吉村くんは揺るがない (橘田 露草)
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吉村くんは、受け入れない。

こくっはろー!(^◇^)
初めましての人ははじめまして!
くーさんこと露草です。
ちなみにこくっはろーとは「告白」と「ハロー」を組み合わせた古今無双の挨拶です(笑)

というわけで、露草3つ目の日常系です!
まあ初めましての人にはなんのこっちゃわからないと思うので、知りたい方はWebの方で検索してください!
もしくは橘田露草の別作品にお気に入りと感想と評価を入れましたら教えてやろう!(なぜか上から

この小説がどんな小説かといいますと……あらすじに書いてあるとおりです!
まあ、残りはあとがきで説明しましょう!(*^^*)

では、「くんゆる」第1話、どうぞ!!(≧ω≦)







「先輩……好きです!わたしと付き合ってください!」

 

震える声で彼女はそう言った。

 

校庭の片隅の桜の木の下、ここはこの学校の告白スポットとして有名なところだ。

僕は不意に誰かが言った『桜の木の下には死体が埋まっている』という言葉を思い出した。

桜の美しさと死体という醜いものを対比させたものだった気がするが、どうやらそれは間違いだったようだ。

桜の舞い散る中、わずかに涙を浮かべ佇む彼女の美しさは、千本の桜ですら敵わないと思う。

 

彼女の名前は、木森柘榴(こもり ざくろ)ちゃん。

今年中等部2年生になった女の子だ。

とびっきりの美少女で、校内ランキングでは常に5位以内に入っているらしい。

そんな彼女に僕こと、吉村寅次郎(よしむら とらじろう)は告白されていた。

 

そんな彼女を見つめ、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。

元より答えは決まっている。

彼女からの告白に対して僕が持っている答えはたった1つだけ。

 

「柘榴ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

返事はもちろん、お断り(ごめんなさい)だ。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

「何でですかー!!」

 

教室に戻ろうと廊下を歩く僕のすぐ後ろで彼女が叫ぶ。

近くにいるというのになぜ叫ぶんだろう。

 

「周りの迷惑だからやめなさい」

「周りの迷惑って意味なら先輩だって本を歩きながら読んでるじゃないですか!!」

 

失礼な。

確かに視線は左手の文庫本に注がれているが、本の隙間から前はしっかりと見ている。

だからこそ、こうやって文庫本を選んでいるのだ。

ちなみに、ハードカバーや大きな本は見えづらいわ、重たいわなので基本的に置いて読んでいる。

 

「そんなことよりっ!今回のはシチュエーション的に完璧でしたよね!?」

「……まあ、少女マンガなんかじゃベッタベタのシチュだけどね」

「それでもグッてくると思うんですよ!先輩唾飲み込んでたじゃないですか!アレってクラッときたんじゃないですか!?」

「あっ、それさっき食べたお弁当のたこ焼きのネギが歯に詰まってたからだよ」

「お弁当にたこ焼き!?もしかして手作りですか?」

「昨日の夕飯の残りだよ。よかったら今度柘榴ちゃんの分も持ってこようか?」

「ぜひ!」

「そ。じゃあね」

 

そろそろ5時間目の予鈴が鳴りそうだ。

少し早歩きした方がいいだろう。

 

「ってそうじゃなくて!!告白の話ですよ!何で断るんですか!?」

 

話は終わったと思ったが、彼女はまだ追いかけてくる。

 

「そろそろ予鈴が鳴るよ。2年生の教室は下でしょ?」

「そんなことどうでもいいんですよ!というか、先輩何で本を読みながらそんなに早く歩けるんですか!?」

「慣れだよ、慣れ」

 

体力が無い彼女は、早歩きでもはぁはぁと息を切らしている。

それなのに口は動かせるのだから女の子は流石である。

 

「先輩、先輩、せんぱーーい!」

「はぁ……」

 

流石にこれ以上騒がしいのは迷惑だし、色々噂されそうでめんどくさい。

 

「はぁはぁ……。よ、ようやく止まってくれた……」

「で、なんだっけ?」

「ですかりゃごほっごほっ!ちょ、ちょっと待ってください!」

 

彼女が息を整えるのを待つこと1分。

ようやく彼女はふぅっと息を吐いた。

そして僕をキッとにらむ。

 

「ですからなんで断るんですか!?」

「あざといから」

「即答っ!?」

「もういい?」

 

すでに予鈴は鳴ってしまい、周りの人たちも自分の教室に帰ろうとしている。

この学校は結構厳しく、授業に1秒でも遅れたら廊下に立たされてしまうのだ。

教室まで数メートルなのに遅刻扱いされたら目も当てられない。

 

「うぅ……。今回もダメでしたか……」

「今回で何度目だっけ?」

「えっと、入学式の次の日からですから……」

 

彼女が指を折りながら数える。

その開いて閉じてが20回をほど続いたところで彼女は顔を上げた。

 

「今日で205回目です!」

 

ニコッと最高の笑顔でそう言った。

言っていることがこんな内容でなければもっとよかっただろう。

 

「おー、さすが毎日やってるだけはあるね」

「えへへ、そんな照れちゃいますよ~♪」

「皮肉だったんだけど伝わらなかったかー」

 

そう毎日だ。

彼女が中学生となった入学式の次の日から学校がある日は毎日彼女は僕に告白をしているのだ。

毎日手を変え品を変え色々な告白の仕方をしてくる。

どうでもいいが、土日祝はお休みらしい。

 

「もう、何で先輩はわたしと付き合ってくれないんですかー?」

 

ぷぅと頬を膨らめて彼女がそう言ってくる。

 

「まさか男の子が……」

「違うからね」

 

なんちゅう想像をするんだ、この子は。

僕はノンケで、普通に女の子が好きだ。

 

「今年受験だしさ」

 

これはホント。

進学先はこの学園の高等部なのだが、進学するためにはちょっとした試験を受けなきゃいけないのだ。

そこそこ難易度が高いらしく、例年何人かの生徒が留年を食らっている。

 

「それにそこまで女の子と付き合いたいわけでもないし」

「えー、そんなんじゃ灰色の青春になっちゃいますよー!」

「別に気にしないけど」

「先輩だけじゃなくて、わたしの青春も灰色になっちゃいますよ!」

「……それならさ」

 

あえて真剣な顔を彼女に向ける。

 

「僕のことは諦めた方がいいよ。そして誰か別の人を好きになりなよ」

 

突っぱねるようにそう言う。

さっき彼女も言ったが、彼女はすでに205回告白をしている。

それはつまり1年以上無駄な告白を繰り返しているということだ。

これこそ青春の無駄遣いである。

彼女のことを思うなら少し厳しいがちゃんと言うべきだろう。

 

とはいえ、僕は勘違いをしていた。

いや、彼女を侮って(・・・)いたと言うべきか。

 

「それでもわたしは先輩が大好きなんです!!!」

 

彼女は3年生の廊下中に響きそうなほどの大声でそう言った。

いや、間違いなく響いているだろう。

 

「あの時、先輩に出会ってから大好きなんです!」

「……」

「だから先輩のことを諦めたりしませんし、ずっとずっとずっっっっっと大好きなんです!!!!」

 

206回目の告白だ。

そんなからかいができないほど彼女の顔は真剣だった。

 

「はぁ……」

 

目論見が失敗し、僕はため息をついた。

 

「そんな大声で叫んでよく恥ずかしくないね……」

「大好きな人に大好きって言うのに恥ずかしいなんてことないです!」

「……顔真っ赤だけど」

「ふえっ!?うぅ……そりゃ恥ずかしいに決まってるじゃないですか」

 

そんな彼女に苦笑し、僕は彼女の頭をぽんぽんと叩く。

 

「ふわっ!?せ、せんぱい……?」

「まあ、告白はいつでも付き合ってあげるよ。もちろん」

 

驚いた顔をする彼女をおいて教室のドアを開ける。

最後に彼女の方を見て少しだけ笑いかける。

 

「オッケーはしないけどね」

 

ピシャッとドアを閉めた途端、本鈴が鳴った。

自分の席に着いた時、廊下から「うわぁぁぁん~!遅刻だぁぁぁぁ~!!!」という声が聞こえたがきっと気のせいに違いない。

僕から彼女へのささやかながらの仕返しだ。




というわけで、いかがでしたでしょうか?(笑)
こんな感じで寅次郎くんと女の子たちのイチャイチャを描いた小説です。

基本的に対寅次郎くん好感度はフルカウントで行かせてもらいます。
一応言っておきますが、寅次郎くんはみんなのこと別に嫌いなわけじゃないですからね~。

寅次郎くんがなぜ告白を受け入れないのか……それは最終回に明らかになります。
ならないかもしれません。
もしくは、連載10年目に入ったらクロスワード的な感じで明らかにするかもしれません。
後は、書くことに飽きてソイヤ!しちゃうかもしれません。

他の小説との兼ね合いになるので更新自体はそう多くはないと思いますが、ネタの思い続く限り頑張りたいと思います!
時間は21時で、前後することは基本ないです。
そう……やらかさない限りには、ね……(なぜか怖い話風

ではそろそろゲームやりたいので締めます!
最後になりますが、楽しんで読んでいただけたらと思います♪(*^^*)

感想、お気に入りお待ちしています(≧ω≦)


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姫小町さんは、止まらない。

こくっはろー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

いきなりのお気に入りありがとうございます!!(天地逆転土下座
頑張って更新していきたいです!(*^^*)

さて早速ですがみなさんはどんな告白が好きなのか、もし好きなシチュがあれば教えてください!
もしかしたら参考にするかもしれませんし、「うわっww」とか馬鹿にするかもしれません。
すいません、嘘です。もんげー参考にさせていただかせてくださいまする!!!

では、「くんゆる」第2話スタートです!(≧ω≦)



「じゃあ、今日はここまでー。ちゃんと復習しとけよー。」

 

2時間目の授業が終わり休み時間に入ったところで、僕はトイレに行くため席を立ちあがった。

さっきの休み時間は柘榴ちゃんが来て行けなかったのだ。

ちなみにさっきの授業は普通に遅刻したらしく、なぜか僕に文句を言われた。

ちょっとイラッとしたのでまた遅刻させてやった、ちょっとすっきり。

 

「ふぅ……」

「いやはや、木森ちゃんにも参ったもんだね~」

「ホントにね。悪い子じゃないんだけど」

「まあ、吉村も何だかんだ楽しんでるみたいだしね~」

「まあね。……ところで」

 

僕はそこで首だけ後ろの彼女に向ける。

 

姫小町(ひめこまち)さんは何をしているのかな?」

「んー、連れション?」

「僕の常識が正しいなら男子トイレに女の子は入れないはずだけど」

 

ここは男子トイレ。

そして後ろにいるのは姫小町恋愛(ひめこまち こひめ)さん、名前で分かる通り女の子だ。

ちなみに、「れんあい」ではなく「こひめ」と読む。

 

「僕の世界では男と女の子は連れションしないんだけど」

「かたいこと言わない言わない!ほうほう……吉村のはなかなかの大きさ……」

「やめなさいっ」

「痛ぁ!?」

 

出すものも出したのでアレをしまう。

呆れた目でセクハラ少女を見ると、彼女は僕にチョップされた頭を押さえうずくまっていた。

どうでもいいが、頭ではなくツインテールを抑えているのはツッコミ待ちだろうか。

当然僕はツッコまない。

 

「ちょ、ちょっと吉村!?かわゆい女の子をトイレに放置ってどういうこと!?」

「むしろそのセリフがどういうことだよ。」

 

今日び色んな本を読んできたが、「連れションした女の子をトイレに放置」というシチュには出会ってない。

そしておそらく今後もないだろう。

 

「ま、待ってよ吉村!?」

「……何?授業始まるよ」

 

というか、トイレに女の子と2人っきりってどういう状況ですか。

ほら今トイレに入ろうとした子が姫小町さんびっくりして行っちゃったじゃん。

 

「あのさ……」

 

もじもじと手を組んだり、離したりする姫小町さん。

そして意を決したように顔を上げた。

 

「あたし吉村のこと好」

「ごめんなさい」

「早い!?というか待ってってば!?」

 

え、もう済んだでしょ?

だが、彼女は僕の手をつかんで離さない。

 

「女の子の告白に即答ってどうかと思うよ!?」

「男子トイレで告白するほうがどうかと思うよ?」

 

僕間違ってないよね?

というか、人生初だよトイレでの告白って。

 

「待っててばー!」

「ああ、もう……」

 

手を離してくれないため諦めて彼女の方に向く。

というか、相変わらず美少女だな。

 

「我ながらトイレで告白ってどうかと思う!」

 

気づいてくれたなら何よりだ。

これで解放してくれるかと思いきや、彼女は意外なことを口にした。

 

「だから今から屋上行こっ!」

「は?いや、今から授業だし」

「いいから行くよ!」

「だれか~!本気で助けて~!」

 

結局誰も助けてくれず、だからと言って無理やり振り払うこともできず僕は屋上に引っ張られることになった。

授業開始の鐘がむなしく鳴り響く。

 

「はぁ……相変わらず姫小町さんは強引だよね……」

 

とはいえ、彼女とは去年からの付き合いだ。

授業をサボらされたことも1度や2度ではない。

前に学校自体サボらされて大阪に日帰り旅行に連れてかれたことに比べれば大したことない。

 

「吉村もこっち来なよ~!」

 

いつの間に移動したのか、彼女は貯水槽のところから手を振っていた。

あそこのはしごには鎖と鍵がかかっていたはずだけど、どうやら勝手に鍵を盗んだらしい。

逆らうのもめんどくさいので僕も彼女の後を追う。

 

「ん~!風が気持ちいい」

 

僕が上ると、彼女はゴロゴロと転がっていた。

どこから持ってきたのか、夢の国のメスネズミが描かれたビニールシートを引いている。

 

「……パンツ見えてるよ」

「吉村なら気にしないよ~。もっと見て感想聞かせて~」

 

にやにやと笑いながらバッとスカートをめくる彼女。

小さなリボンのついたピンクと白のしましまだけでなく、彼女の小さなおへそまで見えている。

 

「……似合ってるね」

「結婚したくなる?」

「残念だけど、僕はパンツで恋人を選ばないから」

「ちくしょ~」

 

風に吹かれながらしばし2人とも黙る。

少し眠くなってきたが、次の6時間目にはちゃんと出席しなきゃならない。

と、不意に彼女がガバっと立ち上がった。

 

「じゃあ、結婚はまだいいから呼び方変えようよ!」

「呼び方?」

「そう!いつまでも名字で呼び合っていたらつまんないじゃん!」

「いいけどなんて?」

「んー、ダーリンとかは?」

「却下」

 

教室でダーリンなんて呼ばれたら完全に結婚ルート一直線だ。

ただでさえクラスいちの美少女に惚れられてるのだ。

これ以上余計な事したら、ただでさえ少ない男子の友達がゼロになる。

 

「じゃあ、トラ!寅次郎のトラは?」

「それなら別に……」

 

僕はあんまりあだ名をつけられるタイプじゃなかったので結構嬉しかったりする。

友達の彼女と少しだけ親しくなった気がする。

 

「じゃあ、トラはあたしのこと何て呼ぶ?」

「普通に恋愛ちゃんじゃだめなの?」

「それじゃつ・ま・ん・ない!」

 

わがままなお姫様に仕方なく少しだけ考える。

 

「じゃあ、こいちゃんとか?」

「むーちょっと安直だけど……。ま、いっか」

 

そう言って彼女はニカッと笑った。

そして手を差し出す。

 

「これからもよろしくね、トラ!」

 

軽くため息をつき彼女の手を握る。

 

「よろしく、こいちゃん」

 

その時だった。

グイっと手を引かれた。

そして。

 

「んっ」

「!!!?」

 

唇に柔らかい感触が当たる。

というか、感触とかいう前にゼロメートルのところに彼女の顔があった。

いきなりのことに僕も面食らう。

 

「ぷはっ!」

 

長々と2分ほどキスし、彼女は顔を離した。

少し照れた顔で彼女は笑った。

 

「えへへ、ふぁーすときすだよっ♪」

 

にこにこと幸せそうに笑うこいちゃん。

そして、ビシッと指を僕に指す。

 

「あたしの恋はまだまだ止まらないのだっ!!」

 

そう宣言した。

その目はとても真剣だった。

そんな彼女を見て僕ははっきりと言った。

 

「僕……ファーストキスじゃないんだけど」

「え……ええええええええええええええ!?」

 

彼女の叫び声と同時に鐘が鳴った。

あ、授業行かないと。

 

 




という感じで、2番目のヒロインは変態系全力少女でした(笑)

女の子からあだ名って呼ばれるのいいですよね~。
僕は本名的にあだ名が定番の1つになりがちなんですよね。
それはそれで嬉しかったりしますけど(笑)
ちなみに僕はあだ名で呼ばれ、あだ名で呼び合う関係が好きだったりします!
興味ない?ですよね!

そろそろ、「ゆるっと」そして「くんゆる」のキャラプロを作ろうかなぁと思っています。
その時はまたお知らせしますね~。

では、また次回!(*^^*)


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窪塚さんは、演じない。

こくっはろー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

ちょっち日が空いてしまいましたが、これも露草クオリティというわけで勘弁してください~(^^;

さて、どうでもいい話のコーナーに参りましょうか(笑)
この小説のタグでもありますが、主人公の寅次郎くんは「not鈍感系」つまり普通にヒロイン全員の好意に気づいていたりします。
こうなるとですね~、まったく気付いていない(仔犬)、1人しか気づいていない(水樹)と比べ恋愛方向へ動かしやすくて結構やりやすかったりします。
まあその代わり、袖にするやり方が大変だったり……(笑)

では、「くんゆる」3話どうぞ!(≧ω≦)



放課後。

柘榴ちゃんからの「陸上部頑張ってきます!先輩との将来のために!」というメッセージを華麗に既読スルーし、僕は図書室に向かって歩いていた。

理由は単純、図書委員だからだ。

 

ガラッ

側面のあたりがボロボロの引き戸を開けると、本のにおいが漂ってきた。

4階だからか窓から入ってくる風もとても涼しい。

少し歩いてカウンターのところに行くと、分厚い本を読んでいる小柄な女の子がいた。

集中しているらしく、僕が来たことに気づいていないようだ。

僕は少しだけ見えた表紙で読んだことある本だと気づいた。

 

「確か、『あの丘の思い出』か」

「!?」

 

思わず呟いてしまった。

ビクッと震えた彼女が勢いよく振り返る。

振り返った勢いで彼女のメガネが取れ、床に落ちてしまう。

 

「あっ、メガネが……」

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 

メガネを受け取った彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

「ごめんね、脅かしちゃったかな」

「……寅次郎せんぱいは悪趣味です」

 

ぷんっと拗ねたようにそっぽを向く彼女。

そんな様子も彼女がやれば可愛いだけで、僕はクスッと笑ってしまう。

そしてそれを見た彼女がさらに拗ねるという悪循環だ。

いや、悪循環って言っても本気で怒っているわけではないだろうけど。

 

彼女の名前は、窪塚月渚(くぼづか るな)ちゃん、昨日入学したばかりの1年生だ。

きれいな藍色の髪のとても可愛い女の子なのだが、恥ずかしがり屋でいつも本に顔の半分を隠している。

現に今も目から上しか見えていない。

 

ちなみに彼女入学したばかりなので図書委員ではない。

以前会った時に特例で許したのだが……まあ、この話はまたでいいだろう。

どっちにしろ、そろそろクラス委員決めがあるだろうし。

 

「今日は誰か来た?」

「……いえ。」

「だろうね」

 

月渚ちゃんの答えに苦笑を返す。

そもそもこの図書室は利用人数がそう多くない。

最近流行りのマンガもおいておないし、少し歩けばちゃんとした図書館がある。

そんなわけで図書委員といっても別段仕事があるわけでもない。

 

「でも……私はこういう静かな雰囲気が好きです……」

「うん、僕もだよ」

 

図書館と違って強制されることなく作り出される静かな空間、それが学校の図書室だと僕は思う。

彼女の隣に座り僕も本を取り出す。

彼女との時間の過ごし方はこんな感じだ。

特に会話があるわけでもなく、ゆっくりと時間が過ぎていく。

 

「……」

「……」

 

静かな時が流れる。

椅子2つ分離れたところから本のめくる音が聞こえてくる。

 

「……」

「……」

 

静穏な時が流れる。

耳元に彼女の呼吸音が聞こえてくる。

 

「……」

「……」

 

清閑な時が流れる。

クンクンクンクンと彼女が鼻を鳴らす音が耳元で聞こえて……

 

「いや何をしてるのかな?」

「……?」

「そんなキョトン顔されましても」

 

いつの間にか月渚ちゃんは椅子2つ分どころかぴったり寄り添い、僕の肩に顔を置いていた。

というか、こんな体勢なのによく読めるね。

 

「近い、近いです」

「……わたしは平気ですよ?」

「僕が平気じゃないんだよなぁ」

 

彼女との距離は数センチ。

ちょっと首を曲げたらキスすらできてしまう。

と、月渚ちゃんは読んでいた本を僕に見せてきた。

 

「あの……このページ……」

「え?」

 

そのページは、主人公の男の子とヒロインの女の子が夕日の川辺で寄り添いキスをしている場面だった。

月渚ちゃんまた口元に本を戻し、少し頬を赤くして僕を見た。

 

「再現……したいです……」

「あぁ、うん。ちなみに月渚ちゃんはこの本は読んだことあるのかな?」

「え?あ……はい」

 

そこまで言って気が付いたのだろう。

一気に彼女の顔が真っ赤になってくる。

 

「ならこの後のシーンも知ってるわけだよね?」

 

一見したらこの本は人間の男の子と吸血鬼の女の子の初々しい純愛物語に見える。

だが、この後川辺で……まあなんと言うか、BやC的なことをするシーンがあるのだ。

ちなみにその後は最後までそんな感じのシーンばかりが続く。

 

「というか、13歳の女の子が官能小説ってどうかと思うよ?」

「……せんぱいだって15歳じゃないですか」

「男の子はいいんです」

「何ですか、それ……」

 

適当な返しをすると、月渚ちゃんは本の陰でくすくすと笑っていた。

どうやらごまかせたようだ。

 

「それで……再現お願いしてもいいですか……?」

 

訂正、まったくごまかせてなかった。

困った目で月渚ちゃんを見ると、彼女も頬を赤くしながら、けれども真剣な目で僕を見ていた。

 

「弱ったなぁ……」

「……お願いします。わたし、せんぱいのことがす、好きですから」

「うーん、それは知ってるけど……」

 

真っ赤な顔で好意を口にする月渚ちゃん。

それ自体はすごく嬉しいのだが。

僕ははーっとため息をついて、彼女に苦笑を向けた。

 

「……キスはダメだよ。その手前までね」

「……!あ、ありがとうござい……ます!」

 

心底嬉しそうな月渚ちゃん。

それでは、と姿勢を変え、メガネを外した。

 

「『先輩、私幸せです』」

「えっと……『僕もだ。君に会えてからずっと幸せだよ』」

「『……本当にいいんですか?あなたは人間で、私は吸血鬼なんですよ』」

「『そんなの関係ないさ。僕が君を愛してる、それがすべてだよ』」

 

2人とも読まなくても内容は覚えている。

ここで少しだけ黙って、僕の……というか主人公のセリフだ。

 

「『やばいすごいキスしたい』」

「『……別にしていいですよ』」

「『ダメだよ。したら止まらなくなりそうだから』」

「『……ダメです、先輩。わたしがもう止まれません』」

 

このセリフの後、ヒロインの女の子がキスしてくるのだ。

まあ、再現だから実際にはやんな……

 

「むぐっ!?」

「んっ……」

 

ってなんでキスしてるの!?

驚いて彼女を見ると、完全にトリップした顔をしていた。

ヤバいと思い彼女を引き離す。

 

「る、るなちゃ……うひゃ!?」

「ぺろっ……せんぱいおいしいです……」

 

ぺろりと月渚ちゃんの小さな舌で、鼻をなめられた。

慌てて僕は彼女をゆする。

 

「月渚ちゃん!」

「……はっ!?せ……せんぱい……」

 

ようやく正気に戻ったようだ。

彼女はさっきまで自分がしていたことを思い出したようで。

 

「あぁぁ……ふぁああああああああ~!!!!」

 

湯気が出そうなほど顔を真っ赤に沸騰させた彼女は、彼女にしては珍しい大声を出して走って行ってしまった。

って、かばんも本も置きっぱなしだし。

 

「はぁ……」

 

彼女のカバンと本を持ち、僕は立ち上がる。

とりあえず彼女を探さないとなぁ。

 

彼女を発見した後、何と声をかけるべきか考えながら僕は図書室を出て行った。

 




という感じです!(笑)
3人目のヒロインは月渚ちゃんと書いて「るな」ちゃんです!
若干キラキラな感じがしますが、普通に漢字変換の候補にあったんですよね~(^^;
個人的には、小説に向かない読み方とはいえ、きれいな響きがしていい気がするのですがどうでしょうか?(*^^*)
ちなみに当初考えていた漢字は「瑠那」でした(笑)

月渚は妄想系といいますか、妄想暴走系文学少女って感じですかね~?
妄想暴走オレ変装yeah!って感じです(どういう感じだよ)
個人的には好みドストライクだったり(笑)

では、またお会いしましょう!
感想、評価、お気に入りお待ちしています!(*^^*)
では、こぐっばい!



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