東方蒼血鬼~蒼き最弱の吸血鬼~ (黒白の暗殺者)
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異翼の吸血鬼の誕生
とある館では緊張が走っていた。
館の廊下を左右に行ったり来たりを繰り返す人影が一人いた。
この館「紅魔館」の主である「ヘイシス・スカーレット」だ。
先程から不安に思っているのか廊下を右に左にと歩いている。隣ではその様子を見てメイドが声を掛けるべきかオロオロしている。
「ああ……まだか……まだ産まれないのか……。」
そう言いながら私は妻の出産を待っていた。
妻が部屋に入ってからかれこれ2時間。もう産まれても可笑しくはない。部屋からは苦しそうな声が聞こえてくる。
私にはなにも出来ない……。苦しみを肩代わりすることも出来ない。出来る事といえばこうして待つことだけ。
私が不安に思っていると部屋から泣き声が聞こえた。
私は急いで部屋の中へと入った。
そこでは赤子を抱き抱える妻「レイティア・スカーレット」の姿があった。
「あぁ、あなた。生まれましたよ。元気な女の子です。」
「あぁ……よく生まれてきてくれた。ありがとう……」
私は赤子を抱き抱え、感謝した。我が子が生まれることがこれほど嬉しいとは思わなかった。自然と涙が溢れる。
「あなた、この子の名前はもう決めてありますか?」
レイティアがそんなことを訪ねてくる。
「あぁ。もう決めてある。私の名ヘイシスとお前の名レイティアから取って「レイリス」という名にしようと思う。」
「レイリス……良い名ですね。」
レイティアが微笑みかけてくる。
「あぁ。お前の名はレイリス。今日から「レイリス・スカーレット」がお前の名だ。」
そう笑いながら言うと。レイリスも泣き止み、笑ってくれた。
レイリスが生まれて2年が経った。
レイリスには驚かされてばかりだ。
私が教えたものを全て吸収していく。
魔法を教えれば一度で術式を理解し習得した。少し遊び心で契約魔法を教えたのだが、一度で成功させてしまった。
身体能力も才能を秘めている。恐らく成長すれば一族でもトップクラスの力を持つ吸血鬼になるだろう。
レイリスは紛れもない天才だ。世界から祝福されてるとしか言いようがない。
だが、それ故にレイリスを狙ってくる者が現れるだろう。
優れた才能、強大な力、吸血鬼としての地位。
今はまだ幼いが、成長すれば美しいものに成るであろう容姿。全て備えたレイリスを狙わない奴等は居ない。
ある者は地位のため、ある者は欲望のため、ある者は嫉妬、ある者は畏怖、ある者は力のため。
理由はどうあれ狙う者は必ずいる。
吸血鬼として、スカーレット家当主として、一人の親として。絶対にレイリス危険には晒さらさん。
我が娘、レイリス・スカーレットを狙う者は一人の親として、紅魔館現当主ヘイシス・スカーレットの名において誰一人として許さん。
過保護とは分かっている。
だが、親として其れくらいしても良いだろう?
あの子は紛れもない天才なのだ。教えれば何でも吸収するだろう。そんな子に出来ることなんぞたかが知れている。
ならば、其れくらいしても良いだろう?私は親なのだから。
レイリスが3歳を迎えた。
吸血鬼はこの年で漸く翼が生える。
しかし、レイリスの翼を見て私は驚愕した。
形状が全く違うのだ。
左の翼は蝙蝠の翼だ。だが、色が違う。
翼の色が黒ではなく鮮やかな蒼色だった。
此だけならまだ良かった。だが、問題は右の翼だ。
右の翼は蝙蝠の翼ではなく、梟の翼だった。
夜の象徴とも言える生き物は二種類いる。
一つは吸血鬼の使役する蝙蝠。そしてもう一つは梟だ。
梟は夜、幸福と幸運、そして死を象徴とする。
その梟の翼がレイリスの右の翼として表れた。
これは何かの前触れなのか?
レイリスが幸福か死を運ぶとでも言うのか?
いや、そんなことは無いはずだ。
どちらにせよ我がかわいい娘だ。
これで余計にレイリスを狙う輩が増えるだろうが知った事ではない。
レイティアもこれには驚いていたがレイリスの喜ぶ顔を見てすぐに笑顔となった。
レイリスは必ず守る。
私は心の中で再び誓った。
レイリスが生まれてから10年の月日が流れた。
この10年で分かったが、どうやらレイリスは人間に対して差別的意識を持っていないらしい。
いや、正確には違うか。
レイリスは争い事を嫌う。自分に攻撃してきた人間に対して警告を行い、とどめを刺す前に一度だけチャンスをあげている場面を何回も見た。
そして向かってきた敵を殺した後も悲しそうな顔をしながら敵の為に祈っていた。
臆病で優しく、争い事を嫌う。
吸血鬼とは思えないほどに優しいのだ。
私はレイリスに一度だけ尋ねた事がある。
「何故敵のために祈るのかと。」
するとレイリスは
「いくら敵とはいえ、なにか事情があるのかも知れないと考えたら、せめて祈りたいと考えてしまうのです。私は争い事が嫌いですから、本来戦いすら嫌ですが死ぬのも嫌なので戦っています。結局は自分のために命を奪っているわけですからせめて祈りをと。食事をするときにもその命に感謝をするのと似たようなものです。」
と言った。
やはりレイリスは優しい。
誰よりも力も才能も持っていながら、誰よりも優しい。
人間もレイリスのような人物ばかりなら良かったと、何度も思ってしまった。
恐らく近いうちにレイリスは一人で旅立つだろう。
そんな気がしてならない。
レイリスside
今日は私の200歳の誕生日だ。
お父様とお母様が美味しそうな料理と共に祝ってくれた。
仲の良いメイドや執事長のメフィストも笑顔で御祝いしてくれた。
お母様からは赤いレースのついた黒のドレス。
執事長のメフィストからは綺麗に磨かれた緋と蒼の指輪。
そしてお父様からは専用の図書館と翡翠色の刀身をした短剣をもらった。
「お父様、この短剣は?」
「その短剣はな、魔法を3つ宿すことの出来る短剣なんだ。この刀身には特殊な術式を刻んでいるからある程度の力ならなんでも吸収して短剣の力に変えることができる。」
私はお父様の説明を聞いて驚きながらも納得した。
お父様は魔法の、特に媒体魔法や付与魔法に関して凄い才能を持っている。それこそ、お母様すら凌ぐレベルだ。
「ありがとうございます。お父様、お母様。メフィストもありがとう。」
「ハハハ。レイリス、200歳おめでとう!」
「貴女ならきっと着こなせるわ。レイリス、誕生日おめでとう。」
「レイリスお嬢様より御礼を頂くなど、身に余る光栄です。レイリス様、お誕生日おめでとうございます。」
楽しい誕生会が続いた。
その日の夜。
私はお風呂に入った後、何時ものように散歩に出かけた。
今夜は満月。私達、吸血鬼が最も力の出せる日。
私は夜が好きだった。様々な動物が眠り、朝とは違う顔を出す、短い時間。
この静かな世界の中、私はいつも散歩に出かけるのが好きだ。
ただ、今夜は違った。
何時ものコースを歩いていたが、妙に暗い。
今の私は吸血鬼の力が最も引き出されている状態。
それなのにこの暗さは少しおかしい。
妙な胸騒ぎを感じながらも森の中を歩いているとーー
「……んの…………が……さっ…」
「!?」
今、物凄い妖力を感じた!
そして今の言葉の感じと怒気……まさか!
嫌な予感が一気に高まる。
レイリスは言葉が聞こえたと同時に全力で駆け出した。
声が聞こえた方向を頼りに走っていく。
「この……ろうが!さっ…………ね!」
声がさっきよりも聞こえたきた。
それと一緒に何かを殴る音と小さな呻き声も聞こえ始めた。
マズイ!声がどんどん小さく……!
声が完全に聞こえるようになり、そして見えたものはーー
小さな人狼族の子供を多数の人間が暴行を加えている所だった。
その光景を見た瞬間、私の中の何かが切れた。
私は人狼族の子供に暴行をかける人間の一人に後ろから忍び寄り心臓を貫くと素早く影に隠れる。
一人殺されたことにより人間達は暴行を止め、警戒しだす。
「くそ!吸血鬼か!」
「なんで此処に吸血鬼が居やがる!?」
「今はそんなことよりも警戒するぞ!銀の弾丸は持ってるな!?」
リーダーらしき人物が話しかけてくる。
「おい!吸血鬼!何故我らを襲う!?」
その言葉を聞き、私は怒りを孕ませた声で怒鳴る。
「何故?何故だと!?それは此方の台詞だ!何故子供に暴行を加える!」
「こいつは人狼族だ!吸血鬼にとっても敵だろう!人狼族に関しては人間にとっても吸血鬼とっても敵だ!貴様こそ何故、敵である人狼族を庇う!」
「確かに人狼族は敵だ!でも、なにもしていない相手に攻撃するほど吸血鬼はプライドは低くない!それに私は人狼族を襲っているから怒ってる訳じゃない!私が怒ってるのは何故一方的に暴行しているのかだ!」
「なぜだと!?ふざけるな!そもそものスペックが違う分、弱っている時に止めを刺して何が悪い!」
このままじゃ拉致があかない。
そう考えて私はもう殺すことにした。
「もういい……話すだけ無駄だ。もう死ね。」
私は影の槍を作り、人間達に向かって伸ばす。
リーダー以外は反応出来ずに貫かれて死んだ。
リーダーは辛うじて致命傷を避けたようだが私は倒れている人狼族の子供の血を操り、血の弾丸を形成する。
そしてリーダーに向かって放つ。
リーダーは傷が効いたのか動けずに血の弾丸に撃たれ、死んだ。
「…………」
私は人狼族の子供の血を操り、止血すると影の中に隠す。
そして殺した人間達の血を吸い、黙祷を捧げ、私も影の中に隠れて紅魔館に帰っていった。
現段階での簡単なレイリスの容姿を書いておきます。
レイリス・スカーレット
種族:吸血鬼。
容姿:清んだ群青色の髪、紅玉のような紅い瞳が特徴。
肩ほどまである後ろ髪のショートヘアで少し細長ながらも優しい眼つきをしており、全体的におっとりしていながらも、どこか引き込まれるようなカリスマを持っている。
幼いながらも整った容姿をしており、成長すれば美しい女性に成るであろう容姿を持つ。
身長は既に母、レイティアの腰辺りまでに成長している。
※レイティアの身長は175です。
左翼に蒼い蝙蝠の翼、右翼に黒に白が少し混じった梟の翼を持つ。
性格:力、才能、容姿など、あらゆるものに恵まれてるが、争い事を嫌う。殺してしまった場合は相手に対して祈りを捧げている。
人間や他の妖怪に対して、偏見や差別的意識を持たず、見下してもいない。むしろ人間と和解出来ないかと考えている。
紅魔館の者や仲間、家族がなによりも大事であり、その為なら力を振るうこともする。
そして、抵抗もしていない相手に一方的に力を振るうことが嫌いであり、その場合は助ける為に全力で力を振るう。
余談だが、殺した日には罪を背負うために相手の血を吸い、
相手の全てを受け継いで、自身の一部としている。
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忌み子の人狼
私は影の中に人狼族の子供を隠して家に帰ってきた。
私は部屋に戻ると影の中に入った。
人狼族の子を見つけると治療を開始する。
治療といっても簡単な物で、妖力を分け与えながら傷を塞いで行くだけだ。
……改めて見ると傷が酷い。一体どれだけ暴力を受ければこんなことになるのか。
傷は頭が凹み、青アザができ、全身の打撲傷、それに内臓も2つほど壊れている。
しかしこれ程の傷を人間がつける事が出来るのか?いくら子供とはいえ人狼族だ。並みの人間ではここまではできないはず。
……そう言えば人間達は元から弱っていたと言っていた。
それに森で最初に感じた巨大な妖力。
もしや何者かの妖怪がやったのか?それも一瞬で?
どれ程強大な力があればそんな芸当が……。
私が考え事をしてた時、うぅ……と呻き声が聞こえた。
慌てて人狼族の子供の方を向くと、薄らと目を開けていた。
どうやら気がついたようだ。
「うぅ……暗い……ここ……は?」
「ここは私の影の中よ」
「影……?お姉ちゃん……誰……?」
「私はレイリス。吸血鬼よ。」
そう私が言うと人狼族の子供は怯えて震えだす。
そして震えた声で小さく声を呟く。
「吸血鬼……?……僕は……死ぬの?……」
人狼族の子供は震えながら嫌だ……嫌だ……と呟く。
殺されると思うのは当たり前だろう。
吸血鬼と人狼族は互いにとって天敵だ。
今は互いに牽制し合っている状態だ。
そんな中、吸血鬼に囚われたのだから殺されるか拷問されるか人質にされるかのどれかだと思うのも当然だろう。
私は怯えて震えている人狼族の子供の頭に手をやる。
人狼族の子供は頭に触れられた瞬間、ビクッとなっていたが頭を撫でると目を細めていた。
「別に拷問も殺しもしないわ。私はただ何があったのか聞きたいだけなの。だから話してくれない?」
私が頭を撫でながらいうと人狼族の子供は少しづつ話したした。
「僕も何があったのかはっきりと覚えてない……森を歩いてたらいきなり目の前が真っ暗になって、少し意識が戻ったら全身が痛くて……人間に殴られたり蹴られたりしてた……」
どうやら人間以外の何者かが関わっているのは間違いないようだ。私が感じた巨大な妖力と人狼族に感ずかれずに攻撃できる技術。こんなことが出来るほどの妖怪なんてここら辺に居ただろうか……。
「なるほど……ありがとうね。とりあえず今日はここで休んでてね。結構傷が酷かったから。大丈夫。明日になれば皆の所に帰れるから。」
私が撫でながらお礼を言うと少し嬉しそうにした。
けど、明日に皆の所に帰れると言った瞬間、人狼族の子供は暗い表情で俯いてしまった。
「どうしたの?」
私がそう聞くと
「帰りたくない……」
「帰りたくない?なんで?」
「戻ったらまた殴るられる……」
事情を聞くとどうやらこの人狼族の子供は忌み子のようだった。
人狼族では銀の毛を持つ者は忌み子とされ、子供からは近づかずに石等を投げられ、大人からは暴力を振るわれると言う。少し前まではそんなことは少なかったが、先代の長が亡くなり、長が変わってからは殴られる蹴られるどころか酷い時には拷問をされたと言う。
「だから集落に戻ってもまたそんな毎日が来るだけなんだ……。」
「……なら、家に来る?」
私がそんな提案をすると人狼族の子供は驚いた顔をして顔をあげた。
「……良いの?僕は……人狼族だよ?敵、なんだよ?」
「別に私は構わないわよ?お父様とお母様も説得して見せるわ。私は簡単にやられるほど柔でもないもの。それに……そんな話を聞いて何もしないほど私は酷くないわ。」
人狼族の子供は嬉しそうに涙を流しながら、ありがとう、と一言小さく呟いた。
ヘイシスside
レイリスが人狼族の子供を家に迎え入れたいと言い出した。
最初は子供といえ、人狼族だ。家に迎え入れるわけにはいかないと反対しようとしたが、レイリスから話を聞いて少し考え方を変えた。
忌み子の習慣は人狼族だけでなく吸血鬼にもそういった習慣がある。人間でもそうだ。吸血鬼や人間は異端なものを排除しようする。レイリスも私が死ねばそんな扱いを受けるかもしれない。忌み子の人狼族に異翼の吸血鬼、か。
互いに守り合える者が必要なのかもしれんな。
人狼族から忌み子の人狼族の子供をレイリスが守り、私が居なくなった後、レイリスが狙われた時に人狼族の子供が守ってくれれば……。
そう思い、結論を出した。
「分かった。認めよう。ただし、3日後から訓練を積んでもらう。レイリス、お前が教えてやりなさい。それと、その人狼族の子供はお前の執事とする。」
「ありがとう、お父様!」
レイリスは無邪気な笑顔を向けて早歩きで部屋から出ていった。
レイリスside
お父様から許可を貰った。
これで正式に家の一員として迎え入れられた。
「お父様から許可を貰ってきたわ。これであなたは正式に家の一員よ。それと今日からあなたは私の執事よ。」
「ありがとう……お姉ちゃん。」
「さて、改めて自己紹介としましょう?私はレイリス。レイリス・スカーレット。この館、紅魔館の現当主の娘。」
「僕はアルバス・レスト。よろしく!」
「よろしく、レスト。さ、今日は休みましょう。3日後から訓練もして貰わなきゃならないし、身体も休めなきゃね。」
レストside
僕は今まで一人だった。銀の毛を持つというだけで皆からは避けられ、蔑んだ目を向けられた。唯一、僕に優しくしてくれた長も寿命で亡くなり、本当に一人になった。
長が変わってからは毎日誰かに蹴られたし殴られた。
アザが出来るのが日常になっていたくらいだ。
もうこんな毎日は嫌だと思いながらも、言ったら余計にひどくなりそうで怖かったから何も言えずにいた。
そんな毎日で夜に森を散歩していたら急に目の前が真っ暗になって、気がついたら全身が痛くて、人間に殴られたり蹴られたりしてた。
ただ怖かった。ただ恐ろしかった。
もう嫌だと思いながら目の前がまた、真っ暗になった。
そして、目の前が完全に真っ暗になる前に一瞬だけ見えたのは此方に向かってくる蒼い翼と綺麗な群青色の髪を持つ少女だった。
再び気がつくと、目の前には蒼い髪を持つ少女が此方を見ていた。少女から説明を受け、少女が吸血鬼だと知り、怯えていたら少女が頭を撫でてきた。
頭を撫でられて、きっと姉がいたらこんな感じ何だろうと思ってお姉ちゃんと言ってしまった。
少女が戻れると言ったのを聞いた瞬間に反射的に嫌だと言ってしまった。
少女が事情を聞き、家族になろうと言ってきた時は驚いた。
こうして僕は少女、レイリス・スカーレットの執事となった。
レイリスお姉ちゃんは僕を救ってくれた。
あの地獄の日々から抜け出させてくれた。
レイリスお姉ちゃんは僕に優しくしてくれた。
僕を拒絶しないでくれた。
もしレイリスお姉ちゃんになにかあれば絶対に守ろう。
それが今の僕に出来る恩返しだから。
遅すぎではありますが、アルバス・レストの基本情報を。
アルバス・レスト
種族:人狼
容姿:光を反射して輝く銀色の毛と透明感のある澄んだ青い眼を持つのが特徴。
後ろ髪の長い銀色の髪をしており、普段は髪紐で纏めている。臆病で何事にも不安を持ちやすい。そのため事前に不安要素、不確定要素に対処するための策を全て張り巡らし、出来うる限り不安要素、不確定要素をゼロにしてから行動に移す。ただし咄嗟の判断に弱く、突発的な事態に滅法弱い。
よく拷問や虐めにあっていたため、全身に無数の傷がついている。
そのせいか、回復能力、身体能力、危機察知能力、観察眼が高く、危険や相手の考えなどに気付きやすい。
戦闘能力も高く、素の身体能力だけでも普通の吸血鬼にも引けをとらない。
戦闘時には全身の毛を逆立たせ、腕を人狼化させる。
本気を出すと全身を人狼化させてる。この状態になるとスカーレット家の者以外で勝てる者は限られる。
能力は「圧縮させる程度の能力」
文字通り、圧縮させる。
範囲は自身を中心に10メートル。範囲内にいれば障害や概念など関係なく問答無用で能力を作用させられる。空中、水中、地中すら関係ない。範囲内でさえあれば時間であろうが、空間であろうが、次元であろうが、理であろうが問答無用で圧縮する。
この能力の副作用として、自身の身体から10センチほど空気の層を纏っている。身体に近ければ近いほど能力が強力になるためだ。
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魔人の兄弟
アルバスを紅魔館に迎えて一ヶ月が過ぎた。
この一ヶ月の間にアルバスは急激に成長した。
身体能力が上がり、人狼化も扱いこなせるようになった。
たまに私が魔法を教えたりもしたが、此方は才能があまり無いのか、あまり習得は出来なかった。
それでも身体強化と簡単な治癒と初級の属性魔法を覚える事ができた辺り才能が無いとは言い切れない。
平和な日々を過ごしていた。
ただ、最近どこで聞き付けたのか、私への挑戦者が現れた。
最初はお父様への挑戦者か、ヴァンパイアハンターかと思ったが、どうにも私個人への挑戦者のようだ。
それもかなりの手練れだ。
最初は門番や執事が追い払いに行ったが直ぐにやられてしまったのだ。
かといって紅魔館の当主であるお父様がわざわざ出向くわけにもいかない。
アルバスだとまだ力が足りない。
なので仕方なく私が直接行くしかない。
「貴方が私へのお客さん?」
門の前に居たのは一人の青年。
黒いスーツを身に纏い、赤いネクタイをしめ、右手には紫色の指輪を嵌めている。
その青年は此方の声に気づくと此方に顔を向けた。
「貴女が吸血鬼レイリス嬢か?」
「ええ。私が吸血鬼の長ヘイシス・スカーレットの娘、レイリス・スカーレットです。よく私の存在を知れましたね。」
私はこの青年が私の存在を知れた事に驚いていた。
なにしろ私は人間を襲った事があまり無い。
襲ってきた者を返り討ちにしたことはあるが自分から襲った事は一ヶ月前のあの一件が初めてだ。なのであまり名は知られていない筈なのだ。
「私はノワールド・レストラム。レストラム家の当主です。貴女の事は町の噂や悪魔達の話などを集めて知りました。
」
「単刀直入に言いましょう。貴女の力を借りたい。」
互いに自己紹介をし、ノワールドは本題を切り出した。
話が長くなりそうなのでとりあえず紅魔館のロビーへと案内した。
お父様にも話をして通してある
「それで、わざわざ吸血鬼の館までやって来て力を借りたい理由は?それも私個人を指名して。」
「私には一つ下の弟と2つ下の妹がいます。力を借りたいのはこの弟の事です。」
「私の弟、名をラヴァル・レストラムというのですが、ラヴァルは突如として家に居た者を皆殺しにし、一番下の妹、ミスティス・レストラムに昏睡と衰弱の魔法かけて家を出ていきました。私も独自に調査したのですがラヴァルが悪魔と契約したという事と、能力に目覚めたという事しか分かりませんでした。そして頼みと言うのは他でもありません。」
「我が弟、ラヴァル・レストラムを見つけ出し、決着を着けたいのです。」
「……それは、復讐をしたい、と?」
「いえ、違います。まぁ、復讐をしたいという気持ちは無くも無いのですが、事の次第を聞き出して妹の魔法を解かせたい。それだけですよ。その後のことは事が済んでから考えます。」
「……分かりました。最後に2つほど聞きましょうか。その結果、弟を殺すという事になったとしても覚悟は出来ていますか?」
「無論、覚悟は出来ています。」
「では最後に……貴方は何者ですか?人間……では無いでしょう。その異常なまでの魔力は人間が持てるモノではありませんから。」
彼からは異常なまでの魔力を感じていた。
人間にも魔力を持つ者はいる。
しかし彼から感じるこの魔力は明らかに人間の持てる魔力の許容量を超えている。執事や門番が負けるのも頷けた。
「では、改めて名乗りましょうか。私はノワールド・レストラム。元人間の魔人ですよ。」
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始まりの契約
魔人には二種類パターンが存在する。
一つは人間が魔法により存在を変質させ、魔人と成ったもの。
もう一つは元から魔人という種族として生まれたもの。
前者は魔法を極めた先に存在する魔法「変在の魔法」で成ることができ、魔法を極めた者でしか辿り着けない。ただし、この魔法を誰かにかけてもらう事でも成る事ができる。
後者は「魔界」と呼ばれる異世界に存在し、強大な力を秘めている。悪魔や魔物などが犇めく魔界の生物の中でも頂点に近い力を持つ。
レイリスは眼を細める。
人間から魔人と成ったのならば恐らく前者だ。
魔人と成った者は魔人と成ったその瞬間から時の流れが変わる。
魔力のみで生きれるようになり、魔人と成った歳から姿が変わらない。
このノワールドという青年は見た目から察するに長い時を生きたわけでもなく、話からするとつい最近魔人と成ったはずだ。
しかし、ノワールドから感じる魔力は明らかに異常。そもそも、魔力を扱いこなすのに通常ならば30年は掛かる。どんな天才でも人間ならば早くて10年は掛かる筈だ。そして魔力を扱いこなし、魔力枯渇と補充を繰り返して魔力量は増える。
いくら魔人と成って魔力量が増えたり扱えるようになったからといっても、このノワールドから感じる魔力はそれこそ本物の魔人に近い質を誇り、その量は吸血鬼に匹敵する。短期間で魔力を鍛え上げ、魔人に出来る者は……。
「まさかとは思いますが……ノワールド・レストラム、貴方を魔人にした者は……。」
そう言いかけた時、ノワールドはゆっくりと頷き、答えを話し始めた。
「恐らく貴女の想像通りですよ。私を魔人に変え、魔力を鍛え上げた者は……魔女の一族『ノーレッジ家』の現当主にして歴代の頂点に立つ者「アペックス・ノーレッジ」。」
「やはりでしたか……。因みにお聞きしますが、魔人になって何年経ちます?」
するとノワールドは少し考える素振りした後
「ラヴァルが家を出てすぐですから……大体5年ですか。」
5年。なるほど、5年もあればあの者なら出来るだろう。
ただし、掛かる負担やリスクを度外視で、だが。
「なるほど……事情は分かりました。この依頼、契約として受け入れましょう。」
「ありがとう。それで、対価は何を渡せば良いかな?吸血鬼は悪魔でもある種族。まさか、対価が無いとは言わないでしょう?」
対価か……確かに契約ならば対価は必要……かといってこの依頼は命を貰うほどの契約でもない……というか私としては余り命を貰いたくはない……。
「対価は……そうですね。契約が終了してから考えましょうか。仮にも契約主が魔人ならばいつ終わるか分かりませんからね。」
私はそう言って魔法で羊皮紙を呼び寄せ、軽く指を切り、血で文字を書き記す。そして書いた羊皮紙を提出する。
「これが私との契約書。了承するならば契約書に血でサインをした後、血判を。」
「分かりました。それと、私の事はノワールドと呼んでください。」
ノワールドは契約書にサインし、笑いながらそう言った。
「分かりました。では、あとは契約の証を刻みましょうか。体の何処でも良いですが、リクエストはありますか?心臓に近ければ近いほど、力を扱えますからね。先に補足しときますが、私と契約すると、ある程度貴方に私の力を扱える様になります。と言っても、私の種族はあくまでも吸血鬼であり、貴方は既に強大な力を持つ魔人。吸血鬼としての力の一部と私の扱う魔剣や魔具の一部を召喚、招来する力だけですし、余り意味は無いと思いますが。」
笑いながら私もそう言う。
「ならそうですね……左手の甲にお願いします。右手は埋まってますからね。」
「分かりました。では……。」
レイリスがノワールドの左手の甲に指でなぞる様に動かしながら魔力と血を混ぜ合わせて契約の証である紋様を描いていく。
そして1分経つ頃に漸く出来上がった。
ノワールドの左手の甲には、六芒星の中心に十字架の入った盾、そしてその盾から包み込む様に翼を広げる蝙蝠と梟の翼の入った紋様が、いや、紋章が出来ていた。
「これで契約が終わりました。直ぐに行動しますか?」
「いえ、彼の魔女から聞いたのですが、ラヴァルは現在、馴らしの期間に入ってるらしいのです。5年前、悪魔と契約したラヴァルは力が不安定になっていた可能性があると。それで都市より外れた森の深くにある廃屋で慣らしているとのことです。期間はあと5年。」
たしかに、唯の人間が悪魔と契約をしても制御できるものではない。たが、暴走状態に陥った中、昏睡の魔法を使えたということは適性が高い可能性もある。早めに行動した方がいいかも知れない。
「わかりました。しかし、早めに行動した方が良いでしょうね。完全に馴らし終わられてからでは遅い。しかし、情報収集や対策も必要ですから……こうしましょう。2年と半年、情報を集め、それと同時に力を鍛えましょう。そして半年で可能な限りの対策を済まし、ラヴァルの所へ向かいましょう。戦闘は避けれないでしょうし、どれだけの力を持つか気になりますからね。それに……契約した悪魔についても少し気になります……。」
話を聞く限り、相当力を持つみたいですし……最悪なら魔界からきた上級悪魔か……それとも魔神クラスか……。何れにせよ対策をしておくに限るわね。
「分かりました。それと……これは出来ればで良いのですがね……。」
「?なんでしょう?」
ノワールドは少しだけ黙った後
「貴女の力を知りたいのと、今の自分でどこまで通用するのか知りたいので……手合わせ願えますか?」
「私も貴方の力が知りたかったので大丈夫ですよ。」
そして私たちは一度手合わせをする事になった。
新しく編み出した魔法も試してみたいですね。
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命を掛けた模擬戦
私とノワールドは試合をする為に中庭までやってきた。
「ここでするのですか?」
「いえ、少し場所を変えますよ。」
私は空間魔法を発動し、少しだけ妖力を交ぜ混む。
魔法陣が地面に展開され、空間が歪み、次第に景色を侵食していく。
そして数十秒後には景色は完全に別のものとなっていた。
地面に展開された魔法陣、空に輝く金色の満月、そして周りには杯と軍隊の絵が画かれた色鮮やかなステンドグラスの列で囲まれていた。
「これは……」
ノワールドが唖然としている。
まぁ、無理もないですね。別空間を作り出したような物ですし。
「空間魔法ですか?しかしこの規模は……」
「この空間魔法はそう難しいものでも無いですよ?」
少しこの空間魔法について種明かしでもしましょうか。
「この空間魔法は仕組み自体は割りと単純です。空間魔法は自分だけの空間を作りだせる。これは知ってますよね?その自分だけの空間を少し大きめに創っておき、その創った空間を、発動時に展開する魔法陣に魔法の式として組み込み、空間に上書きするように転写・展開。これだけですよ。」
正直、この魔法は基本の応用の様なものですからね。
「なるほど……そうか、一から作るのではなく、予め作っておく……勉強になりますね。」
まぁ、強度を足すために少し妖力を足しましたが。
「さて、始めましょうか」
言いながら私は両手の調子を確かめる。
今回は試合とはいえ、魔人、それも私と同等レベルの者が相手だ。念のために少しだけ部屋から魔法具を持ってきておいた。不足の事態だけは避けねばなりませんしね。
「ええ、やりましょう。」
ノワールドは魔力を纏うようにして展開している。
私も体内に魔力を展開しながら、表面に覆うように魔力を展開させる。
「先に言います。手加減は無しですよ?」
「わかってます。では……行きますよ!」
先に動いたのはノワールドだった。
瞬時に自分の周りに無数の魔法陣を展開。
そして自身は魔力を纏いながら突っ込んできた。
魔法陣から出てきたのは槍。
氷、炎、雷、風、空気、さまざな系統で作られた無数の槍が此方に飛んでくる。
(丁度良いですね。新魔法の実験もしておきましょうか。)
私は右手に炎の、左手に水の魔法陣を展開させる。
そして2つの魔法陣を重ね、新たな魔法陣を作り出す。
そうして出来上がった魔法陣を更に複製、展開し、発動させる。
そうしてる内にも槍が飛んでくる。
そして槍がぶつかる寸前、魔方陣の一つが強く光を放ち、正面が渦を巻き始める。
そして、槍が空間の渦に触れた瞬間、槍は全て消滅してしまう。
槍が消滅すると同時に魔方陣が完成、魔方陣が光を放ち、魔方陣から大量の水が現れ、全て槍の形となり、ノワールドへ放たれる。
ノワールドは右手に魔力の槍を生成し、水の槍を捌き始めるが、無数の水の槍の幾つかがノワールドの身体へ突き刺さり、刺さった場所から煙が上がり、内側から焼き溶かしていく。
「ぐぅ……!」
ノワールドが苦しげな声をあげる。
そうしてる内にも無数の水の槍が襲い来る。
ノワールドは水の槍を強引に破壊し、同時に治癒を開始。
無数の水の槍を魔方陣を展開し、再び属性の槍を無数に創り、水の槍にぶつける事により相殺する。
ノワールドは持っていた魔力の槍を投擲、それに反応が遅れた私は魔力の槍を肩に受けてしまった。
私は魔力の槍を自身の魔力へ強制変換し、互いに攻撃の手が止まる。
「さて……次は私から行きますよ?」
私は右手を媒体に使い魔の梟を召喚する
梟は一声鳴くと空へ飛び、ノワールドの上空を旋回するように回る。
「アウルレギオン」
私が一言呟くと同時に梟の体が蒼黒く輝き、梟の数が増えていく。そして増えた梟は最初の梟の号令により半分がノワールドに向かい、半分が複雑な隊列を組み、魔法陣を作り出す。
梟の魔法「アウルレギオン」
使い魔の梟に自身の魔力の一部を譲渡し、最初の梟をオリジナルとした分身を作り出し、群れを作る魔法。
私の梟は私の魔法の一部を受け継いだ貴重な使い魔だ。
そして他の使い魔よりも圧倒的に優秀で独自の判断で行動できる。おまけに、私の魔法により半魔状態になっている。
梟の魔法陣が完成し、魔法陣から無数の鎖と剣が飛び出す。
それは梟の群れに襲われていたノワールドの全身を串刺しにした……ように見えたがノワールドの身体が蒼く発光したかと思うと、姿がブレて少し後ろに姿を表した。
「流石にその程度の魔法は食らいませんよ。」
ノワールドは右腕を掲げ、魔力を込めると右手の甲に魔法陣が浮かび、光を放ちだす。
「禁呪「マギア・ロウ」の解禁……少し本気を出します。」
右手の甲に魔法陣と共に「解」の文字が浮かび上がる。
その文字が浮かび上がると同時に凄まじい悪寒が全身を巡る。
あれは喰らってはいけない。あんなモノ発動すれば術者は大変な事になる。自分はまだ対抗できるかも知れないが、ノワールドでは今はまだ対抗しきれない。
そう考えてしまうほどに凄まじい力を放っている。
(通常なら持って5分……いや、10分と言ったところですか。しかし……完全にコントロールできているようにも見える……。)
私でも長時間あの力に晒され続ければタダでは済まない。
……短気決戦を狙うしかない。ノワールドもそう考えて使ってるのでしょう。
「……あまりしたくはなかったんですが……仕方ありませんね……。」
私の切り札の一つを見せましょうか。
私は頭上に浮かぶ月を少しだけ弄る。
すると月は満月になり、やがて欠け出す。
少し欠けたところで止まり、その直後にレイリスの身体に異変が起きる。肩ほどまでの長さだった髪が伸び、綺麗な群青色の髪に月の光のような美しい金色が混ざり始める。
片翼のコウモリの翼は形を変え、天使の翼を思わせるような、それでいて黒く禍々しい翼となり、梟の翼は一回り大きくなる。
レイリスは一通りの魔法を納めてから自分の翼など自分の事について研究したことがあった。その結果、さまざまな事がわかり、その研究成果として出来た魔法……いや、状態変化の一つがこれだ。
状態変化「リリス化」
研究の結果として見つけた自身の変化の一つ。
聖書に出てくる始まりの人間アダムの最初の妻リリスは
後に悪霊と交わり魔女と化した。そのリリスは満月から欠ける時に最も力が高まったとされる。レイリスにも適用されるらしく、この時は普段は姿こそ変わらないが、力が高まる。
そして、姿が変わった状態のこの時のレイリスは聖書に置いて堕天使の長ルシファーの妻ともされるリリスに匹敵する程の力をもたらす。
「この状態の私は加減が効きにくいです。しっかりと耐えてくださいね。」
最初に動いたのはレイリスだった。
音もなく一瞬でノワールドに近付いたレイリスは白い光を纏わせた貫手をノワールドの腹部へ放つ。
しかしノワールドはそれを部分展開した結界で防ぎ、貫手を放ってきた腕に魔力を纏わせた手刀を下ろす。
レイリスはそれを腕を霧へと変え、それを回避し逆の手で魔法陣を作る。
「旧き契約に従い、力をかしたまえ。「太古の雷」!」
魔法陣より放たれた青白い雷は途中で枝分かれしながら、ノワールドに向かう。
「随分と変わった魔法ですね……!「リフレクトミラー」!」
ノワールドの眼前に展開された鏡の様な結界に青白い雷がぶつかる。
「反射魔法ですか!しかし、この魔法に反射魔法は効きませんよ!」
魔法を跳ね返さんとするリフレクトミラーにぶつかっていた青白い雷は急に動きを変え、回り込むようにノワールドへ向かい出す。まるで意思を持っているかの如くリフレクトミラーを迂回する。
「そんな出鱈目な……!」
ノワールドは遅い来る雷を魔力を纏わせた腕で薙ぎはらいながら呟く。
そして危険を感じ、全力で横へと飛ぶ。
その刹那、ノワールドがさっきまでいた場所に赤黒い短剣の雨が降り注ぐ。
「避けましましたか。ですが……チェックメイトです」
そんな声が聞こえた。
ふとレイリスを見ると黒い天使の翼と梟の翼を羽ばたかせながら空中に巨大な魔法陣を描いている。
それを認識した瞬間、すぐに結界を張ろうとしたが、足元より飛び出てきた鎖が身体をがんじがらめに縛り付けてしまった。
「それはタルタロスの鎖。地獄の罪人を縛る魔の鎖です。いくらその状態でも動けないでしょう。安心してください。一応加減はしてみますから。」
空中に描かれた巨大な魔法陣から巨大な禍々しい剣が姿を表す。
そして、その剣先がノワールドへ向けられる。
「召喚魔法「
巨大な剣が勢いよく射出され、ノワールドの腹部を貫いた。
少しやり過ぎました……。
ほぼ同じくらい力量で長引きそうなのでつい、執行剣を召喚してしまいました。
直撃する寸前に魔力の高まりを感じたので大丈夫だとは思いますが……。
「危ないですね……レジストが間に合わなければ死んでましたよ……。」
ノワールドの声が聞こえた。
声がした方を見ると、腹部を貫かれながらも、そこより流し込まれる呪詛をすべての魔力を当てる事でレジストするノワールドの姿があった。
「やはり生きてましたか。それに重症を受けながら呪詛をレジストするとっさの判断は流石ですね。」
「ギリギリでしたがね。まったく、禁呪のリミッターを一瞬だけ完全に解放しなければ即死でしたよ。お陰で身体は崩壊寸前ですよ……。」
「とりあえず手当てをしましょうか。「黒き光の治癒」。」
レイリスは剣を還し、リリス状態の浄化治癒魔法を発動し、ノワールドの傷と呪詛を浄化していく。
「ありがとうございます。しかし、その状態はなんですか?力も増してますし。」
「それは私の台詞ですよ?その禁呪というのも気になります。」
「それもそうですね。とりあえず館に戻りませんか?つもる話もありますし。」
そうですね。そう言いながらレイリスは空間を消し、二人は館に戻った。
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