オーバーロード〜不死人と聖職者〜 (倒錯した愛)
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最終回(ユグドラシル終了的な意味で)

ヴィクトリアside

 

 

23:50………ユグドラシル最後の日、あと10分もしないうちにサービス終了してしまうから急がないと。

 

ログインがパパッとできたのは幸運だった、こういう日はどこのギルドも集まって最後の時を待ったりするものだし、もっと遅れるものかと思っていた。

 

まずはギルドマスターのモモンガさんを探さないと、たぶん円卓の間だと思………あれ?いない、どこ行ったんだろ。

 

たしかマップに………いたいた、10階層の玉座の間かぁ、最後くらい魔王らしくって感じなのかな、こんな時に……いやこんな時だからこそのこだわりってやつか。

 

玉座の間に向かう廊下で、今までを振り返る、たっち・みーさん強かったなーとか、ペペロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんはいつも楽しそうに喧嘩してたなーとか………まあいろいろだね。

 

この道も懐かしい……2ヶ月ぶり、いや、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使うようになってからはナザリック内を歩くことなんてなかったから………半年ぶり、ってところかな。

 

やっと第10階層まで降りてこられた、さて時間は………。

 

23:59:39

 

は!?

 

23:59:44

 

まずい!ゆっくりとしすぎた!間に合わない!

 

23:59:55

 

あぁ、最後くらい。

 

23:59:57

 

モモンガさんと。

 

23:59:59

 

話したかったなぁ………。

 

00:00:00

 

00:00:01

 

あれ?強制ログアウトが起こらない?バグか遅延?

 

………サーバーが落ちないってことは、最後のチャンスをやる、っていう神(運営)からのメッセージかな?

 

そうでなくとも、この延長時間を利用させてもらうけど。

 

玉座の間の扉の前に立つと自動で開き始める、と言ってもかなり遅い、もしこれがゾンビ映画で、5人ほどで逃げている時なら、この遅さだったら4、5人目は中に入れずに食われるかもしれない、それくらい遅い。

 

まあ、分厚くてまるで戦艦の装甲板みたいな扉が、それこそコンビニの自動ドアの如く速度で開いたら怖いけど。

 

長ったらしく言ったけど、この遅さ、それと扉の軋む音もすべて雰囲気のため、演出でしかないんだけどね。

 

玉座にはアンデッドのモモンガさんが座って…………アルベドの胸を揉んでいた。

 

「モモンガ………さん?」

 

「ふぉぉぉお!!??ゔ、ヴィクトリアさん!?」

 

「っぁん!……はぁはぁ、モモンガ様ぁ……ん!」

 

「…………お邪魔しました!!」

 

「ま、待ってください!!誤解ですヴィクトリアさん!!ちょっ話を聞いてください!!!」

 

モモンガさん………っ!あなたは………あなたは(童貞のヘタレだと)信じてたのに!

 

「モモンガさんなんてハラスメント行為で運営に吊るし上げられて仕舞えばいいんだぁああああ!!」

 

「恐ろしいことを言わないでくださいヴィクトリアさん!あとちょっと待って!本当に待って!誤解です!誤解ですから!」

 

数分間に及ぶ鬼ごっこの末に頭が冷めたため、ちょっぴりだけ話を聞いてあげようじゃないか。

 

ふむふむ……………モモンガさん曰く…………ユグドラシルで使えたコンソールやGMコール等が使えないとのこと、しかもNPCが自律行動するという大型のバグ付きで。

 

………バグだったらどれだけよかったか……………。

 

「え?じゃあ、僕とモモンガさんはユグドラシルの世界に閉じ込められたってこと?」

 

「いえ、それがそうでもないみたいで………今、セバスに周辺の地形を確認させています、報告を待ちましょう」

 

「命令できるんだ!?」

 

「えぇ………どうやらナザリックのNPCは私の命令を聞いてくれるみたいです」

 

「コマンド以外の指示でも従う………うーん、極秘に進められてきたユグドラシルの超大型のアップデートとか?」

 

「そうにしても、案内板くらいは用意して欲しかったのですが……」

 

「だよねぇ………ところで、僕らどこに向かってるの?」

 

「第6階層です、転移しても良いのですが………こういう話をNPCの彼らに聞かれるのは………」

 

「あー、まあ、そうですよね」

 

いつもならここで苦笑いの顔文字が表示されるのだけど、モモンガさんをどこから見てもそんな表示は見えない、アップデートにしてはバグ多すぎるなぁ、修正はよ………って冗談もこんな状況じゃ言えないよ。

 

「……モモンガさん、ちょっと、散歩してきてもいい?」

 

「え?いいですけど………危ないと思ったらすぐに帰ってきてくださいよ?」

 

なんか気分悪くなってきたし、外の空気吸ってこよう、ナザリックって地下だし、通気性悪いから気分が悪くなったんだろうね。

 

「当然です、僕はリスクに見合わないリターンは払いませんからね」

 

「はぁ………とにかく、気をつけてくださいね」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで第1階層に転移し、そこから外をぐるっと見渡してみる。

 

…………え?どこ、ここ?見渡す限り平原とかおかしい、ナザリックは沼地のど真ん中にあった気がするし……ガチでゲームん中ってことかー。

 

「うっそでしょー………」

 

ゲームの世界に入り込む………そんなアニメみたいなものが、まさか本当に起きてしまうなんて………。

 

どうしてくれんの!?買ってきたカップラーメン無駄になるじゃん!!

 

はぁ、ま、いいや、ある意味貴重な体験とも言えるわけだし、カップラーメン数個と引き換えに、生活空間がリアルからゲームの世界にシフトとしたって考えれば、お釣りが出るくらいのことだしね。

 

さて、さっそく索敵魔法でも………あれ?どうやって使………あ、念じれば使えるんだね、とりあえず索敵魔法と、魔法強化の魔法をかけて………む、あれは村かな?距離20kmと少しの位置。

 

「情報収集には、使えるかな………」

 

独り言を呟いてゲートを作成、村の入り口付近に座標を設定して、ゲートに向かって歩いた。

 

ゲートを出た先には先ほど見えた村が広がっており、今は夜ということもあって子供はそれほど多く見えない、しかし数人の農夫らしき人間が村にある複数のやぐらに2人ずつ立っていた。

 

情報収集の役には立つかな?程度の認識で村の入り口から堂々と入る。

 

「旅のおかt………!?………あ、あなた様はもしや!?神官様でございますか!?」

 

入り口近くのおじいさんが僕を見てそう叫んだ、神官様って………だいたいあたりだけどさ。

 

対アンデッド火力兼ヒーラーとしてやっていこうと思って、職業もそっち系ばっかり取っていたら、いつの間にか司祭、司教、大司教………現在は最高位の『神の使徒』についているっていうね。

 

服装もゲームでよく見る神官系の服を選んで装備してる、モモンガさんがラスボス的魔王なら、僕は大神殿の大神官ってとこかな。

 

白を基調にしたゆったりとしたローブや縦に長い帽子に、ユグドラシル文字で祝福の言葉などが綴られている神器級の装備。

 

規格外の回復魔力を秘めた廃課金者でなきゃまず手に入れられない超超プレミアムアイテム!手に入れられたプレイヤーは、その手の職業についている中でもトッププレイヤー………いわゆるランカー達のうち数人しか入手できなかった装備なのであーる!

 

ただ、同じ神器級装備にはもっと手軽(熟練プレイヤー基準)に入手できるものが多く、能力値が低い、回復魔力の超大幅向上しか利点が無い、労力と金を注ぐ価値はコレクターでもない限りほぼ無い。

 

イベント限定、能力値は低めということもあり、ほとんど敬遠されていた装備ではあるけれど、僕は何よりもこの見た目が気に入っちゃったんだよね。

 

見てよこれ!この純白のローブ!いかなる状況下においても穢れる事を知らない真っ更な白!かっこいいよね〜。

 

この装備が運営から発表された次の日、気づいたら20kぶち込んでたよ、HAHAHAHAHA‼︎

 

そんなかっこいい格好のぼくを、神官という大きなくくりの中で見れば当たってると言えるね、まさにそれ意識してるしね!

 

「えぇ、そうです」

 

えぇ、そうです(ドッヤァ!!)

 

「おぉ!やはりそうでございましたか!このような村にも神のご慈悲をくださるとは!ありがたき幸せでございます!」

 

このおじいさんテンション高いなぁ………まあ、適当に見つけた村に入っただけで喜ばれてるのなら悪い気はしないね。

 

「ご慈悲………そう、我らが信ずる限り、神は我らをお救いくださるのです……」

 

「なんとも、素晴らしい………」

 

「……心が洗われるようだ」

 

適当に言っただけなのになぁ………あとそこのおじさん、僕の泥水みたいな言葉で心洗わないで、今すぐやめて。

 

いつの間にか集まってきた数十人の村人たちに神の説教を聞かせ、満足した様子の村人たちに村長が誰か聞き、訪ねて話を聞いてみようかと思った。

 

しかし………。

 

「神官様、もう夜更けです、おやすみになられたほうが良いかと思います」

 

「いえ、僕は……」

 

「神官様、わたくしは宿を営んでいる者です、神官様のお疲れを取るために、従業員一同、誠心誠意尽くして準備をさせていただきました!」

 

「神官様、どうか今日は彼の宿に泊まっていただきたく思います!」

 

って言ってもお金持ってないんだよね………いや持ってるけど、村人たちの持ってる銭袋の中身を透視してみたら、ユグドラシルの硬貨とは違ったものだった。

 

聖職者と思われている自分が無銭飲食とかはまずいし、やんわりと断ってみよう。

 

「休みたいのはやまやまなのですが、僕は異国の出でして、恥ずかしながら金銭の持ち合わせがないのです……」

 

「神官様から金銭を頂くなんてとんでもない!なんなら泊まっていただけるだけで良いのです!」

 

あれ?異国の部分無視?

 

「そ、そうなの?………じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

「はい!いらっしゃいませ!神官様!」

 

「「「いらっしゃいませ!神官様!」」」

 

宿主とその従業員と思われる人たちが一斉に頭を下げてくる。

 

………僕ってそんな偉いわけでもないのに、いいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の少女side

 

 

「すごい………」

 

私はそれしか言うことができなかった。

 

他の村に比べて小さい村、ここカルネ村で生まれて15年、私は生まれて初めて『奇跡』を見た。

 

昨日の夜にこの村に来たという神官様という人物、父や母が言うには神々しい雰囲気を纏い、純白のローブに身を包んだ美しい方らしい。

 

そんな絵本に出てきそうな人なんているわけない、そう思って朝起きて神官様とやらを見に行ってみた。

 

村の広場で子供や大人を集めているようで、私もその一団に加わって話を聞いてみることにした。

 

「………天使という存在は、高貴で高潔な存在です………」

 

言っていることが頭の中に入り込んでスゥッと解けていく感覚、凝り固まった肩がほぐれたような、そんな感覚に襲われた。

 

怖いと思った、神官様の話を聞いているこの時間が、とても心地よく感じてしまっていることが、怖いと思った。

 

神官様の顔を見る、とても優しそうで、時折起こる質問にも丁寧に答えている。

 

その時、5、6歳くらいの女の子が走っていて石に躓いて転んでしまった。

 

ズシャァ……という音に神官様は転けて泣いている女の子のほうを向いて、その女の子を起こした。

 

さらに女の子の服についた土をわざわざ手で払ってあげたのだ。

 

女の子の母親が騒ぎを聞いて駆け寄ってくる、母親は何度も頭を下げている。

 

神官様は女の子の母親に頭を下げるのを止めるように言って、不意にそれをやめた、神官様の視線を追うと女の子の膝に向かっていた。

 

女の子の膝には遠目からでもわかるほど血がにじんでいた、神官様は手を女の子の膝にかざすと、手のひらからキラキラとした淡い光が放たれた。

 

光が収まると、女の子の膝の擦り傷は最初からなかったかのようにきれいさっぱり無くなっていた。

 

これに私はさっき神官様が女の子を起こしてあげた時以上に驚いた。

 

神官様にとっては、旅の途中で立ち寄った村の子供でしかない女の子の傷を、魔法を使って治療をしてあげた………魔法は人を傷つけるものと聞いていたから、とても衝撃的だった。

 

神官様の周りに色々な人達が集まっていく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリアside

 

 

転んで泣いてた女の子を起こして魔法で治療しただけなのに…………なんでこんなに感謝されるのかな?あれくらいの回復魔法………第1階位か第2階位程度の初歩の魔法なんだけど……。

 

もしかして第1階位魔法すら使える人がいない、とか?

 

それなら納得がいくけど………うーん……。

 

「し、神官様!娘の怪我を治していただき、ありがとうございます!」

 

「神の子が目の前で傷ついているのです、助けるのは当たり前です」

 

「なんと慈悲深いお方なんだ!」

 

「あのお方こそ、真に神に仕える神官!」

 

たっちさんと同じようなこと言っただけなんだけど………でもいい気分だね、褒められるっていうのは。

 

ん?メッセージが飛んできた?GMコールとかと同じように使えないんじゃないんだ。

 

『聞こえますか?ヴィクトリアさん』

 

『モモンガさんですか、何かご用で?』

 

『散歩に行ったきり帰ってこなかったので、連絡を入れました』

 

『あはは、ご心配をおかけしました、こっちは大丈夫です、出会った村人にも良くしてもらっています』

 

『そうですか………あの、お手数ですが、その村で情報収集をお願いしてもよろしいでしょうか?』

 

『えぇ、わかりました』

 

『頼みます』

 

メッセージを切って村人のほうを見る………って何このご馳走の数々!?

 

「あの、今日は何かお祭りでもあるのですか?」

 

「いえ、祭りなどは………しかし、今日は祭りと言って良いほどの祝い日でございますゆえ」

 

「昨晩は神官様をもてなすことができませんでしたもので………」

 

まだもてなす気だったの!?正直寝床だけでもありがたかったんだけど………なんか、申し訳ない気分だよ。

 

「もてなすだなんて………私はただの、異国の神官なのですよ?神に祝福されし人々をもてなしはすれど、もてなされるような人間では………」

 

「あぁ、神官様は謙虚であられる………」

 

「どのような山よりも高い徳操と、どのような海原よりも深き慈悲………」

 

「どこまでも、どこまでも感服いたしました!!」

 

もうここの村人たちが怖い。

 

「いえしかし、こんなに豪華な料理なんてとても………いえ、これ以上は無礼ですね………ありがたくいただきたいと思います」

 

純粋な好意とかが1番恐ろしいっていう理由がわかったよ……。

 

リアルじゃこんな待遇ありえないから終始どもりっぱなしだし、神官様とか担ぎ上げられて内心笑顔でバービージャンプしてるなんてバレたら自殺ものだよ。

 

目の前に並ぶ数々の料理、小皿に取り分けて村人と食べる。

 

…………うん、美味しい、認めよう、ここはゲームの中なんじゃない、きっとどこか異世界か何かに、ユグドラシルでの能力を持ったまま転移してしまった………そう考えるしかないようだね。

 

まあ、しばらくここで情報を集めて、数日後に一旦ナザリックに………!!

 

ここに近づく人馬30体を自分にかけた魔法のセンサーに捉えた。

 

レベルにすれば雑魚の雑魚、ドラクエで言うドラキーにも劣る雑魚、それが30体程度………と思うが、ここにいる村人たちのレベルはそれよりも低い、襲われればきっと死人が出るだろう。

 

遠くを見る魔法でよく人馬を見てみよう、まだ脅威だと決まったわけではないので、座って食事を楽しむふりをしつつ、無詠唱で魔法を発動させる。

 

敵なら、情報収集をより円滑に進めるために、ちょっと派手にやらせてもらおうかな。

 



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創造(ブリハァ〜〜〜♡)

防御力と回復魔力以外に目立った特徴もなかった主人公ヴィクトリア君の、本気の一撃………。
なお、弱点山盛りの模様。


ヴィクトリアside

 

 

村に接近中の人馬約30体を遠視魔法でよく観察すると、誰も彼もが西洋風の甲冑を身に纏い、抜き身の西洋剣を持ち背中には盾を背負っている。

 

抜き身のままこっちに突っ込んできているということは、敵ということで間違いないかな。

 

まずは、村長さんに報告だよね。

 

「村長さん、少しよろしいでしょうか?」

 

「何でしょうか神官様?」

 

「この村に、騎士と思わしき者が30人ほど馬に乗って来ていますが、何かご存知でしょうか?」

 

「いえ、そのような者たちのことは………」

 

知らない様子だね、村人に被害が出る前に避難させておいたほうがいいかな、もしも死んだら蘇生魔法で生き返すことができるけど、MPの無駄遣いは御法度だからね。

 

「急ぎ村のみなさんを避難させてください、否な予感がします」

 

「は、はい、すぐに呼びかけます!」

 

村長さんが村の人たちに避難するように伝えながら走っていく、僕は立ち上がって使い魔を召喚する。

 

使い魔といっても、戦闘用じゃなくて偵察に特化したただの白い鳩なんだけどね。

 

まずは情報が先決、騎士の集団の他に敵がいないか………たとえば、騎士を囮に魔法師たちによる包囲殲滅作戦、もしくは足止めか陽動……。

 

って、いくつか可能性をあげてみたけども、この村に騎士を囮にしてまで魔法師で包囲する必要があるほどの重要な何かがあるわけじゃないし、村長さんいわく高価なものなんてせいぜい下級ポーション(ユグドラシル計算)くらいのもので、値段はまあそこそこするものの、殺してでも奪い取るほどのものじゃない。

 

となると、騎士風の格好をした盗賊団か何か、ってところが妥当なんだけど………それにしたって統率が取れすぎてる気が。

 

「神官様!避難が終わりました!」

 

「あ、ありがとうございます村長さん」

 

「い、いえ、それより神官様、あなた様もお早く!」

 

「僕は彼らと話してみます」

 

「しかし、危険です!いかに神官様といえど、相手は騎士が30人、避難を!」

 

いい人だなぁこの人。

 

「まずは話を聞きませんと、問答無用で暴力にでるのは野蛮人でしかありません」

 

何とか村長さんを説き伏せて、村の中央の広場にて魔法を連続で使用する。

 

詠唱高速化、無詠唱化、広範囲索敵、魔法によって村中に『目』を配置、上位の物理攻撃を反射する魔法、上位の魔法攻撃を反射する魔法、もしもの時のための自動防御魔法など。

 

あらゆる魔法による監視網とトラップを構築完了、あとはメッセージでモモンガさんに連絡して。

 

『モモンガさん、今ちょっといいですか?』

 

『ヴィクトリアさん?何かありましたか?』

 

モモンガさんは意外にもメッセージに素早く返信してくれた。

 

『えぇはい、僕のいる村に騎士風の格好をした者たちが30体ほど、剣を振りかざして接近中なんですよ』

 

『えっ!?ちょっと待っててください…………見えました、確かに、30体ほどいますね』

 

『今村を襲われると貴重な情報源が無くなってしまうので、何とか死人を出さずに追い払うか皆殺しにするかしたいんです』

 

『そうですか………なら、アルベドを完全武装させてそっちに送りましょう』

 

『あ………できればセバスかユリ・アルファでお願いできませんか?』

 

『セバスとユリ、ですか?………あぁ、『善』だからですね?』

 

『聖職者と見られてる僕が、人間嫌いの悪魔を連れてたら信用なくしますから………それ以外にも、セバスとユリならパワーをセーブできますし』

 

それに、アルベドの完全武装ってどう見ても悪魔の首領にしか見えない上、素手で殴っただけで生暖かいイチゴのカキ氷が出来上がっちゃうしね………。

 

『わかりました、ではセバスとユリには適当な武器を渡して送ります』

 

『ありがとうございます、助かります』

 

セバスとユリなら手加減できるし、適当に剣でも持たせておけば、熟練の剣士とその娘程度には見えるから大丈夫………って考えたんだろうね、モモンガさん、いいアイデアだと思う。

 

まあでも、セバスは変身した方がめっぽう強いんだよね………セバスの人型体型はナメプの証。

 

メッセージをきると遠くから馬の脚が地面を蹴る音が聞こえてくる、いつの間にか近づいてきていたようだ。

 

トラップは張ってあるしいつでも発動できる、保険のためのカウンター魔法も万全、いざという時のための自動防御魔法もある。

 

モモンガさんに頼んだ処理要員もすぐに来るだろうし………やることねぇ!ってわけで座って待とうかな。

 

どうあがいても僕はヒーラーだしぃ、防御力特化・回復魔力特化、んでもって火力はアンデット以外にはクソ雑魚ナメクジですしぃ、つまるところ死ななきゃ良いんですぅ、最後の1人になっても仲間を蘇生できますしぃ。

 

かといって攻撃力を疎かにしていい理由にはならないんだよねぇ、厳しいけど………。

 

ん、魔法無しでも走ってくる馬の姿が見えてきた。

 

まずはあいさつから。

 

「こんにt「皆殺しだぁ!野郎共!」」

 

…………あれ?止まる気配無し?というか突っ込んで………はいっ!止まらないしなんか危ないから敵確定!!

 

「『攻撃回数増加』!、『ホーリースピア・レイン』!」

 

スピードを緩める様子なく突進を続ける敵に向け、攻撃回数を増加させたアンデッド系に特効ダメの攻撃魔法を唱える。

 

とっさに出たのが対人系のファイヤーボールとかじゃないってのが、対人慣れしてない証なんだよね………加えてさっきかけておいた数々の防御・カウンター魔法をど忘れして攻撃しちゃってるっていうね………。

 

こう見えて、24歳(嘘)、初心者です(レベル100)。

 

初心者でもやらなさそうなミスをやりつつも、発動させた魔法、『ホーリースピア・レイン』を敵の頭上に落とし続けるのをやめない。

 

降り注ぐ聖なる槍が地面に突き当たり、弾け、砕け散った聖なる力の結晶が、人馬をこの世界から消し飛ばしていく。

 

魔法の発動から3分も経たないうちに悲鳴が聞こえなくなった、見てみると敵である騎士風の兵士も馬も皆消えてしまっていた、呆気ないくらいだった。

 

ホーリースピアの爆発によって文字通り消滅した人馬たち、誰か1人くらい捕まえておけば情報を得られたかもしれない………完全にそこらへん考えてなかった、やっべ、モモンガさんに怒られるやっべ。

 

とりあえず隊長格っぽいの蘇生して………。

 

「『リザレクション』」

 

蘇生魔法を唱えるとあらゆる方向から光が集まっていき、光が収まると先ほど消滅させた騎士風の男がいた。

 

「は、はぁ!?お、おおお俺は、死んだんじゃぁ………」

 

「君、少しいいかな?」

 

「あぁ!?なんだてm………あ、あんた……じゃなくてあなたは!?もしや俺……わたくしを生き返らせてくださったのですか!?」

 

え?何こいつ、黄金の理解力でも持ってんの?これが輪廻転生ってやつ?多分違うねうん、ってかこっわぁ………これじゃおいおいと蘇生魔法も使えないよ。

 

「そうだけど……神のお告げで君を生き返らせることがより良い事に繋がると言われただけだよ」

 

「なんと!?神が!!…………おぉ……神よ……」

 

感極まったのか泣いちゃったよこの人………めんどくさ。

 

「早速で悪いけど、君たちのこと、教えてくれないかな?」

 

「はい!わたくしはスレイン法国の一兵士で、ここリ・エスティーゼ王国の領土にバハルス帝国の甲冑を着て踏み入ったのは、王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフを罠に誘き出すべく、おとり部隊の指揮を取っておりました!」

 

へぇ、ここって王国なんだ、それで彼は法国の兵士で、帝国の鎧を着て襲撃したわけだ。

 

「そのガゼフ・ストロノーフという人は、どんな人物なのかな?」

 

「はい、あの男は王国最強の戦士であります、一兵卒のわたくしでは足元にも及ばぬ強さです!」

 

うん、中位魔法で文字どおり消滅するような人間だしね君、だからそのガゼフ・ストロノーフという男の戦闘力が全く測れなくて困るなぁ…………足元にも及ばないんじゃ情報としての価値はないか。

 

「次聞くよ、罠っていうのは具体的には?」

 

「スレイン法国が陽光聖典、その特殊部隊、総勢40名でございます」

 

「武装は?」

 

「全員腕の立つマジックキャスターで、中でも隊長のニグン様は、強力なマジックアイテムを承ったとの噂です」

 

噂ねえ………用心に越したことはないかな、腕の立つ魔法使いが1個小隊ほどというのがちょっと厄介かな、範囲攻撃系魔法はほとんど持ってないしねぇ。

 

とりあえず…………。

 

「ありがとう、名も知らぬ兵士君」

 

マジックポーチからエモノを取り出して振るう。

 

ヒュッ………

 

「へっ?………」

 

ビチャッ!

 

うわきったね(素)、エモノに付いた血を振り回すことで落としマジックポーチにしまう。

 

『聞いてましたよねえ?モモンガさん?』

 

『はい、全て聞きました』

 

あらかじめメッセージを開いておいてマイク機能で目の前で跪く兵士の声を拾って届けたんだ、メッセージは声を出さずに意思疎通ができるから、マイク機能を使う人はあんまりいなかったけど。

 

『今後の対処だけど、この村にはある程度の施しをしたいと考えてるんだ、そのほうがより円滑に進むと思うし』

 

『良いと思いますよ、せっかく得たこの世界での初めての意思のある生物………人間ですから』

 

『では、セバス達が着き次第、標的を迎撃しますか』

 

『お願いします………あ、そうでした、ヴィクトリアさん、どうせなら、いっちょ派手にやっちゃいませんか?』

 

『お?やっちまいますか?スレイン法国に?ド派手に戦線布告?やっちまいますか?』

 

『いやそこまでやらなくていいです、というかやらないでください………ただ、ヴィクトリアさんの『本気の一撃』を、ナザリックのみんなに見せておいたほうがいいと思いまして』

 

『?………』

 

『あぁ、実は………ヴィクトリアさんはギルドメンバーの中でも日が浅く、一部ですがNPCがヴィクトリアさんの実力を疑っているんです』

 

『んまぁ………僕って火力の無いヒーラーですしねぇ………』

 

『そこで………『本気の一撃』、使ってみてくれませんか?それを見れば納得してくれると思うんです』

 

『そうは言いますけど………』

 

『大丈夫です、セバスとユリをつけているんですから』

 

『…………はあ、わかりました』

 

『はい、では頼みましたよ』

 

メッセージをきる………『本気の一撃』ねえ、あんな技使いたく無いんだけど……。

 

そりゃ悪ノリで作った技のわりにはメッチャ強いからって理由で専用の武器まで作っちゃったけどさ。

 

ま、ナザリックでの株上げのため、ちょっとだけ頑張りましょーかねえ。

 

「ヴィクトリア様、お待たせいたしました」

 

「お待たせいたしました」

 

ゲートの向こうからセバスとユリが現れた、セバスは騎士風の格好で両手剣を腰に帯刀している、ユリは舞踏家のような格好で両腰にサーベルを帯刀している。

 

「さっそくで悪いけど、セバスとユリはこの村の防衛をお願いするよ、僕は少し、用事ができたから、ちょっと出かけてくるよ」

 

「承知いたしました」

 

「あ、何かあった時の対処は2人に一任するよ」

 

「はっ!」

 

セバスの返事を聞いて僕は索敵魔法を発動させる、引っかかったのはまたしても騎馬……しかしその戦力は先ほどの3〜4倍ほど…………ではあるけど、セバスとユリなら問題無いでしょ。

 

問題は、村全体を囲むように動くこの謎の人間………突っ込んでこないあたり、魔法使いの可能性が高いね。

 

さて、本気を出さなきゃいけないわけだし、テンション上げとかないとキツイかもしれない、中二病モードに入ろうか。

 

「………セバス、そう遅くない時間でここに100人ほどの兵が来る、敵なら容赦せず殲滅、友好的ならば繋がりを作れ、ナザリックのことは明かすな」

 

意識して低めの声を出す、一瞬セバスとユリは強張った表情を浮かべるが、すぐに平静な表情に戻った。

 

「承りました、私たちのことを聞かれた場合はどのように?」

 

「愚問だなセバス、私たちにはあるだろう?何よりも尊く、何よりも美しい名が………そう、【アインズ・ウール・ゴウン】という名が」

 

「そ、そうでございました!私ともあろう者が、失念してしまっていました!」

 

「気にするでない、セバス、君のナザリック及びアインズ・ウール・ゴウンへの愛(忠誠)は、理解している………そろそろ時間だ、頼んだぞセバス、ユリ」

 

「「はっ!」」

 

Foooo!!中二病たのっすぃい!!

 

包囲するように展開中の人間たちの目の前にゲートを開き、突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜けて目の前に見えたのは全身黒い布系の装備をまとった、武器から見るに魔法使い………マジックキャスターたちだった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「いきなり目の前に!?」

 

「転移魔法か!?」

 

包囲の準備中にいきなり目の前に現れたら驚くよねえ。

 

「初めまして、スレイン法国の陽光聖典の有象無象共」

 

「……我々のことを知っているのか」

 

「当然だ、貴様らのことは、貴様らが差し向けた雑兵共に聞いた、なんでも、王国の最強の剣士の暗殺が目的だとな」

 

言いながら不可視・無詠唱化した防御魔法を複数展開する、ふっふっふっ………私のMP量はアインズ・ウール・ゴウン最高値を誇る!加えて!装備品によるMP消費量超減少のバフを常に受け、低確率でMP消費が無効になる効果もある!

 

反則的なMP量と最速の詠唱時間による瞬間火力………ではなく、瞬間回復力が持ち味!たとえ戦士職相手の一対一であろうとも、相手のHPを削る速度が私の回復速度に追いつけない………さらに、火力を捨てたことによるキチガイ防御パラメータが牙をむく。

 

対物理・対魔法・対時間・対状態異常・対精神操作………ありとあらゆる加護を受けた私は正に!無敵!

 

………だが、私が見せるのはそんな防御力と回復力に任せた泥仕合いでは無い。

 

圧倒的な力(パワー)を、見せつけてやろう。

 

「貴様らの差し向けた雑兵共を、チリの如く消してしまったのは悪いと思ったが、あの村の人間を殺されると私たちにとって面倒だから、仕方なくやらせてもらったのだ、許せ、羽虫共」

 

「………全員天使を召喚しろ!そして!そこにいる薄汚い口を即刻閉じさせろ!」

 

にんにくっぽい頭をした隊長の命令を聞いた黒づくめの部下たちが、一斉に召喚を始めた、召喚された天使は下の上、よくて中の下程度の光属性モンスターだった。

 

だが、レベル100の私からすれば、ただの雑魚だ。

 

「一斉に攻撃せよ!突撃!」

 

隊長の命令で部下たちはモンスターを私に突貫させる、だが良いのか?それではまるで………。

 

「玉砕だな」

 

モンスターの持つレーザーブレード状の武器が私に触れる、その刹那、触れた先端からモンスターが散り散りになっていき、消滅していく。

 

次々と迫るモンスターを微動だにせず消滅させる………マンガやアニメなら最高にクールな場面だ。

 

「ちっ!天使を再び召喚!陣を組み体勢を立て直せ!」

 

隊長の指示が飛ぶ、MP切れを狙っていたが、さすがに馬鹿じゃないか。

 

「どうした?まだ私は痛みを感じてはおらんぞ?」

 

「ぐっ………ならばぁ、最高位天使を召喚する!」

 

宣言とともに取り出したのはクリスタルの結晶、魔法にそこそこ詳しいからわかる、あのクリスタルには魔力が封じられている…………そこまで強くない感じの。

 

「出でよォ!最高位天使ィイ!!【威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)】ィイイイ!!!」

 

クリスタルを掲げ高らかに叫ぶ、大仰な演出で神々しい最高位天使(実は中位天使)が召喚された。

 

「お前が何者かはわからないが、このドミニオン・オーソリティを使うほどの価値はある!!」

 

「ふぅん?それで?」

 

「ふっ、余裕ぶったところで無駄よォ!ドミニオン・オーソリティ!奴にホーリー・スマイトを放てェ!!!」

 

最高位天使(笑)がゲロビを空に向けて撃った、と思ったら空からゲロビが………ゲロビは私に直撃し、防御魔法で反射、ドミニオン・オーソリティに向かっていき直撃、自爆した。

 

「……………はっ?」

 

「……………フッ……ククッ………アハハハッ!アァッッハハハハハハァッ!!」

 

笑いが止まらない、なんだぁこれはぁ?切り札的なクリスタルの結晶が、実は第5階位程度の召喚魔法が一回分封じてあっただけの、ただのゴミ!

 

肝心の攻撃に関しても、第9階位の防御魔法の前では無意味だった、階位が4つも空いている時点でお察しだが、かわいそうになるな。

 

「ふぅっ………なかなかよい余興だったぞ」

 

「ひぃ!?まままま待って!いやおおおおおお待ちくださいぃいい!!」

 

「全力を持って楽しませてくれた貴様らに、私も全力を持って示そう………」

 

命乞いを始める隊長を無視し、杖をマジックポーチにしまい、詠唱を始める。

 

「『かつて、これほどまでに清らかな魂はなかっただろう』」

 

巨大な魔法陣が私を中心に展開される、魔法陣のルーン文字はゆっくりと円の縁を回転している。

 

「『そして、これほどまでに愚かしい魂もなかっただろう』」

 

魔法陣が発光し、帯電状態であるかのようにバチバチと衝突音が鳴っている。

 

「『魔女の洗礼によりて、如何なる魂も谷を駆ける一筋の光とならん』」

 

私の手元に光が満ち、次第にそれは棒状に伸びていく。

 

「『如何なる者であろうと、その光を妨げる力を持たない』」

 

光が収まり、手元には巨大な槍が握られていた。

 

「『救済の光よ、今こそ溢れ出よ!』」

 

瞬間、槍の刃が光輝き、誰も直視することができなくなる。

 

「『創造ーーー【慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)】』」

 

言い切ると同時に旋風が巻き起こる、旋風の最中、巨大な光の十字架が出現する。

 

「『我が愛で朽ちるがいいーーー』」

 

横に薙ぎ払う。

 

凄まじい閃光が辺りを埋め尽くす、閃光が収まり、視界が晴れた時、私の前には、黒づくめのマジックキャスターは1人もおらず、ただ、地面がえぐれているのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

モモンガは絶句する守護者一同を見て満足な気分に浸り、精神が沈静化されるということを短時間で何度も体感していた。

 

ギルドメンバーの中で最も日が浅いヴィクトリア、レベル100ではあるものの、物理攻撃力はプレアデスにすら及ばず、また魔法攻撃力ではモモンガ以外のメンバーにも大きく劣る。

 

メンバーの誰よりも突出した防御力があるが、ステータス上の移動速度は鈍足を極めており、盾役として立ち回ることができないため、無用の長物。

 

唯一の速い詠唱速度による瞬間的なHP回復量はとても大きい魅力だが、そもそも『ラクラクPK・PKP術』という指南書があるため、攻撃を受けHPが減少することは滅多になく、長期戦でしか活躍の場が無い。

 

モモンガは守護者統括のアルベドからヴィクトリアの実力に関して不安だとの報告を受け、ヴィクトリアの実力が嘘偽り無きものであることを証明するため、闘技場にてマジックアイテムでヴィクトリアの戦闘を守護者(恐怖公等除く)・プレアデス・メイドたち全員に見せた。

 

結果はモモンガの予想を大きく上回る形で現れた、モモンガはヴィクトリアの実力を証明できれば、今後の行動がスムーズに進むと考えていた。

 

しかし現実はどうだろう?ヴィクトリアの編み出した必殺技、【慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)】のその美しさに全員が見惚れた。

 

………格好良さにはしゃぐ者。

 

「すごぉい!ねえ見たマーレ!?あの技!すっごくかっこよかったでしょ!?」

 

「うん!格好良かった……!」

 

………その場で蹲り震える者。

 

「ひぃっ!?な、なんでありんすの!?ま、まさかあの光は……」

 

………雄叫びをあげる者。

 

「オオオオオオオオオオォォォォ!!素晴ラシイ!コレガ、ヴィクトリア様の真ノ御姿!」

 

………興奮を隠し切れず狂気の笑みが溢れている者。

 

「フ………フフッ……」

 

………驚愕し後退りする者。

 

「こ……これが、アインズ様の御友人の………アインズ・ウール・ゴウン末席の力………!?」

 

実に様々であるが、全員がヴィクトリアを認めたことの他ならない証拠であった。

 

「ふふふふ…………見たであろう、我が友の編み出した、ユグドラシルにおいて最高火力を持つ技、【慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)】を」

 

「最高火力ヲ持ツ技!!??」

 

「そうだ、アインズ・ウール・ゴウンにおいて、そしてユグドラシルにおいても、如何なる存在であろうと、あの技の火力を超える技を生み出すことはできない」

 

「なんと恐ろしい……」

 

「そして、見て分かる通り、あれは聖なる浄化と救済の力を持つ技………つまり、諸君らの創造主や、私が、あの技に万が一にでも擦りでもすれば………最悪の場合、存在ごと消し去られてしまうだろう」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

ギルドの長であるアインズが、擦るだけでも自身が消滅し消えてしまうほどの圧倒的な火力。

 

アインズをもってしてそれほどなら、自分は近づくだけでも危ういのではないか?という考えには誰も彼もが辿り着いた、辿り着いてしまったが故、湧き上がるヴィクトリアへの恐怖が止まらなくなる。

 

そして思う、もしも………もしもヴィクトリアがアインズ・ウール・ゴウンに反旗を翻したら………。

 

しかしそれはアインズの言葉で杞憂に終わる。

 

「だが安心するといい、ヴィクトリアさんがナザリックに不利益になることは絶対にしないと断言できる、これは私、アインズ・ウール・ゴウンの名において誓おう!」

 

絶対たる支配者の、絶対の誓い、疑いようの無い絶対の信頼をしていることの証しである、闘技場に集った一同は、もはや言葉も出ないほどに感動していた。

 

先日見たアインズの実力、今見たヴィクトリアの真の実力、そしてアインズのヴィクトリアへの絶対の信頼…………彼ら2人の互いへの配慮が、尊敬が、守護者たちの心を打った。

 

「アインズ様!!」

 

「アルベド、どうした?」

 

突然の呼びかけに驚きつつアインズはアルベドのほうを向く、向いた先には跪き頭を垂れる守護者たちの姿があった。

 

「守護者統括及び全階層守護者、並びにプレアデス総員並びにメイド総員!ナザリック所属の全従者を代表し、アインズ様とヴィクトリア様に、これまで以上の忠誠を誓います!」

 

「「「「「アインズ様!ヴィクトリア様!万歳!!」」」」」

 

拍手と万歳の嵐、あまりの迫力にアインズは気圧される、ナザリックの全ての従者が、一同に会し、こうして今まで以上の忠誠を誓っている光景。

 

歓喜!アインズの心中はそのひとつ、歓喜のみであった、この世界に来てからの唯一心を許せる盟友、ヴィクトリアが認められ、さらにこうしてより一層の忠誠を見せられ、歓喜しないはずがなかった。

 




タイトルで出落ちってるし、文でバレバレだけど。

作者は「アノ」作品が大好きです、特に獣殿と聖餐杯猊下と姉であり母でもある女性が好きです。


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第3者(視点が多めです)

前回のとってもかっこいい(中二病全開な)創造は作者が結構長く考えて書いた自信作です!(笑)

オペラ【パルジファル】よりヒントを得て作りました、この作品の作者はリヒャルト・ワーグナーです。

今後も好きなようにやって行きますんで、どうぞよろしくお願いします。


no side

 

 

魔法結界に引っかかった謎の監視魔法の術者が死んだことを片隅に入れつつ、ヴィクトリアは荒れてしまった地面の土や草を魔法で違和感のないよう修復するなど、後片付けのすべてを終わらせて村に戻ると、珍妙な光景を目にした。

 

それは、様々な年齢の男女に囲まれ、話し相手となっているセバスと、大勢の子供達の世話をするまるで教師のようなユリだった。

 

『善』の2人を選んだのは正解であったと、ヴィクトリアは自分の選択が正しかったとホッとした、陽光聖典を殲滅していたあの短時間で、恐ろしい速度で村人に取り入り、もはや村人の一員と言われても違和感のかけらも感じなかった。

 

ヴィクトリアに気づいたセバスとユリは視線を向け臣下の礼をする、そこで視線の方向に気がついた子供の1人がその先にいるヴィクトリアに気づき。

 

「神官様だ!」

 

と声を上げた、一斉にヴィクトリアのそばに集まる村人たち、困惑しつつも対応するヴィクトリア、その様子を微笑ましく見守るセバスとユリ。

 

先ほどまで襲われそうになっていたとは思えないほどの平穏………平和な村のちょっとおかしな日常がそこにはあった。

 

日が沈み、村長の家に集まった5人の男女、ヴィクトリア、セバス、ユリ、村長、そして王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。

 

「ヴィクトリア殿、セバス殿、ユリ殿、あなた方がこの村を1人の犠牲者も出さずに守ってくださったこと、感謝してもしきれません、気持ち程度ですが、報酬は望むものを用意いたします」

 

「神に仕える身として、目の前で困っている神の子を見捨てられなかっただけです、報酬は望みません」

 

「なんと寛大な御心………ですがヴィクトリア殿、私も王国に仕える身、こう言ってはなんですが、私共としましても、面子というものが保たなくなってしまいます、どうかお願いできないでしょうか?」

 

ヴィクトリアはガゼフの報酬を突っ撥ねるが、向こうにも国家としての面子がある、ガゼフ自身もこの村を守ることができなかったため、その後悔や救ってくれた感謝も含めてどうしても受け取って欲しいのであった。

 

ヴィクトリアはガゼフをセバスとユリの事前のメッセージで聞いた通りの男だという評価を下した、どこまでも一直線な性格はいっそ潔く、裏表も何も感じさせない佇まいはとても好感が持てた。

 

一方でガゼフはヴィクトリアを困惑とともに警戒していた、セバスとユリからヴィクトリアの人となりを聞いて如何様な聖者なのか、と疑問に思った。

 

そこで遠く離れたところで巨大な光の十字架が浮かび上がり、一瞬にして爆ぜたのを目にし、怖がる子供たちをあやすセバスとユリの言葉から、あの巨大な光の十字架はヴィクトリアの魔法によるものだと推理した。

 

そして実際に目の前で見てみると、なんということだ、まだ齢15、16ほどの子供ではないか、そのうえ、村人たちには男のように振舞っているが、微妙な胸の膨らみ、股間のイチモツがないように見えたことから女性、いや、少女であるとガゼフは見抜いた。

 

ならばなぜこのただの純粋な聖少女が、あの美しき救済の十字架の魔法を使えたのか、セバスによれば、彼女は異国出身の神官の身で、神への信仰を広めるための旅をしているのだと聞いた、怪しくも思ったが、ヴィクトリアの身なりは神官としては最高位に上等なものであり、疑いようがなかった。

 

そんなガゼフの思考もつゆ知らず、ヴィクトリアとりあえず組織のトップに連絡するのがスジだろうと、アインズに向けメッセージを送る。

 

『モモンガさん、ガゼフの言う報酬はどうします?どうにも受け取らないことには帰ってくれそうにないんですけど……』

 

『そうですね………それじゃあ、冒険者組合への推薦状を3人分繕ってくれるようにお願いしてください』

 

『………あぁ、なーるほど、モモンガさんは意外と大胆な策を考えましたね』

 

ヴィクトリアはアインズの言葉から、モモンガ自身が冒険者として世界の表側へ出ることを考えていることを悟った。

 

『あはは、バレちゃいましたか………その通りです、この世界の通貨や物価、どの程度のモンスターなどが人間にとって脅威になるのか………今後必要になると思いましたので』

 

『いい考えですね、僕も行ってみたいですよ………この未知だらけの世界を知りたいです』

 

『本当はヴィクトリアさんに頼む予定だったんですが、そこの村で一番馴染んでいるのはヴィクトリアさんですし、ナザリックにも近いので防衛や管理を任せたいのですが、大丈夫ですか?』

 

『問題無いですよ、モモンガさん、この僕………ナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウン第41位ヴィクトリア・ローゼの名に誓って、守り抜きます』

 

『あ!その口上かっこいいですね!それじゃあ私も……えー……私はナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウン第1位アインズ・ウール・ゴウンだ!』

 

『うっふぉおおお!今の最ッ高にクールでしたよモモンガさん!』

 

『そ、そうですか?なんだか照れますn………あっ(沈静化)』

 

『あっ(察し)』

 

馬鹿っぽい言い合いで高ぶった感情を沈静化されるモモンガ、沈静化されるモモンガを差し置いて今後の身の振り方を考えるヴィクトリア。

 

最終的に、モモンガはセバス、ユリとともに冒険者としてアインズ・ウール・ゴウンの組織名を広げるために行動、ヴィクトリアはナザリック地下大墳墓の防衛・管理、及び近隣の村との交流を深めることで2人だけの脳内会議は一時休憩となった。

 

「それではガゼフさん、報酬の件ですが、冒険者組合への直筆の推薦状を3人分いただけませんか?それから、できることなら、いくらかお金を頂きたく思います」

 

「お安い御用です、推薦状を3人分ということは………ヴィクトリア殿も冒険者に?」

 

ガゼフは一瞬ではあるが、ヴィクトリアの中の獣性を垣間見たような錯覚を受けた。

 

「あぁ、違います、私の友人がとても腕が立つ者でして、私も、セバスもユリも、友人も、異国出身ですので、彼らの生活資金を稼ぐにはちょうど良いと思ったまでです」

 

「なるほど、それでしたらそのご友人のお名前を教えてください」

 

「友人の名はモモンガと言います、私が神官見習いからの知り合いでして、見聞を広げたいとお願いをされてしまいまして………唯一無二の友人の願いなので、どうしても叶えてあげたくて」

 

「素晴らしい考えだと思います、ヴィクトリア殿、そのお方は剣士なのですか?」

 

ガゼフは考える、目の前のヴィクトリアが王国戦士長である自分に推薦状を書かせてまで冒険者にしたい男、ただ純粋に興味がわいたのがひとつの理由、もうひとつは、友人という彼が剣士であった場合、前衛3人と後衛1人のチームが組めてしまうのだ。

 

セバスとユリから僅かながら溢れ出る強者のオーラ、ヴィクトリアの使った見たこともない強力な魔法、このふたつの材料から、その友人が只者であるはずがないと、何か裏があるのではないかと、より警戒度をヴィクトリアたちにばれないようやや高くした。

 

しかしヴィクトリアはただ単純にモモンガの推薦状をさっさと書いて欲しいがために急かす意味も込めて言ったのである。

 

推薦状を1人1枚、計3枚を書き終えたガゼフは、王国戦士長の直筆の推薦状であるという証に判を押してヴィクトリアに渡した。

 

「ありがとうございます、ガゼフさん」

 

「いえ………では次のお金の話ですが」

 

お礼を受け取りつつガゼフはフル回転で頭を回していた、目の前の神官が納得するほどの金貨は持ち合わせていない、最悪部下からも出してもらい後で王国に請求すれば良いと覚悟を決める、しかし………。

 

「あーその、お金のことなのですが、この村の宿の一泊分だけでいいので、いただけませんか?」

 

「一泊分、ですか、は、はぁ……」

 

拍子抜けしたガゼフであったが、ヴィクトリアとしてはいくら村人が良いと言っても結果を見ればこの村で無金寝泊まりと無銭飲食をしたのだ、小市民であった自分のモラルがそれを許せないのであった。

 

「えぇ、村の方の善意とはいえ、私も聖職者の端くれ、貫き通さなければなりませんから」

 

ガゼフはヴィクトリアの無欲さと謙虚さに好感を抱くが、宿の一泊分も払えないほど金に困っていながら良く3人で旅に出れたものだな、と思った。

 

きっと困窮していた人に金を渡してしまったのだろう、とガゼフはヴィクトリアの貧乏の理由をこじつけ納得したことにした。

 

ついでに、宿の一泊分は銀貨8枚であった。

 

その後も会話は長い時間続き、日が暮れる前に王都に帰ると言い帰ったガゼフを見送ったヴィクトリアは。

 

「………あんのクソエロオヤジが」

 

胸ばかり見てきたガゼフを、誰にも聞こえないように注意してドスの効いた声で口汚く罵ったのだった。

 

基本的に性に無頓着であるヴィクトリアは、年頃の乙女のように赤面などしたりはしない、だが、だからと言って女であるこの体をジロジロと見られて気分が良いわけがない。

 

他にも理由があるが、この理由に関しては場合によってはヴィクトリアにとって弱点になると考え、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーにも話したことはない。

 

「「………」」

 

セバスとユリにはドスの効いた罵りは聞かれており、2人は見つめ合いうなづくと、どこか危なっかしい至高の御方のヴィクトリア、彼女(の主に貞操)を何としても守ろうと密かに誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー………やっと帰って来れた」

 

「お疲れ様でございます、ヴィクトリア様」

 

「遠方からでございましたが、ヴィクトリア様の妙技、しかと拝見させていただきました」

 

セバスとユリからの労いの言葉を受け取りつつ、ヴィクトリアたちはナザリックの第10階層の廊下を歩く。

 

見ていたとは思うが、一応モモンガに口頭で情報を伝えるのが良いと考え、ヴィクトリアは足を玉座の間へと向けた。

 

その半歩ほど後ろを従者のように付き従うのはセバスとユリ、2人とも執事服とメイド服に着替えていた。

 

「あんなの大したものじゃないよ、派手に見えるけど攻撃力は低めだし、何より発動までが遅いしね」

 

ヴィクトリアの言葉はセバスとユリの度肝を抜いた、モモンガがナザリック全NPC向けのメッセージで、最高の火力を誇ると豪語した必殺技をそうでもないと言い切ったのだ。

 

セバスとユリは困惑した、至高の御方の中でも首席に位置するモモンガが、よもや虚偽の発言をしたというのだろうか?それとも同じ至高の御方の中でも末席のヴィクトリアのほうが虚偽を?

 

セバスとユリは至高の御方を疑うことを酷く恥じた、しかし疑うほどにそれほどまでに衝撃的だったのだ、あの技、『慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)』、あれほどの数の敵を一掃する攻撃範囲を持ち合わせていながら、攻撃力は低いというのか。

 

「ヴィクトリア様、恐縮ながら、先ほどの技についてアインズ様がおっしゃられた言葉と、ヴィクトリア様がおっしゃられた言葉に差異がございます」

 

「うん?モ……アインズさんは何て?」

 

「アインズ様は、ヴィクトリア様の使われた技について『最高火力を誇る技』であると仰りました、しかしヴィクトリア様の先ほどの発言から見て、アインズ様の言葉と食い違いがあるように思えるのですが………」

 

「……ん………ユリは先に行って」

 

「かしこまりました」

 

ヴィクトリアはユリを先行させ、セバスとともに廊下の途中で立ち止まる。

 

「………さて、2人っきりになったわけだ、私の技についての情報の差異について説明しよう」

 

意識的に低くした声音でヴィクトリアは話し始める、セバスは釣られて姿勢を正した。

 

ヴィクトリアとセバス以外に誰もいない廊下、魔法での監視や隠蔽スキルでの盗み聞きもないことを確認して、ヴィクトリアは話しを始めた。

 

「『慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)』…………あれはある映像媒体よりヒントを得て、長年の研究から創り上げた技………それの『劣化版』に過ぎない」

 

「あれほどの力で『劣化版』とおっしゃいますか!?」

 

ヴィクトリアから語られた言葉の前半はよかった、しかし後半の『劣化版』という言葉は、セバスは精神をゴッソリと削るのに十分すぎるものであった。

 

モモンガでさえ擦れば聖なる力で蒸発しかねない威力、それすらも本来の技の劣化というのか、と。

 

「そうだ、本来の技については言えないが、ただ言えるのは、あの技はまだ私の本気でも全力でもないということだけだ」

 

「………僭越ながら、本来の技について、その一端だけでもお教えいただけませんでしょうか?」

 

セバスは迷いに迷って自らの権限を超えた頼みをヴィクトリアに願った、一般メイド、プレアデス、全階層守護者、守護者統括、そして、モモンガ、この者たち全員を一撃で屠れる威力の技……………それの『完全版』だ。

 

如何なるものかはセバスには想像もつかないものであったが、主であるモモンガすら知らぬ技ともなれば、その危険性は無視ができるようなものではないからだ。

 

「たっちさんのNPCであるお前になら言おう」

 

「感謝いたします」

 

「簡潔に言えば、私が本来の技を使えば滅せない者などいない…………だが、その時、私の体は粉々に砕け散るだろう」

 

沈黙が流れる、あまりの驚愕ゆえに頭を下げたままのセバスは沈黙を破る術を持たなかった。

 

ヴィクトリアの言った言葉に嘘偽りがな事は、支配者であるモモンガのヴィクトリアへの信頼から伺える、事実、ヴィクトリアは本来の技を使用すれば肉体が崩壊してしまう、そしてそれはヴィクトリアの種族に原因があった。

 

「セバス、私の種族が何だかわかるか?」

 

「……『天使』、もしくは『堕天使』でしょうか?」

 

「『人間』だ」

 

「なっ!?」

 

今度こそついにセバスは声に驚きを乗せた、ナザリック地下大墳墓、アインズ・ウール・ゴウンには異業種以外の者は至高の御方に名を連ねる事を許されない、セバスやアルベドなどの一定の権限を持つ守護者はもちろん、末端のメイドですら知っている事実。

 

だが目の前の少女は人間にして至高の御方に名を連ねている、セバスはきっと何らかの処置でモモンガがヴィクトリアを在籍する事を許可しているのだと考えた。

 

ではその理由とは………そこまで考えていたセバスであったが、ヴィクトリアの行動で一旦止めた、止めざるを得なかった。

 

「………とまあ、詳しい事はそれほど言えないし、盟友のモモンガさんにもここまでは教えてないし、今回話したのもセバスがアインズ・ウール・ゴウン最強の騎士、たっちさんのNPCだからだよ?言いふらしたりはしないって、信じてるからだからね?」

 

ヴィクトリアは歩き出す、セバスは数秒遅れて歩き出す、セバスの肩は震えている、それは先ほどまで喋っていたヴィクトリアの目が、この世に存在するどの色にも当てはまらない濁った色をしていたからだった。

 

恐怖で肩が震え動悸が早まる、汗が吹き出し呼吸が乱れる、口内は渇き目の焦点が合わせられない、顔色はすこぶる悪く足取りも不安定………今のセバスは、まるで、今にでも崩れ落ちそうな古城のように見える。

 

家事も戦闘もスペックが高く、守護者ともタイマンを張れるほどの実力者が、ヴィクトリアの目を見ただけでこのように目に見えて弱り切ってしまったのだ。

 

しかしセバスが最も堪えたのは創造主たるたっち・みーを引き合いに出されたからだ、もし先の話を聞いて、ヴィクトリアを裏切るようなことがあれば、それは己の創造主たるたっち・みーへの裏切り、反逆と同義なのだ。

 

ゆえにセバスの行動は決まった、ヴィクトリアの秘密を漏らさぬようにうまく立ち回ること、それが最善だと、己の創造主への忠義だと言い聞かせた。

 

一方、ヴィクトリアとしてはちょっと中二病を拗らせて勢いで言ってしまっただけなのだが、反省の色も後悔の念も見えない。

 

セバスは恐怖と焦燥に打ちひしがれる中、考える…………そもそも、なぜヴィクトリアはここまで自分をひた隠しにするのか?

 

アインズ・ウール・ゴウンにおける最大の防御力と回復魔力を有する代わりにそれ以外のパラメータが底辺のマジックキャスター、と思えば、必殺技である『パルジファル・ロンギヌス』の威力は雑魚とはいえ中位モンスターと陽光聖典特殊部隊の全軍を一撃でこの世から消すほどの火力を発揮して見せた。

 

しかし、その『パルジファル・ロンギヌス』の威力は本来の技の劣化版であり、本来の技の数分の一以下…………並大抵の同レベルのプレイヤーを一撃で粉砕可能な必殺技と、削ったそばから回復するド鬼畜回復魔力、そもそも削らせる気すらない鉄壁の防御力、そして数多の魔法・対魔法スキルや装備の数々………。

 

完全にゲームバランス崩壊のステータスである、『そんなんもうチートや!チーターや!』、そう言われたって文句は言えない。

 

だが、そうとはならない、なぜか?…………そこまで行って、セバスはまた初めから考え始めた。

 

足りないのだ、情報が圧倒的に足りなさ過ぎる………決定的なものが抜けているせいで、セバスは何度も何度も同じ道筋を辿り、折り返した、まるで道のど真ん中に『行き止まり』の看板が立っているかのように、真実に到達できないのであった。

 

ついに玉座の間の前まで来たヴィクトリアとセバス、扉を開けて入ると玉座に座るモモンガの前に進み出た。

 

ヴィクトリアは礼をし、セバスはヴィクトリアの数歩後ろでモモンガに対し跪いた。

 

「ナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウン第41位、ヴィクトリア、ただいま帰還」

 

「………ご苦労であった、ヴィクトリアよ………」

 

荘厳な雰囲気が形成される、玉座の側で佇むアルベド、少し離れたレッドカードの端のところで跪くプレアデス、向かい側には各階層守護者が跪いて待っていた。

 

玉座の間の者たちは、ナザリックを出発する前の軽々しい口調と、聖職者の有する特殊な聖属性のオーラは身を潜め、代わりに全てを押しつぶす圧力のオーラと、何者にも従わないという強固な意思を隠しもせず放出するヴィクトリアに、けおされていた。

 

「しばしの間、休養につくといい」

 

「良いのか?私は一度眠るとなかなか起きないのだぞ?」

 

この時モモンガは『(そう言えば、ヴィクトリアさんってログアウトしてから次にログインするまでの期間が長かったっけ)』と昔のことを懐かしんだ。

 

「ヴィクトリアには新たな任について欲しくてな」

 

「ふふふっ、末席の私に務まる任だと良いのだが?」

 

ニコリと笑うヴィクトリア、半目を開けてモモンガを見る様は、普通の人間にはまるで挑発しているように見えるが、見守る守護者一同には信頼ゆえの気安い態度だと思った。

 

笑顔(ただし、恐ろしい)のおかげか、守護者一同は緊張から解放され、特に聖属性に弱い吸血鬼のシャルティア、意外と怖がりなアウラは呼吸を落ち着かせようと必死になっていた。

 

「安心すると良い、次の任は長い休養に見合うほどに忙しいものだ」

 

「ほぉう?…………それはそれは………なるほど、楽しみにさせてもらおうか」

 

「そうだ、楽しみにするといい、これほどの大任………アインズ・ウール・ゴウン第41位であり盟友であるヴィクトリアにしか頼めぬのだ」

 

「そこまで言われると、気になってしょうがないではないか?ふふっ……どうか教えてはくれないだろうか?我らが首領殿?」

 

「ハハハ……盟友の頼みは断れないな………私は人間の冒険者に扮し、セバスとユリを連れこの世界の調査にあたる、私が不在の間のナザリックの防衛と管理を任せたいのだ」

 

「………我らが首領であり盟友たる卿のその願い、喜んで引き受けよう………ふふふふふふふふっ」

 

両腕を広げ愉快そうに笑うヴィクトリア。

 

「フフッ……フフフハハハハハハハハッ」

 

肩を震わせて笑うモモンガ。

 

守護者一同は改めて認識した、至高の御方の御二方ならば、この宝石箱のような世界を手に入れるのは容易いことなのだと………。

 

だが、当人たちにはそんな気など無い、実はこの会話、ヴィクトリアが玉座の間に着くまでの間の時間にメッセージを使いあらかじめ練っておいたセリフなのだ。

 

要するに、ただのいい歳こいた自称元中二病のオーバーロード(モモンガ)と、中二病上等な聖職者(ヴィクトリア)の気まぐれな戯れだったのである。

 

もちろん、そんなことを知る由も無い守護者一同は、二人がこの世界を手に入れるために動き出したのだと、恐ろしい方向に勘違いをしてしまった。

 

そのため、爪が脚に食い込んで流血しながらも、これから至高の御方二人のために存分に働くことができると思うと歓喜が止まらなく、喜色満面でモモンガが考えるであろう今後の計画について考察を始めるデミウルゴスは、見た者が人間なら這ってでも逃げようとするほどに恐ろいしい姿になっていた。

 

アルベドに至っては、ほぼ至近距離でモモンガの色々な表情(骨だが……)を見て、さらにあまり見られない友人に対する気さくな接し方等がアルベドのハートを直撃、体をビクビクと震わせながら、オツユを垂らし床に小さな水溜まりを作っていた。

 

それだけならまだ良いが、狂喜に歪んだ顔面が変顔の領域でタップダンスをしているため、直視に堪えない。

 

シャルティアもだいたい同じであるが、こちらはアルベドと比べると大洪水である、何がとは言わない、だがひとつ言わせてもらおう…………大洪水である、ばれていないのがせめてもの救いか。

 

コキュートスは、雄叫びを上げたい衝動を必死に抑えるあまり、冷気が漏れ出し床に氷が張ってしまっている、我慢のしすぎゆえか、体の振動が氷の膜を砕き、氷の膜が張られてはまた砕けるといったことを繰り返している。

 

だがそのようなことは何も守護者に限ったことではない、実はこの光景、マジックアイテムを(アルベドの独断で勝手に)利用してナザリック中に生中継されているのである、そのため、ナザリック中のNPCたちはひとり残らず守護者たちのようなことになってしまっている。

 

双首領のどうでもいい戯れのおかげで今この瞬間ナザリックは絶賛防御力0になるという非常事態が起こっているのである。

 

「では、私は休ませてもらおうか………の前に、ご飯食べたいんだけど、食堂って今やってる?」

 

それまでの荘厳なオーラを消して、今までの柔らかな態度になるヴィクトリア、突然真逆のオーラで質問されて戸惑うプレアデスたち、彼女たちの代わりにデミウルゴスが内心肩をすくめながら応えた。

 

「食堂は24時間稼動中です、しかし、ヴィクトリア様がメイドに伝えてくれるのであれば、自室にお運びいたしますよ?」

 

「それはありがたいねえ、でも僕はひとりでご飯を食べるのは寂しくてさ」

 

「……!……わかりましたヴィクトリア様、エントマ、ヴィクトリア様を食堂へ案内しなさい」

 

デミウルゴスは戯けるように言ったヴィクトリアの言葉を反芻し、その真の意味を理解した。

 

デミウルゴスはヴィクトリアがナザリックの者たちと親密になることで、組織としての一体感、連携を強化しようと考えているのだと導き出した。

 

歓喜!狂喜!ヴィクトリアのどこまでもナザリックとナザリックに属する者たちへの深い情愛に、デミウルゴスの凍った心は踊り狂った、そのあまりにも美し過ぎる考え方に、死んでも良いとさえ思った。

 

「は、はイ!……では、ヴィクトリア様はこちらへ………」

 

指名されたエントマがぎこちなく立ち上がり、ヴィクトリアの道案内を始めるため進み出た。

 

「道案内お願いね、エントマ」

 

「お、お任セくだサい!」

 

「うん………頼りにしてるよ、エントマ」

 

「んヒャァ!?」

 

なんとか失態を晒さないように、心を落ち着かせて………と考えていたエントマの思考はヴィクトリアの声で止まり、叫んだ。

 

それも当然か、今までにないほどの近い距離で、優しく、愛おしい声で名前を呼ばれれば、誰でもそうなるであろう………デミウルゴスはエントマの失態に怒りを覚えることはなく、むしろしょうがないものと割り切った。

 

ヴィクトリアとエントマの二人は玉座の間を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリアside

 

 

「うん、やっぱりここのご飯はおいしいや」

 

「そうでございますね……」

 

僕ってモモンガさんと違って人間、お腹が減っちゃう、だからご飯を食べなきゃいけない、それで食堂に行ってご飯を食べるのはナザリック所属の者として当たり前のことだよね。

 

だからさあ、食堂中のNPCのみんな、僕のことガン見するのやめない?いやでもエントマみたいにさっきから目も合わせてくれないとそれはそれで泣くよ?

 

うーん、エントマと二人用の席を選んだのがいけなかったのかな?この注目のされ方はあれだね、ファミレスに入ってきた美男美女カップルを見る目だね、自分で言ってて悲しくなるけど。

 

大きめのテーブルをたった二人で使うのは迷惑だろうし………深く考えてもご飯が美味しくなくなるだけだしね。

 

ちょっと気まずい(?)食事も終わり、ナザリック内の自室のベッドに寝転がる。

 

やらなきゃいけないことは多い、防衛レベルは今のままで十分なのかを確認する必要がある、いくら敵があんなレベル30くらいの雑魚魔法使いとレベル50〜60程度のモンスターでも、数が多いと対処が面倒になってくる。

 

害意あるものがナザリックに近づいた瞬間に転移させたり、範囲攻撃魔法を自動で発動するようなトラップを仕掛けたりする必要が出てくる。

 

まあ、トラップやらはアウラとマーレにやってもらえばいいかな、というかそれくらいはモモンガさんが大抵やってそうだ、明日になったらより密な情報共有をしよう。

 

今やればいいって?やだ、眠いし。

 

「おやすみ…………」

 

帰ってこない『おやすみ』ほど寂しいものはないね。




しばらく不定期になります


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ヴィクトリアについて(軽い人物紹介)

こいつバランスおかしくね?って思いますよ絶対。
でもね?この性能を発揮するには、とある条件を満たす必要がありまして、その条件というのが………


ピンポーン……


ん?郵便かな?こんな時間にご苦労なこって………。




ヴィクトリア(CV:男の娘キャラが似合いそうな人)

種族:人間

性別:女性

クラス:神の使徒(神官職最高位)

役職・地位:ナザリック地下大墳墓AOG第41位、及び副首領閣下

所属:ナザリック地下大墳墓AOG第41位

身長:153cm

属性:100(善)

 

 

・性格は至って温厚、アインズとナザリック所属の全NPCを全て等しく想っている、ナザリック外の害意の無い種族に対しては友好的で、害意ある者に対してはそれが何であれ敵であると認識すればその者を殺害することに何ら罪悪感を感じない。

親しい者には『僕』という一人称に砕けた口調で喋り、害意の無い友好的な者には『私』という一人称にデスマス口調で話す、明確な敵に対しては『私』という一人称にまるで自分こそ神だと言わんばかりの尊大で傲慢な態度をとる。

・ステータスは防御力と回復魔力に偏っており、火力とスピードに関しては一切強化していないんじゃ無いかとも思える貧弱さ、完全に間違えている上にふざけているようにしか思えない割り振りだ。

しかし、ありとあらゆる耐性を身につけているため、ギルドバトルの侵攻戦において上記のステータスは敵プレイヤーにとって脅威となる。

ギルドバトル序盤における敵前線の突破、中盤での苛烈極める戦闘での回復役、終盤において敵プレイヤーの視線を釘付けにして味方の援護をする………つまり、いられると非常に厄介な存在なのだ。

敵側から見たヴィクトリアは、ありとあらゆる耐性を持つために、属性攻撃はその全てが無効化、硬すぎるため与えられるダメージは極微妙、さらに過剰とも言える回復魔力によって低位の魔法で大幅に味方を回復させることができ、詠唱が早くMPが多いため回復魔法使い放題、ついでに神官職のため聖属性攻撃に長け、異業種等に特効ダメージを与えやすい。

………エグい。

・しかし、一定条件を満たせばアインズ・ウール・ゴウンにおける最高火力をを発揮できるようになる、条件はーーーー………。

いくつかの儀式的な魔法陣の展開や時間、長々とした詠唱を必要とするいわゆる必殺技を会得しており、最も使用頻度が多いのはギルドバトルなどでよく使われる『慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)』、非常に強力な範囲攻撃力を持つが、ヴィクトリア曰く『所詮は劣化』。

 

『慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)』

あらゆる生命の魂を祓い清め、天上の神々の元へ導くーーー………という設定の技。

発動すると自分が持つ最も高品質な槍系統の武器を自動で選択して装備、ド派手な演出ののちに一閃する火力と範囲に長ける必殺技。

発動までに長い時間がかかるのは詠唱をする必要がある………というわけではなく、とある条件を満たすまで無防備になる自分を無防備と悟らせないためのものである。

 

・種族に関してはとある事情によるもので、モモンガやAOGのプレイヤーもそれを認知した上で在席を許可されている。

 

・属性はナザリックでは数少ない善(100)である。



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信仰心(持ってる人には辛いと思う)

挑戦的なサブタイ(?)で始まります。
お久しぶりです皆様。
そういえばこっちも書いてないなー、って思いつつさくさくっと執筆しちゃいました!
内政?外交?回ですかねたぶん。
それではご覧あれ!


no side

 

 

ナザリック地下大墳墓防衛主任を任されたヴィクトリアは、数日ぶりに眠りから起きて久しぶりの食事にありつくために食堂に入った。

 

朝の時間ともあり、多くのナザリックNPCが食事を取る中、空いている席にブレックファーストを載せたお盆を持って座るヴィクトリア。

 

目の前に突然組織のナンバー2が現れたことに驚愕する、それまで少し行儀悪く食事をとっていた彼らは姿勢を正して椅子に座りなおして慣れないテーブルマナーを守ろうとする。

 

それにヴィクトリアは微笑んで気遣いはいらないよ、と言った。

 

ヴィクトリア自身、テーブルマナーなどリアルでのデートで使う程度だったため、それほど詳しくないため自分ができるか不安だったからそう言った。

 

NPC側はそうとは知らず、ヴィクトリアに気を遣わせてしまったと少し意気消沈し、気合いを入れ直して次は失態を繰り返さないことを誓ったのだった。

 

「うーん…………マーレ君にやってもらおうかな」

 

朝食を終えたヴィクトリアが早速取りかかったのは、ナザリック地下大墳墓の偽装工作、外から見たナザリック地下大墳墓は巨大な遺跡のように見えるため、金目の物目当てで侵入される可能性が高いと思った。

 

なら覆い隠すように地形を変える、もしくは樹木で壁をつくって仕舞えばいい、いっそ森にしてもいいんじゃないか?とヴィクトリアは考えた。

 

いつかあるであろう防衛戦の時に有利なのは、土で覆って土嚢として機能させることだ、しかしナザリック地下大墳墓の入口の壁に泥を塗りたくる真似をナザリックNPCが取るはずがない。

 

そこで、壁に接触しないように距離を置いて丘を作り、丘の周辺に木を植えて森にしてしまおうという考えに至った。

 

第6階層に転移し、このことをマーレに伝える。

 

「…………ってことなんだけど、協力してくれるかな?」

 

「は、はい!………で、でも、ボクなんかで大丈夫なんでしょうか…………」

 

マーレは気弱な男の娘………男の子だ、俯いてヴィクトリアと視線を合わせないようにしてそう言う。

 

マーレはヴィクトリアのパルジファル・ロンギヌスを見て、姉のアウラとは違い素直にすごいとは思えなかった。

 

ダークエルフであるマーレは直感でヴィクトリアのあの技が聖属性の極みに達していることを見抜いた、そしてかすりでもしたらモモンガすら消滅するという恐ろしさ。

 

マーレは知らないうちにヴィクトリアに恐怖を覚えていた、そんな自分を大いに恥じた、だが恥じたところで恐怖は拭えない。

 

「あはは、じゃあ言い方を変えるね、これは君以外にはできない仕事なんだ、やってくれないかな?」

 

優しい目と声で同じ目線から語りかけてくれるヴィクトリアにすら、マーレは恐怖しているのだった。

 

「は、はい」

 

この恐怖の原因が、ヴィクトリア自身の持つあらゆる装備によるものだとは、誰も気づけなかった。

 

マーレは恐怖を感じながらヴィクトリアの願い事を承諾し、ナザリック地下大墳墓の入口に来ていた。

 

「それじゃあ、始めて」

 

「は、はい!」

 

ヴィクトリアは自分が怖がられる理由を考えつつ、マーレに軽い調子で指示する、マーレの表情はまだ硬い。

 

「ーーーーー……えい!」

 

マーレが詠唱を唱え杖を掲げると、ナザリック地下大墳墓の入口付近に深い深い堀が出来上がる。

 

そしてその深さの分だけナザリック地下大墳墓を囲む丘の高さも高くなる。

 

しばらくすると、今度は出来上がった丘から樹木が複雑に生え出し、蔦がそれらに絡まって、巨大な森が出来上がった。

 

誰も彼もを寄せ付けない強固な結界を随所にトラップとして配置した広大な森が完成した。

 

「ありがとうマーレ、これならきっと、モモンガさんもきっと喜んでくれるよ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「間違いないよ、褒めてくれるはずだよ」

 

ヴィクトリアはマーレの仕事ぶりに感心した。

 

頭の中の設計図やイメージをできる限り伝えたつもりであったが、やはり不安もあった。

 

しかし完成した森を見るとどうだろうか、文句のつけようのない、200%の最高の出来だと確信した。

 

ヴィクトリアはマーレをよく褒めてあげるように、と内心モモンガに具申しておくことにした。

 

「お仕事お疲れ様、ちょっと左手を出して」

 

「え?……はい」

 

ヴィクトリアはマーレの左手を取るとアインズ・ウール・ゴウンの指輪をアイテム欄から取り出した。

 

手を取られたマーレは、ヴィクトリアの柔らかくて暖かい手の感触に、それまでの恐怖の感情も何もかも忘れて赤面した。

 

女の子の格好をしていたとしても、マーレも男の子だ、見目麗しい女の子に手を取られればそれなりの反応はするのだ。

 

「これを………」

 

指輪をそっと左手薬指にはめる、満足げにうなづいたヴィクトリアは手を離した。

 

「………これはなんですか?」

 

「これはね、このナザリック地下大墳墓を自由に転移できるマジックアイテムだよ」

 

「えぇ!?そ、それって、至高の41人の方にのみ許されるアイテムじゃ………」

 

「今は欠員が多いし、いざという時…………敵が攻めて来たときに、防衛をしなくちゃいけない、そういう時に素早く移動できれば、守りやすいんじゃないかって」

 

「そんな………ボクがこんな扱いを受けても、よろしいのでしょうか?」

 

「全員に配る予定だったんだ、その中でもマーレの能力はとても重要だったから、早めに渡しておこうってね」

 

「そうなのですか……」

 

マーレは左手薬指にはめられたアインズ・ウール・ゴウンの指輪を見てニコニコと微笑んだ。

 

ヴィクトリアはそれを見つめてほっこりした気分になりつつ、モモンガとの脳内萌え談義を加速させた。

 

「数日後にアインズさんが召集をかけると思うんだけど、その時に一回指輪を返してね」

 

「え?」

 

「全員に渡す予定をちょっと繰り上げてマーレにだけ渡してるわけだからね、一旦指輪を返してもらって、で、改めてナザリック地下大墳墓の首領、アインズ・ウール・ゴウンから直々に手渡しするから」

 

「アインズ様から手渡しで!?そんな!そんな………身に余る光栄です!」

 

マーレはまさに喜色満面といった様子で、未来の指輪の授与式を想像して普段はしないであろうにへらっとした表情になった。

 

「アインズさんが………ナザリック地下大墳墓のアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターとして命令したり贈る物は何であれ、41人の総意なんだ」

 

「!!」

 

ヴィクトリアの珍しい伏し目がちなその言葉に、マーレの表情は固まった。

 

姉であるアウラと自分を作ってくださったぶくぶく茶釜様はもういない…………その現実が、強く突き刺さった。

 

「今は遠いところの世界で戦っている、ここにいない39人の思いを信じて……………アインズさんに、アインズ・ウール・ゴウンに従って欲しい」

 

「…………喜んでお仕えいたします」

 

「ありがとう、マーレ………」

 

マーレにぶくぶく茶釜の面影を見ながら、ヴィクトリアは悲しそうな目で感謝の言葉を出した。

 

『というわけなんで、モモンガさんあとよろ』

 

『えぇぇ!?散々焚き付けておいて丸投げですか!?』

 

『いいじゃないですかー、より一層の忠誠を誓ってくれますよ?今まで以上に尽くしてくれますよ?』

 

『確かにそうですけど………魔王キャラ難しいんですよ!?低い声で難しい言葉回しをしていかなきゃいけないんですから!』

 

『まあまあ、僕も補佐しますし……………というか、それが一番楽しいんじゃないですか』

 

『もちろん楽しいですよ!魔王キャラロープレ夢だったんです!』

 

『禿同!僕もそーなんですよお!神官様キャラロープレ最高っす!』

 

『まったく、ユグドラシルは最高だぜ!……あっ(沈静化)』

 

『あっ(察し)』

 

シリアスな場面でも、やはり脳内は相変わらずな2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、セバスは悩んでいた。

 

あの時、第10階層でヴィクトリアと交わした言葉。

 

〈あんなの大したものじゃないよ、派手に見えるけど攻撃力は低めだし、何より発動までが遅いしね〉

 

【慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)】、すべての魂を祓い清め天上へと導く…………ヴィクトリアの必殺技にしてアインズ・ウール・ゴウン、そしてユグドラシルにおける最高火力の技。

 

いつしか創造主から聞いた、戦場にて勇敢戦った戦士たちの魂を導く存在、ヴァルキリーが如く技である、と、セバスは感じた。

 

膨大な圧力、圧倒的なパワー、直視出来ぬほど眩い閃光…………主であるモモンガの言葉よりも、あの時、あの村で、遠くで爆ぜた黄金に輝く十字架が、セバスの自らの創造主のたっち・みーを凌駕していることを察した。

 

しかしヴィクトリアは。

 

〈『劣化版』に過ぎない〉

 

と言った。

 

たかが劣化だと、そう言い切った。

 

では、そのたかが劣化版の技に、セバスの創造主であるたっち・みーは劣るのか?と…………。

 

「っ!!」

 

そこで慌てて考えを打ち切る、そして猛省する、何をバカなことを考えているのだ、と。

 

ヴィクトリアは対外的なポーズでも何でもなく、ただ純真にアインズ・ウール・ゴウンのメンバーとナザリックのNPCをひっくるめた全員を想っている。

 

それは嘘偽りの無いものであると、ナザリックの皆が感じていることだ。

 

そんなヴィクトリアがたっち・みーを侮辱するようなことはするはずが無いのだ、それすらも考えられなくなるほどに、セバスはあの時の言葉に酷く困惑し、焦燥していた。

 

セバスは思い返す、ここ数日の間、何度もメイドに体調を心配されたことだったかと…………セバスは、拳を固く握り締め、自らの不忠を酷く呪った。

 

そんな時であった。

 

「あれ?セバスじゃないか、どうかした?」

 

「ゔぃ、ヴィクトリア様………いえ、何でもございません」

 

偶然にも目の前に転移して現れたヴィクトリアに驚きどもってしまうセバス、いつもは目の前に転移されようが全く動じないセバスなのだが、先ほどまで考えていたことの元凶が突然現れれば驚くのも無理ない。

 

「もしかして怪我でもした?」

 

「そのようなわけでは……」

 

真っ先に自分を心配するヴィクトリアに、ここまで広い御心を持って自分たちを包んでくれる至高の存在を、自らの創造主たっち・みーと同等であるヴィクトリアを、比べてしまうなどなんと浅ましく嫌らしいことか………と、セバスは大きなショックを受けた。

 

当のヴィクトリアは、少しでもダメージを負った味方を全快したいというヒーラー職としての血が騒いだというだけであるのだから、なんともはた迷惑な至高の御方である。

 

「そう?なら丁度いいや……………セバス、実はお前には教えておこうかと思ってな、私の種族について」

 

「!!………教えていただけるのですか?」

 

中二病モードに入ったヴィクトリアの発言に姿勢を正して周囲の気配を探るセバス、アルベドと互角かそれ以上とも言えるパラメータ値を持ってして調べた所、付近に盗み聞きをしようというやからはいなかった。

 

「気にする必要はない、結界を張っておいた、誰も近寄らんさ」

 

「御配慮、感謝いたします」

 

戦闘能力に特化した守護者統括のアルベドに迫るセバスすら知覚できないヴィクトリアの無詠唱の『人払いの結界』が、ヴィクトリアが転移してきた時には既に張られていたのだ。

 

「さて、では話そうか、私が人間あるわけを」

 

そこからヴィクトリアは、セバスに自分の秘密を打ち明けた。

 

「私の本来の種族は、『ミスト』、思念が霧状の物体として集まり、1つの人格として構築された異業種だ」

 

「『ミスト』…………」

 

「そもそも、『ミスト』という名称はただの俗称だ、人間たちが付けた勝手な呼び名さ、楽だから私もミストと言っているに過ぎない………そして、私はもともとミストだったわけではないのだ」

 

「…………最初は、人間であった、と?」

 

「『人間に近いもの』だった、と言うべきか、長年生きてきた私は、ある日殺された、『ヴィクトリア・ローゼによってな』」

 

「なっ!?………」

 

セバスも思わず驚きの声をあげ、後退った。

 

「私は死の間際に、自らの思念をミストとして肉体と別離し、ヴィクトリア・ローゼの精神に入り込んだ」

 

「で、では………あなた様の名前は…………」

 

「私の名は…………ラインハルト、ラインハルト・エーデルヴァイス」

 

「ラインハルト様………」

 

齢16の少女とは思えない威圧感を放出するヴィクトリアの精神に寄生した思念体、ラインハルト・エーデルヴァイス。

 

セバスが一瞬、ラインハルトの髪の毛が黄金に輝いたように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリア(ラインハルト)side

 

 

ひゃああああああっっふうううううう!!!

 

ネタバレ!盛大なネタバレ!!

 

驚いた?ねえ驚いたセバス!?

 

みんなの聖女ヴィクトリア・ローゼちゃんは、なんとラインハルト・エーデルヴァイスという人外でした!

 

一般にミストって珍しい種族だし、セバスも知らなかったのは無理ないとしても、他のNPCの誰も見破れなかったんだろうと思うとすっごく気持ちい!ヴィクトリア・ローゼの精神や魂と同調してるからかな?

 

あ、ヴィクトリア・ローゼちゃんは別アカウントで作った……のを貰ったキャラなんだよ。

 

ユグドラシルやってた先輩が辞めるって言ってキャラデータ寄越してきたから、折角ミスト選んだんだし寄生しよう!ってなったんだよね。

 

でもいざ寄生したら大変!防御力と回復魔力と諸々の耐性値に極振りかましてるネタキャラだったっていう酷い落ちがついてきたんだよ!

 

そのために一回ミストに戻ってスキルの割り振りとか、その途中で考えたアレとか、色々な実験を繰り返して、やっとのことで寄生したんだよ。

 

異種族には人間(ミスト)って感じにステータスに表記されるんだけど………どうやら異種族でもNPCにはそういうようには見えないらしい。

 

あっ、もちろん寄生前にもちゃんとボディがあったよ、というかボディがないとミストって攻撃ができないんだよね、だから初期状態だとクッソ弱いボディを貰えるけど、基本は乗っ取りで強くなる系の異色な異種族なんだよね。

 

結構愛着もあった初代ボディも、今は抜け殻なんだけどね、この世界にボディがきてるかはわからないけど、来てるんだったらちょっと面白いことができるよね。

 

そういえば似た異種族にゴーストがあったっけ?できることはポルターガイスト程度だった気がするけど。

 

「…………で、今はこのボディだけど、元のボディが復活すればそっちに戻る予定だから、それまでは今まで通りヴィクトリアでいいよ」

 

「は………はっ、かしこまりました」

 

「それじゃあ、僕はちょっと用事があるから行くね」

 

そう言って僕は転移する、アウラちゃんに会うために。

 

マーレちゃんが作った森は最高以上の出来だったから、どうせなら森のダンジョンにしたほうが面白そうだと思ったんだよね。

 

ダンジョンではあるけど、同時に動物園としても使えるならこれ以上ない価値を埋めるよね!

 

あっ、ゾンビは動物に含まれるのかな?うーん………アウラちゃんの飼ってる動物的に食物連鎖の底辺になりそうだけど、一応は生物だし、入るよね。

 

さってと!アウラちゃんにモンスターとトラップ配置してもーらおう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

カッ、カーッ、カッカッ、カーッ…………。

 

歪な形の石版に石筆で模様を描いていくヴィクトリア、しばらくして完成したものを子供達に見せて言った。

 

「では、この言葉がわかる人ー?」

 

「「「はーい!」」」

 

「うーん、じゃあそっちの君!」

 

「『家』ー!」

 

「正解!ちゃんと覚えてたんだね、えらい!」

 

何をしているかというと、子供たちに文字による言葉を教えていたのである。

 

この世界の文字はユグドラシルの文字とは違うことはモモンガもヴィクトリアも周知のことである。

 

冒険者登録するための街を下調べした際、文字が様々なところに使われていることを知り、思うよりかは識字率は低くないこともわかっていた。

 

大して高くはないが、それでも文字をかけないようでは今後色々とツライだろうと、そう結論が出て解読に取り組み始めたが、なかなか進まない。

 

そんなおり、優秀なデミウルゴスの降って湧いたような発言によってヒントを得、それまでの苦労が嘘のように、それこそ2時間も入らずに文字の解読ができたのである。

 

その降って湧いた発言というのは『何と無くユグドラシルの魔法文字に似ておりますね……』であった。

 

デミウルゴスのつぶやきに反応したモモンガとヴィクトリアは『え……………あーーーー!!!似てる!!』と脳内で全く同じ反応をしたのだとか。

 

何はともあれこれで新米冒険者モモンガ(予定)と聖職者(悪魔)は文字を読むことができるようになったのだ。

 

さらに、生来の探究心の高さから文字を書くこともできるようになったヴィクトリアは、こうして村に赴いては子供達に文字や計算を教えるプチ教室を開いていた。

 

聖職者は施しを受けてはいけない、だがこうして教育することで貰うものがあるのならそれは報酬である、という持論によってついでに村長と村の宿屋の宿泊権を得る契約をした。

 

さらに基本治ることが少ないいうな難病や、大きな都市の名医に大金を払わなければ治療してもらえないような重病の村人を治療して周った。

 

当然ながら元患者やその家族はほぼすべての金銭や財産をヴィクトリアに渡そうとしたが。

 

「お代は信仰として返してくれればいいんです、健やかに生き、日々祈りを捧げ、愛を育んでいくことこそ、神々への最大の貢献なのですから」

 

と笑顔でもって説き伏せた、もはや村人からは聖人レベルの評価を受けるヴィクトリアであるが、やった後でやりすぎたかなぁと少し考えた。

 

数分後には、まあいいか、と適当になったのは言うまでも無い。

 

「信仰を広めることで、いつの日か神を信ずる者同士で助け合える世が来ることを願っているのです」

 

と、それらしいことを言うもやはりやりすぎた感はあるようで、後日デミウルゴスにそれについて追求されてしまった。

 

だがヴィクトリアは言った。

 

「病気くらいは魔法で直せるけど、村が裕福になったり、お金が湧いたりしたわけじゃないからね、マイナスをゼロまで引き上げただけだよ、そこからプラスに持っていくかどうかは村の人達次第」

 

「では、ヴィクトリア様はあの人間どもにプラスになるようなことはしていないと?」

 

「そうなるね、もし僕が本当にプラスになることをするとしたら…………そうだね、まずは村全体を木の柵で囲うなりして物見櫓を立てて、道を舗装して、農作についても改善点を提示して、診療所の診察について正しい知識を与えて、栄養失調にならないようなご飯の作り方を教えたり…………とにかくたくさんあるけど、僕がやったのは診療所や大都市の病院の仕事を奪ってタダで病気を消しちゃっただけだからね」

 

「なるほど、わかりました…………して、ヴィクトリア様は今後村の動向についてのお考えのほどは?」

 

「うーん……そうだねえ、村を基点に、僕たちの神様への信仰を募ろうかな」

 

「ヴィクトリア様の神?…………失礼ながら申し上げますが、いかな神であろうと至高の御方の皆様には遠く及ぶものではないと思っているのですが………?」

 

「ふふっ……………信仰とするのは神すら超越する至高にして唯一無二の存在、次元の壁を超えて、別の世界で戦い続ける今はここにいない、あの人達のことだよ」

 

「っ!?…………そ、それは………」

 

ウルベルト様を含む、残る39人の至高の御方々のことですか?

 

そう声に出そうとするデミウルゴスだったが、あまりの驚きと同時に湧き上がる歓喜の感情がそれを妨げる。

 

創造主たるウルベルト・アレイン・オードルが、この世界中の人間どもの崇拝の対象になる…………。

 

「(なんたる…………なんたる……甘美ッッッ!!!!!)」

 

人間どものその子々孫々、その心の奥に、深く、深く刻みつけるように植え付ける、今はいない至高の39人への信仰心。

 

「向こうの世界で戦うなんてちょっと羨ましい気がするけど………せっかくなんだ、僕らで39人のことを、アインズ・ウール・ゴウンのことを広めてやろうよ」

 

「(あぁ…………あなたは…………………実在するとは、思っても見ませんでした…………ですが………)」

 

「デミウルゴスはどう………ってどうしたの?」

 

「なんでも…………なんでも、がじゃいまぜんッッッ!!!!(愛の女神様は、ヴィクトリア様のことだったのですね………)」

 

感極まり号泣するデミウルゴス、普段は絶対に見せない弱い面に、ヴィクトリアは戸惑いを感じるが、目の前で泣き顔を見せてくれるくらいには信頼を得れたのだと、嬉しさを感じた。

 

「(う〜〜ん……デミウルゴスの泣き顔は超レアだね!やたぜ!)」

 

「(私、より一層励みにさせていただきます!!!)」

 

デミウルゴスの決意とは裏腹に、ちょっとゲスいヴィクトリアであった。




思ったけどデミウルゴスが号泣するって普通に考えてほぼ不可能ですね。
まあナザリックNPCが至高の御方狂信者と考えればあり得なくはないんですが。

次回は………うーんちょっと地味になりますかね?
戦闘向きじゃないので(大嘘)

それでは次回(n年後)をお楽しみに!


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40の神(多すぎる?充分少ないと思うよ?)

おまたせ。
今回は会話多めの話、昔話的なやーつ。


no side

 

 

ヴィクトリアは今日も、村に来ていた。

 

いや、村に泊まっている振りをして、夜中寝静まった時間にナザリックへとゲートを通じて帰って策を練る毎日を送っていた。

 

そして、着々と村全体への洗脳が広まっていった、まるでバイオテロのように。

 

1人から広まった話は村の隣人たちへ、その隣人、さらにその隣人たち、やがて村人全体に広がっていく。

 

そして、全員が感染した数日後、ヴィクトリアは村を出ることにした。

 

表向きは布教のためであるため、そう長く居座ることもできない、もはや布教済みの村にいる意味はさほどないのだ。

 

「それでは皆さん、今日までありがとうございました」

 

「いえいえ!こちらこそありがとうございました」

 

「行ってしまうのですか?」

 

「えぇ、もっとたくさんの人に、40神への信仰を広めたいので」

 

40神とは、ナザリックNPC風に言うなら【至高の42人】の中でも【リアル】の世界で戦う40人を神を超えた神、その偶像として信仰を集めるのに適した形にしたもののこと。

 

かつてのナザリックの40人のプレイヤーを崇拝の対象にする、悪魔崇拝的なものである。

 

40人のプレイヤーがもともと人間であったこともあり、世俗的な部分を多く含む40神教は、社会的地位の低い村人たちを対象にしてあるため、とても親しみやすいものとなっただろう。

 

「せめてもの別れの挨拶として、あなた方の信仰が40神の耳に届くことを祈らせていただきます…………祝福あれ」

 

「ありがとうございます神官様!」

 

「神官様も、お付きの方々も、お気をつけて」

 

「はい、それではまた会いましょう」

 

会釈してカルネ村(ヴィクトリアは随分後に知った)を後にするヴィクトリアとセバスとユリ、向かうのはここからもっとも近い大都市、『リ・エスティーゼ王国』のエ・ランテル。

 

だがまだ向かうべきではない、まずはアインズのゴーサインを待たねばならない、と、村からだいぶ離れたところまで歩いてから、3人はヴィクトリアのゲートを通じてナザリックへと帰還した。

 

「セバス、ユリ、2人ともご苦労様、今日はもう休んでいいよ」

 

開口一番そう言い放つヴィクトリアにいきなりすぎて固まる2人。

 

「えっ………し、しかしアインズ様への報告が残っております、主への報告もなしに惰眠をむさぼるわけにはいけません」

 

「私もプレアデスとしての業務が………」

 

やんわり断るセバスとユリだが、時すでに遅し。

 

「いいっていいって、報告なら僕がやっておくし、プレアデスのほうには事前に伝えてある、それに2人には近いうちにまた無茶な任務を頼むことがあるだろうから、今のうちに休んでおいて欲しいんだ、ちなみにこれ、副首領としての命令ね」

 

「か、感謝の極み……」

 

元よりモモンガによってプレアデスに根回しは済んでおり、2人は休暇を取る以外に道を失った。

 

「もちろん無理して休むなとは言わないけどね…………僕もアインズさんも形は違えど魔法職、詠唱には時間がかかるし、その間は無防備になる、そこは戦士職の2人ならよく知ってるよね?」

 

とはいえ、アインズレベルにまでなるとその隙というのも3秒あるかないかという短い時間である。

 

ついでにヴィクトリアは回復魔法であれば即座に発動可能である。

 

「はい」」

 

「ぼ……私も、ルプスレギナやナーベラルが魔法職なのでわかります」

 

「良かった知ってて、今回、アインズさんはわざとレベル40程度の戦士職に偽装して大都市エ・ランテルにて剣士として冒険者登録をするわけだけど………有事の際、例えばナザリックの敵が現れた時、アインズさんは即座に偽装を解いて全力で潰すはずなんだ」

 

みんなが大事だからね、と小さく付け加えるヴィクトリア、もちろん耳の良い2人にはしっかり届いているため、2人は嬉しさから少しうるっと来た。

 

「そんな時、詠唱中に護ってくれる盾役が充分に機能しないといかにアインズさんでも危ないんだ、だから………………わかるよね?」

 

ニコッと聖女のように微笑んだだけであるが、2人はまるで背中にコキュートスの一撃を受けたかのように硬直した。

 

「2人がその程度の護衛も完遂できないなんて微塵も思っちゃいないよ、アインズさんが攻撃を受けてHPが半分以下になることもないと思う」

 

でもね、と区切る。

 

「この世界は未だ未知数で、僕もアインズさんも知らない危険なものがあるかもしれない、例えば、『状態異常無効を貫通して死ぬまでダメージを与え続けるワールドアイテム』とか、そんなものがあるのかもしれない」

 

「無論、アインズ様の身に何かあれば、私やユリ・アルファが身を呈してでもお守り致す所存です」

 

「うん、その言葉を信じるよ、でも約束、決して死なないように、いい?」

 

「「はっ!」」

 

死なれては困るし蘇生魔法がどこまで効くのかまだわからないから、そして何よりヴィクトリアは悲しいことが嫌いだからだ。

 

この世界の人間には蘇生は効いたが、ナザリックNPCに効く保証はないのだ。

 

それに蘇生魔法にも種類がある、もっとも低位のレベルを5下げて蘇生する魔法はこの世界の人間には効いた、ではより高位の、デメリット無しのそ魔法は効くのだろうか?と。

 

「それじゃあ、僕はアインズさんのとこに行くから」

 

「「行ってらっしゃいませ、ヴィクトリア」」

 

玉座の間へと転移もせずに歩いて向かうヴィクトリアの背中を眺めるセバスとユリ。

 

「……………本当に、底なしにお優しいお方です」

 

「その通りでございますセバス様」

 

かつてのフリー時代、まだアインズ・ウール・ゴウンに入っていなかったただのヒーラー時代のあだ名、【地上の女神】、【慈愛の熾天使】に相応しい姿だろう。

 

しかし入った後から役目が変わり、それに伴いあだ名も変わり、【終末を呼ぶ聖女】、【制圧前進の伝承者】などと呼ばれ始めたのはヴィクトリアのはとって懐かしい思い出。

 

制圧前進に関してはその通りであり、ダメージを負っても近くで爆発エフェクトが起きても目くらまししようと、すべてを無視して回復しながら防御姿勢も取らずに歩いてくるからだ、しかも笑顔で。

 

だいたいそう言う時はテンションが上がってるため、孤立して集中砲火でボコられるのだが……………それでもHPを削る速度に悠々と追いついてしまう中位のリジェネ魔法さえあれば無敵というクソ仕様のためそれでも死なないのである。

 

事実、たっち・みーとのタイマンで勝負がつかないのはヴィクトリアくらいのもので、高位神官スキルの常時HPリジェネ効果で通常攻撃は無効化、高位HPリジェネと回復魔法で大技も即回復、もしやられても蘇生魔法の重ねがけでHP全回復&起き攻め防止、MPは神官職最高位のスキルで徐々に回復する仕様。

 

結果、『たっち・みーさんが2人以上かつ同時に大技を当てないと殺すことができない』という結論に至った、というのも、生粋の戦士職のたっち・みーさんのMP量ではどうやっても厳しく、課金アイテムで数十秒ほど無限MPにしてもダメだったため、最低でも2、3人での大技じゃないと無理ということになった。

 

なお、この計算はヴィクトリア自身の防御バフとたっち・みーへの攻撃デバフをまったく考えない状態、素の状態でのダメージ計算であることを留意しておいて欲しい。

 

最強じゃね?と思うかもしれない、だがこれから出すヒントを以ってよく考えて欲しい。

 

ヒント『ヴィクトリアの攻撃力』

 

神官系統に特化したヴィクトリアでは異業種に大ダメージを与えるのは簡単だが、肝心の攻撃力がレベル30の戦士職くらいしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリアside

 

 

ふ〜〜、やっと帰ってきたよナザリック。

 

アインズさんは…………やっぱり玉座の間にいるみたい、状況を報告しに行こうか。

 

「アインズさん、やっほー」

 

「あ、お帰りなさいヴィクトリアさん」

 

玉座の間に入ると珍しいことにアルベドもプレアデスの誰かもいない、1人で玉座に座っているみたいだ。

 

「無事に村は出ることができたみたいですね」

 

「うん、それじゃあ報告だけど……〜〜〜………ってわけで、大都市エ・ランテルに向かうってところからかな、っと」

 

家具アイテムの椅子を玉座の横に並べて置いてそこに座る、横の玉座にはアインズさんが座っている。

 

「なるほど、よくわかりました………しかし、40神教とは考えましたね」

 

「ウルベルトさんの昔話に感動するデミウルゴスを見てたらピンときてね、こっちに来れなかった40人の自慢の最高の仲間たちのことを少しでも多くの人に教えたくなったんだ」

 

そう、総勢42名という少数ながら、ユグドラシルのトップギルドとして栄華を誇った輝かしい、戦友(仲間)たち。

 

宗教の偶像となっているけれど、ただの自慢もいいとこだ、でも実際最高のギルメンだし、自慢もしたくなるってもんよ!

 

「とても良いアイデアだと思います、ですがこの世界に他のプレイヤーがいた場合は少し危険かもしれませんね、私たち………俺たちは、ユグドラシルでトップレベルの悪党ギルドでしたから、逆恨みもありえます」

 

「なら、なおさら悪らしくいかなきゃ、それがナザリックだし、ウルベルトさんも世界の一つくらい征服してやろうって言うと思うし」

 

「ははは、そうなったら、たっち・みーさんが止めに来るでしょうね」

 

「次元の壁を超えて【正義☆降臨】するのかな?ちょっと面白いww………ほんと、あの2人の絡みは面白かった〜」

 

「あれ?今思い返すと……………ヴィクトリアさん、二人を焚き付けてませんでした?」

 

「あ、バレてた?」

 

「やっぱりじゃないですか!もー!止めるの俺なんですよ!?」

 

「あははははは!いいじゃないですかアインズさん、それに、なんだかんだあの時が楽しかったわけですし」

 

「そうですね…………42人、42人です、超大規模ギルドのメンバーがたったの42人だけだったなんて、今思い返しても信じられませんよ」

 

「僕も時々思います、あそこには確かに42人しかいなかった、でも本当は100人、いや、1000人以上の個性ある面白頼もしい最高の仲間がいたんじゃないか、って」

 

「それほどに心血を注いで作られているんですね、このナザリックは」

 

「ええ、ナザリックだけでなく、その子供達、モブであるはずのNPCにまで名前と役割を与え、活気づけてくれた」

 

「タブラさんの凝り性にはちょっと困りましたけどね、アルベドの設定覗いたらどれだけスクロールしても底がなかなか見えなくて」

 

「うわっ、さっすがタブラさん………僕ももうちょっと凝ったもの作ればよかったかな」

 

設定結構雑にしちゃったからなあ。

 

「え?ヴィクトリアさん、NPC作ってたんですか?」

 

「えぇまあ、と言っても、戦闘向きじゃないので」

 

「参考までに、どれくらいですか?」

 

「素の状態のデミウルゴスに対抗もできないくらい、囮がせいぜいかな?」

 

「あぁーー…………」

 

素の状態のデミウルゴス、というかデミウルゴス自体戦闘向きじゃない。

 

とは言ってもデミウルゴス自体の能力は強力なものが揃ってるし、現在のナザリックにおいてデミウルゴスは参謀として非常に優秀。

 

戦闘もこなせる内政NPCって感じ、実際素の状態でも最高位天使(笑)程度には余裕で勝てるだろうし、決して弱くはない。

 

むしろ他の階層守護者が強すぎてインフレしちゃってるのがナザリックNPCのデフォ。

 

アルベドなんかはそれの代表格だけど、一番戦いたくないのはセバスかな。

 

「まあ、戦闘用NPCとしての能力は無いに等しいけど、プレアデスくらいの能力はついてるよ」

 

「うーん………どう扱ったものでしょうか」

 

「あぁ、『戦う』よりも、『使う』方が便利だよ、戦闘形態をとれば」

 

「え?変形するってことですか?」

 

「変形というか変身かな?見ます?」

 

「ぜひ!」

 

何やらウキウキした様子のアインズさんに僕のNPCを見せる。

 

「どうですか?」

 

「えっと……………これは、槍?ですか?」

 

「そう、意志を持つ武器、【エルキ・ドゥ】」

 

「NPCなのに、武器なんですか?」

 

「階層守護者は充分にいるし、世話係はプレアデスがいる、宝物庫はアインズさんが担当だから、じゃあ僕はみんなが使える武器を作ろう!って思ってさ」

 

「みんなの武器?使用者にワールドチャンピオンのように全武器を使えるスキルを付与するとかですか?」

 

「ノンノン、アインズさんのクリエイト・グレイター・アイテムでも創れる物は限られて来るし、鍛治職人がいつも狙って理論値最強武器を作れるわけじゃ無い、でもNPCとしてならパラメータ設定は自由、だから………チェンジ、バトルアックス」

 

僕が唱えると手に持った槍は流体金属に変わり、戦斧へと形を変えた。

 

立ち上がって軽く振り回してポーズなんてつけちゃってみる。

 

「と、このように、状況に応じて武器の形と属性を変えることができるっていう機構を備えた、言うなれば戦闘補助NPC!」

 

「う、うおおお!?すごいじゃないですか!」

 

「NPCとしては弱いけども!武器形態なら使い手次第で無敵!」

 

「なんというロマン性能!…………あっ(鎮静化)」

 

「あっ………(察し)」

 

やっぱり鎮静化されちゃうのか…………感情も表現できないなんてアンデットって不便だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「盛り上がっていた気分が一気に…………」

 

「なんかごみん…………そうだ、エルキ・ドゥはアインズさんも使えるようになってるから」

 

「え"っ!?マジですか!?俺戦士職のスキル何も持ってなくて装備できないはずですが………」

 

「ところがドッコイ!このエルキ・ドゥはスキル要らずであらゆる武器に変形する完成された武器なのダァ!」

 

というのも、そもそも設定が【NPCでありながらギルド武器】扱いのためである。

 

つまり、アインズ・ウール・ゴウン所属なら、それこそ低位のメイドですら扱えてしまう最強装備なのだ。

 

「ドッペルゲンガーなどの種族のNPCのスキルなら、武器になることも可能?…………いやいやいや、そんなまさか」

 

「ふっふっふっ、ならば、試してみるといい!アインズ!」

 

「おぅ!試してやるぜ!」

 

変なテンションで戦斧を差し出すヴィクトリアと、同じく変なテンションで受け取るアインズ。

 

深夜テンションのようなノリで最強武器を受け取ったアインズは、さっそく変形を試して見た。

 

「チェンジ、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!」

 

すると戦斧は流体金属と化して見る見るうちにアインズの傍らで浮遊するスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと同等の見た目のものができた。

 

「お、おおおお!!」

 

あまりの完成度の高さに鎮静化が追いつかず、ものすごい光がアインズの周りで発生しまくっている。

 

「これはすごいですよヴィクトリアさん…………?……あれ?」

 

喜びも束の間、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは命令を待たずして流体金属に代わり、元の槍へと戻ってしまった。

 

「槍に戻った?なにもしてないのに」

 

「実は…………それがエルキ・ドゥの欠点で………」

 

ヴィクトリアは苦い表情で話し出した。

 

「ギルド武器扱いとはいえ、NPC、つまり厳密には『武器への変身能力を持った生き物』なんだ」

 

「なるほど、ではもともとエルキ・ドゥはなんの種族なんですか?」

 

「スライム種をベースに肉体を流体金属で構成した、言わばメタルスライム(重流体金属生命体)のようなもので、何も命令が無ければ今の槍の形態か、武器ストレージから出せば人型形態を維持するようになっていて、命令があれば命令通りに変形するんだけど……」

 

そこで一旦切って、ひとつ溜息を吐いてからまた話し出す。

 

「…………変形・変身能力の時の流体金属になるでしょ?そこから形を変えて凝固するわけだけど、それには膨大なMPを消費する必要があって、形を維持するのにもMPを必要とするんだ」

 

「じゃあ今のは、俺のMPが枯渇したから自動的に戻ったと?」

 

もはやお分かりだろう、魔法職のアインズのMPが枯渇するほどの消費量を誇るのだ、つまり………。

 

「そういうこと、アインズさんで無理なら、他の人に使えるわけない、プレアデスも階層守護者も領域守護者も、誰であれこのエルキ・ドゥを使うことができないんだよね」

 

「俺のMPでもたったの数十秒………でもヴィクトリアさんなら」

 

「そう、MPはリジェネするからほぼ問題なく使えるよ、逆に言えば神官職でも無ければ使えないってことになるね」

 

「惜しい武器です………使って見たい武器のお試しができると思ったのですが………」

 

「なんかごみんね…………でもNPCという設定上仕方ないんだ、それに武器だと強化制限はあるけど、このエルキ・ドゥにはMPの分だけ火力が出る構造になってるからMP量の多さと火力がイコールになる」

 

「はぁ〜〜…………それなら確かに、ヴィクトリアさんのあの大技がトンデモ火力には納得ですね」

 

アインズは答えを得た、なるほど確かに、このエルキ・ドゥに瞬間的にMPを多量に流し込めば火力はそれに応じて増大する。

 

その状態で使えばその威力は計り知れない………。

 

「半分正解!ま、ここまでいうと分かっちゃうよね」

 

「これで半分?」

 

アインズは首を傾げる、正面に立ったヴィクトリアは笑顔で言う。

 

「そ、半分、残り半分は秘密だよ?」

 

「そういう隠し方卑怯じゃないですか!?うわぁ気になる……」

 

「ふっふ〜ん、片手間に考えて見てよ、このナザリックの最終防衛機構の秘密をさ」

 

「そういえばそういう設定でしたね、懐かしいなあ」

 

「そういえば、元はと言えば僕を除いた41人の暴走に対処できる単体での抑止力、だったかな?」

 

誰が言い出したか、『悪の組織なら、身内の暴走を止めたり粛清したりする役割とかあったほうが面白くないか?』という冗談半分の発言に真面目になって当時のモモンガがスカウトしたのがヴィクトリアなのだ。

 

「入ってから大変だったなあ、すごい警戒されたし」

 

「たっち・みーさんの説得がなかったら危なかったですね」

 

見た目が人間で異業種とは程遠い姿のためか初めは警戒されたが、たっち・みーの援護もあって打ち解けた。

 

なお、当然のことであるが、反対意見を出していたのは(もちろん)ウルベルトだった。

 

「ウルベルトさんの頑固っぷりといったら……ぷくく……」

 

「やっぱりか!って思いましたよ」

 

そんなこともあって、優しい神官様プレイのフリー時代から一転、悪の組織の司教としてのプレイへと代わり、ヴィクトリアの非公式ファンクラブは相当荒れた。

 

荒れたが、ファン層がちょっと変わったくらいですぐに収まった、寧ろ腹黒さを見せたためか増えた。

 

あだ名や通称も悪役に相応しい(?)ものに代わり、ナザリック内でも新しい通称が決まった。

 

ギルドマスターであるモモンガすら一撃で葬り去れること、あらゆる攻撃や状態異常を無効にできることから付いた名前は【ナザリックの絶対防衛機構】、【アルティメットバスター・クレリック】と呼ばれる。

 

まあ、モモンガ自体のステータスは特別強いわけじゃないが、対外的に『やべぇ』と思う見た目のモモンガを一撃で、と言った方がわかりやすい。

 

「あだ名の【アルティメットバスター・クレリック】はさすがにちょっとないでしょ」

 

「かっこよくないですか?」

 

「えぇ………」

 

もっともよく呼ばれたものとして【全能司教】というのがある、これは公式非公認ラスボスと呼ばれたアインズ・ウール・ゴウンの攻略サイトにあった人物紹介欄にデカデカと書いてあったもので、サイトを覗いた者は大抵それで覚えている。

 

「【全能司教】のほうがヤベー奴感あっていい感じだと思う」

 

「それはありますね、【ナザリックの絶対防衛機構】もセンス高いですよね」

 

「そうそう」

 

サイトにて紹介されるヴィクトリアは、その高い防御力と非常識な状態異常無効の数々を指して『動く城』とまで言われる始末。

 

なお、ナザリック(墓)に城が入っているという絵を想像してナザリック一同は失笑した模様。

 

「タブラさんったらそれ聞いた途端に即興の脳内設定が出るわ出るわ、大変だったー、涙で」

 

「まさかのたっちさん裏切り展開からの『これが僕の仕事だからね……(悲しい笑顔)』っていうのは不覚にも涙腺にくるんですよね」

 

「ニグレド、アルベド、ルベドを創っちゃうくらいの設定魔は伊達じゃない!」

 

「そうだ、アルベドの設定資料の一番下に、『ちなみにビッチである』って書いたあったんですよ」

 

「うぇい!?アインズさんそれマジ!?あんな『貞淑な伴侶』って言葉が似合うアルベドがビッチ…………タブラさんってギャップ萌えだったのかな?」

 

「設定もそうですが、『濃い』人でしたからね」

 

「ですです、まさか最新のゲームでテーブルゲーム、しかも本格的なルールブック持ち込んでCoCをやるとは思わなんだ…………」

 

「容赦ないGMっぷりで生き残った人いなかったですよね」

 

「そうそう、まさかたっち・みーさんが一番先にリタイアとは………ってアインズさんもファンブルで自爆してたよね?」

 

「うっ…………そ、そう言うヴィクトリアさんだって、『ここで決めちゃる!』からのクリティカルファンブルとか出してたじゃないですか!?」

 

『この体力………いける!どりゃぁ!(クリティカル&ファンブル)……はっ?』

 

『『『『えぇ………(困惑)』』』』

 

『あのさぁ………処理に困るんだけど……』

 

『許してください!なんでもしま聖杯!(ワールドアイテム)』

 

上のようなやり取りがあったとか、なかったとか。

 

「うぐぅっ!?だ、ダイスの神様がご機嫌斜めだったから…………その日の運勢も最悪だったし………」

 

夜も更けていく中、2人の談笑は続く、終わったのはヴィクトリアの睡魔が限界に達したところだった。

 

ヴィクトリアが床についた頃にはすでに太陽が昇り始める時間だった。

 




『エルキ・ドゥ』
通称:意志を持つ武器
性別:可変
身長:可変
種族:重流体金属生命体(スライム種)
属性:0(中立)

重流体金属で構成される意志を持つ生命体。
基本形態は槍や人型形態などの形を取っており、『装備ストレージ』に入れるか『装備』することで、NPCでありながら『武器』として使用可能になる。
NPCとしてのスペックをそのまま武器に転写できるため、大火力と高耐久値、また形態変化によるリーチ、重量、バランス、大きさなどを自由自在に変えることであらゆる状況に対応するフレキシブル・ウェポン。
NPCとして習得した各種戦闘職スキルが、テンデど素人な使用者を達人の域にまで強化することが可能。
欠点として形態変化時に多量のMPが必要であり、また装備するとともに各種戦闘職スキルなどを発揮するため等の理由で徐々にMPを消費してしまうため、性能で見れば基本的に魔法職などMP最大値の高いプレイヤーの最後の足掻き用武器。
それでも長時間の先頭には向かず、ものの数分でMP切れを起こしてしまう。
ヴィクトリアは神官職特有のスキル(MPリジェネ)によってエルキ・ドゥによる継戦能力が極めて高い。
余談だが、MPを意図的に多く流し込むことで火力が跳び上がるように増加する。
どの形態であっても喋ることができず、コミュニケーションはジェスチャーかメッセージに限定される。
人型形態はプレアデスのメイド服に似た格好の姫カットの美少女がデフォルト設定されている。
なお、全身真っ金金は確定である。


40神教
『40の神を讃えよ!』
42人からアインズとヴィクトリアを抜いた40人を神様として祭り上げ崇拝の対象としたもの。
もちろんナザリックNPCは全員入信している。
アインズとヴィクトリアも入信している。
世界へと広め、かつての栄華を誇った時期以上の栄光と喝采をギルド【アインズ・ウール・ゴウンに】にもたらす為に。
今日も世界は異形の神を崇拝する。


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防衛主任のお仕事(主に内政)

珍しくナザリックの内政のお仕事。
最強ビショップのヴィクトリアくんの手腕やいかに!?


ヴィクトリアside

 

 

お昼の時間を過ぎた頃、僕はアルベドの元に行こうとして…………廊下で出会ったデミウルゴスに止められた。

 

「ヴィクトリア様、差し出がましいようですが、我ら守護者とヴィクトリア様は主従の関係にあり、ヴィクトリア様は主人であるのです、何かご用があるようでしたら、近くの者や本人にメッセージを飛ばして下さればすぐに伺いに馳せ参じます、ですので、わざわざ守護者の元まで歩いてまで参じてくださる必要はないのです」

 

と長〜い説明をされてしまった。

 

うーん、僕としてはナザリックを歩いて土地勘をつけたいし、何よりいい気分転換の散歩になる。

 

そのうえ、今みたいに守護者やメイドとあって世間話をすることでモチベーションも測れるからいいと思ってたんだけどなあ。

 

デミウルゴスのモチベーションは最高レベルだね、見た通り偽りなく。

 

「あはは、ごめんねデミウルゴス、留守にした時間が長かったから、挨拶がてらいろんな子たちと話しておきたかったんだ」

 

「なるほど、お見それいたしました、そういうことでしたらスケジュールを調整しまして面接の機会を………」

 

「おー、さすがデミウルゴス、そういう手もあったね」

 

同じ道を何度歩いたって新しい出会いはないわけだし、面接…………というより面談をしておいたほうがいいかもしれない。

 

モモンガさんと一緒にやったほうが効率…………いやいや、そんなレベリングじゃないし、これはそんな合理的だとかじゃなくてゆっくり時間をかければいいことだから、急くことはしなくていい……よね?

 

まあでも、面談に呼び出すわけだから呼び出す子に迷惑にならないようにしなきゃいけない、特に階層守護者とプレアデスには、存分に能力を発揮してもらわないとだし。

 

「ヴィクトリア様がよろしければ、不肖の身の私ではございますが、ヴィクトリア様のお手を煩わせることのない完璧なスケジュール調整をして見せます」

 

そう言って臣下の礼を取るデミウルゴス、やっぱり絵になるなぁデミウルゴスは。

 

スーツがかっこいいんだよねスーツが!ツリ目がちな顔もイケメンだし、ウルベルトさん流石ですわ。

 

「頼りになるなあデミウルゴスは、じゃあ、頼んでもいいかな?僕はいつでも空いてるから、デミウルゴスの裁量に任せるよ」

 

「『頼りになる』、とは、私には勿体無いお言葉です…………このデミウルゴス、全霊を持ってスケジュール調整に当たらせていただきます」

 

「よろしくね、あっ、それと、アルベドを僕の部屋に呼んでおいてくれる?」

 

「かしこまりました、すぐに向かうよう伝えましょう」

 

出来る男(悪魔)は違うねえ。

 

契約ごとに関しては悪魔の方が信用できる、天使や神様なんて平気で嘘つくし約束は破りまくる、そんなのに信仰を捧げるなんてただの馬鹿だね。

 

悪魔は必要なこと以外言わないだけで嘘はつかない、ある意味、もっとも公平に交渉が出来る相手かもね。

 

まあ、それもある程度の対等な立場あってのことだけど、人間なんて悪魔にとって足の小指の先で触ったら死ぬような弱い生き物だからね。

 

僕もデミウルゴスが10体くらいいたらやられちゃうだろうね。

 

「お願いするよ…………あぁそうだ、アインズさんはもうエ・ランテルに行った?」

 

「今朝早くからセバスとユリ・アルファを連れて転移門にて」

 

「ふむふむ……」

 

セバスとユリの2人はちゃんとやってくれるだろうから、モモンガさん含めた3人が減るから………僕の人選とは言えかなりの火力が減っちゃったなあ。

 

一ヶ月は帰ってこないだろうから、こっちはこっちのメンツでやりくりしなきゃだし、忙しいぞーこれは。

 

となると…………うん、ちょっと負担になるかもだけど、アルベドとデミウルゴスを頼ろう。

 

「わかった、デミウルゴスはアルベドを呼んだら一緒に来て、ナザリックの運営について考えたいから」

 

「はっ!わかりました、それではアルベドを呼んできますので、ヴィクトリア様は自室にてしばしお待ちを」

 

そう行って一礼して転移するデミウルゴス、うーむ、cool!coolだよウルベルトさん!やっぱり中二病は最強だね!

 

じゃあしばらく部屋にいよーっと、万能デミウルゴスに任せて、僕はお昼寝を…………ってわけにもいかないんだよね。

 

防衛主任として、防衛能力の見直しをしないと。

 

各階層守護者とプレアデスの戦闘能力は把握できてる、階層ごとに様々な対策が施されてる、極悪なのが恐怖公の部屋行きの落とし穴かな。

 

気づいたら一面ゴキだらけの部屋に転移してるとかwwwwww…………そんな笑えない冗談を本気でやるんだからナザリックマジやばいって感じだよね。

 

1500人近い高レベルプレイヤーを門前返ししてきた折り紙つきの防御力の1/4くらいは恐怖公なんじゃないかと思う。

 

一度体験したらわかるよ、ゲームの中だってのに吐き気がしたからね。

 

まあ、入団してからはちょくちょく入ってみたりしたからさすがにもう慣れたけどね。

 

「よっ、と」

 

自室のベッドに腰掛けてデミウルゴスを待つ。

 

っとと、伝えるべき事をまとめたノートは、たしかこっちのほうに置いて…………。

 

コンコン

 

あったあった、ん?ノック?もう来たんだ、早いねえデミウルゴスってば。

 

「どうぞー」

 

「「失礼いたします、ヴィクトリア様」」

 

臣下の礼をとって入ってくるデミウルゴスとアルベド。

 

「そっちの椅子に座って」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

「それでは失礼して」

 

椅子に座ってもらったところでインテリアボックスから適当な丸テーブルを選んで2人と僕の間に配置する。

 

そしてノートを丸テーブルの上に広げて置く。

 

「まずは忙しい中ごめんね2人とも」

 

「そのような事を気に病んでいただけるとは………勿体なきお言葉です」

 

「そんなことないよ、みんな充分すぎるほどこのナザリックを護ってくれているんだもの」

 

「はぅ………はぁ……有り難きお言葉、感激の極みでございます」

 

「喜んでもらえて何より、それで本題に入るけど、現在ナザリックの防衛の統括を任されている僕なんだけど、守護者統括のアルベドとナザリックの参謀たるデミウルゴスに、今後ナザリックを防御する上で必要なコトやモノがあれば何でもあげて欲しい」

 

「必要なコトやモノ、でございますか………」

 

デミウルゴスがメガネをクイッと持ち上げた。

 

かっけえなおい。

 

「そう、今僕たちがいる世界は、ユグドラシルとは大きく異なっているんだ」

 

「我々ナザリックの宝物庫にある、ユグドラシル金貨が使えないこと、レベルが限りなく低い、ということなどですか?」

 

「正解、他にも使える魔法の位階が驚くほどに低いことだね、試しに第二位階の回復魔法を使って人間を治療してみたんだけど、かなり驚かれたよ」

 

「第二位階ですら、人間には奇跡のように感じられるのでしょうか?それとも知能レベルが低すぎるのでしょうか?」

 

アルベドの後者の場合ならこの世界はもうナザリックのモノ同然に制圧できるだろうね。

 

まあモモンガさんは嫌がりそうだけど。

 

「私が使い魔にて簡易的にですが調べましたところ、どうやら、第三位階が使えれば一流のマジックキャスターと見なされるそうです」

 

「それは本当ですかデミウルゴス?」

 

「えぇ、本当ですよアルベド…………ヴィクトリア様、正直アインズ様にセバス・チャンを護衛につけるのは少々過剰かと思います………現在のユリ・アルファ1人、もう1人つけるならばナーベラル・ガンマあたりが適当かと」

 

セバスについては正当に評価してるんだね、仲間だもんね、うんうん。

 

「デミウルゴス!至高の御方に出過ぎた口を聞くものでは有りません!」

 

「ハッ!……ヴィクトリア様、申し訳ございません!このデミウルゴス、いかなる処罰も…………」

 

「私も、守護者統括としていかなる処断も……」

 

アルベドの叫びにも似た激昂に我に帰ったであろうデミウルゴスが椅子から降りて床に頭を擦り付ける見事な土下座でそう言ってきた。

 

かと思えば次の瞬間にはアルベドも同じ姿勢を取っていた。

 

いやいやいやいや!

 

「待って待って2人とも…………どんな意見でもいいんだ、何でも言ってよ」

 

「しかしヴィクトリア様!」

 

平伏したままで顔だけをあげて食い下がるアルベド、いやそこは食い下がるべきところじゃない。

 

「今のデミウルゴスの意見は参考になった、確かにアインズさんの護衛にするには周囲のレベル的にセバスだと強すぎかな、って思い返して改めてそう感じたんだけど、デミウルゴスとしてはどう考えてそう答えたか説明して見せてくれる?」

 

「は、はい」

 

「あ、ちゃんと椅子に座ってね、床に伏せてたら埃………はメイドが掃除してくれるからひとつないけども、怒られそうだから早く座って、でないと僕、タブラさんとウルベルトさんに殺されちゃうよ」

 

「「た、ただいま!!」」

 

神速、という言葉すら置き去りにするほどの鮮やかな着席にちょっとだけ感動しつつ、デミウルゴスに説明を促す。

 

「では、理由の説明になりますが、まずセバス・チャンの『戦闘能力の高さ』と『発揮される状況』、そして先ほどヴィクトリア様がおっしゃった『周囲とのレベル差』です」

 

ふむふむ。

 

「彼の戦闘能力は階層守護者の半数が戦いたくない相手だと断言できる実力を持ち、全力を発揮する状態であれば守護者統括であるアルベドでも危険なほどでございます」

 

え?アルベドとタイマンでやべえってまじやべえんじゃね?セバスつっよ!

 

そんなセバスを作っちゃうたっちさんまじ鬼(畜)イケメン。

 

「しかし、全力を発揮できる状態というのは、どうやっても一目についてしまうほどに巨大、人間にとって畏怖の象徴とも言える姿に変わってしまうセバスでは、街中や一目につく場所での大規模戦闘は制限がかかってしまいます」

 

たしかに、セバスが本気出す=変身&巨大化だから、街中でそんなことになったら大騒ぎどころじゃない。

 

すぐに冒険者による討伐隊が組織されることだろうね、僕ならそうするかな。

 

「くわえて周囲とのレベル差がありすぎるため、セバス・チャンのレベルでは攻撃力が過剰であり、ナザリックの存在を秘匿して行動している現在、万が一にでも、下手に(ハエほどの価値もあるとは思えない)人間を殺傷してしまえば目立ってしまいます」

 

力加減を間違えてプチッといっちゃうかもしれないしね。

 

「さらに、調査の結果、エ・ランテルの治安もそれほど良いものとは思えないものでした、そのような場所に、極善の属性であるセバス・チャンを送り込めば、善意で誰でも助けようとし、要らぬトラブルを招き寄せる可能性もあります」

 

いきすぎた善意はトラブルの元、かあ……………漫画とかでよくある、裏の組織、ってやつに目をつけられたら厄介だね。

 

「なるほど、こうもはっきり言われると、セバスをつけたメリットがあるどころか揃ってデメリットになってしまうわけだね」

 

「ほとんどがデメリットとなります、ですが………」

 

と、ここまでスラスラとカンペでも読むように話していたデミウルゴスが不意に言いづらそうにモゴモゴしだした、かと思えば……。

 

「……………えぇ、と………彼の善の属性によって、人助け、ではありませんが、善い行いによって周囲の評価が高まり、結果としてナザリックについての情報秘匿や、また情報収集について有利になる可能性も、あるかと思われます」

 

と、デミウルゴスにしては珍しくセバスに肯定的かつ確定要素の薄い可能性………というより希望してない希望的観測のようなことを話した。

 

「善い行いが情報収集に繋がるか………アルベドはどう思う?」

 

「そうですね……人間は同族同士で殺し合う醜く無様な生き物ですが、なぜか同族同士での仲良しこよしゴッコが好きなようですので、デミウルゴスの言った可能性はセバス・チャンの性格上、『無い』ということは『無い』のではないかと………」

 

いきなり話を振られてもちょっと驚くだけでスラスラと話すアルベドにちょっとだけビビりつつ、改めてセバスについて考える。

 

「まとめると………セバスのナザリックらしからぬ行動はトラブルを誘発する可能性大であるが、人助け等による評判は良いものになるかもしれない………ということかな?」

 

「はい」

 

うーん、となると………セバスは表向き冒険者としての活動はちょっと見送ろうかな。

 

メッセージでモモンガさんを呼ぼうっと。

 

『モモンガさーん?』

 

『何かありましたか?ヴィクトリアさん』

 

『えーっと……………』

 

僕はモモンガさんにこれまでの話を説明した。

 

『……………それで、デミウルゴスの懸念通りになりそうだと僕は判断したんだけど、モモンガさんはどう思う?』

 

『そうですね…………一度セバスの冒険者登録は見送りましょう』

 

意外にもあっさりとモモンガさんは言った。

 

『意外!モモンガさんどうしちゃったの?』

 

『今はエ・ランテルの宿にいるんですが、都市の入り口からの道中でセバスが見境なしに人助けをするもので………たしかにデミウルゴスの懸念に現実味が出てしまって』

 

『あぁ〜〜………』

 

さすがだわセバス…………いやほんと凄いようん。

 

たださ、たっちさんでももうちょっと見境はあったと思うよ。

 

『スリを捕まえたり老婆を助けたりと、周りからは心優しいナイスミドル的に見られて評判は良さそうなんですが…………』

 

『今回の趣旨からは外れるんですよねー…………』

 

情報収集と『冒険』、この両方が釣り合わなくなってしまったらセバスのいる意味がない。

 

セバスが人助けすればするほど評判は良くなるけど、逆に良くなりすぎると結局は『町のお巡りさん』でしかない。

 

僕はそんな役割をナザリック地下大墳墓の執事、セバスに命じた覚えはとんとないんだけどねえ?

 

『ではこれからのセバスの扱いについて、もう少し話し合って見るね』

 

『お願いします、ヴィクトリアさん』

 

『うん、あーそれとモモンガさん』

 

『なんでしょうか?』

 

『そろそろさ、口調変えない?』

 

『え?あ………えっと、わかりまs…………わかった、ヴィクトリアさん』

 

すごく言いづらそう………でもナザリックNPCの前で下手に出るモモンガさんを見せるのはあまりよろしくないんだ。

 

『うん、そんな感じだよモモンガさん、なれるまでガンバだよ』

 

ナザリックNPCにとってモモンガさんは42人中41人の【総意】。

 

対する僕は末席の42人目、そしてナザリックの裏切り者などに対する絶対防衛機構、つまり、ある程度は意図してみんなとは逆の意見、価値観を以ってナザリック全体を見る必要がある。

 

僕は自由に振る舞い、モモンガさんは支配者として振る舞う、意見が食い違おうとも結論は出す。

 

そうやってナザリックのみんなと生きていこうと決めたんだ。

 

『あっ、そうだ、よかったら宝物庫にいる俺のNPCも使ってください』

 

『モモンガさんのNPCというと、ドッペルゲンガーの?』

 

『はい、ドッペルゲンガーのパンドラズ・アクター』

 

いくら聞いても概要しか教えてくれなかったなあ、懐かしぃー。

 

『宝物庫の守護を命じてあるので、俺からの指示と言えば役に立ってくれる………はず』

 

『ちょっと、ちょっとモモンガさん?なんでそんなに不穏な雰囲気なんです?』

 

『その………ちょっと忘れたい記憶が………』

 

『あっ………(察し)』

 

そっかぁ…………ふぅん………。

 

『まあ、いいじゃないの、今は念願の死の支配者そのものだし、中二病の一つや二つ、受け入れてこそだよ?』

 

『…………重みが違う』

 

『おいごら浄化すっぞ』

 

『理不尽!?』

 

そんなI.Qの下がった若干阿呆な会話を一旦切り上げ、本題に戻る。

 

『俺とユリだけで登録しておきま………おくから、今夜、ナザリックのほうに戻りま……戻ったら、その時にもう一度話し合いましょう……じゃなかった、話し合おう』

 

『それがいいね、伝えておくよ』

 

メッセージを切ってデミウルゴスとアルベドのほうに向き直る。

 

「ごめん、アインズさんにメッセージを送ってた」

 

「そうだったのですか、てっきりお体の具合が優れないのかと………それで、お手数ではございますが?アインズ様はなんとおっしゃられたのですか?」

 

「とりあえず、セバスの冒険者登録は一時見送って、アインズさんとユリだけで一度登録するそうだね」

 

「セバス・チャンの扱いについてはどのように致しましょうか?」

 

「宿を借りたみたいだからユリとセバスを待機させてアインズさんだけ今夜こっちに帰ってくる、そしたらもう一度会議をしようって」

 

「かしこまりました」

 

アルベドとデミウルゴスは一礼した。

 

「うん、じゃあこの話題は一旦置いておくとして…………他に必要な物品とか、補填が必要なものとか無いかな?」

 

「ヴィクトリア様、先日アインズ様より達せられたスクロール作成に関して、現在問題が発生しております」

 

「問題?」

 

そう(いたって普通に)聞くとデミウルゴスはなぜか縮み上がるように身震いをさせた。

 

「は、はい、スクロール作成に使用するアイテムを揃えて試してはいるのですが、すべて失敗や、意図せぬ魔法になってしまう状況です」

 

「ユグドラシルでの製法ではスクロールが作れないわけか」

 

「その通りでございますヴィクトリア様」

 

「アイテムはいろいろ試してみた?」

 

「浪費を避けるため未だ実験は行なっておりません」

 

「ふむ………」

 

スクロール作成ができないということは、いざという時の防御策や切り札を揃えられないということ。

 

スクロールは大規模ギルド戦でも使われる重要なマジックアイテム、その用途は多岐にわたり、自分では使えない魔法でもスクロールを使えば一度だけ使用可能。

 

例えば戦士職が回復魔法のスクロールを仕込んだり、後衛が接近された時にテレポート、『上位転移』の魔法のスクロールを使って距離をとったり、相手の状態異常無効を剥がしたりする効果を持つスクロールでアンデット系プレイヤーを追い詰めるのに使ったり。

 

一番下の例は超ガチガチのギルドでもひとつあるかどうかの神器級の中の神器級アイテムのひとつだから、お目にかかれたことはないんだけどね。

 

そんな重要なマジックアイテムを補充できない、作成できない状況が続くのは、非常にマズイ。

 

つまり今は情報収集のため表で動くモモンガさんの支援ができない状況………控え目に言って最悪。

 

「…………物資に余裕はあるのかな?」

 

「総数を数えたところ、下級、中級アイテム類には困ることはないかと、上級以上のアイテムについては少々心許ないと思われます」

 

意外に切羽詰まった状態で草。

 

「それから、ナザリックの維持につきましてもユグドラシル金貨の支出が必要で、現在宝物庫より微々たる額が引かれている状況であります」

 

ユグドラシル金貨の補充も考えなきゃいけないのかい!!

 

…………NPCの維持にはレベルとかに応じてそれ相応のユグドラシル金貨を日払いか月払いかで消費していかなきゃいけないのは知ってるけどさあ。

 

異世界でも払わなきゃダメなのはどうなの…………。

 

ユグドラシル金貨の補填の方法は…………そう言えば誰か商人スキル持ちの人がいたっけ?

 

パンドラズ・アクターのドッペルゲンガーの能力でそれが使えれば…………いけるかも?

 

とりあえず、やることはふたつか。

 

「じゃあやることを言うよ?まず、ナザリック宝物殿の領域守護者、パンドラズ・アクターの能力を利用してユグドラシル金貨の補填を行うこと………次にスクロールその他のアイテムの作成に関して、この世界で入手できるあらゆるものを使用して実験を行うこと………最後に実験の経過や詳細をまとめたレポートを逐次提出するように、なお、ユグドラシル金貨については財政管理を担当するパンドラズ・アクターならびアルベドに一任する、実験に関してはデミウルゴスにすべて任せる、必要なものや人材があればすぐに報告すること」

 

「ヴィクトリア様、あらゆるもの、とおっしゃられましたが、何でもよろしいのでしょうか?」

 

若干笑みを浮かべたデミウルゴスが嬉々としてそう質問してくる、うん、やっぱり悪魔だよこの子。

 

「何でも、だよ?躊躇はいらない、たとえ生きたカエルでも人間の男性器でも内臓でも脳みそでも、何でも試してみてほしい………それに伴う物資の補給方法まで含め、全てを、デミウルゴスに任せるよ」

 

「はっ!ありがたき幸せ!!」

 

すっごい嬉しそうに笑うね君、まあ楽しそうならいいかな。

 

「こういうのは意外なものが成功の鍵だったりするんだ、デミウルゴスの頭脳に期待してるよ」

 

「お任せくださいヴィクトリア様、このデミウルゴス、すぐに成果を上げてご覧に入れましょう」

 

「うんうん、頼もしい限りだね、というわけで、さっそく取り掛かってくれるかな?」

 

「「御意に!」」

 

立ち上がって綺麗な臣下の礼をとった2人はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移していった。

 

さて、2人の頭脳があれば一月もないうちに成果は出るかな。

 

あとはセバスの扱いか、ナザリック内においたほうが楽かもしれない、けど、その運用だと善の属性を殺すんだよねえ。

 

「すべては、モモンガさんの到着待ちになるかな………」

 

僕1人じゃ何もできない、モモンガさんとナザリックのみんながいてこそのアインズ・ウール・ゴウン。

 

できるだけ、みんなの意見を尊重しよう。

 




アルベドとデミウルゴスがいるから手腕なんていらなかったんや!
さすがデミえもん(御都合主義)と言われるだけはある!
実際、こんな優秀な人材活用しない手はないよねっていう。

そしてセバス、待ちに入って早々人助けをする極善っぷりにヴィクトリア氏『お前はお巡りさんか』と困惑。
正直扱いに困る極善属性のセバス、彼は一体どうなってしまうのか………。

次回を待て!

そして、fgoのガチャで水着出たやつ爆死しろ!(八つ当たり)


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