。そんなお前に何も対策を取らないでいるはずがない。少なくとも、お前の動きを監視する者がどこかに潜んでいるはずだ。そいつを使って黒幕を誘き出せればそれで今はいい。」

 

 

 「おやおや、私は囮ですか? それは考えましたね~。

  ですが、それは苦策だと思いますよ?」

 

 

 「別にいい。ある程度の事は把握しているつもりだし、覚悟はしている。」

 

 

 「そうですか…。なら、私も最高の置き土産を残してあげましょう。」

 

 

 すると、ちゃにゃんの方を見て、にんまりと微笑む。ちゃにゃんは本能的に感じた。

 聞いてはいけないと頭が警鐘を鳴らしていた。

 

 

 「私は今まで実験体を使って様々な研究をしてましてね~。中には巨大化だったり、モンスター化だったりと積み重ねていきました。

  ですがある時、その実験体の一つが逃げ出しましてね。回収しようとしたところを倒されてしまったんですよ~。あなた方に。」

 

 

 「だめだっ!!聞いてはいけないっ!!」

 

 

 暁彰がちゃにゃんの耳を塞ぐが、カバリンの魔法なのか耳を塞いでも頭の奥に言葉が伝わってくる。

 

 

 「実験していけば、自我は消えていくんですけど、どうやら自我を失わずに身げ出したみたいです。ですがやはり実験のために投薬していた薬で身体を持たせていたんで、日が経つにつれ、自我も徐々に消えていったようです。

  まぁ、止めを刺され、ほっとしたでしょう。最期にあなたに会えて本望でしょう!

  ガハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 ちゃにゃんは涙を流した。カバリンの意味は理解できなかったが、なぜか意識の奥では何を言っているのか直感で感じていた。

 足はがくがくと震え、立っていられなくなった。地面に座り込んだちゃにゃんにくろちゃんが駆け寄る。

 

 

 「ええ、そうですよ? あなたが考えている通りの事です。

  それをこの方々は知っています。

  じっくり聞いてみる事でしょう。ふふふふふ。

  では私は今度こそ退散させていただきます。」

 

 

 「よくもっ!! 逃がさないぞっ!!」

 

 

 「動けないように縛りつけているから逃げられないわよっ!!」

 

 

 「それはどうでしょうか?」

 

 

 そういうと、障壁魔法の中で雷撃ロープに縛りつけられているカバリンにラグが生じる。そして、そこにいたのはカバリンではなく、指名手配されていた強盗犯だった。

 

 

 「これはっ!! まさか『仮装行列』!!」

 

 

 「改良版みたいね!」

 

 

 突如として変化した姿に驚愕しながら辺りを見回すと、空中で直立し、見下ろすカバリンがいた。

 

 

 「それでは、今日のショーはとてもよかったです! またの機会ではぜひ共演いたしましょう!!」

 

 

 そういうと、紳士の帽子を取り、中に手を入れると玉が出てきて、その玉が破裂し、カバリンを煙で包む。

 

 ホムラが突風で煙を晴らすが、そこにはもうカバリンの姿は消えていた。

 

 

 「くそっ! 逃がしたか…!」

 

 

 「これでいよいよ始まった訳だね。」

 

 

 マサユキとホムラが会話しながら、くろちゃん達の元へやってきた。

 

 

 そして崩れ座るちゃにゃんに手を貸してマサユキは苦笑して言う。

 

 

 「…さぁ、帰ろうか。 ROSEへ。」

 

 

 その言葉にくろちゃんは頷くが、ちゃにゃんは俯いたまま立ち、暁彰に背負ってもらったまま、ギルドへと帰る。

 

 

 

 

 

 

 こうして、楽しかったはずの帝国開国祭が一変し、シンバの裏切りと死、カバリンの爆弾発言によってROSEに火種を蒔く事になった。

 

 

 





こら逃げるな!バカリ~~~ン!!


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覚悟の時

ROSEのメンバーそれぞれが覚悟する…。この後、どんな展開になるかわかっているから…。

負けるな!!


 

 

 

 

 開国祭が終わり、人々が遊び疲れ、道端でも酔って寝ている風景が帝都中で見られる中、ROSEギルド内だけは祭りの色には一切染まらず、昨夜の一件での重苦しい空気が立ち込めていた。

 

 

 あれから、くろちゃんとちゃにゃんを連れて帰ってきたマサユキ達をギルド内で待機していた他のメンバーが出迎えた時、くろちゃん達の曇った表情で何かあって、どこまで知られたのかを瞬時に察した。

 

 できれば知らさずに過ごしたかったが、それはもう無理だとROSEメンバーは悟る。

 

 とうとう話す時が来たのだと今まで言わなかった、言えなかった秘密を話す覚悟をメンバーはそれぞれ心に決めた。

 

 

 しかし、話は後にする事をみんなが一斉に賛成した。

 

 まずは、くろちゃんとちゃにゃんもゆっくり安静させ、身体を休ませようとみんなが動き出す。

 

 けががないか確認したり、疲労回復や栄養摂取を考えた特製ドリンクを渡したり、身体を揉み解してあげたり(この時、マサユキは身体に刻み込まれたヘムタイ魂に無意識に火をつけ、揉み解されるちゃにゃんを見て、鼻血を出しながら手を厭らしい動きをさせ近づいていく。そんな場を弁えないマサユキにギルドメンバー全員が鉄拳や蹴り、雷撃、襷等で動きを封じる事になった。)をした。

 

 

 そんな中、ちゃにゃんは涙を流しながら、床に倒れ、気絶した。

 

 

 慌ててみんなは駆け寄り、ちゃにゃんの様子を暁彰が診察する。

 

 

 「……熱があるな。 戦闘によるダメージでの発熱ではない。寧ろ…」

 

 

 診察しながらちゃにゃんの状態をみんなに報告する暁彰はだんだん険しい表情になっていった。

 

 

 「相当深くまで精神的にストレスを感じたため、発熱したようだ。このままだと、ちゃにゃんは立ち直れなくなるかもしれない。」

 

 

 「暁彰!! 何とかならないのっ!!」

 

 

 御神がひどく心配しながら暁彰に尋ねる。

 依然険しい表情のままの暁彰は額に汗を滲ませつつ、CADを操作する。

 

 

 「俺が持つ精神干渉系魔法でストレスとなっている物をある程度までは薄められると思うが、その後の事は正直分からない…。ちゃにゃん自身の問題だから。だから、ちゃにゃんが馬鹿な真似をしないようにしないと。

  まずはこの高熱を何とか体温を下げて行って、精神安定剤も注入しないと。」

 

 

 「わかった!!ちゃにゃんをベッドに連れて行くぞ!!

  部屋を喚起してから、ベッドに寝かせて、点滴を投与。後の処置で困ったことがあったら、暁彰に相談して!

  俺は解熱薬とリラックス効果のアロマを作るっ!!みなっち!手伝って!!」

 

 

 マサユキがみんなに指示した後、一斉にギルドみんながちゃにゃんの介護の準備に動き回る。

 

 

 それから1週間、ちゃにゃんは高熱を出しながら夢に呻き、苦しみ続け、目を覚まさなかった。それでも、ギルドのみんなは一生懸命に介抱して、

 

 

「ちゃにゃっち、負けないで!」

 

 

「大丈夫!俺たちが傍にいるから!」

 

 

「ちゃにゃんの好きな食べ物、いっぱい作っているからね!」

 

 

 等々のちゃにゃんを気遣う言葉が部屋に響き合う。そのROSEの仲間を大事に思う気持ちが伝わったのだろう。

 ついに、ちゃにゃんが目を覚ました。ちょうど、ちゃにゃんの額のタオルを交換しに来たサガットが目を覚ましたちゃにゃんを見て、急いで廊下へ行き、ちゃにゃんの意識が回復したことを大声でみんなに伝えた。その声を聞きつけ、ギルドにいたみんなが一斉にちゃにゃんの部屋に続々と集まり、「ちゃにゃん!大丈夫か!」と声を掛ける。しかし、みんな目を覚ましたちゃにゃんの顔を見たいがため、ドアの前で取っ組み合いとなり、ついには部屋に入ろうと割り込みに割り込んで、ドア淵でみんなの肉で埋まってしまい動けなくなるほどになってしまった。

 

 「く、苦しい…!! 」

 

 

 「ちょっと!!誰!?私を今押したのは!」

 

 

 「身が挟まれる~~!!」

 

 

 …なんて、挟まってなお喧嘩するみんな。その光景を呆れながらも嬉しさで見続けるちゃにゃんの耳にみんなで遮られている向こうから不穏な声が聞こえてきた。

 

 

 「いい加減にしろ…! 私は早く中に入らないといけないんだがな~!!強硬手段に出るぞ!」

 

 

 すると、みんなが豆鉄砲の如く、見事にちゃにゃんの左から右へと飛んでいき、顔を壁に埋めに突撃した。そのみんなの尻には焼け焦げた跡があり、煙を吹いている。

 そして破壊されたドアから炭と化したドアを踏みながら暁彰が入ってくる。肩にはなぜかバズーカを掛けて持っていた。

 

 

 「どうだ?ちゃにゃん。気分は悪いか?」

 

 

 そう問診しながら、熱や吐き気等がないか診察していく暁彰。

 

 身体的にはもう大丈夫だと判断し、よく頑張ったと暁彰はちゃにゃんを褒め、頭を撫でた。

 

 

 「ただし、熱は引いたが、まだ体調は万全ではないからな。しばらくは安静にしておくように。この部屋から出たらだめだ。食事等がみんなに行ってくれたらいい。

  じゃあな。」

 

 

 暁彰がそういうと、ちゃにゃんの部屋に押し掛けた他のメンバーはちゃにゃんの容態にほっと安心し、暁彰の後ろを追って、部屋を後にしようとした。

 

 

 「待って…。みんな、看病をしてくれてありがとう。私はこのギルドが…、ROSEが好きだよ。だから………、」

 

 

 みんなを引きとめ、深呼吸して、ちゃにゃんは覚悟をして、みんなに話す。

 

 

 「だから、みんなが言っていない事全て教えて!!」

 

 

 ちゃにゃんの覚悟を表情から読み取ったみんなはお互いの顔を見合わせてから、とうとう来たかと苦笑し、再び部屋に入り、各自座り込む。

 

 

 

 

 まず、みんなの代表としてマサユキが話す。

 

 

 「どんなことでも最後まで聞けると約束できる?」

 

 

 「うん…! 私はそれを受け止めないといけないと思うから…!」

 

 

 「私もちゃにゃんと一緒に聞くから!!」

 

 

 ベッドに面した壁に背もたれしているちゃにゃんの傍にくろちゃんは座り、ちゃにゃんの手を握るくろちゃん。

 

 

 ついに来たROSEが隠してきた秘密が明かされる事になる。

 

 




ROSEは全員仲間思いなのだ!! (本当なのだ!!)


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ROSE結成秘話

いよいよ、ROSEの秘密が…!

実は、全員ヘムタイ星人だったとか?←(嘘)




 

 

 

 

 「くろちゃん、ちゃにゃん。初めに言っておくけど、私たちの話を聞いて決断するのは君たち自身だ。話を聞き終われば、好きにしてもいい。ただ、これだけは言っておく。俺達は…ずっと仲間だっ!!そして何があっても味方だっ!!その事だけは心得て聞いてほしい。」

 

 

 マサユキがそう前置きして、オレンジジューズをコップに入れて、一気に飲み干す。同じタイミングでROSEの古株の皆も唾を飲み込み、思い切り力を込めて頷く。

 

 

 「まずは何から話そうか…。やっぱりこのギルドの事、”ROSE"かな。」

 

 

 マサユキは昔を思い出しながら、語った。ギルド”ROSE"を結成した理由を。

 

 

 

 

 

 ここのいるギルドメンバーは全員、昔は別のギルドの入っていた。そこで、魔法師としての心得も教えてもらったり、仲間との出会い、魔法師の向上のための特訓の日々。それを楽しみながら過ごしていた。最初は…。

 

 しかし、ギルドに馴染むにつれ、ギルドの裏側を知ることになっていった。

 

 ランク上げのために魔法師協会の役員に賄賂を贈って出世したり、違法な魔法の使用・譲渡、イベントクエストや魔法試合でのライバルに対して審判に見えない反則行為や情報漏えい、高金利での魔法アイテムの貸し借り。等々をギルドを上げて不正や犯罪を犯し続ける裏側を見せつけられた。

 

 そんな犯罪をするギルドとは知らず入り、その裏を知ったメンバーはどちらか二つの選択に絞られる。仲間としてこのままギルドに居続け一緒になって、犯罪に手を染めるか…。それともギルドを抜け出し、裏切り者となり命を狙われるかのどちらかの選択だ。

 

 

 

 大抵の奴らは死にたくないって気持ちでまず彼らの犯罪に目を瞑り、仲間になる。

 

 

 「ギルドに入りたての場合は基本は魔法師として巣立ったばかりの初心者だからだ。魔法戦闘の実績もある実力者と初心者だったら、実力が違い過ぎて、勝ち目はないからね。」

 

 

 「で、大抵の奴らには含まれない部類で最も恐ろしいのが、犯罪に目覚めてしまう奴だよ。」

 

 

 遠い目をして語るホームズと鳥になる日が実体験したであろう雰囲気で続きを話す。

 

 

 「初めは抵抗を見せて、犯罪を認めようとせずにいるけど、一回犯罪のやり方を教わると、それに納得したり、犯罪の面白さや楽しさを自分なりに見出してドツボにはまっていく。すると、初めの時の犯罪を許さないって姿勢が一変し、誘ってきた彼らより最悪な、犯罪でしか興味ない、犯罪に追究し続ける奴になってしまう。」

 

 

 「こういうのが、一番厄介なんだ。自分のした事がどれだけ残酷な物か理解できず、更には性格まで正反対にしてしまう事だってある。本当に恐ろしいよ…。」

 

 

 ホームズと鳥になる日が話したこの内容にくろちゃんは頭の中であの祭りの時に会ったカバリン・サイエンを思い出した。正しく、彼のような人のことを言うんだろうな。とくろちゃんは思った。

 

 その後、再びマサユキが話を引き継ぐ。

 

 

 「そしてこの両者を見て、なお自分を見失わずにいた者がギルドを抜ける勇気ある者ってとこかな。」

 

 

 マサユキはそういうと、詳しく説明する。そのマサユキの説明に他のメンバーもうんうんと頷く。

 

 

 自分を見失わなかったごくわずかの人間はギルドを抜けようとする。だがやはり過酷なのは違わない。抜けようとして失敗したりすると捕えられ、拷問に掛けられる事もある。実力の差もあるから魔法等では敵わない。それで心が折られそうになる。

 

 そのマサユキの言葉にみんなが袖や裾をまぐって肌を見せる。そこには拷問を受けたのだろう多数の傷や鞭で叩かれた痕が残っていた。それを見て、くろちゃんとちゃにゃんはそういえばみんなでお風呂に行こうって言っても大半が入ろうともしなかった。

 ……覗き合戦の時はNSTになるか、観戦してた訳を今知ったくろちゃんとちゃにゃんだった。

 

 魔法でも数でも圧倒的に足りない…。だから、私達は知恵を絞った。そしてそのおかげでギルドを抜け出す事が出来た。

 

 危険な魔法アイテムの売買するギルドではそのアイテムに交じって箱に忍び込み、運んでもらって脱出。後日、そのアジトは壊滅する。

 田舎の家族に宛てた手紙と見せかけて、警魔隊に告発して壊滅させる。

 

 等々でギルドを抜けて、どうせなら新しいギルドに入るより、設立しちゃおう!!とそんな裏事情がある皆が集まってできたギルドが”ROSE~薔薇の妖精~”なのだ。

 

 

 自由で活気あるROSEの皆の事情を知り、くろちゃんとちゃにゃんは涙を流し、そんな体験をしたみんなに同情した。

 それをみんなは苦笑しながら、大丈夫と声を掛ける。そして結成の目的をマサユキが代表で語る。

 

 

 「薔薇は咲き誇ると綺麗だけど、悪意の棘があれば、それに見合った染まりをした薔薇になる。今の帝国がまさにそれなんだ。

 

  だから…、私達が誰から見ても綺麗で純粋な愛される薔薇(帝国)にするために妖精のように支えると決めたんだ!!」

 

 

 拳に力を入れ、目には強い意志を宿して信念を熱く語るマサユキ。それに感動したくろちゃんとちゃにゃんは無意識にマサユキに抱きついていた。

 

 

 「マサユキ~!! 私、このギルドにばいっでよがた~~~~!!」

 

 

 「私も~~~!! こんなに温かいギルドはないよ~~!!」

 

 

 泣きながら、マサユキに抱きつくくろちゃん達は更に腕に力を入れる。首や腰に抱きつかれているため、マサユキは息が苦しいと、助けてとみんなに視線で助けを求める。しかし、みんなはこの光景が嬉しく、ガッツポーズやグッショブ等をして、この状況を楽しんでいた。

 

 

 「ありがとう。そう思ってくれて。」

 

 

 「そうそう。後、帝都にやってきた初心者の魔法師を育成したりすることもギルドの信念に含まれているんだ~。」

 

 

 ホムラとミナホがマサユキの代わりに語る。未だマサユキが抱き着かれていて、みんながほっておく体勢だからだ。

 

 

 初心者の魔法師をギルドに入る前に育成すれば、もし自分達のような状況になっても活路を見いだせる力と精神で立ち向かえるからだ。そうして、そのままROSEに入る人や特訓で自分の性質を理解してそれにあったギルドに入る人もいた。もちろん他のギルドに入る時は、そのギルドを潜入して調べたり、安全なギルドに紹介したりとしっかり魔法師として巣立てるように協力した。

 

 

 更なるROSEの取り組みを知って、くろちゃんとちゃにゃんは号泣する。

 

 

 このギルドに入ってよかったと心からみんなに感謝する。

 

 みんなも涙を流しながら、一緒に泣きながら笑った。ただ一人は除くけど。

 

 

 

 

 …マサユキは抱きつかれたのと涙攻撃で嬉しさも感じながらも瀕死の状態となり、魂が少し抜けていたのだった。




世の中は光があれば、必ず影がある…。って事だね。


 実際のROSEも仲間の悩みを受け入れて一緒に考えたり、仲間の喜ばしい報告があれば、一緒に喜んで盛り上がったりとする気のいいチムです!!



 スマホゲーム『スクールマギクスバトル』でぜひ会いましょう!!
 チムメンも募集中です!!


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隠してきた秘密

悪を滅する正義のギルド、ROSE見参!!

なんちゃって!


 

 

 

 

 ROSEの結成秘話を聞いて涙を流していたくろちゃんとちゃにゃんはまだ話がある事を瀕死状態から回復したマサユキから言われる。

 

 ギルドの皆からは自分が言うからと次々に名乗り出るが、それを左右に首を振り、断るマサユキ。「これは私が言わないといけない事だから…!」とこれだけは譲れないという意思を見せるマサユキにみんなもこれ以上は言わなかった。

 

 

 「このROSEの事は分かってもらえたと思う。悪事を暴いたり、犯罪に手を染めるのを止めさせたりとしているから、裏稼業をするギルドには恨まれているんだ。それでも私たちは止めるつもりもないし、来るならかかってこいって感じだから結成当初はよく襲撃を受けてたな~。」

 

 

 「そうだね~。毎晩代わる代わるに来て大変だったよね!まぁ、全て撃退したけど。」

 

 

 「でも、裏稼業するギルド…、通常は隠れ闇ギルドを撃退しつつ、俺達はランクを上げるためにイベントクエストや魔法試合に参加して着々とランクを上げていった。」

 

 

 「ランクが上がれば、依頼される仕事にも幅ができて、有力な情報を引きだす事もできるしね。」

 

 

 「そうやってランクAまで上り詰めたおいらたちは帝都では有名なギルドになって、隠れ闇ギルドの連中は襲撃を断念する事になったわけだ。」

 

 

 みんながROSEの裏事情を話すのを聞いていたくろちゃんはさっきから気になっていた事を聞く。

 

 

 「ところで、さっきからみんな、”隠れ闇ギルド”って言っているけど、闇ギルドとどう違うの?」

 

 

 「ああ、まだ知らなかったっけ?闇ギルドは最初から悪事や犯罪を主に行っていて、犯罪を掲げているギルドの事だ。でも、隠れ闇ギルドは表向きは普通の誠心誠意に人々の役に立ちますよ~って依頼を受けたり、町に貢献したりするけど、実際はその地位や権力を使って犯罪に手を染めているギルドの事だぜ。寧ろ、闇ギルドなんてまだ可愛いもんで、隠れ闇ギルドの方が闇ギルドより10倍以上はいるぜ?」

 

 

 「そうなの!? 初めて知った…!」

 

 

 「だから危ないんだよ。帝国がギルド設立法を作って、帝国中にギルドができたが、圧倒的な数のギルドが各地で設立されていて、帝国は把握できていない。それをいい事に隠れ闇ギルドが増える一方だよ。」

 

 

 「それに一番隠れ闇ギルドが多いのはこの帝都なんだ。帝都に憧れてやってくる魔法師や商人、観光人もターゲットにしやすいからね。」

 

 

 「なるほど…。」

 

 

 みんなの帝国のギルド情報を頭に入れ、そこまで深刻だったと知り、一刻もm撲滅しないとという正義感がくろちゃんとちゃにゃんに芽生える。

 

 

 「ごほん…。ごめん。話が逸れてしまったけど、仕事をしながら隠れ闇ギルドの連中を潰しながら裏情報を集めていった私たちはある情報を手に入れたんだ。」

 

 

 咳払いしてマサユキは二人を自分に注目させる。

 

 

 「帝都に向かう途中で商人や旅人を襲い、物品を奪う奴らがいるっていう情報を手にした。それと同時に最近、帝国の各地で大型の化成体や亡者が出現するようになったと遠出の仕事依頼で情報を集めている皆からも聞いていたからそれを確かめるのも兼て”迷宮の森”の仕事依頼を受けたんだ。」

 

 

 それを聞いて、くろちゃんはあの時の、マサユキ達やちゃにゃんに会う少し前の戦闘の事を思い出す。帝都に着いて、しばらくした後新聞の一面に載っていた事件内容に爆笑したことがいまだに記憶に新しい。

 

 

 「そう。で、結局はくろちゃんが解決してくれちゃったから、後始末をして、彼らのアジトを捜索したんだよ。」

 

 

 「…捜索したのは俺だ。マサユキは悪戯に夢中で、全て俺がしたんだ。」

 

 

 マサユキの説明に暁彰が修正を施す。それにマサユキが罰が悪そうに謝ってから話を戻す。

 

 

 「暁彰がアジトの捜索して分かったのは、彼ら”ブルーム”は下っ端ギルドで誰かに命令されていたって事だった。おまけに丁寧に作成された計画書まで見つかって、かなり大がかりな組織的計画が練られていた。だからそれを持ち帰って、トップを倒す事と”ブルーム”と戦ったくろちゃんの実力と性格を気に入って仲間にしようとしたんだ。」

 

 

 くろちゃんの顔を見て、微笑むマサユキに照れるくろちゃん。しかし、それを一変させ、マサユキはちゃにゃんの顔を見て、深刻な表情になる。

 

 

 「でも、その後が私達にとっては恐れていた事だった…。まさかあんなところで遭遇するとは思っていなかったから。あの時はまず、くろちゃんとちゃにゃんを守る事しかできなかった。

  ちゃにゃんには申し訳ないと思っている。」

 

 

 すると、ちゃにゃんに頭下げ、土下座するマサユキと後から続くように暁彰も土下座する。それにくろちゃんは訝しく思い、ちゃにゃんは無表情になる。

 

 

 「ど、どうしたの?マサユキ? あの時、マサユキに助けてもらわなかったら生きてなかったと思う。助けてもらって感謝しているんだよ?」

 

 

 くろちゃんが慌てながら感謝を伝えるが、マサユキは首を振り、それを否定した。

 

 

 「いや、困難で許されるものではないのは分かってる。大事なものを奪ったんだから!怨まれても仕方ない!だから、全てを話す。聞き終わったら、殴ってもいい、怨んでもいい!ちゃにゃん、聞いてほしい…!」

 

 

 悲痛の叫びを醸し出すような表情でマサユキはちゃにゃんにそう告げた。

 

 





ちゃにゃんに告げられる衝撃的な事とは…!?

なんとなくわかった人は温かく見守ってください。(ペコ)


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ちゃにゃんの心の叫び

 大丈夫! ROSEが付いているから!!(私)


 そう言葉を掛けずにいられない真実。


 

 

 

 

 

 今までの話で言うべき時が来たと一層覚悟を決め、マサユキはついにちゃにゃんと出会ってからずっと隠してきた真実を明かす。それはちゃにゃんにとっては残酷な真実だった。

 

 

 「ちゃにゃん、私はちゃにゃんの目の前で君の婚約者を殺した…!!」

 

 

 マサユキの告白はみんなが一切言わないと口を閉ざしていたため、静かな部屋の中でマサユキの告白がはっきりとこの場にいる全員の耳の中に入った。

 

 

 突然の衝撃的な告白に瞳孔が開き、口が開きっぱなしのくろちゃんがしばらくして声を震わせながら、マサユキに問う。ちゃにゃんは口を閉ざして、顔を俯かせたままマサユキの話の続きを待つ。表情から今の心境を捉えるのは無理だった。

 

 

 「ど、どういう事なの?マサユキ。 目の前で殺したって…。マサユキはそんな事する人じゃないじゃん!嘘に決まってるよっ!!」

 

 

 問いかける内にどんどん声を荒げたくろちゃんはマサユキの襟元を掴み、大きく揺さぶる。

 

 くろちゃんのされるがままに揺さぶられたマサユキは襟元に掴まれているくろちゃんの手に自分の手で包み、強い眼差しでくろちゃんを見つめ返した。

 

 

 「嘘じゃない…! あの時、私はまだ会って間もない君達の目の前でちゃにゃんの婚約者の首を斬って殺したっ!! くろちゃんも見ていたはずだっ!!私が殺した所をっ!!」

 

 

 「そんな殺人現場を見ていたら、このROSEに入っていないよっ!!何かと勘違いしてるんじゃないの!?」

 

 

 「いや、確かに君達の前で私は殺した…。くろちゃん、覚えているでしょ?私たちが初めて会ったあの時の事を…。

  鉄の鎧を身に着けた亡者と遭遇し、くろちゃんとちゃにゃんが連携して戦ったけど、止めが不十分で、私が斬って止めを刺した…。」

 

 

 「そうだけどあれは亡者だったんだよ!!人間じゃないっ!! あんな巨大な亡者と人間を見間違えるはずが……ない…じゃない………か……?」

 

 

 マサユキに抗議をしていたくろちゃんは反論しながらある事を考えた。それは今までの経験から結びついた結論だった。その結論はあまりにも残酷で、そして悲しい物だった。

 だから、口にするのも恐ろしかった。もしそれを口にすれば肯定されそうで否定したい気持ちに裏切られるから。このまま気絶したい気持ちで胸がいっぱいになる。

 いつの間にか涙が溢れだし、大粒の涙が頬を伝って落ちていく。

 マサユキの襟元を掴んでいた手が力を失くし、ずるずると落ちる。くろちゃんはあまりにも酷い運命を呪わずにはいられなかった。心の中で身が引き裂かれる思いに駆られ、泣かずにはいられなかった。終いには嗚咽を漏らし、拳を強く握りしめる。その拳からは強く握っているため、血が流れ出る。

 

 そんなくろちゃんと対照的に当の本人のちゃにゃんは俯いたままただ黙っていた。そして、ちゃにゃんの口からくろちゃんが言えなかった結論を言う。

 

 

 「……その私達を襲った亡者が私が探していた婚約者だったんですよね?」

 

 

 ちゃにゃんの口から真実が語られ、マサユキもゆっくりと頷く。ちゃにゃんは口にするのも憚れたはずなのに事実を受け止めるため、あえて自分で言った。そんなちゃにゃんの心情をくろちゃんは痛いほど理解した。だって今までずっとちゃにゃんと一緒に過ごしてきたから。ちゃにゃんはイベントクエストや魔法試合、依頼の仕事の合間を縫って、帝都中を探し回ってたし、婚約者の情報を聞きまわっていたのも一緒に手伝っていたくろちゃんは知っている。心から婚約者を愛していたちゃにゃんの事を考えると居た堪れなかった。

 

 

 「その事を知ったのは、帝都に向けて帝都への道を君達と暁彰とで、歩いていた時だった。くろちゃんとちゃにゃんが帝都に行く目的を教えてもらった時、ちゃにゃんは言ってたよね?『連絡が取れなくなった婚約者を探すため人帝都へ行く』って。

  それを聞いて理解したんだ。あの亡者が君の探していた婚約者だって事を。」

 

 

 「でも…!あれだけでは分からないよ!?」

 

 

 「いや、理解できたんだ。私たちはあの仕事を受ける前に、人を媒体とした化成体や亡者、モンスター等に変化させ狂暴化させているという確かな情報を掴んでいた。そして、最近の失踪者や行方不明者の数と帝国の各地で出現するようになったモンスターや化成体等の数を調べるとほぼ同じだった。魔法師によって退治されたモンスターを調べに行ったメンバーからも情報をもらって、失踪した魔法師の中の内の一人とまったく同じの小物を身に着けていたと分かった。更に、変化した際に人間の肉体も変化してしまう事で自我も消え、本物のモンスターになってしまう。元に戻す事は不可能だった。

 

 だから、あの時、君達を襲っていた鎧の亡者の息の根を止める事しか助ける事は出来なかった…。くろちゃんも、ちゃにゃんも、そして亡者にされた婚約者も…。」

 

 

 あの時の事を思い出し、マサユキは婚約者を救えられなかった自分を蔑んだ。

 

 

 そんな自虐するマサユキの肩に手を置き、暁彰はくろちゃん達…、特にちゃにゃんに向かって話す。

 

 

 「…マサユキだけじゃない。俺もちゃにゃんの婚約者を殺した一人だ。いや…、いきたえた婚約者の身体を跡形もなく『術式解散』で消し去った。

  俺にもその責任はある。」

 

 

 暁彰はそういうと、土下座をする。

 

 

 そんな二人にちゃにゃんは今まで俯いていた顔を上げ、二人を見る。顔には静かに泣いていたのだろう、涙を流していた跡と泣き腫らした瞼がくっきりと浮かんでいた。

 

 

 「…何となく、言われる前に分かってた。カバリンもそれっぽく私に言ってたし。

  多分、今まで寝ていたのは、マサユキから本当の事を聞くための覚悟を受け止める準備をしてたんだね…。」

 

 

 そういうと、唇を噛み締めて、大粒の涙で泣きじゃくる。

 

 

 「仕方のなかったこととはわかっているつもり…。でも、やっぱりあの人がもうこの世にいない…っていうのは! まだ私には耐えられない!!

  マサユキも暁彰も大好きっ!! でも、でもっ!!

  ぅうううぐぐぐぅうああああああああああ~~~~~~!!!!」

 

 

 真実を聞かされ、思いが複雑に交差するちゃにゃんは気持ちを整理する事が出来なくなり、心苦しい叫びを上げながら、泣き始める。

 そのちゃにゃんの叫びは聞く人にも伝わる悲痛の叫びだった。嗚咽を漏らし続けるちゃにゃんは泣き疲れて寝落ちするまで泣き続けた。

 

 

 そのちゃにゃんにくろちゃんはしっかりと抱きしめて一緒に泣いて寝落ちした。

 

 

 

 

 

 

 この日、ちゃにゃんに明かされた真実はちゃにゃんの心に深く突き刺し、その後しばらくして、ちゃにゃんは飛び出すようにして、ROSEを去っていった…。

 

 

 

 

 




ずっと言えなかった秘密…。


 ちゃにゃんの事を考えるともう泣かずにはいられないっ!!(号泣する私)←本気


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仲間だから!!

 ROSEの仲間思いは永遠不滅だっ!!

ギルド一に決まっているっ!! ←断言しちゃってますがな…!(^○^)


 

 

 

 

 ちゃにゃんがROSEを去ってから1ヵ月経った…。

 

 

 

 

 ちゃにゃんがROSEを出ていく時、ギルドのメンバーは誰も止めようとはしなかった。ちゃにゃんの考えと自由を尊重したからだ。その事は一緒に過ごしてきたからちゃにゃんも分かっていた。だから、なおさらギルドを去る事に決心するのだ。

 

 

 「うえ~~~ん!! ちゃにゃんがいなくなるなんて寂しい!! たまには遊びに来てねっ!!というか絶対に遊びに来てね!!もういっその事戻っておいで!!!」

 

 

 「こら。それだと結局引き留めているじゃんか~。止めないってみんなで決めたのに。」

 

 

 「でもこれは本心だから~~!! ちゃにゃんがいない事に既に堪え難し!!」

 

 

 「うううぅ……………!!私の可愛いちゃにゃん!! しばらくは一緒に遊べないなんて飲み会に誘われて、酔っ払って、翌朝は二日酔いになるよりずっと辛い~~~!!」

 

 

 「比べる基準が何でそれなんだよっ!! 二日酔いと比べられるちゃにゃんの心境の方が最も辛いわ!! …………って既に酔っぱらってるし!!」

 

 

 ちゃにゃんの見送りにみんな集まっていた。見送る言葉が相変わらず自由で、ちゃにゃんも思わず微笑む。

 それに反して、みんなは泣きながら、盛大に見送るために演奏したり、垂れ幕をわざわざ作ったり、遠足みたいにお弁当まで作ってちゃにゃんに渡したりと自分たちなりの見送りをする。

 

 

 「…それでは、みんな行ってきますっ!! 」

 

 

 ちゃにゃんは不自然にはならないように力を入れて笑顔を見せる。そうしないと、涙が溢れてきちゃいそうだから。

 

 

 「はい!! 行ってら!!」

 

 

 「うん!! 行ってらっしゃい! いつでも戻ってきていいからね!!?」

 

 

 「いじめられたらすぐに連絡してねっ!? 約束だからね!?」

 

 

 「そうだぜ!? うちの子に手ぇ出してんだ…! 倍返ししてやらんとな~~!!」

 

 

 「おう!! どこにもやらんぞ!! 嫁入り前なんだからなっ!! 欲しいなら挨拶してくるべきだよな!?」

 

 

 「まぁ、例えそうしてきたとしても、あげる気は一切ないけどね~。」

 

 

 「「「「「「「「「「その通り!!」」」」」」」」」」

 

 

 ちゃにゃんを愛してやまない深い愛情を以前と変わらず注いでくれるみんなにちゃにゃんは嬉し涙を必死に堪える。

 

 

 「ありがとう……! でも…、もう行くね! お世話になりました!!」

 

 

 早口でみんなにお礼を伝えると、早歩きでROSEのギルドを後にする。後ろの方からみんなの声が聞こえてくる。その声に後ろ髪を引かれる思いで足早に去っていくちゃにゃん。その顔には涙がとめどなく溢れ返って、ギルドが見えなくなってからも体の水分が全て涙になってしまうのではないかと思うほど、ちゃにゃんは泣いた。泣き続けた。袖で涙を拭っても新たな涙が滝の如く、頬を流れていく。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 今、ちゃにゃんはROSEと同じランクAギルドの”仮装舞踏会”で実力派魔法師として活躍していた。

 

 

 「ちゃにゃん! どう?大分こっちのギルドにも慣れた?」

 

 

 「せい君。うん、楽しいよ。私にはもったいない位。」

 

 

 「そう?それは嬉しいな~。 ずっと仮装にいてほしい位だよ!」

 

 

 「フフフ♪ それはありがとう!ところで、用事があったんじゃない?」

 

            . .

 「ああ、そうだった! また来てるよ? ちゃにゃんは愛されてるね~。」

 

 

 「…ありがとう。行ってきます。」

 

 

 仮装のギルドアジトの前でちゃにゃんに会いに来た来客の所へ向かう。

 

 

 「また来てくれたんだね。元気にしてる?くろちゃん。」

 

 

 そう、ちゃにゃんに会いに来たのはくろちゃんだった。しかもちゃにゃんが言っていた通り、ちゃにゃんがROSEを去ってからもずっと会いに来ていたのだ。…毎日。

 

 

 「うん!! この通りぴんぴんだよ~~!! ちゃにゃんはしっかり食べてる?仮装のみんなとは上手くいってる!?」

 

 

 もう何回目かの繰り返されるこのセリフもちゃにゃんには楽しみの一つだった。

 

 

 

 ちゃにゃんがROSEを去ると決めた時、くろちゃんは自分もちゃにゃんの傍にいたかった。一緒に付いていこうと思った。傍にいてあげたかった。しかし、くろちゃんは既にマサユキからギルドリーダーを引き継いでいる。おいそれとギルドを捨てる事は出来ない。だからくろちゃんは断腸の思いでちゃにゃんを見送った。そしてある事を考え付いた。毎日ちゃにゃんに会いに行って話せば、ちゃにゃんの心に寄り添えるのではないかと。

 

 

 しばらく会話して、ROSEのみんなの話やちゃにゃんの話等を交換し合った。

 

 会話が終盤に差し掛かって、ちゃにゃんが苦笑いして、くろちゃんにずっと聞いてみたい事を口にする。今まで何となく話を逸らしていたけど、逆に気になっていたから、思い切って見る事にしたのだ。

 

 

 「…ねぇ?くろちゃん。その………マサユキと暁彰はどうしてるかな?やっぱり私の事で……」

 

 

 言いにくそうにくろちゃんに尋ねるちゃにゃんの言葉をくろちゃんがちゃにゃんの両頬を両手ではさみ、目線をくろちゃんに固定させ、遮る。くろちゃんの目には熱い意志が宿っていた。

 

 

 「ちゃにゃんの事を嫌いになる訳もないし、心も病んではないよ!!

  確かにちゃにゃんに酷い事をしたってずっと責任を持っているよ?だけど、それはちゃにゃんを愛しているから思う感情でしょ!?

  ……マサユキ達はね、ちゃにゃんと私の私室をいつもきれいに掃除しているんだ。ちゃにゃんの好きな花も花瓶に飾って部屋に置いていて、毎日水替えしてる。ギルドのホールにはちゃにゃんの写真が大きく飾られている。ちゃにゃんの好きなデザートも用意しているんだ。いつでもちゃにゃんが帰ってきてもいいように…。誰よりも率先してちゃにゃんの帰りを待っている…。だから…、そんな顔しなくていいんだよ?」

 

 

 ちゃにゃんの目から零れた涙をくろちゃんは指でそっと拭ってあげた。

 

 

 「……何でそんなに私の帰りを待ってくれるの?私、ROSEを去った人間なのに…!?」

 

 

 「そんなの仲間だからに決まっているじゃんっ!!

  仲間だから心配だし、仲間だから支えてあげたいし、仲間だからっ!!一緒にいたいんだよっ!!!

  それ以外の理由でちゃにゃんの帰りを待つ事はROSEのみんなは考えてないよ!?

  たとえROSEを去った仲間だとしても、みんなは仲間を愛する…!!みんな、仲間を愛してやまない人間だから…!!

  

  それがROSEだからっ!!」

 

 

 ちゃにゃんにみんなの思いを代弁して伝えたくろちゃんも涙を豪快に流し、耐えられなくなって走り去る。みんなとちゃにゃんの前で泣き顔は見せないと決めたから。ちゃにゃんには笑顔で会いたいし、なってもらいたいから。

 

 

 勢いよく走り去ったくろちゃんの背中を見送るちゃにゃん。

 

 

 「突然なんなのよ…。まったく…。おかげで土煙で目が染みるじゃない…!!」

 

 

 もういないくろちゃんに文句を言うちゃにゃんの目からは大量の涙が溢れていた。

 

 




 うちはROSEが一番好きだあぁぁぁぁ~~~~~~!!!!!


 チムメンになってよかった。


 だって最高の仲間に出会ったんだもん!!(照)


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時計台での約束

悩んでもいいんだ、泣いてもいいんだ。

それでもっと大きくなるから!!


 

 

 

 

 

 くろちゃんが「仲間だからっ!!」と言って去った後、ちゃにゃんはずっと悩んでいた。でも、全然解決しなくて心が落ち着かずに夕食も食べれなかった。

 だから気晴らしに外に出て、気分転換する事にした。

 

 

 そして辿り着いたのが帝都の外れにある廃れた時計塔。くろちゃんとの秘密の場所。

 

 今でもここにきて夜の空気を吸って、星空を眺める。

 

 

 ROSEにまだいた時のくろちゃんと一緒に二人で登って色んな事を話した事を思い出しながらちゃにゃんは時計台の展望を目指して登る。

 

 

 展望に着き、星空と帝都の夜の街並みがよく見える窓まで向かう。しかしそこには既に先客がいた。

 

 

 「…くろちゃん?」

 

 

 「あれ? ちゃにゃん。どうしてここに…って考える事は一緒か。」

 

 

 振り向いてちゃにゃんを見つめるくろちゃんは苦笑交じりで疑問を撤回する。つまりくろちゃんもちゃにゃんと同じで何か悩みがあってここに来たのだ。

 

 

 「くろちゃんも悩み事?私は…。」

 

 

 なるべく笑顔を作って答えようとするが、いざとなると口が重くなる。

 

 

 「まぁ、まずは一緒にこの夜景見ない? この前と違って華やかさがあるんだ!」

 

 

 くろちゃんはちゃにゃんの表情から察して窓枠の端へと座り直し、ちゃにゃんに座るように促す。ちゃにゃんもそれに倣ってくろちゃんの隣に座る。

 

 

 しばらく夜景を見て心を和ましていた二人は沈黙が続いていた静けさを断ち切る。

 

 

 「「あのね!!」」

 

 

 二人同時に話を切り出す。完全にハモッた二人は可笑しくて笑った。

 

 

 そしてくろちゃんがさっき言おうとしていた事を言う。

 

 

 「あのね、前にもこんな事があったよね?

  ほら、私が初めてアスカと戦った時、惨敗したその夜、ギルドを飛び出した時の事、覚えてる?」

 

 

 「うん、はっきりと覚えてる。実はさっきこの事を言おうと思ってたんだ。本当に気が合うね。」

 

 

 「ははは。ギルドのみんなからは”シスター(姉妹)”って言われてたもんね!」

 

 

 「ずっと帝都に来るときに出会ってから一緒だからね。性格が似てくるのかな?」

 

 

 ROSEにいた時の事を思い出し、あれから1ヵ月経つのについ最近のように感じるちゃにゃん。

 

 

 「でね? その時もこの時計台に来て、ちゃにゃんに悩みを聞いてもらったよね。ちゃにゃんが一緒にいてくれて、悩みも聞いてくれて私、あの時嬉しかったし、胸がス~ってガス抜きで来たんだ。

  だから…。」

 

 

 ずっと夜景を見つめていたくろちゃんがちゃにゃんに顔を向け、目線をちゃにゃんに合わせる。

 

 

 「だから、今度は私の番。今度は私がちゃにゃんの悩みを聞く。あの時、『もしちゃにゃんが悩んでいる時は今度は私が悩みを聞いてあげるよ』って約束したから!!」

 

 

 「…ありがとうっ!!」

 

 

 あまりにも嬉しくてちゃにゃんは号泣する。そしてすっきりしたちゃにゃんは今まで溜めていた気持ちをくろちゃんに打ち明ける。

 

 

 「実は…、私…、迷っているんだ。これからどう生きていけばいいのか…。」

 

 

 ちゃにゃんのこの言葉は夜風に乗っていくように響いていった。

 

 





自分が分からなくなる時ってあるよね。

そんなときは誰かに相談した方がいいんだよっ!!ただし相談する相手は慎重にっ!!


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揺れる心

今日はいい事あったから、ウキウキ気分!!

ウキウキ?ウキウキ…ウッキ―――!!

サルになった私です!!


 

 

 

 

 「”どう生きていけばいいのかわからない”って?」

 

 

 ちゃにゃんが告白してくれた言葉を繰り返し、ちゃにゃんの気持ちを聞き出そうとするくろちゃんはそっとちゃにゃんの手に自分の手を重ねて、リラックスさせた。

 

 

 「うん…。今の私にはまるで二人の自分がいるみたいに心がバラバラなんだ。」

 

 

 「どういう事?」

 

 

 「最初はカバリンの意味深な言葉にあの人はもしかしてこの世にはいないのかもって、そしてそれをマサユキは隠しているんだって思ってた。そして、真相は半分当たって半分は違ってた。確かにあの人は死んでた。でも止めを刺したのはマサユキでずっと黙ってたんだって。

  それを聞いて、怒りが生まれたのは事実だよ。ずっと隠していたんだもん。でも…、何で隠してたのがは分かる…。ずっとROSEで過ごしてきたから。マサユキはいずれは私に話そうと思ってたことも私に全てを話す時の表情で分かった。」

 

 

 そこで、一旦話を区切って、星空を見ていたちゃにゃんはくろちゃんの方へ振り向く。

 

 

 「きっと、私が一人前の魔法師になるまで待ってたんだと思う。そして心を開ける親友…、くろちゃんとこの先歩けるように見守ってくれてたんだって今ならわかる。

  もしあの時…、帝都に着いてから『君の婚約者は死んだ』って告げられてたら私、絶望の淵に立っていた。そして、マサユキと暁彰を怨んでいたかもしれない。本当はあの人をあんな風に亡者にした者…、おそらく、ううん十中八九カバリンに怒りをぶつけないといけないだろうけど、姿が見えない相手より目の前の直接あの人を殺したマサユキ達を徹底的に怨んだかもしれない。

  でもね。くろちゃんと出会って、一緒に仕事やイベントクエストしたり、ROSEのみんなと過ごす内にみんなが、くろちゃんが大事な存在になっていたの。

  だから、くろちゃん達のお蔭で私は絶望の淵に立つ事はない。それはお礼を言いたい。でも…、それが苦しい。苦しんだ…。」

 

 

 涙を一筋流し、胸を抑え、苦笑するちゃにゃん。

 

 くろちゃんはどう言葉を掛けたらいいか分からず、ちゃにゃんの言葉に必死に耳を傾ける。今はちゃにゃんの心に寄り添おうと相槌をしながら聞く。

 

 

 「私、みんなに守られていたって気づいて、みんなの暖かさに触れて嬉しかった。あの人の最期を聞かされたのに、怒りを感じていたけど、寧ろ幸福感で一杯で怒りなんてあっという間に消えちゃった。もうマサユキと暁彰にはただ感謝しかないよ。あの人の苦しみを救ってくれたんだから。だから、ROSEのみんなが好き、大好き!!ずっと一緒に過ごしたい!でも………!!そう思う自分とそうじゃない自分もいて、分からないのっ…!

ううぅぅっ!」

 

 

 とうとう嗚咽を漏らしながら気持ちを吐露したちゃにゃんの背中をくろちゃんは優しく撫でてあげた。

 くろちゃんはちゃにゃんが何で悩んでいるのか少しわかった気がした。もしちゃにゃんのような状況に遭遇したら、自分も悩んでいたかもしれない。ちゃにゃんと同じく、その原因になっている大好きなギルドのみんなの暖かさで苦しんだだろう。

 

 だからか、くろちゃんはゆっくりと語るように泣きじゃくるちゃにゃんの背中を擦りながら話す。

 

 

 「ちゃにゃん…、みんなと一緒にいたいと思っているんだよね?でも、自分が幸せになってはいけない!婚約者に申し訳ないってそう思って、ギルドを抜けたんだよね?」

 

 

 「うん、そうなの…。みんなと一緒に過ごしたいって思う自分とみんなとの日常に、幸せな時間を私だけが味わっていていいのかって悩む自分がいるの。だから、自分の気持ちが片付くまでROSEのみんなから距離を置こうって決めて、抜けたんだ。」

 

 

 「…それで、どうだった?」

 

 

 「…余計分からなくなった。離れたらすぐに気持ちの整理がつくって思ってたんだ。でも、それどころかみんなが恋しくて、早く帰りたいって思うばかりだった!!

  だけど、あの人の事も想うと申し訳ないって気持ちと謝りたい気持ちが交差してもう分からなくなって…。」

 

 

 「謝りたいって、幸せになる事を許してもらう事じゃないよね?」

 

 

 今まで聞いてきた内容を頭で整理していたくろちゃんは引っかかった違和感を問う。

 

 

 「……私、あの時、彼に襲われて、マサユキが止め刺して動かなくなった時、心から喜んだのよ!?やった!!倒れたっ!!って。その前にも彼を痛めつけた。そんな気持ちで最期のあの人を見届けたと思うと自分が憎くて仕方ないっ!!謝りたいけど謝れない!!」

 

 

 しゃっくりを上げながら、後悔と自分への憎さに苦しむちゃにゃん。くろちゃんは『それはちゃにゃんの所為じゃないよ。』なんて言えなかった。確かにちゃにゃんの所為じゃない。悪いのは、婚約者を亡者にしたカバリンだ!でも、それは気休めにしかならないってわかっている。現に、婚約者を攻撃したのは事実だから。

 でも、その婚約者がどんな思いで最期を送ったのかは知っている…!

 今はその事をちゃにゃんに伝えないと…!

 

 

 そう決心し、くろちゃんはバッグからペンダントを取り出し、ちゃにゃんの手の中にそっと置いた。

 ペンダントを見たちゃにゃんは目を見開いて驚く。それはいつもちゃにゃんが付けているペンダントと同じものだった。

 

 

 「それ、マサユキから預かってたんだ。もし、ちゃにゃんがくろちゃんに相談しに来たら、『これを渡してあげて。そして、彼からの伝言を伝えてほしい。』って言われてたんだ。

  マサユキはちゃにゃんの婚約者の最期の言葉をそのペンダントと一緒に受け取っていたんだって。」

 

 

 くろちゃんの言葉を聞いて、ちゃにゃんはペンダントの赤い宝石が組み込まれた蓋を外す。そこにはちゃにゃんと婚約者だと思われる男性とのツーショット写真が入っていた。二人とも、幸せそうに抱き合って笑っている。

 

 泣きながらも婚約者が大事にしてくれていたペンダントを優しく包み、微笑むちゃにゃん。

 くろちゃんはマサユキからの伝言を伝える。

 

 

 「マサユキはそれを託されて婚約者の言葉を聞いたんだって。」

 

 

 

 

  『ありがとう…。あと少しで、僕の大事な人を、殺めてしまう所だった…。はぁ、はぁ、自我を抑えられて、自分を見失ってた。逃げ出した時は、まだあったんだ…、自分が。それで、会いたかった…。ちゃにゃんにもう一度…。会いたかった…。そしてそれが叶った~…。これで僕は心置きなく逝ける…。ちゃにゃんとの約束は守れない、ダメな僕だけど…、ちゃにゃんは幸せになってほしい…。ちゃにゃん…、をよろしくお願いします…!』

 

 

 「うん。分かった!! ちゃにゃんっていうんだね。私達の仲間として大事にするよ。約束する!!」

 

 

 『…ああ。ありがとう。ちゃにゃん…。どうか幸せに…。ちゃにゃんが、笑っていてくれたら僕は、それだけでいい。笑って楽しむ君を見せてくれ…。』

 

 

 そして、息を引き取った婚約者。マサユキは手を合わせ、黙とうする。そして暁彰に『術式解散』で塵にして、供養した。

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんから婚約者の伝言を聞きながら、あの時のマサユキ達の行動を思い出して、すべて納得した。そして、婚約者の伝言を噛み締めるちゃにゃんはくろちゃんに泣いてぐちゃぐちゃになった顔を向けて、問いかける。

 

 

 「ねぇ、くろちゃん? 私…、幸せになっていいの? 彼は許してくれるの?」

 

 

 恐る恐る問いかけて、必死に答えを見っている視線を投げてくるちゃにゃんにくろちゃんは心配ないって伝えるように満面の笑顔で頷く。

 

 

 「許すも何も、婚約者はちゃにゃんの幸せを願っているんだよ!?望んでいるんだ!

  …だから、泣くのはもうおしまいっ!! 笑っている顔を見せて?私にも。婚約者にも。みんなにも。ね?」

 

 

 そう答えながら、くろちゃんはちゃにゃんの両頬を引っ張る。引っ張られた頬で唇が吊り上がる。

 

 

 「痛いよ~~!くろちゃん~~!! …ぷっ。ふふふふはははははは。くろちゃん、その顔は止めて!! お腹が痛くなるからっ!!はははは。」

 

 

 さらに変顔するくろちゃんにつられ、笑うちゃにゃん。笑うちゃにゃんの笑顔を見て、一緒に笑うくろちゃん。

 

 

 しばらく笑い合った二人は手を握り合う。

 

 

 「くろちゃん、ありがとう! 私、もう泣かない! あの人が私に幸せになってほしいって言ってくれたんだもん。あの人の分まで私は幸せになってみせる!私決めたから!」

 

 

 「うん!その意気込だね!…でも、ただ話を聞いただけだけど。伝言も伝えただけだしね。」

 

 

 「ううん、そんな事ないよ! くろちゃんだから話せたし、ずっとお礼言いたかったんだ。マサユキ達からあの人の事を聞いていた時、くろちゃんは私の事を想って、泣いてくれた。あれでどんだけ救われたか…。私はくろちゃんっていう親友がいてくれて嬉しい!!」

 

 

 「……なんだか照れるな~。まぁ、ありがとう!!じゃ、ちゃにゃんが笑っていられるように私もちゃにゃんと一緒に頑張るよ!」

 

 

 「ふふふ。”くろちゃんと一緒に歩いていく”って約束したもんね!!また、よろしく!!」

 

 

 「こちらこそ!!」

 

 

 こうして二人は指切りげんまんして約束をし、再び一緒に前に進んで歩いていく事を誓った。

 

 




ちゃにゃんの気持ちを考えると胸が苦しくなるの分かるよ!!

それなのに、私ふざけてごめん!!

お詫びに…、ウッキ~~!!ウキウキウッキ~~~!!

さぁ、笑って!!


あれ?一足遅かったぽい?


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ROSEへ帰還!!

ROSEが遂に復活!! 

やったぁぁぁ~~~!!


これであのネタが使える!! いち…ゴボッ!!←殴られた音


 

 

 

 「みんな~~~!! ちゃにゃんが帰ってきた祝いにド派手に盛り上がるぞ~~~!!」

 

 

 「「「「「「「「「「「「おおおお~~~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 ROSEに帰ってきたちゃにゃんのお帰りパーティーが行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんが時計台で悩みを解決したその翌々日。

 

 ちゃにゃんが再びROSEに戻ってきた。ROSEギルドにちゃにゃんが荷物も持って「ただいま」と笑顔で入ってきた時はギルドにいた全員があまりにも衝撃を受けて数分間は固まった。そして、頬をつねり、現実だと実感した時、歓声を上げてちゃにゃんにみんな突進した。

 その結果は想像に難しくないとは思うが、全員の突進攻撃を受け、ちゃにゃんは思い切り突き飛ばされ、屍と化した。

 

 

 「だ、大丈夫!!? ちゃにゃ~~~~ん!!しっかりしてくれ!!」

 

 

 ちゃにゃんを仮装まで迎えに行って一緒に帰ってきたくろちゃんは突き飛ばされたちゃにゃんの身体を抱き上げ、声を掛ける。…が、ちゃにゃんの身体は力なく垂れる。

 

 

 「わあああぁぁぁ~~~~~!!ちゃにゃん!!死んだらダメだ~!!せっかく幸せになるって誓ったばかりなのにこんな事ってないよ~~!!目を開けて~~!!」

 

 

 屍と化したちゃにゃんをくろちゃんは思い切り揺さぶって、頬をバシバシ叩いて復活させようとする。

 

 

 (いや、それは更に屍を悪化させるだろうがっ!!しかもだんだん哀れもない顔に…!!)

 

 

 そうしてようやく意識を取り戻し、復活したちゃにゃんにくろちゃんが抱きしめる。

 

 

 「よかった~~~!!ちゃにゃん、だいじょ……ぶ…。」

 

 

 目を覚ましたちゃにゃんは目の前で気まずそうに見つめてくるくろちゃんを訝しく思いながら、頬を擦る。なぜか目を覚ましてから頬がヒリヒリと痛むのだ。頬を擦るちゃにゃんを見て、慌ててギルドの中に入ろうと声を掛けて、手を引っ張るくろちゃんの行動に何か隠していると踏んだちゃにゃん。

 

 

 「何か私に隠してるにゃ?」

 

 

 「なっ!!…何でもないよっ!! それよりほら、みんなパーティーの準備してくれているし、さっさと中に入ろう!!」

 

 

 冷や汗を搔いて話を逸らすくろちゃん。絶対に何かあると確信したちゃにゃんは問い詰めようとして、止めた。玄関を通り、みんなから嬉しさのあまりに突き飛ばしてしまった事への謝罪を受け、ジューズが入ったコップを渡された時だった。

 自分の顔がどんな表情になっていたか知る事になる。、カップに反射した自分の顔が映りこんだ事によって。

 

 

 「ねぇ…、くろちゃん?この顔ってくろちゃんがやったの?大丈夫…。本当の事言ってほしいにゃ?」

 

 

 「だ、大丈夫には見えない、よ…。え~~と…、それはその…、あれだよ!!?

  ほら、ギルドの玄関にでっかい蜂の巣があったじゃん!?蜂に刺されてそうなったんだよ!」

 

 

 全身から汗が溢れだし、唇が震えるくろちゃん。

 さすがにその嘘は厳しいよ…。蜂の巣なんてないし。

 

 

 「ふ~~~ん。そうなんだ…。じゃ、これはどうなってもいいのかにゃ?」

 

 

そう言って手に持っている物をくろちゃんは悲鳴を上げながら取り返そうとする。しかし、ちゃにゃんはそうはさせない。顔は笑っているのに全然穏やかではない。

 

 

 「それだけは…!それだけは勘弁してください~~!!それは覗きお助け魔法グッズの神具と呼び声の高い幻の超高性能カメラ~~!!それ、高かったんだよ~~!!」

 

 

 「ほほ~う。それはいい事を聞いたね!じゃ、私のこの赤くなって思い切り腫れ上がった頬はどういう事かしら?」

 

 

 「申し訳ありません!! 私がやりました!! でもわざとではありません!!」

 

 

 ちゃにゃんに勢いよく、そして全力で土下座するくろちゃんにちゃにゃんは見下ろしながらくろちゃんの肩を優しく叩く。

 

 

 「うん、わかってる。くろちゃんは私を起こそうとしてくれたんだよね。でも……」

 

 

 「乙女の顔をこんなにする必要があるかああぁぁ~~~~~~!!」

 

 

 「ぶぼべばぶううううぅぅぅぅ~~~~~~~~!!」

 

 

 くろちゃんを持ち上げて、思い切り殴って飛ばした。

 

 

 「飛んだ、飛んだ、大きく飛んだあああ~~~!!これはホームラン間違いないっ!!」

 

 

 「見事な投球…、いや、投人だね~!!」

 

 

 「ナイスパッティング!!」

 

 

 

 キラ~~~~~~~~~~ン!!

 

 

 

 「おおっ!! くろちゃん、見事な星に生まれ変わったな~!! ハハハハハ!!」

 

 

 「昼間から星が見えるとはいい事あるぞ、これは!!」

 

 

 「よし、早速パーティーはじめるかっ!」

 

 

 「待ってましたっ!!」

 

 

 先ほどのいきさつを見届けていたギルドのみんなは野球実況のように解説した後、盛り上がって、そのままちゃにゃんのおかえりパーティーを開催するのだった。

 

 

 みんなから祝福されているちゃにゃんは久しぶりのギルドの雰囲気に懐かしく、また嬉しさでステージで踊ったりする。

 

 

 (あ、そういえば、くろちゃんはどこにいるのかな?まったく盛大にみんなよりお祝いしてあげるって言ってたのに。

  後、このカメラ……、はまあいいか。えいっ!!)

 

 

 バギっ!!ガシャー――――ん!!

 

 

 くろちゃんから没収していたカメラを壊して、まだ帰らないくろちゃんを心配しつつ、パーティーを満喫していた。

 

 

 一方、その頃、くろちゃんは帝都で一番高い塔の最上階にこれまた見事に服一枚でぶら下がっていた。

 そしてくろちゃんの片方の顔には顔と同じくらいに大きくなった腫れがはっきりと見えた。

 

 

 「なんでぇ、ほうなったお?(なんで、こうなったの?)」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ちゃにゃんのROSEへの帰還は笑いあり、身体張り?のめでたいものになった。




ちゃにゃんが帰ってきた~~!!

本人はまだ帰ってきてないけどね!

仮装から引っ張り出さないと!!ウ~~~ンと!!よし抜けたよ。ちゃにゃっち一緒に帰ろう…。

ああああああ!! ちゃにゃんの腕が~~!!と、と、と、と、取れた~~!!ごめん!ちゃにゃっち!!どうしよ~~!!


 ちゃにゃん「それは私が作った人形の腕にゃん。まだ帰らないにゃん♪」


気付かずに慌て続ける私でした。


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再出発!?

これからプチ寸劇しようかな。

いや、毎日はちょっと~!!

なら、たまにで!!


 

 

 

 

 ちゃにゃんの帰還も終え、ROSEは再び勢いに寄っていく。

 

 

 魔法試合もイベントクエストでもこれまで以上に絆が強くなったROSEは帝都中の人達の目を釘付けにしつつあり、活躍を広げていった。

 

 

 そのおかげで、帝都中からROSEへの仕事依頼が殺到していた。

 

 

 「これはやばいね。帝都中からこんなに来てるよ…。」

 

 

 「この仕事の多さにサボりたくなってくるな~。」

 

 

 「わかる。仕事で来てありがたいって思わないといけないのは分かるけど、まともに体を休められないのは嫌だな~。」

 

 

 「はぁ~。仕事をこなしていっても、次から次へと依頼が入ってくるから一向に終わらないや~。」

 

 

 「何でこんなに仕事来るかな?そんなに目立つ事したっけ?」

 

 

 「「「「さぁ?」」」」

 

 

 依頼殺到に理由がよくわからず、頭を抱えるみんな。人気者になると、周りが白熱するからね。ふとしたことでも、周りからはカッコよく見えてしまうってやつじゃないですかね。

 

 

 「「ただいま~~。ごめん、水ちょうだい!!」」

 

 

 見事にハモってギルドに帰ってきた御神とサガットは息絶え絶えに疲労感満載で水を求める。

 

 

 「お帰り~。…なんかすごいね、二人ともだけど、その後ろの荷物。」

 

 

 二人に声を掛けたホムラは水の入ったコップを渡し、顔を引き攣りながら二人の後ろを見る。

 

 しかし、もう声が掠れてきて返事ができない二人はコップの水を一気に飲み、御代わりを要求する。それに苦笑しつつもホムラはコップに水を入れ、なくなる度に水を注いであげて二人の復活を待つ。

 

 

 「ぷはああぁ~~~~!! ホムラ、ありがとう!! 助かった~!!ここ3日ほど、何も飲まず食わずだったから、死ぬかと思ったよ!!」

 

 

 「…だから、言ったんだよ。あんなに一度に依頼を受けるもんじゃないって…。はぁ~。はぁ~。おかげで酷い目に遭った。」

 

 

 「だって、一回一回依頼受けるよりは、同じ地域の依頼を一度に受けた方が効率はいいと思わない!?あそこまで行くのにはお金がかかるしさ!」

 

 

 「だからって、”適材適所”って言葉があるでしょ?自分に見合った依頼を受けないからこうなるんだよ~。」

 

 

 こうして御神とサガットが喧嘩し始めたので、ホムラが仲介に入る。ROSEでは珍しい光景だが、依頼の殺到でみんなのモチベーションが下がりつつあるのだ。

 

 

 「まぁ、二人とも、落ち着いて。御神とサガットの言い分も分かる。でも、まずどんな依頼を受けてきたらそうなるのか理由を言って。聞いてあげるから。」

 

 

 ホムラが御神達を言い聞かせた時、ギルドに仕事を終えて帰ってきたくろちゃんとちゃにゃんが木の棒を杖代わりにして入ってきた。

 

 

 「ちゃにゃん…大丈夫?かなりきつかったよね?」

 

 

 「ううん、私はなんとか…。くろちゃんはずっと動き回ってたにゃ。くろちゃんこそ大丈夫?」

 

 

 「うん、こっちもなんとか生きてるって感じかな?」

 

 

 まだ若いのに、ヨレヨレの婆さん化している二人がホムラがもつ水を目にして猪突猛進に突っ込んできた。

 二人にも水をあげて、結局5人分の話を聞くことになったホムラは苦笑するしかなかった。

 

 御神とサガットは地方の村々の開拓の手伝いを依頼されて、同じ地域での似たような仕事が数多くあったため、一気に請け負ってきた。しかし、その量が半端ない。実に今回だけで1年分の依頼量だったのだ。開拓といっても、寂れて帝国の役人まで来なくなった村で再び活気ある村にしたいという依頼が殺到したのだ。そこで、井戸作りや診療所の設立、家屋の建築、道の整備等の手伝いをしてきて、今帰ってきたという訳だ。

 

 

 「もう大変だったよ。道具や差し入れはくれるけど、一切誰も手を貸さないんだよ!私達は”村の復興や開拓の手伝い”って事で来たのに、全て任せてだらけるんだよ!どう思う!?」

 

 

 「誰も来ない事で自給するしかなくて、廃れていたっていうのは分かるけど、何もかも私たち任せっていうのがね~。これだと、村が立ち直っても彼らが自分達で生活できるかどうか不安だね。」

 

 

 二人が愚痴を言いつつも心配するが、それでも納得できないと不服な表情をする。

 

 

 「私達も大変だったよ!帝都や町の依頼でなぜかROSEのアイドル的存在って事で私とちゃにゃんがイベントとかで呼ばれてさ~。」

 

 

 「うん。現場に行って初めて聞かされて、他も同じで、踊ったり、歌ったりとさせられたにゃ。」

 

 

 「そうだよ!! それで体中が痛くて、最後はもうヨボヨボだったよ~。」

 

 

 ギルドに帰ってきた状態を思い出しながら、ホムラは納得する。

 

 

 「まぁ…、とにかくお疲れ様!みんな頑張ったんだし、しばらくは休んでいいよ。

  依頼の方は指名以外は他のギルドに回せるように調整してみるよ。」

 

 

 モニターに表示されている依頼書を吟味して、考えながら御神達に伝えた。

 

 

 「「「「ありがとう!!助かった!!」」」」

 

 

 ホムラに抱きついて、お礼を言う4人はその後、私室に向かって休憩を取りに行った。

 

 

 

 

 その後のギルドは次々と大量の仕事を終えて帰ってきたみんなは夕食の時も生気を抜かれたように沈んでいた。

 

 

 夕食後はいつもの談笑もせず、早めに切り上げ、みんな床に就いたのだった。

 

 

 

 

 という訳で、ちゃにゃんが戻ってきた新ROSEは思ってたより忙しい再出発?を遂げたのだ。

 

 




ホームズ「おいら、これから魔法なしでこの積み上がった瓦を叩き割って見せるから!!」

 おお!!拳で熱く語るほーちゃんが男を見せます!!果たして何枚割れるか!?全部で20枚あるよ!

ホームズ「よし!!いつでもいけるぜ!」

 分かった。ではほーちゃん!瓦割り挑戦どうぞ!

ホームズ「おりゃ~~~~~!!!」

 ばりっ…!!………

 …………あれ?ヒビはあるけど、割れていない?

ホームズ「嘘だ~~~~!!」

 ポンッ。大丈夫だよ…。うちは見てない。誰も見てないよ。だから拗ねなくてもいいよ。

ホームズ「そう?ならいいか!!ハハハハハハ………」


 ジ~~~~~~~~

 誰も見てない。ただカメラは見ていた…。



皆も無理したらいけないよ!?


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突然の別れ

いや、まさかの流れだね。


うちでもびっくりだもの。


 

 

 

 

 殺到の仕事の依頼がいまだに続くROSEは前代未聞の慌ただしさがギルド内で起こっていた。

 

 

 「ちょっと~!!ホムラっち!! 指名の分以外は他のギルドに回すって言ってたよね!?なのに何でこんなに仕事が来ちゃうわけ~!?これじゃ、イベントどころか魔法試合でも出られないよ~。」

 

 

 仕事の依頼を片付けながら、愚痴るミナホはホムラに抗議する。

 

 

 「私だって何でこうなるのかわからないよ!指名以外の依頼は他に回したら、それが今度は指名付きで舞い戻ってきたんだよ。こうなると、下手に断る事が出来ないし…。私だって困っているんだってば。」

 

 

 目の下にクマを作り、反論するホムラ。ギルドのみんなも同じく、目の下にクマを作り、ふらふらしながら歩いたり、仕事の書類管理に追われたりで手は動きながらも、誰にでもない愚痴をブツブツと念仏のように呟いて、気分発散していた。

 

 だから、外から帰ってきたマサユキはギルド内の異様な光景に思わずギョッと背筋を震えさせ、無意識というか反射的に後退りしてしまうほどだった。

 

 

 「みんな、一旦休憩しよう!!美味しいケーキを買ってきたから!!」

 

 

 マサユキの何気なく行ったこの言葉はギルドのみんなの全意識を向かせた。そしてマサユキはこの後、後悔する事になる。

 

 何も食べずに、しかも一睡にせずに完徹が続いたみんなはマサユキが手に持つケーキに視線を固定させ、ゾンビのように立ち上がり、数歩歩いたかと思ったら、勢いよくケーキに飛びかかる。目が異様なほど光って不気味に笑うみんなが一斉に飛びかかってきたことでマサユキは踏みつけされ、殴られて、飛ばされてと恐怖に駆られる事になったからだ。

 

 

 「はぁ~!!もう、最高っ!!久しぶりに食べた!!」

 

 

 「このケーキ、今評判のクリーミーデンジャラスケーキだよね!?」

 

 

 「なんだか、そこのお店のネーミングセンスを疑いたくなるね…。」

 

 

 「でも、糖分取ったからか、頭痛いの、治った気がする!!」

 

 

 「ああ、イライラしている時とか甘い物摂取したら、リフレッシュするっていうもんね~!」

 

 

 「おかげで随分気分いいよね!!?」

 

 

 「これも、マサユキのお蔭だね、ありがとう~、相談役~!!…あれ?」

 

 

 ケーキを食べ終わり、満足になったみんなはマサユキにお礼を言おうとしたら、マサユキは床に倒れて、気を失っていた。

 

 

 「ホント、困った相談役だな~。こんなところで寝なくてもいいのに。」

 

 

 「そうだな。寝転がるなら、外でしろ。」

 

 

 暁彰は布団で気を失っているマサユキを簀巻きにし、外に投げ飛ばした。

 

 

 「よし、これで邪魔な荷物はなくなったな。」

 

 

 「……ごゆっくりと寝てください。」

 

 

 みんなでマサユキに手を合わせて合掌する。

 マサユキが起きていたら、『死んでないから!!てかこの簀巻きを解いてくれ~~!!そして私にもケーキを食わせろ~~!!』とただ捏ねるだろう。そして、ほっておくと、芋虫のようにギルド内に入ってくるだろうが。

 

 

 

 そしてみんなが寝静まった深夜、大きな荷物を持ってギルドを後にしようとするマサユキの姿があった。

 マサユキはモニターに置手紙を残し、悲しそうに微笑みながら、玄関に向かって歩き出した。そして玄関のドアを開けようと手を翳した時だった。

 

 

 

 「………もう行くのか?マサユキ。」

 

 

 「出るにはタイミング悪いよ~。」

 

 

 「何もこんな時間に行かなくても…、ふはぁぁ~。ねむっ…。」

 

 

 「あれ?起こしちゃった?ごめん、暁彰、huka、ホームズ。」

 

 

 「起こすも何も、俺達はずっと起きてたぜ。マサユキを見送るためにな。ふはああぁぁ~。」

 

 

 あくびをして、眠さを必死に堪えるホームズをマサユキと暁彰、hukaは含み笑いする。

 そして真剣な顔に皆が戻り、マサユキに次々と見舞い品を渡す。

 

 

 「みんな…。ありがとう。でもさ、寂しいから行かないでって言ってくれないの~!」

 

 

 「……確かにマサユキがいなくなったら面白味がなくなるけどさ。」

 

 

 「そうそう、バカを正す事も出来ないし。」

 

 

 「……それって酷くない?」

 

 

 「褒め言葉だ。ありがたく受け取っておけ。…別にギルドにいなくても俺達の仲間であることには変わらない。ROSEはそういうものだろ?

  あと、マサユキは必要だから出ていくんだ。」

 

 

 拗ね顔していたマサユキは暁彰の言葉でふざけていた雰囲気を元に戻す。

 

 

 「みんなには言わないでほしい。」

 

 

 「わかってるよ。」

 

 

 「行ってら!!」

 

 

 「早く行けっ!! ……身体には気を付けろよ。」

 

 

 激励?を送り、マサユキを見送る三人の顔には泣くものか!と涙を堪える表情だった。

 そんな三人の見送りを受け、マサユキは寝静まり、人の気配もない暗闇の帝都の中へ消えていき、ROSEを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 翌日になり、みんなは久しぶりに寝たため、昼になっても起きてこず、夕方になってから背伸びをしたりして清々しく起きてきた。

 

 そして、マサユキが残した置手紙と暁彰の説明でマサユキの不在を知らせる。その置手紙には次のように書かれていた。

 

 

 

 『みんなの仕事全部、いただいていく!! まぁ、消化するのはいつになるか分からないけど、地道に頑張ってくるからっ!!

  私がいなくて寂しいかもしれないけど、大丈夫。何かあったら大声で呼んでくれっ!!

  カメラを持って、這って帰るから!! ●REC

                         マサユキ      』

 

 

 それを読んだみんなはマサユキの残した置手紙をビリビリに破いて、加熱系魔法で一気に燃やした。

 

 





マサユキの扱い、こんなんでごめん。

でも、みんなの盛り上げ役のマサユキだからと話を書くと、こうなってしまう。


マサユキ「は!!そういえば、私が買ってきたケーキ、まだ食べてない!!今からでも食べに帰ろうか、いやいや、既に出てしまったし戻れん!!どうしようか!!」


 ……店に行けばいいじゃん!!


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次なる仕掛け

はい、またあの男が出てきます。

マサユキ「あの男だけは許さない!!」

どうした?マサヤン


 

 

 

 

 

 

 マサユキがROSEを去ってから2週間経ってからのROSEは仕事の依頼殺到がパッと消え、以前のROSEに戻ってきていた。

 

 

 「はぁ~、久しぶりに喉かだね~。」

 

 

 「そうだね~。」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは今までの疲れを解き放つかのようにギルドのホールのテーブルにダラ~っと滴れていた。しかもどこで手に入れてきたのか、テーブルの真ん中に置かれた機械から手のアームが伸び、二人の身体を揉み解していた。

 そんなまったり気分を味わっている二人に鳥になる日が近づいて腰に手を当てながら、注意する。

 

 

 「ちょっと、二人ともっ!! ここでのんびりするんだったら、せめてやることやってからして。ここの掃除まだできてないんだから。」

 

 

 「でもさ~、なんかこの窓から入る太陽の日差しが気持ち良くて…。」

 

 

 「そうだにゃ。この暖かな温もりを与えてくれる日差しに感謝して寝てるのにゃ…。

  鳥になる日もどうだにゃ?」

 

 

 「二人は猫かっ!?シャ~~~~!!」

 

 

 肌を逆立てツッコミする鳥になる日の肩をRDCがぽんっと手を置く。

 

 

 「まぁ~、落ち着いて。二人ともあれで、気を和ませているのさ。二人は…、マサユキが好きだったからさ。」

 

 

 「…あ、なるほど。そういう事か。じゃ、しょうがない…なんていうと思った?

  それなら、きっちりと動かないと!!」

 

 

 そして、鳥になる日はテーブルのマッサージアイテムを没収して奥に引っ込んだ。その後ろ姿をくろちゃんとちゃにゃんは手を伸ばし、涙を流しながら悲鳴を上げ、今生の別れの如き、見送りをした。…マッサージアイテムに。

 

 RDCはため息を吐きながらこの光景を見届け、久しぶりのイベントクエストに行くことにする。

 RDC以外にもくろちゃんとちゃにゃんがマッサージアイテムを使ってホールで和んでいた理由は分かっていた。もし、マサユキがこの場にいて、あれを見ていたら、真っ先にカメラを持って、録画していただろう。

 

 『おお!!いいね~!!そんな所まで揉んでくれるのか…!ではもうちょっとあの辺りを!!……そうそう!!そこで…! ぶほっ!!』

 

 …という流れでROSEの名物を見る事が出来ただろう。

 

 

 そんな想像をし、RDCはマサユキなら絶対こうなるなと妄想笑いし、イベントクエストに参加する。しかし、RDCはそれにより、一番避けたかったことをしてしまう事になる。 それは誰も参加したくないイベントクエスト”八雲ロボとの組手修行”だと分かっていたのに、参加してしまうというオチだ。

 

 経験値が2倍になるというメリット以外はほぼ得がない最悪なイベだ。

 

 「しまったああああああぁぁぁぁ~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 RDCの悲鳴が辺り一帯に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 そして、マサユキのROSE脱退はこの男の耳にまで入っていた。それは、何を意味するのか。

 

 いつものようにこの男、カバリン・サイエンは店の奥部屋にあるモニターで自分の主と回線を結ぶ。

 

 

 「……久しぶりだな。何がいう事があるのではないか?」

 

 

 「これはこれは、早速手厳しい発言、ありがとうございます!いや~、あれからも掛けるべきかと迷いましてね~。ですが、準備もありまして、慌ただしくし…」

 

 

 「そんな言い訳をわざわざ私に聞かせるために、連絡してきたのか…?

  どうやら、命はいらないと見える…。」

 

 

 映像は映らず、会話だけでのやり取りでも、主の殺気が感じられ、カバリンもさすがに身の危険を感じ、口を噤む。ただ、冷や汗を掻いておきながらもこの状況を楽しんでいた。

 

 

 「それは申し訳ありません。ただ、先日に許可を頂きました計画が着々と進んでいるとお伝えいたしまして。」

 

 

 「……私が聞いた報告では、貴様は自ら実験体の観察に行き、そこで、あのROSEと鉢合わせし、計画は失敗したと聞いたぞ?」

 

 

 「あれは、必要な措置でしたので。ROSEの内部崩壊を目論見まして…、少し計画とずれましたが、まだ許容範囲で進みますよ。これからが本番ですから。ふふふふふふ!!」

 

 

 「………理解した。では、そのまま事を運べ。しかし、前にも言ったと思うが…」

 

 

 「はい、心得てますよ。あなた様の要望通りにして差し上げますよ~。」

 

 

 ピエロの片仮面と同じような笑みを浮かべ、忠誠を誓う意味で深くお辞儀をする。

 

 

 「では、励め。」

 

 

 ブチっ!!

 

 

 回線が切れ、お辞儀を解いたカバリンは主に向けた笑顔のまま、部屋を後にする。

 

 

 「さてさて、ようやく次の計画に移れますよ~。さぁ、私のショーを堪能しなさい!!

  家畜の皆さんっ!!ガハハハハっハハハハ!!!」

 

 

 手を大きく広げて、盛大に笑い、脳裏に血で狂う人たちの残像を浮かべるのだった。

 

 





何だと!!懲りない男だな!!カバリン!!
いや…、バカリン!!


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噂の曲芸一座

「さぁ!!本日はお越しいただきまして誠にありがとうございます!!」

 よっこらしょっ。

「あれ?ちょっと待ってください!!まだ挨拶がおわ……」←引き摺って行かれる

はい!!では、どうぞ!!


 

 

 

 

 「え、なんて言ったの?」

 

 

 大好きないちごパフェを食べながら、くろちゃんとちゃにゃんはやってきたホームズと剣崎兵庫に聞き返す。

 

 

 「だから! 今、この帝都に曲芸一座が来ているらしいんだよ!」

 

 

 「ああ、中心街ではその話で持ちきりだぜ!今日の新聞でも取り上げられているしな。」

 

 

 今日の新聞をテーブルに置き、その一座の事が書かれた記事を指差すホームズ。

 

 確かにそこには帝都に来た曲芸一座についての取材記事が書かれていた。

 

 

 「へぇ~!!なんか面白そうだね!!」

 

 

 「そうだろ!?なんでもこの曲芸一座の見世物を見に行った観客が皆一同に『絶対に見に行くべき!!』って太鼓判を押すくらいらしいぜ!!」

 

 

 興奮しながら曲芸一座の宣伝を話し、それを聞いてくろちゃんとちゃにゃんは少し興味を持つ。そんな時、モニターにその曲芸一座を取材した番組が流れ、くろちゃんとちゃにゃんは食い入るように見る。

 

 そこには番組キャスターの少女魔法師が団長らしき人物に取材していた。その後ろには曲芸一座が披露している大きなテントが映っていた。

 

 

 『こちらが今、帝都で物凄い曲芸が見れると帝都中で口コミの曲芸一座です!なんと、ここ数日だけで観客動員数は1万人を突破しました!』

 

 

 「ええ~~~!!一万人!!そんなに見に行ってるの!?」

 

 

 「口コミってすごいにゃ~。」

 

 

 少女魔法師キャスターの言葉に驚きを隠せないくろちゃんとちゃにゃんは同時にカメラにブリっこする少女魔法師を睨みつける。

 

 

 『そしてそんな大人気の曲芸一座を支えている団長さんに今からインタビューをしちゃいます!!

  よろしくお願いします!』

 

 

 『よろしくお願いします。』

 

 

 少女魔法師の隣には紹介された団長がほんわかな笑顔で挨拶していた。

 そして、曲芸一座の魅力や曲芸の披露を少しして場を盛り上げる。そして終盤になり、団長からのコメントで締めくくる事になる。

 

 

 『私が披露した物はほんの一部しかしていません。これよりも可憐で、衝撃的で忘れられない曲芸をたくさん用意しています。

  ですので、ぜひこの機会に私達、”カバルレ・サマダ大サーカス”へお越しください。最高のショーをお見せいたします!』

 

 

 『はい!ありがとうございました!!以上、美少女魔法師キャスターモモちゃんがお送りしました!キャハッ!!』

 

 

 両手を頬に沿えて、カメラに向かってウイングし、可愛さアピールするブリっこモモにくろちゃんとちゃにゃんは乾いた笑いと冷たい視線で一瞥する。画面の向こうからは男達の黄色い声が漏れ聞こえていた。

 

 

 「…あのブリっこはさておき、確かに面白そうだね。」

 

 

 「うん。しかも団長のカバルレさんの曲芸凄かったにゃ。」

 

 

 「なにせあそこの団員は全員が魔法師で魔法を”魅せる”ために磨いているからね。腕の見せ所がおいら達とは違うのさ。」

 

 

 ……ツンツン。………ツンツン。

 

 

 くろちゃん達と先程の取材番組の感想を話していたホームズは肩を異様にしつこく突かれている感覚を受け、振り向き、後ろで動悸をする剣崎兵庫を訝しく見つめる。

 

 

 「なんだよ、剣。」

 

 

 「………ねぇ!!さっき、モニターに映っていたあの少女!!可愛くなかった!?

  やべっ。どうしよう…。動悸が止まらない…。」

 

 

 「「「……………………」」」

 

 

 顔を真っ赤にして、次の番組に切り替わったモニターをずっと息を荒げて見続けている剣先兵庫を三人は無言で見つめ、呆れのため息をついた。

 そして再び、曲芸一座の話に戻る。もちろん、妄想花畑に出かけてしまっている剣崎兵庫は横に置いといてだ。

 

 

 「じゃ、ギルドのみんなと一緒に見に行こうよ!!」

 

 

 「だったら、みんなに早く伝えておかないとにゃ。」

 

 

 「そうだな。曲芸一座はいつも全席完売の大人気だからな~。急がないと、一座のお披露目が終わってしまうぜ!!」

 

 

 打ち合わせを終え、まだ食べ残っていたいちごパフェを食べ始めたくろちゃんとちゃにゃんはふと思い出し、ホームズに聞いてみた。

 

 

 「ところでさ、ホームズと剣崎兵庫は何で女装しているの?」

 

 

 「あ、それは私も最初思ってた事だにゃ。」

 

 

 「「ギグッ!!」」

 

 

そう、くろちゃんとちゃにゃんが言うとおり、ホームズと剣崎兵庫はなぜか女装していたのだ。

 

 

 「しかも、こんな人が多いお店で…。何やってるの?」

 

 

 若干引いた目でホームズ達を見るくろちゃん達に縮こまっていたホームズは言い訳を頭で考えていたが、決定的な理由が見つけられず、ついには開き直ってしまう。

 

 

 「フフフ。別にいいだろ!? こういうコスが手に入ったんだから、一回は着ておかないともったいないじゃないか!」

 

 

 「そうだそうだ!」

 

 

 「本当にそれだけ?…さては、このお店のいちごパフェが食べたいから、女装しているんじゃないの~?」

 

 

 「「ぎくぎくっ!!!」」

 

 

 くろちゃんが何気なく行った理由は二人のハートに図星として突き刺さる。

 

 くろちゃんが言ったとおり、ホームズと剣崎兵庫はこのお店の有名デザートであるいちごパフェを食べに来たのだった。

 しかし彼らがそうしなければいけなかった理由はよくわかる。なぜならこのお店は女性の花園的雰囲気の喫茶店だったからだ。訪れる客はみんな女性ばかり。店内の内装も白やピンクでされていて、とても男性が入っていける場所、いやもう世界ではないのだ!!

 ホームズと剣崎兵庫は甘党だから、このお店のいちごパフェを食べたがっていたが、今まで入る勇気ができずにいた。現に、この店のデザート目的で入ろうと決心し、店内に入った男性がいたが、ものの1分も経たずに号泣しながら外に出てきたのだ。そして散り際に『男ってのは…、不憫だなぁ~…。ガアクッ。』と残して去っていった。

 

 それ以来、この店は”男殺しの花園”と呼ばれていた。

 

 そんな中、ホームズ達はイベントクエストの報酬ガチャで女性コスをゲットしたため、これならあの店に入れる!!と気づき、念願だったパフェを食べる事に成功した。

 だが、一つ誤算があるとすれば、この店に今、くろちゃんとちゃにゃんがいた事だ。店内に入ってすぐ、くろちゃん達と鉢合わせし、女装について聞かれそうになったため、曲芸一座の話をし、話題を逸らす算段だったのだ。

 

 そして油断したために今に至る…。

 

 

 こうして、女装がバレたホームズと剣崎兵庫は他の女性客にもバレ、いちごパフェをテイクアウトし、肩を落とし、ひどく落ち込んだまま店を去っていった。

 

 

 「おいらたちの夢は…、儚かったな~。」

 

 

 「おう…。そうだな~。」

 

 

 異様に落ち込みながら、二人はギルドに帰り、ホームの隅のテーブル席で涙を流しながら、テイクアウトしたいちごパフェをじみじみと食べるのだった。

 

 

 

 まさに、いちごパフェで最後の晩餐的な光景だったそうだ。

 




世の中には入りたくても入れない世界ってあるんだよ…!!



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ツイている運?

「よし!!おいらは運がいいぜ!!」

…あれは運がいいというよりも、な…フゴっ!

「おいらの勇姿をこの後、見せてやるぞ!!キラっ!!」←歯が光る

…分かった。その雄姿とやらを見せてやろう。たっぷりとね。
では、どうぞ!!


 

 

 

 

 「お~~い!!みんな~~!!やったぜ!!ついにゲットした~~!!」

 

 

 ものすごい勢いで玄関のドアを開けて駆けこんで帰ってきたホームズは目をキラキラさせてステージに立ってマイクを握る。

 

 

 「どうしたんだ?そんなに目を輝かせて…。まさかとんでもない買い物したとかいうんじゃないのか?」

 

 

 「朝からそんな大声でマイクを通さないでほしいな~。」

 

 

 「そうだよね~。こっちは気分よく寝てたのに…。よほど命はいらないと見える…。くくくくく…!」

 

 

 「ちょ!!御神っち、落ち着いて…ね?寝起きなのはわかるけど、ほーちゃんの話聞こう?それから一発突進お見舞いしてからまた寝ればいいから。」

 

 

 「………なんか泣けてくるよ。おいらは凄い事してきたのに…!」

 

 

 ほろりと泣き顔を見せるホームズをみんなは宥めつつ、ホームズの話を聞く。ただし、さっきの言い分は謝らず。

 

 

 「みんな!!これを見てくれ!! なんと……!!あの今大人気の”カバルレ・サマダ大サーカス”の特別席鑑賞チケットを手に入れたんだ!!」

 

 

 てかてかと掲げられたホームズの手にはピカピカに光る金のチケットがあった。それを見たみんなは衝撃を受け、歓声を上げる。

 

 

 「うおおおお!!すげ~~!!ホームズ、どうしたんだよ、そのチケット!!それはなかなか手に入らないレアチケットだよ!!」

 

 

 興奮して鼻息をただ漏れするサガットが金のチケットをまじまじと凝視して聞く。

 

 

 「フフフ…。これはイベントクエスト限定購入アイテムルーレットで見事ゲットしたんだ。まさか当たるとは最初は全然思ってなかったんだ!!」

 

 

 イベント限定購入アイテムルーレットとはイベントクエストと連携してコラボされたもので、今開催されているイベントだけにしか使用できない魔法アイテムを金額を払う事でルーレットを回し、手に入れられるという企画だ。イベント限定アイテムをゲットすれば、かなりの好成績を援助してもらえるため、お金にゆとりのある人にはアイテムを確保するために大金を注ぎ込み、ランキングに反映している。しかし、一回回すにもそれなりの金額を使うため、時と場合と…、お金を考えなければいけない。

 

 そんな企画のルーレットだが、イベント限定アイテムだけが手に入る訳ではない。付属として抽選おみくじもしていて、一等から順々に豪華賞品がゲットできる。そして、一等はそう、ホームズが手に入れた”カバルレ・サマダ大サーカスのプレミア特別席鑑賞金のチケット”なのだ。一日一名しか当たらないもので、まさにプレミアだ。

 

 

 「いや~!!当たった時は嬉しかったな~!!なにせ、当たった瞬間、花火がぱぁ~って打ちあがって、紙ふぶきも舞って、みんなから拍手ももらってさ!!

  写真撮影も頼まれちゃって、テレビのインタビューもされちゃって~~!!もう~~!!有名人は大変だぜ!!」

 

 

 ポーズをとって照れて自慢するホームズにみんな沈黙し、耳打ちし合う。そして次の瞬間、ホームズの手に持っていたチケットが消えた。

 

 

 「あれ…?………ああああああ!!ない!!」

 

 

 「ホームズ、ありがとう!!これは私が頂いておく!!」

 

 

 そういったホムラの手には金のチケットが!!

 

 

 「ああ!!ずるい!!私も行きたい!!」

 

 

 「ホムホムだけで行かせるものか~~!!」

 

 

 ホムラがチケットを奪った事でみんなの我慢していた欲のスイッチがオンになり、チケットの取り合いになる。そしてこの取り合いが普通の拳での殴り合いの末でのゲットという訳ではなく、まぁ…、みんな、魔法師だから想像つくというか…。

 チケット争奪戦が魔法対戦となりギルド内で勃発した。

 

 

 「や、止めてくれ~~!! それとみんな聞いてくれ!!まだ肝心な事を…ぶへぇ!」

 

 

 慌てて乱戦勃発する戦いの中に飛び込むホームズは流れ魔法弾に直撃を受け、吹っ飛ばされ、壁に人型のアートを残す。打たれ強い身体でそれほどダメージはないが、何度も突っ込んでいく度にボロボロになっていくホームズは我を忘れているみんなを止めるのはもはや不可能かと途方に暮れかけたその時、1人だけみんなの争奪戦を端で観戦する火龍人を見つける。そして火龍人が得意とする魔法を思い出し、生気を復活させる。

 

 

 「火龍人!!ごめん!!力貸して!! 」

 

 

 「あれ?ホームズさん、何?」

 

 

 「あれをみんなにしてほしい!!今すぐ!!」

 

 

 「あれ…、ああ、うん。別にいいよ。ポテチ3袋分ね。」

 

 

 「う…。分かった。後で買ってくる。お願いします。」

 

 

 交渉成立した火龍人は食べていたポテチを平らげて、携帯型CADを操作する。そして発動したのは、『梓弓』。

 情動感情系の系統外魔法でみんなの昂った感情を鎮圧する。

 

 火龍人のお蔭で、みんなが記憶が途切れたみたいに落ち着いたところで、ステージでマイクを握ってホームズが語りかける。

 

 

 「みんな、最後まで話聞いてくれ。このチケットは一人だけ鑑賞する者ではないんだ。これは当選者が所属するギルド全員での鑑賞込の物なんだ!!だから、みんながサーカスを見に行ける!!

  分かったら、CADは仕舞って!!」

 

 

 いつの間に取り返したのか、ホームズの手には金のチケットが握られていた。そしてホームズの言いかけていた言葉を聞いて納得したみんなは笑い合って感動し、ホームズを称える。

 

 

 「なんだ~~!!それなら早く行ってくれればいいのに~。」

 

 

 「水臭いな~。」

 

 

 「………人の話を聞かずに、争奪戦仕掛けた人が良く言うな。」

 

 

 ばつが悪そうにホムラが乾き笑いをしたところで、るーじゅが恐る恐る手を挙手する。

 

 

 「どうしたの?るーじゅちゃん。顔が真っ青だけど。」

 

 

 代表でくろちゃんが尋ねてみると、るーじゅが更に唇を震えさせながら、みんなに言う。

 

 

 「あの~…、さっきの争奪戦でギルド内が…、大変な事になってますけど…。」

 

 

 るーじゅの話を聞いて、ギルド内を見渡すみんなは徐々にるーじゅと同じく顔を真っ青にする。

 魔法戦闘したため、テーブルは粉々、モニターも煙を上げている。しかも床は水浸し。壁や天井も焼け焦げや衝撃を受けてのヒビや破壊が見られ、早く元に戻さないと崩壊する危険があるほどの酷い有様だった。

 

 

 「これは……」

 

 

 「やばすだね…」

 

 

 「ハハハ………」

 

 

 この事態を見て、その張本人たちのみんなはもはや笑ってはいられなかった。

 

 

 「ねぇ…、ホームズ…。」

 

 

 「何…、かな?」

 

 

 「そのチケットって…、期限はいつ?」

 

 

 「今日のナイトステージ。当選したその日に使用しないといけないから…。」

 

 

 ホームズの衝撃的発言を聞いて、立ち尽くしていたみんなは一斉に片付け、掃除を開始する。

 

 

 「早くっ!!片付けるんだ!!」

 

 

 「せっかくのショーが台無しにっ!!」

 

 

 「それだけは絶対いや~~~!!」

 

 

 「なるべく再成出来るものはするから、持ってきてくれ!!」

 

 

 「うううぅぅ!!」

 

 

 こうして、大がかりな掃除をし、何とかナイトステージまでに間に合ったみんなは曲芸一座に着いた時、げっそりとした表情で並んで訪れ、他の観客を怖がらせたのだった。

 

 

 サーカスを見る事でその表情に元気を取り戻し、笑顔で楽しめるように祈っておこう。

 

 




獲物を目の前にした狼は理性がなくなると襲うのと一緒だね。

ホームズ「いやいや!!そんなのと例えてはだめだ!!そんなもんじゃ…ないから~~!!」

バタンっ!!

服も体もボロボロになったホームズはかなり巻き込まれた感を満載にして、倒れた。そして床にタイミングメッセージを残す。『ROSE』って…。

そして、私はそのダイイングメッセージを一部消し、書き直す。『LOSE』と。

 (ホームズが意識を手放した時、みんなは急いで掃除していましたとさ)

 ふむ?あ、ダイイングメッセージをタイミングメッセージにしちゃってる。…ま、ある意味間違ってないし、いっか!


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魔法の魅力

魔法と曲芸がコラボした芸をどうぞ!!

というと、かなりの演出をしないと…。上手く表現できるかな?


 

 

 

 

 ホームズの持ってきた幸運により、ROSEみんなは大人気曲芸一座”カバルレ・サマダ大サーカス”の特別席で迫る開演を心待ちしていた。

 

 曲芸一座のパフォーマンスが見れるテントの中の会場は既に人で埋め尽くされていた。会場は階段状に設置された客席がぐるっと円形の形をしており、その中央に開かれた場所が曲芸一座がパフォーマンスするステージ、舞台となっている。その舞台での曲芸を一番綺麗に、近くで見れる特別席にROSEみんなが座っていた。

 

 来るまでの怒涛の戦闘や掃除で今日は地獄を見たため、最後くらいは最高のショーを見て穏やかに眠りにつくのだとなぜか意義込む。しかし元を垂らせば、その原因はみんなにあるとは思うけどね。

 ホームズも本当の事を話せば、あの争奪戦は起きなかったかもしれない。あの時、偶然にも一回のルーレットで当てたと鼻高々に言っていたけど、本当は当たるまで何回もルーレットを回したのだ。後ろのルーレット待ちの長蛇の列ができ、待ち人の不満や罵声を受けてもなお、回し続けた。そしてようやく手に入れた物だった。

 そうした理由もくろちゃん達と話していた曲芸一座にみんなで一緒に見に行こうって言っていた約束を叶えるため…。

 

 だから、気恥ずかしいからと嘘つかなくてもよかったのに…!!でも、みんなのためにいつも一肌脱いでくれるホームズだからね。ホームズは言う気はないみたいだし、寝た子を起こすっていうのも悪いから黙っておこう。

 

 

 話が逸れてしまったが、その甲斐あって、開演時間になり、今まで客席を照らしていたライトが消えた。そして、ぼんやりと光る中央のステージの光だけは暗闇になった会場で客席から無数のほんのり温かみのある小さな光が飛び上がり、暗闇の中を華麗に舞いながら、中央のステージに向かう半数の光が集結していき、光のオプシェを作った時、弾けた光の中からこの曲芸一座の団長であるカバルレ・サマダがお辞儀をして現れた。弾けた光玉は客席側にある天井スタンドに真っ直ぐと吸い込まれるように入っていき、灯りをともす。

 

 

 「今宵お集まりくださいました紳士淑女の皆様、ご来場誠にありがとうございます。皆様はテレビ等で御存じかもしれませんが、『実は私…、テレビは見ないんです!!』という方がいるかもしれないので、自己紹介させていただきます。

 私、この曲芸一座”カバレル・サマダ大サーカス”の団長、カバレル・サマダと申します。一座の名称に自分の名を入れているではないかと突っ込まれると恥ずかしい限りです。

 ですが、一座に自分の名を付けたくなるほど、これから皆様に魅せるショーに自信がるのです!!

 その自信を今から証明いたしますので、どうぞ最後までご堪能ください!」

 

 

 団長の前座の挨拶で観客の心を手繰り寄せる。

 

 

 「団長、中々の策士だな。何気ない仕草と言葉で観客に期待させるとは。」

 

 

 「さてさて、どんなのが出るのかな!楽しみだな~!!」

 

 

 みんなもうんうんと頷いて、団長が被る帽子から鳥型CADロボットが現れ、軽く団長と漫才をして、パッと消えた。そしてその後に出てきた曲芸魔法師や道化魔法師が物凄い演出込みでサーカスを盛り上げ、観客はその魅力に取り込まれ、喝采を投げる。

 

 

 

 

 その喝采はサーカスが終わっても熱気を帯び、興奮した観客はアンコールを何度もするくらい。そしてナイトショーが終わって、観客が帰路につくとき、皆々が先程の曲芸の話で盛り上がりながら歩き出していた。それはROSEのみんなも例外ではなく…。

 

 

 「もう最高!!特に炎獣使いのドレーナさんはもう感動的なパフォーマンスだったし、虜になっちゃった!!なんだって、炎で猛獣を作り出して、ループを潜り抜けてたり、踊りだしたりするもんね!!それにそれに!!炎獣の中でも一際目立ってた、あれはエースだね!最後の締めくくりに出した火炎放射での花火は迫力満点で、凄かった!!」

 

 

 「いや~、俺はその後に出てきた水バルーンのウォンとターン双子の水中曲芸がよかったな~。双子だから息ぴったりとあっててさ。テント中にたくさんの水玉作ってさ~。あれは振動・収束系魔法かな?まぁ、とにかくその水玉を行き来したり、水で風船芸を披露するみたいに観客の要望を即席の歌付きで作り出すもんな。あれで子供たちのハートはゲットだぜ!!他にも水玉を転がしながらその上を歩いて、水玉でジャグリングするしよ!!」

 

 

 「僕は観客が瞬間移動した後に、整形したんじゃないかってくらいのメイクと衣装で現れた時はビックリした。」

 

 

 「私は全ての構成に驚きと感心に満ち溢れたよ。最初から最後までがストーリ仕立てになっていて、最後は観客をも参加させて一体感を作り出すあの雰囲気作りに見習わないとって思ったね。」

 

 

 みんな自分の感想を言い合って魔法にも色々な使い方があり、人々を幸せにすることもできると改めて感じ、魔法の魅力を実感したのだった。

 

 しかし、そんなワイワイできる時は終わりを迎える。なぜなら・・・

 

 

 

 

 

 「だ、だずけて~~~~!!!」

 

 

 ギルドに戻る道を歩くみんなは子供の助けを求める声を聞き、辺りを見渡す。そして、正面から足音がどんどん大きくなってきて、全員目を向けると、曲がり角からまだ幼い男の子が現れ、こっちに向かってくる。血相を変えて走り寄ってくる子供を胸の中で抱きしめる。ミナホはしゃがんで、男の子の様子を観察する。他のみんなは男の子が現れた曲がり角を凝視し、CADに手を置き、すぐに迎撃できるように構える。

 

 

 「僕?大丈夫?何かあったか話せる?」

 

 

 声のトーンを柔らかくして、優しく微笑み、男の子を落ち着かせて助けを求める理由を尋ねる。すると、男の子から衝撃的発言を聞くとともに、曲がり角から人影が現れる。

 現れたのは30代半ばくらいの顎髭が少し生えていて、痩せこげた男だった。その男の手には包丁が握られている。しかし、目は生気がない。

 

 

 「ぼく……、ぼく!!ぼくのパパが!!おかしくなっちゃった!!

  ぼくを…、こ、こ、こ、こ、殺すって!!」

 

 

 

 ROSEのみんなは突然起こったこの事態にどう対処するか躊躇い、額に汗をにぎみ出すのだった。





楽しい事もすぐに終わって、巻き込まれる…。これはお決まりになってるね。


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引き裂かれた親子

狂気サーカス編、行きますぜ!!





 

 

 

 

 

 

 「ショウリン~、サアカエロウ…。オイデ。」

 

 

 男の子の父親が包丁を持っていない手で男の子に手を差し伸べる。しかし、ショウリンと呼ばれた男の子はミナホの胸の中で固まったまま動こうとはしない。寧ろ嫌がっていて怯えている。

 

 

 「もしかして、これっていわゆる児童虐待ってやつ?」

 

 

 「それだったら、許せないね!」

 

 

 「でも、傷をつけないように取り押さえて警魔隊に身柄を引き渡さないと。一般人みたいだし。」

 

 

 「そうだね。まずはあの包丁を取り上げて、羽交い絞めしてやる!」

 

 

 状況判断で取り押さえようとみんなが刺激しないように徐々に近づき、両手を広げて何もしない事をアピールすると、今まで黙っていた暁彰が顔つきを凶変させ、大声でみんなに声かける。

 

 

 「とまれ!!それ以上、近づいてはだめだ!!」

 

 

 「どうしたんだよ、暁彰!相手はただの一般人だ!」

 

 

 「いいから言うとおりにしてくれ!!警戒態勢はみんな取っていてくれ!!」

 

 

 いつもより声を荒げている暁彰の緊迫した表情に何かあると直感したみんなは言われたとおりにCADやアイテムに手を翳し、距離を保ちながら警戒態勢を取り続ける。

 

 みんなの動きを確認し、暁彰はミナホに男の子を連れて、警魔隊の駐屯所に行って応援を呼んでくるように頼む。ミナホも暁彰の異様な感じに何か考えがあると気づき、男の子を連れてこの場を離れる。暁彰はミナホと一緒に行くようにとるーじゅと火龍人にも指示し、二人は頷いてミナホと男の子の後を追う。

 

 ミナホ達を見送った暁彰は残ったみんなの所へ行き、みんなと同じく男の子の父親と対面する。

 

 

 「暁彰、どういう事か説明してくれるよな。」

 

 

 「相手一人に私達は17名…。多勢過ぎるよ…。」

 

 

 「ああ、一般人を取り押さえるにしてはこっちが悪役になるんじゃねぇ?」

 

 

 「まぁ少し、おかしいとは思うけど、虐待するような奴はあんな感じじゃないの?」

 

 

 父親から視線を外さず、暁彰に理由を問いかけるみんな。みんなが疑問に思うのは最もで、いくら自分の子供を虐待するやつが許せないからと言って、これはまるでリンチに思えてもしょうがない状況だ。

 しかし、暁彰だけは険しい表情を浮かべたまま、不快な物を見る目付きを父親をみつめる。

 

 

 「ごめん、みんながそう思うのも無理はないけど、こうするしかもう方法はない。

  ……さっきの男の子には悪いが…」

 

             ...

 言葉を詰まらせる暁彰はあの時の事を思い出す。

 

 また、同じことを繰り返そうとしている自分がまったく嫌になる…。

 

 

 「暁彰、大丈夫?」

 

 

 くろちゃんの心配そうに声かける言葉に我を取り戻す暁彰。平気だと言って、これから行う事に覚悟を持って、みんなに自分が見た事を伝える。

 

 それはROSEのみんなにとっても許せない現実だった。

 

 

 「あの父親は……もう死んでいる。もう彼は生きてはいない…。」

 

 

 暁彰の口から明らかになった事実に全員衝撃を受け、目の前の男を凝視する。

 

 

 「嘘、だろ?」

 

 

 「そうだよ、動いているじゃない!?」

 

 

 「ああ、今だってあの男の子の名前を言ったぞ! 意思があるじゃないか!?」

 

 

 みんな口々に驚きを隠せないまま、否定する。その言葉を聞いてなお、暁彰は警戒と悲哀の入り混じった表情をする。暁彰も否定したい思いだが、自分がこの眼で見たこれは現実を告げていた。

 

 

 「いや、嘘じゃない。俺はこの眼で、タツヤ族遺伝異能『精霊の眼(エレメンタルサイト)』で彼の構造を見た。

  彼は今、生命エネルギーを死体に循環されている。例えるなら…、死者でありながら生命がある死体?ってとこか。まさに生命そのものを弄ぶ忌まわしき魔法を彼は掛けられている。そのせいか、記憶も知識も薄れていっていて自分がもはやだれかはわかっていないだろう。」

 

 

 「そうか…、『精霊の眼』を使ったなら納得できるけど、そんな魔法、存在するの?」

 

 

 「あるから目の前に存在するんだろ?それに俺達はこういう事をする奴らがいる事も知っているはずだ。」

 

 

 「でもさ!完全なる死体じゃないんだよね!?なら、助けられるんじゃない!?

  その魔法の起動式を取り外せば、意識だって…」

 

 

 ホムラとサガットが暁彰の説明に納得し、今までの経験から闇ギルドの仕業だと推測する。そして動きを止めるため、魔法を発動しようとする。それを鳥になる日が止めて、何とか助けようと提案する。しかし…。

 

 

 「本当ならそうしたいが…、もう手遅れだ。

  彼の心臓部分にその起動式が刻み込まれていて、心臓の動きを止めないと…、要するに心臓を潰さないと彼はなにがあっても動き続けるように起動式に細工されているようなんだ。解除しようとしても、されそうになっても、自害するようにも組み込まれている。だから…、何もしなくても潰しても彼はもう死んでいるんだ。」

 

 

 苦しそうに男の状態をみんなに告げる暁彰は今からする事に嘆いた。

 

 そして、暁彰と同じくROSEのみんなも手の打ちようのない状況に救えないもどかしさを感じながら覚悟を決めていく。

 

 





苦渋の決断をするみんな。

これは切ない結果だな。


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悲痛の救い

十字架を背負うのは犯人だ!!ふが~~!!(怒)


 

 

 つらい現実をみんな受け入れ、臨戦態勢を取る。もちろん、そこにはくろちゃんもちゃにゃんも同じだった。しかし暁彰は二人に記録係としてビデオ撮影しておくように頼む。本当は二人を下がらせようと思っていたが、くろちゃんもちゃにゃんも残る事を頑なに譲らなかったため、せめて後方に回そうとして決まった人選だった。

 

 相子視覚認識対応型カメラを元々サーカス鑑賞のの際に撮影しようと持ってきたカメラがこんな形で役に立ってしまう何とも言えない感情に苦笑するくろちゃんは男にカメラ視線を合わせて、改めて暁彰が言っていた事を理解する。カメラに映る彼は一般人にしては強すぎる相子を放出し、さらに拡大化した映像には服から見える肌に直接刻まれたと思われる起動式が放出する相子で光っていた。

 その映像を後ろから見ていたちゃにゃんがみんなに伝える。

 

 

 「みんな!! 彼は既に有り得ないほどの相子を纏っているにゃ!恐らく生命エネルギーが尽きてきているみたいにゃ。」

 

 

 「何だって。それはまずい。彼の生命エネルギーが底を尽きれば、暴走して通り魔に…、いやもっと酷い惨事になるかもしれない。」

 

 

 「もう時間がないって事だね、一気に蹴りをつけよう!」

 

 

 「後衛担当は前衛のバックアップをお願い!!」

 

 

 準備を整えると、男は今までふらふらと立っていたのに急に突進し出した。前衛の御神、ホムラ、ホームズ、サガット、hukaは横に躱し、驚きを見せる。一般人ならまずは無理だろう速さで突進してきた彼の動きに意外感を持って、驚いたからだ。

 

 

 「見た目に比べて瞬発力が凄いぞ!」

 

 

 「もしかして、生命エネルギーを身体に流し込んだりして、身体能力を上昇させている?」

 

 

 「その可能性もあるね。これはもう魔法師との戦闘として考えた方がいいかも。」

 

 

 自分達の見た先程の動きに対して見解を言い合いながらも男の突進を悉くと躱し続ける前衛。この動きを見極め、どうやって心臓を貫くか作戦を頭で練り上げていると、男は今度は包丁を曲線投擲で真上から御神に向かって、猛スピードで落ちてきた。御神は大きく横に飛び、御神が今立っていた場所に包丁が突き刺さる。しかし、その落ちていく包丁にはかなりの威力がかかっていた事をホムラとサガットは見抜いていた。

 

 

 「まさか、移動系魔法で加速させたのか?」

 

 

 「一般人が魔法を使ったのか?」

 

 

 だから二人は包丁の曲線投擲をしてみせた男が信じられずに呟いたが、ちゃにゃんが言っていた事を思い出し、本格的な戦闘態勢へと移行する。

 

 

 「そうだった…。魔法の元となる相子を纏っているという事はイコール、魔法が使えるって事だ。何で気づかなかったんだろう。」

 

 

 「彼が使えるというよりは彼を媒体に魔法発動するって事じゃないかな。しかし、彼をこれまでにした奴がますます許せんな。」

 

 

 「必ず見つけて、成敗してやる!!」

 

 

 ホムラとサガットの指摘に他の前衛が見解を述べ、未知なる邪悪な魔法とそれを生み出し、彼を操る姿なき黒幕に怒りを露わにし、ついに止めを刺すため、動き出す。

 

 

 

 まず、ホムラとhukaが動く。ホムラが『水龍』を発動し、空気中の水分を振動させて水を作り出し、流体操作で龍のように水を操る。そしてhukaは近くの街灯の火を利用して、周囲の振動、運動エネルギーを使い、加速する事で、更に火を加熱による増幅をし、ホムラと同じく流体操作で炎を操る。そしてホムラとhukaは男の周りに渦巻きのように囲み、水と炎の竜巻を作り上げる。動きを封じ、体力も奪う。サーカスの時の炎獣のショーと水バルーンのショーが交代する時に同じようなパフォーマンスがあり、それを参考にしたのだった。

 

 そして動きを封じられた男は雄叫びを上げ、纏う相子を掌に圧縮していく。相子の圧縮弾を連弾しようとするが、後衛に回っていた暁彰が『術式解散』で霧散させる。それだけでなく、纏っている相子を『術式解散』で吹き飛ばそうとするが、接触型術式解体らしく、上手く取り払う事が出来ない。そこで、御神が穴が開いている上空から水と炎の竜巻の中に突っ込み、男と格闘戦をする。拳や蹴りに無系統魔法で振動を与え、徐々に相子を散らせていく。男はそれなりに格闘術を身に着けており、御神の攻撃を腕や足を使って防御する。しかし、やはり実戦経験と運動の差で御神が圧倒的に有利な展開だ。

 

これで押していけば、纏っている相子を分散できると思っていたが、最後の足掻きとして男は右腕に全ての相子を集めていく。男の腕は視覚的にも筋肉が異常なほどの膨らみを見せた。それを見て、さすがの御神もこれを喰らうとまずいと判断し、急いで防御魔法を自分自身に掛け、後衛のRDC、toko、ルーも防御魔法や補助魔法を御神に掛けてサポートする。そして溜めきった相子を解放し、放たれた相子弾…というより相子ビームは防御魔法のお蔭で何とか受け流せた御神は自分の身体で隠していたホームズにバトンタッチする。

 

 御神の身体の陰から突然現れ、目にも止まらない速さで男に接近するホームズは硬化魔法で腕を硬化すると、思い切り破壊力抜群の鉄拳を男の頬に喰らわす。そのまま後ろへ激しく飛ばされる男を待ちわびていたのは、止めの魔法発動の準備を整えて待っていたサガットだった。

 

 サガットは路地一帯をし~ちゃんに霧を出してもらい、湿度を高めた後、『這寄る雷蛇』の改良版で雷の網状にして殴り飛ばされて突進してくる男を受け止め、麻痺させた後、雷を密集させていた別の『這寄る雷蛇』が男の心臓目掛けて蛇のようにくねりながらも獲物を逃さずに男の胸に、背中まで貫通していき、穴を空ける。

 

 男の身体から相子に変換させられていた生命エネルギーが相子光となって、男の身体を天に召させるように包み込み、抜けていく。

 

 そして男は四肢から力が抜け、膝を付き、俯せで倒れる。

 

 男は今度こそ完全な死体と成り果ててしまった。

 

 

 それを『精霊の眼』で確認した暁彰は頷きだけですべて決着がついたことをみんなに伝える。暁彰からの無言のメッセージを受けたみんなはもう動かない男の死体に黙とうをする。

 

 

 その後はミナホの通報を受けて、警魔隊が現場にやってきて、くろちゃん達が撮影してくれていた映像を元に一連の説明をし、事情聴取を日が跨るまで受ける事になった。

 

 警魔隊も出動前にミナホからある程度の話を聞いていたらしく、説明を受けてすぐに納得してくれた。

 

 事情聴取が終わり、ギルドに戻ったみんなは男の子の将来について考えて眠れず、そのまま夜を明かした。

 

 

 

 

 

 こうしてROSEのみんなはこの日だけで善と悪に染まった魔法を目にする事になったのだった。

 

 




ところで、どこで戦っているのかというと、中心街の路地です。

絶対に騒ぎになるって!!

やばいって!!

「おまえたち!何をしている!」

おまわりが来た~~!!


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強き心を持つ

ここまで立派な子ってなかなかいないよね…!


 

 

 

 

 眠れない夜が明けてじっとしていられなかったみんなは自棄食い、自棄飲みするために大量の料理を作りだしたり、注文したりとギルドの中で慌ただしく動き回っていた。

 そんな時にギルドの玄関が開いて、人が入ってくる。しかし、いつもなら仲間が帰ってくる度に「お帰り!」と盛大に挨拶するのに自棄になったみんなは帰ってきた仲間とお客さんに気づかなかった。

 

 

 「…これまた~朝から結構な量の料理を用意してるね…。朝から胃の調子が悪くなりそうなものまで。それに、あれはどこで手に入れてきたんだろう。豚の丸焼き…。」

 

 

 目の前のいつもと違うみんなの様子に理解はあるものの、自棄が逆に空回りしている感が半端ない光景にどう突っ込めばいいのか分からずにただ玄関先で立ち尽くすしかない。そうしていると、服を引っ張られ、お客人に微笑んで意を決して大声でみんなに言う。

 

 

 「ただいま~~!! 今、帰ってきたよ~~!!」

 

 

 「!!! あれ!? ミナホ…何で…! ああ、そうか。お帰り!!」

 

 

 帰ってきたのは昨日、警魔隊の駐屯地でお泊りしていたミナホだったのだ。ミナホのただいまコールに気づいたみんなは料理の準備の手を止め、今できるだけの笑顔で迎える。活気溢れるいつもの自由なROSEにするためにミナホもみんなのノリにのる。

 

 でも、その前に…。

 

 

 「みんな、紹介する人がいるんだ。この子から言いたい事があるみたいだから、聞いてあげて?」

 

 

 ミナホは駐屯地から帰る際に一緒に連れてきたお客人の背中を軽く押して紹介する。そのお客人の姿を見て、みんなは目を見開いて驚く。

 だってミナホに促され、前に進み出たお客人は昨日の助けを求めてきた男の子だったから。そして…、昨日自分達が殺した男の子供。

 

 みんなはどう接したらいいか、声を掛けるべきか思考停止している頭に鞭を打って、一生懸命考えていると、男の子が子供とは思えないほどのしっかりとしたお辞儀をしてはっきりと挨拶する。

 

 

 「おはようございます!! 僕、ショウリンといいます!この度は助けていただきましてありがとうございます!それで…!僕、皆さんにどうしても言いたい事があって…!」

 

 

 緊張しながらも必死に感謝を伝える律儀な姿に思わず聞いている皆も背筋を伸ばし、緊張しながら耳を傾ける。

 

 

 「僕…、僕を……ROSEに入れてください!!魔法はまだまだ未熟ですが、練習してもっと強くなります!!それまでは雑用なり何でもしますっ!!だから…!!ぼくをこのギルドに置いてください!!」

 

 

 深く頭を下げてギルド加入の申し込みをするショウリン。

 

 

 みんなは顔を見合わせ、自分達の意見が一致している事を確認し、代表でギルドリーダーのくろちゃんがショウリンの傍に行き、ショウリンの前でしゃがんで、肩に手を置く。

 

 

 「ショウリン君? 顔を上げてくれる?ちゃんと顔を見て言いたいから。」

 

 

 涙を流していたのだろう、顔を上げる前に服の袖で拭って、くろちゃんのお願いを聞き入れ、真っ直ぐくろちゃんを見つめる。

 その視線を受け止め、くろちゃんは微笑みを見せ、返事を告げる。

 

 

 「もちろん大歓迎だよ! ROSEは加入したい人は全面歓迎モードだからね!

  ショウリン君!ようこそ!!ギルド”ROSE~薔薇の妖精~”へ!!」

 

 

 くろちゃんの歓迎の言葉でいきさつを見守っていたみんなは歓声を上げて加入を歓迎する。

 

 

 そして当の本人のショウリンはまさかすんなり入れるとは思わなかったらしく盛大な歓迎にあっけにとられている。

 隣で見ていたミナホはショウリンの頭を撫でて、笑顔でホールを指差す。

 

 

 「よかったね、ショウリン! みんなも歓迎しているし、ちょうどいいタイミングで料理をできているし、お腹も空いているでしょ?一緒に食べよっか!」

 

 

 「うん!! いっぱい食べていい!?」

 

 

 「おお!!用意した料理がめでたい事に使えてよかったぜ!!よし、みんな!!このままショウリンのROSE加入歓迎会だ~~!!」

 

 

 「もう用意はばっちり!!」

 

 

 「早く食べようぜ~!!よく思い返したら、昨日の昼から何も食べてないや!」

 

 

 「それを言うな~~!! 忘れてたのに、思い出したら空腹が…!こうなったら、とことん食べてお腹を膨らませてやるっ!!」

 

 

 「また風船みたいにする気か? この前、ダイエットしたばかりだろ?」

 

 

 ワイワイと完全に復活したROSEのみんなは準備中だった料理を全てテーブルに運んでホールの飾りつけも急いで行う。それを目にしつつ、ミナホは気になっていた事を聞いてみる。

 

 

 「…ところでさ~。あの黒い物体は何?確かあそこには…」

 

 

 指で示した方向をみんなが顔を向けると、そこには黒炭になったでかい物体が焼け焦げ臭いにおいを充満させていた。ミナホは記憶を呼び起こしていた。確かあそこで豚の丸焼きをしながら、その周りを体育座りで囲んでいたみんなが心ここに非ずでいたな~と思っていると、ミナホとショウリン以外の全員が”ムンクの叫び”状態の驚愕と悲しみの顔で駆け寄る。

 

 

 「うわああああ!! なんてことを~~!! 豚ちゃんが~~!!」

 

 

 「おおおお~~~ううぅぅぅ!!すまなかった!! 豚よ!!快く食材へとなる事を了承してくれたお前をこんな…!!くそっ!! 自分がゆるせねぇ~。」

 

 

 「あの身が乗った肉もすたボロに…。哀れな姿に…。うううぅぅ!!」

 

 

 「豚ちゃん…。君の事は絶対に忘れないよ…!ちゃんと君が生きた証を胸に刻むから!」

 

 

 黒炭に向かってみんな謝罪と悲しみを言葉にし、涙を流す。それを無言で冷めた目で見つめるミナホとショウリン。

 

 

 ……つまり、丸ごと豚を焼いていたけど、焦がしてしまったのだ。

 

 

 言っておくが、黒炭豚はROSEが育てた仲間の豚という訳ではない。ただ単に精肉店から丸ごと買ったただの豚である。

 しかし、みんなはその豚を気に入っていたのだ。あの夜の出来事の後、ギルドに戻る時、精肉店のオジサンが肉を買い取っていて、そこで円らな目をした豚ちゃんが目に入り、心が傷ついていたみんなはその瞳に心を打たれ、買ったのだった。

 

 

 (でも、そんな理由で買っておきながら、すぐに丸焼きして食べるのはどうなんだ!!?)

 

 

 「…考えてみたら、炭になっているけど、黒いから黒豚だね!」

 

 

 「黒豚か~! 黒豚って値段高くてお祝い事しか食べられなかったんだ~!!あれが黒豚だったらよかったのにね。」

 

 

 ミナホとショウリンは何とかポジティブに持っていこうと話をしていると、ミナホ達の会話を聞いていたRDCがまさか…

 

 

 「あれ?よくわかったね? そうだよ、黒豚だよ。豚ちゃんは。」

 

 

 「「…………………え?…………えええええええええ~~~~~~!!!?」」

 

 

 そう、まさかの黒豚だったと聞かされ、血相を変えて二人はRDCに近寄る。

 

 

 「それは嘘だよね!? 嘘だと言いなさい!」

 

 

 「そうだ! 黒豚って高いんだぞ!?そんな黒豚を炭にしたなんて信じるもんか!」

 

 

 「嘘じゃないよ!私だっていやだけど、認めるしかこの豚ちゃんを弔う事は出来ない…。」

 

 

 「そうだよ。豚ちゃんの存在を否定なんてしたら可哀想だよ~。」

 

 

 「そこまで言うなら、証明してみてよ!」

 

 

 「わかった!証明してあげるよ!暁彰、お願い!!」

 

 

 売り言葉に買い言葉状態になり、険悪な状況になった空気の中、暁彰が豚ちゃんにCADを向けて、『再成』を行う。すると、豚ちゃんは元の丸焼きになる前の状態に復活する。そして復活したその体の色は黒かった。

 

 

 「ほら!! 黒いでしょ!? だから、これは黒豚だから!!」

 

 

 自分の主張が正しかったと証明できたRDCはミナホとショウリンに威張る。ただし、ミナホとショウリンはRDCは見ていなかった。

 

 

 「………ねぇ、黒豚、炭になってないよね…?」

 

 

 「うん…。これなら、食べれるね…。」

 

 

 「「「「「「「「「「「…………あ。」」」」」」」」」」

 

 

 復活した黒豚を見て、ミナホとショウリンの口から呟き口調で語られた思いもしなかった状況にみんなしばらく固まった。

 

 

 

 

 

 その後は、今度こそ火加減を調節して黒豚の丸焼きを作って、テーブルに並んだ料理と合わせ、ショウリンの歓迎パーティーを朝からお祝いするROSEだった。

 

 

 




ショウリンは偉いよ…!!お父さん死んだのに、生きていくために…。ぐすん!!(泣)


…それにしても、終盤はもう…、やばすだね。温かい目で見守ってください。


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感謝の言葉

さぁて、ショウリンははたしてROSEで頑張っていけるのか!?


 

 

 

 

 

 あのままショウリンの歓迎パーティーが夜まで続いて、まだ子供のショウリンはミナホに二階に案内されて、ショウリンの私室に宛がわれた部屋へと手をつないで連れて行ってあげた。

 

 昨日の夜からずっとショウリンの傍にいるミナホにすっかりと懐いているショウリンは私室に連れて行ってもらった後、部屋を出ていこうとするミナホを呼び止める。

 

 

 「…ミナホさん、一緒にいてくれませんか?」

 

 

 「……いいよ。じゃ、ショウリンが眠れるように手を繋いでいてあげる。」

 

 

 ベッドに横になるショウリンにミナホは布団を掛けてあげ、枕元近くに腰を落とし、ショウリンのまん丸い手を優しく包み込むように繋いだ。

 その暖かさにショウリンはほっとする。そして自分を受け入れてくれたみんなに言えなかった事をミナホに眠げに襲われるのを必死に堪えながら話す。

 

 

 「僕ね…。この町に住んでいるから色んなギルドの話を聞いてきたんだ…。ギルドの活躍を見る度に魔法師ってすごいなって…。僕も早く魔法師になりたいなって…。そして一番好きなギルドに入るんだってずっと前から決めてたんだ…。

  僕はね…、ROSEが好きで、憧れてたんだ…。だから…、その夢がかなってうれしい…!」

 

 

 もう目が開けられなくなったのか、瞼が閉じかかっていく。それでも、まだ言いたい事があるらしく、眠げで言葉に力が乗っていない状態で続きを話す。

 

 

 「それでね…?僕、みんなに言わないといけない事があるんだ…。だから明日、話すね…。今日は…、仲間に入れて……くれて………ありがとう…………。スゥ~」

 

 

 とうとう眠げに勝てずにそのまま眠りについてしまったショウリンの頬には閉じた目から流れ落ちる涙が筋を作り、ベッドへと落ちていった。

 

 寝落ちしたショウリンの頭をミナホは優しく撫でてあげた。

 

 父親を亡くしたばかりで辛いし、悲しいし、本当は泣きたいはずなのに、必死に抑えて、元気そうに見せていたショウリンが昔の自分に重なったミナホは夢の世界に入っているショウリンに話しかける。

 

 

 「大丈夫だよ、ショウリン。もう君は家族同然の大事な仲間だから。ここが新しい君の家だよ。」

 

 

 寝顔が可愛らしいショウリンを見て、含み笑いをするミナホも眠げに誘われて、ショウリンの手を繋いだまま、ベッド脇で眠りについた。

 

 

 

 誰も知らない二人だけの話だと安心して眠ったミナホはROSEギルドに設置された秘密のシステムについて完全に忘れ、失念していた。

 

 

 

 

 

 なぜなら、この二人の話は下の階でレッツパーティー中のみんなにも届いていた。届いていたというよりは盗撮………、温かな瞳で見守っていたという事にしておこう。

 

 

 ホールのモニターにはショウリンの私室に設置している隠しカメラの映像が今まさに映し出されていた。

 そう、ギルドの隠された秘密のシステムとはこの隠しカメラの事だったのだ。

 

 しかもこの隠しカメラはどこにでも移動可能のため、操作すれば自分達が見たい場所の映像がリアル映像で手に入るのだ。ただし、操作できる人は限定的である上、カメラ自体も制限を掛けている。なぜそんなに徹底しているのかと聞かれてももう察しが付くと思うが、この隠しカメラを私的に使用する者がいる為である。誰かは言わなくても分かるとは思う。

 

 

 まぁ、そんなわけで、この隠しカメラをそんな私的使用は絶対にしないだろうというルーちゃんが操作する事で二人の今までの会話を聞いていたのだった。

 

 

 「本当に、あの子は泣かせてくれるね~。うわぁっううう。」

 

 

 「強がっていないと自分ではなくなる感じ…、分かるな。」

 

 

 「明日、私達に話したい事っていうのが気になるけど、あのこの言葉はちゃんと受け止めないとだね。」

 

 

 「そうだな、よし!今日はもう解散して、明日に備えよう!!」

 

 

 「うん。」

 

 

 年上なのにみっともない姿を見せるのはいけないと張り切ってこの日はみんなは早めに就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、朝食をみんなで食べて、新聞やニュースのチェックをし、急ぎの仕事依頼が入っている事を確認したみんなにくろちゃんがリーダーらしく「夜に報告会を設けるので、その時に言いたい事があれば、報告するように。」と伝える。もちろんこれはショウリンが話せる環境を整えるためだ。

 

 

 そして各自、仕事を終わらせ、夕食を食べ、報告会を開く時間になった時、みんな一応今日の仕事の内容を報告する。そして全員言い終わった後、くろちゃんはショウリンに話しかけた。

 

 

 「ショウリンも何か言いたい事があれば何でも言っていいよ。もう私たちは仲間だからね!」

 

 

 「あ、あい!あっ、いえ、はいっ!! あのですね…、皆さんに言いたい事があって…。」

 

 

 指を絡ませながらどもるショウリンを可愛いと内心で思うみんなはさておき、ショウリンは意を決して話す。

 

 

 「あの!改めてあの時は僕を助けてくれてありがとうございます!そして、僕をROSEの一員に入れてくれたありがとうございます!ずっと憧れていたギルドに入れてうれしいです!!それにさっきも言ってくれたように仲間だと言ってくれて感激です!!」

 

 

 目を輝かせて熱烈に感謝の言葉を述べるショウリン。しかし子供でありながらにして真剣な表情に変わる。

 

 

 「だから仲間だと言ってくれる皆さんに僕は言わなければいけない事があります!!

  ずっとこのままにしてほしくはないから!!」

 

 

 拳に力を入れて力説するショウリン。

 

 

 

 果たして何を話そうとしているのか…?

 

 

 




確かに何かを言いたそうだけど、こんなにROSEが好きならきっとみんなにとっても悪い事ではないだろう…!多分…?


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ショウリンの秘密

「新参者ですが、よろしくお願いします!!」

おお!!ショウリン、えらいね~!!もうそんな言葉を覚えているんだ。凄い!!

「…これくらい僕も言えますよ。」

あれ?少し拗ねた?

…ではどうぞ!!




 

 

 「言わなければいけない事?」

 

 

 くろちゃんが聞き返すと、ショウリンは大きく頷く。

 

 

 「実は…ぼく…、皆さんがパパを殺した事を知っています。そしてそれが唯一の手段だったことも知っています。」

 

 

 まさかの事実を知っていた事を暴露され、ショウリン以外のこの場の全員が驚愕し、衝撃が走る。

 そして一斉にみんなはミナホに顔を集中して視線で問いただす。

 

 ”もしかして話したのか!?”…と。

 

 正確にみんなの言いたい事を視線で読み取ったミナホは顔と手を横に激しく振って否定を表す。

 

 ショウリンはみんなに疑われていると焦って、訳を話す。

 

 

 「違うんです!! ミナホさんは僕に一度も話していません!!僕が知っているだけです!!」

 

 

 「わかったよ。じゃあ、なんでその事を知っているのかな?確かあの時、ショウリンはミナホと一緒に警魔隊の駐屯所に行っていたと思うけど。」

 

 

 「それは…現場に行った警魔隊の人達が駐屯所に帰ってきた時、僕の顔を見て哀れそうに見てきたから…。お菓子や飲み物までくれたから…。それで死んじゃって、パパとはもう会えないんだって思って…。」

 

 

 「……そうか、でもさ。それだけでパパともう会えないって考えたのはどうしてなんだ?」

 

 

 「そうだよ?もしかしたら補導されてしばらく会えないって思うのが普通だと思うけど?」

 

 

 ホームズとるーじゅちゃんが引っかかった疑問をショウリンにぶつける。確かにあの状況ではまだ死んでるなんて思えなかったはずだ。自分達だって暁彰が『精霊の眼』で視なかったらそうとは分からず、錯乱状態だと思っていただろう。つまり、それだけの見分けがつかないほど、あの魔法は精巧に仕組まれた卑劣な魔法だったのだ。

 

 

 二人の疑問は最もでみんなはショウリンが何故現場にいなかったはずの出来事を知っているのか?と考えた。

 

 ショウリンはみんなが無意識に目を細めて見つめる視線に怯えつつも、その理由を答えた。それは、ショウリンが今まで隠してきた秘密に関係する事だったから。

 

 

 「………僕は魔法はまだ全然未熟ですけど…、生まれ持って異能を持ってます。それでパパが死んでいるってわかったんです…。」

 

 

 「……まさか!?」

 

 

 ショウリンの告白の一部を聞いた暁彰は何かに気づき、椅子から勢いよく立ち上がる。そしてショウリンに視線を集中し、疑念から納得の表情へと変わる。

 

 

 「なるほどな…。お前もか…。」

 

 

 「え?……………………………暁彰さんも?そういえば、同じだ…!」

 

 

 無言で暁彰を凝視したかと思うと仲間を見つけたように笑顔になった。二人だけで納得する雰囲気にみんなが首を傾げると、ミナホが嬉しそうに喜ぶショウリンに尋ねてみる。

 

 

 「ねぇ?ショウリンはなにを持っているのかな?もしよかったら教えてくれる?」

 

 

 「えっと実は…」

 

 

 「ショウリンも俺と同じ『精霊の眼』を持っている…。だから、父親が死んでいる事に気づいた。そうだろう?」

 

 

 その理由は暁彰が代弁した。それを聞いてミナホが確認のために尋ねると、ショウリンはごくりと頷いた。

 

 

 「昔から僕はこの眼を持っていて、色んな人や物を見てきたんだ。でもちゃんと扱えなくて…。この前何とか自分で視たい時に視えるように制御できるようになってきたんだ。…それでも感情が高ぶると、無意識に視てしまうんだけど…。」

 

 

 「『精霊の眼』は膨大な情報が入ってくるからな。その年である程度扱えているのは大したものだと思うがな。」

 

 

 『精霊の眼』はこの世に存在するエイドスを認識する。幼い頃で、慣れない内から情報を読み取ろうとすると処理に手間取り、脳にダメージを負う可能性がある。しかし、ショウリンにはそのような傾向はみられない。暁彰はショウリンの将来に興味を覚えた。それと同時に危機感も芽生える。

 

 

 「ショウリン、その眼の事は誰か知っている?後、なぜそれを持っているんだ?」

 

 

 尋問するかのように瞳を細め、問い詰める。暁彰がこの異能ともいえるこの眼をギルドの中で一番知っているからこそ確かめる必要があるからだ。

 暁彰の質問の意味を理解するショウリンもまた、これは秘密性が高い事を知っているという事だ。そして本来は隠さないといけない事だが、暁彰の眼の事を知っているみんなだから、信頼できると判断し、全てを話す。

 

 

 「この眼の事を知っているのは、僕ともういないママだけです。パパは一般人だったから知らない。ママが絶対に友達にもパパにも言ってはいけないって言われていたから…。」

 

 

 

 「ショウリンとママだけ?」

 

 

 「うん…。ママも同じ『精霊の眼』を持っていたんだ。僕がこの眼をコントロールできるように指導してくれたのもママなんだ。

  そしてママは…、タツヤ族出身の魔法師だったんだって。」

 

 

 「つまり遺伝って事?」

 

 

 「ああ、タツヤ族は代々『精霊の眼』を遺伝的に受け継いでいっている。しかしこの眼の事を外部に漏らせば厄介事に巻き込まれるのは必須。だから、秘密にするようにと掟になっている。例えそれが身内でも…。」

 

 

 「パパにはバレない様に地下室でママは色々教えてくれたんだ。そして、ついこの前にママがいなくなって、パパと二人で生活する事になったんだけど、その時もなんだかおかしかったんだ。でも、昨日は特に気味悪くて生気も感じられなくて…、声を掛けてみたら、パパが……………、包丁を僕に向けて言ったんだ。『ママと同じところに行くか?』って。それで怖くなって、その時に『精霊の眼』が無意識にパパを視て、死んでいるって気づいたんだ。

  死んでいるのに、動いているから余計に怖くなって…。もうそこからは無我夢中で家から飛び出して逃げたんだ。」

 

 

 「…そして逃げている時に私達と鉢合わせしたんだね。よかった~!!あの時、出会っていて…。」

 

 

 「ああ、よく頑張ったな!!」

 

 

 鳥になる日とサガットがショウリンのあの日の行動に賞賛し、ショウリンを救えた事に安堵した。

 

 

 「だから、みんながパパを殺したんじゃないよ。パパを救ってくれたんだから。あのままの状態だったら、何をするか分からないし、パパもそんな事したくなかったはずだよ。だから、本当にありがとう!!」

 

 

 思い切り頭を下げてお礼を言うショウリン。しかし、その勢いでテーブルに頭をぶつけてしまい、ものすごい音が響く。

 

 

 「だ、大丈夫?」

 

 

 「あ、あい…。ばいびょうぶだす…。」

 

 

 フラフラしながら問題ないと伝えるショウリンに対してみんなは号泣して温かい眼差しで見つめる。

 

 

 ((((((この子…!!どんだけ強い子なの~~~~!!!))))))

 

 

 ショウリンの純粋な心に感激し、ギルドみんなの庇護欲が発動し、バロメーターをぐぐぐっと上げていく。

 

 

 「よし!!じゃ、ショウリンのパパに何があったか、調べるぞ!!」

 

 

 「おう!!俺達が暴いてやるぜ!!」

 

 

 男気が溢れ、燃え上がるホームズとtokoは姿なき者に鉄拳をお見舞いする。

 

 その熱にみんなも浸食し、ショウリンのためにこの事件を解決するべく立ち上がるのだった。

 

 

 「ショウリン!!お父さんがおかしくなる前に何か身の回りで何か起きなかった!?」

 

 

 そしてくろちゃんはテーブルに身を乗り出し、ショウリンに聞く。しかし…

 

 

 「すううぅぅぅぅ~~~~~…………」

 

 

 「…あれ?寝ちゃった?」

 

 

 ショウリンはミナホの腕の中で寝てしまっていた。

 

 

 「ああ…、ほら、いつの間にかこんな時間だよ。ショウリンはまだ子供だから。さすがに眠たいよ。」

 

 

 ミナホが指差した時計を見ると、確かに子供が眠っている時間を大きく超えている。もう日付も変わりそうな時間だった。

 

 

 「わかった…。ショウリンもよく話してくれたもんね。また明日にでも聞こう。」

 

 

 「そうだね。……それにしても~。ショウリンの寝顔可愛い!!ほっぺがぷにぷに!!」

 

 

 「ホントだ~~!!なんだか癒される~~!!」

 

 

 「ちょっとだけならツンツンしても~(鼻血)」

 

 

 「ちょっとみんな待って!!落ち着いて~~~!!」

 

 

 ショウリンの天使な寝顔に萌えたみんなは鼻血を垂らしながらミナホに接近してくる。ミナホはショウリンをおぶって、一目散に二階へと避難するため逃げる。しかし、その後をハイエナの如く、追いかけるみんな。

 

 

 「もう!いい加減にして~~~!!」

 

 

 二階のNST対策トラップを発動しながらミナホは逃げまどい、いつもと同じROSE恒例の追いかけっこが始まった。

 

 ショウリンはそんな事が起きているとは露にも知らず、(寝ているんだから当たり前だけど。でも、これだけ騒がしかったら起きるんだけどね。)すやすやとミナホに背中で朝まで眠り続けた。

 

 そしてミナホはというと…。

 

 ショウリンが起きるまで追いかけてきたため、休む間もなく逃げていたから、ショウリンが起きると、その場で屍となったのだった…。

 

 (ご愁傷さまでした…)

 

 

 「勝手に殺すな~~~~!!!」  がくっ…!+




死体操り事件に新たな手掛かりが見つかるでしょう!!


ROSEの悪物成敗がまた始まるぞ!!


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思いもしない手がかり

ショウリンが徐々にROSEに馴染んでいくな~。
いい事だな~。


 

 

 

 ショウリンがずっと秘密にしていた『精霊の眼』について話してくれた翌日。

 

 

 朝食を食べ終わったみんなはショウリンに早速手掛かりになりそうな情報を得ようとショウリンの話に耳を傾けた。

 

 

 「ショウリン!! 何か最近変わった事とかあった!?」

 

 

 「不思議な事があったとかでもいいよ!?」

 

 

 「それって、結局意味は一緒じゃん!!」

 

 

 「いつもはしない事とか…!!」

 

 

 ぐいぐい聞いてくるみんなの白熱した問いかけに戸惑いを見せるショウリン。目の前にはお菓子が大量に置かれていて、全てみんながショウリンにあげたものだ。

 もらったお菓子を食べながら、記憶を掘り下げていくショウリンにミナホはジュースを渡す。

 

 

 「ん~とね…。パパがなんかおかしくなったのは2週間前からかな?」

 

 

 「そういえば言ってたね…。どんな感じでおかしかったの?」

 

 

 「何をしていても、ボ~っとしていて、家事や仕事にも無関心になっちゃった…。

  それで、夜にどこかに出かけて、朝になったら酔っ払って帰ってくるようになったんだ。でもあの夜は、もっとおかしかった。

  夜になっても帰ってこないから、ご飯食べようってキッチンに行ったら、電気も点けないでそこにパパが立ち尽くしていたんだ。びっくりして、悲鳴あげたけど、怒るどころか、僕にも気づいていないみたいにずっと立ち尽くしてたんだ。その時には既に包丁を持っていて、一緒にご飯作るんだって嬉しかったけど、パパが……。」

 

 

 その時の事を思い出したのか、顔色が悪くなり、慌てて御神が頭をポンポンっと撫でる。

 

 

 「ああ~! ごめん!! 辛い事、思い出させちゃってね!ごめんね!!」

 

 

 「ううん…。大丈夫。ありがとう、御神さん。」

 

 

 胸を撫で下ろす御神の後ろでホムラが顎に手を置き、何やら考えるポーズをとる。

 

 

 「って事は…、ショウリンのお父さんの様子がおかしくなったのは2週間前からって事だね。そのあたりのお父さんの行動を調べてみたら、誰と接触したか分かるかもしれない。」

 

 

 「2週間前か…。情報を集めるのは厳しいとは思うけど…。定期的に行っていた場所とかあればな~。」

 

 

 「それなら、パパがよく行っていた酒場があるよ! 」

 

 

 「そこの場所教えてくれる?」

 

 

 「うん!あっ!でも今行ってもオジサンに話を聞くのは無理かも…。」

 

 

 「どうしてなの?何かあるの?」

 

 

 「酒場のオジサン、少し前にママと同じでいなくなったんだよ。それで今はオバサンが切り盛りしてるよ。」

 

 

 「ちょっと待って!! ショウリンのお母さんって、いなくなったっていうのはその…死んだとかじゃなくて?」

 

 

 「違うよ。突然いなくなったんだ。置手紙もなかったよ。」

 

 

 ”いなくなった”の意味を誤解していたみんなは今の事実に衝撃が走る。てっきり死んだとばかりに思い込んでいたため、フリーズする。

 暁彰がいち早く復活し、ショウリンに詳しく聞く。

 

 

 「ママがいなくなったのはいつのことだ…?」

 

 

 「えっと、3週間くらい前…。そういえば、その時もパパはなんだかおかしかったような…。」

 

 

 「わかったよ…。じゃ、ショウリンのパパとママの情報を調べよう!!」

 

 

 「もしかしたら、ママがどこかに生きているかもしれないしね!!」

 

 

 「よし!!じゃ、みんな!!行くよ!!」

 

 

 くろちゃんが号令をかけ、みんなは情報集めに帝都へと乗り出す。ショウリンはミナホと一緒にお留守番。まだギルドに入って間もないショウリンは魔法師とはまだまだ未熟な子供だ。だから、もしもの場合に備えて、ギルドで待機してもらう事にした。そしてすっかりショウリンに懐かれてしまったミナホに世話を頼み、出かける前に聞いたショウリンが住んでいた住所や行きつけの酒場等へと分担して向かう。

 

 

 「みんな…、大丈夫かな…?」

 

 

 「大丈夫だよ! さぁ!ショウリンは基礎魔法学の勉強をしようか?うちが教えてあげるから。」

 

 

 「魔法は使わないの?」

 

 

 「知識がないまま、魔法を発動したりしたら、それこそ失敗して怪我をする可能性が高くなるよ。だから、まずは魔法とは何か、学ばないとね!じゃ、これを読んでみて!!」

 

 

 そう言ってショウリンが受け取った本は”ものすご~く分かりやすい基礎魔法学入門書”だった。今まで”眼の力”のコントロールばかりをしてきたから、魔法はまだうまく使えないショウリンはまたママに会えるかもしれないという想いを募らせ、ミナホとの勉強を取組む。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 一方、中心街に辿り着いたみんなは分担し、情報を集めていた。しかし思ったような手掛かりは得られず仕舞いだった。というのも、聞きたい人とは都合を付けられたり、いなかったりと話を聞けないのだ。

 途方に暮れ、困っていると、くろちゃんと行動しているちゃにゃんが提案する。

 

 

 「ね、くろちゃん? 念のため、ショウリンの実家に行ってみたらいいかも。何か手がかりに繋がる物があるかも。」

 

 

 「…そっか!じゃ、場所も分かっているし、行ってみよう!その後、他の場所で情報収集しているみんなと合流しよう!!」

 

 

 そして二人はショウリンに教えてもらったショウリンの実家へと足を向かわせる。

 

 

 

 ショウリンの家は中心街にある住宅街の一角にあった。鍵となる起動式はもらっていたから、すんなり中に入ったくろちゃんとちゃにゃんは誰もいない家の中を捜索し始める。

 

 余談だが、帝都の住宅には家一つずつに無系統魔法のロックシステムが備わっていて、それが鍵の役目を担っている。家の中に入るにはその起動式を玄関の認識コード盤に読み込ませるのだ。ちなみにこの起動式を知るのはその家に住む住人と起動式を徹底管理する帝国直轄警備庁のデータバンクの中だけ。

 だから帝都での強盗検挙率はほぼ0%といっていい。

 

 

 まぁ、そんな訳で、話を戻す…。

 

 

 鍵を開けて、家中を捜索するくろちゃんとちゃにゃんは違和感を感じていた。

 

 家中をくまなく捜索し、手掛かりになりそうなものを探していたが、妙に片付いてい過ぎる事に違和感を感じたのだった。

 

 

 「くろちゃん…。これってなんだかおかしくない?」

 

 

 「ちゃにゃんもそう思った?まるで証拠隠蔽を謀ったみたいなすっきりさだよ…。」

 

 

 ちゃにゃんは棚の上を指でなぞり、それをくろちゃんに見せる。その指には埃も塵も一つもついていなかった。

 

 

 「ショウリンにこんなに高い所なんか掃除もできないし、ましてや魔法を使ってそうじなんかできないにゃ。」

 

 

 「うん…、ショウリンのお父さんも家事をしなかったようだし、お母さんも3週間前に行方不明になって、帰ってきていない…。それなのにこんなに綺麗に掃除されているのは不自然だよね。」

 

 

 「私達が来る前に誰かが来たのかにゃ?」

 

 

 「そうかもしれない。一応、警魔隊の駐屯所にも行ってみようか。もしかしたら捜査等で家宅捜索していたのかも。」

 

 

 手掛かりになりそうになる物がないと判断し、警魔隊の駐屯所に行こうとしたくろちゃんとちゃにゃんは壁に飾っているショウリンの家族写真に目が移る。そこには家族が幸せそうに笑って、写っていた。

 

 しかし、なぜか傾いていた。しかも、その下の写真立達も雑に置いてある。

 

 

 「何でここは大雑把なんだろう?」

 

 

 「きっと、片付けした人が違うんだろうね…。」

 

 

 呆れつつもくろちゃんは壁の家族写真を綺麗に戻す。そして、家族写真に写る時計の異様さに気づいた。

 写真の時計が何故か”3時半”になっていたが、短針がまっすぐに3を指していたからだ。

 

 

 「ちゃにゃん!!この写真見て!!」

 

 

 急いでちゃにゃんを呼び、不自然な時計を見た二人は同じ光景の部屋を探し、その時計を見つける。その時計は子供部屋の物だった。試しに写真と同じようにしてみたくろちゃん。

 すると、物音が天井からしたと思ったら、屋根裏に登れるように階段が現れた。

 

 

 「うわ!! これは…隠し部屋?」

 

 

 「くろちゃん!!登ってみようにゃ!!」

 

 

 屋根裏に登った二人はびっしりと屋根まで積まれた書類や本で溢れている光景に遭遇した。中身を閲覧すると、そこにはショウリンのお母さんが陰ながら集めた未解決事件の情報だった。

 

 

 「この量は並大抵の物じゃないね…。」

 

 

 「奥まで続いているよ…。」

 

 

 想像より多くの情報が広がっていて、奥へと進む二人の前にデジタル机があった。そこには、一冊の日記帳らしきものと伝言カードが…。

 

 

 その伝言カードをデジタル机に読み込ませ、内容を確認する。そして、衝撃的な事実を知り、ちゃにゃんが持っていた別の記憶キューブでデジタル机に残るすべてのデータをコピーし、机に残されたデータを復元できないように細工して、抹消する。そして日記帳とカード、記憶キューブを持って、家をロックして、外に飛び出す。

 

 それからは散らばったみんなに連絡する。

 

 

 「あ、御神!! こちら、くろちゃん!! 私たちどんでもない事を知ってしまったかもしれない!!」

 

 

 『くろちゃんか!?こっちもだよ! いい!?そのまま、ギルドにまっすぐ帰るんだ!!』

 

 

 「え!?けど、警魔隊に確認したい事があるんだよ!!」

 

 

 『それなら、今、警魔隊の駐屯所にさっちゃんとルーちゃんが尋ねているから、連絡して聞いておくように伝えておいて!!』

 

 

 「わかった!!そうする!!」

 

 

 『…絶対に漏らしたらいけないからね!!』

 

 

 回線が切れると、くろちゃんとちゃにゃんは顔を見合わせ、ギルドに向かって全力疾走する。

 

 

 そう、くろちゃんもちゃにゃんは驚愕の事実を知ってしまった…。

 

 

 世界を揺るがすかもしれない事実に…。




これは何かある予感…!!

とうとうクライマックスへと持ち込んで行けたか…!


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闇を切り裂く者

何が明かされるか…はお楽しみです。


 

 

 

 

 

 

 ギルドに緊急帰宅したみんなは誰にも聞かれないように、防音シールドを展開し、戸締りも厳重にチェックし、暁彰とショウリンは監視カメラや盗聴器、魔法妨害アイテム等がないかを『精霊の眼』で確認する。ショウリンは自分が役に立っている事に凄い喜びを感じながら、眼を拵えて注意深く見渡す。

 

 粘密に調べてみて、問題ない事を知ったROSEのみんなは早速持ち乗った情報をモニターにインプットしていく。

 そしてモニターに表示された情報を見ながら、話し合う。

 

 

 一番に乗り出したのはくろちゃんとちゃにゃんだった。

 

 

 二人は屋根裏部屋での情報をモニターに表示して、説明する。その内容には壁まで飛んでいきそうになるほどの威力を持った衝撃的な物だった。

 

 

 「私達がショウリンの家の屋根裏で隠し部屋を見つけてきた。そこには大量の未解決事件の詳細な記録や情報等が山のように積み上がっていたよ。」

 

 

 「しかも、その未解決事件はどれもこれも怪奇的な殺人事件や上級階級の魔法師による圧力で揉み消された隠ぺい事件まで、事細かく、調べてあった。もちろんここ最近噂になっている魔法師失踪?事件の情報もあったにゃ。」

 

 

 隠し部屋を撮ったビデオをモニターに表示し、積み重なっている書類をパラパラと廻って内容が見れるようにする。

 

 

 「…新聞やテレビで報じられている内容より細かい所までみっちりと調べているみたいだね。」

 

 

 「でも、それだと並大抵の調べでここまでの物を集めるなんてできないよね?」

 

 

 「そもそも何で未解決事件の情報を集める必要があるんだろう?確か、ショウリンのママって主婦だよね?」

 

 

 隠し部屋のビデオ映像を見て、疑問に思った事をホムラとhukaが次々と口にする。

 

 そして前にショウリンから聞かされた家族構成や仕事等を教えてもらった時、ママは専業主婦だって話していたのを覚えていたし~ちゃんは確認のため、ショウリンに聞いてみる。

 

 

 「う、うん…!!ママはいつも家で家事や買い物をして、僕に特訓してくれていたよ?」

 

 

 「だとすると、何でただの主婦がこの情報を集める必要があるのかって事になってくるよね?」

 

 

 「でも、この部屋を使っていた人がショウリンのママっていう確信は何?もしかしたら、パパだったかもしれないよ?」

 

 

 明らかにショウリンのママが隠し部屋を利用していたという話し合いに疑問を感じたミナホは説明するくろちゃんとちゃにゃんにぶつけてみた。

 

 すると、二人は顔を見合わせ、隠し部屋に残されていた日記を取り出す。

 

 

 「この日記、鍵がかかっていて、中は見てないけど、裏にショウリンへのメッセージがかかれていたんだ。」

 

 

 その日記をテーブルに置き、みんなが身を乗り出してみると、裏面に文章が書いてあった。

 

 

 ”愛するショウリンへこれを託すわ  ママより”

 

 

 それを見たショウリンは目を見開いて、慌てて胸元をこそこそ何かを探し出す。

 

 

 「これ!!ママの字だよ!!それに…ほら、この日記の鍵、僕…、ママからもらってたんだ!!」

 

 

 そういって、胸元から取り出したのは、ロングタイプの二丁拳銃を重なり合わせたシンボルのペンダントだった…。

 

 

 それを見て、暁彰が驚愕の表情をする。

 

 

 「それは…!!そうか、そういう事か…!!」

 

 

 一人で納得している暁彰に説明しろというみんなの視線が集まる。

 

 その視線を受けた暁彰は唾を呑みこみ、講義を始める。

 

 

 「みんなも隠れ闇ギルドの調査等をしている時に、聞いた事はあるはずだ。

  闇に潜み、悪事を徹底的に暴き、帝国やギルドにも話を通さずに自分達で処分する帝国から独立した諜報集団の事を。」

 

 

 「ああ…、それなら聞いた事あるよ。魔法師一人ずつ物凄い実力を持ち合わせていて、あっという間に暗殺してしまうっていう…。」

 

 

 「確か、闇世界では”SAMA(Secret Action Magic Agent)秘密実行魔法捜査官”って言われている奴だよね?」

 

 

 「ああ。SAMAは秘密裏に情報を掻き集め、処分対象だと判断すると、対象を抹殺する…。表世界で奴らを知る者からは救世主様だって言われていたりするらしいが。

  そんな奴らの正体は完全に秘匿扱いだ。身分や性別、本来の職業、得意魔法…それすらも完全に情報操作して街に溶け込んでいる奴らだ。その奴らのシンバルがまさにそれだ…。」

 

 

 暁彰が指を指した先はショウリンが持っていたペンダントだった。

 

 

 「そのペンダントはSAMAの諜報員の証みたいなもんだ。

  だから、そのペンダントのシンボルといい、くろちゃんとちゃにゃんが見つけてきた隠し部屋の状態といい…、間違いなく、ショウリンの母親はそのSAMAのメンバーだったに違いない。」

 

 

 暁彰の講義ですべて納得したみんなは帝国に蔓延る闇を切り裂く者達…、SAMAの存在を羨望と不安の入り混じった気持ちで受け止める。

 

 自分達とは同じ理念であるが、やり方がまったく真逆である彼らとこれからどう関わっていく事になるのか、考えさせられるものだった。

 

 




まさかのショウリンのママがいわゆるスパイだったとはね…!

でも、まだまだありますぜ!!

いずれ、ROSEとどうやって絡ませるか…?


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繋がっていく全貌の欠片

ショウリンのママがスパイだったことが分かったので…。
もっと話を広げよう~。




 

 

 

 

 秘密組織”SAMA”の片鱗を僅かに感じ取ったみんなはショウリンを覗き見る。

 

 

 「…ショウリンはもちろん…?」

 

 

 「うん…。僕も知らなかった…。ママ何で言ってくれなかったんだろう…?」

 

 

 「言えなかったんだろうね。もしそれを親しい人に言えば、その人達が人質に取られたり、狙われたりするから…。徹底した悪掃除するんだもん。彼らに復讐したい闇ギルドたちも多いんじゃない?」

 

 

 「その通りだ、ショウリン。そうなれば、お前や父親が危険な目に遭うのは確実。自らの素性は家族でさえ秘密にする…。まぁ、これは彼らの任務を遂行するためでのルール内でもあるからな。」

 

 

 ショウリンの疑問にルーちゃんと暁彰が答える。

 

 その回答を聞いて、くろちゃんは暁彰の彼らの詳しい所まで知っている事に不思議を感じ、聞いてみた。

 

 

 「暁彰、どうしてそこまでSAMAの事、知っているの?」

 

 

 くろちゃんの指摘を受け、しばらく考え込んだ後、ため息を吐いて、真剣な眼差しを向け、答える。

 

 

 「いつまでも隠しておくのはよくないか…。この事はマサヤンだけ知っている事なんだが、俺はこのギルドに入る前は…、SAMAで諜報員をしていた…。」

 

 

 

 「「「「「「「「「「「えええええええ~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 暁彰の独白を聞いて、ギルドみんなが一斉に飛び上がり、驚愕の表情をする。

 

 

 「…まぁ、細かい事は省くが、任務中にマサヤンと親しくなって、こういうのも悪くないと思って、ギルドに入ったんだよ。安心しろ、もうSAMAのメンバーじゃないから。」

 

 

 「それにしても、驚いたな~。そんなに凄い所にいたとは。あ、じゃあショウリンのママがメンバーって事気付かなかったの?」

 

 

 「気づくとか気づかないとかの問題じゃないんだ。

  基本、任務中はお互い仮面被っているし、連携取る時も、コードネームで呼び合う感じだからな。それに、恐らくだが、ショウリンの母親は俺の後釜で入ったと思うぞ。」

 

 

 「そっか~。」

 

 

 もし、二人が知り合いなら、他に手がかりを置いてそうな場所等が分かるかなと期待していたから、少しショックを受ける。しかし、それはまだ早すぎた。

 

 

 「しかし、ショウリンの母親が何をしていたのかはわかるだろう。くろちゃん、ちゃにゃん!!あの部屋から伝言カードらしいものはあったか?」

 

 

 「あ、う、うん!!部屋に置かれていた机の上に日記と同じく置いてあったよ。」

 

 

 突然聞かれたため、どもったが、バッグから部屋で手に入れた伝言カードを取り出し、頷く。

 

 それを確認して、暁彰はみんなに向き直り、説明し出す。

 

 

 「まず、犯罪に手を染める者を見つけたら、SAMAを統括するリーダーに報告し、リーダーが捜査必要と判断すれば、伝言カードによって、指令を送る。それを元に行動するんだ。だから、その伝言カードを見れば、ショウリンの母親が何の指令を受けていたか分かる。………すでに、くろちゃんとちゃにゃんは見たようだけどな。」

 

 

 「ごめん…。つい好奇心で…。」

 

 

 「私もにゃ!!」

 

 

 「いいさ。トラップに引っかかってなくてよかった。」

 

 

 「「へ?トラップ??」」

 

 

 「もしも、伝言カードが何者かに渡ってしまう場合を想定し、伝言カードにトラップを仕込んで、自分以外が見たら、発動するようになっていたりする。…不発でよかったな。」

 

 

 「「ひひいいぃぃ~~~~!!」」

 

 

 何か起こるか分からないから余計怖くなり、くろちゃんとちゃにゃんは抱きしめ合った。その間、暁彰が伝言カードをモニターの読み込み機能に差し込み、指令を再生する。画面が変わり、真っ暗になった状態の画面から声が聞こえる。

 

 

 『君の報告とおり、……Kが動き出した。既にKの毒牙にかかり、犠牲が出ている。……コードネーム、アニテは次に告げる場所へ行ってくれ。場所は…”カバレル・サマダ大サーカス”だ。次なる標的は今までより大物だ。慎重に行動しろ。君の調査報告が届き次第、次なる指令を出す。…健闘を祈る。』

 

 

 機械で声を変えた指令を聞き終えたみんなは自分達の耳を疑った。

 

 

「今、『カバルレ・サマダ大サーカス』の名が出てなかった?」

 

 

 「あの大人気曲芸一座の事だよな?」

 

 

 「どういう事だ?何であそこを調べる必要が…」

 

 

 し~ちゃん、toko、にょきにょきが頭に疑問符をつけて、首を傾げる。

 

 

 「理由はまだ断定できないが、彼らが動くのは、そこに”闇”がある時だけだ。つまりは…、その曲芸一座には何か人にばれたらいけない秘密があるという事だ。」

 

 

 暁彰が顎に手を置きながら、鋭い視線をモニターの方に投げる。

 

 そこに暁彰の言葉を聞いて、思い出したかのようにさっちゃんとルーちゃんが「「あっ!!」」と叫ぶ。その声に二人を見つめるみんな。

 

 

 「二人ともどうしたんだ?」

 

 

 「そういえば、私達、警魔隊で情報を集めてきたんだ。」

 

 

 「ああ~!!確か、そうだったよね!!それで頼んでいた事は調べてくれた?」

 

 

 さっちゃんにくろちゃんがここに戻る前に連絡し、告げていた事を確認するため、尋ねる。幸ちゃんとルーちゃんはそれに頷きを見せる。

 

 

 「くろちゃんの連絡で、曲芸一座に関して、警魔隊に不審な情報が寄せられた形跡はあるかって聞いてみたけど、「そんなものはない」って一喝されたよ。寧ろ「あんな素晴らしいパフォーマンスする彼らに不敬な言動を行うとは、捕まりたいのか!?」って追い出されちゃったよ~。」

 

 

 「うん、うん!首根っこ掴まれて、ポイッだよ!?あの警魔隊員…、相当曲芸一座の大ファンだね。駐屯所に大量の曲芸一座のポスターを壁びっしり飾ってたし。

  まぁ、そう思うのを無理はないかな。私達もあのショーを見て、感動しちゃったし。」

 

 

 「それは…難儀だったね…。…なんかごめん。」

 

 

 さっちゃんとルーちゃんの遠くを見る目で言った出来事に頼みごとをしたくろちゃんは申し訳なさそうに謝る。

 

 

 「いいよ。で、ここから本題だけど、警魔隊の駐屯所から追い出される前に今彼らが手を拱いている事件を聞いてきたんだ。(正確にはくろちゃんからの連絡で頼みごとをする前だが。)ショウリンにも関係しているから。」

 

 

 「僕にも?」

 

 

 突然自分の名前を言われて、きょとんとしながら聞き返すショウリンにルーちゃんは頷いて、その時に仕入れた事件内容をモニターに新聞記事を映して話す。

 

 

 「この記事にある事件でどうやら警魔隊は捜査本部を設置して、捜査しているみたい。この事件は墓地や病院の霊安室に置かれている死体が何故か消えるという死体運搬事件なんだ。どういった方法で運ばれているのかわからず、警魔隊が徹底して捜査をしているし、死体が置いてある施設等には注意するように呼び掛けているけど、人の目を甲斐潜っているみたいで、未だ手がかりが見つからないらしい。」

 

 

 「その事件とショウリンがどう関わっているの?」

 

 

 「どうやら、ショウリンの父親の死体も…、消えたようなんだ。」

 

 

 「え!!?」

 

 

 「しかもここ最近亡くなった人ばかりの死体が狙われているらしいよ。」

 

 

 「…もしかして、それが曲芸一座と関係しているってこと?」

 

 

 「そこまで入ってないけど、これほどの事件なら、SAMAが動いているのもおかしくないし、彼らが正義の名のもとに曲芸一座を標的にする理由としても考えられるかなって。」

 

 

 

 

 

 

 

 これまでの情報とさっちゃんとルーちゃんの持ち帰った情報によって、どんどんと明らかになる全貌…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで、人の汚れた魂が巣食う闇と戦ってきたROSEだったが、彼らはその闇よりもっと深く、底が計り知れない陰謀の闇に足を踏み込みつつある事をこの時はまだ知らない…。

 

 




次々とつながっていく陰謀のピース…。

果たして、ROSEは陰謀の底なし沼から脱出できるのか…!?


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蜘蛛の糸

芥川龍之介の蜘蛛の糸とはほぼ真逆ですね…!


 

 

 

 

 

 

  みんなが集めてきた情報で闇に潜む陰謀が明らかになっていく…。

 

 その片鱗があの今大人気の曲芸一座、”カバルレ・サマダ大サーカス”と関わりがあると知る。しかし…

 

 

 「だけど、あのサーカスには僕たちも鑑賞してきたけど、別に怪しい物とか動きとかなかったじゃん!」

 

 

 「そうだよね…。あんなに観客達が楽しんでいたし、まだ状況証拠だけだし…。」

 

 

 ペンダゴンとRDCが未だ信じられず、異議を唱える。確かに状況証拠で決めるべきではない。しかし曲芸一座がまったくの無関係だとは言いにくい。

 

 あともう一押しあればなぁ~と唸りながら、みんなが考え込んでいると、着信メロディーが鳴かれてくる。

 

 

 

 『われら!!ホームズ殿に~~♪忠誠を誓う~親衛隊~~!!頭脳明晰の~ホームズ様を~今称え~~♪ここ~に見~参~~♪』

 

 

 ホームズの携帯連絡フォンから歌が聞こえてくる…。

 

 

 それをホームズは「やっと来たか~!」と当然のように回線を繋ぎ、回線の向こうの相手と何やら話している。

 

 それをBGMとして聞いているみんなは若干…、いやかなり汗をかきながら、呆れています満載の表情をしていた。まぁ、中には口を手で覆って、必死に笑いを押し殺している者も数人いたが。

 

 そして、連絡が終わり、顔を上げたホームズがニヤッと笑って、不敵な笑みを漏らす。

 

 その笑顔を見て、御神も呆れ顔を何とか笑いを作り、ホームズに問う。

 

 

 「お疲れ!ホームズ、ホームズ親衛隊のレストレード警魔隊長から何かいい情報をもらったんだね!?

  一緒に情報収集している時、話していたし!!」

 

 

 そう、御神とホームズがバディとなって、中心街で情報収集していた時、偶然にもレストレード警魔隊長と遭遇し、頼み事をしていたのだった。その頼みごとの報告連絡がさっきの着信なのだ。ちなみに、着信メロディーはどこにも販売されていないオリジナルソングだ…。

 それをなぜ着信メロディーにしているのかは目を瞑る事に…してくれたら幸いかな?

 付け加えるなら、レストレード警魔隊長からの着信の時だけ流れるので、安心してください!!(どこを安心すればいいんだ!!?)

 

 

 …とにかく、レストレード警魔隊長へ頼んでいた情報が入ったので、ホームズはそれをみんなに告げる。

 

 

 「おいらの優秀な下僕のレスちゃんから耳寄り情報を手に入れたよ~。これでおいら達も動けるはずだ!」

 

 

 「相変わらずだけど、レストレードもよくやるよね~。」

 

 

 「ふふふ…!”ご褒美お待ちしています!!”って言ってたからな~。次は何をしようか…くくく…!」

 

 

 「こらっ!!ドSオーラ満載にするな~~!ベシっ!!今は早く話して!!……後で私も混ぜて…。」

 

 

 最後の方は小声で耳打ちする御神もホームズと同じくSっぷりが発揮された所で、話を戻す。

 

 

 「レスちゃんが調べてくれたのは、ここ最近の行方不明者のリストなんだけど、前々から噂のあった魔法師失踪?事件より、遥かに行方不明者や失踪者が増加したみたいだな。しかも増加し出したのは、あの曲芸一座が帝都に現れた時期と被るらしい。」

 

 

 「それで、あの件は?」

 

 

 「うん、やっぱりそうだったらしいね。」

 

 

 御神とホームズが二人で話し、視線で考えが一致している事を確認し、御神が続きを話す。

 

 

 「実は、中心街で情報を集めている時、行方不明の母親を探している女の子と親せきがビラを配って目撃証言を集めていたんだ。それで話を聞いていくと、数が月前に父親も失踪したと聞いて、ショウリンの時と似ていると思って、もう少し詳しく聞いてみたんだ。疾走する前に何かしなかったか?って。そしたら…」

 

 

 「母親が疾走する前に、サーカスを見に行ったって言ったんだ。更に驚く事に一緒に見に行った友達にも失踪した家族やしばらくして帰ってきた家族もいたようなんだ。」

 

 

 「それを聞いて、思いがけない共通点を見つけた私達の傍をグッドタイミングでレストレードが通ったから、ここ最近の行方不明者リストとサーカス鑑賞日等を調べてみてってお願いしてたの。」

 

 

 「その頼みごとが終わって、レスちゃんから報告を受けたって訳。まだ、確証もなかったから、みんなには言わなかったけど、これなら、あの曲芸一座が完璧な白じゃないって確信できるね。」

 

 

 「…二人の反応からして…やっぱりなにかあったんだね?」

 

 

 それまで御神とホームズの話を聞いていたくろちゃんは額に汗をかきながら、唾を飲み込む。

 

 

 「…レスちゃんの報告は、おいら達が考えたとおり。行方不明者達は全員、失踪数週間~数日前に”カバレル・サマダ大サーカス”で鑑賞している事が分かった。更に、さっちゃん達が得た死体盗難事件に遭っている死体も生前にサーカスに行っている事が分かった。…ショウリン、ショウリンも母親と父親とでサーカスに行かなかった?」

 

 

 ホームズの指摘にショウリンは顔を真っ青にして、ゆっくりと頷く。

 

 

 「……僕、パパとママとでサーカスを見に行ったんだ…。ママがチケット手に入れたからって。それで、次の日にママがいなくなって…。パパはそれからおかしくなって…。」

 

 

 気落ちするショウリンの肩をミナホは優しく包み込み、励ます。

 

 

 それを目に焼き付けたみんなはある決意を固めた。

 

 

 「よし!!これではっきりしたね!!”カバレル・サマダ大サーカス”には裏がある!!それを調べて、ショウリンのパパの仇を取るぞ!!」

 

 

 「「「「おおおお~~~!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ROSEは曲芸一座の裏の顔を暴くため、サーカスに乗り込む事にした。

 

 

 しかし、それはあいつが仕組んだ蜘蛛の糸に手を掴んだ瞬間だった…。

 

 




オリ御神とオリほーちゃんからSかMかと聞いて、書いてみました!

二人とも、Sじゃなかったら、話の展開が変わっていたかもだね…。


それにしても、レストレードにご褒美という名のあれをする場面が書けたらいいな~!(笑)


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潜入捜査!?

よし、ついに乗り込みます、サーカス団に!!

でも、それはな~~…




 

 

 

 

 ”カバレル・サマダ大サーカス”へ乗り込む事にしたROSE。

 

 

 そこで、何人か先に潜入捜査をする事にした。しかし…

 

 

 「私が潜入してくるから!!私の方がスカウトされまくりだわ!!」

 

 

 「スカウトなら見た目もキュートで、腕も立てないといけなんだよ!?それなら私の方がたくさん来るもんね!」

 

 

 「スカウトはないから!! 弟子入りとかでいいから!!とにかく落着けっ!!」

 

 

 「「黙ってて!!」」

 

 

 「偵察なら…、私もやってみたい…。ボリボリ…。得意…だから…。」

 

 

 潜入捜査をすると決めて、誰が行くかを選任しようとして、名乗り出たるーじゅちゃんとし~ちゃんが激しく衝突した。最初はどっちが相応しいかという喧嘩だったか、なぜか話がヒートアップして、”どちらか可愛くて、観客の目を惹きつけるパフォーマーになれるのか"という潜入捜査とは全く関係のない方へと喧嘩が広がっていた。寧ろ潜入捜査という事を忘れて、本格的にサーカス団の一員になりたいと思いを募らせていっている二人。

 話がずれてきたので、くろちゃんが仲裁に入って、話を戻そうとしたが、二人にあっけなく撃墜されて、落ち込み中…。

 

 その二人を…、落ち込み中のくろちゃんも除いて、みんなで潜入捜査をする人の選任を考えていると、火龍人が挙手して名乗り出る。

 火龍人は真面目だし、与えられた仕事も完璧にこなすし、失敗した所は見た事がないほどの手際の良さを持っている。それに今まで、ROSEのみんなからダメ出しされる姿とかは見た事がない…。

 得意魔法も精神干渉系魔法だし、確かに潜入捜査には向いている。情報も多く集める事が出来るだろう。…ただし、コミュ症が垣間見られるのが難点だが。まぁ、それが意外に役に立つ時だってある!

 必要最低限の事しか話さない火龍人は影を薄める事もでき、相手の懐近くまで潜り込める事もできる。

 

 ROSEのみんなからかなり信頼の厚い古株メンバーの一人だ!!

 

 

 くろちゃんの代わりに司会進行役をしていたちゃにゃんが異議がないか確認し、みんなの了承も取れたので、火龍人に潜入捜査をお願いする。

 

 

 「じゃ、みんなからも適任という一致の意見を受けたので、火龍人に潜入捜査を任せるにゃ!!」

 

 

 「…うん、頑張る…!!」

 

 

 いつもの無表情より、若干気合の入った表情をする火龍人を見て、みんな、火龍人に拍手する。

 その拍手で、ようやく現実世界に戻ってきたくろちゃんと喧嘩が終わってボロボロになって戻ってきたるーじゅちゃんとし~ちゃんはいつの間にか決まっていた潜入捜査実行人に対し、それぞれ違った表情を取る。

息を溢し、安堵するくろちゃんに対し、自分達ではないと知り、口を大きく開けて衝撃を受けるるーじゅちゃんとし~ちゃん。

 

 するとこれは必然なのか、るーじゅちゃんとし~ちゃんが火龍人の補佐でも荷物持ちでも御茶汲みでもいいから、行かせてと強請ってきた。

 

 決定事項だと言っても、二人は強請り続け、解散し、準備をし始めた後も、頑なに行かせてくださいと土下座のまま、サササッとホームズの後を付き従う。

 

 

 それはもう、必死の思いでやっているのは分かるけど、付き従われているホームズにしては動きにくいし、怖い!!

 

 だから、火龍人にお願いし、るーじゅちゃんとし~ちゃんを連れて行ってほしいと頼んだ。ちなみに二人の見張り番としてホームズも行く事にする。

 

 火龍人は即答で了承し、ポテトチップスを食べ続ける。

 

 

 潜入できることに抱き合って喜び合うるーじゅちゃんとし~ちゃんを他のみんなは乾き笑いで見守っていた。

 

 

 (かなり醜いおねだりだったな~。あれでは、スカウトは無理だろうな~。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 夜のナイトショーが終わった時刻、火龍人とるーじゅちゃん、し~ちゃん、ホームズは曲芸一座のテント前に来ていた。今日のショーを終え、後片付けをし出した団員に紛れ、潜入する作戦だ。

 

 

 「いや~、後片付けでもこんなにたくさんの機材があるんだね~。」

 

 

 「団員もかなり多いな~。どうやらおいら達が鑑賞していた時はその一部だけだったみたいだな。」

 

 

 「それが当たり前っていえば、当たり前なんだろうけど、あの情報を考えると、あまり楽観視はできないな。」

 

 

 「とりあえず、中に入ってみない? いつまでもここにいる事自体が目立ってしまうよ…。ボリボリ…。」

 

 

 四人はすぐ様、近くの団員の荷物持ちを手伝って、テントの中に入っていこうとする。しかし、セキュリティーが厳重にしているテントの中に入ろうとすると、団員の証のバッジがないとは入れない。あっけなく、すぐに潜入は終わった。

 

 バッジがない限り、テントの中には入れず、どうするか考える火龍人、るーじゅちゃん、し~ちゃんを置いて、ホームズはテントの前に設置されている大きな門に鉄拳をお見舞いする。

 

 その勢いで、鉄製の門は思い切り吹き飛び、煙を立てる。

 

 その行動に、火龍人達も目玉が飛び出る。

 

 

 「「「ちょっと~~!!何してるんだよ!!ホームズ!!」」」

 

 

 三人はホームズの飛ばした門を悲鳴を上げて、嘆いていると、案の定、警備員がやってきた。しかも数十人も。

 

 もう終わった…。

 

 

 三人はホームズの破天荒な行動で潜入は終わったと思った。

 

 

 「お前達、門を壊して、ただと済むと思うな!何しに来た!!」

 

 

 ほら、警備員達も血相を変えて、警戒しているよ~!!

 

 

 「ハハハ、ごめんなさい。でもベルもないし、ああしないと来ないじゃないですか~!用事があったんで。」

 

 

 「用事だと?」

 

 

 「はい、おいら達、ここの曲芸一座のショーを見てから、凄い感銘を受けてしまい、食事ものどを通らないほど、もう感動しちゃって…!!ですから、おいら達、ここで曲芸魔法師としてデビューしたいと思い、お願いにあがりました!!」

 

 

 満面の笑みで堂々と訪問理由を述べるホームズの顔には真実が告げられているように三人は感じた。

 

 

 (((ホームズ…、お前もか…!)))

 

 

 そんなホームズを警戒心丸出しのまま、一定距離をとる警備員の一人に連絡が入る。その連絡を受けた警備員は徐々に畏まった態度をし、連絡を切るときはここにはいない相手に深々とお辞儀をした。

 その警備員がホームズたちに近づき、他の警備員達に手で合図をして警戒体制を解かせる。

 

 

 「君達の入門をカバルレ様がお認めになられた。いいか!これは特別な事だぞ!お前の熱意に感激したカバルレ様の寛大な配慮に感謝するように!」

 

 

 「はい!ありがとうございます!精一杯このムチでMっ子の心を掴みますよ♪任せてください!」

 

 

 「ええ~~~~~~!!!あっさりOKゲットした~!( ; ゜Д゜)」

 

 

 「ホームズもさっそく溶け込みすぎ~!Σ(゜Д゜)」

 

 

 「てか、カバルレ、どこから私達を見てたんだよ~!!Σ( ̄□ ̄;)」

 

 

 「………さすがホームズだね。潜入テクその1をさっそく使いこなすなんて。私が教えた甲斐がある。ボリボリ。(*ToT)」

 

 

 「「潜入テクだったんかい~~~!!」」

 

 

 るーじゅちゃんとし~ちゃんが突っ込みを入れながらも無事?に潜入ができましたとさ。

 (;・ω・)




結局目立ってしまって、動きにくくなるのでは…。これは…?

でもそれがほーちゃんです!!(グッジョブ)


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忍びます!!

なんだかんだで潜入した一行は無事なのか。


 

 

 

 

 何とかホームズの策?で曲芸一座の中に潜入できた偵察チームだったけど、潜入してから早2週間ほどは経過していた。しかし、陰謀に絡んでいるような証拠は一切見つけられずじまいだった。

 

 …というのも探そうにもショーの準備やセッティング等で時間を取られてしまい、抜け出して調べるなんてとてもじゃないけど、困難を強いられていた。

 まぁ、リハーサルや練習中の出演者の曲芸魔法にうっとりし、目を輝かせて、感激して興奮状態に陥ったため、棒立ちで動けなかったという事もしばしば……、本当にしばしばあったが。

 

 それでも、曲芸一座の最後のナイトショーが終われば、後片付けしたら、ある程度時間が持てるから、こっそりと抜け出してテント内を探していければいいけど、ショーが終わった後のステージが入ったテントには立ち入り禁止となり、入り口も徹底的にロックされ、至る所に警備員が配置される。更に定期的に巡回する警備員もいる。何とか魔法で誤魔化して入るとしても、魔法探査機が設置されているから、もし魔法発動すれば、すぐに警報が鳴って、気付かれてしまう。

 

 

 こんな環境の中で、ホームズ達はどう情報を集めるか、頭を抱えて、必死に考える。

 

 

 「はぁ~…。今日もハードだったぁ~~!!もう腕がバンバン…。魔法が使えないっていうのは少し辛いな~。」

 

 

 「この国では、魔法で生活が成り立っているからね。魔法を使わないっていう考えで自分達の身の回りを整えるように計らう団長さんの考えは悪くはないとは思うけどね。」

 

 

 「魔法を使う分だけ、相子を消費する事になるからね。いざって時に使えるように相子を把握する事も修行の内と思ったらいいよ。」

 

 

 「ボリボリ…。お腹すいた…。疲れた…。もう寝る…。また明日…。」

 

 

 「待って!!ここで寝たらだめだよ!! 今日こそ、何とか情報をゲットしないと!!」

 

 

 「……どうやって?この宿舎テントからは出られないぜ?」

 

 

 もう瞼が閉じかかっている火龍人を必死に揺さぶって起こし続けるるーじゅちゃんとし~ちゃんだけど、ホームズから最もな突っ込みをされ、固まる。

 

 

 「え~と…、他の団員に聞いてみる…とか?」

 

 

 「それは、無理だな~。それをしようとして失敗してるじゃん。」

 

 

 「まだ…いけないかな?ほら、何度も話しかけたら、懐いてくれるとかあるし!」

 

 

 「……懐いてもらうって、それは言いすぎなんじゃ?」

 

 

 「あ、つい…。でも、あれならそう言いたくなるっていうか?」

 

 

 「何にしろ、収穫の見込みはないな。」

 

 

 ホームズ達が何で悩んでいるのかというと、今いるこの宿舎テントは曲芸一座で働く下っ端団員全員が就寝する場所だ。

 最初は、ラッキーと思って、みんなで手分けして、話しかけてみたが、団員全員がまったく話に乗らなかったのだ。全くの無視でるーじゅちゃんとし~ちゃんは『この可愛い私を無視するなんて~!!』と憤りを露わにし、ホームズが宥めて終わってしまった。

 

 その後も何度も試してみたが、団員達の反応は全く変わらず、懸命に話しかけても、虚ろな目で空を見つめたり、ボーとしたりを続ける。

 

 まるで意識がないみたいな反応にさすがのホームズ達もお手上げだった。

 

 精神支配されているならと火龍人が試みたものの、まったく効果がなく、万事休すの現状。

 

 

 こんな時に、暁彰がいれば~っと4人は今ここにはいない暁彰の顔を思い浮かべ、神頼みするみたいに、手を組んで祈る。

 

 

 そして時間厳守された就寝時間がやってきて、今夜も打つ手なしでいくのかとるーじゅとし~ちゃんが布団の中に入ろうとする。ちなみに火龍人は既に眠りの領域に突入している。

 

 

 「おい…。起きろ!誰が寝ていいって言ったんだよ…!行くぞ!準備しろ!!」

 

 

 小声で3人に一喝するホームズは既に準備し、目を輝かせていた。どんな準備かというと、背中に小刀と風呂敷を背負い、腰にはお手軽アイテムが入ったサイドバッグ、そして…、忍者コスをフル装備していた。

 

 

 「ほら、おいらが合図したら、すぐにこのテントを出るぞ!ダミーの設置も忘れずに!!」

 

 

 そう告げると、布団の中にそのまま団子になる。3人も同じく忍者コスに着替えて、布団で山を作る。

 

 

 

 

 

 (いや、見た目が悪いって。気付かれますよ~~!!)

 

 

 

 すると、巡回する警備員が現れ、宿舎の中の様子を見渡す。そして、外に出ようとする警備員が背中を向けた時、ホームズが3人に合図し、自分達の姿を『幻影投影』で隠し、警備員についていく。そして、外に出た4人に気づく事無く、警備員は宿舎テントのセキュリティーロックをオンにする。その間、もう一人の警備員は入り口で待機。

 

 

 「…異常はないか?」

 

 

 「ああ、今日も疲れてぐ~すら、イビキ掻いて寝てるぜ…。」

 

 

 「しっかり確認したか?」

 

 

 「ああもちろん。あいつらののんきな寝顔を見てきたぜ。あれは傑作だったな。お前にも見せてやりたかった!ふははっはははは!」

 

 

 「あまりふざけるな!俺達の仕事はあいつらの監視だ。気付かれたらどうする?」

 

 

 「大丈夫っすよ。あいつら、情報なんて手に入らないって身に染みてきてるんだぜ?そろそろ、ここをやめるのも時間の問題だ。」

 

 

 「…それならあともう一押しだ。気を抜かずに最後まで見張っておかないとな。ほら、次の場所を見回って、報告するぞ。」

 

 

 「へいへい。ROSEの実力魔法師達が何でこんな場所に来たんだがね~。」

 

 

 「見ている限りは、純粋に曲芸魔法を身に付けたいって顔しているがな。」

 

 

 「早くアイツら、去ってくれないですかね~。」

 

 

 次の巡回場所まで歩きながら、話す彼らの内容にホームズ達はというと、

 

 

 (ば、ばれていた~~!!なんで~~!!)

 

 

 (しかも目的がばれているっぽいけど~~!!)

 

 

 (……私達が誰かばれるのは当たり前だと思うけど?私達裏では敵が多いし、顔バレしているからね。ボリボリ…。)

 

 

 ((それってもう潜入捜査じゃなくない~~~~!!?))

 

 

 警備員の後ろで『幻影投影』を発動し、後を尾行しているホームズ達は彼らの内容に驚き、小声で話し、彼らに拳を突きつける。(無論、当てずに空振りだが。)

 

 

 (それにしても、この忍者っぽい動きにこのコス…。かっこよくない?)

 

 

 目をキラキラにさせて、聞いてくるホームズに今はそれどころじゃないって顔で睨みつけるるーじゅちゃんとし~ちゃん。



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奈落の底の世界

奈落に落ちていったホームズ達。

頭ぶつけないようにきをつけてね~www


 

 

 

 「この穴、どこまで続いているの~~~~!?」

 

 

 ステージの鉄柵牢の仕掛けに嵌って、急速に落ちていっている最中のホームズ、るーじゅちゃん、し~ちゃん、火龍人はあれから数分間くらいは落ちているが、一向に出口が見えない状況にるーじゅちゃんが一緒に落ちているみんなに聞いてみる。

 

 

 「そんなの聞かれても、私だってわからないわよ~。」

 

 

 「まぁ、出口が見えた時は底なしの泥沼だったり、鉄針地獄だったり、猛獣の巣窟だったりするかもしれないな~~~。」

 

 

 とんでもない予想を立てて、答えたホームズは落ちているというのに、足を組んで、腕を頭の後ろに回して、空中で寝転がっているみたいに寛いでいた。

 

 

 『ここはギルドじゃないから!!』

 

 

 『寛いでいる場合か~~!!』

 

 

 …といつもなら突っ込みを入れるだろうが、るーじゅちゃんとし~ちゃんは…

 

 

 「せっかくクリーニングに出したばかりの忍者コスを着たのに~~~!!泥まみれになるのは嫌~~~!!」

 

 

 「そうだよ~~!!乙女には可愛さが命なのよ~~!!いつも綺麗なコスを手に入れるために汗水流して頑張っているのに~~!!このワンピースだって高かったんだから~~!!」

 

 

 し~ちゃんはコス収納ポーチから宝石を散りばめたウエディングワンピースを取り出してくる。確かに豪華で中々手に入らない代物だ。それを見たホームズは寝そべった体勢で若干呆れ顔で尋ねる。

 

 

 「ハハハ………。針地獄や猛獣たちの餌食になるより泥まみれになるのが嫌なんだ…?」

 

 

 「「うん、当たり前だよ。」」

 

 

 るーじゅちゃんとし~ちゃんは同時に頷いて、当たり前だと言わんばかりの表情をホームズに向ける。

 

 

 「…二人も落ちているっていうのに、のんきだよ…。」

 

 

 結局みんな同じ穴のムジナだと理解したホームズは壁に自分達の陰が少しずつ写っている事に気づく。体を反転させ、大文字になって下を向くと、一転の光が少しずつ大きくなってくる。

 

 

 「よし!!ようやく出口が見えてきたみたいだ!!みんな、飛行魔法の準備をしておいた方がいいぜ!!」

 

 

 「え!?もう!!?ちょっと待って、ワンピースを仕舞うから!!」

 

 

 「早く、仕舞ってよ!!もし泥沼なら絶対汚したらダメだからね!!この任務終わったら、貸してくれる約束でしょ!!?」

 

 

 「今片付けてるよ~~!!焦られないで~~!!」

 

 

 コス収納ポーチに必死にワンピースを押し込むし~ちゃん。ホームズはさっきから黙っている火龍人に声を掛ける。

 

 

 「火龍人!! そろそろ出口だぜ!! 飛行魔法の準備を…」

 

 

 「ススゥゥゥゥ~~~~……… ススゥゥゥゥ~~~~~………」

 

 

 「「「……………………寝てるんか~~~~~い!!」」」

 

 

 さっきから一言も話さないなぁ~と思っていたら、鼻ちょうちんを作って寝息立てて居心地良さそうに寝ていた。どうやら、この中で一番自由でのんきだったのは、火龍人かもしれない。

 

 

 

 ホームズは火龍人を急いで起こし時、ついに長かった奈落の落下旅は終わり、出口に出たと同時に4人は飛行魔法を発動し、自分達の周りを『光学迷彩』で全方位に展開し、姿を隠し、防音フィールドも発動する。これで、誰にも姿だけでなく物音も聞かれない。

 

 

 ずっと、薄暗い奈落を落ちてきたから、いきなり明るい場所へ出て、眩しく感じ、みんな視力の回復を待つ。

 そうして回復した視力で見た奈落の底には想像を超えた世界が広がっていた。

 

 

 

 「ちょっと…これって…。」

 

 

 「ああ…。どうやらおいら達はとんでもない場所へ来てしまったようだな…。」

 

 

 「「もうここは地下都市だよ~~~~!!!( ̄□ ̄;)!!」」

 

 

 4人が絶句して、見下ろした世界は大きな空間に建物が無数に立ち並び、たくさんの人々が存在していた。

 

 もう都市だと言っても過言ではないほどの人工と建築物があった。

 

 

 それを見た4人はそんな地下都市を見渡し、同じ事を思ったのだった。

 

 

 (ここは地底人の国なんだ…!!! もしかして私達は人類最高の大発見をしたのでは!!?( ☆∀☆))

 

 

 目がキラキラとさせて、感動に浸るのだった。

 

 




未知なる物との遭遇や、都市伝説との遭遇って人類にはロマンだと思うんだよね!!

今はROSE はゴ○ブリ話が流行中。ネタにするか?(;・ω・)


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地下都市の実態

さて、笑いのネタを頑張って入れますか!
あのネタを少し…。


 

 

 地底人達の世界にやってきたと思い込んだ4人は地底人との交流を図ろうと地面に降り立ち、カメラをセットし、良かったら、一緒に記念撮影してもらうんだ!!と意気込んでいた。ただ、彼らの表情が何やらおかしい事に気づいた火龍人は一番に地底人との記念撮影をしようと前に乗り出すホームズとるーじゅちゃん、し~ちゃんの首根っこを掴み、停止する。

 

 

 「ぐえっ!! く、苦しい…!!」

 

 

 「外して…、首が絞まる…!!」

 

 

 「離してくれ~…!!おいらは成し遂げるんだ~!!目の前の夢を逃す訳には…!!げほっ!!」

 

 

 停止されてもなお、止まる気がしないホームズだけは更に絞める力を強め、動きを封じる。ようやくギプアップした3人を放した火龍人の足元には息を荒く呼吸するるーじゅちゃんとし~ちゃん、屍と化したホームズが転がっていた。

 そんな状態を完全無視し、地底人達を物陰で観察する火龍人。少し時間が経ってから、るーじゅちゃんとし~ちゃんが火龍人の後ろから覗きこむ。

 

 

 火龍人達が視線を向ける先には、いかにも重そうな木箱を行列を作って運んでいる地底人達の姿だった。見た目は地上人とまったく同じだが、木箱を運んでいる者達は服や顔には汚れが付いていて、一歩歩くたびに身体が震えている者もいた。そんな彼らの周りを監視する者もいた。その者達は、罵声を浴びせながら、鞭を振り回し、倒れた者に容赦なく叩き始めた。

 

 

 「許さない…!ちょっと行ってくる…!!」

 

 ポンッ。

 

 

 「ちょっと待って!るーじゅちゃんは目立ってしまうよ。私が行く!」

 

 

 ポンッ。

 

 

 「二人とも目立つから…。いつの間にか忍者コスからウエディングワンピースに着替えているし…。私が行くから、二人はここで待機・・・ボリボリ…。」

 

 

 ポンッ。

 

 

 「いやいや、痛めつけに行くのに、ポテチを食べながら行く訳にはいかないからな、火龍人。ここはおいらが行ってくるよ!みんなは女の子だから力勝負になったら、不利になっってしまうぜ!大丈夫!!あいつらに男を見せてくるぜ!!」

 

 

 「わぁ!復活早っ!!」

 

 

 突進しようとするみんなは肩に手を置いて制止させながら、自分が行くと宣言する。そして、今まで火龍人の首絞めで屍と化していたホームズが復活し、早くも状況を理解しつつあった。

 

 

 「ホームズ!!助かるよっ!!ボッコボコにしてきて!!」

 

 

 逞しく乗り込もうとするホームズに声援を送るるーじゅちゃんとし~ちゃん。その声援を受け、ホームズは決め台詞を口にする。

 

 

 「おうよ!!あいつらに鞭の使い方を教えてくるぜ!!あんな使い方じゃ、感じられねぇ~。刺激を感じる所に淡い痛みを与え、縛りつけるのが調教プレイだぜ…!!」

 

 

 「「おいおいおいおいおいおいおい~~~~~!!止まれ~~~!!」」

 

 

 「ふごおおぉぉぉ~~~!!」

 

 

 鞭のしごきを見て、Sの血が騒いだホームズが自分の鞭を持ち出して、調教しようとする様を見て、るーじゅちゃんとし~ちゃんは声援から一転ホームズに向かって突っ込んで、取り押さえ、持ってきていた縄できつく縛り上げて動きを完璧に封じにかかる。

 そして縛られているホームズは若干どこか喜んでいる表情が見れる。

 

 

 「何をしているんだ!!? そこはだめだ!! ここを通して…、交わらせて…、違う!!やるからには徹底して…」

 

 

 「やかましいっ!!何をやらせようとしているのよ!!バシッバシッ!!」

 

 

 「こんな時にS魂出してるんじゃないよ!!バシッバシッ!!」

 

 

 反省の色が見られないホームズにるーじゅちゃんとし~ちゃんが縄とホームズの鞭を使って、ホームズを叩く。

 

 

 「みんな~、静まれ~~。一応防音フィールドはしているけど、姿は丸見えだよ~?飛行魔法を解除した時に、『光学迷彩』も解除したから。ボリボリ…。」

 

 

 物陰に隠れる事も出来たから『光学迷彩』を解除していたため、音は漏れなくても、姿は曝け出していたのだ。そうなると、バレるのも時間の問題の訳で…。

 

 

 「…………あなた達、ここで何をしているの?」

 

 

 案の定、地底人の女性に見つかってしまい、警戒心を持って、睨まれる。

 

 

 ((しまった!!ばれた!!もうおしまいだ~~!!))

 

 

 「こ、これは…、その…」

 

 

 「わ、私達は……………」

 

 

 地底人に話せて嬉しいが、この状況をうまく説明できずに言い訳を考えていると、こうなった原因のホームズが縛られたまま、答える。

 

 

 「オイラタチハ、ゴギブリセイメイタイダ。ニンゲンタチノギャクシュウカライノチカラガラココニニゲテキタ。……ブリ!」

 

 

 (((何、片言で訳わからん事言ってんだ~~~!!!)))

 

 

 ホームズは縛られながらも体を左右に這って動きながら、ゴギブリのすばしっこい動きを表現する。

 

 

 「………さすが、ホームズ。臨機応変な対応力だね。じゃ、私も…。ブリブリ…。」

 

 

 傍観していた火龍人はホームズを褒めると、一緒にゴギブリダンスを始める。

 

 

 (そんな臨機応変対応なんかいらないからっ!!)

 

 

 (しかも何でゴギブリっ!! )    ←理由はあとがきにて

 

 

 ((それに…

 

 

 

               何で語尾に”ブリ”!!!?))

 

 

 もう心の中のツッコミで精神的に疲れたるーじゅちゃんとし~ちゃん。さすがにこんな『ゴギブリんなんです』作戦が通じる訳がないっ!!…と肩をガクッと落とし、涙を流して地底人の様子を見ると…。

 

 

 「キャ~~~~~~~!!!!!ゴギブリ~~~!!しかもあんなに大きい!!何を食べたらあんなに大きくなるの~~~!!?

  あっちに行って~~~!!」

 

 

 「「…って!!信じるんか~~~~~~~い!!」」

 

 

 どんだけ純粋なんだ!って突っ込みたいほど、受け入れている地底人にこの状況を収拾したいるーじゅちゃんとし~ちゃんは嘆いて、外で待機しているROSEのみんなに助けを求める。…求めたとしても、余計に騒ぎになりそうな気がするけど。

 

 

 「ブリブリっ!!オイラタチモナカマニイレテ~、ブリっ!!」

 

 

 友好を築こうとホームズが大丈夫、怖くないって感じで地底人に接触しようとするが、傍から観察しているるーじゅちゃんとし~ちゃんは同じ事を思った…。

 

 

 ((ゴギブリコスを着ているヘムタイが飛びかかってきたら、友好を築こうなんて思わないから…!!))

 

 

 二人が思った事は正しく的中し、地底人の女性は恐怖で悲鳴を上げ、飛びかかってくるホームズを平手打ちで思い切り叩き、近くの建物の壁まで叩き飛ばす。

 

 

 (ほら、言わんこっちゃない。 やっぱり地上人と地底人の女性はゴギブリが苦手なんだな~~)

 

 

 (わかるわかる!! 年頃の女性にはあれは耐えられないよねっっ!!)

 

 

 ホームズを叩き飛ばした地底人の女性に深く共感した二人はその女性に近づき、親睦を深める。女性は素手でゴギブリを撃退したと思い、激しく動揺していた。

 

壁に突き刺さり、頭隠して尻隠さずといった状態のホームズをつんつんと突く火龍人をよそに、地底人の女性と仲良くなる。どうやら、この女性は監視していた者達の仲間ではない感じだ。

 

 そして、自分達が地上人だと説明すると、女性はかなり驚いて絶句したかと思うと、るーじゅちゃんの手を掴んで、必死に懇願する。

 

 

 「あなた達、上から来たのね!?本当なのね!!?よかった~~!!あなた達はあいつらの仲間じゃない感じだし、助かったわ!!

  ねぇ!!お願い!!私をここから出して!!」

 

 

 「え?ここから出す?なんで?ここは地底人の発展都市でしょ?」

 

 

 女性の言葉の意味が理解できず、首を傾げ、問い返するーじゅちゃん。女性は大声で悲鳴を上げたり、叫んだことをいまさらのように思い出し、辺りを見回す。その動きは誰かに聞かれてはまずいっていう風に。

 

 

 「大丈夫。あなたが来てから、また『光学迷彩』を発動させたし、私達の会話も聞かれないよ。」

 

 

 近くで会話を聞いていたし~ちゃんが女性を安心させる。し~ちゃんの言葉に安堵した女性は緊張感を持って、理由を告げる。女性の口から発せられた内容はるーじゅちゃん達に衝撃を与える。

 

 

 「ここは地底人の都市なんかじゃないわ…!

  ここはサーカス団の奴隷収容所兼研究実験所よ。私を含め、あそこで木箱を運ばされている人達はみんな、あのサーカスのショーを見に来て、ここに連れてこられた誘拐事件の被害者たちよ…!!」

 

 

 「「「「何だって~~~~~~~!!!!」」」」

 

 

 目ん玉が飛び出すほど、衝撃的事実に驚くるーじゅちゃん、し~ちゃん、火龍人、ホームズ。

 

 (いつの間に復活したんだ…?ホームズ。)

 

 あまりにも驚愕な事実に顎が外れかかる。しかし、彼らの目には洪水のような涙が溢れだす。そして唇を噛み締め、こう叫ぶ。

 

 

 「「「「夢の地底人大発見が~~~~~!!!!」」」」

 

 

 …そっちかよっ!!

 

 

 ホームズ達はものすごい悔し顔で落ち込むのだった。

 

 




ゴギブリネタを使ったぜ!!
えっ、理由?

それは…

  今、ROSEではゴギブリネタが流行中だからさ!!
 しかも、今うちの家はゴギブリ退治の真っ最中!!
 ゴギブリバスターに退治を要求しているからさ!

ホント、この季節やだね~。


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古の予言

昔話が入ります。

国の誕生秘話…。


 

 地底人との遭遇という大発見ではなかったが、曲芸一座の裏の顔ともいえる秘密基地に落ちてきたホームズ達。

 

 そこで出会った地底人ならぬ誘拐されてきた女性と出会う。

 

 

 「私は、リテラ。ここで収容されている奴隷達のリーダーをしているわ!!」

 

 

 気品溢れる容姿には想像できない堂々としたした態度で自己紹介するリテラは確かに何か引き込まれるような雰囲気を持っていた。ホームズ達も自己紹介をし、リテラに詳しく事情を聞くことにする。

 

 リテラはそれに応じ、リテラが率いる奴隷達の収容所の地下壕へと連れて行かれる。

 

 

 そこには、多くの奴隷達が息をひそめ、穴を掘り続けていた。

 

 

 「みんな!!手を休めて聞いて!!今日はいい知らせだ!!この者達が私達を助けに来てくれたよ!!」

 

 

 「何だって!!?本当かよ!!? やった!!これで俺達は助かるんだ~~!!」

 

 

 「家に帰れるのか!?」

 

 

 「外に出られる~~!! ありがとう!!」

 

 

 「……………あ、はあぁ…。」

 

 

 意気揚々と紹介されたホームズ達はリテラの呼びかけによって、奴隷達に神格化されてしまう。

 

 

 ホームズ達はここに来るまでにも奴隷達を見てきたが、遥かに人口密度が高い奴隷の数に驚きが止まらず、まだ詳しい所まで知らないため、助けに来たと言われても、手段もない状況では不可能に近い。返事に渋るのも無理はなかった。

 

 

 しかし、この流れを変えてくれたのは、ポテチを食べ続けている火龍人だった。

 

 

 「ごめん…。私達、ついさっきここに落ちてきたばっかりだから、まだここの事よく知らないんだよね…。ボリボリ…。詳しく教えてくれる?」

 

 

 「ああ、そうだったわね。 …さっきも言ったとおり、ここは奴隷収容所兼研究実験場。私達は無理やり連れてこられた者達ばかりの集まり。

 

  …話は長くなるから、座って。」

 

 

 

 リテラに言われたとおり座ると、リテラや穴掘りをしていた奴隷達も周りを囲むように座る。

 

 

 「これは…、今から私が話す事は全て目の前で起きた事実で、ここの先人たちに聞いた話でもあるわ。ある時……」

 

 

 そう前置きして、リテラはここの地下都市の話を語りだす。

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 今から300年程前のこと……

 

 

 まだここに帝国が誕生する遥か昔、ここには緑豊かで、花々が咲き誇り、民の笑顔が絶えない穏やかな国があった。国王も穏健なお人で、民と共に働き、協力し合って、決して財力に豊かではなくても、民は不満を言わず、国を愛していた…。

 

 

 そんな国にある時、自らの力を強固とするため、その国の隣国達に言葉巧みに操り人形にし、取り囲むようにして、国に侵攻してきた大国があった。大国は大陸制覇を目論見、次々に国々を滅ぼしにかかり、容赦のない殺戮を繰り返してきた。そして大国は更なる力を求め、侵略を進めていき、この国に目を付けた。緑豊かなこの国には普通の人々が手にする事が出来ないような潜在的な力を持っていた。

 

 

 ―――――それが”魔法”だった。

 

 

 人外なる魔法を使う彼らの存在を知った大国は我が物とするために、侵攻してきたのだった。

 大国と操られた隣国との大戦でこの国は襲われた。しかし魔法を用いた戦術で兵力に大差がありながらもまったく大国の侵攻を寄せつかせなかった。

 

 しかし、ますます”魔法”に興味を持った大国の国王が何としても我が物とするために、卑劣な方法を取った。

 

 

 

 それは、偽人質公開処刑だった…。

 

 

あろうことか、大国の国王は自国の兵をこの国の兵に偽装し、縄で縛って口を塞いだ上で、戦いの戦線に連れて行き、公開処刑にした。そして、まだ捕えた兵がいると宣言した。もちろん、それは嘘だ。

 

 しかし、そんな自国の兵をそのためだけに殺すとは思えず、自国の民が目の前で殺されたと思い込んだ国王はその兵を助けるために、要求を呑んだ。

 

 慈悲深い国王の判断に民達も快く受け入れ、国の中に敵を迎え入れた。

 

 そして、互いの主張を話すため、会議が行われ、国王は民達にこれ以上手を出すなと強く抗議した。それに対し、大国の国王はその要望に応じた。

 

 盟約にも結び、再び平和が戻ると思ったその夜、事件が起きた。

 

 

 

 夜、寝静まる国の中、愛する国の兵たちが押し寄せ、無差別に惨殺されていった。民達はなぜ彼らが襲ってくるのか分からず、ただ燃え広がる国の中を必死に逃げ回る。

 

 緑豊かな土地は火の海となって焼け広がり、綺麗に咲いていた花々は民の血で赤く染まっていった。

 

 

 『国王様~~~!!なぜですか~~!!』

 

 

 『お助けを~~!!』

 

 

 そんな無差別殺戮から自国の民達を救ったのが、大国の国王が率いる兵たちだった。

 

 そして、大国の国王は国民たちに言った。

 

 

 『私達は君達を騙し続けてきた愚王を倒すため、遠路はるばるこの国にやってきた。彼ら王族は国の富を我が物とし、贅沢をしていた。

  そんな愚王はこの私が首を刎ねてやった。

  安心しろ。私がこの国に繁栄を築いてやる!』

 

 

 その言葉と栄光に心打たれた民達は歓声を上げ、大国の国王を讃え、新たな国が誕生した。その国こそがこの”イレギュラー国”。

 

 初代国王はその言葉とおりにこの国を栄えさせた。民達は今までに手に入らなかった富と力を手にするようになった。

 

 

 

 

 しかし、国が崩壊し、大国が治めるようになった民の殺戮は大国の国王の仕掛けた罠だった。

 

 

 大国の兵にまた敵国の兵のふりをするように指示し、寝静まった夜、彼らが殺戮をしたのだった。そしてその後、自国の兵だというのに、敵国の兵として倒した。

 

 国王や王族はその時、応急の地下牢に騙されて幽閉されていた。民の悲鳴が聞こえ、国王の助けを求める民を助けようと牢から出ようとしたが、牢には魔法を阻害するように設計されていたため、自力での脱出を志したが、敵に知られ、抑え付けられた。

 

 

 こうして、国を奪われた国王と王族は大国の国王が命じて掘られた地中牢に閉じ込められた。

 

 初代国王が何故、国を奪われた国王や王族を生かしたかというと、この国における魔法の源を創造し、民に、大地にサイオンを通じて広げていたからだ。

 

 それを知った初代国王はせっかく”魔法”を我が物にしようとして、国を手に入れたのに、彼らを殺してしまえば、その”魔法”が手に入らず、全てが無駄になってしまう。善王の真似までして民からの信頼を得て、”魔法”に関する情報を集めてきた。それを無にすることを恐れ、初代国王は国王たちを生かし、なおかつ民から隠すため、幽閉したのだった。

 

 

 しかし、初代国王は魔法をまだ理解していなかった事で甘く見ていた。

 

 

 国王たちは魔法阻害の牢から出され、地中牢に入れられた時、その場にいた初代国王や配下に精神干渉系魔法を施していた。

 

 それにより、国王たちの監視を不要とし、時間がたてば、国王たちの事を忘れさせるように仕込んだ。

 

 初代国王は目に見える”魔法”に目を光らせていたため、気づく事はなかった。

 

 

 

 

 こうして、地中牢に幽閉されながらも手錠等はされずに、また監視もいなかったため、工作をする事ができ、脱出はできた。

 

 

 しかし、国王達に待っていたのは、初代国王が広めた忌まわしき嘘からできた現実だった。

 

 

 民からは心底憎まれていた国王達はすでにこの国に居場所はなく、かといって、ほかの国に亡命などすれば、自分達の持つ魔法が知られた場合、刺客が襲ってくるかもしれない。

 

 

 

 

 そう考えた国王は再び、地下へと潜った。そして国王たちの子孫達がさらに大きくしていき、そこには大きな地下都市が誕生したのだった…。

 

 

 そして国王は地下で生き続けながらも民を守り続けてきた無理がたたって、病に陥った。

 

 

 

 

 国王は息を引き取る前に予言を残す。

 

 

 

 

 『再び、悪しき魂が作り出した闇によって窮地に落とされるだろう…。

  人を喰らいつづける化け物は我が力を欲し、暴れだす…。

  その時、この国に心強き勇者たちが現れ、化け物を真の心で撃ち抜くだろう…。

  

  その心でこの世界に平和が訪れる…。』

 

 

 予言を残した後、国王は深い眠りについた。その表情にはその予言に向けてなのか、確信めいた微笑みが浮かんでいたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 「これが、この国に伝わる、真の誕生秘話よ。そしてこの場所こそが、その濡れ衣を負わされ、息をひそめ、暮らしてきた真の王族達が築いてきた聖地よ!!」

 

 

 熱く語るリテラの瞳には底知れない信念が宿っていた。

 

 

 「そんな聖地にあいつらが目を付け、こんな場所にしてしまった…。私はここで負ける訳にはいかない!!ここから出て、ご先祖様の無念を晴らさないと!!」

 

 

 地面に拳を撃ちつけ、憤るリテラに今まで話を聞いていた火龍人は仮説を問うてみる。

 

 

 「ねぇ…?リテラはもしかして、その国王に関係ある人だったりする?」

 

 

 火龍人の指摘に一瞬跳ねるリテラ。

 

 

 しばらくして、姿勢を正し、ホームズ達にまっすぐ視線を向ける。

 

 

 「そうよ。

  改めて、自己紹介するわ。

  私は濡れ衣を着せられたこの国の真の国王の末裔、リテラ・ピュアン。

  そして、この国を取り戻すため、立ち上げた革命軍のリーダーよ。」

 

 

 

 

 

 地下深くで息をひそめていた命が今、地上に芽を出した瞬間だった。

 




スケールがでかくなった~~!!


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革命の灯火

いざ、戦うぞ!同志たちよ!


おおおお~~~!!  …掛け声だけで息キレを起こすうち。


 

 

 

 

 リテラが実は王族の末裔だと知ったホームズ達は納得した。

 

 

 リテラから発せられる雰囲気や奴隷達の慕われようを見ると、人を惹きつけ、導いていく姿が似合うのだ。

 それに、リテラが嘘をついているようには見れない。

 

 リテラの力になりたいとホームズ達は顔を見合わせ、意見が一致している事を確認する。

 

 しかし…

 

 

 「でも、まだ腑に落ちない事がある。この地下都市は革命軍のアジトだったわけだよね?どうして奴隷収容所になったわけ?」

 

 

 「そ、それは…。」

 

 

 「おいら達もこの国には闇が蔓延んでいる事は知っているし、今までも闇ギルドたちと戦ってきた。そして、それが国を脅かしている事も知っている。

  おいら達はそんな悪を断ち切るために、魔法を使って、仲間と共に動いているんだ。」

 

 

 「大丈夫だよ!私達はこういう事に慣れているから!ここまで聞いたら、もう友達だよ!!」

 

 

 「そうそう!!友達が困っていたら、助ける!!それがROSEのモットーだからね。」

 

 

 言いにくそうにしていたリテラを遠慮は不要と伝え、リテラの隠している話を聞く。

 

 

 ホームズ達のどんな事でも受け入れるという姿勢に目を潤わせると、袖で目を拭い、深呼吸をする。

 

 

 「実は、私があいつらをここに入り込ませてしまったの。自分が甘かったわ…。何度自分に叱咤した事か…。」

 

 

 「そんなことはないさ!リテラは俺達を助けてくれて…」

 

 

 「でも、結局はあなた達を苦しめているわ!! 私が何とかしないと!!」

 

 

 「…どういう事かな?話が見えてこないんだけど…?」

 

 

 奴隷達がリテラに責任がないと言い続ける中、リテラは事の経緯を語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私はこの地下都市で生活しながらも、帝国の情報を集めるため、度々地上に出て、帝都を見て回り、人々の兆候や魔法の発展状況、各ギルドの調査。色々自分の目と足で見て回ってきたわ。すると、この帝国には活気あふれ、お金も溢れて楽しそうに見えるけど、その裏では暗躍や隠ぺい、賄賂、詐欺…。悪意に満ちた方法で人を陥れる闇が存在していたわ…。その悪意が帝国に莫大な富を潤わせていた…。

  そんな帝国が許せなくて、でも私には帝国を相手にできるほどの知識も人脈も何も持っていなかった。帝都を見て回っていると言っても、それはこの帝国のほんの一部だけ。大陸中の国々をまとめ上げ、制覇した帝国に真っ向から戦いを挑むなんて間抜けがする事よ。

  でも、このまま帝国の悪意に巻き込まれる民を見捨てる事は出来なかった私は彼らを保護し、地下都市で一緒に暮らして、革命軍を発足したわ。

  おかげで、この帝国の情報がたくさん入ってきたし、仲間もできつつあった。

 

  そんなある時、私が異常な借金の取り上げに遭遇して、助けた人と地下都市に帰ってきたら、その借金取りが尾行してきたみたいで、この地下都市の事を知られてしまった。

  その借金取りの親玉が乗り込んできて、ここに降りてきて、言ったの。

 

 『今日からここは私の物だ。全員殺されたくないなら、言うとおりにしなさい。』

 

 

 追い出そうとしたけど、見たことない魔法で気付かない内に仲間が倒されていた。そして、仲間を人質に取られて、助けるためにはあいつらにこの地下都市を渡すしかなかった。

 

 

 それで、彼らがここを闇商売や実験場のアジトとして使うようになったのよ…!ここなら地上の民達からも目は届かないし、絶好の隠れ蓑だから。

 

 こんなところをご先祖様が見たら、嘆かれるわ!!私の不注意で…!!こんな…!!」

 

 

 強く拳を握りしめ、唇を噛み締めるリテラ。

 

 

 「そんな事はないさ、リテラ。俺達をあいつらから守るために身体を張ってくれたじゃないか。それにあいつらの犠牲にならないようにとミスした奴隷を庇ってくれたりしてくれた…!リテラがいなかったら、俺達は今頃、こうして生きていなかったかもしれないんだ。」

 

 

 「ああ…。あいつらを倒して、ここから出て、あいつらを野放ししている帝国を倒して、革命を成し遂げよう!!俺達はリテラと共に戦う覚悟はできているからっ!!」

 

 

 経緯を聞いていたホームズ達は立ち上がると、リテラや奴隷達に手を差し伸ばす。

 

 

 「今まで、よく頑張ったね!」

 

 

 「私達もそういう奴は許せない!!」

 

 

 「熱湯鍋に入れこんで、茹で上がらせればいいよ…。ボリボリ…!!」

 

 

 「おいら達も…、いや、ギルド”ROSE"もその革命に参加するぜ!!そうだろう!?みんなっ!!」

 

 

 『当たり前だよっ!! 俺達は悪を許さない!! 』

 

 

 『仲間が泣いている、助けを求めているなら、どこまでも私達は突き進んでいたぶってやるのさっ!!』

 

 

 『ROSEを甘く見てもらっちゃ困るよね~~!!』

 

 

 ホームズがいつの間にか繋いでいた連絡回線の先から外で待機しているROSEのみんなの声がする。

 その声を聞いて、溜めていた涙が零れだし、リテラはホームズ達に地面に手をついて、頭を下げる。

 

 

 「ありがとう…!! ありがとう!!」

 

 

 リテラ達の感謝を十分にもらったホームズ達はいつもの敵を倒す時の不敵な笑みを浮かべ、まだ見ぬ敵に向かって、宣戦布告する。

 

 

 「待ってろよっ!!おいら達ROSEがお前たち全員を粉砕してやるぜっ!!」




革命…か~。

そういえば、参議院選投票がもうそろそろだ~…。投票誰に入れようかな…。みんなも投票にレッツゴー!!


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支配者、降臨!!

地下都市の現支配者が登場~!!


 

 

 革命軍とROSEの共闘宣言が決まり、リテラの案内でこの地下都市の構図を探っていく。

 

 

 リテラはこの地下都市の手書きの地図を広げ、指で各重要な場所を指しながら、説明する。

 

 

 「まず、この地下都市は大きな円形の形をしていて、中心に向かって行く毎にあいつらの重要なアジトや施設があるわ。

  私達が今いるところが、ここの地下。」

 

 

 リテラが地図に指した場所は、地下都市の一番外側にある大きな建物だった。

 

 まわりにも建物が立ち並んでおり、マトリョーシカのように中心に向かう毎に建物で描いた円が小さくなっていっている。

 そして、中心の一番大きい円柱の赤い建物の周りに川が流れている。

 

 その赤い建物の四方に橋が架けられ、そのそれぞれの橋を渡った正面には地図に大きく丸で記された建物が4つあった。

 

 

 「この4つの丸で記された建物はあいつらの裏稼業の拠点なのよ。

  北のこの建物は、人外に影響を与える薬品の製作工場。南の建物はその薬品の実験場。西の建物は裏取引で手に入れた魔法アイテムや武器、薬品等の保管庫。そして東の建物は……売春宿舎…なの。」

 

 

 「な!! ば、売春!!?」

 

 

 「地上から連れてこられた人たちはまず、いくつかの選択をされるのよ。強い魔法師なら、洗脳して、サーカスの団員や誘拐の実行部隊、警備員として。一般人で若い男達は奴隷として。美しい女性たちはここであいつらの従う部下達への報酬金の代わりに売春させ、娼婦へと。反乱分子や年寄りは実験体に…。自分達の役に立つ用途に振り分けて、こき使うのよ。

  

 私達がすごしてきた民家も部下たちの住処となって、奴隷達はこの建物に全員、入れこんで閉じ込めるのよ…。」

 

 

 「何だよ、それ!!私達は道具じゃないわよ!!」

 

 

 「そうだよ!!乙女を乱暴に扱うなんて、愚図だわ!!!」

 

 

 「……全員、手足を錠につないで豚のように歩かせればいい…。ボリボリ…!!」

 

 

 「それはいいな!! まずは全裸にして、この首輪をつけて、このとがったヒールの先でぐいぐいっと… あだっ!!」

 

 

 し~ちゃんがホームズを殴って続きを遮る。

 

 

 それを目の端に入れつつ、るーじゅちゃんが中心の赤い建物を指差して問いかける。

 

 

 「じゃ、このいかにも怪しい赤い建物は何?」

 

 

 「…そこは、あいつらの本部で、底に闇の商人やら権力者やらが集まって、夜な夜な何かをしているのよね。でも、何をしているかは情報がどうしても入らないのよ…。

  一度本部に潜り込んでみたけど、どこかにあるはずの支配者の研究室も見つからなかったし、構造が複雑すぎて逆に罠にはまってあいつらに捕まった大勢の仲間たちがいるわ。」

 

 

 「ま、そう簡単にはいかないよね~。敵の心臓部分って訳だし。手が込んでいる秘密程、暴かれたくないもんだよ。」

 

 

 「そういう秘密こそが私達の大好物だけどね。」

 

 

 「ほんじゃ~…、その本部とやらにいこっか…。」

 

 

 顔中にたんこぶや痣を付けたホームズが提案する。リテラはあまりにも変わったホームズに驚いたが、見慣れているるーじゅちゃん達はホームズの提案に乗って、立ち上がって、上へと続く梯子を上っていく。その後ろを慌ててついていくリテラは奴隷達に戦闘準備をするように言って、この場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 監視の目を掻い潜り、なんとか本部の前まで来たホームズ達一行。

 

 

 しかし、ここから先は、姿を隠せる建物もなく、視界の良すぎる通りがあり、容易には近づけずにいた。

 

 

 「こうなったら、また『光学迷彩』でも…」

 

 

 「それは無理そうだよ…。相子の使いすぎで魔法は最小限でしか使えないし、入り口には探査機があんなに設置されてるよ。(。-∀-)」

 

 

 し~ちゃんの指摘で本部の入口に目を向けたら、どんだけつけたら気が済むんだ!っていうほどの探査機が入口を囲むようにして取り付けていた。

 

 

 「一体支配者は何を考えてあんなにつけてるんだよ!」

 

 

 ホームズが思わず洩らした独り言にリテラが答える。

 

 

 「私、精神錯乱魔法で何回もあそこに入っているからね。いつも、入られるから警戒されて、探査機取り付けられるし、警備員や実行部隊も増員されるし、この辺り、隠れる場所がないように改装させて見渡しよくされるしで困ってるのよね~。」

 

 

 それを聞いたホームズ達はリテラを恨めしそうに睨み付ける。

 

 

 「???何?(;・ω・)」 

 

 

 「「「「お前のせいか~~~~~い!!!」」」」

 

 

 リテラに文句を言うホームズたちに何で怒っているか分からず、首を傾げてると、本部から出てきた人物を見て、目を見開くと、まだブーブーっと文句を言うホームズ達をお構いなく蹴って、物陰に隠れる。

 ホームズ達はドミノ倒しのように効果音をつけて物陰に飛んで行った。

 

 

 リテラは額に汗をかき、本部から出てきた人物に鋭い視線を放つ。

 

 リテラの様子に文句は後回しにし、同じくリテラが睨む相手を見つめると、リテラが小声だが、はっきりとした滑舌で話す。

 

 

 「あの、本部棟から出てきたあいつこそ、ここを奪って、私利私欲のために私達を苦しめる、憎き支配者よ…!!」

 

 

 支配者だとリテラに言われた人物を見て、ホームズ達は口を開きっぱなしにするしかなかった…。

 

 




支配者はまだだしませーん。(。-∀-)ま、次の次にだします!
想像はつくとは思いますが。

明日は七夕と言うことで番外編をやります!


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番外編~星に願いを!!~

今日は七夕!!なので、それにちなんで、みんなに願い事を聞いて、それをネタにしてみました!!


 

 

 

 

 寝苦しい暑さがここ数日続く帝都に、とある商人一行が夜遅くにかなり荷物を積んで山になった荷車を力いっぱいで押しながら、やってきた。その荷物の中には、聖遺物(レリック)と呼ばれる中でも貴重なものだった。そのレリックはたまたま目の前を通ったギルドの魔法師達の夢を繋げ、疑似体験させたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みんな~~~!!おはよう!! 今日は涼しくなるって天気予報……が………

  みんな、どうしたの?」

 

 

 今日も元気に起きてきたミナホはホールに顔を出すと、ぎるどのみんながテーブルに頭を垂らしていたり、頭を抱えていたりとドンヨリ空気が漂っていた。

 

 

 「やっとシメシメとした湿気がなくなったのに、今度はみんなが発する湿気でギルド内が侵食されていく~…。」

 

 

 「お、おはよう…。ミナホ~。」

 

 

 「おはよう…! なんか飢えた人みたいになっているよ!御神っち!!しっかり!!」

 

 

 「いや~…今日はいつもと増して夢見が~わるくて~」

 

 

 「え?」

 

 

 「そうそう、何でかこことは違う世界で奔走させられる夢を見たよ。」

 

 

 「あんなお、恐ろしい所は見た事がない…!!」

 

 

 沈んでいたみんなの口から次々と語られる、みんなの”夢”がどういう訳が同じ世界でシンクロしていた。

 

 

 その世界というのは、魔法が一切使えず、高度な技術と経済で生活する世界で、みんなはその世界で学問を学ぶ者や上下関係が荒いギルドのメンバーとして働いていたみたい。

 

 その世界での体験が覚めた今でもはっきり覚えているほど、鮮明に記憶していた。その所為で、朝からみんなの気分が落ち込んでいたのだった。

 

 

 「まさか、みんなも同じ夢を見ていたなんて…!!」

 

 

 みんなの夢の話を聞くにつれて、呆気にとられていくミナホもまた、同じ夢を見て、寝汗を掻いて起きたのだった。

 

 

 「ミナホはよく平気だったね。」

 

 

 「いや、うちも平気って訳じゃ…。夢だし、こういう夢も見るんだな~って思って、明るくいようとしたっていうか…。」

 

 

 それでとうとう、みんなで合唱するかのように大きなため息を吐く。

 

 

 ドンヨリ空気はさらに増す。

 

 

 

 ミナホはこの流れを打開すべく、必死に脳みそをフル回転させる。そして、

 

 

 

 

 ピコ――――――ン!!!

 

 

 

 

 「そうだ!! みんな、”タナバタ”をやろう!!」

 

 

 「タナバタ?何だそれは?」

 

 

 「実は夢の世界で今日はその”タナバタ”って日らしくて、細長い色とりどりの紙に自分の願い事を書いて、ササの葉にくぐりつけると願いがかなうって言われているらしいんだよ!!

  折角だし、やってみない!?」

 

 

 ミナホがイベント実行委員長の魂に火をつけ、目をキラキラに演説する。

 

 

 それに押されたみんなもこの空気を払拭しようと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし!ササの葉も紙もペンも揃ったね!!じゃ、みんな願い事を書いていって!!」

 

 

 帝都の出店通りに行って、買いに行ってきて、材料をゲットし、偶然にもササの葉が珍しく販売されていた。そのササの葉をホールの中央に飾り、みんなはササの葉に飾るため、”短冊”と言われる紙に願い事をかいていく。

 

 

 「みなっち!!書けたよ~~!!私の願い事!!」

 

 

 「なんて書いたの~!!?」

 

 

 真っ先に書き終わったくろちゃんが私に短冊を見せてくれて、願い事を見せてくれた。そこに書かれていたのは…

 

 

 『仕事する気がでますように』

 

 

 「・・・・・・・・・あの、くろちゃん、この願い事って?」

 

 

 「みなっち、聞いてよ!夢でね、私、仕事してたけど、私の特技を生かせられないし、上司?が厳しく当たってくるしでやめてさ~。その重荷があって、仕事やる気しないんだよね~。ああ、でも遊ぶ気はありありだけどねwww」

 

 

 くろちゃんは後頭部を手で掻きながら、冗談を言うかのように語る。その後、RDC、ホームズ、御神、ペンダゴン、tokoの順に願い事を見せに来た。

 

 

 『自分の行きたい企業(ギルド)に就職(メンバー加入)できますようにかな?』

 

 

 『マジメなのは、無事無事故で工事が完遂しますように。』

 

 

 『皆でもっとワイワイ楽しめますように。かな?(ーωー)』

 

 

 『歌が上手くなりますように』

 

 

 『穏やかに楽しく過ごしたい!』

 

 

 …と書かれていた。ま、理由を聞いてみると夢の世界での自分の境遇の影響を受けていた。tokoなんて、「このギルドでの願い事なら、面白楽しく元気に過ごす!」って泣けることを言ってくれたんだけど、夢の世界では「目立たずに行動する事をモットーにしていた」って話していた。

 

 ミナホは魔法が使えない世界で自分の姿を消すなんて、かなりの難度を要求されるのに、実践していたとはすごいなと感心したのだった。

 

 

 ちなみに流浪の旅魔法師だった新しく仲間に入ったワイズにも親睦も兼て、参加してもらって、書いてもらったら、

 

 

 『孤独でも安泰な生活ができる老後かな(@ーρー@)

  名前だけの中間管理職で社畜で終わりそうで…orz 』

 

 

 そして、どこからか情報が入ったのか、通信回線からマサユキから願い事が届く。

 

 

 『世界を征服したい』

 

 

 もう少し具体性はないかなって思って返信したら、帰ってきたメッセージには…

 

 

 『インフラを手中に収める』

 

 

 なんて書くもんだから、ミナホはなんて反応していいか分からなくなってきた。

 

 

 「みんな…、夢世界の影響を受けすぎだよ~。もっとこう…ど迫力な~…。

  ま、みんなの気持ちもわかるよ!?でも…」

 

 

 一人でみんなの書いてくれた短冊を手で広げて持ちながら、ブツブツ呟いていると、肩を突かれ、ミナホは振り向く。すると、にこにこと笑うさっちゃんが立っていた。

 

 

 「はい!!ミナホちゃん!!私の願い事だよ!!」

 

 

 「ありがとう…!!どれどれ…。」

 

 

 さっちゃんの願い事に我ながら期待を求め、見てみる。

 

 

 『宇宙旅行に行ってみたい(*^―^*)宇宙から地球を見てみたいです♪』

 

 

 さっちゃんの願い事に安堵と共に、癒されて、嬉しくて感動の涙を流し、さっちゃんに感謝を言う。

 

 

 「壮大で美しい願い事を頂きました!!ありがとう~~!!」

 

 

 「スケール大きすぎかなぁ?あと、猫の島とか…猫カフェとか猫に囲まれてみたい♡」

 

 

 「全然!!むしろ人間はさっちゃんみたいな夢を持つべきだよ!!」

 

 

 感動の涙が洪水のように流れて止まらないでいると、ちゃにゃんが仮装から帰ってくる。(仮装ギルドにお使いに行っていたのだ)そして、イベの事を話して願い事は何かと聞いてみると…

 

 

 「ROSEの皆でアスカ戦に勝ちに行きたい。のだにゃ。それが願い事だにゃ。」

 

 

 頬を赤らめ、照れながら語る願い事にそれを話してもらったミナホだけでなく、聞き耳を立てていたギルドみんなが一斉にちゃにゃんに抱きついて号泣する。

 

 

 「嬉しいお言葉頂きましたぁ!!ちゃにゃっち、大好きだ~~~~~!!!」

 

 

 「私もだ~~!!」

 

 

 「ちゃにゃん~~~!!どこにも行かないでくれ~~!!」

 

 

 「みんな~。うれしいにゃ。」

 

 

 ROSEの仲間の愛情を一身に受けるちゃにゃんのお蔭で盛り上がり、ホームズとくろちゃんがピシッと音がしたかと思うくらい勢いよく手を上げて願い事を大声で語る。

 

 

 「はい!!おいら、ホームズ!!願い事を付け足します!!

  おちゃらけは、ハァハァ

  ●REC(0_0) wwwww」

 

 

 カメラを取り出し、ちゃにゃんに固定して撮影を始める。そして、

 

 

 「ちゃにゃん隊長への覗きが…期待するなり~」

 

 

 もうはしゃいでいるホームズと一緒にくろちゃんも乗り込んできて、

 

 

 「おふざけモードなら、ヘムタイ王になりたいwww」

 

 

 と言い出したので、二人は目をキラッとして、NSTの出動号令を掛けようとした。しかし…

 

 

 

 ぼがああああああ~~~~~~ん、どどどおおお~~~~~~んんんん!!!

 

 

 

 ものすごい打撃音とともにホームズはギルドの屋根に穴を空け、空へと飛んでいき、星となった。

 

 

 「次はくろちゃんかにゃ?」

 

 

 眉間に皺を軽く作りながら、笑っているちゃにゃんの拳は強く握られており、煙が立ち上がっていた。

 

 その状況にくろちゃんは体全部を震えさせ、横に首を振り続ける。そして全く同じ、動きをギルドみんなが反射的にしていた。

 

くろちゃんがヘムタイ王になるのはまだまだ先のようだね…。

 

 

 身体が震えながらも、さっちゃんは屋根に空いた穴から空を見て、口を尖らせる。

 

 

 「いいな~。ホームズさん。

  私より先に宇宙旅行に行っちゃって、ずるい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、空まで飛ばされたホームズは宇宙にまで飛ばされ、星が密集する中をぐったりとして漂っていた。

 

 

 「あら?ねぇ、彦星様。あそこに人が流されてきますわ。」

 

 

 「本当だね。流れてくるね~。」

 

 

 ホームズは”タナバタ”で有名な織姫と彦星の年に一度の出会いの場に天の川に流されて居合わせたが、その決定的瞬間を気絶して見過ごした。

 

 

 そして、織姫と彦星は一年逢えなかった分の愛を育むように二人だけのピンクの世界を作り出し、入り浸っていたので、目の前を流れるホームズには全く興味を持ちませんでした。

 

 

 

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと!!ここでめでたしにしないで~~~!!

  ちゃにゃんの覗きが~~!!          」

 

 

 

 涙を流し、何で宇宙にいるか、分からないままホームズは叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 追記

 

 

 

 その”タナバタ”の夜…。

 

 

 みんなの願い事を綴った短冊を潜りつけて飾られて、ギルドのホールの中央に置かれたササの葉が誰もいないホールで淡くもやさしい光を放ち、屋根の穴から入り込む風で葉が揺れ動く。

 

 その風に乗って、ササの葉から放たれた光がまた外に出て、空へと旅立っていった。

 

 

 ギルドみんなの願いを乗せて…。

 

 

 

 こうして、その夜、ギルドのみんなは自分達が願った願い事が叶った夢を見ていた。その寝顔にはみんな、微笑みがあった。

 ただ一人は除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 「ここはどこなんだ~~!! …一人で宇宙旅行ってこんなにさびしいんだな~~。うう…。」

 

 宇宙まで飛ばされたホームズはまだ宇宙空間を彷徨っていたのだった。

 

カエル泳ぎをしながら、天の川の流れに逆らい、地球へ帰ろうとするが、流れが激しい上に、流されてくる星々に激突され、身体中が腫れ上がり、頭や顔にはたんこぶが何個もできて、頭の瘤なんかはツインアイスクリームのようになっていた。

 

 そんなホームズの必死な泳ぎの近くでは、織姫と彦星のアツアツの愛の契りが行われていたのだった。

 

 

 

 ホントのめでたし、めでたし~~!! ジャン、ジャン!!




ほーちゃん、ごめんね。

ちゃにゃんの覗きはまた今度に…。期待させといてごめんね~!!

「ミナホちゃん?」


やべ!逃げろ~~!!シュたっ!!


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本部への道険し…!?

まずは敵の懐へ潜り込まないとな~。

まったく、リテラもよく頑張ったけど、それが裏目に出ている現状・・・。

ホームズ達はどうするかな~。


 

 

 

 

 支配者の顔を見て、驚いたホームズ達。

 

 

 

 それもそのはずで…

 

 

 「あいつ…、”カバルレ・サマダ”よ…!! 地上ではこの真上にサーカスなんて真似をしている団長よ! ホント、いつ見ても憎たらしいわ!!」

 

 

 物陰に隠れながら説明するリテラの目はどんどん細まっていき、爪を立てて、隠れ蓑になっている木箱の山の一つに傷がつく。

 

 

 リテラの説明を受け、更に驚いたホームズ達はパクパク口を動かす。

 

 

 「いやいや、確かに格好とかはよく似ているけど!」

 

 

 「そうそう、あれは別人だよね!?」

 

 

 「う~~~ん・・・。今までが変装だったとか?」

 

 

 「ううん、変装であそこまでにはならないよ…。でも、凄いね~、ボリボリ…。

  若返っている…。」

 

 

 ようやく話せるようになっても驚きが隠せないホームズ達がカバルレだと言われた支配者を改めて見ると、火龍人が言うように私達が見た団長はより断然若返っていたのだ!

 

 

 「もしかして、息子とか?」

 

 

 「う~~~ん、でも感じる魔法力の強さはカバルレ団長の魔法力と同じなんだよね~。」

 

 

 「だめだ~!!一杯色んな事が頭に入ってきて、追いつかない!!」

 

 

 るーじゅちゃんとし~ちゃんがのたまっていると、本部棟から人がまた大勢でてきた。そして、鎖でつながれた奴隷達を本部棟に入れるように指示したり、本部周辺の巡回や監視の強化を指示したりしだした。

 

 その人物たちもまた見覚えがありすぎる者達だった。

 

 

 「…炎獣遣いのドレーナに、水バルーンのウォンとターン双子…、他にも曲芸一座の看板パフォーマーたちだ…!」

 

 

 「どうやら、団長だけというよりはサーカス全体が悪に染まっているみたいだね。」

 

 

 「それに、あの若くなった団長さん、本物っぽいよ!?くすん、ウォン様が団長さんに「ボス」って言ってるし、平伏しているし~…!!」

 

 

 「し~ちゃん…、ウォンの事、好きだったんだ…。ボリボリ…。ポテチ、食べる?」

 

 

 「うん、ありがとう…。ボリボリ…。くすん…。」

 

 

 ROSE世界が広がり、楽しんでいる?ホームズ達にリテラは呆れてしまう。

 

 

 「あれは、幹部たちよ。カバルレの忠実な部下。特に、ドレーナ、ウォン・ターン双子は最高幹部としてカバルレの双璧を担っているのよ。」

 

 

 「…三人いるのに、”双璧”になるの?」

 

 

 火龍人が指摘した言葉の矢にリテラが突かれ、ホームズが慌てて口を塞ぐ。

 

 

 「双子は一心同体って事だよ!」

 

 

 るーじゅちゃんが火龍人にこそっと耳打ちし、火龍人は納得する。

 

 

 

 

 「幹部が出てきたって事は、そろそろ始まる時間ね。」

 

 

 気分を取り戻し、カバルレ達の様子を探るリテラが呟く。

 

 

 「何が始まるの?」

 

 

 「さぁ?内容は分からないんだけど、ああして、カバルレ達がここに現れる時は、本部で何か大きな事がある予兆みたいなものなのよ。一気に、木箱の荷物が減ったりするしね。…そういえば、その度にカバルレが若返っているように感じる…。」

 

 

 「…つまりこの後、カバルレ達にとって、大事なビッグイベントがあるって事だな…。よし!!乗り込むか!!」

 

 

 「「「うん!!!」」」

 

 

 「!!ちょっと待って!!動いてはだめ!!」

 

 

 ホームズの掛け声に返事するるーじゅちゃん、し~ちゃん、火龍人は早速、ある者を調達するためにこの場を離れようとした。しかし、それをリテラが血相を変えて止める。リテラの視線が固定されている方へホームズ達は振り向くと、炎獣使いのドレーナがこっちを凝視していた。

 

 

 「もしかしてばれたの…!?」

 

 

 「そんなはずはない。今も防音フィールドは張っているし、『光学迷彩』も発動し続けているから。な?火龍人?」

 

 

 「うん…、少しきつくなってきたけど、解除は一切していないよ…。」

 

 

 リテラが見つかったと思い、焦りが見れる。それをホームズが否定する。

 

 

 ホームズ達が嘘をついている風には見えない。

 

 リテラは頷いて信じてみる事にした。しかし…

 

 

 「でも…、こっちをかなり凝視しているわよ…。」

 

 

 「おいら達を見ている訳ではないと思うけどな~。よし、あれをしてみよう。みんな集まって!!」

 

 

 リテラの疑いを晴らそうとホームズがるーじゅちゃん達を呼び集め、何かを話し合った後、4人でなぜか組体操を始める。

 

 

 「何しているのよ~~!!」

 

 

 「いや、俺達の芸でも見れたら、反応するだろ?だから、無反応なら見てないって事で証明になる!!」

 

 

 「なるほど~!!…ってそんな場合ではないわ!!」

 

 

 リテラが突っ込みを入れるが、ホームズ達の組体操は止まらず、ドレーナの凝視も終わらない。

 

 ホームズは次の作戦に仕掛ける。

 

 

 

 

 

 ―――――それは、ゴギブリの真似~。

 

 

 

 

 

 ガサガサと動き出すホームズにるーじゅちゃんやリテラが悲鳴を上げる。そして逃げ回りながら、ドレーナの様子を見ると、なんとドレーナもものすごく嫌そうで怯えた表情をしていたのだ。それを火龍人が伝えると、ホームズはそのままドレーナに近づく。すると、若干呻き声を漏らして、数歩、後退りする。

 

 

 そこで、今度はホームズが玉乗りをはじめ、その上で、身体を丸めたるーじゅちゃん、し~ちゃん、火龍人を華麗にジャグリングし始めた。

 

 

 「人間ジャグリング!!?」

 

 

 三人をジャグリングしているホームズも凄いけど、てっぺんに来たら、るーじゅちゃん達が身体を広げてポーズしたり、一瞬の芸を見せたりしているから、リテラも突っ込む事を忘れ、魅入るくらい曲芸を見た。

 

 フィニッシュを迎え、これまた華麗に着地した四人に玉乗り用の玉が破裂し、白い紙吹雪が舞う。いや違う…。雪が舞った。

 

 

 曲芸が終わり、思わず拍手するリテラ。

 

 

 「四人とも、素晴らしかったよ!! 思わず見惚れちゃった!!」

 

 

 はしゃいで感想を言うリテラ。でもふと何かを忘れているように感じ、周りを見渡すと、今までリテラ達がいる場所を凝視していたドレーナが顔を横に逸らし、必死に笑いを堪えようとして、顔が真っ赤になっていた。

 

 

 その表情を見続けるリテラとホームズ達。

 

 

 「おい、ドレーナ。何をしている!? 中へ戻るぞ!!」

 

 

 若返ったカバルレ団長に呼ばれ、ドレーナは本部の中へと戻っていく。その際もこらえきれなかった笑いが口から零れ、身体は震えていた。

 

 

 カバルレや幹部たちが本部棟に姿を消したのを見送ったホームズ達はその場に立ち尽くす。

 

 

 

 

 

 「検証結果を報告…。」

 

 

 「ドレーナの反応からして、私達の曲芸が影響していたと分かったね~。」

 

 

 「でも、防音フィールドも『光学迷彩』も万全…。普通なら見えないし、聞こえない…。」

 

 

 「以上の状況と反応からして…、私たちの姿が見えていたって事だね…。」

 

 

 「そうか…。でも、おいら達の曲芸が通用したって事だな!!やったぜ!!wwww」

 

 

 

 「……………よくないわよ~~~~~~~!!」

 

 

 

 

 曲芸の成功に喜び笑っているホームズ達にリテラが絶叫し、ホームズの胸蔵を掴み、ぶんぶんと揺らす。

 

 

 「どうしてくれるのよ~~!!私達の動きがあいつらにばれてしまったじゃないの~~~~!!うわ~~~~ん!!」

 

 

 




隠密行動は難しいって事だね…。うんうん…。


 はい!!みんなにご報告!!


ROSEが魔法試合での500戦勝達成いたしました!!

おめでとう!!そしてよっしゃ~~~!!


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闇の巣窟の所業

さて、何を目撃するやら~。


 

 

 

 

 リテラと一悶着はあったが、無事に本部棟に潜り込めたホームズ達。

 

 

 入った本部棟内は薄暗く、道は左右に分かれ、少し進んだ先には大きな扉が見える。

 

 リテラは入り込んだ際に作った地図を広げ、道案内する。

 

 

 「左右に分かれている道はそれぞれ上の階の階段に続いているわ。そして、この奥の扉には、大きな会場があるのよ。」

 

 

 「会場?何でそんな場所があるの?」

 

 

 「さぁ?私が忍び込む時はいつもがら空きだから、どんな用途で使われているかは分からないわ。ただ、一度気づかれずに忍び込んだ時、この奥の扉の先から迫力ある歓声が聞こえてきたことがあるわ。ま、入ろうとしてロックが厳重にされていたから解除しようとした時に警報が鳴って気づかれたから、そのまま逃げたんだけどね。」

 

 

 「ってことは、リテラが言っていた大きなイベントがあるかもっって言う情報ともしかしたら関係あるかもだね。」

 

 

 「よし、まずは真っ直ぐ奥の扉の会場とやらに行ってみるか!」

 

 

 ホームズの合図で一行は扉に向かって歩き出す。

 

 

 

 

 そして扉の前に着くと、確かに厳重なロックがされていて、簡単には開きそうになかった。

 

 

 「どうしようか…。このロック。」

 

 

 し~ちゃんが視界に入る限りのロックシステムを見て、呻き声を上げている間、ホームズは一つ一つロックシステムをまじまじと観察し、何やら呟き始めた。

 ホームズのつぶやきがだんだん声のトーンが落ちてきたので、リテラが大丈夫なの?と火龍人に話しかけると、火龍人は心配ないとポテチを頬張りながら答える。

 

 

 「あれは、ホームズが考えている時にする、一種のルーディンだから。心配はいらないよ。もうそろそろ、中に入れそうだね…。ボリボリ…。」

 

 

 火龍人が説明し終わったその時、ホームズのつぶやきは終わり、手を大きな音を立てて、合わせる。

 

 

 「よし!!謎は…このホームズ様が解いた!!」

 

 

 そのホームズの名台詞と共に、ポーズを決めるホームズ。

 

 

 「え、謎!!」

 

 

 「そうだぜ!!ここにある無数のロックスシステムはある一つを除いてすべてダミーだ!!いや~、巧妙に作られているから本物と見分けるのに少し時間がかかってしまった。」

 

 

 「本物と偽物があるって事は、偽物の方にはもしかして…」

 

 

 「そうだ、偽物には警報装置と監視カメラ機能が内蔵されているようだぜ。間違ったロックシステムを操作すると、警報を鳴らし、それと同時に監視カメラが起動して、侵入者を特定できるって寸法だろう。」

 

 

 「そもそもこんなに必要でもないしね。(。-∀-)」

 

 

 「リテラに侵入される度にどうやらそれを逆手にとって、罠を張ったんだと思うけどな。さてと………。みんな、ここに一列に並んでほしいんだけど。」

 

 

 そう言ってるーじゅちゃん達を扉の前に並ばせたホームズは横一列になったみんなの隣に自分も並んで、扉の中央のロックシステムの赤いボタンを押した。

 

 

『手下番号承認中…………。5名確認。入室ヲ認メル…。』

 

 

 ロックシステムから声が聞こえてきたと思ったら、赤外線レーザーをホームズ達に照射し、緑色のランプが光ると、大きな扉が自動で開いた。

 

 

 「な!!ホームズさん!!一体何をしたの!!?」

 

 

 こんなに簡単に入り込めた驚きでリテラがホームズに尋ねると、鼻高々で説明し出した。

 

 

 「この扉のロックは監視員の制服にそれぞれに割り当てられた番号がバーコード化されていて、それを認識する事で味方だと判別し、ロックシステムを通過できるっていう仕掛けなんだよ。」

 

 

 きらっと歯が光り、ウィンクするホームズ。

 

 

 「そうなのね…!だから、この服に着替えたんだ…!!」

 

 

 リテラは自分が来ている服の裾を持ち、まじまじと観察する。

 リテラ達は今、監視員の制服を着ていたのだ。

 

 事の発端は、この本部に入る前。

 

 るーじゅちゃん達が巡回中の監視員を捕まえ、パンツ一丁にして、監視員の制服を5人分拝借し、それを着て、本部棟に堂々と正面から侵入したのだ。相子が回復するまでの間、魔法を使わずに侵入する方法として、ホームズが提案した事だった。

 

 ま、そのホームズは監視員をパンツ一丁にしたとき、鞭を取り出して、縛り上げる縄をこだわって縛り、甚振っていたが…。

 

 

 「まさか、ここまで見抜いていたいうの!!凄いわ!!ホームズさん!!」

 

 

 手放しの称賛を拍手でホームズに送るリテラに、ホームズは照れる。しかし、るーじゅちゃんとし~ちゃん、火龍人は白けた目で真相を知っていた。

 

 

 ホームズは調教していた監視員から情報を手に入れていたのだ。

 

 ホームズの調教でMに目覚めた監視員が「俺様が欲しい情報を話すなら、ご褒美を上げる」というホームズの言葉を鵜呑みにして、ロックシステムの事や制服の事も話したのだ。

 その結果、その監視員は人目のつかない場所で恥ずかしい体勢でのきつい縛りで吊るされている。…目隠しされて。今頃、その監視員は羞恥とときめきとエロスの間で身を焦がしている事だろう…。

 

 どんな体勢になっているかは皆の想像に任せる事にして…。(鼻血)

 

 

 その現場を見ていた三人は推理したようにリテラに尊敬のまなざしで見つめられるホームズをただ冷めた目でみていた。

 

 

 しばらくして、やっと扉を潜り抜け、リテラが言う会場へと入り込む。

 

 

 

 すると、そこには、どこから人が現れたのかというくらいの大勢の人達が仮面をつけて、隣の席の人と話していた。満席になった観客席の目の前には幕で閉められたステージがあり、観客達はまだかまだかと興奮状態を極限まで高まらせていた。

 

 

 「何…?こんな人の数…見た事がないわ…!」

 

 

 「サーカスの時の観客より断然多いよ!」

 

 

 「何が始まろうとしているんだろうね~。」

 

 

 「…………ボリボリ…。」

 

 

 「………嫌な予感がするぜ。こういう時の予感はおいら、当たるんだよな~。」

 

 

 みんながホームズに顔を向けると同時に開演のブザーが鳴り、ライトが消え、ステージに一点のライトが照らされる。そこには、若返りのカバルレ団長が相棒の鳥型CADロボットを肩に乗せ、現れた。その瞬間、会場全体が歓声を上げる。

 

 カバルレは軽くお辞儀をすると、マイクを持って、会場を見渡しながら、手を大きく広げて演説を始める。

 

 

 「紳士淑女の皆様~~!! 今宵の御来場、誠斗にありがとうございます!!

 

  僭越ながら、今宵のコンパニオンも私、カバルレがお送りいたします!!

 

  今宵も、この会場の皆様にお見せする品々も最高級・最新技術を駆使した物を取り揃えています!!

  ぜひ、その眼でご覧いただき、最高の富を手にしてお帰り下さい!!」

 

 

 カバルレの演説に会場が沸く。

 

 

 「品々…?」

 

 

 リテラが首を傾げていると、火龍人がポテチを食べる手を止め、真剣な表情で答える。るーじゅちゃんもし~ちゃんもホームズも会場に目をくぎ付けにして、瞳を細めて、カバルレを見ている。

 

 

 「…見ていればわかるよ。 まったく最低なショーをね…。」

 

 

 その言葉を裏付けるように、カバルレが会場中に宣言する。

 

 

 

 

 「それでは、幕を開きましょう!!

 

  カバルレ・サマダ主催の”闇オークション”の開演で~~す!!!」

 

 

 

 

 こうして、会場の熱気を帯びた歓声と雰囲気の中、ステージの幕が開かれた…!!

 

 




相変わらずのホームズのドSぶり。

意外に役に立つけど、あまり使いたくない秘儀だね。でも、これがほーちゃんです!!(鼻血)


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闇オークション!? 燃え滾る怒りの炎

この場に来る人って絶対に金持ちが多いよね!!

そして、いつもと違ったチムメンが見られるかも!!


 

 

 闇オークションに偶然にも遭遇したホームズ達一行。

 

 

 

 目の前の光景に呆気にとられ、入り口で立ち尽くす。

 

 

 「こんな事って…。」

 

 

 「こんなにたくさんの連中が闇に手を染めているなんてね~…。」

 

 

 「信じられないわ…。」

 

 

 るーじゅちゃん、し~ちゃん、リテラがなんとか今の心境を切々と語る…。

 

 

 その間、カバルレが主催するオークションは続き、怒りが爆発しそうになってくる。

 

 

 それもそのはず…。

 

 カバルレは商品として、新しく作り出した新薬や魔法アイテムを売り込むが、そのほとんどが法に触れる違法薬物やアイテムだ。

 口に含めば、即死するほどの毒薬で、警魔隊が捜査する頃には体内の毒は全て消え去り、痕跡が残らないというものや一定バリアを張り、その中に入った者は催眠を掛けられ、思いのままに操る事が出来るアイテムなどがあり、まさに闇に巣くう住民にとってはこの上ない最高の贈り物なのだ。

 

 しかも、その効果を披露するために、奴隷を連れてきて、実験体にし、毒薬やアイテムの有用性を証明する。

 

 奴隷達は命を乞い、涙を流し、悲鳴を上げる。

 

 それを観客達は同じく残虐だと悲鳴や中傷を言うのではなく、歓喜で受け入れ、更に惨い仕打ちを求め、煽っていた。

 

 そして、使い古された奴隷達の末路と言えば、息絶えた者は、ダストシュートへと。

 

 まだ息のある者は、次の実験体としてや度胸を買われ、商品へと。

 

 それ以外で大事に扱われ、衣装を身にまとった女性や子供は娼婦、使用人として美貌によって、高値が付けられていく。

 

 

 そんな人間を人間と思わないカバルレや観客達に怒りを隠しきれないリテラは暴れ、ステージに乗り込もうとする。それを必死にるーじゅちゃんとし~ちゃんが取り押さえ、落ち着くように説得し続ける。

 

 火龍人とホームズは相変わらず、ステージに目を向け、眉間に皺を作り、憤りを露わにする。

 

 

 「何をしているの!! と、とにかく、こんな闇オークションを止めないと!!カバルレを倒せば、全て片が付くわ!!」

 

 

 る-じゅたちを振り払い、リテラが剣を取り出し、ステージに降り立とうとするが、それをホームズが手で道を塞ぎ、リテラの動きを止める。

 

 

 「ちょっと!! ホームズさん!!どいて!! 」

 

 

 大声で怒鳴るリテラに近くの観客席に座っていたオークション参加者たちがホームズ達に視線を向け、何事かと不可解な雰囲気で見てくる。

 し~ちゃんは慌ててリテラの口を塞ぎ、るーじゅちゃんが頭を下げて、この場を収める。その間も、リテラはホームズに怒りを込めた視線をぶつける。

 

 ホームズ達は壁際に移動し、リテラに小声ではっきりとした口調で注意し出した。

 

 

 「”今、出ていけば!!矢継ぎ早に集中砲火を浴びて、無駄死にするだけだ!!もう少し、待て!!”」

 

 

 「”何で待たないといけないのよ!! ホームズさんだって見えているでしょ!?

  仲間が…、私の大事な仲間が…!あんな残忍で、卑劣な扱いを受けているのよ!!早く彼らを助けないと!! 今だって助けられる命を、あなた達の所為で助けられなかった!!私はあなた達を許さないからっ!!”」

 

 

 言いたい事は言ったと、リテラはステージへと向かうため、足を運ぶ。

 

 しかし、それを火龍人が遮って、有無を言わせない鋭い瞳でリテラを止める。これまで見た火龍人と雰囲気が違う印象を受けたリテラは反論しようとしたが、言葉が喉に詰まって、上手くいい返せず、また火龍人の発するオーラで威圧され、力を抜き、立ち止まる。

 

 火龍人はなおをそのままの状態で、リテラに問う。

 

 

 「リテラ、乗り込んで、カバルレを倒してそれからどうするの…?」

 

 

 「カバルレを倒して…、それから…? も、もちろん、彼らの悪事を帝国に広めるため、外に出るわよっ!!」

 

 

 火龍人に問われて、冷静になりきれていないリテラは自棄になって反抗する。

 

 

 「……甘いよ。甘すぎるよ…。リテラ…。

  どれだけ、甘い菓子を食べれば、それだけの甘い考えになるんだろう…?」

 

 

 「な、なんて言ったの…?い、今…、私をバカにしたわね…!」

 

 

 「事実を言っただけだよ…。それとも何?違うって言いたい?それなら、言ってみたら?でも、言い返せない…。なぜなら、リテラは先の事が全然頭に入っていない…。それが理解できていたら、怒りのまま、乗り込もうなんてしないよ…!」

 

 

 火龍人の怒りと心配とが入り混じる強い眼差しと言葉にリテラは言い返せなくなった。黙りこくったリテラを心配そうに見つめるるーじゅちゃんとし~ちゃん。同じく黙って火龍人とリテラを見守るホームズ…。

 

 リテラは少しずつ落ち着き始める。

 

 そして、火龍人は閉ざしていた口を開く…。

 

 

 「もし、リテラが乗り込んで、カバルレを倒したとしても、この観客達が何もせずにリテラを見逃すなんて御人好しな連中ではないのは、このオークションを見て、分かったはすだよ…?

  相手がリテラだけだと知れば、当然彼らはリテラを血祭りにあげようとする…。大事な取引が邪魔されるだけでなく、今後の商売に多大な悪影響を与えられるから…!

  商売が滞ったら、その責任をカバルレを倒したリテラに全て向けられる…!そうなれば、外に出ても、命を狙われ続ける。

  そうなれば、リテラは望んでいない戦場へと叩き落される事になるんだよ…!

 

  リテラだけじゃない…。リテラを慕い、共に戦おうとしている革命軍のみんなだって、その戦いに巻き込む事になる…。革命軍のみんなは戦いを覚悟しているから、『時期が早まってだけだ!』『リテラと共に戦うって言っただろ!?』って一緒に戦うかもしれないけど、私が見た限り…、殆どが一般人だよね?ここに集まっている連中の多くは残忍な方法で人を殺めたり、甚振ってきた奴らがほとんど…。

  戦いとなれば、圧倒的に不利な状況を強いられ、命を落とすよ…。

 

  リテラ…。優しいリテラなら、革命軍のみんなを守りたいって思っているリテラなら、自分から火に飛び込んで、仲間の命を縮める理由を作るなんてしないよね…?

  

  …わかっていたら、こんな真似、できないよね…?」

 

 

 火龍人の言葉でリテラは自分がカバルレに戦いを挑んだ際の起きていたであろう未来を知り、絶句した。そして、後悔と違う怒りがリテラの心をかき乱す…。

 

 

 

 カバルレや観客達への怒りで我を忘れ、

自分が最も大事にしたがっていた物を自分の未熟な行動で危険にするところだった…。

 

 

 その事に、激しく後悔する…。

 

 

 そして、何よりも愚かだった自分に一番、怒りを覚える…。

 

 

 悔しくて、涙が止まらない…。

 

 

 唇を噛み、血が滲みだし、口の中に血の味がジワリとしてくる…。

 

 

 大事な人達の命を、ホームズ達に止めてもらわなかったら、今頃…。

 

 

 そう思うだけで、もう自分が嫌になる…。

 

 

 私はご先祖様の話を幼い頃に聞いた時から、いつかご先祖様が夢見ていた…、望んでいた国を天国から見せてやりたいと思って、今までその一心で生きてきた…。

 

 それが、こんな結果なんて…

 

 何が、”国を取り戻したい”よ!!

 

 

 守るべき人を守るどころか、危険に晒して…!!

 

 

 私の馬鹿………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 罪悪感に打ちひしがれそうになるリテラに優しく肩や頭、手に触れて、撫でる温かな感触を感じたリテラは俯いていた顔を上げる。

 そこには、ホームズ、るーじゅちゃん、し~ちゃん、火龍人が申し訳なさそうにしながら優しい微笑みをして見つめていた。

 

 

 「…ごめんね。リテラを追い詰めたくて、言ったわけじゃないんだ…。ただ、理解してもらいたかっただけ…。」

 

 

 「私達だって、あんなの目の前で魅せられて、怒っていない訳ないじゃないっ!!むしろ、真っ先に飛び出して、一発殴り飛ばしたいくらいだよ!!」

 

 

 「理性を抑える自信が減るくらいだね。」

 

 

 リテラに謝罪しながら、宥める4人。それから、ホームズは今もなお、行われているオークションに目を向け、リテラに話す。

 

 

 「怒りを全てぶつけられれば、おいら達もどんなに楽だろうと思うよ…。

 

  でも、おいら達は闇の世界で、その身で悲惨な経験をしてたりするし、闇に精通する者やギルドと戦ってきたから、苦しくも連中の考えが分かるんだよな…。

 

 戦いには犠牲が不可欠…なんて言葉があるけど、その通りなんだ。助けようとして、助けられなかった事もしょっちゅうある事なんだ。この世界では…。

 

 こういった世界では、無力や弱者は生きていけない…。

 

 常に、支配する者のご機嫌を伺い、行動する…。

 

 一人なら、それで生きていけるけど、仲間ができてくると、それを実行するには困難な場所さ。

 

 でも…おいら達は仲間がいてくれる喜びを知った。仲間の命を守れるように、強くなりたいって特訓して強くなっていった…。みんなと一緒にいつまでも笑っていたいから…!

 

 

 だから、リテラの今まで大事にしてきた…、受け継いできたその想いは間違っていないよ。」 

 

 

 リテラに思いを語るホームズはここではないどこか遠くに目を向いて話しているようだった。

 

 それはるーじゅちゃん達も同じで…。

 

 

 そして、ホームズは目を閉じ、しばらく深呼吸をしてから、真剣な表情でリテラに真っ直ぐ見据え、話し出す。

 

 

 「この闇オークションを見て、おいら達は心底、驚いた。

  

  今まで戦って、殲滅させてきた闇ギルドや隠れ闇ギルドたちが扱っていた商品や薬物がここでオークションに掛けられている物ばかりだったからだ…!

 

  つまり、ここは闇に巣食う者達の心臓部と言っても過言ではない!!

 

  ここを叩けば、確かに、一掃できるかもしれない!!叩くなら、オークションが終わった瞬間!!

 

  でも、それには相手の情報とこちらの戦力が圧倒的に足りない!!だから、それまでに急いで準備しないといけない!!

 

  その間、奴隷の仲間たちが傷つき、苦しむ場面に遭遇する…。

 

  それでも、耐えて、より奴隷達を救うために、動く事ができるか?」

 

 

 ホームズは敵の規模の大きさを知る限り話し、リテラに戦う覚悟が…、秦の覚悟があるか、問いかける。

 

 それを聞き、リテラはしばらく沈黙すると、流していた悔し涙を拭い、強い意志を持った表情でホームズと正面で向かい合う。

 

 

 「当たり前だわっ!! 

 

  私は偉大なるこの国の正統な国王であるご先祖様の血を引く者…!!

 

  リテラ・ピュアンよっ!!

 

  私は愛する民を守るため、立ち上がって、戦うの!!」

 

 

 リテラの決意を強く感じさせる言葉と伝わってくる気高きオーラにホームズは強く頷く。

 

 

 「…分かった!! では、連中の息の根を止め、一掃するとしますか!!」

 

 

 「「「そう来なくっちゃ!!」」」

 

 

 こうして、リテラとホームズ達の意志が固まって、更に高まり、敵の掃討準備が始まったのだ…。




経験の差ってやつか~。それにしても火龍人もほーちゃんもいつもと違ってかっこよかったんですけど!!

久しぶりに腕がなりすぎて、興奮したわ~~!!


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ROSE結成一周年記念番外編~みんなで肝試し大会!!(前篇)~

今日で、一周年記念だぜ!! 早いな~~!! あっという間すぎて、気分は二周年だよ!!

てことで、みんなに”どんな宴をしたい”か聞いて、決まったこのネタでお祝いしたいと思います!!


ではどうぞ!!


 

  太陽の日差しが強く、レーザービームでも降っているかのような暑い季節になった帝国。

 

 

 

 そんな帝国の唯一、帝都に近くて、人気スポットの海辺に自由奔放の彼らが飛び込んできた…。

 

 

 「やっほ~~~!! 海だ~~!!」

 

 

 「よし、おいらたちが一番乗りだぜ!!」

 

 

 そう言って、海辺まで猛ダッシュして、はしゃぐくろちゃんとホームズ。

 

 

 二人は、早速水着に着替えて、あたりを見回す。

 

 ほかのみんなは砂浜で場所取りをしたり、水着に着替えて準備体操したり、サンオイルを塗ったりしている。

 

 そんな中、くろちゃんとホームズは歓声を上げ、何やら楽しそう…!

 

 

 パラソルの準備も終わり、くろちゃんたちの楽しそうに雰囲気にミナホは声をかけた。

 

 

 「二人とも、楽しそうだね!何をしているの!?」

 

 

 「……至福の時を楽しんでいたのさ…。」

 

 

 「そう…。おいら達の純粋な夢を心のカメラで記録していたのさ…。●REC」

 

 

 遠くを仰ぎ見る二人の様子に顔を顰め、同じ方向に顔を向けると、そこには、準備体操を終え、ビーチボールで仲良く遊んでいるちゃにゃん、ルー、し~ちゃん、さっちゃん、るーじゅちゃん達がいた。

 

 みんな、個性的な水着を着ていて、ビーチボールを投げたり、動いたりする度に弾力のある豊胸がポヨン、ポヨン…っと揺れ動いている。

 

 その姿を少し離れた場所から眺めている二人は鼻の下を伸ばし、下心満載で嬉しそうにしていた。

 

 

 「…やっぱ、海はいいっすね~。(鼻血)」

 

 

 「いいっすな~。最高っす。(鼻血)

  

  …そうだ!!くろちゃん!!確か、カメラを持ってきてたよな~!! 早く、録画してくれ!!」

 

 

 「合点だぁ~!! 任せて!! この最新型の~超防水で、布一枚透かしてくれる夏に相応しいこの録画カメラで私たちの夢を~~!!実現させて!!ハァハァ」

 

 

 「布一枚……、透ける……!! ぐほぉ!! それは…!! なんとお得なカメラなんだ…!! くろちゃん、今度そのカメラを買った場所を教えてくれないか~!!

  (鼻血大噴出!!)←輸血必要!! ハァハァ」

 

 

 もう息を切らして、興奮し出し、カメラをちゃにゃんたちに向けて、●RECし始める。

 

 

 「おっと!! 忘れるところだった!! お~~い、NST出動~~!!集まれ~~!!出張NSTだ~~!!」

 

 

 

 

 

 ボコオオオオオオーーーーーッ!!!!! ドガアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!!!!

 

 

 

 

 「いい加減にせ~~~い!!!!この煩悩星人共め~~!!!シバくよ!!」

 

 

 「いや、もうシバいちゃってるよ~…。みなっち…。潰れたアリみたいになってるから~。」

 

 

 あまりにも行き過ぎたヘムタイ行動に止めを刺したミナホ。

 

 それをパラソルの陰でのんびりと横たわりながら、アイスを食べる火龍人が軽く突っ込む。ちなみに、制裁を受けたくろちゃんとホームズは日差しで熱くなった砂浜に両手足を広げてうつ伏せで倒れたまま、指一本も動かずに気絶していた。その二人の頭には顔の面積の10倍以上の大きさを誇るドデカいたんこぶができていた。

 

 

 「まぁ、せっかくの休暇だし、みんな、のんびりしてもいいんじゃない?好きなことで日頃の疲れを取るっていいと思うけどな~。」

 

 

 「そうだよ~~~!! みなっち、今NSTに参加しようとしていたのに~~!!」

 

 

 『なんで私を誘わなかったんだ~~!!NST隊長は私だ!!』

 

 

 パラソルの中でさらに鑑賞していた御神、ホムラと通信モニター越しからのマサユキがNST参戦で準備運動をしていた。

 

 

 「参戦しなくていいから!!

  こんな公共の場で二度とすんな!!ここには出張警魔隊員が監視しているんだから!! 追い出されるだけはごめんだよ~~!!」

 

 

 ミナホはこの収拾のつかない、羽を休ませすぎるみんな…、(約半数だけど)をほかに意識を向けさせるために、頭をフル回転させる…。

 

 

 

 

 

 

 ピコーーーーーーーン!!

 

 

 

 

 そうだ!!この手があった!!海といえば、夏!!夏といえば、あれだよ!!

 

 

 

 「ふーーーーふっふっふ……!!!

  いいこと思い付いた!( ☆∀☆)」

 

 

 「みなっち、どうしたの?なんか笑みが不気味だけど?…( ; ゜Д゜)」

 

 

 「ふふふ…!

  みんな、今日の夜は、肝試し大会しよう!楽しいよ~!ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ」

 

 

 「肝試し大会!?…なんか面白そう!その案に乗った!」

 

 

 「こ、怖いのは嫌だけど、賛成。」

 

 

 「おいらもさんせー。」

 

 

 ミナホの提案にみんなも頷いて、乗る。

 

 

 「じゃ、今日の夜、肝試し大会決定だ~~!!」

 

 

 そういうと、砂を巻き上げながら、どこかに走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、日も落ちて、海風が心地よく吹く海岸のほとりにある洞窟の前にROSEメンバーが集合した。

 

 

 「はい!!みんな~~!!ここが肝試しする場所だよ!!雰囲気良くて、最適だと思わない!?」

 

 

 元気はつらつとしたミナホが洞窟の入り口を指差す。

 確かに、奥は暗いし、隙間風が吹いて聞こえる低い風の音が掠れた声みたいに聞こえてくる。

 

 

 「…よくこんな場所を見つけたね~。」

 

 

 「宿屋のじいちゃんにここの事を教えてもらったんだ~!!そして、この洞窟に伝わる言い伝えも聞いたよ!!」

 

 

 「言い伝えって…。」

 

 

 まだ始まっていない状態なのに、身体を震えさせて怖がるtoko。怖がりでも、やはり興味が沸くみたい。

 満面の笑みのミナホはその言い伝えを声のトーンをいつもより低めにし、薄暗い中で、自分の顔にライトを当てながら、話し出した。

 

 

 「実は…、この洞窟はね~…、いわくつきで~。

  昔、この海には守り神の心優しき水龍が縄張りを収めていたんだけど、ある時、その水龍が人間の姿で近くの村に海の魚を大量に持って、訪れている間、水龍が大事にしていた光り輝く宝玉を金稼ぎの目的で悪意を持った魔法師ギルドに盗まれたの…。

  それを知った後、水龍は信頼していた人間から受けた仕打ちに嘆き、悲しんだ。

  この海の豊漁と安全を自身の力を封じた宝玉を奉る事で平和を保っていたから…。

  一方、宝玉を手に入れた魔法師達はその宝玉をあろうことか、割ってしまった。

  それを気配で感じ取った水龍は自分の命が削られていくのに気づいた。

  水龍は人間に裏切られても、それでも人間を愛してやまず、人間を守るために、宝玉の代わりに自らの身を封じる事で、海の平和を守ろうと、海を見渡せるこの洞窟に入り、その身を氷の中に封じた…。

 

  それで、平和が訪れると思われていたが、海を支配する水龍がいなくなったことで、その跡目争いをする者が現れ、海は荒れ、近くの村の人々は略奪や殺傷を受けて、統率者のいないこの一帯は凄まじい波乱を迎えたそうだよ。

  

  だから、この洞窟にはそんな争いで巻き込まれた人達の怨霊が水龍様に助けを求め、夜な夜な集まるらしい…よ!」

 

 

 言い伝えられる洞窟の話を聞いて、みんなは半分怖がり、半分は悲しみに暮れた。

 

 

 「そんな事があったなんて…。」

 

 

 「水龍様、ショックだっただろうな~。」

 

 

 水龍様に同調し、入り口前で拝むと、満面の笑顔のミナホが一人ずつ、何かを渡していく。

 

 渡された物を夜空に掲げ、見てみると、月明かりに反射する綺麗なガラスの欠片だった…。

 

 

 「はい!!では、ルールを説明しま~す!!」

 

 

 ミナホの呼び声に欠片を見ていたみんなの目が向けられる。

 

 

 「みんなには今から、この洞窟に一人ずつ入ってもらって、洞窟にある水龍様が祀られている祠にこの欠片を置いてきて、その先にある出口から脱出してね!

  それでミッション終了!!簡単でしょ!!?

  ……ただし、もしも引き返したり、祠にこの欠片を置いてこれなかったり、出口に姿を見せなかった場合は……、罰ゲームが待っているからね!!」

 

 

 意味深な笑みを浮かべ、説明するミナホにホームズとくろちゃんが手を上げて、質問する。

 

 

 「そのば、罰ゲームとは一体どんなものなのかな? ハァハァ」

 

 

 「ヘムタイ罰ゲームなら、おいらにやってくれ!! ハァハァ」

 

 

 また変な妄想をし出したホームズとくろちゃんにちゃにゃんが拳骨を落とす。

 

 

 「ははは…。罰ゲームはお楽しみだね!! 絶対に言わない!!でも…、やばすなのは確かだね…。くくく…。」

 

 

 (絶対何か裏があるよ…!!その罰ゲーム!!)

 

 

 不敵な笑みを浮かべるミナホの表情に心の内でそう確信したみんなは罰ゲームを避けようと心に決め、肝試しの順番のくじを引いていく。…約2名は罰ゲームを狙いに行く気のようだが。

 

 

 こうして、ROSEの肝試し大会がスタートする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず、一番に入るのは、toko!!

 

 

 入り口に立つtokoは足がガタガタ震えて、一歩も動けずにいた。

 

 

 「大丈夫?toko、しっかりして?」

 

 

 心配そうに声を掛けるさっちゃんに、tokoは震えながらもピースサインを作り、大丈夫とアピールする。でも、言葉とは裏腹に、足が更に震えだし、生まれたての小鹿のように立っているのがやっとの状態なのに、身体中から冷や汗全開で、涙を流し、魂が半分抜けているように見える。

 

 

 (((((いやいや!!大丈夫じゃないだろっ!!!!!)))))

 

 

 あまりにも怖がっているtokoの背中にミナホが優しく叩き、深呼吸するように助言する。

 

 

 「大丈夫…。パッと祠に行って、パッと洞窟から出れば、何も怖くないよ!!

  怖いと思うから、余計怖くなるんだよ。 何か楽しい事でも考えながら、行ってくればいいさ!…例えば、隣に誰かいるって思えば、怖さは半減すると思うよ。」

 

 

 ミナホの助言を聞き、震えは止まらないものの、頷いて、一歩ずつゆっくりと歩を進める。そして、姿を見えなくなってから、ミナホがみんなに振り向き様に教える。

 

 

 「あ、言い忘れていたけど、この洞窟、本当に出るらしいから? 頑張ってね~!!」

 

 

 「「「「「「「「「「………え?」」」」」」」」」」

 

 

 思いもかけない爆弾発言に余裕を扱いていたホムラも暁彰も身体が固まり、なぜか一生懸命に準備運動をし始め、さっちゃんやるーじゅちゃん達乙女は悪霊・怨霊退治グッズフル装備で身構え始めた。特に、し~ちゃんは、誰か判別できないほど鎧を隙間なく着込み、逆にみんなに”動き出す鎧”として怖がられる事になった。

 

 

 

 そんな、徐々に肝試しの雰囲気に呑まれているみんなの、怯えながらも洞窟に入っていく姿を見届けたミナホは笑ってはいたが、その眼には涙を流していた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い洞窟の中を魔法ランタンで照らして、慎重に進んでいくホムラ…。

 

 

 「それにしても、さっきからみんなの悲鳴が聞こえてきて、怖くなってくるよ…。」

 

 

 洞窟だからか、さっきから前からも後ろからも悲鳴が聞こえて、その悲鳴が反響して、耳に嫌な響きを与えてくるのだ。身体がぞわぞわし出し、冷えてくる身体を動かし、温める作戦を実行する。その間、立ち止まっていると、後ろから、くろちゃんとちゃにゃん、御神、サガットと次々と合流してきた。

 

 

 「よかった~~~!! ホムホムがいた~~!! もうさっきから怖い目に遭ってっ!!」

 

 

 「うんうん!!心臓が止まるかって何度も思ったにゃっ!!」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんが涙を大量に流しながら、どれだけ怖がったのか手足をバタバタさせ、パニック状態になっていた。

 

 他のみんなもまだ祠についていない状態で既に疲労困ぱいといった雰囲気で肩の力を落として、顔を青ざめていた。

 

 

 「何かあったの?」

 

                             ..

 「ええ~~~~!!? ホムホム、何ともなかったの~~!!? あの中を潜り抜けてきたのに!!?」

 

 

 「……信じられない…。」

 

 

 「みなっち、かなり凝っているな~、あの仕掛け…。魂持っていかれそうだったよ…。」

 

 

 UMAでも見たかのような表情でホムラを見つめるくろちゃん達合流組。

 

 

 ま、くろちゃん達がそんな顔をするのも無理はない。

 

 

 

 

 

  ―――――なんだって、幽霊たちの群れの中を歩いてきたんだから。

 

 

 

 最初、肩や足を突かれた感じがしたり、妙に寒気を感じたり、肩や身体にやけに重みを感じたりするだけだったが、徐々に耳元に息を吹きかけられたり、足首を掴まれて、転ばされたり、ひんやりとした霊気が充満し出したりとなって、ようやく何かいると恐怖を感じたみんなは、ついに暗闇の中で淡く光りながら、宙を浮いて、こっちを見ている幽霊たちと遭遇する事となったのだ。

 

 肌寒く、自分の息が白く見える世界の中、右も左も前も後ろも、上にも幽霊が物珍しそうにみんなを見つめ、近づいてくる様に、動揺するなというのは無理なもので…。

 

 

 「きゃあああああああああ~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 

 絶叫と悲鳴が洞窟の中を駆け巡り、みんなはとにかくこの場を離れたい一心で、全力疾走し、前進してきて、ホムラと合流したという訳だ。

 

 

 その話を聞いて、後ろから聞こえていたみんなの悲鳴に納得したホムラ。

 

 

  しかし、実はホムラにもその仕掛けはされていたのだ。

 

 肌寒いのは、夜だから!と思って運動しながら進んでいたし、幽霊が近づいても『何だか前が霧で見えにくいな…!』なんて、幽霊を霧だと思っていたから、すり抜けたりして、先に進んだのだった。

 

 だが、みんなはミナホが魔法で幻影を見せていたと思っているこの仕掛けを、実際はミナホが仕掛けた罠でない事に気づくのはもう少し後…。

 

 

 合流したので、一緒に歩いて、祠へと向かって進んでいると…!

 

 

 「うわあああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」 

 

 

 前方から絶叫が聞こえてきた。

 

 

 「うわぁあっ!びっ、びっくりしたーー!!」

 

 

 「な、なに!?今の声……!(´Д`|||)」

 

 

 「……toko の悲鳴にだった気がするけど。( ̄□||||!!」

 

 

 サガットの耳の良さを知るみんなは急いで先へと走り出した!

 

 

 そして、少し開けた場所に出て、ホムラ達が見たそこには、目を疑う光景があった…。

 

 

 

 

 

 

 後編に続く!φ(..)

 




一日で書こうって頑張ってたのに、懲りすぎて終わらず…!
溢れるみんなの勇姿を?書きたい一心に!
これは、一周年記念をもっと祝いたいと言う気持ちがこうさせたのか?…そうだ!きっとそうに違いない!ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ

toko に一体なにがあったかは明日の後編で!


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ROSE結成一周年記念番外編~みんなで肝試し大会!!~(後篇)

いよいよ後篇!!

果たして、恐怖の肝試しをクリアする事が出来るのか!!?


  tokoの悲鳴を聞いて、駆けつけたホムラ一行が見た光景とは…

 

 

 

 

 

 ”さぁ~…、飲めや!!”

 

 

 ”グイグイやれっ!!”

 

 

 ”俺達の誘いを断る訳ないよな~? …ひっく!!”

 

 

 「や、止めて……く……」

 

 

 

 

 tokoが豪傑な男の幽霊達に取り囲まれて、無理やり酒を飲まされそうになっている光景だった。

 

 

(……なんだ? この状況…!?)

 

 

 ホムラ達一行はツッコミがありすぎて、どう突っ込めばいいか分からなかった。

 

 呆気にとられていると、もう魂が抜けかけた瀕死状態のtokoは最後の力を振り絞って、最終奥義を繰り出す。

 

 最終奥義…『徹底影薄の術』!!

 

 この奥義は自らの持つオーラを徹底的に消し、ピクリとも動かず、自然に溶け込む事で自身を相手に認識させず、やり過ごす術である!!

 

 日頃からこれを修行しているtokoならではの秘策中の秘策なのだ!!

 

 ま、これを出している時点で、tokoが身の危険を感じるほどの精神状態という証なのだが。

 

 

 とにかく…、その奥義によって、しつこい幽霊たちの酒の誘いから脱したtoko。そのtokoの姿を見失い、幽霊たちは慌てて、激昂する。

 

 

 ”あいつめ!!どこに行った!!”

 

 

 ”俺らの酒を断るたぁ~いい度胸じゃねぇ~か!!”

 

 

 ”出てこい!!”

 

 

 剣を持ち出して、tokoを探し始めた幽霊たちは様子を窺っていたホムラ達一行に気づき、にやりと笑みを浮かべ、一斉に襲い掛かる。

 

 

 ”わりぃ~が、俺らの鬱憤晴らしに付き合えや!!”

 

 

 「「「「「断るっ!!」」」」」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんが火龍人から塩を取り上げ、思い切り投げた。そして、御神とサガットが収束系魔法で風を巻き上げ、幽霊達を閉じ込め、その中に塩を混ぜ込む。すると、幽霊たちは苦しみだし、奥へと逃げて行った。しかし逃げ際に負け犬の遠吠えを放つ。

 

 

 ”お前達…、魔法師だったのか…。なら、この先は地獄を味わうだろうぜ…!”

 

 

 意味深な負け口を叩いて、去っていく幽霊を見て、一安心と溜めていた息を吐き出し、みんなは安堵する。その中には、姿を消し、今は震えあがっているtokoの姿があった。

 

 

 「何だったんだよ~。今のは…!」

 

 

 「幽霊が襲ってきた~!!もう、出よう!!」

 

 

 「そうだよね!!今からでも遅くはないよ!!引き返して…」

 

 

 「でも引き返したら、ば、罰ゲームが…!!」

 

 

 「「「あっ!!」」」

 

 

 「……幽霊より、罰ゲームの方が気になって怖くなりそう…。」

 

 

 「ま、幽霊も作りもんだし~!!? 大丈夫だよ!!」

 

 

 「よし!!最後までやったるぞ!!」

 

 

 「も、もう怖いのは勘弁してほしい…。」

 

 

 ホムラ一行は心が折れそうになるが、得体の知れない罰ゲームの方を恐れ、先に進む事にする。

 

 その間に、huka、暁彰、ホームズ、さっちゃん、RDC…と全員集合した。

 

 最後に剣崎兵庫と合流した時はあまりにも衝撃的な場面に遭遇し、みんなの悲鳴で洞窟が崩れかけるという事態になったりした。

 

 

 その時に遡って話すと…、

 

 

 あまりの緊張感から、洞窟の冷気をカキ氷にして、持ってきていたいちごシロップをかけて歩いていた剣崎兵庫はみんなと合流し、進行役のミナホ以外がそろっている事を確認した。その時に、みんな酷く疲れ切って、怖さからか顔を青白くなっていた事に気づき、ムードメーカーの剣崎兵庫が甘い物を食べて、生気を取り戻してあげようとみんなにカキ氷を食べようと進言したのだ。それを聞いて、悲鳴や絶叫を休みなく出していたみんなは喉がガラガラしてきていたので、有難くその申し出を受ける事にした。

 しかし、それがみんなの一番の悲鳴をもたらす事になるのだった。

 

 

 「ちょっと待ってね…。………っと、よし!! 綺麗にできた、と!!これでシロップをかければ、完成っ!!はい、みんなどうぞ!! 美味しいよ!!」

 

 

 我ながら、綺麗に山を作って、いい感じのカキ氷ができたとドヤ顔をする剣崎兵庫だが、みんなの分を一気に作る際の光景を見て、みんなは肝を冷やした。

 

 なぜなら、剣崎兵庫が洞窟の冷気で作った氷が……

 

 辺りを漂う幽霊達だったから………だ。

 

 それに気づかず、幽霊を収束魔法で集め、氷にし、細かく刻む。それを器に入れて、いちごシロップを掛けて、渡してきたのだ。

 そのいちごシロップも綺麗な薄い赤という感じではなくて、血のような真っ赤で、さらさらとしたシロップ…。しかも、だんだん色が赤黒くなっていっている気が…。

 

 

 こ、こ、これを目のあたりにして、かき氷を食べれるほど、無神経なみんなではなく、更なる恐怖にしかならなかったのは言うまでもない。

 

 互いに抱きしめ合って、固まって全然動かないみんなを不自然に思いながら、かき氷を進めるが、思い切り!!盛大に!!首を振り、(もちろん断固として横に!!)頑なに食べようとしないみんなに、もしかして、かき氷の安全性…衛生を疑っているのかと思い、安心させようと自分で作ったカキ氷をみんなの前で食べて見せた。

 

 

 「「「「「あああああああ~~~~~~~~~!!!だめ~~~~~~~~!!!」」」」」

 

 

 みんなの嘆きながらも必死に止めようとした叫びは霧散にも届かず、とうとう幽霊かき氷を食べてしまった剣崎兵庫…。

 

 

 「…ふんふん。あ~~、美味しい!! ほら、大丈夫だよ!!みんなも食べてみたら?」

 

 

 「「「「「きゃあああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 みんなは目の前の衝撃的な恐怖を目の当たりにし、洞窟が崩れんばかりの絶叫を放った。

 

 

 (((((大丈夫じゃないから~~~!!!怖い~~~~~!!!)))))

 

 

 恐怖の涙を流し、一目散に奥へと逃げ走るみんな。その後を、飛んで後を追う剣崎兵庫のような者…。

 

 飛行魔法を使っていないのに、飛んでいて、その剣崎兵庫の顔は血まみれの青白く、綺麗な髪がワカメのような黒髪に変わり、まるで生きているかのように長髪がくねくねと動く。変わり果てた剣崎兵庫はみんなの後を追いながら、こう話しかける…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「”ふっふっふ…! 一緒に…遊びましょう~~…?”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …という恐怖体験をした訳で、とうとう幽霊達は本物だと思い知ったROSE一行は極限状態の緊張感と恐怖を持って、ついに祠が祀られている神秘的な空間に辿り着いた。

 

 開けた空間の壁や天井には氷でできた多数の結晶山が僅かな光を受け、反射し合い、暗闇の洞窟の中を照らしていた。その空間の真ん中には大きな池とも呼べる水…、海水が溜まっており、その先の奥に祠があった。

 

 いよいよ目的地に着いたと安堵し、みんなは喜び合う。そして、洞窟に入る前にミナホに渡されたガラスの欠片を取り出し、一気に祠へと向かおうとした。

 

 

 (余談だが、あれから憑りつかれた剣崎兵庫はさっちゃんとるーじゅちゃん達の除霊御札によって、元にもどった。だから、心配はない。…多分。)

 

 

 しかし、その一番乗りとして、『水蜘蛛』で表面張力を増幅させ、池を渡ろうとしたワイズさんは池に一歩踏み出した瞬間、瞬間移動したかという感じでいきなり池の中へと沈んでいった。

 

 

 「「わああ~~~!! ワイズ~~~!!」」

 

 

 「魔法失敗したの!!?」

 

 

 「そんなはずは…!しっかりとできていたよ!!? ………わわわ、わわあああ~~~~~!!!」

 

 

 ワイズの無事を確認しようと池を覗き込んだサガットは思わず、叫ぶ。

 

 池の中は決勝に反射された光で透き通るように見える。そのため、とんでもない光景を見てしまったのだ。

 

 

 

 ――――――――――ワイズが池の中で幽霊達に抑え付けられているのを!!そして、それを覗き込んでみたサガットを狂気的な視線と笑みで見つめる幽霊達の群れを…!!

 

 

 

 「わ、ワイズさんが~~!! 池の中でワイズさんが…、幽霊達の餌食に~~!!」

 

 

 「えええ~~~~~~~~!!!」

 

 

 「池は安全じゃないよ!!水面上で既に幽霊達がスタンバッて足を付けた途端に引き摺りこむ気だよっ!!」

 

 

 「ちょ、ワイズさんは!!?」

 

 

 「わ、分からない!!い、一瞬で目を逸らしたから…!!」

 

 

 あと一歩という所で、最悪のピンチに陥ったROSE一行…。

 

 

 そこに、幽霊達が息絶え絶えのサガットを池から上がらせ、人質にして、こう話す。

 

 

 ”この仲間を…、生かしたいなら…、すぐにここから引き返せ……。”

 

 

 背筋が凍るような声色で脅迫する幽霊…。みんなはゆっくりと暁彰に顔を向け、助けを求める。何を隠そう、幽霊だと思い知ったきっかけは暁彰の『精霊の眼』のお蔭でもあったからだった。暁彰なら何とか打開してくれると思い、暁彰の背中を押して、交渉人とさせる…。もし、交渉失敗し、襲ってきた場合は幽霊に全力で暁彰を投げ込み、逃げる算段を必死にイメトレして…。

 

 

 こうして、暁彰の幽霊相手の交渉が開始した。

 

 

 

 しかし、結局は上手くいかず、祠に祀られている水龍様を守るためだという熱弁を聞かされるだけで終わった。

 

 

 そこで、ようやく意識を取り戻したサガットの様子を確認した暁彰は交渉していた幽霊に決め台詞を放ち、サガットを見事取り返してそのまま、飛行魔法で祠に辿り着く。

 

 

 「悪いけど、こっちにも譲れないものがある…。

  罰ゲームを回避しないといけないからな!!」

 

 

 散々幽霊の恐怖に遭ったのに、いまだにそれを上回るほどに罰ゲームを恐れる…。

 

 きっとこの状況にミナホが遭遇したら、どんな気分だろうな~。

 

 

 「そんな決め台詞は入らんわ~~!!」って突っ込むのか…?

 

 

 

 

 暁彰のサガット救出によって、控えていたROSEのみんなは一斉に飛行魔法で祠に辿り着く。すると、幽霊達の様子が一変した。

 

 

 ”ま、魔法師…だと…!”

 

 

 ”魔法師だ…!”

 

 

 ”おのれ……謀りおったな~…!!”

 

 

 瞳孔が開ききって、充血させた鋭い目に変わり、口も裂け、髪が逆立ち、一斉に襲い掛かってきた。

 

 

 急いで御神が障壁魔法を展開するが、怨霊と化した元幽霊達に効果があるとは言えず、擦り抜けて、手が入り込んでくる。万死窮すかと思われたその時…、さっちゃんとリュージュちゃん、火龍人達が持ちうるすべての除霊御札を障壁魔法に貼って行く。

 

 

 すると、怨霊たちは障壁魔法の外へと押し出され、触れると、電撃で反撃されたのだ。思わぬ効果を目の当たりにしたくろちゃんはるーじゅちゃん達にお礼を言いながら、尋ねる。

 

 

 「ありがとう!!ところで、あの御札…、どこで手に入れたの?」

 

 

 「ああ、あれは、タスカリ―マスからおすそ分けでもらったんだよね…。海に行くなら、これを持って行ったらいいって渡されたんだけど、まさかこんなに役に立つとは…。」

 

 

 (…ありがとう…!タスカリ―マス!! 我らの母よ!!)

 

 

 それを聞いたみんなはここにはいない、タスカリ―マスに感謝を念で送った。

 

 

 だが、そんな気持ちが長く続かなかった。

 

 

 ”ああ…、怨めしや~~!!”

 

 

 ”怨めしや~~!!こっちにも札が貼っておるよ~…!”

 

 

 ”ああ~、怨めしや…!! 呪い殺したい!! 魔法師共め~!!”

 

 

 ”われらの恨み…、ここで晴らしてくれるわ~~!!”

 

 

 怨念ただ漏れで障壁の周りを囲う怨霊達と自分達の現状に感謝が消え、慌てる。

 

 

 そして、そんなみんなが持っている欠片を見て、更に怨霊達から発せられる怨みのオーラが強くなり、顔もどんどん巨大化していく。

 

 

 ”あいつら…、あれを持っているぞ!!”

 

 

 ”もしや、憎きあいつらの仲間か…!! ”

 

 

 ”おのれ~…、許さんぞ~~!!”

 

 

 それを聞いて、ガラスの欠片を凝視する。

 

 意味が分からずにいると、ホームズがようやく分かったという顔で話し出した。

 

 

 「そうか…。分かったよ、みんな。

 

  この怨霊達はおそらく、水龍様がその身を封じた後、跡目争いに巻き込まれた村人たちの霊なんだ!

 

  もし、悪意の持った魔法師ギルドが宝玉を盗まなかったら、自分達や水龍様が悲惨な最期を遂げずに済んだ。だから、魔法師を憎んでいるんだ。そして、どうやらおいら達が持っているこのガラスの欠片は怨霊達の様子を見ると、その盗まれて、壊された宝玉みたいなんだ。だから、おいら達をその盗んだ魔法師達だと勘違いしている…!!」

 

 

 「…ホームズの言うとおりだとしたら、確かに彼らの反応や言葉にも納得できるわ…!!」

 

 

 「でも、どうすればその誤解を解いて、怒りを鎮める事が出来るんだよ!!?」

 

 

 「この欠片をくっつけて、復元し、祠に埋蔵すればいいんじゃないか?」

 

 

 「「それだよ!!」」

 

 

 ホームズの推理で一連の流れを理解したみんなは暁彰の提案に賛同し、急いで実行に移る。

 

 

 ちょうど、障壁魔法の中に入っていた祠にみんなはガラスの欠片を置いていく。

 

 

 それを暁彰が『再成』魔法をフラッシュキャストで何度もかけていき、長年、壊れていた宝玉が少しずつ引き付けられるように復元されていく。

 

 

 そしてついに!!

 

 

 宝玉が復元され、凄まじい光を放ち、辺りを包み込む…。

 

 

 その宝玉と連動して祠も光り出し、中から一つの相子の塊が舞い上がる。

 

 その相子の塊は徐々に大きくなっていき、姿を変えていく。

 

 

 

 

 そして光り輝く透き通った青い海の色をした膝まで伸びた長髪に絹のような滑らかな白い着物を着た青年が神々しく現れた。

 

 

 閉じていた瞼が開かれ、ガラスのような水色の瞳がROSEのみんなに向けられる。

 

 

 いきなり現れた青年に言葉を失うみんな。同じく言葉を失っている怨霊達は元の幽霊に戻り、涙を流して、頭を下げる。

 

 

 この状況に理解が追い付かないみんなに青年が微笑みかける。

 

 

 「ありがとう…。人間たちよ。あなた達が宝玉を元通りにしてくれたおかげで、私はまたこの世に舞い戻る事が出来ました…。

  感謝いたします…。本当にありがとう。」

 

 

 穏やかな波を想像させるような落ち着いた口調に和まされ、この青年が水龍様だと聞かずとも分かった…。

 

 

 「そこで、そのお礼として、見せたいものがあります…。」

 

 

 そういうと、水龍様の腕が池に差し伸べられ、渦巻き始めた池の水が持ち上がって、竜巻となって、天井に穴を空けた。そして、水で作った膜をみんなに施した後、その竜巻の中に飛び込み、それを伝って、外に出た。

 

 

 もう夜が終わり掛け、タイミングよく、日の出を見る事が出来た。しかも、竜巻でかなり高く上がった即席展望台で水平線から上がってくる日の出で海に浮かぶ龍のような地底の模様が見れ、感動に浸るROSEのみんな…。

 

 

 

 こうして、水龍様はみんなに改めて礼を述べると、長年恋焦がれていた海を満喫するかのように海へと戻っていった。

 

 

 

 

 海辺でそれを手を振って見送ったみんなはいろんな経験をして、感動の余韻に浸っていた。

 

 

 そこへ…

 

 

 

 

 「みんな~~!!こんなところにいた~~!!」

 

 

 と、手を振って、みんなに駆け寄るミナホの姿が見えた。

 

 

 「あ、お~~い!!みなっち、今凄いも、ぼべばぶ~~~~!!」

 

 

 くろちゃんがみんなを代表して、肝試し、楽しかったと言おうとしたところ、ミナホからの鉄拳を受けたのだった。

 

 驚きで口を開きっぱなしにするみんなに、息を切らしながらミナホが怒りの言葉をぶつける。

 

 

 「みんな、何で誰も来なかったんだよ!!こっちはずっと待ってたんだよ!!

  出口でずっと待っててさ!! おかげで寒い夜風の中で待たされての風だよ!!へっくション!!」

 

 

 「ご、ごめん!!でも、おいら達、ちゃんと祠に欠片を置いてきたし…!」

 

 

 「そ、そうだ!! 私達、水龍様に有ったんだよ!!かっこよかったな~!」

 

 

 口々で肝試しの内容を話し出したみんなにミナホは顰めた表情で首を傾げる。

 

 

 「……みんな、さっきから何言っているの?そんな仕掛けした覚えないけど?」

 

 

 「大丈夫…。分かっているよ、本物の幽霊を目撃したし…。迫力満点だった…。」

 

 

 「?? だからさっきから何を言っているの?私、仕掛けとか一切していないし、みんなにその欠片?渡した覚えはないけど?}

 

 

 「…え?」

 

 

 「大体…、待ち合わせ時間にみんな来なくて、待ってたら、親切な女性の人が現れて、事情を説明したら、「その人達なら、既に洞窟に入っていきましたよ?」って教えてくれて、それならって出口でず~~~~~~~~~~~っと待ってたんだよ!? みんなには結局今、ここで再開したばかりだから!!くしゅんっ!!」

 

 

 頬を膨らませて、プンスカと怒るミナホの言葉でみんなは一斉に血の気を引いていく。

 

 

 じゃ、みんなが肝試しを始める前に会ったミナホは一体誰だったんだ?

 

 

 そんな考えがみんなの脳裏に浮かびあがり、忘れていた恐怖が身体全身に震えを広げさせていく。

 

 

 だが、みんなが幽霊よりも恐ろしいと思っていたあれが訪れつつあるのをみんなはきづかずにいた…。

 

 

 「だから!!よって…、全員に罰ゲーム受けてもらうからね!!はい、どうぞ!!」

 

 

 ミナホが取り出したのは、ぐつぐつと泡が噴き出した真っ赤な炭酸ドリンクだった。

 

 

 

 

 

 そう、肝試しの罰ゲームだ…。

 

 創造とは違って、意外にちゃんとした物が出た!だと思ったホームズとくろちゃんが喉も乾いていたため、ドリンクを受け取り、口にする。

 

 

 「「ブヘ~~~~~!!ぼえぇっ…」」

 

 

 

 バアター―――ン!!

 

 

 

 「「「「「「「「「「………………………」」」」」」」」」」

 

 

 喉を抑え、苦しみながら、倒れこんだ二人を目の当たりにして、不敵な笑みを浮かべるミナホがそのドリンクを入れたジョッキを大量に取り出し、みんなに迫っていく。

 

 

 「ふふふ…。うちが作ったスペシャルギルティードリング…。飲んでくれるよね…?」

 

 

 怪しげに眼が光り、鼻水を垂らしながら迫ってくるミナホにみんなは生贄となったくろちゃんとホームズを見捨てて、一目散に逃げ出した。

 

 水蜘蛛で海の上を全力疾走で走ったり、飛行魔法で飛んだり、ダミーを幻影で作り出して逃げたりと様々な方法で逃げはじめる。

 

 

 tokoは既に恐怖の許容範囲をオーバーして、泡を吹いて、気絶していた。

 

 みんなは気絶したtokoを見て、いいな~と羨ましそうな眼差しで見つめて、逃げながら思う。

 

 そんな逃げ方があったかと!!

 

 

 

 

 

 (もういいから…!! 早く夢から覚まさせて~~~!!)

 

 

 

 

 

 「ダイジョウブ…ダヨ。モウサメテルヨ。」

 

 

 「イッショニアソボウヨ。」

 

 

 心の叫びを読まれ、テレパシーで返された片言だけど、聞き覚えのある声に一定距離を保って、見捨てたくろちゃん達の方へ視線を向けると、さっきドリンクの餌食となったくろちゃん達が地の底から這い上がるかのような起き方をし、肌の色が血色が悪くて、目が白目になってフラフラと立ち上がったのだ。

 

 

 「くくく…。ズズズ…!! …っぁぁ…。

  へへへ、このドリンクを飲むと、ゾンビとなって、私の忠実なゾンビとなるのだ~。本当は、疲れを吹っ飛ばし、健康体を取り戻させるという代物だったけどね…。

  配合間違えちゃって…。でも、うちが味わった苦しみを存分に与えるにはちょうどいいよね~。暗~い夜の中、一人でみんなを待つうち…。寂しい思いで頑張って待ってたのに、みんな、楽しんだみたいで~…。ずるいのね~。うちも参加したかったけど、進行役だし?

 

  だからね~、うちのみんなへの愛情…、受け取ってね? 

 

  さあ!!ゾンビくろちゃん!!ゾンビほーちゃん!!

  みんなをゾンビにしておいで!!」

 

 

 

 

 「「「水龍様~~~!!助けて~~~!!」」」

 

 

 みんなのこの本気な願いは残念ながら叶わず、ミナホに忠実なゾンビとなったくろちゃんとホームズに徹底的に追いかけられ、全員がゾンビになるまで、悪夢は続くという第二弾ゾンビ肝試し大会が開催された。

 

 

 その様子をくろちゃんのカメラで巧妙に●RECをするミナホは海に来て、一番輝いていた…。

 

 

 こうして、なんだかんだで肝試し大会は全員罰ゲーム決定実行で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「もう…!! 肝試しは懲り懲り~~~!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 

 

 

 ところで、ミナホに成りすまして、宝玉の欠片をみんなに渡したのは、水龍様と恋仲だった村娘の霊だった。

 

 

 種族の違う恋だったが、お互い愛する人を想っていたのだ。

 

 

 そして、水龍様がその身を封じた後、村娘も後を追うように、海へと身を投げて亡くなった。しかし、愛する恋人への想いで霊となり、水龍様の心を溶かし、封印を解くため、壊れた宝玉をここに訪れた人の身体を借り、集めていた。

 

 そして、水龍様の張っている結界によって、その村娘の霊だけは入れなくなってしまっていたので、その宝玉を祠へと運んでくれる人間を待っていたのだ。

 

 

 長い年月の間、待ち続けてROSEのみんなの肝試しに乗じて、託し、無事に成し遂げられたのだった。

 

 

 

 

 今頃、その村娘の霊は復活した水龍様と共に大好きな海の中で、再会を喜んでいる事だろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ!!? 続きは?もう終わり?」

 

 

 「何言っているのよ? すごく感動的な話だったじゃない!?」

 

 

 今までの話を聞いていた子供たちは拍手をしながら、紙芝居をしてくれたじいちゃんに続きを促す。

 

 

 そのじいちゃんはROSEのみんなが海に遊びに来たときにお世話になった宿屋のじいちゃんだった。

 

 

 「ほっほっほ!! 続きが気になるのかい!? そんなに気に入ったか、坊主!」

 

 

 「うん! ROSEのみんなが面白くて、カッコよかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「…なら、帝都に行ってみるといい。そこに、この話の主人公たち、魔法師ギルド”ROSE~薔薇の妖精~”がいるぞ!!その眼で見てくるといい!!ほっほっほ!!」

 

 




怖さもありつつ、笑いも入れてみた冒険的な肝試し大会でした!!


何とか今日投稿が間に合ってよかった~~!!



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いざ、反撃の時!!

はい、本編に戻ってきました~!!

番外編は溢れんばかりに書きまくったね~。


という訳で、ついにサーカスに潜入したホームズ達が動き出す所でスタートだ!!


 

 

 

 サーカス団を殲滅するため、壁際で縮こまって、小声で作戦を話し合うホームズ潜入組。

 

 

 お互いに作戦を理解した後、リテラは単身で敵の通信司令部へ行き、救援要請や監視カメラの無効化をするため、向かった。

 

 何回もここへ潜入しているリテラには既に9割ほどの本部棟に見取り図を頭に叩きいれていた。そのため、もし騒ぎを起こした場合、相手の通信手段等を遮断し、操作できたら、戦力等を有利な方向へと持って行ける。幸いにも、通信司令部には幹部はめったに訪れないし、下っ端の連中しかいない。

 リテラの得意な精神干渉系魔法を使えば、スピーティーに事が運ぶ。そこも見込んで、ホームズは頼んだのだ。しかし、作戦がうまくいくとは限らない。もしも、予想だにしない事態に遭遇した場合は、連絡するように伝えてある。

 

 通信司令部へと向かうリテラの後姿を見届けた後、リテラにもらった本部内の見取り図と地下都市の地図を見比べながら、思考を巡らせているホームズにるーじゅちゃんとし~ちゃんがそっとホームズに話しかける。

 

 その内容は、さっきのリテラの覚悟の事だった。

 

 

 「……やっぱり少し、言い過ぎたんじゃない? 」

 

 

 「…そうだね。まだあの年齢で、革命軍を引っ張ろうとしているんだもんね。怒りで我を忘れて、勝ち目がない無駄死にはよくないよ。でも、あそこまで覚悟を持たせる意味があったの?」

 

 

 ROSEのみんなは闇世界と関わってきたから、どれだけ危険で、どれだけ悲惨な戦いなのか…、身に染みるほどよく知っている。

 だから、その闇世界へまだ爪先一歩だけ踏み込んだだけのよく知らないリテラを放り込むのは…、ましてや命をかけらせるのは、酷ではないかと思ってしまったのだ。危険に飛び込むのは、自分達だけでいいと…。

 

 しかし、ホームズは首を横に振り、それを否定する。

 

 

 「確かに、選択を狭めて、リテラに将来のために、仲間を見捨てさせた…。

 

  それは、申し訳ないと思っている…。

 

  でも、おいらは間違ったことは言っていないと思っている。

  し~ちゃんは言ったね?『あそこまで覚悟を持たせる意味があるのか?』って。

  なくてはいけないんだよ…、リテラには。

 

  リテラは外で情報を集めてきたと言っても、まだ外の世界をよく知らない…。つまり、どこに闇が潜んで、手を伸ばしてくるか、”知らない”んだよ。

  おいら達なら、避ける事が出来る事でも、リテラは優しいから付け込まれる…。

  だから、リテラが考えているような甘い世界じゃない事を教えておかないと…。」

 

 

 「だから、”知らない”からこそ、”光”であるリテラを”闇”に落とされないように、前もって、止めておくべきだったんじゃ?ある程度の事だけ知れば、戦えるはず…。」

 

 

 「それは、ダメだ!!」

 

 

 ホームズの言葉に一理あると分かっていても、るーじゅちゃんはどうしても言っておきたかったのだ。リテラは純粋すぎる…。その純粋さが穢れる前に関わりを断ち切るべきだと…。しかし、ホームズはそれを認めなかった。

 

 

 「”知らない”って事は、それだけ”闇”に付け込まれる隙に繋がる…。それはおいら達が一番よくわかっているはずだぜ?

 

  …それに、リテラはただの普通の少女じゃないんだ。革命軍のリーダーでもあるが、この国の正統な王の末裔…。この国を変えようと動こうと、今、立ち上がっている次期国王候補だ…! 

  

  王の称号なら誰でもやろうと思えば、やれるもんさ!ただし、国を良くしようとするなら、話は別だ…。

 

  人に善悪があるように、国にも”光”と”闇”がある…。どんなに人柄が良く、民に愛されるものでも、”闇”を”知らない”と自分では気づかずに”闇”の政治を認知したり、合法化してしまう事に繋がらない訳じゃない。

 

  ”知らない”なんて言葉は人々を束ね、導こうとしている者にとっては、愚かな言葉だぜ…!?

 

  ”知らない”って事で、間違った判断をしてほしくないんだ…。おいらは…。

 

  おいらもリテラが誇りに持って、夢見る国を見てみたい…。

 

 

  …だから、”光”だけでなく、”闇”も知って、国をどう導けば、民が笑顔になるか…、リテラのその眼で見て、聞いて、感じて、正直な思いで考えてほしいんだよ…!!」

 

 

 熱い思いを胸に秘めながら、力説するホームズにるーじゅちゃんとし~ちゃんは感動のあまり、感涙する。

 

 火龍人は涙を必死に堪えながら、大きくうんうんと頷く。

 

 もう三人は、ホームズに意見を言うつもりもなかった…。ホームズの気持ちが痛いほど伝わったし、何より自分達もリテラが治める国を見てみたい…!!

 

 

 そう思うと、力が沸いてきた。

 

 

 みんなの瞳に迷いが消えたのを感じたホームズは打ち合わせ通り、作戦を開始した。

 

 

 ホームズが地上で曲芸一座の動きを監視しているみんなと連絡を繋ぐ。

 

 

 「…こちら、暁彰。どうした?ホームズ?」

 

 

 「ごめん、今からこの地下で大暴れする事になったから、早速助っ人としてきてくれないかな~!!」

 

 

 「……その、気楽な感じでさらっと大逸れた事言うの、止めてくれないか?準備ってもんが必要なんだけど?」

 

 

 「大丈夫!!暁彰ならいけるっ!!」

 

 

 「……はぁ~…。で、どうしろと?」

 

 

 「さっきまでの会話、聞いていたと思うけど?」

 

 

 「…聞いていたけどな、まさか地下で闇オークションが行われていたとは、思わなかったよ。確かに、この機を逃せば、連中のしっぽをつかむ事すらできなくなる。」

 

 

 「うんうん!!だからさ、派手にぶっ飛ばすんで、来て?」

 

 

 「わかった…。すぐに行くが、曲芸一座のテントの周りには、警報装置つきの策で覆われていて、入るのは難しい。何か、入る手段がないか…。」

 

 

 声色からして、曲芸一座の敷地の周りを調べたみたいだけど、抜け穴らしい場所は見つからなかったようだ。

 

 

 「ははは。だろうな~。リテラに教えてもらったけど、いくつもの抜け穴があったんだけど、連中に支配された時に、徹底的に塞がれて、今じゃ、本部棟から伸びている筒状の50人乗りエレベーターしか、ここに来る手段はないっぽいよ?」

 

 

 「……その通りらしいな。今、視てみたが、ホームズ達がいる中心の建物から地上へ伸びているエレベーターしかないみたいだな…。しかも、その出入り口には監視員が50人も配置されている。」

 

 

 「…どうしようか?」

 

 

 監視員は入るだろうと思っていたが、そんなにいるとは思わなかったホームズは他の手段を考える事にした。しかし、それを暁彰は不要と告げる。

 

 

 「…大丈夫だ。合図をくれたら、こっちでホームズがいう、”派手にぶっ飛ばして”みせるから。るーじゅちゃん達にもその事は伝えといて。」

 

 

 「…ああ!!なるほど、わかった。後、それからこの事を警魔隊にも連絡して…」

 

 

 「既に警魔隊に連絡して、いつでも踏み込めるように配置完了済み。彼らの士気も高まっている…。」

 

 

 「さすが!暁彰!!やること早い!仕事ができる大人だな~!!」

 

 

 感心しいると、暁彰は用は終わったと言わんばかりに、通信を切った。

 

 

 無視されたことに拗ねるホームズだけど、準備しているるーじゅちゃん達に暁彰の伝言を伝え、ついに、表舞台に飛び出した。

 

 

 「ハロー――!!

 

  闇商売を生業としている馬鹿さん達?」

 

 

 最後の商品のオークションが終わり、後は幕引きという所で、ステージにホームズがスポットライトを浴びて、出てきた。

 

 

 いきなり、偉そうに出てきたホームズに驚きながら、観客達は野次を投げる。

 

 観客達の反応を見て、急いで、カバルレはステージ横で控えていた監視員を呼び出し、つまみ出すように命じる。

 

 

 しかし、取り押さえる前に、ホームズは腕を高く上げ、指を鳴らした。

 

 

 その指を鳴らした音が会場中に大音響で響き渡り、観客達を黙らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして…

 

 

 

 

 突然、会場の天井から地響きがしたと思ったら、天井にひびが入り、次の瞬間には、天井が壊れ、瓦礫が観客達の頭上に落ちてきた!!

 

 

 「「「うわわあああああああ~~~~!!!」」」

 

 

 悲鳴を上げる観客達に向かって、呆気になっているカバルレからマイクを奪い、観客達に指を指して、宣言した。

 

 

 「さあ!!闇をぶち壊す反撃の時間だっ!!」

 

 

 そのホームズの目には、心からの強い思いが込められていた…。

 

 

 




はい~!!

今日のほーちゃん、かっこいい~~!!ヒューヒュー!!

こうして、カバルレサーカス団対ROSE&革命軍の火蓋が落とされました!!


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地獄への『レッツ・ショー・タイム!!』

ド派手にはド派手に返す!!




 

 

 会場の天井が崩れ、大きな円状の穴ができた。

 

 

 そこから、落下してくる無数の人影…。

 

 

 そのうちの一人は見事な宙返りとひねりを入れた華麗なる動きで着地した。その者こそ、天井を壊した張本人…。

 

 

 「さすがの威力だね~!! 恐れ入るぜ!!」

 

 

 「…本当はこれを望んでいたんだろう?ホームズ…。」

 

 

 天井を壊した張本人…、暁彰にホームズが激励を投げる。

 

 

 何でこうなったかというと…

 

 

 

 

 通信を切った後、暁彰が飛行魔法で警報装置や相子探査機を回避するため、飛行魔法で遥か、上空に飛び上がり、地下の本部棟がある真上を『精霊の眼』で確認し、飛行魔法を解除して、真っ逆さまに急降下したのだ。そして、そのまま降下しながら、愛用のCADを地上のパフォーマーたちの宿テントに照準を向ける。…正確にはそのテントを通り過ぎ、地面の約50Mほどにあるほんの一滴分のの水分に照準を合わせ、タツヤ族しか使えない戦略級魔法奥義『マテリアル・バースト』を発動させた。地下内でエネルギー放出された威力で地下都市のある深さまで太陽の爆発は届き、それによって、土で覆われた地下都市への道ができ、爆発によって、砕けた天井の土が地下都市に降り注ぐ。

 

 警備員達は突如崩れた天井に動揺し、助けを叫びながら、落ちてくる土の塊を避けようと必死に逃げ惑う。

 ちなみに、奴隷達はオークションが開始されて、都市の端の奴隷達の収容所に入れられていたので、怪我は誰もしなかった。

 

 そして、本部棟には特にその土石流が酷く、流れ込んでいき、重みに耐えきれなくなった屋根が壊れ、更に下に落ちていき、一階の会場の天井まで破壊したのだった。

 

 

 そして、地下都市にも本部棟へも侵入経路ができたため、暁彰は落下をし続けたまま、地下都市へ…、そして本部棟の会場へと落下し、減速魔法と移動系魔法で落下の勢いを殺し、見事な着地を決めた。

 

ま、本当は『雲散霧消』で地面を分解すればよかったが、相当深い場所に地下都市があり、落下するだけでも10分ほどかかるまでだ。(確かにホームズ達も罠で落ちていった時、時間かかったもんね~。)

 

 時間がかかる上に、神経を使うため、手早くそして、”派手”に登場するには、『マテリアル・バースト』が都合がよかったのだ。

 

 

 地下での発動だから、帝都への被害は皆無。

 

 被害は最小限に留めて、相手の注意を向けさせた…

 

 …というわけだ。

 

 

 暁彰が開けたドデカい穴の侵入経路からROSEのみんなや警魔隊が次々と到着する。

 

 警魔隊精鋭も含めた5000人が地下都市にいる監視員や警備員、逃げ惑う闇オークションに参加していた闇商人や研究者等の観客を一切手加減なしで検挙していく。

 

 地上のテントも崩壊し、既に、団員全員の身柄を抑え、逃げようと飛行魔法で飛んでくる観客達を逃さないように『マテリアル・バースト』で緩んだ地盤が崩れた巨大な穴を警魔隊が警戒態勢を敷いて、上がってくる観客達を一人残らず、縄でぐるぐる巻きにして捕獲していった。

 

 

 その光景はまるで、湖で魚を釣り上げるマスタークラスの釣り人の集団のように見える…。

 

 

 

 一方、地下都市では、ROSEの面々がカバルレを逃がさないために取り囲み、手助けしようとレストレード警魔隊隊長が部下を十数人連れて、本部棟へ入ってきた。それをステージで確認したホームズは…

 

 

 「あ、レスちゃん!! どんどん御縄に縛ってあげてね!」

 

 

 「えっ!! 我々もご一緒に戦いますよ!!」

 

 

 「こっちはいいから、それよりも雑魚共の捕縛よろしく! 」

 

 

 「で、ですが…!」

 

 

 「…痛~いお仕置きと気持ちいいお仕置き…どっちがいい?」

 

 

 「快感の方で!!では、雑魚共の捕縛に行かせていただきます!!お前達、行くぞ!!」

 

 

 ホームズとレストレードのやり取りを呆れ顔で見送ったみんなの雰囲気にカバルレは怒りで体を小刻みに震えさせる。

 

 

 「貴様ら…。吾輩のショーをぶち壊しにしておきながら、呑気にSM会話しないでもらいたい…!」

 

 

 「あれ?カバルレ団長様…、一人称が”私”から”吾輩”って…。ぷぷぷ!!

  お人柄が変わりすぎですよ!!」

 

 

 「いよいよ、悪役に転じたってことなんだろ?」

 

 

 「いや~悪役じゃなかったら、こんな状況になっていないと思う…。」

 

 

 「「「「「確かに…。」」」」」

 

 

 お淑やかな優しい団長はどこへ行ったやら、もう見た目が若返っている団長にはその物陰は一切なくなっていて、悪い顔がくっきりと表情に表れていた。

 

 その顔の額には血管が浮かび上がるほど、爆発的怒りを出していて、年寄だったら、血管がブチ切れて死ぬんじゃないかってくらい。

 

 

 「……よくわかった。

 

  貴様らには甚振るだけではすまさねぇ…。死んだ方がまし…、いや…、死んでも一生終わらない地獄を味わらせてやるっ!!」

 

 

 怒号を吠えまくり、肩に乗っている相棒の鳥型CADロボットの口から黒みかがった紫の丸い宝石をつけたロッドを吐き出させると、そのロッドの先を地面に2回、コン、コンッと打ち付けた。

 

 その瞬間、本部棟が一瞬びくっと揺れたと思ったら、地震のように横揺れをし始めた。

 

 

 

 「なんだ!この揺れは!」

 

 

 「だめだ…。はきそう…。うぷっ!」

 

 

 カバルレを取り囲んでいたROSEのみんなは激しく揺れる床や壁に陣形が崩れていく。

 

 

 「カ~~~ハハハハハ!!! さあ、お前たちのその地獄を見せてやろう!!

 

  われわれ、”カバルレ・サマダ大サーカス”の地獄ショーをもって、全滅してやるっ!!」

 

 

 ドヤ顔で何かを企むような顔を見せるカバルレは耳にかけているマイクを二回指で突いた後、手を広げて、宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『レッツ・ショー・タイム!!!』

 

 




サーカスならではに、カバボスを悪に、徹底的に悪にしよう!!

でも、サーカス感も入れよう!!


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「ショーの始まりだっ!!」

…カバルレ、もうパパッと消してもいいよね??

でも、それじゃ、おもしろくないか。


 

 

 

 

 

 

     『レッツ・ショー・タイム!!』

 

 

 

 鼻に突くような大げさな発音と口調で決戦の幕を言い放ったカバルレの言葉に反応し、先程からの揺れが強まり、床や壁、壊れた天井も動き出した。

 

 

 「危ないっ!!」

 

 

 「おっと!!」

 

 

 「ほれほれ!! 避けなければ、潰れるぞ?」

 

 

 「さっきからアイツ、むかつくな~。」

 

 

 「もう、団長さん、大好きだったのに~!!」

 

 

 「諦めよう…!? 化けの皮を被ってたんだし、優しい団長さんはいなかったんだよ~!!うわ~~ん!!」

 

 

 「コラっ、今、嘆くなよ!!」

 

 

 「「ごめんなさい!」」

 

 

 所々の床がせり上がって、その床と新しくできた天井に挟まれるのを回避しながらも、るーじゅちゃんとし~ちゃんはいまだにカバルレ団長(老紳士の方)の面影を探して、嘆いていたので、御神が戦いに集中するように告げる。

 

 しかし、みんなを心配するような余裕がないほど、床がせり上がって、壁になり、皆を視界に入れる事が困難になってきたのだ。何とか壁を蹴って上がっても、すぐに壁が横に伸びてきて、行く手を塞いでくる。

 

 攻撃魔法で砕いたり、消したり、錆びつかせたりと反撃するが、またすぐに新しく出てきたりとするものだから、きりがない。まだ敵との交戦もある中、なるべく魔法は使わないようにしないと…。

 

 だから、すっかりせり上がった床や伸びる壁、動き回る天井に右往左往に避けた結果、カバルレの姿を見逃しただけでなく、ROSEの面々の陣形も完全に崩れ、ROSEのみんなは仲間達とはぐれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、壁も床も天井も動きがやっと止まり、一息はいた後、自分がいる場所の周りを見渡したROSEのみんなは驚愕した。

 

 

 

 なんと、自分がいる場所には既に部屋ができていたからだ。

 

 家具等は一切ないが、目の前には扉があり、天井にはちゃんと灯りがあった。

 

 

 ちなみに、ROSEのみんなは一人ずつ、別々に部屋割りされている。ホテルの部屋わりかっ!!と突っ込みを入れたいが、それをまだ知らないROSEのみんながそんな突込みができる訳もない…。

 

 自分がどこにいるか把握できないみんなは、とりあえず、部屋を探索し、自分以外は誰も部屋にいない事を確認しようと、連絡無線を取り出し、連絡を取り合おうとするが、通信が妨害されているらしく、繋がらない。

 

 暁彰に繋がれば、『精霊の眼』でこの事態を探る事が出来るし、その情報をみんなに中継役となって伝える事もできる。しかし、無線どころか、電子メールも使用不能になってしまっている。

 

 どうしたものかとみんなは思考を凝らしていると、部屋の壁に突如として映像が流れ始める。そこには、カバルレの姿があった…。

 

 

 「よう!! どうかね? この本部棟の秘密カラクリを味わった感想は?

 

  …………ふむふむ…、大変気に入ってくれた者がいるようだな!!

 

  そうだろう、そうだろう!! この本部棟は私の意志であらゆる内装に作り替える事が可能なのだよ!!

 

  大浴場を作りたいと思えば簡単に作れるしね?」

 

 

 この時、カバルレの説明を同じく別々に見ているくろちゃんとホームズ、御神、剣崎兵庫etc…は”大浴場”と聞いて、鼻血を流し、ヘムタイな事を考えていた。…その他の一部は悪寒を感じ、ヘムタイ反応を見せたり、その妄想の餌食になっている人は言葉にならない直感を受け、壁にパンチをお見舞いしていた。

 

 

 「…という訳で、今この本部棟を誰が支配しているか分かってくれたと思う…。

 

  そこで、ショーの内容を説明しよう。

 

 

 

 

 

 

  いま、お前達は一人ずつ我が作り上げた部屋に配置しておいた。

  そしてそれぞれの部屋には扉がある。その扉を出れば外には出られる…が、一方通行の一本道!!

 

  その道を進めば、階段やステージがあるぞ!!

 

  それらを進みながら、上へと進んでいき、最上階にいる我の元へと来いっ!!

 

  だが、我に辿り着くには、幹部や部下達を全員倒さなければ無理だがな!!

 

  貴様らの持つ命運が試される『運試しあみだレースショー!!』を用意した…!!

 

  さあ、ゲームショーの用意は整えてやった…。

 

  我を倒せば、全て終わる…。しかし、そう簡単にはいかないからな!!ゼイゼイもがけ、苦しめ!!

 

  か~~~~ははははははははは!!!」

 

 

 

 

 ブチっ!!

 

 

 

 カバルレの高笑いの後、映像は消え、沈黙が流れる。

 

 

 カバルレの言っていた『ショー』という意味がやっと理解でき、憤怒の思いを胸に秘め、ROSEのみんなは合図もなしに、同時に扉を開け、カバルレが仕組んだショーにいま、参戦する…。

 

 

 




消さない代わりにゲーム大戦にしてみた…。

あみだのように進んでいき、途中で仕掛けられている罠や敵との遭遇戦を掻い潜って、ラスボスまでたどり着き、倒すってゲーム…。



…こんなゲーム、イベントでしてくれないかな~!!?


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橋を渡る時は慎重に…!!

最高幹部と戦うのは、早すぎる~!!

という訳で、その道すがら、トラップに引っかかるROSEメンバーの話を~。


 

 

 

 

 カバルレの仕掛けたゲームショーによって、散り散りになり、参戦する事になったROSEのみんなは、ラスボスであるカバルレがいる最上階へと目指すため、それぞれのいる部屋の扉を開け、先に繋がる一本道を歩いていた…。

 

 今回は、そんなROSEのメンバーのワイズさんと火龍人のプチ冒険の話…。

 

 

 

 

 

 孤高の旅人だったワイズさんは、ROSEに入って間もないが、皆との会話にも積極的に参加し、旅の経験から得た様々な知識を惜しみなく提供してくれる自称、独身男の老人…!!

 

 しかし、自分を老人だと自虐するワイズさんをROSEのみんなはそうとは受け取らず、例え男でも、女でも、子供でも、老人でも関係なく接し、仲間を大事にする心を持っている…。それをROSEに加入したワイズさんは日々を過ごす内に胸の内を温かくしてくれるROSEに少しずつ心を通わせていった。

 

 だから、ROSEのみんなとまだ居たいと思う気持ちがワイズさんの身体を動かしていた。

 

 

 「…かなり歩いたけど、まだまだ先が長そうだよな~。早く終わらせるに越したことはないけど。」

 

 

 歩きながらも、壁の仕組みを分析したり、魔法的措置がされていないかなどを調べ、データを集めていく。

 

 すると、歩いてきた道の先に光が見えた。

 

 

 「…やっと出口か。さっさとカバルレの部下達を倒して進みますか。」

 

 

 やれやれという雰囲気で出口を向けたワイズさんは目の前の想像した物とは違った光景に口が開けて、沈黙する。

 

 

 ワイズさんが遭遇したのは、カバルレの部下との戦闘でも、それ以上の力を持った幹部との戦闘でもない…。ただの石橋が目の前にあるだけの広間に来てしまった…。

 

 

 もちろん橋の周りは穴が開き、下には渦を巻く水が張られていた。

 

 

 ワイズは人との戦闘ではなく、トラップに遭遇したことに残念がる。

 

 

 トラップに遭遇するという事は、すなわち、敵の数を減らせられず、他のメンバーの戦闘に駆り出される可能性があるからだ。

 しかし、自分の与えられた罠がこれだけで終わらないだろうと考えなおし、次の罠で戦闘になる事をなぜか期待して、石橋を渡ろうとした。

 

 

 石橋を渡ろうとしたが、何のトラップが設置されているかは分からないため、とにかく持っていた金づちを取り出し、石橋を少しずつ叩いて異常はないかを確認して進んでいく。

 

 

 遠い国のことわざでこんな言葉があると聞く…。

 

 

 『石橋をたたいて渡る』と…。

 

 

 

 (そのまんまに捉えてどうするんだっ!!)

 

 

 そうしていると、望んでいないのに、罠を発動させてしまう訳で…

 

 

 

 石橋を叩いていると、床部分の意志の一つがくぼみ、ガチャっと音を立て、機械的な音が響く。その音とともに、渦巻く水がどんどん熱湯に早変わっていき、湯気を発していく。その湯気が濃くなり、石橋をなおも叩いて渡っているワイズさんの視界を塞いていく。その視界の悪さで、ワイズさんがまたよからぬトラップを発動してしまい、熱湯が更に、熱くなったと思ったら、下はプクプクと音を立てて、完全にマグマの沼状態になっていた。温度も急上昇し、マグマの熱で熱せられた石橋の上で、ワイズさんは身体中を汗でびっしょりと濡らし、焼き石となった石橋の上で「あちあち!!」っと飛び上がる。

 

 

 「いつの間に、熱湯がマグマになったんだ?それに…熱っ!! 足の裏が、熱っ!!」

 

 

 あまりの暑さに干からびそうになるワイズさんは石橋の半分まで来ていた。

 

 さすがに後、半分も叩いて渡る事は困難だと思ったのか、確認しない事は悔しがっていたが、一気にわたってしまう事にした。

 

 

 そして、駆け足をしている今のリズムに乗って、走り出そうとした時、運が悪いのか、いいのか、天井が開き、防熱素材の酸素マスク付白全身タイツを着たカバルレの部下たち10人ほどが石橋の上に振ってきた。部下達は熱せられた石橋の熱さで立っていられないワイズさんの前後に立ち、マスクから漏れる不気味な笑いを出しながら、徐々に近づいてくる。

 橋の出入り口に部下達がいて、橋の下はマグマ…。

 

 逃げ場を失ったワイズは絶対絶命のピンチに遭遇する。

 

 

 しかしその状況でもワイズは冷静で…

 

 

 「……君たち、その服装は止めた方がいい。はっきり言って、似合っていない。寧ろ、気持ち悪い。悪すぎる。流行遅れとかそういう次元ではなくて。存在自体が許せないから。」

 

 

 冷静は冷静でも、かなりの毒舌をお見舞いした。

 

 

 

 部下達はそんな感じで存在を拒絶され、前方の部下達は石橋の上で体育座りをして、落ち込み、後方の部下達は一気にワイズさんに襲い掛かる。

 

 

 

 「あれ達だって、こんなかっこ悪いの、着たくないんじゃ~~~!!」

 

 

 「だったら、着なくてもいいと思うけど。 それを着なくても、この石橋を渡るくらいできるよね?」

 

 

 「安全装備して何が悪いんじゃ~~!! 馬鹿にしおって~~!!」

 

 

 「さっきから、語尾に”じゃ~~!!”って言ってますけど、流行ですか?その白タイツとセットで。」

 

 

 「違うわ!! 貴様ざぞ、マグマに落ちやがれ~~!!」

 

 

 金棒を振り遅す部下達の攻撃を最小限で避けているワイズさんの耳に、仲間の声が部下達の後ろから聞こえた。

 

 

 

 「ワイズさ~ん。助けに来たよ!!」

 

 

 そう、火龍人の声が聞こえたのだった。




明日は、火龍人を織り交ぜて…。


うん!!なんだか漫才になる予感!!


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罠は罠を呼ぶ…

どんどん仕掛けが出てくる危機をどう脱するんだろう?


 

 

 

 

 

 ゴゥゴゥと煮えたぎるマグマの上にある石橋で攻撃を仕掛けられているワイズさんの元に、火龍人が合流した。どうやら途中で道が合流したようだ。

 

 

 助っ人に来た事をマグマの部屋に入ってきた火龍人にワイズさんはぐっとタイミングだと思ったのは、ほんの一秒も満たない、一瞬だった…。

 

 

 助っ人の火龍人の姿を見て、頼もしいという概念が消えうせたのだ。

 

 …正確には、火龍人の後ろを転がってくる丸い物体…鉄球を見て…。

 

 

 「それは、”助けに来た~!!”じゃなくて、”助けて~~”だと思うけど!!」

 

 

 「…うん。ばれちゃった。 ワイズさん、たすけて。」

 

 

 「無理だ!!」

 

 

 ものすごい勢いで転がってくる鉄球に追われてくる火龍人に突っ込むと、ワイズさんは反対方向に逃げだした。もちろん、さっきまでワイズさんの毒舌に腹を立て、襲っていたカバルレの部下達も自分達に向かってくる特大鉄球から逃げるため、我先にと反対側の入り口に駆けだす。

 

 もしここで、鉄球にぶつかったら、跳ね飛ばされて、石橋から下のマグマの中に真っ逆さまで想像通りの”THE END”を迎える事になる。

 

 石橋の熱さなどはもう頭から忘れて、必死に逃げ出す。

 

 

 「待って…。ワイズさん、置いてかないで~。」

 

 

 「悪いが、待つ余裕はないっ!! 私は君みたいな若人ではないからな…。待っていたら、それこそ、一貫の終わりというものだよ。」

 

 

 マグマの熱気で温まったこの部屋と熱くなっている石橋の上を転がって迫ってくる鉄球はその熱さで鉄球の温度が上がり、表面には橙色に溶け出した鉄が石橋に落ちる。

 

 そして、火龍人が次々と部下達を抜いていく中、とうとう鉄球の餌食となって、マグマの底に落ちていったり、踏み付けられて、身体に溶けた鉄でコーディネートされたりと鉄球が過ぎ去った跡には地獄絵図が広がっていた。

 

 それを今も走り続けているワイズさんと火龍人には見れるわけがないが。

 

 

 しかし、ワイズさんたちは新たな危機を目の前にしていた。前方を走っていた部下達が突如降ってきた鋭い棘付の鉄球に下敷きにされ、そのまま橋の中心へと転がり出したのだ。…ワイズさんたちの方へ…。

 

 

 「なっ!! そんなの在りなのか!?」

 

 

 「実に追い込んでくるね…。どうする?ワイズさん?」

 

 

 「こうなったら、少し魔法を…」

 

 

 「残念だけど、ここでは魔法は使えないみたいだよ?壁一面にどうやら小さくしたアンティナイトが無数に組み込まれているみたいで、魔法妨害しているんだよね~。」

 

 

 「…え?」

 

 

 火龍人の話を聞いて、試しに前方の鉄球に狙いを定め、加重系魔法を発動する。

 

 …しかし、動きが鈍くなって動かなくならず、一向に迫ってくる。

 

 

 「これは………、困ったね。八方塞りの状況だよ…。いや、例えるなら、”背水の陣”?」

 

 

 「じゃ、ここは、マグマの部屋だから、”マグマの陣”?」

 

 

 余裕を扱いているように見える二人だが、内心は酷く焦っていた。徐々に縮む鉄球のとの距離に打開策を考える。その鉄球との距離はおよそ50Mほどまで来た。猶予はもう残っていない。

 

 

 「「…………………あ!!」」

 

 

 二人は同時に何かを閃いたようで、話し合いもなしに、すぐに行動に起こす。

 

 二人は石橋の横の柵を飛び越え、身体を外に投げ出す。そして、手はそのまま柵に掴まって、石橋にぶら下がった。

 

 

 

 ――――――それは一か八かの大勝負。

 

 

 

 

 もし、手が滑ってしまったら、真っ逆さまにマグマの底に落ちる危険がある。しかし、鉄球の衝突からは回避できる危険な方法だった。

 

 そこへ、とうとう二つの鉄球が引かれあうように、大きな金属音を鳴らして、激しく衝突した。そしてそれは鉄球同士の一撃勝負にもなった。

 

 一つは、鋭い棘が付いた鉄球。

 

 もう一つは、じょっかん熱さで熔けた鉄球。

 

 

 この鉄球達の衝突はまるで大将同士の激突そのもの。

 

 

 しかし、その勝負は苦しくも棘もち鉄球の勝利に終わる。

 

 棘のリーチで棘の先端がもう一つの鉄球に食い込む。表面が熔けだしていたためだ。そして、更にお互いが押し合いながらぶつかる。すると、更に棘が食い込み、熔けている鉄球の方に亀裂が広がっていく。そして弾き飛ばされた時、その力が加わって、無残にも砕けていき、残骸の一部はマグマの底へと沈んでいった…。

 

 

 その現場をものすごく近くで見ていたワイズさんと火龍人はなんだか、さっきまで追いかけられていた鉄球の無き姿を見て、涙を流す。

 

 

 「おおおおお~~~~~!!! なんという事だ! 球太郎が哀れな姿に……!!」

 

 

 「球太郎……! 君の勇敢な戦いっぷりは忘れないよ…!」

 

 

 「………ああ、いい生き様だった。お前はよく頑張った!!」

 

 

 

 ……………二人はまるで男の取っ組み合いを見て感動したように、砕けた鉄球になぜか”球太郎”と名付け、別れを嘆いた。

 

 そして、憎き敵を見るかのような鋭い視線を棘鉄球に向け、再び橋の上へとよじ登って、戻ると…

 

 

 「球太郎の仇!!取らせてもらう!!」

 

 

 背中にしていた大剣を鞘から抜き、大きくジャンプすると、棘鉄球の真上に大剣を突き刺す。

 

 そこから入った日々が亀裂を生み、徐々に広がった亀裂で棘鉄球がバキバキという音がしていく…。

 

 

 大剣を抜き、鞘に戻しながら、ワイズさんは亀裂が広がっていく棘鉄球に背中を向けながら、語るのだった。

 

 

 

 

 

 「………これがお前の犯した罪の報いだ。」

 

 

 

 

 そして完全に大剣を鞘に収めた時、棘鉄球は球太郎と同じ末路を辿って、粉々に砕けた。

 

 

 その棘鉄球の残骸を見下ろす火龍人の目にも憤りを感じられる。

 

 

 「球太郎を葬った事を地獄で後悔すればいい…。」

 

 

 そう一言吐き出すと、棘鉄球の残骸全てをマグマの底に投げ落とした。

 

 

 

 

 その間、ワイズさんは無き球太郎の姿に手を合わせ、黙とうをし、瓦礫を集め、何やらこそこそし出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……こうして、思わぬ感動ドラマ?のお蔭で、何とかマグマと鉄球地獄から抜け出したワイズさんと火龍人の二人は出口を潜り、また一本道を進み、先を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人の胸には、銀色に輝く薔薇の彫刻がされたブレスレットが歩く振動でゆらゆらと揺れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




………いやいや!! 終盤かなりのツッコミ満載だったよね!!?

さっきまで殺されかけていた鉄球に名前付けて、擬人化していたよ!!?

ワイズさんのかっこいい所書こうとしたのに!! 小説書いている間ずっと、ワイズさんが”ワイズマン”になってしまって、書き直す癖がついてしまうほど、カッコよく書きたかったのに!!

くそ!!明日は次の仲間のかっこいいシーンを書いてみせる!!

シャッターさん!今日の投稿は閉めるよ!…ガラガラ。


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海の日番外編~ヘムタイ海戦!!~

海ですね~。海と言えば、海水浴。海水浴と言えば、水着。水着と言えば、ヘムタイ…。

ヘムタイ精神はなしにして、海を満喫したいけど、ROSEだから!!

これだけは外せないんだよね~。ヘムタイを求める人がいるので。(もう分かると思うけど!)

…てことで、ROSEの番外編始まります!!


 

 

 

 太陽が澄みきった青空に昇りきって、ガンガンと紫外線を降り注ぐ中、同じく澄みきった青い海の浜辺では、その暑さを紛らわすために、大勢の水着を着た人達が浜辺で夏を謳歌していた。

 

 そしてその場所には、あの自由なギルドも全員総動員でこの海水浴に来ていた。

 

 

 「また、来たね~…。」

 

 

 「そうだな~…。来たな~。」

 

 

 「…来れてよかったね~。」

 

 

 「来れてよかったな~。」

 

 

 「また私達の夢を実現できるとは思わなかったよ~。ズズズ(鼻血がちょろり)」

 

 

 「しかも、前よりも断然人が多いぜ~。ズズズ(同じく)」

 

 

 「「人生、最高の瞬間~~…!!」」

 

 

 …こんなやり取りを繰り出すのは、御想像通りのくろちゃんとホームズ。

 

 鼻血を出しながら、海辺に広がる絶景(もちろん海の光景ではなく、海水浴に来た水着女性達のナイスバディの方だ)を見渡して、早速その光景が広がる海辺(楽園)へと乗り出そうとする。

 今回は、二人だけでなく、ホムラ、御神、huka、剣崎兵庫、一時的に仕事から戻ってきたマサユキがともに行動するため、ROSE別働隊、NST出張版を結成し、NSTは全員防水加工の布一枚透かしてくれるヘムタイ共のお助けカメラを装備する。今回は前回の反省を踏まえ、カメラそのものを持ち運ぶのではなく、偽装アイテムで録画するのだ!!

 

 防水腕時計の時計盤やネックレス、サングラスの横に小型化したズーム機能付きカメラを搭載したり、マサユキが開発した惚れサンオイル『矯味・心身』を身体に丁寧に塗り込んだ。

 このサンオイルは紫外線により肌がつるピカになり、体型を厭らしく引き締める効果があるのだ。その肌と身体を見た者は、他が目に映らないくらい興味(矯味)を持ち、津々(心身)と何でもその身を尽くしたくなるほど、惚れさせる効果を持つ。

 

 独身を貫く者や、ヘムタイにはうってつけのアイテムだ。

 

 

 (これって、実際に売られていたら、絶対に捕まるわな~…。)

 

 

 その効果を使って、様々なポーズで写真を撮ったり、録画したり、調教したり…、を企むNSTはその”夢”を叶えるため、準備万端に海へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、NSTはまだ一、二歩しか進まない内に砂浜に次々と倒れ込んだ。

 

 NSTが倒れ込んだ原因はちゃにゃん、RDC、ミナホ、暁彰だった。

 

 だけどこれは、魔法を使ったわけではなく、純粋な拳で繰り出された結果である。

 

 NSTのリーダー格のくろちゃんとホームズには、ちゃにゃんが思いっきり強く握った拳を両手に宿し、空中から砂浜に着地する力を使って、脳天目掛けて、二人に振り落とし、二人は頭に、前回ミナホに制裁を喰らった大きなたんこぶより、更に倍近いたんこぶを作って、地上に生首だけを残して宙に埋まった。

 (たんこぶの大きさだけで、もう人の形を取っていないよ~。どんだけ大きいんだ!)!←車1台分くらい?

 

 ホムラとhukaには、RDCが最大出力の電撃ロープで感電させて、拘束する。

 御神には、ミナホが頭にギンギンに冷やしておいたスイカを叩きつけ、頭に被らせた後、超~~~~~長いバスタオルを腹に巻きつけ、そして、引っ張って、回転させ、目を回られた。俗にいう、『殿様~、回さないで~!!あ~~~れ~~~~!!』である。

 剣崎兵庫には、剣崎の大好物?のツンツン攻撃を身体全体にみんなで甚振る。ちなみに剣崎はマサユキ印のサンオイルを塗っていたため、みんなは視界鈍感メガネをかけている。それに加え、剣崎はツンツン攻撃でいつもよりイロイロと快感の世界に旅立ってしまっています。

 そして、マサユキは…! 相棒の暁彰の手により、シンプルに抹殺されて、埋められ、その上に砂で作ったお墓に手を合わされ、念仏を唱えられました。

 

 

 ………という感じで、流れるように悶絶させられ、NSTの夢はまたもや目前で潰えたのだった。いや、この場合は、ヘムタイから海辺の健全な世界を守ったと言えるのだろうか?

 

 

 「貴様ら………!! まだ懲りずにそんな事しているのか…!!」

 

 

 「こうなったら、もう息の根を止めて成仏させるしかNSTを救う事は出来ないにゃ。」

 

 

 「せっかくのすいか~~!! みんなで食べようとしてたのに~~!!弁償だね!!」

 

 

 「ここはいっその事、海にいる皆さんの前で、公開抹殺を披露した方がNSTの夢も半分は叶うんじゃないか?そうすれば、簡単に成仏を受け入れてもらえそうだ。」

 

 

 そう、NSTを撃退したスーパーチームはもう立ち上がる事すらできない…、どころか意識を復活させることすらできないNSTを海辺まで引き摺って、風船ボートに乗せ、海へと放った…。

 

 

 NSTは思い描いた楽園ではなく、文字通りの”楽園=天国”へと旅立った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、話がNSTのヘムタイ暴走未遂で途切れていたが、なぜ、ROSEが海水浴に来ているのかというと、もちろん!!遊びに来たっ!!…………ではなく、普通に仕事依頼を受けてきただけである。ホントは数人だけで来るつもりだったが、場所が海水浴と聞きつけたヘムタイ魂を持ち、いずれはヘムタイ王になる事を夢見るNST(くろちゃんが主に本気で思っている)がついてきたのだった。そのNSTを成敗するため、その対抗組織!HMT(ヘムタイ抹殺隊)が発足し、またもやついてきたのだった。

 そのため、結局はROSE全員参加の海水浴仕事依頼となったのであった。

 

 

 NSTを抹殺し終えたHMTの帰りを遠くから見ていた本来の仕事を受けたチームである鳥になる日、さっちゃん、し~ちゃん、サガット、ワイズさんは水着で寛ぎながら、呆れ顔満載で一連の出来事を見送っていた。

 

 

 「ははは………。相変わらずだね~、くろちゃん達は。」

 

 

 「呆れて笑いが渇いてしまっているよ~。…ま、私もだけど。」

 

 

 「でも、NSTがいると、確かに仕事はしにくいし、寧ろHMTが来てくれてよかったんじゃないかな?」

 

 

 「では、そろそろ仕事を始めようか、みんな。」

 

 

 依頼チームはワイズの掛け声で、休んでいた腰を上げて、仕事へと乗り出すが、いつ見てもやはり慣れない物が目に入って、気になるのだ。何が気になるかというと…

 

 

 「……ねぇ?ワイズさん?その壁、さすがに仕事の時は動き辛いのでは?」

 

 

 代表でし~ちゃんが聞いてみた、気になる事というのがこれだ。

 

 ワイズさんはいつも壁から半分身体を覘かせて会話をする人で、今回は、海辺の砂を使った壁アートを作り、砂壁から半身を出して、会話していた。もう壁と一体化しているのだ。しかし例外もある訳で、さすがに魔法試合やイベントなどの動いている最中は壁から離脱する。

 …壁から脱していないと、一向に前には行けないし、もし壁のすぐ前で走ったりしたら、膝や手が壁に何度も激突して、骨折れるわ!!

 

 しかし、今日はやけに壁から出たがらないワイズに、さすがにこのまま動けば目立って、こっちが動きづらくなるため、意を決して外に出てもらう。

 

 人が多い場所だから、人見知りしているのは分かるが、ほんとに出てくれ~!!

 

 …と思っている人がいるかもしれないが、ワイズさんはただ壁から半身出すのが、趣味の人なので、大丈夫ですよ~。

 

 

 

 

 

 という訳で、何とか譲歩して、顔にだけ壁で半顔だけ隠し、それにみんなは納得し、それから仕事へと乗り出す。

 

 

 今回の仕事は最近、この辺りの海で盗難やわいせつ事件が多発していて、犯人はまだ捕まっていない。だから、その犯人捕縛を依頼され、一番よく盗難やわいせつの事件が起きるこの海水浴に来たのだ。

 

 依頼チームは海辺を歩きながら、怪しい人はいないかをさりげなく探りながら、犯人捕縛に乗り出す。…そんな彼らの脳内の犯人像にはなぜか仲間のNST達のヘムタイ行為をするまさにヘムタイの姿だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …一方、HMTの成敗にあったNSTは海辺を離れ、沖まで風船ボートに乗せられ、流されていた。

 

 

 「……あれ?ここはどこ?」

 

 

 「わぁ~~、どこもかしこも海だ~~…。」

 

 

 自分達が何故ボートに乗って、こんな場所にいるのか理解できないNSTは最後の記憶を振り絞って、何が起きたかを思い出そうとするが、最後に記憶しているのは、楽園へ行こうとして、一歩前進した所で途切れている。

 

 

 「結局楽園には行けたのかな?」

 

 

 「もしかして、苛烈な楽園に遭遇し、逆上せたのか?」

 

 

 何を創造したのか、鼻血を噴射するホームズに最後に意識を取り戻したマサユキが過振りを入れ、否定する。

 

 

 「いや…、違うと、思う。 私は意識をなくす前、暁彰が念仏をブツブツと唱えながら、私の顔面を平手や拳で私を悶絶するまで、殴り続けてきたんだよ…。あれは…、笑っていた…と思う。」

 

 

 その時の暁彰の表情を思い出したのだろう。ヘムタイ行動をしても、怖気ずにいたマサユキの顔色が悪くなっていく。それを見て、NSTは自分達がどうしてこんな事になっているのかやっと理解した。NSTはまた、夢目前で散ったのだと…。

 

 

 しかし、彼らの夢はまだ潰えていなかった。

 

 

 

 ちょうど彼らの真下にあいつがいたから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 HMTサイド。

 

 

 

 

 NSTを退治し、海水浴を満喫しながら、依頼チームのサポートをしていた。

 

 HMTは遊びながら、盗難の噂や情報を親しくなった同じ海水浴満喫人に聞いていく。

 

 

 その噂には、盗難の被害に遭うのは、なぜか女性の水着や下着ばかり。

 そして、海で遊んでいると、突如、海の中へと引き摺りこまれ、変な感触で肌に吸い付いてきて、体のあちこちを隈なく、厭らしく撫でたり、揉んできたりする。

 必死に外そうとするが、力が強く、つるんとして掴みきれないらしい。

 その後は、身に付けている水着を全部盗んでいき、去っていく。

 

 その被害に遭うのはやはり女性ばかりで、身も心も穢された女性は全裸のまま放置され、海から上がるに上がれない時間を過ごす…。

 

 これが事件の実態…。

 

 

 この噂は信憑性が高く、本当の事だろう。

 

 

 これを聞いていたHMTは女性の敵だと憤りを見せ、脳内にはさっき葬ったNST達の顔が浮かび、苛立ちが倍増した。

 

 

 そんな鬼の形相をして思っていると、少し離れていた場所で女性の悲鳴が聞こえたと思ったら、海の中へと消える場面に遭遇した。

 

 急いで、ちゃにゃんと暁彰が潜って、後を追うと、海底から伸びるプ二プ二した物が女性の体に巻きついて、水着の中にその物体を入れていく。

 

 ちゃにゃんは水中を蹴って、泳ぎ、女性を助けようと近づく。

 

 しかし今度は別のプ二プ二が海底から現れ、ちゃにゃん目掛けて、襲ってくる。

 

 そこへ、暁彰が割って入り、塩分が高い海水でも錆びずに切味がいい小型ナイフでプ二プ二を真っ二つに斬りつける。

 

 真っ二つに斬られたプ二プ二は海底へと戻っていき、女性に巻きついていたプ二プ二も後を追うように消えていった。

 

 ちゃにゃんは女性を抱えて、保護した後、暁彰が上に上がろうと指を上に向けて合図するのを見て、海面に上がっていった。

 

 

 「ぷわぁっ!!」

 

 

 「はぁ~…!!」

 

 

 「大丈夫!!?」

 

 

 「何があったんだ!?」

 

 

 海面にやっと上がってきた三人にHMTが集まって、女性は健康チェックを受ける事になる。そして、女性を見送った後、HMTは依頼チームと合流して、先程の出来事を話す。

 

 

 「…ごめん、十中八九犯人に遭遇したんだけど、女性を助けるのに精いっぱいで捕まえられなかった。」

 

 

 「…けがはないとは思うが、精神面が心配だな。過去の被害者たちとまったく同じ怯え方のようだ。」

 

 

 「いいよ。ちゃにゃん達のお蔭で、犯人にかなり辿り着いたんだし、常駐犯みたいだから、また来るよ。」

 

 

 「…それにしても、そのプ二プ二した伸びる縄っていったいなんだろうね~。新しいアイテムかな?」

 

 

 「いや、アイテムではないだろう。アイテムにしては、動きもはっきりと意思を持って動かしていた印象を受けた。」

 

 

 みんなは犯人の素性に頭を抱え、悩んでいると、遥か海の向こうからみんなを呼ぶ声がしたので、振り返ってみた。

 

 そこには、風船ボートで島流しの刑に処したNST達だった。

 

 その姿を見た瞬間、みんなの眼差しが赤く光り、風船ボートに浮遊魔法と移動魔法をマルチキャストして、自分達の所へ、連れてくる。

 

 

 無事に帰りついたNST達はなんとなくその場で正座をして、一言。

 

 

 「た、ただいま~!! 海、最高によかったよ~。心も晴れた気がする~!!」

 

 

 「そうだよね! 女真は全て海の藻屑となって、消えました!!だから…、許して下さ~~~い!!」

 

 

 NST全員が土下座して、制裁を回避しようと怯えていると、ホームズの首にちゃにゃんの手が伸び、ぶんぶんと振り回して、問いかける。

 

 

 「あんたたち~~!!まさかと思うけど、人様の水着を盗んだり、わいせつ行為を働いたわけじゃないのかにゃ?」

 

 

 疑いの目でNSTを見下ろし、眉間に皺を作って問いかける。ちゃにゃんの後ろに控えるみんなも怪しいと疑っているオーラを放つ。

 

 

 「そ、そんな事をするものか! おいら達のモットーはぎりぎりのラインまで楽しむ調教&覗きの身!!女性を泣かしてまで、水着が欲しいわけではない!!

  (………水着は欲しいけど!!)」

 

 

 「ホント~~? さっきも被害にあった人がいるんだけど、あんた達はこの場にいなかったわけだし~。みんなで口裏合わせしてたら、ばれないとか思って、やったんじゃないの…!?」

 

 

 「だから違うよ~~!!

 

 

  …………よし、そこまでいうなら、証人を連れてきているから、おいら達はそいつとずっと一緒にいたんだからな!!

 

 

 

  お~~~~~~い!!クラ~~~~~~!!」

 

 

 

 ホームズが声を大きくして、海の方へと叫ぶと、波もなく、穏やかだった海面が泡立ち、そこから水柱が大きく打ちあがった。

 

 

 

 

 海辺では遊びに来ていた人たちが荷物を捨て、一目散に安全な場所まで避難していく。

 

 

 海辺にはもうROSEのみんなしかいなかった。

 

 

 

 そして、水柱が巨大な影となり、姿を見せる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら!!見てみろ!!こいつがおいら達と友達になったクラだっ!!」

 

 

 ホームズが手を巨大な影に勢いよく向けて他のNSTメンバーも大きく頷く。

 

 

 

 クラと、紹介された陰の正体とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  海の魔物と恐れられるクラ―ケンだったのだ!!

 

 

 

 貿易船でもあっさりと呑みこんでしまいそうな驚異的な大きさとタコの姿…。

 

 

 「間違いない…。本物だぁ~~。」

 

 

 「何でこんな場所にクラ―ケンが…。」

 

 

 もう口が開きっぱなしで呆気にとられていると、くろちゃん達が嬉しそうにして話しかける。

 

 

 「ハハハ!!! 沖に流されちゃって、帰る方向が分からなくなってしまったときに、クラが現れてね~。そして共通の趣味を持っていたから、仲良くなって、友達になったんだ!!」

 

 

 「そうだ!!私達の熱い友情はきれないよ!!」

 

 

 確かにクラ―ケンと友達になるなんてめったにない機会だ。現にミナホやサガットは写真を撮ったり、スケッチしたりして、記録している。

 

 しかし、さっちゃんがくろちゃん達の話である疑問を覚える。

 

 

 「??共通の趣味って? 話せるの?」

 

 

 「そんなまさか!クラとは会話できないけど、行動で何を好きかはわかるよ!!」

 

 

 そうくろちゃんが答えると同時に、クラの吸盤が付いた一本の足がくろちゃんに巻きつき、身体中を撫でまわす。その時のクラの表情には少し赤みかかったように感じる。そして足もくねくねと踊り出す。そしてくろちゃんの水着の下をエロく撫でまくる。

 

 

 「ちょ、こら…!あ!! ああああ~~~~!! そこはだめだって~~!!せ、背中は弱いの~~~!!」

 

 

 「ほら、あんな感じでじゃれて楽しんでいるだろ?」

 

 

 くろちゃんの今の状態を見て、ちゃにゃんと暁彰の表情が消える。目が細まり、冷めた眼差しを受ける。

 

 他のみんなも同じで、よくクラを見てみると、身体中に水着を張り付けていて、足の先には何枚もの水着を掴んで振り回していた。

 

 

 これを見て、すべて納得したNSTを除くROSEメンバーたち…。

 

 

 

 みんなは防水加工の腕輪型CADに手を翳し、誰もいない海水を確認して、魔法を発動する。

 

 サガットと暁彰が飛行魔法でクラにもう突進して足を次々と斬りつける。

 

 

 驚くクラは絶叫を海辺まで聞こえるくらいに叫び、怒りを露わにした。斬られなかった足でサガット達を握りつぶそうと伸ばすが、ちゃにゃんの『幻影投影』で避けられ、さっちゃん、し~ちゃん、火龍人、鳥になる日がクラの身体に張り付いた水着を移動魔法で回収していく。

 そして、水着をすべて回収し終わったあと、全員で同じ魔法を発動し、合体魔法で威力を更にアップする。

 

 

 全員での『落雷』によって、大きな雷の柱がクラに直撃し、苦しむ声をしながら、クラは黒焦げになって、倒れた。

 

 

 「「「「「「「クラ~~~~~~~!!」」」」」」」

 

 

 意味が分からず、ただ傍観していたNSTは友が倒れる姿を見て、泣きながら友の名を呼んだ。

 

 

 「みんな、ひどいよ!! 何でクラを~~~!!」

 

 

 悲しみに染まりながら、訴えるくろちゃん達にROSEのみんなは答える。

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「クラが盗難・わいせつの犯人だったから!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、実はエロくて水着が大好きだった海の魔物と呼ばれるクラ―ケンは、依頼を受けて倒したROSEのお蔭で、海辺では平和が訪れた。

 

 

 

 その海辺はこの日から更に人が訪れるようになる。新しくできた名物を求めて…。

 

 

 

 「いらっしゃい!! 何にします??」

 

 

 「私、クラちゃん焼が欲しい!!」

 

 

 「俺はタコパスタ!!…あ、クラパスタを二つ!!」

 

 

 

 

 クラは黒焦げになった後、この海を訪れる人たちの食材となって、人気者となりました…。

 

 

 そして、それを販売している店員の姿の中には、なぜかクラの最期に友達となったあのNSTの姿があったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 めでたし、めでたし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりに書いた番外編。どうだったかな?

ヘムタイ嫌いな方には申し訳ない事をしましたが、これがROSEだと割り切っていただければ、幸いです!

※ROSE全員がヘムタイの訳ではありません。普通にツッコミを入れる常識人はいますよ!!………多分。


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敵にドストライク!!

申し訳ない。

今日はなぜか暴走してしまった感がある。

しかしこの展開がないと、あの笑いが生まれないのだ!!!

ROSE特有のあれ…があるので、想像するのも嫌!!という人は控えてね!!


(壁越しでこちらも見るくろちゃんは説明するうちの言葉を聞いて、妄想を爆発させ、鼻血大噴火→大量輸血→現場(本文)へと直行)


 

 

 ワイズさんと火龍人がマグマの部屋での罠に遭遇している頃、他のROSEメンバーも罠や戦闘に遭遇し、試行錯誤をしながら、クリアしていき、先へと進んでいた。

 

 そんな中、くろちゃんとちゃにゃん、ホームズ、御神の名物チームがそれぞれ合流し、遭遇した罠とは…!!

 

 

 

 

 闘技場を模したグラウンドに入場した者達の闘いだった。

 しかもチーム戦。

 

 ROSEチームに対して、相手はカバルレの下っ端戦闘員とその彼らを纏める幹部の総勢100人。

 

 圧倒的数の差を見せつける上、闘技場の観客席は全てカバルレの下っ端戦闘員たちで埋め尽くされていた。彼らはまだコングが鳴っていないにも拘らず、既にROSEメンバーに罵声を浴びせて、ブーイングの嵐を引き起こしている。

 

 

 「これはこれは…。いったいこれだけの人数の戦闘員がどこに隠れていたのか不思議だよね~。」

 

 

 「完全にアフェー感が漂っているにゃ。…当たり前だけどにゃ。」

 

 

 「入ってみたら、既に闘い強制参加だし、出口は勝者しか入れない目の前の格子の先…。」

 

 

 「この闘い…、そう簡単には終わらせてもらえそうにないな~。」

 

 

 ブーイングを受けるROSEはさすがにタフというか、気落ちはしていないが、逆に弱いくせに調子扱いて、罵声を浴びせる戦闘員たちに苛立ちと憤りを感じてくる4人。

 

 そこへ、選手入場の音楽が鳴り、観衆が一斉に黄色い悲鳴を闘技場に響かせる。

 

 その悲鳴の中に、一人の女性が可憐なる舞で闘技場へと姿を現す。

 

 その女性の舞に観衆たちは目をハートにし、飛び出して口笛を吹く。

 

 そして観衆の最前席には女性のビッチポーズを印刷したTシャツを着て、額には『愛乱舞♡オドリ―』と書かれたハチマチをした男共が、大きな応援旗を掲げ、女性の応援歌を熱烈に歌い始めた。

 

 

 我らのアイドル~ オドリ―ちゃん~

 

 君の~愛くるしい~笑顔に~

 

 みんなのハートは~ストライク

 

 

 君の~華麗なる~踊りに~

 

 みんなの下心~燃え滾る

 

 

 君のセクシーな~ナイスバディ~

 

 みんなの腰は~止まらねぇ!!

 

 

 俺だけのアイドル~ オドリ―になれ~!!

 

 

 

 

 熱烈に歌いながら、人波をして、女性の入場を迎える男共にROSEメンバーは沈黙する。特にちゃにゃんの表情は下衆を見る冷めた視線を観衆に撃ち込んでいく。

 

 

 そうだよね、オドリ―の応援歌というよりは男共の下心満載で、欲求まみれのラブソング?にしか聞こえないもんね!!?

 

 最後の歌詞なんて完全にヘムタイ魂入りこんでいるから!!

 

 こんなのを聞かされて、本人が黙っているはずがな………

 

 

 

 

 

 その男共のヘムタイの目で見られている本人、オドリ―が観衆に向けて、大きく手を振ったり、投げキッスや流し目、投げウィンクを送ったりして、怒るどころかむしろ喜んでいるのだった。

 

 この反応には傍観していたちゃにゃんも御神も顎が外れるかってくらいに口を大きく開けて、脱力する感じで呆気にとられていた。

 

 

 (な、何をしているんだにゃ? あんな歌、聞かされてむしろ喜ぶなんて…!!頬も赤らめて、もっと歌って!!って感じで手招きしているにゃ~~~~!!もう分からないにゃ!!)

 

 

 (確かにさ!!その歌?って言っていいのか?……にナイスバディって言っているように『ボンッ、シュッ、ボ~~ン!!』のくびれが非常に引き締まって、腹だししているし、胸もお尻も揉み甲斐がある……いやいや!!素晴らしい発育をしているけども~~!!そのほぼ全裸の状態でこれから何をしようというのかな~~!!?服を着ろ~~!!ちゃんとした服をな!!)

 

 

 

 解説しよう。

 

 踊り子のオドリ―の今の服装は胸のトップと足の股から尻の半分までの範囲しか布で覆われていない…男の興奮を噴火させるレベルまでの盛り上げた服装…、これはもう服装とは言えないが、の格好だったのだ!!

 

 

 ちゃにゃんと御神は『TPOを弁えろ!!あんの~、アマ~~!!』と心の中で毒吐きながら、悔し涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその二人と対照的な受け止め方…、感情をした者が二人…。

 

 くろちゃんとホームズの二人だ。

 

 二人は生粋のヘムタイ魂を持っているため、踊り子のオドリーの容姿と自分を可愛く魅せる仕草に惹かれ、二人の視線に気付いたオドリーから投げウィンクをプレゼントされると、二人はハートを撃ち抜かれ、ドストライクにオドリーの虜になった!

 

 

 「ぷっひょーーーーー!!!!!たまんねぇーーーーーー!!!!!(鼻息荒め)」

 

 

 「君に惚れてしまったぜ!オドリーになら、おいら、鞭打ちされてもいいっ!!!」

 

 

 観衆と見事に同化して、身体全体をハートに変えての虜状態にちゃにゃんと御神は頭を抱える。……本格的に頭が痛くなりながら。

 

 

 

 こんな状況下で実況席からマイクを通して、会場中に実況が流れ始めた。

 

 

 『この闘技場にいる全ての男どもの心を奪い取るセクシーで、存在全てが神々しい、我らのアイドル~~~~~!

  踊り子のオドリー~~~~~!

 

  そして華麗ながらの強さも持った我らのボス~~~~~!

  快楽幹部の名声を持つ御方の登場だ~~~~~!』

 

 

 実況の雄叫びにも聞こえるオドリーの正体ばらしにちゃにゃんと御神は不気味な笑みを浮かべ、くろちゃんとホームズは観衆と一緒にきいろい歓声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこの闘技場で、今、最も注目を集めるオドリーは唇を舌で舐め、喘ぎ声をぽろっと漏らすのだった。




とうとううちもNSTんもヘムタイ精神が移ったのか…!!

いや!うちはHMT側だ!!NSTを止める事が好きなのだ~~!!撃沈するのが好きなのだ~~!!

染まらないと燃えるうちに、ヘムタイ色が徐々に蝕んでいく…のであった。



キャ~~~~~~~~~!!!!!(怖)


ホラーぽく、いってみた。www


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煩悩まみれ、すぎるだろ!!

実際にこんな場所に放り込まれたら、我を忘れそう…。




 

 

 

 オドリ―の獲物を得たような目つきをする。

 

 すると、その目付きに観衆たちは目をハートにして涎垂れ流しで黄色い歓声を上げまくる。

 

 そんな観衆の中には、もちろんくろちゃんとホームズもいる。

 

 その観衆たちに計算されつくした可愛く見せる傾きで小首を傾げ、お願いのポーズを取る。

 

 

 『出た~~~~~!!!オドリ―ちゃあんの試合開始合図のお願い~~~!!もうそれで頼まれたら、断る男はいな~~~~~い!!!もしいたなら~~~!!!即刻処刑に値する~~~~~!!!』

 

 

 実況の暑苦しい熱血野郎の言葉に観衆は大歓声でこたえる。

 

 

 それを確認すると、実況の熱血野郎が再びマイクを持って、実況席を立ち、開戦宣言を唱える。

 

 

 『では、これより~~~!!麗しきオドリ―ちゃあ~~んが率いるオドリ―愛乱舞親衛隊会員~~~精鋭部隊100名VS!!

  オドリ―ちゃ~~んを排除しようとするっ!!憎きROSEの二人が今回の対戦相手だ!!』

 

 

 「え?………二人?…って、どういう事にゃ?」

 

 

 「お~~~~い、こっちは4人だけど?」

 

 

 熱血野郎の間違いを指摘するちゃにゃんと御神だったが、熱血野郎は鼻で大笑いし、指をさしながら、解説する。

 

 

 『い~~や!!君たち二人が今回の敵だ!! なぜなら…二人は我らのオドリ―への熱い愛と信念に~~~共感し~~~加入してくれたからだっ!!!』

 

 

 なんだか嫌な予感がちゃにゃんと御神の脳裏に流れ、実況の熱血野郎の指さす方へと顔を向けると、相手側の最前列に…、しかもオドリ―のすぐ後ろに親衛隊たちが着ている親衛隊公式会員にのみ配布されるハチマキとTシャツを身に付け、敵に向けるはずの闘志が何故か味方であるはずのちゃにゃん達に向けられていたのだった。

 

 

 ((あの二人~~~~~!!! ヘムタイ欲に完全に負けて裏切りやがった~~~~~!!!))

 

 

 鬼の形相、…と角を頭から生やして、くろちゃん達に殺意込の視線で貫くちゃにゃん。御神はあのアホ面で睨みつけてくるくろちゃん達を憤りを感じつつ、面白くて、携帯用カメラで連写モードで写真を収めていく。

 

 御神の行動にもう般若のお面をつけているかのように(そうあってほしいが)なっているちゃにゃんが観察し続けていると、何かを思いついたようで、元の表情に戻る。…もう鬼ではなかったが、眉間には深く刻まれた太い脈がくっきりと前髪から見えていた。

 

 ちゃにゃんはROSEのアイドルと言える可愛い少女だが、最近は特にNSTやくろちゃんとホームズのヘムタイ行動や思想が過熱してきているので、それを止めるストッパー役のちゃにゃんは精神的にも身体的にも疲労を感じていた。だから、今のこの状況はちゃにゃんにとって苦痛なのだ。悪ふざけを通り過ぎて、ここまで悪化したヘムタイを前にちゃにゃんの今まで溜めてきたヘムタイへの我慢の限界バロメーターはとうとうオーバーし、鬼になったのだ。

 

 

 ………ヘムタイたちよ。

 

 

 命が欲しくば、超えてはいけない境界線を踏み越えてはならぬ!!

 

 

 

 警告したからな!!

 

 

 

 …そう、御神がちゃにゃんの様子を隣で伺いながら、全国のヘムタイたちに念を送った。

 

 

 

 そして、御神が見守る目の前で、ちゃにゃんは笑っているけど、その笑顔に優しさの欠片も感じない氷の笑みでくろちゃん達を見つめる。

 

 ちゃにゃんの完全にキレたオーラと笑顔を見て、顔色真っ青で見つめる二人はちゃにゃんが取りだした物を見て、悲鳴を上げる。

 

 

 その取りだしたものとは、くろちゃんが大事にしているヘムタイが愛する最大手のヘムタイ専門雑誌『ヘムヘム』とそれに付属する数々のヘムタイアイテム。そして同じくホームズが大事にしている調教アイテムを次々と目の前に放り出し、山積みにする。

 

 そして、それをくろちゃん達の目の前で加熱系魔法『爆熱』で派手に跡形もなく、塵にした。

 

 

 「「キャアアアアアアア~~~~~~~~!!!!!」」

 

 

 燃やされる…、爆破されたヘムタイ秘蔵のアイテムたちの悲惨な最期に悲鳴を盛大にあげ、その後は、悔いをたっぷりと残す事になったが、再び目の前に生贄とされていくヘムタイアイテムたちを守るため、くろちゃんとホームズはとぼとぼと歩き、ちゃにゃん達の元へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 こうして、ちゃにゃんの痛~~~~~い拷問を受けたくろちゃん達は涙を流しながら、ROSEと快楽幹部こと、オドリ―が率いるカバルレ戦闘員100人のコロシアムでの闘いが始まる事になった…。

 

 

 




ヘムタイオタクにはきっと辛い仕打ちだったろうな~~。


拷問を受けたのは、アイテムたちだけど!!


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快楽幹部、オドリ―愛!!

さて、ポロリ。
いや、何の!!?
それは後のお楽しみ!!

一体、何のポロリだろう…。(鼻血)

ふふふ…。そのポロリで自分を保てるかな~…。ふふふ・・・

…怪しさ満点だな~、うち。


 

 

 

 

 『ゴホン!!…え~~~何とも耐え難い裏切りを受けた親衛隊!!いや、親衛隊だけではない!!俺や観衆たちの思いも無下にしやがった!!

  オドリ―ちゃ~~ん!!

  ROSEなんか、コテンパンにしてやってくださいな♡

  俺は応援してるぜ!!マイハニー――…、チュッ!!』

 

 

 投げウィンクと投げキッスで大量のハートがオドリ―に送られる。

 

 しかしそれにはさっきまで裏切ったくろちゃんとホームズに憤慨していた観衆たちも喚き、ブーイングを送る。

 

 

 「お前の女じゃねぇ~~だろ!! ひっこめ!!」

 

 

 「そうだ!!オドリ―ちゃんは俺の嫁だ~~~!!」

 

 

 「何だと~~~!!俺の可愛い奥さんに決まっているだろ!!?お前こそ引っ込めっ!!」

 

 

 …等の誰の嫁か論争から喧嘩へと発展。

 

 

 それを御神とちゃにゃんは冷たい視線と呆れ感をフル発動して、事が終わるのを待つ。くろちゃんとホームズは先程の裏切りからちゃにゃんからきつ~~~~いお仕置きを受け、ボコボコメイクをされていた。

 

 そんな勝手に荒れる闘技場で一つの音が轟音となって、広がる。

 

 

 

 あまりにも凄まじい威力の轟音に耳を塞ぐ一同…。

 

 

 

 音が止み、辺りが静かになると、闘技場のグラウンドから聞こえた場所…、オドリ―に敵味方関係なしに全員が注目した。

 

 

 オドリ―は顔から少し斜め上あたりに手を合わせた状態で立っていた。それはまるで、今からカルメンでも踊るかのような佇まいだった。

 

 しかしオドリ―が踊るためにみんなの注目を集めたわけではない。

 

 いや、確かに踊るが、オドリ―は早くコロシアムのデスマッチを始めたくて、痺れを切らしそうになっている自分の興奮する身体を艶めかしく魅せて、開始宣言をしてもらおうと振動系魔法の音響増幅魔法で手を合わせた時に出る音を増幅させ、轟音にし、争いを静めたのだった。

 

 もちろん、オドリ―は何重にも重ねさせた耳栓のお蔭で、轟音にも耐える事が出来た。

 

 

 そのオドリ―の意図を彼女の感じている快感からの太腿が擦り合ったり、腕で胸を挟んで大きな谷間を作って自分で抱きしめている姿を見て、鼻血の洪水をおこしながら、理解した観衆…と実況熱血野郎は顔を真っ赤にして、開戦の合図を放つため、息を吸い込んだ。観衆もそれに倣って、深呼吸をする。

 

 

 『ええ~~、お待たせしました~~!!

  これより、ROSEVSおどりーちゃあん愛乱舞親衛隊精鋭部隊100人のチーム戦を行う~~~!!

  ルールは簡単~~~!! 両者どちらかが全滅すれば、試合終了。生き残った方が勝者だ~~~!!!

  攻撃も防御も何でもアリ!! ただし~~!!一度倒れた後に復活するのはNG~~~だ!!

  

 

  それでは~~両者健闘を祈る!!

 

 なお、チーム戦の実況は”熱き獅子の申し子”……とも言われるこの俺!! アックル・シーワーがお送りする~~~~~~!!!』

 

 

 

 アックルの手に持たれた小槌でコングの鐘が鳴り響き、戦闘開始の合図が鳴った。

 

 

 

 その途端、前衛にいた親衛隊精鋭部隊の一列目がROSEに向かって走り出した。

 

 それ以外は、何重にも重ねた確固な守りをオドリ―を中心に陣形を張る。

 

 

 

 

 その様子を離れた場所から見るROSEメンバーは分析をするホームズに視線を送り、ホームズが瞬きでROSEの作戦パターンを暗号化してみんなに伝達する。

 それを理解した三人は、ふてぶてしく笑い、接近してくる突撃部隊に手を翳す。

 

 

 

 「「「「やっと、戦いらしくなってきた~~~~!!!」」」」

 

 

 

 …とハモって、親衛隊全滅へと動き出すのだった。

 

 

 




実況なら公平でやれよ。
アックル(゜ロ゜;

でも、普通は相手のペースに乗らなくてもいいよね?でも乗ってしまう…。なぜだろう~~!!


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闘いの中の一芸

真剣勝負は多分…、しないな~。この相手だと。


 

 

 

 

 

 とうとう戦闘が開始し、オドリ―親衛隊の突撃部隊がROSEに接近してくる中、ROSEの4人はふてぶてしい笑みを浮かべ、CADに手を翳し、魔法を発動した。

 

 

 前に躍り出た突撃部隊の10人が突如、空中を走り出した。

 

 突撃部隊はてっきり、攻撃魔法を仕掛けてくると思い、それに警戒していたため、自分に掛けられた飛行魔法に気づくのが遅れたのだった。

 

 無論、彼らに飛行魔法を仕掛けたのは、もちろん、ROSEの4人である。

 

 

 そして身体を宙に舞い上げられた突撃部隊に、今度は身体を丸めていき、体育座りになって、身体を脚の間に俯かせる格好になった。

 

 

 観客席から見ると、宙に浮かぶ丸くなった突撃部隊の光景は異様に思うだろう。同じ志を持つ仲間が何とも嘆かわしい姿になっているのを見た観衆は戸惑いを見せる。しかし、次の瞬間には、そんな事は一切忘れ、大爆笑の嵐が観客席から沸き起こる。

 

 

 

 

 …それは、宙で丸くなった突撃部隊たちがROSEの曲芸の道具となって、観客席に披露していたからだ。

 

 くろちゃんとちゃにゃんはボール化した突撃部隊を転がして、その上で玉乗りならぬ、人間乗りをしてダンスしていた。

 そして、ホームズと御神は半径3Mほどある巨大な傘の上に人間玉を乗せて、器用に回転させた。

 

 玉役として披露されている突撃部隊は逃れられない状況に目を回しながら、悲鳴を上げていく。

 

 それが却って、観衆の笑いを誘っていた。

 

 しかし、突撃部隊がなぜこうもされるがままなのかっというと…

 

 

 ホームズが曲芸のために編み出していた魔法の所為である。

 

 

 

 収束系魔法で対象を何重にも分厚くした空気の層の中に圧縮し、身体を縮ませ、ボール化する魔法だ。

 練習中、どうしてもバランスが崩れてしまい、上手く回転できなかったため、手足がぶれずにいられるこの魔法を編み出したのだ。

 しかし、作ってみたはいいが、やはりデメリットがある訳で…

 

 

 「ねぇ~!!ほーちゃん!! そろそろやっちゃわないと、持たないんだじゃない?」

 

 

 「…そうだね、若干、顔色悪くなっているよ?」

 

 

 「え~~~!!観衆が盛り上がってきたところなのに~~!!根性ないな~~!!」

 

 

 「…いや、さすがにこれは生きている限り、厳しいでしょ?」

 

 

 …と曲芸を披露しながら会話するROSEがそう話すのも当然で…。

 

 

 何重にも重ねた空気の層を収束系魔法で圧縮しているから、身体がビシビシと密着し、長時間していると、骨を痛める結果になる。それに、圧縮された空気の層の中でだと呼吸できる酸素の量も元々そんなに多くはない。酸欠になり、息キレになるのは当然の結果だ。

 現に、顔色を悪くしている突撃部隊はぐったりとしていた。…中には、ずっと回転させられて、三半規管が麻痺し、縮こまった身体のまま、ピ――を吐露する者もいた。

 

 

 そんな仲間の姿を見せられたオドリ―を厳重にガードしている親衛隊たちは遊ばれている仲間のようにはなりたくないという拒絶を見せながらも、あたかも挑発するような曲芸ばかりをするROSEに憤りを感じていた。

 (ROSEは叶わなくなった曲芸でのデビューのため、練習成果を披露していただけだが。もちろん潜入組ではなかったくろちゃん、ちゃにゃん、御神も実はひそかに練習していたのだった。)

 

 

 

 『ア~~~カッカカッカ!!

  なんと愉快な曲芸なんだ~~~~~!!!

  腹が痛くなるぞ~~~~!!!

 

  しか~~し!!

  今は、闘いの最中!! のんきにしている場合では~~~~!!お~~~~~~~っと!!

  オドリ―ちゃ~~~あんが親衛隊に前に出るように指示したぞ~~~!!!

  玉にされている突撃部隊の哀れな姿に心を痛め、救助するように進言した~~~!!

 

  なんと~~~、心優しい我らのアイドル~~~~ゥゥゥ!!

 

  どうか俺と付き合ってくれ~~~!!』

 

 

 「「「「「お前なんかにわたさねぇ~~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 アックルの実況に観衆は寵愛と怒りを向ける。

 

 寵愛は彼らのアイドル、オドリ―に…。

 

 怒りは熱血野郎のアックルに…。

 

 

 

 観衆の怒りを買ったアックルは観衆たちからゴミやオドリ―への花束やレンガを投げられる始末。しかしアックルは

 

 

 (みんな…、そんなに俺の事が好きなのか~~。 悪いな。俺はオドリ―への一途な愛をしているのさ。だから…、みんなの俺への愛は…受けとれねぇ…。)

 

 

 …と心の中でそう解釈していた。

 

 

 これがもし、露見されていれば、ブーイングどころではなかっただろう。全員が吹雪の中で凍え死にするくらいのさぶい思いをする事は目に見える…。

 

 

 

 

 

 アックルのお蔭で、話は逸れたが、前に出るように指差して指示したオドリ―に親衛隊は答え、オドリ―の完璧防御姿勢を取っていた一番前の親衛隊が両側から挟み込む形で走ってくる。そして、遅れてから今度は真正面から侵攻してきた。

 

 

 完全に逃げ道を塞いで、袋の鼠状態でリンチするつもりだ。

 

 

 それを相手の動きで察したホームズは未だずっと回転させていた突撃部隊の人間玉転がしを中断し、くろちゃん達にアイコンタクトで次の指示を出す。

 

 

 

 頷き、近づいてくる親衛隊を引き付けるため待っている中、ROSEの笑途切れていなかった…。

 

 

 「さあ、まだまだこれからだぜ~~!!

  この人数を逆転させる秘策を見せてやる~~!!」

 

 




秘策…。それが、”ポロリ”?



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まさかの!!(ポロリ)

そう、ポロリ、ポロリ~~~!!




 

 

 親衛隊の過半数が接近してきて、囲まれそうになるROSEチーム。

 

 

 しかし、ROSEチームの笑みは依然、綻ばない。秘策があるからだ。

 

 

 

 どんな秘策なんだろう…?

 

 

 

 そしてその秘策が放たれる時が来た。

 

 十分に親衛隊を引き付けた後、ROSEチームは先程まで曲芸の人間転がしとなっていた突撃部隊を片手で抱えると…

 (もちろん、片手で持てるように重力制御で軽くしているけど)

 

 

 「さ~~~て!! ここからは勝負だからね!!」

 

 

 「一番多かった人が褒美をもらえるって事で!!」

 

 

 「わかった!!」

 

 

 「ご褒美…、何をしようかな~~!!」

 

 

 「「「「いっせ~~~~の!!」」」」

 

 

 褒美を得た時の楽しみを想像しながら、ROSEチームは片手で待つ突撃部隊の人達をまたもやボールのように、大きく振りかぶって、転がした。

 

 その先には、仲間を取り返そうと接近してきていた親衛隊の大群…。

 

 突如、仲間が物凄い勢いで転がってきたことで、先頭にいた親衛隊隊員たちは急には避けられず、動揺し、後ろから続く親衛隊メンバーに止まるように指示するが、間に合わず、勢いに乗った仲間の人間玉に突撃され、見事に八方に弾き飛ばされていった。

 

 この状況…、いわゆる”人間ボーリング”と言えるだろう…。

 

 

 だから、ROSEチームが次々と突撃部隊を人間玉に変えて、ボーリングの要領で転がしていく。そして弾き飛ばされ、挟み撃ちして、取り囲むというオドリ―親衛隊の作戦の陣形はあっけなく崩れた。

 

 弾き飛ばされた親衛隊は地面に無残にも屍になったり、闘技場の壁に突き刺さったり、弾き飛ばされた連中がなぜか同じ場所に溜まって、屍の山積みになっていたりしていた。

 

 …転がしたというよりは、大砲で撃ったのかと言わんばかりの威力だったからな~。

 

 まぁ、そんな状況を観衆は驚喜的になって、歓声をあげまくっているが。

 

 ……親衛隊の仲間が人間凶器として倒されたんだけどね~。

 

 

 

 …という訳で、親衛隊の過半数を倒し切り、残りはオドリ―を入れて、わずか7人となった。

 

 

 …ああ。あと、人間ボーリングでの賭けは誰が買ったのかというと…

 

 

 「フフフ!! 合計で22人の人間ピンを倒したぜ!!」

 

 

 「く!!後もう少しだったのに~~!!ホームズに負けた~~!!」

 

 

 「でも、僅差だったから、いいんじゃないかにゃ?」

 

 

 「そうだよね~。ここまで結果的に、有利にできたんだからいいんじゃない?」

 

 

 …と、御神とちゃにゃんが20人、くろちゃんが21人、ホームズが22人という事で、ホームズの勝利で賭けは成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、話は闘いに戻してと。

 

 

 

 結局、相手の罠にはまってしまったと察したオドリ―は残った親衛隊6人に徹底的に防御するように手振りで指示する。その指示に答え、お互いの腕をからませ、絶対にオドリ―に触れさせないという決意を露わに、周囲を固める。

 

 

 『おおおおおお~~~~~~~!!

 

  出た~~~~!! オドリーちゃあんを守る全体防御魔法!!

 

を  防御部隊が防御陣形を取る事で、半径5M程の障壁魔法が展開される~~!!

  これは、例え空中や地中から攻撃しても、絶対に中に通さないまさに、絶対防御!!

 

  これを破った敵はこれまでの闘技場の歴史上~~~!!存在しな~~~~~~い!!

 

  これはもう~~、我がオドリーちゃあんの勝利で間違いナシ!!

 

 なぜなら~~~~~!これを解く唯一の方法を知らないからだ~~~~~!』

 

 

 実況のアックルが鼻で笑いながら、ROSEの敗北が決まったも当然と告げる。それに観衆たちも同じくオドリーの勝利を確信していた。しかし、彼らはある見落としをしていたことに気付くのは、闘いが終わった後になる…。

 

 

 闘技場の流れがオドリーの親衛隊一色に染まる中、ホームズとくろちゃんがオドリー達の方へ歩いていく。

 

 どうせ、何もできないと思っている防御部隊は守りを続けたまま、見守る。

 

 そして、障壁魔法が張られている手前で止まり、深呼吸をする。

 

 

 

 すると、次の瞬間、大声で障壁に向かって語り出した。

 

 

 『我らのアイドル、オドリーに忠誠を誓う者!!

 

  神聖なる我らの愛するオドリーを守らんため、今こそ我らは一つになるべし!!

 

  そして、その思いを裏切ることなく、生涯を捧げるべし!!』

 

 

 

 

 

 くろちゃんとホームズがそう言うと、絶対防御を誇る障壁魔法が解除され、親衛隊の動揺する姿を捉えた。

 

 そしてその親衛隊たちにすかさず、後衛で機会を待っていたちゃにゃんと御神が遠距離精密魔法の『魔弾の射手』で次々と倒していく。

 

 

 

 障壁を破られたショックも重なり、とうとう防御部隊も崩れ倒れていく中…、

 

 

 

 

 「お、おのれ~~~…。」

 

 

 「申し訳ありません…。オドリーちゃあ~~~~ん!!」

 

 

 …と悔しそうに倒れながら、防御部隊6人は親衛隊公式Tシャツを引きちぎり、どんな攻撃でも耐えるためなのだろうか、鍛えられた腹筋を見せて、地面に沈んでいった。

 

 

 それを傍から見ていたちゃにゃんと御神は無言で『なぜ、Tシャツを破く必要があったンだろう…? 』と謎のポロリを冷めた視線で親衛隊の最後を見届けた。

 

 

 

 そして、くろちゃんとホームズは…

 

 

 

 「これくらい言えて当然でしょ?」

 

 

 「ああ…、おいらたちは同じオドリーを愛する仲間じゃないか…。」

 

 

 と渋みのあるドヤ顔で防御部隊の屍を見下ろすのだった…。




いやいや!!

そんなポロリは…!! 

それに、それはドヤ顔するところじゃないからね~~!!


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驚愕と怒りの結末

前回は誰も見たくはない…、男達のポロリだったな~…。


 

 

 

 

 オドリーを残し、全滅した親衛隊たちの屍と化した有様に、観衆達は口を開いたまま、傍観する。

 

 それもそのはず。

 

 あの絶対防御を誇る障壁魔法の唯一の解除方法を、なぜか敵が知っていて、今まで無敵を貫いてきた障壁魔法が破られたのだから。

 

 

 まぐれだと思いたい…。

 

 これは何かの幻なんだ…。

 

 そ、そうだ…。 あいつらの仲間が俺達に精神干渉魔法でそう見せているだけなんだ…!

 

 

 …観衆達は目の前のこの状況を信じられずに、そんな思いを抱き、居もしないROSEメンバーの不参戦者がいると思い込んで、辺りをきょろきょろして探し始めた。

 

 その動揺が闘技場内に広まっていき、だんだんと小声の話し声が騒ぎ出し、大きくなる。

 

 観衆の気持ちを代弁するかのように、実況のアックルが取り乱して、くろちゃん達に激しく問いかけた。

 

 

 『な! なぜなんだ~~~~~~!!

 

  どうして! 障壁魔法の解除方法を知っているのだ~~~~~!!

 

  それは!! 我々だけしか知らない…、親衛隊のみ知る、我々の神の言葉なるぞ~~~~~!!』

 

 

 声を荒げて、びしっと指先をくろちゃんとホームズに向けながら、問いかけるアックルにくろちゃん達は首を傾げ、不思議そうな表情を見せる。

 

 

 「それは心外だな~。 さっきも言ったじゃん。『仲間でしょ?』って。」

 

 

 「そうそう! 仲間なら、知っていて当たり前でしょ?ねぇ~。」

 

 

 くろちゃんとホームズのやり取りを聞いた親衛隊全員が意味が分からないと首を傾げる。仲間ではない。敵だ。っと脳裏ではそう訴えていた。しかし、自分達しか知らないあのセリフを言った事が気になる…。いったい、どうやって知り得たというのか…。

 

 その答えは、本人達から告げられる…。

 

 

 「だから~、闘う前に教えてくれたじゃん。この親衛隊の信念。」

 

 

 「今はこうして敵になってしまったけど、少しでも君達と一緒にいた仲間を忘れるなんて酷いな~。」

 

 

 この言葉で、闘技場内の親衛隊全員が闘いが始まる前の出来事を思い出していく。

 

 

 確かに、くろちゃんとホームズはオドリ―に惚れ込んで、親衛隊に入会していた。そしてその時、親衛隊の心得を入会した新入りへの恒例行事として徹底的に教え込んでいた事を思いだしたのだった。

 

 

 「ま、まさか…!! お前ら、情報を集めるために、わざと親衛隊に潜入してきたのか!?」

 

 

 「何だって!! お前ら、そうなのか!!?」

 

 

 「俺達を騙してやがったのか!? 一度ならず二度までも…!!」

 

 

 …と観衆達は怒りをぶちまいて、ブーイングを投げる。

 

 

 

 しかし、そのブーイングは意外な人物によって、収まる。

 

 

 その意外な人物こそ、この場合一番の被害者ともいえるオドリー自身だった。

 

 

 オドリ―は今までずっと噤んでいた口を開き、場内の全ての親衛隊に告げる。

 

 

 「”みなさん…、おやめなさい。

 

  これは闘いなのです。闘いには様々な直面での対応として、秘策がもたらされるのは当たり前。彼らのした事は、闘いには当然の策。

  それに、これはルール違反ではありませんよ。

 

  ルールは『復活』することを禁じた以外は、何でもありだったはず…。そうでしたわよね、アックル?”」

 

 

 『はっ!はい……?』

 

 

 「”…なら、彼らの行いに対して、非難する事は何もないでしょ?

 

  それに、私はこの二方を信じますわ。だって、彼らの眼差しに偽りで私に近づいたわけではない…、その想いで満ち溢れていますもの。”」

 

 

 「オ、オドリ―さ…ん。」

 

 

 「”…では、ここからはわたくし一人で貴方たちを相手に闘いましょう。

 

  私の愛しい守護者達の仇は取らせてもらいますわ…!

 

  この、私の蹴りでね♡”」

 

 

 

 

 話口調も繊細で、優しい心を持って微笑むオドリーのROSEへの対応に全員涙を流す…になれば、感動の名場面にもなりそうなものなのだが、一つ、決定的に違ったものがあった…。それは…

 

 

 

 「あ、あの…。オドリーさん?

 

  あの…、声が物凄く低くて、男すぎるんですけど…?」

 

 

 ちゃにゃんが笑顔を引き攣ったような顔をしながら、恐る恐るオドリーに話しかける。多分、腹話術か何かだという事を証明してほしくて…。

 

 しかし、それは叶わなかった…。

 

 

 「………これだから、話したくなかったのよ…。

 

  でもしょうがないわよね。 話した以上は…。

 

  今の声は…、私よ。意外でしたでしょ?」

 

 

 いやいや!!意外すぎるから!!

 

 

 オドリーはセクシーなボンッ、シュッ、ボンッ!!のスリムで胸とお尻は盛り上げている体型で、肌も煌めきに満ちている。まさに、女性が憧れて、嫉妬するような体型で、異性を射止めるような視線も見せるのだ!!

 

 そんな彼女の声が実は、その外見とは似ても似つかない、ものすごく声が低くて男すぎる声色に場内中が目を飛び出して顎を外すくらいに口を開け、驚愕したのだった。

 

 

 

 この事は、親衛隊も知らなかったようだが、ROSEとしては、どう答えたらいいかと目をぐるぐるにして動揺する。今まで戦って勝利してきたが、こんな展開はなかったため、(こんなこと普通は遭遇しないよ!)固まる。

 

 

 「…もういいかしら? 早く終わらせて、カバルレに勝利の報告をしないといけないから。

  悪いけど、ここら辺で終わりっ!!………に……?」

 

 

 驚愕する場内の雰囲気に辛いのを必死に堪えて、平然を装って、ROSEに攻撃しようと一歩踏み出したところ、突如、オドリーに大剣を背後から突き刺した者が現れた。

 

 

 「オドリ~~~~~~~~!!」

 

 

 敵だけど、あまりにもいきなりすぎて、ちゃにゃんがオドリーの名を叫ぶ。

 

 

 くろちゃんとホームズがオドリーの背後で更に力を入れて、オドリーに見を突き刺す男を殴り飛ばし、オドリーから引き離す。

 

 

 その男は、さっき、オドリーの防御部隊として障壁魔法を張っていた、先程倒した親衛隊の男だった。

 

 

 急いで、ちゃにゃんが近寄ってオドリーの応急手当てを始める。

 

 しかし、腹部を思い切り刺されていて、傷口が大きく、傷口からどんどん血が溢れ出てくる。このままだと、出血多量で死んでしまう…。それでなくても、オドリーは今、ショック死する手前にある。助けるなら、一刻の猶予もない。

 

 ちゃにゃんは持てる知識をフル活用して、止血剤を打ち、傷を消毒していく。

 

 ちゃにゃんの補佐として、御神もオドリーの治療に携わる中、くろちゃんとホームズはオドリーを刺した男を厳重に縛り上げ、鋭い視線で見下ろす。その眼光にはその身を食いちぎらんとする鬼の姿が垣間見えるほどの勢いがあった。

 

 

 「なぜ、オドリーを刺した…?答えなさい…!」

 

 

 「答えないと、まず足を粉々にするけど、いいよね?次は、お前の大事な部分を潰すよ…?」

 

 

 否を言わせないオーラを背後に展開する二人はその怖さで震える男を威圧する。くろちゃんは男の足に足裏を置いて、力を徐々に込めていく。

 そして…、ホームズは男の股の間にある、大事な物を握り締める…。それはもう…、強く…!!

 

 

 

 

 男は悲鳴を上げ、刺した理由を答える。

 

 

 それは、何とも自己本願で、腹立たしい理由だった…。

 

 

 

 …こうして、この闘いは苦肉にもオドリー親衛隊の反則負けとなり、ROSEの勝利となり、次への道が開いたのだった…。

 

 

 

 

 この結果は、ROSEにとっては心の深く突き刺さるくらいの衝撃の結末となったのだ。

 

 

 




こんな勝利なんて…。物凄く気分が悪い!!

あの~~~~くそ男が!! 内も一発殴ってやりたいもんだ!!

ふんっ!!


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ほっておけない…!!

ROSEの信念は強いよ~~!!


 

 

 

 

 

 

 闘技場での闘いを終え、カバルレのいる最上階へと続く道の鉄柵が開かれ、くろちゃん、ちゃにゃん、御神、ホームズはその道を進んでいた。

 

 しかし、彼らの表情は重く、顔を顰め、不機嫌さを隠そうともしていない。

 

 

 そんな雰囲気の中、この道を進んでいるホームズの背中にはオドリーがいたのだった。

 

 あんなことがあって、オドリーを置いては行けず、連れてきたのだ。

 

 ま、他にも理由はあるけど…。

 

 ホームズはオドリーに振動をなるべく与えないように慎重に背負って、歩いていた。オドリーは血の気が減って、顔色が悪いものの、何とか呼吸をし、目を閉じて眠っていた。

 

 

 「…どう?オドリーの様子は?」

 

 

 「うん、さっきよりは楽になってきているみたい。 ちゃにゃんの薬が効いてきているのかな?」

 

 

 「にゃにゃにゃ。 傷に効く特効薬を持っていたからホントに良かったにゃ。…でも、あくまで、応急処置にしかなってないにゃ。早く、輸血して、ちゃんとした治療をしないとにゃ…。」

 

 

 ちゃにゃんはホームズの背中でぐったりと眠るオドリーの顔色を窺い、異変がないかを確認する。

 

 いつもくろちゃんといると、傷が絶えないため、(くろちゃんの方が)どんな傷でも治りが早くなる特効塗薬を常備携帯していたちゃにゃんは応急手当の際に、その塗薬を傷口に塗ったのだった。魔法的効果も含むこの塗り薬のお蔭で、大剣で刺されたオドリーの腹部の傷も徐々に塞がっている。内臓もその効果を受けて、血管や細胞組織の修復に努めている。しかし、それはちゃにゃんが言うとおり、あくまで応急処置にしかならない。この薬は傷を治すというより、細胞の再生力を大幅に促進させる効果を持った薬なのだ。しかも細胞の再生力を活性化するために、大量の酸素や血液が必要になってくる。しかしオドリーは大量出血をしたため、血が足りない。

 つまり、今ある血の量で、再生するしかなく、時間稼ぎしかなっていないのが現状だ。

 

(実際に大きく開けた傷に塗薬は止めておいた方がいいよ! その人の体質も考慮しないといけないし!!)

 

 「ごめんね、私にもっとちゃんとした薬を持っていたら…、もっと痛みを和らげてあげられたのににゃ…。」

 

 

 落ち込むちゃにゃんにくろちゃんが頭を撫で、励ます。

 

 

 「そんな事ないよ!! ちゃにゃんの医学知識とこの塗薬がなかったら、オドリーを助けられなかったかもしれない…!!ちゃにゃんは頑張ったよ!!

  だから、今度は私達の番!! なんとしても、早くこんな場所を抜け出して、オドリーを病院に連れて行こう!!

 

  …あ、ついでにカバルレも倒そう!!」

 

 

 「ついでかよっ!! カバルレ倒す方がメインだったはずだよっ!!

 

  …………でも、その意見には賛成~~~~!!」

 

 

 くろちゃんのボケを御神が突っ込むが、もはやこのメンバーのやることリストの優先順位は大きくすり替わった。

 

 

 自分達のやるべき事にこの場の全員が一致団結した所で、再び最初の不機嫌な雰囲気へと戻る。

 

 

 「…それにしても、ほんと、さっきのヤロー…!!

 

  許せないぜ!!」

 

 

 「ホントだよね!! 泣きわめきながら、答えたあの理由を聞いたときは、塞げるな!!って思ったよ!! もう怒りのバロメーターが噴火したね!!」

 

 

 「そうだにゃ!!ヘムタイを名乗るくらいなら、くろちゃん達みたいなヘムタイ魂持てにゃっ!!って、いつもなら絶対に思わないけど、ヘムタイの中のヘムタイを貫けって心の底から思った!!」

 

 

 「確かに私もそう思った!! ROSEのヘムタイ達は究極のヘムタイを目指し、己を磨いているからね~~!!」

 

 

 「「そ、そんな~~!!褒められると、ますますヘムタイになる意欲が湧いてくるじゃないか~~~~!!(デレデレ)<*`~´*>」」

 

 

 「……いや、もう十分すぎるほど、ヘムタイにゃ!!」

 

 

 「…うぅぅ~………。」

 

 

 ヘムタイについて白熱した会話に、オドリーの苦しそうな呻き声が漏れ聞こえたROSEメンバーは一斉に人差し指を口に当て、((((し~~~~…………))))静かにしようと互いに伝え合う。

 

 

 

 そして、歩く足音にも注意して、先に進むROSE。

 

 

 そのホームズの背中で眠るオドリーの目から、涙が一筋、流れ落ちていた。

 

 

 眠りながら泣くオドリーは今、夢の中で先程の出来事が生々しく再生されていたのだった………。

 

 




ヘムタイの中のヘムタイって…。

どんなヘムタイ?

でも、くろちゃんやほーちゃん、マサやんはいいヘムタイだと思うよ!

突っ込みは大変だけども!


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身勝手な言い分

こいつらの言い分を書いてたら、なんだが、腹が立ってきた~!!

皆もそう思うよね!!?


 

 

 

 

 

 

  オドリーは夢の中で、自分の犯した過ちに悔いていた…。

 

 

 オドリーは自分の男らしすぎる低い声がコンプレックスで、人前では決して話す事はなかった。本当は話してみたいけど、この声と自分の外見とのギャップから笑われたり、引かれたり、拒絶されたり…、という人生を歩んできた。

 辛い日々だったけど、オドリーはこの声を失いたくなかった。…オドリーにとっては大事な”声”だから。

  

 だから、話す事は止め、手振りで人とコミュニケーションを取るようにしてきたのだった。

 

 しかし、不意にも何年振りか、思わず声を出してしまった。

 

 

 敵であるROSEの自由さと楽しさに触れ、昔の事を思い出し、純粋に自分を見て、愛してくれるくろちゃんとホームズと話してみたいと引き付けられるようにそう思ったのが、今回の失態だった。

 

 

 

 

 オドリーを刺した男はホームズ達の悲痛の質問?(男にとっては痛い拷問)をうけ、あんなに崇拝していたオドリーに剣を突き刺した理由は本当にどうしようもない自分勝手な物だった。

 

 

 「俺のオドリーちゃんがこんな汚らわしい声を発する訳がないんだ!!

  こいつはオドリーちゃんの偽物だ!! オドリーちゃんに成り済ました奴なんだ!!」

 

 

 「そんな事を言うのか、お前は! オドリーちゃんの傍にずっといたお前なら、オドリーちゃんの魅力がわかるはずだよな!」

 

 

 「そうだにゃ。私達だってさっきオドリーちゃんに会って、一時だけ入った親衛隊だけども、オドリーちゃんの部下思いは素晴らしいものだにゃ!!」

 

 

 くろちゃんとホームズが男に反論し、オドリーへの愛を語りだす。しかし、男は縛られている中、大笑いして、くろちゃん達を伐倒する。

 

 

 「はっ!! お前達こそ、愚か者だぜ! 大体、あんな気持ち悪い声をした女なんて、もう俺達の愛したオドリーちゃんじゃない。実は腐ったリンゴだと知った以上は、さくっと切って処分した方がずっと腐ったリンゴを見ないで済むってもんだ!!

 

 な~~~!! そうだろ!! お前達!!

 

 わ~~~~はっはっはっは!! 」

 

 

 狂ったように笑い出す男と一緒に観衆達も乾いた笑いから徐々に人を蔑むような笑いへと変わっていく。

 

 

 「そうだ!! 俺達の純情を壊した女なんて、居なくなればいい!!」

 

 

 「お前は正しい事をした!! 何も責められる事はないぞ!!」

 

 

 闘技場中の自分の親衛隊たちが口裏合わせたようにオドリーを罵るのを、当の本人のオドリーは薄れゆく意識の中、耳にしていた。

 

 

 (やっぱり…、私の居場所はもうなかったのね…。

  信じていた部下達…は、”私”を見てくれていなかった…。)

 

 

 苦笑するオドリーの頬には涙が流れ落ちる。裏切られて悔しいとか、怒りを感じるような涙ではなかった。ただ、辛くて、悲しい…。そう感じさせる涙だった。

 

 その涙をROSEのみんなは無言で、目に焼き付ける。涙を流したオドリーは、そのまま意識を手放した。

 気を失ったオドリーを親衛隊たちは死んだと思い、喜びに舞い上がる。

 

 その後、観衆達が男の肩を持ち始め、武器を持って、立ち上がったその時、くろちゃんとホームズは拳を力強く握りしめ、額には血管が太く見えるほど怒りながら、腕を大きく振り上げ、男の顔面を思い切り殴り飛ばした!!

 

 

 男は後ろへと飛んでいき、闘技場の壁に激突し、なおも貫通し、姿を消した。…この後、男は地下都市の地面の壁に大きな穴を開けて、頭部以外は地面にすっぽり埋まっている状態で警魔隊に発見され、連行された。

 その男の顔には両頬に拳の痕がくっきりと残っていたそうだ。

 

 

 その男の末路の一片を目の前で見た観衆達は言葉を失くす…。

 

 

 くろちゃんとホームズは拳から煙を出して、静かに、だが心は激しく怒っていた…。

 

 

 

 「お………、お前ら!! よくもやってくれたな!!」

 

 

 

 

 

 

 親衛隊の一人が勇気を振り絞って、ROSEに喧嘩を売る。それに対し、ROSEはただ黙る。

 

 

 「ふん!! あいつら、ビビッてるぜ!!」

 

 

 嘲笑いを見せる観衆達だったが、御神がオドリーを突き刺した大剣を手にして、思い切り振りおろした地面に亀裂が入り、場内に広がっていく様を見た親衛隊たちはそれ以上は煽ってこなかった。

 

 

 凄まじい一撃を見せた御神もまた、静かな怒りに満ち溢れていた。

 

 

 そして、くろちゃん達は息の合ったタイミングで親衛隊たちに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「……あんた達(お前たち)、ムカつく(わ/にゃ/ぜ/な~)!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 親衛隊たちを見つめるその瞳には呑み込まれそうに熱い炎が見えるようだった。

 




ホントは、オドリーのギャップな声を大笑いして、不意打ちで勝利するっていう流れを考えていたけど(オフレコで!!)、こっちの展開の方がいいと思って、してみた!!

うんうん!!やっぱりこっちの方がROSEらしい!!


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ヘムタイとは!!~魂を!心臓を捧げよっ!!~

ROSEのヘムタイ達に『あなたが思うヘムタイとはなんですか?』と聞いたら、ヘムタイ三巨頭のマサユキ、くろちゃん、ホームズが真面目にお答えしてくれました!!
ありがとう!!

では、特に凄かったまさやんの”ヘムタイ”闘魂講座はあとがきにて!!

…この質問の後、くろちゃんとマサやんはなぜかヘムタイの改名討論?を繰り広げました。


ま:「へむぅ~~」
く:「[速報]マサやん、絶賛ヘムタイ闘魂中」
ま:「いえ、マサやんではないです、ヘムタイです」
く:「[速報]マサユキさん改名、ヘムやんに」
ま:「いえ、ヘムやんではないです、ヘムタイです」
く:「ヘムタイは格言であり、名前ではない!!」←かっこいいと思ったんで、使わせてもらった。


 

 

 

 

 

 今、ROSEは怒りの炎が身体中から業火の如き勢いで燃え滾っていた。

 

 彼らがそれほど怒りを露わにしているのは、めったにない。それは本人達も認識している。

 

 

 「…ほんと、今まで腹立つ奴らもいたけど、こんなに怒りを覚えた経験はないな~。」

 

 

 「あんた達、クズの中のクズ…。三流より低い存在だわ~。」

 

 

 「もう地獄に落としてもいいんじゃないかにゃ?全員まとめて、あの世に送れば…。」

 

 

 「大賛成…!!ヘムタイの風上にも置けないこいつらの息の根を止めてやりたい!!」

 

 

 鼻息が荒く、指や首を鳴らして、歯軋りをするROSEを親衛達たちは自分達が何を怒らせたのか、直感的に悟った。まるで龍の逆鱗に触れた感覚を覚える。

 その直感は間違ってはいない…。彼らはROSEの大事にしている事を…、思いを真っ向から攻撃したのだから…。

 

 

 「こんな奴らと一時仲間に慣れて嬉しいなんて思った自分が許せないよ…。」

 

 

 「それは言えるわ~。ヘムタイを侮辱した上に、本質を見失った馬鹿どもと一緒に浮かれていたなんてね~。 記憶抹消できたらいいのに…。」

 

 

 最も、くろちゃんとホームズはそれだけでなく、ヘムタイ魂を穢されて、腸が煮えぐりかえっていたが。

 だから、くろちゃんとホームズは呆気にとられて、怖気づいている親衛隊…、じゃなくて、元・親衛隊たちに睨みを利かせたまま、怒りを吐露するのだった。

 

 

 「お前達!! 何でオドリーの親衛隊になったんだ!! お前達が崇拝していたオドリーはお前達を想っていた。その彼女が今、お前達の前で刺されたんだぞ!!なぜそんなに大事にしていたものを嘲笑う事が出来るんだ~~~~!!!!!」

 

 

 「そうだよっ!!大体、あんた達ね~!! オドリーの声が意外で驚いたかもしれないけど、ただそれだけじゃないっ!! 何でそれだけで、今までの愛してきた人を突き放し、傷つける事が出来るの!!?

 

  オドリーが自分達の理想と違っていたから?

 

  そんな理想…!! あんた達が勝手に押し付けた理不尽な思い込みじゃない!!?

 

  ”オドリーはこうあるべき!!”って作り上げた理想像…。それにオドリーはみんなのために、懸命に努めていた。そしてあんた達を愛してたんだよっ!!

 

  …見なかった?オドリーがあんた達に裏切られて、ただ悲しそうに涙を泣かしている顔を…!!

 

  オドリーはあんた達を怒っていなかった…。寧ろ、大好きだった仲間で、愛してくれていた親衛隊に突き放されて、ただ辛くて、悲しくて泣いていた…。そんな涙を泣かしたオドリーをあんた達は何とも思わないの!!?

 

  あんた達はオドリーのどこを見ていたの!!? 」

 

  

 くろちゃんが神栄達たちに問いかけている内に、徐々に興奮してきたくろちゃんは怒りながらも、涙を泣かしていた。

 

 二人の話を聞き、元・親衛隊たちは戸惑い始める。隣の仲間と小声で会話し出し、話し合った会話の内容には、オドリーが自分達にしてくれた優しさと温もりが溢れるエピソードが飛び交っていた。

 しかし、いくらオドリーの人間性が良くても、長年連れ添ってきたオドリー親衛隊達はあの声の衝撃が相当引いたようで、すぐに元に戻り、今度はオドリーの悪事やスキャンダルを知っている者はいないか探り出したのだ。

 

 オドリーが男の言ったとおり、いけ好かない女だったなら、自分達は間違っていなかったと思えるからだ。

 

 

 そんな様子をグラウンドから見ていたROSEは彼らの行いにもう我慢の限界を超えた。…というより、元々我慢は超えていたが、更に爆発させ、オーバーヒートしたのだった。

 

 

 「…醜い…。醜すぎる…!」

 

 

 「もうあいつら、ヘムタイでも何でもないよね!!」

 

 

 今まで、無言で怒っていたちゃにゃんと御神もこれには我慢の限界だったようで、罵倒する。

 

 

 それを聞いたくろちゃんは実況席へと飛び上がっていき、アックルからマイクを取り上げ、息を大きく吸い込み、マイクを通し、怒りを大爆発させた。

 

 

 「黙れ~~~~~~!!!

 

 

  …ハア、ハア、ハア~…。 …今一度問う。あんた達は何でオドリ―親衛隊に入ったの?

  私は最初、見た目に惹かれて、親衛隊に加入した。でも、あんた達が話したオドリーの話や闘いの最中でもあんた達を気遣い、助けようとしたオドリーの優しさや仲間思いに感動した!! 私はオドリーに会えて、そして親衛隊に加入できてよかった!!って…。ヘムタイ同士、オドリーを応援しようって!! 

  でも、あんた達は私が思っていたヘムタイとは違っていた。ううん…、ヘムタイなんてものじゃない、クズだった。

 

  あんた達にヘムタイを語る資格はないっ!!」

 

 

 「何だと!!」

 

 

 「俺達は生粋のヘムタイだ!! それをお前に否定される謂れはない!!」

 

 

 ヘムタイを否定された親衛隊たちはさっきまで恐怖を感じていたROSEの事を一時忘れているようで、反論し始めた。しかし、くろちゃんの後に続き、実況席に来たホームズの次の言葉でその反論は消えていった。

 

 

 「お前達、何か勘違いしていないか?

 

 

  ……ヘムタイは皆、生まれ持ってヘムタイなのだよ…。

 

  しか~~し!! そのヘムタイ魂を貫いてこその!!自分が愛したモノはとことん愛し続け、真っ直ぐ己の気持ちを!!心臓を捧げる事が真の自由を持つヘムタイなのだ!!

 

 

  お前達はそのヘムタイには必須の愛する者を途中で捨て、あろうことかその愛する者を嘲笑い、傷つけた…。それはもはやヘムタイではあらず!!」

 

 

 「そうだよ…。ヘムタイは”格言”だ!! 名前なんかじゃない!!」

 

 

 二人のヘムタイはその誇りを胸に持ち、元・親衛隊達にヘムタイとは何か、力説するのだった。その内容には、ROSEのNST隊長でもあり、ヘムタイ信教の生みの親でもあるマサユキの教えを説いていった…。

 

 

 その二人の背後には、天からの導きともいえる光が二人に降り注ぎ、神からの使者かと思うような輝きを見せる……という幻を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 二人のヘムタイの教えを説かれた親衛隊たちはこの後、ヘムタイのブライドをずたずたにされたという身勝手な思いを持ち上げ、一斉にROSEに飛び出した。しかし、怒りに身を任せ過ぎ、空回りした動きでは敵うはずもなく…。もはやヘムタイとも言えなくなった情けない最後の生き様を見せる事になるのだった…。

 

 




まさやん曰く…。

ヘムタイとは。

それは自由への意思表示です。
現代社会は今、訳の分からん時の政治家たちが、私利私欲、権威のために作り上げたあらゆるルール・見本によって成り立っております。
故に、会社であったり、学校、公共施設、などなど、あらゆる場面でルールにのっとり、生きてゆかなければなりません。
そんながんじがらめで、古い考えを持った大人達にある意味(エロ!!)で反旗を翻す者達。

それがいわゆる、ヘムタイです。
自由を叫び。
自由を愛し。
自由によって自我を解放する。
この者達こそが勇者。
自由を追い求める大人達の武勇なのです。
まさに生きとし生ける者達の真の姿。

 これが!!ヘムタイです。

さあ、ヘムタイに心臓をささげよ!!



という、ヘムタイ信教の教祖であられるマサユキの有難~い?お話でした。


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もう大丈夫!!

オドリ―!!

オドリー~~~~~~~~~~!!!

(死んではいないので、安心してください。 ただオドリーってよんでみただけです!)


 

 

 

 

 

 

 (うぅ……複数の足音…。それに、人の温もり…、がする…。私…、どうしたの…?)

 

 

 自分の身体がうまく動かせないけど、誰かに運ばれているのは分かる…。

 

 でも、どこに連れて行かれているかはわからないけど、意外と恐怖は感じられない…。

 むしろ、安心する…。

 

 

 私はゆっくりと瞼を開けた。

 

 でも、まだ視界がぼやけて、焦点が定まらない…。そしてようやく目が慣れてきた時、私の顔を誰かが覗き込んできた。私は突然の事で、驚いた。それと同時に腹部に痛みが走る。

 思わず、痛みで顔を顰めると、私の顔を覗き込んできた誰かはまた目の前に現れた人物に拳骨を喰らって、怒られた。

 その賑やかさが耳に入り、頭に響いたけど、これも意外と苦にならない。それどころか、微笑ましくて和んでくる。

 

 そして、視界も完全に回復し、目の前で一悶着が起きていた先程の二人を見つめると、その二人はさっき敵として闘っていたROSEのくろちゃんとちゃにゃんだった。

 くろちゃんは頭に大きなこぶをつくって、痛みを和らげようと撫でていた。

 その間、そっと私に近づいてきたちゃにゃんが優しい声音で私の体調を聞いてきた。

 

 

 「おはよう…。あ、そのままでじっとしていてね! まだ傷が完全に塞がった訳じゃないにゃ!

  …うん、そうそう。 どう、どこか痛むにゃ? ごめんね~、くろちゃんが驚かしたみたいで。で、どうにゃ?気分は?」

 

 

 私が身体を起こそうとするのをちゃにゃんが止め、その時、私はホームズにおぶられている事を知った。

 申し訳ないな…っと思いつつ、ちゃにゃんの問いに答える。

 

 

 「うん…、大分痛みも消えてきたと思う。助けて、くれて、ありがとう…。」

 

 

 「そう、良かったにゃ。でも、まだ絶対安静しているにゃ。 今、私達の仲間と合流しようと思っているところだにゃ。そしたら、ちゃんと治療できるから、もう少しの辛抱にゃ。」

 

 

 天使の微笑みで安心を呼ぶちゃにゃんの笑顔に癒されていく私は、多少の心のゆとりを取り戻す事が出来た。

 先ほどの夢…、違う、現実を受け入れる覚悟は今はまだないけど、少しずつ、前に進もうかなと考える私だった。

 でもふと、部下だった親衛隊たちの事が心配になった。

 

 私がこうなった訳で、今、なぜかROSEと一緒に次へのルートを進んでいるのは分かった。でも、そんな事を親衛隊たちが認めるとは到底思えない。私のため…、はなくて、敵を先にそのまま傍観して見送る訳がない…。そう思うと、見捨てられたとはいえ、ついさっきまで一緒に生活してきた仲間でもある。そうそう、心が入れ替わる訳もなかった。

 

 

 「………ねえ?ちょっと、確認、しておきたいんだけど?」

 

 

 「うん?なに?」

 

 

 おぶってくれているホームズに聞いてみる事にした私。

 

 

 「…私の部下…、親衛隊はどうしたの…?」

 

 

 私が問いかけると、ホームズは歩くのを中断し、しばらく沈黙する。その沈黙が私を不安にしていく。やっぱり、この4人に倒されたんだ…とおもって。

 でもそれは、早とちりだった。

 

 

 「…大丈夫だぜ。 あいつらは全員生きてるから。でも、あいつらはこの先は牢送りになるだろうから、もう会えないとは思うけどな。………会いたいか?」

 

 

 ホームズが渋っていたのは、これだった。

 

 ホームズがオドリーの性格を熟知していたため、オドリーが目を覚ましたら、あんなことがあったというのに、絶対に親衛隊の安否を尋ねるだろう…と。そして生きていてほしいと願うだろうという事も読んでいた。

 ホントはROSE全員、親衛隊たちの息の根を止めようとしたが、それだとオドリーが悲しむと判断し、全員生かす事にした。…その代わり、死んだ方がましだと思うような仕打ちはたっぷりとしてきたが。

 

 一発だけじゃ、気が収まらないので、何発も鉄拳を浴びせたり、健全なドSの親衛隊員にはかなり激しい調教でドMにしてやったり、全員目隠しして…。〇〇〇させたり、男同士で〇〇〇〇させたり、錯乱魔法や幻覚をかけて、あんな事やこんな事を体験させた。そして、目が覚めた時に、自分達が何をしていたのかを理解し、身もよだつ程の恐怖と羨望と………快楽を味わう事になるだろう…。

 

 ある意味、ピンクの世界が地獄へと変わる瞬間…。

 

 

 …そんな成敗をしたため、今更会いたいと言われるのも困るな~っと自分達が仕組んだ成敗なのに、若干後悔しているのだ。ま、この内容は絶対にオドリーには言わないが。

 

 

 でも、やはり仲間とともに居たいというなら、それを窘める権利はROSEにはない。あの場所にオドリーを残す事は出来なかったから、連れてきたが、本人が望むなら、引き返そうとROSEは打ち合わせしていた。

 

 しかし、オドリーは首を振り、答えた。横に振って。

 

 

 「ううん…。もういい…。生きているなら、それで。 私はもう、彼らの求める女にはなれないから…。

  それに、自分を偽るのは、もう、疲れた…。」

 

 

 話し疲れたのか、声も弱々しくなってきたので、ホームズが言いたかった事を言う。

 

 

 「おいらは…、オドリーの声が男らしくても、オドリーだと思っているぜ。ここにいるくろちゃん、ちゃにゃん、御神もな。

  おいら達はオドリーのいいところを知っている…。

  仲間思いだし、優しいし、芯がしっかりとしている…、本当の強さを持ったいい女だぜ…。

  おいら達は、そんな人間が大好きなんだ…!

 

  そして、ROSEはオドリーみたいな連中ばかりだ。

 

  だから………、もう大丈夫!! 大丈夫だぜ!! オドリーは一人じゃない!!

 

  おいら達が傍にいてやる…!

 

  ………オドリー、おいら達のギルドに入れよっ!!」

 

 

 子供みたいな楽しそうな笑みを背中におぶっているオドリーに向けるホームズ。

 

 

 他のメンバーも同じように笑う。

 

 

 その笑顔をホームズの肩から顔を覗かせた状態で、見たオドリーの目から涙がおぼれ落ちる。

 

 

 (私…、を、見てくれているの? 私らしく、居てもいいの…?

 

  ……今まで私はみんなの望む”私”でいた…。 嫌われたくなくて…。傍にいてほしくて…。愛が欲しくて…。

 

  私…、私の本当の居場所、は…………!!)

 

 

 「………うん!! 私…、ROSEに入りたぁぁ~~い!!」

 

 

 号泣して、自分の本当の気持ちを伝えるオドリー。

 

 その顔は最初に出会ったセクシーで人懐こい笑顔ではなく、皺もでき、ぐちゃぐちゃだったが、純粋なオドリーの本音が浮かび上がった、いい笑顔だった…。

 

 

 

 

 




はい!! tokoから感想で『オドリーがどうなるか気になる!!』と言われていたので、その返事がこれです!!

オドリーは仲間にしようと決めていたのさ!!

まさにROSEらしさが出ているオリキャラだからね!!



…親衛隊たちの地獄は抽象的に表現しただけですので、皆さんで想像してみてください。

ちなみに私の妄想では、くろちゃん曰く、鼻血&萌えフィーバーですね。


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移ろいゆく戦況

さて!!オドリーがROSEにメンバー入りしました!!

この後、オドリーがどう引っ張っていくか、見ものだね!


 

 

 

 

 ある異国のことわざにはこんな言葉があるという…。

 

 『昨日の敵は今日の友』

 

 

 意味は、昨日の敵が、事情が変わって味方になる事から、人の心や運命が移ろいやすく、あてにならないこと。

 

 

 今まさに、くろちゃん達はそのことわざとピッタリな状況に遭遇したのだ。…オドリーという敵の元・幹部を仲間にして…。

 まぁ、オドリーにとっては『昨日の友は今日の敵』になってしまったけどね。…って、まだ一日も経ってないから、あてはまるなら『半刻前の敵は今の仲間』…だね。

 

 ……別に決まったとか、考えていないんで、スルーしてくれてもいいから!!

 

 

 と、いう事で、今くろちゃん達一行はその仲間となったオドリーのお蔭で最短ルートを歩いていた。

 

 

 「ホント、オドリーの言うとおりに進むと、楽だわ~!!」

 

 

 「さっきまでとは全然違うしね!」

 

 

 「一人加わっただけで、ここまで劇的に変わるなんて…思わないにゃ。」

 

 

 「なんていうっけ?こういう事……。う~~~ん………あ!! そうそう!!まさに、『鬼に金棒』ってやつだよな!!」

 

 

 「そ、そんな事は…。 私、ホームズ様に背負ってもらっているだけのお荷物ですし…。これくらいしか、今はお役にたてないので…。」

 

 

 ホームズの背中からいじらしく答えるオドリーにくろちゃん達は癒される。内二人は更に萌えも感じている事は…別にいいか。

 

 

 「あれ? 何でホームズを”様”付けしているのにゃ? オドリー?」

 

 

 先ほどの言葉に疑問を覚えたちゃにゃんがオドリーに聞いた。

 女の子が異性に様を付ける時は、好意、憧れ、萌え……、最後は一部の人達だけだが、非常に高い好感を持っていないとそこまで言わない。

 そして、ホームズがカッコいい場面を見せたと言えるのは、親衛隊たちに皮肉だが、ヘムタイ精神を説いたときくらいだろう。でも、その時は既にオドリーは意識がなかったため、知るはずもない。

 だからか、余計”ホームズ様”と呼んだ事が気になったのだった。

 

 

 「そ、それは…、ホームズ様からそのように呼んでほしいと言われたからです。その際に、ホームズ様からどのように私の命を救っていただけたか、教えていただきました。」

 

 

 「……どういう事にゃ?」

 

 

 理解が追い付かないちゃにゃんはクエスチョンマークを頭に乗せる。

 

 

 「ホ、ホームズ様が、私のも、元・部下達が襲ってきた時、身を挺して部下達からの攻撃を守っってくれた事を話していただいたのです。その時、私は思わず、ホームズ様と呼んでしまい、『オドリーが言いたいなら、そう、読んでほしい…。』…とおっしゃってくれたので、そのように呼ばせてもらう事にしたのです。

  …それとくろちゃん様も同じように窺っています…。」

 

 

 頬をほんのり朱色にし、答えるオドリーをよそに、ちゃにゃんは表面上は笑顔を保ちつつ、くろちゃんとホームズのむこうずねを狙って、足蹴りした。その痛みに悲鳴をあげそうになるのを必死に堪え、反省するのだった。

 特に、ホームズはオドリーに振動を与えないように痛みに耐える事に、全力を注ぐ。

 

 傍観していた御神もこのお仕置きはしょうがないと納得する。

 

 この二人はオドリーの純粋な心を自分に向けさせるために、針小棒大に物事を言っているからである。

 どちらかと言えば、身を挺して守っていたのはちゃにゃんと御神の方だ。最小限の障壁魔法で守りながら、治療をしている傍ら、くろちゃんとホームズは親衛隊たちに地獄を見せに掛かっていたのだ。もちろん、楽しみながら。その姿はもう遊んでいるとしか言いようがないモノだったことははっきり覚えている。

 二人のやり口に制裁を施したちゃにゃんだけど、もう事態の収拾は断念していた。

 

 オドリーが目を輝かせて、ホームズとくろちゃんをせん望のまなざしで見ているからだ…。

 

 

 もう「それは二人が大げさに言った事だにゃ」なんて言えなくなったこの雰囲気にため息をそっと溢すちゃにゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オドリーがくろちゃんとホームズに憧れを抱いたのは理解できたと思うが、そもそも何で最短ルートをすいすいと歩けているのかというと、無論、オドリーのお蔭だ。

 

 オドリーが、というより、カバルレ勢力の全員が持っている端末にマップが表示され、それを鮮明化する事で、今のこの本部棟の造りが分かるようになっている。ちなみにGPS機能もついているから、仲間や敵がどこにいるのか一目で分かる仕組みだ。

 赤色に点滅しているのがROSE、青色に点滅しているのがカバルレ部隊、そして最上階に位置している大きな紫の点滅はカバルレを指していた。

 

 

 その端末のお蔭で、くろちゃん達は敵のトラップや戦闘を回避しながら、仲間たちと合流を図っていくのだった。

 

 

 

 

 オドリーはホームズの背中で、自分が役に立てている事に安堵し、この一時の幸せを噛み締めていた。

 

 

 (ありがとう…。私を仲間にしてくれて…。

 

  でも、私は…… そう長くはいられないと思う…。だから、今、この瞬間を大事にしたいです…!)

 

 

 背中に顔を俯かせ、くろちゃん達に見られないように、オドリーは声を押し殺して、泣くのだった…。

 

 

 




今日はことわざや四字熟語を取り入れてみました!!

最近、記憶力が低下しているように感じてきたので、久しぶりに中学の時の教科書を開いてみました。
びっしりと線を引いていた教科書に思わず吹き出して笑うのでした。



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立ちはだかる業火

魔法試合チャレモの完全制覇突破~~~~!!

水着美少女5人との対決だった~!!

特に、ほのかの回復はきつかったけど~!!万事みんなの力で乗り切れた~!!

お宝ゲットで万歳!!


 

 

 

 

 

 「なんだか…わくわくしてきたね~」

 

 

 くろちゃんの何気ないこの一言は他のROSEメンバー、ちゃにゃん、御神、ホームズにも共感を得られるものだった。

 

 一方、オドリーはみんなの興味津々の表情を見て、微笑ましく思っていた。

 

 

 トラップや敵との遭遇を回避するために、マップを用いているくろちゃん達一行だが、その回避するために敵しか知らない秘密の抜け道や隠し扉・通路を駆使してカラクリを楽しんできた。

 このマップはカバルレが本部棟を改変させた場合でも、リアルタイムでマップ情報を更新し、部下達が先回りをしたり、敵にゲリラ戦を仕組める体制を可能としているのだ。なら、この端末を手に入れたくろちゃん達も同じことができるという事。

 

 くろちゃん達はこの端末を駆使し、敵を誘き出して、逆にトラップを浴びせたり、敵の戦力が大きければ、壁にある隠し扉で回避したりと着実にラスボスのカバルレがいる最上階へと近づきつつあった。

 

 

 「まるで忍者になった気分~~~!!にんにん!!」

 

 

 「これで私もくノ一~~~~!!」

 

 

 「かなりカバルレにも近づいてきたんじゃない? オドリーが目を覚まして、端末を使うまでは、色々遭遇してたからにゃ~~。」

 

 

 「そうだね、川の流れが激しい場所にボロボロになった吊り橋があるだけのトラップがあったしね。あれを思い出すと、笑える…。くろちゃん…、腐った足場から真っ逆さまに落ちていって、潜んでいた巨大人喰いワニに食べられそうになったもんね~。」

 

 

 「そんなに笑わなくても…。確かに、ワニに呑み込まれて、外に出ようと思い切り殴ったり、こちょこちょしたりしたら、吐き出してくれたのはいいけど、唾液でべっとりになったよ~。」

 

 

 「いやいや、そっちじゃなくて…。あの後、くろちゃんに恐れおののいた巨大ワニが…、ぷっ!!逃げようとして壁に激突して、気絶しちゃったのを見て、くろちゃんが雷撃をぶつけた後、綺麗に焼けたワニ肉を食べてたな~って思って。」

 

 

 「それを言うなら、皆も食べてたじゃん! まだ肉に火が通っていない部分があったら、『くろちゃん、綺麗に焼いて?』っておねだりして食べてたよねっ!!?」

 

 

 「何を言ってるんだよ? あれはみんなで勝ち得た宝だぜ? みんなで食べないと!

  それに、今は戦だ! いつ食べられるか分からない状況で、空腹時に敵が襲ってくるとも限らない!! よく言うだろ?『腹が減っては戦は出来ぬ』と…。」

 

 

 「……ホームズに何かが憑りついてる~~~!!」

 

 

 和気あいあいと話し出すみんなにオドリーは傷がまた広がらないようにそっと笑いながら、この時間をROSEとは違った意味で満喫していた。

 

 もう自分にこんなに心から気を許せる仲間ができるとは思わなかったオドリーは着々と近づく自分の運命に恐怖を覚え始める。

 しかし、それを口にする代わりに、オドリーはくろちゃん達に助言する。

 

 

 「もうここまで来たら、後は幹部以上がテリトリーにする部屋のみ。

 

  間違いなく戦闘だけになる…わ。ここから先に進もうとすれば、カバルレが圧倒的有利の勝利を勝ち取れるように、幹部以上が敵を排除しに掛かってくる…手筈なの。その方が、もし自分が倒されても、敵の消耗を徹底的に削ぎ落とせるから、その時点でもうカバルレとの決戦は始まっていると言えるわよ…。

 

  …中でも、最高幹部のドレーナ様とウォン・ターン双子兄妹は力の差がありすぎる…。私では全く歯が立たないほどに…。この三人に当たれば、戦況は苦しくなるのは…、ハア~…、必須だわ…。それに…、確実に戦う事になる…。最上階のカバルレに辿り着くためには、その最上階に通じる螺旋階段から行くルートのたった一つのみ…。

  その螺旋階段へと行くには、最上階から二つ下の階の最高幹部が配置されている二つの部屋から、伸びる連絡通路を渡らないと無理…。しかも螺旋階段の入り口には、その最高幹部がそれぞれ持っている二つの専用のカギを同時に回して開けないと使う事は不可能…。」

 

 

 長い説明に傷を負ったオドリーは、息を切らしながら、自分の知る限りの情報をくろちゃん達に伝える。

 

 

 「つまり、最高幹部を倒して、鍵を奪わないとカバルレにはたどり着けないという事か?」

 

 

 

 「…そうですわ。 カバルレがこの本部棟を自在に操れるため、壁を壊して、最上階へと一っ跳びではいけません。それに、最高幹部の攻撃を掻い潜って螺旋階段の入り口に着いたとしても、何かを代用した鍵では開くことはありません。専用の鍵には、入り口を開ける無系統魔法の術式の一部が組み込まれていて、二つの専用のカギと入り口に組み込まれた術式がそろって、一つの術式となり、入り口が開くシステムになっています。複雑にされている術式ですので、解読するどころか、推測も難しいので、スペアでは開く事が出来ないのです。」

 

 

 「…なるほど~。ますます面白くなってきたな~!!」

 

 

 「……え?」

 

 

 「なら、考える暇もないよね~。最高幹部を倒して、鍵を手に入れて、螺旋階段の入り口を開けて、登っていけばカバルレを倒すっ!! 実に分かりやすいやり方だよね~。」

 

 

 「そうと決まれば、どっちの最高幹部のいる部屋に行くにゃ?」

 

 

 「え~っと、ここから近いのは……」

 

 

 けろっとして、緊張感なしに最高幹部を倒そうとするROSEにオドリーは状況についていけず、呆気にとられていた。

 

 そして、どっちの幹部の方へと行くかで、下心を乗せた理由から意見が分かれ、ちょっとした喧嘩になっている風景をホームズの背中から見学するオドリーは心の底から笑っていた。

 

 

 その傍らで、必死に端末を操作する御神の事が気になり、声を掛け、端末を操作すると、画面が波打っていて、上手く呑み込めない…。

 

 

 「…また、動かなくなったわね。 これだと最後の情報だけで判断しないと。」

 

 

 「…………”また”?」

 

 

 何気なく呟いたオドリーの言葉にROSE全員が疑問に思う。この端末を使いだしてから、一度もこんな現象にはなっていないからだ。

 

 

 「…カバルレがこの本部棟を改変させた…、いえ、その十数分前から端末の調子が悪くて、連絡が取れなかった時があって、困っていたのよ。だけど、本部棟が改変された後、しばらくして、通信も電波も戻って、敵の…、ROSEの情報を得て、各自仕掛けを準備する事が出来たわ。その時も、こんな感じで動かなかったから、原因があるとすれば、通信司令部との回線がつながらなかったって事ね。」

 

 

 ため息交じりで動かなくなった端末を操作するオドリーを背にするホームズの顔色が徐々に険しくなっていく。

 

 

 「ごめん!! その”通信司令部”って今はどこにあるんだ!!?」

 

 

 血相を変えて、振り向き様にオドリーに問いかけるホームズに驚き、微かに痛みが走ったが、オドリーは最後のマップ情報を操作して、見つけて答える。

 

 

 「……今は、最高幹部がいる部屋と融合して…、この道を真っ直ぐに進んで、先にある階段を上がれば、着けるわ…。」

 

 

 「え! 最高幹部!? どっち?」

 

 

 「………ドレーナ様。」

 

 

 

 それを聞いたホームズはすぐさま、階段目指して走り出した。その後を急いで、三人も続く。

 

 

 「ど、どうしたの!? そんなに慌てて!! 何か通信司令部って場所にあるの!?」

 

 

 くろちゃんが走りながら、問いかける。それに対して、ホームズは焦りと憤りが混じる表情で答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「その通信司令部には……、先に侵入した”リテラ”って仲間がいるんだ!!

  早く行かないと!!」

 

 

 

 

 そして、上へとつながる階段へと着き、登りきったその先には、目の前全部が地獄の業火の如き勢いの炎が、立ちはだかった。

 

 

 

 「…ようやく来たわね。  ようこそ、私の部屋、”ドレーナ・ファイミリア”へ。」

 

 

 

 

 

 かけられた声のした天井を見ると、そこには、炎獣を従えた、炎の翼を広げる絶世の美女がくろちゃん達を見下ろしていた…。

 

 

 

 

 

 




いよいよ~~!! 最高幹部ドレーナとの戦い!!

オドリー編を終え、次はドレーナ編だ!!

皆、楽しんでね~!!

あと、tokoっち!!
いつも、感想送ってくれてありがとう!!


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最高幹部、炎獣使いドレーナ登場!!

最高幹部決戦 ドレーナサイドに入りました~~!!

ここはしっかりと書いていきたいな~!!

頑張るぞ!


 

 

 

 

 

 「「「「「あつ~~~~~い!!!!!」」」」」

 

 

 

 最高幹部である炎獣使いのドレーナとついに接触したくろちゃん達の最初の一言がこれだった。

 

 

 どこの熱帯だともいえる熱さで入ってそうそう、汗が体中から吹きだしてくる。見渡す限りに炎の壁があり、取り囲まれているというのに、この緊張感のなさをドレーナを除く敵の部下達がその状況を見て、言葉がでなくなる。ドレーナは楽しそうな笑みを浮かべて見下ろしている。

 

 

 「あいつら~~~~!! ドレーナ様がせっかく名乗って、歓迎したというのに、完全にスルーだ!!」

 

 

 「何と命知らずな!!」

 

 

 「ドレーナ様からお仕置きが来るぞ!! (♡▿♡)/」

 

 

 ドレーナに無礼を働いたと罵声を浴びせる下っ端たちはなぜか目をハートにして舌を垂らしていた。しかし炎で視界を塞がれているROSEにはその表情を見る事は出来ない。相手の話す口調と声のトーンで精神状態を知る事が出来るくらいだ。

 しかし、ROSEはヘムタイ達のお蔭でそう言った雰囲気やデレデレ状態を駆使しているため、否応にも理解できてしまう。理解したROSEはそれぞれ心の中で感想を述べる。

 

 

 ((”お仕置き”っていったいなにされるんだろう…?鼻血ちょろ ))

 

 ((………またか。 この曲芸一座ってみんな、こんなノリなのかな(にゃ)……。))

 

 (相変わらず、人気絶好調ですわね、ドレーナ様…!)

 

 

 先ほどの喧嘩でドレーナを選択していたヘムタイ達の事実上の勝ちにヘムタイは内心では、ガッツポーズをして、パレード気分であったことはここだけの話にしておこう。

 ドレーナと戦う前に、内輪もめで止めを刺されるかもしれないからね。

 

 しかし、いつまでもこうしていると、身体の水分を全て出し尽くして、干からびてしまうのは目に見えているため、御神が壁に張り巡らされている水道管に圧縮空気弾を当て、穴を開けると、移動系魔法で水道管を流れる水を『メイルシュトローム』で大規模な水竜巻を発生させ、部屋中に水を振りまく。大量の水に呑み込まれる形で目の前の炎が消え、何とかミイラになる事は回避できたくろちゃん達一行。

 

 しかし、それと同時に同じく目の前に現れた下っ端の人数に驚く。彼らは魔法銃をくろちゃん達に向け、引き金に指を掛け、狙いを定めていたのだから。

 

 

 一方、下っ端戦闘員たちも驚きに満ちていた。業火の炎の壁で同じく、敵の姿を確認できなかったため、彼らが消火をし、その時に発生する蒸気にまみれ、仕留めようとしたが、かなり大がかりな消火活動に下っ端戦闘員は巻き込まれないように逃げるので、精いっぱいだった。それに蒸気も発生せずに沈下され、正面でやり合う方法に変更する。そして、今の状態になっているのだが…。

 

 下っ端戦闘員はほろけていた。

 

 なぜかというと、くろちゃん達一行があまりにも熱いため、来ていた服を脱いだためだ。そして何で来ていたのか不思議だが、下には水着を着用していた。その水着から覗かせる鍛えられた筋肉の割れた腹筋だったり、お尻が実っていて、持ち上げただけで折れそうなくびれをした身体美の身体を見せつけられ、”排除”という言葉は頭からポロリと抜け落ちたのだった。

 

 ちなみにくろちゃん達を凝視して、見ている下っ端たちだが、オドリーには気付いていない。オドリーはちゃにゃんが持っていた薄いベールで顔を隠して服もいつものほぼ全裸と言える服から、御神達の服を借りて、露出が少し少ない物へと変えたからだ。オドリー特有の色気も抑えられて、今は何とか正体を誤魔化している。

 元・仲間だったみんなに気づかれていない事に、安堵するが、気を引き締めて向かい合う。

 

 

 オドリーが前の仲間との決別を決心したその時、下っ端たちが自分達に見惚れているとは知らないくろちゃん達一行は敵の持つ魔法銃に目を向ける。

 

 

 「あ、あれは…! 最新型の”ガンマ・オクタゴン”!!

  四系統八種のそれぞれの魔法を銃に装填された弾丸型のカステムを回転させて切り替える事で、事実上意識しなくても、本人の込める相子を送り、引き金を引くだけで、魔法を発動できるという戦闘魔法師にはとてもうれしい代物!!」

 

 

 ホームズは目を輝かせて、興奮する。

 

 

 「あら? お気に召したかしら?

  これは、カバルレ様があるルートを使って仕入れた最新型の特注品ですわ。

 

  表で出回る者とは比べ物になりませんわよ?

 

  …その威力、試してみます?」

 

 

 ホームズの話に乗ったのは、なんと最高幹部、ドレーナだった。

 

 

 笑みを崩さないドレーナは含み笑いをしながら、問いかける。それに対し、ホームズは…

 

 

 「いいのか!? ぜひお願いするぜ!!」

 

 

 「「「「ちょっと待って~~~~~~~!!!!!」」」」

 

 

 間髪入れずに即答したホームズにくろちゃん達は止めに入るが、遅かった…。

 

 

 「分かりましたわ…。では、あなたたち、やりなさい…。」

 

 

 頷き、下っ端たちに攻撃合図を送ると、ドレーナは炎の翼を羽ばたかせて、くろちゃん達から離れていく。

 

 

 それと同時に、下っ端たちがガンマ・オクタゴンの引き金を一斉に引き、多種多様の魔法が行使される。しかし魔法の重複の相克でサイオンの嵐に陥って魔法発動ができないという事はなかった。それだけ、下っ端とはいえ、相子の扱いに長けているという証拠。

 

 

 

 八方から放たれる攻撃魔法にくろちゃん達は為す術なく、その身に受ける事になった…。

 

 

 

 

 その光景を上空から足を組んで、鑑賞していたドレーナの口元がうっすらと吊り上っていたのだった…。

 

 

 

 

 




これはこれは…。

くろちゃん達、一体どうなってしまうのか…!!


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この独身が、みんなの壁になるっ!!

ROSEで壁と言えば、この人!!

でも、まずはドレーナを活躍させてみるかな?


 

 

 

 

 

 下っ端戦闘員たちのガンマ・オクタゴンによる一斉攻撃を受けたくろちゃん達一行。

 

 そのくろちゃん達がいた場所には、今まさに爆炎と黒煙が立ち上っていた。そして床面には衝撃のため、亀裂が円形状に広がっていた。その激しい衝撃の痕が、ガンマ・オクタゴンの魔法の威力を物語っている。

 

 下っ端戦闘員たちは、目の前の光景に対し、歓喜に満ちる。まさか自分達がこれまでの仕掛けで倒れなかった敵を、たった一撃で一掃したのだから。小躍りして喜び合った。…酸素マスクと防火ツナギを着ていて、表情は見られないが。

 

 そもそも部屋が広い空間とはいえ、窓もなければ、消火栓もない。

 

 こんな場所で爆発なんかしたら、下っ端戦闘員たちもとばっちりを喰らうだけだ。……普通は。

 炎……、それは、ここにいる最高幹部、ドレーナの最も得意とするもの…。彼女はいつも最低一匹は身辺に従わせているため、常に彼女に就く下っ端戦闘員たちは防火装備を携帯しているのだ。それに、彼女が赴く建物内は全て耐熱素材で作られている。もちろん、この部屋も。だから、炎がどんなに部屋中に広がろうが、問題ないのだ。

 

 フィールドの条件では、明らかにドレーナの方が有利。

 

 したがって、これで全て片が付いたと下っ端戦闘員の誰もが歓喜していたのだが、この部屋の主…、ドレーナだけは、無表情を貫き、浮かれまくる部下達に愛用の鞭を振り下ろす。

 

 

 「あい~~~~~~~!!!」

 

 

 「きゃふ~~~~~~ん!!!」

 

 

 「…あんた達の眼は節穴みたいわね。よく見なさいな。まだ闘いは終わっていなくってよ…?」

 

 

 冷たい目と言葉で、部下達を黙らせるドレーナに部下達は狼狽える。

 

 

 「で、ですが! 先ほどの攻撃は確かに直撃… ひぃっ!!」

 

 

 「…あら、私に意見を言うのかしら? 困ったわね~。

  …では、私のお願いを聞いてくださいますよね?」

 

 

 「…はいっ!! ドレーナ様なら、どんなご命令もお受けいたします!!」

 

 

ドレーナは網タイツに、胸元を大きく開けた黒革の半袖ジャケットを着て、足の付け根が見えるくらいの同じ黒革のショートパンツを履いていた。燃えるような橙色のくせっ毛がある長髪はポニーテールで一纏めにしている。そして、豊かな胸には、銀色のペンダントがかけられていた。

 肌に密着した黒革の服が妖艶な身体の曲線を引き立たせる。

 一見、20歳後半に見える絶世の美女だが、実は実年齢は35歳という驚きの若さ。

 

 そんな彼女のお願いされたら、断らない異性はまずいないだろう…。

 

 故に、ドレーナに口出しした部下の一人の運命は必然であり…

 

 

 「そう…。よかったわ。 実は、この子…、さっきからお腹すかせていて…。機嫌が悪いのよ。あなた…、よろしくね?」

 

 

 「はい?」

 

 

 すると、ドレーナの炎の翼が大きくなり、ドレーナから離れるようにして、姿を見せたのは、鷹の姿をした炎鳥。ドレーナは華麗に宙返りをし、床面に着地する。そして、背中を見せるドレーナの後ろでは、炎鳥による”お食事”が行われたのだった…。

 それをドレーナは振り返って、他の部下達が巻き込まれなかったか、確認する事はなかった…。

 

 

 「ちょうどいいお肉が手に入ってよかったわね、ファル…。美味しかった?

 

  ………そう。まずまずだったのね。 やっぱり下っ端では、美食家のファルには満足できなかった…ということですわね。」

 

 

 頬に片手を当てて、ため息交じりに、困った顔をするドレーナは実年齢よりすごく若く見える。しかし、言っている事とやっている事はグロいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドレーナの命令を聞き、他の戦闘員がガンマを構えて、先程、攻撃した場所に目を必死に細めて、見つめる。黒煙も消えていき、煙で見えなかった光景が戦闘員たちに驚きを与える。

 

 そこには、何重にも連なった『ファランクス』の壁に守られた、五体満足のくろちゃん達の姿があった。そして、新たに、もう二人…。

 

 

 「…危なかったね。危機一髪だったよ…。ボリボリ。」

 

 

 「まったく…、もう戦闘なんだから、いつまでもお気楽ではいられないよ。…今回は特に。

  でも、間に合ってよかった。

 

  大丈夫。私がここに来たからだ。

 

  何があっても、この独身人生を貫いている、おじいさんの私が!! みんなを守る壁になって見せるっ!!」

 

 

 「「「「「「ワイズマ~~~~~~~ン!!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 グッドタイミングで火龍人とワイズさんが合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………少しは楽しませていただけるのかしら…?うふふふふふ。」

 

 

 

 そして、この展開を面白そうに迎えるドレーナといよいよ魔法対戦を始めるのだった。

 

 

 




いやあ~~!! タイトルではなんだか、ワイズさんっぽいのに、なぜかドレーナの悪が目立ってしまった…。

しかし、悪が際立ってこその正義の登場!! お約束だよね~。


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全部受け止めてやるっ!!

久しぶりに登場~~!!

ワイズさんの個性を本格的に発動!!


 

 

 

 

 

 

 くろちゃん達一行に火龍人とワイズさんが加わり、ROSEの勝機も上がった。

 

 間一髪でワイズさんの『ファランクス』で敵の攻撃を完全ブロックしたため、くろちゃん達に怪我はない。しかし、くろちゃん達は泣いていた。しかも号泣…。その理由はワイズさんにあった。

 

 

 「みんな…。怪我がないようで何よりだ。 

  さぁ、立ち上がるんだ! 私が君達をサポートする。」

 

 

 みんなを後ろに庇い、先頭に立つワイズさんの凛々しくカッコいい後姿…、いや、頼れて逞しいその背中に、みんなは感激で号泣していたのだった。

 

 

 ((((((カッコ良すぎだよ~~~~!! ワイズマ~~~~ン!!!!!))))))

 

 

 いつしか、ワイズさんをワイズマンって言うあだ名をつけ、呼んでいたけど、まさにそのあだ名に相応しい活躍を遂げてくれた。

 

 

 「そして、そこの若人たちよ!! 人生を踏み外し、腐ったその性根を、私が!!粉砕し、これから先の将来に向かって歩いた時にぶつかる壁として、相手をしてやろう!!  そして、君達を更生させてみせる!!さぁ、とことんと掛かってきなさいっ!!」

 

 

 「ワイズマン…!! まさに正義のヒーロー…!!」

 

 

 人生を歩んできた貫禄が付いたワイズさんの熱い心が下っ端戦闘員に向けられる。ワイズさんの言葉に更に号泣するROSE一行は、ワイズさんに羨望と感動の混じったキラキラオーラを纏った視線で熱く見つめる。

 

 しかし、下っ端戦闘員に対してはというと……

 

 

 「……………うぜぇ~~ぞ!! ジジイっ!! 」

 

 

 「説教なんてすんじゃねぇ~よ!!」

 

 

 「俺達はこっちの方がいいのさ!!」

 

 

 …と、反抗的。まるで、熱血教師と不良集団との感動の名場面その一を見ているような光景。お決まりとしてはここで代表が教師に向かって一発殴る展開だが、ワイズさんと下っ端戦闘員たちとでは、拳での分かち合いという訳にもいかず、一斉にガンマ・オクタゴンで再び攻撃魔法を発動する。

 

 それが、またワイズさんの『ファランクス』で塞がれ、ワイズさんは微笑を浮かべる。

 

 

 「君たち…、そんなに照れるのではない。 照れ隠しでこのような事をしているのは分かるが、そろそろ自分達の気持ちに正直に向き合う事だ。」

 

 

 まったく手のかかるやんちゃな坊主たちだ…。ともいうように、敵だけども、戦闘員たちを温かい眼差しで見つめるワイズさん。

 

 

 「な、なんだよ! さっきから!! 気味が悪い!!」

 

 

 「そ、それによ!! ジジイ!!」

 

 

 「あんた…、半身血まみれじゃないかっ!!」

 

 

 下っ端戦闘員たちが突っ込みを入れる。

 

 彼らの言うとおり、ワイズさんは半身だけ、傷や打撲等の大怪我を負っていた。これは先程の攻撃を受けたためだ。しかしなぜ半身の身かというと。

 

 

 「このジジイ!! 半身だけ壁でガードしやがったんだ!!」

 

 

 「マジかよっ!! 頭おかしいんじゃねぇ~~~!?」

 

 

 下っ端戦闘員たちが説明してくれた…。

 

 

 ワイズさんは彼らの照れ隠し?を全て受け止めようとして、あえて壁に身を隠さなかったのだ。『ファランクス』の壁に身を隠すなら、ROSE一を誇るワイズさん。その彼が、壁で身を守らなかった…。それほどにして、戦闘員たちと心を通わせたかったからだ。

 

 

 (トラップの時は、そこまで回る余力がなかったので、あの時の事は突っ込まないで上げてね。大丈夫、潰された戦闘員たちを一応は手当てしていたから…。あくまで一応…。)

 

 

 しかし…、いつもの半身だけ壁ガードはもはや習慣だったため、壁の外にあった半身だけで受け止める結果となってしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな深手を負ったワイズさんだが、笑顔を絶やさず、ゆっくりと歩み寄る。

 

 

 「さぁ!! もっと私に当たってこい!! これがお前達の限界なのではあるまい。

 

  全力でぶつかってこい!! 私が全て…、受け止めてやるっ!!」

 

 

 

 

 

 大声で啖呵を切ったワイズさんの熱い言葉は、戦闘員たちの暗く閉じ込めた心を少しずつ、明るく包み込んでいった…。

 

 

 

 




壁、壁~~~!!

ワイズさん、また流浪の民へと戻っていき、今はROSEから旅立ってしまった…。

しかし、いつしか戻ってくることを願っている!! いつでも戻ってきてね!!ROSEの仲間だから!! 

壁からカンペ出したり、壁にシュッと引っ込む仕草もワイズさんらしくて…。
ワイズさん専用の壁、確保しているからね~~~!!


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囚われの姫

RPGではお約束の展開ですね~~。

勇者たちよ!! 剣を取れ~~~い!!


 

 

 

 

 

 ワイズさんの言葉とその行動に自分達と真っ向から向き合ってくれているという懐の深い思いに戦闘員たちも感激し始める。

 

 このカバルレの下で働いてきたが、そんな風に接してくれる人はいなかったため、人間の温かさを感じていく戦闘員たちは、構えていたガンマ・オクタゴンを次々と下ろしていく…。

 

 その様子をワイズさんの後ろで火龍人からおすそ分けしてもらったポテチを食べながら、このドラマ的展開を涙ぐんで鑑賞していたくろちゃん達一行。これで敵が減って、こちらについてくれれば、戦力差も埋まっていけると考える。しかし今一つ、何かを忘れているような…。

 

 その答えは、ドレーナからもたらされる…。

 

 

 

 

 

 「………あなた達、先程から何の寸劇をしているのかしら…?

  私が…、いつ『ガンマを下ろしなさい。』と命令したかしら?本当に困った人たちね…。

 

 

  それと…、ROSEの皆さん、何かお忘れなのではありませんこと?

 

  此方には、あなた方の大事な、お仲間さんを預かっているのですけど。」

 

 

 先ほどまでのドラマ的展開を冷たい視線と不快感を表した雰囲気で一瞥し、部下達を正気に戻す…。戦闘員たちは自身の身体を震え上がらせ、肝を冷やす。

 そして、話しかけられたROSEくろちゃん一行は感動の涙を流し、腫れた瞼のまま、ようやくなぜここに来たのか、その理由を思い出し、気を引き締めた。

 

 

 「…無事でいてくれればと思っていたけど、やはりか…。」

 

 

 「その仲間になった子、捕まっていたみたいね。」

 

 

 「あら、やっと思い出しました? この子も御可哀想に…ね~?

  助けを待っていたお仲間から存在を忘れられるなんて…。いっその事、こちら側に尽きませんこと?リテラさん?」

 

 

 ドレーナはくろちゃん達とは反対側の部屋の隅にある多数のモニターが設置されている操作機器に腰を下ろし、足を組んで、哀れそうにくろちゃん達を見つめる。そのまま、横にある赤いボタンを人差し指で押すと、操作機器の隣の壁が左右に開き、床から天井まで届くほどの大きな全長10メートルくらいの鉄製の鳥かごが現れ、部屋の中に入ってくる。

 

 

 その中に、一人の少女が瞳に強い意志を持ち続けながら、そこにいた。

 

 

 「悪いですけど、私はあなた達みたいな人を物としか思わない冷酷な人達の仲間になんてなりません!! 私には、既に友達になってくれた心強い人たちがついてくれていますから!!

 

  絶対にこの籠から外に出て、私をここに押し込めた事を後悔させてあげますっ!!」

 

 

 ずっと壁の向こうから状況を知っていたリテラは、忘れられていたのに、それを物ともせず、仲間だと、友達だと主張したのだった。

 

 この中で唯一、リテラと面識があるホームズはずっと姿が見えなくて、ここにはいないか、本部棟改変の時にどこか別の部屋へと移動されてしまったか、この部屋の安全な場所で隠れているかと思っていたため、目の前の窮地に意識を受けてしまって、無意識に忘れていた。

 今は、強い意志を表す事で、立ち向かっているリテラでも、内心は不安でいっぱいに違いない。助けに来てくれた友達が実は、忘れていたなんて聞いたら、ショックに陥るだろうに…。

 それを感じさせない明確な信じる心にホームズは罪悪感に包まれた気持ちが空いてくる。

 

 

 安堵の表情を見せ、絶対にそこから出して見せるという熱意の視線をホームズから受け取ったリテラは、大きく頷く。

 リテラは、ホームズが自分の存在を忘れていたのは、寂しくて、悲しかった…。

 でも、入ってきた時の炎に囲まれながらも、誰かを探すホームズの姿を壁の裏に併設されたモニターで見ていたため、その気持ちより、嬉しさと無事でいて!!という気持ちが勝っていたのだ。あの状況で自分を見つけ出すのは困難だったはずだし、先頭の場数を積んできていない自分には、なおさら難しかっただろうと理解していた。

 だから、リテラの口からあの言葉が出たのだ。自分の今の本音を…。

 

 

 「…うふふふふ。その自信満々に宣言しても大丈夫なのかしら。…まぁ、いいわ。その意気込み、空回りしないで頂戴ね。せっかく脂の乗った美味しい肉をみずみず、萎れさせて、美味しさ半減にさせる真似はしたくはありませんから。」

 

 

 リテラの抵抗も子猫がじゃれているようにしか感じていないドレーナは甘やかすような口調でそう言うと、くろちゃん達に向き直って、目を細め、微笑みを向ける。

 その微笑みは人を惑わす力を持っているような感覚を与えるくらい、妖艶な笑みでくろちゃん達の内からに秘める直感が語っている。

 

 この女は、今まで戦った奴らみたいにはいかないと…。

 

 

 「さて、皆さん。私…、少々退屈してきましたの。お相手願えるかしら…?」

 

 

 

 

 再び鷹の炎獣を自分と一体化させたドレーナはギラギラとした目を向け、真紅の唇を舌なめずりして前へと躍り出た。

 




リテラ…。

なんていい子なの~~~!!! よしよし、いい子~~~!!


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私は無敵でしてよ!!

ドレーナとの戦いが本格派!!

一体ドレーナと戦って、くろちゃん達は無事に倒す事が出来るのか!?


 

 

 

 いよいよ最高幹部、ドレーナが参戦した。

 

 

 その纏う空気は喜びと殺気という、相反する感情が入り混じったものだった。

 

 

 その空気と同じ表情をしながら、歩み寄ってくるドレーナが腰に装着している鞭を取りだし、大きく振りかぶって、床を強く叩きつける。

 

 

 バチッ!!!!!

 

 

 その音が合図だったのか、床から突如、三体の炎獣が現れ、雄叫びを上げる。その雄叫びだけで、強力な熱風がくろちゃん達を襲う。くろちゃん達の足元には、熱風で押された時にできた後ろに引き摺った痕があった。

 

 

 「いきなり、炎獣三体従えるとか、凄すぎでしょ。」

 

 

 「雄叫びだけでこの威力か~…。これは骨が折れそうだね。」

 

 

 「……多分、言葉だけで終われない気がする。」

 

 

 「まぁまぁ、やっと手ごたえがある奴が現れたという事だ。腕が疼いてきたじゃないか!?」

 

 

 「じゃ、やりますか。

 

  ワイズさ~~ん!! 悪いですけど、サポートに回ってください。あと、オドッ………、おどおどしていないで、その子を守ってください!手当ても!!」

 

 

 危うく、オドリーと呼びそうになって、寸手で誤魔化した御神が涙を流し、地面に手をついて、蹲るワイズさんに指示する。

 ワイズさんは戦闘員たちが心を開きかけたのに、ドレーナにあっさりと一瞥され、更には、”寸劇”だと言われたのがショックで、嘆いていたのだった。

 しかし、仲間から頼られていると知ると、ガッツポーズで引き受けたと、『ファランクス』を発動し、流浪の旅で培った知識を使い、オドリーの治療に入っていく。ちゃにゃんの応急手当てに感心しながら、ブツブツと呟き、オドリーの腹部の傷を、近くで燃えている火で、持ち合わせの針を消毒し、傷口を縫っていく。

 

 懸命な治療をするワイズさんを後ろに庇い、臨戦態勢を取るROSE。

 

 お互いに準備万端であることを確認したドレーナは現れた三体の炎獣…、獅子、熊、猿に鞭を打つ。それに闘争心が煽られ、三体は牙を剥き出しにして、威嚇する。その瞳孔には、炎による凄まじい輝きが宿る。

 

 

 「さて、あなた達…、お食事の時間でしてよ。お腹いっぱいに食べておいで。」

 

 

 バチッ、バチッ、バチッ~!!

 

 

 鞭で喝を入れられた炎獣たちはそれが合図であるように、ついにROSEに襲い掛かる。

 

 先頭をきって走り込んできた獅子が尖った炎の爪を駆けた勢いをつけて、前足をくろちゃん達に振り下ろす。その際に、ドレーナが口笛を吹き、獅子に元々仕込んでいた起動式を発動させ、炎の爪を更に大きくし、炎の威力も上げて強化する。

 くろちゃん達はこの攻撃を受け止める事は不可能だと判断し、横に飛んで躱す。しかし、獅子の…、ドレーナの目的は初めからくろちゃん達ではなく…。

 

 獅子の熱爪が床面に突き刺さり、亀裂が入る。その亀裂がオドリーの治療中のワイズさんの方へと及ぶ。『ファランクス』を発動していても、あくまで耐熱・対魔法の物…。『ファランクス』が及んでいない床面からの攻撃は避けられない。

 

 大きく引き裂かれながら進む亀裂がワイズさんたちのいる床面を崩していく。そこに背後から猿の炎獣が拳を振り下ろす。獅子が突進する際に、死角から天井へと大ジャンプして、反対側の壁に着地し、その勢いを利用して、背後からワイズさんを襲ったのだ。正面にだけ『ファランクス』を発動していた事もあり、突然背後から襲ってきた猿の炎獣にワイズさんは治療を一旦ストップし、更なる『ファランクス』形成に掛かる。

 

 猿の炎獣が拳を振り下ろした、まさにその時、真正面に『ファランクス』を発動し、受け止めた。これで、前後に障壁を張った状態となったワイズさんは少し疲れを見せ始める。しかし、これで気を抜いていては自分だけでなく、オドリーまで危ない。

 猿の炎獣が一発塞がれたからといって、攻撃の手を休めはしなかった。

 

 俊敏な動きを兼ね備えた素早さで、炎の鉄拳の雨を降り落としていく。ワイズさんはその度に『ファランクス』を発動していき、ついにキューブ型の『ファランクス』を展開した。防御に徹した造りに遠くから見ていたくろちゃん達も安堵し、すぐに救援に向かおうとする。

 しかし、その間を割って入るように、獅子が行く手を塞ぐ。

 行く手を塞がれ、巨大な獅子の炎獣の身体でワイズさんたちの状況が見えない…!

 

 

 「くっ!! こいつら、連携に無駄がない。」

 

 

 「このままじゃ、ワイズさん…、ヤバいよ!」

 

 

 「…どうやら始めからこれが狙いだったみたいだな…。」

 

 

 「ええ…、その通りですわ。あなた達の性格なら、仲間を助けるため、動ける者全員で、闘いを挑んでくるだろうと確信していましたわ。

  それと…、怪我をした仲間の安全を確保したつもりのようですが、お忘れなのでは?

  ここは、私の魔法に特化した部屋…。つまり、ここは私のテリトリーだという事…。もうあなた達が抗う術はありませんのよ?すべて私の手の中で踊り続けるのです。

  ここでは、私…、無敵でしてよ!!

  さて…、フィニッシュと行きましょう…。ベック!!」

 

 

 獅子の炎獣に塞がれた後、くろちゃん達の背後に鞭を振るって挟み撃ちするドレーナの話から嫌な予感を覚えたその時、どこから現れたのか、もう一体の熊の炎獣が両手を組み、腕を力の限り、振り下ろした。猿の炎獣の素早い攻撃で場をかく乱していたため、熊の炎獣の存在を逸らしていたのだ。直前まで猿の攻撃を受けていたワイズさんは横から熊が接近している事に気づかず、猿が急に距離を取ったと思った時には、すでに遅し…。

 

 熊の炎の腕で振り下ろされた天井から、床面に入っていた亀裂の進行が早まり、とうとう床が抜け、ワイズさんとオドリーは真っ逆さまに落ちていった…。

 

 そして追い打ちをかけるように、猿と熊の口から火炎放射が放たれた。

 

 

 ワイズさんたちが落ちていった穴から、爆発が起きる。

 

 

 

 

 

 

 その結果を、観察していたドレーナは不敵の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 「うふふふふふふふ。 まずは二人…と。

  さようなら…、オドリーちゃん♡………。

 

 

 

  うふふふふふふふふふふふふふふふふ。」

 

 

 

 

 ドレーナの楽しそうな笑いが部屋に充満していくのだった。

 

 

 




ワイズ~~~~~!!!
オドリー!!!

そんな~~~!!

そして、ドレーナにバレていた!!? 


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三体の炎獣対ROSE

ドレーナと戦うには、まだ先になりそう。

でも、炎獣たちも厄介だよ!!
それこそ、幹部クラス!!


 

 

 

 

 

 

 

 「「「「ワイズさ~~~~~~ん!!!!! オドリ――――!!!!!」」」」

 

 

 深い穴に落ちていったワイズさんとオドリーの名を叫ぶくろちゃん達。慌てて穴に駆け寄っていく。炎獣たちはドレーナの指示を受け、ドレーナの元へ戻る。左右と背後に炎獣たちを従えたドレーナの視線はくろちゃん達の動揺する姿を捉えていた。

 そして、闘いの巻き添えにならないように部屋の隅で耐熱性の障壁魔法をかけ、控えていた戦闘員たちがくろちゃん達が叫んだ名前に驚きを見せるのだった。

 

 

 「え? あいつら、今…、なんて言いやがった?」

 

 

 「確か、『オドリー』って言っていたような…?」

 

 

 「俺の聞き間違いか…?」

 

 

 「いや、俺にも、そう聞こえてきた…。…どうなっているんだ?」

 

 

 戦闘員たちがざわつき始め、くろちゃん達は自分達の過ちに気づき、みんな一緒にしまった!!…という顔で罰が悪そうな雰囲気を醸し出す。

 

 両者を見ていたドレーナは曲芸の種がバレてしまった時の表情にそっくりだとくろちゃん達の表情でそう思い、戦闘員たちに種明かしを披露する。…真実ともいうが。

 その時のドレーナの顔は悪戯が成功した時の無邪気な笑顔を浮かべていた。

 

 

 「そうですわよ。あなた達がよく知る、快楽幹部のオドリーの事ですわ。

  どうやら、ROSEがここに来る前に、オドリーの部隊と鉢合わせした後、オドリーは裏切って、仲間を見殺しにして、ROSEの仲間になったみたいね。

  残念だわ~。あの子には、最高幹部候補として目をつけていたのに。こんな形で恩を返されるとは思わなかったわ。」

 

 

 「オドリー様が!!? 謀反を起こしたというのですか!?」

 

 

 「信じられません…!?」

 

 

 「そうですわね…。ですが、彼らとの接触で、心の隙を作り、そこに付け入られたようです。……彼女は、誰にも言えない秘密を抱えていましたしね。

  それに、あなた達も同じようにされたでしょ? これが彼らの手口ですわ。」

 

 

 ドレーナの言葉で、自分達がワイズさんの熱血な接し方に心を打たれかけた事を思い出し、頷く。人の心を弄ぶ連中…。くろちゃん達は戦闘員たちに完全に、そう認識されてしまった。

 

 

 「おい!!ドレーナ!! お前はなぜ、オドリーの事に気づいたの!?答えて!」

 

 

 くろちゃんが険しい顔をして、ドレーナに問い詰める。その表情をドレーナは正面で受け止め、微笑を浮かべる。

 

 

 「そんなの、視ていればわかる事ですわ。 それとも何か理由をかこつけるべきですか?敵であるあなた方に?」

 

 

 確かに、敵に理由を離せと言っても、教えてもらえるなんてわけはない。くろちゃんは反論する事も出来ず、唇を噛む。

 

 

 「これで、邪魔者と裏切り者を処分できましたし、残りもさっさとお片付けしてしまいなさい。」

 

 

 気怠そうに炎獣たちに命令し、鞭を振るうと、三体の炎獣たちが再び襲ってきた。

 

 

 まず獅子が突進してきて、炎の腕を振り下ろす。

 

 

 くろちゃん達は跳んで躱すが、底を獅子は振り向き様に炎の尻尾で打撃を与える。吹き飛ばされ、壁に激突するくろちゃんとちゃにゃん。御神と火龍人、ホームズは何とか躱したが、くろちゃん達の心配する暇もなく、着地した途端に、猿が高速の鉄拳雨攻撃をしてきた。それはもう隕石と言えるレベルでさすがに避けきれないと判断し、攻撃魔法を打ち続けて対抗する。防御に徹していると、不意打ちを食らうのは、さっきのワイズさんとオドリーの件で、苦しくも理解していた御神とホームズは『フォノンメーザー』『破城槌』『雷童子』『這寄る雷蛇』等の遠隔魔法を発動する事で、完全に守りに入るのを止めた。火龍人は二人の魔法力を高める補佐魔法を発動。

 

 

 「”攻撃は最大の防御”だからな!!」

 

 

 「ホントは決定的な魔法が使えたらよかったんだけど…。」

 

 

 「相手に有利なフィールドだから。」

 

 

 そう…。炎といえば、水と相対するもの。炎獣も炎で作られた化成体の一種のようなものだ。すなわち、”水”を使った魔法で攻撃すれば、炎獣を倒す事が出来る。

 しかし、この部屋に着いたときに使った水道管の水はもうない。炎の壁にすべて使い切ってしまっていた。そして、大気上の水分から水を得ようとするが、それでも炎獣を倒せるほどの物ではない。作れたとしても、この炎が蔓延る熱さから解放されるための飲み水1人分くらいの量が確保できるだけだ。

 こういった状況で、闘わざる得ないROSEにとっては、決定打に欠け、持久戦に持ち込まれていた。

 

 これ以上、長期戦になれば、誰もドレーナと戦えないとホームズは猿の火炎鉄拳を防ぎながら作戦を練っていた。そこへ、熊の炎獣がホームズの背後に立った。大きな太い両腕を横から挟み込む形で振り下ろす。

 

 しかし、ホームズはその動きを読んでいたため、御神と火龍人に声を掛け、熊の股にできた隙間からこの場を脱しようと図る。

 

 だが、突如として地面に縫い付けられたかのように動かなくなり、逃げられない。

 

 

 

 そこへ、熊の炎獣の腕がホームズ達三人の床面に包み込んだ状態で深く食い込んだ。そして熊の炎獣は雄叫びを上げると、腕に力を入れ、床面の下からホームズ達を振り上げ、天井へと思い切り飛ばした。

 

 予想外の攻撃にホームズ達は目を丸くし、防御魔法を発動する前に、天井に衝突した。

 

 

 「ぐあっ!!」

 

 

 「うっ…!!」

 

 

 「がはっ!!」

 

 

 その衝撃にホームズ達は口から血を吐き、怪我を負う。身体が動かず、重力に逆らう事ができず、落下する三人に炎獣たちが口から火炎放射のタイミングを狙って準備している。

 

 

 

 

 

 

 

 これを喰らえば、無事では済まない…。

 

 

 

 それが落下するままの三人が思った事だった…。

 

 

 

 

 そして、三体の炎獣たちによる火炎放射が解き放たれた……。

 

 

 

 

 

 




やばい!! みんなが追い込まれている!!

なんと連携のとれた炎獣さん達だ!! 

ここまで怪我を負うみんなは今までなかったな。(うちがそうしてしまっているが)


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炎獣たちの失敗

ホームズ達はどうなった~~~!!

火炎放射やばす~~~!!


 

 

 

 

 

 

 三体の炎獣の火炎放射が御神、ホームズ、火龍人に向かって、解き放たれる。

 

 

 炎の渦となり、一層威力が増した火炎放射。確実に浴びれば、天井に穴をあけてくれるかもしれないが、その代わりに自分達は焼かれて跡形もなく、焼け焦げて炭になる事はその火炎放射を見れば、分かる。

 ここまで身体にダメージを受ける戦闘は最近はなかった。これが最高幹部の力なのか…。

 落下しながら、部屋を見回すと、涙を流し、何かを叫ぶリテラの姿が目に入る。

 

 

 …そうだ、こんなところで、負けられないぜ…!!

 

 

 三人は今持てる相子で、可能な魔法を発動する。

 

 しかし三人とも発動したのは、慣性制御の魔法で、床面との落下衝突を抑える魔法だった。

 そんな事をすれば、火炎放射をまともに浴びてしまう。本人達が思ったとおり、炭になってしまう。

 

 

 いったい、どうしたの言うのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっ…、ハァ…、くろちゃん!!」

 

 

 肋骨が数本折れていて、息を吸い込むのもきつい状態だったが、ホームズがくろちゃんの名を呼んだ途端、突然、熊の炎獣が体勢を崩し、猿の炎獣を巻き込んで倒れる。そして熊の火炎放射は猿に、猿の火炎放射は獅子に、と見事に仲間内でヒットし、爆炎が舞い上がる。

 

 

 「よし!! 私を忘れてもらっちゃ、いけないよ!」

 

 

 その声は、熊が倒れた方向と正反対の方から聞こえた。

 そこに、右手でピースサインを作って、高々と上にあげて、満面の笑みを浮かべるくろちゃんがいた。

 突き飛ばされる直前に、硬化魔法が何とか間に合い、壁に激突したくろちゃんは硬化魔法をかけていたとはいえ、すぐには立ち上がる事は出来なかった。そして起き上がった時には、熊の炎獣によって、天井にうちあげられた御神達が激突した時だった。

 

 くろちゃんは次に火炎放射を放とうとしている炎獣たちの攻撃をホームズ達から逸らすため、耐熱性の障壁魔法を展開する。今のくろちゃんは炎獣たちに気づかれていない…。

 今度はこっちが不意打ちを仕掛けて見せる…!!と闘志に燃えるくろちゃんにホームズが見つけ、視線でタイミングを計って、合図した。

 

 そして、くろちゃんは障壁魔法を張ったまま、背中を向けた状態の熊の炎獣の膝下あたりに加速魔法を、障壁魔法を張ったままの自分自身に纏わせ、高速で突っ込んでいった。

 

 そのため、ひざかっくんされた熊の炎獣はバランスを崩し、猿の炎獣へと倒れる。

 

 その威力はトラックが厚さ15メートルのコンクリートに突っ込んでいったくらいの衝撃を感じさせるものだった。

 

 

 

 

 「「「「「ええええええええ~~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 遠目で見ていた戦闘員たちの驚きの声が聞こえる。

 

 

 彼らも今まで、炎獣たちが倒される場面を見た事はなかった。だってあの巨体の炎の身体の持ち主と正面切って闘おうとは誰もしなかったのだから。

 

 

 だから同じく三体の炎獣たちに一撃返したくろちゃん達の連携に、ドレーナもほんの少しだけ感心する。

 

 

 「うふふふふ。やるじゃない?」

 

 

 観客向けの作り笑いから少し、妖艶な笑みが潤臨するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、熊の炎獣は膝かっくんされたショックと巻き込まれた猿の炎獣からの説教でなんだか落ち込んでいるように見えた。…正座していたし。

 激昂している猿の炎獣に獅子の炎獣が肩に腕をポンポンと叩き、宥める。自分も猿の炎獣から火炎放射を受けていたはずだが、気にもしていないよう。

 

 

 

 

 三体の炎獣のやり取りがなぜか行われていた…。

 

 




膝かっくん…、あんな恐ろしい物だったなんて…

あんないたずらに引っかかるお前のせいで、これは痛い目に遭った!!

もうその辺にしとけ、猿。

……なんて、炎獣たちに声帯があれば、こんな感じで話していただろうな~~~!!


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炎獣攻略!!

ここで終わってたまるかあ~~~~~~!!

何か弱点が~~~~~!!


 

 

 

 

 

 三体の炎獣たちのコントっぽい行動に、訝しく観察するホームズ達。

 

 

 見るからには、炎で動物を模った化成体の一種だろうと判断していたが、先程から見せる彼らの動きや表現、連携の取れようはどう見ても、思考を備えているようにしか思えない…。

 ドレーナが仕草で指示していてはいない。なら、炎獣たちだけで動いているのではないか…?

 

 そんな思考がホームズの脳内に巡っていく。

 

 そう考えれば、炎獣たちの今までの行動にも納得する。そしてそれは、人との戦闘をする上、最も鍵になる物…、『戦略』が組めるという事。相手の思考を利用し、その先を読む事で、自分達の不利な状況を覆させることができるかもしれない…。

 

 ホームズはこれまでの闘いを頭の中で整理し、そして勝利への活路を見出す。

 

 

 「みんな、いい考えがあるぜ。 後もう少し、頑張ってくれ…!」

 

 

 ホームズの次なる一手を打つためのこの言葉にみんなもダメージを負った身体に、力を入れ、立ち上がり、戦闘準備に入る。

 

 

 ボロボロなのに、立ち上がってきたROSEに、やっと喧嘩を収めた炎獣たちは牙をむいて、威嚇する。

 

 

 呼吸をするたびに、骨が軋んで苦しいみんな。

 

 多分、炎獣たちを叩きのめすのは、これで最後。それ以上は身体が持たない。

 

 

 その事を弁えて、ホームズは光学系魔法『フラッシュボール』を頭上にうちあげ、光を放つ球体の色を変数化し、色を変えていく。

 

 

 それを見ていたROSEのみんなは、瞳に更に力を込め、CADに手を翳す。

 

 

 『フラッシュボール』の色の点滅が終わると、破裂し、光が部屋中に広がる。

 

 

 その直後、ホームズ達は獅子の炎獣に向かって走り出す。

 

 

 『フラッシュボール』の影響で、本来なら相手の目つぶしに有効な魔法だが、それは人や動物の場合…。元々炎の炎獣たちに効く訳がない。

 

 しかし、ホームズの狙いは別にあった。

 

 

 全員で、獅子の周りを取り囲み、加熱系魔法を発動する。

 

 そして、皆で炎の竜巻を縄状にして、獅子を床面に加重系魔法で抑え付け、その上に縄状にした炎のロープを身体に巻きつけ、杭で動きを封じる。

 

 動きを封じられた獅子が暴れ出すが、なぜだか、炎のロープから抜け出す事が出来ない。

 

 

 「まず一匹…っと!! 次は~…」

 

 

 獅子の動きを封じたROSEは突然視界が暗くなり、上空を見ると、猿の炎獣が怒りの表情を見せて大ジャンプしていた。そしてそのまま、猿の炎獣は素早い腕の動きで炎の鉄拳の雨を降らせる。

 

 その高速の鉄拳雨に次々とみんなにヒットし、倒された。

 

 

 猿の炎獣も殴った感覚を感じたため、にやりと笑う。

 

 

 しかし、次の瞬間、ROSEのみんながいた所には、先程動きを封じられていた獅子の炎獣がノックダウンした状態でのびていた。

 

 猿の炎獣が鉄拳をお見舞いしたのは、ROSEのみんなではなく、獅子の炎獣だったのだ。ちなみに、猿の炎獣が鉄拳を当てたと思っていたROSEのみんなはちゃにゃんが作り出していた『幻影投影』の幻だ。くろちゃんと一緒に飛ばされた後、『光学迷彩』で姿を隠し、この時をずっと待っていたのだ。

 

 そしてまんまと罠にはまった猿の炎獣は、御神の『ヒーボウ』で作り出した、炎の弓矢で狙いを定められ、放たれた矢が猿の炎獣の左目に命中する。

 命中した左目から爆炎が上り、顔を顰め、苦しむ猿の炎獣。

 

 その隙に、今度は背後に回ってきていた熊の炎獣の足元を、火龍人が『地割れ』から『蟻地獄』を発動する。すると、バランスを崩し、倒れそうになる熊の炎獣は先程の轍は踏まないというように、片足を前に出して、身体を支える。しかしそこは、炎で作られた棘地獄…。足裏にまんまと刺さった熊の炎獣はケンケンして痛みを緩和しようとする。そこを、ホームズが耐熱性の障壁魔法をスーツを着込む形で身に纏い、熊の炎獣の背後に回って、ふてぶてしい笑みを浮かべる。

 

 

 「さあ!! さっきのお返しだぜ~~~~!!」

 

 

 両の拳を突き合わせ、気合を入れると、熊の炎獣の尻に猿の炎獣と同じように高速の鉄拳を撃ち込んでいく。

 撃ち込まれていく鉄拳で熊の炎獣の尻の炎の勢いがどんどん弱くなり、火花が散っていく。そして最後にホームズは右足に加速系魔法と加重系魔法をマルチキャストし、振り上げる。

 

 

 「おりゃ~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 雄叫びと共に、振り上げられた右足は熊の炎獣の尻にヒットし、熊の炎獣はそのまま蹴り飛ばされ、ホームランされた。

 

 

 

 

 

 熊の炎獣が蹴り飛ばされたその先には………

 

 

 

 

 

 

 

 

 左目を抑え、悶絶しそうになっている猿の炎獣がいた…。

 

 

 

 

 そしてとうとう猿の炎獣に熊の炎獣が激突する。

 突然の熊のロケット頭突きを腹に命中された猿の炎獣は炎の目を飛び出し、変顔をする。そのまま、熊の炎獣と宙に打ち上げられる。

 

 

 

 

 そしてそれを待っていたかのように目をキラキラさせたくろちゃんが宙に誘い込まれた二体の炎獣に『能動空中機雷』を発動する。

 球体状にした『能動空中機雷』で、二体の炎獣を閉じ込めたくろちゃんは派手に、豪快に、爆破させていく。

 

 その爆破の威力で突風が部屋中に渡るほど、ダメージを負った二体の炎獣は、『能動空中機雷』を解除されて、そのまま落下していく。その落下する着地点には、のびた獅子の炎獣が待機している。

 そこに、二体の炎獣ものびたまま、落下し、衝撃が広がる。爆炎が巻き起こり、敵味方両者が障壁魔法で身を守り、炎獣たちの行く末を爆炎が収まるまで待つ。

 

 そして、視界がクリアになった先には…。

 

 

 三体の炎獣が原形を留める事が困難なほどのダメージを受けて、倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「やった~~~~~~~!!! 」」

 

 

 

 「どんなもんだ~~~~!!」

 

 

 「動物風情が人間様を舐めるなよ~~~~~!!」

 

 

 「ほーちゃん、あれは動物ではないと思うよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦戦を強いられたROSEだったが、なんとか三体の炎獣たちを倒す事に成功したのだった。

 

 

 




なぜ、倒せたのかは…、次で!!

それまでは皆さんで考えてみて下さ~~~い!!

…多分、ヒントは入れられたはず…。(汗)


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おいら達を舐めんじゃないぜ!!

何とか倒してけど、この後はもう闘えないって!!

どうする!? ROSE~~~~~!!


 

 

 

 

 

 ROSEによって、倒された三体の炎獣が原形を留められずに、炎の力が弱まり、小さくなっていき、火の粉となって、消えていった。

 

 後に残されたのは、闘いの中で、ボロボロになった壁や床面の破損があちらこちらにあった。

 

 目の前で起きた事に、心底信じられないという顔で言葉を失う戦闘員たち。それとは反対的に、何を考えているか全く読み取らせないような表情でROSEを見つめるドレーナ。

 

 まさかの勝敗に、屈辱を味わう戦闘員たちは今度は自分達が相手だと言わんばかりに、ガンマ・オクタゴンを胸に抱え、憎悪を交えた視線をROSEに向けた。

 

 一方、ROSEのみんなは、もう立って、威厳を見せつけるだけで正直精いっぱいだった。折れた肋骨や打ち身、切り傷、全身打撲といった怪我を負っていて、さっきのでさすがに限界が来てしまった。身体ダメージも重傷なのに、相子も大技やループ・キャストによる連続発動で、殆ど底をついてしまった。

 

 もう闘う余力が残っていない…。

 

 ここからは蜂の巣状態にするのも、血の海に沈めるのも、相手にとってはやりたい放題だ。何だって、ホームズ達は三体の炎獣を相手にしただけで、この有様…。それに比べて、戦闘員全員健在し、最高幹部のドレーナも傷一つなく、まだ刃を交えていない。この状況で戦えば、どちらか倒されるかは目に見えている。

 

 

 でも、まだ諦めたわけじゃない!!

 

 

 みんなは自分達の勝利を信じて、傷を負ってなおも、平然とした態度を振る舞って、ホームズが挑発するような口調で、牽制する。

 そうすれば、怒り心頭になった戦闘員たちがドレーナに粛清され、数が減るのではないかという想像から来たからだ。

 

 

 「へへへへへ…!! どうだ!! おいら達、あの炎獣どもを倒したぞ!

  案外、弱点がたくさんあるんだな!! 分かりやすくて、戦略を立てやすかったぜ!!」

 

 

 「何を…!! バカな事を言いやがって~~~~!!」

 

 

 「そうだ! これはまぐれか何かだ!!」

 

 

 「あの炎獣たちはドレーナ様が使役する中のトップクラスの炎獣だぞ!?

  そう簡単に倒せるものか…!!!?」

 

 

 「…お黙りなさい。 口が過ぎるのではなくて?」

 

 

 案の定、戦闘員を言葉だけで黙らせるドレーナ。その声は荒げてもなく、大声でもなく、ただ淡々と普通に言葉を紡いでいたのだ。

 しかし、ホームズが予想していたのとは、違った。どこか違うかというと、後部…。得ドレーナは戦闘員を粛清にはしなかった。その代わり、明らかに作り笑いだと分かる笑顔を浮かべ、ホームズに話しかける。

 

 

 「うふふふふふふ。

  まさかここまでできる人たちとは、正直、思っていませんでしたわ。誰もあの子たちを倒したものは、いませんでしたから。

  面白い人たちですわ。うふふふふふふふ。

 

  特に、あなた…、ホームズさん、でしたわね? あれだけで、戦況をひっくり返すその頭脳…、敵にしとくのは、もったいないですわ。」

 

 

 ホームズを褒めちぎって、作り笑いするドレーナの目は、口とは正反対で、面白くない、不快感を交えた視線を投げる。ホームズは褒め言葉も視線も、ふてぶてしい笑みで対抗し、照れた感じで、ドレーナに返事する。

 

 

 「いやいや~~、それほどでも。

 

  かなり苦労したんだけどな! さすがに予想外の闘いだったんで、いつもより少し…、対処が遅れたぜ~~!!

 

  でもまぁ、上手くいったのは、みんなのお蔭だな。

  おいらが戦略を練るために、みんな、色んな攻撃をしたし、相手の攻撃を誘い出したりして、情報をより多く、引き出してくれたからな。ここで、おいらが失敗したら、せっかく怪我までして、この茶番に付き合ってくれたみんなに申し訳ねぇ~じゃないか!」

 

 

 

 ホームズだけでなく、くろちゃんやちゃにゃん、御神、火龍人もニヤニヤと不敵の笑みを漏らす。

 その笑みを訝しく思うドレーナ。彼女には、彼らがもう闘える体ではない事はもう既に分かっている。なのに、今この時、先程とは打って変わり、ハッタリだとは思えない言い草に妙な違和感を感じたのだ。

 

 ドレーナの観察眼に間違いはなく、ROSEのみんなの状態はその通りだった。

 

 しかし、ROSEのみんなは、”負ける”という未来予想はなかったのだから。

 

 

 

 「さぁて、ここからが本番だ、ドレーナ!!

 

  おいら達を舐めんじゃないぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 指差しをびしっと決めるホームズが、息を切らしながら、目をギラギラにして、ドレーナに告げた。

 

 

 

 

 




何々~~~~!!

なにをしてたんだ、ホームズ!!?


ド:「…どこを舐めるというのですの?」

ホ:「………は?」

ド:「舌で舐めればいいのかしら?」

ホ:「そっちの”舐める”じゃねぇ~~~~~~~!!!」

ド:ベロ~、チュパっ!!(効果音)


 はい…、本編後、このようなやり取りがあったのですが、
 みんな~、「なめる」という漢字に舐める、嘗めるがあるけど、両方とも同じ意味で使えるらしいので、うちはこっちにします!!
  だって…、こっちの方が何だかエロく感じません? ヘムタイの皆さんに捧げますよ!? このミニストーリー!!


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待たせたみたいだな…

え…! 待ってなんか・・・、ねぇ~~~ぞ!!このやろか~~♡





 

 

 

 

 

 

 重傷を負っているというのに、諦める意思を見せず、逆に闘志を突きつけてくるROSEにドレーナはここにきて、初めて嫌悪感を露わにした。

 

 ホームズは冷たい表情をしたドレーナに言葉にはできない何かを感じる。それが何かは分からない。しかし、嫌悪感と同じくらいの強い意思を感じるのだった。

 

 

 それでも、この場の空気を変える為、それには触れず、喧嘩を売るような口調で話す。ドレーナにだけでなく、戦闘員たちにも。

 

 

 「さすが、あんたが使役する炎獣たちだ。今まで戦ってきた人よりも、強かった…。でも、それだけだ。倒せない訳じゃない。

 

  さっき…、お前達は言ってたな。『炎獣たちがそう簡単に倒されるものか!!』って…。

 

  その傲慢な自信が敗因だ。」

 

 

 「何だと!!」

 

 

 「”一度も倒されたことがない”…。これで得た自らの力の強さ、自信が圧倒的勝利を積む事によって、絶大な力になる。それと同時に、倒されれば、それは簡単に崩れる。

 

 

  あの三体の炎獣…、ずっと勝ち続けて、攻撃パターン、ずっと同じだったんじゃないか?獅子の炎獣が突撃隊長、猿の炎獣が錯乱担当、そして熊の炎獣が止めを決める。

  ワイズさんとオドリーの時も、俺達の時も同じ順番だった。勝ち進んでいると、その方法が一番効率よく思えてくる…。あの炎獣たちはあれが一番じっくり来るやり方だったんだろうな~。だから、次にどの炎獣がどんな攻撃をしてくるのか、2回でよく理解できた。それに、くろちゃんが見出してくれた攻撃魔法の手段も掴めた。

  おいら達はずっと炎には、水で対抗しないといけないと思い込んでいた。しかし、熊の炎獣が猿を巻き込んで火炎放射を当てた時、炎同士、吸収するのかとも思ったが、結構効いているのを見て、思ったんだ。

  炎獣だからと言って、自分以外の炎をコントロールできないのではないか?

 

  だとしたら、炎を吸収されずに済むなら、話は簡単。目には目を、歯には歯を、炎には炎をってな。水が手に入らないこの部屋では、有効な攻撃魔法だ。

  ここまでくれば、あとは、炎獣たちの攻撃パターンに合わせて、そのタイミングに合わせて、攻撃するだけだ。

 

 

  思ったとおり、動いてくれたんで、最後は楽だったぜ。」

 

 

 

 ホームズの観察眼からの作戦の全容が語られ、戦闘員たちは後ずさる。たった2回だけで炎獣たちの攻撃パターンを読み込み、全て計算に入れるとは信じられずに、恐怖を感じ始めたからだ。

 それだけの攻撃を見ただけで、全ての動きを予測するのは難しい。

 それでも、ホームズがそれを実現した現状とが交わり、力押しでは敵わないのではという疑念を戦闘員たちに抱かせたのだ。

 

 

 そんな恐怖を抱く戦闘員たちとは違って、冷たい視線で見つめるドレーナは恐怖を感じているようには見えず、ただ淡々とホームズの話を聞いて、気怠そうにため息を吐いた。

 

 

 「それで…? これ以上は戦えない深手を負っているROSEの皆さん。

  そんな虚勢を張って、どうするというの? 結局は私の手に掛かって御終いよ?」

 

 

 「いえ、もう大丈夫だぜ。 」

 

 

 「そう、これからが本番…。ボリボリ…。」

 

 

 「…………」

 

 

 強き佇まいを崩さずに立ち尽くすホームズと火龍人の反応に、ドレーナは冷たい視線をさらに強める。

 そして、はっと何かに気づいた顔をする。

 

 

 「そのとおり。時間稼ぎはさせてもらったよ。」

 

 

 「やっと来たにゃ。」

 

 

 「来るのが遅い…!」

 

 

 くろちゃん、ちゃにゃん、御神が愚痴をこぼし、後ろに振り返る。そこには、ワイズさんとオドリーが落とされた大きな穴がある。そこに目を向け続けていると、穴から勢いよく真っ直ぐに飛び出してきた人影がくろちゃん達の近くで着地した。

 

 

 

 

 

 突然の乱入者に戦闘員たちが戸惑いを見せる中、乱入者は言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 「待たせたみたいだな、みんな。 ここからは俺が相手になるよ…。

  …俺にしかできないから。」

 

 

 

 




最後に現れたROSEメンバーって誰~~~~!!



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君の相手は俺だ。

ここにきて、ROSEメンバーが参戦!!っというか、交代!!




 

 

 

 

 

 

 突然の乱入者は両の眼を鋭く尖った視線をドレーナに向け、立ち上がった。

 その者の腕には、ワイズさんとオドリーが抱えられていた。

 

 腕から降ろされた二人は気を失っていたが、目立った傷はなかった。オドリーにも…。

 刺された腹部の傷も綺麗になくなっていた。

 

 

 「みんな、よくここまで頑張った。みんなは先に行って、カバルレの元へ行ってくれないか?」

 

 

 そう言いながら、現れた乱入者はホームズ達に次々と『再成』をかけていき、重傷だった傷を治し、復元していった。くろちゃんは自分の身体を見回した後、気を失っているオドリーの腹部も見た。綺麗になくなった傷を見て、表情を歪める。『再成』には、代償ともいえる精神に直接与える”痛み”を魔法発動者に味わらせる魔法だ。そんな魔法を自分達のために使用してくれた仲間に申し訳ないという気持ちとそれをさせた自分自身に腹が立ってくる。他のみんなもくろちゃんと同じ思いを抱いている。できる事なら、自分達で使えたらどれだけいい事か…。しかし、この魔法は希少性が高い上、ある一族の物しか使えない代物だから、魔法師の間で流通はしていない。

 くろちゃんたちの思いが現実になる事はない。だから、その分、仲間のために先に進もうと思うのだ。

 

 

 「うん…、分かった。 先に行ってるから。」

 

 

 「必ず後からきてにゃ!」

 

 

 「無茶はしてはいけないからね!」

 

 

 「……ドレーナは任せたよ、暁彰…!」

 

 

 「暁彰…。絶対に戻ってこいよ…!」

 

 

 乱入者…、暁彰にみんなはこの場を任せる事にした。

 その暁彰に言葉で入ってはいないが、感謝を心に持って、螺旋階段に通じる壁の向こうを見る。

 その前には、封じるようにして置かれた鉄の鳥籠がある。その中には、いまだ捕えられたままのリテラの姿が見え、心配と不安が入り混じった表情をしている。

 ホームズはリテラに向かって、微笑んだ後、戦闘員たちをリテラから遠ざけるために、飛行魔法で全員を空中に放り投げた。そしてその間に、ちゃにゃんとくろちゃんが加速魔法で鳥籠に近づいて、『斬鉄』で鳥籠を一刀両断する。斬られた檻は左右に倒れ、リテラは自由の身になれた。

 そして、御神が『疑似瞬間移動』を使って、くろちゃんたち全員を壁の向こうへと移動させて、姿を消した。

 

 その様子をずっと傍観していたドレーナは盛大にため息を吐いて、仕方がないとでもいうような顔でくろちゃん達の突破を見送った。

 

 そのドレーナを見つめる暁彰は、ドレーナだけを凝視して、訝しい表情を浮かべ、口を開く。

 

 

 「案外あっさりと通したものだな、ドレーナ。

  何か考えているのか?」

 

 

 「あらあら、それはこっちの台詞だわ。あなたこそ、考えがあるから、仲間を先に行かせたのではなくて? どうせこの先の螺旋階段の入り口に到達できたとしても、この私が持つ専用の鍵がないと、開く事なんてできない事は、あなたも知っているのでしょう…?

  先に行かせても、そこで立ち止まる事になるのだから、あなたをここで倒せば、後で追い掛けて、全滅にすることくらい簡単よ。」

 

 

 少し残念そうな顔をして、話すドレーナに暁彰は無表情のままで、言い返す。

 

 

 「悪いけど、全滅するのは君の方だよ、ドレーナ。

  君の相手はこの俺だ…! …それは君自身にも分かるはず。」

 

 

 暁彰の言葉にドレーナも無表情で見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 「そして、君は自ら鍵を渡す事になる…。絶対にな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 意味深な台詞を口にする暁彰の顔には、色んな感情が混じって複雑な表情をしていた。

 

 

 

 




はい!! 新たに現れたのが、暁彰でした~~~!!


これから暁彰が何をするのかはお楽しみに~~!!

今日は8月10日でハートの日らしいです!!

そして、明日は今年からの休日…、「山の日」です!!

ですので、明日の山をテーマにした番外編をお送りしたいと思います!!

よし、何かネタになりそうなものをみんなから調達しようかな~~!!?


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山の日番外編~ハラドキキャンプファイヤー!!~

今年からの休日、山の日!!

その記念で番外編です!!

本編はシリアス寄りで、ROSEをあそばせられないため、ここで一気に羽を広げようと思ってます!!…やりすぎる展開になるかもだけど!!
では、どうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 暑い季節になったこの時期…。

 

 

 休日を遊ぶとしたら、どこかと言えば、海!!と答えるか、山!!と答えるか…。

 

 

 この二択で決めるのもあれだが、ある魔法師ギルドの自由な奴らは迷いなく、全員「山!!」と答え、ギルド全員で山でのキャンプファイヤーをする事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふふふふふ!!!夜のキャンプファイヤー、楽しみだな~~~!!」

 

 

 「そうだね、花火も持ってきたから、さらに盛り上がるよ!!」

 

 

 「そんなに持ってきたの!? うわぁ~~、色々種類が揃っている…。」

 

 

 山登りをしてきた魔法師ギルド…、お馴染みのROSEのみんなは目的地の頂上付近の絶景ポイントに着いて、持ってきていた荷物を置いて、テントを張り始めていた。

 みんなが準備に入っていると、くろちゃんとちゃにゃん、hukaが持ってきていた花火を見て、ワイワイと盛り上がっていた。

 

 

 「ちょっと、三人とも~~~!! みんな、テント張っているんだから、後にしてね。」

 

 

 「「「は~~~~い!!」」」

 

 

 「うん、よし!! じゃあ…………、テントはもう終わりかけだから、三人はそこの川で魚でも釣って来て!! できればたくさん!」

 

 

 「わかった、いっぱい取ってくるからね!」

 

 

 「任せてにゃ! みなっち!」

 

 

 「…二人とも待って!!」

 

 

 三人に近づいて、魚の確保をお願いしたミナホはくろちゃんとちゃにゃんが釣り道具を持って、川に走っていき、その後を慌ててhukaが走っていく姿を見送って、安堵の表情で一杯になり、ため息を吐く。

 

 

 (ハァ…、何とかうまく行った。不自然にはならなかったはず…。)

 

 

 まだ山頂に着いて、時間は立っていない筈なのに、既にミナホの眼には疲労が入っていた。身体的疲労はそんなにない。なぜなら皆、飛行魔法を使ってあっさりと山登りをしたからだ。魔法が使えない人から言うと、「そんなのインチキだ!!」とか、「山登りは自分の足で登って、初めて『山登り』と言えるんだ!! 楽して登りきるなど認めん!!」とか、非難されるかもしれない。それと同時に「いいな~」と思って、羨望を向ける人もいるかもしれない。

 

 フォローが苦手でうまくまとめられないが…。

 

 とまぁ、話を戻して。

 ミナホは身体的疲労を感じていたわけではない。精神的疲労に陥りそうになっていた。その原因は……

 

 

 「あれ~~、三人ともどこへ行ったの?」

 

 

 「……食料を取りに行ってもらったよ。はい、マサやんもお願いします。」

 

 

 「ひょ? ああ、オッケー!! 行ってきま~~す!!」

 

 

 スキップと鼻歌をしながら、山に向かって山菜取りに行くマサやんとその監視としてRDCとサガットにも同行してもらって、くろちゃん達と引き離す事に成功する。

 

 

 更に疲労感を感じたミナホは心の中で願うしかなかった。

 

 

 (もう…、どうかキャンプファイヤーが終わるまで、ヘムタイ衝動は抑えてくれ~~~~!!)

 

 

 ヘムタイ達との密かな攻防が原因で、疲労を感じていたのだった。

 

 

 それもこれも、あのイベント報酬のお蔭だ~~~!!

 

 

 

 この山での休日をする前、帝国では救援式のイベントクエストが行われていた。海での美少女魔法師と戦って、(当然ROSEのヘムタイ達は、戦闘中でも鼻血を出して、目をハートにもして戦った。美少女魔法師達の水着姿と戦闘の際の胸の揺れ具合とかでほぼK.Oだった。)報酬をゲットしていくのだが、その際のイベント報酬としてもらった限定レアものマリンワンピースに問題があった。丈が短い上に、風邪の抵抗を受けやすくしているのか、ほんの少しの風邪だけでワンピースの裾が捲れ……、というなんともヘムタイ達の心を鷲掴みにするワンピースが報酬としてイベント参加者に配られた。そしてそのワンピースをくろちゃんとちゃにゃん、hukaが今日、着ているのだった…。

 

 飛行している時もそのワンピースのため、非常に裾が捲れ………、ゴホン、それをベストな位置でのカメラで録画しようとする鼻垂らしたマサやんをミナホが止めに入ったり、準備中でも三人が腰を折って、花火を見る後姿をしみじみ見て観察していたから、ミナホは三人をマサやんから切り離し、今に至る…。

 

 一時的に旅から帰ってきたと思ったら、これが狙いだったマサやんのヘムタイ魂の凄さにミナホは頭を抱え、もう一度深い溜息をする。ハラハラドキドキするこの休日を最後まで楽しめるように…。

 

 

 

 

 しかし安寧を願うミナホの願いはヘムタイ達の騒動で完璧に崩壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「う~~ん、なかなか釣れないな~~。」

 

 

 「おかしいにゃ~~。」

 

 

 「う~~~~~~~~~~~~~ん、この辺りなら、アユとか取れそうなのに。変だな~。」

 

 

 魚釣りに来た三人はあれから小一時間は過ぎているのに、いまだ一匹も釣れずにいた。

 一匹でも取れてよさそうなのに、魚が一匹も取れないだけでなく、一匹も川にいない。場所を何回も変えているというのにだ。三人が頭を抱えて困るのも無理はない。

 

 

 「あれ?三人ともどうしたの?そんな、困りきってます!!っていう顔をして。」

 

 

 だからか、木の実を収集していたホームズと鳥になる日、し~ちゃん、さっちゃんが来てくれた時、三人は藁をもつかむ勢いで、声を掛けてくれたホームズに救いの手を伸ばす。

 三人から事情を聞いたホームたちは、木の実を大勢とれたため、魚釣りを手伝うと途中参戦してくれた。

 

 

 「場所は悪くないと思うんだよね。 魚はいないというよりは、隠れているから。

  だからそのかくれんぼをしている魚に引っかかってもらえるような魅惑のエサでつらないとだめだよ。」

 

 

 「み、魅惑のエサ…。ポッ。」

 

 

 「はいはい、くろちゃん、頬を染めて、妄想しな~~い!!」

 

 

 「じゃ、まずは餌をどれにするか、だね」

 

 

 そう言って、アドバイスしていたホームズがエサとして餞別したのは……

 

 

 「何で、いちごパンツなのにゃ~~~~~~!!!!!」

 

 

 ちゃにゃんがいちごパンツをどこからか取りだし、釣糸の先の針に付けているのを見て、突っ込む。

 

 

 「いや、これで釣れるものは釣れる!! ちゃにゃん……、魚にも”ヘムタイ魂”を持っているのさ。」

 

 

 「そんな魚、いる訳ないにゃ~~~~~~~~!!」

 

 

 「ちょ、ちょっと落ち着いて~~!! ちゃにゃん、あれを見て!!」

 

 

 激昂するちゃにゃんに止めを刺されそうになるホームズは指先をくろちゃんの方に向けて、弁解する。

 

 

 「にゃ!!」

 

 

 「ほら、そのおいらの言ったとおりだろ!!?この世界に生きるすべての生き物には”ヘムタイ魂”を持っているんだ!!」

 

 

 二人が見ている眼の先には、早速いちごパンツをエサにして、釣りをするくろちゃんが一度に大量のアユを釣っているのを目撃したのだった。さっきまで一匹も釣れなかったというのに、いちごパンツをエサにしただけで、大量を極める。

 ちゃにゃんはその光景を信じられないと地面に倒れ込む。ちゃにゃんと同様に、し~ちゃんとさっちゃんもドン引きする。

 

 

 「見てみて!!こんなにアユが取れたよ~~~!!」

 

 

 そんなドン引きチームにくろちゃんが釣れたアユを早速見せるために近づく。しかし、ドン引きチームには許容レベルを超える代物を見せられるものだった。

 いちごパンツで釣れたアユはパンツの中でパチパチと跳ねていて、パンツが飛んだり跳ねたり飛び出して来たりして近づいてくる。これを見てみて~~!!と嬉しそうに近づいてくるくろちゃんにちゃにゃんが一発の鉄拳をお見舞いする。

 

 

 「止めるにゃ~~~~!! そんな代物、私達に近づけないでほしいにゃ!!」

 

 

 「な…、何で~………?」

 

 

 鉄拳のお見舞いを受ける理由が分からないくろちゃんは殴り飛ばされ、軽く気絶した。そして、ある意味恐怖を味わらずに済んだと胸を撫で下ろすし~ちゃんとさっちゃん。そして、くろちゃんの屍をつんつんと突くhukaを置いて、ホームズがいちごパンツでのアユ釣りをする。

 

 

 「こんなに取れるのにな~~。これこそヘムタイ達の釣りロマンというもの…。どんな障害があっても、絶対に成し遂げてみせる!!」

 

 

 となんだかよくわからない事を話し、釣りをするホームズの釣糸がぴくんと引かれた。

 

 

 「よし、掛かった~~~~!!!!」

 

 

 その一瞬を見逃さなかったホームズはリールを回して、アユを引き上げようとする。

 

 

 しかし、一向に釣れるどころか、かなりの引きでホームズが川に引き摺られそうになる。

 

 

 「こ、これは…!!アユではない!! もしかしたら大物かもしれない!!

  くっ!! 負けない、ぞ~~~~~!!」

 

 

 ホームズの真剣な表情に、いちごパンツの事は忘れ、屍化しているくろちゃん以外がホームズの身体にしがみついて、支える。

 

 

 「う~~~~~!! 何これ!! 」

 

 

 「どんだけ、力強いの…!?」

 

 

 6人がかりでも抵抗される大物?に苦戦していると、ホームズが支えてくれるちゃにゃん達に大声で言う。

 

 

 「みんな…!! おいらが合図したら、一斉に引っ張ってくれ!!」

 

 

 みんな力強く頷き、それを確認したホームズは空気を口にいっぱい吸い込んだ。

 

 

 「行くぞ!! いっせ~~~~~の!!」

 

 

 「「「「「「どりゃ~~~~~~~~~~~!!!!!!」」」」」」

 

 

 後ろに引っ張った瞬間、とうとう大物を川から吊り上げる事に成功し、大物は宙に飛び出す。それにみんなは喜び、抱き合う。

 

 

 

 

 

 

 だが、釣れた物を見たみんなは、その喜びが怒りへと変わる。

 

 

 釣糸に…、というよりいちごパンツにしがみついて、だらりとしているのは、なんと剣崎兵庫だった!!

 

 

 「おお!! みんな、久しぶり~~!! 元気だった!!? もう私事は終わったから、今日からまたよろしく!!」

 

 

 私事で一時的にROSEを抜けていた剣崎兵庫の帰還。

 

 

 いつもなら、笑って、みんな「お帰り~~!!」って宴をするけど、この後では…。

 

 

 「いや~~~!! いちごパンツが流されていたから、ゲットしようとしたのに!!

 

  あ、ほーちゃん、このパンツもらってもいい?

 

  ヘムタ~~~~イ、トゥ!! 剣崎兵庫参上!!」

 

 

 いちごパンツを釣り針から外し、ゲットして、ジャンプし、着地してポーズを決めた剣崎兵庫は、ついに理性がきれたちゃにゃん達、純情な乙女の手により、抹殺された…。

 そして、剣崎兵庫が締め上げられている中、いちごパンツでまた釣りをするホームズにも、剣崎兵庫と同じ末路を辿る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 その夜、丸太で作った櫓に火をつけ、キャンプファイヤーをするROSEのみんな。

 

 みんなが採取した山菜や木の実を使った、山の新鮮な食材の料理が並び、美味しそうに食べる光景が広がる。

 

 しかし、その中で、数人が顔で判別する事が不可能なくらいにたんこぶや腫れを作っている。正座で行儀よく食べているその数人を見て、ミナホは頭を抱える。

 

 

 「NSTの出張版って、ほんとうに厄介だ~…。」

 

 

 結局、アユは食べれず、裏で指示していたすべてのヘムタイの統括……、マサやんの手足をを木に縛りつけ、ミナホがtokoと一緒に狩ってきたイノシシと隣り合わせにして、丸焼きをする。キャンプファイヤーの火の中に突っ込んで。

 

 

 「止めて~~~!! 熱い!!日焼けする~~!! 全裸だから~~!!」

 

 

 「日焼けじゃないよ、火焼けだから…。

 

  もう少し、香ばしく焼いてから取りだしてあげるから…。それまで、焼かれてて♡」

 

 

 火炙りの刑を受けているマサやんにどこか闇に落ちたような顔で薄く笑うミナホ。

 

 

 ヘムタイ達にドSを発揮し、今日の鬱憤を晴らす。HMTの隊員たちは満足そうに見ていた。

 

 そして、そのまま、今回、新たにメンバー入りしたギルド一の最強魔法師になったユッキーの歓迎会を始める。

 

 

 それからは大いに盛り上がって、最後にNSTを無事に抹殺し、キャンプファイヤーの締めとして持ってきていた花火で遊んで、山でのキャンプファイヤーは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 NSTにとっては地獄の煉獄を思わせる休日となった事は言うまでもない。

 

 

 

 

 ただし、このような目に遭っても、NSTのヘムタイ魂は決して消える事はない!!

 

 

 いつか、ヘムタイの真の栄光の光を手にするため、NSTは更に強くなる…!!

 

 

 さぁ!!立ち上がれ!! ヘムタイ達よ!!

 

 

 

 

 「「「「「「いや、立たなくていいから~~!!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 




いや~~、もう笑うしかないよね、普通はパンツで釣りは出来ないから!!

でも、それができるのがヘムタイなのさ!!

で、書けなかったけど、ヘムタイ釣り以外にも、色々とヘムタイ騒動がありました。
気になる人は妄想するなり、感想で聞いてくださいな!

もしかしたら、本編のあとがきとかでちょろっと書くかも…?


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炎獣の正体

暁彰は怒る!! 


 

 

 

 

 

 

 向かい合う暁彰とドレーナ…。

 

 そのお互いを見る目には、何か試しているような、観察しているようなものだった。

 

 

 二人から漂う重苦しい雰囲気に凍りついたように、動けずに立ち尽くして二人を見守る戦闘員たちは、額に汗を流し、この状況を静かに静観するしかない。

 

 

 「……私があなたに鍵を差し出すと? なかなか面白い事を言うのね、暁彰さん?予見なんて口にして。」

 

 

 「いや、これは予見じゃない。絶対に起きる嘘偽りない”結果”だ。」

 

 

 「まるで、先の事が分かっているような言い草ですわね。」

 

 

 「その通り。君を直接見て、確信した…。 」

 

 

 「あら…、そう………。」

 

 

 含み笑いをして、会話する二人だが、二人が放つオーラは腹黒くて、既に対峙している。

 

 

 「なら、その”結果”とやらを燃やしてあげるわ、あなたと一緒に…!!」

 

 

 ドレーナは背中に控えさせていた鷹の炎の翼を大きく広げ、翼から無数の炎の羽を矢の如く、高速で暁彰に発射する。無数の炎の刃となった羽を暁彰は難なく躱す。その動きはまるで、どこから飛んでくるか分かっているかのようなものだ。

 そして、暁彰も水の魔法で応戦する。この部屋に到達する前に、各部屋や廊下に配置された水道管から水を手に入れ、球体状にして圧縮し、持ってきていたから、水での攻撃魔法を使う事が出来た。

 『水鉄砲』を散弾化し、ドレーナに放った攻撃魔法は、暁彰と同じく、右…、左…、とこれまた少しの動きだけで簡単に躱していく。

 

 二人とも、まったく互いの攻撃に当たらない。それどころか、躱し方も攻撃手段もまるで同じ…。

 一向に勝負がつかない。隅で見守る戦闘員たちもまさかの強者登場で、ドレーナがピンチになるかもしれないと焦りを持つ。

 

 激しい攻防が続き、いつの間にか、魔法剣での空中戦となっていた暁彰とドレーナは互いの剣を交え、大幅に距離を取った。

 

 

 「想像していたが、やはり時間がかかるもんだな。はあ…。」

 

 

 「久しぶりに手応えありそうな方と戦えて、この子も満足みたいよ?

  でも…、私、もう疲れたの…。この辺りで終わりにしたいのだけど…、いいかしら?」

 

 

 「炎獣でか?」

 

 

 「ええ…、そうよ。 私はこの子達の力を最大限に引き立てる事が出来るから…。便利な道具でしてよ。」

 

          ・・・・

 「……その炎獣たちを造りだすなら、俺は君を許す訳にはいかない…。」

 

 

 「別に、あなたに許されたいとは思っていないから、大丈夫よ。」

 

 

 嫌悪感を隠さない暁彰を、無表情で受け止めたドレーナは指を鳴らす。振動系魔法で指を鳴らした音を増幅させ、部屋中に響かせる。

 

 その音に、突然静観していた戦闘員たちが苦しみ出し、悲鳴を上げ始める。

 

 

 「あ、熱い……。体が熱い…。」

 

 

 「燃える…!! 苦しい………!!」

 

 

 戦闘員たちは次々に倒れだし、悶え、苦しみ、身体から炎が沸き起こり、その炎が身体を侵食していく。

 

 

 「俺の身体…、が…、燃えていく…!! ドレーナ様~~~~!!」

 

 

 「意識が……薄れ…、ていく…。 うううぅぅ~~~!!」

 

 

 「御、御助けを~~~!! ドレーナ様~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 「「「「「ドレーナ様~~~~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 助けを求める戦闘員たちに、一切目を向けずに当然というべき態度で彼らが炎に包まれていくのを平然と待つ。

 暁彰は穴から溜めていた水を洪水のような流れで戦闘員たちに発動し、火を消そうとする。しかし、彼らが発する炎の凄まじい勢いで水は蒸発する。

 そして、戦闘員たちは人の姿を失くし、その代わりに炎が大きくなっていき、次々と炎獣が現れた。その炎獣たちの数は炎に包まれていった戦闘員たちの数と同じ…。

 

 

 「どう…? 面白いショーだったでしょ?」

 

 

 自慢のショーが成功したかのように微笑むドレーナの問いかけに暁彰は……

 

 

 「………俺はやはり君が嫌いだよ、ドレーナ。たとえどんな理由があろうと…。」

 

 

 「…それは私もよ。私もあなたは嫌い…。」

 

 

 

 

 

 憎悪の視線を向ける暁彰は、怒りに満ち溢れる。その怒りをさらりと受け止め、挑発的な視線で見つめ返すドレーナ。

 二人の闘いはまだ終わらない…。

 

 

 

 

 

 

 そして再び、現れた炎獣たちの脅威に、暁彰は一人で立ち向かう事になる…!

 

 




はいはい…、実は炎獣は元人間でした。

それを暁彰は知っていて…。 何で知ってるんだろう…?


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炎の決着

怒り心頭の暁彰、フルパワーだぜ!


 

 

 戦闘員たちが炎獣になり、変わり果てた状態を前にして、暁彰のドレーナに対する怒りは許容できるものではなくなった。

 例え、敵だとしても、仲間を”道具”として使うのは、許せない。

 暁彰はドレーナに鋭い視線をぶつける。その視線を向けられているドレーナは不快な視線を返し、ため息を吐く。

 

 

 「あなたって…、変わっているわね…。敵に怒りを覚えるくらい感情豊かだったかしら?タツヤ族って…。」

 

 

 「俺は至って、普通ですよ。 俺の場合は、”仲間”が唯一愛せる存在というだけですよ。たとえ、敵だったとしても、仲間をないがしろにする誰かさんを見ると、怒りを覚えるのは当然だと思うけどな。」

 

 

 「あらあら、言ってくれるじゃない。本当に、タツヤ族って融通が利かないわね~。」

 

 

 「…それは、君もだろ? 同じタツヤ族出身の君だから、俺との格闘戦でも一歩の後れを取ることなく、それどころか、全く同じ躱し方、戦い方をしていた。

  これは、タツヤ族の戦闘方法だからな。」

 

 

 「……気付いていたのね。いえ、視たから分かったという事ね。

 

  ええ、そのとおりよ。私もタツヤ族。だから、お互い、戦っても、決着がつかないことは理解できるのではなくて?

  タツヤ族秘伝の『精霊の眼』がある限り、あなたの攻撃もすべてどこから狙ってくるのかもわかるわよ。」

 

 

 そう…、ドレーナはこの国で最強ともいわれるタツヤ族の血を持つ者。暁彰と同じく、『精霊の眼』を持っている。うかつに勝てる相手ではない。

 もし、ここにホームズ達潜入組がいたら、そういう事かと納得するだろう。

 この本部棟に潜入する際に、『幻影投影』で姿を隠し、防音効果の障壁までしていたのに、そこにホームズ達がいることがわかっていて、ホームズ達の曲芸を笑いをこらえてみているような素振りをしていた。あれは、『精霊の眼』でホームズ達を見透かしていたのだ。

 謎が解けたと言いそうだけど、先にホームズ達を行かせてよかったと暁彰は思っている。特に、くろちゃんとちゃにゃんは幻影を使っての錯乱戦法を用いて、戦う事に慣れてしまっている。だから、光学系魔法を得意なちゃにゃんとの連携魔法はすぐにドレーナに見破られ、倒されてしまう。他のみんなも攻撃を『術式解散』で無効化される。その事を一番よく知っている暁彰はこの場からみんなを離した。

 ドレーナも暁彰の事は『精霊の眼』で構造を視て、タツヤ族だと理解し、暁彰に乗って、先に行かせたのだった。

 

 

 「タツヤ族ならわかっているわよね?私もあなたも所詮は”道具”。

  おのれに刻まれた唯一の感情だけを愛し、それを守るためだけにいる存在。

  私はそのために、ここにいるのよ。だから、部下達が”道具”になろうが、私には関係のないこと。構いたてするほどのものではないわ。」

 

 

 「…人を炎獣に変えてもか?」

 

 

 「言っておくけど、私はただ炎獣に変化する部下達を与えられたから、それを使ったまでの事。それだけよ、本当に。」

 

 

 「…なるほどな、炎獣へと変化させる遺伝子操作を行う薬を開発し、それを実験体として部下達に与え、君の所有物にしたという事か。カバルレなら考えそうなことだな。」

 

 

 「敵の言葉をそのまま受け取っていいのかしら? 嘘をついているかもしれないわよ?」

 

 

 「それはない。 利益を生まない”嘘”を吐くなんて、無駄な事はしないだろう?」

 

 

 「……これも遺伝というやつね~…。本当に可愛くないわ。」

 

 

 「それはお互い様だと思うぞ。」

 

 

 「そうね、…ところで、どうします? 今は大人しく従ってくれている炎獣たちをあなたは倒す事が出来るかしら。

  お仲間さんは炎獣の正体を知らなかったから、倒してしまったけど。

 

  この子達、炎獣になって、人間の時の記憶は一切消えてしまったけど、人間の時の知恵や思考力は持っているわ。知恵があるから、そう簡単には倒せないわよ。」

 

 

 挑発するような口調で、暁彰の怒りを煽るドレーナに、暁彰は微笑する。

 

 

 「それに関しては問題ない。」

 

 

 

 

 

 

 一言つぶやいた暁彰は拳銃型CADを炎獣たちに向け、引き金を引く。

 

 

 発動したのは、『雲散霧消』と『術式解散』。

 

 

 炎獣たちの炎の身体を消し去る。

 

 ちょうど、炎獣たちの心臓部分に位置した場所に、霊子が漂っていた。その霊子には、暴走を止めるためと、呪縛の起動式が張り付けられていた。それを『術式解散』で無効化し、カバルレに使う予定だった、たった一回だけの精神干渉魔法、『コキュートス』ですべての炎獣たちの霊子を凍らせた。

 

 粉々に崩れ、消えていく霊子を見送る暁彰。

 

 

 圧倒的数がいた炎獣全てをこれで撃退した暁彰は視線をドレーナに向ける。

 

 

 「やってくれたわね…。まぁ、分かっていたのだけど。

 

  それで、あなたはカバルレを倒すための切り札を失くしてしまったわね。」

 

 

 

 「ああ…、わかっている。でもまだ勝機は消えていないさ。

  

  それに、本当に君がだれを愛していて、守ろうとしているのか…。…も分かっている…。

 

 

  だから、俺はここで君と対峙しているんだ。」

 

 

 

 意味深な言葉を口にし、ドレーナに手を差し伸べる暁彰は、既に先を見通した眼差しをしていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、ドレーナの秘密がちらりと明らかになりました。

あの時の布石を少し取らせていただきました。うんうん、似た者同士だからこそ分かるっていいな~。 敵だけど。


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最終決戦前の合流

さて、もう一人の最高幹部の方もやらないと。
活躍待っている人がいるから!!


 

 

 

 

 

 

 「暁彰…、大丈夫かな?やっぱり戻って加勢した方がいいんじゃない?」

 

 

 先に行って、螺旋階段へと通じる連絡橋を渡り、大きく広がった空間に天井まで続く黄金色の筒状とそれに繋がっている巨大な扉が見えてきた。

 その扉の前に辿り着いたホームズ達は暁彰が来るのを待っていた。その中でくろちゃんが自分たちが来た方向を見ながら、提案したのだった。

 

 

 「…気持ちは分かるけど、戻らない方がいい。おいら達が行っても、多分…、もう終結していると思う。」

 

 

 「え? それってどういう事にゃ?」

 

 

 「気付かなかったか? 暁彰が現れる前、ドレーナはまるで暁彰が現れるのか、分かったかのような反応をしていた事を。おいら達だって、来てくれるか賭けていたのにだ。『精霊の眼』を持った暁彰なら、おいら達の居場所なんかすぐに分かる。だから、それに賭けて、時間稼ぎした。何とか暁彰に来てもらえてこうしてここまで来れたけどな。」

 

 

 「………それって、ドレーナが暁彰と同じ『精霊の眼』を持っているって事?」

 

 

 「……そう考えた方があの時の事を納得できる。」

 

 

 ちゃにゃんや御神に仮説を説明しながら、ホームズは潜入する際のドレーナの行動を思い出していた。しかしそれと同時に、疑問も生まれる。

 もし、あの時、自分達の存在に気づいていたのなら、自分達は本部棟に入る事も出来なかったはずだ。敵にバレていたのだから。なんだかの侵入妨害や警報装置が働いていてもおかしくなかった。しかし、そんな罠には引っかからず、こうしてカバルレとの対決まであと一歩の所まで来ている。

 ホームズは、ドレーナの真の目的が何か、情報不足で理解できず、顎に手を当てて、考え込む。

 

 

 「……ほーちゃん、大丈夫? なんだか顔が怖いよ。」

 

 

 「ホームズ、考え事している…。何か作戦考えているんじゃない?……ボリボリ。」

 

 

 くろちゃんと火龍人がホームズを挟んで、会話する。

 

 それによって、思考の渦に引き摺られかけたホームズは現実に戻り、心配かけまいと微笑した。

 

 

 「ううん、何でもないぜ。 さぁ、暁彰が来るまで、ここで待っていよう。

  大丈夫、暁彰なら、きっと鍵を持って、ここにやって来るって。」

 

 

 

 

 

 

 

 「………私の名を呼んだか? ホームズさん。」

 

 

 「ぶへばご~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 「「「「「ピキャ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 いきなり後ろから声を掛けられたホームズは奇声を上げ、それに驚き、ここにいる全員(未だ気絶しているワイズさんとオドリー以外)も奇声を上げる。

 

 

 後ろを振り返り、声を掛けてきた相手を確認すると、そこには、暁彰の姿があった。

 

 

 「………みんな、そんな声出して驚かないでくれないかな?

  少し…、寂しかったよ。」

 

 

 「いやいやいや!! いきなりこっそりと耳打ちで声かけられたら、誰だって心臓跳ねて、ビックリ仰天だからな!!」

 

 

 「私達はホームズの奇声で、ビックリしたけどね!!」

 

 

 「………まぁ、驚かせたみたいだし、ごめん。」

 

 

 みんなの驚きっぷりに若干、口元が緩んだ暁彰だが、現況を作ってしまったと自覚はあるので、一応、謝っておく。

 

 ホームズは動悸を正常にするため、深呼吸を繰り返し、落ち着いてから、暁彰に話しかける。

 

 

 「お疲れ様。 で、鍵は手に入ったのか?」

 

 

 「ああ、この通り鍵の一つは手に入れた。」

 

 

 そうしてジャケットの内ポケットから取り出したのは、黄金で作られた鍵だった。鍵穴に差し込む場所には、何やら、起動式が事細かく刻まれ、少しずつランダムに動いていた。

 

 

 「…どうやら本物みたいだね。」

 

 

 「凄いな、暁彰は!! ドレーナからよく奪い取ってこれた!!」

 

 

 「…これはまさしく、ドレーナ様がカバルレから渡されていた最上階へと通じる螺旋階段の扉の鍵ですわ。」

 

 

 暁彰が持つ鍵をリテラとワイズさんとオドリーがまじまじと観察し、コメントする。

 ワイズさんとオドリーは先程の奇声で意識を取り戻していた。

 

 

 「………実は、この鍵は…」

 

 

 「お~~~~~~い!! みんな~~~~~~!!!

 

 

  もう来ていたんだね!!」

 

 

 暁彰が何か言おうとしたその時、反対側の連絡橋からミナホ、toko、huka、サガット鳥になる日、さっちゃん、し~ちゃん、ショウリン、RDC、るーじゅちゃん、ペンダゴン、剣崎兵庫が少しボロボロだが、みんな、笑みを浮かべて、現れた。

 

 

 「あ!! みんな~~~!! 無事でよかった!!確か、そっちは…」

 

 

 「うん…。ウォンとターン双子と対戦して、ここの鍵?ってものをゲットしてきた!!」

 

 

 ミナホが息を荒げながらも清々しい笑顔で見せたその鍵は、暁彰が持っている鍵と同じものだった。

 

 

 「よし、これで必要なものは手に入った訳だ!!」

 

 

 「これで、やっとカバルレを倒す事が出来る!!」

 

 

 「……倒したら、みんなで宴しよう!!」

 

 

 「「「「「「「「「「おおおお~~~~~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 ROSE全員合流し、カバルレとの決戦前に雄叫びをして、気合を入れる。

 

 その様子を見て、苦笑する暁彰。

 

 

 

 

 

 

 (……まだ、みんなには言わないでおこう。特に、………には。)

 

 

 

 

 そう心の中で、呟いた暁彰もみんなのノリに乗って、カバルレとの決戦に向けて、意気込む。

 

 

 

 




やっと、みんな合流した~~!!

でも、カバルレとの決戦前に、ウォンとターンの対戦も時間をさかのぼって、します!!



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水のフィールド

ドレーナ編が終わり、今度はウォンとターン双子の対戦だ!!


 

 

 

 

 

 

 くろちゃん達がオドリーを仲間にし、最高幹部ドレーナと炎獣たちとの戦いに身を馳せ参じている頃…、もう二人の最高幹部が制する部屋に残りのROSEメンバーが集結し、対峙していた。

 

 

 「あれ~? ねぇ~、ウォン!! 敵がここまで来ちゃったよ?おかしいよね?」

 

 

 「そうだよね~、ターン!! おかしいよね?」

 

 

 「ここに来る前にたくさんのトラップがあったのに~~!!」

 

 

 「擦り抜けてくるなんて~~!! 空気読めなさすぎだよ~~~!!」

 

 

 見た目はそれなりに成長した青少年たちなのに、言動が子供臭い最高幹部の双子にやっとの思いでここまで来たROSEメンバーは、突っ込む余力が皆無に近かった。

 だから、ハイテンションな双子に少しばかりの苛立ちがあったのは事実で、双子に話しかけるミナホの声色もその感情が少し出ていた。

 

 

 「わざわざ敵の望む展開に、『ハイ、分かりました。喜んで負けます。』…なんてやらないから。

  それよりも、あなた達を倒して、先に行きたいのだけど、いいよね?」

 

 

 いつものテンションがでないミナホに、ここまでの道のりでほぼ怪我もなく、辿り着いたtokoはどうフォローすればいいのか分からず、オロオロしだす。

 tokoもそれなりのトラップを潜り抜けてきたが、その大半は戦闘員の待ち伏せによる戦闘部屋ばかりで、tokoは魔法を使わず、ただ己の気配を消すという高難度の人間業を用いて、戦闘もせずに素通りしてきた。もちろん、後で気付かれて追ってこられても嫌だから、去り際に部屋から閉め出して、相手のトラップを逆にお見舞いするなどといった、意外に容赦ない方法で殲滅した。それゆえ、魔法力も体力も万全に近い状態で確保している。だから、弱気切ったところを叩くという相手の思惑に嵌らずに済んだが、そうではなかったミナホ達になんだか申し訳ない感が肩にのしかかってくる…。

 

 とにかく鬱憤を晴らしたいといつもよりどす黒くなってしまったミナホをこのままにしていいのだろうか。それとも宥めて落ち着かせた方がいいのか…と悩むtokoだった。

 

 

 「ねぇ~、ウォン? さっきからあそこでオロオロしているもやしがいるけど、なんだか弱く見える~~!!」

 

 

 「そうだよね~、ターン!! 弱いくせに僕たちを倒そうって考えている愚か者だよね~!!」

 

 

 「うん、ウォン!! 愚か者、愚か者!! それに、さっきから僕たちをものすごく睨んでくるあの子も愚か者だよね~~!!」

 

 

 「そうだよね~、ターン!! 愚か者、愚か者!! 僕たちに安易に話しかけてくるし、生意気だし~!! 一番の愚か者だよね~!! 鼻につくよね~!!」

 

 

 くすくすと笑って、tokoを指差して、悪態つく様子にtokoは先程までの行動とは打って変わり、怒りのオーラを身に纏う。

 

 指を一本ずつ鳴らし、歯軋りする。

 

 そのさっきまでとの変わり様に、逆にミナホ達が一斉に驚く。

 

 

 

 

 

 「おい…、そこの双子…。

  言っておくけど、私は…

 

 

 

 

 

             もやしではな~~~~~~~~~~い!!!!!」

 

 

 

 

 人差し指をビシッと力を入れ、双子に怒りをぶつけるtokoを見て、ROSEメンバーは冷静さを取り戻す。そして、思った。

 

 

 

 

 ((((((((もやし…、嫌なんだ…。))))))))

 

 

 (でも、tokoは優しくて、褒め上手で、頼りになる仲間だからね!!うちはそのまんまのtokoが好きだ!!)

 

 

 みんながtokoの発言に親身になり、ミナホが心の中でtoko大好き宣言をする。

 

 しかしそれを知っているかのように、tokoがさっきよりも憤りを露わにして、怖い顔で双子に激昂する。

 

 

 

 

 「後、これが一番大事だけど!!

  ミナホさんをバカにするんじゃない!!ミナホさんはいつも私に、楽しい気持ちで包んでくれる大事な仲間です!!

  ミナホさんをバカにした双子には、その報いを受けさせてあげますから!!」

 

 

 

 

 顔を真っ赤にして、大声で宣言した勝利宣言?に双子はブスッとした不愉快な表情をし、ミナホはズキュ~~~~~~~ン!!…とハートを射抜かれ、嬉しさのあまり、tokoに抱きついて、可愛い、可愛いと撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 




闘いの前栽という事で、約束通りにtokoを男気?溢れる活躍ポイントを作ってみました!!

これからもtokoのいいところを引き出してみたい!! うちもtokoに感謝の気持ちを!!




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『アクアボール』の脅威の始まり

tokoからの応援メッセージ受け取りました~~~~~!!

よし!! ウォンとターンの双子を倒しちゃいましょう!!

すぐには倒れないけど。最高幹部だし。


 

 

 「ねぇ~、ウォン。僕たちを無視して、遊んでいるよ。」

 

 

 「そうだね、ターン。僕たちより目立っているよ。」

 

 

 「「……殺しちゃおっか!!」」

 

 

 ウォンとターンは妖艶な笑みを浮かべ、ウォンは右手を、ターンは左手をお互いに握り合って、鏡のような動きでミラーダンスをして、指を鳴らした。

 すると、壁に設置されているポンプから大量の水が滝のように流れ、溢れだす。その勢いよく流れだして、部屋に流れ出す水が、どんどん部屋の中心に集まり、大きな水の球体になった。

 

 双子で『アクアボール』を発動し、収束系魔法で水を球体化させたのだ。

 

 

 「あんなに、大きな『アクアボール』作ったりして、何をするんだろうね~。」

 

 

 「ただ力を誇示したかっただけなんじゃないの?」

 

 

 サガットとhukaが宙に浮く『アクアボール』をまじまじと観察して、結論する。その結果、双子の怒りが爆発し、

 

 

 「「僕たちの実力に屈してよ!!」」

 

 

 『アクアボール』にお互いの手を握ったまま、双子はもう一つの空いた手で触れ、鉄砲の形を作る。そして、撃つ真似をした。いや、実際に撃ったのだ。―――――水の弾丸で。

 『アクアボール』から分断された水の鉄砲玉が、tokoたちを襲う。

 

 tokoたちは障壁を張りながら、散弾銃のような攻撃を防いでいく。そしてROSEのみんなも『レザービーム』、『魔弾の射手』等で反撃するが、巨大な『アクアボール』に攻撃が吸い取られたり、跳ね返されたり、『アクアボール』の中で途切れたり…。双子まで攻撃は届かない。

 

 それと反対に、双子の攻撃は着々とROSEの障壁ごと、高速で加重系魔法もマルチキャストされた水鉄砲によって、押され気味だ。

 ROSEは今は防戦一方になりつつあった。

 

 

 「くっ!! なかなか先に進まない…!!」

 

 

 「それよりも、こっちが押されてきているよ!!」

 

 

 「あの生意気なガキんちょどもに、こっちの攻撃は全て外れて、倒せないよ~。」

 

 

 「どうやって、この…、わあああっ!! あっぶねぇ~~!!

  とにかく、この状況を何とかしないと!!」

 

 

 鳥になる日、し~ちゃん、るーじゅちゃん、RDCが焦り始める。

 4人は障壁魔法を展開し、防御を徹底していた。huka、サガット、ミナホ、tokoも攻撃担当として、狙って攻撃しているけど全然当たらず、徐々に消耗していた。そんなみんなに、ペンダゴンや剣崎兵庫もまだ幼いなりに初参戦するショウリンを後ろで守りながら、攻撃と防御に補助魔法をかけている。しかし、情報強化しているというのに、障壁を水の鉄砲玉が貫通してきて、危うく着弾しそうになるるーじゅちゃんとし~ちゃん。

 その状況に慌てて、攻撃に回っていたtokoとミナホが迫ってくる水の鉄砲玉を正確に照準を定めて、加熱系統魔法『ファイアボール』を圧縮させた火の鉄砲玉を対抗弾として変数化し、互いをぶつけさせ、相殺し、防御担当の鳥になる日たちのフォローに回る。

 

 これで、完全に防戦に回ってしまったROSEに双子がくすくすと笑って、唇を上へと吊り上げ、偉そうな視線をROSEに投げてくる。

 

 

 「ねぇ~、ウォン!! 見てみて!! あんなに啖呵切っていたのに、僕たちにヤラレ放題だよ!!」

 

 

 「そうだね、ターン!! 僕たちをこれまでの馬鹿な部下達と一緒にしてもらっても困るよね~~!?」

 

 

 声色を高めにして、人の怒りを煽るような言い方をする双子に激しい怒りと鬱憤が溜まっていくtokoたち。

 

 しかし、双子が言っている事が事実なだけに、自分にもわずかな怒りを持つ。

 

 双子が『アクアボール』を攻撃にしていると同時に、自分達を守る盾としても利用していて、無駄がないのだ。

 攻撃と防御を最小限にしているから、ROSEの障壁に強い干渉力を与えて、剣崎兵庫とペンダゴンの情報強化を破り、障壁を貫通する事ができたのだ。

 

 

 一方的な攻撃を強いられるROSEは巨大な『アクアボール』が縮んでいっているのを確認し、もう少しの辛抱だと考えていた。

 

 

 

 「ねぇ、ねぇ~!! ウォン!! あの顔を見て!! この攻撃を防げば、攻撃のチャンスができるって思っている顔だよ!!」

 

 

 「そうだよね、ターン!! これで御終いじゃないのにね~~!!」

 

 

 「「「「「え………?」」」」」

 

 

 防御担当の鳥になる日たちは双子の言葉に耳を疑う。

 

 

 「これは、ほんの余興だよね~♪」

 

 

 「これからがイッツ、ショータイムなんだからね~~♪」

 

 

 

 

 双子が待っていましたというように、嬉しそうに笑う。

 

 

 

 

 そう…、これはまだ、ROSEを殲滅するための始まりしかなかったのだった…。

 




『アクアボール』をゲームの図鑑で見た時、これで話を持って行ける!!って考えてしまった…。

でも、これでいいんだ!! 最高のエンターテイメントだぜ!!←誰だよ!!


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ショウリンの参戦デビュー

実は、みんなについてきていたショウリンです!!

まだ子供ですが、ROSEの一員としてぼくも戦います!!

…ってことで、ここにいます。そんなショウリンの輝かしい舞台を…!!


 

 

 

 

 

 「「そ~~れ!!」」

 

 

 双子が息を合わせて、魔法を発動する。でも、何も変化はない。ただ沈黙が続く。いったい何が始まるんだろうとミナホ達が考えていると、突如ショウリンが慌てて大声で警戒を言う。

 

 

 「みんな!! しゃがんで!!」

 

 

 「どうしたの!? ショウリ………!!」

 

 

 振り向き様に問い返したるーじゅちゃんに水の鉄砲玉が着弾する。圧縮され、高速で飛んできた玉はるーじゅちゃんの身体を貫き、再び『アクアボール』に戻っていった。

 

 

 「「「「「るーじゅちゃん!!」」」」」

 

 

 「しっかりしてっ!!」

 

 

 「早く止血しないと!!」

 

 

 「ぐわぁっ……、はあ…、はあ…、はあ……」

 

 

 一瞬息を止めていたるーじゅちゃんが咳き込み、荒呼吸し出す。ミナホがるーじゅちゃんの診断をして、るーじゅちゃんの状態を確認する。幸い、急所は外れ、命には別状ないが、戦力としては厳しくなった。

 ミナホはそのまま、るーじゅちゃんに治癒魔法をかけ、治療に入る。

 

 

 「……ショウリン、双子の攻撃がどこから来るか、もしかして分かる?」

 

 

 「え、う、うん…。この眼で一瞬だけ見れたけど…。」

 

 

 るーじゅちゃんに治癒魔法をかけながら、ミナホはショウリンに聞いてみた。るーじゅちゃんが攻撃を受ける前に、ショウリンはみんなに伏せるように言っていた。

 それは、ショウリンが『精霊の眼』で双子の攻撃の照準ルートを視たからだった。

 ミナホはそれを確認し、るーじゅちゃんから視線をショウリンに向け、まっすぐに話す。

 

 

 「ショウリン、悪いけど、今はあなたの『精霊の眼』が頼りなの!

  あなたのその眼で、相手の攻撃を読んで、みんなをサポートしてくれない?」

 

 

 「……う、うん!! やってみる!!」

 

 

 ショウリンは初めての戦いに自分は足手まといだと思っていた。実際ここに来るまでに、何もできずに、ただ合流したみんなの背に守られてきたからだ。まだ全然魔法も使えなくて、『精霊の眼』しかコントロールできないため、ただみんなが戦う背中を見る事しかできなくて、歯がゆい気持ちとやるせない気持ちでいっぱいだった。

 だから、ようやく自分の力が役に立てることができると知って、うれしかった。もうみんなが戦っている背中だけを見なくて済む。そしてみんなに一歩、近づけたと感じたショウリンは少し魔法師としての階段を上り始めた瞬間だった。

 

 ミナホの頼みに、ショウリンは力強く頷き、深呼吸をして、『精霊の眼』を解放する。

 

 部屋中にショウリンの世界が広がっていく…。

 

 

 

 そして、双子は満面の笑みを浮かべて、もはやCADを使わずに、『アクアボール』の形態を変え、いろいろな形を作り出していく。

 

 でも、ショウリンには、双子の狙いが手に取るようにわかっていた…。

 

 

 「みんな…!! あれに惑わされたらダメだよっ!

  ……二時と七時、十時の方向から水鉄砲玉が散弾で来る!!」

 

 

 ショウリンのアドバイスでし~ちゃんとさっちゃん、RDCがそれぞれの方向に障壁魔法を展開し、攻撃を防いだ。

 

 

 「………上からも来る!! 今度は加重系統魔法もマルチキャストされているよ!!」

 

 

 次のアドバイスにもtokoとhuka、サガットがすぐにCADから魔法を読み込み、サガットが『斬鉄』の魔法をかけた小刀を投げ、重力の乗った水の塊を真っ二つにすると、hukaは加熱系統魔法で蒸気に変え、tokoは発散系統魔法で細かく破裂させた。水飛沫が激しく飛び、辺りに散らばる。

 

 

 双子は自分たちの攻撃を防がれ、訝しる。

 

 

 その一方で、ROSEのみんなからは褒められる。

 

 

 「…ショウリン、すげぇ~!!」

 

 

 「なんだか、楽だわ!!」

 

 

 「どこから来るかわかるだけで、変な気を回さなくていい分、魔法に集中できるからね。」

 

 

 「ショウリン…、ありがとうです!!」

 

 

 tokoが代表で、優しく微笑み、ショウリンの頭を撫でた。

 

 

 ショウリンはその手の暖かさに、自分がみんなの役に立てたという実感を得て、くすぐったい気持ちになった。

 

 

 (ぼく…、もっと強くなるよ…!!)

 

 

 照れながらも、そう心の中で誓うショウリンの顔は、子供らしさがあるものの、芯が座った大人な雰囲気を感じる顔になっていた…。

 

 

 

 

 




久しぶりにショウリンを出してみた~~!!

ここで成長していくショウリン…、みんな見ているからね~!!


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LIFE OR DEAD?

双子の”ショー”という名の遊びが始まる~…。


 

 

 

 

 

 

 ショウリンの『精霊の眼』のお蔭で、双子の攻撃を粉砕するROSE。

 

 

 「あれ~~? ウォン、僕たちの攻撃が防がれているよ~。さっきから!!」

 

 

 「ホントだね~~?ターン。まるでこっちの攻撃が分かるみたい…?」

 

 

 度々防がれて、双子も訝しく思い始めた。

 

 

 いま、双子は攻撃で散らばった水の水滴をいろんな角度から(死角を狙って)飛ばしているのに、それを見抜いているかのように(実際にショウリンによって見抜かれている)相殺したり、防御したりされていて、先程からROSEにダメージを与えられていない。

 

 これでは、せっかくの楽しいショーが興ざめになってしまう…。

 

 

 そう考えた双子は知覚系魔法『マルチ・スコープ』で更に視野を広げ、あらゆる角度からROSEを観察してみる事にした。

 

 すると、さっきからまだ幼い子供が何やら仲間内に声を掛け、指を差したりしている。それ以外は特に魔法を使っている兆候は見られないが、確実にその子供が指差す場所には、ROSEを狙った水鉄砲玉が突進していた。

 双子は「この子供が関係しているんじゃない~!?」と思ったその時、その子供がこちらをずっと視てきたのだ。慌てて『マルチ・スコープ』を解除する。なぜ子供相手に慌ててしまったのか理解できなかったが、ずっとこちらを見る視線が全てを見抜かしている感覚が身体中に走り、寒げがする双子。

 しかし、双子はこれで仮説から確信へと変わる。あの子供が僕たちの攻撃を仲間に教えているのだと…。

 双子が『マルチ・スコープ』で飛ばした視線はROSEにとっては死角で決して見る事が出来ない場所からだったのを、あの子供がしっかりと”こちら”を視たからだ…。

 

 

 そして双子は攻撃を変える事にした。そして作戦も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かを企む表情に変わった双子を見て、し~ちゃんとRDCが眉をしかめ、防御に力を入れる。

 

 

 「ねぇ…、なんか怪しい表情したんだけど、あの双子…。」

 

 

 「…もっと可愛らしい笑顔作れないかな~…。せっかくの綺麗な顔なのに。」

 

 

 「Rっち…。今はそれどころではないと思うけど~…。ま、言いたい事は分かるよ。」

 

 

 「……ごめんなさい。ぼくのせいで、あの双子にバレました。ぼくが攻撃を読んでいる事を…。だから……」

 

 

 申し訳なさそうな顔で謝るショウリンに、みんなは笑顔でショウリンの謝罪を吹き飛ばす。

 

 

 「何言っているのよ、ショウリン!! ショウリンのお蔭で振出しに戻ったんだから!!」

 

 

 「そうだよ!!それに、これは戦いだからね!! 戦況を見て、作戦を練っていくのは、当然!! 相手が手段を変えてくることは別に珍しくないから!!」

 

 

 「そうそう!!こちらのカードを見せたんだから、それに対して双子がどんなカードを切ってくるか……。

  それを見定めれば、後はそれに対抗して勝てばいいだけだから! 」

 

 

 さっちゃんとhuka、鳥になる日がショウリンの謝罪を不要と説き、双子の攻撃に気を配る。

 

 

 

 そのやり取りを聞いていた双子は、頼んでもいないのに、会話に参戦する。

 

 

 「ふふふふふふ!! そうだよ!! その子供の未知な知覚系魔法の所為で、予定が少し変わっちゃった!!やだよ~~、ウォン!!」

 

 

 「そうだよね!! ヤダヤダ!! 折角僕たちのショーを堪能してもらいたかったのに~~!! …だから、もっと引き込まれてくれないと!! ねぇ~、ターン!!」

 

 

 

 双子は長い前髪を手で持ち上げ、素顔を晒す。

 

 

 「「さぁ!!僕たちの虜になってよね!!!!!」」

 

 

 

 ウィンクして、可愛らしい絶境スマイルをROSEに放つ。

 

 

 

 

 輝かんばかりのイケメンぷりの天使スマイルだから、ここがもしステージで、人が盛り沢山だったら、絶対に失神者が続出していただろう。特に、女性が…!!

 

 

 

 そのスマイルを受けたROSEだったが、瞬時に精神干渉魔法への対抗策としてし~ちゃんとさっちゃん達が他のメンバーに自分の相子を直接注ぎ込んで、みんなの体内の相子の波動を乱したため、双子の怪しい”絶境スマイル”にはなんともなかった…。

 

 

 

    ・・・

 そう、戦闘中のみんなには…。

 

 

 

 どんな効果をもたらすものかはわからなかったが、多分精神に直接干渉する魔法だという事は理解していた。その魔法にかかっていない事を確認したし~ちゃん達はほっと息を漏らす。

 

 しかし、後ろから突然人影で横切っていき、ショウリンに向かって行く様子を捉える。

 

 

 「危ない!! ショウリンっ!!」

 

 

 し~ちゃんがショウリンに叫んで、自分も人影の後を追って、駆けだす。

 

 目を見開き、突撃してくる人影に驚くショウリンの目の前に、サガットと鳥になる日が立ち塞ぐ。その際に、サガットがショウリンを横に突き飛ばし、ショウリンをRDCが受け止める。

 

 そしてその人影はサガット達に突っ込んでいき、二人とともに、防御のために張っていた障壁魔法を砕いて、外に出る。

 

 

 三人が固まったまま、障壁の外に出たと同時に、巨大な『アクアボール』から全長3M程の『アクアボール』が飛んできて、三人をすっぽりと吸収する。

 

 

 

 

 三人をそれぞれ吸収した『アクアボール』は双子の方へと移動し、巨大な『アクアボール』も三人が入った『アクアボール』と同じ大きさで分散し、部屋中に散らばった…。

 

 

 

 

 

 「よし!! ゲットできた~~!!」

 

 

 「やったね!! 」

 

 

 互いに手を取り合って、飛行魔法で宙に浮いて、嬉しさで踊りだす双子。

 

 

 その息の合って、楽しそうな踊りとは対象に、双子が微笑む笑みは狂気を逸したように妖艶な物だった。

 

 

 「仲間は僕たちの手の中だよ~~~!!」

 

 

 「さぁ、取り返したかったら、選択してもらおうかな~~!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「仲間を救うために代わりに死ぬか…。」

 

 

 「仲間を見捨てて、己が生き残るか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「”LIFE OR DEAD"!!」」





この選択を持ち出してくる双子!!


ROSEのみんなにはかなりの痛手だよ~~!!どうする~~!!


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卑怯な選択の答え…

果たして、捕らわれてしまったサガットと鳥になる日をみんなは救うことはできるのか!!?
…もう一人いたな…。


 

 

 

 

 「…くっ!! 卑怯な事を…!!」

 

 

 RDCが歯ぎしりしそうな勢いで、怪訝な表情をし、ショウリンを強く抱きしめて、双子を睨み付ける。

 

 ほかのみんなもこの状況に、憤りと驚愕が入り混じって、双子と『アクアボール』で捕らわれてしまったサガットと鳥になる日……そして…、

 

 

 

 

 

 

 

 「……どうして、るーじゅちゃんが二人を…。」

 

 

 

 呆然とするさっちゃんが呟く…。

 

 そう、いきなりショウリンに突撃し、それを庇ったサガットと鳥になる日と一緒に飛び出し、捕らわれてしまったのは、るーじゅちゃんだった…!!

 

 

 「ぐわぁっ……!!  はぁ~…、はぁ~…」

 

 

 るーじゅちゃんの行動に驚いていたみんなは、後ろから呻き声と荒っぽい呼吸が聞こえ、振り向くと、苦しそうにしゃがんでいるミナホがいた。

 急いで、tokoが駆け寄り、背中を擦ってあげると、ようやく意識がはっきりしたミナホが辺りを見回し、そして、『アクアボール』の中で動かないるーじゅちゃんを見て、目を見開く。

 

 

 「はぁ~…、るーじゅちゃん…!!

  お、遅かったか…。」

 

 

 「ミナホさん!! 大丈夫ですか!? …どうしてこんな…!!!」

 

 

 ミナホの身体を支えながら、tokoがミナホに問いかける。この状況に仲間内で一番理解しているのは、ミナホだと思ったからだ。

 

 

 「……あの双子の、良くわからないけど…、スマイル?…、の笑みを見たるーじゅちゃんが治療中に突然、気を失って、再び目を開けた時、うちの横腹に手刀を差し込んできて…、いきなり動き出したんだよね…。うちはちょうどるーじゅちゃんの治療で背を向けていたから、視てなかったんだけど…。あ痛たたた………!!

  ヒィ~…、フゥ~…、強烈な横腹突きで、悶絶していたわ…! で、気が付いたら、あんな感じに…。」

 

 

 「……なんとなく、分かった気がします…。

  るーじゅちゃんは精神干渉魔法による催眠を受けてしまったんですね。

  それなら、不可解な行動にも納得します…。 本当に、ムカつきますね…、あの双子…!!」

 

 

 tokoは未だに薄ら笑いを浮かべ、ROSEの動きを観察する双子と捕らわれのサガットと鳥になる日、るーじゅちゃんに目を向ける。

 サガットと鳥になる日は『アクアボール』の中から脱出しようとするが、中で激しい水の流れが発生しているようで、思うように動けなくなっている。しかしそれ以上に厄介なのは、このままだと三人が窒息してしまう…!!

 『アクアボール』は水を圧縮した収束系統魔法…。水の中にいるのだ。いくら、サガット達でも日頃のギルド内戦闘の賜物(何を隠そう、NSTとのお風呂覗き録画撮影会の攻防戦で、湯船からの突撃とかいろいろあるから、ROSEのみんなは平均より息止めができるのだ!!威張れないけど…。)で、潜水時間が普通より長くいけるとしても、限りがあるのは事実。早く助けないと、三人が危ないのだ。まさに、『水牢』状態…。

 

 

 (こんな時、ホームズか、暁彰、ワイズさんがいてくれたら…!!)

 

 

 ここにいるROSEのほとんどがそう思っていた。やはり戦闘における作戦立案とか、それを可能にするための知識とか、実行力とか…等を兼ね備えているメンバーがあいにく、ここにいない事に不安を少し覚えたのだ。みんな、それなりに実力があるが、誰しも得意分野というものがある。そして、今あげた三人が最もこの展開に徹していて、状況を打破するメンバーなのだ。

 

 

 

 

 頼もしい仲間がここにいない…。

 

 

 

 どうすればいい…!!?

 

 

 

 このままだと、サガット達が…!!?

 

 

 

 「ふふふふふ!! ねぇ~、ウォン!! あの顔見てよ!! 面白い顔しているよ!! どうしたらいいか頑張って悩んでいる~~!!」

 

 

 「そうだね~、ターン!! でも、早くしないと三人とも限界になって、窒息してしまうよ~~!! 目の前で仲間が苦しんでいるのに、助けないとか本当に仲間だと思っているのかな~~!!?」

 

 

 「だよね!! ウォン!!

  ああ~~~…、所詮は見栄っ張りの集団だったんだね~~!!?

  それなら、あの子、もらってもいいんじゃない!!?」

 

 

 「いいよね!! ターン!!

  あの、僕たちを見透かすような目をした子供…。本当は一発目でその子をゲットしたかったんだけどね!! でも、大漁だったから、結果オーライ!!?」

 

 

 「あれは惜しかった~~~!! 悔しいよ~~!!ウォン!!

  でも、ほらあれは? こうして………」

 

 

 「…ふむふむ………。なるほど…。 それはいい考えだよ! ターン!!」

 

 

 「そこの子供~~!! 三人を助けたかったら、人質交換しない~~!!?」

 

 

 

 「「「「「「「はあああ~~~~?」」」」」」」

 

 

 

 

 さっきからROSEのプライドをずたずたとさしてくる双子が何やら耳打ちで会話していて、終わったかと思ったら、ショウリンと三人の人質交換を申しだしてきた。

 ROSEがそれを訝しんで、怪訝に突っ込むのも無理はない。

 

 

 

 「そんな、ばかばかしいやつに乗っかる訳がないじゃない!!?」

 

 

 「私達をバカにするのも大概にしなさいよ!!?このちび双子!!」

 

 

 「そうよ!! あんた達みたいな人を貶して、遊ぶような連中に大事なショウリンを引き渡す訳ないでしょ!!?」

 

 

 怒りが爆発して、双子に嫌味たっぷりに言い放つし~ちゃん、RDC、huka。

 

 

 しかし…、

 

 

 「うるさいな…。黙れよ、おばさん…!! 

  お前達は、まだ自分達の”立場”ってものが分かってねぇ~みたいだな!」

 

 

 「本当にな…。お前達は俺達に指図できる”立場”ではないんだぜ!!

  忘れているのか? 俺達が今何を、手中に握っているのか…。」

 

 

 突然、雰囲気が変わった(変わりすぎだろ!!)双子が手を翳すと、三人の『アクアボール』に『雷撃』、『雷童子』などの電撃を発動させる。水の中にいるため、サガット達は電撃の威力を更にその身に受ける。水中だから、悲鳴の代わりに、もごもごと空気が口から抜け、その余韻が今も『アクアボール』の球体から電撃が迸る…。

 

 

 「わかったか…。 俺達は今すぐにでも、こいつらを仕留める事もできるんだ。

  人質交換なんて、俺達の気まぐれ…、”ショー”なんだ!!」

 

 

 「仲間を囚われている段階で、お前達は既に負けているんだよ!!

  大人しくさっさとその子供をよこしな!! そして、カバルレ様から頂いたこの薬を打って、奴隷にしてやるからな!!?」

 

 

 すっかりと曲芸師のステージの笑顔が消え、悪役きっての凶悪な表情になった双子がそう切り出してくる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ROSEのほとんどはそんな事ばかげていると思った。

 

 

 仲間を差し出すなんて、絶対にさせないと…!!

 

 

 しかし、固まっているROSEの中から、一人…、双子の方へと歩み寄る姿が…。

 

 

 

 震える足で、ゆっくり…、ゆっくりと歩き出す小さな背中…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめんね…。 ぼく、行ってくるよ…。」

 

 

 

 

 

 振り返って、そう仲間に告げるその顔には、一筋の涙が流れていた…。

 

 微笑みながら…。

 

 

 




やべ…。少し泣けてきたかも…。待って!!行くな~~!!


ところで、双子、やっぱり猫被っていたな~~!!


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僕にできる唯一…!!

純情な思いを乗せて…。




 

 

 

 

 

 「ごめんね…。 ぼく、行ってくるよ…。」

 

 

 

 そう言って、一歩ずつ歩いて、ROSEのみんなから離れていく小さな背中……。

 

 その背中に大声で名前を呼んで、引き留める。

 

 

 「待って!! ショウリン!!」

 

 

 「行くなっ!!」

 

 

 ミナホとRDCが小さな背中を震わせるショウリンを呼び止める。

 

 ミナホ達はショウリンが自ら敵の元に行くとは思っていなくて、目を離してしまっていた事に悔いた。そして、なんとしても双子に行く事を阻止しようと必死に呼びかける。しかし、ショウリンは足を止めたものの、ミナホ達には背中を向けたままだった。

 

 

 「ショウリン…、双子のいう事を真に受けてはいけないよ。」

 

 

 「そうだよ、ショウリン!! ショウリンも見たでしょ?あの双子の化けの皮が外れた場面を…。ショウリンと交換でサガット達が解放されるなんて、虫が良すぎるし、私達だってそんな方法で、要求を呑む事は出来ない!!」

 

 

 「ショウリンは、私達の大事な仲間なのよ!! あなたをあんな最低なクズ人間に引き渡すなんて絶対に許さないんだから!! 」

 

 

 huka、し~ちゃん、さっちゃんが続いて、ショウリンを説得しにかかる。

 

 

 「…さぁ、ショウリン…、戻って来て? 大丈夫…。 私達が守ってみせるから…。」

 

 

 ミナホが優しく語るような口調でショウリンに手を差し伸ばす。

 

 みんなもこれでショウリンは引き戻ってくると思っていた。ショウリンは、ROSEに入ってから、ミナホに懐いていたから。ミナホの言葉には耳を傾け、聞いてくれるだろうと思っていた。

 

 

 「………ごめんなさい!! 僕はそれでも……、行きます!!」

 

 

 だから、泣きながらもミナホの手を受け取らないショウリンの言動にみんな、驚きを隠せなかった。

 ミナホなんて、嫌われたとまではいかないけど、何が悪かったかとミナホにしてはオロオロした態度でショウリンの言葉を理解しようとあたふたし出した。

 

 

 

 「僕は…、このままじゃだめなんだ……!!

  いつまでもみんなの背中だけを見続ける弱いままの僕で、居たくないんだ!!」

 

 

ショウリンが本音を爆発させた。

 

 それをみんなは黙って、ショウリンの背中をじっと見つめる。

 

 

 ショウリンも、もちろん双子の元へは行きたくないと思っている。

 

 しかし、自分がみんなのためにできる事といったら、もうこれしかないとも思っている。

 

 『精霊の眼』が双子にバレて、使いづらくなって、しかも自分を捉えるために、催眠をかけられたり、庇ってもらった所為で、サガットと鳥になる日、るーじゅちゃんが人質に捕えられてしまった。

 ショウリンは、自分が浅はかに『精霊の眼』を露見させてしまって、相手に興味を持たれてしまったから…。だから、みんなを巻き込んでしまったんだと子供でありながら、人一倍の罪悪感と歯がゆさを感じていた。

 そんな矢先に双子から自分と三人との人質交換の取引が持ちかけられたのだ。

 

 

 (これが、みんなのために、僕が唯一出来る事……!!)

 

 

 ショウリンはみんなが双子に自分を庇う言葉を聞きながら、心の中で決心を固めていた。そして、ついに双子の元へと歩み出したのだ。

 

 

 

 

 無言で語るショウリンの背中に、みんなはショウリンが何を考え、何を想っているのか……聞かなくても理解した。しかし、理解と納得は別問題だ…。

 

 

 「ショウリンの気持ちもわかるよ!!でも、だからと言って、『はい、そうですか』で済む問題じゃないんだよ!!」

 

 

 「もしショウリンの身に何があれば、私達だって傷つくよ!!」

 

 

 必死にショウリンを引き戻そうとするみんなの顔には、悲痛の叫びと涙が流れ落ちている。

 

 みんなが自分を想ってくれている喜びを噛み締めるショウリン。

 

 だけど、それを胸に秘め、歩き出す。

 

 ミナホとさっちゃんがショウリンの後を追おうと駆けだす。

 

 

 

 

 その瞬間、ミナホ達の周りで爆発が起き、連鎖反応で次々と爆発が起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふふふふははははははは!!!! や~~い!!吹き飛んだ!!

  ざま~見ろ!! 跡形もなく、消えろ!! 」

 

 

 「子供は俺達が手にしたぜ!! もうお前達は用済みだ!! 

  ざま~見ろ!! 肉片となって、果てな!!」

 

 

 薄気味悪い高笑いをして、連鎖爆発に巻き込まれたROSEを冷やかしながら笑う双子。その傍らに、一発目の爆発で吹き飛ばされたショウリンが意識を取り戻し、今もなお続く爆発を目にして、絶叫を上げる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みんな~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょ、えええ~~~~~~!!

仲間の感動シーンで、殺しにかかるとか…!! お前達、鬼か~~~!!あの双子め~~!!



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成敗!!双子、散る!!?

ここらで決着付けようじゃないか…!?
怒りの炎で焼き尽くしてやる~~!! ばしゃ~~~ん!!(水を大量に被る音)

……沈下されました。


 

 

 

 「みんな~~~~~~~~~~!!!!!!」

 

 

 

 

 大声でみんなを呼ぶショウリンの悲痛な叫びが双子の耳に入ってくる。その叫びを聞いて、悪戯が成功したかのような笑みを浮かべて、楽しんでいた。

 その笑みにショウリンは憤り、双子に殴り掛かっていく。ギルドに入ってまだ日が浅いが、御神やホムラ達に戦闘訓練や日頃の基礎鍛錬メニューを組んであげた事もあって、ショウリンの身体能力はそこそこ通じる。…一般の魔法師程度なら。

 だが、双子はその一般の魔法師程度で収まるような器の魔法師ではないのはこれまでの戦い方でも明らか。実力をつけているROSEのみんなでも一筋縄ではいかない相手だったのだ。まだ魔法をコントロールして使えなくて、一般の魔法師に通じるほどの体術では双子には敵わない。

 

 案の定、着きだした拳はウォンの掌で受け止められ、それに続く顎への攻撃に、足先での蹴りを振り上げたが、ターンにまたもや掌で受け止められ、そのまま掴まれて、投げ飛ばされる。

 近くの木箱にぶつかり、木箱が粉砕する。

 

 

 「がはぁっ…!」

 

 

 受け身が間に合わず、背中から激しく衝突し、嗚咽を漏らす。

 

 ショウリンが飛ばされた場面を『アクアボール』の中で、息も絶えかけているサガット達が目撃し、目を見開いく。催眠状態だったるーじゅちゃんもショウリンが投げ飛ばされたのを見て、自我を取り戻した。三人は早くここから出ようともがくが、息ができない時間が続いたため、酸素不足で身体に力が入らず、あがく事すらできなくなっていた。

 

 

 (だめだ…。も、もう…、限界だ…。)

 

 

 意識薄れる中、とうとうサガットと鳥になる日、るーじゅちゃんが最後の空気を吹きだし、気を失う。

 

 

 「やったぜ!!ウォン!! これで、邪魔者は全員居なくなったぜ!!」

 

 

 「ああ、そうだな、ターン!! ガキは手に入ったし、早速、これを打って、従順にしてやろうぜ!!」

 

 

 そう言って、ターンが取り出したのは、独特の紫色をした液体が入った注射だった。その注射を持って、ショウリンに向かって歩き出す。軽く脳震盪を起こしていたショウリンが起き上がった時には、既にターンが目の前で注射を握りしめ、振りかぶっていた。 その光景を下から見上げてみるショウリンは身体が震え、逃げようにも逃げられなかった。

 

 

 (みんなの言うとおりだった…。 ぼくがでても、何も変わらなかった…。)

 

 

 ショウリンはみんなの元を去る時、みんなが必死に止めていた通りの事が起きて、今、自分はたった一人になった。そして、今にもターンに注射を得体の知れない物を身体に打たれそうになっている…。

 

 

 何とか事態を変えたい…!!

 

 

 みんなの役に立ちたい…!!

 

 

 その想いがこんな結果になるなんて、そう思わなかった…!!

 

 

 悔しい…!!

 

 

 憎い…!!

 

 

 みんなを騙し討ちした双子が許せない…!!

 

 

 だけど、もっと許せないのは、役に立ちたい一心で勝手に敵の策に乗った自分だ…!!

 

 

 

 その悔しさ、怒り、憎さがごちゃ混ぜになって、ショウリンの眼から涙が溢れる。

 

 

 涙が止まらない…!!

 

 

 そんなショウリンを見て、嘲笑うターンの横をウォンが近づいて、ショウリンの首を掴み、持ち上げる。苦しがるショウリンをお構いなしに、天高く上げて、服を破り、撃胸が見えるようにする。双子は不気味な笑いを繰り返し、ショウリンの幼くて、薄い胸板を指先で何かを探るようになぞっていく。

 

 

 (……う…、気持ち悪い…!!)

 

 

 肌をなぞられる感覚に吐き気を覚えるショウリン。だが、首を掴まれているせいで、言葉を口から出す事が出来ない。

 

 

 「苦しいだろ!? もっと強くしてやろうか?……そうそう…、その顔、たまんないねぇ~!!

  こういう顔が俺達は、好物なんだ~!!なぁ!! ターン!!」

 

 

 「ああ…、でもこんな顔を見られるくらいなら、あいつらの最期の顔も拝んでおきたかったな!!

  あいつら、俺達が何のために『アクアボール』をばら撒いていたか知らずに、あれを水蒸気爆発させたときは、傑作だったぜ!!あれだけの『アクアボール』をループキャストで爆発させたんだ…。粉々になっても当然だな!! ウォン!!」

 

 

 (くそ…!!くそくそくそ!! お前達…、絶対に許さない…!!)

 

 

 葉を剥き出しにして、憤るショウリンは双子を睨み、見下す。それを見た双子は不機嫌になり、ショウリンの首を絞める力を強める。

 

 

 「俺達を見下すなんて、ただのお荷物のガキがすんじゃねぇ~よ!!」

 

 

 「さっさと、お前を俺達の奴隷にしてやる!! もし生き残れたらだがな!!これは、心臓に直接注ぐ事で、身体・精神的に作用し出し、投与されてすぐにみた人物の命令に従順に従うようにする麻薬だ!! だが、強力なうえに、80%は心臓発作や副作用の毒で死ぬけどな…。」

 

 

 そう説明し終えたターンはショウリンの心臓がある胸板に狙いを定め、ナイフで刺し殺すように注射を握りしめる。

 

 

 「さぁ、歯を食いしばれよ~~!!」

 

 

 ターンが狂喜の笑いをして、注射を力強く、ショウリンの心臓目掛けて降りおろす。

 

 ショウリンは悔しがりながら、自分の最期を確信した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど、注射針がショウリンの胸を突き刺すぎりぎりで、突然大量に水が落ちてきて、びしょ濡れになったターンの身体に『スパーク』が流れる。感電したターンが足からその場に崩れ落ちる。そして、手から零れ落ちた注射がまっすぐにウォンの腕に突き刺さり、得体の知れない怪しげな紫色の液体が取り込まれ、ウォンは胸を抑え、苦しみ出し、ショウリンの首を絞めていた腕を解く。

 そして、まともに立っていられなくなったウォンにレーザーが飛んできて、ウォンの身体を貫いた。

 

 

 

 

 

 突然の攻撃に倒れた双子。

 

 

 

 

 そして、どこからか声がした。

 

 

 

 

 

 「私達の顔を拝ませてあげますよ? ……ああ、でもせっかくの対面をダウンしていたら、見れないですね。」

 

 

 

 

 

 

 




結局はショウリンを消しにかかる双子!!ムギ~~!!

でも、救世主、登場!!

誰だろうね~~!!


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ミスディレクション!!

やっぱり、何事にも戦略はいるもんだな~~。


 

 

 

 

 「私達の顔を拝ませてあげますよ? ……ああ、でもせっかくの対面をダウンしていたら、見れないですね。」

 

 

 

 ウォンの腕から解放されたショウリンは喉を抑え、咳き込みながら、声のする方を目を細めて見た。聞き覚えのある声に、警戒よりも、安心感で一杯になり、力が抜けて、眠らないように必死に踏ん張りながら、期待を込めて…。

 

 

 「大丈夫!? ………ごめんね!? よく頑張ったよ、ショウリン…!!」

 

 

 そして、ショウリンに急ぎ足で駆け寄り、力強く抱きしめたその人影に、ショウリンは身体の骨がビシビシいっているのを聞きながら、苦しい表情をする。だけど、その表情には、同時に嬉しさも感じられた。

 ショウリンは自分を抱きしめてくれる暖かさに涙があふれ、背中に腕を回して、抱きしめ返す。

 

 

 「ううん……。助けてくれてありがとう…! …tokoさん!!」

 

 

 ショウリンはついに、緊張の糸が解れたのか、号泣しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ショウリンがtokoの胸で泣きじゃくっている間、tokoの後ろから次々と、双子の不意打ち爆発に巻き込まれたと思っていたミナホ達が現れ、ショウリンやサガット達に駆け寄って、無事を確認すると、ミナホも涙を浮かべ、ショウリンとtokoに覆いかぶさるようにして、抱きしめた。

 サガット達もいつの間にか『アクアボール』から解放されていて、駆け寄ってきたみんなから、心配された後、一斉に抱きしめられ、今度は締め付けによる呼吸困難に陥ることになった。

 

 

 全員がこうして、助かったのは、tokoの活躍に他ならない。

 

 

 

 

 双子たちが人質交換を要求している間、tokoは最高秘術レベルの存在の薄さを発揮し、姿を消した。そして、異様に漂った夥しい数の『アクアボール』を目にして、これで何かを仕掛けてくると推理したtokoは、無音フィールドを張って、みんなの周りの『アクアボール』を蒸発させて回っていた。双子はミナホ達に、特にショウリンに気を回していたので、気付かなかった。『マルチ・スコープ』を展開していれば、少なくとも、『アクアボール』が少なくなっていっていることは理解できただろう。しかし、あいにく『マルチスコープ』はショウリンが知覚系魔法を使っていないと分かった双子がそれに対抗する必要はないと判断して、発動されていなかった。

 

 それも相まって、確実に『アクアボール』を封じに掛かっていったが、そろそろ『アクアボール』に捕らわれたサガット達を助けようとした時、ショウリンがまさかの人質に名乗り出たことで、意識がそっちに移ってしまった。

 tokoもショウリンを止めに入ろうとしたが、ミナホと目が合い、アイコンタクトで来るな!!っと制止させられた。

 ミナホには、事前に空気と同化し、『アクアボール』とサガット達を何とかすると告げていたので、ミナホはtokoにこの状況を打破するための瞬間にすべてを託していたのだった。

 

 それを、ミナホの一瞬の視線で察したtokoは内心、苦しい決断だったが、自分を信頼してくれて任せてくれたミナホに答えるため、サガット達の救出に回った。

 

 tokoは小銃型携帯のCADを三人の口と鼻の回りに照準をセットし、拳一つ分ほどの大きさに圧縮した空気玉を一つずつ打ち込む。『アクアボール』を潜り抜け、三人の口先の手前で止まった空気玉が三人の顔に接触し、三人に新たな空気を与えた。

 

 tokoはあくまで時間を稼ぐためにそうした。

 

 今、三人の『アクアボール』を壊せば、双子の意識がそっちに移り、せっかくミナホ達がひきつけてくれているのに、三人に更なる電撃を与え、感電死させてしまう場合があるからだ。自分の発動している魔法には敏感に反応する…。

 

 そのため、tokoは必要最低限の空気玉を三人に与えたのだった。現に、異変に気付いたウォンが三人に振り向いた時には、空気玉から新たな空気をもらっていて、息絶えそうになっている風に装った。ウォンも三人が無駄なあがきをしていると思い、気にも留めずに、再びショウリンに目を凝らす。

 

 

 (後は、双子が完全に油断した時を狙って、三人を解放し、双子を撃沈すれば…)

 

 

 tokoは頭の中でシュミレーションして、作戦を練り、音の振動波を作り出し、それでミナホ達に作戦を伝えようと、魔法を発動しようとした時、双子が『アクアボール』を使った水蒸気爆発を連鎖させ、爆発させていった。

 みんなの周りのすぐ近くにあった『アクアボール』は消していたので、直撃は免れたが、それでも衝撃波は凄まじいものだ。

 tokoも慌てて、『能動空中機雷』をアクティブシールドとしてみんなを守ることで、連鎖による水蒸気爆発からみんなを守った。ちょうど、振動系統魔法を発動しようとしていたため、同じ振動系統魔法をすぐには発動することができ、間に合った。

 

 

 tokoが『能動空中機雷』をしたおかげで、最初の爆発の爆風によるダメージで済んだみんなは爆発による煙で双子の視界から自分たちが見えないことを知ったミナホが自分たちの床面に加重系統魔法『アンダーホール』で空洞を作り、下の階に退かれ、そのまま、下の階から双子たちの後ろへと掻い潜り、今度は『地割れ』で割れ目を作って、そこから這い上がったという訳だ。

 

 tokoはさっちゃんからその事を超音波に乗った暗号で知って、胸を撫で下ろした。

 

 

 

 そして、双子に捕らわれた三人を視界が悪くなった今のうちに、解放しようとした時、ショウリンが双子に飛び掛かって、投げ飛ばされる場面を視界に捉えた。

 

 tokoは沸き起こる怒りを抱き、場に溶け込んでいた空気に淀みが生まれた。

 

 しかし、幸いにも、狂喜に逸した双子には、同じ空気に染まっている所為か、気付かれることはなかった。

 

 

 tokoの頭の中には、サガット達に電撃を浴びせて、更には幼いショウリンの首を絞め、注射を打とうとする双子を懲らしめる事しか考えられなくなっていた。

 そしてついに、ショウリンの胸に向けて振り下ろされたターンの腕を目にして、tokoは三人が捕らわれていた『アクアボール』を双子の上空に移動させ、収束系統魔法を無効化した。球体を解かれた水はそのまま重力に従って、双子の頭上に降り注がれる。びしょ濡れになったところをすかさず、放出系魔法『スパーク』を発動し、ターンを感電させた。

 サガット達が味わった苦しみを受ければいいと、電撃を浴びせたtokoは相棒が突然倒れたことで動揺したウォンに、ターンの持っていた注射を移動・加速系統魔法『アクセル』でショウリンの首を絞めるウォンの腕に突き刺した。

 毒が回りだし、苦しむウォンにtokoの得意な放出系統魔法『イレギュラー・レイ』…、前方に物理的なものを屈折させる魔法を展開しておき、そこにレーザーを発射することで予測不可能な軌道に変化させる魔法…。

 その魔法をループキャストして、ウォンを死角から撃ち抜いた。

 

 

 

 

 そのあと、ミナホ達が下から回り込んで、這い上がった時にはすでにtokoが決着をつけた後だった…。

 

 

 

 

 

 

 こうして、tokoは双子を撃破し、攻略したのだった…。

 

 

 

 見事な”ミスディレクション”を駆使して…。

 

 

 

 




tokoっち!!かっこいい~~~!!

自分の得な分野を駆使して、勝利を得るなんてすごいな~~!!

最後は怒りに身を任せていたけど。なんだかんだでサガットたちを救えたし、ショウリンも助けたし~、tokoはスーパーマンだね!!


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ついに敵ボスと相まみえる…

カバルレと対面する前に、いざこざが…。


 

 

 

 

 「う…ううぅ……。………いっ……てぇ~…!!」

 

 

 身体に激しい痛みが走り、意識が戻ってきたが、再び微睡みの世界へと旅しそうになった。しかし、再び全身に痛みが走り、簡単に意識を手放せなくなり、初めて自分の置かれている状態に気づいた…。

 

 

 「…おお、やっとお目覚めですか? 最悪最低人間双子の片方の…、ウォン?」

 

 

 ウォンの顔を覗き込むるーじゅちゃんは微笑みながら、話しかけた。微笑んでいると言っても、目は笑っていないし、眉間には血管が浮き上がっているし、逆に背後から身を焦がしかねないほどの怒りの炎が見える。

 ウォンが水を操るスペシャリストだとしても、この炎は消せはしないだろう…。

 

 ウォンは突然現れたるーじゅちゃんの顔に、内心は驚きつつも、表面上は無表情で受け流す。そして、目玉を動かし、自分の視界に映る周囲を観察し、状況を把握していく。それによって、自分が今、どんな状態なのかを目の当たりにし、冴えてなかった頭も復活し、重かった瞼も開き、目をまん丸くして、大声で突っ込む。

 

 

 

 

 

 

 「何だ、これは~~~~~~~~~!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ウォンがそう叫んだのは、ウォンの心にまだ”羞恥”というものが残っているからだろう。顔が真っ赤になり、足をくねくねする。手足を縛られているから、身を反らすしかできないから。

 あの人間を蔑むような視線と言動をしていたウォンからはこんな反応をされるとは想像できないほどの体験を今、ウォンは受けていた。

 誰から?…と言われるまでもなく、ROSEから…。

 

 

 

 

 今、ウォンは手足を丸太に繋がれた状態で縛られていて、完全に豚の丸焼きされる状態だった。しかし、普通の丸焼きなら、背中から火炙りされるのが定石だが、今回のROSEの豚の丸焼き制裁ショーは、かなり違っている。

 

 丸太に背中を密着させ、胸や腹が露わになっている。そして、その下には身を焦がすほどの炎…ではなく、どこから持ち込んできたと言わんばかりの全長15M位する大きな鉄鍋がウォンが落ちてくるのを持っているかのように、身を溶かしてしまうほどの熱い熱湯?がプクプクっと泡立ち、沸騰していた。(熱湯にしては、もう色が有り得ないくらい、黒紫風に濁っていて、なぜか、変な顔が見えたり、魚の骨が浮いているからだ。魚の骨の空いた目からその熱湯?が流れ落ち、血の涙ならぬ、怨みの涙にも見え、ウォンの肝を冷やしていった。)

 そして、ウォンを縛りつけている丸太は左右でロープにくぐりつけられ、天井からつるされていた。しかし、ナイフで斬り込みされているため、少しでも衝撃を与えれば、ロープが切れて、あっさりと気持ち悪い熱湯?の煮えたぎる鉄鍋の中にドボンっ!!…っていう寸法だ。

 

 今まで、いかなる拷問や実験も受けてきたウォンだが、綺麗好きでもあるため、子の鉄鍋に入って、身を穢されるのは是が非でも逃れたいと思った。

 

 

 「や、止めろ!! この俺様をこの中にぶち込んでみろ!!? お前達を地獄の果てまで追いかけて、殺してやる!!」

 

 

 怒声を浴びせるウォンに、色々と準備していたROSEのみんなが一斉に目を向ける。ただ、見つけると言っても、呆れ感満載の眼だが。

 

 

 「……今のこの状況で、そんな事言う?」

 

 

 「”立場”って言う言葉、ちゃんとわかって使っているのかと思ってた…。」

 

 

 「あなたは、私達に毒を吐けるような”立場”じゃないんだけどね~。」

 

 

 「今、この場を支配しているのは、私たちROSEよ!!」

 

 

 嫌味たっぷりに微笑み、”立場”や支配っていうワードを強めにアクセントをつけ、強調する。それを、憤怒で顔を真っ赤にして、歯を剥き出しにするウォン。

 先ほどの戦闘では、自分達、ターンと一緒に優位に戦況を運んでいた時、同じように主張した事を思い出し、それを逆手に取られたことに腹が立ったからだ。

 だが、ウォンはそのおかげで、もう一人の半身…、ターンの姿を探す。

 

 辺りを見回し始めたウォンに、サガットと鳥になる日が上を指差して、話しかける。

 

 

 「もしかして、探し人はあれかな?」

 

 

 「意識はないけどな~。」

 

 

 指摘された上に振り向けるギリギリまで首をひねって、見上げた天井には、氷柱のように尖った氷の中に、自分とまったく同じ顔の青年が伸びた状態でロープにぶら提げられていた。ただし、氷柱が今にも背中を貫通しそうな距離で待機している。

 

 

 「ターン!!」

 

 

 「話しかけても無駄だよ~。 しばらくは意識は回復しないし~。頭少し逝っているからね~。」

 

 

 頬杖をついて、ウォンを見つめるさっちゃんが真顔でそう答える。

 

 

 「自分の心配をしたらどうかな? あんたはいち早く先に地獄に行くんだし…?」

 

 

 そんな所で、ミナホが鞭を持って、背後に龍を携えてウォンに近づく。もちろん、龍は幻影で、魔法も使っていないが、錯覚を起こすくらいの威力をミナホは放っていた。

 そしてそれは、他のROSEメンバーも一緒。野性的な視線と笑みをして、ウォンを取り囲む。…toko以外は。

 

 

 「……みんな、もう落ち着いて。 双子はもう動けないし、これ以上は…」

 

 

 額に汗を掻いて、みんなを宥めようとするtokoだが、一斉に向けられた野性的な視線に出かかっていた言葉がのどに詰まる。

 

 

 「……いいや、この双子だけは…、絶対に許さん!! 私の可愛いショウリンを投げ飛ばしたばかりか、毒薬を打ち込もうとしていたなんて!! その報いを今ここで…、受けさせてやるっ!!」

 

 

 怒りで髪がゆらゆらと炎のように揺れる。

 

 

 「tokoはいいじゃん!! 私達だっていいところ見せたかったよ!!」

 

 

 「ほとんど、tokoにいいところ持っていかれてしまったから、せめて八つ当たり…、じゃなくて、後始末くらいはしないと!!」

 

 

 「それに、この双子から新情報が手に入るかもしれないじゃない!?

  …あくまでついでだけど。」

 

 

 …このように、ROSEは先刻の闘いでの鬱憤が相当溜まっているらしく、双子への制裁を決定したのだった。

 

 

 「よし!!じゃ、もう十分堪能したから、さっさと鍋に突き落とそう!!」

 

 

 ミナホがそう掛け声すると、RDCとし~ちゃんが左右のそれぞれのロープに、ナイフで完全に切りにかかる。

 

 

 「待て!! やめろ!! 俺を誰だと思っているんだ!!?

  落とすんじゃねぇ~!!」

 

 

 「だれ?ただのくそ人間のウォンだよね?」

 

 

 し~ちゃんがけろっとした表情であっさりとナイフでロープを切った。

 

 片方が外れた丸太は勢いよく、鉄鍋に落ちていき、丸太の先が鍋に浸かる。そして使った先から鼻が曲るようなにおいが炊き込み、丸太の先が侵食されていく。

 

 

 (な!! なんだあれは!? 身が穢されるレベルを超えている!!

  明らかに落ちたら最期!! 身が熔けて終わりだ!!)

 

 

 丸太が腐っていっているのを視界の端で捉えたウォンは、頭に血が上りながら、何とか逃れようと必死に身をよじる。しかし、頑固に縛られているため、よじるどころか、びくともしない。逆さま状態になっているため、余計血が回るウォン。

 

 

 「あれ?先に行くのは嫌なのかな?ウォン?だったら、もう片方に飛び込んで行ってもらいましょうかね?はいっと!!」

 

 

 ミナホがボタンを押すと、天井で意識を失くしてぶら下がっていたターンが支えているロープが急激に伸び、鉄鍋へとダイブしていく。

 

 

 「やめろぉぉぉ~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 ウォンが叫んで、ターンが落下していくのを目の前でみる。

 

 

 

 

 

 

 

 ターンの身体が落ちて、落ちて落ちて…………

 

 

 

 

 

 

 鉄鍋にドボンするわずか数十センチで止まった。

 

 

 ターンの無事を見て、安堵の表情をするウォンにミナホが取引を持ち掛ける。

 

 

 

 

 「さぁ、どっちが先にこの中に入りたい?あなたか…、こっちの片割れか…。

  選ばせてあげる♥」

 

 

 「お、俺は…」

 

 

 ウォンは意識がないターンを見て、昔の事を思いだす…。

 

 何があっても、いつも一緒にいて、横を見ると、いつも隣にいて笑っていてくれたターン…。ずっとこれからも一緒。何があっても…。

 

 

 

 その苦しむウォンに、ミナホが提案する。

 

 

 「二人とも助かりたかったら、カバルレの弱点だったり、あいつの所まで行くルート等のカバルレに関する情報を知っている限り、吐きなさい!!

 ……そうすれば、この鉄鍋の中に落とすのは止めてあげる。」

 

 

 「本当か?」

 

 

 「うん、私達は、あんたみたいな取引を持ち掛けておいて、用が済んだら、爆発させて、殺しにかかるほど、卑怯な人間じゃないからね!!」

 

 

 ウォンの頬を勢いよく、抓るミナホ。

 

 

 

 

 

 

 ……ウォンはその後、知る限りのカバルレの情報を告げた後、自分達が持つ螺旋階段の扉の鍵をミナホに渡した。その後は、再び身体に激しい痛みが走り、そのまま暗闇へと意識が沈んだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミナホ達はこうして、双子から螺旋階段までのルートと鍵をゲットして、向かい、とうとう仲間全員との合流を果たす。

 

 

 

 

 そして、円陣を組んで、気負いを入れた後、螺旋階段を上り、ついに敵の親玉、カバルレが待つ最上階へと到達した…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ここまで来た事は褒めてやるぞ…!!だが、お前達の最期のステージになるのは、決定だ!!

  ROSEよ!!

  カババババババ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに…、ついに、敵ボスと相まみえ、決戦へと赴く事になる…!!

 

 

 




なんだか、正義のギルドのROSEなのに、悪の結社みたいになってる~~!!

違うよ!!?みんな、本当はいい人ばかりだよ!!?

多分、双子の礼儀を重んじない態度に、苛立ちを溜め込んだ結果だよ!!?うん!!


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謎の最期…

tokoから双子の懲らしめシーンがよかったというメッセージが届いた!!

自分が言った事が返って来る…。

現実もそうだから、みんな!! 言霊となって自分に返って来るから、悪口はほどほどにね!!


 

 

 

 

 

 

 最高幹部のドレーナ、ウォン、ターンを倒し、ついに敵ボスのカバルレが待つ最上階で、カバルレと対峙したROSE一行。

 

 そのROSEの熱い視線を一身に受け、カバルレは恐れるどころか、逆に高笑いをし、ROSE一行に死亡フラグを立てた。

 

 魔法を交える前のほんの挨拶がてらの視線のぶつかり合いで、場の空気に緊張感が漂い始めた頃…、最上階のすぐ下の最高幹部ウォン・ターン双子の水のフィールド部屋でも違う緊張感が漂っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………はぁ~~~~…。何でこんな事になっているんだってぇ~の!!」

 

 

 「ウォンがペラペラペラペラペラペラ…………ってカバルレ様の事を洗いざらいしゃべったからじゃないか~~!!」

 

 

 「何だよ!!そうしないと、今頃、俺達はあいつら特製のドロドロ熱湯地獄にドボンされて、骨になってたんだぞ!!?

  …というより、ペラペラ……でいいんだよっ!! 長い!!」

 

 

 「骨にならなくてよかったけどね~、それくらいいいじゃんか!!?

  こっちが悶絶している間に、勝手に決めちゃってさ!!? 俺は嬉しくないね!!」

 

 

 「…!! ターン!!」

 

 

 ウォンがターンの拗ねた顔を見て、ちょっぴり涙を流し、感動している。ターンもウォンに文句を言っているが、隣にウォンがいてくれて、嬉しいし、本心はこうなってよかったと思っている。

 

 …ただし、二人の今の状況を抜きにすればの話だが。

 

 

 

 二人は可愛らしいフリル付のパンティーに履き替えさせられていて、パンティー一丁になって、壁に仲良く並んで貼り付けられていた。そして顔には、乙女メイクが施されていた。乳首や腹にはリップで書かれた落書きが……。

 

 ウォンからカバルレからの情報を入手したミナホ達は約束通り、鉄鍋に双子を突っ込むのは止めた。そして、その代わりに、双子のプライドを折る目的で、現状の双子の姿に曝したのだった。

 

 ミナホ達は女性が多かったのに対し、双子は性格や言動は卑劣だが、顔は女の子と間違えやすいほど、可愛い部類に入る美形なのだ。しかもチビで可愛さが一層引き立つ。見た目が可愛いと、なぜか着飾らせたくなるのが、女の性!!

 ポーチに入れていた、化粧道具や裁縫道具で可愛いパンティーとメイクを施し、自分達が満足すると、壁に張りつけて放置し、満面の笑みで、螺旋階段に繋がる連絡通路を渡っていった。

 

 ウォンは去り際に「約束が違う!!」とミナホに怒声を浴びせたが、メイク道具をシャキッと見せながら、意味ありげな笑みをして振り向いたミナホに、ウォンはさっきの威勢はどこに行った!!?というくらい、身体を縮ませた。

 

 

 「何を言っているのかな? 約束は果たしたけど?

  『情報を吐いたら、鉄鍋の中に入れない』って言ってそれを守った…。

  でも、その後の制裁の内容まではそっちは何も言っていないし、私達の好きにさせてもらったまで♥

  何も間違っていないよ~~!! じゃ、そういう事で!!」

 

 

 投げウィンクをして、足早に去っていくROSEの背中を憎らしげに見送るウォン。

 

 この時、ウォンは女の勢いは恐ろしい…とその身で痛感した。

 

 

 そしてこの出来事が今の双子の状況という訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 「まぁ、事情は分かったけどな~、そろそろこの体勢も飽きちゃったから外そう?」

 

 

 ターンは気絶していたため、その時の話をウォンから聞き、眠たそうにそう言った。ターンにとってはそんな事はどうでもいいのだ。それよりも…

 

 

 「そうだな!! 早くこの鎖を解いて、あいつらの後を追って、肉片にしてやるっ!!

  俺達をバカにしやがって…!!」

 

 

 「ああ!! 俺達に止めを刺さなかった事を後悔させてやろうぜ!!ウォン!!」

 

 

 自分達の身嗜みよりも、自分達のプライドを傷つけられ、バカにされた事でROSEに激しい怒りと復讐の炎を掻きたてていた。

 

 

 「ターン!!だけど、あのガキだけは生かして、俺達のおもちゃとして飼ってやろうぜ!!?」

 

 

 「それ賛成!! ウォン!! 俺もそう言おうと思ってたんだ!!」

 

 

 唇を吊り上げ、企みを曝け出す双子は壁に張りつけられて固定された鎖を外そうと『アクアボール』が解除されて、部屋の床を浸水した水に向かって掌を翳す。

 

 CADはミナホ達によって、取り上げられているが、双子にとって、今まで生きてきた中で水が一番操りやすい物質。CADがなくても、魔法を起動させるのは造作もない事だった。

 

 魔法が発動し、床に浸水していた水が渦を巻いて、蛇のように動く。そして二つに分裂して、先を尖らせた。これで、双子の手足を固定する鎖を壊そうという算段だ。

 

 双子はタイミングを合わせ、鎖を破壊しようと水蛇を突撃させようとした。

 

 

 

 

 パシャン…   パシャン…

 

 

 

 

 だが、この部屋に訪れた来客によって、中断する事になる。

 

 

 

 そしてその人物を双子は知っていた…。

 

 

 「ああ~~、なんだ、お前か~~。

  あいつらが戻ってきたかと思ったぜ!? まぁあいつ等なら、こいつを差し向けて喉元に齧り付いてやろうと思っていたけどな~~!!」

 

 

 「お前がここに来るなんて珍しいな~~!!どうだ?俺達と手を組んで、あいつらを殺しに行かないか~~?」

 

 

 からかい気味に笑みを浮かべる双子。

 

 しかし、双子が次に浮かべた表情は、笑みに非ず。

 

 

 

 

 驚愕……、痛み……、寒げ……、怒り…。

 

 

 

 

 双子の口から血が洪水のように溢れ出る…。

 

 

 そして、双子の胸には、来客の腕が刺し込まれていた…。

 

 

 「………お、お前…!! い、一体…どういうつもりだ……!!」

 

 

 「味方…に、よくも……!! 」

 

 

 双子は今も信じられないという顔で来客の顔をじっと見つめる。それに反して、来客の表情は一切感情が出ていない。

 

 言葉も発していない。

 

 ただ、来客が漏らす怒気だけが心の中に激しく燃え滾る怒りを表していた。

 

 

 「「お前…、覚えていろ…!!」」

 

 

 睨みを効かせる双子はそう吐きつけるのを、来客が聞いた後、双子の胸に差し込んでいた腕を思い切り引き抜いた。その瞬間、双子の空いた胸から大量の血しぶきが飛び散り、来客の身体も顔も血がかかる。

 

 

 双子は首を垂らし、そのまま何も恨み言も言わなくなった…。

 

 

 そして、来客の両手には、双子の身体から取りだした、生温かく、わずかにまだ脈を打つ心臓が握られていた…。ゆっくり…ゆっくりと脈が刻まれ、とうとう鼓動を打たなくなった心臓を強く握りしめ、粉砕する。

 

 

 変わり果ててしまった双子の最期を殺気にまみれた視線で見下した後、来客は部屋を後にした。

 

 

 

 血がべったりついた服を脱ぎ捨て、去っていく来客から、血が零れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 その血と、双子の身体から壁を伝って流れ落ちる血が、水浸しだった床を透明から生々しい赤へと変えていった…。

 

 

 

 

 




はい~~…、え~~と…。

双子、堕ちましたね。反省しなかったからこうなったんだよ!!…って言いたいけど、これは…ね~…。

少しやばい展開になった。 果たして、双子を殺した来客って誰だぁ~~!!

ズゴッ!! 


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ナルシストボスのちょっとした未来

カバルレとの心理戦が起きる~~!!




 

 

 

 

 

 

 カバルレとROSEの睨み合いの中、ホームズはみんなの陰に隠れて、最上階の部屋割りを頭の中で構築していた。

 

 最上階は大きなスタジアムのような広さに、天井には馬鹿デカいシャンデリアが広間に自分を主張するかのように輝き、照らす。そして、この広間の出入り口から、目の前のカバルレが座る豪華な玉座まで、血を滲み付けたような赤黒い色の絨毯が続く。そして絨毯が敷かれている左右には、気味の悪い彫刻や甲冑が所狭しと並ぶ。

 身体の一部だけの彫刻や甲冑、全身があったとしても、絶望の表情をし、嘆き苦しむ女性や子供の彫刻、勇敢な騎士だったのではと思えるような体格でアーマーフル装備のダンディーな顔立ちの彫刻も何かから逃げ出すようなポーズでROSEたちの方へと向けられている。…これらが大量にこの広間を覆い尽くし、壁に設置されているろうそくの火とシャンデリアの灯りが一層異様さを引き立てる。

 

 ホームズは大体の部屋割りを終えたが、部屋の構図よりも周りの異様な美術品達にぞっとする。

 

 その感覚はまだ形にはなっていないが、明らかに不気味で、悍ましい物だと認識させ、警戒心を持てと教えてくる。

 

 ホームズは冷や汗を掻きながら、十分に警戒心を限界まで上げ、カバルレ撃破の作戦を練っていく。しかしそれは、カバルレが玉座の椅子から立ち上がり、どこからか現れたスポットライトを全身で浴びた事で、脳内から完全に零れ落ちる事になる。

 

 

 「私はね~…、これでもエンターテイナーです。 この”カバルレ・サマダ大サーカス”の団長として、観客に快楽…、娯楽を堪能していただきたいのですよ。

  …あなた達もこの気持ちは分かって下さると思いますが。

  ですから、ずっと睨み合ってないで、私も曲芸魔法師の端くれですので、最高の”ショー”を披露させていただきます。

 

  この……、”カバルレ・サマダ様に不可能はない!!”」

 

 

 「「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」」

 

 

 表の顔での曲芸に対する強い思いを語りました!!という顔で最後の決め台詞だろう…、それを盛大に言って、左手を腰に当て、右手はROSEたちの方へ腕を伸ばし、人差し指で指さし、歯をキラ―ン…と光らせてポーズを取る。

 それを目の前で披露されたROSEは、無言で非難する目付きで見つめる。ここがステージで、カバルレの正体を知らない、それこそ潜入する前なら、絶対に食いついていた。だが、今は違う。完全にカバルレを今、ここで倒しておかないと、イレギュラー国の闇は更に酷くなる一方で、歯止めがかけられなくなる。その歯止めをかけるために今こうして、カバルレが始めたゲームを勝ち進み、対峙しているというのに、本人がのんきにパーティーの司会者のようなノリで、さっきの行動をするもんだから、ROSEは呆れを隠さず、冷たい視線を向けるのだった。

 

 さらにROSEの戦闘意欲をそぐには十分の物がカバルレの後ろに堂々と存在し、ROSEに精神的ダメージを与える。もう既に闘いが始まっているのなら、カバルレの先制攻撃にみんなノックダウンレベルの見えないパンチを浴びていると言える。

 

 だって、カバルレの後ろには、カバルレを照らすスポットライトの明かりで露わになった。物凄い大きさの30Mは下らない…、金箔の額縁に収められた自画像が…。

 黄金色の紳士服を着たカバルレが腕を組み、歯を見せびらかし、ドヤ顔する自画像…。

 

 

 (…何だろ…。物凄く破り捨てたい気分に駆られる…。)

 

 

 (あの腕をあらぬ方向へ曲げて激痛を与えてやりたい…。)

 

 

 (あの歯を全部抜いてあげようかな~。うん、そうしてあげよう。…無駄な口を叩けないように…。)

 

 (ナルシスト感を出してくるあのドヤ顔を原形がとどめられないくらいにボコボコに殴りたい…。)

 

 

 (…あの黄金の服とか、変なところに金を使うな!! もっと大事なものに使え!!)

 

 

 (……ビリビリに破って、あらぬ辱しめを受けてもらおうか…。くくく…。)

 

 

 (…黄金の服は私がもらって、パンツ一丁にさせて…、ドMに開花させてあげるか!!)

 

 

 

 

 

 自画像を見て、気落ちするROSEだったが、切り替えの早い思考力のお蔭で、違った闘志を燃え上がらせた。…一部はヘムタイ思想が入り込んでいるが。

 

 

 

 そしてROSEのみんなはそれぞれ、自分達の心の内で、カバルレをどうするか考えていたが、みんなの通わせる空気と視線だけで何を考えているか理解できた…。そして、それは全員一致の物となり、ホームズが作戦を練る必要がないほど、カバルレのちょっとした未来の姿が決定した。

 

 

 

 

 

 …あられもない姿と性格(超がつくくらいのドMで、ホモ!!)にすること…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、ROSEはその目標を成し遂げられるのか!?




いやいやいや!!
この展開は、シリアスな戦闘になるよね!?

何でそこでヘムタイ思想が組み込まれるんだよ!!?

さすが、ROSEというか、もうがんばれ!!


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ホームズの怒りの鉄拳!!

本当にカバルレをもう町を歩けなくなるくらいにまで、辱しめを!!
ドMにしたれ!!(怒)


 

 

 

 

 

 

 カバルレをあられのない姿にし、ドMに開花させるという野望?を抱くROSE。

 

 

 しかし、実際にそれを実行できるかと言えば、難しいかもしれない。

 

 ROSE全員に対し、敵はただ一人、カバルレだけだ。

 

 ただ、ここに来るまでの間の戦闘やトラップ回避なんかで魔法や体力を使って、まだ十分に相子も回復していない。いつもの力が出る所か、逆に半減してしまっている。

 怪我等は暁彰やミナホ達のお蔭で、みんなの身体には外傷はない。ミナホや御神達が治癒魔法や応急処置をしてから、暁彰が『再成』をしたからだ。傷が治っても、疲労や相子が戻る訳ではない。あくまで外傷を治し、復元するだけだ。万全ではない。

 それに対して、カバルレはずっとこの最上階で部下達が倒れていっているのを知っておきながら、のんびりと玉座に座り、ひじも立て、傲慢な態度で待っていたのだ。体力だけでなく、相子も温存している上に、この最上階で待っている間、仕掛けも準備できたはず。先程から見せる余裕たっぷりの笑みがそう感じさせ、ROSEに緊張をもたす。

 

 

 

 「その緊張した顔、いいですね~~。私が何を披露するか、未知のために動揺しているのでしょう…。

  私はその次に何をするか、理解できないっていう顔が好きなんですよ。ショーを観客に披露している時も、次にどんな曲芸が登場するか、観客の方々がドキドキでご覧になっていただける…、あの時の表情と同じです。

  その表情を見るのが、私の最高の一時…!!」

 

 

 ショーのスポットライトを浴びているかのように両手を大きく広げ、情熱的に、楽観的に語り、笑うカバルレに、心を読まれたと表に出さないように内心で驚きを見せるROSEたち。

 

 

 「……ですから、その最高の一時を味わいたいので、皆さんにはこの”ショー”をご覧いただきましょう!! 私が長年、研究に研究を重ね費やしてきた最高のショーで、地獄を見せてあげましょう!!」

 

 

 人懐こい曲芸魔法師の顔から、猟奇的な笑い顔へと変貌した。

 

 

 それを合図に、絨毯の横を覆い尽くすようにあった不気味な彫刻や甲冑たちが一斉に動き始めたのだ!!

 

 

 

 

 

 ガチャ……   ガチャンっ!!!

 

 

 ……ベタ…ン…、ベタン……

 

 

 

 

 

 

 突如として動き始めた彫刻や甲冑たちが息を吹き返したように、身体を起き上がらせ、関節部分を回したりする。首が異常なほど回転する者もいて、それを見たtokoが軽く失神し、あまりの怖さで剣崎兵庫の後ろへ隠れる。ただし、怖いもの見たさで半身は出していた。

 

 

 「…さぁ、我が僕たちよ。殺ってしまえっ!!!」

 

 

 手を振り下ろし、彫刻や甲冑たちに命令すると、雄叫びの代わりに、彫刻は剣や槍を地面に打ち付けて音を出し、甲冑は自分達を叩く事で金属音を出し、承知の意を示す。それを当然というばかりに頷き、自分は玉座に座って、高みの見物を決め込む。

 

 

 その態度にまた苛立ち、ROSEもCADに手を翳して、臨戦態勢になる。

 

 

 

 そしてとうとう、人外の物との戦いが勃発した。

 

 

 

 まずは、彫刻の方から重たい足取りで向かってくる。甲冑は更に動きがたどたどしく、ロボットの歩みよりひどい。

 

 

 「何だ~…!! よっと…!! それほど大した敵ではないわね。」

 

 

 「剣の使い方もまるで初心者、だよ!!」

 

 

 「個々の戦闘力よりも、数で攻めるって言う戦法みたいだにゃ!!」

 

 

 「なら、さっさと片付けてしまおう!!」

 

 

 御神とくろちゃん、ちゃにゃん、hukaが襲ってくる彫刻達の攻撃をそれほど激しく動かないで、寧ろ軽くステップを踏んで踊っているかのように避けて、剣を奪って返り討ちにしたり、放出系魔法のレーザー魔法で倒したりする。

 他のみんなも自分達にあった戦い方で次々と彫刻達を粉砕していく。

 

 

 しかし、ホームズと暁彰、ミナホはこの流れに疑問を感じた…。

 

 

 確かに、体力消耗した自分達を倒すには、圧倒的数での総攻撃をして追い込むのも悪くはない…。

 

 悪くはないが、それにしても、相手の攻撃力が低すぎるのだ。

 

 まるで、熟練の魔法師が長い旅を経て、Lv.1のモンスターの大群と鉢合わせし、逆に一掃してしまうくらいのものだ。

 

 そんな脅威を感じないこの攻撃方法をカバルレは『最高のショー』だと言って、高みの見物状態…。

 

 

 

 

 

 何か裏がある…。

 

 

 

 

 そう思ってならない三人だった。

 

 

 

 ホームズが何を企んでいるのか、カバルレの真意を推理していると、目の前に彫刻がいきなり現れ、大剣を振り下ろす。それをホームズはあっさりと躱し、『殴打』を発動して、鉄拳をお見舞いする。その際、彫刻の顔を見たホームズはあり得ない物を見てしまったのだ…。

 

 

 (な…!! なんだ…!? なぜ彫刻が涙を流すんだ…?)

 

 

 足元に倒れた彫刻の最後の顔に流れた涙が衝撃的過ぎて、確認のため、しゃがんで顔を覗き込む。そして先程見たのは錯覚ではなく本当だという事を知った。表情は全くの無表情で目も死んでいて、完全に彫刻だった…。でもその目から零れ落ちた涙はこの彫刻が泣いたように思えた。

 

 

 そして、その時、ホームズはある結論に達する。

 

 

 それは、あまりにも”生”を冒涜するもので、許してはならない物…。

 

 ホームズは心の奥底から沸き起こる怒りで自分がどうにかなりそうなほど、カバルレが憎くて、仕方なかった。

 

 

 すっと立ち上がったホームズの背中は怒りだけでなく、恐怖を感じさせる雰囲気が宿っていた。その雰囲気を纏ったまま、ホームズは暁彰を呼ぶ。

 

 

 呼ばれた暁彰と、同じく彫刻への攻撃で、その彫刻を調べる事でホームズと同じ結論に至ったミナホがホームズに近寄る。

 

 

 「……暁彰、この彫刻を視てくれないか?」

 

 

 「……わかった。」

 

                ・・

 『精霊の眼』を通して視た彫刻の中身を確認して、目を閉じる暁彰。

 

 

 「…これもだ。 ここにいるすべての彫刻と甲冑は………」

 

 

 「もういい、暁彰。それ以上はいい。

  ………みんなに彫刻への攻撃は止めて、動きを封じる程度にさせてくれ。

  ……頼む…っ!!」

 

 

 そう告げると、ホームズは歩き出した。―――――カバルレの元へ。

 

 

 それを心配そうに見つめるミナホ。だけど、かける妥当な言葉が見つからず、ホームズを見守る事にした。そして、今からホームズがやろうとする事をサポートするため、CADに手を翳す。

 

 

 怖い顔でカバルレを睨み、歩くホームズをROSEの一行も気づいて、見つめる。

 

 もちろん睨まれているカバルレもホームズを見つめる。

 

 

 

 ここにいる”生”を受けているものがホームズに注目する中、突如としてホームズの姿が消えた。

 

 

 そして、次にホームズが現れたのは、カバルレの正面からわずか数十センチにも満たないほどの距離にパッと現れ、大きく振りかぶった右腕で、カバルレの顔面を狙う。

 

 

 

 

 「『マシンメイル・バズーカァ――――――!!!!!』」

 

 

 

 収束系・加速系統魔法で、腕に”硬化魔法”を施し、更に加速させ勢いをつける事で、かなりの破壊力で標的を粉砕する魔法。

 

 

 その渾身の鉄拳がカバルレの顔面に突っ込み、ホームズの腕がカバルレの顔面にめり込む。

 

 

 

 「おりゃ~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 そのまま、力を入れ続け、カバルレを後ろへと殴り飛ばす。

 

 

 殴り飛ばされたカバルレは後ろに飾っていた自画像のこれまた顔面に激突し、自画像を貫通して、壁に大きな穴を開け、身体が壁に挟まった。

 

 

 

 

 ホームズの鉄拳の威力で最上階が揺れる中、目の前で起きた衝撃にROSEのみんなはただ、言葉を失い、口を開けっ放しにして、固まるのだった…。

 

 

 




ほーちゃんが怒っていた理由はすぐに明らかになるけど、それを知ったら、もうほーちゃんの事、みんな絶対に
「よくやった!!」「すっきりした!!」って思うに違いない!!♥

理由を知る前でもやった!!って思うかもしれないけど。


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悪趣味すぎるコレクション

ホントに吐き気がするね!!非人道過ぎるよ!!


 

 

 

 カバルレを殴り飛ばしたホームズは息を荒げて、肩で息をしていた。

 

 

 その後ろ姿をROSEのみんなが立ち尽くして、呆然とする。

 

 

 「す、凄すぎる…!! あんな鉄拳…見た事ないかも…。」

 

 

 「…あれなら、カバルレも相当なダメージを負っているはずだよ…。」

 

 

 ようやく意識が戻ってきたくろちゃんと御神がホームズを称賛する。でも、いつもなら称賛の言葉を送ったら、照れて嬉しがるのに、今回はそれがまったくない。寧ろ聞こえていないようにも感じる。

 

 

 「ど、どうしたんだろう…。ホームズさん…、様子がおかしい?」

 

 

 「それにさっき暁彰から聞いたけど、彫刻達を倒してはいけないってどういう事なの?」

 

 

 ホームズのカバルレへの鉄拳の衝撃で忘れてしまっていたが、敵の操り人形を壊してはいけないと伝言が回ってきて、疑問に思っていた事が引っかかり、訝しく感じ始めるROSEのみんな。さっちゃんが心配そうにホームズを見つめ、hukaが説明してくれそうな暁彰とミナホを見つめると、今まで口を閉じていた暁彰が重く閉ざしていた目を開き、みんなに告げるのだった。

 

 

 

 「…この彫刻達を倒させ、正体を理解させることがカバルレの最大の仕掛けで、”最高のショー”だったんだよ…。」

 

 

 「ああ…、ROSEの心を折るために…な…。」

 

 

 歯軋りする音が聞こえ、悔しがる暁彰と、気落ちし、嘆いた顔をするミナホ。

 

 その二人の発する雰囲気で、何か自分達にとって良からぬ事だという事が理解できた。そして、それがホームズが怒りを爆発させたのだという事も…。

 

 

 つばを飲み込み、暁彰たちの次なる言葉を覚悟して、待つ…。

 

 

 みんなの表情で真実を受け止める覚悟ができたと理解した暁彰がミナホと目を合わせ、ついにその真実を口にする。

 

 

 

 

 

 「………こいつらはただの彫刻や甲冑ではない。」

 

 

 

 

 

 

 

 「……元人間だ。」

 

 

 

 

 

 暁彰の口から発せられた驚愕の真実に覚悟をしていたとはいえ、みんなは目を見開き、縛って取り押さえた彫刻達を凝視して、距離を置く。

 

 

 あまりにも想像できなくて、唖然となるみんなに、暁彰は説明する…。

 

 

 「…こいつらは元々人間で、俺達と同じ”生きていた”。

  カバルレの手に掛かるまでは。」

 

 

 「”生きていた”…だにゃ?」

 

 

 暁彰の不可解な言い方にみんなの代表で、ちゃにゃんが問いかける。

 

 

 「…なぜあいつが使えるのかは知らないが、その人物の”精神”を凍らせ、人間としての生きる手段を断った…。 そして、その後『パラサイト』を入れて、操っていたんだ。元々の”精神”がなくなれば、意のままに動かせる『パラサイト』の”精神”が命令通りに動いてくれるもんな…。

  まったく…、良く考え付いたもんだ…。」

 

 

 「あの『パラサイト』を!! それって、以前実験した結果、万が一の制御起動式が働かなかった場合、甚大な被害になると言われて、戦闘実験する寸前でプロジェクト廃止した『パラサイトドール』実験じゃない!!?

  何でそんな物をここで!!?」

 

 

 極秘のプロジェクトである『パラサイト』を知っていたかはさておき、暁彰の説明で驚きを隠せず、鳥になる日が声を荒げてしまう。それを暁彰は苦笑して、横に被りを入れる。そして説明を続ける。

 

 

 「何もおかしくはない。

  極秘裏に進められて、もう少しという所でプロジェクトが廃止になれば、それに携わった研究者が苦虫を噛み締めたのは容易に想像できる…。何としてもこのプロジェクトの素晴らしさを理解してもらいたいと思うものさ。だから、極秘裏に進められてきたことを逆手に取り、闇に流通したとすれば、その闇が集まる中枢のあいつの元へ転がってきても不思議ではない。

  あいつも、この実験にかなりの興味を持っていたはずだ。…ここまで卑劣な事をするくらいだからな…。」

 

 

 暁彰が憎らしく未だに壁に埋もれているカバルレを敵視丸出しで睨みつける。

 暁彰の後に続く形でミナホが続ける。

 

 

 「…それに、鳥になる日っち!!

  これは『パラサイトドール』プロジェクトを応用したものだよ。」

 

 

 「??それってどういう事なの?」

 

 

 「あくまで、『パラサイトドール』プロジェクトは人型機械人形に『パラサイト』を取り入れる事で、意思を持った人形となった。

 

  人型機械人形がその時の器だった…けど、今回の器は正真正銘の”人間”なんだよ…。」

 

 

 「え!?」

 

 

 「器となる”人間”の血と内臓を抜き、綺麗に洗って保存が効く状態にし、陶器人形…、彫刻にした…。そしてその中に『パラサイト』を入れ、操り人形にしたのよ。

  甲冑の中身も同じ方法でされて、手足だけの物にも『パラサイト』が入り込んでいる…。

 

  本当に…、悪趣味すぎる…!!」

 

 

 

 

 

 

 真剣に説明を聞いていたROSEのみんなだけど、ミナホと暁彰が説明し終えるころには、顔色が悪く、吐き気をもたらす仲間がいた。

 

 

 

 

 「カバババババ……。悪趣味というのは褒め言葉として受け取っておくよ…。

 

 

  でも、私の人体収拾(コレクション)はなかなかの物だろう?」

 

 

 

 

 

 不気味な笑いと共に、今まで壁に埋もれていたカバルレが意識を取り戻し、ROSEに話しかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて…、お前達に心を保つ事は出来るのかな…?カババババババババ!!!」

 

 

 

 

 

 

 カバルレの狂気にまみれた笑いが広間に響く…。

 

 

 




カバルレの非道もそうだけど、カバルレに実験を横流しにした奴も許せんな!!

まぁ、自業自得で実験が完了した後、カバルレに殺されてますが…。彫刻となってますよ。はい…。


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狂気的な殺意

tokoから感想で、カバルレの(怒)(怒)会話したよ!!

「話の中でのキャラだとは思えない」ってtokoが言ってたけど、本当にそう思う!!

カバルレの外道ぶりは更にあるよ~~!!




 

 

 

 

 「よっこらせ……っと…。

  なかなかいい拳じゃないか…。効いたぜ~~、少しだけな…!!」

 

 

 ホームズに殴られた顔面を片手で擦りながら、壁から出てきて、首を回す。その際異様なほどの骨が鳴る音が聞こえ、関節あるのかと疑いたくなる。

 紳士的な仮面をやっと外し、本来の下衆な性格をまんまと表す悪意ある表情に変わる。

 

 

 「うん…、そっちの顔の方がいいよ。」

 

 

 「そうだよね、そっちの方が、殴り甲斐がある…!!」

 

 

 「…てか、ホームズ一発殴られて、既に鼻が曲っているけどな。」

 

 

 「…鼻血のおまけつき。ボリボリ…。」

 

 

 「あれなら、元々のおじいちゃんと同じように皺が入っているし、良かったんじゃない!?」

 

 

 るーじゅちゃん、RDC、サガット、火龍人、鳥になる日が覆っていた手を退けて、偉そうに振る舞うカバルレの顔を見て、それぞれコメントしていく。

 

 

 冷やかしを聞いたカバルレは胸元から手鏡を取り出し、自分の顔を近づけて、わなわなと身体を揺さぶる。自分の頬に手を当て、本物か顔の輪郭をなぞったり、皮膚をつねったりして確かめる。

 

 そしてそれが現実だと知ると、目を見開き、唇までも震えだす。しかし、それだけでは終わらない。

 手鏡に映った背後の自画像のあられもない姿が目に入り、急いで振り返る。自画像には、ちょうどカバルレの顔面のところが吹き飛ばされ、円状に抉られ、潰れていた。実際だったら、頭が吹き飛んで死んでいただろう…。

 

 

 そんな自画像の状態を確認し、とうとうカバルレは壊れた…。

 

 

 

 

 「あああああああ~~~~~~~~~!!!!!

 

  私の~~~~~!!!私の顔が~~~~~~~!!!

 

  私の、私のこの美しい~~~~~~~顔が~~~~~~~!!!!

 

  ……おのれ~~~~!!!この私の顔によくも…!!

 

  ………殺す…。殺す、殺す、殺す!!殺す!!殺す!!殺してやる~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 狂気にまみれた殺意をホームズにぶつけるカバルレ。

 

 

 怨念にまでなりそうなほどの殺意をぶつけられるホームズも、カバルレと張り合うように、外道すぎるカバルレの所業に怒りと憎しみを乗せた殺意をカバルレにぶつける。

 ただし二人の間には、ROSEのみんながホームズを庇うようにして割って入りこみ、ホームズに負けないくらいの鋭い視線をカバルレに注ぐ。

 

 

 

 「……殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!!!

 

  ただし、ただでは終わらせないぞ…!!!

 

  生きたまま…!! 手足を斬って…、首も斬って…、肉を剃って…、はらわたを引きずり出して…、何度も何度も刺してやる…!!!!

 

  私の怒りを思い知るといい…!!!」

 

 

 

 鬼の形相のようなおぞましい顔で呪詛を語るカバルレにくろちゃんが一歩進み出て、右手を前に突き出す。起動式を読み込み、魔法を発動させる。

 

 カバルレは自分への攻撃だと思い、障壁魔法を展開する。

 

 しかし、くろちゃんが狙ったのは、カバルレではなく…

 

 

 

 

 ドガァ~~~~~ン!!!

 

 

 

 

 カバルレの自画像のもう存在しない顔に『フォノン・メーザー』を命中させる。

 

 

 それを、あっけにとられて見たカバルレは振り向きざまにくろちゃんも今すぐ殺したいと顔が出るほどに、歯を剥き出しにして怒る。

 

 

 「貴様…!!!許さん…!!!許さんぞ~~~~~~!!!!」

 

 

 息を荒げて、唸るカバルレに、にやりと微笑するくろちゃん。

 

 そしてくろちゃんに続いて、ROSEのみんながそれぞれ、魔法を発動し、自画像のカバルレの潰れた顔に目がけて、攻撃する。

 

 

 「や、やめろ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 絶叫するカバルレに止めとして、ショウリンが壁の瓦礫の礫を投げて、見事にカバルレの額にヒットし、傷を作る。

 

 

 

 「ひぃ~~~~~~~~!!!!!

 

 

  私の、私の顔にまた傷が~~~~~~~!!!!!!

  

  このクソガキがぁ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 額の傷に触れ、血があふれ出るのを手についた血を見て、逆鱗したカバルレにくろちゃんが言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 「これでほーちゃんだけでなく、私たちもあんたに構ってもらう事が出来たわ…。

  私たちは、全員の力を合わせて、あんたを倒す!!!

 

  …覚悟しなさい!!!」

 

 

 

 

 

 




外道ぶりもやばいけど、自尊心の塊のカバルレの発狂もやばい…。

それに比べて、みんな…いいよ!!!

特に、くろちゃんとショウリン!!決まってたよ!! 集中砲火での子供からの攻撃って痛いからね~~!!


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裏切りの裏切り

裏切りの裏切りって…、結局裏切りか!!?

誰だ?てか、なんで裏切るんだよ~~!!



 

 

 

 

 

 

 「おのれ~~~~~………!!!」

 

 

 怒りが溢れるカバルレ遠くからでもよく聞えるほどの唸り声を上げる。

 

 はらわたが煮えぐり返る怒りを殺意に変え、荒々しく息をして、ROSEを睨み付ける。その時、ROSEの心を更に壊す方法を思いつくのだった…。

 

 

 「 カ~~バッバッバッバ…!!!

 

  いいぞ、実にいい…!!最高だぞ!! お前たちのその仲間思いが崩れる様が目に見えるわっ!!

 

   カ~~バッバッバッバ~~~、カバババババババ!!!」

 

 

 突然笑い出したカバルレにROSEは首をひねる。先ほどまであんなに自分たちに殺意丸出しの視線をぶつけてきていたというのに、いきなり可笑しそうに笑い出したのだ。ROSEとしては真剣な表情でいつでも攻撃でき、防御もできるように臨戦態勢の準備はしているというのに、大笑いされては、カバルレみたいな外道にバカにされた気分になって、腹が立つのは言うまでもない。

 

 

 「「何笑っていやがるんだよ!!」」

 

 

 「…さっきから上からものをいう態度も気に食わない…。」

 

 

  ・        ・         ・

 「気持ち悪いから…。もうやめてほしい…。お願いだから…。」 

 

 

 くろちゃんとホムラが苛立ち突っ込みし、白い目でし~ちゃんとペンダゴンがつぶやく。他のROSEの女性陣も同様に、カバルレに白い目を向け、ドン引きする。

 

 

 

 

 

 「……キモ男だね。」

 

 

 

 

 そして、最後にミナホが止めの締めを口にする。

 

 

 カバルレはそれを聞いて高笑いを止め、カエルを見るみたいなヘビの眼で見つめる。

 

 

 「この私に、そんな口を利くとは…。

  死ぬくらいの痛い目に合わないと私の美しさと栄光がわからないと見える…。

  全く…、私は女好きだが、この私を称えない者に用はない…。

  そして、使えない者もな…。

 

  わかっているだろ?

  ……やれ!!」

 

 

 

 

 

 「誰に言っているのっ………よ……?」

 

 

 

 

 

 ドスッ!!!……

 

 

 

 

 

 突然の背後からの衝撃が伝わり、ミナホの全身に痛みが走り始める。

 

 何が起きたかよくわからなくて、ただ立ち尽くす。だけど、後ろが気になり、祖~~ッと振り向くと、目を疑うような事実が精神的にも現実的にも突き刺さる。

 

 

 

 「ごめんなさい…。あなたとはもう少し話してみたかったですわ…。」

 

 

 

 綺麗な顔をした容姿の女性が感情を失くしたかのような顔で、ミナホに背後から小太刀を突き刺していた。さらに力を入れ、奥へと差し込む。

 

 

 「っふばぁ……」

 

 

 信じられない顔をするミナホが口から吐血する。

 

 

 面識自体はまだそんなにないが、ROSEのみんなからの熱烈な紹介話や人柄を聞いていた。

 

 だから、仲間当然で背中を預けていた…。

 

 

 ミナホが刺されているのを目撃したROSEのみんなは驚愕で開いた口が塞がらなかった。

 

 そしてようやく、自分を取り戻し、くろちゃんが問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……どうして…? オドリーちゃん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 そう……、ミナホを刺したのは、オドリーだった!!

 

 

 

 オドリーは小太刀を引き抜き、ミナホの血を被り、その場を大きく跳躍すると、カバルレのもとへ優雅に歩き、差し出したカバルレの手を掴み、横に密着して並ぶ。

 

 

 ミナホも足に力が入らず、倒れる。

 

 

 慌てて、暁彰とちゃにゃん、tokoが近寄り、ミナホに呼びかける。ミナホはまだ意識があるが、背中を深く刺され、血が大量に出血していた。暁彰は『精霊の眼』で幸いにも動脈や内臓に損傷がないことを確認し、安堵して、『再成』をミナホに施そうとCADをかざす。

 

 でも、それをミナホが暁彰の手に自分の手を重ね、魔法を留める。

 

 

 「……今、はぁ~はぁ~はぁ~、それを、使ってはダメ…。はぁ~…、まだカバルレとも、一戦交えて、いない状況で、相子を無駄に、してはダメ…、だよ…?」

 

 

 吐血で顔が血で汚れたままのミナホが自分の事よりも暁彰の事を心配して、『再成』の使用を断った。

 

 

 ROSEのみんなは掠れていくミナホの声に、危機感を感じ、持てる限りの治癒薬をちゃにゃんやtokoに渡す。それを受け取り、ちゃにゃんが注射でミナホに打ち込んで、痛みを緩和させていく。

 

 

 視界もぼやけるミナホはまっすぐに暁彰を見つめる。

 

 

 

 

 自分はこのままでいい…。

 

 

 『再成』の対価は精神に直接刺激させる痛み…。それを暁彰に負わせたくない…!!

 

 

 自分よりも今は暁彰の力が必要…。

 

 

 だから、自分の事はこのままでいい…。傷はいずれ塞がるから…。

 

 

 これでも、私もタツヤ族の端くれ…だから。 

 

 

 

 そう、自分の思いを必死に目で伝えるミナホ。

 

 

 確かに、タツヤ族の自己再成はすごいが、ミナホは暁彰みたいに自己再成がうまくできない。傷が治るのも、通常よりもかなり劣る治りだ。

 

 しかし、やはり一般的な『再成』を持たない魔法師よりは治りがいいので、異能は受け継いでいるともいえる。

 

 だから、ミナホは自分の事は大丈夫だと伝えたかった。

 

 

 

 

 その思いを必死にもう声も出ない口から息しか出せなくなりながらも、自分なりに伝えたミナホは睡魔に襲われ、目を閉じた。

 

 

 ちゃにゃんが麻酔薬を投与したからだ。

 

 

 ミナホが眠ったのを脈に触れ、確認した暁彰は、CADを向け、ミナホに『再成』をする。

 

 

 ミナホの身体がボウッと一瞬霞み、傷もないいつもと変わらないミナホの姿となる。

 

 

 

 「……ミナホの気持ち…、しっかりと受け取った。

 

  でも、私にとっては、ミナホにもしものことがあったら…、仲間を目の前でなくすなんてことになったら…。

 

  それを考えると、私の対価なんて安いものだから。

 

  …私を心配してくれて、ありがとう…。」

 

 

 落ち着いた呼吸で眠るミナホに暁彰が微笑を浮かべる。

 

 

 

 

 

 そして、ミナホの状態が心配の域を脱したのを確認したROSEのみんなはカバルレとオドリーに視線を投げかける。

 

 

 

 

 「カ~~~バッバッバッバ!!!

 

  実にいい、小賢しい芝居だったぞ!!

 

  どうだ!? 信頼していた仲間に裏切られる気分は!!?

 

  私の女の演技は、性別関係なく、虜にする…。

 

  まんまとはまったな!!」

 

 

 

 高笑いするカバルレの腕に抱かれるオドリーも無表情から唇を吊り上げ、ROSEを見つめる。

 

 

 

 「…仲間に手を出した奴は今まで…、容赦なく仕返ししてきた…。

 

  絶対に許さない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんが怒声を上げ、単身で突撃していく…!!!

 

 

 

 

 そのあとを、くろちゃんに続いて、みんなも突撃するのだった。

 

 

 

 




まさかのオドリーの裏切りだと!!?

信じられない!!

は!! そういえば、オドリー…、すぐにさよならって言っていたような…?


どういうことだ!この展開!!


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カバルレへの憎悪と嫉妬

今日で今月のチャレモが終わる!! 今月も最高報酬もらうぞ!!

昨日は、チャレモの最中、久しぶりにヘムタイ騒動があったな~~…!!


 

 

 

 

 

 オドリーの裏切りのよって、ミナホが重傷を負い、しばらくは戦闘不能になった。

 

 

 それにより、ROSEの心境はカバルレの外道な仕掛けで、徐々にヒビが入り始めていた。

 

 人間の尊厳を、仲間を大事にするROSEにとって、カバルレの行為は許せるものでもなく、ROSEの誇りをズタズタにしようとするカバルレが憎く、身体中の血が沸騰するくらいに頭に血が上り、怒りが込み上げてくるのだった。

 

 

 しかし、ミナホを刺したオドリーにも怒りを持つが、カバルレほどの怒りは全くなく、むしろ仲間の情を持って、視線を向けていた。

 そのオドリーへの怒りも、なぜミナホを刺したのか…、という仲間の命を脅かしたことへの怒りのみで、裏切った事への怒りは全く感じられなかった。

 

 

 だって、ROSEのみんなは、オドリーが自分たちを裏切ったとは思っていないから。

 

 裏切られた実感がないから、そう思っている…のかもしれないが、オドリーと実際に戦ったり、離したりと、共に時間を過ごしたくろちゃん、ちゃにゃん、御神、ホームズは、どうしても納得できなかった。だって、オドリーが自分たちに見せてくれた笑顔も、言葉も、本心からだったと知っているから…。

 

 

 だから、オドリーがミナホを刺す直前にカバルレが最後に言っていた、「わかっているだろう?…やれ。」という言葉に、オドリーは従わざる終えない状態だったんじゃないかと考えたくろちゃんたちは、元凶のカバルレへの底知れない怒りを更に積み上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 驚愕しながらも、オドリーの裏切りにそれほど激しく動揺もなく、自分への憎しみ込めた視線が強くなった一方、傍らに控えるオドリーには、激しい怒りを感じられないのを、首をかしげ、訝しがるカバルレ。

 

 

 (おや? 思っていた反応と少し違うな…?

  私への反応は想像通りだが、オドリーへの反応は想像の規定値よりはるかに小さい…。まだ、オドリーへの情が怒りに変わらないのか…。

 

  なら、オドリーの事をもっと…、教えてやろう…。

    

  そのあとに、調教してやる!!)

 

 

 

 そう計算すると、カバルレは傍らで自分の腕の中で抱き寄せられているオドリーの抜群のバランスで、綺麗な形をした豊胸をがっちりとした手で掴んだと思ったら、いきなり撫でまわし始め、揉み解し出す。

 

 

 「あ……!! カ、カバルレ…!! そ、そこは…っ!! らめ~~~っ!!

  やめて……っ!! ああ……、ああ~~…、ああ!!」

 

 

 喘ぎ声を漏らしながら、カバルレの腕から逃れようとするオドリーだが、余計にカバルレの胸の中に引き込まれ、カバルレの両手で胸を揉まれてしまう。

 

 

 「ふん…、そういいながらも、オドリー…。感じているではないか?

  ほら…、乳首を感じてこんなに硬くなっているぞ?

 

  気持ちがいいのだろう? お前もかなりのヘムタイだな。

  潜伏していた敵に正面から見られて、余計に感じているぞ?…いつもよりな!!」

 

 

 「ああああああ~~~~~!! ……………お……お許し、ください!!これ以上は…!!」

 

 

 カバルレの指が乳首をつまみ、弾いていきながら、激しく胸を揉まれ、軽くイッたオドリーの懇願も受け入れず、その喘ぐ姿をROSEに見せつける。そしてオドリーの胸を揉みながら、ROSEに勝ち誇った笑みを向ける。

 

 

 

 

 「どうだ?オドリーのこの顔はまだ見ていないだろう?これは私だけのものだ。

  私の女だからな…、こいつとは、肌を何度重ねただろうな~~!!

 

  こんなヘムタイが、どれだけいい女で、どれだけ残虐な奴か…、お前たちに教えてやろう!!

  そうすれば、お前たちのオドリーへの情なぞ、完全に消え失せるわ!!

  カ~~~~~~~~バッバッバッバ!!」

 

 

 

 

 

 高笑いしながら、ROSEを挑発するカバルレ。

 

 

 そしてROSEは………

 

 

 真面目にカバルレの言葉を聞いて、また仕掛けてくる気だと、カバルレを睨むHMT。

 

 

 そして一部の連中…、NSTはカバルレよりも、悶え、喘ぐ声を抑えようと口で押えるオドリーを凝視して、目を飛び出し、鼻血を湧水のようにだら~~~…っと流す。

 

 特に、くろちゃんとホームズ、剣崎兵庫、(いつの間につないだのか、小型モニターからマサユキが通信で)鼻血を噴射して、へらへら顔でカメラをオドリーの胸や顔をアップで●RECし出す。

 

 

 

 

 そのすぐ後、カバルレより先に退治された者達がいたのは、言うまでもない…。

 

 

 ヘムタイ達は制裁を受けないカバルレに嫉妬し、屍になる前に「カバルレ」「恨めしや」「もみもみー」……と、ダイイングメッセージを残して果てた…。

 

 




カバルレ!!やめろ~~!! そんなはずいことを人前でするなんて!!
ほら見ろ!!お前のせいで、全国のヘムタイが集まってきたではないか!!

ちなみに、昨日の騒動でHMT隊長の茶にゃんの号令を受け、刑の提案係長のミナホが「乳首連続ツンツンの刑」をヘムタイに与えました!

…一体全体なんでこうなったんだよ?


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裏切りのどん底

いやいや前回はヘムタイ達に夢が芽生えたね。

でも、忘れてはいまいか?

オドリーの声の事…。見た目だけだと、官能的だけど、目を閉じて、聞いたら、BL…
になるよ♥ ヘムタイにとっては、一石二鳥だね!!


 

 

 

 

 

 「…仲間割れか。カバババババ!!!

  これは滑稽だ!! 知っていたら、仲間内で殺し合わせる策も考えていたのにな~~!!

  カ~~バッバッバ!!!」

 

 

 HMTのNST撲滅の現場を傍観していたカバルレは、HMTの下心満載のNSTを葬る手段にニヤニヤと笑い、面白がりながら、話す。ただし、未だにオドリーの胸を執拗に揉みながら…。

 

 

 ちゃにゃんがそれを見て、だんだん腹が立ち、ホームズから没収した”SM鞭”を振るい、オドリーの胸を離さないカバルレの腕に巻きつけ、引っ張る事で、『揉み揉み』を止めさせた。

 …止めなければ、ヘムタイ達が這って生き返る事が目に見えていたから…。そして、それを理解した上でヘムタイ行為をするカバルレに苛立っていたから。

 

 

 ちゃにゃんのお蔭で、MSTは我を取り戻した。

 

 

 我を取り戻したくろちゃんとホームズはすぐに飛び出したハートの眼を手でつかんで押し込み、噴水する鼻血をティッシュで鼻栓して、カバルレに指差して、怒声を浴びせる。

 

 

 「よ、よくも私達を翻弄しようとしたわね!! だけど、あいにくあんたみたいな外道で、人前での乱交が好きなクズの策に溺れるような私達ではないから!!」

 

 

 「そうだ!! おいらをたぶらかそうとしたって……、通用しねぇ~ぞ!!こら♥」

 

 

 「十分、通用しているよ!!」

 

 

 「まんまとクズ野郎の罠を喰らって、メロメロになってるよ!!」

 

 

 我を取り戻したはずの二人が鼻の下を伸ばして、照れ照れしながら言うもんだから、RDCとさっちゃんが突っ込む。

 

 そんな二人にちゃにゃんが目を光らせて、制裁を受けて唇がなぜかたらこ唇になっていた二人の唇を強く抓って、そのまま抓んだまま二人を引き摺ってみんなの陰の中に入っていく。身体全体に嫌な汗を掻きながら謝る二人だったが、みんなの人影に隠れてから、悲痛な叫びと骨が砕ける音が響いた。

 

 

 「カ~~~バッバッバ!!!

 

  お前達、面白いぜ!! それだけでも十分にショーに出れるぜ!!

 

  …だがな、いい加減俺の許可なく楽しんでるんじゃない…!!」

 

 

 急に声色を低くし、本来の素が出たカバルレがROSEの空気を変えた後、不気味な笑みを浮かべ、とんでもない事を言い出す。

 

 

 「そう言えば、お前達は俺のコレクションを全否定して怒っていたな…。

 

  あの実験は俺が全ての権限を尽くして完成した究極のショーの道具たちだったんだぜ!?

  道具をメンテナンスして、使えるようにするのは当然の事だろ?

  それに、お前達が俺だけが悪い…、なんて考えていると思うが、器から心を直接奪ったのは、俺ではないぜ?」

 

 

 

 高笑いして、意味深な事を言い出し、眉を吊り上げるカバルレにROSEのみんなはとてつもない嫌な予感を感じた。そしてその予感は的中する…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何を隠そう…!!

  俺の傍らにいる、俺の女…、オドリーがここにいる全部の彫刻達の”精神”を『コキュートス』で凍らせ、殺したんだからな!!!

 

  カ~~~バッバッバ!!!!

 

 

  いい!!すごくいいぞ!!その顔!! 」

 

 

 

 

 腹を抑えて、笑い出すカバルレの笑い声が入らないほど、ROSEのみんなは驚愕する。そして視線はカバルレではなく、オドリーへとみんなの視線が向けられた。

 その視線と表情には、驚愕と疑いの感情が入り混じっていた。

 

 

 

 そんなみんなの視線を受けているオドリーはニコッと微笑み返すのだった。

 

 

 




ROSEのオドリーへの信頼をどん底まで落としにかかるカバルレ…。

もうやめろ~~~!!

みんなの心の芯を折るな~~~!!


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仮面の下の涙

いやはや、びっくりしたね。オドリーがそんなことを…。



 

 

 

 

 

 

 カバルレから告げられた新たな事実…。

 

 

 ここにいる元人間の彫刻達の”精神”を凍らせ、人としての“生”を終わらせたのが、実はオドリーだと聞かされ、雷の受けたような衝撃がROSEのみんなに走る。到底受け入れがたい事実だが、暁彰やtoko、ショウリンにはなぜか心の中で感じていた何かが解決したようで、納得した顔で頷いた。それを見たくろちゃんが疑問に思って、暁彰に視線で問いかけると、それに気づいた暁彰は一瞬、くろちゃんを見た後、視線をオドリーに固定したまま、話し出す。

 

 

 「彫刻達の”精神”を凍らせる魔法…、『コキュートス』はある一族の遺伝的属性が強い魔法で、その一族しか使えない者なんだ。俺たち、タツヤ族の『精霊の眼』のように。そしてこの魔法を代々血で受け継いでいるのは、ミユキ族…。

  圧倒的魔法力の適性を有し、計り知れない相子を持ち、さらには精神干渉系魔法も得意とする一族だ。…それにふさわしい他とは比べられないほどの華麗で、究極の美を詰め込んだような容姿が特徴だ。

 

 

 

  …なんでもっと早くに気付かなかったんだ、俺は。タツヤ族はミユキ族と繋がりが深く、ミユキ族の危機には、体を張ってでも守るように”精神”を改造されているというのに…。」

 

 

 最後のセリフは、小声でつぶやいたため、くろちゃんたちに聞かれることはなかった。ただ、タツヤ族のtokoとショウリンには聞こえていた。二人も暁彰に同意して、苦々しく感じる。

 

 でも、その原因を視た三人は、言葉を飲み込み、別の事を話した。

 

 

 「…オドリー…。君はそのミユキ族の人間だよね?

  じゃないと、『コキュートス』は使えないし、その魅了するほどの容姿…、何より君の構造上に、ミユキ族の遺伝子が流れている。」

 

 

 暁彰が結論を述べた。

 

 そしてそれにこたえるようにオドリーはまた微笑み返した。

 

 

 

 「カバババババ!!!ようやく理解したようだな! 俺の女はよく俺のために何でもしてくれるから便利だぜ!!

  ここまで俺に尽くす女はどこにもいねぇ~な!!」

 

 

 「ふさげるな!!だまって!!」

 

 

 オドリーをもののように扱いだすカバルレにくろちゃんが大声を上げる。

 

 

 「オドリーは物でも、道具でも何でもない!!

  感情を持った人間の可愛い女性だよ!!そして、私たちの大事な仲間!!」

 

 

 熱いまなざしで断言したくろちゃんに、カバルレは目を見開いて、驚く。

 

 ここまでオドリーの事実を突きつけられて、それでもまだ仲間だと思い続けるくろちゃんに絶句したのだ。

 

 

 (なぜだ? なぜそこまで信じようとする? 

  お前たちとの縁が切れたというのに…。)

 

 

 内心で驚きながら次の策を考え始めるカバルレから、オドリーに視線を向け、手を差し伸ばすくろちゃん。そのくろちゃんを囲むようにして、ROSEのみんなも集まり、オドリーに優しく微笑む。

 

 

 「オドリー、戻っておいで!」

 

 

 「大丈夫、大丈夫~~~~!!」

 

 

 「早く、かえっておいで!!」

 

 

 …と手招きも添えて、オドリーに声をかける。

 

 オドリーは先ほどからずっと微笑み続けている。

 

 しかし、くろちゃんにはわかっていた。その笑顔は本心からのものではないことを。そして今もなお、猫をかぶって、感情のない笑顔の仮面をつけていることも。

 

 

 だから、くろちゃんは腕に力を入れ、オドリーにさらに手を差し伸ばす。

 

 だって……オドリーが私たちに向けていた笑顔は本物だと信じているから…。

 

 

 

 「オドリー…、私たちはどんなに短い間の付き合いでも、仲間を大事にするし、仲間のために何かをしたいとおもっているの。

  だから、一度裏切られたくらいで、「はい、そうですか」って切り替えられるほど私たちの仲間へと向ける情熱は冷めることはない!!

  薔薇のように華麗に咲き誇る!!その薔薇にも棘があるように、一癖二癖もある仲間もいるんだから!!(私とかね♡)

 

  オドリーはもう私たち、ROSEの一員なんだよ!!私たちの許可がない限り、勝手にギルド脱退とか認めません!!

 

  

  さぁ!! 私たちと一緒に歩いて行こう!!」

 

 

 偽りのない純粋な笑顔を向けて、オドリーにROSEの仲間だと言い切ったくろちゃんに、みんなが大きく頷いて見せた。

 

 

 そんなROSEのみんなからの暖かい思いを受け取ったオドリーは、ずっと貼り付けていた仮面の笑顔に、一筋の涙が流れ落ち、唇をぎゅっと結び、また一筋…、と泣くのだった。

 

 

 

 

 「…うん、私もみんなの事が好き…!! 

 

 

 

 

 

 

  みんなのいる場所へ、帰りたい~~~~~~!!!!」

 

 

 

 溜め込んでいた色々な感情が込み上げてきて、ついにオドリーの本音が辺りに響く。

 

 

 

 

 

 




うん、すぐに仲間を疑ったり、敵視するなんて嫌だもんね!!?

心は折れそうになるけど、ヒビが入っても、修復するたびに強くなる!!

ROSEの絆はそう簡単に切れるほど軟なものではないぞ!!カバルレ!!


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お前は用済みだ

目の前で裏切り宣言されたからな…。やばい、やばす!!


 

 

 

 

 

 

 「…うん、私もみんなの事が好き…!! 

 

 

 

 

 

 

  みんなのいる場所へ、帰りたい~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

 

 オドリーの本心からの想いにROSEのみんなはほっと安堵するとともに、オドリーが戻ってきてくれる嬉しさに心が躍った。大部屋が歓喜に包まれ、オドリーを歓迎する。しかし、たった一人だけ歓迎どころか強い念を持つ者がいた。

 

 オドリーがカバルレの腕を払って、みんなに手を伸ばし、駆け出そうとした。

 

 そこへ、腕を払われたカバルレの理性が完全にキレてしまい、腕を瞬時にオドリーの首に巻きつけ、引き戻し、狂気を逸した瞳と笑みでオドリーの耳元で声をかける。

 

 

 「……どうしてだ?オドリー?

  俺のもとをなぜ離れようとする?誰がそれを許した?お前は俺の女だ。俺だけのために生きていればいいのだ!!

  婚約者を失い、絶望の淵にいたお前を誰が救ってやったというのだ!!?お前からはまだ恩を返しきってもらっていないぜ!!なあ~~!!

 

  さぁ!!俺に身体全てを差し出せ!!

 

  お前は俺のものだ!!誰にもやらん!!」

 

 

 「……くっ……し、…締まる……」

 

 

 獲物を目の前にしたハイエナのような瞳でオドリーを凝視し、腕に力を入れていく。執拗な感情をぶつけるカバルレの表情が殺意を持ち始める。

 

 

 「オドリー!!!」

 

 

 くろちゃんがオドリーを助けようと駆け出すが、どこから現れたのか、さっき縛り上げたはずの彫刻達が立ちはだかり、無闇に殺すわけにはいかないと、対処に手間取る。

 

 

 「オドリーよ…。俺と一緒にいると言え。今なら、まだ間に合う…。さぁ、言え!!」

 

 

 「…お断りします。私、ようやく自分の居場所を見つけることができました。彼らといた時、にぎやかで面白くて、楽しくて…、こんなに仲間を大切にする人たちはいないだろうな~って思いました。そしてずっと私が求めていた愛情がここにあるという事も気付けました。私は…、彼らとともにいたいです!!

 

  だから、もうこれ以上、罪もない人々を殺したくはありません。

 

  …今までありがとうございました。」

 

 

 緩んだ腕をほどき、深呼吸すると、謝罪と感謝を告げる。

 

 カバルレが言ったとおり、ある時、オドリーは婚約者を亡くし、精神的ショックで途方もない生活をしていたオドリーを拾って、そばに置いてくれたのだ。その恩人が喜ぶから…、役に立てるならとこれまでいくつもの悪事に手を染めてきた。でも、裏切られてもなお自分を信じてくれる人たちに出会って、自分を大拙にしたいと思った。

 

 恩人から敵へと変わるわけだけど、オドリーの巣立ちにはこれでよかったのかもしれない…。

 

 

 だが、欲深く、執念深いカバルレは冷たい視線をオドリーに向け、言い放った。

 

 

 

 

 

 「……それがお前の答えか。

  俺の元から離れるくらい、ほかのやつらの元へ行きたいのなら、終わらせてやろう!!

  …お前は用済みだ。

 

  さよなら、オドリー…!!」

 

 

 

 

 グザッ………!!!!!

 

 

 

 

 

 オドリーを押さえつけたカバルレは素手で、思い切りオドリーの腹部を刺した。

 

 後ろから刺されたオドリーの腹部からオドリーの血で汚れたカバルレの手が生えてきたかのように見えるほど、カバルレの腕がオドリーの身体を貫通した。

 

 

 

 そのまま、腕を上げ、宙に浮いたオドリーの身体を忌々しそうに見つめ、けがれたものを扱うように、腕を大きく振り払い、オドリーは宙を飛んだ。

 

 

 手についたオドリーの血を舐め、蔑む視線を向ける。

 

 

 「…まさかお前がここまでもろい女だったとはな…。

 

  せっかく、あいつを殺して、苦労して手に入れ、愛でてやったというのによ。とんだ誤算だったな。」

 

 

 「あいつって…?まさか…!?」

 

 

 ホームズが推理する。そしてその結論に、怒りを覚える。もちろん、怒りの矛先はカバルレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「想像通りだぜ、ホームズ…。俺は、オドリーの魅力に引き込まれ、その時、オドリーの婚約者だったあの男を殺したのさ!!」

 

 

 

 




外道の中の外道!!このカバルレめ!!いい加減にしろよ!!


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私が世界のすべてだ!!

もう外道は腹いっぱいだから…。


もうやめろ~。 


 

 

 

 

 

 カバルレが言い放ったオドリーの衝撃的な暴露話に、もう我慢できなくなったホームズが飛び出し、もう一発『マシンメイル・バズーカー』を発動し、鉄拳をカバルレにお見舞いしようと大きく腕を振りかぶる。

 

 

 「カバルレ~~~~~~~!!!!!(激怒)」

 

 

 オドリーの切り捨てるだけならいいものを、重傷を負わせ、更には過去の悪事をバラし、それをあざ笑うカバルレに怒りを全く感じないなんてこの場のだれもいない。

 最初の一発はミナホが『疑似瞬間移動』でサポートしたため、見事にカバルレを殴って、すっきりした。しかし、ミナホはまだ大部屋の端でtokoに見守られて、眠っていた。傷は治っても、体力は戻らない…。ここまでの道のりで相当疲労が蓄積して、深い眠りについていた。

 

 だから、ホームズは自分一人でまっすぐに突き進む。

 

 振りかぶった鉄拳がカバルレの心臓目がけて解き放たれる。

 

 しかし、目の前のカバルレに鉄拳が直撃したというのに、吹き飛ぶどころか、身体が曲がった。『幻影投影』でダミーを作られていたのだ。

 ホームズの『マシンメイル・バズーカー』を躱したカバルレはホームズのすぐ横に現れ、気配に気づいて振り向いたホームズに、『邪眼(イビルアイ)』を仕掛けた。

 

 『邪眼』を喰らってしまい、ホームズはカバルレの支配下に入ってしまった。

 

 

 「…さぁ、ホームズよ!! オドリーに止めを刺せ!! あの世であの男も待っているぜ!!」

 

 

 ホームズが、飛ばされて床に倒れているオドリーとオドリーに駆け寄ったさっちゃん、RDC、るーじゅちゃんに襲い掛かった。

 

 だけど、直前にその間に割り込んだサガットとhukaのお蔭で、オドリー達には怪我はなく、サガット達と挟み込む形で暁彰がホームズの背後に瞬時に移動し、『術式解体』でホームズに掛けられた『邪眼』を打ち消す。

 

 正気に戻ったホームズがみんなに謝罪する。

 

 そしてオドリーは息がまだあり、その頬には、涙が流れていた…。

 

 オドリーがまだ死んでいなくて、邪魔が入った事にカバルレは声を荒げる。

 

 

 「……なぜおまえたちは止めるんだ!?

  オドリーも仲間の手であの世に行けた方が本望だろうよ!!

  結局は、『コキュートス』で何百人も殺してきたんだ!!ここで助かったとしても、残りの人生は牢暮らしさ!!カ~~~~~バッバッバッバ!!!!!

 

  その絶好の機会を与えてやったんだぞ、俺は!!

 

  俺からのプレゼントだ!!有難く受け取っておけ!!

 

 

 

  この私から贈り物をもらえるなんぞ、そう多くはないのだぞ!!?

  俺が世界の全てだ!! 

 

  俺の言うとおりに動き、

 

  俺の役に立て!!

 

  俺をもっと敬え!!崇めろ!!」

 

 

 

 

 「………いい加減黙れにゃ。」

 

 

 「この外道がっ!!」

 

 

 「お前なんかには一生費やしても、絶対に理解できないでしょう!! 

  人を見下し続ける…、それが当然とばかりに振る舞う奴に~!!

  心から慕う人なんていないです!!」

 

 

 ちゃにゃんとワイズさん、tokoが目を大きくして、ビリビリした空気を身に纏い、カバルレを黙らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”……お前には一生費やしても、絶対に理解できないだろうな…。 

  人を見下し続ける…、自分中心で世界が回っている…、それが当然とばかりに振る舞うお前に、本気で付き合っていきたいと…、心から慕う人間はいないぞ…。”

 

 

 

 

 

 

 カバルレは最後のtokoの言葉があの男の最期の言葉と重なり、ふと昔の事を思いだしていくのだった。

 

 

 

 




邪魔が入って、逆切れして、痛い所をつかれたカバルレ。これって、やばすか!?


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人生初の○○

誰もがしたことがあるあれ…。

カバルレもこうだったと思うとなぜかうれしい!…とならずに

吐き気が来たのは、どうしてだろう…?


 

 

 

 あれは、カバルレが”カバルレ・サマダ大サーカス”を立ち上げ、帝国一の曲芸一座にまで上り詰める前…、そして曲芸魔法師になる、ほんの7年前の事…。

 

 

 

 魔法関連開発研究所の業績に大きく関係するほどにまで任され、彼なしではここまで大きく成し得なかったと言われるくらいの活躍をしていたカバルレ。

 

 …だったが、突然のリストラを受け、解雇され、カバルレは絶望した。

 

 解雇理由は、これ以上カバルレに権限を与え、好き勝手されれば、いずれはカバルレの私物化となり、今以上に危険な開発を他の研究員に強いる可能性を秘めていたため、カバルレを追いだしたのだった。

 

 カバルレは何で自分が解雇されたのか、全く理解できていなかった。カバルレは不当な解雇だと訴えたが、研究所だけでなく、スポンサーやサポーターまでもがカバルレの仲間を大切にしない、自分中心主義の塊を批判し、一切受け入れなかった。

 

 爪弾きされたカバルレは絶望した。…魔法研究が愚かな考えを抱いたクズの所為で、できなくなったと。

 

 

 頭を抱え、公園でブツブツと暗号めいた呟きをするカバルレは、周りからは、『とうとう頭がイカれてしまった可愛そうな老人』…というカテゴリで遠まわしで見られ、通報するべきかどうか迷っていた。

 

 そうとは知らないカバルレは地面に木の棒で新たな魔法の起動式を書いていきながら、模索中だった。

 

 

 

 (……これが完成すれば、もしかしたら、俺の功績が認められ、あいつらに一泡吹かせられる!!)

 

 

 

 そう考え、没頭していると、公園の様子がおかしくなってきた。

 

 

 公園というよりは、公園に来ている利用者たちの様子、がだ。

 

 

 集中力が切られるほどのざわめきが利用者達から発せられる動揺やら、ひそひそ話やらで盛り上がりを見せる。

 

 

 (…ったく、俺様の邪魔をするな!! なんだ、さっきから、顔を真っ赤にして、浮かれまくりやがって…!! 若い奴は落ち着きというものをしらねぇ~のか!?)

 

 

 苛立ち交じりで騒ぐ人だかりを睨むが、彼らが全員ある方向を凝視して、(時には視線を逸らして、隠し見を)一点集中する様を目撃し、つられてカバルレも顔を上げ、立ち上がり、彼らの視線を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --------そして、人生初の恋に落ちた…。

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが見つめる先には、この世のものとは思えない、純粋で、華麗で、男女の性別関係なしに見惚れるだろう…、いや、見惚れるべき存在の美しい女性が公園の時計塔の下で背筋を伸ばし、佇む。

 

 カバルレはその女性を見て、一目惚れしたのだった。

 

 

 (……なんて、神々しい女性なんだ。まさに、私を救うためだけに現れた女神…!!

  あの女性を私だけのものにすれば…)

 

 

 

 自分は神にも匹敵する頭脳とカリスマを持った存在だ。そして、その横に立つ女性は自分に相応しく、釣合の取れる異性でなければならない。

 

 

 

 カバルレはずっとこんなことを考えていたため、年相応に老け込んだ今でも、一生を添い遂げる人はいなかった。

 (いや、カバルレ自体についてくる女性はなかなかいないだろう!!)

 

 

 

 カバルレは木の棒を捨て、両手で髪や服を整え、「いざ!!」と勢いづけて前に一歩踏み込み、その女性に人生初のアプローチをしようと意気揚々と向かった。

 

 

 しかし、一歩踏み出した途端、カバルレの初恋は破綻する。

 

 

 

 

 

 「………待たせて悪かった。オドリー」

 

 

 そう言って、現れた長身で痩せていて、大人な雰囲気を醸し出す男性がその女性に話しかけながら、近寄り、オドリーと呼ばれた女性は子供っぽい笑顔で嬉しそうに男性に近づき、腕に抱きついたのだ。

 

 

 

 

 

 「いえ!! 逢えてよかったですわ!! セイヤ!!」

 

 

 

 

 カバルレの初恋はあっという間に霧散した。

 

 




…うわぁ~~…。

なんか嫌な予感しかしないわ~~!!


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君の隣には…!!

ちょっと…、え!!
タイトルから物凄い邪悪なオーラが漂ってくる!?

カバルレ外道の域を……!!!  いや~~~~~!!!


 

 

 

 

 カバルレの初恋の女性は、待ち人の男性に満面の笑顔を向け、楽しそうに何かを話している…。

 

 

 それを傍から見ている男性の野次馬達は彼女の笑顔でノックダウンを受け、失神したり、拝んだりする一方、その笑顔を向けられている男性には、心の中で罵り、恨めしそうに見つめたりと嫉妬の炎で燃え上がらせる。

 

 男性の方の容姿は「まぁそこそこいい感じ」というレベルの顔立ちだが、彼の纏う大人な雰囲気と安心感で、女性にとっては気になる存在として覗き見されていた。

 

 

 野次馬の二人への興味が注がれている中、カバルレは激しい怒りと執念にもなる野望を脳裏に焼き付けた。

 

 求婚をする前に、…というより声を掛ける前に、彼女に男がいる事を知った。

 

 それを目の前で見せつけられ、カバルレはショックを受けた。しかし、そのショックは実らない恋をしてしまった事に対する儚さからではない。

 

 

 (俺の前に突然現れておいて、「俺の隣に相応しい」と、認めてやったのに…!!

 

  この俺のプライドをズタズタにしやがって!!

  

  しかも、あんなどこにでもいるような平凡な容姿の奴にこの俺が負けるだと!!有り得ない!!

  彼女に相応しく、また釣り合えるのは、世界でこの俺ただ一人だけだ!!

  お前は生き埋めになるなり、八つ裂きにされるなり、海の魚のエサにでもなりやがれ!!

 

 

  ………それは、いい考えだな…。 自分で考えてみたが、これは実にいい考えだ!!

  あの男をこの世から消してしまえば、彼女は私の物だ…!!

 

 

  ああ…、”オドリー”…だったな? 

 

  オドリー…、君はもう俺のものだ…!!)

 

 

 ……勝手に一目惚れしておきながら、叶わぬ恋を自分にさせられ、プライドを傷つけられたという嫉妬と怒りでショックを受け、その反動から彼女の恋人を殺害する計画を立て、自分の恋を成就させようと思考を闇へと沈めていった。

 

 

 そんな野次馬達とは大分違った観点から見て、横恋慕の横車を成功するべく、狂気に満ちたカバルレは、少しの会話をしてから、公園を去ろうとする二人を尾行し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 ……それからというもの、カバルレは彼女…、オドリーの身辺をうろつく様になった。生活習慣やちょっとした癖等もオドリーを尾行し、又は真向いの家を借りて、窓から細かく観察し、オドリーのあらゆる行動を常にチェックした。

 

 

 (くっくっくっく…!!! すべては俺との将来のためなんだよ、オドリー…。)

 

 

 覗きスコープで毎日、オドリーを観察し、益々オドリーの魅力のとりこになっていくカバルレ…。

 もう、ストーカーの域を踏み越えており、一歩間違えば、人を殺めかねない域にまで達していた。…いや、オドリーのストーカーになる前から、新魔法や新魔法アイテムでの実験で、データを収集するために過激な実験を何度もしているカバルレには、自分以外の人間がどうなろうと気にせず、息の根を止めることができるだろう。

 

 

 ストーカーと成り果てたカバルレは、そんな危うさが秘めていた。

 

 そして、オドリーとまだ会話をしないまま、執念の愛を深める一方、オドリーの恋人であるセイヤの存在がカバルレを身勝手な嫉妬、怒り、憎しみ、殺意…を高める。

 

 

 

 

 今、カバルレの目の前には、二人で同じテーブルにつき、紅茶とケーキを上品に口にするオドリーと同じ紅茶の入ったカップを持ち、美味しそうにケーキを食べるオドリーの顔を見て、微笑むセイヤが仲睦まし気にほののんな世界を二人で作り上げていた。

 

 

 カバルレは地団駄を踏みたいのを堪え、苦々しさを込めた鋭い視線をセイヤに向ける。

 

 

 そうしていると、オドリーが椅子をセイヤの方に近づけて、自分が食べていたケーキを一口分フォークで切って、セイヤの口元へ近づける。カバルレはその光景を見て、羨ましく感じると共に、その相手であるセイヤには殺意を募らせるのだった。

 

 オドリーにいわゆる『あ~~ん♡』をされたセイヤは仕方ないなというように微笑して、ありがたくケーキを食べた。フォークでの間接キスをして、逆にオドリーの顔が真っ赤になるのを、カバルレは拳を強く握り、身体を怒りで震えさせた。

 

 

 

 そんな二人の甘い世界を傍から見た(見せられたんじゃ!!)カバルレは…

 

 

 (殺す、殺す、殺す、殺す!!

 

  あの男、俺のオドリーに色目使いやがって!!←(使ってないから)

 

  オドリー…!!目を覚ませ!! 君の隣には、俺がふさわしいと出会った瞬間から既に決まっている!!

  今は君のすべてを知りたくて、君の浮気も寛大に見てあげているだけだからな!!

 

  いずれ、その男を君の前から永久に消して、君を迎えに行くから…。

 

  待っていなさい!!)

 

 

 

 そう、心の中でセイヤと楽しく会話して、笑っているオドリーに、狂気にまみれた殺伐とした笑顔を浮かべて、語るのだった…。

 

 

 

 




止めて!!

怖い!!

カバルレ、もう完全に逝ってるじゃん!!? 自分の都合のいい解釈しているよ~~!!
怪談話の聞くよりも怖いよ~~!!
鳥肌がやばす~~~~!!!


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最悪の迎え…

着実に、魔の手が伸びてくる~~!! 言いがかりに、逆恨みに…!!




 

 

 

 

 

 

 オドリーの家の真向いに引きこもるカバルレは今、オドリー奪取計画のプランを密かに突き進めるため、実験に没頭していた。

 

 

 

 カバルレはオドリーをストーカーしながら、セイヤの暗殺計画を立てていく…。

 

 

 

 その傍らで、自らの研究にも力を入れていく。セイヤを殺し、オドリーを手に入れた後、一文無しではオドリーを手中に収め続けるのも難しいと判断してだ。

 

 しかし、それよりも最も早急に片づけなければいけない必要事項がある。

 

 

 …それは、若返りだ…。

 

 

 すでに皺だらけの老人であるカバルレとぴちぴちの美しいオドリーとの差は余裕で寿命年齢の半分以上にもなる。これまで見てきたオドリーの性格上、さすがに恋愛対象外だと調べがついているため、何とか若く見られるために、皺をのばしたり、全身マッサージをしてもらったりと前より若さを取り戻せた。しかしそれでも、-5歳程度の若さしか保てない。

 なんとしても、若かりし頃の身体と若さが欲しいと躍起になるカバルレのもとに、明らかに怪しい一人の男が訪ねてくる。

 

 研究に没頭したいカバルレは最初は無視していたが、執拗に玄関先で待つため、オドリーに不審に思われたくないカバルレは、面倒くさそうに男を招きいれる。

 

 

 そして、その男の用件を聞くだけにして、帰ってもらおうとする。しかし、男が口を開いて語りだした話に最初の決意は何処へやらいってしまい、食い入るように男の話に乗っていった。

 男は訪問販売員で、まさに、カバルレが今欲しがっている若さを取り戻させる『ヤング・スリップ』というブレスレット型のCADを売りに来たのだった。CADに入っている起動式を読み込み、発動させることで、若い頃の見た目に戻るというもの。

 何回も使うことで、細胞が若返り、最終的にはCADを使わなくても、若さを生きている限り、保つことができる、優れもの。

 

 カバルレはそれを即買いし、早速試してみた。すると、10歳ほどの年に若返ることができた。しかし、若さがまだ足りない…。

 それもそのはずで、使うたびに徐々に変化がみられるのだ。急に若くなろうとすれば、身体に負荷がかかり、逆に死に至る可能性があるからだ。

 

 その説明を聞き、渋々納得したカバルレは、それ以来、CADを使いまくって、若さを取り戻していった。

 そして、とうとうCADを使えば、30代前半の頃の容姿に戻ることができるようになった。本来の容姿もだいぶ雰囲気も変わり、初老の紳士風に見た目も変わった。

 

 

 

 

 

 「くっくっくっく!!!

  これで、君と隣を歩くことも全く障害もなくなったわけだ!!

  そろそろ、君を迎えに行こうか…?」

 

 

 

 待ちきれない思いを胸に、オドリーに会いに彼女の元へと赴く。そして、衝撃の話を耳にすることになった。

 

 

 なんと、オドリーがセイヤと正式に結婚を前提とした婚約者となったのだ!!

 

 

 嬉しそうに友人に報告するオドリーの話を聞き、冷や水を頭から被ったかのような衝撃を受け、歯ぎしりする。

 

 

 カバルレにとっては、もう後がないところまで来てしまったのだ。

 

 

 (なんだと!!浮気相手と添い遂げるだと~~!!

  そんなこと、絶対に許さないぞ!!オドリー!! この俺がいながら、あの男と抱き合うなぞ、決してあってはならない!! その前にこの俺があの男を…!!)

 

 

 もはや一刻も猶予はないと、カバルレはストーキングを止め、セイヤの完全暗殺計画を実行するために、準備を始めるのだった。

 

 

 

 (もうすぐだよ…。オドリー…。

  もうすぐ…、君を迎えに行くから…!)

 

 

 

 

 

 逝かれた想いを秘め、幸せ絶頂のオドリーとセイヤの元へ、最悪の迎えがやってくるのは、その日の夜だった…。 

 

 

 

 

 




これは…、地縛霊並みに怖い~~!!

tokoっち!! 助けて~~!!


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血塗られた別れ(前編)

ダメだ~~!! 昨日の夢でなぜかカバルレが出てきて、永遠と尾けられるという悪夢を見てしまった…。

うちが作ったオリキャラなのに、このクオリティーが高くて、夢にまで出没するストーカーはいないわ!!


 

 

 

 

 ここは、オドリーが居住する住宅の二階にある一室。

 

 

 ベッドで規則正しい寝息を立て、安らかに眠るオドリーの頬に手を当て、優しく撫でるセイヤは愛おしそうに見つめた後、それを断ち切るようにして、険悪で、冷たい表情になり、部屋を後にする。

 部屋の外から鍵をかけ、オドリーが外に出られないようにしたセイヤは、自室に戻り、隠し扉を開いて、準備を始める。

 

 手榴弾、小型酸素マスク、ナイフ10本、小型拳銃2丁、武装一体型魔法剣2本…等の武器を身体中に装備していく。服装も動きやすいように伸縮加工込の戦闘服に着替え、最後は丈がふくらはぎまである黒いコートを肩にかけて、自室を後にし、窓から庭先に飛び降りた。

 

 

 見事な着地を決めたセイヤは顔を上げ、静かな夜の庭に向かって、キレのある声を響かせる。それほど声を荒げても、出してもいないが、その声ははっきりと届く…。

 

 

 「……いい加減に出てこい。この俺が気付かない訳がないだろう?

  勝手に人の敷地に入りこむとは、…な?」

 

 

 視線だけで人を殺せるくらいの鋭さを辺りに向けるセイヤは明らかにオドリーに接するときの笑顔とは想像できないほどの正反対の趣があった。

 

 そのセイヤに気圧されたからか、庭の木陰や草陰から十数人の黒ずくめが次々と現れ始めた。

 

 黒ずくめを見回したセイヤは片眉を上げ、訝しる。

 

 

 「……雇い主はここには来ないのか? 残念だ…、着ていたら、真っ先に消してやったのに…。」

 

 

 「…我々の雇い主は安全な場所で待機しながら、見ている…。

  最期に残す言葉はあるか?」

 

 

 黒ずくめのリーダー的存在が一歩前に躍り出て、セイヤに問いかける。

 

 

 「…その言葉、そのまま返す。

  お前達も最期に残す言葉はあるか? まったく卑劣な男の依頼を受けるお前達の最期がこれだと思うと、俺も少しは哀れなお前達に慈悲を与えてもいいが?

  …どうする?」

 

 

 無表情で告げる”警告”…。

 

 

 戦闘はしたくないセイヤは、黒ずくめ達に揺さぶりをかける。しかし、それは破たんした。

 

 

 「…悪いが、我々の専門なのだ…。 今更、雇い主がどうであれ、金が入ればそれでいい…。」

 

 

 「…はぁ~、”専門”か…。 どうやらお前達は闇ギルドの連中だな。

  まぁ、あの男なら、血迷ってここまでするか…?

  ……実に不快な奴だ…。そしてお前達も…。

 

 

 

 

 

  もうお前達に情けはかけない。 …すぐに全員息の根を止める。」

 

 

 唇を軽く吊り上げ、容赦ない排除宣言を出したセイヤは一番近い黒ずくめに、瞬時に駆け寄り、黒ずくめの喉にナイフを刺し込む。血が噴水のように吹きだし、庭が血で染まる。死に絶えた黒ずくめの亡骸を放って、セイヤは腰に携えていた2本の魔法剣を鞘から取りだし、黒ずくめ達に向かって牽制しながら、構える。

 

 

 「ここにきてしまったのが、お前達の運のつき……。

 

 

  もうお前達が日の光を浴びる事もない…。お前達は罪を犯した…。

 

  その罪による処刑は俺が直々にしてやる。さぁ…、掛かってこい。」

 

 

 黒ずくめ達を見据えるセイヤに恐怖はない…。

 

 あるのは、あの男への強い嫌悪感だけ…。

 

 

 

 セイヤは睨みを効かせた鋭い視線を侵入者の黒ずくめ達に向け、一歩足を踏み出す。それにびくついた黒ずくめ達にセイヤは、

 

 (まったく話にならないな…。三流相手に本気を出すほどでもない…。)

 

 

 と心の中で呆れながら、呟き、溜息を吐く。

 

 その様子で自分達が格下扱いされたことを悟った黒ずくめ達は、プライドを傷つけられ、ついにセイヤに襲い掛かった。

 

 

 周りに黒ずくめ達が飛びかかってくる中、セイヤの視線は真向かいの家のある一室の窓へと注がれていた。

 

 

 激しい怒りと嫌悪感を乗せて…。

 

 

 




あれ?セイヤ、まだカバルレと面識ないはずだけど?
何で知っているんだろう?
まぁ、それも後でわかるか!!
セイヤ!!頑張って、生きてくれ~~~!!
カバルレなんかに負けないで!!tokoっちもそう言っているから!!


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血塗られた別れ(後編)

血塗られた…って相手が違うけどね。

セイヤのちょっとした一面が見られますよ~~。


 

 

 

 2本の魔法剣を構え、右手で持つ魔法剣を飛びかかってきた黒ずくめ達に大きく振り被って、横に一閃する。すると、剣から炎が現れ、剣に纏うようにして、渦巻き、その炎を纏った一閃によって、黒ずくめ達の身体が斬りつけられると同時に全身に炎が燃え広がり、黒焦げになって、消えた…。

 

 

 炭にならずに済んだ黒ずくめは、レーザー魔法や加重系統魔法で応戦するが、アクロバティックの俊敏な動きであっさりと躱されてしまう。それによって生まれた動揺を見逃さなかったセイヤは、左手で持った魔法剣で黒ずくめ達の間を擦り抜けながら、斬り付けていく。斬り付けられた黒ずくめ達は、魔法剣の効果で身体中が氷で覆われ、残りの黒ずくめへと歩き出しながら、地面を媒介し、振動系統魔法を発動し、与えられた振動波で、氷ごと氷漬けされた黒ずくめは砕け散った…。

 

 

 仲間が次々と消えていく現状に最後に残った黒ずくめのリーダー格は、思いもよらない出来事に体中から嫌な汗を浮き出し、身体を震わせて、武器を手にする。その武器を持つ手には、小刻みに震えていて、まともに握れていない。

 

 それを、接近しながら、苦笑するセイヤは、魔法剣を持った両腕を降ろしたまま、近づく。一軒隙があるように見えるこの動作を、リーダー格の黒ずくめはそうとは取らなかった。隙があるように見せかけた、立派な構えに今まで暗殺してきたターゲットよりも厄介で、そして敵わないと感じさせるものだと直感で理解した。だから、近づいてくるセイヤに少しずつ後退りして、いつでも脱出するできるように周囲を見渡す。

 

 

 (ターゲットがここまでの人間だったとは…!! 話に聞いていないぞ!!?

  …だが、これは私の判断ミスだ。受けてしまった依頼は必ず遂行しなければ…。そのためにも、ここは一旦引いて、手直すしかない…!!)

 

 

 冷や汗を額に掻き、緊張感を持ち続ける黒ずくめに、セイヤは話ができる一定の距離まで近づくと、そこで足を止め、炎の魔剣を黒ずくめに向け、取りつく暇を与えない冷酷さを感じさせる視線という圧力だけで、黒ずくめの動きを固め、口を開く。

 

 

 「…判断を見誤ったな、お前は。

  俺はこうなる前にちゃんと”警告”したはすだがな…。

  だが、お前たちは罪を犯したのだから、死んでも仕方ないか…。」

 

 

 「我々の罪…だと?」

 

 

 何とか恐怖で痺れる身体に鞭を打って、言葉を紡いだが、声は震えている。それを、当然と受け止めたセイヤは冷酷な笑みを浮かべたまま、黒ずくめに言い放つ。

 

 

 「…オドリーと俺との安眠妨害の罪だ…。」

 

 

 「…………」

 

 

 まさかの罪内容に言葉が出ない。

 

 

 そんなどうでもいい事で自分達はこんな目に遭っているのかと思うと、冗談じゃないという思いが込み上げてくる。

 

 

 「ふざけるでない…。そんな訳のわからん理由で殺められても困る…。」

 

 

 「…訳のわからない理由だと? …こっちは招いてもいない御客人に、わざわざ出迎えした上に、相手してやっているんだ。

  …オドリーの添い寝もできない。

  …お前達の所為で、俺の可愛い、愛するオドリーの寝顔を愛でる時間がもう30分も奪われた。

  早くしないと、オドリーが異変に気づいて、せっかくの可愛らしい今日の寝顔が見れなくなる…。

  これを、罪と言わずに、何だっていうんだ…?

 

  俺は、大事な用事があるんだ。

 

  さっさと、終わらせようか…!」

 

 

 オドリーへの深い愛情を口にしたセイヤが、目の前から姿を消した。

 それに驚き、辺りを見渡す黒ずくめの背後に、セイヤがナイフを首に当て、現れた。ナイフの冷たい感触に己の最期を予知した黒ずくめは、慌てて命乞いをする。

 

 

 「わ、悪かった!! あんたの邪魔をしてしまって…!! さっさとここから退散する!!もうここにも来ない!!だから、命だけは、助けてくれ…!!」

 

 

 「…おかしいな、確かこういう事は”専門”だって言ってただろ?なら、人を殺す事にも、殺される事にも覚悟しているんじゃなかったのか?

  命乞いをするとは、滑稽な事だな…。」

 

 

 黒ずくめはもうプライドなんて物を持ち合わせていなかった。いまは、早くここから…、魔物が棲むここから早く目の届かないところへ逃げたいという今日蛇を前にして、弱者が感じる圧倒的存在に対する恐怖しか黒ずくめの心の内には、なかった。

 

 震えながら、小さく「お願いします…。」と繰り返しに命乞いをする黒ずくめにセイヤは、ナイフを首に強く押し当て、刃先が少し黒ずくめの喉に刺す。首に何かが流れる感触を実感した黒ずくめは悲鳴を上げるが、セイヤに口を押えられたまま、背後から耳打ちで告げられた内容が耳から全身に伝わっていった。

 

 

 「…なら、このまま真っ直ぐにお前の雇い主の元へ行け。そして、俺の言葉を直接、はっきりと言い放て。

  そして、もう二度と俺達の前に姿を見せるな、関わるな…。もし、一度でも俺の視界に入りこんだときには…、先に行ったお前の仲間のいる所へ引導してやるからな…。」

 

 

 セイヤの言葉にうんうんと大きく首を縦に振り、了承する黒ずくめからナイフを降ろし、解放する。

 そして、再び耳打ちで告げられた”伝言”を携えて、雇い主の元へと暗闇の中を駆けていった。

 

 黒ずくめが逃げ去るのを、見届けたセイヤは、荒れた庭を元通りに掃除した後、溜息を吐いて、心の溜め込んでいた感情を吐き出す。気持ちを沈めた後、苦笑して、黒ずくめに言った罪内容を改めて思い出し、「ほんの少し。大人げなかったか?」と考え、屋敷の中へ戻っていった。

 

 

 (…オドリーを守るのは、俺の定められた運命…。

  誰にも穢させたりはしない…。 特に、お前にはな!!カバルレ…!)

 

 

 心の中で毒吐きながら、セイヤは黒ずくめが任務に失敗し、カバルレの発狂で殺される幻想を思い浮かべ、いよいよカバルレ本人が仕掛けてきた際には、返り討ちにしてやろうと妖艶な笑いで考え、薄暗い廊下を一人で歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃、黒ずくめの伝言を聞いた雇い主のカバルレは、激昂し、使えない奴はいらんとセイヤの予想したとおりに、カバルレの『怒りの爆裂』を受け、木端微塵になり、死んだ。

 部屋が血の海になり、息を荒げるカバルレがソファーに座り込んだまま、狂気的な大笑いを発する。

 

 

 

 

 『……お前には一生費やしても、絶対に理解できないだろうな…。 

  人を見下し続ける…、自分中心で世界が回っている…、それが当然とばかりに振る舞うお前に、本気で付き合っていきたいと…、心から慕う人間はいないぞ…。』

 

 

 

 

 

 黒ずくめのセイヤからの伝言で、全てお見通しだったことを悟ったカバルレは最終計画に踏み切る事にした。

 

 

 「やはり、あの男は只者ではなかったな。ますます、生かしてはいかない…!!

  オドリーとの未来のために、消えてもらわなければ…。」

 

 

 カバルレはそういうと、左手の中指にはめている赤い石が輝く指輪にテーブルに置いてあった酒をかけた。すると、赤い石の色が変わりだし、黒くなっていく。

 

 

 その光景を窓から入る、夜にしては明るすぎる朱色の木漏れ日で照らされながら、カバルレは、訪れる未来を祝して、ただ一人…、酒を酌んで、ほくそ笑んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数時間後、騒ぎを聞きつけた警魔隊が炎に包まれて燃える一軒の家から、一人の生存者と一人の遺体を回収する事になる…。

 

 

 

 

 




セイヤ、かっこいい~~!!

そして、カバルレ、お前は一体何をしたんだ~~!!


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御月見番外編~月見なのに波瀾万丈!?~

今日が月見だという事に半日過ぎて気づいて、急いでROSEのみんなにネタを聞いてみた!!

 得た提供くれたtoko、御神、ちゃにゃん、くろちゃん…。ありがとう!!

 ネタが来たときは、これはやばす~~!!って妄想で笑い転げてました…。


 

 

 

 今日は年に一度の月見の日!!

 

 幸いな事に、今日は満月で、雲が一つもない澄み切った夜空で光り輝く満月を堪能するため、魔法師ギルドのROSEのみんなは、ギルドハウスの屋上に上がって、月見をしていた。

 

 

 「たまには、みんなでこうしてのんびりと宴会するのも悪くないよね~。」

 

 

 「私も、久しぶりにお酒が飲めてうれしいな~~!!」

 

 

 「みんな~~~!! 飲んでもいいけど、明日はまた、壮絶な戦いが待っているんだから、羽を外し過ぎたらいけないからね!! 体調管理はしっかりと!!」

 

 

 「プハァ~~!!うめぇ~~!! …ひっく!!」

 

 

 「わぁいわぁい…!!わっはりやした~~!!」

 

 

 「…ってもう、酒で潰れているじゃん!!」

 

 

 「らいじょうふ、らいひょうぶ…!! まだよえる…オエっ!!」

 

 

 「大丈夫じゃないだろ~~!! まだ始まって数行も経っていないのに、酔って、吐くとかどんだけ、酒に弱いんだよっ!!?」

 

 

 完全に酔っ払ったくろちゃんとホームズに鋭い突っ込みを入れるミナホが二人の介抱に追われながら、他のみんなは、盛大に月見を満喫していた。

 くろちゃん達みたいにはなっていないものの、既にし~ちゃんやるーじゅちゃん、さっちゃん達、乙女たちは強烈な酒に酔って、寝落ちしていた。

 その原因が、久しぶりにこの月見のためだけに戻ってきたマサユキが土産に持って帰ってきた水酒『ボインボイン』にあった。その酒で、飲み比べが始まり、酒に弱い乙女たちが脱落していく。出回っている酒よりもアルコール度が非常に高い代物だった事もあり、次々と倒れていくみんなに、ミナホは頭を悩ませ、ゆっくりと月見を堪能する所ではなく、寝落ちしたみんなを毛布でくるみ、一人ずつ部屋へと連れて行って、寝かせるという過酷な介抱にギルドハウスを走り回っていた。

 

 そして、やっと終わった後には、屋上には、くろちゃん、ホームズ、マサユキ、ちゃにゃん、御神、toko、サガット、暁彰、火龍人、ミナホがいた。

 

 

 「あ!! ミナっち!!お疲れ様にゃ!! 一緒に酒を飲もうにゃ!!

  それと、お団子食べようにゃ~~!!」

 

 

 ちゃにゃんが手を大きく振って、ミナホを労って誘う。ミナホは苦笑しつつ、持ってきた月見団子の大皿を抱え、みんなの元へと戻った。

 

 

 「ごめん、うちはお酒は断じて飲めない主義だから、麦茶で…。その代わり、たくさん団子は食べるよ!! もうお腹空きすぎちゃって!!

  …もぐもぐ。…~~うん!! 美味し~~~い!!」

 

 

 一仕事を終えた後の団子は格別だね!!と感涙しながら、食べるミナホに微笑ましさでくすくす笑うちゃにゃんとtoko。

 

 

 「にゃにゃにゃ!! そこまで、感激しなくてもいいのにゃ。今日はめでたい日だにゃ!! 楽しく食べていこうにゃ!!」

 

 

 「うん!! おお!!この抹茶入りの団子も美味しいな~~!!後、…この赤と橙色が混ぜ込まれたような団子は一体…?」

 

 

 ミナホが次々に団子を取って生き、美味しそうに頬に詰め込み、食べていく中、見覚えのない団子を見つけ、手に持つ。

 

 

 「ああ…。それは、ニンジンをミキサーでベースト状にして、団子の記事と混ぜて作ったニンジン月見団子!! この甘タレをつけて食べたら美味しいんだにゃ!!」

 

 

 自信満々に勧めるちゃにゃんの誘い文句に興味を持ったミナホは、ニンジン月見団子を口に含む。すると、口の中でニンジンの味に、甘タレが絶妙の味加減で広がる美味しさに、ミナホはリスのように頬をふっくらさせ、満喫する。

 tokoとサガットはふっくらしたミナホの頬を指でツンツンしながら、笑う。

 

 

 「火龍人もこっちに来て、お話ししましょう!! 」

 

 

 一人でのんびりと大好きなポテチ(月見団子味)を食べていた火龍人にtokoが声を掛け、肩に手を置くと、

 

 

 「…私、今忙しいから…。ボリボリ。」

 

 

 振り向き様にそう告げる火龍人の膝には、何やら、赤い液体が入ったボールがあり、それにポテチを突っ込み、掻きまわして、食べていた。その赤い液体が食べた時に口について、零れ落ち、とんでもない形相に変わっていた。

 

 

 「……ご、ご迷惑おかけしました~~…。」

 

 

 しゅぱっ!!

 

 

 火龍人から勢いよく離れ、ちゃにゃん達の元へと還ってきたtokoは、顔は真っ青にして、酷く怯え、半分魂が抜けていた。tokoにとって、火龍人が血まみれの口裂け女に見えたわけだが、実際は、イチゴジャムにポテト(月見団子味)をつけて、食べていただけに過ぎない。しかし、それを知らない怪談系は一切ダメなtokoには、いい酔い覚めになった。…月見が終わった後、朝が来るまで眠れない思いをする事になるが。

 

 

 

 

 

 そんなみんなの楽しそうに満喫する中、ちゃにゃんの背後に一人のヘムタイが両手を前に構え、指をくねくねと動かし、邪な雰囲気を覆って、近づく。そして…

 

 

 「どりゃ~~~!! おお~~~!! 待ち望んでいたこの感触…!!この…!!丸くて…、柔らかくて…、ムニムニしてて…!!…はぁ~~…、パフパフ…、最っ高~~~!!!!!」

 

 

 ちゃにゃんの見事な豊胸に、両手で揉み揉み…、パフパフするヘムタイは…、ROSEのヘムタイ女王、くろちゃんだった。

 

 

 どうやら、かなり酔っていて、今自分が何をやっているのか、分かっていないようだ。

 

 

 「…いや、酔っていると見せかけての完全ヘムタイ行為だな。 初めにあれだけ酔っているのを目撃されていれば、まだ酔っていて、意識が覚束ない時にしたから、許されると考えた計画的ヘムタイ行為だ…。」

 

 

 みんなしょうがないなと呆れて、見逃そうかと思っていた矢先に告げられた、暁彰の衝撃的告白が屋上に吹雪を呼び寄せる。実際に吹雪は吹いていないが、そう錯覚させるほどの肝を冷やす空気が流れ込む。

 ちゃにゃんの胸をパフパフしていたくろちゃんの手は既に止まっている。しかし、まだ名残惜しいのか、手はまだ胸を掴んだまま。それが一層、吹雪を強烈にさせる。

 

 暁彰は、『精霊の眼』でくろちゃんの泥酔状態を把握していて、くろちゃんが既に酔いが醒めている事を知っていたのだ。そして、ヘムタイの思惑を破壊するため、ヘムタイ計画を吐露したのだった。しかし、暁彰の告白はまだ終わっていなかった。

 

 

 「ちなみに、くろちゃんが手に付けている手袋…、体感連動型のヘムタイグッズで、主体の手袋が味わった感触を、個体の手袋にも連動で体感させ、同じようにパフパフした感触を伝える仕組みになっている。主体の手袋をくろちゃんが…、そして、個体の手袋はマサユキとホームズが…。」

 

 

 目を光らせて、ちゃにゃんが名前の挙がった三人を順々に見ていく中、名をあげられたヘムタイ達は、背中に手を回し、ちゃにゃんの視界から手を隠す。横を向いて、口笛を吹く様は明らかに変だ。

 tokoとサガットがマサユキとホームズの背後に回って、腕を掴みあげると、二人の手には、くろちゃんと同じ系統の手袋をまだ熱さが残る季節なのに、きっちりとはめていた。

 

 

 「こ、これは…、その…、酔ってした事で…、覚えていないっていうか…?

  決してヘムタイ心に火がついて、ちゃにゃんの胸をパフパフしたくなったという訳ではないから!!」

 

 

 「そうだよ!! 新しく仕入れた新製品を試したいって思って、ヘムタイ隊長の命でNST最強軍団で、体感しよう!!って、そう乗り出したわけではないからね!!」

 

 

 「おいらはただ、パフパフを味わって、最高の面持ちで団子を食べて、月見したかっただけだ!!」

 

 

 ((((……うん…、終わったな~…。))))

 

 

 ミナホ達はくろちゃん達ヘムタイを白い目で見つめ、呆れ感満載で鑑賞する事に決めた。そして、一番の被害を被ったちゃにゃんは息を切らし、指を鳴らし、髪を振り回すその光景は、いつも穏やかなちゃにゃんの雰囲気はどこにもなかった。

 ヘムタイ三人組はお互いに抱きしめ合い、ちゃにゃんの恐怖におびえる。

 

 そして、三人組はちゃにゃん考案のヘムタイ撲滅制裁を受ける事になる。

 

 

 

 ちゃにゃんの制裁をアシストしながら、鑑賞するミナホ達。三人組は円らな瞳で助けを求めるが、ヘムタイ達を擁護する者はこの場にはいない…。

 

 

 tokoは臼を持ってきて、その中に御神とサガットが、三人組を突っ込み、ミナホが団子の粉を入れて、準備万端…。あとは、暁彰とちゃにゃんが餅つきをしていく。かなりの打撃を喰らい続けるヘムタイ三人組…。ヘムタイ達の血が流れ、団子の粉と浸透していく。

 そして、心身ともに団子の粉と練り込まれたヘムタイ月見団子が完成した。

 

 

 薄ピンクのヘムタイ団子に、みんな満足そうにして、お月様に供える壇上に、ヘムタイ団子を置き、御願い事をする。

 

 

 (ヘムタイ共が心を穏やかにし、煩悩を失くしてくれますように…。

 

  それが一生ダメなら、ヘムタイ共を完全に葬り去る力を私に授けてくださいにゃ!!)

 

 

 …ちゃにゃんが代表として、本気でヘムタイ退治に行く勢いを込めたお願い事を月にしている間…、

 

 

 「…よっこらしょ…っと。  そ~~~っと…。今のうちに逃げよう…。」

 

 

 臼に残っていたヘムタイ団子から復活したくろちゃんが、お月様に御願い事をするHMTから命がらから逃げようと忍び足で離れようとしたが…、

 

 

 「…くろちゃ~~~ん? どこに行こうとしているのかな?

  残りの二人はちゃんと、団子に、なったよ~~?二人を置いて、自分だけ逃げようとするなんて…、それでもヘムタイなのかな~~?」

 

 

 あっさりとちゃにゃんの拘束に遭ってしまうくろちゃんだった。

 

 そして、目が笑っていないHMTの何やら怪しい動きに冷や汗を掻いていると、屋上に寝落ちしてしまって、退散したるーじゅちゃん達が戻ってきた。すっかり酒も抜けたため、再び月見するために、戻ってきたのだ。

 

 

 「みんな~~~!!助けて~~~~!!」

 

 

 くろちゃんが涙目で助けを求めるが、HMTの活動を見て、状況を察知した遅参組は、笑顔で言い放つ。

 

 

 「なんだか、面白そうだね!! 見学させてもらうよ!!」

 

 

 …とくろちゃんをバッサリと見捨てた。

 

 

 口を大きく開けてショックを受けるくろちゃんは、ちゃにゃんに掴みあげられ、ミナホ達が用意した自前のロケットに詰め込まれ、サガットがロケットに点火する。

 

 

 『ちょ!!ちょっと待って!! これって何~~~!!』

 

 

 ロケットに詰め込まれ、動揺しまくるくろちゃんにちゃにゃんが笑顔で口ぱくする。

 

 

 「と・ん・で・け・♥」

 

 

 ちゃにゃんがそう言うと同時にくろちゃんを乗せたロケットは月へと飛んで行った。

 

 

 見事、打ち上げに成功した様子を見届けたROSEのみんなは万歳して、月見の続きを再開し、大いに盛り上がった。

 

 

 

 

 そして、月見の最中、月にウサギの耳っぽい人型の陰が大きく映ったのを見て、その満月の兎?影と一緒に、ヘムタイを除くROSE全員で記念撮影をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな地上で記念撮影が行われているまさにその時、ロケットで月まで飛ばされたくろちゃんは、月に住む兎っぽい異星人の一万を超えるほどの軍隊に追いかけられ、必死に全速力で逃げていた。

 

 

 「待て~~~!!そこの侵略者め~~!! 大人しく捕まれ~~い!!」

 

 

 「そうだぞ~~!!これ以上、罪を重ねるな~~!! 今なら、公開処刑だけで済むぞ~~!!」

 

 

 「もう、それだけでやばす~~!!ハァ、ハァ、ハァ!!

  な、何でこんな事に~~!!」

 

 

 「お前の身体から、血生臭いにおいがプンプンするからな~~!!

  さしずめ、我々を滅ぼしに来た異星人に違いない!!」

 

 

 「そんな事はないよ~~!! ほら!! 私は仲間だよ!!? 同じ耳をしているし~~!!」

 

 

 

 くろちゃんは今回の月見に合ったコスチュームを着ていて、頭には兎耳のカチューチャをしていた。その兎耳を掴んで、アピールする。

 

 

 「あ!? ホントだ!! 我々の同士の証!! いや、悪かった!! 疑ってしまった!!」

 

 

 「い、いいよ~~!! もう水臭いな~~!!ほら、仲直りの印にこの月見団子を上げるよ♥」

 

 

 一件落着だと思い、くろちゃんが渡した月見団子は…、ヘムタイ団子だった。

 

 

 ちゃにゃんがロケットにくろちゃんを詰め込む際に、ポケットに入れておいたのだ。

 

 

 しかし、そのヘムタイ団子の材料は…、同胞のマサユキとホームズの血肉でできた団子…。

 

 

 「あ…………」

 

 

 差し出した後に、その事に気づき、月の住人の兎っぽい異星人もヘムタイ団子を凝視し、鼻を動かして、匂いを嗅ぐ。そして…、

 

 

 「我らになんというものを食わせるつもりだったんだ~~!!

  やはり、侵略者だ!! 捕えよ~~~!!!」

 

 

 

 

 「ご、誤解だよ~~~~~~!! た、助けて~~~~~!!!!!!」

 

 

 再び逃げ続けるくろちゃんは、一向に続く逃走劇を繰り広げていた。

 

 

 そのくろちゃんの逃げる姿が影となり、月に映ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月見だというのに、今回も波瀾万丈なヘムタイ騒動になったROSEの月見だった…。

 

 

 

 




主にネタをくれたくろちゃんが悲惨に…。でも、くろちゃんなら、ヘムタイを貫けたと満足して昇天するだろうな~~!!

…そうあってほしいな~~。ちなみにヘムタイ団子の案をくれたちゃにゃんには、一番驚いた!!

 また、番外編の時にはネタ提供お願いします!!


明日はいよいよ魔法高校の劣等生の最新刊発売!! みんな~~!!買いに行くぞ~~!!


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君に宿った”想い”…

今日は原作の最新刊!!早速少し読ませていただき、挿絵だけ見て、ツッコミ連続入れるうちでした!!
後でじっくり読もう!!

…そして、前回の最後にまさかの展開…。どうなったんだ!!ちょっと、ハンカチを用意しないと!!


 

 

 

 

 

 夜が明け、鎮火も終え、現場では原因究明に警魔隊が動き回って、調べていた。騒ぎを聞きつけ、記者や周辺の住人達が様子を見に、寝間着のまま集まってきて、警魔隊が張った捜査網の外から首を長くして見ていた。

 そして、その中にフードを目深に被って、様子を窺うカバルレの姿があった。燃えた屋敷のを見ながら、その悲惨な残骸となった現場を見て、上手くいった事に対する自画自賛の笑みを必死に気を引き締めて、堪えながら、調査する警魔隊の上官に報告する話し声に耳を傾け、オドリーの居場所を求め、神経を全て注ぎ込む。そして聞こえてきた内容は、カバルレにとって、予想していなかったものだった。

 

 

 「…ったく、火元となった一室…、あれはやばかったな。爆発の衝撃で、家具だけでなく、内装も酷い有様だったな…。」

 

 

 「はい。ですが、奇跡的にも要救助者が生存していたのは、喜ばしい事です。まだあんなにか弱い女性でしたし…。」

 

 

 「……お前の目は節穴か?あれは、奇跡的ではない。彼女は護られていたのだ。…犠牲になったもう一人にな。」

 

 

 叱咤する視線を部下に向け、紡がれた言葉に、はっと何かを思い出した部下は言葉を飲み込み、自分の発言が亡くなった人に対する失言だったと気づき、唇を固く結ぶ。

 

 

 「申し訳ありませんでした。」

 

 

 「…なら、さっさと調査に戻れ。重傷を負った彼女には、厳重な警備をつけておけ。もしかしたら、犯人が狙ってくるかもしれない。」

 

 

 「はい!! すぐに手配します!!」

 

 

 敬礼し、走り去る部下を見届け、現場の中に入っていく上官が消えるのを、確認したカバルレは、オドリーが重傷を負った事を聞き、驚愕を露わにし、野次馬からそっと抜け出し、覚束ない足取りでこの場を離れる。

 

 

 (まさか…、そんなはずは…!! オドリーが傷を負うことなど断じてありえん!!

  なぜだ!! どうしてこうなった!!?

  ……私の!!私の嫁は、無事なのか!!?)

 

 

 げっそりした顔つきで力なく、歩いていたが、その足取りが早くなり、突如走り出した。向かった先は、すぐ近くの魔法病院だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院に着いたカバルレは、知り合いだと言って病室の聞き出し、病室の前でがっちりと警備する警魔隊を目撃し、目の前を通ったマジックドクターを襲い、白衣を手に入れた後、ドクターを装って、入室した。

 

 すると、そこには、点滴を打たれ、包帯を至る所に巻いて眠るオドリーの姿があった。

 その包帯の数だけで、どれだけの衝撃を受けたか、想像できるカバルレはこんなはずではなかったと激しく後悔する。

 

 

 …カバルレは、以前修理業者を装って、オドリー達の屋敷に潜入し、セイヤの自室に特製の爆弾を作り、仕込んでいたのだ。無臭で物体が超小型で虫サイズのものだから、発見は難しい。そして、セイヤの暗殺に失敗したあの時、指輪に仕込んでいた遠隔操作を発動したのだ。

 本来なら、セイヤが粉々に吹き飛び、この世から消し去るつもりだった。そして、涙を流すオドリーに近づき、慰めると見せかけ、オドリーを手に入れる算段だった…。

 

 それが、形は違ったが、警魔隊の話ではセイヤは死んだ。目的は達成した。

 

 しかし、オドリーが重傷を負う予定ではなかったため、激しい動揺が沸き起こる。

 

 

 頭を激しく掻き、毟る事で平常心を取り戻そうとすると、オドリーの手がぴくっと動いた。

 

 

 カバルレは、その反応を見逃さず、すぐにオドリーに声を掛ける。…しかし、扉の外にいる警魔隊員に気付かれてはいけないため、振動系統魔法を用いて、声を抑えた状態でもしっかりと届くようにした。

 その効果があったのか、目を閉じていたオドリーの瞼が数回瞬きをした後、ゆっくりと視界を回復させていった。そして、ぼやけた表情で天井を見つめ続けるオドリーをずっと一定の距離を保って、観察していたカバルレは目覚めたオドリーに、心の底からホッとし、安堵の表情になる。

 

 だが、次の瞬間、安堵が拒絶の物となるのは、避ける事は出来なかった。

 

 

 此方に注がれる視線に気づいたオドリーは、身体の自由が取れないため、天井に見上げながら、その視線の相手に話しかけた。…その視線の相手が愛しいセイヤだと思って。

 

 

 「”…セイヤなの? …怪我は?、…痛い所はない?”」

 

              ..

 オドリーの口から発せられる声色に、カバルレは驚愕し、思わず口元を押さえる。

 

 

 「”…ああ、無事だった…のね。…よかった…。”」

 

 

 その声色は、男性のような、引き締まった低い、大人びた声だった…。

 

 その声には、カバルレも聞き覚えがあった。

 

 

 あの忌々しい男の声とまったく同じ…。

 

 

 耳に入ってくるその声に、安堵するオドリーはその声が自分の口から発せられたものだと気づかず、涙をこぼす。

 

 

 「”本当に…、よかった………。生きていてくれた………。”」

 

 

 そう言葉を紡ぐオドリーの嬉しそうな、愛おしそうな表情を見て、とうとう耐えられなくなったカバルレは酷い吐き気を抑え、病室を後にする。

 

 そして誰もいない建物の死角まで来ると、一気に堪えていた吐き気を発散させ、消化されていない嗚咽物を全て吐き出した。

 

 カバルレにとって、決して受け入れられないものが目に前に突き出されたからだ。

 

 

 

 

 

 

 ……そう、オドリーの声は、セイヤの声に変わっていたから…。

 

 いや、変わっていたとは違うかもしれない。

 

 ”生まれ変わった”…という方が適切かもしれない…。

 

 

 

 

 そこには、セイヤの想いが託されていたから…。

 

 

 

 

 

 

 

 その現実を、しばらく後になって、オドリーは主治医から聞かされることになるだろう。だがその前に知ってしまったカバルレにとっては、悍ましく、許せない物でしかなく、ぶつける事が出来ない怒りを壁に何度も自分の拳を打ち続け、壁がカバルレの血で染まるまで、やるせない怒りをぶつけた。

 

 

 「おのれ~~~~~!!!!! よくも、よくも、よくも、よくも!!!!!」

 

 

 

 

 

 よくも、俺のオドリーに怪我をさせたな!! 

 

 

 よくも、俺のオドリーを穢したな!!

 

 

 よくも、俺のオドリーを奪ったな!!

 

 

 よくも、俺のオドリーから引き裂こうとしたな!!

 

 

 

 

 

 カバルレは底知れない殺意を抱くが、その相手のセイヤが既にこの世にいないため、この手で葬り去る事ができず、脳裏で作り上げたセイヤの厳格にひたすら殴り続け、完璧なオドリーを、手に入れる事が出来なくなった腹立たしさを拭えずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 もし、こんなカバルレをセイヤが見たら、勝ち誇った笑みを浮かべていただろう。

 

 

 ”お前にオドリーを渡すものか!”……と。

 

 

 

 そして、生きているオドリーを見て、ほっと胸を撫で下ろし、微笑するだろう。

 

 

 ”君が無事でよかった…。”

 

 

 ”あの時の判断は間違っていなかった”

 

 

 ”これでずっと君のすぐそばに寄り添える…”

 

 

 ”君に俺の想いを送ったから…”…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




セイヤが~~~~~!!!(号泣)

セイヤが~~~~~~!!!!(恨み泣き)

カバルレめ~~~!!許さん!!

…はぁ、はぁ、…そして、オドリーが~~~~!!!(大号泣)

もう泣きのオンパレードだよ!!


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君を愛している…ずっと(上)

はい…。

昨日は、泣いてしまった…。そして、また泣くだろうな~…。

というので、泣く前に、ラブラブを取り入れてみた。オドリーとセイヤのなれ初め的な?

どうしてセイヤがそこまでオドリーを愛し、守るのか…。

このまま、セイヤの魅力を引き出せずに終わるのは嫌だし!!


 

 

 

 

 

 屋敷に侵入してきた黒ずくめを排除し終えたセイヤは、念のため、屋敷全てを巡回し、異常はないかを確認していた。

 セイヤは、ここを狙っている黒幕…、カバルレの狂気まみれる笑みを思い出し、いつもより念入りに見廻る。もしも屋敷に抜け穴を作られていれば、簡単に入り込まれ、残虐な行為を行うだろう…。しかし、その行為を向けられる相手がオドリーではなく、自分であるという事は誰かに言われなくても分かっていた。

 オドリーと一緒にいる時に、怨めしい感情と共に、殺意を込めた刺すような視線を毎度のように自分に向けられていれば、否応にも気づいてしまう。そしてそれに反してオドリーに向けられるものは、狂った愛に、独占欲の塊、絶対なる究極美の宝石を身に付けた己の存在主張…を混ぜ込んだ危ない物で、数値が非常に高い危機感を襲う。

 そんな視線を送ってくる人物の素性を突き止めておくのは、当然の処置だ。

 

 そして調査した結果、カバルレがいかに非道で、自己中心で、心が穢れているかを知った。

 

 目的のためには、手段などお構いなしに、しかもより相手が心身ともに壊れる方法を優先して手を下していく人道を反したやり口を、研究所でも、私生活でもしてきたカバルレに、怒りを覚えてくる。

 しかし、セイヤが怒りを覚えたのは、人としての仁義の欠片もないカバルレが許せないという正義感からではなく、そんな危ない奴が大事なオドリーに目を付け、我が物にしようと狙っていることに怒っていた。

 だから、カバルレからオドリーを守るため、可能な限りそばにいて、オドリーの視界にカバルレを入れないくらいに、ガードした。

 

 そして、いよいよカバルレが動き出すと頃合いを見て、ここ数日は、ずっと夜通しで警戒していた。

 

 セイヤは、カバルレが全て見透かされていると勘ぐった通り、カバルレの暗殺計画を事前に知っていた………訳ではなく、単に何人もオドリーを危険から遠ざける事がセイヤの課せられた使命に他ならないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々、セイヤは、オドリーの護衛として雇われた未熟者の戦闘魔法師だった。

 

 格闘戦や銃撃戦でもかなりのスキルを持っていて、それに見合った体に仕上げている。しかし、生まれた時から相子が少ないため、どんなに魔法の上達が早くても、すぐに相子が尽きてしまい、実戦には使えないのだ。そのため、実戦には、初めから相子が格納された武装一体型CADの魔法剣の二刀流で戦う。他にも暗器を携えているため、未熟者でも戦闘力は、同じ雇われの戦闘魔法師の中でも非常に高かった。

 だからか、仲間からも距離を置かれていたセイヤは、どこか冷めた目つきで物事を世界を見ていた。

 

 そんな中、優秀な護衛を求めていたオドリーの父親が、セイヤを大抜擢したのをきっかけに、セイヤはオドリーの専属護衛官となる。

 

 最初の頃は、オドリーの事を、ただの護衛対象としか考えておらず、オドリーの持つ才色兼備の神のような容姿に魅入られた変質者から、毎日のように退治するのが日課になっていた。

 

 

 だけど、女性なら、自分を体張って守ってくれる異性に、心を惹かれるものである。それはオドリーも例外ではなく、父親に紹介され、護衛として派遣されてきたセイヤと出会ったその時に、一目惚れしてから、ことごとくと変質者から守ってくれるセイヤに、日に日に惚れ込んでいくのだった。

 

 

 そこで、オドリーは父親に頼み込み、セイヤを専属護衛にしてもらい、一緒に過ごすようになった。

 オドリーの父親もセイヤの完璧なまでの仕事への姿勢に、愛娘を何度も身を挺して守ってくれたその心意義に惚れ込み、了承した。

 

 そして、セイヤと一緒にいる時間を大幅にゲットしたオドリーは早速セイヤに向かって、もうアタックし始めた。

 

 大好きなお菓子つくりをして、それを食べてもらったり、ショッピングに連れていてもらって、色んな服を着て、アピールしたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、オドリーからもうアタックされるようになったセイヤは表面上はいつも通りに、堅苦しく、無関心に接していたが、内心はオドリーに対し、不審感や嫌悪感を持ちながら、どう対応すればいいか戸惑っていた。

 

 初めの頃は、お淑やかで、話すことといれば、連絡事項のやり取りくらいだったのに、専属護衛になってからは、しきりにセイヤに話しかけて来たり、近づいてきたり、用もないのに呼び出してきたりと、積極的になってきて、どういった心境の変化でこうなったんだと訝しくならずにはいられなかったのだ。

 

 さらに今まで煙たがられて、仲間内でも距離を置かれていたセイヤには、自分に近寄ってくるお人よしはいないと考えていた。そして、もし近寄ってくるなら、それは自分を己の利益や名誉に利用しようとする者だけだとも経験上考えていたため、いきなり自分に関わっていたオドリーもやっぱり自分のご機嫌をうかがって、利用しようとしているのだと思い、嫌悪感を抱き、オドリーへの態度は一層冷たいものとなった。

 

 

 

 しかし、それが、愛しさに変わるのは、難しくはなかった…。

 

 

 




初めは、カバルレが出てくるけど~…。

でも、ツンツンだったセイヤがいかにオドリーに惹かれるか楽しみだな~~!!

そして間もてくれる以西の背中って…、想像するだけでもかっこいい!!オドリーはそれを何度も見てきたと思うと、嫉妬しちゃうな~~!!


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君を愛している…ずっと(中)

意識したら、すっかり恋に落ちる…。

これが現実にあったらいいな~~!!


 

 

 

 

 

 セイヤがオドリーへ向けていた感情を変化させる出来事が二人の前で起きた。それは、いつものようにセイヤを連れて、ショッピングに来たオドリーの買い物に付き合っていた時の事だった。服やアクセサリーを見たりしているが、今日は妙にそわそわしている事に気づいたセイヤは、挙動不審のオドリーに自分から初めて声を掛けてみる事にした。嫌いなオドリーにどうして話しかけようと思ったのか、セイヤは自分自身でも分からなかったが、そわそわしているオドリーを見ていると、小動物のように見えて、ついほっとけなくなった。

 そして声を掛けるため、話ができる範囲の距離に近づき、声を掛けようとしたその時、ナイフを持ったいかにも変質者だと分かる中年の男が隠れていた柱から飛び出し、襲ってきた。…オドリーではなく、セイヤにだ。

 

 

 「お、俺のオドリーちゃんから離れろ~~!!」

 

 

 男を見て、セイヤはここ最近、ずっと隠れながらオドリーを見ていた奴だな~…。とのんきに呟き、右手を拳に変えて、男の鳩尾にめりこませる…はずだった。目の前にオドリーが両手を大きく広げて、男とセイヤとの間に割り込んでこなければ…。

 

 

 「やめて~~~~!!!」

 

 

 「…!! くっ…、お嬢様…!」

 

 

 突然の行動に驚き、目を見開くが、すぐにオドリーを腕の中に引き込み、抱きしめて庇いながら、回し蹴りを男の脳天に喰らわせ、戦意喪失させた。すぐに警備員がやってきて、男の身柄を確保し、連行していく。男が視界から消えた後、ずっと抱きしめていたオドリーが震えている事に気づき、慌てて離れる。

 

 

 「…お怪我はありませんか、お嬢様?」

 

 

 そう尋ねたセイヤだったが、オドリーが泣いているのを見て、固まる。

 目から涙を流すオドリーに、どこか怪我したのかと全体を見回すが、目立った傷はない。だが、他にオドリーが泣く理由が考えられないセイヤは、柄にもなく、焦り顔を見せ、動揺する。

 そんなセイヤを見て、オドリーは今度は目を丸くして驚くと、クスっと涙を流しながらも笑い、先程の返事をする。

 

 

 「はい…。セイヤのお蔭で、怪我はありませんわ。…ありがとう、セイヤ。」

 

 

 いつものような微笑みを浮かべ、安堵するセイヤは、自分がどうしてここまで動揺したのか理解できなかったが、自分の心境は横に置き、屋敷に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 そして、屋敷に帰ると、オドリーに部屋に来るように言われ、一緒に部屋の中に入ったセイヤは、ポーカーフェイスを取るのも忘れ、驚きのあまり、絶句してしまった。

 

 

 部屋には、天井から垂れ幕がかけられ、そこに大きく『セイヤ ハッピーバースデー!!』と書かれており、部屋の中央のテーブルには、いつ用意していたのか、セイヤが好きなチョコの誕生日ケーキが置かれていた。

 

 

 予想していなかった出来事にどう反応すればいいか思案していると、オドリーが満面の笑顔でセイヤの瞳を見つめ、嬉しそうにセイヤに告げる。

 

 

 「誕生日おめでとうですわ!! セイヤ!! はい、誕生日プレゼントですわ!!」

 

 

 そう言って、渡された大層綺麗に包まれたプレゼントに、これまた驚き、開けてみてといっているオドリーのキラキラした視線に押され、リボンを解き、包み紙を開くと、そこには立派な彫刻がデザインされた金の懐中時計があった。

 

 

 「これは…」

 

 

 プレゼントされた懐中時計は、オドリーとショッピングに行く時、高級時計店のショーケースに飾られていたものだ。セイヤは、それを行く度に、こっそりと眺めるのが唯一の楽しみだった。見た目は派手に装飾され、がっちりとガードしているが、中身は精巧に組まれた歯車で時を刻む…。現代普及している時計は完全に電子機能を搭載した物であるため、人の手で綿密に造りこまれたこの懐中時計が他の時計とは違った生き方をしているみたいに思え、それが自分みたいだと思い、小さな愛着を覚えていたのだった。

 

 

 「…………ありがとうございます。………大事にします。」

 

 

 その懐中時計が今、自分の手の中にあるという事実を噛み締めて、家中時計を見つめたまま、思わず微笑し、オドリーにお礼を言う。

 しかも、最後の台詞は言うつもりもなかったのに、口を滑らせた。

 

 自分の言動に内心驚いていると、お礼を言われたオドリーは嬉しそうな微笑みを向け、セイヤにいろいろ話しかけてくる。

 

 

 セイヤがこの懐中時計を何度も眺めているのを見ていたこと…。

 

 

 セイヤの好みを知りたくて、お菓子作りしてきたこと…。

 

 

 セイヤのタイプが知りたくて、色んなジャンルの服を着てみたこと…。

 

 

 セイヤの誕生日を祝いたくて、サプライズするために一人で準備していたこと…。

 

 

 セイヤが変質者に襲われそうになった時、とっさに身体が動いて、庇っていたこと…。

 

 

 セイヤが無事でほっとして、涙が溢れたこと…。

 

 

 こうして、セイヤが喜んでくれる…、初めて笑顔を見せてくれたこと…。

 

 

 それを、潤んだ瞳で自分の事のように喜び、話すオドリーに、セイヤは今まで感じていた嫌悪感が温かく梳けていくのを胸の内で感じた。そしてそれが愛しさに変わる…。

 自分のために泣いたり、笑ったり、必死になったりするオドリーに、この人なら、自分の全てを捧げたいと心の底から思うと同時に、その笑顔を自分の物だけにしたいという今まで思っていなかった欲が現れた。

 

 その欲をどうコントロールしていいか分からず、セイヤは自分が理性を取り戻した時には、力強くオドリーを抱きしめていた。

 

 自分の腕の中に閉じ込めて、オドリーの温もりだけを感じたくて…。

 

 

 だが、自分がオドリーの専属護衛という雇われの身であることを思い出したセイヤは、名残惜しいが、オドリーを自分の腕から解放し、頭を冷やそうと部屋を出ようとドアに向かった。

 しかし、後ろからオドリーに袖を掴まれ、振り向いた時、オドリーがセイヤの首に腕を回し、セイヤの唇に自分の唇を重ねた。

 

 必死に背伸びして、セイヤに口づけするオドリーの頬は真っ赤だった。

 

 そして口づけを終え、近い距離でセイヤの瞳を覗き込みながら、煽るような表情で生暖かい吐息を漏らしながら、ついにオドリーは告白する。

 

 

 

 

 

 「………私、…セイヤを愛しています。セイヤだけのものになりたいです…。

  私と…、一緒に、ずっと…! 隣で生きてください!!」

 

 

 

 告白を言いきった事で、逆上せそうになるのを必死でこらえ、セイヤの返事を身体を震えさせながら、羞恥に耐えて待つオドリー。

 そのオドリーに今まで見た事がない優しい笑顔を向けて、セイヤは告白の返事をする。

 

 

 「…ああ。…俺もずっと傍に居たい…。 そしてお前だけを愛したい…。

  俺の全てをお前に捧げる…。だから…、お前を俺だけのものにさせてくれ、オドリー…。」

 

 

 

 

 そう言ったセイヤは、オドリーの額に、瞼に、頬に、口づけを落とし、最後は深い口づけで愛を交わしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、恋人となり、オドリーの父親からも了承を得て、ついに二人は婚約者となった…。

 

 

 そして、二人が結婚式を控えた5日前、突如として訪れた災いで二人で生きていく事が叶わなくなる…。

 

 

 




二人の結婚式で『おめでとう~~!!』って言いたかったよ~~!!

っていうより、二人の甘々感が最高でしたわ!!(照)


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君を愛している…ずっと(下)

セイヤ~~…。

胸が苦しいんです!! これっていったいなんでしょう!?

みんな!!読む前に、ハンカチ…、いえ!!タオルを準備してください!!必ずいります!!

…では、どうぞ。(泣)


 

 

 

 

 

 そして、二人の運命は別たれる…。

 

 

 

 

 

 屋敷の侵入されそうな場所を厳重にチェックし終えたセイヤは、しばらくは襲ってこないと踏んで、自室に戻り、戦闘服から寝間着に着替え、寝ているオドリーのベッドへ戻ろうとした。自室へ戻る足を一歩踏み出した瞬間、大きな爆発が起き、屋敷が揺らぐ。

 

 突然の爆発音に、セイヤはすぐさまオドリーの部屋へと向かう。

 

 爆発音がした方向とはちょうど正反対。寝ているのなら、ベッドにいるはず。しかし、セイヤはなぜか嫌な予感をしていた。そしてそれは、ドアを勢いよく開けてみて、さらに増す。ベッドで寝ているはずのオドリーの姿がないのだ。部屋の中を探し、名を呼ぶが、オドリーはいない…。

 妙な胸騒ぎがするセイヤは、まさかと思い、爆発音がした方へと駆けていく。それは、自室がある方向…。

 そして角を曲がり、目的地に着いたセイヤは、自室が爆発し、燃えて、炎が今にも他の部屋に広がろうとしているのを目撃した。急いで、爆炎が蠢く自室へ向かい、ドアを蹴破って、辺りを見回す。

 

 こんな場所にいる訳がないと…思いながら、必死に眼を拵えて、探す。

 

 

 「オドリー~~~~~っ!!!!」

 

 

 何度もオドリーの声を呼ぶが、炎の勢いが凄まじく息が苦しくなる。それでも必死に探すと、掠れたような、それでいて詰まったような弱々しい声がセイヤの耳に入ってきた。言葉にはなっていないが、その声がする方へ急いで家具を飛び越えて向かうと、そこには大量に出血し、壁にぶつかって倒れているオドリーの痛々しい姿があった。

 

 

 「オドリーっ!! しっかりしてくれっ!!」

 

 

 「セ、………あ…」

 

 

 「!! いいっ!! しゃべらなくていいっ!! ここから脱出する!! 絶対に意識を手放すな!!」

 

 

 オドリーの状態を診たセイヤは険悪な表情になり、歯軋りしてオドリーを横抱きにすると、窓から外に飛び出した。三階からの飛び降りだったが、高さを物ともせずにオドリーに衝撃を与えないようにして着地する。セイヤが着地した時、セイヤの部屋は再び爆破した。後一秒遅かったら、更に爆発に巻き込まれていただろう。

 

 

 セイヤは自室に見向きをせずに屋敷の庭をオドリーを抱いて素早く駆けていく。そして、庭の草陰に隠れ、自分のロングコートを地面に敷いて、その上にオドリーを寝かせた。ここなら死角になっていて誰にも見つからない…。この爆発を起こしたカバルレにも…。

 

 セイヤはカバルレへの怒りと同時に、自分への怒りも募らせる。

 

 どうして、カバルレが仕掛けてくると分かっていて、黒ずくめをさっさと逃がしてしまったんだ?どうして、すぐにカバルレの息の根を止めようとしなかった?どうして、オドリーをひとりにしてしまったんだ?

 

 今更ながら、もう少し違った選択ができたのではないかとオドリーがこんな目に遭う必要はなかったのではないかと自分を責めずにはいられない。カバルレが狙ったのは、オドリーではなく、自分なのだからと…。

 

 しかし、自分に怒りをぶつけ続けたい気持ちもあるが、今、一番大雪なのは、オドリーの命を繋げること…!!そう自分に言い聞かせ、セイヤは血まみれのオドリーに手を伸ばす。

 

 

 オドリーは爆発による爆風で壁に吹き飛ばされ、全身で強く打ちつけただろう…、身体中に痣があったが、それよりも喉元にガラスの破片が刺さっていた。

 爆発の影響で窓ガラスが壊れ、そのすぐ下で倒れていたオドリーの喉元に落ち、刺さったのだ。そこから大量の熱い血がどくどくと流れてくる。何かを必死に言おうとするオドリーだが、声帯にガラスの破片が刺さっているため、声が出ない。荒い呼吸をするオドリーが涙を流しながらセイヤをみつめる。

 

 

 「…大丈夫だ!! 助かるからな!! オドリー…!! 絶対に俺が助けてやるから!!」

 

 

 セイヤは心配いらないと無理やり笑みを浮かべて、喉に刺さった破片をそっと抜き、喉にハーフタオルを置き、手で押さえ、圧迫止血し始める。その間、他にも外傷はないか確かめ、応急措置が必要な傷がない事を確かめ、ほんの少し安堵する。

 救急魔法医師の資格も持っているセイヤは、技術も優れていて、以前はよく戦闘地域への派遣で、戦闘しながら、同志の治療に当たった事がある。

 

 だから、オドリーを救う自信はあった。

 

 圧迫止血し、念のために持っていた止血剤も投与し、麻酔もして、痛みを緩和させる。

 

 

 「オドリー…、すまない。本来なら、俺が受けるべきものだったのに…。君にこんな危ない目を負わせてしまった…。…俺は婚約者失格だな。」

 

 

 オドリーの頬に触れ、泣きそうになるのを堪えた笑みを向けるセイヤ…。

 

 そんなセイヤに、オドリーは今できる限りの笑顔を見せて、頬に触れるセイヤの手に自分の手を重ねた。冷たい自分の手を添えて、でも、熱い視線はずっとセイヤに向けた。

 

 

 (…大丈夫よ。寧ろ、私がセイヤを守れてよかった…。セイヤがもし、こうなっていたら、私…、絶対に耐えられない…。

  ずっと…、私を守ってくれるセイヤだから…。私もずっとセイヤを守りたかったの…。

 

  あなたは悪くないわ。こうなったのも…、私が隣にセイヤがいない事に寂しくて、苦しくて、あなたの部屋に行ったのが悪いの…。

  セイヤが私のために闘ってくれていたのを知っていたのにね…。

 

  セイヤにそんな泣くのを堪えて心配する顔を見たかったわけじゃないのに……)

 

 

 声が出ない分、思いのたけを伝えるため、笑顔を作って、大丈夫だと伝えようとするオドリー。

 

 だが、徐々に眠げが走り、瞼が落ちていく…。

 

 瞼が下がり、視界が狭くなっていくのを感じながら、オドリーは自分の最期を覚悟して、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 オドリーが麻酔によって眠った事で、セイヤは、綺麗に消毒したナイフでオドリーの喉元の傷を開き、もう一つのナイフで自分の喉元を開く。そして、オドリーの声帯を摘出したセイヤは、素早く自分の声帯も摘出し、自分の声帯をオドリーの喉元に入れ、移植していく。針を通し、縫い付けていくその腕は素早くて、それでいて正確で、声帯移植は短い時間で終了した。

 

 セイヤは、傷口を縫ったオドリーの喉に触れ、微笑を浮かべる。

 

 せめてもの償いとして、自分の声を送ったのだ。

 

 (目覚めたら、オドリーは驚くかもしれないが、そんな顔を見れたら、君が生きていてくれている証だから、嬉しいよ。)

 

 

 そう、心の中から話しかけるセイヤは、無意識にオドリーの胸に触れた。オドリーの鼓動を感じようとしていたのかもしれない。しかし、オドリーの心臓から伝わってくるはずの鼓動が手から伝わってこない…。

 

 慌てて、耳を胸に当て、鼓動が聞こえない事を確認したセイヤは、身体に手を触れ、診察する。すると、自分がとんでもない失態をしていた事に気づく。

 

 

 オドリーは、肋骨を折っていた。そして、その肋骨の一部が心臓に突き刺さっていたのだ!!

 その心臓を今まで、持たすために、オドリーが自分自身に冷却魔法をかけ、血の巡りを抑えていて、少しでもセイヤとの時間を延ばしていたのだ。

 

 

 (何でもっと早くに気づかなかったんだ!!?あの時の冷たい手の感触に違和感があったはずなのに!! 俺は!!)

 

 

 手が震え、涙を流すセイヤ…。

 

 

 助けられると自信を持って、結果がこれか!!?…と自分が平常心でしっかりと診察していなかった事に気づき、悲しみに淵入りそうになる。溢れる涙は止まらず、叫びたい声は、もうない…。

 

 もうオドリーに謝る事も出来ない…。

 

 冷たいオドリーの身体を抱き、自分の過ちを嘆くセイヤ…。

 

 

 (…オドリー…!!いかないでくれっ!!

  俺は、お前がいないと、生きていけない身体になってしまったんだ…!!

  お前の笑顔が、俺を支えてくれていたんだ…!!

 

  頼む…!! 目を…、目を開けてくれ…!! …ううっ…お願い…、だ…!)

 

 

 

 

 号泣するセイヤは目を開けないオドリーを力強く抱きしめた。

 

 

 

 

 そんな時、泣き崩れているセイヤの胸が、オドリーの冷たい肌に触れ、ドクンッ…と脈を打った。

 

 

 その瞬間、セイヤはある事を思いつく…。

 

 

 それまで泣いていたセイヤは、泣くのを止め、袖で涙を拭い、服のボタンをはずし、自分の胸を露わにする。そして胸をナイフで開く。その開いた傷に指を差しこみ、大きく開ける。そこには、大きく今も鼓動を打つセイヤの心臓が存在を主張していた。

 

 セイヤは、オドリーにも胸を開き、オドリーの心臓を取りだすと、折れた肋骨を治癒魔法で治し、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の心臓を思い切り引き抜き、すぐにもう脈を打っていないオドリーの小さくて綺麗な心臓を空になった場所に入れこむ、意識が朦朧とするのを耐え、電気ショック程の放電魔法を自分に施す。

 すると、オドリーの心臓がゆっくりと動き出した。…弱々しく。

 

 そして、自分の心臓をオドリーに移植し、同じく電気ショックの放電を発動する。

 すると、セイヤの心臓がゆっくりと動き出し、徐々に大きく命をオドリーの全身に吹き込むように血を送りだす。それを確認し、苦しいのを必死に堪えて、オドリーの胸を閉じていく。

 

 オドリーの脈を確認し、脈に触れるのを感じて、嬉し涙が零れ落ちる。

 

 

 安堵した気持ちが全身に広がったのか、身体の力が抜け、横に倒れる。

 

 

 

 

 息が苦しいのか、荒い呼吸を繰り返すセイヤ…。

 

 

 そのままの状態でセイヤは、まだ動く右手でポケットの中から小さなキューブを取りだす。

 そのキューブは『相子保存キューブ』。キューブに自分の相子を蓄積する事で、そのキューブに組み込んだ起動式を、キューブにある相子が尽きるまで発動し続ける魔法アイテムだ。

 セイヤはずっと、自分の持つ少ない相子を少しずつこのキューブに貯めこんでいた。

 そしてスイッチを押し、キューブに組み込んでいた障壁魔法を発動させる。

 

 これで、もしカバルレに見つかっても、手を出す事も出来ずに、警魔隊が駆けつける時まで持続するだろう。

 

 

 …セイヤが死んでも、魔法が発動し続け、オドリーを守る。

 

 

 掠れてくる視界で、障壁魔法が発動したのを確認したセイヤは、横を向く。

 

 そこには、穏やかに眠るオドリーの寝顔があった。

 

 

 (ああ…、今日の寝顔、見れたな…。)

 

 

 微笑を浮かべ、残る力を全て使う勢いで這って、オドリーに近づき、自分の腕の中で優しく抱きしめる。

 

 先程までと違ったオドリーの程よい体温に、冷えていく自分の身体が気持ち良く感じるのを噛み締め、眠るオドリーの頬に触れ、愛おしそうに頭を撫で、髪を梳く。

 

 

 

 

 

 (オドリー…、君が生きてくれるだけで俺は嬉しいよ…。

 

  君がいなければ、俺は白い世界でただ一人で生きていた…。だけど、君の俺の世界に色を付けてくれた。

 

  初めて、人を心から愛する事を教えてくれた…。

 

  君からいろいろ教わったな…。

 

  そんな君と出逢えて、俺は幸せだった…。

 

 

 

  もう君のいろんな顔が見れなくなるのは、残念だ…。

 

  それでも、俺はずっと君の一番近くにいる…。

 

  何があっても、君を守る…。

 

 

 

  君が俺を愛してくれたように、俺も君を愛している。その君の”心”を俺は受け取った…。

 

 

 

  …絶対に誰にも真似できない交換になったな…。

 

 

 

 

  …じゃ、……名残惜しいが、…………俺はいく…。 

 

 

 

 

 

   オドリー…、君を愛している…………ずっと…………………な…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、愛するオドリーへの想いの丈を込めた誓いのキスを眠るオドリーの唇に注ぎこみ、セイヤは、旅立った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイヤが息を引き取ったあと、騒ぎを聞きつけ、駆けつけた警魔隊が屋敷や庭を捜索していた時、横たわる二人を見つけ、警魔隊が駆け寄る。

 駆け寄った警魔隊は、二人を見て、息をのみ、固まったそうだ。

 

 

 

 夜が明け、燃える屋敷を消火していた水しぶきと朝日を浴びる二人の身体が輝いて、飾り付けられたような印象を受けたからだ。

 

 そしておそるおそる、近寄ってみると、男の表情を見て、驚いたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …指輪ではないけど、お互いの”心”を交換し、二人の永遠の愛を誓った。 

 

 それを成し得たからか…、セイヤの最期の顔には、幸せそうな笑みを浮かべていた…。

 

 

 そして、大事そうにオドリーを抱いていた…。

 

 

 

 

 

 




書き終わりました…。そして、それと同時に号泣する私…!!

悲しくて、感動的で、もう胸がいっぱいです!!

みんなはどうですか!?


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植えつけた偽りの真実

ダメだ…!! 昨日の余韻がまだ残っているからか、涙で前が見えないや…。

そしてこんな時に、またあいつが出てくると思うと…   ブチっ……


 

 

 

 

 

 

 目を覚まし、担当医から自分の身体の事を聞き、あの後…、一度死んだ後の事を悟ったオドリーは、あまりにもショックすぎて、その後の担当医の話は頭に入ってこなかった。

 でも逆に聞こえなくてよかったと思う。担当医は、励ますとか気を使って無言で席を立つとかじゃなくて、意気揚々にセイヤがオドリーに施した手術…、救命処置に感銘を受けたと語りだし、

 

 「なぜ、名声を手にしようとは思わなかったのか?」

 

 「あなたは彼のこの偉業を知っていたのか?」

 

 「これは、前例のない素晴らしい功績ですよ!」

 

 「もしあなたさえよろしければ、この彼の臨床データを学会で発表しても構いませんか?」

 

 「もちろん亡くなった彼の最期の名声として、輝かしい発表をさせていただきます!」

 

 「つきましては、…………これほどの金額で、御譲りしてもらいたいのですが…。」

 

 

 ……と、場違いなんてレベルを通り越して、執拗に放心状態のオドリーに質問攻めをし、医者とも思えない私欲にまみれた表情で、いつも携帯しているのだろう…、白衣の内ポケットからまだ何も書かれていない小切手の束から一枚取り出し、金額を書いていく。その時、学会で(自分の功績として)発表し、医者としての認知度も、富も、権限も…すべてを手にした自分を想像し、舌なめずりするのだった。

 

 オドリーが聞いていたら、身体の痛みなんか忘れて、激昂し、無意識に魔法を発動させ、その担当医を氷漬けにしてしまっていた。…絶対に。

 しかし、涙を流し、精神不安定に陥ったオドリーを私欲でほったらかしにしていた担当医は、あろうことか、オドリーから返事がない事をいい事に、小切手に、サインさせようとオドリーの手を握って、書かせようとした。物凄い破格の安い金額で買い取れるように。

 担当医がそんな私欲に走って、自分を見失っていたため、今までの一件をオドリーに面会に来た大勢の人達に聞かれていたのにも気づかず、病室に入ってきた今回の事件を調べる事になった警魔隊の隊長とその部下3人に、取り押さえられ、詐欺未遂と名誉棄損、職務放棄…等々と、諸々の罪を重ねられ、連行されていった。一緒に面会に来ていたオドリーの父親は、娘の壊れた姿を見て、担当医の仕業だと思い、激しく怒声を浴びせる。

 警魔隊の隊長は、そんなオドリーの父親を落ち着かせ、オドリーの放心状態を診て、話を聞けないと判断し、全員連れて、病室を後にした。

 

 

 

 

 

 誰もいなくなった病室で、オドリーはそれを待っていたのか、ついに気持ちが爆発し、泣き始めた。

 嗚咽も漏らし、ただ泣き続ける。

 

 ただ、悲しみに胸が裂けそうに痛くなる…。

 

 自分を包み込むその両腕に、強く力が入り、爪を立て、皮が剥げ、血が出る…。

 

 セイヤがいない世界で目覚めてしまった事に、ただ悲しみ、ただ嘆き、ただ自分を責める…。

 

 

 嗚咽を漏らすその声は、愛しいセイヤの声…。

 

 まるで、セイヤが泣いているような…。

 

 

 

 

 

 

 でも、オドリーの耳には、そのセイヤの声が聞こえていなかった。

 

 悲しみに暮れ、精神が崩壊しかかっているオドリーには、自分の声も、鼓動も、感覚も伝わっていなかった。

 

 今のオドリーは、深くて真っ暗な世界に、墜ちかけていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………彼は、セイヤ君は、生きていますよ。 少し遠出しないといけなくなっただけです。」

 

 

 ”セイヤ””生きている”という言葉が聞こえ、深い底沼に沈みそうになっていたオドリーは、その言葉で意識を浮上させ、俯き泣いていた顔を上げる。

 

 顔をあげた先には、30代そこそこの紳士がオドリーの目をしっかりと見て、笑いかけていた。

 

 

 「…大丈夫ですよ、彼は生きています。 彼は、ある人物に命を狙われていましてね…。その人物の執拗な追っ手から逃れるために、死を偽造したのです。」

 

 

 「…セイヤは、…本当に生きているの…?」

 

 

 「ええ…、もちろんです。 本来なら、あなたにも全てを話すべきだったのですが、危険な目に遭わせたくないという彼の意志で、秘密にしていました。」

 

 

 「彼に、逢いたい…!逢せて…!!」

 

 

 「…………申し訳ありませんが、彼はもう旅立ってしまったのです。彼の命を狙う人物は、まだ彼を殺そうと躍起になっていますから。彼の目があなたに向かない内に…と。

  …しばらくして蹴りがつけば、戻るという伝言をもらっていますよ。」

 

 

 自分を置いて、勝手に去ってしまったセイヤに、どうして何も打ち上げてくれなかったんだと憤りを感じるオドリー。しかし、オドリーの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 『…悪いな、オドリー。

  終わったら、君の元へ急いで帰るからな…。』

 

 

 それは、セイヤの声だった。

 

 

 そしてその声を発したのは、録音レコーダーからだった。

 

 

 「彼が旅立ちの際に、あなたに宛てて、送った物です。

  彼は、帰ってきますよ…。」

 

 

 その録音レコーダーを男性から受け取り、大事そうに両手で包み込むオドリーに、男性は話を進める。

 

 

 「…ですが、彼がその人物を引き付けていると言っても、いつあなたに危害が加えられるか分かりません。そこで、彼からあなたを保護してもらいたいと頼まれてまして…。

  あなたを迎えに来ました…。 

  今も、その人物の手下があなたを狙って、この病院に潜んでいるかもしれないので…!」

 

 

 いきなり深刻な表情になり、気を引き締めだした男性の真剣さに、オドリーもただならぬものを感じ、唾を飲み込む。それと同時に、その真剣さと自分を守ろうとしてくれている雰囲気に、セイヤが重なる。

 

 

 「あ…、あなたは一体…?」

 

 

 

 

 オドリーに問われた男性は、人懐こい笑みを浮かべ、被っていた帽子を取り、頭を下げ、名乗り始める。

 

 

 

 「これは…、申し遅れました。

 

  私は、彼の親友の、カバルレ・サマダ…と申します。

  どうぞ、気軽にカバルレ…と呼んでください。」

 

 

 セイヤの親友と聞き、先程の紳士ぶりも相まって、オドリーはカバルレと名乗った男性を信じ、誰も告げずに、病室を後にした…。

 

 

 

 

 落ち着いて、病室に戻ってきたオドリーの父親と警魔隊の隊長は姿を消したオドリーを急いで病院だけでなく、周辺まで範囲を広げ、隈なく捜索したが、見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 カバルレは、『鬼門遁甲』で警魔隊の目を欺き、堂々と念願のオドリーを、言葉巧みに話を誘導し、偽りの真相を告げ、我が物としたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 (ふん…!! ついに…!ついに手に入れたぞ!!俺の最高の女を!!

 

  予想外の顛末だったが、邪魔者は排除できた…。

  

  今、欲しかった絶世の美が俺の腕の中に…!!

 

 

  オドリー…!! お前はもう俺のものだ…!!誰にも渡さん…!!!)

 

 

 

 

 

 

 

  「カ~~~~~~~バッバッバッバ!!!」

 

 

 

 

 

 勝ち誇った顔で高笑いするカバルレ…。

 

 そのカバルレの腕の中で、眠るオドリーは、血相は悪いが、どこか安堵し、嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 『セイヤは、生きている…。』

 

 

 それが今、オドリーの心を繋ぎとめている証かもしれない。

 

 

 

 

 

 カバルレは、セイヤが生きているというのも、セイヤの名を口にするのも吐き気が伴うほど嫌だったが、今にも命を投げ出しそうなオドリーを失う訳にはいかず、嘘をついた。

 

 今は、そのままにしておいてやる…。

 

 

 しかし、オドリーの声が忌々しい男の声だという事が気に入らず、それを思うと、首を締めたくなる衝動に駆られるが、急いで開発した、”変声ベール”をオドリーの顔に被せ、冷酷な微笑を浮かべた。

 

 

 

 「これで、忌々しいあの男の声は聞こえない…。私の愛するオドリーの声だ…。」

 

 

 

 

 含み笑いをして、カバルレは新しい拠点にオドリーを連れて行き、ベールをセイヤからの贈り物だと偽り、オドリーの記憶を書き換え、『セイヤは、お前を捨てて去り、絶望に駆られていたオドリーを慰め、俺の女になった…』という設定をインプットした。

 

 

 

 

 

 こうして、カバルレはオドリーを手に入れ、闇の世界で頂点に立つために『カバルレ・サマダ大サーカス』を表向きに展開し、闇に腰を下ろしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 …………そして今、カバルレは、残酷な方法で手に入れたオドリーに手を掛け、衝撃の告白をしたのだ!!

 

 

 

 

  『……せっかく、あいつを殺して、苦労して手に入れ、愛でてやったというのによ。』

 

 

 

  『………オドリーの婚約者だったあの男を殺したのさ!!』

 

 

 

 

 悪いとこれっぽっちも思っていないカバルレの冷酷非情で、外道すぎる傲慢な態度は、ROSEを最大限に怒らせるには十分すぎる理由だった…。

 

 

 




………誰か、金属パットを持ってきてください…!!

今からこれで、カバルレを…!!(激怒)

ピーポーピーポー!!ガチャっ!!


…ちょっと待て~~~!!連行しないで!!今、あいつの頭をこれで~~~!!…てか、あいつを逮捕して、刑を与えてよ!!
捕まえる相手を間違えてるってば~~~~~~~!!!!!!


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究極の愛は強し!?

(昨日のあとがきの続き)
はぁ、はぁ、何とか捕まらずに済んだ~~!!
拘置所入れられたら、せっかくのいい展開を見過ごしてしまうじゃないか!!?

カバルレを逮捕できないなら、こっちで何とかするんだから!!

ね!tokoっち!!




 

 

 

 

 

 思い出したくもない過去を掘り返され、tokoの台詞がセイヤがあの時、黒ずくめの男を使って寄越した伝言と同じことを言われ、忘れていたセイヤへの怒りと殺意が復活した。

 カバルレが死んだセイヤにまだ殺意を抱いているのは、それほどまで憎しみがあるのか…。しかし、カバルレはどうしてここまでセイヤを嫌うのかは、自分でも理解していない。嫌悪するきっかけはオドリーだったが。

 

 …もう、オドリーはどうでもいいが、カバルレが、オドリーを手に入れるために動いていた時、さりげなくカバルレのストーカーを妨害し、度々覗き見るカバルレに、まるで死神のように睨みつけ、視線だけで人の首を刎ねる事が出来る…。それを感じさせるような雰囲気を纏った視線で返された時、カバルレは人生初の得体の知れない恐怖に襲われた。今まで不自由なく、周りが自分に頭を下げて、機嫌を窺ってきて腰巾着のように人がついてくるのが当たり前の長い人生を生きてきたカバルレにとって、自分が一番偉く、全国民が自分に頭を深く下げ、自分のために犠牲になる物だと考えてきた。

 

 

 自分こそがこの国の頂点に君臨するのが相応しい…。

 

 

 そう思ってきたカバルレだから、セイヤの人ではないような視線で、自分が簡単に弱者に殺される幻覚を魅せられるほどの畏怖、恐怖、恐れ、脅威…。

 

 その今まで抱いてこなかった感情で、初めて自分が”特別”な存在ではない事を、本能で察したのだろう。それが、カバルレの傲慢なプライドの塊を大きく壊したため、その怒りを本能的にセイヤに向け、殺害を執拗に何度も計画するほどに思い立った…。

 …それを頭の意識の片隅で分かっているはずだが、その時に感じた恐怖から自己防衛が暴走し、憎しみに変わり、カバルレを非道な道へと引き摺り、更に人を変えたのかもしれない…。

 

 

 気付かせてくれる機会を与えられたと考えれば、カバルレはここまで残語句で、外道な男にはならなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 ROSEのみんなに庇われた形で、治療を受けるオドリーは、まだ息があった。

 

 オドリ―親衛隊の部下に刺された場所と同じ場所なだけに、さすがに弱りきった様子のオドリーだった。

 その様子を、胸の奥で燻っていた殺意を引き出し、悍ましく冷酷に哂うカバルレは、ある疑問を頭の中で抱いていた。

 

 

 (………俺は確かに、オドリーを殺そうと止めを刺したはすだ…。

 

  どうして、まだ息がある…?

 

  …オドリー、お前はとうとう心から俺を愛してはくれなかったな。

 

  記憶を書き換えたというのに、お前の心には、いつもあの男への感情が残っていた…。その想いを切なそうにしてみせるお前のその表情に、俺がどれだけ嫉妬し、どれだけあの男を死から蘇らせ、殺そうと思った事か…!!

 

  身体を重ねた時も、お前は…遠くを見ていたな。俺が気づかないとでも思っていたか…?

 

 

  …ふん!思い返すだけで、殺意が更に昂って来るわっ!!

 

 

  そして、お前はくだらない信念を持ったこんな馬鹿らしい連中に心を通わせ、俺の元から去ろうとした…。あの男だけでなく、こんな連中にも俺は、オドリーを取られる…!? 

 

  そんな事には、させない!!

 

  それならお前を俺の手で殺した方がいい…。

 

 

 

  …そう思って、お前の身体を貫いた。…忌々しい心臓を目掛けて。生暖かい血肉が腕に巻きついたような感触を感じた。幻想を見せられたわけではない。それなのに、どうして、お前が生きている…?)

 

 

 

 

 心の底から沸き起こる、苛立ちと怒りを感じながら、疑問を払拭しようとする。

 

 

 しかし、オドリーの治療に関わっていた暁彰が『精霊の眼』でオドリーの中を見た事で、それが判明した。

 

 暁彰もオドリーを見た時から疑問に思っていた。

 

 

 タツヤ族はミユキ族を身体張ってでも護る事を、本能的に植えつけられている。例え会って間もない相手でも。

 それでも、オドリーには反応しなかった精神的命令に納得できなかったが、オドリーの裏切りの時、声帯と心臓が他人の物であるため、その心臓から血管を通して送り込まれる血の形態が本来のミユキ族のDNAを薄めているからだと『精霊の眼』で見て、そう思っていた。

 

 でも、実際はそうではないと分かった。

 

 

 

 なんとオドリーの心臓が、起動式を巻きつけているような状態でいて、心臓の周りを障壁で張っていたのだ。

 

 

 心臓自体が魔法を発している…。

 

 

 

 

 そんな現状に直面し、暁彰は驚愕するとともに、納得した。

 

 

 (…もしかしたら、彼の秘めた想いに共感し、心の底で任せても大丈夫だと、無意識にそう思っていたのかもしれないな…。)

 

 

 今、オドリーの命を繋げている心臓に、優しく笑いかけながら、暁彰はそう思った。

 

 

       .

 「どうやら、彼がオドリーをずっと守っていたみたいだな…。

  オドリーの一番近くで…。」

 

 

 思わずそう言葉を漏らす暁彰の目には、ほんのりと涙が零れだしそうになっていたのを、暁彰をサポートしていたRDCやさっちゃん達が、暁彰が視たモノを察して、一緒に泣いた。

 

 

 

 

 セイヤが息を引き取る前に、オドリーに心で伝えたもの…。

 

 

 『俺はずっと君の一番近くにいる…。』

 

 

 

 『何があっても、君を守る…。』

 

 

 愛しいオドリーに死に際で誓った愛が、心臓に宿り、ずっとオドリーを守っていたのだ。

 …本当は、セイヤの心臓がオドリーに宿った当初は、オドリーが危険になると、身体を包み込むくらいの障壁を張っていた。しかも可視化できない障壁を。

 しかし、オドリーが、その…、カバルレと~…、ベッドを共にするようになってからは、徐々に障壁の範囲が狭まり…、今では、心臓を囲めるだけの障壁を張るのが精いっぱいとなってしまっていた。

 

 

 

 それでも、臓器に”心”が宿り、魔法を発するというのは、珍しい事だ!

 

 

 

 その軌跡が今、ここにあった…。

 

 

 

 

 

 

 暁彰の『再成』で、再び傷が消えたオドリーは目を覚まし、自分の手を胸に重ねておいて、涙を流す…。

 

 

 「…………ここにずっといたんだね? ずっと私を守ってくれていたんだね?

  私…、やっとあなたと向き合えた気がする…。

 

  ………セイヤ、私も愛しているわ。」

 

 

 自分の胸に囁くように言葉を紡ぐオドリーは、涙をあふれだしながらも、愛おしく想いに馳せた。

 

 

 それは、カバルレの植えつけられた偽りの記憶の殻から、飛び出した綺麗な白鳥が自由になった瞬間だった…。

 

 

 

 

 まさに、究極の愛をしみじみと感じさせる光景だった。

 

 

 オドリーの泣く姿は、ROSEのみんなを号泣させるほどの、セイヤへの思いが込められていたから…。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この場で一人だけ、正反対の凄まじい負のオーラを発する。

 

 

 

 

 

 もちろん、それはカバルレだ。

 

 

 

 

 遠目でオドリー達を怨めしそうに見つめていたカバルレにも伝わった。

 カバルレはどうしてオドリーが死なずに、どうして狙いが逸れたのか…。

 

 

 

 それが、憎きあの男の仕業だと気づき、もう計り知れないほどの殺意がカバルレの理性をぶち壊す。

 

 

 

 

 




セイヤの”心”がオドリーを守ったんだね!!

あかん、また涙が!!

実際に医学的にも、移植を受けた人物が、臓器提供してくれた人の癖を無意識にしてしまったとか事例があるそうで、これを聞いたときは、感動で、セイヤの亡き想いを伝えるためにはこれだ!!と思い、ゆびが弾みました!!

さて…、もうこれは。カバルレの逝かれた暴れ方が見えてくる…。


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深闇に堕ちた外道

外道は外道なりに、外道を貫いて…

もうめんどくさいよ!!対処する方が!!

堕ちるんなら、他人に迷惑かけるな!!


 

 

 

 

 憎悪に塗れたカバルレは、ついに理性をブチ飛ばし、人とは思えない邪悪な顔をして、口が裂けんばかりに唇を吊り上げ、歯を剥き出しにして狂い哂い始めた。

 

 

 「カ~~~~~~バッバッバッバッバ!!!

 

  あの男め~~~~~!!!! 死んでなおも、俺に楯突くのか…!!

  忌々しい!! 貴様が俺の意識が掠める度に殺したくなる衝動が溢れ出るわっ!!」

 

 

 オドリーに獰猛な逝かれた視線をオドリーに向けているが、セイヤの幻影を見ているのか、瞳孔は遠くを見ているようだった。そして、自身の内側で燻る憎悪を吐き出す勢いで、カバルレの体内から離れていても肌にビリビリ感じるほどの黒いオーラが零れ出てくる。更に、カバルレの周囲の床が地鳴りし出し、亀裂が入る。その亀裂が広がり、大きな揺れが大部屋全体に伝わりだす。

 

 

 「…くっ!! この揺れは…!」

 

 

 「こんな激しい揺れ…、は、まずい………よ!!」

 

 

 「…わぁっ!! …~~~~ッた!! 尻もちって感じにもならん!!」

 

 

 「尻もちよりも、完全に、頭を床に…、突っ込んで、いく形でバク転……、2回転してたよね…? 剣崎ちゃん?」

 

 

 「御神さん、これは仕方ない…って!! だって、床なのに、波たっているもん!!」

 

 

 「…理性を失くして、魔法が暴走しているな~…。凄い干渉力~!!」

 

 

 床が暴れ出し、体勢を崩さないように、バランスを取りながら、カバルレに意識を集中させていくROSEのみんな。暁彰たちもオドリーを抱えて、カバルレから距離を取る。

 

 

 「消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ~~~~~~~~!!!!」

 

 

 念仏のように叫びだしたカバルレは、更にオーラを暴走させ、黒いオーラは瘴気に変わり、大部屋の大気が侵食され始める。

 

 カバルレの放つ瘴気で、ROSEのみんなは中てられ始める。

 

 動けなくなるというほどではないが、身体の一部分の感覚が麻痺状態に陥り、度々それが原因で、揺れる床にバランスを崩し、大胆に転がる。

 

 カバルレの瘴気はどんどん濃くなっていき、天井自体が暗闇に覆われる。

 

 

 「カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!

 

 

  見ておれ!! セイヤ~~~~!!! お前の愛しいオドリーと仲間だとアホ面を晒す魔法師のクズどもをあの世へ会わせてやるぞ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 狂気を逸したカバルレが身体から大量の相子を放出する。その相子の光は禍々しく黒く、淀んだ光だった。その相子がカバルレを包み込み、周囲を竜巻のようにして、旋風を巻き起こす。

 その勢いに、ROSE達は押され、踏ん張り続けながら、胸の中がざわつく。

 

 

 「…!!く、くろちゃん!! カ、カバルレを今のうちに倒さないと!!」

 

 

 「あ、ミナっち!!復活おめ~~!!」

 

 

 「ありがとう!! …って、それは置いといて!! これ、ヤバい展開だよ!!

  何か仕出かしてくる!!」

 

 

 今更ながら、カバルレの強い干渉力による地揺れで、目覚めたミナホは、『精霊の眼』でカバルレの体内で異常の相子の放出と内側で構築されていく物凄い量の起動式を読み込んでいる状態を視て、即効攻撃を提案する。

 

 くろちゃんは、ROSEのリーダーとして、ミナホの意見に賛同し、全員突撃を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 しかし、それと同時に、カバルレの大がかりな魔法の魔法構築も終わる。

 

 

 

 時はすでに遅し…。

 

 

 ROSEのみんなが突撃するとともに、カバルレが魔法を発動する…。

 

 

 

 

 「さぁ!! 俺の真価を見せてやるっ!! セイヤ…!!お前に絶望を与えてやろう!!」

 

 

 

 今もなおセイヤの幻覚を見続けるカバルレが瘴気で覆われた天井に向けて、右手を天高く翳す。すると、天井の淀みきった瘴気が渦巻き、ROSEのみんなが縛り上げていた彫刻や甲冑達が天井の瘴気に吸い寄せられていく。

 大部屋を覆い尽くさんばかりにいた彫刻達を全て取り込んだ天井の瘴気が赤い小さな稲妻を光らせ、渦巻き続ける…。

 

 その赤い稲妻がROSEのみんなには、取り込まれた彫刻達に残された”精神”の地の涙のように感じた。

 

 

 胸の奥で感じた痛みに嘆くと、天井の瘴気が、今度はカバルレに向かって落ちていく。その動きはまるで蛇のよう…。

 

 

 「カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!

 

  カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!」

 

 

 瘴気に巻きつかれていくカバルレは、ベルトに常備していた怪しげな色をした液体の注射をありったけ全部、自分に打ち込んだ。その後、瞳孔が赤く光ったのを目にしたのを最後に、次々と物凄い勢いで落ちてくる瘴気に包まれ、姿が見えなくなった…。

 

 

 

 

 …そしてそれが、最後に見たカバルレの人の姿だった…。

 

 

 

 

 

 

 




ここまで来ると…、もうどうしようもないね。

自分から人を捨てたし…。


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皮を捨てた魔物

最後の砦だった理性を外して、自分から堕ちました、カバルレです。
うちはこんな人間にだけはなりたくないし、近寄りたくないな~…。




 

 

 

 

 大量の瘴気に包まれ、渦巻く状況に、ROSEは事態を未然に防ぐことができずに歯軋りする。

 でも、今からでも遅くない。暴れ出す前に倒せばいい。

 

 …そうしたいのは山々だが、ROSEのみんなは苦虫を噛み締め、ただ瘴気が激しく渦巻き続けるのを、気を引き締めて警戒する事でしかできない。

 

 なぜなら厄介な瘴気の中にカバルレがいるからだ。

 

 ROSEのみんなは、先程は瘴気を吸い込んでも、身体の一部が感覚麻痺に陥るだけで済んだ。しかし、それはROSEのみんなが優れた実戦経験がある上、日頃から鍛錬をしている実力派魔法師だからこそ、これくらいで済んでいるにすぎない。一般の戦闘魔法師なら全身に麻痺が走り、倒れるだろうし、まだ魔法師として未熟な駆け出しの者なら、真空マスクを作る事も出来ないから、ほんの少しの瘴気を体内に取り込んだだけで死に至る…。現に、ROSEに入って間もなくて、魔法も教わりだしてばかりの幼いショウリンは、一番距離を取っているのに、顔色が悪く、吐き出しそうになっている。ミナホが耐毒効果のあるドリンクを日頃から飲ませて、今も与えて介抱しているからに他ならない…。

 

 それだけカバルレが恐ろしい瘴気を放っているのだ。

 

 毒にも対処できるように、準備もしていて、ある程度の耐性を持っているROSEのみんなでも、さすがに大量の瘴気に飛び込んでいけるほどの耐性を持っていない。そして、無鉄砲に突っ込んで犬死にするほどの馬鹿でもない…。 

 

 そしてカバルレの見せたこの魔法は未知の魔法なのだ。

 

 

 「……こんな魔法なんて、私も知りませんでしたわ…。」

 

 

 一番カバルレの傍にいたオドリーでさえ知らない魔法…。もちろん、魔法やその運用技術、知識を兼ね備えた歩く辞書こと、ワイズさんも…

 

 

 「悪いが、この魔法は見た事も聞いた事もない。表立って発表されたものではないな。少しでも魔法の一端が噂されていたら、私の耳にも当然入ってくるはずだからな!」

 

 

 …と自信満々に知らないと太鼓判を押す。

 

 おそらく、カバルレが独自で開発した闇魔法なのだろう。帝国の闇に君臨していたカバルレなら、様々な研究データや魔法、アイテムを苦も無く、手に入れられただろうし、元々カバルレは魔法研究所でかなりの権力を持つ魔法開発をしてきた研究員だ。

 研究データを見て、新たな魔法を一人だけで開発するのは、できない事はない。寧ろ誰にも知らせていないという事は、魔法の情報が一切ないという事…。

 

 どのような魔法か分からないため、手も足も出ない。額に嫌な汗を掻きながら、ただカバルレが弱って瘴気の渦から出てきたところを叩く方向で考えるしかない。

 

 戦いには、”情報”が命…。

 

 それがまだ足りなかった事に対し、自分達の甘さをいまさらながら反省するROSE達。

 

 しかし、元々潜入して内部調査をするのが目的だったから、まさかここまで発展するとは思っていなかったし、色々あったけど無事にボスの所まで来れたのだから、落ち込む必要はないのだが、何事にも相手の情報を知ってから作戦を立て、闘うスタイルのROSEには、納得できない物だったのだ。

 

 

 そんな拗ねてしまったROSEの目の前が、黒く淀み始めた。

 

 瘴気が広がりだしたのだ!

 

 慌てて、後ろに大きく飛び去り、浄化効果を盛り込んだ障壁を各自で展開する。渦巻いていた瘴気が再び広がりながら、天井まで伸びていく。そして何かの形を作り始めた。その瘴気の中から、聞き覚えがありまくるあの苛立ちを募らせる高笑いが大部屋に響き渡る…。

 

 

 

 『カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!』

 

 

 

 高笑いする不気味な動きをする瘴気がモフモフ…と人のような形を作り、押し固めるようにして縮小していき、立体的な体格へと変化した。

 

 

 

 そして、未だ高笑いを醸し出す瘴気がとうとう、天井まで届かんばかりの巨大な黒い魔物となって、姿を現した!

 

 

 『カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!

 

  ミタカ!!! オレガ、エラバレシモノダトイウアカシダ!!

  モウオマエタチニハオレヲタオススベナドナイワッ!!!

 

  カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!』

 

 

 馬鹿にする口調と絶対的自尊心の塊を吐き出す内容と言い…、間違いなくカバルレだった。

 

 カバルレは、ROSEを…、オドリーを…、セイヤを…、自らの手で葬り去るため、人であることを捨て、”人間であり続ける”という皮を破り捨て、自ら編み出した邪悪な魔法で、”魔物”となりはてた…。

 

 

 




魔物と化したカバルレと、次回対戦する事になるな、これは。

でも大丈夫~~!! 昨日の魔法試合でROSEが祝600勝を果たしました!!
おめでとう!!
だから、勝ちますよ!! というより勝ってみせます!!外道に負けたくないもんね!!


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魔物の脅威!! 心の闇に捕らわれるROSE!?

………え!!? ROSEのみんなが!!
どうしよう!! 一大事だよ!!とにかくっ!!テーブルの下に隠れて…。



 蹲るのだ!! …………シ~~~~~~~ン


 

 「ま、まさか!まさかだけど…!!カバルレが魔物に…!!」

 

 

 「何という大きさだ…! 予想を大きく上回ってるぜ!!」

 

 

 「こんなのって…!」

 

 

 突然の魔物の出現…、いや、魔物と成り果てたカバルレを見て、ROSEは絶句する。

 

 人間が魔物となるのを間近で目撃したのだ。ここに潜入する前…、ギルドを立ち上げてから、今日まで地方で確認される鎧の亡者や魔物を倒し、調査してきたROSE。調べる内に、自分達が相手にしていた亡者やモンスターたちが元は人間だったと知った時は、どれだけ自責の念に駆られ、苦しみ、嘆き、張り裂けんばかりの胸の痛みを受け、泣いた事か…。

 自分達が倒さなければ、被害が今以上に増えていたのは間違いない…。

 でも、事実を知った時、これ以上は元人間だから、倒したくない!!戻してやりたい!!と思って、研究もした。それでも救う方法は見つからずに結局命を絶って楽にさせる事しかできないという事を思い知っただけだった。

 苦しい決断を繰り返し、今日まで犠牲になった元人間に懺悔を持って生きていた。

 

 そんなROSEの前で起きたこの状況が脳裏で重なり、体の筋肉が強張る。

 

 ROSEでもかなりの腕を持つ御神や暁彰、ホムラでも手が震えている。

 

 

 ROSEのみんなは、カバルレを見て、脅威や今までの言動による怒りを感じるとともに、同じことを繰り返そうとする苦しみや悲しみが相まって、葛藤する。

 

 

 葛藤するのは、人を愛しているから…。

 

 

 例え、姿が変わっても、人間であったことは変わらないから、何とか助けてあげたい…!!

 

 

 その想いをROSEは胸に秘めている。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、冷静沈着に物事を整理する者がいれば、「その必要はない」と一刀両断するだろう。

 みんなが自責の念を持つ出来事と今回の事は完全に同じではないのだ。敵の性質も、状況も全く違う。強いて言うなら、『元人間だった…』という事だけだ。

 

 それを指摘して、「だから葛藤する必要なんかない」と言い放つ事が出来るだろう…。

 

 

 しかし、みんなは、それに気づく事は出来ず、ただ自責の念を募らせ、自分達が各々で抱えていた闇を膨れ上げらせる。そして、さっちゃんやるーじゅちゃん達は、自分の心に押しつぶされそうになり、頭を抱え脱力した。呼吸も激しくなり、号泣する。

 二人以外にも、やるせない自分への怒りで自分を殴ったり、仲間同士で傷つけ合う。どこか黒ずんだ瞳で互いに魔法を繰り出し始めたROSE達…。

 

 こうさせたのは、魔物と化したカバルレの瘴気が空気と混ざり合って、それを吸いこんだ事による幻覚症状を起こしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 カバルレが魔物となった瞬間、もうROSE達はカバルレの術中に嵌っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 みんなが見ていた魔物は、魔物であって、魔物ではない。

 

 みんなが抱えている心の闇が映し出された幻に過ぎなかったのだ。巨大な人型をした魔物は、心の闇を具体化したものだった。

 

 

 

 『ダークサイド・ブレインウォッシュ』

 

 

 …瘴気に混ぜ込んだ精神干渉魔法の起動式を対象に付着させるか、体内に取り込ませることで、発動させる。対象の抱えるトラウマや病んでいる過去を強制的に引き出し、幻覚症状を見せる。そして、その心の闇に手を加え、洗脳する事で、闇へと引き攣りこむ。

 

 抱える闇が大きければ大きいほど、この魔法に掛かりやすい。実力のある魔法師程、危険な魔法だ。それに、瘴気に混ざりこんだ起動式は、小さく砕かれた状態で空気上を行き来し、対象に入り込み、そこでバラバラになった起動式が再構築される。その後、対象の相子で魔法展開する。自らで編み出した魔法は、『自分が何をされたら壊れるか』を知っているし、脳裏で流されるトラウマを見ながら、そうならないようにと同時に意識してしまう。もっとも耐え難いトラウマを引き出したら、それを最大限に植えつけるだけ。

 後は、勝手に幻覚を見続け、暴れ出すという恐ろしい精神干渉魔法だ。

 

 

 

 

           ・・・・・・

 その魔法に、ROSEの実力派魔法師は、抱え込むトラウマを読み起こされ、仲間同士で戦い、自分を傷つけた。

 

 

 そんなROSEが仲間で戦い始めたのを、冷酷な哂いで見つめ、ボロボロになってゆくROSEを愉快そうな表情を浮かべて、大きくて赤く光る瞳孔の瞳に焼き付けていた。

 

 

 

 

 …仲間を大事にするROSEが、その大事な仲間を傷つける様を目に焼き付け、後で傑作だったと嘲笑い、屍となったROSEをつまみとして食べる為に…。

 

 

 




………え?これなに?何でROSEが仲間割れ…?(実際には、自分と戦っているみんな)

こんなひどい事を!! みんな~~~!!目を覚まして!!


告知です!!
明日は、『敬老の日』なので、番外編をお送りします!!また、ROSEが大暴れするので、見てくださいね~!!






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敬老の日番外編~年をとっても、ヘムタイ!~

『敬老の日』…ご老人の方々に日頃の感謝を伝える日…。

うちは、遠く離れた祖母たちに電話で感謝の言葉を送りました。


…そんな祝日にちなんで、番外編をしていきます!!

今回も暴れるヘムタイ達をどうぞ温かい目で見てあげてください!!


 

 

 

 

 「今日はなんていい天気なんだ~…。」

 

 

 「うん…。良い…天気だにゃ~…。そして、清々しい日だにゃ!!」

 

 

 ギルドハウスの窓を大きく開けて日差しとそよ風を身体に浴びて、心を安らげるのは、ちゃにゃんとミナホ。

 

 

 

 メインストーリーでの蓄積した緊張感を取ろうと、一旦幕引きをし、休みを取って、ギルドに久しぶりに帰ってきたのだ。

 そう…、今回はメインストーリーの舞台裏として、本来のROSEで盛り上げようということになった。…ただ単に遊びたかったという訳もあるが。

 

 

 …まぁ、そんな訳で、久しぶりに帰ってきたから、ギルドハウスの空気の入れ替えをして、のんびりと羽を伸ばしていた。

 

 

 「…静かでいいにゃ~。」

 

 

 「ホントだね~…。静かだね~…。落ち着くね~…。」

 

 

 羽を伸ばし続けるちゃにゃんとミナホは、まるで日向ぽっこしている猫みたいにのほほんとしている。他のROSEメンバーも日頃の疲れを取るためにマッサージチェアを早速使いだしたり…、ハウスに完備されている露天風呂で身体を浸したり…、ラフな格好で寛いだり…、なぜかステージで、子供用の小さなプールを準備し出して、水着になって遊んだり…、その傍らでシートを敷いて、スポットライトを身体にあてて、南国気分を味わい、肌を焼く…という、何とも自由な休日気分を満喫していた。

 

 帰って早々、羽を伸ばし過ぎではと思う休息を取るROSEのみんな。

 

 

 ”確かに、メインストーリーでかなりのトラップや対戦を潜り抜け、外道のカバルレにやられていますけど、舞台裏の休息だからとここまで自由に羽を伸ばしていいのか?”

 

 

 …って、常識人ならもっと休日気分を有効に使おうと説得しにかかるはずだ。

                    .......

 しかし、今ここにいるROSEのみんなは、今しかできないからこその休息を満喫していて、常識を持った暁彰までもが、軍服を着て、リアルウォーゲームに集中して遊んでいた。その隣には、同じく軍服を着て、銃器を背中に装備して、暁彰とバディを組んで、モニターの中の敵魔法師軍団を壊滅していくサガットの姿まであった…。

 

 

 今、みんながこうして休息を取っていても、気にせずに自分達のやりたい事が出来る…。

 

 

 みんなの休息方法を知って、勘の鋭い人は気付いているかもしれないが、普通…、堂々と風呂に入ったり、水着になったり、揉み解したり…なんて真似は、決してない!!

 

 そんな事をすれば、狙われる以前に、精神的疲労に陥り、余計に体力をそがれる事態にどうしてもなってしまうからだ。

 

 理由は簡単…。

 

 

 ROSEのヘムタイが、鼻を垂らして、カメラを抱えて録画しようとするからだ。

 

 肌を露出したり、肩もみしたりすると、デレデレしてまるでゾンビのような動きでエロを求めて彷徨いだすヘムタイのお蔭で、満足にゆったりと湯につかる……こともできなかった。

 

 だがしか~~し!!

 

 そのヘムタイ達は、メインストーリーの舞台裏となった瞬間にどこかわからないが、土煙を上げて、一目散にどこかに行ったのだ。

 

 それを見送った時、ヘムタイがいなくなったのに気づいたHMT隊長、ちゃにゃんが「今のうちに休もう!!」とみんなに声を掛け、急いでギルドハウスに戻り、羽を伸ばしにかかった…という訳だ。

 

 

 ヘムタイがいない証拠に、なぜかROSEの乙女たちがステージで水着とワンピの着こなしコーデファッションショーを開いていて、ホールでは盛り上がりを見せていた。

 もしこの場にヘムタイがいれば、間違いなく鼻血噴射が起きていただろう。

 

 そんなステージの横のモニターでは、真剣にリアルウォーゲームを最終局面まできて大将を討ち取るまで戦い抜いた暁彰とサガットが、イケメンの顔から長きに渡る戦場にて戦い抜いた男の雰囲気を出し、鋭い眼光と筋肉で引き締まった渋い顔になっていた。あまりの変化で、人が変わった顔をしているが、誰も突っ込みはせず、二人はゲームに夢中で、コントローラーはひびが入っていて、死にかけていた…。

 そして、二人が相手する大将とその三幹部は、なぜか異様にヘムタイ達に似ていたので、更に白熱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ”ヘムタイ警報!! ヘムタイ警報!! ヘムタイ警報!!……”

 

 

 

 

 

 

 突如として、ギルドハウス内に響いた緊急警報…。

 

 

 

 ヘムタイがギルドに帰ってきた合図だ。

 

 ROSEのみんなは、警報を聞き、物凄い速さで片付けに入る。その動きはまるで忍者合戦かと見違えるほどに。

 

 

 

 

 

 「「「「ただいま~~!!」」」」

 

 

 「お帰りにゃ~!!(びくびく)」

 

 

 「あれ? ちゃにゃん、額に汗がいっぱい掻いてるよ? 何してたの?」

 

 

 「え!?え~っと…、あ、あれ!!あれだよ!! スタミナ今のうちに付けとこうと思って、ダンベルで腕力強化をしてたんだにゃ!」

 

 

 「そうなの!? 舞台裏になったんだし、休めばいいのに~!! 努力家だね、ちゃにゃんは。…でも、もうダンベルはしない方がいいよ…。いきなり慣れない事をしたら、身体に負担掛かるし…」

 

 

 「くろちゃん…! あ、ありがと………」

 

 

 「それに!! これ以上ちゃにゃんが握力強くなったら、今以上に鉄拳制裁を受けて、ヘムタイに人生を捧げる時間が少なくなるじゃないかっ!!」

 

 

 ちゃにゃんの肩に手を置き、真正面から堂々とヘムタイ宣言したくろちゃんに、ROSEのみんなは固まる。

 そして、ちゃにゃんはかなり作った笑い顔で、くろちゃんに笑いかける。

 

 

 「歯、食いしばれにゃ~~♥(怒)」

 

 

 

 

 

 ドンッ!!!! シュパ~~~!!!!

 

 

 

 

 くろちゃんは、またちゃにゃんの鉄拳制裁を受け、殴り飛ばされましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「ふぅ~~~、ところでみんなはどこに行っていたのにゃ?」

 

 

 「え、えっと…、海岸の方に…。」

 

 

 「………ふぅ~~ん。さぞかし楽しかったんだろうね~…。」

 

 

 「ちゃにゃん!!それにみんなまで!!違うよ!!水着美少女を拝むために行ったわけじゃないから!!ちゃんとした用事があったんだ!!」

 

 

 「用事?」

 

 

 ちゃにゃんの鉄拳を目の前にした他のヘムタイ達(ホームズ、マサユキ、剣崎兵庫)は、何とか制裁を逃れようと必死になって、説明する。その傍らで、ちゃにゃんは笑いながら、仁王立ちして、話を聞く。内心では、『またヘムタイ衝動に走ったのではないか』と疑って。

 

 

 「そうなんだ。舞台裏になってすぐ、連絡もらって、行ったんだ!!」

 

 

 ホームズの話を聞いていたROSEのみんなは首を傾げる。

 

 

 

 もう一度一から話すように、お願いして、聞いてみる事にする。

 

 

 

 

 舞台裏になってから海岸の屋台の店主から連絡をもらって、早速海岸に行くと、海辺に大きなタコが現れていて、海辺に屋台を出す人々と見つめ合いになっていた。

 連絡をくれた店主に話を聞くと、どうやらあの海で友達になったクラ―ケンのクラちゃんの子供のようで、最後に友達になってくれたくろちゃん達にお礼をしたくて、わざわざ海岸まで来たのだった。

 それを聞いて、くろちゃん達ヘムタイ達は感涙するが、そもそもあの時、最後にクラちゃんがみんなの食材となった時、止めもせずに、寧ろ積極的に店の手伝いして、バイト代を手に入れていたよね?それで、ヘムタイグッズ買ったよね?

 

 …完全に友達を売ったよね?

 

 くろちゃん達の事を知っている店主が物言いたげな表情でヘムタイ達を見つめる。その店主の視線を受けながらも、クラちゃんの子供のタコに、熱い涙を見せ、

 

 

 「大丈夫…。私達は、クラちゃんの事を忘れないから…! ヘムタイの魂は、同じヘムタイの心に宿り、受け継がれていくんだよ!! クラちゃんの偉業を見習って、私達ももっとヘムタイを世に広めてみせるよ」

 

 

 「広めんでええっ!!」

 

 

 思わず、突っ込んだ店主だった。

 

 

 

 

 それからは、クラちゃんの子供タコと遊んで、お礼にと渡された玉手箱をもらって、戻ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「…それでもらった玉手箱がこれ、と…?」

 

 

 御神が物凄く引いた顔で指を差す方向に、そのくろちゃん達がもらった玉手箱があった。

 漆塗りされていて、金箔での海藻や魚の彫刻が施されている見れば高価なものだと分かるほどの玉手箱が眩しく輝いていた。

 本来ならROSE全員で嬉しがって、箱を開けてそのまま宴会へとなるが、ここまで大層な贈り物をあの!!ヘムタイ達が持って帰ってきたことに信じられずに箱に触れる事さえできないちゃにゃん達、HMT一行。

 

 でも、箱に物凄いお金がかかっているんだから、相当中身は更に豪華なはず…。

 

 開けてみたいが、触れる事が出来ない…という現状が続いた。

 

 

 そんな中、ケロッとして、ちゃにゃんの制裁を受けて飛ばされ、帰ってきたくろちゃんが、ギルド内に流れる空気に気づかず、もらってきた玉手箱に近づいていく。

 

 

 「みんな~?何で開けないで、周りを囲んでいるの?こんなのさっさと開けて、喜んであげないと、クラちゃんの子供がかわいそうだよ~。」

 

 

 「…あ!!ちょっと待って!!くろちゃん開けてはだめだよ!!」

 

 

 ミナホが何かを思い出したように、止めに入る。その声色には、微かに恐怖が読み取れた。

 

 

 「どっかの国の絵本で読んだことがある…。ある時、カメを助け、そのカメに連れられて行った海の王宮で、姫と戯れた青年が陸へと戻る際に姫に渡された玉手箱を開けると、老人になってしまったという話を…!!

  もしかしたら、その玉手箱は、その話に出てくる老化させる玉手箱かもしれない!!」

 

 

 「…ぷっ!!まさか~~!! そんな絵本の話が実際に起きる訳がないって!!」

 

 

 真剣に話すミナホの話にくろちゃんやヘムタイ達が笑って吹き飛ばし、ついにくろちゃんが玉手箱の蓋を開ける。

 

 

 すると、ふたを開けた瞬間…

 

 

 

 

 

 

 ポンッ!!!

 

 

 

 

 

 小さな爆発が起き、ギルド内に白い煙が充満し始める。

 

 

 「けほっ、けほっ!! 何、この煙!!」

 

 

 「ううっ…、目に染みる~~!!けほけほ!!」

 

 

 「けほっ!!けほっ!! だめだ~!!咽て気持ちが悪い~~…。」

 

 

 「なんだか視界が見えなく……」

 

 

 充満する煙に、みんなは咳き込む。窓近くにいたRDC、toko、ルーちゃん、さっちゃんが窓を全開にし、煙を外に吐き出す。そして、煙が消え、視界がクリアになった瞬間…みんなは悲鳴を上げ、ギルド内は驚愕の嵐に包まれた。

 

 

 

 

 「な、何これ~~!!」

 

 

 「そ、その声は、まさか、剣崎兵庫か?」

 

 

 「そう言う君も、もしかしてホームズ?」

 

 

 互いに顔を見合わせ、ほっぺをつねるが、痛いだけで、これが現実だと思い知るだけだった。

 

 

 「「「「「私たち…、老けちゃった~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 己の白髪で、皺だらけで、背も縮んで、ヨボヨボになった姿を鏡越しや確認で、知った。ギルド全員が老けてしまったのだ!!

 

 

 「ちょっと!!だから、言ったじゃん!! この玉手箱は、絵本の話通りかもって!!

  けほっけほっ!! はぁ~はぁ~…、咽ちゃった…。」

 

 

 ミナホが嘆きながら、くろちゃんに怒声を浴びせるが、老化した事で喉が狭まり、勢い余って咽る。

 

 

 「まさか…、本当だったとは、おもわ、なかった…、んだよ。……ごめんなさい。」

 

 

 申し訳ない顔で謝るくろちゃんに、ROSE全員の視線が集まる。その視線は、冷たいものだった。

 

 慌てて、この場を取り繕うと辺りを見渡していると、開けた玉手箱の中に隠された底がある事に気づき、そこを開けると、そこにはピンク色の容器に入ったスプレー缶とその説明書が入っていた。

 そのスプレー缶を取りだし、説明書を広げる。

 

 みんなもその隠されていた中身が気になり、近寄ってくろちゃんが説明書を読みあげていくのを、全神経を集中させて耳を傾ける。もしかしたら、この事態を解決できるものかもしれないと願いを込めて。

 

 

 「え~と…、読んでみるよ?

  ”この玉手箱が開けられたその時、辺りの人間を老化させる呪いをかけている。これを読んでいるという事は、まんまとあのクラちゃんJrに騙されてしまったということだろう。…”

  

  なんだって!! クラちゃんの子供タコが!! どういう事だよ~~!!

 

  ”クラちゃんJrは、親を人間たちに食材にされ、その首謀者が許せなくて、この海の王宮に住まうわっちの所へ復讐をしたいと転がり込んできた。その際に言っていたのだ。『僕は、まだお父さんから”ヘムタイのエロス”の極意を伝授されていなかったのに~~』…と。”」

 

 

 「受け取らんでいい!!」

 

 

 「海の魔物のクラ―ケンでも親の仇とかするんだな~!!」

 

 

 「感心するんではないの!! そもそも悪い事してたんだから、制裁を喰らうのは当たり前でしょ!!子供にまで悪事を教えてもらっては困るよ!!」

 

 

 「悪事ではない!! エロスはヘムタイ魂を通わせる素晴らしい物なのだよ!!ぶはっ!!」

 

 

 ホームズが鳩尾に飛び蹴りを喰らったのを見て、慌ててくろちゃんが話の続きをする。

 

 

 「”クラちゃんJrのいう事は理解したくはなかったが、言う事を聞かなければ王宮を破壊すると言われ、仕方なくわっちの先祖から代々続くこの玉手箱を渡すことにした。   わっちは争いは好まん。だが、何もしなければわっち達は滅亡する。

  すまないが、少しの間老人で我慢してくれ。

  なに、案ずるな。わっち達には玉手箱の効力は発動しないため、ここにそなたたちを助けるアイテムを入れておこう。これで、廊下の効力は消える。

  ただし慎重に扱うべし!!”」

 

 

 この玉手箱を託した人物の伝言が終わり、次にいよいよアイテムの説明書きがつづられていた。

 

 伝言を聞いて、涙を流すROSE一行。

 

 

 一時はどうなるかと焦ったが、心優しい人のお蔭で、悪夢から出られると見た事がない恩人に感謝する。

 

 そして再びくろちゃんが説明書きを読みだす。

 

 

 「”このスプレーは、玉手箱で老化してしまった対象に吹きかける事で、老化が解け、元通りになる、桃太郎の産まれ桃から取ったエキスからつくられた世界でたった一つの代物。一人、一回の噴射でよい。”

 

  …だって!!良かった~~!!もし治らないって事になったら、私、みんなからなぶられるところだったよ~~!!

 

  あれ?でも注意書きが…

 

 

  ”ただし、この桃エキスは若返る効力を持っていると同時に、媚薬の効果が絶大で、吹きかけられた対象は、その吹きかけられた相手に異様な惚れを向け、数時間はメロメロ状態となる。その間は相手の命令に何でも受け入れてしまう。

   そして、桃エキスで発育も格段に上がるため、肌のぴちぴち感や美貌まで向上する。

 

   …以上を踏まえた上で、ご使用ください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんが読み上げた注意書きを聞いたROSE一行の思考は二つに分裂した。

 

 『何としても、このスプレー缶ごと!!この世から消してしまわなければ…!』

 

 …という考えと、

 

 『このスプレーを使って、ヘムタイ活動を本格始動するぞ!!』

 

 …という考えに分かれる。

 

 

 

 もういうまででもないが、ヘムタイとHMTとのたった一つのスプレー缶を奪い合う攻防戦がギルド内で勃発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃん、ホームズ、マサユキ、剣崎兵庫は老化しているというのに、ヘムタイ魂をフルスロットルで全速力疾走し、スプレー缶を持つサガットを追いかけていた。

 

 老人が素早い走りを見せる中、その猛烈な走りをする足や手から離れていても聞こえるほどの『ボキッ、ゴギっ!!』という骨が砕けたりする音がする異様な光景が展開していた。もうその光景は、恐怖にしかならない。

 

 

 いつもの動きを無茶に再現しようとして、身体が悲鳴を上げる。しかし、ヘムタイ達の根性は根強く、既にHMT側は、ヘムタイ達からスプレー缶を守るため、同じように動かなくてはならず、その無理がたたって、ギルドハウスのあちこちで屍となっていた。

 

 

 残っているのは、サガットと暁彰のみ。

 

 

 サガットは、必死に足を動かし、ヘムタイ達から逃げ続ける。

 

 

 それを、息を荒げて休憩する暁彰は、この光景に苦笑を漏らし、こそっと今の心境を呟く。

 

 

 

 

 「……ハァ、ハァ…、年をとっても、ヘムタイか…。

  もう…、この世の終わりだな…。」

 

 

 

 折角の休息日がまたもやヘムタイの起こした騒動で消え、老化したことで、いつも以上に疲労と苦痛を味わう結果となったROSE一行…。

 

 

 

 

 

 

 この後、HMTが初めての全滅を遂げてしまい、スプレー缶がヘムタイ達の手に渡りそうになった時、舞台裏の終了で、メインストーリーへの帰還を告げに来たROSEのマネージャー(作者…って、うちか…。)が尋ねてきて、ギルドの荒れた状況をみて、何があったかを読み取り、疲れ切ったヘムタイ達を御縄にして、スプレー缶を確保した。

 

 

 

 「まったく…、これから本編に入るっていうのに~~!!

  でも、まぁ、これで本編に入っても困らない疲労を蓄積しただろうし、大丈夫でしょ!ほらほら、さっさと起きて、戻るよ~~!!」

 

 

 スプレー缶をみんなに吹きかける事で、目を覚まさせていき、老化を解いていくマネージャー。

 

 

 

 そして、ヘムタイ達は、縄で縛ったまま、引っ張って舞台へとみんなを連れて行くのだった。

 

 

 

 

 「よし!! いよいよみんなの大活躍が待っているからね!!

 

  みんなの力を合わせれば、勝てるっ!! 決して負けるなっ!!」

 

 

 「「「「「「「「「「「「「はいっ♥」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 「うん!! では、幕上げだ~~!!」

 

 

 

 

 マネージャーとの円陣を組んで、メインストーリーの幕へと走っていくROSE一行。

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんながマネージャーに向ける瞳には、身を焦がすような熱が込められていた…。

 

 そして舞台へと戻っていくみんなは、いつもよりも可愛らしかった。

 

 

 

 

 まるで、恋する乙女のように…。

 

 

 

 

 

 

 




ふぅ~~!!今回は、苦戦したかも。

でも、楽しかったかな。 みんなも老けたら大変な気持ちがこれを見て、分かったかな?

道行くご老人が困っていたら、助けてあげてね!!

きっといい事があるよ!!

ちなみに、舞台裏という事で、ROSEに焦点を当てましたが、悪役のカバルレはというと、魔物の着ぐるみを脱いで、「暑苦しいぜ!!」と、オドリーを捕まえて、マッサージさせていました!!

まだ、未練ダラダラじゃないかっ!!


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魔物の誤算!!

「もう出番か…。さて、糞共を殺しに行くか!!」

そして再び、魔物の着ぐるみをスタッフに手伝ってもらい、着こなすと、高笑いしながら舞台に上がるカバルレでした…。

舞台に出ても、出なくても、カバルレだ~…。


 昨日は番外編、今日は本編に戻って、ROSEを救いに行こう!!

 ぺたんっぺたんっ!! ←足音です…。





 悲しみ嘆くROSEが仲間同士で戦っているのを、高みの見物気分で上から見下ろしてほくそ笑む魔物のカバルレ。

 

 (自分の身体を犠牲にして、”人”を捨てた甲斐があっただけに効果は抜群だな…。)

 

 精神干渉魔法を発動し、ROSEの仲間割れ状態を見て、少しは理性を取り戻したカバルレは、自分が編み出した魔法の素晴らしさを実感していた。

 

 

 

 自分自身を生贄にするこの魔法を、まさかここで使う事になるとは思わなかったが、実験できてよかったと考える事にしよう。

 もう人には戻れないが、今までの実験してきた失敗作のデータをもとに、改善を繰り返し、成功したのだ。結果が出たのだから、それでいい。

 人では手に入れる事が出来なかった、魔物の邪悪な力を手に入れる事が出来た。そして何より、失敗作のような理性や記憶が消える事はない。思いのままに存分に自分の意で動ける。この力を持って、この帝国を俺の物にしてやる!!

 …そのためにも、予定を早める必要があるな…。

 

 どれどれ…、まずいと思うが、先に一人だけでも食っておこうか…。

 

 

 

 自分がこの帝国を…、もっと欲を言えば、世界を支配するため、その力を手にするため、ROSEのみんなを吟味し始める。

 魔物となったカバルレは、幻影としてみせていた魔物よりも、大きくなっていて、天井をぶち壊し、巨体を振るっていた。上腕も腹筋も引き締まった人の身体をしているが、下半身は、牛のような、ヤギのような蹄のある細い脚だ。一振りで建物を壊しそうな腕と違って、上半身をしっかりと支えながら瞬発力も備えている。そして、尻からは、蛇のような動きで先端が尖った細い尾がカバルレの背丈ほどの長さを持っていた。自由自在に動く尾はまるで、第三の腕のようだ。

 極めつけは、獰猛さを兼ね備えた顔だ。人だった時の見下し、驕った表情は見事に反映されているが、見た目は人よりも獣と言ってもいい顔つきになっていた。口は尖っており、開いた口の中には、一噛みでだけで人を殺せるような鋭い歯をチラつかせていて、大きな赤い瞳は、血を求めている…、と感じさせる血の色をした色だった。

 

 

 血を求めている…という表現は、見事に当たっていた。

 

 カバルレは、早速目に付けた、一番厄介そうな者から始末する事にする。食ってしまえば、ROSEの戦力を減らすどころか、その戦力を自分の力に変える事が出来る…。

 

 そう自分の策に満足し、最初の生贄…、暁彰に人を握りつぶせるほどの巨大な手を差し伸ばす。暁彰は、今、御神の攻撃魔法に相子弾を放ち、『術式解体』で交戦中だった。カバルレの手から逃げようともしない。そして、周りもカバルレの手が近づくのを完全無視して、闘い続けていた。

 

 

 まだ、カバルレの『ダークサイド・ブレインウォッシュ』が影響しているのだ。

 

 

 カバルレは自身の魔法に酔いしれながら、ほくそ笑む。そしてついに暁彰を手中に入れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思った瞬間!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として放たれた白いレーザー魔法で、伸ばしていた手首を撃たれ、手が落ちる…。

 

 

 『ダ、ダレダ!!!』

 

 

 反射的に腕を戻し、反対側の手を横一閃に振るい、長く尖った爪から『鎌鼬』を放つ。いくつもの『鎌鼬』がROSEのみんなの元へと向けられ、全員が斬られるところだった…。

 

 しかしそうはならなかった…。

 

 

 

 

 「くっ…!『術式解散』!!」

 

 

      ・・・・・・・

 まだ肉声が発達していない声が、叫ぶ魔法が、カバルレの『鎌鼬』を霧散させ、無効化した。

 

                 ・・

 魔法を無力化され、自分に逆らった者達が、前に躍り出て、自分と対峙する姿を見て、奥歯で歯軋りする。

 

 

 『……オマエタチガ!!』

 

 

 

 みんなを庇う形で対峙した二人の瞳は、真っ直ぐにカバルレを強く見つめ返す。

 

 

 「…悪いですけど、あなたの邪悪な魔法如きでは、私の心を支配することなど出来はしません。残念ですが、あなたの誤算は、私がここにいた事ですわね。」

 

 

 

 二人の内の一人がそう、カバルレに含みのある言葉と笑みを向けた。

 

 

 

 




おお!! ここでカバルレが勝利する訳ないでしょ!!

絶望にこそ、一つの希望が照らされれば、大きな光になる!!

あ…、この言葉、本編であのキャラに言ってもらおうと思ったのに…!


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魔物の激怒の咆哮!!

どんどん化け物になっていくカバルレだわ~~…。

そっちの方が似合いすぎるっておもうけどね。




 『”バ、バカナッ!!!   オレノマホウハダレニモアラガエナイノダ!!!”』

 

 

 赤い血の色の目を大きく見開き、怒声を投げる。それはもう、咆哮と言ってもいいレベルだ。ただの咆哮で、飛ばされないように硬化魔法で足を床に固定する。耐えきった後、真っ直ぐにカバルレを見て、堂々とした態度で見据える。その立ち振る舞いは、まるで人々の上に立つ統率者ともいえる。

 

 

 「この世界に”完璧”とか、”抗えない”とかそんな絶対的なものは存在しないわよ。魔法も同じよ。完璧だと自負し、裏を返せば、まったく完璧とは言えない魔法干渉しかできていないことだってあるんだから。」

 

 

 『”ナニヲっ!!”』

 

 

 「現に、あなたの魔法を物ともせずに私達がここに立ち、あなたと向き合って話しているではないですか?

  それこそ、あなたの闇魔法…、『ダークサイド・ブレインウォッシュ』でしたかしら? それが抜け穴だらけだったという他ないですね。

  あなたは自分を特別視しすぎていて、周りが見えていない…、見ようとしない事に敗因があったという事ですよ。」

 

 

 不敵な笑みを浮かべつづけながら、カバルレを静かな声色で罵倒する魔法師に、馬鹿にされて再び怒りで理性が吹き飛びそうになる。

 

 

 『”……イッタイナニモノダ!!オマエっ!!!”』

 

 

 「………やっと私を意識してくれたわね。もう何度も私の顔は拝んでいるはずなのに…。

 

  まぁ、いいわ。改めて…、リテラ・ピュアン。

  

  このイレギュラー帝国の正統な王の一族の末裔ですわ。」

 

 

 『”セイトウナ…、オウダト…!”』

 

 

 「ええ…、あなたにこの地下都市を奪われ、こき使われてきましたけどね!

  やっと、あなたに一泡吹かせてあげれましたわ!!」

 

 

 今までの鬱憤を吐き出すかのように、勝ち誇った顔を見せつけるリテラ。ずっと、くろちゃん達に助けられた後も、ROSEのみんなと行動を共にしていたが、ずっと地下都市で生活し続け、カバルレからの猛威から囚われた奴隷達と一緒に逃れるために息を潜めていたからか、存在感が薄く、カバルレに今まで気づかれる事はなかった。

 

 そしてリテラともう一人…、カバルレの精神干渉魔法に掛からなかったショウリンも震える小さな足で立ちながらも、強い眼差しでカバルレを見つめていた。

 

 

 『”ナゼダ、ナゼダ、ナゼダ!! ”』

 

 

 小汚い女と幼い子供に破られた最高傑作の魔法が通じず、腸が煮えぐり返る思いを感じるカバルレは、言葉にならなかった問いにぶつける。

 

 

 「『ダークサイド・ブレインウォッシュ』…。確かに精巧につくられた禍々しい魔法ですわね。人の心の闇を弄ぶ下賤な魔法をよく作り上げましたわ…!その執念だけは褒めてあげてもいいですわね。

  ですが、元々この帝国中に広まる”魔法”というものは、私の先祖の初代イレギュラー国王が民にも”魔法による幸せを”…と望み、広めたもの…。そして現代の魔法もその基となった起動式を派生して作っています。

  つまり、新しく作られた魔法でも、その魔法の基となる起動式を民に広めてきた王の一族である私には、魔法の本質を見抜く事が出来ます。

 

  更に、王の家系は代々、精神干渉魔法に最高級の遺伝が受け継がれており、様々な精神干渉魔法を使えるだけでなく、相手の精神干渉魔法を跳ね返す秘術も持っているのです!!

  あなたの魔法は、私には効かないっ!!

 

 

 

 

  …それと、この子にもね。 あなたの精神干渉魔法は、心の闇を増幅させ、その闇を利用し操る魔法…。心の闇がない子供には、まったく意味のない代物よ…!」

 

 

 リテラの熱くなってきた口調での説明に、耳を傾けていたショウリンは、うんうんと大きく頷く。

 

 ショウリンはROSEと出会った時に、父親を亡くしているが、その現場にはいなかったため、父親の最期を見て、トラウマになる事はなかった。そのため、心の闇と言えるほどの悲しみを持っていなくて、カバルレの魔法の影響下に置かれる事はなかったのだ。

 

 

 言いたい事は言い終わったと、リテラが徐に深呼吸を数回し始める。すると、リテラの身体から眩い光が放たれる。その光は、神々しく大部屋を照らし出す。

 

 

 

 『ヒーリング・シャイン』

 

 …自分自身を媒体とし、癒し効果をもたらす光を放出する事で、精神干渉を受けたものの意識を正常に戻す、精神干渉魔法。

  更に、悪の心に染まった精神に、ポジティブな記憶をフラッシュバックさせる事で、良心を取り戻させる白魔法でもある。

  この精神干渉魔法は、ピュアン一族に代々伝わる魔法で、高度な精神干渉魔法の使い手であると同時に、強い精神力を有する者でなければいけない。

  遥か昔は、この魔法を使う事で、魔法を悪事に利用した者達を”浄化”し、魔法が悪の脅威になる事を防いでいた。

 

 

 

 

 リテラの魔法を全身に浴び、争っていたROSEのみんなが徐々に我を取り戻していく。しかし、心の闇を永遠に流されていたためか、その精神干渉の動力は、自分達の相子を使っての魔法だったので、リテラによって解放されたみんなは、その場に崩れ倒れた。すぐに動くのは、難しいだろう。早く見積もっても、全員復活までには5分はかかる。 それまでは、ショウリンと何とか二人で保たなくちゃ…!と決心するリテラ。

 

 しかし、実質的には、リテラ一人で戦うのと変わりない。

 先ほどの攻撃も、リテラがレーザー攻撃をして、『鎌鼬』をショウリンが『術式解散』で事なきを得たが、ショウリンは、暁彰やミナホ、tokoたちの闘いを見て、参考にし、初めて発動した、まさに継ぎ接ぎ状態の魔法だった。次がうまくいくとは限らない。リテラは、それを踏まえてこの場を保つために、思考を巡らす。

 

 

 リテラがこの場の逆転を思考している中、リテラの魔法の効力で、取り込んだ相子が”浄化”され、手首を落とされた腕が霧散し、片腕だけとなった。先程から邪魔が入り、誤算が生じてしまった事で、激しい怒りに襲われたカバルレは、瘴気に塗れた相子を放出する。

 

 すると、リテラの魔法で落ちた腕がみるみると復活していくではないか。

 

 あっという間に復活してしまった腕を凝視するリテラとショウリン。この展開は読んでいなかったリテラは、直感でまずいと思った。

 

 

 カバルレは、大きく息を吸い込み始め、胸を膨らませる。

 

 

 「…!!ショウリン!!避けて!!」

 

 

 

 『”コノオレニ~~!! マチガイナドナイ!! シネ~~~~!!!”』

 

 

 

 

 カバルレが相子を溜め込み、発動した咆哮は、凄まじい威力で、二人を狙った。

 

 

 

 




リテラ…、久しぶり~~!!

ここで出てきた未来の女王!! 


でも、専門は精神干渉魔法だから、戦闘は護身術程度だし、魔物となったカバルレと戦うのは厳しいかも?
…ってそれよりも、リテラとショウリンが危ない!!

次回は、またもやあのキャラが出て…。うわ~~~ん!!(泣)

あっ、でもその前に、明日は、秋分の日なので!!
原作キャラを起用した短編を書きたいと思います!!実は、これは我らROSEで考え温めていたもので…。

ですので、お楽しみに!!
(もしかしたら、初めの方に投稿しているかも?)


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まさかの救い人

リテラ・ショウリンVSカバルレ…。

早くROSEのみんな、復活してくれ!!




 

 

 

 

 カバルレの凄まじい咆哮が、リテラとショウリンを襲う。

 

 

 二人は、慌てて左右に地面にダイブする勢いで、間一髪避けた。しかし、スレスレで咆哮を避けたため、咆哮による爆風を浴び、前のめりに転がって倒れる。

 

 

 「いった~~!! 膝擦り剥いちゃったじゃないですか~!!」

 

 

 「………ううううぅぅ~~~!!! ひっく…。」

 

 

 避けた結果、膝からジワリと血が出る怪我をしたリテラがカバルレに文句を言うのと対照的に、ショウリンは泣くのを必死に唇を噛んで、堪えている。どちらが大人なのかっと突っ込みを入れたいところだが、無事に難を乗り越えた事で、安堵する。

 後ろを振り返るまでは…。

 

 安堵して振り返ると、咆哮がもたらした爪痕が轟々と残っていた。

 

 コンクリートの床は抉られ、咆哮の通った道を作り上げていた。そしてその先には、大きく穴が開いた壁から外の風が舞い込んできて、地下都市が広がっていた。

 

 

 (…あれを受けていたら、跡形もなくなっていましたね…。)

 

 

 もしも咆哮を受けていた際の自分が頭を巡り、顔色が悪くなるリテラは、みんなが復活するまで持たす事が出来るかが心配になってきた。

 今更になって、身体が震えはじめる。震える身体を自分自身で抱きしめ抑え込もうとするリテラの目に、幼い子供のショウリンがカバルレに立ち向かっているのが映る。

 

 その背中がまだ震えていて、小さいけど、とても力強く真っ直ぐな背中だった…。

 

 

 「お、おまえなんかに僕は負けないぞ!!

  僕だって、ROSEの魔法師だ!! 僕にやさしくしてくれたみんなをいじめるおまえなんかに…、これ以上、きずつけるな!!

 

  ぼ…、僕が相手になってやる!!」

 

 

 足が震えながらも、仲間を守りたいという熱い思いを持ち、闘っているショウリンの姿を見て、諦めそうになっていた自分を諭された感覚を噛み締め、苦笑する。

 俯き、目を閉じ、しばらく黙考すると、目を開けたリテラの表情にはもう不安は一切感じられなかった。

 

 

 「私も相手になって差し上げます!! ここで貴方を放っておく訳にはいきませんからっ!!」

 

 

力強く踏み出して立ち上がったリテラは、腰に装着していた折り畳み式の弓を起動させ、大きく反った弓をカバルレに向け、弓を引く態勢になる。

 この弓は魔法アイテムで、弓を媒介として、魔法を放つ事が出来る。主に射撃用の攻撃魔法だが、このアイテムのメリットは、発動する起動式を弦とし、その弦を引いた強弱で魔法の干渉力を調整する事が出来る事だ。

 その弓を愛用するリテラの右手は既に起動式の弦を耳の裏まで引っ張った状態で、獲物を捕らえる瞳でカバルレと対峙していた。

 

 二人のめげない態度にカバルレが怒声を叫ぶ。

 

 すでに言葉が発せられないほど、理性を飛ばしていて、カバルレも二人を獲物としか見ていなかった。

 

 

 『”ヴォォォォォォ~~~~~~~~~!!!!!”』

 

 

 怒りの雄叫びを上げ、カバルレは腕を大きく振り上げ、『鎌鼬』を連続で攻撃する。それをリテラが放った『イレギュラー・アイ』で相対させて撃ち落とす。ショウリンも覚えたての『術式解散』を駆使して、リテラを援護した。

 しかし、次々と降り注がれる『鎌鼬』に、リテラが苦戦してきた。得意のレーザー魔法でカバルレの攻撃を相対させているが、一向にパワーもスピードも衰えない『鎌鼬』を撃ち落とすのに、リテラも同じパワーとスピードで対抗しないといけないため、予想以上の干渉力の強さでスタミナが尽きかけていた。

 

 そしてそれは必然か…。

 

 ついにリテラだけでは捌ききれなくなり、撃ち溢しが目立ち出した。

 リテラが撃ち溢すという事は、援護に回っているショウリンに負担がかかるという事。慣れない魔法に連続で対抗していたショウリンも、既に限界に近づいていた。

 

 リテラにもそれが分かり、挽回しようと力を込める。それでも足りずにとうとう二人で捌ききれず、二人に向かって撃ち溢した『鎌鼬』が迫ってきた。

 

 リテラはとっさに弓を弾いて、複数の焦点を結んで発動する障壁魔法陣を展開し、防御を取ったが、真正面に受け、しかもスタミナが少ない中での魔法行使だったため、『鎌鼬』の威力を抑えるだけで、粉々に障壁魔法陣は砕かれた。

 

 障壁魔法陣を貫いた『鎌鼬』は二人に向かい、リテラはショウリンの身体を突き飛ばす。

 

 

 「リテラさ~~~~~ん!!!」

 

 

 突き飛ばされたショウリンは、リテラが『鎌鼬』をその身に受け、後ろに飛ばされる姿を目の前にした。

 『鎌鼬』の衝撃で飛ばされ、地面に倒れ込んだリテラは、受けた所から血がうっすらと服を通して滲み出てきていた。

 

 

 リテラに突き飛ばされたことで、『鎌鼬』を受けなかったショウリンは、慌ててリテラに駆け寄ろうとした。

 

 

 「リ、リテラさん!! 大丈夫!!?………ぼくをかば」

 

 

 「!!! ショウリン君!!危ないっ!!逃げてっ!!」

 

 

 リテラは苦痛の表情の中、目を見開き、叫んだ。

 

 

 「えっ…?」

 

 

 ショウリンがリテラの視線の先を追って、後ろへと振り向くと、カバルレの尖った悪魔の尾がショウリンに真っ直ぐに向かってきて、貫かんとしていた。

 更に、カバルレの怨念が具現化したというしかない人型の亡霊が一斉にショウリンへと突進していた。

 

 

 目前にまで訪れた恐怖に足がすくみ、ショウリンは目を瞑った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グサッ……!!!

 

 

 

 ……………ぽたっ、…ぽたっ、…ぽたっ

 

 

 

 

 

 

 ショウリンは、自分に想像した痛みが来ない事が不思議に思い、瞑っていた目を恐る恐る目を開けた。

 

 

 すると、自分を覆っている影が床に映っていた。

 

 

 その影の正体を追って、視線を動かす。

 

 

 

 

 そこには、ショウリンが最も逢いたかった人が立っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マ…、マ…………?」

 

 

 

 




ショウリンを助けた人がママだったとは!!

しかし、気になるな~~!!誰がママだ!! …でも明日はハンカチ持参する必要がある…そんな予感がする


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息子との再会

ついにショウリンのママが登場!!

でも、タイトル通りの…ですので!! 皆さん!!ハンカチか、バスタオルをご準備してください!!

(バスタオルって、大きすぎるだろっ!!)


 

 

 

 

 「マ……、マ……?」

 

 

 目の前にした影の人物の顔を見て、そう口にしたショウリンは、ただ驚きを隠せずにいた。ショウリンが一番逢いたかった人が目の前にいる。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 …姿を消してからずっとまた逢える事を願って、強くなろうと決めた。

 

 

 ROSEに入って、少しずつでも成長している実感を得て、希望が見えてきた。そしてママが隠している秘密を知った時は、心から『カッコいい…!』と感動した。

 

 

 もっと強くなろうと決めた…!!

 

 

 ROSEのみんなから指導もしてもらって、『精霊の眼』をよりコントロールしやすくなり、身体能力も少し身に付けられた。それが自信にも、勇気にもつながった。

 だから、”カバルレ・サマダ大サーカス”へ突撃する際、みんなに頼み込んで連れてきてもらった。

 

 

 もしかしたら、ここにママがいるかもしれない…!!

 

 

 ママに逢える…!!?

 

 

 そう思うと、期待感と自分が成長した所を見てもらえると、逢える事が楽しみだった。でも、僕がママと見に来た時のサーカスではなかった。本当のサーカス団を見て、逆に不安になった。

 

 

 ママ…、大丈夫だよね…?

 

 

 酷い事をされていないか、心配になってきた。でも、状況はもっと悪くて、初めての魔法戦闘をこの目で見た。平気で僕たちを殺しにかかる敵の顔が怖かった。そしてその人達を倒すみんなの魔法を見て、頼もしさもあったけど、怖かった…。

 実際の魔法戦闘を目の当たりにして、物凄く怖かった…。何でついてきたんだろうって思った。怖くて逃げだしたくなった…。

 でもそんな僕をみんなが守ってくれた…。優しい声で話しかけてくれた…。僕に話しかけているみんなは笑っていたけど、辛そうだった…。

 それで僕は知った…。みんなの気持ちに。悲痛を感じながらも戦うみんなの心を。

 

 

 だから僕もみんなと戦って、ROSEの魔法師として、恥じないように戦おうと決めた。

 

 

自分にできる事でみんなを援護した。役に立てた実感が嬉しかった。でもすぐに自分が出しゃばった事で、みんなを酷い目に遭わせた。それに、自分自身を守る事も出来なくて、結局助けてもらった…。悔しかった。自分が浮かれていたんだって、気付いた。少し魔法が通じたからといって、一人前になったつもりでいたと思う。

 

 

 もう僕は、ママに逢う資格はないのかな?

 

 

 落ち込んだ。それでも僕がこうしてここに立ったのは、自分達の誇りや信念を貫くために、ボロボロでも立ち続けるROSEのみんなの背中をずっと見てきたからだ。

 あの怖い人がみんなの闘争心を折るために、酷い事ばかりをしてくる。僕も意味が分からない事があったけど、雰囲気で悪い事だと感じた。許せないと思った。

 そして、みんなは自分にまっすぐに突き進んで、立ち向かっていた。

 

 

 僕も…、みんなみたいになりたい…!!

 

 

 例え、力で劣っていても、それを逃げ道にしないで、怖がっていてもいい…。みんなみたいに真っ直ぐに生きていきたいと思った。

 そしてこの気持ちを持って、闘った。

 

 

 それで……     ずっと夢見ていた願いが届いた…。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 「マ……マ…だよね…?」

 

 

 まだ信じられず恐る恐る聞くショウリンの声は、震えていた。

 

 そっと小さくてまだ幼さがある手を差し伸ばす。

 

 ショウリンにママと呼ばれた女性は、震えながらも手を差し伸ばし、近づいてくるショウリンを見つめ返し、苦笑する。

 

 

 「!!……うぅぅぅ~~!! マ、ママ~~~~~~!!!」

 

 

 その笑みが返事だったようで、女性の笑みを見た瞬間、ショウリンは堪えていた涙を流し、一人でいた時に抱えていたたくさんの思いの丈を込めて、走り寄る。

 

 いや、走り寄ろうとした。

 

 

 女性に手を広げて走るショウリンを、『鎌鼬』を受けて飛ばされたリテラが身体に鞭を打って、起き上がり、抱きしめて止めたのだ。

 幸い、リテラが咄嗟に障壁魔法陣を発動し、威力を抑えた事で、傷は残らない程度の傷で済んだのだった。もし、威力を抑えていなかったら、間違いなく身体真っ二つになっていただろう。

 

 

 「離して~~!!リテラさん、離して~~!!ママのトコに行くっ!!」

 

 

 「今はダメっ!!…ダメなの!! …っごめんね!ごめん……ね…。」

 

 

 リテラも涙を流しながら、泣き声でショウリンに何度も謝る。まさかのショウリンのママの登場に動揺もしているが、この事態になった原因が私にもあると、自責の念を抱いた。

 そして、リテラの腕の中で、ママに抱きつこうと必死に抵抗し、泣き叫ぶショウリン。そんなショウリンの叫び声を聞いて、カバルレの精神干渉魔法に掛かり、リテラの解除魔法で回復待ちしていたROSEのみんなが次々と復活した。

 

 

 「あれ…?私達、何をしていたんだっけ?」

 

 

 「なんだか、誰かと戦っていたような気が…? う~ん、思い出せない。」

 

 

 「記憶が欠如…、いや、鍵がかかっているな。」

 

 

 「あ、ホントだ。この鍵に使われている相子は…、リテラの?」

 

 

 「え?どういう事?リテラ、私達に何を…した…、の?」

 

 

 意識がはっきりしないのを不思議がり、『精霊の眼』で自分達に何が起きていたのか確認し、リテラにみんなの視線が集中する。しかし、リテラは暴れるショウリンを抑え込んでいた。そしてリテラの腕の中で暴れるショウリンは、泣いていた…。

 必然的に、近くにいる女性の方へとみんなの視線が動き、この状況に驚愕する。

 

 みんなはただ驚いたが、一人だけ驚愕する意味が少し違った。

 

 

 彼女と話した事がある人は…。

 

 

 

 

 

 「……何で君がここにいるんだ…!?

  後は、任せてくれと言ったのに…!!」

 

 

 悲痛な叫び声で問いかけるのは、暁彰…。

 

 

 暁彰のその心からの叫びに、ゆっくりと振り向き、顔を見合わせた女性は微笑した。

 

 そしてその笑みだけでなく、瞳にも温かみのある優しさが宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「だって…、やっぱり息子が心配だし……、身を張ってでも………、護ってあげたいと思うのが………、ハァ~…、親というものでしょう…?

 

  …私がお腹を痛めて、産んだ……愛する息子なんだから………。」

 

 

 

 

 

 その心からの愛情を語る女性に、呆然と立ち尽くす暁彰の目から涙が零れ、女性の名前を呟くのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………ドレーナ。」

 

 

 

 




えええ~~~~~~!!!!!

まさかのドレーナがショウリンのママ!!

これは一体!!


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隠したかったこと…

ドレーナの潜入秘話が明かされます…。


 

 

 

 「え…、ドレーナがショウリンの…、ママ…?」

 

 

 「そ、そんな…。まさか…。」

 

 

 「ど、どういう事なの?暁彰…、私達にも分かるように説明して…。」

 

 

 あまりにも衝撃的な真実に唖然とし、この状況を一番理解しているであろう暁彰にみんなの視線が集中する…。

 

 注目を集めた暁彰は、唇を強く結んで考え込んだ後、深呼吸して、口を開く。

 

 

 「………間違いないよ、ドレーナは正真正銘、ショウリンの実の母親だ。」

 

 

 みんなの疑問を肯定し、暁彰が攻撃しようとしていたカバルレを『避雷針』で抑え込み、周囲に結界を張った。

 

 

 「これで邪魔は入らない…。早く今のうちに…!!」

 

 

 暁彰は、血相を変えた顔でみんなに声を掛け、急いでドレーナ達の元へ駆け寄る。

 

 みんなもいろいろ聞きたい事があったが、今は優先するべき事があると分かっていたから、言葉を飲み込み、暁彰の後ろをついていく。

 

 ドレーナに駆け寄る暁彰は、あの時の事を思い起こしていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 ホームズ達を先に行かせて、炎獣たち全てを消し去り、ドレーナと一対一になった暁彰は、本題に入る。

 

 

 

 「やってくれたわね…。まぁ、分かっていたのだけど。

 

  それで、あなたはカバルレを倒すための切り札を失くしてしまったわね。」

 

 

 

 「ああ…、わかっている。でもまだ勝機は消えていないさ。

  

  それに、本当に君がだれを愛していて、守ろうとしているのか…。…も分かっている…。

 

 

  だから、俺はここで君と対峙しているんだ。」

 

 

 

 意味深な言葉を口にし、ドレーナに手を差し伸べる暁彰は、既に先を見通した眼差しをしていた。

 

 その眼差しを向けられたドレーナもため息を吐いて、アップしていた髪を下ろし、苦笑する。

 

 

 「……やっぱりタツヤ族って可愛げがないんだから。こういう時は知らずに、関わらないでもらいたいって言うのが分からない?」

 

 

 「可愛げがないのは、同感だ。しかし、君が隠していたい事は、俺だけで留めておける事ではないからな。」

 

 

 「そうやって何もかも見透かした感じが嫌なのよ。…私もだけど。

  はぁ~…、分かりました。いいわよ」

 

 

 拗ねた顔を見せ、腕組みし、そっぽを向くドレーナに今度は暁彰がため息を軽く吐き出し、一方的に話し始めた。

 しかしその話し方は説得や確認というより、読み聞かせのようだった。内容も、それに見合ったものだった…。

 

 

 「ドレーナ…、君は”SAMA(Secret Action Magic Agent)秘密実行魔法捜査官”として魔法師失踪事件を追っていた。そして、そこでこのサーカス団に辿り着き、潜入し、最終調査をしていた。もちろんSAMAのルール通り、華族には絶対に秘密で…。

  だが、それが裏目に出てしまった。どういう事か、君がここに潜入し、パフォーマーになっている事を知った君の夫がここに乗り込んできた。

  君は焦っただろう…。とにかく夫を帰らせようとおそらく知り合いから昔の伝手で手伝ってほしいと頼まれて今だけパフォーマーをしていると言って、なんとかその場を切り抜けた。

  しかし、君の夫はその帰路の途中で、きっと見てはいけない物を見てしまったんだ。例えば、闇取引…。しかも魔法師の奴隷を受け渡している現場…。

  それを目撃し、君の夫は君が魔法師であることを知っているため、君が奴隷にされると危機感を感じ、急いで君を連れ帰ろうとした。だが、それは敵わずに、敵に見つかり、事もあろうに…、カバルレの実験体にされ、日常生活が可能か、観察までした…。」

 

 

 「ええ…、その通りよ。もう推測というより、事実だけどね。

  その時の私は、既に幹部にまで昇進し、あと少しで最高幹部になり、カバルレの懐まで侵入し、欲しい情報を全て手にする事が出来るはずだったわ…。

  でもあの時、買い出しに出た私を偶然見つけた夫に見つかり、泣きながら抱きしめてくれたわ…。久しぶりのあの人の温もりに心が揺らぎそうになったけど、任務は絶対…。

  彼には、あなたが言ったとおりに説明して、その場は去ったわ。でもそれがいけなかった…。私に会いに来た彼が、奴隷オークションで落札された奴隷の受け渡しを目撃して、私をここから救おうと侵入し、捕まったわ…。そして彼は…、カバルレの実験体にされたわ。

  彼を殺し、腐敗速度を遅め、人工的に作り上げた魔物にあの人の皮を被らせ、外に放ったのよ。『ばれずに日常生活を送る事は出来るか?』この実験が成功すれば、連れ去った魔法師達を同じようにして、自分の意のままの奴隷を増やそうと計画していたわ。」

 

 

 「どうして、君はそれを見過ごしたんだ…?」

 

 

 「……その時、私は隣国で出張曲芸していたのよ。もちろん、離れていても『精霊の眼』があれば、物理的距離を無視して、魔法は使えるわ。でもあの時は、魔法が誰かに吸収された感覚がした…。

  それで、あの人を…。慌てて私一人で帰った時は、既に日にちが経っていて、私がやっと首都に帰ってきた時は、最悪の瞬間だったわ…!!」

 

 

 「最悪…か…。」

 

 

 「ええ…! あの人があなた達ROSEに止めを刺した瞬間だったわ…!」

 

 

 その時の怒りを思い出したのか、ドレーナからとてつもない相子が吹き荒れた。

 

 

 




暁彰とドレーナの再戦がありそうな~!! 待って落ち着こうよ!!


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あの子をお願い

ドレーナがあの現場を見ていたなんてね~…。やばいかも、暁彰。

でも、謎が一つまた明かされる~。


 

 

 

 

 

 「……ああ、君のその感情は最もだな。俺も君と同じだから、その気持ちは理解できる。」

 

 

 「そうでしょうね、なら私があなた達ROSEに憤りを持っている事も理解しているでしょ?死んでいたにしろ、あなた達はあの人の身体に傷をつけたのだから…!」

 

 

 放出された相子の嵐が周りのものを消し去っていく。

 

 

 「もちろんだ、だがそれと同時に君がすぐに手を下さなかった事も知っている。」

 

 

 ドレーナの怒りを当然と受け止め、ドレーナに歩み寄っていく暁彰。

 

 

 「あの時、君はすぐにショウリンの無事を眼で把握した。そしてそれと同時にこの状況も理解した。だから、俺達の消滅を後にし、君の夫を殺した真犯人の元へと戻り、全てを知った。

  すぐに殺したいが、潜入中のため、表立って動く事が出来ない。そこで、君は賭けをする事にした。

 

  …いずれ乗り込んでくるであろうROSEにカバルレの威厳を壊してもらおうと。

 

  それが達成できたら、ショウリンに逢えるって。

 

  そして、もう一つ…。もしもの場合、ショウリンの面倒を見てくれる人がいないといけないから、俺達ROSEの力量と納得、安全性を試す事も考えた。

  だから、くろちゃん達を先に行かせるという俺の判断に乗ったんだ。」

 

 

 「その通りよ、暁彰…。でも少し違うかしら?今でもあなた達の事は許せないわ。でも、それと同時に感謝もしているわ。

  あの人は救えなかったけど、ショウリンは助けてくれたもの…。複雑な気分だけどね。

  でも、今はこれでよかったと思っているわ。

 

  私ね…? あなた達がこの本部棟に入って来る前からずっと視ていたの。そしてあなた達がどうやってトラップを乗り越えてきて、私の元へたどり着いてくるか。楽しみにしていたわ…。」

 

 

 「…それで結果は?」

 

 

 真剣にドレーナの話に耳を傾け、問いかけた暁彰。

 

 暁彰の視線を受け、ドレーナも真剣な表情で、暁彰と同じく一言で返事をした。

 

 

 「…あの子をお願い。」

 

 

 そう言うと、ドレーナは暁彰に頭を下げ、ショウリンをROSEに預けるつもりだと態度で示した。

 

 

 「…本当にいいのか? 君の唯一の感情を向ける最後の相手だぞ?」

 

 

 暁彰は、ドレーナが自分達、ROSEを認めてくれたことに安堵するが、同じタツヤ族出身という視点で言うと、切なく感じる。

 

 

 「いいのよ、これで。あの子には私の正体を知ってしまったのでしょ?

  SAMAでは、身内に自分の正体が知られた時は、姿を消す事になっているのよ。これでも私は悪に染まりすぎた者を徹底的に排除する冷酷非情の魔法師なんだから。

  あの子とこれからも一緒に暮らすなんてできないわ。」

 

 

 「…ショウリンはそんな事、気にしていないと思うが?」

 

 

 「ふふふ…。言わなくても分かっているでしょ?

  これ以上あの子が踏み込んでいい世界ではないわ。

  それに…、私にはまだしないといけない事がある…!!」

 

 

 そう告げるドレーナの瞳には身を焦がすような熱い炎の幻覚が見えた。

 

 

 




ドレーナがショウリンを手放す事を決心しました…。

苦渋の決断の裏にある物とは…。


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血で染めた手

ドレーナはよく耐えたな~…。愛する者が目の前で殺されたら、絶対に暴走するのに。


 

 

 

 

 

 「それは、復讐か?」

 

 

 「あたりまえじゃない!? この私から愛する人を奪ったんだから、消されるのは当然だわ。あの時、暴走せずに済んだのは、まだ愛しい息子のショウリンがいたから…。何とか理性を飛ばさずに、任務を遂行することに決めたのよ。

  だけど、心の内側には、殺意の炎を燃え上がらせたままにして…。」

 

 

 二人とも顔を見合わせたまま、苦笑する。

 

 暁彰は、苦笑しながらも瞳に映る復讐の炎が揺らめいているのを感じ、ドレーナの決意が固いことを知った。ドレーナをショウリンと再会させたかったが、それを放棄したドレーナに何を言っても考えを変えないと理解した。

 

 

 「…はぁ~、わかった。ドレーナの願いは受け取った。

  ショウリンは俺たちROSEが責任もって預かっておく。

  ただし、これだけは言っておく。

  この戦いが終わるまで絶対に復讐が終わっても、去るな!最後まで見届けてから行け…!あれからショウリンは君に逢うために魔法師として頑張ってきた。まだ危うさはあるが、成長したところを見ていってくれ…。

  それと…、あくまでショウリンは預かりだ。いずれSAMAを引退し、”日常”に戻るのなら、俺たちの元へ帰ってこい…!!絶対だぞ!!」

 

 

 暁彰のこの言葉は、仲間になろうという誘い言葉だった。

 

 

 「……ふふふふふふふ!!!」

 

 

 暁彰の言葉の意味に気づいたドレーナは、面白くておかしくて、緊張の糸が外れ、笑い出した。相当ツボったのか、お腹を押さえ、大笑いしそうになるのを堪えて咳き込んだ。

 

 

 「はぁ~!久しぶりに笑ったわ。もう…、敵にそんな情けをかけてどうするのよ?

  おかしな人だわ、暁彰。」

 

 

 「確かに今は、敵だな。だが、次に君が俺達の前に現れた時には、すっきりした顔で現れるさ。…仲間として、な。

 

  ………違うか?」

 

 

 「…そうね~、考えとくわ。その日まで私の中の憎悪が消えたなら。」

 

 

 微笑を浮かべたまま、ドレーナは胸の谷間に手を差しこみ、ある物を取りだす。手に握ったそれは、暁彰に向かって軽く投げられた。

 

 暁彰は、難なく投げられたものを右手で掴み取り、手の中の物に視線を向けた。

 

 

 そこには、金色の鍵があった。

 

 

 鍵先には、特殊な起動式が組み込まれているのを確認し、何かの解除術式の一つだと理解した。

 

 

 「それがあなたの欲しがっていた運命の鍵よ。 …まったくあなたの言うとおりになったわ。私から鍵を渡すって言っていたでしょ?」

 

 

 「ああ。まさかすんなり渡してくれるとは思わなかったけどな。」

 

 

 「あら?私と相まみえるつもりだったの?」

 

 

 「君が俺達ROSEに恨みがあるなら、共倒れをさせた方が都合がいいからな。ここで、俺を負傷させるなり、カバルレとの戦闘に支障をきたすくらいにするとは思っていた。それか、怨み晴らしに対戦するかとも思っていた。」

 

 

 「それもいい選択ね。でも、あなた達は殺さないわ。だって、あの子があんなにもあなた達に懐いているんだもの。」

 

 

 満面の笑みでショウリンへの愛情を感じさせるとともに、ROSEへの信頼も見せた所で、暁彰がドレーナの横を通り過ぎ、みんなの元へと歩き出す。

 ドレーナは立ち尽くして、そのまま暁彰を見送る。

 

 

 「鍵、ありがとうな。…無事でいろよ。」

 

 

 「いいえ、どういたしまして。…あなた達もね。それと、残り滓は置いといて。」

 

 

 こうして、互いに健闘を祈る言葉を告げ、暁彰は先に行ったみんなが待つ螺旋階段まで走っていった。

 

 

 

 

 

 暁彰の気配が消えたのを確認し、ドレーナは振り返り、ため息を吐き出す。

 

 そして軽く準備運動をすると、目的の場所に向かうため、壁を『雲散霧消』で穴を開け、先を歩いていく。

 

 

 復讐する相手を殺すために…。

 

 

 

 

 

 

 そして復讐する相手がいる部屋に来ると、ちょうど格好の餌食というしかない状況に置かれているターゲットがいた。

 

 しかも、完全に油断している。

 

 すぐさまドレーナはターゲットの心臓に至近距離で両手に纏った分解魔法で胸に風穴を開けて差し入れ、温かく脈打つ心臓を勢いよく引き抜いた。

 

 存在こと消し去ってもよかったが、愛する人が生きたまま殺されたため、同じように味わらせて殺したかったのだ。

 

 

 

 

 

 最高幹部、ウォンとターン双子を…。

 

 

 

 

 

 こうして心臓を引き抜かれた双子を見下ろし、息絶えた事を確認すると来た道を引き返し、ゆっくりと歩く。

 

 歩いてきた床には、双子の血が点々と続いており、ドレーナの手は双子の血で染まっていた…。

 

 

 

 

 

 双子は、カバルレの出した計画に真っ先に賛成し、ドレーナの夫に数々の毒薬を投与し、魔物を取り込ませた実行犯だったのだ。

 意気揚々と楽しみながら投与し続け、ドレーナの夫が死んだと知ると、大笑いして、実験の時の事を下衆な笑いで、なんとドレーナに聞かせたのだ。

 

 絶対に殺してやる…。

 

 ドレーナはずっと決意した殺意を抱えていたのだった。

 その念願が叶い、残りはカバルレのみ。

 

 

 

 

 ドレーナは殺意を身に纏い、最上階に近づくにつれ、ゆっくりだった歩みが徐々に早くなっていった。

 

 

 

 

 




はい、双子を殺した犯人は、なんとドレーナでした。

まぁ、双子には天罰が下ったんだよ!! 


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優しく包まれた幸せの中にいた

前回は、ドレーナがあのショッキングな双子殺害を暴露しましたが、ここからもショッキングな展開になりますね。


 

 

 

 

 

 

 なんとなく胸騒ぎがし出して、気付けば走っていたドレーナ。

 

 潜入捜査をしてからずっとカバルレの事は感情が乏しい自分でも一定の怒りを覚えるほどになるまで詳細に調べてきた。調べてきた中でなら、今頃、カバルレはROSEの闘争心や彼らの大事にしている仲間を壊すために小細工を披露しているだろう。

 しかし、かなり調べてきてもまだカバルレには何かがあるように感じる。隅々まで情報を得るには、『精霊の眼』は役に立つが、残念ながら、カバルレには使えない。そのため、別の方法で情報を集める必要があり、一般人の情報収集力より少し上という結果になった。

 

 どうして、カバルレに『精霊の眼』が使えないのかというと、入団する時の身体検査の際に、魔法力を調べ上げられ、カバルレ一座に入った証の紋章タトゥーが刻まれる。その紋章は、半分はピエロの顔で、もう半分は骸骨の顔をしたカバルレ一座を示すものだ。ドレーナには背中に刻まれていた。

 ただの紋章だと初めに考えたのが過ちだった。この紋章の線は、目に見えないくらいに小さくした起動式で刻まれたもので、カバルレに謀反を働けば、身体中に耐えられないほどの痛みを刺激させ、毒のように身体を蝕ませる。もっともまずいのは、カバルレに対し、魔法が使えない事だ。カバルレに対し魔法を使おうとすれば、呪いのように自分に跳ね返され、精神を崩壊させる。既にこの餌食になった下僕や奴隷達を見てきている。これが、ドレーナが『精霊の眼』が使えない一番の理由だったのだ。

 

 痛みは元々『再成』の度に受けてきたため、慣れている。だから寧ろ『再成』の痛みと比べれば、まだいい方だと思える。しかし下手に動いて、カバルレに気づかれるのは、厄介だと遠回りの情報収集に動いていた。

 

 

 

 

 …だが、この時すこしでも『精霊の眼』でカバルレの構造を視ていれば、少なくとも(愛するショウリンの目の前でこんな残酷な再会を果たす事はなかったのに…。)と考える必要はなかった。

 

 

 驚いて、私の名を叫ぶ我が子の泣き叫ぶ声も聞く事はなかった。

 

 

 SAMAの仕事は、正確に仕事をする私がこのような結果を生むなんて…。SAMA魔法師失格ね…。

 

 

 苦笑を浮かべるドレーナの頭には、ある日の出来事が蘇る。

 

 

 それは、愛する夫とショウリンと三人一緒にサーカスを見に来た時の事だった。素晴らしいパフォーマンスにショウリンが飛び跳ねて喜び、目を見開いて、「あんな人を笑顔にする魔法師になりたいなぁ~」と言ったのを、夫と顔を見合わせ、微笑み合った。

 サーカスが終わると、三人で手を繋いで、日が傾き、沈んでいく夕日を浴びながら家に帰った想い出を思い起こした。

 

 

 (…ああ、そうだったのね。

 

  心の中でやっぱり愛する二人との想い出ができたこのサーカスだったから、どこかで甘さを出していたのね。)

 

 

 

 苦笑から微笑に変わり、泣き叫びながらリテラの腕の中で暴れるショウリンに大丈夫と微笑みかける。

 

 

 (私はあなたを守れてよかったわ。私に生きる意味をくれたあなた達に感謝しているのよ?

  優しく包まれた幸せの中にいた私は、本当に幸せだった…。

 

 

  だから、泣かなくていいのよ…。)

 

 

 微笑む瞳から涙が零れ落ちる。

 

 

 涙で視界がぼやけながら、ショウリンを見つめていると、暁彰たちが駆け寄ってきた。暁彰は息を切らして、血相が悪い。

 

 

 

 「………!! 君はなんて無茶をっ!! 」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、暁彰が見つめるドレーナは、背中からカバルレの尖った長い尾を身体に貫通させて、大量の血を流し、吐血し、死神の迎えを待っていた…。

 

 

 

 




なんだか身体が貫通するシーンが多いな…。でもさ、身体真っ二つはしたくないし、まだ息があるうちに話させたいじゃん!!

…取り乱しました。ドレーナの状況に動揺しました。


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託された愛

大丈夫だよ…。ドレーナもタツヤ族だから、『再成』使えるし…!


 

 

 

 

 ドレーナの身体を貫通したままのカバルレの尾が蠢く。サガットがその尾を斬り落とし、慎重にドレーナから抜き取る。抜き取った尾の先端はミナホが分解し、塵にした。身体に大きな風穴を開けた状態で前のめりになるドレーナの身体を暁彰が肩を貸し、支える。どんどん溢れてくる生温かい血の感触が背中に回す腕に伝わる。

 これは、一刻も早く『再成』をしないとまずいとドレーナに魔法を使う事を促す。

 

 

しかし、ドレーナは首を横に振り、『再成』を拒んだ。

 

 

 「何をやっているんだ! これならまだ『再成』が間に合う。ショウリンをこれ以上悲しませるのか!?」

 

 

 「…………ショウリンには本当に…、申し訳ないとは、思っているのだけど、もう私に『再成』を使うことはできないわ…。」

 

 

 「どうしてだ!? そんなはずはないだろ!? …ったく、俺がやる!!」

 

 

 頑なに『再成』しようとしないドレーナに声を荒げて、代わりに暁彰が『再成』を発動させようとする。『精霊の眼』でドレーナの復元ポイントを探り出す。一瞬にして、読み込む暁彰の表情が一変し、驚愕するのだった。この時、ドレーナが『再生』を断った理由がわかったからだ。

 

 ドレーナはすでに取り返しのつかない身体になっていたのだ。

 

 刻まれた紋章から体内に毒素が回り、全身に広がった毒が相子を汚染し、体を蝕んでいた。24時間以内なら過去を遡って復元することは可能だが、それ以上の時間が経過している上に、蓄積された毒で、『再成』してもしなくても余命は後わずかだという事がわかった。

 

 

 「……これが理由だったのか?君がショウリンを俺たちに預けようとしたのは…。」

 

 

 暁彰のこの言葉で、タツヤ族であるミナホとtokoが『精霊の眼』で事態を把握し、絶句した。驚きを見せたミナホだったが、事態の状況を把握すると、リテラの腕の中で涙目でドレーナを見続けていたショウリンの元へ行き、ショウリンの腕を取って繋いで、ドレーナの元へ連れてきた。

 すでにドレーナに突き刺さっていたカバルレの尾はない。ショウリンに危険はない。せめて、親子の時間を過ごしてもらおうと胸を痛め、必死に涙を見せないように歯を食いしばってドレーナにショウリンを抱きしめさせた。

 

 

 ドレーナはもう虫の息状態だった…。

 

 

 カバルレから愛するショウリンを守るために、最後の力を振り絞って、カバルレが作り出した怨霊達を最大威力の加熱系統魔法『火炎地獄』で消滅させ、身を挺した。もうドレーナには、余力は残されていなかった。

 

 

 「ママ…!! やだよ~~!! せっかく会えたのに、僕を置いていくの~!?」

 

 

 「…可愛いショウリン、ごめんね…。これから先、あなたが成長する姿を近くで見れないのは…、残念だけど、でも、あなたが今まで一生懸命に頑張って、ここまで戦ったことは、ずっと見てたわ…。

  立派になったわね、偉いわ~…。」

 

 

 「でもぉ…!!ぼくは何もできなかったぁ!!」

 

 

 ショウリンの頭を優しく撫でていたドレーナは、不意にショウリンの頬をつねりだす。

 

 

 「ふぁ、ふぁにふんほ!!ふぁふぁ!!(何するの!!ママ!!)」

 

 

 「私は、そんな意気地なしの…、ショウリンは嫌いですよ?何もできなかった?あなたはその眼で、みんなを、守ったんじゃないの?何もできなかったら、あなたをROSEが、こんな場所に、連れてくると思う?

 

  もっと、自信を持ちなさい…。自分の力に臆さずに向き合って、物にしなさい…。

 

  あなたなら、それができるわ。…だって、ママの子だもの…。」

 

 

 ドレーナの最期の助言に泣いてばかりいたショウリンは、その言葉に自然と泣き止み、袖で涙を拭い、ぎこちない笑顔でドレーナを見つめ返した。

 

 

 「うん…!! 約束する!! ぼくは負けないよ!!」

 

 

 「うん…、ママもずっとショウリンを見ているからね…。

  しっかり栄養のあるものを食べてね?早寝早起きもする事。それから…」

 

 

 虫の息だというのに、これが最後になると思うと、どうしても不安でこれからショウリンが生きていけるか、心配になり、母親らしい気遣いを見せ始める。それを、強く頷きながら、涙を堪えて行儀よく聞くショウリン達の姿を、号泣したい気持ちを抑え込み、二人を見守るROSE達。

 

 そしてついに、ショウリンに伝える事は全て言った後、再びショウリンを強く抱きしめる。そのまま、ROSE達に目配せし、ショウリンを頼むと伝える。ショウリンへの愛を託されたROSE達は、一斉に頷き返し、ドレーナの最期の願いを受け取った。

 

 ドレーナはそれを確認すると、満面の笑みを浮かべ、最後に一言を述べる。

 

 

 

 

 「………私は”愛する”事ができて幸せだったわ……。」

 

 

 

 

 

 

 溢れる涙を流し、涙声で告げた言葉を残し、ドレーナはショウリンを抱きしめていた手の力が抜け、支えられる力もなくなり、床に崩れ倒れ、最期を迎えたのだった…。

 

 

 

 

 

 そのドレーナの最期の顔には、幸せそうに笑う純粋なものだった…。

 

 

 




うわ~~~!!!
ドレーナ~~~!!

何てことだ…。ドレーナが…!! カバルレ~~!!


*今日でチャレモ終了!!見事全勝し、報酬もゲットだぜ!!


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奥の手を見せる魔物の姿

ドレーナが死んでしまうという涙流れるシーンの後で、本当に…。

KYな男は好かれないぜ!!おっと、もう人間じゃないから、男とは言えないか。


 

 

 横たわって、動かなくなったドレーナにROSE全員は今まで溜めていた悲しみを堪えられなくなり、号泣し出す。ドレーナと戦い、危ない目にもあったくろちゃん達もそんな事がもう遠い過去のように、ドレーナのために涙を流した。

 ドレーナが一人で抱えていた事情を、タイミングが悪いというか、こんな感動的な親子の再会とは真逆な展開ですべてを知る事になり、改めてドレーナとの戦いを思い出す。

 すると、ドレーナと最初に闘っていたくろちゃん達は自分達がドレーナと直接戦ったわけじゃない事に今更ながら気が付いた。戦闘員の”ガンマ・オクタゴン”での攻撃や炎獣たちの連携攻撃に苦戦し、負傷したが、ドレーナとは一回も剣を交えたり、魔法をぶつけあったりはしていなかった。

 それは、ドレーナが自分達を殺すつもりもなかった。ただ単に大事な愛する息子であるショウリンを託すのにふさわしい人間なのか…。それを見極める試練だった…。それを知って、寧ろ今は、ドレーナを仲間のように想い、涙を流していた。

 

 タツヤ族は、理性を忘れるほどの感情をただ一つを除いては感情を持たない。その唯一大事に思える感情は人それぞれ…。

 

 暁彰、ミナホ、tokoは”友情”…、仲間を大事に思う、愛する感情を。そして、ドレーナは”家族愛”、家族を愛し、守る感情を持っていた。唯一愛せる人のため、身を挺して守ったドレーナ。任務のために復讐を抑えていたドレーナは、最後にROSEを信じ、後の事を任せ、復讐に捕らわれたままで死ぬ道より、最後に残されたショウリンを”愛する”道を選んで、死んだ…。

 

 

 そんな母親らしい最期に誰が涙を流さずにいられようか…!

 

 

 ショウリンはもう動かないドレーナの遺体をずっと見つめ、嗚咽を漏らしながら、大声で泣き叫んだ。やはり、目の前で自分を守って死んだ母親の姿は子供であるショウリンには少し辛い思いだろう。

 

 …その感情を持っている、感情が一定でも悲しまずにいられないというのに、あの魔物は、大声で蔑む笑いを漏らすのだった。

 

 

 『”カカカカカ…、カ~~~~~っバッバッバッバッバ!!!

  コレハ、コッケイダ!! ジツニワラエルミセモノダッタ…!!

 

  ソシテ、レイヲイオウデハナイカ!! ……モラウゾ、オマエヲ!!”』

 

 

 魔物カバルレは己の動きを封じていた魔法を振り払い、尾を再生させた。そして、復活した尾をまたショウリンへと向ける。

 

 

 「!!ショウリン!!」

 

 

 「退避っ!!」

 

 

 ミナホがショウリンを抱きかかえ、後ろに勢いよく飛び、くろちゃんの掛け声で一斉に散る。カバルレの狙いがショウリンだと思っていたみんなはショウリンの周りを囲み、警戒態勢を取る。

 しかし、魔物カバルレが狙ったのは、ショウリンではなかった。

 

 

 …ドレーナの遺体だった…!!

 

 

 「え!!ドレーナを!!」

 

 

 「くそっ!! 返せ!!」

 

 

 ドレーナの遺体に尾を巻きつけて、自分の元へと引き寄せるカバルレ。剣崎兵庫とホームズが取り返そうと飛び出す。しかし…

 

 

 「「ふぎゃぁ!!」」

 

 

 カバルレの干渉力で波打っていた床が耐久力が低くなり、脆くなっていたため、走り出した二人の足元の床が崩れ、見事に足をつっかえた二人は前のめりに思いきり転げ倒れた。

 

 その隙に、ドレーナの遺体を手に入れた魔物カバルレは、狂気に満ちた笑いをしながら、ドレーナの遺体を身体に取り込んだ。

 

 その瞬間、魔物カバルレの身体が脈動し始める。

 

 

 『”カ~~~~バッバッバッバ!!!

  パワーガアフレテクルゾ!! サイコウダ!! モット…モットダ!!”』

 

 

 赤い眼が光り、身体から瘴気で作り上げた無数の手を一斉にどこかへと向かいだす。ROSEのみんなを無視して、床や壁を擦り抜けていく無数の手が何をしているのかわからず、動揺する。

 

 

 「何をしているんだ!?」

 

 

 「…なんだか嫌な予感しかしないよ!!」

 

 

 「それ、結構当たるよね。」

 

 

 「……もしかしたら、エネルギー…、いや、相子を求めてる?」

 

 

 ホームズが難しい顔で独り言を述べたその時、先程からどこかへと向かって行った瘴気の手が戻ってきた。その手の中には、明らかに人間が握られていた。

 

 

 「た、助けて~~!!」

 

 

 「止めろ~~~~~~!!」

 

 

 その人間たちは、戦闘員たちで、悲鳴を上げて助けを求めていた。悲鳴を上げていない人間は、既に死んでいる者達。つまり死体だ。それから毒薬等の実験体たちも捕まっていた。

 

 ROSEのみんなは、いくら敵でもやり過ぎると解放しようと前衛隊が突撃する。しかし、無数の瘴気の手が邪魔をさせまいと進路を塞ぎ、襲い掛かってくるため、容易に近づけない。そのうちにと、魔物カバルレは、瘴気の手で捕まえた人間たちを次々に自分の体内へと取り込み始めた。

 その度に、魔物カバルレの巨大な身体が更に大きくなり、魔力も相子も高まっていき、ついには、最上階の床が重さに耐えられずに崩れ落ち、本部棟は完全に破壊され、崩壊した。崩壊する本部棟から瓦礫を飛び交いながら、緊急避難する。

 

 

 そして、崩壊が終わったあと、目の前の巨大な影に覆われた。

 

 

 崩れた本部棟になんと地下都市の天井近くまで巨大化した魔物カバルレがそこにはいた。

 

 

 

 

 取り込んだ人間たちの相子や魔力を取り込み、力を得たのだった…!!

 

 

 

 

 

 

 『”カ~~~~~バッバッバッバ!!!

 

  ドウダ…!! コノオレサマガモットモツヨイ、セカイノハシャダ!!

  オレニハムカッタコトヲコウカイサセテヤル…!!

  イマノオレハ、ヒャクニンリキ……、イヤモットダ!!センニンリキダ!!”』

 

 

 

 傲慢な態度と地下都市に響き渡る蔑んだ大笑いをする魔物カバルレはとうとう全滅のために奥の手を持ち出したのだ。

 

 

 ROSEは冷や汗を掻きながら、魔物カバルレをただ見つめる。

 

 

 




ドレーナの死を嘲笑うだけでなく、そのドレーナを己の力にするために取り込むとは…!!



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私達は逃げない!!

更にデカくなる魔物カバルレ。


 

 

 

 

 

 

 

 本部棟を崩壊させ、更に巨大化した魔物カバルレ。その姿を見て、ROSEだけでなく、カバルレの部下や戦闘員たちを捕獲するために救援に来ていたレストレード警魔隊長が率いる警魔隊、リテラと共に地下都市で戦ってきていた革命軍も突然現れた怪物に絶句し、腰を抜かした。

 

 

 「ホホホホホ!!ホー―――――ムズ様!! ここここここれは一体!!?捕えた戦闘員どもを回収していたら、突然黒い触手っぽい手が現れ、捕えた戦闘員どもを全員連れて行かれたと持ったら、この有様…!!

  何があ………、 あああああ~~~~~~~!!!…ポッ♥」

 

 

 「…………何、呑気に見送ったかな? お前がちゃんと仕事全うしいなかったせいで、ややこしい事になったじゃないか!? どう責任取るんだ!? 

  ………ほほ~~?自ら罰を欲するとは、よほどドMだな、レスちゃん?…………グリグリ繰り」

 

 

 「きゃあん!! 申し訳ありません!!ホームズ様!!全て私の監督ミスです!!どうかこの私めにどうぞお仕置きを!! ………あああ~~~~~ん!!!」

 

 

 ROSEの元へと合流した警魔隊が情報交換で、離した内容にホームズが下僕のれるトレードに八つ当たりをし出す。レストレードの尻を蹴り上げ、俯せで倒れた所に、すかさず尻を足裏でぐりぐりと甚振る。レストレードはこんな時にホームズに付き合わなくても…いや、ドM気質を発動しなくてもいいのに、喜んで尻を突き上げ振り振りする。全く男同士で何をやっている事やら…。

 

 ROSEのみんなは呆れて物も言えないが、ヘムタイとBL部類が好きな一部の警魔隊員からは萌えられて凝視されていた。

 

 

 「それにしても、参ったわ~~!!」

 

 

 くろちゃんがそう呟きながら、額に手を翳して、遥か頭上の上にある魔物カバルレの顔を眺める。すると、顔をずっと上に向けていたため、首を攣ってしまい、悲鳴を上げた。

 他のROSEもくろちゃんのつぶやきに同意した。奥の手を出した事もあって、さすがに容易には倒れてくれなさそう。

 

 

 「倒れないというか、思ったよりやばすかも…。ああ~~………ほんとにやばす~~!!」

 

 

 ミナホがカバルレを視て、げっそりしながら言う。それと同時に隠しきれていない怒りが感じられた。

 

 

 それもそのはず…。

 

 カバルレは、千人の人間や魔法師だけでなく、死体まで取り込み、己の魔力としてここまで力をつけたのだ。ROSEに敗れて瀕死だった戦闘員も吸収した。更に吸収された死体の中には、ドレーナだけでなく、ウォン・ターン双子や警魔隊がここ最近総力を挙げて捜査していた死体盗難事件…、その被害者たちもいたのだった!!

 

 …つまり、盗まれたショウリンのお父さんも。

 

 この事件の首謀者はカバルレだった。

 

 実験体として放った人間の皮を被った魔物がうまく融合できなかったり、半ばで死んだりした場合、部下を使って回収していた。理由としては、死体を解剖されれば、どうして死んだのかもしかしたら改名されるかもしれないし、毒を飲ませていたため、事件の捜索が厳しくなれば、商売が滞ると思ったから。そして最大の理由は、今の情きゅみたいになった時に、魔力を吸収する道具として管理していれば、有効に使えると思ったからだ。

 その有効活用のために、取り込んだ魔力を自分の体内に滞納できるようにしようと、魔物になる魔法を発動する際に、注射で役人を自分自身に投与した事で、身を狂わすような魔力にも対応できるように準備していた。

 

 そんな意図を隠す気もなく、寧ろ見せびらかしている魔物カバルレにミナホは怒っていた。そして、同じく『精霊の眼』で自分の両親がカバルレに取り込まれているのを視たショウリンは、泣くのをやめて、仇を取るために、立ち上がった…。

 

 

 ショウリンが小さなてをギュッと握りしめ、誓っている姿を視て、ROSEのみんなは微笑を浮かべ、闘う意思を改めて持つ。

 

 

 「そ、そんな!! だめですよ!!ROSEの皆さん!!

 

  あんな化け物に誰も敵う訳がない!! ここは一旦全員を逃がして、この地下都市に閉じ込めましょう!!」

 

 

 カバルレの姿や嫌でも感じる濃密な魔力と威圧に恐怖するレストレードが戦う意思を持つ事を止めないROSEに逃げようと言い出す。

 

 

 しかし、ROSEのみんなは、CADを握りしめたまま、真っ直ぐに魔物を見据えて、その場から一歩も逃げ出さなかった。

 

 

 「…あなた達は離れておいてください!!ここは私達に任せて!!」

 

 

 「ここまで来て、逃げるなんてありえないにゃ…!! カバルレを倒すためにどれだけの血と涙が流れた事か…。」

 

 

 「早くさっさと去りな!! それにレスちゃんには、やらないといけない事はあるだろ!? 革命軍の連中や誘拐されていた奴隷達を安全な場所へ避難させるんだ!!」

 

 

 くろちゃん、ちゃにゃん、ホームズが揺るがない気持ちを見せ、レストレードの案を断る。しかし、レストレードはこれで自分が何者かを思い出した。

 

 国民の安全と平和を守るためにいる警魔隊…、その隊長である私が守らないといけない人がここにいる。隊長の私が弱音を吐いてしまってどうする…!と自分を叱咤し、くろちゃん達の願いを聞き入れ、部下を連れ、避難誘導にあたるために地下都市を奔走しに行った。

 

 

 

 

 

 「よし、これでレストレード達が無事に避難させてくれたら、気を配らずに戦えるね!!」

 

 

 ニヤッと笑うROSEは、お互いの顔を見合わせ、同じ思いを持っている事を確認し、一斉にカバルレに攻撃魔法を発動した。

 

 

 

 

 

 『”サァ!!カカッテコイヨ!! グズドモ!!”』

 

 

 

 狂気な笑みでROSEの攻撃を受けるカバルレだった。

 

 

 

 

 




まさかのレストレードとほーちゃんとの調教プレイが出てくるとは…。

隊長なのに、部下の目の前で何やっているんだろ?
でも、部下達は隊長がこういう人だと分かっているから、温かい目で見守っています。いい部下に恵まれたね…。(遠い目)


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魔物カバルレとの決戦(First)

さぁ、みんなの本領発揮だ!!


 

 

 

 

 魔法試合でも大活躍のサガット、御神、ホムラ、暁彰、ホームズ達が加速系統魔法『アクセル』で高速移動しながら、カバルレに突撃していく。

 

 俊敏な動きをして迫っていくサガット達の動きを、何ともないように捉えているカバルレは、口から『フレアボール』を発動し、炎の大玉がそれぞれサガット達に放たれる。正確に照準を抑えて、動きを先読みした攻撃にサガット達が正面で直撃を受ける。

 

 …という結果になるところを、くろちゃんやちゃにゃん、toko、ミナホ、huka、ワイズさんたち魔法試合では、後衛を担当するROSEメンバーが炎の大玉に水をかけたり、斬ったり、消し去ったり、攻撃で相殺したりと粉砕して、サガット達が突撃に集中できるようにサポートしたのだ。

 

 しかも、『アクセル』で素早さが上がったサガット達、前衛チームに、るーじゅちゃんやRDC,し~ちゃん、ルー、火龍人達、補助魔法チームが移動・加重系統魔法『ジェットスプリント』を代わりにかけた事で、更にスピードがアップした。

 

 サガット達に掛かる慣性を減らして高速移動し、一定の段階で慣性を戻す事で爆発的な加速を与えられた。

 

 こんな動きを見せられれば、瞬間移動したかのような感覚に襲われるほどの衝撃を受ける。しかし、カバルレは全く動揺していないが、腹を立てていた。

 

 よりスピードが上がったというのに、サガット達の動きを読んでいる。

 

 次にどう動いて迫って来るかも目に映るくらいに理解している。しかし、目では追い付いていても、攻撃の速度は上がらなくて、美味く当たらない。ましてやくろちゃん達後衛チームがパックアップしているため、やられ放題の状況に苦虫を噛み締め、腹を立てていたのだ。

 

 そして、カバルレは抑える事が出来ずにサガット達を足元まで到達させてしまった。

 

 

 サガットと暁彰は魔法剣を取りだし、カバルレの両足を斬っていく。巨体を支える足を使い物にできなくすれば、体勢を崩しやすくなり、隙が生まれる。

 かなり深く突き刺したり、斬っていく二人の攻撃にどうやらカバルレも痛みを感じるみたいで、雄叫びを上げる。二人に続くようにして、御神とホムラも放出系統魔法『避雷陣』で上半身の動きを封じ、加熱・加重・移動系統魔法『フレア・クラッシュ』で加熱させた炎を真空の空気膜で覆った状態で対象に投げつけると、接触した瞬間に、空気膜が解除され、空気中の酸素を急激に触れたために爆発する魔法を駆使し、カバルレのダメージを与える。そしてホームズがカバルレの大きな胸に『パンツァー』でとどめを刺す。

 

 

 『"グアッ!!"』

 

 

 「「「「「倒れろーーーーーーー!!」」」」」

 

 

 前衛全員の叫びとともに力を込めた『パンツァー』でカバルレは胸をへこませ、後ろへ吹き飛ばされた!

 

 

 「よっしゃーーーーー!!!」

 

 

 ホームズは巨体を吹き飛ばした事で今までの鬱憤を晴らした気分になった。

 後衛にいたみんなも喜びを噛み締める。

 

 

 しかし、喜びを表すのはまだ早かった。カバルレはまだ余裕満タンの表情していたからだ。

 

 

 吹き飛ばされながらも、両足を地面に力を込める事で、勢いを殺し、堪えた。その衝撃でカバルレが後ずさりさせられた方向の地下都市の建物が跡形もなくなっていた。

 

 

 そして、ホームズの拳を受けた胸をまるで埃を払うようなしぐさではたきながら一言、問いかけてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『”…ナニカシタカ?クズドモ!!”』

 

 

 




戦闘シーンでの魔法は、頭を捻って頑張ってます!!

この闘いでも白熱さ伝えられるようにやらせていただきます!!


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魔物カバルレとの決戦(Second)

ええええ~~~~~~~~!!
そこは倒れておけよ、カバルレ~~!! お前が倒されると、みんなすっきりするんだよ!!

ね!!みんな!!


 

 

 「嘘だろ~~!! かなり食い込むくらい押し切ったのに~~!!」

 

 

 「タフすぎるぜ!!」

 

 

 「…伊達に、千人も取り込んだ訳じゃないって事だね!」

 

 

 「カバルレって悪知恵しか働かない卑劣さだったけどさ~~、自分にはない力を得て、優越感に至っているんだよ。」

 

 

 「それ言えるかも。さっきだって偉そうな態度して…。私も一発殴りたくなったもんね!!」

 

 

 

 カバルレが攻撃に耐えた事で、カバルレの身体能力も格段に上がっている事を思い知った前衛チームだけど、弱音どころか文句を言って、更に勢いづいていた。

 

 前衛チームが言ったとおりに、カバルレは取り込んだ人間の魔法能力だけでなく、死体の生前の得意魔法も繰り出す事が出来る。しかも実戦の経験における知恵や頭の良さも取捨選択して、使う事が出来る。

 まさに、取り込んだ者の魔法や知識を自分の好きな時に使う事が出来るのだ。

 

 前衛チームの動きを見切っていたのも、先読みできたのも、そのお蔭だ。

 

 

 『”ドウシタ、クズドモ!! コナイナラ、コッチカライクゾ!!?”』

 

 

 ニヤッと笑ったカバルレは、その巨体で出せるスピードとは思えないほど、今度は走り回った。

 

 

 「え!? そんな!! さっき両足を使い物にならなくなるまで斬ったのに!!」

 

 

 「………どうやら、取りこんだ事で、再生能力も格段に上がっているらし……!! くっ!!」

 

 

 「暁彰!! どぎゃっ!!」

 

 

 驚くほどの再生能力の速さで、すっかり両足を完治させたカバルレは、暁彰とサガットを死角から蹴り飛ばした。猛スピードで蹴られた二人は、大砲のように飛んでいき、地下都市の土壁にぶつかり、想像通りの衝撃を受けて、土壁は大きく穴を開け、その中心には、酷く傷ついた二人がいた。相当のダメージを受け、力なく落下していく二人を後衛チームの剣崎兵庫、ペンダゴンが救出しに行く。

 ペンダゴンが落下する二人の落下速度を慣性を抑え、減速させ、風で作り出したクッションで二人を受け止めた。そのときには既に、暁彰は自身の『再成』が自動的に発動し、復元されて傷は治っていた。しかし、サガットの状態は酷かった。身体の至る部分の骨にひびが入っていて、無理して動けば、立つ事も不可能になるレベルだ。

 この状態を見て、暁彰は、早速『再成』を施す。それと同時に、心の中でサガットを褒めていた。

 カバルレの蹴りを受ける寸前、咄嗟に魔法剣に相子を流し込み、相子の盾を作ると同時に、自分自身にも防御魔法をかけていたおかげで、命を繋ぎとめる事が出来たのだ。

 『再成』で痛みが消え、目を覚ましたサガットを見て、暁彰はほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 一方、闘いの方もヒートアップしていた。

 

 

 

 二人が飛ばされ、残されたROSEは、全員で攻撃に専念していた。

 

 カバルレが俊敏な動きで動き回ったり、跳ねたりして、ROSEの周囲を囲む形で視界の死角を狙って、火の玉を放ってきたり、切味抜群の鋭利な爪を伸ばし、更にレーザーのようなものを纏わせ、鞭のように扱い、攻撃してくる。その攻撃がROSEに当たった時は、快感を覚えているかのような笑みをこぼす。

 

 カバルレが俊敏に動き回り、鞭のような攻撃をする事で、戦場と化した地下都市は、もう建物の面影がなくなっていた。あるのは、建物の瓦礫と荒れた地面。

 

 

 

 

 『”ハァ…、ハァ…、カ…、カ~~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!

  オレノウゴキニツイテコレマイ!!? ショセンハソノテイドトイウコトダナ!!

  コレデ、イレギュラーテイコクハオレノモノダ!!ダレモオレヲトメラレナイ!!

  カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!! ……ハァ、ハァ~…”』

 

 

 「『誰もあんたを止められない』ですって!!?いるじゃない!!? 

  あんたの目の前にいるこの私達…、ROSEがあんたを絶対に倒す!!

  これだけで私達の実力を甘く見ないで!!」

 

 

 ROSEのみんなは、その戦場で息を切らして、カバルレの攻撃に耐えつつ、機会をうかがいながら戦うのだった。そして、カバルレの帝国支配宣言を、くろちゃんがROSEのリーダーとして、カバルレを倒すと宣言して返した。

 

 

 

 

 

 

 




頑張れ!!ファイト!!


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魔物カバルレとの決戦(Third)

ふふふ…。
タイトルを考えないで本文に集中できるとは、誠に嬉しい事ぜよ…!!




 

 

 

 「くろちゃん、すげ~~!! さすがリーダーだぜ!!」

 

 

 「惚れたよ!!そうでなくっちゃ!!」

 

 

 「幾分かはすっきりしたね~!!」

 

 

 「上からの態度を懲らしめてあげよう!!」

 

 

 

 くろちゃんのリーダー的振る舞いに、ROSEのみんなは歓声をあげる。

 

 気合も十分。くろちゃんは、視線をカバルレに向けたまま、大声で更に活気を上げる言葉を述べる。

 

 

 「よし!! じゃ、まずはカバルレに取り込まれた人たちを取り返して、家族の元に帰してあげよう!!」

 

 

 「「「「それは…………」」」」

 

 

 「それは無理ですわ。 既に彼らを救出する手立ては、一つしかありません。」

 

 

 くろちゃんの言葉に否を告げる言葉が聞こえ、高まったテンションは下がっていく。

 

 水を差したのは、オドリ―だった。

 

 その後ろには、リテラもいた。

 

 

 「オドリー!!? リテラ!!? 二人ともどうしてここに!? 早く非難しないと!!」

 

 

 「大丈夫ですわ、くろちゃん。私もご一緒に皆さんと戦いますわ。」

 

 

 「私がここで逃げるなんて真似するようなら、ホームズ達に助けを求めた意味がないじゃない!? 革命軍のリーダーとして、私もけじめを持って、ここに立つわ!!

  この闘い…、絶対に逃げない。私もROSEと一緒に闘うわよ!!」

 

 

 二人とも真面目な表情で、共闘を伝える。訴えてくる眼差しも意志が揺らぐ事がないと強く示していた。

 くろちゃんは二人の熱意に共感して、微笑みながら頷いた。

 

 

 「分かったよ!二人とも力を貸して!

 

  ……………ところでさっきの『救出するには一つしかない』っていってたけど、どういう事なのかな?」

 

 

 共闘を認めたものの、先程のオドリーの言葉が引っ掛かっていたくろちゃんは、待ったなしに巨大な拳を素早く撃ち込んでくるカバルレの攻撃から隙間を縫うように避けながら、オドリーに問いかける。

 しかし、その疑問は違った方向から返された。

 

 

 「くろちゃん、もう取り込まれた人間たちは、原形を留めてはいない。」

 

 

 「取り込まれた段階で、カバルレの魔力へと変換されるから、もう”身体”と言える器は存在しないんです。どんなに家族の元へと返してあげたくても、既に消化され、家族に会わせてあげられないです。

  ……今は、ただ、ただの”精神”として、カバルレの中に辛うじて、いる、だけです!!」

 

 

 「tokoっちの言うとおり、カバルレに取り込まれた事で、千人もの人の”精神”がカバルレに全て乗り移った?状態になった訳なんだよ。

  つまり、器が変わったって事。だから、古い器を消化し、新たにカバルレを器として受け入れた事で、カバルレは”精神”に宿った記憶や魔力を引き出して驚くほどの動きで戦っているんだ。

 

  ……だから、吸収された人たちの”精神”…、ううん、”魂”を救出するたった一つの方法は、カバルレからその魂を吐き出させて解放する事。それが、唯一の方法だよ!!」

 

 

 「…ただし、これには、覚悟しないといけない。

 

  解放された”魂”達は、今まで器だったカバルレから飛び出しても、既に器をカバルレの瘴気の身体で熔けて、身体は『死んでしまっている』。還る器がない”魂”は彷徨うか、常世に召されるかのどちらかだ。吸収される前に生きているか、死んでいるかはもう関係ない。カバルレに吸収された時点で既に“死”を迎えている。

 

  それを弁えたうえで、闘わないといけないんだ。

 

  みんなはそれができるか?」

 

 

 

 暁彰、toko、ミナホがくろちゃん達だけでなく、通信でROSE全員に全てを話し、決断を求める。…若干、説明する際にtokoは幽霊を想像し、怖がりを再発させていたが、誰も突っ込まずにいた。

 

 今までの話をカバルレの鉄拳や炎の咆哮、爪での鞭攻撃を躱しつつ、真剣に聞いていたROSEのみんなは戸惑いを見せはしなかった。寧ろ、いつまでもカバルレにいいように利用されるのは、不本意に違いない。助けるぞ!!っと”魂”の解放を目指し、攻撃を避けながら、カバルレにレーザー攻撃や領域攻撃魔法をトラップで発動したりと反撃を繰り出していた。

 

 ショウリンも一生懸命に避けながら、みんなよりも距離を取って、自分なりに『術式解放』を駆使して、カバルレの攻撃を無効化させていた。

 

 両親を吸収されているショウリンもまた、両親を解放しようとドレーナとの約束通りに、魔法師として闘う事を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「「「そんなの、決まってるじゃん!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、決意をはっきりと口にしたみんなの言葉は大きくハモり、”魂”の解放を掲げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




カバルレの動きがだんだん見えてくるようになったROSEのみんな。

俊敏な動きでカバルレに翻弄させられていたみんなだけど、目が慣れてきた感じで、避けられるようになりました!!


そして、あっさりと暁彰が復活し、戦闘にいつの間にか合流していましたね。

闘いに時間はかけられないのさ!!

…でもうちは、投稿に時間をかけすぎている~~~!! ごめんね、てへぺろ♥


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魔物カバルレとの決戦(Fourth)

じわじわと追いつめていけ~~!!


 

 

 

 『”カ~~~~~~~バッバッバッバ!!! コノオレサマカラコイツラヲカイホウスルダト!!? ソレガデキルトオモッテイルノカ~~~~~!!”』

 

 

 ROSE達の話を、爪の鞭で攻撃しながら聞いていたカバルレは、高笑いをする。

 

 

 「できるよ!! あんたはもう既に限界のはずだから…!!」

 

 

 『”……ナニッ!!”』

 

 

 しかし、くろちゃんから発せられた言葉に、カバルレはほんの少し間を開けてから怒声を上げる。

 歯軋りして、その腹立たしさを強固に強めた両腕に込めて、見渡しの良くなった地下都市の広場で強く見つめてくるROSEに鉄拳の雨を降らせようとした。

 

 だがその鉄拳の雨は不発に終わる。

 

 もう一度、両腕に硬化魔法をかけるが、全然発動しない。いや、発動できない。

 

 

 カバルレは動揺し、魔法の発動速度に動きが止まる。

 

 その隙を見逃すROSEではなく、くろちゃんとちゃにゃん、るーじゅちゃん、ルー、し~ちゃんと力を合わせて、同じ魔法を構築する。

 

 CADをカバルレに向け、発動したのは、『サイクロン・レイン』。

 

 

 対象を物凄い暴風並みの風で周囲を囲み、捕獲する。逃げようとしても、何十層にも重ねかけされた突風に阻まれ、風の結界から抜け出す事は出来ない。そして、そのサイクロンの結界が大気中の温かい風も引き込み、更に力を増していき、激しい雨を降らせるのだ。

 

 ただでさえ、威力は半端ないが、五人でまったく同じ魔法を発動させたため、威力は5倍…。魔物と化したカバルレも、風の結界から抜ける事ができず、物凄い風に身体を持っていかれないように、必死に足に力を入れ、尾を地面に突き刺し、耐えていた。

 そこに追い打ちをかけるように、暴雨が頭上から振り落ちてくる。その雨の激しさでカバルレは、瘴気で作りこんだ身体に雨が沁みこんでいった。

 

 それを眼で確認したミナホが合図を出して、RDC、剣崎兵庫、ペンダゴン、鳥になる日と共に、『グラビトン』を『サイクロン・レイン』が発動している領域の外側に領域を定め、魔法を発動する。

 『グラビトン』でカバルレの周囲の重力を強めた事で、カバルレに降り注がれる雨も水圧を上げ、激しく撃ちつける。その威力はもう、水の弾丸レベルだ。

 つまり、カバルレは今、雨の散弾を全身に受けているのだ。

 

 頭上からの雨の散弾にカバルレも、身体に無数の穴を開けていき、苦痛による悲鳴を漏らす。

 針治療での痛みを超える思いに、カバルレは何かがおかしいと感じ始めるとともに、身体に力が入らず、片膝を地面につく。

 

 

 

  突如として、反撃を受けたカバルレが自身の異変に狼狽える。

 

 

 そこに、くろちゃんが効果ありと感じ取り、目を輝かせて、ふてぶてしく笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで終わりなんて思わないでよね!! お楽しみはこれから!!」

 

 

 

 

 




ゲームにある魔法図鑑で検索しながら、今必死にキーボードをたたいてます!!

お探しの魔法が見つからない時は、自身で作りますけど。

でも、もう少し図鑑を調べやすくしてほしいな。キャラ別じゃなくて、魔法効果別とか選べるようにしてほしい。

……まぁ、一番はうちも図鑑登録魔法をもっとゲットしてあげないといけないんだけどね。


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魔物カバルレとの決戦(fifth)

カバルレの台詞…、カタカナに全てしないといけないちょっとした苦労…!!




 

 

 

 

 

 「これで終わりなんて思わないでよね!! お楽しみはこれから!!」

 

 

 

 くろちゃんの言葉に、待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべるサガット、御神、ホムラ、ホームズ、huka達前衛チームは、ミラクルレアの魔法式を構築していく。なかなか手に入らない魔法式だけに、通常の魔法式やレアな魔法式より威力も効果も格段に高い。確実に仕留めるために、タイミングを合わせる。

 

 

 『”オノレ~~~~~~~!!!!!”』

 

 

 凄まじいほどの『サイクロン・レイン』に片膝を付いた形にされているカバルレは、鋭く尖った歯を剥き出しにし、咆哮となった怒声を正面に放つ。

 たかがちっぽけな魔法師のくせに、そのROSEの反撃によって、自分が”膝を付かされている”状況に、絶対的存在だと自尊しきっているカバルレのプライドが、ズタズタに、斬り付けられた感覚を覚えた。その許しがたい感覚が全身に感じ取らせていた。

 

 激しい怒りに身をまかせたカバルレは怒りの咆哮を正面に向けて放つ。

 

 それがなんとあの『サイクロン・レイン』の突風の結界に穴を開けたのだ。すぐにカバルレは腕を差し入れ、脱出を試みた。この出来事にはくろちゃん達も驚き、慌てて威力を上げる。それにより、突風の結界の外に出していたカバルレの腕は斬られた。間一髪で難を逃れたため、くろちゃんは軽く息を吐き出す。

 

 一方でカバルレは、腕の再生に時間を取られ、以前より治りが遅い事に気づく。腕も飛ばされてから戻ってこない。仕方ないと新たに腕を作り替える。傷口がもじゃもじゃと気持ち悪い動きで腕を再生する様は反吐がでそうだった。しかし、あいにく突風の結界でROSEは見なくて済んだが。

 

 斬り飛ばされた腕は、カバルレの支配から外れて地面に落ちていた。

 

 その腕にリテラが手を合わせる。すると、リテラの手が純白に光りだし、その光を宿した手でカバルレの瘴気の腕に触れる。リテラが『ピュア・シャイン』で浄化した事で、腕から数名の”魂”が天高く舞っていく。

 

 解放されて、天国に向かって行く”魂”達をROSE達は見送り、一気に勝負をかける。

 

 

 「うん!!みんな、行くよ~~~~~!!!!!」

 

 

 くろちゃんの合図で、tokoとオドリーが『冷却領域を』を発動させる。

 

 『サイクロン・レイン』を浴びていたカバルレは、全身に寒気を感じる。何か起きたかとふと足元を見ると、地面だけでなく、自身のふくらはぎまで凍りついていた。

 

 

 『”コレハ…!!!”』

 

 

 驚き、声を荒げると、白い息までもが自身の口から吐き出される。そして、寒気と共に、苦痛を全身に感じた。

 それもそのはず、『グラビトン』の効果で鋭い雨の散弾を受けていた所に、カバルレの周囲の振動、運動エネルギーを減速させ冷却しているのだ。雨の散弾も例外ではなく、冷却されて氷柱と化した。その氷柱化とした散弾がカバルレの巨大な身体に無数に突き刺さっているのだ。

 

 しかも、その氷柱を暁彰が『精霊の眼』で点穴を確認しながら、刺激を与える点穴に刺さるように、tokoに指示して移動系統魔法で針治療の裏バージョンで攻撃したのだった。

 

 

 点穴を突かれた事で、身体が思い通りに動かないカバルレにさらに、オドリーが追い打ちをかけるように、広域冷却魔法『ニブルヘイム』を繰り出す。

 

 

 

 それにより、全身に暴雨を受けて冷え切っていたカバルレは、領域内の物質を比熱、相に関わらず均質に冷却される事で、身体は凍りついていく。

 

 

 『”クソガ~~~~~~~!!!!!”』

 

 

 既に手足が凍りつき、動けない。尾も『サイクロン・レイン』での突風から身体を支えるために地面に差し込んだまま、凍りついていて、氷を叩き落とす事も出来ない。

 ただ凍りつくのを黙って見届ける事しかできなくなったカバルレは最期の言葉としては笑え……、浅はかな言葉を叫び、完全に凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 もはや、氷の巨大な像と成り果てたカバルレを目で捉え、ROSEのみんなは思わずガッツポーズをとった。

 

 

 

 

 




ざま~~見ろ!!
コンビネーション攻撃を甘く見過ぎだぜ!! 力を合わせればお前なんか倒れるのさ!!

さてと、最後の止めを刺して…………


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魔物カバルレとの決戦(sixth)

カバルレの台詞…、全てカタカナだよ~~!!


 

 

 

 

 見事な連携魔法攻撃でカバルレを凍らせることに成功したROSE。

 

 

 後は、凍りついた身体は脆く崩れる。一斉にみんなで粉々に壊せば、カバルレに取り込まれた”魂”達が解放され、天国で安らかに眠る事が出来る。

 

 

 ROSEはいよいよ長かった闘いが終わると涙し、深呼吸してから、くろちゃんの合図で飛びかかる。

 先に、前衛チームが携帯する魔法剣を取りだし、凍りついたカバルレに斬り刻んでいく。サガットは先程のお返しだと叫びながら、カバルレの獣のように尖った口を縦に真っ二つにする。既に口が開いていたカバルレの口がこれで四つに分裂した。凍りついていなかったら、生々しい口になっていただろう…。(こわっ!! 想像したら、tokoが気絶するレベルだわ!!)

 暁彰も切れ味を鋭くした魔法剣で、カバルレの胸に大きく”ROSE ここに参上!!”とサインの要領で斬って示した。満足すると、魔法剣を鞘に納め、カバルレから離れる際に、

 

 

 「まったく、つまらないもんにサインしてしまった…。」

 

 

 とため息交じりだが、どこか満足そうな面影を背負って去った。

 

 

 他にも、ホームズはカチコチに固まったカバルレにドS鞭を取りだし、ビシバシと猛威を振るう。その際に硬化魔法で鞭を強化した打撃はカバルレの腕を壊し、勢いよく飛んで行った。そして、元本部棟があった場所へと着地し、鋭く尖ったままの爪があるモノに突き刺さる…。

 

 それは、カバルレが物凄く大事にしていたあの大きな自画像。

 

 既に顔は、ホームズによって破壊されているが、爪が刺さっているのは、何と男の人なら痛みが十分に分かるだろうあそこ……。

 

 あそこに爪が綺麗に突き刺さっていた。

 

 この事は、この闘いが終わった後、警魔隊の事後調査によって明らかになり、警魔隊とROSEの笑いの種となる。

 

 

 

 

 …とはさておき、ホムラもカバルレの脳天を思い切り、魔法剣で突き刺して雷撃を放ったり、御神はどうやって演出するかと考えながら、魔法剣を鮮やかに動かし、カバルレの身体に彫刻するように仕上げていき、アート作品を作りだす。

 

 ほっぺに渦巻き、サガットが四つに割った口をなぜか編み込む。オドリに作ってもらった等身大の2倍ほどの大きさの氷で薔薇の彫刻を作り、それをホムラが差しこんだ脳天に生ける。そして、関節部分を斬って、角度を変えてポーズを作り替える。決まったら再び関節を凍らせ、ついに完成!!

 

 

 なんと頭に一輪の薔薇を咲かせ、髭ダンスをするカバルレの氷の像が完成した。

 

 

 それを見たROSEだけでなく、避難した場所から同じく見ていた警魔隊、革命軍、奴隷達も盛大に吹きだして、爆笑の嵐を生み出した。

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「面白すぎる~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 笑い転げて大笑いする。 笑い過ぎてお腹が痛くなる。あまりの衝撃から猛笑いが止まらなくなったのだ。

 

 

 ずっと懲らしめてやりたいと思っていた。

 

 外道なやり方をし、人の心を弄ぶ、あの!!カバルレが今まさに、間抜けを晒している!!

 

 

 これほど愉快な事があるだろうか!?

 

 

 溜まっていた感情が一気に笑いに変わっていくみんな。

 

 

 そこでくろちゃんが閃き、ROSEとオドリー、リテラを集める。

 

 

 そして、もしかしたらヘムタイ事件が起きるかもと期待して持ってきていたカメラで、みんなで髭ダンスのカバルレを背景に記念撮影をしたのであった。

 

 

 たくさんのポーズで何枚も撮った写真を大事にしまう。

 

 

 「オドリー!!リテラ!!もちろん二人にもあげるから!!」

 

 

 「「「ありがとう!!」」」

 

 

 「…もちろん、セイヤの分も。」

 

 

 「!!……うん、本当にありがとう。彼も絶対に喜ぶわ。」

 

 

 こっそりとオドリーに耳打ちで伝えたくろちゃんの気遣いにオドリーは嬉しさを感じる。きっとセイヤもこの写真を見たら、カバルレを思い切り鼻で笑うだろう。

 

 

 

 

 

 …もう完全にROSEのムードになった訳だが、カバルレですっかりと遊んで満足しきったので、名残惜しいが氷のカバルレ像を破壊する事に決めた。

 

 

 後衛チームで魔法を繰り出す。

 改造型の『フォノン・メーザー』、『散弾型インビジブル・ブリット』、『ブリッツ・ブリット』、『イレギュラー・レイ』、『ディバイドレーザー』、『魔弾の射手』、『風撃ち』、『ロック・ディフュージョン』等の放出・移動系統魔法『レーザー』魔法や移動・加重系統魔法での瓦礫を対象にぶつけるなどの遠距離魔法でカバルレを粉々にして、攻撃していく。

 

 

 その破壊力は凄まじく、まるで爆弾が連鎖反応を起こして爆発しているかのようだった。

 

 そして粉々に壊れていくカバルレの像から取り込まれていた”魂”達が解放されていく。その”魂”達は温かい光を放ちながら、天高く昇っていく。

 

 その姿を涙して見送り、全てが終わったとそう、思っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 『”ソウハサセナイゾ…!! オマエタチハオレノモノダ!!ニガスキハモウトウナイッ!!”』

 

 

 

 

 

 

 もう聞く事はないと思っていたその声は、砕け散った氷の像から聞こえてきていた。

 

 

 いや、氷の像があった場所から、巨大な魔物が声を出していた。

 

 

 

 

 その魔物…カバルレはニヤッと笑みを浮かべてそこに立っていた…。

 

 

 




やった!!倒した~~~~~~…ぁぁあ?

なぜ生きているんだよ!?


*
告知です!! 
明日は、原作の短編をします!!以前の倍以上のキャラ崩壊が待ち受けていますので!!


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カバルレとの決戦(seventh)

カバルレのくせに~~!!
そして、やっぱり外道だわ!!


 

 

 

 

 「どうして……? どうして、生きているの!?」

 

 

 「あれだけの羞恥…じゃなくて、攻撃を受けておいて無事なんておかしいにゃ!」

 

 

 「……カバルレのくせに~~!!」

 

 

 「そうだ、そうだ!! カバルレのくせに~~!!」

 

 

 本来なら、実力ある魔法師でも、相当堪えるダメージを与えたのに、それを物ともしないかのように笑みを浮かべて、カバルレは経っていたのだった。

 だから、ROSEが文句を言うのは仕方ない。…カバルレのくせに!!

 

 

 『”カ~~~~~~~バッバッバッバ!!!!!

  コノオレサマニハ、センタイモノマリョクヲジユウニツカウコトガデキルノダ!!

  キサマラノコウゲキヲフセグコトナゾタヤスイワ!!

  …ナニヨリコイツハヨクハタライテクレテオルシナ!!!”』

 

 

 ニヤニヤと笑いながら、自分のお腹を擦り、意味ありげに強調する仕草に、tokoが眼を向けると、驚きを見せた。

 

 

 「あそこに…、ドレーナの”魂”がいる…。

  しかも、常時…、カバルレの引き金になるように…、相子のパイプを自分と繋げている…。」

 

 

 「それはつまり…?」

 

 

 「…つまり今、カバルレとドレーナの”魂”は連動している…。精魂リンク…、して一体化しているんです…!!

  だから…」

 

 

 「そんな…!!」

 

 

 

 悲痛な叫びがROSEの中で広がる。

 

 

 tokoの説明通り、取り込まれたドレーナの”魂”が他の”魂”より強く精魂リンクされているため、カバルレの能力を最高点にまで引き上げているのだ。

 カバルレの攻撃が正確なのも、動きを先読みできるのも、全てドレーナの能力を使用していたからだ。

 それに、ROSEの『冷却領域』で凍らせた時も、あの一瞬で体内温度をドレーナの得意の加熱魔法で冷えた身体を温め、全身に情報強化を加えた上で更に、炎の膜を張ったため、氷漬けにはならなかったのだ。

 ただ動けなかっただけである。

 そこにROSEの攻撃で氷が破壊された事で自由になったという訳だ。

 

 ちなみに、カバルレの腕が斬りおとされたりしたが、ドレーナの『再成』と元々の再生能力が合わさって、すぐに元通りに復元されていた。

 

 

 だが、まだこの話には続きがある。

 

 

 「精魂リンクしているから、カバルレとドレーナの”魂”を斬り外す事は出来ないです…。

  一体化してしまった以上、解放する事もできません。

  …だから、カバルレを倒すという事は、ドレーナの”魂”ごと倒すしかないんです。」

 

 

 「…それって、ママがあいつと一緒に地獄へ落ちるって事?」

 

 

 「………その通りです。」

 

 

 「…いやだよ~~~!! ママはすっごくカッコいい、魔法師だよ!?

  ママを返してよおおお~~~~~~!!!」

 

 

 tokoの話を聞いていたショウリンが涙を流し、カバルレに小さな瓦礫を投げつける。しかし、その瓦礫がほとんど届く前に地面に落ち、届いたとしても、弱々しく足に当たるだけで、カバルレは驚喜的な笑いをするだけだった。

 

 

 「…あの外道のカバルレが考える事だ。

  こうして、精魂リンクをしておけば、ドレーナの莫大な魔力や魔法を自由に使え、自分を有利にする一方、俺達には、ドレーナを人質に取られたものだから、下手にカバルレを倒せない…、不利にさせられる。

  …この上ない切り札って事とこか。」

 

 

 暁彰がカバルレに殺気を帯びた視線を投げつけながらtokoの説明に付け加える。

 

 

 

 「じゃあ…、どうすればいいの?」

 

 

 「このままじゃ…」

 

 

 るーじゅちゃんとし~ちゃんが乙女の涙を流して、みんなに問いかける。

 

 

 しばらく沈黙が続くが、そこを攻撃しない訳がないカバルレが追い打ちをかけるように、炎の咆哮をROSE達に解き放つ。一旦散って、カバルレの咆哮から逃げるROSE。カバルレは散ってゆくROSE達を更なる地獄へと脅かすために、地下都市全体に炎の咆哮を放ちまくる。

 辛うじて建っていた家屋たちも焼け焦げて、崩れ倒れていく。そして地下都市は炎で辺りを埋め尽くし、地獄と化した。

 

 完全に怪獣となったカバルレは、足を一歩前に出して、巨大な身体を動かす。

 

 地下都市を練り歩くカバルレの目指す場所は……、

 

 

 

 

 

 

 

 「!! まずい!! あいつ!! レストレード達がいる避難場所に向かっている!!」

 

 

 「ドレーナの『精霊の眼』で、レストレード隊長たちを見つけたんだ!!」

 

 

 「私達をどん底に落とそうって魂胆だにゃ!!きっとそうに違いないにゃ!!」

 

 

 「早く止めないと!!」

 

 

 

 カバルレが向かっていた先には、レストレード達が避難していた。

 

 

 それを『精霊の眼』で視野を広くしてカバルレの攻撃から身を守り、みんなにも合図を出していたミナホが気づき、通信でみんなに知らせる。

 カバルレの進撃を止めるため、ROSEは攻撃しながら、カバルレの足を止めようと一斉にカバルレに飛びかかる。

 

 

 しかし、カバルレの鋭いくねくねとした尾に阻まれ、なかなか近づく事が出来ない。

 

 

 

 同じ頃、カバルレの進撃に気づいたレストレードが隊員たちを動かし、障壁魔法を展開させて、一か八かの賭けに出ようとした。

 

 

 (ここであの化け物にやられてたまるモノか!!

  なんとしても、この者達…、部下達を私が守らなければ…!!)

 

 

 恐怖に支配されて、逃げ出したくなりそうになる自分を己の信念でねじ伏せ、カバルレが向かってくるのを見続ける。

 

 

 

 

 

 そして、カバルレがあと数歩で到着するという時、カバルレの後ろから雷撃を帯びたレーザーのような鞭がカバルレの身体を縛り上げる。腕も一緒に縛られ、進撃を止めた。

 

 カバルレが怨めしそうに見つめる先には、ROSEのみんなが大きな縄を引っ張っているかのように、レーザーの縄を持って、力いっぱいに引っ張っていた。

 

 雷撃も帯びていて、動きが鈍くなったカバルレは、唯一動かせる足でROSEを踏み殺そうとし、片足を踏み上げる。

 

 

 

 「今だよ!!!!!」

 

 

 

 その瞬間、くろちゃんの合図で、みんなが自分に掛けた移動系統魔法での高速疾走と軽くしたレーザー縄を思い切り引っ張り、巻きつけて縛られていたカバルレの身体が回転し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「「それっ!!『あ~~~~れ~~~~~~!!!』」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 




ぷふふふふ!!!!!

見事に殿様あ~~れ~~に引っかかったカバルレだ!!

笑えるね~~!!

でも、ドレーナが~~!!どうするんだ!!ROSE!!

*明日は、体育の日だから、番外編だぜ!!…いつも通りまたROSEが騒ぎ放題になること間違いなしだから、存分に笑ってやってください!!


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体育の日番外編~波乱の体育祭~

今日は体育の日という事で、またまた番外編です!!

もう、記念日の度に番外編なので、楽しみにしていた人はいるのではないでしょうか~~!!?

…はい、「待ってた~~!!」という声が聞こえてきましたので、今回もROSEのドタバタをやっていこうと思います!!

(番外編は人気だったりする)

…では、ご覧あれ!!


 

 今日は、年に一度に行われるギルド内イベの一つ、その名も『ROSE体育祭!!にゅるっと!!むふふふ♥!!合戦!!…(?)』がギルドの敷地で開催されていた。

 

 タイトルはなぜか付け加えられていて、修繕不可能だったので、このまま幕を張っている。無論、これを付け加えたのは、新たなヘムタイとなった剣崎兵庫だ。

 

 

 垂れ幕を張る際に発覚し、既にちゃにゃんにほっぺをつねられ、引っ張られるという地味なお仕置きを受けた。

 

 

 「…まったく、今回もヘムタイが何か企んでるよ。大会運営委員長であるうちにとっては頭が痛くなるよ~~!!」

 

 

 「まぁまぁ、ミナっち。私も手伝うから、頑張っていこうにゃ!!既に、警備隊としてHMTが交代で巡回しているから、大丈夫だにゃ!!」

 

 

 「ちゃにゃっち~~~~!!!」

 

 

 今回の体育祭の企画立案兼大会運営委員長をしているミナホは早くも起きたヘムタイ事件に頭を悩ませていたが、同じ志を持ったちゃにゃんの言葉に救われ、体育祭を盛り上げるため、気合を入れるのだった。

 

 

 

 

 …しかし、ミナホが体育祭を盛り上げるために気合を入れている時、同じく盛り上げる目的で顔を見合わせ、目を輝かせるヘムタイ集団がこそこそと動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「さ~~~て!!いよいよ始まりました!!ROSEの体育祭です!!今回は、体育祭の名物種目を全てカードに書き、この中にセットしました!!」

 

 

 実況役も担っているミナホは、手を大きく広げて、差し伸ばした先には、透明な球体が置いていた。その中で、渦巻く風に乗って舞っている何枚ものカードがあった。

 

 

 「これは、ルーレットマシンです!!うちがルーレットを回し、出てきたカードに書かれた種目名がみんなが争う種目になります!!

  今回は、チーム戦ではなく、個人戦です!!一番活躍ポイントが多く取った人が優勝です!! 

  そして優勝者には、なんとめったに手に入らないプレミアムガチャ×1000個とUR最新魔法『ゲートキーパー』の魔法式、更に賞金をプレゼントします!!

  みんな、頑張ってね~~!!」

 

 

 ルール説明が終わり、暁彰が代表で宣言する。

 

 

 「私達、ROSEに所属する魔法師全員、正々堂々と戦い、全力で取り組む事を誓います!!」

 

 

 

 暁彰が述べた宣言が終わると同時に、花火が上がった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず第一種目、『パン食い競争』!!

 

 

 

 ルールは簡単。ゴールの途中にセットされ、吊るされているパンを食べて、ゴールを目指すのだ。魔法は使用禁止。後、パンは口だけで取る事。

 …この種目は、魔法を使わなければ面白みがないかもしれないが、ヘムタイの目は待っていましたとばかりに輝きを増していた。

 

 

 「位置について~~!!よ~~~~い……、どんぐり~~~~~!!!!」

 

 

 ミナホの合図で一斉に走り出した参加者たち。今回は、るーじゅちゃん、火龍人、し~ちゃん、にょきにょきが参加していた。

  4人は、さすが鍛えているからか、走りは好調。すぐに目当てのパンまでたどり着いた。しかし、ここから4人は苦戦する。パンが取れそうでなかなか取れない…。ならよかったんだが、運よく口で取れたと思ったら、パンの中身が唐辛子たっぷりで辛さで神経が麻痺するという出来事が起きた。気を失いそうな辛さに4人の意識が朦朧とする。

 口から火を出して暴れているにょきにょきを見れば、その辛さは応援している見学者から見ても、辛そうだと感じてしまう。

 ミナホは、確かにパンの中身はチョコだったのにと思いながら、4人に水を配るために実況席を立った。

  しかし、ミナホが4人に近づく前に、4人は一斉に走り出し、真っ直ぐに猛スピードでゴールを目指し始めた。ミナホは慌てて実況席に戻り、凄まじい速さを目で追いながら、実況をしていく。そして、なんと4人の同着となって、『パン食い競争』が終わった。

 

 …種目は終わったが、4人も終わった…。

 

 

 

 真っ先にゴールした4人は、そのまま足を止める事なく、目の前にある水車まで突っ込んでいき、水車を破壊して、小屋の壁に突き刺さって、気を失った。…いや、かべを抜けて、4人ともお互いに頭をぶつけて、気を失ったのだった。

 

 思い切り、頭をぶつけたため、たんこぶが大きく実ってしまっている4人は、目を回し、呼びかけても応答がない。完全にノックダウンしていた。

 

 

 「…これはダメだね。4人とも棄権だよ。」

 

 

 「…仕方ないよ、これは。完全に伸びているもん。」

 

 

 「でも、なんでパンの中身が変わっていたんだろうね?」

 

 

 「…なんだか嫌な予感がする」

 

 

 4人をギルドハウスに運び、容態を確認したミナホとサガットが首を傾げる。

 

 

 

 

 一方、次の種目の準備で、競技場はバタバタと人が動いていた。そこで、何やらこそこそと作戦会議する者達が…。

 

 

 「ちょっと!!くろちゃん、話が違うよ!!」

 

 

 「いやいや!!それはこっちの台詞だよ!まさやん!!まさやんが送ってきたやつ、あれは媚薬だったよね!!?」

 

 

 「”そうだけど、まさかあの唐辛子成分を含ませたものとは知らなかったんだよ!!”」

 

 

 「辛さを我慢する代わりに、惚れ惚れさせる媚薬ってそんなの在るのか!!?」

 

 

 「”実際にあるから、ヘムタイ仲間のみんなにこっそり送ったんだよ!!”」

 

 

 「もう!!せっかくるーじゅちゃん達の色気満点のポーズが取れると思ったのに…!!」

 

 

 「でも、しっかりとカメラで撮ってたよね?しかも連写で。」

 

 

 「てへっ!バレてた?だって、普通でも、いい感じだったじゃん!!パンを取ろうとしてシャンプするたびに、揺れる谷間の…にゅるるるるる」

 

 

 「剣さん!!鼻血出てるよ~~~!!♥」

 

 

 「そう言うくろちゃんも出てるよ~~!!」

 

 

 「てか、みんなだ!!」

 

 

 

 くろちゃん、ホームズ、剣先兵庫、マサユキが鼻をの下を伸ばして(鼻血も出したまま)笑い合うのだった。

 

 

 そう、ヘムタイ達は今日のイベントを楽しみに待ちわびていた。魔法なしで動き回るのもあるため、ヘムタイ鑑賞にはもってこいなのだ。そのために、前もって、ちゃにゃん達に気付かれないように、ベストな盗撮場所を見つけたり、至る所にカメラをセットしたり、新しくヘムタイグッズをそろえてきたりといつもより念を入れて、励んでいた。

 

 

 「よし!!今日という今日こそは、一部始終!!録画しまくるぞ!!」

 

 

 「「「おお~~~~~~~!!!!!」」」

 

 

 

 ヘムタイ達は円陣を組んで、ヘムタイ野望のために再び動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃん達ヘムタイの猛攻はその後も続いた。

 

 

 『バトル・ボート』では、ちゃにゃん達のぴちっぴちのウェットスーツで現れた体のラインを舐めるように見つめながら、胸をズームインして、写真に収めていた。撮った写真は、ヘムタイ専用アプリでキャラの身体にその写真を張り付け、指でエロくタッチしてムラムラする…。

 『玉入れ』では、玉に仕込んでいた超小型カメラで盗撮…。見事な胸元を至近距離からゲット!!

 『借り物競争』では、借り物の紙に、ヘムタイ用語やヘムタイ道具を書いておいた。参加して、あっさりと借りて、1位になるくろちゃん。

 

 

 そうして、とうとういつの間にか最後の種目となり、全員参加の恒例が出てきた。

 それは、『障害物競走』だ!!

 

 

 最後とあって、みんなの気合が熱気にあふれている。

 

 現在は、…苦しくもくろちゃんが1位…。その後に、ホームズ、剣崎兵庫、ちゃにゃんと続いていた。その後ろは、点差が広がって、暁彰、サガット、御神、ホムラ、ユッキ―となっていた。

 

 名前を呼ばれなかった人は、ヘムタイの作戦に掛かって、今はベッドで療養だ。その作戦は…、大変危険な者なので、省くとしよう。

 

 

  そうこうするうちに、ミナホがホイッスルを鳴らし、スタートした。

 

 

 …だが、スタートと同時に、ヘムタイ達は物凄い深い穴に落ちていき、落ちる瞬間に雷撃を放つ鉄製の網でゲットされ、急上昇で引っ張られる。

 

 

 「「「うわああぁぁぁ~~~~~~~!!!!」」」

 

 

 

 そして、御縄になったヘムタイ達の目の前には、鬼の形相をしたHMTが待ち受けていた。

 

 

 

 「どうだった? バンジ~~~ジャンプ♥ 楽しかったにゃ?」

 

 

 「……いや~~、心臓に悪いよ、ちゃにゃん?私達が一体何を。」

 

 

 「あれ?反省していないのかにゃ?盗撮したり、鼻血出したり、色々とヘムタイ行動してたにゃん。それを正してあげるのは、HMTのお仕事。当たり前の任務をしているだけにゃ!!」

 

 

 「ちゃにゃん~~…さん。顔が怖いですよ~~~!!!!」

 

 

 「だから…、覚悟してね?」

 

 

 「そんな!!待ってくれ!!ちゃにゃん!!おいら達は、今、『障害物競走』しているはずだ!! 観客も大勢、あのカメラを通して、見ているんだぞ!? こんなところで堂々と制裁すれば、ROSEの信頼度が下がる!!」

 

 

 『ああ、その事ですか~~!!』

 

 

 ちゃにゃん達、HMTの制裁から逃れようとするくろちゃんとホームズが今更ながら、観客の視線を気にする言い方をする。しかし、そこにカメラを通じて、実況をしているミナホが話してきた。

 

 

 

 『それなら問題ないよ~~!! 観客のみんなには、これからヘムタイを排除しますと告げているし、この種目はそういう意味だから♥』

 

 

 「そう言う意味…?」

 

 

 『うん、そう!! 『障害物(ヘムタイ)競争』…。障害物であるヘムタイを倒し、どれだけのダメージを与えられるか、または面白い仕打ちを行うかでポイントが付きます!!なお、観客の人達にも審査してもらい、誰が一番のヘムタイスレイヤーだったかを投票してもらい、そのポイントも加算するので!!』

 

 

 「「「「な!!」」」」

 

 

 『それじゃ~~!!頑張ってね~~!!』

 

 

 

 そこでミナホの声は途切れた。

 

 

 

 「そういう事だから…、覚悟はいいかにゃ?」

 

 

 「覚悟も何も、既に大罪を犯したヘムタイに情けは不要…。」

 

 

 「くろちゃん…、やってはいけない事っていうものがあるんです。」

 

 

 「”私達の仇を取って!!”」

 

 

 

 

 

 

 「「「…いやだああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ…、ドガアアァァアァ~~~~~~ン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ヘムタイ達は、ちゃにゃん達、HMTの公開処刑を受け、夢半ばで撃沈された。

 

 往復ビンタを受けて、頬が腫れ上がって、誰だか分からないくらいに丸く腫れた顔になったり、目にレモン汁を噴射したり、地面に身体を縫いつけて、ホームズの愛用鞭を使って、ギリギリ(露出ギリギリという意味)のラインを攻めたり、とりもちを接着剤の要領でくろちゃん達をくっ付かせて、丸く組み立て、人間ボールを作ったりした。

 

 

 最後は、みんなで力を合わせて、くろちゃん達の”ヘムタイ大玉”をゴール近くまで転がしていき、ゴール目前に合った湖にポイッと捨て、軽やかなステップを踏みながら、ゴールしていったHMT。

 

 

 得点は、ちゃにゃんが最後の案を提案し、観客達を笑いに誘った金賞を受け、見事逆転勝利したのだった。

 閉会式が行われ、ちゃにゃんが賞状されている頃、”ヘムタイ大玉”は湖の底で、沈みなかなか取れないとりもちに苦戦し、激しく動いたため、更に絡まり、窒息して屍となったのだった。

 

 

 特殊なとりもちを使用したため、水に濡れても取れない。それどころか更に絡みがよくしている。

 

 

 ”ヘムタイ大玉”を放置し、HMTは没収していたカメラの破壊をしながら、笑って今年の体育祭の宴を開いた。

 

  (足でカメラを踏み付けながら、笑う姿は、さすがに不気味だが。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そして、ヘムタイ達はまだ、湖で沈んでいた…。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、『賞金を手に入れて、ヘムタイ魂を広める道場を建てる資金にする!!』という目的も一緒に湖に沈むのであった。

 

 

 

 

 

 




色々考えていたけど、間に合わなかった~~!!
ごめんね!! 種目的にも、ヘムタイ要素を取り込めそうだったけど、悩んで結局足りず。

もっとヘムタイを暴れさせて、ちゃにゃん達を活躍させたかったぜ!!

次は、ハロウィンで挽回するか!!


明日は、また本編に戻ります!!


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カバルレとの決戦(eighth)

前回は見事に遊ばれたからな~~、絶対に怒り出すわ、あの外道は。


 

 

 

 

 

 『殿様あ~~~れ~~~』を見事に喰らったカバルレは、高速スピンをさせられて、完全に目を回して、足元がフラフラとしていた。

 これなら、魔法を使うなんてせずに地味にダメージを与えられるからな。

 蓄積した魔力を使い道はゼロだ。

 

 

 『”オ、オノレ~~~…、ウップゥ…!!”』

 

 

 魔力以外はカバルレ本来のままだからな。

 

 目を回す事がない耐久力もないし、体力もない。今にも吐きそうになっていた。

 

 

 「うわぁ~~~…、魔物になっても、吐き気ってするんだね。」

 

 

 「…なんだか、さっきの氷像といい、殿様あ~~れ~~といい…、カバルレが小物感を醸し出してきたよね?」

 

 

 「ああ!!それ、分かる~~~!!」

 

 

 『”コノオレサマヲワラウナ~~~~!!”』

 

 

 御神とホムラ、くろちゃんのちょっとした雑談を聞き取ったカバルレが牙をむいて、襲いかかってきた。しかし…

 

 

 「それはこっちのセリフだ!!」

 

 

 

 

 

 ボガアアアァァァァンンンンンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 連続発動で跳躍魔法を使い、カバルレの頭上に飛び上がったホームズが一言だけ告げると、『マシンメイル・バズーカー』を思い切り脳天目がけて放った。

 目を回していたせいで、『精霊の眼』を使っていなかったカバルレは、まんまとホームズの攻撃を受け、目ん玉を飛び出し、頭が少し凹んでいった。

 

 

 『”グワッ!!”』

 

 

 脳天に直撃したため、カバルレの思考力も、支配力も!!低下した。

 

 それにより、カバルレに取り込まれていた”魂”達が口からあふれ出てきた。

 

 

 「よっしゃ!!」

 

 

 「いけ~~!!その調子!!」

 

 

 

 いくら魔力を得ても、所詮は人から奪ったものだ。簡単に使いこなすなんてなかなかできないし、薬で支配を強化していても人の”魂”を完全に思いのままに使えるはずがない。

 

 どんどん解放されていく”魂”達をワイズさんが『鬼灯』で障壁を張り、あの世への弔いを行う。

 

 

 『”オレノ”タマシイ”ダ!! ニガスカ!!”』

 

 

 意識が朦朧とする中、カバルレは口を押え、”魂”を逃がすまいと躍起になる。

 

 しかしそれを見て、くろちゃんが呆れた表情を見せる。

 

 

 

 「カバルレ…、あんたは自意識過剰すぎるやつだよね。往生際が悪いよ。

 

  大体あんたが千人もの”魂”を支配できる器じゃなかったんだから、そうなっているわけでしょ?

  いい加減、自分が特別な存在だと思うことはやめたら?」

 

 

 『”コノオレサマニサシズヲスルナ~~~!!”』

 

 

 「アドバイスだけど?これすらも耳に入らないってどんだけ外道なんだろうね?ねぇ~、ちゃにゃん!?」

 

 

 「うん、そうだにゃ!!

  取り込んでから、動き回って攻撃して、すでに体力も限界なのは、暁彰たちの『精霊の眼』で確認しなくてもわかっているにゃ! さっきから息が荒いし、現に”魂”は次々と解放されていっているにゃ。」

 

 

 『”ダマレ、ダマレ、ダマレ、ダマレ~~~~~~!!!!”』

 

 

 図星を突かれ、声を荒げるカバルレ。

 

 

 

 もう千人もの”魂”はなく、残りは少ないのは明白。取り込んだ”魂”が解放されたことで、身体も縮んでいる。すでにROSEの勝利は見えてきたも当然だった。

 

 

 そこにカバルレを更に自分の敗北を理解してもらうため、ホームズの後に続いて、サガット、暁彰、hukaが100万トンハンマーを振り上げ、脳天を連続で叩いていった。それによって、カバルレの顔は潰れ、どんどん地面へと沈んでいき、最終的には頭だけが地上に残り、潰れた首だけが残った。

 

 

 ハンマー攻撃を受けるたびに、”魂”は解放されていった。

 

 

 

 もう、カバルレに力を与える”魂”はない。

 

 

 

 「もう、終わりだよ、カバルレ・サマダ!!」

 

 

 「あんたの敗因は、人の心をわかろうとしない、自分だけが特別だと勘違いしたところだよ…。」

 

 

 「……せめて、もうこれを機に更生してください。」

 

 

 

 

 地面に埋もれたカバルレに向かって、リテラ、くろちゃん、オドリーがそれぞれ言いたい事を言って、今度こそ!!終結したと思った。

 

 

 

 

 でも、カバルレの顔が再生していき、復活した顔は狂気を逸した凄まじい怨念を感じさせる怒りを宿し、睨み付けてきた。

 

 

 

 

 『”カ~~~~バッバッバッバ!!!

  オレヲアマクミルナ!! マダオワッテハイナイ!!オレニハ、コイツガイルッ!!!”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い放ったカバルレは、最後の力を振り絞るかのように、地面から脱出し、勢いよく飛び出す。

 

 すると、カバルレが飛んでいた。

 

 

 蝙蝠の羽を連想させる、炎の翼が背中に生えていて、宙を浮いていた。そして、全身に炎を宿し、燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その姿は、炎の悪魔のように…。

 

 

 

 

 

 『”オレニ、ドレーナガツナガッテイルカギリ、オレノハイボクハナイッ!!!

 

  カ~~~~~~~バッバッバッバッバ!!!!!”』

 

 

 

 

 

 

 その狂気の哂い声と共に、地面から炎の柱がいくつもの打ち上げられた。

 

 

 

 

 

 炎の悪魔となった、カバルレによって、地下都市は火炎地獄へと召喚されたとしか思えない有様になったのであった・・。

 

 

 

 

 

 




カバルレ!!しつこい!!

そうか、ドレーナの”魂”以外を開放しても、一番強いドレーナだけでもそれなりに力を発揮するのか!
面倒だな!!おい!!



………しかし、それも明日で終わりだぜ!!明日には必ず決着をつけてやる!!


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カバルレとの決戦(Ninth)

さて~~!! カバルレが~~倒れる~~場面を~~拝むときが~~きた!!




 

 

 『”ワタシノオソロシサヲアジワラセテアゲヨウデハナイカッ!!”』

 

 

 

 ROSEに殺気を放ち、哂う仕草は既に人間に非ず…。

 

 

 ドレーナの能力を全て取り込み、身体に宿したカバルレは、ドレーナと戦った際の困難を虐げられた。

 いや、それ以上か。ドレーナは結局手加減している部分があった。実際にドレーナと戦ったのは、暁彰だけ。その暁彰も互いにお手並み拝見といったところだ。

 

 本気で戦ったら、厄介な事は目に見えていた。

 

 そしてその予想は早くも的中した。

 

 宙を飛んでいたカバルレが突然目の前から姿を消したと思ったら、次の瞬間、ワイズさんのすぐ隣にいて、ワイズさんと近くにいたhuka、ホムラを続けて殴りつけた。炎を身に纏ったカバルレの拳は、破壊力が抜群で、殴られると同時に業火の炎も受けるので、ダメージは倍増だ。拳は、殴られても立って、反撃できるくらいの威力でしかないが、追加効果で来る炎の威力は桁違いだ。

 

 その結果、業火を受けて三人は、吹き飛ばされ、酷い火傷を負い、倒れる。

 

 

 「ワイズさん!!huka!!ホムラ!! 」

 

 

 「何!!今の動き、見えなかった!!」

 

 

 「巨大化した時の動きも素早かったけど、今の方が断然速いよ!!」

 

 

 「目で負えないとなると…、暁彰たちに頼るしかない…」

 

 

 

 

 

 ドオオオオオォォォォンンンン!!!!

 

 

 

 

 

 くろちゃんがタツヤ族の暁彰、ミナホ、tokoに『精霊の眼』でのサポートをお願いしようとしたその時、それを防ぐためか、カバルレが突進し、暁彰たちを炎で具現化した剣で斬り付けた。斬り付けられた三人の斬り口には、炎がまだ燃え滾っていた。

 

 

 「暁彰~~!!ミナっち!!toko!!」

 

 

 「くっ!!…このままじゃみんな、やられてしまうにゃ!!」

 

 

 慌てだすくろちゃんとちゃにゃんは、まだ立っている仲間達を終結させて、互いに背中を合わせる形で円を作る。どの方角からきても、対応できるようにするためだ。

 

 幸い、倒されたみんなは魔法師が無意識に展開している自身への情報強化の防御によって、致命傷は追わずに済んだ。しかし、すぐには復帰は不可能で、しばらく倒れているフリをして、回復を待つとこっそり通信が送られてきて、くろちゃん達はひとまず安堵する。

 

 

 「それにしても、カバルレの体力や身体能力はそれほど特化してはいないけど、ドレーナの能力を自在に扱っているからか、厄介なのは変わらないね。」

 

 

 「厄介で済ませるレベルならいいけどね。」

 

 

 「でも、少しはカバルレの動きにも慣れては、来たけど、さ!!

  これは状況的に不利だと思う!!」

 

 

 「何で?」

 

 

 「多分、支配していた”魂”が解放された事で、その分、ドレーナの”魂”をコントロールしやすくなったんじゃないかな?

  だから、ドレーナの本来の力も引き出す事が出来る訳だし、それをカバルレ自身の腕っ節の弱さを補って余りあっているんだよ。」

 

 

 「…だから?」

 

 

 「……え~~と、つまり私達が戦っているのは、ドレーナだと思った方がいいって事。より正確には、たかが外れたドレーナとの戦いかな?全力で向かってこられたら、さすがに私達でも、勝率は低いと思う。」

 

 

 今まで説明してくれていた御神が、冷や汗を掻きながら、嫌な予感が当たりませんようにと祈るような顔でため息を吐く。

 

 それを見て、サガットが何かを理解できたみたいに、みんなに聞こえるように口を開く。

 

 

 「…なるほど。つまり御神が言いたいのは、カバルレがドレーナの能力を使って、とんでもない魔法を繰り出すのではないかと思っている訳だ。

  それもかなり高い確率で起こるとも考えている。」

 

 

 「ギクッ!!」

 

 

 「とんでもない魔法って?」

 

 

 るーじゅちゃんが不安そうな声をして、恐る恐る問いかける。それを、サガットは深呼吸して、自分なりの答えを告げた。

 

 

 「……『マテリアル・バースト』」

 

 

 それを聞いた瞬間、今まで失念していたと驚愕と共に思い、対策を練らねばと慌てだす。リテラとオドリーはそんなみんなの様子を訝しく思い、質問してみる事にした。

 

 

 「あの、何ですか?その『マテリアル・バースト』とは?」

 

 

 「その魔法は私でも知りませんよ。」

 

 

 「…ああ、『マテリアル・バースト』はまたは質量爆散と言って…、詳しくは言えないけど、タツヤ族の遺伝的な魔法で、使えるのは、タツヤ族のみの珍しい魔法なんだ。」

 

 

 「その魔法は強力すぎて、一般的に使用はできないくらいの威力を発揮するんだよ。」

 

 

 「この地下都市が軽く吹っ飛んで、地上に激しい地震が起きるくらいには…。」

 

 

 「そして、カバルレに取り込まれたドレーナは、タツヤ族…。

  十分に『マテリアル・バースト』を使える筈。なら、それをあの外道が使わない筈がない。…使えるなら。」

 

 

 説明を終えたROSEの言葉に、リテラとオドリーがつばを飲み込んだまさにその時、今まで、ROSEの周りを高速で飛び回り、飛び蹴りやらしていたカバルレが上空へと急上昇し、ずっとROSEを見つめてくる。しばらくすると、ニヤッと笑ったかと思ったら、右手をてっぽの形にして、ROSEに向けてきた。

 

 

 「あっ…、まずい」

 

 

 「殺る気だ~~…。」

 

 

 「…『マテリアル・バースト』」

 

 

 顰め面で一言ずつ言葉を発したくろちゃん、ペンダゴン、火龍人達の唸り声をBGMに、ROSEだけでなく、リテラも、オドリーも、避難していた警魔隊や奴隷達もカバルレを見て、呆気にとられてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「「「「「「…………………まじかあああああぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 カバルレ以外のこの地下都市にいる人間全員が見事なハモりでこの危機的状況に突っ込みを入れるのだった。

 

 

 

 

 




今日で最後にしようと思ったけど、きりがいいように、明日の10回目で終わらせることにしました!!

なかなか終わらなくてごめんね~~!!


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魔物カバルレとの決戦(Final)

カバルレ~~!!これが眼に入らぬか~~~!!

「ハハハ~~~~~~!!!」

土下座するカバルレ~~!!
魅せられた紋章はROSEのギルドの紋章!!ついにこの時が~~!!!





 

 

 『”コレデオワリダアァァ!!!”』

 

 

 カバルレが魔法式を読み込んでいく。

 

 

 「どうしよう!! このままじゃ私達は仲良く燃え滓になっちゃうよ~~!!(泣)」

 

 

 「いえ、滓が残るかも疑わしいよ。完全に消滅させられたりして…。」

 

 

 「キャ~~~~!!それは嫌~~~!!せめて名誉の死に様を伝えてもらうためにも、身体は残しておきたいよ~~!!」

 

 

 「ちょっと!!何、やられる前提で話が進んでいるの!!?」

 

 

 るーじゅちゃん、ペンダゴン、し~ちゃんが抱き着き合いながら、近い将来を予想し、嘆くが、御神が想像をストップさせる。

 

 

 

 「まだ終わってないぜ!! ……何か方法があるは…」

 

 

 

 

 

 シュッ……バリ~~~~~ン!!!

 

 

 

 

 ホームズが頭を捻って、試行錯誤する横で何かが風を切っていきながら、カバルレの元へと飛んで行った。

 そして、それは展開中の『マテリアル・バースト』の魔法式を吹き飛ばした。

 

 

 「…はぁ~、あれは『術式解体(グラム・デモリッション)』…。」

 

 

 『再成』で復活した暁彰が披露しきった顔で今のを目撃し、独り言をつぶやく。それを聞き逃さなかったホームズは、圧縮した相子弾が放たれた方向に目を向けると、そこには、右手を天に翳しているショウリンの姿があった。

 

 

 「そうか…! さっきのはショウリンの『術式解体』だったのか!」

 

 

 「偉いよ!!ショウリン!!」

 

 

 まだ幼いことが影響したかはわからないが、カバルレの攻撃から逃れたショウリンはタツヤ族。しかもドレーナの息子だ。

 何かしらの対策はとれるはず…!!

 

 

 「!!そうだ!! ショウリン、ドレーナに…、ママに接触できそう?何とかしてドレーナの”魂”に話しかけてみるとかして…」

 

 

 「…ダメだと思う。さっきからママの霊子を眼で視ているけど、全然カバルレと離れる素振りもないし、ずっと眠っている感じ。

  あの相子弾もママに伝わるかなって、撃ってみたけど、カバルレに吸い込まれただけだった…。」

 

 

 「そっか…。じゃ、『マテリアル・バースト』を止める術は…。」

 

 

 「くろちゃん、ショウリンに『マテリアル・バースト』が発動されたと同時に、こちら側も『マテリアル・バースト』して相殺すればいいんじゃない!?」

 

 

 「だめだ、それは。還って被害が大きくなる。」

 

 

 相殺案を出した御神の提案をすぐに却下したのは、ホームズだった。

 

 

 「相殺すると言っても、この地下では、衝撃を吸収できないし、逆に倍以上の威力を発揮する事になる。それにその『マテリアル・バースト』を発動するのは、他でもないショウリン自身だぜ? 不安定なままで発動できるほど戦略級魔法を甘く見ない方がいい…。」

 

 

 深刻な声色で語るホームズにROSEのみんなは黙りこくる。

 

 

 そんな中、一人だけ目を瞑り、手を合わせ始める…。

 

 

 「いったいどうすればいいの…? もう私達の相子もさっきのでほとんど使い尽くしちゃったよ…。」

 

 

 hukaの悔しそうに唇を噛み締め、掌を強く握る姿に言葉が詰まるROSE。

 

 先ほどのカバルレへの攻撃で渾身の一撃とも言える力をぶつけた。しかし、まさかの復活でそれは霧散した。

 

 

 そして今は、『マテリアル・バースト』の危機が訪れようとしていた。

 

 

 

 『”……モウセイコンツキタラシイナ!! ナラ!!コレデサイゴトシヨウ!!”』

 

 

 

 

 

 再び『マテリアル・バースト』を発動するために、展開していくカバルレ。しかし、今回は、ショウリンも『術式解体』する相子が尽きてしまい、無効化ができない。

 

 高笑いで見下ろし、勝利の笑みを浮かべるカバルレがついに戦略級魔法『マテリアル・バースト』を発動する…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ROSEのみんなは、最期の瞬間を感じ、せめてみんなと共に…と、全員で手を繋いで、心の一つにしてその時を受け入れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズトオオオオ~~~~~~~~~~ンンンン!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物凄い爆発音と熱風が襲い掛かる。

 

 

 

 身を焦がすかのような暑さが肌に感じる…。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 沈黙が続く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………あれ? 」

 

 

 「…………生きているにゃ?」

 

 

 

 閉じていた瞼をゆっくり開け、自分が生きている事を徐々に実感していく。

 

 全身を見渡して異常がないか確認していく。

 

 

 「…どうして生きているんだ?」

 

 

 「私たち…、確かに物凄い熱さを感じたのに。」

 

 

 身体に感じた熔ける感覚ははっきりと覚えている。しかし、まったく皮膚が焼けて破れているとか、骨だけになっているとかではない。それどころか火傷一つもないのだ。

 

 不思議に思いながら、辺りを見渡し、そこが自分達がさっきまでいた現世と変わらない事を認識する。

 そこで自分達がまだ現世にいるのだと地面に足がついていると理解した。すると、なぜか上空から呻き声が聞こえてきて、顔を上げる。

 

 

 そこには、とんでもない光景があった。

 

 

 

 

 なんと自分達とカバルレとの間に大きな炎の不死鳥の姿があり、地下都市の上空に開いた大きな穴から朝日が入り込み、その朝日が不死鳥に輝きをもたらす。

 

 

 そして、その不死鳥が威嚇する先には、…炎の剣で胸を突かれているカバルレの姿があった。

 炎の剣を抜こうと腕に力を入れ、引っ張るが一向に抜ける気配がない…。

 

 

 「これは一体…?」

 

 

 くろちゃんが呆気にとられて、ぼそりと呟く。

 他のみんなも同様に、状況に理解が追い付けない。

 

 

 

 茫然自失になっていると、カバルレの炎の身体から背後に大きく炎が立体を作りだす。その姿は、ROSEも知っている、既に仲間だと思っている人物……。

 

 

 

 

 

 「………っママ~~~~~!!!」

 

 

 

 そう、ショウリンが叫んだとおり、その姿はドレーナだった。

 

 

 炎で立体になったドレーナは、愛おしそうに優しい笑顔でショウリンを見つめた後、真剣で目を鋭くし、闘いの顔になる。そして、ROSEに語りかける。

 

 

 『また逢えてよかったわ。ショウリンの相子弾のお蔭で、私は目を覚ます事が出来たのよ。』

 

 

 それを聞いて、全員がカバルレの魔法式を吹き飛ばしたあの相子弾を思い出した。

 ショウリンの願いがドレーナの”魂”を呼び起こしたのだ!!

 

 

 『でも…、あまり時間がないわ。 今はこの馬鹿を抑えるだけで精一杯なの…。

  …本当はこの馬鹿が私を吸収し、私だけに力を求めたその時…!

  道ずれに私の”魂”ごと消滅させるつもりだったのだけど…、それまでにかなりの魔力を使われちゃって…、それは叶わなくなっちゃったわね。』

 

 

 「…自分も消滅するという事は、”魂”が天に帰らないという事だぞ!?」

 

 

 暁彰がドレーナの”魂”に話しかける。その言葉に他のみんなも強く頷く。

 

 

 『…それが私の”償い”なの。私が今まで人を数えきれないくらいに殺してきたわ…、いえ、消してきたと言った方がいいかしら?人として”死”を与えるのではなく、生きていたという証も残す事なく、”存在”ごと消してきた私のは、天国に行く道は今更似合わないわよ。

  それに”魂”が導かれるのは、地獄の方でしょ。それなら、”魂”ごと消滅した方がいいわ。』

 

 

 「そんな寂しい事を言うな…。仲間が安らかに眠ってほしいと思う気持ちも抱いてはいけないのか?」

 

 

 『……その気持ちを持ってもらえるだけで嬉しい…と思うわ。私には感情というものがあまりないけど、温かみが感じられたわ。それだけで私には十分よ。

  私の最期は、私が決めるわ。それくらいの”自由”はいいでしょ?』

 

 

 そう微笑むドレーナは、辛そうでいて、縋っているような表情だった。

 

 

 それを見て、みんなは…ショウリンも含めて、もう反論はしなかった。その代わりに一言…。

 

 

 「大丈夫…、ドレーナが消滅したとしても、私達の中から消えはしないから!!」

 

 

 代表でくろちゃんがそう告げながら、涙をこぼす。

 

 

 

 『……ありがとう。』

 

 

 ドレーナが礼を言うと、再び闘いの表情になり、炎の腕をカバルレの首に持っていき、絞めながら攻略法を語る。

 

 

 『いいかしら!?

  今、私がこの剣でこの馬鹿の中核ともいえる場所を刺しているわ…。後、私が身体のコントロールも支配しているけど、長くはもたない…。

  だから、その間に私もろとも、この剣が胸に目掛けて最大魔法を撃ち込んで頂戴!!

 

  そうすれば、カバルレが原形を留める事が出来ないようになるわ!! その後、私が馬鹿の”魂”を分解する…!!』

 

 

 

 「…分かった!!」

 

 

 

 ドレーナの強い願いにくろちゃんが承諾し、CADに手を翳す。しかし、その手をちゃにゃんが掴み、止める。

 

 

 「ちょっとまってにゃ!! もう私達に力は残っていないにゃ!!

  このままでは、カバルレを倒す事は難しいにゃ!!」

 

 

 「あっ……!!」

 

 

 

 そうだったと呟き、肩を落とす。全員で力を合わせても、それほどダメージは与えられないだろう。

 

 

 困り果てたROSEにリテラが声を掛ける。

 

 

 「…大丈夫です!! そのために私がいます!!」

 

 

 

 

 リテラにみんなが視線を向けると、リテラがまた純白な光を放出し、神がいるのかと思った。

 

 

 

 「私の魔法で、皆さんに力を与えます…。みんなで一つに…。」

 

 

 

 そう告げたリテラから光が解き放たれ、ROSEのみんなやオドリーにその光が宿る。温かくて、包み込んでくる光のお蔭でみるみる力が湧いてくる…!!

 

 

 

 「これなら…!!」

 

 

 拳を握りしめ、自分達の力が一気に沸き起こる感覚を意識し、くろちゃんが大声でみんなに叫ぶ。

 

 

 

 

 

 「心を一つに…!!!!! 」

 

 

 

 

 

 

 みんなが手を繋ぎ、魔力を高め、みんなの力を結集させていく。

 

 

 みんなの頭上に大きな相子の塊がどんどんみんなの力を吸収し、更に大きくなっていく。

 

 

 そして、その相子の大きな塊が輝きを放ち、相子の花が今、咲き開く。

 

 

 

 

 

 綺麗に咲いた薔薇が朝日を浴びて、更なる力を溜め込む。

 

 

 

 

 

 

 

 そして………!!!

 

 

 

 

 「くらえ~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「「「「「「ROSE究極奥義『ローズ・グリッター・バースト』!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなで叫び、ついに相子の薔薇がその力を解放する…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薔薇の棘でカバルレを捕え、物凄い光のレーザーがカバルレに迫る。

 

 

 

 

 『”ヤメロ~~~~~~~~~~~~~!!!!!”』

 

 

 

 

 カバルレの悲鳴と同時に、カバルレに純白のレーザーが炸裂する。

 

 

 身を焼き尽くされながらも、消滅していきながらも…、カバルレは自分の負けを認めない。

 

 

 『”オレガマケルカーーーーッ!!!!!キサマラカトウセイブツナンカニマケルオレデハナーーーイ!!!!!

  ゼッタイニユルサンゾオオオォォォ………!!!!!”』

 

 

 

 

 そう、最後まで恨み事を口にして、身体が消滅した。

 

 

 

 

 

 そして、炎に包まれた”魂”二つが打ち上げられ、花火のように無残に散ったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 




やったああ~~~~!!!

カバルレついに倒れた~~~!!

この日をどれだけ待った事かああ~~~!!


でも、ドレーナがカバルレを冥界へとに連れて行ったな…。うう!!

ドレーナはカバルレをこの手で仕留めたがっていたから、その願いは叶えられてよかったけど、辛いよね…。うおおお~~~~~んん!!!


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決戦後の朝日

ようやく長い戦いが終わりました~~!!



 

 

 

 

 空高く舞いあがった命の炎が散り、火花が戦場となった地下都市に降ってくる。

 

 地下都市の大きく開いた天井から夜が明け、新鮮な朝日がどんどん強く差しこんでくる。その光を浴び、火花があの時、ROSEを守ってくれていた不死鳥のように輝きを放ちながら、落ちてきた。

 

 

 その火花がまるで雪のように降ってきて、ROSEのみんなは、天井をずっと見つめ続けながら、涙を流す。

 

 

 「……今度こそ、何もかも終わったんだね…。」

 

 

 「………勝ったんだよね?」

 

 

 「…ああ、もうカバルレの相子も確認できない。…消滅した。」

 

 

 「……そっかぁ~。」

 

 

 しんみりと勝利を噛み締めるROSE達は、長い戦いの終結に安堵するとともに、やりきれない思いを抱えて、ただ涙を流す。

 

 それに対照的に闘いから避難していた人たちが歓声をあげて、互いに抱き合ったり、肩を組んだりして、喜び合った。

 奴隷達は、ようやく自由になった事で心からの嬉しさを表し、感動に浸った。警魔隊は行方不明者のリストと照らし合わせながら確認したり、残党たちを拘束し、身柄を留置所に拘留するために早速仕事に取り組んでいた。

 

 周りが騒がしく動き出し始めても、ROSE達は未だに動きを見せない。

 

 ずっと火花が降ってくる情景を目にして、思いを馳せていた。

 

 

 「……ドレーナ。」

 

 

 彼女の最期を見て、どうにも心から喜べそうにないのだ。

 

 

 

 

 ”何がを得るには、何がを犠牲にしなければいけない”

 

 

 

 以前、暴走しかけていたリテラをホームズが自重するように忠告する時も話した事だ。

 それが、こんな結果となるとはあの時は考えてもいなかった。

 

 仲間が実際に目の前で消滅するのを、ただ見ているだけしかできなかった。

 

 

 それが悔しい…。

 

 

 これがドレーナの望みであっても、苦しいものだ。

 

 

 やりきれない思いで、涙が止まらず、終いには、号泣してくるROSE達。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなROSEの耳に、聞き覚えのある、今最も聞きたい声が聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ”悲しくなんかないわ…。”

 

 

 

 

 

 「え…?」

 

 

 「今の声…、みんな、聞いた…!?」

 

 

 「うん…!!私にも聞こえたよ!!」

 

 

 「ううぅぅ……、ママの…、声だぁ~~!!」

 

 

 突如耳に直接聞こえてきたドレーナの声に、辺りをきょろきょろして、姿を探す。しかし、ドレーナの姿がどこにも見られない。

 

 姿なきドレーナの声がまた聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”私はいつもあなた達…、ROSEの傍にいるわ…。

 

  だから、寂しくもない。

 

  …ありがとう。”

 

 

 

 

 

 みんなはふと、顔を上げる。

 

 

 

 すると、降ってくる火花がみんなの身体や肌に当たる。

 

 

 しかし、熱いとかは感じなかった。

 

 

 

 ……なんだか安心するくらいに、…温かい。

 

 

 

 

 優しさの中に包まれているような……

 

 

 

 

 

 

 「まったく…、本当に…、君は凄いよ。」

 

 

 ぼそりと呟いた暁彰は、火花を手に取り、その手をずっと見つめながら、微笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 そして降ってきた火花がROSEのみんなの身体に刻まれているギルド紋章に触れると同時に、炎が沸き起こり、大きな翼が羽ばたく。

 

 

 その炎の翼がみんなの体内に吸い込まれるように、小さくなっていき、最後に炎の薔薇を咲かせてから、消えた…。

 

 

 御神やサガットが紋章に触れ、炎のように熱く燃えていて、すっかり馴染んでいるのを、ひしひしと感じた。

 

 

 

 「ママが…、ここにいる…。」

 

 

 ショウリンが涙を浮かべながら、自分の身体にも刻まれたROSEの紋章に視線を向け、笑っていた。

 

 

 

 次第に、みんなの顔に笑顔が現れ始め、肩を組んだり、互いに顔を見合わせ、笑ったりと”カバルレ・サマダ大サーカス”との戦いの勝利を徐々に実感していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなみんなの姿を少し離れた場所から見守っていたくろちゃんとちゃにゃんは、地下都市の大きな穴が開いた天井を見上げ、天井に向かって、手を伸ばす。

 

 

 天井からどんどん朝日が漏れ出し、鳥の囀る鳴き声がここまで聞こえてくる。

 

 

 朝日と共に、澄み切った綺麗な青い空が覗かせ、二人は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「……いい朝だにゃ~…。」

 

 

 「うん…、忘れられない…、良い空をした朝だね…!」

 

 

 

 

 微笑ましく天高く伸ばした手で眩しい朝日を少し遮りながらも、見つめる青い空に、綺麗で大きな虹がかかっていたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とうとうカバルレ・サマダ大サーカス団との戦いが終わりました…!!

まさかここまで話を盛るとは思わなかった。(自分でしたんでしょうが~~!!)はい、ごめんなさい!!

でも、書いていて楽しかったので、満足だ~~。

この後は、後日談を投稿していき、一旦話を切って、いよいよ原作キャラを起用した話を持っていきたいと思います!!



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後日談壱ノ魔書★ 剣崎兵庫のヘムタイ行動

後日談に突入!!

さぁ!!ROSEよ、思う存分暴れてみるがいい!!


 

 

 

 カバルレの曲芸団を事実上、壊滅させたニュースは翌日、大きく報じられ、帝国中に広がった。

 

 あの有名で人気が白熱していた”カバルレ・サマダ大サーカス”が、実は闇社会に手を染め、失踪していた魔法師達が奴隷や実験体として、虐げられていた事が判明したという。

 そのカバルレを倒したのが、帝国でも名が通る魔法師ギルド”ROSE~薔薇の妖精~”で、一つのギルドがたった一夜で事件を解決した。

 

 

 新聞でも取り上げられ、瞬く間にROSEの名とこの事件は帝国の人々の持ちネタになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 今では帝都で知らない人はいない、ROSEのメンバーである剣崎兵庫は穏やかな日常から一変し、サインを強請る人たちから今まさに、逃げている途中だ。

 

 そして何とか路地裏に逃げ込み、撒いた。

 

 

 「ニュルフフフフフフ……、オラを捕まえるのは、そう簡単じゃないのさ……!!ゼェ~…。」

 

 

 誰も見ていないのに、流し目する新たなヘムタイの剣崎兵庫は、静まりがえる路地裏でいじける。

 

 

 (リダ…、くろちゃん…!!)

 

 

 しゃがみこんで、落ち込みながら、ROSEのリーダー、くろちゃんの事で頭いっぱいに考える。

 

 恋の病に罹っている……。

 

 訳ではなくて、単にヘムタイ仲間で、師匠でもあるくろちゃんがいないので、寂しがっているだけなのだ。

 

 

 「リダは、血盟騎士団へ神の領域をめざし、修行に出ている。」

 

 

 はい…、剣崎兵庫から詳しい説明があったけど、違うからね?

 

 

 くろちゃんは、ちゃにゃん、にょきにょきと、三姉妹(ROSEではそう通っている仲良し)で帝都に出掛けているだけである。

 

 

 後を追い掛けて、探してみたが、見つけられずにいる所を、ROSEファンに囲まれて逃げて、今の状況という訳だ。

 

 

 再び、街をうろつき、くろちゃんを探す。

 

 

 「リダ不在…我々ローズ……  我らが神よ!殲滅させてたも!(-人ー)

  オラのようなへぇムぅタイは不要さ! ポイ(’▿‘)/ イラン 」

 

 

 とうとう人格崩壊…(ROSE内で繰り広げているヘムタイ発言)が勃発したその時、剣崎兵庫はくろちゃんの姿を目撃する!

 

 くろちゃん達は、巷で有名な喫茶店でバイキングを楽しんでいた。

 

 窓からくろちゃんを発見した剣崎兵庫はすぐさま、くろちゃん達の元へと馳せ参じる。

 

 

 「さ~~て!! 三人でバイキング中。今からデザートタイム(((。(*°▽°*)。)))」

 

 

 「じぇ…じぇ…じぇ…(;°Π°) 仕方なし…擦れば、召し上がれ…!!!(ー人ー)チーン」

 

 

 「わぁっ!! 剣崎さん!!」

 

 

 「いきなり倒れないでにゃ!!」

 

 

 「…既にお皿に乗ってるね。」

 

 

 突然の剣崎兵庫の乱入で、くろちゃん達は驚く。しかし、その驚きは、登場してからの剣崎兵庫の行動にあった。

 

 テーブルに大型の白い皿を乗せて、その上に綺麗に横たわり、手を組んで召されていたからだ。

 

 

 「では、お言葉に甘えて…。剣崎さんのいちごソース添え、頂きます。笑」

 

 

 「「頂きます(にゃ)」」

 

 

 こうして、剣崎兵庫を食材としたいちごソース添えを美味しく味付けて、3人に一滴も残さずに召し上げられたとさ。

 

 

 

 

 そして…へぇムぅタイは天へ…  イママデ\(' ▽ ‘)/アリガト

 

 

 ナンマンダブ(ー人ー)チーン

 

 

 

 

 

 剣崎兵庫は魂が身体から(食べられてたんだった)飛び出し、天へと召されるところを…

 

 

 

 壁」」バシッ

 

 

 

 「どこ行くね~~ん!!」

 

 

 

 

 くろちゃんに壁ドンされて、ヘムタイ魂が騒いだのか、萌えた剣ちゃんは天国行きをキャンセルしましたとさ。

 

 

 

 うう…うえ~~~~ん!!

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 ほっ!(>Ο<)

 

 

 

 

 

 

 剣崎兵庫が天に召されずに済んだことで、ちゃにゃんもにょきにょきも安堵する。

 

 

 

 しかし、ほっとしたのもつかの間。

 

 

 壁バシッ!……ってされた事で、11階建てマンションに亀裂が入り、崩れ落ちた!!

 

 

 その瓦礫にみんな、埋もれたけど何とか助かったぁ~~!! \(^▽^)/ヨカタ

 

 

 

 でも、このマンションは壁バシッ!!をされただけで崩れ落ちるほどの軟な造りではなかったはずなのだ。

 警魔隊が駆けつけ、大幅に設計を詳しく調べてみた結果、設計上に問題がある事を分かった。

 

 マンションが崩れた事で、その設計者を警魔隊が逮捕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………剣崎兵庫を。

 

 

 

 

 

 

 

 「違法建築家…  アハ\(´▿`)/ツカマッチマッタ」

 

 

 捕まってしまった剣崎兵庫は連行されているというのに、なぜか笑っていた。

 

 

 

 「しかぁし……

 

 

 

 

 

 

  170満パワでこのチカラ…しかもオナゴとは……」

 

 

 

 

 くろちゃんの凄まじいパワーに驚愕し、笑っていたのだ。

 

 

 

 (いやいやいや…!! 設計に問題あったから、壊れたんでしょうが!!)

 

 

 

 でも、悪気は全くないようで…。

 

 

 

 

 

 ガシャン…。

 

 

 

 

 

 剣崎兵庫の手首に掛けられていた手錠が外れており、逃亡を図った。

 

 

 

 

 「オ、オラ…地球へけぇるぞっ!((((;°Π°)))) この星はヤバい!!」

 

 

 

 

 

 猛突進で、警魔隊の追跡から逃れ、UFOに乗って、空へと消えていったのであった。

 

 

 

 

 

 キラ――――――――ン!!

 

 

 

 

 

 その姿をずっと傍から見ていたくろちゃん達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「地球じゃなかったんか―――――――い!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんの見事なツッコミが帝都中に拡散したのであった。

 

 

 めでたしめでたし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………という内容の寸劇を、ROSEのギルドハウスのステージで披露していた。

 

 

 

 

 歓声が沸き起こる中、ミナホは飲んでいたカルピスを思わず吹き出し、笑った。

 大きな拍手が響き、ROSEのみんなの笑いを誘った。

 くろちゃん達は一礼し、互いに微笑みあう。

 

 

 

 「面白くなるのは…リダくろちゃん!のオチカラだすぅ~! スゴイ」

 

 

 

 寸劇が終わり、剣崎兵庫も拍手しながら、くろちゃんを褒める。

 

 

 

 

 CER●(°-°)●REC

 

 

 

 そんなくろちゃん達をカメラで録画するホームズがじ~~~っと構えてみていた。

 

 

 

 それを視界に入れたくろちゃんは、ニヤッと笑う。

 

 

 「タブルか…。やりおる」

 

 

 とホームズが見せた録画テクになぜか感心するくろちゃんだった。

 

 

 

 

 

 一方、剣崎兵庫はどうやって手錠を外したのか、しきりにみんなに質問責めされていた。手錠は警魔隊でも使用されている本物。ホームズがレストレード警部から借りてきたのだ。

 

 なかなか抜けない筈なのに、あっさりと外した剣崎兵庫に注目するのも無理はない。

 

 

 「あははははは…みんなは記憶にないだろうけどぉ(:^-^Α

  オラは威風堂々と変身したさ!

 

 

  ニュルフフフフ…していた事しか思い出せない!」

 

 

 

 そう言って、触手を見せてくる剣崎兵庫にちゃにゃんは、ぴくっと反応する。

 

 

 

 そう言えば、寸劇中…、何度かニュルフフフしたものがスカートの中に入り込んできていた事を思いだしたのだ。

 

 

 

 「あれは、剣崎さんの仕業だったのにゃ…!」

 

 

 「…ん!!違うさ!! そりゃカモフラージュさ! オラが触手を出している間、もう片方の触手はスタンバッているんだよ!」

 

 

 「どこに?」

 

 

 「夢のある所へさ…!ニュル(鼻血ちょろり)」

 

 

 にやけている剣崎兵庫の触手が本人の意思を尊重しているのか、ちゃにゃんのスカートの中に入り込む。

 

 

 「…分かったにゃ。 剣崎さん…、やっぱり寸劇と同じく、逮捕されておいでにゃ!!」

 

 

 

 警魔隊の駐屯所の方角を確認し、ちゃにゃんは剣崎兵庫に何かの紙を張りつけると、滅ヘムタイ奥義の鉄拳を繰り出し、空へと殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 「オミゴト~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 キラ――――――――ン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 空の星となった剣崎兵庫は、警魔隊の駐屯所に設けている牢屋にこれまた見事に頭から着地し、しばらく警魔隊にお世話になるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで本当のめでたし、めでたし!!

 

 

 

 

 

 

 




顔文字をキーボードで打つのが大変だったぜ!!

顔文字で変換しても、なかなかなくて、一つ一つ打っていった~~!!



でも、我ながら、面白くイケたと思うよ!!
番外編なみだね!!





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後日談弐ノ魔書★ イチゴパフェにご用心!?①

さてこちらも以前、チム板で繰り広げられてたもので…。

くろちゃんのちょっとした間違いから(狙っていたかもだけど)起きた話です。

ただし、こんな事があったな~~…という記憶だけで投稿するので、内容はほぼオリジナルだね。


 

 

 

 

 

 ここは、帝都では物凄い有名で行列のできる喫茶店……

 

 

 

 

 

 ではなく、その喫茶店の通りを挟んである向かいの喫茶店である。

 

 

 こっちの方はというと、華やかな向かいの喫茶店とは違い、寂れて外見は今には潰れそうな雰囲気があるが、内装はレトロな雰囲気で、落ち着く場所でもあるため、マニアや常連…には意外と評判のいい喫茶店だ。

 

 

 そして、ちょっと……いやかなり?…変わった喫茶店だ。

 

 

 そんな喫茶店の窓際の一席に、くろちゃんとちゃにゃん、にょきにょきが何を頼もうか真剣に考えていた。

 

 腕を組んで真剣に悩む三人の前には、水がはいったコップが三つだけある。

 

 

 「う~~ん。困ったね~~。」

 

 

 「何にしようかにゃ~~…。」

 

 

 「逆に迷うよね。ふ~~む…。」

 

 

 悩んでますオーラを醸し出して注文する品を考えている。

 

 

 しかし、ここは喫茶店だ。

 

 ふつうは、ここまで考えなくてもメニューをみれば済む話である。

 しかしその肝心のメニューがないのだ。女子ではお馴染みのメニューを見ながら、どれにするか話し合ってトークが栄える…なんて事もできない。

 

 

 初めて入ってきた客なら、「なんだこの店は! メニュー提供する気あるのか!?」…と突っ込みかもしれない。いや、突っ込みをするのが当たり前に繰り広げられている。

 

 実際にくろちゃん達の隣の席の客はそう言って喚いている。

 

 静・動と見事に分かれたこの空間の中、くろちゃんたちは困った顔で話し合う。

 

 

 「はぁ~…、だめだ~~!! 思いつかない!!

 

 

 「そうだよね、なかなかこれっ!!っていうものが思い浮かばない…。ちゃにゃんはどう?」

 

 

 「…そもそもこの店に入る前に決めておけば簡単だったはずだと思うにゃ。」

 

 

 「「は!!」」

 

 

 「………今更『そうか!!』という顔で、納得しなくてもいいのにゃ~。」

 

 

 「だって、久しぶりにマスターのデザート食べたくなったんだもん!」

 

 

 「それは同感だけど、せめて決めとかないとにゃ。急に『マスターのデザートが食べたい!!』っていうから、もう決まっていると思ってたにゃ~。」

 

 

 「マスターの出すものはすべて美味しいから!! 何言ってもいけそうじゃん!?」

 

 

 「…はぁ~、にょきにょきはもう決まっているのにゃ?こうなったら、にょきにょきの食べたいものを注文しようにゃ。

  にょきにょきは何を食べるにゃ?」

 

 

 「え? あ………、私はくろちゃんと同じものをお願いしようと思っていたから、考えてない。(*^_^*)」

 

 

 「………………にゃ?」

 

 

 二人とも、あんなに食べたいといっていたからてっきり、注文する者は決まっていると思っていたら、まさかの二人ともノープラン…。

 

 

 思わず絶句するちゃにゃん。

 

 

 

 溜息もこぼれる。

 

 

 

 

 注文するだけに軽く一時間は経過している。ちゃにゃんとしては、何とかこのスパイラルを抜け出したかった。

 

 

 そもそもこんなことになっているのは、他ならないこの喫茶店の仕組みだ。

 

 

 この喫茶店では、メニューがない。

 

 

 それは、客が頼んだものは何でも出してくれるからだ!!

 

 

 くろちゃんたちをはじめ、常連からは『四次元喫茶』と呼ばれている。

 

 

 …まぁ、それは置いといて。

 

 

 客が注文したものなら、なんでも用意して、テーブルに持ってきてくれるので、メニュー自体が必要ないのだ。

 これが、この喫茶店の魅力の一つでもある。…だから、あまり文句も言えない。なんだって、何でも出してくる料理やデザートはすべて絶品を感じさせるほどの美味さだからだ。

 

 

 これで理解できただろう。

 

 

 くろちゃん達は、この『なんでも注文していい』という逆に難しい選択で、困っていたのだった。

 

 

 「この前は、ステーキを食べたし…。」

 

 

 「その前は、ジューシーハンバーガーだったね…。」

 

 

 「「う~~~ん…。」」

 

 

 「もういい? 私は、『ホワイトチョコケーキ猫風』にするから。二人もするにゃ?」

 

 

 「「それじゃ面白くないのにゃ!!」」

 

 

 ちゃにゃんの「にゃ」がうつってしまいながらも、二人のハモりがよく、ちゃにゃんは勢いに押された。

 

 

 「それもいいけど、もっとインパクトが欲しいんだよ!!」

 

 

 「そうそう!! もうマスターにしか作れない究極のデザートを作ってもらいたいの!!」

 

 

 どうやら二人は物凄いものを頼みたいらしい。

 

 それで、かなり考え込んでいたのだ。

 

 

 「…ふぅ~、わかったにゃ。それじゃあ後…、3分で決めちゃって♡」

 

 

 「「ええええええ~~~~!!!あと3分で!!」

 

 

 「はい…、2…、3…、4…、5…」

 

 

 「…って!!もうカウントダウン始まってるし~~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「3分クッキングか~~~~~い!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えええ~~~と…!!」

 

 

 

 

 

 くろちゃんらしい突っ込みを繰り広げながら、必死に考えるがどれも普通にどの店でも食べられるものばかりが頭に浮かぶ。

 

 

 にょきにょきが慌てて店内を走り回って考える中、くろちゃんは窓から見える外の様子を眺めていた。

 

 

 

 

 そこで、あるものを目撃してしまい、くろちゃんは、今まで悩んでいたのがウソみたいにイメージが出来上がった。

 

 

 

 

 ちゃにゃんは時計を見て、3分になったので、マスターを呼ぶ。

 

 

 注文を受けるためにマスターがくろちゃんたちの元へやってくる。

 

 

 既に顔なじみだからマスターに無理難題の注文を言える間柄だ。(どんな仲だよ!!?)

 

 

 

 

 

 

 

 そして、注文を窺うマスターにくろちゃんが窓の外を見つめながら、注文する。

 

 

 

 

 

 その注文するものは、今までにない、絶対にありえないものだった!!

 

 

 

 

 

 




くろちゃん、いったい何を注文する気だ~!?
まぁ、ネタバレもほんのりしてますけど…。

でも、絶対に知ったら、呆れるか、爆笑に間違いないね!!


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後日談弐ノ魔書★ イチゴパフェにご用心!?②

だめだ…!! 書く前から、笑いが止まらんし、突っ込んでしまう!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんがとんでもないものを注文する少し前に遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然取りつかれたように窓の外をじっと見て、口を開けたまま固まったくろちゃんをちゃにゃんとにょきにょきは首をかしげる。

 

 

 そして次の瞬間、見慣れているのは見慣れているけど、できれば見たくない顔がちゃにゃんの目に入ってきた。

 

 

 …………鼻の下を伸ばして、鼻血を出しているくろちゃんのヘムタイ顔を。

 

 

 それを見て、ちゃにゃんは白目をむいて冷たい視線を向ける。

 

 にょきにょきは目を輝かせて、なぜか憧れの視線を向ける。

 

 

 

 ちゃにゃんはくろちゃんの見ているものが気になり、窓の外に今度は視線を向けた。

 すると、くろちゃんがヘムタイ顔になった理由がわかった。

 

 いや、この場合はその理由を目撃したというべきか…?

 

 

 

 その目撃したものとは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性の………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンツだ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 向かいの喫茶店で行列を作る人の中に女性グループがいて、その女性グループが全員突風でワンピースの裾が捲れ、パンツ……が露わに公共の場で晒されていたのを、ばっちりと目撃してしまったのだ。

 

 

 しかも連続的に起きている。

 

 

 これを見て、ちゃにゃんはくろちゃんが窓に釘付けになっている理由が分かった。

 

 

 (ああ…、パンツに萌えていたんだにゃ…。)

 

 

 「………相変わらずのヘムタイぶりだにゃ。」

 

 

 「それはどうもありがとう!! ふふふふふ♥ 吾輩はヘムタイである……からね!!」

 

 

 「…褒めてないにゃ!!」

 

 

 二人の間で漫才らしき会話が繰り広げられている。

 

 しかし視線だけはまだ『風の悪戯』を堪能していた。にょきにょきと一緒に。

 

 

 

 いまだに食い入るようにして見ている二人に、いい加減腹が立ってきたが、それ以前に女性グループたちにも腹が立ち、喝を入れてこようと思ったちゃにゃん。

 

 

 普通、突風が吹いてスカートやワンピースが捲れるなんて事はあるが、それにしてもあんなに連続的にパンチラする事はあり得ない。

 

 しかも、パンチラが起きる時は、決まって異性や馬車が通りかかる時だ。 

 

 

 (絶対に狙ってやっているにゃ!! こっちはヘムタイ二人を止めるのに尽力しているというのに、あの、透かしたような顔でヘムタイ魂をわき起こさせる行為…。

  その尻を…、一発ずつ蹴り上げたいにゃっ!!)

 

 

 

 余計なヘムタイ掃除をする事になったちゃにゃんは、その元凶である彼女達を警あげて、空の星となる妄想を描きながら、指を鳴らす。

 

 ちなみに、くろちゃんとにょきにょきは制裁済だ。

 

 

 二人は仲良く、頭にたんこぶの山を作って、テーブルに身体を乗り出し、気絶していた。

 

 

 ヘムタイが気絶している間に…、とちゃにゃんが席を立ったその時、奥からマスターが寄ってきた。

 

 

 「おや、ちゃにゃん。どうしたのかな?そんな怖い顔しては、せっかくの可愛い顔が可愛そうだよ…?

  それにもう帰るのかい?まだ注文してくれていないじゃないか。何か食べていきなさい。ほら二人も……………、ん? 二人ともどうしたんだい?

 

 

 

 

 

  そんなに頭を引き伸ばして………?」

 

 

 「あ、マスター、こんにちは。

  いえ、何でもないにゃ。この二人は……ほっておいて構わないから、気にしないでほしいにゃ。」

 

 

 「そうかい? 変わったイメチェンだけど…。そういう事にしておくよ。」

 

 

 「………ううううう…、マスタ~~~!! そこは、もっと突っ込んで…!

  …ごふぅぼぉ!!」

 

 

 「いたたたたたたたたた~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 

 目覚めた二人にすかさずちゃにゃんが笑顔で黙らせに掛かる。

 

 二人の頭にできたたんこぶを掴み、思い切り力を入れて、握りしめる。

 激痛で思わずたんこぶを撫でるが、山積みになったたんこぶの先を掴んでいるちゃにゃんの所までは届かず、たんこぶの付け根を擦り続けるしかない。

 …あまり効果はないが。

 

 そして最後の仕上げと言わんばかりに、二人のたんこぶの一つを一気に引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「「キャ~~~~~~~~~~~~!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の悲鳴が店内に響き渡り、他の客も顔を真っ青にして、地獄絵図を目撃し続ける。マスターはというと、仲がいい事だと思っているのか、にこにこと笑みを絶やさずにただ近くで見守るというある意味、放置プレイを見せた。

 

 

 二人は一気にたんこぶを抜かれた事による、激痛とたんこぶから火山が噴火したかのように溢れ出て放出している大量の出血で、身体を痙攣させていた。

 

 あと少しすれば、三途の川までたどり着けるだろう。

 

 

 ちゃにゃんの手には二人から取り上げたマリモのような大きさの血まみれのたんこぶが握られていた…。

 

 

 

 

 

 二人が死にかけの魚のように小刻みに震えているのを見ていたちゃにゃんは、悪役面ともいえる笑みを浮かべ、二人に一言……、残す。

 

 

 「ヘムタイ2名………、抹殺完了~~~♥!!」

 

 

 

 (((((ひひひいいいいいいいぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~!!!!!)))))

 

 

 

 

 事の行く末を見ていた他の客は、互いに身体を抱きしめ合いながら、目の前の恐怖に身体が強張っている。

 

 

 

 そんな客たちには、目を向けずに、ちゃにゃんはマスターに先程の行為がまるでなかったかのように笑顔で話しかける。

 

 

 

 「マスター、はい、これ!! いい奴が採れたんだよ~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、マスターの手に渡したのは、くろちゃんとにょきにょきのはぎ取ったたんこぶ……。

 

 

 

 

 

 

 

 (((収穫したての果物みたいに言うんじゃねぇ~~~~~~~~!!!!!))

 

 

 (いくらなんでも、あのマスターが受け取るはずがないって!!!)

 

 

 (出入り禁止になるぜ!!こりゃ!!)

 

 

 客たちが心の中で突っ込む。もし声に出していう者なら、二人のように消される…。と直感でそう思ったからだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、客たちの予想とは違うこの恐怖の結末が待っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほほぉ……、これはよく育てられた見事なものですな~~…。さすがちゃにゃん。いい実りを作りました。 

 

 

  最高によろしいプレゼントを頂きましたな。

 

 

  …ありがとう。」

 

 

 

 

 

 「「「「「えええええええええ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!

      嘘だろ~~~~~~~~~!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 客たちの絶叫が店内だけでなく、外にまで響き、ちゃにゃんだけでなく、マスターにも恐怖を改めて感じる客たちだった…。

 

 

 

 

 




…………あれ?何で、こうなったんだ?


ただヘムタイを見せてあげようとしたのに、なぜか恐怖感しか与えられていない…?

完全にこれ…、ホラー話になってない?

え? どうして…?

…………何でこうなった~~~~~~~~~!!!!!

(うちが妄想を働かせすぎたからだよ!! ちゃにゃん~~~!!ごめん!!
 ちゃにゃんの勇姿を描くつもりが、なぜか悪役感満載になった~~~!!)


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後日談弐ノ魔書★ イチゴパフェにご用心!?③

前回はあれだったけど、今日こそはギャグを取り入れて…


 

 

 恐怖体験をした店内の客達は、遠目で二人を観察する。

 

 怖くて店を飛び出したいが、身体の力が抜けて、動かない。

 

 何とか隙を見つけて…

 

 

 「では早速、新鮮な内に何か作りましょうかね?

  さてさて…何を作りましょうか…。 ミキサーにかけてソースを作るのもいいですし、汁を絞ってジューズにしてもいいですね~~。」

 

 

 「おお!! さすがマスター!! 瞬時にレシピを考えるその想像力!!素晴らしいにゃ!!」

 

 

 「ほっほっほっほ!!! ちゃにゃん、そんなに褒めても何も出ないよ。」

 

 

 「…って言ってるマスターのその手はなんにゃ?www」

 

 

 褒められて咄嗟に手が動いているのか、ちゃにゃんからもらったたんこぶの皮…(人皮だよね?)を携帯ナイフで華麗なる手捌きで剥いていき、なぜか剥いた皮で薔薇のアートを作り上げてしまった。

 

 ちなみに剥かれた部分からは筋肉?腫れもの?なのか分からないが、人体の一部が露わになっていた。そこからは少し血が流れ出ている。

 

 皮も血で染まり、半透明の薔薇アートが血で染まった赤い薔薇へと変わる。

 

 

 「マスター、凄い!! 綺麗だにゃ!!」

 

 

 (((確かに見事だけど、全然笑えない…。)))

 

 

 二人で笑い合っているのを、血色悪い顔で傍観していた客達。

 

 

 すると、その客達に一瞬ちゃにゃんが視線を向けたかと思うと、マスターに笑顔で提案する。

 

 

 「ああ…、マスター。よかったら、それをこの人達に食べさせてあげてください。

 

  どうやら騒がしくしてしまったみたいだし、お詫びで御馳走するにゃ!!」

 

 

 「ええ…!?いいのかい?ちゃにゃん。 こんなすごく貴重なものをあげたりして。

  折角いいデザートにできると思ったんだけどね~…。」

 

 

 「いいにゃ!! だからこそ、その美味しさを分かってもらいたいんだにゃ…!!」

 

 

 

 そう言って、二人はちゃにゃん達の隣の席に座っていた男性3人組に、珍味の料理を振る舞う事に決めた。

 

 もちろん、その珍味の食材は…、たんこぶだ。

 

 

 

 (((いらねぇ~~~よ!!! そんな奴食べれるか!!)))

 

 

 

 まさか自分達に降りかかって来るとは思わなかった彼らは、マスターがどうせならとわざわざこの場でクッキングショーを披露し始める。

 

 喫茶店のマスターとは思えない包丁の手捌きと 洗練された盛り付けであっというまに、血シロップのかき氷が完成した。

 

 男性3人組の目の前にカキ氷が置かれる。

 

 見た目はいちごシロップがかかったかき氷と変わりないが、実際に目の前でシロップを作られたのを見ると、食べる気が全然しない。

 

 

 かき氷を見ながらも、どうこの場から逃げ出そうかと仲間内でアイコンタクトを取り、作戦を練っていると、ちゃにゃんが3人組のテーブルに近づき、笑顔で話しかける。

 

 

 「どうぞ、召し上がれにゃ!!」

 

 

 いつの間に着替えていたのか、メイド服に着替えて接待するちゃにゃん。

 

 

 「いや………、こ、これは………」

 

 

 男の一人が勇気を出して、断ろうとする。

 しかし、ちゃにゃんがテーブルを思い切り拳で粉砕し、テーブルが真っ二つに割れる。

 3人組は明太子のような口とギョッとした顔で、固まる。

 

 

 「お客様~~? 確か、ご注文されましたよね~~?

  『隣の子達の一部でもいいから、料理作ってここに持ってこいや!!それくらいしかこの店は出すもんがねぇ~~んだろ!?』……って言ってましたよね~~?」

 

 

 ちゃにゃんの低い声色と話し方からとても自分達が言った言葉とは思えないほどの恐怖を感じる。

 

 

 

 そう、この3人組はくろちゃん達の隣の席に座ってからじろじろと覗き見してきたり、鼻の下伸ばして唇を舐めてたりしていたのだ。しかも、執拗に店内を批判する言い方を大声で言いまわっていたのだ。

 

 

 

 「お客様のためにせっかく新鮮なモノを摂って、お作りしましたのに…。」

 

 

 「あ、あれは……冗談です……」

 

 

 「大声で注文しておいて、冗談だったんですかにゃ~~?

  では、しょうがないにゃ~~。 お客様には少々、躾をさせていただきましょうにゃ。」

 

 

 

 ちゃにゃんが指を鳴らす。

 

 

 

 男3人組は身の危険を感じる。

 

 

 

 だが、3人組は見てしまった。

 

 

 

 ちゃにゃんの後ろに得体の知れない不吉なオーラが淀んでいて、割れたテーブルに血だらけの手が伸びてきて、よじ登り、これまた血だらけの人の首が3人組を大きな目で見つめてきたのを…。

 

 

 

 「「「わああああああああ~~~~~~~~~~!!!!

 

    た、助けてくれ~~~~~~~!!!!」」」

 

 

 

 

 もう限界が超えてしまったか、3人組は席を立ち、出口に一目散に逃げる。

 しかしその後ろをまたまた全身血まみれの女性が物凄い形相で地面を這って追いかける。

 

 

 

 「「「うわああああああ~~~~~~~~~~~~!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、男性3人組はその血まみれの女性にパンツを下ろされ、カラフルなインナーパンツを見せながら、街中へと全力で逃げていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 店内ではさっきまでの重い空気から一変して、笑いと歓声が鳴り響く。

 

 

 

 ちゃにゃんもマスターも笑いが止まらず、お腹を押さえている。

 

 

 

 そして、ただ二人だけ……、くろちゃんとにょきにょきは何が起きているのか理解できずに首を傾げていた。

 

 

 そのくろちゃんの手には、先程の男達のパンツを下ろした時に、破れてしまったパンツの一部が握られていた。

 

 

 

 

 

 




………なかなか注文する所まではいかないな~~…。


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後日談弐ノ魔書★ イチゴパフェにご用心!?④

3人から、「マスターがやばいwww」というコメントが…!!

くろちゃん達が楽しんでくれているなら嬉しいけどね♪

ただマスターの凄さはここで終わらないさ!!


 

 

 

 

 

 あの男性3人組が逃げていったのを見送った店内は、先程までの静まりがえり、恐怖を感じるだけだった空気が嘘のように一変し、笑いに包まれる。

 

 ちゃにゃんやマスターだけでなく、他の客達も一緒になって、盛大に笑い転げる。

 

 

 さっきまで逃げていった3人組と同様に顔を真っ青にして、ドン引きしていたのに、愉快そうに笑っている。

 

 

 「皆さん、御芝居に付き合っていただき、誠にありがとうございます。

  これで彼らは二度とこの店には来ない事でしょう。」

 

 

 「大丈夫!! 寧ろ楽しめたし、あいつらの鼻水垂らしながら逃げていく様は結構面白かったから!!」

 

 

 「そうそう!! こんなに胸がすっきりしたのは、久しぶりだぜ!!」

 

 

 「いいって事よ!! でもさ~、マスター。

  あいつらを追い払ったら、この店のイメージダウンに繋がってしまわないか?」

 

 

 「ああ…、大丈夫ですよ。

  噂を聞いて、悪態を振りまく人のご機嫌を立てるよりも、この店を愛して下さる皆さんの安らげる空間を守る方が、私には一番大事な事なのですよ。」

 

 

 

 「「「「「マスター………!!!!!」」」」」

 

 

 マスターの言葉で感涙する店内の客一同。

 

 

 

 

 今更だが、今までの流れは全て、演技だったのだ。

 

 

 

 目的は、この店の評判を落としに来たあの3人組を追い出す事。

 

 

 彼らが執拗に店を弄っていたのはそういう事だ。

 

 

 

 しかし、彼らは依頼を受けてきただけだ。

 

 

 本当の悪は、この喫茶店の向かいにある人気喫茶店のオーナーだ!!

 

 

 自分の店の利益を上げるために、邪魔なマスターの店の評判を落とし、客足を奪おうと画策して、仕掛けてきたのだ。

 役割としては、男達が店の評判を落としにかかる。そして店先には、パンチラ女性達を配置し、彼女たちのパンチラに翻弄された異性を呼び込む計画だ。

 

 

 マスターは、この画策に気づき、男達が来店する前に、常連客も協力して追い出し作戦を実行に移す。

 しかしその直後にくろちゃん達が来店した事で、作戦を少し変更し、くろちゃん達がその追い出し係になる事になった。

 他の客達も全員意見が一致し、くろちゃん達もマスターの店を潰されると、「ヘムタイの居場所がなくなるからいやだ!!」と燃え上がり、あっさり了承する。

 ……くろちゃん達がやった方がインパクトを与えられるから…という理由だったんだが。

 

 

 

 まぁ、そんな訳で、マスター立案の作戦は見事成功で収まる。

 

 

 

 店内が浮き足立っている中、くろちゃんとにょきにょきは首を傾げる。

 

 

 「あれ?………あの3人組はどこに行った?」

 

 

 「おかしいね~。3人そろってトイレかな?」

 

 

 店内をきょろきょろと見渡すが、姿が見れない。

 

 

 (二人が無意識で追い出したんだけど…、黙っておいた方がいいにゃ!!)

 

 

 心の中でこっそりと呟くちゃにゃんは、口笛を吹いて、天井を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべて、演技だった……………

 

 

 

 

 とはいったが、一つだけ訂正する。

 

 

 

 

 ちゃにゃんのヘムタイ制裁は………マジです!!

 

 

 

 

 本気で二人を消しにかかってましたし、今も頭のたんこぶを取られたため、たんこぶがようやく引っ込んだ(萎んだとも言える)頭から未だに血が流れ落ちている。

 顔もべっちょりと血で濡れている。

 

 意識もどこか覚束ない二人は、作戦が終わった事を理解するのに時間がかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし!! 顔もすっきりした!! どう?ちゃにゃん?」

 

 

 「私も綺麗になった?」

 

 

 「……………汚いままにゃ。」

 

 

 げっそりしながら答えるちゃにゃんは、脳天にチョップをかけたくなる衝動に駆られていた。

 

 

 血で汚れた顔を二人は拭き取るが、その拭き取った物というのが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男達から破り取ったパンツだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平気で顔の血を拭うその姿は女性にとって、許容レベルは軽く超えるだろう。しかし……

 

 

 「え?この手ぬぐい、パンツだったの? ………へっへっへっへ。」

 

 

 「これはいいものを手に入れたね、くろちゃん♥」

 

 

 ……なんて、ヘムタイ達がむしろ喜ぶとしか思えないちゃにゃんは、それがパンツの切れ端だという事は黙っておくことにした。

 もう面倒はこれ以上、御免被りたいと強く念じる。

 

 

 

 

 しかし、ヘムタイに何かを引き付けるパワーがあるのか…?

 

 

 

 

 ヘムタイスレイヤー資格を本気で取得しようかと考えているちゃにゃんの気苦労は、ここで終わる事を認めてはくれなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 後に、ちゃにゃんはこう叫ぶことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私もヘムタイなのか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ………と。

 

 

 

 

 

 

 

 




…………だから、何で注文まで行かないんだよ!!

でも明日ですべては解決する…。

最悪な展開だけどね!!

絶対に夢に出るね!! 


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後日談弐ノ魔書★ イチゴパフェにご用心!?⑤

ヘムタイを~~、この世から~~滅せるのは~~あいつらしかいな~~い!!

その名は「ヘムタイスレイヤー」!!




 

 

 この店に入って、かなり時間が経過してしまったが、無事に追い出し作戦が終わり、くろちゃん達は再び、何を注文しようかとメニューを考える。

 

 

 結局振出しに戻ったという訳だね。

 

 

 でも演技しながらも、(……くろちゃん達は演技を通り越して本気のやり取りだったけど)考えていたが、ちゃにゃんの「たんこぶ剥ぎ取り事件」が原因で、直前まで決まりかけていた記憶が抜け落ちてしまい、悩みまくる。

 

 

 そしてまた、窓の外を見つめ、とっておきのデザートを注文するためにヒントを求める。

 そのくろちゃんの視線の先には、いまだにパンチラを披露する女性グループが今度は色目をプラスして、異性を引き留める作戦を実行していた。

 女性達の作戦にまんまと引っかかっている異性は涎を垂らし、指を高速で不規則に動かし、目はハートになっている。

 

 

 「まったく…、女性が公共の場で破廉恥な事をするもんじゃないにゃ!!」

 

 

 ちゃにゃんもその様子をヘムタイスレイヤーの血が騒ぐのか、身体を震わせて、鋭い視線を投げつける。

 

 

 「ちゃにゃんの言うとおりだよ!! ヘムタイは場所を弁えて、人様に迷惑かけないように任務を遂行する事が必須!!…の難易度の高い格式なんだよ!!」

 

 

 「ヘムタイの理念を外れている彼女たちは、ヘムタイに非ず…!! ただの変態だよ~~!!ね!? くろちゃん!!」

 

 

 「………くろちゃんも、にょきにょきも、元をただせば変態じゃない………」

 

 

 「「変態ではあらず!! ヘムタ~~~~~イなのですっ!!」」

 

 

 「………」

 

 

 頭を抱えて、本格的に痛くなってきた頭痛をなんとか堪えるちゃにゃん。ため息をついていると、二人から歓声が上がる。二人に目を向けると、ヘムタイグッズ『スクショ機能付き双眼鏡』を手にして、窓に身を乗り出し、二人は下心満点の笑みで女性達を覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ボコッ…!! バチ~~~~~ン!!

 

 

 

 

 

 「ここも公共の場でもあるし、人様の迷惑に入るよね…?

  私が迷惑しているんだにゃ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 「「ご、ごべんひゃさい…!!!」」

 

 

 

 再びちゃにゃんの制裁を受け、頭から血を噴火させる。でも、今回はよかったかもしれない。制裁を受けてM気質が現れ、逆に萌えて鼻血を出していたから。頭からの出血で鼻血を隠せられた……

 

 

 

 

 

 「ブフォッ……!!!」

 

 

 

 「くろちゃ~~~~~~ん!!!」

 

 

 「何だろう………、物凄いヘムタイ反応を感じてしまったにゃ……?」

 

 

 が、やはりヘムタイを日々倒す事に信念を燃やしているちゃにゃんには、見た目だけで誤魔化す事は出来ないようだ。

 

 

 

 

 しかしそれはくろちゃんも同じだった。

 

 

 見た目では、病院送りレベルの怪我をしているのに、普段通りに動きまくるくろちゃん。にょきにょきもだけど、ヘムタイの打たれ強さは制裁を受ける度に逞しくなっていた。

 ちゃにゃん的には、「逞しくなるならなくていいにゃっ!! 毎日のように鉄拳振りかざすのも疲れるにゃ!!」…というかもしれないが。

 

 

 

 そんな訳で、頭からまだ血が出しながら、懲りずに女性達を見ていると、さっきこの店を追い出された男性3人組が顔色変えて走ってきて、女性達と合流する。

 

 

 何やら慌てて話をするが、女性達はドン引きして、困った顔をしている。それに明らかに殺意が滲んでいる。

 

 3人組の出現で、彼女達に触発された異性たちが「何だ、男いたのか」とがっかりして、散っていく。せっかく集めた異性が離れていくのを、喜ばしく思わないのは、当たり前だろう。その原因を作った3人組に女性達が怒りを覚えても当然だ。…まぁ、ちゃにゃんにしてみれば、自業自得と言って、一発ずつ尻を蹴り上げ、飛ばすけど。

 

 

 (……ん?いや、このアイデア、新たな滅ヘムタイ奥義に組み込めるのではないかにゃ? 殴るのは疲れたし、蹴るっていうのも……悪くないにゃ!! よし!!ギルドに帰ったら、早速足蹴りの特訓だにゃ!!)

 

 

 

 

 

 相当溜まってたんだな……。ちゃにゃん…、ファイト…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は逸れたが、3人組の様子がおかしかった。

 

 

 

 

 なんと街中で、堂々とパンツ一丁で立っているのだ。

 

 

 

 

 一人だけパンツが破れて、尻の裂け目が見えているが。 ←それはくろちゃんが破り取ったからだ…!

 

 

 「あれ?何でパンツ一丁なんだにゃ? あの時は、まだ上半身は着ていたのににゃ~…。」

 

 

 「「……………」」

 

 

 ちゃにゃんが服装について、疑問に思っているのに、くろちゃん達は無反応。

 

 

 それよりも大事なものを見ていた。

 

 

 「あの男は、恐竜柄のパンツかぁ~…。」

 

 

 「隣の男は、ドーナツとかパフェの絵柄が入ったピンク色のパンツだね!」

 

 

 「女性に涙目で何か話している男の方は、いちごパンツか…。

  乙女だね~~。あんなに男らしい体型しておきながら、パンツが………ぶはぁ!!

  ははははははは!!!

  面白~~!! いちごパンツは女の子の定番の柄のイメージが強いけど、それをあの男が~~~!!!」

 

 

 「あれは………、ジュウモンジー一族の人だね。巌のような体型が特徴で知られているから、あの一族は。

  そんな一族が、悪事に加担とは…。しかも意外に可愛い所があるんだ~。」

 

 

 二人で言い合いながら、笑っていると、くろちゃんが何かを閃いたのか、じっと彼らを見つめる。彼らと言っても、彼らの穿いているパンツの方に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「恐竜……いちごパンツ………ドーナツ……パフェ……

 

  いちごパンツ……ドーナツ………パフェ………

 

  いちごパンツ………パフェ………

 

  いちご……パフェ………

 

  ………!! そうだ!!これだ!!マスター!!決まったよ~~~!! お願いします!!」

 

 

 「やっと決まったのにゃ~!! ……でも、嫌な予感がするのは気のせいであってほしい…にゃ~。」

 

 

 「にょきはくろちゃんと同じで!!」

 

 

 3分数えて経ったので、マスターに注文するために、呼ぶ。

 

 マスターも笑顔でやってくる。

 

 そして、注文を窺うマスターにくろちゃんが窓の外を見つめながら、注文する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私とにょきは、『イチゴパンツパフェ』を食べたい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃにゃんは自分の耳を疑った。

 

 

 今何と言った?

 

 

 イチゴパフェじゃなくて、

 

 

 イチゴパンツパフェだと~~~~~!!!!

 

 

 

 「ちょ!! くろちゃん!! イチゴパンツパフェってなんだにゃ!!」

 

 

 「え?私そんな事言った?」

 

 

 「物凄く!! 思いっきり!!言ったにゃ!!」

 

 

 「あれ~?言い間違えたかな?」

 

 

 「そんなのんきの事を!! とにかく、注文キャンセルを!! マスター!!さっきの注文はなしで………。 

 

 

 

 

  遅かったああぁぁ~~~~~~!!!」

 

 

 

 

 急いで注文を取り消そうとしたちゃにゃんだったが、既にマスターは姿を消して、奥から料理する音が聞こえてくる。

 一度注文したら、すぐに取り掛かるマスターの性格を知っていたのに、止められなかったちゃにゃんは、涙を流し、肩を落とす。

 

 

 

 「うううゥゥゥ…。

 

  もう終わった~~。マスター、そういうのは断って~!! 『※何でもですが、変な注文は受け入れません』とか注意書きしておいてにゃ~。」

 

 

 「楽しみだね♥ にょき!!」

 

 

 「うん!!楽しみ♥ どんなのかな?『イチゴパンツパフェ』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽くちゃにゃんが意識を飛ばしている間、ついにくろちゃん達の元にその『イチゴパンツパフェ』がやってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すっご~~~~~~~~~い!!」

 

 

 「いちごパフェだ~~~~!!」

 

 

 (………イチゴパフェじゃないにゃ。いちごパンツパフェにゃ。)

 

 

 3人の前に置かれたのは、マスターが作り上げた渾身の一品。

 

 

 「はい、お待たせ。

 

  名付けて『ヘムタイ立案 パンツだって甘いのよ♥女の魅惑が詰まったいちごパンツパフェ』だよ。」

 

 

 「長いし!! ネーミングセンスないよ!! マスター!!」

 

 

 「はっはっはっは! 念のために名づけてみただけだよ、ちゃにゃん。要は、味なんだよ。」

 

 

 「………その味も保証できませんよね?」

 

 

 「さぁ、どうかな?食べてみてからのお楽しみだね。」

 

 

 

 

 

 いつもと変わらない微笑みに、うっすらと悪寒を感じるちゃにゃんは、今にも食べようとスプーンを持ち上げ、掬い上げようとする二人に突っ込む気力はもうなかった。

 

 

 そこで、ちゃにゃんは傍観する事に決め、自分だけの特別の『ホワイトチョコケーキ猫風』を味わう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃん達のいちごパンツパフェは見た目は普通のイチゴパフェとは変わりない。

 

 

 しかし、いちごパンツを微塵切りにして、カラフルチョコみたいに生クリームに塗している。中身にもチョコやいちごジャム、での層に混じって、いちごパンツにバターを沁みこませ、こんがりと焼きあげ、細かく砕き、コーンフリークの代わりとして起用している。

 そして飾りだろうか…(飾りであってほしい)パフェの器から飛び出して、いちごパンツの切れ端がでていた。

 

 

 

 「「いただきま~~~~~~す!!」」

 

 

 

 

 パクッ!!

 

 

 

 パクっ!!

 

 

 

 

 

 

 …………ゴロゴロゴロドガアァァァ~~~~~ン!!!!

 

 

 

 

 

 

 二人に雷の如く、衝撃が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「まいうぅぅ~~~~~~!!!!!」」

 

 

 

 

 「えええええええ~~~~~~~~!!!!!にゃ、にゃに~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

 頬に手を当てて、涙目で感動し、次々と『イチゴパンツパフェ』を口にしていくくろちゃんとにょきにょき。

 その二人の姿にちゃにゃんは、げっそりとする。

 

 

 

 

 (パ、パンツって…………   美味しいのにゃ…………?)

 

 

 

 

 

 立ち直りそうにないほど、ちゃにゃんはダメージを喰らう。

 

 

 ヘムタイスレイヤーの志すちゃにゃんには、今までにない衝撃を与えたのだった。

 

 形的には、マスターがくろちゃん達を擁護したような感じを覚えるちゃにゃんは、心の中で、「マスター…、手強い…。」と逸れた考えをし、吐血を吐きながら、意識を何とか保つ事に成功した。

 

 

 

 

 それからは、口の中を綺麗に洗浄し、自分のデザートを美味しくいただくことにしたちゃにゃんは、やっと来た幸福の瞬間を味わっていた。

 

 

 

 

 「う~~~~~ん♥ やっぱりいいにゃ~~~!! 猫ちゃんの顔を潰してしまうのは、残念だけど、美味しく食べてあげないと可哀想だにゃ♥」

 

 

 大好きな猫がモチーフになったケーキをリスのように頬を膨らませ、食べていると、マスターがやってくる。

 

 

 「どうかね?お味の方は。」

 

 

 「マスター!!これ、美味しすぎるよ!! まさかイチゴパンツがこんなに美味しく食べられる日がこようとは!!」

 

 

 「さすがマスターだね!!! 後でレシピ教えてほしいけど、良い?」

 

 

 「ええ、いいですよ。 私も楽しく作らせていただきました。

 

  ……ああ、そのイチゴジャム、君達の血も混ぜて更に香りを引き立てておいたからね。

  さっきから血を流していたし、貧血になったらいけないからね。ちゃんと出した血は元に戻さないと。」

 

 

 「「マスター~~!! なんていい人なの~~!?」」

 

 

 

 目を輝かせて、感動する二人をよそに、ちゃにゃんはケーキを食べていると、マスターが何かを思い出したかのように、ちゃにゃんに話しかけた。

 

 

 「ああ…、しまった。

  ごめんね、ちゃにゃん。

 

 

  その猫を描いているチョコなんだけど、さっき、君がくれたものから搾り取って、混ぜて、いるんだ。」

 

 

 「マスターに私があげたものにゃ?」

 

 

 「うん、結局あの男の人達が食べなかったから、もう一つが余っててね。もったいないから、くろちゃん達のデザートを作る時に、使わせてもらったよ♪」

 

 

 「…………それって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「? たんこぶだけど?」

 

 

 「!!!!!!!」

 

 

 そう言えば、いつもと違って、ピンク色のチョコペンで描いてくれているんだと思っていたけど、たんこぶ…=血…、人肉……。

 

 

 まさか自分も非常識なものを食べていたなんて。

 

 

 

 「本当にごめんね? ほら、もらった食材を腐らせたりしたら酷いよね?

  人として、これは失礼だから、有難く使わせてもらったよ! あと、ケーキにもいちごパンツの粉末状にしてココアパウダーと混ぜて振りかけておいたから。

  実に美味なものを提供できてよかったよ。喜んでくれたみたいだしね。」

 

 

 そう言葉を残すと、マスターは他の客の人達の元へ行き、注文を取っていく。

 

 

 常連客もくろちゃん達が美味しく食べているパフェが気に入ったのか、店内からは『イチゴパンツパフェ』というヘムタイ用語?が飛び交う。

 

 

 それをちゃにゃんはBGMのように耳に入れ、頭をぐわんぐわんとさせて、考え込む。

 

 

 (私………、何を食べたのにゃ?

 

 

 

  血……だけでなく、あ、あ、あの…!! イ、イ、イ、イチゴパンツまで食べたのかにゃ…!!!?

 

 

  しかもそれを私は食べて、お、美味しいって…!!!

 

 

 

 

 

  それって…、くろちゃん達、ヘムタイと同じ……なのではないかにゃ…?

 

 

  …!!!つまり、私もヘムタイになってしまったのにゃ~~~~~~~~!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりの衝撃的事実に動揺が激しく、頭の中で出た思考がヘムタイスレイヤーのちゃにゃんの心に深く傷をつけ、ちゃにゃんは、口から血を吐いて、気絶するのだった。

 

 

 

 

 ちゃにゃんにとって、”自分がヘムタイになる”とは全く考えていなくて、ヘムタイには決して屈せず、抗い、撲滅すると誓っていたため、その衝撃は凄まじい物だった。

 

 

 気絶したのも更なる衝撃を防ぐための防衛が働いた結果だろう。

 

 

 そうして、ちゃにゃんは気絶したまま、思い切り嘆き、夢の中ではくろちゃん達とヘムタイ行為を働き、楽しく一緒にスキップしながら、乙女チックな雰囲気で逃げるという恐ろしい夢を見ていた。

 そのため、ちゃにゃんは血の涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ちゃにゃんの心に深く突き刺さったこの『イチゴパンツパフェ』はヘムタイの間では、人気となり、帝都のヘムタイがマスターの店に訪れる名喫茶店になった。

 そして、向かいの人気喫茶店は、店先での変態呼び込みが祟って、店の不正が明らかになり、潰れるのだった。

 

 

 

 そして、ちゃにゃんはいちごパンツはもちろんの事、イチゴパフェを視界に入れると、血相を変えて、速攻で逃げるか、燃やすという手段を取るようになり、警戒するのでした。

 

 

 

 ただのいちごパフェを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなの目の前にあるイチゴパフェは、もしかしたら、『イチゴパンツパフェ』かもしれないよ!!

 

 

 

 

 ちゃにゃんのように、ただのイチゴパフェでも、まずは「いちごパンツパフェでは?」と疑い、店員に「これって、イチゴパンツパフェですか?」と尋ねて確認してくれ!!

 

 

 (そんなことしたら、間違いなく浮くわ!!? 見たらわかる……マスターの手によって、見た目はあまり変わらなく、気付かせないように仕込まれていたけど…。でも、普通だってわかるから!!

  絶対に、聞いてはいけないよ!! 絶対だよ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イチゴパフェにご用心っ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 「……さて、次はどのヘムタイ料理を作る事としますか…。はっはっはっは!」

 

 

 

 

 今まで作り上げてきたレシピノートを見ながら、独り言を話すマスターのその手には、「ヘムタイの心を鷲掴みする愛情レシピ」と表紙に書いてあった……。

 

 

 

 

 




………マスター、恐るべし!!

やばいとは思っていたけど、ヤバすぎた!!

ホントは演技を通り越したド天然だという設定だったけど、ドSのヘムタイだったというオチ!!

これは、ヘムタイの者達の恐るべし助っ人になったのではないか!!?

大丈夫か!? ちゃにゃっち!! そして、HMT!!


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿①

今日から我らの期待の星であるホームズ[通称ほーちゃん)が探偵となって、事件を解決!!

……トリックとか考えないと!!


 

 

 

 

 

 

 カバルレ・サーカス事件が終結し、ROSEには前よりも依頼の量が多く入ってくるようになった。そこには、ROSEメンバーを指定する依頼まで。

 

 大量に送られてきた依頼量にROSEのみんなは宴をたった一回だけ、開く事しかできず、しょんぼりしながら、着々と仕事依頼を片付けていっている最中だ。

 

 

 「やってもやっても、依頼が減らないね。」

 

 

 「むしろ増えている感じ。ボリボリ」

 

 

 「あれ以来、私達は有名人になったもんね~。」

 

 

 「前にも、依頼殺到して、まさやんが何とかしてくれたけど、今回は自分達で解決しないといけないね。」

 

 

 今、ギルドでは、依頼をこなすためにほとんどが街に繰り出しているため、残っている人は少ない。

 残っているのは、火龍人、るーじゅちゃん、ホームズ、御神、toko、ペンダゴン、それから………

 

 

 「皆さん、また依頼書が届きましたよ。 こんなに。」

 

 

 「「「「「「えええええ~~~~~~~!!!」」」」」」

 

 

 「やっと終わりが見えてきたと思った矢先にこれ!!?」

 

 

 「あまりにも…、理不尽すぎるよ…。」

 

 

 「おいら、もう眠っていたいな…。」

 

 

 「ふっ…、仕事があればよしだけど、でたらめの仕事を作り上げ、私達と会う口実にするのはやめてほしいね…。」

 

 

 「………今からでも本格的に影を薄めようかな。」

 

 

 「エンドレス……。このカオスな仕事ってありなのかな?」

 

 

 テーブルにもたれかかって、生気が抜けていくみんなを見て、慌てて慰めに掛かる。

 

 

 「あ、大丈夫ですよ。 私の方で仕事依頼の審査をしておきましたので、楽になると思います。

  はい、どうぞ!本当に必要とされている仕事だけをピックアップしたリストです。」

 

 

 モニターを操作し、表示された仕事依頼リストは、用途内容や指定魔法師、報奨金、必要度まで事細かく調べていた。

 これなら、仕事に集中できるし、気分もすっきりする。

 

 

 「ありがとう!! 助かったよ!! オドリー!!」

 

 

 「オドリーは優しいね!! もう感動で、涙が…!!」

 

 

 「そ、そんな事はありませんよ。皆さんの方が優しすぎますよ、本当に……。

  私は、今幸せですから…。」

 

 

 

 そう、オドリーはROSEの一員となり、ギルドにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件が終わった直後、オドリーも警魔隊に引き取られ、事情聴取を受ける事となった。

 騙されていたとはいえ、カバルレに手を貸し、何千人もの人の命を奪い取った事実は変わらない。オドリーは連行される時、これが筋だからと進んで捕まった。

 

 しかし、納得できなかったROSEのみんなは、帝都中を動き回り、オドリーの父親を探し出し、オドリーと面会させたのだ。

 オドリーが行方不明になってから、色々と探し回っていたオドリーの父親は、娘の無事を知り、涙ぐむ。そして、今までの事を娘から直接聞かされた父親は、オドリーを抱きしめた後、レストレード警魔隊長に頭を下げ、オドリーを釈放してほしいと願い出た。

 もちろん、ROSEのみんなも一緒に頭を下げて、お願いした。

 

 その結果、オドリーは、先の闘いでROSEに協力した事と情報提供をした事への恩赦として、釈放された。

 

 ………という者は建前で、元々レストレードはオドリーからカバルレが今まで闇世界でやってきた悪事を掃除するため、壮大な情報を教えてもらうために、あくまで連行しただけだったのだ。

 

 

 

 しかし、レストレードがすんなりと釈放した最大の理由は、ホームズのドS調教を受けられたから……というのは、今は黙っておこう。

 

 

 

 そして、釈放されたオドリーを父親が家に帰ろうと言うと、オドリーは首を横に振り、断る。

 

 

 「私……、ROSEの皆さんと一緒にいます。

  私の罪は大きいです。その過ちは一生消える事はないでしょう。しかし、ここでお父様に全て委ねてしまえば、私は結局誰かに助けてもらわなければ生きていけない愚かな人間になってしまいます!!

  今まで、人に助けてもらってばかりで、私は何も返せずにいました。セイヤにも……。

  

  私は、もう逃げたくないのです!!

 

 

  ただ守ってばかりの私に戻るのは嫌なのです!!だから、今度は私が大事な人を守れるほど強くなって、守りたいのです!!

  

 

   そのために私は、ROSEの皆さんと一緒に、魔法師としての道を歩みます!!

 

 

  今度こそ………、今度こそ目の前で大事な人を傷つけないように…。」

 

 

 涙を浮かべながら、強く訴えるオドリーの目は本気だった。

 

 

 娘のその思いを聞き、しばらく目を閉じ、考えるとオドリーの父親は優しく微笑み、オドリーの頭を撫でて、見送るのだった。

 

 

 「お前の好きなようにしなさい………。」

 

 

 

 

 微笑を浮かべ、今度はROSEのみんなの元へと駆け寄り、不安そうな表情を滲ませ、口を開く。

 

 

 「わ、私を皆さんの仲間に………入れてくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「もちろん(だぜ/だ/にゃ/だよ)!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 満面の笑顔で、そう言い切ったみんながオドリーを取り囲み、ROSEへの加入を心から歓迎したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、オドリーはROSEの看板娘として、元気に過ごしている……。

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を見て、微笑みセイヤの幻をオドリーは見た気がした。

 

 

 

 

 




良かった~~!! 
オドリーが無事にROSEのメンバーになりました!!

あ、ちなみにリテラ達、革命軍はROSEの隣の空き家を買い取り、そこで生活するようになりました!!

カバルレとの戦いで、共に戦った仲間が元気にやっていて嬉しいにゃ!!

あ、ちゃにゃっちの癖が移っちゃった!!


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿②

後日談だからね、ROSEのその後も書いて…と。




 

 

 

 

 オドリーがROSEの看板娘になってから、ROSEも更に活気があふれる賑やかな魔法師ギルドになった。

 

 …というのも、オドリーのセラピーの一環でもある。

 

 

 もっと強くなると決めて、ROSEに入ったオドリーだが、そうすぐには自分を変えられずにいたのだ……。

 

 

 ずっとカバルレの元で女性らしく生きる事がなかったオドリーにくろちゃん達乙女が率先して、街へと連れて行き、女子トークやショッピングをするようになった。

 

 表情も少しずつ戻ってきたが、まだ気持ち的に整理がついていないようで、魔法が失敗したり、オーバーアタックしてしまう事があった。

 オドリー自身は、何とか克服してみせると、夜中でもギルドの特訓場で、魔法の制御を回復するために取り組んでいるが、なかなか思い通りにはいかない。

 

 やはり婚約者であり、最愛のセイヤがカバルレに殺され、それが自分が原因だったという事がショックだったんだろう。

 

 カバルレとの戦いでは、真実を知り、感情がプラスに働いた結果、上手くできた。でも、事件が解決し、改めて考えると、どうしても悲しみに暮れ、それが魔法発動を妨げるらしい。

 

 

 ”魔法は、己の意志によって引き出されるものですが、時には、己の感情が更に高める事も、逆に働いてしまう事もあるのです。”

 

 

 

 隣人となったリテラに相談すると、さっきの指摘をうけた。だから、「しっかりと気持ちを整理する事が大切。でも今は、ちゃんとした休養を取って、向き合ってあげるのがいいでしょう。」とアドバイスをもらい、看板娘としてギルドの補佐といった任務をする事で、まずは魔法は使わずに、じっくりとギルドに慣れていってもらおうと考えたのだ。

 

 それがうまく機能し、今みたいにオドリーのお陰で、忙しいギルドハウスの中も明るくなる。

 

 

 

 

 しかし、あれから変わったこともある。

 

 

 

 オドリーがROSEに入ったと同時に、ショウリンが抜けていったのだ。

 

 

 抜けたといっても、ずっとROSEの仲間であることには変わりない。

 

 しかし、ショウリンの両親…、ドレーナもあの時に亡くなったことで、身寄りがなくなったショウリンは、タツヤ族が収める領地に住んでいる遠縁に身を置くことになった。

 この話が持ち上がった際、ROSEのみんなは「ショウリンは自分たちの仲間であり、家族だ!!」「俺たちがいるから、大丈夫だ!!」…と反論したが、ショウリンたっての希望で承諾された。

 

 ショウリンは自分がまだまだ未熟すぎると感じていた。

 

 そして、オドリーの決意を聞いて、自分も大事な人を守れるようになりたいと思った。だから、ドレーナが生まれて、育ったタツヤ族の身内に身を置き、強くなる道を選んだ。

 

 

 それを、ショウリンがギルドを発つ際に聞いたROSEのみんなは、ショウリンの強い意志を受け止め、笑顔で見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ROSEは出会いと別れをし、今日も前へと歩み出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回想に入ってしまったが、オドリーの整理してくれた依頼内容をモニターから見て審査していたホームズ達のところに、慌ててレストレードが飛び込んできた。

 

 

 「ホ、ホームズ様!! お、お助けください!!」

 

 

 「ど、どうしたのですか!? レストレード様!」

 

 

 「あ、オドリーちゃん…。 元気にやっているようで何より…。ああ~~、それよりホームズ様!! ぜひお力を貸していただきたいことが!!」

 

 

 「…ああ、いいぜ。 今、ちょうど面白い事件を探していたところだったんだ!!」

 

 

 「あ、ありがとうございます!! どうぞ、こちらです!!」

 

 

 「?」

 

 

 ホームズとレストレードが何やら話を盛り上げているのを、離れて見ていたオドリーに、御神が背中を押し、二人に近づく。

 

 

 「なら、今日は私が助手として、同席するよ。あと、オドリーもいいかな?」

 

 

 「え?……うん、いいぜ!! オドリーよろしくな!!」

 

 

 「え、は、はい! こちらこそよろしくお願いします?」

 

 

 まだ状況が読み込めていないオドリーだが、依頼をこなすために何か役に立てるのではと思い、レストレードが案内する後姿を追って、ホームズ、御神と共に走る。

 

 

 

 

 それは、新たにホームズの扱ってきた事件を記す一ページに、刻まれる始まりだった。

 

 

 

 




いよいよホームズが事件と接触するぞ!!

御神っちを助手にしてみたけど、ボケをかますホームズに、御神が突っ込みができるか…。


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿③

まずは事件を掌握、捜査…だね。


 

 

 

 

 

 レストレードに連れられ、やってきたホームズとその助手役の御神とオドリーが辿り着いた場所は、帝都の中心街から少し離れた高級住宅街にある一軒の御宅だった。

 

 住宅自体が全般に白く塗られており、まるで天国の世界だと錯覚するくらい、純白な御宅だった。 それでも周りの高級住宅と比べると、豪華よりも安らぎを求めており、個の御宅だけ異質に感じるかもしれない。

 

 

 (あら…? 私、ここを知っている気がする……。

  懐かしい……感じもする。 ………懐かしい?)

 

 

 お宅に入ってから、心の中でしんみりとする感覚にオドリーは頭を傾げる。

 

 そして、玄関を抜け、中に入ると、外見の美しさと正反対で、人がたくさん蠢きあって、慌ただしく真剣な表情で辺りを調べていた。

 思わず息をのむオドリーだったが、恐縮するレストレードとこの状況に当然という態度で受け入れ、奥へと足を運ばせるホームズと御神を見て、頭の中では疑問が増える一方だ。しかし、質問してもいい空気ではないのは、理解しているため、黙って後をついていく。

 

 更に奥まで進むと、大きな扉があり、扉の隣には、暗証ロックを入力しないと開けられないロックシステムが取り付けられていた。しかし、既に解除しており、難なく入る事が出来る。だが、人の多さで初めは気付かなかったが、内装も落ち着いた感じにしており、機械類とは無縁の設計になっている。だから、ここだけロックシステムがあるのが違和感を感じさせるくらいだ。

 

 しかし、裏を返せば、それだけ重要な何かがこの扉の先にあるという事だ。

 

 

 オドリーはカバルレの元にいた時、ロックシステムを扱っていたため、ここに取り付けられたものが、そう簡単に解除されるようには開発されていない最高級品であることを見抜いていた。

 

 だからか、余計にこの先が気になってしまう。

 

 緊張していると、レストレードが何ともあっさりと扉を開けてしまった。

 オドリーとしては、覚悟を決めてから開けてほしかったが、何か慌てているレストレードの尋常ではない行動に逆に心配になってしまい、別にいいかなと思って、溜息をこっそりと吐く。

 

 

 そして、ついに本来なら厳重にロックされているであろう扉を通り、中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、円柱状に設計された大部屋があり、壁の隙間が見当たらないほど、そして高い天井まで続く本棚がそびえ立ち、本棚には大量の本が収納されていた。入りきれない本もあり、本棚の前に積み上げられていたり、書斎机だろうか…、広い机の上や横にも今にも倒れそうなほどに積み上げられていた。

 

 

 「よっぽど本がお好きな方だったのですね。」

 

 

 感心して、本棚を見上げながら、感嘆すると、レストレードが顔を俯かせ、帽子の唾を掴み、目を隠して、神妙な声色で話す。

 

 

 「しかし、今回はそれが裏目に出てしまった悲劇ですね。本人もまさかこんな事になるとは思わなかったでしょう。」

 

 

 「それはどういう事ですか?」

 

 

 「ホームズ様に見てもらいたいのは、こちらです。」

 

 

 意味深な言い回しをしたレストレードがホームズ達を連れて、部屋を横断し、大きなガラスが張られたテラスの横にある本棚までやってきた。なんだかここだけ本が散乱している。

 

 しかし近くに来てようやく、レストレードが行っていた意味を知った。

 

 

 

 散乱した本の下敷きになっている白髪と顎髭が一緒に結ばれている特徴的な髪形?をした老人が頭から血を流して、倒れていたのだ。

 

 

 目を丸くしたオドリーだが、老人の哀れな姿を見ても、悲鳴をあげたり、恐怖したりという事はなかった。

 カバルレの命令とはいえ、既に人の精神を凍らせ、”死”を与え、数えきれないほどの命を奪い、死体を見てきたため、驚き、後ずさる事はない。

 

 しかし、悲しむ気持ちがまだある。

 

 オドリーは自分の心の中に渦巻く感情に、嫌気を差しながら、レストレードが話す事件の内容説明に耳を傾けた。

 

 

 まずは、自分ができる事で、ホームズ様をお助けしようと決めて。

 

 

 




この事件を通して、オドリーにきっかけを作れたら…。


次回からは、事件を解決するホームズのドSっぷりをどうぞ!!

…ヘムタイですが。


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿④

早速ヘムタイ捜査が始まります。

今回は、ほーちゃんは恵まれましたな。御神っちはツッコミだけだから。そしてたまに悪乗りするから。

…では、ヘムタイ探偵!!ホームズの実話…じゃなくて、逸話をどうぞ!!


 

 

 咳払いをして、気合を入れたレストレードが事件の概要を説明する。

 

 

 

 「ええ~~……。

  今回、亡くなられたのは、この家の主で、魔法の研究・開発に多大な尽力を頂いた、ミチビ・クマホウさん。今日が60歳の誕生日でした。」

 

 

 「え?おめでたの時に死んでしまったの? 可哀想…。」

 

 

 「ただ年を取るだけでも、60歳ともなれば、還暦だからな…。そうと知っていれば、お祝いしてあげたのに…。

 

  縄で身体縛りを。」

 

 

 「え?」

 

 

 「ご老体に何をする気だよ、ホームズ!! それにいつもだけどヘムタイ発言を織り込まなくていいからね!!」

 

 

 「でもさ、おいら、これをしないと、頭が働かない……」

 

 

 「とんだヘムタイ探偵だよ~~!!」

 

 

 「褒めてくれてありがとう♥ てへぺろ♥」

 

 

 「照れなくていいっ!!

  ……という事で、ホームズは調査する時も常にヘムタイ脳裏を駆使するから、ストッパーが必要なんだよね~。

  私が手に負えなくなってきたら、手伝ってくれる?オドリー?」

 

 

 「ええ、もちろんです。買ってはまだ読み込めてませんが、精いっぱい勉強させていただきます。…御神様。」

 

 

 「ああ~~…、その”御神様”って呼び方…、他人みたいでじっくり来ないんだよね~~!! だから、みんなみたいに”御神”って呼んでよ。

  私達はもう、仲間で、家族だから…、ね?」

 

 

 「……はい、………み、御神…?」

 

 

 「うん!! な~~に? オドリー?」

 

 

 御神とオドリーが死体が転がる横で和やかな雰囲気を作りだす中、なぜかホームズは………

 

 

 

 

 

 「…ちょ、ちょっと!! ホームズ…、何をしようとしているのかな?それは…」

 

 

 「え?見ての通りだけど。」

 

 

 小首をかしげて、今更何を言うのかと書いている顔で、ホームズが縄で縛っているのは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんと、亡くなったミチビさんだった!!

 

 

 

 「だからやめなよ!! なんで死体を縛り上げる必要があるのよ~~!!」

 

 

 ホームズをミチビさんから離そうと引っ張るが、余計にくっ付いて、離れない。終いには、「おいら達の仲を引き裂こうというのか!!」っと文句言ってくる始末。

 それほどの仲でもないだろうに、親しい友人の死に嘆いているかのように、泣きながら死体に縋りつく。

 

 オドリーは二人のやり取りをみながら、「死体を勝手に動かして大丈夫なのでしょうか?」と客観的に観察するのだった。

 

 

 「…で、何で死者を冒涜するような真似をしたのよ!!」

 

 

 ようやく落ち着いたのか、ホームズに理由を尋ねる御神。

 

 

 「へ、へ~~と。

  最後の弔いに、飾り付けてあげようと思って、ですね~~」

 

 

 一方で、ヘムタイスレイヤーの筆頭であるちゃにゃんがいない事で羽を伸ばし過ぎて、御神から首を締められるという制裁を受け、丸くなって大人しくなったホームズがまだ魂が口から出かかっている状態で応答する。

 

 

 「部屋をざっと見渡したら、書斎机の後ろの棚の一番下の段が他の段の本より前に出過ぎでいるなと思って、エロ本が隠れていると読んだおいらは手前の本を取りだしてみたのさ!!

  すると、奥から大量のエロ本が保管されており、どれも使い古されたものばかりで、思わず興奮したな~~~!!

 

 

  …御神も使う?」

 

 

 「いらんわ!! 」

 

 

 「ああああああ~~~~~~~!!!!」

 

 

 ホームズの手から奪い取って、ビリビリと破り捨てる。

 それを我が子を引き裂かれた親のような顔とポーズで嘆くホームズ。

 

 部屋を捜査している警魔隊の隊員たちが呆れた表情で睨みつけてくるのを、オドリーが持ち前の美貌と笑顔で緩和する。…というのにメロメロにさせていた。

 

 

 「そ。それで中身見たら、どれも調教プレイをモチーフにしたものが収録されていて、しかも男が豚に成り下がる系の……。

  それに、女性の顔には、全て別の女性の写真を張り付けて妄想するタイプだったことを考えると…。

 

  人の目を憚って、こっそりと愛しい女性を想いながら……、くくくくく…。」

 

 

 後の方は必要ない情報だったが、とにかくホームズのヘムタイ行動の理由が全て分かった。

 

 

 「…つまり、ドMだったミチビさんのために、身体を縛ってあげて弔いたかったということ?」

 

 

 「そのとお~~~~~り!!! さすが、御神!! 分かっていらっしゃる!!」

 

 

 「……」

 

 

 「……あれ? 御神~~? ど、どうしたのかな? …………黙っていると怖いんだけどな。」

 

 

 

 「…………す、素晴らしいよ~~~!! ホームズ~~!!」

 

 

 「は?」

 

 

 「死者の生活感を瞬時に読み取り、かつそれを最期の花道として弔わせてあげようなんて~~!!

  ごめんね、ホームズ!! 

  誤解していたみたい!! ホームズは立派なヘムタイだよ~~!!」

 

 

 「お、おうよ~~!!

  おいらはヘムタイの中のヘムタイ!! おいらの事は、ヘムタイ探偵、ホームズと呼んでくれていいぜ!!」

 

 

 「キャ~!! かっこいい!! 」

 

 

 そう言って、はしゃぐ御神の足元には、ミチビさんが思い切り踏まれていた。

 

 しかし、なぜか逆に嬉しそうに見える。…気のせいだろうか?

 

 

 

 「それじゃ、続きをするかな…と!!」

 

 

 

 御神によって止められていた体の自由から解放され、再びミチビに縄を巻きつけ縛り上げていくホームズにだれも止めに入らない。

 

 すっかりと感動しきってしまった御神は、ホームズを止めるどころか、ヘムタイアイテムグッズの一つの録画機能付きのカメラ(背景ランダム設定あり)で撮っている。

 

 カメラ内の背景は、ピンクの光が暗い部屋を照らし、その灯りで後ろの拷問具や調教ポスターがライトアップされている、今の状況に何ともぴったりだ。しかもランダムに表示された背景。これは狙っているのか、それとも……

 

 まぁ、それでも嬉々として録画している御神もたまに悪乗りして、ヘムタイになるくらいだから、ヘムタイを完全に葬ることはできないのかもしれない。

 

 

 

 ホームズだけでなく、この人も…。

 

 

 

 

 「ホームズ様!! 何をしているのですか!!? ご遺体を勝手に動かして…」

 

 

 ホームズ達が話の途中で、自由奔走し始めたため、部下の捜査状況を聞きに離れていたレストレードが戻ってきて、大股で怒りながら歩いてくる。

 

 

 「申し訳ありません、レストレード様。これは……」

 

 

 「いや~~!!レスちゃん。詳しく話は聞いてきたかい!? 待ちくたびれたぜ~~!!

  でもそのおかげで、ミチビの趣味がわかって、デコレーションしていたところ……」

 

 

 「あなたって人は…!! とにかくご遺体から離れてください!!」

 

 

 「あ、あの、申し訳ありません。 すぐに止めさせ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そんなにヘムタイしたいなら、この私めに~~!!

 

 

 

 

 

  調教してくだされ~~~~!!!!」

 

 

 

 

 「……………………」

 

 

 

 ホームズとレストレードが緊迫した雰囲気になると思ったオドリーが仲介に入ろうと間にはいったが、レストレードの必死で土下座して、お願いする様に言葉を失くしてしまう。

 

 

 しかも、いつの間に脱いだのか、ブリーフ1枚になって首輪をつけている。

 

 

 「……そんなに、おいらの仕置きが欲しいのか~?」

 

 

 「はい!! ものすご~~く欲しいです!!

 

 

  キャインっ!!」

 

 

 

 「堂々と服を脱ぐなんてな~~…。

  レスちゃんも、生粋のヘムタイだな!!」

 

 

 

 持ち前の愛用の鞭を振り回し、バシッバシッと叩いていく。

 

 

 鞭で叩かれるたびに、レストレード……この時はレスちゃんと呼ぶことになっていた…。レスちゃんは気持ちよさそうに興奮し、顔を赤くして嬌声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 「さて…、さっきの話の続き…、話してもらおうか?レスちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 満面の笑みで、鞭を振り回すホームズは楽しそうに鼻歌を歌い、それに応じてレスちゃんは荒い鼻息をしながら、話の続きをする…。

 

 

 

 この状況に唖然となるオドリーの肩をポンポンと叩く御神がアドバイスする。

 

 

 

 

 「あの二人はいつもこうだから。ここは温かく見守った方が私たちにとってはお得よ…!!」

 

 

 そういう御神の鼻からは血が流れていた。

 

 

 

 「そうですわね…。私も…、そう思いますわ。」

 

 

 オドリーは何かを悟ったようで、絡む二人を見ながら、御神と同じく(鼻血はなしで)頬を赤らめて見守るのだった。

 

 

 




人の話を聞けよ!! 自由すぎるだろ!!

 でもそのおかげで面白かったけど!!

 純粋なオドリーがだんだんけがれていく~~!!いずれはヘムタイの領域に…。いや、その前に止めてみせる!!


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿⑤

挿絵して、現場の見取り図を投稿したいのに、その取り入れ方まで分からずにいるうち。
パソコンに疎いうちでは、難しい。
ううううう…。
申し訳ありませんが、想像でお願いします!!


 

 「亡くなられたミチビさんの死因は後頭部を鈍器で強打した事による脳内出血。

  死亡推定時刻は昨日の23時~今日の0時頃になります。

  

  致命傷を与えた鈍器もご遺体の近くに倒れていたこの天然石で造られた赤子を抱いた聖女の像です。」

 

 

 現場となった本が散乱している所に、血が付いた聖女の像が横たわっていた。

 

 

 「遺体が発見されたのは、今日の午前9時。遺体のお弟子さんがいつも通りに尋ねてきた時、既に先程の状態だったと我々に証言しています。

  遺体も棚から落ちた本に埋もれており俯せとなって、肩までが埋もれた本の山から露出していました。」

 

 

 現場保存の際に遺体を撮った時の写真を渡される。

 

 

 「今、関係者に話を聞いてきましたところ、この聖女の像はいつもこの本棚に飾られており、いつも休憩の合間に眺めるために、書斎机から見えるこの位置に置いていたそうです。

  これが、ミチビさんが亡くなられる前日に撮られた記念写真です。」

 

 

 レスちゃんから渡された写真には、数人の人と一緒に微笑ましく笑って写っているミチビさんがいた。

 この時、まさか自分が死ぬとは夢にも思わなかったに違いない。

 

 

 「以上、現場の状況を見ると、ミチビさんが握っていたこの本を本棚から取り出す際に誤って、聖女の像を落としてしまい、運悪く後頭部に命中し、息を引き取った……というのが見解でした。」

 

 

 「どこか腑に落ちない事でもあるって事? なんだかこの部屋を見渡す限り事故なのに…。」

 

 

 言葉を濁すレスちゃんに、御神が引っかかりを感じ、部屋中をもう一度見てみるが、至って、争った痕跡もないし、不自然な事はない。

 レスちゃんの見解は、間違っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表面上だけ見れば…。

 

 

 遺体が握っていたという本をレスちゃんから没収し、ページを巡って、その本を読んでいたホームズは本を閉じると、これまでで導き出した状況から結論を述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これは殺人だな。

  しかも計画的に実行したもの。」

 

 

 「え? どうしてわかったのですか?」

 

 

 「まず、本棚から落ちてきたこの聖女の像が後頭部に当たり、それが致命傷になったっていうけどさ。

  遺体の倒れ方がおかしいんだよ。しかも傷がない…。それにその状況だと足りないものがある。」

 

  

 「倒れ方ですか?」

 

 

 「レスちゃんが話した見解だと後頭部に像が落ちてきたのなら、ミチビさんはちょうど下を向いていた時じゃないと後頭部に傷なんて残らない。おそらく本を手に持ってみた時だ。」

 

 

 「はい、本を取ろうとして、ミチビさんの身長より数段上の段から像が落ちるのなら、ホームズ様がおっしゃる通りの状況でないと難しいでしょう。

  ですが、これのどこがおかしいというのでしょう。

  それに、傷がないって…。」

 

 

 「この本を手にする際に、落ちてきたのなら、もちろん本棚のすぐそばにいたという事だよね。ほら、レスちゃん。ミチビさんの最後の行動を再現してみて。」

 

 

 「はい!! お安いご用です!! ホームズ様のお役にたてて!! 感動です!!」

 

 

 …と、説明を再開した時から、ずっと床に手と膝をついて獲物のポーズをしたレスちゃんの上にホームズがカッコよくポーズをつけて座っていたのだ。

 

 この状況に誰も突っ込まなかったのはさておき、真剣に話しながらも、快楽を感じていたレスちゃんは、ドMであることが立証できたといえる。

 

 名残惜しそうにしていたが、瞬間に警魔隊の制服に着替え、ミチビさんの役で、違う本棚に向かい、最期の状況を再現する。

 

 

 「まず、本を取る。そして、それを確認している最中に上から像が

 

 

 

  ドオ――――――――――ン!!」

 

 

 「ぐえっ!!」

 

 

 再現するといったが、上の段から一冊の本を移動魔法で取り出し、それをレストレードの後頭部に加重系統魔法をかけた本で一気に落とす!

 

 悲鳴を上げ、後頭部を手で押さえながら、顔から本棚に激突するレストレード。

 

 その衝撃で本が落ち、次々とレストレードに降りかかり、仰向けで倒れた。

 

 

 

 

 今の再現を見て、御神とオドリーは絶句する。

 

 

 

 「さて、さぁ…レスちゃんが見事に再現してくれたから、現場の写真と見比べてみろ。

  間違いさがし開始~~!!

 

 

 

 

  ……あ、レスちゃんも身を張った再現ありがとうな!!」

 

 

 写真を渡しながら、どこか不自然か、推理タイムが始まった。

 

 

 そして、思い出したかのような口調で、レストレードに話しかける。

 

 

 

 

 

 

 いやいやいやいや!!!

 

 

 

  

 

 

 それよりもいう事あるよね!?

 

 

 

 「ちょっと!! また派手にやっちゃって…!!」

 

 

 「いえ、私はホームズ様の下僕ですから!! ホームズ様のために、この身を思う存分使っていただけるだけで満足です!!

  今回もお役にたてて7とても幸福を感じています!!

  はぁ~~、天国に行ってもいいくらいです!!」

 

 

 「うん、もう天国に行けるよ、その状態なら。

  頭から大量に血が噴き出しているし、溢れ出た血が別の意味で顔真っ赤にしているし~~。

  もう天国に簡単に行けるわ!!」

 

 

 「はい、レスちゃん!! よくできました。ご褒美においらを運ぶ豚に任命してあげるぜ!!」

 

 

 「はい!!ありがたきその任務、喜んでさせていただきます!!」

 

 

 

 御神がレストレードを労わりながらも、突っ込んでいると、横からヘムタイのホームズが早速豚にやれと言って、率先して瞬時に服を脱ぎ、ドM豚に早変わりしたレストレードに、だんだん突っ込むのも馬鹿らしくなる。

 

 

 「オドリー~~。 助け………」

 

 

 「う~~~ん…。」

 

 

 一方、オドリーはホームズからの出されたお題に答えるために、写真を凝視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、推理タイム終了~~~!!

  さて、分かったかな?オドリー。」

 

 

 「うん…、さっきレストレード様は、仰向けで倒れられたのに、この写真ではなぜかうつ伏せになってます。

  つまり像が落ちてきた時には、既に本棚に背中を向けていた事になります。

 

  これは、本を取りだした後に、何らかの衝撃で本と共に落ちてきたことになると思うのですけど…。」

 

 

 「それっておかしいよね?

  だって、要は目的の本を取って、本棚から離れようとしていたのだから。

  さっきのレストレードみたいに頭の衝撃で本棚に激突する事もなく、何も前振りがないで、本が大量に落ちてきて、像も見事に頭を直撃…。

  ・・・・・

  タイミング良すぎる気がする…。」

 

 

 「はい、まるでそうなるように仕組んでいたとしか……、あ!?」

 

 

 「どうしたの?オドリー。 まだ何かあるの?」

 

 

 「いえ、先程私達が導き出した行動だと、明らかに矛盾する事があるのですよ!!」

 

 

 「?? それは……」

 

 

 「致命傷の位置………、ですか!?」

 

 

 二人の推理にホームズの人間椅子となっていたレストレードが答えを言ってしまう。

 

 

 「先程私が再現した方法だと、致命傷となった後頭部の傷に像が落ちてくるのも納得できます。しかし、既に本を取り、離れようとしていたのならば、顔は真正面に…、つまり像は頭のてっぺんになければおかしい!!

  そういう事ですね!!」

 

 

 「何を勝手にしゃべってんだ? レスちゃん?」

 

 

 バシッ バシッ!!

 

 

 

 ホームズの愛用のドS鞭がレスちゃんに猛威を振るう。

 

 

 

 鞭をレスちゃんに打ち付けながら、ホームズは、二人の推理を解説し、詳細に事件の内容を話す。

 

 

 「二人の推理はよくできているよ、さすがだな。

 

  でも、まだ足りない…。

 

  レスちゃんが口走ってしまったけど、オドリーのその顔見れば、同じことを考えたのは分かる…。

  レスちゃんが言ったとおり、今の二人の推理に基づいていくと、逆に致命傷の傷が後頭部にあるのは可笑しい。

 

 

  それに、まだ3つ、可笑しな点がある。

 

 

  まずは、手に血がついていない事だ。

  さっき、レスちゃんが身を挺して再現してくれた時、頭に衝撃を受けて、レスちゃんはとっさに頭を押さえた。これは、人間なら防御しようと本能的に働いてしまう自然現象だ。

  当然、ミチビさんも同じようにしたはず。しかし、ミチビさんの両手には、血が一滴もついていなかった。

 

  これが1つ目。

 

 

  次に、顔にも傷や打撲がない事だ。

  頭に衝撃を受けた時、レスちゃんはぐらついて前のべりに目の前の本棚に激突したよな?その際にできるはずの怪我が見当たらなかった。

  それに本が衝撃で落ちてくるなら、激突するくらいじゃないとそう簡単に落ちないからな。相当目立つ怪我があってもいいくらいだ。レスちゃんみたいにな。」

 

 

 ホームズの説明を聞きながら、御神とオドリーは話に釣られるようにレスちゃんを見たが、顔が血で真っ赤になったままのレスちゃんを見ても、どこが怪我しているのが分からない…と心の中で思ったのだった。

 

 

 

 「そして最後に3つ目、聖女の像が倒れたミチビさんの顔の近くに転がっていた事だ。」

 

 

 「像が遺体の傍に落ちているのは、別に可笑しくないと思うけど?」

 

                            . .

 「ああ…、別に問題はない。問題なのは、像が転がっていた場所なんだ。」

 

 

 「え?」

 

 

 「本棚から落ちて、頭に直撃したのなら、本棚のすぐ近くに落ちるだろ?

  実際にレスちゃんの時もすぐ近くに落ちていたしな。

 

  そうすると、倒れたミチビさんと一緒に本の山に埋もれてしまうはずだ。

         ・・・・・・・・・・・・・   

  しかし、実際は倒れたミチビさんの顔の近くに落ちていた…。

 

 

  な? こんなに事故だったら可笑しな点があるんだ。

 

  

  被害者に後ろから近づき、後頭部をこの聖女の像で殴り、事故に偽装したと考えた方がじっくり来るってもんさ。」

 

 

 

 

 以上で、ホームズの推理が冴え渡り、思わず二人は拍手してしまう。

 

 

 さすが、ヘムタイ探偵を名乗るだけある。

 

 

 

 「さすがです!!ホームズ様!!」

 

 

 「別に褒める事ではないさ。 レストレードも何か引っかかるから、俺に依頼してきたんだろ?

  さっきも、『見解でした』…と過去形で言っていたし、現場を見て、何かはわからないが、事故で済ます気に慣れなくて、おいらに捜査依頼をお願いに来た…、ってとこだろ。」

 

 

 「はい!! そこまでお見通しだったとは!! やはり、我らの心強きヘムタイであります!!」

 

 

 

 「だったら、さっさと容疑者を連れてきてくれないか?

  早く終わらせて、準備しないと!!」

 

 

 「準備?」

 

 

 「そうだよ!! 早くちゃにゃん達が帰って来る前に、隠しカメラなりを設置しないと、今度こそ生全裸を拝む事は出来ないだろ!!」

 

 

 

 ものすごく必死に、(ジョジョっぽい立ち方と顔で)この後のヘムタイスケジュールを堂々と暴露するホームズに御神は呆れ果て、オドリーは含み笑いをするのだった。

 

 

 

 

 




ミステリー大好きなうちが今回の話を打ちこんでいたら、思わずめりこんで、しまった!!

でも~~!! なんだか、面白くなってきた展開に、我ながら満足だぜ!!


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿⑥

事件の可能性が出てきたって事は、当然犯人を吊し上げる…よね。

…吊し上げるだけで終わればいいけど。


 

 

 

 「ところで、容疑者って?誰を?」

 

 

 「え?決まってるぜ。 さっきも言ったとおり、これは計画的犯行だ。衝動的な犯行なら事故に見せかけるほど冷静にはなれないだろう。

  それに、他にも凶器になりそうなものはこの部屋にはたくさんあるのに、なぜ本棚に飾られて届きにくい高いところにある聖女の像を選ぶ必要があったのか。

 

  強盗だったなら、ハンマーなり凶器は持参しているはずだしさ。

 

  考えられるのは、この家の配置等を詳しく知り、被害者に恨みを持つ人物…。

 

  身内の犯行で間違いない!!

 

  だから、被害者の弟子だっていう人とこの家の家政婦か使用人を連れてきてくれ。

  

  レスちゃん!!」

 

 

 「はい!!ただいまお連れしてまいります!!」

 

 

 大声で愛称を呼ばれたレストレードは敬礼すると、すぐに関係者を呼びに部屋を飛び出した。

 

 その姿を見送った御神とオドリーはすでに関係者の事を知っているかの話し方だったホームズに、疑問を抱く。

 その事は、ホームズもわかっていたようで、すぐに説明してくれた。

 

 

 「な~に、簡単だぜ!!

  レスちゃんが事件説明するときに、『弟子が来た時には既にこのようになっていた』って言っただろ? なら弟子は被害者と親密な関係で、この家を周知していてもおかしくない。

  あと、家政婦か使用人っていうのは、入ってきた時もそうだったけど、見事に掃除されていて、埃が溜まっていなかったいなかったんだ。

  まぁ、今日は事件のせいで、仕事が滞っているみたいだけど、毎日掃除している証拠だよ。

  でも、研究三昧だった被害者もその弟子も、掃除する様には見えない。

 

   ほら見てみろよ~~!!

 

  被害者の書斎机は、本や書類、論文でごった返しになっているし、パソコンの上は埃が溜まっているからな。

 

  そして何より、キーボードにコーヒーがかかっているままだし。

 

  な? 研究熱心な被害者とその弟子が日頃から掃除とは皆無なのは明かだぜ!!

 

  そして被害者はかなりの大物だったわけだし、家政婦や使用人がいてもおかしくない。

 

  …という訳さ!!」

 

 

 「本当に……。見ただけでそこまで読み取れるなんて…。」

 

 

 「違うよ、オドリー。

  ホームズは、ヘムタイしておかないと、推理思考が開かないだけなんだよ。

 

  さっきまで、レストレードを調教していたから、気分が乗っているだけだよ。」

 

 

 「さすが、御神!! おいらの事は分かっているな!!

  でも………、まだ足りないんだ…。

 

  あと少しでこの事件の真実が見えてきそうなんだけどよ!!」

 

 

 頭を抱え、困った表情を取るホームズに、オドリーが歩み寄り、話しかける。

 

 

 「ホームズ様、宜しければ私もお手伝いさせていただきます!!

  何も御力になれずにお役目御免は嫌ですので。」

 

 

 「ホント!!? だったら……」

 

 

 そう言って、目を輝かせて、オドリーに頼んだ事とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オドリーのミニスカの中に頭を突っ込んで、ヘムタイ度を高める事だった。

 

 すぐに御神がホームズの頭を鷲掴みにし、引き離す。

 

 

 「……ホームズ、それはやってはいけないヘムタイだよ。」

 

 

 「いや、これで推理しないと、事件の真相が迷宮入りして………」

 

 

 「それなら、いっそホームズのヘムタイ魂ごと、迷宮入りさせてあげようかな?」

 

 

 「待ってください!!御神……!!

  これでホームズ様が事件解決できるのであれば、私は大丈夫です!!

  ホームズ様には、2度も御命をお助け頂いてますから…。これくらいでお役にたてるなら…」

 

 

 純粋な笑顔でスカートをめくるオドリーに、ホームズがすぐさま突っ込んでいき、「むふふふふふ…………♥」と女性としては危機感しか感じられない含み笑いしながら、ヘムタイ推理を脳裏で展開していく。

 

 

 

 

 

 

 

 不自然な現場………

 

 

 

 

 被害者の足りない傷……

 

 

 

 

 凶器は聖女の像………

 

 

 

 

 次々に疑問が出てきて、事件だと判明した。

 

 

 

 しかし、何か腑に落ちないことがある。

 

 

 

 みんなには、まだ言っていないが、被害者が握っていた本には、コーヒーの匂いが漂っており、シミが中のページにまで浸透していた。だが表紙のコーヒーは拭き取ってある。

 そして書斎机には、零れたコーヒーが残っている。 

 時間的に見て、本のシミがついたのは、書斎机だ。

 

 つまり、この本は本棚になんて収納されていなかったんだ!!

 

 

 本棚に向かう必要はなかった。

 

 

 なら、被害者はなぜ本棚に近づいたのか…。

 

 

 

 そして、なぜ溢したコーヒーを拭こうとはしなかったのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、ホームズの頭の中で何かが閃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに書斎机にあるパソコンを調べ始める。

 

 

 だめになったのはキーボードで、パソコンは履歴を見る事が出来る。

 

 

 マウスを動かし、最後に使用された履歴を調べてみると、被害者が死亡推定時刻の少し前に、知人に暗号化されたメッセージが送られていた事が分かった。

 

 

 「くそ!! この暗号……かなりセキュリティがかかっているな…。

  早く見たいってのに、おいらだと翌日になってしまうぜ!!」

 

 

 暗号解除に悪戦苦闘していると、オドリーと御神が後ろから覗きこむ。

 

 

 「ああ…、これですか。

  私、この暗号、解除できますよ?」

 

 

 オドリーがあっさりとした口調で言うものだから、ホームズも御神も、振り向いて、「「え?」」っと目を丸くして驚く。

 

 

 

 オドリーはマウスを代わりに動かすとものの数秒で、暗号を解読し、メッセージの中身を読めるようにしたのだった。

 

 

 「オドリー…、凄すぎる・・・。」

 

 

 「どこでこの技術を…」

 

 

 「……カバルレが闇情報を会得するために、暗号化された日得情報も手に入れようとして、私に…、教え込ませたの…。

  だから……」

 

 

 「ありがとう…。辛いこと思い出させてしまってごめんね。でもオドリーのお蔭で助かった!!」

 

 

 満面の笑顔でお礼を言うホームズに、きょとんとなるオドリー。

 

 

 お礼どころか、引かれると思っていたので、正反対の対応に戸惑ったのだ。

 

 

 オドリーが言葉を失くしている間に、ホームズは早速暗号化されたメッセージを読む。

 

 

 すると、最後に意味深な記述が記載されていた。

 

 

 

 それが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”0141 ● 13022 ○ 12014 ○”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何…、これ…?」

 

 

 「数字と……丸がそれぞれ3つずつ……」

 

 

 

 「思ったとおり…、これは間違いないな…!!

 

  これはダイイングメッセージだ!!」

 

 

 「「だ、ダイイングメッセージ!!」」

 

 

 

 「恐らく、死ぬ前に犯人の名を残したんだろうぜ!!

 

  …やっと面白くなってきたぜ!!」

 

 

 興奮するホームズは、謎のダイイングメッセージに目を輝かせる。

 

 

 

 そしてそれを見計らったかのように、関係者を連れて、レストレードが部屋に戻ってきた。

 

 

 

 「お待たせいたしました!!ホームズ様!!

  彼らがその関係者の方々です!!」

 

 

 勢いよく紹介していくレストレードの人物紹介に三人は耳を傾ける。

 

 

 

 ★ロキ・タセヤ  (28)

 

  被害者の弟子。数年前から被害者の元で、魔法開発や魔法にまつわる経済の発展技術の研究を行っており、学界からは将来有望の研究者だと評価されている。  この近くに被害者が用意した家に住んでいる。

  研究者との付き合いは頑なに拒んでいた被害者には、唯一の弟子で、とてもかわいがられていた。

  いずれは被害者の後を継いでいくと噂されている。

  しかし、近々学会で大がかりな論文を発表する事になっているが、その件で被害者と揉めていたとも言われている。

  周囲では、口論する声が最近聞こえてきていたそうだ。

 

 

 

 

 

 ★オーキイ・カラダ (39)

 

  被害者に雇われていた家政婦。この家の家事全般を任されている。

  身長は150㎝と被害者より低く、身体はぽっちゃりを通り過ぎて、まんじゅうのようだ。しかし、それを本人に言えば、埃叩きで叩かれる。

  お菓子が大好きで、仕事しながら食べるのが日課。

  被害者とは、仕事上の関係だったが、それ以上に仲が良く、周りからはひっそりと秘密の後妻では?ともっぱらの噂である。

  そして、彼女にはたくさんの子を育てるシングルマザー。多額の借金を抱えている。

 

 

 

 

 ★ボス (50)

 

 

  元実践魔法師の片目に傷がある中年男性。堀の深い顔つきに、長年戦地で戦ってきたことが窺える風貌をしている。

  その見た目でも似合う、被害者の家の警備・護衛をしている。

  被害者は多くの魔法や技術を世に広めてきたエキスパートだ。そのため、研究資料を盗もうとしたり、直接被害者を襲って、精神系統魔法で脳内の知識を奪おうとする者もいたため、被害者が昔からの付き合いがあるボスを雇ったのだ。

  だから、この三人の中で唯一住み込みだ。

  

  その彼が、自分の仕事ぶりがいいのをいい事に、こっそりと研究資料を盗み出していて他の研究者に情報をリークしていたのではないかと嫌疑をかけられていたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …以上が関係者、…容疑者のプロフィール。

 

 

 

 

 「…間違いないな。メッセージが示す者…、犯人がこの中にいるっ!!」

 

 

 

 にやりと笑うホームズの口元が吊り上り、そう明言するのだった。

 

 

 

 

 

  




今日も頑張った~~~!!!

ダイイングメッセージ…、明日までにみんなも推理してみてね!

ヒントは…、くっつけてみてね♥


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿⑦

犯人がついに明らかに!!

誰だ~~!!

みんなは、前回の暗号で示された人が誰かわかってますかな?


 

 

 

 

 

 「この中に犯人がいるって!!」

 

 

 「もう分かったの!!?」

 

 

 御神とオドリーが声を荒げる。

 

 

 無理もない、まだ時間が経っていない状態で、ダイイングメッセージを見破ったのだから。

 

 

 「ああ…、全て分かったぜ!! 

 

  メッセージが示す相手も…、犯人も…、そしてこの事件の真相がな!!」

 

 

 カッコよくポーズを決めるホームズ。

 

 

 片足を踏み台に置き、顎に手を当てて、流し目でこの部屋に集められた全員に向ける。

 もちろん、踏み台は自ら豚になったレスちゃんだ。

 

 

 

 

 シ-――――――――――ン…………

 

 

 

 

 見事に滑った。

 

 

 部屋に吹雪くらいに寒げが襲ってくる。

 

 

 

 「ゴホン…、え~~、ではまあ、今回の事件について話す前に、ちょっと聞いておきたい事があるので、皆さんに質問させてもらうぜ!

 

  まずは…、被害者に家族は?」

 

 

 いよいよ推理が始まると思っていた矢先に被害者について話してほしいと注文してきたホームズに関係者たちは訝しく思う。

 

 

 「何をいまさら…、そんな事を聞くために僕たちを呼び出したというのですか。悪いですけど、僕は忙しいのです。学会に発表する論文がまだできてませんのでね。」

 

 

 「そうですわ、私もさっきからこびりついたこの皿の汚れを綺麗に磨き上げるので手一杯ですわ。」

 

 

 「…別に俺は話してもいいぜ? ミッチーを守れなかった俺は既に職なんてなくなってしまっているしな。何のための警備だったんだかな~…、俺は。」

 

 

 ロキは話しながらも論文の資料をぺらぺらと廻りながら、呼んでいたり、高そうなお皿の汚れと真剣勝負していたり、ごっつい顔をしているのに、溜息ついてめちゃくちゃ落ち込んで、前髪をくるくると指で絡めている。

 

 

 「そこを何とか。それがあれば、犯人も自首してもらえそうなので。」

 

 

 全員が驚愕する。

 

 

 被害者に関する何かが犯人につながるというのか。

 

 

 沈黙が続いたが、仕方なしに関係者たちが話し始める。もっとも今目の前のものを止めるつもりはないが。

 

 

 「ミチビ様の事でしたら、私の方が一番詳しいと思いますわ。

  昔からずっとミチビ様にお仕えしておりましたから。

 

  ミチビ様には、奥様とまだ生まれて間もない御子息がいらっしゃいました。

  ですが、ミチビ様が学会の方々の会合という名のパーティーに捕まっている間に、奥様とご子息様はミチビ様の研究資料を盗もうとこの家に入り込んだ悪徳研究者の手に掛かり、拉致されてそのまま……。

  奥様の遺体が発見された時は、ミチビ様はもう息をしない奥様の身体を抱いて、それはもう酷く泣き叫んでました。後にも先にもミチビ様が酷く悲しみに暮れたのはこの時だけです。

  ご子息の遺体はありませんでしたが、ご子息の血痕が発見されたため、殺されて別の場所に遺棄されたと当時の警魔隊の方達は、見解を示しました。

 

  この事件をきっかけにミチビ様は学会に属する研究者やスポンサーとは一切関係を持たないとこの家に引きこもり、一人で研究を続けてきました。」

 

 

 「オーキイさん、それはいつの事…」

 

 

 「確か……約30年ほど前でしたかしら。 ごめんなさいね、最近記憶が曖昧になってきて、特に年数や人の顔は所々抜け落ちているのよ。でも、時間の感覚は大体合っているはずよ。」

 

 

 「そうですか…、そのような事が…」

 

 

 「そんな過去があったら、一人になりたいのは、無理がないな。

  同じ志を持っていたはずの研究者にそんな事をされたら…。」

 

 

 「なるほど。では、ここ数年で、何か変わった事は?」

 

 

 「変わった事ですか?え~~と…」

 

 

 「その頃は、私達もこの家に居ましたな。あの事件以降、ちょくちょくと声を掛けに来ていたんだが、いつも悲しみに暮れていて、そして時に怒りをぶつけていたな。

  結局、犯人は誰かは未だに分からないままだから。

 

  だが、数年前に突然、ミッチーから珍しく俺に電話がかかってきたんだ。

 

  いつもは俺からアクション取るのによ。だから、深刻な事かと聞いてみたら、敬語として働かないかって、誘ってきたのさ。

 

  まぁ、俺も実戦魔法師としては、既に年老いてきたからな。若い者に後を継がせて、ミッチーと一緒に老後を味わってみるのも悪くないと誘いを引き受けて、こうして警護についたのさ。

  しかし、結果はご覧のとおり…。

  友を守る事が出来ない、ただのジジイさ。」

 

 

 「僕は、その頃に訪問しました。自分の論文に自信が持てずに魔法開発・研究の権威であられるミチビ先生に一度見てもらおうと思い切って、尋ねたところ、論文を高く評価してくれて、それからは弟子としてもったいない奉仕を受けさせていただきました。

  今の僕があるのは、全てミチビ先生のお蔭です。

  そのミチビ先生がお亡くなりになるなんて…。

  ミチビ先生のために、今回の学会には、絶対にこの論文を世に出して見せる!!」

 

 

 「………あ、思い出しましたわ。

  そう言えば、二人がこの家に来るようになってから、家の中から消えてましたの…」

 

 

 「例えば、写真やアルバム……とかだったり?」

 

 

 「そうです!! どうしてそれを?」

 

 

 三人の供述を聞いて、ホームズは笑みを浮かべて、オーキイの言おうとしていた事を当てて見せた。

 

 

 御神とオドリーは、既に心の準備をしている。ホームズが誰が犯人だと言っても、受け入れられるように…。

 多分だけど…、この事件はその約30年前の事件とつながっている気が…。

 

 

 

 「はい、分かりました。もう結構だ…です。

 

  これですべてが繋がりました…。

 

 

 

  では、そうだな~~。

 

  まずパソコンの履歴に残されていたメッセージですが、簡単に言うとあなたたち三人の中にいるある人物を指しています。

 

   先ほど、私達の見解で、被害者は本棚から落ちてきたこの聖女の像が頭に落下して来たのではないという話をしたんだよ。

 

  でも、そうすると、わざわざ被害者がこの本棚の前に来る必要がなくなるじゃないか。なら、なぜ被害者が本棚の前で倒れていたのか…。

 

 

  書斎机と被害者が握っていたこの本を見て、分かった。

 

 

  被害者が聖女の像で殴られたのは、本棚の前ではない…。

  この、書斎机に座っている時に後ろから殴られたんだ!!」

 

 

 「「「何だって!!」」」

 

 

 「死亡推定時刻のほんの数分前に、メッセージを送っている。そして、キーボードにまでコーヒーが零れている。

  殴られた時にでも、カップを倒してしまったんだろう…。

 

  実際に、被害者の袖には、コーヒーのシミが飛んでいたしな。」

 

 

 「それで、犯人は!! あのダイイングメッセージは誰を犯人だって言っているんですか?」

 

 

 ロキがキリットした目でホームズに答えを求める。

 

 

 レストレードはすぐにでもひっ捕らえられるように三人の背後で目を光らせて、手錠を構えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうだな…。 いいだろ。

 

  このメッセージに記された、数字とその横にある○…

 

  これは、名前を分解したもので、丸は誰が負けなのかを記しているんだ。」

 

 

 「名前を分解…?どういう事なの、ホームズ?」

 

 

 「三人の名前をローマ字にしてみてくれ。ただし、ボスさんだけは普通に…」

 

 

 「え~~と…、ROKI、OKII、BOZZ……だよね?

 

  これが何?」

 

 

 「三人の名前を引きはがしてみるんだ。

  例えば、ロキさんならROKI… Rを真ん中で切って、Kも真ん中を切る…。そして少し形を補正すると…」

 

 

 「……う~~んと…。

  12014……。あ!! 12014!! メッセージにあった数字と同じだ!!」

 

 

 「そう。この三人の名前はみんな、数字で表現できるんだぜ。www

  そして丸は、星を指していて、黒星はあるスポーツでは、”負け”を意味しているんだ。」

 

 

 「なるほど…。それは相撲と呼ばれるスポーツの勝敗の呼び名でしたね。

 

  なら、他の二人も数字に置き換えてみて…。

 

 

  オーキイさんは、0141…。

 

  ボスさんは、13022…。

 

 

 

  …って事は!!」

 

 

 「このメッセージが差していたのは、”0141 ●”と記されていた、オーキイ様!!

  オーキイ様が犯人様なのですか!!」

 

 

 オドリーが悲鳴に近い驚愕の表情で叫んだ。

 

 

 それがこの部屋の全員に緊張をもたらす。

 

 

 関係者の3人は、激しく動揺している。

 

 

 ロキは、持っていた本のページを破りまくって、慌てて元に戻そうと空を舞うページの欠片を飛んで集める。

 

 オーキイは、驚きで持っていた高そうな皿を落として割ってしまい、割れたのを隠そうと持ち合わせていた米粒に唾をつけて、糊代わりにし、くっつけて背中に隠す。

 

 ボスは、驚きで、ずっとくるくるしていた前髪…というか髪が天井まで飛び上がる。大事そうに髪を弄っていたから、薄々感じていたが、カツラだったか…。

 再び頭でキャッチしたカツラを修正し、何もなかったように口笛を吹く。

 

 

 オドリー達は笑いそうになるのを堪えて、話を続ける。

 

 

 

 

 

 

 「あなたが!! ミチビ先生を殺したのですか!!」

 

 

 「あんなにミッチーが信頼していたのにか…?」

 

 

 「わ、私は…」

 

 

 「やっぱりお金ですか!!? 家計が苦しいからとミチビ先生を手に掛け、家族がいない事をいい事に、ずっと寄り添ってきたから遺産をもらえる…とそう思っていたのですね!!

  怪しいと思ってました。 ただの主従関係には見えませんでしたからね!!」

 

 

 「あ、あの、そそそそそれは…」

 

 

 ロキがオーキイを罵倒し始めた。

 

 

 信頼する人が身近な人に殺されたから…。

 

 

 涙を浮かべ、オーキイを問いただす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事にダイイングメッセージを解き、全て解決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………かに見えたけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ・・・・・・

 「おいら、まだ犯人の名を言っていないけど?」

 

 

 

 一人だけケロッとした顔で、爆弾発言をする。

 

 

 

 「え?オーキイさんが犯人じゃないのか?」

 

 

 「どういうことですか?」

 

 

 一斉に視線がホームズに集まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はははははははは!!!

  

  おいらの推理はまだ続きがあるのさ!!

  こっからが真相だぜ!!」

 

 

 高笑いした後のホームズは余裕があるように見せていたが、御神とオドリーには分かっていた。

 

 

 心の中では、悲しんでいるという事を…。

 

 

 そう、感じていた…。

 

 

 

 

 




暗号をついに解読~~!! 正解はオーキイでした!!

キーボードを見ていたら、閃いちゃって…!!

でも、これを妹に話したら、「それ、コナンで見た事ある。」と爆弾発言され、ショックを受けるうちでした。

既に使用済みだったとは…!!

ここは、有名な青山剛昌様に土下座を!!「ごめんなさい!! 知らなかったとはいえ、使ってしまいました!! 申し訳ありません!!」


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後日談参ノ魔書★ ホームズのドSヘムタイ事件簿⑧

真実はいつも一つ!!

迷宮入りはさせないぜ!!
犯人は鞭で縛って、快楽を目覚めさせてあ・げ・る・ぜ!!

ホームズのドSきた~~。


 

 衝撃の展開へとなった事件現場に、緊張した空気が張りつめる。

 

 

 「どういうことなの?ホームズ。だって、被害者は書斎机で研究している時に後ろから殴られたんでしょ?

  なら、あのメッセージを打って、送信したのも被害者じゃないの?」

 

 

 「そうですよ、ホームズ…さん。

  被害者が犯人の痕跡を残そうと、力を振り絞り、メッセージを誰かに送ったのでは?

  現に、そのメッセージには、三人の名前を数字化して指したものでしたわ。

 

  確かに、オーキイさんが犯人だったとは意外でしたが、ちゃんと被害者が残して…」

 

 

 「本当に被害者が残したと思っているのかよ。」

 

 

 「「………え?」」

 

 

 ホームズは頭を掻いて、書斎机に近づく。

 

 

 

 「レスちゃん、被害者の死因をもう一度言って。」

 

 

 「はい、被害者は後ろから聖女の像で殴られた事によって起きた脳内出血が死因であります。」

 

 

 「そうだ、そして被害者は即死ではないよな?」

 

 

 「はい、後頭部に受けた傷が元になって、脳内出血が起き、一命を落としたのですから、殴られてからしばらくは生きていたと思いますよ。

  それでも痛みが激しかったはずですが。」

 

 

 「はい、このレスちゃん情報はとても重要だぜ!!

 

  これで何が分かる?」

 

 

 試すような口ぶりで話すホームズに全員が首を傾げる。

 

 

 「即死ではなかったのなら、メッセージも送れるのでは?」

 

 

 「ダイイングメッセージだって、ミチビ先生らしい残し方ですよ?」

 

 

 「………どう思う、オドリー?」

 

 

 みんなはあの暗号を残したのは被害者だと考えている。

 

 しかし、ずっと黙っているオドリーに御神がそっと話しかけてみる。すると、オドリーは怒気を含んでいる口調で自分なりの推理を披露する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これは……犯人によるミスリードだったのね。

 

  脳にダメージを受けたことで、脳に血が溜まっていく中、被害者がまともに普段通りの天才を発揮できるでしょうか?

  わざわざキーボードでメッセージを打てるほどに。

  

  私は、色んな死を見てきました。

 

  被害者のように撲殺で、即死ではない場合は、その場から逃げようとするだけでも足が覚束ない人が多くいましたわ。

 

  今回も同様に、脳にダメージを受けたのなら、思考能力は著しく低下していたはずです。

  キーボードで犯人の名を記すなら、もっと簡潔に決死の想いで残すはず。

  命が尽きかけているという時に、被害者がこのような凝ったメッセージを残すなんてあり得ないですわ。」

 

 

 真剣な顔で推理を告げたオドリーに、レスちゃん椅子に座っていたホームズが拍手する。

 

 

 「さすが、オドリー~~!!

  経験を駆使して、見事、おいらの課題についてきたぜ!!

  これは、本格的に助手として…、いや、相棒として検討しようか…?」

 

 

 「そ、そんな~!!

  ホームズ様のお役にたてるのは、この私だっけ!!ああああ~~~~っん!!」

 

 

 「誰が、反論していいと言った?

  お前はおいらの何だ?」

 

 

 「はい!!ホームズ様の奴隷です!! 豚です!!」

 

 

 「そうだよな? なら豚は豚らしくしておかないとな~? おいらの許可なく話すな。」

 

 

 「あ…♥ ああああ~~~ん!!! わ、分かりました!! 申し訳ありませんでした!! ご主人様~~~!!」

 

 

 「…たく、勘が鋭いのに、まともに頭が回らないお前のために、着てやっているってのによ~~!!」

 

 

 レスちゃんの尻をかかとでぐりぐりと刺激を与えているホームズはドS丸出しに調教していた。一方で、レスちゃんはもっとしてくださいと尻を突き上げ、嬌声を上げる。

 

 

 なんだか見てはいけないような気がして、当事者の二人以外は全員天井を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、話どこまでだっけ?」

 

 

 話が大分外れてしまったため、ホームズがそう切り出してくる。

 

 

 「被害者があのメッセージを打ち込むのは不可能だったのではないか?…からですわ。」

 

 

 「そうそう…、それ。

 

 

  オドリーが指摘した通り、被害者にそこまで頭が回るほど、意識はなかったのではないかということだ。もしあったら、それこそレスちゃん程の石頭じゃなかったら、まず無理だね。」

 

 

 「って事は、犯人は被害者が打ったように見せかけた?」

 

 

 「そう考えた方が筋が通る。」

 

 

 「だったら、あのメッセージを打ったのが犯人なら、オーキイさんがわざわざ自分が犯人だと名乗るようなことをするはずがないよね?」

 

 

 「たまに、そうやっておいて、逆にアリバイを作り無罪になる奴もいるけどな。

 

  …まぁ、今回はそれはない。 …というよりは、失策だな。」

 

 

 「どういう事ですか? ホームズ…さん」

 

 

 「犯人はオーキイさんを犯人としてでっち上げたかったらしいけど、逆にそれが自分が犯人だと告げる証拠になった訳だ。」

 

 

 「このメッセージが?」

 

 

 「ああ。

  被害者を殺害した後、犯人はメッセージを打とうとした。しかし、コーヒーがキーボードに零れたために使えなくなってしまったんだ。

  犯人は戸惑っただろうな。せっかくオーキイさんに罪を着せようとしていたのに、これでは自分の疑いがかけられてしまう。

  そこで、犯人はこの殺人を計画した時にでも、準備していたメッセージをパソコンにリンクさせ、コピーして貼り付けたんだろう。

 

  それなら、接続する機械とマウスだけで済むからな。

 

  そして犯人は、痕跡が残っていないか確認し、去っていった。

 

 

  しかし、犯人は気付かなかったみたいだな。」

 

 

 「何を? …ちょっと待って、え? オーキイさんが犯人ではないなら、一体誰が犯人なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「犯人は……… あなただっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ロキ・タセヤっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なっ!!」

 

 

 「「「「「「ええええ~~~~~~~~!!!!」」」」」」

 

 

 「ちょっと待ってくださいよ!! 私はミチビ先生を心から尊敬しているのですよ!!? 私がミチビ先生を殺すなんて…!!」

 

 

 「でも、実際にあんたしかこの殺人は出来ないんだよ。

 

  だって、二人はこの研究室に入る事は出来ないんだから。」

 

 

 「え? 何をバカな事を!! 二人はミチビ先生とは長い付き合いなんですよ!! 二人が一度もこの部屋には言った事がないなんてありえないじゃないか!!?」

 

 「それが有り得るんだよ。

  パソコンには埃がついている。それも経った半日で溜まる量ではない…。ここに来るまで色んな部屋や廊下を通ってきて、見取り図も見たけど、この部屋だけ掃除が行き届いていなかった。

  もしかしたら、オーキイさん、ここだけ掃除はするなと固く言われていたんじゃ。」

 

 

 「え、ええ…、そうですわ。

  ここはミチビ様の頭脳そのものが格納された、いわば”脳の部屋”。私如きでは扱えない物もありますので、ミチビ様からはここの掃除はしなくてもよいと命じられ、ずっとそのようにしていました。」

 

 

 「お、俺も…、この部屋の前まではきた事があるが、入った事はないな。『お前は警備としてここにいてもらっているから、私の研究を見る必要はない』と言われた事があるぜ。 それに、ミッチーはこの部屋の前のロックの解除コードを俺達に教えていないしな。」

 

 

 「そ、そんな…!!」

 

 

 「あれ? ロキさんは知らなかったんですね。

  それも仕方ないが、あなたはまだここにきて数年…、被害者と長い付き合いだからと、何でも知っていると錯覚したんだな。

 

  …これでわかっただろ?

 

 

  この部屋にロックを開けて、被害者を殺す事が出来たのは、日頃から被害者とこの部屋で研究をしていたロキ!! お前しかいないんだ!!」

 

 

 「俺はそんな事は!! だ、大体証拠でもあるのかよ!!」

 

 

 「あんた…、何で被害者が送ったメッセージが”ダイイングメッセージ”だとわかっていたんだ?」

 

 

 「え?」

 

 

 「おいら達が”ダイイング”なんて一言も言っていないぜ?

  あんた達がこの部屋に来た時から。」

 

 

 「あ!? だから、ダイイングメッセージの事を、メッセージって言えって…!!」

 

 

 「犯人しか知らない秘密を吐露させる目的でしたか…。お見事ですわ。」

 

 

 「それに、あんたがメッセージをコピーする際に使ったデータが僅かにこのパソコンに入っているはずだ。

  分析すれば、そのデータが誰から送られてきたのか、分かるだろ?」

 

 

 

 

 「くっ…………くそ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ロキは、持っていた本のページを全て引き裂き、羊みたいに口に入れて食べていき、喉に詰まって、気絶するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……いつから気づいていたんだ?ホームズさん。」

 

 

 「あんたが入ってきた時からかな。」

 

 

 「…ふっ、その時に既に僕は負けていたというのか…。」

 

 

 「あんたが被害者を本当に好いていたのは分かっている。

  だから、被害者らしくしようとして、ミスったのさ。

  ……あんたはミチビを殺してはいけなかった。それはあんたが更に苦しむことになるからな。

  運命ってものは残酷だなぁ。

 

  おいらはこうなってほしくはないと思ってたんだぜ?」

 

 

 

 ぐたりとへたり込んだロキが動機を話していく。

 

 

 

 そろそろ論文発表でついに一人前になると言った矢先に告げられたあの言葉から始まった。

 

 『今回の学会での発表が終わったら、私は引退しようと思う。

  そして、私の研究やこの家…、私の全ての財産をある人物に渡そうと思っている。』

 

 

 突然のミチビ先生の告白に、ロキは絶句した。

 

 

 今まで、学会を退いてまで、研究してこられたのに、その研究が…、ミチビ先生の全てが誰かに渡ってしまうのが恐ろしかったし、許せないと思った。

 

 もし渡れば、きっと悪用されるに違いない。

 

 それを防ぐためには、思いとどまってもらわないと。

 

 

 それからは、毎日のように説得した。

 

 

 しかし、頑なに口を縦に振らずにとうとう遺書まで書いて、誰かに正式に決めたらしかった。

 そしてそれをオーキイに話す所を見てしまった。

 

 

 ああ…、あの家政婦に、ミチビ先生の素晴らしさを理解できないあの人に全て持っていかれると思ったら……。

 

 

 だから、実行するまで物凄く悩んだ。

 

 

 だけど、先生の研究と愛したこの家を守るためにこの手で……。

 

 そして、暗号も用意して、オーキイに罪を着せようとしました。

 そうすれば、遺産分与の権限はなくなると思ったから…。

 

 

 

 

 

 切実に話すロキに、皆が黙り込む。

 

 

 しかし、オドリーがロキのすぐ目の前に座り込むと、いきなりロキの頬を叩いた。

 

 

 その行動を呆気にとられてみていると、オドリーがいつもより感情的になりながら、怒るのだった。

 

 

 「何が先生の研究を守りたいよ…!!

  本当は先生の研究を自分以外の誰にも渡したくなかっただけでしょ!?

  結局は自分の欲望で人を殺めただけじゃない!!

 

  そんなの、私は認めないわ!!

 

  いい!!? どんな理由があろうと殺人はその人の命だけでなく、これからの人生も、そしてその人の想いまで奪ってしまう、残忍な罪よ!!

  それは、例え罪を自覚し、反省しても、その過去だけは決して自分自身からは消えないわ! どんなに被害者家族が許してくれたとしても、その事実は永遠に自分に付きまとってくる…。

  

  ……それを踏まえて、しっかりと自分がしたことから逃げずに、ちゃんと向き合って。

  大丈夫…、あなたには助けてくれる人がそばにいるから。」

 

 

 苦笑して、ロキから後ろへと視線を向ける。

 

 それにつられて、ロキも後ろを見ると、オーキイとボズが微笑みかけていた。ロキは目を丸くする。

 危うく冤罪をかけられるところだったというのに、優しく接してくれるオーキイに戸惑いの表情を見せる。

 

 

 「……ごめんなさい。」

 

 

 「はい、許しますよ。 大丈夫です。 私たちがいますから。」

 

 

 「そうだ、俺もいる。…なんだしっかりと顔を上げろ!!」

 

 

 「うん…、ありがとう…。」

 

 

 

 

 優しい微笑みを向ける二人に涙を流して、謝罪とお礼を言ったロキは警魔隊に連行されていった。

 それに続き、二人も詳しい事情聴取をするために、部屋を後にしていく。

 

 

 

 レストレードは敬礼してから、依頼料は後日お送りしますと言い残して、部下とともに去っていった。

 

 

 

 部屋に残されたホームズと御神とオドリー…。

 

 

 

 

 

 

 「オ、オドリー……、あのさ…」

 

 

 「私…、良かったと思ってます。」

 

 

 しんと静まった空間で、どう切り出そうかと悩みながらも、意を決してオドリーに話しかけようとした御神の言葉に重なる形で、窓の方を見ながら、オドリーが自分と向き合いながら話しているかのように語る。

 

 

 「私、ずっとあの人の事を考えてました。そして、今まで殺めてきてしまった人たちの事も。

  罪を償うと決めていても、どうやって償っていけばいいのか悩んでました。

  そして毎晩のように、夢に殺めた人たちの悲惨な姿が私に恨み言を言ってきました。

  そしてあの人も…。

 

  それが苦しくて、魔法を使うたびに、あの人たちのようにしてしまうのではないかと怖くなって…。

 

  自分が自分でなくなるみたいになりそうで…。

 

  だから、私は一度決めた心を背を向けて、皆さんの厚意に甘えてしまっていました。

 

  でも、今回の事件に触れて、自分が楽になりたい、このまま忘れてしまいたいと、彼に言ったとおりに犯した罪から逃げていただけだって気づいたんです。

  彼らに償うことができるのは、私しかいないし、逃げてしまえば、その人たちが生きていた事から目をそらしてしまうってことだから…。

 

  だから、私は、どんなに苦しくても、ちゃんと向き合って生きていくって決めました。

  

  そう、決心させてくれたホームズさんと御神さんには感謝してます。ありがとうございます。」

 

 

 涙を流し、笑顔でお礼を言うオドリーは、ずっと溜まっていた何かを吐き出しているみたいに二人は見えた。

 

 

 そして、二人はオドリーを包み込んで、頭を撫でてあげる。

 

 

 

 「大丈夫…。 おいらたちがいるよ。」

 

 

 「一緒にいるよ。私たちは家族だからね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の優しさに触れ、涙を流し続けるオドリーは、泣き止んだ時には、心に引っかかっていた不安は消えていた。

 

 

 

 「さぁ…、帰ろうか!! 

  おいらたちの家へ!!」

 

 

 ホームズの掛け声に、御神とオドリーが頷き、三人はギルドへと変えるために岐路へ着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後の違う事件では、オドリーは見事に魔法で逃げる犯人を確保し、すっかりと立ち直って見せたのだった。

 

 

 




長い、ホームズの事件簿が終わりましたね。

 
オドリーも胸の内がすっきりしてよかったね。


…ところで、今回の事件の裏には、まだ解決していないことがあるんだけど、それは明日の投稿で。

次の冒険へとつながる…、といっても最終章だけど。

その前に、11月から原作キャラを起用したサイドストーリーを投稿していきます!!


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脅威の種が芽吹く時…

いよいよ今日で、マギクス・ファンタジー・クエストの第一幕が終わりを迎えようとしています!!
 
 今を思えば長い月日を毎日投稿してこれたのも、呼んでくれる皆さんのおかげです!!ありがとうございます!!

 11月からは、達也が主役の原作をもとにしたストーリーを投稿していきたいと思います!!
 今後も、励んでいきますので、よろしくお願いします!!


 

 

 

 

 

 

 カバルレとの戦いが終わり、帝都には活気が包まれる日々が流れていた。

 

 

 その戦いに尽力したROSEのみんなも、それぞれの日常を送り、久しぶりに満喫していたのであった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「え? それって本当なの?ホームズ!?」

 

 

 ギルドの賑やかな昼食の席で、驚愕を現した声がホールに響く。

 

 

 「どうしたんだ?御神。そんな変顔して。」

 

 

 「変顔になるのも仕方ないよ!! だって…!!」

 

 

 御神が今、何を聞かされていたのかをみんなに話し始める。その傍らで、オドリーが深刻な顔をしながら、涙が零れないように目を見開いて堪えていた。

 

 

 「この前、レストレードに依頼を受けて、ホームズがまた事件を解決したんだけど…!!!」

 

 

 「ああ~~!! あの、魔法研究の第一人者、ミチビ・クマホウ氏が殺害された事件か~!!

  でもあれって、ホームズがいつものように解決したんでしょ!?

  ほら、ニュースでも載っているように、犯人は唯一の弟子のロキっていう人だったって。」

 

 

 くろちゃんが最近お気に入りのいちごパンツパフェを食べながら、ホールのモニターを操作して、記事を引っ張り出す。

 

 

 その記事には、ホームズがどのように素晴らしく事件を解決したかを褒め称えて掲載されている。十中八九、レストレードの仕業だ。…それは横に置いといて、みんなが昼食を片手に持って食べながら、記事を読んでいく。しかし、御神が声を荒げそうな可笑しな記述はどこにも見つからない。

 

 

 「記事の内容とどこか違っているとか?でも、あのレストレードがここまでしているんだし、全て事実だと思うけど。いつもだし。」

 

 

 「うん…、そこにあるのは、全て事実だよ。でも、その事実には裏があったんだ。まだ隠された真実が。」

 

 

 「えええ~~~!!!

  それは珍しい!! ホームズ、事件は全部真実を言って、解決するのに、しなかったの!?」

 

 

 「…………」

 

 

 るーじゅちゃんがホームズに問いかけるが、ホームズはそれに答えようとはしない。

 

 

 ただ、黙っているだけだ。

 

 

 「しなかったんじゃない…。できなかったんだよな?

  ……ホームズが真実を話すのは、それで犯人が自らの罪と向き合い、更生してほしいと思うからだ。

  そんなホームズがまだ真実を伝えきれていないという事は、隠した真実がその犯人に下手したら、悪影響を及ぼすかもしれないと考えたから。……違うか?」

 

 

 暁彰が自分の考えを告げる。

 

 

 暁の言葉にホームズはため息を吐いて、みんなにその真実を聞く姿勢を見受けられたため、離す事にした。

 

 

 「実は………

 

 

 

 そう、切り出したホームズの話は、全て推測だが、事件を繋ぐのには十分なほど、筋が通っていた。

 

 そしてこれが、まさかまたROSEの壮絶な戦いへと誘うきっかけになるとは思わずに…。

 

 

 

 

 

 

 あの事件の犯人は確かに、ロキだ。

 

 しかし、犯人はロキだけではなかった。

 

 

 共犯者がいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、それをロキは知らない。

 

 いや、誰が事故死に偽装したのかはなんとなくわかっても、なぜそんな真似をしたのかはわかっていないのだ。

 その理由には、温かい人の想いが込められているとは知らないで。

 

 

 ロキは書斎机で仕事するミチビを撲殺したと思い、暗号を残していた。

 

 わざわざ犯人をでっち上げてまで。

 

 

 そんな人間がミチビが死んだのを事故死に見せかけるだろうか?

 

 

 いや、ないだろう。

 

 

 では、なぜ遺体が移動させられていたのか。

 

 

 

 

 発想を逆転してみよう。

 

 

 

 

 被害者の部屋は解除コードを入力しないと開けられない最高級のロックシステムが扉に設置されている。

 

 部屋にはほかに侵入できる場所はない。

 

 そして、唯一の入り口の扉の解除コードを入力し、入ってこれた人物はロキだけ。

 

 いわば密室状態だったあの部屋で誰が現場を細工したのか…。

 

 

 遺体を移動……。

 

 

 

 

 頭の中で、ピースを繋げていき、分かった。

 

 

 ロキ以外に部屋の解除コードを知っていて、現場を動けた人物・・・。

 それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだミチビ本人だったんだ!!

 

 

 遺体は移動させられたんじゃない…!

 

 移動したんだ!!

 

 

 殴られても、まだ息があったミチビがロキの罪を隠すために、最後の力を振り絞り、事故に見せかけて、息を引き取ったんだ。

 

 

 その発想が生まれた時、事件の真相を話すために部屋に入ってきたロキを見て、納得した。

 なぜ、ミチビがそこまでしてロキを庇おうとしたのか。

 

 

 

 

 御神が破り捨てたエロ本…。

 

 

 あそこには、女性の写真が何枚も張りつけられていた。使い古されていて、相当年月がたっていたあのエロ本。

 その女性の顔がロキにそっくりだったのだ。

 

 まるで生き写しのように。

 

 

 ミチビが大事に保管していたエロ本に女性の写真…。家族をずっと想いつづけていたミチビを考えると、この写真の女性は、亡くなった奥さんではないかと思った。

 そしてその奥さんと生き写ししたようなロキの顔。

 

 ホームズは、ロキを見た瞬間、全てがつながったようになり、ロキがミチビの息子だと理解したのだった。

 

 

 そして、ミチビがロキを庇った理由も分かった。

 

 

 ロキは今まで生きているか分からずにいた息子だったのだ。

 その息子を守りたいと親の気持ちで、庇ったのだ!!

 

 

 それを思うと、胸が苦しくなり、真実を全て話してもよいか迷った。

 

 

 ロキは実はミチビこそが自分の父親だと知らないまま、自らの手で殺してしまった。それを伝えて、立ち直れるか、事件を解決する頭脳を持ったホームズにも分からなかった。

 

 

 そして、推理を披露しながら、この真実は言わないでおこうと決めた。

 

 ミチビ本人が言わなかった事を他人が言うのは、憚れたから。

 

 

 

 ここまでの真実を聞いて、ROSEのみんなは誰もが涙を流し、悲しみに暮れていた。

 

 

 「うう…。それは、ひっく! なんとも悲しいね…!」

 

 

 「ミチビさんは最期、どんな思いだったか…。」

 

 

 「ロキもなんだかかわいそうに思えてきた~~!!!」

 

 

 「でもさ~…! どうしてミチビさんは、ロキに『お前は私の息子だ!』なんて言わなかったんだろう?」

 

 

 「言わなかったんじゃないなくて、言えなかったんだよ。きっと…。

 

  もし話せば、それが周りにバレて、またロキを自分の所為でまた危険に晒してしまうんじゃないかって、怖くて…。

  だから、息子として愛するのは、内心だけにとどめ、弟子として迎え入れたんだよ。

 

  いろいろ話したい事もあっただろうし、一緒に過ごしたいとも思っただろうしね・・・!」

 

 

 「ミナっち…。 そうか…、ミチビさんには苦渋の決断だったんだね。」

 

 

 「そうだな、現にミチビは親子だとバレないように家に飾っていた写真やアルバムも全部仕舞ったり、オーキイさんには記憶が覚束ないからという設定をさせて、黙っておくように言ってたりしていたみたいだしな。

 

  あと、ボズには、ロキに守るために、ロキの部屋の隣にボズを配置していたから。見取り図見た時、気付いた。

  ボズはミチビの警護じゃなくて、ロキの警護だったんだって。」

 

 

 「そこまでして、まもっていたのに、何で他の人に研究全てを譲ろうとしたのかな?」

 

 

 「まだわからない?

  ミチビさんが研究全てを譲りたいと思う人なんて、一人しかいないでしょ?」

 

 

 「あ! ロキか!!」

 

 

 「そう、ロキが同じ道を歩んでくれていた事に感涙し、自分のような人生を歩まないか心配だったと思うけど、後継者として鍛えて、安心し、全てを息子に託すつもりだったんだ。

  そして多分、その時に真実を言おうとしていたのかもしれない。」

 

 

 「でも、ロキが勘違いして、事件が起こった…。」

 

 

 「何と言えばいいのか・・・。言葉が出ないや・・・。」

 

 

 「おいらは、今回の事件は、お互いに言わなければいけない言葉を言わずに食い違い、その結果がもたらしたものだと思う。

 

  だから、もっと二人で話し合うべきだったんだ…。」

 

 

 そうすれば、こんな悲劇は起きずに、今頃学会の論文発表会で二人の笑顔が視れたはずだとホームズの背中が語っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 事件の真実が話された後、これこそが重要だと言わんばかりにホームズが身を乗り出して、みんなに告げる。

 

 

 「この事件で、ロキが暗号を送った相手がこの前、判明したんだ。

 

  そいつの名は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カバルレ・サマダ…。」

 

 

 

 その名を聞いて、悲しみの空気から一転、怒気が漂い始める。

 

 

 

 既に倒した敵の名が出てくるとは思わなかったが、放っておくことはできない。

 

 

 

 皆は、これが新たな脅威の種を芽吹くきっかけになろうとは、この時は想像もしなかった。

 

 

 




まさかのヘムタイ事件簿での隠された真実がこのような結末だったとは!!

やばい!! 泣けてくる~~!!


 そして、カバルレがまた出てきた~~!!

 一体何が起きようとしているのか。

 明日はハロウィンの番外編を投稿します!!最後のヘムタイ騒動だぜ!!


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ハロウィン番外編 ハロウィン・ヘムタイハザード!!?(前編)

いよいよ明日はハロウィンだぜ!!

そこで、今回はハロウィンを番外編にしてみました!!

長くなりそうな予感がしたので、前編・後編に分けていきたいと思います!!


 

 

 今日は年に一度の最も大きなイベントが始まる。

 

 それはギルドだけで留まらず、なんと帝国上げての大掛かりなフェステバルだ!!

 

 

 「今日という日を楽しみにしていたんだ!!

  なんだって、”ハロウィン”だからな!!」

 

 

 「何を食べようかな…。色んな屋台が出てくるから迷ってしまう…。ボリボリ…。」

 

 

 「みんな~~~!!! はぐれないようにね!!」

 

 

 「「「「「は~~~~~い!!」」」」」

 

 

 「ではみんなで、一緒に……………『トリック・オア・トリート!!』」

 

 

 

 

 帝都中で開かれる事になった、『ハロウィン・フェステバル』に先生が子供達を引率しながら、祭りの中を歩いていく。

 フェステバルを盛り上げるために、帝都を彩るハロウィン装飾が輝きを放つ。屋台もたくさん出ていて、色んな甘い菓子の匂いが漂ってくる。

 そして、今回は特にフェステバルに参加する人たちが思い思いに仮装しているのだ。

 

 ここは異世界の人達がいるのではないかとも思える仮装やあるオタクが好きそうな仮装をしている人もいて、中には、失神者や悶え気絶する人が早くも救急搬送されていた。

 

 そんな雰囲気に包まれた帝都に、この物語の主人公たち…、ROSEもまたハロウィン・フェステバルを楽しむために、目いっぱい仮装して、屋台で美味しいお菓子を食べまくっていた。

 

 

 「ふぁふいわふぁはいばんひいは~~(祭りはやはり楽しいな~~)」

 

 

 「そんなに口に入れて、リスみたいになって…。 喉つっかえるよ。」

 

 

 「うぐっ!!」

 

 

 「ほら!! 言わんこっちゃない!!」

 

 

 祭りの雰囲気に浮かれてお菓子を頬張っていたくろちゃんは案の定、喉を詰まらせ、ちゃにゃんに強めに背中を叩かれる。そして、詰まらせていたお菓子と共に、目玉も飛び出す。

 

 くろちゃんの口から吐き出されたお菓子をにょきにょきが慎重に取り上げる…。

 

 それをつまんでにょきにょきは驚くと同時に飲んでいた炭酸を吹き出し、大笑いし始めた。

 

 

 「何、これ~~~~~!!!

  面白すぎるけど!!

  何でリンゴ飴丸ごと~~~~!!!! あははははは~~~!!!」

 

 

 「………くろちゃんの口は、四次元ポケットにゃのか!?」

 

 

 「ううん…、違うよ。

  四次元マウスだよ!!(キリっ)」

 

 

 「流し目するほどの自慢じゃないにゃ~~!!!」

 

 

 いつも通りにちゃにゃんがくろちゃんに突っ込みをしながら、ハロウィンを満喫する。

 

 他のROSEメンバーも各々に仮装し、帝都を歩いて、ハロウィンを味わっていた。

 

 

 くろちゃん達も三姉妹でフェステバルを楽しんでいると、前方からSWATの仮装をしたサガットと暁彰が歩いて来ていた。

 

 二人は、人込の中をすいすいと避けながら歩き、くろちゃん達と合流する。

 

 

 「暁彰も、サガットもSWAT、似合っているね!」

 

 

 「ありがとう。」

 

 

 「そりゃどうも。」

 

 

 「二人から迫力を感じるものね! なんていうか…、不届き者は決して逃がさんっ!!…て感じ?」

 

 

 「そうだろうな、私達、帝都にある魔法師ギルドは皆、仮装して、楽しみながらも巡回するように言われているし、にょきの言った事は当たっている。」

 

 

 「「え? 巡回?」」

 

 

 「………まさか二人とも、巡回の事を忘れていたなんて言わないでにゃ?」

 

 

 「「そのまさかDEATH♥( 〃▽〃)(///ω///)♪」」

 

 

 「「「はぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~……………」」」

 

 

 盛大に長くて重い溜息を吐く暁彰、サガット、ちゃにゃんは祭りで補給していた力が一気に下がっていくように感じた。

 

 

 がっくりと肩を落とし、落胆を隠せないでいると、くろちゃんが暁彰の肩をチョンチョンと指で叩く。

 

 

 「………何? くろちゃん。」

 

 

 「あ、あのね…! 暁彰…!! お、お願いがあるの…!」

 

 

 乙女のような瞳をして、上目遣いでお願いしてくるくろちゃんを通りすがりの男性達が目をハートにして、ナンパしようかと仲間同士で話し合う。

 しかし、暁彰はくろちゃんのこの乙女ブリっこお願い大作戦を呆れた表情で見つめ返す。

 くろちゃんは身体を捩ったり、腰を振ったりして、余計に男達の視線を集める。

 

 そしてついに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「”トリック・オア・トリート!!” お菓子ちょうだい!!」

 

 

 「却下っ!!」

 

 

 

 

 ボゴ~~~~~~~~~~~!!!!!

 

 

 

 

 暁彰の掌底がくろちゃんにグリーンヒットし、くろちゃんは空へと飛んでいき、星になる。

 

 

 「くろちゃ~~~~ん!!!」

 

 

 にょきにょきが慌ててくろちゃんを追いかけていく。ちゃにゃんもその後を追いながら、暁彰に目礼する。

 

 

 「まったく、反省も仕事もしないで、お菓子を強請るって、何しているんだ!?」

 

 

 「暁彰…、よかったのか? あんなことして…。」

 

 

 「いい。いつもの事だ。

  それに、巡回も兼ねて、祭りで浮かれまくってゴミを路上に捨てていく人たちが多いからな。ゴミ回収も担っているし、飛ばしてよかった。治安に悪いからな。」

 

 

 「くろちゃんをゴミ扱いって…。 仮にも俺達のギルドリーダーなのに。」

 

 

 「そのリーダーを真っ直ぐに鍛えて、過ちに入らないように教育するのも私達の任務だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いたたたた………。目が回る~~~!!」

 

 

 「亡骸だけでも回収できてよかった。」

 

 

 「魂は抜けてないよ~~!!」

 

 

 にょきにょきが気にぶら下がって、目を回しているくろちゃんを見つけ、回収し、そのまま再び祭りに参加する。

 

 

 「う~~~~ん…、ちゃにゃん、どこに行ったかな?」

 

 

 「ちゃにゃん…、はぐれた…?」

 

 

 「どっちかというと、私達がはぐれたっぽい。」

 

 

 くろちゃんを回収するために追いかけた時に人ごみの中ではぐれたのだ。

 

 

 「どうしたものかな~~。この人ごみじゃ見つけるのは至難の業だよ。」

 

 

 「逆に燃えてくるね。ウォーリーを探せ!!…みたいで。」

 

 

 「ウォーリーはあちらこちらで出現しているけど、色んな人がいるしね。ちなみにちゃにゃんはウォーリーではなくて、魔女だから。」

 

 

 「魔法師なのに、魔女の仮装は受けるよね~~!!」

 

 

 そう言いながら、祭りで賑わう中を歩いていると、少しは慣れた所でゾンビが現れて、通行人を襲っている。

 

 

 「あ!! あそこにゾンビか!!」

 

 

 「ホントだ!! ゾンビだ!! それにしても、ゾンビの仮装のレベル半端ないね!!」

 

 

 「逆にリアルすぎて、本物に見えて怖いんだけど~~!!」

 

 

 「そこがいいんだよ! あのゾンビと写真撮れないかな…。」

 

 

 「………さすがだよ、くろちゃん。」

 

 

 人に襲っている…と言っても見せかけだが。

 

 

 ゾンビの仮装をした人が、ゾンビらしい覚束ない歩きでくろちゃん達の所へ歩いてくる。

 

 

 「あ、こんばんは~~!!」

 

 

 「ええええ~~~~~!!!」

 

 

 くろちゃんがあっさりとした口調でゾンビに挨拶するものだから、にょきにょきは思わず驚く。

 ゾンビも動きを止め、今までの人と違った返しに戸惑いを感じる。しかし、ゾンビの演技もリアルにするプライドが奮い立たせ、再び演技を再開する。

 

 

 今度はやられたフリしてまで付き合ってあげたくろちゃん達にゾンビから血のように赤い丸い飴をお礼にもらった。

 

 

 「「”トリック・オア・トリート”」」

 

 

 ちょうどお腹が減っていた二人は、お礼の意味も込めて、ゾンビに悪戯の呪文を大声で言い放つ。

 

 

 そしてゾンビはまた人を襲いに歩き出し、赤い飴を渡していくのだった。

 

 

 

 「この飴、美味し~~い!!」

 

 

 「これは病み付きになりそう! 口の中にどろーりとした感じで広がっていくよ~~!!

 

  ほら見て、口の中も飴が溶けて真っ赤!!」

 

 

 

 二人はゾンビの飴にはしゃぎ、ちゃにゃんを探しながら祭りを満喫し始めた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、これがまさか帝都を巻き込むほどの混乱を招くとは思わなかったのであった。

 

 

 

 




帝都でのヘムタイ退治は今までなかったからな…。相当激しくなるぞ


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ハロウィン番外編 ハロウィン・ヘムタイハザード!!?(後編)

今日はハロウィ~~ン!!!

仮装しまくるぞ~~!!

今日で10月終わりか~…。そして、後2ヵ月で今年も終わり…。早い!!


 

 

 「よし、大分みんなも秩序を守りながら、遊ぶことを学んできたな。

  これなら、なんとか無事にフェステバルも終われるだろう。」

 

 

 「……ははは、だって暁彰があれだけ鋭い目つきで睨みを効かせて注意されたら、誰でも警戒して、悪い事なんてできないよ。」

 

 

 「その代わり、同業者の取り締まりが多くなってきたがな。」

 

 

 「あれは、仕方ないかもしれないけど、確かに取り締まる側から見ても、恥ずかしい…。」

 

 

 暁彰とサガットがため息をつく。

 

 夜になり、帝都の人達の浮かれ度がMAXになり、より一層厳しい警備を行わないといけなかった魔法師ギルドに所属の魔法師は、祭りを楽しむどころではなくなり、逆に問題を起こすようになっていた。

 

 その魔法師達を取り締まるのも、同じ同業者だともなれば、やりにくさも半端ない。

 

 

 「………私達もそろそろ祭り一本になって、楽しもうか。」

 

 

 と、真面目な暁彰がそう自ら切り出すくらいだ。サガットは意外感を示すよりも頷いて、暁彰の提案に乗った。

 

 

 「でゃ、巡回していて、ずっと見れなかったハロウィン特別劇場を見に行くとしますか。」

 

 

 「賛成!! もう足がパンパン…。座る場所はないし、あっても既に座られているしで、休みなしに動き回ってたから。

  ここらで一息でも入れ……………」

 

 

 「あ、二人とも~~~~!!! 」

 

 

 「「ちゃにゃん……」」

 

 

 さっそく劇場に向かおうとした矢先に、暁彰とサガットを呼ぶ声が後ろから聞こえ、振り向くとそこにはさっき会って、分かれたばかりのちゃにゃんが血相変えて、走ってくる。

 

 

 「どうしたんだ、ちゃにゃん。」

 

 

 「ハァ…ハァ… 二人とも、くろちゃん達見なかった…?」

 

 

 「見てないけど? え、まだ見つかっていないの?」

 

 

 「分からない…。」

 

 

 「追いかけている最中に人ごみの中ではぐれちゃって…。多分、くろちゃんとにょきは一緒にいるよ。」

 

 

 「…みたいだな。今ちょうどこっちに歩いてきている。」

 

 

 精霊の眼で二人の所在を確認する暁彰が二人を捉える。しかし妙な違和感もあった。

 

 ゆっくりとこっちに歩いてくるくろちゃん達の姿が見え、ようやく合流できたと思ったら…。

 

 

 二人が目をハートにして、はぁ、はぁ、と息を荒げて舌を舐めずり、鼻の下を伸ばして手が厭らしく動かしてくるのだ!!

 

 

 すぐにちゃにゃん達は臨戦態勢に入る。

 

 

 「何、二人ともこんな公共の場で堂々とヘムタイになっているんだ!」

 

 

 「そしていつもよりも気持ち悪い顔だ。」

 

 

 「なんだか無性に殴りたくなってきたにゃ。」

 

 

 ヘムタイスレイヤーの血が騒ぎ始めた三人は、やむをないとくろちゃん達を星屑にするために鉄拳炸裂しようとした。

 

 

 でも…

 

 

 

 

 「キャ~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 「おい!! 誰か助けてくれ~~~!!!」

 

 

 「噛まれたぞ!!」

 

 

 「何だ、なんだ!!」

 

 

 

 突然の悲鳴と助けを求めてくる声が辺りから湧き上がり、くろちゃん達とは離れて、悲鳴がした方へと走る。

 

 

 「どうしました!?」

 

 

 「そ、それがいきなりゾンビの人が噛んできて…。」

 

 

 路上で倒れている数人とその中心で立ち尽くしているゾンビを見る。そのゾンビも顔には、くろちゃん達と同じようにヘムタイ顔をしていた。

 倒れている人は噛まれた痕がくっきりと残るくらいに深く噛まれている。

 

 

 「と、とにかく病院へ運んで、あのゾンビの仮装の人はすぐに取り押さえナイトにゃ!」

 

 

 ちゃにゃんがゾンビに近寄って取り押さえようとする。しかし、横からちゃにゃんの腕を取って、引き留める。

 

 

 「ちゃにゃん!! 行っては駄目だ!! あれは本物だ!!」

 

 

 暁彰が血相を変えて、大声で怒鳴る。そして、周囲の見物人たちにこの場を離れるように指示する。

 しかし、これを何かの見世物だと思っている見物人たちはゾンビと一緒に写真を撮ろうと近づいていく。

 

 

 「こら!! 止めるんだ! 早くそいつから離れるんだ!!」

 

 

 「大丈夫ですよ~~!! このゾンビ、おもし………ろい?」

 

 

 がぶっ…!!

 

 

 見物人が首元に噛まれ、血が噴き出る。

 

 

 「「キャ~~~~~~~~!!!!」」

 

 

 

 それを見て、やっと状況が分かったのか、一斉に逃げる見物人たち。

 

 

 そしてその騒ぎを待っていたかのように、噛まれてしまった人たちがゆっくりと、そして揺らめきながら立ち上がり、ヘムタイ顔で帝都を巡回しようとする。

 

 

 「何とかこいつらを抑え込まないと!!

  被害が広がる!!」

 

 

 「どうしたらいいんだ!! いつも通りにすればいいのか!!」

 

 

 「にしても、どうしてこんな事に…!!?」

 

 

 対策を練るために話し合い…しながら既にヘムタイを仕留めていくちゃにゃん達。

 

 

 しかし、倒しても、起き上がってくるヘムタイ達。

 

 

 そして、帝都の至る所から悲鳴が聞こえてきて、帝都に設置されたスピーカーを通して、緊急警報が発信される。

 

 

 『皆さん!! こちら帝都放送局!

 

  ただいま、帝都で謎のゾンビが大量に発生し、被害が拡大しております!!

  すぐに屋内に避難して、鍵を厳重に閉めて、誰も中に入れないようにしてください!!

  繰り返します!!

 

  現在、帝都にて謎のゾンビが大量発生し、被害が急増しております!!

  すぐに屋内に……キャ~~~~~~~~~!!!

 

  な、な、何で入って…!! 鍵はちゃんと閉めて……、こ、こ、来ないで~~~~~~!!!!

 

 

  ビリ、ビリリ……ビリっ!! いや~~~~~~~!!!

 

 

  ガゴンッ!!

 

  ツー…、ツー…ツー……』

 

 

 

 その放送を聞いていたまだ汚染していない人間は、自分達が今、安全でない事が分かった。

 恐怖を感じ、すぐにどこに向かうか分かっていない頭で、とにかくこの場から離れようと走り出す。

 

 その傍らで、まさに一緒に走っているのが、ゾンビだとも知らずに…。

 

 

 「………放送局は占拠されたっぽいにゃ。」

 

 

 「もうこれで、収拾がつかなくなってきたよ。」

 

 

 「………本当に、ヘムタイ達は騒ぎを起こしてくれる…!!」

 

 

 動けないようにヘムタイを縛り上げ、屋上に逃げるちゃにゃんたちは、すぐにROSEのみんなとの連絡をとる。

 

 

 「くろちゃん達は、どうやらすでに感染していたんだな。」

 

 

 「そうだな、何かおかしいと思っていたが、まさかそういう事だったとは…。」

 

 

 「今、連絡取れただけで、無事が確認とれたのは、ミナホ、toko、御神、ホムホム、オドリー……だけ。」

 

 

 「……他はみんなやられたのか?」

 

 

 「そうみたいだにゃ。みんな連絡は取ってくれるんだけど……『ちゃにゃんですか~~♥いつもキュートなちゃにゃんちゃ~~ん!! どこにいるのですか~~!!』

  …………って声だけでも分かるくらいにヘムタイだった…。」

 

 

 「…HMTの戦力は半減してしまったか。どうする?」

 

 

 「…くろちゃん達の構造情報を見てみたんだが、どうやら何か良くない薬物が体内にあった。もしかしたら、ヘムタイ要素を高めるものを食べたに違いない。」

 

 

 「ヘムタイだけになるならまだいいけど、ゾンビみたいにへこたれずに襲ってくるにゃ~!! まるでヘムタイゾンビだにゃ~~!!」

 

 

 「ヘムタイゾンビ………。そうかも。」

 

 

 なんだかじっくりくる名前が出来上がり、ヘムタイゾンビを討伐するために、気合を入れる。

 

 

 既に建物の下では、ヘムタイゾンビに噛まれて、同じくヘムタイゾンビになっていく光景が広がって、まるで恐怖映像だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………まるで、バイオハザードならぬ、ヘムタイハザードだな…。」

 

 

 

 

 暁彰は、呆れながら突如身に降り注いだこの事態を的確に言葉にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、ヘムタイゾンビを退治するのに、生き残ったROSEのヘムタイスレイヤー達が結集し、ゾンビの動きを封じに掛かる。

 

 

 他の魔法師達も参戦するが、ヘムタイ退治の経験不足で(そもそもヘムタイ退治をするのは、ROSEくらいだ)あっさりと敗れてしまって、ゾンビとなっていた。

 その度に、余計にROSEのヘムタイスレイヤーが動かなくてはいけないため、九円に嫌気が差していた。

 

 

 「仕事をこれ以上増やさないでほしい。」

 

 

 「そうだよ!! こっちは!! 立て込んでいるってのに!!」

 

 

 「どっちかというとまだ感染していない人たちを安全な!! 場所に誘導してもらった方がまだいい!!」

 

 

 「その通り!! 」

 

 

 「……それにしても、こんなヘムタイゾンビの中から親玉をどうやって見つけるんだ!? 暁彰!!」

 

 

 すっかりとヘムタイゾンビに囲まれてしまったヘムタイスレイヤー達。

 

 数えきれないほどの数が寄ってきており、先程から休む間を与えてくれない。

 

 

 暁彰が、薬でヘムタイゾンビとなっているなら、そうさせたゾンビの親玉がいるはず。そいつを見つけて、ワクチンを手に入れるしかない!!

 

 その言葉を聞いて、皆は闘いながら、親玉らしい奴を見つけては、殴ったり、鞭でさばいたり、幻影を見せたりと対抗してみたが、ここまで全て外れてしまっている。

 

 

 「…やっぱり、『再成』を施す?」

 

 

 「いや、逆にこちらの体力も魔力も削がれてしまい、追い込まれる。

  それに、『再成』をしても、すぐに噛まれてヘムタイゾンビになってしまうと無駄だ。」

 

 

 「そうか~~。 無理か~~。 でも、もう腕が上がらないよ~…。」

 

 

 「もう少しの我慢だ!! とにかくここを突破して、見渡しのいい屋上に逃げるんだ!」

 

 

 「そこで、『精霊の眼』を使ってみる。」

 

 

 「…それが一番早いな。 薬から親玉の情報を因果関係で遡ってみれば…。」

 

 

 「なら、うちがする~~!! こういうのは、集中しないといけないし、うちは戦力としてはまだまだだからね。」

 

 

 「tokoは? やらないのか?」

 

 

 「tokoは…、ほら、怖い系は苦手だから…ほら。」

 

 

 「ああ………」

 

 

 暁彰とミナホが視線を向けた先には、顔色が真っ青で生まれたての小鹿のように足が震えたままで、殺さない程度に威力を押さえた状態で魔法を行使するtokoの姿が見えた。

 目には涙を浮かべ、近づいてくるゾンビに悲鳴を上げながら、レーザーで思い切り吹き飛ばすのだった。

 

 そして、闘いながらゾンビを識別するためか、『精霊の眼』を行使して、目が充血していた。

 

 

 「怖さでいっぱいなtokoにあれ以上ゾンビを相手に……はね~。」

 

 

 「そうだな。休ませてあげよう。」

 

 

 「toko~~!! 大丈夫~~!?」

 

 

 「だ、だ、だ、だ、大丈夫!! 目がチカチカして痛いけど、問題ないよ!」

 

 

 「……『精霊の眼』はあくまで情報構造を読み取る知覚系魔法だからね。目は関係ないけど…。」

 

 

 「あ!! そうだった!! 思わず…」

 

 

 「でも、大丈夫。tokoの気持ちもわかるし。」

 

 

 「!! ミナっち、危ない!!」

 

 

 tokoが高速移動で近寄ってきて、ミナホと暁彰を突き飛ばす。運よく受け身を取れたミナホ達だったが、その代わりに…

 

 

 「toko!!」

 

 

 「くっ!! そんな馬鹿な!!」

 

 

 二人を庇って、tokoはヘムタイゾンビに腕を噛まれてしまった。

 

 

 「ふ、二人とも…、大丈夫?」

 

 

 「うん!! 大丈夫!! toko!! すぐに手当てを!!」

 

 

 「…もう遅いよ。 今、私の頭の中で得体の知れない何かが私を支配しようと蠢いているんだ。このままじゃ…、私もヘムタイゾンビになって…、みんなに何するか分からない…。

 

  だから、い、今の内に、私を縛ってください!!」

 

 

 「そんな!!」

 

 

 「……分かった、…ありがとう」

 

 

 暁彰はtokoに礼を言うと、ヘムタイの拘束ドS縛りを無意識にtokoに施し、街灯につるし上げた。

 

 

 「ミナっち!! 暁彰!! 道ができたにゃ!!」

 

 

 ちゃにゃんからの脱出経路の確保完了を聞き、後ろ髪を引かれる思いで二人は、tokoを残し、この場を去った。

 

 

 「toko~~!! 絶対に助けに戻るから~~!!」

 

 

 ミナホは涙を流して、tokoを助ける事を胸の内で誓った。

 

 

 立ち去っていくみんなを薄れゆく意識の中でtokoは穏やかな笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「ハァ…ハァ…、ハァ…、あと一歩だったのに…!!」

 

 

 「ここまで来て…!!」

 

 

 

 

 tokoを残して去った後、ミナホが『精霊の眼』でゾンビの体内の薬物から親玉を見つけ出し、無事に確保した。

 

 そのゾンビは、祭りに参加している人達に血のような飴を配っていたあのゾンビだった。

 

 

 科学者のゾンビは、前日に遂に完成した薬の効果を確かめるために、飴に加工し、実験データを取っていたのだ。

 

 

 帝都を巻き込んでの騒動を引き起こしたこのゾンビ科学者には、後で罰がかけられるだろう。

 

 

 しかし、ゾンビ科学者が実験データを取るために、拉致っていたヘムタイゾンビを解放したため、不意を突かれて最後までたどり着いた暁彰とちゃにゃんも噛まれてしまった。

 

 

 他のみんなも来る途中にヘムタイゾンビの手に掛かってしまった。

 

 

 

 みんなのためにもワクチンを何としても…!!

 

 

 それなのに、あと一歩という所で、ヘムタイゾンビにやられてしまった。

 

 

 ワクチンを手に持ちながら、悔しがる暁彰とちゃにゃん。

 

 

 

 薄れゆく意識の中で、手に持つワクチンを見つめる。

 

 

 

 「遅れて登場~~~、ジャジャジャじゃ~~~~~~ン!!!」

 

 

 「ヒーローは、ピンチの時にこそ、現れる~~!!」

 

 

 「安心して、暁彰、ちゃにゃん…。 このワクチンは私達が…!!」

 

 

 そう言って、二人の手からワクチンを受け取り、バズーカ―に挿入する。

 

 

 

 ここは、帝都の中心にあるビルの屋上…。

 

 

 そのバズーカ―を持って、屋上の中心に向かって歩き出す二人。

 

 

 「ま、まってにゃ…。あ、ぶないにゃ。」

 

 

 ちゃにゃんが最後の力を振り絞るかのような声で二人を止める。だって、そこにはヘムタイゾンビが大量にいるから。

 

 

 でも、それをお構いなしに歩き続け、なんとヘムタイゾンビたちが道を作り、膝を付くではないか!!

 

 

 

 

 

 そしてヘムタイゾンビたちの群れの中に入り、姿が見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドガアアア~~~~~~~ン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 バズーカ―が空高くに打ち上げられ、ワクチンが空気と混ざりこみ、風に運ばれて、帝都中に広がっていく。

 

 

 

 「あれ? 私は、一体。」

 

 

 「なんで俺はこんなところで倒れていたんだ?」

 

 

 

 次々と意識を取り戻した元ヘムタイゾンビたち。

 

 

 

 暁彰もちゃにゃんもワクチンの空気を吸って、意識を取り戻す。

 

 

 

 

 「はぁ~…、一時はどうなる事かと思ったにゃ~!! このまま私は、うう…、ヘムタイになるのかと…!!」

 

 

 「それは私も嫌だな。……けど今回は、二人に助けられたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  …………くろちゃんとにょきにょきに。」

 

 

 

 屋上に座り込んで、身体を休ませながら、バズーカ―を持って、空を見上げるくろちゃんとにょきにょきを温かく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで、くろちゃん達は何で正常だったんだろうね」

 

 

 「………きっと元からヘムタイ魂が強く持っていたから、あの辺人科学者が作った程度のヘムタイでは物足りなかったんだろうさ。」

 

 

 

 「「「「「「「「「「納得!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 ヘムタイゾンビから解放されたROSEは、蓄積した疲労をギルドハウスで労いながら、一斉にハモって、ヘムタイにも役に立つ事があると実感するのだった。

 

 

 

 

 

 




ふぅ~~!!

ヘムタイハザード、やっと終わった!!


色々とまだ描きたい事もあったけど、盛り込み過ぎはよくないかな~~と思って。
でも、オドリーのあの絡みは入れたかった!! ヘムタイゾンビに囲まれて……ふふふ。


では、明日からは新作が発表です!!よろしくね!!


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花見番外編~帰ってきました!はしゃぎROSE~前編

昨日チムイベ復活させて、花見をテーマにしたファッションコンテストをしてみたのだ! その時の出来事も入れつつ、ドタバタROSEを久しぶりにどうぞ!!


 

 

 

 

 

 

季節は春―――――。

 

 

 やっと暖かくなってきて、待ちに待った桜が満開…したかと思ったら、一日待たずして雨が連日降るこの頃。その結果、花見を心から楽しみにしていた人にとっては、鬱憤が溜まる一方であったのは、言うまでもない。

 

 それから雨が降り続いて一週間…。ようやく青空が広がり、花見ができるようになったため、今日は仕事を先送りにして、彼らが花見をするために桜が咲き乱れる庭園にやってきた。

 

 

 「いや~!! よかった~! このまま桜が散ってしまって花見せずに今年は終わるのかと思って、冷や冷やした~。」

 

 

 「本当だよね~。 花見をしてこそ、春が来た~!って感じるもんね。」

 

 

 「こっちは別の事で冷や冷やしたよ。 花見絶対遂行派の方が毎日窓の外をブツブツ言いながら眺めていたからね。あれは…、ストレス発散で何をしでかすか分からなかったな~。」

 

 

 「ああ…、あれは…ね~。 ま! それも無事に晴れた事で収まった訳だし、良かったじゃん! さぁ! 今日は待ちに待った花見なんだし、パァ~~と飲もう!!」

 

 

 「そうだね~。乾杯!!」

 

 

 「おい~~っす!!」

 

 

 折角の花見だからと、気持ちを一身に切り替え、大量に作ってきたご飯やデザートを勢いよく食べ始め、飲みまくって、笑い合う。

 

 しかし、その傍らではその様子を待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて何やら画策する者達が……。

 

 

 「よし…、みんな盛り上がり始めたみたいだね。」

 

 

 「フム。これからは俺達の出番だぜ…!」

 

 

 「久しぶりに我らのモットーを掲げる事ができるんだから、気合は入れとかなくちゃ!」

 

 

 「新しいメンバーも入ってきた事だし、歓迎しないとね!」

 

 

 「……そうそう、あわよくば私達の仲間に入れこむんだ~。」

 

 

 「では…、行動を開始する!!」

 

 

 「「「おおお~~~~。」」」(小声)

 

 

 ひそひそと作戦会議をし、それぞれ散っていく。

 

 

 …こうして、またもや暴れまくるROSEの花見が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 「ええ~、みんな~! 今日はみんな集まっての花見だし、新しくメンバーになった人も多いから、久しぶりにチムイベします!」

 

 

 「おお~~!! 待ってました!!」

 

 

 「ナイスにゃ!」

 

 

 マイクを持って進行役をするのは、チムイベ企画実行委員長のミナっち。ROSEはあの事件以来有名になったので、加入者が増えていた。そのため新しく加入した仲間を歓迎するのと同時に、しばらく多忙で行っていなかったチムイベを復活させ、親睦を深めようと考え、提案したのだった。ミナっちのこの提案には、チムイベ好きのとわっちとちゃにゃっちが歓声をあげて楽しみにしていた。

 

 

 「それでは、復活記念としてファッションコンテストを開催します! お題は、『ROSEの花見』です!」

 

 

 「ファッションコンテスト…、ですか? それっていったいどうすればいいんですか?」

 

 

 「ふふふ…、教えてあげるね♪」

 

 

 新しくメンバーになった内の一人、009さんにくろちゃんが今回のチムイベの説明をしてあげる。ミナっちも補足説明して、もう一度みんなにも聞こえるように答える。みんな納得したのを確認すると、ミナっちは合図としてホラ貝を取りだす。

 

 

 「は~~い! 皆準備は出来たかな? では、ROSEチムイベ恒例のファッションコンテスト! エントリー開始!!」

 

 

 ミナっちが大きく息を吸い込み、ホラ貝を吹く。渋く大きな音が響き渡る。そしてそれを合図に桜の花びらが風に乗って飛び交う。

 ミナっちも司会進行役と兼ねてエントリーするために急いで着替えに行く。

 

 

 観戦志望のメンバーは応援したり、酒をベロベロになるまで飲んだくれていた。その一方、参加しないヘムタイ達は隠しカメラを事細かく配置し、どこからでもエロい体の部位を撮れるようにセッティングしていた。なお、ヘムタイスレイヤーのちゃにゃっちやミナっちはエントリーするコスを選んでいて、この場にはいない。完全に狙った犯行だった。

 

 

 そして一番先に現れたのは、ごまちゃんだった。

 

 

 「ご迷惑をおかけした皆さん大変申し訳ありませんでした。」

 

 

 大人しそうな外見に、ノースリーブの花柄のプリントがあるワンピースに、アイヌ族のヘアバンドをしたごまちゃん。それを見て、次にエントリーしてきたくろちゃんは誰かの真似かな?っと呟くのであった。

 そう言うくろちゃんはというと、男装して、長袖Tシャツにジーパン、リュックを肩にかけ、眼鏡をしていた。そしてコメントはというと…

 

 

 「今日天気が良くてよかったよ… 桜も満開だしね…。でも…クイッ(顎クイ)…桜よりもお前(脳内変換可)の方が綺麗だよ(微笑み)」

 

 

 …という、プレイボーイな言葉を口にした。(実際に達也様がこれを言ったら、腰抜かすね!)

 

 

 次に、ホームズ!

 魔性の女と言った妖艶な美女…なのに! 着ているコスは水玉模様のワンピの上に黄色いガーディガン。頭には花が付いた麦わら帽子。明らかに若作り感が漂いまくりだ。

 

 

 「あはは。お団子食べたら奥歯の詰め物とれちゃった……しみるぅぅぅ」

 

 

 そのギャップから観戦しているみんなから笑い声が起こる。

 

 

 この反応を見て、くろちゃんとホームズが互いの顔を見合って、至福の笑顔をしながら、鼻血を出す。

 

 

 「ふむふむ。いいですな~。」

 

 

 「そうですな~。 いいコスをしてくれたよ…!」

 

 

 「花見が終わった後、録画したあれを見ましょう!」

 

 

 「乗ったぁぁぁ~~!!」

 

 

 固く同盟の証として、手を組み合う二人を、桜の木の影から様子を窺っていたミナっちは怖いくらいに笑っていた。目が獲物を狩るという意思を宿していた。

 

 

 「やはり動くと思っていたよ…。ヘムタイ達め・・・!お前達の野望は叶えさせないぜ…!ふふふ…!」

 

 

 不気味に思うくらい、狩人化したミナっちは、同志に連絡を取り合うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 ―――――続く。

 

 

 

 

 




新たなメンバーの中にヘムタイが誕生するのか!!?

みんな~、花見するのもいいけど、飲み過ぎには気を付けてね~。

御神「既に飲み過ぎてるぅぅ~~!!」


「おいっ!!」パシッ


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花見番外編~帰ってきました!はしゃぎROSE~後編

花見だ、花見だ!! はしゃぎましょう!!(まだ今年は満開の桜を見ていないうちだけどね、現実世界では。)


 

 

 

 

 

 

 盛り上がるファッションコンテストが行われる中、次に現れたのは進行役も兼ねているミナっちだった。しかし、若干花見とは無縁そうなものを身に付けていたが…。

 

 お題に沿って選んだミナっちのコスはというと、頭に桜をモチーフにした和風の髪飾りに、花柄がふんだんに入ったピンクのミニスカート、白いタイツを履き、青いジャケットを着ていた。これだけなら春感も感じられるのだが、ある物が背中に背負われていて、気迫を発していた。それは……猟銃だった。

 なぜそんな物を装備しているのか…。それは本人の口から知る事が出来た。

 

 

 「また!桜を見ると見せかけて双眼鏡でごまさんの身体をアップで見るとは!

  やはり今日もヘムタイ達の駆除が必要のようだ!

  タララーーン♪[必殺仕事人のテーマ曲)

  ……まともな花見ぐらいさせろ!!」

 

 

 目を見開いて、背中の猟銃をくるっと回転させ、構えたミナっちが獲物として捕らえた視線の先には、ギョッとした顔であたふたしているくろちゃんとホームズがいた。

 

 

 「な、何のことですかな~。 我々は何もしていないけど~?」

 

 

 「そうだ! 私達はまだヘムタイ行動に出ていない!」

 

 

 「まだ? …って事はこれからする気満々という事だよね?」

 

 

 「「ギクッ!!!」」

 

 

 「ふっ、イケメンに化けても無理があるな…! ヘムタイ力は滲み出るものなり!」

 

 

 「さすがくろちゃん! かっこいいぜ!!」

 

 

 「人の話聞けよっ!  ってそれより、これを見よ!」

 

 

 そう言ってミナっちが取りだしたのは大量の隠しカメラだった。(既に破壊されていて、原形がギリギリ留まっているのがキセキなくらいだ!)

 

 

 「これ…、至る所にあったんだよね~。 しかも多くがごまさんの方に集中してたし。」

 

 

 「え!?」

 

 

 「可愛いごまさんをヘムタイ心で傷つけようなんて…、許さん!」

 

 

 「ちょっと待って~~!!」

 

 

 「まだ天国に行くには心残りが~!!」

 

 

 「●REC(〇_〇)…」

 

 

 ショックを受けるごまさんを背中に庇って、銃の引き金を引こうとするミナっち。本気のミナっちを目にし、二人は嘆いて、助けを求める。(ホームズは反省していないのか、未だに隠し持っている盗撮カメラで録画しているけど。)まだ潜んでいる仲間に…。しかし、この窮地を助けたのは、意外な人物だった。

 

 

 「まぁまぁ、ミナっち落ち着こうにゃ。」

 

 

 「あれ? ちゃにゃっち!」

 

 

 そう、ヘムタイを憎むハンター…、ヘムタイスレイヤーのちゃにゃんがミナっちを止めたのだった。

 

 

 「私はまだコンテストに出ていないにゃ。それを待ってからでも遅くはないにゃ。」

 

 

 「…そうだね! 今日は花見だし、楽しまないとね!」

 

 

 「ふむふむ。 桜満開ですね~。チラチラ桜が落ちて綺麗ですね。皆でワイワイとしますか。(?? REC駄目よ。笑)」

 

 

 カジュアルな服装に、花冠を頭に被ったちゃにゃっちは笑顔を浮かべて花見をする事を提案する。しかし、ヘムタイの二人にとっては、「いい加減にしろにゃ。徹底的にカメラは没収する!」…という本音が聞こえた気がした。

 

 

 「ふっ…逃げろ~~!!!」

 

 

 ちゃにゃっちに恐怖を感じたホームズは回れ右をして、逃げていく。それに続いてくろちゃんも。慌ててミナっちも追いかける。

 

 

 「ヘムタイ抹殺隊!!隊長の命令にゃ! ヘムタイ達を狩りに行く!!行動を開始するにゃ!」

 

 

 「「「いえっさ――――!!!」」」

 

 

 ちゃにゃっちがHMT隊長権限を使って、他のヘムタイスレイヤー達に号令をかけ、一旦は沈静化したと思っていたヘムタイ駆除活動が開始するのであった。

 

 

 しかし、既に皆は酒を飲んでいたり、食べているためか、動きが鈍くなっており、傍から見ると、完全に鬼ごっこ状態になっていた。

 そんな賑やか?になっているROSEの花見を陰からこっそりと除く人物がいた。

 

 

 [茎]_―)

 

 

 新しくメンバーに入った009さん。大きな花を作り、その茎の陰に隠れている彼女の姿は、なんと蜂のコスで、鎖骨や腕、お腹が見えまくりの衣装だった。彼女もコンテストに参加しようと着替えていたのだ。そして鬼ごっこを始めたROSEの面々を見ながら、こう思っていた。

 

 

 (〇〇〇蜂のHムタイさんは花見客を無言で突っつきたいのだ (プニョプニョ))

 

 

 ……こうして新たなヘムタイとして009さんはヘムタイ団の一員となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘムタイ達が次々と捉えられ、制裁を受けるのを桜の木に隠れながら拝んでいたホームズ。既に同胞のくろちゃんは捕まって、土の中に埋められ、頭だけがちょきっと出ていた。そこに「おおきくな~れ~」と言いながら如雨露で水を掛けられ、シャンプーされているのが視界に入る。

 

 決して捕まるまいと決心したホームズの肩を何者かが叩く。慌てて、飛び上がったホームズが振り返ると、そこには知り合いがいた。

 

 

 「ああ~…。なんだ、レスちゃんじゃないか~! 驚かせないでくれよ~。マジビビった!!」

 

 

 「申し訳ありません! ホームズ様! 御姿を拝見したため、お声かけてしまいました!」

 

 

 警魔隊の隊長であるレストレード隊長は、尊敬するホームズに敬礼する。

 

 

 「うん、そうだね。でも今は構わないでほしいな。今、おいらの命が危ないんだ。何としても逃げ切らない……ガシャン………と?」

 

 

 ガシャン……

 

 

 何か鍵がかかる音が聞こえて、自分の手を見るホームズ。そこには両手共に手錠がかけられていた。

 

 

 「……これは一体何のマネなんだ?レスちゃん。」

 

 

 「申し訳ありません! 実はちゃにゃんさんからホームズ様を見つけたら、ご褒美にホームズ様を連行してもいいと呼ばれてきたのです! 」

 

 

 「…そんな無責任な! 仮にも帝都を護る警魔隊が何もしてない奴の手に手錠かけるか!」

 

 

 「それはちゃにゃんさんから妙案が。

 

  『酔っ払いの保護も立派な職務ですから。 それに、ホームズは盗撮してますから立派な犯罪者だから手錠かけても問題ないにゃ!』

 

  …と言ってましたので、まったく問題ありません!」

 

 

 嬉々として語ったレストレードは、手錠に結んでいたロープを掴み、そのまま犬の散歩のようにホームズを引っ張る。

 

 

 「ちょ、こんなの、聞いてない~~~~~!!!!!」

 

 

 ホームズの雄叫びが桜の花びらが舞う風に乗って響くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにファッションコンテストの方は、あの後観戦していたみんなやヘムタイ騒動に繰り出していたメンバーも含めて投票した結果、なんとホームズが優勝したのであった。

 その結果をホームズは警魔隊の駐屯所で牢に入れられたまま、知る事になる。

 

 

 「ありがとう!みんな~!! でも、おいらはこんな花見は望んでなかった~!」

 

 

 「そんな事を言わずに!ホームズ様!どうぞ私めに中ってください!!」

 

 

 尻を突き上げ、四つん這いになっているレストレードの尻にホームズの蹴りが炸裂し、レストレードの喘声が牢屋に響く。そしてホームズの愛用鞭がどこからともなく取りだし、解放される翌日の朝までSMプレイをしながら酒を飲む…という一風変わった(変わりすぎだろ!)花見をするのであった。

 

 

 

 

 

 そして花見が終わった後、みんなで花見の写真を見ながら談笑するROSEのメンバー。

 

 「あ、そう言えば、この時の花見の時、ヘムタイ達が騒いでいたけど、剣崎っちはいなかったね。」

 

 

 「出ちゃった…… アッ

 

  ぅずぅずしてたけど見て見ぬフリしてたのに…」

 

 

 同じくヘムタイ三竦みに数えられる剣先兵庫が服を脱ぐと、その下にはヘムタイ衣装としか言いようがないコスで頬を染めてポーズを取る。

 

 

 網タイツに、紫色のブラ、大きめのサングラス。

 

 

 完全に露出度高めの危険なコスだった…。

 

 

 

 「「「おおおおおおおお~~~~~~!!!(♥ ▽ ♥)」」」

 

 

 早速ヘムタイ魂に反応し、雄叫び上げるヘムタイ達は秒殺で撃沈された…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆は花見だからと言って、飲み過ぎて羽を外し過ぎないようにね。…ヘムタイになってしまうから!

 

 

 

 

 

 

 ―――――終。

 

 




完結した~~!! 明日からはまた本編に戻りますけどね!

新たにヘムタイが生まれてしまったので、これからROSEは更に賑やかになる事でしょう!


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お兄様が有名になる件!!
様々な波乱の予感


今日から原作キャラのストーリーが始まります!!

時系列は達也達が2年生に進級した4月から九校戦が終わる8月までの期間をやっていこうと思います!!

その間に達也に何があったのか…!!




 

 

 

 

 

 西暦二〇九六年四月八日、国立魔法大学付属第一高校入学式当日。

 

 

 達也、深雪、水波の三人は、入学式開式の二時間前に登校していた。こんな時間に登校したのは、言うまでもなく、入学式の準備のためだ。

 深雪は生徒会役員だし、達也も今年から風紀委員から生徒会副会長に就任した。もっとも、この人事異動は達也の意思を反映したものではなく、風紀委員長の花音と生徒会長の梓が勝手に交わした密約(本人が知っている時点で密約とは言えないが)を順守した結果だ。

 

 

 本心としては、これ以上目立つような事はしたくないが、こうなってしまっては仕方がないと半分諦めを見せる達也であった。

 不本意ではあるが、深雪が生徒会で共にいられるという事に嬉しそうにしているため、深雪が喜ぶならと、達也もそれほど悪くないかもしれないと思い始め、生徒会役員としての今日の仕事も誠実にこなしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 入学式もちょっとしたアクシデントがあったが、無事に事なきを終え、ほのかたちと達也達の行きつけの喫茶店「アイネブリーゼ」でコーヒー片手の雑談をした後、達也、深雪、水波は真っ直ぐに帰宅した。

 

 帰宅して、各々部屋着に着替えるために、自室に入る。達也は、今年度の新入生は予想通りややこしくなりそうだと制服のブレザーを脱ぎながら、ため息を吐くのだった。

 入学式の前に迷っていた隅守ケントはほのかの男性生徒版だと感じるほど、対応に少々持て余していた。子犬のように熱心に見つめてくる視線は、尊敬と憧れ、好意が入り混じっていた。

 今までは、恐怖や畏怖、嫌悪といった敵対心丸出しの視線が多く振り注いでいた。だから、好意的な視線をどう処理するかはいまだに少し困惑する。

 

 しかし、これはほんの小さな悩みだ。

 

 問題は、七宝琢磨、七草香澄・泉美の双子の方だ。

 

 

 七宝家と七草家は仲が悪い。…というより、当主同士ではそこまで互いに敵愾心を表してはいない。しかし、琢磨は七宝家が十師族になれないのは七草家の所為だと思い込んでいるため、自棄に対抗心を燃やしている。

 七草家に手を貸すような者にも敵意を見せる。

 

 現に、小和村真紀の嘘も見抜けずに、達也と深雪には初対面のはずなのにぶしつけな態度の挨拶を取り、深雪を「氷雪の女王」にさせたほどだ。

 

 その気の強さで、あの双子に喧嘩でも吹っかけるものなら、恐らくは…、いや必然的に香澄の方が売られた喧嘩は買うと、引き受けるだろう。

 

 

 師補十八家と十師族の家柄の喧嘩を止めに入るとしたら、生徒会になるだろうし、その中で仲介に入るとしたら……。

 

 

 そう考えると、厄介事を引き起こさないで欲しいとは思っても、少しでも騒ぎを起こしてくれた方が兄妹と水波の関係や四葉とのつながりを調べられる心配もない。

 理屈の上なら正しいが、それを止める者が自分かもしれないと思うだけで、頭痛を感じてくる。

 

 数日前にも、深雪と水波とのティータイムの時に、この話題が出たが、今日の入学式で実際にあった印象から真実味が出てきた。

 

 もう一度ため息し、ものの数秒の考え事も消し去り、部屋着に着替え、リビングに向かう。

 

 

 深雪がいつもコーヒーを淹れてくれるからだ。

 

 

 深雪のコーヒーは美味しいから、今日の疲れを癒そうかと、リビングのドアを開ける。

 

 

 すると同時に、既にリビングにいた深雪と水波が一斉に達也の方へ顔を向ける。

 

 

 「お兄様…。」

 

 

 困った表情と兄のご機嫌を伺い見る表情をする深雪と電話回線が保留のままになった近くで控えている水波を見て、なんとなく達也は察した。

 

 

 達也は、深雪の頭を優しく撫でて、微笑みながら、深雪を安心させる。

 

 

 「大丈夫だ、深雪。 そんなに心配しなくてもいい。」

 

 

 「……はい、お兄様。」

 

 

 二人の甘い空間に慣れていない水波は、居心地が悪そうな顔を一瞬垣間見せるが、すぐにメイドとしての仕事を戻る。

 

 

 達也と深雪がモニターの前に立ち、視線で水波に電話を繋げるように告げる。

 

 

 一礼して、水波は保留していた電話回線を繋げる。

 

 

 モニターに回線がつながり、一瞬波打ってから、電話をかけてきた相手の姿が映しだされる。

 

 

 

 「こんばんは。ご機嫌はいかがかしら?深雪さん、達也さん。」

 

 

 「はい、頗る良好ですわ。お気遣いいただきありがとうございます。」

 

 

 深雪は丁寧に腰を曲げて、一礼する。

 

 

 「いいのよ、深雪さん。ただの挨拶ですもの。それに、深雪さんが良好なのは、疑っていなくてよ?」

 

 

 「ええ、仰られる通りです。 私には、常にお兄様の守護がありますので。」

 

 

 「そうね。達也さんが深雪さんの体調変化に気付かないなんてことはないですものね。」

 

 

 「はい…。」

 

 

 「本当に仲がいいのね、あなた達。…達也さんも御機嫌よう。」

 

 

 深雪の斜め後ろでずっと控えていた達也に今気づいたような視線と口ぶりで達也に話しかけてきた。達也はそれを、一言も応答する事なく、一礼する。

 

 

 『あら、達也さん、冷たいのね…。』

 

 

 「前振りは結構ですので、本題に入りましょう。何か用事があってご連絡されたのでしょう? …叔母上。」

 

 

 しかし今回は素直に答える達也。

 

 

 

 無表情で話す達也を見て、叔母上と呼ばれた女性…、四葉家現当主である四葉真夜は楽しそうに真紅の唇を吊り上げ、笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 




お疲れ様でした!! 達也様!!

今回からは、原作本を見ながら、投稿するというハードなテクニックを駆使するという厳しい訓練を成し遂げてやったぜ!!

学校生活だけでなく、私生活でも波乱の予感が~~!!

達也様!! 頑張って~~!!


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真夜からの呼び出し

自分にタイトルをつけるセンスがない事に激しく嫉妬しております…。
章のタイトルは本格的に話が進んだら、○の所を公開しようと思うけど、くろちゃんがそこに「ヘムタイ」って入れてくるものだから、思わず突っ込んだよ!

達也様が「ヘムタイ」になったら、キャラ崩壊どころか、地球崩壊するわ~~!!


 

 

 

 

 

 『さすが達也さんね。』

 

 

 察しのいい反応をした達也に満足そうに微笑み、褒める真夜。 達也としたら、褒められたとしても嬉しくないが。

 

 

 「それで、御用というのは?」

 

 

 『そうね…、達也さんにある任務をお願いしたいので、それをご連絡した次第よ。それほど難しくないんだけど。』

 

 

 「なら、わざわざ叔母上がご連絡する必要はありませんよね?それくらいなら、いつもは葉山さんが連絡してくるか、極秘メールで知らせてくるはずです。

  その任務というのは、叔母上にとって何か重要な事が絡んでいるから直にご連絡されたのでは?」

 

 

 『………何もかもお見通しのようね。そうですわよ、これは私個人が達也さんにしてもらいたい任務です。』

 

 

 「………任務の内容は、どのようなものなんですか?」

 

 

 『あら、それは明日、詳細をお話ししますわ。言ったでしょう?これは私個人が達也さんにしてもらいたい任務なのです。なるべく極秘にしておきたいのですよ。』

 

 

 達也は真夜を冷めた視線で見つめ、真夜の思惑が何かを脳裏に巡らせる。

 しかし、そんな達也を真夜は本当に楽しそうに微笑む。

 

 この二人の沈黙が周りに緊張を走らせる。そしていつの間にか蚊帳の外のようになっていた深雪は、達也の事を気に掛けながらも、その任務について妙に心がモヤモヤするのであった。

 

 

 「………畏まりました。それでは、明日、本家の方へお尋ねさせていただきます。」

 

 

 『いえ、それは結構です。場所は魔法教会関東支部に来て頂戴。明日はそっちに用があるから。

  達也さんも明日は予定開いているでしょう? FLTに行く用事もないですし。』

 

 

 真夜は、四葉家当主と言っても、ただ本家で魔法研究を取組んでいるだけではない。師族会議に参加したり、御得意先との会合で、外出する事はある。

 それ自体はたいして、気にはしていない。寧ろ興味を持っても、あの真夜が素直に教えてくれるとは思っていない。

 しかし、こちら側の予定をすんなりと話すあたり、達也が珍しく予定がない事を把握しているという事だ。…深雪との外出も込みで。

 どうやって知ったかは別にしても、手の内を見せずに達也の事を把握しているのは、なぜか気に障る気がしたのだ。

 一定の感情の表現ができない達也でも、リードを取られている感じで、居心地が悪い。

 ここは嘘でも、「先程、深雪とショッピングに行こうと話していた所です。」と言おうかと一瞬考えを張り巡らせたが、すぐに大人げないと思い、ここは従うかと言葉を呑み込む。

 

 

 「畏まりました。では明日、魔法教会関東支部にて、叔母上に面会させていただきます。」

 

 

 『そうして頂戴な。 ああ…、それから達也さん…。

  来るのは一人で結構よ。』

 

 

 真夜の言葉は、深雪と水波を連れてくるなという意味だ。

 

 その意味は達也だけでなく、深雪も水波も理解できた。しかし、自分もお兄様と共にお伺いすると思っていたので、真夜の言葉に若干ショックを受けるのだった。

 せめて、面会の時間までお兄様とショッピングしようと思っておりましたのに…と一瞬だけ名残惜しそうに達也の背中を見つめた。

 

 それを真夜はモニターを通して、達也は一瞬の深雪の視線で気づいた。

 

 それを二人は安易に口を挟まず、明日の段取りを確認した後、電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に電話がきれた事を確認すると、達也は振り返り、深雪に微笑みかけながら、頭を優しく撫でる。

 

 

 「そういう事だ、深雪。明日は、一緒に過ごす事が出来なくなってしまった。

  悪いが、水波と留守番していてくれ。」

 

 

 「……はい、畏まりました。…でもお兄様…!!」

 

 

 「何だ?深雪。」

 

 

 「叔母様と面会した後、もし差し支えなければ……その、今回の任務について……

  いえ、申し訳ございません。何でもないです…。」

 

 

 深雪は何か言おうとして、止めた。

 

 出も達也には、深雪が言わんとしていた事が分かっていた。

 

 

 ”もし差し支えなければ、今回の任務について、後で教えてくださいますか?”

 

 

 

 そう言おうとして、深雪は言葉を切った。

 

 深雪がそうした理由も達也には分かる。

 

 この任務には、四葉家内でも厳重に規制を張っているほどの極秘任務だ。その任務について明日達也にだけ話すという事は、深雪が極秘任務について知る権利はないという事。

 

 いくら達也が自分に嘘をつかないとも、お願いしても断らないとも知っていても、それを使って、知る事が許されない任務の内容を知れば、四葉家当主直々にどんな罰が待っているかはわからない。

 

 

 達也はそう、深雪が思ったから、途中で言葉を切ったのだと思った。

 

 

 

 しかし、達也は半分は間違っていた。

 

 深雪は罰を恐れて、言葉を切った訳ではない。

 

 安易に極秘任務の事を知れば、それが秘密を吐露した達也へと罰が届き、それがお兄様と引き離されるきっかけになるのではないかと恐れたからだ。

 深雪と達也は、ミストレスとガーディアン…。いわば主従関係の中で、兄妹として生きる事が出来ている。数年前までは兄妹として過ごすなんて考えていなかったけど、あの日からすべてが変わった。

 達也を尊敬し、愛する事が当たり前に息をするようになった…。

 

 

 それが今の深雪の生き甲斐だ。

 

 

 その生き甲斐を自分の失態で失うと思うと、血の気が引いて、呼吸がままならない。

 

 

 ”お兄様が深雪から離れていくのは嫌!!”

 

 

 深雪はそんな執着を持っていたため、言葉を切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俯く深雪の頬を撫で、ゆっくりと顔をあげさせる達也。

 

 

 「…深雪、大丈夫だ。俺は決して深雪を一人にはさせない。」

 

 

 瞳を覗き込まれた状態で、達也が深雪にだけ見せる微笑みを向けて、深雪を慰める。すると、深雪は先程の考えが吹き飛ぶように消え、逆に頬を赤く染め、目を輝かせる。

 

 

 「そ、そんな~~!! 『一人にはさせない』なんて!うふっ」

 

 

 達也から距離を取り、背中を向けて、達也の言葉に酔いしれる。

 

 深雪の後姿を見ながら、達也は眉を上げ、訝しがる。

 

 

 (? なんだ、妙にニュアンスがずれているような気がするが・・・。)

 

 

 深雪の言い方に疑問を覚えるものの、深雪の機嫌を解決するのか先だと思う事で、頭から追い出す。

 

 

 「深雪…、もしお前がいいなら、明日の夕飯はステーキが食べたい。深雪の手料理で。」

 

 

 「!! はい!! 大丈夫です! ぜひお兄様に最高のステーキを用意させていただきます!! 

  ですので、明日はお気をつけていってらっしゃいませ。」

 

 

 

 

 満面の笑顔で、目を輝かせる深雪は、帰宅後のコーヒーがまだ準備していなかった事に気づき、急いでコーヒーを淹れる。

 

 その際に、水波と一戦のやり取りがキッチンで聞こえるのを達也はBGMとして聞きながら、気になっていた書籍を読む。

 

 それからは深雪と一緒に深雪が淹れたコーヒーを飲んで、達也とのんびりティータイムを過ごし、この日は和やかに終わったのであった。

 

 

 

 

 




達也って、本当にすごいな。

深雪の憂いをすぐに塗り替えちゃった…。

逆にコロッと嬉しがる深雪もまた、ブラコンだなと実感が…。


それにしても、真夜の用事ってなんだろうね?


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意外な極秘任務

さてさて、真夜は何を達也にさせるつもりなのか…。


 

 

 

 

 

 

 

 真夜からの突然の連絡があって、魔法教会関東支部を訪問することになった達也。約束の時間より15分ほど早くに到着した。

 

 着いて早々、ベイヒルズタワーのロビーに入り、関東支部のセキュリティーも通り、中に入る。

 達也にも、四葉家内で使用されているアクセス権限の使用を許可されているため、警備員に止められる事もなく、真夜が待つ応接間へと足を運ぶ。

 

 

 コンコン…

 

 

 「ただいま参りました。」

 

 

 応接間の扉にノックして、自分が着いた事を知らせる。返事はなかったが、扉に歩いてくる知った人の気配を感じる。

 

 ゆっくりと扉が開き、招き入れられる。達也は廊下に誰もいない事を気配だけでなく、念のために眼も使って異常がないことを確認してから、応接間に入った。

 

 入るとすぐに、大層な彫刻が施されたテーブルとソファがセッティングされていて、上座には既に真夜が座って、紅茶を淑女らしく飲んでいた。

 

 達也は、応接間の内装と洋風なテーブルとソファがかみ合っていない事に気づき、真夜が私的に家具を引き入れたのだと理解した。

 その事には何も口には出さず、案内されるまま、真夜の向かいに座り、背筋を伸ばす。

 

 

 「よく来てくれましたね。 昨日は確か入学式の準備で忙しかったのでは?」

 

 

 「いえ、それほど忙しくはなかったですよ。寧ろあれくらいでオロオロしているのはどうかと思いましたね。」

 

 

 「それは、会長さんの事かしら?ふふふ…、達也さんは年上でも容赦ないのね。」

 

 

 「あれは勝手に怯えているだけかと。俺は別に怖がらせようとしている訳ではありません。」

 

 

 「そうね…、達也さんはそうかもしれないけど、達也さんの鋭い視線を向けられたら、怖気着くのも仕方ないと思うけど? それこそ、昨日の深雪さんのように。」

 

 

 「…………相変わらずお耳が早いですね。」

 

                         ・・・・

 「ふふふ、あなた達は姉さんの忘れ形見ですからね。ちゃんと見守ってあげないと。」

 

 

 「それは、深雪を、ですか?それとも俺ですかね?」

 

 

 達也が眼を鋭くし、一点の動きも見逃さないという感じで真夜を睨む。それを真夜は、満足そうに見つめ、唇を薄く開く。

 

 

 「もちろん決まっているでしょ?二人とも四葉の人間ですもの。そして深雪さんは私の後継者候補の一人ですし。しっかりと見守ってあげるのは当然でしょ?」

 

 

 「……そういう事にしておきます。」

 

 

 真夜の鉄壁スマイルで、これ以上聞いても無駄だと思い、達也はずっと真夜の後ろで控えていた葉山さんが淹れてくれた紅茶に飲む。

 

 

 「相変わらず葉山さんの紅茶は美味しいですね。」

 

 

 「それはありがとうございます、達也殿。 私めには、これくらいしか誇れることがありませんので。」

 

 

 「そんなに謙遜する人ではないでしょう。謙遜行き過ぎるのはどうかと思いますが。」

 

 

 「そうですか?いやはや、私も既に老齢ですから。 人間、衰えからは逃げられません。」

 

 

 「……………」

 

 

 葉山が口にした言葉で、真夜の頬が少し吊り上る。

 

 それを見逃さなかった達也は、真夜を『やっぱり気にしているのか。』と女性なら誰でも思う悩みに反応し、平然を演技しているのを見て、やはり女性なんだなと少しの意外感を持ったのだった。

 

 それを達也に知られたと達也の視線から察した真夜は、話を逸らすべく、本題に入る。

 

 

 達也としては、ようやく本題に入ってくれたかと思っているが。

 

 

 「では改めて、達也さん…。あなたにお願いしたい事があるのよ。」

 

 

 「…なんでしょうか?叔母上。」

 

 

 「今回の任務で貴方に………」

 

 

 そう切り出しておいて、なぜか葉山に紅茶の御代わりをさせて、再び紅茶を口に入れる真夜。

 

 いつもならすぐに言いそうなことなのに、自棄に溜めこむ真夜の行動に不審に思う達也。しかし、それほど重要な案件なのだろう。例えば、国家絡みの複雑な任務。…そう思う事にしようとした。

 

 

 

 そして、紅茶を飲み終え、ゆっくりとカップを元に戻した真夜は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「達也さん、あなた……”アイドル”やってみてくれないかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………………………………は?」

 

 

 

 

 

 

 今までの任務とはまるっきり飛び越えた、真夜からの衝撃的な任務通達に、無表情で受けていた達也が、初めて戸惑いを顔に出した瞬間だった。

 

 

 そんな達也の表情を見て、真夜が「勝った!」っと思ったどうかは知らないが。

 

 

 

 

 




達也がアイドルか~~~!!!

確かにこれは意外だな!! でも、見てみたい!!達也のアイドル姿!!
絶対にファン殺到するよ!!



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真夜のちょっとした暴走

真夜のキャラ崩壊をさせます!!



 

 

 

 

 

  「達也さん、あなた……”アイドル”やってみてくれないかしら?」

 

 

 

 真夜が放った任務通達は、爆弾となって投下され、見事に達也の思考をほんの数秒の間だけ機能停止にするまで陥れた。

 人生初ではないかというくらいに戸惑いを見せ、開いた口が塞がらない状態になった達也。

 無理もない。

 まさか極秘任務の内容がまさか、アイドルになれと言われるなど露にも思っていなかったのだから。

 

 

 「………………は?」

 

 

 達也が思わず口を開き、固まるのも当然なのかもしれない。だが、自分が間抜けな顔を曝していると思うと同時に、思考回路もすぐに復旧し、元の無表情に戻る。

 

 

 「ふふふ、達也さんでもそのような顔をするのね。初々しいわ。」

 

 

 「………いきなり”アイドル”になれと言われれば、自分の耳を疑いたくなるのは当然かと思いますが。」

 

 

 「そうね、達也さんには縁がない世界だものね。達也さんの気持ちは分かるわよ?」

 

 

 (分かるなら、そもそも”アイドルになれ”とは言わないんじゃないか?)

 

 

 達也は頭の中で真夜に白々しい言い回しを突っ込んだが、口には出さない。その代わりに別の事を言う。

 

 

 「今まで、叔母上の命令された任務は暗殺や裏工作等でした。普通はそっちの方面で俺を呼び出したと考えた方が妥当です。

  今回も、叔母上が個人的に報復したいターゲットでもいるのかと思い、来てみたのですが…。

  そんな俺に、なぜ”アイドル”というものになれと?」

 

 

 達也が言ったとおり、四葉の闇の仕事を幼少時からこなしてきた達也に、それとはまったく正反対の任務につけというのか。

 達也は真夜の真意が窺えずに、真夜に一歩のリードを許していた。

 追究する達也の目は、無意識に鋭くなる。

 

 

 「最近、人間主義者が活発になってきているのは知っているでしょ?」

 

 

 「はい、そうですね。活発になっているというより、元々内側に秘めていた負の感情が何かのきっかけで溢れ出ているとも言えるでしょうが。」

 

 

 任務とは到底関係なさそうな話題だが、達也は真夜のこの話題からなんとなく予想を立てる。……決して、認めたくないが。

 

 真夜も達也が遠まわしに誰かが人間主義者を煽っているという意味を正確に読み取って、感心した微笑みで話を続ける。

 

 

 「そうね…、去年は色々ありましたから…。達也さんも大変ご活躍したでしょう?」

 

 

 「俺にとっては不本意の連続でした。俺が望んだ訳ではないですよ。」

 

 

 「それは理解しているわ。でも、強大な力に引きつられて、寄ってくるのも然り。」

 

 

 「……つまり、人間主義者によるテロがあるという事ですか?芸能関係で。」

 

 

 達也の回答に満足そうに微笑む真夜。

 

 

 「よくできましたね、達也さん。その通り、ある情報を手に入れましてね。近々芸能界に人間主義者思考の動きが起きようとしています。

  それにちなんで、様々な思惑が絡み合っているようでして、厄介なのよ。」

 

 

 「ですが、そういう事なら、叔母上が事前に手を回すなりすれば事足りると思いますが?

  黒羽家に頼む事をせずに、なぜ俺が対処するのですか?そこまで深刻には感じないのですが。」

 

 

 「だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 真夜に珍しく頬を朱色に染め、恥じらい、視線を少し逸らして真紅の唇から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だって、達也さんのアイドル姿見てみたいんだもの…。」

 

 

 

 まるで乙女のように、何かを期待している目で楽しそうに微笑む。

 

 

 

 これには、達也も絶句する。

 

 

 そして、真夜の体内を視て、アルコールが入っていない事を確認した。入ってくれていれば、先程の言動も百歩譲って頷けた。しかし、アルコールが入っていないとなると、もはや狂ったとしか思えない。

 

 達也は、葉山に視線を向け、助けを求める。葉山なら何か知っているのではないかと。

 

 確かに葉山は何かを知っていた。

 

 

 しかし、それを決して話さず、寧ろ真夜の言動に笑いを溢している。

 

 この状況に達也は、頭を抱え、まさかそんな理由で自分にアイドル白と言っているのかと思うと、めまいがしてきたのだった。

 

 

 

 

 (……これはもう断る方向でいこう。)

 

 

 

 極秘任務の内容を聞いてから、そう思っていたが、真夜の発した理由で更に決意を固める達也だった。

 

 

 




真夜が乙女になった!!

それだけの力が達也に!! 達也はあり得ないってそっぽ向けそうだけど。

しかし、真夜はあきらめないよ、絶対! そしてうちも!必ず達也をアイドルにしてみせる!!


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達也の成長観察

またまた真夜のキャラ崩壊を継続させます!

真由美よりも猫被っていたとは!!


 

 

 

 

 

 

 「申し訳ありませんが、俺にはこの極秘任務とやらは、できないので断ります。」

 

 

 はっきりとした口調でそう言い切った達也に、真夜は意外感が混じった視線を投げかける。

 

 

 「あら、達也さんでも”できない”なんていうのね?」

 

 

 「誰でも完璧な人間はいませんよ。その証拠に、俺は”魔法”が使えませんので。」

 

 

 「そうだったわね…、だから、あなたには姉さんの魔法で、”魔法”を使えるようにしたけど。まぁ、確かに使い物になる域まではいかなかったわね。」

 

 

 「ええ…。俺にもできない事はありますよ。」

 

 

 「それで達也さんができない事っていうのが、”アイドル”ですか?」

 

 

 「それが一番ではないですが、主に芸術系は無理です。」

 

 

 「あら、そんな事はないと思いますけど…!」

 

 

 達也の無理発言に真夜が突如として食いかかり、異を唱え出した。

 

 

 そして、葉山に視線を向け、合図を送ると、葉山が応接間に完備されているモニター画面に向かい、何かの録画を再生し始めた。

 

 

 それも見て、達也は顔には出さなかったが、驚いた。

 

 

 なんとモニターに映った居た録画は、自分が中学生の頃に文化祭でやった演劇だったのだ。

 

 

 なぜこのような物を取って保存していたのか、不思議ではならなかったが、その理由はすぐに本人からもたらされた。

 

 

 「これ、いいでしょう?

  葉山さんに頼んで、達也さんが出演する演劇を撮ってもらったのよ。何度見ても、よく鮮明に映っているわね。」

 

 

 「叔母上…、まさか……」

 

 

 「あら、姉さんがこのときには既に病で寝込みっきりだったから、代わりにビデオに収めてあげただけよ? 姉さんは深雪さんの事は大事にしてましたしね。後で、ゆっくりと鑑賞したいというから、葉山さんに動ける使用人を編成してもらって、録画してもらったの。」

 

 

 確かに、この演劇の時は、深雪が姫役として大抜擢し、深雪の美貌を拝もうと全校生徒だけでなく、保護者も地域の人も総出で、劇場が昔の満員電車のように、観客が殺到し、一時は中止を余儀なくされたが、なんとか無事に演劇をやり遂げたのだ。

 大勢の人の視線が集まるため、達也も深雪もそれほど気にしていなかった。しかし、その中にまさか葉山さん達が紛れ込んでいたとは、信じられなかった。

 

 よっぽど深雪の演技に集中していたんだろうなと今を思えば、そう考えられる。

 

 

 ……しかし、なぜか、この編集された録画には、主に達也がアップで写っているように見えるのは気のせいだろうか…?

 

 

 「そうですか…。しかし、俺は、代役を頼まれたに過ぎないですし、演技になっていなかったと思うのですが。」

 

 

 「そんな事はありません!! 急な代役なのに、すぐに役の動きや見せ場を頭に書き込み、見事なアクションを見せてくれたじゃない!? 

 

  あれは、近くで見ても感動だったわ~…!!」

 

 

 「………あの、叔母上…?」

 

 

 一気にタカが外れたのか、猫かぶりが外れてしまった事に後で気づいた真夜は、慌ててフォローを葉山さんに頼む。

 

 

 「奥様は、なかなか外に出る機会がありませんでしたので、私どもが撮影に行って、小型中継カメラで生中継させていただいたのですよ。

  奥様は、二人の演技にとても感心しておりました。その熱が今、再熱しただけで御座います、達也殿。」

 

 

 「……そのような事でよろしいのですか?葉山さん?」

 

 

 「ここは、この葉山の弁舌でどうかご納得を。」

 

 

 それは、ここでそう話を済ませてほしいという事か。

 

 

 達也もいろいろ言っておきたい事があるが、付き合っているとそれこそ時間を取られ、深雪を待たせてしまう。

 せっかく、深雪に夕食を作ってくれと話しておいたのに。

 

 

 だから、達也は葉山の提案に乗って、すぐにこの任務を放棄する事を再度告げる。

 

 

 「叔母上の事はともかく…、俺にはアイドルは無理です。

  俺には、技術があっても、人を引きつける素質はないですから。」

 

 

 「待ちなさい、達也さん。それで私が『はい、そうですか』と返事をするとでも?

  これは、既に決定事項なの。達也さんに拒否権はないわよ? 今日は極秘任務の事前報告ですから。」

 

 

 

 そう、話を終わらせて、この場を失礼させていただこうとした達也だが、真夜の冷めた視線で微笑む静かな笑みは、獲物を逃さないという意思が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ…? まだ話が終わっていませんから、お座りになって?

  葉山さん、紅茶の御代わりを。」

 

 

 「畏まりました、奥様。 達也殿もどうぞお飲みください。」

 

 

 達也は仕方なく、浮かしかけた腰を深くソファに腰かけ、紅茶をゆっくりと飲む。

 

 

 

 

 ………二人の意思がぶつかり合う前の気合補給のため。

 

 

 

 

 




真夜が猫かぶりを今まで達也に隠していたのはビックリだね。

でも、真夜様!! 頑張って!! 達也をうまく引き入れて~~~~!!!


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断る口実探し

第一幕は終わったけど、今からが本番の第二幕。
真夜さま! 達也を落して!!(降参させてという意味だよ!?)


 

 

 

 

 

 紅茶を飲んで、形勢を立て直す二人…。

 

 

 達也としては、終わらせて帰りたい、というよりこの任務自体を消し去った方が早いと思考がそっちに流れ出していた。

 

 しかし、まだ表面上の任務を聞いただけでは、消し去る事もできないし、特異の『分解』を使って消し去る事も出来やしない。

 

 「放棄します」と再度言いたい気持ちを抑え、真夜の話を聞くことにした。

 

 …といっても、態度は既に素直に話を聞く態度ではないが。

 

 あくまで、話だけは聞くという事を理解させるためだ。

 

 

 そのことは、真夜も葉山さんも言われなくても理解した。しかし、二人にとっては何としても達也にアイドルをさせたい。そのために、徐々に行く手を塞いでいく手段に変える。

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ?達也さん…。そんなに嫌なの?アイドルになるのが。」

 

                        ・・・・・・・

 「嫌ですね。そもそも俺は、アイドルになるために生かされているわけではありませんから。」

 

 

 「そんなに謙遜しなくてもいいのよ? 達也さんなら、すぐにアイドルとして活躍できると思うのだけど。 学生でもあるし、色々やってみるに越したことはないと思わない?」

 

 

 「すでに色々経験してきていますので、結構です。

  伯母上が仰られたとおり、俺は学生ですので、学業が本分です。それを怠る訳にはいきません。」

 

 

 「そうね…、確かに学業が本分なのは、理解しているつもりよ?

 

  でもね…、この極秘任務は達也さんしか頼める人がいないのよ。」

 

 

 「俺なんかよりももっと相応しい人材がいるでしょう?」

 

 

 「そうね~、達也さん以上となると、深雪さんしかいないわね。」

 

 

 「………………」

 

 

 達也は内心、しまった!と自ら泥沼にはまった気がした。確かに、深雪ならあっという間に人気を博せる。それは誰の目から見ても明らかだ。しかし、深雪を得体の知れない有象無象の中に放り出す事は達也にはあり得ない。というかは断じてない!

 

 

 「でも深雪さんは、あっという間に人気になってしまうと、辞めるに辞められなくなるでしょう?それこそ大騒ぎになって、私達の事が露呈してしまう可能性が高いわ。」

 

 

 「………それは否定しません。」

 

 

 「なら、ここは深雪さんの代わりにという事で、達也さんを抜擢する事に決めました。

  達也さんなら、弁えているでしょうし、すぐに馴染むはず。」

 

 

 「……それで、なぜ俺が了承したみたいな話になっているのですか?」

 

 

 「だから、言ったじゃない!? 既に決定事項で、これは事前報告だと。」

 

 

 滅茶苦茶だな…、と横暴になりつつある真夜の言い分に、達也はもう諦めモードに入っていた。

 せめてもの、抵抗として最後の反論を告げる。

 

 

 「………俺は、アイドルになれるような人間じゃないです。」

 

 

 「それが達也さんの断る理由?」

 

 

 「……そうですね、それが大きな理由です。」

 

 

 「なら、アイドルとして相応しくこちらがバックアップすれば、問題はありませんよね?」

 

 

 「……は?」

 

 

 「達也さんはアイドルが自分とはかけ離れたものだと思っているみたいですので、その考えを打ち消すように、任務をバックアップさせるわ。

  それなら文句はないですわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜の押し問答な言い分にとうとう最後の抵抗も霧散し、達也は、断る口実を探すのを完全に諦める。

 

 そして…

 

 

 

 

 

 

 

 「………はぁ~、畏まりました…。その任務…、お受けいたします。」

 

 

 

 

 極秘任務を受ける事を了承したのだった。

 

 

 

 

 つまり、アイドルをやると…!!

 

 

 

 

 真夜は、達也の口からついに、念願の台詞を引き出すことに成功し、内心で飛び跳ねて、淑女らしからぬ大笑いとガッツポーズを取っている事を窺わせない鉄壁の作り笑顔で、頷くのだった。

 

 

 

 

 

 そんな二人の様子を審判のような面持ちで鑑賞していた葉山さんは、『さすが奥さまです』と静かに主を褒め称えた。

 

 

 




……もう最後は、やけくそになっていたような?

本当は深雪にアイドルさせる気は全くなくても、そう言っておけば達也に聞く耳だけでなく、代わりに努めるという考えは生まれるし、達也の言い分を逆手にとって、逃げ道を塞ぎにかかる…。

真夜も達也と同じく弁舌?だな…。


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達也の弱点満載なミッション

でも、うちは思う事があるのだ、達也しいのではないかと
ではなぜ、達也をアイドルなんかにしようとしたかって?

見たいからに決まってるじゃん!!


 

 

 

 

 流れ的に極秘任務を受けることになった達也。

 

 

 本心はできればしたくないという気持ちがあるが、真夜がもし深雪を引っ張り出すのなら、それを阻止しなくてはいけない。

 真夜の思うとおりに事が進んでいるのは癪だが、仕方がないと自分を納得させる。

 

 

 「それで、達也さんは具体的に何ができないというのかしら?バックアップするにも、達也さんの弱点を知っておかないと対処できないから。」

 

 

 不意に真夜がそう尋ねてきた。

 

 その目には、何かを期待している子供っぽい笑みと輝きがあった。

 

 真夜としては、純粋に何事も完ぺきにこなす達也の弱点を知りたいのだ。しかし、聞いた結果、乾いた笑いが出そうになるのを必死に抑えることになるとは思わなかっただろう。

 

 

 

 

 

 「……芸術関係ですよ。

  俺は昔からそれがうまくできないんです。」

 

 

 「…あら、でも、この時はしっかりとやっているでしょう?」

 

 

 そう言って、葉山さんに視線を向けると、恭しく一礼した葉山さんが再びモニターに中学の頃の演劇を再生する。

 そこには、黒衣の仮面騎士が姫を悪しき輩から見事な立ち振る舞いと身のこなしで倒していた。

 

 

 「この黒衣の仮面騎士は達也さんだとは分かっていますわ。この動きは、中学生で為せる業ではありませんもの。」

 

 

 「確かにそれは俺ですが、台詞は一切出てきませんし、ただ迫力ある斬新なアクションをしてほしいと言われていたので、そうしたまでです。

  別に演じていた訳でもありません。」

 

 

 「それでも十分に通用すると思うけど…。

  分かったわ、演劇関係は控えめにさせてあげ……」

 

 

 「いえ、芸能全てに俺は問題があるんですよ。…だから、気乗りしなかったんです。」

 

 

 真夜の前にも関わらずに溜息を吐き出す達也に、真夜も葉山さんも口出しはしない。この場に真夜の信仰者でもある青木がいれば、「ご当主様の前で、何たる態度を!厚かましい!!」…と見下すだろう。

 

 しかし、二人は気にしない。

 

 達也が、丁寧な仕草で対応する方がかえって変だ。

 

 それよりも、達也の言葉に、真夜がある考えが芽生え、それを確かめるために、達也に命じる。

 

 

 「…ねぇ、達也さん。今ここで、踊って、歌ってくださる?」

 

 

 「……畏まりました。」

 

 

 一瞬断ろうかとも思ったが、自分の実力を直接見せた方が真夜も考え直すなり、戸惑うだろうと考える。葉山さんがすぐさま、歌詞が書かれた紙と音楽再生装置を持ち出す。

 紙を受け取って、速読でものの数秒で読み終えると、葉山さんに返す。

 

 

 「多分、達也さんも知っている歌だと思うから、やってみて?」

 

 

 「はい、では………、いきます。」

 

 

 

 

 そうして、達也が今話題の歌手の歌を真夜達に披露するのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………葉山さん、どう思うかしら?」

 

 

 「………正確な音程、ブレス、ビブラート、声量、発声……はさすが達也様だと思います

。ですが………何と言いますか……」

 

 

 「…………下手なのよ…ね。」

 

 

 「叔母上のおっしゃられたとおりですよ。俺は下手ですから。」

 

 

 

 実際に披露された達也の歌とダンスに、真夜と葉山さんは、もしかして作戦ミスったかと冷や汗を背中に掻きながら、そう思わざる得なかった。

 

 

 

 

 ((………これは達也(さん/殿)には、弱点満載な任務に(なったわね/なりましたね……))

 

 

 

 

 

 




あんだけ達也にはアイドルの素質あるとか言ってたもんね。

さて、この達也の弱点はアイドルにどんな支障をきたすのか…。


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弱点の原因

上手くできそうだけどね、達也なら。

でも、ここでなぜ達也が芸術系は苦手なのかが分かるように解説を…。独自だけど!!


 

 

 

 

 

 達也の歌とダンスを鑑賞した真夜と葉山さんは、予想した展開とは違った結果に呆然とする。

 いつもなら、どんなことがあっても表情を崩さずに冷たい面持ちで冷めた視線を伴って、相手を見るが、今の真夜は若い女性のような(年相応ではない)表情をする。

 当主としての威厳が保てなくなるほどの衝撃を与えられたという訳だ。

 

 二人のいつもと違う態度に達也もやはり自分には芸術関係の事は出来ないと改めて実感するのだった。

 

 

 「叔母上、お分かりになっていただけたでしょうか?

  これが俺にできる限界です。」

 

 

 もしやこれで、極秘任務は消え去ってくれるかと諦めていた思考が経つのや頭の中に復活する。

 

 

 「…………いえ、達也さんのおっしゃりたい事は分かりましたわ。なるほど…。

  では、こちらも任務を快く引き受けてくれた達也さんを最大限にバックアップしてあげるわね。

  ……葉山さん。」

 

 

 しかし、真夜の頭の中には、任務続行の決意が固まっていたようで、達也の復活しかけていた小さな願いは完璧に消え失せた。

 

 主に呼ばれ、葉山さんは懐から書類を取りだし、達也に渡す。

 

 それを受け取り、達也が書類をパラパラと廻り、再び葉山さんに返す。

 

 

 「……読んでもらったとおり、早くにもアイドルとしての活動を本格化させておきたいので、これからは出来る限り、時間を空けておいてください。必要最小限に。」

 

 

 「畏まりました、叔母上。」

 

 

 「…では、今日はこれにて。詳細はまた追って報告させますわ。」

 

 

 そう言うと、真夜は立ち上がり、奥の扉へと歩いていく。しかし、扉の前でふと足を止める。

 

 

 「ああ…、そうそう。達也さん、分かっているとは思うけど、この事は他言してはいけませんよ、誰にも。

  私は認めない限り、達也さんがアイドルする事は伏せなさい。」

 

 

 「…はい、畏まりました。………叔母上の事も話しませんので。」

 

 

 達也も席を立って、一礼し、真夜が応接間を後にするまでそのまま頭を下げ続ける。気配で完全に真夜がいなくなった事を確認した達也も踵を返して、応接間を後にし、約束した時間通りに帰れる事に安堵すると、留守番する深雪と水波のために、デザートを買って、深雪が待っている自宅へ帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 四葉家本家に向かって走る一台の車の中…。

 

 

 

 そこには、とても40代後半には見えないほどの美麗を兼ね備えたワインレッドのワンピースを着た淑女が老齢の執事を前で、ただならぬ行動に走っていた。

 

 

 「ふふふふふ!!!

  達也さん、最高だわ…!!

 

  まさかあんな事になるなんて思わなかったわ!!

  ふふふふふ!!!

  ……お腹が痛い。」

 

 

 シートをバンバンッと叩きながら、笑いを押し殺そうとして、逆に止められずにお腹を抱えて笑っている真夜に葉山さんも一緒に笑っていたが、淑女としては度を越した笑いをしている主に次第に呆れた視線を向けていく。

 

 その視線に気づいた真夜は、ハンカチで笑いで出た涙を拭い、いつもの調子へとすぐに立て直す。

 

 

 「ごめんなさいね、葉山さん。

  達也さんがあまりにも面白く……、可愛くて耐えられなかったわ。」

 

 

 「奥様の言いたい事は十分に理解しておりますが、さすがに先程の御様子を他の者達に見せる訳にはいきませんからな。

  私めがいるからといって、気を抜かれませんように。」

 

 

 「あら、葉山さんでもそう言うのね。」

 

 

 「奥様のために、で御座います。」

 

 

 主に意見を申すというのは、使用人では考えられない事だが、葉山さんには許してもいいと思うくらいの気の楽さがあるのだ。

 真夜も気をつけますと呟き、葉山さんが淹れた紅茶を飲む。

 

 

 「しかし、奥様。よろしかったのですか?

  いくら達也様でもあそこまでのレベルでは、それこそアイドルとしてこの任務を好こう出来るかどうか…。」

 

 

 「そうね…、葉山さんのおっしゃるのも分かりますわよ?

  歌もダンスも、一瞬で記憶し、指先までしっかりと複雑で高度な技も難なく披露してくれました。

  しかし、感動はしませんでしたわね。 まるで人形が操られているみたいで…。」

 

 

 そう言った真夜の唇が吊り上り、妖艶な笑みをこぼす。

 

 

 「ええ…、技術としてはそれこそトップクラスといっても過言ではありませんでした。

  しかし、それだけです。」

 

 

 先ほど披露してもらった達也の批評をする二人は、達也が苦手だと…、弱点だと言った意味を理解した。そしてそれと同時に納得もした。

 

 

 音楽ならば、正確な音程、正確なリズム、正確な発声、正確なステップは再現できるが、達也の歌、演奏やダンスは非常に味気ないものだったのだ。

 いまどき機械の方がもっと情感豊かな演奏をするくらいだろうと、感じさせられるレベルでしかない。

 試しに楽器も演奏してもらった時も素人なのに、プロでも難しいようなテクニックを駆使して、演奏していたが、いまいちピンとこなかった。

 歌詞も書かせてみたが、韻を踏み、音節をそろえる事は出来ても、歌詞自体に感情移入できない。

 

 

 

 以上の結果から、二人はある結論に達した。

 

 

 「…芸術的センスの決定的欠如が問題ですな。」

 

 

 「もっと分かりやすく言うなら、表現力の非常なまでのなさね。

  ま、仕方ないんだけど。達也さんは、感情がない…、いえ、一定の感情だけでしか自分を表現できませんし、他人の感情を理解できません。

  …例の『人工的魔法師実験』によって、姉さんの魔法によって感情を失くしたから。」

 

 

 「そうだとすると、達也さんにアイドルをさせるという計画自体は破談になりませんでしょうか?」

 

 

 「それは大丈夫よ。達也さんの決定的弱点を理解できたという事は、他の方法を使って、カバーすればいいのよ。

  …絶対に、達也さんにはアイドルになってもらうんだから!!」

 

 

 目を輝かせている真夜に、葉山さんは自分以外には絶対に隠していた本性を見せる主に、微笑ましくなる一方、極秘任務の主目的が、達也のアイドル姿を見てみたいから!という何とも言えない甥っ子の隠れファンである主を秘密を隠し通せるか不安に駆られるのだった…。

 

 

 

 

 (達也殿も顔の筋肉が少し引き摺っていましたしね。

  少し狂ったのか程度に思っていただけたのなら幸いですな。

  もし知られれば……)

 

 

 

 

 そう思う葉山さんの脳内では、真夜の達也の隠れファンっぷりを知った時の、達也の平然と保とうとしながらも視線だけが蔑む様が浮かび、苦笑するしかない。

 

 

 

 

 

 

 本家に着くまで、昔の達也のビデオを食い入るように見続ける真夜をひたすらしょうめんに座って、見守る葉山さんだった。

 

 

 

 

 

 

 




はい、達也がうまく芸術ができない理由です。私独自に解釈した!!

絶望的な欠点を持つ達也に真夜はどうやって、達也をアイドルにさせるのか!!?


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憂いを払う時間

動画で魔法科イベントを見ていたら、達也の弱点が作者と同じ考えだったことに気づいた!!
イベントとかはあまり見ないけど、佐藤先生とシンクロして、怖さが…。
 でも、弱点の原因は答えていないし、大丈夫!!

パクリではないです~~~~~~!!!


 

 

 

 

 

 

 真夜の呼び出しから帰ってきた達也は、自宅まで100M程の距離で立ち尽くしていた。

 

 なぜ、そのまま歩いて、中に入らないのか…。

 

 

 …入れる状態ではない事が気配だけで分かったからだ。

 

 

 (またやっているのか…。)

 

 

 ここからでも家の中で何か起きているのかわかる達也も凄いが、それよりも事態が深刻なのは、家の中だ。

 溜息をつきたい気持ちを振り払い、毅然として歩き、門に手を置く。すると、事態が静まり、達也にとって一番大事な人物が玄関に向かっていることを察した。

 

 そのまま、玄関の扉を開け、屋内に入る。

 

 

 「おかえりなさいませ、お兄様!」

 

 

 「……おかえりなさいませ、達也様。」

 

 

 「ただいま。」

 

 

 迎え入れてくれた深雪と水波に達也も言葉を返す。

 

 一方で、深雪と水波の表情は対照的だ。

 

 待ちに待った兄の帰りを一番先に迎えられ、嬉々とする深雪。

 

 主に先を越され、悔しがっている水波。

 ただし、水波の顔には、疲労も見て取れる。

 

 

 その表情からでも、自分がいなかった時の二人のやり取りが想像するのに難しくない。

 それは、リビングに入ってすぐにも実感した。

 

 深雪に腕を引っ張られて、連れて行かれるままにリビングに入ると、そこには、肌が痛くなるほどの冷気が一気に身体に襲いかかってきた。

 体を鍛えている達也には、この冷気は別に何ともないが、見過ごせるレベルのものではないのは確かだ。

 現に、達也と深雪の後についてリビングに入ってきた水波が無表情を装いながらも血の気が顔から消えていて、白い息まで出している。

 

 達也は人差し指を突き上げると、リビングに立ち込めていた冷気が一気に消え去り、常温に戻る。

 

 達也の魔法によってこの場の異常は取り除かれた。

 

 

 「も、申し訳ありません!お兄様…。」

 

 

 自分が事象干渉力が強すぎる上に兄に余計な事をさせてしまったと嘆く。しかし深雪は達也が冷気を取り除くまで自分がさっきまでこの場を凍らせる勢いだったことに気付いていなかった。

 そのことも相まって、余計に落ち込む。

 

 しかし、達也は深雪の頭を優しくなでて、慰める。

 

 

 「気にする必要はない。 反省しているのだし、これ以上嫌悪感を持たなくていい…。」

 

 

 「…はい、お兄様!」

 

 

 大好きなお兄様からお許しをもらって、しかも頭撫で撫でしてもらっている展開にむしろ喜びを感じて、二人を取り巻く空間がピンク色に変わる。

 

 その二人を少し離れた場所から礼儀正しく控えていた水波はいまだに慣れない主の所業に頭を悩ませていた。

 司波家に来てからというもの、家事をやろうにも、自分の主である深雪と競うように行っている。暗黙のルールもできつつあるが、隙あれば家事をやってしまおうとする二人の関係が早くも出来上がり、水波は明度としての責務を全うできていない自分に不甲斐なさを感じていたのだった。

 

 そんなことを改めて考えていると、不意に達也から声をかけられた。

 

 

 「水波。」

 

 

 「はい、達也様。」

 

 

 「俺が留守にしている間、深雪の護衛をしてくれてありがとう。

  この後は俺が引き継ぐから、水波は夕食まで休んでいい。」

 

 

 「……あ、あの、私はまだ…」

 

 

 突然の申し上げに水波は若干戸惑った。

 

 戦闘訓練とは違った緊張が走る。

 

 

 「何もそこまで力を入れなくていい。

  ここに来てまだ日が浅いし、慣れない環境で働いてくれているのは分かる。だが、今の水波には、休憩が必要だ。

  ……休んで来い。」

 

 

 先ほどよりも少し強めに命令する達也に、水波は自分がかなりの疲労を積み重ねていることを実感した。

 そう思うと、達也の命令をここは聞き入れ、夕食後に明度の責務を全うし、挽回することを決め、達也たちに一礼すると、自分が与えられた部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 水波の背中を見送った達也と深雪は、その背中をすでに他界している穂波と比べていた。

 しかし、比べるといっても、それほどの時間ではなく、水波がリビングから出て行ったあとは、深雪はキッチンへと行き、コーヒーを淹れに行く。

 

 達也はソファに座り、電子書籍を読む。

 

 

 コーヒーを淹れて戻ってきた深雪が達也の隣に隙間なく座り、一緒にコーヒーを飲む。

 

 

 「ん、うまい…。」

 

 

 達也の一言で、満面の笑みを浮かべる深雪。

 

 

 しばらくティータイムを味わった後、深雪が達也の腕を掴み、下から達也を覗き込む姿勢で話しかけてきた。

 達也は深雪に視線を向けると同時に、露出度が高い部屋着から見える深雪の白い鎖骨を見ないように深雪の顔に視線を固定させる。

 

 

 「お兄様はお優しいのですね…?」

 

 

 「さっきの事か? あれは当然ではないのか? あのままだと間違いなく水波は倒れていたぞ。」

 

 

 「確かに、水波ちゃんがああなったのは、私が原因です…。でも、やはりお兄様のお世話は深雪には誰にも譲れないことなのです! 妥協はできません。」

 

 

 「深雪の言いたいことは分かっている。しかし程々な。

  俺にとっては、深雪がそばにいてくれることが一番だからな…。」

 

 

 「お兄様ったら!」

 

 

 笑いをこぼす深雪とその深雪を横目で見て、同じく笑う達也。

 再び二人となった空間がずいぶん昔のように感じる…。

 

 

 「お兄様…、今だけはお兄様のお時間を深雪にください。 数日ぶりに二人で一緒にいてください。」

 

 

 「もちろん。」

 

 

 互いに微笑みあい、兄妹らしからぬ雰囲気を纏い、二人の時間を満喫するのだった。

 

 

 

 

 

 達也も真夜からの任務の先行きが見えない状況に憂いを感じていたが、妹といる時間が安らぎを与え、今だけは憂いを払ってくれる。

 

 

 

 その居心地の良さを胸の内で感じた達也は、この”日常”を守らないと…と改めて刻み込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 




いや~…、達也がやけに女性に優しかった…。

これは、女たらしの予感!!


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羨望と嫉妬の的

新入生からの視点で、やってみようかな?


 

 

 

 

 西暦二〇九六年四月十一日。新入生にとっては入学四日目の昼休み。

 

 

 食堂に集まっているのは、上級生だけでなく新入生も利用する生徒が増えてきた中、彼らが新たなる友達と話す話題として取り上げられたのは、「生徒会副会長(つまり深雪の事だ)」に対する話で持ちきりだった。

 

 

 「入学式の時、超絶美人の人いたでしょ!? あの人とお近づきになれたらな…。」

 

 

 「そんな言葉で現せるレベルの人じゃないよ~!! 別次元からやってきたかって、直視して思ったもん!」

 

 

 「あんなに麗しい女性を見たことがない…。入学式の時から毎夜夢であの方が現れて僕を必死に呼んでくるんだ…。これって運命なのかな~!!」

 

 

 「そんな運命は認めねぇ~!! …でも、気持ちはわかる!!」

 

 

 「高嶺の花か~~。けどさ、あんなに絶世の美女なら付き合っている相手はいないよな!? だって、あの方の美貌のレベルに釣り合う男がいるかよ!」

 

 

 「なら、まだ俺たちにも可能性が…!!」

 

 

 「「「いや、お前にはない!!!」」」

 

 

 

 …などなど、新入生たちは声を潜めて話しているうちに盛りあがっていき、深雪を羨望と信仰と恋愛感情を乗せていた。

 それを、近くで聞く上級生たちは、彼女の絶世の美女というフレーズには同感していても、彼女が持つ欠点を知っているがゆえに複雑な心境で新入生の話に耳を傾けていた。

 

 そんな食堂で盛り上がっていた声が一気に静まり返る。

 

 そして、新入生は一心に、一点だけに視線を向ける。

 

 その矢継早な視線が降り注がれる先には、新入生たちがさっきまで話題にしていた深雪がいた。

 新入生たちは男女ともに深雪の美貌と洗練された身の動きに、呆気にとられ、輝かんばかりの(妄想だ)光に包まれた深雪を直視できずに、ちらちらと盗み見するのだった。

 

 …深雪の隣には当然、達也もいたが。

 

 

 

 入学式以来、会う事がそんなになかった新入生は内心、舞い上がっていた。

 

 

 せめて先輩にお近づきになって、自分を知ってもらいたい…。

 

 

 …なんて、願望を各々持ち始める新入生達の視線を一心に受け付けている深雪は、この手の視線には嫌というほど慣れているため、完璧に視界の外に追いやり、目的の場所へと歩き出す。

 達也に先導される形で。

 

 

 深雪の動作一つ一つに惚れ込んでいく新入生たち。

 

 その一方、先ほどから深雪のそばにいる男子生徒(もちろん達也だ)には、嫉妬深くて、深雪に向けられている視線とは正反対の意味を持つ視線を一心に受けていた。

 

 達也にとっては既にお約束のものなので、気にもしていない。

 

 深雪は、完全に猫をかぶったような内心を窺わせない鉄壁の愛想笑いを浮かべ、達也の後をついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、深雪と達也は今年も新入生からお互いに違った意味での注目の的になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




去年も味わった二人だけど、今年も同じ展開。

しかし、新入生たちは後で深雪の欠点を知ることになるだろうな…。深雪のブラコンぷりを。


……風邪ひきには、気を付けて。うちみたいにノックダウンするよ~~…。


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空気が違う領域

人気者って、オーラが違うよね。


 

 

 

 

 

 それはそうと、新入生たちは声を掛ける事よりも、二人きりで食べるのかと危惧し、盗み見で、様子を見続ける。

 

 

 「あ、達也君!! 深雪~~!! こっち、こっち!!」

 

 

 すると、今時珍しく赤い髪を後ろでポニーテールした美少女が大きく手を振って、二人を招いた。

 その美少女以外にも、テーブルには、眼鏡をした巨乳のおっとりした少女に、ギリシャの像みたいに彫りのある顔をした青年、清楚な和風が似合う男子生徒も座って、二人を待っていた。

 

 

魔法科高校に入学するだけあって、美男美女が数多くいる。その中であのメンツは、高水準の域に達している。

 

 しかし、新入生にとっては、特に一科生にとっては目を疑わずにはいられなかった。注目するグループの中には、エンブレムがない…雑草(ウィード)が、一科生や今年設立された魔工科の生徒と同じテーブルを囲んでいた。

 

 なぜレベルの差があり、自分よりも劣っている者と食事をするのか。

 

 新入生の一科生達は、そんなグループの中に、あの生徒会副会長と親しげな男子生徒が席を共にすること自体間違っていると、憤りを募らせ、睨むように見続けた。

 

 

 「ああ、待たせたな。もう食べてもよかったんだが。」

 

 

 「ええ~~? 達也君、酷い!! アタシ、待ってたんだけど!」

 

 

 「俺たちもさっき授業終わってきたばっかりだし、問題ないぜ?」

 

 

 「あ、達也さん、深雪さん。生徒会のお仕事はよろしいのですか?」

 

 

 「心配してくれてありがとう、美月。ええ、今日はほのかと雫が生徒会室に待機してくれるから、問題ないわ。」

 

 

 「……ほのか、本当はこっちに来たかったんじゃない~?」

 

 

 ニヤニヤと微笑むエリカに、達也が口を開こうとしたが、一歩遅く、深雪が答える。

 

 

 「そうね、でもこれは当番で決まったことだから、たとえ昼食を一緒に食べたいといってお兄様を引き留めるのはどうかしら?」

 

 

 「……達也君が絡むと相変わらずね、深雪。」

 

 

 興味がすり落ちたような表情をしたエリカの隣に深雪が座り、深雪の正面に達也が座る。エリカの隣には、美月が座っており、達也の隣には、レオ、幹比古と続いていた。

 

 傍から見ると、合コンのセッティングに見えても仕方ないだろう。

 

 しかし合コン特有の緊張感は一切なく、気さくに話し合いながら、学食を食べていく。ただし達也だけは深雪が作った愛妻[?]弁当を食べている。

 

 

 「それにしても、進級してから一緒に食べるのが今日で初めてなんてな。去年はいつも一緒に食べていたのによ。」

 

 

 「何言ってるんだか。まだ授業が始まって三日しか経っていないってのにしんみりなっているのよ!」

 

 

 「はぁ!? なんでお前がそう偉そうに言うんだよ!」

 

 

 「あら~、気に障った? 何処に?”しんみり”?」

 

 

 「誰がしんみりしてるって~?」

 

 

 正面で座りあっているためか、どんどん身を乗り出しながら、いつものけんか腰な物言いがエリカとレオの間で繰り広げられる。美月も幹比古も二人の喧嘩にこのままにしておいていいのかと思うものの、もうこの光景に慣れてきたからか、仲裁に入るのもお手の物になっていた。

 ただし、幹比古はエリカにターゲット変更され、からかわれるが。

 

 それを止めに入らず、黙々と食べ続ける達也と微笑を浮かべる深雪。

 

 深雪は、進級や転科でそれぞれ分かれても、相変わらずの賑やかが続いていることに嬉しさを感じていた。

 

 

 

 

 

 しかし、授業が始まっても、一緒に食べていなかったのは、もちろん理由がある。

 

 達也と深雪、ほのかが生徒会役員になったことで、新入生の歓迎デモンストレーションでの下準備や運行状況の確認、万が一のトラブル対応をするため、昼休みは生徒会室で待機していたのだ。

 そして昨日は、主席の七宝琢磨を生徒会への勧誘ができなかったため、次席である七草泉美、僅差の成績だった七草香澄の双子を呼んで、勧誘していた。

 まぁ、その結果は、深雪に尊敬を通り越した信仰心を持つ泉美が生徒会入りしたのだった。

 

 だから今日は、あらかじめ当番制にしていた生徒会控え番?ではない達也と深雪が食堂に来た……という訳だ。

 

 

 

 「いよいよ新入生新歓期間だな~! 今年の一年はどんな奴がいるか、楽しみだぜ!」

 

 

 「そうだね、今年は優秀な生徒達が入学しているようだし、今年も荒れそうだ。」

 

 

 「ミキ~、『今年は』じゃなくて、『今年も』でしょ? 私たちを嘗めているのかしらね~?」

 

 

 「そんなことないだろ!? それに僕の名は幹比古だ!」

 

 

 「ふ、二人とも落ち着こうよ!」

 

 

 「確かに今年も優秀な生徒が入ってきている。だが、気を抜くなよ、幹比古。

  毎年だが、乱闘騒ぎが絶えないようだし、取り締まる側としては大変だが。」

 

 

 「大丈夫だよ、達也。僕も実力はついてきたと思っているし、君の代わりに風紀委員に入ったラッキーな男じゃないってことを証明してみせるよ。」

 

 

 「…そこまで意気込まなくてもいいんだがな。」

 

 

 「おお、その意気だぜ、幹比古! 手に付けられなくなったら、俺を呼べよな!?

  救援しに行くぜ!」

 

 

 「……お前まで取り押さえる事しかならないぞ?」

 

 

 早速拳を両手で突き合わせ、やる気マックスのレオを幹比古と達也が苦笑しながら、そうならないように願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんな会話を遠くから聞いていた新入生たちは、彼らが(特にレオが)実力あると聞き、驚きと訝しみを覚える。

 

 

 

 昼食を食べ終わった後も、ワイワイと話し続ける彼らの空気はどこかほかの席より違う領域を作り出し、新入生たちは深雪に声をかけることなく、勢いにのまれてしまったのであった。

 

 

 

 

 そして、新入生新歓期間が突入するのだった。

 

 

 




やべ…、うち何を書いているのか、わからなく…。

やっぱり風邪の時は、チカチカする電気類を見るのは、だめだな…。

…でも、毎日更新を止めたくない!! ここに来て、葛藤が~~!!


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新歓週間突入!!

原作を片手に見ながら、辻褄が合うように~…。




 

 

 

 

 

 

 

 新入生総代に生徒会入りを断られるという思いがけないアクシデントはあったが、他に大きな騒ぎもなく(深雪の”氷の女王化”がなりかける騒動があったが)、第一高校は新入部員勧誘週間に入った。

 (「今年は平和ですね……」という始まって早々呟かれたあずさのほんわかした台詞に、二年生役員揃って聞こえなかったふりをしていた)

 

 しかし例年、大なり小なり(この場合「小なり」は必要ないかもしれない)トラブルが発生している新入部員勧誘週間が平和なままで終わるはずがない。

 授業が終わり、放課後の新歓週間に入ると、早速”活気ある”という賑やかなムードはどこに行ったのやら、壮絶な部員の奪い合いが繰り広げられそうになっていた。

 

 去年、風紀委員に抜擢され、当然の仕事をこなしただけなのに、上級生に妬まれ、新歓週間の間、見回りの際に魔法攻撃を放たれる目に遭遇した達也にとって、あまり好感を持てずにいた。

 

 

 (幹比古…、上手く立ち回っているといいんだが。)

 

 

 だからか、自分の後釜として風紀委員に入った幹比古をなんとなく思い出し、心の中で呟くと、興味が尽き、すぐに生徒会の仕事に専念し始めた。

 去年は自分と同じく二科生だった幹比古が、『魔工科』の新設で不足した一科生の補充としてめでたく今年、一科生になった。しかしその事で快く思っていない連中に狙われるんじゃないかと意識が向いたのがきっかけだった。

 しかしよくよく考えても、新入生がそんな事知る訳もないし、以前と比べても幹比古は自信がついてきたと自負していたのだから、深く考えるまでもないという考えに落ち着いたのもある。

 

 

 しかし、仕事に専念すると言っても、ただ部活連本部にて深雪と待機するだけだ。勧誘活動のトラブルが発生した場合、即座に実力行使込みで対応するためである。

 

 この部屋には、部活連の治安部隊である執行部のメンバーも控えている。だが、二年生を含めて、達也とあまり接点のない生徒ばかりだった。顔と名前は知っている、程度だ。

 そんな相手と話をする…という話題も持ち合わせていないし、話すつもりもない。達也は仕方なしにお気に入りの書籍を開き、読書し始めた。

 

 深雪はというと、達也の隣で満足そうに微笑んでいたが、一緒に控えている執行部のメンバーの中には、深雪とクラスメイトもいたりしたため、話しかけられ、応対している内に深雪と話したい上級生も割って入ってきて、一気に団欒のムードに入った。

 

 

 深雪も作り笑いを浮かべて、相手の話を聞いたり、頷いたりと応対しているのを横目で確認し、達也はもし何か深雪に問題があればすぐに介入できるように、会話にも意識を向けながら、書籍を読んでいく。

 

 

 部活連本部が外の新歓週間で燃え上がる部員勧誘とは対照的なのほほんな空気に包まれる。

 そしてそのまま、今日の新歓週間は終わり、部活連の見回り報告を纏めて、生徒会室に戻り、あずさに報告する達也と深雪。

 

 

 「……以上が今日の新歓の報告です、会長。」

 

 

 「はい、ご苦労様です! 司波君、深雪さん。 部活連本部はどうでしたか?」

 

 

 「……穏やかそのものですよ。」

 

 

 「ええ、お兄様の言うとおり、何も問題はありませんでした。」

 

 

 「そうですか? ……なら、今度行ってみようかな?」

 

 

 「会長は部活連には行った事がないのですか?」

 

 

 「はふぅん!」

 

 

 まさか独り言が効かれていたとは思わなかったあずさは、達也の問いかけに動揺し、しどろもどろになる。その様子を内心、小動物のようだと思い、笑いを堪えつつ、梓の言葉を待つ。…と言っても結果は予想できている。

 

 

 「だ、だって~…、怖いじゃないですか! 部活連本部って!!」

 

 

 「はぁ~…、やはりそう言う理由でしたか。」

 

 

 生徒会室と直通階段がある風紀委員会本部にも怖さのあまりに顔を出すどころか近寄らないあずさだ。同じ理由で部活連には行かず、代わりに達也と深雪を応援に行かせたのは、言うまでもない。

 

 

 「そう言えば、部活連本部には見た事がない代物がたくさんありましたね、とても一般では見る事がない物が…。あれを見た時は、言葉を失いました。」

 

 

 「は、はうぅ~!! や、やっぱり部活連には行きません!!」

 

 

 涙目になりそうなあずさが報告書を受け取り、てきぱきと裁いていきながら、話を打ちきりにし、顔を背ける。

 その姿を見て、本心からの笑みを浮かべる深雪。

 

 

 どうやら、執行部のメンバーとの会話で相当ストレスがたまっていたようだ…。

 

 

 それを一瞬で理解した達也は、あずさを使って、発散した妹を叱る訳もなく、一緒に微笑を浮かべて、帰路に着くのだった。

 

 

 




最後にあずさが弄られる。達也もだけど、深雪もSだね。


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七宝の行動の裏

原作の合間を塗って…、って思っているのに、日付の感覚が相変わらず短い!!
何とか目を盗んで…。
…なんか怪しい動きをする人みたいになっているような?


 

 

 

 

 

 「はぁ~…、本当に言った通りの展開になるとはな。しかもこんなに早い段階でくるときた。」

 

 

 「やはり、七草家と七宝家との確執は深いのでしょうか?」

 

 

 「いや、それというよりは、七宝が一方的に目の敵にしているんじゃないか?香澄の方は、売られた喧嘩を買っただけだ。自分の方から喧嘩を……なくはないか。」

 

 

 「?」

 

 

 七宝琢磨と七草香澄とのいがみ合いが勃発したその日の夜。

 

 

 帰宅し、服を着替え、ラフになった達也と深雪は、今日の出来事について、話をしていた。途中、達也が言葉を濁したが、達也が気にも留めていないような顔ぶりを見せたため、深雪は聞く事を止めた。

 言葉を濁した際、不意に入学式の日、真由美と戯れているとなぜか誤解され、膝蹴りを喰らわせると見せかけた寸止め攻撃を香澄に仕掛けられた時の事を思い出したからだ。あの時は、ピクシーにセキュリティ操作をさせ、魔法感知システムから記憶を取り除く事で、穏便に終わらせた。しかし、その事を今ここで話すと、深雪が「詳しくお話ししていただけますか?」と、機嫌を害してしまう予感がしたため、言葉を濁す結果となった。

 それに、今問題なのはそこではない。あくまで今日の騒動についてだ。

 話さないに越したことはない。

 

 そのため、その時の記憶を棚上げし、深雪の頭を撫でながら、話を続ける。

 

 

 「今回は穏便に事態を収拾したが、次はおそらく相応が納得する処置をしなければ、関係が激化するだろう。…まぁ、今回は深雪の言葉ですぐに鎮静化できた。よくやったな、深雪。」

 

 

 「いえ、お兄様の御手をお借りしてしまいましたし、褒められるようなことは…。」

 

 

 深雪にしては謙遜している台詞だが、表情は達也に褒められて嬉しさが隠しきれていない。頬を赤らめ、余韻に浸っていた深雪は、達也に視線を向きなおし、さっきまでとは違った表情を引き締める。

 

 

 「お兄様、生徒会室でもそうでしたが、七宝君のあの敵愾心は、危険な気がします…。上手くは言えませんが、火に油をかけている状況…とは少し違う気がして…。」

 

 

 うまく説明できないが、七宝の言動に何かが引っかかる深雪は、達也にどう答えればいいか分からず、俯く。しかし、達也も深雪の言おうとしている事は、十分に理解しているし、達也自身も思っていた事だ。

 

 確かに七宝自身、七草家に対して強い敵愾心を持っている。七宝家当主自身はどう思っているか分からないが、七草家をよく思っていないのは、これまでの態度を見れば明らかだ。しかし、七草家の令嬢である香澄に喧嘩を売るのは分かるが、生徒会室で達也に無礼な態度を振る舞った(深雪がそう思っている)のは、引っかかる。

 四葉の縁者だと見抜かれている…というのは、可能性が低いと思うが、意識の片隅には入れておいた。

 しかし、それだと琢磨が黙っている訳がない。口外はしないが、七草家を陥れるために、四葉の事を知った気で話を持ち掛けてくる。

 今の十師族は四葉家と七草家が他の十師族より突出した存在だ。その四葉と手を組めば、七草家より七宝家が十師族に相応しいことが証明できる…!

 そう、琢磨なら考えるだろう。

 

 その四葉の縁者である達也達に親の仇…とまではいかないまでも睨む必要はない。

 

 なら、達也達の秘密を琢磨はまだ知らない。だったら、なぜあのような態度を取ったのか?

 

 

 「……もしかすると、”火に油をかけられている”のかもしれないな…。」

 

 

 「何者かが七宝君に接触しているという事ですか?」

 

 

 「あくまで可能性だ。そこまで断定する材料はない。だが、考えられる。」

 

 

 「いったいどこの誰が…!」

 

 

 深雪は憤ると同時に、千秋の事も考えた。逆恨みから敵のスパイになった千秋が達也に牙をむいた事を。

 

 固く握りしめられた深雪の手に達也の手が重なる。

 

 

 「深雪、落ち着け。水波が凍る。」

 

 

 「え? も、申し訳ありません。」

 

 

 また無意識に魔法を発動させていた事に気づき、深呼吸して魔を鎮静化する。

 傍に控えていた水波は突然話に組み込まれて驚いたが、達也の言っている事は事実だったので、複雑な心境が渦巻くが、胸の内に留めた。

 

 

 「大丈夫だ、深雪。もしそうだとしても、まだ取り返しがつく段階だ。深雪が気に病む事はない。」

 

 

 「……はい、お兄様。」

 

 

 「さぁ、夕食の準備が済んだようだし、冷めないうちに食べようか。」

 

 

 優しい声色で語りかけ、水波に任せていた夕食が並べられたテーブルに座り、三人で夕食を共にする。

 

 それからは、達也の命令で夕食を水波に任せていた深雪は、今度は後片付けで水波と張り合って、キッチンが賑やかになっている声や物音をBGMとして聞きながら、達也はため息を吐き出す。

 

 

 もちろん、少女たちの家事の取り合いに対してではなく、先程話していた七宝の事だ。

 

 

 

 (もし、七宝が何者かに七草家に対する敵愾心を更に煽られ、誘導されているのならば…、また面倒事になるのは必須…か。

 

  厄介事に巻き込まれるのは避ける必要がある以上、こっちに火種が飛んでくるようなら………、その時対処すればいい。

 

 

  …………これ以上、迷惑事が俺や深雪に降りかからなければいいが。)

 

 

 

 これから先厄介な事になる予感がする。それがなぜか頭痛の原因になりそうだと思いながら、今は放置する事に決め、深雪が淹れてくれた珈琲を片手に今日も地下室で研究を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、同じ時刻に七草家では女優の小和村真紀が七草家を訪れ、七草家当主、七草弘一と密談していた。

 その後、弘一は九島閣下との電話で、第一高校に反魔法師主義者のマスコミを送り込む手筈を伝え、黙認させたのだった…。

 

 

 

 

 

 七宝の事とは、また違った厄介事が達也達に向かっている事を知るのは、この次の日の夜に司波家を訪れた者達の口によって、告げられる。

 

 

 




また厄介事になると分かっているけど、まだ放置する達也。
でも達也は分かっているんだろうね~、すぐに行動に起こすべきではないと。

それに達也は色々やらないといけない事があるから!たとえばアイドル訓練とか~!!ふふふ!!


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夜の訪問者

うち、この子達好きなんですよ! この話が終わったら、この子達の話を書きたいくらいに!!

視点としては…、亜夜子と文弥でいきましょう!


 

 

 

 

 

 

 

 西暦二〇九六年四月十四日、土曜日の夜。

 

 事実上、達也たち兄妹の家に珍しい客が訪問してきた。

 

 四葉家の分家筋に当たる黒羽家の血を持つ、黒羽亜夜子と文弥の双子だった。

 

 二人は、葉山さんに渡された地図データを何度も確認し、目の前の平凡な家が自分達が憧れて尊敬する再従兄弟が住んでいるのか疑いたくなる眼差しを向けながら、もっと相応しい住宅に住まうべきだとという認識を高める。

 

 しかし、今日の目的は当主様からの命令を伝えるためだ。

 

 自分達の納得できない気持ちは一旦棚上げにして、門柱の呼び鈴を押す。

 

 

 『はい、どちら様でしょうか?』

 

 

 「黒羽文弥と申します。司波達也さんは御在宅でしょうか?」

 

 

 次の答えまでの少しの時間が過ぎる。

 

 

 『どうぞお入りください。』

 

 

 こうして、黒いワンピースに白いエプロン姿の少女が亜夜子と文弥に対して深々と一礼し、リビングまで案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 平凡な見た目の家だったが、中に入っても平凡だという印象は同じだった。隅々まで掃除が行き届いているが、これといって目移りしそうな高価なものや珍品は置かれていない。

 四葉家に関する物もないが、二人としては、どこかに秘密部屋に通じるものがあってもいいのにというせめてもの達也らしい小細工がないかと内心で思いながら、メイド姿をした少女の後ろを追って、家の奥へと歩く。

 

 そしてメイド姿の少女がリビングのドアを開けて、招き入れられるとソファに座って姉弟を待っていたのは、達也一人だけだった。

 

 

 「文弥、亜夜子ちゃん、久しぶり。」

 

 

 

 微笑を浮かべたままで呼ばれた名前に二人は感動する。

 

 

 (…達也兄さんが僕を歓迎してくれている…!)

 

 

 (……もう、達也さんってば。”亜夜子ちゃん”なんて……。そう呼んでもらえて嬉しい決まってます! もっと呼んでもらいたいですわ!

  ああ………、早く達也さんを間近で見つめたいですわ…!)

 

 

 表面上は紳士淑女らしい立ち振る舞いと笑顔で見繕っている二人の内心は、久しぶりに再会した再従兄弟に対して、エキサイトしていた。ただし、お互い再従兄弟に向ける感情は少し違うが。

 

 

 そして内心の考えがそのまま行動に出たのか…。

 

 

 座ったまま挨拶した達也に気を悪くした様子も見せず、亜夜子は達也の正面に腰を下ろした。――――――――席を勧められるのを待たずに。

 

 

 「姉さん!」

 

 

 名前を呼ばれただけで、感激して姉の行動をただ目で追っていた文弥は、気を取り戻し、一人礼儀正しく立っているのに、姉が不作法な行為を取ったため、咎めたが、亜夜子は何処吹く風と聞き流している。

 

 いや、無視という訳ではない。

 

 

 いまは、目の前の達也に対して、神経全てを研ぎ澄ましていて、聞こえていないのだ。

 

 それに不作法な行為を無視しているのでもない。

 

 

 亜夜子は腰を下ろしてすぐ、視線を真っ直ぐ前へ向けると手を揃えてスカートの上に置き丁寧に一礼した。

 

 

 自分の礼儀の全てに達也の視線が降り注いでいる事を敏感に察知した亜夜子は、歓喜しながら、達也に突然の訪問のお詫びを申し上げる。

 

 

 …好きな人に失礼のない態度で臨み、少しでも注目してもらいたいから。

 

 

 

 鈍感な達也は、気付いていないが、亜夜子は久しぶりに会う達也との再会に心から喜びとこの機会を与えてくれた当主…真夜へ心の中から感謝するのだった。

 

 

 




今日は亜夜子の視点からだったね。
任務の上で考えを相手に読み取らせない表情を作っているから、こういう時は便利だけど。
亜夜子の願いが叶ってほしかったな…、個人的には。


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恋敵(ライバル)意識起動!

今は原作に沿って、付則や裏側をお届けしているけど、これはキャラ崩壊?に陥っているのかな?


 

 

 

 

 

 

 「達也さん、御無沙汰しております。本日は前もってお約束をいただきもせず、このような時間に非礼なる訪問、どうかお許しください。」

 

 

 「そんな事を気にする必要は無い。再従兄弟とはいえ親戚同士、しかも俺達はお互い高校生だ。同じ高校生の親戚を訪ねるのに、いちいち約束を取り付ける必要は無いよ。」

 

 

 達也なら、気にしないだろうと分かっていても、こうしてしっかりと言って、昔のように優しく労ってくれる言葉に亜夜子は胸が温かくなる感覚を感じた。

 そのため……

 

 

 「ご寛恕、ありがとうございます。……文弥さん、何をしているの? あなたも早く達也さんにご挨拶なさい。」

 

 

 それを隠すために、気持ちの発散として双子の弟である文弥に矛先が向く。何とも人を食った言い種だ。だが基本的に真面目な質である文弥は、自分がまだ尊敬する再従兄弟に挨拶していないのは事実であると…、自分に非がある事を理解している上、それを無視できない。

 

 

 「文弥も座れ。 そう堅くなられては話ができない。」

 

 

 納得できない気持ちで立ち尽くしていた文弥に、達也が笑いながらそう言った。文弥としては救いの言葉を頂いた面持ちだった。達也に座るように促され、文弥も何とか落ち着きを取り戻したのか(達也の観点からである。実際は憧れの達也の言葉に逆らうつもりもないので、有難さを噛み締めていただけだ)、言われたとおり亜夜子の隣に腰を下ろした。

 

 

 「達也兄さん、お久し振りです。」

 

 

 文弥が簡単に頭を下げる。三か月ぶりに会う尊敬する再従兄弟を前に緊張して動きがぎこちないだけだ。更に内心は、もっとちゃんと礼儀したかったのに~~!!と緊張でうまく姉のように一礼できなかった事と、再会の感動との葛藤が沸き起こっていた。

 

 しかし、ちょうどそのタイミングで、深雪と水波が同時にリビングへ入ってきた。深雪は手ぶらで、水波はお茶を四つ、御盆に乗せて。

 そのお蔭で、達也との再会の内なる喜びを一旦リセットする事に成功した二人だった。

 

 

 「亜夜子さん、文弥君、いらっしゃい。」

 

 

 いつも通り達也に見せるために来ている家の中限定で風通しの良い(良過ぎるくらいだが)格好をしていた深雪は、急な客を迎え外用の服に着替えていたのである。

 

 

 「深雪お姉さま、御邪魔しております。」

 

 

 深雪が現れ、達也の隣にスカートを綺麗にさばいて腰かける様子を見て、いつも達也の隣に座る事に慣れているという仕草に、亜夜子はムッとした。もちろん、表情には出していない。しかし、兄妹だからと言って、達也にブラコンぶりを発揮する深雪を…、その前からも気に食わなかった亜夜子。

 自分が達也の事が好きなんだと実感した時、既に達也の心の中は深雪で一杯だった。

 それを知った時は、まるで失恋したかのような錯覚が襲った。でも、達也と深雪が実の兄妹だと理解しているから、自分が達也の嫁になる可能性は消えていない。だけど、深雪が達也を兄としてよりも異性として見ている事を感じ取っていた。だから、同じ人に恋している年の近くて、完璧少女である深雪に負けたくない!

 絶対に達也さんを私に振り向かせてみせるのだから!!

 

 

 …そんな思いで、亜夜子は深雪に負けじと、わざわざ立ち上がって丁寧に一礼した。

 

 スカートがふわりと広がったクラシカルなワンピースが彼女の動作に会わせてゴージャスに翻る。姉の見せた対抗意識(文弥はそう思っている)に文弥は「頭が痛い」という顔で首を振る。

 

 (ちなみに今日の文弥の服装は普通に男物でカツラもつけていない)

 

 久しぶりに視た二人の仕草に達也は微笑ましげな目で見ていた。

 

 

 相変わらず変わらない態度に安堵したのかもしれない。しかし、恋沙汰には鈍感すぎる達也には、自分を巡って火花が軽く散った事に気づく事はなかった。

 

 

 

 

 




亜夜子の心境を少し掘り下げてみましたよ。自分なりに。


深雪はライバル意識を向けられているとは分かっていても、それが恋敵であるとは思っていないんだよね。だって、達也は実の兄だから、そんな物にはなれないと頭では分かっているから。


……達也のアイドルストーリーが終わったら、亜夜子視点のストーリーをやろう!!ずっとやりたかった亜夜子と達也との出会い!!


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淡い期待の断念

女の火花が散る~!!…展開を回避できてよかったな、深雪。





 

 

 

 

 

 

 亜夜子が再び腰を下ろしたところで水波がテーブルにお茶を並べる。

 

 

 「すみません、こんな夜更けに……ですが明日の午前中には浜松に戻らなければならないものですから。」

 

 

 文弥が前口上らしきものを切り出した事で、ようやく場の雰囲気が落ち着いた。

 

 

 「夜更けというほど遅い時間でもないさ。」

 

 

 日も変わっていない時間帯だから、文弥の前口上をやんわりと否定する達也。しかし、ふと浮かんできた事を優しく見つめる視線で二人に言う。

 

 

 「そう言えばまだ言っていなかったな。四高合格おめでとう。」

 

 

 「二人の実力でしたら当然でしょうけど。おめでとう、亜夜子さん、文弥君。」

 

 

 達也の台詞を受けて、深雪が笑顔でお祝いを述べる。合格発表どころか入学式から既に一週間が経っていたが、直接話をするのは三か月ぶりだ。

 

 

 「ありがとうございます、達也さん、深雪お姉さま。」

 

 

 「本当は第一高校への進学を考えていたのですが。」

 

 

 亜夜子が謝辞を述べ、文弥が苦笑いというには少しばかり苦味が効きすぎている表情で姉に続いた。

 

 

 「僕たちが一か所に集まり過ぎるのはよくないと言われて。」

 

 

 「叔母様がそう仰ったの?」

 

 

 深雪の問いかけに頷いたのは亜夜子だった。

 

 

 「ご当主様より直接お言葉を頂いたわけではありませんけど。」

 

 

 「葉山さんを通じて父に指図がありまして、一高進学は諦めました。」

 

 

 深雪の問いかけに答える二人はその言葉を聞かされた時の事を思い出す。

 

 

 いよいよ高校生になる亜夜子と文弥が真っ先に進学する高校を選んだのが、達也たちが通う一高だった。

 今まで、会う機会が少ない上に、父親から尊敬する達也と接点を持つ事を快く思われていなかったため、なかなか達也と話をする時間も十分に手にする事が出来なかった。でも、同じ高校に進学すれば、これまでの日々が嘘のように、毎日達也と会える学校生活に二人が早くも浮かれるのは当然だ。

 自分達の実力も二人に負けないほどだと自他共に認めているし、試験や入学自体に悩みを抱くほどでもない。

 

 (これを普通の少年少女が聞けば波乱が起きそうだが。)

 

 

 だから、試験がまだだというのに、二人の話は一高に入学した時いかに自然と達也に接触するか…という既に決まった将来のように盛り上がっていた。

 しかし、父親から葉山さんを通じてもたらされた一高進学を辞退せよという進言に本当に心底落ち込んだ。

 亜夜子はこれでようやく深雪とも正々堂々真っ向勝負で達也にアタックできると思っていた事もあって、衝撃は甚大だ。いや、甚大と言えば文弥も同じだ。尊敬する達也のヒーロー姿を間近で拝む事が出来ると思っていただけに、数日は抜け殻状態だった。

 

 亜夜子と文弥の父親である黒羽貢は、二人の落ち込み様に任務では決して見せない激しい動揺を見せ、馬鹿親っぷりを発揮し、ご機嫌取りに徹する。しかし、その反面、快く思っていない達也と自分の愛する子供達を一緒の高校に通わせるという危機に直面する事を回避できたと、従兄弟である真夜に心の中で感謝していた。

 

 相当落ち込んだ二人だったが、ご当主様からの命令を断るなんて真似は出来ない。

 

 そこで、二人はせめて達也と会話できるネタがとれる四高に進学する事に決めた。四高は技術的な意義の高い複雑で工程の多い魔法を重視する側面を持っている。これなら九校戦で技術者として力を見せつけた達也とも話す機会ができるだろう…。

 そう考える事にして、二人は一高への進学を諦め、代わりに四高への進学を決め、見事に(難なく)入学する事が出来たのだった。

 

 

 …その時の事を思い出したが、すぐに現実に復帰する。

 

 

 本心はともかくその表情を見る限り亜夜子はそれほど拘っていたわけでもなさそうだが、文弥はかなり未練を残している顔だ。

 

 達也と深雪は二人の表情を見てそう思ったが、亜夜子も一高進学を断念したのが悔しかったのだ。拘ってなさそうに見えたのは、任務の上での表情を読み取れないようにしている賜物であり、気持ちの持ち方を心得ているからである。

 それに比べて、文弥は断念することになった記憶を思い出し、復帰したのはいいが、あの時の悔しさが沁みだしてきて、自分の気持ちに整理がついていないだけである。

 

 もし、主席合格すれば、生徒会に入れて、達也と堂々と先輩後輩の関係でいれるのに!という願望があっただけに悔しさもかなりあるのだろう。

 …主席合格するのは当然として考えていて、しかも達也が生徒会入りするのが今年の4月からだとこれも当然として知っている文弥の計画自体が凄いが。

 

 

 しかし……

 

 

 「叔母上に禁じられたのなら仕方ないさ。」

 

 

 達也も二人が自分に懐いてくれているのは理解している。だから、その二人の期待を裏切らないように、残念そうな声を出した。本当は二人が一高に入学してもしなくてもどっちでもよかったんだが。それをこの場で暴露するほど、達也は馬鹿ではない。

 

 

 達也は一応、残念そうな声を出して文弥を慰め、さりげなく話題を変えた。

 

 

 

 

 




亜夜子と文弥にとっては、一高進学が当たり前だったんだよね。しかも生徒会入りが当たり前ときましたよ。でも、二人ならやりそうだね。



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恋敵(ライバル)が増える!?

亜夜子の心境は波乱ばかりだよ。

達也って恋沙汰には鈍感なのに、自分がモテるって気づかないから…。


 

 

 

 

 「ところで今日はどうして東京に?関東方面の仕事は文弥の担当じゃなかったはずだが?」

 

 

 達也の口から「仕事」という言葉が出ると、文弥は自分がそのために来た事を思い出し、居住まいを正した。

 

 

 「実は、達也兄さんと深雪さんにお伝えする事がありまして…」

 

 

 そう言って文弥は深雪の斜め後ろに控える水波にちらっと目を遣った。

 

 今からする話を身元も知らない少女に聞かれるわけにはいかない。文弥がそう思っても仕方ない事だ。

 …一方、亜夜子は興味がない顔で意識していないように扮していたが、内心は先程から「この女性はどちら様でしょうか?達也さん…?」…と腹黒い嫉妬が渦巻いていた。もし、達也が家の中に引きいれた女性なら、達也のタイプはこの少女という事になる。ならば、対策を早急に寝る必要が…。

 悶々とした思考を巡らせつつも、「仕事」について切り出した今は、自分の感情は棚上げにする。しかし、次の達也の台詞でその覚悟は早くも崩れ去った。

 

 

 「水波の事は気にしなくて良い。」

 

 

 達也が文弥の視線の問いかけに答える。

 

 

 「この子は桜井水波。深雪のガーディアンだ。」

 

 

 付け加えられた説明に、文弥と亜夜子が揃って驚きを露わにした。

 

 

 「えっ、でも深雪さんには」

 

 

 「達也さん、深雪お姉さまのガーディアンをお辞めになるのですか?」

 

 

 二人が驚きを露わにするのも当然。幼い頃から深雪の後ろにガーディアンとして控えていた達也をずっと見てきた上にその仕事ぶりも感嘆に値する内容だった。深雪のガーディアンには達也しかできないと苦しくも思うほどに。

 だから、文弥はともかく、亜夜子はこれで深雪の呪縛から解放された達也なら自由が与えられ、一緒に出掛ける事もできる!と無意識に感動が先走り、思わず口に出てしまったのだった。

 

 いきなり飛躍した亜夜子の質問に、達也は笑って首を横に振った。

 

 

 「いや、そういう事じゃないよ。叔母上にも色々と思われるところがあるのだろう。」

 

 

 「…そういうことですか。」

 

 

 亜夜子が水波を意味有りげに見詰めたが、水波は目を伏せたまま特に反応を見せなかった。

 

 

 (って事は、まだガーディアンとして未熟だから、達也様がびっしりと指導する事になったよね!? 

  なんて羨ま…、いえ、なんて浅はかな! 達也様はただでさえお忙しいお立場なのに、更にご負担をかけるなんて!!

  大体何で深雪お姉さまのガーディアンとして少女を!

  年頃の少女を達也様の御傍に二人も宛がうなんて!!! もちろん達也様はお二人に手を出すような殿方ではない事は存じています!! でも女狐が何を企んでいるか分かりませんわ!! ああ~~!!いっそ、私も一高に転校できたら!!)

 

 

 …なんていう感情を水波にぶつける亜夜子は、新たな恋敵(ライバル)が出現するのではないかと危惧するのだった。

 

 

 「分かりました。彼女が同席していても問題ないという事ですね。」

 

 

 そんな姉の嫉妬に満ちた悪寒を感じ取ったかはわからないが、気まずい雰囲気になる前に、「実は……」と、文弥が脱線しかけた話を元に戻し、本題に入っていく…。

 

 

 

 

 




メイドですけど…。は通用しないんですよ!!
身分を超えた恋愛とかはありますからね。亜夜子にとっては安心できないんですよ、まだ水波の事を知らないし。


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文弥の照れ照れ

説明部分は出来るだけカットで…。


 

 

 

 

 

 「現在、国外の反魔法師勢力によりマスコミ工作が仕掛けられています。」

 

 

 文弥は、この前の諜報活動で仕入れた情報を達也達に聞かせる。わざわざ女装してまで得た情報だ。しっかりと伝えなければ自分の存在意義に関わると無意識に思ったのかどうかは分からないが。

 

 

 「まぁっ!」

 

 

 「何処からだ?」

 

 

 文弥の言葉を聞いて、深雪は軽く目を見張り、達也は外から見分けられる変化はなかった。

 

 

 「USNAの『人間主義者』です。」

 

 

 人間主義者とは、魔法を人間にとって不自然な力と決めつけ、人間は天(あるいは神)に与えられた自然な力だけで生きていくべきとする宗教的な側面を持った魔法師排斥運動の事だ。

 

 

 「いわゆる人間主義者なら随分前から国内に侵入しているが、それとは別口なのか?」

 

 

 「いえ、大本は同じだと思います。新たな工作段階に入ったという事ではないでしょうか。」

 

 

 「マスコミを使った反魔法師キャンペーンか。」

 

 

 「マスコミだけではありません。野党の国会議員にも手が回っています。」

 

 

 達也の質問に、文弥が嬉々として答える。それだけでなく、自らの補足も兼ねた長い説明を噛まずに言い終える。

 

 その様子は達也と話ができている現状に嬉しさを感じていると見ればわかるものだ。しかしほんの一瞬、垣間見えただけで、補足説明の際は、引き締まった表情で、これからの反魔法師キャンペーンのシナリオを話していた。

 

 長い説明を終えて、一旦水波に出されたお茶でのどを潤し、再び顔を上げると、達也が文弥に賞賛の眼差しを向けていた。

 

 

 黒羽家は四葉一族の中で諜報を担う分家だ。多様な情報収集手段を豊富に有している。それを見事に使いこなし、個々の事象の奥に隠されたシナリオを暴き出した文弥を褒めているのだ。

 

 

 「文弥、よくそこまで調べ上げたな。大したものだ。」

 

 

 「あっ、いえ……ありがとうございます、兄さん。」

 

 

 途端に、長い説明を一度も噛まずに言い終えた文弥がしどろもどろの口調になった。よく見ると顔まで赤くなっている。これだけなら、文弥が何やら普通でない趣味を持っていると見えるが、それは誤解だ。文弥は単純に尊敬と憧れを向けている達也から上っ面の感情ではなく、本当に褒めてもらえた事が単純に嬉しかっただけである。

 

 その証拠に今は顔が赤くなりながら、頬が緩んで褒美としてなでなでを待っているようにも見える。

 

 ここにいる全員(水波も)が誤解する事もなく、文弥が嬉しがっているのは分かっているが、そうとわかっていても弄りたくなるような雰囲気が今の文弥にはある。

 

 

 「本当に文弥は達也さんの事が好きなのねぇ。」

 

 

 「姉さん! 誤解されるようなことを言わないでよ!」

 

 

 「あら、誤解なの? 達也さんの事、好きじゃないんだ。」

 

 

 「姉さんの言い方だと好きの意味が違うだろ!」

 

 

 「んっ? どういう意味に聞こえるというのかしら?」

 

 

 「それは……」

 

 

 じゃれ合う姉弟を見る三人―――――――――達也、深雪、水波の想いは「姉弟仲が良い」という点では一致していたが、達也は苦笑気味、深雪は微笑ましげに、水波は白けた顔で、富えs他表情をそれぞれ心情の違いが表れていた。

 

 

 

 (本当に弄りたくなるわ~!! 達也さんに褒めてもらうなんて!

  この私だって情報収集に活躍したというのに! でも、それを自分から言ってしまうと達也さんに引かれる恐れが…。

  ああ~~もう! 文弥だけずるい~~~~!!)

 

 

 

 今もなお、じゃれ合っている亜夜子と文弥だったが、亜夜子の弄りの目的が、可愛がるから嫉妬へと変わっていた事に気づいたものは誰もいなかった…。

 

 

 

 

 

 




好きな人に褒められたら、嬉しいよね!
良かったね、文弥! でも、亜夜子としては複雑?


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達也の憂鬱

ついに黒羽姉弟たちともお別れが~~~~!!

もう少しいてほしかったな~~!!


 

 

 

 

 

 文弥と亜夜子と、第一高校に対する宣伝戦についてもう少し細かい話をした後、都心のホテルへと向かう二人を玄関先で見送り、達也は今日の研究を打ちきりにして、自室へと入った。

 

 自室のベッドに腰掛けて、封筒の封を切り、中身を読む。

 

 それを読むと、机の引き出しに仕舞いこみ、ベッドに頭の後ろで重ねた手を枕にして寝転んだまま、先程、舞い込んできた話と一緒に考えを巡らせる。

 

 

 先ほどの封筒は、用件を終え、名残惜しそうな目をする文弥がなかなか切り出せずにいるのを見かねて、亜夜子が渡してきたものだ。

  

 「これは、達也さんに直接渡すように、とご当主様から頂いたものです。内容は決して他言せぬ様…とも伺っています。」

 

 

 そう言って、真夜の伝言を伝えた亜夜子も、隣で亜夜子と文弥を見送りに来ていた深雪も興味津々で達也の持つ封筒に目を向けていた。

 それを急いでポケットに入れ、二人を見送った達也。

 

 一人になり、中身を開けると真夜の直筆のサインが入った書面が入っていた。

 

 

 内容は…

 

 

 

 『達也さん…、あれから練習はしてくれているかしら? 此方も準備は整いつつあります。早く達也さんがアイドルとして任務に励んでくれるように。

  ですが、その前に少し困ったことが起きそうなの。だから、それを片付けてから本格的に任務に遂行してもらいたいと思っております。つきましては、その前に一度顔合わせしておきたいから、その時までに今からいう事をやっておいて頂戴。……………』

 

 

 

 …と、”極秘任務(アイドル計画)”についての記述が続いていた。

 

 

 それを読み終わるとすぐに、引き出しに仕舞い、ベッドに寝転んだわけだが、達也は釈然としない面持ちを感じるのだった。

 

 あの日以来、不本意だが、その”アイドル”をするためのレッスンを自分なりにやっている。地下にあるテストルームの一角を使って、ボイストレーニングやストレッチ、音楽や芸能活動に置いての資料を見て、勉強したりと研究の合間を塗って、今日までやってきていた達也。

 もちろん、深雪や水波にバレてはいけないので、二人が寝静まった事を確認してからの練習だ。

 寝る時間はそれほど取れていない事はあるが、研究で徹夜する事はよくある事なので、慣れている。それよりも早くこの任務を終わらせたいという思いが強いほどだ。

 

 

 だが、それでもこうして準備を欠かさずにしているのは、全て深雪のためだ。

 

 もし、深雪がアイドルなんてしたら、それこそ”日常”を送るという些細な自由が失われる可能性がある。それを防ぐためにも、深雪よりはるかに容姿に劣る自分がやった方が、世間の注目を浴びずに済むと考えている。(達也は自分自身が思った以上に注目を集めるとは思っていないようだが)

 

 

 そのために受けた任務だったが、四葉真夜の掌の上で踊らされているのかと思うと愉快な気持ちではいられなかった。

 それでも真夜からの極秘任務といい、文弥達からもたらされた事といい、放っておくわけにはいかない。

 文弥の『細かい話』には七草弘一が九島烈に共謀を持ち掛けた事まで含まれていたのだ。

 数週間から一か月以内のごく近い未来、第一高校が反魔法勢力下にあるマスコミと政治家から直接的なアタックを受けるという事を知らずにいた場合を考えれば、間違いなく有益な情報なのだ。何とも気乗りしないし、釈然としない思いを抱きながらも、達也はどう対応すべきかと両方に思案を巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




恒星炉実験と重なっているからな、アイドルはその後だね。でも、その前にアイドルらしい事をしてもらいましょう!!


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女の勘

気付いたら、いつの間にか200話過ぎていた事に驚くうち。よく頑張ったなって褒めている自分自身を!

そして恋する乙女よ! 想い人にはアタックするべし!


 

 

 

 

 

 

 達也たちの家を出て、都心のホテルに戻ってきた亜夜子と文弥。

 

 スイートルームを用意してくれていた父親の好意を受け、それぞれの寝室に入る前に今日の雑談をする事にした二人。昔から達也と会った時は、その日の夜に二人で達也について語らうのが習慣になっているからだ。

 今日も三か月ぶりに再会した達也の事で、盛り上がっていた。…文弥が興奮気味に語らうのを亜夜子が戒めつつも内容には相槌をするという流れで。

 

 

 「また一層、達也兄さんは大人びていたね、姉さん! もうカッコ良くて、僕、ますます達也兄さんのように頼られる存在になりたいって思ったよ!」

 

 

 「そうね~、達也さんは昔から素敵な方ですが、文弥の言うとおり、確かに磨きがかかっていましたわ。

  それにしても…」

 

 

 文弥の話に相槌していた亜夜子がふと物思いに耽ったのを見て、文弥は心当たりを口にした。

 

 

 「姉さん…、もしかしてあの使用人の事を考えてる?」

 

 

 「な! 何を言っているの!? 文弥! 私はあの桜井水波の事を少しも考えていませんわ!」

 

 

 「………ちゃんとフルネームが出ていたよ、姉さん。」

 

 

 「はぅ!」

 

 

 自分の失態で疑いを肯定してしまった形になってしまった亜夜子は今度は正直に話す事にした。ここでしらを切れるほど隠し通せる弟ではない事は今まで一緒に過ごしてきただけあって、知っているからだ。

 

 

 「……そうよ、最初はあのメイドの事を考えていたわ。でも、もうどうでもいいのよ、その事は。」

 

 

 ”メイド”の所だけやけに強調して話す亜夜子はにんまりとして、文弥に答えた。その笑みに危機感を感じた文弥は、スイッチが入った!と自分が余計な油を差した事に今更ながら後悔する。

 

 文弥は既に高校生になったが、見た目が少女と思われても納得するような中性の顔立ちをした可愛い男の子だ。(本人は達也のようになりたいと思っているため、自分の外見を気にしている。)そして外見の印象と変わりなく、色恋沙汰等は可愛らしい反応をする。

 以前、街を歩いていると、目の前で女性が恋人の腕に抱きつきながら歩いていた時も頬を赤く染めて、視線をきょろきょろとして戸惑っていたほどだ。

 だから、文弥が水波の事を”使用人”と言ったのも、”メイド”と言えば、男子が飛びつくと思っている女子が多くいるためであり、亜夜子にからかわれないようにするためだったのだ。しかし、揚げ足を取られた亜夜子が初心な文弥に些細な仕返しのつもりで言った”メイド”という言葉に早くも頬を染めていた。

 

 

 (ふふふ…、文弥のこういう所はいつも可愛いわね~!!)

 

 

 そう思う亜夜子は、文弥のからかいと同時に、本心も言っていた。

 

 水波の事は、単なるメイドにしか過ぎないと…。

 

 

 達也に水波の事を紹介された時は、恋敵になるのではないかと疑わずにはいられなかったが、文弥と達也の話をしていて、改めて整理してみた。

 

 今まで、深雪の護衛は達也一人で幼少時から続いてきたのに、今年になって、水波が深雪のガーディアンとして、派遣された事実に何か裏があるような気がしてならない。

 でも、あれから達也と深雪と話をしている傍ら、ただずっと立ち尽くしていた水波の振る舞いを見る限り、四葉本家のメイドの動きと同じ感じを受けた。

 だから、亜夜子は今の段階で水波はガーディアンというよりメイドのような存在だと位置づけた。そしてそれはこの先も変わらないとも思った。

 そしてそう思う事で、心にゆとりが生まれ、自尊心が復活した。だって、同じガーディアンの位置にあるとはいえ、達也は紛れもなく四葉の直系の血を引いているからだ。本来なら、深雪や文弥と同じく、次期当主候補に名をあげられていてもおかしくない。優秀な魔法を備えていたら…。

 今では、使用人たちから冷遇された扱いを受けているが、当主は達也を一目置いている節がある。達也を使用人と結婚させることは決してない!なら、例え水波が達也に恋心を抱く事があっても、結ばれる心配はない。自分が今は優位にある。何も心配はいらない!

 

 頭の中で自分が達也と肩を並べて歩いている構図を思い浮かべながら、夢見心地でいた所に、文弥から声を掛けられた……。

 

 

 

 

 という訳だ。

 

 

 

 

 しかし、亜夜子にはまだ引っかかる事がある。

 

 

 それは、達也たちと別れる際に封筒を渡す時の事だ。

 

 当主様からの伝言と同時に封筒を渡した時、達也の眉がほんの一瞬だけ吊り上り、封筒を睨んだのを亜夜子は見逃さなかった。それは、全神経を注いでいないと分からないくらいのたった一瞬の出来事。恐らく真正面にいた亜夜子だけが見れた変化。

 任務に置いては、諦めたような興味ないような反応を示すのが達也の見せる反応だったが、あの時だけは自棄に嫌悪感や不快感が混じった視線を封筒に向けていた。

 

 亜夜子は達也が見せた反応と封筒、伝言に水波の派遣…から何かを感じ取っていた。

 

 

 

 (任務に置いてあんな達也さんは見た事がありませんわ。もしかして……

 

  達也さんにとって、あまり気乗りしない任務が当主様から命じられ、そのためにあのメイドを派遣したのでしょうか?)

 

 

 

 あらかじ間違っていない推測を立てている亜夜子が現実に復帰した際、文弥は青白い顔をして、涙目になりかけていた。

 

 

 「ふふふ…、文弥の負けね。姉であるこの私に意見するなんてまだまだ甘いわよ?」

 

 

 「うう…だ、だからってこんな事はないだろ!? 姉さん!」

 

 

 「あら、そんな事はないわよ? 文弥は何を着ても似合っているんだし、この際だから新しい物を取り繕ってあげるわ!」

 

 

 「い、嫌だ~~~~~~~~!!!」

 

 

 

 いきなり目が輝きを増した亜夜子に文弥が悲鳴を上げながら、逆らえない窮地に立たされ、それから真夜中まで姉に遊ばれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………女装のファッションショーで。

 

 

 

 

 下着まで女性用を穿かせる徹底した女装に文弥が力尽きるまで続いた結果だ。そして逆に亜夜子の血色がよくなり、力尽きた文弥を女装させたままベッドに寝かせ、自分の寝室のベッドへ向かい、すっきりした寝顔で眠るのだった。

 

 

 

 

 ……今日も達也への恋心を綴った日記を書いてから。

 

 

 

 

 『………………だから、達也さんの次なる任務で、私がお役にたつ時が来ると思うの!!

  これは、女の勘だけど、私の勘は当たるのよ!!

  達也さんに必要とされるなら、なんだってするわ!』

 

 

 

 

 …と最後に書きつづられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




わざわざ伝言を頼むのだから、亜夜子にも何かさせるつもりなんだよ、真夜は。
そしてそれを感じ取った亜夜子もテンション上げてますな♪

文弥……ドンマイ。


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深雪と水波の初休日!

さてさて、昨日の今日で何をする気だ!?



 

 

 

 

 

 

 

 西暦二〇九六年四月一五日(日)、日が昇って間もない早朝。

 

 

 今日も八雲と門徒との修行を終え、帰路を魔法を使って、高速ランニングしていた時だった。

 目の前に猛スピードで、横切って停車した黒塗りの車が達也の行く手を塞ぐ。達也はそれを後ろへと大きく飛んで距離を取る事で、衝突事故にならずにいられた。いや、ならなかったというべきか。達也は、車が自分の行く手を塞ぐためにスピードを上げていた事は気付いていたし、またその車に誰が乗っているかも気配で知っていた。だから、車から人が降りてきた時、驚く素振りは達也にはなかった。

 

 

 「随分な朝の挨拶でしたね、葉山さん。」

 

 

 「これはこれは、達也殿。おはようございます。今日も鍛錬に励んでおられるとは感心ですな。では、お乗りください。」

 

 

 達也じゃなかったら、絶対に一命が危ない状態になるほどの事故になる運転をしていたことなど、完全にスルーして、達也に車に乗るように、扉を開けて促す。

 ため息をつきそうになった達也だったが、上手く呑み込んで、車に乗る前に、ランニングで掻いた汗を発散系魔法で、汗を蒸発させてから、車に乗り込んだ。

 

 

 扉が閉められ、葉山も乗り込んでから、車は発進し、達也をどこかへと連れて行った。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「はぁ~、お兄様…。大丈夫かしら?」

 

 

 朝から頬に手を付き、溜息を落とす深雪の憂いを見せる表情に、水波はドキッとしてしまった。老若男女問わず、人を引きつける深雪の美貌で、そんな顔をされたら、見惚れてしまうのも無理はない事。水波も例外ではなく、胸が高ぶったのを何とかメイドとしての責務を思い起こして平常心を取り戻した。しかし、深雪の憂い顔は何か慰めなければと思わせる魅力を醸し出していて、水波はアロマ効果をもたらしてくれる紅茶を淹れて、深雪に差し出した。

 

 

 「深雪様、どうぞお飲みください。 少しは気分が紛れると思います。」

 

 

 「あら、ありがとう、水波ちゃん。 ……美味しいわ。」

 

 

 「恐れ入ります、深雪様。」

 

 

 「……ねぇ、水波ちゃん、私ってそんなに元気がないように見えるかしら?」

 

 

 「…はい、少なくとも五分に一回の割合で時計を見ながら、溜息を落としています。」

 

 

 深雪に尋ねられた水波は、本当のことを言うか戸惑ったが、主が聞きたがっているのを無視できず、本当のことを言った。

 

 

 「それは困ったわね。私、そこまで重症だったの? 」

 

 

 自覚がなかった分、驚きで軽く目を見開く深雪は、口に手を当てて、どこか他人事のように呟いた。そしてまたため息を落とし、恋焦がれる乙女のように窓の外を眺める深雪に心配と同時に安堵する水波だった。

 

 

 (障壁を張る心配はないようですね…。しかし、油断は禁物!いつ、深雪様がリビングを酷寒の地に変えても不思議ではありませんから…。)

 

 

 今日は、達也がいつもの鍛錬に行った後に起きたので、シャワーの準備を済ませ、朝食も水波と作っていた矢先に葉山さんが来て、達也を任務でお借りすると電話で伝えてきたのだ。深雪としては冷や水を頭から被ったような衝撃を受け、しばらくは生気が抜けていたと言っても過言ではないほどの落ち込み様を見せた。今日は達也の顔を見ずに休日を過ごす事にかなりのショックを受けたからだ。

 

 水波としては、「大げさな反応だと思うのですが。」とあまりにも度を越した兄妹愛に白けた表情を見せたが、口には出さずに今の内と、家事をこなしていた。

 

 

 しかし朝食も終わり、外の景色を遠い目で眺めつづける深雪を見かねた水波は、自分にできるか、少々迷ったが、ある提案をする事にした。

 

 

 「深雪様、もしよろしければこの辺りで買い物できる場所をお教えいただいてもよろしいでしょうか?ここにきてまだ日が浅いので、深雪様のガーディアンとしてお役にたてるように、土地勘を把握しておきたいので。それと、今日の夕食の買い出しをしてみたい…です。」

 

 

 水波の言った事は半分は嘘で、半分は本当だ。

 

 

 ここに来る前に、葉山さんから兄妹が住まう地域一帯の地図や二人の行きつけのショッピングモール、そしてその際の行動パターンまで事細かく記された資料を渡されていたので、土地勘が寧ろ頭に叩き込んでいる。だが、ここにきて深雪と食事作りを、静かな闘争を行っており、それは今もなお継続していた。最初の五日間ほどはお互いのアイデンティティを懸けていたが、徐々に妥協する所まで落ち着いてきた。だがそれでも、表面上は落ち着いてきただけであって、決して解決したわけではない。今も、食事作りに関してはお互いに怯まない部分があった。そのため、余計に食事を作り過ぎてしまうというデメリットが生まれ、買い込んでいた食材も残り少ない所まで来ていたのだった。

 作り過ぎてしまった食事は、達也が何も言わずに全て食べていたが、さずがに申し訳ない気もしていたので、この際、深雪の食事作りをサポートする方向でいこうと決め、深雪を気分転換も兼て、誘ったのだった。

 

 

 「……いいわよ、私もちょうど外に出掛けてみたいと思っていましたから。それに……」

 

 

 何かを思いついたようで、二つ返事で了承した深雪は、水波をじっと見つめて、ニコッと笑みを浮かべる。それは、何かを企んでいるのを隠そうともしない笑み。深雪としては、隠す気もない純粋な興味を表した笑みだ。

 

 

 「…あ、あの深雪様?何か私についていますか?」

 

 

 自分自身も清潔にすることは、メイドとして訓練されてきた水波は、そんな事はないと分かっていても、そう尋ねずにはいられない。

 

 

 「いいえ、何もついていないわよ?それより、着替えてショッピングに行きましょう!ふふふ、水波ちゃんのお蔭で楽しい事を思いつきましたわ。」

 

 

 そう言って、身支度をするために自室へ向かった深雪を慌てて追いかけて、身支度を整えた上で、一緒に達也と深雪が二人でよく向かうショッピングモールへと向かった。

 

 

 

 

 

 こうして、深雪と水波だけの初の休日を迎える日が訪れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




深雪が悪女っぽい所を演出…できるかな? 


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初めての護衛

水波は深雪を果たして守れるのか~~!?


 

 

 

 

 私、桜井水波です。

 

 今日は、私の主であられる司波深雪様の初の護衛をさせていただくことになりました。深雪様があまりにも落ち込み様だったので、気分転換も兼て外出する事になったのですが、あの時の自分の提案した言葉を取り消したいと今になってそう思いました。

 

 というのも………

 

 

 

 

 

 「水波ちゃん、凄く似合っているわよ。そうね~…、じゃ、次はこれを着てみて頂戴?」

 

 

 「はい…。かしこ………、分かりました、深雪姉さま。」

 

 

 帰りたいと思っていしまったからか、家の中での口調と呼び方になりそうになったのを寸前で止め、外での”達也と深雪の従兄妹の桜井水波”として、接することに成功する。

 しかし、己の仕事には、プライドを持って行う水波が、外出して早々にダウンしかかっている理由というのはなんだろうか。それは、今のこの状況にある。

 

 水波は今、深雪に引っ張られるまま、ショッピングをしていて、なぜか着せ替え人形のように、深雪が選ぶ服を次々と試着するという状況に陥っていた。

 資料では、深雪は達也と出掛けた時、必ずと言ってもいいほど一日中ショッピングし、服を試着するという休日を送る生活をすると報告されていた。水波は、深雪と初めて対面した時にその意味を直感で理解した。

 

 

 (確かに、これはショッピングに赴くのも頷けます。)

 

 

 写真で見るよりもはるかに容姿端麗すぎる深雪の美貌に、深雪の美貌を一切見劣りさせない服があるかどうかと頭の過ったほど、深雪との初対面は、よく覚えているからだ。だから、深雪に見合う服を見に来ているんだと思っていたため、まさか逆の立場になるとは思っていなかったのだった。

 深雪は、達也に着飾った自分を見てもらいたいからショッピングしたり、試着したりしているので、別に服に関心を持って歩いている訳ではない。その認識の違いで、この状況に陥っている訳だが。

 水波は既に20着ほどは着替えているため、気疲れは溜まっている。おまけに深雪の美貌を見て、遠目で眺めていたり、女性だけだから、声を掛けようと志す者達がいるものの、自分達の装いや深雪に向けられる大衆の好奇の目の中に入っていく勇気が持てず、一定の距離を保っていた。混乱にもなっていないこの状況が水波の唯一の救いだった。

 深雪は、自分に降り注がれる好奇の視線は慣れているため、声を掛けて来れない者は、有象無象にしか思っていない。完全に水波の服を選ぶのに集中している。

 

 しかし、護衛の訓練を受けているとはいえ、これまでの経験上、深雪のような護衛対象の護り方など通用せず、それも相まって、気分は更にヒートダウンだ。

 

 今更ながら、達也の護衛の苦労とその敏腕さに感銘する水波。

 

 達也にしたら、「これくらいは当たり前じゃないのか?」と言いそうだが。

 

 

 なんにしても、居た堪れない気持ちになったので、水波が着替え終わってから、深雪の方へと足を運ぶ。

 

 

 「あの…、深雪姉さま? 水波はもう十分堪能しましたので、これ以上は…。それに私は深雪姉さまの付添という感じですので、服は今持っているだけで大丈夫です。」

 

 「あら、何を言っているの?水波ちゃんは私の付添なんて思っていないわよ?家族同然なのだから、こういう時くらいは遠慮はしては駄目よ?」

 

 

 「ですが…」

 

 

 「ふふふ、水波ちゃんも女の子だもの。御洒落はして当然でしょ?」

 

 

 深雪の言い分が正当なだけに、水波は何も言えない。かなりの視線の中で、深雪を守る事も踏まえて神経を使って疲れてはいるが、水波も女の子だ。深雪が選ぶ服も自分に好みが入っているし、動きやすいショーパンで、可愛らしさもある。やはり嬉しいとも思ってしまうのだ。

 それを見透かしているかのような笑みを浮かべ、最終的に水波の服を3点買った。最期に来た服は着て歩く事にして、買った服と一緒に後で送ってもらう手筈をつけて二人は店を後にした。

 その二人を見送る店員の顔はほくほくしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それにしても、本当によろしかったのですか? あそこは深雪様のような方が好まれる店でしたが…。」

 

 

 水波が言っているのは、金額だ。リーズナブルとは言えない金額を提示しているが、それに見合ったいい生地の服が揃えられており、素晴らしい服が置かれていた。水波もそれなりに持っっているが、会社員と同等の給料分しか持っていない。(それだけでも凄い事だが。)

 そんな服を3点も買ったのだ。しかもそれは達也のクレジットカードで。

 

 やはり躊躇するのは、当然の反応だ。

 

 

 「ええ、問題ないわよ。お兄様から『水波の入学祝に服でも買ってやってくれ。』って昨日の夜、渡されたものだから。」

 

 

 「え!? そうなのですか!」

 

 

 思わず声が裏返り、驚く水波。その水波の顔を見て、悪戯が成功したような笑みを浮かべる深雪。昨日の夜、亜夜子と文弥を見送った後、達也から「明日は出掛けなければいけなくなった。」と申し訳なさそうな表情で部屋を訪ねてきて、その際にクレジットカードを渡されたのであった。

 

 

 「だから遠慮しなくてもいいの。まだ水波ちゃんにはお祝いできてなかったから。」

 

 

 優しく微笑みかける深雪に姿勢を正して、少し頭を下げる。本当はもっと頭を下げて、手も添えて、感謝の意を示したいが、ここが外だということを認識しているので、おかしくないギリギリに抑えた。

 

 

 「ありがとうございます、深雪様。大事に使わせていただきます。」

 

 

 「お礼なら、お兄様に言ってあげて頂戴。お兄様がご提案成されたんですもの。」

 

 

 「もちろんです。達也兄さまにもお礼を言います。」

 

 

 「ええ、そうだわ。では、今日はお兄様のために料理を振るいましょう!」

 

 

 「そうですね、私もご協力させていただきます。」

 

 

 こうして、二人の買い物がスムーズに廻る中、次に食材の買い出しへと歩く深雪の前に一人の青少年が現れた。

 現れたというほど、距離は近くないが、有象無象の中で、一際気になるその青少年に深雪が目を向けたのだった。

 

 そして青少年も深雪の視線に気づき、こちらに視線を向ける。いや、顔を向けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




まぁ、深雪の護衛ってSPの仕事と違うっていうか、まるで『アイドルの出待ちするファンから身を挺して守る』に近いかな?
それよりも、達也がいないのに、達也の太っ腹が垣間見えたよ!!さすが、達也様~~~!!!


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気になる青少年

深雪が達也以外を見つめるなんて~!!


 

 

 

 

 

 「深雪姉さま? どうしました?あの方はお知り合いですか?」

 

 

 ふと立ち止まった深雪の視線を辿り、青少年を一目見た水波は、確認のため、深雪に問いかける。片手はポケットに入れておいたCADをすぐに起動できるようにして置いて…。

 

 

 「いえ、知り合いじゃないわ。初めて見る方ね。」

 

 

 しかし、深雪が発した言葉で、ますます水波の警戒心が上がり、自然と深雪の前に躍り出る。それを、深雪がやんわりと手で制す。

 

 

 「水波ちゃん、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私がただ気になっただけだから。」

 

 

 「でも…」

 

 

 水波はまだここに来て間もないが、数週間で学んだことがある。

 それは、深雪は達也以外に関心を寄せる事はないという事。深雪は重度のブラコンなので、達也が非難されれば、相手を蔑む事も厭わないし、達也以外の異性は見劣りした感じしか見れない。それは登校中も学校内でも、家の中でも同じだ。

 だから、深雪が達也以外の誠意少年に目移りしている事に水波の内心は非常に驚愕と警戒心が高ぶっていた。

 

 

 (これはもしや恋の予兆なのでは?)

 

 

 と思わないのは、深雪の表情を見るあたり、頬を朱色に染めていないのと複雑な心境を思わせる困惑なものだったからだ。

 

 

 「では、気になさらずに先に進みましょう、深雪姉さま。そろそろ野次馬が集まりだしてきましたから。」

 

 

 何もない所で深雪が立ち止まった事で、絶世の美女の視線の行方が気になりだしたのか、深雪の周りを通り過ぎたり、同じく立ち止まる野次馬が騒ぎ始めた。

 それを居心地悪く感じたのか、深雪が見つめていた青少年は、頭を掻いて、小さくため息を吐いてから手摺に持たれていた身体を起こし、深雪達の方へと歩いてきた。

 

 

 水波と深雪の間に緊張が走る。

 

 徐々に近づいてくる青少年に意識を向け、相手の出方を窺う。しかし……

 

 

 

 

 青少年は一瞬こちらを見てから、そのまま通り過ぎ、歩き去ったのだった。

 何があるのではないかと構えていただけあって、呆気ないすれ違いに終わり、二人は軽く目を見開き驚く。

 

 

 「何も…してきませんでしたね。」

 

 

 「そうね…、てっきり声を掛けてくると思ってましたわ。」

 

 

 「過剰意識っていうものでしたか?」

 

 

 「…それは分からないわ。でもどうしても気になるのよ、あの方を。なんだかお兄様のような印象を受けて…。」

 

 

 いまだにピンとこない面持ちで、悩みながら話す深雪の説明を聞き、水波はもう一度青少年の後姿を見る。そして一瞬確認した後、人波に溶け込んで、消えてしまった。

 

 

 「ですが、私が見た限りでは、達也兄さまの雰囲気とはまるっきり違っていたと思いますけど?」

 

 

 深雪達が気になっていた青少年は、襟にストーンが飾られた黒いジャケットの下に白のV字シャツを着ていて、袖は七分で捲くっていた。深緑のストリートカーゴパンツに、ショートブーツを履いていた。そして何より、耳にはリングピアスをしていて、髪は灰色。屋内なのに濃いめのサングラスをかけて、首にはチェーンネックレスをつけていた。

 達也は深雪には御洒落を進めるが、自分には関心がなく、最低限の物で十分と、Yシャツとパンツで、色も控えめな服を着ている。達也のいつもの服装とは違い過ぎるのだ。

 水波が達也とは違うと思っても不思議ではない。

 

 

 「そうなのよ…、お兄様があのような御姿をする方ではありませんし。でもそう感じるの…。」

 

 

 だが、それでも深雪は引っかかるようで、得体の知れない感情を当てはめる言葉が見つからず、更に悩みだす。そんな深雪に水波が言葉を返す。

 

 

 「恐らく体型が似てらしたのと、深雪姉さまへの反応が有象無象と比べて薄かったから、達也兄さまとお思いになったのでは?

  昨日から御顔を見ていないのも影響して。」

 

 

 「……水波ちゃんの言うとおりかもしれないわね。お兄様のお迎えが出来なくて、残念だったのは確かなのですから。…もう大丈夫よ、水波ちゃん。そろそろ食材の買い出しに行きましょう! 今日はうんとおいしい物を作りますから!」

 

 

 「はい、分かりました。深雪姉さまのお手伝いを一生懸命させていただきます。」

 

 

 水波の言葉で、気持ちに整理をつけ、食材の買い出しに再び足を運び始めた深雪と水波。

 その二人をこっそりと覗き見し、去っていくのを確認した青少年は、二人とは逆方向に歩いていき、ショッピングモールを出て、通りに止まっている一台の黒い車に乗り込んだ。

 

 

 そして、発進した車の中で、緊張をほぐすように息を吐き出すのだった。青少年の額には、緊迫状態から解放されたためか、少々の汗が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 




さてさて、この青少年のいったい誰なのか!?


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アイドルをする前に…

まぁ、気付いている人はいると思うけど。活動前のチェックですな…。
また、真夜がキャラ崩壊する~~!!


 

 

 

 

 車の中で、不機嫌な雰囲気を醸し出すのは、灰色の髪をした青少年。

 

 その青少年の前に座るのは、年若に見える淑女、そして脇には老齢の執事が座ってほくそ笑んでいた。

 

 

 「おやおや、なにやら気分が優れない様子ですな。飲み物を用意した方がよろしいですかな?」

 

 

 「……結構です。ただ歩いてきただけですから。」

 

 

 「それにしては、ここに戻ってこられた時の御顔は、大分疲労しきっていたように感じますが?」

 

 

 「ただの気疲れですよ、こういう事は今までやった事はなかったので。」

 

 

 「ははははは。やはり勝手は違いましたか。」

 

 

 楽しそうに微笑む老齢の執事に、青少年はため息を吐きたいのを押し殺し、先程から面白いおもちゃを愛でるような視線を向けてくる淑女に顔を向けた。

 

 

 「一応、ミッションは果たしましたので、これでもう御終いですよね?」

 

 

 「あら、まだほんの序の口よ?これからが本番なのだから、頑張りなさいな。

  それにしても……、随分とイケメンになったわね?達也さん?」

 

 

 「……イケメンになったかは自分ではわかりませんが、多少は着飾ったのでそう見えるだけでは? 俺は今までこのような服装もした事はありませんでしたから。叔母上も新鮮だから、見ているのでしょう?」

 

 

 正面で向かい合う淑女と青少年が互いの視線をぶつける。

 

 

 そう、青少年の正体は、達也だったのだ。

 

 なぜ、達也がこのような姿をしているのかというと、極秘任務のためである。

 

 

 「でも達也さんは元もいいから、何でも着こなして魅せてくれるから、飽きないわね。」

 

 

 「…遊びなら今すぐこの格好を止めても…」

 

 

 「ああ~~~!! だめよ!! 五時間もかけてようやく変装決めたんだから!! それにこれからが本番だって言ったでしょ!?」

 

 

 今まで面白そうに達也を眺めていた真夜が、達也がジャケットを脱ごうとした途端に血相を変えて前のべりになる。顔も至近距離になり、物凄い必死な表情が見て取れる。達也はまた見た事がない真夜の若々しい反応に、軽く目を見開く。

 二人の反応を見て、笑いを堪えていた葉山さんだったが、さすがに真夜の隠れファンっぷりがバレるのはこの後の任務に影響する恐れがあると思い、助け舟を出す。

 

 

 「朝から達也さんの変装のために、あらゆる服をオーダーメイドしたり、メイクに時間をかけましたからな。

  時間をかけたからこそ、それに注ぎ込んだ金額も相当なものです。費用は全て此方が負担するとしても、達也さんの身勝手な行いでこれまでの準備が水の泡になるのは、奥様にとって、悲しきことなのです。」

 

 

 「…………それは申し訳ありませんでした、叔母上。そこまで考えが至らなかった自分をお許しください。」

 

 

 葉山さんの説明を聞いて、達也は目の前で目を潤ませて見つめてくる真夜に、不快感はあるものの、自分が謝らないといけない気がして、許しを請う。もちろん真夜が葉山の説明に真実味をつけるためにわざと目を潤ませている事を知っていて。

 

 

 「ええ…、良いですよ、達也さん。分かってくれるならそれで。

 

  では、私の言った事はしてもらえたかしら?」

 

 

 「はい、叔母上の仰られた通り、この格好で小一時間ほどショッピングモール内を動いてみましたよ。多少は視線を向けられましたが、それほど不自然ではないみたいですね。」

 

 

 「私が聞きたいのはそういう事ではないわよ?達也さんが目立つのは当たり前。今時、髪を染める人間なんていないわ。せいぜいハーフやクォーターくらいかしら?」

 

 

 「…ならなぜこの髪の色にさせたのですか?それなら黒髪でもいいと思いますが?」

 

 

 「それだと変装にならないでしょう? 今日は達也さんがアイドルとして活動する際のイメージを固めるために連れ出したのだから。それにこの任務は目立ってくれないと困るのよ。まだ理由もあるけど。」

 

 

 「あまり目立つのはまずいのではないですか?」

 

 

 「もちろん達也さんとしてなら目立つ事は控えてほしいわ。でも、アイドルとしてなら目立たないと生き残れないし、達也さんのしてもらいたい事には目立つ事は必須なのよ。」

 

 

 葉山さんから淹れたての紅茶をもらい、真夜は一息つく。真夜が紅茶を飲み終えるまで達也は待つ。

 

 

 「まぁ、詳しくは後にして…。どうでした?深雪さんの反応は?」

 

 

 「……視界に入るとすぐに俺を見つけて、凝視してきましたよ。叔母上から深雪に正体がバレたら最初からやり直しと言われてましたので、しばらくしてからすれ違って、陰から様子を窺いました。」

 

 

 「それで?」

 

 

 「なんとかバレなかったですよ。 深雪はいつもの俺と雰囲気が似ていると感じ取ってましたが、水波の援護もあって、違うと納得しました。」

 

 

 「水波ちゃんだけでなく、深雪さんまで欺く事に成功したのね。それなら問題はないわ。では、達也さんの変装はこれにしちゃいましょう。葉山さん。」

 

 

 満面の笑みを浮かべて、真夜が葉山さんの名を口にすると、すぐに葉山さんがどこかに連絡を取り始める。

 

 

 「あの、次は何をするのでしょう?」

 

 

 朝の鍛錬から今までただ真夜の着替え人形にさせられたり、命令を聞いたりとしていたため、どこまで付き合うべきか判断がつかない。それに、なぜ深雪の前でこの姿の自分を見せるように言ったのかも達也には理解できていなかった。

 

 

 「これから、達也さんのアイドル写真を撮影します。それと収録も…。先にアイドルとしての準備をある程度済ませておいた方が、もう一つの任務に集中できるでしょう?

 

  それと、深雪さんに今の達也さんを鉢合わせさせたのは、最終確認みたいなものです。深雪さんにバレると全ての計画が崩れますから。」

 

 

 達也が疑問に思っていた事をさらりと答える真夜。だが、達也はまだ浮かない顔をしている。前者の方は理解したが、後者の方はまだ納得していないのだ。

 

 

 「深雪は今回の任務を口外するような真似はしません。」

 

 

 達也の言葉には、不機嫌と不快感が入り混じった冷たいものが含まれていた。

 

 

 「ええ、もちろん知っていますよ。ただ、深雪さん…、達也さんがアイドルになると知ったら、ぜひ私も達也さんのお供として協力させてください…なんて言ってくるかもしれないでしょ?それだと達也さんに頼んだ意味がなくなるじゃない?

  一番は深雪さんに知られない事。これが成功するかどうかの鍵になるから。」

 

 

 真夜のこの言葉はさすがの達也も納得せざる得なかった。

 

 深雪は自分に対して深い愛情を与えてくれる。しかし時に「なんか違う気がする」と感じる接し方をする時がある。そういう時は周りの友人達は「普通の兄妹はそういう事しない(わよ/ぜ)」と突っ込んでくる。

 深雪は達也の事になると強い干渉力が働いて、無意識に魔法を行使してしまう。それがもし任務中に起きれば、確かにまずいと思った。

 

 

 達也が納得した表情を見せたので、真夜も話をここで御終いというように、カップを葉山さんに渡す。

 

 

 そして、それと同時に車が目的地に到着したようで、停止する。

 

 

 「では、行きましょう?達也さん。」

 

 

 「はい、叔母上。」

 

 

 「どうぞ、奥様。達也殿。」

 

 

 葉山さんが既に車から降りて、ドアを開けて待っている。

 

 

 真夜は葉山さんが開けるドアから優雅に降り、達也は反対側のドアから自分で開けて降りた。

 

 

 三人が来たのは、貸切可能なスタジオが入ったビルだった。

 

 

 

 そのビルの中に三人は足を進める。真夜が葉山さんと達也を従えて入る。

 

 その時真夜は葉山さんに目配せした。それに葉山さんは小さく頷きを見せる。

 

 

 葉山さんの頷きに真夜は正面を見つめ、嬉しさのあまり声が出そうになるほどの笑いを必死に堪えて、スタジオに訪れ、そこでアイドル・達也の写真等を納得するまで撮りまくったのだった。

 

 専門のカメラマンを雇い、撮影が始まっている道中、見学する葉山さんはこっそりと仕込んでおいた小型カメラを胸のバッジに内蔵させ、真夜の要望通り、一部始終の撮影をメイキングとして記録するのであった。

 

 

 

 

 




真夜…。隠れファンの勢いが凄いわ…。
それから、メイキングを葉山さんに頼みながら、プロカメラマンが撮った達也の写真も厳選し、達也の成長アルバム集にめでたく殿堂入りしましたよ~~!!



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乙女な心

再び原作に戻りますよ。
やはり、達也とこの子の絡みは必要ですよね!? 




 

 

 

 

 「ああ~~…! どうしましょう!? 何で話すればいいかしら!?ああ…!!その前に………」

 

 

 私室でうろうろしながら、乙女のような表情(実際に乙女である)を見せながら、何やら悩んでいる。悩みに悩んでいる少女は、黒羽亜夜子。四葉の諜報を担う分家筋に生まれた魔法師だ。

 その彼女は諜報任務に赴き、仕事を成し遂げる際は、緊張感を持った冷静な表情と行動をするのに、今日はいつもより一段と気合が入っている。夕食を終え、席を立ち、私室に向かう時もご機嫌がいいのか、鼻歌を歌っていたほどだ。

 そんな姉の姿に一緒に暮らしている文弥は、やれやれと姉の想いを呆れつつも、陰ながら応援する。

 

 文弥が温かい眼差しで見送られた亜夜子は、悩み過ぎて今度は怖いくらいに真剣な表情である一点を見ている。

 

 何で悩んでいるのかというと…。

 

 

 「う~~~ん…、どの服を着ればいいかしら…。達也様の好まれる女性はは女性らしくお淑やかだけど、時には強い意思を持って、挑戦的な言動を見せる人…。なら、深雪お姉さまみたいな服がいいのかしら…。

  ううん、ダメよ!! それをしてしまったら、深雪お姉さまに達也様を譲ってあげたも同然!!ここは私らしくビシッと決めて、で、で、電話の時に冷静でありながら、達也様にアタックすればいいのよ!!」

 

 

 下着のままで、ベッドの上に綺麗に並べた自分の服を凝視し、どれを着るか迷っていたのだ。理由は、これから達也に電話でこの前訪問した時の話の詳細を伝えるためだ。

 

 これはあくまで任務の一環であり、報告するだけなのだが、亜夜子は電話するだけでも達也の顔が見れるのが嬉しくて仕方なかった。何より、報告するのは、亜夜子だけ。文弥がいれば、もう少し自重し、この前と同じく猫かぶりしていただろうが、文弥が学校の課題がまだ残っていたため、それを済ませるように言って、達也へ報告する権利を勝ち取った。

 しかし、気楽でいれるのはありがたいが、逆に「今がアピールチャンスでは!?」という思考が頭に浮かび、このようにはしゃいで、悩んでいたという訳だった。

 

 

 そして、結局服は、ふわりと広がったクラシカルスカートと、フリルが襟と胸にあり、大きなリボンがついたブラウスを着てみた。

 電話の際は、上半身だけだからスカートの方までは見れないが、亜夜子は頭の上から足先まで気を配り、身なりを整えた。これで外に出掛けても問題ないし、年頃の異性に呼び止められる事もできるだろう。

 髪も丁寧に梳き、いつもとは違い、リボンで髪をポニーテールにする。そして露わになったうなじや首元に軽く香水をする。アロマ効果のある花の香水をセレクトした亜夜子は、更に目力が強すぎない程度に抑え、ナチュラルなメイクをする。

 

 

 「…よし!! これで準備は出来ましたわ!! 顔はよし、服装もよし、…達也様だけに送る笑顔もよし!

  達也様が好まれるポイントを入れこんだわよ! これで達也様も私に気を持ってくれたら………!!キャ~~~~~~~!!!」

 

 

 達也にお姫様抱っこされて、優しく微笑みかけられるという甘いシチュエーションが脳裏に浮かび、夢心地を味わった亜夜子は、鏡を見て、チークがいらないほど自分の頬が真っ赤になっている事に気づき、慌てて深呼吸する。

 

 

 「落ち着いて、亜夜子…。これからは達也様に電話するけど、あくまで任務の一環よ…。絶対に羽を伸ばし過ぎたらいけない…。

  達也様に粗相のない女性だと思われてもいいの…?」

 

 

 (嫌~~~~~!!! そんなの、私が耐えられない!!)

 

 

 「……決まりね。では、行くわよ…。」

 

 

 

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせた亜夜子は、私室のモニターに向かい、葉山さんから教えてもらっていた達也専用の電話回線に繋いだ。

 

 

 達也への想いを内に秘め、達也が出るのを待つ。

 

 

 しかし、回線に繋いで、10秒も経たない内に回線が繋ぎ、モニターに達也が映った。

 

 

 

 「やぁ、亜夜子ちゃん。…待ってたよ。」

 

 

 

 微笑を浮かべて現れた達也を目の前にし、亜夜子は早くも自分の決意と格闘する事となった…。

 

 

 

 

 

 




亜夜子~~~!! 乙女だね♪
そして、達也~~!! そんな…♥「待ってた」って!!

勘違いしていいのね!!? 


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嵐の到来の報せ(前編)

さてさて、達也と亜夜子の会話…、楽しみますかね!!ファイトよ!亜夜子!
今回も亜夜子が乙女になります!!


 

 

 

 

 世間では魔法師に対する風当たりが日増しに強くなっていたが、学校というものは一種の自治領域だ。世の中からある程度隔離された社会には違いない。一高内も平穏を保っている。だが、達也にはこれが嵐の前の静けさに過ぎない事を、文弥の話を聞いてから確信していた。

 

 

 

 

 

 

 四月十九日、木曜日の夜。

 

 

 

 

 遂に達也の元へ嵐の到来を告げる報せが電話回線を通じてもたらされた。

 

 

 「やぁ、亜夜子ちゃん。…待ってたよ。」

 

 

 『…こんばんは、達也さん。夜分遅くにご連絡してしまい、申し訳ありません。』

 

 

 「いや、そこまで遅いという時間でもないさ。それにそろそろ来ると思っていたしね。」

 

 

 電話回線がつながって直後の第一声に亜夜子は軽く息の飲み、一瞬動きが固まった気がしたが、すぐに形式上の挨拶を返す所はさすがだ。達也も大して不思議には思わなかった。亜夜子が固まった原因は達也の第一声にあるというのに、だ。

 

 達也の言い方は、恋する乙女からの視点から聞けば、「君(亜夜子ちゃん)の連絡を待ってたよ。声が聴きたかったからね。」「そろそろ君(亜夜子ちゃん)から連絡が来ると思っていた。そう考えるほど、君(亜夜子ちゃん)の事を想っていたし、声も…、姿も早く見たかったんだ…。」に見事に変換されるのだ!

 

 亜夜子はその恋する乙女視点で達也の言葉を受け取った。

 

 電話する前の決意など頭から吹き飛んでしまうほどの衝撃を受けた。もう動悸が激しく全身に波打ち、平然としているのが困難になりかけているほどだ。

 

 しかし、亜夜子は自分の為すべき事を弁えている。ここで、大切な仕事を放棄するほどの少女ではなかった。

 

 

 『達也さん、先日は急な訪問にも関わらぬ手厚いおもてなし、ありがとうございました』

 

 

 「どう致しまして。」

 

 

 おもてなしと言っても御茶とお茶菓子を出しただけだ。亜夜子が社交辞令でそう言っている事は達也にも分かっていたが、彼はお世辞と謙遜のエール交換に乗らなかった。

 

 

 『達也さん、少しは世間話に付き合ってくれてもいいのではありませんか?』

 

 

 何とか平然とした振る舞いをしてはいるが、亜夜子は内心、拗ねていた。

 

 意識は仕事に集中していても、初めの衝撃が亜夜子には衝撃的過ぎて、まだその余韻が残っている。もう少し世間話でも、達也の日常の話でも、何でもいいから話したくて、それが叶わず不貞腐れる。

 

 

 (もう…、達也様ったら。 亜夜子は達也様ともっと普通の会話がしたかったのに~!!せめて、もう少し付き合ってくれてもいいではありませんか!!? 

  例えば、「今日の亜夜子ちゃん、いつもと違っているみたいだけど、何かいい事あった?」とか、「綺麗だね、よく似合っているよ。」とか、「今度その格好で遊びに来たらどうだ?歓迎するよ。」とか~~~♥

  せっかく、達也様に見せる為だけにお洒落しましたので、褒めてほしいですわ!!)

 

 

 内なる亜夜子がメルヘンチックな達也とのシチュエーションを夢見て、返事を待っていた。しかし…、

 

 

 

 

 

 

 

 「また今度ね。」

 

 

 

 亜夜子の期待は、たった一言で崩れ去り、笑顔が引きつる。

 

 いくつも考えていた返事とかとかけ離れた言葉に胸がチクリと痛んだ気がした。達也に感情を理解しろと言っても無駄なのは分かっていても、そう言いたくなる。

 

 しかし、冷静な自分もそこにいて、乙女な自分と葛藤する。

 

 そして怒っていいのか(…目を潤ませて文句を言う感じで)、呆れるべきか、二つの感情の間で揺れ動いた亜夜子は、結局諦める事を選択した。

 

 

 『まぁ……今日の所はそれで良いです。確かに大切な御用がありますから』

 

 

 達也を少しは困らせてあげようかしらと思って、口を開きかけた瞬間、達也が望む言葉ではないと達也の真剣な表情に我を思い出し、寸手で押さえる事に成功した。

 

 

 (達也様ともっと話したのはあるけど、今はそれよりも大切な事がある。それを達也様が待っているわ。

  残念だけど、またの機会に…。 それに達也様が「また今度ね」と言ってくれたのよ!! また電話してきてもいいと言ってくれているの!! ならその時に存分に話に付き合ってもらえばいいだけよ!!

  達也様~~!! やっぱりあなたのそう言う所も、好きです♥)

 

 

 「聞かせてくれ。」

 

 

 (はい♥ よかったわ!! 危うく達也様に印象悪く持たれずに済みましたわ。亜夜子は仕事の出来る女だと思ってもらわなければ、達也様が任務に就かれた時、サポートする事もできません! 達也様から嫌われるような事は慎まなければ!!

 

 

  ……それにしても、達也様…。そんなに見つめられると…、恥ずかしいですわ。

  すべてを見透かされているみたいで…。でも、達也様になら私の全てを…。)

 

 

 達也は既に話す前から「大切な用事」に意識を集中している。画面越しとはいえ穴が開くほどの強い眼差しで見つめられて、亜夜子は恥ずかしげに(実際に恥ずかしく思っている)目を逸らしたのであった。

 

 

 

 

 

 




達也にドキドキしっぱなしの亜夜子だったね!!
可愛いな~~~!! 

後編も可愛く亜夜子の恋する気持ちを代弁してあげましょう~~!!


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嵐の到来の報せ(後編)

あの会話からいかに亜夜子を乙女にさせようか…。

ONEPIECEのボア・ハンコックからの助言…
「”恋はいつでもハリケーン”なのじゃ!!」

「素晴らしいですわ!! まさにその通りでございます!!達也様への想いはそれほど大きくて激しいモノなのですわ!!」

…案外気が合いそうだな、この二人。

*まえがきだけの付き合いですよ~~!!実際に話に登場はしませんよ!!…いずれクロスオーバーしたいなとは思っているけど!!


 

 

 

 

 達也の強い眼差しを向けられ、恋する感情が高ぶり、恥ずかしくて目を逸らす亜夜子。だが、恥じらいながらも亜夜子はしっかり自分の役目を果たす。

 

 

 『先日文弥がお耳に入れた件の、具体的なスケジュールが決まりました。』

 

 

 本題を口にした事で、意識を完全に役目に置く事が出来た亜夜子は、任務の時に見せる冷静でそれでいて、魅力的な笑みと隙のない雰囲気を醸し出し、達也に強い眼差しを返す。この辺り、彼女は見かけ通りのミーハーな少女ではなかった。

 

 

 『四月二十五日、来週の水曜日に第一高校へ国会議員が視察に訪れます。』

 

 

 亜夜子の脳裏には、達也の誕生日がその前日だという事がふと思い起こしたが、すぐに意識を話しに戻す。

 

 

 「民権党の神田議員かい?」

 

 

 『そうです。良くお分かりですね。』

 

 

 「むしろ意外性が無さ過ぎるんじゃないか?」

 

 

 神田議員は野党の若手政治家で、最近はよくマスコミにも出ている。メディアでは一見、魔法師の見方を装っているが、魔法師を国防軍から排除しようとしているのは、少し注意深い人間なら誰でも分かる事だ。

 彼が、国防軍に対して極端に批判的な人権派だと知られているから、七草家当主はそれを利用するため、策略したのだ。…四葉の力を削ぐ目論見で、達也と国防軍との繋がりを世に広めるために。

 文弥から話を聞かされた時、七草家当主と九島閣下の共謀がまさにそれだったという事を達也は薄々ながら気付いていた。だからか、亜夜子からもたらされた計画の冒頭を聞いただけで、すぐに計画が見えたのであった。

 

 亜夜子は達也を尊敬しているため、思考が少し達也に似ている部分がある。達也に影響されたというべきか。すぐに神田議員の人柄を思い出し、達也の言い分や考えが当たり前だったと先程の自分の発言が可笑しく思えた。

 

 

 『そうですね』

 

 

 達也の言い分が最もだと思い、口元にそっと手を当てて、異性ならときめく様な仕草でクスクスと笑いを溢した。

 達也は、「楽しそうだな…。」と亜夜子の笑いに少し唇が吊り上る。無意識に微笑んだ達也の表情に、それを引き出したのが自分だと実感して嬉しく感じ、亜夜子は、そのまま話を進める。

 

 

 『その神田議員が、いつもの取り巻き記者を連れて一高に押し掛けるようですよ。』

 

 

 「押し掛けて、どうする?」

 

 

 『さぁ、そこまでは…』

 

 

 口元にあった手を今度は頬に当てて、少し首を傾げる。その際、日焼けしていない白い肌をした首筋が露わになる。

 

 

 「それほど大きな仕掛けは用意していないという事か。」

 

 

 しかし、達也はそれには触れず、亜夜子の答えと仕草に考える素振りも見せず、達也は納得顔で頷いた。

 

 

 『何処をどう捻ったらそういう解釈になるんです……?』

 

 

 神田議員が突撃で一高を訪問するという計画だけを耳に入れていたので、その先を知らない亜夜子は、達也の納得した顔での返し方に今度は達也の描く思考を読み取れなかった。押し掛けてからの事は調べても出てこなかったのだ。だから、言葉を濁す代わりに可愛らしい仕草で気を逸らそうとした。しかし、逆に全て理解した達也にどうやってその答えが出てきたのか、不思議で仕方なかった。

 そのためか、亜夜子の表情は年相応の幼さを見せ、ポカンと、目を見張っていた。

 

 この会話は、直接達也に掛けているため、達也と亜夜子の二人だけで行われている。達也の傍に深雪はおらず亜夜子の隣には文弥はいない。互いに私室で話している。達也以外の誰にも見られていないという気安さと恋敵(深雪)がいない中での二人だけの会話を楽しめる優越感もあって、気が一時抜けたのだった。

 

 

 「大掛かりな舞台を用意しているなら亜夜子に分からないはずはないだろう?」

 

 

 『………お褒めの言葉と受け取っておきます。』

 

 

 「褒めているんだからそれで良い。」

 

 

 達也が自分の事を認めて、更に信頼してくれての言い様に、亜夜子は感激した。胸が熱くなるほど達也への愛が溢れてくる。例えそれが、「仕事」の信頼でも。それも間違いなく亜夜子のアイデンティティの一部であり、そのアイデンティティを確立する事が出来たのも、達也のお蔭だ。

 

 言葉に詰まりながら、その気持ちを押さえて、クールな答えを返した亜夜子だったが、すかさず達也からのもっと真面目くさった追撃を受けて、本格的に絶句してしまう。

 

 

 (た、た、達也様っ!!? そ、そ、そんな事を真面目に言わないでください…!

  おかげで心の準備のないまま、もろにときめきましたわ!!心臓に悪い…。

  我ながら、ここで悶えて腰が抜けて、床に崩れ落ちずに立っている今の私を褒めてあげたいくらい…! いえ、達也様に褒めてもらいたいくらいです!!

  まだ心臓がパクパク跳ねてます…。達也様に鼓動が聞かれているのではと思うと、もう………♥)

 

 

 内なる亜夜子は既に達也にメロメロで、ノックダウン喰らっていた。だからか、本格的に絶句し、つい無意識で達也に聞いてしまった。

 

 

 『達也さん……もしかして、分かっていてやってるんですか?』

 

 

 「何を?」

 

 

 『貴方という人は……いえ、良いです。』

 

 

 もし、達也が企みや計算の上で今のやり取りをしたのなら、とんだ女たらしだと思った事だろう。しかし、本人にはその気がまったくなく、異性を誘惑…恋心を燻らせるテクの披露をしたという実感が備わっていない事をたった一言と眉を吊り上げて不思議がる顔で察した。

 

 亜夜子は、「女性を誑かす言動はお止め下さい」「もっと分かりやすく褒めてくれてもいいではありませんか」「他の女性の方でもそのような話し方をされるのですか」等、追及しようと構えを見せた。しかし、達也が理解するとはとても思えなかったし、追及すると、次回からは不意打ちの”恋のバキューン”がないかもしれない。驚いて絶句もしたが、嬉しかったのは事実だから。それに、こんな事のために電話をかけたのではないと寸前で思い出したから。

 いろいろ言いたい事は喉元まで出かかっていたが、まるで感情を窺い見られない鉄壁のポーカーフェイスで言い掛けた言葉を呑み込んだ。

 

 

 『達也さんの仰る通り、あまり大掛かりなことは考えていないようですね。多分、いつものパフォーマンスでしょう。ですが彼の取り巻きジャーナリストは、それを何十倍にも水増しして騒ぎ立てるつもりなのではないでしょうか。』

 

 

 「なるほど、それはありそうだ。」

 

 

 ここでようやく達也が亜夜子の前でこの夜初めて、考え込む素振りを見せた。ただそれも五秒程度の事。

 達也は視線を亜夜子に戻し、小さく労いの笑みを浮かべた。

 

 

 「連絡してくれてありがとう。参考になったよ。」

 

 

 『達也さんのお手並み、楽しみに拝見させていただきますわ。』

 

 

 達也の笑みに亜夜子は気取った笑顔を返し、一礼した後、亜夜子の方から電話を切った。

 

 

 

 

 

 電話が終わり、完全に切れた事を確認した達也は、画面越しから見た先程の亜夜子の事を思い出す。

 

 

 「亜夜子、いつもより少し雰囲気が違っていたような…。メイクもしていたみたいだし、服も気合が入っていたな。

  ……どこか夕食に出も招かれていたのか? なら、その後の俺への報せもよく掛けてきてくれた。早いに越したことはないが、亜夜子にはもう少し労いを見せてあげればよかった。

  …今度、何かするか。」

 

 

 亜夜子のいつもと違うアプローチに気づいていたが、意識を報告に集中していたため、褒める事もしなかった。最初に世間話は今度と自分から言った手前、今更服装を褒めるのも憚れたという理由もある。

 今度は、亜夜子にお礼をしようと決め、達也は今日も地下の研究室に向かうため、私室を後にする。

 

 ………亜夜子がわざわざ達也との電話のためにお洒落しただけだとも知らずに(当たり前だが)。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「キャ~~~♥♥

  何あの達也様の表情は~~♥

  考える仕草も表情もドキッてしたけど、その後の労いを込めてくださった微笑みも素敵でしたわ!!もっと拝見させていただきたかった!! でもあれ以上は、私の達也様への愛が溢れすぎて、止められそうにありませんっ! 危うく告白しそうになりました!!

  何とか、深雪お姉さまよりお役にたてたので気取った笑顔で返して、そのまま電話を切ってしまいましたが、もう限界です~~!!」

 

 

 電話を切った直後、一気に身体の力が抜け、頬だけでなく耳まで真っ赤にして、床に崩れ、腰を抜かしながら、独り言をつぶやく亜夜子。胸に手を当てて、まだ落ち着かない心臓の鼓動を感じ取る。

 昔よりはるかに大きくなったこの想い…。そしてまだまだ好きになっていくこの想い…。達也を知る度にどんどん膨らむこの恋に亜夜子はいま、全力で浸っているのであった。

 

 

 「今日も最高な一日になりました。あ、そうでした。あれを確認しなければ!!」

 

 

 ふと思い出して、抜けた腰を奮起し、机に掴まりながら、椅子に座り、画面を操作する。すると、画面には先ほどの達也が映し出され、電話した始めから再生される。

 

 

 「よかった~~!!ちゃんと麗しい達也様の御顔とお声が録画されています!!

  これで、次の再会まで亜夜子は生きていけます!!ありがとうございます、達也様~~!!」

 

 

 再生された達也が映る画面に抱きつき、頬を寄せる亜夜子は、幸せ絶頂のオーラを放ち、恋心を育んだ。

 

 

 

 

 

 

 




亜夜子、よかったね。

それにしても、まさか電話の内容を録画していたとは…。さすが…。
真夜もそうだし、遺伝的なものがあるのだろうか…。


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『恒星炉デモンストレーション』計画・呼び出し

達也が大物になっていく…。
…達也様~~~!!

今日はうちの記念すべき日なんです!! 頭なでなでしてください!!(煩悩に塗れているわ~~!!)


 

 

 

 亜夜子からの報告を受け、早速達也は行動を起こす。

 

 

 明くる四月二十日、金曜日。

 

 

 始業前の生徒会室にあずさと五十里を呼び出した。神田議員の一高視察の件を伝えるため、そしてその視察の目論見を利用し、あれを披露するために二人を朝から呼び出したのだ。

 しかし、当然のように五十里にくっ付いてきた花音の事はとりあえず横に置き、話を進める。達也からもたらされた話の内容に、あずさは椅子を蹴って立ち上がり動転した声を上げた。五十里も口を開けて、驚きを隠しきれていない。

 二人の反応に花音が「大袈裟ではないの?」と疑問視してきたので、婚約者である五十里はいつも優しく花音を諭す言い方ではなく、その楽観論を真っ向からたしなめ、毒舌した。

 

 いつもの中性的な顔立ちに似合った話口調の五十里とは態度も口調も変わった事に花音は若干鼻白んだくらいの反応を見せ、ようやく五十里の抱く懸念を察し、緊張感が身体に伝わってきた。

 それを傍から自分から持ちかけた話なのに、他人のように傍観していた達也はというと、いつもとのギャップで意外感を覚える。顔は何を考えているのが分からせないほどの鉄壁のポーカーフェイスが継続していたが。

 

 

 「…………それで、司波君はどう対処するつもりなの?」

 

 

 自分でも熱くなり過ぎたと感じた五十里は、いつも通りの口調で、花音にこれまでの説明の結論を述べた後、今までのやり取りを見られていたという気まずさを感じながら、花音から達也へと顔ごと向き直り、愛想笑いを浮かべて、話題転換を図った。

 

 五十里と花音の夫婦的な話し合い?を見守っていた達也は、もうそろそろ話を本題にしたいと思っていたので、話題転換には喜んで乗った。

 

 

 「何かアイデアがあるから僕たちを呼んだんでしょう?」

 

 

 「ええ。」

 

 

 短く回答した達也は、後ろにずっと控えていた深雪に目配せし、それを嬉々として待ち望んでいた深雪が手に抱えていた電子黒板をあずさと五十里に手渡す。

 二人が電子黒板に視線を落とすのを確認して、説明を始める。

 

 

 と言っても、始業前という事もあり、詳しくは説明する時間は残されていない。

 

 

 ”魔法科高校が軍事教育の場となっていると非難したいなら、逆に軍事目的以外にも魔法教育の成果が出ている事を示せばいい。”

 

 

 ざっくばらんな口調で結論を先取りする。達也の単刀直入な言葉に相槌も反論も質問の声も上がらなかった。

 

 いや、上げられなかった。

 

 

 電子黒板に記載されている内容を見て、衝撃を受け、それが一時思考を妨げていた。五十里の肩越しから電子黒板を覗き込む花音は、なぜ五十里が固まっているのかは理解できたが、電子黒板の内容は理解できずにいた。

 あずさと五十里がその内容に我ここに非ずの状態で電子黒板を穴が開くほど見つめ、無言で読み進めていく。

 

 そんな二人の状態からこの計画の内容説明は省けそうだと、達也は心の中でほくそ笑み、話を続ける。

 

 

 「そこで神田議員の来校に合わせて少し派手なデモンストレーションを行いたいと思います。」

 

 

 「………少し?」

 

 

 「………これが?」

 

 

 ようやくあずさと五十里の二人が反応を示す。

 

 この電子黒板に記載されている今回のデモンストレーションの内容は、そんな簡単に言葉を纏められるような甘い物ではないのだ。

 それなのに、少しも動じたり、緊張したり、もっと言えば武者震いもせずに言い切った達也に呆れ顔の間接的な意義表明を見せた。しかし受けた衝撃が強すぎてまだ本調子ではないのか、声色は呆れているニュアンスを表現しようと上手くいかず、上滑りしている感がある。

 

 

                       ・・

 二人の反応を間近で受けた達也は、二人の異議の言葉を無視した。

 

 

 この時の達也の言葉の”少し”という意味は、この場の話と関係ない事を考えた上でのものだからだ。

 

 

 

 (…叔母上の極秘任務(アイドル計画と言わないのは、プライドのためか…。)をする事を考えれば、このデモンストレーションは嫌でもないし、少し派手に演出するだけで済む。)

 

 

 

 ……なんて考えていたとは言えない。

 

 

 誰にも。

 

 

 

 達也は、このデモンストレーションの後に控えているもう一つの任務の事を速攻で棚上げし、二人を参加させるため、交渉を打ち出していくのであった。

 

 

 

 

 




達也のアイドル計画は忘れていませんよ~~!!達也にとっては、アイドルは派手すぎるもんね。


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『恒星炉デモンストレーション』計画・始動

いきますよ!! 達也の”国会議員ボコボコするぞ!作戦!!”




 

 

 

 

 

 

 達也の考えるデモンストレーションを目の当たりにしたあずさと五十里は、徐々にショックから復活し出した。それでもまだ、顔が引き摺り気味なのは、諌めない。五十里は自分に言い聞かせるような声で頷いた後、達也に難しい顔を向けた。

 

 

 「本当にできるの? 加重系魔法三大難問の一つ、常駐型重力制御魔法式熱核融合炉が。」

 

 

 プランの核心部分について問われ、達也の顔に微かな迷いが浮かんだ。

 ただし、実現性に関する自身の欠如を表すものではなく、どう答えるべきかについて思案する物だった。

 

 

 「実物はまだ作れません。

 

  実験炉とすらいえません。炉の形をしていませんからね。ですが、核融合炉実現の可能性を去年の論文コンペより派手に、分かりやすいものとして演出する事は出来ます。」

 

 

 「………『恒星炉』ですか。」

 

 

 会話の最中も電子黒板から目を離さなかったあずさが、そのままの姿勢で達也の恒星炉のコンセプトを独り言のように呟く。達也の顔も五十里の顔も見ないで、電子黒板を食い入るように見詰める。

 

 

 (さすがシルバー様……、じゃなくて司波君!!

 

  このプランには、これまでの知識が詰め込まれています…。申し訳ありませんけど、鈴音さんのシステムより遥かに鮮明で、魔法に未来を感じる素晴らしいものです…!!

  これが司波君が目指す未来なんですね…!!

  なら、このプランに参加しないなんて、私にはできません!!だって、もしかしたらシルバー様の目指される未来のデモンストレーションにお手伝いできる絶好の機会じゃないですか!!魔工師を志す者として見逃せませんっ!!

 

  …でもその前に、シルバー様…じゃなくて、司波君に確認してみないと。)

 

 

 去年の九校戦での達也の魔工師としての腕前を見てから、達也がシルバーだと確信していたあずさは、呟きを途切って達也へ顔を向けた。その顔には魔工師としての真剣な想いが込められていた。

 

 

 「これが司波君本来のプランなんですか?」

 

 

 「独自のアイデアという訳ではありませんが、確かにこれが俺の目指しているものです。まだ必要となる魔法スキルが高すぎて実用化には程遠い段階ですが、我が高の生徒の力をもってすれば短時間なら実験炉を動かす事が可能です。」

 

 

 あずさの質問に、達也は殊更しっかり頷いた。あたかもこれが自分が目指している頂上だとでもいうように。この恒星炉は本来の目的のためのメインパーツに過ぎないが、達也は今の時点で明かすつもりもなかった。しかし、恒星炉の実現を目指す気持ちは本物だ。

 それがあずさにも感じ取れるほど達也の強い眼差しに込められていた。いつもなら達也の鋭い視線にも怯えるあずさだが、彼女に似合わぬ力強さで頷き返し、目を輝かせる。CADオタクの時に見せる目の輝きではなく、このプランに対する達也の本気とこの価値のある魔工師を目指すなら絶対に成し遂げたい難問の課題に挑戦したいという欲が感じられる目だ。

 

 

 「五十里君。」

 

 

 そのまま真剣味とチャレンジ精神と熱い志を乗せた顔を五十里に向けた。

 

 

 「私は司波君の計画に協力したいと思います。五十里君はどうでしょうか?」

 

 

 「僕も協力するよ。恒星炉の公開実験。神田議員対策というだけじゃなくて、魔法技術者を目指す者として是非とも関わっておきたいからね。」

 

 

 五十里もまた、あずさと同じく魔工師(見習いとしては、既に二人は知識も腕前も越えているからだ)としての誇りに火がついた。そのため、あずさに問われる前から心は決まっていて、あずさに問われて、すぐに首を縦に振った。…物凄い力強く。

 

 

 あずさと五十里の協力を得る事に成功した達也は、自分の恒星炉プランが実現にまた一歩近づいた気がして、言葉にはならないが、清々しい気持ちで授業に赴く事が出来た。

 

 

 だが達也以上に、このプランに自分が関われる嬉しさと昂りがあずさと五十里の胸の内に蠢き、今日の授業が頭に入らなくなり、頬が緩みっぱなしで教師に怒られてしまうという失態を起こす事になる…。

 

 

 ……それでもなお二人の幸せな純情を窺わせる言動は放課後まで途絶える事はなかった。

 それを面白く思わない花音は、婚約者の隣で唇を尖らせて拗ねる日を送っている事も五十里は気づかなかったほどだったと言えば分かるだろう…。

 

 

 

 




魔工師にとっては魅力的なプランだもんね!!!

そりゃ、浮かれない訳にはいかないよ!

でも、五十里、大丈夫かな?後で花音を宥めるのが大変だろうな~~。


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達也への関心

今日も独自解釈を…。そして全員達也様の魅力を知るがいい~~!!


 

 

 

 始業前に達也が、あずさと五十里にデモンストレーションの協力を取り付けた日の四時限目。生徒たちが授業を受けている中、職員室では、今年から一高に赴任してきたジェニファー・スミス教師が自分の机に肘をついて、溜息を落としていた。

 

 今、この職員室にはスミス一人しかいない。他の教師は一科生の授業を取り持っていたり、自分が担当する教科の資料を作るために席を外している。だからか誰にも見られていないという安心感からか、溜息がこぼれ、思案顔をするのであった。

 

 なぜ、スミスがこんなに気落ちしているのかというと、仕事に関する事だ。もちろん教師の仕事は好きだ。しかし、スミスにはそれ以外に考えさせられる事案があった。

 

 

 それは、達也に関する事だ。

 

 

 今年から一高で魔法工学の授業と魔工科のクラスの指導を受け持つ事になったスミスは去年までは魔法大学の講師をしていた。順風満帆に送っていた生活だったが、去年の夏から慌ただしくなった。理由は、九校戦だ。

 九校戦では、魔法師の卵とも言える魔法科生の実力を観察し、気に入ればスカウトする企業の幹部や魔法研究の目的も含めた学者、大学関係者たちが招待され、観戦する。去年もそうだった。もちろん魔法大学の人事や教授たちも例外ではなく、毎年のように観戦していた。しかし、ここ数年は同じような展開(一高の総合優勝が連発)が繰り広げられ、あっと驚く様なものはなかった。だからか、去年も面白味がかけたような面持ちで観戦していた。

 

 すると、どうだろう…!!

 

 一高エースの深雪が繰り出した高難度の魔法行使、見事なまでの流れるようなスムーズなCAD調整、最新技術を応用した運営方法、今まで考えられなかった作戦、「インデックス」に載せてもいいと直感するオリジナル魔法の開発。

 

 ……見ていて飽きない。それでいて驚きを隠せず、思わず興奮してしまう。

 

 達也の見せたアクションに魅入らせられた大学関係者は、すぐに応援を送ってもらうように頼み、最新機器を導入するほど、データを取れるだけ取る覚悟で大会の中盤から、身を乗り出して食い入るように見いった。

 そして九校戦が終わった後、魔法大学の教授たちが集まり、緊急会議をした。会議で取り上げられたのは言うまでもなく達也に関する事だ。達也の頭脳を目のあたりにし、魔法業界にこれから…いやすぐに栄光を導ける存在となると、年配者の教授や堅物の大学関係者が揃いも揃って、主張し合った。

 

 そしてその結果、達也が魔法大学に入学する前に一刻も早く彼とのパイプを作っておくため、アプローチをする事に全員合意した。しかし、結論したはいいが、彼らは達也との接触に困難な壁がある事に、さっそく実行を移す時になって気づくのだった。

 

 

 

 

 

 




大人の世界に入ってしまったね。(別の意味だけど)

恒星炉の実行は簡単にまとめてみるか…。


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願ってもない好機!!

相当喜んだだろうな~!! 年長者たちは。




 

 

 

 

 

 

 達也とコンタクトを取ろうと決定し、早速口が達者な大学関係者を向かわせようとし、教授の一人が今気づいたと言わんばかりに叫びだす。

 

 

 「どうしたというんだね? まだ話していない事でも?」

 

 

 「ああ!! 今思い出したんだがね! 司波達也君は『インデックス』の開発者登録をしていない!! 」

 

 

 「何だって!? なぜそれを話してくれなかったんだ!!」

 

 

 「すまない…。儂としたことが、彼の華々しい功績に熱が入り、その事をすっかり勘違いしてしまった…。彼が開発者として登録されているのは当然であり、そうだと思い込みたかったのが、いつの間にかそうなっていた…。」

 

 

 九校戦の新人戦「スピード・シューティング」で雫が披露した『能動空中機雷』は、達也が一から作りだしたオリジナル魔法。それをインデックスで正式に起用してみたのはいいが、四葉との関わりを知られる事を懸念した達也が開発者名に雫の名前にしたのだ。

 開発者は徹底的に身元を調べる。しかし、ちゃんとした理由の元、達也の事を調べる事が出来ないし、インデックスに載せる魔法について話を聞きたいという名目上の面会も憚れる。

 ここに来て万事急須かと嘆き出した大学側に願ってもない好機が舞い込んできた。

 

 なんと一高から来年度より「魔法工学科」を創設し、そのための教師として是非とも赴任してほしいという打診が来た。

 

 

 「これはなんという好機だ! 天は我々に望みをくれたぞ!」

 

 

 「一高も彼の頭脳を高く評価した。これは当然の対応だな!」

 

 

 「なら、この儂にその教師をさせてくれ。必ず司波達也君を世界に通じる天才魔法技術者に育てて見せるわ!」

 

 

 「何を言いますか!この前、物忘れで実験が大変な事になったでしょう!? もうお年なんですし、ここは私が教授の代わりに行かせてもらいます!」

 

 

 「いや、俺だ!年の近い俺なら気楽に話しかけてくれるだろうし、すぐに信頼も勝ち取れますよ!俺がやります!」

 

 

 「何を~!お主はまだ若い!それこそ学ぶべき事がたくさんあるわ!経験も浅いお主に務まるものではないわっ!」

 

 

 「何だと! 老けた爺いに今時の若者の気持ちがわかるとは思えないけどな!」

 

 

 「……では、この隙に私がこの任を受けさせて………」

 

 

 「「「そうはさせるかっ!!」」」

 

 

 …と、「魔法工学科」の指導教員の座をかけて、教授たちが熾烈な争いを繰り広げた。何か月も続き、年を超え、なかなか決着がつかなかった。自分が選ばれるようにアピールする教授たちの静かな戦いを目の当たりにし、学生が巻き込まれないように距離を置く。

 その結果、一高への赴任を了承する期日を延期させてもらっていた大学側も、このままでは魔法大学の風紀が乱れる(すでに乱れ捲くっているんじゃ?)のを恐れ、ついに決定した。

 

 

 「……では、スミス講師…。一高の指導教員をお願いします。」

 

 

 「…私に、ですか?」

 

 

 教授たちが争っている中、唯一といってもいいほど中立を務め、争いに参加しなかったスミスが選ばれた。スミス本人もまさか自分が選ばれるとは思わなかったため、目を瞠る。眼中になかったスミスが選ばれた事で、教授たちは驚きを隠せない。

 

 

 「これは理事長の判断です。既に一高にも連絡済みです。もう覆せる段階ではありません。」

 

 

 教授たちを集めて、理事長の伝言を伝える秘書の言葉に、落胆の表情を思い切り見せる教授たち。

 

 

 「ですが、私は一高への赴任をお願いした覚えはありません。なぜ私なのでしょう?」

 

 

 スミスは既に決まった事をとやかく言うつもりはない。この決定に口を挟む余地は既にない。なら、この決定を素直に聞き入れるだけだ。

 スミスの問いかけに深く頷いた秘書は、理事長の伝言を伝える。

 

 

 「”スミス講師は教授達の緊迫した環境に置かれた学生たちを気遣い、相談に乗ってあげていましたね? 教師とは、ただ教えるだけではない。学生達がのびのびと学び、成長するのを見守り、支える人間なんですよ。その教師像をしっかりと務めたスミス講師に白羽の矢を向けたのです。…一高に赴任しても、その精神を大切にお願いします。”」

 

 

 理事長の伝言を聞き、この場に集められた教授たちは自分達が我を忘れて、大事な事を見失っていた事に気づき、スミスの赴任に異議を唱える事はしなかった。

 

 

 

 こうして、ジェニファー・スミスの一高への赴任は、決定したのであった。

 

 

 その決定が一高に通知され、受理されたのは、新年度の授業が始まる一週間前だった…。

 

 




まさか、新設された魔工科の指導教員がギリギリまで決まらなかった理由がこれだとは!!?
(うちが独自に考えた理由ですから。)



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スミスのアプローチ

さて、なんだかんだで一高に赴任してきたスミスだけど…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 教授たちの醜い争いも終結し、スミスは荷物を纏め、渡された資料を手に取る。

 

 

 「結局理事長も教授たちと同じですね…。はぁ~…。」

 

 

 ため息を吐いてサッと読むスミスは、彼らの意図に自分が利用されたと理解し、呆れ感が込み上げてきた。

 

 資料には、達也のパーソナルデータ、探偵を使っての日常の行動、これからの達也との接触…等々が事細かく書かれていた。しかし、知り得た情報が少なく、いまいちピンとこない。法の秩序を乱さず、一線を超えないギリギリで集めた情報だ。これ以外で達也の情報が何か分かるかもしれない。そのために達也と接触し、そこで知り得た情報を大学にリークするようにと資料の最後に書かれていた。

 スミスは、自分が何故選ばれたのか、改めて納得した。

 理事長はスミスが女性であることを利用し、達也を大人の魅力で誘惑し、虜にして情報を手に入れさせるために選んだのだった。教授たちをわざわざ集めて発表したのは、大学内の風紀を改善する目的と尤もらしい理由を告げる事であの場でのスミスの事態の言葉を言わせなくするためだった。

 

 まんまと理事長の企みに乗せられてしまったスミス。

 

 しかしスミスは、それほど怒った素振りは見せなかった。確かに理事長のやり口には怒りを通り越して呆れてしまったが、これは自分にとっての好機だと思う事にした。

 元々スミスも一高への赴任を受けたかったが、講師である自分が教授たちを差し置いて易々と願いを聞き入れてもらえるとは思っていなかった。それに、達也も後二年もすれば魔法大学に入学してくる。今の段階で手駒にしようと考える教授たちの考えに賛同できなかったという理由もあり、立候補するのは断念していた。

 だから、この決定をどんな理由であれ、結果的には願いがかなったのだ。なら、この運をしっかりと掴んでいなくてはいけない。スミスはそう思い、一高の門を颯爽と、そして微笑を浮かべて、入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 こうして教員になったスミスである訳だが、職員室で一人ため息を吐く彼女は、この時の胸躍る気持ちを失いつつあった。

 

 魔法工学科の授業…、つまりE組の授業をする度に達也が只者ではないと実感するのだ。授業で問題を解くように言うと、あっさりと考える素振りもなく一瞬で答える。しかも毎回正解だ。そして誰も分からない内容を取り扱った時、答えだけでなく説明まで添えて回答する。これには驚きを隠す事を忘れて、聞き入ったくらいだ。更に授業が終わった途端に達也に駆け込んで、教えを乞う生徒もいる。その生徒達をあしらったりせず、簡潔に、しかし丁寧に細かく教えている達也を見て、スミスは自分がここに赴任させられた理由を改めて実感した。

 

 

 (なるほど…。確かにこれでは個々の教員の方達が頭を悩まず訳ですね。彼と同等かそれくらい釣り合うほどの専門知識が備わっていなくては教える以前に話を一割も理解できないでしょう。)

 

 

 そう思うと、大学で講師していた時よりやる気が満ちてきたスミスは、より前向きに接するようになった。達也も専門的な話ができ、心なしか喜んでいる事を雰囲気で感じ取ったスミス。

 

 

 しかし、話をするだけで、達也が魔法工学等の研究をしている訳でもなかったので、達也が尋ねてこない限り会話はしなくなった。

 

 

 これがスミスがため息をしていた理由だ。

 

 

 達也の研究や情報を大学に教えるつもりはスミスにはない。しかし、達也が魅せる研究内容には非常に興味がある。目を瞠るような衝撃を与える研究や実験を達也が持ち込んできてくれないかとこのところ、思い始めたのだ。

 

 

 「こうなったら私が司波君に課題を渡してみましょうか…?」

 

 

 不意に出た言葉だったが、今までモヤッとしていたすっきりしない気持ちが消え、最大の案だと思い、気が変わらない内に達也にしてもらう課題をどれにしようかと机の上の専門的な本を漁り始める。

 

 

 

 そんな中、昼休みのチャイムが鳴り、授業を終えた先生たちが職員室に入ってくる。スミスはそれには気づかず真剣に本を読み、課題となれそうな記述を探し続ける。

 

 

 「失礼します、スミス教師はこちらにいますでしょうか?」

 

 

 「はい、いますよ。」

 

 

 突然自分の名が呼ばれ、読んでいた本から視線を上げるとそこには一礼して職員室に入り、真っ直ぐに自分の元へと向かってくる達也の姿があった。

 

 

 さっきまで意識を占めていた当の本人の登場で、スミスの顔が嬉しさで綻んだ…。

 

 

 




大人の事情って怖いよね~!! でも、スミス先生!!達也が自分から課題を持ってきたよ!!しかもとんでもない物を!!


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信じられない実験

土曜日は投稿デーだな…。終わったら屍になってそう…。

達也様~~!!


 

 

 

 

 昼休み、達也が職員室に自分を尋ねに来たことで、内心嬉しさも感じつつ、いったい何の用かという疑問もあった。

 スミスの机に達也がやってきて、横に立つ。

 

 

 「…それで、私に何の用ですか?司波君。」

 

 

 普段と変わらない表情と声色で問いかけるスミス。そのスミスに特に訝しく思う事なく、達也は申請書を渡す。

 

 

 「実は四月二十五日に、実験をしたいので、その許可を申請しに来ました。…詳細はここに。」

 

 

 課程外での実験を行う場合、クラブ活動としてであれば顧問教師、クラブ活動以外の自主的なものであれば担当教師、担当教師がいない二科生であれば事務室に申請書を提出して学校の許可を得なければならない規則になっている。

 達也は、例の恒星炉デモンストレーションをするために、魔工科の指導教員であるスミスに申請に来たのだ。

 

 

 スミスは達也が待ちに待った実験を持ってきてくれた事に意気揚々となる。しかし、教師であり、彼より大人(年齢上では)である自分がしっかりしなければいけないと、早く申請書を全て読みふけっていたいという欲を抑え、達也に渡された申請書の冒頭を読む。すると、心が躍る気持ちが一気に冷静になった。いきなり眉を顰め、冒頭に書かれた使用魔法のリストを見たからだ。

 

 

 (司波君はもっと魔法師の技術的社会的向上を思い浮かばせる実験や運用を見せてくれていました。ここに赴任してから司波君と何度か話してみましたが、魔法工学や理論における彼の考えている事もそれを裏付けるような印象を感じました。

  ……それなのに、これは。

 

  ”重力制御、クーロン力制御、第四態相転移、ガンマ線フィルター、中性子バリア…”。

 

  司波君は魔法を兵器にした魔法を作りだし、それを実験しようと計画しているのですか?)

 

 

 使用する魔法リストだけで、大出力レーザー砲の実験をする気なのかと心の中で思った事を独り言のような質問として達也に聞いてみた。結果、達也は芸のない常套文を答えた。スミスに指摘されるまでその事に気づかなかった達也は、意表を突かれたのを隠すためにそう答えた。額にはほんの少しだけ汗が浮かぶ。

 しかし、達也にとって幸いにも、スミスの目は申請書に吸い付いていて、それを目敏く認識する事はなかった。申請書を読み進めるうちに達也の使用としている恒星炉実験に撃ちからに燃え上がる好奇心からこれは何としてもやってみるべきだという自分の意思が大きく芽生えた。

 

 

 「随分意欲的な実験内容ですが……」

 

 

 しかし、真剣な表情はそのままに横に立つ達也へ目を向けるスミスは既に技術者として威厳を垣間見せていた。

 

 

 「安全は確保できるのですか?」

 

 

 個人の感想はともかく、実験は成功すれば最高の功績が称えられる。しかし、失敗すれば危険が伴うのは魔法大学での経験からよく知っているスミス。教師から見れば、安全面を考慮して、判断しないといけない。教師は生徒を守る義務があるから。

 

 

 「計算上は確保できています。」

 

 

 スミスの問いかけに達也は無責任とも取れる言い方だった。

 

 しかしスミスはそれを窘めなかった。安全を確保できないからと言って、躊躇しても先には進まない。それも含めて実験するのも役割だからだ。スミスはそのような愚かしさとは無縁の生粋の科学者だった。

 

 

それからは、申請書の内容と去年の論文コンペとのコンセプトの違いを達也に聞きながら、確かめたスミスは、達也の淀みのない答えといい、姿勢といい、生半可な覚悟で取り組むのではないと理解できるほど真剣だと思った。

 腕を組んでしばし黙考する。普通の実験ならここで判断をしても問題はないが、恒星炉実験は『加重系魔法三大難問の一つ』に値する魔法に関わる物なら知らない者はいないと言える難問に挑むもの。安易に学校という領域で行うには、そう簡単に決定を下す物ではない。何より一介の教員である自分がその決定をする事も。

 

 

 「……分かりました。ただ、私の一存では許可できません。申請書は回しておきます。放課後には結論が出るでしょう。」

 

 

 スミスの回答に達也も頷く。放課後実験室と校庭の使用許可が即答で下りるとは達也も考えていなかった。当然だと思い、放課後には結論を出してくれるというスミスに感謝しながら、最後に一言付け加える。

 

 

 「ありがとうございます。なおこの実験の事は対外秘でお願いします。」

 

 

 達也はスミスに一礼した。

 

 

 申請も終わり、達也は食堂で待つ友人たちの元へ向かうために職員室を後にするのを見送ったスミスは、早速足早に申請書が入った電子ペーパーを大事に両手で抱え、校長室に向かった。

 

 その足取りは今にもスキップしそうなほど軽やかなものだった。

 

 

 




遅くなりました!!物凄くギリギリだった!!

でもこれでうまくいけば~~!!

…それにしても『お兄様がアイドルになる件』なのに、今の段階は『お兄様が有名になる件』だね!


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教育者の威厳

恒星炉実験の許可の裏側はきっとこうだったに違いない。
…また独自解釈ですが、温かい目で読んでくださいな♥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一高校の校長室。

 

 

 「教頭、後は頼んだ。」

 

 

 校長室で第一高校校長・百山東は第一高校教頭の八百坂に背広を着させてもらいながら、短く出張で留守にする旨を伝える。

 

 

 「はい、畏まりました。校長が不在の間はこの八百坂が校長の責務を謹んで務めさせていただきます。」

 

 

 深いお辞儀をして校長を見送る教頭に頷きを見せ、校長室を後にしようとしたその時、扉の向こう側から来訪者を告げるベルが鳴った。

 八百坂が急いでインターホンに向かい、来訪者を確認すると、校長に申し訳なさそうに話す。

 

 

 「校長、スミス先生がいらっしゃいました。…どういたしましょう?」

 

 

 百山がこれから出張だという事は、朝の職員会議で既に教師に伝わっている。学校事務に関するような事は八百坂に告げ、指示を仰げばいいが、それを知ってなおこの校長室に訪れたという事は、百山に何かを話すためにスミス先生が来たという事に他ならない。そしてそれは即ち緊急要件であり、出張に出掛ける時間が遅くなるという事。八百坂はそれを危惧して、百山に尋ねたのだった。

 

 

 「……いい。スミス先生の入室を許可する。」

 

 

 少し考える百山は、スミスを招き入れる事にした。まだスミスが赴任して一か月も経たないが、スミスが何も理由なしに突撃してくるような無責任な性格ではない事は分かっているからだ。

 

 

 八百坂に扉を開けてもらい、校長室に入室してきたスミスは、ソファに座って待っている百山に頭を下げる。さすが日本に帰化してかなりの年月が経っているだけあって、日本のマナーはしっかりとできている。

 

 

 「百山校長、突然の来訪をいたしまして、申し訳ありません。」

 

 

 「それはいい。私が出張に出掛ける前に何か伝える事があったのだろう?そこに立っていないで、ソファに座りたまえ。」

 

 

 「はい、失礼します。」

 

 

 スミスが尋ねてきた事も理解し、席に着くように言う百山に一礼し、向かいのソファに腰かける。そしてその後すぐに、達也から受け取っていた電子ペーパーを百山に渡し、説明する。スミスも百山が出張に行く事を十分に理解しているし、百山が腰かけるように言ったのも、速やかに用件を話すようにという意味が込められたものだと理解してもいたので、同時進行で説明する。

 

 

 「二年E組の司波達也君が課程外の実験を四月二十五日に行いたいという申請を先程聞いたので、私の判断で決めるべき案件ではないと思い、百山校長の判断を伺いに参りました。

  その申請のあった実験内容がそちらに記載されているものです。」

 

 

 電子ペーパーに記載されている実験内容に目を釘付けにしながら、スミスの話をしっかりと聞く百山が独り言を呟くように話す。

 

 

 「…なるほどな。彼らしい実験内容だ。また驚く事をしてくれる。…しかし安全は保障しているのか?」

 

 

 「司波君は『計算上では確保できている』と言っていますが。」

 

 

 「そうだろうな、それを含めての実験だ。だが、本当に彼はやり遂げるつもりなのか?”加重系魔法の三大難問の一つ、常駐型重力制御魔法式熱核融合炉”を。」

 

 

 百山の言葉に未だに何の実験を申請しに来たのか分からなかった八百坂が眼を大きく見開いて、驚愕の表情を取る。声が出なかったのは、自分の叫びで話がこじれてしまうのを防ぐため。

 

 

 「はい、司波君は遊び心で実験をするような生徒ではありませんし、この申請書を提出しに来た時も、彼の本気が垣間見えました。」

 

 

 あの時の事を思い出し、スミスの説明にも力強さが混じり、視線は何としてもこの実験を成功させたいという意思も含まれていた。

 そんなスミスを正面で見つめ、顎に手を当てて、少しの間考える。

 

 

 「…わかった。確かにこの実験はやってみる価値がある。生徒の熱意を教師である私が無下にする訳にもいかん。恒星炉実験を許可しよう。」

 

 

 「ありがとうございます。百山校長。」

 

 

 許可が下り、心から喜びを感じ、百山に頭を下げるスミス。しかし、百山の言葉は続きがあった。

 

 

 「ただし、先生の監督をつける事を条件にこの実験を承認しよう。そうだな…、廿楽先生にお願いしよう。スミス先生はそのサポートをお願いします。」

 

 

 「え?」

 

 

 「スミス先生のお気持ちもわかるが、まだ赴任してきて間もないスミス先生の監督というのは、難しいと思います。ここは、廿楽先生と協力し合って、生徒を支えてやってください。」

 

 

 丁寧な口調でスミス先生に告げる百山にスミスは何も言葉を返す事はなく、頭を下げて了承する。本当はそんな事はないと言いたかったが、百山が言うのも一理あると理解しているからこそ、何も言わなかった。

 ここが研究所なら、食ってかかっていたかもしれないが、ここは学校だ。自分の好奇心より生徒を主体として支えなければいけない場所だ。今回の実験も達也が持ち込んできた実験であり、生徒主体で行うものだ。それを自分も研究メンバーに加わりたいと思っていた事を見抜かれたのだ。

 

 百山の教育者としての威厳を見た気がしたスミスはいい忘れそうになっていた事を言う。

 

 

 「それで、百山校長。この実験に関しては対外秘でお願いいたします。」

 

 

 「わかった…。では、教頭。二十五日の放課後の実験室と校庭の使用許可をしておいてくれ。それとここに電子署名と申し送り書を持ってきてくれ。」

 

 

 「はい! 校長、どうぞ!」

 

 

 今まで蚊帳の外になっていた八百坂が若干待ってましたという素振りを見せたが、そこには突っ込む者はなく。八百坂に渡された申請書が書き込まれた電子ペーパーに自分の署名をし、許可証を発行する。

 

 

 「…よし、これで問題はない。他に私に話しておくことはあるか?スミス先生。」

 

 

 「いえ、全てお話しさせていただきました。」

 

 

 「なら、私はこれで失礼する。出張に行かなければいけないからな。」

 

 

 「お忙しい所、お時間いただき誠にありがとうございます、百山校長。」

 

 

 「期待していますよ、スミス先生。では。」

 

 

 八百坂に扉を開けさせ、出張に向かった百山の背中を見送ったスミスは、任務を達成したという解放感と嬉しさで一人だけになった校長室で小さくガッツポーズをし、安堵の表情を見せるのであった。

 

 

 




百山校長…、懐深い!!
やっぱり教師は生徒を見守りつつ、支えないとね!!でも、まだ百山には裏がありそう。そして八百坂教頭…、なんだろう、小物感が出てたな~~。


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有志の協力者集め その壱

さてさて、協力者がどうやって増えていったのか…。またまた独自解釈を。…いつになったら達也をアイドルにするんだよ!!

はい…、申し訳ありません!!『お兄様がアイドルになる件!!』のスピンオフストーリーの『お兄様が有名になる件!!』だと思ってください!!シュタ~~!!

あ!!逃げた~~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 校長から申請許可をもらい、生徒会室でこの実験の監督をしてくれる廿楽先生がミーティングに参加する。そして実験に使用する魔法の役割分担を終え、今日の所は来れてお開きとなった。

 

 恒星炉実験の実質的な準備期間は四月二十一日から四月二十四日までの四日間。論文コンペと比べると準備期間としても人員も限られているため絶望的だ。しかし、今回は構造物としてのエネルギー炉を作る訳ではない。その仕組みを見せるだけだ。今回の実験は基本的に魔法の実演なのであって、論文コンペのように実際に作動する実験装置を組み立てようというのではない。

 故に、まったく神田議員とジャーナリストたちの視察に間に合わない訳ではないのだ。生徒会役員とあと数人の協力者がいれば…。

 

 

 

 四月二十一日、土曜日。始業前の教室で作戦を実行する。

 

 今日は土曜日だが、授業は午前中まで行われるのだ。普段通り登校し、始業前のクラスメイトとの雑談が教室中に広がり、賑やかになっている。

 達也は学校の雰囲気が漂う教室に入るなり、早速声を掛けられた。

 

 

 「あ、達也さん、おはようございます。」

 

 

 「ああ、おはよう、美月。」

 

 

 「あ!達也く~~ん!!おっはよう!!」

 

 

 「オッス!達也!!おはよう!!」

 

 

 既に登校し、席についていた美月から挨拶され、同じく挨拶を返し、隣の席に座る。すると、達也が来たのを待っていたかのようなタイミングで、窓を開けてエリカとレオが声を掛けてきた。

 

 

 「ああ、おはよう、エリカ、レオ。」

 

 

 「ねぇねぇ!!達也君、何か面白い事しようってしてない?」

 

 

 挨拶を返した直後に、何の前触れもなくエリカが顔をニヤつかせて聞いてきた。しかし、達也は動じる事はなく、寧ろ切り出すのにいいアシストをしてくれたとエリカに感謝していた。今回の実験で有志の協力者を何人か集めたかったところだ。まずは、友人を引き込むとしよう。

 

 

 「いきなりだな。なぜそう思うんだ?」

 

 

 「ええ~~、だって達也君、昨日はずっとそわそわしているようだったし?今は嬉しそうだし? これはなんかあるって思うわよ!」

 

 

 「………なんだ、その言い方は。」

 

 

 「ちょっ、ちょっと、達也君?そんな目で見ないで!!ごめんなさいッ!!過剰表現しすぎました!!」

 

 

 エリカが聞いてきたので、その理由を矯味で聞いてみた達也だったが、乙女の反応のような言い回しをされたため、一気に興味が尽き、ジト目をエリカに向けた。その視線にやり過ぎたと悟ったエリカは慌てて謝る。しかし、エリカの言葉を裏付けるように美月も話しに加わる。

 

 

 「そうですね、エリカちゃんがそう言いたいのも分かります。今日の達也さんはなんだかいい事でもあったような雰囲気をしてますから。」

 

 

 「そうだな~、昨日からどこか落ち着きがないような気はしてたけど、今日はなんだか楽しそうな感じだもんな! なにかあったのか?」

 

 

 美月に続いてレオまでも、達也の微妙な変化を感じ取っていた。達也は普段と変わらないと思っていたが、友人たちにそこまで言われれば、認めざる得ない。

 

 

 (…やはり自分の事はまだまだ分かっていないみたいだな。)

 

 

 …と心の中で呟くしかなかった。

 

 

 

 そんな訳で、脱線しかかっていた話を戻し、達也は本題に入る。

 

 

 「実は、来週の水曜日、四月二十五日に実験をする事になったんだ。その許可が昨日の放課後に降りて、今日から準備に取り掛かる事になっている。」

 

 

 「実験ですか?いったいどのような実験をするんですか?達也さん?」

 

 

 同じ魔工科に属する美月は自分の席から身を乗り出して興味津々で近づいてくる。その反応に若干どうするべきか迷ったが、美月にこそ協力してもらいたい人員なので、そこには突っ込まない。……幸いにもここにまだ幹比古は来ていないから。

 

 

 「ああ、これが実験内容だ。」

 

 

 そう言って、いつの間に出したのか、電子ペーパーを取りだして、美月に渡す。すると、目をくぎ付けにして読んでいた美月の全身がわなわなと震えだし、上手く言葉が出てこない。美月の態度からエリカもレオも一般的な実験とは違うと認識するしかない。そして何より達也が持ち出した実験だ。美月の様子から実験への興味が膨れ上がっていた。

 

 

 「た、た、た、た、達也さん!!? こ、こ、こ、これはとても素晴らしい実験に!!なります!! わ、わ、わ、わ、私、お、お、お、お、お手伝いさせていただきます!!必要なら!何でもしますから!!」

 

 

 「美月?」

 

 

 「興奮して、思い切りどもってたわね…。」

 

 

 そしていきなり顔を勢いよく上げたかと思ったら、達也に突進にも近い勢いで迫り、達也の手を両手で握って、目をキラキラさせ、一生懸命に協力すると訴えてきた。

 その光景は傍から見れば、ずっと想っていた人に一生懸命に告白したような雰囲気だった。突然声を上げた美月に雑談していたクラスメイト達が視線を向け、達也たちに注目している。そして、今度は視線をずらして頬を赤らめたり、友人とひそひそと話しだしたりした。特に女子生徒は驚きの表情をして、

 

 

 「え?柴田さんって吉田君の事が好きだったんじゃないの?」

 

 

 「司波君に乗り換えちゃったのかしら?」

 

 

 「ああ、それなら納得かも。吉田君より司波君の方が頼りになりそうだしね。」

 

 

 「やっぱり達也様の魅力は素晴らしいわ~!!」

 

 

 「達也様?」

 

 

 「あ、いえ、ちが…」

 

 

 「そうだよね!!達也様って呼ばないとあの才能を持つ達也様を表現できませんもの!!」

 

 

 「「「「「「キャ~~~~~~!!!」」」」」」

 

 

 女子らしい恋愛話を膨らませるのであった。

 

 

 そうとはまだ気づかないで、自分がエキサイトしている事にも自覚がない美月はただ、達也からの返事を目を瞑って、達也の手を握る手にも力が入り、祈っていた。

 

 

 その姿にエリカとレオは目を丸くして、罰が悪そうに苦笑いをして固まっていた。そしてもう片方の当事者である達也は、この状況にどうすればいいのか悩み、苦笑いをしようとして、失敗したような顔になって、美月の顔を見ていた。

 

 

 




いや~~~!!

この状況!!やばいよ!!もしこんな状況を知られたら~~!!吹雪じゃなくて、氷柱が落ちてくる~~!!


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有志の協力者集め その弐

何とかしないと、誤解が生まれてしまう!!


 

 

 

 

 

 美月の震えが手を通じて伝わってくるのを、若干戸惑い、持て余していた達也はこの何とも言えない居心地の悪い状況に終止符を打つために、口を開く。

 

 

 「美月、ありがとう。早速で悪いが、今日から手伝ってくれないか?」

 

 

 「は、は、はいっ!! ありがとうございます!!達也さん!!それで、私は何をすればいいんですか!? 」

 

 

 苦笑しそうになるのを何とか抑えて、美月を宥めるようにいつもより力を入れた笑みと口調で協力を取り付ける。達也から了承を受け、目をキラキラとさせ、嬉しがる美月は達也の手を握ったまま、更に前のめりになる。その距離は十数センチあるかないか…。どちらかが顔を動かせば間違いなく事故が起きると断定できる距離と言えば分かるだろうか…。しかも、美月の豊かな巨乳が美月に握られた手に当たりそうなほどにあった。

 さらに悪化してしまった状況に傍観していたクラスメイトからのざわめきは大きくなり、嫉妬と羨望の眼差しが注がれる。

 そして、最も近い場所で二人を見下ろす感じで目撃する事になったエリカとレオは、エキサイトした美月を意外感で未だに固まっていた。…いや、二人ともそれぞれ思う所は違う。レオは、この後どうなるのかという興味が占めて、食い入るように見つめる。

 それを視線で察した達也は、レオに視線だけで助けを求めるが、レオは大きく首を振るだけだった。…もちろん横に、だ。

 しかし、達也の助け舟を出したのは、エリカだった。

 

 

 「美月~? 落ち着こうよ~。 達也君が困ってるよ~。まずは深呼吸しなさい。」

 

 

 「はぇ? ………はっ! た、た、達也さん!ご、ごめんなさい!!」

 

 

 エリカが窓から身を乗り出して、達也と美月の間に腕を差しこんで、美月を我に返す。そのお蔭で美月は達也の手を握っていた事や急接近している事などがようやく認識し、うさぎ跳びの如く飛び跳ねて離れ、自分の席に座ったかと思ったら、余程恥ずかしかったのか、真っ赤になった顔を両手で覆って頭から湯気を出すのであった。

 

 

 「やれやれ、やっと美月が元に戻ったな。…一時はどうなる事かと思ったぜ。」

 

 

 「…その割には、随分と楽しんでいたように見えたがな。…レオ。」

 

 

 「そ、そうか? 俺は至ってそんな事はしてないぜ?」

 

 

 ばつが悪そうに目を逸らすレオを顔をあげて見つめていた達也は、やっと解放された危機感からか、肩の力を抜く。そして今度はエリカの方に視線を向け…ようとはしたが、寸手で止めて、美月に視線を固定する。

 達也は、今度はまた違った危機感に直面していたからだ。

 

 エリカは窓から身を乗り出したままで、上半身が完全に教室の中に入っていたのだ。達也の席は窓がある壁と密着している。すると、もう分かる人には分かると思うが、エリカの柔らかい程よい胸が達也の顔の横にあるのだ。さっきは難なく躱し、エリカの胸が達也の頭に乗っかる…という健全な男子なら羨ましがるシュチュエーションを回避した達也。しかし、美月の暴走を止めてくれたエリカに、「胸が当たりそうなんだが、エリカ?」等とは無神経にもほどがあるというものだ。

 

 美月に今回の実験を協力してもらうだけなのに、達也にとっては頭痛が起きそうな展開が続くので、(男子生徒たちにとっては朝から『楽園』である)早くも協力者を募るのは止めようと思い始めたその時だった。

 

 

 「司波君、なんか面白そうな話をしているみたいだね。僕にも教えてもらってもいいかな?」

 

 

 「おはよう、十三束。さっきからいたと思うが?」

 

 

 達也の席の後ろの席である十三束から声を掛けられたのだ。

 

 

 「おはよう。うん、そうなんだけど挨拶するタイミングを逃したし、さっきの柴田さんの事もあるしで、気になっちゃって…。」

 

 

 そう言いながら、チラと美月の方に十三束が視線を向ける。達也も同じく視線を向けると、そこには顔を俯かせて手を握りしめた状態で膝の上に置き、居た堪れない心境だと言われなくても分かるほど羞恥の世界の住人となっている美月がいたのだった。

 そして、そんな自分に視線が集まっている事に顔をあげなくても感じ取った美月は更に縮こまった。

 

 

 「はぅ~…。」

 

 

 

 




待て待て待て!!!
更に事態が悪化してどうするんだよ~~!!そりゃ!ヘムタイやフフフ…な展開が好きな人にはいいかもだけどさ!! こんな事をあ、あの子に知られたら…!

それにまだエリカは姿勢を改めてないからね!!違った意味でのハーレムな展開だよ!達也様~!!


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有志の協力者集め その参

カオスな雰囲気になりませんように!!



 

 

 

 

 

 

 羞恥に耽っている美月をこれ以上見つめるのも悪い気がしたので、視線を逸らした達也と十三束は、なんだかんだで逸れてしまった実験の話に戻す。

 

 

 「それでどんな実験を考えているのかな?司波君は。」

 

 

 「ああ、これがその実験の内容だ。見てみるか?」

 

 

 「もちろん見させてもらうよ!」

 

 

 ウキウキ感が隠しきれていない十三束は、電子ペーパーを達也から受け取り、深呼吸を数回して、視線を落とす。そんなに緊張して読むものなのか?と達也は思ったが、教室中が一気に沈黙し、十三束の読む電子ペーパーに釘付けになっているのを感じ取った達也は口にはしなかった。

 

 そしてやっと顔をあげた十三束の顔は唇が引き攣って、笑みを作ろうとして失敗した(要は変顔だ)顔をした。そして、いきなり自分の頬を抓り、痛みを実感したような態度を取る。

 

 

 「痛い…。…って事は、これは夢じゃない? ぼ、僕はとんでもないものを目の当たりにしているのか…?」

 

 

 抓った頬を擦って、再び電子ペーパーに視線を落とす。そしてやっぱり現実だと思考が正常に働きかけてきたところで、十三束も前のめりになって目をキラキラさせてきた。達也は「もうこの体勢にならないといけないほどの衝撃なのか?」と美月やエリカに続いて、十三束まで前のめりになる現状に本格的に頭痛を感じ始めてきた。

 

 

 「司波君…!やっぱり君は凄いよ…!これだと僕たち魔法師の未来も明るくなるところか、激震な進歩の懸け橋になるよ!!

  それで…、司波君が良ければなんだけど、僕もぜひ協力させてくれないかな?」

 

 

 小柄な体に目をキラキラさせて拝むように手を合わせて頼み込んでくる十三束に達也は苦笑いしそうになるのを必死に堪える。そして、返答する。

 

 

 「十三束なら、喜んで歓迎するよ。寧ろ短い時間だから、ハードなスケジュールになるのは申し訳ないが、それでもいいなら協力してくれないか?」

 

 

 「そんなの、この実験が成功すれば、関係ない!嬉しいよ!ありがとう!!」

 

 

 達也から嬉しい言葉をもらって、歓喜に満ちる十三束は、組手の後に勝利者を称えるように、握手を求めてきた。達也もそんなに悪い感じはしなかったため、握手に応じる。

 

 

 「はぁ~…、良いですね…!」

 

 

 達也と十三束の握手を見て、ようやく羞恥心から克服して現実に戻ってきた美月が正面から羨ましそうに呟いた。

 達也は、握手がそんなに羨ましがることなのか分からなかったが、クラスメイト達も一緒になって、何度も頷くのを見て、口を閉ざす事に決めた。

 

 そして羨ましそうに見つめられているもう一人である、十三束はその理由に気づき、ニコッと美月に微笑むと、達也との握手を止めて、美月に話しかける。

 

 

 「柴田さんも司波君と握手してみたら? 同じ協力者だし、ここは結束を高めておいたらやる気も上がるかもしれないよ?」

 

 

 前者の方は美月に語り、後者は達也に語った。

 

 

 美月は驚き、無理ですと小さく手を振っているが、嫌がっているようには到底見えないし、断りきれていない。達也の方はというと、握手する事でやる気が上がるというのも思えなくないが、自分には理解しがたい感情面が関わる事なので、もう苦笑するしかない。しかし、握手自体嫌という訳ではない。それで、美月が頑張れるなら、達也にしても嬉しい誤算なのだから。

 

 

 「…美月、よろしく頼む。」

 

 

 達也が美月に手を差し伸ばし、握手を求める。その手を見て、美月ももそもそしていたが、覚悟を決め、達也の手を握りしめる。

 

 

 「こ、こちらこそ精一杯達也さんの御力に添えるように頑張りますっ!」

 

 

 握手していない手で胸を当てて、感動をしみじみと感じながら、心の中で達也に言った言葉を裏切らないように身体に刻み込んだ。

 

 

 こうして、美月と十三束が恒星炉実験の有志の協力者となってくれた。

 

 

 美月と十三束は実験に携えるという事で、満面の笑顔が止まらない。昨日のあずさと五十里がまさにしていた笑顔と同じく夢見心地気分を感じ、使命感に駆られる。

 

 

 それを窓から傍観していたエリカは頬を膨らませて、思い切り拗ねていた、のは乙女心が反応したか…?

 

 だって、膨らんだ頬には、若干赤く染まっていたから。

 

 

 

 

 

 




達也にとっては、理解しがたい感情面が多かったかな?でも二人捕まえたね!!これ書いていて楽しいのは、女子キャラの内なる乙女を解放させてあげられる事だね!!
次は、エリカの番かな?


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有志の協力者集め その肆

今度はエリカ視点からの乙女モード…突入!!させてやるぞ!!


 

 

 

 

 美月が達也と握手しているのを、羨ましがるエリカ。友人が嬉しそうなのはいいが、先程から傍観一方のエリカはなんとなく面白くない。そして、エリカの目には、美月の手に達也が握って、笑いかけているという錯覚を映し出していたのが更に拗ねる原因になっていた。

 

 …もちろん達也はそんな事はしてはいない。美月に握手させたまま、ブンブンと上下に振り回されているだけだ。手を離す事は容易だが、それだと美月の手が勢いありすぎて脱臼…まではいかなくてもそうなるのではないかと思わせる振り方をしている。なら、美月の身に降りかかりそうな危険を回避するには、大人しく振り回されている方がいいだけだ。実験で重力制御魔法を担当するより、美月が腕を勢いよく上げ過ぎないように制御した方が何倍もいいと瞬時に計算した結果だと言えば、これくらいは造作もない。

 

 だけどエリカには、二人がいい感じに見えてくる。

 

 徐々に拗ねてきたエリカは、つい本音を漏らす。

 

 

 「いいな~…、あたしも達也君と手を繋ぎたい…。」

 

 

 (だって、さっきは達也君にあっさりと避けられてしまったし、全然あたしの顔を見ないし、もっと構ってくれてもいいのに…! あたしだって、窓から身を乗り出すなんてことはしないわよ…!せっかく達也君をあたしに振り向かせたかったのに…!)

 

 

 達也に自分の胸を当てようとしていた事が実は故意だったと心の内で暴露したエリカだったが、もちろん達也がそれを知る訳はなく、ただ不完全燃焼のヤキモチを焼くだけで始業のチャイムが鳴るのを待つだけになるはずだった。

 しかし、訓練で物音や人の声を聞き分けられる達也は、エリカが漏らした本音を聞き取った事で、事態はそうならずに済んだ。

 

 

 「ん?エリカも握手するのか?美月、エリカもしたいらしいから、もういいか?」

 

 

 「え?は、はい。ありがとうございました、達也さん。エリカちゃん、次良いよ。」

 

 

 「はひ? あ、あたしは別にそんなのは…」

 

 

 「遠慮するな。エリカに助けてもらったのに、まだちゃんとお礼できていなかったからな。…今日の放課後にでも、ケーキを奢ってやるからとりあえず今はこれで勘弁してくれないか?」

 

 

 そう言って、達也が手を差し伸べてくる。突然の展開に目を逸らし、若干頬が赤く染まる。

 

 

 (何!?この状況!! 達也君、あたしの声が聞こえてたって事!!?そんな~~!!

  でもなんだろう…。今は真正面から見られていて嬉しいと同時に恥ずかしい…!!あたしが何で拗ねていたかなんて達也君は気にもしないだろうし、分からないと思うけど。

  だけど、一瞬でもあたしに意識が向いてくれたんだから!! もうヤキモチなんて吹き飛んでいったかも♥

  …まぁ、今回の「達也君にさりげなく胸を当てて、動揺させよう作戦!」は失敗しちゃったけど、これを教訓に次は必ず達也君を驚かせて、あたしに意識を振り向かせてあげるんだから!!待ってなさい!達也君っ!!)

 

 

 吹っ切れたエリカは、達也に向き直った時には、挑戦的な笑みをしていた。それに達也は突っ込む事はせず、エリカは乗り出していた身体を元に戻し、達也と握手するために腕を伸ばす…。

 

 

 「ふぅ~、仕方ないわね~。別にあたしには理由なんてないんだけど、してあげてもいいわよ?」

 

 

 「お前、なんでそう上から目線なんだ?それにしたくないなら、断ればいいだけじゃねぇ~か?」

 

 

 「あんたは黙っておきなさいよ、馬鹿っ!!」

 

 

 「痛ってぇ~~~!!!」

 

 

 エリカの横にいたレオに正論を言われ、危うく達也との正々堂々としたスキンシップを壊されそうになり、エリカはレオの顎に見事な蹴りを喰らわせ、数メートル飛ばせた。そして、レオが悶絶している中、今の出来事がまるでなかったかのように笑顔で改めて向き直るエリカは、今度こそ達也と握手するために腕を伸ばす。

 

 

 「あれ?レオ?どうしたんだい、朝から廊下で倒れて…。あ、エリカも来てたんだね。おはよう。………エリカ?」

 

 

 「……何で”今”ここに来るのよ。せっかくいいところだったのに…。」

 

 

 「エリカ…?なんか顔が逝ってる…! 僕が一体何をしたって言うんだ…!」

 

 

 「そうやって、呑気にしているから美月が心変わりするんでしょうがっ!!」

 

 

 「え!?私ですか!? 私は別に…!!」

 

 

 「朝から賑やかだな…。」

 

 

 

 廊下の奥から現れたのは、一科生となり、教室も離れていた幹比古だった。そしてタイミング悪い登場で、エリカからバッシングを受ける事になるのだった。

 

 そんな賑やかな騒ぎのお蔭か、達也の有志の協力者を募るのは一旦終結する。

 

 

 …始業のチャイムが鳴り響き、未だ悶絶したレオの首を掴んで、クラスに戻るエリカと意味も分からずに弄られた幹比古が達也たちから離れていく。

 

 美月はエリカに連れて行かれるレオを心配していたが、達也は気にした素振りもなく、授業に集中する。

 

 

 そして、幹比古は授業を受けながら、エリカが言ってた”美月の心変わり”という言葉に、今日一日悩み続けるという過ごし方をする事になる。

 

 

 




…幹比古、ドンマイ。
まさかあそこで出てくるとは…。間が悪いとしかいう事はないような?


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有志の協力者集め その伍

終わりだと見せかけて、まだ続きます!だってまだ残ってますからね~。


 

 

 

 

 

 最初の授業が終わり、一斉に開放感を出して、友人と話し出すクラスメイトの声が聞こえだした中、達也に一番に声を掛けてきたのは、十三束だった。

 

 

 「司波君、どうだった?さっきの小問題、解けた?」

 

 

 「ああ。課題としては悪くない問いだったな。スミス先生が来たからか、内容もレベルアップしている。これなら魔工師を目指す者にとってはプラスになるだろうな…。」

 

 

 達也は先程の授業で課題として出された問いを出して、感想を述べる。しかし、十三束は苦笑する。

 

 

 「…さすが司波君だね。僕は、どの説を当てはめたらいいか分からなくて、悩んだんだよ?でもどの説もいまいちじっくり来なくて、結局上手く説明できなかったよ。これじゃ、まだまだだな…。」

 

 

 「そんな事はないと思うぞ?この問いは様々な説が論じられているが、元を辿れば、本質は一つになるんだ。十三束は様々な説にある違和感を感じたのであれば、この問いにもすぐに理解できるさ。」

 

 

 「…どういう事かな?」

 

 

 それから、達也の先程の課題の解説が行われる。その瞬間、今まで教室中に響いていた話し声が一斉に静まり、クラスメイト達は興味がないという態度を装いながら、達也の解説に耳を澄ませた。十三束だけでなく、達也以外のクラスメイト全員が先程の課題が理解できなかったからだ。…その中には、達也たちの方へ身体を向け、電子ペーパーでメモを取ったり、達也の解説を裏付けるようにして調べたり、熱心に耳を傾ける美月の姿もあった。

 

 

 「…………つまり、この問題の趣旨は、これまで唱えられてきた様々な説に対し、それぞれどのようなアプローチをして、そこから新たなる問題を導き出せるかというものだ。何も”説明しろ”と言われても、答えを求めている訳ではない。そこまでの考えをどう導き出したか…、それが聞きたかった”答え”という訳だ。」

 

 

 「…なるほど。僕たちは答えを導かなければいけないという思考で見ていたから、どの説が正しいという考えで課題に目を通した時点で間違っていたんだね…。」

 

 

 「無理もない。まだこの課題にとっては、まだ研究されているものだからな。一介の高校生に解けるものでもないさ。恐らくだが、スミス先生はこの課題で俺達の実力を計るためにこの課題にしたんだろう。だから気にするな。」

 

 

 「ありがとう。司波君。」

 

 

 「さすが、達也さんです。これほどの難易度の高い課題を授業時間内に考え、解いてしまうなんて…。何でも達也さんは知っているんですね。もしかしたらこの課題の”答え”も理解していたりして。」

 

 

 解説を終え、十三束との会話も終了した。そこに今まで達也の解説に耳を傾けていた美月が尊敬のまなざしで達也を見て、話しかける。

 しかし、美月の言い様に、達也は警戒心が高ぶった。

 美月がなにかを意図して言ったわけではないのは分かっている。純粋に話しただけだ。しかし、そうとは分かっていても、思いもよらない奇襲を受け、達也の内心は一気に冷え切った。

 

 美月が言ったとおり、達也はこの課題の”答え”を既に導き出し、理解しているからだ。しかし、これを発表すれば、長年研究され、多くの仮説を作られてきているが故にもしこの事を知られれば、注目される事は必須。だから、隠しているのだ。……基本コードと同じく。

 

 

 「……………いや、俺もそこまではたどり着いていないよ。この課題を解決するためには、まだ解き明かされていない部分も多く存在する。それがある限り、理解する事は出来ないだろうな。

  これはあくまで、一般的に魔法を研究する人間の考えを読み解くのに、使われるものだから、そこまで求めていないよ。」

 

 

 「そうですか…。達也さんなら、答えを分かっていると思っていました。」

 

 

 「俺は一介の高校生だぞ? 俺にできるのは、仮説に隠された疑問を見つけ出す事だけで精一杯さ。」

 

 

 お手上げといったふうにため息を吐く達也を見て、美月はそんな事はないと思いつつも、達也の言葉から嘘を見つける事も出来ないし、まだ課題に対して理解できていない部分もあるのは事実。美月は頷いて、なぜだか励ます。

 

 

 「大丈夫ですよ、達也さん! 達也さんならきっとこの課題を解決できますから!!」

 

 

 「…有難う。」

 

 

 純粋に励ましてくれる美月に申し訳ないと思いつつも、真実を言う気もない達也は、一言礼を言うだけに留めた。

 

 

 ここで終わっていれば、すっきりしたいい感じの友情秘話として、一つの些細な思い出になったかもしれないが、そう簡単には終わらなかった。

 ……斜め後ろから聞こえてきた憎らしさたっぷりの言葉で、事態が悪化した。

 

 

 

 「何よ、それ…。嫌味なの? まるでそいつがこの課題を全て解決する事が出来るみたいな言い方ね!」

 

 

 達也と美月、十三束はその声が聞こえた斜め後ろ…、憎々しげな視線を投げてくる平川千秋へ振り向く…。

 

 

 そして、達也と千秋の視線がぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 




…うわっ、ついに千秋が喧嘩を売ったか? これから一体どうやって千秋が協力するって言うんだよ!!?

更なる火花しか散ってないよ!!


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有志の協力者集め その陸

達也へのライバル心、砕けないようにね~。


 

 

 

 

 

 

 

 憎々しげに睨んでくる千秋に半ばあきれつつも無視すれば更に面倒になると思った達也は、振り返って話しかける。

 

 

 「平河、何の用だ?もうすぐ授業も始まるし、早く終わらせてくれ。」

 

 

 達也の言い分から、「お前に構う時間はないから、さっさとしろ」と言われたと感じた千秋は更に唇を噛み締め、怒りを募らせる。

 

 

 「ふん!あんたが何をしようかなんて興味ないけど、そうやって私達を見下すような言動は止めてほしいわね! あんたじゃなくても、世の中では立派な研究成果を発表する人たちだっているんだから!自分が特別だって思いあがらない方が身のためよ!

  あんたを倒すのはこの私なんだから!!」

 

 

 言いたい事を言いきって、千秋は息を切らしている。そんな千秋を見て、クラスメイトは呆然となる。達也に真っ向からライバル宣言した千秋に驚いたという事もある。しかし、あの達也に宣戦布告すること自体が馬鹿らしく感じるのに、敵愾心が強い千秋にクラスメイト達は同情と危険性を感じるのだった。

 

 

 「……それで?」

 

 

 しかし、達也はクラスメイト達との考えとは違って、千秋のライバル宣言を受け入れた上で、一言いい返す。意外な一言に千秋は目を大きく瞠って言葉を失う。

 

 

 「え?」

 

 

 「それで、具体的に俺をどうしたいんだ?」

 

 

 達也は千秋から挑戦状を突きつけられても、うるさい虫が飛んできた…程度の感覚しかなく、痛くもかゆくもない。しかし、そこまで言うなら、何か考えて言ってきたのかと思い、その続きを聞いてみたいという興味に駆られて問いかけた。

 しかし、実際に千秋は何も考えてなかった。

 

 ただ、悔しかったのだ。

 

 まだ新学年が始まったばかりだが、さっきの課題の解説を聞かされ、そんなのは言い訳にしかならないと思った。自分でも悩んだ課題を躊躇することなく、解説した達也が腹が立った。しかもその解説が驚くほど分かりやすく、もう理解できて頭にしっかり書き込めたほどだった。それが更に悔しさへと繋がり、今朝の美月と十三束達とのやり取りも思い出して、先に進み過ぎている達也を負かしてやりたい、ぎゃふんと言わせたいと思って、感情が爆発し、気付けば宣戦布告していたのであった。

 

 

 「そ、それは…」

 

 

 「……まさか何も考えずに喧嘩を売ってきたのか?」

 

 

 「!!」

 

 

 図星を突かれ、顔を真っ赤にする千秋を見て、達也は一瞬にして興味が尽きる。千秋に向けていた視線も逸らす。それが千秋には馬鹿にされていると思い、憎らしさが募る。千秋の放つ黒いオーラを感じ取ったのか、美月はオロオロと、達也と千秋を交互に見つめる。

 

 

 

 

 しかし、張りつめられた緊張感から救ってくれたのは、十三束だった。

 

 

 

 「平河さん、大丈夫だよ。僕がお願いしてあげるから。」

 

 

 「「「………え?」」」

 

 

 「司波君、平河さんも今回の実験に協力させてあげてもいいかな?」

 

 

 「………なぜ?」

 

 

 突然の十三束の言葉に耳を疑う達也。

 

 自分の聞き間違いなのか?

 

 いや、十三束の顔は何かを企んでいるような表情ではない。一体どういう事だ?

 

 

 達也の当然の疑問の答えは、本人から伝えられる。

 

 

 「え?だって、平河さん、今朝の話を聞いてて、手伝いたくて話しかけたんだよね?だから、そのアシストをしたんだけど…?」

 

 

 首を傾げて、話す十三束に、達也も、美月も、千秋もどう言葉を返したらいいか分からず、固まるのだった…。

 

 

 

 




天然十三束のお蔭で場の空気が~~!!いい感じのようで、悪い感じじゃない!!?

原作での「無知の善意から千秋を引き込んだ」ってフレーズがぴったり!!妄想がここまで激しくなってしまったけど!!


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有志の協力者集め その七

ここでまた乙女が登場…っと。


 

 

 

 

 

 

 

 場を取り持とうとした十三束の気遣いに、達也は頭痛を感じる。

 

 十三束はなぜ千秋が達也に敵愾心を向けているのかという理由は知らない。純粋に魔法工学を学ぶ魔工師を目指す者同士、負けられないのだろうと考えているからかもしれない。しかし、それならそうと、ビリビリとするような空気を発しはしないだろう。

 現に、千秋は十三束に気づかれない程度で睨みつけている。美月はこの場をどう沈めればいいのかと様子を窺っているが、達也としては口を開かないでほしいと思っていた。十三束と同じく、美月も天然な部分があるから、事態がさらに悪化しそうだと思ったのだ。

 

 

 「何か面白そうなことになってるじゃない~?達也君?」

 

 

 しかし、窓を開けて加わってきたエリカの登場で、この事態は更に悪化する。達也はエリカの登場により、こうなるなら、美月に任せて見たらよかったと後の祭りな事を考えるのだった。

 

 

 「エ、エリカちゃん! どうしたの?」

 

 

 「え~、だって、隣の教室からでも聞こえてたわよ~。達也君に意味わからない事言ってたのもばっちり~。」

 

 

 皮肉が含まれたエリカの口調で、千秋が一層唇を噛む。それを視界の端に入れて、にんまりと笑うエリカだが、目だけは鋭い視線を帯びていた。

 エリカは、元々人とそれほど関わりを持つような人物ではないが、それなりの付き合いはあるし、人の性格を見極める洞察力もある。それらは剣術での特訓で自然と身についたとも言える。そんな表向き社交性のエリカでも、未だに達也に詫びを入れないばかりか、自分勝手な理屈を突きつけてくる態度を改めようともしない千秋が嫌いだ。友達になってくださいと言われても、絶対嫌だと正面切って言えるほどに。

 

 

 (前から気に入らなかったけど、今年達也君と同じクラスになってからか、余計憎々しげにぶつかってきて…。何様のつもり…!

  お門違いの逆恨みをぶつけておいて、達也君に謝らないなんて、人間としてどうなのよ!!前は、達也君に止められちゃったけど、あの子が喧嘩売ってくるのなら、私が代わりに買ってやるわよ! 根性を叩きのめしてあげるんだから!!)

 

 

 闘志を燃え上がらせるエリカは、大きく目を見開いていく。

 

 

 「それで司波君、平河さんを協力者に入れてあげてもいいかな?」

 

 

 十三束がなんとか二人の火花が激しく散っているのを宥めようと言った台詞に、エリカが驚いて、達也に視線を向ける。

 

 

 「ええ!? 達也君、あの子を協力者に入れるつもりなの!?」

 

 

 「……俺はそれでも構わないとは思っている。」

 

 

 仕方ないという感じで酷薄な笑みをエリカにだけ見せる達也を見て、投資は削がれる。しかし、不満はまだ残る。

 

 

 「…そんな~、達也君、また自分勝手な思い上がりをして、足引っ張ってきたらどうするの?………前の事もあるし。」

 

 

 エリカはわざと聞こえるように、千秋が去年の論文コンペで相手が敵国のスパイだと知りながら手先となって、周りに迷惑をかけた事を抽象的にした言葉で達也に言った。

 

 千秋がスパイだったと知るのは、一部の人間だけだ。千秋はもしかしてばらすつもりなのかと焦ったが、エリカはそんな無駄な事はしない。

 ただ、まだ許したわけじゃないし、また馬鹿げた真似をするのなら、痛い目に遭わせてあげるという、鋭い視線を付け加えて、エリカの意思を伝えたかったのだ。

 

 

 またしても、虎か豹を思わせる獰猛な美を帯びたエリカの姿に、達也はもっと鑑賞してみたいと思ったが、そろそろ次の授業が始まるし、千秋がいれば効率が上がるのは間違いない。達也はまた今度にしようと、エリカの頭を優しく撫でて、宥める。

 

 

 「心配いらない。平河なら自分が何をするべきなのか、理解できるはずだしな。それに、この機を使って、俺に実力とやらを見せてくれるかもしれないだろ?」

 

 

 達也の言葉に、放置されかかっていた千秋の闘志に火が付き、達也が提案した実験に協力するのは癪に障るが、自分の腕前を披露して、活躍してみせることをできると考えると、このチャンスを見逃すわけにはいかないと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

 

 「そこまでいうなら、私も協力してあげるわ。私だってあなたに劣っていないって事を証明してみせるんだから…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 授業のチャイムが鳴り、みんな教室に戻ったり、席に着き始める。エリカも千秋の言い方に不満を募らせるが、授業が始まるため、教室に帰っていくのだった。

 

 

 

 こうして、協力者がまた一人増え、残り少ない期間での準備が始まりつつあった。

 

 

 




エリカは達也に詫びを入れない千秋が大嫌いなんだよね~~。道理を欠いた態度にも嫌気が差しているし、好意を抱いている達也を潰そうとしたしで…。

エリカの気持ちすっごく分かる!!でも、千秋の小物感が半端ないのはどうなんだろう…。


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有志の協力者集め その八

ハラハラする空気が流れていたからね…。ご飯でも食べて落ち着きましょう!!…って、まだ不完全燃焼をしている人がいるってばよ~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 午前中の授業を終え、いよいよ実験の準備に取り掛かる………前に、食堂で昼食をとり、気分転換をする事にした達也たち。

 

 空いている席を見つけて、座り、まだ授業で遅れている深雪を待つ。

 

 

 「…あのさ、達也。………助けてくれ。」

 

 

 「………僕からもお願い。」

 

 

 恒星炉実験の内容を見て、不備がないかを確認がてら電子ペーパーで読んでいた達也にげっそりした顔で助けを求めてくるレオと幹比古がいた。

 

 二人ともこの後、部活や風紀委員会の会議&巡回があるため、一緒に昼食をする事にしたのだが、判断を間違えたと思う出来事が今、レオたちに降りかかっていた。

 

 

 「………何?言いたい事があるなら言えば?」

 

 

 抽象的な助けを求めているレオたちの反応に、その原因を作っている張本人が口を開いた。その本人から発せられる怒りのオーラが炎となって大きくなったように見える。朝からといい、エリカと関わって痛い目に遭っているレオと幹比古は、これ以上とばっちりを受けるのは勘弁と思っている。そのためか二人とも食事のペースが速い。いつもは落ち着いて食べている幹比古でさえ、この場からの離脱を図るためにレオと同じ速さで食べている。しかし、不機嫌MAXのエリカは育ちの良さが表れている洗練とした箸使いに綺麗に食べている。いくら自分達が食べ終わると言っても、エリカがこの調子だとどうも抜け出すのが厳しく思えた。終いには、エリカから「行儀が悪い」とか言われて、怒りの矛先を向けられる可能性だって高い。

 レオと幹比古は、エリカが不機嫌な理由を知ってそうな達也になんとかしてもらおうとしていた。ちなみに、美月はエリカと千秋の睨み合いが強烈的だったのか、気を休ませるために食事は控えて、この場にはいない。達也は、溜息を吐きたいのを堪えて、エリカに話しかける。

 

 

 「…エリカ、もう機嫌を直せ。レオも幹比古も怯えているぞ?」

 

 

 「あれ~、あたしってそんなに機嫌悪そうに見える~?」

 

 

 「エリカを知っている者なら、分かるってくらいだかな。でも、いくらなんでもやり過ぎだ。俺は言った筈だ。『心配いらない』と。喧嘩を売ってきたとしても、子犬が甘噛みしてきた程度だろ? そんなものにまで構ってやるつもりもない。

  だから、いつも通りでいてくれ。」

 

 

 「……分かったわよ。あたしも首突っ込み過ぎたし、ごめんなさい…。」

 

 

 達也に申し訳なさを感じ、頬を赤く染め、目を少し逸らす。出しゃばりすぎたと自分でも思っていたからか、すぐに自身から放っていた不機嫌オーラは嘘のように消えた。

 レオも幹比古もほっと安堵し、食事を続ける。

 

 

 「ごめんなさい、お兄様。遅くなりました。」

 

 

 「達也さん、ごめんなさい!私の所為で…。」

 

 

 「ほのかは悪くない。あれは、全部あいつの所為…。」

 

 

 「でも…!」

 

 

 エリカの気分もすっかり元に戻り、雑談をしていると、深雪、ほのか、雫がやってきた。ほのかは申し訳ないという顔で何度も謝るが、それを深雪と雫が宥める。

 

 

 「大丈夫だ、遅くなることは事前に連絡してくれていたし、それほど待ってないよ。」

 

 

 達也が優しく微笑み、安心させる。

 

 

 「でもほのかの様子が尋常じゃないんだけど? なんかあった~?」

 

 

 しかし、エリカはどうやら遅れた理由が気になったようで、問いかける。それに深雪と雫が顔を見合わせると、深雪が理由を話す。その時、若干眉が吊り上ったのを達也は見過ごさなかった。

 

 

 (……嫌な事でもあったんだな。)

 

 

 深雪が何でストレスを感じていたかは、今は分からないので、黙っている達也の内心は、深雪が魔法を暴発させないかという心配一身に染まっていた。

 

 

 

 

 




深雪がストレスを感じる時って、大体決まっているよね~…。
……なぜ、こんなにも嫌な流れが続くんだろう?…ストレス社会だからか!!?

次回で終わらせて、あの子を出すしかない!!


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有志の協力者集め その九

こんな子が近くにいたら、抱きしめたくなるのはうちだけだろうか?


 

 

 

 

 

 

 達也が深雪の心配をしている事を知らずに深雪が遅れた理由を話す。

 

 

 「実は、先程の授業が実習でしたので、二人ペアになって行う事になったのですけど…。ほのかのペアになった方が……」

 

 

 「森島だったんだ。」

 

 

 深雪が言いにくそうにしているので、雫も緊急参戦して、説明に加わる。ただし、表情はいつも通りにポーカーフェイスだが、口調では機嫌が優れないのは明白だ。

 

 

 「雫~!! いいよ、わたしだって失敗しちゃったんだし、森田君の機嫌が悪かったのも無理ないよ!」

 

 

 「でも、ほのかが魔法を乱したのは、森山が自棄になってペースを乱してほのかの魔法にまで干渉してきた所為。」

 

 

 「そうよ、ほのか。ほのかは森高君のミスをカバーしようと立て直しを図っていたのに、それを意固地になってさせなかったのは、間違いなく彼の愚かな判断としか言えないわ。だから、あなたが気に病む必要は無いわよ。」

 

 

 深雪にしては、この場にいない人物に対し、毒舌だったのには、エリカもレオも幹比古も驚いた。本人の耳に入ったら、しばらくは落ち込むだろうと思えるほどに。

 

 

 「え~っと……、つまり、ほのかのペアだったその、森下だっけ?そいつが足を引っ張ってくれた所為で、遅くなったって事だよね?

  なら、あたしもほのかが責任感じる必要ないと思うんだけど?」

 

 

 エリカも話を聞くあたり、なんでほのかがそこまで自分も悪いと言うのか、理解できなかった。ほのかは実習もいい成績を収めているし、相手の失敗に対して執着を見せないはずだ。しかし、エリカだけでなく、理由を聞く全員が疑問に思った事なので、全員の視線がほのかに集まる。そして、涙目になるほのかが達也に全身を正して前を向き、謝りだす。

 

 

 「達也さん!! ごめんなさい!私が森川君たちに達也さんが実験をすることを話してしまったばかりに、こんな事に…!」

 

 

 ほのかが頭を下げて必死に謝る。

 

 

 それで、一同は全てを悟った。

 

 達也が大掛かりな実験をすると知った森本が、嫉妬に燃え上がり、自分も闘志を燃え上がらせた結果、ほのかの足を引っ張り、空回りしてしまったという事だったのだ。

 

 容易に想像できる展開に、深雪が意外にも毒舌を醸し出した理由もわかり、達也は苦笑いを堪えるしかない。

 

 

 「別に構わないさ。詳細の方は話していないんだろ?なら、ほのかが責任を感じる事でもない。もう気にするな。」

 

 

 「はい…、達也さん。」

 

 

 達也から「もう気にするな」と言われたほのかは、涙を拭き、笑顔を見せる。同じく視線で諭された深雪と雫も頷いて、この話を終結した。

 

 

 

 だが、深雪達が昼食を取りに行っている間、まだ納得していない者達が口をそろえて不満を口にする。

 

 

 「前から気に入らなかったけど、本当に勘弁してほしいわ~、あの森下!!達也君を目の敵にするなんて!!」

 

 

 「俺もあいつは嫌いだな~! 上から目線で、鼻高くしてよ! 達也を認めようともしねえ~のは、どういう事だよ!」

 

 

 「僕も何度か彼の事は見た事はあるけど、今回の事で幻滅したよ。己を見失って、女の子を手を遮るなんて…。」

 

 

 「あら、ミキ~~? ”女の子の手を遮る”なんて、ほのかたちはそんな事言ってないわよ~? どこをどう解釈したらそう考えるのかしら?」

 

 

 「べ、別に言葉のあやで深い意味はないよ!!それに、僕の名前は幹比古だ!」

 

 

 「何を慌てているのかしら~? 女の子には優しくしてあげるのが当たり前なんでしょ~?なら、きっちりと送って差し上げなさい。ねぇ~、美月~?」

 

 

 「なっ!! 柴田さん!!」

 

 

 「………顔真っ赤になってるわよ~?ミキ~~?美月がいると思って、嬉しかった?」

 

 

 「エリカ~~!! 人をからかうのも大概に~~! それに僕の名前は幹比古だっ!!」

 

 

 「はいはい、分かりましたよ~!でもミキ、いい加減自分の気持ちを決めとかないと、横から取られるわよ~!美月だって、かなり人気なんだから。もっとそこの馬鹿みたいに気楽になってみたら~?」

 

 

 「誰が馬鹿だって!このアマ~~!!」

 

 

 「あんた以外、どこにいるっていうのよ!?」

 

 

 

 

 

 

 (さっきまでエリカの威圧に怯えていたのはどこに行った?)

 

 

 …と思いつつ、すっかり意気投合して罵倒する三人がすっかりいつも通りに弄られているのを見て、微笑を浮かべていた達也の元に、小柄だが、すぐに注目を受けるであろう男子生徒が駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 「あ、あ、あの!!司波達也先輩!!ぼ、ぼ、僕の事は覚えていらっしゃいますかっ!!」

 

 

 髪の色はプラチナ。瞳の色はシルバー。肌の色は白。顔立ちにも日本人的な特徴がまるでみられない。こんなにも派手な生徒を忘れるはずもない。達也は記憶の棚から目の前に顔を赤らめてそわそわして経っている男子生徒の事を思い出し、先程の問いに頷く。

 

 

 「ああ、知っている。隅守賢人。今年進学してきた新入生だ。入学式の時、道に迷っている所を偶々会って、案内したんだ。」

 

 

 派手な男子生徒が達也に声を掛けてきたため、はしゃいでいたエリカたちも、昼食を手にして持ってきた深雪達も注目する。

 深雪達にも分かるように、いきさつを教え、改めて顔を向ける。

 

 

 「はい!! 覚えていただけて幸いです!! ケントっと呼んでくだしゃい!!」

 

 

 緊張のあまり、舌を噛んだケントを深雪達、女子達は一気に親密感が心の中に生まれる。

 

 

 「ああ、分かった。それで、ケント。俺に何の用だ?」

 

 

 「は、はい!! 実はその…!! 司波先輩が、物凄い実験をされるという話を聞きまして、ぜ、ぜひ僕も! 司波先輩の実験を手伝わせていただきたいとおもって…!!

  ど、どうか!僕も手伝わせてくだしゃい!!」

 

 

 最後の所でまた舌を噛んでしまったケントは恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。しかし、元々可愛さが醸し出されているだけあり、余計に可愛さが浮き彫りとなり、深雪達はほのぼのしていた心が、萌えキュンするのであった。

 

 

 「……可愛過ぎる。」

 

 

 「……あの一生懸命な感じも堪らないわね~。」

 

 

 「……まるでほのかを見ている気分だわ。」

 

 

 「ええ~~!私、あんな感じじゃないよ。」

 

 

 「ううん、私もほのかの男の子バーションだと思う。」

 

 

 「雫まで~。」

 

 

 小声で話し出す女子達をよそに、達也はしばらく考え込む素振りを見せる。しかし、それほど待った間隔はなく、ものの数秒で結論した。

 

 

 「そうだな、仕組みはそれほど凝ったものでなくてもいいから、実験装置はすぐにできると思うが、問題は使用する魔法の起動式の調整だな…。それらは知識も経験も必要だから、新入生のケントには難しいと思う。手伝ってもらう事と言えば、裏方の仕事になると思うが、それでも構わないか?」

 

 

 「大丈夫です!! 司波先輩の手伝いができるだけで僕は嬉しいですから!!雑用でも何でもやります!!お願いします!!」

 

 

 「…………その熱意があれば問題ないだろう。よろしくな、ケント。」

 

 

 「あ、あ、あ、ありがとうございます!!」

 

 

 達也から手伝う事をゆるされ、思わずその場で飛び上がって、嬉しがるケントを女子達も思わず拍手する。レオも幹比古も微笑ましく笑って激励を送る。

 子犬のような潤んだ瞳で熱心に自分を見つめてくるケントの視線と温かい眼差しを向けてくる友人達、今の一件を遠回しで見学する食堂利用する生徒達の態度を受けて、達也はかなり持て余してしまうのであった。

 

 

 




ケントが可愛い~~!! これがケントが達也たちグループと仲良くなったきっかけでもあるのだ!!
可愛いものには惹かれてしまう…。それが乙女心というものさ!!


そう言えば、結局誰も森崎とは言わなかったな…。達也も正さなかったし。ROSEの仲間内でも「モブ崎」だもんな~。扱いが完全にモブ扱いだわ!!www


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配信、スタート!!?

いよいよ女王が動き出す~~~!!そしてキャラ崩壊で亀裂が入る!?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四月二十三日、月曜日の夜。

 

 

 

 

 

 もう日付が変わるのも近くなった時刻、四葉本家の書斎室で眠げ覚ましにハーブティーを飲んでいる真夜の姿があった。

 

 

 「奥様。本日すべき仕事は終わりました。そろそろお休みになられた方がよろしいと思いますが。」

 

 

 その真夜の隣に控える葉山さんは、口ではそう言いつつも、空になったティーカップに紅茶を注ぐ。

 

 

 「あら、何を言っているの?葉山さん。これからが本番ですわよ?それで、できたのですわよね?」

 

 

 葉山さんの言い分に軽く驚いた表情を作って見せた真夜に、葉山さんは質問に答える。

 

 

 「はい、先程ようやく編集された映像が届きました。内容も奥様の注文なされたこと全てが導入されています。直ちに予定通りの手筈でいけるかと思います。」

 

 

 「……葉山さん、私より先にその映像を見たの?」

 

 

 葉山さんは詳細を告げたが、それが真夜の機嫌を損ねてしまった。

 

 

 「申し訳ありません、奥様。何分、映像編集を頼んだ者が確認して、問題ないかを教えてくれと執拗に繰り返し連絡を取りついてきたので、仕方なく…。」

 

 

 頭を下げて、深々と一礼し、謝る葉山さんに真夜は、毒気を抜かれたようで、小さくため息を吐くと、冷たい視線で見下ろしていた目を手に持っているカップの中の紅茶へと向け、口を開いた。

 

 

 「まぁ、いいわ。それなら仕方ないわね。葉山さんが気に病む必要は無いわ。…と言っても、葉山さんが気に病むなんてことはないかしら?当然、私に報告する前に、対策はしておいたのでしょう?」

 

 

 真夜は、唇を吊り上げて、妖艶な笑みを浮かべて問う。そして、顔をあげて同じく、微笑む葉山さん。

 

 

 「はい、既にその者に対しては、津久葉様に依頼しておきました。今後の事も考え、まだ使い道はあるかと。」

 

 

 「あら、仕事が早いこと。そう、津久葉家の方々に精神干渉で言いなりにさせたのね。…良い判断じゃないかしら?いきなり死んでもらうっていうのも周りに不審に思われるし、処理が面倒ですものね。」

 

 

 「恐れ入ります。あの者は、達也殿と一緒に奥様がスタジオに行かれた際、奥様へ好意を抱いたようで、何とかお近づきになりたいという理由で連絡してきたと言っておりましたからな。」

 

 

 「………本当に迷惑ね。やっぱりそのまま処分してもらってもよかったわ。」

 

 

 「ですが、それだと今回の事が明るみになり、事態が変化する恐れも。」

 

 

 顔も知らない男に好意を持たれても全く嬉しくない真夜は、無表情でグロイことを言ったが、葉山さんがやんわりと極秘任務が遂行できなくなると告げた事で、自分の気持ちはとりあえず保留しておくことにした。

 

 

 「それで、津久葉さんには、ばれていないのかしら?もし知られたら、次期当主候補について、何か言ってくるかもしれないわよ?」

 

 

 津久葉を動かしたと知った真夜は、それが気になった。もし極秘任務について知られてしまえば、これをネタに何か要求を言う隙を与えてしまうからだ。もちろん、津久葉家が次期当主候補に夕歌を指名しているが、実状は当主候補の返還を望んでおり、それをまだ行っていないのは、当主候補に選ばれている今の状況を守る事で、他の分家との権力に差をつけないためである。その事は、真夜も十分理解していた。だから、葉山さんに言った事は、あくまで脅迫するする時の条件の一例を示しただけに過ぎなかった。

 

 真夜の意図も葉山さんには理解できていた。なにしろ、真夜に分家の詳細を伝えているのは、他でもない葉山さん自身なのだから。

 

 

 「その心配はいりません。津久葉様の若い配下の者を数名お借りし、精神干渉させただけですから。その者の言い分を聞く際は、密室で私個人で直接聞きましたので。津久葉様とその配下には、『四葉の事を探ろうとしているジャーナリストとつながりがあるため、情報を得たいので生かしつつ、常に我々の監視下に置けるようにしてもらいたい。これは奥様の命令で御座います。』…と申し上げておきましたので、なにも問題はございません。」

 

 

 「葉山さんって口が達者だったのね。それで、納得してもらえたのかしら?」

 

 

 「はい、相手の尻尾を掴むのに罠を張って待つのはいかがなものかと言われましたが、それだと津久葉様に依頼した意味がなくなりますし、それを言うなら、初めから黒羽様に仕事を回すことになりますからな。それを遠回しに伝えると、快く引き受けてくださいました。やはり、分家同士とはいえ、せっかくの仕事を他家に譲渡されそうになれば阻止し、受けようというものではないでしょうか?」

 

 

 目論見が成功した時の事を思い出したのか、人の悪い笑みを浮かべる葉山さんに真夜もつられて、笑みを浮かべる。

 

 

 「ふふふ、葉山さんも人が悪いわね。そうなる事を分かっての事だったのでしょう?」

 

 

 「いえ、私めはまだまだです、奥様。こういう事には達也様の方が優れておりますゆえ。」

 

 

 「それはそうね。あの子、変なところで、ねじ曲がっているんですもの。どう生活したらあそこまで捻くれるのかしらね。」

 

 

 二人で達也の方が人が悪いと認めながら、小さく笑い声を漏らす。(達也から言えば、「”人が悪い”でえはなく、”悪い人”なので性格が曲っているかどうかは分からない」って言うかもしれないけどね)

 

 

 「ふふふふふ♥ わかりました。葉山さん、ご苦労様。

  では、早くその映像を見せてくださいな♥

  達也さんのMV!!配信する前にちゃんと見ておかないと!!」

 

 

 暗躍するような笑みを浮かべていた真夜が一瞬にして、頬を赤らめ乙女の笑みを見せて、モニター画面の前に向かい、一人掛けのソファになぜか正座になって座り、今か今かと待ちわびる。

 葉山さんは、すっかりとファンモードに入った真夜を孫でも見るように見つめ、先程届いた映像をモニターに再生する。

 

 すると、この前の休日に達也を連れ出して撮った達也のMVが流れ始めた。

 

 

 「キャ~~~~~~~~♥♥♥

  さすが、達也さんだわ! 綺麗に撮れているし、達也さんの見事なダンスも痺れるわ~~~!!

  歌も……うん!!しっかりと感情も入っているし、涙が溢れてくる…。

 

  もう達也さんの歌声しか聞きたくなくなるわ!!

 

  これなら、絶対に売れるし、人気も絶好調!!でも…、達也さんが他の女達の注目も集めると思うと、悲しいわ~~!! だって、達也さんのファン一号は私ですもの!!悔しい!!……だけどファンだからこそ!!達也さんの素晴らしさをもっと知ってほしいのよね~~♥」

 

 

 達也のMVが披露されている間、真夜は身も心も悶えさせ、達也のアイドル姿に萌えていたのであった。

 

 

 そして、MVが終わり、しばらくすると、葉山さんに気落ちした様子で振り向き、またしばらく俯くと、勢いよく顔を上げ、葉山さんに命令する。その顔には一大決心した乙女の潤んだ瞳が滲んでいた。

 

 

 「葉山さん、この映像でいいわ。これを、日付が変わると同時に動画サイトやVOD(ビデオ・オン・デマンド)にこのMVを流してちょうだい。それから、明日からテレビ局に行って、CMや音楽番組にも流してもらえるように交渉してちょうだい!

  絶対に時間は厳守よ!」

 

 

 「畏まりました、奥様。そのようにしてまいります。………本当によろしいのですね?」

 

 

 真夜に一礼し、書斎室を後にしようとした葉山さんだったが、背中に異様なほどのプレッシャーをかけられているのを察した葉山さんは振り返り、そのプレッシャーをかけてくる真夜に対し、最終確認を行う。

 

 

 「……いいわ。やってちょうだい。明日は達也さんの誕生日ですもの。記念日にアイドルデビューを飾るのは素敵な事でしょう?…私も覚悟を決めて、達也さんのファンとしてこの機会を温かく迎えるわ。」

 

 

 自分だけの達也が旅立ってしまう事にまだ捨てきれない想いを持っていた真夜は、締めつけられる胸の痛みを感じながらも素晴らしい事だと自分に言い聞かせて、葉山さんを見送るのであった。

 

 

 そしてその瞬間、物凄い速さでソファでの姿勢を正し、ペンライトを掲げ、いつ作っておいたのか、達也の写真をピックアップしたうちわを振って、先程のMVをループ状態にし、何度も鑑賞する真夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、真夜の指示通り、時刻が四月二十四日になった瞬間、一斉に達也のMVが動画サイトやVODに配信されていき、達也は人知れず、アイドルデビューを飾ったのだった。

 

 

 

 




達也は知らない間にアイドルデビューしたな~。でも、誕生日の時にデビューというのは、良いではないか!!
まぁ、今は恒星炉実験の事で頭はいっぱいか。…知った時の達也の反応が少しだけ怖いかも。www


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瞬く間の人気

達也に惚れない人はいないよ!カッコいいし!達也様~~!!ってなるよ!


 

 

 

 

 

 

 

 真夜の手によって、アイドルとしてデビューしてしまった達也は、ネット配信直後から視聴者数がうなぎ上りするほど、まだデビュー一日にもなっていないにも拘らず、女性中心で人気を勝ち取っていた。

 朝には、芸能ニュースで検索ワードランキングに名を連ね、達也についてのコメントが止む事がなかった。しかし、どんなにコメントや連絡をしてもコンタクトは取れず、ただテレビ局やラジオ局にいつの間にか映像が届いているという現象が起きていた。どうやって入手したのかを確認しようにも、誰も答えられる人はいなく、戸惑いを見せるが、間違いなく今使うべきネタだとは理解していたので、惜しみなく流し始めた。

 

 こうして、昼ごろになるとその影響が人々に浸透してきたのか、人々の間ですっかりと話題となってしまっていた。

 

 

 「ねぇねぇ!! このMV、見た~~!!?」

 

 

 「あああ~~~!!それ知ってる!! うんうん、見た~~!!」

 

 

 「今日アップされた謎のアイドルMVだよね!!?」

 

 

 「そうそう!! もう私、これを見た瞬間、この人のファンになっちゃった!!」

 

 

 「私も!!」

 

 

 「ああ~~~!!私も! 学校に来る時にも何回も見てね!!ほら、早速曲をダウンロードしちゃった!!」

 

 

 「それ私もしたわ!! 音楽ダウンロードアプリにも登録されていて、今だけこのアイドルの生ボイスが付属としてついてくるんだよね!!」

 

 

 「えええええ~~~~!!! そうなの!!? 私も、欲しい!! どうやったらもらえる!!?」

 

 

 「えっとね~~…、こうして…、登録して…、専用のフォルダで保存……っと。はい!これで聞けるはず…。」

 

 

 「………………はあぁぁ~~~♥ 耳元で囁かれている感じで、背筋が~~!!」

 

 

 「分かる!! もう立っているのもできなくなるくらい、萌えさせてくれるのよ~~!!」

 

 

 「声もいいし、歌詞もいいし、顔も…よし! こんな人が芸能人って言われると納得するね!」

 

 

 「でも、今日デビューって説明書きにあるわよ? こんな人、もっと前から注目受けててもいいのにね。」

 

 

 「本当だね! どんな人だろう?」

 

 

 「アイドル名以外は全て非公開だって~~。謎に包まれたアイドル…。」

 

 

 「でも、私それでもいい!!ミステリアスな部分も彼の魅力だと思うもの!!」

 

 

 「「彼?」」

 

 

 「あ、いえ、その~~…。」

 

 

 「もしかして一目ぼれ?」

 

 

 「そ、そんな訳じゃ!!」

 

 

 「そうなの?じゃ、私彼にアタックしちゃおう♥」

 

 

 「ええええ~~!!」

 

 

 「抜け駆け禁止!!みんなで愛するのがアイドルを応援する基本でしょ?」

 

 

 「でも、彼とお近づきになりたいとは思わない?」

 

 

 「…それは思う!!」

 

 

 「なら、決まりね!!ほら! ここにファンクラブ会員登録があるから、一緒に会員になって、応援しましょう!!」

 

 

 「ええ!!」

 

 

 「もちろん!!」

 

 

 「……よし!!これで私達もファンになったし、一歩夢に近づいたんじゃない!?」

 

 

 「ファンになれば、特典も色々あるって書いてあるし、生で逢えるかもしれないね!!」

 

 

 「あああ~~♥ 早く逢いたいね~~!!」

 

 

 「ね~~!!」

 

 

 「そうだね~~………一体どこにいるのかしら~~♥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           RYU(リュウ)様~~♥」

 

 

 

 

 

 ………こんな乙女な会話が全国で繰り広げられ、若い女性中心に更に存在が広まっていき、瞬く間の人気を得ていく。そしてたった一日でファン会員数がなんと5万人という、ドームでのコンサートが行えるファン数を獲得していたのだった。

 

 

 

 ……そんな事になっているとは、当の本人の達也は全く知らず、いつも通りに学校に通い、明日の議員視察を控え、放課後に最終リハーサルを行い、順調に終了し、己が夢の第一歩を冷静に見つめ、集中していた。

 

 

 




女子の会話って大体こんな感じだった気がする。

共通のアイドルの話のときは、テンションMAXだから。

では、実験の方はささっと終わらせて…、色んな人の反応を見ていきましょう!!でも、達也の誕生日だから、荒れるかもしれないけど!!(汗)


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張り切る雫

やっぱり達也の誕生日プレゼントの所とかは外せないのね!?
でも、ほのかも深雪も原作で描かれているし、うち的には違う人をターゲットにしてみるよ!!

前からもしや…?とは思っていたんだよね~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 最終リハーサルも順調に終わり、あずさと五十里が後始末と戸締りを引き受けてくれたので、達也は深雪、ほのか、水波、泉美、香澄を連れて歩く状態で生徒会室へと移動した。

 

 

 「お帰り。」

 

 

 出迎えてくれたのは、留守番を頼まれて今まで務めを果たしていた雫だった。本当は、巡回を名目に最終リハーサルの見学もしてみたいとも思っていたが、自分が様子を見に行く事で乱れて怪我をしてしまったらまずいと思ってもいた。(特にほのかが心配で)それを察したかどうかは分からないが、達也に自分達が空けている間何が報告が来るかもしれないからと、留守番を頼まれた時は内心ほっとしたのは事実だ。責任感は人並み以上の雫は、これでようやく踏ん切りがつき、達也たちを見送った。

 

 無事にリハーサルが成功した事を雰囲気で理解した雫は、労いの言葉を掛けてくる深雪に「気にしないで」と首を振り、異常がなかったことを伝えて、親友に顔を向けた。

 

 

 「ほのか、あれは?」

 

 

 雫に言葉少ない問いかけをされたにも拘らず、途端に「うっ………」と怯んだ表情を見せるほのか。やはり長年親友だっただけに、すぐに何の話なのか理解している。ほのかが魅せたこの表情に、雫は「やれやれ」と呆れ顔になる。

 

 

 (ほのかのために、プレゼントも一緒に選んだ親友として、ここは後押しするのが一番。)

 

 

 いまだに渡す勇気が持てずにいるほのかを力づくで達也の正面へと連れて行き、向かい合わせた後、ほのかのバッグを見つけて綺麗にラッピングされた小箱を取りだし、ほのかの手に握らせる。そして、背中を押してもっと接近させ、心の中でエールを送る。こうでもしないと、ほのかは緊張のあまり、用意したプレゼントも渡せずに帰りそうで、結局落ち込むほのかを慰める事になる…、と想像できる。それならここで覚悟を決めさせて、渡した方がすっきりするし、自分としても慰めるより「よくやった」と褒める事が出来る。

 

 ほのかはそんな雫のアシストを受け、ついに自分に覚悟を決めさせ、初々しいイベントを繰り出す。

 

 

 「あの、達也さん!」

 

 

 「今日、達也さんの御誕生日ですよね!」

 

 

 ギュッと目を瞑って小箱を両手で差し出し、達也が答える間もなく、ほのかの言葉が続く。息づきしているのかも疑わしい早口になっている。

 

 

 「つまらないものですが一所懸命に選びました! どうか受け取ってください!」

 

 

 「もちろん受け取らせてもらうよ。」

 

 

 生徒会室で様々な緊張の色が窺い見れる雰囲気の中、無事にほのかは誕生日プレゼントを渡せて、脱力しそうになる。

 

 

 (よく頑張った、ほのか。

 

 

  …………次は私の番。)

 

 

 雫も意を決し、ほのかの隣に進み出た。

 

 

 「達也さん、今度の日曜日、空いてる?」

 

 

 「時間は?」

 

 

 突然の話の振りに、達也も戸惑いを覚えたが、会話が滞りなく成立するほど、一瞬に事態を収拾した。

 そんな達也の対応に雫は、若干の嬉しさを感じつつ、話を続ける。

 

 

 「夕方。六時頃」

 

 

 「…………大丈夫だ。」

 

 

 頭の中でスケジュール帳を開く達也。

 

 日曜日はFLT開発第三課で完全思考操作型CADの開発会議が予定されているが、その時間帯なら十分戻ってこられる。本部ならともかく開発第三課なら、予定外に長引いて拘束される事もない。

 (本部での会議となると、研究者や役員達が腹いせでどうでもいい事まで質問攻めしてきたり、それなら本部で開発を進めるべきだと要求してきたりするからだ。その分、開発第三課だと本部から派遣されてくるため、報告やら他の仕事への動きも組み込んだスケジュールをこなさないといけない。限られた時間での会議となるため、余計な話し合いを擦ればそれだけ本部のメンツに関わってくるので、踏み込んでこないのである。)

 

 だが、雫に予定を聞かれてスケジュールを確認した事で、達也は意識からはじき出していた予定を思い出してしまう。

 

 

 (確か土曜日は…………、ハァ~…、”憂鬱になる”というのは、この事かもしれないな…。)

 

 

 なぜか前日の土曜日の予定を思い出し、早くも日を通り越してほしいと願ってしまうほど、憂鬱感を感じる達也だった。

 

 

 「ちょっと遅めだけど家で達也さんの誕生日パーティーを開きたい。良いかな?」

 

 

 しかし、それも一瞬の事で、雫の言葉の意味をすぐに理解し、返答するのだった。

 

 

 「良いとも。ありがたくお邪魔させてもらうよ。」

 

 

 何を考えていたのかを見せない素振りで頷く。達也も土曜日はともかく、日曜日に自分の誕生日を祝ってくれるという好意は嬉しいものだし、気晴らしになると思った。そして、それが楽しみになったのだろうか。雫へ頷きを見せる時、無表情ではなく、優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 (やった…! 達也さん、家に来てくれる。

  そうと決まれば、張り切って準備しないと…!

  達也さんとまた一緒にいれる。)

 

 

 頷きを返す雫は、無表情に見えるが、口元がほんの少しだけ綻んでいる。

 

 達也が誕生日パーティーに来てくれるだけでなく、雫の家に来てくれるのが嬉しいのだ。

 ほのかが達也を溺愛しているのは、友人たちの間では周知の事実。雫も応援している。でも、心のどこかでは、雫も達也と距離を縮めて、もっと一緒にいたいと思っていた。

 その気持ちに気づいているかは本人は気付いているかは分からないが、拒絶しなかった大人な達也に少しだけ素直になったのは、言うまでもない。

 

 

 だけど、達也と一緒にいたいという気持ちと同時に親友の気持ちも尊重したい気持ちもある。そして自分のまだ隠れた好意を無意識に抑えるためか、すかさず深雪と水波に声を掛けた。

 

 

 「深雪と、水波ちゃんも。」

 

 

 「ええ、大丈夫よ。」

 

 

 「御邪魔させていただきます。」

 

 

 いつも通りの態度で答えた深雪と水波に雫は頷き、日曜日に向けて達也の誕生日パーティーを華々しくお祝いしようと熱意を持つ雫だった。

 

 

 




雫もただの尊敬の好意だけではないと思うんだよね!!やっぱり気づいていないだけで達也の事が好きなんじゃないかと!!
それか、既に気づいているけど、ほのかが達也にご執心なので、なかなか言えずにいて、応援しているのどっちかだね。
…みんなはどっちだと思う?

今回は前者の方に焦点を合わせてみたけど、後者もいいよね~!…誕生日パーティーでやってみるか?


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ざわつく心 Side香澄

今度はこの子で!!


 

 

 

 

 

 

 

 (……何でボクがアイツの後ろを歩かないといけないんだろう?)

 

 

 最終リハーサルも終わり、生徒会室へと移動する達也の後ろをくっ付く形で歩いている事に、香澄は心の中で自問していた。

 

 正確に言えば、達也の後ろには深雪とほのかが、深雪の後ろには泉美と水波が、そして泉美の後ろに香澄が、連鎖になって歩いている。だから、『達也の後ろを歩いている』ではなく、『双子の妹である泉美について歩いている』と言った方がしっくりくるはずなのだ。しかし、香澄は特に生徒会室に向かう理由も呼び出しを受けたわけでもないのに付いていっているのは自分でも分からないのに、まるで達也の取り巻きの一人でもあるみたいなこの歩き方が気に食わなかった。

 

 

 (何で、ボクがあんな男の取り巻きみたいな真似をしないといけないの!それに、あいつの実験になぜかボクも参加する事になってるし!!まったく、泉美もボクの意見も聞いてほしかったよ!…でも、無理かな~。

  泉美はあの司波会長にゾッコンだし。会長が実験に参加するから名乗り出たんだろうな~。)

 

 

 不意に泉美が目を輝かせて、深雪を崇め奉って感銘を受けている様子が想像できる。エキサイトしてしまっている泉美を押さえるのは困難だし、最近は引いてしまう時もある。それを思うと、もう文句も出てこなかった。

 

 きっかけはどうであれ、確かに二人で魔法を行使した方が成功率が上がるのは身に沁みてわかっている事だし、泉美一人でやらせるようなことはしない。

 それに達也が持ちかけた実験という事で、協力するのに最初は渋ったが、達也の功績は入学式でも泉美に教えられて知っていたし、実際に実験の準備をするために今回の実験のアプローチを説明された時は、驚愕すると共にやってみたいとも思った。

 

 

 (よし! ボクだって一度受けた事を途中で投げ出すのは嫌だし、最後までやるか!)

 

 

 嫌々ながらも始めた実験も本番が明日を控えて実感が沸いてきた。泉美とならできると今なら自信持って言える。

 

 

 達也と歩いている事に自問し、ムスッとしていた事はすっかりどうでもよくなった香澄は、そのまま生徒会室へと付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、生徒会室について、入室した時。

 

 

 (あれ?北山先輩?何でここにいるんだろう?風紀委員会本部はこの下だけど?)

 

 

 同じ風紀委員の先輩でもある雫の姿を見て、疑問に思ったのもつかの間。雫とほのかが何やら話をしていて、ほのかがやけにそわそわし出す。

 その反応に恋する乙女感を感じ取った香澄は、雫の事よりほのかの方に意識を向けた。

 

 

 「あの、達也さん!」

 

 

 「今日、達也さんの御誕生日ですよね!」

 

 

 「つまらないものですが一所懸命選びました!どうか受け取ってください!」

 

 

 ほのかが眼を強く瞑って、両手を伸ばしてプレゼントを差し出した。

 

 

 何があるとは思っていたが、まさかほのかが達也に恋しているとは思わなかった香澄は思わず無意識に口走る。

 

 

 「光井先輩と司波先輩ってそういう関係だったの?」

 

 

 驚きが感じられる声音でいった香澄の声は間違いなく達也の耳には届いたが、緊張のあまり、ほのかは聞こえていない。

 

 まさかの展開に香澄はもやっとする。

 

 目が丸くなるほど驚いたが、それよりもほのかと達也の関係を知って心がざわつく。

 

 香澄もなぜ自分がこんなにもムカムカするのかは分からない。でも、目の前の二人の光景に何とも言えない感情を感じたのは事実だった。

 

 

 それからは雫まで達也の誕生日パーティーを開きたいと申し出をし、受け入れた達也の対応にもなぜかドクッと胸が脈打った。

 

 

 香澄は大好きな姉の真由美が達也と親しげにしており、今までの異性との交流でも見せなかった好意を、達也には見せている事にもしかしたら姉はこの男に気があるのではないかと考えていた。だから、姉を幸せにできる人なのか、釣り合いが取れるのか、そのために数々の男子を泣かせるほどの特訓?を真由美には内緒で行ってきた。

 

 そして今回も達也を姉に相応しいか観察するつもりだったが、ほのかだけでなく雫にも好かれている達也を見て、つい値踏みするような目で達也を見る。

 あまり関わりを持っていないが、その数少ない印象から、達也の事を、およそ女性に好まれるタイプではないと思っていたのだが、その評価が香澄の中でぐらついていた。

 

 そしてその一方、雫に返答する際に見せた優しげな微笑みを見て、ときめいてしまった自分を認められずにもいた。

 

 

 (どうしてボクはアイツにときめいてしまったんだ!

  アイツは気に入らないし、何を考えているか分からないし、お姉ちゃんを陥れようとしているんだ!!

  それなのに、何で……アイツに一瞬でも、『ボクにも笑ってくれないかな?』って思ったんだろう…?)

 

 

 まだ整理できない感情を持て余し、複雑な気持ちを持ったまま、達也たちと一緒に最寄駅まで帰る香澄だった。

 

 

 




お姉ちゃんっ子の香澄と泉美。色んな男子を姑の如く判定していたんだよ。例えば服部とか。
そんな中、一筋縄ではいけなさそうな達也が現れて、少し乙女が目覚めた!!…っというまだ”恋”までには発展していないけど、突っかかってしまうほど気になる男子という香澄の中の位置づけを書いてみたかったのだ!!



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反抗期

深雪のプレゼントシーンは…、深雪の心を解釈しなくても良さそうなので、深雪は飛ばしで…。


では、本題へ~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 四月二十四日、火曜日。

 

 

 

 

 達也たちが最終リハーサルを終え、深雪と水波との誕生日パーティーで祝ってもらい、深雪と二人だけのお祝いもした。そして、深雪からの誕生日プレゼントで渡された月と星と太陽のモチーフが施された精緻な彫金のやや大ぶりな円形ロケットペンダントについて、達也が一時間ほど悩み続けていた時間と同じ頃…。

 

 共に「新秩序」を目指す同盟者、小和村真紀との密談を終えた七宝琢磨が帰宅し、父親に呼び出しを喰らっていた。

 

 

 そして書斎に入るなり前振りから反射的に苛立ちを募らせ、反抗する琢磨に琢磨の父親であり、七宝家当主、七宝拓巳が徒労感を所々で滲みだす。

 

 自棄に七草に妄執を持つ息子に、何度も諭している台詞で応対する。琢磨も反撃に出るが、頭のどこかでは拓巳がいう事も正論だと分かるので、言い合いでは拓巳の方に風向きが向く。

 

 

 口では言い負かす事が出来ず、悔しがる息子にこれ以上言っても納得しないという事を改めて思い、溜息を吐いた拓巳はこの過去何十回も繰り返された琢磨の「糾弾」と拓巳の「説得」を、今日はこれで終え、本題に入る。

 

 

 「琢磨、明日は学校を休め。」

 

 

 「親父? いきなり何を言い出すんだ?」

 

 

 「明日、野党の神田議員が第一高校へ視察に訪れる。」

 

 

 「野党の神田って、人権主義者で反魔法主義者の神田か?」

 

 

 「そうだ。取り巻きのマスコミを連れてな。」

 

 

 「何のために」

 

 

 琢磨としても神田の言動を考えれば、何をするつもりなのかは分かる。あくまで確認以上の意味を持たなかった。

 

 

 「魔法を強制されている少年たちの人権を守るパフォーマンスがしたいのだろう。」

 

 

 「人権!?」

 

 

 「お前の言いたい事も分かるが、相手は国会議員だ。問題を起こすのはまずい。」

 

 

 父親の言葉に、琢磨は先程と別の意味でムッとした顔になった。

 

 自分が議員相手に喧嘩を売り、魔法師としての印象を悪く持たれる事態になると考えている父親に、琢磨は腹が立ったのだ。

 そして琢磨の想像は当たっていた。

 

 

 「いくら気に食わない相手だからといって、後先考えずに喧嘩を売ったりはしない。俺はそこまでガキじゃない。」

 

 

 だから、自分を信用していない拓巳に言い返す。

 

 

 「相手の方から喧嘩を売ってきても、か?」

 

 

 しかし、次の言葉で自分の意思がぐらつく。こっちから売らずにしてやっても、向こうが調子に乗って喧嘩売ってきたとして、それで自分の理性を保てるかと言われれば、自身が持てない。拓巳もそこに焦点を持っていた。

 

 

 「………っ、当たり前だ。そう易々と挑発に乗るものか。」

 

 

 「ならば良い。そこまで言い切ったのだ。自分の言葉に責任を持てよ。」

 

 

 「分かっている! 話はそれだけか。」

 

 

 念を押す言葉にいちいち反発する様子を見ていると、琢磨が本当に「挑発に乗らない」かどうか巧みでなくても疑わしくなってくるのは当たり前だ。

 息子の頑固でキレやすい所を見て、またため息を吐きたくなるのを堪え、次の台詞を口にする。タイミングを計って。

 

 

 「琢磨、この件は七草殿が対処する。くれぐれも余計な手出しをするなよ。」

 

 

 「七草が!?」

 

 

 案の定、激しい反発を示す琢磨に、やはり自分の対処は正しかったと再確認する。

 

 

 「余計な事はするな。自分の言葉に責任を持て。」

 

 

 既に現地を取られた後であるため、琢磨は歯軋りして、唾を呑み込む。

 

 

 「七宝家はこの一件に介入しない。良いな、琢磨。これは決定だ。」

 

 

 今更前言撤回できるはずもなく、

 

 

 「………分かったよ!」

 

 

 琢磨にはほかに応えようがなかった。

 

 

 

 書斎を足早に出ていき、自室に戻った琢磨は、枕を掴み上げ、思い切り壁に投げて、怒りをぶつけるのだった。

 

 




……反抗期かな?色々な親子の関係あるけどね。



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迷惑な押し掛け

そして本番がやってきた~~!!
「神田め! お前の隙にはさせないぞ!!百山様のためにこの八百坂、捨て身の覚悟で挑みまする!!」

 ……なんだか百山と八百坂って時代劇で言う所の殿と家来って関係の方がしっくりくるな~…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 四月二十五日、水曜日。

 

 

 四時限目、午後最初の授業の最中に、いきなり校長へ面会を求めてきたのは、神田議員と彼の秘書、議員の取り巻きジャーナリスト及びボディガードの面々である。

 ほとんどの一高生にとって、予期せぬ客人であり、恐らくすべての第一高校関係者にとって招かれざる客だ。

 

 印象自体でもよく思われていないというのに、物々しい黒塗りの乗用車で押し掛けてきた十人の男女。その中心には神田議員だ。はっきり言って、迷惑だ。

 何の予約もなしにやってきた彼らを追い出してやりたいくらいだ。

 

 しかし、普通なら丁重にお断りしてお引き取り願う所だが、国会議員のバッジをつけていれば(わざわざ胸に付けたバッジを指差し、取り巻き達に「国民によって選ばれた議員を門前払いする気か?」と横から嫌味を言って神田議員を援護する様にも辟易するが。)こんな無理も押し通る。

 マナーを完全に無視して面会を強要してくる神田議員を、第一高校教頭の八百坂は苦い顔で迎えた。

 

 

 「神田先生、既に申し上げました通り、本日、校長の百山は京都出張で留守にしております。校長の居ります時に改めてお越しいただけないでしょうか?」

 

 

 「ほう。この神田に、子供の使いよろしく出直せと言われるのか。」

 

 

 「子供の使いなど滅相もありません。」

 

 

 「では教頭先生でも結構です。御校の授業を見学させていただきたいのだが。」

 

 

 「私の一存では承諾しかねます。それはやはり。校長に直接仰っていただかなければ。」

 

 

 相変わらず引くつもりがない神田が嫌味を言ってくるのを、耐え忍ぶ八百坂。内心は「早く帰ってしまえ!」と思っているが、相手の方が世間の立場から見れば自分より影響力があるのは、言うまでもない。………同じ年代というのに。

 まぁ、それは置いておいても、神田議員が連れてきた取り巻きの方が厄介。少しでも不適切な言動をすれば、それをネタに一高を叩いてくるのは疑いようがない。たとえ相手がマナーを守っていなくても、それを公にしなければ被害者にもなれる。八百坂は百山に留守を任されている身として、この窮地を脱するべく、闘う姿勢を崩さない。

 

 

 校長が不在という理由でマスコミの取材を阻止したい八百坂の粘りある言動に神田も焦りを覚える。せっかく百山がいない事を知った上で押し掛けてきたのに、ここで追い返されたら、対策を掛けられ視察がなくなってしまう。せめぎ合いは仕事柄で神田優勢のまま続くが、時間だけが流れていく。それを狙っている八百坂の意図も分かっている。「勝負に勝って試合に負ける」展開になるのは、見えている神田は、自分が結局敗北を与えられるのは、政治家として認められない。

 遂に押し切ろうとしたまさにその時、カリヨンの音色を模した呼び鈴が校長室に鳴り響いた。

 

 突然鳴り響いた音色に神田率いる取り巻き達が訝しく思い、校長室を見渡す。神田はこれが電話の呼び鈴だと理解していたが、この校長室の主である校長がいないのだ。出ても教頭では用件を捌ききれないと踏んで、黙認する。

 ただし、八百坂はこの呼び鈴を聞いて、ギョッと首根っこを掴まれたような顔になり、さっきとは違って動揺を少し露わにするのであった。

 

 八百坂がなぜそんなに驚き、動揺しているのか。

 

 神田がその理由を知るのは、遅くはなかった。

 

 

 唐突な鐘の音と同時に、有名な印象派の風景画を映し出していた壁掛けディスプレイがブラックアウトした。画面はすぐさま、クリアなリアルタイム映像に切り替わる。

 

 

 そこに映りこんだ人物を見て、八百坂は一礼してから、疑問を呈する。

 

 

 「校長!? 会議はよろしいのですか?」

 

 

 神田の取り巻きジャーナリストは、突然現れた百山に驚く。そして神田の後ろへと身を隠し、陰から覗き見る。

 神田は背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、意外な百山の登場に唾を呑み込んで対峙するのだった。

 

 

 




この状況を別の世界観で表現するならば、突然現れたラスボスと出くわしてしまった場の悪いドンキホーテ…みたいな?
…あれ?百山がラスボスになると、神田が勇者になるのか?
それはダメだ!!逆の立場にしないと!!


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一高からのSOS

またまた独自解釈な面が入ります!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 神田議員が一高に押し掛けてきた時刻と同じ時間、百山は京都出張で、魔法協会本部にて会議を行っていた。

 その会議には、全国で九つしかない魔法科高校で校長を務める九人が円卓上の机を囲むようにして座り、議論していた。

 その内容とは、今年の論文コンペについてだ。

 

 

 「今年の論文コンペだが、今年の開催場所はこの京都となる。それにちなんでいくつか改善点が必要だとあたしは思う。去年のようなテロが起きるとはまだ断定できないが、それも考慮して準備は行っておくべきだ。」

 

 

 「それは、私も同感です。

  いくら高校生の研究発表を行う行事と言えど、有数な研究者やマスコミ、財政界の方々まで観賞に来る九校戦と同じく注目を受けている。日本の未来を担う魔法師の卵たちが作り上げた研究成果だけでなく、命も守らなければならない。私も前田校長の意見に賛成する。」

 

 

 「私も異論はないです。」

 

 

 「去年の事を考えれば、ここで問題が浮上しないこと自体、子供達を預かる私共にとって、大きな失態になるでしょう。」

 

 

 「ふん、前田殿に言われなくても、俺もそう言おうとしていた所だ。」

 

 

 「では、具体的にどうしましょうか?」

 

 

 「我々としてももちろん、警備を強化するに越したことはないが、すぐに警察や国防軍と連携できるように情報網を構築しておくべきだろう。いざって時に状況を把握できなければ対処もままならんからな。」

 

 

 「それはそれは、良いご意見だと思うのですが、それだと魔法科高校は国防軍と秘密裏な関係にあると勘ぐりされるのではないでしょうかね?

  ここ最近、反魔法師運動が増えてきてますから。」

 

 

 「生徒達の安全を守るためにはやむを得ないだろう。それにそんな考えを持つ事自体がくだらん! 魔法が世界を救う可能性だって秘めている。それを可能に近づけて魅せてくれるのは、他でもない我々の生徒達だ!その生徒達が去年のようにまたひどい目に遭う恐れがあるかもしれないというのに、『軍との癒着』という有り得ない言い分に恐れ、我々が手を尽くさないのは可笑しいとは思わないか?

  なら、ここは警察や国防軍と協力して対策を練った方がいい。」

 

 

 ………といった感じで、第三高校校長・前田千鶴による問題提起で、論文コンペに対する話し合いが繰り広げられていた。

 

 まだ今年度が始まったばかりで、今年の九校戦も終わっていない段階から去年の論文コンペの話になったのは、今回の会議でこれが本題となるからだった。

 あと数か月も経てば、九校戦が始まる。そうなると去年の論文コンペのように国外や国内でのテロ組織やスパイが狙ってくるかもしれない。それを事前に食い止めるために、全国の中心とも言えるこの京都で集まって、話し合っていたのだ。

 

 テロ対策を各校の校長が議論し、そのための経費や準備期間、連携を繋げるための交渉……等々が語られていく中、第一高校校長・百山東も教育者として校長たちの中心となって、話に加わっていた。

 

 そんな会議中に扉が開き、貸し会議室を使わせてもらっているホテルの従業員が入ってきて、一礼する。

 

 一斉に校長たちの視線が従業員に向けられ、さっきまで話し合っていた声は静まり、無言の威圧が降り注ぐ。しかし、その従業員はこの状況に慣れているのか、顔色を一切変えず百山の元へと歩み寄る。臆する事もない従業員は、こういった状況下での伝言を告げるために訓練されているのだ。だから、このホテルを選んだわけだが。

 

 そうして、百山のすぐ隣に着くと、腰をかがめて耳打ちをする。

 

 従業員の耳打ちを聞き、百山の眉が吊り上るのを見た各校の校長たち。

 

 

 従業員が伝言を伝え終わると、一気に口を堅く結び不愉快を隠さずにいる百山を見て、前田が問いかける。

 

 

 「いかがした、百山殿。」

 

 

 「今しがた、我が一高の教員からの伝言で、大変面倒な状況である事を聞かされましてな。」

 

 

 「面倒? 何が面倒というのだ?」

 

 

 「それがどうやら一高に国会議員が事前の許可もなしに視察に訪れてきたようだ。」

 

 

 「「「「「「「!!」」」」」」」

 

 

 「………本当に面倒な事だな。もしや百山殿がいないのを知っての上の行動か?」

 

 

 「恐らくそうでしょうな。私が居ないと告げているにも拘らず、未だに視察させよといっているらしい。更に取り巻きも一緒だ。」

 

 

 百山の言った『取り巻き』からジャーナリストが議員と一緒にやってきた事を理解した各校の校長たち。そしてそれは、先程の議論でも言っていたように反魔法師主義の議員が乗り込んできたとも理解した。

 

 

 「会議中に申し訳ないが、少し席を外しても構わないか?」

 

 

 「もちろんだ、この機にあたし共も少し休憩をするとしよう。百山殿の用が終わり次第、会議は再開する…。それで決定で良いだろうか?」

 

 

 前田が他の校長たちが次々に頷きを見せるのを確認してから、百山に顔を向け、力強く頷く。

 

 

 「助かる。では、席を外させていただく。」

 

 

 会議の席を立った百山は従業員に案内され、会議室を後にし、電話回線が使える部屋へと向かったのだった。

 

 

 




百山が校長室へと電話をする事になったいきさつですね。どんな会議しているんだろうって思ったら、こうなってしまいました!てへっ!www


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百山VS神田

さてさて、蛇に睨まれたカエルにならないように頑張れ~…。神田~。(投げやり)


 

 

 

 

 

 

 

 

 「校長!?会議はよろしいのですか?」

 

 

 ホテルの通信可能の部屋を借りた百山は強制的に受信状態へと切り替えるギミックを使って、校長室のディスプレイを起動させる。そこに登場したのは、鳩に豆鉄砲といった顔をして頭を下げる八百坂の姿が一番に目が入った。そして、その傍らには見覚えのある神田議員がおり、その後ろにはカメラやメモを持ったジャーナリストたちが付き従っていた。

 

 百山は、八百坂が驚きを見せる中、安堵した表情も見えた。一所懸命に追い返そうとしていたのだろう。額には物凄い汗を掻いている。

 校長不在の中で教頭として対応してくれた八百坂に、百山は労いの言葉を掛けるのではなく…、

 

 

 『少し時間を作ってもらった』

 

 

 と先程の八百坂の疑問に一言で答えるだけだった。しかし、これが選手交代の合図となって、百山はディスプレイの先にいる神田議員へジロリと目を向けた。

 

 

 『それで、神田先生。本日はどのような御用件ですかな?』

 

 

 表情からは細かな判別ができないほど老いている印象がある百山だが、それでも窪んだ眼窩の奥から放たれる刺すような眼光が非礼な訪問に対する怒りを誤解しようもなく表していた。

 

 

 「ああ、いや、御予定も確認せず御邪魔した事は申し訳なく思っております。」

 

 

 八百坂の時と違って神田の返答は腰が引けたものだった。それに対し、八百坂は自分の時との出方と違う神田に一瞬だけ不満の視線を向けた。それを画面の端から見ていた百山は、「やはり外面だけを見繕ったただの小童」と己の中の神田の印象を下げた。

 

 

 『それがお分かりなら日を改めていただけませんか』

 

 

 『出直せ』

 

 

 「本来ならば校長先生の仰る通りにすべきなのでしょうが、私にも少々思う所がありまして」

 

 

 『ほう?』

 

 

 百山が厳しい視線を向けたまま続きを促す。

 神田はカメラ越しにも拘らず気圧されていたが、舌だけはしたたかに回り続け、魔法科高校と軍のの癒着をうかがわせるような噂がある、と告げ、魔法科高校に神田自身の描くイメージ通りの喧伝をしたいという下心な会話をする。

 

 

 『困りますな。魔法の実技授業は繊細なものだ。いきなり押し掛けられては生徒が動揺します。』

 

 

 「ご迷惑はかけません。」

 

 

 不快感を丸出しにして神田の言い分を聞いていた百山は、高圧的な態度になってきた神田が開き直ってきている事も見通す。そして欲しい言葉を相手が言った事で、頃合いと見た百山は、少し考える素振りを見せた。もちろん、わざとだ。

 

 

 (ふむ、なら彼の実験を神田に見せつけるとしよう。そうなれば、神田の言うイメージ戦略どころではなくなるだろう。それに彼の実験は全世界に広めるべきものだからな。)

 

 

 電話する前に「確か今日は司波達也君の恒星炉実験の日だったな」と思い出し、これを利用できないかと考えていた百山は、達也の実験をエサにする事を始めから考慮していた。そして、引く気がない、いや、引きたくない神田へ急な申し出に考える素振りを見せ、受け入れたのだった。

 

 

 『………そこまで仰るなら見学を許可しましょう。』

 

 

 驚きと訝しさの入り混じった表情を浮かべる八百坂は、議員を追い返ずに見学を認めた百山に理由を尋ねようとして、寸手で口を閉ざす。ここで理由なんて聞けるはずがないと気づいたからだ。

 

 百山は有無言わせぬ口調で言葉を続ける。

 

 

 『ただし見学は五時限目だけとさせていただく。』

 

 

 「そっ……いえ、それで結構です。」

 

 

 『教頭、五時限目に予定されている実習はどのクラスとどのクラスだ?』

 

 

 「五時限目に実習が予定されているクラスはありません。」

 

 

 訝しさMAXの状態が八百坂の精神を覆い尽くすが、校長に聞かれた事に応える。それは既に反射神経とも言える素早い対応だった。

 

 

 「ただ正規のカリキュラムではありませんが、二年E組の生徒から申請のあった課外実験が校庭で行われる予定になっています。」

 

 

 『お聞きの通りだ。神田先生、やはり日を改められた方がよろしいのではないか?』

 

 

 「そんな! それではせめて、四時限目の途中からでも」

 

 

 日を改めては校長不在というメリットが消えて、もう押し掛け視察もできなくなってしまう。食い下がった神田だったが、この後百山から「急な視察をされれば、生徒の魔法師としての未来も奪われる結果に繋げてしまうからやめろ…。」という言い分を気化されれば返す言葉はない。神田は魔法については素人と同然なのだから。

 

 

 「………分かりました。それではその課外実験だけでも見学させてもらえませんか。」

 

 

 『そうですか。教頭、スミス先生を呼んで、神田先生を案内させなさい。』

 

 

 悔しげに言う神田に対して特に勝ち誇った様子も見せず、八百坂に命じると、百山は通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 通信を切った百山は、上手く誘導できた事に薄い笑みを浮かべるのではなく、通信が切れ、真っ黒になった画面を直視しながら、物思いに耽る。

 

 

 (もしかしたら神田が視察に来ることが分かっていたのではないのか?司波達也…君。

 

  神田が訪れるのを狙ったかのようなタイミング…。そして彼らの目的を逆手にとっての恒星炉実験…。

  日付も事前に伝えていたとも言う。本来ならこの実験はもう少し準備に取り組んだら更なる成果が得られるかもしれないものだ。あの短い期限で準備していたのもこの為ではないか?)

 

 

 ここにきて、ようやく達也の実験が突如として申請されてきたその背景が見えた気がした百山は、一層目を鋭くする。

 

 

 (司波達也…。彼はいったい何者なのだ? 神田のスケジュールまで把握するとは、かなりの力がいる…。

  彼には大きな何かの力がバックにいるのかもしれないな。)

 

 

 達也に対して底知れない裏があるのを感じた百山は、一旦この考えを棚に上げる事にし、次に違う所へ電話する。

 

 

 

 ……民権党の上層部に。

 

 

 




やはり百山には敵わず。神田撃沈した~~!!


ところで、クリスマスイブは短編をやろうかなと思っています!!どんな内容にしようかな?


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興奮する教師達

実験内容はさら~~と砂のように流していき、周りの反応を見てみましょう!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 五時限目が始まり、スミスに先導されて準備中の放射線実験室へ向かう道すがら、今回のパフォーマンスに対し、手が回ってこなかった事を考えていた神田は、取り巻きのジャーナリストを不安にさせたまま目的地に到着した。そこで、自分達を見る嫌な眼差しを感じるが、目の前にいる廿楽に意識が向いていたので、気にしない事にした。学校内の取材と聞き、眉を吊り上げ、強い視線を浴びせる。

 

 スミスと廿楽が話しながら、無事に事が運んだことに頷く。

 

 出張中だった百山に、神田たちが乗り込んできた事を伝えたのは、スミスであった。

 

 校長室で八百坂が神田一行を相手にしている隙に、校長に連絡したのだ。百山なら達也の実験に神田を差し向けるであろうと事前に廿楽から聞いていたし、今日の昼休みにこの実験は神田に見せるための一芝居だとも直前になって聞かされていたため、絶好のタイミングで動いた。

 

 こうして、上手く神田たちを誘導した廿楽とスミスは、準備完了の合図を受け、球形水槽が校庭へと運ばれていくのを見送り、余裕を見せる表情で後を続く。

 

 

 スミスの後についてきた記者たちの厭らしい笑みと共に意地の悪すぎる質問に、廿楽は不親切に接し、内心は魔法技術を馬鹿にする態度を見せる記者たちに辟易し、怒りが募っていた。

 

 

 (まったく、この実験の価値を知りたいと思うどころか、兵器を作っているという前提でしか見ていない君達と口を利かないといけないと思うと、情けなくなるよ。

  ここにいる魔法を学ぶ者も、その魔法を教える者も目を見開いて注目するほどの事だというのに…。)

 

 

 世界的価値の高い実験を穢されたくないと思った廿楽は、完全に記者たちを見下しているスミスと同じ気分だと理解した上で、今朝の職員会議の時の事を思い出した。

 

 

 

 始業が始まる前に教師が職員会議を行うが、その際に今回の実験を今日の放課後に執り行う旨を廿楽が話した時……

 

 

 「何!! あの加重系魔法の技術的三大難問の一つに挑戦するのですか!!?」

 

 

 「ここ数日、廿楽先生が生徒会に訪れたり、何やら動いているとは思っていましたがそういう事だったんですね。」

 

 

 「やはり、この実験は司波達也君の提案ですか?」

 

 

 「彼以外、このような実験をしようなど考える者は、生徒も教師もいないだろう!!?」

 

 

 「…確かに。またやってくれたな。」

 

 

 「良いじゃないですか! その実験をこんな間近で拝見できるなんて早々ない事ですよ!!」

 

 

 「…ですね、我々も魔法に関わる者としてこの実験を見過ごす事は出来ない。」

 

 

 「ええ、それに私達だけでないです! 生徒達にもこの実験は将来的にも見させてあげるべきです!!」

 

 

 「そうだ!廿楽先生! 私の担当する生徒達にも見せてやりたいんだ!良いだろうか!!?」

 

 

 「私もだ! 放課後に行えば、部活等で生徒達が見学する時間が無くなる。なんとか授業中にできないだろうか?」

 

 

 一斉に廿楽に問い詰める教師達の興奮した態度を見て、八百坂が今日の時間割を調べていく。

 

 

 「…………では、五時限目はどうでしょう? 五時限目でしたら、どのクラスも実習はありませんし、問題ないです。」

 

 

 「教頭。ですが……」

 

 

 「もちろん、とても深い実験ですから、生徒達が座学にしても身に入らないと思いますので、この時間は全クラス自習という事にしましょう。それならば、生徒達も気軽に実験を見る事も出来ますし、全生徒達が注目するでしょう。校庭での実験許可も取ってありますから、大勢の所為との見学は十分ではありませんか?」

 

 

 「はい!問題ないと思います! ありがとうございます、教頭。」

 

 

 「という訳で、時間は少し前倒しになってしまいましたが、廿楽先生、よろしくお願いします。」

 

 

 「分かりました、司波君たちにはそう伝えておきます。」

 

 

 「大丈夫ですよ、廿楽先生。今、実験をするメンバーに学内メールで実験が前倒しになる事を伝えておきましたから。」

 

 

 「ああ、ありがとう! スミス先生。」

 

 

 「では、他に意見もなければ、次の報告に移ります。」

 

 

 八百坂の言葉で、満足し、綻んだ顔をした教師達は、その後の職員会議も機嫌良さ気に進んでいき、会議が終わり、担当するクラスの授業へと向かう際、皆が急ぎ足で職員室を離れていったのであった。

 

 

 その同僚達の後姿に廿楽とスミスは顔を見合わせ、声を出して笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 朝の事を思い出した廿楽はあの時の純粋に喜ぶ教師達の姿を神田達に見せてやりたかったと心の中で呟いたのだった。

 

 

 




世紀の発見のように凄いものには、大人も子供も関係なく夢中になるもの!

本当に見せつけたらよかったのにね!


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一高生の期待と憧れ

さてここでも原作キャラを…。


 

 

 

 

 

 

 廿楽とスミスの後をついて来て意地の悪すぎる質問をしてきた取り巻き記者達と神田は校庭に出て、思わず息をのんだ。

 校庭に出てみて初めて気づいたが、校舎から大勢の一高生達が窓から身を乗り出して校庭で最終確認をしている様子を心待ちし、見守っていた。

 

 更に窓から生徒達の姿が溢れてくるのを見て、神田達はこれから始まる実験とやらの内容に少し興味を持った。神田は何があっても自分のイメージ戦略を作り上げるためにはこの実験での生徒達の反応を観察し、利用すればいいと思いながら、実験が始まるまで、生徒達を盗み見ていた。

 記者達も神田が動き出しても後押しできるように校舎と実験準備にカメラを回す。

 

 そんな中、校舎内から興奮しているような、それでいてときめいているような騒ぎ声が聞こえてきた。

 

 

 「いよいよ始まるな。まさか実験する内容が三大難問だとはな~。」

 

 

 「各国の魔法研究者達も苦難しているというのに、それに挑戦しようとするなんて…。」

 

 

 「ああ…、やっぱりあいつは天才かもしれないな。……司波達也。」

 

 

 「ふん!あいつを天才などと言うな! 実験と言っても実際に核融合炉を動かす訳じゃないんだ! エネルギーも取れない段階で成功ともいえない!」

 

 

 窓から校庭で実験装置を準備する達也たちを見下ろしながら感心していた生徒達の隣で森崎が憤慨を露わにして、反論する。しかし、森崎のように腹を立てているのは少数と言える。一科生の多くは、達也が実験するという事で妬みを抱えるよりも、誰も成功していない核融合炉の実験を行う…、世界でも初かもしれない魔法が世界で活躍する可能性を見いだせる貴重なこの実験を目の前で見学する事が出来て興奮しているのだった。だから、森崎の言葉を聞き、訝しく思うのは当然である。

 

 

 「森崎、今はそんな事を言う時ではないぞ? 」

 

 

 「そうよ、それに核融合炉をいきなり動かすなんて真似をするのは、愚か者のする事よ。その前段階でやるのだから、森崎君の言い分は認められない。」

 

 

 森崎の言葉を耳にした生徒達はジトっとした目で異議を唱える。そんな視線を集中的に受けた森崎は居心地が悪くなり、開き直る事にした。

 

 

 「ふ、ふん!俺は何があってもあいつを認めないからな! ただ実験内容があれだから、仕方なく拝んでやるっ!」

 

 

 「はいはい…。」

 

 

 素直じゃないと思いつつ、再び窓の外へと目を向ける一科生達だった。

 

 

 一方で、目を輝かせて友人と手を繋いで祈っている生徒達もいる。その多くは初々しい雰囲気も兼ね備えた一年生たち。

 

 

 「いよいよ司波先輩の実験が始まるわね…!」

 

 

 「はぁ~…、まさか一高に来てまだ数週間しか経っていないのに司波先輩の素晴らしい実験をこの目で拝む事が出来るなんて…。」

 

 

 「うん、まだ信じられない…。」

 

 

 「僕なんか見てよ! 鳥肌が止まらないんだ!」

 

 

 「さすが司波先輩…。お近づきになりたいな~。」

 

 

 「いいよな~。ケントは司波達也先輩と一緒にあそこにいるしよ。…いったいどこで知り合ったんだ?」

 

 

 「あ、私知ってる! 入学式の時、迷っていたら偶然司波先輩に会って、助けてもらったって言ってたわよ!その時にGPSをインストールしてもらったって嬉しそうに話しかけてきて、大事そうに抱きしめてたわ。」

 

 

 「そうそう。そしておまけにその端末をお父さんに頼み込んでもらったらしくて、宝物にしたって幸せオーラ全開で話してた。犬の尻尾が見えた気もしたわね…。」

 

 

 「俺は、その端末をわざわざ神棚まで作って、御供えして毎朝登校する前に拝んでいるって聞いたぜ?」

 

 

 「……もうどこを突っ込んだらいいか分からないな、そこまでくると。」

 

 

 「うん、でもその純粋すぎる好意がよかったか分からないけど、実験の手伝いをしたいって申し出しして許可してくれたとも言っていたから、あれくらいじゃないといけないかもね。」

 

 

 「それはハードル高いって~~~!!」

 

 

 ……そんな声が一年生たちから聞こえてくる。

 

 今年一高に入学してきた一年生の中には、九校戦で披露された達也のスーパーテクニックやCAD調整、思いつかない作戦に心惹かれ、ケントと同じ理由で入学してきた生徒も少ないのだ。更にモノリス・コードに出場した選手としての達也も鑑賞し、その強さの片鱗だけでも近くで見たい、教わりたいと思って入学した生徒もいた。

 

 達也は自分がそこまで一年生達に注目されていたとは知らない。

 

 ただ、窓から注がれてくる好意的な視線の数々を浴びて若干心落ち着かない気分になったのはここだけの話。

 

 

 

 




モブ崎をからかうメンツは皆、実験準備にいっているしな~。本名は語りたくなかったが仕方がない。それよりも可愛いケントの同級生とどんな会話をしてたのか、ほんの少し知れたね!
そして萌えたね!!

明日は、クリスマスイブ!なので短編にすると思います!


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達也応援団

やばい・・・。眠げが襲ってきて…、ぐぅ~~…。



 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から身を乗り出している生徒達が溢れ返っていたが、窓から見るだけでは満足できない生徒が校庭に下りてきた。

 その中にはひときわ目立つ赤い髪の美少女が今時珍しい眼鏡をかけた巨乳のこれまた美少女と実験に注目していた。

 それをカメラに撮っている中年男性記者は超アングルにして、女子高生を密かに撮りまくる。他の記者も同じように写真を撮ったりする。これでは完全にわいせつ行為になり、警察に連行されるところだが、神田の後ろに控えているためか、『何をしても神田が守ってくれる。』と思い込んでいた。

 記者達を冷たい視線で非難するスミス先生は、こちらもこっそりと盗撮する記者達の姿を記録する。

 

 そんな取材じゃなくて、完全に公然わいせつ罪を犯している記者達の厭らしい視線を盗撮されている本人であるエリカは、当然気づいていた。

 

 

 「……まったくこれだからマスコミって嫌いなのよ。神田議員の腰巾着のくせに…。」

 

 

 「エリカちゃん…、今は達也さんの実験だけに集中しよう? 後で話ししようよ。」

 

 

 美月は今にも斬りかからんばかりのエリカの鋭い視線で、慌てる。でも、すぐに毒気が抜けたような顔でエリカが振り向く。

 美月の言葉の裏を読み取ったからだ。

 

 後で話ししようって事は、視察が終わった後思い切り愚痴を溢そう!と言っていると理解したからだ。美月も厭らしい視線を受けて、不快感を持っていた。その証拠に蔑む視線をちらりと流している。

 

 

 「そうね、放課後にでもケーキを食べながら発散しないと!」

 

 

 「うん、美味しいデザートを食べたら気分も変わるからいいと思う。」

 

 

 「……なぁ、さっきから気になっていたんだけどよ~?

  美月はあそこに行かなくていいのか? 」

 

 

 エリカと美月の会話に差し込んできたのは、さっきからずっとエリカの隣で見物しに来たレオだった。指差す先には、実験装置の設置や最終確認している達也や生徒会役員、後は有志の協力者が真剣な眼差しで準備を整えていく。美月もこの実験に参加していたはずなのに、あそこにいないのはどうしてだろうと直球に聞いてきた。

 

 

 「何であんたがここにいるのよ。私は美月と一緒に見学するんですけど~?」

 

 

 「俺がここにいたらいけねぇ~のかよ! 達也の応援に来たんだ!」

 

 

 「まぁ、二人とも落ち着いてください。 西城君、私は実験装置を作り上げたりしただけだから、手伝える事はないんです。だから、せめて一番の特等席で実験の成功を願いながら、見学したくてここにいるんですよ。」

 

 

 「そういう事か~。なら達也のために応援するか!応援団結成だぜ!」

 

 

 「何を意義込んでいるのか…。大体応援団って、達也君を応援する人なんて私たち以外にはいないんじゃない?」

 

 

 「そんな事はねぇ~だろ?だって、ここに集まっているみんなは、達也に好意的な奴らばかりだからな。」

 

 

 レオが後ろへ視線を投げるので、レオの身体を通して、後ろを見てみると、次々と校舎からこちらに向かってくる生徒達の群れを目撃するエリカと美月。

 

 

 「結構な人数だね~…。」

 

 

 「どこかで見た事がある人たちばかりですね。」

 

 

 エリカと美月がそれぞれ感想を述べる。そこにスバルとエイミーもやってきた。

 

 

 他にも去年の一年E組のメンバーと去年の九校戦・新人戦女子代表メンバーは全員が顔をそろえていた。更に二年E組(魔工科)は、実験に参加していない生徒も含めて全員がこの場に立ち会っていた。生徒達だけでなく、教師の姿も少なくない。

 

 

 その全員が共通しているのは、目を輝かせて達也を見ている事だ。

 

 

 「達也~~!!頑張れよ~~!! 必ず成功しようぜ~~!!」

 

 

 レオがそう切り出すと、校庭へ下りてきた生徒達が口々に激励を送る。終いには、体育系の掛け声までするものだから、最初はわざわざ見に来てくれた友人達に感謝していた達也は、すっかり見物人たちのテンションについていけずにいた。

 

 しかし、達也にとっては幸いにちょうど五十里から実験開始してもいいというゴーサインが来た事で、早速始める事にした。

 

 

 「実験を開始します。」

 

 

 

 達也が放った一言で、熱く応援していたレオ達の声が一気に収まり、校庭だけでなく校舎内でも静まりかえった。

 

 




照れ隠しでさっさとはじまりました。実験が。

……睡魔に襲われながら何とかやりきったぜ・・・。(もしかしたら改稿しないといけないかもだけど)

いよいよアイドル~~!!達也がアイドル~~!!


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成功の雄叫びと黄色い声

実験開始!! さぁ、神田達よ!度肝抜けてみろ~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 「実験を開始します。」

 

 

 拡声器でアナウンスする達也のしっかりとした大人な声が広がり、校庭に集まった生徒達の応援やお喋り、実験の考察等が止め、静まりかえる。

 そして一部の生徒達が失神しそうになったが、生徒と教師が固唾を呑んで見守る中、達也の合図で実験が始まった。そしてその合図でさえもやはり一部の生徒達がよろめきを見せるのであった。

 

 

 「ちょっとしっかりして…! 折角の司波先輩の実験が始まるのに!!」

 

 

 「だ、だって~…! あの、身体に響く様な大人びた達也先輩の声を聞いたら、もう腰が…!」

 

 

 「わ、私も~! もう眩暈が…、ヤバすぎる…!」

 

 

 「司波先輩ってあんな声だったんだ…。いつも遠くから御姿を拝見するだけだったから、初めて聞いてみてドキドキしたわ…!」

 

 

 「ああ~~!! なんで録音機器を持っていないのかしら~!! 司波先輩のお声を記録できたというのに~~!!」

 

 

 …と、拡声器でよく聞こえた達也の声に萌えて、よろめく一部の女子生徒達の声が小声で繰り出されていた。その中には、去年の新人戦で達也がCAD調整に関わった女子生徒達も含まれていた。

 

 

 そんな達也の声に酔いしれている女子生徒達にはお構いなしに(実験に集中していて目にはいらないとも言える)実験が続けられる中、次々に魔法が成功していく。

 球形水槽内に淡い光が生まれ、その光は明るさが増しながら一分、二分と輝き続ける。

 その輝きに見学している生徒や教師の間で無言のどよめきや目を大きく見開き、口が開きっぱなしになるという事態が駆け抜ける。……球形水槽の光がまるでダイヤのような輝きだと顔を真っ赤にしてうっとりと眺めている乙女たちもいたが。

 

 

 

 「実験終了」

 

 

 しかし、実験開始から三分後、達也の口から実験の終了が告げられた。重力制御魔法が維持されている限り容器が割れる事はないとはいえ、魔法による補強効果を除けば容器本体の耐圧性能はそろそろ限界に近づいていたのだ。球形水槽の限界を『精霊の眼』を通して知り、これ以上は無理だと判断したため、ストップをかけた。だが、眩い光が徐々に消えていく様が乙女にとっては儚く散っていく美しい花のように思えて、しょうがなかったのだった。それでも魔法を学ぶ生徒であるが故、私的な理由で実験の継続を願うものではないし、実験のデータも取れた。乙女な観点のフィルターを外し、実験結果が発表される瞬間を待つ事にしたのであった。

 

 

 そこに、分析機の前に陣取ったケントから甲高い声で簡易測定の結果が告げられた。それにより、見学の輪のあちこちに興奮を隠せぬざわめきが生じだした。

 

 労いの視線を深雪達に向けた後、達也があずさにマイクを手渡そうとする。それを、あずさが首を大きく振って押し返そうとする。実験を提案した達也こそが結果報告をするべきだと思うあずさと、生徒会長としてここは代表であずさにしてもらいたいと思う達也との静かな攻防戦が始まる。(これ以上自分の存在を記者達に探らせたくないという裏の考えも達也は持ち合わせていたが。)

 しかし、五十里がにこやかに笑って達也をサポートした事で、達也の方に軍配が上がり、あずさは泣きそうな顔でマイクを受け取った。何度も深呼吸し、マイクを口元へ持っていく。

 その仕草を息を忘れるくらいに結果を待っていた生徒や教師が「ついに…!」と唾を呑み込んで耳に全神経を注ぎ込む。

 

 そしてついにあずさはこの場に立ち会った全ての生徒や教師に向けて宣言する!

 

 

 

 

 「常駐型重力制御魔法を中核技術とする継続熱核融合実験は所期の目標を達成しました。『恒星炉』実験は成功です。」

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「わああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 「「「「「「やった~~~~~!!!」」」」」」

 

 

 「さすがだぜ、成功させちまった!!」

 

 

 「これは快挙ですよ!! 」

 

 

 「凄い! みんな、お疲れ様~~!!」

 

 

 校庭で、校舎で、一斉に歓声が上がった。それは暴力的なまでに熱狂的な歓声で、『魔法』の可能性と未来を称える雄叫びにも聞こえた。

 

 

 「遣りました、やりましたわ! 司波先輩…、本当にすごいです!」

 

 

 「当たり前ですわ! だって、達也様ですから!!」

 

 

 「うんうん!! やっぱりここに入学してよかった…。達也様の凄さをこんなに間近で拝見できるなんて…。私…、感動で胸が一杯…。」

 

 

 「ちょっと何を泣いているのよ~。…って、私もだけど!! よかったね!無事成功したもんね!! 」

 

 

 「達也様の恒星炉実験が成功した事で、また”三大難問”の一つが解決すれば物凄い快挙だし、魔法師の未来も広がるに決まってるわ!」

 

 

 「その時は絶対に達也様の御力になれるように、私ももっと勉強するわ!!」

 

 

 「あ、ずるい! 私も!! 絶対に負けないんだから!!」

 

 

 …等といった、達也の恒星炉実験が成功した事で、更に達也の魅力に磨きがかかり、女子生徒達から黄色い声が上がったのだった。

 

 

 




実験に私的な考えは危険だよ~。でも、そう思うのも分かる!
そしてますます達也は学校内で人気になる。


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そして達也は有名になる…。

ふぅ~!! 朝から忙しいぜ!



 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒達の歓声と黄色い声に圧倒され、硬直していた神田議員とその取り巻き記者は球形水槽が放射線実験室に戻され、校庭で見学していた生徒達が教室へと戻り始める頃になって、ようやく我を取り戻した。

 

 立ち話をする廿楽とスミスに質問する記者に廿楽が説明するのを、教室に帰り際にちらっと見ていたエリカとレオがさっきまで笑顔で友人の実験成功に喜んでいたのと対照的な不機嫌を隠そうともしない顔に変化する。

 

 

 「ああ…、始まったみたいだぜ。見てみろよ、あの嫌味な顔。何を質問してんのか、離れてても分かるぜ。」

 

 

 「あんたと同じ意見っていうのは癪に障るけど、確かに気に入らないわね…。自分達の都合のいい見世物に変えようと今、躍起になってるのよ、あれは。本当にムカつく連中よね~! いっそ、一太刀いれてあげようかしら?」

 

 

 「お前が言うと、本気にしか聞こえねぇ~な。」

 

 

 「あら、私は本気だけど? 何、止める気?」

 

 

 エリカが記者達に獰猛な鋭い視線を投げたまま、レオに言い返す。自分を止めるつもりなら、遠慮なく止めを刺してあげる…という巻き込まれる確率が100%の状況になると本能でも分かる雰囲気を今のエリカはオーラを放っていた。

 しかし、それをレオは恐ろしいとは思わず、寧ろニヤッと面白そうに笑っている。

 

 

 「いんや、止めねぇ~よ。それより俺も混ぜろって言いたいくらいだぜ。」

 

 

 そう言って、拳を突き合わせてやる気を見せるレオに、見方を得たとばかりにエリカは微笑む。

 

 切り込みにいざ行こうかと思い、二人は一歩踏み出す。

 

 しかし、一歩しか前に進む事は出来なかった。

 

 

 「二人ともやめておけ。お前達が手を下すほどの事でもないし、それほどの器を持った連中でもない。逆に相手の思うつぼになるぞ?」

 

 

 いつの間に二人の背後に立っていたのか、達也の声で二人が金縛りに遭遇したようにその場から動かなくなった。

 

 

 「あれ?…達也君、居たんだ………。」

 

 

 「達也の方が怖~よ。」

 

 

 血の気が減っていく感覚を身体に感じつつ、そのままの態勢で話すエリカとレオ。

 

 

 「お前達がなにやら企んでいそうな顔をしていたのが見えたからな。後始末は会長たちに任せてきたんだ。」

 

 

 「あんな遠くからよくあたしたちが見えたわね…。まぁ、達也君なら何でもありか。」

 

 

 「でもよ~、達也。あの記者達をほっといて大丈夫かよ? 実験は成功したけど、あいつらがまともに理解しているとも思えないし、でたらめな事を気時にするのは目に見えているぜ?」

 

 

 「問題ない。反魔法主義を掲げていても、実際に魔法について知識がある一般人はそう多くない。大半は己の利益や損得で賛成するか、否定するかを言っているだけだからな。レオの言ったとおりになるのは、仕方ないだろう。」

 

 

 「だったら、なおさら…」

 

 

 「暴力としての脅しでは逆に相手の考えるシナリオに誇張されて世に放たれるだけだ。」

 

 

 「じゃあ、このまま黙って見過ごせっていうの? 納得できないんだけど?達也君。」

 

 

 「”暴力として”ならはな。脅しならいくらでもある。」

 

 

 達也が意味深な言葉と笑みを浮かべて二人を見つめる。それを見て、エリカは察しがつき、同じく妖艶な笑みを浮かべる。

 

 

 「へぇ~、達也君、もう札を手に入れてるんだ~。人が悪いね。」

 

 

 「俺は悪い人だと思うがな。」

 

 

 「そっちの方がたち悪いって!」

 

 

 「まぁ、俺が使う必要があるかと言われれば、恐らくないだろうな。…既に廿楽先生が仕掛けたようだ。」

 

 

 達也の視線を追って、見ると、廿楽が高笑いし、記者達に何やら小馬鹿にした様子でいい返し、神田にも何やら白々しい顔で一礼していた。

 

 

 「あ、帰っていく…。」

 

 

 「あの後姿、見事にきっちりと並んで歩いているぜ…。大名行列かよ!」

 

 

 「言い回しが時代錯誤な気もするが…。まぁ、無事に実験も終わった事だし、とにかく教室に戻るぞ、二人とも。 次の授業に遅れる。」

 

 

 「はぁ~い! 大人しく戻るわよ。もう興も冷めた事だし。」

 

 

 「やべっ! 俺、次の授業の課題してねぇ~!!悪いけど、俺、先に行ってるぜ!」

 

 

 大慌てで教室に向かうレオを見送って、達也とエリカが歩いて校舎内に入る。

 

 

 「……ごめんなさい、達也君。」

 

 

 二人きりになって、エリカは罰が悪そうな顔で達也に謝る。先程はつい先走ってしまい、達也に迷惑かけそうになったのが恥ずかしいのだ。

 

 

 「何が? エリカが謝る事はないだろう?」

 

 

 「だって、あたしあいつらが許せなかったんだもん…。」

 

 

 「エリカが気にする事はない。人によって捉え方は違うし、あのままエリカが突っ込んで、エリカの印象が悪く書かれた記事にされずに済んでよかった。」

 

 

 「そ、そう?」

 

 

 真剣な言い方で話す達也にエリカはドキドキする。照れくさくて、思わず顔を逸らす。

 

 

 「ああ、俺もエリカのような友達思いを持てて、幸せ者だと思ったほどだ。」

 

 

 「……………」

 

 

 次の言葉に里香は胸がチクリと痛んだ。

 

 

 「……もうここで良いよ。達也君は行くところあるでしょ?あたしも次の授業の準備があるし、先に戻るから!」

 

 

 「わかった。」

 

 

 二つ返事で達也は頷き、エリカが階段を上がっていくのを見送ると、振り返り、さっき来た道を逆走していくのだった。

 

 それを階段の陰から見ていたエリカは、消えた達也を確認して、息を吐き出し、教室へと戻るため階段を上がり続ける。

 

 

 (”友達”……か。…もう、達也君は分かってないわね。

  私がただの友達のために、あんなに怒るとでも思っているの?

  達也君の魔法師としての未来の可能性を変えれるかもしれない実験を、邪な考えを持った連中に捻じ曲げられそうになれば、腹が立つのは当然でしょう! ……好きな人ならなおさら…。)

 

 

 

 

 「……本当に馬鹿なんだから。」

 

 

 

 達也には聞こえないと知ってはいるが、つい軽く愚痴が零れたエリカは苦笑していた。

 

 

 

 

 そして、この輝かしい実験は、翌日のニュースで話題となり、世界各国へと配信されていく。

 

 

 

 これにより、達也は魔法研究する者にその名を記憶させるほど有名になる…。

 

 

 




遅くなって申し訳ない!!

エリカ視点でやってみました! 伝えられない恋心を秘めたエリカ、可愛ゆす!!


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さすが達也様!!(真夜編)

実験が終わったので、真夜の反応を書いてみた。


 

 

 

 

 

 

 達也が恒星炉実験を行った翌日………になる少し前。

 

 

 珍しく遅くまで仕事に追い詰められているのは、四葉家当主の四葉真夜だった。絶世の美女とも言える美貌を持っている真夜は、若く見られがちであるが、今日はなぜかその顔に少しやつれている印象が見える。

 

 

 「奥様、今日はこのへんで切り上げ、また明日にでも…」

 

 

 「いいえ、何としても今日中には終わらせないと…。」

 

 

 「ですが、顔色が優れないように見受けられますが…。」

 

 

 「なら、明日エステの予約を取っておいてくださいな。それまで仕事を終わらせますから。」

 

 

 頑なに休もうとはしない真夜の必死に書類とにらめっこする姿を見て、葉山さんは遠い目をする。

 

 いつも通り、魔法研究に励んでいた真夜は、達也が恒星炉実験を行い、無事成功したという報せを聞きつけ、我が事のように舞い上がっていた。まだニュースにもなっていない段階で、これを知り得たのは、あの神田議員の取り巻き記者の中に四葉の息がかかった者が紛れ込んでいたからだ。本来なら、いつもの取り巻きではないと神田は気付いて不審に思うかもしれないが、あいにく周りに気を配る余裕は既に校長と電話で視察交渉をした時からなかったため、認識阻害の魔法を使う事もなく、難なく潜入できた。そして達也が任務を無事に終わらせた事を知り、その方法として誰にも想像できなかった実験を成功させたのだ。

 同じく魔法研究をしている真夜もサイエンティストとしての血が騒いだ。

 

 

 「私も負けていられないわね…。」

 

 

 そう言って研究に力を入れる………

 

 

 

 ならよかったのだが、真夜が取り組んだのは、コンサート用のうちわや応援着のデザイン、はたまたアイドル達也の衣装のデザイン…、宣伝等々、魔法研究とは全くかけ離れた創作意欲を沸かせるのだった。

 

 そのため、四葉家当主として舞い込んでくる仕事が滞り、今になって、仕事に追われている始末なのだ。

 

 

 

 

 達也には隠しているが、大の熱烈な達也ファンである真夜の言動は凄まじい…。

 

 

 達也の実験の様子をカメラで録画していたので、それを鑑賞した真夜は、録画を見ての一言、「あの恒星炉を達也さんのバッグに置いて、光を放てば達也様が輝くと思いません?葉山さん?」………である。

 

 これにはさすがに葉山さんも苦笑いをしてみせるしかなかった。

 

 

 そして、永遠に続きそうなほど、実験の所を再生し、繰り返す真夜に仕事を処理してもらうため、葉山さんは秘策を口にする。

 

 

 「奥様、そろそろ仕事に戻っていただかなければ、溜まっていく一方です。このままでは土曜日に達也殿と会う事は出来ないでしょうな~。」

 

 

 「それは大変だわ!すぐに始めるわ。」

 

 

 録画で達也が映っているのを見て、乙女な視線でうっとりしながら見つめていた真夜が葉山さんの魔法の言葉ですぐに机の上の書類の山に目を通していくのだった。

 

 しかし、神の書類の山があるという事は、秘匿性が高い物ばかり。早く終わらせるわけにもいかず、このように日が変わりそうになるまでまだ続けていた。

 

 

 「……ふぅ~、葉山さん…、これいつになったら終わるのかしら? 全然終わりそうにないのだけど?」

 

 

 今度は真夜が遠くを見る目で机の上の書類の山を見る。

 

 

 「あと半日でしょうか? しかし一週間はかかると思われていた案件がすぐに手を打つ事が出来ましたし、かなりの仕事が片付きました。残りはその机にある書類のみなので、あと一息です、奥様。」

 

 

 「そう…。なら、頑張ろうかしら? 達也さんも短い期間での実験準備で終わらせたのですから、私も見習って続けましょう!」

 

 

 自分にはっぱをかけ、残りの仕事に力入れていく真夜。

 

 このネタはしばらくは使えそうだと、葉山さんは「さすが達也殿…。」と真夜とは違った意味で達也を褒め称えるのだった。

 

 

 

 そして日を通り越して、無事に仕事を終えた真夜は、土曜日に向けて、エステに行き、更には自分の服を買い、達也との再会を心待ちにするのだった…。

 

 

 

 




……眠げで何かが足りないような? 結局真夜のキャラ崩壊が痛い?う~~ん?まぁ、新年からの『お兄様がアイドルになる件』で明らかになるさ!

明日は、あの子が登場!待ってたぜ!!


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さすが達也様!(亜夜子編)

やっぱりこの子がいないと、始まらんわ!!


 

 

 

 

 

 四月二十六日、木曜日。

 

 

 四校への登校途中の個型電車の中で、情報端末を手に持って、ニュースに目を見張る美少年と美少女の双子がいた。

 

 

 「達也兄さん、凄いや!! たった数日だけでこれほどの実験を成し遂げるなんて、僕にはできないよ! 」

 

 

 「ふふふ、そうね。達也さんだからこそこの実験を提案できたのであり、誰にもできなかった難問を攻略する糸口を見出されたのだから、評価されて当然よ。」

 

 

 美少年で、双子の弟である黒羽文弥は再従兄の達也のお手柄に心が躍り、憧れを抱きながら記事を読むのに対し、双子の姉である黒羽亜夜子は達也の事は褒めているが何やら含みがある言い方をしながら、記事を読んでいた。

 それを敏感に感じ取った文弥は向かい合わせで座っている亜夜子へ視線を向け、話しかける。

 

 

 「どうしたんだよ、姉さん。達也兄さんが世界的観点から見ても立派な成果を出したんだよ?達也兄さんのこの実験が本格的に稼働すれば、魔法で核熱融合炉を動かすことができるし、今までのエネルギー抽出とは比べ物にならないくらいの利益を得ることができる。僕達が生きていくための未来に大きな役割になるのは遠い未来じゃないかもしれないんだよ? 姉さんは嬉しくないの?」

 

 

 熱烈に熱く語ってしまった文弥だったが、それだけ達也を尊敬しているのはもちろん、この魔法師にとって歴史的快挙ともいえる恒星炉実験の成功を喜んでいることに他ならないからだ。

 それなのに、亜夜子は浮かない顔をしている。それに文弥から見て、なんだか拗ねているようにも見えた。

 

 

 「文弥…、そんな事はこの記事を見れば、一目瞭然。達也さんがご披露された実験がいかに優れているか、魔法師だけでなく人が生きていく上で重要な資源になりうるという事は十分に理解しているわよ。………だから納得できないのだけど。」

 

 

 頬を膨らませて、完全に拗ねながら、恨めしそうに応報端末に表示されている記事をみる亜夜子を見て、文弥はなぜこのような態度をとっているのか、理解できた。

 

 亜夜子は達也の実験自体に腹を立てていたのではない。それはもとより文弥は最初から理解していた。自分達が達也を疎ましく思うどころか、尊敬しているのは当たり前の事だから。

 

 問題だったのは、実験を取り上げた方だ。

 

 

 「達也さんの実験がどれだけ素晴らしいものか、理解も示そうともしないで、事実を捻じ曲げようとするなんて、マスコミは一体どんな頭をしているのかしら!?

  いくら”国民の目と耳である”記者でも、やっていい事とやってはいけない事があるでしょう? 本当に自分の考えが世論のものだと思い込んでいい加減な原稿しか書かない人に達也さんの栄光の実験を穢されたくないわ!!

 

  見て、文弥!この記事…、『魔法科高校生、水爆実験か!?』ですって!!

 

  この記事書いた記者………、どうやら痛い目に遭わなければ分からないようね…。」

 

 

 もはやマスコミへの偏見というレベルを超え、明らかに摩擦計画を立てそうな勢いを醸し出し、薄く笑みを浮かべる様子にさすがの文弥も黙っているわけにもいかず…

 

 

 「姉さん、落ち着いて! 

  姉さんのマスコミ嫌いは嫌ってほど知っているからさ! 僕も姉さんの言いたいことはわかるよ?でも、ここは達也兄さんのためにも穏便に…。」

 

 

 「達也さんのため?」

 

 

 「うん…、もし今、その記者に手をかけたら、真っ先に疑われるのは、魔法師…、もっと言うなら、その元となった達也兄さんに捜査が向けられるかもしれない。」

 

 

 「それはダメ!絶対に!! 達也さんは何もしてないですわ!」

 

 

 「だから落ち着いて、姉さん。……だから、抹殺しようなんて真似はしないでよね?」

 

 

 「わかったわ。抹殺だけはしないであげる。」

 

 

 「よかった。あ、駅に着いたみたいだよ。降りよう、姉さん。」

 

 

 「ちょっと待って、文弥。端末にメールが入ったの。」

 

 

 ちょうどいいタイミングで学校の最寄駅に到着したので、個型電車を降りようとした文弥に待ったをかけた亜夜子。

 亜夜子が達也への恋心から不躾な態度で取材をしたり、でたらめな記事を書いたりしたマスコミに怒りを覚え、危うく暴走するところを食い止めることができたが、情報端末に届いた一通のメールで亜夜子の表情が変わった。

 

 

 「……なるほど。そういう事だったのね…。」

 

 

 暗号化されたメールを読み、一人で納得する亜夜子の何かを企んだ微笑みが気になり、文弥は問いかけた。

 

 

 「姉さん、そのメールにはなんて?もしかして任務?」

 

 

 「そうね~…、任務と言えば任務ね。でも私達に出された任務じゃないわ。」

 

 

 「?…じゃ、誰の?」

 

 

 「それはその時が来てからのお楽しみ♥」

 

 

 ウィンクを文弥に向け、今度は上機嫌になり、満面の笑みで個型電車を降りた亜夜子。その後を急いで降りる文弥。

 亜夜子の意味深な言葉と笑みに問い詰めたい気持ちはあったが、既に人目がある中を歩いているため、詳しくは家に帰ってからにしようと諦めの領地でそう思う文弥だった。

 

 一方、亜夜子は一通のメールのお蔭ですっかりと気分がリラックスでき、嬉しさと楽しみで胸がいっぱいになるのだった。

 

 

 (ふふふ!! まさかそういう事だったなんて、思いもしませんでしたわ!

  でもこれは好機!! 今回は深雪お姉さまに達也様を取られてしまいましたが、次は私が達也様の御役に立つ番ですわよ!!誰にも譲りませんわ!!

  それに達也様の意外な素面を知るのは、私の専売特許でもありますし。

 

  俄然燃えてきましたわ~~!!

 

  私が必要となるその時まで、私も腕を磨いておきますので、達也様!!お待ちくださいませ!!)

 

 

 …と達也萌えを胸に秘めた亜夜子は周囲に笑顔を無意識に振りまき、通り過ぎる異性に注目され、そのまま声を掛けるために囲まれ、遅刻ギリギリになるまで捕まってしまうという現象を招いてしまうのだった……。

 

 

 

 (もう~~~~~~!!!! どうせなら達也様に囲まれて、甘い言葉をささやいてほしかったですわ~~~~~!!!)

 

 

 

 

 




残り今年も後一日になりましたね!! みんな!!最後の日を楽しんでください!!

そして私は………年末を仕事で忙しく過ごす事にします………。


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お兄様がアイドルになる件!!
遂にこの時が…!


これでようやく始められます!!アイドルネタ!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 四月二十六日、木曜日。

 

 

 

 

 

 通学途中の個型電車の中、情報端末を手にいつもの習慣でニュースをチェックしていた達也が「おやっ?」という表情を浮かべた。

 

 

 「お兄様、何か気になるニュースでも?」

 

 

 達也の表情を見逃さず、深雪は問いかける。

 

 

 「昨日手伝ってもらった実験の事が、ね。」

 

 

 「好意的な記事と敵対的の記事が併存しているのは予想通り。むしろ予想外に好意的な記事が多いような気がする。」

 

 

 「何もおかしなことはないのでは?」

 

 

 「風向きに敏感な国会議員はともかく、大手報道機関の記者があの程度の仕掛けで白旗を揚げるとは思っていない。意地になって一方的で断定的な記事を書いてくると予想していた。実を言えば、それを足掛かりにしてカウンターの世論操作を仕掛けるつもりだった。」

 

 

 「まぁっ。」

 

 

 「今更ですが………お兄様、お人が悪いです。」

 

 

 深雪が本気で糾弾してはいないが、水波は本気で呆れているのを達也は苦笑してみせるしかなかった。

 

 

 深雪に携帯情報端末の画面を見せ、記事を読ませてみたが、深雪は達也の実験が認められるのは当然と言わんばかりの口ぶりで答える。深雪は知らないが、この時同時刻、まったく同じように情報端末で記事を見ていた亜夜子と同じ心境を抱いていた。ただ、深雪達が見ているのは表面上の記事なので、諜報を担う役目である亜夜子には、もっと裏に詳しい所まで探れる。そのためか、ヒステリックに捉えた記者達の本音のコメントも見つけ、亜夜子は怒りを露わにしていたのだ。

 

 そうとは知らない達也は、深雪の言葉でひとまず納得しておくことにした。

 

 

 実際は、廿楽が録画しておいた神田の発言を使って、活動を少し控えるように遠まわしに要求した結果でもあり、達也の企みを百山校長がうまく利用した結果も連なっての事だった。

 

 

 

 昨日の実験の記事は、ひとまず納得した達也だったが、もう一つ納得できていない案件が達也に不快感を募らせていた。

 

 

 (俺に何も言わないで、こんな事をしていたとは…。叔母上、一体どういうつもりなんだろうな…。)

 

 

 駅に到着するまで、お気に入りの書籍サイトを開いて読んでいるフリをしている達也が目を向けているのは、さっきまで見ていた記事だった。ただし、記事と言っても芸能記事だ。

 その記事には、突然現れた謎のアイドルについての特集が取り上げられており、そこに載せられている写真を見て、達也はぞっと血の気が引くのを感じた。だって、その写真には達也自身が写っていたのだから。

 

 

 まさかここまで記事に取り上げられるほど注目を受けるとは思っていなかった達也は、地味にショックを受け、頭痛を感じそうになった。しかし表情は一つも変えずに力を入れる。

 

 

 この記事を見ていて、達也の表情を読み取った深雪に声を掛けられ、咄嗟に実験の記事へと変換し、話題を変えたというのに、深雪に気づかれたらまずいからだ。

 

 

 しかし達也が危惧した事態にはならずに済んだ。

 

 

 

 目的の駅に着いたのだ。

 

 

 「さて、深雪、水波、行くぞ。」

 

 

 「はい、お兄様。」

 

 

 「はい、達也兄さま、深雪姉さま。」

 

 

 こうして、達也は深雪と水波を連れて、今日も登校するのだった。

 

 

 

 

 だが、達也の心の奥底はアイドルとして地盤を固めつつある現状にまだ納得できていないのであった。

 

 

 

 

 




実は、こういう理由があったのさ!!

遂に達也にばれてしまった!!真夜はどうするんだろうね~~!!

でも、明日…、来年からはアイドル活動を本格始動していきますので!!よろしくね!!

今年もあとわずか!! 来年もよろしくお願いします!!


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窮地からの救世主、現る!?

あけましておめでとうございます!!
さて今年も頑張っていきますよ!!
今日からオリジナルで達也のアイドル活動をご披露させていただくので、ぜひ楽しんでいってください!

オリキャラや他のアニメのキャラが出るかも?


 

 

 

 四月二十六日、東京都のとある某所にて。

 

 

 「はぁ~~~………、もうここで終わりなんだな…、私は………。」

 

 

 「そんな事言わないでください!! まだ期日まで時間はありますから!!頑張りましょう!!?私も一緒に頑張りますから!!」

 

 

 「すまない………、美晴(みはる)ちゃん……。私が情けないばっかりに…。」

 

 

 「社長しっかりしてください!! 私は平気ですから、ね? 社長がそんな顔して落ち込んでいたら私も悲しいです…。だから、笑っていてください。」

 

 

 「美晴ちゃん…!」

 

 

 年頃16歳と言った所の可愛らしい美少女に励まされ、その子に社長と言われ、涙目を浮かべている中年男性。

 

 彼らは決して親子ではないが、決して切れない仲であるのは言うまでもない。そんな彼らはいったい何者かというと…。

 

 

 「美晴ちゃんのお蔭で元気…、出てきたよ。うん、まだ今月は終わっていないんだ!絶対にこの危機を脱してこの『ゴールデンスター芸能プロダクション』を昔のように大手芸能事務所に復活させるぞ~~!!」

 

 

 身体から炎の錯覚が見えるくらい、燃え上がる中年男性の社長。何をともあれ、この社長こそがその『ゴールデンスター芸能プロダクション』の現社長の、金星翔吾(かねぼししょうご)である。まぁ、中年男性と言ってもまだ32歳であり、見た目も若々しく女性にも持てる顔立ちだ。…ただし、黙っていればの話だが。いつも肝心な時にテンパって涙目になり、間抜けな事をしてしまう”ダメ男”だからだ。

 その所為でもあり、今、この芸能事務所は倒産寸前に陥っていた。

 

 

 「それで具体的に何をすればいいんだ? 美晴ちゃん?」

 

 

 燃えまくっていた金星は我を取り戻し、元気になった金星を大層喜んで見ていた美晴に声を掛ける。ダメ男なだけに何がをするときは、美晴がやるべき事を伝えて実行しているのだ。(どちらが社長なのか分からないではないかっ!!)

 その美晴は、この倒産しかけている芸能プロダクションの最後のアイドルである。でもまだ駆け出しの時にこの事態になったため、アイドルデビューしてから真面な仕事を受けるどころか、まだ芸能界で初仕事もしていない。 そんな彼女でも純粋な故、快く社長を慕い、美晴は要望通りに残された期限内での行いを挙げていく。

 

 

 「はいっ! まずは他の芸能プロダクションとの連携を頼みに行くんです!」

 

 

 「それは、もう100件近くして全部断られてきたよね?美晴ちゃん。」

 

 

 「では、私がたくさんのイベントに出向いて、歌います!!」

 

 

 「まだ歌も衣装も作る前段階でこうなったからね、君の衣装はまだ一つもないよ。メイクさんもスタイリストも去っていったから。」

 

 

 「では…………、どうしましょう?社長?」

 

 

 他にアイデアが思い浮かばなくなった美晴は、首を傾げて社長に聞き返す。提案してもすぐに没になっていくというのに、社長を攻める事もなく、寧ろ社長の役に立たないと!と一生懸命に考える美晴に、金星は申し訳ない気持ちと心強い気持ちで板挟みになる。

 

 

 「ごめんね、美晴ちゃん…。こうなったら、君だけでもアイドルとして羽ばたけるように他の芸能プロダクションに掛け合って、移籍させてもらえないか交渉してくるよ…。

  君の才能をここで途絶えさせる訳にはいかないからね……。」

 

 

 苦笑しながらずっと思っていた事を口にした金星に、美晴は首を大きく横に振る。

 

 

 「いやです!私は社長の元で一緒に頑張っていきたいんですよ!!どうかそんな事言わないでください! この事務所を潰させたりしません!!」

 

 

 「ありがとう…。その気持ちだけで嬉しいよ…。」

 

 

 金星も本心としては芸能事務所を潰したくはない。だが、そのために奔放してきたが、全て実る事はなかった。万事休す…。せめて美晴だけはアイドルとして成功できるようにと常々思っていた事をやってあげようと改めて考えたその時、事務所の電話が鳴り響いた。

 

 

 久しぶりの電話の着信音に二人とも驚き、慌てて物に躓きながら金星は電話に出た。

 

 

 

 「はい、ゴールデンスター芸能プロダクションです。………はい、社長は私ですが?

  ……………はい、……………はい、……………え、え?…………ええええええ~~~~~!!!!」

 

 

 突然奇声をあげた金星に今度は美晴が思い切り驚き、飛び跳ねる。しかし、美晴とは違う意味で飛び跳ねる金星が電話を終え、回線を切ると、物凄い速さで美晴に近づき、肩を持つと嬉しさが存分に出された顔で告げる。

 

 

 「驚け、美晴ちゃん!! なんとこの僕たちの窮地を救ってくださる救世主が現れたんだ~~~!!」

 

 

 

金星の言葉通りに目を見開いて驚く美晴は、嬉しさのあまり涙を流し、金星と一緒に喜び合うのだった。

 

 

 

 




最初からオリキャラが登場しましたが、ここから達也たちを絡めていきます!!


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歓迎する準備

オリキャラから始まったこのアイドルネタ…。
ここからいかに達也をアイドルとして輝かせるかが懸かっている…!うう……緊張するな~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 突然の電話から救いの手が差し伸べられ、舞い上がって喜ぶ金星社長と美晴。手を握り合って、ぐるぐる回っている様は、まるではしゃいでいる子供のようにも見える。

 

 

 「社長!!おめでとうございます!………ところで、なにがあったんですか?」

 

 

 美晴がそう言うのも当たり前である。電話が終わってすぐに金星と喜びの舞を踊っていたのだ。理由も聞かずに金星の『驚け!』という言葉に驚き、一緒に喜んでいたが、さすがに気になってきたため、タイミングを計って聞いてみたのだった。金星も美晴の言葉でようやく自分が説明もしていなかった事を思い出し、佇まいを正してから咳払いして気合を入れてから、美晴の顔を見て、話しだした。

 

 

 「美晴ちゃん…、僕たちの努力が実を結んだよ…!

  僕たちのこの芸能プロダクションに提携を申し出てくれた方が現れたんだ!そのための話し合いを今度の土曜日に行いたいと先程の電話で言われてね~!あ、もちろん即決だけどね!

  ここで一気に挽回するチャンス!だから、美晴ちゃんにも悪いけど僕のサポートをしてもらいたいのだけど、いいかな?」

 

 

 「はい!大丈夫ですよ。 願ってもいないチャンスですからっ!その土曜日………と言えば、四月二十八日ですね。良かった~!!何とか今月末までには何とかなりますね、社長!」

 

 

 「ああ! これで僕たちが生き残れるよ!」

 

 

 「……あ! どうしよう…! 社長…、今気づいたんですけど…。その……、提携を申し出てくれた方と話し合いするんですよね?」

 

 

 「そうだよ、それがどうしたの?美晴ちゃん?」

 

 

 「…って事は、その土曜日の話し合いでうちと提携するかどうかを決めるから、まだ正式にうちが助かったと言えるのでしょうか?」

 

 

 「……………はっ!!」

 

 

 美晴の指摘でその可能性に気づいていなかった金星が衝撃を受けた。

 

 そうだ、提携をするかどうかも兼て話し合いをするのだ。もし自分達の対応が悪ければ、「この話はなかったことで…。」と断られる可能性もある。…というかその可能性が高い。

 

 

 「そ、そこまでは考えてなかった…。な、なんとか提携を結んでくれるようにしないと…!」

 

 

 「はい、頑張りましょう!!ではまずは……」

 

 

 提携を結んでもらうために何をするべきか悩みができたと思ったら、美晴が突然着替えだし、エプロンや手袋を身に付けだす。

 

 

 「ど、どうしたの?美晴ちゃん!?」

 

 

 「はい、まずはこちらにそのお客様がいらっしゃるのでしたら、綺麗にしておこうと思って…。」

 

 

 「ああ………、確かに…。」

 

 

 美晴が箒を取りだしてごみを集めようと知るところを止め、話を聞いた金星は物凄く納得する。なんだって、この芸能事務所は………足の踏み場がないくらいに者が床に散乱していて、とても人が入れそうなレベルではない。今まで誰も訪れようとはしなかったため、この状態を放置していたが、さすがにこれはまずいと悟る。(そもそも一体どうすればこのような事態になるのか…。)

 …という訳で、金星も袖を捲って、一緒に掃除を始め、自分達の救世主となってくれる人を歓迎するために事務所の大掃除を始めるのだった。

 

 

 「土曜日まで数日だけだから、何としても間に合わせないと!」

 

 

 「そうですね…。この際だから、床もワックスかけますか?社長?」

 

 

 「そうだね、全部ピカピカにしちゃおう!」

 

 

 二人だけで掃除しながら心は嬉しさに包まれていたが、美晴の純粋さと金星のドジさが合わさって、床が全てスケート場のようにツルツルとなり、立っている事すら困難な状態になるまでワックスをかける…。

 

 

 (金星は箒を使って立ち上がり、足をガクガクしながら事務所内を歩くが、一歩踏み出すだけが精いっぱいですぐに転んでしまう。そのお蔭で顔面からの店頭を繰り返し、顔は腫れまくっていた。…ちなみに美晴は事務所内でもスケートができると喜び、スケート靴をどこから持ち込んだのか、それを履いて、優雅に室内を移動するのだった。)

 

 

 

 

 そうして、ついに待ちに待った土曜日。

 

 

 緊張の面持ちで訪れを待っていた救世主が姿を見せる…!

 

 

 




天然キャラのこの二人…。本当に大丈夫なのかな…?


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美しすぎる救世主!?

オリキャラだけで行きましたが、ここであのキャラを…。でも、いつもと雰囲気を変えているから、これもオリキャラの分類に入るのだろうか…?


 

 

 

 

 

 

 四月二十八日、土曜日、午前十一時…。

 

 

 

 

 

 ゴールデンスター芸能プロダクションのビルの前に一台の黒塗りの車が停まる。

 

 

 「……ここが『ゴールデンスター芸能プロダクション』ね。本当に大丈夫なのかしら?」

 

 

 「ええ、既に下調べは済んでおりますゆえ。奥様が出された条件をすべてクリアしました上、人となりは……会ってみればすぐに分かると思います。」

 

 

 「…まぁ、いいわ。さて、今から”契約”を結びに行きましょうか。」

 

 

 車の中で怪しげな会話をしていたが、眼鏡をかけた老執事にドアを開けてもらい、車内から美しすぎる淑女が降り立った。

 身体の曲線がしっかりと分かるくらいの白いスーツを着て、網タイツを履いている。服以外の所は白い肌が露出されており、大きな胸元が斬新に見える。そんな身なりをしている淑女がいきなり現れたら、どうなるか…。

 歩道に降り立っただけで通行者から驚きと色欲に揺らいだ視線を浴びるのだった。しかし、淑女はその視線を特に気にする訳もなく、老執事に案内されるがままに目の前のビルへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 ピーンポーン…。

 

 

 

 

 

 来客者を告げるベルが事務所内に鳴り響く。

 

 

 ついに来た救世主に金星と美晴は唾を呑み込み、慌ただしく動きまくる。

 

 

 「美晴ちゃん! 僕の格好はどう!?どこもおかしくないよね?」

 

 

 「…大丈夫です!いつも通りの社長です!!」

 

 

 金星の服装をざっとチェックした美晴が大きく頷き、扉の方へと急ぐ。

 

 

 「あ、待って、美晴ちゃん。僕が出るから。」

 

 

 「そんな、ダメですよ! 社長は社長なんだから、座って待っていてください!ここはビシッとしてないといけないんですよ~~!!」

 

 

 「いや、お客様をお出迎えするならきちんと僕が応対するべきだと思うんだよね。だから、僕が出る!」

 

 

 「最初から社長が出て、失敗したらどうするんですか?社長の出番は救世主様が席につかれた所からです。飛ばし過ぎは禁物ですよ?」

 

 

 「だって、久々の来客だよ?それにただの来客じゃないんだよ?僕たちの救世主様だよ?僕たちの明日がこれに懸かっているんだから僕が紳士的に応対を……」

 

 

 「あの……、御取り込中申し訳ないのですが…」

 

 

 金星と美晴が誰が出るかで火花を散らしていると、二人の間を割って入ってきた人がいた。その人物は金星たちよりも年上でありながら、貫録がついている初年の老人だった。しかし、背筋も伸びており、恭しい態度を取る様は、まるで執事のよう…。

 

 

 二人の考えは当たっており、二人が呆然となっているのを気にせず、ドアの方へと戻る。老執事の背中を追って視線を走らせると、老執事の先には、大変美しすぎる妖艶な雰囲気を持った淑女が立っていたのだった。

 

 

 「奥様…、どうぞ。」

 

 

 再び老執事が金星たちへと近づいてくる。今度は淑女を連れて。

 

 

 金星達と向かい合った淑女が老執事が後ろで控えるのを待って、微笑んだ後、話しかけた。

 

 

 

 「お話し中申し訳ありませんね。ベルを鳴らしたのですけど、応答がありませんでしたので、勝手に入らせてもらいました。」

 

 

 

 「あ、い、いや、その…、こちらこそ、申し訳ありません。お、お待たせいたしました…。さ、さぁ!どうぞ!こちらへ…!」

 

 

 淑女に声を掛けられ、そのあまりにも色気のある声に金星が動揺し、どもり気味な話し方で応接間へと自分で案内し始めた。

 その状況を見て、美晴は自分も見惚れるほど綺麗な救世主様に金星がテンパるのも仕方ないと思っていた。しかし、予定では美晴が金星の元へ連れて行く算段だっただけに案内できずに心の中で悔しがった。だからか、美晴はまだ動揺で精神不安定の金星(完全に手と足が一緒に出るほどの行動が出ているのが証拠)をフォローするために、御茶の用意を始めるのだった。

 

 

 「…これがそうなのね。」

 

 

 「はい、その通りです、奥様。」

 

 

 「”会ってみればすぐに分かる”…、その意味が今分かったわ。」

 

 

 「本心からですから。」

 

 

 「誰の本心の事を言っているのかしら。ね…。」

 

 

 「奥様の想像にお任せいたします。」

 

 

 「…いいわ。 席につき次第、早速結んでしまいましょう。」

 

 

 「畏まりました。」

 

 

 

 そんな金星達の第一印象を受け、金星に案内されている中、こっそりと老執事と話をする淑女は、深みのあるソファに座り、”話し合い”ではなく、”契約”を結ぶために早速本題に入るのだった。

 

 

 




救世主様って…。完全に脳内がキラキラと輝いているよ、金星も、美晴も。ピュアだな~~。


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天然すぎる契約受諾

淑女と老執事が出てきたけど、誰なんでしょうね?
…って言わなくても、分かっている人がいれば、凄いや!


 

 

 

 

 

 席につき、美晴に紅茶とチョコケーキを出され、淑女は紅茶を一口飲んでから、金星に顔を向けた。その際に、ずっとかけていたサングラスを華麗に外し、老執事に差し出す。

 

 

 「こ、この度は我が事務所との提携を考えていただき誠にありがとうございます。………」

 

 

 頭を深く下げ、もう少しで額がテーブルに勢いよくぶつかりそうになりながらも感謝の言葉を述べる。

 

 

 「いえ、私共もあなた方のような方がいる芸能事務所を探していたんですの。直接会ってみて、あなた方に選んで正解だったと思ってます。」

 

 

 「では…!」

 

 

 「ええ、契約を結ばせて頂きます。」

 

 

 期待の眼差しを向ける金星へ、何を考えているか悟らせない笑顔で頷く淑女。淑女の言葉を待っていたかのように後ろに控えていた老執事が紙の書類を差し出す。

 

 

 「私共があなた方の芸能事務所と提携を結ぶための条件を纏めたものです。読んでみてくださいな。」

 

 

 淑女に勧められるがまま、金星が書類に目を通す。この時金星は社長らしくしっかりした振る舞いで真剣な表情で内容を読んでいく。そして、一瞬書類を巡る手が止まり、顔を上げて、問いかける。

 

 

 「あの…、この提携に期限があるのはどういう事でしょうか…?」

 

 

 「ああ…、それですね。確かにあなたと提携を結ぶことはよろしいですが、私共の資金援助は見込みのない者にまで手を差し伸ばすような甘い事はしないのですよ。

  提携を契約した期限の間に援助するだけの価値があったという事を証明してもらうためにも、期限は設けさせていただきました。」

 

 

 「…それでその期限というのは?」

 

 

 「八月末までです。それまでにあなた方の事務所が元の大手芸能事務所へと再建し、業績も今の80%以上の成果を出して証明してみてくださいな?」

 

 

 「そ、そんな……」

 

 

 あまりにも無謀とも言える条件に金星は絶句する。隣に控えていた美晴もだ。

 

 二人の顔を見て、どう出てくるか楽しみだという笑みを浮かべ、微笑む淑女を老執事は「奥様もお人が悪い。」と心の中で褒めるのだった。(褒めるんか~~い!!)

 

 この話を冷静に聞けば理解できるとは思うが、この話の落とし穴は再建に成功しようかしまいか期限が来れば、提携は打ち切りになるという事だ。もし成功しても期限更新というものはない。勝負は今日から八月末までの約四カ月の間。今の状況では難しい。

 

 淑女は金星がどんな結果を下すか紅茶を飲みながら待っている。

 

 

 金星は驚きのまま口を開いたまま、しばらく固まっている。しかし、ようやく復活した瞬間、なんと号泣し出した。

 

 

 「…………え?」

 

 

 「……………」

 

 

 これには淑女も老執事も驚く。

 

 

 突然目の前の男が泣き出すのだ。何が起きたと驚くのは当然だと言える。だがこれで驚くのはまだ早かった。

 

 

 「うう…、なんていい人なんだ…!!

  私達の事務所の再建のために援助していただけるだけでなく、私達が怠けないようにあらかじめ期限を定めておくことで、私達に発破掛けてくれるとは…!!

  素晴らしいです!! 正しく私達の救世主様っ!!」

 

 

 「はいっ! 社長の言うとおりです! 救世主様のお蔭でアイドルとして頑張っていく自信がつきました!ありがとうございます。」

 

 

 「私達は救世主様のもたらされた機会によってやり直す事が出来ます! もちろんこの契約の通りに励ませていただきます!!どうかよろしくお願いします、救世主様っ!」

 

 

 「救世主様!」

 

 

 「………………」

 

 

 予想外にもほどがあると言える展開とさっきから二人が口にする『救世主様』という何とも言えない呼び方をされている淑女は、言葉を失い、危うくポカンと口が開きそうになるのを淑女スマイルで耐える。

 

 まさかの度を越した二人の天然さに呆れ感が拭えないでいる淑女は、視線で老執事に命令し、自分の代わりを務めるように放った。それを同じ思いだという事を一旦横に置き、主の代わりに承諾の返事を行った。

 

 

 「…畏まりました。でもそのように致しますゆえ、お二人とも頭を上げてください。」

 

 

 「「はいっ!!」」

 

 

 老執事に言われるまでずっと土下座していた金星と美晴は、「懐が深くて、才色兼備の女神さまだ…!」と思いながら目を輝かせるのだった。

 

 

 




どこまで天然なんだよっ!!筋金入りだな、おい!

でも、前向きにとらえるのはいいよね~!…この状況でこれはありなのか謎だが…。


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大注目アイドル、現る!?

前回は金星社長と美晴の天然コンビが炸裂したからな~…。

この二人を纏めないと…!!


 

 

 

 

 

 

 未だに感謝され続けながら接待を受けている淑女は、これ以上ボロを出さないように口を閉ざし、後の事は老執事に任せる事にした。

 

 

 「あ、ですが、問題が…。

  条件を呑むのは大変結構ですが、何分今この事務所に在籍しているアイドルは、ここにいる美晴ちゃん……、日暮美晴の一人だけなのです。スタッフも私一人だけですし…。それにまだこの子にはアイドルとしてのレッスンも十分にさせてあげられていない状態でもあります。売り出す以前にその前段階までできていない今、やはり人材が必要です。

  とてもすぐに利益をお見せする事は…、できません。」

 

 

 「ええ…、よく存じております。あなた方と提携を結ぶために申し訳ありませんがあなた方の事を調べさせていただきましたので。」

 

 

 「い、いえ! 当然の事だと思います。援助してもらうんです。ちゃんと援助するだけの器がどうかを見定めるためにも相手の事を知るのは悪い事ではないです!

  …ですが、それならお分かりのように、まずは下積みから始めなければいけないので………」

 

 

 「それなら心配は必要ないですわ、金星さん?」

 

 

 老執事と金星が話をしている中で、お気に入りの紅茶を老執事に入れてもらいながらティータイムを優雅に堪能していた淑女が話に割って入った。

 

 飲んでいた紅茶のカップを老執事に渡すと、不敵な笑みを浮かべて金星と目を合わせる。淑女はこの時を待っていたのだ。

 

 金星が人材不足である状況を話す事は読んでいた。

 

 それが話題に上がるのを待ち、ついに着た瞬間、淑女は待ちわびていた台詞を口にしたのだった。

 

 淑女にとってはこれからが本気………、本番だったのだから。

 

 

 

 「え?心配は必要ないってどういう事ですか?」

 

 

 「言葉通りですわ。私共があなた方に目をつけたのは、そこですもの。」

 

 

 「?おっしゃられている意味が分かりません。鈍くて済みません。」

 

 

 「いいのよ、金星さんはそれで。

  それでお話を戻しますけど、人材不足というのは認識しています。私共はその点で貴方にお願いしたい事がありますの。」

 

 

 「お願いなんてそんな…! 此方の方こそ良くして頂きますのに! 何でも言ってください!!」

 

 

 (…………お願いを聞く前からそんなに意義込んで大丈夫なのか?……はぁ~…。)

 

 

 淑女と金星の会話を少し離れた場所から耳を澄まして聞く人物はため息を溢しつつ、見守る。

 

 

 「そう?ありがとうございます。では早速お願いしますわ。………入ってきなさい。」

 

 

 突然独り言を言った淑女に若干の訝しさを感じ、美晴と顔を見合わせた金星。するとそこに事務所のドアを開けて、ワイルドでありながらミステリアスな雰囲気を醸し出す青少年が入ってきた。

 

 その青少年に視線を向けた金星と美晴は、目を見開いて言葉を失い、驚いた。美晴は持っていた盆を落とし、固まる。二人の反応に淑女は嬉しそうに微笑む。

 

 

 「「ああああああ~~~~~~~~~!!!!!」」

 

 

 しばらく固まっていた二人は、徐々に意識が回復していき、完全に復活した瞬間、驚きの声と共に青少年を指差す。

 

 

 そして、興奮気味に二人は青少年に話しかけるのだった。

 

 

 「き、君はもしかして…!」

 

 

 「…………り、り、RYU~~様!!?」

 

 

 二人に尋ねられた青少年は濃いめのサングラスをかけたまま、唇を吊り上げ軽く笑みを浮かべて見せるのであった。

 

 

 突然現れた今、芸能界で大注目されているアイドルが目の前にいる事実に、再び思考が停止する金星と美晴。

 

 

 

 

 

 

 

 




人気の芸能人が目の前に現れたらビックリ仰天だよね。
うちは、幼い頃から芸能人と会う機会が多いんだ。偶然というかなんというか…。でも話した事はないから、一度は話したいよね!普通に話せるか分からないけど!www


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俺が導いてやる…。

タイトルだけ聞いたら、「キャ~~~!!!」ってなるよね!



 

 

 

 

 

 

 

 まさかの大注目アイドル、RYUがこの事務所に現れるとは思いもしなかった金星と美晴。

 自分達は夢でも見ているのではないか?と思い、二人共同時に自分の頬を抓る。

 

 

 「痛たたたたたた~~~………!!!」

 

 

 「…痛いですぅ~。…って事は夢ではない?」

 

 

 抓った頬を擦りながら夢ではない事を噛み締め、現実だと実感していく二人。その二人を見て、RYUと呼ばれた青少年はサングラスをまだつけたまま苦笑いをする。そして淑女は………。

 

 

 「ふふふふふ…! 面白い方々ね…。最高よ…。」

 

 

 とうとう堪えられなくなり、笑い声を漏らす。口元を手で覆って、高笑いにならないようにブレーキをかけながら笑っている淑女にRYUは、サングラスの奥から意外感と非難の入り混じった視線を向けた。その視線に気づいた淑女は、まだ笑いが込み上げてくるものの、外用の鉄壁スマイルを取り繕い、元に戻る事が出来た。

 

 淑女の取った行動に御付の老執事に問いかける視線を向ける青少年だったが、老執事はそれを無視する。それによって、いつもと違うため敢えて何も窘めないんだなと自分を納得させ、青少年はここぞという時に来る淑女の合図を待つのだった。

 

 

 「す、す、すみません! 大変取り乱してしまいまして…。まさか彼がここに現れるとは思いもよりませんでしたので…!」

 

 

 「いえ、良いですのよ? それにしてもお二人の反応を見る限り、既にこの子の事を知っているのですね。」

 

 

 「そりゃ~、当然です!

  デビューしてからたったの一日でファン総数を5万人にもし、爆発的な人気を博した今最も注目すべきアイドル!!RYUですよ!!

  特に若い女性から熟女といった幅広い女性のファンを一気に獲得するほどの大人気ですから!

  今、どこの芸能事務所も注目し、”絶対に事務所に入れたいアイドルNo.1”とも評されてます!!」

 

 

 「…………」

 

 

 金星の力説を聞いた青少年…、RYUは「まさかそこまで注目されていたとは…。」と心の中でかなり過小評価していたアイドルとしての自分の認識を修正した。もっともあくまで社会的評価の方であって、自分自身の評価は依然低いままだが。

 ついこの間までマスコミ対策で他の任務を手掛けていただけにまだアイドルとしてどの程度芸能界に浸透しているのか把握しきれていなかった。情報端末で記事を見た時は、あまり関心を持たなかったために深く調べようとも思わなかった。だからか、現に自分が注目を一身に引き受けているという金星の言葉は、冗談だと自分の事ながら思いたかった。しかし、この場に腰を置いて活動する者から裏表ない真っ直ぐな言葉で告げられれば、それが現実なんだと認めざる得ない。

 

 RYUは、自分が今どんな立場に位置しているのかという状況を知り、「面倒な事が起きなければいいが…。」とサングラスの奥から遠い目でこれからのアイドル人生を脳裏に思い描くのだった。

 

 

 「そこまで知っていらっしゃるなら、話が早いですわ。

  よろしければ、この子をあなたの事務所に入れてもらっても構わないかしら?」

 

 

 「よ、宜しいのですか!?」

 

 

 「ええ、もちろんです。私共はそのためにあなた方の提携を申し上げたと言っても過言ではないのですから。」

 

 

 「え?」

 

 

 「ふふふ…、こっちの話です。 それはそうと、この子がいれば、すぐにアイドル活動も始められますし、困ったことがあればこの子に聞けば問題は解決しますから。

  例えば…、事務所の会計をさせたり、あなたのレッスンをコーチしたり…。」

 

 

 RYUを褒められて嬉しい淑女は話を進めていく。淑女の話を聞いて、金星も美晴も身体を前のめりにして喜ぶ。

 

 

 「それは本当ですか!? なんと頼もしいんだ!」

 

 

 「よ、よろしくお願いします!!RYU様!!」

 

 

 すっかり事務所への入籍が決定してしまったRYUは、灰色の天然癖毛をした髪を掻いて、苦笑いを浮かべると、初めて口を開いた…。

 

 

 

 

 「………どうも。俺はRYU…。 あんた達に栄光を与えてやる。そのために…、この俺が導いてやる。」

 

 

 

 サングラスを外しながら、そう宣言したRYUは、鋭い目ではあるがそこに秘められた強い意思の乗った視線で金星と美晴を射抜き、それと対照的な甘い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 「「「キャ~~~~~~~!!!!!RYU様~~~~~~!!!」」」

 

 

 

 ミステリアスな感を出しつつ、ドキッとするRYUを見て、金星と美晴が黄色い悲鳴を上げる。

 

 

 そして二人と同じく淑女もまた、黄色い悲鳴を上げるのであった。

 

 

 




ワイルド感というか、俺様感が出てたね。RYU…!

これからどうなるのか…!!キャラ崩壊は必須だ!



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三人の共同活動

色々あると思うけど、これからがアイドルの見せ場を作るからね!


 

 

 

 

 

 

 三人の黄色い悲鳴に若干戸惑ったが、表情はいつもながらにポーカーフェイスを保っていた。

 まだ上手く演技切れていないが、ここからは初対面の金星と美晴を相手にしていかなければいけない。まだRYUの性格が知られていない内に自分もRYUとしての振る舞いを確固たるものにしないとな…。と肝に銘じるRYUをよそに、淑女が金星に書類の確認をさせていた。

 

 

 「他にもこちらの要求はその書類に書いておりますので、全て目に通しておいてください。」

 

 

 「はい、畏まりました。ですが、救世主様…、じゃなくて……、あの………」

 

 

 金星は淑女の名を呼ぼうとして躊躇していた。ここにきて、淑女の名を知らなかったからだ。今更「名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」なんて言えるはずがない。効いていなかった自分のミスだ。ではなんて呼ぶのか?救世主様はさすがに止めておいた方がいいだろう。だがそれ以外となると思い浮かぶ呼び方は、もう『奥様』しかない。

 金星が困っている事を隠しきれていないので、様子がおかしい事は一人を除いて分かっていた。……その例外の人物である美晴は「何で言い換えたんだろう?救世主様なのに…。」と小首を傾げていた。

 無論、これは淑女の意図した事だ。あくまでRYUをこの芸能事務所に在籍させ、資金援助するだけだ。(他にも詳細な取り決めはあるが、それはおいおいと……。)

 そのためだけなのだから、自分が名乗る必要もない。もちろん、本名も答える訳にはいかない。だから、淑女は不敵な笑みを浮かべて答えるのだった。

 

 

 「良いですわよ、救世主様で。 

  そちらの方があなた方も呼びやすいでしょうから。」

 

 

 「あ、有難うございます!!救世主様!!」

 

 

 「それで何か私にききたい事でもあったのではありませんか?」

 

 

 「は、はい! もし救世主様とご連絡したい場合が生じた時、どうすればよろしいでしょうか? それに関して書類にも記載されていませんし、お聞きしていなかったので…。」

 

 

 「ああ、その事ですか。それならそこにいるRYUに事伝手を頼んでくださいな。

  RYUから連絡を取り持つので。」

 

 

 「緊急の場合でしても?」

 

 

 「はい、私も多忙の身ですので、なかなか連絡を取りつく暇がないのです。ですので、万が一の連絡手段はRYUを通してからの連絡をお願いしますわ。」

 

 

 「そうですか…、RYU様、その時はお手間をかけますがよろしくお願いします。」

 

 

 「………………ああ。」

 

 

 RYUが怪訝な顔を一瞬して、またどこを見ているか分からない遠い目を辺りに向ける。金星は頼もしいアイドルが来てくれて大いに喜ぶ。

 

 

 こうして、いくつかの注意事項や契約の確認を行った後、淑女と老執事を見送り、残ったRYUがさっそく口を開いた。

 

 

 「………社長、今年度の活動状況やスケジュールを見せてくれないか?」

 

 

 初めてのRYUとの会話の第一声がこれだったため、金星も美晴も一緒に不思議がる。理解していない事が否応なく知り、RYUは盛大にため息を吐いて、説明を加えた。

 

 

 「これまでの芸能活動と今後のスケジュールを把握しておかない限り、俺やそこの女子の動きが取れないだろう?」

 

 

 RYUの説明でようやくアイドルとして頼もしく行動してくれているんだと実感した金星は感動の涙を流しながら、スケジュール帳を取りだす。…いや、取りだそうとした。

 

 

 「あれ…? おかしいな…。 どこにもない…?」

 

 

 「そんなはずはないですよ~、ちゃんとそこに…、あ!」

 

 

 「あ!」

 

 

 「社長! もしかして昨日まで掃除してたから…!」

 

 

 「そうだ! 掃除して書類も移動してしまったんだ!どこに置いたっけ?」

 

 

 「……はぁ~…、何をしてるんだ。探すぞ…。」

 

 

 大事な書類を全て掃除した時にどこかに収納した二人は慌てふためく。その様子を頭を抱えながら、三人で探すように言うRYU。

 

 初めての三人での共同活動がなぜか書類探しというアイドル活動とはかけ離れた者になってしまったが、早速RYUを中心とした連携は作り上げられつつあったのだった。

 

 

 

 




金星社長! RYUがリーダーぽくなってるよ~~!!


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淑女の裏

やっと仮面を取れますわね…。仮面だったんか~~い!!

淑女シリーズの第一幕…、始めましょうかね?(淑女シリーズってなんだ~!!)


 

 

 

 

 

 

 RYUが早速事務所に残る事になり、淑女は老執事を連れ、名残惜しそうに事務所を後にした。何度も振り返る淑女の様子を温かく見守りつつ老執事は外に待たせていた黒塗りの車を指を鳴らして呼び、淑女を車内へと導く。

 

 ……そろそろ限界だと思ったからだ。

 

 何が限界なのかというと、老執事が後に続き車内へと乗り込み、ドアを閉めて瞬間、それは起きた。

 

 

 「ふ~~ふふふふふ!! …くくくっ!! もうダメ…! 何あれ~~!!

  あそこまでだとは誰も思わないわよ~~!! お、お腹が……、ふふふふふ!!」

 

 

 今まで必死に耐えていた笑いが勢いよく解放されたのだった。

 

 老執事はこれを察知していたため、てきぱきと淑女を車内へと誘導していた。そして何より自分も主と同じように笑いを堪えていた部分があるため、一緒に笑う。ただし主の目の前でもあるため、含み笑いに留めておく。

 

 しかし、数分経った後もお腹を押さえて身体を小刻みに震えさせながら笑いつづけている淑女にさすがにこのままにしておくのは淑女として振る舞いに反すると思い、蔑む視線で主を見つめる。その視線を受け、羽を伸ばし過ぎたと知った淑女はハンカチを取り出し、笑い過ぎて出た涙を優しく拭き取る。

 

 

 「ふふふ…、ごめんなさいね。つい…、面白くて。あの人達の天然さは無限大だったから。」

 

 

 「確かにあの方達の天然さは相当な物ですが、いくらここに私だけとはいえ、淑女らしからぬ行動は控えた方がよろしいかと。ましてや四葉家当主で在らせられる四葉真夜がそのような行動をとられていたと誰かに知られれば何をしてくる事か…。」

 

 

 「だから、反省しているじゃない?葉山さんってそんなに性格悪かったかしら?」

 

 

 「長年四葉家当主にお仕えしているので、何とも言えませんが私は気に入っていますよ、私自身の性格は…。」

 

 

 「あら、葉山さんがそんな事言うなんて珍しい事。」

 

 

 互いに静かに微笑む。淑女はそして、茶色の髪を掴み、引っ張ると下からボリュームある黒髪が姿を見せた。

 

 淑女…、真夜は変装していたのだ。

 

 その真夜のお供として葉山も同行していたわけだが、葉山が目の前にいるにも拘らず真夜は着替えていく。いつものワインレッドのワンピースを差し出す葉山から受け取り、袖を通しワンピースを着る。髪もいつものようにポニーテールにまとめていつもと同じ化粧を施し、すっかりと元に戻った。

 

 

 「変装も楽しかったのだけど、このまま本家に戻れば、使用人の方々は随分と驚くでしょうね~。」

 

 

 「そうですな、特に青山は何があったのかと鳥肌立てて驚愕するでしょうな~。」

 

 

 「いつの間に用意しておいたのか、紅茶を淹れ、真夜に渡した葉山。それを受け取り一口飲んでから振動で波打つカップの中の紅茶を見つめ、真夜は事務所に置いてきたRYU…、変装した達也がついに芸能業界に飛び込んだ事に背筋をぞくぞくとさせるのだった。

 

 

 「後は、達也さん次第ね…。今から楽しみだわ~…♥」

 

 

 

 

 

 




眠くなって…

はい!!淑女は真夜で、老執事は葉山さんで、RYUは達也でした~~!!

今日から淑女シリーズという事で、真夜視点や中心に少し投稿していきます!真夜を徹底的にキャラ崩壊…させるかもなので、よろしく♥


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淑女(真夜)の本懐

車内で仕事の話…。今後の展開ともつながりが~~!!


 

 

 

 

 金星との交渉も終わり、四葉本家へ車を走らせる中、真夜は葉山さんが用意した甘さ控えめなチョコケーキを食べていた。

 そのまま葉山さんが仕事の報告や各分家や使用人に与えている任務の状況説明を次々と伝えていく。今は、先日の反魔法師運動を助長させるマスコミに対する動きの動向や今後について話していた。

 

 

 「…引き続き、黒羽殿にはジャーナリスト達の密会に警戒するようには伝えていますがこの前のような怪しげな動きは表面的には見られないようです。」

 

 

 「という事は、密かには動いているのですね? 反魔法師運動は…。」

 

 

 先程まで高笑いしていた真夜だというのに、完全に冷ややかな視線を持ち、妖艶な笑みを浮かべ、気怠そうな声で葉山さんの報告に答える様子は四葉家当主としての真夜そのものだった。

 

 

 「はい、大方の報道各社は思う所はあるものの、皆、自粛しています。これも達也殿がご披露された実験の影響ですな。」

 

 

 「達也さんとしたら、ここからが本腰だったのでしょうけど、百山さんがうまく利用したお陰で手間が省けたようね。だからあの子も今日から早速アイドル活動に専念できるのだけど。」

 

 

 「ですがまだ懸念はあります、奥様。

  今回の件で報道各社が反魔法師に対して動きを抑えられたとはいえ、黒羽殿の報告では『裏との繋がりを持つ者が浮かび上がってきている』とのこと。もしかすれば……」

 

 

 「ええ、理解していますよ。そのための達也さんをアイドルに仕立て上げましょうって話になったのですから。

  最近は特に魔法師への風当たりが酷くなっていく一方ですからね。」

 

 

 意味深な事を言った真夜は、葉山さんから受け取った情報端末から調査報告を読んでいき、それと一緒に送付されていた一枚の写真を開いた。その写真には長髪の若い男性が写っていた。

 

 

 「この者が去年の横浜事変での黒幕ですか…。なかなか人を食ったような笑みをする人ね…。 貢さんもよく入手成功してくれました。大変だったでしょう?」

 

 

 「私も同じことを言いましたが、黒羽殿は『これくらいの事は大したことではありません。ですが、いまだに当主様のご期待に応えられていない私がふがいないばかりです。』とそれはそれは悔しそうに仰られておりました。」

 

 

 「ふふふ…、貢さんは仕事に対してまじめすぎる部分がありますからね。まぁ、裏を返せばそれが確実な成果につながっているのだけど。

  ………もしかして、達也さんの実験の後に聞いたのかしら?」

 

 

 「はい、案の定の反応でした。昔から黒羽殿は達也殿に対して敵意なものがありましたので、本音が少々出てしまわれたのでしょう。」

 

 

 「達也さんを妬ましく思っても無駄な事よ。達也さんに出来ない事なんてないのだから…。」

 

 

 達也と比べること自体が馬鹿らしいと言外に告げた真夜の言葉に葉山も納得していた。

 

 実は黒羽家には去年から写真の青年…、周公瑾をできれば生け捕り、できなければ屍を持ち帰るように任務を与えていた。周公瑾が日本の魔法師の印象を悪化させ、日本の弱体化を狙っていた。しかし、その元となっているのは、四葉家の弱体化だ。日本全体を狙っているというのなら、政府に手を貸すだけで済むが、標的が自分達だと言うなら話は別だ。四葉家に刃向い、手を出そうものなら処分するのみ…。真夜もそう判断し、周公瑾の捕獲を指示していた。それでも未だに捕まらないのは、それだけ相手も捕まらないように動いているという事だ。…四葉の諜報力をも躱せるほどに。

 だから、貢が任務を遂行できていない事を責める事はない。雲隠れしている相手を追うのは至難の業だ。更に自分達の網を潜り抜ける相手ともなると、慎重になってくるのは仕方ない。

 

 真夜も葉山もそう思っている。だから、難易度の高い任務を与えている貢が自分の仕事と達也の実験での成功とを比べても意味がない。

 

 

 「でも、達也さんが報道業界の動きを散り散りにしてくれたお蔭で、貢さんもまたそろそろ動けるでしょう…。」

 

 

 真夜は公瑾の写真を見ながら、自分の前に血まみれで届けられる様を想像してほくそ笑むのだった。

 

 




マッドサイエンティストのようになった真夜…。
そして達也の恒星炉実験の裏に隠されていた事が出てきました…。これが達也にアイドルさせる事とどうつながるのか…?

続きは~~また明日!!


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淑女(真夜)の本音

原作と世界観や状況を繋げないといけないからな~…、説明するのにも難しいぜ。けど、頑張る。


 

 

 

 

 

 

 

 周公瑾の写真をあっさりと消去した真夜は、嫌悪感を向けているものの、なぜかほんの少しだけ親しみを込めて眺めている………ように見えた葉山さんは、僭越しながら真夜に問いかける。

 

 

 「どうなさいました、奥様?

  何やらその者に不快感とは違った心境をお持ちのようですが?」

 

 

 「あら、葉山さんにはお見通しなのね。」

 

 

 「奥様の御傍に常に仕えている私めだけが見抜ける…というだけなので、ご心配なく。」

 

 

 「そう…、葉山さん相手に隠すのも今更よね…。」

 

 

 ため息を吐いて、観念した真夜は、冷ややかに見つめていたいつもの威厳から急に乙女の顔つきになり、目を輝かせたのだった。

 

 

 「だって~~!! この周公瑾という男がマスコミに裏工作に手を伸ばしてくれたおかげで、達也さんのアイドル姿を拝む事が出来たし、これからどんどん達也さんのカッコいい所が見られるじゃないっ!? 本当なら達也さんは絶対に乗らなかったけど、彼のお蔭で引き受けてくれたし、例え四葉に仇名す者でも、少しくらいは感謝したいと思うでしょう!!?」

 

 

 話しながら徐々に身体が前のめりになり、胸元が開いたワインレッドのワンピースを着ているため、豊満な胸が葉山さんに近づく。葉山さんは決して下を向かないように、視線にも入れないように注意深く神経を尖らせて真夜の言葉にどう答えるべきか悩んだ。

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 まだ達也にも話していない、真夜と葉山さんしか知らない事だが、そもそも達也のアイドル案は真夜が考えた”本音”からだ。

 

 事の発端は、貢から公瑾が魔法師の印象を低下させ、反魔法師の思想を増幅させようとしている旨を報告された所から始まる。裏でいくつかの報道者のトップと繋がりを持ち、マスコミを操作している公瑾の次なる計画を阻止するため、いくつかの対策案が出た。『公瑾と繋がっている報道トップの弱みを握って脅迫したり、スキャンダルを手に入れ、匿名で警察に告発し、関係を断ち切る。』という案もあったが、それだと報道トップを切り捨て、また姿を眩ますかもしれない。

 なかなかこれだという案が決まらなかった時、ちょうど気晴らしに見ていた達也の幼い頃の寸劇を見ていた真夜が閃いた。

 

 

 「そうよ…! 達也さんにアイドルをしてもらいましょう! 要は、大きなネタを作れば、マスコミはそっちの方に目を向ける。達也さんがスーパーアイドルを演技すれば、この上なく注目を集めるし、マスコミも黙っていないわ!」

 

 

 「それは確かに妙案です。しかし、達也殿をあまりマスコミに曝さない方がよろしいのでは?」

 

 

 「大丈夫よ!変装させますし、マスコミに尾行されるような真似を達也さんがする訳がないでしょう?」

 

 

 これには葉山さんも納得し、真夜の立案である『アイドルになって、公瑾の計画をぶっ潰そう大作戦』が幕を引いたのだった。

 

 だけど実際は、アイドルとして活躍させる前に七草がマスコミの裏工作に細工し、四葉家の力を削ごうと神田議員の視察をスムーズにできるように手配してしまったため、急きょ達也にその旨を伝え、恒星炉実験の公開デモンストレーションへと展開した訳だ。お蔭で、アイドルよりも先に実験の方が注目を受けた。

 

 この時点で既に公瑾の計画を滞らせることができたと言える。アイドルはしなくてもいいのでは?と葉山さんは思ったが、肝心の真夜が………

 

 

 

 

 「何でここで辞めるのよ! 達也さんは何があろうと絶対にアイドルをしてもらうんだから!

  折角そのために衣装まで縫い上げたのに…。

 

  私は、公瑾の事よりも、達也さんの事で頭がいっぱいなの~~!!」

 

 

 …と頬を脹れあがらせて、拗ねる。

 

 

 葉山さんは真夜の頭の中では、公瑾の捕獲よりも達也をアイドルにし、その栄光を心行くまで応援したいというファン精神に本懐が赴いた事に乾いた笑いしか出なかった。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 そして今も、偶然通った道沿いにあるCDショップの店頭にRYUのポスターが貼られているのを目敏く見つけ、急いで10枚買ってくるように言い付けてくるのだった。

 

 

 

 

 葉山さんは、これが真夜の本音だとすると、自分が何故アイドルをする事になったのか、知らずにいる達也にほんの少し同情しながら、言い付け通りにポスター10枚とCD20枚、缶バッジ15個のRYUグッズを買い込んで戻ってきた。

 満面の笑みを浮かべて、幸せそうな顔をする真夜を孫でも見るように優しく見守る視線を送った。

 

 

 

 




真夜のファン精神が達也のアイドルを続けさせてくれていたんだな!ありがとよ!


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俺の呼ばれ方が…

さてさて、アイドルになるにはそれだけの努力が必要ですからね…。ボイトレとか、ダンスとか~。




 

 

 

 

 

 真夜達が四葉本家へ帰宅した頃、達也…今はアイドルとして振る舞っているRYUは、同じアイドルの美晴にアイドルレッスンをコーチしていた。

 

 

 「ハァ…、ハァ…、ハァ…、どうですか? 自分なりに上手くできたと思うんです!」

 

 

 「確かにな。初めの頃より動きにキレができてきたし、読み込みも早いから上達はしている。ただややリズムが所々噛み合わずにテンポが速くなる傾向がある。それだと動きに無駄が生じやすくなるし、体力が曲の終わりまで持たなくなる。だから、曲のリズムを身体に覚えさせれば更に良くなるだろう。」

 

 

 「はい! もう一度やります!」

 

 

 「いや、少し水分補給してからだ。5分休憩しろ。そんなに息が乱れている中で、リズムを身体に刻み込むのは無理だ。自分の息の乱れと合わさって、逆に妨げになるぞ。」

 

 

 「は、はいっ!! では、休憩後、またご指導お願いします!RYU様っ!!」

 

 

 汗を掻きながらも笑顔でダンスレッスンに精を出す美晴を見て、RYUは第一印象としては親しみを持てる人物だと認識した。

 真夜が事務所を後にしてからスケジュール表や資料を探し回った後、美晴のCMオーディションが後一週間もないことが発覚し、急遽RYUが美晴のダンスレッスンのコーチを請け負う事になった。その際も嫌な顔を一つもしないで、真剣な面持ちで指導を頼んできた美晴の熱意は本当だったと理解し、「まっすぐでいい子だな…。」とRYUは心の中でそう思うのだった。

 

 

 ただ………

 

 

 「で、できました!! いつもの場所で躓いていたステップがやっとできました!さすがRYU様です!!RYU様に教えてもらえるだけでも感激なのに、アドバイス一つもらっただけで一瞬でできちゃうなんて、RYU様も救世主様ですっ!!」

 

 

 瞳を潤ませて尊敬のまなざしを向けてくる美晴の態度と自分を『RYU様』とか、『救世主様』とか大袈裟ではないか?と思う呼び方に、RYUは苦笑いするしかなかった。だけどやはり自分がそこまで言われるほどのものではないと思っているから、呼び方を直すように言ってみる事にした。

 

 

 「……その『RYU様』とか『救世主様』とかいう、呼び方…、止めてくれないか?

  俺はそこまでまだ有名なアイドル…、でもない。もっと砕けた感じで良い。」

 

 

 「むっ! 無理ですっ!! 私にはそんなこと…! RYU様はRYU様と呼ばないといけません!!」

 

 

 「そんな事はないだろう? 俺が言ってるんだ。呼び方を変えてくれ。」

 

 

 「…うぅ。じゃ、じゃあ……、り…、RYU~~~~………RYU~~…さま…?」

 

 

 「………どこが変わったんだ?」

 

 

 「か、変わりました! ”様”から”さま”に変わりました! ちょっと可愛らしさを出してみて!」

 

 

 「俺に可愛らしさをつけないでくれ…。変わっていないじゃないか。そもそも俺の方がアイドルとしてはあんたより後輩なんだから、頭をぺこぺこ下げないでくれないか?」

 

 

 「そ、そんな~~!! RYUさまはこの事務所で先輩後輩でも、アイドルとしては既に私より名が広まっているんですよ! 私はまだデビューもしっかりできていないまさにアイドルの卵のそのまた卵です! この業界では売れているか売れていないかで大きく自分の人生が左右されるんです! だから、私より先に目を出しているRYUさまを尊敬するのは可笑しくないんですよ~?」

 

 

 美晴が拳を作って、力説したので、RYUはまだアイドルになってままならないし、この業界に対する知識も持ち合わせていなかったので、美晴の言い分にも一理あると思ってしまった。そこからはあまり強引に呼び方を修正させる事は出来なかったが、妥協案として『RYUさん』と呼ばれる事に決まった。……人前では。事務所にいる時やプライベートの時は『RYUさま』に戻る事で折り合いがつくのだった。

 

 

 「はい、では、今度はRYUさまの番ですね!」

 

 

 「は?」

 

 

 「私の事は美晴って呼んでください!」

 

 

 「…ああ、よろしく、美晴。」

 

 

 「はい、こちらこそよろしくお願いします!RYUさま!」

 

 

 二人で呼び方が決まった後、ダンスレッスンを再び開始していく。

 

 真剣にアイドルとしてデビューするために頑張る美晴と、その美晴に細かく、かつ的確なアドバイスと見本をして教えるRYUをドアから覗き見て見守る金星は、感動の涙を流し、ハンカチを濡らしまくるのであった。

 

 

 




こうやって少しずつ関係を築き上げれたらいいね。
達也もRYUというアイドルを構築しつつあるし、頑張れ二人とも!!


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オーディションに向けての意気込み

RYUから仕事始めさせようと思ったけど、芸能事務所に入ったばかりだから仕事がないんだよね。ここは美晴のアシストでも…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、お疲れ様…です…、RYUさま…。」

 

 

 「お疲れ様、美晴。今日はここまでだ。」

 

 

 「はい…! ご指導有難うございました…!」

 

 

 すっかり日が傾いてしまい、夜になっても続いていたダンスレッスンも終わり、美晴はもう立っている事も出来ないほど消耗し、息を切らしながら床に倒れ込む。それでも笑顔が絶えない美晴は、昨日と比べてアイドルに近づいて行っていると実感を持てて嬉しそうにするのであった。

 それに対し、RYUは汗は掻いているが、呼吸は乱れていない上にコンサート並みの時間を踊っていたし、それと同時に美晴のダンスを見ながら的確なアドバイスをするだけの神経を使っていたのに、床に倒れるどころか、背筋を伸ばして立っている。

 この違いに、ドアの隙間からずっと二人を観察し、メイキングになればとこっそり撮影していた金星は、驚きと共に感心した。

 

 (何のメイキングにするつもりなんだよ!金星!!)

 

 二人がしていたダンスレッスンは相当ハイレベルのダンスだった。それこそプロのダンサーが難しいと公言してもいいほどの…だ。最初はRYUも比較的初心者でも踊れるようなダンスをしていたが、美晴が元々ダンスを習っていただけもあって、ランクを上げていったら、とてつもなくダンスのレベルが上がっていった。そのために美晴は自己レッスンでの体力消耗よりも激しかった。そんなダンスを同じようにしていたRYUがまだ踊れそうにしている事が金星にはもうスゴ技を見せられているようで、信じられなかった。

 しかし、そう思うと同時にRYUの存在が事務所の再建に大きな力に早速なってくれている事が金星のやる気へと導き出していた。

 

 そんな金星が美晴とRYUのアイドルへの道に陰から希望を見出しているのを視界に収めながらも、無視する事に決めたRYUは、まだ立てないでいる美晴を見下ろして、声を掛けるのであった。

 

 

 「今日はここまでだ、よく頑張ったな。これでも飲め、運動した時は水分補給が重要だぞ?」

 

 

 そう言いながら、美晴にスポーツドリンクを差し出した。美晴が頬を綻ばせて受け取ると、RYUも自分のスポーツドリンクを口にし、壁に掛けてある時計を見る。

 

 

 「ありがとうございます…!RYUさま…! RYUさまのお蔭でこんなに自分が前とは違うって思えたの、初めてです! 確実に成長できたと思えました!」

 

 

 「…俺は大したことはしていない。一緒にダンスをしていただけだ。……俺だって初心者だからな。」

 

 

 「え?なんですか?」

 

 

 「いや、何もない。ほら立てるか?手を貸してやってもいいが。」

 

 

 「いえ!RYUさまの御手を煩わす訳にはいけません! 大丈夫です、自分で起き上がれます…うぁ!」

 

 

 RYUに自力で起き上がれるところを見せようとしたが、まだ足に力が入れられないのか、バランスを崩した美晴。しかし、床に叩きつけられそうになったその時、RYUの手が美晴の腕を掴み、社交ダンスで回転してリードされるように優しくアシストしてもらうのだった。

 

 

 「!!RYUさま!! あ、あ、あ、あ」

 

 

 「あんまり無茶な事をするな、できない時は出来ないと言え。できないからと言って見損なったりはしない。お前の事は少なくとも努力家だとは理解しているからな。」

 

 

 ため息交じりではあったが、少しだけ微笑を見せてくれたRYUに美晴は決心し、背筋を伸ばして、真っ直ぐ顔を見つめると、深呼吸して宣言する。

 

 

 「RYUさま、私は必ずオーディションに受かってみせます! そしてRYUさまみたいなアイドルになります!だから…、これからもご指導お願いします!」

 

 

 深く頭を下げる美晴。

 

 

 頭を掻いて、苦笑するRYUは困惑した表情を一瞬見せたが、すぐに温かい笑みを浮かべる。

 

 

 「おう、その意気ならオーディションも上手くいくさ。頑張れよ。」

 

 

 「はい! 頑張ります!!」

 

 

 RYUからの応援メッセージを受け、俄然テンションを上げる美晴。それをRYUは演技している事を忘れそうになり、達也としての思考が頭に過る。

 

 

 (なんだかほのかに天然さがプラスされたような子だという事も分かったな…。)

 

 

 




如何しようか…、良く思えば、達也のハードなスケジュールにアイドル活動を更に詰め込まないといけないんだよ!それに、深雪にばれないようにだから、活動時間が極端に減る…。
どうやって辻褄合わせようか…!(汗)


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約束までに。

そう言えば、この予定が入っていたな。忘れそうになっていたけど、達也も内心は待っていただろうし、やりますか!


 

 

 

 

 

 

 

 四月二十九日、日曜日。

 

 

 

 

 朝早くからFLT開発第三課を訪れている達也は、夜通しで研究していた研究員たちと作業し、開発会議を執り行っていた。

 

 

 「それでは今回の開発会議だが、御曹司が提案されたこのCADを開発案を採用しようと思っている。」

 

 

 会議の司会役として牛山が流れを運んでいるが、その牛山がずっと達也の企画をここで発表出来て喜んでいるのはもちろんの事、また学期的な開発に携えて歓喜しているのだ。その興奮が醒めきる事はなく、企画を説明していく中、声量にも動きにも力が入っている。

 

 いつもながらCADを開発する際の牛山のテンションの高さはたまにどう接すればいいか分からない時がある。それは牛山だけでなく、開発第三課の研究員全員に言える事だ。今も、開発会議に参加している全ての研究員が牛山の説明に全神経を集中させ、しきりに上下に首を振って真剣な表情で頷いている。そんな会議の状況を牛山の説明を耳に入れながら誤った伝え方をしていないか確認しつつ、観察していた達也は「相変わらず、研究熱心だな。生気の研究員ではない俺の我が儘なのだから、断ってもいいんだが…。」と自虐的な考えをする。

 しかし、達也はそう思っているが、牛山達はそんな事を考えてはいない。寧ろ達也の提案した開発案だからこそ、気合を入れ、何としても開発させ、世に広めたいと張り切っているのだ。これまで達也のお蔭で冷遇されていた開発第三課のイメージを払拭させ、自分達がやりたかった自主的な研究も権限を得た事で自由にできるようになった。だから、牛山達が達也を見下す事もないし、冷遇する事もない。自分達の一員として、何より自分達のリーダーとして心から認めている。

 

 達也のためなら、牛山達はたとえ本部から依頼された研究があろうと、家族との時間を過ごしていようと、自分の研究をしていようと、達也から新たなCADや魔法開発が持ち込まれれば、それらを放り出して、身体が壊れそうでも己の持つ力を余すことなく発揮する。…そんな思いを開発第三課の全員がそう誓っているのだった。

 

 

 「………という事で、御曹司が今回なされようとしている完全思考操作型CADは、従来のCADをそのまま起用できるだけでなく、自身の思う通りの魔法がより鮮明に発揮できる画期的なものだ!

  これなら、既に完全思考操作型CADを世界初として発売されているローゼンのものより効率がいい!

  御曹司のこの企画を俺達の技術で実現してやろうぜ!お前ら!」

 

 

 「「「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」」」

 

 

 「いや、そこまで盛り上がる事でもないと思うのですが…。」

 

 

 「何をおっしゃっているんですか、御曹司! 御曹司の天才的頭脳があるからこそ、魔法師のより良い未来に歩めるんです! 」

 

 

 「そうですよ~、あんたのその頭脳を俺らで実現する事が何よりの喜びでさ~。」

 

 

 「いつも本当に助かります。実現する技術があってこそ、世に広められるのですから。それこそ牛山さん達がいてくれてこそです。俺は、ハードになるとまだ素人同然なので。」

 

 

 「素人ってそんな馬鹿な事を言わんでくだせぇ。俺から見ても御曹司の腕は既に高校生レベルではないですよ。」

 

 

 「その高校生レベルでは、社会で通用できるCAD開発をするのは難しいですから。やはりプロの腕には敵いませんよ。」

 

 

 「…ああ~~もうダメましょう! 御曹司に口で勝てる気がしねぇ~。それより、今回の企画について話でもしましょうや。」

 

 

 「実も俺も同じことを考えていました。」

 

 

 牛山と達也が顔を見合わせて、互いに笑みを浮かべると、会議はすぐに研究へと早変わりした。今までも会議の後はすぐに研究に入っていたため、他の研究員もすぐに対応し慌ただしく動き出す。その動きには、持ってましたと言わんばかりの衝動的な手早い動きとわくわくしている笑顔を全員がしていた。

 

 

 こうして、雫が企画した達也の少し遅めのバーズデーパーティーが始まるおよそ二時間前まで牛山達と議論しながら完全思考操作型CADの研究を進めるのであった。

 

 

 (せめて約束までに、開発の方針や指示を明確にしておかないとな…。)

 

 

 




この完全思考操作型CADが関係してくる事でしょう!(ほんの少し?)
牛山のキャラ、崩れていないよね?


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言葉にできない”ありがとう”

パーティーまで時間を飛ばそうと思ったけど、そうもいかないよね~。彼らがいるんだもん。


 

 

 

 

 

 

 

 

 午後四時。

 

 

 会議からのCAD開発研究まで早速手掛けていた達也は、時計を見て切り上げ、開発第三課に特別に設けられた自分の研究室へと向かい、そこでスーツからここに来た時のライダージャケットやパンツ、ブーツに着替える。今日は会議だったので、スーツを着用していた達也。この後の予定がなければ、自宅からスーツで来てもよかったが、雫の家で自分のバーズデーパーティーを開いてくれるので、速攻で行けるようにと、ここに置いておいた予備のスーツを着たという訳だ。深雪と水波には事前に雫の家で落ち合うように話している。万が一会議が長引いた時、達也の帰りを待って、深雪達がパーティーに遅れないようにするためだ。

 達也がFLTに出かける前。今日の打ち合わせを確認し、玄関で達也を見送りに出た深雪は達也と本当は一緒に行きたかったが、達也が新作を手掛けていて、それが誇らしい事だと理解しているため、言葉を呑み込み、達也を見送ったのだった。

 達也も一旦家に帰ってから深雪と一緒に行こうとしたが、深雪が先に行くと言ったので、水波に深雪を任せてみる事にしてみた。水波も深雪の護衛として経験を得るために、力強く頷くのだった。それから、雫の家でパーティーだから、礼服で言った方がいいのか?という話も上がったが、深雪が普段の服で良いと言っていたので、自宅へ帰るよりそのまま向かう算段をしていた。深雪も同じことを考えていたのだろう。すぐに答えてくれたが、その時の深雪の表情は少し恥ずかしげにしていた。

 

 …という訳で、着替え終わった達也は、雫の家に愛車のバイクで向かうため、再び第三課の全員がいる研究室へと挨拶のために足を運んだ。

 

 

 「それでは、自分はこれで………」

 

 

 

 

 パァ~~~ンっ!!

 

 

 

 

 「「「「「「御曹司~~~!!ハッピーバーズデー!!」」」」」」」」

 

 

 「………? どうしたんですか、牛山さんその格好?」

 

 

 「御曹司~!そこはもっと驚いてくださいよ!」

 

 

 「十分驚いていますよ、牛山さんのその格好が。」

 

 

 達也は既に研究室に入る前、研究員たちが何やらドアの前に待ち構えている気配を感じ取っていたので、それに関しては驚かなかったが、今目の前にいる牛山の格好には驚いていた。…表情はポーカーフェイスになっているが。

 牛山は、大きなケーキのコスプレ?を着ていて、横からは腕が、下からは足が出ていた。なぜそのような格好をしているのか疑問だったが、傍らで笑っているテツが事情を説明した。

 

 

 「主任、御曹司の誕生日を祝おうとみんなに話してたんですよ~!そしてその時サプライズをしようという話が決まって、主任がコスプレして登場するという感じだったんすけど…。ぷわぁっ!!くくく…。俺達も初めて見たんで…」

 

 

 「こらっ!テツっ!何暴露してくれてんだ!! これでもサンタとどっちがいいか迷ったんだぞ!?」

 

 

 (((((なぜ、この季節にサンタ?)))))

 

 

 「ッテ!!……何でサンタなんですか!主任! 季節外れにも程がありますよ~!!」

 

 

 「ハァ?何を言っているんだ、サンタはプレゼントを渡す心優しいおじいさんだぞ?誕生日プレゼントを渡す人として、相応しいだろ?」

 

 

 「「「「「「…………………」」」」」」

 

 

 まさかの牛山の発言で達也を含めた研究員全員が固まった。サンタを微妙に勘違いしているのと同時に、そのサンタではなく、ケーキに扮した意味が分からないとなぜか春先の心地よい時期なのに、真冬に戻ったかのような寒げが身体を襲ったのだった。

 

 

 それからは、達也も苦い笑いをしつつ、開発第三課のみんなが誕生日祝いでくれたプレゼントを持って、FLTを後にする。

 そのプレゼントは、龍の彫刻が掘られたブレスレット型のCADを二つ、達也にだけの特別なCADをみんなで多忙の合間を取って、休憩なんかそっちのけで作り上げた逸品だった。

 

 自分仕様に合わせたCADを作ってくれた開発第三課のみんなに感謝する達也は、胸に湧き起こる温かい気持ちに応えてられない自分がもどかしく思えたが、プレゼントを大事に持って、バイクに乗り込むのであった。

 

 

 ”みんな…、有難う。”

 

 

 一言、それだけを心の内だけだが残して、バイクを走らせ、雫の家へと向かう達也だった。

 

 

 

 

 




牛山達の賑やかさはいいわ~。達也の味方って感じがして、好きなんだよ~!!
達也の誕生日も覚えていたし、祝ってくれてね。パーティーまでは時間は取れなくても、みんなの思いが詰まったプレゼントももらえてよかったね!達也~~!!



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ほのかと水波の初対談

いよいよ達也の誕生会がスタート!
さて何をさせようか…。軽くキャラ崩壊させるか…。くくく…。


 

 

 

 

 

 午後五時。

 

 

 

 

 一足早くに雫の家に着いた深雪と水波は雫の家に仕えるお手伝いさんに案内され、パーティー会場となる応接間へと案内された。

 

 

 「こんばんは、雫、ほのか。今回、招いてくれて嬉しいわ。」

 

 

 応接間に入り、深雪が既にパーティーの準備をしていた雫とほのかに声を掛けた。後ろに控えている水波はそのまま無言でお辞儀をする。

 

 

 「ううん、こっちも来てくれて嬉しい。」

 

 

 「深雪~!ちょうどよかった~! 絡まって身動き取れないの~!」

 

 

 それに対し、雫とほのかは安堵した表情で深雪達に助けを求めた。改めて二人を観察した深雪は苦笑するしかなかった。水波は若干呆れている。

 なんとほのかの身体に飾りが巻き付いており、それを取るのに二人とも苦戦していた。

 

 

 「ほのか、どうすればこんな風に絡まるのかしら? いくらなんでも身体が全身縛られるようにはならないはずでしょ?」

 

 

 「うう……、最初は足に絡まっただけだったんだけど、解こうとしたらどんどん絡まっちゃって……。」

 

 

 「なんとか解こうとしたけど、固く絡まっているところもあって、解くにも時間がかかる。切ろうと思えば切れるけど…、それだと飾り付けが間に合わない。」

 

 

 困った口調で話す雫といまだに縛られて身動き取れないほのかを交互に見て、深雪も困った表情をすると、後ろで傍観をしていた水波に振り返り、尋ねるのだった。

 

 

 「水波ちゃんならこれをほどく事は出来るかしら?」

 

 

 「……はい、できます、深雪姉さま。」

 

 

 ほのかを縛る飾りを観察した水波はできると宣言した。それを聞いて安堵した深雪は水波に任せ、雫と一緒に距離を取って、まだ終わっていない場所の飾りつけを再開するのだった。

 

 

 「え?ちょっと、雫~? 深雪~? ちょっと待って…!」

 

 

 自分から離れて楽しそうに会話しながら飾りつけしていく二人にほのかは焦りを感じる。できれば、解放されるまで傍にいてほしかったのだ。

 予定の時間が迫ってきているので、自分のミスで滞った準備を二人が間に合うように手を動かしているのは分かっている。しかし、この状況の自分が後輩である水波と初の対談をするという事態に羞恥心を感じずにはいられない。だからせめて仲介してほしくて、傍にいてほしかった。

 ほのかの救援は残念ながら霧散し、気まずい雰囲気がほのかと水波の間に流れる。

 

 

 「あ、あの……、水波ちゃん…? ごめんね? こんな事させて。」

 

 

 「いえ、大したことではありませんから。光井先輩が気に病む事はないと思います。三井先輩は少々慌てがちな方だと聞いておりますので。」

 

 

 「え!? 誰から!?」

 

 

 まだそんなに話した事もないのに、自分の事を知っている水波に驚くほのか。一方で水波はどう答えるべきか迷っていた。ほのかの情報は実を言えば、ここに来る前に深雪の友人の情報をまとめたデータを渡され、その中にあった事を言っただけだ。達也からも深雪からもまだそこまで聞いていない。本来なら達也か深雪のどちらかに聞いた事にすれば問題ないが、ほのかが達也を好いているのは、データだけでなく、入学してからの約1ヵ月の行動を見れば分かる。達也がほのかの印象を悪く見ていると受け取れば厄介事になるのは容易に想像できる。対して、深雪も同様に友人関係が気まずくなるのではと考えてしまい、水波の頭の中に浮かんだ対応策は消えてしまった。

 だから……

 

 

 「……同じクラスの子がそのように話していたかと思います。慌てがちな面があって心配になるけど、真っ直ぐに行動する所は惹かれる、と男子生徒が話していました。」

 

 

 「え、そうなの? 私って一年生からも注目されていたの?」

 

 

 「はい、光井先輩は容姿も魔法力も優れておりますので、魅力的に見えるのでしょう。」

 

 

 嘘はついていない。実際に水波のクラスの男子生徒達がそのような事を話していた事をなんとなく覚えていたのが幸いし、伝えてみただけだ。それが、ほのかが赤面するとは思わなかったが。

 

 

 「わ、私は、私には達也さんが…、す、好きなので!! その子のき、気持ちに応える事は…できません…!!」

 

 

 「……………」

 

 

 縛られながらなぜか告白したほのかに水波は何が起きたか、一瞬理解不能になった。今の流れでなぜ告白するのか?水波はそう思うと、これ以上は会話が持たないと判断し、手早く飾りを解き始めた。元々、四葉本家でメイドの嗜みとして編み物を習得していた。毛糸が絡まる事も多多あったので、その時の毛糸の解き方と酷似する飾りの解きは水波には造作もない事だった。

 そうして、たった五分でほのかを解放した水波。

 

 

 「あ、ありがとう、水波ちゃん。助かりました。」

 

 

 「いえ、では私はこれで。」

 

 

 お辞儀すると、水波はほのかをその場に残し、深雪の元へと素早く向かうのだった。それを見送って、ほのかは肩を落とす。

 

 

 (もっと気の利いた話をすればよかったな~。「達也さんのカッコいい所」とか、「達也さんの好きな食べ物」とか…!深雪のいない間に達也さん情報をゲットできるチャンスだったんじゃ!!)

 

 

 後の祭りとばかりに、今になって気づいたほのか。

 

 再び聞こうにも水波が既に深雪とパーティー準備をしているのを見て、水波ともっと仲良くなるのを決めたほのかであった。

 

 

 

 

 




水波から達也の好みとか聞き出そうとするほのか。ほのかにしては積極的だな~。
いつもは雫に背中押されないとアタックできないのに…。


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遅めのバーズデーパーティー!!

達也の誕生会が始まる~~!!何をさせて遊ぼうかな♥


 

 

 

 午後五時半頃。

 

 

 

 

 なんとか飾りつけも終わり、パーティーグッズも料理もテーブルに並べられ、後は主役となる達也の到着を待つだけ。

 

 

 「よかった~~!!何とか間に合った! 一時はどうなる事かと焦ったね。」

 

 

 「うん、ほのかが一人でドMプレイをしていたから、目のやり場に困った。あれを達也さんに見られていたらと思うと……、パーティーはどうなっていたんだろう?」

 

 

 「雫~~!! やめて~~!! 悪かったから、いじめないで!! ううぅぅ…、私だってあんな事したかったわけじゃ…。」

 

 

 「分かっているわよ、ほのか。ほのかの意思であそこまでの事をした訳じゃないことくらい、雫だって分かっているわ。少しからかってみただけよ。」

 

 

 「深雪姉さま…、フォローに繋がっている気がいたしません。」

 

 

 「あら、そう? あのほのかをお兄様が見て、冷めた空気になるよりはいいと思うのだけど?」

 

 

 「深雪…、こんなに口が悪かったっけ?」

 

 

 「深雪は意外とドSなんだよ、ほのか。」

 

 

 今まで見てきた深雪とは違った悪女な雰囲気の深雪と面白そうに少し口元を緩ませて加担する雫にほのかはからかわれつつも賑やかに達也の到着を待っていた。

 水波は、じっとしているのが落ち着かないのか、何かできることはないかと辺りをチラチラと見回す。メイドとして仕えていた性なのかもしれない。

 

 

 「おっ待たせ~!! まだ始まってないよね?」

 

 

 「お、お邪魔します。」

 

 

 「おお~~!! すっげ~~!! 美味そうな食べ物ばかりだぜ!」

 

 

 「こら、まずは挨拶しないと、二人とも。」

 

 

 四人で談笑している時、応接間のドアが開かれ、入ってきたのは、雫が招いていたエリカ、美月、レオ、幹比古だった。

 

 

 「あら~、ミキだって、パーティー楽しみにしていたじゃない? ミキって昔から人混みに敏感だから、こういう集まりに参加できなかっただけに、今ものすご~~く興奮してるんでしょ~?」

 

 

 「ぼ、僕はそんな遠足前の子供みたいなことはしないよ!! それに、僕の名は幹比古だ!!」

 

 

 「はいはい、そうムキになっている自体が図星の証拠よ、ミキ?」

 

 

 「だから、僕の名は幹比古だ!!」

 

 

 「なぁ…、幹比古?お前の荷物、やけに大きすぎないか?」

 

 

 いつも通りのエリカと幹比古のやり取りが繰り広げられる中、同じエリカに弄られる同志として仲裁に入ったレオが話題を変える為にさっきから気になっていた事を聞いてみた。しかし、レオの質問を耳にした途端、幹比古は罰が悪そうな顔をし、目が泳ぎだした。

 

 

 「や、これは…、何でもない…。ただの達也へのプレゼントだから…。」

 

 

 「こんなに大きなプレゼントをか?すっげーな…。」

 

 

 ボール三つは楽に入れるほどに膨らんだ風呂敷を見て、レオは感嘆した。自分の達也へのプレゼントを思い出し、まだ中身が分からないのに若干の敗北感が芽生えた。幹比古も感嘆するレオを見て、安堵したのか表情が柔らかくなる。しかし、幹比古が安堵するのは早かった。鋭い視線が幹比古に降り注ぎ、手に持っていた風呂敷をあっという間にエリカに取られてしまったのだ。

 

 

 「あ~~!!」

 

 

 「ミキ~~? あんたが何を隠そうとしているのかって事くらい分かるんだからね。 あたしが言った事がこれで証明できるか、見せてあげる。」

 

 

 「止めてくれ~~!!」

 

 

 バサバサ…。

 

 

 エリカによって風呂敷が開かれ、中身が零れ落ちる。それを中心に幹比古以外の全員が囲んで見下ろす。

 そこには、たくさんのパーティーで遊ぶ昔流行ったレトロなグッズが落ちていた。

 

 

 「やはり幹比古は楽しみだったんだな~。」

 

 

 「それならそうと初めから言ってくださればよろしかったのに。」

 

 

 「こういうのはみんなで遊ばないといけませんから!遠慮なんてしなくて良いんですよ?」

 

 

 「むしろ、隠す方が子供っぽい?」

 

 

 「ミキ~~?恥ずかしからずに『遊ぼう?』っていう事も覚えないと、ね?」

 

 

 矢継ぎ早にみんなからの突き刺すような台詞に羞恥心が沸き起こる。

 

 

 「……わ、分かったよ!! そうだよ、僕も楽しみにしてたんだ!! 今日は一足違った僕を見せてみせる!!」

 

 

 そして、開き直った幹比古を見て、エリカはにんまりと笑って、作戦成功とばかりのウィンクを深雪達に見せるのであった。

 

 

 「お嬢様、お客様がいらっしゃいました。」

 

 

 タイミングを見計らったかのようにお手伝いさんが雫に来客者を告げにやってきた。

 

 

 「お兄様がいらっしゃったようですね。」

 

 

 まだ来客者の名も告げていない段階で、そう言いきった深雪。自信が揺らぐことがない深雪を見て、雫も頷き、お手伝いさんに連れてきてもらう。

 

 

 

 数分後、お手伝いさんに連れられてやってきた達也は、玄関先で偶々遭遇した雫の母、紅音と対面し、軽く会釈して雫たちのいる応接間へとたどり着いた。

 

 

 お手伝いさんがドアの前で達也を止めると、自分の役目はここまでと、達也を置いて去って行った。達也はその後ろ姿を見送り、ドアの先でまたしても待ち構えている良く知っている友人たちの気配を感じ取り、息を軽く吐き出し、微笑を浮かべた後、ドアを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ババァ~~~ン!! バァ~~~ン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「ハッピーバーズデー!!(お兄様/達也さん/達也くん/達也/達也兄さま)!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 大量のクラッカーで迎えられ、色とりどりの紙クズやテープを浴びた達也は、そのまま笑顔で迎えてくれた友人達を見回し、一言つぶやく。

 

 

 

 

 「…みんな、ありがとう。」

 

 

 

 

 

 午後六時、主役も揃ったバーズデーパーティーは、笑い声が絶えないくらいに盛り上がりを魅せるのであった。

 

 

 




無事に達也も到着したみたいで、パーティーが始まりましたね!!

ほのかと幹比古は弄りやすい…、ではなく、ストーリー展開に最適でした~!ご苦労様です!そしてまた頑張ってもらいましょう~~!!


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大革命家、達也の登場!

…あれ?アイドルを目指す話のはずだよね?なぜに革命とか、誕生会とか、そんな話になった?




 

 

 

 

 

 

 

 「…………みんなして、僕に何か恨みでもあるの?」

 

 

 「うぅ………私も、こ、こんな目に遭うとは思わなかったよ~。」

 

 

 「す、すみません…! 私にはお二人を助ける事は…できません!」

 

 

 「いや~、なんというか…、まさかここまでとは俺も正直思わなかったぜ…。」

 

 

 「何を今更言っているのよ、ミキは。あんたもこれくらいの事で同情するんじゃないわよ!まずは自分の心配をしたら~?」

 

 

 「エリカも自分の心配した方がいいと思うわよ?」

 

 

 「え?……あ!」

 

 

 「…深雪、容赦ない。」

 

 

 「さすが深雪姉さまです。お見事です。」

 

 

 「ふふふ、水波ちゃん、ありがとう。でもお兄様には到底及ばないわ。」

 

 

 「その”達也”に痛い目に遭っているんだけどね!」

 

 

 「ん? なんだ幹比古、早くしろ。こっちは準備できている。」

 

 

 「…………何もないような雰囲気で、先を煽られるとなぜか

気が重くなってくるよ、達也。」

 

 

 「これくらいの事でなぜ気が重くなるのか理解できないんだが?」

 

 

 「ミキ~、達也くんに小言言っても無駄よ。いい加減腹を決めなさい!男ならビシッとしておくべきでしょ!?それとも好きな人の目の前で恥を掻きたいわけ?」

 

 

 「な!? エリカ!い、いい加減な事言うなよ!それに僕の名は幹比古だ!」

 

 

 「それくらいの意義込みを見せてほしいものだけど~。」

 

 

 「…………っああ~~~、分かったよ! 」

 

 

 

 

 皆で囲んで輪を作り、全員が真剣そのものの表情で見つめ合う。幹比古とほのかは苦しみを滲ませた表情も含んでおり、その二人の表情を見て、他のメンバーがからかったり、憐れんだりと見守っていた。

 そしてついに、幹比古が腹をくくったのか、決心を固めた表情を取り、手から札を数枚取り出すと、輪の中心に思い切り叩きつけて、宣言するのだった。

 

 

 

 

 「これでどうだ!? ”革命”!!」

 

 

 渾身の一撃を浴びせたと思い、今度こその自分の勝利を脳裏に浮かべる幹比古。しかし……

 

 

 「幹比古、悪いな。”革命返し”に、”八切り”に、”1”だ。」

 

 

 「……………え?」

 

 

 

 達也があっという間に勝利宣言の如く、不敵な笑みを浮かべて抜ける。

 

 

 「では私も。”2”で上がりですわ。」

 

 

 「はいは~~~い!私は”トリプルK”からの、”J返し”で”5”あがり!!」

 

 

 「ご、ごめんなさい!!”4”で上がります!」

 

 

 「”3”で、”タブル10”で上がり…。」

 

 

 「”タブルQ”で上がります。」

 

 

 「よっしゃ!俺も上がりだぜ!」

 

 

 「………よ、よかった!”革命”からの、”J返し”で”1”の縛りで上がれました~~!!」

 

 

 「ええええええ~~~~~~!!!??」

 

 

 

 幹比古以外全員が嬉しそうな顔をして、騒ぎ合うのを、ただ一人だけ手に札を持つ幹比古だけが目を丸くして、現実逃避するのであった。

 

 

 

 

 何をしていたかというと、バーズデーケーキをみんなで食べて盛り上がった後、せっかく幹比古が持ってきたレトロな遊びをしようという事になり、主役の達也もそれに応じたため、全員で遊ぶことになった。

 その遊びというのが、トランプだった。

 

 しかも、”大富豪”…。

 

 

 先ほどからみんなで10回以上はやっているんだが、未だに幹比古は勝つ事がなく、いつも大貧民になるのだった。(9人でしているから、大大大大貧民になるんじゃ?どんだけ”大”がつくんだよ!!)

 ほのかも負け越しが続いており、いつも幹比古とほのかが残り、ほのかが先に上がるという現状も起きていた。

 

 

 「何で僕だけこんなに負け続けないといけないんだよ…。」

 

 

 「さぁ~? タイミングの問題なんじゃない?」

 

 

 「何のだよ…。」

 

 

 「”革命”するタイミング?」

 

 

 エリカが首を傾げて考えながら答えるが、幹比古はそんな事はあり得ないと思っていた。毎回自分が革命を起こしている訳ではないし、みんなの札の状況を見ながら、自分の有利を計るタイミングに札を出すなんて不可能だ!…と幹比古は一掃した。

 

 

 「……ミキ、今『そんな事あり得ないだろ』って思ったでしょ?」

 

 

 「え!?」

 

 

 「やっぱり…、言っとくけどね~、そんなんだからいつまでも大大大大貧民のままなのよ! 達也くんを見習ったら?」

 

 

 「た、達也は次元が違い過ぎるよ! だって…、一回も負けていないばかりか、ずっと大大大大富豪だよ!?」

 

 

 そう…、幹比古の言うとおり、”大富豪”を始めてから達也は一度も負けていなくて、舞かい一番に上がるために”大大大大富豪”の称号を我が物にしていた。初めは深雪以外驚いていたが、徐々にそのあまりにも桁が違い過ぎる勝利にドン引きし出した所で、『達也の強さは次元を超えている』と遠くを見る目で受け入れていったのである。だから、今更ながら達也の異常な強さを見習うどころか、勝負する事さえ放棄した幹比古にエリカは嫌気が差してきた。

 エリカは鋭い視線を双眸に宿し、根性を入れ直そうかと思ったその時、達也が仲裁に入る。

 

 

 「エリカ、そこまでにしたらどうだ?幹比古もよくわからないが、好きで負けている訳ではないし、毎回同じ結果だと飽きてくるだろう?

  今度は違うものをしないか? 」

 

 

 「……達也くんはそれで良いの?」

 

 

 「俺は構わない。せっかく幹比古がたくさんレトロなゲームを持ってきてくれたからな。他のも遊ばないともったいないだろ?」

 

 

 達也が微笑を浮かべ、エリカに応える。その達也の表情から、勝負に面白味を見出しているような印象を受けたエリカは、幹比古に迫っていたのを止め、輪の中に戻る。深雪達もそろそろ飽きてきたのか、達也の意見をすんなり受け入れた。

 

 

 

 

 こうして、”大富豪”では、達也が”大大大大富豪”の称号を手にしたまま終わったが、達也の勝利はまだまだ続き、”ババ抜き”や”七並べ”、”神経衰弱”等々のトランプの遊びを全て勝利を収めるという人間離れな脅威を見せつけ、エリカたち喉肝を抜き、ドン引きされるのだった。(深雪は「さすがお兄様です!!」と目を輝かせて尊敬していた。)

 

 

 まさにただの遊びに革命を起こしたとも言える、達也の手腕が疲労された時だったのは言うまでもない…。

 

 

 




達也ってどんだけ強いんだよ! 説明しよう!(独自解釈だけど!)

達也は観察眼に優れているから、カードの使い様とか枚数とか、表情とかを細かく観察する事で、みんなの手札を予測したりできているんだよ。だから次に自分が何を出せば勝てるか頭の中で計算しているから、一番に上がれるんだよ!!
…決して『精霊の眼』を使っているとかじゃないからね!イカサマなんてしてないよ!

………逆に凄すぎて口が開きっぱなしだよ~~~!!

 ちなみに神経衰弱は達也がみんなの後に引いたら、一気に札を取っていって、一回で終わり、エリカとレオに「もっと空気読んで」と突っ込まれてました…。


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怪人となって……

改めて原作を見直したら、今後のアイドルとの時間軸を押さえていこうとしてたのに、通り過ぎてしまっていた!!
ですので、少しだけ時間を遡って、行こうと思います!!


 

 

 

 

 

 四月二十七日、金曜日。

 

 

 その夜、達也は学業を専念した後、藤林から連絡を受け、陰謀を企てている(つもりの)琢磨と共謀関係にある人物の元へ、赴いていた。

 そして、琢磨に付けていた盗聴器から『黒幕』があの小和村真紀だという事を突き止め、さっさと交渉を終わらせ、厄介事を終わらせようと達也は仕掛ける。黒幕が真紀だったと知った達也は、雫のパーティーで会った今後関わりたくないと真っ先に思った女性だという印象しかなかったが。

 

 

 「さて、俺はこれから言ってきますが…、なんですか、響子さん?」

 

 

 服を着替えて、乗り込もうとしている達也が顔を固定したまま、視線だけを後ろに控えている響子に向け、質問する。そんな達也に睨まれている響子は、笑いを必死に堪えようと頬を赤らめ、口を手で覆っていた。

 

 

 「ふふふ…、だって、その格好…、どこかで見た事があるんだもの…!ふふふ…、これから脅迫してくるって言うのに、なんでその格好…?ふふふ…!」

 

 

 なぜかツボって、笑いが毀れている響子の問いに答えたのは、達也ではなく、今回一緒にいる真田だった。

 

 

 「何が可笑しいんだ、藤林君? 僕の渾身の装備に何が不服かね?」

 

 

 「あ、やっぱりこれって、真田さんのデザインでしたか。もしかしてこの装備のテストも兼てこっちに来たんじゃ…。」

 

 

 「それは違う。既に柳に実験台になってもらった。データは整っている。」

 

 

 「まぁ、俺は全身を黒ずくめにできればそれでいいんですが。」

 

 

 「ほら、達也くんだってこう言ってくれているんだし、藤林君も甘く見ないでほしいな~。」

 

 

 「別に甘く見てはいませんよ?電波吸収素材を使ったステルス装備ですし、さすがだと思います。ですが、なぜ覆面に「耳」をつければそっくりな蝙蝠をモチーフにした古い映画の怪人のような格好になるんですか?」

 

 

 具体的な例えを正確に言いきった響子に、達也は「そんな古い映画を見てるんだな、響子さんは…。」…と、映画とか関心のない日常を送ってきただけに、感心した。

 達也の本心から言うと、ムーバルスーツが着たかったわけだが、こんな小さな件に着られるわけもないと理解しているため、何も言わなかった。

 

 そんな達也をよそに響子と真田が未だに話し合っていた。

 

 

 「だから、偶然なんだ。」

 

 

 「本当ですか?私から見れば、相手が美人女優だから、芸能界に関連着いた服装に合わせたんだと思ってました。」

 

 

 響子がそう言うと、真田は口を閉ざした。

 

 

 「響子さん、いくらなんでもそこまで真田さんは考えていなかったかと………」

 

 

 「何で…、分かったんだい?藤林君…。」

 

 

 「「……………」」

 

 

 響子に図星を突かれ、独り言のように呟いた真田の言葉に思わず達也も響子も絶句してしまう。それからは、もうどうでもよくなって、怪人と化した達也はそのまま真紀のいる部屋のベランダへと飛んだのであった。

 

 

 (早く厄介事は終わらせておこう。明日は予定が詰まっているからな。先送りは勘弁してもらおう。)

 

 

 

 真紀の部屋へと翼を広げて暗闇の夜の空を飛ぶ達也は、明日の予定を思い出し、続け様にやってくる厄介事を片付けようとする…。

 

 

 まずは、交渉から…。

 

 

 

 




何故これを忘れていたのか…。

答えは、原作を読んでいなかったからだよ~!!何してるんだ、うちは~~!!



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有意義な話し合いの裏

さてさて辻褄合わせをしておかないと、このアイドルストーリーが先に進まないからね…。
月日を勘違いしていたうちが悪いんだけど。


 

 

 

 

 

 

 「誰か来て!泥棒よ!」

 

 

 異変に気づき、叫んだ真紀をベランダから侵入した達也は、少しだけ感心していた。鍵は簡単にピッキングして開けた。防犯設備も響子がハッキングして無効化済み。さほど気づかれるように音を立てたわけでもないのに、淫らな行為中でも気付いた真紀の理性が保っていた事実に達也は、歯ごたえが少しあると思った。それと同時に面倒な女だとも思った。

 用があるのは真紀だけなので、琢磨は眠らせ、ボディーガードの二人も無力化した。

 

 妙な抵抗をされないように、これから行う交渉も有利な展開で話せるように、自分が絶対的有利だという演出を琢磨やボディーガード達を使って、思惑通りに運んだ達也は、もう既に目の前の真紀に対して、感心とかは無くなっていた。

 

 

 「服を直してもらえませんか?」

 

 

 「あら、服を着ちゃっていいのかしら?」

 

 

 「もちろんです。まぁ、貴方がそのままで良いと言うなら俺は構いませんが。」

 

 

 渾身の演技も通用せず、ムッとした表情で身なりを整える。

 

 達也は、その表情から真紀が自分の正体に気づいた事を知った。それを知って、達也は作戦通りだとほくそ笑んだ。

 

 

 「…………これで良いかしら。ところで、いつまでそんな物をかぶっているつもり?似合っていないわよ、司波達也君。」

 

 

 真紀が最も言いたかったのは、「司波達也君」の部分。つまり「正体は分かっているわよ」という事なのだが、覆面で表情が隠れていても達也が少しも動揺していない事が真紀には手に取るように分かった。というか、分からせられた。

 それもそのはずだ。達也は正体を隠す気もなかったのだから。寧ろ、正体を分からせるつもりだったのだ。だから、真紀が達也の正体を見破ったとしても達也にとって痛くもない主張だった。

 

 

 「では話し合いに移りましょう。」

 

 

 「話し合い?いったい何が目的なのかしら?」

 

 

 「まずこれを聞いてください。」

 

 

 言葉遣いが普通に丁寧な事に、真紀は違和感を覚えた。しかしその事は達也の手にする端末から再生された声を聴いて、一発で吹き飛んだ。

 

 

 「盗み聞きしていたのね!?この変態!」

 

 

 「これがマスコミに流出したら大問題でしょうね。」

 

 

 真紀の表情が一気に冷めていく様を拝み、達也は更に言葉を連ねる。

 

 

 「先日も似たようなニュースで大騒ぎになりましたし……峠を越えた元アイドルでもあの騒動だったんですから、今まさに旬の美人女優が」

 

 

 「何が望みなの!?」

 

 

 「要求は二つです。」

 

 

 ヒステリックな叫びをする真紀とは対照的に落ち着いた声で淡々として要求を告ぎ付けようとする達也を真紀は不安に駆られる。

 

 

 「一つ目。七宝と切れてください。ああ、そう言う意味で言っているんじゃありませんから理解できないふりは無しですよ。」

 

 

 「分かっているわよ。」

 

 

 まさにそう言う解釈で(肉体関係と言っちゃいますが…)話を逸らそうとしていた真紀は、先に釘を刺されて不貞腐れた声で頷いた。

 

 

 「二つ目。高校生以下には手を出さないでください。」

 

 

 「………どういう意味かしら?」

 

 

 「あなたが何を目論んでいるのか、詳しい事は知りません。もしかしたら魔法師にとって有益な事なのかもしれませんが、そこに興味はありません。ただ、俺の周囲を引っ掻き回さないでもらえますか。」

 

 

 「えっ……?」

 

 

 真紀はポカンとした表情で、黒覆面の達也を見返した。

 

 

 「大学生以下なら相手も大人ですから、貴方が何をしても干渉するつもりはありません。俺の不利益にならない限りは、ですが。この要求を受け入れていただけますか。」

 

 

 「え、ええ………そんな事でよければ。」

 

 

 拍子抜けする物を感じた。そんな事のために強盗のような真似をしたのか、と真紀は思い、逆に不気味だった。

 達也の行為は法に触れる。それをあっさりと実行してしまっている。法を、国家権力を恐れていない…。それを突然悟った真紀は、聞かない方がいい…、理性で分かっていても聴かずにはいられなかった。

 

 

 「あなた、何者なの……?」

 

 

 「要求の履行を確認次第、音声データを消します。」

 

 

 当然ながら、質問の答えは、得られなかった。

 

 

 「有意義な話し合いを感謝します。」

 

 

 達也は「折り畳まれた翼のような物」を背負い直しながら人を食った台詞を吐き、再びベランダへ出た。

 慌てて、真紀はその後ろを追い掛ける。

 黒装束の少年の姿は、ベランダから忽然と消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 それを、達也は下を覗きこんでいる真紀を上から見下ろして確認して顔を引っ込めた。

 

 

 (これで俺の印象を植え付ける事が出来た。口調も丁寧に落ち着いて話してみたし、俺に恐れを感じただろう。これで、俺がアイドルとして同じ業界に入り、ばったり遭遇したとしても、疑いは薄まるはずだ…。)

 

 

 真紀との交渉の裏で、自分がもしアイドル姿で真紀と遭遇した時、聞き覚えのある声で自分の正体を知られ、面倒事に巻き込まれないように策を練っていた達也は、無事に成功した事を確認した。そして意識は別の物へと移るのであった…。

 

 

 




芸能界は意外と有名人と共演とかありますからね~。真紀との交渉の裏にはこんな思惑がありましたとさ。
確かに対策をしておかないと、真紀は厄介だもんね~…。


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怪しげな飛行船に飛び移って

これも大事だったりする…。なんだかアイドルネタをしてくださいってくらいの納得するほどの状況だわ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 真紀との話し合いを終えた達也はマンションの屋上にいた。

 

 本来の予定では、地上に降り立つ予定だったのだが、夜空に不審な影を認めて予定を変更したのだ。

 黒い影は小型の飛行船だ。それを見て、考えを張り巡らせた達也だったが、最終的に盗撮用の船体だと考えた。

 

 

 「少尉、小和村真紀のマンションに接近中の飛行船が分かりますか?」

 

 

 『ええ、捕捉しているわ。達也君が女優さんの部屋にいる時から。降下してくるとは思わなかったけど。』

 

 

 「所属は分かりますか。」

 

 

 『フライトプランによればテレビ局の物ね』

 

 

 「小和村真紀のスキャンダルを狙っているのでしょうか。」

 

 

 『その可能性もゼロじゃないと思うわ。』

 

 

 響子の声には盗撮に対する行為への嫌悪感が滲んでいた。達也もマスコミの不必要な行為には辟易する時はあるが、そこまでスキャンダルが欲しい彼らが滑稽だと嘲笑う気にもならなかった。代わりに達也が考えた事は…

 

 

 「少尉、この地区の相子レーダーをオフにできますか。五分程度で良いんですが。」

 

 

 『盗撮を止めるつもり?』

 

 

 「はい。」

 

 

 折角真紀を相手にした交渉を終わらせたばかりで、今後のアイドル活動にも働いてもらうつもりでいたのに、彼らの所為で台無しにされるのは不快だからだ。琢磨が部屋にいる姿を撮られたら、肉体関係の最中でなくても十分にスキャンダルになってしまう。

 

 

 『三分で片付けてくれ。』

 

 

 真田にそう注文された達也は、時間が足りないと思うより、それでもまだ時間がありすぎるくらいだと思った。しかし、それを口にするつもりは達也にはない。

 

 

 「了解です。」

 

 

 愛機の「トライデント」を抜いて見上げると、ちょうどゴンドラの扉が開いて縄梯子が下ろされた。単なる盗撮ではなく不法侵入するつもりか、正気なのか、と最前の自分の行為を棚に上げた呟きを心の中で放った達也は、ゴンドラの入り口へ向けて跳躍の術式を発動した。

 

 達也は、テレビ局のクルーを一瞬で無力化した後、操縦システムにアクセスし、進路を元のテレビ局へと引き返させるつもりだった。

 

 しかし、飛行船の中へ飛び込んだ直後に浴びせられた怒声により、その考えは粉砕した。

 語感が日本の物とは違ったからだ。東亜大陸系の言語ではないかと感じはしたが、達也は北京語も広東語も習得していない。習得しようと思えば、達也は一日も掛からずにできるだろう。だがそれをしないのは、必要性を感じないからであり、慣れあう気もないからだ。

 大亜連合が沖縄に攻めてきた時、深雪をあと少しで失う所だった。発砲したのは、国防軍の裏切り者だったが、彼らを利用したのは大亜連合だ。もしあの時達也が駆けつけるのにあと数分遅ければ深雪は死んでいたかもしれない。深雪に愛情の全てを注いでいる達也にとっては身を引き裂かれるほどの恐怖であり、絶対に許す事のない逆鱗なのだ。だから、達也は大亜連合の者とも話せるように言語を覚えようとは一切思わないのだ。………個人的には。

 自分からは歩み寄ろうともしないが、任務ではまだ許容する部分はある。最もその場合は通訳させるが。今回は任務とは程遠いため、個人的な思考が入り、怒声を浴びせる彼らを覆面の下から冷めた目付きで見返す。

 

 

 …という訳で、怒声の意味を理解できなかった達也だったが、その達也に拳銃が向けられ、緊張が走るのであった。

 

 

 (次から次へと厄介だな…。)

 

 

 心の中でため息を溢す達也は、銃口を向けられながらも冷静だった。

 

 

 




達也って災難を呼びつけるんだよね。うちは不幸を呼びつける節があるから一緒だわ。

……現実的には嬉しくないか。こうなったら達也の活躍をじゃんじゃん書くしかない!


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ハイジャック犯の撃退

まさにバットマンの日本バージョンだよね~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳銃を向けられながらも達也は冷静に分析をする。

 

 自分に拳銃を向けてきているこの男達がテレビマンであるはずがない。相手も拳銃の構え方から見て、相当の手慣れだ。…と言っても、脅威だと感じるほどの実力ではないと達也は直感していた。

 

 引き金に指がかかる。

 

 無論、発砲を許す達也ではない。達也の右手には既にスタンバイ状態のトライデントが握られていた。分解の対象を切り替えるのにタイムラグは生じない。

 銃口は五つ。

 その全てが銃としての形を失ってゴンドラの床に散らばった。

 

 その光景を目の当たりにした男達は達也の分解魔法に驚いた。が、意外なほどに次への攻撃へ移行するのが速かった。これを見て達也は少し感心した。突然、銃がバラバラになり、手から零れ落ちる様を見れば、驚愕で動揺を誘い、隙が生まれやすくなる。しかし、彼らは驚愕こそはすれ、それが相手への絶好の機会へと変わる事が理解できている。戦い慣れしている。そう判断した達也は、彼らの無力化に全意識を向けた。

 

 

 左右両端の二人が達也へ向けて拳を突き出す。その中指に鈍く輝く真鍮色の指輪。ゴンドラを相子のノイズが満たす。アンティナイトによって発振されたキャスト・ジャミングだ。内側の二人がナイフを構えて、揺れるゴンドラの中、達也へ向けて突進する。

 CADに掛かる達也の指が二度、動いた。

 キャスト・ジャミングのノイズ構造を消し去り、五人の曲者全員が両足の付け根を貫かれ床へ崩れ落ちる。

 

 無力化は成功した。

 

 しかし、それで終わりではなかった。中央に立っていた男が倒れ込む瞬間、左手を握りこむ仕草を見せた事に達也は気付いていた。

 すぐに開け放たれていたゴンドラのドアから、空中へとダイブする。

 

 閃光と共に爆音が生じ、ゴンドラが炎に包まれた。

 

 達也は飛行船がマンションに落下しないように飛行船にトライデントを向けた。

 

 仰向けに落下しながら雲散霧消を発動。

 

 飛行船の残骸が塵と消え去る光景を見ながら、記憶した魔法の中から慣性制御を呼び出す。その直後、達也は激しい衝撃を背中に感じた。

 

 

 達也は色々な作用が講じて全身骨折は免れた。もっとも『再成』が働かなければ二度と立って歩けなかっただろう。

 

 

 『達也君、何が起こったの!?』

 

 

 通信機から聞こえてくる響子の声も、さすがに焦っている。

 

 当然だ。盗撮阻止のために乗り込んだ飛行船がいきなり爆破し、消え去ったのだから。まさかスキャンダル阻止で、ここまでするとは響子も思ってはいないが、突然の出来事過ぎて理解が追い付いていないのだ。響子の声の後ろからも息を呑んで達也の返事を待っている真田の息遣いも聞こえた。

 

 

 「不明です。テレビ局の方に手掛かりがあると思います。あの飛行船はハイジャックされていたようですから。」

 

 

 ハイジャックではなくテレビ局もグルなのかもしれなせんが、と憮然たる声で付け加え、達也は落下の痕跡を消した屋上から体を起こした。

 

 

 『ハイジャック!? 何でまた!』

 

 

 「目的までは結論できません。ですがハイジャック犯はおそらく大亜連合出身の者だと思いますよ。その出身と思われる語感を叫んでいましたし、アンティナイトを持ってましたから。」

 

 

 『それは本当かい?達也君。』

 

 

 響子ではなく、真田が通信に出てきたが、それには気にも留めない達也は返事をする。

 

 

 「ええ、間違いありません。」

 

 

 『………分かった、ありがとう達也君。今回の件は少佐にも伝えておく。』

 

 

 「お願いします。では俺はここで失礼します。少尉、後の事は任せてもよろしいですか?」

 

 

 『ええ…、もちろんよ。お疲れ様、達也君。』

 

 

 微かにまだ信じられないという様子が窺える声色だったが、仕事に対してはきっちりする人なので、後の事を響子と真田に任せて、達也は覆面を脱ぎ、出掛ける際の服装に着替え、愛車の電動二輪に跨り、帰路に着いた。

 

 

 そして真田と響子は、今回のデータといきさつを報告するため、風間が待つ国防軍の基地へと足早に戻るのであった。

 

 

 

 




よしよし、これで先に進める…。アイドルするけど、やっぱり達也だから、波乱ありで行かないと!

おお~~と!!危ない!!間違って違う小説に投稿する所だった!!


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手掛かりの捕獲

このキャラも一応やっておかないと、アイドルと絡んできますので…。


 

 

 

 

 

 

 

 ロバート=孫による小和村真紀襲撃作戦の失敗は、すぐに周公瑾の知る所となった。

 

 作戦が成功していれば娘の変わり果てた姿を撮影して裏切り者の元へ届けるべく待機していた部下が周にそれを伝えた。

 

 

 (炎上して墜落中の飛行船が消え失せた……。そんな真似ができるのは)

 

 

 あいにく映像は撮れなかった。部下の報告も要領を得ないものだったが、周は空中で消え失せたという内容から、作戦を邪魔した者の正体を正確に推測していた。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 報告をした部下も心当たりがあったのか、通信で報告する傍らで手を震わせていた。それは仲間を失った事による怒りによる震えではなく、ただ単に跡形もなく飛行船ごと消え失せたのを目の当たりにした素直な恐怖による震えであった。

 

 そして余談になるが、部下は周への報告を終わらせた後、周のいる隠れ家に戻ろうとしてビルの屋上から去ろうとした所を突然の立ちくらみに襲われ、身体が言う事を聞かないと悟った時にはすでに遅し。部下はそのまま前倒れし、意識を失った。

 

 

 「彼の言ったとおりだったね。こんな屋上で天体観測じゃないだろうし。」

 

 

 「それならこれを持っていませんよ、少佐。」

 

 

 気軽な雰囲気で話しながらも場違いな話をするのは、真田と響子。

 

 去り際に達也がずっと飛行船を見ていた部下の視線を感じ取り、念のためにと響子たちに伝えていたのだ。

 

 

 「あの一瞬でここの位置を把握するとは、いいデータが取れたよ」

 

 

 「はいはい、分かりましたから少佐も手伝ってください。私一人で運ばせるつもりですか?」

 

 

 部下から小型銃を二丁押収し、意識がない部下を連行しようとする響子が真田に意地悪く話しかける。

 

 

 「君の『避雷針』で捕えているんだし、慌てる事もないと思うんだけどな~。」

 

 

 「あら、少佐はか弱い女性に大の男を一人で運べと仰るのかしら?酷いですね~。」

 

 

 真田は響子からジト目で見られながらも心の中では「君がか弱いなんて言うほどの女性ではないと思うんだけどね。」と呟くのだった。

 

 

 「大丈夫だよ、さっき応援を呼んでおいたから。ほら、来たよ。」

 

 

 そう言った真田が指差す先に柳が現れた。

 

 

 「ったく、俺を呼ぶくらいだから手応えがある奴かと思ってきてみれば、藤林が確保済みじゃないか。俺が来た意味あるのかよ?」

 

 

 「おや、そんな事言わないでくださいよ。これでも柳さんが必要だと思ったから私がお願いしたんですよ?」

 

 

 「なんだ、藤林が応援を呼んだのか? まぁ、そこの奴が呼んでいたら、絶対に来ていなかったがな。」

 

 

 「あれ~? 柳君は人の好き嫌いで任務を放棄するつもりかい?」

 

 

 「俺はお前と相性が悪いんでな。」

 

 

 柳と真田の緊迫した空気が流れる。しかし、そこは響子が止めに入り、不服はあるものの、柳が部下を肩に担ぎ、その後を響子と真田が着いて歩き、風間の元へ向かうのだった。

 

 

 軍の基地へと戻る前のほんの少し前の出来事である。

 

 

 




この部下はこの後どうなったかは知らないや。まぁ、周も切り捨てるつもりだったとは思うけど。


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あの一族へ…

さぁ!! 今日のラストスパートかけて書き上げて見せるぜ~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 部下の帰りが予定よりも過ぎた事で、周は他の隠れ家に移動した。連絡も途切れた事で、部下が二度と帰らないと理解したからだ。

 そしてその原因は、先程の報告で作戦を邪魔した者の仕業だとも思った。

 

 

 (……忌々しい。またしてもあの男ですか)

 

 

 正体と言っても周が知っているのはヘルメットに顔を隠した姿と「デーモン・ライト」「魔醯首羅」といった異名のみだ。「横浜事変」で彼が手引きした侵攻軍も、この正体不明の魔法師によって痛い目に遭っている。「魔醯首羅」から受けた大打撃が、侵攻作戦失敗の大きな要因だったと言えるほどだ。

 横浜事変における大亜連合軍の損害自体は、周にとって何の不都合もない。元々周は日本軍と大亜連合軍の共倒れを望んでいた。予定と違って日本軍の一方的な勝利となってしまったが、大亜連合の弱体化はある意味で周の注文通りだ。

 

 しかし今回は、周も笑って済ませる事は出来なかった。

 

 横浜事変のように大軍を相手にする事件ではなく、私的な制裁を行うだけの小さな一件だ。それに手を出し、またしても邪魔されたのだ。こんな私事に口を突っ込まれれば、不愉快に思うのも理解できる。更にこの件も出てくるほどハイスキルな情報操作力を持っている「魔醯首羅」に恐れを抱いた。

 

 

 (このままでは、何も成し遂げられないまま全てが終わってしまう。それどころか、今もこの私を殺そうと息を潜めているのかもしれない…。)

 

 

 嫌な汗が額から落ち、辺りを伺い見る。

 

 裏切り者の娘を襲う事を知り得たとしたら、それを指示した自分にも目星をつけていて、狙っているのではないかと思考が働く。

 それもあり、隠れ家を移動したが、さすがにこの場所は新たに仕入れた隠れ家であり、連絡の取れない部下でさえ知らない所だ。刺客が来ると思うのは早計だったと、軽く頭を振り、額の汗をハンカチでふき取る。それと同時に周は、決心した顔つきになった。

 

 

 (これは本格的に正体を突き止める必要がありそうですね)

 

 

 そう考える一方で、現在手掛けているマスコミ工作の方針を転換する必要性も感じていた。

 

 

 (実際の所、大師の本音は大漢を滅ぼした者に対する報復………。真のターゲットは「日本の魔法師」というある意味抽象的な集団ではなく、あの一族…。)

 

 

 そう心の中で呟く周の頭には、妖艶な魔女を思い浮かんでいた。容姿は定まっておらず、空想の魔女と似ている感じだが。

 

 

 (アンタッチャブル…。触れてはならない一族…、四葉一族…。)

 

 

 周はその一族…、四葉一族の滅亡を願い、それを実行させるため、四葉に対して特殊な感情を抱いている有力者に心当たりがあった。

 

 

 (「離間の計」というほど大したものではありませんが、やってみて損はないでしょう。)

 

 

 周は心にゆとりができてきたからか、テーブルに座り、口に付けていない酒杯に目を落として、頭の中で段取りを組み立て始めた。

 

 

 (四葉一族と並び称され、渡り合っているあの人なら、もしや…)

 

 

 酒杯を傾け、中身を吟味しながら周は、企みを思わせる笑みをするのだった。

 

 

 

 




原作のネタバレをちょいちょいしましたが、お許しくださいね?

よし、これでアイドル活動再開できる~~!!…よね?

(自分でも分からんのか~~~~い!!)


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僕と試合してくれないか!?

ちょっと!!達也~!!君っていつ休んでるんだ~!!予定が詰まりすぎだぞ!?

…あまりにも余裕がない予定に思わず突っ込んでしまった。


 

 

 

 

 

 四月二十八日土曜日、午後三時。

 

 

 

 

 十三束と琢磨は服部に先導されて時間通りに第三演習室へ現れた。

 

 審判は服部が務める事になっているが、何の因果か、あるいは当然の成り行きか、達也は立会人として今日も琢磨の試合に関わる事になった。

 

 この場には他にも深雪や沢木、幹比古、桐原がいた。

 

 だから、達也は面倒だという事を表情には出さずに試合の準備をする十三束や琢磨を見ていた。

 なぜなら、達也は早く行かなければいけない場所があるからだ。『ゴールデンスター芸能プロダクション』という芸能事務所へ行き、真夜と合流するためだ。既に提携の交渉は始まっている。本来は達也もいなくてはならないのだが、この試合が決まったと同時に真夜からの暗号メールで事務所への入籍交渉の時間が被ったのだ。それを葉山さんに伝えると、「では、なるべく引き伸ばしておきますので、最後に顔を出してやってください。」と言われている。つまり、達也が事務所の人間と顔合わせをするのは最後で良いという訳だ。それまでに変装し、辿りつければいい。

 しかし、達也は真夜に借りを作るのは嫌なため、できればこの試合を分解魔法のように霧散させられればな…と、思うのだった。

 

 そうとは知らない深雪達は、いよいよ始まる試合を凝視し、沈黙する。

 

 

 

 静まり返った室内は、服部がスウッと息を吸い込む音まで聞こえる。

 

 

 「始めっ!」

 

 

 服部の声が、その静寂を破った。

 

 

 最初に動いたのは、琢磨だった。

 

 

 琢磨が攻撃を仕掛け、無数の紙の刃が十三束に襲い掛かる。しかし、十三束の全身が爆発的な相子光を迸った。

 それは、術式解体だった。これには立ち会っていた幹比古も驚いた。しかし、深雪が接触型の術式解体だと違いを示したため、すぐに疑問や驚きは消え、幹比古は試合に意識を集中させる。

 

 

 次々とミリオン・エッジが十三束の術式解体でただの紙くずになっていく。そして十三束は決定打となる一撃を琢磨に入れ、試合は十三束の勝利で終了した。

 

 

 (七宝の負けか…。まぁ、予想通りだな。ミリオン・エッジに固執するあまり、十三束の接触型術式解体で無効化されるのを繰り返していたからな。闘いにおいて、手段扱えないなら、すぐに違う対応を考え、実行しなければ相手の思う壺だ。)

 

 

 立会人として鑑賞していた達也は心の中で、今回の試合の辛口な感想を述べていた。

 

 

 (これで、試合も終わった事だし、深雪には悪いが、帰りは水波と一緒に帰ってもらおう。俺は今から叔母上と合流しなければ…。)

 

 

 試合が終わり、ここにいる理由もなくなった達也は、後片付けを済ませようとした。しかし、達也の望みは後回しになるのだった。

 

 敗北感に打ちのめされている琢磨は、打たれた腹を押さえながらゆっくりと壁際へ歩いていく。壁に背中を預け、そのままズルズルと床にへたり込んだ。

 琢磨が自分を見ているのを確認して、十三束が達也の前へ歩み寄る。

 

 

 「………何だ?」

 

 

 (何か言いたそうだが、十三束が俺に何の用だ?)

 

 

 不思議に思い、声を掛けたが、先に水を向けられて、十三束の方が何事か言い辛そうにしていたが、ようやく口を開いた。

 

 

 「司波君、僕と試合してくれないか!」

 

 

 真っ直ぐに一点の曇りない視線を達也に向けて、模擬戦の果たし状を渡しにきた十三束の言葉に達也は頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 (……………は?)

 

 

 

 

 




達也急いでるんだよね!そこに自分と戦ってくれなんて言われたら、確かに何故?って思うよ~!!

でも大丈夫だよ、真夜も待ってくれるよ!真夜は達也のアイドル姿を見たいんだし。


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十三束の望んだもの

さて、今回は達也のダメ男な部分が出てしまうのかな?


 

 

 

 

 

 逡巡を振り切って模擬戦の申し込みを切りだしてきた十三束に、達也は「何故?」と首を捻らせるものだった。

 

 

 (何故、いきなり俺に模擬戦を申し込んでくるんだ?どうせなら、全国でも名の知れた服部先輩や沢木先輩、桐原先輩に相手をしてもらった方が実力者同士、なかなか面白い試合にはなるはずだ。

  ……そもそも模擬戦をする自体が意味不明なんだがな。)

 

 

 達也は十三束が自分に模擬戦を申し込んでくる意味が分からず、また急いでいるため、訝しさに満ちた視線を十三束に向ける。十三束もいつもより鋭い視線を向けられ、居心地悪げに目を背ける。しかしすぐにバンジージャンプに挑むくらいの決意を滲ませて達也の視線を受け止め直した。

 

 

 「君の実力を七宝に見せてやって欲しいんだ!」

 

 

 熱く燃える眼差しで十三束が達也を見つめる。十三束は自分の男気に応えて頷く姿を思い描いていた。十三束は達也の実力が決して劣っているとは思っていない。寧ろ、自分と同等くらいには戦えるはずだと思っている。そして達也の戦闘技術を知っているからこそ、達也の実力を知らずにいる琢磨に教えてあげたかったのだ。才能だけで強い奴がいる訳ではないという事を。

 しかし、達也にとっては困惑を深めただけだった。達也から見れば、なおさらちゃんとした実力者同士で試合した方が琢磨にも十分な勉強になるのではと考えた。自分が魔法がうまく使えないというのに、実力を見せられるわけがない。本来の魔法も人前での使用はできない。だから、十三束の話す意味がさっぱり脳に浸透しなかった。

 

 

 「訳が分からないんだが?」

 

 

 言外に「他の者に頼んでくれ」と告げた達也の言葉は、正確に十三束が受け取った。その途端、面白いように狼狽したが。

 

 

 「ええと、そうか。唐突過ぎだよね。つまり………」

 

 

 「本当の実力者同士の試合を、七宝に見せてやってくれないか。」

 

 

 あたふたする十三束から説明を受け継いだのは服部だった。まぁ、この説明だけでは達也は納得しなかったが。

 

 

 「本当の実力者同士を見せるなら、服部先輩や沢木先輩の試合の方が適しているのではありませんか?」

 

 

 遂に思っていた事を口にした達也。

 

 

 「司波、お前の実力を見せる事に意義があるんだ。」

 

 

 到底十分な説明とは言えない服部の説明に余計頭が捻る達也だった。

 

 

 (俺の実力なんてたかが知れているはずだ。 それは、十三束や服部先輩も知っているはずなんだが…。

  ……それにこれ以上、ここにいれば変装なしで事務所に行かなければいけなくなる。それだけは何とかして阻止しなければ…!)

 

 

 素顔で会う事だけは何としても避けたい達也は、早く終わらせたくて、辞退する事を告げようとした。…が、深雪の言葉が先になる。

 

 

 「お兄様、よろしいのではありませんか?」

 

 

 深雪がここで援護射撃に出た事で、十三束や服部には最も強力な追い風になった。そして達也にとっては抗えない楔となった。

 

 

 「下級生に模範を示すというのであれば、生徒会役員に相応しい役目だと思います。」

 

 

 達也を除く全員が揃って「生徒会役員」の部分を「お兄様」に翻訳していた。

 

 

 「私もそろそろ、お兄様にお力を示していただきたいと思っていた所です。」

 

 

 笑顔でおねだりする深雪を見て、達也は先程まで考えていた辞退する案を放棄する事にした。深雪の動機が明らかに十三束達とは違って、琢磨への不満や苛立ちが積もりに積もって、達也に懲らしめてもらいたいという雰囲気を纏っていた。それは達也にしかわからないものだった。達也は「このまま放置しておくとまずい」と思わせるレベルまで達していた深雪のストレスを払拭させるため、自分の予定を棚上げする。

 

 

 「…………お前がそう言うのなら」

 

 

 仕方ないという感じのため息を吐き、深雪へ苦笑を見せ、頭を優しく撫でる。

 

 達也の翻意、というか決断は十三束にとって望ましい者であるはずだった。それなのになぜか十三束は、気持ちがしらけていくのを抑えられなかった。

 その感情は、彼一人のモノではなかった。

 

 

 (僕の男気よりも、彼女の思いに応えられちゃった…。何だろう…、嬉しいはずなのになんだか気落ちするな~…。)

 

 

 自分の説得よりも深雪の思いに揺れ動いた達也の決断に敗北感を感じる十三束だった。




男同士で熱くなる展開をのぞんでいたんだよ、きっと。服部たちもそう言う展開での模擬戦を考えていただけにノリの悪い達也の反応で、あたふたしちゃったんだ~。

まぁ、達也だからね。でも、達也も自分の事を過小評価しすぎなところもあるから、そこ辺りを自覚させてあげようではないか!(するかな~…?)


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喰らえ!徹甲相子弾!!

…ええと、タイトルなんだけど、こんな言い方、達也は絶対しないよ、絶対だよ。

「あ、やっぱりばれてしまったみたいだね、そうだよ僕が言ってみたかったんだよ~?」


 あ、やはり八雲でした。

試合の内容はカットする方向で。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「司波君はそれで良いの?」

 

 

 「ああ、問題ない。」

 

 

 十三束が制服の上着を深雪に預けただけで、CADを点検する達也に問いかける。自分のように戦闘服に着替えるのなら、それでも構わないと思っていたからだ。しかし、達也は上着を脱ぐ以外はすべて制服のままで、それで模擬戦を受けると言う。本人がそう望んでいるのだから強くは言えないが、もっと防御バンドなり身に付けてもいいのにと心の中で呟く。そうすれば、怪我の心配に多少気を回さずに闘いにだけ集中できると気づかない内に十三束は意気込んでいた。

 

 

 

 (着替える暇はない。早く片をつけるとしよう。それに戦いでは戦闘服に着替える準備を与えられるほど甘くない…。)

 

 

 十三束の心の声とは対照的に達也は冷静な思考を繰り出していた。いや、冷静というよりは冷酷か?十三束は男同士の拳のぶつけ合いという”闘い”が意識の中心にあるが、達也は実際に経験してきた”戦い”での命の取り合いの感覚を意識の中心に捉えていた。そしてそれは、達也にとって『負ける』という事がどういう事かを再認識させ、思考を冷まさせるのであった。

 

 

 「靴は脱いだ方がいいか?」

 

 

 「いや、そのままで構わないよ。」

 

 

 本気で蹴っても問題ないと十三束が意思表示し、達也も所定の位置へ赴く。

 

 

 審判は引き続き、服部。

 

 

 「二人とも、準備はいいか? それでは、始めっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に床を蹴って動き出す十三束と達也。

 

 

 達也に突進する十三束の攻撃を達也が躱し続け、さばいていく。しかし、徐々に達也も攻撃を捌ききれなくなり、攻撃を繰り出す。

 

 

 (やはり十三束には分解は通用しないか…。これはどうやら考えてみる必要がありそうだ。)

 

 

 そんな攻防をしながら、達也は十三束の呪わしい体質である相子の鎧を『術式解散』で吹き飛ばした。

 

 

 

 捌ききれなくなっても、『精霊の眼』で十三束の相子を見ながら勝機を見いだせる機会を探っていた達也。目の前の十三束と近距離で戦いつつ、冷静な分析を行い、自分の得意魔法が通用しない相手が現れた事で、新たな魔法を作りだす必要性を考えるのであった。それは、本能的に思った事なのかは定かではないが。

 

 だからか、達也は「セルフ・マリオネット」となった十三束へ止めをつけるため、力を隠す為ではなく、勝利をつかみ取るために。意識の奥底では生きるために…。

 

 不十分な鎧にも阻まれるかもしれない得意魔法である『分解』ではなく、不十分な鎧ならば確実に撃ち抜く事の出来る魔弾を達也は選んだ。

 

 

 元々パラサイトのような人外を敵として修業した高圧高硬度の遠当て「徹甲相子弾」(八雲が達也の話を聞かずに勝手に命名した)が達也の手から放たれる。

 

 

 

 硬く硬く…、圧迫された相子弾は、武闘人形と化した十三束を貫き、その影響で十三束は後方へ身体を飛ばし、受け身が間に合わず、軽い脳震盪を引き起こす。

 

 

 「勝者、司波!」

 

 

 それを確認した服部が、達也の勝利を宣告した。

 

 

 

 その瞬間、達也の張りつめていた緊張の糸を解き、戦闘意識を閉じ、元の高校生へと意識を変えた。

 

 本来、模擬戦ではこんな命のやり取りを考える様な、死と直面した状況を考える達也ではなかったが、分解が通用しない十三束と手合せした事で、達也には分からない危機感を思わせたのかもしれない…。

 

 

 

 

  




達也が勝ちましたね…。

分かっていたけど。独自解釈入れちゃったけど、分解って誰でもできる魔法ではないし、内心達也も分解魔法を自分の存在として思っていた所があると思うんだよね。「これがあるからこそ、今の俺がいるんだ」的な?
だから、それが通用しない十三束と戦ってみた事で、これから先分解が通用しない相手が出てきた時の本能的な危機感が出てしまうのではないかとうちは思ったわけですよ。
…長くなってしまいましたな。ブラックな達也の内心解釈してすみません!!


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深雪VSピクシー

さてさて…、大半はタブルセブン編を終わらせたので、ここからがアイドルの見せ場だよね?



 

 

 

 

 

 

 

 

 十三束との模擬戦も終え、服部をはじめとする部活連のメンバーと別れ、深雪と共に生徒会室へと戻った達也は、自分のデスクに座り、通信機能を立ち上げた。

 

 他の生徒会メンバーは割り当てられた自分の仕事に切磋琢磨している。深雪は慣れた手つきで書類を目に通し、チェックしていく。ほのかと泉美は新しく生徒会へ入ったため、一生懸命仕事を覚えている最中だ。なお、達也も今年から生徒会へ所属する事になったが、前々から生徒会へは出入りしていたし、風紀委員会では面倒な事務仕事を摩利から押し付けられていたため、生徒会の仕事はたった一日で覚えてしまい、逆に一人で仕事を難なくこなしてしまうレベルを発揮していた。これにはさすがにあずさも五十里も驚愕と焦りで固まった。

 

 そのあずさと五十里は今何をしているのかというと、入学して一か月経とうとする一年生の実習での上達度データを見ながら、一年生達の演習室使用許可申請書と共に照らし合わせ、打ち合わせしている。来月に控えた中間試験にいい成績を残したい生徒(主に一科生だが)が初めての実習試験に向けて練習を名乗り出たからだ。校内での無許可の魔法使用は禁止されている。部活以外での魔法使用をするなら、申請が必要。そしてそのために演習室を使いたいなら生徒会へ申請しないといけない。妥当な規則だが、あずさと五十里は二人一緒に頭を悩ませていた。

 

 

 「う~~ん…、どうしましょ?五十里君。何がいい提案ないですか?」

 

 

 「僕も考えているんだけど、難しいかな?まさかここまでとは思わなかったから。去年もそうだったの?」

 

 

 「いえ! 去年もそうだったなら、何かしらの対策はしてますよ~!でなきゃ、これで悩んだりしません!」

 

 

 半分涙が目に浮かび、嘆いているあずさを五十里が慌ててなだめにかかる。

 

 

 先ほど帰ってきた達也と深雪は何を悩んでいるのか理解できずにいた。しかし気になりつつも口には出さなかった。達也は自分に回ってこない限り手を貸さないので、二人のやり取りを完全にシャットアウトし、目にも止まらないスピードでキーボードの上を達也の指が駆け抜けていく。深雪も達也がまったく気にせずに仕事に入ったと思ったため、仕事に集中する。

 

 しかし二人の行動はすぐに破たんする。

 

 あずさと五十里の悩みを話題に深雪に話しかける後輩がいたからだ。

 

 

 「深雪先輩、お疲れ様でした! お飲み物を用意しましょうか!?」

 

 

 「大丈夫よ、泉美ちゃん。私は見学していただけ。お兄様にこそ用意しなければ。お兄様、コーヒーをご用意いたしましょうか?」

 

 

 「いや、大丈夫だ。御前のその労いだけで十分だ。」

 

 

 「そ、そうですか?ではお飲みになりたくなった時は深雪に言ってくださいね?すぐにご用意いたしますから。」

 

 

 『それには異議を申し上げます。お飲み物をご用意するのは、私の役目です。更に言いますと、この部屋でのご主人様(マスター)への給仕はすべて私に一任なされております。例えご主人様(マスター)の妹君だとしても、御譲りできません。』

 

 

 泉美が深雪との話題のために繰り出した話がなぜか達也へと渡り、それが生徒会室の一角で待機していたピクシーの感情を活性化させてしまった。

 

 

 「あら、ピクシーさんの仕事をお取りするつもりはありませんよ?ですが、お兄様の御心を和ませるのは妹の特権でしょう?それを止められる謂れはないと思うんだけど。」

 

 

 『深雪様はこの場でなくても甘えられるではありませんか?私はご主人様(マスター)の御傍にいたいだけです。そしてそれが叶うのは、この部屋だけ…。私がこの部屋にいる限り、ご主人様(マスター)の世話は私が全て引き受けます!私はご主人様(マスター)へ忠誠を誓った身。ご主人様(マスター)へ絶対なる愛を尽くすと決めていますから。』

 

 

 胸に手を当てて、達也に瞳を潤ませて笑顔を向けるピクシーに深雪が達也との間を割って入り、視線を遮る。

 

 

 「そうね、貴方がこの部屋で給仕をする事は認めているし、悔しいですけど御譲りしてますわ。でも、お兄様との時間をどう使おうかはあなたに異論を言われる筋合いはないでしょう?」

 

 

 『あります。私の仕事を取ってまでご主人様(マスター)と戯れるのはお止め下さい。それなら、私がご主人様(マスター)の御世話をしながらお時間を頂戴いたします。』

 

 

 このピクシーの言葉で今まで笑顔でいた深雪の何かにスイッチが入った。その瞬間、深雪とピクシーの間で見えない稲妻が走る。

 

 この様子に、あずさと五十里は自分達の悩みなんて吹き飛んでしまい、この状況を何とか治めてほしいと達也へ救いを求める目を向ける。ほのかは羞恥心を感じて顔を真っ赤に染め、絶対に達也と視線を合わせまいと俯く。泉美はというと、ロボットに「ご主人様(マスター)と呼ばせている達也へ蔑みと非難と憎しみを混じらせた視線で見つめてくるのだった。自分が尊敬と憧れを持つ深雪へ持ちかけた話題がなぜか達也を巡った展開を呼び、深雪が達也にぞっこんな一面を見たため、嫉妬を抱いてもいた。

 

 

 そんな生徒会メンバーから視線を一身に受ける達也は、盛大にため息を吐きたくなるのと、本格的に頭痛を感じるのではないかと突然巻き込まれたこの状況に頭を悩ませるのであった。

 

 

 (何でこうなるんだ?)

 

 

 

 

 




アイドルじゃない~~!!
まだ続いていました~!!オリジナルだけど、先にすすもう!

はい…、そうしようとしたんだけど、書いてたらいつの間にかこうなってた…。



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大変な仲裁

トラブルに巻き込まれ体質の達也は、無事に到着できるのか~~!!(結果は既に分かってるんだけど!!)


 

 

 

 

 

 

 

 

 睨み合いを始めた深雪とピクシーを見て、放っておくと大惨事につながりかねないと思うほどのプレッシャーが二人から放たれているのを敏感に感じ取った達也は、仲裁に入る羽目になった。

 

 

 「落ち着け、深雪、ピクシー。いがみ合う必要は無い。」

 

 

 「いいえ、お兄様。深雪がお兄様をご奉仕するのは当然の権利です!ここはきっちりと主張しませんと!」

 

 

 『ご主人様(マスター)からの命令に付き従っているだけです。意味不明な言いがかりは止めてくださいませんか?』

 

 

 「それはこちらの台詞ですわよ?お兄様の事は深雪の方が良く知っていますから!」

 

 

 『それはこれから知っていけば済む話です。』

 

 

 だんだん話がエスカレートしていき、何で言い争っているのかが分からなくなってきた頃、達也がもう一度二人を呼ぶ。

 

 

 「深雪…。ピクシー…。」

 

 

 『「!!」』

 

 

 今度は黙り込む二人。達也の声はそれほど大きくはなかったが、重みのある声色だった。ようやくくだらない争いをしていた事に深雪は気付き、恥ずかしさからか顔を俯かせる。その合間から見れる頬や耳はほんのり朱色に染まっていた。

 

 

 「ピクシー、俺を慕ってくれるのはいいが、仕事中は自重してくれ。他にも人がいる。それに俺がお前をここに置いているのは、生徒会のバックアップをしてもらうためだ、分かってるな?」

 

 

 ピクシーに振り向き、表側の理由を口にする達也。それを聞き、ピクシーは達也が何を言いたいのか気づき、冷静さを復活させていく。そして次に深雪へと顔を向ける。

 

 

 「深雪も落ち着きなさい。 ここでの給仕等をピクシーに一存しているのは、俺達が円滑に生徒会業務を行うためなんだ。深雪の気持ちは嬉しいが、分かってくれないか?」

 

 

 「…はい、申し訳ありません、お兄様。」

 

 

 自分がはしたない姿を見せたと赤面する深雪は俯いていた頭を更に下に向け、お辞儀する。そこへ達也は深雪の頭を優しく撫で、微笑を浮かべる。

 

 

 「わかったのならそれでいいんだ、それに俺の方もすまなかった。少しきつい言い方だったな?」

 

 

 「いえ!お兄様は何一つ悪くはありません!」

 

 

 「いや、俺の態度も悪かった。だから…、俺が家に帰ったら深雪が作ったコーヒーを淹れてくれないか?」

 

 

 「…!はい!喜んで!」

 

 

 さっきまで落ち込んでいたとは思えないほどの満面の笑みを浮かべ、達也に諭されて残りの生徒会業務へと鼻歌を歌いながら取り組む。

 吹雪の嵐の予感が過ぎ去った事にあずさや五十里、ほのかはほっと安堵するが、一人だけ達也を怨めしそうに睨みつけてくる泉美の視線を受ける達也だった。

 

 

 




深雪、キャラ崩壊したんじゃないか?


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急ぐ帰路

オリキャラもこれから増えていくんだろうな…。必死に考えなきゃ。


 

 

 

 

 

 

 

 なんとか深雪を宥め、急ぎ途中まで立ち上げていた通信機能を再起動し、加速魔法を使っているのではないかというほどのスピードをキーボードの上で指を動かし、メッセージを作成する。

 そしてそのメッセージを送信した相手は同じ部屋の中にいた。もっと言えば、先程まで深雪と言い合っていた存在に。

 

 

 『はい、ご主人様。』

 

 

 対象を達也だけに絞り込んだ能動テレパシーで応えが返って来る。そのテレパシーには、感情も微かに含まれており、気が沈んでいる風でもあった。先ほどの一件で出過ぎた真似をしたと反省している。しかし、反省しすぎて達也に突き放されるのではないかと、別れを告げられるのを恐れているのであった。

 

 達也も人間らしくなりつつあるピクシーのテレパシーに感情が入ってくるようになったと気づいていたが、それよりも達也には確認しておくことがある。

 

 

 『データの改竄は出来ているか。』

 

 

 他の所為とか言い役員の耳を憚る筆談は、

 

 

 『ご命令の通り、リアルタイムで偽のデータを記録させました。』

 

 

 達也の望んだ答えをもたらす。

 

 ピクシーはまだ怯えていたが、達也の問いに答えた。達也に教わったハッキングで達也が模擬戦で使用した『分解』魔法を知られないようにするため、別の魔法とすり替えた形で記録したのだ。元々、達也からハッキング技術を教えてもらっている時に「もし学校内で俺が本来の魔法を使った場合は、リアルタイムでデータをすり替えてくれ。」と言われていた。ピクシーも生徒会室に送られてくる監視カメラのネットワークを通じて模擬戦を見守っていた。だから、改竄するのは容易かった。

 

 しかし、ピクシーはまだ不安が拭いきれないからか、達也に恐る恐る問いかける。

 

 

 『ご主人様(マスター)。私は貴方のお役に立てましたか?』

 

 

 『ああ、ご苦労だった。』

 

 

 達也の役に立てたと理解し、ほっと安堵するのと同時に嬉しさを感じるピクシー。

 

 

 達也も一瞬だけピクシーへ視線を向け、秘密を守り通した魔性を労った。

 

 

 『今日はもう休め。』

 

 

 『はい、ご主人様(イエス、マスター)、サスペンド状態へ移行します。』

 

 

 ピクシーは達也の命令に従い、休止に入る。自然と瞼を瞑る。その前に、達也へ熱き視線を向け、微笑んでから夢見心地な表情でサスペンド状態となるのだった。

 

 ピクシーが休止したのを『精霊の眼』も使って、確認した達也は通信記録を抹消し、通信記録以外に開いていた事務書類をあっという間に終わらせ、片付けに入る。

 

 

 「会長、出は自分はこれで失礼します。決裁が必要なものはファイルにして、送付しておきましたので後で確認しておいてください。」

 

 

 「は、はい! お疲れ様です。」

 

 

 「お疲れさま、司波君。相変わらず早いね。」

 

 

 「五十里先輩もお疲れ様です。…深雪、悪いが先に帰る。水波と一緒に帰っていてくれ。」

 

 

 「…はい、畏まりました。お気をつけてお帰り下さい、お兄様。」

 

 

 「ああ、夕食は深雪の手料理をもらうから。」

 

 

 深雪が頭から湯気を出しつつも、作業を一旦止め、達也をドアまで見送る。それから達也が去っていく背中を見えなくなるまで見送ると、席につき、溜息を吐くのだった。

 ものすごく寂しそうな顔をする深雪。それを見ていたほのかもなんだか同じ寂しさを感じ始め、達也が部屋を出てまだ数分も経たない内から恋焦がれていった。

 

 そして二人を(主に深雪の方だが)今まで見届けていた泉美はこれは好機だと思い、深雪にたくさん話しかけ、有意義な時間を堪能するのだった。

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 校門を出た達也は、情報端末で水波に深雪の護衛を頼んだメッセージを送り、最寄駅まで猛ダッシュし、芸能事務所へと急ぐ。

 

 

 (かなりの引き留めをさせているんだ。後で叔母上に叱られなければいけないかもしれないな。……甘んじて受けるか。)

 

 

 

 予定時刻よりオーバーした達也は、遅刻した事の罰を覚悟しながら、真夜の待つ、これから約四か月アイドルRYUとして世話になる事務所はどういった所なのか思いながら、向かうのであった。

 

 

 




急げ~!!交渉はじめてから、かなり経ってるもんね…。もう四時間は過ぎてるよね?
………やばくない?


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我ながら良きアイデア

やはり深雪を騙すのは、骨がいるのかな?

チャレモ…、全勝できなかった…。物凄く落ち込み中。


 

 

 

 

 

 

 

 一旦、制服を着替えるために帰宅し、愛車のバイクに跨り、ナビを使って、交通法に反しない程度のスピードを出して予定の場所まで向かう。

 着替えると言っても、白と緑のブレザーから黒革のライダージャケットへ、制靴もブーツに変えただけだが。学校から直接事務所に向かわなかったのは、警戒心からだ。もし魔法科高校の制服で出歩いて、どこかで変装を終えても目立つ格好なのだから、突然現れたら不自然だろうし、さっきまでいた高校生はどこに行った?となる可能性だってある。それにRYUはあくまで一般人という設定を真夜から与えられている達也。非魔法師であるため、魔法を使ったりしてはいけない。そして魔法科高校生であるという事実も知られてはいけない。だから、外で直接着替えるよりは、家でそれなりの格好で出かけた方がまだいい。そう判断しての達也の行動だった。

 

 そして、事務所前に着いたのは、四時半頃だった。

 

 既に交渉が始まって五時間以上は経過している。葉山さんが前日に教えてくれた事務所について軽く頭に入れた情報によれば、あっさりと提携決定していてもおかしくない。完全に自分の失態だとため息を吐きそうになるのを我慢し、バイクのエンジンを切って、ヘッドマスクを取る。そこには、ボサボサになった灰色の髪をした達也がいた。しかし、この髪はカツラではない。達也自身の髪だ。

 カツラを被ると、ヘッドマスクを取る際に一緒に取れるかもしれない。それにカツラは葉山さんが持っている。服装はなんとかRYUが来ていてもおかしくないものにしてみた。それにメイクもこの前にしてもらった記憶を頼りに自分でやってみた。だが肝心の外見の一番注目を受ける髪が黒髪ではばれてしまう。そこで、達也は自分の髪の色素を分解魔法で抜かし、灰色にしたのだった。

 

 改めて自身の髪をバイクのサイドミラーで確認し、上手くできている様を見て、達也は、

 

 

 「…これからはこれで行くか。(カツラ)取れる心配をしなくて良い。」

 

 

 と我ながらのアイデアにそこそこ満足する。そして達也は急いでいるが、決して走ったりはせずだるそうな演技をしながら、ビルの中にある事務所へと向かって行くのであった。

 

 

 事務所前に着き、ドアを開ける前に中の様子を聞き耳立てて聞いていると、話し合いが聞こえてくる。その内容は提携するにあたり、真夜が定めた条件の確認事項や説明だった。…まぁ話していると言っても、真夜ではなく、葉山さんと恐らく事務所の社長なんだろう。

 真夜が面倒くさくなって、葉山さんに説明を譲ったのだろうと達也は思った。紹介するまで時間稼ぎをしてくれた葉山さんに少しだけ感謝しつつ、達也は呼ばれる合図を待つ事にした。既に達也が到着した事は葉山さんにも間接的に伝えてある。

 

 

 そして葉山さんも理解していた。真夜が話し始めた事で、そろそろだと覚悟を固めた達也は、何も疑いようなく御願いを聞き入れようとする金星達にため息を溢しつつ、真夜の言葉を聞き、歩き方を意識して、ドアを開ける。

 

 

 「そう?ありがとうございます。では早速お願いしますわ。………入ってきなさい。」

 

 

 入って、しばらくしてから直接会うのは初めての二人が悲鳴を上げ、驚愕する。

 

 

 「「ああああああ~~~~~~~~~!!!!!」」

 

 

 「き、君はもしかして…!」

 

 

 「…………り、り、RYU~~様!!?」

 

 

 二人のこの食い付きっぷりに達也もまた違う意味で驚愕しつつも、それを唇を吊り上げ、軽く笑みを浮かべる事で隠し、アイドルRYUとして少しの間過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 




ふふふ…、達也も頑張れ~~!!

…でも深雪を騙すのは難しいかな?


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深雪の不安

さて、達也命の深雪がどうなる事やら…。


 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~……。」

 

 

 これで何度目のため息だろうか。

 

 

 妙に重みのあるため息を吐いているのは、リビングのソファーで背もたれに背中を預けて座っている深雪だった。老若男女が天女のような美貌に惚れない事はないと言える深雪が不安いっぱいの表情で身体の力も抜けた状態でただソファーに座っていた。

 それを何と声を掛ければいいのか、そもそも声を掛けてもいいのかと別の意味で不安がる水波は、後ろで控えながら迷っていた。

 

 どうしてこうなったのかというと、理由は簡単だ。

 

 ………達也がいないからだ。

 

 

 ただ達也がいないだけなら、こんなに落ち込む事もない。達也と深雪の仲を知っている者なら、一緒にいて当たり前だと思うし、いつもくっ付いているイメージが強い。だが、実際はそれほど一緒にいるという訳でもない。学校でも別行動はするし、休日でも達也がFLTや独立魔装大隊の訓練でいない事はよくあることだ。更に水波が来てからは、達也が外出する事も増えた。何もおかしなことはない。……はずなんだが。

 

 

 「……水波ちゃん、お兄様はまだ帰ってきませんね。」

 

 

 「そ、そうですね…。で、ですがもうしばらくでお帰りになるかと思います。」

 

 

 この会話のやり取りも何回目かと思いつつ、深雪が魔法を暴走させ、このリビング一帯が極寒の地へと変貌する事だけは阻止しようと言葉使いや声のトーンまでも気を付けて繰り返す水波の返事は、「達也様…、そろそろ限界です。」と告げていた。

 

 

 そして再びため息を吐く深雪は、夕食の時刻を過ぎても帰ってこない達也を思い浮かべ、不安を抱え込むのだった。

 

 

 「お兄様…、深雪に一体何を隠しているのでしょうか?」

 

 

 「深雪様に達也様が隠し事をするとは思えませんが?達也様は深雪様を第一にお考えですから。」

 

 

 独り言のつもりだったが、どうやら水波に聞かれていたらしく、落ち着いた口調で答える。それを深雪にしては珍しく苦笑して話す。

 

 

 「ええ、お兄様は頼めば答えていただけるとは思うんだけど、今回は…、違うわね。」

 

 

 「今回は、ですか?」

 

 

 「今日は叔母様に会ってくるからと事前には聞いていたけど、お兄様はあまり気乗りではなかったわ。本来ならすぐに用件を終わらせて帰ってきてもおかしくはないのだけど…。お兄様は寄り道をするような方でもありませんし。」

 

 

 「それではまだ用件が終わっていないのかもしれませんね。」

 

 

 「………なんだか胸騒ぎがするわね。」

 

 

 「胸騒ぎ、ですか?」

 

 

 急に表情を曇らせた深雪を見て、水波は訝しく思いながら尋ねる。

 

 

 「お兄様に何やら良からぬ出来事が起きているのかもしれないわ…。例えば…、女性関係で。」

 

 

 「………それはもしや、女性と逢ってデートをしていると仰られているのですか?…達也様が?」

 

 

 まさかと思いながら水波は深雪が言葉を濁らせた意味を正確に読み、問い返す。深雪もそれを考えていたのか、身体が一瞬だけ跳ねる。

 

 

 「……ええ、お兄様、あれでもかなりおモテになりますし、エスコートも上手ですから。…ジゴロですものね。」

 

 

 何やら黒いオーラが深雪から発せられ、水波は思わず無意識に一歩後退する。

 

 

 「達也様に限ってそれはないかと思います!達也様は本当に深雪様の事を第一に思っていられますから!」

 

 

 なんとかこの場を収めようと声を少し張り上げる水波の言葉に深雪がなぜか頬を少し赤らめる。

 

 

 「そ、そう?水波ちゃんから見ても、お兄様は私の事を想ってくださっていると思うかしら?」

 

 

 (あれ………?)

 

 

 妙なニュアンスのずれを感じたが、せっかくノッてきている深雪をまた逆戻りにさせたくない水波は、妙な違和感の事はとりあえず横に置いておくことにして、収拾に繋げていく。

 

 

 「はい、ですからご心配する事はないと思います。達也様がこのような時間まで女性と戯れるほどの器の持ち主ではない事は私も理解してますから。」

 

 

 はっきりと断言した事で、深雪も決心を固める事が出来たのか、先程のようにため息を吐く事も落ち込む事もなくなった。今では達也の帰りを心から待ち続けている。その姿はまるで王子と逢えるのを願っているお姫様と同じだった。

 

 水波も達也が深雪を置いて遊ぶ人ではないと疑っていない。

 

 しかし、二人の女の勘は外れてはいなかった。だって達也はその時、美晴と一緒にダンスレッスンをしていたのだから。二人で。

 デートではないが、これを知れば、深雪の笑っているけど笑っていない微笑みで氷柱の如き視線を受けるのは必須だろう。

 

 …もちろん、深雪に話すわけにはいかないが。

 

 

 まぁそれはともかく…、

 

 

 しばらくしてようやくバイクのエンジン音が聞こえ、深雪は目を輝かせて玄関へと向かう。その後を負けじと水波も追いかける。そして玄関に到着してすぐ、玄関の鍵が開き、待ちわびていた達也が姿を現す。

 

 

 「お帰りなさいませ!お兄様!」

 

 

 「お帰りなさいませ、達也兄さま。」

 

 

 「ただいま、深雪…、水波…」

 

 

 深雪が抱き着かんばかりの飛びつきをしようとする自分をなんとか自制しているのを優しく微笑み、深雪の頭を撫でる達也。その撫でる手の優しさに深雪が嬉しそうにするのをみて、水波はほっとするのと同時に、このピンク色の空気に慣れずにいた。

 

 

 「遅くなってすまない、悪いが先に夕食を頂いてもいいか?」

 

 

 「もちろんです、お兄様!」

 

 

 そう言って、深雪は達也の腕を引っ張ってリビングへと連れて行く。達也は深雪にされるがままに着いていき、その後を若干の披露を魅せつつもメイドとしてのプライドを保ちながら、後をついていくのだった。

 

 

 




やはり女の勘ってすごいな!!達也…、ばれずにアイドル出来るかな…?

そしてこれは明日からの予定ですが、原作の方がもうそろそろ発売されるので、その前にうちが妄想した原作のストーリーをちょっとだけやりたいと思います!ラブ展開が主になると思いますが、よろしくお願いします。
…一旦アイドルは離れますが、短編になるかと思います!


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予定変更

はい、お待たせしました!今日からアイドル編、再開です!
そして、原作発売されましたね~。でも、今日は雪で出かけるには困難で、バタバタして買いに行けず。そして、くろちゃんから「達也の上半身裸はヤバかった」…だと!!

待て~~!!まだ言わないで!そして、物凄く気になる~~!!

妄想だけで悶えてしまっているうち。…今日は眠れないだろうな~。(そう言いつつ、寝落ちするパターン)


 

 

 

 

 

 

 

 「じゃ、行ってくる。留守は頼んだぞ。」

 

 

 「はい、お兄さま。行ってらっしゃいませ。」

 

 

 「畏まりました、深雪お姉さまの事はお任せください、達也兄さま。」

 

 

 週が変わり、土曜日になった朝、達也は深雪と水波の出迎えを受けて、愛車のバイクに跨り、出掛ける。今日はFLT開発第三課で研究の日だ。これは前から決まっていたので、深雪はいつも通りに達也の前にだけ見せる可愛らしい笑顔で見送る。達也も微笑を浮かべ深雪に応える。そして司波家を後にした達也は、バイクを走らせ、市街地を巡る。

 そんな中、連絡が入った事を知らせる着信音が流れる。相手は、これから会う事になっている牛山からだ。達也はヘルメットに内蔵されている通信機能を起動させ、連絡を受ける。

 

 

 「はい、どうしました? 牛山さん。」

 

 

 『あ、御曹司!! すいません!いま、どちらに居られますか!!?』

 

 

 「今、そちらの研究所に向かっている所ですが?」

 

 

 妙に落ち着きを失くしている牛山の声の後ろでは、更にあたふたして走り回っている研究員たちの悲鳴やら叫び声やら嘆きと怒りがBGMのように流れていた。

 

 

 「……何があったんです?」

 

 

 『いや~…、その、どうやら部品の発注にミスがありまして、本日の試作品を製作するに当たり、支障が出来てしまいまして~…。申し訳ありません!』

 

 

 『いや、自分が悪かったんです!主任が謝る必要は…』

 

 

 『黙っていろ、テツ! 御曹司の天才的頭脳を駆使したソフトを使えるように形にするのが俺の仕事だ! それを俺がちゃんと確認しなかったばかりに御曹司に迷惑をかけてしまったんだ!お前達のミスは全て俺の責任だ! ぐたぐた言っている暇があるなら、さっさと伝手を辿って部品を仕入れろ! なんとしても掻き集めろっ!御曹司に恥掻かせんじゃねぇ~ぞ!!お前ら!!』

 

 

 『『『『『『『『『『はいっ!!』』』』』』』』』』

 

 

 第三課の熱き展開が電話の向こうで繰り広げられているのを苦笑しながら聞いていた達也は、「俺は別に恥なんて思わないがな…。」と自分のために力を尽くそうとしている第三課のみんなの顔を思い浮かべ、和む。それと同時にある人物に対して小さな嫌悪感を抱いたわけだが。

 

 

 『あ、すいません!御曹司と電話していた事を忘れてしまってました!』

 

 

 「問題ありません。我を忘れるほど皆さんが悔しがっているのは分かってますから。俺の方から少し通しておきます。」

 

 

 『……え?』

 

 

 「本部の者の嫌がらせで、わざと発注されなかったんですよね? 第三課は本部にとって目の敵にされてますから。相変わらずですが。」

 

 

 『ははは…、やっぱり御曹司には敵わないですね~。ええ、そうです。本部に確認したところ、そのような発注の打診は受けていないと言われましてね~、こちらは書類も渡していたってのに…。御曹司の言うとおり、相変わらずいけ好かねぇ~頭でっかちな連中ですよ!!』

 

 

 達也が既にお見通しだと理解した牛山は本当の理由を話す。達也は同意の返事はしなかったが、印象的には牛山達側に同意していた。だが、牛山は言った後で、その”頭でっかちの連中”の中に達也の父親が重役として入っている事を思い出し、慌てて弁解する。達也が父親と上手くいっていない事はなんとなく気づいているものの、詳しい家庭事情などは知らないし、達也にとっても一般的な父親という意識は持ち合わせていないため、謝られても牛山には何の得もない。

 

 

 「いえ、牛山さんの言うとおりですから。気にしないでください。ところで、その発注はいつ頃に届きそうですか?」

 

 

 達也は牛山が連絡してきた本題を聞き出す。

 

 

 『はい、そうですね~、……………早くても午後三時頃に準備できそうです!それで申し訳ないんですが~、その時間まで待っていただいてもよろしいでしょうか?第三課総動員で速やかに準備しますんで!!』

 

 

 「それでしたら、俺も行って手伝いますが?」

 

 

 『いえ、部品の発注はこっちの担当ですよ! 御曹司は思う存分魔法研究してくださいや。俺達は御曹司の類まれな才能を世に出せればそれで良い!あんたの下で働けるだけで俺達は幸せなんで!』

 

 

 後ろからも頷いたり、雄叫びが聞こえる。第三課一同の声を聴き、今自分が行っても却って彼らに悪いと踏んだ達也は、牛山の意見を呑む事にした。

 

 

 「分かりました。それではくれぐれも無理はしないでください。あくまで試作段階のものを何点か製作してみるだけですから。過労で倒れてしまっては本末転倒ですよ?」

 

 

 『な~に、この仕事が原因で過労でぶっ倒れても大丈夫ですって、御曹司!皆して”この仕事で全うできることが本望!もういつ死んでもいい!”って言うのが口癖ですんで!それではこれで失礼します。予定より早くに終わりそうでしたら、ご連絡いたしますんで。』

 

 

 こうして牛山が電話を切るまでにまた声を張り上げて、研究員たちに指示する声をBGMとして聞いた達也は、通信機能を切って、バイクを方向転換する。時間が出来てしまったため、達也は行き先を変更した。それが帰宅するのなら深雪が大層喜びそうだが、達也が向かった先は、ゴールデンスター芸能プロダクションだった。

 

 

 今日は、美晴のCMオーディションの日だ。

 

 

 時間ができた事だし、応援でも言っておこうとしたほんの出来心だった。

 

 

 「それにしても、牛山さん達…、あそこまで考えているとは思わなかった…。」

 

 

 独り言のように先程の牛山さんの最後の言葉を聞き、若干熱すぎる第三課の熱意に困惑した表情をヘルメットで隠しながら、事務所に向かう。

 

 しかし、これがきっかけで達也は巻き込まれる事になるとは、想像できなかった。

 

 

 




達也はこうでなくっちゃ! 巻き込まれ気質をフル発動だね!



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応援だけのつもりが…

ドンマイ、そしてグッジョブ…。これしか贈る言葉はない。


 

 

 

 

 

 

 

 

 FLT開発第三課での打ち合わせ兼試作品テストは、本部の嫌がらせに遭い、予定がずれる事になった達也。そのお蔭で時間が余りまくった達也は、せっかくなので今日がCMオーディションの美晴に激励を送るため、事務所に向かい、その目の前に着いたのであった。

 

 一瞬だけ事務所がある窓を見つめると、地下の駐車場で愛車を止め、ヘルメットを抜く。そこには、ボサボサとした灰色の髪をした達也がいた。誰もいない事を気配を探って確認し、速やかにイヤリングやブレスレットを身に付ける。そしてそこそこにメイクをした後、サングラスをかけて、事務所へと登って行った。

 

 

 事務所のドアの前に来た達也は深呼吸して、”RYU"としてのスイッチを切り替える。

 ロックせずにドアを開け、気怠そうに挨拶する。

 

 

 「…どうも。お疲れ様です。」

 

 

 「あ!RYUさま! 今日は来られないと仰っていませんでしたか!?」

 

 

 「ああ、おはよう、RYU君! 来てくれたんだね!いや~~、君なら来ると思っていたよ!だって、君は見かけによらず面倒見がいいからね!不愛想に見えるけど、実は真面目だし、優しいし、ただツンデレなだけなんだよな~!!うんうん…!!」

 

 

 「………」

 

 

 RYUの登場に金星と美晴が揃って喜びを体で表現する。美晴はRYUに抱きついてきた。これはまだ許せる範囲だ。しかし、金星は調子ついてしまっているのか、手を顎に置き、流し目でドヤ顔を魅せつけながら、変なポーズを添えて長いセリフを恥ずかしげもなく論破してくる。これにはさすがのRYUも引くしかない。

 

 

 「本当はそうだったんだが…、急遽予定が変更になって、時間が空いてしまったんで、待っている間に美晴に激励を送ろうかと思っただけなんだ。別に深い意味はない。」

 

 

 「それでもわざわざ来てくれたことに私…、物凄く感激してます! 本当にありがとうございます!」

 

 

 「ああ…、言わなくても美晴を見れば分かる。…涙が止まらないほど感激しなくていい。」

 

 

 「ですが、RYUさまのお日様のような温かい気遣いを受けただけで、美晴は最高に幸せなんですぅ~!! 自然に涙が溢れてきて、止められません!」

 

 

 「…わかった、分かったから泣き止んでくれ。それだとせっかくのメイクが崩れてしまうぞ?」

 

 

 「あ、本当ですね。…ぐぅ!!」

 

 

 涙を止めようと目に力を入れ、堪える。それで止まるモノなのか?とRYUは思ったが、なんと一瞬で涙が止まり、思わず苦笑してしまう。

 

 

 「実はこれ、私の特技なんです!どうですか?」

 

 

 「…どうと言われても、な~。」

 

 

 まさかとくぎを披露されていたとは考えなかったRYUはどう返事しようか考えを張り巡らせていると、和気藹々とした空気を嬉しそうに見てきた金星がふと時計を見て、驚愕する叫びを放つ。

 

 

 「うわああああぁぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 

 

 「ど、どうしたんですか? 社長~!!」

 

 

 「大変だ!!代返なんだよ!!美晴ちゃん!! やばい!オーディションに遅れる!!急がないと!!」

 

 

 「え!?………ああああああ~~~!! もうこんな時間!!早く行かなきゃ!!」

 

 

 「大丈夫!!僕が車を回してくるから、美晴ちゃんは下で待っていて!! あと、急がなくちゃって思って、怪我はしないようにね!!じゃ、御先に行って……わああぁぁ~~~~~~!!!!」

 

 

 

 スゴッ…、ゴキッ……、コロンコロン…バタン!!……ゴン!!!

 

 

 

 

 「ふギャあああああああ~~~~!!!!」

 

 

 「ああ~~!!社長!! 大丈夫ですか!!」

 

 

 「…人に言っている傍から自分で怪我したら意味ないだろ。」

 

 

 美晴は慌てて、RYUは呆れ顔で金星を見下ろす。何というかミラクル的な転び方をした金星は既に意識が朦朧としている。頭を打ったわけではないが、あまりの激痛が広がり、意識を手放しかけているのだった。なにせ、怪我は左足に集中していており、見る限りでも骨折し、腫れあがっている。

 

 こうなったのは、金星の不注意だと言わない訳にはいかない。

 

 

 まず、カーペットを巡り上げて躓き、そこで足首を捻る。次に倒れそうになるのを片足でケンッケンッとバランスを取ろうとしたが、上手くいかず、逆に痛めた足で着地してしまい、更に負荷をかける。そしてそのままドアまで高速で開脚前転していき、最終的に痛めた足でドアに激突し、止まった。そして激痛に苛まれている金星に止めの攻撃?が降ってきた。ドアに激突した振動で近くの書棚に飾られていたガラス製の写真立が見事に金星の左足にヒットした。しかも、写真立の角で。

 

 合計で4回は連続で同じ場所に悲劇が襲った…訳である。

 

 

 「社長~~!!しっかりしてください!! 死なないで~~!!」

 

 

 「み、美晴ちゃん…、ぼ、僕はもうだめだ…。君の晴れ舞台を見てやりたかったがどうやら僕はここまでのようだ…。ごほっ…!」

 

 

 血を吐いて、死にかけのような声で語る金星に、「あんたが怪我したのは足だけだろ。血を吐く様なことは無かったよな?」と冷静に突っ込み、茶番劇を見下ろす。

 

 

 「そんな事はありません!私…、社長のために頑張って、合格してきますから!!ですから、生きていてください!!」

 

 

 「…ああ、約束だ。 …さぁ、行きなさい! 遅刻したら元も子もない…。…RYU君、後の事は頼みました…。

 

  ご心配無用…。僕の事は構わず、行ってください!…ここは僕に任せて。」

 

 

 (何を任せるんだよ、あんたが一番不安で仕方ないんだが? )

 

 

 親指を立てて、武運を祈る…的な顔で見送る金星の馬鹿さに辟易してきたRYUは、金星を置いていく事に渋っている美晴の手を引いて、事務所を後にした。美晴は何度も後ろ髪をひかれる思いで振り返り、「社長~~!!」と何度も叫んだが、RYUは一度も振り返る事もせず、更には一切の躊躇なく見捨てるオーラで歩くのだった。

 

 

 

 こうして、金星の代理として美晴をオーディション会場まで送る事になったRYUは、後ろに美晴を乗せて、バイクを走らせるのであった。

 

 

 




…何をしてるんだよ、金星。前から天然と思っていたけど、ここで馬鹿要素を出すなや!もしかして、美晴の天然も金星から移ったんじゃ…?


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送迎からのまさか…

失念していたんだろうな…、というか、認識不足?


 

 

 

 

 

 

 「あ、有難うございます!RYUさま!! 送っていただけるなんて…」

 

 

 「気にするな。それよりも時間までには着きたいから、しっかり捕まっていてくれ。ここから荒くなるぞ。」

 

 

 ヘルメットに内蔵されている通信機能で騒音等を心配する事なく、普通に会話し、後ろから腕を回す美晴が自分の身体に更に力を掛けてきた事を確認してから、RYUは交通違反にならないギリギリのスピードで、オーディション会場に向かう。その際、オーディション開始時間ではなく、準備時間も入れての到着時間に間に合うように、バイクに設置している衛生通信しているGPSで近道を通っていく。舗道されていない道もあるので、走る度にガタガタと鳴り、身体が跳ねる。しかし、バイクなので細道等を駆け抜ける事が出来る。車やタクシーと違って遥かに時間短縮でき、車での走行時間より半分も早く目的地に到着する事が出来た。

 

 会場に着き、バイクを止める。美晴が降り、ヘルメットを取ろうとするが、初めてなんだろう、どうやって脱げばいいのか分からずヘルメットと格闘している。

 RYUは自分のヘルメットを取ると、素早く濃いめのサングラスをかけ、苦笑しながら美晴のヘルメットを優しく取ってあげた。

 

 

 「ほらよ。」

 

 

 「あ、取れた~~!!よかった~~!!もしヘルメットが取れなかったら、このままでオーディション受けようかと思い始めてたよ~~!!」

 

 

 「大袈裟だな、でもまぁ、これが美晴か…。」

 

 

 「? なんでしょうかRYU…さん。」

 

 

 「いや、何でもない。それより頑張ってこい。美晴なら上手くいくさ。」

 

 

 「はい! 私、受かってきます!! これに絶対受かって社長に少しでも恩返しします!」

 

 

 「…そうだな、その意気だ。」

 

 

 一瞬、あの派手に転んで怪我した金星社長が頭に過り、苦い笑いが出たが、美晴が金星に強い信頼を持っている事は知っていたので、言わない。更に言うなら、今からオーディションなのに気合入っている美晴に水を差すようなことを言って、モチベーションを下げるのはよくないと思ったからだ。

 

 それからは激励を送ったRYUは、会場となるビルに何度も振り返って手を振る美晴を姿が見えなくなるまで見送ると、辺りに一応目を光らせ、見られていない事を確認し、再びヘルメットをかぶって、愛車を走らせた。

 美晴を見送った後、何人かのオーディション出場者も走りながらビルの中へ入っていくのを見たRYUは、どうやら間に合ったみたいだなと自分自身も安堵し、RYUから達也へと戻る。そして、喫茶店に入り、コーヒーを頼んで、時間までのんびりとお気に入りの書籍サイトを開いて、過ごそうと一服する。しかし、その楽しみは情報端末に入った通信によって、あっという間に終わってしまった。

 

 

 相手は先程見送った美晴からだった。

 

 

 内容を確認しようと声を掛けても、電話の向こうで必死に謝り続けるだけの繰り返しで状況が読めない。とにかくわかったのは、「すぐに来てほしい」という事だけだった。

 

 

 (仕方ない、行くか。)

 

 

 開いたばかりの書籍サイトを閉じ、会計を済ませてから、再び愛車に跨り、先程の場所へ引き戻す達也。その際、また髪の色素を抜き取り、変装もしながら、美晴の元へ行くのであった。

 




慌てて投稿したので、短いですが、これから先、オリキャラを出しまくりますのでよろしくお願いします。あと、他のアニメのアイドルとかも出るかも?


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オーディション急遽参戦!?

呼び出された時からRYUの運命は決まっていたんだよ…。www


 

 

 

 

 

 

 

 

 再び美晴を送り届けたオーディション会場があるビルに到着した達也は、向かいの複合施設の駐車場に愛車を止める。一度、美晴が出迎えに出ているかと確認したが、美晴はいなかった。それよりも到着した自分を身を潜めて見つめてきた視線がいくつも感じ取った。そこで、念のためにビルの中の地下駐車場には入らず、発進させ、回り道した後、死角になる別の入り口から向かいの駐車場に潜り込んだのだ。

 ここなら、多くのバイクも止めてあり、複合施設であるだけに多くの人が訪れている。人の眼が常にある上、監視カメラも装備されている。最も達也が愛車を止めた場所は監視カメラの死角で、非常階段に一番近いという計算されたスポットであるが。

 もし、ここではなく、オーディション会場のあるビルの地下駐車場に止めていたら、自分を見ていた人物たちが愛車から離れた隙に何かを仕掛けるかもしれない。RYUが実は魔法科高校生の司波達也だと知られる要素は排除しておくに越したことは無いという達也の判断だ。

 そんな訳で、愛車を駐車した達也は、ヘルメットを脱ぎ、代わりにサングラスをかけ、RYUへと意識を変える。まだ模索中ではあるが、徐々に役どころを掴んできたからか、大分それっぽく振る舞うのに慣れてきてはいた。しかし、基本は達也とかわらないため、ふとした時に素が出てしまうのがまだまだだと自分に厳しい評価をその度につける達也である。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「あ、RYUさ………さん!! ごめんなさい! 来てくれたんですね!」

 

 

 美晴と合流するために、ビルの中に入り、会場がある階へと着いたRYUを見つけた途端、美晴が勢いよく早歩きして、謝りながらも安堵と喜びに満ちた表情で話してきた。

 

 

 「ああ…、まだ時間もあるしな。それよりも何があったんだ? 電話ではよく理解できなかったんだが?」

 

 

 「そ、それが……」

 

 

 あんな電話をしたら、こう聞かれるとは分かっていたはずの美晴だったが、いざ改めて説明しようとすると、言葉に詰まる。説明に渋っている美晴を見下ろして、待っていると美晴の後ろの方から声が聞こえてきた。

 

 

 「私が説明しようではないか! これは私に決定で行った事だからな!」

 

 

 「…あんたは?」

 

 

 突然話しかけてきた同じくサングラスをかけ、赤いシャツに縦じま模様のスーツで、金のブレスレットやらネックレスやら指にもいくつかの指輪をはめている派手な中年男性が数人の関係者を引き連れて近づいてきた。明らかに偉い人だと否応なく理解できる。しかし、RYUは何者かもわからないし、いきなり呼びつけてきた本人に対し、礼儀を通すつもりもない。相手の方が既に見た目同様に見下した態度をとっているからだ。

 

 

 「この俺を知らないのか!? お前…、変わった奴だな。」

 

 

 RYUの返事に心底意外だと大きなリアクションをするその男性。その後ろで慌てているのは、このオーデジションの審査を受け持っているディレクター達が説明する。

 

 

 「この方は、大手芸能事務所『パーフェクトゴッド』の敏腕社長、榊寛人(さかきひろと)様であり、今回のCMオーデジションの依頼主で在られます!」

 

 

 「そうですか、それでその凄腕社長さんが俺に一体何の用ですか? 分かっていると思いますけど、俺はこのオーディションにエントリーもしていないので。」

 

 

 訝しんでいる表情を作りだし、用件を尋ねるRYU。ただし、話しかけているのは後ろにいる監督にだ。

 

 

 「ああ、実は君がこの子を送っている所を何人ものオーディション参加者が目撃していてね。すっかり君との共演ができると思い込んで張り切っている子達が続出しているんだ。しかし、そんな事実はなかったわけだし、私達も先程知ったばかりでね。「そのような事実はない。」と断っていたんだが、榊社長が……」

 

 

 「このCMのコンセプトには君がぴったりだと決定し、ぜひ出演してもらおうと私が許可したんだよ! そして君と共に何人かの子達も選んで、一緒に出演してもらいたいんだ! そのために君が送り届けていた彼女に協力してもらって、君を呼んでもらったという訳さ!」

 

 

 監督の説明を横入りする感じで自慢たっぷりの口調で話す榊社長に、RYUは心の中で悪巧みが分かりやすい…と目の前で盛大な溜息をついてやりたい気分になった。

 要は、自分をエサにオーディション参加者のレベルを上げ、選び抜きたいというのと、このCMで利益を独占したいというのが手に取れるように理解できた。RYUがCMに出るのはこれが初だ。今注目されているアイドルがいきなりCMにでれば、誰もが注目するし、そのRYUが出ているCMの商品にも目が行き、売り上げが伸びるから。

 

 

 RYUは、会った時から親しくなりたいとは思わなかったが、話を聞いただけでこの社長とは関わりたくないと拒絶したい気持ちが強くなった。だからもちろん答えは……

 

 

 「申し訳ありませんが、俺はこの申し出を辞退させていただきます。」

 

 

 断固としてはっきりと断る決断をした。

 

 

 「そもそもこのオーディションに参加している子達はCMに出たくて一生懸命自分を高めてきた子がほとんどです。申し込みさえしていない俺が選ばれたらその子達に申し訳ありません。」

 

 

 「で、でもね? RYU……」

 

 

 「それに俺は興味がありませんので。では、失礼します。」

 

 

 何とか引き留めようとする監督の言葉を遮り、言いたい事を言ったRYUは回れ右をして、元来た廊下を歩き出す。すると、後ろの方で高笑いが響く。

 

 

 「わ~~~~~はっはっは!! 面白い!この私に反論する奴がいるとは!実に面白い!!その意義…、気に入った!!

  しかしな~!!依頼者であるこの私がオーダーしているんだ。私の決定は絶対なのだよ! 君は断ってはいけない…。もし、君が断るというのであれば、君の後輩の参加資格を取り消さねばならんが、それでも構わないかね?」

 

 

 「……………」

 

 

 首だけを振り向き、背中を通して見たRYUは、作り笑いをして美晴の方にがっちりとした手を置き、自分を見てくる榊とそれに困惑と恐怖で身体を震わせる美晴の姿を捉えるのであった。

 

 

 




いきなりオリキャラを出してみましたが…、なんだろう、腹立つな。新キャラ。


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無責任なオーダー

新キャラの榊…、良く見かける俺様キャラが度を越した感じの奴なんだよね~。こいつがこれからどう関わって来るのか…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 RYUは明らかに脅迫をしている榊にサングラス越しから嫌悪感たっぷりの視線を投げかける。完全に自分の思い通りになると思っている彼をますます関わりたくないと思う一方だった。

 しかしその一方、美晴が涙を堪えながら、笑顔を作り続けている姿が目にはいる。

 

 

 「だ、大丈夫です、RYUさん。 私の事は考えずにお引き取り下さい。予定があるんですよね? 間に合わなくなったら大変です! 私はまたオーディションを受けますから。」

 

 

 怖い思いをしているのに、それを必死に抑え、RYUを逃がそうとする美晴。その手は強く拳を握りしめ、力がこもっている。その姿を見て、RYUはボサボサした灰色の髪を掻く。それからしばらくして、身体を向きなおし、榊とそのお付きに鋭い視線を向けて話す。

 

 

 「悪いが、俺に依頼するなら、事務所を通してからにしてくれ。俺個人で仕事を受けるのは禁止されているからな。」

 

 

 「おや?君はもう事務所に所属しているのかい?それは残念だ。君をぜひうちにスカウトしたいと思っていたんだけどね~。」

 

 

 オーバーな手の動きで残念がる榊。そのリアクションを見ながら、RYUは白々しい演技をする榊を見透かしていた。

 

 

 (知っているはずなのにな。美晴から聞いたんだろ?ではなければ、美晴の事を”後輩”なんて呼ばない。…というより後輩なのは俺の方だがな。)

 

 

 RYUは先程の榊の会話を思い出しながら心の中で突っ込む。

 

 

 「まぁ、しょうがない。決まった事だし、スカウトの件、今回はそれで手を引こう。そして仕事の依頼についてだが、ちゃんと事務所の方に正式に依頼したから、問題ないはずだ、違うか?」

 

 

 そう言って、取りだしたのは情報端末に映し出された電子ペーパー。そこには今回のCM出演での契約書が記されていた。出際の良さに思わずRYUは感心してしまう。性格的には好ましくない人物だが、どうやらビジネスの腕は本物らしい。…手段はこの際目を逸らすとして。

 

 

 その書類に目を通そうとした時、RYUに通信が入る。それを榊に視線を向けたまま、電話に出るRYUの耳に入ってきたのは、知っている人物であり、今から確認がてら連絡したかった相手だ。

 

 

 『達也殿、今お時間はよろしいですかな?』

 

 

 「今、ちょうど連絡しようとしていた所だ。問題はない。」

 

 

 電話の相手にやや不愛想な口調で話す。それを聞いて今近くに人がいる事を教える。それを正確に理解した相手は、用件をすぐさま告げるのであった。

 

 

 『そうでしたか、よかったよかった。それならもうお耳に入っているとは思いますが、仕事の依頼が入りました。 CM出演のオファーのようです。金星社長から連絡を受け、奥様が許可をいたしましたので、遠慮なく仕事に励んでください。

  では、御武運を。』

 

 

 いう事だけは言ったと言いたげな声色で電話を切った相手に対し、RYUは心の中で「勝手に引き受けないでください、叔母上…。」と電話を終えた執事の葉山さんに紅茶を淹れてもらっている真夜のほくそ笑む姿を思い浮かんだRYUは、もう逃げ場はないと分かり、抵抗を諦める事にした。

 

 

 「……わかった。 仕事は受ける。」

 

 

 「おお~~!!本当かい!それは嬉しい知らせだ!!それでは私は会議があるからね! 今日はここで失礼するよ! …また君とゆっくり語らいたいものだ!わ~~~~はっはっはっは!」

 

 

 RYUの承諾を聞き、高笑いして数人の御付を連れて横切って去っていく榊を振り返りもせず、脱力してしまって廊下に崩れ落ちる美晴の傍へ歩み寄るRYUは、無責任なオーダーを受け、更にスケジュールがハードになるのであった。

 

 

 




本当に達也のスケジュール、どうやって調整しようか…。

あ、今日はバレンタインでしたね! はい、達也様!チョコです!

「ありがとう、受け取らせてもらうよ。」

はいどうぞ!これを食べて、疲れを取ってください!!


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咄嗟の慰め

うおぉぉぉぉ~~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫か? 美晴。 立てるか?」

 

 

 廊下で腰を抜かしている美晴に近寄り、膝を付いたRYUは、美晴の表情を確認しながら、問いかける。美晴は、その声でようやく俯いていた顔を上げ、RYUの顔を見る。すると、涙が溢れてきた。美晴は必死に止めようと目をこするが、極度の緊張から解放されたからか、涙は止まらない。

 

 

 「あ…、ご、ごめんなさい! 泣くつもりはなかったんですけど! どうしても止まらなくて…! 弱い所を見せてばかりでごめんなさい!」

 

 

 ひたすら謝り続ける美晴にRYUは何と声を掛けるべきか分からなくなった。そしていつの間にかRYUとしてではなく、達也としての意識で接してしまうのだった。そもそも達也は泣いている女性を慰める術など知らない。(知っていたら相当のナルシストだ)だから咄嗟に達也は頭を優しく撫で、平静心を保ちつつ、優しくした声色で励ます。それは、落ち込んでいる深雪を慰める時にする行動でもあった。

 

 

 「謝らなくていい、美晴。美晴もよく頑張ったな。あの雰囲気の中で自分の意思を言えるなんて普通ならできないさ。それに、感心もしているんだぞ?あの時美晴は迷わず俺を逃がそうとしてくれてたな。」

 

 

 頭を撫でて、微笑みを浮かべる達也が話しかけてきた言葉で、美晴はまだ涙を流しながらもはっきりと目を開いて達也を見つめる。

 あの時は、本心から出た言葉だ。自分が人がいる場所で気軽にRYUを呼んだり、オーディション関係者にRYUの事を聞かれて盛り上がったりして嬉しくて、話してしまわなければRYUが自分のためにオファーを受ける事もなかったのに。美晴の心の中は、激しい後悔が沸き起こっていた。だから、自分がオーディションに落ちたとしてもRYUがここをされればそれで良いと本気で思った。ただそれだけが美晴を動かしていた。

 

 

 「あ、あれはただRYUさんを助けないとって…。私のために無理やりオファーを受けるなんて嫌でしたから…。」

 

 

 「そうだろうな、美晴が本心からそう言ったのは分かっている。だが、既に仕事の依頼が受理された。俺はそれを遂行するのみだ。

  俺は、美晴のその素直なところはいいと思うぞ?」

 

 

 「…本当ですか?」

 

 

 「ああ…、だからもう泣き止め。 これからオーディションだろ? 笑って挑め。」

 

 

 「…はい、分かりました。…私、もう泣きません! RYUさんを超えるためにも…、私の実力で私の夢を叶えたいから…! …ありがとうございます!RYUさん!」

 

 

 いつの間にか何事かと廊下をドアの陰から覗いて見てくるオーディション参加者も増えてきたので、達也はポケットからハンカチを取り出し、美晴に差し出す。

 

 

 「これを使え。 」

 

 

 「あ、有難うございます。」

 

 

 「オーディション…、頑張れよ。」

 

 

 「はい! RYUさん、応援お願いしますね!」

 

 

 「……ああ。」

 

 

 涙も止まり、笑顔を見せれるようになった美晴の手を取って、立ちおこしてあげる達也。そして、控室となっている所まで早歩きで向かって行く美晴はなぜか耳まで真っ赤にしていた。

 

 その美晴をどうにか慰める事が出来たのか?と自問した達也だったが、去り際に美晴の肩から払い取っていた小さなチップを指に掴んで見つめた。

 

 

 (やはりあの男は好きにはなれそうにないな…。)

 

 

 そう思いながら、そのチップを指に力を入れて粉砕する。

 

 それからペコペコ頭を下げながら近づいてきたオーディション関係者に呼ばれ、急遽審査員として会場に入る達也は、またRYUとして意識を引き締めるのであった。

 

 

 




ギリギリ…、ではなく時間通り越してしまってごめんね!
(最近毎日更新が上手くできなくなってきているうち)

早く達也の曲を歌わせてあげたい!!


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ライバル登場!?(美晴Ver)

オーディションって色んな人と会うから、友達出来たり、ライバル出来たりするよね~。
今日は美晴視点でいきます!


 

 

 

 

 

 

 

 達也に慰められて、吹っ切れた美晴は、醜態をさらしたという羞恥心ではなく、達也が魅せた微笑みによって沸き起こったときめきに今度は陥っていた。達也はサングラスをかけていたが、少しだけ紅い目が覗いていて、ミステリアスさがありながらも甘い笑顔を見せていた。それが美晴には、新鮮であり、また違った達也の魅力に惹かれる要因にもなった。…といっても、美晴はRYUの正体である達也に関して一切知らないのだから、この場合はRYUに惹かれてしまったと言うべきだろうが。

 

 

 それで、美晴はオーディションに戻る事を理由に別れ、控室へと早歩きした。そのまままだ動悸が止まらない胸の高鳴りを抑えるために深呼吸を何度もする。数回した後、なんとか動機も赤面していた顔も引いてきたので、廊下の壁に設置されていた鏡で身嗜みを確認してから、控室となっている会議室のドアを開けた。

 

 

 

 「あ! ちょっとそこのあなた!! 待ってたわよ~~!!」

 

 

 ドアを開けて入室した瞬間、いきなり指を指されて、声を掛けられ、思わず一歩後ろへのけぞった。

 控室にいたオーディション参加者全員が美晴に注目する。何で注目されているのか分からない美晴に、背筋を伸ばして優雅な歩きをしながら、長髪をポニーテールで一つにまとめた少女が近づいていく。しかし、その少女の歩きとは対照的にBGMとして聞こえてくるのは、重みのある足音だった。(優雅な歩き方でどうやってそんな音が出るんだ?)

 

 

 「あなた、お名前は?」

 

 

 「あ、はい、日暮美晴と言います。よろしくお願いしま…」

 

 

 「ああ…、美晴さんですか。分かりました、それだけ聞きたかったので。」

 

 

 「え? あの…、どちら様でしょうか?」

 

 

 言葉を途中で遮られただけでなく、不愛想に去っていこうとする少女に美晴は首を傾げて名を尋ねる。本当なら、自分から名を名乗るべきなのだが、それがなかったからだ。礼儀を重んじる子とかなら、この少女の態度で不快になっているだろう。しかしそれをされた当の本人である美晴はそんな気持ちは一切なく、逆にお友達になろうと話しかけるのであった。自分に話しかけてきているという事は、仲良くなりたいけど上手く言葉にできなくて恥ずかしがっているのかも…と考えた結果だ。

 美晴の優しい思考は残念ながら的外れだったが。

 

 

 「あなた! 鈴蘭様の事を知らないのですか!?」

 

 

 「鈴蘭様がわざわざお声を掛けてくれる事なぞ、めったな事でしかないというのに!!」

 

 

 「鈴蘭様の事も知らないばかりか、名を尋ねるなんて、なんと野蛮な!」

 

 

 「それでも、アイドル目指している子なのかしら!?」

 

 

 少女の周りを囲む形で突如として現れた少女たちの言葉に美晴は疑問が止まらない。何とか分かった事は「ああ、この子の名前は”鈴蘭”ちゃんっていうんだ。」だけだった。

 そして少女の取り巻きの少女たちが代わりに説明し始める。

 

 

 「この鈴蘭様は、生まれてからわずか数日で芸能界入りし、天才人気子役としてこれまで何百本ものドラマや映画に多数出演してきた今、最も輝きに満ち溢れている女優、天童鈴蘭様です!」

 

 

 「その通り! 今回のCMも鈴蘭様が栄光の一ページにまたもや刻む素晴らしい物なのです! 分かりましたか!?」

 

 

 「あ…、分かりました。そんな素晴らしい人と会えて嬉しいです。私と友達になってください。」

 

 

 取り巻きの少女たちの話を聞いた直後に美晴は笑顔で鈴蘭に手を差し伸べる。どれだけ自分と鈴蘭とで釣り合わないかを教えたはずなのに伝わっていないのかと驚きで固まっている取り巻きの少女たちの間から鈴蘭が歩み寄る。そして美晴の手に鈴蘭の手が伸びる。美晴は鈴蘭と握手して、仲良くできると思った。

 

 

 

 

 パチンっ~~……!

 

 

 

 

 控室内に大きな音が響いた。

 

 

 今まで状況を見学していた他のオーディション参加者は驚愕と当然だという反応を見せる。

 驚愕一点だけだったのは美晴だけ。

 

 何が起きたかというと、美晴の手を鈴蘭が大きく手を振りかぶって、払い除けたのだ。赤くなった手が宙でとどまったまま、目を丸くしてただ鈴蘭を見つめる美晴。

 

 

 「私は貴方とお友達という気楽な関係を築くつもりは毛頭ありません。私は貴方には負けません。」

 

 

 鈴蘭はそう言い残すと、取り巻きの少女たちを連れて、自分に設けられているベースに戻るのであった。

 

 

 その後ろ姿をただ見送るだけの美晴は、心の中で「お友達になるのって難しいんだな~。」っと、落ち込む。それでも美晴はまだ鈴蘭との友好を諦めるつもりもなかったが。

 

 

 

 

 

 「それでは、皆さん!一次オーディションを始めます!」

 

 

 

 

 スタッフが見計らったかのように呼びに来たので、美晴はこれから鈴蘭と仲良くなろうと決め、オーディションに臨む。その美晴の姿を鋭い目で盗み見る少女がいた。

 

 

 かくして、美晴には気付かれないまま、ライバルが誕生した瞬間だった。

 

 

 




完全に美晴は鈴蘭にターゲットにされたな。




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ライバル登場!?(RYU=達也Ver)

美晴サイドでライバル出現したけど、達也の方でもライバル出現です


 

 

 

 

 

 

 

 

美晴と別れ、スタッフについていき、審査会場となる部屋へ入室するRYUは、入って早々早速注目を浴びる。注目されると言っても、視線だけ集めているだけで、さすがにこの業界を仕事としているだけに口に出してどよめいたりはしなかった。ただ、誰から話しかけるかでお互いでアイコンタクトを取ってはいたが。

 結局尻込みし出すスタッフを見かねて、監督自ら歩み寄り、挨拶する。

 

 

 「どうも、私は今回のCMでの監督をする事になった大澤光陽(おおざわこうよう)だ。今回は急な事で申し訳なかったが、よろしく頼むよ。」

 

 

 「…こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

 厚みの乗ったがっちりとした手と握手する。そして互いの印象を受け、笑顔の裏で相手を見極めていく両者。RYUは、一見ほんわかな笑顔を見せている大澤監督だが、その奥底には太くて固い意志を持っている熱い人だと思った。なにせ自分を見つめる瞳が真剣そのもの。握手している手も握力が強まり、力が入っている。

 その一方で、大澤監督は底が窺えない不気味さはあるものの、頼りになるという事と骨のある少年だと直感した。これならいい仕事ができると思った大澤監督はにやりと笑う。それを傍から見ていたスタッフや今回のCM要請した食品会社の社員達が驚きを見せた。カメラを回していない時はほんわかなご老人と言った風貌もカメラやキャスト決めの際はRYUが見立てたとおりスイッチが入って、言動が熱くなる。だから今の段階でにやりとまるで撮影するのが待ち遠しいというかのようなうずうずしている監督を見て、驚愕と同時に、RYUが監督に認められたという驚異なる逸材を感じさせられたのであった。

 

 

 RYU以外の全員が「これはとてつもないCMになるのでは…。」と思い始めていたその時。突然ドアが思い切り開き、金髪で、ストリートダンサーのような服装をした少年が入ってきた。しかし、他の人を目向きもせずに怒っている事を隠す気もない少年は監督に迫る。

 

 

 「おい! 大澤さん!どういう事だよ! 今回のCMは俺がメインでやる事になっていただろ! それなのに今更降ろすって意味わかんねぇ~よ!」

 

 

 「落ち着きたまえ、翔琉(かける)少年…。これには理由が…」

 

 

 「これが落ち着いていられるかっ!! 」

 

 

 大澤監督に掴みかかり、問い詰めようとしている翔琉と呼ばれていた少年は、当初このCMに採用されていた人物のようだ。今の話で、この少年を降ろし、自分がそこに収まったという事が理解できたRYUは、あの傲慢社長の行った言動によって、自分が巻き込まれてしまった事に今更ながら頭痛を覚え始めた。

 そして、おそらく大澤監督の次に怒りの矛先が向けられるのは…

 

 

 「そうだ…! 俺を押しのけてメインに選ばれた奴ってどいつだ!!? そいつもこの会場にいるんだろ! 早く出せ!」

 

 

 怒り狂う相手にとっては当然だろうが、この流れはRYUが望んだものでもない。ましてや避けたい案件とも言える。

 

 だが、運命はまた面倒事に傾いてしまう。

 

 翔琉と呼ばれた少年の言葉を聞いていたスタッフが視線をうろつかせる。そして最終的に全員の視線がRYUに集まる。その反応を見ていた翔琉がRYUに鋭い視線を向け、大澤監督を解放し、RYUと向き合う。

 

 

 「お前か…! 俺は『ハイスピード』の小泉翔琉(こいずみかける)だ!! この俺にケンカ売った事…、後悔させてやる…!!」

 

 

 怒りの火の粉を一身に浴びる事になったRYU。

 

 

 (やっぱりこうなるのか…。)

 

 

 予想通りの展開にため息を心の中で吐くのであった。

 

 

 




オリキャラが続々出てきますな~…。近々キャラ設定を纏めた方がいいですな。

…達也もドンマイ。


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その勝負乗ってやる…!

翔琉に因縁つけられちゃった達也…じゃなくてRYUだったね、今は。

RYUはどうやって対処するのかな?


 

 

 

 

 

 

 

 

 「まぁ、まぁ、翔琉君。これにも事情があるんだ。榊社長がぜひ彼にCM出演してもらいたいと直にオファーしたんだ。キャストの決定権は私に一任されているが、メインのイメージを決めるのは、依頼主の榊社長の方針に重視するしかないんだ。分かってくれ。」

 

 

 RYUに睨みを効かせる翔琉に大澤監督が他のスタッフの救援を一身に受けて、仲裁に入る。

 

 

 「ああ、大澤さんの言っている事は本当だろうぜ。あんたはくだらない事で嘘はつかない人だからな。でも俺にとって、納得できるものと納得できないものってやつがあるんだよ…!」

 

 

 「翔琉君…。」

 

 

 「突然オファーが変更になって、降ろされることだってあるのは知っているし、この業界ではそんな事は多々あるさ! 

  でも、俺の代わりに出る奴がつい最近になって注目浴びただけのひよっこ風情にぶん取られた事が腹が立つ!! 納得できるわけねぇ~だろ!!」

 

 

 翔琉は目をしっかりとRYUに向ける。見上げる視線の先に挑戦的な視線をぶつけられているRYUはただ翔琉を見下ろす。そして無言のまま。

 何も言ってこないRYUに馬鹿にしているのかと更に憤りを感じる翔琉。

 翔琉は、今回のような事も何度か受けてきている。芸能業界ではスポンサーの求めるCM作りも考慮していくため、キャストの変更もよくあることだ。この業界で生きていくには、上手く乗っていかないといけないのは分かっている。しかし、仕事には真面目に取り組む翔琉は、これまで自分の後釜となって入るキャストが自分より優れていたり、違う才能を持っていない限り、認めなかったし、役を譲ったりもしなかった。

 つまり、翔琉は新人過ぎるRYUが注目度だけで採用された事がどうしても許せなかったのだ。

 

 

 「翔琉君…。気持ちが分かるが、今回は…」

 

 

 大澤監督が気の毒だが…と申し訳なさそうな顔で翔琉を宥めようとした時、RYUがついに口を開いた。

 

 

 「要するに、俺がこのCMに起用されるにふさわしいか、納得させてほしいと言う事で間違いないか?」

 

 

 「…ああ。その通りだ。」

 

 

 「そうか…、あの、このCMは何を紹介するんですか?」

 

 

 「え、あ、”プリンセス”というシャンプーという新商品のCMです。”サン&ムーン”の二つの種類があり、それぞれ効力が違うんです。」

 

 

 「なるほど…、分かりました。ありがとうございます。」

 

 

 CMで売り出す商品についてスタッフの方に聞いたRYUはほんの少しの間考える。翔琉はというと、CMに起用されたというのにまだCMの企画を知らなかったRYUに対してますます腑抜けた奴だと思い込んでいた。

 …そもそも決まってものの一時間も経っていないのだから当たり前だ。寧ろついさっき決まったばかりの事なのに翔琉が知って駆け付けてくる方が不自然である。まぁ、元々オーディションの審査をするために、ここに向かっていた所で、連絡を受けたので問題はない。

 

 

 そんな考えをそれぞれがしていた中、RYUが提案を出す。

 

 

 「なら、今回のCMは二つのパターンで作ってみてはいがかでしょうか?」

 

 

 「何? 二つのCMを作れっていう事か?RYU君。」

 

 

 「はい、二種類の新商品があるのでしたら、それぞれにCMを作って、それに彼と俺とで分かれて撮影するんです。そして、CM公開され、商品がより多く売れた方が優れていると決定する…というのはどうでしょう。」

 

 

 「……悪くはないな。そちらさんは彼の提案をどう思いますかな?」

 

 

 「はい…、こちらとしては売り上げに貢献してもらえれば嬉しい限りです。構わないですよ。」

 

 

 「ふむ。」

 

 

 スポンサーの会社員たちから了承受け、大澤監督は翔琉に顔を向ける。そして視線だけで「お前はどうするんだ?」と問いかける。

 

 翔琉は、嬉しいのと挑戦的な表情で頷く。

 

 

 「俺もそれで良いぜ! これほど明白で、勝負し甲斐のオファーは初めてだぜ!」

 

 

 乗り気になっている翔琉にほっと安堵するスタッフ一同。

 

 

 翔琉はRYUに指を向けて宣言した。

 

 

 「その勝負、乗ってやる…! 」

 

 

 「ああ…、よろしく。」

 

 

 RYUも微笑を浮かべて翔琉の宣戦布告に応えるのであった。

 

 

 




CMを使っての勝負か…。さすが達也様だね。ただ勝負するだけでなく、依頼主の利益も考えた策。


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頑張れよ。

達也の案が採用された事で…。


 

 

 

 

 

 RYUと翔琉のCM勝負が決まった事で、大澤監督も胸を撫で下ろすと同時に面白味を感じていた。この勝負は絶対にこれからの二人の成長に大きな一歩を与える。そして自分自身もまだ知らないRYUの魅力を引き出せるかもしれない。未知数の可能性が垣間見え、大澤監督は意気揚々と弾む気持ちを内側に秘め、早速中断していたオーディションを再開するように指示を出すのであった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「ねぇ、まだ決まらないのかな?」

 

 

 「いつまで待てばいいのかしら。」

 

 

 「でも、待つ価値はあると思わない?だってあの”RYU”様と出演できるかもしれないんだから!」

 

 

 「そうよね! 私、RYU様の曲を聞いた時からもう好きで、一緒に仕事出来たらどれだけ幸せかな~。」

 

 

 「あ、私、さっき飲み物を買いに行った時、スタッフの人に連れられて会場に入っていくRYU様を見たわ!」

 

 

 「本当!? なら、オーディション頑張らないと!」

 

 

 オーディション参加者である女子が騒ぎ始める。

 

 その光景を黙って見守る美晴は、RYUが出演する事になった事実を誰にも話さず、ひたすらスタッフが呼びに来るのを待っていた。彼女達に本当の事を言うつもりもなかったし、RYUが審査会場にいる事は分かっていた事だったので、気持ちを高ぶらせないように落ち着かせていた。

 

 そこに、美晴の準備ができたのを確認したかのようなタイミングでスタッフが参加者を呼びに来た。スタッフについていく参加者たちは、今から生のRYUに逢えるかもという願望を胸に、互いに囁き合いながら向かっていた。例外なのは、美晴と先程美晴に話しかけてきた鈴蘭くらいだ。

 

 

 「それでは、みなさん。お待たせしました。一人ずつ入って、横に一列で並んでください。」

 

 

 審査会場のドアの前で一度止まり、指示を受ける。参加者全員返事をして、中に入っていく。一人ずつ入っていく中、中からどよめきが聞こえてくる。…といっても、大声を上げる非常識な人間はいない。息を勢いよく呑み込んだり、あまりにもの興奮したのか、後退りしようとして、他の参加者にぶつかったり、転倒しそうになる参加者がいた。しかし、やはりいいマナーとは言えない。大澤監督がわざとらしく咳払いして参加者たちの意識を正常へと引き戻す。そして、鈴蘭も華麗な歩きで加わり、他の参加者たちと差をつけた後、最後の一人として美晴が会場へと入る。芯がある動きで前の参加者たちとも違って、多少幼さはあるものの、堂々とした歩きで列に並び、お辞儀する。

 

 この会場への入り方で大澤監督はある程度の関心を向ける子を選別していた。

 

 

 その一方、美晴たちから見る審査員の顔ぶれに驚愕する者や身を引き締める者、顔を真っ赤にして興奮している者とに分けられるくらい、参加者たちは審査員のメンツにただ固まっていた。

 

 

 数々の作品を生み出してきた大澤監督はもちろん、人気ダンス&ボーカルアイドルグループ『ハイスピード』のリーダーである小泉翔琉、そして突然現れ、瞬く間に注目を浴びたミステリアスなRYUが並んで座っていた。

 

 浮かれるなと言う方が、難しい。

 

 参加者たちが間近で本物を観察するファン精神を醸し出す中、美晴はしっかりとオーディションに意識を向け、自分の持てる力を出す事を念じていた。

 すると、RYUと視線があった気がした美晴。合ったと言っても、RYUは室内にも拘らずサングラスをかけていた。そのため、どこを向いているかなんてわからないが、美晴にはRYUがじぶんをみたような気がしてならなかった。

 しかし、美晴が感じ取った視線は気のせいではなく、RYUは他の参加者とは違って雑念を消し去って、オーディションに臨んでいる姿を見て、微笑ましくなり、少しだけ笑う。そしてそのまま声には出さずに口だけを動かす。

 

 

 『が・ん・ば・れ・よ。』

 

 

 RYUなりの激励だった。

 

 こうなったいきさつはどうであれ、美晴の挑戦を間近で見届ける事になったRYUは、せめて始まる前に美晴にだけ応援を向けた。これからは自分も審査員として見ていかなくてはならない。一人だけを見る事は出来なくなる。

 RYUは、美晴が精いっぱいに臨めるように優しく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで、達也様に頭ポンポンされたら、キュン萌えしてしまうな~。


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オーディション一次、開始。

一次をクリアしないと。


 

 

 

 

 

 

 

 「それでは、まず一次のオーディションを始めます。一次ではみなさんに、ダンスを披露してもらいます。どんなジャンルのダンスでもいいです。」

 

 

 大澤監督がマイクを通して、一次の内容を参加者たちに語る。

 

 参加者たちは待ってましたという顔で表情も挑戦的になる。それもそのはず。彼女達は自分が持つダンススキルを使ってCM出演を狙っているのだから。

 大澤監督は、身体をフルに使った演出を好んでおり、彼が手がけてきた作品を見た人は、「スリルが凄すぎる」「手に汗を握る思いでつい見入ってしまった」「息をするのを忘れるくらいの怒涛の勢いでのアクションに痺れた」という感想を述べる。

 このような感想を世間に与える大澤監督の作品は、例えCMであろうと人気は高い。CMでアピールした商品や会社は一気に知名度が上がる。そして大澤監督の”人の自然な動きやパフォーマンス”を重視した撮影に抜擢された芸能人はその動きの良さや演技力が認められ、更なる仕事のオファーが舞い込んでくるのだ。

 

 

 だから、大澤監督は芸能界からは『芸能業界の福の神』とも陰でこっそりと言われている。

 

 その大澤監督の異名を知っている参加者はほぼ全員だ。知っているからこそ、このオーディションに合格し、CM出演して有名人としての称号を狙っているのだった。

 

 

 「では受付でもらった番号札を皆さん付けていらっしゃると思います。皆さんそれぞれが持つ番号が呼ばれたら、前に出て、踊ってみてください。…では、13番!」

 

 

 「はいっ!」

 

 

 番号を呼ばれた少女が前に躍り出て、一礼すると軽やかにステップを踏み出し、キレのあるダンスを披露いていく。そのダンスを全員が見守る。そして、一通りダンスが終わり、次の番号を呼ぶ。これを繰り返していき、それぞれのダンスを見ていく。

 審査員席で鑑賞するRYUは、どの少女もこのCMを受けるだけあって、かなりの高レベルのダンスを披露してくる。大澤監督の作品の特色とその影響について全く知らないRYUは、少女たちのレベルの高いダンスをこの目で見れた事でいい機会だと心の中でほくそ笑む。RYUはまさかここまで参加者のダンスが優れているとは思わなかった。それを改めて認識を修正し、たまにお手本になりそうなダンステクニックが出た時は、頭の中で自分がした場合のシュミレーションを行う。芸能業界に入ってまだ1カ月も経っていないが、ダンスを始めたのもまだ1カ月も経っていない。まだまだ学ぶことがたくさんあるとしみじみ感じるのだった。

 

 

 そんな思考を持って観察していたためか、気が付けば残りは美晴ともう一人だけになったいた。

 もうそこまで進んだのかと、他人事のような感じで目の前にある電子ペーパーを手に取り、書類を開く。開いた書類は、応募書類だった。…美晴ではなく、もう一人の天童鈴蘭のものを。

 その書類に書かれたこれまでの芸能界での活躍を知ったRYUは、鈴蘭の出方次第では、「このオーディションは美晴にとって難しい局面に持っていかれるかもしれないな。」と今から踊ろうとする、鈴蘭へと顔を向ける。

 

 すると、一瞬だけ鈴蘭が自分を見た気がした。だが、RYUがその意味を考える事もないまま、鈴蘭の舞は始まった。

 

 

 

 

 

 




ねむ…。
大澤監督ってかなりすごい人だった事が改めて実感したわ。 


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二人の踊り子

モブを色々と出してみたけど、二人の御膳立で終わりそう?


 

 

 

 

 

 鈴蘭の踊りが始まった。

 

 

 そしてそれと同時に会場にどよめきが起きる。

 

 詳しく言うなら、同じオーディション参加者は驚愕と恐れ、嫉妬を滲ませる。美晴はただ尊敬するように目を輝かせて、感動している。その一方、審査員の大澤監督は何度も頷きながら電子ペーパーに何かを書き込んでいく。他のスタッフも若干頬を赤く染め、魅入っている。特に、翔琉は口を大きく開けて、全身に力が入っていないのではと思わせるほど脱力した状態で鈴蘭を凝視していた。その顔には引き締まりがなく、先程までの審査の時での真剣にダンスを評価していた面影はもはやなかった。

 

 会場にいるすべての人間を魅了しているのは、もちろん鈴蘭だった。

 

 

 曲もなしで自分のダンスを披露するのだが、鈴蘭に至っては、踊り始めてすぐに曲が流れているような錯覚を感じさせるほど可憐で、繊細で、美しく、思わず見入ってしまうのだ。

 

 鈴蘭はバレエを踊っていた。

 

 足の爪先で綺麗にバランスを取って立ち上がったり、空中で綺麗な開脚をして、軽やかでありながら優美さを感じさせる。そして指の先やまつ毛の先までバレエによる圧倒的な表現をやり遂げる。そのお蔭で彼女と不意に目が合ったスタッフは激しい動悸に見舞われ、他のスタッフの肩を借りなければ立っていられない状況に陥るのであった。

 

 そして踊り始めてから数分経ち、そろそろ終わりかと思ったその時、鈴蘭が自分のスカートのボタンを外した。違った意味でのどよめきが審査員席やその傍らにいる者達から沸き起こる。それを呆れた視線で見つめるのは、参加者たちだ。

 

 残念ながら、彼らが期待した展開にはならなかったが、その分より鈴蘭の演技や表現の奥深さを知る事になる。

 腰あたりに止めていたボタンを外されたスカートは一気に下へと下がり、足首までのロングスカートへと変わる。裾にはレースがあり、鈴蘭が動くたびに緩やかに靡く事で、色気が増す。

 たった一つの変化で鈴蘭にまた違った風貌を見せられた審査員は圧巻に陥る。

 

 その反応を見て、ふと微笑んだ鈴蘭は何処から持ち出したのか、扇子を持つと、それを広げ、今度は舞を披露し出した。

 

 

 異なる二つの踊り。洋と和の両方の世界観を見せられた一同。

 

 

 舞を踊る鈴蘭は、前の踊りの際の華麗さや優美さを兼ね備えていたが更に色気や妖艶さが入り混じり、回ると髪が浮き上がり、美しい曲線のうなじを見て、惚れ惚れとさせる。

 

 この状況を例えるなら、そう…、お茶屋で舞妓の踊りを鑑賞して盛り上がる男性客のようだ。

 

 

 

 

 そんな状況が続き、鈴蘭の踊りが終わると、会場全体で拍手が鳴り響く。

 

 

 特に審査員の方が感情を吐露している。翔琉が一番大きく拍手して、完全に夢見心地で見惚れている。

 

 その拍手にこたえるように綺麗に腰を折ってお辞儀する鈴蘭は、最後にちらりとRYUを見てから、参加者たちの列に戻っていった。

 

 

 

 鈴蘭のダンスは、まるで二人の踊り子を見ているようで、これまでの参加者たちとの圧倒的な実力の差を知らしめる。

 

 

 

 

 

 参加者たちの列に戻った鈴蘭はふと自分をキラキラとした目で感動しましたと言わんばかりの強烈な尊敬のまなざしを向けてくる美晴を視界にとらえると、ふっと笑い掛ける。

 その笑みは、友好関係を築こうとか、嬉しくて美晴の眼差しに応えたというわけではない。

 

 

 

 …これでこのオーディションで選ばれるのは私だと、上から目線で一瞥した笑いを送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オーディションでは印象が大事だったりするからね。
サプライズで印象を植え付けたりって、鈴蘭は慣れているのかもしれない。

そして、翔琉…。もしかして…!!


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踊る妖精

鈴蘭のダンスの後、そして最後の締めくくりで美晴が…!
プレッシャー半端なくない!?


 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴蘭のダンスが終わり、審査員たちはお互いの顔を見ながら、小さな声で議論する。鈴蘭は全く異なったダンスでそれぞれの表現力を魅せただけでなく、しっかりと独自性を出していた。技術力も申し分ない。早くも合格者の候補に挙がってしまった。

 

 …と言っても、そう考えているのはスタッフであり、大澤監督は気に入ったという表情はしているものの、そこにはまだ決定を下すには尚早だという真剣な眼差しを持っていた。その眼差しはこれから最後の締めくくりとしてダンスを披露する美晴へと向けられていた。

 

 そんな審査員側の様子を客観的に観察する者が一人いた。

 

 

 もちろん、RYUだ。

 

 

 RYUは、審査員としての責務をきちんと行っていた。動画や雑誌、書籍等を見て研究していたダンスの技を頭の中で思い起こしながら、参加者たちのダンスの精度や難易度を観察していた。鈴蘭の時も同じだ。だからなぜか鈴蘭が踊り始めてから上の空になった翔琉を横目で確認して呆れた。「何をしてるんだ?」と。

 

 RYUには分からない感情が彼らの心を支配しているという事に気づかないRYUは、声を掛ける事もせず、ただ評価を電子ペーパーに書いていく。

 

 あくまで、ダンスの評価だけだが。

 

 

 表現力とかの評価はしていない。

 

 いや、できないんだ。

 

 

 表現ともなると、感情が反映されてくるが、それを理解できないため、何を表現しているとかは全く分からない。そのためにダンスの面での評価を事細かくすることぐらいしかRYUにはできないのだった。

 

 しかし、これは悪い事ではない。

 

 RYUは鈴蘭の審査中、鈴蘭のバランスがとれ、経験者らしいダンスを見る事が出来て、感謝したのだ。事細かくダンスを見る事が出来たため、自分のダンスの精度もまた上がるいい見本になった事が嬉しいからだ。

 

 そういう事で、RYUは鈴蘭のダンスから多くを学び、良い参考になったと少しだけ唇を吊り上げる。

 

 

 すると、美晴がついに呼ばれ、目の前に来て、ダンスを披露し始めた。

 

 

 

 

 そしてRYUは、ほくそ笑む。

 

 

 なぜなら、美晴のダンスを見て、和みを感じたからだ。

 

 美晴は鈴蘭とは正反対の表現で魅入らせていた。鈴蘭が大人な雰囲気を持ち出したのとは裏腹に、美晴のはポップで、元気で明るさが感じられるものだった。年の割には小柄な体型と満面の笑顔を浮かべると、可愛さもあるが、みんなを包み込む太陽にも思う。

 

 もっと言うならば、”踊る妖精”のようだ。

 

 

 その妖精を思わせる美晴のダンスはRYUとレッスンしていた技も使っていて、この日のために努力してきた事が分かるし、楽しそうに笑って踊る美晴の魅力は、RYU以外の審査員にも届いていた。

 

 

 




可愛らしい妖精だね、美晴。

RYUは…、達也っぽいね。いやいや達也が変装しているから!


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二次オーディションへの通過権

美晴!!無事に通りますように!!(作者が祈ってどうするよ!?)


 

 

 

 

 

 

 

 

 満面の笑顔のまま、アクロバックな動きも取り入れたヒップポップダンスやブレイクダンスを魅せつける美晴。ダンスレッスンで教えている際、美晴の柔らかい身体と女性らしさを兼ね備えた身軽さを見抜いていたRYUが美晴に助言したものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それまでは鈴蘭のように大人の女性を意識したダンスを習っていた美晴だったが、背伸びしようとして、余計に美晴に合っていないという違和感が露わになっていた。それをダンスレッスンですぐに感じたRYUが、美晴の持つ明るい性格と笑顔を最大限に活かせるヒップポップダンスやブレイクダンスを融合させたものに変更させたのだ。

 

 RYUがそう助言した時は、美晴も突然すぎて戸惑ったが、一回だけRYUが見本として見せた振付を自分でやってみたら、一瞬でこれだ!と思うほど自分にピッタリな事を実感した。天然すぎる性格で、「年の割には子供っぽい」と周りに言われ続けてきた美晴はいつのまにか少しでも大人になろうとしていた。芸能事務所も自分以外のアイドルやスタッフは他に移籍してしまって去って行ってしまった。金星社長を支えるには、今の自分じゃだめだと無意識に考え、行動した結果だったのだ。

 

 

 「やはり、美晴にはこっちの方が美晴らしいと思うぞ? 無理して背伸びする必要は無い。美晴は十分いいところがある。その長所をより生かしていけばいい。」

 

 

 踊り終わって、胸の縁がすっと空いた気がした美晴。その美晴の素直な笑みを見て、そう話しかけたRYU。

 

 

 そのRYUにますます感謝を感じた美晴は、いつかはRYUに認められるくらいになりたいと思う。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 あの時のRYUの言葉を支えに自主練もしてきた美晴。

 

 

 そして今はまさに、あの時のRYUの言葉を思い出しながら、今の輝いている自分に愛情を持って、それをめいっぱい表現する。

 

 

 踊っている自分は楽しい!

 

 踊っている自分が好き!

 

 踊っている自分を見てほしい!

 

 

 そんな気持ちで運動量も激しいはずなのに、笑顔を浮かべたまま踊る美晴。その行動が審査員たちの心を掴んでいく。

 翔琉は、さっきまでの見惚れていた表情とは一変して、驚愕と同感、そして仲間意識を感じてガッツポーズをして応援していた。

 

 見学する参加者たちも笑顔で見守り、身体でリズムを取り始めている。

 

 

 美晴のダンスは会場全体に影響を与えていた。

 

 

 それを踊りながら、見ていた美晴は自分のダンスでみんなが笑顔になり、楽しい気分になってくれているという状況が嬉しくなった。そして、最後の締めくくりに気合を入れて飛ぶ…!

 

 

 「な! バグ宙!しかもひねりを入れてきやがった…!」

 

 

 翔琉がまさかレベルの高い捻りを入れてくるとは思っていなかったのか、大声で驚愕を表す。美晴も練習では成功率が半々だったため、やるかどうかは最後まで考えていたが、RYUが見てくれていると思うと自然と力が湧いてきて、絶対に成功してみせる!と挑戦した。

 

 

 その美晴の想いは届き、大技は無事に成功する。

 

 

 着地と同時に回転して勢いを殺していき、決めポーズを決めると徐々に拍手が沸き起こった。

 

 

 「あの子、凄いな!!」

 

 

 「まさかあそこまで修得しているとは思わなかった!!」

 

 

 「これはますます見ごたえがあるオーディションになるぞ!」

 

 

 どこからか聞こえてくる絶賛の声も沸き起こり、美晴は息を整えながらも笑みを崩さずにお辞儀する。

 

 

 審査員の席からも拍手が起き、大澤監督は何度も頷きながら拍手する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、一次オーディションが終わり、次の二次オーディションへの通過者を選定していく。その結果は、審査員全員の納得いく選定だった。

 

 

 再び並んで自分の番号が呼ばれるのを必死で願う参加者たち。

 

 その緊張した雰囲気の中、大澤監督の口から通過者が発表されていく。

 

 

 「それでは、二次オーディションへの通過者を発表させていただきます。まずは…」

 

 

 大澤監督に選ばれた参加者たちが次々と発表されていく。選ばれたものはほっと安堵したり、うれし涙を流したりした。

 

 

 「11番、天童鈴蘭。」

 

 

 鈴蘭も呼ばれて優雅なお辞儀をする。そこに浮かぶ表情は当然というものだった。

 

 

 そして最後の枠として選ばれたのは…

 

 

 

 「25番、日暮美晴。」

 

 

 美晴の名が呼ばれ、美晴は自分が通過した事を理解し、心からの笑顔を振りまく。

 

 

 「以上が二次オーディションを通過する皆さんです。オーディションは昼を挟んで二時間後に開始します。」

 

 

 大澤監督がそう告げると、審査員たちを連れて隣接する部屋のドアに向かって歩き、姿を消した。その後ろには、名残惜しそうに鈴蘭を盗み見る翔琉の姿もあった。

 

 そして最後に席を立ったRYUは、子犬の表情で自分を見る美晴と目が合い、思わず苦笑いになりそうになったが、労いの意味を込めて微笑を浮かべて、ドアの奥へと消えていった。

 

 

 




やった~~!!美晴が一次をクリアしたよ~~!!

めちゃ喜んでいるうち。


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闘争心の宣言

オーディションが始まる前の休憩時間で…


 

 

 

 

 

 

 

 参加者たちの控室にて。

 

 

 一次を落ちた参加者たちは、落胆が隠しきれないほどショックを受けて控室を後にしていく。その際にオーディションで知り合った子で励まし合ったり、二次を通過した子には激励や応援を口にしている声があった。

 …もっともそれらは少数であり、多くは二次へと通過した子への悪口や妬み、呪詛を口にしていたが。口だけでなく、嫉妬を向ける視線が鋭く光る表情があちらこちらにある。オーディションに応募し、参加した全員が女性で、このオーディションに芸能界入りや更なる知名度への打診にと燃えていただけにその熱意が嫉妬へと変換されていったのだ。

 

 この控室を審査員や男性が覗き見たら、先程までの懸命な彼女達はどこにいるんだ?と思いながら、室内の空気に後退りして退却するだろう。

 

 それほどの心労を与えるほどの怨念?に似た空気が蠢いていた。

 

その空気の中、嫉妬の眼差しを一身に受けているのは、今回のオーディションでの本命である鈴蘭だった。自分より才能のある者を羨ましがったり、嫌悪感を抱くのは人間として仕方ないかもしれない。しかし、鈴蘭は自らの力で通過したので、嫉妬の眼差しや悪口を言われるような覚えはない。それはその眼差しを向けている不合格者たちも本当は醜いとは分かってはいる。それでも、自分が不合格だったのは目の前に強大な壁が出てきた所為だと思い込みたいという、現実逃避気味な思いが強いからだ。

 

 そしてそんな彼女らを更に煽るような姿を見せている鈴蘭の状況が悪化させている。

 

 鈴蘭がパイプ椅子に座ってミネラルウォーターを口にしながら休憩している。それは別に悪くはない。…ただその周りの取り巻き達の態度が彼女達に怒りを与えていた。

 取り巻きだからと偉そうな物言いをして、他の落第者たちを鼻で嘲笑う。そこで鈴蘭を担ぎ上げて鈴蘭を褒めると同時に取り巻きである自分達がいかに優れているのかを大声で振りまく。ちなみに取り巻き達は全員通過してはいないが。

 

 

 まさに「虎の威を借る狐」という言葉が相応しい。

 

 

 その虎である鈴蘭は止める訳ではなく、無言でどうでも良さそうに冷ややかな表情を見せ、情報端末を取りだし、書籍サイトを立ち上げる。完全に事態を放っておく気満々だ。

 

 

 これで、控室の温度が更に下がっていくと思われた。しかし、それを物ともしない天然を持った少女が鈴蘭に近づく。

 

 

 「鈴蘭さん、一次通過おめでとうございます! ダンス素晴らしかったです。感動しました! 私もまだまだ頑張らなきゃ!って思いました!

  あ、でも二次では私も合格を取りに行きますから、負けませんよ!

  お互い全力で頑張りましょう、鈴蘭さん!」

 

 

 鈴蘭に手を差し伸べて、満面の笑顔で握手を求める美晴。

 

 二度目の正直で、今度こそ友好的な関係を築こうとする美晴に対して、鈴蘭の取り巻き達は、毒気が抜かされた。

 茫然と眺めるだけの取り巻き達と違って、鈴蘭はため息を吐いてみせ、書籍サイトを閉じる。そしてパイプ椅子から立ち上がると美晴と正面から向き合う。

 

 

 

 「さっきも言ったと思いますけど、私は貴方と仲良くする気は全くありません。それに今、私達はお互いこのCMに起用されるために闘っている敵同士です。おいそれと敵に付き合うつもりもありません。大体そのようなお友達ごっこをしているから、注意力散漫して、落ちるんですよ。」

 

 

 一度言葉を切って、だらしがないと言わんばかりの表情で一次を通過できなかった人たちを厳正する。

 

 

 「…それって、もしかして……」

 

 

 美晴がごくりとつばを飲み込んで、鈴蘭に問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私をライバルと認めてくれたって事ですか!?」

 

 

 目をキラキラとさせて大いに喜ぶ美晴の純粋な表情にさすがの鈴蘭も脱力気味になり、顔が引き攣る。

 

 

 「……っ、そうよ! あなたにだけは私だって負けないので! 絶対に私が受かって見せます!」

 

 

 否定するともっと厄介な展開になると察した鈴蘭は、言うつもりもなかった闘争心が込められたライバル宣言をする。

 思わず声を出していってしまった事に、鈴蘭は若干恥ずかしそうに照れる。

 

 

 なんとか言い訳しようとした鈴蘭だったが、ちょうどいいタイミングで二次オーディションのために呼びに来た人物によってそれは霧散する。

 その代わりと言ってはなんだが、呼びに来た人物に固まる鈴蘭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




女の嫉妬って怖い時がある。敵に回したらやばす。きをつけるなり、男子の皆さん…!シュタ!!(逃げの小太郎)


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恐れる空間

関係が徐々に絡まりつつある・・・!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 休憩時間が終わり、二次オーディションの参加者を会場へと案内するため、控室へと向かう人影が今の内にと、溜息を吐く。

 

 

 「オーディション自体初めてだが、これって俺がする必要あるのか?」

 

 

 もはや愚痴とも聞き取れる独り言を呟くのは、RYUだ。

 

 そう、RYUは二次参加者たちを呼びに行き、会場へ連れてくるという役回りをすることになったからである。

 その理由は簡単だ。スタッフの誰もが行きたがらなかったからだ。

 元々呼びに行くスタッフは決まっていたが、連絡事項の確認等で一度控室に行って帰ってきた時物凄く顔色を悪くし、歯もガタガタと震わせるほどの怯えようだった。そしてそのスタッフは打たれ弱い性格なのか、お腹を押さえて痛がり始め、病院へと一人のお供をつけて会場を後にした。その姿を「あれは胃に穴が開いてるな…。」と他人事だと弁えた目で見送ったRYUだった。

 そんな事があったから、代わりに呼びに行くという役目を誰もやろうとはしなかった。同じスタッフの人でさえ、呼びに行くのを渋っている。

 しかしこれではいつまで経っても終わる事は出来ない。RYUもこの後の予定があるため、早く済ませられるなら済ませたい。そのためにRYUは大澤監督に話しかける。

 

 

 「大澤監督、監督が指示すればさすがに行くと思いますが。」

 

 

 「そうだな~…、よし、では…」

 

 

 数秒考えた末に大澤監督の口から出た名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「RYU君、よろしく頼むよ。」

 

 

 

 「…………は?」

 

 

 まさか自分に振って来るとは思わなかったRYUは戸惑いの表情を一瞬だけ見せた後、しばらくしてから座っていたパイプ椅子から腰を上げ、立ち上がる。

 

 

 「……分かりました。呼んできます。」

 

 

 「ありがとう、RYU君。君ならそう言ってくれると思っていたよ。…君じゃないと抑えられないからね。」

 

 

 「?」

 

 

 なぜ自分が行けば上手くいくのか?

 

 

 意味深な発言に頭の中で疑問が起きる訳だが、壁際で控えているスタッフたちを見て、その疑問は消えた。さっきまで身体を硬直させたり、そっぽ向いて選ばれないように身体ごと逸らしたりしていた彼らがRYUが行くと決まった途端、安堵の表情を見せ、緊張が解けた事で雑談をし出す。オーディションを円滑に運ぶためにいるはずの彼らがこの調子なら、自分が行った方が早い。そう思わせるほどRYUは呆れる。

 

 それからは会場を後にし、控室に向かうため廊下を歩いていたのであった。

 

 

 今更彼らに任せるつもりもないが、やはり「これは間違っていないか?」と再び思うほど気分的には落ち着かない。そして考え事しているうちに到着した控室の前で立ち止まる。ノックしようと思ったが、廊下からも漂ってくる中の尋常ではないびりびりとした空気を感じ取った。人の気配に敏感なため、中の状況は手に取るように分かる…というのは大袈裟だと思うかもしれないが、あのスタッフがなぜあんな事になったのか理解した気がした。そして他のスタッフが行きたがらなかったのも。この独独とした部屋の空間に尻込みしたのだと。

 

 

 (まぁ、俺は慣れているから問題ないがな。)

 

 

 女性の蠢く黒い空気を平然と受け止めるRYUの鋼の精神で控室のドアをノックする。

 

 そしてドアを開け、中に入るのだった…。

 

 

 

 

 




これぐらいならRYU(達也)は平気だよね~。



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二次の課題

オーディション再開!!…でもちょっとややこしい事が起きそうな予感。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 大澤監督が言ったとおり、RYUが呼びに行き、数分経った後、会場に二次参加者がRYUの後をついて入ってきた。その時色々と会場を準備していたスタッフや審査員たちの目が呆気にとられて一点を見ていた。

 

 その集中した眼差しの先には、RYUが立っている。

 

 しかし、向けられている視線の意味合いは好意的ではなく、不満や羨ましさ、妬みが混じった負の感情だった。

 

 向けられている視線には当然RYUも気づいていた。…というより隠す気もないのだろう。こういう感情の視線はよく向けられるし、慣れている。(病院に行く事になった呼び出しスタッフなら間違いなくあともう一つ胃に穴を開けるかもしれないが。)

 

 しかし、視線に乗った負の感情には敏感に察知できるが、なぜ自分がそんな視線を受ける事になったのか、RYUには理解できなかった。寧ろ、呼びに行く彼らに代わって呼びに行ったのだ。無事につれてきたなら最低でも安堵するなり、礼を言いに来たりするのがふつうだろう。ところがそんな事は一切なく、入ってきた瞬間から目を見開いて、羨ましそうに目を細めて見てくる。

 

 かれらが自分を見てくる理由が気になるRYU。それでも今は時間が欲しい。

 

 ふと湧き上がった疑問を意識から除外し、審査員席に設けられている自分の席に座る。

 

 そのRYUに大澤監督を挟んだ向かい側に翔琉がブツブツと恨み言を小声で口にする。それは何か言っているな~という程度の声量だったが、訓練で聴力も優れているRYUは向かい側に座っている翔琉の恨み言をはっきりと耳にした。そしてその恨み言を聞いた事で先程思った疑問が解消する。

 

 

 「………何で入ってくる時、女の子たちを一列にさせて入ってこさせるんだよ!しかも全員姿勢が良すぎるって! 思わずRYUという主に仕えるメイド達の行列を見た気分になったじゃないか! あいつの堂々とした態度もそれに拍車かけているようだったし!

 ………絶対にあいつには負けられねぇ~!!」

 

 

 「翔琉君、そろそろもどってくれないかね?」

 

 

 「……うぁ?…あ、ああ。じゃ、二次始めようぜ? 大澤さん!」

 

 

 ブツブツ呟く翔琉に大澤監督が指示すると、審査員としての翔琉が舞い戻ってきた。それを見て、RYUが『単純だな』と思ったのかは分からないが。

 

 

 何はともかく、こうして参加者全員そろった事だし、二次審査を始めた方がいい。

 

 

 大澤監督が参加者たちの顔を見渡して、一回だけ頷くと口を開けて、大声で呼びかける。

 

 

 「それではこれより二次オーディションを始めます。一次を通過した方々おめでとうございます。

 

  その調子で皆さんの一面をもっと見せてください。」

 

 

 「「ありがとうございます!」」

 

 

 「良いですよ。では二次での課題は……プリンセスだな。」

 

 

 突如として告げられた課題に覆いに驚く参加者たち。

 

 

 これには脱力気味になっても仕方ないなと大澤監督の大雑把なところが愛される謂れなんだろうなと他人事のように聞いたRYUだった。

 

 

 




やべ…、ねむ~。

”プリンセス”だけ言われても課題になってない!? 具体的にはどうするのだろうか。


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プリンセスの心

乙女は皆プリンセス願望を持っていたりする…。小さくもあれば大きくも。


 

 

 

 

 

 

 「プリンセス……ですか?」

 

 

 挙手して自分の聞き間違いではないのかと疑った参加者の一人が問い返す。もっと具体的に説明してほしいと。他の参加者たちもそれを望んで神経を研ぎ澄ます。

 そんな必死な彼女らを横目で見た鈴蘭はつまらなさを感じるため息を心の中でする。

 

 鈴蘭は大澤監督の一言で二次審査の内容を検討付けていたのだから。「少し考えれば分かるというのに…、本気で役を獲る気で来たのかしら?」と思うほど。

 

 その一方で美晴は「プリンセスってキラキラしていてずっと憧れているんですよね~。」と天然に捉えていた。

 

 参加者たちの反応を見て、ほくほくと笑顔を浮かべる大澤監督。

 

 

 その笑顔を横からこっそりと見て、RYUはそれが何を考えているのか、この説明の狙いを悟られないために作りだした仮面だと見抜いていた。自然にできてはいるが、RYUは大澤監督以外にも自分を偽る事が出来る人物を数多く知っているし、傍からも見てきたため、すぐに見破る事は出来る。…唯一見抜けない時があるのは、最愛の妹のみだ。

 

 

 そんな事情から大澤監督が何を見ているのかを見抜いたRYUは、もう一度参加者たちを見て、これで大半は絞り込みができ、後は演技次第だな…、ともう既に結果が見えた気分になりながらも最後まで見届けるつもりで黙って進行を見守る。

 もしかしたら最後の最後で、予想外な事があるかもしれないからだ。

 

 

 「ええ、プリンセスです。

 

  皆さんには後ろに用意している小道具や衣装を含め、この会場にあるものを使って、貴方なりのプリンセスを見せていただきます。制限時間は1分で。では準備に選んでください。」

 

 

 大澤監督がアイコンタクトでスタッフに合図すると、頷いて返答したスタッフが首から下げていた笛を口につけ、息を吸い込む。

 

 

 

 ピィィィ―――――――!!

 

 

 

 

 甲高い笛の音が会場に響き渡る。

 

 

 その合図を受け、真っ先に動いたのは鈴蘭だった。しかも走って道具を鳥に行く事もせず、背筋を伸ばしたまま綺麗に歩く。

 

 まるで、必要な者は全て決まっているという圧倒的自信を持っているような…。

 

 それに疎れていたという訳ではないが、もう審査が始まっている事に気づき、慌てて道具や衣装に向かって競うように奪い合う参加者たち。傍から見れば、そこはバーゲンセールに集う者達…に見える。

 

 

 「あ~~あ…。 すっかり大澤さんのペースに嵌ってしまっているな~。これならかなり振るい落としもできたんじゃないすか~?

  可哀想だけど、ここまで進めただけでも立派だぜ。」

 

 

 参加者たちの光景を見ながら、言葉にした通りの憐れみを向ける表情をする翔琉は、隣の大澤監督に思いきり満面の笑みを向けられ、顔を引き攣る。そして口笛を吹いて横に視線を逸らす。

 前から大澤監督の作品に何度か出演している翔琉は大澤監督の意図を知っていた。それ故に先程よりは冷静になったのか、いざこざはなくなったが、相手を出し抜こうというブラックな一面が出しながら品定めしていく彼女らの行動が意図にまったく気づくどころか不利になっている事にも分かっていないと、少々呆れてきたのであった。

 

 

 そして数分経ち、全員準備が終わったようなので、それぞれの自分なりのプリンセスとは何か、を演技で見せてもらおう。

 

 

 「ではまずはじめに…、日暮美晴さん。お願いします。」

 

 

 「は、はい! よろしくお願いします。」

 

 

 一番バッターとして呼ばれたのは、美晴だった。

 

 

 本当は鈴蘭からやろうと思ったが、美晴を見てから考えを変え、一番に美晴の演技を見たくなったのだ。

 

 ……………だって美晴が用意したものは、なかったのだから。

 

 

 その意味は、道具は使わないで自分の演技に…、表現力で勝負するという意思表現だ。

 

 それは大澤監督に興味を引かせるのは十分だった。己の力だけでどこまでやれるのか見てみたくなった。

 

 

 「それでは……用意…、始めっ!」

 

 

 時計を確認しながらタイマーがスタートする。制限時間は一分。この一分で、美晴はどんなプリンセスの心を表現するのだろうか。

 

 

 




さて…、美晴の演技…、どうなることやら。


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意外満載な序奏

ここで美晴が凄いって所を見せていかないと!!…できるかな?


 

 

 

 

 

 

 

 合図が入り、美晴がプリンセスの演技を開始する。

 

 そのためにまず一番最初にした事は………、自分の整った髪を手でボサボサに乱れさせる事だった。身嗜みも崩して(たとえばボタンを掛け間違えたり、片方のレギンスの裾を持ち上げて、だらしなさを演出する)、更にしっかりと伸びていた背筋も前に少し曲げて猫背にする事によって、さっきまでの美晴とは思えないほど、印象がガラッと変わった。

 

 さっきまでは明るくて、笑顔いっぱいだった美晴とは違い、オドオドしていて引っ込み思案な少女になっていた。

 

 この変わりようには小さなどよめきが起こる。しかし今が審査中だというのは弁えているため、すぐに収まる。

 

 

 

 まぁ、既に切り替えている美晴は、オドオドした態度で演技に入る。

 

 

 どうやらあたりをキョロキョロし、何かを避けるように歩いて座り込む。いや、崩れ落ちると言うべきか。力なく床に座り込み、全身を震え上がらせ、頭を抱える。何かに恐怖している様子だ。

 

 この演技を見て、リアルに感じる恐怖が伝わってくるが、審査員も参加者たちも訝しい視線を向けている。

 確かに演技力は凄い。美晴が演じている少女が怯えているのがひしひし伝わってくる。しかし、大澤監督が提示したのは、「自分なりのプリンセスを見せてほしい」だ。プリンセスと言えば、綺麗なお城で美しいドレスを着て、優雅で何不自由ない生活をしてきた美人。輝きを持っている存在だ。それなのに美晴が演じているのはそれとはまったく正反対のもの。訝しむのは当然だった。しかし、ここでそれぞれが抱く考え方が大きく変わってくる。

 

 一つ目は、プリンセスの演技とは到底思えない美晴の演技に「ミスったわね。」「これでライバルは一人消えてくれたわ。」等の不敵な笑みを浮かべた参加者たち。

 

 二つ目は、プリンセスの演技とは到底思えない美晴の演技に「あの子は何をしようとしているんだ?」「これは審査の基準に当てはまらないのでは?止めるべきか?」等の困惑と疑問、鼻白むオーディションスタッフ。

 

 そして最後の三つ目は、美晴の演技をプリンセスの演技の前振りだと読んで、どこまでの表現力を魅せてくれるのか、興味と期待が混じった視線で見つめている大澤監督、翔琉、RYU、そして鈴蘭といったこのオーディションの深淵に気づいている者達だった。

 

 

 このそれぞれの観点から美晴を見た時、同じ結果を見たというのに、浮かべる表情は全く異なるのはもう少し先になる。

 

 

 

 

 …話が少し逸れたが、美晴は自分なりの”プリンセス”として考えて演技を続けていく。

 

 

 

 その演技は誰でも当てはまる可能性がある内容だった。

 

 

 ……女の子として生まれたなら。

 

 

 




…そう言えば気が付いたら、300話超えていた。


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私のプリンセス

今日も頑張りますか~。


 

 

 

 

 

 

 

 内気で暗い印象の美晴がなにやら本を読みだす仕草をする。そして表情にも少し憧れや輝きが見られる。ボサボサとした髪で目が覆われているため、内気なイメージが残りつつも、ほんのり笑顔を見せる事で、美晴が演じる少女の内心が垣間見えた。

 

 そこに、美晴がふと振り返り固まる。その表情には驚きがあったが、それと同時に頬を赤らめる。そして俯いてもじもじと指を絡める。少しした後で自分の頭に手を置き、今まで見せた少女の笑みの中で一番輝いていた。

 

 それからは何かを決心した顔つきを見せ、乱れていた服装も整え、ボサボサさせた髪も洗う仕草も取り入れ、綺麗に戻す。慣れないメイクをしている感を出しながら鏡の前で必死に自分を磨く姿を表現する。

 

 そしてついに輝かしい変貌(元の姿)に生まれ変わった。

 

 ドキドキしているのか、顔も赤いし、何度も深呼吸している。それはまるで告白する可愛らしい少女のように。

 

 その思考は正解で、次の瞬間、美晴が初めて台詞を口にする。

 

 

 『貴方の事が…好きです…!』

 

 

 精一杯自分の気持ちを詰め込んで一言の告白を口にする。

 

 目もつぶって返事を待っている美晴の手は震えている。どんな返事を返されるか怖い…。でも伝える事は言った、『好き』って。その想いが見ている人にも伝わってくる。審査員として美晴の演技を見ているRYUも、微笑ましさを感じて口元が少し緩み、微笑を浮かべていた。

 

 

 そんなRYUの微妙な変化に気づいたんだろう。ふと目を開けて視線が合ったRYUと美晴。微笑を浮かべて自分を見つめてくれるRYUを見て、美晴は緊張から解放され、ほっと胸を撫で下ろし、笑顔を浮かべる。

 

 誰もが想いが通じたと、見事恋が実ったと美晴の笑顔を見て、そう感じるのだった。

 

 

 

 「……はい、終了です! ちょうど一分です!」

 

 

 時間を計っていたスタッフから演技終了が知らせられる。その瞬間、空気が変わり、美晴は少しだけ身体の動きが硬かったが、お辞儀をする。

 

 

 「ありがとうございました。」

 

 

 「……一つだけ質問してもいいかな?日暮さん。」

 

 

 「はい、なんでしょう?」

 

 

 大澤監督が美晴を貫くように熱い眼差しを向ける。それにプレッシャーを感じる美晴だが、持ち前の明るい笑顔を保ちながら答える。

 

 

 「……どうしてあの演技にしたのか教えてもらいたい。あれが君のプリンセスだったのかね?」

 

 

 「はい。」

 

 

 大澤監督と美晴の会話を見守りながら聞く全員。

 

 

 「君のプリンセスとは一体何かな?」

 

 

 「はい…、素敵な恋に憧れる女の子…です。

 

  小さいとき、童話を呼んだりするとお姫様をカッコよく助けてくれる王子様に憧れてました。それが現実にもきっとあるって思うくらい。いつか自分の前にも王子様が現れてくれるって。お姫様を自分と重ねて頑張る人もいる…。それって誰でもお姫様になれるって事ですよね?

 

  だったら、お姫様のように恋に憧れ、頑張る女の子も立派なお姫様だと思って、私なりの”プリンセス”を監督に見てもらいました!」

 

 

 「……国を抱え、財宝も持ち、国の行く末を見守る現実的なプリンセスではなく、メルヘンなプリンセスでもなく、そのプリンセスに憧れる少女に視点を置いたという訳か。

  なるほど~。

 

  …分かりましたよ、答えてくれてありがとう、日暮さん。」

 

 

 「は、はい! ありがとうございました!」

 

 

 さっきよりも深くお辞儀した美晴は参加者たちが並ぶ場所に戻る際、ちらっとRYUを見て、こっそりと笑顔を送る。そして手にはピースサインを作って見せるのであった。

 

 

 




うんうん、美晴の言う事、良くわかるよ。
要するに「恋する乙女は皆プリンセスなのよ!」ですな!

なんだか天然な美晴らしい考え方…だったよ!(たぶん)


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演技の向上

美晴が全力を出した所で、次は…


 

 

 

 

 

 

 美晴の演技が終わり、審査員はそれぞれの情報端末に評価をつけていく。あくまで個人の意見を書いているが、この二次オーディションが終わり全員で合格者を決める際の資料にもなる。

 RYUも審査員の一人として、電子ペーパーに評価をつける。客観的に見てのものだ。美晴とは同じ事務所だが、そんな理由で肩を持つつもりもないし、そこまで美晴を高く評価するほど知っている訳でもない。まぁ、ダンスレッスンを短いが教えたので多少は私情というものが入る余地があるとは思うが、それでも冷静に指摘する所はするだろう。

 

 

 (もし私情を挟んで、結果を捻じ曲げる真似をするなら、それは深雪が関係する時ぐらいだな…。)

 

 

 評価をつけながら、深雪がこの場にいたらという想像をして苦笑しそうになるのを堪えながら採点するRYUは、達也としての自分が出てきた。

 

 まだRYUとして確固たるキャラ設定ができていない達也は苦戦しているものの、なんとかコツは掴んできた。しかし、先程の美晴のように演技できるかと言われれば、答えは「できない」だった。美晴のように表情や雰囲気だけで演じる人物の心情を語るなんて真似は不可能ではないかと思うくらいRYUには難しいものだった。

 

 感情を表現するというのは、その感情を自分も理解してするものだ。

 

 しかし、RYUは…、達也は、幼い頃に実母によって受けた人体実験によって感情をたった一つの感情を除いて消されてしまった。だから、美晴の演技を見ていたRYUは、どうしてそんな風に表現するのか理解できなかった。

 

 

 (俺は、やはりこういった芸術なんてものには縁もない。寧ろ嫌われているな…)

 

 

 と、消極的な考えが頭に浮かぶのであった。

 

 しかし、今まさにRYUとして演技している達也。これをきっかけに何かをつかめればと思うのもまた事実。いつまでも人との接し方や態度を決めておかないとボロが出てくる。それは、真夜から受けた任務に差し支えるという意味が生まれる。

 

 

 (覚悟が足りなかったという訳か。 …苦手だが、やるしかないな。美晴も頑張っている訳だしな。)

 

 

 自分のこれからの方針に一応の対応を決めた達也は、大澤監督が次の参加者を呼んだことで、自分の事は横に置き、審査の方に目を向ける。

 

 

 そして、絶句して身体が固まった感じを受けた。

 

 

 目の前に、深雪がいる………。

 

 

 凛々しく自分に向かって歩み寄る姿が視界に入り、その顔には誰もが目を話す事が出来ないのではないかと思うぐらいの繊細で美しい笑みが浮かんでいた。

 

 その笑みを見て、会場中がざわつく一方、RYUは…いや、達也は背中に嫌な汗を掻いて、額にも汗を掻き始める。

 

 

 

 (これは…! まずい事になった…! )

 

 

 そう心の中で、動揺をする達也は、表面上はお手並み拝見といった期待する態度を取りつつ、この事態をどうやって乗り切るか、必死に頭を回転するのであった。

 

 

 




深雪がここで~!!?どういう事なの!?

…達也! どうするんだ~!! 


…ん?待てよ?


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錯覚と幻想で…

達也にしては慌てています! 内心で。でもすぐに収まるでしょう~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪が不機嫌な時に見せる笑みに思わず顔が引き攣りそうになる達也。もうすっかりRYUというアイドルの意識はどこかへと飛んでいき、普段の男子高校生、司波達也の意識へ変わる。

 

 

 (あの顔は…。俺がもしどうしてここに?

  …なんて答えれば

 

  『何のことでしょう?お兄様?それよりも……深雪を留守番させてまでここに着たかったのですか? 女性が大勢いらっしゃるこの場所に?』

 

 

  ……と、氷柱で心臓を刺してくるような視線と張りつけた満面の不愉快な内心とは対照的な満面の笑みで問い詰めてくる…………感じがする。

  まだ、大勢の人の目があるから、凍りつかされることは無いかもしれないが…。)

 

 

 嫌な汗が止まらない達也は刻一刻と自分に歩いてくる深雪をどう説得しようかと、思案する。

 

 しかし、大澤監督の一言でこの嫌な幻想は破られる事になる。

 

 

 

 

 「次、天童鈴蘭。」

 

 

 「…………え。」

 

 

 一瞬聞き間違いか?、と自分の聴力を疑った達也だったが、どんなに雑音が入ったり、複数人の声が入り混じっても正確に聞き取る事が出来るため、聞き間違う事は達也にはない。しかし、そうだと思いたいほどの信じられない一言だった。

 目を閉じて、もう一度はっきりと正面を見ると、ずっと深雪だと思っていた人物は鈴蘭だったのだ。

 

 

 これには動揺なんてものにはあまり縁のない達也だったが、絶句したのは言うまでもない。

 

 

 (これは…! まさか、精神干渉されていたのか? ……いや、それならすぐに気づいていたはず。魔法が使われた形跡も…ない。 …てことは、俺の幻想だったというのか?)

 

 

 自分自身に『精霊の眼』を向けて、催眠状態ではない事を確認し、異常がない事を知る。しかし、明らかに自分が深雪を見て、冷や汗を掻いたのは事実。現にまだ額に汗が流れていた。

 

 精神科干渉にも耐性を持つ達也は自分に襲った現実を理解できない。

 

 

 必死に考えるが、理解に中々到達できない。

 

 

 しかし、一見魔法と縁がない人にとっては、分かる事である。

 つまり鈴蘭が放つ雰囲気が達也の知っている深雪の雰囲気に酷似していて、その表現力によって、錯覚による幻想を見ていたに過ぎないのだ。

 更に、深雪に気づくほんの少し前まで美晴の演技の評価をつけながら、深雪だったら…と考えていたのと、意識が達也へと変わりつつあった事でより印象を強くしたのであった。

 

 

 だから達也にそれだけの高い表現力を魅せつけた鈴蘭の雰囲気は寧ろ高い評価をするべきだと言える。それに翔琉が呼吸を荒くして、鈴蘭を凝視している。

 

 その反面、未だになぜ深雪と間違えたのか、理解できない達也は、解明するために試行錯誤していた。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 達也が鈴蘭の表現力で深雪と勘違いした事に思考を巡らせている一方で、当の本人である鈴蘭は、優雅に歩み出し、体の軸を安定させたまま、人の上に立つ威厳と真っ直ぐとした面持ちでそれでいて女性らしい笑みを浮かべて進む。それはまるで舞踏会でのお披露目をしているプリンセスのように。

 これが、達也にとって、パーティーの時に深雪が魅せる風貌と重なって見せていたのだった。

 

 しかしそんな事なぞ知らない鈴蘭は、淑女のような振る舞いをする内心では、ここまでうまくいったという喜びと同時に次の作戦への実行に対して不安と緊張があった。

 

 

 (が、頑張るのよ、鈴蘭! 絶対に上手くいくわ!)

 

 

 自分にエールを送り、姿勢を崩さずに目的の場所へと向かう。

 

 

 そこには、鈴蘭がどうしても必要なものがいたから…。

 

 

 

 




やっぱり~~!! 幻影の深雪を見ていただけですな~!

たまにあるよね! いない筈の人の事を考えていたら、不意にその人が現れたり、そっくりさんが現れたり…。

まさか達也様がそれに遭遇するとは思わなかったわ~~!!


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高まる警戒心

深雪と似た雰囲気を出した鈴蘭がどんな演技をするのか…。でも、今日は達也視点で。


 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴蘭が前に躍り出て、スタッフの合図がかかる事なく、そのまま演技が始まった。…というよりは、既に会場中の人達が鈴蘭に引き込まれていたからだ。

 

 洗練された動きで歩み、審査員席の前に来て、そこで止まる。

 

 正確には、ある人の前で…。

 

 その人物に向けて煌めいた笑みを少し首を傾げて窺うようにする。本当なら座っている相手にこんな仕草をすると、少し威圧しているように見えると思うが、これは仕方ない。それに相手の方は、鈴蘭の態度を不愉快だと思うような心の狭い人物でもなかった。寧ろ、「何で俺なんだ?」という疑問が出てくるばかりだった。

 

 鈴蘭は何も言わない。

 

 しかし、鈴蘭が何かを求めている事は、鈴蘭が期待するような視線で見つめる相手には彼女が欲する物が理解できていた。なぜ理解できたのか…。

 それは同じ状況に遭遇した事があるからだ。

 

 

 (困ったことになった…。)

 

 

 心の淵で如何するべきかと判断を誰かに譲りたい気持ちと物凄い警戒心との狭間で悩みながら、鈴蘭の無言のお願いを向けられている相手…………の、RYUであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 深雪と似た面影があったからか、鈴蘭と深雪が重なった事にやっと気づいた達也は、鈴蘭をサングラスの奥から鋭い視線を投げる。サングラスがなければ、どんなに威厳のあり、英才教育を受けたお姫様のように歩く鈴蘭でも直感的に後退りするほどのキレのある視線だ。

 

 達也は、鈴蘭が実は精神干渉系の魔法に優れた魔法師ではないかと、警戒心を最大化させて『精霊の眼』を凝らす。もしかしたら自分自身でも認識できないほどの腕を持つ魔法師ではないかと警戒して…。この世界に”情報”として存在する限り、達也に視えないものはない。だが、達也はそれですべてを視る事が出来ると自負しているつもりもない。穴もあるし、使用するのにも深雪に半分のリソースをしているために十分に視る事は出来ない。その事を知っている…、つまり達也が魔法師である事だけでなく、『精霊の眼』を持つ事を知っている…という可能性も考えられる。

 この任務を遂行する以前に自分の正体を知られてしまうのはまずい。もし達也の想像通りなら、どんな危険に深雪が巻き込まれるか分からないし、正体を知られたとしたら、四葉本家直々に処分の手が回ってくる事もあり得る。

 

 だから、達也のこの警戒心の強さをやり過ぎだとは言えないのである。

 

 

 達也は鈴蘭の動きに注意しながら、『精霊の眼』で鈴蘭の構造を視ていく。怪しい動きや構造があれば、すぐに記録し、人知れずに捕縛するために…。

 

 場合によっては、荒い展開も想定して…。

 

 

 




あれ?なんだかヤバい雰囲気になってきた?

命の奪い合いをしてきた達也には警戒心も相当跳ね上がっているのかもしれないな…。


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姫の資質

今までこんなことは無かったからね。達也の焦りからの警戒マックスは当然なのかも?


 

 

 

 

 

 

 

 

 警戒心を抱く達也は、鈴蘭を隅々まで視る。サングラスをかけていなければ、じろじろと少女の身体を見つめる変態に、嫉妬深い者なら思うかもしれない視線を投げかける。例えそう思われたとしても、達也は気にも留めないだろうが、今は警戒心の方がこれからの芸能界での人気よりも勝っていた。それにずっと視ていなくてもいい。達也が鈴蘭を視ていた時間をいうなら、鈴蘭が歩み寄ってくるわずか数秒間だ。その間に達也は判断する。

 

 

 (………構造上を視ても、魔法特性があるような遺伝子もなかった。魔力もない。…非魔法師であるのは間違いないようだな…。)

 

 

 問題が見つからなかった事で、達也は警戒心を抑える。それは、テロレベルから傷害事件へと引き下げられるほどの落差のあるもので、通常通りの警戒に戻る。武器類も隠し持っていない事は既に視て分かっているし、暗殺能力を叩き込まれていない事は筋肉の構成を視れば分かる。鈴蘭を視る前に、自分自身を『精霊の眼』で確認して、精神干渉を受けていないのは分かっていたから、この情報は確かだ。達也は精神干渉を受けたとしても、誰よりも早く認識する事は出来るし、すぐに魔法の構造を理解して、打破する事が出来る。

 

 達也はここでようやく鈴蘭に抱いた危機感も解除した。それと同時にしみじみと思う。

 

 

 (表現だけで魅せるとは、な。 魔法を使用する事もなく…。 深雪と同じ英才教育を受けていただけではなく、今までの演技の経験で身に付けた動作と言動…。見事としか言えないな。もしかしたら姫としての資質があるかもしれない。…まぁ、そう言った教育は受けていない俺が言うのも間違っている気はするがな。 それにしても、初めはこの仕事を受けるつもりもなかったが、今後の事を考えるといい勉強になるかもしれない…。)

 

 

 …と、鈴蘭の表現力の高さに、学ぶ要素を見出した達也は興味を抱き、研究者の意識が垣間見える。

 

 そんな達也の前に鈴蘭が笑みを浮かべたまま、立ち尽くす。

 

 何かを待っている様子なのは見ればわかるが、自分からは一切何も言わない。

 

 

 審査員の何人かは何をしているのか理解できず、首を傾げている。しかし、達也は鈴蘭が何を考えているか、理解できていた。そして、ため息を吐きたい気分になる。

 

 

 (…………これは、俺から誘われるのを待っているんだろうな?)

 

 

 達也は鈴蘭がダンスの誘いを達也からしてもらう事に期待している。それは、達也も経験済み(去年の九校戦の後夜祭パーティーでのこと)で、状況とあの時のほのかと鈴蘭の様子が重なる。

 達也はデシャブ感をひしひしと感じるが、それを口に出す事はせず、ついには自分に覚悟を決め、席を立つ。

 

 そして机を回って、鈴蘭の隣に立つと、腰を曲げ、手を差し伸べる。

 

 

 「………ご一緒に踊りませんか?」

 

 

 「………はい。」

 

 

 鈴蘭の手が達也の手と重なり、二人は、審査員席から少し離れて、互いにお辞儀した後、手を取り合う。それからどこからかクラシックな音楽が流れ始め、一分間の社交ダンスが始まる。

 

 

 この一分間の間、オーディション会場は舞踏会へと雰囲気を変え、二人の踊りに参加者たちも審査員たちも魅入るのだった。

 

 

 




達也にとっていい刺激?になってよかったね~! そして鈴蘭が達也と一緒にダンスを~~!! 
良いな~~!!


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選考結果…

サブたちは…申し訳ないが、スルーさせてもらいましょう!(笑)


 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴蘭とRYUのダンスは映画のワンシーンのように煌びやかなものだった。

 

 もしここが舞踏会場のように高い天井やシャンデリアがあれば、更に二人の作りだす空間に華が持たせられるのに…、というほどの出来だった。

 ダンスも終わり、互いにお辞儀すると会場中に割れんばかりの拍手喝采が起きる。鈴蘭は少し照れた様子で笑顔を浮かべる。RYUは、さっさと審査員席へと戻り、電子ペーパーで評価をつけ始める。あまり好意的な感情を向けられたことがないため、抱かなくてもいい居心地の悪さを感じていた。それに褒められるほど自分のダンスは上手くないと思っていた為でもある。相変わらず社交ダンスをするような環境を持っていないのと練習する必要性を感じなかったため、去年の九校戦の後夜祭パーティーと同じように、ステップを頭の中で再生し、それを身体で再現しただけに過ぎない。はっきり言って、良い雰囲気を作りだした覚えは全くない。表現力というものは鈴蘭に任せていた。RYUにとって、流れる曲に沿って、ステップを合わせ、更に鈴蘭をリードしているように踊る事で一杯だった。表現力をもっと向上しようとしてもいきなりこれはハードだったのだ。

 

 RYUは評価をつけながら、既にかなりの疲労感を感じ、椅子の背に身体を預けるほど脱力する。

 

 それと反して鈴蘭の方は、参加者たちの方に戻って、自分の手を凝視したと思ったら、不意に可愛らしく、愛らしい微笑を浮かべていた。その頬には若干赤みが見える。

 

 

 こうして、鈴蘭のプリンセスとしての演技は終わり、次々と他の参加者たちが自分の演技を披露していく。

 

 

 しかし、美晴と鈴蘭の演技を見た後からか、なかなか自分なりの演技ができなかったり、二人の演技とインパクトがありすぎて演技が色褪せて見えたりと、平凡…と語りたくなるような演技が繰り広げられていった。

 

 

 その結果、全ての参加者たちの演技が終わり、大澤監督が二次オーディションの終了を告げ、控室で待機しておいてほしいと伝えた。それは、選考結果を発表するという事。皆、会場を後にする時、緊張の面影を見せながら、後にする。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 「………さて、これから合格者を決めていきたいと思うが、皆の意見をある程度聞いておこうか。」

 

 

 大澤監督がまずはじめに口を開き、皆の意見を聞く姿勢を見せる。

 

 

 「今回も凄かったですね~。天童鈴蘭! やはり他の子達とは一線違うと思いましたよ!」

 

 

 「そうだな、あの子は格が違う! 天童鈴蘭の合格は確実だと私は思います!…いえ、採用するべきです!」

 

 

 真っ先に鈴蘭を押してきたのは、CMで宣伝する商品会社の広告課の社員二人。圧倒的な存在感を見せた鈴蘭なら絶対に商品アピールに繋がると二人で盛り上がる。

 大澤監督は深く頷くと、まだ意見を出していない翔琉とRYUに顔を向ける。

 

 

 「二人はどうかね?」

 

 

 「俺も天童鈴蘭が起用されるのは問題ないぜ。商品のコンセプトである”プリンセス”にもぱっちりと当てはまるし、良いCMになるのは間違いない。」

 

 

 「君が真面目に評価するなんて…、雪でも降るのかい?」

 

 

 「俺を馬鹿にしてるだろ? 俺だってこれくらい考えるっての!」

 

 

 派手で、やんちゃなイメージの見た目をしていて、熱くなりやすい言動から馬鹿だと思われがちだが、何事にも一生懸命に生真面目とも言えるほど取り組むためにそうみられるだけである。…ただたまに的外れな言動もするために一介に馬鹿ではない………ともいえない。

 

 

 「分かっているさ。翔琉君は人を見る目があるから信じよう。で、RYU君はどうかね?」

 

 

 「…俺も異論はありません。一人目は天童鈴蘭で問題ないです。姫としての資質は十分に見せてもらいましたので、彼のように良いCMになるのは確実だと思います。」

 

 

 「一人目だと?」

 

 

 「……もう忘れたのか?」

 

 

 RYUは呆れからのため息を隠さずに翔琉を見つめる。それを見て、からかわれたと知り、苛立ちを見せる翔琉。

 

 

 「今回のCMでは俺と……彼が勝負する事になってます。CMも全く違うバーションを作るという事で折り合いがついたと思いますが…。」

 

 

 RYUは確認も兼て大澤監督に視線を向ける。大澤監督は頷いて認めた後、続きを促す。

 

 

 「二つのCMを作るなら、視点を変えた内容でした方がより印象も分かれ、勝敗も点けやすいと思います。そこで、CM別で俺と彼がそれぞれ担当するなら、相手役のプリンセスもそれぞれ別で担当した方がいいのではないかと。」

 

 

 「…つまり、RYU君は採用する人数は二人がいいという訳だな?」

 

 

 「はい、天童鈴蘭を両方のCMに起用したとしても、彼女が魅せるものは根本的に同じなので、まったく違ったバージョンを作るには難しいと思います。」

 

 

 鈴蘭のこれまでのダンスや演技を見て、RYUはどれも表現力が高く、人を魅了する美を上手く使用していた。しかし、華麗さが増して驚いたりはしたが、全く異なった表現(たとえば元気で明るいイメージなど)を披露して驚いたということは無かった。

 

 

 このRYUの提案は、大澤監督も考えていたようで、二言返事で二人の採用を決定した。

 

 

 「それで、あと一人だが、誰かいい子はいたかい?」

 

 

 「……はい。」

 

 

 大澤監督が誰を採用するかはもう決まっているという事を隠さない笑みを浮かべながらもRYUにもう一人の名を話してもらおうとする。RYUは自分が言えば推薦したと捉えられると気づいていた。しかし、自分から提案した分、答えをはっきり言わないと厄介な事になる事も分かっていた。だから、監督の誘いに乗る。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 連絡事項を告げるスタッフが控室に訪れ、選考の結果発表…、合格者の名をついに告げる。

 

 

 残った参加者全員が息を呑んで、祈る。

 

 

 「お待たせしました。今回のCMに起用させていただく事になりました合格者は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  天童鈴蘭さん……と、日暮美晴さんに決定しました!」

 

 

 

 

 名を呼ばれた鈴蘭と美晴は、驚きと嬉しさで緊張していた表情から笑みがこぼれるのであった。

 

 

 




しっかりと審査していたRYU…達也~~!! だからこその合格者の提案は納得!

だって全員鈴蘭押ししていた所に流れを切り裂く真似は…ね~。敢えて二人の起用とする事で、上手く物事を運んだ達也の考えは素晴らしいですよ!


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威圧と魅惑の狭間

無事に合格できた~!


 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 かなりの競争率を勝ち抜き、CM出演が決まった美晴と鈴蘭は、別室でCMの概要を改めて説明を受けていた。一部変更した所もあり、オーディションが終わるまでは簡単な説明で終わっていたからだ。

 

 美晴はスタッフの説明に真剣に耳を傾き、頷きを入れながら、渡された書類に書き込みを入れていく。一方、鈴蘭は冷静な面持ちで書類に目を通しながら説明を無言で聞く。ただし目の輝きは真剣味を帯びていた。

 

 

 「…………という事になっています。ですので、お二人にはそれぞれのCMに分かれて撮影していく事になります。テーマや商品のコンセプトもあるので、どちらをどのCMに起用するかは撮影が始まる際に大澤監督から決定が出ると思いますので、ご了承お願いします。

  ………以上となりますが、何かご質問はありますか?」

 

 

 「わ、私は大じょ……」

 

 

 「なら、遠慮なく言わせていただきますが、……本来ならこのCMで採用されるのは一人だったと思うんですが、なぜ直前になって二人になったのですか?」

 

 

 美晴の言葉と重なって鈴蘭が問いかける。それにどう答えようかとスタッフが困った顔で返答する。

 

 

 「そ、それは…審査員の方々が決めた事ですので。私はその決定を伝えるように言われただけです。」

 

 

 「ではその審査員のどなたが提案成されたのでしょうか? 」

 

 

 更に問い始める鈴蘭の威圧的な視線に怖気るスタッフ。隣に座る美晴も彼女から発せられる苛立ちを感じ、口を挟めずにいる。

 

 

 「どなたでしょうか………?」

 

 

 再度問い掛けられ、有無も言わさない声色にとうとうスタッフも口を開くしかなかった。

 

 

 「り…RYUです! RYUが提案したようです! それぞれ別のテーマでCM撮影するなら、それぞれのCM毎に分かれて採用してもいいのではないか…と!」

 

 

 「え!? RYU…さんがそう仰られたのですか? あの…監督さんはそれを受け入れて…?」

 

 

 「はい、大澤監督もRYUの提案に賛同し、お二人の採用を決定したんです。」

 

 

 RYUが提案したと聞き、美晴は驚いた。一役人気アイドルとして名を知られるようになったとしてもまだ自分のように売出し中だ。芸能界でも徳のある大澤監督と意見を交わし、同じ立場のように話す事が出来たRYUの力量にただ驚く。新人ならなおさら上の指示に沿って行動するように言われる。それを軽々と飛び越えていかれたような感覚を感じた美晴だった。

 鈴蘭も同じく驚いたのか、目を見開いている。さすがに人前であるため、口元には手を当てて、最小限の驚きに留めている。しかし、その驚きから脱出した鈴蘭は、さっきまでとは違って甘い声でクスッと笑い、見惚れるほどの微笑みをスタッフに向けた。

 

 微笑みを向けられたスタッフは、鈴蘭への怯えも忘れて、頬を赤らめて照れ始めた。そしてこう思い始めた。

 

 (これは鈴蘭ちゃんが求めていたものを提供した僕への褒美なんだ!!)

 

 

 ………と。

 

 

 デレデレ感を隠しきれないでいるスタッフに鈴蘭が話を続ける。もちろん、魅惑の微笑みのままで。

 

 

 「ところで、さっきの説明で変更箇所を教えていただきましたけど、初めはCM一本だったのに、二本撮影する事になったいきさつを良ければ教えていただきたいんですけど? もし理由を知らなかったために、撮影に支障をきたしたらいけませんから。」

 

 

 「さすが、仕事に対して熱心な志です! 鈴蘭ちゃ………、ごほん、天童さんのために話しましょう!」

 

 

 完全に鈴蘭の虜になったスタッフは、CM二本取る事になった理由を鈴蘭に話していく。隣に座っている美晴も話を聞いているが、スタッフの視界には鈴蘭しか入っていなかった…。

 

 

 




鈴蘭はどうやら飴と鞭の使い分けを心懸けているのかな?

もしできているなら、将来魔性の女?にもなれる予感。

そして今回のスタッフ……、おいおいおいおいおいおいおい………、残念な男じゃないか!?


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相応しいのは私!!

ははは~、タイトルからもう既に交戦が始まりそうな?


 

 

 

 

 

 

 

 

 スタッフからの説明や聞きたい事は全て聞いた美晴と鈴蘭。(主に鈴蘭が問いただして美晴はそれを聞くという流れだったが。) 与えられた仕事が終わったため、名残惜しそうに部屋を出るスタッフの背中を人付き合いの良さそうな笑みで見送る鈴蘭。そして美晴はその背中に「ありがとうございました!」と、椅子から立ち上がり、深くお辞儀してお礼を言う。

 

 スタッフが姿を消し、廊下で大きなため息を吐いて、肩を落としがっかりしているのはよそに、部屋に残った鈴蘭は、友好的な笑みは一切なくし、その代わりに冷たい視線で嫌悪感を示す。

 隣にいる美晴には一切口を利かず、帰ろうと身支度を始める鈴蘭に美晴が慌てて声を掛ける。

 

 

 「鈴蘭さん、お疲れ様でした! お互いCMに合格できてよかったですね! CM撮影の際は、またよろしくお願いしますね。」

 

 

 笑顔で挨拶する美晴。CM撮影に入ると、他の場面で重なったりするかもしれないと説明を受けていたため、今後も一緒にCM製作に関わることになり、会う事がある可能性がある。だから同じオーディションを合格した者同士、助け合っていきましょう!という意味で話しかけたのだった。

 美晴の話しかけた意味を美晴の浮かべる笑顔で察した鈴蘭は、眉間に皺を作り、怪訝な顔を浮かべる。元々顔立ちも整っている鈴蘭だが、怪訝な顔をしていても、美しさが残っているのは生まれつきの美貌を持っているからか、はたまた子役時代からの表情の演技を熟しているためか。いずれにしても鈴蘭は美晴に対して良い感情は持ち合わせていないという事は理解できる。

 美晴は、そんな鈴蘭の表情を見て、不自然なところがあったのかな?と思うものの、何が悪いのか分からず、話を続けるしか方法が見つからなかった。

 

 

 「私…、アイドルとしてまだデビューは出来ていないんですけど、この仕事でもっと力をつけたいと思ってます! そしてこのCMを成功させて、CMを見てくれた人たちが元気になってくれたら嬉しいです~!」

 

 

 力説する美晴は、完成したCMを見て、微笑む人たちを脳裏で想像して喜びを感じる。しかし……

 

 

 

 

 

 

 ドンッ……!!!

 

 

 

 

 

 何かが力強く机に叩きつけられた音を聞き、脳裏の世界から戻ってきた美晴の眼には、鈴蘭が舌うちし、固く握りしめた拳をテーブルに置いている姿が入った。いや、拳はまた上へ振り上げられ、再び鈍い音を出してテーブルに叩きつけられた。先程の音はこれだったのだ。

 

 この光景を見て、激しく驚いた美晴は、慌てて鈴蘭に話しかける。

 

 

 「ど、どうしました!? 鈴蘭さん! そんな事してはせっかくの綺麗な手が腫れますよ!」

 

 

 「貴方は黙ってなさいっ! 」

 

 

 「!!………」

 

 

 突然の怒りのこもった鈴蘭の言葉に美晴は思わず固まる。そして美晴を見つめる鈴蘭の目は鋭く、否応なく怒っているのは明白だった。

 

 

 「貴女……、何もわかっていないのね!

 

  何で貴女が選ばれたのか…、理解できないわ! 確かに他の子達よりかはいくらかましな演技は出来ていたと思うわよ!? でも私ほどの力量を見せたわけでもない。はっきり言って、小学生の楽劇並みの演技よ。一般人が誰でも思うような演技じゃ、誰だって出来て当たり前よ。それだけの事で、私一人が受かるはずだったのに、貴方と同等に扱われるなんて…、信じられないわ!

 

  それにRYUの計らいで合格したようなものじゃない!? RYUが貴女を推さなかったら受かっていなかったわよ! 自分の実力で勝ち取ったモノじゃないわ!お情けで合格した貴女と一緒にしないでちょうだい!

 

  この仕事で一番ふさわしいのは、私です!

 

  その事を貴女に分からせてあげますから!」

 

 

 言いたい事を言ったいう顔で息キレを多少起こす鈴蘭は、素早く身支度を整えると、颯爽と部屋を後にした。余程この場にいたくなかったのか、早歩きで去っていく。

 

 

 その後ろ姿を呆気に見送る美晴は、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 




とうとう怒りが爆発してしまったようです、鈴蘭。
美晴…、大丈夫かな?


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絡まる関係の前兆

今日は美晴視点でいくか。


 

 

 

 

 

 

 

 

 一人部屋に残された美晴は、先程の鈴蘭の言葉を思い返して俯いていた。

 

 

 「そうだったんだ…、RYUさまが私を推薦してくれてたんだ。…実力ではなかったんだね。それなら鈴蘭さんの怒りももっともだと思う。鈴蘭さんの演技は私も見惚れていたもん。”鈴蘭さんみたいに人を惹き込むような演技をしたい!”って思うくらい。

 

  私のはまだまだだって実感したな~…。」

 

 

 誰もいないからか、独り言が口に出てくる美晴。

 

 鈴蘭の怒りに満ちた台詞を、理不尽な言い分を突きつけられたとは受け取らずに、鈴蘭の気持ちになって、不快感を与えてしまった申し訳なさが込み上げてくる。

 もしここで自分が辞退すれば、鈴蘭は心が晴れて自然な笑みを浮かべてくれるのではないかとも思ってくる。

 

 

 「うん……、私も努力してみたけど、まだ足りなかったんだ。…今からでも遅くないよね?大澤監督に直接会って辞退の話を。」

 

 

 そう思い口に出した時、ふと頭の中で思い出す。

 

 

 RYUと一緒にダンスレッスンした事。遅くまで自分のために可能な限りのレッスンをしてくれた。そして今日もわざわざ予定があるというのに、その間を使って応援しに来てくれた。送迎もしてくれた。更にはこの仕事にも自分がうっかりとRYUの事を話してしまったためにオファーを受ける事になってしまった。明らかに嫌そうな態度もしてたし、はっきりと断っていたのに。それに泣いている私にハンカチを貸してくれた。

 

 

 『オーディション…、頑張れよ。』

 

 

 …って、慰めてもくれた。

 

 

 

 ここまで自分を励ましてくれていて、親身になってくれたRYUが審査員の権利を使って自分を合格にしようと、尽力するだろうか?

 

 まだRYUの事を知らない事は多いが、同事務所だからという理由だけで、審査に口出すような人間ではないと信じている。

 

 美晴は、自分に笑顔を向けて応援してくれたRYUを思い出し、俯いていた顔を力強く上げて、ドアを勢いよく開けて廊下を駆けていく。

 

 

 (RYUさまに真意を確かめてみないと!!)

 

 

 美晴は、RYUと最後に会った会場に向かって走るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 一方その頃、帰ったはずの鈴蘭は、オーディションの際には見せていた余裕さもなくし、非常に焦った様子で廊下を走らない程度の早歩きで進んでいた。傍から見ていると、走りたいが必死に堪えているという雰囲気が表れていた。

 

 なぜそこまで焦っているかというと、美晴への怒りがなかなか収まらず、しばらくロビーの休憩スペースで一服して気分転換したのだが、その際にスクリーン型の情報端末を落としてしまったのだった。

 その情報端末には、自分が受け持つ仕事のスケジュールや仕事の概要、ありとあらゆる知り合いのデータがたくさん入っている。個人情報等のロックはしているものの、入っているデータが漏えいしてしまっては今後の芸能界活動が危うくなる可能性が濃厚だと確信できるほどものだ。それを落としてしまったというのだ。鈴蘭が焦るのも無理はない。

 

 

 (早く、回収しないと、危ない!)

 

 

 若干胸が苦しくなってきたが、そんな事を考えている余裕もない。

 

 目的のロビーは、会場があった近くにある。誰かが拾っている可能性も考慮して、見られていない事を祈りながら歩いていると、曲がり角で現れた人とぶつかりそうになった。

 

 

 「キャッ!」

 

 

 早歩きでそれなりにスピードも出ていたため、その勢いを止めきれず、足が絡み前に倒れそうになる。もう踏ん張りも効かない体勢で、固い廊下に身体を打ち付ける事が想像できた鈴蘭は、咄嗟に壁から現れた人物に助けを求めようと、目を向ける。

 

 

 しかし、その瞬間、助けを求める事を忘れるくらい、その人物に見入るのだった。

 

 

 

 

 

 




最後は鈴蘭だったな~。 ここから徐々にオリキャラ達を達也と絡ませていこう…。ふふふ…


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離脱失敗

モテる人はいいですな~。


 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 (まずいな…。)

 

 

 

 心の中でこの後の予測される結果を考え、頭痛がしそうになる。最悪の事態になるのが見えているからだ。しかし、たった一つの事をするかしないかでは結果が違ってくる。ただし、良い結果になる…と言えるほどの事ではない。せいぜい最悪の事態から面倒な方向というあまり関わりたくないと思うくらいの悪い結果(彼自身の主観でみるとだが)になるというだけだ。「五十歩百歩」という慣用句があるが、まさにそれだ。あまり大差はないかもしれないが、避けて通るにはもはや手遅れ。なら、解放される時間がまだ早い方に賭けるしかない。

 

 

 ……以上の事を瞬時に頭で試行錯誤しているのは、今後の打ち合わせを軽く済ませ、大澤監督達と挨拶して別れたRYUだ。

 そしてそのRYUの目の前では、今回のCMでかなりの支持を得てオーディションに合格した天童鈴蘭だった。その天童鈴蘭は、曲がり角から出てこようとしたRYUとぶつかりそうになり、その拍子で前に転ぶまさにその瞬間だ。

 

 もうすでにお分かりだと思うが、つまりRYUは倒れていく彼女を助けるか、助けないかという瞬時の決断を行っていた。普通は咄嗟に手を差し伸べたりするが、RYUは冷静に鈴蘭が倒れていく様子を優れた動体視力で、まるでスローモーションで見ているように感じながら、今の状況と今後の展開を考慮した結果、手を貸すという結論に達した。

 

 

 

 (なんだかやけに俺を凝視してくるな…。)

 

 

 転びそうになっているというのに、まるで固まったように自分を見続ける鈴蘭を訝しく思いつつも、手を差し伸ばす。

 ここで腰を持ったり、アクシデントで胸に触れたりしないのはさすがのRYU。倒れ行く鈴蘭の手首を握り(痛くない程度の力で)、腕を引っ張る。腕に釣られるように上半身の姿勢が元通りになり、RYUのリードで身体を回転させて床に転びそうになった反動を逃がす。それは傍から見れば、ダンスしているようだ。

 そのお蔭で、鈴蘭は無事に転んで怪我をする事はなかった。

 

 

 「……大丈夫か?」

 

 

 念のため、怪我はないかと尋ねてみるRYU。難なく身体を起こしたし、セクハラだと訴えられるような事もしていないはずだ。確認のために言った言葉だったが、徐々に不安に思えてくる。なぜなら、鈴蘭がずっとRYUを見たまま、見つめてくるからだ。口はパクパクと何かを言おうとしているが、言葉がのどに詰まって出てこない。この状況に再度問題はなかったはずだと先程の出来事を思い返す。

 

 

 (やはり問題はない…な。 …本当はもう一度声を掛けてみるべきなんだろうが、そろそろここを出発しないと間に合わなくなる。)

 

 

 RYUは、ちらっと自分の手首に付けている腕時計を分かりやすく視線を移す。

 

 この行為には鈴蘭も自分の意識を回復させるほど、RYUが急いでいると理解したようで、慌ててお礼を言う。

 

 

 「あ、有難うございます。…RYUさんでしたよね?」

 

 

 「ああ…、RYUでいい。 では、俺はこれで。」

 

 

 あっさりとした会話で、この場を去っていくRYUの背中を目で追う鈴蘭。その視線には気付いているRYUだが、無視して先を進む。

 早くここから離脱しないと、せっかく抜けてきた意味がなくなってしまう。既にこっちに来ている気配がある。

 しかし、そうさせてくれないのはなぜなのか?

 

 

 「あ、待ってください! 」

 

 

 なんと鈴蘭が早歩きで後を追ってくる。

 

 

 「…なんだ?」

 

 

 RYUは不愉快には思えない程度で、それでいて焦りを見せない声と表情で聞き返す。

 

 

 「はい、私はこの度のCMでご一緒に出演させていただく事になりました、天童鈴蘭です。 芸能歴は置いておくとして、きちんと挨拶はすべきだと思ったので。

  急いでいる時にごめんなさい。でもこれだけは言っておかなきゃって思ったんです。」

 

 

 微笑を浮かべて礼儀正しく挨拶する鈴蘭に、律儀な性格なんだなと思いつつ、それは今度CM撮影に入った時にでもしてくれなかったのか?と、ため息を吐き出したい気分になる。

 

 

 

 そこへタイミングよく現れたのは、RYUが避けていた人物であり、急いでここから去りたかった理由の一つだった。

 

 

 「おい! 待て…! RYU~~!! 何俺から逃げようと………

 

  あ!! て、て、て、て、天童鈴蘭…!、………さん。」

 

 

 猛ダッシュで駆けてきた翔琉を見て、RYUは完全に脱力した。

 

 

 (どうやら今日は厄日なのかもしれない…。)

 

 

 悉くと本人の意思とは反する展開に落胆が止まらないのであった。

 

 

 

 

 




不幸を呼んでいるんじゃないとは思うんだよ?
もしかしたらこれが芸能界でやっていくための良い兆しになるかも?……慰めになっているのかな?



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突き放す宣言

RYU(達也)と鈴蘭と翔琉…。

この関係だけでカメラを回せるんじゃないか?


 

 

 

 

 

 

 

 

 離脱失敗したRYUが振り向かないまま、背中で憤りを乗せた視線を受ける一方、鈴蘭には好意的な視線を向けられていた。その二つの視線は同じ人物から向けられたものだ。それを向けている人物…、翔琉はさっきまでの荒い言動とは違い、正反対の落ち着いた足運びで近づいてきた。その足音を振り向かずに聞いていたRYUはやけに意識した足取りだと、態度を一変させた翔琉に対してそう思うと、もう興味は尽きたと時刻を確認する。

 

 

 「突然ごめんな、天童。 話し中に割りこんじまって。」

 

 

 「いえ……、ある程度は話し終わっていましたから問題ないです。」

 

 

 そう言いつつも、翔琉を見る視線には憤怒が少し垣間見える。その視線を翔琉は逆に喜んでいて、テンションが上がっていく。

 それとは対照的にたまに見るRYUには、嫉妬を向けている翔琉だが。

 

 

 そして鈴蘭と翔琉が話し始めたのを見て、抜け出すチャンスだと思ったRYUは、何も言わぬままこの場を去ろうとする。

 しかし、翔琉がそれを止める。

 

 

 「おい、待てよ!RYU!」

 

 

 「……なんだ? 俺は急いでいる。 待ってやっている時間はお前に与えたつもりだが?」

 

 

 「そんな時間いつくれたんだよ!?」

 

 

 「今。 お前が『待て』と言うから、止まってやったんだ。それなのに天童鈴蘭に夢中になっていただろ?」

 

 

 「くっ…! あれは、同じ共演者に挨拶する感じだろ? 大体俺は夢中になってなんか……」

 

 

 「そうか、なら話はそれだけだな。俺は失礼する。」

 

 

 「ちょ、だから待てって!」

 

 

 「………言っとくが挨拶ならもうしたぞ? 」

 

 

 言外に早く用件を言え。と告げられた翔琉は、苛立ちを感じつつも、用件を話す。

 

 

 

 「いっとくけどな! 俺との勝負から逃げんなよ? 俺は本気で行かせてもらうからな!」

 

 

 「………はぁ~。 なんだ、それだけか?」

 

 

 「なっ!」

 

 

 RYUは呆れている事を隠そうともせず、翔琉に気怠そうに話した。何か伝言でも頼まれてしまい、仕方なく言いに来たとかなら、まだよかったが、宣戦布告を言うためだけに後を追ってきたと知り、肩の力が抜けていく。

 

 

 先ほどより少し前、審査も終わり、CMの説明を改めて確認がてら聞いてから、監督やスタッフたちに挨拶してから去ったRYU。その際に翔琉から挑戦状を投げ渡された。その行為を自慢たっぷりに語り始めるものだから、熱中して気付かない翔琉を残し、去ろうとしたが、後を追う翔琉の気配を感じ取り、逃げていたのだ。これが翔琉を避けていた理由である。その翔琉から逃げている時、鈴蘭と鉢合わせして転びそうになった鈴蘭を助けたという訳だったのだ。

 いつもなら人が近づくまで気づかない…なんてことは無いのだが、直前まで翔琉を煙に巻く方法やCMでの立ち回りのイメトレ、次の予定であるFLT訪問の事を深く考えてしまっていたためだ。

 

 

 話が逸れてしまったが、それで自分を追ってきた翔琉の言い分があまりにも気落ちするので、これ以上関わり合いになりたくないと今度は話しかけられても無視する方向で行くと決めたRYUは、再び歩き出した。

 

 

 「ぜって~お前には負けないからな!」

 

 

 後ろで翔琉が大声で負けない宣言をするのを聞き、ため息を吐くRYU。

 

 

 あのCMは翔琉を納得させるために敢えて勝負しやすいように二つのCMを作るという提案を出しただけで、あまり深い意味はない。そもそもCMの本来の目的を忘れてしまっている翔琉に相手する気も起きず、刻一刻と迫るFLTでの開発実施予定時刻に間に合うかと腕時計を確認しながら、若干速めで歩き出す。

 

 

 

 そんなRYUの目の前にまた人が飛び出してきた。

 

 

 「あ…! はぁ~…、み、見つけました~! RYU……さん!」

 

 

 息を切らしている美晴がRYUの顔を見て、笑顔を浮かべた状態で探していた本人を見つけられて安堵するのであった。

 

 

 




翔琉には冷たい態度のRYUです。

急いでいるって言ってるのに…。次々人が集まってきますな~。


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波乱な四角関係

パソコンが使えない…!!
投稿が無理!! …という事態でなんとか家族のパソコンを懇願して借りてできた~~!!
物凄い安堵感に包まれているうちです!


 

 

 

 

 

 

 

 

 RYUに会えて嬉しそうな顔で駆け寄ってくる美晴の額には若干汗が見える。しかもほんのり頬も赤みがみられる。相当探しまくったことがわかるだけに、RYUは翔琉のように突き放す態度はとれない。ここは多少自分が急ぐことになったとしてもしっかり対応しておくべきだろう。

 

 

 「お疲れ様、美晴。 よく頑張ったな。」

 

 

 「あ、ありがとうございます!RYUさん。 これもRYUさんのおかげです!」

 

 

 「いや、俺は大したことはしていない。美晴が努力した結果だ。」

 

 

 「そ、そうですよね………、あ、RYUさんに聞きたいことがあって探していたんです!」

 

 

 「俺に?」

 

 

 てっきり合格したという事を伝えに来たと思ったRYUは、こちらの様子を窺い見ながら話をどう切り出すか戸惑っていた。(審査員だったRYUが美晴の合格を知らないはずはないが、美晴なら合格したことをRYUに言いに来て、感謝してくるだろうと読んでいたためだ。まぁ言われるのは次に会った時だと思っていたが。)

 何を切り出すのかわからないが、美晴の話を待っていたら、決心したようで、勢いよく問いかけてきた。

 

 

 「あの! 私が合格したのは、RYUさんがお力添えして決定したんですか!?」

 

 

 「…………は?」

 

 

 「私、聞いたんです! 本当は私は選ばれる事はなかったって。 実力で合格したわけじゃ…ないんですか、私…。」

 

 

 悲しい顔を覗かせ、RYUの顔を見上げる美晴は、何を言われても受け入れるという態度で返事を待つ。

 

 

 

 (なぜそう思うんだ? 俺みたいな新参者が決定できるものではないだろう?……誰かに吹き込まれたか?それなら美晴の事だ、すんなり信じて、それを確かめるために俺を探していた…ってことか。

  本当に面倒なことをしてくれる。)

 

 

 RYUは美晴に余計な事を告げた顔も名も知らない(当たり前だ)人物に不快感を感じながら、質問に答える。

 

 

 「俺はそんな真似していないぞ? もう一人採用することになってお前の名を言ってみただけで、すぐに全員一致で決まったんだ。 俺一人でしていたら、美晴の合格はなかったと思うな。」

 

 

 「え、でもRYUさんが私を強く推していたって…。」

 

 

 「……誰に何を言われたか聞かないでおくが、俺はそこまでキャストに関してこだわりとか興味はない。俺はただ与えられた仕事をこなすだけだ。

 

  美晴…、お前は自分の力で合格したんだ。もう少し自信持った方がいいぞ?」

 

 

 「私…、実力で受かったんですか?」

 

 

 「ああ……、お前はよく頑張った。 演技でもしっかりと何を伝えたいか、目的もしっかり捉え、弁えていたのを審査員たちは見逃していなかった。それが高く評価されたんだ。」

 

 

 「え?」

 

 

 「…ん? 美晴、演技の時、シャンプーを使って洗っているシーンをしていただろ?」

 

 

 「あ、うん。」

 

 

 「演技の課題を身近に感じ、共感を与えただけでなく、CMで紹介したい商品も演技に取り入れていたのが、ポイント高かったらしい。 

  だからお前の演技の魅せる技が為したおかげだな。」

 

 

 RYUの話を聞いて、美晴は驚く。そして傍から見ていた鈴蘭も。翔琉は「え、そうだったのか?」と戸惑いを見せる。

 

 美晴は誰も気付かれないと思っていたが、少しでもCMに出演したときに商品の良さを理解しようとふととった行動だった演技が実を結んだと知り、嬉しさが込み上げてくる。

 

 

 それが堪えていた不安な気持ちを感動でいっぱいにし、笑顔が溢れていく。

 

 

 「私…! 本当に受かったんですね! やった~~~~!!」

 

 

 思わず飛び上がる美晴を苦笑しながらも、優しく見守るRYU。

 

 

 余程緊張していたのだろう。その気持ちが爆発して、はしゃぐ美晴は、RYUの手を取ってぶんぶん上下に振る。

 

 

 「やっぱりRYUさんは私の恩人だ~!!ありがとうございます!!」

 

 

 (どこから恩人という思想が出てきたんだ?)

 

 

 美晴の喜びようにさすがに持て余すRYUがどうするべきか思案しようとしたその時、後ろから声をかけられる。

 

 

 「…美晴さん良かったですね。 その嬉しさは見ていて微笑ましいですけど、そろそろお静かになった方がいいと思いますよ?」

 

 

 「あ、ごめんなさい! つい…」

 

 

 「気にするな。」

 

 

 声をかけてきたのは、鈴蘭だった。

 

 RYUは、美晴から解放され、心の中で安堵する。しかし、そう簡単に解放されるわけではなかった。

 

 

 鈴蘭が美晴を威圧しているのだ。しかしその表情は笑顔を浮かべていて、一見は何もないように見えるが、空気や視線等に敏感なRYUは鈴蘭から発せられる不穏な雰囲気に頭をひねる。

 

 

 「もう美晴さんの用事は終わりましたわね。では、私もRYUさんにお話があるのでお借りしますね。」

 

 

 「え…?」

 

 

 (話はもう終わったと言わなかったか?)

 

 

 「そ、天童さん! 俺もぜひ君と話したいな~。まだ途中だったし!」

 

 

 「あ、じゃあみんなでおしゃべりしましょう! 私、鈴蘭さんとお話ししたいです!」

 

 

そこにさらに翔琉も加わってきたため、話が膨らんでいく。逸脱する時を逃したRYUは、疲労感が蓄積される感覚に陥るのだった。

 

 

 




ややこしい関係になりそうだ。


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多難を乗り越えて

達也にとっては多難だったんだろうさ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「おお~~!! 御曹司、お待たせしました!……ん? どうしたんですかい?何やら顔色が優れないようですが。」

 

 

 「ああ…、平気だ。少し色々あって対応していただけですから。それに俺の体調を心配するより皆さんの方が体調が優れないのでは? 研究熱心もいいですけど、程々に休んだ方がいいですよ?」

 

 

 「ハハハ! 御曹司にそう言われると頭が下がりますな~。 だがこれだけは俺達も譲る気はありませんぜ!? 御曹司のために働けるのは俺達の身体より大事な事なんで。」

 

 

 「そうですか、ならお互い程々に、という事で。」

 

 

 「それが一番かもしれませんな。」

 

 

 今、RYUが…ではなく、達也がいるのはFLT開発第三課の研究施設だ。愛車を回収し、いつもより少し遅くなってしまったが、約束の時刻までには余裕な時間だったため、問題はなかった。第三課について早々、研究員たちから恭しく挨拶され、主任である牛山が駆け寄ってきて、先程の会話を挨拶がてらにしたのだった。

 この会話は達也にはさっきまで溜まっていたとてつもない疲労感を軽くするほどの効果があった。やはり気を張る必要が牛山達には皆無なのがありがたい。同じように魔法研究し、開発していく同志でもあり、温かく迎えてくれる彼らには感情が著しく乏しい達也でも笑顔がこぼれるほど居心地がよかった。

 

 

 (あれだけの多難があった後だからか、ここの良さがしみじみ伝わってくるな…。)

 

 

 ほっと肩の力を抜く達也は、ここに来るまでの出来事を遠い目で思い出す。

 

 

 

 

 

 

 あの後、達也も含めて「これから喫茶店へ行ってお茶でも飲みながらお話ししましょう! 」と笑顔で提案する美晴の言葉に達也は愕然とした。美晴は自分がこの後予定があるという事は知っているはず。それを分かった上で自分を誘うというのはどういうつもりなんだと心の中で問いかける。しかし、美晴が鈴蘭と仲良くなれるチャンスだと意気込んでいるため、忘れているという事が表情を見て理解できた達也は、既に話が固まりつつあった所で、「この後の予定に遅れるので悪いが帰る。」と伝え、三人のそれぞれの視線を背中で受けたまま、ビルを出て、愛車を走らせてFLT開発第三課に来た…という訳だ。

 ちなみに三人それぞれがどんな視線を向けていたのか言うと…、美晴は去り際の達也の言葉を聞いて、忘れていた自分に後悔と申し訳ないと謝罪するような視線。鈴蘭はがっかりして、それでも名残惜しそうに何かを期待するような視線。翔琉は怒りと嫉妬という今までの感情を含めた視線と同じだが、更に嬉しさもプラスした視線、…といったものを達也に向けていたのだった。

 余談だが、三人の視線を一身に受けた達也は美晴と翔琉の視線の意味合いを理解してはいたが、鈴蘭の視線だけが良く理解できなかった。その意味する所は、達也が鈍感だと妹や友人達から言われるものからきているからかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 ……脳裏で先程の事を思い返していた達也は、そろそろ現実復帰するべきだと自分に言い聞かせ、急いで準備したのが言われなくても分かるほど、疲労感や顔色が優れない研究員が集まっている計測機器が備わっている部屋へと入っていく。その際にすれ違う研究員たちも同じような顔で挨拶するが、そこには羨望や尊敬が含まれた笑顔で迎えるのであった。そんな研究員たちからの挨拶を会釈して返しながら観測室へ入った達也は、隣に併設されているテストルームで今まさに試行CADを使って魔法を行使するテスターたちの魔力や計測機器のデータを見比べて、『完全思考型CAD』の製作に更に役に立つ情報を手にするのであった。

 

 

 今回の全てのテストが終わった時の達也の顔を見た開発第三課一同は記憶に刻み込むほど印象強かったと後に語っている。

 策略家のような笑みや成功した時の喜びの笑みとは違って、ただ単に自分達と同じような温かみ溢れる素からの笑顔だった…と。

 

 

 




慣れない仕事や人間付き合いという多難を乗り越えて、気を配らなくていい間柄の人達に囲まれていたら…、心からの笑みがふと零れる…のではないかと思ったわけですね、はい。

…って! 思い切り答えっぽい事言っているうちっていいのかよ!


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本当の一時の中で…

オーディションがやっと終わりましたな~!!

では、これから活躍というか、登場してくるであろうこのキャラを視点に今日はやっていきましょうか!


 

 

 

 

 

 

 

 

 怒涛のオーディションを終え、その後の雑誌取材やドラマ撮影を終え、都心にある高層マンションの上層階にある自宅でシャワーを浴び、バスローブを羽織ってリビングに現われたのは、この部屋の主である鈴蘭だった。

 

 タオルで濡れた髪を拭いて、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、コップに注いで何度も飲み干す。こういう時のシチュエーションでは、「ここは牛乳だろ!?」と外野は思うだろうが、あいにく鈴蘭はそう言った世間一般の捉え方は苦手な方で、敢えてオレンジジュースを飲むといった思考の持ち主だ。

 

 と、それは横に置いていて、水分補給し終わった鈴蘭は、ソファに座りこんで足を組む。そしてソファの前に設置されているテーブルに置いておいた情報端末を手に持つと、それをじっと凝視しなら物思いにふける。

 

 

 (……結局お礼も言えなかったわね。)

 

 

 鈴蘭は残念な気持ちが膨れ、小さな溜息を吐く。手に持っている情報端末こそ、鈴蘭が置き忘れていた情報端末だった。

 見つかってよかったと安堵はしたが、これを確保していてくれていたのは、RYUだったのだ。

 

 RYUが廊下を歩いているとロビーで情報端末がぽつんとソファに置かれているのを見かけ、スタッフのものだと初めは思い、翔琉から逃げつつ、廊下を歩くスタッフの誰かを探していた。そこへ偶然鈴蘭と出くわしたのだ。そこから話が大きくなり、喫茶店で雑談しようとなったが、さすがにFLTでの実験に間に合わなくなるため、情報端末をどうするかと再び眼にして、持ち主が鈴蘭だと知ったRYUは、鈴蘭とどうしても友好関係を築きたい美晴の意思を尊重して、美晴に情報端末を渡して別れたのだ。

 

 

 美晴から「ロビーで置かれていた情報端末をRYUさんが拾ってくれてました! 鈴蘭さんので間違いないですよね?」と、探していた情報端末を渡されながら言われた時に詳しく話を聞いて、知った鈴蘭はRYUに対して抱いていた気持ちがさらに膨れ上がるのを感じた。…なんか胸が熱くなる感覚を。

 

 

 情報端末を見ながら、苦笑する鈴蘭はもっと話したかったという気持ちを飲み込んで、テーブルに再び置いた。

 

 

 「次に会えるのは、撮影の時か~。」

 

 

 言葉遣いを少女らしくした鈴蘭。仕事に関するときや人前の時は基本丁寧な言葉遣いや仕草を心掛けているのだ。子役時代から芸能界で仕事してきている鈴蘭は、競争が激しいこの世界で一生懸命に演技を身に着け、力をつけてきた。その中で大物と呼ばれる役者との共演も少なくなかった。だから、大人たちと仕事をするうちにしっかりしていなきゃと、大人な雰囲気をいつの間にか身に着けていった。すると、この大人な自分が本当の私だと共演者やスタッフ、事務所の人たちもそう捉えて接してくるようになった。それがさらに弱音を言わないように、ボロを出さないようにしないとというプレッシャーに変わった。しかし、これが苦になったりは今まで感じなかった。同年代の役者の子から嘗められることが少ないし、今までの業績が味方してくれて、陰口叩かれるのは捻くれた心を持つ人間ぐらいだ。

 

 しかしいい面もあれば、仕事の内容によって朝から夜までずっと気を張っていないといけないという悪い面もあって、やはり疲れるものなのだ。それでも疲労感はついてくるものの、それ以外特に何も感じて来なかった。

 

 

 …そう今までは。

 

 

 「あんなに魅力的な人は初めてだったな~…。 このドキドキ…、なんだろう…?」

 

 

 胸に手を当てて、彼を思い浮かばせる鈴蘭は頬を赤らめて、呆けていた。

 

 

 




大人たちに囲まれて育ったものだからね、鈴蘭は。

次回は鈴蘭の言葉にならない気持ちが明らかになったりして!


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初恋の予感

やっぱり魅力的だよね~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴蘭は女優であるが、今この場では、世間で言う所の年頃の恋に憧れる少女だ。

 

 学校でも同級生たちが恋バナをするのをよく耳にする。そう、耳にするだけだ。実際に恋バナをした事がない。してみたいというのが鈴蘭の本音だが、すでに固まってしまった自分のイメージが同級生たちにも持たれていて、恋バナをするようなキャラでないと認識され、そう言った話題は話しかけられてこないのだ。寧ろ多いのが、共演する俳優の意外なところとか、その相手とはどういった関係だとか、このスクープで話題になっている人達の事を何か知らないか?…といった芸能界でのスキャンダルな話を聞きたがる。こういった話になると、嫌悪感が湧き上がってくるが、大人な表の鈴蘭は旗を立てて切り捨てる事は出来ない。愛想笑いを浮かべながら「そう言った事は私の口から言う事ではないわ。本人から語ってくれるのを聞いて受け止めてあげるのがファンの励みになるんじゃないかしら?」と、やんわり断って、ファンとしての接し方にも少しアドバイスするのだった。

 そんな訳で、誰かと恋バナをしたり、打ち明けたりすることがない鈴蘭は、一人になって本来の自分になってから、独り言で話す。

 

 …と言っても、今までは耳にした同級生の恋バナに対して自分の意見を誰もいないリビングで話すのだが、今日は初めて自分の事を口にした。

 

 

 「まさか今日あそこで会うなんて思わなかったよ~! MVよりも生の方がミステリアスでカッコ良くて、素敵だった~! 鼓動が跳ね上がりっぱなしだった! 良く気絶しなかったよ、私!

  審査の時も、私がダンスの申し込みを視線で合図しただけで即座に理解してくれただけじゃなくて、踊ってくれたんだよ! 超紳士すぎる~~!!そう思わない!!?」

 

 

 幼い頃から大事にしている鈴蘭の相棒であるウサギのぬいぐるみに熱烈に話しかける。もちろんぬいぐるみなので、返事は返ってこないが、鈴蘭は一緒になってはしゃいでいるように思えて一層嬉しさが込み上げてくる。

 

 二次審査の時、大澤監督が”会場内のものを使ってくれて構わない”と言った時、鈴蘭は審査員席に座る彼とダンス出来たらどれだけ嬉しいかと胸を躍らせた。そして会場内のものなら、彼と一緒に踊れるのでは?と閃いて実行してみたのだ。しかし上手くいくかなんて正直考えていなかった。せいぜい一瞬でもいいから自分を意識してほしいなとささやかな願いを考えてお願いしてみたのだ。だから実際彼と踊れたときは、嬉しさと喜びに舞い上がりそうになりつつも、彼の前で恥を掻きたくないという思いもあり、なんとか審査に対する意識も保て、全力で乗り切った。

 

 

 「はぁ~…、ますますRYU様の事が気になってしまう私って、どこか変なのかな?」

 

 

 ドキドキが止まらない彼に…RYUの事が頭から離れない鈴蘭。

 

 最初に意識したのは、RYUのデビュー曲を聞いたときだった。鈴蘭にとってはRYUの曲を聞いたのは偶然だったが、今でもその時の衝撃は覚えている。思わず涙が溢れてくるほどだったから…。

 

 それからは毎日朝起きた時や寝る前には必ず聞くようになった。それが今の自分の励みになっているから。

 そしていつかこの芸能界にいれば、会う機会があるかもと期待した矢先だったのだ。

 こんなに早く願いがかなうなんて想像していなかっただけに、感動は波打ちたったものだ。

 

 

 「これが…初恋っていうものなのかな?

  ……次に逢えるのがこんなに楽しみなんて、今までなかったんだし。

 

  …ふふふ♥」

 

 

 自分でもよくわからないが、こんなに誰かに逢いたいと思う事は今までなかった。今度会う事になるCM撮影の時が今からでも待ち遠しいと、そろそろ寝る準備しなきゃとソファーから立ち上がった鈴蘭は、モニターの電源を入れて、RYUのデビュー曲『Thank you』を聞き始めるのであった。

 

 

 




これで、達也の曲の期待度が上がったよね?

…発表する時、歌詞とか一生懸命に取り組まないと、ダメだよね?うわ~~!かなりのプレッシャーが~~!!


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CM撮影開始! SUN ver.シーン1

学校の出来事は除いてさくっといきましょうかね?


 

 

 

 

 

 オーディションから数日後の日が真上に登り始めた頃。

 

 緑が広がる草原にて大澤監督によるCM撮影が行われていた。

 

 

 「二人ともいいかい? ではカメラまわします! よ~い…バチン!!」

 

 

 ADの合図でカメラが回り出す。そしてそれと同時にカメラのレンズを通して映像が撮られていく。

 今、撮られているのは日が差し込む草原で元気に踊ったり、水鉄砲で互いに撃ちあったりと和気あいあいな様子だ。笑いが飛び交い、楽しそうに駆け回っているのは見ている方も微笑ましく思うほど。撮られている方ももう演技とかは忘れて完全に遊びまくっている。それを大澤監督は止めることなく、微笑みながらも目は真剣に映像にくぎ付けになって、逐一確認している。

 

 

 「…………カァァ~~~~ト!! 二人ともお疲れ様です!」

 

 

 「「お疲れ様です!!」」

 

 

 「はい、チェックしますので、しばらく待っていてください。あ…、これで拭いてくださいね。」

 

 

 大澤監督の視線の合図を受けて、一旦撮影を止める。それを合図に遊んでいた二人も自分たちの世界から帰ってきて、スタッフからタオルをもらって、濡れた体を拭いていく。それから飲み物ももらって、全力で遊んだ疲労をのどを潤して癒していく。

 

 

 「…う~~~!! 生き返ったぜ~~!! こんなに遊んだのはかなり久しぶりだな。」

 

 

 「私もです! でもすっごく楽しかった~~!! 」

 

 

 息が上がった呼吸を戻し、復活した二人は互いに笑顔を見せ、語らう。

 

 

 「案外俺たちって、息が合うのかもしれないな。」

 

 

 「はい、私もこっちの方が自分らしくふるまえて嬉しいです!」

 

 

 「ああ、そうかもな~! でも、それだけで満足していたらいけないぜ? 全く自分と異なったキャラを演技なくっちゃいけないこともあるからよ? いろんなことをこれから経験していく事になっていくと思うぜ?」

 

 

 「そっか~! うん! 私もこれで満足しないようにもっとた~くさん頑張る!」

 

 

 「おう! その意気だぜ! 」

 

 

 強く頷きあって信頼関係を築く二人。一応芸能界入りしたという意味で、先輩である彼は、アドバイスも添えておく。素直に聞いてくれる彼女にさらに好感を抱く。

 しかしその一方で、残念な気持ちが膨らむのは否めない自分がいた。

 

 

 (ああ~~~…。

  素直で頑張り屋さんなのはいいし、寧ろ一緒にいても気を許せる仲間みたいに居心地がいいけどさ~。

  俺はやっぱりあの子と一緒に撮影したかった~!)

 

 

 …という心の声を誰にも言えずに呑み込んでいる彼は、そう思っていることを目の前で純粋な笑顔を見せる彼女に見せないように更に笑顔に力を入れる。その彼……、翔琉は、美晴とハイタッチしながら思うのだった。

 

 

 「二人とも~! OKで~~す!!」

 

 

 再程撮影した映像が問題なかったようで、再び次の撮影の準備に入る。

 

 メイクを直したり、濡れた髪を少し梳かしたり、程よい濡れたままの雰囲気を残して撮影を始める。しかし、まだ春になったとはいえ、肌寒さがまだ残っているため、シャツ一枚では寒い。はしゃいでいたとはいえ、休憩中に体温も冷えていき、ぶるっとする二人は、早く撮影が始まることを心の中で祈る。

 

 

 「それでは、シーン2、よ~~い…バチン!!」

 

 

 合図が出て、すぐに遊びまくる二人は先ほどよりもはしゃぎ、互いに水鉄砲を撃ちあう。そしてヒートアップしてなぜか西部劇風に緊迫した雰囲気で勝負を始め、CMで求めるものとは完全に逸脱してしまい、監督からやんわりと注意を受ける翔琉と美晴だった。

 

 

 

 




配役は翔琉と美晴、RYUと鈴蘭になりました!
これがどんな展開を生むのか~~!! お楽しみあれ!


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メイクアップ SUN ver. シーン2

撮影状況を表現するために、タイトルに変化を入れてみました!


 

 

 

 

 

 

 

 

 草原…と言っても、大きな公園の草原広場での撮影を終えた翔琉と美晴は、二人一緒の撮影を一旦打ち切りにし、美晴だけ先に別のシーンだけ残って撮る予定だ。

 元々予定ではそうなっていたので、別に文句を言うような事もない。そもそも翔琉はああ見えてかなりの人気ダンス&ボーカルアイドルグループのリーダーだ。他にも音楽番組やバラエティー、雑誌取材やコンサートの打ち合わせ等、やる事はたくさんある。その中でCM撮影をするのだから、時間が来ればきりの良い所で終了しないと他の仕事に間に合わなくなる。荷物を纏めて挨拶して次の現場に向かう翔琉に深いお辞儀で見送った美晴は、すぐにメイクさん達に引き摺られる形で控室に行き、衣装に着替える。

 

 

 「ねぇ~、美晴ちゃんの事務所にあのRYUがいるって本当?」

 

 

 「あ、それ、私も聴いたわよ! かなり広まってるわよ? 女性達の中で。」

 

 

 「はい、RYUさんはうちの事務所のエースアイドルです!」

 

 

 スタイリストさん達が興奮気味にRYUの話を切りだしてくる。しかし、美晴はRYUが話題になると自分事のように嬉しくなり、話が盛り上がってくる。

 

 

 「なら、RYUとはいつも顔を合わせたり、話したりするんでしょ?」

 

 

 「それが、私オーディションの時からまだRYUさんに逢えていないんです。」

 

 

 「え、そうなの?」

 

 

 「意外~。てっきり美晴ちゃんはRYUとべったりしているのかと思ってたわ。」

 

 

 「そ、そ、それこそありません! RYUさ、さ…んにそんな事は絶対にしてません!」

 

 

 「ええ…、分かったわ。信じる! 」

 

 

 「何を貴女は言ってるんだか…。 美晴ちゃんとRYUが付き合っていない事を確かめたかっただけでしょ?」

 

 

 メイクさんが美晴にメイクを施しながら、スタイリストに軽く視線で呆れている風に言葉を返す。しかし本音は、スタイリストと同じで二人が付き合っていない事に内心ほっと安堵し、まだ自分のアタックチャンスがある事を知り、恋を成就させる熱意が込み上げていた。

 そんな二人が何を考えているか理解できず、ただ不思議がる美晴だった。

 

 それから数分経ち、メイクさんのおかげで、美晴の持ち味でもある可愛さや明るさが更に煌めき、なおかつ清楚感も出していた。髪も下ろした状態だが、滑らかに整っていて、黒髪が映えている。

 そのまま撮影が行われるスタジオへ行き、現場入りする。すると、美晴に見惚れる男性スタッフが何人もいた。(その人達は女性スタッフから一喝され、我に返って気まずい雰囲気を出す事になるが。)

 

 大澤監督からの指示を受けていた美晴は、自分に注がれる視線になんとなく気づいていた。しかし何でそこまで見られるのかが理解できなかった。美晴はこの業界に入るまでこんなにメイクや衣装で綺麗になった事がない。だから自分が今可愛いのかとか、似合っているとか、判断がつかないのだった。

 

 その判断材料として、美晴は無意識にRYUの顔を思い浮かべる。

 

 

 (ハァ~…、RYUさまに今の私を見てもらいたいです…。そしてか、可愛いのかどうか言ってほしいな~。…もちろん、可愛いって言ってくれた方が嬉しいですよ!?

 

  …早くRYUさまに逢いたいな~。)

 

 

 大澤監督の配役決定で、RYUとは別のCM撮影となってしまった美晴は、事務所でも逢えないRYUに逢いたい気持ちが増す日々を送りながら、撮影に励む。

 

 

 




RYUを頑張っている達也は基本学生だから、学校に行っているしね。しかも、放課後は生徒会だし、終わっても深雪がいるから、そう簡単に夜外出は難しいよ。

これを何とかしないといけないな~…。どうします、真夜ちゃ~~ん?(キャラに相談するうち)


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告白シーン SUN ver. シーン3

撮影するシーンによって、順番変わったりする事もあるからね~。
告白だと…!!わくわく


 

 

 

 

 

 

 

 

 前回の撮影を終え、一日挟んでの今日の撮影で終わりの予定だ。

 

 以外にも前回の撮りで予定外にスムーズに撮影が進んだため、残りの撮影を終わらせれば後は編集するだけだ。

 それを聞かされた美晴は、正直言うと「え、もう終わりなんですか?」という驚きと寂しさを感じた。しかし、これは数秒間での広告を兼ねたCM撮影なのだ。ドラマや映画のように長い時間、撮影をしていく訳ではない。せっかく知り合った人ともお別れするのかと思うとなんとも寂しい気分は拭えない。それでも、多くの事を学ぶことができ、今後の芸能活動にも自信がついてきた美晴は最後の撮影に臨む。

 

 

 今、美晴が撮影しているシーンは、一人でダンスの練習にがむしゃらになっているシーンだ。

 SUNverのCM(翔琉と美晴の登場CM)では学校舞台にしている。だから今日は学校の許可を得て、一部借り切って撮影に臨んでいた。服装は、美晴がいつもダンス練習をしている時に着ているスポーティな格好だ。ショートパンツの下には、吸収性を備えたレギンスを履き、黄色のTシャツを着ている。髪も一纏めにして気合は十分。本来なら衣装はスタイリストが用意するが、それを大澤監督は拒んだ。このシーンでの服装は本人達の使っているものでやる、と。

 大澤監督は細かい所まで気を配っていたのだ。

 大澤監督が撮りたいのは、ダンスに没頭している美晴だ。ダンスが好きで練習している設定だ。しかし、もし練習服が真新しいものなら、演技と衣装に矛盾が生じてしまう。それを危惧した故での指示だった。それに普段着慣れたものなら撮影が初めての美晴の緊張もほぐれて言い映像が撮れるのではないかと思ったからでもある。

 実際に大澤監督の判断は正しかったようで、美晴の練習服はどれほど樺って練習したのかが一目で分かるほど、汚れていたり、傷んでいたり、若干ヨボヨボしていた。だがそこには愛着とこれまでに取り組んできたダンスへの想いが込められていて、この姿の美晴を目にした時は、大澤監督も思わず感嘆したほどだ。そして、隣で美晴の現場入りを待っていた翔琉も目を見開いて驚いていた。普段の練習服を見て印象ががらりと変わったからだ。その印象は、「汚れていて近寄りたくない」とかの避けるものではなく、「あんなになるまで頑張っているんだな…。俺も負けていられねぇ~…!」という好感度を更に上げるものだった。

 

 

 それからは一人で何度もダンスを練習し、それを傍から見守る翔琉…。

 

 

 落ち込む美晴を励ます翔琉。

 

 

 学校内という撮影現場を駆使して、撮影が行われていき、ついに見せ場となる告白シーンへとなった。日が落ちかけ、オレンジにいろに染まる誰もいない教室で二人が向かい合う。そして……

 

 

 『好きです……!』

 

 

 美晴が告白をする!

 

 

 そこで……!

 

 

 「カ~~~ット!!」

 

 

 撮影終了の合図が入る。

 

 

 これが最後の撮影シーンだったため、一同全員で拍手でお祝いする。

 

 

 

 美晴は拍手を送ってくれるスタッフたちにお辞儀をし、一緒に喜んだ。

 

 

 

 後ここからは編集の見せ所。自分が出演したCMが放送されるのが楽しみになった美晴は、その時を待ち焦がれるのであった。

 

 

 




良い所で、カット~~!!させていただきました。怒涛の終わり具合で申し訳ありません。
ですが! どんなCM撮影になったかは、一連の撮影シーンを繋げて投稿したいので、その時のお楽しみです!
次は、MOONverです! やっと達也…じゃなかった、RYUと鈴蘭のCMに入ります!


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優雅な入場 MOON ver. シーン1

よし、RYUと鈴蘭がとうじょう~…のはず。


 

 

 

 

 

 

 

 

 新しく発売されるシャンプー『プリンセス』のCM撮影が行われ、SUNとMOONに分かれて制作されていく。翔琉と美晴が出演するSUNver.が順調に撮影を進める一方、MOONver.も撮影に乗り出していた。…鈴蘭一人だけで撮れるシーンを。

 

 

 「もう撮影開始してから、一週間は経っているけど、一向に現れないわね~。RYUさまは。」

 

 

 「私、早く生で御姿を拝見してみたいわ~! そしてお着替えをする時、お手伝いするの~。」

 

 

 「……仕事に専念しなさいよね。じゃないと…」

 

 

 「ちょっと、目が怖いんだけど…。」

 

 

 「でもその気持ちは分かるわ~。私も間近で御姿拝見したいし、あわよくば隙を付いて触れてみたりしたい!!」

 

 

 「そうよね~、あのRYUさまに逢えるんだもの!! 」

 

 

 …こんな会話がスタイリストやメイクさん、音響スタッフ等などの女性スタッフが黄色い声を上げながら、RYUの出番を今かと待ちわびている。それをBGMとして聞き流しながら撮影は続けられていく。本来は、仕事中なのだから集中しろと注意を受けるはずなのだが、誰も咎めたりはせず、気にもしていない。

 なぜなら既に何度も注意はしているのだ。

 しかし、軽く流して同じように話し続ける彼女達の変化のなさに呆れ、彼女達に時間を潰されるよりは先に撮影を進めておく方が合理的だとなり、現在に至る。立ち入り禁止にしてもよかったのだが、彼女達は以外にも腕が立ち、仕事には全力で取り組み、抜け目はない。技術もある彼女達を排除すれば、撮影が遅れる結果にしかならないからだ。

 

 そう弁えた他のスタッフは、今、ドレスアップした鈴蘭がパーティー会場へ入場するシーンを撮影していた。

 足首まで伸びた赤いドレスは、裾にふんだんに使われたフリルと薔薇のモチーフをした飾りがラメが散りばめられて鮮やかさを演出していた。少しふんわりとした感じの下半身に対して、上半身は身体のラインを強調するように、密着しており、ふくよかな胸の形が出ている。黒髪を軽くカールし、横に一纏めして髪飾りとして赤い薔薇を使っている。

 思わず目を追ってしまうほど大人な雰囲気で、存在感が目立つ鈴蘭。

 

 その鈴蘭がパーティー会場に入るだけで、エキストラとして参加している一般人も息を呑む。その中をオーディションでも見せた優雅で可憐な歩き方で会場の中央まで進んでいく。そして到着するとスタッフの合図が入り、撮影が一旦終わる。

 

 

 「お疲れ様、天童君。相変わらず良い動き方をしている。すっかりお嬢様感が出ていたな。」

 

 

 「大澤監督、お嬢様感…なのですか?」

 

 

 「う、鋭いね、天童君は。」

 

 

 「御姫様ではないのですね、私の演技はまだ…」

 

 

 「いや今はこれで良いんだ。彼が来てからの撮影からやってくれたらいい。」

 

 

 「彼って…、もしかして…!」

 

 

 「ああ…、そろそろ来ると思うんだがな…。」

 

 

 大澤監督と鈴蘭が談笑し、監督が時計と出入り口を交互に確認する。すると…

 

 

 「お待たせしました…、大澤監督。よろしくお願いします。」

 

 

 遂に待ちわびていたもう一人の主役、RYUがパーティースーツを着て、現れた。

 

 

 その姿を見て、先程黄色い声を上げていた女性スタッフたちが更に絶叫し、少なくとも一人は悶えて鼻血を出すくらい、RYUに惚れ込んだ。

 

 そして、あまりにも似合いすぎるRYUの衣装に胸の鼓動が高鳴る鈴蘭もまた、心の中で彼女達のテンションとリンクしていた。

 

 

 




達也…、一言だけの登場で終わった~~!!



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視線の意味 MOONver. シーン2

達也様~!! これはこれで更によし! (達也の衣装に関して)
想像してくださいな。ただし人によって好みとかあると思うので、もしかしたら…という事があるかも?


 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影現場に用意された衣装で現れたRYUは、女性スタッフやエキストラとしてパーティー会場にいた女性達、そして鈴蘭の視線を一身に浴びていた。あまりにも凝視され、内心訝しく思い、眉を潜めそうになったRYUだったが、身体にしみついた見事なポーカーフェイスで乗り切る。しかし表面上は切り抜けても、やはり彼女達の好意的なのか非難めいたものなのか判断つかない視線を大量に浴びているため、落ち着かない気分が続く。

 この何とも言えない視線がRYUは、改めて自分の衣装をざっと素早く見渡す。現場に着いてすぐに用意された衣装に着替えるように言われ、慣れた手つきで着替えたわけだが、姿見で確認した自分といつものスーツを着た自分の姿とは違い過ぎて、戸惑ったものだ。それでもこれが仕事だと割り切れば、着れなくもなかったから既に意識から除外していた。しかし、未だに続く彼女達の視線を向けられていると、本当に似合っているのか、不安を覚えてくる。確かに今の自分なら合うだろうが、美的センス等は持ち合わせていないため、どこか悪いのか分からないのだった。

 

 (深雪に関してはそのセンスは発揮されるが、自分の事となると無関心と言えるほど著しくセンスが劣る。だから身支度等をする際、深雪が『お兄様、とてもお似合いです。』と顔を赤らめ、見惚れている表情を見て、初めて納得する…というシスコンぶりを見せつけるくらい、鈍いのだ!)

 

 そんなRYUだが、理解できる視線も合った。

 

 それは現場入りしたRYUを睨む男性達だ。彼らの視線に込められた感情は、嫉妬や妬み、怒りといったものだ。RYUにとってはお馴染みの非難めいた視線だったため、敏感に反応できた。しかしその理由をRYUは、やっと撮影に現れた自分に対して、怒っているのだろうと受け取っていた。それから急に人気者として芸能界へ現れた事への不満…ともとらえていた。

 

 

 実際は、RYUに見惚れてしまっている女性達のハートを向けられているのが、羨ましく嫉妬していただけだが。

 

 

 RYUの衣装は本人が思う以上に似合っていた。

 

 

 灰色の癖毛がある髪と紅い眼に合うように、白いスーツに黒灰色のシャツを着こみ、胸元の襟は鎖骨が見え隠れするくらいで開かれていた。ジャケットはボタンを留めずに前が開かれている。そして、右手首にはシルバーアクセサリーが付けられていた。

 

 衣装が似合いすぎるというのもあったが、何よりジャケットが開かれている事で、シャツの下からでも分かる鍛えられている筋肉の形にドキッとする。

 それにミステリアス感があるが、セクシー感が漂っていて、もしRYUがプレイボーイだと告げられたら、絶対に猛アタックする事を厭わないと女性達に決心させるほどRYUは輝いていた。

 

 

 そして鈴蘭もまたRYUに魅了され、前回逢った時はかけていたサングラスを外しているRYUの紅い眼を見て、動悸が激しくなるのを実感していた。

 鋭い目つきの奥にある紅い眼に、まるで全て見透かされているように見られているような感じ…。

 背中にぞわりと神経は走る感覚を感じた。思わず恐怖も感じた。しかしそれと同時にそして同じくらいに惹かれる自分を自覚した。

 怖いと思うのに、目を話す事も出来ずに愛おしく思ってしまう…。

 この真逆な想いに思わず苦笑がこぼれそうになるが、自分が今だけ持てる特権を思い出し、苦笑から勝ち誇ったような笑みが浮かび上がる。

 

 

 しかしそれは一瞬で、すぐに愛想笑いの領域を作りだして、RYUに近寄るのだった。

 

 

 




やべ…、イメチェンした達也を想像したら、萌えて軽く天に召されてしまっていたぜ。

その達也とこれから仲睦まじげにいられる鈴蘭が羨ましく思うよ…。


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舞踏会開催 MOONver. シーン3

ですよね! 達也と踊るって思ってたさね! …うちは社交ダンス踊れない時点で望みがないけど。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「こんばんは、RYUさん。 その衣装、とてもよくお似合いですわ。」

 

 

 「どうも、天童…さん。 俺にはよくわからないが…、まぁ、いいか。 ありがとうと言っておく。」

 

 

 「あら、お世辞ではないですわよ? RYUさんの魅力が伝わってきますわ。まさに主役の登場ですわね。」

 

 

 「ふっ…、どちらかというと俺よりも天童…さんの方が主役だと思うんだがな。俺はあくまで天童さんの引き立て役だ。そもそもこのCMは……」

 

 

 「ふふふ、RYUさんって自分を過小評価しすぎですよ。確かに傍から見れば引き立て役なのかもしれないですけど、与えられた役を演じていたら、そんなのどうだっていいって思うようになりますよ。”みんな主役である”です。

  …それから、私の事は鈴蘭と呼んでください。 その方が私は嬉しいです。」

 

 

 RYUが呼び方に苦戦している事を察した鈴蘭が助け舟を出した。元々、RYUには名前で呼んでもらいたかったので、これはチャンスでもあった。小躍りしそうな気持ちを抑えて、少し距離を置いてこちらを窺い見るエキストラの女性達の視線を感じ、若干優越感に浸る。それでも、女優としての自分がここにいるため、すぐに意識を撮影に戻す。

 

 

 「ああ、分かった。俺にとってはこれが初めての仕事だからな…。至らないところがあるとは思うが、よろしく頼む、鈴蘭。」

 

 

 「………え、ええ、困っていたら軽くフォローしてあげるわ。」

 

 

 突然の名の呼び捨てにドキンとする鈴蘭。それを髪を軽く靡かせることで照れた顔を隠し、頼りのある女性を演出するのであった。

 

 

 この後は、大澤監督の指示のもと、舞踏会が開かれ、多くの着飾った紳士淑女に囲まれる形で、RYUと鈴蘭が演奏に合わせて踊り始める。

 クラシックな演奏が流れる中、輝いた二人が見事なダンスを披露し、エキストラの方々が目を離す事が出来なくなる。持ち前の優雅な踊りする鈴蘭を、RYUが計算された正確なテンポで、正確なステップで鈴蘭をサポートする。

 

 こうして、鈴蘭とRYUの撮影が進んでいき、RYUが撮影に入ったのは今日だけだが、あっという間に撮影は終了してしまった。撮影が長引いたと言えるほどの時間はかけていない。強いてあげるとすれば、一番の見せ場でRYUの表情が硬かったため、大澤監督から少しずつ表情の注文を言われ、修正しながら納得いく表情を作りだせた…くらいだろう。

 

 まさに異例の速さとも言える短い撮影にスタッフが口を開ける。しかし、確保しておいた時間がまだ残っていたため、後日予定していた商品宣伝ポスターの撮影もしておこうという事になり、スタジオをその場で作ってポーズを色々とさせて、何枚もの写真を撮る。

 

 

 「…はい! お疲れ様でした~~!! 撮影終了です~~!!」

 

 

 「「お疲れ様でした。」」

 

 

 無事にポスター用の写真も撮れ、後は編集だけになり、監督が腕の見せ所だと言わんばかりに胸を張る。

 そしてRYUは、ちらりと時計を確認し、挨拶すると衣装から来た時に着ていた私服(RYUの衣装)に着替え、RYUは帰路へと向かうのであった。

 

 

 




これで一通りのSUN/MOONのCM撮影は終わった~~!!

次からはそのCM内容を一つずつ公開しようと思うので、お楽しみに!

皆はどっち派になるのかな?


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人知れず帰宅…

達也が夜遅くに出掛けられた理由が…


 

 

 

 

 

 

 

 

 CM撮影が何とか無事に終わり、尾行されないように遠回りしながら、愛車を走らせ、上手く撒いた所で、帰宅した。ただし玄関正面から堂々と…ではなく。

 

 

 まず、家の800m時点でエンジンを切り、愛車を押しながら家の裏手に回り込む。そこには侵入されないように達也の身長の倍以上の高さがある壁で囲われている。そこに誰にも気づかれていないのを確認した達也は、壁に右手を翳す。そのまま押してみると、壁が一部へこみ、裏路地と壁が音も立てずに静かにスライドしていく。動きが止まると、そこには地下へと延びる階段があった。壁際にはバイクも降りられるように段差が除外されている。さっき達也が触れた場所は、どうやらこの秘密通路を開けるためのスイッチだった様だ。

 そこへ達也は愛車を押しながら入っていき、達也が入ると入り口はすぐに閉まった。

 

 

 人工的に作られた階段を下りると、目的場所に着いた。そこは食品や最低限の家電一式、そして整備された数多くの拳銃や戦闘ナイフ、防弾チョッキ等の戦闘装備品が置かれていた。一言で表すなら、まさに「スパイの隠し部屋」だ。

 この部屋と今通ってきた秘密通路は、もしここが奇襲を受けた場合、即時に応戦や避難ができるように用意されたものだ。四葉の血を引いている以上、情報が洩れて四葉に仇なそうとするものが、刺客を送り込んだり、奇襲を行いに来たり、暗殺を受けたりする可能性がある。そのためにこの家の設計図にも記されていないこの部屋と秘密通路を作り上げた達也だった。この部屋の存在を知っているのは、達也だけだ。なぜならその奇襲を仕掛けてくる者として、四葉本家も入っているからだ。敵でもなければ、味方でもない相手に知らせれば、いざという時に逃げ場を封じられることになる。切り札は最後まで取っている方がいい。

 

 

 …まぁ、そんな訳で、作られた隠し部屋だったんだが、今は設計した時に考えていた使用法ではなく、私事で使用する羽目になるとは達也自身も考えていなかった。しかし、この使用法しか方法がなかったのだ。

 

 

 その理由とは…言わずもかな、深雪だ。

 

 

 深雪にも水波にも今回の任務であるアイドル活動については、何も言ってはいない。…というより言いたくない。だが、堂々と玄関から出掛けるとしたら、夕食を食べ終わった後にどこに出かけるのかとリビングを出る前に問い掛けられるのが関の山だ。その理由として、「今から撮影現場に行って、仕事してくる。」なんて言えるわけがない!

 少し言葉を言い換えたりして「今から任務だ。」と言うなら、真夜からの命令だと考えた深雪が困ったような、申し訳なさそうな顔で見送ったり、「一緒に参ります。私区もお兄様のお役に立ってみせます。」と連れてけアピールをするかのどっちかになるだろう。

 だから、常套手段をとる事が出来ない達也は、策を講じ、深雪達に気づかれる事なく、そしていつもと同じ生活を過ごせるように…という事から、裏手に伸びる階段から外に出られる隠し部屋を使う事になったのだ。

 こっそり何も言わずに出掛けるという案も考えたが一瞬に自分の考えを却下した達也。深雪に何も言わずに外出するのは気が引けるからだ。後ろ髪を引かれすぎて逆に心配して外出できなくなると瞬時に判断した達也が相変わらずのシスコンぷりを感じる…。

 

 

 そのシスコンぷりに呆れるかもしれないが、達也自身は真面目に考えた末での判断なので、軽く流してしまった方がいいかもしれない…。

 

 この場に友人たちがいればこの反応になるかもしれないが、達也は隠し部屋にあるRYUの衣装の横にある自分のいつもの服に着替えると、ドアもない壁の方へと歩いていく。するとドアの大きさ程の空間が現れ、達也は潜り抜けていった。

 

 

 その時、達也はようやく司波達也へと戻った気がしたのであった。

 

 

 




そうなんです。実は地下に隠し部屋があり、そこから抜け出していたという自己設定になってます!


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温かい差し入れ

こっそり帰ってきた達也に迫るものが…!


 

 

 

 

 

 

 隠し部屋から出た達也が見慣れた部屋を見渡して異常がないかを確認する。そこは、達也が魔法研究やCAD調整をする地下の研究室だった。

 そう、研究室の隣に隠し部屋を作っていた達也は、深雪に気づかれる事なく、地下へと降り、外出できたのだ。

 達也は夕食後、深雪と会話を楽しんだ後は日課の魔法研究に夜遅くまで取りかかるため、地下室に下りればしばらく一人になる時間が確保できる。これのメリットとしては、深雪や水波にあの恥ずかしい任務の事を話さずに外に出掛けられるという事、そして日頃の日常を一切変えることなく過ごせられる事だ。

 出かける度に深雪に心配させる事もないし、深雪の傍に水波もいるしでボディガードの方にもゆとりができる。ただし完全に任せてはいなくて、無意識では精霊の眼で深雪を見守り続けている。

 しかし、メリットがあれば、デメリットもある訳で、これには少しの無茶や行動が必要になってくるのだ。

 

 達也にとって一番大事なのは、深雪だ。例え真夜からの任務でも深雪には遠く及ばない。深雪との何気ない普通の日常は達也の精神に癒しを与えるほど、重要な事だ。そのため、深雪の言動を尊重するのは妹を愛する兄の務めだと思っている達也は、深雪の行いを尊重し、なるべく合わせる事に決めた。

 その行いというのが、毎日日付が変わるギリギリの時刻に達也へコーヒーの差し入れをする事だ。いつも地下室で研究を行っている達也へ、深雪が丹精込めたコーヒーを差し入れるのが深雪にとっては生き甲斐とも言える神聖な儀式なのだ。達也も深雪の淹れるコーヒーは好きで、二人で過ごすうちにこれが当たり前になっていた。この深雪のコーヒーの差し入れに間に合うように、達也は芸能活動して帰ってきたのだ。わずか数時間しか抜け出せないため、失敗で時間がつぶれないように予習もしておいたお蔭で事も上手く運び、現在に至る。

 

 

 

 達也は研究データが入っている端末を起動し、CAD調整機器も起動させておく。そして時刻を確認し、そろそろ深雪が差し入れを持ってくる時だと把握し、服に乱れがないか、不自然なところはないかも確認し、起動した端末から実験データやFLT開発第三課からのメール報告等も開き、いつもの目にも止まらないスピードでキーボードの上で指を走らせていく。

 深雪は達也がずっと研究していたと思っているので、そのように振る舞わないといけない。それに遅れた分を取り戻すようにキーボードを走る指にも力が入っている。

 

 それから数分後、地下室の階段を下りてくる深雪の気配を感じ取り、達也はいよいよかと内心乗り切れるか若干不安な気持ちを抱えながらも、楽しみにしていた深雪の差し入れが来て、喜ぶ。

 

 

 コンコン…、

 

 

 「お兄様、深雪です。開けていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

 深雪が入室の許可を扉越しから問いかけてくる。達也はもちろん深雪を無視する訳もなく、扉の開閉スイッチを押し、深雪の入室を許可する。

 扉が開き、深雪がコーヒーと茶菓子を盆に乗せて入ってきた。

 

 

 「失礼します、お兄様、コーヒーをお持ちいたしました。」

 

 

 「ああ、ありがとう、深雪。今日は茶菓子も用意してくれたんだな。」

 

 

 「はい、先程お話ししている時にお出ししようとして、すっかりお兄様とのお話に夢中になってしまって、忘れてしまったんです。ですから、夜遅くにお出ししてもいいのか迷ったのですが、ぜひ食べてもらいたくて、持ってまいりました。」

 

 

 「いや、問題ないよ。深雪が作ってくれたんだから、有難く食べさせてもらうよ。」

 

 

 「深雪が作ったとなぜお分かりに?」

 

 

 「深雪が手作りした時は、必ず俺に一番に食べさせてくれるだろ?それに茶菓子の皿もコーヒーカップも深雪が俺に手作りを渡す際に使っているものだからな。」

 

 

 達也に指摘された事が深雪は気付いていなかったらしく、改めて食器を確認する。達也に食べてもらうのだから、食器もこだわり抜いた最高品にしなければいけないという究極のブラコンから生じた出来事だっただけに、それが意識することなく行動に出ていた事に羞恥もあるが、何より身体にしみついている達也への愛情を実感して喜ぶ深雪だった。

 

 

 「では、頂く。」

 

 

 そんな恥ずかしそうにしながらも口元が綻んでいる深雪の表情を見て、深雪が淹れてくれたコーヒーを口にする達也。それから茶菓子も口にし、優しい目で深雪を見てから、感想を述べる。

 

 

 「うん…、美味い……。」

 

 

 「…ありがとうございます。」

 

 

 再びコーヒーを口に入れ、堪能しながら、満面の笑顔を達也に向ける深雪と一時の会話を楽しむ達也。

 

 温かい差し入れで心も癒された達也は、深雪にもう就寝するように告げて、見送ってから研究に力を入れていく…。

 

 

 

 

 




疲れた後にコーヒーで一服すると和むよね~。



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欲の影

やはり人間関係はもちろんですが、達也だからね~。厄介事を入れとかないと。


 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が深夜になっても研究に没頭している頃、最高層ビルの最上階のオフィスにて極上のワインを飲みながら、部下からの連絡をつまらなさそうに耳にしていた。

 

 

 「……つまり、お前達は尾行に気づかれただけでなく、あっさりと見失ってしまったという訳だな?」

 

 

 『も、申し訳ありません!! もう一度近辺を探してみます!!』

 

 

 「もういい…! お前は馬鹿か? 姿を見失った場所にいつまでも居座っている奴がどこにいる? その辺りに住んでいるのであれば、お前達を撒くためにもう少し早めにするだろ?そんな事まで理解できないのか。」

 

 

 『い、いえ! 滅相もございません! 次は必ず…!』

 

 

 「ああ…、ご苦労だったな。もう休んでもいいぞ。」

 

 

 『はい!! 失礼いたします!!』

 

 

 終始一生懸命に返答していた部下の電話を切ったこのオフィスの主は、クッションもある最高級のレザーが使用された椅子の背もたれに身体を預け、そのまま再び電話回線を結ぶ。相手は、自分の第一秘書にだ。

 

 

 『…はい、このようなお時間にご連絡とはどのような用件でしょうか?』

 

 

 今度の電話の相手は、先程の電話越しからも分かるくらい頭を下げていた印象があった部下ではなく、どこか冷静に物事を把握しようとしている出来る人物といった印象を感じる。まさにその印象は当たっていて、頼まれればすぐに実行する機械的な人物だ。

 

 

 「ああ、今回はそんなに難しくはない。全く使えない奴が出たから、お前の方で処理しておいてくれ。今日付けで斬り捨てておけ。もう奴の声も聴きたくないからな。」

 

 

 『はい、畏まりました。そのように手配させていただきます。』

 

 

 「……理由は聞かないんだな。」

 

 

 『はい、ある程度の予測は出来ていますから。恐らく失敗したのでしょうから…。』

 

 

 何を言っているのか互いに話していないが、言いたい事は伝わっている事は分かっていた。その秘書もまた、同じ穴のムジナだという事だ。

 

 

 「本当にお前がいてくれて助かるぞ。 」

 

 

 『そう言っていただけると、幸いです。

  …ところで、どういたしますか?新たな人材を派遣いたしますか?』

 

 

 「そうだな…、今までのようにはいかない相手だと分かったんだ。今度はその道に通じた奴を向かわせろ。それから依頼する際は、俺の事は伏せるんだぞ?」

 

 

 『ええ、心得ています。何重もの細工を施しておきます。…それにしてもそれほどまでする必要性を感じないのですが、本当によろしいのですか?』

 

 

 主の命には従う意思を見せる秘書であったが、やはり疑問というものは残ってしまう。今回の件はそこまでするような用件には思えない。ましてや調査する相手が新人アイドルだというなら。

 

 秘書の言外の疑問を理解した男は、不敵な笑みを浮かべ、面白がっている事を匂わせる口調で答える。

 

 

 「そうだな…、いつもならこの程度で終わってもいいんだが、あいつには何かがある…。俺の勘がそう言ってるんだ! あいつには底知れない興味が沸き起こってくる!あいつを俺の手に収めれば俺の力がもっと膨れ上がるはずだ…!絶対にものにしてやるッ!

 

  わ~~~~~はっはっは!! 」

 

 

 高笑いが収まらず、そうなった未来を想像し、更に欲が刺激される。それを電話越しから感じ取っていた秘書はしょうがないと言わんばかりのため息を吐き、言葉を続けた。

 

 

 『畏まりました。それでは、こちらもそのように準備いたします。社長の欲する未来が実現される事を祈っています。』

 

 

 そうして、秘書は電話を切ったのであった。

 

 

 

 

 秘書との電話も終え、ワインが入ったグラスを片手に持って、ネオンが輝く夜景が広がる光景をガラス張りした壁から鑑賞する。そのまま、笑みをこぼして優越感に浸る。

 

 

 (…ここまでぞくぞくしたのはいつ振りだろうな!)

 

 

 アドレナリンが体中に巡っているのではないかというほど興奮しながら、脳裏に配下に入れたい男を思い浮かべる。

 その男は会って間もない自分に対し、刃向ってきた。それだけでなく、情報を手にしようと少女にさりげなく仕込んだ小型盗聴器を見抜き、破壊した。更に今日は撮影が行われると聞き、帰宅する所を尾行するように命令出したが、それも見抜き、撒いて逃走した。徹底的に正体を秘密にしようとしている彼が、もう気になりだし、ますます欲しくなった。

 

 

 「…RYU…か。 君は一体何者なんだい? 」

 

 

 答えが返って来ることは無いと分かっているが、つい独り言が出てしまう。それでも楽しみでしょうがない気持ちが勝り、独り言にも気づかない。

 

 脳裏に浮かんでいる男…、新人アイドルRYUが隠そうとする秘密を握り、それを脅しに自分の芸能事務所の一番稼ぎ頭にしようという野望が更に彼の欲を燃え上がらせる。

 

 

 夜景を見下ろし、ワイングラスを掲げ、不敵な笑みを浮かべた男…、大手芸能事務所『パーフェクトゴッド』の敏腕社長、榊寛人が自分で作り上げたRYUの幻影に話しかけた。

 

 

 「RYU…、お前はおれのものだ…!!」

 

 

 グラスに入っていたワインを一気飲みし、オフィス一帯に広がるほど、高笑いが充満する…。

 

 

 




そうか、達也を尾行していたのはお前の指示だったのか! 
登場時点で気に入らない奴だとは思っていたけど、更に気に入らない感が上がったよ。
(うちがつくったオリキャラなのにね~。)



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CM『プリンセス』SUNver.

いよいよですな~! まずは翔琉と美晴のCMです!

二つのCMストーリーが描かれます! もしよろしければ、どちらが良かったのか、アンケートでもしようかな?

 ちなみに役名はないため、それぞれ本名で語っていきます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の部室―――――。

 

 

 

 

 

 シュッ、シュシュッ…、パッ、タタタン!!

 

 

 夕日が窓から差し込む時間帯、そろそろ下校時刻になり、ダンス部部長の翔琉が顧問との打ち合わせを終え戻ってきた。

 すると他の部員たちは帰ったはずの部室から、手拍子や床を擦る音が聞こえてきた。

 

 様子を窺うため、ドア窓から覗き見ると、そこには汗を掻きながらもダンスする後輩の美晴の姿があった。

 

 

 「最後はここで……、あ!」

 

 

 勢いを踏んでステップを繰り出した美晴だが、思うようにできずに同じところで躓いたり、転んだりしていた。

 

 部活が終わった後も自主練をしていた美晴。ボロボロになるまであきらめずに成功させようとする美晴の一生懸命さに翔琉は応援する気持ちが高くなり、居ても経ってもいられず、部室に乗り込む。

 

 

 「先輩…?」

 

 

 「俺が教えてやるよ。 一緒にやろうぜ!」

 

 

 大好きな先輩から教えてもらえる事に嬉しくなり、さっきまでダンスに熱中していた美晴の顔に表情が綻び、可愛らしい表情になる。それを見て、ドキッとする翔琉。

 

 互いに笑みを浮かべると、次の瞬間は同じダンスを愛する者同士。翔琉が教えながらも徐々に上達していく美晴と一緒に踊っていられる時間を満喫していく。

 

 

 

 

 

 大会―――――。

 

 

 

 

 その成果があって、見事全国ダンス大会で優勝できた美晴たち。センターを務める事になっていた美晴はその責任から自主練をしていて、それが実った事で仲間達と優勝の喜びを分かち合っていた。その一方で、心ではずっと決めていた事へ決心をつける。

 

 

 

 

 

 教室にて―――――。

 

 

 

 

 部員一同で、学校の教室を借り切って、打ち上げパーティーをした終わり。

 

 全員に次回でカラオケに行き、教室には美晴と翔琉だけ…。

 

 

 そこでずっと伝えたかった事を美晴は翔琉に告げる。

 

 

 『好きです…!!』

 

 

 美晴の告白に振り向く翔琉。もう一度勇気を振り絞って…

 

 

 『先輩の事がずっと、好きです!!』

 

 

 耳まで真っ赤になっているのを自覚しながらも想いがどんどん溢れてくる。好きな気持ちを言った事で、ずっと心の淵で溜めていた想いが口から出てくる。

 

 

 『好きなんです…! 翔琉先輩の事が好きです!!…私と付きあ………』

 

 

 最後までいう前に美晴の身体を引き寄せる翔琉。そして顔を近づけて…

 

 

 夕日が入る教室で、窓から程よい風が入り、カーテンが靡く。そして二人を包み込み、カーテンに二人の影が作りこむ。

 

 カーテンが役目を終えたというタイミングで二人の姿を見せる。

 そこには、美晴をやさしく、そして力強く抱きしめ、美晴の顔を覗き込む翔琉の顔があった。

 

 

 『それは…、俺の台詞だから…。

 

 

  …俺も前向きにいるお前の事がずっと気になっていて、気づいていたら目を追っていて…、お前を好きになっていた。

  美晴…、俺と付き合ってくれ。』

 

 

 翔琉の告白を聞き、うんうんと頷く美晴。嬉しすぎて涙が溢れてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 それから二人で遊んだり、ダンスしたり、今も草原ではしゃぎまくっている。すっかり遊びまくった美晴に翔琉が近づき、抱きしめる。

 

 

 『美晴の香り…、良い匂いだな…。』

 

 

 ここで、シャンプー『プリンセス』SUNverの紹介。

 香辛料にもなっており、髪が濡れても、ずっと香りが続く。髪をサラサラして、カールしても崩れない。

 

 

 『ありがとう♥ 先輩』

 

 

 翔琉の肩越しでウィンクする美晴。

 

 

 『”シャンプー『プリンセス』SUN登場!』

 

 

 『MOONもよろしくね!』

 

 

 

 

 …CM終了。

 

 

 

 二人で手を繋いで宣伝して、幕引きとなったSUNver.

 

 学生らしい青春さも兼ね備えながら、そこに甘い展開を入れたCMだった。

 

 

 




SUNはどうでしたか~~!!

女の子でもプリンセスみたいに甘い恋ができるという趣旨でのストーリーをした訳ですが…。

次はMOONですな~。



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CM『プリンセス』MOONver.

次は達也と鈴蘭ですな~。


 

 

 

 

 夜の華やかなパーティーに紅いドレスを身に纏った美女が現れる。

 

 会場中の参加者の目を惹き、あっという間に男性達からダンスの誘いを受ける。

 

 しかし、彼女…鈴蘭にはもう既にダンスを踊る相手を決めていた。その相手が遅れて会場に入ってくる。

 白いスーツをラフに着込み、胸元から開かれた鎖骨が凛々しく見える。大人な雰囲気を醸し出す男性…に見える(実際は高校生だが、年齢不詳を通しているため、ここはスルーしておく)RYUが鈴蘭の姿を見つけると、微笑を浮かべて、男性達の群れの中を一言も声かける事なく、道を開かせ、難なく鈴蘭の元へたどり着く。

 

 

 そして鈴蘭に手を差し伸ばし、腰を少し折る。

 

 

 「私と踊っていただけますか? …お姫様。」

 

 

 「…ええ、ぜひ。」

 

 

 RYUの差し伸べられた手に自分の手を重ねる鈴蘭の顔はほんの少し嬉しそうに見えた。

 

 RYUの先導により中央のダンススペースへとやってきた二人は、楽団の演奏に合わせ、ステップを踏んでいく。

 

 鈴蘭の洗練されたダンスと微塵も狂わない徹底したリードを保つRYUのステップと仕草が会場中に二人だけの空気を広げていく。

 

 

 

 

 

 

 ベランダーーーーー。

 

 

 

 

 

 ダンスが終わり、二人それぞれとダンスを踊りたい者が集まりつつあったが、二人は会場を後にし、隣接するベランダへと場所を移す。

 

 

 「今日は私と踊っていただき、ありがとうございます。お姫様。」

 

 

 「…もうからかわないでください。…いつも通り、”鈴蘭”で良いですわ。」

 

 

 (これはあくまで台詞ですので!!)

 

 

 「…ふっ、そうか。なら、鈴蘭。 俺だけと踊って平気か?他の奴も踊りたがっていたが?」

 

 

 「良いんです。それよりもRYU様こそかなり言い寄られていましたけど?」

 

 

 「そうだな、彼女達には悪いが………

 

 

 

  俺には君にしか目にはいらない…。」

 

 

 いきなり顔を近づけて、囁く。

 

 その声はしっかりとした低い声色で、大人な雰囲気をより高める。ドキッとせずにはいられない。

 (ちなみに今ここで、RYUは映像でドアップになっている。いわば鈴蘭目線だ。)

 

 

 「…え?」

 

 

 「俺はずっと前から君の事だけ考えている…。

  例えば、君が他の男から言い寄られているのに嫉妬するくらい。」

 

 

 「あ…、RYU様…?」

 

 

 ここでRYUが鈴蘭の綺麗な光沢を輝かせている黒髪を一房優しく掴みとり、毛先を自分の口元へと持ってくると、愛おしそうにその髪にキスする…。

 

 

 「君は俺が『君の事が愛おしすぎて堪らない…』と言ったら、どうする?」

 

 

 言葉に詰まっている鈴蘭に優しく微笑みかけて言葉を続ける。

 

 

 「…今日も君のいい香りがするな。…本当に。」

 

 

 それから鈴蘭を自分へと抱き寄せ、抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 ここからシャンプー「プリンセス」の紹介。薔薇の匂いが入ったもので、髪をしっかりと保湿し、サラサラ感を出す。

 

 

 

 

 『大人を演出するなら、やっぱりこれ。』

 

 

 『君に惹かれてしまうかもしれない魅惑…。』

 

 

 『『プリンセスMOON 登場』』

 

 

 

 番宣する二人は高価なソファに腰かけ、RYUが鈴蘭の身体を支えた形で座っており、密着している。しかしそれがまたRYUが持つセクシーさを上乗せしているのであった。

 

 

 

 

 




何とか今日中にと急いで、とぎれとぎれ投稿してしまい申し訳ありません!!

以上で、CMのSUN/MOONが終わりました!!

これを持って、どっちのCMストーリーがよかったか、アンケートを取りたいと思います!!
活動報告を上げておきますので、そちらでコメントお願いします!!詳しくは活動報告にて!!


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大いなる喜び

さてCMが完成しました~。
まだアンケートは実施してますから、活動報告からどんどんコメント載せてくださいませ~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 編集されたCMが遂に完成し、世間にネットやテレビ、VODを通じて配信される事が早くも決まった。

 しかしその前に、その先駆けとして出演した本人達にできたてほやほやのCMが入ったDVDを各芸能事務所に届けられる。ゴールデンスター芸能プロダクションもその内の一社で、美晴とRYUが出演した分のDVDが届けられた。それと同時にCM公開と同時に発売開始のシャンプーの粗品が一緒に添えられていた。

 

 

 「うぉ~~~~!! これがそのCMが収納されたDVDか~~!!二人の歴史的作品だ~~!! デビュー作だよ~~!!

  これで僕たちの会社も前進できたし、万々歳だ~~!!」

 

 

 DVDを持って、オフィス内をスキップし、大層喜びを露わにする金星社長。そしてその社長を見つめるのは、この事務所所属の芸能人である美晴とRYU。

 

 

 「はい!! 社長が喜んでくれて、私も嬉しいです!! 万歳~~!!」

 

 

 「……何もかも社長と同じ行動しなくてもいいんじゃないか?」

 

 

 金星に続いて美晴もその後を腕を上げて万歳しながら喜ぶのを、傍から冷静に見届けるRYU。そんなRYUに二人の視線が集中する。一人だけポツンと立っているRYUも一緒に祝おうと視線で訴えてくる。

 

 

 「……いや、俺は参加しないからな? 」

 

 

 潤わせた目で訴えられても、こればっかりはRYUも拒否する。確かに仕事が成功して喜ばしいのは分かる。RYUだって、シルバーとして新たなソフトウェアを作りだし、それを第三課のみんなと作り上げ、売り上げも好評だったなら、喜ぶ。しかし、感情が一定以上を超えることは無いため、喜ばしいという事は場の空気で察しても、それを同じように感じ、喜ぶのはRYUは出来ないのだ。

 今感じているのは、事務所に入って最初の仕事…、芸能界での第一歩とも言える仕事を達成できたという安堵感だ。二人には申し訳ない気持ちも多少は感じているが、二人のようにはしゃぐほどの喜びを共有したいとも思わなかった。

 

 RYUが二人に賛同しなかったため、がっかり感を隠せないくらい落ち込んだ二人だったが、ものの数分で復活し、早速以前埃被って使っていなかった再生機器を取りだし、DVDをセットすると、CMを鑑賞し始める。

 (余談だが、RYUが事務所に来た初日の清掃で発見され、RYUが中の部品まで綺麗に清掃したお蔭でまた使えるようになったのだった。)

 

 

 「おおお~~~~~!! 美晴ちゃんのチャーミングポイントがすっかり活かされてるね~! 初めてのCMだというのに!! しかも、このCM、青春を感じるよ~!!

  いいな~~、青春~~!!」

 

 

 「私もこんなに楽しく撮影できるとは思いませんでした! ますます学校が楽しく感じられましたよ!」

 

 

 「そうだろうな~、僕もこんな青春を送っていた時があったんだな~。」

 

 

 鑑賞しながら撮影の時の事や金星の青春時代…という話をネタに話が進んでいた。それからはRYUが出演したCMも見て、二人とも黄色い悲鳴を上げて、食い入るように見ていた。それを視界に入れつつ、自分のCMを見て、「これは…、もう見ないようにしないといけないな。」とCMの中の自分を見て、苦笑し若干の羞恥心からこれから公開される事になっているCMを目に入れないようにしようと決めるRYUだった。

 

 

 CM鑑賞終わった後は、二人と今後のスケジュール等を確認して、事務所を後にする。

 

 RYUの手には、さっき見たCMが入ったDVDが一枚握られていた。

 

 

 金星が「記念に持って帰ってもいいよ!」と告げて、二人にDVDを渡したのだが、RYUはこれの処理に迷った。もし家に持って帰れば、発売前のCMを何故手にしているのか深雪に気づかれるきっかけを作ってしまう。FLTに持って行っても状況は同じになる。捨てると言ってもこの前の尾行者が手にする危険もある。

 どうしたものかと考えた結果、RYUが辿り着いたのは…

 

 

 (…消すか。 保管したいとも思わないしな。)

 

 

 DVDの抹消を決定した。

 

 

 しかしここで魔法を使うのはまずいので、とりあえず隠し持っておくことにして、帰路に着こうとした時、RYUが来るのを待っていたように(実際に待っていたんだが)、RYUの目の前に一人の老執事が現れた。

 

 

 「……初仕事、お疲れ様です。RYU殿。」

 

 

 「ありがとうございます、……と言わせていただきます。それでこんな所まで一体何をしに来たのですか?葉山さん?」

 

 

 

 向かう合う二人の空気に緊張が一瞬流れるのであった。

 

 

 




たまにテンション高い反応をする人に同じようにするように迫られると困る時がある。達也もそうなのかな~。

そして久々に葉山さんが登場しましたよ~。


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待ちわびた宝

葉山さんが出てきたと言う事は…?

CMアンケート、まだ実施中ですよ~!どんどん下さいな~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所内の薄暗い駐車場の一角で向かい合うRYUと葉山さん。二人がいる所は監視カメラの死角であり、いつもより蛍光灯を弱くしているため、姿は映らない。警備員も今だけは巡回ルートから外すように仕込んでいる。それから防音障壁も念のため発動する。街中で魔法を使うと、探知されてしまうが、その警告音もならない。完全にこのビルを四葉家の力で手中に収めているのが分かる。

 

 

 「ここまで念を入れるのでしたら、俺が本家に直接尋ねに行きましたが?」

 

 

 「いえ、それほど重要な用件でもないですし…、いえ、奥様にとっては重要な用件ですが、気になさらず。

  今日、達也殿を尋ねに参ったのは、お渡し頂きたいものがあり、それを受け取りに参った次第です。」

 

 

 「…別にあの方が欲しがりそうな物を持っているつもりはないのですが。」

 

 

 若干訝しく思いながら、達也は答える。達也はこの場が二人だけだと分かっていても、気を許してはいない。常に警戒心を持っている。葉山さんもそれは同じ。互いに共通する人に対して関係を悟られるような事は口にしていない。もちろん今は一見してRYUであるため、本名も伏せた形だ。その事をしっかりと意識して話が進む。

 それでも互いに内側で腹の探り合いをしているのは、二人に張りつめる空気から察する事が出来た。

 葉山さんへの回答に本心から答える達也は、二人が公にしない人物…、真夜が欲するような物を持ち合わせていないと頭を回転させて改めて考え、結論が変わらないと再認識する。

 

 

 「いえいえ、RYU殿は既に持っていらっしゃいます。 」

 

 

 しかし、葉山さんは達也のその考えを否定する。

 

 更に意味が分からなくなる達也が眉を上げる。

 

 

 「…何を俺が持っているというんです?」

 

 

 マッドサイエンティストな一面がある真夜だが、新たに開発し、披露する魔法はない。今は、完全思考型CADの開発をしている。その企画はFLT本部を通して研究しているため、既に真夜の耳にも入っているはずだ。

 それ以外に真夜が自分から取り上げてまで欲する物があるとはどうしても思えない。

 

 達也が訝しく思うのは無理はなかった。しかし、葉山の次の言葉でその思考は途切れえ、逆に脱力感に襲われるのであった。

 

 

 「先程届いたと思いますが、今回RYU殿がオファーされたCMが収録されたDVDで御座います…。」

 

 

 「……DVD、ですか?」

 

 

 「はい…、そのRYU殿の手にお持ちのDVDです。」

 

 

 まだ持っていたDVDを思わず凝視するほど、驚いた達也だったが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

 

 「…分かりました。それではこれは葉山さんにお渡しいたします。」

 

 

 「……ありがとうございます、RYU殿。」

 

 

 達也から葉山さんに手渡したDVDは、そのまま葉山さんの胸ポケットへと入れられる。その動作を眺めて改めてこれが現実だと認識した達也は、口にするつもりもなかったが、思わず本音が漏れてしまう。

 

 

 「それにしても、あの方がそれを欲しているとは…。意外でした…。」

 

 

 「私も同感で御座います。ですが何分、奥様が至急持ち帰ってくるようにとおっしゃられましたので…。」

 

 

 葉山さんも達也と同じ心境だったようで、苦笑しながら達也と共感する。しかし、苦笑しつつも楽しんでいるようにも見えるため、達也はお世辞が半分入っているんだろうと捉えるのであった。

 

 真夜がDVDを急ぎで手に入れたいほど欲するとは信じられなかったが、このDVDの処分の手間が省けてよかったと思う事で、気にする事は少なくなった。

 それに、このDVDで真夜が何かを企んでいるとしても、それが今後の任務に対して必要な事だろうと考える事で自分を納得させた。…真夜がこの任務に対してまだ達也に話していない事があり、今後の行方次第で知る事になると読んでいるからだ。

 

 

 そんな事を内心考える事で、もうDVDの事はすっかりと切り捨てた達也は、今頃真夜が待ちわびているであろうそのDVDを持って、人がいない暗闇へと歩いて消えていった葉山さんの背中を見送った。

 

 『精霊の眼』でもここから消えた事を確認した達也は、ヘルメットを被り、深雪が待つ自宅へと愛車を走らせるのであった…。

 

 

 




アンケート結果が出るまでは、CM公開された後の女の子&女性達の反応を投稿していきたいと思います!!

どんどんアンケート待っています!!


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念願のお宝

どれだけ待っていたんだ?真夜は…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 四葉本家、真夜の書斎室―――――。

 

 

 

 

 

 コンコン…。

 

 

 『奥様、葉山で御座います。ただいま戻りました。』

 

 

 「入って構わないわ、どうぞ?」

 

 

 いつものようにノックして、ドアを開け一礼すると、ドアを閉め、真夜がいる書斎机まで向かう。息抜きの紅茶の入ったポットとカップをワゴンに乗せて。

 

 

 「待っていました、葉山さん。…達也さんからいただいてきましたか?」

 

 

 「はい、奥様の仰られた通り、達也殿にはお願いして、御譲り頂きました。これがそのDVDで御座います。」

 

 

 「よくやってくれました!! それが達也さんの魅惑映像が入ったDVDね!! さぁ!!葉山さん!!それを早く渡してちょうだい!!」

 

 

 さっきまで当主らしく貫録の入った佇まいをしていたというのに、お目当てのものが目の前に現れると、態度を一変させ、達也のファン一号という真夜の本性が表に飛び出す。こんな真夜を使用人たちが(特に青山が)目撃すれば、絶句すること間違いなし。青山なら到底信じられず、達也が真夜になにか精神魔法を使ったのではないかとすぐに達也を尋ねに行って罵倒を浴びせる事だろう。

 

 (その時点で、青山の命があるかどうかは知らないが…。)

 

 しかし、この書斎室には基本真夜と使用人序列第一位である葉山さん以外はこの部屋には入れない。緊急時の報告で直接伝えるべき案件なら入る事も許される事はあるが、その場合は葉山さんも同行している。それ以外の場合は、この書斎室とは別に謁見室があり、そこで報告やら、実験やら、制裁やら…等を行っているため、真夜の達也ファンぶりを知られる可能性は低い。念のために初めは警戒していたが、誰も盗聴していない事を確認し、抑えていた感情が爆発したのであった。

 

 

 「はい、こちらで御座います。」

 

 

 主の命に逆らう事もなく、葉山さんがDVDを真夜に渡すと、それを天井に向かって掲げて、頬を赤らめたと思ったら、それを頬で擦り擦りする真夜。

 

 

 「ああ~~!! CMの仕事が入った時は驚いたけど、やらせてみて正解だったわね! だって達也さんのセクシーで、ワイルド感な所ってそうそう見られないもの!!」

 

 

 早く見たくて息が上がる真夜。目には血管が見え、充血している。

 

 

 「それにしても達也殿がすんなりとお渡しくださいましたのは予想通りでしたな。」

 

 

 「ええ~、そうね! だってこのDVDを深雪さん達に見せる訳にはいきませんもの! 達也さんに関してだけは非常な勘の鋭さを発揮しますから、もし見られればこの任務が御破産してしまう可能性があります。

  達也さんもそれを分かっていて、あえて私に渡してきたんでしょうから!!」

 

 

 「達也殿ならそうなるなら、いっそ消してしまおうとするでしょう。」

 

 

 「葉山さん、さすがね。そうね~、達也さんなら自分が映ったCMは、変装しているとしても、自分自身ですからね。目立つ事や芸能関係が好きではない達也さんだったら、消してしまった方がいいと思うでしょうね~。」

 

 

 「それを読んでいたから、奥様がそうなる前に入手した…という事ですね?」

 

 

 真夜を讃えて一礼する葉山さんの態度を見て、ご機嫌よい笑顔を見せる。

 

 

 「だって~!! もったいないでしょ! 普通なら絶対に達也さんはしないし、私にとってはレア中のレア物よ!! 究極のお宝と言っても過言ではないわ!絶対に護らないといけないのよ!!」

 

 

 熱く語る真夜を温かい目で見守る葉山さん。その視線に自分が少しエキサイトしてしまっていたと理解し、罰が悪そうに目を逸らす。

 そして逸らした先に遭った書類の内容が目に入り、早くCMが観たい衝動を何とか押して、葉山さんに話を振る。

 

 

 「…ところで葉山さん。今のところ、目立った動きはしていないのかしら?」

 

 

 「目立った、と判断するべきかどうかは定かには申し上げられませんが、確かに水面下で動き始めています。」

 

 

 「それは、達也さんの影響で?」

 

 

 「はい…、恐らくは。」

 

 

 「ふ~~ん……、やっと動いてくれたのね。」

 

 

 二人でしか知らない話の空気が漂い、真夜はいつもの妖艶な笑みを見せ、視線には冷徹なものを感じさせるものが浮かんでいたのであった。

 

 

 




乙女真夜<当主真夜が勝るくらいの事か…。なんだろうね~。


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葉山の疑問

もしかしたら裏事が分かるかも?


 

 

 

 

 

 

 「達也殿が早速結果を出してくれたので、あぶり出しも順調です。」

 

 

 「本当に達也さんはトラブルに愛される資質があるけど、良い運も運んで来てくれるのね。当初の予定より進んでいるのではなくて?」

 

 

 「はい、お蔭で人員導入の編成が予定より削減できましたし、達也殿の芸能活動も問題なく事を運べます。」

 

 

 「まさかいきなり達也さんに仕事が舞い込むとは思わなかったけど、大きな収穫は取れたわね。」

 

 

 真夜と葉山さんが意味深な会話をする。真夜は今回の任務で予想以上に成果が出ている事態に薄く笑みを浮かべる。葉山さんから紅茶を受け取り、喉を潤しながら葉山さんが何か言いたそうにしているので、視線で先を続けるように命令する。

 

 葉山さんは真夜からの許可を得て、一礼し、口を開く。

 

 

 「ところで、奥様はなぜ達也殿の最初の仕事としてあのCMのオファーを引き受ける事をお許しになられたのですか?」

 

 

 「なぜというと?」

 

 

 葉山さんが何を言いたいのか理解できないから問い掛けている…訳ではなく、ただ単に葉山さんが何を考えてそう聞いてくるのか知りたいという欲求が生まれたためだ。

 

 

 「はい、当初の予定では、有名な音楽番組にて達也殿…RYU殿を出演させ、デビュー曲を披露させて、芸能界全体にRYU殿の存在を認識させる目的でした。そこからRYU殿に接触してくる者から調べる段取りだったはずです。」

 

 

 「そうね、確かにその予定だったわね。」

 

 

 「ですが、その予定を早めて、突然舞い込んできたCM出演依頼をお受けになられた事が少々気になったのです。確かにこのオファーをしてきた者の調べはついていますが、今後の事を考えると警戒して距離を取り、間接的に関係を持った方がよろしかったのではないでしょうか?」

 

 

 葉山さんが真夜に話しているのは、CMオファーをしてきた榊社長の事だ。

 

 元々、達也…じゃなくて、RYUへの芸能活動における制限や届いたオファーの選定は金星社長との提携を結ぶ際に交わした契約事項で、金星社長経由で真夜に伝わる事になっている。そしてどの仕事をRYUにさせるのかという決定権は真夜にあるのだ。金星社長はどんな仕事依頼が入ったのかを送信するだけで、RYUの仕事に対する決定権は持ち合わせていない。持っているのは美晴だけだ。ただし、RYUと美晴が出演する場合も真夜が選定するのであった。

 

 この処置は、金星社長が手当たり次第に仕事を引き受けさせないためであり、金星社長と真夜との権力の差を知らしめるためでもある。しかし一番の理由は、達也のスケジュール管理をさせる事で情報が漏れないようにする事と達也が成し遂げられる仕事を選別する事である。

 

 芸能関係のものが苦手である達也にアイドルをしてもらうにあたり、不都合な展開が先読みできそうな事を事前に払い除ける事でアイドルとして一気に駆け上らせるのが狙いだ。

 

 この案は葉山さんが契約書を作成する時、真夜本人が言いだした事だった。それなのに、CM出演のオファーが来た際は、選別する前に一拍沈黙してすぐに引き受ける事を決定したのだ。

 

 真夜に忠誠を誓っている葉山さんは、真夜の命令や決定を非難したり、断ったりすることは無い。命令された事はどんな些細な事でも主の命に最善を尽くす。真夜の命は絶対だと心の底まで刻まれている。

 しかし、やはり疑問を感じてしまう。この疑問が解消されなければ、今後の動き方に大きく左右してしまう失敗を犯してしまうのではないかと危惧しているためだ。

 

 葉山さんの懸念している事は最もであり、それは真夜も理解していた。

 

 

 「葉山さんがそう思うのも無理はないわね。私に仕えている身としては、任務を遂行する上で判断を違えたり、遅れてしまえばミスを生み、計画に差し支える事だってある状況が目の前にあったら、私の利益を喪失させないために最善の策を考えるのは当然よね…。」

 

 

 葉山さんは黙って、真夜の言葉に耳を傾ける。

 

 

 「葉山さん、貴方が私のために言ってくれているのは嬉しいですよ?でも、世間を相手にするのですから、見極めは重要です。」

 

 

 そう言うと、さっきまで呼んでいた書類を取りだし、葉山さんに渡す。それを受け取り、読んだ葉山さんは無表情になるのであった。

 

 

 




主の真意を見誤ったらまずいもんね~。


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真夜の真意

何を考えているか、今の時点で分かる人っているのだろうか?


 

 

 

 

 

 

 

 真夜から渡された書類を目に通し、葉山さんは口を閉ざした。

 

 その書類にはRYUへの大量の仕事のオファーがびっしりと記載されていた。しかもその半分はあの榊社長がパイプを繋げている会社や映画監督、音楽プロデュ―サーによる依頼だった。

 

 

 「本格的にRYUに対して接触を図りに来たわ。まぁ、計画でも彼との接触は計算に入れていたのだけど。彼は芸能界ではかなり顔が効きますし、彼に見込まれた者は輝かしい結果を持ち、今も人気絶好調のアイドルや俳優、タレント、アナウンサー……、数え出したらきりがないほど多くの活躍を約束されます。それを利用するのが当初の予定として組み込まれていたわね?」

 

 

 「はい、短期間での任務遂行であるため、地道に活動してもインパクトを与えられるかは正直微妙でした。ですので、多少の危険はありますが、彼を利用する方が得策ではないかと判断した次第です。」

 

 

 「ええ、葉山さんの判断は間違っていないわ。私達四葉は秘密主義を布いてますし、芸能界については一般の方々より知識は低いでしょう。そこへ達也さんをトップアイドルとなるように仕込んでいくのですから、一番効率よくできるこの人物の有効利用は適切です。ですが…」

 

 

 一旦言葉を切り、葉山さんが流れ仕事のように真夜の空になったカップに紅茶を注ぐ。そして再び紅茶を口にし、喉を潤した真夜は、ついに確信を語る。

 

 

 「どうやら私達は彼を少々甘く見ていたのかもしれません。」

 

 

 気怠けに、しかし冷たい視線を持って、葉山さんを見つめる。真夜は決して葉山さんに対し、怒りを感じている訳ではない。寧ろ自分の命令を忠実に実行に移すべく、計画や人員配備、情報収集等を行ってくれている葉山さんに感心している。それに今回限りでもなく、四葉家に関わる仕事の事は実行前に必ず真夜が目を通し、最終判断を決定する。だから、真夜は榊社長の情報を目にしていながらも、それを見ぬく事が出来なかった自分に対し、若干の苛立ちを覚えており、それが態度に現れただけだ。

 

 葉山さんは長年仕えているだけに真夜の心境を理解していた。そして自分も同様にやるせなさを感じるのであった。

 

 

 「葉山さん、確か報告ではその榊という男は達也さんとは一度しか対面していないのよね?」

 

 

 「左様でございます。それも達也殿は不快に思う態度を見せていました。あれなら気を悪くしてしまうかと思っておりました。」

 

 

 「でも実際はその逆で、興味を持たれたようです。だから姑息にも部下を使って探りを入れたり、達也さんを尾行させたり指示しています。この行動を見る限り、ただの興味を越えていると私は考えているのだけど、葉山さんはどうかしら?」

 

 

 「私も奥様と同意見でございます。彼の今までの行動ではここまで探りを入れる事はありませんでした。………表の住人にはですが。」

 

 

 「そう、達也さんは普通の一般人だけど、個人情報を開示したくないという表向きの理由でRYU を演じているのです。つまり表の住人として彼とは会っているはずなのですよ。

  それなのに、達也さんに会う前から仕事依頼をしてきましたし、金星さんから送られたその書類の仕事依頼からしても、やけに達也さんにこだわりを見せてきてます。」

 

 

 葉山さんはここでようやく真夜の真意にたどり着いた。

 

 予定より早くに接近してきた榊の意図を知るために、計画を変更して、仕事の依頼を受けたのだと。そして更に執着にも似た大量の仕事依頼で裏があると考えていると。

 

 

 「これ以上は言わなくても良さそうね。では葉山さん、引き続きお願いします。もしかしたら私達が求めている展開かもしれないけど、状況が状況ですので警戒はしてくださいな。」

 

 

 真夜はこの話はおしまいという態度で葉山さんから書類を返してもらうとまだ手につけていない当主の仕事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 




榊の達也の勧誘はまだ知らないからね。任務の本当の目的は徐々に~!
あ、今日でアンケート終わります!残り少ないですがどしどしお答えください!


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暴走気味の真夜ちゃん

今日は冷酷な当主真夜ではなく、ファン精神絶賛中の真夜でお送りします。


 

 

 

 

 

 

 

 「ふふふ…♥

  さすが達也さんね♥ この髪にキスとか堪らないわ~!」

 

 

 私室へ小型の情報端末を持ってきて、一人で映像を興奮気味に、そしてうっとりとした表情で鑑賞している真夜。

 

 先程まで葉山さんと話していたが、今日は仕事を切り上げて就寝すると言って、私室にいたのだ。しかし寝るのではなく、手作りのハチマキと達也の顔写真入りのうちわ、RYUのアップした顔写真を使ったうちわも両手で持ち、ベッドに正座した状態で無線で送信された映像を見始める。…RYUの初CMを。

 

 いつの間にコピーしたのか、DVDから映像を抜き出し、それを真夜飛び切りお気に入り達也ファイルの中に、送信して永久保存した後、そのデータが入った小型情報端末を袖の中に隠していたのだ。

 

 一刻も早く見たかったから。

 

 ただそれだけで、仕事を放棄するのもどうかと思うが、真夜にとって、それほど達也のCMは意味のある宝物だった。本当は葉山さんの疑問を、「それを私が答えないとお分かりにならないのかしら?」と質問を質問で返し、話を終わらせたかったが、榊が達也を狙っているというのに、大人しく見物するほど無視するわけにはいかなかった。だって、真夜は達也をカッコよく魅せたりできるのは自分だけだと自信があるし、ファン一号として、榊に達也を思い通りにできる操り人形なんてさせたくなかった。(自分だったら操り人形にしても問題ないと思っているあたり、同じ穴のムジナと言えると思うんだけど。)

 だから、榊のこれからの行動に警戒するように葉山さんに告げるためにも必要な時間だった。

 

 

 

 「ああ~~!! 達也さん! 止めて~~!! するなら私にしなさい!!この子ずるいわ!達也さんに膝乗りさせてもらえるなんて!しかもあんなに顔を近づけちゃって~~!!

 

  達也さんもここは断ってもよかったのに~!!

 

  ……でも許しちゃう♥ だって、かっこいいんだもの~~!!

 

  それにあんな告白されると思うと、もう…、胸がドキドキよ~!!

 

  悶えて死にそう~♥ はぁ~…。」

 

 

 色っぽい表情で何度もCMを繰り返し再生する。

 

 

 「ああ~、良いわ~!! さすが達也さんね! これなら、シャンプーも売れて当然ね!! 

  …あ、そう言えばこのCMで投票があるって葉山さんからの報告で聞いたわね。どちらのCMがよかったかで、優れたアイドルかを決めるって…。

  一応、もう一つのCMも見て見たけど…。

 

  やっぱり~! 達也さんのCMの方が憧れが強い分、大人な雰囲気で言い寄られているみたいでずっとドキドキしっぱなしだし~、女性達の指示はますます上がるわ!

  発売日は明日だし、発売されたら、すぐに葉山さんに爆買いしてもらわないと♥

  ふふふ♥ 達也さんのシャンプー使ってたら、今度会った時、達也さん、分かってくれるかしら♥」

 

 

 恋する乙女のように自分の髪を一房抓み、くるくると弄って浮かれる真夜は、明日が楽しみで仕方がなかった。そしてその夜は、100回以上CM映像をリピートして、あまりにも達也が魅惑的に撮影されていたため、葉山さんが起こしに来るまで、鎮静剤を片手にじっと映像を直視するのであった。

 

 (良い子のみんな、大人は真似はしないように。睡眠はしっかりとりましょう~!)

 

 

 余談だが、後日シャンプー『プリンセス』が発売された途端、MOONの爆買いが発生し、それが火種となり、次々と売れ、瞬く間にニュースになるほど売り上げが爆弾と上がり、数日のテレビ報道でもこのニュースが取り上げられる結果となる。

 

 

 




こういう時になると、ニヤニヤが止まらなくなるくらい萌えてくるんだよ。真夜ちゃんは。そして、実際に爆買いするとは…。

…あ、そう言えば今日エイプリルフールだから、久しぶりにROSEネタの番外編やろうと思っていたのに、先進めちゃった…。(汗)


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友人たちの反応 エリカ編その1

CM「プリンセス」投票ありがとうございました!

今日からCM公開されてからのみんなの反応を語っていこうと思います!


 

 

 

 

 

 

 

 CM編集が何事も問題なく終わり、ついに発売と同時に『プリンセス』シャンプーSUN・MOONのCMがテレビや動画サイトで配信された。他にも商品を扱う店舗やショッピングモール、駅には宣伝ポスターがそれぞれ2種類貼られていた。

 

 そしてそれは瞬く間に女性を中心に話題となっていき、色めく女性達が後を絶たない。

 その現状は街中でも起きていて、ビルに設置された大型モニターで映し出されたCMが流れると、黄色い声を上げ、立ち止まる女性が目立つくらいだ。

 

 

 そんな女性達の中を颯爽と歩く一人の少女。

 

 

 紅い髪を後ろで一つにしたポニーテールが歩く振動で左右に揺れる。顔立ちも整っており、美女と言って過言ではない。その少女の名は千葉エリカ。魔法師の中でも数字持ちとして知られる百家に位置する、白兵剣術の使い手としても有名な千葉家の娘だ。本人も剣術の腕は卓越しており、達也にも感心されるほどだ。

 毎日稽古もしているエリカの事は、門下生も尊敬されている。

 

 しかし、今日は休日で、今頃の時間ならまだエリカ親衛隊の門下生と一緒に打ち込み稽古をしているはずなのだ。

 

 それにもかかわらずエリカは今、若者でにぎわうショッピング街で一人で歩いていた。

 

 服を買いに来たとかならこの場にいても分からなくもないが、エリカの顔を見れば、そうではない事は一目瞭然だ。なんだって、猫のような目が鋭くなっており、一切笑顔がまったくない。今にも爆発しそうだと思えるほどの怒りを露わにしている。

 そのためか、エリカの外見に興味を持った少年たちが声を掛けようとして、近づいてからギョッとして、固まるという光景が数度にわたって繰り返されているのだから。

 

 つまりはエリカは機嫌が悪い。

 

 その理由は……、兄である修次と喧嘩したからである。

 

 正確には、エリカが一方的に怒鳴り、気分転換も兼て飛び出したのだ。その原因は皆も分かると思うが、…摩利である。

 

 

 いつもの通り、道場で門下生と共に稽古を続けていると、久しぶりに帰ってきた修次が道場に顔を出してきたので、嬉しい気持ちが込み上げ、修次に駆け寄る。(…駆け寄ると言っても、しっかりと礼節や行儀らしさ等を教え込まれているエリカは、走っているとは思わせないギリギリの速さで足を動かす。)

 

 

 「次兄上っ!! 今お戻りになられたのですか!?」

 

 

 「ああ、ただいま、エリカ。相変わらず良い腕をしているな。これならそのうちあっという間にエリカに抜かれてしまいそうだ。」

 

 

 「何を言っているのですか!次兄上! 私が次兄上に勝るなぞ、ありえません!”千葉の麒麟児”とも呼び名が轟き、防衛大学校での任務で栄えある結果を築いている次兄上がそんな弱音を吐いてどうするんです!?

  …そのような戯言を申されるお口があるのでしたら、私と剣を交えてください! 次兄上っ!

  私がその間違いを証明してみせますッ!!」

 

 

 持っていた竹刀を振り、竹刀の先が修次の鼻先と近い距離で止まる。

 

 修次はただ、挨拶のような感じで言ったつもりだったが、完全に鵜呑みにしてしまった妹の気合の入った瞳を見て、苦笑する。ただし、修次がこの勝負を断るつもりもない事は、肩を軽く慣らす様子を見て、門下生達も理解した。エリカは久しぶりにする修次との稽古に笑みがこらえきれない。その笑みは嬉しさもあるが、目の前の強い相手に挑戦する真っ直ぐな目をしていた。

 

 

 「わかったよ、エリカ。 その申し出、受けて立つ。」

 

 

 こうして、エリカと修次との兄妹の戯れは始まったのであった。

 

 

 




エリカの修次ブラコンを上手く表現できたかな?

そして、ここから修羅場になるだろうな~、次回は。修次は間違いなく恐妹家復活するだろう。


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友人たちの反応 エリカ編その2

ブラコンなエリカが見られるかも~…、ぐはっ!!

…チーン


 

 

 

 

 

 

 

 

 「それではこれより修次さんとエリカさんの模擬決闘を執り行う!両者向かい合って前へ!」

 

 

 審判役の門下生が緊張しながらも道場での模擬決闘の慣わし通りに宣言していく。他の門下生たちはお手並み拝見と見る者や少しでも二人の技を盗もうと既に神経を集中させている者、二人に応援する者がいた。

 

 その中、道着に着替えた修次と向かい合う形でエリカも立つ。

 

 それからは二人の試合前の気迫にいよいよと感じ取った門下生たちはより壁際に下がり、掛けていた応援もやめ、道場内は静まる。

 

 

 「二人とも、礼っ!!」

 

 

 審判の掛け声で二人が互いに一礼する。そして竹刀を構えると二人の準備が整った事を確認した審判が息を大きく吸い込み、片腕を天井までしっかり上げる。

 

 

 「二人の悔いなき決闘を望む…! それでは始めッ!!」

 

 

 審判の腕が空を斬るように、一気に振り下ろされると同時に決闘の幕が開く。

 

 一番初めに動いたのはエリカだ。得意の瞬間移動で、姿を消し、修次に接近する。それに対し、修次は一切そこから動こうとはしなかった。

 

 エリカはチクッと胸が痛むのを感じたが、今は闘いの最中として余計な思考を振り落す。そして一気にケリをつけるために修次の斜め下に屈みこむ形で至近距離に入ると、そこから喉元目掛けて竹刀を振る。人間は死角を認識する際、左右上下に対する反応は早いが、それ以外からだと錯覚を起こし、認識しなくなる。完全に修次の死角を突いた一撃になる…はずだった。

 

 エリカの一撃は修次の竹刀が瞬時に首を捻らせ、首元とエリカの竹刀の間に入れこまれて凌がれ、逆にそのまま竹刀を払われた状態でカウンターを仕掛けてきた。

 慌ててエリカは大きく一歩後退する。しかし、それを許す修次ではない。

 

 エリカを追うように床を勢いよく蹴り、高速で突きを連続攻撃してきた。それをsyん間移動の応用で、突きを紙一片で躱し、時には竹刀で払って、修次の高速突きを交わし続けた。

 

 見物する門下生達は二人の攻防に感心する声を上げるが、エリカには苛立ちを覚える事しかならなかった。

 

 

 (みんな…何もわかっていない……!!)

 

 

 その気持ちがエリカに更なる闘志を募らせる。

 

 

 エリカは修次の攻撃を躱しながら機会を窺っており、修次の突きの攻撃速度が遅くなったのを見極めた瞬間、身をかがめて、一歩踏み出す。突きを繰り出していた事で、リーチが長いメリットがある分、身を護る部位が多くなるデメリットが生まれる。エリカは隙ができている腹部を目掛けて横一閃する。

 

 今度こそ手応えありと踏んだエリカ。

 

 しかし、エリカの攻撃が当たる寸前にエリカの手首を狙って修次の蹴りが命中する。それによって、エリカが竹刀を落してしまい、無防備になったエリカに修次が止めの一撃を振りかぶる。

 

 

 「そこまでっ!! 勝者は……修次さん!!」

 

 

 ………竹刀を逆手で握りしめ、横にした状態でエリカの首の寸手止めになった所で、動きを止めた修次。もちろん初めから寸手のつもりだったから、審判が止めに入らなくても、エリカの事だから勝負が着けば、自分から負けを宣言していただろう。

 

 

 互いに一礼をして、決闘を終えた中、若い門下生達が修次の元へ駆け寄り、先程の健闘を称えていた。一方、エリカにも親衛隊の面々が周りを囲んでいたが、当の本人であるエリカは兄と闘えて喜ぶ表情も、模擬戦に負けて悔しがる表情も、兄の強さに感銘を受けている表情でもなかった。

 

 今のエリカには、ただ修次に対する侮辱にも似た怒りしかなかった。

 

 そして修次に向ける怒り以上に、エリカはある人物にそれ以上の怒りが膨れ上がるのであった。

 

 




ブラコンぶりをみせようとしたら、エリカと修次の兄妹決闘だけで終わってしまった。

そしてエリカの気分が悪くなったような~…?


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友人たちの反応 エリカ編その3

エリカの機嫌がまずい事に~!!

深雪の吹雪もあれだけど、こっちは業火だよね~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り門下生たちの御世辞や健闘を称えられ終わると、修次はエリカへと歩み寄り、手を差し伸ばす。

 

 

 「エリカ、また剣のキレに磨きをかけたな。実際に闘ってみて分かったよ。相当稽古を積んでいるんだな。エリカは昔から筋がよかったし、兄として嬉しい限りだよ。

  ま、本当は女の子に剣術を強いるのはどうかと前は思っていたけど。」

 

 

 「…それは偏見です、次兄上。女子だからと言って、剣術を磨く事に反対するというのは、今の世の中では差別的発言です。…ま、まぁ、次兄上が私を気遣ってくれているからの発言として受け取っておかない訳ではありません。」

 

 

 「その通りに受け取ってほしいんだけどな~。可愛い妹に武器を持たせて、人殺しさせたい兄なんていないよ。」

 

 

 若干視線を逸らしてそっぽ向くエリカに差し伸ばしていた手をエリカの頭に置き、優しくポンッポンッと撫でる修次。幼い頃に妾の子として千葉家にやってきたエリカを見守ってきた。千葉家の一員として少しでも認められようと剣術に力を入れていたエリカをずっと心配していた。エリカの気持ちも分かるし、実際に稽古するエリカの手を掴み、止めるように説いたり、父親にも直談判したのだ、『エリカに剣術を叩き込まないでやってくれ。それ以外の事でエリカを認めてほしい。』と。しかし、父親はエリカの持つ剣術の才能を見抜いていた。だからこそ、修次の願いは却下され、エリカにも直接指南するほど剣術を叩き込んだ。それを止められなかった修次は子供ながら悔しい思いをした。そんな修次に対し、エリカが笑顔で告げた。

 

 「ありがとう、次兄上。 私、千葉に恥じない剣術家になります!」

 

 その言葉はエリカの本心からだと悟った修次はそれ以来無理にやめさせようとはしなくなった。エリカ本人がそう決めたのなら、それを見守ろうと。

 ただ今でも、無理をして稽古をしているのではないかと心配してしまうのは、兄としての感情があるからなのか…。

 

 そんな複雑な心境を持っているが、純粋に剣術に向き合っているエリカに誇らしい思いもあり、頭を撫でる感触も更に優しくなる。

 この行為に敏感に反応するエリカ。一瞬だけ身体を跳ねらせたが、すぐに静まる。その静けさが異様なほど続き、エリカから発せられる黒いオーラで思わず手を離す。

 

 

 「そうですね…、次兄上はお優しい方です。そしてこの千葉家を継ぐに相応しいとまで言われるほど、千葉家剣術に優れた方です…。この決闘で次兄上が私より強いのは当然だとも結論できました。」

 

 

 俯いたまま声音を低くして語るエリカがいかに今、怒りに満ち溢れているかを肌で感じる。

 

 

 「ですが…!!!」

 

 

 一言区切って、顔を上げたエリカの顔にはさっき見せた拗ねた表情もなく、怒気を含み、全ての存在を鋭くにらむかのような女豹の目つきをし、臨戦状態の緊迫した表情を見せた。

 

 これには、妹想いの修次もどんなに『千葉の麒麟児』として有名になっていても、恐れを抱かずにはいられない。

 

 エリカがこうなると、身が縮こまる修次は、早くも恐妹家に変化していた。

 

 

 「次兄上っ!!」

 

 

 「はいっ!!!」

 

 

 「なぜあのような闘い方を仕掛けてきたのですか!!? 先ほどの闘い、千葉家剣術を会得してきた者の闘い方ではありませんでした!

  どういう事ですか! 私はこの決闘、最初から納得できません!」

 

 

 エリカの目は、切れ味のよい剣のように、修次に突き刺さるのであった。

 

 

 




次兄上が自分より強いとは認めているけど、千葉家の剣術を一切使ってこなかったという事で、憤怒しているエリカ。

ここから修次はエリカに尻に敷かれる展開だけで終わるのかな~?


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友人たちの反応 エリカ編その4

エリカ、噴火する。


 

 

 

 

 

 

 憤慨を見せるエリカに修次が怒りを収めるようにと、両手の掌をエリカに向けて数回前に押し出す動作をしながら弁解する。

 

 

 「お、落ち着くんだ、エリカ…! 僕はそんなつもりはないよ!

  ただ戦闘に置いて……」

 

 

 「”戦闘において、現場の状況に合わせた対応力を身に付けないといけない。型ばかりにはまっていては強くはなれない。もっと幅広く取り入れるべきなんだ。”

  ………ですよね、次兄上。

 

  この言葉は何度も聞いております。私も次兄上の言い分には納得する部分はあります。……前半だけですが! なら、我が千葉家剣術の技をその状況に合わせた使い道に改良すればいいだけではありませんか! それなのに、伝統の千葉家剣術を放り出し、あまつさえ小手先の技術に走るとは言語道断です!」

 

 

 「エ、エリカ…? 僕は剣術を疎かにしているつもりは…」

 

 

 「疎かにしていないと仰りたいのですか? ではなぜ先程の模擬決闘でそのように闘われなかったのですか? 少しでも千葉家の次男として、千葉家剣術に誇りがあれば技だけでなく、身体の動き方にもそれらしき兆候が出たはずです!ですがまったく見せないどころか、すっかり戦い方も変わられました!

  …昔の次兄上はこんなんじゃなかった。」

 

 

 「エリカ……」

 

 

 「それもこれも全て……!

  次兄上はあの女と付き合い始めて堕落しました! あの女の画策に乗っかって何もかも変わられました!」

 

 

 「エリカ!!」

 

 

 ずっと押され気味だった修次が今日初めてエリカを叱咤した。エリカは溢れんばかりの追及の言葉を一旦止める。ただし瞳にはまだ冷めきれていない憤怒が見えた。

 

 

 「僕の事はいい。しかし摩利を悪く言うのは止めろ。今の千葉家では今後の世界の流れによっては苦しい立場になると思っている。だから伝統だけにとどまらずに新しいものを取り入れた新たな千葉家剣術を作りたいんだ。そのために摩利は僕に協力してくれているだけだ。摩利は悪くない。」

 

 

 「……言いたいのはそれだけですか?」

 

 

 「え?」

 

 

 「お言葉ですが、そのような言い訳に耳を傾け、納得するほど私は甘くありません!次兄上!

  …いい加減出てきたら? こそこそと私の機嫌を窺って、覗き見している方?」

 

 

 エリカの言葉に修次がビクッと反応する。すると、気付かれていた事を知り、観念して道場の開いた扉から姿を現したのは、渡辺摩利。修次の恋人であり、エリカの先輩だ。

 

 

 「や、やあ、エリカ。お邪魔しているよ。」

 

 

 ばつが悪そうに笑顔を作ろうとして苦笑している摩利が、エリカに挨拶するが、エリカは完全無視する。摩利を見ようともせず、ただ正面の修次を凝視する。

 

 

 「エリカ…、いつから知ってたんだ?」

 

 

 「初めからです。 次兄上がご帰宅なされる時は必ずあの女が付いてきますから。」

 

 

 「………」

 

 

 「たかがあの女にカッコつけようとして、あの女に唆された小手先の技を使っていたのは分かっています。

  …これほど次兄上を陥れていたとは、つぐつぐこの女は不愉快です!」

 

 

 「エリカ!!」

 

 

 「もう一度言います! 次兄上はこの女と付き合い始めて堕落しました!!」

 

 

 話はもう終わった。これ以上は聞く耳はないと、道場を後にしようとするエリカ。まだ稽古は途中だが、年季の入った門下生達は止めようとはしない。今のエリカを道場に留めさせると、ストレス発散に稽古の相手をさせられ、コテンパンに痛めつけられる事を身に沁みて体験しているからだ。若い門下生達もその噂を聞いているので、止めない。逆に親衛隊たちがエリカにお供しようと後をついて来ようとしたが……

 

 

 「来ないで。」

 

 

 鋭い女豹が止めを刺さんとする視線を向けながら、拒絶してきたので、エリカを見送る事しかできなかった。

 

 

 エリカが去った後、修次は摩利を抱き寄せ、慰める。それを傍から見守る門下生達はここにエリカがいなくてよかったと本気でそう思うのであった。

 

 

 それからは離れの私室で道着から外着に着替えたエリカは街へと外出する。

 

 

 

 「次兄上の馬鹿~~!!」

 

 

 

 大声で叫ぶエリカの怒りは今は収まらず…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




彼女同伴でカッコいい所を見せようとするのは男の性。

エリカが怒るのも当然だよ~。

これで、どう達也のCMと繋がるのかな?


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友人たちの反応 エリカ編その5

女豹だったエリカが…!
そしてエリカのちょっとした過去を披露します!(自己解釈というか、こんな過去だったんだと仮定してみた)


 

 

 

 

 

 

 

 

 ……という出来事があって、エリカが待ちへと気晴らしに来たのだが、あれから数時間ぶらりと歩いても怒りは収まらないのが現状だ。

 

 

 「ああ~、もう! 次兄上の目は節穴すぎる! あの女に現抜かすなんて…!!」

 

 

 今も独り言が止まらないエリカ。

 

 今の自分の状態はエリカ自身も十分に理解しているため、帰ろうともしないし、ショッピングしたいという気分でもない。(今帰ったら、修次と摩利のイチャイチャを見ないといけないから幸いかもしれない。)

 

 しかしいつもならこんなに怒り続けるエリカではない。エリカは物事には執着する事がない。だから怒ったとしてもすぐに興が冷めたという感じで突然白けるのがパターンだった。それが今回はなく、未だに修次や摩利に怒りを露わにしている。

 

 その理由は、今まで生きてきたエリカの人生に関係している。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 エリカは幼少時、妾の母親と共に千葉家の離れで暮らしていたが、千葉家では冷遇されていた。実の父親である千葉家当主には父親として接せられた記憶はなく、制裁との間に生まれた長女も妾の子であるエリカに悪戯や見下す態度を取られ続けた。幼いながらも千葉家に歓迎されていなかったエリカは、それを受け入れる一方、もっと自分の地位を確固なるものにしようと剣術も自ら稽古し始めた。苦しい生活だったが、エリカが冷遇される千葉家で真っ直ぐに生きてこれたのは修次の存在があったお蔭だ。

 

 稽古で身体が傷だらけになるエリカにいつも優しく手当してあげたり、暇を見つければ離れまでやってきて、一緒に遊んだりとエリカを家族として接してくれた。(たまに長男の寿和もからかいながらも三人で庭で遊んだりした。)

 

 そんな日々がエリカには千葉家での一時の幸せの時間で、修次にはいつの間にか兄以上の感情を持つようになっていた。

 剣術にも優れた才能を持っているだけに強く、それでいて優しい修次に憧れたエリカは兄妹として過ごせるだけでも嬉しかった。

 

 しかし、エリカが中学生の時、それは壊れた。

 

 修次が剣術を習いに来ていた門下生と交際することになったからだ。仲睦まじく稽古終わりにタオルを差し入れたり、飲み物を渡して楽しそうにじゃれ合いながら話す二人を見て、胸がつぶれそうに痛みに襲われた。

 

 

 (それはいつも私が次兄上にしていたのに…。 何で私の時より嬉しそうに笑うの?…次兄上。)

 

 

 自分には見せてくれたことがなかった笑顔を他の女に向けている光景を見て、エリカはチクチクと胸が痛んだ。その夜は、私室のベッドでうつ伏せになり、枕で顔を強く押し付け、ざんざん泣きまくったエリカだった。

 

 これがエリカの初恋であり、失恋した時だった…。

 

 

 それからは必死に磨いてきた剣術も真剣味が弱まり、朝稽古もサボる事が増えた。…修次の顔をまともに見れないから。そしてあの女…摩利もやってくるから。

 

 とてもじゃないけど、二人を見て温かい目で見守る事はまだできなかった。

 

 それに、剣術をずっと続けていたのは、父親に認めてもらうためであるが、それよりも修次と一緒にいられる時間や褒め言葉が嬉しくて、それが折れそうになるエリカの心を支えてくれていた。

 それが今、失った事でエリカはどうしても目標を見つけられずに稽古にも顔を出さず、学校が終わっても当てのない散策をするようになった。

 

 しかし不意に態度が変わったエリカを心配して、修次が部屋を訪れるようになり、稽古に復帰できるようになってほしいという気持ちで、エリカのいない間の稽古の話を語った。ただ稽古の話というよりかは、「恋人が腕をまた上げた!」「この前はあの人を負かしたんだ!」…と、恋人の話が主な会話のネタになっていた。終いには、新しい剣術を編み出したと熱の入った声で語るほど。

 これが還って、エリカの心の傷に刺さった。

 

 

 (…次兄上は変わられてしまった。もう私の知っているあの頃の次兄上じゃない…。

  …許さない。……許さないんだから!)

 

 

 今日もいい話ができたと思い、修次がエリカの部屋を後にする。それを見送ったエリカは、断固として修次と摩利の交際を認めないと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその誓いの証にと、長かった紅い髪をバッサリと切り、ショートヘアにしたのであった。

 

 

 ………失恋した修次への気持ちも一緒に綺麗さっぱりする目的も添えて。

 

 

 




今回は過去編になってしまったな~。
ずっといつかは書いてみたいと思っていたんだよ!幹比古が「エリカが長い髪を切った時はビックリした」と言った時から実はこういういきさつがあったのではという妄想が生まれてね~…。

よし、明日でエリカ編は終わり~!


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友人たちの反応 エリカ編その6

エリカ、新たな道へ。


 

 

 

 

 

 

 

 当てもなく街中を歩いてたエリカはすぐ隣でいきなり騒ぎ出した同じ年頃の少女達に視線を向けてみた。一瞬、襲撃があったのかと横浜事変の事を思い出し、どうせならテロリスト相手にストレス発散するかと意気込む。しかしそれは自分の勘違いだという事を少女たちの言動で気づいた。

 

 

 「ああ~~!! RYUがCMに出てる~~!! キャ~~!! かっこいい~~!!」

 

 

 「あんな大画面でアップされるなんて~!! 生きていてよかった~~!!」

 

 

 「家に帰ったら、絶対に録画して、保存しとくんだ~!!」

 

 

 「あ、私も~!!」

 

 

 高層ビルの大型モニターに映るCM広告をうっとりとしながら黄色い悲鳴を上げる少女たちを見て、エリカは呆れている事を隠さずにため息を吐く。道端で立ち止まっていられたり、いきなり悲鳴を上げられれば驚くから、公共の場での配慮を考えるべきなんじゃない?…と、心の中で呟いた。

 これがエリカの燻っていた怒りを和らげる効果を出したため、興が冷めたという顔で歩き始めた…が、すぐに足を止める。一旦冷静になったお蔭で周りの視界が広がったと共に驚く。なんだって、エリカの見渡す辺り至る所で少女や女性達が足を止め、一直線で視線がモニターに集中していた。みんなの表情が同じ顔で、うっとりしていた。

 

 ここまでの光景を見ると、エリカも気になってくる。

 

 

 そこでついにエリカもモニターに顔を向け、CMを見て見る事にした。すると画面にはちょうどCMが始まったばかりで、美少女と青年が舞踏会で踊っていた。そして二人きりになって、告白された。(この告白シーンに入った途端、CMを見ていた世の女性達は失神を起こしたり、立ちくらみをするという現状に見舞われるのであった。)それからは二人で商品のシャンプーを紹介していた。そしてCMが終わり、もう一つのCMが始まり、こちらの方では世の女性達はうんうんと頷いて、頑張れ!…と応援を送っていた。

 

 CMを見終わって、未だにまたCMが見られないかと期待して立ち止まっている少女達から離れ、再び歩き出すエリカ。

 

 この時のエリカは若干顔が赤くなっていた。

 

 

 「確かにあれなら悲鳴あげても仕方ないかも…。あんな、どアップで髪にキスされながら告白なんて…私じゃないけどね! されたら…、ドキドキするだろうな~。」

 

 

 初めに見たCMの方が印象強く残り、動悸を落ち着かせようとするエリカ。しかし、エリカがドキドキしているのは理由があった。それは…

 

 

 (なんかさっきの青年…、達也君に似ていた気がしたけど? あの何もかも見透かして奥にまで入ってくるような目…。 それに大人な雰囲気も。)

 

 

 そう…、エリカはCMに出ていた青年が達也に似ていて、その達也に告白されたという妄想が働いたためにドキドキしていたのだ!

 

 

 「そんな訳ないのにね~! 私って馬鹿だな~!」

 

 

 達也が芸能界で仕事なんてするような人物ではないのは知っている。たまに美月と幹比古、レオ、達也と一緒に世間話をした際、芸能界でのネタになると興味ない素振りを見せていた達也を覚えている。それにパラサイトの騒ぎの際に達也の正体…(達也は答えていないが)気付いたエリカは、その正体を知られるような真似をするとはどうしても思えず、ふと浮かんだ考えを切り捨てた。

 (しかしエリカの考えは全て当たっているんだけどね。)

 

 

 エリカはCMから達也を思い出し、照れ笑いをこっそりと見せた。そして今まで怒っていた事が馬鹿馬鹿しいと思い始めた。

 

 達也と出会ってから、去年だけで色々事件があって、その度に達也たちと乗り越え、いつしか毎日が楽しくなっていた。それは修次とのことでいじけていて、稽古に力が入らなかったのに、また稽古に力を入れられるようになった事。再び剣と向き合うきっかけをくれた達也には心から感謝している。そしてそれは、新たなる密かな想いになった…。

 

 

 今は、達也たちと過ごす学校生活を大事にしたいから、このままの関係を続けたい。しかし放っておかれるような事はされたくないから、ちょっかいはするが。

 

 

 達也への密かな想いをCMを通して改めて実感したエリカは、それほど修次の事を意識しないようになる。

 

 すっかり気持ちに整理つけたエリカは、帰路に着く事にする。

 

 方向転換し、歩き始めたが、ふと達也に似ている青年の事を思い出したエリカは、近くのショッピングモールへ入り、寄り道するのであった。

 

 

 「確かあの達也君に似た人、あの子たちが”RYU”って言っていたわよね。…ちょっと私も新しいシャンプー欲しかったし、買ってみよっかな?」

 

 

 自分の紅い髪を一房抓み、それを視界に入れ、照れ笑いをするエリカ。その後、無事にシャンプー『プリンセス』MOONを購入したエリカは鼻歌を機嫌よく奏でて、帰宅するのであった。

 

 

 

 ちなみに、帰宅すると修次と摩利がいて、腕を組んで廊下を歩いていたため、さっそく注意するのだった。もう昔のように修次への想いはないが、尊敬する兄の不純交際を正すのは妹の使命だと捉え、修次への追及は止めずに続けていくのだ。これからも…。

 

 

 

 

 

 




よし、今日でエリカ編は終わり!!

達也のCMのお蔭で、エリカの機嫌は良くなったし、売り上げにも協力してくれたし、いいこと尽くしだな!


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友人たちの反応 美月編その1

美月…ね~。ちょっとエキサイトさせてみようかな~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 休日の今日、学校が休みのため、のんびりと家で寛いでいたのは、柴田美月。

 

 美月は私室で趣味の漫画を描き、充実した様子で過ごしていた。美月の部屋には少女らしい可愛らしい部屋になっており、棚の上にはうさぎやくまのぬいぐるみが飾られていた。そしてその棚の中には、多数の小説や漫画が綺麗に整頓され、収納されていた。推理小説や純愛ものもあったが、その多くはファンタジーなものや青春もの、恋愛ものが占めていて、少女漫画の数は桁を超えている。

 

 美月の母親は翻訳家で、世界中の小説を翻訳する姿を見てきた美月もその影響で小説や漫画が好きだ。奥深しい世界観を見事に表現する小説や漫画に昔から惹き込まれていた美月は、漫画を描くのが趣味になった。今でも美術部の先輩たちと漫画の事で話が盛り上がるほどだ。

 

 美月のようなキャラが美術部に多く在籍しているため、美術部の部活動の傍ら、自分達で作った漫画を見せ合いっこして、互いに評価を言い合い、より良い漫画を作っているのだ。

 

 

 (この漫画の討論会をしている際に真由美をモチーフにした同人誌が描かれ、発売されている事を聞かされたのだった。)←九校戦で真由美のスピードシューティング観戦をしている時に話題に上がったあれである。

 

 

 そしてその漫画の討論会が次の部活動で行われる事に決まったので、その時に見せるオリジナル漫画を美月は今、描いていたのだった。

 

 

 「…うん、今回はなかなかの出来が出来上がっている気がします!」

 

 

 大半出来上がっている漫画を読み返し、頷く美月。しかし、すぐに悩んでいる表情を作り、思案する。

 

 

 「だけど、後何かが足りない気がします…。 でもそれが何かが、思い浮かばないですぅ~! う~~ん…、どうしよう~。」

 

 

 ストーリー自体は成り立っていて良いんだが、続きが気になるような、読者を惹きつける要素が思い浮かばず、苦戦しているのだ。

 

 美月が今回描いている漫画は、一言で言うと、お姫様と王子様の恋愛ものだ。至って普通の世界観だが、のほほんな感じで終わるよりは、何かを付け加えてそれを二人で乗り越えるような展開をしてみたいと考えていた。

 

 

 「えっと~…、やっぱり王子様がカエルに変身してしまう呪いを掛けられたとか?…他の漫画や小説では定番だからやめたほうがいいよね?

  …王子が身分を偽って姫に仕えていたとか?…ああ~! オリジナリティーな事が浮かばないよ~!」

 

 

 色々な案が浮かぶがこれといった決定打を打つものが浮かばずに机に顔を伏せて、脱力する。今日中に決めないと、次の討論会までに原稿を書き上げられなくなってしまう。

 

 

 「どうしよう…。本当に…。」

 

 

 嘆く美月が誰でもいいからと心の中で必死に助言を求めていると、不意に美月の情報端末にメールの着信音が耳に入った。

 

 その着信音を聞き、机から顔を上げ、メールを見た美月は、そのメールの内容を見るとすぐに身支度を済ませ、外出する。

 

 少し小走りで駅まで向かうその姿は、まるでデート場所まで急ぐ微笑ましく感じさせるものだったと言っておこう…。

 

 

 

 

 




エキサイトさせようとしたけど、それは最後に取っておこう。ちょっとした学校ライフを公開してみた。美月、転ばないようにね~。


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友人たちの反応 美月編その2

外出した美月の目的とは~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 高層ビルが立ち並ぶ街へとやってきた美月は、あたりをキョロキョロしながら目的地を目指す。時折、気分悪そうによろめくが、その都度、歩道の端へと移動し、休憩する。どこか持病があるという訳ではない。ただ多くの人が行き交う街中を歩いたので、その人混みの雰囲気に酔ったのだ。美月はエリカのように運動が好きとか、身体を動かしたり、休日は外出して遊びまくるといったいわゆるアウトドアな性格ではない。その反対のインドア派とも言える。だから休日と言ってもそんなに家から出る事もなく、大好きな漫画や絵を描いたり、小説を読んだり、お菓子作りしたりと文化少女の趣味を満喫しているのだ。外出すると言っても、近くの図書館や本屋で本を買って、喫茶店で寛ぎながら本を読むのが落ち着くほどだ。

 あまり大勢の人に囲まれるのは躊躇する美月で、特殊な目を持っているのもあり、人の気配や雰囲気にはかなり敏感で、それが合わさって酔ってしまう。

 

 でもさすが美月というべきか、慣れているようですぐに鞄から酔い止め薬を取りだし、呑みこむ。そしてしばらく日陰で休んだら、また歩き出した。

 

 

 これを数度繰り返して目的地へ向かっている美月が大変な思いをしてまで向かう理由は何か?美月を突き動かす信念とは一体何なのか…。

 

 

 個室電車に乗って、街に来てからかなり経った時間…。

 ようやく目的地に着いた美月。普通に歩けば十数分だが、度々止まって休憩した事で、一時間は超えていた。それでもやっとの思いでやってきた場所はつい最近オープンしたばかりのショッピングモールだった。

 ここには、ありとあらゆる商品や食品が販売されており、有名な店が多く入っている。屋上には子供たちのためのアトラクション広場も設けられており、観覧車もある。今人気のショッピングモールだ。なぜここに美月は来たのかというと、ここにしか今はないものを見に来たのだ。

 

 それは……

 

 

 「シャンプー『プリンセス』SUN・MOON 大量販売セール実施中!!」

 

 

 である。

 

 

 実は、美月が外出する前に届いたメールは美術部の先輩からで、この近くではここでしか販売されていない新商品があるという情報と、絶対に見ておかなければ損!!見ていれば今後の私達の部活動に多大な進歩をもたらしてくれるはず!!…というコメントが添えられていたのだ。

 この文面を見て、美月は今詰まっている漫画のアイデアに繋がるかもしれないという期待と先輩がここまで絶賛する事に驚愕し、見てみたいといる興味から急遽外出したという訳だ。

 

 しかし、来てみたはいいが、美月は来て早々自分には場違いで、無謀な場所だと認識するのだった。

 困惑する表情で見つめる先には、美月ならそう思っても仕方ない展開が広がっていたからだ…。

 

 

 




仲のいい先輩からの情報で、頑張ってきた美月が早くも後悔する事っていったい!!?


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友人たちの反応 美月編その3

実際にこの目で現場を目撃したうちでさえ苦笑するしかなかったもんな~…。


 

 

 

 

 

 

 

 やっとたどり着いた目的の場所には、とんでもない光景が広がっていた。

 

 それは…、大勢の人達で一つのコーナーを囲んで群がり、壮絶な戦いを繰り出していたのだ。その全員が女性であり、目に必死さと貪欲とも言える執着心が帯びていて、獲物を必ず手に入れようとするハイエナ的表情を覗かせていた。

 

 

 「ちょっと~~!! これは先に私が手にしていたんだから!! 離しなさいよ~!!」

 

 

 「何を言ってるのよ!! そっちが後から掴んできたんじゃない!! 横取りしようなんてそうはいかないんだからね!!」

 

 

 「同じものなのだから、どれでもいいとは思うんですけど…。」

 

 

 「「同じじゃないわ!!」」

 

 

 「キャンペーン限定でのRYU・翔琉のボイス特典コード付きだし、それぞれ台詞も違うのよ!! どれを選ぶかによって全くこれからの人生が変わるんだから!!」

 

 

 「そうよ!!それにパッケージだって、今後販売される通常版とは異なって、ゴージャスだし、SUN・MOONそれぞれにRYUと翔琉の決めポーズがプリントされているのよ!しかもポーズも様々!!」

 

 

 「さらに!! RYUも翔琉もCMバージョンの新曲MVを配信する事に決まったのよ!だけど、それはSUNとMOONの売れ行き次第! 」

 

 

 「同時にCM投票もあるし、その結果でどちらが配信するか決まる…!つまり私達ファンがどれだけ貢ぐかによって勝敗を記するのよ!」

 

 

 「そうそう!! 私達が命運をかけてるんだから! なんとしてもRYU様のために私が…!!」

 

 

 「そうはいかせない! RYU様に褒めてもらうのは私なんだから!!」

 

 

 「RYUより翔琉の方がいいもんね~!! こっちだって負けないんだから!!」

 

 

 「よくも言ったわね!! RYU様の魅力を分からないなんて馬鹿な女!」

 

 

 「何ですって!! 」

 

 

 「…今の内に!!」

 

 

 「「ああ~~~!!!」」

 

 

 「それは私のよ~!!」

 

 

 「返しなさい!!」

 

 

 「早いもの勝ちなのよ! 喧嘩していたあんた達が悪いんでしょ!」

 

 

 「図々しいわね! さっさと渡しなさい!大体あなたは十分持っているでしょ! 私なんてまだ三個しか持っていないんだから!」

 

 

 「私なんてまだ一個よ! 平等に振りまくべきでしょ!」

 

 

 「何を言ってるんだか! さっきまでたくさんかごの中に入れていたじゃない!?私、見てたんだから! 連れに手に入れた物を渡してレジに持って行ってもらって買っているあんた達が言える事じゃないわ! 」

 

 

 

 

 …………もう、勢いありまくるバーゲンセールではなく、喧嘩と奪い合い、殺気が立ち込める女達の仁義なき戦闘がこうして巻き起こる非常なカオス空間がそこにあった。

 

 

 だから美月もこのカオスを見て、初めは苦笑していたが、ヒートアップしていく戦闘に今はただ、顔の血の気が引き、オロオロし始める。

 ここまでくれば、美月でなくても、このカオス空間に参戦したいとは思わないだろう…。特に男性陣は…。

 

 

 しかし、そんな甘いカオスではなかった。

 

 

 近くを通る男性達が異様な女達の言動を口にすると、この時は一騎団結して、その男性相手にジト目を向ける。一斉に女達の鋭くなったジト目の集中砲火を受け、慌ててそそくさと走り去る。

 そしてこのセールの情報がネットにアップされ、見物がてらにやってきた人が他の階や周りからカオス空間を鑑賞する。そして熾烈な戦いが起きている中に参戦する人も現れ、もう一種の祭り状態になる。

 

 

 いつのまにか大勢に囲まれる中で立っていた美月は、このカオスな状況が理解できず、心の中で助けを求めるのであった…。

 

 

 




嫌~! 面識ない相手同士で協力し合ってバーゲンする光景も見た事はあるけど、逆も然り。

こういう時、巻き込まれまいと遠くから本を盾代わりに見てたな~。……後で、結局巻き込まれるんだけど。

美月~!頑張るんだ!


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友人たちの反応 美月編その4

美月だけでは乗り越えられそうにないな~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「か、帰りたい…。でも…」

 

 

 まさかここまでの壮絶な出来事に発展するとは思っていなかった美月は、既に心は折れかかっていた。還りたい気持ちが大半を占めていたが、来て早々の出来事に圧倒されて何もできていないのが腑に落ちず、あれに参加するべきかどうか迷っているのだった。

 しかし今、あの中に入れば、間違いなく怪我では済まない状況が予知できるか故になかなか足が前に進まない。こういう状況の場合、どちらかというと美月は仲裁に入る側だ。運動神経は普通レベルであり、とても太刀打ちできるような力を発揮する事は出来ない。(戦いの参加者の中には一見華奢な身体つきをしていて、大人しそうな女性もいたが、限定商品を巡るその眼や表情はかけ離れた容貌をしている。火事場の馬鹿力…ではないが、いつもよりパワーアップしているのは定かだと言える。)

 

 やはりどうしてもカオスな空間に入れそうにない美月は、せめてその商品を紹介しているCMを見ようと、カオス空間の隣に設置されているモニターに視線を映し、鑑賞する事にした。

 

 初めにSUNが流れたが、美月は一瞬で惹き込まれた。身近でも起きそうな状況でのストーリーで、同じ世代の共感を感じさせるもので、思わず脳裏にCMに映る少女を自分に変えて再生する。告白シーンでのカーテンに隠れてのキスなんて、最高すぎて顔を真っ赤にして硬直した。恥ずかしすぎて真っ赤になっている顔を何とか隠そうとして手で頬を隠す。誰も知り合いはいないが、なんとなく今の自分を見られたくない気持ちがあったからだ。

 

 

 (でも、これで分かりました。 皆さん、このCMを見てときめいたんですね。だからこんなに限定商品に群がって…。)

 

 

 カオスな状況を作りだしている女性達の行動の動機を知り、今までただ彼女らが怖い印象しかなかったが、なんだか親近感を少し感じるようになった。そして次にMOONが流れると…、

 

 

 「……あれ? ……達也さん? ………違いますよね?」

 

 

 素敵な舞踏会で男女のダンスシーンも魅力的で憧れるシチュエーションが目にはいる。特に二人きりになった後からの流れはドキドキしっぱなしだ。

 しかし、それと同時にCMに映る青年がなぜか達也に似ていて、頭に疑問が浮かび上がる。

 

 

 「……やっぱり達也さんではないですね。 達也さんはもっと大人びていて、怖さもありますから。」

 

 

 褒めているようだが、達也がいれば「何だ?怖いって?」と訝しく思うだろう。美月は達也がCMに出る訳がないと一年間で知った達也の事を考え、すぐに疑問を自分で解消する。

 

 

 (それにしても達也さんに似てますね。 ですが、達也さんよりもワイルド感があって、それでいてよりミステリアスがあります。)

 

 

 CMに出ているRYUを凝視しながら、驚いた反応で激しくなった鼓動を落ち着かせる。

 

 そして二つのCMを見て、美月はSUNを気に入った。

 

 だから、SUNを記念に買っておこうかなという勇気へつながった。

 

 

 だけど、再び見たセール場所には、残りが少なくなってきたからか、奪い合いが多数置き、喧嘩も多数勃発していた。

 

 

 「ど、どうしよう…。 」

 

 

 あの中を潜り抜けていく身体能力は持っていない美月は、やはり諦めるしかないかと考え始めたその時、美月の耳に知っている声が聞こえてきた。

 

 

 「…あれ~? 美月じゃない? 如何したのよ、こんなところで。」

 

 

 振り向いて、声がした方を見た美月は、友人の登場に嬉しさが込み上げてくるのであった。

 

 

 




次で美月編終わり。

美月とばったり会うのは誰だろう~?


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友人たちの反応 美月編その5

助け舟、登場~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと心の中で助けを求めていた美月は、願いがかなったと喜んだ。そのために現れた友人に対し、安堵と嬉しさが相まった表情を見せる。

 

 

 「エリカちゃん…! 会えてよかったです!」

 

 

 「え、あ、うん。そうね~、まさかここで会うとは思わなかったけど。」

 

 

 「ところでエリカちゃんは何でここに? 一人でショッピング?」

 

 

 安心した美月がきょとんとしながらエリカに問い掛ける。それに対しエリカは目を泳がせて罰が悪そうな顔を作る。

 

 

 「ははは…、ちょっと色々あって気分転換に街を歩いてたんだよね~! それより!

  あたしの事はいいから、美月こそどうしてここに? もしかしてミキに見せる下着でも買いに来たの~?」

 

 

 「エ、エリカちゃん! そんな訳ないでしょ!」

 

 

 「ええ~? そうなの? それは残念!!」

 

 

 「もう…! エリカちゃん、からかわないで。」

 

 

 「は~い、ごめんなさい。」

 

 

 舌を少し出して謝るエリカ。悪気を感じているような素振りには見えないが、学校でこのようなやり取りは繰り返されていただけにもう慣れている。美月は苦笑して受け入れると先程の問いかけに答える。

 

 

 「じ、実は先輩からぜひ見ておいた方がいいよってメールが来て、このセールに来てみたんだけど…」

 

 

 この先をなぜか言いにくくて、美月が口籠ると、美月の困った表情と熾烈な争いが今もなお続くセールのカオスを見て、エリカは察した。

 

 

 「ああ~、なるほど。確かにあの中を美月が行くのは止めた方がいいわね。でもちょっと意外だったな~。美月もこんなイベントに来るなんて。」

 

 

 「私も? もしかしてエリカちゃんも?」

 

 

 「え? あ…、私はさっきCMを見て、買ってみてもいいかな~って思ってきただけだから。別に限定バージョン?ってやつが欲しかったわけじゃないんだから!」

 

 

 そう…、エリカはビルの大型モニターでCMを見て、帰る前にシャンプーを買おうと思って、ショッピングモールに来たところ、たまたま目的のシャンプーの限定大量セールと出くわし、たまたま美月を見つけて、声を掛けただけだ。エリカが言ったとおり、女性達が必死になって欲している限定版じゃなくてもいいぐらい。

 

 

 「………でもまぁ、どうせなら手に入れてみるのもいいかもね。」

 

 

 しかし、争っている現場を目撃すると、血がたぎるエリカは、参戦してもいいと考え始める。カオスに視線を向けたまま、舌なめずりしそうなくらいに微笑んでいるエリカを見て、参戦しようとしていると察した美月は慌ててエリカの腕を掴んで、止めに入る。

 

 

 「だ、だめだよ、エリカちゃん! 怪我してしまうよ!」

 

 

 「大丈夫だって~。 一見観察してみても、それほど腕力強い女の子はいなさそうだし、さらっと行ってさらっと帰って来るから~!」

 

 

 「…エリカちゃんだって女の子だよ。」

 

 

 エリカを説得できそうにないと自覚した美月は、溜息がこぼす。それと同時に売り場のスタッフが拡声器を使って放送する。

 

 

 「間もなく商品がなくなります! 商品の補充もありません! お求めの方はお急ぎください!」

 

 

 「あ、早く行かないと!」

 

 

 「エ、エリカちゃん!?」

 

 

 「心配しなくても大丈夫! 美月の分も取って来るから任せなさい!」

 

 

 そう美月に言うと、小走りにカオス空間に突っ込んでいく。人混みの中へ消えたエリカを心配して目を見開いて祈るように手を組む美月。怪我しないようにと、願う美月の前に一分後、何事もなかったようにエリカが二人分の商品を持って帰ってきた。

 

 

 「エリカちゃん! 大丈夫だった!? 怪我は……ないみたいだけど?」

 

 

 「うん、ない。 あれくらいなら避けれるからね。」

 

 

 「そ、そうなんだ……。」

 

 

 ケロッとして心配無用と言い切り、寧ろ面白そうに笑顔を浮かべるエリカにつられて、美月も笑みをこぼす。

 

 

 「ありがとう…、エリカちゃん。」

 

 

 「どういたしまして。 さ、美月、行くわよ!」

 

 

 「え?どこに?」

 

 

 「もちろんショッピング! 美月のためにミキが好きそうな洋服を選んであげる!」

 

 

 「ええええ~~~~~~!!!」

 

 

 無事に目的の物をゲットしたのはよかったが、エリカに連れ回される事になり、美月がエリカが別れて帰ってきた時には既に体力を使い切り、疲労しきっていた。

 

 それでも楽しかったし、ショッピング中に今描いているオリジナル漫画の話をして、今度見せる事になった美月は創作意欲を高める事が出来たのであった。

 

 

 (今日は色々あったけど、お蔭で良いアイデアが浮かんだし、良い漫画が描けそう!! うん! 頑張って完成させてみせます!!)

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 余談だが、この後完成した美月の漫画は夢麗しい姫と王子の間に突如として現れた影のあるもう一人の王子が割り込んで、姫にアプローチしてきて、姫の取り合いをするというファンタジー恋愛ストーリーであり、正反対の二人の王子のアプローチやその行動の裏に潜む王子たちの抱えた闇を見事に垣間見せる事でドキドキだけど、ハラハラ感もあって、先輩たちとの漫画討論会では絶賛された。

 

 

 




エリカ編と美月編をくっ付けてみた!

実はエリカは千葉家に帰る前に寄ったショッピングモールで美月と会ってたんだよね~。
次はだれを書きましょうか?


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友人たちの反応 ほのか&雫編その1

今回はセット扱いで。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はぁ~、雫~。どうしよう…。やっぱり写真入れておいた方がよかったのかな?」

 

 

 「たとえそうしていたとしても、ほのかには無理。気絶するのが目に見えていた。今もそれは変わらない。」

 

 

 「うっ! …でも深雪がやっていたし。」

 

 

 「深雪と比べる必要は無い。ほのかはほのからしくアピールすればいい。」

 

 

 「その私らしくじゃ、ダメなんだってば~!」

 

 

 ほのかが助けを求める表情で雫に縋りついて嘆く。それを雫は無表情で見つめる。もちろん内心では呆れ感もあるが、親友の悩みも理解しているため、力になりたいという熱意も持っている。いつものポーカーフェイスで分かりにくいが。

 

 それよりも雫はここに自分とほのかだけしかいなくてよかったと思っていた。こんなほのかの姿を見せたくなかったから。

 

 二人が今いる場所は、雫の部屋だ。

 

 ほのかは幼少時から雫と仲が良い、親友同士なので、雫の部屋に突然訪ねてきても問題はない。休みの日はほとんど一緒に過ごす事が日課に思えるほどだ。ほのかが雫に会いに来る時は手作りのお菓子も持ってくることもある。笑顔も添えて。

 しかし今日は、違った。

 

 来る時は連絡をくれるほのかだが、今日はそれがなく突然訪ねてきた。でもこれだけなら雫は驚かないし、何事もなくメイドさんにお菓子と紅茶の用意をするようにお願いしただろう。たまに連絡を入れ忘れてくる事もあるのだから。

 しかし今日のほのかは、いつも以上に焦っているような、はたふたしている様子で現れ、目を潤ませてやってきたのだ。そこで、メイドさん達にはお菓子と紅茶の用意をさせた後、すぐに部屋を出てもらい、部屋に誰も入れないようにと念を押して、ほのかの話を聞く事にしたのだった。

 ……ほのかが悩んでいる事は長年の付き合いで分かっていたから。

 

 それで何に悩んでいるのかと思い、聞いてみると……

 

 

 「この前、私…達也さんの誕生日にプレゼント渡したでしょう?」

 

 

 「うん、渡したね。私があのまま背中を押さなかったら、緊張して渡せなかったのか思うと冷や冷やした。」

 

 

 「その節は、ありがとうございました…。」

 

 

 「うん、それで?」

 

 

 先を促す雫の有無も言わせない視線にほのかが恥ずかしいのか身体をもじもじさせながら話す。

 

 

 「そ、それで公開実験が終わった後、達也さんから改めてありがとうって言ってもらえたんだ!」

 

 

 「……達也さんに感謝されたのに、なんであんなに悩んでいたの?」

 

 

 ほのかが悩む事などない、寧ろ昇天しそうな喜びを感じられる思い出ができたのに悩んでいる理由がさっぱり理解できず、思わず首を傾げて、問いかける雫。

 

 

 ただし、話しかけるにはまだ早かった。

 

 

 「……この後が問題だったんだ~。 生徒会の業務の時に言われたんだけど、達也さんが部活連に報告書を届けに行って席を外した時に言われたの、深雪に…。」

 

 

 「深雪に?」

 

 

 深雪の名が出てきた時、身体が一瞬凍った感覚を覚えた雫。この先の話を聞くには用心した方がいいと判断するほど命の危険度が上がった気がした。

 

 

 「う、うん…。 深雪……笑ってこう言ったの。『お兄様へのプレゼントの懐中時計…、素晴らしかったですね。私もちらっと拝見しましたがとても見事な彫刻が施されていてお兄様にお似合いでしたわ。』そして一拍置いた後にこういったの。『ですが写真は入れていなかったのですね。ほのかの着飾った写真…見たかったですわ。』………って。」

 

 

 「…………それは、深雪の怒りを買ったみたい?」

 

 

 「あれは間違いなく、怒ってたよ…。 あんな笑顔…、見た事ないもん…!」

 

 

 ほのかがその時の事を思い出してブルブル震えるのを見て、雫も背筋が冷える感覚を感じた。

 

 (やっぱり深雪を相手に闘うのは、厳しい…。)

 

 

 雫は遠くを見るような目で先が思いやられると、達也とほのかの恋の成就の大きな壁である深雪の幻影にため息を溢すのであった。

 

 

 




深雪はやっぱりほのかからのプレゼントが気に入らなかったんだよ。でも達也の前でそんな不満など言えない。だからほのかにプレッシャーをかける策に出たんだな~。

笑顔でプレッシャーなんてしてきたら、ほのか…相当怖かっただろうな~。


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友人たちの反応 ほのか&雫編その2

プレゼントをあげた事でほのかの悩みが~!!


 

 

 

 

 

 

 

 ほのかが何やら悩んでいるようなので、話を聞いてあげている雫がほのかに話を続けさせる。

 どうして悩みを抱く事になったのかという経緯は理解できたが、何で悩んでいるかはまだわからないからだ。話を聞く限り、深雪と関係ありそうだが…。

 

 

 「私…、家に帰ったらふと思って。深雪は達也さんと一緒に住んでいるんだし、プレゼントを見る事も出来たと思う。でも…、私が懐中電灯に写真を入れなかったって言ったのが少し引っかかったの。」

 

 

 「うん、入れなかったね。本当は入れてもよかったんだけど、彼女でもないのに異性の誕生日プレゼントに写真を添えるのはどうかって話して、なしになったね。」

 

 

 「雫っ! い、今更そんな事言わないで! は、恥ずかしいよ~!」

 

 

 「だって本当の事。ほのかが暴れてまで写真を入れるのを止めたのは事実。」

 

 

 「うわぁ~~~~~!!!(汗)」

 

 

 その時の再現をしているように手を大きく振りながら、記憶から抹消しようとするほのかに、やはり積極的なアプローチに欠けるほのかをフォローしなくちゃと考える雫だった。

 

 

 「それで話を纏めると、達也さんにあげたプレゼントを深雪に見られて、深雪の反感を買ってしまったけど、写真入れなかったからもっと積極的なアプローチを心懸けたい……っていう事?」

 

 

 「う~ん、半分当たっていて、半分違うかな?」

 

 

 「どこが違うの?」

 

 

 「深雪が達也さん命なのは知っていたし、負けたくないって思ってたから雫にもプレゼント選び協力してもらったじゃない?

  プレゼントはよかったと思っているし、雫には感謝しているよ?でも、あの深雪の笑っていない目を向けられた上に背後に吹雪を纏わせた圧迫感と強烈なストッパーを感じさせる満面の笑顔を見せられた後じゃ、当分達也さんに近づくどころか、話しかけるにも勇気がいるわ…。」

 

 

 「そんなに…?」

 

 

 「うん…、だから写真を入れなかった事は後悔していない。それよりも綱一本繋ぎとめたって感じで安堵しているくらい。」

 

 

 「それは分かる。深雪の達也さん愛は常識を超えているから。」

 

 

 「でも深雪が忠告してきたけど、自慢も入ってた。

  わざわざ写真を入れなかったって言ってきたもん。多分深雪はプレゼントで写真入りの何かを送っていると思う。だから、その点で後れを取っていると私に遠まわしで行ってきたんだと思う…。」

 

 

 「そうか、深雪ならあり得る。」

 

 

 「私も達也さんの事が好きっ! だから、深雪というライバルに後れを取った事が悔しいの。だから、私なりのアプローチをやってみようって思って!

 

  ……でも、なかなか私らしいアプローチっていうものが思いつかなくて。それで雫に相談に来たの。」

 

 

 つまりは、深雪の忠告と挑発で、後れを取ってしまったと気づいたほのかが深雪に負けないために自分なりのアタックをする事に決心したんだけど、全然思いつかなくて助けを求めてきたのだった。

 

 それを聞いて、納得した雫は、洋服箪笥からジャケットを取りだすと、ほのかの手を取って、部屋のドアに向かう。慌ててほのかが脱いでいた上着を掴んで、引っ張られるまま雫についていく。

 

 

 「ちょっと、雫~!!? 如何したの? いきなり!?」

 

 

 「ほのかのために出かけるの。」

 

 

 「え!? 今から!?」

 

 

 「そう、今から。」

 

 

 当たり前じゃないという雰囲気で頷く雫に連れられて、ほのかはいきなりの展開に驚きつつも、雫に連れて行かれるまま、北山家を後にし、外出していくのであった。

 

 雫は見送りのためにいつの間にか玄関で待っていたメイドに部屋に置いている茶菓子達を片付けてほしいと言い残すと、運転手の送迎を断って、歩いて最寄駅まで向かって行く。

 

 

 こうしてほのかの悩み解決?のために、雫はほのかを連れ出し、どこかへと向かって行く…。

 

 

 

 

 




やっぱり乙女だから! 深雪と達也が兄妹だと分かっていても、ライバルの深雪に後れを取ったとなれば、ほのかも闘志をむき出しにするしかない!


…原作と繋げる感じでほのか&雫編が進行中ですよ。


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友人たちの反応 ほのか&雫編その3

本当に二人は仲が良いな~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 雫に連れられてやってきたのは、最近できたばかりのショッピングモールだった。

 

 

 「わぁ~! 素敵なお店がいっぱいだね!雫!」

 

 

 「うん、なかなか品ぞろえも豊富だし、それに見合った値段で良いと思う。」

 

 

 モール内の数多くの専門店に目を奪われながら歩くほのかと雫。休日の時に二人でショッピングしているため、すっかりいつもの気持ちで楽しむほのか。雫も楽しむほのかを見て、ポーカーフェイスの顔にうっすらと笑みを浮かべる。

 しかし、雫がここにほのかを連れてきたのはこれだけではない。

 

 ある程度洋服や小物を見終わった後、雫はほのかをあるお店に連れて行く。

 

 

 「…雫? なんでここ?」

 

 

 「女が自分を磨く過程で、これも必要な事があるから。」

 

 

 ほのかの問いに応えながらも、二人の視線は店の前に置かれている看板に固定されている。

 

 そこは、会員制のエステ&マッサージサロンだったのだ。

 

 エステとか言った事もないほのかは、入る前から怖気着く。それを心配ないと言って雫がほのかの背中を押して、入店しようとする。

 

 

 「ちょっと待って! 雫! 私はいいよ~! 」

 

 

 「だめ。 ほのかは素材がいいんだから、もっとそれをアピールするべき。」

 

 

 「で、でもこういう所って高いんじゃ…。」

 

 

 「大丈夫。私も一緒にするから。パパからも了承済み。」

 

 

 「い、いつの間に…。あ、お金出してもらうなんて悪いよ~!」

 

 

 「諦めて。パパ、ああなったら何を言っても無理。」

 

 

 ほのかは雫の父親である北山潮から少なくない小遣いをもらっている。本当に申し訳ないと思っているが、難なく断りづらいため、困っている。しかし、本当の娘のように接してくれるので、潮の気遣いにも応えたいと思っているほのかは、心が揺らぎ始めた。

 雫は後もう少しだと最後の押しを口にする。

 

 

 「それにほのか…。 肌もぴちぴちの綺麗になったほのかを見れば、達也さんから褒めてもらえるし、深雪から少しの間、達也さんを引きはがして話すことだってできる。

 

  ………さぁ、どうする? ほのか。」

 

 

 メフィストフェレスのように、誘惑するような声音で囁いてくる雫。それによりほのかは夢のような達也との時間を想像し、陥落するのであった。

 

 

 (よし、堕ちた…!)

 

 

 ほのかに見えないようにガッツポーズを取った雫は、結審したような顔をするほのかと一緒にサロンの中へと入っていった。

 

 

 「きゃ~~。や、やめ……!! も、もう……! 許し…て……。」

 

 

 その後、サロン内から荒い息と笑い声、助けを求める言葉が飛び交う。

 

 それに一方が、「がんばって。」「達也さんに綺麗になって会うんでしょ?」…という励ましなのか、気合入れなのか、掛け声も響くのであった。

 

 

 




肌ピチピチ作戦だな。深雪も手入れしているだろうし、雫の見方も間違っていないね!

…では明日は、ROSEの番外編として花見をするので、一旦戻りますね~。

此方も面白いので、ぜひ見てくださいな。


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友人たちの反応 ほのか&雫編その4

雫とほのかの買い物の多くは潮関連だろうな~と思っているうち。


 

 

 

 

 

 

 

 「ほのか、どうだった?」

 

 

 「うん…、一気に疲れたかな…。」

 

 

 「そう? でも肌ぷにぷにしてる。まずはいい感じ。」

 

 

 「んもう…、雫、くすぐったいよ~。」

 

 

 エステも終わり、店から出てきた二人は、見違えるように肌が綺麗になっており、二人を遠目から見惚れている異性が多かった。(恋人連れている男性達は、恋人から嫉妬と蔑む視線を受けたり、足の甲を尖ったヒールで思い切り踏まれたりと災難に観まわれたが。)

 そんな事が周囲で起きている事は知らず、雫とほのかは次の店に向かう。その間歩きながら、雫がほのかのほっぺもつんつんと突いて弄ぶ。それをほのかは先程のエステの際のマッサージで身体が敏感になっているため、ほっぺを突かれているだけでもくすぐったく感じ、笑いを溢していた。そのお蔭で、お腹が捻じれるくらい笑った事で披露を既に感じていたが、楽しい気分になって、次の店に向かっている間、雫とアイスを食べたり、ガールズトークをして精神を回復していった。(疲労困ぱいと言っても、マッサージのお蔭で身体的疲労は取れたが、エステの間ずっと笑いっぱなしだったために精神的疲労は溜まっていたからだ。)

 

 楽しい時間を過ごしながら辿り着いた店は、美容院だった。

 

 ここではヘアメイクだけでなく、ネイル、メイク、パーティードレスや着物の着付けまで行っているお店だ。

 早速店に悠々と入る雫の後に続いてほのかも入店する。

 

 

 「「「いらっしゃいませ~!」」」

 

 

 店内に店員たちの声が重なって響く。そして一人の女性スタッフが声を掛けてきた。

 

 

 「いらっしゃいませ、本日はどのようなコースをお望みか、お決まりでしょうか?」

 

 

 「うん、この子の髪を滑らかにして、毛先も整えてほしい。」

 

 

 「はい、畏まりました。では当店の会員証はお持ちでしょうか?」

 

 

 「はい、これ。」

 

 

 雫が財布の中から黒いカードを出す。カード番号や店の名前等がゴールドで記されていて、見ただけでも一風違う雰囲気を感じる。それはカードを手渡された女性スタッフも同じで、会員証を見た瞬間、ごくりと息を呑んだ。すると次の瞬間、雫とほのかに腰が90度曲っているほど、かなり力の入った最上級の丁寧なお辞儀をした後、受付へと戻り、ゴールドの小さな鐘を数度鳴らした。

 すると、奥から店員が続々と現れ、先程の女性スタッフが説明をする。その間他の客を担当していた店員たちは驚いた顔をしたと思ったら、背筋を伸ばし、スピードをアップさせ、真剣な赴きを見せ始めた。

 突然客対応が真面目になったのを見て、ほのかが雫に話しかける。

 

 

 「雫? 何をしているんだと思う?」

 

 

 「ほのかの髪を煌びやかにするために、それぞれの担当と打ち合わせしているんだよ。あの様子なら間違いなく失敗はないから安心して。」

 

 

 「そ、そんなに大袈裟にしなくて良いよ~! 私、雫と同じお嬢様じゃないんだから、払えないよ!」

 

 

 「大丈夫。パパから既に了承済み。それに今からキャンセルなんてできない。」

 

 

 「そんなの悪いよ! いつもお世話になっていて、申し訳ないのに…。」

 

 

 「じゃあ、これが終わったら、下の階の喫茶店で美味しいケーキがあるみたいだから、そこではほのかのおごりで構わないから。」

 

 

 「……それだったら、別にいいよ。」

 

 

 「交渉成立。」

 

 

 ピースサインを決めた雫は、準備が終わったと呼びに来た店員に連れられてほのかの隣の席に座る。今回は、ほのかだけで雫は見学だ。

 ほのかは親友であるとはいえ、雫にずっと見られ続ける事に羞恥を感じたが、せめてシャンプーのときは視線から解放されると思い、スルーするように心がけるのであった。

 

 

 「お待たせしました。それではカットの前に、シャンプーで髪を洗わせていただきます。」

 

 

 優しそうな女性スタッフが声を掛けてきて、ほのかは礼を言う。

 

 

 そしてこの後、ほのかの様子が急変するのだった…。

 

 

 

 

 

 

 




ほのかのテンションが上昇するのか!!?


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友人たちの反応 ほのか&雫編その5

恋をすると、何でも世界がピンクに染まるんだね…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 シャンプーが終わり、再び席に戻っていたほのかに、今度は入れ替わりでモデル系の店員がやってきた。どうやらカットやヘアアレンジでは店員の中ではトップらしい。

 

 

 「ようこそおいで下さいました。店長の美谷と言います。当店をご利用いただき誠にありがとうございます。」

 

 

 「ううん、いつもありがとう。助かります。」

 

 

 「いえ、もったいなき言葉です。それで今日はご友人の方のヘアケアを擦ればよろしのですよね?」

 

 

 「そう。 実は……」

 

 

 そう言って、店長を少しほのかから遠ざけて小声で何かを話している雫たちを、不安で見守るほのか。そして数分後話し合いが終わったようで、戻ってきた二人は若干ニヤついていて、ほのかは直感的に身の危険を悟った。…しかし既にカットするための準備が整った後。首にはタオルとカッパのようなカバーを被っている。このままで店の外に逃げ出せばどうなるかなんてすぐに分かる。だからその時の状況と今の状況を天秤にかけた結果、まだ二人に付き合った方が羞恥心を感じなくて済むと判断し、怖さはあるものの、全て受け入れる事にした。

 

 

 (大丈夫! 雫の馴染みの店だし、店員さん達も新設そうだし。そんなに変なヘアスタイルにはしないはず!!………そうだよね?雫?)

 

 

 自分で安心させようと念じて見構えていると、カット用のハサミを軽やかに回して持った店長がクスッと笑う。

 

 

 「大丈夫ですよ、そんなに緊張しなくても。好きな人のために綺麗になるなんて素敵な事ですよ? 特に女としてはそれが最高の自分を見せてくれるきっかけになりますから。」

 

 

 優しげな笑みでそう答える店長がほのかの髪をカッティングしていく。髪を整えるだけだからそんなに切らないが、だからこそベストな髪の長さに揃えるにはかなりの腕が必要なのだが、それをあっさりとこなしていく店長はさすがだと言える。

 そんな店長のカットを堪能していると、ふといい香りが漂ってきた。

 

 

 「いい香りですね。これは……なんだか和みます。」

 

 

 「うん、ほのかの言う通り。 落ち着く…。 」

 

 

 「ありがとうございます。これはシャンプーに調合された香りの効果ですね。」

 

 

 「シャンプー? もしかしてシャンプーを変えたの?」

 

 

 「はい、そうなんです。 当店のオリジナルではないのです。」

 

 

 店長の返事を聞いて、雫が不思議がる。前にもパーティーに参加するために来店した時、シャンプーで髪を洗う所からやったから、その時と違うと聞き、疑問に感じたのだ。(余談だが、雫にも専属のヘアメイクやスタイリストはついているが、その時はあいにく専属のヘアメイクが交通事故で足を骨折、腕も五針縫う怪我をしたため、給食をしていたのだった。)

 この店では特別に調合したオリジナルのシャンプーやトリートメントを使っており、これらには様々な種類がある。お客によってこれらを使い分けていて、それが店の人気ポイントの一つともなっていた。

 

 だからそれを知っている雫は不思議だったのだが、店長は微笑ましく笑っていたので、更に首を傾げる。その様子を見て、店長はその理由を話し始めた…。

 

 

 




やっと話がつながってきたね~。次回で雫&ほのか編は終わる予定です!


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友人たちの反応 ほのか&雫編その6

ほのかなら絶対に目がハートになるね


 

 

 

 

 

 

 

 「実はつい先日に新発売されたシャンプーを使いだしたんです。」

 

 

 「市販のものなの?」

 

 

 「はい。女性のお客様達にぜひこのシャンプーで洗ってほしいという要望が多数あったので、試験的な意味で変えてみたのですが、それがお客様に好評でして、今ではすっかりこれに助けられてます。」

 

 

 店長がシャンプー台からそのシャンプーを持ってきて、雫やほのかに見せた。既にほのかのカットは終わっており、ふんわりとした髪にまとまっていた。首の自由ができたほのかがシャンプーに書かれた商品名を口ずさむ。

 

 

 「…えっと、…『プリンセス』? こんなメーカーって今までなかったよね?」

 

 

 「新しく開発されたものだよ、ほのか。さっき店長がそう言っていた。」

 

 

 「あ、そうだった。忘れてた。」

 

 

 「でもほのかの気持ちもわかる。一見そんなに高価なモノにも見えないし、市販されている物なら一般のシャンプーと大差ないと思う。何でこれが人気なのかな?」

 

 

 「わ、私も知らないよ~。 今初めて目にしたんだもの!」

 

 

 雫がほのかに視線で問いかけるが、ほのかは首をブンブン振って否定する。雫はお金持ちでお嬢様だから、入浴の際に使うものもそれなりに高価なものだ。しかし、ほのかとの長年の付き合いで一般的に流通している物にもほのかを通じて知っている。だから、自分の知らない庶民道具でもほのかなら知っていると考えた上での問いかけだった。まぁ、結局ほのかも知らなくて答えられなかったが。

 そんな二人を見て、若干驚いた顔をして、店長が話す。

 

 

 「…お二人とも、ご存じないのですか?あのCMを?」

 

 

 「CMって?」

 

 

 「もしかしてこのシャンプーのCMの事ですか?」

 

 

 「はい、そうです。実はこの商品のCMが今人気絶叫でして、それがもとで今、全国の女性の間では売り切れ続出になるほどの人気商品なのですよ!

  ぞくぞく、どきどきが止まらない…、女性なら憧れる世界を魅せてくれるんですよ!だからCMで宣伝しているこの商品に皆さんが群がり、先程も言いました通り、売り切れになるほどの人気なので、手に入れたいのに手に入らない方々がせめてもの救いとして、美容院に足を運んでくる…という訳です!」

 

 

 話している最中にどんどん興奮していく店長。どうやら店長も今を時めく女性達と同じくCMにハマりこんでいるのだ。

 その証拠にスクリーン型の情報端末を持ってきてくれて、録画をしていたCMを見せてくれた。

 

 

 「二パターンあって、SUN/MOONって分けて読んでいるんですよ!マニアの間では、それぞれに登場する男性の事を、SUNBOY、MOONBOYって呼んで、応援しているそうです。

  私の推しメンはMOONBOY様です! あの大人びたオーラとか瞳とか堪らないですよね~!」

 

 

 店長の話をBGMにして、CMを見る雫とほのかはCMが始まった瞬間、言葉を失った。

 

 

 店長の言うとおり、ロマンチックで確かに女性なら憧れるシチュエーションで撮影されており、目を見張る出来栄えだった。

 そして何より二人が驚いたのは、店長の推しメンであるMOONBOYが達也に似ていた事。

 

 

 「……!!」

 

 

 「…………」

 

 

 思わず叫びそうになったほのかは口を塞いで悲鳴に近い叫びを発するのをギリギリで防いだ。雫もポーカーフェイスが崩れて口が開きっぱなしだ。

 

 

 ((…達也に似ている。 驚いた。))

 

 

 二人して同じ思いを胸に秘め、そのまま沈黙が続く。そんな二人に店長が感想を聞いてきた。

 

 

 「どうでした? これで分かりましたか?世の女性がこのシャンプーを求める訳を。」

 

 

 「…はい、確かにこれは欲しくなりますね!」

 

 

 「そうでしょう! お客様には雰囲気的にSUNが似合うと思って、早速使用した甲斐がありました!」

 

 

 「あ…、これってSUNだったんですね…。」

 

 

 「はい、……もしかしてMOONの方がよかったですか?」

 

 

 「………はい。…あ、でも私こっちも好きですから! 両方とも素敵ですし!」

 

 

 「…問題ないですよ。後トリートメントをする際にもう一度シャンプーするので、今度はMOONにしましょう。」

 

 

 「あ、有難うございます!!」

 

 

 「……私もシャンプーだけしてもらおうかな。」

 

 

 「はい! 畏まりました。」

 

 

 ほのかと雫が嬉しそうに互いの顔を見つめ合って、微笑む。

 

 

 (帰りにこれ買って、早速明日から使っちゃお♥

  ……達也さん似のあの人が出ていたMOON! …そうだ、あの人、芸能人ならファンになろうかな♥)

 

 

 (……私も欲しくなってきちゃった。ほのかには悪いけど、達也さんに似ているあの人が出ていた方をなるべくストックできるくらい買っておこうかな。

  

  …ほのか、親友だから達也さんと上手くいくように応援しているけど、あまりに焦れていたら、私の方が先に仕掛けるんだからね?)

 

 

 

 それぞれ心の中でCMを見た上でのこれからの方針を固め、仲良く一緒にシャンプーした後、店を後にし、真っ先にシャンプーが売っている売り場へと向かうのであった。

 

 

 ちなみに雫がMOONBOYに興味を示した事で、シャンプーを大量に買ってきた時、潮はとうとう娘に想い人ができたと勘違いし、MOONBOYこと、RYUの事を調査しようとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今日で何とかほのか&雫は終わり~!! 次は…誰にするか…。


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友人たちの反応 深雪&水波編その1

今日からは深雪と水波をやっていきますよ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 「……お兄様、お帰り遅いわね。」

 

 

 「そうですか? 達也様なら今日はFLTに行かれると仰っておりましたし、帰りは遅くなるとも、お出かけの際に仰られてました。」

 

 

 学校が休みの休日で、深雪と水波は自宅で寛いでいた。しかし、達也の姿は何処にもいない。今日はFLTで完全思考型CADの実験検証をするために、朝から取り組んでいた。達也がシルバーであり、休日の際はFLTや独立魔装大隊の訓練に赴いている事は知っている水波は深雪が何を考えているか、分からなかった。

 試しに時計を見ても、まだお昼の真っただ中。日も暮れていないし、遅いと言うほどの時間でもない。今までも大体帰りはいつも夕方だった。それを考慮してもやはり深雪の言った事が当てはまるほど遅いという訳でもない。

 

 不思議で首を傾げたくなったが、主に楯突く様な真似はしたくなかったので、口元まで出そうになっていた言葉を呑み込む。そして別の言葉を上手く隠せるように祈りながら話しかける。

 

 

 「もしかしたら、研究に集中していて時間をわすれているのかもしれないです。」

 

 

 「それはないわね。お兄様はたとえ研究に集中していても、時間は厳守する方ですから。お兄様の頭の中のスケジュールはびっしり詰まっていますし、計画的に取り組まないといけないでしょう?」

 

 

 「…………そうですね、失言でした。申し訳ありません。」

 

 

 内心では、達也絶対主義を何よりも優先している深雪に対し、呆れを感じていた水波は、まだ帰ってこないのかと首を長くする深雪を見て、達也も大変だなと思うのであった。

 

 そんな呆れかえっていつつも、水波に見守られている深雪はというと、胸の奥でざわつく謎のざわめきが分からぬまま、達也の帰りを待つ。

 

 達也の帰りを待つには早すぎるのは分かっている。

 

 しかし、妙な胸騒ぎがして、落ち着かない。

 

 だから、いつもなら思わない事も想ってしまう。

 

 

 (お兄様…、もしかして私に嘘をついていませんか? 本当はFLTに行っていないとか?

  ……まさかだと思いますけど。)

 

 

 本当はFLTに行っていないのではないかと考え始めてしまう深雪。胸騒ぎの理由を達也と結びつけるのはどうかと思うが、実際にその通りなのである。

 

 達也は今日は本当にFLTに向かって、研究を続けている。しかし、ここ最近は、FLTに行くと言って、アイドル活動に向かっていたから深雪の勘は鋭く当たっているのだ。その勘の鋭さに深雪に恐れを抱くかもしれないが。

 

 もしかしたら今までの状況と似ていて、それが募って不安が爆発していたのかもしれない。

 

 とにかく深雪は達也を求めて、塞ぎこんでいき、時刻が夕刻に近づいて行く毎に拗ねていくのであった。

 

 

 その様子は水波が身の危険を感じて、こっそりと防寒具を傍らに用意するほどだと言ったらわかるだろう…。

 

 

 




すみません!! まさかの寝落ちで、投稿が間に合わず!

心地よく眠っていた少し前の自分を叩き起こしたい気分だぜ…!


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友人たちの反応 深雪&水波編その2

早く達也、深雪を宥めてくれ~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 日も暮れはじめた頃、やっと帰宅してきた達也が一番初めに視線に入ったのは、物凄く笑みを浮かべている深雪とその斜め後ろで控えている顔色が真っ青で、随分と疲れている水波の正反対の表情だった。

 この二人のあまりにも違った反応の出迎えにはさすがに達也も居心地が悪く、非常に気になったので、深雪に聞いてみる事にした。

 

 

 「どうした?深雪。 いつもと違って、楽しそうだが?」

 

 

 「…そうですか? 私はいつも通りです、お兄様。それよりもお兄様、玄関に立たせたままにしてしまい、申し訳ありませんでした。どうぞ、上がってください。」

 

 

 ほんの一瞬だけ間があったが、何もないと言って、達也の手を取り、リビングへ誘導しようとする深雪にされるがまま、リビングに入ってくる。

 

 

 (………ん? なんだ? この何とも言えない空気は…。)

 

 

 深雪の一瞬の間で、深雪が何かを隠している事は悟った達也だったが、深雪が言いたくないのならそれで良いと納得してしまったため、あっさりと白旗を上げた。それからリビングに入ったのはいいんだが、妙な感じがした。リビングの配置は全く変わっていない。今朝出かける前と同じだ。しかし、なぜか違和感を感じる。刺客的な意味ではなく、感覚的なもので。

 

 それがいまいちピンと来なくて、ソファで寛いでいてほしいと深雪に頼まれて達也は腰かけながら、考え込んでいた。深雪は達也が座った事を確認すると、キッチンの方へ赴き、コーヒーを淹れるために湯を沸かし、豆を挽き始めた。仕事を取られた水波はムスッとした顔をするが、一緒に暮らし始めて約一か月経ち、深雪のブラコンぷりには、諦めも肝心だと学んできたので、すぐに平常心に戻る。しかしまだ完全に譲った訳ではないので、お手伝いという名目で準備に携わろうとする。

 

 

 意を決してキッチンへと向かい、深雪とまた静かなる戦いが起きようとするのを、視界で確認しつつ、口出しはせずにまた先程の違和感の事を考え始める。普段ならそこまで気にするような性格ではないのだが、キッチンで二人が何か話している(穏やかではない雰囲気で)のを聞いていると、関係がまだ良好でないのではないかと思ってしまう。もしそれなら、休日に深雪を置いて、出かける確率を減らすしかない。つまり、水波が司波家へ訪れる前の頻度に戻すという事だ。達也は自分が出かけている間に二人で何かトラブルが起きているのではないか…、と思った。そしてその事を深雪は言いだせないのではないかと…。

 

 そう話が進むと、一旦は納得したが、やはり解決しておいた方が今後の動きを組立しやすくなると判断し、今に至って、絶賛思考巡らせ中である。

 

 

 足を組んで、ソファーの背もたれに身体を預けて深く考え事をし始めた達也の耳には、互いに譲る気を見せない深雪と水波の含みのある言い合いがBGMとなって入るのだった。

 

 

 




深雪と水波の編だけど、達也を導入してみた。だって、このままじゃ、水波一人で深雪の暴走を止める事になるもん。



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友人たちの反応 深雪&水波編その3

相変わらずの観察眼だな、達也は。


 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪のコーヒー待ちの間、しばらく考えていた達也は、ふと庭に隣接するベランダのガラス戸が目に入った。正確には、ガラス戸についている水滴だ。しかも曇っている。これを見て、達也は自分がいない間に何があったのか、なんとなく想像する事が出来た。

 

 見当がつき、ようやく謎も解けた達也の元へ、水波が戻ってきた。歩く感覚や姿勢はさすがメイドとして本家に仕えていただけに背筋を伸ばして向かってくる。しかし、顔に出ている表情は物凄く疲れ切っていて、視界が定まっていない。

 こっちも放っておくとまずいと判断した達也は、水波に話しかける。

 

 

 「水波、そんなに気を落とすことは無い。あれは深雪の日課なんだ。やらせておいてやってくれないか?」

 

 

 「……はい、畏まりました。……ですが、せめて夕食は私が作る事を深雪様にお伝えください! このままでは私、今日は満足に仕事を全うできたという実感が持てないまま、一日を終えてしまいます!」

 

 

 「…分かった、深雪には俺から言っておく。水波、悪いが夕食はよろしく頼むよ。」

 

 

 「はい…! ありがとうございます、達也様…!」

 

 

 歓喜極まって、顔の前で手を組む水波を達也は持て余す。いつもの水波なら、「はい、畏まりました。」と短く告げてから嬉しそうな笑みをうかべて、こっそりガッツポーズを取る。しかし今日は若干羽が伸びたのか、感情が豊かになっている。

 

 

 (よっぽど嬉しかったんだな…。そんなに深刻なのか?)

 

 

 深雪に夕食作りを譲るように言うのはそう難しい事ではない。深雪なら、

 

 

 「お兄様が仰るのなら深雪は夕食は作りませんわ。水波ちゃん、後は任せたわよ? では私はその間お兄様とコーヒーを飲んでゆったりとお待ちしております。」

 

 

 …と肯定し、これ幸いと達也との時間を隣で共有しようとするだろう。

 しかし、それはそれでどうなんだと思いたくなる達也だ。水波は本来、深雪のガーディアン見習いであり、ゆくゆくは深雪のガーディアンとして、その身を盾にして深雪を護るようになる。それは既に決まっている事だ。その点に感じては達也も特に反論はしない。(反論するとすれば、勝手にガーディアンを辞めさせられる事だ)だから、水波は深雪が主である。メイドはこれまでもやってきたため、両立しているだけ。優先順位だとガーディアンが上になる。その事は達也も理解している。しかし、それと同時に頭を捻る。

 深雪の命令は聞いて当たり前なのだが、その兄である達也に対して命令を聞く必要は無い。それに立場的には大差はない。同じガーディアンの先輩後輩みたいな位置づけだ。達也が命令したら普通は素知らぬ態度を取る。四葉本家にいたのならなおさらだ。

 それなのに、達也がお願いしてもすんなり聞いてくれる。寧ろ深雪と同等の言動を受ける事があるのだ。

 

 だから、水波から格上のように扱われるのは歯がゆいと感じる達也なのだった。

 

 ただ単に慣れていないだけなのだが。

 

 

 そんな訳で、達也に反感を持たずに接する水波の喜びようを見ていたら、色々と深雪と水波の関係について、不安になってきたので、自分の考え付いたものが正しいのか、確認も兼て聞いてみる事にしたのである…。

 

 

 




深雪みたいに愛情たっぷり受けて生活していたわけではない達也だから、水波が自分にも頭を下げたり、礼儀を重んじたりするのが何だか違和感ありまくりだったんだよね~。でも嫌いって訳ではないから、二人の様子を観察していたけど、かなりの水波の喜びように何かを感じ取った訳ですよ~。はい。

整理するとこんな感じ?


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友人たちの反応 深雪&水波編その4

今日は達也の誕生日だ~~!!やったね~~!!…って事なので、今日は達也をカッコよく決めれるように頑張る!

今日中の投稿が叶わず…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「水波、所で御前に聞きたい事があるんだが…。」

 

 

 「はい、なんでしょうか?達也様。」

 

 

 「…俺が帰宅するまでの間の事なんだが…」

 

 

 「え?」

 

 

 達也が話を切りだした途端、水波は顔の血の気が引いていった。そして体が小刻みに震えている。だが本人は冷静に努めようと姿勢を崩そうとしない。意地を見せていると言えば分かると思う。

 だから水波のこの反応の仕方に達也は確信し、掌を水波に向ける。

 

 

 「もういい。話さなくていいぞ。その代わり、俺が今から独り言を言うから、それに相槌等をしてくれるだけでいい。…できるか?」

 

 

 「は、はい…。」

 

 

 「なら、始めるぞ。」

 

 

 水波から話を聞くのは無理だと判断した達也は、独り言と称して推理を口にし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 「まず深雪は俺の帰りが遅いとかいう理由で、拗ねていなかったか?特に帰る時間は言ってはいなかったが、確かに早く帰ろうと思えば帰れたんだが、思いのほかやる事が山積みで連絡できなかった。水波には苦労かけて悪かったな。」

 

 

 「いえ、そのような事は…。私はただ深雪様を御傍でお守りしていただけです。」

 

 

 「ああ、水波のお蔭で出かけられる頻度も増えた。助かっている。だが、深雪はそれがどうやら気に入らないんじゃないか?それが深雪が暴走した理由だろ?」

 

 

 「え? 深雪様は…暴走していませんよ?」

 

 

 ギクッという顔を分かりやすく見せた水波に『やっぱりか~』とため息を吐きたい気分を堪えて、先を進める。

 

 

 「言葉通りの意味での暴走ではない。魔法の暴走…つまり、リビングで極寒の空間ができたんだろう?」

 

 

 「……何でその事を…?」

 

 

 隠そうとしていた水波だったが、あまりにも当たっていて、驚きのあまり、つい本当の事を滑らせてしまった。

 

 

 「簡単だ。ガラス戸を見れば分かる。」

 

 

 そう言って、ガラス戸の方へ指を指した達也。その指先を視線で追って、眼を拵えて良く観察する。

 

 

 「あ…。」

 

 

 そして水波は気付いた。

 

 達也は水波が気づいた事を察知し、説明する。

 

 

 「極寒の空間となれば、慌てて精神を落ち着かせて、元の状態に戻そうとしても、冷え切った空気は早々直る物ではないからな。その証拠にガラス戸には結露でできた水滴が見えるだろ? あれは氷炎地獄と同じで、温かい空間と冷えた空間がぶつかれば結露が発生する。外は春になってきたからか、一気に温かくなってきた。この室内と外の温度差が離れすぎて、季節遅れの結露ができてしまったんだ。

  (結果はどうであれ…)。」

 

 

 「す、すごいです。達也様。」

 

 

 全て当たった水波は驚きのあまりに、立ち尽くすのであった。

 

 

 




すみません…、また寝落ちしてしまった。


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友人たちの反応 深雪&水波編その5

深雪が暴走したのは、少し違っていたり…?


 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪が魔法を暴走させてしまった事は理解できたので、達也は今度時間が空いたら、深雪を連れて外出するかと頭の中のやることリストの優先順位のトップに書き加える。

 

 

 「ところで、よく深雪を止める事が出来たな、水波。深雪の干渉力は高いからな。」

 

 

 水波に感心した顔で褒める達也。これこそが一番驚いた事だった。還ってきた時のリビングの違和感というのは、リビング内の空気で、季節的に程よい暖かさになったというのに、若干室内が湿っていた。ヒンヤリともせず、それでいて温かくもなく…と言ったリビングだったため、達也は妙な違和感を覚えたのであった。しかし、かなり前に深雪が暴走していたのなら、既に湿度も元通りになっているはずだし、ついさっきなら寒さが肌に直接伝わってくるはずだ。しかしそれらはなく、何とも言えない室内温度である。(寒さが残っていたら、達也なら入った瞬間でわかっただろう。)だから計算するに、数時間前の出来事だと仮定できるが、そもそも深雪の暴走を止めれるほど水波は持ち合わせていない。魔法師としては達也よりも優れているが(普通の魔法師の評価で言えばだ。)、深雪の桁違いの魔法力と比べると大差がある。その状態で深雪の精神を正常に戻した水波に、達也が褒めるのを当然であった。

 

 

 「いえ、深雪様はご自分で何とか…。私は何も。」

 

 

 首を横に振り、否定する水波。目も泳いでいてまだ何かを隠しているのは達也も考えるほどなく気付いたが、これ以上水波に問いただすとこちらが責めているように囚われるかもしれないと思い、追及はしないでおく事にした。水波も一日中深雪と過ごしていたので、疲れているかもしれない。そう思った達也がこれで話はおしまいだと告げたその時、タイミングを見計らったかのように深雪がキッチンからお盆にコーヒーを淹れて戻ってきた。

 

 

 「お兄様、コーヒーが出来上がりました。どうぞ、お召し上がりください。」

 

 

 髪を耳にかけ、達也の前のテーブルにコーヒーを丁寧に置く。そして深雪はその隣で同じく自分の分のコーヒーを飲み始めた。達也も一口飲むと、口元をほころばせ、深雪を見て、微笑む。

 

 

 「ありがとう、深雪。今日も美味いよ。」

 

 

 「ありがとうございます、お兄様…。深雪もお兄様に喜んでいただけて嬉しいです。」

 

 

 頬を赤らめ、うっとりする深雪を可愛いなと思いながら、水波との約束を告げてみる。ちなみに水波は二人の後ろで控えている。

 

 

 「深雪、今日はすまなかった。もう少し早めに帰るつもりが色々立て込んでしまってな。深雪には寂しい思いをさせたな。」

 

 

 「いえ! そんな事は! お兄様がご活躍される事は、深雪にとってはとても光栄な事なのです!」

 

 

 「なら、寂しくなかったのか?」

 

 

 「……いえ、寂しかったです。やはりお兄様と一緒にいたいです…。」

 

 

 達也に問い掛けられ、恥ずかしいのと、嬉しいのと色々な感情が深雪の心の中に渦巻く。しかし、深雪は達也に嘘をいう訳もなく、正直に話した。深雪の本音を聞いて、達也は深雪の頭を優しく撫でながら言い聞かせるように話す。

 

 

 「そうか。なら深雪を寂しがらせたお詫びに、今から俺に甘えてもいいぞ?」

 

 

 「え!? お兄様に…甘える……。」

 

 

 唐突な展開に深雪は驚くが、それもすぐに収まり、両手で真っ赤になった頬を包むと、身をねじらせてどこかの夢の世界へと意識を向けてしまう。それを見て、達也は深雪が想像している事となにか決定的に違っているような気がしたが、ふと沸き起こった思考は横に置く事にした。

 

 

 「ああ…、俺ができる範囲でだがな。その代わり、夕食作りは水波に任せるんだ。」

 

 

 「お兄様が仰るのなら深雪は夕食は作りませんわ。水波ちゃん、後は任せたわよ? では私はその間お兄様とコーヒーを飲んでゆったりとお待ちしております。」

 

 

 笑顔で後ろに控えている水波にそう告げると、早速手の空いている達也の左腕に掴み、更に拳一つ分空けていた距離をゼロ距離に詰める。とても嬉しそうに肩に顔を寄せる深雪を見下ろし、達也は自分で言ったわけだが、苦笑し、深雪の隙にさせる事にした。そして視線を水波に向け、合図を送る。

 

 

 (ありがとうございました、達也様。)

 

 

 心の中で達也にお礼を言うと、水波は甘々空間を作りだしている二人から離れるために颯爽とキッチンへ逃げていくのであった。

 

 

 




めでたしめでたし…じゃないよ!! まだ深雪の暴走が何で止まったのかとか描いてないからね!

次回で終わらせる…。


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友人たちの反応 深雪&水波編その6

水波を語り手にしてみようかな。


 

 

 

 

 

 

 

 

 (ようやく心置きなくメイドとしての責務を全うできます。)

 

 

 やっとやりたかった事が出来て、心の中で満足げになりながら、手は夕食作りに忙しくまな板やフライパンの上を走っていた。誰にも邪魔されずに仕事に没頭でき、嬉しい水波。主である深雪に真正面から「邪魔」だとは言えないが、いつもの家事の取り合いには精神的疲労が溜まる始末だったため、一人で準備できる事に胸を撫で下ろす。

 せっせと夕食を作る水波の耳にその主である深雪の楽しそうな話し声が聞こえてきた。会話の内容的に今日の出来事を語って聞かせているのだろう。

 

 そんな事を考えていると、ふと水波は留守番の時の事を思い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「お兄様…、もしかして女性と親しくなさっているのでは…。」

 

 

 ついに疑心暗鬼となった深雪の表情が暗く淀み、妖艶な笑みは微かに不穏な影を見え隠れさせていた。

 

 

 (まるで奥様と瓜二つに見えてきました…。)

 

 

 気が重くなり、気を失ってしまいたいという衝動を抑え込んで深雪に付き控えている水波は若干現実逃避をして、達也の帰りを祈っていた。

 

 そして達也とどこの誰かもわからない異性とラブラブな妄想を頭に浮かべたらしい深雪はついに、無意識で魔法を発動させてしまい、リビングはあっという間に極寒の世界となった。冷蔵庫や冷凍庫…何かに例えるには烏滸がましく思ってしまうほど、生半可なものではなかった。寒さでブルッとするなんて物ではない。完全防寒対策をしていなければもはや凍傷だけで済まない…といった世界を一瞬のうちに作り上げたのだ。

 見渡す限り全て白くなっており、吹雪の風がそこらじゅうで吹き荒れていた。そんなテレポーテーションしてしまったのかと疑りたくなる場所で水波は何とか生き残っていた。間一髪だったが、対防寒と情報強化しておいた障壁を自分を取り囲む形で影響を押さえていた。完全には無効化できずに白い息を吐いているが、何とか凍らずに済んでいた。逆に深雪は平然としていて、水波はこの時恐怖を感じた。でもこのままなのはさすがにまずいし、家具類が傷んでしまうと思った。それに家具の多くは水波が司波家で生活する上で新しく新調したものばかり。水波もお手を煩わせるのは嫌だった。

 

 

 「…深雪、様…! 落ち着きましょう!」

 

 

 「………」

 

 

 (聞こえていない…。それなら・・・!)

 

 

 「魔法を暴走させたままの深雪様を見たら、達也様、悲しまれますよ!」

 

 

 「え?」

 

 

 「それどころか、これを機に深雪様から距離を置かれるかと! ……傍にいれば凍る事は必須なので!」

 

 

 「そ、それは困りますっ!ま、待って! 」

 

 

 水波の類まれなアイデアによって、深雪は正気を取り戻し、リビングに立ち込めていた極寒の世界を瞬く間に元に戻していった。深雪は干渉力が強い上に魔法の暴走が起きるが、意識すればコントロールする事が出来る。

 一旦深呼吸をし、落ち着かせるとその呼吸に合わせるようにして、凍りついていた壁が溶けていく。数分後もう大丈夫だと判断し障壁を解除した水波に深雪が申し訳ないと言う顔で謝罪してきた。

 

 

 「ごめんなさい、水波ちゃん。私、取り乱しちゃって。身体は大丈夫?」

 

 

 「はい、お心遣い感謝します。私は問題ありません。」

 

 

 危うく氷像にされかかったという事実は言わず、深雪に機嫌を良くしようと、達也の事を考えないようにある提案をしてみた。

 

 

 思いつきで言ったこの提案がまさかここまでの効果を発揮させるとは、水波はこの時、想像していなかった…。

 

 

 




眠い…。

本来は深雪を極寒から守らないといけないんだけど、思わずわが身を護っちゃった水波。これは仕方ないよね?だって深雪の減速魔法…、ニブルヘイムを受けちゃあ。


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友人たちの反応 深雪&水波編その7

もう一か月か~。どんだけ『友人たちの反応』を繋げるんだろう?だが~!それも今日でおしまい!…のはず。


 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪の暴走が収まり、水波は深雪のモチベーションをこれ以上低下させないため、モリビングに設置されているモニターの電源をつける。すると、ちょうどドラマが放送されており、水波は「これは好都合です!」と心の中でガッツポーズを取る。

 …というのも、水波がやろうとしていたのは、テレビ番組をつけて、深雪に鑑賞してもらう事だった。こうしていれば、深雪は番組内容に集中するし、その間に水波がまだ片づけていない家事をこっそり進行できる。深雪も精神不安定になって、魔法の暴走を起こすリスクも減る。我ながら一石二鳥…いや、三鳥だ。

 達也がFLTに出かけてすぐ、洗濯やら掃除やら片付けやら、家事という家事は深雪と張り合いしながら行ったため、あっという間に終了してしまい、時間を持て余す事になってしまった。これが達也を待ち焦がれる深雪へと変貌させたのは、言わずもがな…である。

 しかし、深雪が暴走した事で、棚やテーブル等が曇っていたり、水滴が付いていた。メイドとしてのプライドを持つ水波は掃除のし甲斐があると狙いを定めていた。

 

 

 …という水波のちょっとした思惑によって、深雪は昔からよくお茶の間の主婦の間でも言われていたいわゆる『昼ドラ』という二時間ドラマを鑑賞する事になった。今日は既に学校からの宿題も予習も終わっており、分からない問題はいつも通りに達也に教えてもらわないといけないため、学生の本分を実行するのは無理だ。他にする事もないので、気分転換も兼て水波の提案に乗る深雪だった。

 

 ただその数分後、深雪はモニターを凝視したまま固まり、若干頬を赤らめる。

 

 紅茶と茶菓子を持って、戻ってきた水波もモニターを見て、思わず叫びそうになった。

 

 

 なぜならモニターに達也が映っているからだ。

 

 

 「……お兄様…?」

 

 

 ぼそりと出た尊称だが、まだ確証を得られなくて、疑問符がつく。水波もまさかこんな形で目撃するとは想像だにしなかったので、開いた口が塞がらないほど驚く。

 

 

 「……驚きました。まさか達也様に良く似ていらっしゃる方がいるとは思いませんでした。」

 

 

 頭の中で悩んだ結果、達也にそっくりな人物だと水波は位置づけた。深呼吸して、冷静に考えてみると、達也であるわけがない。

 だって、達也が灰色の天然癖毛のある髪や髪キスなんてしない!見ず知らずの異性には特に!

 

 二人が見ているのは、ドラマの合間に流れているCMで、女性に絶賛人気と画面上に出ている今売れ行きが凄いシャンプー『プリンセス』のMOONverだったのだから。

 

 

 未だに衝撃を感じる水波は、深雪をふと盗み見る。先程から固まった深雪の様子を観察するために。

 だが、視線を向けた瞬間、深雪が口を開く。

 

 

 「あの方はお兄様ではないわ。お兄様はもっと紳士ですから。確かにお顔はお兄様に大変良く似ていらっしゃると思うけど、お兄様はただお一人…。あの方もお兄様と同じだと考えられるのは嫌でしょうから。」

 

 

 「深雪様の仰る通りですね。申し訳ありません。」

 

 

 達也とCMの達也似の青年と重ねて見ていた事を反省し、深雪に謝罪する。また深雪が暴走しないように。それが効したのかは分からないが、ニコリと笑って謝罪を不要と首を振る深雪。

 

 

 「水波ちゃん、謝らなくていいのよ?私だって、あまりにもびっくりしちゃって、お兄様かもと思ってしまったもの。誰だってこういう事はあるわ。」

 

 

 「はい。」

 

 

 「あ、そうですわ。水波ちゃん、次のCMで先程のCMが出てきたら、録画しておいて頂戴。お兄様が帰ってきたら、見せましょう。

  きっとお兄様、驚きますよ?」

 

 

 ふふふ…と面白そうに花が零れ出るように笑う深雪の笑顔に女子である水波でも思わずうっとりとしてしまうほど、魅力的だった。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 …という出来事があって、CM録画をしておいた。しかしそれを達也に見せることは無かった。

 今日の出来事をフラッシュバックさせたことで、夕食を多く作りすぎてしまった水波が達也に謝ると、「実は研究に没頭して昼は食べていなかったから、これくらい食べれる。ありがとう、水波。」と逆に感謝され、照れる水波。そんな水波を氷柱の如く冷たく尖った視線が水波を一瞬だけ貫く。その後は三人で美味しく夕食を堪能し、またいつものように後片付けで二人は揉める。

 

 そして数時間後、深雪と水波のそれぞれの部屋では、部屋に設置されている小型モニターを使って、頬を真っ赤にして、声を潜めて萌えていた…。

 

 録画しておいたCMのデータをコピーして。

 

 

 

 「RYUさま…ですか。」

 

 

 「…お会いしてみたいです。………また。」

 

 

 小さく呟く二人の声は、それぞれ自分の部屋だけで留まる。二人の興味を惹く事になったRYU…もといその本人の達也は、深雪と水波に影響を与え始めた事を知る由もなかった。

 

 

 




はい、終わりました~~!!
明日からは少しタイトルが変わります!

結局深雪も心の中で「キャ~~~~~!!!♥」なっていたという訳ですな。
あと無意識だと思うけど、RYUを見てから、口調が達也に話す時と大差ない者になっていたしね。(そうしたつもりだけど、変だった?)


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同胞の反応 その1

この人たちも何故か絡んできました。(* ̄∇ ̄)ノ
もともと登場予定でしたがね。


 

 

 

 

 

 

 「あらあら…、達也君こんなに注目されちゃって。有名人になったものね~。」

 

 

 「四葉家のご当主様は作戦がうまく進んでいるこの状況にご満悦するんじゃないかな?」

 

 

 「どうでしょう? あの方ならこれはまだ序の口かもしれませんよ?」

 

 

 「確かにそうだろう。そうでないと達也君を目立たせるリスクを払ってまで仕掛けた計画にしてはあまりにも元が取れ無さ過ぎる。」

 

 

 日も落ち、夜となった街のある高層ビルの地下駐車場に止まっている赤い車の中で若い男女が話し合っていた。防音性にもしているので、車内の会話は外には漏れないが、魔法で防音障壁を張る。しかし、街中で魔法を使えば、監視システムに引っ掛かりすぐに警察に知られる事になる。それにもかかわらず魔法を使っている訳だが、この状況は既に数時間も行っている。これなら巡回中の警官や刑事が来てもおかしくはないが、誰一人もやってこない。

 それもそのはず。魔法探知や監視システムから自分達の魔法行使のデータをすっぽりとり払っているからだ。ハッキングして、魔法使用のデータを削除し、今この駐車場での監視システムはオフにして、偽の別のデータをリアルタイムで流している。

 

 これらの作業を車内に搭載されたキーボードで指を走らせ、実行する。慣れた手つきで操作する女性は、顔を真っ直ぐ前を向いたまま、スクリーンとなった前方の映像を見る。助手席に座っている男性の方は、女性が操作するスクリーンを見ながら、腕を組んで面白そうに笑う。

 

 

 「それにしても達也君がアイドルになるなんてね! 初めにこの事を知った時は思わず笑ってしまったよ! なんだって達也君とあまりにも相反するものだと思っていたからね。」

 

 

 「それは言い過ぎですよ。確かに達也君もこの件に関して、強い抵抗はあったと思いますが、意外と…いえ、似合っていると思いますが?」

 

 

 「……もしかして君も世の女性達と同じ考えだったりするのかな?」

 

 

 からかおうとする気が隠そうともしない男性に女性はため息を見せつけるようにしてついて、ジト目で見返す。

 

 

 「……私はどのような意見を持っていようとあなたには関係ないと思いますよ?これ以上無駄な口を叩くなら、こちらにもそれなりのやり方をさせていただきます。」

 

 

 

 「え?」

 

 

 車内がマジな緊張感が漂い始め、男性がミスったと思ったその時、車内に内蔵されている通信端末に着信メロディが入る。そのメロディを聞き、すぐに二人はこれまで砕けた感じでいた姿勢をきちっと直して、回線を繋げた。

 

 テレビ回線であったが、相手の姿は映らず黒くなったままの映像が映るだけだ。それでも姿勢を崩させない二人を見ると、通信してきた人物が自分達より高い立場の人間だからだと分かる。そんな状態での空間が車内に作られた中、ついに相手が口を開いた。

 

 

 「任務、ご苦労。 藤林少尉、真田少佐…。」

 

 

 この言葉を聞き、二人同時に敬礼するのであった。

 

 




はい、最後になって同胞という人たちが独立魔装大隊だったことが判明。(* ̄∇ ̄)ノ
まあ、追々彼らの出番の意味が分かるはず。


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同胞の反応 その2

久しぶりに響子たちが出てきました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 自分達の上司である独立魔装大隊を取り締まる隊長の風間大佐から回線が入り、響子と真田は敬礼する。

 

 

 『本日の報告を聞かせてもらう、藤林。』

 

 

 画面が真っ黒のまま、風間の指示が聞こえる。二人は敬礼を下ろす。普段なら風間からの連絡では互いにモニターに姿を映すのだが、今回は一方だけである。これには故障していて映らないという訳ではなく、故意で行っている。この回線は国防軍専用の回線を経由している。下手に情報漏えいに繋げるわけにはいかない。

 

 そのため、風間の姿は映らない。普段なら風間が敬礼を下ろした後に響子たちも敬礼を下ろすが、それができないため、風間が指示をする事で、合図を送ったのであった。

 

 

 「はい、本日の彼は、いつものようにFLT第三課へ向かって、研究員たちと今のプロジェクトを進めていました。真田さんの見解だともうじき試作品が完成する頃かと。」

 

 

 『ふむ。相変わらず次々と驚く様な発明をするものだな。まぁ、彼の成果もあって、我々も魔法行使には随分と助かっている。』

 

 

 「ええ、全くです。今では彼に私達の隊の武装CADのシューティングを頼んでいますしね。僕もそれなりに腕は上げたのですが、まだまだ彼に敵わないですね。」

 

 

 『真田、悔しがるよりも面白がっているように見えるな?…当然か。』

 

 

 分かりきった事をつい話してしまったと思った風間は疑問を投げかけてすぐに自分で終結させた。真田はというと、響子の報告の最中に会話を挟み込んできたのだが、悪気は感じなかった。これくらいの事は沖縄の時からの付き合いである風間との暗黙の了解であり、それが二人が親しみを互いに持っているという証拠でもあった。

 

 

 『それで、もう一つの動向は?』

 

 

 ”何を”は明らかにしていなかった風間の問いに響子はすんなりと答える。響子にとっては分かりきった事であるし、今、響子が与えられている任務にも関係している。

 

 

 「はい、彼が出演したCMの効果が絶大になりつつあり、注目度が鰻登りになっています。このままだとますます引っ張りだこになっていくでしょう。」

 

 

 何かの統計グラフも出し、説明する。彼らが話しているのは、達也がRYUというアイドルになって、芸能界デビューしてからの世間の注目の動向だったのだ。

 

 

 『…そうか。 これほどとはな。初めのうちは想像できなかったが、ここまでの人気になるものなのか?』

 

 

 唸り声も聞こえる風間の声を聴いて、響子と真田は風間が腕を組んで、真剣に考えているのが手に取るように分かった。男から見ると、歯に浮く様な台詞やストーリーになぜ女性達がうっとりするのか分からないのだろう。言うならば、”男は乙女心が分からない”である。

 

 

 「大佐、女性という生き物は、愛に飢えていたりします。日本の殿方たちは恥ずかしがってろくに愛情表現を口にしたり、行動したりしませんから。だから画面の中だと分かっていても、愛をささやいてくれたり、想いをストレートに言ってもらっていれば、自分に置き換えて飢えを満たすんですよ。」

 

 

 「それって現実逃避って言うんじゃ…」

 

 

 「……真田さん。

 

  ”愛している”と言われたいと思う事のどこか、”現実逃避”だというのでしょうか?」

 

 

 ジト目で睨む響子の威圧に思わず真田も口を竦む。その二人のやり取りを見ていた風間は、心の中で「女を本気で怒らすものではないな…。」と己の心得に深く刻む込むのであった。

 

 

 




女心を馬鹿にしてはいけませんよ~! 「乙女心が分かっていない!」って言われて別れを切り出されるかもしれないですよ~!

そうならないように、失礼な言い方はしないようにしましょう!!


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同胞の反応 その3

今後の展開に備えて…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 『ごほんっ、二人ともそこまでにしておけ。』

 

 

 真田のデリカシーのない言葉で響子のご機嫌を損ねてしまったまま、気まずい雰囲気になり、脱線する。話を元に戻そうと風間が咳払いして二人の意識を切り替えさせる。風間が間に入った事で、すぐに姿勢を改め、前を向く。真田としては助け舟となったため、心の中で安堵していた。

 

 

 『本題に戻るが、達也が芸能活動をするのは夏までで間違いないんだな?少佐。』

 

 

 「はい、ゴールデンスター芸能プロダクションのパソコンにハッキングしましたところ、達也君…RYUがこの事務所と契約している期間は8月末で終了する事になっています。」

 

 

 『…つまり、芸能活動に本格的に動き出すつもりではないという事で捕えて問題という事か?』

 

 

 「そうです。そもそも達也君が長期の芸能活動を容認するキャラではないと思いますけど?」

 

 

 「最もだね。 達也君は芸能界について年頃の若者よりも知らなさすぎる。それは彼がそこまで興味がないという事に他ならないからね。そんな彼が好き好んでいきなりアイドルになろうとは到底考えられない。

  …とすると、残っている可能性の中で一番考えられるのは、四葉家当主直々の命令でそうせざる得ない事情ができたという事だろうね。」

 

 

 『……真田の読みは団長も全く同じ見解をされていた。間違いなく、その通りだろう。』

 

 

 「なら、こちらとしても、今は協力関係を結んでいるのだから、情報を渡してくれてもいいと思いますけどね~。…四葉家ご当主様は何を考えているのやら。」

 

 

 やれやれと言う顔で過振りを入れる真田に、響子は苦笑する。風間は何も言わないが、一番そう思っているのは、風間自身だろう。見えない画面の向こうで顰め面になっているんじゃないかと真田は想像する。

 

 

 そもそも彼らが国防軍に基地内で話すのではなく、街中の人目が少ない地下駐車場の一角で気密性高めにした国防軍回線を使って、達也の情報を手に入れようとしているのは、一つは四葉家の狙いを知るため、。そしてもう一つは達也を監視するためである。

 

 このビルは、達也と深雪、四葉家から来た水波という女の子が住む司波家から半径10㎞離れた街中にある。そこからエレクトロン・ソーサリスという異名を持つ響子のハッキング技術を駆使し、監視カメラから、達也の四月からの言動を監視していたのだ。しかし、達也自身に監視の目を向けると、すぐに達也に知られてしまう事は承知している。ましてや達也が唯一愛する深雪へ向ければ気づくだけにとどまらず、刃の如き鋭い視線が身を貫いた感触を与え、簡単に消される恐怖を感じる事になるだろう。

 だから、監視する対象から近くの他人に視線を逸らして、これまでひっそりと達也を監視していた。

 その理由はみんなもご存じのように、達也が日本では二人しかいない『戦略級魔法師 大黒竜也』だからだ。

 

 国防軍としては、達也を戦力に確保しておきたい。しかし万が一の場合に軍事機密扱いにした分解魔法や再成魔法を使用させたり、暴走させたりしないようにある程度の監視は前々から必須だった。そのために達也が独立魔装大隊での訓練や会合、FLTでの研究、妹のショッピングの付添以外に出かけるようになったため、達也専用の監視方法を駆使しまくって、ようやく何をしているのかを突き止めたのだ。

 

 四葉家からは何も連絡が入っていないため、あくまで状況理解しかできていないが、達也が目立てば、国防軍が隠している達也の正体が戦略級魔法師であるとバレる危険が増える。だから事前に達也に何をさせるつもりなのか、連絡を入れればいいのにと独立魔法大隊の幹部たちは口々に言葉を連ねるのであった。

 

 

 




独立魔法大隊の監視方法って原作でもちらっと書いてあったけど、実際はどうなっているんだろうね?

非常に気になるわ~。だって達也の視線レーダーに引っかからないなんてすごくない?

まぁ、今回は内密に調べるために役に立ってましたね!


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同胞の反応 その4

独立魔装大隊の活躍も考えてますよ、…本当だよ!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでいつまで達也君を監視し続ければよろしいのですか、隊長。」

 

 

 報告も終わったため、以前から気になっていた疑問をぶつけてみた。達也の監視を始めて早三週間ほど経過していた。先にも語ったように、四葉家から連絡が入っていない以上、情報収集と監視のためには必要以上の態勢で行う必要がある。現に今までの達也の監視は見張りのエキスパートが行っていたが、重要案件へと急遽上ったため、更なる監視の強化として、響子が選ばれた。真田は響子のサポートで同行する事になった。

 上からの直々の命令のため、二人は文句は言わなかったし、日頃の達也を観察するのも悪くない、寧ろ面白そうじゃないかと真田がわくわくする顔で言うほど、任務に意欲的だった。響子も「達也君相手にどれだけ私の腕が通じるか…、前から試してみたい気分があったのよね~。」と首を回して、腕を伸ばして伸びをする。

 

 そんな二人だったわけだが、さすがにずっと毎日のように駐車場や喫茶店で寛ぎながら、監視するのもそろそろ飽きてきたのだ。いつまでという機関も定められていないため、先が見えないし。真田は日課が芸能活動が入っただけでいつもの言動を熟し続ける達也を見て、徐々に同じビデオを繰り返し再生してみせ続けられているように感じるようになった。今ではたまにあくびを出す。一方で響子も若干飽きてきたが、一番の理由は、駐車場でも喫茶店でも真田と恋人の振りをしなくてはいけない事だ。監視すると言っても、何気ない普通の一般人を装っている必要があるため、二人が恋人同士だと思われた方が席に近づいてこようとはしてこないし、話しかけてこない、恋人だけの空間を壊そうとして来ない。都合はいいけど、響子はあまり好きではなかった。

 

 …以上の事から、響子は風間に聞いてみたのだが、返事するまでに間があった。

 

 

 『…………俺からは何とも言えんな。この任務を告げたのは、佐伯閣下だ。あの方が命令を撤回するか、撤退を申し上げない限りは続行だろう。』

 

 

 独立魔装大隊の隊長とはいえ、第一〇一旅団に属する家庭上、その旅団長である”銀狐”と影では呼ばれている、佐伯広海より権限の優先度は低い。ましてや旅団長の命令を勝手に修正して、命令を下す訳にはいかない。

 

 

 「ですよね。 ではせめて人選を変えてほしいですのですが?」

 

 

 「酷いな~。藤林君、僕は君に嫌われるような振る舞いしたっけ?」

 

 

 「先程まさにしていたと思いますけど?」

 

 

 「任務中でだよ。僕は忠実に”君を愛する恋人”を演じていたつもりだけど?」

 

 

 「……お言葉ですが、真田さんが爽やか系を追究した結果、貴方が席を外した時、ナンパが絶えないんですよ。正直言うと、サポートにもなっていないです。ナンパされている間、監視をシャットダウンしないといけませんから。」

 

 

 「……え? それはホントかい? ……知らなかった。」

 

 

 本当に知らなかったらしく、乾いた笑いで誤魔化すしか思いつかなかった真田。響子もただの愚痴のつもりだったので(半分は本気だったが)、自分の要望が受け入れられるはずがないと思っていた。

 

 

 

 ……しかし、そう考えるのは早計だったかもしれない。

 

 

 『……すまない、二人とも。仲睦まじくプランを議論しているのは光栄だが、先程、佐伯閣下から呼び出しを受けた。私はこれで席を外すが、終わり次第、また連絡を入れる。』

 

 

 「佐伯閣下からですか? 」

 

 

 「…! もしや…。」

 

 

 『真田、察知がいいな。ああ、佐伯閣下からの呼び出しの際に、一言伝言があった。

  ”四葉から連絡が入った”と。』

 

 

 念願の(心待ちにしていたとまではいかないまでも、早く四葉から情報を入れてくれないのかと焦りと恐怖、緊張が走る)四葉からの連絡に、二人は息を呑むのだった。

 

 

 




四葉から連絡来た~~!! 四葉とのパイプを持つ数少ない軍人の一人である佐伯閣下。

一体何が語られるのか~~!!


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同胞の反応 サイドストーリー前編

女同士の話し合い…。やるか。


 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、国防軍敷地内にある個室に一本の電話が入る。

 

 その個室の持ち主である高級軍人で、国防軍の中でも高い地位に属する女性に向けられたものだ。

 そして女性はまさにその個室で、部下からあげられた報告書に目を通していた。

 

 

 「こんな時間に電話…。しかも私に直通とは…。考えられる相手は一人しかいない。」

 

 

 書類から目を外し、眉を顰めて視線を向ける先には電話回線を知らせるランプが点灯していた。

 

 高級軍人の女性の名は、佐伯広海。

 

 第一〇一旅団の旅団長で、これに属する独立魔装大隊の最高権力者だ。

 

 

 そんな彼女に直通で回線を繋いでくる事は珍しい事だ。国防軍内でも担当部署を巡って繋がるのが普通だ。しかしそれを無視して回線を繋いでくるのは、候補に挙げる人物は限られてくる。今は夜遅い時間帯ため、自分より高官の者が連絡を取ってくることは無い。佐伯は残業をしていたのだ。他の高官たちは既に帰宅していたりしている。後は部下にあたる響子だ。技術的には可能だが、断りもなしに佐伯に取り次ごうとする正確ではないと知っているし、響子なら必ず風間に報告するはずだ。

 なら、残った可能性はただ一人。

 

 ―――――四葉から、だ。

 

 達也を独立魔装大隊に引き抜こうとした際に四葉との関係を築いた事がきっかけで、四葉と連絡を取れる数少ない軍人の仲間入りしたのだ。

 

 一旦、そう思うと納得した。

 

 冷静に考えてみれば、高官たちが自分に話をしなければいけない事案は今はない。響子も今自分が与えた任務の最中だ。

 四葉からの連絡なら、おおよそ見当はついている。

 

 佐伯は納得したが、電話に出る前にと、深呼吸してゆっくりと息を吐き出す。気合を入れる気持ちで。四葉からの電話となると、佐伯は気を張る。四葉は精神干渉魔法に特化した一族。先代当主の特殊魔法を知っているだけに、十分に警戒し、己を強く持たなければ相手の意のままに操られたり、何かをされた事にも気づく事が出来ない。

 

 

 「…さぁ、始めるか。」

 

 

 自分を鼓舞し、テレビ電話回線を受信するのだった。

 

 

 

 

 

 画面に現れたのは、初老の執事で、画面の向こうから一礼してきた。佐伯はこの執事を見て、思い出す。達也の引き抜きの際に交渉役として送られてきた者だと。

 しかし、一礼するとすぐに横に引いていき、画面から姿を消した。前置きを省いた形となり、口を開きかけた佐伯は踏みとどまり、緩んだ口元をしっかりと結ぶ。

 すると、執事が画面から消えたと同時に、その主である四葉家現当主、四葉真夜が姿を現した。

 

 

 『御機嫌よう、佐伯さん。夜分遅くに申し訳ありませんね。』

 

 

 申し訳ないという作り笑顔を作り、常套句を並べる真夜に佐伯も負けじと背筋を伸ばして続く。…真夜のように笑顔はいっさいないが。

 

 

 「いえ、書類に目を通していただけですから。それよりどうしましたか、四葉殿。このような時刻に直接連絡を取りに来たのですから、緊急の用件でもおありですか。」

 

 

 気にしないと言いつつも、さっさと用件を言うように間接に述べる佐伯を見て、面白そうに笑う真夜。

 

 

 『ふふふ、そんなに固くならずともいいと思いますよ? 同じ女性同士、もっと気楽に話しませんこと?』

 

 

 「申し訳ないが、何分仕事最中ですので。それに私は軍人だ。固くなるのは既に身体に刻まれている。」

 

 

 『そうですか、残念ですわね。』

 

 

 頬に手を当てて、残念がる真夜は、実年齢より若く、幼げにも見えた。しかし、それも一瞬の事で、すぐに作り笑いへと変える。

 

 

 『分かりました、佐伯さんの仰る通りに早速本題に入りましょう。

 

  佐伯さん、最近達也への干渉を増やしましたね?』

 

 

 「……何が問題でもおありか?」

 

 

 真夜が言ったとおり、早速痛い所を突かれた佐伯。しかしこの事は電話に出る前から予想していた。真夜が要件としてあげてくる事と言えば、最近の達也の動向を探っている事だろうと。

 そしてこの事を素直に認める事も決めていた。四葉相手に嘘や恍けようとするのは、自分の尊厳や安否と天秤にあげれば、烏滸がましいほどつまらないものだ。

 

 

 『ええ、問題ですわ。確か、達也をあなた達、独立魔装大隊にお貸ししてもいいという取り決めをする時、必要以上の達也への監視はしないと盟約を交わしましたよね?

  間違っていないかしら?』

 

 

 「……そのとおりだ。必要であると判断する程度での彼の監視は許可していただいた。こちらとしても戦略級魔法師の彼をおいそれと野放しにはできない。」

 

 

 『ええ。その点は同意しますわ。ですが、あなた達が最近、達也の事を探っている事実を見過ごせという事にはなりませんわ。』

 

 

 「四葉殿には不快な気分を感じさせたのは申し訳ない。しかし、こちらとしてもそれなりの訳があった事はご了承願いたい。」

 

 

 ここで一拍置いて、佐伯が瞳を鋭くし、意を決して尋ねる。いよいよ聞いておきたい事を聞くのだから、念を入れ、そして言葉を間違えないように慎重になる。

 

 

 「四葉殿…、あなたが彼に何の目的があって、あのような事を行わせているのか、お教えいただいても構わないだろうか?」

 

 

 異常に喉が渇き、唾を呑み込む。しかしその事を悟られないように、顎を引いて、喉元を隠す。額にも少し汗がにじむ。

 

 今、佐伯を支配するのは、とてつもない緊張感だった。

 

 

 




自分の命を容易に取られるかもしれないからね。佐伯も慎重に行動してますよ。

そしてそれに対する真夜は、表の性格ですね。


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同胞の反応 サイドストーリー後編

年は佐伯の方が上なんだけど…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓がパクパクと動悸を起こしているが、それを軍人として生きてきた経験からその事を悟らせない堂々とした振る舞いで見事に隠す佐伯。

 ついに本心を突いた佐伯の問いかけに真夜がどう答えるか、神経を尖らせて返事を待つ。

 

 そんな佐伯を焦らして、精神的安定を乱すかのように、人差し指を顎において、少し首を傾げて話すかどうか迷う演技をしている真夜を見て、佐伯は苛立ちを感じたが、逆に自分の質問が問題なかったという事が分かり、内心でほっとする。そのタイミングを見計らってかのように真夜が口を開く。

 

 

 『いいですわよ。 佐伯さんが理由もなく我々に対し、貴方の駒達を使って探っていたのではない事は分かっていますから。』

 

 

 真夜の言葉で佐伯は口を堅くする。

 

 佐伯が風間に命令して行っていたのは、最近の達也の様子を監視強化して実態を知る事だ。別に四葉家に対して動いていたつもりもない。しかし、真夜は佐伯たちの真意を知っていてなお、対象を我々=四葉だと言い切ったのだ。つまり、達也は四葉家で重要な任務を与えられ、それでアイドルをしている事になる。四葉家の任務に国防軍が勝手に模索する事はご法度だ。その事を真夜は言っているのだ。

 しかしこれには例外もある。

 

 

 『この間、テレビ局の飛行船が何者かの手によってハイジャックされ、達也が片付けた事案がありましたわよね?』

 

 

 「ええ、テレビ局にあの後問い合わせた時、突然武装した者達に乗っ取られたと。彼の証言も合わせると、大亜連合の手の者の可能性が高いと見立てています。」

 

 

 『佐伯さんの見立ては正しいですわ。私共も同じ見解で動いています。』

 

 

 「もしやその犯人たちが達也君がアイドルをしている事と関係しているのですか?」

 

 

 正解とでもいうように、笑みを深める真夜。

 

 

 『飛行船をハイジャックした犯人は実行犯でして、それを命じた者がいます。その者は、今は芸能界で私達の平穏を破壊しようと模索しているのですよ。ただ、なかなか動きが掴めないので、達也にアイドルとなって、芸能界入りしてもらい、探ってもらおうと思ったわけです。』

 

 

 「………彼を囮にするという事ですか?」

 

 

 今度は佐伯が訝しく思い、眉を吊り上げる。 人権を尊重する傾向を持つ佐伯にとって、どこに潜んでいるか分からない敵の中に囮として入らせる事に憤りを感じる。

 

 

 『そのつもりはないですわ。そもそも達也は囮とも思っていません。例え囮だったとしてもあの子なら気にもせずに任務をこなすでしょう。

  それにまだこの任務の意図をあの子には話していないのです。』

 

 

 「……それはどうして、……いや、答えなくて結構だ。」

 

 

 達也に任務の意図を話していない事に驚いた佐伯は理由を聞こうとしてやめた。佐伯は真夜が何故言わなかったのか、瞬時に理解したからだ。

 

 

 「四葉殿の考えている事はあらかた理解した。しかしそれならそうと、私には話を通していただけなければ困ります。今後はこのような事は止めて頂きたい。」

 

 

 『ええ。今回だけだとお約束いたします。それでもそういう事なので、この任務ですが、佐伯さん達、独立魔装大隊にも協力していただきたいのですが、よろしいかしら?』

 

 

 「ふん、元々そのつもりで、連絡をしてきたのでしょう? ………それで私は何をすればよいのですか?言っておきますが、後始末だけというのは受け付けません。」

 

 

 ここまで騒がせていて、任務が終了した際に死体処理や現場確保等の雑務はさすがに佐伯にとって、メリットも感じられないし、これまで監視にあたっていた部下達にも申し訳ない。

 それに四葉からの独立魔装大隊への依頼は、軍や政府の上層部の連中には何としてもコネクションを繋いでおきたい絶好の機会だ。佐伯から見れば、何をバカな事を考えているのだと思うが、四葉の悪名やその実績等も知っている者からすれば、仕方ない事かもしれない。

 

 

 『いえ、せっかくですので色々とご協力いただければと。その事で今度、改めてお話しさせていただきたいですので、こちらへいらっしゃってくださいな。』

 

 

 四葉本家で待っていると告げる真夜を見て、どれほど秘密性を強いる任務なのか、佐伯は息を呑んだ。

 

 

 『ああ、ですがお呼びする方は佐伯さんの部下の風間さんと先生のお孫さんの二人だけでお願いします。』

 

 

 「ああ、分かった。二人には今の話を話してもよいのか?」

 

 

 『そうですわね~…、私がお二人を招いている事だけお伝えくださいな。今回の事情等はこちらでまたじっくりとお話しさせていただきますので。』

 

 

 「…理解した。それでは二人にはその旨を伝えておくことにする。」

 

 

 『お願いしますわ、佐伯さん。それではお話はこの辺で。

  今度はお茶でもゆっくり飲みながら、お話ししましょう。』

 

 

 最後まで作り笑いをしていた真夜が消え、モニターが暗くなる。

 

 佐伯は回線が切れている事を何度もチェックし、溜めこんでいた息を吐き出し、生気を味わう。

 

 それから、いつも通りの威厳がある、それでいて優しそうな外見を備えて、回線を繋いで風間を呼ぶのであった。

 

 

 




ついに明かされた達也アイドル計画の真相…。原作ともつながっていました~!!

それにしても、佐伯も階級の高い軍人のだけあって、真夜の思考を読んでしまうなんて、すごいよな~。


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同胞の反応 その5

さてさて、独立魔装大隊がどんな役割をするのかね~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 佐伯から呼び出しを受けた風間は、佐伯が待つ個室へ入り、佐伯からもたらされた指令を受ける。

 

 

 「なるほど。 四葉から連絡が入りましたか。」

 

 

 「ああ。 そこで風間…、お前に出していた彼の監視の件は通常へ戻して構わん。…いや、通常へ戻せ。」

 

 

 「それはすぐにでも。 私も四葉と正面衝突は行いたくないですから。」

 

 

 佐伯が命令へと切り返した意図を当てた風間に対し、佐伯はムッとした顔を作らず、全くその通りだと言わんばかりの頷きを見せていた。二人とも四葉の悪名を知っていて、怯えている…というのも多少はあるが、力の入れた達也の監視によって、四葉の機嫌を損ねて国防軍や日本政府との関係に大きく左右させるきっかけになる事を危惧したのだ。

 もしそうなれば、達也との今の関係も消滅し、達也が敵に回るだろう。(”敵に回る可能性がある”と言わないのは、親しい間柄だとしても、それが敵にならないという証明にはならないし、達也が一番大事なのは妹である深雪ただ一人だ。その妹である深雪のためなら、自分の立場がない四葉側に従って戦う事だって考えられる。…というより敵に回る可能性が無いという考え方よりよほど信憑性がある。

 

 達也以上の戦力が国防軍にも、ましてや独立魔装大隊にもない今の段階では、四葉との現状は維持しておきたいのだった。

 

 

 「ところで、風間には申し訳ないが、今度四葉殿を訪ねていってほしい。同行者は藤林だけだ。今回の事で直接話があるそうだ。」

 

 

 「藤林もですか? それはまた驚きました。確か四葉殿はまだ藤林と面識を持たれていない筈。」

 

 

 「ああ、私も記憶している限り、公式の場でもお互いに顔を合わせていないだろう。」

 

 

 「それなのに、藤林を本家へ招くのですか?」

 

 

 「私もそこは考え直した方がいいと思ったのだが、四葉殿は何やら藤林を使って何かをしようとしている。こちらとしても大亜連合の動向を知る手掛かりになるのなら、手を貸してみてもよいとは思っているが…。」

 

 

 「藤林は佐伯閣下を政敵だと見ているあの九島烈の孫ですから。秘密主義を取り、同じ十師族の他家にも内情を見せない四葉が本家へ招けば、情報漏れは考えても不思議ではないです。例え藤林自身が諜報を画策しなくても、九島家なら命じる事も可能なわけですしな。」

 

 

 「その通りだな。しかし、追って日時指定でもう一度連絡すると、言っていた。その時にでも詳細な話をきかせてくれるだろう。あの女がここまで考えてない訳がない。」

 

 

 「佐伯閣下の仰る通りだと思います。

  ……では藤林にはどう伝えましょうか?」

 

 

 「新たな任務に就いてもらう予定だから、覚悟はしておくように…と告げておいてくれ。まだ四葉の名を出さずに…、難しいか。

  今の任務を終了させるときにやはり四葉の名が出てしまうだろうし、もしかしたら既にこの事を九島烈に話しているかもしれない。」

 

 

 「なら、私が違う理由をつけて、藤林には通常業務にあたるようにしておきます。」

 

 

 「そうしてもらうと助かる。では早速頼む。」

 

 

 佐伯と風間が打ち合わせを終わらせ、風間を帰させる。

 

 風間の姿をドアの向こうに消えるまで見送った佐伯は、中断していた報告書に視線を再び戻す。

 

 そして、風間は再び独立魔装大隊の待機室へと向かい、こちらに来る前に話していた響子たちに回線を繋げるのであった。

 

 

 




入り組んだ十師族の関係もあったね。そうだよ、秘密基地みたいな四葉家本家の場所を響子に知らせて大丈夫か?


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東洋の魔女の反応 その1

今日からはあの方が主役です!


 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふふ、さすが達也さんだわ~!! 私の見立て通り♥」

 

 

 甘い声で達也を絶賛するのは、世界でも最強の魔法師だと言われ、最強の魔法とも言える「流星群」を唯一使える妖艶な美女。公開されている年齢より若く見え、三十歳程度しか見えないその風貌が彼女の異名を更に信憑性を持たせていた。その異名を持つその美女は、世界中の魔法師が知らないことは無いとも言える四葉家現当主、四葉真夜だ。

 しかし……。

 

 

 「でも達也さんと一緒に出演しているこの子…、羨ましすぎるわ~。私だって踊ってみたかったわ~。しかも達也さんに近距離で甘い言葉を言ってもらえるなんて…。いきなりこの子だけ贅沢じゃない? そう思うでしょ?葉山さん。」

 

 

 今ここにいる真夜は、世界中で恐れられている四葉家を背負う魔女の姿とは全くかけ離れていて、威厳は何処にもなかった。あるのはアイドルオタクが醸し出すダメ感だけだった。

 身に付けている服装もいつものワインレッドのワンピースの上から、手作りの達也の写真プリント入りの半被に、頭には可愛く結んだ”RYU様♥命”と書かれたハチマチ、腕にはこれまた手作りの達也うちわを持っていた。そして視線は世間で話題の達也のCMがリピートされ続けていた。

 

 そんな姿の真夜に尋ねられた葉山さんは、恭しく一礼してから、答える。

 

 

 「無理もありません、達也殿の魅力を引き立てるためには相手方もそれなりに見栄えがいいものにしなくてはなりませんから。」

 

 

 ここは達也に株を持たせておく葉山さんのナイスフォロー?のお蔭で、真夜の不満も解消される。

 

 

 「葉山さん、分かっているわね。さすが四葉家使用人序列一位なだけあるわ。

  確かにこの子は芸能界で生きてきただけあって演技力もあるけど、達也さんに上の空なのは本心だって私にはバレバレよ。 女優としてはまだまだみたいね。女は秘密を多く持っていた方が自分の魅力にもつながるのよ。」

 

 

 葉山さんは「奥様の場合は今暴露されているこの状況が自分以外には秘密であり、この秘密こそが真夜の魅力を引き立てているのか」と、真夜の理屈を心の中で置き換えてみるのだった。

 

 

 「ところで、葉山さん。

  例のものは手配しているのかしら?」

 

 

 「はい、奥様のご命令通り、発売開始した直後に限定盤シャンプーは四分の一を残し、買い占めました。限定盤の特典は全てこちらに。なお、シャンプーはメイド達へと支給しております。」

 

 

 葉山さんがいつの間に手元に出したのか、回収しておいた大量の特典の入った袋を真夜に差し出す。

 

 真夜は満面の笑みでそれを受け取り、さっそく選別していく。

 

 

 「えっと、こちらは観賞用に、保存用…。サイン用…。……それから」

 

 

 同じものでも中身が違うものもあり、楽しそうに開封する真夜を見て、達也ファン魂に火をついた真夜を止められそうにないと苦笑する葉山さんの後ろには、昨日から溜まっている仕事の書類や研究資料等が積み上がっていたのであった。

 

 

 




時間軸は大体ほのか&雫編の翌日かな?


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東洋の魔女の反応 その2

オタクな真夜を出してみたけど、さすがにオタ芸はさせない!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 特典の選別を終えた真夜は萌え死し王なほど甲府間を満喫していた。しかし、さすがに美容に力を入れているとはいえ、体力は人並みなので、興奮状態を続けるにも原価となり、今は、達也応援グッズをしっかりと畳んで達也秘蔵収納箱に仕舞って、葉山さんが淹れてくれた紅茶を飲んでリラックスしていた。

 

 

 「相変わらず葉山さんの紅茶は美味しいわね~。」

 

 

 「ありがとうございます。奥様のためになかなか手に入らない茶葉を仕入れただけあります。」

 

 

 「あら、その茶葉を手にしても、それを生かした味を絶妙な時に出さなくても意味ないでしょう?葉山さんはそれを難なくこなすんですもの。少しは自分自身も褒めてあげなさいな。」

 

 

 「奥様にそう言ってもらえて光栄で御座います。」

 

 

 一礼して真夜の褒め言葉を受け取った葉山さんは、茶菓子もそっと添える。

 そしてティータイムを楽しんだ真夜は葉山さんに顔を向け、仕事モードに入った。瞬時に変化した主に葉山さんは特に驚きもせずに真夜の言葉を待つ。…寧ろ仕事放棄が続いていたため、この展開はありがたかったのだ。

 

 

 「葉山さん、ところで達也さんの件はどうなっています? 」

 

 

 そう問い返している真夜に葉山さんは頭を傾げる…事はなく、真夜が何を聞きたいのか知っているため、間を置かずに答える。

 

 

 「達也殿に付いている監視がやはり強化されていますね。いつもの監視者はもとい、あの九島家の重鎮、九島烈様の御孫まで駆り出されていました。」

 

 

 達也の人気ではなく、達也に対する国防軍の動きを報告する。だって達也がどれだけ世間で注目を浴びるアイドルになっているかは、真夜の方が詳しいからだ。

 

 

 「へぇ~、先生の御孫さんまで導入されているの。国防軍の方々も必死なのね。」

 

 

 「達也殿が戦略級魔法師である以上、国防軍も黙って見過ごして、学校生活を送らせるわけにはいかないですから。」

 

 

 「それって達也さんのあの力がなくならない限り、終わらないでしょうね…。全くあり得ない想像ですけど。でも、彼らと仲違いすれば今の状況もなくなりますけどね。」

 

 

 「……奥様はそのように致そうか検討しているので?」

 

 

 「それもちらっと頭に過ったのだけど、止めたわ。

  達也さんに完全に嫌われるだろうし、私の寿命がストップしてしまうわ。達也さんは私の秘密を知らないですし、今はまだ私が生きていなければ二人に面倒事が舞い込むことを感じておいてもらわないと。

  それに、国防軍のこの件は達也さんにこの任務を与えた時から予想できていましたから。」

 

 

 葉山さんの質問を否定した真夜だったが、目は楽しそうに、口元は吊り上って妖艶な企みをみせる表情になったので、葉山さんはいつもの冷酷な雰囲気を纏った、四葉家現当主四葉真夜を拝む事が出来て、内心でやはりこちらの方が魅力的ですな。…と頷くのであった。

 

 

 




真夜はやっぱり闇を抱えた方がらしさが出るのかもね~。
でも可愛い姿も見てみたいという欲求がうちの指を突き動かす…。


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東洋の魔女の反応 その3

真夜の進撃が~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 「さすが奥様です。 予想されていたという事は、今後の達也殿の作戦上重要な駒になるとあらかじめ計画に組み込んでいたのですね。

  この葉山、感服いたしました。」

 

 

 恭しく頭を下げ、真夜を褒める葉山さんに、まんざらでもなさそうに笑って見せる真夜だったが、すぐに興が冷めたように冷めた顔をする。その変化を見て、葉山さんも姿勢を直立にする。

 

 

 「葉山さんにそこまで褒められるような事はないわ。葉山さんだって考え付く事でしょうし、達也さんもあの方たちの自分への対応の仕方を知っていたら、瞬時に利用していたはずです。…あの子はそういう子よ。」

 

 

 遠くを見つめる様な目で語る真夜の横顔は、葉山さんの脳裏にもう一人の面影が映し出される。真夜の双子の姉であり、既にこの世を去った達也や深雪の母親である司波深夜。旧姓、四葉深夜。同じ容姿を持った双子だから、面影が重なると言った事があるかもしれないが、もっと根本的なところがシンクロしたのではないかと思うほど、生き写しのようだった。葉山さんは真夜には決してこの事を言うことは無かったが、このお蔭で真夜が言った事が全て納得できたのだった。

 

 

 「こちらの思い通りに達也さんが予定にないスケジュールを送るようになってから、国防軍は敏感に反応してくれたわ。お蔭で、こちらの要求を通させるのに大義名分が作れたのだから、結果はよかったと思うわ。

 

  だってここからは、人手を増やさないとスムーズには上手く進まないから。」

 

 

 「奥様の作戦で彼らの出方は一つしかありません。すんなり駒をゲットできるでしょう。」

 

 

 「それにはまずあの人に連絡を入れた方がいいと思わない?」

 

 

 「佐伯殿に、で御座いますね?」

 

 

 「そう、彼女なら私のお願いもきっと理解していただけると思いますし、そろそろ説明しても問題ないでしょう。」

 

 

 「ではそのように手配させます。」

 

 

 「そうしておいてくださいな。」

 

 

 独立魔装大隊を利用する、表面上は手を組む事を提案する四葉に対し、この後、佐伯が真夜からあの連絡を受け、想像通りに真夜の言うとおりに動く事を了承した。

 

 後日、改めて作戦会議という名の集会を設ける事になったので、そこに真夜がまず要求した風間と響子の二人が参加が決まる。佐伯には事のきっかけは大体伝えているが、風間たちにはまだ言っていない。まだ役者がそろっていないからだ。二人が知る事になるのは、その集会でのこと。二人以外にも集会には呼ばれている者がいた。その者と一緒に説明するため、葉山さんに場所や準備等を任せる事にした。

 

 「楽しみね。」

 

 

 何が楽しみだとは言わなかったが、言葉通りに悪戯が成功するかわくわくしている子供のような無邪気な笑みをこぼすのであった。

 

 

 




また寝落ちしてしまった。意識が~!!


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カラスの反応 その1

この子の存在も忘れてはいけないな~!!


 

 

 

 

 

 

 

 「姉さん? 何をしているの?」

 

 

 ずっと情報端末とにらめっこしている姉に話しかける。

 

 

 

 「あら、文弥。もう課題は終わったの? 早かったわね。」

 

 

 「今回のは僕の得意分野でもあったからね。そんなに時間かからなかったよ。ところで姉さんの方は?

  課題は終わらせていたし、そんなに凝視するほど難しい問題だった?」

 

 

 そう、四高に通う双子の姉弟、黒羽亜夜子と文弥が学校の登校のために借りたマンションの一室で気楽に過ごしていた。今日は学校も休みで、二人は一般科目の課題を消化していた。ただし、亜夜子は既に大方終わらせていたため、先に一人でリビングで寛いでいて、今さっき文弥も終わらせて合流したんだが、いつもと様子の違う亜子を見て、話しかけたという訳だ。

 

 

 「私がこの課題で悩むわけじゃないでしょう?」

 

 

 「ははは、ごめん。じゃあなにしてるの?」

 

 

 鋭い視線で非難的な雰囲気を醸し出す亜夜子が弟である文弥を睨む。それを苦笑して躱す文弥。文弥自身もそこまで本気で言ったわけじゃないが、文弥の予想は大きく外れたようだ。

 二人がやっていた今回の課題は、この前一高で達也がマスコミや議員に堂々として見せたあの恒星炉実験の感想だったのだから。これには二人にとって願ってもいない最高の瞬間だった事は言うまでもないだろう。

 

 その課題も達也への尊敬を綴ったり、四高生らしく分析もしてみたりしている。ちなみに文弥は、達也への憧れの念が爆発した結果、課題に取り込み過ぎて長引いていたのだ。

 

 そんな課題を亜夜子が必死に難しい顔をしてまた取り組みなんてありえない。文弥は早めに自分の言葉を訂正した。

 

 

 「ちょっと、ね。ずっと気になる事があったから、調べてもらっていたんだけど、その手掛かりがやっとつかめたみたい。その報告を読んでいただけよ。」

 

 

 「え? なんか僕たちに命令が入ったの?」

 

 

 「そうじゃないわ。これは単に私用目的だから。」

 

 

 「部下達を私用で使うのはどうかと思うけど…。」

 

 

 「あら、情報集めるにはこれくらい同然の権利よね?」

 

 

 「ご当主様からの命令はないんだから、今は高校生として過ごしておこうよ。」

 

 

 「…文弥は分かっていないわね~。 もしかしたらこれは私達にとって大事事になるわ…、きっと。もうのんびりと普通に過ごせるわけにはいかなくなるわよ~!!」

 

 

 ため息を吐いたと思ったら、含み笑いをしてテーブルを離れ、文弥と対峙する。そして満面の作り笑顔を保ったまま、文弥の肩にポンッと手を置くのだった。

 

 文弥は嫌な予感がした。

 

 

 「あ、僕まだ、課題が終わっていないのがあったんだった!! 今からやって来るよ…!!」

 

 

 「待ちなさい、文弥。 嘘の課題よりこっちは重要なんだから。それに私に楯突くなんて随分と生意気になったわね、ヤミちゃん?」

 

 

 「!! や、止めて~~!!」

 

 

 声を掛けるんじゃなかったと後悔しながら文弥は、亜夜子の手に掛かって、新調しておいた女装用の服達を着せられ、決めポーズも指定され、撮らされるのであった。

 

 

 




可愛い弟を弄るのは、姉の特権みたいなもの。


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カラスの反応 その2

そう、カラスっていうのは、亜夜子の事でした~!本当は”乙女”って言いたかったけど、それすると、ほのかや深雪達に非難されそうで・・・。


 

 

 

 

 

 

 

 

 弟の文弥を女装で着せ替えまくって弄りつくした亜夜子は、気分がすっかり良くなり、今は自分の部屋で小型のモニターでテレビ番組を見ていた。

 文弥は弄られた結果、かなりの身体的・精神的疲労を伴い、明日は学校なため、早く就寝する事にした。(寝る事で亜夜子から逃げようとしたという理由もあるが。)

 隣同士である文弥の部屋から物音が聞こえなくなったのを確認して、亜夜子はさっき録画しておいたCMや特集番組を見始めた。

 

 その番組には、最近人気を博している大型新人アイドルのRYUが映っていた。

 

 

 「……さすが達也様ですわ~♥ こんなに凛々しいお姿を見られるなんて…♥

  本当にご当主様には大大大大大感謝ですわ!!」

 

 

 頬を赤らめてうっとりとした瞳でモニターに食いつく亜夜子。

 

 しかし、RYU=達也だとは本当なら亜夜子は知らないはずなのだ。達也がアイドルをやるという任務を知っているのは今のところ、この任務を言い渡した真夜と葉山さん、それから独立魔装大隊の佐伯に、風間を含めた幹部達だ。最もこの中でこの任務の真意を理解しているのは先の三人だけだが。

 だから、この任務に関わってさえいない亜夜子が知る由はないのだ。それなのに達也がRYUとなってテレビに出ている事を知っているのはなぜか…。

 

 

 「私の勘がやはり当たりましたわ!! 達也様、ご当主様からこのような命令を受けていらっしゃったなんて思いもよりませんでしたが、これであの時抱いた違和感が解消されました!!」

 

 

 テレビに映るRYUのMVを見ながら、納得顔で萌えて語る亜夜子は、先程リビングで見ていた情報端末からメールを開いて、その内容を再度読み返す。

 そこには、達也の行動を記した内容や芸能界での実績、潜入調査等といった今までの詳細な報告が送られていた。しかもこれは一騎に送られてきたのではなく、一日ごとにその日の行動を報告させていたのだ。亜夜子にそれなりに好意を持つ黒羽家の部下の一人を使って、情報を手にしていた。だから亜夜子は達也がアイドルをしていると知っていたのだ。

 そもそも発端は、達也の家に行って、真夜から一高に議員が突然訪問するという伝言を伝えに行った時だ。真夜から預かっていた封筒を達也に渡した時、一瞬だけ顔が歪んだ達也を鋭くしていた神経のお蔭で見逃さなかった亜夜子は、あの後達也について黒羽家の諜報能力を使って調べる事にしたのだ。もちろん、監視等には物凄く鋭く、簡単にいかない達也を監視するのは、高層ビルの屋上からスコープなしで蟻のように動きまくる人込の中からターゲットを探して追いかけるくらいに難易度が格段に上がっている。それでも気になってしまうのは、乙女の性か…。愛する人の事を知りたいという恋心がその無理難題を振り切って、実行に移すのだから。

 

 数々の黒羽家の諜報を使って、ついには達也が日常と少し違った行動をするようになった事を突き止めた。その報告を達也が無事恒星炉実験を成功させ、翌日に記事になった日の朝、送られてきたメールから知り、捜査を続行させた結果、現在に至る…。

 

 

 「四葉内でこの事を知っているのは、ご当主様と葉山さん、そして達也様のみ…。あの深雪お姉さままで知らない事を私は知っている…。ふふふ、こんなに優越感に浸れるなんて思いませんでしたわ。これは使わない手はありませんわね♥」

 

 

 なぜか勝ち誇った顔をして、含み笑いをする亜夜子は、さっきまで食い入るように見ていたCMを日が変わってもリピートして鑑賞するのであった。

 

 




伏線回収できた~~!!

さて、亜夜子は何を企んでいる事やら。そして達也をマークできるなんて黒羽家の諜報能力、すげーな、おい!!


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カラスの反応 その3

実はうちは亜夜子好きなんだよね~。もっと達也との絡みを入れたいほどに。原作でももっとスキンシップ取ってほしいよ~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 休日も終わり、いつも通り学校に通った亜夜子は、昨日に続いて届いた報告書を情報端末で読んだ。そこには新たな新情報が載っており、真夜が独立魔装大隊の風間と響子と会談する予定だという事が書かれていた。

 それを見て、ついに本腰を入れてきたと思った亜夜子は、自分もこの任務のために準備する事にした。しかし、この件についてまだ文弥には言わないでおこうと考えていた。亜夜子は文弥にある事をしてもらいたかった。本人は大層嫌がるかもしれないが、最終的に呑み込むであろう。だが前もって話しておくと、逃げ道を確保してくる場合がある。それを防ぐためと、単純に内緒にしておいた方が面白そうだという姉的弟のからかい視点の理由も含まれていた。

 

 

 「ご当主様が何を企んでいるのかはある程度見当がついていますし、我々の任務にも影響してくるでしょうね。…お父様がこの事を知ったら、怪訝な顔をなさるかもしれないですけど、今進行中の任務がスムーズになるなら、渋々納得するしかないでしょうね~。

  ご当主様もここまでお考えなのでしょうから。」

 

 

 一人でなにやら先を読んでいく亜夜子の様子は、どこか真夜に似ていた。

 

 

 「もしかしたらご当主様が達也様をこの任務に付けたのは、お父様達、分家の当主様たちに達也様の存在意義を否応なく見せつける事で、達也様の四葉での地位を確立にするためだったりして……。」

 

 

 昔からなぜか亜夜子と文弥の父親、黒羽家当主である黒羽貢は、達也を魔法師として認めず、煙たがっていた。自分達愛する子供の前ではそれなりの不愉快さはあるものの、笑顔を浮かべていたが、達也本人が傍にいない時や自分達がいない時は毒を吐いていたのを何度か見た事があるし、部下から聞いた事もある。それは他の分家の当主もそうだし、四葉家本家の使用人達も同じように達也を見下している。

 達也を軽んじている理由は知らないが、そんな態度を取る彼らに対し、亜夜子は気に入らなかった。もちろん父親も例外ではない。父親の事は好きだ、母親が早くに亡くなっているため自分達の事を母親の分まで愛でてくれて、若干愛しすぎるのではと思うくらいだ。しかし、父親が向ける達也への冷たい言動は嫌いだ。

 

 誰だって愛する人を蔑むような視線を向ける人に対して好意を抱けと言われて、持てるものではない。

 

 亜夜子は達也の事を世界最高の魔法師だと尊敬しているし、自分のアイデンティティを作り上げてくれた恩人であり、そして……初恋の人だ。

 

 

 「もしそうなら、大変うれしい限りですわ。お父様も達也様の事を認めてくれれば、達也様との結婚も一歩近づく事が出来ますし♥」

 

 

 願望が叶った時の妄想を思い浮かべる亜夜子は、真夜の計画に賛同するとともに、その計画に少し修正するつもりで、情報端末とにらめっこしながら模索していくのであった。

 

 

 その後ろ姿を心配そうに見つめていた文弥は、何かあると勘付くが、何かあったら教えてくれるだろうと思い、そっと亜夜子から離れ、集中させてあげる事にした。

 文弥的にはこの時、声を掛けて話を聞き出しておいた方がよかったんだが…。

 

 

 




家々の事情って色々ありますからね。

よし次からは、世間体を入れて見て、話しを進めましょうかね?


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いつもの修行へ

本編もど~~り~~!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 達也がアイドルになってからもう二週間ほど過ぎた。それまでには初仕事としてCM出演もあり、人気も鰻登りである。達也本人は不本意な事ばかりだが、これが任務の一環だと割り切ればそれほど気にするほどでもない。

 実際にアイドルの事は、金星や真夜に任せてある。達也は、「ただ真夜から与えられるオファーを受ければいい。俺はいつでもそれを熟せるように準備を怠らなければいい。」と、考えている。現に、CM出演が終わり、数日前に公開されてからまだ次の仕事は入っていない。しかし、これで終わりなんてことがない事は分かっている。次はCM出演のような仕事ではなく、もっと注目浴びる仕事が舞い込んでくる事は否応でも予測できる。だから達也は毎日深夜に日課の魔法研究の後、深雪や水波の眠りを確認した後、地下室のテストルームで基礎練からのダンスやボイトレをしているのだ。

 まぁ、そのためにただでさえ睡眠時間が少なく、健全な高校生としての過ごし方とかけ離れているのに、更に睡眠時間が減り、いいとこ仮眠程度の時間しか眠る事が出来なくなった。しかし達也は、そんな事は気にせず、深雪に気づかれずにいつもの生活を続けるために過酷なスケジュールをこなしていた。

 

 そして今日も一時間弱の睡眠をとり、朝早くからいつもの日課の体術修行をするために、高速ランニングで寺へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 寺の門前まで階段を上がっていき、門を潜ると、達也の身が引き締まり、辺りを鋭い視線で見渡す。門を潜った時から既に修行が始まっていた。

 姿は誰も見せていないが、十数人が息を殺して隠れている事は人の気配や視線に極度に敏感な達也にはすぐに分かった。隠れている者達も手練れで、達也でなかったら気づかれることは無いであろう技術で隠れている。その隠れ方から、この寺の住職である九重八雲の弟子たちだという事は分かる。この点から達也は今日の修業メニュー内容を理解した。

 

 

 (今日は”かくれんぼ”……というわけか。 さしずめ俺が全員を捕まえる役って事だな。)

 

 

 自分の役回りを知った達也は、それぞれ潜んでいる弟子たちの位置を確認し、最適な手順を瞬時に頭でシュミレーションを行う。闇雲に突っ込んで危機的状況に陥る事は愚か者のする事だ。まずは、『情報』を仕入れる。それが自分の生存へとつながるし、相手を出し抜く際の大きな原動力にもなる。これらは達也が今まで生きてきた経験から学び、一番身体に沁みこんだ教えでもある。

 

 できる限りの下ごしらえを行った達也は、軽く手首や足首を回し、柔軟運動をしておく。寺だと言っても、屋根や寺の周りに生えている樹木を足場にするなら、しっかりとしておいた方がいいという判断からだ。

 

 そして完全に準備が終わると、何の前触れもなく、地面を蹴り、高速で忍び走りしていき、次々と弟子たちを発見しては、組手を交わし、無力化していく。狩人化していく達也の目は、いつものように達観しており、目の前の動くモノを無力化する事だけ考えていたのであった。

 

 

 




達也ってちゃんと眠っているのか?眠りはいい方だとは知っているが、眠るのが大好きなうちには耐えがたい日常を送っているんだけど~!!


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煩悩坊主との組手

八雲をどういったらいいか、試行錯誤した結果。

煩悩になっていた。なまくらとか、色欲とか萌えだよ!!とか出てたけど、これって言うのが出てこないで悩んでいたら、いつのまにかこうなっていた…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 八雲の弟子たちを一掃した達也は、最後の相手であり、体術の師匠でもある八雲の姿を探す。忍術に優れている八雲は、達也も骨が折れるほどの隠れ身ができる。数年前から八雲の元で修行しているが、まだはっきりと居場所を把握する事は出来ていない。

 しかしそれだけだ。初めの頃は、気配さえ感じるのも憚れ、背後を取られ、悪戯された事がある。(まだ中学に上がりたての頃…、沖縄事変のすぐ後だ。達也自身はまだ子供だったから仕方ないと思っている。…今でも年齢的には子供の範疇かもしれないが。)それでも修行を重ねる内に、気配を掴む事は出来るようになったし、逆に背後を取るようにもなった。

 今の達也なら、息を潜めている八雲の位置もある程度絞れる…。

 

 そして気配を感じ取った達也は、装備していた飛び道具を指ではじいて自分では死角になっているやや斜め左後ろへと飛ばす。飛び道具を飛ばす仕草を全くせず、辺りを窺いながら歩いている最中にしたため、達也が飛び道具を投げた方から「ほっ…」という、驚きつつも、なぜか楽しそうな声が聞こえた。その声と同時に消していた気配が一気に存在感を持ち始める。

 

 

 「いきなり投げつけてくるとは達也君、ひどいんじゃないかい?」

 

 

 「気配を消している事をいい事に、陰でこそこそ笑いを堪えながら付いてこられたので、いい加減姿を見せればいい、と思っただけですが?」

 

 

 「ええ~? 僕はそんな事はしていないけど? 過剰反応ではないかな?」

 

 

 「どの口がそんな事を言えるんですか? それならその手にある物はなんですか?」

 

 

 「…あ。」

 

 

 達也に指摘されて、しまったな~…と呟きながら頭を掻く八雲の手には、小さな石つぶてが拳一杯に握られていた。

 それらは達也が弟子たちを捕獲する際に、度々隠れている八雲へと向けて放った石つぶてだ。付いて来ていないというのなら、持っているはずはない。たが、八雲は生粋の忍術使いであるため、敵の道具を収集する癖があり、思わず無意識に反応していたのだった。

 

 「まいったね~」と言いながらも、ますます面白くなってきたと言わんばかりに微笑んでいる八雲を見て、呆れる達也。

 

 

 「うんうん、君とはそれなりの付き合いだけど、ますます面白い展開を運んでくれるね。」

 

 

 「別に俺はそのつもりはないのですが?」

 

 

 「君にとってはそうでも、僕にとってはいい刺激になるからね。

 

  ……じゃ、話はここまでにして、いつものように腕を交えてみようか。

 

  ……かかってきなさい。」

 

 

 掌を見せて、自分の方へ数回手を招く。達也は一度深呼吸して、気を引き締めたのち、地面を蹴って、八雲との組手を行う。

 

 両者、なかなかの腕前を見て、既に達也に捕まってしまった弟子たちが円を囲んで、観戦する。感嘆を漏らしながら、二人の組手を見て、気合を引き締めるのであった。

 

 

 




いつもにこにこ笑う八雲って、違う角度から見たら裏があるキャラに見えるよね~。
裏と言えば、今マックで裏メニューしているね~。


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八雲の問いかけ

八雲がエロスになっても違和感ってないような気がする…。(そうしようか、健闘するべきか?)


 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ……、ありがとうございました。」

 

 

 「うん、こちらこそ。いやぁ~、もう体術だけなら達也君に勝つのが厳しくなってきたね~。本当に最近は、ショック受けてるんだよ?これでもね。」

 

 

 地面に座り込んで荒れた息を整える達也と、そんな達也を言葉とは裏返しにニマニマとした笑みを絶やさないで見下ろす八雲が寺の前にいた。

 結局修業は、八雲が体術と幻術やらで組み合わせて達也の攻撃に対応した結果、あと一歩まで追い込む形と放ったが、元々設けていた時間内には八雲を無力化できずに修業は終わってしまったのだった。寺の鐘の音が鳴り、終了の合図が起きると、二人を観戦していた弟子たちは同じ同志たちと一緒に立ち上がり、拍手を送ると、颯爽とした動きで寺の中へと入ったり、敷地内の中を駆けて行った。それぞれ持ち場に戻っていったのだ。

 

 残されたのは、八雲と達也の二人のみ。

 

 時間内に八雲を無力化できなかったが、以前に比べてみると八雲が本気になりつつある現状に、逆に力をつけていると考える事で、”負け”た事は気にしない事にした。元々八雲はこの修行が一番得意分野だと言い切っているだけに、強い。だからその八雲を追いこんだというなら、まずは絶賛される功績とも言える。

 

 しかし、頭では分かっていても、八雲の顔の表情と本音とのギャップのある言動を見てしまうと、少しだけ苛立つのは仕方ない。

 

 

 「……そう言っているにしては、顔の笑みがまったく抜けてませんよ、師匠。」

 

 

 「そうかい? それは残念。」

 

 

 「本当に残念なら、そんなにオーバーな反応しません。」

 

 

 「達也君も相変わらずつれないな~。そんな態度だと世の女性達のハートを鷲掴みにするなんて真似は出来ないよ~?これからが力の入れ越しだと思うんだけどね?」

 

 

 ぴくっと達也の肩がほんの一瞬だけ、跳ねる。

 

 八雲の言い方に何やら嫌な感じを感じ取ったからだ。

 

 

 「いきなりなんですか?」

 

 

 「ん? だって今、達也君、アイドルをしているんじゃないかい!

  僕は世捨て人だけども、完全に遮断した訳ではないからね~。色々と僕の耳にも入って来るんだよ?」

 

 

 「…………」

 

 

 何を言えばいいのか、口籠る事になった達也。

 

 達也がアイドルをする事はごく少数しか知らない事実。それをくくく…と笑っている八雲が突然口にした台詞で、情報が入っている事を理解するしかない状況に達也は遭遇している。この状況に、達也は何処から仕入れたのか…、本気で探りたくなったが、その興味を見せると、八雲が「そんなに知りたいのかい?」とからかう気満々なのは目に見えているため、浮上した興味をいったん棚上げにする必要があった。

 

 

 「それでどうだい? CMに出てみて、有名になった気分は!?」

 

 

 糸目の目が少し見開き、興味津々な声で語りかけてくる八雲に対し、脳天目掛けて手刀を振り降ろしたい気分になる達也だったのである。

 

 

 




こうして読むと、八雲とエリカって意外に気が合うかもしれないね~。


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八雲の申し出

何を言う気だ~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 輝きをみせている八雲の笑みをチョップで歪めたいという、感情を失くした達也でさえ感じた苛立ちを心の中で渦巻いていたが、更に深くなった挑発的な笑みで我に戻る。

 もし実行すれば、八雲の思い通りになると直感したからだ。そのため、達也は八雲の言った事を肯定する事にした。

 

 

 「師匠は地獄耳でも持っているのですか?」

 

 

 「おや、今日は随分と素直に認めるんだね、達也君。」

 

 

 「これ以上は師匠の思い通りになる気はありませんから。……それで、用件はなんですか?」

 

 

 「ええ~、僕が興味だけで話しているとは考えないのかい?」

 

 

 「師匠は興味を持っていても、それだけで人の内情にまで首を突っ込んでくる人ではないと思ってますから。」

 

 

 もしそれ以外で調べて、自分の任務に差し支える様な真似をしたり、情報を提供するのなら、例え八雲であろうと、”消す”気だと、視線と言葉に隠された意味を告げる達也。その達也を見て、ふぅ~…とため息を大袈裟に吐いて、残念がっている顔で、八雲は降参する。

 

 

 「そんな顔で睨まないでほしいな~、達也君。

  分かったよ、君の言うとおり、色々あってね。世捨て人とはいっている身の上の僕だけど、今回は口出しさせてもらう事にしたよ。

 

  …………君が今請け負っている任務は、下手をすれば日本の魔法師にとって大きなインパクトを与えかねない事態をもたらす事になる。」

 

 

 さっきまでふざけている悪ガキの印象が強く出ていた八雲だったが、今は真剣な面持ちそのもので、八雲の言葉は警告だという事が物語っていた。

 

 

 「達也君はまだ知らされていないようだけど、この任務には陰謀が渦巻いている。気を付けた方がいい。」

 

 

 「……師匠もその陰謀とやらに関わっているのですか。」

 

 

 「いや…、関わっていないよ。……今は、ね。」

 

 

 「なぜその事を俺に話すのですか、風間さんには話しましたか?」

 

 

 「その必要は無いと思うよ。彼らも君も、そろそろ知る事になると思うからね。僕から話すべきでもないだろうし、詳しく知りたいなら聞いてみるといいよ。」

 

 

 誰に?…という事は達也は聞かなかった。

 

 聞かなくても、誰に問い詰めればいいかはわかっている。

 八雲の話を纏めると、このアイドルの任務には裏があって、その裏というものには、日本の魔法師を脅かすものである可能性があると。そして詳細な事は近々、風間たちと一緒に知る事になる。………という訳だ。

 

 

 「ご親切に教えて頂きありがとうございます。…ですがそれだけではないですよね?

  師匠は何を言いたいのでしょうか?」

 

 

 ただ警告するだけで、秘密裏の任務の事を持ち出して話してくる訳がない。八雲は自分達や先祖代々育んできた忍術…信条とも言うべきものを大事にして生活している。それらが何らかの形で危険に巻き込まれそうになったり、そうなる前に対処する場合や同じ古式魔法師達に関わりがある場合等、基本直接的かつ間接的に八雲たちに危険が降りかからない限りは手伝ったり、手を貸したり、情報を提供することは無い。

 

 その事を弁えている達也は、八雲たちに関連した事が裏で繋がっているのではと思い、場合によっては敵になる事も考慮し、それでいて確認のために首を突っ込んでくるのかと問い掛けたのだった。

 

 今のうち聞けることは効いておきたい。

 

 自分達の身に危険が降りかかるというのなら、達也にとってそれは、深雪の身も危険だという事。それは妹を護るという強い感情を持った達也には、それだけでも許しがたい事態だ。少しでも憂いは晴らしておいた方がいいに決まっている。

 

 いつしか達也も鋭い視線を八雲にぶつける。その視線を直面で受けて立ち、八雲は空を仰ぎ見ながら、達也に告げた。

 

 

 「…もしものときは、僕も手を貸すから。その時は遠慮なく頼ってきなさい。」

 

 

 そう、達也に告げた八雲もまた、糸目である目を薄く開いて、遠くを見続けるのであった。

 

 

 

 




原作の裏側っぽくなってきたかな~。原作ともつじつま合わせしていかないと…。


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修行からの帰り道で

八雲って未だに謎深いキャラだよね。達也でも未知の術を使ったり、できるだけだし。(前々から思っていた事を呟いてみた)


 

 

 

 

 

 

 

 

 八雲との話し合いを終えた達也は、二人で親密な話をしていた後とは思えないくらい、この後二人で凄まじい体術修行を行うのであった。結果はいつものように八雲にあしらわれる形で終わったが、八雲もまた成長してきている達也との組手は本当に本気を出さなければいけない時があり、余裕がなくなってきていることを悟られないように、達也を見送る時もいつもより笑みを深めていた。

 

 

 八雲との恒例の早朝修行も終わり、寺へと続く坂を来た時と同じように、魔法で速めたスピードで駆け下りていく。通勤のために、自転車で坂を駆け下りていく地元の住人が自分を通り越して坂を下っていく達也を見て、驚愕のあまり、二度見するなり、「心臓が飛び出るかと思った~! あれって魔法なのか? すげ~な。」…と達也の後姿を見続けながら呟くのであった。

 

 そんな通行人達が驚愕するくらいの走りを見せている(いつものトレーニングなので毎日見ている人もいるが、それでも感嘆するほどなのだ。)達也が、不意に住宅街の狭い路地にいきなり滑り込んだ。目撃者がいれば、こつ然と姿を消した達也に更に驚愕し、『忍者だ~~!!』と子供なら騒ぎ出しそうな展開になりそうだが、あいにく目撃者もおらず、その展開はない。

 

 しかし、目の前にふと見覚えのある人物が立っていた。達也は、この人物の気配を感じたため、急遽路地に入ったのだった。

 

 

 「尋ねられるのでしたら、こちらからお尋ねさせていただいたのですが。朝からご苦労様です。」

 

 

 労いの言葉をとりあえず送る達也は、気怠けな様子を見せながらも話しは最後まで聞くつもりで会話が可能な距離まで近づく。

 

 

 「いえ、私めも達也殿の御時間をいただきまして、恐れ入ります。何分、このような早朝しか達也殿と話せるお時間はありませんので。」

 

 

 「……手短に用件をお願いします。」

 

 

 自分に用件があるのは明らかだし、八雲との話し合いが予想以上に長かったため、いつもより帰りが遅くなっている事を懸念している達也が、手短にするように頼む。

 

 

 相手の方もその点に関しては同意のようで、すぐさま用件を伝える。…といっても、胸ポケットから手紙サイズの封筒を取り出し、達也へ向けて渡しただけだが。

 

 

 「達也殿へ奥様からのプレゼントで御座います。ぜひお受け取りください。」

 

 

 封筒を差し出しながら、受け取るように言うのは、四葉家当主に仕える使用人序列一位の葉山さん、その人だ。

 その人物が、受け取る事を条件だと言わんばかりに強い視線で達也を見つめる。

 

 

 その視線を受けて、ため息を吐いた達也は、淡々とした動きで葉山さんから封筒を受け取り、中身を確認するため、封筒を開けるのであった。

 

 

 




いつの間にか寝落ちして、日が変わってしまっていた…。


そして、葉山さんが登場してきた~~!!


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招待状

何だろう…、頭の中でアリス感が過ったよ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 葉山さんから渡された封筒の中身を開いて、内容を見た達也は、訝しく思った。その手紙の内容とは、茶会への招待状だったのだ。

 

 もちろん誰にと言えば達也に、だ。

 

 達也は真夜に茶会というものに招待された事など一度もない。ましてや達也自身が宛名の手紙自体、もらうのも初めてなのだ。深雪宛てのパーティーの招待状が届いたり、その中の追伸で(つまりついで…という意味合いで)参加を認められる今までが当たり前だった。参加と言っても、紳士としてではなく、深雪のガーディアンとしてで、護衛の意味しかないが。

 だから、ようやく次のアイドル活動の指令が来たのかと模索した所に、御茶会の招待状を真夜の側近的存在の葉山さんがわざわざ届けに来たという事態が達也に不審感を与えているのだった。

 

 

 「…これは、何かの暗号ですか?葉山さん。」

 

 

 そのためか、達也は精霊の眼を使って、隠された暗号や間接的な指令内容なのではないかと考え、無意識に葉山さんに問い掛けてしまった。

 

 

 「いえ、その手紙の内容そのままでございます。 奥様直々から御受取りましたので、間違いは御座いません。」

 

 

 「………深雪の同伴という事ではないのですか?」

 

 

 「達也殿だけで御座います。 深雪様と見習いの水波はご招待は為されておりません。ですのでお茶会へは達也殿のみの参加でお願いいたします。」

 

 

 「それは深雪達にはこの茶会の事は口外するなという事ですね。」

 

 

 「はい、左様でございます。 深雪様がご出席なされますと、世間話もできませんので。」

 

 

 「………『畏まりました、謹んでこの招待をお受けいたします。』…と、叔母上にお伝えしておいてください。」

 

 

 さっきまで訝しく思い、目を細くして疑いの眼差しを向けていたが、葉山さんの返答で察知できたため、今は納得して、真夜に伝言を頼む達也。それを受け取り、葉山さんが軽く頭を下げる。

 これを合図に達也は葉山さんに背を向けて、路地を出て、この場を後にする。いつもより時間が更に押しているため、再び高速ランニングをし始めた達也の走りはあまりの速さで分身らしきものが錯覚で見えるほどだった。

 

 それを可笑しく思って、顔を少し歪めて笑いながら、葉山さんも達也とは反対側の路地の入口からこの場を後にした。その際に路地の魔法探知や視覚遮断、認識阻害魔法の解除をして、人を寄せつかないようにしていた魔法を無効にして、元に戻す。

 

 

 「さて、私も帰りを首を長くして待っている奥様の元へ戻りますか。…達也殿の隠し撮り写真をおみやげにして。」

 

 

 孫の喜ぶ顔を想像して微笑む老人のような風貌を見せながら、葉山さんは慎重に車を走らせて、秘密基地と化している四葉本家への帰路へ向かうのであった。

 

 

 




まさか、葉山さん!! お土産にそれを選ぶとは!! 


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アツアツ兄妹の朝

達観している達也が普通の人間のようになったらどんなことになるんだろうってたまに思うよ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 八雲との修行も終わり、帰路に着いた達也を出迎えたのは、満面の笑顔で兄の帰りを待っていた深雪だった。少し後ろでは水波が付き従った状態で一緒に出迎えていた。

 

 

 「お兄様、お帰りなさいませ。シャワーの準備は出来てます。どうぞ汗をお流しください。」

 

 

 「ああ、ありがとう。いつもすまないな、深雪。」

 

 

 「いえ…、そんな事はありませんっ!」

 

 

 深雪の頭を撫でながら申し訳なさそうに苦笑する達也を見て、深雪はその必要ないと申す。実際に深雪は達也の世話をするのが、神への最高の奉仕と同等の位置づけをしているため、他の者に取られたり、なくなったりすれば、相当なショックを抱えるのは必須と言える。深雪にとってそれほどの事なので、想いを訴えるつもりで、達也に必死に告げる。

 

 

 「お兄様が申し訳なく思う事なぞ一つもありません! 深雪はお兄様のお役にたてることが何よりも幸せなのです! 例えお兄様にとって些細な事でも深雪はとても充実した気分で過ごせます。ですので、どうか…、『もうしなくてもいい』なんておっしゃらないでくださいませ。」

 

 

 達也の胸元を掴んで、下から達也の顔を窺いながらお願いする深雪の姿は、とても正気を保って見られるものではなかった。目は潤っていて、見上げる形で上目使いしている深雪は、元々容姿が老若男女問わず惚れ込むほどの美貌を持っている。その美貌で異性がキュンとするシチュエーションランキング上位に入るこの展開をすれば、完全にコロッと堕ちるだろう。現に、傍から見守っていた水波はあまりにもピンクワールドに包まれた二人を見続ける事が出来ず、赤面しながら目をあらぬ方向へ向けて、視界から二人を入れないように尽力していた。

 

 この場面にもし一条将輝が遭遇したら、達也に羨ましいという根深い嫉妬が生まれ、かつあまりにも美しすぎる深雪に更に惚れ込み、しばらくは頭の中が深雪一色になること間違いなしだ。

 

 そんな状況で達也はというと、目をハートにすることは無いものの、目を疑いたくなるくらい、可愛らしい深雪を見て、見惚れていた。しかし、それも数秒くらいなもので、一定以上の感情を持つ事が出来ない達也には、それが救いにもなっていた。

 

 

 (この点に関しては、母や叔母上に感謝してもいいかもしれないな…。)

 

 

 などと考える達也は、目の前の深雪に優しい目をして笑い掛け、心配いらないと言うように頬を撫でる。それが気持ちいいのか、深雪の顔もほっと緊張が解け、潤った目でうっとりと達也を見つめる。

 

 

 「言わないから。深雪がそう思ってくれているのなら、俺はお前のその言葉に甘えさせてもらうよ。俺は深雪に必要とされていてこそ、生きていられるのだから。」

 

 

 「……もう、お兄様ったら。」

 

 

 達也から捨てられる心配はいらないと悟った深雪は、嬉しそうに笑う。それを見て、達也も一緒に笑みを浮かべる。

 

 

 「…じゃ、そろそろシャワーを浴びさせてもらうよ。終わったら、深雪の作ってくれた朝食を一緒に食べよう。」

 

 

 「はい、畏まりました。どうぞ行ってらっしゃいませ、お兄様。」

 

 

 そろそろシャワーも浴びておかないと、登校する時間に間に合わなくなりそうだったため、深雪がすっかり気分が良くなったのを確認し、汗を掻いた身体を洗い流そうと、シャワーを浴びに風呂へと向かうのであった。それを見送る深雪は、スキップでもするような鼻歌を歌って、朝食の準備をするためにリビングへと向かう。

 

 その二人それぞれの後姿を見送った水波は、ようやく甘い空間が終わって、安堵するとともに、まだ一日が始まって間もないのに精神的疲労が溜まってしまうのだった。

 

 

 




達也を改変するには勇気がいるな~。

でも、好奇心が消えない。明日はどうなる事やら…。


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一時コーヒーから…

平常心を保てるのか、達也~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食も食べ終わり、制服に着替えた達也と深雪は、家を出る前の食後のコーヒーを飲んでいた。テーブルには三人分のコーヒーカップがあり、もう一つのカップはもちろん、水波の分だ。達也が水波も寛いでくれと苦笑して話しかけ、深雪からも無言の鉄壁スマイルを向けられたことで、渋々自分の分も淹れた水波は、三人と共に椅子に腰かける。

 

 出かける前にコーヒーを飲んで大丈夫かとも思うが、何せいつもと今日は勝手が違うのだ。

 

 本来なら、達也が早朝の修業から帰ってきて、シャワーを浴びた後、モーニングコーヒーを飲んでから朝食を摂るのが日課なのだが、今日に限って色々と厄介事(達也にとってだが)が入ったため、時間が押してしまい、コーヒーの時間を省いて朝食を摂った。しかし、理由があるとはいえ、毎朝達也と一緒に目覚めのコーヒーを飲むのが、元気の源…とも言うべき概念を心の中に持つ者がこの家に一人いまして…。

 お分かりだと思うが、当然深雪の事だ。その深雪の様子がやはり朝食食べている間もどこか拗ねている様子をしていた。達也が聞いてみても、不満などは言わないがよっぽど楽しみにしていたという事は、深雪のもじもじした様子でも分かったし、片付けの際、達也の食べた皿を片付ける深雪の背中を見送りながら、こっそりと水波が教えてくれたりもしたため、否応なく理解した。

 

 

 (深雪には悪い事をしたな…。……よし、まだ出かけるまで時間はある。)

 

 

 時計の針を確認し、「やっぱりいつものコーヒーを飲んでいないから、調子が出ない。…深雪、悪いが淹れてくれないか?」と深雪に頼んだ瞬間、嬉しそうに飛び跳ね、「喜んで!!」とキッチンへと向かって行き、コーヒーを淹れる動作から運んでくるまでの所作まで事細かく気を配って念入りに準備する深雪だった。

 

 

 それから今に至る訳だが、達也の気配りによって、すっかり深雪の機嫌も良くなったの言うまでもないだろう。

 

 

 「どうですか、お兄様? 良い豆が昨日手に入りまして、早速淹れてみたのですが…。」

 

 

 「ああ、美味い。 香りもいいし、深雪はセンスがいいな。」

 

 

 「そ、そんな~…、”良き奥様になる”なんて…!」

 

 

 「………ん?」

 

 

 顔を真っ赤にして、夢見心地になっている我が妹を見て、首を傾げる達也は、自分の聞き間違いだろうかと思う。聞き間違いでなければ、深雪が”良き奥様”という単語を口にした事になる。しかし、そんな話題を今した覚えは達也にはなく、もちろん口にも出していない。ニュアンスが違い過ぎるので、頭に引っかかったが、これに追究していると話がこじれそうな感じを抱いたので、考えない事にした。

 

 ちなみに深雪の脳内では、乙女変換パラダイスが発生しており、さっきの達也の言葉を……

 

 『センスがいい』→『達也の好みを理解している』→『ずっと淹れられる』→『それは嫁の特権』→『良き奥様になれる』→『良き(達也の)奥様になれる』

 

 …へと変換された結果、話が飛んだのである。

 

 

 妹の意識が戻るのが当分ないと思った達也は、自分がまだ今日のニュースを確認していない事をふと思い出した。達也はいつも毎朝は、その日のニュースをざっと把握する事にしている。国の動向や世界の情勢までも何が起きているか知っていれば、深雪の安否へとつながる襲撃には対応できるし、国防軍では非公開の戦略魔法師として在籍しているため、もしもの国や国防軍の内政を知らずに彼らの駒にされるのを防ぐメリットもあるからだ。

 

 しかし前にも言ったとおり、予定が立て込んでいるために省いたのだった。

 

 

 達也は情報端末から記事を取りだす…ことはせず、モニターのスイッチを入れて、テレビニュースを見始めた。こっちの方がリアルタイムに近い形で最新情報が入ると思ったからだ。

 

 それが、達也にとっては考えが甘かったというか、しくじったというか…?

 

 

 「………しまった。」

 

 

 独り言を小さく呟いた達也の視界には、今特に見たくない映像が映っていたのであった。

 

 

 




ここから達也が乱れれば・・・・!!

と思っております。

毎朝の日課が違うだけで、調子狂ったりあるからみんなは気を付けてね!…朝起きる時間とか!?


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ヒヤヒヤ登校前

一風変わった達也様を見てみたいな~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビをつけて早々、その行為を後悔する達也と違い、深雪と水波は放送されている内容に見入る。

 

 

 「あ、この方は最近女性の方々から大人気の”RYU”さんですわ。…そうよね?水波ちゃん。」

 

 

 「はい、深雪様の仰られる通りです。最近では彼が出演したCMが大人気でして、CMで紹介されている商品の売り上げが鰻登り…とのことです。

  デビュー曲のダウンロード数も日を跨ぐことに増えていまして、ダウンロード曲ランキングではトップをキープしているまさにアイドルの流星と言える方かと。」

 

 

 そこまで詳細に説明するように入ってないはずなのだが、意気揚々として”RYU"に関する情報を答える水波の瞳は輝いていた。更に、深雪も水波の説明を聞きながら、うんうんと頷いている。いつもと変わらないように振る舞ってい入るが、達也は深雪が自分以外の男子と接する時の普段とは違う事に気づいた。明らかに”RYU"に興味を持っている。

 

 

 「そうなの? 凄い方なのね。この方って謎だって言われているみたいだけど?」

 

 

 テレビに流れているのは、ちょうどRYUが出演するCMだった。それを横目でチラチラと見る深雪を見て、達也は頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。深雪から言えば、達也が隣にいるのに、他の男性の話をするのはいかがなものかと思いながらも、水波が事細かく説明したために歯止めをかけるタイミングを逃してしまったのだ。そのために話を続けるしかなく、かといって興味のある様子を見せるのを嫌なので、その反対の興味がないけど、水波の話に付き合う形を取る事にした。…達也にはバレバレなのだけどね。

 

 

 「性別や芸名以外のプロフィールは公開されていませんので。ただミステリアスでもそこがいいという反応もありますし、クールなところがいいという意見も上がっていて、”RYU”様の人気へとつながっているようです。」

 

 

 (……ん? 水波、今、”さま”をつけていなかったか?)

 

 

 「確かに水波ちゃんの言う通りかもしれないわね。そこがまた魅力を引き出しているのですね。…さすが”RYU”様ですわね。」

 

 

 (…………深雪、お前もか。)

 

 

 興味がないと言う態度を取りながらも、興味がないと知らない情報や様付をしている深雪や水波の話を聞いて、達也は心ここに非ずの状態を作っていた。二人が話をしているその”RYU”が実は自分だという事を隠しながら、客観的情報を口にする二人にアイドルの自分がどうとらえられているのかを知った。それがなぜか一定以上の感情を持てない達也が恥ずかしく思うほど、むずかゆい事この上ない。

 

 もう心の中で二人の会話に呟くしか、達也に余裕はなかった。

 

 もしかしたらこの二人は自分がその”RYU"だと知っていて、話しているのかと恐れて冷や汗を掻く。そんな達也に深雪が話しかけてきた。

 

 

 「ふふふ、この方、御顔がお兄様に似ていらっしゃいますね?」

 

 

 「は!? …あ、……そ、そうか? 俺は……こんなにかっこよくはない。全くの別人だろ?」

 

 

 ドキッとする事を無邪気に語ってきた深雪の言葉に過剰に反応した達也は何度もどもる。その反応に深雪は軽く目を見開いて驚く。その顔を見て達也も『しまった!!!』と焦る。しかしこれ以上慌てると、自分が崩壊するような嫌な気分になったため、平常を装ってこの場の空気を変える作戦に出るのであった。

 

 

 「さぁ、二人とも、そろそろ出るぞ。このままだと遅刻してしまうかもしれない。」

 

 

 「え?もうそのようなお時間なのですか?では、後片付けさせていただきます。少々お時間下さいませ、お兄様。」

 

 

 そう言うと、キッチンへカップを下げに行き、今回は水波と担当を分けて後片付けをする。

 

 

 そうして、達也はヒヤヒヤした登校前を過ごし、個人電車に乗って、最寄駅まで行き、今日も一高へと深雪と水波を連れて登校するのであった。

 

 

 ………心はまだざわついていて、達也にしては珍しく一時限目は動揺をして、ちょっとしたミスをしてしまう。

 

 

 (うかつだった自分が嫌になって来るな…。)

 

 

 ため息を吐いて、一時限目の実技の課題を終わらせる。

 

 

 




一風は変わらなかったか? 辛うじてどもりまくっただけだな。


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登校の道ずから…

達也は自分を保つ事が出来るのか~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪と水波と一緒に一高へ向かう最中、達也の様子が徐々に異変が起きる。

 

 

 一高へと近づくにつれ、溜息が多くなったり、やつれてきたりするのだ。

 

 その違和感には深雪ももちろん気が付いていた。達也が自分から視線を逸らせば、すぐに分かるほど、深雪は達也に自分だけを見てほしいという激しい欲求を持っている。その欲求があるため、達也が何かに視線を向けて、その度に肩を落とす事に、いち早く気が付いたのだ。

 

 

 (お兄様、もしかして体調でも御悪いのでしょうか?

  そういえば、今日は特にお疲れの御様子。なにかあったのでしょうか?)

 

 

 愛する達也に尋ねようとは思うものの、「大丈夫だ。」と優しく自分に笑い掛けて、心配かけまいと何も言わない、達也の性格は知っているため、尋ねにくい。

 それに達也から放たれるオーラが質問を拒絶していると感じたからだ。

 

 結局気になって、チラチラと様子を窺う深雪に、口数も減ってしまっている達也を目の前にしている水波は重い空気をひたすら耐えるしかなく、今絶賛個人電車になっている狭い空間から解放される事を心の中から強く望むのであった。

 

 

 

 

 

 一方、達也はなぜ疲れ切った顔してため息を吐いたりしているのかというと……

 

 

 

 

 (………こんなに注目を集めているとは聞いていないぞ!何もかも想像の斜め上過ぎる…!

  どう反応すれば良いんだ! )

 

 

 …と、現実を次々に目の前にして、絶句しっぱなしになり、溜息を吐く事で、自分の理性を保ち続ける事しか考えられないほど頭の中がパニック状態に陥っていた。

 

 深雪の事以外は全てに達観した達也なのに、パニックになるくらい衝撃が走っている。

 なぜなら達也の前に次々と、達也のアイドル姿である”RYU”のポスターや大型モニターのCMリピート、駅のホームでも大量の列になった宣伝ポスターの壁が現れたからだ。

 

 芸能界に興味はなく、任務として色々思う所がありながらも、仕事を達成してきた達也は、自分が映っているポスターの行列を目の当たりにしているのだ。精神的にグラッと眩暈が起きたり、頭痛がしたりしても納得する。

 しかもこの事を相談する人はいない。唯一心が休まる相手…最愛の妹である深雪にはトップシークレットだし、もし秘密を口にすれば、絶対に、間違いなく…!自分が恥ずかしくて照れるのは想像できて、それがカッコ悪く見えるものだから、なおさら話せない。

 誰にも言えない胸の内を抱え、胃のあたりが若干痛みが走る。

 

 

 (早く学校に着いてくれ…。そうすれば課題や生徒会の資料整理等で、気分も落ち着くだろうし、集中できるんだが。)

 

 

 一番の対応策として、現実逃避を選んだ達也は、個人電車の車内で早く一高の門を潜り抜けることを信じてはいないが、神に祈るのであった。

 

 

 




ウィンクとか流し目とかしている達也自身を見たら、やっぱり引いたりするんだろうか?


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苦難の通学ハーレム

寝落ち対策としてSPEED STAR - GARNiDELiAをループで聞きまくりながら執筆~!!

劇場版にぴったりな曲だよね~


 

 

 

 

 

 

 

 

 一高に近い最寄駅から通学路を歩く深雪、水波は心配顔で横を歩く達也の顔を窺う。…水波は達也の背中越しから様子を窺う。二人がこのような態度をとるのは達也があまりにも疲労しきった顔をして、頭を抱える頻度が徐々に増えてきたからだ。

 

 

 その理由は少しなら分かっている。深雪もさすがにどうかと思うから…。

 

 

 ここまで登校するのに、達也を見て、通行人がチラチラ様子見したりして、ひそひそと会話したりするのを度々見かけていた。

 だがこれくらいの事なら、日頃から街を歩いたりするとき注目され、同じように視線を向けられる事はあるので、気にしなければ何の障害もない。人の視線には耐性がある達也と深雪には、声を掛けて来なければスルー出来る。

 

 …そう、声を掛けられなければ、だ。

 

 なんと駅のホームで電車待ちしていたり、改札口で並んでいる時、声を掛けられたのだ。…達也が。

 これには達也だけでなく、深雪も驚いた。声を掛けてきたのは全員女性。今の時間はちょうど学校の登校や会社への出勤ラッシュのため、その途中の女子生徒やOL風の若い年代に声を掛けられた。顔を物凄く真っ赤にして、緊張した面持ちで勇気を振り絞ってます!…という態度で皆、話しかけてくるのだ。

 

 そんな状況を人が多く行き交う公共の場で何度もされる達也の身からすれば、非常に迷惑この上ない展開でしかない。呼び止められてなかなか進まないし、声を掛けられても気づかないふりで素通りすれば、後を追ってきて、先回りして行く手を塞いでくる。さすがの達也も不愉快さが溜まってくる一方だ。

 

 いつもなら、注目を受けるのは深雪の方で、外出する時はいつも恋人のフリをして歩くため、さほど声を掛けられない。話しかけてきたとしても、すぐに達也が鋭い視線を一発お見舞いするだけで、そそくさと逃げていくのが関の山だ。

 

 しかし、今日はそこまで甘くなかった。

 

 

 普通達也の隣を歩く深雪を見れば、あまりにも自分達とは違う絶世の美女に根負けして、達也に話しかけるなんて真似は出来ない。…というより、深雪の方がどうしても目移りしてしまって、達也はおまけ程度に見られるのが、普段のパターンだ。

 それをどういう訳か、御目の高いブランドを身に付けているイケメンに遭遇したような印象を持っているようで、いつもの効果はまるで発揮されなかった。

 

 それどころか、話しかけられる内容が決まって……

 

 

 「あの…! RYU様ですよね!!? 

  いつもテレビで拝見させていただいてます!! 歌も毎日聴いています!!

 

  サ、サインください!! あ、あと握手もしてください!!」

 

 

 ……と、人間違い(実際は本人だが、そうだというはずもない)されての問いかけにため息も止まらない。

 

 達也はすかさず、

 

 

 「違います、人違いです。すみません、通らせてください。」

 

 

 ときっぱり否定して、深雪の肩を抱いてその場を離れる。後をついて来ようとする人には、水波が間に入って、規制して付いてくる。

 これが繰り返されながら通学していれば、達也が授業が始まる前に疲れ切るのも、頭痛を感じるのも納得できる。

 

 だから、深雪も水波も気遣って、通学中の兄妹の会話も控えている。

 

 ……その分、深雪は達也に悪い虫が寄りついてこないようにいつもよりぴったりと達也にくっ付いて、腕もさりげなく持って、自分の存在感を今の内にという感じで見せつけていた。

 

 これを好機にして達也を労わりつつも、嬉しそうな笑みを浮かべている深雪に、達也も疲れがゆっくりであるが癒されていっている気分になり、深雪の好きなようにさせる。

 

 

 それを後ろから窺っている水波は兄妹とは思えない甘い空間を出しまくっている二人を恥ずかしく思うのと同時に、達也に言い寄っていた事実を目の当たりにした深雪がいつ嫉妬を爆発させ、周りを極寒の地へ還るかという恐怖からの震えを感じながら、達也とは違った疲労を水波も感じるのであった。

 

 

 

 

 ………余談だが、達也が人違いだと否定した後も、目をハートにして「RYU様が照れてる~♥」と浮かれる女子達が大勢発生し、その後も達也に近づく事はしなかったが、一定の距離を保ちながら、通学路のギリギリ分かれる所まで後ろを歩いたりして、萌える。

 まさに、ハーレム状態を作りだした達也の変わった通学がこの日、起きたのであった。

 

 

 




すげ~な、達也! でも、似ているっていう感じなのに、RYUだと思って声を掛けてくる女子達もスゲーな!!

好きな人なら見分ける事もできるのか?


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気分の切り替え

やばいって! 達也がアイドルってばれたら~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 色々あった通学も一高の門を潜り抜けると嘘のように激減した。

 

 やっと少しは気を紛らわせることができると、安堵する達也は深雪を教室まで送迎し、自分の教室へ赴き、午前中の授業や実習を受けていくのであった。

 

 その間、達也の意識は課題に集中する事で、今朝の出来事を頭の片隅へと追い出す。

 

 

 今年新設された魔工科の授業のカリキュラムもある程度固まった事で、実習も増えてきた。今日も実習があり、実習内容は『ランダムに指定された魔法をパートナーが難なく使用可能できるように起動式を書き換える』である。

 

 課題の内容は達也にとってさほど難しくもない。しかしこれを行うのは、親睦を見据えた実技指導教員であるジェニファー教師の意図が入り混じっているからだ。

 

 元々魔工科のクラスには、元二科生だけでなく、元一科生もいる。

 

 割合で言うと、元二科生の方が少し多いくらいだ。転科する理由として、大半は魔工師を目指す者が集まった結果だが、やはり魔工科が開設されるまでの一年の間に根付いた互いに持ち合わせている優劣感によって、いざこざも多少あったりするのだ。四月はそれが授業中でも見られていた。

 

 この状況にため息を吐いたジェニファーは、まずは互いの事を分かり合えるようにと、ダッグを組ませてみる。それからダッグで協力しないと成功しない課題やどちらか一人でも課題が終わらなければ道連れにするなどといったやり方をする事にしたようだ。

 

 ジェニファーのこの考えは功を成し遂げ、徐々に生徒間であったプライドや尻込を取り除く事に成功し始めていた。

 

 達也としても、課題になればすぐに周りの声をシャットダウンできるので、無視はできるが(さすがにうるさかったら、一喝するかもしれないが。)、パートナーの方はそうはいかない。心優しい性格を持っているため、どうしてもいざこざがあれば、気になってしまう。

 

 

 「………美月、肩の力を抜け。あと、あいつらの事はほっといても平気だ。」

 

 

 「え…っ? は、はい…! ……ふぅ~。」

 

 

 出席番号順でのパートナー選びなので、隣同士の達也と美月は去年に引き続き、互いにパートナーとなって、実習を受けていた。

 今は、課題用のCADに提示された魔法を美月が使えるように、詳細なデータを取っている最中だ。いつものようにモニターに表示されている高速で流れる数字列を観察しながら、データを頭にインプットしている達也が、美月に注意する。

 身体的疲労もあるが、精神的ダメージというものは、身体的ダメージよりもCAD調整に影響を与えやすい。今、それぞれパートナ-と一緒に課題に取り組んでいる最中だが、納得いく調整がされなかったらしく、それがもとで喧嘩するクラスメイトに他のクラスメイト達が視線を一斉に向け、様子を窺っていた。もちろん美月も喧嘩しているクラスメイトが気になって、何度も振り向いて様子を窺い見る。その結果、精神状態に乱れが現れ始め、動揺からのデータの変化が起きたのであった。

 

 達也は美月も無理なく、最小の起動式で最高の魔法執行ができるようにするために、CADデータを真剣な表情で見つめ、キーボードオンリーの打ちこみを開始する。

 

 

 この時の達也の意識は完全に美月の魔法使用に対する調整をあっという間に施していた。すっかり気分転換も終わり、出来上がったCADを優しく美月の手に置き、美月は息を呑んで真剣な顔になって、頷くのだった。

 

 

 




精神安定しておかないと、魔法執行はまた今度って事になるぞ…。


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気になる視線

昨日の終盤の投稿の記憶がない…。読み返すと、????が並んでたわ~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「美月、どうだ。違和感があったら遠慮せずに言ってくれ。」

 

 

 「そ、そんな! 達也さんの調整は完璧です! ほのかさんや雫さん達が話していた事がやっと理解できました。」

 

 

 「何を?」

 

 

 「ほのかさん達、達也さんの調整してもらったCADの使い勝手が良くて、お金も払わずにしてもらえるなんて烏滸がましいんじゃないかって言ってました。雫さんに関しては、『本気で達也さんに専属魔工師になってもらおう。』って雫さんにしてはかなり本気が伝わる表情をされていて、意気込んでいました。」

 

 

 「………別に気にする事ではないと思うんだがな。友達なのだからいつでも調整鳴らしてもいい。ただし、専属魔工師なんて、俺みたいな未熟者がそう簡単になる訳にはいかないさ。」

 

 

 「達也さんは未熟者なんかじゃありません! 今だって私の精神状態の変化を正確に読み取っているかの様な微調整を行って、普段なら絶対に私が使えない魔法を見事に発動させていただきましたし、達也さんは凄いです! あの時の夢をかなえるために…。」

 

 

 手を組んでエキサイトする美月を持て余す達也は、なんとか苦笑にならないように必死に平常心を保つ。

 

 

 (この光景を見るのも、去年の今頃だったか?)

 

 

 …なんていう、デシャブ感に浸りながら、忘れていた記憶を読み起こす。

 

 

 しかしそれも一瞬の出来事で、達也は課題に意識を向け、美月に話しかける。

 

 

 「美月、そろそろ俺の分も始めてくれ。」

 

 

 「え…、あ!そうでした! ご、ごめんなさい。」

 

 

 顔を真っ赤にして頭を思い切り下げて、恥ずかしそうに縮こまる。そんなになるまで謝る必要は無いのだが、美月も赤くなっている顔をクラスメイト達に見せたくないのだろうと考える事にして、スルーする事にする。

 それに俯きつつも、すぐに達也の測定のために、準備に取り掛かっている美月。逆にここで声を掛けてしまうのは、申し訳なさが出てくる。…感じる必要もない罪悪感が沸き起こって来るが。

 

 その間、達也は測定器の前に設置されている椅子に座って、美月の準備を待つ。この課題は二人揃って課題を成し遂げないと終了にはならないのだ。いくら達也の技量が凄くて、一番乗りで終わったとしても、美月の課題終了をしないと、意味がない。達也がエキサイトしてしまっている美月に声を掛けたのもそのためだ。

 普段なら達也自身が現実復活をさせるようなことはしないが、課題が立て込むと、昼休憩まで課題に投資しなければいけなくなり、深雪の作ってくれた弁当を食べる事も、深雪と食べる事も出来なくなる…といった一番の理由があるからなのだが…。

 

 

 そんな訳で、美月の準備を手順に間違いがないか、見届けながら待っていた達也だったが、ふと自分を見つめてくる多数の視線が気になり、ざっと目を動かす。その時、向けられていた視線が一斉に逸れる。

 

 

 (……なんだ? そんなに課題が終わった俺が気になるのか?)

 

 

 課題が終わり、退屈そうにしているのが悪かったのか…。注目を浴びていた理由を考え、そう結論付ける。ちょうど美月も測定器の調整が終わったようで、達也の測定を始める。達也は視線の事を一切、意識から外し、課題に集中する。

 

 

 測定中の達也をまた、逸らしていた視線を向ける。

 

 

 このような行動をとっているのは、課題の最中、チラチラと見つめる同じクラスメイトの女子達だった…。

 

 

 




敵意の視線なら完全にシャットダウンできるのにね~。(意識的にも現実的にも)


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意を突かれた驚異

ひっそりと深雪と日常を送りたいという達也の本心は、原作でもこっちでもなかなかうまくいかないね~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様でした、達也さん。どうですか?気分が悪くなっていませんか?」

 

 

 「ああ、問題ない。無理なく発動できた。これなら美月も九校戦のエンジニアになれると思うぞ。」

 

 

 「いいえ、私はエンジニアよりもエリカちゃん達と応援する方が性に合っていますから。だから、なりません。」

 

 

 「……美月、その言い方だと、エリカ達が選手に選ばれないと確信している…という誤解を与えると思うぞ?」

 

 

 「え!? そ、そんなはずでは…!! ど、どうしたら…!!」

 

 

 「落ち着け、美月。大丈夫だ、ここにはその本人達はいないし、仮にエリカ達が聞いていたとしても、笑って許すさ。」

 

 

 「そうでしょうか?」

 

 

 「ああ、あくまで予想だしな。そこまで深く考えなくてもいいだろう。」

 

 

 安堵した美月が胸を撫で下ろす。逸れた話に一段落つけて、達也は情報端末に出している課題のデータを見ながら、話しを再開する。

 課題は二人とも基準の採点を超え、残りの授業時間を持て余していた。まだ半分もあったため、二人は他のクラスメイト達が終わるまで、先程の課題の改善点について話し合う事にしたのだった。しかし、実際には達也が美月の課題に対するアドバイスを提供する流れになっていたが。

 

 

 「………美月は相手の特徴を生かしてCADの調整もできていたし、調整技術も基本は出来ている。だが、相手の特徴や特性、得意な魔法を生かしたとしても、環境に合わせた調整も入れないと、それが却って危険になる時もある。

  今日の課題は試験的な意味で、実習室での一つの魔法行使だが、ここが屋外での連続魔法行使なら、魔法を行使する相手の心境も変化するものだ。その変化も考慮した予測や環境を踏まえたCAD調整をすれば、次の調整までの期限も長くなったりするしな。」

 

 

 「…まるでCADの調整は軍師のように試行錯誤しないといけないのですね。」

 

 

 「ふ…、例え方はともかく、大体そういう事だな。」

 

 

 深く頷きながら、達也のアドバイスを熱心に聴く美月に、その後もいくつかアドバイスした後、授業時間も数分残すだけになった。片付けも大方終わって、ざっと実習室を見渡してみた。すると、女子生徒達がまたしても達也を凝視し、目が合うと、瞬時に逸らしてしまうのだ。

 

 

 「………美月、俺は何かまずい事でもしたのか?」

 

 

 「違いますよ! 達也さん、”RYU"というアイドルの事、知っていますか?」

 

 

 「名前は知っている。…というより通学中にそのアイドルと間違われて声を掛けられた。…関係があるのか?」

 

 

 「あるもないも、皆さん、達也さんがあまりにも”RYU"さまと雰囲気が似ているので、もし”RYU"さまがこの学校にいたら、ファンクラブを作って、近くに隠れて拝む事が出来るのに…って話しているんですよ?

  朝からこの話で女子達には持ちきりです。

  私も改めて達也さんを見ると、”RYU"さまに似ているな~って思いますから、彼女達の言う事も一時あるかなと思ってますよ?」

 

 

 じ~っと見つめられながら、達也にとっての爆弾発言をお見舞いする美月は、持ち前の天然さを見せつける。思わぬ美月の情報によって、意を突かれた状態になり、本心から驚いた達也。まさか通学中だけでなく、学校内でもこの話が舞い込んでくるとは思っていなかったため、気分転換も兼ねていたこの課題は達也の思う通り、気休めになって終了する事は出来なかった。

 

 チャイムが鳴り、昼休憩を迎えたため、この話は棚上げにする。(達也自身はもうこれ以上は効きたくなかったし、話題にすらされたくないと強く思っている。)

 実習室を後にする際、女子からのひそひそ話が耳に入ってきたが、意識してスルーし、深雪達やエリカ達と昼食を約束しているため、美月と一緒に食堂へと向かうのであった。

 

 

 




お年頃の子供たちの集まりである学校では、一番話題になりそうだよね~。…ここで終わってくれたらいいけど、達也から思えば。


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変わらない癒し

達也の悪夢な現実が続く~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わったその足で、美月と一緒に食堂に来た達也が遭遇したのは、自分を見つめてくる大勢の視線の数々だった。しかしそれも一瞬の事で、一斉に自分に全校生徒並みの視線が向けられたが、すぐに視線を逸らし、何事も変わっていないかのようないつもの食堂の雰囲気を作りだす。それでも気になる様子で、通り過ぎていく達也を目線で追いかける仕草が見られた。

 

 達也は朝から続くこの視線や小声での会話等にも慣れ、悪意や妬みといった視線や話し声を意識や認識からショットダウンするように、この好奇的な視線や会話もシャットダウンしていた。

 

 普通の人なら気になって仕方ないこの視線も(現に達也に続いて歩いている美月は、達也に注目されている視線を異常に感じ取ってしまって、頭を疼くませ、恥ずかしそうに歩いていた)ある中、友人達を探し出し、既に席を確保して待っていた深雪やほのか、雫、エリカ、レオ、幹比古に声を掛けた。

 

 

 「遅くなってすまない。待たせてしまったな。」

 

 

 「いいよ~、別に。」

 

 

 「気にしてねぇ~から大丈夫だぜ。それに達也の方が大変だろうしよ!」

 

 

 「ん? レオ、どういう意味だ?」

 

 

 「この馬鹿っ!」

 

 

 エリカがレオの頭に拳骨を一発お見舞いする。レオは痛がって恨みを込めた視線をエリカに投げるが、エリカ自身は痛くもかゆくもないという顔で跳ね除ける。

 そして話題を切り替えようとしたのか、幹比古がすかさず達也に話しかける。

 

 

 「と、とにかく立ってないで座れば?達也も、…柴田さんも。」

 

 

 「ああ、そうだな。」

 

 

 「あ、有難うございます。吉田君。」

 

 

 幹比古の厚意を受け、達也も美月も空いていた席に座る。達也は深雪とほのかの間に空いた空間にある椅子に座らせられ、美月は深雪の隣で、正面が幹比古の位置に座った。

 席についた美月はさっきまでの緊張をほぐすように息を吐き出す。ずっと達也といたために精神的疲労が溜まっていたのだ。元々美月は注目されるのはあまり好まない性格なので、周りの反応に敏感に反応し、その所為か、いつもメガネをかけて特異な性質を持つ自分の目を抑えている霊視が影響し、眼鏡をかけていても感じてしまうくらい疲れていた。幸い、酔ったり、気分が悪くなったりはしてはいないが、人の視線にいつもより敏感に感じ取ってしまうのだ。

 美月は無意識に眼鏡をしっかりとかけ直し、『霊視放射光過敏症』を抑えるように、集中させていた。

 それを正面から見ていた幹比古は、美月が心配になって、少し身体が前のべりになった状態で話しかけた。

 

 

 「柴田さん、大丈夫?保健室までよかったら連れて行くけど。」

 

 

 「いえ、大丈夫ですよ。御心配かけてごめんなさい。少し休めば良くなりますから。ありがとうございます、吉田君。」

 

 

 「そう? ならいいけど。もし具合が悪くなったら僕にいつでも言って。」

 

 

 「吉田君…。」

 

 

 真剣な表情で美月に話す幹比古を美月は笑顔で答える。しかし二人は周りが見えていなかった…。

 

 

 「…ミキ~? 美月に近いけど~? え~何? もしかして美月にチュ~~でもする気になったのかしら? でもするなら、もっと人目を考えた方がいいと思うけど?」

 

 

 ニヤニヤとしたエリカが二人に話しかけた事で、我に返った二人は慌てて距離を取る。エリカが指摘した通り、幹比古が顔をどんどんと近づけて話していたので、美月との距離が十数センチになっていた。

 

 

 「そんなに好きなら、さっさと告ればいいのに~? ミキって優柔不断なのかしら~?」

 

 

 「エリカにだけはそんな事言われたくない! それに僕の名は幹比古だ!!」

 

 

 席から立ち上がっていつもの展開が流れる。

 

 そんな光景を深雪から弁当を受け取りながら、傍観者に徹していた達也は、ここだけいつもと違う空間に癒されたのだった。

 

 

 




だけど、合間の一時を味わってあげたくて、今日の投稿になった~!

ごめんよ、幹比古。君はどうやら弄りやすい性質を持っているから、扱いやすいんだ…。そしてそんなうちの策に付き合ってくれるエリカ、ありがとうよ。


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女子トークを聞きながら…

達也が胃潰瘍にならなければいいけど…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 幹比古と美月を温かい目で見守ると、すっかりいつもの調子で友人達との昼食を迎える事が出来た達也は、今日も手作りのミキの愛妻(?)弁当を食べていた。この調子で午後からの授業は何も気を重くせずに取り組めると思った。

 しかし、達也のこの予想はこの後、美月が些細な事で話を切りだした事から、一変する…。

 

 

 「そう言えば、ほのかさんの髪の艶、良いですね。どんなお手入れされたのですか?」

 

 

 「え? あ、これ…。実は…。」

 

 

 「この前、ほのかと一緒に美容院に行って、エステしてきた。」

 

 

 「へぇ~、少し意外~。ほのかは雫の専属ヘアスタイリストにお世話になっているのかと思ってた~。」

 

 

 「エ、エリカさん!! 違いますよ~! 私だって雫に頼りっぱなしじゃないんですからね!」

 

 

 「あらそう?ごめんね。なんだかそんなイメージがあるっていうか?」

 

 

 「エリカの話はともかく、美月の言うとおり、肌も髪もエステが行き届いているわね。羨ましいわ。一体どこの美容院なのかしら…。雫、良かったら私にも教えてくれないかしら?」

 

 

 「うん、いいよ。」

 

 

 女子らしい会話に華を咲かせる中、レオと幹比古は自然と二人で話すようになる。幸い、場所が隣だったし、女子達とは隣を意識しなければ、会話をシャットダウンできる。…しかし、達也はレオ達みたいに逃げる事は出来なかった。達也の隣には深雪とほのか、正面にはエリカだ。女子に囲まれた形で座っているため、逃げ出すことはできない。それに食べている最中に席を移動させるのはマナー違反だ。今のところ話を振ってくる気配はないし、ここは見学の意味も込めて、女子達の話を聞いておくだけにした。

 

 

 「ほのか、いい香りね。香水でもしているの?」

 

 

 「違うよ、これはシャンプーに含まれているバラの香り。」

 

 

 「私も使っている。」

 

 

 「え、ホントだ~。雫からもほのかと同じ香りがする。…あれ? この香りって。」

 

 

 「あ、もしかしてそのシャンプーの名前って”プリンセス”って言いません?それにバラの香りって事は、”MOON"の方では?」

 

 

 「そう、…もしかして美月も持っていたりする?」

 

 

 「はい、この前買ってきました。早速私も使っていますよ。」

 

 

 美月が髪を一房持ち上げて、鼻の先まで持ってきて、くんくんと自分の髪の匂いを嗅ぐ。それを見ていた幹比古は、キュンとなって顔を真っ赤にしていたが。

 

 

 「私も~。みんな、このシャンプー使っていたんだね。やっぱり?」

 

 

 「はい…、”RYU"様のCMがきっかけで…。」

 

 

 「私も…。」

 

 

 「実は同じく…。」

 

 

 「あれは仕方ない…。」

 

 

 「あのCMには刺激を受けましたわ。」

 

 

 女子たち全員が納得し、うんうんと頷く一方、女子達の中の白一点である達也の顔色は無表情を刻み続けていた。

 

 

 「何でも女性に人気のCMらしくて、ファンの人も多いらしいよ。」

 

 

 「らしいではなくて、事実。パパが知り合いの伝手を使って仕入れる時も、かなりの数が流通していて、手に入れるのになかなか大変だったって言ってた。」

 

 

 「あ、それあれでしょ? 雫のパパの前に誰かもう別の人が手を回して買い占めていたっていう話。」

 

 

 「え、それ何? 政財界でもそんなに人気なの?シャンプーを巡っての合戦とか想像できないんだけど?」

 

 

 「エリカちゃん、失礼だよ。」

 

 

 「ううん、平気だから、美月。私も思っていた事だし。」

 

 

 「CMと言えば、あたし何度か目の当たりにしたんだけどね。駅内やショッピング内に掲載されているCMのポスターとか、店内ポスターとか見た事ない?」

 

 

 「ええ、今日も通学中に見た記憶があるわ。」

 

 

 「実はそのポスター欲しさに持ち逃げする人が続出していて、警察騒ぎになっているんだよね~。盗まれて、また補充しても駅員や店員の目を盗んでいつの間にか盗まれているのよ。」

 

 

 「あ、私もそれ今日のニュースで見たかも。」

 

 

 「それでしたら、私も通学中の際に何度か駅員さんに追いかけられる女子生徒の方々を見たような…。大きな紙の筒を巻いて持っていましたけど、あれがそうだったのですね。」

 

 

 「深雪、目撃していたの?じゃあさ、悪いんだけど特徴とか後であたしのメールしておいてくれる?」

 

 

 「いいけど、どうしてかしら?」

 

 

 「うちの馬鹿兄貴が捜査に駆り出されているみたいで、最近げっそりしているのよね~。逮捕できた案件もあるみたいで、取り調べもしているみたいなんだけど、言い負かされている感じで帰ってきたらいつも『何で女はあんなに口が回るんだ~!! しかも俺の事をオッサンとか、雑草とかグサリッと来るような言葉責めしてくるし~!!』…って心折れて帰ってくるのよね…。だから追い込むための証言とか欲しいから、情報とか手に入れたらすぐに連絡くれってうるさいんだから。」

 

 

 「ふふふ、エリカもブラコンなのよね。わかったわ、生徒会の仕事が終わったらメールするわ。」

 

 

 「何処をどう考えたら、あたしがブラコンって事になるのよ!!」

 

 

 今度はエリカが顔を真っ赤にして、反論し、”RYU"が出ているCMの話から波長して、話が広がっていく。そんな女子トークを聞きながら、達也はげっそりになっていく。まさかアイドルとしての自分の影響がここまで広がっていて、友人達にまで浸透しているのかと思うと、気が重くなっていく一方だ。普通の人間なら、ストレスで胃潰瘍になっていてもおかしくない。もちろん、強じんな精神力に加え、鋼のような肉体を持つ達也には縁がないが。それでもそうなるのではないかと本人に抱かせるほどの効果はあった。

 

 そんな達也を見て、レオと幹比古は女子に囲まれて逃げ場のない達也が盛り上がる女子トークのお蔭で、居心地悪く感じているのではないかと考え、達也に対し憐れみの視線を送る。

 

 この視線と女子トークがますます達也の精神疲労を促進する。

 

 

 

 こうして達也はアイドルとしての自分がどう世間や友人達から見られているか、直接知る事になったのであった。

 

 

 




生での情報って新鮮で良いんだけど、時には残酷になったりするからな~。


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静けさから始まる放課後

本当に達也ってトラブルに愛される体質だよね~。




 

 

 

 

 

 

 居心地の悪い昼食が終わった後、さすがに飽きてきたのか、クラスメイトも午前中の授業みたいに騒ぐことはなくなって、午後の授業は静かに普段の授業を送る事が出来た。それからは深雪を迎えに行く際に、廊下を渡っていたら新入生の女子生徒たちが小声で話しているのを何度か見かけたが、それ以外は大して気になることもなかった。いや、気になることはあったか?達也が深雪を迎えに教室を尋ねてみると、今日の授業を終えた学生達が団欒する姿が見当たらなく、静まりがえった教室内が広がっていた。その中で深雪だけがいつもの達也にだけ見せる笑みを浮かべて、達也の迎えを喜んだ。この反応の違いが余計に深雪の美貌による笑みを引き立てていて、達也は「今日の深雪は妙に明るいな。」という錯覚を与えていた。

 

 深雪を連れて、生徒会室を目指す達也。深雪は、達也の顔色を窺って、今朝のような兆候が見当たらないのを感じ取ったので、安心した。そのため、生徒会室へと向かう達也のすぐ隣をほとんど密着しているのではないかと勘違いされるくらいに寄り添って歩く。それを一度盗み見た達也は心の中で、「学校内ではここまで接近して歩くことはなかったよな?」と気になりつつも、達也も今朝は深雪に構ってやれなかったので、別にいいかと深雪の望むままに寄り添って歩くのであった。

 

 

 「そういえば、ほのかは一緒に来てはいないが?」

 

 

 「ほのかは少し雫と話してから来るそうですよ?」

 

 

 「なぜ疑問形なんだ?」

 

 

 「私にも理由がわかりませんので…。『雫の家の事で、話があるから!!』…と申してましたが。」

 

 

 「そうか…、あの二人は仲がいいからな。雫の家となると、秘密ごとはあることもあるだろうし、二人だけでしか話せないことだってあるだろう。

  …気にする必要はないさ。すぐにほのかも追いかけてくる。」

 

 

 ほのかと雫に除け者にされたのではないかと案じていた深雪の気持ちを察し、フォローする達也。そんな達也の優しさに触れて、一層嬉しそうにする深雪を連れ、生徒会室の扉を開けて、先に仕事に取り組む。

 

 

 ちなみに一方そのごろ、いつも達也と深雪と一緒に生徒会室へ向かっているほのかは、体が震えたまま、教室から一歩も出る事が出来なかった。そのほのかの肩を優しくポンポンと叩いて励まし、擦ってあげる雫。雫もほのか程ではないが、若干身体が震えている。

 

 

 「雫~。今から私…、生徒会室に行かないといけないよ~!!」

 

 

 「うん、生徒会役員だからそれは仕方ない。」

 

 

 「それは分かってるけど、今は聞きたくなかった~。」

 

 

 「大丈夫。だって達也さんがいるし。さっきみたいにはならないと思う。」

 

 

 「あ、そうか。言われてみればそうだよね!」

 

 

 「うん、だから…頑張って。」

 

 

 「わかったよ、雫。私、行ってくるね!」

 

 

 「行ってらっしゃい。」

 

 

 何かすっきりとした顔で、ほのかは達也と深雪の後を追うように小走りで生徒会室のある方向へ向かって行く。その後ろ姿を見送った雫は、自分も今日は風紀委員の当番なので、そのための巡回に向かう前に深呼吸する。

 

 

 「ほのかを行かせる為にああ言ったけど、保証はない…。 ほのか、もしもの時はごめんね。」

 

 

 もう姿が見えない親友に向けて独り言をつぶやいた雫は、風紀委員の控え教室へと向かって行った。

 

 

 ほのかも雫も教室から去って、残っていたクラスメイト達は殺していた息を吐き出して、生気を取り込むのであった。

 

 




何があったんだ~~!!二年A組~~!!?

(読者の皆様の想像にお任せいたします。)


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一難去ってまた一難の予感…

世の中にはしつこい連中もいる事がある…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 生徒会の業務も終え、帰宅してきた達也、深雪、水波。しかし帰ってきて、玄関の中にいるというのに、途方もなく疲れた様子を三人とも見せていた。

 一番先に入った達也が振り返って二人に申し訳なさそうな顔で、話しかける。

 

 

 「……ただいま、ふぅ~…。深雪、平気か?」

 

 

 「はい、…それよりもお兄様の方が…。」

 

 

 「俺の事は心配いらない。毎日の鍛錬で身体は鍛えているからな。」

 

 

 「ですが、お兄様お疲れの御様子です。お兄様が心配いらないと言っても、深雪は心配でなりません!」

 

 

 「…ありがとう、深雪がそう思ってくれるだけで俺は十分嬉しいし、疲れが軽くなるよ。」

 

 

 「いえ…、お兄様がそうおっしゃるのでしたら…。」

 

 

 達也に頭を撫でられて、頬を赤らめる深雪。そのまま達也は水波にも労いを掛ける。

 

 

 「水波もすまなかったな。疲れただろう、夕食は遅くてもいいからまずは休め。」

 

 

 「いえ、私はメイドとしての責務を放棄するわけにはいきません。すぐにでも腕によりをかけて作らせていただきます。」

 

 

 「水波ちゃん、気持ちはよくわかるけど、さすがに今のあなたではいつもの手の込んだ夕食を作るのは無理よ。無理すると、身体に負荷がかかりすぎていざって時に動けなくなるわよ?」

 

 

 「ですが…」

 

 

 「深雪の言うとおりだ。水波、今日はお前にも色々迷惑かけた。その所為で水波の疲労はかなり蓄積されているのは視たらわかる。ここはそのお詫びとして一時間ほど休んでくれないか?その後、夕食作るなら問題ない。ただし、深雪と一緒に、だ。

  時間も遅いし、協力してくれ。…いいか?」

 

 

 「……畏まりました、達也様。」

 

 

 まだ言いたい事はあったが、達也の言うとおり、既に疲労困ぱいでこのまま夕食を作りだしたら、フライパンを持つ握力が無くて、足の甲に落とすのではないかと想像してしまうほど、痛々しい夕食の準備を思い浮かんだくらいだ。それを回避するにしても、慎重になるからいつもより時間が大幅にかかる事は分かりきっていた。それに達也は正論を言っている。水波は達也の言うとおり、休憩してから夕食作りをする事を受諾した。

 

 それからは深雪と共に二階にある自室へと向かい、深雪の着替えを手伝うために階段を上がっていった。

 二人の姿を見送った達也は、未だに玄関先にいて、靴を脱がずに前髪を手で掴み、大きなため息を吐き出した。その姿はいつも背筋を伸ばして、初めて会ったとしても頼りになるオーラを出しまくっている達也ではなく、仕事の許容オーバーを働かされて、遅くに返って来るサラリーマンのようにやつれた様子だった…。

 

 

 達也は深雪の前では、なるべくいつも通りにいたつもりだったが、深雪には気づかれるらしく、非常に疲れている事を隠していた。それが通じず、自分が少しは回復するために、深雪と水波にはあえて休憩を取らせたのだが、いなくなった瞬間、安堵したのか脱力する気分を味わった。

 

 

 「今日は確かに疲れたな…。」

 

 

 そう呟いた達也の独り言が誰にも聞かれずにいると、リビングのドアの向こうから電話回線が入ったベルの音が聞こえてきた。誰かが連絡をしている…。

 

 その別の音を聞いて、達也は嫌な予感を感じるのであった。

 

 

 




疲れている時にいろいろ言われると、だんだんイラついてくる…、なんてことはみんなはあるかな?
達也はそうならないような気がするけど。


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陽気な電話 (上)

一方では陽気ですが…。


 

 

 

 

 

 

 

 電話回線のコールが鳴り響く。

 

 達也は自分のある葛藤と心の中で闘い、結局電話に出るために靴を脱いでリビングへと向かって行った。その間二階で忙しなく動き回っている足音が聞こえる。恐らく、電話を掛けてきた相手の名を確認した水波が慌てて深雪に声を掛けているのだろう。動揺を隠せないほど慌ただしく準備し、それを深雪が咎めないという事は、そうなっても仕方ないと深雪でさえ思う人物…。

 達也はこの情報だけで電話の相手が誰だかすぐに気づく。すると、余計に出るのは嫌になったが、理屈では出た方が自分の理にかなっていると理解しているため、軽い反発はなしで電話に出る。

 

 リビングのモニターで早速映ったのは、達也が予想していた通りの人物だった。

 

 

 『御機嫌よう、達也さん。あら、深雪さんはいらっしゃらないのね~。」

 

 

 「申し訳ありません、ただいま帰宅したばかりですので、今着替えに行かせています。」

 

 

 どこからという事は言わない。言わなくても達也の服装はまだ一高の制服のままだ。学校から下校していたというのは目で見ればわかる。

 

 

 『そんなに気を使わなくてもいいのですよ? あなた達が生徒会での責務で帰りがこの時間帯になる事は知っていますから。』

 

 

 「そうですか、夜分までお待たせいたしまして、申し訳ありません。」

 

 

 二人とも形式上の挨拶を交わす。

 

 

 「…それで、一体何の御用でしょうか?深雪達が降りてこない内に終わらせるつもりなのでは? 叔母上。」

 

 

 モニターに映る人物に対して、達也は鋭い視線をぶつける。それを受け、作り笑いを面白そうに笑ってみせる真夜だった。

 

 

 『達也さんはやはり頭の回転がよくて、助かりますわ。』

 

 

 「大したことではありません。」

 

 

 真夜の一応褒め言葉をさらりと受け流す達也。

 

 だって達也にとっては難しい推測ではなかったのだから。電話が鳴って、達也が出るまでコールは鳴りまくっていた。一度も途切れることは無く。普通なら達也が出る前にすぐに水波が電話に出る事が今では当たり前なのだ。メイドである水波が雑用は自分がしますと言って、電話が鳴れば必ず水波が最初に出て、相手を確認し、深雪か達也へ回線を回すと言ったスタイルが定着しつつあった。それなのに、水波が出なかった事が達也には引っかかる出来事だった。

 水波が自分で決めた事を放っておく性格でない事は分かっている。だからもし出ないなら、それは故意だと思った。

 

 ではなぜ出なかったのか?

 

 事前に出なくてもよいと命令されていたとしたら話は通る。今の水波は深雪が主である。しかし深雪よりも上の人物なら、その人物の命令に従う所もある。つまり、水波が真夜に出なくてもよいと命令されたのなら、達也が出る前に水波が出なかった理由が説明できる。

 

 そして真夜が自分達の行動についてリアルタイムで情報を手にしているという事を知った。今日の帰りも色々あって、帰りがいつもより一時間以上も遅くなったのだ。それなのにタイミングよく電話がかかってきたし、先程真夜が自分達の帰りの時刻まで把握していると意味ありげに告げていたのを思い出し、自分達が帰宅するタイミングを見計らっていた事が理解できた。

 

 これによって、達也は真夜が自分に用事があって、それは深雪にも秘匿の物だと結論付けたのであった。

 

 

 




達也の頭の良さをうちの脳にも欲しいぜ~。


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陽気な電話 (中)

今頃、達也は早く用件終わらせて回線切ってくれ。…とでも思っていたりして?


 

 

 

 

 

 

 

 短い間で真夜の意図を読み取り、本題に入るように視線で問いかける。だが本来だったらこのような態度を取れば、四葉家の使用人達から罵声を浴びる事になるのは必須。特にこの場に青山がいれば、真夜がいる事を忘れて、罵声を浴びせ続け、『欠陥品っ!!』と鼻で笑うだろう。…まぁそうなれば命を縮めるのは自分に降りかかる事になると思うが。

 

 だが、そんな心配はせずとも、この場にいるのは達也と真夜、そして葉山さんだけ。葉山さんは青山や他の使用人達のように達也を出来損ないだと見下すことは無いため、この様な態度を取ったとしても、見た目は平然として対処する。達也が真夜や四葉家に忠誠心を持っていない事は心得ているし、見下すなんて愚かな真似をするより、最も侮れない戦闘魔法師だと警戒しているのだ。使用人序列一位だけあってそこは弁えている。

 だから気を使う必要もない。

 

 

 「それで用件とは、今朝の手紙の件でしょうか? 」

 

 

 「ええ、葉山さんから受け取っているとは思うけど、早速明日の昼に魔法教会関東支部の応接間に来て頂戴な。ちょうど明日、そこへ行く事になっていますから。」

 

 

 「それは構いませんが、学校は早退してもよろしいでしょうか?」

 

 

 明日は土曜日で、午前中だけ授業が設けられている。そして午後からは部活に入っている生徒達は部活動を行ったり、風紀委員や部活連に所属している生徒も当番制で巡回や責務に時間を当てている。当然達也も学生の身分である上、明日も登校する。そして達也は生徒会役員なので、生徒会業務を片付けないといけない。午前中で授業が終わると言っても、すぐに帰れるわけではない。達也が早退すると申し出たのは当然の流れでもあった。

 

 その達也の言葉を真夜は笑みを浮かべて、やんわりと否定する。

 

 

 「そこまでしなくてもいいわ。達也さんの考えている通り、学生の本分は勉学ですもの。しっかりと学んできなさいな。合流するのは授業が終わってからで構いません。」

 

 

 つまり、生徒会業務はせずに、授業が終わり次第、帰宅部と同じように下校して、向かうように、ということだ。

 

 

 「了解いたしました。」

 

 

 「この事に関しては深雪さんには言っては駄目よ? せめて『会議がある』…とでも言っておきなさい。間違ってはいないのですから。」

 

 

 「そう伝えておきます、叔母上。」

 

 

 「ええ、……ところで達也さん、この前のCM出演の事だけど、凄い人気ですよ。これなら任務も上手く進みそうですわね~。」

 

 

 「……正直に言うと、非常に困っていますが、任務上慣れるべきかと思う事にしました。」

 

 

 「ふふふ、そうよね、今日は達也さん、大変だったそうね~。さっきも帰宅途中で絡まれたのでしょう?」

 

 

 「あまりにしつこさにさすがの俺も消してしまおうかと思ってしまいました。」

 

 

 「あれは仕方ないわね。限度というものを通り越しているもの。安心しなさいな、ちゃんと手を打っておきましたから。」

 

 

 「了解いたしました。」

 

 

 「では、任務終了まで頑張ってくださいな。それでは今日はこれで。明日は楽しみにして待っているわ。」

 

 

 達也はモニターに向かって一礼すると、それと同時に真夜とのテレビ電話回線が切れる。既に切れているかを確認してから達也は顔を上げる。

 

 

 そしてソファに腰を下ろし、身体を背もたれに預けた時、深雪と水波が着替えを済ませて、急いでリビングのドアを開けて真夜の謁見を受けようとしたのであった。

 

 

 




眠い~~! だけど今日の魔法科スクマギイベ、頑張る。


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陽気な電話 (下)

達也よ、待たせたな。 これで悪夢は終わる。…一時だけだと思うけど。
(全然フォローになっていない!)


 

 

 

 

 

 

 

 

 「…お兄様? 叔母様からご連絡があったと思うのですが、もうよろしかったのですか?」

 

 

 外出用の大人しめの丈の長いワンピースを着て、リビングに入ってきた深雪は、ソファーで背中を預けて座っている達也の姿を見て、軽く目を見開き、モニターが黒くなっている事を確認して、達也に問い掛ける。大抵真夜や任務での通達の一環で葉山さんが電話回線を送って来る時、相手は深雪に指定されているからだ。達也への仕事の命令でも、深雪を介してする場合がこれまでのやり方だった。なぜなら達也は深雪のガーディアンだから。

 本来ガーディアンが主である紳士やお嬢様の元を離れる事はない。常に傍にいて、主を危険から護っている。四葉のガーディアンを従える四葉家の一族の中では、主を護るために実年齢を偽って同学年として学校に在籍していた者もいるくらいだ。(もちろん、この場合の戸籍はすり替え済みだ。)

 だから、達也が深雪のガーディアンであるにもかかわらず、主から離れ、他の任務に就く事は特例中の特例なのだ。そしてそれを可能にしているのは、達也の『精霊の眼』で離れていても常に深雪を見守っているからできる事である。

 

 この現状を深雪は複雑な心境を抱えているが、達也が自分のガーディアンである限り、よっぽどのこと以外は、危ない仕事が舞い込んでこないし、危険な目に遭わせずに済むと思う事で、達也と深雪との関係について、そう自分に納得させていた。

 

 そんな思いを抱えている深雪が帰宅して私室で着替えようとした際、真夜から連絡が来たと知れば、疲れている身体に鞭を打って、謁見に相応しく身支度するのは当然だ。いつも外出する以上に身支度には注意深くチェックし、水波と一緒に現れた。

 しかし、実際にリビングに来てみると、もう電話は終わっている。深雪が達也に問い掛けてしまうのも、驚くのも無理はなかった。

 

 

 「ああ、どうやら急遽用件が出来たようで、急ぎに俺に伝える事があっただけらしい。別に気にする必要は無いさ。」

 

 

 達也がもう終わったからというように、微笑み、手を振って大したことではなかったという。しかし深雪は別の事で気になっていた。達也は深雪が真夜の電話に出られなかった事を後悔しているだろうと思って、『気にする必要は無い』と言ったのだが、深雪は達也に急遽伝える事が出来たという要件の方が気にして、息を呑んでいた。もしかして今から達也に危ない仕事をさせるのではないかと…。

 

 そんな深雪の心の中を、達也は微妙な表情の変化から察し、自分の隣の席を手で叩いて、深雪を招く。深雪は、断るはずもなく導かれるまま達也の隣に座り、達也の腕に自分の腕を絡ませ、力を入れる。

 

 

 「大丈夫さ、深雪の思うような危険な事は頼まれていない。ただ明日、叔母上がこちらに用があるみたいで、そのついでに訪ねてこいと言われただけだ。大した用はないかもしれないが、一応呼ばれたから行ってくる。」

 

 

 「では私も…」

 

 

 「いや、叔母上は俺一人に用があるそうだから、深雪は学校で悪いが俺の分まで生徒会業務にあたってくれないか?」

 

 

 「……それなら仕方ありませんね。お兄様のためにも深雪は明日、頑張ります。」

 

 

 「よろしく頼む。 …水波も、明日は俺は午後から別行動になる。深雪の事は任せたぞ。」

 

 

 「はい、畏まりました。深雪様は水波がこの身を挺して守ります。」

 

 

 若干型苦しく思ったが、真剣にそう思っている水波に「そこまで深く考えなくていい」ともいえない上、スルーする。

 

 

 

 それで、真夜からの電話の件はこれで終了し、深雪は休憩時間、ずっと達也の腕に寄り添って、達也パワーを吸収したお蔭で、すっかり気分ルンルンだった。達也もそんな深雪を見て、笑顔を浮かべる。そして水波はそんな二人の様子を傍からずっと控えて見ていたため、気持ちや疲労が消化しきれずにいたが、いざ夕食作りを始めると、生き生きとして、三人仲良く少し遅めの夕食を食べるのであった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 一方、達也との電話を終えた真夜は、明日久し振りに達也と直接会える事に喜び、興奮しまくっていた。

 

 

 「ふふふ♥ 明日は達也さんを生で拝む事が出来るわ~。 叔母と甥って言っても、なかなか会えないものね~。こんなに愛しいのに~。」

 

 

 「奥様が喜ばれていらっしゃるのは大変喜ばしい事ですが、なぜお電話なされましたのでしょう? 私めがお伝えすればよかったのではありませんか?」

 

 

 興奮して書斎室の真ん中で回っている真夜に、一礼しながら問う。明日の御茶会については既に朝方に達也に渡した手紙に書いていた。日程については後から連絡するとも告げていたが、それだけなら葉山さんが伝えればよかっただけだ。真夜が直接電話に出る必要は無かった。その旨を葉山さんは気になって問いかけたのだが…。

 

 

 「だって、達也さんの顔が早く見たかったんだもの!! 明日なんて待っていられないわ!」

 

 

 「………左様でしたか。」

 

 

 当たり前じゃない!?と言わんばかりの逆に責められるような視線を受け、さすがの葉山さんも躊躇いの顔をするのだった。

 

 

 それから真夜は、堪りにたまった仕事のストレスを埋めるように、度々休憩を取れば、先程の達也との電話の録画を見て、「今日は色々あったものね~。だけど疲れていても、私に弱みを見せようとしない所が好き~!」…と言いながら、萌えていた。

 

 

 この電話で、真夜だけが陽気な気分に浸る事ができ、達也は(深雪や水波も巻き込まれる形でだが。)今日一日大変な目に遭った一日だったと記憶する日になった。

 

 

 




……って結局、得したのは、真夜だったんかい!!



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久しぶりの再会

アリス感~♪と思ったらルンルン踊るようなものではないぞ~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜から御茶会という名の呼び出しを受けた達也は翌日の午後、指定された日本魔法教会関東支部があるベイヒルズタワーの玄関口まで来ていた。入る前に魔法教会が設置されている階へ視線を向け、しばらく顔を見上げていた。それから覚悟を決めたのか、息を吐き、一歩踏み出す。

 

 

 (俺を茶会に招待するという、身分が高い者への扱いをした呼び出しは今までなかった…。というよりガーディアンである者を直接謁見を許可した前例もない…。

  一体、何を考えているのか…。

 

  おそらく今回受けている任務についてだとは思うが、叔母上がすんなり話すのかは半々と言った所か…。)

 

 

 …などと、これから何が起きるのか大隊把握してはいるものの、今までと違う自分の扱いの真意について、頭を捻りながら約束の場所までエレベーターで昇っていく。

 四葉家専用の入門コードを持っている達也は、魔法教会の入り口に設置されたセキュリティーを難なく通過し、真夜が待つと言っていた応接室へとやってきた。

 ここに来るまで職員にも会わなかった事を考えると、応接間への道中を人が通らないように魔法を使っているのだろうと達也は、手の込んだ警戒をしている事でやはりお茶会は建前ではないかと思う気持ちが強くなった。

 

 気が進まない気持ちはまだあったが、いつまでもドアの前で突っ立っているのはいけないと思い直し、ドアをロックする。すると中の気配が動くのを感じ、条件反射で身を構える。しかしドアが開いた瞬間、その警戒心も弱まり、そのまま中へ入室する。

 

 

 「………これはこれは達也殿、今日は奥様のために足を運んでくださり、誠にありがとうございます。」

 

 

 「別に歓迎されるようなことはしてはいないんですがね。…ところでなぜそんなに笑いを堪えているのですか?」

 

 

 「い、いえ…、何でもございません。ではこちらへどうぞ。皆さま既にお座りになっていますので。」

 

 

 「皆様?」

 

 

 自分以外にも呼ばれていたのかと達也は軽く目を見開いたが、奥から漂ってくる気配や視的情報から誰がいるのか理解できた。

 

 葉山さんに導かれるまま、長テーブルに既に座って待っていた先客たちと目が合った。

 

 

 「あら?達也君? どうしてここにいるのかしら?今日は学校じゃなかったの?」

 

 

 「……やはり達也も来たか。」

 

 

 「お久し振りです、風間少佐、響子さん。先日は御力をお貸しいだたきありがとうございます。…ところでお二人は何を?」

 

 

 達也の視線には訝しさと疑い、観察されていると思うような鋭いものだった。

 

 達也が二人に尋ねた質問も、「どうして二人がここにいるのですか?」ではない。

 

 二人がいる理由なんて分かりきっている。

 

 真夜が二人を招待したからに決まっている。ではなぜ二人を招待したのか?二人にも何かしらの役割を依頼するつもりだと思われる。その役割というのが恐らく今の任務に関する事だろう。ならどこまで二人は知っているのか?達也が抱くには当然の質問であり、的確な質問だった。

 

 

 風間と響子も達也が何を聞いているのか、瞬時に理解し、苦笑を浮かべる。

 

 

 「私達もある程度の事は知っているつもりだけど、まだそこまでは知らないわ。少なくとも、四葉家ご当主様の真意はまだ知らないけど。」

 

 

 「私達にも関係するであろう事案になるかもしれないと上からも言われたからな。」

 

 

 二人は直接的には口にしないが、達也がアイドルをしている事は二人のたまに視線を逸らす仕草で察した。

 同志に恥ずかしい事を知られ、少しむずかゆい気分になったが、それと同時に心強さも感じるのであった。

 

 

 




いよいよお茶会始まるかな~。 そしたら真夜の姿を拝めますな~。…どうなっているか分からないけど。


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奇妙な茶会の始まり

達也が~!! ギャグっぽくなった!?


 

 

 

 

 

 

 

 

 「達也さん、いらっしゃい。 よく来てくれましたね。さぞ大変…………だったみたいね。」

 

 

 達也が席についた時、奥の控室のドアが開き、真夜が応接室に入ってきた。開かれたドアは葉山さんが閉じ、いつの間に用意したのか、紅茶を淹れるためのポットやカップ、洋菓子を乗せた台車を押して接待を始める。

 それをよそに、真夜は一瞬達也を見て、言葉を失ったが、すぐに愛想笑いを浮かべて、葉山さんに引いてもらった椅子に座る。

 

 

 「達也さんもお掛けなさいな。」

 

 

 「……失礼いたします。」

 

 

 さっきから案内された椅子の隣に立ったままだった達也は、真夜に言われてやっと座る。真夜のように葉山さんに椅子を引いてもらうようなことはせず、一人でする。

 招待されたとはいえ、真夜の命令なしで勝手に椅子に座るなんて真似は使用人にとって、決してしてはならない事だ。それは達也が今まで四葉で生きてきた中で身に付けた使用人としてのマナーであり、当然真夜も葉山さんもそれが達也の取るべき行動だと考えている。

 だからこの二人のやり取りは何も問題ではなく、これが日常であるのだ。

 

 

 「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。まずは今日のために葉山さんが特別な茶や菓子を取り揃えております。さぁ、召し上がってくださいな。」

 

 

 真夜がそう言いだすと、葉山さんが白いテーブルクロスが敷かれている長テーブルの上に飾りつけされた茶菓子や淹れたての紅茶の入ったカップをそれぞれの目の前においていく。その動作に思わず達也も動きそうになったが、葉山さんが視線で座っていてもよいと伝えてきたので、浮かしかけた腰を椅子に留める。葉山さんが言うなら、それは真夜の言葉という事になるのだから。

 

 

 真夜の言うとおり、なかなかの美味の菓子が並んでおり、響子は食べる度に目を輝かせて頬に手を当てたり、うっとりした目をした。時には、真夜ともお菓子で意気投合してしまい、話が少し盛り上がった。その際、浮いてしまっている風間と達也は視線で

 

 

 「女性はこういうのが好きなんだな…。」

 

 

 「そうですね…。ケーキバイキングに行けば、こんなふうになります。」

 

 

 「…達也、まさか行った事があるのか?」

 

 

 「はい、深雪と一緒に何回かは。ですが、大抵の客が女性ばかりでしたので。あまり居心地が良いという印象はなかったですね。甘い物が特に好きだという人が行くような印象を受けました。」

 

 

 「お前がそう言うなら、そうなんだろうな…。考える必要があるな。」

 

 

 「…何を考えるというのですか? もしかして少佐も行かれているのですか?」

 

 

 「いや、まだ言った事はないのだが、今度親戚が田舎から観光にやってくると言うのでな。前もって行きたいところをリストアップしてもらったんだが、その中にケーキバイキングとあったから、どういう所なのかと考えていた最中だったんだ。藤林に聞こうと思っていたんだが、どうにも切り出しにくくてな…。」

 

 

 「お気持ち察します。」

 

 

 …等と言った会話は行われていた。(視線だけでこんなに濃い話をしている訳がない!!…という人もいると思います。そうです、二人は視線のみならず足で床を鳴らしたり、擦ったりしてモールス信号を発し、時には指も使って音を出して会話をしていた。)

 

 

 そんな世界が二分するような事もあったが、女子トークを終えた真夜と響子が紅茶を飲んで、喉を潤わせた所で、達也はずっと来てから疑問に思っていた事を口にした。

 

 

 「ところで、皆さんはどうして俺から目を逸らすんです?」

 

 

 さっきから話していると目を合わせてくれるが、終わると元に目を逸らした状態になるし、たまに我慢できなくなったからなのか、突然含み笑いをし出す。

 

 

 「…いや…」

 

 

 「ご、ごめんなさい、言いたくないわ…。」

 

 

 「……達也さん、似合っていますわよ?」

 

 

 何を言っているか、さっぱりだったが、真夜の斜め後ろに控えている葉山さんが手持ちの鏡を取りだし、達也に見せる様な形で持つ。そこには達也の姿が映っていて、目の良い達也はそれを見て、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 (しまった…!!!

 

  …俺は、女装したままじゃないかっ!!?)

 

 

 

 

 

 

 




えええええ~~~!! 達也が女装~~!!?? つまりカツラをしてますよね!?化粧も!? どういう事!?


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呼び起こされた意識

すぐに思い出せないほど、女装を奥に仕舞いこんでいた達也…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 皆に指摘されるまで自分が女装していた事を意識の底から呼び起こす達也。達也は物事を忘れたりはしない。その時の状況によって必要なものか、不必要なものかを判別し、不必要なら重要度が低下し、それと同時に意識から外すだけだ。

 

 達也にとって女装は、この場では意味のない事だったため、自然に意識から外れていた。そうでもしないと、達也の記憶力の高さに余裕が生まれないからだ。達也は一定の感情しか持てない代わりに人工魔法演算領域を実母である司波深夜、旧姓、四葉深夜の特異魔法『精神構造干渉魔法』によって、副作用として完全記憶能力を身に付けた。忘れたくても忘れられないし、必要ではない情報も一度入ってしまえば消す事も出来ない。膨大な知識量を有する達也だが、これらを整理整頓し、必要になれば瞬時に取りだせるようにしておかないと記憶した物すべてが頭の中で点在する様な形になってしまうため、取捨選択している。その過程を行っているので、達也は筆記試験では常に学年一位である。実際にクラスメイト達からは様々な事を達也が知っているため、休憩時間になる度に頼ってきたりする。

 

 

 

 …そんな達也がなぜ女装をしてきてたのか…?

 

 

 「女装が趣味になった…という訳ではないのだろう?達也。」

 

 

 「当たり前のことを言わないでください、少佐。俺にそんな趣味はありませんし、これからもそれはないです。これは今回だけです。」

 

 

 きっぱりと否定した達也の鋭い視線を受けた風間は、冗談だと軽く言い放ち、本気で聞いたわけではないとアピールする、そうしなければ消されそうだと判断したためだ。それくらい達也も女装は本意ではなかったという事だ。

 

 

 「あら、そうなの?達也君。てっきりそういう意味もあって女装したままなのかと思ってたわ。」

 

 

 「…どういう意味ですか、響子さん。」

 

 

 「秘密よ。」

 

 

 「でも似合っていましたわよ?達也さんの女装。そうですわよね?葉山さん。」

 

 

 「ええ、奥様。達也殿の女装は見ものでした。見事に背の高いモデルの女性のような印象がありました。」

 

 

 女装を褒める真夜と葉山さんの言葉に達也は寒気を味わった。いつもなら褒めるより冷たい視線で貶す方が扱いとしてはこっちが主流だ。しかし、実際はその逆で、何か企んでいるのでは思うくらいだった。まぁ、本当の理由は真夜が単に達也の女装というレアな瞬間に立ち会う事が出来たから、嬉しさをひた隠しにしながら達也の女装を盗み見て堪能していた。葉山さんも真夜にこっそりと命令され、達也に気づかれないギリギリの攻めで隠し撮りで女装達也を写真に収めていった。

 

 

 達也はいつまでも女装でいるのは嫌だったので、すぐにカツラも取り、普段の達也に戻る。

 

 だが、達也の女装が印象深かったため、少しの間達也を除いた人物全員がしばらく心の中で達也の事を『達子』と変換して話すのだった…。

 

 

 




達也の女装の際の名が達子…か~。 


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秘策の結果

やっぱり達也に限らず、男は女装には抵抗あるのだろうか…?


 

 

 

 

 

 

 

 「あら、残念だわ。せっかく似合っていたのに。」

 

 

 「いつまでもこの格好でいる必要はありませんから。…あと少佐、なぜ黙っていたんですか。」

 

 

 「いや、それはだな……」

 

 

 「隊長はね、達也君。私がこっそり教えなかったら達也君の女装に気が付かなかったんだから。てっきり独立魔装大隊に配属になる女軍人だと思っていたんですって。」

 

 

 「藤林…、今度の演習では覚悟しておくように。」

 

 

 「……こう言っておいた方が”面白くてつい放置していた”とか、気付いていたよりは気付かなかったってしといた方が達也君の隊長への好感度はかなり違ってくると思います。」

 

 

 「………そうか、なら少しだけきつめのしごきに変えておこう。」

 

 

 「全然変わりませんから、どっち道、演習は厳しいではないですか。」

 

 

 響子は助け舟を出したつもりだったが、どうやら風間のちょっとした恥ずかしいエピソードを話してしまったようで、訓練でのノルマが増大してしまう結果になった。風間は響子の助け舟の意味は理解していたが、それでもプライドが傷ついたのは否めない。これが風間の最大の譲歩だった。

 

 

 「大丈夫よ、達也君。達也君が女装していた理由も分かっているから。確かにこれはいいアイデアだと思うしね。」

 

 

 風間と話すのも気まずくなってきたので、今日は達也に振り向いて話す。その響子の言葉を聞いて、達也は内心ほっとした。

 

 

 そうだ、達也が女装したのは理由がある。

 

 その理由は、一般人の目から逃れるためだ。

 

 

 …というのも、達也を取り巻く周りの反応が一番影響している。

 

 昨日から達也はアイドルRYUに似ているという事で、声を掛けられたり、好意的な視線を受けたり、追いかけられたりと身を削るような激しい疲労に囚われた。午前中だけだったならまだ上手く対応できたかもしれないが、生徒会業務を終え、門を出た時から達也の更なる予想外の出来事に巻き込まれたのだ。

 

 下校のため、門を出た達也。

 

 ちょうど部活も終わって、エリカ、レオ、美月、水波と一緒に帰る事になった。風紀委員で今日は巡回当番だった幹比古と雫も合流する。久々に友人たち全員で帰るとは和むものだった。

 しかし、門を出てしばらくして、歩き出すと、通学路では多くのRYUファン達が多数いて、達也の顔を見るなり、突進してきて、握手やサイン、写真を頼んでくるのであった。あっという間に取り囲まれてしまうが、何重にもなった人の輪の中を間を擦り抜けていき、難なく脱出した達也は、友人達を連れて、すぐに離脱した。行きつけの喫茶店でコーヒーでも飲もうと話していて、そこを素通りしてしまったが、みんなはあれじゃあ仕方ないよ。…と許した。

 

 今度皆で寄る時は、達也のおごりだという事が決定してから、友人達と駅のホームで分かれたりした。しかし、その後も絶えず達也に話しかけてくる女性達が大量にいて、帰ってきた時は疲労困ぱいだった。

 

 

 そんな事があった翌日に都会にあるこの魔法教会まで来なければいけない。素の姿だけでここまでの騒ぎになっているのだ。徹底した変装をして、安全に、そして滞りなく投r着できるようにと、達也が考えたら、秘策が浮かんだ、

 

 その秘策というのが、女装だったわけだ。

 

 性別が入れ替わって、気付かれる可能性も低くなり、その意識から声を掛けられる事もなくなるだろうと思ったのがきっかけだ。

 

 そしてそれが見事に成功し、女装の結果、ひそひそと友や知り合いに話している時もあったが、声を掛けられる事はなくなったため、違和感なく今の状態になってても、問題なかったのである。

 

 

 「私だってああなったら、きっと男装するかもだしね。」

 

 

 響子のこの言葉で、達也は一回頷いて共感者が現れた事に気持ち的に余裕が生まれて内心は何度も頷くのだった。

 

 

 

 




達也たちが帰ってきて疲労困憊だった理由はそれか!?


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本当の茶会

達也の女装騒ぎでバタバタしたからね。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「それではそろそろお茶会を致しましょうか…。」

 

 

 真夜が紅茶を口に含んで、テーブルを見渡しながら笑みを浮かべる。

 

 それを見て、必然と達也も風間も、響子も顔を引き締めて、姿勢を正す。真夜の醸し出すオーラが冷ややかで威圧感があるいつもの四葉家当主としての振る舞いと共に、現れていた。

 

 既にお茶会は始まっている。

 

 しかし真夜が言っているのは、そう言う意味ではない。本来のこの”茶会”という名目で呼んだメンバーとの”会合”を始めましょう…という意味だ。

 

 その意味は真夜の態度が変わった事で、ここに呼ばれた者全員が理解した。

 

 全員が仕事の顔になった。

 

 食べていたデザートもフォークを置いて、控えて真夜の次の言葉を待っている。

 

 

 そんな状況の中、達也は心の中で疑問と警戒が湧き上がっていた。

 

 

 (少佐も響子さんも任務に赴く際の覚悟を決めた顔をしている…。)

 

 

  覚悟を決めるという事は、そうさせる何かがあるという事。過酷な任務を命じられた場合…、例えば要人暗殺や襲撃作戦、前線での防衛戦ではへたをすれば自分の命さえ危ない。何も考えずに無暗に突入すれば死が訪れるのは当たり前だ。だから死が直面する様な任務や大事な何かと天秤にかけなければいけない時などには相応の覚悟がいる。その覚悟が今の二人の顔には固く刻まれていた。

  独立魔装大隊の戦闘訓練や強化演習、実際の軍の勅命による任務などで会って、共に取り組む際に良く見かけている彼らの顔に今まで違和感は感じていなかった。なにより彼らの国を守りたいという精神には微笑ましく好感を抱いているほどだ。

 しかし、まだ何も話が始まっていない段階で、しかも戦闘中でもないこの場で彼らの覚悟した顔は達也にとって、訝しさを持たせるには十分なものだった。

 

 そして達也が考えた事は、二人とも真夜が何故ここに呼んだのか、何を二人にさせようとしているのか事前に知っているという事。それが二人に覚悟を持たせていると考えた。

 

 

 (二人はもしかして俺がアイドルをしている事を知っているのか…?そうか…、だからあんなフォローが出来たと考えれば、辻褄が合う。

  響子さんとはこの前に会ってから、今日再会した。それなら昨日の俺に起きた出来事について感想も言えない。

 

  俺の今の任務について知っているというなら、今のスケジュールを考えると叔母上が切り出す内容は俺の事で間違いない。それを二人は何処まで知っているんだ…?

  

  叔母上直々のこの任務の通達だったんだ…。叔母上が独立魔装大隊に教えたという訳ではないだろう…。この人はそんな面倒な真似はしない。

 

  だったら叔母上でも把握しきれない情報網で、情報をハッキングしたのか?)

 

 

 達也の推測が止まらない。達也は二人が四葉家の情報をハッキングしたのではないかという疑惑が上がり、瞬時に響子に視線を向ける。それができるとすれば響子しかいないだろう。

 

 

 (……まずいな、そうなるとこの茶会の本当の意味は……)

 

 

 心の中で先の予想をした達也は、痛々しい妄想が浮かんでいた。しかし顔には平然としている、ポーカーフェイスが顕在していたのであった…。

 

 

 




え? 達也、そこまでは…。いや、可能性はなくもないと思う…。いや風間さん達はそんな事していないから…ね?(汗)


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決別か、杞憂か

選択ラグが来た…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が風間と響子に抱いている疑問や警戒は、真夜も理解していた。頭の回転が良く、遠慮せずに核心を突くような会話もできる達也の物分かりの良すぎる部分には真夜が心の中で褒めるくらい、好感を抱いている。

 そのため達也なら自分が同じような境遇に遭遇した場合どう考えていくのかを事前にシミュレーションしていた。だから達也の国防軍に対して裏切られている事を仮定する事は想像しやすかった。

 

 そして達也が今後どんな流れになるか、考えている事も見通していた…。

 

 

 いや…、見通すよりも意見が一致した。

 

 

 (さすが達也さんね…。私と同じ予測をするなんて。本当にこの子には気兼ねなく本気で話せるから、無駄な話をしなくて済んで嬉しいわ…。)

 

 

 達也が風間や響子に向ける訝しげな視線を面白そうに眺める真夜の頭の中では、ある光景が広がっていた。

 

 

 もし達也の言うとおり、国防軍が無断で四葉家内の情報網にアクセスし、ハッキングで情報を入手していたのなら、国防軍と結んでいた、いや独立魔装大隊と結んでいた契約を破棄し、決別を選択していただろう。

 

 そうなれば、独立魔装大隊の処分も実行するだろう。

 

 まず、四葉家の情報網は強固なセキュリティーをいくつも網を張っていて、更に独自の防衛システムを仕組んで大事な情報にはたどり着けないようにしている。ただの天才ハッカーでは太刀打ちできない。しかし、魔法的な面でも天才的なハッキングなら多少の情報を搾り取るくらいはできる。そのハッカーとして可能なのは、響子だけ。他にもオペレーターは何人もいるが、響子ほど証拠も残さず情報を抜き取る事は出来ない。だからまずは、響子を一番目に入る場所に連れ込む。そして端末妨害装置を張った部屋に押し込み、連絡不能にする。そこで息の根を止めれば、問題はない。

 

 敵に回せば厄介だし、四葉家に危害をもたらそうとすれば、四葉家の力を削のみで味わう事になってしまう。

 

 達也は身体に開いた無数の穴から血が噴き出し、床に倒れて動かない響子や風間の姿を想像する。その二人の屍を自業自得だと言って、見下ろす自分の姿まで想像した。

 

 

 (当然といれば当然か・・。自ら危険な目に飛び込んでいけばこうなる。理由はなんであれ、深雪に危害が降り注ぐなら、例え響子さんや少佐でも許しはしない…。)

 

 

 はっきりとした仲違いを考え、分解魔法を構築するのに、準備をしておく。予測では真夜がこの部屋だけで『流星群』を発動する感じだが、二人とも古式魔法師の家系に生まれている。現代魔法では対抗できない昔ながらの魔法で真夜の阿呆を万が一塞がれれば、逃げられてしまう。達也はそうさせないために、精霊の眼を使って、二人を監視し、臨戦態勢をいつでも取れるにするのであった。

 

 

 そこまでして、決別だった時の事を考える達也に対し、真夜は想像以上に予測が一致しているため、笑いが込み上げてきたが、鉄壁の作り笑いで封じ込め、やんわりとした声色を使って、達也の疑念を晴らす。

 

 

 「達也さん、問題ないわ。 彼らを呼んだ理由はそうではないから。」

 

 

 決別かと一時は思考が流れたが、それは杞憂に終わるのであった。

 

 

 




危ない、危ない!! 杞憂でよかったんだよ!
四葉家の恐ろしさが~!! ちょっとした情報でも粛清の対象にされてしまう。仲が良くてもあっさりと斬る捨てられてしまう関係って怖いわ!


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共同任務依頼

ふふふ…、真夜はどこまで言うのかな~?


 

 

 

 

 

 

 

 

 「ではどういう意味でお二人を招待されたのですか、叔母上。」

 

 

 鋭い視線が真夜に向けられる。真夜はそれを正面で受け取り、冷ややかな笑みを浮かべたまま、顔を正面で固定して話を切りだす。問いかけた達也に向けたものではなく、この場に集まった全員に向けて。

 

 

 「達也さんも気づいている通り、貴方に今与えている極秘任務の事で新たに付け加える事にしたので、その件でお二人をお呼びしただけです。

  そして彼らは私達の任務については既に知っています。」

 

 

 「……それはどのような経緯ですか?」

 

 

 「あ…、いつも通り達也君を監視していただけよ? だって国防軍の重要な戦力であり、世界でも数十人しかいない貴重な戦略級魔法師の一人ですもの。しっかりとフォローするなり、力を暴走させないように警戒するのは私達の仕事でもあるから。

  ……言っておきけど、断じて四葉家から情報をハッキングしてはいないわよ?たとえ私の腕でやってみたところで、すぐに私だとバレてあなたに消されるのは分かりきっているもの。自分の命を終わらせるなんて馬鹿はしないわ。」

 

 

 達也の質問に答えたのは響子で、すぐに誤解だと真実を告げる。風間も響子が本当の事をいう事に反論しない。円滑に話を進むためには必要な事だと割り切っているからだ。そして達也は、去年の横浜事変で、同級生がテロリストと接触し、スパイとして自分に近づいてきた時も、自分の監視をしている事をほのめかせて、しかも自分にも気づかせる事なく行っていた事は聞いていた。だから響子が話している事も真実であると表情や声色からも考えて、納得した。納得すれば、さっきまで抱いていた疑念も警戒心も殺意も嘘のように消す事が出来た。

 

 

 「そうですか、分かりました。

 

  ……それで国防軍に対して何をさせるつもりなのですか?叔母上。」

 

 

 前半は響子に対し、後半は真夜に話しかける。

 

 二人がこの任務…アイドル活動について知った経緯は納得したが、一体国防軍に何をさせるというのが意味が分からない。アイドル活動と言っても、基本はテレビや雑誌に姿を見せたり、踊ったりするだけだ。国防軍が介入し、武器を扱うような事態があるというのか?

 

 

 (もしかして、更なる人気獲得のために、ハイジャックに見せかけた立てこもりを国防軍にさせて、俺に解決させようとしているのか?

  ………いや、いくらなんでもそこまで考え過ぎか。

 

  しかしほかに考えられる事と言えば………)

 

 

 達也の頭の中で、国防軍の有効な役割が見込めそうな策が展開されていく。しかし意識半分は真夜の言葉を聞き、その真意を知ろうと向けていた。

 

 

 「いえ、国防軍に依頼するつもりはありません。あくまで独立魔装大隊に、ですよ、達也さん。これは極秘任務です。国防軍にまで知られると、極秘とは言えません。それに………」

 

 

 一度言葉を切り、紅茶を口にする真夜の表情を見て、達也は引っ掛かりを覚える。

 

 

 「……それに彼らには物騒な事をお願いするつもりは今のところありません。あくまでお手伝い…といったものですわ。」

 

 

 「お手伝い…ですか。具体的に何をすればよろしいのですか、四葉殿。」

 

 

 風間はようやく本題を切り出せたという事もあり、待っていた分の気合も入った声色で真夜に問い掛ける。

 それを微笑ましい様子で受け取ると、真夜はまさかの共同任務依頼の内容を口にした。

 

 

 「そうですわね、貴方方には達也の…、いえ、RYUのマネージャーとしてアイドル活動をサポートしてもらいたいのです。」

 

 

 「………………」

 

 

 「え…?」

 

 

 「………は?」

 

 

 真夜の言葉を疑う三人はそれぞれ固まって、思考停止をしばらくするのであった。

 

 

 




そうきたか~~!!?

真夜も考えますな~。それでそれで?続きは明日~!


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響子の役割

アイドルストーリーらしくなったかな?


 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしてそのような流れになったのですか?」

 

 

 三人のうち一番初めに意識が復活した達也は、真夜に呆れ感を隠さずに問いただす。いくらなんでも軍人にアイドルのマネージャーをしろと言うのは、無理があるのではないかと思ったからだ。

 しかし達也の意見なんて気にもせずに真夜は既に決定事項だと言わんばかりの態度で視線は響子に固定していた。

 

 

 「藤林さんはどうかしら? RYUのマネージャーをして下さるかしら?あなたなら日頃から風間さんの秘書的立場でサポートをしている訳だし、スケジュール管理等はお手の物でしょう?マネージャーとしての力量も十分あるとみているのよ。

  大丈夫よ、やる事は今と大して変わらないわ。 如何かしら?」

 

 

 「とてもお話はありがたいですが、いきなり言われましても私にも予定がありますから…。」

 

 

 「あら、それなら大丈夫よ。既に風間さんからあなたの予定を買い取っているから。風間さんから予定は入れないように言われているのではなくて?」

 

 

 「そうでした。申し訳ありません、忘れていました。」

 

 

 忘れていたわけではないが、常套文句での誘いを断る手段は破断してしまい、これは既に決定なんだと理解した。風間には予定は入れないようには言われていたが、この為だったのかと思えば、納得できる。納得はできるが、まさかアイドルのマネージャーをするためだとは誰も想像できないでしょ。

 

 

 「いいのよ、気にしなくて。ちゃんと給料も支払いますわよ? 後…そうね~、佐伯さんからは許可をもらっているから安心していいわ。」

 

 

 佐伯から許可をもらっているのなら、自分が断れるはずもない。完全に遊ばれたと知って、ムッとするが確かに真夜が言っている通り、マネージャーとしての働きは秘書としての働きと似ている部分が多々ある。やれない事もないし、何より面白そうだからやってみてもいいかなと考える響子だった。

 

 

 

 「畏まりました、その任務は私も参加させていただきます。…達也君の、RYU君のマネージャーとして。」

 

 

 「助かります、ありがとうございます。それでは今からあなたの端末にRYUのアイドル活動のスケジュールや契約事項、時間区分等をこの任務を達成するために必要な情報を渡しておきます。葉山さん。」

 

 

 「はい、ではこちらで御座います。」

 

 

 今まで真夜が把握し、スケジュールを組んでいた書類のコピーを響子に渡し、引継ぎをする。

 

 そのデータを読んでいきながら、響子は自分がこの任務で与えられたマネージャーとしての役割を果たす事を引き受ける事にいたずらっ子が次の悪戯を考える様な顔で楽しみを抱くのであった。

 

 

 




一度は断ってみたけど、本当は響子はやってみたかったと思うんだよね~。マネージャーもそうだけど、アイドルも?


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試用期間

今日発売の新刊ゲット~!! 達也様、やっぱりカッコいいわ~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは達也さん、これからは任務において藤林さんが貴女のサポートに就いてくれますので、遠慮せずにね。」

 

 

 「…はい、畏まりました。」

 

 

 達也の意思に関係なく、決定した事項であると言外で告げ、これまで一人で負担していた事も響子を使うようにも言い渡され、達也は真夜の命令に従う意思表示をするしかなかった。それでも達也はそうと決まれば、有効的な手段を考え、実行するだけだが。それに達也自身、響子がマネージャーになる事に反対している訳ではない。寧ろマネージャーをしてくれた方が、時間調整もスムーズになるだろうし、響子とは互いに性格や事情もそれなりに知っている。無駄な仕事のオファーを自分が知らない内に受けたりはしないだろうという安心感もあり、この案には賛成だった。

 

 しかし、響子がマネージャーになるのがなぜ今なのか?という疑念があるため、渋っていたのだ。マネージャーを依頼するなら、初めの頃に組み込んでいた方がこれまでの仕事でもやりやすかった。しかも響子は達也と違って、人付き合いもいい。仕事を見つけるのが人脈だという意味合いが強いこの芸能界では、力になるのは確かだ。だから達也は、真夜が今切り出してきたこの共同任務の申し出の訳が理解できなかった。今まで触れてきてなかった芸能界の事だけに、いつものような先も見据えた思考がうまくできない。

 

 

 「そんなに固く構えなくていいですわ。これも計画の一環で下から。」

 

 

 しかし、真夜からの話で、その苦労は必要なさそうだ。達也はその理由を聞くと同時に、許容範囲を聞き逃さないように気を配る。何でも真夜から聞こうとすると、非常にまずい事が起きそうな予感が垣間見えたからだ。

 

 

 「この件は元々依頼するつもりだったという事ですか?」

 

 

 「ええ、その通りです、風間さん。我々四葉家は十師族の中でも力があると言われていますけど、それは完璧ではありません。やはり芸能界に関しては、そこまでの人脈を伸ばしていませんから、弱い部分があるのですよ。ですからこれらに特化し、アシストできる人材がサポートしていただければ、もっとことを円滑に進めると思っておりました。」

 

 

 それで藤林を抜擢したというのであれば納得ですが、それなら前々から我々が先にコネを作りだす事も出来たと思いますが、なぜ今なんです?」

 

 

 風間が達也が聞きにくい事まで聞いてくれるものだから、達也は余裕を持って聞く事が出来た。

 

 

 「試していたのですよ、達也さんを。」

 

 

 真夜が一言だけそう呟くと、紅茶を飲んで続きを話そうとしない。しかし、達也はその一言だけで真夜が何を考えて、この任務を見ていたのか、理解していたのであった。

 

 

 




原作にて。

遠山司…、許すまじ~!! 達也を消そうとするなんて!あ…、出も理由が達也が七宝に話していた内容と被る気が…。もしこれに当てはめてみたら、達也が悪という事に…。いや~~!!

現時点での感想でした。(まだ半分くらい?)


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真夜の第一計画

真夜がネタばらしなんてすると、危ないので。達也の思考の中や説明で…という流れで行きます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「試していたのですよ、達也さん。」

 

 

 真夜がそう言い切った事で、達也は真夜のこれまでの計画について完全に理解した。

 

 

 初めから響子をマネージャーとして起用しなかったのは、まだ自分がどこまで芸能界に通じるか未知であったからだ。

 

 この任務を説明された際、自分が芸術関係には向いていないという事は真夜や葉山さんにも知らせた。実際に歌ってみたり、踊ってみたり、様々なテストを受けてみた。そのテスト結果を見た真夜と葉山さんは時々困った顔をするのを見かける。自分でも感じたとおり、やはり表現する際の感情的な部分に気持ちが入らない。元々人工魔法師計画で感情を消されてしまっているため、一定の感情を持つ事が出来ない。だからそれがネックとなり、技術があっても、人に感動を与える様なインパクトが引き出せなかった。

 

 そんな達也の一番の欠点とも言えるこの状況に、真夜がどう対処するべきか思考を巡らせたのは言うまでもない。

 

 達也の欠点を上手く対処しながら、アイドル活動をさせる方法を考えた結果、真夜はいくつかの条件を出し、達也に一人でどこまでできるか試してみる事にしたのだった。

 

 実際に芸能界デビューし、現場でアイドルとして振る舞えるか見てみるのと、少人数だけの限られた空間だけでのアイドルとしてのテストを見てみるのとでは判断に差が出ると思ったからだ。

 

 だから、達也が”RYU”というアイドルとしての自分をどこまで演技られるか…、そして仕事のオファーを熟せるのか…、真夜はアイドル活動を通して達也のアイドルとしての資質を試していたのだ。

 

 

 (確かに叔母上のやり方は合理的だ。今まで与えられてきた任務とははっきり言って真逆の任務内容だ。しかも俺にとってはさらに困難を極めるもの。任務遂行できるか、テストする事は寧ろ正解だった。お蔭で俺も不本意だがこのアイドル…というものになった以上任務はやり熟す。そのためにも多くを知れてよかった。)

 

 

 結果論しかないが、達也は真夜の計画の一端を理解して、改めてこの任務に対し、どう自分が動いていくか少し組み立てやすくなり、アイドルとしての振る舞い方にも多少やれるようになった気がした。

 

 

 そして試しも兼ねたCM出演での世間の評価を見て、本格的に芸能界で人気を得るために今回響子を呼び出し、マネージャーとして起用する事を決定したのだ。

 

 ここまで考えた上での真夜の計画に、感心する達也だが、あくまでこれが計画のほんの一端しかない事は真夜の含みのある笑みから確信した。

 

 

 (どうやらまだ秘策が隠されていそうだな。…まぁその時にならないと、分からないだろうから気にしないでおこう。)

 

 

 達也は今が言及しない方向で決め、これからのアイドル活動の方針を真夜から説明を受ける視線に戻るのであった。

 

 

 




真夜は実は達也のアイドル活動についてしっかり考えていたんだね~。あの熱烈なファンっぷりを見ているだけに印象ががらりと変わって見えるね。
(原作では決しておかしくないとは思うけど。)


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次なる仕事

さぁ、いよいよ達也に新たな仕事が~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 改善した新たなアイドル活動のスタートを切る事になった達也は、新しくマネージャーとして響子を迎え、一段と今以上の人気と知名度を上げる事を義務付けられた。

 

 

 「藤林さんもいる事ですし、……ああそうでした、藤林さんはお借りさせていただきますね、風間さん。」

 

 

 「いえ、自分はどちらかというと、この話し合いの立会人みたいなものなので気にしないでください。」

 

 

 「それで構わないの? …分かったわ、では話の続きなのだけれども、もう既に次の仕事を見繕っておいたので、それに向けて準備をお願いしますわ。」

 

 

 葉山さんが新たに入れ直した紅茶を飲んで、カップの中身を眺めながら今後の予定を話した真夜に、達也は「もう仕事のオファーを受けているのか」という気持ちよりも、「正体がバレる事なく、無事に仕事をこなせる内容なのか」という訝しむ気持ちの方が勝っていた。それに元々アイドル活動での仕事のオファーは基本真夜が選び、そして決定しているのだ。達也が決める事ではない。そのために仕事のオファーを受けた後にその仕事内容を聞かされる達也は、唯仕事をこなすしかない。しかし、芸術関連に対する完全なる欠点も持つため、自分自身で選んで受ける事は出来ない。…というより、ほぼすべての仕事を断るだろう。その手間を真夜が携わっているのだから、文句も言う訳はいかない。達也にとっては真夜に任せて見る方が都合がよかった。

 

 新体制でも真夜が達也に…ではなく、RYUに向けた仕事のオファーをすべてチェックし、その中から今、達也にできるものや人気が取れそうなものを見つけ出し、オファーを請け負う事になった。そして受けた仕事について、響子に伝えられ、響子から達也へ伝えられるというシステムになった。スケジュール管理する響子に仕事の調整を事前にさせるためだ。負担も軽減され、達也は学校生活を送り、いつも通りの日常を続けながら任務に遂行できるように、響子が調整を担う。突然の仕事で達也が忙しなく動く事もなくなる手筈になる。

 

 達也にはメリットでもあるが、何が告げられるか分からない分、見構えてしまうのは仕方ないだろう。

 

 

 そんな達也の心境を見抜いているのか、真夜は楽しそうに含み笑いをし、葉山さんに横目で合図を送る。

 真夜の指示を受け、葉山さんが恭しく礼をすると、葉山さんの口から次なる仕事内容が言い渡された。

 

 

 「では、恐れながら奥様に代わって私めが発表させていただきます。

  今度の仕事のオファーは、………歌番組『ミュージックパラダイス』への出演が決定いたしました。収録は二日後の午後九時からです。」

 

 

 「しかも生放送だから、失敗もできないわよ、達也さん。頑張ってちょうだいな。」

 

 

 葉山さんが告げた次なる仕事内容に補足として真夜が更なる追い込みをかける。

 

 次なる仕事を聞いた達也は、心の中で「それはさすがに自分の限界を超えているのではないだろうか?」と今にも口から出そうになるほど、この仕事を放棄したくなったのである。

 

 

 




いよいよ達也を歌番組に出すぞ! 歌詞を・・・・・・うまくできたらいいな~。


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出演しないで如何する!?

達也様の劇場版、上半身見事で、筋肉質な御身体が見られるポスターゲット~!!
萌えてしまって、テンション上げ上げです!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたの?達也君? なんだか浮かない顔しているわよ?」

 

 

 「いえ、人前で踊ったり、歌うという事はあまりした事ないので、できればしたくないと思っただけです。」

 

 

 「なんで!? 達也君、これはチャンスなのよ!? もっと喜びなさい!」

 

 

 「…響子さん?どうしてそこまで盛り上がれるのですか。」

 

 

 「え、知らないの!? ”ミュージックパラダイス”よ!?」

 

 

 いつもよりテンションが高い響子だったため、達也が若干呆れた表情で質問してみたが、逆に驚きの顔で見つめ直され、質問を返された。響子の問いかけに達也は首をすくめて知らない事を告げる。一応、確認も兼て風間にも視線で尋ねてみるが、どうやら風間はその歌番組をいうものを知らないらしい。

 そもそも達也にこの質問を返すこと自体、無意味なのだ。達也が知らないのは当たり前なのだから。元々メディア業界や芸能界に興味がないので、これらに関する情報は持ち合わせていないし、アイドル活動するようになってから仕入れて見ているものの、棒大過ぎてまだ把握しきれていなかった。だから達也がこの歌番組の事を知らなくても無理はなかった。

 まぁ、達也と同じく知らなかった風間も歌番組やエンターテイメント系は見ないので、知らないが。

 

 

 そんな達也たちの反応を見て、その理由を察した響子は、達也に説明するのだった。

 

 

 「いい? ”ミュージックパラダイス”は通称、ミュパラって呼ばれるくらい、歌番組の中で一番視聴率の高い、人気番組なの!

  アイドルデビューして、名を広めるならこのミュパラに出演する事がアイドルとして一人前だと認められる、いわば大人気アイドルになるための登竜門とも言える番組なのよ!

  そのミュパラに出演できるのよ! 出演しない訳がないじゃない!?」

 

 

 相当な番組ファンなのだろうと疑いようのない態度を見せながら説明した響子はガッツポーズを決めて、燃え上がっていた。

 

 

 「まさにこれからの人気獲得のためにはうってつけじゃないかしら?葉山さんもそう思うでしょう?」

 

 

 「はい、奥様の言う通りでございます。この私めが調べましたところ、デビューしてほんの一か月少し経ってからこの番組への出演依頼が舞い込んできたアイドルの前例は御座いませんでした。これは異例中の異例です。

  それだけ今、注目されているのです。この機を使わない手はないでしょう。」

 

 

 更に真夜と葉山さんが補足説明なのだろうか、やたらとこの仕事は今後のRYUの人気へとつながるのだから、すべこべ言わずに出演するようにという圧力をみせる。

 

 響子からも『出演しないで如何する!?』という、目力も入った熱い視線を向けてくる。

 

 

 真夜達の言っている事も一理あり、達也は諦めから、溜息を一度溢すと、腹をくくって、次の仕事を受けるために、今のスケジュールにレッスン時間を組み入れ、頭の中で調整させるのであった。

 

 

 




そうだ~!!みんな、達也のアイドル姿を見たいんだ~~!!


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”RYU”としての確立

ついに”RYU"の下地が出来上がる~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 歌番組への出演は既に番組プロデューサーに返事を送ったため、これは連絡事項だ。達也も明後日の出演は覚悟を決めた。………というよりは、投げやり感が少しあるかもしれない。

 

 

 「達也さん、それともう一つお願いがあるの。」

 

 

 「はい、なんでしょうか、叔母上。」

 

 

 「これからの任務ではこうしてほしいのよ。葉山さんがまとめおいてくれたので、受け取っておいてくださいな。藤林さんの分もお渡しさせていただきます。」

 

 

 葉山さんが紙に文字が綴られている書類を達也と響子に渡す。ついでに言うと、風間さんはこの応接室と連なっている隣の控室で待機している。今は、響子に用があっての事だし、風間を呼んでいた理由は、この任務を依頼する際の立会人として見届けてもらうために呼んだからだ。部下を借りるに当たり、上司に無言で借り受けるのはマナーに反すると判断があったからでもある。

 だから、響子がマネージャーをしてくれると断言した後は、打ち合わせは秘密理に進めるため、風間には少し席を外してもらう事にしたのであった。

 

 その中で行われているこれからの任務の確認の際、真夜から達也へ要求がなされた。

 

 達也と響子は葉山さんから手渡しで書類をもらい、目を通す。

 

 

 

 そこに書かれていたのは、達也が芸能界でアイドル活動する際の”RYU”としての振る舞い方…、言うならばキャラ設定が事細かく書かれていた。

 

 

 「これは………?」

 

 

 「見たとおり、達也さんが”RYU"として振る舞う際、ボロが出ないようにあらかじめ決まり事を書き出しておきました。

  達也さんにはこれが必要だと思いまして。」

 

 

 「達也君は私達が見ていた時もしっかりとアイドルをしていたと思いますけど…。」

 

 

 響子が躊躇しながらも真夜にキャラ設定がいるのかと言外に話す。響子たち、独立魔装大隊は知らなかったとはいえ、達也の監視を行う上で、達也のアイドル活動を気づかれないギリギリのラインを行き来しながら見てきた。その上で達也が秘密を吐露する様な真似もしなかったし、役割を果たしていた様子を見ているので、この書類が今になっているのか、口から思わず出てしまった。

 

 しかし、当の本人である達也は、書類に書かれているキャラ設定を速読で読み上げていく。

 

 

 「そうね…、確かに達也さんは仕事をこなしていましたわ。しかし、与えられた仕事をこなすのは当たり前、問題なのは……」

 

 

 「俺の演技力…という訳ですね。」

 

 

 真夜の言葉を受け取る形で、達也が自分の欠点を吐露する。

 

 

 「仕事はこなしても、俺は”RYU"という人物の性格も言動も決めかねていましたし、自分なりに見た目に合う様な性格にしたつもりなのですが、どうしてもぶれてしまったり、素の俺に戻ってしまう事が何度かありました。

  慣れない事をしているからという事もあるとは思いますが、一番は俺が演技に必要な『感情』を理解できないのが、”RYU"のキャラがぶれてしまう原因だと思います。」

 

 

 ずっと思っていたのであろう、今まで抱えていた小さな悩みを打ち上げる達也の言葉を聞き、響子も納得した。

 

 つまり真夜は、達也の任務状況を把握する上で、達也の演技が未熟なのが分かった。しかし、達也の感情の部分はどんなに魔法を駆使してもどうにもならない。それができるとすれば、もうこの世を去った達也たち母である深夜の特異魔法、精神構造干渉魔法しかないだろう。……ただたとえ深夜がまだ生存していたとしても、元に戻るとは言えないが。

 

 そんな訳で、真夜は応援するファンの一人として(ここは四葉家当主としてではない。)達也が気を病む必要がないくらいアイドル活動に専念できる秘策としてキャラ設定を作り上げたのであった。

 

 

 …ちなみにこれを作成する時の真夜は、模索しながらも数々提案するたびにキャーキャー言って、妄想した達也のキャラっぷりに萌えてしまう出来事もあった。

 

 

 こうして、”RYU"のキャラ設定は(真夜の溢れんばかりのファン魂で?)無事に本人の同意もあって、確立した。

 

 

 




どんなキャラ設定になったのかは……明日で!


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”RYU"の設定

円滑にストーリーを進めるためにこうなった…


 

 

 

 

 

 

 

 一通り目を通し終えた達也が、真夜に感想を述べる。

 

 

 「ここまで精密に設定しているとは思いませんでしたが、正直これならやっていけます。苦労したのではないのですか?」

 

 

 「達也さんが気にするような事ではありませんよ。達也さんの場合、こうした方がやりやすいだろうと思っただけです。」

 

 

 達也から労いを受け、真夜は内心、ズキュンッ…と萌えて嬉しく思うのだが、今は響子もいるため、なおさら顔に力を入れ、ファン魂を力ずくで押さえるしかなかった。達也は、真夜がそんな心境とは知らず、ただ四葉家当主の仕事の合間に自分のアイドルキャラ設定まで考案していたとは思っていなくて、ここまで完成されたものを提示した真夜に対し、見直していた。…というのも、達也ははじめ、この任務を言い渡された時、真夜の私的な理由から任務が言い渡されたと思っていた。しかし、今この任務に力を注いでいる真夜の様子を見れば、今までの任務と変わらず意味あるものだと理解できる。まだ何か隠している事があるのは分かるが、既に達也の中ではこのアイドル活動に真剣に取り組む姿勢を持っている。(ただし、アイドルの活動内容全てに納得した訳ではない。)

 

 これからの任務をするうえで、真夜からの差し入れ(?)は達也にとって正直有難いものだった。

 

 

 その書類に書かれたRYUのキャラ設定は次の通りだった。

 

 

 ・基本クールで、熱くはならない。

 ・誰に対しても動じない。(言葉使いは敬語を使わない。)

 ・文武両道

 ・気心知れた人には笑う

 ・勝負事には遠慮しない

 ・不意に優しさを見せる

 

 

 ……等々。

 

 このほかにも、性格やその性格になったこれまでの人生や芸能界に入った本当の理由…といったRYUの生き様が記されていた。

 

 

 「…でもこのRYUの性格って、達也君と変わらないような気がするのですが?」

 

 

 同じくキャラ設定を見ていた響子が真夜に尋ねる。達也の性格と変わらないのであれば、もしもの時正体がバレてしまうのではないかと思ったためだ。

 その件に対して、真夜は余裕がある表情で答える。あらかじめ聞かれる事を分かっていたかのように。

 

 

 「ええ、あえてそのようにしたのですよ。元々達也さんには自分以外の誰かになりきるなんて真似は出来ませんから。かといって、まったく同じでは藤林さんがおっしゃったとおり、勘の鋭い人には気づかれるでしょう。そこで考えたのは、達也さんと性格は似ていても、生い立ちや背景を作りだせばいいと思ったのです。

  人は、例え人格や姿が似ていても、育った環境がまったく異なった人生を送った事を知れば疑いの目を向けなくなりますから。」

 

 

 つまり、達也が感情を持たない以上、例え演技するとしてもなぜその役が嫉妬したのか…、なぜ嬉しく思っているのか…、そういった当たり前の表現がうまく表現できないため、感情の起伏が激しい演技は出来ない。演技の才能がないと言えばそうなる。しかし、性格等は同じにして、違う人生設定を作れば達也も演技られると判断したのだ。普段の自分と同じなのだから、普通にできるし、言葉遣いを意識的に変えて話す事は、極秘任務で敵に素性を知らせず対峙する際に良くしている事なので、苦難もない。

 

 真夜が考えた中では、最善の策でもあった。

 

 

 この真夜の意図を理解したのか、響子も納得の表情を見せる。

 

 達也もこの案に文句はなく、受け入れる。

 

 

 こうして、新たに”RYU"としてのアイドル活動を始める事になり、御茶会はこれで閉幕となった。

 

 

 




達也、良かったね。一番の難関が払拭できただろうし、…いや、一番の難関は深雪だよな。


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歌番組出演の波紋

とにかく今回はきゃ~きゃ~♥的な盛り込みになる。女子トークは基本こんな感じ…、だったと思う。


 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が……じゃなかった、RYUが大人気歌番組『ミュージックパラダイス』通称ミュパラに出演するという話は、本人が仕事の話を聞いたその翌日に、大々的に芸能ニュースに取り上げられた。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「それにしてもあの今女性達に大人気のアイドル、RYUが!!早くもミュパラに生出演する事になりました!! これには私もびっくりです!!」

 

 

 「突如としてネットや動画サイトに投稿された彼のデビュー曲が大反響し、更にはCMにも出演するという異例の速さで注目されているアイドルですからね~。私はこの結果には大賛成ですよ。」

 

 

 「ミュパラといれば、最先端の、全国のユーザー達の注目度を検証し、最も注目を集めているアイドルや歌手たちを招き、いち早く皆さんにお届けする歌番組ではナンバーワンの視聴率を誇るレギュラー番組ですから。当然と言ったら当然の結果だろうね。」

 

 

 「しかもミュパラにはジンクスがありまして、この番組でデビューを飾ると、大人気を保持しつづけ、国民的アイドルになれるという噂があります!現にミュパラで羽ばたいていったアイドルは今もとてつもない人気を博しています!」

 

 

 朝のテレビニュース番組で男女のアナウンサーや出演者の意見が飛び交う。このニュースで盛り上がる彼らの背後では、番組観戦の一般人の席が映り、隣の席の人と興奮状態で話している様子が見られる。

 

 その後、ニュースが掘り下げられ、街中の人達に突撃インタビューする場面に切り替わる。

 女性アナウンサーが街行く人たちに声を掛けまくって、RYUについて話を聞いて回る。

 

 

 「RYU様がミュパラに生出演されるそうですが、皆さんはどうですか?」

 

 

 「え!? RYU様がミュパラに出るの!?」

 

 

 「嘘っ!!? 絶対に見なきゃ!! ああ~~!!早く仕事終わらせなきゃ!」

 

 

 「私も~!! 録画してないから、予約しないと!! RYU様を難度も拝むために…。」

 

 

 「皆さんも楽しみのようですね、やはりRYU様が生出演するからですか?」

 

 

 「だってそうでしょ!? 今まではMVとかCMとか、編集したものを繰り返し見る事だけしかできなかったのに、生のRYU様が動くところとか見られるんですよ!?」

 

 

 「私達にとってはテレビ越しだけど、歌う前にトークタイムとかありますよね?その時何を話してくれるか、楽しみなんです!! ファンなら見逃せません!!」

 

 

 鼻息が荒くなり始めた街行く人たち(もう全員が女性で、リポーターが話しかけていない人もRYUと聞きつけ、ファン魂を見せてテレビ出演し、アピールする。いつの間にか数分で、女性達が群がってRYUファンの会員カードを見せ合って、話が盛り上がっていた。

 

 

 そして収拾がつかなくなってきたので、リポーターがスタジオにカメラを返す。テレビが再びニューススタジオに切り替わる。

 (切り替わった瞬間、現場のリポーターはファン達に混じって、RYUの話に花を咲かせるのであった。)

 

 

 「いや~、やはり大人気というのは、本当でしたね。」

 

 

 「RYUの出演したCMの商品が今売れ行きが鰻登りで、生産が追い付かないくらいに注文が殺到しているそうですから、さすがと言えるでしょうね。」

 

 

 そこで驚愕を見せる出演者たち。もちろん作り笑顔も混じっている。そんな中、スタジオの男性アナウンサーが更なる火種をまき散らす。

 

 

 「そう言えば、ミュパラの番組観覧者の応募も始まっているじゃないですか?もしかしたら今頃、RYUを生で拝見したいファンが席を巡っていたりするのですかね?」

 

 

 「…………」

 

 

 「「「「「……………」」」」」

 

 

 「………あの~、この沈黙は一体?」

 

 

 突然スタジオ内だけでなく、中継先からも静寂が訪れ、男性アナウンサーだけがオドオドし始める。テレビに出ている以上、そう言った態度を見せてはいけないのだが、あまりにも目を見開いて固まっているスタッフや観覧者達の視線を一身に受けて、自分が何を口にしたのか、焦りを見せるのだった。

 

 そして男性アナウンサーが口を開いた事で、止まっていた時間が動き出したかのように慌ただしさが伝わっていく。

 

 

 「なんてそんな事に気づかなかったんだろう!!」

 

 

 「そうよ! 観覧応募すれば生で見られるじゃない!?」

 

 

 「私、絶対に当選してみせる!!」

 

 

 「それは私の台詞よ! そのためにも応募件数をできるだけ多く出さないと!!」

 

 

 「負けませんよ! 私もあわよくば握手をしてもらうんだから!!」

 

 

 女性達が颯爽と動き出し、情報端末から応募したり、電話かけまくったりと血眼になって何とか観覧者の枠を獲得しようと躍起になり始めた。

 

 その後はニュース番組は急遽コールセンターのような立場に変わり、受付を始める。更に番組を見た人達からも応募が殺到し、RYUがミュパラに出演するというニュースは、世間に波紋を広げていくのであった。

 

 

 




この後、男性アナウンサーは番組の継続を断念させたのを責められるが、番組の視聴率が最高率を記録したため、暫く停職になるだけで済んだのだった。


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注目浴びる現場入り

ニュースに取り上げられているから…。達也にとっては頭悩ませるだろうね。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ニュースで大々的に報じられ、トップニュースになり、検索キーワードナンバーワンに”RYU"、”ミュパラ”と出てくるほど、RYUがテレビに初生出演する事は世間の多くの人々の関心や興味、注目を浴びている事を窺わせていた。

 その事が本人の耳に入ったのは、その翌日、つまり本番収録のある今日のまさに現場入りする少し前だった。

 

 

 「…………よくたった一日でここまで盛り上がりを魅せましたね。絶句するしかないです。これは俺にとって遥かに予想外です。」

 

 

 「あら、でも注目される事が任務での必須条件よ? 寧ろ色々と後ろ手を回さなくてよかったって考えたら?」

 

 

 「それとこれとは違います。確かに注目されるのはあまり居心地は悪いですが、善処します。ですがだからと言って……、あんな事になるなんて、俺は聞いてもいないですし、望んでいません。」

 

 

 こんな話聞いていませんと言うような表情で訴えるのは、既にRYUの姿に変装した達也で、スタジオ収録現場があるテレビ局の前の路地裏にいた。そこには達也だけでなく、マネージャーとなった響子がいた。 そして響子も同じことを想っていたのもあってか、苦笑を漏らす。

 

 

 「私もやり過ぎな気がしない訳はないけど…、私達にとってあれを抜けないといけないのは変わらない事実よ。」

 

 

 そう言いながら、笑顔を引き攣る響子の視線の先には、テレビ局の出入り口付近に向けられていた。もっと詳しく言うなら、そこに群がっているファンが固唾を呑んで待ち構えているのを、どうしたものかと眺めていたのだ。

 応援してくれるのはいいが、血眼に目を見開いて今かと待ち構えている強壮とした表情で何人もの人に見つめられている状態で、出迎えられるのは気持ち的にやりたくない。

 RYUの姿になっているものの、まだ人前には出ていないため、達也部分がまだ現れているせいか、元々注目を浴びる様な事は避ける達也の無意識な回避能力が発動し、他の出入り口からの現場入りを提案する達也だった。

 

 しかし、そんな達也の案は却下される。

 

 このテレビ局はかなり昔に建てられたこともあり、出入り口が二つしかなく、一つは老朽化で傷んだ水道管の点検やエレベーターチェック諸々の業者委託の作業が山のようにあり、出入り口を封鎖している。そのためにもう一つの出入り口から入るしかなく、達也の案はあっさりと調べていた響子に斬り捨てられるのであった。

 

 

 「………はぁ~、分かりました。なるべく素通りできるように協力お願いします。」

 

 

 「あら、ファンサービスはしないの?サインとか、握手とか。」

 

 

 「一度すると、全員にしないといけませんし、余計に興奮状態にさせてしまって、取り囲まれてしまいます。

  ……俺は絶対にサービスはしませんよ。」

 

 

 アイドルとは思えないファンの要望を応えないRYUの鋭い視線を受け、本気だという事を理解した響子は、確かにRYUの言う通りかもしれないと思う事にし、路地裏から姿を見せ、RYUと一緒にハイエナのような目をしたファン達の中へ飛び込んでいった。

 

 

 本人の思う以上に注目浴びたRYUの現場入りはこの後、警備員がフル活動するほど、困難を極めたのは言うまでもない事が起きるが、それはまた……。

 

 

 




眠たくて、数分目を閉じるだけ~、だったのに!!いつのまにか数時間寝てた~~!!


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響子の説教

ああああ~~~!!
劇場版モバイルバッテリー欲しかった~~!!

(拗ねて寝られないかも…。)


 

 

 

 

 

 

 

 

 これは少し前の話…。

 

 

 達也がRYUとなって、歌番組の収録があるテレビ局の前の路地裏で、響子と一緒に身を隠している頃のことだ。

 

 

 「さすが今大人気のアイドル、RYUね~。入り待ちしているファンの数がざっと見ただけで三小隊は入るんじゃない?」

 

 

 「それを言ってしまうなら、独立魔装大隊の数と同じという事になります。……本当にあの数全員が俺待ちだとは分からないではないですか。」

 

 

 「何を言っているのよ、達…、RYU~! あの子たちが持っている団扇や額に巻いているハチマチを見れば、誰のファンか分かるでしょう?みんな、貴方のファンよ!」

 

 

 「………やはりそうですか。」

 

 

 ため息を吐いて、呟くRYUは既に始まる前なのだが、頭痛がしそうな予感がするくらい、頭を悩ます。ここまで注目を浴びる事にも驚いたが、否定しようもないこの事実にやはり気が重くなるのはどうしても避けられなかった。響子も付き合いが長い分、RYUがこういうのが苦手なのは知っている。しかしここは…。

 

 

 「RYU、悪いけどここは我慢していきましょう。大丈夫よ、あれを超えればいいだけなんだしね。」

 

 

 「分かってますよ、引き受けた以上、やり遂げてみせます。さて、どうやって一瞬で入りましょうか…。」

 

 

 苦手だという雰囲気を出していたのに、あっさりと受け入れたRYUの変わらない態度に安堵するものの、すぐに違和感を覚える。

 

 

 「え?どうやって入る?」

 

 

 「ええ、あの人の中を入りこんでいくなんて自殺行為ですし、時間を取られてしまいます。早く到着はしていますが、ここをクリアしても次の時点でまた何か不測の事態が起きるとも限りません。それなら気づかれないように入る事が必死になるかと思いまして。」

 

 

 RYUの……いや、思考が完全に戦闘の際の達也になっているのを実感し、今度は響子がため息を吐く。敵の攻略のように話す達也に、芸能業界には知識がある(あくまで一般人レベルでだが)響子がアイドルの常識というものを教えるのであった。

 

 

 「達也君…、しっかりしなさい。あなたは今はもうRYUなのよ。

  アイドルが敵を殲滅する作戦を軍の会議並みに作成したりしないわよ。」

 

 

 「……そうなのですか?」

 

 

 「………達也君、アイドルを一体なんだと思っているの?あ、良いわよ、答えなくて。言っとくけど、みんな達也君みたいな考え方はしていないから、多分特殊な方向性だから。」

 

 

 「はい、…気をつけます。」

 

 

 「後、さっきも言ったとおりRYUなんだから、私に敬語はしない!他の人にも!いつもみたいに友達と話す口調で構わないから。RYUは誰に対しても敬語は使わない。いい?」

 

 

 「分かった…。これでいいのか?」

 

 

 「うん、まずまずね。一応形にはなってきたからいいとして…。

  ここからが本番! いい?アイドルはファンがいてこそ輝くものなの。だからファンは大事にしなくきゃ。一瞬で通り過ぎようとか考えたらだめ。ファンには敬意を示さないと。あ、RYUの場合は敬語は使わないけど、ありがとうって気持ちは向けていいんだから、声を掛けられたら手を振るぐらいしなさい!それぐらいならできるでしょう?」

 

 

 「…ああ、それぐらいなら。」

 

 

 すっかりと響子の説教に耳を傾けるRYUは、改めて響子がマネージャーとなって効率の良さやアドバイスがきっちりできている事に感心するのであった。

 

 

 




ううう…、映画は絶対に見に行くんだ!待ってろ~!!パンフ&リーナ特典!!


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ファン騒乱渦巻く…

なんだか、横浜騒乱編!!…的なタイトルにしてみた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 響子の説教を受けた事もあって、RYUは特に変装する事もなく、テレビ局の入口へ響子を連れて向かう。まぁ、それだけでも少し歩く事になるので、人の視線を受ける心配がある。そうなればあのファン達の群れの中に突入するよりも早くに他の通行人達が気づいて同じ目に遭う可能性が無いとは言えない。(いや、あると言った方が妥当と言えるくらい可能性がある。)

 なので、響子が認識阻害魔法を使って、ファン達の群れの数十メートルまで近づくまで存在を消した。街中では魔法を許可なく使ってはいけないが、この辺りの魔法認識装置は既に響子の手中にある。響子が魔法を使うのは造作もない。そしてRYUが魔法を使わないのは二つの理由がある。

 

 一つは認識阻害魔法は人の脳に電波を発し、盲点を突かせるため、一種の精神魔法とも言える。そして達也はその精神干渉魔法に対する適性が無い。だから使おうとすれば時間がかかりすぎてしまって使えない。不向きな魔法だ。その点、響子は古式魔法師の家系で生まれただけあって、得意だ。達也より響子に任せた方がうまくいくと判断したからだった。

 

 そして二つ目は、RYUは非魔法師だという設定を守るためだ。RYUのキャラ設定では、RYUは魔法師ではなく、”才能あふれる一般人”という事になっている。(真夜が設定したものであり、達也本人は自分に才能なんてないと考えているが。)だからRYUとなっている今において、魔法を使う訳にはいかない。まだ知り合いもいないが、ファンの中に鋭い勘を持った魔法師がいないとも限らない。細心の注意を払って魔法を使わない事にする方が今後により良い展開に持って行ける。そう考えたからであった。

 

 

 そうした理由で認識阻害魔法を展開していたが、ファン達が目の前に見えてきた事で解除する。すると、視界に入ってきたRYUの姿を見て、入り待ちしていたファン達の顔が高揚する。そのざわめきが他のファン達にも広がり、ファン達の最初の列が正面に現れた時には既にファン全員がRYUの登場を知り、顔をRYUに固定して、息を荒げるのであった。

 

 そんな一種の危ない雰囲気を感じたRYUであったが、響子の言うとおりに行動する。…と言っても、あくまでRYUらしくであるが。

 

 

 「キャ~~!!! RYU様~~!!」

 

 

 「やっぱり本物はオーラが全然違う!! 生で見た方が迫力が…!!」

 

 

 「あ、握手してください!!」

 

 

 「私はサインを!!」

 

 

 「一緒に写真撮ってください!! 一生のお願いです!!」

 

 

 「あ、あの…!! この時のためにRYU様に食べていただきたくて、作ってきました!!どうか休憩のときにでも食べてください!!」

 

 

 RYUが警備員達がバリアを作って、ファン達の中に道を作ってくれている間に通り過ぎていくのを、目で追いながら話しかけてくるファン達。黄色い声が止むことは無く、様々な要求をする。それを無視して通り過ぎていく様子は、冷たいと思われても無理はないほどだ。

 

 

 「私のは大丈夫ですから!! ど、どうか食べてください!!」

 

 

 そんな状況の中、後、入り口まで数歩と言った所で、警備員の脇を掻い潜ってRYUの目の前で足を止め、両手を広げてあからさまに通せんぼする女の子が現れた。お菓子の匂いがする紙袋を差し出してきた彼女を無言で見下ろすRYU。

 

 一人だけ抜け駆けした女の子に他のファンの子達は嫉妬を剥き出しにする。それと同時に羨ましがる。ファンの視線を一身に浴びる中、RYUは大きなオブジェが道を塞いでいたかのように何もなかったと言わんばかりに女の子を避けて通り過ぎる。

 

 

 その様子を見ていた全員が目を丸くし、驚く。それからRYUへの不信感が募り始めていく。

 抜け駆けした事は許せないが、ファンに気持ちに一切答えようとしなかったRYUを訝しく思ったのだ。

 

 

 ファン達の心に曇りがかかり掛けたその時、RYUが歩くタイミングを遅めにし、後ろについていたマネージャーに話しかけたのだった。

 

 

 「………悪いが、受け取っておいてくれ。楽屋で後で見るから。それと……もらっておく。」

 

 

 後半は女の子に向けて話し、再び歩きはじめる。ファンからの品物を受け取るように言われたマネージャーは仕方ないっていう顔で、ファンに聞こえる声量で独り言をつぶやく。

 

 

 「…本当にもう、素直じゃないんだから。」

 

 

 そう言いながら、どこから取りだしたのか、大きな袋を広げて、ファンからの贈り物を回収していく。すべて回収すると、先に中に入ったRYUを追って、入っていく。

 

 それを見届けたファン達は、隣同士で話し合った。

 

 

 「RYU様って本当はシャイだったんだね。」

 

 

 「照れ隠しだったんだ~~!!」

 

 

 「あんな可愛い一面もあるんだね! だめだ…、もっと好きになりそう!!」

 

 

 キュートに捉える人もいれば、ツンデレに捉える人もいて、RYUは意外な一面が発覚し、更にファンの熱い想いがまた募る結果になったのであった。

 

 




騒乱…、なったのか? 


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テストの評価

ん?テスト?


 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか入り待ちを通過して、テレビ局の中に入れたRYUとマネージャー。

 

 響子もフルネームだとまずいという事で、マネージャーになっている際は、名前を『藤森響歌』と名乗る事になっている。髪形もいつものポニーテールではなく、耳の後ろに横結びでシュシュを使って一纏めにしていた。化粧も控えめなメイクをはなく、目力を強くし、色気も感じさせる少し濃いめのメイク仕様になっていた。

 

 見事に別人になっている響子を見て、メイクや衣装だけでここまで変わるんだなという事を心の中で思いながら出迎えに来てくれていたスタッフについていくRYU。しかしそれを言うなら、RYUも同じようなものだから、他人事のように言うのはどうかと思うが。

 

 

 まぁ、RYU本人もそれほど興味があった訳ではないため、すぐに思考から離脱する。スタッフに案内された自分の楽屋に辿り着いたので、入室する。その際何が言いたげな表情をスタッフがしていたが、何も言ってこなかったので視線で響歌に任せて、先に部屋に入っていく。しばらくして、入室してきた響歌が含み笑いをしながら、RYUをからかうような声色で話しかけてきた。

 

 

 「ふふふ、人気者は辛いわね~。さっきのあのスタッフさん、RYUのサインが欲しくて頼もうかどうか悩んでいたみたいよ~? 結局あなたが楽屋にさっさと入ったからしょんぼりしてたけど。」

 

 

 「………面倒な事を言われるのかと思ったからな。」

 

 

 「”サインぐらい安いものよ。…でもまぁ、今の段階で公私混同させてしまうのはどうかと私も思ったから、今回は目を瞑ってあげましょう。その代わりサインをする仕事は受けなさいよ。」

 

 

 「仕事……な。」

 

 

 「そう、今の段階は仕事以外でのサインは禁止。今の状況に火に油を注ぐわよ~。」

 

 

 響歌が何を危惧しているのか、理解しているRYUは返事として頷く。響歌が行っているのは、さっきのようなファンの騒乱ぶりを言っていた。あのように興奮状態のファンが多い中、サインが手に入れば噂を撒いたり、自分もほしいと欲を見せて待ち伏せが日常化したりとなる恐れがあるため、ファンの統制が形成されるまで仕事でのサイン以外はしないように取り決めする事にしたのだ。それを瞬時に理解し、同感したため、RYUはこれ以上の話をすることは無かった。

 

 

 「ところで、さっきのRYUのファン対応の事だけど…。」

 

 

 しかし、響歌は言っておきたい点があったらしく、話を切り出す。響歌はマネージャーでもあるが、RYUがうまく”演じられている”かをチェックしている。まだまだ演技が分からないRYUの演技テストを兼ているのだ。今は二人以外誰もいないので、その評価を伝えるのであった。

 

 

 「冷たい態度からの、実は優しさも見せるあのツンデレはよかったわよ~。他のファン達もますますファンになったって子が耳に聞こえてきたし。」

 

 

 「女性の考え方はよくわからないが、響歌がそう言うなら、そうだろうな。」

 

 

 「何?私も彼女達と同じだとかいう気ではないわよね?」

 

 

 「いえ、別に。」

 

 

 「……まぁいいわ。

  しっかりRYUの思考を読み解いているみたいで、良好ね。この調子で行きましょう。」

 

 

 「ああ…、RYUならこうするだろうと思った事をしたまでだ。過去の事を考えれば当然のことをした…はずだ。」

 

 

 「そういう事にしておいてあげる。

  …うん、じゃあ悪いけど、衣装に着替えて頂戴。」

 

 

 バシッと手を鳴らして気合を入れた響歌は、持ってきていた衣装をRYUに渡して、回れ右をして部屋の扉に向かって歩き出すのであった。

 

 

 




テストというより、確認かな?
設定どおりにRYUが演技られているか?

…詳しいRYUのキャラ設定はおいおい解説を入れつつ、進めていきます。


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日常で慣れた〇〇

アイドル知識がありすぎるでしょ~!!響歌さん!!


 

 

 

 

 

 

 

 「…どこに行くんだ?」

 

 

 楽屋から出ていこうとする響歌に服を脱ぎかけた体勢で止まったまま、問いかけるRYU。その問いかけに響歌はため息を溢して振り返る。そしてRYUを見つめ返す。その表情には照れていたり、恥ずかしがっていたりはしていなかった。まだ着替えようとした段階とはいえ、RYUはTシャツを脱ごうとしていたため、見事に割れた腹筋がかすかに見えているのだ。それを見て照れないのは一般女性にしては普通ではないと言える。

 しかし、響歌(響子)は、独立魔装大隊に所属している軍人である。独立魔装大隊に入隊してからは度々行われる魔法師実験で裸体になって、検査を受けたりするのは日常茶飯事なのだ。着替えなんて男女に分かれることは無く、共同の脱衣所で服を脱ぐ。女性は男性の裸体を見る事もあるし、男性は女性の裸体を見る事も珍しくない。このため、響歌は見慣れているし、羞恥を感じるほど集中できないという愚かさとは縁を切っているので、たかが服の下から見えている腹筋を見たからと言って頬を赤らめたりはしない。

 

 そんな響歌なのだが、RYUを見つめる表情には世話のかかる人物に対して呆れているような表情をしていた。

 

 

 「RYU君…?楽屋の外で待っているに決まっているでしょ?今私がここにいたらいけない事が分からない?」

 

 

 「? 別に外で立って待つより、そこのソファーで座って待っていればいいと思うんだが?」

 

 

 「はぁ~…、RYU君は今から着替えするのよ?女性である私が男性の着替えている所でのんきに情報端末でスケジュールチェックすると思う?」

 

 

 ”チェックできる”ではなく、”チェックする”と表現した響歌の言葉でも分かるように、羞恥心を感じるから気が散ってできないという訳ではない。可能性としては出来るが、しないだけだという裏の意図を理解しているので、急に意識してしまったという事ではないとRYUも察した。しかし、それだとますます意味が分からない。

 RYU自身も同じ部隊に所属しているので、裸体を見られても別に気にしないし、羞恥心などは感じない。(元々こう言った感情とは縁がないに等しいものだからだ。)

 

 

 「気にしないだろう?お互い慣れているのだから。」

 

 

 「そう言う問題じゃないの。

  いい?もし私がこのまま楽屋の外に出ずに着替えているあなたと一緒にいれば、それを目敏く見ていた部外者が噂やゴシップを流すかもしれないでしょ。

  ”今人気絶頂のアイドル、RYUはマネージャーと実は付き合ってる。”…なんて見出しで新聞に取り上げられるのも時間の問題になっていくのよ。

 

  用心に越した事なんてないんだから!」

 

 

 響歌の説明で、アイドルや芸能界で生きる以上、たくさんの人の目に曝される事もあり、それが好意でも悪意でも引き付けてしまうんだという事を理解するRYUであった。

 

 

 




〇〇の中に入る物は一体~~!!?なんでしょう?


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奇遇な再会

今日は映画見てきた!!さすが達也様って何回連呼した事か!!?
もう人類を凌駕してしまっているよね!!二週目はリーナ特典もらえなかったから次こそはすぐに行かないと!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 響歌の常識を聞き、納得したRYUは、今度こそ楽屋の外で待とうとドアに歩き出した響歌を次は止めなかった。しかし、RYUが止めなくても、止めに来る出来事がある訳で…。

 

 

 「…すみません、ミュパラスタッフです! 現場入りの事で何点か、変更になったのでご説明と打ち合わせに来ました!」

 

 

 ロックの後、ドアの奥から話しかけられ、非常にまずい展開になった。まだ外で待機もしていなかったので、もろに響歌が言っていた”恋人関係疑惑”をかけられる状況だった。これには響歌も焦った。今ドアを開ければ疑惑を持たれかねない。それと対照的にもしドアを開けなかったら不審に思われるのは当然だ。ドア越しで打ち合わせなんて皿に不審に思われる事は必須だ。

 如何しようかと解決策を編み出す響歌の耳に、はっきりとした渋いが、まだ幼さも感じるRYUの声が聞こえてきた。

 

 

 「中に入れていいので。そこで打ち合わせしてください、響子さん。」

 

 

 「あ…、うん。ありがとう…。」

 

 

 相当テンパっているのも自覚していた響歌は、耳元で自分にだけ聞こえるように普段通りに今だけ振る舞ったRYUに感謝しながら、ドアの奥で待つスタッフを迎え入れた。その間、RYUは楽屋の奥のスペースに設けられていた仕切りのカーテンを取りだし、音を立てずにカーテンを閉め、楽屋の奥を視界から消す。そこにRYU自身も入り込み、着替えに突入する。

 

 

 「お待たせしました、来たばかりでしたので荷物整理に時間がかかってしまいまして…。」

 

 

 「いえ、こちらこそ急に申し訳ありません。急遽変更になったので、時間も巻いていますし、尋ねさせていただきました。」

 

 

 楽屋に訪ねてきたのは、若い男性スタッフで下っ端という方がぴったりするやる気元気に溢れている青年だった。その青年の姿を見て、心の中で達也の方が大人びた印象が強く感じると思った響歌はふと笑いが込み上げてきたが、仕事なので割り切った顔で席に誘導する。

 

 

 「あれ、RYUさんはいらっしゃらないんですか?」

 

 

 「俺ならここだ。」

 

 

 「わっ! あ…、そこにいたのですか、すみません!」

 

 

 「慌てた様子で謝る男性スタッフは急にカーテン越しに言葉が返ってきて驚く。

 

 

 「ごめんなさいね、今は衣装に着替えているのよ。ほら、時間が巻いている事だし。」

 

 

 響歌もすかさず不フォローに入る。先程スタッフが言っていた事を入れる事で、誤解の余地がないように納得するまでの迷いや疑惑を取り除く。

 

 それだけでなく、響歌がフォローに入った事で、RYUはカーテンの隙間から衣装がちらりと見える位置に置き、そこから服を取り、着替えるうっすらとカーテンに映る影でより真実味を見せた。…この男性スタッフが単純であるのも幸いだが。

 

 

 「着替えながら俺も聞いておくから、先に始めておいてくれ。終わったらそっちに行く。」

 

 

 「分かりました! では早速始めさせて頂きます。」

 

 

 RYUの声に押されたのかは知らないが、すぐに響歌に変更になった個所と変更していない部分の当初の予定での打ち合わせ等を行っていく。その間チラチラと響歌の顔を窺い見ていたが、響歌自身は特に気にした様子はなく、説明を受ける中で確認を取っていく。そしてRYUも合流して打ち合わせを進めていき、無事に打ち合わせが終了すると、勢いよく頭を下げ、「よろしくお願いしますっ!!」と大声で挨拶すると、一目散に出て行った。

 

 

 「元気がいいのね、あの人…。」

 

 

 「そうですね…。」

 

 

 楽屋に残った二人は嵐のように去っていった彼を立ち尽くして唖然となる。それから、ドアが開きっぱなしになっていたので、響歌がドアを閉めに向かい、ドアのノブに手を翳したその時、ドアの前の廊下を歩いていた人物と目が合った。…RYUと。

 

 

 「ああああああ~~~~~!!! お前は~~~!!」

 

 

 「………まさか今ここで会うとはな。」

 

 

 廊下に絶叫が響く中、RYUはその人物を見て呆れ顔を見せるのであった。

 

 

 




さて誰と再会したのでしょう~?


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燃え上がる熱き少年

いや~、誰って言われても、こいつしか出てこないよな~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下で絶叫が響き渡り、楽屋から顔を出して来たり、様子を窺うために出てきたりと、ちょっとした騒ぎが集まった。そこで、響歌はすぐさま、RYUを部屋の奥へと押し込み、他の楽屋からRYUが見えないようにひっこめた。…さらなる混乱を避けるために。

 

 そしてその原因を作った目の前の固まっている青年に注意する顔で話しかける。

 

 

 「いきなりなんですか、貴方は。ここは廊下ですよ、叫びたいなら、本番でやってください。ではこれで。」

 

 

 さっさとドアを閉めようとした響歌の冷たい態度に我に返った青年は、すぐに閉まろうとしているドアへ足を挟み、閉められないようにする。すると小柄な身体が役に立ったからなのか、隙間に身体をねじらせ、見事に楽屋へ入り込んだ。響歌は追い出そうとするが、一瞬のRYUの視線で放っておいても構わないと告げられたため、放置する事にした。

 

 

 「おい!俺に会っておいて無視するなんてどういう了見してんだ!!」

 

 

 「君、自分が公然で迷惑かけたか分かっていないの?」

 

 

 「そ、それは…、どうしてもこいつには言っておきたい事があったんで!!」

 

 

 どうしても話をしておきたかった事は本当なのだろう。響歌に謝りつつ、その傍らで、久しぶりに再会したRYUに対し、闘志丸出しの勝負を振りかけていた。

 

 

 「この前はお前に負けてしまったが、次はお前に勝ってやるっ!!さぁ、勝負だ!!」

 

 

 「……わざわざ人の楽屋に押し込んできて何かと思えばそれか。」

 

 

 勝負を挑まれた方のRYUは完全に呆れ返った様子で、青年を見る、その様子に青年の様子も変わる。自分の勝負を鼻で笑ったから怒るのではなく、RYUの底知れない何かを直感し、一瞬だけ恐怖を感じたのだ。しかしそれもすぐに収まり、今あらためてRYUをみても、恐怖は感じなくなった。身震いしそうになるくらいの恐怖…(決して武者震いではない)が次の瞬間には消えている事に、青年は本能的にこの場を後にした方がいいと思った。

 

 

 「う、うるぜぇ~!! と、とにかく!! 俺はお前なんか認めないからな!今日だって俺達の方が上だってことを証明してやるっ!!」

 

 

 逃げ際の捨て台詞のようになってしまったが、青年はそれだけ言うと、ドアを開け楽屋から出ていこうとした。

 この時、ここから出られたらどれだけ気分が清々しかったのだろうと青年は後程思う事になる。

 青年がドアを開けた時、今度は目の前に自分の仲間達と遭遇する事になったのだから。

 

 

 「お! なんだよ、こんなところにいたのかよ、リーダー!」

 

 

 「なかなか戻ってこないから心配したんだよ?」

 

 

 「…てか、何で人の楽屋の中にいてたんだ?」

 

 

 「もしかしてリーダーはそう言う趣味が…?」

 

 

 「まぁまぁみんな落ち着け、例えそうだとしても俺達は温かく迎え入れるべきなんだ。すまないな、大丈夫だ、俺達はそんなお前だった事を知らなかった事に詫びるよ。それからそんなお前でも、付き合ってやるぜ。…翔琉。」

 

 

 親指を立てて、ウインクする長身のイケメンやその後ろにいる仲間達がシンクロして頷く様子に声を掛けられた本人…、翔琉は今度は本当に怒りで身体を震わせる。

 

 

 「違~~~~~~~~~う!!!!」

 

 

 また廊下に絶叫が響き、その発信源とされた楽屋の持ち主であるRYUは、心の中でやはりこいつは面倒だなと、今度は蔑んだ瞳を翔琉の背中を見続けた。

 

 

 




やはり翔琉でした~~!!

そしてみなさんごめんなさい!!完全にキーボードに指を置いた状態で寝落ち&転げ落ちて床で爆睡してました!


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只事ではない雰囲気へ

他のメンバーもちらほや…?


 

 

 

 

 

 

 

 

 リーダーにしては、仲間達に弄られている翔琉は、鋭い突っ込みをするが、表情には若干笑いや照れがあるように見えた。本心から嫌がっていない分、本人もこの仲間達との遣り取りを受け入れているのだろう。

 翔琉の仲間達も優しく見守るように笑っていた。

 

 …しかし、彼らが騒ぐにしては場所が悪かった。彼らが話しているのは、他の出演者たちの楽屋が並んでいるスペース空間の廊下だ。その点を彼らは忘れていた。そして当然の流れだが、あまりにも大声で盛り上がっていたので、注意しようと彼らに接近する者達がいた。その人もミュパラに出演する人だ。万全の声で歌うために喉を鳴らして集中していたので、それを邪魔されてピリピリしている。

 その様子に真っ先に気づいた翔琉は、ある行動に出るのであった。

 

 

 「おい、お前ら! 早くこっちに入れ!」

 

 

 「え、何で…、ああ~うん! ありがとう!」

 

 

 「やばっ! 俺も入れてくれ!」

 

 

 「君達落ち着いて、ここは正々堂々と謝るべきだよ。」

 

 

 「…そう言っておきながらおまえもこっちに入ってきているじゃないか!」

 

 

 「うん、そうだよ。だって謝るは謝るでも、それはリーダーの仕事だから。」

 

 

 「こういう時だけ俺を祭り上げるんじゃねぇ~!!」

 

 

 なんと翔琉は、勝手にRYUの楽屋の中へ仲間達を避難させてしまったのだ。これにはさすがのRYUも驚いた。しかしそれも一瞬でおさまるが、気分は優れない。

 響歌も唐突に起きた出来事に鳩に豆鉄砲のような表情になっていた。

 

 

 「…………ここを誰の楽屋だと思ってるんだ?」

 

 

 RYUは翔琉の勝手な行動によって、振り回されようとされそうな現状に冷たい態度を取る。明らかにこの後巻き込まれそうな予感が離れないのだ。

 

 

 「だって仕方ないだろ? ここに避難してなかったら、どんな目に遭っていた事か…!」

 

 

 「知らん、俺を巻き込むな。迷惑極まりないぞ。」

 

 

 「仲間達を助けたいとは思わないのかよ!」

 

 

 「俺の仲間ではない。そもそもこうなったのはお前の大声が原因なんだ。責任取ってくるのは当たり前だ。」

 

 

 翔琉が熱血に語りかけるが、距離を空けさせるような言い方で冷たい視線を送る。

RYUにとっては他人事なので、どうでもいいのだ。ただ速くここから出て行ってもらいたいという願いだけが他の気持ちと比べて勝っていた。

 

 

 「てめぇ~! うちのリーダーに何言いやがるんだ!!」

 

 

 「リーダーを侮辱するのは、許さないよ。」

 

 

 「でも彼が言っている事も正しい…。」

 

 

 RYUの仲間達も不愉快だと言う顔でいい返す。その様子を見守るのが響歌であり、収録が始まる前なんだから、大人しくしておいてほしいわとため息を吐いてそう思うのであった。

 

 

 




こ、これからどうするんだろう? RYUは苛立っているよ~?


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判断させてもらう…

仲良くいこうぜ~。

あ、そう言えば今日、第二弾特典もらいに二回目見てきました!!達也様、相変わらずカッコいい!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 RYUの楽屋内でビリビリした空気が流れる…。

 

 

 「大体リーダーに一度勝ったからって言って、偉そうにしすぎなんだよ!」

 

 

 「そうだ、まだ新人のお前が勝ったのだって、まぐれだ!リーダーの方が芸能界で過ごしてきた年月は長いんだ!実力だって十分にある! それなのにリーダーが負けるなんて、きっとお前が裏で金でも貢いだに決まってる!」

 

 

 翔琉の仲間の内、二人がRYUに反論する。熱くなるあたり、翔琉に影響を受けているのは分かるが、少し暴走気味な気がする。そんな二人を見て、翔琉が目を潤ませて、「お前ら…そこまで俺の事を…!」と歓喜極まっているので、更にRYUには理解不能だった。

 

 まるでスポーツ選手と熱血コーチが試合に勝つために熱く語り合っているような熱気が立ち込める中、残る二人の仲間が対照的に冷静にかつドSで話す。

 

 

 「まったく同じチームメイトがこんな幼稚な事しか言えないなんて情けなく思う…。」

 

 

 「こら、言い過ぎだぞ。大きな声で影口をいうものではないよ。本人達も幼稚だという事は自覚しているんだしね。ここは堂々と注意してあげるべきなんだ。

 

  ………『顔だけイケてるからいいんじゃね?』とか思っている中身だけ小学生三人の面倒を見る気も話す気もない。即刻マネだけでなく、社長、知り合いのアナウンサーにハイスピード解散と伝えようかい?」

 

 

 「……お前達の方が酷くね?」

 

 

 「相変わらずの口の悪さだけど、今はなぜかこいつの肩を持ってる気がしてならねぇ~!!」

 

 

 「それは違うけど、でも君達の空気に染まりたくない…。」

 

 

 「僕もだね。僕は一応紳士としてファンの子達に応援してもらっている身だし。」

 

 

 …このハイスピードたちの会話が流れる中、RYUはリーダーは翔琉だが、実質的このメンバーを陰で支えているのはこの二人かもしれないと感じた。…今の段階で、だが。

 

 

 自分の楽屋内だというのに、完全にアウェー感を感じていたRYUに、その影のリーダー的存在(仮)の二人がRYUを見つめる。

 

 

 「こいつらが暴言吐いた。ごめん、一応謝っておく。」

 

 

 「僕からもね。許してやって欲しい。この二人はリーダーに憧れているから、リーダーに関する事になると熱くなりすぎるところがあるんだ。」

 

 

 「…別にいい。あんた達が仲が良いのは分かった。だから、早くここから出て行ってくれないか。こっちも忙しい。」

 

 

 「ああ、ごめんよ。すっかり僕たちの楽屋のようになっていたね。」

 

 

 申し訳なさそうに苦笑すると、一人は自分より体格のいいさっき暴言を吐いていた二人の首根っこを両手で掴み、無言で二人を引きずりながら楽屋を後にしていった。姿を消してから引き摺られている二人が喚いていたが、呻き声が二度聞こえたと思ったら、突然喚き声が聞こえなくなったのであった。

 それからその後、もう一人が翔琉を肩にひょいと担ぎ上げ、暴れる翔琉をがっちりと固定する。その姿から相当鍛えている事が分かる。

 RYUはこの男は警戒するべきかもしれないと思った。

 

 その矢先に楽屋を後にしようとする彼が笑顔を張りつけたような顔のまま、顔だけ振り返った状態でRYUに話しかけた。

 

 

 「……でもあいつらは馬鹿でも、言いたい事は分かるんだよね。リーダーは熱血漢だし、血の気が早いし、負けず嫌いだし、面倒な一面はあるんだけど…。

  アイドルとしても、芸能人としてもかなりの実力を持っているのは事実。それは何年にも積み重ねてきた努力のたわもの。それを僅か約一か月前に芸能界入りしたアイドルに負けるとは信じられないのもまた事実なんだ。

  

  ……だから君が実力だけでリーダーに勝ったのか、今回の収録で僕たちが判断させてもらうから。くれぐれもよろしく頼むよ~。」

 

 

 一時真っ直ぐRYUを睨んだが、それが嘘のように笑みを浮かべて消し、翔琉を担ぎ上げたまま、楽屋を後にするのであった。

 

 

 




なんだかんだ言って、メンバー全員リーダーが好きなんだな~。


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宣戦布告

少しだけ達也と響子でいきますかね。


 

 

 

 

 

 

 

 

 楽屋でようやく二人きりになったRYUと響歌は、同時にため息を吐く。

 

 

 「やっと言ったわね。」

 

 

 「そうだな…、しかしかなり時間が経過してしまった。今から急いでアップしてもギリギリだな。」

 

 

 モサモサの灰色の髪を掻いて、しょうがないという顔で、ヨガと空手が融合したような型やポーズをゆっくり時間が流れるように身体を動かす。その指先までしっかりと念入りしてストレッチしているRYUは見ているだけでも惚れるくらい、美しいものだった。楽屋の狭いスペースで器用に身を捻ったりしてストレッチを続けるRYUを見ながら、響歌は魔法を発動する。一般のテレビ局なのだが、表現の自由を掲げて世間に報道するテレビ局では、魔法の侵入、報道の書き換え、遠隔操作を受けたり、魔法師のテロリストによる襲撃、ハイジャックを受けないように魔法に対する監視や防御をあちらこちらに設置し、テレビ局での魔法使用を禁じている。まぁこれらの事は半数のテレビ局がそう発言し、税金によって監視費用やテロ対策費用を政府からもらっている。(これらを規定している局長や税金を使う事に許可をする政治家や官僚と言えば、反魔法師思想を持っている人が高い。だから魔法使用は局にいる限り使えないのだが、既に局内の魔法監視システムを制覇している響子が楽屋内で防音障壁魔法を発動しても問題なかった。

 

 

 「それより、人気が凄いわね、達也君。」

 

 

 「……凄いのがどうかはわかりませんんがお陰様でこの通りです。」

 

 

 楽屋内の物音や話声が外に聞こえないように、響歌は障壁を張った。だから、響歌から本名で声を掛けられたRYUは、内心驚いたが、すぐに許容範囲の感情で収まり、響歌の心遣いに感謝する事にした。響歌もこの時だけは響子に戻って、達也と会話を楽しむ。

 

 

 「そう言えば、あのハイスピードの子達から宣戦布告受けたわね。達也君の事だから対応に困るとは思うけど。」

 

 

 「…え?宣戦布告していましたか?」

 

 

 「……え?、…もしかしてだけど、達也君。あなた、実は気づいていなかったりするのかしら?」

 

 

 「なにをです?彼らは収録の際に俺を観察すると言っていただけですし、何もありませんよ?確かに少し敵意を感じましたが、脅威になりそうな危険なものではないですが。」

 

 

 「…はぁ~、達也君。それが宣戦布告だったのよ。

  収録でただあなたを観察するだけで終わる訳がないでしょう?彼らは自分達の凄さを貴方に見せつけておきたいのだから。勝負を投げられたのよ、達也君。」

 

 

 「…そうだったのですか。」

 

 

 鈍感だとは言われている達也は、あからさまに殺意とは違った真っ直ぐな熱意を受け取った感覚があったのもあり、彼らの意図した宣戦布告を受け取る形になったのであった。

 

 

 




眠い~。達也は向けられる好意的な部分では鈍感ですから。


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本番直前

ハイスピード以外にもアイドルを出す時が来たようだな…!!(最低人数でさせていただきます)


 

 

 

 

 

 

 

 

 「本番までもう一時間切ったぞ。出演者たちに連絡しておけよ。それと前座もしておけ。」

 

 

 プロデューサーが番組ADやカメラマンたちに掛け声をし、準備に力を入れさせる。その準備を見ていた本日の番組観覧者の方々もいよいよ始まる事に興奮が止まらなくなってきた。

 本日のミュパラは応募者がこれまでの観覧希望者の応募人数を遥かに超えた人数が大量に送られてきた。まだ増える一方のこの応募に、その原因を作ったRYUが先着順で締め切ろうと決め、いつもより十人ほど観覧者を増やし、番組を盛り上げるため、下っ端スタッフが一生懸命観覧者の人達を笑かせに行く。

 

 

 「でも、やっとRYU様に逢えると思うと、いまだに鳥肌が止まらないくらい嬉しい!」

 

 

 「この観覧者の応募もこれまでの応募と違って、事例がなかったみたい。」

 

 

 「それくらいRYU様の魅力が溢れているって事よ!!ああ~、早くRYU様を拝みたい…♥」

 

 

 「そうね! 応募数の倍率かなり高かったみたいだし、ここに来れただけでも奇跡だもの!このチャンスは絶対に逃したら後悔どころじゃないわよ!」

 

 

 「そう言えば、RYU様以外にもハイスピードやあの、”omega(オメガ)”も出演するんでしょ!? 今日は凄いよ!そしてそんなアイドルたちをこんな近くで見る事が出来るなんて…、もう堪らん!!」

 

 

 「うんうん、来てよかった~~!!!」

 

 

 スタッフが前座として話を盛り上げようと志すが、既に観覧者同士で盛り上がっており、初対面でも同じ目的でここにいて、なおかつ趣味も同じと言う事あって、早速友達となる場面が至る所で起きていた。完全にスタッフが盛り上げなくても勝手に観覧者達が話を盛り上げていて、逆にスタッフの話には誰も耳を傾けていなかった。この状況を経験したスタッフは、肩を落としてそっと退却するしかなかった。もしこのまま観覧者達の前で立っていられたとしても、心が折れている事が決定事項になる気がした。…いや、これでも十分に心が折れてはいるが。

 

 

 お気に入りのアイドルを応援するために、観覧者の多くは好きなアイドルの写真を貼ったうちわやペンライト、Tシャツを着ている。これらはおよそ一世紀前から流行しているアイドル応援着であり、時代が変化したとしても、これらは強く残っている。

 

 そういう訳で、みんなが応援する気MAXで、準備も整った所にこのミュパラの進行を行っているMCの中年男性が現場入りする。サングラスをかけ、スーツを若干着崩している男性は、プロデューサーとの打ち合わせでもベテランの雰囲気を醸し出し、長年この番組のMCを務めてきた貫禄を見せながら、本番に向けての調整をしていった。

 

 

 そしてついに本番収録が迫る。生放送でもあるから、時間は絶対に厳守だ。

 

 

 カメラが回る一分前、MCの男性は観覧席で始まる瞬間を、息を呑んで待ちわびる観覧者達に掛けていたサングラスをカッコ良く横に流れるように取り外し、カッコよく見れる計算された角度で目線を向ける。いわゆる流し目だ。

 

 

 「さぁ、間もなく始まる。君達も大いに盛り上がってくれたまえ!」

 

 

 「「「「「「キャ~~~~~~~♥♥♥」」」」」」

 

 

 黄色い声が観覧者達から沸き起こる中、出演者登場を待つ彼らは鳴れているにも拘らず、熱狂的な声に驚くのであった。

 

 

 




アイドルというよりは、観覧者達の反応がメインだったね。

…投稿遅くなってごめんなさい。


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ミュパラ、オープニングスタート!!

ただの歌番組で終わらせないぞ~。(棒読み)

今のうちは、瞼にテープを貼って、目を閉じないようにしている…。(本当かウソか…。)


 

 

 

 

 

 

 

 

 番組スタッフがカウントダウンを始め、ついに歌番組『ミュージックパラダイス』がカメラを通して、全国へ配信される。

 

 

 「こんばんは、みなさん。ミュパラの時間がやってきました!今日もMCの私が、今日も一日頑張って疲れ切っているあなたやこれからテンションMAXで酒を飲もうとしているあなた、そして~!!この番組を視聴されている全国の皆さんに楽園気分を味わってもらえるようにお送りさせていただきます!」

 

 

 MCの男性がすかさず流し目をカメラ目線でお届けするスタイルは、もうこの番組では定番になっているようで、観覧席にいる中年女性達からは黄色い声が上がっている。

 

 

 「ふむふむ、いい感じに場も温まってきましたね~。何を隠そう!!今回のミュパラは豪華なゲストたちを招いていますから!!

  名付けて…”超人気アイドル達のパラダイス~~”!!

 

  今日はアイドル達の歌と素顔を交え、皆さんに愛と幸せをお届けします!!

 

  では、さっそく参りましょうか~~!! ゲストに登場してもらいましょう~~!!」

 

 

 MCが意気揚々と紹介し、スタッフがササッと登場して持ってきた箱に空いた穴に腕を突っ込んで何かをかき混ぜながら取りだそうとする。

 これもミュパラでは伝統行事とも言えるもので、MCがくじで引いたお題に沿って、出演者たちが登場しながら行うオープニングセレモニーみたいなものだ。このお題は絶対必須であり、避けては通れない。誰もがこれをしなければいけないが、このお題に沿ってアピールすればいいだけなので、本気で取り組んだり、笑いを取るためや新しい自分を見せるために利用したりとする事も問題ない。現に、このオープニングセレモニー的なアピールをした事で、そのアイドルが急遽ドラマ主演に抜擢される事もあるし、次の仕事に繋がる絶好の機会でもある。

 

 登場を待つアイドル達は、裏でMCが何を引くか気になりながら、せめて自分の得意なお題が出るように祈るのであった。一度お題が出ると、全員同じお題で取り組むしかないし、変更もないだけに必死に拝む姿もあった。

 

 

 「…はい。今日のお題は………”フリースロー”!!

  

 

 MCがお題を発表した瞬間、煙が噴き出して壁が開いてゴールが出てくる。合計でバスケのボールが十個現れるが、それらはランダムに動いており、一筋縄ではいけない事が否応もなく理解できる。しかも一番スピードが速いゴールは得点が高いし、他のゴールに入れようとすれば、妨害するように動くのだ。バスケがうまくても難しいのは明白だ。しかも、ゴールとの距離がおよそ二十Mほど離れている。難易度が更に掻け上がった事は言うまでもない。

 

 

 説明も終えたMCは、このお題をする初めのアイドル達を呼ぶのであった。

 

 

 「それでは挑戦してもらいましょうか!! まずは……”マグナム”!!!」

 

 

 大きく手を招いて呼びかけたMCの手の先に登場の際のカーテンが開かれ、双子アイドル”マグナム”が笑顔を作って、手を振りながら登場する。

 

 その登場する少し前では、彼らは『『今日も無理難題なお題が出てきた~~!!無茶ぶりしすぎる!!』』と嘆いていた事は一緒に登場を待っていたアイドル達しか知らない…。

 

 




「アイドルの見せ場を作るためさ!!ハハハ!!」

…だそうですよ。


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フリースロー対決

おいおいアイドル達を出していくぞ~!


 

 

 

 

 

 

 

 

 初めに挑戦する双子アイドル”マグナム”は、二人とも線引きされた定位置でボールを持ってスタンバイする。

 

 

 「準備はいい?タキ。」

 

 

 「もちろんだ、サキ。」

 

 

 ボールを構えている状態で互いに気合十分だという事を確認する。それだけでスタート時の連携する予想を二人が言葉を交わさずに伝わっているような笑みを浮かべていた。

 

 

 「二人とも、準備は整ったようだね~!!では始めようか!!?

 

  それでは、”マグナム”のフリースローチャレンジ…スタート!!」

 

 

 MCの合図が入ったと同時に十個のゴールも動き出す。ゴールが動き出したのを確認してからマグナムはゴール目掛けてボールを放つ。動きもぴったりでフォームを同じ所を見て、裏で待機していたRYUは、「やはり双子というのは、息も合うものなんだな。」…と自分の知る双子を思い出しながら、そう心の中で呟くのであった。

 そんな真剣にマグナムのチャレンジを見ているからか、RYUに優しく話しかけてくるアイドルがいた。

 

 

 「やあ、君はRYU君だね?初めまして、僕はomegaのセイジ、こっちは相方の……」

 

 

 「……保志だ。……よろしく頼む。」

 

 

 なんと、アイドルの中では国内屈指のアイドルだと言われるほどの実力を持つアイドルグループ、”omega”のセイジと保志が話しかけてきた。あまりにも食い込み気味に見詰めていたせいでどうやら緊張してしまっているんだと誤解されてしまったらしい。気遣って話しかけてくれたようなので、RYUは言葉を返す。

 

 

 「よろしく。非常に興味深いものだったんで、つい見入ってしまったんだ。」

 

 

 「そうなんだ、それなら僕がルール説明してあげるよ。」

 

 

 「…お願いします。」

 

 

 政治の申し出にありがたく受けるRYU。一応楽屋でこのオープニングセレモニーの事は知っていたし、お題の内容やルールも全て頭に入ってはいるが、実際にこれを遣った事がある人からの話を聞く事で、相違ないかを確認できる。

 

 

 「僕も数回は保志とやった事があるけど、全部クリアした事がないんだ。これはいつも頭を悩ませているんだ。」

 

 

 「……セイジ、感想より説明だ。」

 

 

 「ああ、ごめん!二人とも。じゃ、僕の体験談を言う前に、ルール説明しておくから参考にしてください。」

 

 

 この後、RYUはルール説明を受けてみたが、セイジの体験談が意外にも長く、omegaの二人が次の番で登場し、チャレンジするまでずっと話を聞かされるのである。

 

 

 RYUはそんな話を他の人達がチャレンジする様子を瞬きしているのかと疑いた悪なるような目で真剣に見届けるのだった。

 

 




omegaたちを喋ってもらいました。


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最高難解なゲーム

昨日の記憶が曖昧だ…、しかし~!!
達也様の凄さを最大限に引き出すために今日も頑張るぞ~!!


 

 

 

 

 

 

 omega達が呼ばれる前、RYUはセイジからルールを聞いていた。

 

 

 ルールは至って簡単だ。

 

 

 動く十個のゴールにボールを入れて、得点を競うだけだ。しかし一見ルールだけ聞けば、「それのどこか難しいって言うんだ?バカじゃね~の?」…と鼻で笑うものがいるだろう。しかし実際に今回のフリースロー対決を鑑賞すれば、その言葉を撤回したいと思うに違いない。動くと言っても絶対に入れるようにスローで動いている訳ではない。子供がふざけてカートを乗り物として押して走るくらいのスピードがこの勝負では平均なのだ。ブレーキが付いていなかったら、衝突すれば打撲で済むか…。疑わしい予想が容易にできるくらいのものだとはっきりいう事は出来る。それに加え、一番得点の高い他のゴールより一回りほど大きいゴールは更に子供が全力疾走しているような速い代物になっている。これだけでも無茶な対決だと思うが、更に20Mほど離れてボールを放たないといけないこの対決に正直逃げ腰になったり、臆したりするアイドルや歌手はざらっといたりする。

 

 実際にこの対決のような様々な対決をこの番組に出演して来たアイドルや歌手たちは、この対決の結果で番組を視聴したファンや世間に白い目で見られたり、ネットで嘲笑われたりと決して好意的に受けいられるわけでもなく、悪意的なものが広まったりすることがある。これにより、アイドル生命を絶たれたり、恐怖心でカメラの前に立てなくなったりすることがあるらしい。

 

 

 そんな事をルール説明をしていたはずのセイジが噂話を話すように脱線して話していく。それを保志が止めに入る。どうやらこの二人はこういった関係なのだろう。

 

 

 「もういい。俺が話す。セイジはスタッフが呼びに来たら声を掛けてくれ。」

 

 

 「え~! 僕が話していたんだから、最後まで…」

 

 

 『最後まで説明するよ。』と言おうとしたセイジを一切話が受け付けないという鋭い視線を、保志はセイジに向ける。保志の圧力に屈し、セイジは肩の力を落とし、とぼとぼとして少し離れた場所で待機する事になった。

 

 

 「…ごめん、あいつ悪い奴じゃない。…ただ少し面倒。」

 

 

 「まぁ、それは分かる。…いや、別に気にしてはいない。それで?」

 

 

 自分で相方を非難はしていたが、やはり他人から肯定されたのは嫌だったのか、若干顔が歪んだのを見逃さなかったRYUは、そのまま脱線していた話を切り出す事にした。保志もこれ以上先に進まないのは互いにメリットがない事を理解していたため、RYUに乗っかる事にした。

 

 

 「まぁ、いろいろ世間では意見が分かれるくらいの対決だけど。これでもルールがある。練習もなしの一発勝負だが、その分、参加する人数は規制がない。それとボールの数は全部で十五個となっており、参加人数問わずに参加者には十五個のボールが与えられる。その指定された数のボールを使って、十個のゴールクリアを目指すんだ。」

 

 

 日頃からここまで話すような保志ではないため、一気に説明したので、若干息が切れ掛ける。これを聞いて、RYUはなるほど...と今目の前でフリースローに励むハイスピードたちを眺めているのであった。

 

 

 

 

 




第三弾特典…。ゲットしに行くぞ~!おやすみ、ぐう~~…


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挑戦の結果

どうして夏というものが毎年来るんだろう…。
またあいつらが侵略してくる…。(泣)


 

 

 

 

 

 

 

 

 アイドル達のフリースロー対決は大詰めを迎えていた。ここまでの順位は一位がomega、僅差で二位がハイスピード、三位がマグナムとなっていた。他にもアイドルや歌手が挑戦していたが、トップ3とは差が生じていた。

 

 最高得点で二百点だ。一ゴール十点として計算され、一番ゴールを入れるのが難しい一つのゴールは入れれば、更に五十点加算される。与えられるボールを全て入れればパーフェクトを達成できるが、みんなから忌み嫌われる”デーモンゴール”(今までゴールを許さず、まるで挑戦者たちの愚かさを嘲笑うかのようなゴールに、敗北していった挑戦者たちがそう感じた事から業界ではそう呼ばれている。)には、人工知能が内蔵されており、入りそうになると、瞬時に方向転換するする機能がある。更に全てのゴールに最低一つのボールを入れないといけない。同じゴールばかりに入れていいわけではないのだ。しかも動き回るゴールを既に得点したゴールだと見極めるのは至難の業というよりただの人間には無理だろう。

 

 そんなゲームをアイドル達は行い、スタジオ内も盛り上がる。

 

 やはりトップアイドルと言われるomegaは何度も挑戦し、対策も練ってきていた事もあってデーモンゴール以外の九個のゴールに全てボールを入れ、最高得点をマークした。二人の連携が見事で合図を出しながらまだボールを入れていないゴールを優れた動体視力で追い続け、見事に成し遂げたのだった。歴代最高得点もマークしていたため、ファンから熱烈な応援が飛び交う。

 続くハイスピードも人数が五人なので、事前に狙うゴールを担当分けしていたため、着々と点数を稼いだ。残ったボールを使って、翔琉が二度、デーモンゴールを狙って投げたが、すばしっこい動きで避けられ、どれも入らなかった。これに翔琉が熱血魂に火がついてしまった。残りのボールをつぎ込もうとする。しかし、それをいち早く察知した仲間たちに取り押さえられ、残りのボールをその他のゴールに入れ込む。翔琉が不満たっぷりな顔をしたが、そこはみんなスルーする。

 マグナムも双子であるだけに同じ動きで点数を稼いでいき、観客に目配せしながらボールを投げていく。若干パフォーマンス的な動きも見せるため、デーモン以外のゴールに入れることはできたが、余ったボールはすべて外してしまった。しかし、本人たちはそれほど悔しがっていなくて、妥当だという顔をしていた。

 

 

 それ以外のアイドルたちは苦難を強いられ、点数は伸びなかった。

 

 

 「さて、いよいよ最後の挑戦者になりました!!ではお呼びしますよ、皆さん!!

 

  今最も注目される新人アイドル、”RYU"~~~!!!」

 

 

 MCが最後の出演者を読んだ瞬間、観覧者席側から大きな歓声が上がる。まだ何もしていない段階でのこの盛り上がりの中、ついにRYUが登場する。

 

 

 そしてこの後の事だが、更なる大きな歓声が上がることになるのであった…。

 

 

 




寝落ち連発で投稿が遅くなったことをお詫びします。



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裏の思惑

第四弾の特典…。ほしいけどもう映画館に行く余裕が…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 RYUが登場した瞬間、悲鳴にも近いほどの歓声で歓迎された。失神する人も続出し、観覧席は一種のパニック状態になった。

 その反応を見て、番組スタッフ達は失神した人たちの介護にあたろうとする。しかし、失神した人たちの連れが涙を流しながら、テレビ局の審査室へと連れて行こうとした番組スタッフ達の腕を掴んで、連れて行かないように懇願する姿も見られた。

 

 なぜかというと、失神する前から「もし失神したり気絶したりしても絶対にここから動かさないようにして!ここまで来てRYU様を応援できないのは嫌!!」

 

 …と答えていたからだ。

 失神しても傍にいたいというファン魂が動かしているためだった。

 

 そんな観覧席側でのやり取りを離れた場所から聞いていたRYUは、『審査室にもモニターはあると思うんだが?』と、どこで自分を見ようかどうか関係ないんじゃないかと苦笑しながら思うのだった。

 

 その一方で、MCは狙い通り、RYUに出演依頼してよかったと視聴率が跳ね上がっている現状に笑顔を浮かべるその裏で、腹黒い事を考えていた。

 

 

 それでもこのまま番組を続けていく訳だが。

 

 

 「RYU君はこの番組の初出演だし、この対決もやった事ないんだよね?」

 

 

 「…ああ。ない。」

 

 

 「この番組名物だしね。君にも挑戦してもらうんだが…、準備はいいかね?」

 

 

 MCは口でそう言いつつも、実際は別の事を考えていた。

 

 RYUに挑戦してもらうのは決定事項だ。しかし、ここでRYUがもしろくに得点をゲットできなかったら、この番組の視聴率も一気に下がる。せっかく番組向上のために利用するために呼んだのに、逆に働いてしまっては困る。だから、MCはここである提案をしようかと考えた。RYUが点数を取るためにゴールの速度を遅くしようか、サービス精神をいう事にして申し出ようかと考えた。番組自体の運行もベテランMCである彼に任されている面もあるため、実行する事もできる。

 

 

 「もしよければだが……」

 

 

 「準備はとっくにできている。早くさせてくれ。」

 

 

 MCがハンデサービスを申し出ようかと出した言葉を途中で割り込んでRYUはささっと持ち場についた。

 

 

 (…仕方がない。ここは言わずにスピードを遅くしておこう。素人には見分けもつかないだろう。バレる事もない。寧ろ感謝される事だろう。)

 

 

 そう自分に言い聞かせ、美術スタッフに目配せして無言で指示をする。

 

 

 ボールが入った籠もRYUも隣にセットされ、合図が鳴れば始まる段階まで来た。

 

 観覧席からは応援する声が湧き上がっていたが、集中するRYUを見て、その声も次第に収まり、祈るように手を組んで無言で見つめている。

 

 

 「……それではラスト、RYU君のフリースローだ! 果たしてランキング上位に入るのか~~!!?」

 

 

 バァ~~ン!!

 

 

 合図として用意されていた風船が割れ、三十秒間のフリースローが始まったのであった。

 

 

 




芸能界ではこういう腹黒い人はいるんだろうか?


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前代未聞な挑戦者

達也様のカッコいい場面を披露しないと!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 合図が鳴ると同時にゴールも動き出す。

 

 

 しかし、RYUは隣のボールが入った籠に手を伸ばしてボールを取ろうとはしない。寧ろ顎に右手を添えて、片方が腰に手を置き、動き始めたゴールを見ながらまるで考え事しているかのようなポーズを取っていた。着実にタイムが進んでいき、残り時間も無くなっているのにまだ動こうとしないRYUを見て、小さなざわめきが起きる。時間は始まっているため大声でひそひそと話すなんて真似をする人はいないが、マナー的には間違っているので、番組スタッフが静かにするように指示をして回る。その観客達の反応に釣られてしまったのだろう…、手番が終わったアイドル達が階段状になった座席に座った状態で、同じように仲間と声を潜めて話し合う。

 

 

 「おいおい、もう始まってるってのに、あいつは何をしてるんだ?」

 

 

 「怖気ついたんじゃね~の?」

 

 

 「いや彼がそんな真似をするなんて思えないな…。何かを企んでいるとは思うけど。」

 

 

 「僕もそう思う…。」

 

 

 「君達の言うとおりかもしれないね。彼は今はしないだけだと思うよ。」

 

 

 「……何かを待っているのか?」

 

 

 口々で語られる中、ついに開始してから十秒後にRYUが動き始めた。

 

 いや、動き始めたようだと言った方がいいだろうか。なぜならRYUが始めた所を知らないからだ。考えるポーズを止めたと思った次の瞬間、RYUがボールを一つのゴールに見事に決めていた。目で追いつけないほどのスピードでボールを掴み、素早く投げた結果だ。これには観客だけでなくアイドル達も驚いた。それでもこの後も驚かされ続けてしまうが。

 

 

 一投目が終わると、次々とボールを片手で取り上げ、フォームを作らずにまるでゴミ箱に丸めた紙を投げ込むような仕草で投げ始めた。そんな投げ方で動き回るゴールに入る訳がないと見ている人達がそう思った。しかしそんな考えはすぐに放棄する事になった。

 RYUはその投げ方で外すことなく得点を重ねていく。しかも驚く事にゴールを通過したボールが更にその下を動く別のゴールの中へと入っていった。それが立て続けに起き、RYUが投げ始めてわずか五秒で既に得点は二百点になっていた。このゲームでの最高得点をあっさりとクリアしてしまったRYUにも驚くと同時に、変わった方法でのやり方に今までなかったので、絶句するしかなかった。そして残り十秒になった時、後はデーモンゴールだけになった。

 いや、表現するなら残り二回だ。ここまででRYUは普通のゴール達には一つに付き、各二回ボールを入れていた。その過程で言うなら、デーモンゴールはまだ二回とも入れていない。それと別にゴールがまだ一回分残っている物が一つある。残ったボールは後三つ。数的にはギリギリで、失敗は出来ない。

 

 RYUはボールを一つ持つと、デーモンゴール目掛けて投げた。

 

 

 「あの馬鹿野郎…! 直接狙ってもあいつには入らねぇ~!!」

 

 

 「時間も足りなくなってきたし、自棄でも起こしたのかな?」

 

 

 RYUの行動に感想を述べるアイドル達。それを集中しているRYUには雑音にしか聞こえない。それにRYUが自棄を起こす訳がない。実際に呟いた後、彼らは目を見開いて口を開けた状態で固まり、絶句する。

 

 

 「これで終わりだ。」

 

 

 RYUがそう一言つぶやいた時、いつの間に投げたのか、また素早い投げ方で不意を突かれたデーモンゴールに一回、入った。この瞬間息を呑んで喜ぶ観客がいたが、慌てて自分の口を塞いで見守る。

 

 初めに投げたボールはデーモンゴールの意識をそのボールにミスディレクションさせ、もう一つのボールで挟み込む形で見えない動きで見事に得点したのだ。ちなみに初めのボールはデーモンボールに入らなかったものの、跳ね返って軌道が変わり、別のゴールに得点された。ボールに言うのもあれだが、まさに”ただでは転ばぬ”である。しかしあと残りが三秒だ。

 

 残り迫る中、今度は警戒するような動きで小刻みに方向転換しながら動くデーモンゴール。しかしRYUの元には既にボールがない。RYUは両手をポケットに入れ、ゴールに背を向ける。

 

 

 「言ったはずだ…。”これで終わりだ”とな…。」

 

 

 そう呟いたと思ったその時、天井から突然降ってきた…、いや、落ちてきたボールがボールを通過し、その真下にあったデーモンゴールに一直線に二つのゴールに吸い込まれるような感じで入っていった。

 デーモンゴールにボールが入った瞬間、タイマーのアラームが鳴り響いた。

 

 それが合図となり、鼓膜が割れんばかりの歓声が沸き起こったのだった。

 

 

 




な、な、な…!!
達也様、さすがです!! 


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圧巻の勝利

RYUじゃなくても同じだっただろうな~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 世にも不思議なものを見せられたような強い印象を持った観客や出演者達の視線を一身に浴びるRYUは、居心地悪そうな苦笑をして、頭を掻く。そのままアイドル達が自分を凝視するのを無視して一番後ろの席に座った。今もなお絶句する彼らだが、生放送されているのを思い出し、我に返った。そこからはすぐに笑顔を浮かべて、カメラに手を振っている。RYUは「さすがアイドルだな…。」と見事に瞬時に笑顔を浮かべられる彼らに感心するのであった。

 

 

 「いや~…、なんと言葉にしていいやら…。まさか番組史上最高得点が出るとはね~!しかもあんな方法は想像できなかった!! 良いものを見せてもらえたよ!」

 

 

 リアルタイムの視聴率をスタッフから耳にセットしているイヤホンから一気に鰻登りに更に上がったという知らせに、笑みがこぼれ捲るMC。しかし誰もその笑みが腹黒い笑みだとは気づかない。

 

 

 「私もびっくりです…。今まであのようなボールを連続的にゴールにシュートするなんて事はありませんでしたから。」

 

 

 アシスタントの女性も驚きのあまりまだ興奮が収まらず、大きく何度も深呼吸して安定させようとする。その言葉に多くの人達が大きく頷く。

 

 

 「しかしこれは最高得点と言っても、前例がないからね~。」

 

 

 MCは番組の視聴率があげてくれた事には感謝はしていたが、対決自体の前例のない事ばかりされたので、頭を悩ませることになった。いくら最高得点でもやり方が前例がないので判定をどうするか迷うのだ。もしこのまま認めてしまうなら、他のアイドル達の反感を買うだろうし、かといって今人気アイドルのRYUの得点を認めないと今この場にいるファンからは真っ先に罵声を浴びるだろう。

 

 その判断に決定を出さないといけないMCは、RYUに聞いてみる事にした。

 

 

 「RYU君、素晴らしいパフォーマンスをありがとう。しかし前例がないからね~。君はどうして……」

 

 

 『君はどうしてこのやり方をしたのか?』と問いかける言葉を言おうとしたが、逆に聞いていいのか戸惑う。こんな聞き方をしたら生放送で尋問しているように捉えられるのではと考えが過ったからだ。

 しかし、MCが戸惑っていたのも一瞬だった。聞こうとしていた事をRYU自ら話し出したので、救われたのだ。

 

 

 「このフリースロー対決のルールでは、時間内に指定の数のボールをゴールに入れる事だ。それぞれのゴールには必ず一回は入れないといけない。なら、全てのゴールに一度ボールを入れてからまた入れたとしてもルール違反にはならない。それに”一つのボールで一つのゴールに入れる事しか認めない”なんてルールはなかった。つまり一つのボールで複数のゴールを狙ってもいいって事だろ?」

 

 

 RYUのルールから導いた解釈にMCもついには口を開けたまま固まり、放心状態になる。しかしベテランの意地を働かせ、RYUのフリースロー対決の得点を認めた。これによりRYUは歴代フリースロー対決のトップ成績を刻み、圧巻の勝利を収める事になったのであった。

 

 

 




ルールの穴を突くのは達也の十八番と言っても過言ではない!


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対抗心の芽生え

これだったら寝落ち王決定戦に出られるのでは…?
最近、うちはそう思う事に増えてきた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、OKです! カメラ確認しますので、一旦休憩にします!次の収録は10分後です!!」

 

 

 ADがカメラの生放送が切れたと同時に出演者たちに向かって大声で語る。生配信が停止しているのを撮影の際に確認するモニターで再確認したRYUは、他のアイドルや歌手がマネージャーと打ち合わせをしていたり、ヘアメイクをしてもらっていたりするのを収録セットの席に座ったまま、観察する。そして自分はというと、一人でただ収録再開を座って待っているだけなのに気づいて、自分もマネージャーと打ち合わせなどをした方がいいのかと思い至る。しかし、その必要があるのかというと、実のところはない。予定なんてマネージャーに聞かなくても、もう頭の中に入っている。ヘアメイクもする必要がない…。(髪やメイクを弄られて、正体がバレては困るからだ。)発声練習等は論外で、既に喉も仕上がっている。何もすることは無い。そう思ったら、別に周りに合わせなくてもいいのではないかという考えが過る。そうなると、ほんの少しの間の思考だったが、結論が出ると、思いのほかすっきりする事が出来た。

 

 

 (さて、あと少しの時間、精神安定させておいて、本番に備えておくか…。)

 

 

 そうして目を閉じ、始まるまで眠っておくことにしたRYU。足を組んで、太腿に頬杖をつき、バランスを取って目を瞑る。愛用の情報端末でお気に入りの書籍サイトを見る事はできないし、他にする事がない今の状況でできる事を消去法で導き出した方法だった。

 

 目を瞑って、周りを意識から外そうとしたRYU。

 

 しかし、すぐそばに人が来た事で、RYUの眠りは残念ながら破断してしまう。瞑っていた目を開け、隣に座る人物に目を遣る。元々気配を察知していたので、驚いていないが、来ないと思っていた人物が不満な顔を向けてくるので、何か自分は間違ったのかと不安になった。

 

 

 「ねぇ、どうして私の所に来てくれなかったのかしら?」

 

 

 「…用事はなかったので。」

 

 

 「私、待ってたんだけど。他のアイドル達はマネージャー達と仲睦まじく会話しているのに、私の方は一人でいないといけなかったのよ。お蔭で馬鹿なスタッフに口説かれてなかなか脱出できなかったんだから。」

 

 

 「ああ、あれは口説かれていたのですか。それは気付かなくてすみません。ですがあれくらいならあなただけでもすぐに片が付いたでは?」

 

 

 「ここで目立つ事なんてできる訳ないでしょ? …もう、君に協調性とか、好奇心とか教えてあげたいわよ。」

 

 

 「それはまたあとで聞きますから。…ところで助けてもらえなかったからという理由だけで、俺の所へ来たわけではないですよね?…響歌さん?」

 

 

 「ええ、そうね。本題に入りましょうか。…RYU、さっきのフリースローでかなりの出演者から対抗心抱かれてるわよ。いきなりの圧倒的存在感アピールを喰らったんだから、プライドが刺激されたのでしょうね~。」

 

 

 ニヤニヤとした笑いを化粧した顔でする響歌は、遠くから見れば、妖艶な笑みに見える。RYUは、忠告とも言い難い響歌の言葉に寧ろ楽しんでいるような印象を持った。つい習慣でついた響歌との気安いいつもの話し方になっているのがその証拠だ。

 

 

 「はぁ~…? あれくらいの事なら皆さんも一緒にしていますし、鍛錬メニューならもっとハードなものをしてますよ。」

 

 

 「そうだけど、君は今は魔法師でもないただの魔法が使えないアイドルなの。簡単でもそこは手加減してくれないと。…と言いたいところだけど、君には無理だろうし、私もよくやった!って思ったから気にしなくてもいいわ。

  どんどんやってしまいなさい!!」

 

 

 「…結局どっちなんですか?、それ…。」

 

 

 おそらく応援なのだろうと思う事にしたRYUは、響歌からの情報を頭の片隅に入れ、苦笑する。その瞳には、遠くから自分を窺い見る共演者であるアイドルや歌手たちの萌える様な闘争心を感じる視線とぶつかっていたのであった。

 

 

 




あんなものを見せつけられたのに、対抗心が沸き起こるっていうのは凄いな~って思うよ。

うちも負けられないな!…睡魔に。


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駆けて、その先へ

最近は音楽流しながら寝入ってしまうんだよ~、だからヘッドフォンは除外しないとだね。


 

 

 

 

 

 

 休憩が終わって、収録が始まる。

 

 

 「さぁ! ここからは出演者の皆さんに話を聞いていきながら皆さんに歌をお届けしますよ!!

  まずは、マグナムたちから行こうか!」

 

 

 「「はぁ~い!!」」

 

 

 二人で肩を組んでピースサインを作ってカメラに視線を送るマグナム。息があった動きと可愛らしさからか、観客席からは『可愛過ぎるっ!!』という声が聞こえてきていた。

 

 

 「相変わらずの息があっているね、君達は。」

 

 

 「本当ですか~。良かった!ウケてる~!!」

 

 

 「みんなが笑顔になってくれて嬉しいな~。」

 

 

 満面の笑顔で語るマグナムに観客席から拍手が起きる。MCと会話を弾ませるマグナムを出番をウズウズとして待っているハイスピードの内三人が今か今かと待ちわびていた。

 

 

 「早く俺の出番がこねぇ~かな~。パァ~と、歌ってすっきりしたいぜ!!」

 

 

 「さすがリーダーですよ!その意気、骨身にまで浸みました!!」

 

 

 「カッコいい~!」

 

 

 「………三人とも落ち着け。幼児園児か。」

 

 

 「まぁまぁ、今は生収録だよ。僕たちの姿もばっちり映っているんだし、笑顔でやろうよ。…笑顔は得意よね?三人とも。」

 

 

 「う…、わ、分かったって。大人しくしていればいいんだろ!?」

 

 

 「ただ大人しく…、じゃだめだからね? しっかり先輩や後輩を応援しないと。」

 

 

 (……こいつ、俺達が幼児園児並みだって事を全然否定してねぇ~。相変わらずの腹黒さだぜ。)

 

 

 「今僕の悪口を言っていたよね?…翔琉?」

 

 

 心を読まれた翔琉は、ドキッと身体を跳ねあがらせる。そしてそれを誤魔化そうとして席から立ち上がり、トークが終わり、ステージで歌を披露しているマグナムたちを応援する。

 

 

 しかし、翔琉が何故出番を待ち遠しく思っていたのかは、突っ込みを入れた仲間も理解していた。口ではああいったが、翔琉と同じように心の中で思っていたからだ。

 

 そうさせたのは、他でもない、RYUだ。

 

 

 RYUの誰も想像してこなかった方法で、注目を浴び、まして頭脳にも優れている事が分かった。デビューしてからの瞬く間の大人気を得たのは、芸能界でのコネや他人の力だけで成り立ったわけでない事が痛いほど思い知らされた気分だった。収録前でも言ったとおり、RYUを見極めさせてもらうと言っていたため、RYUのフリースローには力を入れて、見ていた。その結果は想像よりはるかに上だった。

 

 

 (認めるしかないだろうね…。彼は僕たちよりも上に立つアイドルになる、という事を。)

 

 

 

 マグナムの歌も終わり、いよいよハイスピードたちのトークが始まる。観覧者達の席にも話しかけ、場を盛り上げていく。そんな中、彼らは決心していた。

 

 

 (あいつが俺達よりも人気になっていくのは、否応なく思い知った。)

 

 

 (だけどまだその時ではない。…なら)

 

 

 (それまでの間に俺達がさらに上に君臨すればいい。)

 

 

 (……そう簡単に抜かすことは無いからな。)

 

 

 (高みからお前を待ってやる! もし追いついてきたなら、その時が本当の勝負だ!!)

 

 

 気持ちを一身に、更なる野望(?)が生まれたハイスピードは、そのための一歩として、ステージへと足を運ぶ。この時のハイスピードの後姿は、なぜかかっこよく見えた。

 息をのむほど、魅入る後姿を見せる彼らは、新たな目標を持って、駆けていく。

 

 

 




眠い、でも書けなかった分も挽回していくぜ!


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トークタイム突入

RYUのトークタイムは、多分そんなに続かないと思うけど。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイスピードたちの歌も終わり、一旦CMが流れる。その間に席を移動して、出番が終わった出演者たちは後ろへと座っていく。

 そして残っていたのは、omegaとRYUだけだった。omegaは番組の締めを担当するため、RYUは新人枠として設けられているコーナーで出演するのだった。そこでは新人たちの紹介PVやファン達のコメント、新人アーティストの推薦をする芸能人達のVTRまで流れる。それはRYUも例外ではなかった。

 

 初めにファン達のコメントが並び、声が盛り上がってきたところでRYUのデビュー曲のMVでのサビ部分が流れ出す。MVが流れ始めた途端、観覧席から黄色い声が沸き起こるがすぐに収まった。収録中であるという事は、生放送で自分達が全国で見られている事になる。マナーとしてはあまり良くない行動だ。だから気持ちを抑えて観覧し続ける。

 

 ………ならよかったのだが、すぐに声が収まったのは、感動のあまりに観覧者たちが失神したり、気絶したり、号泣する自分を必死に堪えてみたりとファン魂が暴走した結果だった。

 

 そのままMVからデビュー曲をタイアップして宣伝していた初仕事のCMまで流れ出し、「このCMで更に瞬く間に名を広めた。」とか、語りだす。

 このVTRもRYU本人もモニターで見ているが、何とも言葉にならないくらい居心地が優れなかった。そこまで言われるほどうまくアイドル活動してきた覚えはないし、実感さえない。紹介の仕方もむず痒く感じる。

 

 ようやく紹介VTRも終わり、やっとトークタイムに移る。しかしRYUにしてはここからが本番で、気を抜けない時間が始まるのだった。

 

 

 「紹介VYRを見てみたけど、やっぱりRYU君は目覚ましい実力を持っているんだね!さっきの対決もいきなり前代未聞の最高得点を取ってみせるしね!いつもは何をしているんだい?」

 

 

 MCがトークを盛り上げようとRYUに話しかけてくる。この話の振りは常套手段でもある。しかし、ミステリアスで個人情報が一切公開されていないRYUのプロフィール。今後のためにも今公開してしまうのは避けなければいけない。(それにプロフィールの管理は真夜が行っており、必要になってきたりすれば真夜が完璧までの個人情報を発行する事が出来る。これにはRYU本人も触れる事は出来ない。ただその設定に従うまでなのだ。)

 

 

 「…特に何も。運動と勉学をするだけだ。」

 

 

 当たり触りもない回答を述べるRYU。しかし嘘という訳でない。RYUを演じる達也は高校生で、勉学や運動も日夜しているのだから。そう答えたRYUは、視線をMCとぶつけながら情報収集の攻防戦に対して最善を考えていたのであった。

 

 




達也が歌う!! さてわくわく止まらないぜ!
…本格的な歌詞ではないので、期待はしないでね?


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ステージライトに照らされるまで

どくん…、どくん…!
うわぁ~、緊張してきた~!!(うちが出る訳じゃないのにね。)


 

 

 

 

 

 

 

 

 RYUからの返答が当たり触りのない者だったため、MCは心の中で舌打ちをする。これまでの態度から見て、簡単に尻尾を掴ませる様な人物ではない事は理解していたが、いざ鎌をかけたり、気兼ねなく話せるように雰囲気を作っているのに、まるでそれを見透かされているかのような視線を向けてきて、次々と躱していく。

 交渉ごとに長けているような…、いやこの感じは脅しに長けているというレベルだ。MCは冷や汗を背中に掻きながらそう感じた。(実際に自分で脅迫の類は行っているため、敏感に察した。)

 

 

 (一体こいつは何者なんだ?)

 

 

 MCは心の中でそうRYUに問い掛けた。口で言えば、命がないのではないかという恐怖に駆られたからだ。もしそれがなかったとしても、直感的に触れてはいけない事だと判断しただろう。

 そんな事をもいながらも、生放送中の番組を進行し続けるこのMCは、並みならぬ精神力と状況判断力に長けているのかもしれない。

 

 一方で、RYUはMCが自分に恐怖を感じている事は察していた。今は上手く表情を隠しているが、初めに自分に向けた一瞬の頬の筋肉が引き攣ったところを見たからだ。その時以外顔には出ていないが、その時浮かべた表情が、任務の上での標的が最期に浮かべるものと同じだった。その際はまだ自分が何者か、どれくらいの力量なのかを知らない、知る事を放棄した場合、自棄を起こして自ら末路を迎える事になる。そんな雰囲気を感じたRYUは、『もしかしたらこいつも自暴自棄になるのではないか?』とややこしそうな印象を受けるのであった。

 

 それと同時になぜ、そこまで恐怖を感じられるのか意味が分からなかった。

 

 MCと会ったのは、ほんの数時間前の収録前の出演者挨拶の時が初めてだ。特に親しく話したわけでもない。そんな思いを抱いていたが、相手が何事もなく司会進行する者だから、RYUもこれ以上縺れる事はしまいと、会話に合わせていった。…と言っても、自分に関する事は封じているが。

 

 その事はMCも十分理解したので、RYUの個人情報を聞き出すのは止めて、デビュー曲の事を聞く事にした。

 

 

 「そうそう、デビュー曲だけど、RYU君が作詞作曲したんだってね~。この曲はどんな思いで書いたのかな?」

 

 

 「……とても大事な人のために作った。」

 

 

 そう答えたRYUの顔は、今まで苦笑しかしなかった表情に、優しい目をした笑みを浮かべたのであった。

 

 

 「それはもしや…!」

 

 

 まさかこれに食いついてくるとは思っていなかったMCは、すぐさま食いついてくる。しかし、RYUは誤解の余地がないようにすぐに付け加える。

 

 

 「俺の大事な家族のために感謝のつもりで書いた。」

 

 

 「そうなのかい? ならその思いは強いんだろうね。聞いてるだけで心が震えたからね~。」

 

 

 そう言われたRYUは、笑顔を浮かべようとしてうっかり綻んでしまった。ジj分が最も大事にしている思いを”強い”と捉えてくれたことになんだか少しだけ恥ずかしい思いをしたからだった。しかしそれもすぐに収まり、いつもの表情に戻る。

 

 それが合図になったのかは分からないが、CMの時間になった。この後、RYUがついにステージライトに浴びながらデビュー曲を披露する事になる。

 

 

 トークタイムを終え、RYUは席から立ち上がり、ステージへと向かって行く。

 

 

 




同じ世界にいるからこそ分かる独特な雰囲気か~。

いやはや、次はついに達也様が~~!!?


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"Thank you"

上手くいけるように祈るしか…!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージに立ったRYUは、何十人もの視線を浴びながら、カメラが回り出すのをじっと待つ。

 

 この時のために真夜に確認取りながら、カメラ写りの良い姿勢や角度までも記憶してきた。(”身体に沁みこませてきた”ではないのは、そこまで練習しなくても一度覚えてしまうとそれを身体を使って再生すれば、すぐに形になってしまうからだ。)

 まぁ…、このレッスンの際、真夜がやけに目を輝かせていたが、あまり気にするようなことは無いと思う事でRYUの意識から消す。

 

 それよりも不安が残るのは、”歌えるか”だ。

 

 声を出して、メロディーに沿って音程やビブラート、コブシ等を調整して”歌う”ならRYUにとって造作もない。日頃からしっかりと聞こえるくらい鍛えられた何とも耳を傾けずにはいられない大人な声をしているから、声量にも問題はない。

 しかし、その歌声に『感情』を込めた状態で”歌えるか”となると、評価は違ってくる。この番組出演が決まってから地下室で防音障壁を張って、何度もレッスンし、その旨を記録した映像を暗号化して真夜に送信したが、帰ってくる返答と言えば、『響かないわね。全く伝わってこないわ。』…だった。

 

 元々感情が消されてしまっている達也にとって、感情を乗せて歌うという事は無理な話なのだ。一定以上の感情を持たない以上、人に感動や共感を与えるくらいの影響をもたらすような感情を込めた歌を歌う事はできない。これは真夜も十分分かっている。それでも真夜がこの番組に出るように仕組んだのは、達也ならできると判断したからだ。

 

 

 (理屈としては上手くいくかもしれない。実際にやってみたら、叔母上の反応も無反応ではなかった。しかしやはりうまく歌えるか、俺には分からないからな。

  この後の世間の反応がどうなるか…、想像できない。)

 

 

 今までにない任務の一番の見せ場とあって、さすがのRYUも不安を隠しきれない。しかしその戸惑いもほんの数秒で、意識を切り替える。

 

 

 (いや、できると信じてみるか。なぜならこれは俺が唯一歌える歌なのだから…。)

 

 

 脳裏に浮かんだこの世界で最も愛しい存在に対し、笑みを浮かべ、曲が流れ始めるのを耳にとらえ、ヘッドマイクを調整し、いよいよステージで披露する時を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 ”Thank you"

 

 

 

 

 いつも俺の傍にいてくれる

 そんな君の温もりが嬉しい

 でも近くにいても

 伝えていない事がたくさんある

 

 この胸に手を当てれば

 きっとすぐに浮かぶ顔はonly you

 だけどなんだか照れくさい

 だからまだ言わないでいるこの秘密

 

 Thank you

 俺を好きでいてくれる君へ

 I say

 『出会えてよかった』って

 Thank you,Thank you

 歌にして伝えるよ この気持ち

 I say thank you now

 

 

 

 いつも俺の味方でいてくれる

 そんな君の笑顔が微笑ましい

 その感謝を言葉に

 したい気持ちが溢れるんだ

 

 こんな風にもっと素直に

 伝えられたら君はどんな顔をするだろう

 少し照れくさく感じる

 だけど今日も言うよこの愛を

 

 Thank you

 俺を愛していてくれる君へ

 I say

 『生まれてくれてありがとう』って

 Thank you、Thank you

 歌にしたら言えるんだ この気持ち

 I say thank you now

 

 

 Thank you、Thank you 傍にいてくれて

 Thank you、Thank you 笑顔でいてくれて

 Thank you、Thank you 抱きしめてくれて

 Thank you、Thank you 愛してくれて

 

 

 季節は何度も巡っていく

 その中で絶対に変わらないものがあるんだ

 それは”君を愛し、護る事”

 それだけは俺の本当の気持ちだから…

 

 Thank you

 俺を愛していてくれる君へ

 I say

 『生まれてくれてありがとう』って

 Thank you、Thank you

 歌にしたら言えるんだ この気持ち

 I say thank you now

 

 

 Thank you、Thank you 絶対に護るから

 Thank you、Thank you これからもずっと

 Thank you、Thank you 永遠にずっと

 Thank you、Thank you 二人で歩こう

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 




歌詞が完成~~!!

頑張った~!! 達也の気持ちが書けたかどうかは分からないけど、力を入れまくって頑張った~!!

以上、”Thank you"でした!!


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ハリケーン如き反響

次の曲(いわゆる新曲ですな~。)も考えないといけないな…。




 

 

 

 

 

 「はぁ~……」

 

 

 深いため息が車の中で広がる。助手席から聞かされた重苦しいその溜息に不愉快そうな視線を横目で送った運転席に座る彼女は、文句を言おうとして、結局止めた。

 こっちにまで浮かない顔をさせられる事になったが、ため息を吐きたい気持ちは彼女にもあったし、ここは一種のプライベート空間だ。少しの間だけでも息抜きさせてあげようと思うのは、マネージャーとしての責任や仲間としての気遣いからかもしれない。

 

 

 「……道が違いますよ、響子さん。」

 

 

 窓から見える景色が違う事で、総運転してくれている女性に…、響子に話しかけたのは、達也だった。

 彼らは奈放送番組『ミュパラ』での収録を終え、帰路を走っている所なのだ。響子が送ってくれると言ってくれたので、これには達也も言葉に甘えて乗車した。動く密室空間だし、この車は響子のマイカーだ。防音システムも完璧だし、ハッキングされる仕組みはない。(ハッキングする仕組みはあるが。)

 達也の疑問に今度は笑顔を浮かべる響子は、正面を見ながら話す。

 

 

 「このまま帰るより少しは気分転換した方がいいんじゃないかなって思ってね。そんな顔で深雪さんに会ったとしたら、何かあったって勘付くわよ~?あの子、達也君の事になると勘が物凄く鋭くなるんだから。

  それにまだ時間はあるでしょ?」

 

 

 「それは妹だからじゃないでしょうか?家族の異変には目が止まるという言葉を聞いた事があります。」

 

 

 「……深雪さんに関しては達也君もまだまだ知らない事があるのね~…。あの子がそれだけで達也君を見ている訳がないじゃない…。」

 

 

 「…なにか?」

 

 

 「いいえ、何にもないわよ? じゃあ少し適当に車を走らせるから。」

 

 

 「…はい、くれぐれも時間は厳守で。」

 

 

 「言われなくても。」

 

 

 確かに今のこのやつれた顔で深雪と顔を合わせるのはまずいと達也も思っていたため、響子の案に賛同する事にする。

 

 

 「今日はお疲れ様、達也君。収録よかったわよ~。」

 

 

 「そうですね、生放送番組でデビュー曲を初披露するというミッションは成功しましたね。」

 

 

 「…他人事のように言っているけど、達也君がした事だからね?」

 

 

 「”RYU"が…、ですよ?響子さん。」

 

 

 「どっちも貴方でしょう…。ふぅ~…、まあいいわ。」

 

 

 ため息を吐く響子は、すでに諦めムードだ。

 実はと言うと、収録自体は当初の予定していた見積もりよりはるかに高い視聴率を叩き出すくらい、番組側と出演者の互いのメリットになった。

 しかし、この収録が終わってからというもの、楽屋の前でこっそりと列からはみ出してきた観覧者達=ファン達が押し掛けてきて、サインやら握手やら記念撮影やらを強請ってきたのだ。さすがに騒ぎが聞こえ、警備員とのテレビ局内鬼ごっこが始まった。これを幸いと捉えた達也は、テレビ局から無事に出る事が出来たのだった。楽屋からも出てみたはいいが、出入り口では外で放送を見ていたファンが待ちわびていたりもして、ちょっとした騒ぎを超えてしまう。結局引っ張りだこにされ、次の仕事に遅れるからという嘘をついて、脱出したのだ。達也が浮かない顔をしてため息を吐くのも無理はない。 

 

 

 

 「もう二度と生放送番組には出たくないですね。」

 

 

 それを体感したからこそ、達也の口から愚痴が零れた。

 

 

 「それは無理ね。アイドルになったばかりだもの。一番の見せ場は歌番組で知名度を上げる事よ。」

 

 

 「それは理屈の上では理解してますが、どうにも俺には合わなさ過ぎて…。」

 

 

 「でも今日の達也君の歌、とても素敵だったわよ。私も一ファンとして言うけど、あの曲は本当にあなた自身の歌だってわかったもの。何より達也君の事を知っている私でも、余計に感動しちゃったんだから。

  だから…次も頑張って。」

 

 

 「……面白がっていると思うのは、気のせいでしょうか?」

 

 

 「ふふふ、バレた?」

 

 

 いつもの達也では見られそうにない困惑したような顔を見れて、響子はいいものを見れたという感じで笑う。

 

 そんな響子の笑いとため息が混ざり合って、夜の街を走り廻っていくのであった。

 

 

 その日を境に、RYUはファン一同の心を動かし、ハリケーンの如き大反響を巻き上げ、ファンの数をいきなり七万人以上に拡大した…。

 

 

 




達也もビッグな大物になるのか~。次はどの仕事にさせようか…。


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仲が良いので

物語の重要?分岐点だ~。


 

 

 

 

 

 

 響子に送ってもらいながら、深雪が待つ(深雪は達也が出かけている事は知らないので、待っているとは違うかもしれないが。)自宅へ続く住宅地街の道へと近づいてきた時、達也はいきなり響子に問い掛けた。

 

 

 「このまま帰宅してもいいのですか?響子さん。」

 

 

 「あら、どうしたの?達也君。いきなりすぎない?」

 

 

 「いえ、ずっと響子さんが言わなかったので、人が少なくなってきましたし、ここら辺で聞いておこうかと。」

 

 

 「私が何か達也君に言わないといけない事があるって言いたいのかしら?」

 

 

 「違いますか?」

 

 

 有無も言わさない鋭い視線に、響子はまるで首筋にナイフを突きつけられているような感覚を受けた。実際には達也は横目で見ているだけで、手は乗車した時からずっと腕を組んでいる。危害を加えられそうにないのは見ればわかる。それでも達也が身動きせずとも人を消す事が出来る術を持っている事を知っている響子にとっては何の安心材料にもならない。恍けるのも無理だと判断した響子はせめてもの反抗心から拗ねた表情を見せながら、話し出す。

 

 

 「本当に君と話している時は私まで年齢が付け上がった感じがするわ。」

 

 

 「俺も一緒にしないでくださいますか、俺はまだ十七になったばかりです。」

 

 

 「君は全然高校生に見えないわよ、言っとくけど今日だって観客席から『RYUってきっと二十代後半よね!だってあんなに大人の色気を出してるもの!!(きゃっ♥)』…って聞こえていたわよ?私以外からも同じこと思っているんだから、そこ辺りはもっと自覚してよね。」

 

 

 「……………年齢よりも経験からきている物だと思いますが。」

 

 

 響子からちょっとした事実を聞かされ、今度は達也が少しショックを受ける。やはり年齢よりもかなり大人的言動をする達也だからどうしても老けて見られる事が多く、達也自身その事にはちょっとした人間らしい悩みとして持てる数少ない気持ちを露わにできる中の一つである。かなりの間を空けるくらいショックを受け、何とか絞り出したような反論をした達也に、響子は心の中でちょっとした仕返しができたと喜んだ。

 

 前置きはこれくらいにして、と言わんばかりに響子が本題に入る。

 

 

 「で、私にききたい事って言うのは何かしら?」

 

 

 「俺がステージで…踊っていた時、響子さん…。何を調べていたんですか?あそこで実力を発揮しないといけない事はありませんでしたよね?」

 

 

 「あら、気づいてたの?」

 

 

 「ステージは良く周りが見えますから。響子さんが情報端末を使ってある人物を調べている事は視えました。」

 

 

 「…まぁいいわ。その通り、ちょっとこっちの仕事で極秘諜報任務が入っていて、そのターゲットと接触しそうな人物がいたから、探っていただけよ。」

 

 

 「それは、あのMCのことですよね。」

 

 

 「!!……達也君、君可愛くないわよ?」

 

 

 「よく言われています。」

 

 

 図星を突かれた響子は、居心地の悪い尋問を受けているような印象を受ける中、達也を乗せたまま車を運転するのであった。

 

 

 




可愛くない一面もあるけど、老けてみられてショックを受ける達也も可愛いと思うよ、うちは!!


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響子の隠し事?

特典が欲しいのに映画館7回目…。さすがに限界が来たよ。…諭吉がいなくなり、英世もいなくなり…、残ったのは、一番末っ子の三つ子だけ。

 (さて、これだけでうちの現在の財布の中にはいくらかな?)(やけくそになっている)


 

 

 

 

 

 

 

 響子は自分の調べている事が達也にも知られ、達也だから仕方ないかと納得する一方、もう少し子供らしくいてもいいのにという不満が込み上げていた。しかしそれも次の達也の一言であっさりと消えてしまう。

 

 

 「あのMCが国防軍が追っている人物と繋がりがあるか、調べていたんですよね。それで結局クロだったんですか?」

 

 

 「……私はあくまで君のマネージャーとしているのよ?どうして国防軍の任務をしないといけないのかしら?」

 

 

 「先程ご自身で任務だと言ってましたよね?」

 

 

 「…………」

 

 

 「俺達は芸能界では”魔法師ではない普通のアイドルとそのマネージャー”としてあそこにいたんです。魔法は必要最低限で、どうしてもという時以外使わない事は決めていたはずです。俺がステージで踊っている間も魔法で演出する様なプランはなかったですし、そもそもそれをすれば俺達が魔法師だとバレます。あの時は、響子さんが魔法探知システムをハッキングして作動停止させ、嘘の記録を作っていたようですけど、魔法を使わないといけない場面ではありませんでした。

  …なら他に何か別の、俺とは関係ない事に魔法を使わざる得なかったという事になります。」

 

 

 達也が一旦言葉を切って、響子の反応を見る。響子は何も答えず、ただ黙って運転している。理解できていない訳ではなく、反論する気がないのだ。響子が話を聞いているのを確認し、達也は話を続ける。

 

 

 「響子さんは”電子の魔女”と言われるほど、情報収集には天性の才能があります。それを使えば、何重にもセキュリティをかけられている暗号メールやファイルも相手に気づかれる事なく手にする事が出来る…。それをする必要があったという事は、調べなければいけない極秘情報があったという事になりますよね。しかも響子さん度々情報端末を操作しながら、MCの顔色を窺い見てましたし。」

 

 

 「もう、わかったわよ。そうよ、私はあの中年男を調べていたわよ?それが何故国防軍に重要な事だって事になるのよ。”任務”っていうなら、貴方のトコから受けたものかもしれないじゃない?」

 

 

 響子は『四葉から依頼された仕事なんだし、普通はそう思うでしょ?』という裏の問いかけが達也に向けられる。それを達也は苦笑し、首を振る。横にだが。

 

 

 「響子さん、例え今回の事を叔母上から言われたからと言って、それを国防軍が受け入れ、協力することは無いです。逆はあっても。

  俺とのことで、叔母上と国防軍は互いに干渉しない事を契約しているはずです。…共通の目的がない限り。」

 

 

 「つまり…?」

 

 

 「今回の響子さんの情報収集は、俺のアイドルの活動の中の計画に含まれているのではないですか? 叔母上と国防軍が手を組まないといけないくらい。」

 

 

 達也の鋭い視線を受け、響子はもう隠す事は出来ないと悟り、その気持ちを吐き出すためにため息を吐くのだった。

 

 

 




正解は…、ピーーーー円でした!(あれ?掻き消された?)

まぁいいさ、もうじき諭吉二人、受け取りに行くもんね~!!(ATMという出会い系にて)


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気付いた理由

一大イベントを計画中~…。


 

 

 

 

 

 

 「達也君に隠し事は出来ないわね~。」

 

 

 降参しますという顔をして答える響子。それに対して達也は事務的な物言いで返す。

 

 

 「そもそも今回の独立魔装大隊の動きやこれまでの任務の結果を考えれば、理解できますし、不審に思うのは当然かと。しかも響子さん自身も隠す気はなかったんですよね。わざと俺が気づくように目のつく行動をしていたのではないですか?」

 

 

 「それもバレてたの?自然に誘導できていたと思っていたのに。」

 

 

 「響子さんの演技力は申し分なかったです。ただ俺が警戒していたので、気付いただけです。」

 

 

 響子の演技はいつも通りで嘘をついているとは一見見るだけなら達也も気づかなかっただろう。普段通りにしている響子の言動に気づいたのは達也が言った通り警戒をしていたからだ。

 響子たちがこの任務(アイドル活動)に参加する事になったあのお茶会の前に、八雲から忠告を受けていた達也は、内容まで教えてもらうことは無かったので、全てにおいて(アイドル活動に関してのみ)どんな些細な事も見逃さないように神経を研ぎ澄ましていた。八雲がこの任務に付いてどんな方法で知ったかは知らないが、あのタイミングで忠告して来たという事は、この任務に何か裏がある、何かが起きるという事だと直感した。それゆえに撮影現場やスタッフの動きを見渡しながら、不審な動きはないかを警戒していたら、響子が諜報活動をそれとなくしている事に目が止まった…という訳だ。

 

 

 八雲から忠告を受けていた事を達也が話すと、響子は一瞬だけ驚いたが、すぐに元に戻る。

 

 

 「先生もお身通しって事ね。ここまでバレていたら、自棄になりそうだわ。」

 

 

 「自棄になってくれぐれもバレないようにお願いします。」

 

 

 「…冗談よ。」

 

 

 ”何が”バレないようにとは言わなかったが、察しが良い響子はすぐに理解し、逆鱗が降ってこないように本題に乗り出す。

 

 

 「この事は、達也君が気づいたら全て話してもいいと四葉家ご当主様から伺っているから心配いらないわ。

  そうね~…、この前、御茶会があったでしょ?」

 

 

 「ええ、そこで響子さんがマネージャーになる事が決まりました。」

 

 

 「そう、でも実は達也君が来る前に隊長と私は、ご当主様とこの任務の本当の目的を話していたのよ。」

 

 

 「やはり裏がありましたか。その本当の目的というものは、国防軍にも関係するものですね?でないと、私事に軍人が協力要請に応じる訳がありませんから。」

 

 

 「その通りよ、国防軍だからと言って、安易に四葉家の頼みを聞く訳にはいかない。ただし国防軍にとって重要な案件や情報がもたらされるなら話は別。」

 

 

 達也が話した推測通り、響子が認め、国防軍と四葉が互いの利害を一致し、協力体制を受託した事が分かった。ここまでくれば、後は『その利害を一致させた、本当の目的に関係する者とは一体何なのか?』という理由だ。しかし、達也にはそれが予想できていた。そしてこの任務でなぜ真夜が達也にアイドルになれと言ったのか、その真意もなんとなくわかったような気がしたのであった。(達也の知る真夜なら、である。)

 

 

 




遅くなって申し訳ありません~~~~~~!!!

リアル世界での戦士から帰還 → マイホームで安らぐ→ 通信アイテム”スマホ”で執筆
    ↑                              ↓
急いで鎧を着用し、闘いへ←気付いたらスマホ片手に床で寝落ちしていた←目がかすむ

このループから抜け出せない…。あ!!もしかして誰かが魔法でこうなるようにループ・キャストしているのではないか!!?

 その誰かの正体とは~!!それは次回に。


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共闘した理由

その魔法の使い手とは…”睡魔”だね!! どこにいる、睡魔使い~!!ループキャストするなよ~。


 

 

 

 

 

 

 「実は国防軍は、ある人間を追っているんだけど、なかなかしぶとくて厄介な狐なのよ。手掛かりはいくつか手に入ったけど、決定打に欠けていて、ことごとく尻尾を掴み損ねるの。」

 

 

 「…意外です、響子さんや少佐達が調べているのに…、ですか?」

 

 

 「そうよ、悔しい事にね。やっとネタが上がって、突入すればもぬけの殻だったり、雑魚連中の拘束だったり、まるでトカゲのしっぽきりに利用されている気分よ。」

 

 

 「……あら家事間違っていないかもしれませんよ。」

 

 

 「ん?達也君なんか言った?」

 

 

 「いえ特に。…どうぞ。」

 

 

 「え、ええ…、その狐は大亜連合の脱走者みたいで、今までの達也君の身の回りの事件も彼が黒幕ではないかと私達は突き止めたのよ。その彼が今度は標的として、芸能界…、まぁ言うならばメディア界で一悶着起こそうとしているから、それを阻止したいのと一刻も早く身柄を拘束しないといけないの。そこで四葉と我々独立魔装大隊が手を組んで、捜索にあたっているって訳。私は達也君と一緒に芸能界に身を置く事で、狐の尻尾を掴めるんじゃないかって事で、この任務に了承したのよ。…これでいい?」

 

 

 「ええ、理解はしました。それより俺が気になったのは、その狐を拘束…でいいのかという事ですが。」

 

 

 達也は言葉通りに了承した顔をしていた。しかし、まだ懸念が消えたわけではない。今まで身に起きた事と言えば、ブランジュとの争い、無頭竜の九校戦乱入により壊滅、横浜事変、吸血鬼事件…。数えてみればたった一年の間だけで高校生らしからぬ生活を送っている。そんな中、これらの事件の黒幕がようやく見え隠れし出したのだ。黒幕の行動を分析するなら、裏から駒を動かすような奴だ。しかもそれなりの人員を割いて、大事を引き起こしている。そのような奴を身柄拘束だけという生ぬるい対処で良いのか…と。

 

 確かに四葉と手を組めば、黒幕を探す事は通常の情報操作での収穫より明らかに見つかる頻度と時間は上がる。達也自身も四葉のバッグアップを受けながら、仕事をこなした事があるため、手を組むという案は納得している。(実際に達也が仕事がこなしたものは世間では一般に公開され手はいけないレベルのものだが。)

 

 

 「そのこと?問題ないわ。一応拘束という名目は立てているけど、向こうが反撃しようものならすぐに動きを止めてもいいって事になっているから。」

 

 

 つまり、黒幕が絶対なる黒だと裏付けされれば、処分しても問題ないと言う事。

 

 

 「それなら確かに問題なさそうですね。

  ………さすがだな。」

 

 

 響子から今回の任務の受託した…、四葉の依頼を受け、共闘した理由を知った達也は、車の窓に視線を向け、本当に声を発したがどうか分からないほど小さな声で、最後の一言を呟いた。

 

 その最後の一言は、ここにはいない、先を見通してこの任務を言い渡し、国防軍をも動かした(利用した)真夜の当主としての威厳や対処の仕方に危機感と警戒心を滲ませながら、見事に四葉の力を使い切っているのを少しだけ敬うのであった。

 

 




そんな理由があったとは~!! ただアイドルをさせたかったという訳ではないんだぜ。(乾いた笑い)(汗)


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会話する中の状況

ここで物語を戻しておかないとな~…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の任務の真の目的を知り、八雲の忠告や真夜からのこれまでの任務内容との違い、国防軍との連携…等々の疑問が拭えた。しかし達也は自分の予想と変わらなかった結果に若干ため息を吐きたい気分になった。何もかも予想通りだと答えが分かりきっているので、「ああ、やっぱりな」感がどうしても抱いてしまうのだ。しかも、今まで騒ぎの影に隠れていた黒幕がまた何かをやらかそうとしていると思うと、それが自分と深雪の身の回りに厄介事が舞い込んでこなければいいのにな…、面倒事の予感がして余計にため息を吐きたくなるのであった。

 

 

 (おそらくその黒幕の今回の狙いは、メディアを通して反魔法師運動を活発させ、魔法師への嫌悪やイメージダウンを狙い、魔法師と非魔法師との溝を深めさせ、内乱でも起こすつもりなんだろう…。)

 

 

 限られた情報から黒幕の手を読む達也の思考が既に黒幕の思い描くプランそのもののため、もし今達也の心を読む事が出来たなら、激しい危機感と焦りを抱いていただろう。

 だが達也は、ただ相手の思考を読むだけでそれを止めるための手段を瞬時に編み出す訳ではなく、何も知らずに家にいる深雪がいつものようにコーヒーをくれる時間までに戻らなければという思考しかなかった。達也にとって、黒幕が世間を騒がせようと、それによって犠牲が出たとしてもただそんな出来事があったという認識しか抱かない。まぁ、多少は不機嫌にはなるだろうが、それでも名前も知らない他人のために、今のうちに対処したいという気持ちは持ち合わせていない。

 

 何より大事なのは、この世界でたった一人、深雪だけなのだから…。

 

 それでもこうして任務にあたっているのは、一度受けた任務を断って、真夜に借りを作る訳にはいかないし、何かの拍子に深雪に害が降りかかるのを防ぐためだ。

 達也はこの時、まだ事態を重苦しく受け止めてはいなかった。(仁徳に対する感情が欠如している結果とも言える。)

 

 

 そんな考えを内に秘めている事を窺わせない様子で、達也は運転する響子に別件の話をする。…と言っても、本筋を辿ると今回の事と繋がってはいるが、達也は黒幕の事とは切り離して扱った。なぜなら案件の重要度や貴重性を考慮すると、価値が違い過ぎるからだ。

 

 

 「響子さん、そろそろ俺の家に向かってもいいです。響子さんのナビ情報とハッキングでどうやら撒けたようですから。」

 

 

 サイドミラー越しに後ろの車道を観察しながら達也が言うと、響子は苦笑しながら達也の言葉にうなずく。

 

 

 「本当?達也君が言うなら間違いないわね、じゃ遅くなってごめんなさい。今度こそ送ってあげるから。」

 

 

 「響子さんが謝る必要はありません。元々テレビ局を出た時から尾行はされていましたから。響子さんが気分転換と言って、ルートを変更し、街中を回っていたのは分かりましたし。」

 

 

 達也が言ったとおり、今までずっと達也たちの車の後ろを付いてくる車の尾行があったのだ。このまま帰宅すれば達也の居場所も知られ、正体もバレていた。それを回避するために響子は街中を運転して、細道や死角になるルートを使ったり、尾行車のナビにハッキングし、同じタイプの車にロックさせ、誘導したりしていたのだった。その気合の入った対策のお蔭で、尾行車の追跡を躱し、尾行されていない事を達也は精霊の眼でも確認して告げたのだ。

 

 

 「それにしても達也君に私は”尾行されている”なんて一言も言っていなかったわよね?」

 

 

 「言ってません。ですが俺と響子さんを陰から様子を窺っている人物は気付いていたので。響子さんも気づいていたようですし、既に尾行を撒こうとやんちゃになられていたので口出すのは止めた方がいいかと言いませんでした。」

 

 

 「私はやんちゃになんてなっていないわ。」

 

 

 「しかし『腕が鳴るわ~。面白くなってきた」と言っていましたよね?」

 

 

 小声で呟いた台詞を聞かれていた事実に顔を赤くし、恥ずかしく思う響子は達也を睨むが、達也に一矢報いる事は叶わなかった。

 

 

 (何よ、達也君!本当に君って高校生~!!)

 

 

 心の中で、羞恥心と悔しさを滲ませ、達也への不満を吐露しながら、結局達也のために自宅まで送迎する響子だった。

 

 

 




本文では達也は言っていなかったけど、尾行されて、撒くまでの時間。帰宅までゆとりができたため、前から気になっていた任務の真の目的を暇つぶしがてらに響子に問いただしたのであった。

そんな暇つぶしで話しできるほどの話題でもないんだけどね…。


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邪な怪談(上)

いや~、最新刊もいいですな~、それにしても達也様がますます孤立に追い込まれて…、

状況や影響力がある人の発言に翻弄されるのは人の避けられない性だとは思うけど、それだけを見聞きしただけで、人を判別するのはどうかと思うのだよ、うちは。善人が悪人だったり、悪人が善人だったり…。やはり物事だけを見るのではなく、実際に自分の目と耳で感じ取ってから判別しないとこの世界は腐った人間だらけになるのだよ。ほら、九校戦が中止になったのが達也の所為だとほざく奴とかさ!!(怒)


 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 『申し訳ありません、見失ってしまいました。』

 

 

 「見失っただと?どういう事だ?」

 

 

 『彼が乗った車を尾行していましたが…、突如姿が消えてしまいまして…』

 

 

 「そう簡単においそれと姿が消えるものか…!みっともない言い訳をするな…!!」

 

 

 『!!も、申し訳ありません!!』

 

 

 「……もういい。ご苦労だった、休め…。」

 

 

 『はい、ではこれにて…』

 

 

 通信が切れ、会話が終了した。しかし、連絡を受けた側である者はすぐ目の前に正面を向く形で座っていた人物に聞こえるように(むしろ聞かせるつもりでと言った方が正解だろう)、話しかけた。

 

 

 「そうだ、休め…、永遠にな。 …という訳で君には迷惑をかけるが、よろしく頼む。」

 

 

 「それは構わない。私も使えない駒は嫌いだからね! すぐに廃棄した方が利益になるもんさ!」

 

 

 話しかけられた方はそう言うと、すぐにどこかへと回線を繋げ、一言だけ告げると、あっさりと回線を切り、目の前の人物に心配いらないというような笑みを浮かべ、ソファーの背にもたれかかった。

 

 

 「いつも君には頭が上がらん。」

 

 

 「いやいや、そんなに恐縮してくださらなくてもいいんですよ?年は貴方の方が上ですし、こちらとしても大いに助かっていますから。」

 

 

 「…それなら話の続きといこうか。」

 

 

 一見頭を低くしていた男は、すぐに頭を上げ、同じようにソファーに背をもたれかけ、突然入った不愉快な電話の所為で中断を余儀なくされた話の続きを行う。

 

 

 「さてどこまで話したかな…。」

 

 

 「例の新人の事だ。」

 

 

 「ああ、そうそう。君の見立て通り、なかなか面白そうな奴だった。あれを手元に置くのはお前の利益にもなるだろう。」

 

 

 「貴方がそれほど絶賛するとは、相当使えそうですね~!! 表では意気揚々と褒めまくる貴方ですが、裏では使えないものはバッサリと斬り捨て、毒舌を吐き捨てると言うのに…!」

 

 

 「この業界で生きていくなら、それなりに演技力も必要さ。そのお蔭で今はこうして良い思いをしている。」

 

 

 「ハハハ~~!! それはそうだ! ますますこの手に欲しくなってきたぜ~!!」

 

 

 「…ただし、だ。」

 

 

 「は?」

 

 

 「ただし、使い方を間違えるな…、いや違うな…。今までの手段は止めろ。慎重に手に入れろ。これができなければ手に入るどころではなくなる。」

 

 

 男の忠告で、機嫌がよかった表情が固まり、すぐに眉を上げ、訝しげな表情へ変化する。

 

 

 「それはどういう事だ?今まで通り、弱みを見つけ出して脅せばいいだろう?それがなくても、でっち上げて罠にはめるなり、合成するなりして材料を突きつければいい話だろ?それをするなというのか?」

 

 

 「ああ…、これは私が抱いたものなんだが、あいつは確かに手に持っておけば皆が注目せざる得ない逸材だ。まるで隠された秘法のようにな。しかし、それの扱いを荒くすれば、たちまち使い物にならねぇ石ころになりかねない。いや、まだそれなら捨てるだけでいい。だがあれはただの石ころなんてレベルで収まるような可愛げのある石にはならないだろう。あれは慎重に見極め、機嫌を壊さないようにしないと、呪いの石になる…、そんな感じを受けた。 この表現していても、居心地が悪いと思うくらい、奴の冷たい視線は背中の筋まで震えてしまったほどだ。この私が、だ!」

 

 

 話でいる内にその時の事を思い出したのか、熱も入り、最後にはソファーに預けていた背を浮かせ、前のめりになって訴えてくるほどだ。いつもと違って尋常じゃない態度に、若干圧倒されるのであった。

 

 

 




まだ人物の名を明記していないけど、この後分かりますよ~。…」というより分かった人もいるかもしれないけど。


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邪な怪談(下)

久々に出してみた、この男。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこまでいうとはね~。信じられないって言うのが本音だが、長年の付き合いでもあるあんたの勘が外れるとは俺も思っていない。そんなに動揺しているあんたを見るのは出会ったころ以来だからな。」

 

 

 「…ふっ、俺も老いたという事か。この俺が今になって恐怖に駆られるとはな。しかも俺よりまだ半分も生きていない若造の発する底知れない気配で、な。」

 

 

 二人とも気心が知れた間柄と言っても一定間の距離を持って話していたが、かつてない動揺を見せる男の言動をきっかけに徐々に口調や呼称まで変わっていく。

 

 

 「俺も会った事はあるが、そこまでの印象は受けなかった。あの時は生意気なガキだという印象が強かったんだがな~。」

 

 

 「その印象は確かにある。実際に収録の際も気怠そうに誰とも親しくなろうとはせずにただ座っていた。終いには寝ようとする始末だ。まぁ、奴のマネージャーが気を引き締めるように何事か言っていたようだが、その後のトークタイムでは詮索をするなというオーラが全開だった。」

 

 

 「なるほど…。今のでなんとなくわかった気がするよ。彼には何か裏があるという事が。」

 

 

 「ああ…、だからもし引きこむ気があるなら気を付ける事だ。俺もできる事なら今まで通り手を貸すが、もしもの場合は…」

 

 

 「分かってる、そん時はお前の言わねぇ~よ。お前は俺の大事な取引役だからな。」

 

 

 「それならもういい。俺はそろそろ退散させてもらう。次の収録が詰まっているんでね。」

 

 

 「おお、ハードスケジュールだな。まぁせいぜい視聴率上昇に貢献してくれよ、敏腕MCさん?」

 

 

 「誰に口を聞いてるんだ?俺のMCスキルを嘗めるんじゃない。」

 

 

 言われなくてもそのつもりだと、顔で分かるくらい笑みを浮かべると部屋の扉が外から自動的に開き(外に控えていたMCの部下がタイミングを計っていたように扉を開けたから)、誰もいない廊下を監視カメラの死角を渡りながら部屋を後にしていった。

 

 

 それを見送り、部屋に残った男はテーブルに置いていたワイングラスを手にすると、それを身体の横に掲げる。するといつの間に後ろに付き従っていたのか、眼鏡をかけた秘書的な雰囲気ときっちりとスーツを着た男性が高級ワイン瓶を持って、現れた。そして自然な動きで男が掲げたワイングラスにワインを注いでいく。

 その注がれたワインをグラスを回しながら見つめ、一口口にする。

 

 そして口の中で味わい終わると、後ろに控える男性に向けて、背中を見せた状態で命令した。

 

 

 「”RYU"について、あいつに調べるように言っておけ。くれぐれも慎重にな。」

 

 

 「はい、畏まりました。榊様。」

 

 

 命令を受けた男性は、音もなく後退りしていき、姿を消す。

 

 それを気配で感じ取った榊は、つい先日自分から榊に売りに来た男の顔を思い浮かべ、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 「さて、使い物になるか、お手並み拝見だ…。」

 

 

 




榊とMCでした~。

やはり榊は芸能界の裏社会に生きる奴だった~。


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定期試験前のプレッシャー

アイドルしている間、学園ものなのに学生らしいこと出せていない。

うちもエリカ達を出したい!!という事で、時期的に学生なら必ずあるこれで和気藹々と…。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「う~~ん、達也君、これってどういう意味なのかな?」

 

 

 「あ、俺も同じ場所が分からねぇ~!俺も教えてくれ!!達也!!」

 

 

 「私もその問題に詰まってまして…。達也さん、教えてくれませんか?」

 

 

 エリカ、レオ、美月にせがまれて勉強を教えている達也は、同じように頼み込んでくる彼らの表情を見て、苦笑しそうになるのを必死に堪えながら、提示された難問を教えていく。

 

 彼らが今いるのは、2-E組の教室の達也の席だ。

 

 窓際に面した達也の席の横にある窓からエリカが身を乗り出し、レオも顔を覗かせて、達也の教えてもらっており、美月は隣から椅子を持ってきて、体の向きを横にして達也の講義を聞いていた。なぜこのような体勢で達也に勉強を教わっているのかというと、少し時間を遡らなければいけない。

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 先日の歌番組生収録を終え、達也は芸能界では一際人気を博していた。当然仕事のオファーも増えてきたが、夜の限られた時間(深雪達に気づかれる事なく抜け出していられる時間)の間に受けられる仕事以外は、引き受けていない。ハードスケジュールな生活を送る達也にとって、完徹する事は出来ても数日以上も続けて眠らずに歌ったり踊ったり、取材を受けたりするのはさすがに疲労が蓄積されるのだ。(主に精神的に。)

 達也が演じているRYUはプロフィールは公開していないものの、学生であることに代わりはない。学生の本分は、学業だ。それを疎かにしてはいけない。

 そのため、暫くのあいだ、…といっても定期試験が終了するまでの間は仕事を引き受けない事を真夜が手を回したのであった。達也が頼んだ訳ではないが、『任務のお蔭で学業に支障が生じましたと言われたくないですしね。』とそうは思っていないだろう言葉で話を切り上げられたため、達也も一応真夜の厚意に態度を示すかと受け入れた結果だった。

 そんな一件もあり、比較的任務の前の生活とさほど変わりなく過ごせるようになった達也は、もうそろそろ始まる定期試験のために勉学に励む…ということは無く、任務で滞っていた研究に力を入れるのだった。ここは普通なら定期試験前の勉強という流れになると思うが、既に試験範囲の内容は頭に入っているため、慌てて勉強しなくてもいいのだ。それに実技試験はそれこそぶっつけ本番が主だし、今年から設立した魔工科の実技試験は少し系統が違うため更に事前練習は無意味に近い。支援前だからと言って、達也は慌てる必要は無い。そう…、達也は、だが。

 

 達也を一般として捉えてはいけない。その普通の部類である他の一高生達は、時に頭を悩ませ、時に上手く実技をクリアできずに日に日に近づく定期試験週間にプレッシャーを募らせていた。

 

 それは達也の友人達も例外ではなく…。

 

 

 そんな中で、ある意味切羽詰った友人のたった一つの願いから達也が勉強を教える構図が出来上がるとは、達也も思わなかった…。

 

 

 




試験前ってうちは前日漬けで覚えていたな~。先生の問題の出し方を研究して、どんな形式で出すなら何かを予想して応えられるようにしていたっけな~。


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教えてからの、快挙?

とうとうアイドルだけでなく、先生までなるとはな…!


 

 

 

 

 

 満点を取ろうとか、優秀な成績を収めないといけないとか、そんな事を考えてはいない達也だが、手を抜くつもりもない。それは定期試験でもそうだし、日頃の授業でもそうだ。他の生徒の実技や回答等を聞いて、他人の考え方を知る事で、自分の研究に役立つ場合もあるためだ。手を抜くのは定期試験に真剣に取り組もうとしている生徒達にも悪いし、教師の採点基準でどこまでが採点可能か確かめる事もできる。(筆記試験ではほぼ満点の達也だが、あまりにも魔法に対する知識が飛びぬけているため、教師達の認識を超えてしまい、採点に困ってしまうのだ。現に、達也の点数がほぼ満点と述べているのも、教師達が世間一般で知れ渡った魔法常識で採点する訳だが、それが誤りだと達也が知っており、それを決定的証明や解析結果等を丁寧に添えて解答したとしても、世間に広く知れ渡っていない、まだ未知なるものであるが故、確認しようがなく、達也がまだ魔法師として未熟な魔法科生徒である事を理由にして、達也の解答自体を誤りだと判定するのだった。この採点の結果には、教師としてのプライドを折られた嫉妬や妬みがこもっている可能性もあるかもしれないが。)

 

 まぁ大人の事情というものがあったとしても、達也にとってはさほど気にするようなメンタルでもないし、いいデータが取れるメリットもあるので、満点に拘っていない。そんな心理状態で定期試験を迎えようとしていた達也の元に、隣から美月が申し訳なさそうに声を掛けてきた事から、流れは変わる。

 

 

 「あの…、達也さん、先程の授業での内容が分からなくて…。教えていただいてもいいですか?」

 

 

 「何処が分からないんだ、美月。」

 

 

 この時の達也は、友人の頼みを断れば、せっかく勇気を出して自分と友達として接してくれている美月に失礼だと考え、突然のお願いにも関わらず、教える事になった。今は、ちょうど午後から始まる一番初めの授業が終わったところだ。次の授業で終わりだが、始まるまでの休憩時間内で説明可能なため、分かりやすく覚えられるように自分の端末を立ち上げ、キーボードで何かを打ち込んでいきながら口では先ほどの授業で問題となる点や気を付けておく観点等を注意して、画面上で図を作りだし、解説するのだった。美月も真剣に達也の解説を聞き、さっきまで抱いていた問題の違和感や疑問が解消されていく。

 

 

 「そういう事だったのですね。私そんな穴があったなんて知りませんでした…。」

 

 

 「これは一般的には認知されていない事だからな。美月の場合、この魔法式の構築内容は出来ているし、手順もセオリー通りだ。だが、従来のやり方だと美月が抱いていた疑問の答えにはたどり着けないからな。少し違う観点から述べてみた。しかしこれはテストには出ないから安心してくれていい。」

 

 

 「いえ、そんな訳には!だってこれは凄い発見ですよ!誰もこれが正解だと疑わなかった魔法式がまさかこれで新たに生まれ変わるなんて思いませんでした!」

 

 

 「いや、これは美月が疑問に思わなかったら改名されなかったわけで、そもそもその疑問に行き着いただけで、御手柄だと思うぞ?美月。」

 

 

 無事に納得できた美月だったが、達也の違った観点からの解説のお蔭で理解もでき、何より誰も認知しなかった問題解決にも立ち会った事に感動もしていた。そのため、達也と話す中でも興奮が収まらず、軽くエキサイトしてしまうのであった。

 

 

 




達也のたった一度でも理解できるように従来と異なった方法でやってみたのはいいけど、これは教師達に認知されないだろうな~。


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女豹の笑み

達也様~!! 勇姿をぜひ~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 軽くエキサイトしてしまった美月に落ち着くように進言しようかと思った達也は、食いを開く。しかし、言葉を紡ぐより先に早く、達也の後ろから声が飛んできた。

 

 

 「…美月、何エキサイトしちゃっているのよ?」

 

 

 「エ、エリカちゃん! わ、私…、あ、ごめんなさい!!」

 

 

 「あたしに謝られても、ね~。まぁ、元に戻ったみたいだしいいけど。あ、達也君遊びに来たわよ~!」

 

 

 「ああ、だがもうそろそろ次の授業が始まるぞ?」

 

 

 内心エリカが登場してくれたことに感謝しつつもそれを窺わせないポーカーフェイスで、エリカがいる廊下側の窓へ振り向く。エリカはというと、気配を殺して達也の背後から(廊下側の窓を開けて話しかけているが、今達也は隣の美月へ身体を向けているため、完全に死角になっている)声を掛けてみたが、驚いてもいなくて寧ろエリカが来ることが分かっていたような態度で変わらず話しかけてくるので、達也を驚かせる事には諦めているエリカだったが、やはり自分の得意分野である気配なく相手に忍び寄る事が出来ない達也の気を抜かない返しにちょっと拗ねるのであった。それでも若干構ってくれたからか、エリカの頬には少し赤らんでいた。

 

 それを瞬時に気を立て直すのはさすがだと言える。達也の問いに間を置かずに返事するのだから。

 

 

 「大丈夫、次は座学だから、移動もないしね。教室が隣同士だし、ギリギリで滑り込めば何ともないわよ。」

 

 

 「そう言うものか?」

 

 

 「そうよ、それにしても達也君、美月に何かした?」

 

 

 「なぜそんな事を聞いてくるんだ?美月には先ほどの授業について話していただけだ。」

 

 

 達也は視線で美月に同意を求める。それを美月は正確に受け取り、首を必要以上に縦に振って、エリカに応える。

 

 

 「達也さんの言うとおりだよ、エリカちゃん。達也さんは私に勉強教えてくれていただけで…、私が勝手に感動していただけだから…。」

 

 

 「ふ~~ん…、なるほど~。」

 

 

 間延びしたエリカの返事に、あっさりと納得したエリカの態度に首を傾げる美月だったが、深くからかわれなかった事に安堵したからか、それが勝って特に気にしなかった。だが、達也の方はエリカの瞬時に動いた視線に気になっていた。そんな達也が自分を見つめる視線に照れ臭さを感じ始めたエリカはなんとなく視線を逸らして、美月に話しかけた。

 

 

 「じゃあ、美月~! 今日の授業が終わったら、また来るから待ってなさいよ~。あ、達也君もね!」

 

 

 ついで感で達也にもそう言うと、満面の笑みを浮かべて自分の教室に戻っていった。その数秒後、次の授業の合図となるチャイムが鳴る。それと同時にE組に担任のスミス教師が入室してきたので、少し慌ただしかった教室も一気に勉学モードに切り替わった。

 

 

 スミスがまずは報告としてこの前一高で行った恒星炉実験についての魔法大学の教師達からのコメントや論評を生徒達に話している間、達也は先程のエリカの笑みを思い浮かべていた。

 

 

 (エリカのあの笑み…、まるで美味しそうな獲物を捉えたような女豹の笑みだったな。)

 

 

 エリカの猫っぽい雰囲気と笑みがマッチしていたので、表現もそれっぽくなったが、達也は放課後に何が起きると思う事で、今日の予定を若干修正する(もちろん脳内スケジュールで)のであった。

 

 

 




エリカは何をしようとしているのか~…。


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達也先生、教えて!!

さてさて、学生ライフは過ごせるんだろうか。


 

 

 

 

 

 今日の授業はすべて終わり、達也のクラスの教室だけでなく、他の教室からも授業からの解放感からか、放課後の賑やかさを作りだしてた。

 昔のように担任教師が授業後に明日の連絡等の終礼時間もなく、授業が終われば各自で終われる為、早々に部活に赴いたり、友人と他愛無い話をして盛り上がったり…という光景が広がっていた。

 

 その中で達也は自分の席から一歩も立ち上がる事なく、キーボードの上に指を走らせながら、膨大な数列が流れる端末の画面を真剣に見て、作業していた。それと同時に生徒会室外でも執り行える事務処理をてきぱきとこなしていた。見る限り、もうその姿は掛け持ちしている仕事に没頭している昔のサラリーマンと言われた社会人のようだった。

 それを隣で同じく自分の席に座っている美月がオドオドした表情で見守っていた。

 

 そこに窓を開け、元気良いと言っても過言ではない勢いで身を乗り出して、満面の笑みを達也に向けて、現れたのは、エリカだった。その少し距離を空けて窓枠に肘を置いて顔を覗かせているのは、レオだった。

 

 

 「達也君、相変わらず早いね~。何をしているの?」

 

 

 「簡単な事務作業だ。別に大したことではない。」

 

 

 「……そう見えないんだけど?それって、九校戦のデータじゃない?」

 

 

 「ああ、そろそろ九校戦の準備に取り掛からないといけないからな。選手決めする前に各競技に適応した選手をするための好条件を割り出している段階だ。これはそのための各競技のルールや過去のデータを見ているだけだ。」

 

 

 ただ資料を見ているだけだから話しかけてきても問題ないという顔で、画面に視線を固定したまま、そう回答する達也にレオもエリカも呆れ顔になる。二人とも過去何年ものデータを遡って、高速で文字を流し、速読し続けている達也の返答から、どこが問題ないんだと突っ込みたいが、達也に突っ込みを入れるなんて真似をするにはかなりの勇気が必要なため、自分の顔に表れたのだ。例え突っ込んだとしても、達也には勝てないと理解しているため…。

 そんな二人の空気を悟った美月は、話を切り出す。

 

 

 「あ、それでエリカちゃん。なにか話があるんじゃない? よかったら聞きますよ?」

 

 

 「あ、忘れるところだったわ~。ありがとう、美月。え~っとね、達也君に頼みがあるんだけど…。」

 

 

 「俺にか?美月ではなく?」

 

 

 ちょうどきりの良い所で終わった達也は、情報端末を閉じ、窓枠から乗り出しているエリカに顔を向ける。達也としては美月の付添でいたつもりだったので、第三者の面持ちがあった。

 エリカとしてはあの時、美月ではなく達也に言いたい事があったのだが、どうにも言い出しにくかったため、遠まわしに放課後残っていてほしいと言ったのだった。それを美月もなんとなくわかったため、チャイムが鳴り、授業が終わった後、生徒会室に行く前に深雪を迎えに行っていて、今日も向かおうとしていた達也を呼び止めておいたのだった。

 

 

 「う、うん…、そう、達也君にお願いがあるんだけど。」

 

 

 「何だ、エリカ?」

 

 

 「…達也君、私にも勉強教えて~!!」

 

 

 「あ、ずるいぜ、それ~!」

 

 

 「…………それだけか?」

 

 

 「何、達也君?私これでも結構本気なんだけど?」

 

 

 「いや、エリカなら直球で言ってきそうだと思っていたからな。少し意外だったな。」

 

 

 「あのね、あたしだって頼みごと言う時くらい、様子を窺ったりするわよ。」

 

 

 「悪かった。それで、それはいつなんだ?」

 

 

 達也は断る事はせず、日程を聞く。ハードスケジュールの中から空き時間を見つけ出し、予定を入れるために。しかしエリカは目を丸くして、首を傾げる。

 

 

 「え?今だけど?だって試験までもう時間ないんだから!」

 

 

 「なぁ~、達也。俺にも教えてくれ~!!頼む!!俺も前の試験より成績良くないとまずいんだ!!」

 

 

 達也に教えてもらう事は当たり前として語る二人に達也は頭が痛くなりそうな幻覚を覚えたが、既に引き受けた以上言葉を取り消す訳にはいかない。

 

 

 「わかった、だが今俺は生徒会役員だ。生徒会業務をサボる訳にはいかないからな。悪いが、それが終わり次第になるが、それでもいいなら…」

 

 

 「「それでもいい(わ!/ぜ!)」」

 

 

 達也が言い終わらないうちにエリカとレオがハモる。いつもならハモるだけでも「あんたと意見が合うなんて嫌なんだけど。」「なんか言ったか、このアマが!」とじゃれ合うのだが、それを一切見せる事がないだけあって、二人がどれだけ切羽詰っているのかが分かる。それに隣で聞いていた美月もうんうんと強く頷いて二人に同意している。どうやら美月も二人と同じく勉強を見てもらいたいようだ。

 二人の返事の良い回答を得たので、達也は「いいコンビだな。」という言葉を呑み込んで、席を立つ。

 

 

 「じゃあ、俺は生徒会室に行くから、俺が戻って来るまでに聞きたい問題はチェックしておいてくれ。……あとなるべく自力で解いておいてくれ。」

 

 

 「ああ!! 達也、サンキュー!!」

 

 

 「ありがとう達也先生~? 」

 

 

 「はい、達也さん、行ってらっしゃい。」

 

 

 三人から見送られながら、達也は少し足早に教室を後にし、待たせている深雪の元へと向かったのであった。

 

 

 




達也は先生にもなれると思う。というより、うちは達也の説明は分かりやすいからね!!


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予想外の遭遇

これが目に入ったら、達也もたじろくわ~


 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 「それでお兄様はお受けになったのですか?」

 

 

 「ああ、だから先に俺は上がらせてもらう。終わる頃にまた迎えに来るから。」

 

 

 「そうですか…、畏まりました。お勤め頑張ってくださいね、お兄様。」

 

 

 「いや、そんなに大層な事ではないぞ?ただエリカ達の勉強を見てやるだけだ。」

 

 

 「そんな事はありません! お兄様に勉強を教えてもらえるなんて贅沢な一時です!お兄様に教えてもらえるだけでどれだけ身に入るか…!」

 

 

 「そうです!達也さんに私も教えてもらい……、筆記試験ダントツトップの達也さんに教えてもらえれば怖いものなしですよ!」

 

 

 「二人とも落ち着け。泉美が驚いているぞ。」

 

 

 「い、いえ私は大丈夫ですので。」

 

 

 ここは生徒会室で、まさに今明日に控えた九校戦出場選手の割り出しとリストを作成している最中だった。その中で全く関係ない話をしていたわけだが、全員手を止めずに会話していた。ただ興奮して立ち上がって思いを訴えた深雪とほのかに新メンバーの泉美の身体が跳ねたのは根を詰めて作業していた他のメンバーのいい気分転換にもなったので、目に瞑るとする。だが、達也的にはこの後、泉美がこっそりと自分に嫉妬の眼差しを向けて来られたので、今のどこにそんな要素があったというのか…、疑問に思うのだったが。

 

 そんな考えも浮かんだが、深雪に事情を言っておいたので、終わり次第教室に戻れるようにいつもの倍ほどに控えておきながらもタイピングスピードを上げて、割り出しされた選手候補のデータを事細かくまとめていく。そうして完成したのは、生徒会業務を始めてまだ一時間も経たないうちだった。

 完成した資料を生徒会長であるあずさのデスク端末に送信し、チェックを受けるため、あずさの元へ歩く。その姿を目にしたあずさは、小動物のように若干怯えた仕草をするが、そばにいた五十里に視線で励まされ、立ち直る。それを見た達也は、苦笑したくなるのを堪えるのであった。

 

 

 「会長、頼まれていたデータが出来上がりましたので、チェックをお願いします。」

 

 

 「は、はい。…司波君が全てしても構わないんですよ?」

 

 

 あずさは仕事を投げ飛ばしているつもりはなく、ただ達也が作ったのなら自分がチェックしなくても問題ないのでは?と思っているのだ。

 しかし、達也はそうは思わない。明日は部活連と合同で九校戦出場選手の選出会議がある。それには選手候補としてあげられている生徒の事をある程度は知っておいた方が発言力も説得力も高まるだろう。自分一人が知っていればいいというものではない。特に生徒会長であるあずさが会議を動かしていく以上、それなりに目を通してもらっていた方が達也自身も正直有難いのだ。

 

 

 「いえ、会長にチェックをお願いします。それでは本日は失礼いたします。」

 

 

 「うん、今日もお疲れ様。司波君。」

 

 

 あずさと五十里に頼まれて、仕事量が終われば、早く帰る事が出来る達也は、本来の高校ライフを満喫できることができるため、大賛成だ。明日には大掛かりな会議に達也自身も参加しないといけないのだが、ようやく自分が思い描いた学校生活を送れるのはやはり達也も嬉しかった。まぁ、今日はエリカ達に勉強を教える事になっているが。

 

 

 深雪と別れ、生徒会室を後にした達也は、自分の教室へと戻る。教室から離れてちょうど一時間になろうとしているのを情報端末で確認し、達也は戻るにはちょうどいい頃合いだと思った。達也には苦ではないが、長時間の勉強は一般的な人間には酷なものらしく、逆に身に入らないという事を友人達の会話から聞かされていた。最近は特に達也も友人達との感覚のズレを認識される事があり、その度に「そういうものなのか?」と考える様になったので、定期的に休憩もとりつつ成果のある教え方をしようと脳内で計画を練るのだった。

 

 そうして計画を練り終わるのと同時に教室に辿り着いた達也は、待っているであろう友人達に声を掛けようと扉を開けようとした所で、立ち止まる。なぜなら扉の向こうから友人達以外の気配も多数感じ取れるからだ。

 

 

 (なんだ?なぜこんなに人が残っているんだ?今頃なら普段は誰もいない筈なんだが?)

 

 

 訝しく思うもののいつまでも廊下で立ち尽くしているのもおかしいと気づいた達也は、浮かんだ疑問をとにかく頭の隅に置き、教室の扉を開ける。するとそこにはまだクラスメイト達が過半数残っている事が判明したのだった。クラスメイト達も達也が戻ったのを顔を向けて確認し、何やら他のクラスメイトとこそこそ話し始める。

 

 いつもの違う予想外の遭遇に状況を呑み込めない達也。

 

 

 達也の頭の中では今、?が過っているのであった。

 

 




もういないと思っていた人達がしばらくして戻ってみたらまだいるって状況に遭遇すると、「え?」ってなるよね?

うちはまさにこの状況に遭遇した時、頭の中で「え?なんか集まりとかあったっけ?」って思ったな~。


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喧嘩するほど何とやら

今回も激しい波が立ちますね~。


 

 

 

 

 

 「あ、達也君~。お帰り~!」

 

 

 「お、待ってたぜ!達也!」

 

 

 「お帰りなさい、達也さん。」

 

 

 教室に戻ってきて、入り口で立ち尽くしている達也が目に入ったのだろう。エリカ、レオ、美月が達也に声を掛ける。それが幸いしたのかはわからないが、達也も自分の様子を窺い見るクラスメイト達の事は放っておくことにした。特に話しかけられる事もないし、唯盗み見られたりするだけなので、気にするほどでもないと判断したからだ。達也にとってはお馴染みの視線だったという事もある。

 そう意識を切り替えると、エリカ達の元へ(と言っても、自分の席に戻るだけだが)向かう。その際、達也の席に座っていたエリカは、ニマニマ笑顔を見せていたが、自分の向かって歩いてきた達也が何かを言う前に、さっと立ち上がり、席を返した。達也は別にエリカに座られていても、立っていてもいいし、他の席に座ってもいいと思っていた。現に隣のクラスのレオは美月の前の席に座って、椅子の背に腕を置いて身体を横にした状態で座っていた。その体勢からは後ろにいる美月に振り向いた状態で教えてもらっていたのだろうと思わせるものがあった。

 結局エリカは達也の前の席…、十三束の席に座り直す。達也も自分の席に座りながら心の中で、「始めからそこに座れば、動く事もなかったと思うのだがな。」と考える。まぁそれを言えば、エリカの機嫌が損ない、振り回されるような要求を言われるかもしれないから、言葉にはしないが。

 

 

 「ああ、待たせて悪かったな。それでどこまで進んだんだ?」

 

 

 最も別の事を口にした達也だったが、レオが視線を軽く逸らして乾いた笑いをしながら達也に問題が書かれた情報端末を見せる。それを見て達也は口を閉ざす。何も話さなくなった達也の静寂にレオもどんどん不安に駆られる。今にも罵倒されそうな雰囲気が漂ってしそうだからだ。その不安と焦りからか、達也が何も言っていない状態から、レオが必死に弁明し出す。

 

 

 「お、俺も真面目に解いていたんだ!だけどよ!いまいちピンと来なくて、いくら考えても上手くいかないんだ。」

 

 

 その証拠にレオが座っている席の机には大量の記述や削除した後等のスクラッチボートモードになった端末があった。短髪の髪も掻き毟ったからか、少し乱れている。相当頭を使って解こうとしていたのだろう。同じくレオの後ろにいる美月もレオに教えていたのか、記述しているが途中から途切れていた。エリカはというと、何問かは解いていたが、途中から解いていない現状を机の状況を見て、把握する達也。

 

 

 「分かっている。確かにレオがこの問題に違和感を覚えるのは無理はない。」

 

 

 「え?」

 

 

 「へ?」

 

 

 「レオも美月も同じ問題を取組んでいたんだろう?大方レオに美月が教えていたいたが、解いている最中に違和感を感じ、それで詰まってしまった…って所だろう。」

 

 

 「…まだ何も言っていない状態で的中されてしまったぜ。」

 

 

 「達也君の洞察眼を甘く見ない事ね。それよりもっとあんたも頑張ったら?初めから美月に教えてもらってばかりだったじゃない?」

 

 

 「う、俺だって考えてやってみたんだ。全部達也任せにしたら悪いだろ!?」

 

 

 「はいはい、美月も大変だったでしょ?覚えるのとか容量悪そうだし。」

 

 

 「このアマ~…、言わせておけば…!」

 

 

 「そ、そんな事ないよ、エリカちゃん! レオ君が言っていた事、私も言われてみれば何でだろうって思っちゃったし、レオ君が指摘しなかったら、私も気づかなかったから!」

 

 

 二人の陰険な雰囲気に慌てて美月が仲裁として会話に介入する。それに便乗したのかはわからないが、達也も続いて三人に、主にエリカとレオに向かって話す。それは二人の今にも喧嘩を始めそうな(口喧嘩ではなく、本気の果し合いになる勢いだった)状況を収めるには十分だった。

 

 

 「美月が言っていたように、この問題の根本的疑問に辿りつけるものはそうはいない。俺はレオの鋭い勘に賞賛してもいいと思う。」

 

 

 「え?どういう事なの、達也君。」

 

 

 「この問題は一見見た所ではどの問題ともさほど変わりはしない。しかし、この魔法の起動パターンを固定化させて、他の魔法と同じように当てはめてみると誤算が生まれるんだ。」

 

 

 そう前置きをした達也は、もう喧嘩の欠片も感じさせないほど達也の解説に耳を必死に傾けるエリカとレオ、そして美月にレオが疑問に思っていた問題について、納得のいく解説をしていくのであった。

 

 

 




魔法知識について省略したり、抽象的にしてすみません。


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怒りの消火活動

抽象的からの具体的論破! うん、なぜこうなった…?


 

 

 

 

 「……つまり世界を欺くどころか、逆に世界に欺かれる結果になってしまうんだ。」

 

 

 「へぇ~、前に達也が『魔法は世界を欺くモノだ』って言っていたけどよ?逆のパターンがあるんだな~。」

 

 

 「そうですね…、正しい道しるべを辿らないと弾かれ、失敗するという訳ではなく、”失敗した”という真実を認識しないなんて、そんなこと知りませんでした。」

 

 

 「要するに~、こうでしょ?

  詐欺師が『今からあなたを騙します!』って意気込んで騙しに掛かったら、今までの常套手段での騙し方をしてみたら、それがうまくいかなくて逆に詐欺師自身が騙されちゃうって事よね?しかも自分が騙されちゃっている事に全く気付かないって…。」

 

 

 「なぜそんな例えになるんだ?…まぁ、分かりやすく言うならそういう事だな。」

 

 

 「ええ~、だってあの時、雫が言っていたのを使っただけだけど?『魔法師は世界に対する詐欺師』なんだって。」

 

 

 「よく覚えているもんだな、エリカ。」

 

 

 「達也君の親切な解説と雫の発想のお蔭でね~。」

 

 

 「でもよ?それってつまり間違った魔法知識を気づかないまま一般論として広めちまっているって言うのはどうかと思うぜ。お蔭で間違って覚えるところだったって言うのによ。」

 

 

 「あんたの場合間違えて覚えるんだじゃなくて、脳みそがパンクするの間違いじゃない?」

 

 

 「何だと、このアマ~! 達也に教えてもらったのに理解できるわけねぇ~だろ!?」

 

 

 「そう? 理解に頭が追い付いていない人たちがいるのに?」

 

 

 そう言って、エリカが視線を投げた先にいたのは、未だに教室にいるクラスメイト達だった。さっきから達也の解説に耳を傾けていて、中にはメモを書き込んでいるクラスメイトまでいた。エリカの視線を受け、慌ててうう人達と話し出すクラスメイト達を見て、達也は彼らもエリカ達に発破掛けられた形で試験勉強をしているんだと考えたのであった。実際は少し違うが。

 

 

 「レオの言いたい事も分かる。だが公式で発表された以上、それを間違いだったと訂正するには時間と整理が必要だ。」

 

 

 「間違いだった事を素直に謝ればいいのではだめなのですか?」

 

 

 「この問題自体、当事者達が逆に魔法改変した事に気づかなかったとしても、第三者からの意見という事で気付く可能性だってある。既に発表されているのだから、各国の魔法研究者や軍等でも使用されているはず。その際にレオみたいに違和感を感じ気付く奴はいただろう。そしてそこから自分達が間違っていた事に気づいた。しかしそれを今になって『この研究は間違っていました』というのは、余程の魔法の発展に力を注ぐ純粋な人間ぐらいだ。」

 

 

 美月の問いかけに達也は苦笑しながら答える。

 

 

 「問題の元となっている論文は、既に各国に流れている。そこで撤回をいうものなら、その論文を発表した学者の魔法研究に歯止めをかけるようなものだ。つまり、自分の過ちを全世界に認知させるのだから、イメージダウンは計り知れない。そこで、更に魔法研究の依頼も回ってこなくなれば、それは信頼が下がったという事に他ならない。しかも魔法研究業界では名が知られている者ほど効果は大きい。今回の学者もかなり名の知られた人物だ。可能性は限りなく低いだろう。」

 

 

 「そんな…。自分の保身のために間違いを正さないなんて、そんなの酷過ぎます!」

 

 

 「要は自分が一番って考えてるやつだろう?……ぶん殴って意識切り替えさせるか?」

 

 

 「あんたみたいにすぐに理解なんてしないわよ。捻くれているから黙っているんだから、ここは身体を真っ二つにするって言った方がもっと効果的よ。自分大好き人間なら。」

 

 

 レオは両手の拳を合わせ、エリカは女豹のような人の悪い笑みを浮かべている。言葉でも分かるように二人ともご立腹だ。顔も浮かばないこの問題の定義となる論文を発表した魔法研究者へ怒りよりも殺意が勝るくらいの迫力をぶつけているのだから。(美月はエキサイト寸前まで怒っていた。)

 

 このままでは三人とも何をするか分からないと考えた達也は、消火活動を止むなくすることにした。

 

 

 「そうだな。しかしこれはあくまで可能性の話だ。俺としてはこの学者はまだ間違いに気づいていないと結論している。そもそもこの魔法を使うと、魔法を発動したものだけでなく、その周りにいた者まで影響を与えてしまうからな。第三者と言っても、魔法の効果範囲から離れていて、かつ魔法発動によって起きる想子の微妙な変化に敏感でなければまずは違和感を覚えないはずだ。

  だから三人とも落ち着け、特にエリカ。殺気が漏れているぞ。」

 

 

 「あ、ごめん。…でも気付かないって逆にその学者さんはお馬鹿さんなのかしらね~。」

 

 

 「俺は魔法の性質を間違って理解しているとは思っているが。まぁ、まだこの問題に対してはこの論文が正しいと評価されている。テストでは今まで通りに記述した方がいいだろう。」

 

 

 「ええ~~!!? 間違っていると分かっているのに、わざわざそれを分かっていない人のために親切に間違ってあげるとか意味わかんないんだけど~?」

 

 

 「俺も。もう達也の説明で納得しちまったお蔭で、前の答えをどう書けばいいかわかんなくなっちまった。」

 

 

 「それでも世間に認知されている方に合わせておかないと、例え正解でも間違いだと受け入れないのが”社会”だ。」

 

 

 レオとエリカはいくらかさっきはなくなったものの、まだ納得できていない。もう学者に対してはアマチュアな印象しか受けていないが、そのお蔭で自分達の試験の結果に影響し、点数が下がってしまうかもしれないというマイナス面が生じる可能性に不満が残ったためだ。

 

 魔法を学んでいる自分達にとって、今誤った知識を取りこめばどうなるか分からないはずはないのに。

 

 しかし達也の消火活動はここで終わりではなかった。最後の締めに達也は、口を開く。

 

 

 「たとえ試験でそうなったとしても、あくまで学校での評価に対する成績の材料にされるだけだ。この問題以外にも試験には出てくる。それから点数を確保すればいい。

  …それに、今この問題の真実を知っているのは、この場にいる者だけだ。…つまりレオ、エリカの方がこの問題に関して論文を発表した学者よりも理解しているという事だ。」

 

 

 最後に人の悪い笑みを浮かべた達也に、レオもエリカも笑みを浮かべる。達也が何を言おうとしたのか、分かって優越感を感じたからかもしれない…。

 

 

 「そっか~。学者よりも理解している、ね。」

 

 

 特にエリカはざま~見ろと言わんばかりの態度で達也が解説の時に開いて見せてくれた論文が掲載された記事に向かって、見下すのであった。

 

 




うわ~、何で議論というか、どんな問題だったのか、皆さんの想像に任せる事にします。

そろそろあの二人をバトルさせたい~!!


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意固地と苛立ちの衝突

やっと遂にここまで来たな。


 

 

 

 

 

 

 達也の最初の講義(?)が終わり、エリカ達が『やっぱり達也に教えてもらって正解だった(ぜ/わね/です)…!!!』と心の声でシンクロさせていた。教師に教えてもらうより断然いいと思うくらいの納得感と根拠ある説明や事例でさっきまで分からなかった事が嘘のように今は理解している現状による影響だ。

 しかし、レオとエリカはそもそも二科生のため、指導教師自体がいないから『教師に教えてもらうより断然いい』と思うのは可笑しいかもしれない。それでもそう思うのは、エリカたち自身が教師に対してそんなに深い信頼関係を持つほど話したことは無いし、元々教師に対して不信感があったが、先程の問題の学校が取るかもしれない対応で更に好感は薄れていた。最も例外として、小野先生や安宿先生、廿楽先生のような分け隔てずに生徒に接してくれる性格の先生がいる。レオも小野先生を「遥ちゃん」と呼んでしまうほど。(この事に関して、エリカや美月達は苦笑したり呆れたりしている。…たまに機嫌が悪い時は軽蔑した視線を投げる事もある。)

 

 まぁ、そう言う訳で、達也の講義に果然勉強への取り組み姿勢が高まり、勢いに乗り出した。

 

 

 「じゃ、達也君!次はここを教えて。」

 

 

 「あ、俺も同じとこ、聞こうとしていたんだ。」

 

 

 「残念でした~。私が先に聞いたんだから待ってなさい。」

 

 

 「一緒に聞いていてもいいだろうが。達也だって同じ説明しなくても済むだろ!?」

 

 

 「あんたはもう教えてもらったんだから、次は私の番です~。」

 

 

 「二人とも、集中しろ。喧嘩するなら教えないぞ?」

 

 

 達也の不機嫌に装った声音で二人を停止すると、さすがにまずいと思った二人がいつもの絡みを止めて、勉強に取り組む。

 

 

 「…ばっかみたい。 そいつに教えてもらっても意味ないのに。」

 

 

 ………いや、乗り出そうとしたのだった。

 

 

 「…は?」

 

 

 エリカは今まさにメモを取ろうとして持っていたペンを静かに机に置き、先程暴言を呟いた少女へ鋭い視線を投げつける。達也は、やっと勉強が捗るかと思った矢先の出来事だったため、溜息がこぼれる。頭痛はしていないが、錯覚するくらい面倒事が増えたと思うのであった。

 対してエリカはなぜか臨戦態勢が整っていて、その少女へ苛立ちが垣間見える声音で再び問い掛ける。

 

 

 「それで何? 言いたい事があればはっきり言えば?」

 

 

 「そいつに教えてもらっても意味ないって言ったのよ。これで聞こえたでしょ、耳が悪いんじゃなかったら。」

 

 

 エリカの問いかけにそう答えたのは、横目でエリカを見る…訳ではなく達也を睨む平河千秋だった。さっきからずっと達也達の勉強会に憎らしげに睨んでいただけだったが、ついに嫌味を言いだしたのだ。もちろん千秋が睨んできている事はみんな知っていたし、もうお馴染みの言動だったので放置していたが、さすがにエリカの我慢も難しくなった。

 

 エリカは無言で立ち上がる。その雰囲気には怒気が身に纏っているかのようになっており、このままいけばまずい事になる事が容易に想像できる。それくらいいつもあまり人に興味を持たないエリカには珍しいくらい怒っている証拠だ。それなのに千秋も意固地になって喧嘩を受けようという志を見せる。この教室に居合わせている全員が

 

 

 (((((やめてくれ~~!!!)))))

 

 

 

 …と、とてつもない雰囲気でとても突っ込めない中、心の中で悲鳴を上げるのであった。

 

 

 




何で千秋は空気を読まないんだ!? エリカも落ち着いて?


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女豹、現る。

うちはエリカの猫バージョンも女豹バージョンも好きですな~。


 

 

 

 

 

 

 教室に緊張が走る中、エリカが千秋に向かって歩き出し、二人の間に差が埋まっていく。その一歩ずつにエリカの苛立ちと怒りが強くなっている感覚を傍観者として今この場を見守っている(下手に自分達が出ていけば巻き添えになるため。)クラスメイト達は、恐怖も感じながらハラハラしていた。

 千秋も意固地が止められずに席を立って、正面からエリカを迎え撃とうとしている。しかし顔や身体に震えがあり、無理をしているのは明らかだ。

 どう見ても、勝敗は既に決まっているのは分かりきっている。それなのにこの場に居合わせているクラスメイト全員何もしないし、言わない。いや、言えないのだ。この状況を止めるだけの時間はあるはずなのに、エリカの発する怒気や邪魔する事を許さないという空気が直接肌で感じるくらいの勢いに気圧されて、割りこめないのだ。

 

 その中で唯一気圧されずにいる人物である達也にクラスメイト達が視線で仲介に入ってほしいと訴える。二人が今にも決闘とも言える空気で対峙する理由の内に、達也も入っているのだから。

 

 しかし、達也はクラスメイト達の視線を一身に受けている事も知っているが、エリカを止めようともしない。寧ろ傍観者になる事を徹底している姿勢を見せている。足を組んで、エリカの背中を見届けている。完全に臨みが消え、落ち込むクラスメイト達を見て、達也はポーカーフェイスの裏で彼らの行動に訝しむ。達也にとっては、クラスメイト達が自分に助けを求めてきた事が理解に乏しかった。そもそも本来放課後のこの時間帯は部活動なり、図書館で勉強するなりするために、教室はもぬけの殻状態になるのだが、なぜか今日はほぼ全員残っている。この後は授業もない。自らの意志でなぜか教室に残っているのだ。なら、この場に居合わせてしまったからと言って自分に助けを求めてくるくらいなら、場所を移せばいいのではないか?という思考が頭に過る。だが、そんな事より、エリカの鋭くなった目と迫力に興味を持った達也は、今のエリカをもっと見てみたいと思い、止めずに流れを見守る方向で決めたのであった。

 一方で、レオは呆れ顔を作りながらも、気持ち的にはエリカが喧嘩を買おうとする訳も分かるので、達也と同様に傍観者になる事を選択する。美月は、エリカと千秋のこのやり取りも見てきているので、もう慣れてきたが、達也達が何もしない事で、完全に止めるタイミングを見逃し、無事に蹴りがつく事を祈るように、手を組んで見守るのだった。

 

 

 教室内にいる生徒達の視線を浴びるエリカは気にせず、千秋を見返す。だが、千秋は元々陰湿な性格のため、注目される事に慣れていない。視線が気になって、目が度々周りのクラスメイト達の方を向くが、後に引く事は出来ない。千秋は自分に喝を入れ、(というより意地になって?)エリカとついに対峙する。

 

 

 「それで? 何か用なら話聞くわよ? ……ただしちゃんと考えて言いなさい。」

 

 

 口調も声色もいつものお気軽なからかうようなものではなく、獲物を見据え、真っ直ぐに標的をロックオンにした剣士としてのエリカがそこにいた。いつもは猫のようなマイペースなエリカを傍から見ていた千秋は、明らかに学校では見せないエリカの本性を垣間見たような気になり、思わず心の中で自分に突っかかった。

 

 

 (め、女豹が出た…! 怖……くないんだから!こんな女!!)

 

 

 




千秋、大丈夫かよって突っ込みたくなる自分がいる…。


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女豹と女兎

兎より鼠か?


 

 

 圧倒的自分とは違う迫力に怯える千秋だが、ここで一歩でも引き下がるようなら足元をすくわれる事は直感で分かっていた。

 だから、強気で敢えてエリカに皮肉たっぷりな口調で言葉を返す。

 

 

 「ふん、なによ。私は親切に言ってあげているのよ?そいつに教えてもらってもあなた達のためにはならないってね。」

 

 

 「はぁ?」

 

 

 「だってそうでしょ?定期試験の範囲だって、私達と違うんだから。」

 

 

 当たり前じゃないって威張る千秋へエリカは鋭い視線を投げる。

 

 しかし千秋の言葉に対してエリカは何も言わない。この点に関して千秋の言っている事は間違っていないからだ。

 

 今年度から魔工科が新たに新設され、その新設へと動かした張本人である達也も今年から魔工科生となった。二科生から抜け出せたことに達也以上にエリカは嬉しかった。達也が二科生とは思えないほどの実力と実績を見せ、一高にも貢献したというのに、それに見合った態度を学校側がしなかったため、エリカも深雪と同様に達也への待遇について不満も持っていた。達也からしてみれば、別に学校に貢献したかったとかではないから、評価などいらないと興味がない言動を口にするだろうが、友人としてエリカは達也が認められてまあそれなりの学校での地位を持てた事に誇らしかった。

 自分は二科生のままでも、達也や友人達は自分自身を見てくれて、ありのままを受け入れ、接してくれる。毎日同じような日々を繰り返す事がない、飽きずにいられるこの普通ではない日々を楽しませてくれる存在にエリカは感謝を抱いていた。

 

 だから、達也や美月が魔工科に転科した事に関してエリカも、レオももちろん我が事のように喜んだ。

 

 ……あ、話が逸れてしまったが、定期試験は一般知識と魔法知識の科目に分かれ、一般知識の課題は日頃から出されている宿題から評価されるのであまり重要視されない。(そもそも魔法科高校なのだから、魔法を専門的に学ばせ、魔法師又は魔工師への育成に力を注いでいる。他の一般知識に力を入れたお蔭で魔法的知識の欠如で、魔法失敗による魔法師への道を断念する事はないように配慮したため……、と一応学校ではそう校則事項欄に言い訳のように読める感じで書いている。) だから魔法的知識とより実技が評価を受けるのだ。

 しかしここで問題になるのは、エリカ達と達也達が受ける試験内容が若干違う事だ。達也と美月は転科試験をクリアし、魔工科に入ったが、エリカとレオは二科生のままだ。そして達也達魔工科は主に魔法工学を専門的により特化した授業を受けられるようなカリキュラムになるため、定期試験でも魔法工学や複雑な魔法構築が必要な課題等の基準が高い。一科と二科は受ける定期試験の内容は同じだが、魔工科とはその点で違いがあるため、同じ日に試験を受けると言っても、試験内容は異なるものだ。

 千秋が言っているのは、『そういった試験内容が違うのに、違う範囲を教えてもらうなんてどうかしてる。お仲間同士(つまりレオ)でせいぜい頭を悩ませていなさいよ。』という訳だ。

 

 千秋の言葉にエリカは何も言わない。

 

 それを千秋は初めて打ち負かしたと唇を吊り上らせる。しかし、勝利を確信するにはあまりにも時期尚早だった。

 

 

 「だから何? 魔法知識が豊富な人に教わって何が悪いのよ?」

 

 

 ため息を吐いて、呆れた表情で千秋のその勝ち誇った顔を崩したエリカのお蔭で、千秋は固まった。

 

 

 「な…!?何が悪いって…、そ、そんなの決まってるじゃない!?わざわざ教えてもらう事がテストにも出ない、ましてやまったくお門違いの事を教えてもらっているのよ、あんた達!結局はその知識だって名のある学者に認められないと浸透しないんだから、時間の無駄よ!

  そんなことも分からないの!!?」

 

 

 反論している内に声を荒げていく千秋をクラスメイト達が見守る。鑑賞者として見ている彼らの中には、千秋と同じ考えを持っていた者もいた。結局認知されるか、されないかなんて自分達で決められるものではない。なら、その知れ渡った知識の中で学ばないといけないのだ。

 だがそれと同時にそれで良いのかという疑問も湧いてくる。

 

 しかし今の彼らは外野なのだ。口出すする事は出来ない。今彼らにできる事はエリカと千秋を見つめる事だけだった。

 

 

 「何そんなにむきになっているのよ、あんた。

  ……一つ聞くけど、あんたは魔工師になりたいの?」

 

 

 「ええ、そうよ! 魔工師になって、そいつより性能良いCAD作ったり、魔法開発したりして有名になって名を上げてやるんだから!!」

 

 

 「…なら、なんで必要ないって斬り捨てるのかしら?」

 

 

 「……え?」

 

 

 「魔工師になろうってしているなら、魔法に対する知識も相当なくてはならないんじゃない?間違った知識を持って新しい魔法を作ったりしたら、それこそ大問題よ?」

 

 

 「そ、それは…」

 

 

 「大体学校の成績にばっかり囚われすぎるんじゃない?確かにいい成績を取るのは目指すべきだと思うけど。でもそれが目標になってたら、その目標がなくなったときどうするのよ。学校で教えてもらう事はあくまで基礎よ。その基礎を使って自分なりの応用にしていくのが求められている事でしょ。

  魔工師や魔法師になろうと言うんだったら、まずは学校という狭い世界から出て魔法社会に入った時、今まで身に付けた経験や知識をどう活用できるか…、それを考えておかないと、ね。」

 

 

 エリカが門下生達に説教する様な口調と眼差しで語っているのを、レオは唖然となって見つめていた。美月はエリカを凝視して、両手を顔の前で合わせて感激していた。

 そして達也は、いつもの猫っぽいエリカとは違う女豹モードに入ったエリカを見て、内心面白い物が見れたという満足感に浸って、傍観者に徹していた。

 

 

 「私は魔法師に将来的にはなってるんだろうけど、魔法を使う以上知識は持っておかないと。だから達也君に教えてもらってるのよ。定期試験だから範囲だけ教えてなんて思っていないしね~。」

 

 

 「……っ」

 

 

 エリカの話を聞いて、千秋は反論できなかった。エリカの話は千秋にとって十分すぎるほど納得できるものだったし、単なる嫉妬心や嫌悪感で喧嘩を振った自分が恥ずかしくなった。

 顔を真っ赤にして悔しがる千秋を見て、もうこれ以上言う気もなくなったエリカは、女豹だった雰囲気を消し、いつものマイペースに戻るのであった。

 

 

 「あ~あ、ようやく理解してくれてよかったわ~。でも馬鹿馬鹿しい話しちゃった~、やっぱりここじゃ勉強なんてできないよね~。」

 

 

 内容として決して馬鹿にするようなものではなかったのだが、エリカが言っているのは「そんな当たり前な事を今更になって言わせないでよね。」という千秋の言葉をそのまま返した宇浦の意味合いを込めたものだったのだ。それを正確に理解した千秋は更に悔しくて唇を噛み締める。

 

 エリカはもうどうでもいいような表情で、達也達の元へ戻ってきた。

 

 

 「ごめん、達也君。少し休みすぎちゃった。」

 

 

 「いや、大丈夫だ。ほら、エリカも座ったらどうだ?勉強するのに立ったままじゃやりにくい。」

 

 

 達也はさっきまでの教室で起きた出来事を完全になかった事のようにスルーして、中断していた勉強会を再開する。達也もエリカをそろそろ止めた方がいいだろうと思っていた所で、エリカが自分で鎮火してくれたので、事なきを得たのだ。

 

 

 まぁ、結局お互い気まずい空間の中で勉強し続けるのは難しいと言う事が、レオや美月(特に美月は気になって完全には集中できていなかったのだ)の取り組み方で分かったので、達也達は図書館へと場所を変えて、定期試験に向けて追試を回避するためにも真剣に取り組むのであった。(ちなみに追試を取らないように頑張っているのはお間の所レオだけだが。)

 

 

 

 …後余談だが、達也達が図書館へと向かうため教室を後にした時、教室に残っていた魔工科のクラスメイト達は肩を落としていた。なぜならエリカ達が達也に勉強を教えてもらう事を聞き耳立てていた彼らが、それを少し離れた場所からでも聞こうと思って、教室に残っていたからだ。部活も休んだ生徒もいるくらい、日頃彼らが達也に頼っている証拠なのかもしれない。しかし、達也達がいなくなった事で、それができなくなり、落胆しため息を吐くのだった。

 

 




一日少しずつ積み重ねていき、何とか書き上げました~。

大変お待たせして申し訳ありません。
さて、この後は再び話を戻し………、ていく予定です、はい。(汗)


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打ち上げ会へ

今のうちは、日頃の疲れを発散するために魔法科グッズを買い求めるくらいになってしまっている。終いには今、カードゲームにまで手を付けようと…!


 

 

 

 

 

 「わぁ~、終わった、終わった~!!」

 

 

 「この解放感はたまらねぇ~ぜ!!」

 

 

 「もうエリカちゃん…。」

 

 

 今日は二年生になって初めの定期試験の最終日で、ついに最後の実技試験が終わり、一週間という長いような短いような(学生にしては長く感じるほうが当たり前だと言われているが)期間に本日の最後のチャイムが学校中に流れる。それを合図に生徒達も一気に真剣な表情から安堵の表情や後悔の表情、喜びの表情など様々な面持ちで友人達と会話をし始めた。

 もちろんその中にはエリカ達も同じく、定期試験が終わって早々、達也と美月がいるE組、魔工科の教室へとやってきて最初の一声が先程の言葉だったという訳だ。

 

 「二人してそんなにはしゃがなくてもいいんじゃないかな?まだ結果だってわかんないんだし。」

 

 

 「何言ってるのよ、ミキ。はしゃいでいるのはこの馬鹿だけよ。あたしはここまでテンション高くないんだから。」

 

 

 「誰が馬鹿だ、このアマ…。」

 

 

 「終わった瞬間、『よっしゃ~!上手くいったぜ、ここまでてきぱきテストが進んだことは無いぜ!!』って叫んだくせに。」

 

 

 「誰だってそうだろ?」

 

 

 「そうやって思い込んで、はしゃぐからバカって言うのよ。」

 

 

 「二人ともやめてください。せっかく試験も終わりましたし。」

 

 

 険悪ムードに突入しそうになったエリカとレオだったが、美月の仲裁のお蔭でそうならずに済んだ。一方で、幹比古は突っ込むタイミングを逃したため、何やら不満顔になっている。突っ込めなかったためにエリカの”ミキ”発言を肯定してしまったのではないかという思考が頭の中を占めているからだ。

 まぁ、エリカにしては…、それは決定事項であり、今更否定されたからと言って直すつもりもないからスルーするだろうが。

 

 レオとも美月の仲裁が間に入ったため、一気に気が抜けたのか、ケロッとした顔で背伸びする。その姿は野良猫が背伸びをしているようにも見える。ただ腕を上げて背伸びした事で、美月ほどの大きさではないがそれなりに整ったエリカの胸が制服のブレザーからはみ出し、ネクタイは谷間の中に沈み、白い制服のワンピースは身体のラインを強調するかのように演出していた。そんなエリカを見て慌てて幹比古とレオは視線を逸らす。

 二人が自分の事を今どう思っているのか、考えていないエリカはそのまま二人を放置し、学内メールを見ていた達也へ声を掛けた。

 

 

 「ねぇ、達也君。テストも終わったし、帰りにみんなでパァ~と何か食べない?軽く打ち上げって感じで。」

 

 

 「別に構わないが、俺と深雪はこの後生徒会室でミーティングあるんだ。」

 

 

 「げ、テスト終わってすぐに会議って生徒会は大変なんだな。」

 

 

 「まぁ仕方ないよ。もうそろそろ今年の九校戦の種目とか発表が近いし、その前に今頃から選手の選定や九校戦出場への練習時間を算出したりとかいろいろ計画立てていかないといけないんだしね。他の学校も動き出しているだろうし。」

 

 

 「ああ、例年通りの種目なら選手決めもその練習時間や必要資源等も去年の資料を参考にできる。中条先輩はその方が準備しやすいから喜んでいたがな。」

 

 

 「先輩らしいですね、あ、それならやはり別の日にした方がいいんじゃないですか?」

 

 

 「いや、ミーティングと言っても軽くこれからの生徒会の予定を話して確認するだけだ。すぐに終わるだろうから後で合流する。」

 

 

 「わかったわ、達也君。じゃ、いつもの場所で待ってるから。絶対に来てよね~!」

 

 

 エリカに手を振られながら見送られ、それに背中越しで軽く手を上げて了承した達也は、生徒会に向かう前に深雪のクラスへと向かう。

 

 

 達也を見送ったエリカ達は、今日は部活も休みなので、別クラスの幹比古も連れて、すっかり馴染の店となった喫茶店『アイネブリーゼ』へと先に向かうのであった。

 

 (その前にちょっとした出来事があったが、それはみんな合流してからのお楽しみ…。)

 

 

 一方で、達也は迎えに行った時、深雪とほのか、雫にエリカ達がテスト終りの打ち上げ会をする事を話し、二つ返事で深雪達も参加する事になった。そのためかは定かではないが、生徒会へと向かう深雪、ほのか、雫の会話では「何を食べようかな?ねぇ、雫はケーキ何する?」「私はほのかと同じもので良いよ。」「二人とも気が早いわよ。楽しみは着いてからにしたら?」…などという女子トークが達也を挟んで繰り広げられるのであった。

 

 

 




達也様の制服を模したパーカーもゲット。大事に拝ませてもらおうかな。


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アイネブリーゼに集合~!

ちょっとずつ書き溜めてたものがついに~。


 

 

 

 

 

 

 「……………それでは、九校戦に関しての案件内容は以上で終了となります。今、会議した内容を纏め、後日部活連との合同会議で参考できるようにしておきます。」

 

 

 「は、はい!よろしくお願いします! 司波君。あ…、でも服部君のスケジュールも聞いておかないと。連携は特に持っておかないといけませんし。」

 

 

 「それは問題ないかと。既に服部先輩には九校戦の出場選手の選定会議での出席をお願いしています。それと同時に各種目に対して徹した生徒から出場選手の候補を会議までに挙げてもらえるか、検討していただけるように伝えています。服部先輩からも了承は得ています。都合のつく日程は中条先輩のメールに追って送信していただけるとのことです。」

 

 

 「………そ、そうなんだ。さすが司波君だね。もうアポを取っていたなんて気が利くね。」

 

 

 「いえ、円滑に準備をするためにも、前もって動いた方がいいかと思ったので。」

 

 

 

 てきぱきとした口調と姿勢で達也は答える。それをあずさは緊張しながら、十分に準備万端な行動をする達也にもう全て任せてもいいのでは?と思うくらい感銘を受けるが、その一方で生徒会長としても自分は何をしているのだろうかという気持ちが少し湧いてきて、落ち込む自分もいたのであった。

 そんなあずさの心情を察した五十里は、代わりに達也と話す事で、間に入って事務連絡を続けていく。

 

 

 「ですが、今回は中条先輩にも一度ご相談してからアポ取っておいた方がよかったかもしれませんね。…申し訳ありませんでした。」

 

 

 だが、達也はあずさと五十里に対し、頭を下げて謝る。仕事はしっかりとしているし、間違ったわけではないが、やはりこの生徒会ではあずさがトップなのだから、生徒会主催での行動の場合は、あずさが一番把握しておかないといけない。それを告げもせずに勝手に先に準備していたのだから、例え前もって準備万端に行動していたとしても、了承を取っておかなければいけない。

 達也はその事を謝ったのだ。

 しかし、達也に頭を下げられたあずさと五十里は慌てて頭を上げてくれるように懇願する勢いで頼んだ。二人とも達也のした事に対して怒ってはいないのだから。…それに達也の隣に座っていた深雪から不機嫌なオーラが流れ込んできた事が一番の理由なのだから。

 

 二人の懇願に対し、達也は若干訝しく思うが、自分の行動が少しずれていたのかと思う事にし、すぐに元のポーカーフェイスに戻る。

 

 

 「そうですか? では本日の議題は終わりましたので、これで上がっても構いませんか?」

 

 

 「ええ、問題ないです。後は私達がしておきますので。司波君達は今日はもう大丈夫ですよ。」

 

 

 「分かりました。……それでは、五十里先輩。」

 

 

 「何かな?司波君。」

 

 

 「今日会議内容をまとめたレポートを五十里先輩に送りましたので、記載ミスがないかチェックお願いしてもいいでしょうか?何も問題なければそれを服部先輩へお渡ししていただけると助かるのですが…。」

 

 

 「え、もう終わったの? ………うん、わかった…、任せて。」

 

 

 まだ数分しか経っていない状態で、完成させた達也のレポートを情報端末で確認しながら五十里が了承する。

 

 

 それからは自分達の生徒会専用端末をシャットダウンし、達也は深雪とほのかを連れて、生徒会室を後にした。更に三人の後ろを泉美も付いていき、生徒会室にはあずさと五十里だけが残った。

 

 

 「……私、生徒会長として上手くやれているのでしょうか?司波君の方が……」

 

 

 「そんな事ないと思うよ。中条さんだって頑張っているじゃない?人それぞれやり方が違うんだし、気にすることは無いと思うよ。司波君は凄いし、感心するし、年上の僕でさえ、尊敬を抱かせる後輩だけどね。司波君と比べなくてもいいと僕は思う。」

 

 

 「…ありがとう、五十里君。少し元気になりました。そうです!司波君と私では違うのは当たり前なんです!私だって生徒会長としてもっと威厳を身に付ければいい話なんですから!」

 

 

 「その意気だよ、中条さん!」

 

 

 あずさに威厳が身に付くのかは分からないが、せっかく気分が向上したのだから、それを台無しにするような言葉言わない五十里。しかし、五十里は気付いていなかった。今、この瞬間この場にいるのだ自分達だけではなかった事に。

 

 

 「………ねぇ~、啓~?」

 

 

 「「!!」」

 

 

 「何をしているのかな~?」

 

 

 五十里は自分の隣から声が振り落された声で誰が隣にいるか否応もなく知った。そしてその瞬間、冷や汗が出始める。別におかしなことはしていない。ただ話していただけだ。しかし、それにしては意気投合しているし、ましてや二人の距離が近いのは否定しようにもすぐに信じてもらえるとは思えないくらいだった。

 しかし、何とかここは穏便に事を収拾しないと危険だと身体が警告している。

 五十里は引き攣った顔をしないように笑みを浮かべて、突然現れた第三者へと顔を向ける。

 

 

 「あ、上がってきたんだね。もうそっちの会合は終わったの?花音。」

 

 

 「うん、早く終わらせてきた。啓に早く逢いたくて。…でもいざ来てみたら、なんでイチャイチャしているのかな~?私という婚約者がいるのに~~?」

 

 

 「こ、これは誤解だよ!?花音。」

 

 

 ・・・と生徒会室は一気に夫婦喧嘩の場に変化する。そしてそれに巻き込まれたあずさは、逃げたいけど逃げ出せなくなったため、花音が誤解だと理解し、五十里に甘々に接する(イチャイチャともいう)まで板挟みにされるのであった。

 

 

 

 そんな生徒会室の一軒が起きている間、達也は風紀委員の会合で居残っていた幹比古と雫と合流し、一緒にエリカ達が待つ喫茶店へと向かうのであった。

 (ちなみに幹比古達といた香澄は、深雪と一緒にいたい若干暴走気味の泉美に捕まり、一緒に参加する羽目になるのであった。)

 

 

 

 




花音はストレートだからな~。思い込んだら多分なかなか誤解は解けないだろうね~。
いわゆる「愛は盲目!!」という現象に陥りやすいんだ!
うちのフレと同じにおいがするからわかる。


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