神の不注意によりチートな2ndライフ始めました。 (じじぃ♀)
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プロローグ

ども、じじぃ♀です。今回初めての連載小説になります。

話の筋が通らないこともあるかも知れませんが、所詮はその程度なのでご了承ください。




 

まず、目が覚めたのは壁も天井もない真っ白な空間で。

目の前に居座るちっせぇ髭じじいはニコニコとむかつく笑みを浮かべていたので取り敢えず蹴った。

 

「ブヘッ!!!な、何をするのじゃ!わしは偉大な神ちゃんじゃぞ!!」

 

自称神は俺に蹴られた右頬に手を当てて涙目になった。

 

やばい、めっちゃ混乱してる。ってか、は?何コイツ自分のこと偉大とか言っちゃってんの?しかも『ちゃん』付け。やだきもーい。

 

「何って、蹴ったんじゃんか」

 

神じじいは明らさまにガーンという顔をした。

 

なんだコイツ…。

 

「ところでさぁ…ここどこ」

 

真っ白な空間を見渡し、じじいを見下ろした。もう神と呼ぶことすら面倒くさい。 

 

「よくぞ聞いてくれた!ここは死後の世界じゃ!!」

 

ドンッと効果音が付きそうな程胸を張り、じじいは宣言した…が。

 

「なんでだぁああああああ!!!!」

 

本日二回目。じじいは綺麗に放物線を描いて飛びました。何故かって?蹴ったからだよ。それはもう全力で。

 

「何故じゃああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

「…で?説明してくんない?」

 

俺が蹴り飛ばした程度の距離を5分かけて戻ってきた髭じじいを正座させて、腕を組んだ。

 

「それはわしの不注意で……って蹴らんでくれ!」

 

じじい目掛けて上げかけていた右脚を下ろし、眉をひそめる。

 

「わかった、蹴らないけどさぁ、不注意って何かなぁ?ねぇ?」

 

にっこりと穏やかに微笑んで見せる。ピシッと髭じじいの表情が氷りついた。

 

「ポ、ポテチを食べておったのじゃ!」

 

へぇ?ポテチ?

 

「ふーん。そうなんだぁ、ポテチあるんだねここ。でもさぁ、人の人生扱う上で適当なの?可笑しいよね、そこ。流石くそ髭じじい…じゃなかった、神様だね、ポテチ食べながら人の生死に関わることしちゃうんだね、スケールが違いすぎて尊敬しちゃうね?え?」

 

尚も笑顔のままじじいに問いかけた。じじいの顔がどんどん青ざめていく。

 

わぁすごーい。自称神でもちゃんと血管通ってんだね!だったら血も出るのかな?

 

「物騒なことを考えるでない!!わしはちゃんと反省しておる!よっておぬしを別の世界に転生させることにした!」

 

…は?

 

「ちょっと待てよ、なんで別の世界なわけ?戻してくんないの?そもそも俺、死んだ時の記憶ねぇし。おかしいだろ、ちゃんと説明しろよ髭じじい」

 

片脚を上げると髭じじいは慌てて説明し始めた。

 

「おぬしの死因は事故じゃ!本来死ぬはずじゃった女の横におったおぬしを間違えて殺してしもうたのじゃよ!じゃから優しいわしは」

 

「余計なこと言わなくていいから簡潔にできるかなぁ?」

 

「はい」

 

なんか自分のこと優しいとかきもいこと言い出したので少し口を挟んだら神のくせにすごい従順でした。相変わらずきもいけど。

 

「…そこでわしはおぬしをONE PIECEの世界に転」

 

「はいちょっと待ったぁああ!何?何考えちゃってんの。ONE PIECE?死ぬよ?確実に10回は死ねるんだよ?あんな世界。何、そんなに俺のこと殺したい?は?頭のネジぶっ飛んじゃってんの?」

 

自慢じゃないが俺は死ぬ自信がある。だって俺ただの一般ピーポーだし!あ、いやでもさっきじじい飛んでったよな?

 

「おお!今言おうと思ておったのじゃよ、それはおぬしが既にあちらに片脚突っ込んでおるからじゃ。それにおぬしは簡単には死なぬようわしが取り図る!」

 

「ちょっと待て、片脚突っ込んでる?は?何それもう戻れないってこと?」

 

髭じじいは待ってましたとばかりに深く頷き、さらにむかつく笑みを俺に向けた。

 

「そうじゃ!この瞬間にもおぬしは向こうの世界に溶け込む準備をしておる!」

 

「取り敢えず蹴るね」

 

右脚を上げ、髭じじいに微笑んで見せた。それ以上ないくらいにとっっっっても穏やかな優しい笑みだ。その割にはじじいの顔色がすごく悪いのが気になるのだが、まぁ髭じじいだし、気にしないでおこう。

 

「や、止めてくれ!今すぐおぬしのスペック説明するから!!」

 

ほう?

 

じじいは涙目のまま全力で首を横に振り、必死で訴えた。

 

やだなぁ、そんな顔されたら俺がすげぇ悪いやつに見えちゃうじゃん。あー、蹴りたいけど俺のスペックってのも知りたいしなぁ。

 

上げていた脚を下ろした途端、髭じじいは安心したように息を吐き出した。

 

「じゃあそのスペックってやつ説明してくれよ」

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

髭じじいが説明すること数分……簡単に纏めよう。

 

まず俺の次の名前は『モンキー・D・アレン』。取り敢えず蹴った。何をかって?そりゃ神…基、髭じじいだよ。当たり前じゃん。

それからお気付きかと思うが、俺はルフィの従兄弟らしい。歳はエースの一つ上。

そして俺は5歳までに悪魔の実を食う運命にあるらしい。取り敢えず蹴った。髭じじいを。なんでなの!?悪魔の実とか落とし穴いっぱいじゃん!海水とか海水とか海水とか…あと絶対的な上下関係とかあるし…。よし、こうなったら俺は意地でもこの運命に抗う!絶対食べねぇ!悪魔の実なんか一億ベリーで売っ払ってやる!!

 

 

ってことでボッコボコになって更にきもくなったじじいを見下ろして、俺はまた腕組みをしていた。

 

「ずみばぜん…」

 

謝る髭じじいの前で、大きく溜息を吐き頭を掻いた。

 

「全く…どうすんだよこれから……」

 

「おお、そうじゃ、言い忘れておったがおぬしの食べる実はパラパラの実じゃ」

 

…は?何その脳天気な名前。すげぇ外れ感漂ってんだけど?

 

てかくそ髭じじいの顔面が一瞬にして元のきもい顔に戻ったし。俺の労力返せ。

 

「却下。」

 

「即却下!?せめて説明を聞いてからじゃ!そう悪い能力でもない!」

 

髭じじいが言うにはパラパラの実というのは、パラメータ、つまり相手の能力値を見ることが出来るということらしい。更には自分と相手の能力を一部、もしくは全て入れ替えたり、変更することが可能になる。

例えば俺の能力は

攻撃力:3300

防御力:3900

スピード:5000

持久力:6000

特殊:パラパラの実(1/1)

 

全てにおいて限界値はなく、現在の俺の値はONE PIECEの世界で言うとグランドライン中盤程度。

 

…って、はぁ!?グランドライン!?!?生まれる前でそれ!?

 

「あ、また言い忘れておったが、今見せた能力値はおぬしが17歳くらいの時に到達するであろう値じゃ。

鍛えずしてその程度になるのじゃから意識して鍛えれば新世界に通用する程度にならすぐに到達するじゃろう。な?簡単には死なぬじゃろ?」

 

「な?じゃねぇ!!くそ髭じじい!!!」

 

また髭じじいは綺麗な放物線を描いて飛んだ。言わずもがな、俺が蹴ったからだ。

 

「ぬぉあああああ!!!」

 

おー、飛んだ飛んだ…って飛び過ぎじゃね!?!?

これも俺があっちに適応してるからか!?なんで俺がこんな目に!?……って、ああ。イジめたからか。

 

それから、余談と言っては何だが、じじいが飛んだ距離は…ざっと200mほどか。比べる対象がないからそれ以上もそれ以下もあり得るが、大体そのくらいだ。

 

 

 

やっと戻ってきた髭じじいは汗だくで息を切らせていた。

 

お前神なんじゃねぇのかよ…。

 

「もう神ちゃん怒ったのじゃ!くらえ!必殺落とし穴!!」

 

そう叫んだ瞬間…俺の足元の地面(?)が消えた。

 

「はっ!?おいちょっ待っ…あぁああああああああ!!!!!?」

 

俺が完全に地面に吸い込まれる直前に見たのは、むかつく髭じじいのニヤけた顔だった。




主人公くん…基、アレンくんは基本性格が悪いと思われます。さらにすぐに脚が出るというなんとも残念な青年です。

次回から本格的に転生します。


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幼少期
第1話 コルボ山、新生活へ


前回とはあまり繋がっていませんね、所謂割愛です。

主人公くん…基、アレンくんが5歳になり、新しい生活の中に飛び込むそうです…。

5歳でこんな新生活とか無茶すぎて私なら死んじゃいますね笑
まぁそんなことは置いときましょう←
 

ではでは。第1話スタートです!





やぁやぁ皆さん。アレンです。

あのくそ髭じじいのおかげで無事(?)死地に転生しました。あの野郎、今度会う時あったら思いっきり蹴り飛ばしてやる。

 

 

まぁ物騒なことは置いといて。軽く説明しよう。

 

転生して5年、俺は今5歳で、じぃちゃん…つまりガープに連れられてコルボ山に来ている。今までルフィと一緒にフーシャ村で色んな人にお世話になりながら暮らしていた俺だが、ついに後のルフィと同じようにコルボ山の山賊に預けられるらしい。

理由は…そう、悪魔の実の能力を得てしまったからだ。

 

俺の思惑!手に入ったら手元に置いといて高く売ろうと思ったのに!!

 

なんで皆変な形の果物見てもおかしいと思わないの!?

 

当時2歳の俺に悪魔の実を食べさせたのなんて、あのマキノさんだよ!?アンタだけは常識人だと信じたかった!いや、常識人だけど、常識人なんだけど!!

 

なんか抜けてたんだよその日だけ!あんの勝手野郎!まじで図りやがった!!!

 

てかなんで2歳の時にここに放り込まれなかったかというと、単にガープの暇がなかっただけだ。

 

んなことないと思うんだけどなぁ。ガープに暇がないって相当のことだし。

 

 

「ん?なんじゃ、不安なのか?」

 

俺の脳内とは、天と地ほどの差を感じさせるほど脳天気なガープはガハハハっと笑い、俺の頭を乱暴に撫でた。

 

頭が前後に激しく揺さぶられる。

 

「うっ、わ!!もう、やめろよじぃちゃん!べつに不安じゃないから!」

 

ガープのデカい手を払い、睨みつける…が、効果はないらしい。むしろ何故か嬉しそうに笑っている。

 

「おお、そうじゃアレン!今日からお前が世話になる家にはな、お前と同じくらいのが1人おるんじゃよ。仲良くせい!」

 

はい、知ってます。エースですよね。

 

…ああ、エース…あー、エースかぁ…。

この時期のエースって既に……

 

「おお、エース!!」

 

嬉しそうなガープの声。それに釣られて顔を上げれば、その先には4歳であるにも関わらず眉間にシワを寄せて険しい顔をしたエースがいた。

 

そうなんだよ…この時期で既にグレてるんだよ…。

 

「…ジジィ、なんだよそれ」

 

一応年上だけどそれ扱い!酷い!

 

「わしの孫じゃ!今日からお前の兄貴になる!仲良くせい!!」

 

ガープはそんなことなどお構いなしに話を進め、俺の背中を押し、エースの前に押し出した。

 

「エース、だよね。これからよろしくね」

 

苦笑いで挨拶をすれば、エースは一層眉間にシワを寄せた。

 

あー、どうやって仲良くなろうかな…ガープの手前、意地を張ったが、やっぱ不安しかねぇな…。

 

直後、エースの背後の家の中が突然騒がしくなり、ゴンっと鈍い音が響いた。

 

「が、ガガガガープさん!?」

 

慌てて家から出てきたのはお馴染み、山賊のダダンだ。その後ろにいる一家も含め、全員がかなり青い顔をしている。

 

確かにガープは怖えけど、どんだけ焦ってんだよ…。

 

「アンタまだ当分先だって……!?」

 

「お?そうじゃったか?」

 

ガープは鼻をほじりながらきょとんとして言った。

 

うん、ルフィとの血の繋がりをすごく感じるね。この世界のルフィ本人はまだ1歳だからそんなことはしてないけど。

 

「そうですよ!それにそのガキは…!?」

 

「おお!わしの孫じゃよ!前話したじゃろ?」

 

「知りませんよ孫のことなんて!まさかそれまでうちで預かるんですか!?」

 

アンタまた話してなかったのか…。可哀相なダダン一家…。てか、またそれ扱いだし。

 

ガープは今だに鼻をほじったままだ。

ダダンは…何か危険物を見るような目で俺を見ていた。

 

これから世話になるんだし、ここで挨拶しないのも悪いと思い、取り敢えず頭を下げた。

 

「…はじめまして。まごのアレンです。いつもじぃちゃんがめいわくかけてすみません」

 

その瞬間ダダン一家には、雷が直撃したかのような衝撃が走った。

 

「な、迷惑とはなんじゃ!わしはこやつらが」

 

ガープが何か言っているが気にしない。

それよりも遥かにダダンたちの反応の方が面白かった。

 

まさか、あの拳骨のガープの孫の口からガープ本人に関する詫びを聞くとは思わなかったのだろう。全員が釣り上げられた魚のようにパクパクと口を動かして、声も出ないようだった。

 

うん、中々ひどい反応だね。1回、ガープに対するこの人たちの感想を聞いてみたいもんだ。

 

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

 

とか思ってたら俺は山賊の中に1人、囲まれています。

 

はいそうですね。あのままガープは俺を山賊に押し付けて意気揚々と帰って行きました。

 

俺は晴れて山賊一家の一員っす。

 

「…ほんとにガープの孫かい!?」

 

ダダンの驚いたような…否、驚いた声が響く。

 

失礼な…。

 

「よく言われますけど、しょうしんしょうめい、おれはじぃちゃんのまごですよ」

 

にっこりとできるだけ警戒されないように彼らに笑顔を向けた。

 

更に彼らに衝撃が走ったようだったが、もう3度目なので気にせず、話を続ける。

 

「あの、おれはこれからどうすればいいですか?一応、かんたんな料理と、せんたくくらいならできますけど」

 

また更に衝撃が走る。

 

いい加減うっとおしいなぁ…。

 

「じゃ、じゃあ朝飯と洗濯を頼みます…?」

 

困惑しすぎて敬語な上に疑問形になっているが、気にしないでおこう。

 

またにっこりと微笑み、元気よく返事をする。

 

「はい!よろしくおねがいします!」

 

新生活の滑り出しは上々だ。

まさに順風満帆!のはずだったんだがな……。

 

 

 

 




はい。予想通りのgdgd具合ですね。基本こんな感じで進めます。

それから、アレンとエースはまだ5歳と4歳なので舌足らず…ということで大体の話し言葉は平仮名になっています。読みづらかったらすみません。

さて、次回からはエースとの馴れ初め(笑)です。
ルフィほどバk…素直じゃないアレンは一体どうやってエースと仲良くなるんでしょうかね…。
正直言うと細かいとこまでまだ決めてないのでちょっと迷ってます笑

ので次回は更にgdgdの予感です!←


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第2話 居候から、兄弟へ

ハイスピード!!とにかくハイスピードです!

本来のエースならもっと時間かかると思いますが、きっとこれもあの髭じじいのおかげです←


ってことで第2話!どうぞ!






コルボ山に放り出されたものの色々あって、順風満帆!になるはずの新生活の滑り出しは、見事なまでに打ち砕かれた。

もちろん、義弟であるはずのエースの手によって。

 

 

詳しく説明しよう。

 

丁度数日分の男共の溜まった衣類を洗濯していた時のことだ。

 

なんか視線感じるなーって思ったらエースにめっちゃ睨まれてた上にすげぇ殺気向けられてた。

まぁそんなことは予想してたから、にっこり笑って声かけたんだよ。

 

「どうしたの?」

 

ってさ。そしたらエース、ずんずん歩いて来て、何したと思う?

 

俺の前に置いてあった、男共の下着やらなんやらが入ってる超汚え桶を俺の方にひっくり返しやがった!

 

おかげで俺はびっしょびしょで既に能力者だから力がちょっと抜けちまって、咄嗟に掴んだのがエースの腕で。

 

エースも一緒に汚ぇ桶の水溜まりにざぶーん。

 

結果、エースにめちゃめちゃ嫌われた。

しかもそれをダダンに見られたのでエースと一緒に洗濯のやり直し。現在進行形で二人っきりの険悪ムード。

 

なんでそうなる!?俺はただ仲良くしたいだけで!!

 

「あー!もう!何なんだよエース!!何がしたかったんだ!?いやがらせか!?!?」

 

あんまりイライラして、隣…というか3mほど離れたところで大人しく洗濯に従事するエースに向かって叫ぶ。

 

一方エースは俺を完全に無視して黙々を洗濯を続けている。

 

「おい!こっちくらい向けよ!!」

 

怒りに任せてエースに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。

 

そこで初めて間近で、エースと目が合った。俺がまだ5歳児でエースと年も離れていないからか、それとも彼が最も嫌う父から受け継いでしまった憎むべき気質からか、どれだけ凄んでもエースは視線をそらさなかった。

 

まぁそのおかげで何か急に冷静になったんだけれども。

 

「……あー…ごめん、イライラしてた。悪ぃ」

 

そう呟いて手を離し、行き場を失ったその手で誤魔化すように頭を掻き、なんだかすごくバツが悪くて俯いた。

 

「ただ、さ。なかよくなりたかったんだよ。おれ、お前と同じようなきょうぐうだし」

 

そう言ってそっと視線を上げると、エースが驚いたように目を見開いていた。

 

「なかよく…?おれと、か?」

 

…お?なんかいい感じ…?

 

「おう!当たり前だろ!」

 

まだきょとんとした顔をしているエースに、にっこりと微笑んで見せた。

 

このまま行けば出会いから1日も経たずにわだかまりもなくなるか…?

 

…とか思ってた俺がバカでした。エースの警戒心甘く見てた。

 

微笑んで見せた後、エースは少し期待するような眼差しで俺を見たがすぐにまた前の険しい顔に戻り、くるりと踵を返してどこかに立ち去った。

 

まだ大量に残る男共の衣類をデカい桶ごとその場に残して。

 

…泣きたい。俺このままだとガープの言う兄弟じゃなくて、ただの居候じゃん。あー。エースぅううぁああああ……。4歳なら4歳らしく笑ってろよ…。普通4歳とか何も考えずに自分のことだけで笑ってるぞ?逆にエースすげぇよ…。

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

やっと洗濯が終わった頃にはとっぷりと日は暮れて、空は明るいオレンジから深い群青へと移り変わったところだった。まだ西の山の向こうは少し明るいが、恐らくそうかからずに群青に染まるだろう。

あれ(昼)から働きっぱなしで何も入っていない腹が、虫の大合唱に重低音を加える。

 

腹減った…。

 

さっさと桶を洗って家に入れば、所謂マンガ肉とも呼ばれる、焼いただけの肉塊が皿にてんこ盛りにされて食卓…基、床に置かれていた。

 

これは…まぁ知ってたけど、知ってたけどね。かなり酷いな…。

 

この人数が一度に飯に有り着こうと思えばこういう形式にいたるのは仕方がないとして、食事のバランスが…。

 

明日の朝から頑張ろう。幸い、俺の家事スペック(笑)に感激したダダンが明日の朝の分だけは材料の確保してくれてるらしいし。

 

うん。負けない。俺は負けない。例えエースと仲良くなれなくて居候状態でも俺は諦めないぞ。

 

その夕食は、凄まじかった。肉の取り合い…基、奪い合い。まさに足りなければ皿にも齧り付く。

 

そんな中、エースと俺は完全な対極にいた。めっちゃ避けられてる。悲しいね…。

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

…さて。あれから一晩明けたわけだが(とは言ってもまだ日は昇っていない)。

 

白む東の山々に神々しさを感じながら、目一杯伸びをする。

 

さぁ、朝飯だ。まずは何故か冷蔵庫で見つけたパンと、昨日森で見つけた卵、昨日ダダンが確保しておいてくれた肉を薄く切ったやつ(ベーコンをイメージ)を使ってベーコンエッグトーストもどき。

 

トーストとは言ってもトースターはないので釜らしきもので軽く焦げ目がつくくらいに焼く。

 

続いてベーコンをフライパンに放り込み、焼けてきた頃には匂いに誘われて何人かの山賊が起きてきた。

 

「おー…いい匂いだ、アレン……ってすげぇなお前!」

 

「は!?お前ほんとに5歳なのか!?」

 

あ、余談だが俺は既に山賊たちには溶けこんでる。誰もやりたがらないくらいに溜まってた汚ない洗濯をやったのが効いたらしい。

 

「ありがとうございます!」

 

微笑んで、次々とベーコンとスクランブルエッグをトーストに乗せて、起きてきた山賊たちに渡していく。

 

「おはようございます、朝ごはんできてますよ!」

 

そうして山賊たちの起床ラッシュもそろそろ終わるか、というくらいになって、やっとエースが起きてきた。

 

否、起きてきたというのは語弊があるか。

 

やっとエースは男部屋から出てきて、食卓(?)についた。その顔を見るに、今起きたようなそれではないためずっと前に起きていたんだろう。

 

「おはよう、エース。卵、きらいじゃないよね?」

 

返事が返ってくるとは思わないが、確認程度に声をかけた。

 

「…きらいいじゃねぇ」

 

……。は!?エースから…エースから返事が!?

 

「あ、ああ良かった!じゃ、のこさないようにな!」

 

え、やだめっちゃ嬉しい笑

 

極めて冷静を装ってエースの前にお手製ベーコンエッグトーストの皿を置いてキッチン(?)に戻り盛大にガッツポーズをかました。

 

よっしゃああああああ!!!

 

もしかして、もしかしたら!!あるんじゃね!?!?俺ったら天才かも知んない!エースが!!エースの殻!破れたかも!!!

 

「スゥウウ………ハァアアアアア…。おし!!」

 

自分を落ち着かせるためにも、大きく深呼吸をしてそれから掛け声と共に両頬を叩いた。

 

「っ…!!いってぇ…」

 

叩いた頰がジンジンと熱く痛むが、それよりもエースと仲良くなる道が見えたことが嬉しくて、ずっと愉快な気持ちのままだった。

 

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

「おい、アレン!来な」

 

朝食で出た洗い物の最中、ダダンに声をかけられ振り向いて驚いた。

 

なんと彼女が抱えていたのは大量の食材とちょうど欲しいなと考えていた調味料だったからだ。

 

「え!?それって…」

 

「食材と調味料さ。今日からお前は調理係だ。洗濯も続けてもらうが、朝昼晩、3食作りな」

 

ダダンは俺とは目を合わせずにあらぬ方を見ながら続けた。

 

「野郎どもが朝飯を気に入ってうるさいんだよ。文句を言うなら出てってもらうよ!」

 

…ツンデレかよ。でもまぁ、ダダンのそれは正直どうでもいい。扱き使ってんのには変わりないし。

まぁ文句はないんだけどね、楽しいから。

 

「ありがとうございます!まだかんたんなものしか作れませんけど…がんばりますね!」

 

 

 

 

あれから小一時間。俺はひたすらじゃが芋を剥いている。

 

昼食にポテトでも作ろうかと思ったんだが…流石にこの人数分の芋を5歳児が1人で剥くのは少々無理があったようだ。

とは言っても山賊たちは仕事(山賊業)に出ていて現在この家にいるのは俺とエース…。

エースは朝のアレ以来接触なし。段々と俺の希望の色も淡くなり始めていた。

 

…のはほんの10分前で。

 

今は現在進行形で、出入り口に向けた背中にエースの視線を感じている。

 

もしかして?もしかしてのもしかして?

 

「おいアレン」

 

よっしゃああああああ!!!(2回目)

 

「…なんだ?」

 

内心阿波踊りで、表面上は極めて冷静に取り繕って返事をした。

 

「て、てつだってやろうか…?」

 

「あ、いいのか?」

 

盛大にツンデレを発動して頬を赤らめるエースににっこりと微笑んで、んじゃ頼む、と小さな果物ナイフを渡した。

 

そこからは、まぁご想像の通りだろう。

 

エースはすっごい不器用だった。可愛いから許すけど。

 

不器用すぎて皮剥いたはずの芋が皮より薄い…なんて事態もちょくちょくあったけど、地道にエースにナイフの使い方を教えながら皮を剥き続けることまた1時間ほど…。

 

エースはすごい!集中力すごいし、何よりナイフの習得が謎なくらい速い笑

 

終わる頃には皮の薄さが2mm程度にまでなっていた。

明らかに俺より速い。主に習得が。

 

そんなこんなで楽しい兄弟(?)の時間を過ごして、いつの間にかエースはより自然体で俺の前に居てくれるようになって、誰も明言はしていないものの、本当に兄弟のように接してくれるようにもなった。

 

流石に兄貴呼びはないが、高望みはダメだろう。またツンデレ発動して面倒なことになったら、

絶対俺しょげちゃう(´・ω・`)

 

まぁ、無事仲良くなれて1件落着!なわけだったんだけどなぁ…まただよ…。

 

知ってるか?俺のじぃちゃんの性格を……。

 

 




ガープ…面倒くさそうだ…。

サボ登場まであと1年!ルフィ登場まであと3年!それまでは基本はこの二人の話ですが、たまにガープが自己主張してきます。


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第3話 襲来

ガープさんが何もしなければいいのですが…。
てか私の文章力が尽きなければいいのですが…。


そんなこんなで第3話です!


さて、俺は今実の祖父によりヘッドロック(全力でハグ)されている。

 

ガープと別れてまだ3日目である。どうしてこんなことになったのか……。まぁ、簡単なことだ。

 

自他共に認められるほどに、孫のことが好き過ぎたのだ。

 

しかし孫に好かれたい、その一心の行動であるはずが可哀相なことに、大概の行動は逆に嫌われるという何とも気の毒なじいさんだった。

 

皆でも嫌うと思うよ。5歳児を立派な海兵に仕立てあげるために猛獣たっぷりの島にたった1人放り込んだり、風船に取り付けて飛ばそうとしたり(これはマキノさんが止めてくれた)、自身最高の武器であるはずの拳骨でしごいたり。

 

やることなすこと全てが一般人の思考の斜め上を行っていた。

 

今回のヘッドロック(強烈過ぎるハグ)はまだ可愛いものだ。例え、ガチめに首の骨が悲鳴を上げようとしていたとしても。

 

「ちょ……じぃちゃ……!…くるしっ…!!」

 

やっとの思いでガープにそれを伝えて離してもらったら首が痛みが酷く、むせて咳が止まらなかった。

 

「どうしたんじゃアレン!風邪か!?」

 

なんでそうなる!?どう考えてもこれの原因アンタだろ!?

 

ガープはすごくバk…素直だった。そして背中に突き刺さる誰かの視線…

 

「おおエース!アレンと仲良くしとるか?」

 

嬉しそうなガープの声につられて振り返れば、そこにいたのは今まさに起きたばかりというエースだ。

昨日とは打って変わって険しい顔つきだ。

 

「なんだよ、ジジイ」

 

うわぁ…めっちゃ怖い。

知ってるかも知んないけどガープ、エースからの嫌われ方がすごいんだよ。それでもエースに笑って対応するガープには尊敬するよ、そこだけ。

 

「様子を見に来たんじゃ!」

 

 

「仲良くしてるよ。エースは優しいからね」

 

そう言ってガープを回れ右させて背中を押した。

 

あんたのせいで今はかなり機嫌が悪いけどね。なんて口が裂けても言えない。

 

「ほら!まだしごとあるんじゃないの?上のひとにおこられるよ!」

 

上の人とは、もちろんセンゴクのことだが、今はおつるさんの方が来ているらしい。

 

「おお、そうじゃ。おつるさんが来ておるんじゃったわ。アレン!エース!またゆっくり来るからの!」

 

来なくていいよ…。

 

心の中で呟き、エースを見て思わず吹き出しそうになった。

 

いやー。すごい顔してたね。なんて言うか…『もう来んじゃねぇ!さっさと帰りやがれこの野郎!』って顔に書いてあるんだよ。なんて分かりやすい…。

 

ガープには代わりに俺が笑って手を振っといた。

 

「じゃあねーじぃちゃん」

 

エースの視線が俺にも刺さってるのがわかった。

 

どんだけガープのこと嫌いなんだよ。

てかガープはほんとに何のために来たんだ…?まじで嵐だな…。

 

 

 

 

━━━━━━

 

ガープが去って急に静かになった家の中で、エースはまた俺の手伝いしてくれていた。

他の山賊の皆はまた仕事で、河口付近に貴族の木材が放置されてるらしく、それを掻っ攫いに行ったため、更に静かだ。

 

「なぁアレン、アイツのこときらいじゃねぇのか?」

 

「そりゃ決まってんじゃん。きらいだよ」

 

エースはまた眉間にシワを寄せて難しい顔をしていたのでまた逆戻りかとひやひやしていたが、ガープのことだったらしい。

 

俺の答えを聞いて少し笑顔が溢れた。

 

「だっておれのこと、ころそうとしてるとしか思えないことしかしねぇんだもん。すきになれってのがむりあるでしょ」

 

生肉を1口サイズに切りながら笑う。

 

ちなみに今日の昼飯は唐揚げにする予定だ。

 

「お前もされたのか?」

 

「そうだけど、『も』ってもしかして…エースもか?」

 

まぁそうだろうけどね。でないとあんなに嫌うわけないし。

 

エースは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「むじんとうに放りこまれたし、風船にくくりりつけられてとばされたし」

 

「あ、それもうされてたんだ…なんかごめんな、おれのじぃちゃんが」

 

見てもらってわかるように俺たちはもう、じぃちゃんの素行の被害者として完全に打ち解けている。

 

こんなだけど一応じぃちゃんには感謝してる。おかげでエースと同族意識みたいな感じで仲良くなれたし。

 

「あ、そうだエース、明後日の分の肉がなさそうだし、あとでいっしょにかりに行こうぜ」

 

窓の外で木に逆さ吊りにして血抜きをしている牛を見ながらエースにまたじゃが芋を渡した。

 

「いいぜ。…これ、またむくのか?」

 

じゃが芋を受け取りながらエースはなんだか変な顔をする。

 

なんだその顔は…。

 

「ポテトサラダにしようと思ってさ。芋も卵も余ってるし、ダダンがくれた調味料の中になんかマヨネーズも混じってたし」

 

なんかもう…この世界の世界観がごっちゃごちゃになりつつあるのは放っておこう。あって困るものなんてそうないんだし。

 

笑顔の俺とは対称的に、エースは思案顔になっていた。

 

俺なんか難しいこと言ったか?

 

「ぽてとさらだ?ってなんだ?」

 

「………。」

 

まさかポテトサラダの本質を聞かれる日が来ようとは流石の俺も思ってなかったなぁ。

 

「うーん…ポテトサラダは……せつめいしにくいなぁ。まぁ食べてみればわかるよ、おいしいから」

 

また芋を剥く作業が続くことを伝え、エースにナイフを手渡した。

 

エースは芋の皮剥き作業に飽きてるみたいだけど、文句言わないでやってくれるとこ優しいよね。

 

あ、皆。普通は4歳児や5歳児にナイフなんて持たせちゃダメなんだよ。料理当番なんて尚更ダメなんだし、この世界の世界観がおかしいんだよ。

 

 

 

 

それから数十分。俺はやっと大量の肉を切り終えた。

 

「……さて、と。あげよう。エース!危ないからちょっとはなれた方がいいかも」

 

そう、油は跳ねるんだよ。しかもこの世界の油は現実世界(?)より少し跳ねやすいみたいだ。

なんでかは知らない。見栄えがいいからだろうか?

 

「ああ、わかった」

 

エースは芋の入ったバケツごと1mほど移動して、もう一度座り直した。

 

はい。なんか従順で可愛いです。アニメとか漫画でイメージ強かったツンデレ感は残しつつ、弟としてめっちゃ可愛いです。

 

「じゃ、いざ!!油へ!ポーンっ!!」

 

知る人ぞ知る、あの名言!言ってみたかったんだよ、これ。

 

エースの視線がなんか冷たいけど気にしないでおこう。

 

「なんだよそれ」

 

「名言」

 

「は?」

 

「言ってみたかっただけだから、気にしないで。で、エースはできた?」

 

やっぱ気にしないでおくのはできなかったから、取り敢えず話題を変えた。見た感じ、エースも出来てるっぽかったし。

 

「あ、ああ。これ、どうすんだ?」

 

「これはなー、このままゆでて、スプーンとかでつぶすんだ」

 

芋がてんこ盛りになったバケツを寸胴鍋にひっくり返し、水を入れながらエースに手順を説明する。

 

俺としてはこのまま、エースには簡単な料理を作れるようになってもらおうかと思ってます。

 

料理の大変さを知ってくれたら、比較的常識のあるエースはつまみ食い、止めてくれると思うんだよ。だから今からつまみ食い防止プログラムを始めます。

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

あれから数時間、無事昼食も済ませ洗濯もエースが手伝ってくれて。

 

俺泣きそう!!エースってこんな良い子だった!?すげぇ嬉しいんだけど!?!?

 

とか思ってたら足滑らせて川にざぶーん。

 

何してんだよ俺!!!!

浅いとこだったから良かったけどね!?下手したら死んでたよ!?!?

 

「……そういえば、おれって能力者だったわ…。なぁエース、ちょっといいか?」

 

完っ全に忘れてたけど俺そういやマキノさんに悪魔の実食わされてたんだっけ…。

危ない、危ない。神がどうこうの前に俺の不注意で死ぬとこだった…。

 

「能力者?なんだそれ」

 

あ、そこからなんだ…。まぁそうだよなぁ。ここ山ン中だし。海の悪魔なんて聞いたこともないだろうなぁ。

 

「能力者ってのはな━━━」




………。見事に文章力が尽きましたね!
すみません、次回からどうにかしたいと思います。


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第4話 拾い物

早いもので既に幼少期、第4話になりました。

更にブラコンに磨きがかかってきもくなるアレンと、それに気付く由もない純粋なエース。

エースが兄のブラコンに気付くのは当分先になりそうです。


それからタイトルでネタバレしている通り、とんでもない(?)拾い物をします。

そんなこんなの第4話。どうぞ






「能力者ってのはな━━━海のあくまって呼ばれることもあるあくまの実ってのを食べると、とくべつな能力を得られるんだ。でもその代わりに海にきらわれて、一生およげない体になる」

 

エースは眉をひそめた。

 

「じゃあアレンはもうおよげないのか?」

 

「まぁそういうことになるね」

 

俺の返事を聞いてエースは残念そうに肩を落とした。

 

「なんだ?海にでも行きたかったのか?」

 

エースは俯いたままこくりと頷く。

 

何この可愛い生き物。可愛さが破壊的だな。

え?ブラコンですが何か?言っておくが俺はブラコンだ!

 

「うーん…およぐのはどうしようもないなぁ。あ、でもおれの能力なら海に入れるかも」

 

「『入れる』?どういう…?」

 

「まだちょっと調節してないからわかんないけど…まぁ見てて」

 

 

 

━━━━━━

 

 

青い海!照りつける太陽!きらきら光る波が眩しいね!!

 

…はい。簡潔に言うと、思ってたのと形は違えど一応は出来ました。

 

俺が思ってたのは、パラパラの実で俺の能力の変更が出来るなら、基本のとこを、魚人みたくエラ呼吸にすれば泳げなくても海ン中で呼吸出来るかなーって考えてたんだけど、本質は変えられなかった。

 

でもその代わりに、特殊能力の部分に動物との意思疎通を加えてみたんだよ。

 

そしたら大成功。運良く近くを通ったデカいカモメが背中を貸してくれて、エースが魚を獲ろうと奮闘してるのをソイツの背中から観戦してます。

 

既に俺が持ってきてた網の中は小さいのから大きいのまで、大量の魚でいっぱいだ。

 

「おーいエース!そろそろ帰るか?」

 

ちょうど海から顔を出したエースに声をかければ、エースは獲った魚を掲げて笑った。

 

「今行く!」

 

もう可愛いね、エース。原作ではお兄ちゃんだからって気張ってたけど、今は弟だしすごい可愛い。

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

家に帰り、大量を魚を捌いてる間、エースには悪いけど洗濯物を畳んでもらった。

 

もうね、よく働くね。原作じゃもっとなんか生意気な感じだったはずなんだけど、変に原作知識(5年も経ってるとあまり覚えてはいないのだが)があるからか、ギャップで更に萌えるね。

 

ふと、捌いた割と大きめの魚の腹わたを見て、完全に思考がストップした。

 

否、腹わたそのものではない。そこから覗く、明らかに不自然なものに、だ。

 

「……手錠?」

 

海軍が持っているはずの海楼石の手錠だ。しかもご丁寧に鍵まで一緒に紐で括りつけてあった。

 

確認程度に触れてみて、ひどい虚脱感に襲われたので間違いない。

 

「どういうことだ…?」

 

普通にこういうのが落ちて(?)ていいのか?

 

海軍……あ。

最近この近海に来たのってガープの船団じゃね?一番可能性高いじゃんか!あの人の性格とかも全部含めて一番怪しいよ!

 

いくら強いからって、こんな適当なやつがこんな上にいていいのかよ海軍……。

 

「アレン?どうしたんだ?」

 

洗濯物を畳み終わったらしいエースがキッチンにひょっこりと顔を出した。

 

この手錠さえなければ俺はたぶんエースが可愛いとか脳天気なこと思ってたんだろうな。

 

「いや、な。これ…見ろよ。海軍の手錠だ」

 

エースは訝しげに片眉を釣り上げた。

 

「ジジィのか?」

 

「…たぶんね」

 

つい推測を口にして、やばいと思って口を押さえたが時既に遅し。ニヤリと意地悪く笑ったのは他でもない、エースだ。

 

あー、絶対悪いこと考えてる顔だなぁ、こりゃ。

 

「ジジィには返さねぇで、もらっちまおうぜ、これ」

 

はい犯罪ですねー。

 

海楼石についての説明は既に済ませているのでどんなものなのか知ってるはずなんだが?否、知ってるからパチろうとしてるのか?

 

「いや、じぃちゃんの物とはかぎらねぇけど、返しといた方がよくないか?」

 

一応言ってみるがエースは聞く耳持たず。触れない俺の代わりそれを手に取った。

 

「いいじゃねぇか。おれはいつかかいぞくになるんだ。海軍から何かとったって変じゃねぇだろ?」

 

まぁそうですけど。そうなんですけど!

 

……あ。

 

エースと海軍…それからガープと言えば?

マリンフォード!…だっけ?やばい忘れてた!!

処刑じゃんか…血の繋がりがないとはいえ、もう本当の兄弟も同然…。処刑はやだなぁ。

 

よし、決めた。エースの処刑止めさせよう。

 

俺の目標決定!!ちなみにこの間0.5秒。

 

「……まぁそうだな。じぃちゃんにはひみつにしよっか」

 

ごめんガープ。取り敢えずこれ貰っとく。

たぶん、これもあのくそ髭じじいの図ったことだろうし。

使えるもんは全部使おう。

 

……よし。これからは取り敢えず鍛えよう。

 

今でも、二人掛かりでならこの山の猛獣の比較的弱い奴から普通(それでも一般人は瞬殺で殺られる程度)のやつなら倒せるけど、さらに上だ。

 

10歳までには1人でこの山の主をボコれる程度に!

 

「なぁエース、おれのしゅぎょうに付き合ってくれよ」

 

 

 

そんなこんなで俺の楽しい修行の日々が始まった!……はずだったんだが。

 

現実(?)はそんなに甘くはなかった。

 

俺とエースは主に炊事洗濯に追われる主夫になってました。

 

なんでだ!?!?俺、ちゃんと鍛えれんのかコレ?!!




炊事に洗濯…完全に主夫でした。
アレンは無事に第1の目標である山の主に辿りつけるんでしょうかね。

それからアレンの紹介がまだでした。
 
━━━━━━

モンキー・D・アレン(5)

黒髪、碧眼。
髪はストレートとも癖っ毛とも言い難いすごく微妙な癖毛。前髪が短いサンジみたいな髪型。

将来有望なイケメン予備軍。


2歳で既に能力者になった。
マキノさん曰く、アレンがお腹が空いたと訴えてきた時にちょうど柔らかそうなバナナみたいな果物があったから剥いてあげたらしい。100%善意だったが、すごく反省しているとのこと。

パラパラの実を食べたパラメーター人間。

他人と自分の能力値を入れ替えたり、イジったりできる。何より、悪魔の実の食べられる上限を変えられるらしいが、本人はまだ気付いていない(後に自分で発見する)。


5歳にして原作改変を心に決め、修行を始めようとするが大量の家事によって阻まれた。

しかし既にコルボ山の猛獣の下っ端の方(一般人なら確実に殺られるやつ)なら1人で倒せると思われる。

エースより強い。



━━━━━━━

…もうエース超えちゃってるね!!当たり前か。お兄ちゃんだもんね!!

ごめんなさい黙りマス。

次回は修行のことと、ついに後のもう一人の兄弟登場です!


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第5話 修行、そして出会い

まずはお詫びです。
感想欄にて「パラパラの実を他の作品で見たことがあるのでパクリと言われるのでは」というご指摘をいただきました。

パラメーターとかイジって悪魔の実いっぱい食べれたら最強なんじゃね(黒ひげ的な)!?という軽いノリでしたので、類似作品には注意を向けていませんでした。

パクったつもりは微塵もありませんので、気分を害された方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。

ご指摘ありがとうございました。



そんな感じで温かい(?)目で見ていただけてるんだなーと調子に乗って第5話です!





さて。俺は自分の夢…とも言えないか。最終目標を決め、そのための第1の目標も決めたわけだが……。

 

 

俺は(同じく海賊に目標を定めたエースもだが)未だに本格的な修行に取り組めず、家事の最中やその合間にちまちま、ちまちまとスクワットやら腹筋運動やら腕立て伏せやら、基礎筋力を鍛える運動を続けて早いものでもう半年…。

 

これがどういうことかお解りだろうか。

 

「まじで何っにもできねぇ!!!!」

 

晩飯用の寸胴鍋2つ分のクリームシチューをかき混ぜながら思わず声を荒げた。

 

あれから俺はエースとともに主夫として多忙を極め、一般の家事と、普通の主夫としてはあり得ない猛獣相手の食料確保等、修行もくそもない半年を送っていたわけで。

 

まぁ猛獣相手の食料確保は少しは修行になるのだが、それだけでは足りないのが現実だ。

 

エースも不満らしく、洗濯物を終わらせた後、料理の手伝いもそこそこに山賊たちの手伝いに出ることも増えた。

 

うん。俺は完全に不完全燃焼。

 

エースは山賊についていくことで発散できてるかも知れないが俺はずっとキッチンに磔だ!!!

 

まじで何っにもできないんだよ!!!

 

まぁそれでも俺はまだエースよりは強い。

原作でもあった試合形式のあれ、俺が提案して至極たまにやってるからそれは確実だ。

 

あ、ちなみに今はこの場にエースはいない。

 

俺の手伝いで山菜採りに行ってくれてんだよ。優しいね。修行もあんまりできなくて不満なのにね、手伝ってくれるんだよ。

 

お兄ちゃん泣いちゃう!!

 

スミマセン、黙ります。

 

「おいアレン!すげぇいっぱい採れたぜ!」

 

そんなこと考えてるうちに、エースが帰ってきた。

 

その腕には色んな山菜が山盛りのデカいざる。今にも溢れんばかりだ。

 

めっちゃ嬉しそうな笑顔が眩しい。てか可愛い。超可愛い。

 

「おお!さんきゅ!今日は野菜炒めだな!」

 

俺がそのざるを受け取って野菜炒め宣言をすると、エースはすげぇ笑顔になった。

 

大好物なんだよな、俺の野菜炒め。原作では野菜嫌いなのかなーとか思ってたんだけど、今はすごい喜んで食べてくれる。

 

皆!俺はここに宣言しよう!!

 

手料理を美味しいって喜んでくれる人がいれば料理は上手くなれる!!

 

実際俺もそうだ!なんかもう、喜んでくれんのがすげぇ嬉しくて頑張ってるうちにいつの間にかシチューとか作れるようになったよ!!すごいね!!!!

 

…はぁ。俺は何を目指してんだ……。

 

「アレン?どうかしたのか?」

 

エースが心配そうに俺を覗き込んだ。

 

天使かっ…!やばいブラコン悪化してるわ笑

 

「いや、ちょっと何を目指してんのかわかんなくてさ。それより、このシチュー混ぜといてくれないか?焦げ付いちまわないようにしないと」

 

笑ってエースにお玉を渡し、俺は野菜炒めの準備を始めた。

 

え?シチューが危ない?もうそんなことないんだな、それが。

 

エースは、俺のつまみ食い防止プログラムによって食べ物の大切さを知ってくれた!よってつまみ食いはかなり腹が減ってるときでないと発生しなくなった!

 

そして俺は皆の腹がひもじくないように量もハーブも工夫するようになったから腹は減らさせない!!つまりつまみ食いはない!!!

 

すごいよ!ハーブって。

 

食欲を抑える働きをするやつとかあるし、重宝させてもらってる。

 

「な、アレン。今日森で変なやつに付け回されてよ。なんかすげぇ見られてたんだ。昼飯終わったら来てくれないか?」

 

俺の言った通りにシチューを混ぜながら、エースはそう切り出した。

 

「ほー。いいぜ、でもどんなやつだったか覚えてるか?」

 

「……あ、なんか、子どもだった。よく見えなかったんだけど、帽子は見えた。変な帽子だったぜ」

 

現在エースは5歳。5歳で出会う、エースがあまり見ない帽子を被った誰かと言えば?

 

そう、サボだ。サボ!

 

YES!!!

 

心の中で盛大にガッツポーズを決め、手は平静を装って山菜を一口サイズに切っていく。

 

やっと!やっとサボだ!!

 

……でもなんでエースは俺を呼んだんだ…?貴族降りたてのサボよりエースはずっと強いだろうに、何故俺を?

 

うーん…俺が兄貴分だからか?だとしたらすげぇ嬉しいんだけど…。

 

ま、いっか。俺イレギュラーなんだし。ちょっとくらいそういうとこ変わっちゃってもどうしようもできないよね。

 

そんな風なことを考えながらでも野菜炒めを作る手は止めず、さっさと手際良く作る。

 

シチューの火も止め、野菜炒めが出来上がる頃には日は頂点に達し、山賊の皆も腹が減ったとキッチンに顔を出しに来る。

 

それぞれ皿に装い給仕しながら、ダダンに声をかけた。

 

「なぁダダン、俺さ、修行したいんだけど朝飯か洗濯物の仕事、返上していいか?」

 

ダダンは片眉を釣り上げる。いかにも不満そうだ。

 

「何言ってんだい。仕事しねぇなら放り出すよ!」

 

「お、いいね、俺それでもいいよ。エースと二人で家造っから」

 

「なっ…!?」

 

「うそうそ。でもちょっと暇が欲しいな、俺としては」

 

ダダン可哀想だし、割と本気で家出を考えていたとは言わないでおこう。

 

ニコニコ、ニコニコとダダンに向けて笑顔で待機。

 

至極穏やかな笑みを浮かべているつもりだが、ダダンは青くなった。なんでだ?

 

「す、好きにしな!」

 

「よっしゃああああ!!!エース!これで取り敢えず朝は修行できるぞ!!」

 

遠巻きに俺とダダンの様子を伺っていたエースを振り返り、ピースサインを送る。

 

何故かエースの顔が引き攣ってたが、気にしないで………っていうのは無理だった。

 

「なんでそんな微妙な顔してんだよ、エース?」

 

「いや、なんか…。気温が下がった気がした」

 

なんだそれ…。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━

 

 

そんなこんなで昼飯を済ませ、洗濯物はまだ乾かないのでそのままエースについて森に入った。

 

サボかぁ…てか5歳のサボってどんなだろ…?

 

とか考えてたら早速何かの視線を感じた。

 

あ、言ってなかったけど俺、見聞色の覇気的なのが使えるみたいだ。そこまで強力でもないが、軽く気配を感じる程度…。

 

今までずっと背後からのエースの視線とかを感じてたのはコレらしかった。

 

「そこだ!」

 

10時の方向に、思いっきり小枝を投げた。

 

「うぉっ!?」

 

びっくりして転がり出てきたのは…案の定ちっさいサボだ。

 

え!?何やだ可愛い!!ちっさいサボ可愛い!!!!

 

「誰だてめぇ…」

 

エースが威嚇して低く構える…が。今はサボはまだ一般人だ。

 

「エース、止めろ。一般人だぞ、可哀想だ」

 

いくら下っ端とはいえ、一般人なら瞬殺のコルボ山の猛獣相手にいい勝負ができる5歳児(エース)なんだ。

 

流石にサボが可哀想…。

 

「…で、あんた名前は。」

 

エースを右手で抑えながら詰問する。

 

サボはキッと俺を睨むが…うん。あんまり怖いとは思わない。

 

「…サボだ」

 

サボは警戒心丸出しで俺たち二人を睨みつけたままだ。まぁでも答えてくれる辺り、人の良さと育ちの良さが覗える。

 

少し落ち着いてきたらしいエースから手を離した。

 

サボはそれを見て身構えたが、エースが飛びかかることはなかった。

 

「じゃあ、サボ。今朝俺の義弟のこと付け回したんだって?」

 

 

 

 

 

 




…はぁ。昨日の朝から体調崩して今朝にはゲロリーナしました。つらたん(´・ω・`)

細菌入ったかもしんないです…。しんどい。


ずっと寝てるし、テストゥなので投稿ペース落ちるかもです。

勉強はしない主義です。


次回はサボとの馴れ初め(笑)です。


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第6話 友に、そしてまた出会い

急ピッチ!!そしていつもの事ながらテストが死にました!追試嫌だぁああああ!(決して赤点を取ったわけではない。テストの日に休んだだけ)


今回はサボとの馴れ初め(笑)です。いつもより字数が倍程に膨れ上がっているのは欲を出した所為。


アレンくんはいつもは脳内お花畑なブラコンですがたまに性格の悪さが顔を出します。

そしてエースひどい。

そんな感じの第6話です!どうぞ





「じゃあ、サボ。今朝俺の義弟のこと付け回したんだって?」

 

身構えるサボに至極穏やかな笑みを向け、柔らかく聞いた。

 

………つもりだ。ちょっと威嚇的になっちゃった?

ま、いっか。

 

「付け回し……?俺はただソイツと友達に」

 

「………。」

 

うん?エース?この子すごい良い子だよ?

 

にっこり微笑んだままエースを見れば、彼はバッと顔をそらした。

 

「エース?」

 

絶対に顔を合わせない。

 

覗き込もうが回り込もうが、エースは顔を合わせてくれない。

 

「1個聞くぞ。サボの話聞いてやったのか?」

 

エースは顔をそらしたままで首を振った。もちろん、横に。

 

「…。」

 

まじかよ。いや、ね。そうかなーとは思ったよ?

 

話聞いてる限りエースは付け回されたって言ってたし、正面切って話してないんだろーなぁ、とは。

 

聞くことすらなかったのか。

 

ぐるりとサボに向き直り、頭を下げた。

 

「まじごめんな、サボ。俺の弟、すげぇ警戒心強いんだわ。それにたぶん、俺たちと同じくらいの子どもをここで見たのも初めてだったろうし。悪気はないんだ、許してやってくれ」

 

サボはすごく微妙な苦笑いだ。

 

「俺は別にいいんだけど…」

 

「ほら、エース。せめて謝りなよ。結構良い奴なんだし」

 

そう言ってエースの背中を叩いた。

 

ほんの少し強めに叩いたことは言わないでおこう。

だってサボすげぇ良い奴だし、可愛いし。

 

「わ、悪かった……」

 

耳まで真っ赤にしながら、エースは俯いた。

 

よし。可愛いから許そう。まぁ許すの俺じゃないんだけど。

 

「どーも……?」

 

「んじゃ!仲直り(?)したことだし、俺たちん家来る?あんたが良いなら、晩飯ご馳走するよ」

 

そんなことを言いながら半ば強引に二人の手を取った。

 

初対面のサボはともかく、何故かエースにも拒否されかけたが俺は筋力的にもエースよりかなり強いため手を振り解かれることもなく、ずるずると引き摺るように3人で仲良く(笑)手を引いて帰った。

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

「さて!」

 

パンッと両手を打ち合わせ、微笑んだ。

 

「そういえばメインディッシュがなかった。エース、サボ、食料調達手伝って?」

 

またも苦笑いのサボはともかく、明らかに呆れた様子のエースには少し悲しくなる。

 

お前いつの間にそんなに大人になっちまったんだ?

 

「さっき牛があるって言ってたろ?」

 

「ダメだ。あれは明日の晩飯!今日の晩飯はあっさり目にしたいんだ!」

 

きっぱりと宣言すれば、エースは更に呆れた顔で溜息を吐いた。

 

「別にどっちでもいいだろ?」

 

「なんだと?!俺は今日はあっさりな口になってるんだ!今更変えれるか!!」

 

「変えろよ!!」

 

「だがしかし!!変えられないんだな!!!」

 

「バカだろ!」

 

「なんだと?!!」

 

完全に置いてけぼりのサボである。流石に可哀想なので話題を振る。

 

「サボはどっちなんだ?!めっちゃ魚食いたいときに肉料理出てきたらガッカリするだろ?!!」

 

「そういう問題じゃねぇ!!!」

 

いきなり飛んできた話題に反応する間もなく、またもサボはエースによって置いてけぼりにされた。

 

そしてついでに言うとエースは俺に蹴りを入れようとしたので軽く躱し、後ろ手に固めた。

 

「っ!!離せよ!アレン!!!」

 

「バーカ。誰が離すか、兄貴に蹴り入れようとする奴なんかよ!」

 

俺は完全にしてやったり顔だ。

一方サボは……なんだかものすごく微妙な顔だ。

 

あれ?サボってこんな微妙な顔する子だったっけ??

 

「仲良さそうだな…?」

 

「「なんで疑問形なんだ?」」

 

見事にハモる。

 

これのどこに仲良さそうに見えない要素があるんだ?どこからどう見ても仲良さげじゃないか。疑問形になる意味がわからない。

 

「いや……。やっぱちょっとお前らよくわかんねぇよ」

 

サボは諦めたように笑った。それに思わずエースを見れば、エースも首をひねって俺を見ていた。びっくりしたようだ。

 

「笑っ…!?普通に笑えるのか!?」

 

「なっ…!?失礼だな!」

 

「いやだってお前、ずっとすげぇ微妙な顔か苦笑いしかしてなかったじゃんか。笑えないと思うだろ普通」

 

「いや思わねぇよ普通」

 

だって、なぁ?俺たちは今まで俺たち2人以外の子どもは見たことがないわけだ。

 

つまりは大人がどういうものかは知っているが子どもは知らない、ということであり、初めて会った子どもであるサボが笑わなければ、俺たち以外の子どもは笑えないのかも知れないという仮説に至るわけで。

 

まぁこれは俺の勝手な想像だから普通にサボが笑わないから笑わない人間だと思った、とそれくらいだろう。

 

「知らないんだからしょうがないだろ。ってことでサボ、教えろよこの国のこと。この世界のこと」

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

 

 

はい、どーも皆さん。お久です。

 

俺が無理矢理サボを専属家庭教師(笑)にしてから早5年。

 

え?早いって?当たり前だ。割愛なんだから。まぁそれは置いといて。結論から言おう。

 

サボは素晴らしい!!

 

何故ならその博識さ。それを使う場所。そしてそれを教える腕!すんばらしい!!!

 

何を言いたいのかと言うと。

 

サボが5年で教えてくれたのは大きく分けて3つ。

 

1つはこの国のこと。俺の言葉通りだ。この国の成り立ち、歴史、貴族の思考から庶民の意見まで、手に入る情報全て。

 

2つめはこの世界のこと。これも言葉通り。この世界の人種のことから世界史、そして現在の海の3大勢力等、色々な情勢。海のことに関しては、俺とエースで頼み込んで教えてもらった。あまりよくは知らなかったみたいだが最低限のことは知っていた。流石は貴族。腐っても貴族。英才教育だ。

 

そして最後、3つめには航海術。天気の予想から簡単な操船法、海図の読み方。これは主に俺からの頼みだ。

 

そんな感じであれやこれやの無茶振りを続けても尚、サボはそれに答えてくれた!

 

その代わりと言っちゃあ何だが、俺たちは2人でサボにこのコルボ山で生きていく上で必要な戦い方(鉄パイプ)をきっちり教えた。

 

ちなみにサボの家はグレイターミナルではなくコルボ山(同居中)だ。

 

結果!!俺たちはすごく仲が良くなった!ついでに言うとサボはダダンたちとも仲良くやっている!

 

そりゃね、ダダンたちもはじめは嫌がったよ。はじめは。だってどこの誰とも知らない子どもがいつの間にか家に上がりこんで飯たかってるんだよ。しかも寝床まで用意してる。

 

普通の家でもちょっと嫌じゃん。それなのにこの家ときたら、山賊の家だわ海賊王の息子匿ってるわ(これはまだ俺も知らないはずの情報だが)。

 

気が気じゃなかったはずだがサボがすごく良い子なのに加え、気が利いて賢い子と来ればもうすぐに打ち解けた。

 

そして今はすごく仲が良い。そりゃあもう本当の家族みたいに喧嘩するくらいには。

 

そして現在も、読書中の俺を挟んで喧嘩中である。内容は……

 

「だから俺は洗濯もんは畳まねぇ!関係ねぇだろ俺は!!」

 

ダダンが日頃飯を食わせて寝床を貸してやってる代わりに働け、というのだ。

 

飯食わせてるのは俺なんだけどね。配膳も調理も食材調達も。調達に関してはサボも一緒なのでそれでいいと思うのだが(エースはそれで良しとされている)。

 

「まぁまぁ、ダダンもサボも落ち着けよ。…でないと今夜の晩飯ミミズにすんぞ」

 

前半は笑顔で、後半は低い声で2人を睨み付けながら言い放った。何故ミミズかと言うと、釣りの餌用に大量に捕まえたのがまだ玄関先に残っているからだ。

 

そろそろ捨てないと臭い。

 

ただ、まぁこれは脅し文句としてかなり効果があるので何かあったときには極稀に使っている。今回も良い結果が出たようだ。

 

2人して青い顔で黙り込み、すっと一歩下がった。

 

「それでよし。…で?ダダンはなんでサボを働かせたいの。寝床は別にいいでしょ、あんたの場所は減ってないんだし、何よりサボはそんなに場所取らないんだ。それに飯出してんのも作ってんのも、食材集めてんのも俺だよ?食材に関してはサボも一緒に集めてる。だろ?」

 

2人の同意を求めれば、2人は同じように激しく頷いた。

 

「さらにあんたはエースには仕事として食材調達をやってもらってて、それを一緒にやってくれてるサボにもその上にプラス?どういう神経してんのかな?まぁ一番過労なのは俺だけどさ、サボまでそれは可哀想なんじゃない?やめてくれるかな?サボもだよ。いつもみたいにちゃんと筋道立てて反論してもらわないと、聞いてるこっちからすれば馬鹿2人の馬鹿喧嘩だね。よろしく頼むよ?」

 

終始にっこりと穏やかな笑みを浮かべ、再び2人に同意を求める。

 

「「ワカリマシタ」」

 

青い顔でコクコクと首を縦に振る2人に満足して、俺は元の位置に戻って読んでいた本の続きに意識を向ける。

 

決して、俺は現在の過労が不満であることを述べたかったわけではない………はずだ。偏りがあることは事実だが。

 

はぁ、疲れた。読書も飽きたし、晩飯の準備でもしよっかな…。

 

そう思って立ち上がった瞬間、外に何やらデカい気配を感じた。

 

この頃、俺の見聞色(笑)は進歩して少し遠くの気配や強さも感じられるようになったので間違いない。この気配の持ち主はかなり強い。

 

「…何か来たぞ。サボ、ここにいろよ」

 

近くに置いていた鉄パイプを手に、玄関に走る。もちろんサボは俺のいうことを聞いてはくれなかった。

 

なんでだよ…聞けよ、それくらい。エースじゃないんだし…。

 

「おーい、誰かおらんのか?アレン!」

 

はい来ましたガープだ……。現在俺は11歳、エースは10歳。そうだよな、そろそろかなとは思ってたんだけどな……。

 

外にいた強い気配の持ち主はやはりガープで、その隣には麦わら帽子がトレードマークのよく伸びる子が行儀悪く俺たちを見ていた。

 

俺たちというのは俺とサボなんだが…サボは珍しく空気を読めていない。

 

「アレン?誰だあのいかついジーさん」

 

「俺のじいちゃん」

 

「は?」

 

「だから、俺のじいちゃん。ジジィ、祖父、グランドファザー。ガープっていうんだけど、海兵なんだ」

 

ガープ、とその名前を出した途端、サボは目を丸くした。

 

「ガープ!?伝説の海兵って呼ばれてるあのガープ?!」

 

ちゃっかり呼び捨てにしているが、ガープ本人は気にしていないらしい。小指で鼻くそをほじっている。

 

「なんじゃ、アレン話しておらんかったのか?」

 

「あーゴメン、じいちゃんスゲーユーメーナヒトダカラ話しちゃびっくりちゃうかなぁと思ってさ」

 

嘘である。びっくりするのはびっくりするだろうが、それはきっと単純にその強さに対してだけではないだろう。

 

例えばその馬鹿っぽさとか。

 

「そーじゃったか!よしよし、アレンが海兵になる時には優遇してやろう!」

 

「いや、職権乱用だから止めてね」

 

冷たくあしらえば、ガープはいつぞやの如く置いてけぼりを食らっているサボに気が付いた。

 

「ん?誰じゃその子は」

 

てかさっきあれほど大騒ぎしてたのに疑問に思わなかったのか。逆にすげぇな。

 

「サボだよ、5年前に知り合ったんだ━━━━」

 

 

 

━━━━━━

 

 

 

そんな感じで色々語り合うこと10分程……はい。帰って来ました我が家の末っ子エース(サボは居候なのでまだカウントしていない)。

 

ガープを見つけた時の怒気がものすごかった。

 

エースは何も言わずに怒りだけを露わにして、ルフィの顔に唾を浴びせかけた。

 

「うわっ!ツバ!!きったねぇ!」

 

うん、やり過ぎだね。流石にルフィが可哀想だ。

 

「エース」

 

エースは大胆にも俺を無視し、尚も不機嫌そうに押し黙ったまま牛を引き摺り家の裏に行こうとしたが、そこはガープによって止められた。何か一言二言言われたようだが、よく聞き取れなかった。

 

「ルフィ、お前より3つ年上のエースと4つ年上のアレンじゃ。今日からこいつらと暮らすんじゃ、仲良くせい」

 

「決定ですか!?」

 

思わずツッコむダダン。哀れなり。残念ながらガープに話は通じない。一方通行だ。

 

「わしにも都合がある!それとも何じゃ、一生を豚小屋で終えたいのか?」

 

普段馬鹿そうなのに中々ドぎつい脅しだなーと他人事に思いながらエースの後ろついてその場を離れた。ついでにサボもついて来る。

 

「おいエース、あれはやりすぎだろ?会って早々ツバはひどいぞ」

 

批難がましくそう言えば、エースは一層不機嫌に俯き黙り込む。

 

深くため息を吐いた。

 

「サボにさえそんなことはしなかったのに、なぁ?サボ」

 

「ああ、全力で逃げられはしたけどな」

 

サボがニヤリと笑う。俺もそれにつられて笑みを浮かべた。

 

「ほらエース、新人くんと仲良くしてやれよ。それとも仲良くできねぇ理由があるってのか?」

 

 

 




…ふぅ。いつも以上に変な切れ方。

疲れました。ので正確な次回予告はしませんが恐らくエースによるルフィいじめになりそうです。


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第7話 兄弟


テスト終わって一息。


前回の予告もどきとは違い、アレンによるエースの説得です。

ルフィいじめは次回になりそうです。


いつも通りにgdgdな第7話です。






「ほらエース、新人くんと仲良くしてやれよ。それとも仲良くできねぇ理由があるってのか?」

 

少し挑発するようにエースに問い掛ける。

 

お察しの通りエースの父親のことですね、はい。

 

言えるわけがないよね!だって海賊王だもんね!!?なんで友達なれないのー?って聞いて海賊王の息子だからだよーってすぐ言っちゃったら隠してた意味も疎遠にする意味もないもんね!!

 

「……」

 

案の定黙り込むエースと、え、と明らかにびっくりした様子のサボ。

 

沈黙は肯定と見なす。これは常識だろう。

 

「あるのか……。サボ、ちょっと外しててくれるか?」

 

兄弟として話がしたいんだ、と小さく付け加え、サボには少し退場してもらう。

 

「……エース、今までずっと隠し事してたのか?」

 

囁くように聞いた。エースは目も合わせてくれない。ただ斜め下の一点を見つめていた。

 

「…沈黙は肯定と取るぞ?」

 

それでも尚全力で沈黙を決め込むエースに深いため息を吐いて、その手を取った。エースはそれ振り払おうともがく。

 

「は、離せよ!」

 

「いいから来いよ、いいとこ知ってるんだ。そっちのほうが静かで落ち付ける」

 

そのまま引っ張り、歩き出すとエースは諦めたように従順になった。俺の後ろをとぼとぼとついて来る。

 

「…ったく。兄貴にすら言えないって一体どんなことなんだ?言っとくけど、黙秘はなしな。隠してもバラしても、俺は何にも変わんないから」

 

手の中で、エースの手がぴくりと動いた。

 

やっぱ引け目でも感じてるんだろう。周りの対応がひどすぎるんだもんな、こうなるのも仕方がない。

 

 

 

 

━━━━━━

 

「…着いたぞ、エース」

 

エースを連れてきたのは、コルボ山の洞窟だ。しかしそこは洞窟というような洞窟ではなく、花が咲き、緑が生い茂り、澄んだ水を湛えた湖がある。

 

天井に開いた穴から自然光が差し込み、地下庭園を作り上げていた。

 

俺もここを見つけたときには興奮した。この国にもこんな綺麗なところがあるのか、と。

 

そしてここには猛獣たちは決して入ってこない。小鳥やリスといった比較的弱い立場の動物はここで暮らしているが、何故か強い動物たちは入ってこないのだ。

 

「…なんだよ、ここ……」

 

エースはぐるぐると忙しく首を回してここの全体像を掴もうとしていた。残念ながらここはかなり広い。だから一挙に把握してしまうというのは無理だろう。

 

「俺の秘密だよ」

 

笑って言った。

 

「あんまり綺麗だからずっと隠してたんだ。これで俺からの秘密は話した。等価交換だ、エース」

 

またもエースの手を引いて、近くの岩に座らせた。これはサイズも形も座るのにぴったりだから俺がいつも座ってるイスだ。

 

「は?等価……?」

 

「等価交換。等しい価値のもの同士を交換しようってわけ。俺の秘密をバラしたんだから、お前の秘密も教えてくれよって話だよ」

 

エースにとって最大の秘密であるそれを聞くには、俺の秘密はあまりに軽いかも知れないが俺の最大の秘密を明かすわけにもいかないので、今のところこれが俺の明かせる最大の秘密だ。

 

エースは明らかに迷っているようだ。視線が定まらない。もう、一押し。

 

「…エース。俺はお前の秘密が何であっても、気にしないから」

 

俺の言葉に、エースが顔を上げた。縋るような目だ。

 

「…本当に、何があっても気にしないか?」

 

「当たり前だ。兄弟だろ?」

 

エースは僅かに目を見開き、そして何かを決意したような光が映る。

 

「…わかった。全部話す━━━━」

 

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

エースの口から語られる話はどれも非道いものばかりだった。

 

自らの実父が海賊王ゴール・D・ロジャーであるということ、街に出た時に酒屋で起こした暴行事件のこと。

 

全ては、ロジャーを知らない第三者からの意見が原因だった。

 

「…んなこと俺もサボも気にしないよ、エース。お前はロジャーじゃない。エースはエースなんだから、お前の父親が過去に何してようが関係ないだろ?」

 

微笑んでエースの頭に手を伸ばした。いつもなら恥ずかしいと言って拒否するが今はエースは俯いて、それを受け入れる。

 

「それに、俺が思うにロジャーはそんな人間じゃないと思うけどな」

 

「…は?」

 

そんな人間、というのは世に言う『鬼』かどうか、ということだが、俺は小さい頃にガープからロジャーについて色々聞いている。それから見ても、覚えているだけの原作知識を合わせても、ロジャーは世間からの認識とはかけ離れた人間だ。

 

「俺、じいちゃんから昔色々聞いたんだよ。ロジャーとじいちゃんはライバルだったからね。色んな話持ってたよ」

 

今度は俺が話す番だ。エースの顔を上げさせて、微笑んだ。

 

「ロジャーの話、聞くか?」

 

エースはこくりと頷いた。

 

 

 

 





ふぅ。前回と同じく変な切れ方。

そして今回もはっきりは予告しませんが、前書きで書いたようにルフィいじめになる予定です。


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第8話 弟

よくよく考えたらルフィいじめに発展する理由がなかったため、そのまま仲良くなる路線に変更…したつもりです。

話し方違いましたらすみませんm(_ _)m

家の事情で漫画が買えないのでネットや他の筆者さんの作品を駆使して頑張ってます。

第8話です!どうぞ


「ロジャーの話、聞くか?」

 

エースはこくりと頷いた。

 

この時俺の心の中は、「エース可愛いなー」の一色だったのは誰にも言うまい。

 

「それじゃ、始めに言っとくけど、これはじいちゃんから聞いた話だからな。俺なんかよりずっとよく知ってるよ。もっと詳しく聞きたいなら後でじいちゃんに聞いてみろ」

 

エースはまたこくりと頷いた。

 

可愛i…ゲフンゲフン。

 

エースの隣に腰掛け、話を始める。

 

「これはまだ、ロジャーが海賊王になる前の話だ━━━━」

 

 

 

━━━━━━

 

 

話し終え、ふとエースを見ればエースは唖然としていた。

 

当たり前か。自分の中のイメージを全て覆されたと言っても過言ではないはずの情報を今、一気に聞かされたんだから。

 

「…どうだ?少しは楽になったか?」

 

エースは微妙な顔をしながらも頷く。それを見て俺は微笑んだ。

 

「よし。じゃあこれからは胸張れるな、エース」

 

「……おう。でも他人に話したくねぇのは変わらねぇ。サボには秘密にしねぇけど、アイツは口軽そうだから嫌だ」

 

エースは少し笑ってそう言った。心なしかいつもより笑顔が明るい。

 

「ああ、そうだな。でももしアイツの口が軽くなかったら、いつか話してやれよ?」

 

俺も笑ってそう返す。

 

「おう!」

 

うん可愛i……ゲフンゲフン。自重しよう。

 

「それじゃ、早く帰ろうぜ。サボ待たせてる」

 

エースを立たせると、エースは「あっ」と何かを思い出したように動作を止めた。

 

「待たせてたの忘れてた…」

 

「俺もさっきまで忘れてた」

 

明るい洞窟に俺たちの笑い声が響き、休んでいた小鳥たちが驚いて飛びあがる。

 

「ほらサボのためにも早く帰ろう。それに晩飯の準備が出来てないから、そろそろやっとかないとダダンにどやされるぞ」

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

「たっだいまー」

 

エースと二人で談笑しながら山を歩き、家に帰って出迎えてくれたのはもちろんサボだ。

 

「おかえり、どこ行ってたんだ?」

 

「俺の秘密の花園」

 

「は?」

 

わけがわからないという風のサボにひらひらと手を振り、エースに目配せした。エースはやはりまだ抵抗があるのか、少し迷っているようだ。

 

「ほら、話して来い。俺は晩飯のスペシャルメニュー準備しとくから」

 

トンッと軽くエースの背中を押し、サボと共に行かせる。エースは微笑んだ。

 

また少し置いてけぼりだったサボにはもう何も言うまい。

 

「さーてと。今日はステーキにでもするか」

 

パンッと両手を打ち合わせた。

 

 

 

━━━━━━━

 

 

2人が帰ってきたのはそれから1時間ほど後だ。

 

談笑する彼らの間がなんだか縮まった気がして少し嬉しくなる。

 

「おいエース、サボ!そこのルフィも、手伝えよ。晩飯だ!」

 

すでにダダンたちは晩飯(普通のやつ)を済ませた後なので、まだ食べていないのは俺たち4人だけだ。何故ルフィが食べていないのかは簡単なことで、山賊が嫌い、ただそれだけだ。

 

ルフィすげぇな…晩飯待てたんだ……。

 

「メシ!?」

 

そして反応速度が凄い。びよーんと伸びてそのままどっかに飛んでった。

 

「「はっ!?」」

 

サボとエースが目玉が飛び出んばかりに目を見開いた。

 

「えっ!?なっ…アイツ伸びたぞ!?」

 

「それはそうだろうね、ゴムだもん。ほら2人とも。食べないと冷めちゃうよ?」

 

驚くサボに冷静に返してステーキの皿を差し出した。まだ熱々だ。

 

「なんで知って……ってステーキ!?」

 

「今日アイツが来たときすげぇ伸びてたからね。たぶんゴム。そんで今日は記念すべき日だからな!エースが秘密を話してくれたことだし、ちょっと贅沢してもいいかなーって」

 

サボとエースはあんぐりと口を開けたまま、あぐあぐと何か言いかけたが音は出なかった。それは何でもない。ステーキのあまりのデカさに驚いているのだ。

 

「ちょっ…それ……デカすぎだろ!?」

 

「んーそうだね、純粋に重量だけなら俺1人位はあるかな」

 

今見えてるだけでもそれが4つである。ちなみに俺の後ろには調理中のそのサイズの肉塊がまだたくさんある。

 

それに気付いたらしいサボはまたあんぐりと口を開けた。

 

口乾かないのか…?

 

「メシメシメシメシメーシー!!」

 

ルフィが帰ってきた。どっかに飛んでったわりには傷ひとつない。便利な体だな…。

 

「はいルフィストップ。待て」

 

ルフィの目の前に手のひらを出して静止させる。

 

「まずは自己紹介だ。俺たちはお前のこと何にも知らないんだから、お前を信用するための情報がほしい。それができたらお前は食べてもいい。あ、エースとサボはもう食ってていいぞ」

 

ルフィはそれまで肩を落としつつもそれを聞いていたが、最後に付け足した言葉に抗議し始める。

 

「なんでおれはダメでアイツらは食べれるんだ!?メシ!!」

 

「俺が2人を信用しているからだ。ほらさっさと自己紹介しろよ。飯が冷めるぞ」

 

飯を引き合いに出せばルフィは何とも従順だった。快活に話し始める。

 

「おれはモンキー・D・ルフィ!ゴムゴムの実を食べたゴム人間だ!!海賊王におれはなる!!!」

 

海賊王、というワードにステーキにかぶりついていたエースの眉がぴくりと動くがそれ以上何かをすることもなく、またステーキにかぶりついた。

 

「ほら、言ったじゃんコイツゴムだって」

 

「いや、そこじゃねぇだろ」

 

サボにツッコまれた。

 

「まー、どうでもいいさ海賊王なんて。それよりお前、山賊嫌いなんだって?」

 

自己紹介を終わらせ期待の眼差しを向けてくるルフィにステーキの皿を差し出しながら聞く。ルフィは飯を目の前にしながらも珍しく顔を歪めた。

 

「山賊は嫌いだ。嫌なやつばっかだし」

 

ルフィでもそういう顔することあるのか…。

 

「そうでもないと思うぜ?現にここの山賊は良い奴ばっかだぜ。それに俺たちも長い目で見れば山賊だしな。というか、むしろここは海賊のほうが外道だな」

 

「げどー?なんだそれ」

 

「純粋なお前は知らなくていいよ」

 

いやほんと、ルフィは純粋だから最強(笑)なんだと思うよ俺は。

 

「??」

 

「ほらルフィ。さっさと食えよ、それじゃ腹いっぱいにならねぇだろ?」

 

まだ首を傾げるルフィにステーキがまだあることを仄めかす。

 

「もしかしてまだあるのか!?」

 

「まだあんのかアレン!!」

 

しかしそれに食いついたのはルフィだけではなくエースもだ。サボは呆れ顔で肩を竦める。

 

「アレンの後ろに生肉が山のように積んであったぜ」

 

サボの声に目をキラキラさせる食魔人が約2名。全く、まだ仲良くなってないのに似すぎだお前ら。

 

「はへんおはあり!!」

 

急いで残りの肉を口に詰め込みエースが皿を突き出す。

 

「肉は逃げねぇからちゃんと呑み込んでからにしろよエース」

 

こくこくと頷くエースの皿に焼きたてのステーキをのせる。ちなみに俺はまだキッチンに立ったままだ。コイツらは俺に晩飯を食わせる気はないのか。

 

「おれも!!」

 

「アレン、俺も」

 

ルフィも皿を出し、更にはサボまで皿を突き出した。

 

サボ、お前だけは俺の味方だと信じたかった。

 

「はいはい、ちょっと待てよ」

 

そう言って受け取った2人の皿にステーキを装って返した。2人の顔から笑顔が綻ぶ。

 

「「ありがと!」」

 

「どーも」

 

くるりとまた踵を返し、次の肉に取り掛かる。もう少しキッチンがデカければゆっくりできるんだがな、と思いながら3人用のデカい肉の横に普通サイズの肉を並べ火にかける。もちろん普通サイズが俺のだ。

 

俺もデカいの食べないのかって?

 

ヤだよ。ナイフもフォークもまともなのがないのにあんなの食ったら食べるのに時間掛かるし口の周り汚れるじゃん。

 

まぁ何故か俺の弟(?)たちは普通に食ってるんだけど。顎の力がすごいのかな、たぶん。

 

そんな感じで賑やかに晩餐は進み、山のように積んであった肉塊はすごいスピードで消費されていく。それはもう、次々に差し出される空の皿に若干の恐怖を感じるほどだ。

 

元気でよろしんだけどね、俺としては。それにこんな大量の肉、流石に冷蔵庫に入りきらない。だから消費してくれれば消費してくれるだけいいんだけど、怖いよね普通。

 

普通の10歳と7歳に見える子ども3人が、フードファイターも青い顔するくらいの量を猛スピードで食べてくんだもん。恐怖しか感じない。

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

 

「もう食えねぇ…」

 

「俺も……」

 

「おれまだ食える!!」

 

腹をボールのように膨らませた2人が音を上げる中、ルフィだけは笑顔でそう告げた。途端に2人がルフィを振り返る。

 

あれ?原作ってルフィとエースの食う量そんなに変わんなくなかった?あ、俺がエースの栄養管理してるからか。

 

「まだ食えんのかお前!死ぬぞ!?」

 

「ゴムだから限界すごい上なんじゃない?」

 

驚くサボに俺の持論を持ち出した。

 

ゴムだって伸ばしすぎればはち切れるから、限界がないとは言えないしな。あ、このゴム千切れないんだっけか。

 

「あ、コイツゴムか…」

 

疲れたようにサボが床に横たわった。ちなみにエースはすでに夢の中だ。幸せだな、まじで。

 

「おいルフィ、もう肉ないからな。期待するなよ」

 

期待の眼差しを向けてくるルフィに釘を刺し、キッチンの片付けを進める。

 

全く、今日はいつも以上に疲れた。大量の肉を焼いたのもあるが、それ以上にキツかったのはあれだな、洞窟でロジャーの話を延々と続けたことだな。

 

「おいお前らー。さっさと風呂入って来いよ、肉臭ぇ……ってもう寝たのか」

 

ふと思い出し、振り返り様に声を掛けるがそこは死体累々…じゃなかった。満腹で気持ち良さ気に寝入る3人が仲良く並んでいた。平和なその様子に思わず笑みが溢れる。

 

「ったく……仕様がない弟たちだ」

 

 

 




またまた変な切れ方です。

アレンは呆れつつ着実にお兄ちゃんになってます。

このまま行ったらエースとサボのお兄ちゃん気質がどっか行くのでは…と心配されてる方(いるんでしょうかね)、大丈夫です。どうにかします←

次回は更に仲良くなってもらって夢でも語り合ってもらおうかなーと思ってます。

閲覧ありがとうございます


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第9話 迷子

お久しぶり(?)です。

学校が意外と忙しくて執筆時間が削りに削られ長引きました。

ではでは。第9話です!






さて、昨日のステーキから一夜明けたわけだが。

 

昨日大盤振る舞いし過ぎたせいでルフィに期待の眼差しを向けられる。

 

「なぁアレン!!今日もステーキがいい!ダメなら丸焼き!!」

 

昨日満足できなかったからだろうか、かなり執拗に迫ってくる。

 

「だから駄目だって言っただろ?昨日は特別な日だからステーキにしただけであって、今日はいつも通りだって。そんなに肉がいいなら自分でやれよ」

 

「ムリだな!!」

 

「言い切るのかよ」

 

さっきからこの調子だ。しかもサボもエースもさっさと食材調達の方に行って、現在ルフィの標的は俺しかいない。いい加減うっとおしい。

 

「あー、もう。わかったわかった!ちょっと肉増やしてやるから、今からその分多く狩ってくるようにエースたちに伝えて来い」

 

しがみついてくるルフィを引き剥がし放り投げた。

 

成す術無くルフィは放物線を描いて床に衝突し、文字通り潰れた。しかしすぐに起き上がる。流石はゴムだ。

 

「ぷはっ!いいのかアレン!」

 

目をキラキラさせてルフィは言い、俺が返事をする前に外へ飛び出した。

 

「おいルフィ!早くしろよ、エースが帰ってきたら肉増量はないぞ?」

 

「すぐ行ってくる!!」

 

ルフィの嬉しそうな声のあと、バチン!と痛そうな音がする。また能力を使ってショートカットしようとしたらしいが、どうやら毎度の如く失敗のようだ。

 

「ったく…。合流できんのかアレ……それにどこにいるか聞いて行かなかったし」

 

自分で送り出しておいて何だが、ルフィは絶対に合流できない気がする。できるとしたら迷子になって森で大騒ぎしたときくらいだろう。まぁルフィのことだし、なんだかんだで合流しそうだな…。

 

俺も行きたいけどな……ルフィすごい不安だし。でも俺の過剰労働は今だ続いてるし(昼と夜の2食の用意と後片付け、各所の掃除とルフィの世話←new!!)家から離れることがままならない。

 

俺は何になりたいんだ……?主夫か?家政夫か?なんかすごく悲しいよ、俺。

 

あ、そういや俺、何になるか決めてなかったな…。マリンフォードにさえ間に合えば別になんでもいいんだけどさ、やっぱあの舞台を引っ掻き回す方が楽しいよな(笑)

 

「よし!決めた!」

 

アレになろう!……とは言ったものの…

 

「はぁあああ……」

 

ダメじゃん!アレになっちゃったらガープがまたうるさいじゃん!やだなぁうるさいの…。

 

「どうしたんだ?アレン」

 

「うわっ!?」

 

突然声をかけられ、思わず肩が跳ねる。

 

「なんだエースか…………エース!?」

 

かなりの勢いで首を回したせいで首の付け根がグキッと不吉な音を立てた。

 

「いって…じゃなくて!なんでエースがここにいるんだよ!」

 

眉間にシワを寄せ、エースは訝しげに首を傾げた。

 

「なんでって…肉狩って帰ってきたに決まって」

 

「ルフィは!?」

 

エースを遮り声を荒げた。

 

「は?ルフィ?」

 

「会ってないのか?!サボは?!!」

 

「なんだ?」

 

玄関の方からサボがひょっこり顔を出した。ルフィがいるような気配はない。

 

「まじかよ……」

 

思わず頭を抱えしゃがみこんだ。

 

完っ全に入れ違いかよ…。エースが森にさえいれば、運のいいルフィのことだ、合流できると思ったんだが…いないなら合流も何もない。

 

「え…もしかしてルフィのやつ、森に入ったのか?」

 

いつもの如く察しのいいサボの言葉に頷き、更に落ち込む。

 

「まじか…会ってねぇぞ?な、エース」

 

「お、おう…」

 

心配そうなサボと、心配を通り越して青い顔のエース。なんだかんだで気にかけていたらしい。

 

「はぁ……探しに行こう。日が暮れたら大変だ…」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

とは言ったものの…

 

「ルフィのやつ…一体どこまで行ったんだよ…」

 

ただでさえ猛獣たちのデカい気配で探しづらい上に、ルフィはすでに俺の覇気が有効な範囲の外に出ている。

 

移動しながら覇気を使って探しても見つけるにはかなり時間がかかりそうだ。

 

「まだ範囲内に入らねぇのか?」

 

ルフィの名前を呼びながら先を行っていたサボが戻ってきた。エースとサボには覇気のことを伝えているので先程からずっと頼りにしてくれている。

 

「ああ、たぶんな。いるのは猛獣くらいだ」

 

まぁ元々、こんなにデカい気配に囲まれてルフィの小さい気配を察知するのは至難の技だが…そんなことを言って更に2人を心配させるのも嫌だな。

 

「おいエース、渓谷の方とグレイターミナル側を頼めるか?サボは家の周りを頼む。俺は山の裏側を見てくる」

 

2人が頷くのを見て、山の裏側に向けて走り出した。途中攻撃を仕掛けてくるゴリラや山猫を返り討ちにしつつ、いつもエースが野牛を狩っている狩場に向かった。

 

たぶん、ルフィがこっちに来てるならステーキになるであろう牛がいるこの辺りのはずだ。

 

「おーい!ルフィ!!肉あるぞー」

 

一番ルフィが食い付きそうなワードで釣ってみようとしたが、ダメだったようだ。

 

俺の声は虚しく木霊して消えた。

 

近くにある気配の中にも、ルフィの小さな気配はない。

 

はぁ、と小さく溜息を吐き踵を返して別の場所に向かう。途中野牛を見かけたが、狩っている場合でもないのでスルーだ。

 

「ルフィー!ルーフィー!飯だぞー、今すぐ出てこないと飯抜きだぞー!」

 

移動中もそんなことを言っていたが効果はなし。ルフィは俺の声が届く距離にいないようだ。

 

「やっぱこっちには来てないか…来るわけないよな、こっちはわりと猛獣も強いし…ルフィもそれは知ってるはずだし」

 

猛獣の強さについては既にルフィに説明済みなので心配ない(と思いたい)。

 

もし来たとしても今のルフィなら一撃で殺られるだろうな。でもまぁ、ルフィはなんかすごい運が強いし、原作での主人公というハンデがある。簡単に死ぬなんてことはないだろうな。

 

「もう…面倒くさいなぁ」

 

ぼりぼりと頭を掻き、溜息を吐いた。

 

あんまり使いたくないんだけどな、これ。

 

自分の腹に手を添え、目を瞑る。しかし瞼の裏に映るのは闇ではなく、俺のパラメーター。

 

「“インプット”」

 

並ぶ数字の下、ちょうど『特殊』と書かれたそこにもう一度動物との意思疎通を追加した。前回使ったあと、あまりに動物たちの声が聞こえ料理も眠ることもできなくなったので削除していたのだ。

 

あれはかなり精神に来る。肉を狩ろうにも、怯えた動物の声や許しを乞う声が聞こえてしまう。流石にあれはダメだった。

 

能力を行使した途端、耳に入る動物の鳴き声が変化し、はっきりと意思を持つ『声』になった。

 

『なぁ、聞いたか?あっちで子どもが泣いていたよ』

 

『子ども?いつものあの子か?』

 

『いや、違う。俺が見たのは麦わら帽子を被った子さ』

 

『麦わら?昨日連れて来られてた子か?』

 

『ああ、そうさ。泣いてたよ、あの子たちの名前を呼びながら』

 

『あの子たちを呼んでたのか』

 

『ああ。近くにいたからすぐに見つかるだろうさ。まったく、麦わらの子はまだ弱いってのに、何故森に放り出したんだろう。下手したら死んでしまう』

 

『そうだな』

 

木の上でさえずる小鳥たちの会話にドキリとしたが、すぐに彼らは空に飛び立った。

 

それよりも、だ。

 

ルフィが無事なことも知れたし、エースかサボがルフィの近くにいることもわかった。これでもうここには用はない。さっさと戻ろう。

 

もう一度、自らの腹に手を添えた。

 

「“キャンセル”」

 

その瞬間『声』は森の雑音の中に消えた。

 

 




…あれ?前回あとがきに書いたことにまで行き着きませんでしたね…。

夢について語り合ってもらうのは次回になりそうです。

それから次回もカメ投稿になりそうですので気長にお待ちください(待ってくださる方がいるのかが疑問ですが)。

閲覧ありがとうございます


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第10話 サボの魂

まずはサブタイについて。

ただ思い浮かばなかっただけです。深い意味はありません。

ではでは。いつも通りgdgdでテキトーな第10話です。





ざわめく森を走りぬけ、まずは一番近いサボの方へ向かう。見聞色を発動させ、サボの気配を探した。

 

「いた…」

 

猛獣たちのデカい気配が途切れたところにサボの気配ともっと小さなルフィの気配も感じた。

 

家の前、ちょうど森が開け明るいそこにサボの青の上着とシルクハットが見えたとき彼の隣にルフィの麦わら帽子も見えた。

 

「サボ!ルフィ!よかった!見つかったのか!」

 

「アレン!」

 

更に急いで走り寄ればサボとルフィは揃って安心したような顔をした。ルフィに関しては顔中の穴という穴から色々と液体が流れ出していた。すごい顔だ。

 

「あ゛れん゛~!!おで、もう…」

 

泣きじゃくるルフィの頭を抱き寄せて、ぽんぽんと軽く手をのせる。

 

「ごめんなルフィ…俺が悪かった。大丈夫だからもう泣くなって」

 

慰めるようにそっと頭を撫でる。だがルフィは泣き止む気配もなくしゃくり上げ、文字通りその腕を伸ばして俺に巻きつけてきた。

 

「サボも、ありがとう」

 

顔を上げ、少し離れて事を見守っていた彼に手を伸ばす。サボははにかんだ笑顔で頭を掻いた。

 

可愛いなこんにゃr…ゲフンゲフン。

 

「ほら、来いよサボ」

 

ルフィの頭越しにサボに両手を広げれば、戸惑いつつも寄ってきてくれる。

 

手の届く距離に来たとき彼の腕を引き寄せ、ルフィと一緒に力いっぱい抱きしめた。

 

「ごめんな、2人とも」

 

俺よりも背の低い2人の小さな体を抱きしめて、囁くように言った。

 

「行こう、エースも心配してる」

 

━━━━━━━

 

 

 

ようやく泣き止んだルフィの手を取り、エースに任せた渓谷とグレイターミナルの方へ向かう。途中クマが襲ってきたので返り討ちついでに仕留めて、今晩のメニューにクマ肉を加えることをルフィに約束した。

 

ちなみにそのクマはトラ(ちゃんと意思疎通で話を付けました。決して暴力はしていません…タブン。)の護衛をつけて森に放置している。持ち歩けないし。引きずって行くこともできるけどそんなのダルいし。

 

 

 

「なぁルフィ、俺がトラと話してる間に何かあったのか?」

 

俺と繫いだ右手とは別に左手でサボの手を取り、るんるんと嬉しそうに足取りも軽く歩くルフィを不思議に思い、そう聞いた。

 

「サボがな!色々教えてくれたんだ!」

 

尚もルフィは満面の笑みで言う。

 

ルフィの麦わら帽越しにサボを見れば、困ったように笑って頭を掻いていた。ルフィがわざわざ俺に言うとは思っていなかったらしい。

 

「へぇー、何を教えてもらったんだ?」

 

「えっとな!アレンはおれのいとこ!んで、エースはいとこじゃないけどアレンの弟!サボは親友!アレンはたまに怖い!」

 

おい。怖いって何だ怖いって。

 

にっこりと至極穏やかな笑みを浮かべ、サボを見た…がサボは顔を引き攣らせ音速で顔を反らされた。

 

泣くぞいじけるぞ、おい。やだよそんなことされたら!おこだよ!俺おこだよ!(古い)

 

てかなんでその話題になったんだよ謎過ぎるだろ。

 

「ふーん。俺ってたまに怖かったのかぁ。気をつけるよ、今度から」

 

俺の声に期待してこっちを見たサボにまた同じ穏やかな笑みを浮かべてみたところ、また顔を反らされたことは誰にも言うまい。流石に寂しい。

 

「ま、どうにもならないだろうけどね。今まで無自覚だったわけだし、たぶんこれからも無自覚でしょ。それよりさ、2人とも。この先200mほど先の茂みの向こうにエースいるよ」

 

「見えるのかアレン!!」

 

「見えてないよ、説明はあとでね。ほら、行っておいでよ。ルフィのこと一番心配してたの、結局はエースなんだからさ」

 

何故か興奮して目をキラキラさせるルフィの背中を押し、先に行くように勧める。ルフィはなんとも従順にそれに従い、またショートカットしようとして失敗した。

 

隣でそれを見ていたサボは、転けて地面と仲良ししているルフィを引っ張り起こしそそくさとエースの方に向かった。

 

あれ?俺なんか避けられてる?まじか\(^o^)/

 

「ま、いっか。おいエース!!ルフィとサボがそっちに行ったぞー」

 

ぼりぼりと頭を掻きエースに呼びかけた直後、2人が茂みに突っ込んだ。

 

「うおっ!?サボ!?…ルフィ!!」

 

どうやら俺の忠告は聞こえなかったらしい。エースが2人にお説教している声が聞こえる。

 

「急に突っ込んで来るんじゃねぇよ!びっくりすんだろ!!」

 

うん。仲良くなって良かった良かった。もし原作みたいにエースがルフィのこと突っ張ったらどうしようかと思ったけど流石はご都合sy……ゲフンゲフン。

 

俺のおかげだな!そーいうことにしておこう!深くは考えない!!

 

さて…どうすっか…。よし、俺も突っ込もう!

 

勢いを付けて茂みを飛び越し、その向こうで2人にお説教を垂れていたエースに飛びついた。もちろん、2人も一緒である。

 

「ぐえっ!」

 

「うわ、エース!?」

 

エースが情けない声を上げて俺を含めた3人の下敷きになった。それに気づいたらしいサボが慌てて飛び退くがルフィは目を回したまま、エースの上でのびていた。

 

「あ、エースごめん。ちょっと勢い付け過ぎた」

 

「ちょっとどころじゃねぇよ!!」

 

秒速で起き上がり、エースは怒る。そのおかげでエースの上にいたルフィはずり落ちて頭を打ったが…まぁゴムだし、大丈夫だろ。まだ目回してるみたいだけど。

 

それより流石だエース。そのツッコミスキルはやっぱりエースだ←

 

「まぁまぁ、そんなに怒るなって。それよりルフィのびちゃったし、さっさと帰ろう。晩飯だ」

 

今だ目を回しているルフィを抱き上げ、エースとサボに微笑みかけた。

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

さて。家に帰って来たのだが。そこは修羅場だった。

 

先に山賊業から帰ってきていたダダンたちが、いつもなら絶対に1人はいるはずの家に誰もいなかったことを受けて大騒ぎしていた。

 

ほんと、あと少しで大捜査線を張るところだった。

 

そして現在正座中……

 

 

 

「「「「心配かけてスミマセンでした」」」」

 

ダダンたちが心配かけさせてんじゃねぇ、と説教垂れては俺たちが謝る。正座で20分が経過し足の痺れが最高潮に達しようとしていた。

 

すでにルフィはボロ泣きだ。エースは痛みによる涙目さえ許せないのか必死に唇を噛み締めて堪えている。サボは……うん。魂はすでにここにはない。なんか…仏みたいな顔してる。サボよ、一体どこでそれを体得した…?

 

はぁ…。ツッコミどころ満載のサボはもうほっとこう。なにより俺が聞きたいのはダダンだ(聞けるわけないけど)。

 

いつからそんなに過保護キャラになった?いや、過保護じゃないんだけど、なんで家にガキがいなかったくらいでこんな大騒ぎにまで発展してるんだよ。もうアレだよ?漫画とかでよく見るヒステリックな母親の影すら見えるよ。やだコワイ。

 

「さっさと寝な!!」

 

叫び気味にダダンの説教は幕を閉じ、流石の俺たちも黙ってそれに従うしかなかった。ルフィはブーブー文句を垂れていたが、エースはなんだか難しい顔をして黙りこんでいた。

 

あ、サボの魂は大丈夫、帰ってきた。説教が終わった瞬間に帰ってきたよ。すごいね、アレ。尊敬しちゃう。

 

夏用の薄い布団に潜り込んでろうそくの火が揺れるランプに手をかけ、あとから部屋に入ってきた3人が布団に収まるのを見届ける。

 

「それじゃ、消すよ。おやすみ」

 

そっとろうそくを吹き消せば残った煙が僅かにたなびいた。

 

 

 

 




結局前回の次回予告(?)で書いたところまで辿りつけないというテキトーさ。

次は絶対に夢について語り合ってもらいます。
そんでそれを踏まえてそろそろ新しく展開したい!(希望)

次回投稿も少し長引きそうです。


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第11話 夢と盃

忙しい……!でもこれ書いてるとなんか楽しいです←
所詮自己満足なのでわけわからん描写や言い回しがありますが、そういうところは軽く受け流しでお願いします。

それからアレン君よく微笑んでます。なんででしょうね。私的には人間って隠し事するときによく微笑むような気がします。

あと、話が変わりますがこの回からあとがきで補填を書いて行きたいと思います。
ただのふざけだったり余計にわけわからんなったりしますけどお気になさらず。



そんな感じでテキトーに第11話です



 

はい、どーも皆さんおはようございます。朝デスネー。

 

昨日の晩飯がダダンの説教で蒸発したせいでエースの機嫌がしこたま悪い。ついでにルフィも晩飯のクマ肉がなくなったとか騒いでる。クマ肉自体は庭先に吊るしてあるので後でどうにでもできるんだが…。

 

「なー、アレン。アレなんとかできないのか?」

 

今までエースとルフィの相手をしていたサボが疲れたようにキッチンに入ってきた。

 

「朝飯食べるまではどうにもならないよ。さ!エース、サボ!手伝えば早く食べられる」

 

パンッと両手を打ち合わせエースを呼んだ。ルフィを呼ばなかった理由はお察しの通りだ。アイツをキッチンになんて呼んだら秒速で修復不可能なまでに大変なことになる。

 

「…わかった」

 

ムスッとした不機嫌顔のエースがルフィを放り出しサボに続いてキッチンに入ってきた。

 

「はいこれ、テーブルに並べてくれ。ルフィ!つまみ食いしたら飯抜きだ」

 

サボにサンドイッチの皿を渡し、身を乗り出しているルフィに釘を刺した。ルフィは何故かひどいショックを受けたようだ。

 

「なんでだ!おれが食べるんだから一緒だろ!」

 

「お前は全部食べる気だろ。俺たちの分がなくなる!」

 

エースにもサンドイッチの皿を渡して運ばせながらトマトを8等分に切り分け、サラダボウルに盛り付ける。

 

アレだ、壊血病予防だ。柑橘系は手に入りづらいけど野菜ならすぐに手に入るしビタミンだって摂れる。それにいくら陸地にいると言っても放っといたらコイツら間違いなく肉しか食べないし。

 

「はいサボ、これ運んでくれ。ルフィ、ダダンたちを呼んできてくれるか?ダダンが来たら食べてもよし!」

 

サラダボウルもサボに渡し運んでもらう。飯のこととなると従順になるルフィはかなり扱いやすい。ただし、いつものごとく無理に能力を使おうとして失敗している。

 

「エース、いつまでむくれてるんだよ」

 

自分もサンドイッチの乗った大皿を片手に持ちながら、もう席について食べる準備を済ませているエースの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。エースは嫌そうに避けようとするものの俺の手を叩きはしなかった。

 

アレだな、不機嫌の最高潮に達してるけどちゃんと言われた通りにダダンを待ってる辺りどちゃくそ可愛i…ゲフンゲフン。

 

「アレン!呼んできたぞ!食べてもいいか?!」

 

「いいぞ!でもちゃんと座って食べろよ」

 

まだ眠気眼のダダンたちを引き連れてルフィが居間に戻ってきた瞬間にエースとサボがサンドイッチに手を伸ばしたため、ルフィも負けじとその場から文字通り腕を伸ばしたのでその手を素早く叩いた。

 

「いっ…たくない!何すんだ!」

 

「行儀が悪いからだ。最低限はちゃんとしろ」

 

そんなこんなでルフィに食事中のマナーや箸、フォーク、スプーンの持ち方等、最低限の行儀を教えている間にダダンたちを含め大多数が食事を終えて、俺たちの分には気持ち程度のサンドイッチが数個しか残っていなかった。

 

ルフィはぶーぶーと文句を垂れているが残してくれているだけマシだろう。これが原作なら恐らくカスすら残っていない。

 

まぁ俺はルフィくらいの大食いはできるがしようとは思わないので朝飯がサンドイッチ2つであったとしても文句は言わない。むしろそれくらいが普通であるべきだと思う。

 

 

━━━━━━━

 

「アレン~腹へった~」

 

元々俺の分だったサンドイッチを4つも分けてやったのに、ルフィは1時間もしないうちにそんな事を言い出した。

 

現在俺とルフィは居間に座り込んで洗濯物を畳んでいる(実際に畳んでいるのは俺だけだが)。

 

外で冬に向けて薪割りに勤しんでいるエースとサボはともかく、お前はどこにそのエネルギーを消費する場面があった?

 

「燃費悪すぎかよ」

 

ほんと、一度でいいからルフィのそのエネルギーの行き先を見てみたい。言っとくがルフィはまだ俺やエース、サボみたいに腹筋は割れてないし、そもそもがプニッとした子供っぽい体型だ。エネルギーの行き先がどうしても見つからない。

 

「本当にお前、1回飢えてみればいいと思うよ」

 

そんなことさせないけど。

 

俺の心の声が聞こえるはずもないルフィは相当のショックを受けたようだ。アゴが外れてるんじゃないかと思うほどに口が開いていた。

 

「なんのコントやってんだよお前ら」

 

薪割りの途中で手を止めエースはツッコんだ。

 

もう秋も近いというのにまだ蒸し暑い屋外での作業でエースは汗だくだ。そんな状態で空腹を訴えるならまだしも、ルフィは洗濯物を畳むことすらめんどくさがって床に寝転んでいる。

 

「残念ながらこれは事実だエース。ルフィのやつ、俺のサンドイッチ半分以上食ったくせにもうガス欠だってよ」

 

「嘘だろ?」

 

エースは目を見開いた。

 

「嘘じゃないさ。なんならここに来て聞いてみるか?ルフィの腹の虫」

 

そう言ってルフィの幼児体形に膨れた腹をポンポンと軽く叩く。あり得ないくらい響いて良い音が出た。

 

「すげぇいい音だな!ルフィの腹太鼓!」

 

エースの隣からサボがひょっこりと顔を出した。今までのコント紛いな会話を聞いていたらしい。

 

「お前の将来の夢、海賊王じゃなくて腹太鼓の叩き手にでもなればサーカスで一攫千金できるんじゃないか?」

 

冗談混じりにそう言えば、ルフィは膨れっ面になった。

 

「おれは海賊王になるんだ!」

 

「へぇー。どうやって?」

 

サボは少し馬鹿にしたように片眉を吊り上げた。それに対しルフィは怒ったようだ。さらに膨れっ面になる。

 

「いつか絶対海に出る!そんで海賊王になるんだ!」

 

「だからどうやって海賊王になるんだよ」

 

呆れた様子のサボに代わって俺がそうツッコんだ。ルフィは言葉に詰まる。

 

まぁ、そうだよな。お前がそんなことまで踏まえてそう宣言してるとは思わないし思えない。

 

「そこはグランドラインを1周する、だろ?」

 

「ほー!ぐらんどらいんって何だ?」

 

はい来ました爆弾発言!海賊王目指すって言ってるのにグランドライン知らないとかヤバいよね、普通。

 

エースとサボは目玉が飛び出さんばかりに目を見開いた。

 

「「は!?んなことも知らねぇのかよお前!!」」

 

見事なシンクロだ。すげぇなお前ら。

 

「知らねぇ!!」

 

2人に対し胸を張るルフィ……おかしいだろ。恥じろよ。

 

「あ、勉強会する?」

 

その瞬間ルフィと、何故かエースも一緒に嫌そうな顔をした。

 

現在、既に俺の情報量は前世のそれも相まってサボの情報量を軽く超えているため、教えるのは基本は俺なので勉強会の開催決定を下すのも俺だ。

 

「げぇ!勉強!」

 

「俺はいいぞアレン!最低限はお前が叩きこんだだろ!」

 

必死な2人を見てサボと顔を見合わせ笑い合った。教師役の俺たちは余裕だが、基本的に生徒役の2人は心底嫌だろうな、と安易に予想がついたからだ。

 

「っていうのはまぁ、冗談だ。ところで2人は将来何になりたいんだ?」

 

冗談っぽくひらひらと手を振り、エースとサボに視線を向けた。ルフィも俺に倣い2人のほうを見た。

 

急な切り返しに2人は戸惑ったのか反応が遅れたがすぐにいたずらっぽく笑みを浮かべた。

 

「海賊さ!」

 

エースは言う。

 

「俺は世界一の名声を手に入れる!世界が嫌でも俺を認めるようにしてやるのさ!」

 

今までにないくらいキラキラと目を光らせてエースは笑う。サボもそれに続く。

 

「俺も海賊だ!世界中を見て回って、いつかそれを本にするんだ!」

 

ルフィも含めて3人で今度は俺を見た。3人の期待の眼差しに俺はニヤリと笑った。

 

「海軍さ」

 

「「は!?」」

 

サボとエースのあまりの声のデカさに思わず耳に人差し指を突っ込んだ。

 

「海軍ってなんでなんだよ!!お前!アイツのこと嫌いだって」

 

「言ったね。でも俺はじいちゃんみたいに真っ当な正義を背負う海兵になりたいわけじゃないさ。あくまで俺がしたいのはお前たちの夢の応援であって、邪魔じゃない」

 

唖然として話を聞く2人と、鼻をほじりながらアホ面で話を聞き流すルフィ。後者は腕を引っ張り伸ばして後ろ手で蝶々結びに結んでおいた。

 

「ほどけよアレン!」

 

その抗議の声はとりあえず聞き流す。

 

むかついたわけじゃない。折角貴重な2度目の人生を全面的に利用して夢を応援しようってのに全くの無関心だったからすごいむかついたとか、そういうことは全くない。……たぶん。

 

「お前は人の話をちゃんと聞こうな、ルフィ」

 

ルフィの頭から麦わら帽子を取り、手の中で裏返した。それは思っていたより柔らかく、やんわりと形を変える。近くで見れば見るほど、相当使い古した帽子のようだ。

 

「俺はな、お前らが好きなんだよ。なんか弟みたいで可愛いんだ。ちゃんとそれぞれ夢を持ってそれに向かってて、でも俺にははっきりした夢がなかった。だからお前たちを応援したいと思ったんだよ」

 

嘘は言っていない。俺が持っているのは目標であって、夢じゃない。だから、3人が少し輝いて見えた。

 

手の中の帽子から視線を上げれば、丁度エースと目が合った。彼は俺が何を言いたいのかわからないらしく困ったような顔をしている。ふっと微笑んでルフィの頭に帽子を戻した。

 

「情報さ」

 

ルフィとエースは2人ともわからないらしい。

 

まぁ、それは易く予想できるので代わりにサボの方を見た。彼はどうやら俺の思考について来れたようで、納得したように小さく頷いた。

 

「それは何よりも強い武器に、そして何よりも硬い防具ともなり得る。だからこそ俺は海兵になって、海軍内部の情報をお前たちに流そう」

 

まだ理解していないルフィはともかく、エースはなんとなく掴みかけているようだ。わかったようなわからないような、なんとも微妙な顔をしていた。

 

「要するに、お前の味方だ、ルフィ。お前が捕まりそうになったら…その時は俺が海軍内部から助けてやる」

 

実際に助けようとしているのはエースだが、今この状況で1番真っ先に捕まりそうなのはルフィなのでとりあえず彼の目を見つめた。 

 

「???」

 

バk…単純で純粋なルフィは俺が考える外道な協力方法に理解が及ばないようだ。ただ、ルフィとは違い理解が及んだエースははじめこそ驚いたようだが今はもう、面白そうにニヤニヤと笑っている。

 

その間にサボはルフィの後ろに周り、その腕を解こうと四苦八苦していた。

 

可愛i……ゲフンゲフン。

 

しかしながら紐ならともかく、それは人体だ。滑りにくく、解くときに肉を挟めば相応の痛みが走る。ルフィは痛い痛いと声の限りに喚いた。

 

「アレン!どんだけきっちり結んだんだ?解けねぇよ、これ」

 

3分ほど健闘したが結局解けず、サボは諦めて両手をあげた。

 

「そんなにキツく結んだつもりはないんだけどなぁ。見せてみ?」

 

そう言ってルフィの背後に回り込んだ。その間にもルフィは少しでも痛みから逃れようと身をよじっている。しかしそれが自らの首を絞めているのに気付かない。

 

ルフィが動くたびに腕が引っ張られ蝶々結びの結び目がキツくなっていくのだ。これでは解こうにも解けない。とりあえずルフィの頭に拳骨を叩きこんだ。

 

まだ武装色は使えないので普通のグーパンだ。

 

「いっ……たくない!おれゴムだから!何だアレン!ほどけよ!」

 

お決まりのような台詞のあとルフィは喚いた。その様子に溜息を吐く。

 

「お前、ちょっとは自分の置かれてる状況を理解しようとか、分析してみようとかないわけ?」

 

あるわけがない。もしルフィにそんなことができたらその時は天地がひっくり返るだろう。

 

「ない!」

 

またもルフィは言い切り、その様子にエースとサボは腹を抱えて笑い出した。

 

「バカだな、お前。解いてやるからじっとしてろ。でないと一生そのままだぞ」

 

俺の言葉にルフィは一瞬で大人しくなった。ゲラゲラと2人は笑い続ける。

 

結局、ルフィのその腕を解くのに1時間ほどかかり、4人でダダンに怒られ殴られた(ただしルフィは平気なので1人で俺たちとは別に罰則を受けている)。

 

「いってぇ…」

 

エースは殴られタンコブになっているところを擦る。サボはクリーンヒットしたらしくまだ頭を抱えてしゃがみ込んでいる。

 

俺?俺はなんとか堪えた。だって1番年上だし。エースじゃないけど、ダダンに殴られて涙目とか格好悪すぎる。

 

「アレンは痛くねぇのかよ…」

 

サボが涙目でブー垂れている。可愛i……ゲフンゲフン。

 

「俺は年上だからなー」

 

ひらひらと手を動かしてはぐらかした。実は痛い。ガンガンというか…ジンジンというか…どう言っていいかわからないが取り敢えず痛い。めっちゃ痛い。ダダンのやつ……いつかギャフンと言わせてやる(いい意味で)(←どういう意味かわからない)。

 

「あ」

 

エースが突然声を発したのでそちらを見れば、エースは何か思いついたようだ。いつもの悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「どうした?エース」

 

「いや…いい事思いついた。後で行くから秘密基地に行っててくれよ」

 

…秘密基地?どこだそこ。

 

エースの言う秘密基地に心当たりはなく、そんなことを言い合ったことも聞いたこともない。もしかして海賊貯金の木のとこか?

 

それが顔に出ていたのか、エースは付け足した。

 

「あそこだって、あの洞窟。昨日アレンが連れてってくれただろ。あそこなら誰も来ないし、ちょうどいいんだ。いいだろ?アレン」

 

あ、あそこ秘密基地になってたんだ。

 

エースは俺がブラコンなのを知ってか知らずか(たぶん知らない)上目遣いで俺を見た(俺のほうが背が高いので自然とそうなるのだが)。

 

「いいけど…何する気だ?」

 

一般人相手の強盗作戦とかする気なら協力しないぞ、と念を押す。一応俺たちピースメインだし。

 

「しねぇよ。とにかく、先行っててくれ」

 

エースに背中を押されるまま、結局サボを連れてその洞窟に向かう。

 

ごめんサボ。また何だかんだで訳がわからないまま放置プレイしてた。まじごめん。

 

まぁサボは気にしていないようなので(それより洞窟のことをしつこく聞いてくる)良しとしよう。

 

「なぁ、秘密基地って何なんだ?何かあるのか?」

 

目をキラキラさせながらサボは俺を覗き込んだ。いつも勉強会とかで俺と一緒に先生役をするものの、やっぱり男の子なんだなぁと思う。

 

「今は何もないよ。強いて言えば自然が沢山あるかな」

 

嘘は言っていない。むしろそのままだ。ただこの森とは比べ物にならないくらい、天と地ほどの差があるほどに綺麗だ、というだけだ。

 

「そうなのか?これから何か作るのか?本物の基地みたいに家とか!」

 

「そうだなぁ。今は何もないけどそのうち作ろうな、基地施設」

 

やっぱ男の子だなぁ。男子にとって基地って永遠の憧れだもんな。

 

とかのほほんとしながらサボを案内するうち、その場所への入り口にはすぐに着いた。

 

「ほいサボ、着いたぞ」

 

そう言って、なんの変哲もないごく普通の崖に空いた穴へとサボを誘導する。この奥は、あの花畑だ。

 

サボはその入り口で立ち止まり、不審そうに崖を見上げた。

 

「ほんとにここなのか?それに、崩れたりしないよな、これ」

 

「そうだよ。でも…んー、どうかな。いつか崩れるかもね」

 

そう笑ってサボの背中を押し、洞窟の奥へと無理矢理進めさせる。遠く、暗闇の向こうに光が見えた。

 

足を進めるにつれ、その点は近づき大きくなっていく。

 

光が、小さな子どもならしゃがんで通れるくらいの大きさになったとき、サボは満面の笑みで俺を振り返った。向こうが見えたらしい。

 

「すごいだろ。でも中に入ったらもっとすごいぜ」

 

笑って足を早めた。それから少しもしないうちに視界が拓け、光に包まれた。

 

「すげぇ……」

 

サボが呟いた。それもそのはず。目の前には今までに見たことがないくらいの絶景が広がっているのだ。

 

巨大なドーム型の自然の天井に会いた穴から差し込む陽の光と、その下には澄んだ水を湛えた小さめの湖。自由に泳ぎまわる魚とさえずりあう色とりどりの小鳥たち。透き通ったような明るい緑が湖畔に煌めいている。

 

まさしく、この島で1番美しい場所だ。ぽかんと口を開けて絶景に魅入るサボに思わず笑みが溢れる。

 

そしてふと背後に気配を感じ、振り返れば異様に伸びるゴム(ルフィ)の腕を掴み引き摺りながらエースが現れたところだった。どうやら罰則中のルフィを拉致ってきたらしい。

 

「はなせよー!…うわ!すっげぇええ!」

 

ルフィは喚いていたが、自身が連れて来られた場所に気付くなり感嘆の声を上げた。

 

「ルフィも連れてきたのか」

 

うるさいな、とサボが笑う。

 

「ああ。ほら、これ」

 

エースはルフィとは逆の方の手に持った酒瓶と盃が入った袋を掲げてみせた。

 

……まさか?

 

「盃を交わすと兄弟になれるんだぜ」

 

来たぁあああああ!!!え、まじ!?俺盃兄弟の仲間入りできんの!?まじかよ!うわぁああああああ!!!

 

内心こんな感じだがそれを表に出すことはなく、サボを見、そしてエースを見た。

 

「いいのか?兄弟になるって…俺たちはともかく、ルフィはお前の親のこと…」

 

「いい。さっき話したんだ。だからもう関係ねぇ」

 

エースは笑う。その様子に安心して、同じように心配していたらしいサボと顔を見合わせ微笑んだ。

 

「じゃあエース。交わそう、兄弟盃」

 

あのイスの岩の方に行き、イスを囲むように4人で立った。真っ赤な盃を4つ並べる。俺の前にある1つがどうしようもなく嬉しい。

 

エースが『山賊』を盃に1つひとつ注いでいく。半透明な液体で満たされたそれを手に取り顔を上げ、向かいのエースと目が合った。彼はにやりと笑う。

 

「俺たちが海に出るとき、同じ船の仲間にはなれねぇかも知れねぇけど、俺たち4人の絆は“兄弟”として繋ぐ!!どこで何をしようとこの絆は切れねぇ…!これで俺たちは今日から兄弟だ!」

 

その音頭とともにそれぞれの手にした盃で乾杯し、一気に飲み下した。口に広がる変な味をあまり美味しいとは思えなかったが、それ以上に胸が高鳴った。

 

“兄弟”だ。あの盃兄弟に、俺が長男として加わった。皆笑っていた。なんの違和感もなくここに俺がいることが無性に嬉しい。

 

「なぁ俺、今ここで約束するよ」

 

3人を見回して微笑んだ。

 

「どうしたんだ?」

 

サボが不思議そうに言う。

 

「俺はお前たちが危険に陥ったそのときはどこにいようと何をしていようと、お前たちを助けるためなら、立場を押してでも駆けつける。何があろうと必ず助けるさ」

 

「おれもそれ、約束する!」

 

ルフィが便乗し、小指を立てた。指切りげんまんだ。

 

エースとサボは顔を見合わせ、そして自らも腕を差し出し小指を立てた。

 

「俺も約束する」

 

「俺も!」

 

結局4人でその約束を立て、指切りげんまんでそれを約束し合った。一見馬鹿馬鹿しいけど、俺たちにとっては大切な誓いだ。

 

さえずっていた小鳥たちが一斉に羽ばたき天井の穴から漏れる光の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 




〈 補填 〉

・エースの機嫌がしこたま悪い
お腹が空くとやばい。

・クマ肉
このあとルフィの大好物になる予定。

・ルフィがキッチンに入ったら秒速で修復不可能
一瞬で冷蔵庫が空。

・サンドイッチを運ぶサボ
お手伝いできるいい子。エースも然り。

・アレンの朝食のサンドイッチ
正確には6個。しかしルフィに4個贈呈。アレンの胃袋は普通です。

・ルフィの燃費
最悪。

・ルフィの腹太鼓
すごい響く。楽しい。

・爆弾発言
一般人ですら承知している常識を知らないルフィ。

・勉強会
エース「あれは地獄だ。死者が出る。」

・真っ当な正義
じいちゃんじゃなくても皆背負ってます。海軍に入る上で1番尊ばれるべきものですがアレンは気にしない。むしろ要らない。

・アレン
ゲス。ブラコン。でも今のとこルフィの順位はちょっと下。

・普通のグーパン
ガープ直伝拳骨。そのうち覇気を纏います。そのときにはルフィは全力で逃げ惑う。

・ダダンの拳骨
ガープよりは痛くないけどそれでもかなり痛い。サボに関してはクリーンヒット。ダメージ1.5倍。

・秘密基地
エースの中ではアレンの秘密基地という認識。アレンの中では単なる綺麗なとこ。サボの中ではエースとアレンの秘密基地。ルフィの中ではなんかすげぇとこ。

・エースの上目遣い
アレンの特権

・異様に伸びるゴム
アレンの中ではルフィの順位は下の方。よって扱いが雑。

・アレンの内心
うぉおおおおお!!!盃!!俺って盃兄弟になれるんだ!?!?うわぁあああああああ!!!!

・誓い
ちゃんと果たしてもらいます。


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第12話 日記と

今回の長さは異常です。コメントが嬉しくて詰め込み過ぎた……。

安易に褒めるとこういうことになるので以後お見知りおきを笑

ちょっとシリアスめな気もする第12話です!↓↓↓





ちょうど日が一番高くなったとき、洞窟に差し込む日の角度に気がついたサボとルフィ(の腹時計)がもう昼時であることを告げた。

 

「なぁアレン。そろそろ戻ろうぜ。たぶんこれ以上ここにいたらまたダダンに殴られる」

 

サボは自身の頭を擦りながらそう訴えた。今朝のダダンの拳骨はかなり堪えたらしい。

 

しかし残念ながらダダンのそれよりも遥かに痛い拳骨を俺は知っているので、そんなに畏怖するほどではなかった(ダダンのが痛くないと言えば嘘になるが)。

 

サボの言葉に頷き、隣で丸くなって寝るエースとルフィを起こしにかかる。

 

「おいエース、ルフィ!起きろよ、帰るぞ!」

 

あのあとのんびりしているうちに2人とも寝入ってしまったのだ。可愛かったので放置していたが、一度寝た2人を起こすのは骨が折れそうだ。

 

今朝気がついたことなのだが、エースはアレらしい。自分で起きれば問題ないが、他人に起こされた場合は少し機嫌を損ねるらしい(ルフィはいつでも上機嫌)。

 

「んー…何なんだよアレン…」

 

昼寝で割と眠りが浅かったからか、エースはすぐに目を覚ましたが(若干機嫌悪そう)ルフィは起きる気配もなければ動く気配もない。

 

「帰るぞ、また飯を食いっぱぐれるのも嫌だろ?」

 

エースにそう言いつつルフィの頬を軽く叩き続けるが彼が起きることはない。

 

「ったく…。エース、サボ。先行っててくれるか。俺はルフィおぶっていくからさ」

 

エースが完全に目覚めたのを確認し、先に行くように伝えれば2人は素直に頷いて出口の方に向かった。

 

その間俺はびよびよと伸びるルフィをどうおぶろうか試行錯誤していた。どうしようにも脱力したルフィは伸びるのだ。こんなにも勝手の悪い能力は他にないだろう。

 

俺でさえ能力者になった1ヶ月後には、このわけのわからない能力を(ある程度までとは言え)それなりに使えていたというのに(能力者になったのが2歳のときなのに何でできるんだとか言っちゃダメ)。

 

とりあえず、伸びるルフィはどうしようもないので横抱きに持ち上げ(俗に言うお姫様だっこだ)イスの岩に座らせた。この間もルフィに起きる気配はない。

 

どうすれば短時間でこんなにも深い眠りに落ちることができるのだろうか。毎晩不特定多数のイビキでよく眠れないので羨ましくて仕方がない。

 

 

 

━━━━━━━━━━

~エースside~

 

 

 

「ったく…。エース、サボ。先行っててくれるか。俺はルフィおぶっていくからさ」

 

呆れたように頭を掻き、アレンはルフィを見下ろした。さっきからずっと頬を叩かれているのに起きる気配のないルフィはヨダレを垂らしながらまだ夢の中。

 

サボと一緒にこくりと頷き、ここに入るときに使った洞窟の唯一の出入り口へと向かう。

 

ふと、サボを見れば彼はまだ物珍しそうに洞窟の天井を見上げていた。

 

「そんなに気になるのか?サボ」

 

「ん?んー、あの穴から何か見えた気がして…」

 

そう言ってサボはまた見上げ、それにつられて穴を見上げるが逆光で何かが見えるとは思えない。

 

「本当に何か見えたのか?」

 

「…いや、たぶん…何かの見間違いだと思う」

 

サボは思案顔で頭を掻いて、早く帰ろうぜと言った。その様子にどこか腑に落ちない気がしてならなかったがダダンの拳骨を思い出し、頷いた。

 

 

 

 

「エース!どこに行ってたんだい!アレンは一緒じゃないのかい?!」

 

家に帰るなり、ダダンの怒声が森に響いた。あまりの勢いにツバか飛んでくる。

 

「どこでもいいだろ!……うわっ」

 

ダダンに怒鳴り返したところで、彼女の背後の影に気がついた。

 

ガープだ。

 

家に上がり込んで茶を啜っている。ダダンの様子だと、十中八九アレンかルフィに話でもしにきたのだろう。

 

「おおエース!どうじゃ、ルフィと仲良くしとるか?」

 

「……」

 

関係ない、と言いたいところだが2人の祖父である彼には全く持って関係大アリなのでガープを睨みつけ黙り込んだ。

 

背後ではサボがなんだなんだと騒いでいる。

 

「なぁガープが来てるのか?エース!」

 

「サボか!元気にしとるか?」

 

「ああ!ガープは何しに?」

 

友達か。

 

そんな心の中のツッコミなどつゆ知らず、2人は会話を進めていく。

 

「アレンに話があるんじゃよ」

 

「へぇー。俺たちも聞いていいのか?」

 

えっ、ちょっ…俺たち!?俺も入ってんのか!?

 

バッとサボを振り返るが、サボはきょとんとしている。自覚なしかよ…。

 

「好きにせい。エースにも関係あるしのう」

 

「俺にも?」

 

どういうことだ?まさか俺たちのどっちかが連れてかれるのか?

 

「お前の父親とアレンの母親についてじゃよ。…おお、アレン!」

 

ロジャーのことなど、嫌な予感しかしない。

 

ガープの顔に笑みが綻び、つられて後ろを振り向けば、ルフィを横抱きに抱えたアレンが変なものでも見るような目でガープを見ていた。

 

「じぃちゃん?なんでここに?」

 

アレンは家の中にルフィを抱いて入り、寝かせてきたのか、すぐにまた出てきた。

 

「そろそろ渡してもいいかと思ったんじゃよ」

 

主語がない。サボも含めて、話を聞いていた全員が首を傾げた。

 

「「何を?」」

 

アレンとハモり、ガープは笑った。いつもと変わらない脳天気な顔だ。

 

「日記じゃ。アレンの母親…ユリアナが、海賊王の船に乗り込む前から付けていたものじゃ」

 

そう言ってガープはスーツのポケットから革張りの小さな茶色の本を取り出した。金の刺繍糸の小洒落た飾り文字で『モンキー・D・ユリアナ』と書かれている。表紙の可愛らしさの割に、随分と分厚い。

 

「海賊王!?」

 

サボが声を上げた。ガープはものも言わず頷く。

 

その日記を受け取るものと思い、アレンを見たが彼は微動だにせずその分厚い日記帳を見つめていた。

 

「なんで…今頃になって?」

 

「なんとなくじゃ」

 

ガープは答え、ずい、と日記をアレンの方へ差し出した。有無を言わせない、受け取れ、という命令のような行動だった。

 

アレンはゆっくりと手を伸ばし、それを受け取った。パラパラと軽くページを流し、ふと、手を止めて日記を見つめた。

 

「何て書いてあるんだ?アレン」

 

好奇心には勝てず、そう聞いた。アレンは答えない。きゅっと固く口を結んだまま、目だけが日記の文字を追って忙しく動いていた。

 

そしてある一点を見つめて、アレンは動かなくなった。

 

「………どういう、ことだよ。じぃちゃん」

 

声が、日記を持つ手が震えていた。縋るようにアレンはガープを見上げた。

 

こんなふうに取り乱したような彼を見たのは初めてだった。いつも冷静で何よりも早く予想して対処する、平静を失うこととは無縁のようだったのに、だ。

 

「どうもこうもないんじゃよ」

 

諭すようにガープは言う。どちらも、らしくなかった。

 

「…アレン?」

 

ずっとアレンは眉間にシワを寄せ黙り込んだままだったため、サボが心配そうに彼の顔を覗き込んだ。

 

「……ごめん、びっくりしただけだから。……じいちゃん、後で話があるから昼飯、食べてってよ」

 

アレンはそう言って、ガープを見上げた。サボと2人で顔を見合わせた。

 

あのアレンが、ガープを引き止めた?そしてさらに何か用事があるとは言え、昼食を食べていくように勧めた?

 

遠くでカラスがけたたましい鳴き声をあげた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━

~アレンside~

 

 

 

 

「……で。昼飯食べてってとは言ったけど、食べ尽くしてもいいなんて言ってないだろ、じいちゃん!」

 

いつもダダンが座る上座にドカっと座り、片っ端から料理を喰らい尽くしていくガープを睨みつけた。俺はキッチンで調理中なのでそれ以上のことはできない。

 

「なんじゃ、冷たいことを言うのう。わしはじいちゃんなんじゃぞ!」 

 

「知ってるよ!でもせめて遠慮してくれよ、食材が足りなくなる!」

 

しかし既に足りていない。さっき塩漬けにしていた3ヶ月分の魚が底をついた。メインの肉がなくなるのも時間の問題だ。

 

「アレンは料理が上手いんじゃな!顔はよう似とるが、そこはユリアナに似ないでよかったのう」

 

ガープはいつもの如く話を聞いていなかった。何も知らないルフィが口いっぱいに頬張った唐揚げを飲み下し、その話に食いついた。

 

「ユリアナって誰だ?」

 

「アレンの母ちゃんだよ。あ、おいルフィ!それは俺のだ!」

 

サボは他人の皿にまで手を伸ばし始めたルフィの手を掴みそれを阻止しつつ、続くガープの進撃を避けるためそれぞれの料理を少しずつ確保する。

 

「へー!んじゃ、おれのおばちゃんだな!おばちゃんは料理ヘタなのか?」

 

「ヘタも何も、あれは食べものと言えるのかさえわからんものじゃったぞ。料理が酷すぎて見るだけで卒倒するヤツもいたのう」

 

わっはっはっ!と機嫌よく笑いながら、ガープはまた大皿を1皿平らげた。それは笑い事なのか。

 

手元の唐揚げが油の中でくるくると回る。いい色になってきた。

 

エースとサボは信じられないものでも見るようにガープが空にした皿を見ている。

 

「信じられねぇ…アレンの母ちゃんが料理下手なんて……」

 

…違った。信じられないのは俺の母の料理の腕らしい。

 

「想像できねぇ……」

 

恐らく彼の脳内では俺によく似た女性が料理に大失敗している様子が上映されているのだろう。失敬な。

 

きつね色になった唐揚げをひとつずつ油から取り出し、キッチンペーパーの上に並べた。見る見るうちに油のシミが広がっていく。

 

「「ほんと、似なくてよかったな」」

 

俺を見て、2人はその結論に至った。

 

うん。俺も似なくてよかった。でないと今頃、毎日焼いただけの肉の生活になってたね。

 

「ほいサボ、エース。これ運んでくれ」

 

1通り油をきった唐揚げを大皿2皿に盛り付けた。2人は嫌な顔ひとつせず立ち上がり皿を取りに来る。

 

今思ったけどこの絵面すごいね。未来の火拳と未来の革命軍参謀総長と、未来の海賊王でしょ、このメンツ。しかも現海軍の英雄、伝説の海兵までいるし(とてもそんな風には見えないが)。

 

いやぁ、今更だけど俺すげぇ星の下に生まれたよな、うん。あのくそひげジジィ。

 

俺は手元に残しておいた数個の唐揚げをつまみつつ、また次の分を揚げにかかる。

 

ったく、よく食う弟が3人もいるとろくに座って飯も食べられない。今日なんてじいちゃんがいるから尚更だ。でも、悪い気はしない。

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

「今、何っ…!?」

 

「だから、海兵になりたいって」

 

説明しよう。昼飯のあとガープを家の裏手の山の中に連れて行き、海軍に入って海兵になりたいと言ってみたところ、ガープは急に耳が遠くなったらしい。

 

…というのは冗談だ。この4人の中で唯一、俺が海軍を選んだことが信じられなかったらしい。口をパクパクと動かしている。金魚みたいだ。

 

「海っ……!?」

 

「落ち着いてよ」

 

話が進まない。大きく溜息を吐いた。

 

「とりあえず、じぃちゃん。俺さ、今からでもすぐに海兵になりたいんだよ。だから今は帰るふりをして、今夜、俺のこと迎えに来てくれない?」

 

「今夜じゃと!?」

 

自分でもあまりに早急だと思うが、これからの物語の展開考えたら俺、そろそろ離脱しとかないとエースの初めて☆の覇気イベントなくなっちゃうんだよね…。資質は変わらないから将来的にわかるだろうけどさ、今からそういうのがあるってこと知っといた方がいいよね。それにサボの一件とかあるし。

 

できるならあの顔の怪我はさせたくないけど船出を邪魔する気はさらさらない。警告して避けさせるって手もあるけど、それじゃ俺がどうやって情報を掴んだのか聞かれたときに詰んじゃう。転生者だってバレたら良くないってことくらい、わかってるからね。

 

だからちょっと早すぎるけど、じぃちゃん使って早めに海軍に身を置くことにした。長年所属しといたほうが信頼されやすくて情報も流し易いってのもあるけど。

 

「じぃちゃんは海軍の中でも上の方で “偉い” んでしょ?俺の我儘、実現できたりする?」

 

偉い、を強調して微笑んだ。ガープは嬉しそうに胸を張った。うし、作戦成功。

 

「そうじゃ!偉いんじゃ!」

 

単純か。単純なんだな。

 

その後、ガープは早かった。すぐにセンゴク(と思われる男)に電伝虫で連絡を取って、海軍に是非『入れたい』のがいる、1週間後の朝1番に連れて行く、と矢継ぎ早に捲し立てた。ごめん、センゴクさん。

 

ガープはセンゴクに反対する間も与えず報告だけして電伝虫を切った。

 

「どうじゃ!」

 

「スゴイネー!じぃちゃんさっすが」

 

命知らずな彼に笑顔で拍手を送る。その後に「流石はKYキングだね」という言葉が俺の中で続いていたことは黙っておいた。ガープとルフィのKYさは異常だ。

 

たぶん、普通の海兵が突然こんなことを言い出したら拳骨じゃ済まないんだろうな、と思う。

 

「じゃあじぃちゃん、早く船に戻って帰るフリしておいて!待ち合わせは今夜10時にこの山の麓のくすの木のところで!」

 

ガープをくるりと反転させ、その腰の辺りを押した(それ以上は手が届かないのだ)。

 

「な、エースたちに…」

 

「挨拶はダメ!じぃちゃん、嘘吐けないだろ!」

 

「わ、わしだって嘘くらい吐けるんじゃぞ!!」

 

嘘くさい。嘘吐くときのルフィと同じ顔だ。

 

「吐けてないから!」

 

そう言って押し続けるが、老人とはいえ流石は軍人というだけあってガープは簡単には動かなかった。

 

ふと、俺の覇気の範囲内にエースの気配が入り込んできた。近づいてくる。

 

「だめだ、じぃちゃん、エースが来た。さっさと行って!エースにバレたら元も子もないんだから!!」

 

ぐいぐいと押し続け、やっとガープの足が動く。何かを言ったみたいだがよく聞き取れなかった。ガープが自分から歩き始めるのを確認し、彼が森の中に消えた直後、背後からエースが現れた。

 

「アレン?何話してたんだ?」

 

何か不穏な空気でも察したのだろうか。不安そうな顔だった。

 

「ん?ああ、俺の母さんについてだよ。色々と聞いてたんだ。それよりエース、今日はご馳走にしよう。サボとルフィも連れて牛、狩りに行くぞ」

 

「ご馳走?ほんとか?!」

 

エースの顔に笑みが綻んだ。しかしすぐにその笑顔は萎む。

 

「でもルフィ、あいつまだ体力ねぇぞ?」

 

「何かあったら俺が守ろう。それに、これから鍛えればいいさ。ルフィの力を見るためにも、今日は4人で狩りたいんだよ」

 

適当に嘘を吐いた。でもエースはそれで納得したらしい。また笑顔になった。

 

今晩からもう、しばらくエースやサボ、ルフィとはお別れだ。笑顔を目に焼き付けよう。そう心に決めた。

 

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

「にくにくにっく~!」

 

「なんだよその歌!」

 

後ろでルフィとサボが楽しそうに笑っている。生い茂った森が、もうすぐ拓ける。

 

「おいルフィ、静かにしないと肉が逃げるぞ」

 

注意して、茂みの後ろにしゃがみこんだ。向こう側には3頭の牛が草を食んでいる。この距離なら、俺とエースとサボでそれぞれ1頭ずつ同時に狩れるだろう。

 

「エース、あれ頼む。サボはあっち。ルフィは俺と組んで向こうの黒いやつな」

 

それぞれに指示を出した。3人が頷いたのを確認し、手にした鉄パイプを握り締め突撃の合図を出した。

 

4人、同時に茂みを飛び出した。まず逃げ遅れたのが手前のエースに任せたやつが1頭。エースによってすぐに狩られた。

 

次にサボ。逃げ出すときに動揺したのか、俺のいる方に走ってきたので事実上挟み撃ち。それもすぐにサボによってパイプで沈められた。

 

最後に残ったのは、俺とルフィの黒い牛だった。いかにも強そうなやつだった。

 

「ゴムゴムのぉ…」

 

「ルフィ止せ!!」

 

低く構え、ルフィが軽く手を引いた瞬間、牛の標的がルフィに向いた。

 

今まで、俺とルフィの間でどちらを狙うか揺れていたから仕掛て来なかったのに、それでは狙ってくださいと言っているようなものだった。

 

牛は自慢の黒い湾曲したツノを低く構えた。前足で地面を掻く。今にもルフィに突き刺しそうな雰囲気だ。

 

牛が動き出すよりも早く、強く地面を蹴った。

 

「ピストル!!」

 

その瞬間、ルフィが技を放った。案の定それは地面に当たり、跳ね返る。

 

牛に向けてパイプを振り上げた刹那、ルフィの跳ね返った掌が俺に迫っていた。それを見て確認する間もないのは明らかだった。

 

「「アレン!!」」

 

地面を蹴った。頭を丸め込むように身体に引きつけ、空中で弧を描く。ルフィのピストルは俺の顔のスレスレを飛んで、戻っていった。

 

ゴッ…

 

握りしめたパイプに鈍い衝撃が走る。牛のツノとツノの間、ちょうど脳天をパイプで殴りつけたのだ。そこは決して弱くない。けれど今は空中に浮いていることで俺の全体重が乗っていた。

 

牛の身体が大きく前に揺らいだ。

 

「アレン!ごめん!おれ…」

 

「いいよ、ルフィ。それにしてもお前のそれ、使いこなせれば強くなれるかもな。まずは標準に合わせないと。無闇に発射するだけじゃダメだよ」

 

寄ってきたルフィの頭を撫で、笑った。そして俺が使っている鉄パイプをルフィに押し付ける。

 

「やるよ、それ。能力の使い方になれるまではそれを使えばいい。能力は、馴れてからでも遅くない」

 

「え、でもアレンの…」

 

「鉄パイプなら、グレイターミナルにいっぱいあるさ」

 

もう鉄パイプを使うつもりなんてさらさらないのだが。

 

そんなことを言えるわけもなく、ただ微笑んだ。サボとエースがそれぞれ牛を引き摺ってくる。

 

「アレン!大丈夫か?」

 

「ああ、問題ないよ。それより、牛も狩れたとこだし、メニューはどうする?ステーキ?」

 

今しがた倒したばかりの小山のような牛を見た。これ1頭なら、単純計算で前みたいな巨大ステーキが10枚ほどか。それを3頭分だから約30枚ほど。この3人とダダン一家を合わせても余裕で満足できそうだ。

 

「ステーキステーキ!おれステーキがいい!」

 

「俺も!エースは?」

 

「俺もステーキ」

 

万丈一致でステーキに決定した。そこからは至って平和に時間が過ぎた。4人で談笑しながら狩った牛を引き摺って帰り、血抜きをして皮を剥いで解体して……。いつも通りの作業が続き、夕食がステーキだということに誰しもが浮足立っていた……ただ1人を除いては。

 

 

 

 

「…おかしいと思わねぇか?」

 

家の外で血抜きの際に牛の血で汚れた服を洗っている最中に、家の中からエースの声が聞こえた。サボが何かを言うが、よく聞き取れない。

 

「…………かし…とは……ったけど…」

 

「だろ!」

 

エースは近いのか、気が立っていて声が大きくなっているのか、よく聞こえた。

 

「おかしいんだよ、ジジィと話してから!あれは、なんか隠してる」

 

あれ、バレそうか?しかしサボはそれに反対したようだ。

 

「…や、……は違……じゃ…いか?たしか……だけど……んなに……がう…じゃ……」

 

「そうかも知んねぇけど…俺は、嫌だ。隠し事はキライだ。俺たちは兄弟だろ!隠し事なんて、したくねぇ!」

 

その言葉にサボは黙りこんだ。隠し事…か。俺はもちろんだけど、サボも隠し事してるんだよなぁ。だからきっと思うこともたくさんあるだろうに。

 

まぁ、そのことはあとで解決…とはいかなくとも足掛かりだけは作っておこう。

 

牛の血でピンク色になった水を捨てるため、桶を抱えて立ち上がった。

 

…そういえば、俺がいなくなったあと、この家の炊事洗濯は誰がするんだろうな。洗濯はともかく、飯はどうにもならないだろう。レシピでも書いておこうか。

 

そんなことを考えて森の端に水を捨てた。

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

夕飯時、もうダダン一家の家は大騒ぎだった。めったにないご馳走がテーブルに並びみんなが目を輝かせてそれを見ていた。

 

「アレン!一体どうしたんだいこれは!」

 

「ステーキだけど」

 

「そうじゃないよ!!」

 

「じゃあどうなのさ。それよりダダン、早く食べないとなくなっちゃうよ?ほらルフィが狙って……あーあ」

 

ダダンの皿にあった肉塊はルフィの口の中へと消えた。怒ったダダンはルフィを脅しにかかるがルフィはヘタクソな嘘で「おれは食べてない」と主張した。

 

そんな日常的な光景に思わず笑みが溢れる。

 

ここにいる誰も、俺が明日の朝には消えることを知らない。だからこそ、今こうしているのが堪らなく嬉しくて寂しい。明日にはもう離れ離れだ。俺が自分で選んだこととは言え、いざとなると惜しくなる。

 

ルフィはどう言うだろうか。サボは。エースは、俺をどう思うだろう。突然何も言わずに消えた兄を、兄と呼んでくれるだろうか。

 

次々と差し出される空の皿にステーキを乗せながら一人ひとりに、よく噛むように注意を促した。

 

結局、牛3頭分の肉は全てそれぞれの腹に収まり、残ったのは骨と臓物だけになった。それらはまだ、俺の料理の腕ではどうしようもないので森の肥やしにするため桶に入れて家を出た。

 

何故か、その後ろをエースがつけてくる。忍び足で気配を消しているつもりだろうが、肝心の気配そのものは消えていない。

 

「…後をつけたりして、どうしたんだ。エース」

 

立ち止まり後ろを振り向けば、案の定5メートルほど後ろにエースがいた。

 

「…!……何も」

 

つんけんどんに言う。エースはルフィほど嘘がヘタではないらしい。

 

「いつも律儀なエースがそんなことするのに、何もないわけないだろ?」

 

水の入った桶をいつまでも持っているのも疲れ、それは足元に置いた。しかしエースは怒られるとでも思ったらしい。俯き、ぼそぼそと言い訳でもするように呟く。

 

「……ジジィと話してから、様子が変…だったから」

 

その様子に、俺は笑った。

 

「それで、心配してくれたのか?」

 

「っ…!ちがっ……俺は」

 

「心配してくれたんだろ、エースは優しいもんな。ありがとう」

 

俺は、アレンを疑ったのに。

 

エースから漏れ出てくる感情が、勝手に入ってくる。初めてのことだった。今までの覇気では、わかっても位置と距離、気配の大きさくらいだったのに今日は妙に冴えていた。

 

アレンがどっか行くんじゃないかって、疑ったのに。なんでそんなこと言うんだよ…これじゃ俺が、信じてなかったみたいだ……。

 

侵入してくるエースの感情に思わずドキリとする。

 

違う、信じてるし、信じてもらってる。負い目を感じるのはエースじゃなくて俺であるはずなのに。

 

「……ほら、顔上げろって。そんな深刻な顔するなよ、エース。…じぃちゃんと話してからだっけ?ごめんな、あの時母さんについて聞いてたって言ったろ。それで色々考えてたんだよ。…俺は変わんないから、大丈夫だって」

 

笑ってそう言った。母さんのことを話したということ以外、嘘は言っていない。エースは顔を上げた。

 

もう、感情が溢れるということはなくなっていた。潮が引くように、俺の中に入って来ていたエースの感情もすっと引いて行く。

 

「…わかった」

 

エースは頷いた。

 

「よし、じゃあ先に風呂入って寝ててくれよ。俺は掃除とか終わらせてから寝るから」

 

いつものように微笑めば、エースは安心したように笑顔を見せた。

 

明日の朝には、この笑顔はどう変わるのだろう。怒り?悲しみ?呆れ?どれもありそうでなさそうだ。

 

大人しく家の中へと戻るエースの背中を見送り、また桶を抱えた。

 

臓物がひどい臭いを放っていた。

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

臓物を森の端に埋め、桶を洗ってキッチンを掃除して風呂に入って風呂の掃除をして。

 

いつもの通りに働いて、気が付けば約束の夜10時まで、あと2時間ほどに迫っていた。家の中は既に、満腹で心地よくなった弟たちと山賊たちの寝息で溢れている。覇気で見てみても、誰も起きていない。

 

紙と鉛筆を持って1人、ランプと月明かりの下でいくつかの手紙と料理のレシピを書き出した。

 

エースに、サボに、ルフィに、ダダンに、他の山賊のみんなに。

 

それぞれに違うことを書いた。皆を合せて、なんて淡白すぎると思ったからだ。

 

レシピも合わせて、全て書き終わる頃には約束の時間はすぐそこにまで迫っていた。

 

麻袋に服と下着とユリアナの日記を詰めて、家を出る。今日は満月から少し欠けたような月だ。明るい月が浮かび上がらせた家の影を目に焼き付ける。

 

「……行ってきます」

 

行って、いつか帰ってきます。裏切ったわけじゃない。だからいつか胸を張って帰ってくるから。

 

歩き出した。森は静かだ。虫とフクロウだけが俺を見ている。どんどん、どんどん離れていく。帰れなくなる気がした。堪えきれなくなって、ついに走りだした。

 

木の上の鳥が、慌てふためいて飛び立つ。思わず空を見上げてふと気が付いた。俺の上空を飛ぶ巨大な鳥。夜で、さらに遠いのもありよく見えなかったがすぐにわかった。あれはきっとあいつだ。ここに来てすぐ、エースと仲良くなって海へ行ったときに世話になったあのカモメ。

 

自分の腹に触れた。

 

「“インプット”」

 

森の声が変化する。

 

『あの子、家を出るんだって』

 

『あのおじいさんと一緒に』

 

『帰ってこないの?』

 

『さあ、知らないよ。でも、帰ってくるといいね』

 

『だね。あの子たちがいると、退屈しない。面白いもの』

 

フクロウたちが鳴き交わす。そんな風に、思われてたのか。彼女らに声をかけた。

 

「なぁ、あのカモメを呼んでくれよ」

 

 

 

 

 

 




切れ方が変っ!!次頑張ります…笑


〈補填〉

・サボとルフィ(の腹時計)
かなり正確。

・ダダンのそれよりも遥かに痛い拳骨
もちろんガープ。頭蓋骨が陥没しそうなレベル(何故かしない)。

・エースとルフィを可愛かったので放置
アレンのデフォ。もしスマホがあったなら、取り敢えず写真に収めておく。

・悪魔の実の能力を使いこなす(?)2歳児
恐怖である。ただし、アレンがした事といえば自身の強化や能力の入れ替え程度である。他人に迷惑はかけません。

・不特定多数のイビキ
ダダンとルフィとその他諸々。サボとエースは基本静かに寝てるので好き。

・洞窟の天井の穴
何かがいた模様。

・ガープ
今だ孫に愛されない。娘にも愛されなかった可哀想な男。

・エース
家族のことになると敏感。離れ離れは嫌。ただし父親は嫌い。

・ユリアナの日記
チートアイテムになりきれない予感。色々書いてます。ラフテルとか(ヤバイ)。

・アレンはガープが嫌い。
アレン「嫌いなわけじゃないさ。生理的に受け付けないだけ(=嫌いと同義)」

・ダダンの席に座るガープ
ダダンは奥で正座。究極に大人しいが大体ガープが帰ったあとに3人(4人)のうちの誰かに当る。

・ユリアナ
アレンと顔はよく似ているが料理は壊滅的なセンスを持っていた模様。

・2人の結論
サボ&エース「「アレンがもし母ちゃんに似てたら俺たちは餓死してたな」」

・すごいメンツ
すごいメンツ。

・くそひげジジィ
また登場する予定あり。

・エースの初めて☆の覇気イベント
アレンのいないところで進行する模様。

・手玉に取られるガープ
ガープの扱いを既に心得ているアレン。恐ろしい子。

・黒い牛
危うく主人公が弟にノックアウトさせられるとこだった。持ち前の覇気と身体能力で回避。

・アレンのパイプ
後にルフィ愛用の武器に。

・サボの足掛かり
手紙にでも書いとこう。

・いつも律儀なエース
止まれと言われれば例え追われていても止まるし、挨拶もする。律儀な子。

・妙に冴えた覇気
いつの間にか勝手に進歩していく見聞色。くそひげジジィのせい。

・巨大なカモメ
取り敢えずデカい。


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第13話 船出、仲間、そしてアイツ

サブタイで若干ネタバレ。将来的にアレン君には欠かせない大切なオトモになる予定です。
そしてアイツ。書いてて楽しいアイツです。

出航したのでそろそろちょっとずつチートにしていきたいです(切望)。






 

「なぁ、あのカモメを呼んでくれよ」

 

フクロウたちははじめはびっくりしたようだが、良心的だった1羽が進んで呼びに行ってくれた。

 

『呼んできたよ!』

 

「ああ、ありがとう」

 

『いーえ!…行ってらっしゃい、頑張ってね!』

 

「ありがとう、行ってくるよ」

 

フクロウはそれを聞き届けると仲間たちと一緒に飛び立った。残ったのは木の上から俺を見据える巨大なカモメだけだ。

 

『私に、何か用かしら?』

 

彼女は静かに聞いた。相当、気位が高いようだ。

 

「用って言うか…お礼だよ」

 

『あの時の?』

 

「今までの、だよ。今までずっと俺たちのこと見守ってただろ」

 

たぶん、あの日から彼女はずっと俺たちのことを見守っていた。でも俺がそのことに気付いたのはごく最近だ。

 

『あら、気付いてたのね』

 

彼女はおかしそうに言う。

 

「最近、だけどね」

 

『そう。ねぇ貴方、私を連れてってみる気はない?』

 

半ば挑戦するように彼女は目を光らせた。森がざわめく。

 

「君を?どうして」

 

『暇なのよ。自分で言うのも何だけど、私ここらの空では強い方なの。だから刺激がないのよね。それに貴方、他の人とどこかが違う。面白そうなことが起こる気がするわ。だから、私も連れて行って』

 

彼女はそう言って木から降りてきた。地面に降り立つと、彼女の巨大さがより際立って見えた。

 

どこかが違う、というのは彼女の野生の勘だろうか?それとも、俺と他の人間との違いを感じているのだろうか?どっちにしろ、面白そうだ。こくりと、彼女に頷いてみせた。

 

「いいよ。俺今から海軍に入るし、君がカモメっていうのは丁度いいかもね。名前は?」

 

『ないわ。今まで1人だったもの。貴方が付けてくれない?』

 

よ・そ・う・が・い☆

 

え、名前って何。どうやって付けんの。

 

「名前?んー…名前か。付けたことないからわかんないなぁ。……あ、これはどうだ?“大福”!可愛いだろ!」

 

『嫌よ』

 

彼女はばっさりと切り捨てた。

 

「えー…似てるのに……じゃあ“白玉”」

 

『もっと嫌。だったら大福のほうがマシだわ』

 

また切り捨てられる。しかしもう名前が思い付かない。俺は良いと思うんだけどなぁ、大福。白いし丸っこいし。

 

「じゃあ大福。決定!君は今日から大福だよ。よろしくな」

 

彼女の不満気な声は無視して、微笑んだ。結局、彼女も諦めて“大福”になることを承諾した。

 

 

 

 

 

 

「うぅ…全部の動物の声が入ってくる…」

 

あれから両手で耳を塞ぎつつ麓の待ち合わせ場所に向かうが、うるさくてどうしようもない。

 

大福と話すために動物との意思疎通を入れっぱなしにしていたのだが、やはり森の中というだけあって、その声の量は馬鹿にならず頭が破裂しそうだ。

 

『貴方のそれ、どうにかならないの?例えば鳥の声だけとか、その種限定とか』

 

大福が後ろをトコトコと歩きながら提案した。

 

ああ、その手があったか。

 

「それ、もらった」

 

そう言えば、彼女は嬉しそうに胸を張った。

 

彼女には先程から飛んでってくれて構わないと言っているのに、どこに行くかわからないと言って一緒に付いてきてくれている。何かと優しい気がする。

 

「“リライト”」

 

早速自分の能力のところに書かれている『動物との意思疎通』を『大福との意思疎通』に書き換えた。

 

刹那、森の声が消え、聞こえるのは大福の声のみになった。

 

「はぁ、楽になった。ありがとな、大福」

 

『どうも』

 

彼女はまた誇らしげに胸を張った。案外、可愛いところもあるのかも知れない。

 

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

 

「おーいじぃちゃん!」

 

森の麓、一際大きなくすの木の下に人影を見つけ手を挙げた。

 

隣で大福が不満そうな声をあげる。

 

『あれが貴方のおじいさん?なんだか野蛮そうね』

 

「そんなこと言うなよ。確かにそうだけど、純粋なとこもあるんだよ」

 

「一体誰と話しとるんじゃ?」

 

今度はガープが不審がって声をあげる。

 

「大福だよ、さっき友達になったんだ」

 

そう言って隣の彼女を紹介するが、ガープにとっては彼女はただの巨大なカモメなので、盛大に眉間にシワを寄せられた。

 

『この人、失礼ね』

 

大福は文句を垂れ、ガープを睨みつけた。

 

早速仲悪いなぁ。

 

「仕方ないんだよ、大福。それよりじぃちゃん、早く行こう。1週間後の朝1なんだろ?間に合うの?」

 

俺の言葉にガープはそれを思い出したようだ。

 

「そうじゃ!早く行かんとギリギリになるんじゃったわ!アレン、挨拶は済ませて来たのか?」

 

「ああ、もちろん」

 

手紙で、だが。一人ずつ封筒に入れてそれぞれの枕元に置きっぱなしだ。

 

明日の朝1番に起きたエースかサボが、それを見て驚き声を上げれば、それにつられてルフィやダダンも起きて、そこで初めて俺がいないことに気付くだろう。

 

俺はまた新しい生活に身を置くことになり、なんだかふわふわしたような期待と不安の入り混じった変な気分だ。

 

今更だが、何故手紙かというと、実際に会って説明しようとすると絶対に理解しないやつと絶対に納得しないやつ、それから絶対に心配して引き止めるであろう弟たちが3人もいるからだ。

 

言わずもがな、だ。

 

それに弟たちに行かないでくれと言われた場合、俺なら決心が揺らぐ自信がある。

 

ブラコンで何が悪い。

 

まぁ、今回の新生活の場へ赴く気になったのも弟たちのためであるのだが。言ってしまえば、現在、俺はマリンフォードへの航路の真っ只中だ。このまま行けば最悪でも1週間後の深夜にはあっちに着くらしい。

 

ちなみに横にはまだガープがいる。大福はガープが気に入らないらしく会わないようにして上空を飛んでいる。

 

「おお、そうじゃアレン。まだ海兵になりたい理由を聞いておらんかったな。何故海兵になりたいと思ったんじゃ?」

 

親切にも船の手伝いをしたい、と申し出た俺を引き止めてまで何を聞くかと思えばそんなことか。

 

というか1番先に聞くべきことである。

 

「そりゃあもちろん、じぃちゃんにアコガレタカラダヨ?」

 

もちろん嘘だ。

 

しかしガープは明らかに嘘を言っている風の孫を疑うということすら頭にないらしい。嬉しそうに鼻の下を伸ばした。

 

「そーかそーか!アレン、お前だけでも道を踏み外さんでくれて嬉しいぞ!」

 

完全にキモいジジィであることは黙っておこう。

 

それにこの場合、どちらかと言うと道を踏み外したのは俺だ。俺は海軍に入ることでこのガープから離れられないのだから。

 

「当たり前だろ?じいちゃんは『てんさい』なんだから」

 

天災か天才か。俺は前者として使ったが、ガープは後者として受け取ったらしい。

 

「天才か!そうかそうか!!センゴクに良く話を付けてやろう!」

 

いや、そんなことしたらダメだかね?できるわけないからね?

 

「いいよ、俺まだ15歳じゃないんだし…置いてくれるだけでも嬉しいよ」

 

海軍に入るには15歳以上でないといけないのだ。俺は現在、11歳と1ヶ月。まだ4年近く足りていない。それをほぼほぼ一方的にとはいえ、ガープが話を通してくれたのだ。

 

わしの孫じゃから大丈夫じゃ、と訳のわからない理由での正式ではなく見習いとしての採用だが、それだけでもかなりありがたい。

 

「遠慮はせんもんじゃぞ!」

 

「この場合はしなきゃ色々と可笑しいでしょ」

 

即行で切り捨てた。ガープの相手面倒くさい…。

 

 

 

 

それからずっとガープに拘束され続け、やっと開放されたときにはもう太陽が水平線から顔を出そうとしていた。

 

ふと、やけに甲板が騒がしいことに気が付いた。走り回る海兵の1人に話しかける。

 

「あの、すみません、何かあったんですか?」

 

「海賊船だよ、ほらあそこ。ジョリー・ロジャーを掲げてるのが見えるだろ?」

 

そう言って、海兵は太陽の方を指差した。

 

…確かに、逆光でよく見えないが黒にドクロを描いた旗を掲げている船が揺れている。っていうか、あの船もしかして………。

 

「砲撃、するんですか?」

 

「ああ。とは言っても既にガープ中将が「そぉおおい!!!」……砲撃してるから甲板の俺たちは基本的に砲弾の補充だけだよ」

 

海兵は苦笑しながら、大きく振りかぶり砲弾を投げるガープを見た。

 

うん、おかしいよね。素手で弾投げた方が大砲で撃つより強いって…バケモンだよ。

 

「俺も手伝えることはありますか?」

 

正直眠いし怠いが、この状況で先に寝ますとは流石に言えなかった。

 

「いや…砲弾は重いし、ここにいても危ないかも知れないから中にいた方がいいと思うよ」

 

あの砲弾って10キロくらい?だったら余裕じゃないか?

 

俺ってば長年のコルボ山での生活のおかげで100キロ以上ある牛だって運べるんだし。それに危ないって…ここ猛獣いないからむしろ安全な方だけど。

 

「牛1頭は1人で運べるので砲弾くらいなら大丈夫かと」

 

そう言った瞬間、彼の顔に浮かんだのは『そういやコイツ、ガープ中将の孫だったわー』という半分諦めにも近い感情だった。中々ひどい。

 

「…じゃあガープ中将のところに行って砲弾の補充を頼むよ」

 

「はい!」

 

無駄に元気よく返事をして、今だ砲弾を投げ続けるガープに近寄った。ガープの他にもこの船に付いている砲台からも射撃が続いているため、海が大きく波打ち船が揺れる。

 

ガープが投げる方向に視線を向け、俺は溜息を吐いた。今砲撃されている敵船に見覚えしかなかったからだ。

 

「じぃちゃん、あの船ってもしかして…」

 

「なんじゃ、知っとるのか?…そぉおおいっ!」

 

また1発砲弾を投げる。

 

「知ってるっていうか…ルフィから聞いてるから。シャンクスって海賊の船じゃない?」

 

残念ながら先程投げた弾はレッド・フォース号からの砲撃で空中で相殺された。今のはヤソップだな、あれは。

 

「そうじゃ!あやつ…ユリアナだけでは飽きたらずルフィまでそそのかしおってからに……うおぉりゃああ!!」

 

また投げた。憎しみを乗せた渾身の一撃は、やはりヤソップによって空中で相殺された。哀れガープ。ってか今の1言聞き捨てならん。

 

「彼は母さんをそそのかしたことがあるの?」

 

いや、昼間初めて日記見た時に8割方予想付いたんだけどね。母さん海賊王の船に乗ってたし!俺のこと『シャンの子』って言って(書いて)たし!

 

それでも聞かずにはいられなかった。

 

「そそのかしたどころか!あやつ!日記に書いてあったじゃろう!お前の父親はあやつじゃ!!」

 

はい何デカい声で言ってくれてんのこのくそジジィ!

 

慌てて周りを見渡したが、幸い、戦闘中ということでそれを聞いている人間はいなかったようだ。ほっと胸を撫で下ろした。

 

「じぃちゃん、それは確かなの?」

 

「確かも何も!ユリアナが言ったんじゃ!!嘘を吐く理由がどこにある!!」

 

ビックリマークの度に彼は砲弾を投げ続けた。普通砲台には装填時間があるがガープにそういうことは関係ないのであちらも対応できなかったらしい。やっと1発がレッド・フォース号の船尾の方に当たった。

 

「ガープ中将!」

 

ガープの向こうでさっきの海兵が敬礼しつつ報告に来た。

 

「このままでは期限に間に合う確率が下がりますが、戦闘を続けられますか?」

 

「うぅむ……仕方ない…。撃ち方止め!」

 

ガープは憎々しげにレッド・フォース号に一瞥し、軍艦内に指示を出した。ふと、報告に来ていた海兵と目が合った。

 

「ほんとに君、力持ちなんだね。将来の夢はガープ中将のような海兵かい?」

 

「ええ、もちろんです!強い海兵になりたいんです!」

 

子供らしく笑って答えた。精神年齢は恐らく彼より年上なんだがな、と心の中で苦笑する。

 

彼はにっこりと微笑んだ。顔が引きつっている。

 

「君なら、きっと強くなれるね」

 

どこか遠くを見るような彼の視線の先が、俺の片手に乗る黒々しい10キロの砲弾だったことをここに追記しておこう。

 

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

 

あの砲撃のあと眠いのに船の案内をされて、7時頃になってやっと1人になれた。大福はご飯に行ってくると行ったっきりだ。

 

いや、ね。この船の人が嫌いなわけじゃないよ。流石海兵っていうか…優しいんだよ。でもさ、俺のこと察しすぎ。ガープが祖父ってのはまぁあんまり良くはないと思うけど哀れみすぎなんだよ。

 

あ、そういえばさっきの海兵さんの名前、ラボックって言うらしい。ガープに俺のこと任されてた。

 

ラボックもラボックで少し心配性な気があるらしくうっとおしかったが、まぁ良い人だ。1通りの船の説明が終わったところで、「ごめんね、疲れてるだろう?ゆっくり休むといいよ」って一人部屋を用意してくれた。気が利きすぎてコワイ。

 

まぁ俺は今、その言葉に甘えて部屋でゴロゴロしながらユリアナの日記を開いているのだが。ほんとは寝たいけどこれ放っとくってのは何かちょっと俺的に嫌だった(なんで嫌なのかはよくわからないので明言できない)。

 

どうやらこの日記は16年前からほぼ毎日綴られていたらしい。

 

1番初めの記述はこうだ。

 

『初めまして。私はモンキー・D・ユリアナ。今日から日記を付けることにしたわ。よろしくね。日記を書く上で決め事でもしておこうかしら。

 

1つ、ちゃんと考えて書くこと。

 

2つ、誰に見られるともわからないし、私最大の秘密は書かないこと。

 

3つ、毎年誕生日に1年を読み返すこと。

 

4つ、父さんには死んでも渡さない。

 

うん、これで大丈夫ね。じゃあ今日はここまで。おやすみなさい』

 

……何したんだよガープ…。死んでも渡さないって…。てか死んでから渡っちゃってるし。哀れ我が母。それに最大の秘密って何だ?

 

ベッドに座り込み、ページをめくる。

 

『そういえば昨日は日付を付けていなかったわ。ちゃんと書かないと日記じゃないわね。

 

1年目、8月7日、晴れ。昨日は私の16歳の誕生日だったんだけど、だめね、父さんがまた私に強い海兵になれって言うのよ。嫌になっちゃう。なんなら海賊になっちゃおうかって思うくらい。…ちょっと待って、今の案いいかも。海賊になろうかしら。あの人たち、いつも笑ってて楽しそうだし、案外私に向いてるのかも。

 

決めた!海賊になる!そうと決まれば色々決めなくちゃ。海賊団を結成するか、既存の海賊団に潜り込むか、ね。んー…。私、船長ってタマじゃないわね。そうだわ、いつも父さんが喧嘩を吹っかける船長さん、父さんは宿敵って言ってたわよね。彼の海賊団にしようかしら』

 

ユリアナはガープにも負けないすごい思考回路を持っていたようだ。

 

本格的に眠くなってきたがとりあえず流れは掴んでおきたいので、パラパラと適当にページをめくった。ふと、日記の中で何かを見つけなきゃいけないような衝動に駆られた。

 

ページをめくるに連れ、段々と非日常的なワードが増えてついにはロジャーやレイリーといった人名まで飛び出し始めた。

 

ページをめくるのを止め、その文に目を通す。

 

 

 

『2年目、3月8日 今日は朝からずっと雨が降ってて気が沈んでたんだけど、ついにやったわ!とうとう父さんを出し抜いて海賊船に乗り込んだの!苦労したわ。だって父さんったら私のこと殺そうとしてるとしか思えない行動ばかりのくせに「強い海兵なれ!」なんて、なりたいと思うわけないじゃない。彼の目を盗んでロジャーの海賊船に乗り込んだときはゾクゾクしたわ!それにこの船、とってもいい人ばっかりね。でも今までちゃんと偵察してきたつもりだったけど、初めて見る人も沢山いたわ。それに、私と5つしか変わらない男の子が2人も乗ってたの!あの2人は喧嘩ばっかりだけど、なんだかんだ息は合ってるのよね。2人でセットなのかしら?とりあえずこの船ならいい海賊人生になりそう!』

 

 

ついに海賊船に乗り込んだらしい彼女の文面は嬉しそうで、息遣いさえ聞こえてきそうなほど興奮した様子が伝わってくる。

 

…というか、母さんシャンクスより5つも年上だったんだ。

 

続いてまた適当にページを飛ばしていく。

 

 

『2年目、5月7日。今日もよく晴れてとってもいい日だったわ。でもまたロジャーがお酒を飲んで騒いじゃってレイリーさんに殴られてたの。いつも思うんだけど、レイリーさんの拳骨って父さんに負けず劣らず痛そうなのにロジャーも毎回よくやるわ。そうそう、またシャンがバギーと喧嘩してたわ。あの2人も毎回よくやるわよ。結局はレイリーさんの拳骨なのにね』

 

中々な内容だ。しかしそれより気になるのはロジャーを呼び捨てにしてるくせにレイリーは『さん』付けなところだ。

 

立場的にはどっちも付けた方がいいんだけどな、どんだけロジャー尊敬されてないんだよ…。

 

いや、本人が『尊敬』を望まなかったのかも知れない、と無理矢理な持論を取っ付けてみたが途中で止めた。たぶん母さんは本当に何気なく呼び捨てにしていたに違いない。そう信じたい。

 

 

 

『3年目、12月20日。晴れ。どうしよう…。生理が来なくなっちゃった。1ヶ月くらい来ないことなんて海の上じゃ珍しくはないけど、流石に3ヶ月は怪しいわよね…。もしかして、シャンかしら。というかシャンしか心当たりがないのよね。やっぱり言うべきかしら…?でも、間違いだったら大変だし、もう少し様子を見てからにしたほうがいいわよね』

 

はいあった俺だよ俺!まじか…いつからそういう関係だったんだよ…。てかこんな生々しい話を日記に書くなよ…自分だろ、誰に読まれるかわからないって書いたの。覚えとけよ…。

 

『4年目、1月30日。雪。シャンと喧嘩しちゃった。いつもと同じなのよ。いつもみたいにシャンが私の料理のことからかってきて、普段ならちょっと言い返して終わるのに、今日はなんだかとっても腹が立ったの。だからついカッとなって……。シャンにお腹の子のこと言えないまま船、飛び出して来ちゃった。今更もう帰れないわ。シャンにもロジャーにも、ひどい事言っちゃったもの。でも、いい機会かも知れないわ。私はこの子を育てないといけないもの。海の上は危険だし、この子が故郷のないまま生まれるなんて可哀想。この子のためにも…私、フーシャ村に帰ることにしたわ。父さんに連絡とらないといけないけど…今更、私のこと許してくれるかしら』

 

どうやら母さん以外、俺の存在を知っていたクルーはいないようだ。うん、良かった。もしシャンクスとかにばったり会ったりして、息子とか言われたら俺全力で逃げるよ。なんかわかんないけど逃げる気がする。

 

だって四皇だよ(まだだけど)!?嫌じゃん!海賊王の血を引いてるエースが命狙われるなら、ちょっとランク下がるけど俺だって命こそ取られなくても狙われても不思議じゃないじゃん!やだよ、わざわざ捕まるために海兵になりに行くなんて!

 

あ、でもまぁ、どっちにしろ最後には俺も海軍から追われる身になる予定だけど。

 

またいくつかページをめくった。

 

『4年目、7月20日、雨。陣痛が始まっちゃった。今日か、明日には生まれるみたい。早く会いたいわ。どっちに似てるのかしらね』

 

ついに見つけた。7月20日の短い記述。俺の誕生日の前日だ。痛みに堪え忍んで書いたからか今までの丸っこい可愛らしい字体は崩れ、乱れていた。ところどころ水が滲んだようにふやけた跡がある。それが汗なのか涙なのか、もうわからない。

 

次のページに目を移した。

 

『4年目、7月21日、晴れ。やっと生まれたわ。私と、シャンの子。シャンには似ていないみたいね。髪も目も、みんな私に似たみたい。でも…そうね、鼻はあの人譲りかしら。とっても可愛いわ。

 

名前は、もう決めてるのよ。春島でお世話になった双子の名前、女の子ならエレン。男の子ならアレン。私とあの人の子…愛してるわ、アレン』

 

会ったこともない彼女からの言葉はなんだかこそばゆく、温かい。思わず微笑んで、次のページをめくった。…が、そこには何も書いていなかった。次も、その次もずっと続く白いページに、ああ、死んでしまったのか、という静かな思いだけがすっと胸の奥に落ちていった。

 

最後までページをめくったとき、そこには少し黄ばんだ紙が挟まれていた。手紙だ。

 

『アレンへ。

 

はじめまして、なんてこそばゆいわね。たぶん、あなたがこれを読んでいるのなら私はもうそこにはいないでしょう(お決まりよね、このフレーズ)。でも、あなたに伝えなきゃならないことがいくつかあるの。

 

1つは、私もあなたと同じだということ。全てはあの自称神のおじいさんか、私の親友に聞いてね。親友の名前はマクベルよ。きっと、あなたが彼女に会いに行く頃にも彼女は生きていると思うわ。彼女、そういうタマじゃないもの。

 

2つめは、あなたの父親のこと。ごめんなさいね、そのことで迷惑をかけるわ。もしこのことが他の人に漏れれば、一般人でいるのは難しいかも知れない。でも恨まないでいてあげて。あなたも知る通り、彼は悪い人ではないわ。

 

3つめは、あなたの能力のこと。パラパラの実を食べたはずよね。その能力の宿命について、教えておくわ。パラパラの実は全ての上限値を引き上げることができることは知ってるわね?それによって私は自分が食べられる悪魔の実の上限値を引き上げたの。そうしてヤミヤミの実を食べて私の身体に閉じ込めた。これはパラパラの実の能力者がするべきこと。悪魔の実が史上に現れ始めてずっと、パラパラの実の能力者たちが続けてきた宿命なの。でも過去には何度かヤミヤミは歴史に姿を現して、必ず何かを破壊したわ。お願い、この実がティーチに渡る前に、あなたが闇を飲み込んで。辛いことを頼んでるのは知ってるわ。無理に限界を引き伸ばして2つの悪魔を身体に宿すのは死の苦しみだということは、私がよく知ってるもの。でも、全てを丸く収めるにはこうする他ないと思うの。悪いけど、パラパラとヤミヤミをよろしくね。

 

4つめは、名前とDについて。あなたの名前はモンキー・D・アレンよね。だけど、本当は違うわ。私の元の名前はジュペル・D・ユリアナだけど、父さんに拾われたときに咄嗟に名前を隠したの。彼は海兵で、いつ天竜人にバレてしまうかわからないもの。だから私もあなたも今はモンキー・Dだけど、本当は違うのよ。そしてジュペル家やいくつかの限られたDはどうやら、他のDとは少し違うみたいだわ。これ以上についてもいつか、私の親友に聞いてちょうだい。このことは手紙で言うには少し重すぎる話だわ。

 

5つめ。あなたにもう一つ、頼みたいことがあるの。ロジャーの…私たちの船長の息子を助けてあげて。お願い。これから生まれてくるエースには何の罪も無いわ。あんな死は、あまりにも酷すぎる。父さんのことだからきっと、あなたもいつかコルボ山に預けられるわ。だから必ず、あなたが兄弟として彼を助けてあげて。私の最初で最期のお願いよ。

 

最後に、愛してるわアレン。例えきちんと会って話したことがなくても、私はあなたを愛してる。生きて』

 

そこで切れた手紙には丸いフヤケたような痕が残っている。泣いていたのだろうか。

 

それはもう俺には知る術もないが、ただただ胸が苦しくなった。急に実感が湧いてやっと、これまでずっとこの世界の人間を皆、手の中の物語の登場人物のように見てきていたということに気が付いた。

 

もうここは俺の知る物語じゃない。ONE PIECEそのもののようで、全く違う。俺や、ユリアナというイレギュラーがそれを証明している。

 

その紙を元あったように折りたたみ、もう一度本に挟んでゆっくりと日記を閉じた。ぱたん、と閉じる音だけが静かな部屋に響く。どこか遠くのようなくぐもった波が、ざん、と船を叩いては引いていた。

 

もう日は高く、昼に近いことはわかったがもうどうしようもなく眠い。その小さな日記をまた麻袋に詰めて、もう一度ベッドに横になった。5歳の時にフーシャ村を離れて以来のベッドだ。今までずっと布団だったせいか、妙にふわふわして落ち着かなかった。それでも酷い眠気には勝てず、ずるずると夢の中に落ちていった。

 

 

 

……はずだった。気が付けば目の前は見覚えしかない、天井も壁もない真っ白な空間だったのだ。そして俺の前には………

 

「久しぶりじゃの、アレンよ」

 

 

 

 

 




見覚えしかないはずですよね。だってあそこですもん。


〈補填〉

・フクロウたち
モフモフモコモコ。優しいです。

・巨大なカモメ
大福。白くてモフモフモコモコ。優しいです。でも割と強い(本人曰く)。

・よ・そ・う・が・い☆
アレン「名前付けないといけないとか聞いてない。てか名前ってどうやって決めるんだよ。」

・アレンのネーミングセンス
ちょっとオカシイ。とりあえず食べ物の名前。

・アレンの能力

基本的に技は5つ。動物との意思疎通の他に、他人の能力の書き換えや入れ換え、自分の能力もイジれる。自分のに関しては悪魔の実を食べた直後に実験的に若干強化した模様。


インプット……新しく書き加える。

リライト ……インプットで書き加えたものを書き換える。

リプライスメント……能力値の入れ替え。基本的にどんな能力値も入れ替えられるが悪魔の実の能力は入れ替えられない。

キャンセル……解除。能力を変更した痕跡が残る(=再び同じものを書き加えることが可能)。

デリート ……消去。完全に消し去るので同じものを再び書き加えることが不可能になる。


・ガープと大福
仲が悪い。特にどうという理由もない。

・ブラコン
アレン。

・素手で砲弾を投げるガープ
ジジイのくせにやりおr((((バケモノです。

・アレンの腕力
コルボ山恐るべし。11歳が100キロ超えの牛を運べるという事実。海兵の反応は当たり前。

・ヤソップ
飛んできた砲弾を空中で相殺できるとかかっこいいよね。

・シャンクス
2人ともそそのかしたわけではない。勝手にそうなった。何もしていない(つもり)。罪深い。

・気の利くラボック
ガープの戦艦の中でも割と強い方。階級は大尉。もうすぐ昇格予定。これからもアレン君はお世話になる人。

・ユリアナ
丸っこい字。天然っぽい気がある。ガープとは血の繋がりはない模様。というかたぶんこの人も転生者。

・海賊王
呼び捨て。ロジャーさんって感じじゃない。

・パラパラとヤミヤミ
ずっとセットにされていたが現在ヤミヤミは行方不明。フラグ。

・見覚えしかない空間
見覚えしかない。嫌な予感しかしない。




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第14話 兄弟喧嘩

アイツが出て来ますね!!!+(0゚・∀・) + ワクテカ +

この人は書いてて楽しいので大好きです!勢いだけで書けるので笑
たぶんアレンが目覚めればもうほとんど出番なんてないでしょうけど…。

さて、サブタイで激しくネタバレしてるように兄弟喧嘩ですね!どうなるんでしょうか…ある程度のことは決めてはいるものの、それ以外は勢いなのでどうなるかは私にもわかんないです(;・∀・)

今回もたぶんgdgdです!第14話どうぞ!!






 

 

さて。目の前に座っているのは、むかつく笑みを浮かべた白い髭のちっさいじじい。

 

「久しぶりじゃの、アレンよ」

 

「とりあえず蹴っていいか」

 

右脚をあげつつ真顔で言った。じじいが慌てて頭を庇いツッコんだ。

 

「なんでじゃ!?」

 

なんでって言われても…なぁ?今まで散々俺の企み(悪魔の実を売り捌こうとしてた)を妨害して更には訳のわからない設定の母親まで出てくる始末で。そしてそもそも顔がむかつく。

 

「酷くない!?わし神ちゃんじゃぞ!?!?」

 

「酷くない。っていうか常識だ。それに自分のこと神ちゃんとかキモいだろ」

 

くそ髭じじいの顔が(´・ω・`)になり更にキモくなったのでとりあえず踵落とし。

 

「ぐぇっ!!何をするんじゃ!折角わしがおぬしに情報を与えてやろうと思うたのに!もう教えてやらんぞ!!」

 

じじいは涙目で頭を擦りながら怒った…が、何の恐怖も感じなかった。コイツ本当に神なのかよ、と今更ながらに思う。

 

「拗ねてんじゃねぇよ気持ち悪い」

 

「口調違うくない?!それにわしは拗ねとらんしちゃんと神様じゃ!!というか話を聞くくらいしたらどうじゃ!!」

 

更にじじいは怒り、立ち上がった。ただじじいは小さいので立ち上がっても俺より小さかった。俺まだ11歳のはずだけどくそ髭じじいよりデカかったのか。

 

「…はぁ。いいよ、さっさと話せば。聞き流すから」

 

溜息を吐いて手をひらひらと振り、仕方ないとばかりの顔をして見せた。

 

「ちゃんと聞いてくれにゃ困るのはおぬしじゃぞ!!」

 

「五月蝿いなぁ。言葉の綾に決まってるだろ、一々食い付くなようっとおしい」

 

ガーン、と効果音が付きそうな顔のくそ髭じじい。うざい……。

 

「ひど!?それにそれは言葉の綾じゃないじゃろ!?もうよい!勝手に話すからの!」

 

「はいはい、さっさとしてよ」

 

やっと本題に入った。ったく、前振りが長すぎて飽きる。まぁ十中八九俺のせいだけど。

 

「今回わしがおぬしを呼んだ理由は2つじゃ。1つはこれからについて、もう1つはおぬしの母親についてじゃ。ここまでで質問はあるかの?」

 

ふと思いつき、顔くらいの高さで軽く手を上げた。

 

「なんでアンタ1人なわけ。大体神ってそれぞれの役職ごとに別れてんじゃないの?」

 

「今聞くことじゃ……。…まぁそうじゃな、普段は別れてはおるが今はほとんどの仕事はわしが受け持っておる」

 

「なんで?」

 

「ストライキ」

 

「する必要性が見つからないが」

 

「暇つぶしじゃ」

 

「余計暇になるだろ」

 

「神じゃから」

 

「理由になってない。10字以内で簡潔に述べよ」

 

「遊びに行ってるから」

 

「それストライキじゃねぇだろ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

え、何コイツ同僚に騙されてんの?カワイソー。

 

「そ、そんなことを話しとる場合じゃないのじゃよ!」

 

じじいが誤魔化しに走った。

 

「じゃあさっさと話せっての」

 

 

 

早く話せとは言ったものの、そっからが長かった。

 

1つはこれからのこと、と言っていたが本当にこれからのことだった。例えばそう、海軍に入ってから俺はセンゴクとサカズキたちに試される、とか、俺がいることでエースたちの心情が変わって未来も原作とは違っている、とか。まぁ結果は基本的には変わらないらしいので俺はこのまま進めばいいだけのことなのだが。

 

にしても俺…入軍早々やばいメンツに絡まれるのか…。気が進まないな…元帥と三大将とか。

 

次に俺の母親であるユリアナについて。簡単に言うと、彼女とガープには微塵も血の繋がりはない。それに彼女は手紙に書いていた通り名前を偽っており、本来ならばジュペル・D・ユリアナだったがジュペル家は一般(?)のD以上に天竜人に警戒されているので拾われたとき、咄嗟に「姓はない」と言ったそうだ。何故警戒されているかについては、まぁ後々出てくるそうだ。今教えろってんだ。

 

それからユリアナは転生者らしい。とりあえず蹴った。もちろんくそ髭じじいを。だってさ!転生なんて俺だけだと思うじゃんか!!なのに何でだよ何でこんな身近にいるんだよ!もう死んでるけど!!

 

くそ髭じじい曰くジュペル家ってのは転生者の家系らしい。

 

っていうか警戒されてる理由それじゃね?予言とか言って天竜人に良くない予言(というか予告)して当てたんだろどうせ!!…って思ってたらドンピシャだった。ほんとにそういうことして処刑された人間がいたらしい。バカかよ…わかるだろそんくらい…転生者ならそういうことわかってろよ…。

 

 

「…で?どうなんの俺」

 

溜息混じりに頭を掻いてそう聞けば、じじいは困ったような顔をした。

 

「今それを言うてしもうたら面白みなどないじゃろう?折角のセカンドライフじゃ。愉しめばいいのじゃよ」

 

「じゃあもっと楽しめる星の下にでも生まれさせてくれりゃ良かったんだろくそ髭じじい」

 

そう脅迫気味に言ってみたがいつの間にかじじいのメンタルは成長していたらしい。ビビらない。なんだ、面白くないな。

 

「はじめてここに来た頃のおぬしを恨むんじゃな」

 

「まだ引き摺ってるのかよ」

 

「このわしを3回も蹴りボコボコにした挙句、くそ髭じじいやじじい等33回も貶した罪は重いんじゃぞ」

 

細かっ。数えてたのかよ…。てか初回のあの時だけで33回?俺ってば実は口悪いのか…?これでもわりと気をつけてたんだけどな……パニクってそれどころじゃなかった気もするけど、それなりにショックだな。

 

「そうだ。あのさ…エースたちはこれからどうなるんだ?」

 

ふと思い出したことを尋ねた。じじいは首を傾げ不思議そうな顔をする。

 

「どうしてじゃ?」

 

「んー、俺っていうイレギュラーのせいで多少なりともストーリーは変わってるんだろ?だったら俺がいなくなったあの家はどうなるんだ?」

 

エースの覇気イベントとかサボの出航イベントとか、適当に理由こじつけて勢いで飛び出してきたが、あの家の炊事洗濯、更には掃除まで全部俺が受け持っていたのだ。俺がいなくなればその全てが機能しなくなる。とりあえずレシピはいくらか置いて来たものの、あのメンバーでは心配するのは当然のことだった。

 

「ふむ…では見てみるかの?彼らは今喧嘩しておる」

 

「は?なんで喧嘩?」

 

じじいが床を撫でるように手を動かせば、そこにモニターのような水面が広がった。多少波打ってはいるものの向こう側が見える。じじいのジェスチャーに従い、その水面に顔を浸けた。

 

エースがルフィに怒鳴りつけているところだった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━

~エースside~

 

 

 

その朝、アレンは起こしに来なかった。

 

朝飯の良い匂いも俺たちを呼ぶアレンの声もなく、ただ静かな朝だった。否、日は昇り厳密には、もう朝とは言い難い時間帯だ。隣のサボも目を覚まし俺の枕元に置かれた白い封筒に気が付き教えてくれた。サボの枕元にも、同じようにそれは置かれていた。

 

封はされていなかった。アレンの小奇麗な整った丸文字で俺の名前が書かれたそれに一抹の不安を覚えて、サボを見た。サボも同じように俺を見ていた。

 

「これって……?」

 

思わず口にしたが、どうにも言葉は続かない。サボは首を横に振った。

 

「そんなわけ…」

 

否定の声に自信はなく、ルフィの少し大きな寝息の中に消える。

 

手の中で封筒をひっくり返した。俺の名前以外には何も書いていない。

 

「…とりあえず、読んでみようぜ、これ」

 

「おう」

 

サボの提案に頷き、白い封筒から同じく白い紙を取り出した。2つ折りにされたそれを開ければ中にはびっしりと文字が綴られていた。サボも同じらしい。手元の紙に目を落とした。

 

『エースへ

 

 お前がこの手紙を読んでる頃には俺はたぶん、海の上だ。前に話したように海兵になるんだ。決して、お前と敵対するためじゃないから、そこは忘れるなよ?

 

 さて、この手紙を書いたわけだが、もし俺がお前に「海へ出る」と言ったときお前が快く許してくれるか、と考えたときにお前ならきっと納得しないと思ったからだ。それに俺はお前に、行くなと言われれば決心が揺らぐ自信がある。

上手く誤魔化せたと思ったんだけど、やっぱりエースはすごいよ。俺の様子がおかしいことに1番早く気付いたな。嬉しかったよ。

夜中のうちに家を出たことを許してくれとは言わない。でも、少し早いが“海に出ること”は許してくれ。

 

 ところで、今日からはお前とサボがルフィのたった2人の兄貴だぞ?俺はいてやれないんだから。

兄貴として、俺の代わりにルフィにちゃんと戦い方を教えてやってくれよ。それからサボはもしかしたら、何かひと悶着あるかも知れないが、絶対に手を離さないでやってくれ。彼は今、誰よりも孤独なんだ。頼んだぞ?

 

最後にエース。兄弟として、これ以上ないくらいに愛してる。ちゃんと行けよ、海賊の高みへ。

 

          モンキー・D・アレン』

 

あのあと、先に寝ていてくれと言った後に、アレンはこの手紙に字をしたためたのだろうか。だとしたら、アレンはひどい大嘘吐きだ。

 

掃除とか全部終わらせたら寝るって、そう言ったのに。俺は気付いたのに、アレンの様子が変なことに1番に気付いていたのに話さえ聞かせてもらえなかったことが悔しくて、悲しくて仕方がない。

 

手紙から顔を上げ、サボと目が合った。その瞬間、サボの目が揺らぎ反らされた。アレンと同じ、何かを隠している顔だった。急に胸が苦しくなった。

 

今度は、サボが?

 

当然のように、サボもここからいなくなるのではと疑っていた。

 

それにすぐに気が付いて、何よりも大切なはずの兄弟を疑っていることがどうしようもなく嫌で胸糞が悪くなる。

 

サボの向こう側でルフィが小さく唸り、身体を起こした。まだ眠そうに目を擦りながらも、異変には気付いているようだった。

 

「あれ……?さぼ…あれんは…?」

 

サボは答えに困り、口を噤んだ。また目が合う。今度は目を反らされはしなかった。

 

兄貴として、俺が答えないといけない気がしてゆっくりと口を開いた。

 

「……アレンは今、海の上だ」

 

簡潔だった。当然のこと、少し頭の弱いルフィは理解が追いつかず、首を傾げた。それが無性に苛ついた。それしか言えなかった俺が悪いはずなのに、何も悪くないルフィに腹が立った。ふつふつと湧き上がるドス黒い感情が、まるで指先にまで流れていくようだ。

 

「なんでだ?」

 

「……!解かれよそのくらい!!」

 

気付けばルフィに怒鳴っていた。サボが俺を見ていた。ルフィは突然のことに驚いて、丸く大きな目をさらに大きく見開いていた。ドグラやマグラたちが目を覚まして何事かを身体を起こして俺を見る。

 

心臓が暴れて肋骨を叩く音が、耳元で鳴っているようだった。いつの間にか握りしめていたアレンの手紙が、グシャリと音を立てる。止まらなかった。

 

「アレンは海兵になりに行ったんだ!なんで解かんねぇんだよ!そんくらい理解しろよ!!」

 

「わ、わかっ……」

 

ルフィの目に、涙が盛り上がりぼろぼろと頬を伝った。それにさえ苛つきが募りどうしようもなくなる。

 

「泣くな!!!」

 

また怒鳴る。ルフィは俺の声に応えようと必死になって目を擦るが涙は止まらない。こんなに理不尽な怒りをぶつけられてもルフィは俺を疑わない。

 

「お、おいエース、落ち着けって!」

 

サボが止めに入り俺の腕を掴み制止しようとした。

 

「落ち着いてる!」

 

俺はそれを振り払おうともがくが、サボは手を離さない。自分自身の言葉とは裏腹に、落ち着いてなどいなかった。今も頭の中ではたくさんの声が不満を喚き散らしている。

 

「お前たち朝から何を騒いでるんだい!!」

 

俺の怒声に起こされたダダンが額に青筋を浮かせて怒鳴り込んで来た。俺の腕を掴むサボの力が緩む。その刹那、サボの手を振り解き、壁に立て掛けてあった鉄パイプを引っ掴んで家を飛び出した。今まで散々走り回り馴れ親しんだ森へと駈け込む。

 

「エース!!」

 

サボの声が聞こえたが振り返らなかった。

 

森の中をただひたすらに走って、走って、疲れて立ち止まって。後ろを見ても誰も追い掛けては来なかった。自分が至極小さく思えた。ぐるぐると色んな感情が渦巻いた。悔しくて悲しくて嫌で怖くて、どうしようもなく寂しくて。マイナスな感情ばかりだ。

 

あの頃の自分には戻れない。一人で平気だった、アレンが来る前の自分には、もう戻れない。やっと気付いたことだった。アレンの困ったような笑みを浮かべた顔が、走馬灯のように脳裏を過る。

 

鼻の奥がツン、と痛くなる。

 

泣くな、泣くな泣くな泣くな。泣いたら、俺の中で何かが壊れる気がした。寂しい、痛い、怖い。声に出すことすらできない。

 

ルフィみたいに必死に目を擦った。泣かないように、バレないように。

 

ホー、ホーとフクロウが低くゆっくりと鳴いた。その声に押されるようにまた足を動かし始めた。引き摺ったパイプが、ずるずると標になって尾を引いた。向かう先は、1つしかなかった。

 

昨日、アレンと兄弟の盃を交わしたばかりのあの洞窟へ。

 

森の中に線を引きながら、真っ直ぐ洞窟へ向かう。不思議と猛獣たちには出会わずすんなりとその入り口に辿り着き、暗く長い通路を抜けてやっと視界が開けたとき、どこか違和感を覚えた。

 

昨日ほど、ここが綺麗だとは思えない。

 

答はすぐに見つかった。天井から差し込んでくる陽の光が弱く暗い。きっと外は天気が崩れて来ているのだろう。

 

ピシャッ、ゴロゴロ…と低く雷鳴が轟いた。それと同時に雨が降り始め、天井の穴から雨粒が落ちてきて湖の真ん中にだけ降り注いだ。

 

…ちょうどいい。雨が止むまでここにいよう。

 

そう思って、湖畔に寝転び鉄パイプを放り出した。天井近くでは小鳥がさえずり飛び交って、地上では子狐たちがじゃれあっている。その様子に、また胸が痛くなった。

 

アレンはもう、ここにはいない。もう誰も、アレンのように優しくはしてくれないし、俺たちの世話を焼いてもくれない。飯も掃除も洗濯も、全部俺たちがやらなきゃいけない。

 

…だったら、家を出ればいいだろう?

 

頭の中で誰かが囁く。その通りだ。アレンは1人で海軍に入ることを決めた。独立したんだ。だったら俺たちも独立すればいい。

 

ゆっくりと目を閉じた。瞼の裏には何も映らない。ただ赤い、自分の瞼の裏が見えるだけだ。

 

また稲光が走り、一瞬だけ洞窟が明るくなる。ドンっと雷が落ちた。すぐ近くだ。刹那、地面が揺れ轟音が響く。ガラガラと耳障りな音がした。驚いて身を起こし、鉄パイプを引き寄せるが何かが起こる気配はない。否、もう起こった後だった。

 

この洞窟の唯一の出入り口である入り口が崩れ去っていたのだ。頭の中が真っ白になった。

 

ここに、閉じ込められた?

 

心臓がまた暴れ出した。ドクドクと耳元で煩く鳴り響く。

 

瓦礫を退かせば……。

 

そう思って崩れたそこに近付いて、気が付いた。入り口を塞いでいたのは土砂ではなく巨大な岩だ。これでは俺の力だけでは動かせない。その場にへたり込んだ。

 

まさかここで生き埋めにされるなんて、思ってもいなかった。脱出は絶望的、ルフィとは一方的に喧嘩したまま。こんなことなら、喧嘩なんてするんじゃなかった。否、喧嘩さえしなければ俺はここに来なかったはずだ。

 

その場で膝を抱えるようにしてうずくまった。また鼻の奥がツン、と痛くなる。

 

絶望的に今なら、泣いてもいいかな、なんて女々しい考えが頭を過る。

 

ふと、どこからか騒ぐ声が聞こえる。顔を上げ入り口を見るが変わった様子はない。音の元を辿り上を見上げて目を見開いた。

 

天井の穴からサボの下半身がぶら下がっていた。

 

「う、わ!おいルフィ!もうちょっとなんとかならねぇのか!?」

 

どうやらゴムであり伸びるルフィを使って降りようとしているらしい。

 

「サボ!!」

 

思わず名前を呼んだ。サボは首をひねって俺の姿を確認し満面の笑みを浮かべた。

 

「エース!大丈夫kっ…!?うわぁああ!!」

 

深く考えず声を掛けたのが間違いだった。俺の方に気がそれたサボは手を滑らせ、湖の真ん中にダイブした。水しぶきが高く上がる。

 

「!!?サボ!!!」

 

岸辺に駆け寄り落ちたサボの姿を探す。幸いこの湖の水はよく透き通っていたので探す間もなく見つかったのだが。

 

サボはすぐに浮かび上がり水面から顔を出す。

 

「プハッ!びっくりした…」

 

脳天気なサボの声に肩の力が抜ける。詰めていた息を吐き出した。サボはぶるぶると頭を振り犬のように水を弾いた。

 

「なんだよそれ……」

 

「あははは…手が滑っ「うわぁああああ!!!」…は?」

 

頭を搔きつつサボが笑うが、叫び声がそれを掻き消した。上を見上げれば、ちょうどルフィが真っ逆さまに落ちてくるところだった。

 

「えっちょっ……」

 

ルフィはもがきながらサボの真横に落ち、彼よりひどい水しぶきを上げる。サボはそれを避ける暇もなくまともに被り、また頭からびしょ濡れになった。ルフィの落ちたそこに、彼の麦わら帽子だけが波に揉まれながら水面を漂っている。

 

「うえぇ…水飲んじまった。おいルフィ最悪だぜ……ルフィ?」

 

舌を出し顔をしかめてサボは言う。その真横ではまだルフィがブクブクと泡を出しながら水の中に………

 

「サボ、ルフィは能力者だ……」

 

サボの顔から一気に色が消えた。そのまま何も言わずに大きく息を吸い込み水に潜る。数秒後、サボはルフィを抱えて浮かび上がってきた。かなり重いらしい。泳ぎは得意なはずだが、妙な浮き沈みを繰り返していた。

 

脇のルフィはぐったりと力なく項垂れている。思わず水に飛び込んだ。冷たい水が身体を包む。水を吸って服が重くなるのを感じた。しかしそんなことを気にしている場合ではない。必死になって湖の真ん中を目指す。

 

「サボ!ルフィを貸せ!あと、帽子!」

 

立泳ぎをしていても、今にも沈みそうなサボからルフィと帽子を受け取り今度は元来た岸辺の方を目指した。水を吸った服と、脱力したルフィはとてつもなく重い。それらに引っ張られ、何度も沈みそうになる。

 

やっとの思いで岸辺に辿り着く頃にはもう、俺もサボも疲労困憊だった。

 

「はぁ…っ……サボ、大丈夫か…?」

 

隣で横たわり荒い呼吸を繰り返すサボはぐったりと目を瞑っていた。相当疲れたらしい。確かに、今回のことはかなり心臓に悪かったと思う。

 

「はぁっ……はぁっ……ああ、大、丈夫……。…でも……やべぇよ、これ…戻る方法が………」

 

そう言って天井を見上げる。まだ振り続ける雨が降り注いでいるそこには文字通り、サボの頼みの綱だったルフィはいない。彼は今サボの反対隣で死んだように眠っている。

 

荒い呼吸をなんとかしようと、サボが深呼吸を繰り返した。俺もそれに倣いゆっくりと深呼吸をする。

 

頭上の鳥が不安を煽るようにけたたましく鳴いた。

 

 

 

 




ふぅ。また切れ方おかしいですね;;;;;
ちゃんと脱出します。頑張って( ㆆ ㆆ)و✧

それから7月21日は私の誕生日です!祝ってくれてm((((殴すみません黙りマス。


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第15話 ツッコミ不在の恐怖。そして事件

脱出します。時間かけ過ぎて何が書きたかったのか自分でもわからなくなる始末。いつも通りのgdgd具合です。

それから事件。ある意味大事件です。


 

 

 

頭上を飛ぶ鳥がけたたましく鳴き喚き、不安を煽る。まさしく詰んでいた。先にも進めず後にも引けず、このままここで死ぬのだろうか、と柄にもなく諦めそうだ。

 

「……どう、する?サボ」

 

幾分か落ち着いたらしいサボに指示を仰いだ。いつもならアレンに聞きたいところだが、もう彼はここにはいない。それに、俺はお世辞にも賢いとは言えない。だから彼と同じくらい賢く冷静な判断ができるサボに頼るしかなかった。

 

サボはしばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「…ルフィしか頼れねぇだろ?この状況じゃ。ロープもねぇし。コイツの腕があの穴まで届けば…たぶん、どうにかなる」

 

そう天井を見上げた。まだ止まない雨がその穴から降り注いでいる。穴の端に鉄パイプが転がっているのが見えた。

 

サボの言うことは理解できるし、それしかないと思う。ただ、その案には決定的な不足点があるのに気が付いた。

 

ルフィはまだ、能力を支配しきれていない。

 

昨日のアレンへの誤射ではっきりしたことだ。あの場ではアレンが避けたからさして咎めることもなかったが、この場合ではちゃんと支配しきれていないのなら脱出は望み薄だ。

 

「でもサボ、コイツはまだ…」

 

「能力を使いこなせてねぇよ。でもどうにかするしかねぇだろ?生きて外に出るんなら」

 

眉間にシワを寄せ、サボは絞り出すように言った。不安な気持ちが空気を伝って来るようで、怖いのは自分だけじゃないと気が付いた。

 

「…わかった。ひとつ、俺に案がある」

 

ダメ元で切り出した。俺なんかより頭のいいサボならもっと確率の高い案は出せそうだが、サボは俺の案に同意してくれた。

 

「じゃあ、ルフィが起きたら、決行な」

 

 

 

 

 

 

「…わかったか?」

 

数分後、目を覚ましたルフィに脱出案を話し理解を確認しようとしたが、どうやら彼の理解できる域を超えたようだった。

 

ルフィはふるふると頭を横に振り、不安そうな顔をする。

 

「もうなんでもいいからこの石掴んで腕の力抜いてりゃいいんだよ、後は俺たちがやるから」

 

呆れたサボはそう言って、ルフィの手を取り掌にスッポリと収まるくらいの石を握らせた。錘の代わりだ。

 

「どうやって…?」

 

「だから今説明したろ。投げ縄だって。お前の腕を縄に見立ててあのパイプに投げるんだ。その石は投げやすくするための錘。この説明すんの2回目だぞ?もう理解したか?」

 

やはりルフィは頭を横に振った。これ以上分かりやすい説明にしろと言うのか。残念ながら俺には無理だった。サボはどうか、と彼の様子も見るが完全に呆れて考えることを放棄していた。

 

「もういい。とりあえずお前はこの石握ってろよ」

 

そう言ってルフィの返事も待たずその腕を掴んだ。引っ張れば引っ張るだけびよびよと伸びる。本物のゴムのように千切れることはなさそうだ。

 

「大丈夫だって、指示はするから」

 

まだ不安そうなルフィを宥めるようにサボは言った。それからサボは俺に目配せをし、そしてこくりと頷いた。

 

ルフィの腕を頭上で回し、勢いを付けていく。生きたままの野牛の動きを止めるときの投げ縄とそう変わらない。何も緊張する必要などない。

 

背後でルフィが不安気に声をあげた。サボがそれを宥め、俺が手を離すのを待っている。3人の命が俺に架かっていると言っても過言ではない状況の中、俺は狙いを定めて手を離した。天井の穴へと吸い込まれていくルフィの腕。

 

完全にその手が穴の向こうへ消えかけたとき、サボが叫んだ。

 

「ルフィ!パイプを掴め!」

 

「えっ」

 

次の瞬間、ガチャン!と耳障りな音が耳をうった。鉄パイプが穴に引っかかった音だった。ルフィが離したことで重力に従順になった石がボチャン、と湖に落ちた。

 

「やった!!」

 

サボがガッツポーズを決めた。これでルフィが手さえ離さなければ、脱出は成功したも同然だ。

 

「ルフィ!手は離すなよ!」

 

わかった、とルフィの顔が明るくなる。それに思わず釣られて微笑み、サボに再び目配せをした。

 

「んじゃ、ルフィ。合図したら腕、戻せよ」

 

そう言ってサボはルフィの手を握った。俺もそれに続き、サボの手を握る。これはサボの案だ。降りてきた時と同じように、ルフィを命綱にして上に上がる。上手く行けば3人とも確実に助かる方法だ。

 

「行くぞ!ルフィ、腕を戻せ!」

 

刹那、ぐん、と内臓を置いてけぼりにして来たかのようは浮遊感と共に視界がどんどんと上っていく。サボと握った腕と肩が痛かったがこれさえ耐えれば外に出られる。希望が見えた。

 

思わずサボを見上げ、目があった。サボは嬉しそうに目を細め笑う。

 

成功した。その笑顔にそう確信した。

 

次の瞬間、俺たちは鎖のように繋がったまま天井の穴から外へ飛び出した。開けた視界に森の深い緑が飛び込んで来る。

 

「出た!!!」

 

ルフィが声を上げた。気がついたときにはドッと鈍い衝撃音と共に硬い岩の地面に体をぶつけて3人揃って地面に伏していた。肩やぶつけた腰がズキズキと痛む。

 

ゴムであるルフィは岩に体をぶつけてもどうということはなかったらしい。すぐに立ち上り興奮してぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる。

 

「すげーな!エースもサボも!すげーかっこよかった!!!」

 

こんなストレートな褒め言葉なんてアレンを除けば初めてだ。いつも満足気に微笑んで無駄に褒めるあの兄でやっと慣れたと思ったのに、顔はボッと火がついたように熱くなる。

 

「なッ……黙ってろバカ!」

 

ルフィに怒鳴りつけ顔をそらすが、運が悪かった。そらした先にはサボがいて、俺を見てニヤニヤと笑っていた。

 

「笑ってんじゃねぇよ!」

 

「いや~エース君は可愛いなーと思って。なぁ、ルフィ?」

 

「???エースはかっこいいぞ?」

 

「もうやだ俺…」

 

頭が単純すぎるルフィはこてんと首を傾げ、それを見てサボはゲラゲラと笑い出す。ツッコミ不在の恐怖に頭を抱えた。

 

アレンがいたならば少なくとも軽いツッコミくらいはいれただろう。まぁ、のらりくらりとして、ふと突拍子もない思考に至るような彼の性格上、最終的にはどちらにも加勢しそうだが。

 

「もういいだろサボ!さっさと帰ろうぜ」

 

まだ笑っているサボを半分睨みながら言う。ルフィはまだ状況を理解できていなかったので放置だ。

 

「あははっ…いや、ごめんごめん。なんかすげぇ面白くてさ」

 

目尻に浮いた涙を拭いながらサボは近くに落ちている鉄パイプを拾いに行った。たぶん、形からしてサボの物だ。

 

そういえば、俺のパイプを洞窟の中に置き去りにしてしまった。長年愛用しているほどに手に馴染んだものだったのに、惜しいことをした。

 

でもまぁ、鉄パイプならグレイターミナルにいくらでもある。また拾いに行けばいいか、と考え直し先に帰路につき始めたサボに続いて森を歩き始めた。

 

後からルフィも俺に続く。

 

「…なぁサボ」

 

ふと声をかけた。サボは、ん?と肩越しに振り返り俺を見る。

 

「俺たちも、独立しねぇか?」

 

アレンみたいに、と付け加える。サボが立ち止まり、それに合わせて俺も立ち止まったが、前を見ていなかったらしいルフィが俺の背中にぶつかった。何か文句を言うがサボの様子を見てすぐに黙りこんだ。ルフィのくせに珍しく空気を読めていたと思う。

 

「独立?」

 

「ああ。ダダンの家を出てさ、俺たちだけで暮らすんだ。今までみたいにアレンにも、ダダンたちにも頼らねぇ。海賊になるために、強くなるために独立するんだ」

 

独立自体は、以前から案としては在った。だがアレンがそれを許さなかった。保護者として、ダダンたちは何かと都合がいいだろって。その意味はよくわからなかったがその言葉で、今までずっとあの家で生活してきたことは事実だ。

 

「俺たちはずっとアレンには敵わなかった。でもそれじゃ海賊の高みに行くにしても世界を廻るにも、いつか限界が来る」

 

憧れと、少しの焦りの目で見ていた強い兄の背中は俺よりずっと大きくて、いつも俺たちの先を行く。遠くなって見失わないようにしてきたけど、これからはもうそんなわけにも行かない。アレンは海兵、俺たちは海賊。

 

味方だとは言ってくれたけど道は違う。追いかけるのはもう無理だ。だったら、違う道に行くために強くならないといけない。そのための独立なんだ。

 

サボは頷いた。

 

「いいと思うぜ。ルフィは?」

 

後ろで話を聞いていたルフィに振る。彼は笑う。

 

「おれも賛成!海賊になるなら、自由じゃねぇとだもんな!」

 

「ちょっと違うだろ、それ」

 

呆れたように笑いながらサボが言う。急に大人びた気がした。何と言えばいいのか、いつもアレンが浮かべていた保護者のような温かい笑みだ。

 

サボと目が合った。さっきの表情とは裏腹に子供っぽくこてん、と首を傾げる。

 

「?どうかしたのか?」

 

「いや、なんか…急に大人びたなって」

 

それが変で、と言えばサボは笑った。

 

「それはお前もだろ?お前も何か変わったぞ」

 

「そうか…?」

 

おう!とサボは頷き、そして踵を返した。

 

「ほら、さっさと帰ってダダンに怒られようぜ。んでそれから独立だ!」

 

 

 

 

━━━━━━━━━

~アレンside~

 

 

 

「どうじゃったかの?」

 

水のモニターから顔を上げ、満足げな髭じじいを見た。

 

「どうもこうも……可愛すぎだろ俺の弟たち」

 

「そういうと思ったわい。ブラコンめ」

 

んー?なんか変なワードが聞こえたけどー?

俺は自分で言うのは良いが人には言われたくない!

 

「あ゛?なんか言ったかくそ髭じじい」

 

にっこり笑って指の関節を鳴らした。じじいはビクリと肩を揺らし1歩身を引いた。あからさまだな、おい。

 

「と、兎に角!おぬしの弟たちの喧嘩は終わりじゃ!特に用がないなら元の眠りに戻ってもらうぞ!」

 

「あ、ちょっと待って。今用があるなら聞いてもらえるのか?」

 

いいコト聞いちゃったねー。自分で言うのも何だけど、たぶん今の俺って凄い悪い顔してると思うよ。

 

「なんじゃその顔は!悪いことしか考えておらんじゃろ!」

 

悪いこと考えてますが何か?だって俺パラパラの実だけとかやだもん。使い勝手はいいしチートっぽいのはわかるけど、何せ地味だ。できるならもっとかっこ良くて強力なの食べたい。

 

「ほれ見ろ!ただでさえチートになり得る能力にさらに強力なのじゃと?!天下でも取る気が!?」

 

「あ、いいねそれ。俺が天竜人下して世界の王になったら面白そうじゃん。あいつらただのバカなゴミだし、世界政府さえどうにかできれば楽勝じゃね?」

 

「もうやだ神ちゃん泣きそう」

 

「キモッ…」

 

「泣くぞ」

 

「勝手に泣けば。てか今の脅迫罪だろてめぇ」

 

「口調!!」

 

「あ゛?てめぇ神だからって何でもかんでも許されると思ってんなよクソじじい。人権主張すんぞ。表現の自由だゴルァ」

 

「スミマセンでした……ってするかぁあああ!わし必殺落とし穴!!!」

 

「うわ!!またかよぉおおおおあああああああああ!!!」

 

また落ちた。チッ……あのじじい絶対俺のこと落とせばどうにかなると思ってるし。次会ったら絶対フルボッコ。問答無用で出会い頭に蹴り倒してやる…。あいつが神とか信じないからな、俺。

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

「夢見が最悪だ………」

 

おはようございます皆さん。アレンです。

 

じじいに落とし穴に落とされてすぐに目が覚めた。もうホント…休んだ気がしない。ずっと起きてた気分。

 

しかもあれじゃん。なんかあまり触れなかったけどさ、俺ってセンゴクとサカズキたちに試されるじゃん。入軍早々詰んでない?うわぁああああ……。

 

『何か悪い夢でも見たの?』

 

「うわっ!!?……ああ、なんだ大福か…いつから帰ってたんだ?」

 

わかりやすく暗黒背負ってるとこ見られたし。っていうか頭しまってたら大福ってほんとにデカい大福だな。

 

『お昼頃かしら。あなたが眠ってすぐよ。…それより見て、変な果物があったのよ。海賊たちが必死に取り合いしてたし、珍しいものかなって思って奪ってきちゃったわ』

 

え?まじで言ってんの。

 

大福が嘴で押して差し出したのは…紫色のメラメラ的な形の悪魔の実。

 

嘘だろ?海賊たちの争いの中突っ込んで奪ってきたって…大福ってまじで強いのか?

 

「…これがどんな物なのか、知ってるのか?」

 

『知らないわよ。でも食べたくはないわね。何か嫌だもの、この果物』

 

野生の勘ってやつか。

 

だからあなたにあげる、と大福はそれを俺に差し出すが…自分が生理的に嫌なもの他人にあげるのか。もしかしからこの子もの凄いSっ子かも知れない。

 

「いや…ああでもとりあえず、何の実なのかだけ見てみるか」

 

そう言って悪魔の実に触れ、目を閉じた。瞼の裏に標示されるのは…【動物系ヒトヒトの実幻獣種モデル『鬼』】。

 

うん?すごい強そうだね!てかじじい、俺の願い聞き入れてくれたのか…実は優しいのかじじいのくせに!次会った時フルボッコはやめてボコボコくらいに留めといてやろう!

…ボコらないという選択肢はありませんが何か。だってアイツのポテチのせいで俺殺されたし。それなりに根に持つタイプだ。

 

「鬼か。よし、食べよう」

 

『え、食べるの?すごい嫌な雰囲気よ、それ』

 

彼女は明らかに引いた様子で俺の手の中の果物を見つめた。

 

コレ君がくれたやつなんだけど!?

 

「まぁそうだね、君が食べるのはたぶん、得策じゃないかな。海に潜るのも浮かぶこともできなくなるから…それにこれはすごくマズいしね」

 

あ、と大福は何か思いついたように声を上げた。

 

『もしかしてそれ、悪魔の実っていう果物なんじゃない?』

 

「そうだけど…なんだ、知ってたのか」

 

『まぁね、すごくたまに友だちが間違って食べちゃって海で溺れて死んじゃうもの。実物は見たことなかったけど、あなたも、それに私の友だちもよくコレを食べようと思えたわね』

 

おっしゃる通りで。こんな鮮やかで変な色の食べ物なんて毒があるとしか思えないのにさ、何故か誰も疑わないんだよな。ルフィとかマキノさんとか。

 

「そうだな……。うし、食べよう」

 

丸呑み…はダメだな。どこぞの赤っ鼻がそれである意味死んでた気がする。1口齧ればこっちのものだったはず。

 

ふぅ、とゆっくりと息を吐きまた息を吸いつつ鼻を摘んだ。そのままキツく目を瞑り悪魔の実に小さく1口齧りついた。

 

口の中に広がる味は最悪だ。世界で最も臭い&マズい食べ物Best3を全部ミキサーに突っ込んで混ぜあわせたみたいな風味と、それからグニグニとした歯ざわり最悪の感触。噛まずにいても口の中で解けるのだが、それがダメだ。グニグニでベタベタのくそマズいそれが舌全体を包み込むように口の中でとけている。

 

今すぐに吐き出したい。石鹸ででも洗いたいくらいだ。だが出すわけにもいかず、半ば無理矢理それを飲み下した。喉が拒絶している。苦しいし、痛い。それに味がまだ残っている上に飲み下したそれからも味がしているような感覚に襲われる。

 

『あら、1口が小さいわね。気も小さいのかしら?』

 

大福が毒を吐くが対抗する気にもなれず、そもそもそんな元気が出るわけもなくただそのマズさに悶えた。

 

口の中に残る欠片がまだ味を発しているため口内は最悪だ。

 

「おぇえええ……最っ悪だ…」

 

『食べなくてよかったわ。…で?何か変わったことは?』

 

大福の言葉に、拳を握ったり開いたり動かしてみたか特に変化はないように思う。パラパラを使うときみたく、とりあえず手に意識を送ってみた。ぼうっと、掌が紫色に鈍く光る。

 

え。鬼って手光るの。

 

とか思ってるうちに光は増し、そのうち掌から火の玉が現れた。光と同じく紫色の焔だ。

 

『ふぅーん。焔を出すのね。鬼が出すから“鬼火”ってとこかしら?』

 

大福が面白そうに言う。結構良い案だ。

 

「“鬼火”かぁ。いいじゃん、それにしよう!…てか自分で確認するよりパラパラで見た方が早くないか?」

 

その焔を握り潰し、そしてパラパラで自分に触れる。表示される数字の一番下に書かれた特殊項目の更に一番下、【動物系ヒトヒトの実幻獣種モデル『鬼』】の詳細を開く。

 

おー…すごいな、これ。便利だ。

 

簡単に言えば、さっきの焔はこうだ。

 

【鬼火……全てを焼き尽くす地獄の業火。掌から飛ばすことができ、さらに燃やしたいと念じたものだけを燃やすことができる。一度点火すると消すのは困難で、海に入るか対極の能力によってのみ鎮火できる。】

 

つまりは相性の悪い能力者━━━例えばヒエヒエ辺りだろうか━━━以外には最強というわけだ。いいじゃん。あのじじいも中々使える。

 

次の項目に目を向けた。

 

【鬼神 羅刹天《らせつてん》……鬼火によって創造される焔の鬼神。独立した意思を持ち、主を選ぶ。認められれば最強の武神になり得る。】

 

【鬼神 那伽《ナーガ》……羅刹天と同じ、鬼火から生まれる鬼神。7つの頭を持つ蛇の形を取るが、同じようにそれぞれが独立した意思を持ち、仕える主を選ぶ。羅刹天よりも忠実だが選ばれるのは至難の業。また、7つの頭それぞれに特性がある。】

 

【焔鬼葬浪……飛ばした鬼火を遠距離から操作し波のように動かして敵を飲み込む。火力は鬼火を遥かに超え、人間くらいなら一瞬で灰と成る。また、内部に味方がいた場合、その焔は味方にとってはただの温風となる。ピンポイント攻撃も可能。】

 

………やばい能力ばっかじゃんか。

 

『どうしたの、アレン』

 

心配そうに俺の顔を覗き込む大福。思わず苦笑いになった。

 

「いや、思ったよりやばい能力ばっかりでびっくりしてさ…」

 

うん、やばい。だって能力で生み出した焔の鬼神が独立してて更に主を選ぶって……俺の死亡フラグ!!選ばれなかったらどうなんの!?書かれてないよね!!なんで!?

 

『どんなのがあったの?』

 

好奇心剥き出しの大福に能力を説明すること数分━━━━簡単に言おう!ガープに話の内容を盗み聞かれた。それも事細かに。その上で大騒ぎ。悪魔の実を2個も食ったのかーとか、鬼じゃーとか、なんじゃその焔はーとか。その騒ぎのせいで船の機能が完全にストップした。まじ何してんの。

 

そして現在彼は甲板で俺の目の前で正座している。俺は腕を組んで仁王立ち━━━すごく腹が立っている。

 

「オカシイと思わない?ねぇ?俺さ、あんな夜中に出てきたのに次の日の昼前まで寝かせてくれなかったよね?子どもの睡眠って大切なの、知ってるよね?もう2人も育ててるのに知らないなんて言わせないよ?それにさぁ、孫を寝かせないなんてじいちゃん失格でもおかしくないのにさ、普通覗く?聞き耳立てる?折角じいちゃんの背中追いかけてきてくれてる思春期の孫の部屋をさ、普通覗かないよね?で何、挙句の果てに大騒ぎ?ふざけないでよ。おかげで色々と鎮めるのにすごい時間食っちゃったし、このままじゃ期限に間に合わないんじゃないの?どうすんの、お偉いさんに迷惑かかったら。じいちゃんさぁ、中将なんでしょ。上司も部下もいるのに何それ。そんなんでよくその地位にいれるよね。やっぱりオトモダチのツテ?中将なら中将らしくしてよ、周りに迷惑かかるでしょ。それとも何、ADHDとでも言うの?わしは生まれつき空気が読めないんじゃーとか言い出すの?はぁ?わけわかんないから。兎に角、その地位にいるのならちゃんとしてくれなきゃ困るよ。わかった?」

 

放心状態のガープに思いっきり吐き出してすっきりした。無駄に静かな甲板。顔を上げれば、海兵の誰もが手を止めてこちらを唖然として見ていたのでパンパンと手を叩く。

 

「何をしてるんですか、このままでは期限に間に合わないんじゃないんですか?」

 

アッと一挙に動き出す白いセーラーの集団。何か面白い。

 

「…で。いつまでそうしてんの、じいちゃん」

 

完全にネガティブホロウ状態のガープがそこにいた。正座から前のめりに両手を着き、絶望している。

 

…やりすぎた?

 

「ちょっとじいちゃん、いくら何でもしょげ過ぎじゃない?孫にイイトコ見せなくていいの?」

 

その瞬間、ガープは元気になった。というか若返ったように見えるけど気にしないでおこう。気にしたら負けだと思う。

 

「そうじゃ!イイトコを見せてやろう!!」

 

……負けだと思う。

 

 

 

 





ガープの孫大好きなとこについては考えたら負けだと思ってるアレン。でも既に考えてます。負けてます。

ついでに言うとこのアレンによるガープお説教☆事件は伝説として語られます。

それから事件というのは2つめの悪魔の実と、このお説教☆ですね。これは2つともある意味大事件ですからね。鬼火…自分で考えといて何ですけど恐ろしい…。私なら間違えて燃やしちゃいけないもの燃やしそうです。



ちなみに、お説教☆中に登場したADHDと言うのは実際に存在する障害の略名です。本来は、注意欠陥・多動性障害と言います。

主な症状としては、忘れ物や失くし物が突出して多かったり、全くじっとしていられなかったり、人の話を聞けなかったり、全く空気を読めなかったり等、障害としてはすごく認知されにくい症状です。それ故に信頼を失ってしまったり、失敗を繰り返したりで悩んでいる人も多いと聞きました。

さらにちなみにですけど、私がこれで注意欠陥性の方ですので、今回ここに出しました。

少しでも皆さまに知ってもらえたらなーという気持ちです。もし近くに歳の割にじっとしていられない人や話を聞けない人、忘れ物や失くし物の量が突出して多かったりする人がいて、悩んでおられるようならADHDのチェック診断を受けるよう勧めてもらえたらなと思います。ネットで簡単に受けられますので、少しでも困っている方の救いになれば幸いです。


長々と失礼しました←


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第16話 夏の☆新生活

まずはサブタイ。

思いつかなかった!!!!ただそれだけです。間違ってはいない。今までちゃんと明言して来ませんでしたが一応、今は夏…というか8月くらいの設定です。皆誕生日過ぎてるので。

今回も可哀想な扱いになる雰囲気のガープ。これが終わればもうすぐカッコイイ出番が来るようになると思います(予定は未定)。

出たとこ勝負の行き当たりばったりなのでどうなるかは私の気分次第です。

そんな感じに適当な16話です!↓↓↓


 

 

 

 

…さて。早速だがもうすぐマリンフォードに着くよ☆

 

早いとか言っちゃダメ。特に言及することもなかったんだから仕方ない。

 

ほんとに何もなかった。……と思う。

 

ガープは日が沈んだらちゃんと解放してくれるようになったし、勝手に部屋に来ることもなくなった。俺からしたらすごい変化だ。あのガープが常識ある行動してんだから。

 

否、ね。別に常識がないって言ってるわけじゃないんだよ。原作の頂上決戦では割と常識的だった気がするし(流石にもうほとんど記憶にはない)。あ、そうだ。それから、なんでか知らないがガープのクルーに崇められた。天使だとか、救いの神だとか。俺、能力的には鬼だけどね。

 

ああ、やっぱりあともう1つ。ラボックが少しだけ銃の扱いについて教えてくれた。なんでも彼は士官学校にいた頃、近距離と遠距離が共に射撃の成績で常にトップだったらしい。それを肯定するくらいには上手かった。あと教え方も上手かった。感激。

 

今じゃ俺も船首から船尾に置かれたビンを2分の1の確率で射抜けるくらいにはなった(初めて触ったにしては筋が良すぎるらしい)。

 

やっぱり思い返せば何もなかったわけじゃないが深く掘り下げる必要のないことばかりなので割愛だ。うん。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

「ほれ、あれが海軍本部じゃ」

 

ガープが指を指すのは、『海軍』とカモメがでかでかと書かれた巨大な施設。建物とか言うレベルじゃなかった。本棟と宿舎?と広大な広場と向こうには演習場と思われるステージ。施設だ、施設。

 

「思ってたより…割とデカいんだね」

 

正直言うとかなりデカかった。それもそうだよな、今までずっと画面の向こうのイラスト(の記憶)だったんだから。規模とか正確に知ることなんて不可能だろう。それを差し置いても、この海軍本部は巨大だ。

 

「当たり前じゃ。有事の時はあそこに海軍の全戦力が集まるんじゃからな」

 

知ってます。頂上決戦で白猟とか結構色々と居たし。

 

「ふーん…じゃああの街は何なの?」

 

そう言って少し離れたところにある閑静な街を指差した。ここからでもわかるほどに人が行き交い、賑わっている。

 

「ん?あぁ、あれは兵士の家族が住む街じゃよ。わしは持っとらんが、家族がなくても小さめの家を買う兵士は少なくないらしいのう」

 

「へぇ…」

 

家族はないのに家だけあってもそれなりに寂しくないか…?

 

とか余計なこと考えてたらガープの右手が俺の背中にめり込んだ。比喩でも何でもなく、事実だ。ドッとすごい衝撃が背中から腹へと響く。

 

「ぃッだ!!…何するんだよ!背骨折れたらどうすんだ!」

 

どうやらガープは景気付けに俺の背中を軽く叩いたらしかったが力加減がどちゃくそ下手だった。しかも俺に怒られて(´・ω・`)だ。

 

「すまんのう…(´・ω・`)」

 

やだ止めて!その犬みたいな目は止めて!!

 

「もういいよ……俺もう行っていい?入港するんならそろそろ準備しときたいんだけど」

 

痛む背中を擦りつつガープを見上げた。

 

「そうじゃな、あと半時もすれば入港の準備も始まるしのう。手伝ってくれるか?」

 

「いいよ。じゃ、またあとでね」

 

正直もう会いたくないが。だって毎朝海兵さんたちに泣き付かれるからこの5日間は四六時中ずっとガープと一緒だったし。そろそろ離れたい。

 

ひらひらと手を振って踵を返せば、ガープのテンションゲージが一気に下落するのがわかった。犬か。飼い主とお別れする忠犬か。もう本当にそれくらいに一気に下落した。

 

もうすっかり馴れ、相棒のようにもなった大福を呼ぼうと上を見上げるがそこに彼女の姿はない。慌てて辺りを見渡し彼女の白い影を探せば、それは厨房近くの甲板にあった。

 

うずくまるように小さくなった彼女に駆け寄ると、彼女は懸命に何かを嘴で突いている。頭だけだったり半分だったり、航海中の食材の残りの魚の入ったボウルだ。

 

「誰からもらったんだ?大福」

 

『お食事中よ、邪魔しないで頂戴。……ドセとモゼって海兵さんからよ』

 

片眉を釣り上げると大福はそう付け足した。

 

ドセとモゼって確か…この船に乗ってる准尉と少尉の双子の海兵だったか。息がぴったりすぎてたまに怖くなるとラボックが言ってた気がする。

 

「そっか。ほどほどにしとけよ、もうすぐ着くらしいから。俺は荷物まとめて来るから君もちゃんとしといた方がいい。首周り、汚れてるよ」

 

というか血濡れだ。魚の血だと知らなければびっくりするくらいの。

 

彼女はボウルから顔をあげ、血濡れの自分の胸を見る。

 

『あら。そうね、水浴びしてくるわ』

 

そう言い残して彼女は飛び立ち海へダイブした。

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

正直に言おう。忘れてた。忘れてさえいなければ、弟たちに爪をくれるようお願いしてくるべきだったんだ。

 

今更ながらにそう思う。海軍本部には、家族に安否を知らせるためのビブルカードの職人が常駐してるらしい(ガープ談)。

 

くそっ…失敗した……。ビブルカードとかあれば頂上決戦前にサボと簡単に再会できるのに…。

 

………あ。イイ人いるじゃんか。海軍内でもトップレベルでいつでも自由に行動できて突拍子もないこともそれほど不自然にならず、さらにはエースたちに会いに行ける人。もう初めの2つの時点でこの人しかいない。

 

ガープをパシろう。

 

 

 

 

 

「ってことでじいちゃんお願い!エースたちの爪、貰ってきて!」

 

海軍本部内の長い廊下を歩きながら、ビブルカードにしたいんだ、とガープに手を合わせて頭を下げた。すれ違う人全員にガン見されたり2度見されたり、ひそひそと何かを囁かれていたが俺もガープもそれを構うことはなく、ずんずんと廊下を進んでいく。

 

だが、ガープは乗り気ではないらしい。眉間にシワを寄せていた。

 

「じゃが……」

 

「じいちゃんが俺も海賊になりたいって言い出すんじゃないかって心配してるのは知ってるよ。だからそんなこと絶対に思わないって保証するからさ。兄貴として弟たちが心配なだけなんだ。じいちゃんにしか頼めないんだよ、お願い!」

 

強く押しつつ彼をヨイショすればすぐにノッた。ちょろi…ゲフンゲフン。

 

「わしにしか頼めんか!そうか!よし、センゴクに挨拶が終わったら行ってきてやろう!」

 

そう言って、ガープは立ち止まった。

 

「ほれ!ここじゃよ」

 

はっ、いきなり?!しかも障子?こんなんだったか?

 

見事に和風なその扉をノックもなしに開け放ち、ガープはずかずかと踏み込んで行く。

 

「なっ!ガープ!ノックをしろと何度も…!」

 

「おぉ、すまんすまん!ところでほれ、わしの孫じゃよ」

 

とん、と軽く(?)ガープに背を押され前につんのめりながら一歩前へ出た。センゴクの視線が全身に突き刺さった。

 

「…是非海兵にしたいと言ったのは、この…子どもか?」

 

たぶん、思ったより俺が小さかったからだろうなと俺は終始苦笑いだ。

 

「そうじゃ!」

 

我ながらだが今、センゴクにすごく失礼なことを思われてる気がするが俺の見聞色はそこまで完璧ではないので事実ではないと思いたい。

 

彼は溜息を吐きつつ軽く頭を抱えた。

 

「いつもいつも…お前はどういうつもりだ?前にも同じように連れてきた娘がいたが2日もせん内に逃げられただろう!あの時は私もまだ元帥ではなかったが……また同じ結果は御免だぞ、ガープ!」

 

あ、俺じゃなくてガープに対して、だったらしい。てかユリアナもここに連れて来られてたんだ…。

 

「今回は違うわい!自ら志願したんじゃ!逃げるわけがないわい!!」

 

キレ気味に応戦するガープ……信頼が痛い。なけなしの良心にすごいぶすぶす刺さってる。

 

センゴクが目を見開いた。

 

「なっ…自ら志願?」

 

すごい疑いの目と言うか…あり得ないものでも見るような目で彼は机越しに俺を見下ろした。結構ひどくないか。

 

「そうじゃ!ほれアレン、挨拶せい!」

 

またバンっと背中を叩かれガープを睨みつけ…かけたがやっとのことで堪えて顔に笑顔を貼り付けた。

 

「初めまして、ガープ中将の孫のモンキー・D・アレンです。この度は海兵に志願したく参りました。何卒よろしくお願い致します」

 

必要以上に畏まり、礼儀を正して深く礼をした。自分で言いながら笑いそうになるほど畏まった。

 

でもまぁ、これで俺はガープとは違った人種であると彼にアピールできたわけで。センゴクはさらに目を見開き、そのあと深く息を吐きながら背もたれ付きの座り心地の良さそうな革張りのイスにもたれ掛かった。

 

そうして発した言葉は

 

「全く……。いいぞ、合格だ」

 

その声にガープが目を輝かせた。

 

「そうか!よし!アレン早速わs」

 

「ただし」

 

嬉々として俺に何かを言おうとしたガープを遮り、センゴクは続ける。

 

「電伝虫で話したように本部の海兵見習いからのスタートになる。つまりは雑用からだ。よってガープ。正式に海兵になり尉官を貰うまでは孫を連れ回すのは禁止だ」

 

この瞬間、まじでこの人を崇めたくなった。本当、まじで。

 

禁止!絶対的制止の言葉!ガープとて従わざるを得ない命令!神だ!流石は仏と言うべきか!←

 

一方のガープは完全にガーン顔。どんだけ孫好きなんだよっていうくらいにガーンってしてる。

 

「それはいつじゃ!?」

 

そこに食いついた。一刻も早く連れ回したいってことか。流石にセンゴクもそんなガープに呆れ果てたようだ。

 

「正確に決まっとらんことくらい、お前が1番知っとるだろう。本人の力量に合わせる」

 

ガープは何故かそこで胸を張った。

 

「なら大丈夫じゃな!わしの孫じゃし」

 

アンタのその自信がどこから湧くのか俺は見てみたいとさえ思うよ。アンタの孫だから何だってんだ。そもそも血の繋がりとか皆無じゃん。何故そうなるのかを知りたい。

 

まぁ今目の前にいるセンゴクは完全に俺のことを血の繋がった『ガープの孫』として見ていると思うし、これからずっと俺にはその肩書き(?)が付いて回ると思うんだけどね。どこぞの親の七光りとごろじゃないよね。

 

すでに疲れきった様子で、センゴクは溜息を吐いた。

 

「お前の孫だからと優遇はしたりせんぞ、ガープ。本人の力量が全てだ」

 

残念、どうしてか俺ってばすごい強いんだよ。二重能力者だし、それにコルボ山って猛獣の強さ異常だし。すごいよね。

 

「じゃから大丈夫じゃ!わしの孫が弱いはずがないんじゃからの!それにほれ、なんじゃったか?あの実…紫の……」

 

2日目にあれだけ大騒ぎした悪魔の実さえ忘れるその始末……本当に呆れる。溜息を吐きつつ右手を差し出した。2人の視線がその掌に注がれる。

 

「ヒトヒトの実幻獣種モデル『鬼』です」

 

そう言って全身の力の巡りを操作し鬼に変身する。肌が浅黒く変色し、額から角が一本突き出した。それ以外の変化はない代わりに、右手に“鬼火”を灯す。

 

センゴクの目がをどんどん見開かれていくというのは、案外面白いものだ。その口はぱくぱくと開閉を繰り返し、そしてキツく一文字に結ばれた。

 

「…わかった。いや、やはり一度…クザンと試合形式で一戦交えてくれるか。何、様子見だ。加減はするように言っておく」

 

頭痛を堪えるように彼は目頭を押さえながらそう言った。『仏』である彼にとって『鬼』というのは、何か特別な意味があるのだろうかと変に勘繰ってしまいそうだ。

 

彼の目を見て深く頷く。

 

黄猿はともかく、青雉ならまだ救いがありそうだと安堵した。彼ならきっと、赤犬のような過激派ではないし、子どもである俺相手に全力でぶつかってくることなどないだろう。入軍早々大怪我とかは御免だ。

 

「試合は3日後の3時、場所は演習場だ」

 

「はい」

 

試合の日時を告げたセンゴクにはっきりと返事をしたが、場所が演習場であることに不安を覚えた。

 

だってあそこ、割と狭い。船から見ただけだけだからそうとは言い切れないが、クザンと戦るには少し手狭なように感じたがそんなことを主張できるわけもなくそれを呑み込み、センゴクとガープが会話を進めるのをただ見ていた。

 

多少気になる話もあったが、その殆どが興味のないことばかりだった。

 

例えば、孫と言えど必要以上に関わるなとか、宿舎の部屋は105号室だとか、本来は相部屋だが一応一人部屋にしておくとか、Dを隠すかどうか、とか。Dについては少し口を挟んでファミリーネームも同じように隠しておきたいと申し出た。理由は適当にガープの孫だからの変な期待を寄せられるのが嫌、ということにしておいた。

 

ガープはともかくセンゴクにも変な顔をされたが気にしない。うん。

 

そこからはどうでもいい話が続いた。俺には関係のない軍のことばかりだったので仕方なく、俺はセンゴクの隣にいるヤギを眺めていた。ヤギはひたすら羊皮紙を食んでいたが、たまに頭を下げて床に置かれたエサ箱のような物からレタスと思われる野菜を食んでいた。なんか可愛い。

 

「━━さて、話は以上だ。ガープ、宿舎まで送ってやってくれ。…約束は忘れるなよ」

 

センゴクは低く釘を刺したが、ガープはそれを重く受け止める様子はなくひらひらと手を振りながら俺の背を軽く(?)押した。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

 

「…じいちゃん」

 

長い廊下を歩きながら、隣のガープを見上げた。いつになく不安だった。

 

「ん?なんじゃ?」

 

彼は脳天気にも笑って俺を見る。それを見てさらに不安になった。

 

その笑顔も、ここが海軍本部だということも、俺がいつか裏切るつもりでここに来たことも、周りがみんな知らない大人ばかりであるということも、3日後には最高戦力と戦わなくてはいけないということも、全てが不安要素でしかなくて希望などちらりとも見えない。むしろこの状況で希望を見つけ出せる人間など、相当な脳天気かルフィくらいだ。

 

「俺、明日から何をすればいい?あんまり、そういうのは聞いてないんだけど…?」

 

俺の言葉にガープは顎に手を当て、考えるポーズを取った。

 

「うーむ……明日は朝6時に見習い担当の海兵が指導に行くとは聞いたんじゃが…どこじゃったか」

 

「なんでそれ覚えてないの……」

 

 

拝啓 エース、サボ、ルフィ。

 

残暑も厳しい今日此頃、如何お過ごしですか。

俺は今、海軍本部の廊下でボケ老人(ガープ)の相手をしています。

 

……とかふざけは置いといて。

 

まじで俺の新生活、これからどうなるんだよ…大丈夫か?これ……。






今回もひどかったガープさん。次もたぶんひどい…というかパシられます。

補填付けるのめんd……時間がかかるので止めにします。中々しんどいです。

あとそれから夏季休業課題が多すぎて…笑
更に亀投稿になることが予想されますので一応報告しておきます。

閲覧ありがとうございます


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