市立見滝原中学校万仙陣 (三代目盲打ちテイク)
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プロローグ1
――“世界”とはなんだ。
――“夢”とはなんだ。
そんなものは決まっている。
世界とは誰もが幸福に笑っている幸せであるべき場所だ。誰もが幸せそうに笑っている場所こそが世界だ。
誰も彼もが理想とする夢を見ている。夢とは見たいものだ。
愛する人との幸せな日常。食いきれないほどの食べ物。使いきれぬほどの富。使い捨てにできるほどの女や男。望みうる空想の世界。
限りある栄光も、ただ一人選ばれしものしか手にすることのできない輝かしい経歴も、誰もが望み全員が平等に手に入れることのできない勝利も
他者との争いなどあり得ない。誰もが幸せそうに笑っている。自己で完結した幸福な世界の中で永劫見たいものを見ている。
俺は理解した、ここは桃源郷なのだ。俗界を離れた他界・仙境。
だが、桃源郷は永遠ではなかった。全てが燃え落ちた。母の愛に抱かれながら全てが失われたのだ。広がったのは理解不能の
世界が怒りや嘆き、争いに満ちている。桃源郷からはほど遠い。
なぜ争う。なぜそんなに嘆いている、なぜ怒る。
こいつらは馬鹿なのか? 世界を自分の形に閉じてしまえばあの阿片窟のみんなのように幸せになれるというのに。
なぜ笑わない。なぜそんな怒った顔をする。なぜ嘆き苦しむ道ばかり選ぶ。
ああ、こいつらは知らないのだ。夢を見たいと思いながらその方法がわからぬ馬鹿なのだ。
ならば教えてやらねば。救ってやらねば。
本来桃源郷への再訪はできない。求めれば求めるほど行くことが出来ない。
それはおまえたちが知らないからだ。桃源郷はおまえの中にある。
おまえの
躊躇うことはない己が真のみを求めて痴れれば良い。悦楽の詩を紡いでくれ。
おまえがそう思うならおまえの中ではそうなのだから。誰に憚ることがある。
好きに願って夢を見ろ。おまえの閉じた仙境こそ、おまえにとっての真実である。
困難を乗り越える? 思えばよかろう、その時すでにおまえはおまえの中で勝者だから。
成長とやらも望んだ分だけしているはず。劇的な展開とやらも、好きなだけ夢見て描け。
俺を斃したい? やればよかろう。
おまえがそう思うのなら、おまえの中で俺を消し去り、おまえの世界を救った英雄としておまえ自身を誇ればいいのだ
好きに夢を思い描け。そのときおまえは、おまえの中で世界の勝者だ。
俺はおまえの幸せを、いつ如何なるときも祈っている。
救われてくれよ。我が父のように、母のように。
――おまえたちは幸せになるべきだ。
そういっているというのに、
「柊四四八」
なぜおまえはそんな苦界で生きていこうとする。
理解ができん。
殴りつけた腕が朱に染まっている。痛いだろう、苦しいだろう。なぜ、救いを求めない。なぜ、救われようとしない。
なぜ、苦しむ道の中で生きることが幸せなどと宣う。いったい誰が、苦しみながら進むこの道で幸せになれると言う。
誰もがおまえのような痴れ者ではない。人とは自己に閉じ籠り幸せを謳歌する事で幸せになれる生き物なのだ。誰も苦しいことが好きな人間などいるはずがないだろう。
それでもおまえはそんな幸せな
だが、おまえはあまつさえ人にそれを教え、あろうことかその暴論を聞いたものはおまえに感化されて人として当たり前の事を捨ててしまう。
自己の中で閉じていればいいだろう。おまえが尊ぶ絆などしょせんは我欲の押し付け合い、他者に望まぬことをやらせるため創りあげた体のいい方便でしかないのだ。
嫌ならやらねばいいだけのこと、その自由すら奪い取るのが曰く絆、曰く正義。
それらはただの同調圧力に過ぎない。そんなものが尊く輝かしいものであるなど世迷いごとをまじめな顔して吐き捨て他人にもそれを求める。
本当に痴れているのはどちらだと言うのか。
そんなおまえのような者がいるから、人は嘆き悲しむのだろう。
だが、それでもなおあの男は否定したのだ。
夢に縋らず現実を生きろと。
理解ができない。
「娘よ――」
生きる意味と救いの意味が何なのか、わからない。
人が苦しみに包まれた世界で生きることが悲しくはないのか。
おまえたちの大切な人間が嘆き苦しみ、涙を流しているのだぞ。
救わなくてどうする。
だというのになぜおまえたちはそんなにも満足げに笑うことができるのだ。
嘆き悲しみ、苦しさに泣いている者たちを救わずに、殴りつけてさあ、立てと無責任に苦しい世界に放り出して、なぜ笑うことができるのだ。
理解ができない。
「娘よ――」
おまえならば、わかるのか――。
「ええ――」
「そう、か――」
ならば教えてくれ。娘よ。
どうして、この苦界で、生きていけるのかを。
生きる意味を――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
幸せな日々は、唐突に終わりを告げて、世界は破滅へと加速度的に落ちていく。
そうそれこそが定められた終局。
魔女の夜。ああ、偉大なりしワルプルギスの夜が降臨する。
全ては絶望の海に沈んだのだ。
「――――」
ゆえに、暁美ほむらの意識が回復したとき、何が起きたのか理解ができなかった。何が起きたのか、何があったのか。ショックによる一時的な記憶の混濁。
それと同時に、
「あ――っ――ぁ―――」
激痛が神経を犯し脳髄に存在する判断、理性、ありとあらゆるものを洪水となって押し流していく。全身至る所に傷があるのだろう。
どこがどうなっているのかすらわからない。背中に感じる生ぬるい感覚は血溜まりという奴だろうか。ただただ苦痛だけを感じる機械にでもなってしまったかのようだった。
創傷裂傷死傷殺傷、端的に言って満身創痍。もはや感覚がくるって熱いのか、寒いのか、痛いのか、苦しいのかすらわからない。
足の感覚がないということは、背骨でも折れているのか。喉奥に感じる鉄の味は内臓も無事ではないことを告げている。
その苦痛こそが呼び水となって少女に
「あぁ――負け、たん、だ――」
そう敗北した最強の魔女に。そして、救う対象の
全てを救おうと立ち上がって、そして負けたのだ。
「みん、な――」
だが、そんなことよりもみんなのことが気になった。戦った仲間は、どうなったのか。
自分は敗北した。それは覆ることのない事実であると認識している。つぶれてひしゃげた肉塊となった己。
では他は? 自分よりもはるかに強い仲間たちはどうなったのか。
自分がこのざまだけど、みんななら大丈夫という楽観的な思考に走りそうになる思考は、吹きすさぶ嵐によって運ばれてきたものによって強制的に絶望へと突き落とされる。
「あ――あああああ―――」
それは手だった。誰のものかなんてわかりやすすぎるほどにわかる。だって、その手には剣が握られていた。仲間である美樹さやかの使っていたそれだ。
剣を使う己の仲間はただ一人。ゆえに彼女だとわかる。今にも敵に立ち向かうべく握りしめられた手が、目の前に転がって来た。
べちゃりと血がはねた。それが顔にかかった。生ぬるく、鉄くさい、生臭い、友達の中を流れていた、大切な血がかかった。
ぴしりという音を聞いた。何かにひびが入ったかのような。
もうやめてと暁美ほむらは願う。誰にでもなく神でもなく、ただただ願う。こんな光景見たくない。痛みで気絶すら許されず、まるで暁美ほむらに全てを見届けよとでも言っているかのように感じられる。
その中で、さらに絶望はその深度を、その熱量を増していくのだ。
絶望の中で笑うのはただ一人のみ。その存在が満足するように莫大なエネルギーを伴って絶望はさらなる嚇怒を巻き上げながら全てを飲み込んでいくのだ。
「あ――――」
次に落ちてきたのは、首だった。佐倉杏子のそれ。ばらばらに砕けた手足があとになって落ちてくる。どうせなら、美樹さやかのように手だけならどんなによかった。
手だけであれば生存を信じることができたというのに、神はそんな楽観すら許しはしないのか。
そう許しはしない。誰もかれも絶望から逃れることなど許しはしない。この宇宙を救うべく、絶望しろよ魔法少女。
そんな声が響く。マスコットのような外見をした悪魔が、そこに顕現する。
「まったく理解できないよ」
アクマはそう宣う。こともなさげに感情を感じさせない声色で。
「どうして君たちはそんなにあらがったりしたんだい。君たちはまったくの無関係。どうして僕らの邪魔をするんだい。僕らはただこの宇宙の死を避けようとしている。これも立派な人助けさ。ただ、世界を救うのに犠牲なしなんてうまい話なんてなかっただけのこと。ほら、君たちの歴史だってそれを証明している。フランスのジャンヌ・ダルク。フランスを救った代償として彼女は火刑になった。何事も等価交換。犠牲はつきものさ」
「――――」
ふざけるな、そう言おうとして言葉の代わりに血を吐いた。
犠牲がつきもの。それは確かに歴史が証明している。だが、的外れもいいところだ。何を傍観者を気取っているんだアクマ。
全ての現況にして、この状況をこそ望む者がそんなことを言ったとして白々しさ以外にありはしない。
「それに君たちは願ったじゃないか。その対価を支払うのは当然のことだろう? 君たちの望みを僕はかなえてあげた。
君たちのように過度な取り立てもしていないし君たちが行うに任せてきた。だというのに何が不満なんだい? 魔女になることかい? それとも人間ではなくなったこと? そうだとしたらますます理解できないよ。それもまた結果の一つだ。対価だよ。
君たちが最も望むことを叶えてあげた。だから今度は僕らも願ってもいいじゃないか。君たちは望みを叶えるのに僕らの望みを叶えていけないなんて不公平もいいところだ。君たち日本人は平等を重んじるんだろ?
そんなこと聞いていない? そりゃそうだよ聞かれなかったから答えなかっただけさ。聞かれたら僕は答えたよ。契約内容をきちんと確認しない君たちの怠慢を僕に押し付けられて困ったものだよ」
それは言葉をつづける。やめろ、その口を開くな。反吐が出る。親の仇のように睨み付けてもアクマには馬耳東風だ。
インキュベーターと呼ばれるアクマはほむらの心情など何一つ知らないとばかりに、ただただ言葉をつづけるのだ。己の中の痴れている正論を吐き続けるのだ。
この地獄のような光景の中で、彼がそうする理由など決まっている。古今東西、悪魔というものが行うことは決まっているだろう。
西洋においても、東洋においても、キリスト圏でも、イスラームでも。悪魔というものの存在は何一つ変わることはない。
召喚者に甘言を吐いて、願いを叶えてその代償を取り立てていく。つまりは――。
「さあ、こんな状況だ。君にも願いがあるだろう? 言ってみるといい。どんな願いでも、僕はかなえてあげる。だから、僕と契約して魔法少女になってよ」
――契約だ。
古今東西、アクマとうものが行うことは決まっている契約だ。願いをかなえる代わりにおまえの魂をヨコセ。悪魔メフィストフェレスが行った契約と同じく自らの魂を担保に願いを叶えてもらうのだ。
インキュベーターに不可能はない。どのような願いであろうとも、願い主の持つ因果によって願いを叶える。不可能はない。そう不可能はないのだ。
この絶望的状況ですら好転させられる。そんな甘言をインキュベーターはいうのだ。
この状況、誰もがこの絶望の終わりを願う。当然だ、願うに決まっているだろう。誰もこんな地獄を望むはずがないのだから。
願え、契約しよう。そうすればこの状況を好転できるかもしれない。甘い言葉が、耳から入ってほむらの脳髄を揺らす。
全ての音が消えて、すべての痛みが消えて、すべてのにおいがきえて、あとにはもはやその甘い言葉だけが、脳内で反響するのだ。
か弱い女の子でしかない、何の力もない少女にとって、それは耐えがたい誘惑で、
「悩む必要なんてないだろ暁美ほむら」
「――――」
もはやそのアクマの手をつかむ以外にこの絶望を脱する方法などないのだから。
ぴしりと音が響く。暁美ほむらの中で、覚悟というものが折れた音だった。
もはや暁美ほむらにはその甘言にあらがう覚悟も気力もない絶望の中で、そのアクマの手を取ろうとしたその瞬間、
「駄目よ、暁美さん! まだ終わってないわ!!」
輝く光を身にまとい、理想の中の魔法少女の姿を翻してその手にマスケット銃をもち、大嵐に負けない強い意志を見せつけながら、彼女は立っていた。
ぼろぼろの身体。いつ倒れてもおかしくないほどの傷を負っているというのに、彼女はただ力強く己の得物を構えていた。
ああ、なんと輝かしいことだろう。魔法少女とはそうあるべきだと言わんばかりに全身を希望に輝かせてそこに立っている。
そう彼女こそが希望。まぎれもなく仲間の中で最強の魔法少女だ。
彼女がいればまだ巻き返せる。なぜならば文字通り彼女は最強の魔法少女であるからだ。誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも仲間を大切にしようとしていた年上の女の子。
「マミ、さん――」
まさしく希望。彼女の名を呼んで、彼女は微笑んだ。
その瞬間、木の枝や幹のような無数の腕が生じる。それは彼女を絡めとらんと迫ってくる。
それこそが敵の攻撃。捕まってしまえば最後、そのまま同化されて消えてしまうだろう。そして、相手の糧となるのだ。
この力もまた相手が吸収した能力に他ならない。魔女から吸収した能力だった。
即ち、現実的な能力で防ぐことは不可能。魔女の力に対抗できるのは魔法少女のみ。だが、それがどうした。目の前に立つ少女もまた、魔法少女なのだ。
黄色いリボンによって編み上げられるはマスケット銃。大小さまざまな銃器が戦列を組む。その速度はいままでほむらが見たことないほどに高速で緻密だった。
結果は、相殺。マスケット銃の乱撃を受けて、地面から生じた無数の腕は散り散りに散っていく。
しかし、それは問題だった。相手が使ったのは魔女の力ではあるものの魔法少女の力だ。どちらもそれは変わらず魔力を消費して使う。魔力、つまりはソウルジェムの力。
それは使えば使うほど穢れて黒く染まっていく。そうなれば魔女になってしまう。それが必然だった。
先ほどの攻防、いや、それ以前の攻防で希望の彼女――巴マミは消耗している。これ以上の戦闘継続など自殺行為。穢れを払うグリーフシードは手持ちがもうないのだ。
だが、相手はそうではない。ワルプルギスとの闘いの最中に割って入ってきた彼女らはいまだに濁ることはない。
それだけ見ればこちらが圧倒的に不利。なにせ、相手は万全でこちらは手負いなのだから。また、相手の能力がまったくわからないというのも問題だ。
先ほど使って来た力以外にもいくつかの力を持っていることが確認している。その点、巴マミの手札は先ほどでほとんど切ったと言っていい。あとは応用でいくつかくらいだが、相手の手数が多い以上応用で勝つには札が根本的に足りていない。
その証拠に、先ほどの技を放ってきた魔法少女は痛痒を受けた様子もなく笑顔を浮かべているからだ。この絶望的な空間の中でただ笑顔を浮かべている。
黒髪ロングで右目に眼帯をつけた明るい黄色がアクセントになっているステレオタイプな魔女っ子という魔法少女の衣装を身にまとった少女。
彼女はこの絶望の中でも笑っていた。
この状況ですらそれが正しいのだと言わんばかりに。まるで笑顔は全てを救うとでも言わんばかりに。そういってただ笑っているのだ。
それは芯の強さだった。自らの骨子に微塵も疑問を抱いていないという証拠。彼女にとって笑うという行為こそが至上なのだ。ゆえに、笑っている。
この絶望的な状況の中ですら笑えるほどの意志はつまるところ、己という存在に微塵も疑問もなくただあるということ。
そういう相手は強い。すべてを決めているのだから、強いのはあたり前だった。そうでなければこんなことにはなっていないだろう。
目の前に立つこともなく、隣に立っているはずなのだ。
「私はね、世界中の人が笑えるような世界が見たいんだ。……その為なら手段を選ばないよ」
その言葉はまさに善性そのもの。だが、決定的に何かがズレているのだ。そのズレすらも彼女は呑み込んでいる。
ゆえに、彼女は屈することはなく、共闘という道はなく。ただ、己の目的のために彼女は魔女を狩り続ける。
その先にある笑顔を求めて。そして、己が幸福というものを知るために。
「教えてよ、あなたを同化すればきっと、私は幸福がわかるはずだから」
「いいえ、それじゃあなたは一生わからないわ」
誰かと一緒にいたいその願いと彼女の願いは相いれない。方法論が違えばまた違うが、今回は絶対に相いれることはない。
ゆえに――。
黄錦龍への愛が流出した。
ぼちぼちゆっくりやっていこうと思います。
今はとにかくいろいろやっておこうかと。
死にそうなのですが、とりあえずゆったりゆっくりやらせていただきます。
ではでは。
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プロローグ2
爆音と豪熱が爆ぜた。
「死ね、邪魔するならおまえから殺す!!!」
それがただ一人の少女の拳によって引き起こされたと誰が信じられようか。少なくともその暴威を間近で感じたほむらですら信じられないほどだ。
巴マミと一人の魔法少女の戦いが始まったのと同時刻、こちらでもまた同じく戦いが繰り広げられていた。
綺羅綺羅とした魔法少女の衣装を身にまとう少女と、さながらダークヒーローのような衣装の魔法少女が戦いを繰り広げている。
それはあまりにも一方的に見えた。
「ま、どか」
「大丈夫だよ」
心配した声は、なんとか出てくれた。そんな声を掛けられた少女、鹿目まどかは大丈夫だと笑って見せる。
「よそ見してんじゃねえぞ!!!」
そんな隙を相手は見逃さない。緑を基調とした魔法少女の衣装を身にまとった少女はその両の手にあるガントレットを振るう。
生じる業炎とともに振るわれる拳。真に恐ろしいのは炎ではない。彼女が炎を出しているというのは副次的な効果でしかないということだ。
彼女が使っている魔法は一種類。単純な強化魔法でしかないという事実に鹿目まどかは戦慄する。
ただの強化魔法は普通、拳を振るって炎を出すなんて芸当はできない。炎が出るということは熱が発生しているということ。
原理は簡単だ。摩擦熱。大気との間にある摩擦熱によって熱が生じ、それが焔にまで昇華しているだけなのだ。
なんのことはない。彼女の拳が炎が出るほどに速く力強いということなのだ。
その速度、音速を優に超えている。人間が出せる限界を超えさせるのが曰く強化魔法ではある。しかし、これほどまでに常識を振り切った強化魔法など見たことがなかった。
この降り注ぐ大嵐による大雨が吹き飛び、空に青空が浮かんでいるのがその証拠だ。その光景を作り出したのが彼女の拳一つというのだから戦慄はさらに深まっていく。
きれいだとか思う暇などありはしない。彼女の拳はもはや大砲、いや、ここは最上級で示そう。核兵器と言っても何ら変わりがない。
彼女が拳を振るえばそこが爆心地となる。衝撃波とともに生じた莫大な熱量が全てを焼き尽くして消し飛ばしてしまう。
その光景は、まさにこの日本に落とされた二発の原子爆弾が引き起こした光景と類似している。逃げ遅れた人間が炭化したままそこに立っている光景など、現代で見ることなどないだろう。
そんなものが目の前で彼女が拳を振るえば、地面をければ視界いっぱいに広がるのだ。
まどかはそんな拳の連撃から逃げ回っていた。逃げるといっても簡単ではないが、巴マミと積み上げてきた戦歴が与えた心眼がまどかに相手の動きを先読みさせる。
それだけではない。鹿目まどかは迫る彼女と相対するために技術の全てを用いている。まずは全身の身体機能の強化。
相手と同じ土俵に上がらずとも、少しでも近づくためにこちらも身体強化は必須だ。音速を超えなくとも重力を振り切るために身体強化魔法を行使する。
それだけでなく重力を完全に振り切る飛翔魔法。継続的に使用する為に魔力の消費が多きものの、出し惜しみなどできるはずがない。それで機動力を確保する。
相手の妨害も忘れない。各地に罠を設置する。それは拘束魔法。踏めば相手を拘束する魔法だ。それで時間を稼ぐ。
むろん逃げ回るだけではない。攻撃は弓。魔力で編み上げた矢を引き絞り放つ。それは上空で分裂し雨のように相対する魔法少女へと降り注ぐ。
それは相手に対する妨害だ。そうして常に距離を取りながら鹿目まどかは戦っている。それでかろうじて戦況を互角へと持って行っていた。
だが、相手はそんなもの歯牙にもかけない。そんな小細工が通用するかとでも言わんばかりに、全てを力づくで真正面から打ち破っていく。
技術や小細工といったものは敵と戦う際に重要ではあるが、忘れてはならないことがある。それが通用するのは実力が拮抗しているか、少しだけ上か劣る相手のみだということだ。
どんなに技術を用いて差を埋めようと地上を這う人間が天をつかめないのと同じように、隔絶した差を覆すことは不可能。
曰く、技術? 気合いや根性? そんなもの圧倒的な力の前には無意味だということだ。
「――――」
だからこそ、鹿目まどかの目の前に少女はいた。相手がただ歩いただけで、鹿目まどかは致命傷を負う。超常の身体強化によって相手の力はどこまでも高められている。
現在進行形で身体強化の深度が上がっているというのが信じられないほどだった。
そんな相手が目の前で拳を振り上げていた。そんな動作で大気が動き、まどかの体を引き裂いていく。
「ぶっつぶれろよ。私は魔女を殺すためだけに魔法少女になったんだ――」
――それは荒々しい暴風。
では、こちらはなんというべきか。そうパズルだ。荒々しい他方の戦いと違って、巴マミと相対する少女の戦いは綺羅綺羅しさなどない。
そこにあるのは冷徹なまでに自らの能力を計算に入れて、演算を繰り返す女二人だった。己にできることを正確に把握し、相手の手札すらも把握しようと互いに駆け引きを切り返している。
鹿目まどかの戦場と比べてもそん色ないほど激しい戦闘ではあるが、その激しさの中には冷徹なまでの寒々しさが同居していた。
全てが壮絶、全てが隔絶した技量と能力のぶつかり合いであり、そこには確かに超常をそのまま体現したような熱量が存在している。
だが、言った通り芯にあるのは氷だ。冷たく冷徹に、激しい熱量の中で自らを俯瞰し、相手を捉えて勝利への道筋を組み立てていく。
これはなんといったか。糜爛した熱量の中粛々と進んでいく歯車の名前はいったいなんだったか。
「ああ――」
暁美ほむらは気が付いた。そう地獄の歯車だ。
絶望をくべれば加速度的に速度を増す蒸気機関の歯車。ほかのありとあらゆる可能性をすりつぶし、ただ一つアクマが得するという結果にだけ持っていく脚本。
「だ、め」
魔法少女は戦えば戦うほどにソウルジェムは濁っていく。このままではすべてが終わってしまう。アクマが描いた筋書き通りに。
魔法少女大戦などというバカげた筋道による特大の絶望を与え、魔法少女を魔女として莫大なエネルギーを得る。
そんなこと認められるはずがないだろう。
だが、どうしろというのか。
「――――」
爆音が爆ぜる。銀の二輪車が空中を駆けていく。それを巴マミがうち落とせば、そこから現れるのはお菓子の兵隊。
チーズを運ぶだけの役割のそれは爆弾を運んでいる。巴マミはそれを最小の動作で躱していく。
マスケットで殴りつけ、蹴り飛ばし誘爆させてみずからへのダメージを最小限にして戦場に自らの手足であるリボンを張り巡らせていく。
戦場を支配すれば相手の動きを止められる。魔法を同化することはできないのは確認できている。また、リボンを足場に縦横無尽に動き回ることで、相手に狙いをつけさせないようにするのだ。
「ねえ、笑ってよ」
笑えないなら笑えるようにしてあげるとでも言わんばかりに少女が次なる能力を行使する。
死の曲を演奏する。流れる戦慄は優麗であるように思えて、何よりも空々しく寒々しい。それは死の舞踏。死の演奏。死、死、死。
ただ聞くだけで首をかきむしりそうになる。そういう魔女の能力。
「ふざ、け、ないで!!」
マミはそれを一蹴する。
巨大マスケットの轟音にて演奏をかき消すと同時に本体を狙う。
しかし、その一撃が届くことはない。
創形された蒸気機関。巨大な機関は、誰かの夢の残骸だった。轟音を立てて駆動する蒸気機関の刃がマミへと殺到する。
「そう、そっちがその気なら」
受けて立とう。
顕現するマスケットの軍勢。
主の指示とともに勝利をもたらさんと弾丸が放たれた――。
着弾した剛腕が鹿目まどかの腹を突き破る。
「――――」
「まどか――!」
ほむらの悲痛な叫びで腹から骨が飛び出したが、そんなの知ったことかとまどかの名を叫ぶ。
「だい、じょうぶだ、よ、ほむら、ちゃん――」
だって、自分は魔法少女だから。
魔法少女の魂はソウルジェム。これが壊されない限り、魔法少女は永劫死ぬことはない。祝福であり呪い。人間の身で魔女を倒せぬからとインキュベーターが施した呪縛。
「つか、まえたよ」
そして、ついに捕まえた。右腕を深くまで突っ込まれたその腕をつかみ取る。痛覚はすべてカットしている。痛みはない。
あるのはただ不快感だけだ。
中空に浮かべる弓と矢。創形した己の得物で相手を狙う。
「この、はな、せ!!」
剛腕が振るわれる。ただそれだけで、まどかの首から上が消し飛ぶ。だが、死なない。ソウルジェムが砕かれない限り魔法少女はしなない。
だが、忘れてはいけない。それは相手も同じなのだ。
放たれる矢。突き刺さっても相手は行動不能にはならない。なおも激しく連打をまどかに叩き込む。
砕ける肉体と、元に戻る肉体。
互いに魔力の全てを使ってでも相手を倒そうという強い意志があった。
全身が砕かれようともまだだ。あきらめない。みんなを助けるために魔法少女になった。その祈りは誰よりも強く。誰よりも優しく。何よりも尊いものだと信じている。
たとえ化け物になるのだとしても、こんな結末は認めない。だからこそ、鹿目まどかは戦うのだ。
突き刺さった矢が、爆ぜる。植物の種が成長するかのように相手の体内で爆発的に成長し、体内を破壊してそのまま地面へと深く深く根を伸ばす。
「が――」
その間に治癒魔法で再生を終えたまどかは、矢をつがえる。
「少しだけ、眠ってて」
「ふざ、けるなあああああ!!」
力任せに体内にある魔力の根事全てを引きちぎり、拳を握る。あきらめるかよ、諦めるものか。魔女を殺す。そのために邪魔をするならそれも殺す。
暴虐のままに力を振るう。
それに向かって矢を放った――。
――放たれたマスケットによる整列射撃。
精密な統制射撃が捉えないものなどない。相手の手を全て叩き落す。
「――――」
その間隙に、滑り込むように砂煙を突き破って現れる少女。その右腕にいやな光がともっていた。
「――――」
マミは下がる。
追従する少女。その右腕は触れるもの全てを消滅させている。
マスケットの弾丸も全てだ。
「――――」
空間すら削りとる。振るえば、巴マミは彼女の前に引きずりだされてしまう。
幸運なのは連続使用ができないことだ。何とか相手の攻撃をいなして距離をとることに成功してるが、すぐに引き寄せられる。
そこに新たな能力でも重ねられたら厄介だ。
「まずいわね」
そろそろ限界だった。
体は動く、頭は冴えている。過去最高、相手の手を読み切って善戦しているが、それでも届かないのはソウルジェムに溜まった穢れの差。
相手が無理がきくというのに、こちらはきかないというのは大きな差だ。
「けどね――」
最強の名を背負う以上、負けるわけにはいかない。巴マミは少なくともそう期待されている。
「なら、応えてあげないとね」
強がりかもしれないが、少なくともここが頑張りどころだった。
「――――」
そんな巴マミの前に広がったのは自らの過去だった。地獄のような事故の記憶。その頭上には燦々と輝く太陽があった。
灼熱だ。
この太陽はすべてを焼く。影が深ければ深いほど、強く強く焼くのだ。
その中心に少女はいた。
「そっちが、それなら」
そういかに地獄を見せられようとも。自分の背には、彼女がいるのだと言い聞かせて、大砲を創形する。
「ティロ・フィナーレ!!」
自らにできる最高の砲撃を放つ。これで終わらせるのだと信じて――。
暁美ほむらは二つの戦いの結末を見届けることになった。
それがまるで彼女の使命だとでも言わんばかりに。
「あーあー、君が何もしなかったから相打ちだよ。まったく、理解できないな。友達だったんじゃないのかい?」
「――――」
鹿目まどかが、巴マミが、戦った結果は互いに互いの敵を撃った。鹿目まどかが背後からマミが戦っていた相手を、マミはその逆を。
最後の一撃が、貫いたのは自分が戦っていた相手ではなく仲間が戦っていた相手。
その結果、二人の魔法少女の運命もここに決した。
全ての力を使いつくした魔法少女の運命は決まっている。魔女化。二体の強大な魔女が、数日のうちに世界を滅ぼすという結末を迎えたのだ。
「――――」
暁美ほむらは、全てが終わったのだと悟った。諦観する。もはやどうにもならない。どうしようもない。じゃあ、どうればいいんだ。
魔法少女は死に絶え、特大の魔女が二体も残った。もう終わりだ。至極自然な道理としてここで死ぬし人類は滅ぶのだと理解する。いや、そもそもこんなものからどうして守り切れると思っていたのかとすら思う。
あがく気力はもとよりない。訪れる死をただひたすらに待つ。もはやそれだけしか彼女に残されたものはない。
「何を諦めているんだい暁美ほむら。君がいるじゃないか。さあ、願いを言うんだ。僕がその願いを叶えてあげる。もしかしたら、君なら世界を救えるかもしれないよ?」
甘言を吐くアクマ。
もはやそれしか手はないのか。友が魔女となった。滅びの運命からは逃れられない。
願うは救済。恥も外聞もなく懇願する。心臓を抉り出しても構わない。この状況が好転するのであれば神でも悪魔でもいい。ただ一心不乱に奇跡を乞う。
だってこのままだともう終わりだ。すべてが滅ぶ。
根性や勇気でどうこうできる領域など、とうの昔に超えている。
悲劇の幕は上がったままだ。
出てしまった結果を覆したいというのなら、あとはもう奇跡に縋るしかない。
「キュゥ、べぇ――」
声が震えた。その先が出てこない。身体が冷えている。もうすぐ死ぬ。その前に願いを言わなくちゃと思っているのに、言葉が、どうしても出てこない。
友達の言葉は確かに残っているから。そうすれば最後、生き地獄。人間ではなくなる。魔法少女としてインキュベーターのいいようになる。
それは駄目だと親友は言った。それはだめだと先輩は言った。それは駄目だと友達がいった。
なら、どうすれば良いんだ。どうすればいい。
自らの身体を抱きかかえて彼女は震えながら天を仰いだ。
ただ一心に、哀切を込めて慈悲を乞う。
もはや正気を失っている。一心不乱に祈る。
光よ降り注げ。
よってそれは、純粋であるがゆえに呼び寄せた。
「――夢を描け」
「――――」
声が響いた。インキュベーターの声ではない。それは知らない男の声だった。
「どうしたんだい? さあ、早くしないよ」
「夢を描け」
「声――」
「声? なんのことだい?」
インキュベーターには聞こえていない。自分にだけ聞こえる声。自分は狂ったのか。狂ったのかもしれない。
でも、もしこの声が救いなのであれば、
――お願い、みんなを助けて、こんな現実は、いやだ。
理想を願う。理想を願う。理想を願う。
やり直しを願う。こんな現実を覆してみんなで笑える世界を、願う――。
「愛いな、愛い愛い。好きに夢を描けばいい」
その変化は如実だった。傷が消えた、痛みが消えた。目の前にいたはずのインキュベーターも消えて、がれきの山も何もかもがなくなっていた。
「な、に、これ」
何が起きているのかわからない。魔女の結界? 魔法少女の力? いいや、違う。魔女を、魔法少女を間近で見てきたほむらにはわかる。これはそういう力ではない。
「笑ってくれよ。我が父のように、母のように――おまえたちは幸せになるべきだ」
そこにいたのは男だった。白髪の男。中国の仙人のような恰好をした男がいた。
「だれ……」
「救ってやろう。おまえたちすべて。俺はそのためにここに来たのだから」
「すく、う」
つまり彼は救いの手と考えていいのか。
幻想ではなく、幻覚ではなく。
「黄錦龍という阿頼耶である。願う通りに、思う通りに夢を描け。眷属の許可を与える。おまえの夢を描けばいい。そして、笑ってくれ。おまえたちみな笑ってくれ。幸せになってくれ」
感じるのは誰よりも強い慈悲の心だった。誰よりも深く、誰よりも強く他者の救済を男は願っていた。
「やり、直したい。今度は、私も、みんなと一緒に。違う、インキュベーターなんかに頼らなくてみんなも、みんなで」
その理想に黄錦龍と名乗った男は笑った。
「
紡がれるは己を示す号。
かつて冠された名を再び顕象させるべく解き放っていく。
かつてはそのやり方が間違っていた。阿片で酔わせて夢を見せる。だが、それではだめだと教えられた。
だがそれでも黄錦龍という男はこれ以外にやり方をしらないのだ。
――好きに夢を思い描け。そのときおまえは、おまえの中で世界の勝者だ。
――俺はおまえの幸せを、いつ如何なるときも祈っている。
変わったのは、その内容だ。
「太極より両儀に別れ、四象に広がれ万仙の陣――」
広がる黄錦龍に冠された号、截教の仙人たちが闡教を倒すため布いた最強の陣にして最優の盧生が紡ぐ夢の陣――万仙陣。
夢に落とし、視たいものを見せて異形へと変える。それはまるでインキュベーターのやり方に似ている。
だが、それでは人類は滅ぶ。幸せのうちに滅ぶ。
それでは駄目だと殴りつけられた。娘にも封神台で叱られた。
仙人が出した答えは、方向の転換と言えた。
可能な範囲で現実を変容させる。夢に落として完全に叶えるのではなく、不完全でもよい方向に行くように現実を変える。
協力強制で相手の力を使うからこそ、最優の盧生である黄錦龍だからこそ可能となる技だった。
誰もが嵌るが、願いの深度によって効能はまちまちだ。多く変わることもあればまったく変わらないこともある。
それでも、少しでも良い方向に行くように変えてやるのだ。人は苦界で生きる。それでも夢があるからこそ、この苦界で少しでも頑張れるのだ。
だから、その夢を少しでもいいから叶える。それが黄錦龍の夢となった。
絶望の中で泣き顔で願われた彼女の願いの深度は深い。超深度で願われるやり直し。
良いだろう。好きに夢を描くといい。
黄錦龍はそれを肯定する。
もとより人の夢を彼は否定しない。
協力強制は常に成立している。夢を見て、現実を変えたいと願えば、誰にでも黄錦龍は手を差し伸べるのだ。
よって巻き起こる時空間の反転。時は後ろ向きに刻み、始まりの時へと回帰する。
「――――」
「俺が救ってやろうおまえたちすべて――」
眷属の許可を与える。
おまえたち五人の願いを聞き届けて、理想を叶えるために、今再び万仙陣は回るのだ。
この構成はわざとです。
さて、次回から本番。万仙陣よ回れ回れ。
キュウべぇ率いる魔法少女集団と黄錦龍の眷属五人による魔法少女大戦の開始です。
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第1話 ハジマリ
「――――っ!!」
瞼の裏に焼き付いた光景。自分が眠っていると夢の中で感じ、それと同時に何が起きたのかを悟った瞬間、私は飛び起きた。
「なに、――え」
眼鏡をかけて自分のいる場所を認識して茫然とする。
「病、室……?」
まさか、あの後誰かに助けられて病院に運ばれたのだろうか。確かに、あの仙人のような男の人が言うように元通りになったとかいうよりははるかに現実的かもしれない。
ただ、時計の日付が私の退院の日のもので、テレビ番組も全部あの日と同じということを無視すれば。
「私、まだ、退院してない――」
幸いなことに取り乱すことはなかった。なにせもう魔法少女という超常の存在を知っているのだ。今更取り乱す方がどうかしているとすら思っていた。
ならば、何が起きたのか。自分の近くにソウルジェムはない。つまり魔法少女になったわけではないということ。
「夢、なの。それとも、あの男の人が? ――ぐっ」
その存在を認識した瞬間、頭痛がした。そして――病室の中を甘い匂いが包み込む。
いつからそこにいたのか。目の前に仙人の恰好をした男の人がいた。
「だ、誰――」
その男の人は笑みを浮かべて私を見ている。不思議と怖さは感じない。この甘い匂いもただ甘いだけ。ただ嗅いでいるとどこか眠たくなるようなそんな桃色の香り。
「黄錦龍」
男の人は、笑顔を浮かべて名乗った。
「ふぁん、じんろん?」
「そうだ、少女よ。黄錦龍という阿頼耶であり盧生だ」
「ろせい?」
何を言っているのだろうか、この人は。
「あ、あなた、なにもの、なの。キュウべぇの、仲間、なの」
明らかにただの人間ではない。もしかしたらインキュベーターの仲間なのかもしれない。そう警戒する。もしそうなら――。
そう思ったけれど。
「そう怒るなよ。夢は叶ったのだろう。なら、笑ってくれよ」
彼のことばに、唖然とする。笑ってくれ? まるで、それだけが目的であるかのように彼はそういう。
夢がかなったのなら笑ってくれ。少しでも幸せになったのであればその証拠を見せてくれ。
さながら無償の施しを与えて、その笑顔を楽しみにしている聖人のように彼はそういったのだ。
「夢、叶う? わからない、よ。せ、説明して」
「それがおまえの望みか。愛い愛い、ならば答えよう――」
――万仙陣。
彼はそういった。すべての夢を叶える理想郷の入り口。桃源郷の道しるべ。
この現実は辛い。誰もが幸せそうではない。ゆえにだれもが叶えてほしい夢を持つ。その夢を叶えるための夢だと彼は言う。
普通であれば不可能だ。そのような所業は、いかに天稟を与えられた存在であろうとも不可能。しかし、盧生と呼ばれる存在であれば可能。
なぜならば、盧生とは阿頼耶に触れた者である。阿頼耶とは人の普遍無意識だ。それに触れて悟りを開いた人間のことを盧生と呼ぶ。
盧生ができることは多い。その中に夢を現実に持ち出せるというものがある。その権能を用いて黄錦龍という男の人は相手の夢を叶えるのだという。
相手に叶えたい夢を描き、それを黄錦龍が肯定することによってその願いの深度によって多少なりに現実を改変する。
それが万仙陣というものであるらしい。
規模が小さくはなりはしたが効果の及ぶ範囲もその深度も変わらない。求める者すべてに幸せな夢を見せる。そうすることで、辛い現実でも夢がかなうことを教え、現実を生きる力とする。
それが彼の描いた夢だという。
はっきり言って意味不明だった。
けれど、私は知っている。そんな荒唐無稽な話も事実である可能性はあるということを。
魔法少女なんていうものがある世界。もしかしたら、そういうこともあるのかもしれない。私はそう思い始めていた。
なぜなら、私は彼に願った。やり直したいと。だからこの時に戻った。
「そう、なの?」
「そうだ。おまえの夢は叶っている。それとも、足りないか。愛い愛いおまえのためなら幾らでも用立ててやろう」
そういって彼が差し出すものは、飴玉だった。
「へ?」
「阿片はだめと娘に叱られた。怒るな、笑っていれば良いといったのに。だから、代わり。誰もが食せば幸せになれると柊四四八が言っていた。
さあ、幾らでも食べると良い」
「あ、ありがと、う?」
思わず受け取ってしまった。大丈夫なのかとも思ったけれど、その甘い匂いと彼の視線に思わず食べてしまう。
「あまい」
ふと笑ってしまうほどの味。端的に言ってまずい。甘すぎるようにも感じるし、なめる場所でひどくむらのある味だった。
ただそのあんまりな味に笑った。すっと笑えた。
「――――」
そして、涙が溢れてきた。
「なぜ泣く。これでは足りないか」
彼はどうしてないているのかわからないらしくて首をかしげて飴玉を差し出してくる。
その様子が、なんだかおかしくて、笑ってしまう。けれど、やっぱり涙はとまらない。
「ち、ちが、う。ひぐ」
何とか泣き止もうと思うけれど、涙は止まってはくれない。ずっと流れる。飴玉のように絶望にすぅと入り込んで来て溶けて、それがまるで流れ出しているかのように。
涙はずっと流れ続ける。
「ならば笑ってくれよ。我が母のように、父のように。笑ってくれ」
彼はずっとそう言い続けた。笑ってくれと。
「――あの、ごめんなさい」
退院の日に大泣きしてるといろいろと問題になるので、何とか泣き止んで退院して彼に謝った。いきなり泣き出されてさぞ困ったことだろう。
「良い良い。好きにしていれば良い。俺はそれを見守っている。そして、笑ってくれ。おまえたちの幸せを俺は何よりも願っている」
とりあえず彼についてわかったことは、底抜けに善人だということ。一言目には笑ってくれ。二言目には幸せを願っている。
ここまで他人について本気で思えるのであれば、あのキュウべぇの手先じゃないと思う。あのキュウべぇにそんな器用なことができるとは思えないから。
「――そうだ、キュウべぇ!」
魔法少女の秘密。魔法少女はソウルジェムが濁り切ると魔女になる。キュウべぇはいい奴なんかじゃなくて私たちを騙している。
それを伝えないといけない。でも、どうやって伝えればいいのだろう。
まどかや巴さん、美樹さんに佐倉さん以外の魔法少女に伝えてもまったく信じてもらえなかった。わかったのは、ワルプルギスとの闘いの時に、魔女化を見たからだった。
知らない魔法少女が挑んで、夢に消えた。だから、私たちは信じられた。信じるしかなくて、それでもワルプルギスを何とかするしかなかったから。
そして、結果は覚えている通りだった。
「どう、しよう」
このままじゃまた同じ結果になってしまうかもしれない。
「なんとかしないきゃ」
でも、どうやって。魔法少女でもない私に。
「眷属の許可を与えよう」
「え――」
「おまえが望むのなら眷属として夢を描くが良い。それでおまえが幸せになれるのであれば、俺はいくらでもおまえに力を貸そう。そして、笑ってくれ。おまえたちは笑っているのが良い。幸せになってくれよ」
「――――」
眷属の許可。
それは彼の夢の力を与えてくれるということであるらしい。
副作用はない。できることは五系統十種類。
それがどんな風になるかは私しだいだと彼はいった。すべてはおまえしだいであると。
「あ、あの、お願いします」
なら、私はその手を取ろうと思う。魔法少女にはなれない。だから、この人の手を取る。力を貸してくれるといった彼のことばを信じて。
彼はただ笑ってその判断を肯定してくれた。
「あ、そうだ。あ、あの、私、暁美ほむらです」
まだ名乗っていなかったから、今更だけれど名乗る。
「黄錦龍という」
「知ってます」
おかしな人だと思う。けれど、たぶんみんなを幸せにしたいという言葉に嘘はないと思う。まどかと同じで誰かの為を思うその言葉に嘘は感じられないから。
「そうだ。あの、これからどうするんですか? 家とか、あるんですか?」
この人はどこに住んでいる人なのだろう。時を戻す前もいきなり現れた。住む場所とかあるのだろうか。
「家か、家は、必要か?」
「必要ですよ。住むところがないと大変だと思います」
「作ることができるが、それはするなと阿頼耶を通じて柊四四八が言っている。まあ、いいだろう。どこでも、我が桃源郷はあるのだから」
「…………」
とりあえず、駄目な人だということが分かったかもしれない。
「あ、あの、よければ家に、き、来ませんか――?」
家には誰もいない。男の人だけれど、たぶん大丈夫だと思う。助けてくれたし、それに一人よりもいいと思うから。
「そうだな、おまえが良いのならそうしよう」
彼を伴って家に行く。誰もいない家。彼は居間に座って笑っている。どこを見ているのかわからないけれど、ただ笑っていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はぁ、かっ、は――」
息が切れる。
超常の存在のはずの魔法少女なのに息が切れる。沈む思考は、苦しさにかき乱されて、それでも意識ははっきりとしていて。混濁する意識と、歪み視界がありとあらゆる全てを呑み込んで。
どうして、なんで。そんな疑問ばかりを噴出させる。
わかっている。そんなことわかっている。
魔法少女は希望じゃなかったから。この暗く、怖い世界を照らし、みんなを助けたい。
そう願って希望になろうとした。
ただ友達を助けたかっただけなのに、それすらも許されない。
「キュウべぇ。キュウべぇ、キュウべぇ。ねえ、出てきて、お願い。だって、そんなはず、ないよね。ねえ、あなたがそんなことするはずない。だって、神様だもん。私のお願いを叶えてくれた。神様のはず、だよね」
私にとってキュウべぇは神様だった。
希望を与えてくれる神様。
「キュウべぇ! なんで、なんで出てきてくれないの。出てきてよ、じゃないと私――」
黒く、黒く染まって行く。
きれいだったはずのソウルジェムがみるみるうちに。それに私は気が付かない。
気が付けない。
そんなはずない。だって、魔法少女だから。そんなはずないと必死に、必死に思っているから。
だから気が付けない。もう限界だということにも。
もう何もできないということにも。
「キュウべぇ――!!」
「なんだい、
「キュゥべぇ! よかった、ずっと来てくれないだもん。ねえ、聞いてくれる。魔女の中からさ、これが出てきたんだ。あなたも知ってる彼女のだよ。どうして魔女の中から魔法少女の持ち物が出てきたの?」
そう私は何もしらないようにキュウべぇに問いかける。
それは本質じゃない。本当は、その持ち物は初めから私の手の中にあった。だって、彼女が渡してきたものだから。
彼女からとったものだから。
だというのに、私はまるで何も知らない子供のように問いかける。問いかける。問いかける。
「魔女は魔法少女の成れの果てだからだよ」
彼の問いは、聞きたくない予想通りのもので。
「魔女は魔法少女のなれの果てさ。君だってみたんじゃないかい? 君の目の前で彼女が魔女になるのを。だから無理をするなっていったのに。忠告を聞かないからだよ」
「だって、人助け、だから――」
「うん、人助けだよ。君のおかげでまた少し宇宙の熱的死から遠ざかることができた。感謝するよ火野鏡。君は実に優秀な魔法少女だったよ。君のように優秀な子が出てきてくれるのを待たないといけないのが大変なくらいさ」
「――――」
彼はそういった。まるで当然のように。
「どうしたんだい? 固まって」
「どうして」
「?」
「どうして、教えてくれなかったの?」
魔法少女は魔女になる。
救う存在から、奪う存在になる。
どうしてそんなことを黙っていたの。
初めから言われていれば、魔法少女なんかにはならなかったのに。
「聞かれなかったからね」
彼はそういった。聞かれなかったから教えなかった。
そう彼はそういうものだ。
聞かなかった私が悪い。そう悪いのは私。これから、悪くなるのも、全部、全部、全部。私が悪い。
「僕らはただこの宇宙の死を避けようとしている。これも立派な人助けさ」
「あはは、そっかぁ――」
その瞬間、何かが孵化した。
太陽が燦々と輝く明るい世界が広がりを見せる。
新たな魔女が、この街に誕生した瞬間だった。
死ぬ。人が死ぬ。もっと死ぬ。
そこに広がっていたのは、絶望の姿であった。
糜爛した絶望が広がっていく。
悪性腫瘍の如く、自殺へと追い込んでいく。
何もかもを救うはずだった善性は反転し、全ての悪性を暴きだす悪性の魔女。
そんな魔女の誕生を目の前にして、キュウべぇの表情は一切変わらない。旧知の間柄であろうとも、キュウべぇには何ら関係ない。
彼の興味はいかにエネルギーを集めるかであるからだ。
だから、この惨劇もまた何一つ関係などなく。
ただ次の魔法少女を探すべく少女を探すのだ――。
阿片はまずいので飴玉になったもよう。だたのいい人じゃね、これ。
次回暁美ほむら、夢の使い方を学ぶようです。
ほむほむの資質はこんな感じ。
暁美ほむら
戟法 剛 1
迅 3
楯法 堅 1
活 1
咒法 射 7
散 5
解法 崩 6
透 7
創法 形 7
界 10
うん、なんというか、このね……。
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第2話
「眷属」
私は、黄錦龍さんの眷属になった。そうして夢が使えるようになったらしい。
夢。それは現実では有り得ない超常能力。イメージの力で引き起こせる魔法のようなもので、キュウべぇの契約のような副作用は一切ない。
それを操る技術を邯鄲と呼び、大別すると五種、細分化して十種の夢に分類されているらしい。
その得手不得手によって人物ごとの個性が出るらしいけど、これらはあくまで基礎技能で誰でも十種の夢を使えるらしい。
そのその大別した五種類が身体強化の戟法、回復と防御の楯法、魔法のようにエネルギーを放つ咒法、いろんなものを作る出せる創法、夢を破壊する解法。
さらにそこから細分化して戟法が力を強化する剛、速度を強化する迅。
防御力を上げる堅、回復の活。
点で飛ばす射に爆発のように広げる散。
物を作り出す形、世界に影響を及ぼす界。
物体を破壊する崩、透過する透。
そういう風に分けられる。それで黄さんに見てもらった私の資質なんだけれど……。
暁美ほむら
戟法 剛 1
迅 3
楯法 堅 1
活 1
咒法 射 7
散 5
解法 崩 6
透 7
創法 形 7
界 10
「どうしよう」
身体強化の戟法はどちらも並み以下。楯法なんてお話にならない。使えそうなのは、咒法、解法、創法。
ほとんど戦い方は決まっているようなものだった。
「飛び道具を作って、咒法で飛ばすのが、いいのかな」
「愛い愛い、好きにすると良い」
それを黄さんに聞いても、彼はそういうばかり。好きにすればいいという。
「少しはまじめに答えてくれても」
「俺はまじめだ。おまえの好きにすると良い。それがおまえを勝者たらしめる」
嫌ならやらなくても良い。おまえの好きにすると良い。それをいつまでも見守っている。夢が見たいのなら言うと良いとも。
彼はいつもそういう。
「ふぅ」
つまり自分でやれということ。
ただその前に、朝食を作る。
黄さんの分もきっちりと作る。この人は放っておくと一日何もせずに座っているか、近所に飴玉配りに言って警察のお世話になるかくらいのことしかしない。
それでいて人の話を聞かないのだ。愛い愛いと言って好きに解釈する。こちらの話は理解しているのか、それとも理解していないのかすらわからない。
「えと、できました。あのどうぞ」
「ああ、そうだな。食わねば死ぬ。不便な世界だ」
そう言いながら彼は朝食を食べる。なんかもうやたらめったらこぼしながらで見ていられないがこれでもマシになったほうだと言ったらどうだろうか。
本当ダメ人間である。この人のおかげで助かったのが信じられないくらいに何もできない。だからこうして世話をしているわけなのだけれど。
「あの、もうすこしきちんと……」
「愛いなぁ。愛い……おまえが望むのならそうしよう。愛い愛い。好きにすると良い」
そう言って有言実行したことはない。いや、本人からしたらしているつもりなのかもしれない。多少は改善するのだ。本当に多少だが……。
「はぁ、それじゃあ、わたしは、行くけど。ちゃんとお昼ごはんも食べてね」
「わかっているとも暁美ほむら」
返事だけはきちんとするがどうにも酔っ払いと話している感覚が強い。
「よし」
学校は明日から。今日やることは能力の使い方の把握。つまりは訓練。高架下の空き地で能力の練習をする。
「えっと、イメージ、イメージ……」
イメージする。
その手に生じるのは拳銃だった。ずしりと思い人を殺す形。でもこれは人を殺すものじゃない。魔女を殺すもの。
イメージは詳細にし過ぎないこと。夢の力であるが、リアルに迫れば迫るほど夢がなくなる。つまるところ超常性がなくなるのだ。
コツは言った通り遊びを持たせること。つまるところ必要なのはガワと機能。それ以外は夢で補強するのだ。そうして出来上がった拳銃の弾丸はわたしの好きに飛ばせる。
これも射がそれなりに高いおかげだ。撃った弾丸は直線ではなくわたしの好きに飛ばせるのだ。相手を追尾することも可能。空中に留まらせて一斉射撃をすることも可能。同じ場所にぶつけて貫通させることだってできる。
威力を上げるのなら解法を弾丸に乗せる。崩を乗せればそのまま物質を解き解すことができるのだ。夢を解く夢ではあるのだが、現実で使えば現実を解く夢になる。跳ぶこともできるのだからこの夢は意外に気に入っている。
透を遣えば壁をすり抜けたりすることもできる。壁をすり抜けさせて弾丸を当てることや敵の解析だってやろうと思えばできる。解析は、難しいけれど。
「よし」
わたしは作り出した拳銃をドラム缶に向けて撃つ。走りながら撃って、撃って、撃って。さらにはバズーカなんてものとかいろんなものを作り出す。
だいぶ慣れてきたとは思うけれど。
「夢を一度に一つしか使えないのは不便だなぁ」
創法は最初に拳銃を作ってしまえばいいけれど、咒法と解法は出来れば一緒に使いたいと思う。そうすればなんでも崩す夢と飛ばす夢をいっぺんに使えるのだから。
「ん、これは今後の課題、かな……よし」
だいぶ慣れてきた。だから今日は本番。魔女を狩ってみるのだ。
「愛い愛い」
夕方くらいに安全のために錦龍さんを伴って結界を探す。幸いなことにそんなに時間をかけることなく、その結界を見つけることができた。裏路地の暗がりにいた。すかさず侵入する。
そこにいたのは不定形の魔女だった。確か、まどかたちに聞いた名前は暗闇の魔女Suleika。ズライカと呼んでいる。
闇が深ければ深いほどその力は増す。 完全な暗闇の中においてはほぼ無敵だが 灯りの多い現代ではそれほど恐れる魔女ではないとまどかたちが言っていたのを思い出す。
その魔女は、金平糖のような身体に5本ほど手足が生えた姿をしており、結界内のジャングルジムに引っかかっている。
それを目にしたとき、感じたのは恐怖だった――。
がちがちと歯が鳴りそうだった。足はがたがたと震えている。敵だから。倒さないといけない。
わかっているのに。
声が、出ない。身体が動かない。
「――――」
声が出ない。身体が動かず震えて、後ずさっていることにわたしは気が付く。
自分の意思ではない。勝手に、体が勝手に動いている。
視界が、歪む。我知らず喘いで、強烈な眩暈がわたしを襲う。呼吸困難。眩暈。
呼吸が、止まる。恐怖で。息を吸っても、吐いても、空気が肺に入って行かない。苦しさを感じる。息をするという生物が普遍的に行う呼吸が止まって、苦しくない生き物はいない。
――恐怖。
それをただ感じる。
恐怖に混濁する意識と、歪み視界がありとあらゆる全てを呑み込んでいく。
全てが漆黒に染まりそうになるその刹那――。
「しっかりしろ暁美ほむら。おまえの描きたい夢は、そんなものなのか」
「――ぁ」
ぽんと肩に手が置かれる。彼の手。大きな。呼吸が戻る。意識がはっきりとする。
「好きに夢を描けよ。そうすれば、おまえはおまえの世界で勝者だ。誰にも負けない夢を描け。俺はそれを見守ろう」
「…………うん」
大丈夫。彼が見ていてくれるなら大丈夫。そう思える。
「――!」
だから、震える足でも一歩を踏み出した。
魔女の使い魔が現れる。侵入してきた侵入者を倒さんと向かってくる。それに向かって撃つのはサブマシンガン。
ガガガガと連射する。反動を抑えられないけれど関係ない。放たれた弾丸は例外なく魔女の使い魔を打ち貫く。咒法の射を用いて弾丸を操作する。極論明後日の方向に撃っても当たる。
使い魔をそれによって薙ぎ払い。なけなしの戟法で身体能力を強化する。迅を使って素早く接近。サブマシンガンは投げ捨てて拳銃へ持ちかえを行い本命へ。
ズライカが攻撃を放ってくる。けれど弱い。明かりのあるうちの暗闇の魔女。水から上がった魚だ。もう怖くない。
そして、一発の弾丸が魔女を討ちぬいた。
「はあ、はあ……はあ……た、たお、倒せた……」
結界が消える。それは魔女が死んだ証だった。早く逃げなければと思おうのだけれど身体が言うことを聞いてくれない。
心臓が早鐘を打っている。眷属だから死ぬことはないとは思うけれど心配になるほどだった。早くしなければ魔法少女が来てしまうかもしれない。運よくグリーフシードを落としていったし、こんな場所にいれば怪しまれてしまう。
そう巴マミという魔法少女に。
魔法少女は共闘より競争になることが多い。それは、グリーフシードという魔女から得れるものが関係している。
魔法少女は力を使うたびにソウルジェムが穢れによって濁っていく。グリーフシードはその濁りをとるのだ。
濁れば、濁るほど力がでなくなる。表向きはそれを防ぐために集める。そのため、取り合いになるのだ。魔女が必ず落とすわけでもないのも理由になる。
だから基本的に縄張りを決めてそこを守る。暗黙の了解のようなものだと聞いた。それでもかつては共闘できていた。みんなで助け合って。
そして、みんなで全滅した。もうあんな思いはしたくなかった。無力な自分に。インキュベーターに踊らされる自分なんかにはなりたくなかった。
「驚きね。来たら魔女が倒されているなんて」
声が響く。
「――!」
それは巴マミの声。
「魔法少女かと思ったけれど、違う……あなたは誰。そっちの男の人も」
「……わた、しは……」
答える前に、わたしは倒れてしまう。
「愛い愛い、今は眠れ」
そんな声が響いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「一人暮らしだから遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もないんだけど」
あのあと、どうやらわたしは巴マミの家に連れてこられたらしい。わたしを抱えているのは錦龍さんじゃなくて巴さん。
なんで男の人が抱えていないのかと思ったら彼は非常に非力だとか。持たせたらあぶなっかしいという理由だった。
「座って待ってて」
そういって巴さんはおもてなしの用意に行く。わたしはというとソファーに寝かされた。起きてもいいとは思ったけれどタイミングを逃してしまったようにも思える。
それならそれでいいかもしれない。説明しようにもどうにもできないことがいくつかある。特に未来から来たとか、キュウべぇが嘘を吐いているとかどうやって信じさせればいいんだろう。かつて魔法少女、私たちとは違う魔法少女たちは信じてくれなくて戦いになったというのに。
しばらくして巴さんが人数分のケーキと紅茶を持ってきた。おもてなしできないとか言っていたがケーキと紅茶。十分すぎるおもてなしだった。
「あなた起きているのなら起きて食べましょう?」
「……バレて、たんですね」
「まあね。それで、あなたたちは何者? 魔法少女ではなさそうだけれど、魔女の結界が壊れたところにあなたはいた。それにあなたが持っているグリーフシード。魔法少女がほかにいなかったことを考えるとあなたが倒したということになる」
「そうだね、それはぜひ僕も知りたいね」
当然のようにそこにいることが当たり前のように現れるインキュベーター。思わず、怒りで撃ってしまいそうになるのを必死にこらえる。
いきなり銃を持ち出して信用している相手を撃ったらどうなるか。予想できないわけじゃない。
「あら、キュウべぇ。来ていたの」
「魔法少女がいないのに魔女が倒されたからね。気になってみにくるのは当然だよ」
「そうね、私も気になるわ。とりあえず自己紹介をしましょう? 私は巴マミ。こっちはインキュベーターのキュウべぇ。あなたのお名前は?」
「……暁美、ほむら、です。こっちは、黄錦龍さんで、えっと、親戚、です」
「そうよろしく暁美さん。それに黄さん?」
「愛い愛い、好きに呼ぶと良い」
明らかにいろいろと事情がありそうでいろいろと聞かれそうだったけれど、巴さんは聞かないでくれた。
「それで、あなたが魔女を倒したのよね」
「えっと……」
できればキュウべぇのいるところでは話したくなかった。ちらちらとキュウべぇの方を見る。巴さんはそんなわたしの視線に気が付いて。
「キュウべぇ、暁美さんはあなたが気になるみたいだから、どこかに行っててもらえるかしら」
「ぼくのことはいないものとして扱ってもらっても構わないのに」
「それじゃ彼女が話せないみたいだからね」
「ふぅ、わかったよ巴マミ。でも、わかったことは聞かせてほしいね」
「ええ、必ず」
そう言ってキュウべぇは部屋を出ていった。
「さあ、あなたが気にしているキュウべぇはいなくなったわ。話してもらえるかしら」
「……はい、信じられないと思うんです、けど……」
そして、わたしは夢の力のことを話すことにした。
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第3話
何をどこまで話すというのは難しい。わたしが未来から来たなんていう話をしたところで証拠を提示することができないからである。
だからとりあえず、夢の力というものについて話しておく。何か話さなければきっと巴さんは帰してくれないだろうから。
「えっと、その、わたしには、不思議な力があって」
証拠として銃を作り出して見せる。創法。一番わかりやすいもの。あとは、塵を解法で消して見せたりもする。
「ええと、こんな感じの力があって……えっと、それで」
「それで魔女を倒した?」
「は、はい……」
「ふぅん……」
巴さんが何かを思案するように顎に手を当てる。何を考えているのだろう。
「確かに何か力があるのは間違いないわね。何もないところから拳銃を作り出して消したり、塵なんかをまとめて消しちゃったり。それに、魔力も使わない。本当に魔法少女じゃないのよね?」
「はい、魔法少女じゃありません……」
「そう。なら聞くけど、どうして私にそんなことを話したのかしら」
「えっと……」
どうして。それは巴さんが聞いてきたから。
「ええ、私が聞いたのもあるけれど、貴女はなにも話さずにやり過ごすことだってできたんじゃないかってことよ」
「…………」
「それにあなたの目的をまだ聞いていないわね。そんな力を持っていて、魔女を倒す。あなたの目的はなんなのかしら」
「わ、わたしは、魔法少女に、戦ってほしくない……んです」
「……それは、魔女を倒すなってこと? わかっているのかしら。魔女を倒さなければ」
「わ、わかってます!」
わかっている、そんなことは。
だって、わたしは見た。
世界が滅びるところを。
だから、知っている。
「それなら――」
「でも……わたしは、それでも……魔法少女に、戦ってほしくないんです……」
「…………。――そこまで言うのなら、理由があるのよね? それを話して」
「……」
「言えない理由なのかしら」
「……言っても、信じてもらえません……きっと」
「信じるもなにも、まずは言ってくれないとわからないわ」
「……」
どうして、未来から来たといって信じるだろう。
どうして、魔法少女が魔女になると信じるだろう。
だって、何も知らない。
だって、何も知らされていない。
巴さんは、何も知らない。
キュウべぇを信じている。
わたしだけじゃ、信じてもらえない。
――でも。
「わかりました」
わたしは、信じてほしかった。
かつての友達に、信じてほしかった。
だから、わたしは、話す。
――
その結果が、どのようなものになるかなど、わたしは何一つ、考えもせずに。
だって、相手はあの巴さんだから。
誰よりも強い、わたしたちの中でも最強の魔法少女だったから。
そんな人が、こんな事実に負けるはずがない。
そう信じているから。
わたしは、話す。
「……ソウルジェムが、濁り切ると、どうなるか、知っていますか?」
「唐突ね。……そういえば……知らないわね。あなたは知っているのかしら」
一番わかりやすい疑問から切り出した。
わたしは話す。
真実を。
魔法少女が持つソウルジェムが濁り切ってしまうとどうなってしまうのかを。
ソウルジェムが濁り切ってしまうと、魔女になってしまう。
人を助け、戦う存在がその実、反転すれば人を害する存在となるのだ。
わたしだけが知る魔法少女の真実。
インキュベーターが告げない、最悪の事実。
「だから、わたしは、魔法少女に戦ってほしくないんです」
何より、まどかに死んでほしくない。みんなに死んでほしくない。
だから、わたしが戦う。
そのための力は、貰ったから。
前は何もできなかった。
だから、今度はわたしがみんなのために戦う。
「…………信じられないわね」
「そんな!」
「でも、あなたが嘘を言っているようにも見えない。だから、キュウべぇに確認してみるわ。だから、今日は帰ってちょうだい」
「…………わかり、ました」
重要なことは話した。あとは信じてもらえるか。
でも、きっと大丈夫。
そう信じて、わたしは、帰ってしまった。
わたしは、甘かったのだ。
わたしが甘かったことを、わたしは最悪の結果を以て思い知る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「キュウべぇ、いるんでしょう?」
「暁美ほむらは帰ったんだね。どうして帰したんだい? 魔女の手先かもしれないのに」
「怪しい力は感じなかったわ。それよりもキュウべぇ、聞きたいことがあるの」
「なんだい?」
巴マミは、選択する。
「魔法少女のソウルジェムが濁り切ってしまうと、魔女になる……それは本当?」
一つの選択。
それは終わりへの選択。
未だ、魔法少女大戦は遠い。
「そうだよ?」
「なっ――」
こともなさげにインキュベーターは言った。
隠すこともなく。
本来ならば隠すはずの事実を。
「それがどうしたんだい?」
「どうした、って、そんな――」
「キミが何をそんなに気にしているのかわからない。濁らせなければいいことじゃないか」
それは不可能だ。
いずれソウルジェムは濁る。
それは避けられない。
魔法少女の魂は憎悪や絶望などの暗い情念が蓄積することでも穢れを溜め込む。
巴マミが抱く、正義のために戦う魔法少女という幻想が今ここに砕け散った。
いずれ、魔法少女自らが人に害成す存在へと堕ちる。それを倒す魔法少女が正義などとよくも言ったものだ。
全ては流転しているだけのこと。正義だと思われていた魔法少女はその実、ただ魔女になる前段階に過ぎなかっただけである。
「そんな、それじゃあ、私たちは何のために戦っているの!?」
魔女になるというのならば、自分たちは一体何をさせられているんだ。
「そんなの決まっているよ。世界を救うことだよ?」
魔法少女は、魔女と戦う存在でありながら絶望すると魔女になる。魔女化の際には感情が莫大なエネルギーに転換される。
宇宙の延命。このままでは近しい将来、宇宙は熱的死を迎える。終末だ。
そんなもの、人類もだれも望まない。
ゆえに、救ってやる。
「僕たちインキュベーターは、魔法少女が絶望して魔女化した時に出る莫大なエネルギーを使って世界を救済するんだ」
全ては、この宇宙に生きる全生命の為。
「だから、何も気にすることはないよ」
「そん、な……それじゃあ、私たちは――」
「何がそんなに気に入らないんだい? 君がいつも言っている正義の魔法少女じゃないか。多少の犠牲は仕方ないよ。宇宙が熱的死を迎えてしまえば、全ての生命が死んでしまうんだから。
地球の一都市の少しばかりの人間が死んだところで、魔法少女が一人二人犠牲になったところで、全体から見れば微々たるものだよ」
――むしろ、その尊い犠牲によってその他大勢が救われるのだから、本望だろう?
――さあ、ゼツボウしろ、魔法少女。
――世界を救うのだ。
ただ世界を救うという機能を与えられた異星末端は、その機能のままに駆動する。
「――――」
声にならぬ悲鳴が響いた。それが、誰の声かを知ったのは、キュウべぇを撃ち抜いた後だ。
「…………」
「いきなりだなんて、酷いなぁ。今まで一緒に戦ってきた仲だっていうのに」
撃ち抜いたキュウべぇとは別のキュウべぇが現れてこともなさげに会話を続ける。
「どの、口が言うの……」
「ますますわからない。僕は何も酷いことはしていないのに」
「じゃあ、なんで、このことを話さなかったの!」
「聞かれなかったからね」
ああ。
巴マミは理解した。
これとは相容れない。
これは理解できない。
これは完全に、人間ではない。
魔法少女の味方だと信じていた。
だが違った。
「そう……」
だからこそ、巴マミはベランダから空へと駆け上がる。
魔法少女は存在してはいけないものだった。
インキュベーターは殺せない。
だったらもう、これ以外に道はない。
魔法少女がいるから魔女が生まれる。
だったらもう、これ以外に方法はない。
ほかの皆にやらせるわけにはいかない。
「私が、やらなくちゃ――」
あとはきっと、彼女が何とかしてくれる。
暁美ほむら。
今ならばわかる。
彼女はこの事実を知っていたのだ。だからこそ、魔法少女に戦うなといった。彼女には戦う力がある。だから、きっと大丈夫――。
「酷い女ね……」
それでも、自分がまだ正義の味方であるうちに。
全てを消し去るのだ。
――魔法少女死すべし。
この世界に魔法少女は存在してはならない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――そして、悲劇は巻き起こった。
ただ一人の魔法少女による魔法少女抹殺計画。
「あ、あああ――」
この街に存在していた魔法少女を最後の一人まで殺した。
ただの一瞬。彼女が本気を出せばこうなる。不意打ちだということを加味すれば、さらに成功度は跳ねあがる。その結果がこれだ。
鹿目まどか。
美樹さやか。
佐倉杏子。
三人の魔法少女だったものが、そこに倒れている。
そう、ものだ。
彼女たちはもはや物言わぬ躯と同じ。モノになり下がった。
魂たるソウルジェムは砕かれた。
「なん、で――」
どうしてこんなことになってしまったのか。
暁美ほむらにはわからない。
彼女を信じていた。彼女なら、事実を知っても大丈夫だと思っていたから。
けれど、そうはならなかった。
「ごめんなさいね。あなたに全部押し付けてしまう」
護るべきものだったものは守れず、ただの死体となってそこに転がっている。まるで眠っているかのように安らかに。
傷はない。ただ魂が砕けただけだ。今にも生き返りそうではあるが、そうならないことを暁美ほむらは誰よりも理解していた。
そして、それを行った元凶もまた限界だった。
濁り切ったソウルジェム。悪感情は溜まりに溜まり、もはや魔女化はさけられない。
「どう、して――」
そう疑問を口にしても、もう答える者はいない。
そこには――魔女がいるだけだ。
おめかしの魔女。
その性質はご招待。理想を夢見る心優しき魔女。寂しがり屋のこの魔女は結界へ来たお客さまを決して逃がさない。
解法の透が読み取る、わずかな情報。性質。
水色のワンピースに、黄色の巨大なボンネットをかぶった姿が特徴的な魔女。何よりも小さいそれ。ティーカップにすら収まりそうなほど小さい。
だが、何よりも強大だった。
リボンが拘束し、弾丸が襲い来る。かつての魔法少女の戦い方を連想させるそれ。魔女となった今、隙がまったくない。
何より、暁美ほむらの精神は、戦う状態にない。かろうじて初撃を躱すことができたのは、奇跡だった。いや、あるいは魔女が手加減でもしてくれたのか。
戦わなければ死ぬ。わかっているのに。暁美ほむらは何もできない。
もはや戦う意味もない。
護るべきだった友人たちはみな死んでしまったというのに。
どうすればいいのだという。
「そんなに悲しそうな顔をするな。笑ってくれよ」
「無理、よ……」
笑えない。こんな状況では笑えるはずもなく。
「どうすれば、笑ってくれる」
「どう、すれば……」
簡単だった。やり直したい。
巴マミに見つからなければよかった。
巴マミに話さなければよかった。
だから、あの時に戻って、逃げるのだ。
「愛い愛い。好きに夢を描け。それが、おまえが幸せになれる一番の方法だ」
そして、今度こそ、救いたい。
こんな未来は、嫌だ――。
黄錦龍が笑ったように思えた。
「
紡がれるは己を示す号。
かつて冠された名を再び顕象させるべく解き放っていく。
「太極より両儀に別れ、四象に広がれ万仙の陣――」
同意は既に為されている。
ゆえに今一度、現実を変えよう。
その思いが強ければ強いほど、現実は変わる。
「幸せになってくれよ。我が母のように。父のように。娘のように。暁美ほむら、笑ってくれ」
今度こそ、全てを救うために。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
こうして現実は書き換わる。
だが、その直前。
「面白いね」
まったくそう思っていないがインキュベーターは、思う。
現実の改変。
すさまじい力だ。
そして、何より恐ろしいのはその使い勝手だった。
あの男が思う事に、同意すればいい。
そうすれば、善悪なく、あらゆる全てを、男は叶える。
それが万仙陣。
それが、黄錦龍という阿頼耶。
だからこそ、願うという行為を行えるのであれば、インキュベーターですら願いはかなえられる。
もとより、世界を救うという事以外に思う事のないインキュベーターは、容易く閾値を超えて、時空改変に追従する。
かなえられた二つの願い。
一つの知啓がインキュベーターへと降り立つ。
「効率のいいエネルギーの回収には絶望させるのが一番」
その一番の方法を思いついた。
それは――。
「魔法少女大戦」
魔法少女が、魔法少女と戦うことによって絶望は加速する。
その記憶がかつての自分へと受け継がれていく。
――さあ、第二幕を始めよう。
――これより先は未曾有の魔法少女大戦。
絶望が絶望を加速する。
救済絶望領域の扉が開かれる。
――全ては世界を救うため。
さあ、ゼツボウしろ魔法少女――。
この世界は、選択肢をひとつでも間違えるとバッドエンド行きです。
セーブ&ロードができる方のみ挑戦ください。
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