白き月と黒き月 (灰恵)
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千年血戦後・霊虚王編
目覚めぬ太陽01(夏梨+一護の友達)


未来捏造設定で、もし、享楽隊長が啓吾たちに言っていた仮定の話が本当になってしまったら。



――― 一護

 

――― 一兄

 

――― お兄ちゃん

 

――― 黒崎くん

 

――― 黒崎

 

――― 一護!

 

 

 

 

ああ、聞こえてるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

――― 尸魂界 ―――

 

 

あたしと遊子はヒゲ親父に連れられて、死神たちが住む尸魂界ってとこに来た。正確には瀞霊廷という場所らしいが、詳しい話はされなかった。

 

ただ、ここに一兄がいるってこと。

 

 

 

あの日、一兄が夜、友達と一緒に浦原さんの所に行ったっきり、帰って来なかった。

 

死神の力を取り戻した一兄のことだから、またどっかで誰かを、何かを護りに行ったんだろうなって思ってた。

 

三日経って、一週間経っても帰って来なかった。

いや、一応は帰って来た。中身は違うけど。遊子は気付かなかったみたい。

 

 

ある日、井上さんや茶渡さんが暗い顔をしているのを、学校帰りに見かけた。

 

 

――― 一兄に何かあったんだ。

 

 

一緒に行った友達は帰ってきているのに、一兄は帰って来ない。

 

 

――― 一兄に何かあった。

 

 

その確かな確信を持てたのは、何かを知っているであろう浦原さんがいる浦原商店に走って向かう途中で、親父に呼び止められ肩をつかまれた時だった。

普段なら絶対にしないような真剣な顔 ―――

 

「親父」

「どこに行くんだ。 夏梨」

「……浦原さんの所」

「一護のことか?」

「!!!」

 

核心を突かれて、親父の顔を食い入る。

 

「知ってるの? 一兄に何かあったこと」

「まあな」

 

親父はバツが悪そうに顔をかいた。

 

「教えろ。何があったの? なんで一兄は帰って来ないの!?」

 

あたしは親父の胸倉を取って、問い詰めた。

 

「一護は尸魂界にいる」

「ソウル……何?」

 

聞きなれない言葉に聞き返す。

 

「わかりやすく言えば、死神がいる世界だな」

「――― 一兄の居場所がわかってるのに、なんで帰って来ないんだよ」

 

親父がそういうこと(・・・・・・)に詳しいのか。それを問い詰める余裕はなかった。

 

「一護は今、手が放せねぇ状態でな。帰って来れねぇんだ」

「なんだよソレ。 ごまかしてないで、はっきり言えよ」

 

親父はため息をつく。

 

「俺にもよくわからねぇんだ」

「は?」

「いや、わかりたくねぇんだよ。今の一護がどういう状態(・・・・・・)なのかを―――」

 

頭は理解してても心が否定する。

親父の心境はまさにそれだったのだろう。

 

心のどこかで一兄は大丈夫。一兄は生きてる。そう言い聞かせていた。

 

この目で実際に見るまでは―――

 

 

 

 

あたしたちはある扉の前に立たされた。扉の向こうに一兄がいるらしい。

でも、扉越しでもわかるぐらい、プレッシャー ―― 霊圧 ――を感じる。 一兄の温かい感じじゃない。もっと、物々しい気配だ。

 

「心の準備はいいですか? 絶対にそのマントを脱がないでくださいッスね? フードを取るのもダメっスよ?」

 

ここに来る前に渡された黒いマントのフードを深くかぶる。そうすることで、だいぶ霊圧から解放された。

 

「ねぇ、本当にここに一護がいるの?」

 

共にこちらに来た一兄の友達 ―― 有沢たつき ―― が不安な声をあげた。

 

「ええ、もちろんッス」

「うそだろ!? 前会った奴より、ヤバい感じじゃねーか!」

 

浅野啓吾は霊圧の良し悪しが多少わかっていた。

以前空座町で出会った藍染よりももっと悪質で(たち)の悪いもの――足の裏から伝わる地面の感覚が消え、真っ逆さまに暗闇に落ちるような感覚がする霊圧――であることが、マントで緩和されているといっても伝わってきているのだ。

とてもじゃないが、こんな霊圧を放つのが一護であるはずがないと、にわかに信じがたい話であった。

 

「一護はどんな状態なんですか? 俺たちがここに呼ばれたのも、意味があってのことなんでしょう?」

 

小島水色は冷静に状況を分析する。

 

「話が早くて助かります。……黒崎サンは今現在、一か月ほど前にこの尸魂界を襲撃した敵と戦い続けているんです。――― 黒崎サンの精神世界でね」

「精神世界?」

「内なる世界とも呼ばれる、斬魄刀側の世界のことをいいます。黒崎サンはそこに敵を誘い込んで、敵が現実世界 (こちら)に干渉しないようにしているんですよ。実質、たった一人(・・・・・)で強大な敵と戦っているようなものだ」

「そうさせたのは、アンタたちじゃないのか?」

 

たつきの厳しい目に、浦原は首を振る。

 

「確かに、結果を見ればそうかもしれません。我々は止めることができなかった。黒崎サンがこうなってしまったのも、我々の力が足りなかったからとしかいいようがありません」

「だとしても・・・」

 

夏梨に注目がいく。

 

「一兄がほっとくわけないよ。ここに来るまで、周りの様子を見てたけど、どこもかしこも、壊れてた。いろんな人が泣いてた。一兄が黙ってるはずないんだ。だって……」

 

夏梨はぐっと、涙をこらえる。

 

「死神の時の一兄、すごく輝いてた。これで皆を守れるって。皆が傷ついてるのに黙って見過ごすなんて、できるわけないよ」

 

死神の力を失った一兄の顔と、死神の力を取り戻した後の一兄の顔を見比べても、どっちが一兄にとってよかったのか。聞くまでもなかった。

 

それがわかっているのだろう。

非難したたつきも、他の皆も何も言えなかった。

 

静寂を破ったのは浦原だった。

 

「そこで、皆さんにお願いがあるんス」

「お願い?」

「黒崎サンは確かに、一人(・・)で戦っています。しかし、どうやらこちらの声は届いているようなんスよ」

「それって……」

「応援、してくれませんかね。一人で戦っているわけではない。と」

 

一筋の光が見えた気がした。

 

 

 

 

 



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目覚めぬ太陽02(ユーハバッハ+白一護+斬月)

精神世界でユーハバッハと戦い続ける一護は、はたして……。


 

 

 

刃と剣がぶつかり合い火花が散る。それを何度も繰り返し、お互いの攻防が続いていた。

 

「やっぱ、(らち)が明かないか」

「無駄なことだ。私をココに閉じ込めれば戦いが終わったと、本気で思っているのか」

「うるせーよ。俺が諦め悪いの知ってんだろ。“斬月”」

「ふん。まだ、言うか」

「何度でも、言ってやるさ。お前は“斬月”だってな」

 

再びスピードを上げ、切りかかる。

 

 

 

***

 

 

 

天を突かんばかりの摩天楼の群れだった精神世界は、中途半端な(・・・・・)卍解の一護とユーハバッハの衝突によって、近代的なビルと洋風な城が混ざり合い、混沌とした世界が広がっていた。

天気は荒れ、風が吹き、雨が降り、嵐となって、海と化す。霊圧が海を荒し、水が干上がる。

 

「はああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ガキンッ!!

 

その割合は、徐々に徐々に洋風な造り――「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」――に傾いていった。

ここは一護の精神世界。世界の在り様がどちらに(・・・・)傾いているか。一目瞭然であった。

 

破れた死覇装の隙間からボタボタと血が流れる。滅却師特有の静血装(プルートヴェーネ)すら効かない。滅却師にとって虚の力は毒であっても、歴然とした差が開いていた。

 

「はあ、はぁ……」

 

以前、最後の月牙天衝を教わるために、天鎖斬月と刃を交わした時よりも、数倍危険な戦いを一護は強いられていた。

 

 

***

 

 

―― 王よ。俺に変われ。あの野郎をぶった切ってやる。

 

だめだ。

 

―― なんでだ。アイツはもう、斬月さんじゃねーんだぞ。

 

違わねぇよ。

 

―― いいから、変われ!! 死なれたら、困るんだよ!

 

 

一護は、フッと笑った。

 

 

なんだ、心配してくれるんだな。

 

―― な! してねぇよ!

 

今の“斬月”はユーハバッハかもしれねぇ。

 

―― なら!

 

でも! 感じるんだ。アイツの剣から、オッサンの意識が!

 

―― ……

 

たぶん、オッサンも戦ってるんだよ。アイツの中で、抗ってるんだ。

 

―― 斬月さんが勝つ前に、お前が死んじまう……

 

死なねぇよ。

 

 

白一護は首を振る。

 

 

―― 俺がわからねぇと思ってんのか。もう、ユーハバッハにここが侵略されてんのが。希望に満ちたこの世界が、時間を追うごとに絶望し始めてる。……お前が壊れる!!

 

 

***

 

 

「がはっ!!」

 

一護の口から、傷口から白い塊があふれる。虚の力が一護を包み込まんと、体を覆っていく。

 

「ほう、最後の悪あがきか」

 

“斬月”―― 一護に精神世界に引きずり込まれたユーハバッハ――は、にやりと口元を歪ませ、三つの目玉でその様子を見ていた。

内なる虚が出てくる。それはつまり、一護に命の危機が訪れていると同時に、すでに詰んでいるということだ。

 

顔から頭にかけて仮面に覆われ、頭に二本の角が生える。肌は白く覆われ、胸には穴が開く。

 

『ガァァァァアアアアア!!!』

 

――― やめろ! 斬月!!

 

 

体の支配権を白一護に奪われ、一護の意識は闇の奥底へと沈んでいく。

 

 

二本の角の間から霊圧が凝縮され、虚閃(セロ)が放たれる。

 

ユーハバッハは外殻静血装(プルートヴェーネ・アンハーベン)―― 体外にまで拡張された静血装 ――によって防ぐ。

完全虚化となった一護は一瞬の隙に背後に回り込み、月牙天衝を纏った刃がユーハバッハを襲う。

しかし、外殻静血装(プルートヴェーネ・アンハーベン)は継続していた。

 

「無駄だ!」

 

一護の能力を奪うために血装(プルート)が伸びる。

持ち前のスピードでそれを回避。囚われれば終わることを本能は感じ取っていた。

 

 

 

***

 

 

 

ここに、この世界にユーハバッハを閉じ込めておけば、少なくとも現実世界は護れる。

しかし、敵か味方かわからないオッサンとの終わりの見えない戦いは徐々に一護を苦しめていった。

 

 

目的を見失うほどに……―――

 

 

 

―― ダメだ。まだ、終わっちゃいねぇんだ……

 

いいや。もう、分かってるだろ? 

 

聞こえるだろ? 

 

外に満ちた戦争から解放された歓喜の声が。

 

滅却師への恨みの声が。

 

待っていない。

 

誰も、

 

死神がずっと守って来た霊王を殺したお前を。

 

誰も待っていない。

 

 

―― 違う……違う!!

 

 

お前は、独り。

 

 

 

―― ひとりなんかじゃ……ねぇ。

 

 

 

ほら、味方であったアイツも今じゃ敵だ。

 

 

 

殺しあっているユーハバッハと白一護の様子が見える。

 

 

 

お袋を殺したアイツが憎いだろう?

 

 

 

―― ……

 

 

 

さぁ、殺しあえ。

 

 

 

憎しみ合え。

 

 

 

そして、崩壊しろ。

 

 

 

さすれば、ここは、この世界全て、真世界城(我らのモノ)となる。

 

 

 

 

 

 

――― ……ご、……一護!

 

 

 

 

頭上から差し込む一筋の光に顔を上げる。

 

 

 

 

――― 一兄。負けんな。

 

夏梨?

 

 

――― お兄ちゃん、頑張って!

 

遊子

 

 

――― 負けないで、黒崎くん。

 

井上

 

 

――― 一護。

 

チャド

 

 

――― 一護、根性みせろよ

 

たつき

 

 

――― いっちごーー! 勝てよーー!

 

啓吾

 

 

――― 啓吾さん、そんな大きな声上げなくても聞こえてますよ。

 

水色

 

 

――― 一護~、今度、一緒に酒飲みましょ!

 

乱菊さん

 

 

――― 馬鹿か松本。こいつはまだ、未成年だ。

 

冬獅郎

 

 

――― おい、てめぇ。いつまで寝てんだ? 暇だろ? 俺と殺りあえ。

 

剣八

 

 

――― 隊長。一護は寝てても、まだ戦ってるんですよ?

 

弓親

 

 

――― 早く、起きねぇと隊長がしびれ切らすかもなぁ? 一護

 

一角

 

 

――― さっさと起きろよ。一護。隊長が首長くして待ってるぜ。

 

恋次

 

 

――― 礼を言うにはまだ早い。

 

白哉

 

 

――― 一護! さっさと起きぬか! 馬鹿者!!

 

ルキア……!

 

 

 

 

***

 

 

 

パキリ

 

虚の仮面に亀裂が走る。

 

「む」

 

「独りじゃねぇ。俺も、アンタも」

 

虚の()が剥がれ落ち、朽ちて消える。

 

「アンタの剣から伝わるのはなにも、憎しみだけじゃねぇ。悲しみだけじゃねぇ」

 

一護の瞳に光がともる。それはとてつもない強さを持つ。

 

「俺は決めたぜ、オッサン」

「何?」

「アンタを倒して、オッサンを取り戻す。アンタとオッサンが同じっていうんなら、何度も倒して、俺の強さをアンタに叩き込む」

 

一護は斬月を構える。

 

「だからアンタのこと、“斬月”って呼ぶぜ。アンタもアイツも俺の力なんだからな」

 

海の底に()が光となって降り注いでいく。

 

「俺はアンタを超えるぜ」

「くくくっ……」

 

闇より生まれし我が息子の言葉に、内側から湧き出る歓喜(・・・・・・・・・・)に声が漏れる。

 

「やってみるがいい。黒崎一護!!」

 

 

 

 

 



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