名探偵の助手は名探偵 (ほにゃー)
しおりを挟む

名探偵と名助手

「犯人は窓から窓へ飛び移ったんですよ。皆さんが被害者の悲鳴を聞いて駆けつける前にね」

 

新一がいつものように関係者を集め推理を披露する。

 

その推理に関係者たちはざわめき、口々に騒ぎ出す。

 

「馬鹿な!」

 

「あそこは五メートルも離れているのよ!」

 

「壁づたいに屋根を登れば二メートルもありません。この家の特殊な構造を知らなければ思いつきませんがね。そして、あの時間に家中を歩き回っても誰にも怪しまれない人物はただ一人」

 

「早く言いたまえ!誰が私の家内を殺した犯人は!?」

 

「それは…………御主人!あなたです!」

 

犯人を言い、その人物を指差す。

 

犯人と言われた被害者の夫にして屋敷の持ち主である男はうろたえる。

 

「じょ、冗談はよしたまえ…第一ワシの足はまだ……」

 

「茶番はそこまでだ」

 

俺は壁にもたれ掛かったまま男に話し、二枚のカルテを出す。

 

「貴方の診察記録だ。ここでは全治半年と書かれているが、こっちのカルテには全治二ヶ月って書いてある。調べたら案の定改竄の痕跡があった。そこから貴方の主治医を問い詰めたら、全部吐いてくれましたよ。貴方の足はもう三ヶ月も前に直っていることがな」

 

「くっ………くそ!」

 

男は逃げ切れないと悟り、車椅子を飛び降りて逃げ出す。

 

「新一!」

 

「任せろ!逃がすか……よお!!」

 

足元に置いてあった地球儀を蹴り飛ばし、地球の模型部分が男の後頭部に当たる。

 

男はそのまま倒れ、逮捕された。

 

「いやー。また君らの力を借りてしまったな、工藤君!神埼君!いつもいつもすまんのー」

 

この事件の担当者である目警部が俺と新一の背中を叩きながら感謝してくる。

 

「いえいえ。また難事件があれば、この名探偵、工藤新一にご依頼を!」

 

新一はキザッぽくそう言う。

 

「それと神崎君。いつも通り、君の事はマスコミに伏せる形で良いのかね?」

 

「はい、俺のことは他言無用で」

 

「それは構わんが、君は本当にメディアへの露出を嫌がるな」

 

「俺は探偵なんかじゃなくただの助手ですから」

 

俺、神崎恭介は目暮警部にそういい残し、新一を置いて、屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通り学校に登校し、授業を受け。放課後。

 

俺は新一と一緒に帰っていた。

 

「フフフ…フッフッフ」

 

新一は新聞の一面に載ってる自分を見て笑う。

 

本屋で雑誌を見てる女子高生も新一の活躍について話、夕方のニュースも新一のことをほめ、新一は嬉しそうに笑う。

 

すると、新一の顔目掛け空手の胴着が当たる。

 

「バッカみたい……ヘラヘラしちゃって……」

 

胴着を投げたのは毛利蘭。

 

俺と新一の幼馴染だ。

 

「何怒ってんだよ?」

 

「別にー。新一と恭介が活躍してる所為でお父さんの仕事が減ってるからって怒ってなんかいませんよー!」

 

蘭の父親の毛利小五郎さんは新一と同じく探偵をしているが、正直な話、推理力と知名度なら新一が上だ。

 

「蘭の父さん。まだ探偵やってたのか?でも、仕事が来ないのは俺と恭介の所為じゃなくてあの人の腕の所為「だから、怒ってないっていってるでしょ!」

 

新一の言葉を遮りながら、新一の顔スレスレの位置に拳を打ち出し、電柱にぶつける。

 

よく見ると電柱にヒビが入っている。

 

「さ、流石空手部女主将……」

 

蘭の一撃に戦慄しながら、俺は手元の本に視線を戻す。

 

「ねぇー!ボール取ってー!」

 

新一の足元にサッカーボールが転がり、新一はそれを子供に向かって軽くけり返す。

 

「ほらよ!」

 

「ありがとー!」

 

「サッカー部止めてなかったら、今頃国立のヒーローだったのに」

 

「サッカーは探偵に必要な運動神経を鍛えるためにやってただけだよ。ほら、ホームズだって剣術やってたし」

 

「あれは小説でしょ」

 

「でも、みんな知ってる名探偵だ。ホームズは凄い!いつも冷静沈着!溢れる知性、教養!観察力と推理力は天下一品!おまけにバイオリンの腕はプロ並!小説家、コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズは、世界最高の名探偵だよ!」

 

新一はクリスマスの日に枕元に置かれたおもちゃを見て喜んでいる子供の様に、はしゃぎながら言う。

 

「コナン・ドイルだけじゃない!オレん()には世界中の推理小説がそろってるぜ!どーだー?蘭も読んでみるか?」

 

「いいわよ。新一の推理オタクがうつっちゃうから」

 

「でも見ろよ。このファンレター!みんな、この推理オタクが好きだってよ!」

 

懐から出したファンレターの束を見せ、新一は笑う。

 

「女の子にデレデレするのはいいけど、ちゃんと本命一本に絞りなさいよ」

 

蘭はファンレターを見つめながら言う。

 

「それにしても、どうして恭介は世間に知られたくないの?」

 

「ん?」

 

読んでいた小説から目を離し、蘭の方を見る。

 

「だって恭介だって新一に負けないぐらい優秀じゃない。それなのに自分から事件に関与してるの伏せてもらって………なんかもったいないわよ」

 

「いいんだよ、俺はこれで」

 

そう言い。読んでいた小説を閉じる。

 

「俺は表立って騒がれるより裏でこそこそ活動する裏方の方が好きなんだ」

 

そう言い、鞄に小説を仕舞う。

 

「じゃあな、二人とも。また学校で」

 

二人に手を振り、俺は自分の家へと帰っていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小さくなった名探偵と名助手

「いらっしゃいませー!」

 

今日、俺はこの遊園地、トロピカルランドにある売店でバイトをしている。

 

ジュースを渡したり、ポップコーンを渡したりと朝からせわしく動いている。

 

「すみませーん!」

 

「はい!お待たせしました!」

 

客に呼ばれ、レジに出るとそこには新一と蘭がいた。

 

「恭介!お前何やってんだよ?」

 

「何ってバイトだよ。そっちこそ、二人でデートか?」

 

「違ぇよ。蘭の空手の都大会の優勝の記念。それで、遊園地に連れてきたんだよ」

 

「そう言えばそうだったな、蘭、遅くなったがおめでとさん」

 

「うん。ありがと」

 

「ほらよ、このジュースは俺からの驕りだ。しょぼい都大会祝いで悪いな」

 

オレンジジュースのカップを渡し、新一にも渡す。

 

「俺もいいのか?」

 

「ついでだよ。いいからもう行け。せっかくの休日だし、楽しめよ」

 

二人を見送り、俺は再び売店の仕事に励む。

 

昼のピークも過ぎ、若干楽になり始めたぐらいに、外がずいぶん騒がしくなって来た。

 

「どうしたんだ?」

 

「すみません!」

 

するといきなり店に制服を着た警官が現れる。

 

「神埼恭介さんですね!」

 

「は、はい……」

 

「少しお時間いただけますでしょうか?」

 

「えっと……チーフ。行っても大丈夫ですか?」

 

「え?う~ん……まぁ、いいよ」

 

バイトチーフの許可ももらい、制服から私服に着替え、警官の後について行く。

 

そこはトロピカルランドで人気が高いジェットコースターだった。

 

すでに何人の警官が配置され、立ち入り禁止を示す黄色のテープが張られている。

 

なるほど。

 

そう言うことか。

 

で、俺が呼ばれたってことは、おそらくこの事件の担当は目暮警部だ。

 

そしてこう言う事件に首を突っ込み、尚且つ俺がこの遊園地内にいることを知ってる奴。

 

つまり、アイツもいるはずだ。

 

「やっぱお前か。俺を呼んだのは………新一」

 

「よう、恭介。早速だが、頼むぜ。相棒」

 

「はいよ」

 

眼鏡ケースを取り出し眼鏡を掛ける。

 

そして、新一が事件を解くということもあり、野次馬が多いのでパーカーをかぶり顔を隠す。

 

「で、事件の内容は?」

 

「被害者の男性は即死。そして、現状から考えて自殺の線は薄く、コースターの故障や事故の痕跡もない。つまり、この事件は」

 

「殺人か」

 

そう言い、俺は遺体を見る。

 

首が切り落とされてるな。

 

そうなるとかなりの力が必要になるはず。

 

それに凶器も包丁やナイフなんかじゃ駄目だ。

 

「で、コースターの席順は?」

 

「一列目が被害者の友人の女性二名、二列目は俺と蘭、三列目に被害者とその彼女、四列目は黒ずくめの男二人だ」

 

「お前と蘭を除けば容疑者は五人か」

 

「おい、早くしてくれ!!オレ達ゃ、探偵ゴッコにつきあってるヒマなんかないんだぜ…」

 

すると、容疑者の一人、長髪で全身黒ずくめの男は、痺れを切らしたのか苛立ちながら言う。

 

その男の目に、俺は思わず全身が凍りつくかのような気分になった。

 

こいつは一体…………

 

「警部!!この女性のバッグからこんな物が!!」

 

荷物検査をしていた警官が被害者の恋人のバックから血まみれの包丁を見つけ出し、警部に報告する。

 

「う、うそ…。わたし、知らないわよ!!こんな物!!わたし、わたし…」

 

「あ、愛子…なんでそんな事しちゃったのよ…」

 

他の容疑者や野次馬まで犯人は恋人の女だと決め付けんばかりに騒ぎ出す。

 

「新一。お前の推理を聞かせろ」

 

「犯人は彼女じゃない。包丁なんかで人間の首を切り落とすなんて無理だ。特に女性一人の力じゃな」

 

「同感だ」

 

「犯人の目星は付いてる。トリックもわかった。後は、証拠だ。今ある証拠じゃ不十分だが、俺の推理通りなら、きっともう一つの証拠はトンネルの中だ」

 

「実際の犯行現場はトンネルの中だっけか。OK、探してくる」

 

「ああ、頼むぜ」

 

新一にこの場を任せ、俺はトンネルの中に入る。

 

いつも持っているペンライトでトンネル内を照らし、証拠を捜索する。

 

「頼むぜ。新一の推理通り、あってくれよ」

 

まぁ、新一の推理なら心配はないけどな。

 

そして、トンネルの半分まで進むと、そこで俺はお目当てのものを見つける。

 

「見つけた」

 

それを指紋をつけずに回収し、新一のところに戻る。

 

「で、でらためよ!!何を証拠に!!」

 

戻ると犯人として新一が上げた女性を友人の女性が必死にかばおうとしていた。

 

「彼女の涙が動かぬ証拠だ。ジェットコースターにでも乗っていない限り、涙は横には流れないんですよ」

 

「それが証拠?そんなのが証拠になるわけないでしょ!」

 

「証拠ならもう一つある」

 

俺は全員に近づきながら、手にした物を見せる。

 

それはヒモがピアノ線になっている、血の付いた真珠が飛び散ったネックレス。

 

「新一の推理通り、トンネル内で見つけた。これを凶器代わりに使ったんだろ。売ってる店を探して購入者を調べればあんたの物かわかる事だ」

 

「み…みんな……みんな、あの人が悪いのよー!!あの人がわたしを捨てるから!!」

 

「ひ、ひとみ…あなた、岸田君とつき合っていたの…?」

 

「そうよ!!大学であなた達に会うずーっと前から私達は愛し合っていたわよ!!それを愛子に…こんな女に乗り換えから…だからだから…あの人と最初にデートしたこの場所で、あの人にもらったネックレスで、愛子に罪をかぶせて……殺してやりたかったのよーーーー!!!」

 

その後、彼女のバッグから大量の睡眠薬が出てきた…

 

どうやら、この後ここで死ぬつもりだったらしい。

 

証拠品ということでネックレスを警察の人に渡すと、ネックレスに残った真珠が夕日を浴びて淡い光を放っていた。

 

まるで大粒の涙のように……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ~…………疲れた」

 

事件の後、店に戻り、残りのバイトを片付けたりといろいろ忙しかった。

 

「帰ったら晩飯食って風呂だな」

 

実を言うと、俺は一人暮らしだ。

 

母さんは俺が生まれたまもなく死に、父さんは何処で何をしてるのか放浪の旅をしている。

 

家に帰ってくるのは一年に一回あるかないかだ。

 

最後に帰ってきたのは、俺が高校入学の時だったと思う。

 

「あ、ついでだしDVDでも借りて帰ろうかな…………」

 

そんなことを思ってると、新一が真剣な顔つきで走っているのが見えた。

 

「どうしたんだ?」

 

そう言えば、あいつやたらあの黒ずくめの男たちのこと気にしてたな。

 

「………………後つけるか」

 

新一が余計なことに首を突っ込んでると考え、後を追う。

 

「あれ?何処に行ったんだ?」

 

観覧車の周辺で新一を見失い、あたりを見渡す。

 

そのとき、何かを殴る音と何かが倒れる音が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

気になり、そちらのほうに移動すると、そこで俺は見覚えのある人物を見つける。

 

「新一!」

 

駆け寄ると新一は頭から血を流し、意識が朦朧としていた。

 

「しっかりしろ!今救急車を!いや、まだ警官がいるはずだ!すぐに呼んでくる!」

 

応急処置だけしようと、鞄から包帯を出し、頭に巻こうとする。

 

「あ……きょ、恭介………」

 

「喋るな!おとなしくしてろ!」

 

「に、逃げ……」

 

「だから、喋るなって言ってるだろ!」

 

「お前もな!」

 

その瞬間、後ろから強い衝撃が俺を襲い、俺はそのまま新一同様倒れる。

 

「ふん!首を突っ込まなければ長生きできた者を」

 

「どうしやす!(バラ)しやすかい!?」

 

「いや、拳銃(チャカ)はまずい!!さっきの騒ぎでサツが、まだうろついている!!こいつを使おう…。組織が新開発したこの毒薬をな…。何しろ死体から毒が検出されない……完全犯罪のシロモノだ!まだ人間には試したことがない試作品らしいがな……」

 

薄れていく意識の中、俺と新一は長髪の男にその毒薬を無理矢理飲まされ、放置される。

 

「アニキ、早く!」

 

「オウ……あばよ…名探偵とその相棒!」

 

そう言い残し、二人は俺たちの下を去っていく。

 

そして、俺の体に異変が起きた。

 

体が熱くなり、まるで体の骨が解けていくような感覚。

 

声一つ出せず、俺はそのまま薄れていく意識に身を任せ、そのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ちょっと来てくれ!!誰か死んでるぞ!」

 

「な!?」

 

「いや、まだ息はある!!」

 

「救急車だ!!救急車を呼べ!!」

 

男の声が三人分聞こえる。

 

目を開けると、薄らと警官の姿が見えた。

 

そうだ、確か俺は毒薬を飲まされて…………

 

何で生きてるんだ?

 

そう言えば試作品とか言ってたけど………どうやら運欲く助かったみたいだ。

 

ちょうどいい、この警官達に全部話して……

 

「大丈夫か!?」

 

「立てるか?ボウヤ達?」

 

………………え?ボウヤ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

輪島尊の誕生

「イテテテテテテ!!」

 

「じっとしてなさい。すぐ済むから」

 

あの後、警官たちは俺と新一を連れ医務室へと向かい、俺は今手当てを受けてる。

 

「はい、終了。それにしても、酷い怪我だね。どうしたんだい?」

 

「えっと………よく覚えてません」

 

手当てをしてくれた医者にそう言い、俺は新一のところに向かう。

 

「なぁ、新一。これをどう思う?」

 

「どうって………体が縮んだ以外にどう思えってんだよ」

 

「やっぱり縮んでるよな…………」

 

医務室に運ばれた俺たちは互いの姿を見て驚いた。

 

何故なら俺たちの姿は小学生の時の姿になっていた。

 

おそらく、あの男たちが俺たちに飲ませた毒薬。

 

アレが俺たちを小さくした原因だと俺は思ってる。

 

それは新一も同じらしく、俺たちはため息を吐く。

 

「とにかく、こっから逃げるぞ。このままだと警察に保護ってことで連れてっちまわれる」

 

「だな」

 

俺と新一はこっそりと医務室を抜け出し、外へ出る。

 

俺達がいないことに気づいた警官は慌てて俺たちを追うが、なんとか撒くことができ、とりあえず新一の家へと向かった。

 

「し……新一……位置はこの辺か……!」

 

「もうちょっと右だ!」

 

慎重が小さい所為で家の門を開けれず、俺が新一を肩車する。

 

「も、もうちょっと…………!」

 

もう少しで手が届くというところで、隣から突然、爆発音が響いて中から一人の老人が出てくる。

 

「あ、阿笠博士…」

 

「今度は何をしたんだ………」

 

出てきたのは新一の家の隣にすんでる発明家の阿笠博士だった。

 

「ん?なんじゃ、お前ら」

 

「オレだよ、オレ!新一だよ!!こっちは恭介!」

 

「なんじゃ、新一と恭介の親戚の子か…、言われてみれば二人の小さい頃によく似とる…」

 

「だから、俺たちが神崎恭介本人と工藤新一本人なんだよ!」

 

「ああもう!なら、これでどうだ!阿笠博士(ひろし)五十二歳!俺ん()の隣に住んでる風変わりな発明家」

 

「自分のことを天才って言ってるけど作ったものはガラクタばかり!」

 

「「おまけに、お尻に毛が一本出てる!」」

 

「お、お尻……それは新一と恭介しか知らんはず…………まさか、新一と恭介の奴、ワシの秘密を言いふらしておるんじゃ…………」

 

「聞いたんじゃなくて俺たちが本人なんだって!」

 

「薬で小さくなったんだよ!」

 

「薬で小さく…?」

 

「ああ…」

 

「これで信じくれたか?」

 

「フン!そんな薬があればワシが、お目にかかわりたいわ!来い、あやしい小僧ども!警察に突き出してやる!」

 

「じゃー、これならどーだ!博士!!あなたは、さっきレストラン「コロンボ」から帰ってきましたね!!それも、かなり急いで!!」

 

「ど、どうしてそれ!?」

 

「博士の服ですよ。前の方は濡れてるのに後ろにはそれがない。雨の中走ってきた証拠ですよ」

 

「付け加えると、急いで変えてきた理由はもう一つ。もし、雨が降ってる時に、出かけたなら傘を持って家を出る。なのに急いで帰って来たってことは、雨が降っていない時に出かけた。そして、帰りに急な雨が降っていたため、急いで帰って来た」

 

「おまけに、ズボンに泥がはねてる。この近辺で泥がはねる道路は工事中の「コロンボ」の前だけだ!おまけに「コロンボ」特製のミートソースがヒゲについてるしね」

 

「き、君らは…」

 

「チッチッチッ…初歩的な事だよ…阿笠君♪」

 

「し、新一…ということは恭介なのか?」

 

「だーから、さっきらから言ってんだろうが?薬で小さくされたって…」

 

「まだ信じられないが、とりあえず…話は家の中で聞こう…」

 

博士に新一の家の門を開けてもらい、中に入る。

 

そして、新一は子供の時の服に着替え、何があったのか話す。

 

「「け、拳銃密輸!?」」

 

新一から借りた服を着ながら俺も驚く。

 

「それをネタにゆすってる奴らを見ちまったんだよ」

 

「つまり、俺は運悪く、お前が口封じされかけてる現場に来ちまって、襲われたってことか」

 

「そうか……未完成だった薬の副作用で体が小さくなってしまったと言うわけか……」

 

「なぁ、博士。なんとかできないのか?解毒剤を作るとか」

 

「そうは言われても、薬の詳しい成分が分からん限りは…………とにかく、新一!恭介!小さくなったことはワシ以外に言ってはならんぞ!」

 

博士は俺と新一の肩をつかんで言う。

 

「え?なんで……?」

 

「もし君たちが工藤新一と神崎恭介だと分かったら、また奴らに命を狙われるじゃろ!それは君たちの周りの人間にも危害が及ぶ!このことは、ワシらだけの秘密じゃ!決して誰にも言ってはいかんぞ!新一!恭介!」

 

「新一!いるの?」

 

その時、玄関から蘭の声が聞こえる。

 

「帰ってるなら電話ぐらい出なさいよー!恭介もいるのねー!」

 

「い、いかん隠れろ!」

 

「か、隠れるたって………何処に!?」

 

「新一!こっちだ!」

 

新一を引っ張り、博士の後ろにある机の陰に隠れる。

 

「あら、阿笠博士!」

 

「や、やー!久しぶりじゃのー、蘭君」

 

間一髪、蘭が書斎に入ってくると同時に、俺たちは隠れれた。

 

「うわー!相変わらず凄い本の数ねー!それも推理小説ばっかり……」

 

「あ、ああ……新一君の父親は世界的推理小説家じゃからのー」

 

「こんな本に囲まれて育ったから、新一が推理馬鹿になっちゃうのよ」

 

「うっせぇーなー」

 

「誰?そこにいるの?」

 

この馬鹿!

 

何やってるんだよ!

 

俺が睨むと、新一は手を合わせて謝ってくる。

 

とにかく変装を………!

 

「父さんの眼鏡!これで!」

 

新一は優作さんの予備の眼鏡のレンズをはずし、顔に掛ける。

 

まずい!俺だけ変装できる物が………!

 

「誰、この子?」

 

とうとう蘭が俺たちを見つける。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この子達…………かわいい!」

 

俺たちを抱きしめた。

 

く、苦しい………

 

首に腕が…………

 

てか、蘭の奴、俺に気づいてない?

 

………………そう言えば、俺たちは確かに幼馴染だけど、正確には俺だけは小学校は違う。

 

幼稚園まで一緒だったが、小学校に上がる時、俺は転校して、こっちには中学に上がる時に戻ってきた。

 

だから、俺の小学生の時の顔を蘭は知らないんだ。

 

よ。よかった…………

 

「この子達だーれ?」

 

「わ、ワシの親戚の子と知り合いの子じゃ」

 

「僕たちいくつ?」

 

蘭が俺たちに聞いてくる。

 

「じゅうろ…じゃなくて……六歳」

 

「小学一年生かー……名前は?」

 

「な、名前は……」

 

質問しながら近づいてくる蘭から後ずさりして下がるが、後ろの本棚にぶつかり下がれなくなる。

 

「え、えーっと、えーっと………!こ、コナン!僕の名前……江戸川コナン!」

 

「コナン?変わった名前ね」

 

「と、父さんがコナン・ドイルのファンだからこんな名前に……」

 

コナンって外人かよ!

 

「じゃあ、君の名前は?」

 

今度は俺のほうに聞いてくる。

 

な、名前……名前………

 

「わ、輪島!僕の名前は輪島(わじま)(たける)!」

 

「尊君ね」

 

ふー、とっさに思いついてよかった。

 

「おい、何だよ?輪島尊って?」

 

「輪島尊を別の読み方してみろ。漢字は輪っかの輪に無人島の島、尊敬の尊だ」

 

「えっと…………わとうそん?あ!ワトソンか!」

 

「我ながら咄嗟に思いついた名前にしては上出来だよ」

 

俺の偽名について新一に教えてると、急に博士が声を上げる。

 

「そうじゃ!蘭君!すまんが、少しの間この子達を預かってはくれんかの?」

 

「え?」

 

「「はぁ!?」」

 

「いやー、この子達の親が急な用事でワシの所に預けに来たんじゃが、ワシも一人暮らしじゃし、何かと忙しくての!」

 

 

「いいけど、お父さんに相談してみないと」

 

「おー引き受けてくれるか!」

 

「バカヤロ!そんなことしたら、俺と恭介の正体がバレるだろ!」

 

新一が博士に小声でそう言う。

 

「まぁ、聞け。君らの死体が出なければ、いずれ黒ずくめの男たちにも分かる。そうなれば、君たちの家を出入りするものを真っ先に疑う」

 

「そうだけど。なら、博士の家でもいいじゃねーか」

 

「馬鹿者。元に戻るならまず奴らの居場所を着きとめにゃならんじゃろ。蘭君の家は探偵事務所じゃぞ!」

 

「そっか!探偵事務所(あそこ)なら!奴らの情報が入ってくるかも!」

 

博士と新一の会話を聞きながら、俺はあることを思いつく。

 

「僕、ねーちゃん()がいい!」

 

新一は小学生みたいに蘭に抱きついて言う。

 

そして、目が「早く恭介も来い」と言わんばかりの目をしてる。

 

悪いな………流石に俺は勘弁だ。

 

「僕、博士の家がいい!」

 

「ええっ!?」

 

「ふぁっ!?」

 

「知らない人のお(うち)怖いもん!僕、博士のお(うち)がいい!」

 

我侭を言うように、嫌々と首を振りながら博士の後ろに隠れる。

 

「阿笠博士。尊君は嫌がってるし、尊君だけでも博士の家で見れない?それに、やっぱ二人も預かるのは流石にお父さんも怒るかもだし」

 

「う、うむ………そ、そうじゃの。尊君はワシの方で見るからコナン君をお願いできるかの」

 

「ええ。じゃあ、コナン君。行こっか」

 

「あ、うん。オジちゃん、尊君、バイバーイ!」

 

新一は子供らしく手を振って蘭と共に帰っていく。

 

その後姿を見送りながら、俺はため息を吐く。

 

「恭介、どういうつもりじゃ?」

 

「流石に二人も子供を預かるほど、蘭の家に余裕はないだろ。それに」

 

「それに?」

 

「四六時中子供のフリなんて嫌だ」

 

「そうか」

 

「ま、俺が元に戻るまでお世話になるぜ。博士」




オリ主の居候先は博士の家になりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

助手から探偵に

「「はぁ!?小学校!?」」

 

あれから一週間。

 

今日、新一が阿笠博士の家、つまり現在、俺が居候してる家にやってくるなり、博士はそう言って来た。

 

「そうじゃ、中身は高校生と言えども外見は小学生。小学校に通わんと怪しまれる。転校手続きはワシがしといた」

 

「でもよー」

 

「今更また小学校に通うのは………」

 

いくら例の組織を探るためとは言え、小学生の真似事をするのは俺も新一も嫌だ。

 

「おお、そうじゃった!新一に頼まれていたメカが完成しとるぞ!」

 

そう言って博士は靴を取り出す。

 

「ほれ!“キック力増強シューズ”!電気と磁力で腕のツボを刺激し、筋力を極限まで高める道具じゃ!!このシューズでボールを蹴れば犯人はひとたまりもないぞ!サッカーが得意な新一なら使いこなせるじゃろ!」

 

「ありがとう博士!」

 

「辛いこともあるじゃろうが、もう少しの辛抱じゃ。元の身体に戻るまでのな!」

 

「ああ!参観日には来てくれよ!」

 

「おう!」

 

新一はうきうきとシューズとランドセルを受け取り、蘭の家に帰る。

 

「あいつ………嬉しそうにしやがって」

 

「まぁまぁ。そうじゃ、恭介用にもメカを作っといたぞ」

 

そう言って博士は白衣の上着から一冊のノートと手帳を取り出す。

 

「ほれ。“ノート型極薄ノートパソコン”じゃ。タッチパネル式で画面の拡大も出来るし、高画質。容量は最大800GB。そして、こっちが“万年筆型ICレコーダー”。普通のICレコーダーとしても使えるし、このノートパソコンのタッチパネル対応のペンとしても使える。捜査を進めるには打って付けじゃろ」

 

「ああ、ありがとな。博士」

 

パソコンとICレコーダーを受け取り、家の中に戻る。

 

明日から小学校か…………………

 

 

 

 

 

「は、はじめまして…今日からこの学校に通うことになった…江戸川コナンです…。ヨ、ヨロシク……」

 

「えどがわ…こなん?」

 

「変な名前〜!!!」

 

新一の偽名、江戸川コナンと言う名に子供たちは変な名前と笑う。

 

「輪島尊です。よろしくお願いします」

 

俺は変な名前じゃないので普通に受け入れられた。

 

「てか、日本警察の救世主と呼ばれた子供に混じってお勉強とはな………」

 

「そう言うなって。小学校の勉強も侮れねぇぞ。算数は兎も角、国語や社会は俺達の時と比べて随分内容が変わってるし、中々に楽しいもんだぞ」

 

体操服に着替えながら、俺と新一は話す。

 

「てか、恭介。お前、なんか楽しそうだな」

 

「郷に入っては郷に従えって言うだろ。今の俺は高校生名探偵の助手、神崎恭介じゃなくて、小学一年生の輪島尊なんだから。ま、二度目の小学校生活を暫く謳歌するのも悪くねぇさ」

 

俺は、はっはっはっと笑い、校庭に出る。

 

体育の内容はサッカーだ。

 

小学生に戻り、体力や筋力が落ちた新一だったが、そこは元サッカー部にしてエース。

 

同年代になった小学生など敵ではなく、新一の独壇場だった。

 

「コナン君すごーい!」

 

そんな新一は女の子たちの注目の的だった。

 

小学生の内はスポーツできれば無条件で女の子にモテるからな。

 

「よう、色男。女の子に注目されるのはどんな気分だ?」

 

「ま、悪くはねぇな」

 

そう言って新一は俺にパスをする。

 

「ちょっとボール頼む。折角だし、博士から貰ったメカを試してみる」

 

「あいよ」

 

ボールを保持しながら、奪おうとして来る男の子を躱し続ける。

 

ま、これぐらいなら俺でも楽勝だ。

 

「よし!きょ……尊!こっちにパスだ!」

 

「受け取れ!」

 

新一にボールを再度パスし、受け取る。

 

ゴール前はノーマーク。

 

「もらっ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、俺と新一は一緒に帰っていた。

 

「………なぁ、新一」

 

「……なんだ?」

 

「………そのメカ、本当に大丈夫か?」

 

「………不安しかねぇ」

 

あの後、何が起こったかと言うと、新一が蹴ったボールは物凄いスピードで跳んだ。

 

そして、キーパーをしていた男の子の顔の横を掠る様に飛び、ゴールネットを突き破り、背後の木をへし折った。

 

ちなみに強さの目盛りは中。

 

博士……………なんちゅうモノ発明してんだよ。

 

「じゃ、俺こっちだから」

 

「おう、またな」

 

途中の分かれ道で新一と別れ、俺は阿笠邸へと帰る。

 

渡された鍵を使い、家の扉を開ける。

 

「ただいまー」

 

「おお、恭介か。お帰り」

 

俺を出迎えた博士はいつもの白衣ではなく、私服姿だった。

 

「あれ?博士、出掛けるのか?」

 

「ああ、親友の博士の所にな」

 

「へー………なぁ、博士。付いてってもいいか?」

 

「へっ?ま、まぁ、構わんが何故じゃ?」

 

「博士………最近、腹回りヤバいんじゃねぇの?」

 

「へっ?」

 

「買い食いしないように見張らねぇとな」

 

ジト目気味に博士を見ると、ギクッとした表情になっていた。

 

する気だったな……買い食い。

 

博士の運転する車に乗り一時間後、博士の友人の家に着いた。

 

「おお、阿笠!久しぶりだな!」

 

「沼田君も、変わらない様でなによりじゃ!」

 

現れた温和な笑みを浮かべ、ふさふさと口ひげを生やした初老の男性が現れ、博士と握手する。

 

「おや、この子は?」

 

「ああ、ワシの親戚の子でな。今ちょっと預かってる子じゃ」

 

「輪島尊です。初めまして」

 

「ああ、初めまして。私は沼田喜一郎。よく来たね」

 

男性は家の中へ俺達を招くと、今へと案内する。

 

「しかし、本当に久しぶりだ。五年ぶりだろうか」

 

「そうじゃの。五年前の山村教授の葬式以来じゃな」

 

「…………ああ、そうだな」

 

すると、急に沼田博士が暗い表情になる。

 

「実はな、阿笠。お前に見てもらいたいものがあるんだ」

 

「見てもらいたいもの?」

 

「ああ、少し待っててくれ」

 

そう言って沼田教授は席を外す。

 

「見せたいものってなんだろ?」

 

「さぁ?」

 

「うわああああああああああ!!?」

 

その時、急に沼田教授の悲鳴が聞こえた。

 

「今のは!?」

 

「二階からだ!!」

 

博士と共に、慌てて上に向かう。

 

「沼田君!どうしたんじゃ!?」

 

「あ、阿笠……あ、あれを………」

 

沼田教授が指さしたその先には、一人の男が倒れていた。

 

俺は部屋の中に入り、脈を確かめる。

 

「と、とにかく救急車を!」

 

博士が携帯を出し、救急車を呼ぼうとする。

 

「いや、博士。呼ぶのは救急車じゃない………警察だ」

 

「え?」

 

「亡くなってるよ。この人」

 




新一の助手なのに、小さくなっての最初の事件は恭介の推理となります。

一応、彼は助手であると同時に探偵なので


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。