PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達 (MP5)
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1話 千代田区の初仕事

 この物語はフィクションです


 東京・千代田区。とあるビルの一階に、トライデント・アウトカムズ日本支部のオフィスがある。この企業はアメリカ・ロサンゼルスに本社を置く民間軍事会社で、PMC市場でもっともの成長率が高く中東やアフリカはもちろん、ヨーロッパ諸国の要人警護で実績を残している。軍隊を持たない日本においては特別警備会社と名乗り、要人警護やハイジャックなどの凶悪事件において警察や自衛隊とともに解決することや厳重な審査によって銃の所持及び携帯が認められていること以外では、一般的な警備会社とあまり変わらない上にトライデント・アウトカムズでは探偵業の認可を得て営業していた。

 そのようなビルの地下にある射撃場で新品のアサルトライフル、レミントンR5を使い射撃訓練している、184センチの長身で浅黒い肌の男。彼の名はケビン菊地、ここ日本支部の支部長にして今のところ唯一の隊員である。以前は品川で探偵業もしていた(むしろそちらがメイン)が、CEOが勝手に秋葉原のビルを買い取ったため、数ヶ月前に引っ越したのだ。

「社員一人だけ日本に飛ばして、あげくに秋葉原に引っ越させるなんて、何考えてんだCEOは・・・まぁいい、引越しの挨拶に行くか」

 明らかに左遷としか考えられないが、それでもこの地で仕事することに決めたケビンは、最初に近所のメイド喫茶に足を運ぶことにした。入ってみると受け付けらしい少女に席を案内され、流れるまま座る。

(俺は挨拶に来ただけなのに・・・)

 案内した少女とは別の、紫のロングヘアーに、グラマラスだがどこかクビレのある体の少女が笑顔で彼の前に現れた。

「お帰りなさいませ、ご主人様。ノンタンです」

「(こういうのは苦手だが)ケビンだ。早速で悪いが店長はいる・・・」

 店の厨房から女性の悲鳴が聞こえた。ただ事ではないと判断したケビンは厨房に急行すると、うつ伏せに倒れていた女性の遺体があった。誰も遺体に近づけさせないようにすると、あることに気がついた。遺体の髪に霜らしきものが降りているのだ。

(冷蔵庫が開けっ放しだ。そこに入っていたんだな。しかし、霜が降りるほど冷えていたのか?)

 冷蔵庫の中身は生鮮食品が入っており、どれも凍るほど冷えていなかった。

「お嬢さん。この冷蔵庫に冷凍機能はあるのか?」

「い・・・いえ、冷凍庫は別にありますが・・・」

「そうか。この遺体は誰かわかるか?」

「店長です・・・まさか冷蔵庫の中で死んでたなんて・・・」

 ケビンは残念がった。引越しの挨拶に伺ったのにまさか亡くなっているとは思いもしなかったからだ。

(背後から刃物による刺殺か。複数あることからして怨恨だな)

 数分後。警察が到着した。先頭を切って現れたのはゴマ塩頭の中年太りの男だった。彼は根岸寿男、ケビンとは知り合いの刑事だ。

「あれ、ケビンじゃないか。どうしたこんなところで?」

「根岸警部、異動になったのですか?」

「品川から秋葉原にね。なんというか、わざわざ出向く手間が省けるよ」

「事務所引っ越したの知ってんですか?」

「律儀にも前の事務所に張り紙があってね」

「・・・忘れてた」

「まぁ気にしちゃいけないよ。ところで仏の身元は分かっているかね」

「あぁ、この店の店長らしい。引越しの挨拶に来ただけなのに遺体になっているなんて思いもしませんよ」

「これも探偵の宿命かもな。あとは私達がやるから、ケビンは休んでていいよ。困ったことがあったら連絡するから」

「わかったよ根岸警部」

 

 

 

 

 メイドカフェを後にしたケビンは事務所に戻り、ソファに転がった。先ほどの殺人事件について整理するためだ。

(さっそくだが怪しさ全開の事件だ。まず遺体の髪が凍っていた理由、おそらく殺害後に冷凍庫か何かに保存していたからだろうな。店員の子が冷蔵庫だって言っていた、つまり外部で殺されて入れられたんだろう。今頃根岸警部は苦戦中だろうな、どうやって移動させていたか)

 予想通り、根岸から電話がかかってきた。彼からの電話はケビンに仕事を依頼する時だ。

「なんでしょう?」

「すまないが頼まれてくれるか?遺体を凍らせるほど寒い場所を探してくれ!どこの冷凍倉庫を当たってもないんだ!」

「根岸さん、落ち着いてください。依頼は受けるが仏の人間関係当たったか?」

「調べたんだが誰も応じてくれないんだ、資料送っておくからそれも頼む!」

「根岸さんのお願いなんだ、引き受けるよ」

「ありがとう。何かわかったら教えてくれ」

 電話を切ると、さっそくFAXで資料が届いた。容疑者は3人、1人目は大倉慶介。ゲームセンターの店長でメイドカフェによく通う常連であったが、顔こそいいが頭が悪く短気だったため店員からは嫌われているらしい。2人目は小畠宏美。普段はカメラマンだが重度のメイド好きで、店は彼女の撮影癖が原因で撮影禁止になったほどらしい。

「3人目は中山常彦。運送会社の社員で運転手であり、特定の店員に対して過激な愛情表現をするレッドリストに載るほど危険人物か。誰でもありえそうだが、地道に調べていくしかないな」

 事務所のドアをノックする音が聞こえる。大事に備えて懐にあるベレッタPx4に右手を忍ばせる。

「どうぞ」

「すいません、ちょっとお話が」

「君は・・・メイドカフェの」

 彼に前に現れたのは、さきほどまでケビンに接客していた少女、ノンタンだった。ケビンは右手を戻した。

「ウチ、本名は東條希っていうんです。実はお話したいことがあって」

「仕事の依頼かい?一応話は聞くよ」

「店長、一週間前に中山さんと揉めとったんです、お触りがどうとかって・・・」

「お触り?腿やら胸やら触ってくるアレか?」

「ウチはされてへんのやけど、ミナリンスキーこと南ことりって子、中山さんのお気に入りだったんです。彼が店に来てからしょっちゅう」

「なるほど。まずは彼女に会いに行こう、家の場所は知ってるかな?」

 

 

 

 

 希の案内のもと、南邸に到着した。想像以上に大きな家で、ケビンは目を丸くした。呼び鈴を鳴らすとベージュのサイドテールの少女が出迎えてくれた。

「の、希ちゃん、この怖そうな人誰?」

「この人は探偵さん、実は話があってな」

「突然の訪問で申し訳ない、俺はトライデント・アウトカムズのケビン菊地っていう者だ。君のアルバイト先の店長が殺されたことを知っているかな?」

「えっ!?」

「この様子だと知らないみたいだね。実は今日、お店で遺体が発見されてね」

 驚いて口が塞がっていない。しかも目線が定まっていないこともわかった。

「君は昨日出勤してたかな?」

「昨日は店長の相談して休みにしてもらいました。また、お触りはいやですから」

「なるほど。今日はこの辺にしておこう、何か事件に進展があったら教えるから」

 ケビンはことりに名刺を渡すと、今度は大倉の勤めているゲームセンターへと向かった。店内に入る前に根岸に電話する。

「ケビンか。どうだ進展は?」

「順調とは言い難いな。ところで根岸さん、司法解剖の結果は?」

「死亡推定時刻は昨日の深夜0時から1時だ。まぁ殺害現場は喫茶店じゃないことは確かじゃな」

「だろうな、冷凍庫が小さすぎる」

「それともう一つ。刃物の形状からしてサバイバルナイフのようだ。犯人が持ち歩いている可能性が高いから気をつけてくれ」

「わーったよ」

 

 

 

 ゲームセンターの事務室に入った二人は、店長代行の姫川と名乗る、真面目そうな若い男と話をすることにした。姫川によれば、大倉は一昨日から姿を見せていないらしい。しかも連絡が取れない状況だという。

「電話にも出ない・・・」

「珍しいんです、大倉は電話にだけは入浴中でも出る人なのに出ないなんて・・・探偵さん、探していただけませんか?写真も渡しておきます」

 姫川から住所が書かれた紙と一緒に手渡された大倉の証明写真。目つきが悪く髪も金髪に染めているからか、余計に人から敬遠されそうな見た目だ。

「なぁひとついいか?こいつ、昔はチンピラか何かしてたんじゃないか?」

「なんでわかったのですか?」

「見た目が店長らしくない、名ばかりじゃなかったか?」

「そこもわかるのですか!?理由はわかりませんが、大倉は雇われ店長でして、簿記も碌にできない馬鹿でした。ただ接客だけは一級品でしたが」

「・・・今度は姫川さん、アンタが店長やった方がいい、オーナーに相談したらどうだ?」

 

 

 

 

 大倉の家に訪ねようと思った矢先、根岸から電話が入る。

「もしもし、どうしたんだ根岸さん?」

「大変なんだ!大倉が、自宅の風呂で遺体で発見された!遺書が残ってるから自殺かもしれんが、ケビンは中山の捜索を頼む」

 容疑者の一人が殺害され、残るは二人。中山の務め先である運送会社に足を運んだ。事務所に入る前にふと足を止めた。

(あれは・・・冷凍倉庫か?)

「ケビンさん?」

「・・・あぁ、なんでもない」

 事務所に入り、中山の上司の飯田に話を聞いた。彼もまた大倉のように連絡がつかないらしい。しかも中山の運転するトラックもなくなっているらしい。

「探偵さん、彼を見つけてください。先ほどお話された殺人事件に関連するならなおさらです、お願いします!」

「もちろんだが、一ついいか?ここには冷凍倉庫があるみたいだが、昨日ぐらいに送り主不明の荷物がなかったか?」

「ええっと・・・ありました。誰が入れたかわかりませんが、お届け先の住所からして・・・例のメイド喫茶ですね。配送したのは、中山です」

「ありがとう。時間を取らせたな」

 

 

 

 

 事務所に帰還し、希をソファに座らせた。

「どうしたんです?急に事務所に帰って・・・小畠さんから話聞いてへんのですよ?」

「聞く必要性がなくなったんだ。結論を言おう、犯人は大倉と中山だ」

「ええ!?」

「俺の推理はこうだ、大倉は中山と共謀し店長を殺しに家に入り、風呂から出た彼女を背後から刺し殺した。その後遺体を中山のトラックに入れた。その時に髪の毛が凍ったんだろうな。確か昨日は定休日だったはずだから、誰にも見られずに冷蔵庫に遺体を入れることができたんだ」

「・・・じゃあ大倉さんのはどうなんです?」

「中山が大倉を呼び出して、睡眠薬の類を飲み物に混ぜて眠らせた後、自殺にみせかけて手首を切って殺したんだろう、口封じも兼ねてだ」

「だとしたら、最後中山はどうする気なんやろ?」

「希ちゃん、俺は準備があるから、ことりちゃんに電話入れてくれないかな?現在地を聞くだけでいいからさ」

 ケビンは地下武器庫に行き、R5を手に取り、それを分解しアタッシュケースにしまう。

(奴の本当の目的がアレで正しければ、彼女の身が危ない。できれば無発砲で済ませたいが、奴がどう出るかわからんからな)

 服の下に防弾チョッキを着込み予備弾倉を専用ポーチにしまうと、希の前に姿を現した。

「ケビンさん、ことりちゃんに電話したら自宅にいるみたいや。でもどうしたん、そんな戦いに行くような雰囲気は・・・」

「君はここからは来ないで欲しい。一般市民を巻き込むわけにはいかない」

「でも」

「信じてくれ。友達はちゃんと守るから」

 そう言ってケビンは駐車場に止めてある黒のセダンに乗り、南邸に向かった。

「ケビンか!?ようやく小畠から事情聴取したんだがアリバイがあった。調査はできたのか?」

「ああ犯人の目的がわかった。俺は先回りして取り押さえる」

「ちょっケビンどういうことだ!?おい、もしもーし!?」

 

 

 

 

 十数分後。ケビンは南邸近くに車を停め、呼び鈴を鳴らす。しかし、何の反応もない。ドアノブを回してみると鍵が開いており、入る前にR5を組み立て、室内に入った。

(二階から何か聞こえる・・・行ってみよう)

 音源の近い部屋まで移動すると、ケビンは勢い良くドアを開けクリアリングした。しかし、そこにいたのは動きやすい服装をしたことりの姿があった。安堵したケビンは銃を降ろした。

「た、探偵さん、いつの間に!?」

 当然ながら驚いている。

「はぁ・・・君が心配で来たんだ。捜査結果も話したいからBGM消してくれ」

 ケビンは捜査した内容を彼女に話した。

「中山さんは、私が目的、ですか・・・」

「そうだ。君へのお触りを永久的なものにするためだろうな、そんな奴の弁護なんてするなよ」

「私はただ、精一杯お仕事頑張っただけです、それだけなのに・・・」

「非常に残念なのはわかる。あの店には一度しか入っていないが、全員が輝いていた。それを身勝手な理由で崩壊させた野郎だけは、俺も許さない」

 彼女の肩に手を乗せ、優しい笑みを浮かべた。

「汚れ仕事は任せろ」

 その時、呼び鈴が鳴った。ことりが出ようとするが、ケビンはそれを静止させた。

「中山かもしれない、一緒に出よう」

 一階に降り、ケビンはR5のグリップを右手に握り締め、左手でドアを開けた。外にいたのは丸刈りの冴えない男が銃口に驚き腰を抜かしていた。

「お前が中山だな?殺人の証拠がある、大人しく出頭しろ!」

 先ほどの笑みとは遠い、鬼も逃げ出すほど恐ろしい顔で中山を睨みつける。

「ヒィ!な、なんだお前、ミナリンスキーの何なんだよ!?」

「黙れ!この子の大事な人間の命奪っておいて、それでもまだ満たされないか!?」

「あの女が悪いんだ、あの女が、ミナリンスキーを遠ざけたのが悪いんだ。僕は何にも悪くない!」

 堪忍袋の緒が切れたのか、ケビンは中山の顔面を勢いよく踏みつけ黙らせた。

「さっさと黙んか変態野郎。見てて胸糞悪いんだよ」

 生々しい現場を目の当たりにしたことりは、恐ろしさのあまりに気を失って倒れていた。

(・・・さすがに女の子には刺激が強すぎたか)

 

 

 

 

 

 ボロ雑巾になった中山を担ぎ上げ、駆けつけた警察に身柄を引き渡した。その後、パトカー内で根岸から注意される。

「ケビン・・・今回はいつになくやりすぎだぞ、普段ならスマートに解決するのに」

「あまりに身勝手だったからつい」

「気持ちはわかるが、そんなことしたらロバートCEOも残念がるぞ?お前にとって親父代わりだろうが」

「・・・以後気をつけるよ」



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2話 昼下がりの幽霊

 泥棒ダメ絶対


 ケビンはこの日、R5のカスタムをしていた。本社から届いたホロサイトとフロントグリップ、フラッシュハイダーを取り付け、1マガジン分試し撃ちしてみる。ブレが前よりもなくなったのか、ほぼ中央に収まっている。

「良好だ。そういえば他に荷物があったな」

 別のアタッシュケースを開けてみると、MP5に似ているが細部が大きく違うサブマシンガン、UMP‐9が入っていた。一緒にカスタム用のフラッシュライトも入っている。

「R5と場面場面で使い分けるか」

 UMP‐9にフラッシュライトを取り付け、ストックを折りたたみアタッシュケースにしまった。

「そろそろ飯にするか。出前でも頼もう」

 電話でかつ丼を頼み、いつものように自分の机にある椅子にもたれかかった。

「そういえば引退表明があったな。来年は普通の高校生になると言っていたが・・・」

 机の上にあるスポーツ新聞の芸能面を読む。ダークブラウンの髪色にセミショート、目付きが少し鋭い以外は整った顔立ちの少女の写真と、大きく[アイドル界の流星、二宮ミコト、電撃引退!]と載っており、文面も彼女の引退に反対するようなことが書かれてあった。記事を書いたのは小畠宏美。前回の事件の容疑者リストに載っていた女だ。

「これまた・・・あの子の苦労と悲しい思いを知らないで書きやがって」

 品川で活躍していた頃、ミコトの所属していた芸能事務所の社長に気に入られ、度々護衛を引き受けていたことを思い出す。

「彼女はテレビに出ている時のクールなイメージと違って非常に心優しくて臆病で繊細だった。口数は確かに少なかったが」

 その時、電話が鳴り響いた。ケビンは受話器を取る。

「もしもし、トライデント・アウトカムズですが?」

 電話の主は南と名乗っていた。近くの高校、音ノ木坂学院で理事長をしているらしい。彼女によれば学院内で増えつつある制服盗難事件を調査してほしいとのことだった。

「詳細を聞きたいのですが?」

「学院の理事長室でお話します。お時間、よろしいですか?」

 腕時計を見て

「これからだと2時くらいになりますが、それでもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 R5の入ったアタッシュケースを手に音ノ木坂学院に足を運んだ。ケビンは学内に入って呟く。

「女子高かここ?男子がいない」

 女の花園に筋肉隆々老け顔の27歳男性がいるという、ものすごい気まずさを肌で感じながら、迎えの教員に連れられ理事長室に入った。

「先ほど電話を受けたトライデント・アウトカムズの者ですが」

「お待ちしておりました。どうぞ、お座りください」

 ケビンは少し動揺した。理事長に、前回助けた南ことりに似た雰囲気があったからだ。

「娘が大変お世話になりました。あの子がアルバイトしていたことは知っていましたが、まさか事件に巻き込まれそうになっていたなんて・・・」

「あぁ・・・お母様でしたか。その後はどうですか?」

「元気に学校に通っております。事件の直後こそは顔色悪そうでしたが」

「す、すいません。俺が犯人に過激なことしなければ」

「いいんです。そうでもしなければ、何されていたか、わかったもんじゃありません」

「・・・すいません」

 返す言葉がないケビン。

「学内でも事件のことが話題になっています。娘を救ってくださったあなたに、窃盗事件の調査を依頼したのです」

「なるほど。詳細を聞きたいので、制服を盗まれた生徒のリストを頂けませんか?」

 

 

 

 

 放課後。リスト眺めながら廊下を歩く。盗難の被害者は6人おり、1・3年生に絞られていた。そのうち4人には会って話を聞いており、今のところ体育の授業が終わって着替えようとする際に盗難されているらしい。ケビンは5人目に話を聞く前、疑問点を整理することにした。

(警察沙汰にしたくないみたいだが、犯人によってはスキャンダルどころじゃないな。それはそれとして、経歴こそバラバラだが、どの子に会っても同じような体格かつ身長だった。細かい数字こそ違うが、一人除いて同じなことに理由があるのか?まぁそこはまだ判断できないが、学校で噂になっていたな・・・確か幽霊が白昼に現れるって噂だ。体育の授業中に死んだ女子生徒の霊が木々の間を走り抜ける、だったか。偶然にしては出来過ぎな気がするな)

 5人目の被害者の待っている1年生の教室に入る。そこで待っていたのは体操服姿の二宮ミコトだった。彼女の目に涙が浮かんでいた。

「ミコトちゃん・・・」

「先生・・・盗難事件を調査してるのって、先生だったのですね」

「あぁ。被害者リストに君の名前が載っていて驚いてたところだ。事件のこと、聞かせてくれるかな?」

「はい。先日、3時間目の体育が終わって着替えようとしたときです、ロッカーを開けると、あるはずの制服一式が消えてなくなっていました。同級生にも探してもらいましたが、結局ありませんでした。中学の終盤を思い出しちゃって・・・つらくて、怖くて・・・」

 3時間目が始まるのはだいたい11時10分辺り、終わりは12時ぐらいになる。更衣室からグラウンドまでの距離はだいたい数分程度、着替えの時間を含めてもそのくらいになる。

「君は前から大変だったからな。もう大丈夫だ、俺が来たからには解決してやる」

 ハンカチを取り出し涙を拭う。

「ところで授業中に怪しい人影を見なかったか?例えば、泥棒とか、制服姿の幽霊だとか」

「え・・・今なんと?」

「制服姿の幽霊って言ったが?」

「制服着た女の子が、飼育小屋方面に消えて行ったのを見ました。顔は見ていませんが、ものすごい速さで駆けて行ったのを見ました」

(幽霊を見た、か。初めての証言だな。他の子は見ていないのに、彼女だけ見たってことか?)

「ミコトちゃん、今から一緒に来てくれないか?どこで見たか知りたいんだ」

 二人でグラウンドに出ると、ミコトが丁寧に説明する。準備体操中、20メートルくらい離れた場所で見たらしく、一緒に体操していた子も見たと言う。痕跡を探すため離れにある飼育小屋へと向かった。

 

 

 

 

「おいおい、ここアルパカいるのかよ」

「だらしない顔でモフモフしてる人がいる・・・よっぽど好きなのですね」

 アルパカと戯れることりの姿を見て唖然とする二人。視線に気づいたのか、こちらを向いてきた。

「あれ?探偵さんに、二宮・・・」

「ミコトです、μ’sの南先輩。すっごいみっともない顔ですが?」

「だって~可愛いんだも~ん」

「・・・探偵さん?ケビン先生知ってるのですか?」

「この前、変態さんから助けてもらったの」

 ミコトがことりをにらみ付ける。

「え?何?」

「変なこと、してないよね?」

「してないよ!?」

「ミコトちゃん落ち着け、今回、彼女も盗まれてるんだ」

「そうなのですか?」

「あぁ」

 どうにか気まずい空気を打開し、本題をことりに説明した。

「授業終わって着替えようとしたら、ロッカーから消えてて困りました。でも、スカートと上着以外がこの飼育小屋の近くにあったんです」

「え、ここら辺にあったのかい?(妙だな。μ’sのメンバーである彼女の制服の一部だけが落ちていたなんて・・・犯人は何故捨てたんだ?)」

 難しい顔をするケビン。資料を改めて見てみる。

「先生。どうなさいましたか?」

「おかしいんだ。この学院の看板である、ことりちゃんの制服だけが捨ててあったことがね。通常ならマニアの間で高値で売れるものを、しかも飼育小屋付近で捨てるなんて考えられない」

「・・・先生、何が言いたいんですか?」

 白い目でケビンを見るミコト。

「確実に言えることは、ここが犯人の逃走ルートであることだ。それと、犯人の逃走方法も、推測だがわかった。ミコトちゃんの身長はだいたい163センチ程だ。比べて、ことりちゃんは159センチ。つまり4センチほど違う」

「??」

「二人とも、背中合わせに立ってくれ」

 二人は背中を合わせると、ケビンはその姿を見て確信を得る。身長以外に、肩幅と腕の長さがミコトの方が大きいことがわかる。

「ウエストは聞かないけど、だいたいミコトちゃんの方が大きいな」

「ケビン先生、セクハラですよ!」

「ごめんごめん、肝心の方法だったね。実に大胆な方法だ、犯人は盗んだ制服を着てここまで逃げ、飼育小屋の裏で制服を脱ぎ、ここら辺に隠したんだ。そういえばことりちゃん、制服に違和感なかったかな?」

「言われても・・・あ!そういえば脇が破れてて」

「犯人は脱いだ際に制服が破れて商品にならないから断念したんだ。つまり、服の上に服を着て盗んでいたってことだ」

 

 

 

 

 日が落ち二人を送った後、ケビンは一人、懐中電灯片手に飼育小屋周辺を捜索した。自分の推理が正しければ近くに隠してあるはずだからだ。

「とは言ったものの、今日盗まれたって情報が入ったわけじゃないからな。あるか否かわからない・・・これは・・・!?」

 自分のものとは違うスーツケースに手を伸ばそうとすると、ふと背後から気配を感じ、Px4を抜き振り向いた。

「死にたくないなら出てこい。今なら許してやる」

 茂みの中から、ことりと同じくらいの背丈の女性が現れた。手にはカメラが握られている。

「け、拳銃!?これはスクープだわ」

「待て。下手に動くと撃つぞ。サプレッサー付いてるから音があまりしない、つまりここで仏になるってことだ」

「うぐっ・・・写真は撮らないわ。でもどうしてここにいるのか教えてちょうだい」

「・・・依頼だよ、盗まれた制服を探してるんだ」

「そゆことね。記事にしないであげるわ、スキャンダルで母校を廃校にしたくないもの」

「は?」

「紹介が遅れたわね、小畠宏美っていうの。フリーの記者やってるわ」

「小畠・・・先日の連続殺人事件の容疑者リストに載ったがシロで、後日には二宮ミコトの記事を書いた女はお前か」

「どうして警察にマークされてたこと知ってんのよ?」

「仕事の都合で知りえたことだ、漏らさんから安心してくれ」

 危害を加えないと判断しPx4をしまう。

「ところで、宏美はどうしてここに?」

「二宮ミコトの周辺洗っていたら、あなたの存在にたどり着いたの。以前、何度か依頼受けたことあるでしょ?」

「俺の正体を知ってる口調だな」

「特別警備会社トライデント・アウトカムズのケビン菊地さん。射撃・格闘戦、どれを取っても優秀なアメリカ人と日本人のハーフ。違うかしら?」

 ここまで言い当てられ言葉が出なかった。

「そんなことはいいわ。ミコトちゃんのこと知ってそうだから今日から密着取材ってことでいいかしら?」

「おい待て宏美。別に俺は・・・待てよ」

 ケビンは宏美の肩を抱くと、彼女の瞳を覗く。

「ちょっ・・・近い!(うわぁ結構ハンサムじゃん)」

「お前に頼みたいことがある。ここに学校教員の顔写真がある、それを使って調べてほしいことがある」

 耳打ちに詳細を述べるケビン。次第に顔を真っ赤にする宏美。

「えぇ!?恥ずかしいし危険じゃん!?」

「いいのか、いたいけな乙女達の制服が変態オヤジの手に渡っても?」

「ぐぅ・・・わかったわよ、そのかわり解決してよ」

「任せとけ」

 

 

 

 

 

 ケビンは次の日、教職員の見回りの時間を調べることにした。その結果、盗難事件発生日の3時間目くらいに見回りをしていたのは二人、一人は汗臭くてガタイのいい162センチの化学の男性教員、もう一人は若くて細身ではあるが先ほどの男性教員と同じくらいの背丈の数学の女性教員だった。理事長に調査結果を報告する。

「探偵さん。犯人がわかったのですね?」

「えぇ、犯人がわかりました。動機もわかりましたよ」

「動機も?」

「えぇ。犯人は盗んだ制服を転売するのが目的です、だから良い状態で盗むことが大事になる。しかし、こそこそしていては怪しまれてしまう。だから堂々と盗むことにしたんです」

「どうやって・・・まさか!?」

「制服を服の上に着て盗んだんです。ただ、犯人はミスを犯してしまった、それは盗んだ制服を脱ぐ際に破れてしまったことです。お嬢さんの破れた制服が飼育小屋付近にあったことを聞きました、つまりそこらに隠していたってことです」

「確かにあそこなら夜中は静かで人気がありませんね。それに教員なら怪しまれずに入ることができます、ありがとうございました、ここに呼びつけて事情を聴きます」

「あなたに委ねましょう」

 この日、理事長は数学の女性教員を呼び出して状況証拠を突きつけた。しかし、案の定なかなか認めようとしない。側で見ていたケビンは、飼育小屋の裏に隠してあったスーツケースと指紋鑑定の結果を見せると、呆気なく罪を認めた。

「金も欲しかったのもあるのですが、くやしいんですよ、女子高生って生き物はいつの時代でも華やかで。だから教員になって苦しめてやろうと思ったんです。そこで思いついたのだ探偵の言ったトリックです、あのゴリラ先生に罪を着せればラッキーだと思ったのですがね」

 ケビンは静かにPx4を抜き、脳天に突きつけた。

「じゃあここで罪を清算するか?」

 教員は恐怖に怯え命乞いするが聞く耳を持たずに発砲した。しかし、独特の発砲音がしない。弾は抜いてあったのだ。

「どれだけ怖い思いをしたかわかったか、アバズレ」

 あまりに緊張していたのか気絶してしまった。ケビンのスマホが鳴り、電話に出た。

「もしもしどうだった?何、新宿の東南アジア系マフィア日本支部近くにあのアマの姿を見たって証拠を見つけた?そうか・・・ごくろうさま、あとで報酬弾む」

 電話を切った。

「制服の在り処をつきとめました。取り戻しに行きますが、その分の報酬はいりませんよ」

「え?それって・・・」

「ここからはカタギの領域じゃないってことですよ」

 

 

 

 

 

 

 解決した日の翌日。新宿で過激派で知られる東南アジア系マフィアの事務所が襲撃され、壊滅したという報道が朝一番で流れた。メンバー全員が射殺され、アダルトショップに流す予定だった品物の数点が持っていかれたらしい。

『悠然と現場から去っていく男性が多く目撃されましたが、警察の発表によりますと、彼は特別警備会社の人間であり、国から発砲許可を得て行ったそうです。なお、それにつきまして・・・』

 飽きた様子でテレビを切るケビン。左頬に絆創膏が貼られてある。

「あーあ、割りに合わないな。20万じゃ足りないっての・・・しかも」

 事務机を掃除する宏美の姿があった。

「取材終わったのに、どうしてここにいるんだよ、休めないって」

「いいじゃない、お節介な事務員が入ったんだから」

「雇った覚えなんてないぞ!全く・・・」




後々ケビンのデータも載せる予定です


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3話 赤の王女に激しい雨を

 それにしても、今回の事件は割りに合わない


 押しかけ女房の如く現れた小畠宏美を仕方なく採用したケビン。彼女の口から発せられた言葉を聴き、驚きを隠せないでいた。なんと、例のスポーツ記事以来、新聞社のレッドリストに載ったのだ。おかげで記者として仕事がしにくくなり転職を余儀なくされたという。

「お前・・・いったい何をしでかした?」

「ただ笹山プロに関してストーカー紛いの取材しただけよ。いいじゃない、減るもんじゃないし」

 笹山プロはミコトが所属していた芸能プロダクション事務所の名前だ。

「宏美さんよ、できるならそれはやめな。PMCは命を削る仕事が多い、変な動きをしたら一瞬でお陀仏だぜ」

「気をつけるわよ」

「反省色はなさそうだがまぁいい、今回は事務員採用だからライフルやショットガンは持たせられない。ただしハンドガンの携帯許可は下りてるから、これを渡しておく」

 ベレッタPx4を渡す。あえて自分と同じモデルを選んだのには理由がある。マガジンを共有できるようにするためだ。

「口開いた状態ね。壊れてんの?」

「ホールドオープンと言って、弾が抜かれてる状態で渡したんだ。暴発が一番危険だからな。それと注意事項言っておく。基本的に見せびらかすのダメ、射撃なんてもってのほか」

「わかってるわよ、今でも銃なんて一般的じゃないし」

「アメリカじゃないんだ、一般的だと困る」

 宏美の履歴書を英訳したものをロサンゼルス本社に郵送するため、英語で住所を書いたものを白い封筒に入れ料金分の切手を貼る。

「CEOは俺にここの全権任せているが、一応送っておかないと給料入らないからな」

完成した封筒を宏美に渡す。

「持っていけ、郵便局に」

「自分で出しに行きなさいよ!」

「この日を持って事務員の仕事してくれ」

 渋々封筒片手に郵便局に向かった。

「これでうるさいのがいなくなった」

 鬼の居ぬ間になんとやら、ケビンはいつものようにだらしなく椅子に腰掛け親子丼の出前を待っていた。

「口うるさいのがいなけりゃ、ここは静かな事務所なんだがな」

 タイミングよく出前の親子丼が届いた。金を払い、美味しそうに頬張りながら一瞬で平らげた。

「あー食った食った。訓練でもするかな」

 地下に行こうとした矢先、一本の電話が鳴り響いた。

「はい、トライデント・アウトカムズ・・・娘が誘拐された?警察には届けられないから、電話したと?・・・わかりました、詳細を聞きたいので住所をお願いします・・・準備出来次第そちらに向かいます」

 受話器を置き、メモとアタッシュケースをセダンに積んだ。

「西木野病院か。その院長の依頼となると、相当でかいヤマだな」

 帰ってきた宏美に先ほどの依頼の話をする。案の定同行を願い出、ケビンは断ろうとしたが押しに押され同行を許可した。

 

 

 

 

 指定された場所、西木野病院にたどり着いた。総合病院らしく大きな建物で、ケビンは舌を巻いた。受付に院長室に案内されると、メガネをかけた40代くらいの男性が待っていた。

「お待ちしておりました。院長の西木野です」

「トライデント・アウトカムズの菊地です」

「同じく小畠です」

 自己紹介を終えたところで依頼内容の詳細を聞くことにした。なんでも、昨日の午後10時くらいに留守番電話に低い声で『娘は預かった。返してほしければ木更津の埠頭にある○×倉庫に、3日後の午前1時までに5000万円持ってこい、さもなくば命はない。なお、警察には言うな』と言ってきたらしい。

「そのことを南さんに相談したところ、あなたを紹介されたのです」

「・・・ずいぶんと気に入られたな」

「その後ですね、PCメールに娘の監禁された写真が送られてきまして・・・これです」

 PC画面に赤髪の気の強そうな少女が、猿轡され手足を縛られている画像が映し出されている。

「お嬢さんにGPSか何かは?」

「途中でどこかに落としたみたいで・・・」

「そうですか。そういえば、彼女は家にいなかったのですか?」

「えぇ、夕方の4時くらいに友人の星空凛って子の家に泊まりに行くと言ったきり・・・念のため確認しましたが、来ていないそうなんです」

「なるほど・・・固定電話にかかってきたのですか?」

 院長は縦に首を振る。

「でしたら、それを聞きたいのですが」

 

 

 

 

 西木野家に足を運び通話内容を確認する。声はボイスチェンジャーで変えてあることがわかると、次に星空家に向かうことにした。出迎えてくれた母親らしき女性に昨日泊まりに来た子の話を聞いたものの、やはり来ていないらしい。

「ケビン。どうすりゃいいのよ、来てないって話だし・・・」

「西木野家からここまでのルートで、通りそうな場所を洗って、聞き込みするしかないな」

 すると、どこかで見たことある中年が姿を現した。根岸警部だ。

「やぁケビン。どうしたんだそんなところで?」

「仕事で来てるんです、根岸さんは?」

「実はな、赤毛の少女が車に押し込められたって通報があって、それの聞き込みの帰りだ」

「なんですって!?俺達も彼女の情報を探っていたんです」

 誘拐の現場を目撃した人間によると、黒いワゴンが少女の横で止まり、スライドドアが開いたかと思ったら一瞬で引きずりこまれたとのこと。ワゴンだという以外に車種こそわからないが、ナンバーを覚えていたため照合したところ、盗難車だとわかった。

「ケビンはその西木野病院の院長の娘、真姫ちゃんを探しているのだな。誘拐の電話か・・・確かに警察に言いにくいな」

「そうですね、根岸さんもわかったことがあったら教えてくれ。俺も捜査内容を話すからさ」

「そうしてくれ・・・なんで小畠がいるんだ?」

「あ・・・うちで採用したんです、事務員として」

「事務仕事しない事務員か。扱いに困りそうだな」

「ちょっと、笑わないでよ!」

 

 

 

 

 事務所に戻らずその足で木更津に向かった。○×倉庫付近に着くころには日も暮れ始め、視界が悪くなってきたことがわかる。

「ここで待機してくれ。様子を探ってくる」

「わかったわ」

 ケビンは車を降り、トランクからアタッシュケースとマガジンを取り出し、R5を組み立てる。

「さて、観察してみよう」

 R5を背中に掛け、双眼鏡で様子を見る。ケビンは最初、相手はチンピラだと思っていたが、敵の持っているものを見てすぐにマガジンを装填した。

「相手はM870にL85A1、さらに手榴弾を持ってると・・・誰だよ、こいつらは」

 正面の警備が万全だったため、手薄で金網が壊れている東側から入ることにした。雑草が生い茂っており、砂利を踏む音がかき消されていることがわかる。倉庫裏の方で警備に当たっている敵の会話を死角から聞く。日本語のようだ。

「単なる身代金目的の誘拐だって言うのに、どうして銃持って警備しなきゃいけないんだ?」

「お前聞いてないのか、院長先生が警察呼んで銃撃戦になった時のためにこうして装備してんだ」

(こいつら邪魔だな)

 Px4に持ち替えサプレッサーを付ける。背後から頭を撃ち抜き、もう一人も一瞬で倒す。

「見張りはまだいるはずだ。残しておくと危険な気がする」

 外に見張り全員を確実に仕留め、あとは中に入るだけとなった。幸い開けっ広げになっていたため、開ける音の心配こそなかったが、二階にM40A5スナイパーライフルを持った見張りがおり、遮蔽物の少ない倉庫内ではすぐに見つかってしまった。ケビンに向かって飛んでくる凶弾を素早く動くことでかわすが、やはり遮蔽物が少ないためか、反撃に出ることができないでいた。

「あぁくそ、広い場所でスナイパーかよ。こっちは一人なのに・・・?」

 ケビンは気づいた。リロード中でも隠れたりしていないのだ。

「さてはスナイパーは動かないものとでも?だったら」

 てこずっている隙に攻撃し無力化。別のスナイパーも同じように弾切れを誘うように動き、一瞬で仕留めた。

「素人には負けん。さて、探すとするか」

 倉庫に唯一あるドアノブ手を伸ばし、勢いよく開け、敵に向かって556NATO弾を浴びせ、素早く鎮圧した。ターゲットの少女、真姫の拘束を解き、安否を気遣う。

「無事か?」

「だ、大丈夫に決まってるじゃない!」

「俺を睨んでいるようだが、信用できないか?」

「銃なんて持ってるんだから当たり前でしょ!」

「それもそうか、お父さんに頼まれて来たって言ったら信じるか?」

 ケビンはスマホを取り出し、院長に電話を掛ける。

「もしもし西木野院長ですか?娘さんは無事に保護しました、縛られた箇所に痕が残ってるくらいで健康ですよ。今から替わりますね」

 スマホを真姫に握らせ父親の声を聞かせることで安心させた。疑われては動きづらいからである。

「・・・一応、感謝するわね」

「十分すぎる。さぁ行こう、迎えを待たせてある」

 

 

 

 

 真姫を後部座席に乗せ、宏美に運転を任せると、ケビンは助手席でしばしの休憩をとっていた。東京湾を跨ぐ高速道路に乗ったため、あと少し経てば家に着く。

「静かだな」

 R5のマガジンを交換し、いつ襲撃されてもいいように警戒する。

「静かでいいじゃない、真姫ちゃんだってそうでしょ?」

「もう全員倒したんじゃないの?」

「おかしいんだ。警備が9人だけなんていくらなんでも少なすぎる」

 ケビンの勘通りだった、後方から複数台の車が追ってきたのだ。銃声も響き、ボディーに穴が開いた。

「もっと飛ばせ!真姫ちゃんは頭を下げろ!」

「「言わなくってもわかってるわよ!」」

 助手席から乗り出し、なるべく車のタイヤを狙いながら牽制する。拝借したグレネードも投げ、数を減らしていく。それでもなお追ってくる。

「なんで奴らはそんなに必死なのよ、意味わかんない!」

「知るか!」

 それでも迫りくる敵を確実に仕留めるケビン。その途中、車内にある無線に通信が入った。

「ケビン、大層なパーティだな」

「その声は!?」

「パーキングエリアにいるぜ」

 前方に見えるパーキングエリアの屋上に、ブレイザーR93スナイパーライフルを構える男がいた。彼は趙来、トライデント・アウトカムズの狙撃手。

「さて、やるか」

 装填された338ラプアマグナムで次々とドライバーを撃ち抜いていく。トンネルに入る頃には四台しか残っていなかった。趙がいなければもっと多くの台数を相手していただろう。

「これでラスト!」

 最後の一台のタイヤを撃ち抜き、追っ手を殲滅してみせた。翌日のニュースによると、高速道路は昼まで火の海と化していたという。

 

 

 

 

 

 夜が明ける前に西木野邸に到着し、真姫を車から降ろした。

「人生最悪の夜よ・・・もう二度と体験したくない」

「同感だ」

「同感よ」

 ちなみに蜂の巣状態となった車は、すぐさま掛かりつけの修理工場へと運び、半月くらい修理に時間を有したらしい。

「修理代だけでパァになりそうだ。全く・・・」




 スナイパー登場です


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オリキャラのデータ

 ケビン菊地

 27歳

 184センチ

 CV:咲野俊介

 好きな人物像:浜崎伝助

 嫌いな人物像:シャーロック・ホームズ

 

 元75連隊レンジャーの、アフリカ系アメリカ人と日本人のハーフの青年。日本の高校卒業後、単身アメリカに渡り国籍を換え、アメリカ陸軍に入隊。しかし2年後に両親が事故で他界後、任務に力が入らず除隊。遺言によって叔父でもあり、トライデント・アウトカムズのCEOであるロバート・ハミルトンに拾われ入社。その後、アフリカや中東の紛戦地域に派遣され数々の功績を残す。会社の方針によって再び日本国籍に戻し、東京で探偵としての才能も開花させ現在に至る。

 アサルトライフルとショットガンが得意で、それを用いた射撃成績は上位を有する。格闘技も得意。

 悪態をつかれてもクールに流す冷静さと物事を素早く分析する能力を兼ね備えているが、根性の曲がった人間には一切容赦せず攻撃する危険性も孕んでいる。

 上記のとおり危険因子なところがあるが彼によって救われた人物、特に二宮ミコトには慕われており、アプローチが飛んでくることも多々ある。

 本人に自覚はないがかなり顔が整っており、女性からモテる罪な男。

 

 

 

 二宮ミコト

 15歳

 163センチ

 CV:田澤茉純

 好きな人物像:ケビン

 嫌いな人物像:強姦魔

 

 元笹山プロのアイドルで、現在は音ノ木坂学院の生徒。中学時代にケビンと出会い数々の脅威から救ってくれたことから彼を慕っている。現役のころはクール系で売り出していたが、実際には臆病かつ繊細で自分の言いたいことは言いづらい性格。おかげで性悪だと思われがちだが、接してみると非常に心優しい。ただし、ケビンが絡むと落ち着きがなくなることもある。

 引退した理由は、普通の女の子になってストーカーなどから離れたかったから。

 ペットに犬のモモがいる。

 

 

 

 

 小畠宏美

 26歳

 160センチ

 CV:ささきのぞみ

 好きな人物像:優しい人

 嫌いな人物像:悪徳記者

 

 元気のいい元記者の事務員。落ち着きがなくせわしいが、人間を見る目は確か。メイド喫茶が大好きでしょっちゅう足を運んでいる。しかし物好きぶりが災いして入店拒否されたり、報道業界から干されたことがあったりと、お茶目の一言では済まされないことをする。

 もう一つの趣味はカメラで、良い描写があればすかさず撮ることを生きがいにしている。実際に風景写真のコンクールで金賞を受賞したことがあるなど、腕は確か。

 実は結構スタイルが良い。

 

 

 

 

 趙来

 28歳

 178センチ

 CV:小野大輔

 好きな人物像:ロバートCEO

 嫌いな人物像:特にいない

 

 楽天家なトライデント・アウトカムズ上海支部所属のスナイパー。その性格から想像できないが、以前は上海では知らない人間はいないと言われたギャングで、警察から逃げ回りながら身に付けたステルスの才能をロバートに買われ、スナイパーとしての訓練を受けアフリカやチベットで活躍した。今では伝令代わりに動くこともある。

 

 

 

 

 

 オマル

 26歳

 180センチ

 CV:浜田賢二

 好きな人物像:ラーメン屋の店主

 嫌いな人物像:宗教家

 

 穏やかな口調とは裏腹に過激なアクションというギャップが特徴的な元パキスタン陸軍のオペレーター。無信神者で来日した際に棄教した。短気ではあるが不思議なオーラで事務所周辺の住民達、特にラーメン屋の主人からは慕われている。

 軍にいた経験から、身体能力も高く、ケビンからも優秀と言わせるほど。個人的に西側の武器が好きで、装備もUMP-9やKSGと言ったアメリカ製を使っている。

 

 

 

 

 

 

 新垣毅

 24歳

 CV:島崎信長

 好きな人物像:ケビン

 嫌いな人物像:マナーの悪いラブライバー

 

 元陸自の新兵。普段は経理担当だが、必要とあらばポイントマンとしての仕事もこなす。実戦経験こそケビン、オマルに比べて少ないもののポテンシャルは決して劣ってはいない。トライデント・アウトカムズに入社してから給料が上がり、着々と装備も整って来つつある。

 推しメンは園田海未で、彼女の前では緊張することが多い。

 

 

 

 

 

 

 

 ロバート・ハミルトン

 年齢非公開

 CV:酒井敬幸

 好きな人物像:せがた三四郎

 嫌いな人物像:悪徳軍人

 

 アメリカ海軍ネイビーシールズを名誉除隊し、現在はトライデント・アウトカムズのCEO。最終階級は中将。

 その明るい人柄と頭の回転の速さで下っ端隊員からも人気があり、独特の空気を醸し出しているが、ビジネスマンとしての手腕も一流。コードネーム・スケアクロウの名前の通り、紛争地を転々としていた頃に培ってきた冷徹さもあり、必要ないと判断すればたとえ友人であっても容赦なく切り捨てる。会社が大きくなった一番の理由はM&Aであることは有名。(M&Aとは合併・買収のこと)

 自ら前線に立つことがあり、腕もなまっていない。

 ケビンの叔父であり、兄トーマス中将の忘れ形見でもある彼のことは非常に心配している。

 設立当初から紛争地での学校設立などのボランティア活動に力を入れており、多くの少年兵が武器を置き、科学者や芸術家等で活躍している。

 

 

 

 

 

 

 

 ドミニク

 27歳

 CV:中井和哉

 好きな人物像:地元出身のレスリング選手

 嫌いな人物像:成金

 

 買収されたアーロン・インターナショナルの社員。現在はトライデント・アウトカムズ札幌支部を任されている。

 非常にケチで、任務に必要な武器すら買おうとしなかったが、ケビンに無理矢理買わされる。大事にしているが。

 腕はそこそこあるが、警察出身なので犯人逮捕を基本としている。最近は評判も上がり気味で、依頼が増えている。しかし多くは猫探しや観光案内であり、収入はあまり芳しくないのが悩み。



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4話 狂気は突然やってくる

探偵いるところに事件あり


 今日は趙が帰国する日だ。

「そうだケビン。CEOからお土産」

 そう言って大きな麻袋を机の上に置く。中身は分解された銃だった。

「俺これだけのために日本に来てさ、まさか任務の手伝いするなんて思いもしなかったぜ」

「あの時は助かった。だが、早く上海に帰ってくれ。飛行機遅れるぞ」

「うわやっべ、また会おうぜ」

 そそくさと事務所を後にする趙。

「いいの見送らなくても?」

 近くで事務仕事していた宏美がケビンに話しかける。

「別に構わん。あいつとはなるべく関わらない方がいい、元上海ギャングで相当なワルだったんだ。以前アフリカで仕事したことがあってな、しょっちゅう依頼人と揉め事してた。しかも俺までトバッチリだ」

 かなり渋い顔をしながら銃を組み立てていくケビン。手慣れた様子ですぐに終わり、全景が現れた。AK47に似たような風貌だ。

「なんか紛争地帯にありそうな銃ね」

「こいつはサイガ12Sセミオートショットガン。ロシア製で信頼性が高い銃だ」

 地下室に持って行き、壁に掛ける。弾薬の在庫も確認すると、ようやく戻ってくる。

「そろそろ昼飯時だ、休憩に入っていいぞ」

「いいんすか?グヘヘ、さっそく急行よ!」

 一目散に外へ出て行った宏美。目的は例のメイド喫茶なのだろう。

「去年より騒がしいが、まぁいっか。俺も飯食いに行くかな」

 

 

 

 

 神田にある小さな定食屋に入り、適当に座る。刺身定食を注文し静かに待つ。

(事件なんて起きない方がいい、アフリカや中東で見飽きるほど見てきた。このような世界を、革命と言って虐殺する奴らが見ていたらどれだけ驚くか知りたい限りだ)

 ふとケビンの対面に一人の少女が座る。サングラスを外し、顔を見せる。二宮ミコトだった。

「相席いいですか?」

「構わないよ」

 ミコトが楽しそうにしているのがわかる。

「そんなに俺が食うところ見るのが楽しいか?」

「だって、先生の昼食シーンなんてなかなか見れませんから」

「まるで一日中空腹みたいじゃないか。俺の仕事は体が資本だからな」

 平らげると、ミコトが注文したコロッケ定食が来た。

「そういえば学校はどうした?」

「午前中で終わりです。帰ってる途中で先生を見てそれで」

「ついてきたのか・・・家にモモが待ってるんじゃないか?」

「モモちゃんなら大丈夫だと思います。良い子にしてますから」

 モモとはミコトの飼っている犬の名前だ。人懐っこい性格でケビンにも懐いている。

「これから暑くなる。熱中症の心配も、考えた方がいい。それに、忘れたわけじゃないよね」

 去年、ストーカー騒ぎがあった。モモの頭の上に小型カメラが仕掛けられ日常生活が丸見えだったことがあった。犯人は彼女のマネージャーで、真相を突き止めたケビンが解決したのだが、そのマンションから引っ越しをしていない。

「あそこは防犯対策ばっちりだから大丈夫だと思うんです」

「あのなぁ、慢心しちゃダメだぞ。どんな防犯でも穴が必ずあるからな」

 途端、ミコトのスマホに電話がかかってきた。ケビンは目でOKサインを出す。

「あ、大家さん、どうしたんですか?・・・え・・・わかりました・・・」

 彼女に笑顔が消えた。

「どうしたんだ?」

「モモちゃんが・・・撃たれたって・・・」

 

 

 

 

 ミコトのマンションに向かうと、パトカーが数台止まっており入り口には黄色のテープが張られていた。

「もうこんなに・・・」

「何が起きてんだ?」

 ケビンはマンションの管理人に話しを聞くことにした。なんでも、モモを撃った犯人がマンションの清掃員も射殺されたらしく、逃走ルートがたまたまミコトの部屋を通り、その際に出くわし覚えられては危険と判断した犯人がやむなく発砲したと、警察は説明しているらしい。モモは動物病院に緊急搬送されたそうだ。

「ミコトちゃん」

 小さく震えながら涙を流すミコト。家族を失い、悲しみに暮れる彼女の肩を優しくたたく。

「モモちゃん、ごめんね、一人にしてごめんね・・・」

「大丈夫か?辛いなら、現場から離れてもいいんだぞ」

「うん」

 事務所に連れ帰り、ケビンはミコトに紅茶を入れた。彼女は彼の淹れた紅茶が好きだからだ。

「気分はどうだ?」

「だいぶ、落ち着きました」

「そりゃよかった。今日は災難だったな」

 小さくうなずく。

「でもどうして・・・あの子は人はおろか、カラスにも吠えないのに」

「確かにそうだったな」

 ふけていると、一本の電話が鳴り響く。

「もしもし。あ、根岸さんどうしたんですか?」

「困ってしかたないんだ!」

 

 

 

 

 相変わらず突拍子もなく電話する根岸。

「だから何が?」

「二宮ミコトの愛犬襲撃と清掃員殺害に使われた拳銃がわからないんだ!警視庁のデータベースに照合しても何にもでないんだ!」

「ライフリングが、どれも合わないと?」

「そう。ケビンなら銃に詳しいだろ?助けてくれんか?」

「・・・わかったよ。報酬ふんだくるから覚悟してくださいよ」

「おお感謝する。わかっていることなんだが、種類は9×19で誰も音を聞いていないことからサプレッサーか何かをつけたかもしれん」

「ほかには?」

「高所清掃用ゴンドラに清掃員の遺体が発見されたんだが、かなり残虐的でな、20発くらい胴体に撃ち込まれてたんだ。犬にも4発撃ち込まれていたんだよ。空薬莢が数だけ落ちておった」

「なるほどな。目撃者はいたのか?」

「それが・・・誰もいないんだ」

「住人及び仕事に入った他の面子もか?」

「そのようなんだ」

「わかった。後は調べておくよ」

 電話を切ると、ケビンは脳内で情報をまとめるため、紅茶を飲んだ。

(薬莢が落ちていたってことは、リボルバーではなくオートマチックを使ったってことだ。警察のデータベースに乗っていないとなると、拳銃じゃない可能性が高い。だとしたら・・・)

 推理中に宏美が帰ってきた。かなり有頂天な様子だ。

「グヘヘ天国だった・・・って、あれ?」

「あ、引退会見で取り乱してた記者さん」

「どうしたの?依頼かしら?」

 警戒してケビンの後ろに隠れるミコト。

「大丈夫だ。一応、ここの事務員だから」

「そうよ、もうつけまわしたりしないから安心して?」

 

 

 

 

 ミコトが落ち着いたところで事件の概要を宏美に話す。

「ワンちゃん撃れてたって・・・どこの誰よそんなことしたの!?」

「それがわかっていたら、俺がそいつを捕まえてるよ。少しは落ち着け」

「グヌヌ・・・それもそうね」

「でだ、今回ばっかりは俺一人で仕事をやらせてもらう。ヤバそうな気がするんでな」

 Px4を取り出し、マガジンを装填する。

「相手は昼下がりに銃ぶら下げて歩く野郎だ。なるべく早く解決しないとまずい」

「先生・・・」

「俺は簡単には倒れんよ。これでもレンジャー上がりだ、戦いには慣れてるつもりだ」

 ケビンは地下に向かい、壁にかけていたR5を手に取り、布製ソフトケースにしまった。

「ミコトちゃんを頼んだ。現場に行ってくる」

 

 

 

 

 事件のあった現場に足を運んだケビン。

「いきなり現れてどうしたんだケビン。遺体なら検死中だぞ」

「俺が知りたいのは遺体が乗っていたゴンドラです、見せてもらってもよろしいですか?」

 根岸に案内されてゴンドラを見ることができた。試しに乗ってみると、成人男性が4人乗れる広さとケビンの肩くらいの高さがあった。血が付いていた箇所は足元に近いあたりに集中していた。どうやら座っているときに攻撃されたようだ。

「貫通してるな、仏は細かったか?」

「確かに筋肉が付いてる感じじゃなかった。部屋も見てみるか?」

「あぁ」

 部屋に入ると、外からカギを開けるために窓ガラスが半月に最小限にくり貫かれている。割るよりもリスクの低い方法だ。用意周到な人間だということを確信する。

「モモの撃たれた箇所は?」

「両足に1発ずつ、胴に2発。犬に恨みでもあるのか?」

「おそらく、覚えられたら困るからだろう。犯人が、犬アレルギーか否か聞いたほうがいいな」

 現場をあとにして数分後、根岸のケータイに電話がかかってきた。

「もしもしどうしたんだ?・・・え?清掃会社の社員がどこかに消えた?わかった、緊急配備を命じる」

 電話を切り、ケビンにも内容を伝えた。

「清掃会社に行ってくる。根岸さんは探しといてくれ」

 

 

 

 

 同じころ、宏美はミコトと一緒に動物病院に来ていた。なんでも、手術が成功し奇跡的に助かったため、そのお見舞いだ。

「よかったわね、モモちゃん回復傾向だって」

「うん、でも入院1ヶ月」

「つ、辛いわね」

 両足が撃ち抜かれあげくに胴にもダメージを受けたのだ。入院期間も妥当だとも言える。

「治療は先生に任せて、私達は戻りましょ」

 ミコトを連れて事務所に帰る途中、誰かにつけられていることを感づく。宏美は進路を変え、追っ手を撒こうとするがなかなか撒けない。

(まさか犯人?だとしたら、ケビンに連絡する必要あるわね)

 後ろを気にしながらメールを送る。

「どうしたの?」

「誰かが私達を追ってるわ。どうにかして、あなたを守る」

 啖呵を切ったはいいが、ケビンと違い素人かつどこか頼りない。しかも銃を忘れてきたという、失態を犯してしまっている。

「宏美さん、ドジ?」

「くやしいけど、そうみたい・・・」

 すると、誰かが倒れた音が聞こえ、急に振り向く。

「だ、誰!?」

 

 

 

 

 メールを受け取ったケビンは清掃会社から聞き込みを終え、いなくなった社員の自宅に向かう途中だった。緊急のメールに驚くが、現在地まで丁寧に教えてくれてたため、急行することができた。

「おい、生きてるか?」

「えぇ・・・なんとか」

「っで、誰なんだ。その子は?」

 瑠璃色の美しい長髪に低くもなく高くもない背丈の少女がそこにいた。

「確か・・・園田海未って名前の先輩」

「μ’sのメンバーの一人よ。でもなぜこちらを追ってたのかしら?」

 すると、腹の虫の声が聞こえる。どうやら空腹らしい。

「まさか食わずにいたのか?仕方ない、持って帰ろう」

 

 

 

 

 連れ帰り、ソファに寝かしつける。その後、ケビンは二人に写真を手渡した。髭が濃い白人の男が写っている。

「こいつはダニエル・マルクス。見たことある名前だと思ったら、マイアミで高校銃乱射事件の容疑者として指名手配されているとわかった。おそらく密入国してこの国に来たんだろうな。じゃなきゃ普通には入国できない」

「ちょっと、どうしてあんな奴雇ったのよ!?」

「これも推測に過ぎんが、経歴を偽ったんだろうな。ミコトちゃんはここで泊まっていけ、宏美は・・・別にいいか」

「なによ、人を攻撃されないと思って!?」

「いくら奴とて、変に動いたらバレる。根岸さんにも伝えたから、街の警備も万全のはずだ」

 宏美が騒がしかったのか、海未が目を覚ました。

「う・・・ここは?」

「トライデント・アウトカムズの事務所だ。出前の親子丼があるから食ってくれ」

 親子丼をかき込む。よっぽど腹を空かせていたらしい。

「ごちそうさまでした。ことりが言っていた探偵さんって、あなたですか?」

「確かに俺だが?」

「逞しい体に鋭い眼光・・・確かに恐れるものはありますね」

「おいおい、まるで怪物みたいだな」

「それだけじゃありません。学院の制服泥棒事件も解決してくれた、ヒーローでもあるんです」

「それは結構だが、二人を追っていたのにも理由があるのか?」

「実はですね。UTX学園の知り合いに、最近怪しい人影が右往左往してるって話を、ことりと聞きまして、誰か優秀な警備員がいないかって・・・そうしたら、ことりがあなたを紹介してくれました」

「・・・ひとつ、思ったんだが。どうして電話入れなかったんだ?ことりちゃんに名刺渡したから、知ってるはずだけど?」

「あ」

 どうやら考えが及ばなかったようだ。

「まぁいい。ところで、どんな人か聞いたかな?」

「髭の濃い、白人の男性だと聞きました。それ以外はなにも」

 ケビン達は内心焦っていた。仮にその男がダニエルだとしたら、この街の平和が脅かされるだけでなく、最悪死傷者が出ると予想できるからだ。

「なるほどな。情報提供ありがとう」

 途端、外から銃声が響く。辺りから悲鳴も響き渡り、外へ出ると人々が混乱して逃げ惑っている。

「先生・・・」

「ここにいろ、俺が出たらドアの鍵を閉めておけ」

 

 

 

 

 人ごみを掻き分け音のする方へ走ったケビンは自分の勘の鋭さを呪った。大柄で髭の濃い白人の男、そう、ダニエル・マルクスが黒髪ロングでスレンダーな少女を人質に、英語で現金と逃走用車両を要求していたのだ。よく見ると、警察官の死体が転がっている。

「ダニエルここまでだ!おとなしく彼女を解放しろ!」

 R5を構え、彼の脳天に狙いを定める。

「あぁ?日本の警察はライフルも使うようになったのか?」

「俺はあいにくPMCの職員でね。凶悪犯の射殺は許可されてる、死にたくなかったら彼女を放せ!」

「うるせぇ!俺はこの女が気に入ったんだ、さっさとどけ色黒野朗!」

 ダニエルの右手を見ると、MP9サブマシンガンが握られていた。これで多くの命を奪ったのだと確信する。

「そのMP9で、罪のない人間と犬を殺したのか?」

「そうだ。俺は愛犬家でね、殺さずに手加減したぜ?」

 ケビンの心中は怒りで満ちていた。罪悪感なく国を渡り殺人を犯し、さらに逃亡しようとするこの男を野放しにしてはいけないと。

「どうした、要求が飲めねぇのか?」

「・・・その子が盾になるのか、考えたことあるか?」

「なに!?」

 ケビンはダニエルが取り乱したのを逃さなかった。少女がしゃがんだことを確認した一瞬で脳天に556NATOの1発を撃ち込み、無力化した。

「ぁ・・・ぁ・・・」

「もう大丈夫だ、あいつは地獄に送った」

 腰を抜かし、放心状態になった彼女を安心させるため、武器を収め、距離をとって接する。数分後、根岸が駆けつける。

「ケビン、無事か!?」

「大丈夫だ。それよりも彼女を頼む」

 朝から曇っていた空から一粒の雨が降ってきたと思ったら、急に降水量が増してきた。

「雨に濡れればって気分じゃないな。帰ろう」




サスペンス系でよく出る丼は好きだ


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5話 平穏からの事件

 ケビンの意外な事実が発覚


 この日、UTX学園の理事長が事務所を訪れたかと思えば、トランクを開け、100万円もの現金を見せた。どうやら先日助けた少女がそこの生徒だったらしく、その謝礼らしい。

「正直、特別警備会社のことを軽蔑していましたが、生徒の命を救ってくださいました。礼には礼を尽くす所存です」

「下心ぐらい、あるんじゃないか?」

 ケビンは正直、芸能関係の人間が苦手だ。アメリカにいたころ、テレビ局からの依頼でアフリカで撮影のため、護衛として同行したことあるが、そこのルールを破り散々騒いだあげく、視聴率が取れなかった責任をなすりつけられそうになった経験があったからだ。

「いいえ。私どもにも世間体というものがありますゆえ、再発防止に取り組みますよ。では、これで失礼します」

 帰ったのを確認すると、ケビンは出前の電話する。

「菊地です。ええ、今日は海鮮丼お願いします、はい」

 今日もだらしなく寝そべる。

「ったく、苦手だ。腹に逸物抱えてやがった」

 途端、電話が鳴り響く。

「はい。根岸さん、また事件じゃないだろうな・・・飲みだって?わかったよ、夜、近くのラーメン屋な」

 珍しく根岸が飲みに誘ってくれた。せっかくなので夜行くことにした。

「どうしたんだ根岸さん、急に飲みに誘って?」

「お前が救った女の子いただろ?彼女、会ってお礼が言いたいそうなんだ」

「それの相談ですか。UTXの生徒となると、たいそう金持ちで庶民感覚ないイメージしかないんだが」

「大丈夫だ。A-RISEのメンバーで、一番の常識人らしいから」

「なんだその、アライズってグループは?」

「まさか・・・知らないのか、スクールアイドルを・・・」

「全く知らん。μ’sもその類なのか?」

 ケビンの言動にショックを受ける根岸。

「俺、何か言ったか?」

「お前世間知らずと言われてもおかしくないぞ?」

 

 

 

 

 同時刻。ミコトは従姉の統堂英玲奈に電話する。

「英玲奈さん元気?」

「まぁ・・・でもあれほどの恐怖は、生まれて初めて。でも、ミコトはもっと怖い思いしたんでしょ?」

「そうね。マネージャーに貞操奪われそうになったり、担任に居場所を奪われかけたり・・・そんなときでも、ケビン先生に助けてもらったから、今まで生きてると思ってるの」

「あの人か。ろくにお礼が言えなかったな・・・」

 電話越しから残念そうに聞こえる。本当に真面目な人だと、ミコトは思った。

「なぁ、今度一緒にケビンって人の事務所に行かないか?」

「えっいいけど、先生いろいろ忙しいし、いつ事務所にいるかわからないわ」

「なに、いい考えがある」

 

 

 

 

 翌日。ケビンはミコトに呼ばれ、和菓子屋穂むらに足を運ぶ。

「待たせたな。ところで彼女は?」

「統堂英玲奈。私の従姉でA-RISEのメンバー、以前ケビン先生が助けた人です」

「思い出した、もう外歩いても大丈夫なのか?」

 縦に首を振る英玲奈。恥ずかしいのか、ミコトの後ろに隠れている。しかし、ケビンには何故、彼女がミコトと一緒に来たのか理由がわかっていた。

「お礼言いに来たんだろ。大丈夫だ、気持ちはもう伝わってる。だから胸張って、現れてくれ」

 説得に応じ、ようやく前に現す。

「あ、ありがとうございました・・・」

「いいよいいよ。せっかくだし、饅頭買って帰るか?」

 店舗に入ると、優しそうな女性が3人を出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、どれにしますか?」

「そのほむまんなるものを20個くれませんか」

「はい、2千円になります」

 ケビンは財布から紙幣を取り出し、女性に渡すが、何かぎこちない。よく見ると20ドル札が握られている。

「失礼、これで」

 20ドルから千円札二枚に替え、会計を済ませ、箱詰めされたほむまんを受け取る。その様子を見ていたミコトがクスりと笑う。

「先生って、意外に天然なところがあるのですね」

「未だにドル札入ってるからな、俺の財布」

 普段笑わないミコトが笑っている。英玲奈は彼が彼女に与えた影響がただものではないと感じた。

(こんな男性、絶滅したかと思ったのに)

 

 

 

 

 事務所に戻り、3人分の紅茶を淹れる。今日は宏美は休暇であり、戻ってくる心配がなかった。

「アールグレイだけど、口に合うかな?」

「おいしいです」

 ミコトが自分の淹れたものが好きなことは知っていたが、英玲奈も好きとは限らない。幸い気に入ってくれたようだ。おいしそうにほむまんを頬張っている。

「いい光景だな。中東じゃなかなか見られない」

「「中東?」」

「おやつ食ってるときに話す内容じゃないけど、俺が行った先は紛争やらなんやらが多くてね、どうしても和やかな空気にはならないよ」

「・・・実体験ですからね」

「その話はやめにしよう。それにしても、従姉妹同士とは思わなかったな」

「誰にも伝えていませんからね。雰囲気は近いって言われるけど」

 確かに口数が少なめで、おとなしいイメージであるからには非常に似ている。

「典型的に似てないところもありますよ。例えば・・・」

 残念そうな顔をした英玲奈はミコトの大きめの胸を突く。

「私薄いのに、この子は・・・」

「あのう、男性の目の前では控えて・・・」

 さすがのケビンもドン引きしてしまう。

「英玲奈ちゃん言いたくないんだけど、男の前で胸を突いたり弄るのはやめたほうがいい。最悪、君が襲われるよ」

「あ・・・」

 恥ずかしさのあまり、萎縮してしまったのだった。

 

 

 

 

 二人が帰宅した後、事務仕事をあらかた片付け、Px4の手入れを始めた。

「久しぶりに平和な一日だった。こんな日が続くといいんだが、探偵の性か、どうしても事件は起きるんだよな」

 少し残念そうに筋トレを始める。一日でも欠かしたことはない。

「ふぅ・・・体動かすとスッキリするな」

 爽快な気分を妨げる電話が鳴った。

「はい、トライデント・アウトカムズ。英玲奈ちゃんか、無事に帰ったか?・・・え、父親が重傷?警察には電話した?・・・わかった、待ってろ」

 UMP-9をレンタカーのトランクに積み、統堂邸まで急行した。すでに警察が駆けつけており、英玲奈が事情聴取を受けていた。

「ケビンちょうどよかった、実は妙なんだよ今回の事件も」

 根岸も駆り出されているようだ。彼によると被害者はこの居間でうつぶせで倒れていたらしい。

「どうしたんですか?」

「後頭部に何かで殴られた後があったんだ」

「凶器が見つからないのですか?」

「全然見つからない。まるで斑模様みたいな痣でな」

「へぇ・・・っで、そういえば被害者の腰撃った銃は見つかった?」

 ケビンは足元に散らばっている、プラスチックの割れたものを見つける。それはかなり小さなものだった。

「それもわからない・・・ケビン、どうしたんだ?」

「根岸さん、一応聞き込みしてくれ。二回銃声がしたか否か」

「え?」

「俺の勘が正しければ、気絶させた方法で犯人を特定できるかもしれない」

(おそらく、犯人は殺す気なんて最初からなかったが重傷負わせたいほど憎んでいた人間だ)

 そう思い、ケビンは英玲奈のもとへ向かった。

 

 

 

 

 ショックを受けているのか、落ち込みようがひどい。かと言って事務所に泊めるわけにもいかず、とりあえず彼女を搬送先の病院まで送ることにした。

「気分は・・・良くないな」

「・・・」

「ねぇ英玲奈ちゃん。お父さんの猟仲間で、黒いうわさのある人知らない?」

 彼女は首を横に振るだけ。ケビンは一緒に病室に入り、彼女と父親だけにしてから病院を去った。帰る途中、根岸から電話がかかってきた。防犯カメラの映像にケビンと同業者であるマーキュリーセキュリティーの御手洗腹蔵が犯行時刻に統堂邸を出入りしていたこと、時間差こそあったが銃声を二回聞いたことが聞き込みでわかったらしい。

「やはりな。あそこは警察や軍からの横流し品を買い取って、品質を良いことを装う糞共の集まりだ。暴徒鎮圧弾で気絶させ、その後腰に散弾を浴びせたんだ。今ならそいつを検挙して、ライセンス剥奪のチャンスだな」

「なるほど。あとは任せてくれないか?」

 後日、逮捕状および家宅捜索令状を提示した捜査一課が御手洗を逮捕。同時にマーキュリーセキュリティーは信用を失い業務自粛を余儀なくされた。




 このマーキュリーセキュリティー、今後もライバルとして出す予定です


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6話  面子と風習

 名誉ある殺人なんてない


 この日は月に3回ほど来るガンスミス、ジョセフが来る日だった。小柄で髪が白くメガネをかけた老人だが腕は確かで、ケビンのレミントンR5をオーダーメイドで改造してくれた男だ。今は銃身に改造を施している。

「おい若いの、お前一人で戦闘員大丈夫なのか?日本の犯罪がアメリカ化してるって話じゃないか」

「それは悩んだのですがね、なんだろう、最近マーキュリーセキュリティーが不祥事起こしたばっかりだから、特別警備会社への風評被害が」

「そもそも求人してないだろうが。粋が良い野郎に声かけて採用したらどうだ?」

「訳有りだけは、勘弁願いたいな。かといって広告か・・・うーん・・・」

 ケビンが解決した事件の波紋が自分のところにまで及んで来ており、仕事が少しではあるが減ってきている。もっとも、探偵業の仕事は減っていないが。

「そういや、ワシが来日する前から事件があったのう。なんでも、下町でパキスタン人の女性が殺されたって事件」

「あぁ。犯人は依然として捕まっていない。銃弾数発撃ち込まれて死んでたってやつだったな」

「お前さん何か気づいてんじゃないか、真相を」

「あの事件の捜査協力はしてない。資料と現場見ないとわからんな」

 ジョセフが来日する5日前の昼頃、下町のアパートの一室で女性が銃殺された事件があった。報道によれば物音がしなかったため、サプレッサーをつけた銃で心臓部を数発撃ち込まれて死亡していたらしく、彼女の恋人である、パキスタン系日本人のオマルが任意の事情聴取を受けているとのことだった。その報道を見ていたケビンは違和感を覚えていた。

「それもそうか。それよりもできたぞ」

 R5の改造が終わり、ケビンに渡す。ジョセフは次の仕事にかかった。

「フラッシュハイダーか。それにフロントグリップもアングルフォアグリップにして、携行しやすくかつ反動制御もしやすくなる逸品だ。よく仕入れたな」

「ガンスミスにも事情はある。流行りやらにもアンテナ張っとかないと商売あがったりだからな」

 サイガ12を分解しながら文句を言うジョセフ。

「だいたいお前は堅物過ぎんだ、もっと柔軟な奴雇って賑やかにしやがれ。重苦しいったらありゃしねぇ」

「事務員がいるが、あいつじゃだめか?」

「あの姉ちゃんか。確かに面白い奴だが異性と話すの苦手なんだよ」

「おいおい・・・ある意味職業病じゃないか」

 

 

 

 

 サイガ12の改造が終わったと同時に依頼人が事務所に入ってきた。眼鏡をかけた気の弱そうな少女だ。

「あのぅ、しつ・・・」

 少女がサイガ12を手に持ったケビンを見て絶句する。そして

「だ、誰かたすけてー!?」

「ちょっと待って、ここは特別警備会社だから勘違いされたら」

 どうにかして落ち着かせたケビンは少女をソファに座らせる。

「・・・ごめんなさい、銃なんて初めて見るものですから」

「いいんだよ。それよりもさ、ここに来るってことは俺に依頼するために来たんじゃないのか?」

 少女もとい、小泉花陽はケビンにボディーガードを依頼するためにやって来たという。彼女によれば4日前に誰かに付けられているらしく、下校中にもその人影が見えたり隠れたりしているとのことだった。

「花陽ちゃんさ、ストーカー以外になかったか?たとえば、犯行予告の手紙とか」

「ええっと、確か変な字らしいものが書かれた手紙が届いたような」

「今持ってる?」

「家にあると思います。ですけど」

「まぁ怖いよね、ストーカー相手じゃ。よし、俺が代わりにとってきてやるから家の人に電話入れといてくれ。じいさん、彼女守っといて」

「ワシが!?」

 

 

 

 

 小泉邸に着いたケビンは問題の手紙の中身を見てみることにした。英語やロシア語とも違って、まるで暗号だがケビンには見覚えがあった。

「これはウルドゥー語?パキスタンで仕事してた時によく書かれてたものだけど、まさかね」

 数年前、パキスタン郊外へ暴徒鎮圧の仕事していたときによく目にした文字だ。

「とりあえず、花陽ちゃんに知り合いにいるか聞いてみよう」

 事務所に帰ると、困り果てるミコトに強く迫っている花陽の姿があった。ジョセフは地下の射撃場で銃の整備をしてるのだろう。

「ミコトちゃん。サインの次は写真を一緒に撮ってください、お願い!」

「え・・・でも・・・引退」

「ひとの事務所で何してんのかな?ここはコンサート会場じゃないんだぞ?」

 ケビンが間に入ることで事態は収束する。

「ごめんなさい・・・つい、目の前にスターが現れた思ったら」

「・・・まぁいい、ところで知り合いにインドかパキスタンに行ったことある人とかいる?この手紙の文字はインドやパキスタンで使われてるウルドゥー語だ、出身か数年以上いないと読むのも苦労する言語を手紙で送るとは考えにくい」

「?いませんよ?」

「そうか。残念だが俺でも読めない」

 ケビンは内容を知るためにはウルドゥー語が読める人間が必要になる。ウルドゥー語を日本語に訳するには、辞書で数日かけて調べるよりも、二カ国できる人間を使ったほうが手っ取り早い。

(・・・ん、そういえばパキスタン人女性が殺害された事件の容疑者もパキスタン系だったな。よし)

 ケビンはスマホで根岸に電話する。

「あぁ根岸さん、オマルの家の住所を知りたいんだが」

 

 

 

 

 根岸の紹介でオマルの家のアパートへ向かった。呼び鈴を鳴らすと180センチほどある、オールバックの目の細いパキスタン系の男が現れた。

「さきほど連絡したケビン菊地です」

「お待ちしてました、ささ、お入りください」

 オマルは彼を部屋に招き入れると、作っておいた冷やしたストレートティーをグラスに注ぐ。

「話は聞いています、手紙を読ませてください」

 ケビンは手紙を渡すと、オマルはその内容を黙読する。

「こ、これは・・・間違いなく脅迫状です。3日後下校途中に友達ごと殺すと書いております」

「なんだって!?」

 二人は驚いた。まさか本当に脅迫状だとは思わなかったからだ。

「殺害方法は銃殺。彼女にボディーアーマーを着せておいたほうがいいですね」

「・・・なぁ気になることがあるんだが、何でお前から火薬のにおいがするんだ?」

「元々パキスタン陸軍にいました。ですが、祖国が嫌になって日本へ来たんです」

「なるほど、じゃあ俺が銃持ってることもわかってるってことか」

「えぇ。ハンドガンをショルダーホルスターで携帯してるのですね?」

 こいつただ者ではない。ケビンはそう肌で感じる。

「ご名答。それと同時にアンタはストーカーではないことがわかった。日本語がうまい」

「入国して3年経ってますから。それに、ストーカーとは?」

「そのことなんだが」

 ケビンは花陽の写真を見せた。

「彼女を知ってるか?」

「μ’sのメンバーだった、小泉花陽でしたか?テレビじゃ見たことあるけど、本人を直接見たことはないですね」

「今、彼女のボディーガードをしている。訳あって離れているけどな」

「なるほど。ウズマ殺害事件と彼女のストーカー事件が繋がっていると、考えているのですね?」

「ウズマ?」

「テレビでやってる殺人事件です。元軍人で第一発見者というだけで事情聴取受けましたが、死亡推定時刻に僕が喫茶店でケーキ食べていたことを証言してくれた店員さんがいて、無実だとわかってくれました」

(花陽ちゃんに話を聞く必要性が出てきたな)

 

 

 

 

 夕方、ケビンは花陽に事件現場近くにいたか聞いてみた。すると、意外なことを口にした。なんと逃げていく外国人を目撃したという。

「まさか」

「そのオマルって人が犯人だと思っていました。特徴が似てたので」

「体格が似ていたのかい?」

「背丈も服装も、髪型も」

 ケビンは根岸に電話することにした。

「根岸さん、被害者の親族関係かつ日本への最近になって渡航歴ある人間調べてくれますか?・・・えぇ、そいつらが怪しいかと」

 電話を切ると花陽に向かって

「君の目撃証言が今回のストーカー事件に関係してあるかもしれない。だが、絶対に君を守る」

「え?」

「君が見たのは真犯人だっただろう。犯人はおそらく君を見つけ次第行動を起こすだろうな」

 サイガ12を手に取り、マガジンを装填した。

「相手が銃なら、こっちも銃で対抗する。目撃者を消そうなんて考えやがって」

 

 

 

 

 それをソフトケースにしまい肩にかけると、ケビンは花陽を家まで送ることにした。すっかり日が暮れてしまったが、あえて距離を大きく離しての護衛、これはストーカーの正体がわからないためだ。

(護衛を雇ったと知ったら、おそらく変更を余儀なくされる。その一瞬を捕まえればラッキー、そうでなくてもつけている証拠を掴める)

 予想通り、陰からオマルと同じくらいの大きさの人物が花陽をつけている。ケビンは気づかれないよう背後から近づき、背中にPx4を突きつけた。

「動くな。握っているものを捨てるんだ」

 金属を落とした音が聞こえる。街灯の光を反射するそれは、ナイフだった。

「よろしい」

 グリップで叩きつけ相手を気絶させた。ケビンの予想通りその男はパキスタン人だった。

「丸坊主か。カツラ被れば確かにオマルに化けれるな」

 心配そうにしながら花陽が戻ってきた。

「心配ない、気絶しただけだ。これでストーカーは来ないよ。あとは俺に任せてくれないか?」

 

 

 

 

 根岸に男の身柄拘束を任せると、ケビンは自分の部屋で根岸からの連絡を待っていた。

「まだか」

 そう思った矢先、スマホが鳴り響く。

「根岸さんか。吐いたか?」

「あぁ、自供はしたが何か隠してるんだ。まるで複数犯のような感じでな」

「・・・こいつは他の連中と渡航したのですか?」

「そのようだな、しかも親族の男3人で」

「滞在場所は?」

「浦安の一軒家らしい。管轄外だ」

「そうか、あとは大丈夫でしょう。また飲みにいきましょう」

「おぉそうだ。いい忘れていたんだが、被害者は犯人の妹だったようだな」

 ケビンは背筋に電撃が走った感触を覚える。恋人、渡航、親族、パキスタンの田舎。すべてが繋がった。

「住所教えてください・・・わかりました。お休みなさい」

 電話を切ると、サイガ12の入ったソフトケースを手に取り、レンタカーに乗せた。

(こいつらは野放しにできない。オマルはともかく、花陽ちゃんが安心して暮らせなくなる・・・おそらく相手も犯人を救うため銃は持っているだろう。その前に俺が奴らを始末する)

 

 

 

 

 教えてくれた住所の通りに車を進め、ケビンはサイガ12を手に降りる。呼び鈴を鳴らすと、何も知らないパキスタン人の男が出てきた。彼の腹にめがけて引き金を引き、ダウンさせる。銃声を聞いた銃を武装した他の男たちも駆けつけるが、サイガ12の前には無力だった。

『もう一発くらいたくなければ武器を捨てろ』

 英語でそう伝えると、男たちは銃を捨てた。

『お前たちのしたことは犯罪はもちろん、社会的にも認められない行為だ。貴様らからすれば英雄気取りかもしれんが、少なくともこの国の人間たちからは狂人にしか見えん。大人しく出頭するか、ここでくたばるか、どちらか選ぶといい』

 暴徒鎮圧弾から通常の散弾にマガジンを交換した。数分後、千葉県警といるはずのない、根岸が駆けつけた。

「悪い予感がしたから、予め千葉県警に連絡したんだ。まぁ予想通りケビンが犯人を見つけてくれたんだな」

「殺しませんよ、少しばっかり痛い目にあわせただけですから」

「しかし、何故、こいつらも共犯だとわかったのかね?犯人が自供してようやくわかったのに」

「こいつらと被害者の出身でわかったんだ。家長の怒りに触れた被害者が日本へ逃げるように留学しパキスタン人の男と恋人同士となり、一緒に暮らそうとする。しかし、それを気に食わない家長が親族を集め、殺害を計画。体力的に優れた親族を実行役にし、大方、明日帰る予定だったが実行役が捕まったことで帰れなくなったってことだろうな」

「なんじゃそりゃ、まるで面子潰されたから殺したみたいじゃないか」

「ご名答、これは名誉殺人。パキスタンやインドの田舎などにある、腐った風習だ。愚かな奴だ、そんなものに振り回されていようとはな」

 後日の捜査により、彼らの犯行が実証され、捜査は世界にまで広がったという。



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7話  出張探偵

 ケビンの過去の一部が明らかに?


 今日は新しい面子が入って来た。オマルがケビンを気に入り入社してきたのだ。最初は追い出そうと思ったが、実技試験の結果、予想以上に射撃成績はもちろん、身体能力も高かったため入社を認めざる得なかった。

「年寄りの話を聞いたか。偉いのぅケビン」

「ジョセフじいさん、別に俺はそんなつもりじゃ」

「まぁまぁ落ち着きましょうよ。あなたがジョセフさんですね、武器を購入したいのですが、見せていただけませんか?」

「武器がなくちゃ仕事できんからな。ほら、トラックに乗れ」

 ジョセフとともにトラックの荷台に乗るオマル。積まれていた武器のひとつ、ステアーAUGA2を手に取り、試しに構えてみた。

「兄ちゃん目の付け所がいいな。こいつは世界でもっとも成功したブルバップアサルトライフルだ、A2モデルはピカティニーレールを取り付けた名品、買いだと思うぜ」

「いいですね、それと、ハンドガンも見たいのですが」

 ケースを開けると、そこには様々なモデルのハンドガンが入っていた。

「こいつなんかどうだ、G17。優秀な銃だ」

「確かにいいですね。これを買いましょう」

 結局、AUGA2にG17、KSGショットガン、UMP-9を購入し事務所に戻ることにした。購入した商品を目にしたケビンは驚いた。

「お前、銭あったのか?高いだろ、KSGは特に」

「かなりまけてくれましたよ、合計でだいたい300ドルくらいでしょうか。そうそう、ジョセフさんが12ゲージと556NATOを多く武器庫に収めてくれましたから、弾切れの心配はないでしょう」

「弾代で出費が増えそうだ」

 

 

 

 

 ここ数日、猫探しや観光案内など特に命の危険性のない仕事が増え、平穏な時間が流れていた。専ら銃の出番がないことを安心する。ケビンはオマルとともに街を歩くことにした。

「それにしても、リュックサック背負った男性が多いですね。山なんてありませんよ?」

「目的はメイド喫茶だな。某ドラマが成功して経営こそ順調だが、いかんせんマナーの悪い輩が増えているんだ。おかげで店のトラブル解決も仕事の一環みたいになってる」

 ケビンのスマホが鳴り響く。

「うわさをしたらなんとやら・・・早速行こう」

 現場のメイド喫茶に行くと、態度の悪い男がおさわりパブと勘違いしてか、過剰なスキンシップを求めて困っていると聞く。ケビンは早速仕事に取り掛かろうとするが、それよりも早くオマルが男の前に現れた。

「困りましたね。女性を怖がらせてはいけませんよ?」

「あぁ?誰だね君は?」

「私は探偵のオマルと申します、マナーも顔も悪いあなたをフルボッコにしに来ました」

 穏やかな顔で男の胸倉を掴み、無理矢理立たせ、遠慮なく殴りつける。傍から見ていると地獄絵図とも言える。

「返事次第ではここで止めますが、どうしますか?」

「ひぃ、助けてくれ。もうこの店には寄らない!」

「そんなにお触りしたいなら歌舞伎町に行けばいいんです、さぁ料金払ってから消えてください」

 男は銭を置いて店から一目散に逃げ出した。やり遂げたような顔をしたオマル。

「すいません、いささかやり過ぎたみたいです」

「・・・せめてやるなら見えないところでフルボッコにしてくれ」

 

 

 

 

 事務所に帰ると、客人らしい男が待っていた。

「おかえりケビン、お客様よ」

「初にお目にかかります。沼津の資産家、黒澤金剛と申します」

「日本支部長の菊地です」

「え・・・外国の方かと思っていたのですが・・・菊地?」

「父がアフリカ系アメリカ人、母が日本人です。確かに日本側から見たらアメリ人に見えるでしょう」

「こ、これは失礼しました」

 深呼吸で気持ちを整理すると、金剛は口を開いた。

「実はですね、娘の行動を調べてほしいのですよ。末っ子の様子が変でして」

「変っというのは?」

「いつもどこかへ行っては何かしらの買い物をしていたり、その子の名義で荷物が届いたりしているのです。麻薬やヘロインに手を出していないか心配で」

(確かに心配だが、何か変だな)

「わかりました。その子の名前は?」

「黒澤ルビィ。高校一年生です」

(なんだこのキラキラネームは・・・)

 

 

 

 

 土曜日。高速を使って2時間かけて沼津に到着したケビン。今回はミコトも連れて来ていた。なんでも、ターゲットの娘、黒澤ルビィは父親以外の男とは会話ができないという、致命的な弱点があるためだ。彼女と年齢の近いミコトを連れて来ていたのはそのためである。

「あの子が黒澤さん?なんか至って普通の女の子ですね」

 車の窓越しから、赤っぽい髪に154センチの少女がアイドルグッズショップ前で立っている少女を見る二人。

「確かにな。だが油断禁物だ」

 すると、店内に入っていった。

「私行ってきます」

「頼んだよ」

 追いかけるように店内に入っていくミコト。店舗のサイリウム売り場で女性店員と楽しそうに会話するルビィを見つけた。

(・・・情報と違うわ。大人しくて人見知りするって言ってたけど、相手が女性店員とはいえ、なんだが楽しそうに話してる)

 商品の陰からから観察していると、背後から肩を叩かれた。恐る恐る振り向くと、花陽と似たような髪色の少女がいた。

「何してんだずら?」

「え・・・いつの間に?」

「あの子は悪い子じゃないずら、オラはそう思う」

(方言キツイ子ね・・・でも聞き出せそう)

 ミコトが要件を話そうとした瞬間、ルビィが近くにいることに気がついた。

「も、もしかして、二宮ミコトちゃん!?」

「そうだけど、どうしたの?」

「本物だ~!一緒に写真撮ってください、お願い!」

「えぇ!?」

 気まずくなったミコトは一目散に逃げ出そうとするが、掴まれた肩を振りほどくことができない。

(どうしよう先生・・・捕まっちゃった・・・)

 入口の方向からケビンがやってきた。彼女たちの様子を見て、ため息をついた。

「心配になって来てみたが、予想通りだ・・・」

 

 

 

 

 場が悪いため、ファミレスに移動し、自分の身分を明かした。だが

「・・・俺悪いことした?」

「全然。ルビィが菊地さんのことがダメなだけずら」

 想定内と言っていいが、ルビィがケビンに対して視線を逸らすうえに、口をきいてくれない。もっとも、筋肉隆々の褐色男を前に堂々と会話できる女子高生自体が珍しいが。

「でも東京の特別警備会社の人が、こんな田舎に来るなんて珍しいずら、どうして来たか教えてほしいずら」

 ミコトを見つけ、方言を話す少女、国木田花丸。彼女は明らかにケビンに対して警戒していた。

「彼女のお父さんの依頼で、彼女を小遣い事情を調査してたんだ。まっ、何に使っていたか、今回の件でわかったけどね」

「そうですけど、このことを黙ってもらってもいいずら?」

「?どうして?」

「ルビィの家、やたら教育に厳しくて、国営放送のニュースしかテレビ見せてくれないみたいなんです。だから、このことがバレたら」

「叱られる・・・ルビィちゃんの前で言うのも難だけど、はっきり言って、あの類の野郎は嫌いなんだ。いかにも良い親を演じてるみたいでさ」

 アメリカの自由だが責任ある行動が求められる環境で育ったケビンにとって、彼女の養育環境は洗脳や奴隷育成に近いものを感じていた。

「・・・君の小遣いの使い道は話さない。悪い使い方をしてないって言っとくよ」

 縦に首を振る。

「ちょっと電話してくるから、料理注文して待っててくれ」

 ケビンはスマホを取り出し、店舗入り口に移動した。

「もしもし。はい、菊地です。娘さん、自分の食べたいものに使っていました。おそらく荷物についても同じものでしょう。はい、麻薬やらには使っていないかと、はい。では、失礼」

 席に戻ろうと思ったが、楽しそうに会話する3人を見て、トイレに行った。今戻ったら野暮だと思ったからだ。

(これでいいだろう。しばらく楽しそうにしといてくれ)

 通路でメガネをかけた白人男とすれ違う。

(あれはアレフレッド・ミラー。何故日本にいる!?)

 振り返ったが、既にいなかった。

(誰を殺しに来たんだ?)

 アレフレッド・ミラー。南アフリカ出身のフリーランスの殺し屋で、アフリカの独裁者達から死神と恐れられた男だ。ケビンと対峙したことがあるが、なかなか決着がつかず、行方不明になった。

(まぁいい。奴に関わると碌なことがないからな)

 気分も削がれ席に戻ると、ミラーがミコト達をナンパしていた。

『そこのお兄さん、少しいいかな?』

 店の外に連れ出し、建物の陰まで移動し、Px4を突き付けた。

『話してもらおうか。来日理由を』

『おいおい、いきなり銃向けるなんて実に平和じゃないな。灰狼の名、未だ健在ってか?』

『黙れ』

『OK.俺はただ、休暇で沼津に来てるんだ。だから銃は持っていない』

 ケビンがボディーチェックしてみても、やはり銃らしきものは見つからない。

『・・・まぁいい。それとあの子達の一人は依頼人だ、変に声をかけないでもらいたい。お前なら、なおさらだ』

『俺が幼女趣味だって言いたいのか?あいにくだがグラマー美女が好みでな』

『とにかくだ、関わるな。もしあの子達が危険な目にあったりしたら・・・わかるな?』

『OK.せっかく観光案内してもらおうと思ったが、別の人に頼むとするよ』

 そう言って、ミラーはこの場を去った。

 

 

 

 

 夕方。花丸と別れた後、ルビィを黒澤家まで送り届ける。

「ルビィちゃん。私のサイン、大事にしてね」

「ありがとうミコトちゃん!一生の宝物にするね!」

 車のドアを閉めようとした途端、家から爆発音が聞こえた。ケビンは車から飛び出しトランクにあったサイガ12を取り出し、現場へ走る。ルビィも向かおうとしたが、ミコトに止められる。

「まさか・・・お父さん!」

「待って。ここはケビン先生に任せましょ」

 ケビンは爆発現場に向かう。そこは離れの倉庫で、窓から煙が出ていることがわかる。そして、中から男性の悲鳴が聞こえた。

「待ってろ、すぐに助ける!」

 扉には鎖を繋ぐ古い錠前があり、それをサイガ12で破壊。開けると、中に仕舞ってあったものが燃えていた。階段付近に男性が倒れている。黒澤金剛だ。

「金剛さん、金剛さん!・・・まずは脱出だな」

 彼を肩に担ぎ脱出。途端、倉庫が崩れ落ちた。

(危うかった・・・もう少し遅かったら、下敷きだったぜ)

 幸い呼吸に異常がなかったため、車まで運ぶ頃には意識が回復した。

「うぅ・・・ここは・・・」

「あんたの家の近くだ。娘を泣かせやがって、どうして倉庫にいたんだ?」

「整理しようとして作業していたんだが、煙草の火が花火に引火して・・・」

「花火だと?市販のものか?」

「だがおかしいんだ。家の倉庫に三尺玉があるなんて・・・花火職人じゃあるまいし・・・」

(確かにそうだ。花火があるってわかっていて煙草なんて吸わないもんな・・・だとしたら、誰かが整理すると知ってて花火をセットした可能性が出てくるな)

 最初、ただのドジで引火したものだと思っていたが、花火職人でもない金剛が三尺玉を倉庫に入れてあるなんておかしい。ケビンは事件性も視野に入れた。

「言いたくないんだが、明らかにアンタを殺しにかかってる。警察に連絡して調べてもらえ」

 こうして、沼津出張が長引くことになった。




 次回、本格ミステリー風に書きたいと思います


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8話  資産家傷害事件

 ケビンは黒澤金剛を救い、当時の状況を聴取していた


 爆発事件から2日後、ケビンは近くの総合病院に入院している金剛に事件当初の状態を聞いた。彼によれば月に一回ほど倉庫内を自分で掃除するらしく、その際に中の品々の有無を調べるのだが、自分が入れた覚えのない花火の玉が入っていることは想定外だったらしい。

「ところで、倉庫の鍵は誰が持っているんですか?」

「私と秘書、妻が持ってるのですが。まぁ今回探偵さんが壊したから買い直しするけどね」

「申し訳ありません」

「いえ、そうでもしなかったら今頃は下敷きになっていたでしょう。しかし、いったい誰が・・・」

 包帯の巻かれた痛々しい顔で考え込む。

「鍵を外すことができる人は限られてますが、つけるとなると別です。あのタイプは南京錠のように誰でもできます」

「確かに」

「ところで、あの倉庫にはどのようなものが置かれていたのですか?」

「あそこには趣味で集めた掛け軸に屏風、借金のかたで頂いた骨董品が入ってありました。だから花火なんて入ってませんよ。桐箱を開けたら、ぎっしりに詰められた三尺玉が入っていたんです!」

(・・・しかし、三尺玉は勝手に運んでもいいものなのだろうか。600メートルぐらいまで飛ぶ火薬を可燃物だらけの場所にしまうなんて考えられないな)

 

 

 

 

 病室を出、金剛の友好関係を洗うことにした。最初に注目したのは秘書である三上正治と妻の黒澤翡翠。

「奥さん。知り合いに火薬に詳しい人間、もしくは花火職人はいますか?」

「いえ、主人の友人にそのような方は」

 二児の母とは思えない若々しい姿の女性。

「私も存じ上げません。探偵さん、社長は確かに抜けてるところはありますが、汚職には程遠い方です。恨まれることはないかと」

 黒のスーツにメガネと典型的な真面目系男が主についてこう見えていたらしい。

「わかりました。ところであなた方は倉庫に入ることがありますか?」

「秘書であるからには、一緒に倉庫の整理をすることはありますよ。ですが、今回は何故か一人でやると言い出しまして」

「私は確かに鍵をもらっておりますが、一度も入ったことはありません」

「・・・三上さん、どこにいたか説明できますか?」

「社長の指示で上のお嬢様に数学を教えておりました。爆発音はお嬢様の部屋で聞きました」

「ルビィちゃんのお姉さんの・・・なるほど、質問は以上です。俺は他に聞き込みがあるので失礼します」

 

 

 

 

(そういえば、かなり教育に厳しい親だと花丸ちゃんから聞いたが・・・自分に緩くて他人に厳しくしてるのか?・・・姉妹二人から話を聞くのがベストだな)

「そうだルビィちゃん、お姉さん病院に来てないけど、どこにいるか心当たりあるかな?・・・あ」

 相変わらずケビンが話しかけると、硬直してしまっている。ミコトが問いかけると、彼女の耳元で述べる。

「行き着けの甘味処にいる可能性が高いと。甘党らしいので」

「なるほどね、そこまで行ってみよう」

 病院から車で5分、ルビィの姉、黒澤ダイヤがいるであろう甘味処に入った。一人抹茶プリンを頬張る、黒髪姫カットの少女がいた。

「お姉ちゃん今いい?」

「どうし・・・どなた?」

「俺は君の親父さんに依頼されて爆発事件を調べてる探偵のケビン菊地だ」

「助手の二宮ミコトです」

「元アイドルと探偵さんが何の用ですか?」

「単刀直入に聞こう、親父さんやお母さんを恨んだことがあるんじゃないか?」

 プリンを食べる手が止まる。

「恨みではありませんが、やり過ぎだと思ったことはありますよ。普通ならテレビぐらい自由に見せてるはずです。何より、この子のお金の使い方を探偵さんに調べてもらうような両親ですから、私達は信用されていないと思います」

「・・・言いたいことはもっともだ。正直言って腹立たしいと思ってたところだ」

「依頼人をそう思ってたの?」

「身元調査依頼する人間の多くはターゲットを信頼してないケースが多いからな。憐れにも程がある」

 席に座り、抹茶ラテを注文する。

「親が子を信頼しないでどうする。世間体気にしてその鬱憤を子供に押し付けてるだけにしか見えない」

 渡し忘れた自分の名刺をダイヤに渡した。

「あら、東京の方でしたか。しかも秋葉原・・・スクールアイドルの聖地みたいな場所に事務所を」

「俺が決めたわけじゃないが。それよりも、君の家は普段から誰か出入りしてること、あるかな?」

「三上さんしか普段から出入りしてませんね。しかも、監視カメラの類はありませんし」

「ほぅ」

「入ろうと思えば誰でも入れますよ」

(資産家にしては無防備にも程があるな、理由があるのか?)

 抹茶ラテが机に置かれると、ケビンはそれを一気に飲み干した。

「ありがとう、あとは姉妹で楽しんでくれ」

 

 

 

 

 ケビンとミコトは車に戻り、専用ノートPCをネットに接続させ、黒澤姉妹の名前を検索する。すると、彼女達の父親、入院中の金剛の姿が画像検索で引っかかったのだ。

(どういうことだ?何故彼が・・・)

 画像をクリックし、世界的SNS、ツイスターの画面に移動した。ハンドルネーム抹茶プリンがこの画像を添付したことがわかった。記事には資産家K何者かに殺されそうになる、と書かれていた。レビューには彼を蔑むメッセージしか並べられていなかった。

「抹茶プリン・・・目のところは伏せているが、誰なのかわかるな」

 しかもカメラ目線で撮られているとから、彼の顔見知りなのではないかと推測する。名前負けしているこの男が、雑誌記者などに易々顔写真なんて撮らせてくれるとは思えなかったからだ。

「とりあえず、金剛に定期報告しよう」

 スマホを取り、金剛に電話する。

「もしもし探偵さん、捜査はどうかね?」

「順調じゃあないですがね。それよりも俺より前に見舞いに来て写真撮った人間がいませんか?」

「写真?・・・あぁ女房が撮りに来ましたね、なんでも、二度も入院しない戒めだとか」

「戒め、ですか。なるほど・・・まだ調査が済んでないので、これで失礼します」

 電話を切り、エンジンをかけた。

 

 

 

 

 向かった場所は黒澤邸。ケビンは翡翠のいる部屋を訪ねた。偶然、三上もいる。

「探偵さん、いかがなさいましたか?」

「これを見て頂きたい」

 金剛の写った画像を見せる。

「・・・これが何か?」

「この写真を上げたのは、あなたですね?」

「私は何も知りません。ましてや写真なんて」

「金剛氏はあなたが写真を撮っていたと証言しています。なぜこのようなことを?」

「これは失礼、確かに私が撮った写真ですが、ツイスターにはあげておりませんよ」

 ケビンは頭を傾げた。

「何故、ツイスターだってわかるのですか?」

「!?」

「目的もいわずSNSに上げるのは肖像権の侵害です、どうしてそのようなことを?」

「・・・そろそろ、娘の教育方針を切り替えさせようと思ったからです」

「教育方針?」

「私たちは二人に対して厳しく接してきました。ですが、私は外出していると、ルビィがこっそりアイドルグッズを購入して応援していることを知ってしまいました。その時思ったのです、そろそろ自己判断で自由にやらせるべきではないかと。主人に言っても聞いてくれません、だからこれを脅迫材料にして交渉しようと思っていたのです」

「・・・そうでしたか、ですが金剛氏はこんなことでは考えを撤回しないでしょう、彼は自意識過剰なところがあります、それこそ、自分の命が危険にさらされても」

 皮肉たっぷりな言い方をする。

「ですが私は殺そうとは思っていません、信じてください」

「信じましょう。その代わり、質問に答えてください。改めて聞きます、あなたか金剛氏の知り合いに、火薬を扱う人間はおりますか?」

「・・・宮田紀彦という、イベント会社の方がおります。事件の起きる二日前、反物の入った桐箱を倉庫に収めたところを見ましたわ」

「宮田様はとても穏やかな人柄で、社員から人望のある方だと伺っております・・・先ほどはうそを申し上げてしまい、すいません」

「宮田・・・その箱は大きかったですか?」

「反物一着入れるにしては、高さのある箱でしたわ。それが何か?」

「わかりました。失礼します」

 ケビンは黒澤邸を後にした。

 

 

 

 

「先生、どうでした?」

「あぁ、トリックがわかったよ。今回は金剛本人に問題があったから起きた事件だ」

「え?」

 助手席のミコトは首を傾げた。

「犯人は、借金のかたを倉庫に収めることを利用したトリックを思いついたんだ。まず、二重構造の箱を用意し下の段に三尺玉、上の段に反物を入れる。中身が反物だと箱を開け安心させ、下段が開くように細工して倉庫に収める。そうすればまさか三尺玉が入ってるなんて思わないだろうからね。次に掃除に来た金剛は箱を開けると、中には反物ではなく三尺玉が入っていて、驚いた拍子に火の付いたタバコが導火線に落ち、暴発したんだ」

「そんな・・・」

「犯人は金剛が掃除をする日程および、タバコを吸いながら掃除することを知っていたんだ。確かに彼は汚職こそしないけど、取引先とかに偉そうに振舞っていたことで恨みを買っていたんだろうな、倉庫の鍵を閉めたのも彼だろう。報酬はがっぽりもらっておく予定だよ」

 翌日、沼津署に宮田紀彦が自首したらしい。奇しくもその行動パターンがケビンの推理通りだったそうだ。黒澤家から現金300万の報酬をもらい、ケビンからは家族で今後の方針を話し合うことを約束させた。わだかまりこそ残っているが、姉妹によればテレビ視聴の自由は勝ち取ったらしい。




 何故、二人がうそをついたのか。それは次回明らかになります


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9話 ストーカー調査

 銃を撃たないで事件を解決するのはいいが、最も良いのは事件が起きない方がいい


 ケビンはテレビを見ていた。東京が梅雨入りしたらしく、外の大雨も納得がいく。おかげで来客が減り、訓練と見回りしかしない日が続いていた。

「ケビン、黒澤さんから手紙よ。嘘ついた理由がどうとかって書いてるわ」

「人の手紙を勝手に開けるな。まぁいい、どうせ自分が世俗のものを使ってるってバレるのが怖いとかそんなところだろ?」

「読まないでわかるの?」

「あの家は問題が大きかったからな、特に情報収集に関しては」

 呆れた様子で再びテレビを見る。宏美は手紙を読んでみると、ケビンの推理通りの内容が書かれていた。

「あんな家に生まれ育った二人が憐れね・・・」

「あの姉妹は立派だよ、素敵な友人が周りにいるからね」

 

 

 

 

 出前を頼もうと思った矢先、根岸から電話がかかってきた。また銃に関しての事件らしく、今度は3日前に起きた園田宗治襲撃に使った銃の特定らしい。

「根岸さん、またサブマシンガンじゃないだろうな?」

「そっちも探したんだが、どれも適合しないんだ。彼の肩から摘出された弾丸、38口径は多く使われてるから、見つけるのが大変で」

「言いたくないんだが、現場に空薬莢落ちてましたか?」

「落ちてないんだ。襲撃受けたのが大雨だった3日前の深夜。今日も捜索しても、何にも落ちてないんだ」

「・・・だったら凶器はリボルバーだってわかるぞ。その線で洗ったらどうですか?」

「え?どうして?」

「オートマチックの場合、どうしても空薬莢を排出する仕組みになるけど、リボルバーはそれができない仕組みだからさ。根岸さんのニューナンブもそうだろ?」

「おぉ忘れておった。ありがとうケビン!」

 電話とテレビを切り、自分の好きな曲を流す。雨に合う、しっとりとした男性目線の別れの歌だ。

「いい曲ね」

「歌手はもう亡くなってるけど、好きなんだ」

 再び根岸から電話がかかってくる。

「助けてケビン、もう何がなんだかわからないんだ。公園の池に凶器の銃らしい銃が見つかったんだが、なぜかM19リボルバーが見つかったんだよ、38口径とは違う弾使うのに・・・」

 ケビンは呆れた声で

「そのM19と線条痕が一致したらそれが凶器だ。357マグナムなら38口径の弾は撃てる」

「え、そうなの?わかった、それを調べてみよう」

 電話を切るケビンの口からため息が漏れた。

 

 

 

 

「ところでオマルはどうした?」

「見回りよ。沼津出張であなたがいない間、立派に仕事してくれたわ。この前はラーメン屋の店主からの依頼で、メニュー開発したとか」

「やることは派手だが、しっかり仕事してるんだな」

 事務所のドアが開いた。

「すいません、ここがトラなんちゃらアウトカモンズですか?」

 笑顔でトンチンカンなことを言うこの少女、高坂穂乃果が事務所を訪れた。

「トライデントアウトカムズだよ、お嬢さん」

「穂乃果ちゃん・・・μ’sのセンターの?」

「え、知ってるんですかお姉さん!?」

「廃校寸前の学校を救ったヒロインを知らないわけないわよ」

「・・・話は変わるが、俺に仕事の依頼かい?」

 ソファーに座らせ、ひとまず落ち着かせる。

「実はストーカー被害がありまして」

「ストーカーねぇ。何か脅迫電話とか掛かってきたの?」

「はい。私の部屋での行動が丸わかりで、これが2回も」

「電話は携帯かな?よかったら見せてくれるかな?」

 通話履歴を見せてもらった。しかし非通知設定になっており番号がわからない。通話記録も聞いてみたところ、機械で声を変えて行動を見ていることがわかった。

「ねぇ穂乃果ちゃん、最近誰かからプレゼントもらったことある?」

「お母さんぐらいしかもらってませんよ?」

「なるほど」

 ケビンは淹れたてのストレートティーを口にする。

「家を空ける時があるかな?」

「和菓子屋ですから滅多にないですね。基本的に・・・あ!」

「どうしたの?」

「一度だけ、泥棒さんに入られたことがありました!」

「・・・泥棒に?」

 話によれば先日の夜、5分ほどで短時間ではあるが、二階にある自分の部屋に誰かが入ってきて声をあげたことがあったらしい。逃げていった後ろ姿は見たものの、夜中だったためあまり見えなかったそうだ。

「盗まれたものはあったかな?」

「それが変なんです、何も盗まれていないんです」

「?まさか、その入られた日から電話がかかってきたの?」

「言われてみれば・・・」

 その脱力感ある返事にため息が出る。

「・・・まぁいい、とりあえず君の部屋に行ってみたいから、案内してくれ」

 

 

 

 

 依頼人、高坂穂乃果とともに彼女の実家を訪れる。週に数回和菓子を買いに来る店、穂むらだった。

「いらっしゃい、あらどうしたの?」

「実はね、この探偵さんに隠しカメラ探してもらいに」

 店に来ていた客がこちらに注目する。

「お母さん、穂乃果ちゃん、裏までいいですか?」

 二人を店の裏に呼び出し、自分の受けた依頼を説明する。

「君はアホか。大声で隠しカメラって言っちゃだめ、客の中の一人がストーカーの可能性があるでしょ」

「ご、ごめんなさい・・・」

「済んだことだ、別にいい。少し部屋を探らせて頂きます、よろしいですね?」

 親の許可を得たケビンは彼女の部屋に入ると、さっそく窓を見てみる。

(昼間に忍び込めないことはないが、あれだけ客が来てんだから夜中がベストだな。通話には確か、服が素敵だとか写真がどうとか、ポスターがどうとか)

 机の上に園田海未と南ことりと一緒に撮った写真が飾られていた。壁を見てみると、スクールアイドル時代に作られた自分たちのポスターが貼られている。ケビンは背後を振り向いた。

(反対側にはクローゼットと本棚か・・・本棚すっかすかだな)

 本と本の間に黒っぽい小さな箱状のものを見つけた。ケビンはそれを手に取りうなずいた。

「やはりここか」

 見つけたカメラを穂乃果に見せると、驚いた様子だった。

「すぐ見つけるなんて、すごいです探偵さん!」

「電話の内容を聞いて推理した結果だよ。でもここからが本番だ、おそらくストーカーは君に電話を入れてくるうえにもう一度忍び込んでくる。そこで提案だ、ストーカーと話をしてほしい」

「え!?」

「大丈夫、絶対に危険な目にあわせないから」

 ケビンは穂乃果に耳打ちし、さっそくUMP-9を取りに一旦戻った。

 

 

 

 

 深夜。雨もすっかり上がり、月が昇っているのがわかる。何者かが屋根を伝い鍵の付いてない窓を開け、近くのベッドの布団をめくった。途端、部屋に明かりがつき、UMP-9を持ったケビンが廊下から姿を現した。

『お前だったのか、彼女をストーキングしていたのは・・・』

『灰狼じゃないか・・・沼津以来だね』

 犯人の正体、それは沼津で再開したジョナサン・ミラーだった。

『おおっと動くな、動いたら脳天撃ち抜く』

 しかし、にわかに信じられないでいた。何故ならあのミラーがストーカーしたとは俄かに考えられないからだ。

『誰に依頼された、言え!』

『怒るなよ、この仕事はさすがに引き気味だったんだ』

『暗殺者がよくもまぁのんきに』

『でもこれだけは言えるよ、度が過ぎれば温厚な人でも怒るってね』

 スーパーボール状の玉を地面に投げつけると、煙幕が焚かれ、ミラーは逃げ去ってしまった。

「探偵さん無事ですか!?」

「大丈夫。さっき入ってきたのはストーカーに雇われた暗殺者だ」

「え!?」

「おそらく今回の依頼の真実を知ったから、依頼人を殺しに行くと思うよ。っと、音声データ解析が終わったみたいだ」

 宏美からメールが届いた。穂乃果のストーカーの声の主がわかったらしい。男性で、訛りのない流暢な日本語を話していることから日本人の可能性が高い。

「まず最初にすることは電話番号変えて、二度とかかって来ないようにした方がいい」

 

 

 

 

 その後、調査を続けた結果、一人の男が浮かび上がった。名前は満井斉、スクールアイドルが一般的になる前から応援していた古参のファンだった。ケビンは住所を突き止め、夜中に訪問することを決めた。だが

『またお前かミラー』

『・・・依頼人がウソついてたから始末しに来たのに、灰狼と玄関で鉢合わせなんて、ついてないな』

『この国でも殺人を犯すのか?』

『興醒めしちゃった。でもいっか、ここで足つかれちゃ、ケープタウンに帰れないから』

 あっさりと帰っていくミラーの後姿を見送り、改めて呼び鈴を鳴らした。ドアが開き、どこにでもいそうな男が姿を現した。

「探偵の菊地と申します。あなたに忠告しに来ました」

「・・・?なんのことでしょうか?」

「これを見ていただきたい」

 取り出したのは隠しカメラを購入した人間の名前が書かれたリスト。満井の名前が赤でマーキングしてある。

「それともう一つ、高坂穂乃果さんの部屋の窓にあなたの指紋が見つかりました。いたいけな少女の部屋に忍び込んで隠しカメラを仕掛け、あげくに逆探知で携帯番号を入手。もはや救いようがありません。そこで、あなたには条件を飲んでもらう。金輪際、穂むら及び高坂家に近づかないこと。破れば・・・わかってますよね?」

 Px4を腹に突きつけ、有無言わさず了承させた。

「そうそう、俺を捕まえようとしても無駄だ。凶悪犯への攻撃は許可されている、ハッカーも例外ではない」

 

 

 

 

 後日、ストーカーからの電話がさっぱりなくなったと言う。穂乃果の元気ある声が、ケビンの顔に笑顔を作った。

「どうしちゃったのケビン?ちょっと気持ち悪いわ」

「あぁ。依頼人に笑顔が戻ったから、安心してな」



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10話 高利貸しにご用心

 千代田区のとあるアパートに芸能事務所の社長、笹山充治が訪ねた。理由はスカウト。二宮ミコトを引退させ下火になっていたため、人材発掘に精を出していた。そして、とうとう見つけたのである。

「もし僕の事務所のアイドルになったら、君の家族を支える可能性が広がるよ。でも、それにはつらくて厳しい道が待っている。それでもいいかな?」

 優しい口調ながらも厳しいことを言う中年男笹山に、黒髪の小柄な少女が答える。

「やるわ、この機会を絶対に話してやるものですか!」

「いいねにこちゃん。その真っ直ぐな目、初めてミコトちゃんにあった時の頃と似てる」

 少女こと矢澤にこは、誓約書にサインする前に笹山に質問した。

「笹山社長。虎太郎達の面倒、どうしよう・・・」

「まだ小さいもんね、君の弟君と妹ちゃん。でも大丈夫、僕の知り合いの保育園の園長に相談するよ」

 ちょうどよく帰って来た彼女の母親に今回のスカウトの一件を話すと、猶予が欲しいと言われ、誓約書を置いて帰ることにした。

 

 

 

 

 その日の夕方。知り合いの営む山海保育園へ足を運び、入園の話をしようと園長室の扉をノックする。

「おーい重田、ちょっと話があるんだが」

「笹山。どうしたんだ?」

「実は頼みがあってな」

 笹山は矢澤家のことを話した。重田と呼ばれた貫禄ある太めの男は頭を掻きながら答える。

「入園か・・・所得が心配だが、明日ぐらいに会ってみよう」

「できそうか?」

「滞ったらまずいし、何より通園にも支障をきたす。だから会ってみなくてはわからん」

「恩に着るよ、重田」

 翌日。重田は矢澤母を園に呼び案内する。現在0から5歳ほどの子供を50人弱預かっているが、広い運動場にしっかり整備された遊具、そして楽しそうに遊ぶ子供たち。

「どうでしょうウチの園は?」

「広いですね。ですが・・・それだけ料金がかかるような気がして」

「大丈夫ですよ。都から認可を受けておりますし、料金も低く抑えています。次はイベントの話でも」

 重田のPHSが鳴り響く。

「ちょっと失礼・・・はい、山海保育園の重田です・・・え、はい・・・わかりました」

「あのぅ、何かありましたか?」

「警察から電話がありまして、大変なことが起きました。休みをもらっていたウチの保育士の一人が、多摩川に遺体で発見されたようです・・・」

 

 

 

 

 その頃トライデントアウトカムズでは、ケビンとオマルとで格闘の訓練を積んでいた。覇気のある掛け声から放たれる蹴りや拳は鋭く、軟な人間なら一撃で倒せるほどの迫力があった。

「よし、終わり。休憩しよう」

「ふぅ、さすが元レンジャーですね。敵いません」

「おいおい俺も一本取られたんだ。いい勝負だったと思うぞ?」

「謙虚ですね。犯罪者には容赦しないのに」

「手加減したらこっちが死ぬだろうが」

 シャワーで汗を流し事務所に戻ると、笹山が困った表情でソファに座っていた。

「ああ探偵さん、待ってました」

「どうしたんですか・・・まさか、また誰かの護衛か何かですか?」

「違うんだ。僕の友人の保育園で働いている保育士が何者かに殺害されたんだ。警察によると、遺体が多摩川の河川敷に流れ着いていて・・・」

「その保育士の死の真相を突き止めることが依頼ですね?わかりました、引き受けましょう」

 

 

 

 

 ケビンは笹山を通じてオマルと共に重田に会うことにした。園長室でうなだれている。

「探偵のケビンです」

「同じく、オマルと申します」

「あなた方が笹山の」

「園長さん。アンタが気分沈んでたら、園内の子供たちが心配します。無理にとは言いませんが、平静を作ってください」

「あ・・・」

「もう大丈夫ですか?仕事の話をしたいのですが」

「は、はい」

 亡くなった保育士の名前は江口久代、47歳独身。園児達から人気があり、保育士達からも信頼を得ていたベテランだ。しかし、無くなる一週間ぐらい前に突然有休を使いたいと懇談し、5日ほどもらっていたという。

「死因は聞いていますか?」

「いいえ。司法解剖の結果を聞いておりません」

「そうですか。後日、オマルが保育士達に話を聞きに行きます、よろしいですか?」

「え、探偵さん、もういいのですか?」

「その前に、江口さんの住所を教えてください」

 

 

 

 

 オマルと別行動することにしたケビンは、教えられた住所を訪れると、金髪の派手な出で立ちの若い男がアパートの一室のドアを乱暴に叩いていた。

「江口さん、今日こそは払ってもらいますよ!聞こえてんのかコラ!」

「休日の昼間に騒がしい。誰だ」

「あぁ?お前に関係ないだろうが!」

 ケビンは苛立ちを覚え、男の頭を壁に叩きつけ気絶させ、江口の部屋に連れ込んだ。数分で男が目を覚ますと、穏やかな顔でPx4を突きつけた。

「お前は誰だ。答えろ」

「う、撃つな・・・」

 さっきの威勢の良い態度とはうって変わって弱腰になっている。

「ご、権田金融の森って言うんだ。江口が金返さねぇから取り立てに」

「権田金融?あの金利50%の高利貸しでヤクザもどきの」

「も、もどき・・・」

「落ち着いて話そうぜ?それと、無駄だと思うぞ。彼女なら遺体で発見された」

「!?」

 驚いた様子からして、知らなかったようだ。

「契約書は持ってるか?一応、それを見たいんだが」

 森が契約書を取り出す。案の定、金利や返済期間のことについては一切書かれておらず、借りた金額と胡散臭い説明が記載されていた。連帯保証人の名前欄に江口久代のサインが書かれている。

「これ、もらってもいいか?」

「でも何に使うんだよ」

「筆跡鑑定だ」

 

 

 

 

 警察署に契約書を持ち帰ったケビンは、早速筆跡鑑定を依頼し、結果が出るまで根岸と話をすることにした。

「なるほど、借金か」

「裏の顔もあったってことか?」

「信じたくないが、その可能性も否定できない」

「・・・そういえば、司法解剖の結果は?」

「死亡推定時刻は昨日の18:10から18:30。死因は・・・溺死ではなく、窒息死だったんだ」

「窒息死?」

「肺に水が入っていなかったんだ。よく見ると抵抗した掻き傷もあったし首に太めのロープのようなもので絞められた跡があった」

「事件の可能性が高いな」

「だがロープ状のものがないんだよ、家宅捜索してもな」

「確かに、俺が見た時も、それらしいものはなかった」

 ふとケビンは思い出した。まだ被害者の顔を見ていない。根岸に写真を見せてもらうよう頼むと、三つ編みで髪の長い女が写った写真を見せてくれた。

「ロープって編み込んで作られてるよな、これもそんな感じの跡だった。持ち帰ったのか?」

「根岸さん。犯人は凶器を持ってないし、しかも写真に写ってるぞ、凶器が」

「え?言ってることがさっぱり」

「髪だ」

「髪?」

「一応聞くが、どのくらい長いかわかるか?」

「確か背中より少し長い・・・あ!」

「犯人は被害者が背中を見せた瞬間、髪を握り強く絞めたんだ。当然、凶器の処分なんて考えなくていいし、あとは発見現場まで運べばいい」

「だがどうやって?」

 さすがにケビンも頭を傾げた。遺体を運んでいたとなると、夜間であっても怪しまれる可能性が出てくる。

「根岸さん、俺は一回帰る。少し事件を整理するんでね」

 

 

 

 

 

 ケビンはオマルと宏美とともに事件を整理することにした。殺人方法、死亡推定時刻、人間関係がわかっているにも関わらず、何故か遺体の運搬方法だけがわからない。

「発見現場ですが、河川敷と言っても木々や茂みが多くて薄暗いから、死体隠すならその中に捨てるだけで余裕だと思いますが」

「運んで捨てるだけなら、なんでわざわざ見つかりやすい川の方に捨てたのかしら?」

「・・・彼女は借金を背負っていた。取り立てから逃れるためにあそこに隠れていたとしたら、有休使って雲隠れで説明がつくな」

「でも、まだ肝心の殺人現場がわかってないわ、犯人が誰かもわかっていないし」

 ケビンもそれに悩んでいた。確かに借金持ちだが子供達にも慕われ、それ以外に人間関係のもつれがない。そんな人物が何故逃げるような真似をしたのか。

(そういえば・・・誰の保証人になったのか、見てなかった)

 途端、根岸から電話がかかってきた。筆跡鑑定の結果が出たらしい。江口本人の筆跡と別の人間の筆跡があった。小高雄三という、既に死亡した人間の名前が契約書に書いてあったという。

「亡くなった小高って男を洗ってみよう。宏美、一緒に頼まれるか?」

「任せなさい、記者の本領よ」

「オマル、引き続き保育園の調査を頼む」

「了解です」

 

 

 

 

 宏美お得意の取材によって小高雄三の正体がわかった。なんと、手段を選ばず借金を踏み倒す達人で1年前に失踪して以来、親戚が死亡届を出して死んだことになっているのだ。生死不明で勝手に殺されては気の毒だが、そうなっても仕方ないとも思った。

「江口さんとは半年前に出会って一緒に暮らしてたそうよ。結婚資金に権田金融に金借りるって、疑わなかったのかしら?」

「オマルによれば、相当お人よしだったらしい。疑うって行動自体、しなかったかもな」

 写真を取り出し、小高の顔を見る。眼鏡をかけ七三分けと、一見どこにでもいそうな中年男だった。ケビンの経験からして、その類の男は気が弱いが人を騙すのが得意で、信用したら最後、財産や生命力を死ぬまで絞り取られる。レンジャー時代、アフガニスタンに派遣された際に出会った、彼と似たような雰囲気の男を思い出した。

「恐ろしいな、ある意味テロリストよりも」

 ある程度わかったところで事務所に帰ろうと思った矢先、ケビンに誰かがぶつかった。

「あっすまないね」

 逃げ去っていくその顔に見覚えがあった。小高だ。

「待て!」

 全速力で追っかけ、どうにかして捕まえる。小高は抵抗するが、ケビンの手は振りほどけない。

「放せ!俺は何もしてねぇ!」

「馬鹿野郎!だったらなんで逃げる!」

「権田金融の追っかけだろ!」

「俺は探偵だ、江口久代の死の真相を探ってる!」

 すると小高の動きが止まった。

「知ってることを話してくれ。もうアンタは死んだことになってるぞ」

「俺が!?」

 親戚が勝手に死亡届を出したことを話す。

「・・・どうりで電話に出ないわけだ、死んでたなんて・・・」

「最後に、18:10ごろ、どこにいたんだ?」

 

 

 

 

 小高と別れたあと、ケビンは根岸に彼の現在の写真を送り、宏美と一緒に蕎麦屋に入った。

「ここの蕎麦屋の主人、小高の顔覚えててよかったわ。そうじゃなかったら迷宮入りよ」

「ここから歩いて江口邸に着くまで20分かかる。しかも遺体を運ぶとなると、もっとかかるだろう」

 ケビンの頼んだ掛けそばが来る。

「恐らく小高はシロだ。そうだ宏美、保険とか入ってなかったか?」

「生命保険には加入してたわね、しかも3つぐらい」

「確かに怪しいな」

 宏美の頼んだキツネそばも来たので食べることにした。

「あらいいわね、蕎麦の香ばしさがいいわ」

「そうだな、本物の江戸前蕎麦だこれ」

 ケビンは先ほど見たメニューを手に取った。やはり1000円ほどすることがわかる。借金してまでここの蕎麦を堪能したかったのだろうか。

「もう一度江口さんの家に行ってみる。宏美は待機してくれ」

「わかったわ」

 

 

 

 

 江口の部屋を訪れたケビン。以前と特に変わっていなかったため近所に聞き込みすることにした。そこで意外な事実を知ることになる。亡くなる5日前には既に小高とは破局しており、かわりに若い男が出入りしていることが判明した。しかも事件のあった時刻には小高は出入りしておらず、その若い男が出入りしていたのを、目撃したらしい。懐から、森の写真を取り出し目撃者に見せた。

「この人じゃないな。もっとこう、真面目そうな人だったかな?」

 聞き込みを終え事務所に帰る途中、根岸から電話がかかってきた。筆跡鑑定の結果、サインは江口のものではなく第三者のものだと判明した。前科リストには載っていないことから、初犯か手慣れた人間によるものらしい。

(オマルが頼りだな)

 事務所に帰ると、オマルが困った顔で書類に目を通していた。

「いやぁ困りましたよ、これを見てください」

「なになに。保育士の一人が江口さんと並んで歩いている男性の素性?」

「相手の名前は美濃部海翔、かの悪徳PMC、マーキュリーセキュリティーの元社員だそうです。現在は権田金融の営業員として採用されているとのことです」

「あそこか・・・いくつだろう・・・31歳か、確かに若いな。写真はあったか?」

「これですね。一見真面目そうですが、彼の友人によればかなり性悪だったらしいですよ」

「オマル、権田金融に行こう。武器は持っておけ、マーキュリーセキュリティーから武器ぐらいは購入してるだろうからな」

 

 

 

 

 目黒にある権田金融に足を運んだケビンとオマル。周りに誰もいないことから、何者かが付近の出入りを制限させる情報を流したのだろうか。

「想像より小さいビルだな。用意はいいな?」

「いいですよ。ですが、名刺ではなく、銃を持って入るのがいいかと」

 その時だった、ビルの窓ガラスが割れ、鉛玉の豪雨が降り注ぐ。二人は乗って来た車を遮蔽物にし、それぞれの得物を装備した。

「敵は多いが、狙うのが下手だ。本職の力量、見せてやろう」

 最小限に身を乗り出し反撃していく。確実に仕留め、鉛の雨も弱まってきたところでオマルはフラッシュバンを投げ込んだ。

「どこで買ったそれ?」

「ジョセフさんがおまけでくれました」

「感謝しないとな」

 建物内に入っても抵抗は続くが、素人がなまじ銃を取って戦ったとてプロには敵わず、すぐに鎮圧した。生き残った全員が銃を捨て、両手を挙げている。その中に美濃部の姿もあった。

「お前が美濃部か?」

「確かにそうだが、何の用だよ。俺達は普通に営業してただけだぜ!?」

「連帯保証人の名前に江口さんの名前を勝手に使っといて、何が真っ当な商売だ。筆跡鑑定が彼女のものではないと証明されてる。それと、彼女を殺したのは貴様だな、美濃部」

「な!?」

「洗濯機の中に洗う前の男物の下着が見つかった。付着した毛や皮膚を調べれば出入りしていたことがわかる、それでも白を切る気か?」

「・・・」

 オマルがちょうどいいタイミングで美濃部の履歴書を見つけ、調べてみると、ところどころの癖が一致した。

「これであなた方悪徳金融はおしまいです、皆さんで仲良く刑務所に行って来てください」

 

 

 

 

 

 後日の調査でわかったことだが、小高が借りた金は予想通り遊ぶ金欲しさだった。しかし、彼の本性を知った江口は別れを切り出し、一方的に追い出した。その後SNSで出会った美濃部と交際を始めるがそれは彼の罠だった。彼は彼女の信頼を得ると真っ先に殺し、遺体をダンボール箱に詰め、リヤカーで河川敷に運び、そこに捨てた。予め加入させた保険から保険金を受け取り姿を消す算段だった。しかし、トライデントアウトカムズが動いていることを知った美濃部が古巣から銃を購入するが、時すでに遅し、美濃部は観念したのだった。

「最っ低ね、その美濃部と小高って男。女の敵じゃないのよ!」

 報告書の整理をする宏美が愚痴を漏らす。

「まぁいっか。おかげで矢澤さんの子供達が入園出来たし、保育園も通常運行だしね」

 昼食の時間になり、外に食べに行く宏美の姿を静かに見守るケビンであった。




 アイドルの最高年齢って何歳なのでしょうか?


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11話  同じ穴のムジナ

 


 一日の仕事を終えたオマルは、行きつけのラーメン店で自身のアイディアが組み込まれた、鶏チャーシューラーメンを食べていた。鶏ガラのあっさりスープに、胸肉を一度蒸してタレに漬け込んだチャーシューをメインに、ネギ、煮卵、キクラゲ、海苔を乗せたラーメンだ。

「おや、どうなさいましたか?」

「お兄さんのアイディアラーメン、食べに来たにゃ!」

「うれしいですね。美味しいの声が聴きたい限りです」

 語尾が少し変わっている、小柄でボーイッシュな印象が残る少女、星空凛。ケビンが沼津に出張していた時、オマルが偶然訪れたラーメン屋で出会い、意気投合したのが始まりだった。

「そう言えば、勉強は捗っていますか?」

「全然にゃ!」

「ダメですよ。パキスタンにはしたくても出来ない人が大勢います、彼らの分も精一杯しなくてはいけません」

「うぅ、お兄さんの話は生々しいにゃ・・・」

「まぁまずは食べてからでもいいでしょう。空腹は敵ですからね」

 帰り道。凛を家まで送り届ける最中、普段の元気の良い声ではなく、大人しく静かにオマルに問いかける。

「お兄さんのお仕事って、何してるのかにゃ?」

「私のですか?そうですね、ボディーガードから猫探しまでやってますよ、言わば探偵の仕事です」

「探偵さんだったにゃ。じゃあ事件解決とか、してるのかにゃ?」

「以前、殺人事件があったでしょう?あれは私達が解決したんですよ」

「大変だったね、お兄さん」

「まぁカッコ良くはないですがね」

「凛ね、実はお願いしたいことがあるにゃ。お友達を助けてほしいにゃ」

 

 

 

 

 翌日。ケビンは凛とオマルの話を聞き、園田海未と神田明神前で待ち合わせすることにした。なんでも、海未の父である園田宗治襲撃事件以来、彼女の様子がおかしく、ほとんど眠っていないだけでなく通学しているときもプライベートでも竹刀や警棒といった武器を装備しているため、近くにいるだけで殺気を感じてしまうらしい。友人である凛や穂乃果、ことりも心配して落ち着くよう説得しているが全く効果がないため、説得できそうなケビンとオマルに相談したのだ。

「お待たせしました」

「やぁ。久しぶりだね」

「先日はありがとうございました。ところで、お話しとは?」

「君の手にあるものについてだ。こんな昼間に竹刀持ち歩くなんて、尋常じゃない」

「それは、父の敵を取るためです!」

「顔もわからないのにかい?それに、相手は銃を持ってる可能性が高い。竹刀じゃとても太刀打ちできないと思うよ」

「・・・」

「君の仲間達がとても心配している、しかも俺に頼み込む程にだ。それでも敵を討ちたいなら、止めはしないが命の保証もしない。俺からは以上だ」

「・・・わかりました。武器は収めます」

 握っていた竹刀を収めた。

「わかってくれて嬉しいよ。その代わり、俺が犯人を捜す」

「で、ですが!?」

「俺の本業は特別警備会社の職員だ、銃の扱いなら慣れてる。俺を信じてくれ」

「ええっと・・・警備会社?」

「探偵も確かに本業だけど、世間一般には民間軍事会社って言った方がわかるかな?」

 周囲に誰もいないことを確認すると、懐からPx4を取り出した。

「君の父上はこれとは違う銃で撃たれたんだ。無念は必ず晴らす、だからもう、友達を心配させてはいけないよ」

 

 

 

 

 その後、ケビンは根岸から捜査資料を見せてもらい、当時の状況を洗い直すことにした。深夜2時の豪雨の中で撃たれたそうだが、些か疑問に思う。何故、外出困難な状態かつ深夜に外出していたのか。

「M19から指紋が出なかった。しかも、購入した人間もわかっていない。ケビン、どうにかならんか?」

「園田さんは何も話さないのでしょう?何故その時間に外に出たか」

「それもだが、市街地でリボルバーなんか撃ったら住民に気付かれるだろう」

「俺思ったけど、最初犯人はサプレッサー付きのオートマチックで撃とうと思ってたんじゃないかな?でも、故障して撃てなくなったから、仕方なく予備のリボルバーを使った。・・・そう考えることもできそうでしょう?」

「ううむ・・・しかし、ハンドガンを2丁持ってることなんて、あり得るか?」

「・・・ボディーガードか何かしていれば、考えられなくもない。実際にそのケースもありました」

 次に向かったのは園田家周辺の聞き込み。宗治の評判を聞いてみたが、悪い噂はなく、不良が近所に悪さしに来た際は堂々と注意しに行くほど正義感の強い人物だったらしい。

「そういえば探偵さん、ここ2ヶ月前ぐらいから、深夜に変な人が歩いているんですよ」

「?」

「体格の良いパジャマ姿でしかも近所を裸足で歩いていたかと思ったら、どこかに消えていってしまって・・・園田さんが徹夜で見回りしてくれた時は、その人はいなくなったのですが」

「彼が見回りしない日は、今でも出没するのですか?」

「えぇ、まぁ」

「・・・わかりました、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 そして深夜。タクティカルライトを装備したレミントンR5を手に出没する場所に張り込むことにした。30分くらい待っていたその時、街灯に照らされた、裸足でパジャマ姿の男が現れた。

「失礼、どうかなさいましたか?」

「・・・」

 様子がおかしいので、ケビンは男の頬を思いっきりつねってみた。

「痛い何を!?」

「もしかして、夢遊病ですか?」

「・・・こ、ここは、家の近所じゃないか!?」

「あなたは?」

 かなり驚いている様子から、自覚は無いようだ。

「私は園田宗治。この辺で道場を切り盛りしている」

「園田・・・なるほど、深夜に現れる不審者は、あなたのことだったのですね」

「え?」

「近所で話題になっていることは、ご存知ですね?しかもあなたが見回りする日には現れていない」

「私に怖気づいたのだろうな」

「さっきも言いましたよ、不審者の正体は、あなただって」

「・・・あ」

「履物も履いていないし、あなたは体格もいいしパジャマを着用している。不審者の特徴にことごとく一致してるんです」

「じゃ、じゃあ私が見回りしているときに現れなかったのは!?」

「あなたが眠りながら歩いていないからです」

 宗治はうなだれている。自分が不審者の正体だったからだろう。

「せっかくですし、撃たれた現場に案内していただけませんか?」

「・・・何故だ?」

「娘さんと約束したんです、犯人を捕まえるって」

 

 

 

 

 案内された現場は街灯のない一本道だったが、すこし歩いたら交差点があり、深夜の人通りは皆無だった。晴れた今日でもこれなのだから、雨の降っていた事件当日の目撃証言なんてないだろう。

「ここで、撃たれたのですね」

「あぁ、気がついたら肩を撃たれてたんだ。今までわからなかったが、ようやく夢遊病だってことがわかって安心したよ」

「心療内科の受診を勧めますよ」

 どんなに調べてもやはり何も出ない。既に警察が証拠等を持ち帰ったのだろうか。

「痛・・・」

 撃たれたであろう、右肩を押さえる。

「肩が痛みますか?」

「何故だが知らないが、二発撃たれて」

「二発?」

「一発目から少し経ってから、もう一発を」

 ケビンは肩の傷を見ることにした。38口径の跡とは別の、より大きな弾痕があった。

「このことを警察に話しましたか?」

「あぁ。まだ捜査中だと聞いているから、詳細は知らないが」

 報告書には確かに2つほど弾痕があることは記載されていたが、口径が違うとは書いていなかった。推測だが、M19とは違う銃を使って彼を撃ったということだ。

「ご協力ありがとうございました。もう遅いので送りますよ」

 

 

 

 

 翌朝。ケビンは肩の傷のサイズを思い出しながら円を描いていた。いつ見ても38口径のサイズではない、どちらかと言えば、7.62NATOのサイズだ。ライフル弾を使ったとなれば、例え豪雨だったとしても、市街地で撃てばそれなりに響くはず、にも関わらず誰も聞いていないとなれば、サプレッサーをつけていたとなる。

「犯人はなぜ、彼を撃ったんだ?逃げる最中だったのか?」

 地図を見てもライフルで撃てば間違いなく貫通する。しかし、現場付近には落ちていないとなれば、どこかに残っているはずだ。再び現場に行き、撃たれた場所から真っ直ぐ進むと、T字路に出る。すると一か所だけ壁の色とは違うことに気がついた。よく見てみると、弾丸らしきものが埋まっている。持っていた爪楊枝で掘り出した。道路をよく見ると、跳弾したあとも残っていた。

「これは・・・やはり7.62NATOだ。誰かが狙撃したってことか?」

 傷の入射角の違いから、屋根の上から撃ったものだと判断し、違う人間が彼を狙ったと判断する。

「どうせなら、頭狙うよな。なんで肩だったんだ・・・!?」

 何者かが自分を狙っていることに気がついた。目線の先にFRF2スナイパーライフルを持った男がいた。しかし、彼は感ずかれたからか、急いで逃げ出した。

「待て!」

 ケビンは後を追う。想像以上に相手の足が速く、見失うことこそないが、なかなか追いつけない。仕方なく足に数発発砲し、そのうちの一発が命中。派手にこけたところを取り押さえた。

「誰だ!答えろ!」

「俺はフランクリン、フリーのスナイパーだ!アンタあの時の犯人じゃない、だから逃げたんだ!」

 拘束を解き、落ち着いて話すことにした。

「どういうことだ。被害者を狙ってたんじゃないのか?」

「あの日本人には悪いことをした。俺の腕が悪いばっかりに誤射を・・・」

「まさか。犯人探すために、この場所を張ってたんじゃ」

「あぁ」

「なぁ、ターゲットの写真、まだ持ってないか?」

「持ってる」

 写真を見せてもらった。どこからどう見てもヤクザの組員にしか見えない、強面の男。

「こいつは真鍋功男。野嶋組の構成員を名乗っていたが、実はマーキュリーセキュリティーのスパイだったんだ。組の資金持ち出しで逃げ回っている。今回あの日本人を撃ったのも奴だ。先回りしたのはいいが、狙いが外れたんだ・・・」

 フランクリンのFRF2の手に取る。

「なぁひとついいか?」

「?」

「これ、ちゃんと整備してんのか?サイトがガタついて合ってない」

「・・・金欠で・・・」

「そんな銃でよく撃てたな。俺に相談したら、ガンスミス紹介したのに」

 ケビンは自分の名刺を渡した。

「これからどうしたらいいか、よく考えな。俺は奴を探すといい」

 

 

 

 

 肝心の真鍋を探すため、野嶋組に足を運んだ。野嶋組組長、野嶋源五郎とは品川時代からの付き合いで、組内の揉め事やペットのカモの散歩などで信頼を得ていた。

「菊地さん。組に顔を出すとは、いかがしました?」

 ヤクザとは思えない、物腰の柔らかい老紳士が迎えてくれた。彼が野嶋源五郎だ。

「組員の、真鍋功男に会いたいのですが」

「アイツとは絶縁しました。あのマーキュリーセキュリティーとやらのスパイだっただけでなく、組の資金をネコババするとは・・・」

「しかし、どうしてまたそんな奴を組に入れたんですか?」

「相原の学生時代からの悪仲間だと言うので、好で入れました」

「相原?ここの若頭補佐のですか?」

「えぇ。ですが、相原は真鍋を探すと言ったきり、帰って来ないのです」

「帰っていない?」

 ケビンは捜査資料を思い出した。交差点に車のブレーキ痕があったことを。

「失礼ですが、園田宗治襲撃事件の日、相原はどこにいましたか?」

「あの雨の中、車に乗って真鍋を追っていましたね」

「相原はもしかしたら、真鍋と組んで金盗む手筈だったんだと思いますよ」

「なんだって!?」

「明らかにおかしいです、そんな都合よく消えますかね?今頃マネーロータリングして、自分たちで山分けでもしてるのでしょう」

「・・・思えば、相原は常に真鍋と一緒に行動しておりました。下っ端の仕事も手伝うようなこともありました」

「早く見つけて、金を返してもらいましょう。それに、あいつらはカタギを撃ったのですから、ケジメつけてもらわないと」

 

 

 

 

 組事務所を出たケビンは、根岸から電話を受ける。

「どうしましたか?」

「さっきフランス人が自首してきてな、相原と真鍋の情報を教えてくれた。ケビン、住所を送るからそこに行ってくれ。くれぐれも派手にやるな、なるべく非殺傷で」

「わかった」

 住所どおりの場所に向かうと、昼間にもかかわらず薄暗い裏路地。レミントンR5を取り出し、慎重に足を進める。少し脇を見ると通りすがるように何かの取引をする様子も見られる。

(野嶋さんは麻薬や武器が嫌いだった。まさか、それらを仕入れる資金だったのか?)

 角で話し込む人間がいる。

「リーダー達やりますね、これで商売できますよ」

「まさか組から金持ってくるとは、思わなかったぜ」

(やり過ごすか、いや)

 Px4に持ち替え、サプレッサーを取り付ける。早業で脳天を撃ち抜くと、死体のポケットを漁る。予想通り白い粉の入った袋があった。

(これの売買のために、撃たれたのか)

 それを捨て、行き止まりのような場所にあるビルに入る。地下に続く階段を下りると、予想通り、M10を武装した護衛と、金勘定する相原と真鍋の姿があった。

(ここで終わらせてやる)

 ケビンは堂々と現れ、護衛の脳天を撃ち抜き、R5の銃口を二人に向けた。

「ななな何だよアンタ、人に銃口向けるなんて、どうかしてるぞ!」

「そ、そうかわかったぞ、アンタ、俺たちの商売を奪いに来たんだな、そうだな」

「何故野嶋組の資金を奪い、カタギを撃った?」

「ああああれは事故だ、金奪って逃走してるのを見られたと思ったから、でも、ハジキ壊れてヤバイと思ったら、迎えに来た兄貴がリボルバーで撃ったんだ!」

「私達はこういう商売で生活してるんだ、ひとりやふたり、撃ったって別にいいだろ。アンタもこちらの人間なんだ、そのくらいわかってるだろ!?」

「なるほどな。・・・貴様らと同じにしてもらいたくなかったな!」

「「!?」」

「確かに俺の手は血で汚れている。だがな、無駄な殺しだけは絶対にしない。自分たちの利益のために簡単に人を殺せるほど、残酷な生き方は出来ないんでな」

 直後。突入した警察隊によって、相原と真鍋は逮捕され、役目を終えたケビンはその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛と海未をラーメン屋に呼び出し、ケビンは事件解決を報告した。しかし、二人は浮かない顔だった。

「・・・どうした、食欲沸かないか?」

「探偵さんに、危険な仕事をさせてしまったことに罪悪感が・・・」

「いいんだよ。俺の仕事は、普通の人間じゃ出来ない仕事だ。報酬はもらってるし、君の父上は睡眠外来で治療を受けている。いいことじゃないか」

「でも、間違えたら死んじゃうところだったニャ」

「覚悟は出来てるさ。それに、君達みたいな子に迫る脅威から守るのも、俺の仕事だしな」

 注文していた鶏チャーシューラーメンが来た。

「さぁ気を病んでる場合じゃない、食べよう」

 この後、アフターケアーの一環で、二人にほむまんもおごることにした。

 




 少し、長くなってしまいました


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12話  仮面の下

 


 今日は特別な日だ。何故なら、トライデント・アウトカムズのCEO、ロバート・ハミルトンが来日し、抜き打ち検査する日だからだ。

「みんな、そろそろだ」

「え?」

 途端、勢い良くドアが開く。現れたのは、歯並びと白さが眩しく、笑顔が如何にもアメリカンなスーツ姿の壮年黒人男性。元ネイビーシールズで現役時代にはスケアクロウと呼ばれ、恐れられていたが、現在は本来の陽気な性格に戻ってロサンゼルスで暮らしている。

「ハローケビン!今日も景気いいねぇ!」

「ご来日ありがとうございます、CEO」

「もぅ固いなぁ。僕は今日書類確認だけじゃなくて、仕事ぶりも見に来たんだから、気楽になろうよ」

 言い出したら無理にでも押し出す彼に負け、とりあえずカッコつけずいつものように過ごすことにした。

「いいねぇこの空気、実に和やかだ」

「し、CEO。今から街の見回りをしますから、行ってみませんか?」

「品川時代と変わんないね。良いよ、行こうか」

 

 

 

 

 オマルと宏美に留守番を任せ、ケビンはロバートと一緒に秋葉原の街を見回ることにした。掃除してる店の店員から声をかけられたり、様々な相談を聞いたりと、警察顔負けの信頼性を垣間見ることができる。

「モテモテだねケビン。叔父さんうれしくなったよ」

「仕事の都合でゴタゴタの解決なんてしょっちゅうだったから、自然に信頼関係築けるんだ。そうだ、この店行ってみないか?」

 指差したのは、引っ越し早々事件に巻き込まれたメイド喫茶だった。

「あれ、まさかそんな趣味が?」

「違うって。ここのオーナーから仕事の話があるから、それで」

 店に入ると、いつもの挨拶が入り、そのあと二人を席に通そうとするが、用件を伝えると裏方に案内してくれた。

「探偵さん。呼び出してすいません」

「いいんだ、それよりも、用件とは?」

「実はですね。宏美さんを貸してほしいのですが」

「彼女を?どうして」

「容姿もいいし、メイド喫茶運営のアドバイスもしてくれます。何より、あの人がいれば、迷惑客が来ないんです」

「俺達の仲間だからか?」

「そうかもしれませんね。ですが、それ以上に美人じゃないですか!」

「・・・は?」

「探偵さんも角に置けませんね。宏美さんを事務員に置くなんて」

「あれは勝手に押しかけて来たから、仕方なくであってでな・・・まぁいっか、しばらく手伝うよう、言っておく」

「ありがとうございます!」

 疲れた様子のケビンを見て、帰りがてら励ますロバート。

「あ、その、大変だね」

「普段からこうじゃないさ。今回は珍しいパターンで」

「そうか・・・事務所に帰ったら、ちょっとしたプレゼントがあるんだ」

 

 

 

 

 ケビンは地下射撃場で渡されたケースを開いた。中にはステンレスカラーのS&W製マグナムリボルバー、M629の6.5インチモデルが入っていた。アメリカにいた時に気に入ったモデルだったため、早速試し撃ちした。

「オマル君にはこれね」

 彼には近接戦用の仕込み警棒を渡した。日本にいる以上、刃物を使うのは、山奥や海上とごく限られた場合にのみ使用を許可されるため、普段は非殺傷武器の携帯を義務付けている。

「これはまたいいですね、拷問用に使えそうです」

「ははは・・・違うんだけどね・・・っと、宏美ちゃんにはこれだよ」

「え、これって・・・軍用の腕時計?」

「時間は世界最高峰の正確さだよ、しかも壊れにくい」

「デザインもいいですね。ありがとうございますCEO!」

 

 

 

 

 持ち場に戻ると、早速依頼人が来た。ブロンドの美しい髪を後ろにくくった、日本人離れした容姿の若い女性だ。

「ここがトライデント・アウトカムズですか?」

「そうだけど、依頼かい?」

「お願いです。私と友人を助けてもらえませんか?」

「説明、してくれるかな?」

 依頼人の名前は絢瀬絵里。彼女によれば友人の東條希と一緒に湘南まで遊びに行った際、ビーチでナンパされ執拗に迫られたため逃げ帰ったことがあった。その日を境に、夜中誰かにつけられるような気配を感じたり、通っている大学に自分達を脅迫する文章が届いたり、挙句には裸に近い恰好の写真が自分のアパートに届いたりと、ストーカー行為を受けているとのことだった。

「まさか希も同じ被害受けてるなんて、思いもしなかったんです。そこで話し合った結果、希がここを紹介してくれました」

「そっか。彼女の勧めで・・・ところで希ちゃんは?」

「バイト終わったあとから来ると言ってましたが・・・」

 刹那、外から女性の悲鳴が聞こえ、ものすごい勢いで希が事務所に転がり込んできた。

「たたた探偵さん、ウチら助けてや!」

 事情を聴く前に、いかにも頭悪そうなチンピラ6人が事務所に入って来る。

「よ~やく追いついた~、お兄さんたちちょっとどい」

 ケビン、オマル、ロバートの3人は無粋な彼らに対し懐にあった銃を抜き、一斉に構えた。まさか銃を持ってると思っておらず、チンピラ達の表情に余裕が消えた。

「ここに殴り込みなんて良い度胸だ、死にたくないなら彼女達に一切関わるな。さもなくば」

 M629の撃鉄を起こし、引き金に指をかける。

「わわわわかりました!!死にたくないです!」

「帰る前にひとつ、誰に雇われた?」

「五十嵐って金持ちのボンボンに頼まれて二人の素性を調べてて、あわよくば連れて行こうかなぁって」

「・・・そうか、だったら」

 M629の引き金を引く。弾はリーダー格の男のこめかみをかすめ、壁に埋まった。

「帰ってそいつに言っとけ、トライデント・アウトカムズがいつでも相手になってやるってな」

 チンピラ達は一斉に事務所を出て行った。銃を収め、2人に歩み寄った。

「大丈夫だった?」

「えぇ、まぁ・・・まさか銃持ってるなんて」

「日本離れたら、民間軍事会社って呼ばれるからねウチの会社。この国でも許可があって携帯してる。でもこれだけは信じてほしい、俺達は絶対に罪のない人達に銃は向けない」

 先ほどまでのドスの聞いた声とは違う、非常に優しい声で接する。

「信じます、私達を守ってください」

 任務にかかる前に、チンピラ達の言っていた名前、五十嵐について調べることにした。様々なキーワードを入力した結果、湘南に複数レストランを持っている資産家、五十嵐伝助の名前が現れた。

「個人で見ると紳士的でダンディと評判はいいわね。この人に狙われたってことなの?」

「わからない。宏美、明日、メイド喫茶の件よりも、彼について湘南まで行って調べてくれ」

「わかったわ」

「オマルは二人のアパートに行って隠しカメラが無いか調べてくれ」

「はい」

「CEOは・・・どうします?」

「ん~僕も一緒に彼について調べようかな。宏美ちゃんの身に何かあったらまずいからね」

「わかりました。俺は彼女達を直で護衛します」

 

 

 

 

 

 二人を事務所二階にある客人用宿泊所に泊めることにした。

「探偵さん。希から聞いたのですが、μ’sの他の子たちも助けたことあるんですね」

「あぁ。真姫ちゃん誘拐された時なんか、高速道路でカーチェイスしたことあるよ。彼女は無事だったけど、車がハチの巣になってさ、修理に出したよ」

 想像以上に派手なことをしていることに驚きが隠せない。

「よく生きてましたね・・・」

「中東やアフリカじゃ、もっとヤバい。ロケットランチャーが飛んでくる」

 思わず絶句してしまった。

「すまない、刺激が強すぎたようだ」

「お、お気になさらず・・・(希、この探偵さん怖すぎるわ!)」

(ウチが悪いん!?)

 アイコンタクトで気持ちのやりとりをする。

「?なんかわからないけど、困っているなら教えてくれ。できることなら何でもする」

「あ、ありがとうございます」

 絵里は部屋を出るケビンの後ろ姿を見つめた。彼の脇辺りに先ほどの銃が入っている、そう思うと体が震えてしまう。それを肌で感じたのか、希は背後から彼女の耳に息を吹きかけた。

「きゃあ!の、希!?」

「そんな怯えた顔してたら、今度はもっと激しいのいくで?」

「け、結構よ・・・」

 悲鳴を聞いたケビンが戻って来た。手にはM629が握られている。

「無事か!?」

「ごめんなさい、ウチが脅かしただけです、こうやって」

「レクチャーはいいから、あまり騒がせないでくれ。襲撃されたと思ったぞ」

 

 

 

 

 翌日の昼。宏美が事務所に帰って来た。地下射撃場で調査を報告する。

「調べて来たわよ。五十嵐伝助には二人息子がいて、兄は真面目な優等生、弟はアウトロー一直線ね。近所の評判も、イメージ通りよ」

「なるほど。しかし、どっちが仕向けたかは、わかってないか」

「だからCEOが観光ついでに調査続行してるわ。言っても聞いてくれないし」

「まぁあの人そうだからな。まぁいっか、オマルはどうだった?」

「それぞれ天井や化粧台に隠しカメラ1台に盗聴器3台。よくもまぁ仕掛けられましたね、そんなに」

 手に持っているカメラと延長コードに扮した盗聴器をテーブルの上に並べる。

「多いな。だが、女の一人暮らしで隙なんてあるか?彼女たちは用心深く施錠したり、オートセキュリティーのある場所を選んでいる。にも関わらずこれだけの数が出てきていた、しかも今までバレずに」

「普通じゃ考えられないわね、すり替えたり水道工事などで入ったりしない限り入れないと思うわ」

「湘南に遊びに行ったのも最近みたいだし・・・」

 ケビンは頭を悩ませていた。合計8台もの犯罪道具をバレずにどうやって仕掛けたのだろうか。

「とりあえず、ロバートCEOの結果を待つのは効率的に悪いです。宏美さん、それぞれSNSをやってないか調べましたか?」

「バッチリよ。弟の方はバリバリツイスターに投稿してるみたいだし」

 宏美はPCで五十嵐弟のページを開く。トップ記事にガラの悪そうな仲間達と花火を楽しみながらバーベキューしている様子が写っている画像が載っていた。ケビンは二人を呼び出し、一緒に見てもらう。

「誰か見たことある?画質悪いから何とも言えないけど」

「見た感じ誰も見たことないですね」

「追って来た連中とも違うみたいやし」

「うーん・・・」

 誰も見たことがない。捜査に行き詰ったケビン達に、一本の電話がかかってきた。

「ハローケビン、面白い情報を仕入れたよ」

「CEO。何を見つけましたか?」

「実はチンピラの一人を拘束して聞き出したんだけど、頼まれた人間の顔を見たことないって言ってたんだ」

「え?顔を見ていない?」

「なんでも、顔にはサングラスとマスク、ハンティングキャップを被っていたんだってさ」

「そうですか、彼女達と会ったのは初めてかも聞きましたか?」

「もちろん。初対面だってさ」

 電話から何かを怯える声が聞こえる。簡単な尋問をしたのだろうか。

「そうそう、彼ら五十嵐弟とは敵対する勢力らしいよ」

「なんですって!?」

「僕がこれ以上調査したらなんかヤバそうだから、一回帰るね。じゃ」

 

 

 

 

 ロバートの代わりにケビンが湘南に足を運んだ。五十嵐弟に直接会いに行くためだ。現在土産を持って、約束の場所であるパブにいる。

「アンタが菊地って男か?」

「そうだ」

 丸刈りで剃り込みのある、ガッチリ体系の男が声をかけてきた。

「紹介が遅れたな、俺は五十嵐貴博。五十嵐家の次男だけど、出家しようと考えてんだ」

「ずいぶんと律儀だな。気に入ったよ、俺はケビン菊地。アメリカ人と日本人のハーフだ」

 見た目に合わず自己紹介する彼に好印象を抱いた。評判とは少し違うようだ。

「兄貴が家を継ぐから、俺は親父やお袋から軽視されてよぉこんなになっちまった。だけど足の悪いお袋が交通事故で亡くなって、親父も病気で床に伏せてる。仕返しで簡単な介助してんだが、日に日にやつれて来てな、親父、近いうちに死ぬかもしれない」

 五十嵐伝助の写真を見せてもらった。会社のホームページに載っている写真よりも見違えるほどやせ細っている。

「おいおい酒飲みすぎだ、最初からウォッカのテキーラ割りなんて飲むなって」

「構って欲しかったんだ、でもいつの間にか地元の悪仲間と喧嘩する毎日になっちまった・・・抜けたい・・・」

 ケビンは思った。彼は確かに人々から恐れられる存在かもしれないが、心までは毒されていないと。土産のひとつを提示した。前日襲撃した男の写真だ。五十嵐弟改め貴博は酔いが醒めた。

「こいつ!?」

「ウチの事務所に殴り込んできたバカだ。女の子追いかけまわした挙句、どこかへ連れて行こうとしていた」

「この前いなかったわけだ、女追ってたのか!?」

「しかも複数人で。どこだと思う、追ってた場所」

「どこだ?」

「秋葉原だ。心当たりは無いか?」

「無い。俺はともかく、兄貴ならわからん」

「どういうことだ?」

「μ’sの絢瀬絵里と東條希推しだったから、何度か応援しに行ってた。しかも一人暮らしでそっちにいる」

「そうか、お兄さんのアルバイト先とかはわかるか?」

「確か、牛車引っ越し社で引っ越しのバイトしてて、その時に二人の部屋に入ったことあるとか」

「なんだって!?そいつの住所はわかるか?」

「知らない。俺と不仲だったから、教えてもらってない」

「そうか・・・。それとさ、実はもう一つお土産があるんだが」

「?」

「出家して、金はあるかもしれないけど、親と同じ仕事は嫌だろう?だからさ」

「なんだ?」

「よかったら、ウチで働かないか?君のような屈強な男は大歓迎だ」

 

 

 

 

 

 ケビンは酔いつぶれた貴博を車に乗せ、事務所に帰ってきた。今までのことを全員に話す。

「まさか引っ越しの時に仕掛けていたとは、随分危険な男ですね、彼の兄は」

「最低ね、女の子の裸覗くなんて下衆野郎じゃない!?」

「ふむ。でもケビンなら、彼を釣り出す方法を考えてるんじゃないか?」

「もちろん。そのためにも、協力してもらわないといけないな」

 

 

 

 

 2日後、作戦を決行する。絵里に貴博の兄、五十嵐徳助を埠頭倉庫にまで呼び出してもらい、ケビンとオマルは倉庫の陰で待機。約束の時間に爽やかな出で立ちの男が現れたのを確認する。

「うまくいきますかね?」

「あぁ、たぶん」

 絵里が必死になって徳助を見る。一見、真面目そうで誰からも好印象を抱きそうだった。今回のストーカー事件の犯人が今目の前にいる、そう思うと気持ちが昂ってビンタしたくなるが、なんとか堪えている。

「僕に電話してくれるなんて、なんと光栄でしょうか」

「そうね。でも、あなたにこれを見て欲しいの」

 ポケットから盗聴器と隠しカメラを取り出し、彼に見せた。

「これ仕掛けたのあなたでしょ?」

「はぁ?」

「あなたのバイト先の先輩から聞いたわ。リサイクルショップでこのような機械を買ってるのを見たことあるって」

「言いがかりです、僕じゃないよ」

「証拠ならあるわ。そこの店員があなたをはっきり覚えていたわ」

「!?」

「まだあるわ、希を追いかけまわした男達、あなたが高額な現金を払う約束で雇ったことも調べがついてるの」

 襲撃してきた男の写真を見せる。余裕だった男の顔がみるみる険しくなっていくのがわかる。

「ち、違う、僕じゃ」

「ふざけるな!」

 ケビンとオマルとは違う場所に隠れていた襲撃者が現れ、徳助に突っかかっていく。彼を呼んでいないため、ケビン達も驚いた。

「シラ切るなさっさと金渡せよ!」

「何故お前がここに!?」

「金払ってねぇからだ、しかも死にかけたんだぞ!」

「黙れ!」

 徳助は忍ばせていたナイフで胸を一突きし、命を奪った。ナイフを抜き取ると、今度は腰を抜かした絵里に向ける。

「こんなことしたくなかったが仕方ない、君を僕だけのものに」

「そこまでだ五十嵐徳助。ナイフを捨て両手を見せろ!」

 これ以上は危険と判断したケビンがM629を構えながら現れる。徳助はナイフを落とし、両手を上げた。オマルは早急に生死を確認するも、首を横に振った。

「まさか殺しもするとはな・・・アンタを調べたのは俺だ。お前は恐ろしい男だ、まさか母親の杖に折れるよう細工して事故に見せかけて殺し、今度は父親を毒で殺そうとしたとはな」

「俺はそんなことしてない、何かの間違いだ!」

「残念だがアンタの実家にある部屋に、遅効性の毒物が見つかった。しかもPCの履歴に購入歴もあった。もう言い逃れはできん、覚悟しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件解決から数日後、ロバートはとっくに帰国しており、静かな時間が流れていた。

「二人ともありがとう、おかげでCEOから最高評価を得ることができた。給料アップと社用車が手に入ったこと、感謝する」

「いやぁよかったですね。絵里さん、今は平和に暮らしてるとか」

「希ちゃんもメイド喫茶でよく見るわ。前よりいい顔になっていたわね」

「そうか。それはよかった」

「ところでケビン、彼どうなったのですか?」

「五十嵐貴博なら、上海支部での勤務になって、ロサンゼルスの本社で訓練してから配属される。CEOが面接して決めたらしい」

「そうでしたか」

「ねぇせっかくだし、みんなで飲みに行きましょうよ、いい店あるのよ」

「いいなそれも。仕事終わったら、みんなで行こう」

 





 ロバート初登場です


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13話  菊地氏の平和な一日

 時にはシリアス抜きで、のんびりと


 事務所の前にハマーを改造した車が停まった。ボディやガラスは防弾仕様でタイヤも軍用のモノを使っているタイプだ。

「これで街を走るんですか?尾行できそうにないですね」

「これは遠征用だ。もう一台も送られてる」

 次に来たのはクラウンだった。もちろん防弾はバッチリだ。

「駐車場大丈夫なの?」

「もう借りてる」

 駐車場に停め直すと、早速事務所に入り、仕事に戻った。何も依頼が来ないため、早めに昼飯を取ることにした。

 

 

 

 

 いつも通う飯屋に入ると、ミコトも一緒に入ってきた。

「先生、同席いいですか?」

「いいよ。今日はいつもより上機嫌じゃないか?」

「モモちゃんが退院したんです。嬉しくて」

「そうか」

 この日は気分を変えて丼ではなく、カレイの煮魚定食を食べる。

「あれ、いつものと違いますね?」

「時にはいいだろう、俺も健康に気を使ってるんだ」

「先生はお魚好きですから、そこは外さないんですね」

「まぁね」

 のんびり食べていると、見たことある少女が店に来た。以前沼津で出会った、国木田花丸がいた。

「どうしてここにいるのでしょうか?」

「夏休みで遊びに来てんだろう」

「でも、ここに来ますかね。ファミレスもあるし、名物のメイド喫茶もありますよ」

「後者はともかく、彼女がここにいる理由がわからんな」

「何話してるんですか?」

 いつの間にか花丸が二人に近寄って来ていた。

「おら探偵さん探してたら、事務の人からここにいるって聞いて来たんだずら」

「・・・つけてた?」

「はい」

「・・・飯おごるから、話を聞くよ」

 花丸がケビンに会いに来た理由、それは意外なものだった。なんと、黒澤ダイヤがμ’sの絢瀬絵里のサインを旅行ついでにもらって来てほしいと頼まれて、仕方なく秋葉原に来たのはいいが、いかんせん困ってしまい、悩んだ結果、ケビンにお願いしようと考えたそうだ。

「ルビィちゃんのお姉さん、変わってると思ってたけど、ここまでとは・・・」

「なんだろう、生徒会長って変人しかいないの?」

「そういえば生徒会長だれ?」

「高坂穂乃果」

「わぉ」

 飯を食べ終え茶を飲んだ。

「探偵さんお願いします、代わりにサインもらって来てください!」

 断る理由も無いため、色紙をもらい、絵里に電話した。

 

 

 

 

 

 神田明神前で待ち合わせ、絵里にサインペンと色紙を渡した。

「・・・探偵さんも大変ですね」

「まぁボランティアみたいなものだよ」

 以前の危ない一面が嘘のように穏やかなケビンを見て、思わず笑ってしまう絵里。

「どうした、俺の顔に何か付いてるか?」

「危険人物だと思ってたけど、全然違うって思ったんです」

「できるなら、銃なんて使わない仕事がしたいさ。でもそれが許されないみたいでね」

 笑顔でサイン色紙を受け取り、花丸に電話する。

「サインもらったよ。これから帰る」

 途中で二人に合流し、彼女を紹介した。ミコトに限ってはにらみを利かせている。

「おら国木田花丸です、Aqoursっていう、スクールアイドルしてます」

「二宮ミコトです。ケビン先生の助手をしています」

「よ、よろしくね・・・ずいぶん個性的な方々ですね」

「俺に言われても」

 

 

 

 

 秋葉原を観光案内していると、すっかり夕方になり、彼女をホテルまで送ることにした。クラウンのカギを開け、絵里を除く3人は乗り込む。

「私はここで。お疲れ様でした」

「じゃあね」

 ホテルまでの道中、帰宅ラッシュに巻き込まれる。助手席のミコトがケビンに話しかけた。

「寝てますね、花ちゃん」

「そうだね。初めての東京だったから、疲れててもおかしくないよ」

「・・・あの子、ファンに追い回される可能性あるのにアイドルやる勇気があるなんて、すごいと思ったんです。私もそれについては覚悟してました、しかし、信じていたマネージャーがモモちゃんにカメラ仕掛けて私生活覗いてただけでなく、貞操まで奪おうとしてたなんて、思いもしませんでした」

 自分がアイドルやってる頃を思い出したのか、窓に映る街並みを見ている。

「でも同じ女の子だったんですね。寝顔見てると、そう思ってしまって・・・」

「戻りたいか、芸能界に」

 首を横に振る。

「そっか。君の決めたことだ、俺がどうこう言うことはないよ」

 信号が赤になり、前の車が動いたため自分達も動く。10分後、渋滞地点を抜け、行先のホテルに車を止めた。

「ふぇ・・・着いた?」

「着いたわよ、部屋に入ったらゆっくり休むといいわ」

「今日はありがと、また会えたらいいずら」

 花丸が車を降り、ホテルに入ったのを確認すると、再び発進しようとしたその時、オマルから電話が入る。

「俺だ」

「ケビンですか。今日も飲みに行きたいのですが」

「お前そういえば酒大丈夫なのか?宗教的に」

「ふふふ・・・日本に来た際に、もう棄教しました。確かに宗教は心の支えになりますが、行き過ぎると過激になりますからね。だったら、そんなモノは捨てた方が、世のためでしょう?」

「そんなパキスタン人初めて見た」

「この前行った店に来ませんか?ミコトさんもぜひ」

 

 

 

 

 

 二人は待ち合わせの居酒屋に入り、オマルがいるテーブル席に座った。既にジョッキを握っており、顔も真っ赤だ。

「お疲れ様です。まさか観光案内の仕事するとは、探偵というより何でも屋ですね」

「ジョークとして受け取っとく」

 バイ貝の含め煮を取り、爪楊枝で殻から身を抜き出し、それを口に入れる。

「バイ貝いいですね。気に入りましたよ、ケビンも良い店選びますね」

「これでも食にはこだわりがあるんだ。この店は特に魚介に強い」

「先生って、こういう店に入るんですね」

「まぁね、俺も飲みに行きたいって思うことあるよ」

 硬派なケビンにはあまり似合わない、乳酸菌飲料を頼む。

「そういえばミコトさん。ケビンのどこを気に入ってるのですか?」

「その・・・照れくさいのですが、一緒にいて安心するんです。優しくて強くて、何より私が生きてこれたのも、先生のおかげですから」

「?ケビン、彼女何があったんですか?」

「彼女な、実は俺と会うまでは一人ぼっちに近い状態だったんだ。初めて会った時は暗い表情で部屋の隅でじっと座って、寂しそうだった」

 頼んでいたものがテーブルに置かれ、それを口にする。

「担任の先生からは誘拐未遂されたり、同級生からはからかわれたり、少ない理解者であろうマネージャーに貞操奪われかけたりと、すさんでいくのも納得がいくよ」

「・・・辛かったですね」

「でも、先生はいつも側に寄り添って話を聞いてくれた。だから、私も負けないように頑張れたんです」

「ケビン・・・良い仕事しましたね」

「俺はただ、女の涙を見たくなかっただけだ」

 グラスに残ったものを一気に飲み干した。

「こういうところも好きですよ、せんせ」

「モテますねケビン?」

「ったく、茶化すなよ」

 その後楽しい時間は過ぎていき、時計をふと見ると時間的に条例違反になりそうなので、ケビンはミコトをマンションまで送るため、オマルと別れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミコトを送ったあと、事務所に戻ったケビンは2階にある住居スペースに上がり、PCを点けメールを確認する。特に何もないためシャットダウンし、自分の寝室に向かい、窓を開けた。

「今日は平和に終わったな。こんな日が続くことを祈ろう」

 部屋の明かりを消し、ベッドに横たわった。




 目指せ神宮寺三郎ですが、どうしても彼には近づけない・・・


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14話  善と悪

 人間は善悪のバランスによって成り立っている


 21:00東京・調布にて、とある殺人事件が起きた。被害者は本庄潔、地元で有名な暴走族の一員の少年だ。遺体には右頸動脈を切られており、プロによる犯行と判明した。

「またか。これで3件目だな」

「おとといも昨日も、彼のようなクズ達が狙われていますね」

「板倉、仏に鞭打って楽しいか?」

 板倉と呼ばれた若い刑事が頭を下げる。

「す、すいません。言葉を知らないので」

「全く・・・次から次へと・・・どうなってやがる」

 親子ほど歳の離れた二人の刑事が発見者に事情聴取しようとしたその時だった。どこからか銃声が響いた。

「なんだ!?」

「こっちです、先輩!」

 音のした方に駆け付けた先にいたのは、脳天を撃ち抜かれた一人の男性の遺体だった。周辺を見渡すがやろうと思えば登れる壁が左右あり、どちらに登ったかわからない。板倉は壁を越え、探してみるも、誰もいないと報告する。

「ホントに、どうなってんだ!?」

 

 

 

 

 翌日。連続殺人事件の捜査指揮を執っていた眼鏡の似合う長身の警視、大村益次は知り合いの根岸に電話した。

「根岸、ちょっといいか?」

「なんですかな、電話とは珍しい」

「お前の頼りにしてる探偵の連絡先教えてくれ。鑑識もお手上げなんだ」

「私もあの事件を担当していたら、彼の力を借りるでしょう。一度だけですから、覚えてくださいよ」

 

 

 

 

 

 大村は昼にケビンの事務所を訪ねた。

「根岸さんから聞いています、調布の連続殺人事件を解決してほしいとか」

「その通りだ。共通して不良グループのメンバーが襲撃され命を落としている、殺害方法はバラバラだ。昨日は近くで2件発生してどちらもアナコンダっていう暴走族のメンバーだった」

「(個体がデカイから群れ造んねぇよアナコンダ・・・)そうですか。捜査資料に被害者のリスト、検死結果のコピーをください。あ、送らなくても俺が署まで行きますから」

「引き受けてくれるのか?」

「えぇ。ただし、これで手を打ちます」

 ケビンは手のひらを見せる。

「50万で引き受けましょう。ただし、成功報酬ですから、後払いで」

「おぉありがとう、早速来たまえ!」

「落ち着いてください。少し準備があるので、外で待っててください」

 大村が乗ってきた車に待機して数分後、釣り竿ケースの肩にかけたケビンがノックする。

「ちょっと、釣りなんて呑気なことを」

「仕事道具が入っています。お気になさらず」

 中身が銃だと言ったら疑われると思ったため、あえて話さない。警察署に着くと、ケビンは署内の受付付近で待たされた。

「待たせたな。これが注文品だ」

「ありがとうございます、これから現場に行くのですが、入っても大丈夫でしょうか」

「一応調べは終わってるから、見ても大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 ケビンが現場で確認したのは、周囲の環境だった。街灯が多く、人通りもあるため辻斬りができるのか疑問に思った。発見された21:00、第一発見者は夜中に散歩していたという。彼によれば最初、酔っぱらいが壁に寄りかかって寝ているように見えたらしいが、肩に触れた途端抵抗もなく倒れ、街灯の灯りが首の傷を照らしたらしい。現場も実際、街灯の近くだ。

「・・・なんだこの違和感は、不自然だ」

 壁を確認する。資料によれば壁に血液が付着していない。

(発見者の話によれば被害者は傷のある右側に傾いていたってことだ。なのに血液が付着していない。急所を切られれば当然、墳血し周辺に散る。それがないと言うことは、別のところで殺され運ばれた可能性が高いな)

 近所で聞き込みをし、アナコンダの評判を聞くと、案の定最悪で夜中に走り回るだけでなく、年寄や女子供を理由もなく攻撃したり、スリや恐喝も行う、アウトローのひとくくりでは表現できない連中らしい。

(とんだ奴らだな)

 今度は宏美に連絡し、アナコンダのたまり場について調べてもらうことにした。

「あったわ。街の外れにある廃工場を寝倉にしてる、まさかそこを攻撃する気?」

「いや、事情聴取に行く」

 

 

 

 

 

 街外れの廃工場に行った。見張りらしい橙のジャージを着た男二人に声をかける。

「本庄潔について聞きたい」

「あ?てめぇ何様だ?」

 胸倉を掴まれる前に相手の腕をへし折り、もう一人に殴りかかられるが、顎への一撃で気絶させる。

「貴様じゃ話にならん、頭に会わせてもらう」

 もがき苦しむ相手を踏みつけて黙らせ中に入った。案の定、複数人に囲まれる。

「ガキが・・・どけ!」

 一斉に襲い掛かるが、一人にボディーブローからの肩車で投げつけ、一網打尽にすると、Px4を抜く。

「な・・・なんだよコイツ!?銃持ってやがる」

「落ち着け、エアガンだって」

 男の足に照準を定め、引き金を引く。アキレス腱が切れる激しい音が響いた。

「死にたくないなら騒ぐな、お前たちの頭はどこだ?嫌だと言うなら、ここで死んでもらう」

「ヒィ!」

 自分の命が惜しいのか、命乞いを始めた。ケビンは内心彼らを侮辱する。

「ししし新城さんは八王子のブルドッグっていう、奴らに遠征してます。そろそろ帰ってくるのではないかと」

 その時だった。外から100台近くのバイクから発せられる轟音が鳴り響いてくる。

「アンタ。俺達に殴り込みなんて良い度胸だな」

「新城さん、コイツ銃を」

「黙れ!お前ら、こんなおっさんに負けたのか?ここから出て行け!」

 外に取り巻き達を待機させ現れた、生傷の多い長身の男、新城欽也。

「アンタ何者だ?カタギの空気しないぜ」

「トライデント・アウトカムズのケビン菊地だ。今回、本庄潔の件について聞きに来た」

「いたなそう言えば。あんな雑魚、用済みだから」

「仲間意識ってもんが無いんだな」

「ここにいるのは、喧嘩の強い奴だけだ。寝てる見張りをボコし、クソどもを一蹴する実力は認めてやる。ウチに入れよ」

「生憎だが俺は仕事が忙しくてな」

 男二人がにらみ合っている。

「もし死んだ原因が、背後からの暗殺だったら?」

「はっくだらねぇ。そんな殺され方されちゃ雑魚も一緒だ」

「そうか・・・それなら、アンタも一緒だ」

「なんだと?」

「どんな人間でも、気づかれずに急所を攻撃されりゃ死ぬ。しかも首を切るなんて正面からじゃ難しい」

 欽也はナイフを抜きケビンに襲い掛かった。しかし、動きを見抜かれ躱される。Px4をしまい、マーシャルアーツの構えを取った。

 

 

 

 

 

「死ねや!」

 欽也の攻撃を全く反撃せず躱し続ける。彼は点と線、両方の攻撃をするがケビンには全く通用していない。

「お前の攻撃はパターンが変わらん、それじゃ相手に読まれる」

 今度はケビンがキレのある蹴り技から、肩を掴みヘッドバッドで欽也を気絶させた。取り巻き達は青ざめ、全員腰を抜かした。

「よく聞け、今日で解散を宣言する。文句あるやつ全員射殺するから覚悟しろ」

 彼らの足元に石のような球が転がってくる。それに気がついたケビンがとっさに地面に伏せた瞬間、大爆発を起こし、外で待機していた全員が爆死した。あまりの恐怖で生き残った男達は逃げ惑った。

「うぅぅぅ・・・な、なんだこりゃ!?」

「何者かが手榴弾転がしやがった。新城、これでも雑魚って言えるか?」

「言えねぇよ!ととっととにかく、俺を助けてくれ、なんでもするから!」

「・・・二度と住民に迷惑をかけないこと、社会貢献するってんなら、引き受けてやる」

 

 

 

 

 

 威厳が無くなり完全に怯えまくっている欽也を仕方なく連れ帰り、一時的保護することにした。

「彼がアナコンダのリーダー?カッコ悪いわね」

「こんな男に苦しめられた住人が惨めですね。私ならゆすってフルボッコにしてしまうのですが」

 宏美とオマルに過小評価されるが、事実なので言い返せない。

「しかしケビンは甘いですね、どうしてこんな男を保護するのですか?」

「コイツの配下、M67手榴弾で殺されたんだ。しかも俺の目の前で」

「なんと・・・あれは安くて簡単に殺せるから、カタギが持っていい品ではないですよ。したがって敵は我々の同業者か、ヤクザか」

「あるいはそういう連中から買ったか」

「・・・明日は私が調布に行って、変わった動きがないか調べてみましょう」

「頼めるか?俺は警察に行って保護申請してもらってくる」

 

 

 

 

 

 だが、警察は取り合ってもらえない。昨日の事件も事故として処分されたらしく、彼が保護される理由がわからないとのこと。だが、ケビンは不審に思った。明らかに彼らを消し炭にしたのは手榴弾であり、その破片も残っているはずである。にも関わらず事故として処分されたのだ。

「俺どうしたらいいんだよ、死にたくねぇよ」

「いいか、お前は殺されても同情できないようなことを平然としてきたんだ。今さら命が惜しいとか抜かすな」

「でも」

「命が惜しいなら、端からそんなことするなバカが」

 結局連れ帰ることにしたが、警察署から出てきたところを狙撃され、欽也は帰らぬ人になってしまった。ケビンは柱を遮蔽物にし様子を見ると、近くのアパートの屋上から何者かが急いで脱出するところを目撃する。急行するが、既に逃げられていた。

「くっそ」

 一旦警察署に戻り、事情聴取を受けることにした。ケビンがシロだということはわかっていたため解放されたが、彼らが役に立ちそうにないため、独自で調査する方針を続けることにした。

 

 

 

 

 

 21:00に現場の本庄潔と連続してあったという別の事件現場を歩く。とても閑静で事件とは無関係とも取れた。壁の向こうにあった茂みで何か拾った際、ケビンの背後に誰かがついて来ていた。

「俺に用か?」

 振り向くと、フルフェイスのヘルメットを被り、鉄パイプを持った何者かが襲い掛かってきた。攻撃を受け止め、腹への一撃で怯ませると鉄パイプを叩き落とす。それでもなお、素手で殴りかかってくるため、頭部への回し蹴りの一撃でダウンを奪い、無理矢理ヘルメットを脱がせた。

「!?お前は」

「くっそ、探偵がこんなに強いなんてな・・・」

 大村だった。

「どういうことだ?」

「俺がアンタが怪しいと思った。だから襲った!」

「・・・ウチの規則、3つ教えてやる。殺しの依頼は受けない、怪しい依頼は受けない、悪党の依頼は受けない。その3つだ。それに俺は事件発生時には飲み屋で飲んでたぞ、ちゃんと調べたか?」

「な!?」

「したがって、俺が殺害したなんて考えられない。検討違いだな」

 一息つくと、話を続けた。

「それと、前の立て続けに起きたやつ、本当に連続だと思うか?」

「なんだと!?」

「アンタのところの刑事が最初に見つけたんだってな。報告書、信じられるのか?銃声したのに弾丸が遺体からも周辺からも残っていないって」

「確かにそうだが・・・」

「簡単だ。犯人は予め別の場所で殺しておいてそこに捨てる、次に銃声を録音したボイスレコーダーをセットしておいて、あたかも連続して起きたように細工したんだ。どうせ検死してないだろ?」

 ポケットからボイスレコーダーを取り出し、それを大村に渡した。

「じゃあ、誰が犯人なんだ?」

「それ調べるのは警察の仕事だろ。まぁ、俺も俺で調べるさ」

 そう言って、ケビンは闇へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 珍しく進展しないため、落ち着くために穂むらに足を運ぶことにした。

「いらっしゃいま・・・あ、探偵さん!」

「あれ、店番かい?」

 割烹着姿の穂乃果が店番をしていた。

「この前はありがとうございました!」

「仕事だから気にしないでくれ。それはそれとして、席空いてるかい?」

 案内された席に座り、ほむまんを口にする。

「どうしたものかな・・・」

「探偵さん。元気ないですね」

「また厄介ごと引き受けてね、考え事してたんだ」

「いつもバンバーンって、決める人だと思ってましたけど、悩むことあったんだ」

「おいおい俺がまるで何も考えずに行動してるみたいじゃないか」

 苦笑いするケビン。

「穂乃果、憧れちゃいます。だってカッコ良くてクールだもん」

「そうは思わないな。一見カッコ良く見えても、裏じゃとんでもない悪党だったり、中身のない人間だったりするもんだ。見た目じゃ何もわからんものさ」

 静かにお茶を飲むと、ふと脳裏によぎった。

「・・・いたな、皮被った悪党」

「え?」

「君じゃないよ。いたんだよ、近くに犯人が」

 

 

 

 

 

 その日の夜、ケビンは元アナコンダのアジトに犯人を呼び出した。

「アンタは報告書に銃声を聞いたと書いた、だが弾丸がどこにも見当たらない。そりゃそうだ、別の場所で殺して捨てたんだからな。二人を殺したのはここだろ、この廃倉庫だ。ここなら銃声が響いても誰も駆け付けない。違うか、板倉?」

「それだけじゃ犯人と決めつけられませんよ探偵さん、証拠はあるんですか?」

「銃声だよ」

「?」

「ここの廃倉庫は音が反響する、しかも銃の種類によって音も違うんだ。38口径と45口径じゃ弾速が違う、知ってたか?」

 懐からボイスレコーダーを取り出し、犯行時刻に聞いた銃声が響いた。まるで小さなコンサートホールでパーティークラッカーを鳴らした音がする。

「45口径ならもっと太い音がするぞ」

「ここで録ったって証拠と違うんじゃないですか」

「あるぞ。まだ再生中だ」

 銃声から30秒後、バイクのエンジン音が聞こえる。そこで終わるがケビンは満足そうだ。

「実はそのトリックは一人じゃ無理だ。だから組んだんじゃないのか、新城とさ。仏二人の共通点、アイツとトラブル起こして脱退寸前だったらしいじゃないか」

 ケビンは話を続ける。

「それにアンタ、新城とクラスメイトでつるんでたんだって?悪い連中ともその頃からの付き合いらしいじゃないか」

 遅れて大村と他の警官がパトカーに乗って駆け付けてくる。

「板倉、もう言い逃れはできん。手榴弾を売りつけた人間を逮捕した。そいつが吐いたぞ!」

「まだだ!まだ弾丸が見つかってない!」

「・・・それなら見つかったよ、ソファの中に入ってたのを、頑張って探ったんだ」

 袋に入れた弾丸を見せる。

「近距離で撃ったら貫通する。それを計算に入れなかった貴様の負けだ。それともう一つ、本庄を殺したナイフの形状と新城の持っていたナイフの形状が一致した上に何故かアンタの指紋も検出された。騒がせたのは、とんだ素人だったな」

 板倉は腰にあるニューナンブを抜きケビンに向けるが、彼の投げつけた仕込み警棒が肩に当たり怯んだ隙に大村に取り押さえられた。

「全く手こずらせやがって。50万と迷惑料で合計60万を請求するぜ、調布署に」

 

 

 

 

 事件は解決した。後日、アナコンダを壊滅に追いやった板倉を慕う住民の多くが裁判所に厳罰を控えるよう運動を起こした姿が報道されその様子は夜中でも続いたという。見ていられなくなったケビンはテレビを消す。

「まさか警察官の犯行だったなんて、信じられないわ」

「だが、行き過ぎた正義感は道を誤る。俺も気をつけないとな」

 レミントンR5を解体し、いつものように手入れをすることにした。



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15話 危険な花火

 夏は終わるが、気温はあまり変わらない


 今日事務所にはケビンしかいない。宏美は盆休みで祖母の家に行っており、オマルは関西へ旅行に行ってしまったためだ。

「でもミコトちゃんが遊びに来てる」

「ことりも忘れないでください!」

 ケビンにとっていい感じに一人の時間が取れるはずだったが、夏休み中で仲の良い二人が事務所に遊びに来ている。二人とも何故か大きめのカバンを持っており、どこかに出掛ける用意までできていた。

「事務所開けたくないんだけど・・・」

「先生にも休暇は必要です。明日の夕方、稲村ケ崎でのど自慢大会があって、優勝すれば周辺店舗のドリンクとランチが無料なんです」

「話聞いてた?一応、探偵業も特別警備会社の仕事も休みにしたくないって」

「でも、のど自慢大会面白いと思いますよ」

 人の話を一切聞いていない二人に押され出発しようとしたその時、一人の男が事務所に入ってきた。肌が日焼けで黒く、程よく鍛えた肉体の男だった。

「すいません、ちょっと相談したいことが」

「構いません。二人とも、少し席外してくれる?」

 

 

 

 

 

 ソファに座らせ、話を聞く。彼の名は桑田博、今度稲村ケ崎で大型イベントを主催する、桑田企画株式会社の社長らしく、運営本部に脅迫状が届いたらしい。

「渡辺曜を出場させるな・・・誰です?」

「ご存じないのですか?彼女はAqoursのメンバーで、今勢いのあるスクールアイドルですよ!」

「へぇ・・・これ以外で怪しい動きとかは?」

「会場の準備中に照明が落ちてきたり、演出用の爆薬が盗まれたりと、明らかに人為的なものを感じます」

「・・・爆薬って、どのくらい盗まれましたか?」

「だいたい半数の15キロほどが盗まれました」

「どこにしまっていましたか?」

「会社にある鍵の付いた離れの倉庫です。あんな危なっかしいもの、そこら辺に置きませんよ?」

「鍵を誰が持ってましたか?」

「限られた職員のみが携帯しています。私も許可と免許持ってますから、管理はできます」

 ケビンは焦りを感じた。不特定多数の人間が来るであろう夏の浜辺で起爆されたら、想像するだけでも恐ろしく感じる。

「・・・警察には知らせましたか?」

「もちろんです。しかし、警察だけで対応し切れないと思いましてここに相談に上がったのです」

「なるほど・・・今回はその、渡辺曜って子の護衛をしながら盗まれた爆薬を発見してほしいのですね」

「はい。しかし探偵さんもなかなかやりますね」

「?」

「だって、元トップアイドルの二宮ミコトちゃんとμ’sの南ことりちゃんと交流があるなんて、羨ましいじゃないですか!」

「ミコトちゃんは時々来ますよ。今日だって、その稲村ケ崎の大会に行きたいって話をしてましたから」

 

 

 

 

 

 

 仕事を引き受けることにしたケビンは、早速準備を始めた。もちろん仕事の準備である。

「レミントンR5に556NATOマガジンを15個。Px4マガジン4個入れて・・・」

 他に予備のボディーアーマーや非常食を専用のAMMOボックスにマガジンを入れ、それをクラウンのトランクに入れる。

「先生、今回重装備ですね」

「俺が首突っ込む事件はいつもヤバいが、今回は特別ヤバい」

「でもそんな簡単に持ち出せるのでしょうか?」

「種類と保存方法にもよるが、刺激すれば大爆発は確かだ。30キロをどうやって運んだんだろう?」

 ケビンは二人を後ろの座席に座らせ、稲村ケ崎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 現場の会社に入り、盗まれた爆薬と同じものの、四角い粘土みたいな物の画像を見て、ケビンは桑田の胸倉を掴んだ。

「どこで買った!」

「え、ど、どこでって・・・」

「答えろ!」

「友人の紹介で知った通信販売のサイトです。最近、独自に開発した演出用爆薬を扱ってるって話を聞いて・・・」

「バカ野郎!C4が演出用なワケないだろうが!あれは軍用爆薬だ!」

「ええ!じゃ、じゃあ騙されたんですか!?」

「サイト見せろ!」

 桑田のPCの履歴に専門サイトがあったため、それを開いてみる。ケビンはそのサイトに見覚えがあった。アメリカで仕事してた時、本社がCQB訓練用ブリーチを購入するサイトと同じものだったからだ。

「誰から教えてもらったんだ?」

「平っていう、マーキュリーセキュリティー茅ケ崎支社に勤務してる友人です。安全で素人でも扱えるから、安心して・・・」

「確かにC4は安全で信管が無ければただの粘土だ。だが、信管とスイッチがあれば、仮に15キロ全部爆発させれば会場の人間の多くが一瞬で挽き肉になるほど威力を持ってるんだぞ!」

「じゃあ、私は無自覚で殺人計画を」

「そういうことになる・・・」

 ケビンは疲れた様子で頭を抱える。もし犯罪集団に渡ってしまえば、大惨事は免れない。

「私はどうすれば・・・」

「とりあえず火薬を使わない演出を考える、次に出演者にその旨を伝える、それだけだ。俺はその渡辺曜の身柄を確保しに行く」

 

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所の書かれた紙を手掛かりに、3人は沼津に向かった。

「なんか大変なことになりましたね・・・」

「本社に連絡して上海支部から援軍呼んでもらった。すぐに来る」

「探偵さん。C4って危険なものですか?」

「ダイナマイトわかるかな、それの1.3倍の威力があって、遥かに上回る安全性を有した軍用爆薬だ。どのくらい安全かって言うとね、火につけてもただ燃えるだけだし、ハンマーで殴るなど乱暴に扱っても爆発しない。ただ、信管とスイッチがあれば一瞬で危険物に早変わりだ。問題は、盗んだ相手が信管を持っているかだ。もしあったら」

「地獄絵図になる・・・」

 ことりは想像するあまり失神してしまった。

「彼女連れてくるの失敗だったね」

「そうですね」

 沼津に到着後、指定の場所である港の駐車場で待機することにした。髪型こそ花陽と似ているが彼女に比べて筋肉質な少女が窓をノックしている。

「桑田さんが言ってた、ボディーガードさんですか?」

 窓を開ける。

「そうだが、君が曜ちゃんかい?」

「渡辺曜です。ホテルまでお願いします」

 ドアを開け、助手席に座らせると、彼女が驚いた表情になる。

「え・・・南ことりちゃんに、二宮ミコトちゃん?」

「二人とも知り合いでね。俺が仕事がてら送迎することにしたんだ」

「ミコトです、よろしく」

「よ、よろしく・・・ドア重たいですね」

「この車、完全防弾仕様だから。そうだね、ロケットランチャー撃たれなければ生きて帰れる保証ができるくらいだね」

 この人何者だろうか。曜は内心不審に思った。

「これ、俺の名刺だ」

「・・・あ、もしかして花丸ちゃんの言ってた探偵さん?」

「そうだけど、知り合い?」

「はい」

「そっか。明日は来るのかい?」

「千歌ちゃんと花丸ちゃんと合流する予定です。Aqoursの動けるメンバーだけで歌うので、少し緊張しますけど」

「頑張りすぎないようにね。そうだ、ひとついいかな?沼津の君達が、どうして稲村ケ崎でライブをすることになったの?」

「父の友人が企画会社に勤めていて、そのツテで参加です。それに、人気あるんですよ?」

「へぇ。知らなかったな」

 関心なさそうにつぶやくが、曜の言っていた父親の友人という触れ込みに興味を抱いた。しかし、わざわざ彼女に聞かなくても明日聞けばいいと思い、それ以上は聞かないことにした。

 

 

 

 

 

「なんか退屈だねミコトちゃん。そうだ、現役だった頃の話してよ」

「・・・ごめんなさい、あまり話したくない・・・」

「え~なんで?」

「報道では華々しいかもしれないけど、私にとって居心地のいい場所とは言えなかった。音楽番組の収録の後、仲良しグループと言われてた連中が、楽屋で罵り合ったり、司会者の陰口言ってたり・・・ホントは自分が大事で他人なんて踏み台にしか考えてない連中ばっかり・・・怖かった、信じられる人が周りにいない環境が」

 寂しそうに窓の向こうに映る海を見つめる。

「ごめん。そうと知らないで・・・」

「いいの。どの世界にも裏なんてあるんだから」

 途中コンビニに寄り、夜食を簡単に買い込むことにした。

「でもその分、スクールアイドルって良いと思う。だって、みんな仲良しだし悪いことを悪いと言える、それだけでも立派だと思うの」

「ミコトちゃん・・・」

 買ってきたパック入りグレープジュースを飲む。曜にも分け与え、少し笑った。

「もし私にも、曜さんのように素敵なお友達と会えたら、人生変わってたかも」

 

 

 

 

 

 ホテルの一室で持ってきた銃の手入れをする。

「探偵さんいいですか?」

 ことりが部屋のドアをノックする。ケビンは彼女を部屋に入れた。

「もう動いて大丈夫?」

「ことり元気ですから。あ・・・もしかしてこれって」

「君の家に入るときに持っていたアサルトライフルだ。アメリカ製で信頼性と命中精度がいいんだ」

「・・・探偵さんって軍人さんでもあるんですか?」

「そうだね、軍人よりも傭兵かな。ミコトちゃんには話したけど、アメリカ陸軍の特殊部隊、75レンジャーの出身なんだ」

「えっと・・・傭兵さんって言いましたけど、どんな人がいるんですか?」

「PMCは元特殊部隊の人間が多くて、かなり手強い連中ばっかりだ。トライデント・アウトカムズはそれに加えて道徳心はもちろん、不名誉除隊した人間は絶対に入れない。つまり、悪人は絶対に入れない」

 R5を組み立てて終わると、今度はPx4を分解し始めた。

「銃は使う人間によって、殺戮兵器にもなるし人命を守る盾にもなる。もっとも、使わないに越したことはないけどね」

 あっという間に分解し手入れを終え、組み立てて終わる。

「そうだ、冷蔵庫に君の夜食と好物のチーズケーキ買ってきたから受け取ってくれ」

 

 

 

 

 

 ことりが自室に帰ったことを確認すると、R5を釣り竿ケースに入れ、桑田企画に向かった。桑田に危険物保管庫に案内してもらい、徹底的に調べる。見覚えのある青い粘土状のC4が鍵付きの金庫に入っていた。

「この部屋に入るのにも鍵がいるが、まさか金庫に入れるとは」

「最初からそこに入れていました。でも、どうして開けられたのでしょうか?」

「?どういうことです?」

「実はですね、この金庫開けるには私の持っている専用のカギが必要なんです。合鍵のできないタイプなので、これを無くしたら、一生開けられません」

「(おかしい・・・犯人はどうやって盗んだんだ?)ここに防犯カメラありますか?」

「社内にはありますが、離れのここには無いですね」

「そうですか・・・その鍵は盗まれたことは?」

「いいえ盗まれたことないです。このカギも専用の金庫に入れていて、いつも持ち歩いていますから」

 ケビンは内心穏やかではない。専用のカギでしか開かない金庫だったにも係わらず、中にしまってあったC4が現実盗まれている。それが真実なら彼がC4を盗んだ犯人だということになる。だったら何故、自分に依頼したのか不思議である。もし彼が犯人ならば、危険度の高い特別警備会社に仕事を依頼するだろうか。

「・・・そうだ、平さんの顔写真を見せていただけませんか?」

 そう言うと、桑田は困った様子になる。なんと彼とは面識が無く、SNSで知り合った関係らしい。つまり直接会ったことがないのだ。

「(よくそんな奴にアドバイスもらったな・・・)わかりました。今日はこれで十分です、失礼します」

 

 

 

 

 

 ケビンは帰る車中で先ほどの捜査状況を整理する。

(今回も難儀だ。まず考えるべきは、桑田氏は何故、顔を見たことない友人にC4を買わせたのだろうか。俺なら怪しくて相手にしないのだが、彼は知らないで購入したと言ったが、普通あり得るだろうか。次にしまった金庫のカギは専用のモノじゃないと開けられない。監視カメラが無いし倉庫に入るだけなら鍵を壊して入れる。だが他には手をつけずに金庫に真っすぐ向かってそれを盗んだ。最初からそれを盗むことが目的だったみたいだな)

 ホテルに帰ると、フロントから客人が来ていると伝えられた。待っているというソファに向かう。そこには40半ばくらいの男性が座っていた。

「菊地さんですか?桑田企画専務の向田真也です」

「菊地です。どうしたのですか、こんな時間に?」

「はっきり言いましょう、私が曜ちゃんの父の友人であり、脅迫状を送った本人です」

「・・・本当に?」

「えぇ」

「爆薬盗んだり、照明を落としたりしたのは、あなたの仕業ですか?」

「いいえ。私は確かに脅迫状を送りましたが、爆薬盗んだり照明を落としたりしてません」

「本当ですか?」

「私は高所恐怖症でしてね、しかも倉庫のカギを持っていないんですよ」

「つまり、倉庫の中身を見たことは無いのですね?」

「えぇ」

「なるほど。曜ちゃんをここに呼んでいただけますか?」

 向田は曜を電話で呼びだす。彼女は嬉しそうにしていることから、知り合いなのは確かなようだ。

「おじさん来てたの?」

「社長からここに泊まってるって聞いてね。顔を出したんだ」

 和気あいあいの様子から、向田の言っていることは本当のことだった。

「ねぇ曜ちゃん。おじさん、高所恐怖症なのかい?」

「そうですけど、どうしたんです?」

「さっき話をして、気になったからさ」

 

 

 

 

 

 

 大会当日。多くの海水浴客が特設のステージの前に集まり、まだかまだかと待っている。陰で見ていたケビンは目を光らせていた。

「ずいぶんのん気だな」

「それはそうですよ先生、企画会社がまさか爆弾盗難されたなんて知りませんからね」

「ミコトちゃん。どうして俺にくっついてんの?」

 左腕に柔らかいものが触れている。一発でミコトの胸だとわかった。

「動きづらいんだけど・・・」

「ステージ裏じゃ、曜さん達が準備してて暇ですから」

「かと言って、何時銃撃戦になるかわからない俺と一緒にいたら巻き込まれるよ」

 一旦裏方に戻り、Aqoursのメンバー達の待つ簡易楽屋に向かった。太陽のように明るい雰囲気の少女が落ち着きなくソワソワしている。

「すごい、すごいよ二人とも!だってカラオケ大会の前座で歌うんだよ!」

「落ち着いて千歌ちゃん。パフォーマンスする前に燃え尽きるよ」

「マル、緊張するずら」

 二人に気づいたのか、三人はこちらに向いた。

「あ、探偵さんにミコトちゃん!」

「やぁ、気分はどうかな?」

「曜ちゃん、もしかしてあの子」

「二宮ミコトちゃんだけど?」

「え!?私、高海千歌です、あああ握手いいですか!?」

「喜んで」

 穏やかに千歌の手を握ると、興奮がさらに加速する千歌。曜はそれをチョップで制する。

「いい加減にしなさい」

「ふぇぇぇ・・・ん、お兄さん誰?」

「秋葉原で特別警備会社のボディーガードと探偵をしてる、ケビン菊地って者だ。よろしくね」

「ええっと、特別なに?」

「ここからなのね・・・」

 特別警備会社について簡単に説明すると、やはりと言ったところか、千歌と曜は固まってしまった。

「探偵さん、銃持ってたんだ」

「じゃ、じゃあそれで」

「大丈夫だって、君達を撃たないから。それに、銃は使う人間によって守ることができるんだ」

「まる怖くなってきたずら・・・狙われてるみたいで」

「もし危なくなったら、俺が絶対に助けてやる。信じてくれ」

 ケビンの脳裏にレンジャーのモットー、『レンジャーは味方を勝利に導く』が過った。しかし彼女達は一般人、したがって、この場合の勝利は邪魔者を消し、無事に催しを終わらせることだ。

「だからステージに立ったら堂々として欲しい、怯えた表情したアイドルを見たいファンはいないだろうからね・・・おっと時間だ、みんなが待ってる」

 

 

 

 

 

 

 ケビンはミコト達と別れたあと、更衣室や屋台を訪れ、専用の探知機で危険物が無いか調べる。

「今のところはないか」

 すると、誰もいないはずの海の家に入る桑田の姿を見た。気づかれないように追跡すると、彼の様子がおかしいことに気がついた。まるで一人の人間の中に二人の人格が入っているかのような、大きな独り言が聞こえる。気弱な桑田とは違う、過激で粗暴な人格の方は、主人格を今にも征服するかの勢いだった。

(これは・・・多重人格か?)

 この後、もう一方の人格の発した言葉に戦慄を覚えることになる。

「だいたいお前はひ弱なんだよ。見返したくないのかサーファー仲間によぉ?」

「お、お前を信じた俺がバカだった。まさか軍用爆弾買わせるなんて思いもしなかった」

「今頃気づいたのか、それで観客として来ている奴らを爆殺して世間を恐怖に陥れようと思ったのにな」

「貴様!」

「俺を殺すのか?お前と同じ肉体だ、お前も死ぬんだぞ!」

「平って偽名使ってまで、復讐なんてしたくない。俺に人を殺せない・・・」

 ケビンは確信する。平という名前は、桑田が作り出した攻撃的な性格の自分につけた偽名で、彼は侵食しつつあるそれを食い止めるために自分に依頼したことを知った。

「話は聞かせてもらった。本当は自分を殺してほしいから、遠回しで俺に依頼したんだな」

 R5を構え、いつでも撃てるようにする。

「お、お前は・・・」

「C4を盗んだのはお前だな、平。だから金庫を開けることができた。そりゃそうだ、桑田さんの肉体なんだからな。どこに仕掛けたか言え、そしてスイッチを寄越せ」

 桑田もとい平は右尻ポケットから何か抜こうとしたことを察したケビンは肩を撃ち抜き、握られていたPPKを蹴飛ばした。

「これで最後だ、言え!」

 平は不敵にほほ笑んだかと思いきや、左手に隠していたスイッチを押し、C4を爆破してみせた。

「ハハハハハハ!これで貴様のま・・・」

 フルオートで胴体にマガジンが切れるまで撃ち続けた。終わった頃、ミコトから電話がかかってくる。

「大変です先生!近くのモーテルが突然爆発して、炎が近所にまで燃え移っています!」

「なんだと!?」

「消防隊が来る前にほとんどが燃え尽きるかもしれません、どうしましょう!」

「よく聞いてくれ、君達は海側に逃げるんだ。そこなら炎が来ない」

「先生は、先生はどうするのですか!?」

「考えがある」

 

 

 

 

 

 ケビンは会場に戻ると、パニック寸前の向田と合流する。

「指示された通り、なんとか会場のお客さんを避難させた・・・探偵さん、このままでは稲村ケ崎が滅茶苦茶に」

「その前に、余ってるC4はありますか?」

「あの粘土ですか?すごい安全だってわかったから、社長が私に渡してくれました。車のトランクにあります」

 彼の乗ってきたバンに信管の刺さっていない10キロほどのC4発見する。近くに信管があるため、それをセットした。

「何を!?」

「向田さん。風上に移動してくれませんか?それが終わったら一緒にこれらを設置してください」

「え!?」

「C4の爆風で酸素を遮断し、消火するんです。今やらないでどうする!」

 指示された場所に移動し、C4を設置していく。設置し終え、避難したことを確認すると、死体から奪ったスイッチを押す。大爆発が起きたかと思った矢先、激しく燃える炎は一瞬にして鎮火した。

「・・・やったぜ」

 その後消防隊と救急隊が到着し、負傷者の手当て及び火災現場の調査をする。その様子を眺めていたケビンは電話である人物に連絡した。

「俺です。危機を脱しました、今のところ死傷者は出ていないみたいです。国に依頼料の半分を請求する予定です。はい、わかりました、帰り次第書類書きます。では失礼、CEO」

 この爆破事件、負傷者30名だったとはいえ奇跡的に死者はいなかった。もしケビンの機転がなかったら、稲村ケ崎は大火災になっていたかもしれない。



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16話 陰と影 前編

 人間が最高の状態でいるには、大きな休みが必要である


 前日の稲村ケ崎爆破事件をまとめた資料をファイルに収め、ようやく休憩するケビン。普段よりくたびれた様子を見た宏美は気を使ってミルクティーと一緒にクッキーを出した。

「ありがとう」

「ケビン大丈夫なの?この前CEOが来日してきて猛烈にあなたを抱きしめてたけど・・・」

「あぁ。応援に来ていた趙にも心配された。アイツがC4持ち出さなかったら、被害がもっと大きくなっていたかもしれなかった」

「時々自分のことも心配しなさい、いちいち気に病んでたら持たないわよ」

「わかってる」

 悪態つきながらもクッキーとミルクティーを堪能する。

「そうそう、CEOが帰る前にこれ渡してほしいって」

「?これの中身は?」

 横に長いジェラルミンケースが机に置かれ、中を開ける。

「これは・・・釣り道具か?」

「ゆっくり休んでねって意味じゃないかしら?ケビン休むってこと知らないから」

 反論せず、竿を取ると先のしなり具合を見る。

「明日、休暇で海に行く」

 

 

 

 

 

 

 竿と仕掛け、ゴカイを手に、修理が終わったセダンに乗って海に出掛けた。今日は誰にも声をかけずに一人でいる。竿先が大きくしなり、それに合わせてリールを巻き、大きなシロギスを釣り上げた。

「いいねぇ。アメリカとだいぶ違うから逆に面白い」

 ナイフで活〆にし、途中の店で買った氷入りクーラーボックスに入れる。針にゴカイをつけ直すと、再び沖に向かって投げる。

「時には、レジャーもありだな」

 釣果も10匹と多く、潮が引くころに帰る予定にしていたため余ったゴカイを残っている釣り人に譲り帰ることにした。少年時代、両親と一緒に釣りやキャンプに行ったことを思い出しながら運転していると、電話が鳴った。

「もしもし」

「あ、ケビン。休暇どうだった?」

「ガキの頃思い出してた。最高だったよ」

「っでね、仕事入れる?」

「今からか?」

「明日、西木野総合病院に向かってくれる?真姫ちゃんが話があるって」

「ほぅ珍しい。行ってみるかな」

 今夜のツマミとして作ったシロギスの天ぷらが辛口の日本酒と合っており、有意義に過ごした。

 

 

 

 

 

 

 西木野総合病院を訪れたケビンは、真姫に会い依頼を聞く。

「これ見てくれる?」

「・・・これは?」

 写真には人通りのほとんどない深夜の幹線道路にヘルメットを被ったライダーと、乗っていたであろうバイクがライダーより前方に転がっている。しかもブレーキ痕が複数あり特定が難しい。彼女によればそのライダーは病院に勤めている医師らしく、飲酒運転によるスピード出しすぎの事故とは思えないらしい。

「石間って内科医の先生なんだけど、下戸だし事故起こすような乱暴な運転するような人柄じゃないわ。それに、これ明らかに誰かが偽装工作してるよね?」

「確かにそうだな。真姫ちゃん、理由はわかるね」

「バイクがライダーより前にあることよ。もしスピード出して急ブレーキかけたら、ライダーが前に飛び出す。したがってバイクは後方になくてはいけないわ」

「その通り。だから彼が何かトラブルに巻き込まれていないか調べてほしいんだね?」

「えぇ。石間さんは病院内でも評判よかったから、どうしても払拭してほしいの」

 ケビンは依頼料の話をしようとした矢先、院長が話しかけてきた。

「探偵さんじゃないですか。どうしたんです?」

「実はですね」

 依頼のことを彼に話す。

「石間先生のことですか・・・彼女がいなくなったことで多くの患者と看護師が悲しみに暮れていることは事実です。無念を晴らしていただけますか?」

「わかりました。さっそく質問ですが、彼女は下戸でしたか?」

「えぇ。私の家でパーティーしますが、絶対にワインなどの酒類に手を出しません。近所ですし真姫は彼女に懐いていました」

「お、お父さん!?」

「そうですか。事故当日に出勤してましたか?」

「その日は彼女、休みですね。事故のことを知って驚きました、まさか千葉に行ってたなんて」

「彼女、千葉と縁がないのですか?」

「千代田区生まれですから、地元なんですよ。親戚が千葉にいるって話、聞いたことないです」

 

 

 

 

 

 

 ケビンは事故現場に行って石間のことを知っている人間を片っ端に聞くが、誰も知らないという。そんな中、目撃者を名乗る人物が現れ、なんと側道から赤い車が出てきて慌ててブレーキかけたものの、運悪くはねられた姿を目撃したという。その瞬間、恐怖のあまりに逃げ出し警察にも話していないという。

「ライダーがどこに落ちたか見ましたか?」

「はい。バイクより後方に落ちました」

「?それは変ですね」

「え・・・?」

「もし仮にブレーキをかけ、横から車が出てきたのなら、ライダーはバイクより前方にいないとおかしいからです、もしかして捜査かく乱する気じゃないですよね?」

 鋭い目線で目撃者を名乗る人物をにらむ。

「ちっバレたか」

「ちょっとこちらに」

 ケビンは袋小路に呼び出し、M629を相手の眉間に突きつけた。

「嘘の情報を伝えるデメリット、考えたことあるか?」

「ひぃぃ、こ、殺さないでくれ!」

「ダミーを伝えるということは、死を覚悟するのと一緒だ。わかるか?」

「す、すいません!」

「・・・今度したら撃つ」

 その場を後にしようとしたその時、背後から殺気を感じM629を後方に撃った。振り向くと、目撃者だった男がトカレフを握っており、小刻みに震えていた。

「どうした、撃たないのか?」

 M629をしまい、トカレフの銃口を自分の心臓部に当てる。

「撃て。お前にその勇気があるなら」

 男は泡を吹きながら倒れ、こと無きを得る。

「俺を狙って声をかけたのか?それとも・・・」

 

 

 

 

 

 

 男を拘束し、事務所に戻ってきた。オマルが待機しており彼に引き渡す。

「やってほしいがあるんだが・・・わかるな?」

「えぇ。久々に腕を振るえます」

 穏やかな笑みの裏にあるドス黒い気配を肌で感じる。

「任せた」

 任務の途中報告のため、西木野邸へ向かった。出迎えてくれた真姫の部屋に行って昼間の出来事を話す。

「え・・・狙われた?」

「あぁ。もし君だったら死んでた、相手は銃を持ってたんだ。石間さんの事故を調べるのは俺に任せてくれないか?君が自分で調べてはいけない」

 彼女はわかっていた。以前救出された際、銃を持った男達とカーチェイスし死にかけたことを通じて今回のケースも同じとは言えないが、似たような状態になることは予想できる。

「じゃあどうしたらいいの、指くわえて待ってろって言うの!?」

「・・・弾は抜いてある。これを持ってくれ」

 M629を真姫に持たせる。10代の少女にはさすがに重たかったのか、腕が床に落ちてしまう。

「ヴぇぇぇ重っ!こんな化け物よく持てるわね」

「命に比べたら、軽いもんさ。相手はこれよりもっと重い、もしくは危険な装備をしてるかわからない。それに、君のような女の子に銃を使ってほしくない」

 回収しホルスターに戻す。

「信じてくれ、頼む」

 

 

 

 

 

 

 翌日。ケビンは石間の家を調べることにした。医師をやってるだけあって家は非常に広いが、リビングにはテレビとソファとテーブル、二階の寝室も兼ねた自室には仕事用の机とベッド、衣装タンスとクローゼットだけと生活感があまり感じられなかった。

「家にいないことが多かったのか?引き出しの中、空だし・・・これは?」

 引き出しの中に入っていたのは、黒いUSBメモリー。PCが室内に無いこの部屋で明らかに浮いていた。ケビンは頭を傾げる。

「何故無防備にしまってあったんだ?まぁ調べるか」

 途端、玄関のドアが開く音が聞こえる。背中にかけてあるR5を手に取り、警戒する。

(足音が複数聞こえる。二人、いや、三人・・・オマルと宏美には伝えたが、二人とも別の仕事がある。つまり彼女を調べられるとまずい人物が差し向けた刺客)

 階段を上る音が聞こえてくる。ケビンは押入れに隠れ、様子を伺う。

「あの医者の家にあるであろうブツを探せ」

 男の声だった。その部下であろう人物達がひたすらに調べて回っていることが音でわかる。

「見つけたか?」

「いえ、何も」

「押入れを探せ、まだ手を付けてない」

 ケビンはゆっくり構え、いつでも撃てるようにする。勢いよく開いた瞬間、肩に銃撃を浴びせ、ダウンを奪ったかと思えば、銃口を向け全員を隅に集め制圧する。

「動くな!」

「だ、誰だ!?」

「質問に答えろ、彼女がいない間に何をしようとした?」

「喋ると思うか?」

 威嚇発砲し黙らせる。

「わ、わかった話す!あの医者が宮部ってジジイの主治医だった。だが、それをよく思わない人間がいて、そいつに依頼されてブツを探してんだ!」

「宮部?UTXに出資してる、芸能関係の」

「そうだ、なんでも胃が悪いって話らしいし入院までしてる。直接会ってもいいんじゃないか?」

「・・・お前ら、何があったか知らんが人間が死んでんだ。もし依頼を続けるのなら、消される可能性も視野に入れておけ」

 

 

 

 

 

 

 USBの中身を宏美に調べてもらったところ、男達が話していた宮部の事細かなプロフィールが入っていた。医者が患者のプライベートを深く知っていいのかどうかはともかく、彼女が何故、調べていたのかが気になった。

「宮部権太って人、UTXに投資してるだけじゃなくて、A-RISEに対して自ら振付指導を行っていたみたいね」

「だが3ヶ月ぐらい前に西木野総合病院に入院か」

「彼女の資料によると、盲腸で運び込まれたみたい」

 それだけ聞くと患者と医者だが、やはり調べている理由がわからない。

「宮部に会ってくる。何か知ってるかもしれない」

「面会時間が過ぎてるわ。会わせてもらえないわよ」

「実はな、俺が事故のこと調べてたら、目撃者を装って攻撃してきたんだ」

「なんですって!?」

「一応病院に行ってみる。確認しなくてはいけない」

 

 

 

 

 

 

 セダンに乗って病院に向かう。だが、昼間見た時と違い、多くの民衆が集まっていた。交通整理していた警察官に話を聞くと、病院をジャックした連中が籠城しており、院長と患者数人が人質になっているという。途端、根岸から電話がかかってきた。

「ケビン、今どこだ!?」

「西木野総合病院の近くです」

「ちょうどよかった。私が言って通してもらうから来てくれ」

 通されると、テントの下にテレビドラマで見られる犯人と交渉するための機材が置かれており、本格的に交渉を始める前だという。

「ところでどうして近くにいたんだ?」

「石間という女医と宮根の関係を本人に直接調べるためです」

「宮根権太と石間って女医の関係?・・・あぁ、宮根の孫だよ」

「孫?」

「実は石間女医の事故について調べていたんだが、彼女は宮根権太の隠し子の娘、つまり孫娘だ。公式には子供がいないから遺産は後見人である、秘書の川良了三が受け取ることになっている。だが・・・」

「その遺産は血族の石間さんに受け継ぐことになってしまう。だが、もう彼女はいない。とっくに死んでるハズだ」

「私もそのことを考えてた。もう邪魔がいないのに、何故なんだ?」

「・・・これは俺の勘だがな、その川良って秘書も入院してるって考えはないか?」

「患者ってだけしかわからないからなぁ」

 

 

 

 

 

 すると、電話がかかってきた。相手は真姫だった。

「探偵さん、今テレビで見てんだけど、何が起きてんの!?」

「お父さんが人質になって囚われている。これからどうしようか作戦立ててるから、落ち着いて待っててくれ」

「ちょっと意味わかんない!患者によっては早くしないと命に関わるのよ!のんびり考えてないでさっさと行動しなさいよ!」

「・・・良いこと教えてあげる。敵が人質を盾に籠城してる際、もっとも重要なことは焦って突入するより、情報収集し交渉材料を集めることが最優先なんだ。仮に武装した人間が突入してみろ、人質が最優先に殺されるよ」

 さすがの真姫も黙ってしまう。

「だからこうして落ち着いて行動するんだ、事件解決の基本だよ」

 電話を切り、ケビンはセダンのトランクからR5とフラッシュバン、スモークグレネードを取り出し、装備する。

「突入はしない。だが、相手が殺しにかかったらこっちも同じさ」

「ケビン・・・」

 その時だった。犯人の目をかいくぐって脱出してきたのか、白衣を纏った男性が病院から出てきた。根岸は駆け寄り、急いで身柄を確保する。

「お疲れのところすいませんが、病院にはどのくらい患者がおりますか?」

「犯人はかなり変わっています。看護師及び職員を全員解放し、患者のほぼ全員、特に重病の方々を別の総合病院に移送するよう指示し、院長と宮部さん、秘書の川良さんが人質になっています。ただ、犯人は7人いて、全員拳銃を装備しています」

「つまり、病院内には彼らしかいないってことですね?」

「はい。ですが、猶予があまりありません」

「と、言いますと?」

「川良さんは緑内障を患っています、私は眼科で彼の執刀医です。正直言って一人でする自信はないです」

「そのくらい難しいのですね?」

 男は縦に首を振る。

「そうでしたか・・・わかりました、我々に任せてください」

 

 

 

 

 

 

 ちょうどその時、根岸の携帯電話が鳴り響いた。根岸は険しい顔になる。

「秋葉原署の根岸だ、貴様らの目的はなんだ?」

「落ち着いてくださいよ刑事さん。目的はただ一つ、宮部と川良に真実をこの場で公表させ、世間的に失脚させることなんですから」

 人を馬鹿にしたような喋り方をする犯人に腹を立てるが、必死にこらえる。

「真実だと!?」

「えぇ、我々の知る真実は、あなた方でも知らない、とっておきの真実です。もし公表すればUTX及び全国のスクールアイドルに支障をきたすでしょうね」

「どういうことだ?」

「彼らに秘めるそれは、幼気な少女の夢を潰す黒い事実です。我々を殺し、彼らを活かすのであれば少女達が犠牲に、その逆ならば少女達が救われる。さぁどうしますか?」

 根岸は言葉に詰まる。

「・・・まぁじっくり考えてください。3日、待ちます。その間に調べるもよし、待たずに突入もよしです。何かあったら電話してきますので、失礼」

 通話を終え、くたびれた様子でケビンを見る。

「すまんケビン、依頼だ。宮部と川良を調べてはくれないか?」

「石間医師の事件についても引っかかってました。もしかたら繋がっている可能性が高そうですし、調べてみましょう」

 ケビンはセダンに乗り、宮部と一番交流があるであろう、UTX学園に向かった。




 


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17話  陰と影  後編

 ケビンは宮部と接点のある、UTXに向かっていた


 UTX学園の経営・教員陣は混乱していた。何せ出資者の宮部がジャックされた病院におり、人質として囚われている。彼がいなくなれば学園の売りである将来の絶対的約束が資金不足を理由に果たせなくなる、つまり受験生がいなくなり経営が傾くためだ。彼自身を心配しているのではない。

「我々は彼の代わりを探すべきだと思うのだが、推薦できる人間がいるかね?」

 白髪の60代くらいの男、筆頭株主にして創立者の飯岡秀道はそう提案する。

「彼は出資だけでなく、候補生全体の振付を指導した実績があります。A-RISE発足の功労者ですよ、迂闊に新しい人間を採用するなんて」

「それを俗に老害というのだよ、重政君」

 飯岡より若い、40代の男性、重政伸彦。内心乱れるが平静な態度をとる。

「とにかくだ、彼をここから解放し、新しい風を吹かせたい。もちろん、私も同時引退だ、将来を君と大久保君に任せたいのでな」

 大久保と呼ばれた20代の若い男は驚いた様子で飯岡の顔を見る。

「結論は明日にしよう。もう遅いから解散だ」

 

 

 

 

 

 

 全員が立ち上がったその時、ドアから黒人と日本人が混じった男が現れた。

「お取込み中失礼します、トライデント・アウトカムズ日本支部長の菊地と申します。早速ですが、宮部氏と深く交流があった方々とお話をしたいのですが、よろしいですか?」

「菊地?・・・あぁ統堂英玲奈さんを助けてくださった方ですか?」

「えぇ。私ですが」

「そうでしたか、先日の礼ではありませんが協力します」

「ありがとうございます、では別室で一人ずつ話を聞きます」

 宮部と深く交流していた人間は飯岡に重政、声楽担当の大久保猿彦、化粧の濃い羽田弥和という50代の女性と30代の女性、野村ミカンの5人だ。ケビンは一人ひとりから彼の評判及び最近の彼の行動を知っているか否か聞いた。その返答がこれだ。

 

 

 

 

 

「宮部とは小学校からの同級生でしてね、良い奴ですよ。でもアイツ最近、腸にポリープが見つかりましてね。本人に聞くと嘘をつくのですが、これまた下手だからすぐにわかるんです。無論、通院してるのも知ってましたが、まさか人質になるなんて・・・」

 飯岡は宮部とは同級生だったらしい。だからこそ気づけたものがあると考えていいだろう。

「宮部さんとは私がここに勤めてからお世話になっています。いい兄貴分ですよ、爽やかな性格でしたが飯岡さんから聞くまで病気なのは知りませんでした。だって、60代とは思えないほど機敏に動けるんですよ、疑えませんって」

 勤めた時から世話になっていた重政は、彼のことを尊敬に近い目で見ていたことがわかる。

「あの爺さんは、ダンサーらしくさっぱりしてて頑固じゃないけど、デリカシーが少し欠けていて特に優木あんじゅって子は彼が苦手でしたね。最近の行動ですか?前までグイグイ飲みに行ってたのに、ここ最近じゃ飲みの席に出ること減ったことぐらいしかわかんないですね」

 大久保の証言から優木あんじゅと言う少女と揉めていた可能性が出てきた。彼との付き合いに関しての証言は得られなかった。だが、酒の席に出ていないことを知っている。

「確かにダンサーとしての才能は認めますが、口と態度が悪くて、女子生徒からの人気は低い殿方ですわ。私も彼が苦手というより嫌いです。最近の行動?そう言えば孫を探してるって話を聞いたことがありますよ」

 羽田の場合、上辺の付き合いだとわかる。憎しみの籠った話し方だった。

「プライベートでA-RISEの3人とよく宮部さんの話をしますけど、あんじゅちゃん以外は良い印象を抱いてました。ダンスに対しての情熱は人一倍でしたから・・・それ以外は特に変わった行動はしていませんが、時々休憩室で一人、悩んだ顔してコーヒー飲んでたところを見たことがあります」

 ケビンは聴取を終え、一目散に事務所に戻ることにした。証言をまとめるためである。

 

 

 

 

 

 

 

 事務所には尋問を終えたオマルが休憩していた。

「おや。遅かったですね」

「仕事が増えた。これから証言の整理と川良のことを調べる」

「そのことですが、意外なことがわかりましたよ。あのチンピラ、川良って男に依頼されて石間女医を自宅で殺害し、わざわざ千葉に運んで事故に見せかけて捨てたと言っていました。彼は解放し、今頃警察署に自首してますかね」

「川良が・・・やはり宮部は川良に孫探しを依頼し、真実を知った川良は金欲しさに殺人を依頼っか。・・・そうだ、どんな尋問したんだ?」

「ねこじゃらしを鼻に入れてくすぐっただけです。それなら拷問じゃないでしょ?」

「まぁ、そうだが・・・せっかくだし、一緒に証言をまとめてくれないか?」

 ボイスレコーダーに録っておいた証言を丁寧に聞き取る。聞き終えると二人は顔を合わせた。

「浮いた箇所があるのがわかったか?」

「えぇ。4番目の発言、気になりますね。ケビンが最近の行動って言っただけなのに、孫探しなんて単語、普通出ませんよ。それに、優木あんじゅって子に話を聞く必要性が出てきました」

「そうだな。3番目と最後の証言にも引っかかる」

 

 

 

 

 

 

 夜が明け、オマルはKSGをジャケットに隠し持ち、宮部の顔写真片手にUTX前で帰宅途中の生徒達に聞き込みを始める。数十分後、頭を抱えた。

「うーん・・・これほど評価が分かれるとは・・・」

 メモを確かめると、ある生徒は楽天的で芯の強い男と、またある人物は短気で口の悪い老人と言われていた。

(共通点はダンサーまたは振付師としては一流で、指導力は確かだったこと。誰に対しても平等に接していたこと。そして、最近疲れた様子なのを目撃されていたこと。独身だったこと)

 そう、誰も彼が家族がいたことは知らなかったのだ。

(やはり、4番目に発言していた羽田さんに話を聞く必要がありますね。さて、帰りましょうか)

「ちょっと、よろしいですか?」

 声をかけたのは茶色のロングヘアーに軽いウェーブ、清楚な顔つきの少女。

「あなたは?」

「優木あんじゅです。ここでは難ですので、別の場所で」

 

 

 

 

 

 

 事務所に案内すると、その地味な雰囲気が苦手なのか、とても緊張している。

「どうぞ、セイロンのチャイです」

 宏美が既に帰宅していたため、オマルが紅茶とクッキーを彼女に振る舞う。

「えっと・・・色黒の探偵さん・・・あ、あなたもですね?」

「もしかしてケビンですか?彼なら別の件で出ています。私で良ければ、話を伺いますよ」

「実はですね」

 依頼を話そうとした、その時だった。窓に銃創が沢山浮かび上がったのだ。RPGの攻撃も受け付けないほど丈夫な防弾ガラスだったため、彼女に物理的危害こそなかったが、とても怯えた表情でソファの陰に隠れた。

「大丈夫ですよ。ここは特別警備会社、ロケットランチャーとかで襲撃されてもいいような造りになっていますよ」

「ひっ・・・」

「先ほどケビンに連絡しましたし、事態は落ち着くでしょう。あなたの身柄は私達が保証します、お任せください」

 彼の優しい声に後押しされ、あんじゅは依頼内容を話した。3ヶ月前、自分達の振付担当だった宮部が突然やめてしまったことに不自然に感じた3人はこっそりと彼の周辺を調べた結果、隠し子がいて、しかも孫もいたことを知った。ここまではよかったが、孫である石間女医を調べていたところ、それぞれの家に脅迫状が届くようになり、中断しようと考えたものの引き下がろうとしない、リーダーの綺羅つばさに押され、仕方なく続けていたのだという。

「脅迫状の内容、覚えていますか?」

「石間を調べるな。それに加え、血の付いた羽毛も一緒に来たのを覚えています」

「なるほど。完全に殺す気満々ですね、でもどうして我々に相談なしに?」

「英玲奈も危険すぎるから、知り合いの探偵に頼もうって言っても聞く耳持たないので・・・」

「彼女が心配ですね。襲撃の可能性がありますので君はここで泊まってください、いいですね?」

 外はとっくに落ち着いており、銃創も新しく付いていない。

 

 

 

 

 

 

「ただいま。少し気になることがわかったぞ」

 襲撃者撃退から帰還したケビン。本格的に銃撃戦をしたのだろう、頬の傷がまた増えている。

「本来、宮部が持っているはずの株式が、一時的に全部石間女医に譲渡されていた。彼女が死んだことで戻ってきたんだが、何故か半分だけ売却していることがわかった」

「株式を売るってことは、権限を捨てることに等しいですね」

「そうだ。彼は成功の立役者だったにも関わらず、発言力を捨てる行動に出ていた。まるで去りたいような行動だ」

 ケビンはソファの近くにいる少女に気がついた。

「彼女は優木あんじゅさん。そう言えば、誰に襲われたか調べましたか?」

「もちろんだ。奴らは日本においては非合法のPMC、ファランクスの職員だった。言ってしまえば犯罪集団みたいな奴らに襲われたんだ」

「ファランクスと言えば、東南アジア系PMCでしたね。金とギャンブルをこよなく愛するクズ共の」

「なんだ知ってたのか?」

「先ほどのチンピラもそこの所属みたいでしたし」

「・・・ちなみに、相手は払い下げのAK74にドラグノフ、トカレフを装備していた。防衛省から直々に彼らを攻撃するよう指令が出ている。住所もわかってるから今すぐ行くぞ」

「彼女の護衛はどうするのですか?宏美さんじゃ頼りないですよ?」

「あんじゅちゃん、だったね?上の生活場所に移動してくれ。それと、俺らが帰ってくるまで誰も入れないでくれ」

「え、どこに行くんですか?」

「ここからは俺らの領分。聞かない方がいい」

 

 

 

 

 

 

 ケビンはR5を、オマルはKSGショットガンを手にハマーに乗り込んだ。北関東の田舎にある、古びた工場跡地に明かりが灯っていることがわかる。そこがファランクスの本拠地だ。

「主犯は生かしとけ、それ以外は・・・」

「わかってます。行きましょう」

 ドアを開け、フラッシュバンを投げ込み、室内にいた警備全員を射殺。派手な身なりの東南アジア系の男を捕らえ、ハマーに押し込めた。

「お前がショーンだな?何故我々を襲った?」

「俺らは雇われただけだ。アンタらがあの女医の事故を調べてるって知って騙し撃ちにしようとしたが、返り討ちになったんだ」

「さっき雇われたって言ったな。誰に雇われたんだ?」

 ケビンは聴取した5人と川良の写真をショーンに見せた。

「正直に話した方がいいですよ。嘘ついて逃げても、日本のSATやらがあなたを追いかけまわすでしょうしね」

「わわわかった話す・・・このババアとこの真面目そうな日本人だ」

 川良と羽田を指差した。これで誰が石間を消そうとしたのかがわかった。

「本当だな?今、ここに警察もやって来て証拠品押収もするから、嘘だけはつくなよ。それと、病院ジャックを辞めさせろ。あれはお前たちの部下だろ?」

「どうしてそれを?」

「勘じゃないぞ。病院の窓に東南アジア系の男達が武装してるってことを解放された患者達に確認を取った。だから今すぐに」

 ショーンは携帯を取り出し、部下に連絡を取った。その10数分後、犯人達は武器を捨て投降したと根岸から連絡が入った。

 

 

 

 

 

 

 後日、基地内から契約書の写しが見つかり、羽田と川良は逮捕された。何故、罪のない石間女医を殺すよう依頼したのか、それを聞いたケビンは背筋に寒気を覚えた。なんと、彼女の目的は宮部の所有していた大量の株式が目的であり、違法PMCに二人の殺害を依頼し消す予定だった。だが予想外なことに宮部を調べていた石間女医がそれに気づき、手に入れた株式を売却し、別ルートで接触した重政と野村に買うよう懇願したのだ。懇願したその夜、鈍器で殴られ殺され、事故死したように工作され捨てられたのだ。既に株式は重政・野村の手に渡っており計画は失敗、今度は共犯者の川良が通院している事実を利用し消そうとしたが、ケビン達の奮闘により阻止され、見事に捕まったというわけだ。ちなみに、川良は給料に不満を抱いていたため、羽田の誘いに乗っただけだった。

「・・・彼女、宮部さんのことを心配していたのか。医師としても孫としても」

「しかし、会社が欲しいがために人を殺せる人間がいるなんて、なんとも残酷です」

「そうだな・・・スクールアイドルの闇の正体、それは、UTX限定だがあまりにも貪欲な経営陣がいるという、下らないものだったんだな。だが、少女達の夢を壊しかねない、黒い影であることは間違いないだろう」

「恐らく、A-RISEの3人はとばっちりでしょうね。ケガが無くて良かったですよ」

 オマルは前日あんじゅが隠れたソファの陰を見ながらそう呟いた。




 TPSゲームみたいな展開になりました


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18話  巻き添え 前編

 釣りは狙う魚によって仕掛けが違う。例えば、鯛を釣りたいのなら大きめの竿に専用のハリスに糸、何より釣り場にいる生き餌(小さなカニやムール貝等)を使う。
 もしも一つでも違うのなら、素人か何かしら調べている人間だと思った方がいい


 山梨県山中湖に、一人の男性の遺体が浮かんでいた。身分証によれば、宝諸秀樹55歳。実は彼、秋葉原署が脱税の疑いでマークしていたのだが、まさか遺体で見つかるとは思いもしなかった。休暇を満喫していた根岸は呼び出され、捜査に参加していた。

「どうして私も呼ばれたんだ?眠いんだけど・・・」

「とにもかくにも、過激派極道の宝諸が遺体で発見されてんですよ?しかも脱税の疑いかけられて自殺するタマじゃないです」

 山梨県警の岩田という、ベテラン刑事が根岸を説得する。

「はぁ・・・でもさ、これ事故かわからないよ」

「遺体はウチで預かります。ウチの管轄ですから」

「わかったよ、何かわかったら連絡いれてね」

 

 

 

 

 

 そしてこの日の夕方にさっそく電話が入った。検死の結果、鈍器で後頭部を数回打ちつけた跡があったため他殺となったものの、ひとつ疑問が浮かんだのだ、根岸はそれをケビンにぶつける。

「なるほど。噂では聞きますよ、頭もキレて戦闘力も高い宝諸が、あっさり殺されるなんてありえませんからね」

「それもそうだが・・・」

「資料、見せていただけますか?」

 要点だけをまとめた資料をケビンに渡した。宝諸の持ち物は釣竿に身分証明証、餌入れにはオキアミが入っおり、新鮮で未使用だったと記されている。

「・・・根岸さん。もしかしたら、休めない可能性が出てきますよ?」

「え?」

「そもそも山中湖で殺されたわけじゃないです。海から運ばれてきたんでしょう」

「何故それを?」

「持ち物のオキアミですよ、海釣りでしか使われません。それを使って湖で釣りなんてしないでしょう?」

「!?」

「わかったら早速、捜査の指示を出した方がいいでしょうね」

「お、おう、それじゃ署に戻るよ」

 根岸が出て行ったのを確認し、いつものようにソファに寝そべった。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。沼津では一人の少女がとあるものを防波堤で見つけ、それを手に取る。

「なんだろうこれ?」

 35と書かれたタグが付いているロッカーの鍵のようなものを拾った少女、松浦果南は呟いた。それ以外は特に何もないので、落とし物だと思い、自分の住んでいるダイビングショップに持ち帰ることにした。

「・・・え・・・?」

 帰ってみると、店中が荒らされている。

「さっきまで荒らされてないのに・・・」

 店の奥に行くと、頭から血を流している祖父がうつ伏せになって倒れていた。生活スペースになっている場所でもタンスやら引き出しやらが開けっ放しになっている。

「おじいちゃん!」

「・・・果南、無事だったか・・・」

「何があったの!?ねぇ!」

「休んでいたら、男達が襲ってきて、いきなり店と家を引っかき回しやがった・・・宝諸某がどうどかって、因縁つけられて・・・すまん、疲れてしまった・・・」

 祖父は眠ってしまった。何度も呼びかけても反応しないため、警察と救急車を呼び、十数分後、近くの総合病院に搬送された。幸い、命に関わるケガではないが、数週間入院するよう言われた。

 

 

 

 

 

 翌日。彼女の友人である、黒澤ダイヤがお見舞いに来た。近くにいる果南から話を聞くことにする。

「どうなさったのですか?おじい様が入院したって聞きましたが・・・」

「私が留守中に襲われたんだ。宝諸って人が関係あるみたいなんだけど、何か知らない?」

「宝諸・・・ニュース見ましたの?」

「え?」

 テレビをつけ、ニュース番組を見せた。山中湖で起きた、宝諸秀樹殺人事件について報道されている。

「あ・・・あぁ・・・」

 果南の顔が青ざめていく。

「どうしましたの?」

「この人、一昨日、店に来た・・・竿もってたから釣りしに来たみたいだけど、そのあとは知らない・・・」

「お店も襲撃されたんですよね?」

「でも、何しに来たか知らないよ。だって、すぐ学校行ったんだし」

 ダイヤは目を瞑り、良いアイディアがないか考えた。以前、父を救ってくれたケビンの顔を思い出す。

「果南さん、いい考えがありますわ。実は、優秀な私立探偵を知っておりますの」

「え?」

「ルビィが連絡先を知ってますわ。早速連絡させます!」

 ダイヤはルビィに連絡し、ケビンに依頼するよう指示した。

 

 

 

 

 

 そして15:00頃、秋葉原の事務所に一本の電話が鳴り響く。事務仕事中の宏美が出る。

「はい、トライデント・アウトカムズですが?・・・依頼?何かしら?・・・襲撃者の正体を知りたい?詳細を知りたいから、何処で待ち合わせるの?・・・わかった、知らせとくわ」

 昼飯を食べ終えたケビンが帰ってきた。

「ケビン。早速依頼よ、沼津のダイビングショップに向かってくれるかしら?住所はこれね」

 住所をメモした紙を渡す。

「依頼人の名前は?」

「黒澤ルビィちゃん。あなたの仕事ぶりに感激したから依頼したんですって」

「あの子が?ダイビングするのか?」

「違うと思うわよ。でも、そこで詳細を話すってさ」

「・・・武器、積んでいくか」

 クラウンにR5、予備マガジン、スモークグレネードを積んだ。その様子を見ていた宏美。

「今日は軽装備じゃない、いつもなら戦争行くようなゴッツイ感じなのに?」

「おいおい、俺がまるで戦争主義者みたいだな。俺のモットー知ってるだろ?」

「銃は使わないに限るっでしょ?わかってるわよ」

「それじゃ、あとは自由にしてくれ」

 車のエンジンをかけ、ケビンは沼津に向かった。

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所に到着したケビンは車内で待つことにした。

(大まかな依頼内容、聞けばよかったな。それにしても、この地にも縁があるな)

 左のサイドミラーを見ると、ダイヤとその友人らしき少女、果南がいる。

「乗りな。そこで話しよう」

 二人を後部座席に乗せ、果南は簡単な自己紹介と依頼内容を確認した。

「・・・じいさん、大変だったね」

「探偵さん。その、宝諸って男は何者なのですか?彼が来た翌日におじいちゃんは襲われたんです」

「彼は今じゃ希少の武闘派極道だ。しかし、カタギを襲うってタマじゃないのは知り合いの刑事から聞いてる」

「じゃあ、誰が!」

「今から調べるし、君の護衛もする。それと、無くなったものはないのかい?」

「言われてみれば・・・ないですね」

「強盗じゃないのは確かだ。宝諸が何故、沼津に来たのかが鍵だな」

 

 

 

 

 

 ケビンは車を総合病院に走らせ、果南の祖父に事情聴取することにした。病室には彼の他に、スーツ姿の男が座っていた。

「・・・どちらさん?」

「松浦果南のボディーガードをしている、菊地です」

「あぁ。以前黒澤氏を救った探偵の・・・沼津署の松井です」

「この様子だと、被害者は眠ってるみたいですから、また別の機会に話を聞きますよ」

「そうしてください」

 松井はそのまま歩いて行った。だが、ケビンは彼の後ろ姿を見て違和感を覚えた。

「どうしたんですか?」

「あの男に気をつけろ、油断するな」

「え?」

「奴は完璧に刑事に偽装したつもりだが、詰めが甘かったな」

「言っている意味がわかりませんわ」

「彼が履いていたのは白い靴下だったんだ。スーツなら普通、紺か黒い靴下を履いてるから白なんて履かない、しかも刑事課の人間なら大抵スーツだ、そんなケアレスミスなんてしない。つまり、どこかでスーツに着替えた際、気づかれないと思って替えてないのがミスだったな」

 まだ近くにいるであろう松井を追いかけることにした。彼に追いついたケビンは屋上に呼び出し、簡単な尋問を始める。彼の正体が刑事ではないことを証明する証拠を指し示すと、あっさり身分を偽っていたのを認めた。

 

 

 

 

 

 

 

「同業者?」

「松井は本名ですよ。俺は夕日探偵事務所に勤めている探偵です、トライデント・アウトカムズの噂は存じ上げていますよ。なんでも、銃の携帯を許可されているとか」

「その通り。文句あるのか?」

「いえいえ。日本で銃使うなんて、度胸ある方々だと、そう思いましてね」

「下手な変装して、何か調べてる人間の方が度胸あると思うがね」

 皮肉たっぷりな態度を取る。

「ところで、何を調べてんだ?」

「何をって、あなたと同じことですよ。松浦果南の実家を襲撃した人間の正体です」

「・・・」

 用が済んだと判断し、帰ろうとする。

「それと、沼津駅で怪しい人間達がロッカーの前に並んでいたんですがね」

 ケビンは足を止めた。

「調べたのか?」

「それ以上は言えません。目上の同業者と共闘なんてしたら、プライドを溝に捨てるものですからね」

「・・・食えない奴だ」

 振り向かず、そのまま建物内へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 車内に戻り、その中で宏美に電話して出張を命じた。

「オマルじゃなくて私でいいの?」

「アイツなら大丈夫だ。それよりも、頼まれたいことがある。松井っていう夕日探偵事務所に勤めている男を調べてもらえるか?場合によっては任務の障害になるし、護衛対象と一緒だと動きにくいところがあるからな」

「わかったわ、明日行くから」

「頼んだぞ」

 電話を切ると、まず最初にダイヤを自宅に送り届けることにした。道中、特に問題なく送り、次に果南と共に宿泊先である小原鞠莉宅へ向かう。規模の大きさに息を飲んだ。

「デカイな」

 屈強そうな黒服の男達に豪華な内装に加え、外にはヘリポートまであり、明らかに庶民とは違う生活をしていることがわかった。

「チャオー、果南おかえり・・・誰?」

 ブロンドの良く似合う、イタリア系アメリカ人と日本人の血が混じった少女が現れる。

「トライデント・アウトカムズの、ケビン菊地だ。よろしく」

 握手代わりに名刺を手渡す。

「あなたもハーフですか?」

「そうだけど・・・それがどうした?」

「ずいぶん、Coolな態度ですね」

「血が混じっていようが否か、関係ないからさ。ハーフだからって特別視する理由がない、違うかな?」

 鞠莉の顔を見る。透き通った瞳に否定の文字は無かった。

「まぁいい。これから沼津駅に向かうから、もし問題が発生したら名刺の連絡先に電話してくれ。ここの警備、なかなか厳重みたいだから、その心配はないけどね」

 そう言って、再び外に出た。

「ねぇ鞠莉。探偵さんが言ってたことホント?」

「セキュリティーに関しては本当ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そして沼津駅前。少し遠い駐車場に車を止め、いつ交戦してもいいように装備をトランクから取り出すと、駅内に向かう。流石に東京に比べると規模は小さいものの、それなりにきれいな駅舎だ。

「コインロッカーってこれか?」

 外にポツンと置いてある、スピード証明の機械が隣あるコインロッカーを見つけた。送り届ける途中で受け取ったコインロッカーの鍵と同じ番号のロッカーに差し込み、回す。

(なんだこりゃ?)

 入っていた封筒を取り、それを車の中で調べてみる。中には何らかの複数枚の見取り図があり、広い一階とは対照的に他のフロアが何処も似たような構造から、ホテルだとわかる。だが、どのホテルかまではわからなかった。

(内装はどれも似たり寄ったりだから、どこかわからん)

 レンジャー時代にアフガニスタンのモスク内にいるテロリストを襲撃するために、モスクの見取り図を見たことがあったことを思い出す。作戦は成功し、ホワイトハウスから勲章が送られたのも、いい思い出だ。

「だが、意味のない襲撃は勲章なんてもんじゃない。これは怪しい」

 封筒の裏を見てみると、O.Hと書かれている。

「なんだ、ホテルの名称か?」

 ふとメールが来たアラームが鳴る。差出人は宏美だった。松井健三、元SITの探偵で掴めない人柄から、クラウドと呼ばれていたらしい。退職後、友人が営む夕日探偵事務所に勤め、今のところ華々しい経歴はない。

「そろそろ戻るか」

 

 

 

 

 

 

 小原邸の一室を貸し与えられたケビンは、夜襲を警戒し、R5にマガジンを装填し構えていた。

「見て回ろう」

 ケビンはあの見取り図を何に使うのか考えた。もし強襲計画に使うのなら、何かが足りない。懐にしまってあった見取り図を見直すと、あることに気がついた。

(一階のフロアに多くの線が引かれている。恐らく移動経路だ、どこの線も一か所から出ている。本数からして三人が玄関から襲撃し、そのままエントランスホールから窓辺に移動している・・・しかし、何故だろう、どう考えても死にたくて立てた計画じゃないか)

 通常立て籠もり事件なら、狙撃されるような窓側ではなく、外からあまり見えない奥に移動する。それをしていないのだから明らかに殺してくださいと言っているようなものだ。したがって、プロの犯罪者が立てたとは考えにくい。

(もし死が目的なら、何故そこのホテルなんだ?自殺したいだけなら、山奥でも良いはずなんだが・・・)

 ケビンは二通り考えた。一つは自爆テロ。中東で起こっていることの真似を日本ですればメディアで大きく取り上げるうえに犯人達の悪名が全世界に広がる。しかし、それなら他の特別警備会社の人間が動いていてもおかしくない。街を見た感じだと、それらしい人間が動いているわけではない。もう一つは保険金目当て。自殺では降りないことが多い生命保険の保険金を、警察か誰かが狙撃などで射殺すれば保険金が降りるという算段。確実に死ぬにはホテル内の誰かを人質にし、殺すよう見せかけることが大事だ。しかし、警察は基本的に射殺ではなく、逮捕が目的になる。特に日本ではその傾向が大きい。

(・・・これだけじゃわからん。もっと情報が欲しい)

 そう考えながら廊下を歩いていると、照明が漏れていることがわかる。ノックし、ドアを開けると、果南と鞠莉が枕投げをしており、その枕がケビンの顔面に当たった。

「あ!ご、ごめんなさい!」

「良いんだ、無事なら」

 気持ちを改め、警備に戻ろうとすると、見取り図の入った封筒が落ち、鞠莉がそれを拾い中身を見る。

「Oh・・・もしかしたら小原ホテルの見取り図かもしれません」

「・・・え?」

 足を止め、彼女の顔を見る。

「実はホテル経営しています。その見取り図は、最近建てたばかりの駅前ホテルのモノなんです」

「なんだって!?」

 ケビンはその後評判や強い恨みのある人間の心当たりを探る。しかし、彼女には心当たりがない。

「・・・これで見取り図の建物がわかったけど、何故、そこのホテルにしたかわからないね」

 もし自爆テロなら近くに駅があるのなら、むしろそこを狙えばいい。そちらの方がメディアが食いつくからだ。この時点で自爆テロ説は消えた。

「確かに・・・」

「明日、おじいちゃんから話を聞きに行くけど、大丈夫かな?」

 




 


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19話  巻き添え 後編

 スキューバダイビングには免許が必要である。海には危険が多いため素人ができるものではないからだ


 面会に行ったケビンは驚いていた。宝諸はぶらりと寄ったダイビングショップに、2つのロッカーの鍵を置いて行ったのだという。隠し場所を聞かれ、知らないとシラを切った結果が入院というのだから、命あっての物種と同時に死ぬ覚悟を持った人間だとも思った。

「どんな連中だったんです?」

「若い男女だった。だが、近くじゃ見かけない顔でな、言葉も東京モンの声だった」

「訛りが無かった、と、捉えてもよろしいですか?」

「あぁ。外人さん、そう言えば、宝諸の奴、大切な何かを守るとか言ってたんだが心辺りはないか?」

「守るもの?」

 宝諸が家族を持っていることは誰からも耳にしたことがない。

「いえ。俺が知ってるのは、彼が釣り好きの武闘派ってだけです」

「そうか。・・・外人さんよぉ、耳を貸してくれ」

 ケビンは松浦氏に顔を近づける。耳元で何かを小さな声で話した。

「・・・了解しました。それと俺、一応日本人入ってますから」

「そいつは悪かった。あとは任せたぞ」

 

 

 

 

 

 学校帰りの果南とともにダイビングショップに入る。警察もこのころにはテープを張らずに解放していたため、自由に入ることができる。

「さて、実はじいさんから伝言があるんだ。宝物は生命線と一緒にあるってね」

「?どういうことですか?」

「これはちょっとした暗号だね。じいさんは生命線と呼ばれる場所に鍵を隠したんだ」

「・・・もう徹底的に探せばいいじゃないですか?」

「一つ、教えておくよ。こんだけ散らかっている室内で手あたり次第じゃ日が暮れる。今回一番の敵は思考停止だ、暗号の意味を考えてみるのが、近道だと思うよ」

 ケビンは思わずため息をついた。

「君は美人だが、もう少し知恵をつけないと命に関わるよ」

 隣にいる彼女見ると、真剣に考えているのか、頭を抱えているのがわかる。

「ねぇ一般的にダイビングってさ、どんなものを想像するかな?」

「・・・みんなが想像するのは、スキューバダイビングです。いわゆるタンク背負ってシュノーケル着けてやるやつのことかと」

「そうだね。それで一番大事な部分はなんだと思う?」

「うーん、やっぱり点検ですかね。ウチはレンタルしてますから、もし不備があったら命に関わります」

「そこにキーワードがあるんだ」

「え?」

「ここはダイビングショップだ。つまり、ダイビングするための道具に鍵を隠したんだ」

「は?」

「ところでロッカーの鍵のように小さいものを隠すには、どこが適切か」

 ケビンは唯一無事であったシュノーケルの口元と調べる。そこにはタグの付いた鍵が入っていた。

「あ!」

「まさかあんなところにあるなんて、盲点だったな」

 鍵をポケットにしまい、ようやく片づけに入った。彼が手伝ったおかげで早く済み、ほぼ元通りになった。

 

 

 

 

 

 その夜、果南の家で夕食を取ることになった。

「ねぇ探偵さん。あなたも海が好きなのですか?」

「叔父貴から釣り竿買ってもらってから、時折釣りに行くよ」

「じゃあダイビングしたことある?」

「あるよ。ソマリアで」

 日本に帰ってくる前、任務先のソマリアで海賊と戦った際、海底から進攻し海賊達を浜から追い出す作戦に参加した経験を話した。

「・・・あれは死ぬかと思った。武装せず敵の武器を奪って戦うんだから、ひやひやものだったよ」

 果南はまたしても首を傾げる。

「敵と戦うんだから、怖いのは当たり前でしょ?」

「確かに奴らは訓練されてたよ。一番怖かったのは・・・っと、ここは君に推理してもらおうか。俺は何故死ぬかと思ったかを」

「え?いきなりですか?」

「会話を振り返ってみると、答えが見えてくるよ」

 またしても必死になって考えている。

「うーん・・・どこがどう危険か考えればいいのよね?」

「そう。ヒントを言えば、ソマリアは非常に貧困が深刻な国家だ。だから基本的に物はお粗末だよ」

「もう、意地悪ですよ!」

 怒った顔でケビンをにらみつける。しかし彼は笑っていた。

「でも大ヒントだと思うな、俺は」

「何処がですか?」

「よく考えてみてよ。ソマリアの海賊達と戦う際、陸に上がって何をしたか思い出してくれ」

「確か、武器を奪ったんですよね。それのどこが?・・・もしかして、逃げたんじゃ」

「・・・物が粗末な国の銃を使ったんだ。だから、壊れやすい銃で戦ったってことだよ。実際に戦闘で一番怖いのは銃が使えなくなること、暴発や弾詰まりがそれだね」

「うわぁ・・・」

 ようやく理解したようだった。映画で壊れた拳銃使って死んだシーンを思い出してしまう。

「まぁ日本じゃ気にならないからいいが、それでも犯罪が凶悪化してる今日だ、俺のような人間が増えるだろうな」

 彼はどんな環境で生きてきたのだろう、そう考えてしまう果南。高校卒業してアメリカに渡るまでは、釣りと剣道が得意な普通の男子生徒として生きていたというのが答えなのだが、聞いても野暮と判断し、彼女は黙ることにした。

「飯食って終わったらロッカーを開けに行くから、用意してくれ」

 

 

 

 

 

 沼津駅に急行し、タグと同じナンバーのロッカーを開けた。ひとつはバラクバラが入っている紙袋、もうひとつは脅すために使うのであろうM19に似せたモデルガンが入っていた。手に取って見ると、恐ろしい事実を知る。

「こいつら、いったい何をしでかす気だ。実弾が込められている・・・」

「え?」

「本物とフレームの耐久度が桁違いだ。モデルガンで実弾なんて撃ったら、一発ならいいが二発目は高確率で暴発する」

「!?どうして、人がいないの?」

 ケビンはPx4を抜き、警戒する。まだ夜8時だ、確かに人気が無くなるには早い。すると、黒のスーツ姿の複数の男達が現れた。

「松浦さんですね。我々は宝諸組の人間です、ボディーガードさんの手にあるものを渡してもらえるか否か、聞いてください」

 このタイミングで何故、宝諸の部下達が現れたのか。

「どうしてモノが欲しいんだ?親を殺した奴らと関係あるのか?」

 ケビンが彼女を守るように前に出る。

「オヤジはそいつらが別の場所で集団自殺するのを、事務所に帰る途中、偶然見かけ救ってみせたのです。あれから説得とカウンセリングをしていたのですが、あろうことか組長の自宅に遊びに行ったフリをして睡眠薬入り麦茶を振る舞い、寝かされた際に殺されたのです。何故奴らが組長殺したかわかったのが最近、この沼津に行き、君のおじい様にロッカーの鍵を託したことを知ったのです」

 長身で右の頬に傷のある男が説明してくれた。

「つまり、俺を泳がせていたってことか?」

「えぇ。あなたの素性も存じ上げておりますよ、ミスターケビン」

「なぁ、聞いてもいいか?どうしてこのモデルガンに実弾が入ってんだ?普通に手に入る代物じゃない」

「簡単な話ですよ。オヤジ宅の引き出しに357マグナム弾があったんです、俺らは悪用されないか心配でしたが、このような結果になって残念になりません」

「つまり、アンタらは盗まれたモノを取り返し、親を殺した奴らに報復するのが目的か」

「察しの良い方だ。さぁもういいでしょう、早く渡してください」

「条件がある。そいつらは年寄りを病院送りにした卑劣漢共だ、俺が代わりに手を下す。それなら渡してやってもいい」

「・・・殺しはしないかもしれないっと。そう捉えてもよろしいですか?」

「場合によってはな。だが、ふざけたことしたら真っ先に始末するさ」

 モデルガンとバラクバラの入った袋を渡した。

「極道として少々気が引けますが、ありがとうございます。そして、松浦さん。申し訳ありませんでした」

 一斉に頭を下げ、彼女に詫びる。

「え・・・その・・・顔を上げてください、気持ちはわかりましたから」

 ようやく頭を上げた。

「ありがとうございます。ミスター、これが奴らの写真です」

 3枚の顔写真が渡された。

「では、失礼」

 男達は駅のホームへと向かった。どうやら電車で来たようだ。これでホテル占拠事件を回避できたが、まだ果南自身の身に危険が残っている。そう、彼女を襲った犯人達が再び襲い掛かる可能性があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 車に戻り、彼女の家に帰ることにした。

「そう言えばじいさん、いつ退院できるんだ?」

「数週間は入院します。でも今さら聞くんですか?」

「忘れてただけだ」

 先ほどの組員達には驚いたものの、こちらに危害を加えて来なくてよかったと、内心安堵していた。いくらケビンでもハンドガンしか持っていない状態で多くの男達を相手にするのは厳しいからである。

「とにかくそろそろ事件解決だろうね・・・おや?」

 ダイビングショップに明かりがついている。退院したとは考えにくいため、恐らく犯人達がもう一度入り込んで鍵を探していると見て、ケビンは彼女に車の中にいるよう指示し、トランクからR5を取り出し現場に向かった。

(誰であれ、じいさんと孫を恐怖に陥れたんだ、許されるわけがない)

 店内は荒らされておらず、住居スペースで動いていると判断し、R5を構えながら歩く。すると、果南の部屋から物を動かす音が聞こえた。ドアノブに左手をかけ、回し、勢いよく開けた。

「動くな!全員手を上げろ!」

 驚いた3人の男女はケビンに振り向き両手を上げた。全員写真の人物だった。

「聞きたいことは多いが、何個か絞ろう。何故、宝諸を殺した?」

「俺らの邪魔をしたからだ、死なないで生きていればなんとかなるって言いやがって!」

「私らはいろんな理由があって自殺サイトにアクセスして集まったの。でも、邪魔されて・・・その後自宅に招待されたり、下らない話を聞かされたり」

「イラついた僕達は計画を立てたんだ、飲み物に睡眠薬を入れて寝かせた後、バットで殴り殺して釣りに出かけて足滑らせて死んだことにするシナリオだったんだ・・・次の自殺場所候補に沼津だったんだけど、俺達焦ったんだ。宝諸が持っているであろうロッカーの鍵が、なかったんだ」

「・・・誰から、この家にあるって情報を聞いたんだ?」

「サイト運営者だ。あの人はたぶん、迷える子羊の僕達を救うために頑張って探したんだと思う」

 ケビンは運営者に心当たりがあった。彼らを扇動でき尚且つ松浦家の人間に平然と近寄れることができる人間がいることを。

「自分が死ぬためなら、他人を傷つけても平気だってことか?」

「俺達は、そんなつもりじゃ・・・」

「良いこと教えてやる。ただじゃ人間は死なん。覚えておくといい」

 果南が通報したのか、サイレンの音が近づいてくるのがわかる。そろそろ潮時と判断し、銃口を下げた。

「死ぬ前にちゃんと罪を償え、約束だ」

 

 

 

 

 

 

 黒澤家から報酬を受け取り、帰る前に病院に行った。護衛完了の報告のためである。

「そうか。孫を守ってくれたのか・・・」

「もう大丈夫でしょう。それと、ひとつだけよろしいですか?」

「・・・わかってる。あの松岡って奴とどんな会話したか、だろ?」

「話が早いですね」

「奴は鍵の在り処を聞いてきたんだ。シラを切っても切ってもしつこいからナースコールで出て行かせようと思った矢先にアンタが来たんだ、あの時は助かったよ」

「いえ、仕事だっただけですから」

 挨拶を終え、事務所に帰還し、早速テレビをつけると松岡が警察に連行されている映像が映った。3人が自白したのだろうか。それとも、警察のサイバー犯罪対策課が動いて調べ上げたのだろうか、だが、そこまで知る元気がなかった。

「お疲れ様。発端は松岡の趣味だったんですってね・・・死んだ人間を写真に撮ってサイトに上げて侮辱するなんて、最低最悪よ」

 宏美がケビンにお茶を出す。彼女も事件に対して胸を痛めていることがわかる。

「その巻き添えが宝諸と松浦家だったって話か。俺達、護衛や事件を解決できても、未然に防ぐほどの力はないのかな?」

「弱気になってちゃダメじゃない。そんな顔、依頼人に見せるの?」

「そうだった・・・さて、俺は報告書書くから、持ち場に戻ってくれ」



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簡単な銃器紹介

 詳しくない人でもわかりやすく書いてみました

 興味が湧いたりしたのなら、調べてみるのもありかと思います


 レミントンR5

 

 M4カービン・M16ライフルのアップグレードを目指して作られた、アメリカ製アサルトライフル。ショートストロークガスピストン方式を採用することによって、高い信頼性と耐久性を得た。

 M16シリーズなので命中力も高いものの、前身のACRが軍のトライアルに負けたためか、R5の採用例はあまり聞かない。メディア露出もあまり多くない。

 作中では主人公のケビンが愛用している。彼個人で買ったものであり、登場頻度が高いため、かなり気に入っている。本人曰く、最高傑作。

 

 

 ステアーAUG

 

 人間工学から考えて作られた、オーストリア製ブルパップ式アサルトライフル。高い命中力と取り回しの良さを両立させ、多くの国が正式採用している。機関部が顔面に近いため、ホカホカの薬莢や火薬が顔にかかったり難聴になったりと弊害が多い。もっとも、欠点に関してはどのブルパップ式にも言えることだが。

 A2モデルをオマルが使用しているものの、場面が少ない。

 

 

 

 

 

 ベレッタPx4

 

 ベレッタ社が技術の総決算させたイタリア製ハンドガン。重心バランスとグリップの握りやすさから、民間にも評判がある。ゲームやアニメでも多く出ていることから、お目にかかることが多いだろう。

 ケビンと宏美が持っている。宏美に関して言えばしょっちゅう携帯するのを忘れている。あまり馴染みがないからだろう。

 

 

 グロッグ17

 

 ステアーAUGと同じメーカーが製造した、オーストリア製ハンドガン。世界初のプラスチックボディのハンドガンで、軽くて丈夫なロングセラー品。多くの作品でお目にかかる。

 オマルのサイドアームとして登場。これまた出番が少ない。

 

 

 スミス&ウェッソンM629

 

 ダーティーハリーが使っていたM29マグナムを改良し、シルバーカラーにしたアメリカ製マグナムリボルバー。映画などでは人間を吹っ飛ばしたり、エンジンに穴を空けたりしているが、実際にそこまでの威力はない。しかし、ボディーアーマーを貫通させたり熊の脳天を撃ち抜いたりできる威力を有しているのは確かである。

 ケビンはPx4のかわりに使用している場面がある。

 

 

 

 

 

 サイガ12

 

 ロシア製セミオートショットガン。AK47アサルトライフルに似ている。実は日本でも見かけることができる、数少ない銃。上記のAKシリーズの流れを汲んでいるため、信頼性は高い。

 ケビンがR5と使い分けている。非殺傷弾を使っている。

 

 

 ケルテックKSG

 

 ブルパップ式のポンプアクションショットガンで、コンパクトにもかかわらず、チューブが二本あるため合計14発装填できることが特徴で、グリップから銃口まで短いため反動もマイルド。しかし、しっかりポンプを動かさないと撃てないこともある。

 オマルが使用しており、こちらは出番がわずかに多い。

 

 

 

 

 

 UMP-9

 

 MP5(作者の名前ではない)サブマシンガンの廉価版の、ドイツ製サブマシンガン。廉価版ではあるがある程度の命中力と連射力があり、45口径モデル等のバリエーションも豊富。FPSをやっていたら時々見られるだろう。

 ケビンとオマルが所有し、発砲シーンがない。裏設定だが、二人ともドイツメーカーのアメリカ支社が製造したモデルを使用してる。

 

 

 

 

 

 ブレイザーR93

 

 ドイツ製ボルトアクションスナイパーライフル。他の狙撃銃と違う点は、直床式ボルトアクションを採用しており、ボルトハンドルを引くだけで次弾を装填できるため、スコープから目を離さずに次の狙撃に行えること。簡単に言えば速射力を高め、高精度を保った銃だということである。

 上海支部の趙が使用しており、真姫救出に大いに貢献した。



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20話  送られた手紙

 


 残暑が残る9月の暑い日、小平にある霊園に一人、花束を持って墓前に現れるケビン。墓には菊地家と書かれていた。

「親父、母さん。今年も来たよ」

 手を合わせ、懐から香木を添える。

「仕事、うまくいってるよ。今じゃ二人増えて多少にぎやかになってる・・・そろそろ時間だ、また来年な」

 踵を返し、その場を後にした。この日は彼の両親の命日で、毎年訪れている。そのくらい大事に思っている証拠だ。

 

 

 

 

 

 

 その帰り道。昼飯を食べるため、池袋にあるピザ屋に寄った。バイキング形式でピザやフライドポテトを取るセルフ式のシステムに、一昔前のアメリカを思わせる店内をとても気に入っており、味も良いことで有名だ。

「趣旨変えるか」

 フライドポテトにサラミとピーマンが乗ったピザ、そして、カレーライスをお盆の上に乗せる。自分の席に戻ると、それを美味しそうに頬張った。

(ここのは美味いな。次はカルボナーラ食べてみるか)

 そう思った矢先、ケビンの席に一人の少女が座る。南ことりだった。

「依頼人待つ間に昼食ですか?」

「ことりちゃん。ここのは美味いから、食べてから仕事の話をしよう」

 彼の想像以上の食いっぷりに、ことりは開いた口が塞がらなかった。

「け、結構食べるのですね?」

「まぁな。アメリカの味に近いんだ」

「そうですか・・・探偵さん、ファンから手紙が届くことがあるのですが、こんな手紙が送られてきたんです」

 4通もの便箋をカバンから取り出し、それを見せる。

「どれも君に助けを求めているな。そのうち3通が服飾に関してのものだが・・・」

「最後の1通だけが、何故かシンプルに助けてだけ・・・この人大丈夫でしょうか?」

「幸い住所があるからそれを頼りに俺に調べて欲しいのか?」

 ことりは頷く。

「確かにファンレターはどんな人間が送ってきたのかわからないから、迂闊に返事ができないな。まぁ任せてくれ。あとこれ、君の飲食代だ」

 5000円札を彼女に渡し、事務所に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 持ち帰った手紙を民間の科捜研、大隅科学捜査研究所に依頼しに行くことにした。久しぶりに会った所長の大隈という男と雑談することにする。

「今日はトーマスさんと芳野さんの命日だったね。墓参りには行ったかい?」

「えぇ。両親の墓に、二人の好きだった花も添えてきましたよ」

「そうか。・・・あの事故は不幸だった、そう思うしかないよ」

 ケビンの両親は交通事故で亡くなっている。実際に緊急帰国し、事故の調書を目にして初めて実感したのだと言う。

「・・・そうですね。そ、そうだ、大隈さんの好きな饅頭買ってきたけどいりますか?」

 科捜研の近所にある甘味処の饅頭を、彼に渡す。

「おぉありがとう。ところで、これからどうするんだ?」

「住所にあった場所に行ってみます。では、俺はここで」

 

 

 

 

 

 

 翌日の夕方4時。住所が表記されていた場所に向かうと、一件の大きな家に到着する。綺羅という表札があり、その人物もそういう苗字なのだろう。呼び鈴を鳴らし、待つことにする。

「はい、綺羅ですが」

 この家の人間らしい、落ち着いた女性の声がする。

「探偵の、菊地という者です。お話しをよろしいですか?」

「どうぞ」

 ケビンは招かれ、居間に通された。

「お話というのは?」

「この手紙ですが、お心当りありますか?」

 手紙を見せ、小さな動揺が女性にはあった。

「・・・娘の字です。でも、変ですね」

「変?」

「南さんとは時々メールしたりする仲です。だから、今さら手紙を出すなんて」

 

 

 

 

 

 玄関が開いた音が聞こえたと思ったら、小柄でμ’sメンバーに引けを取らない美少女が居間に入ってきた。

「ただいま!っあれ、お客さん?」

「この人探偵さんよ。そうそう、この字、あなたのでしょ?」

 少女は字を確認すると、表情が険しくなった。

「ちょっと、私の部屋までよろしいですか?」

 ケビンは二階にある彼女の部屋に招かれる。

「・・・綺羅ツバサです。何故、あなたがこれを持っているのか、教えてください」

「依頼人の詳細を言いたくないが、A-RISEの二人に免じて話すよ。ことりちゃんから依頼されたんだ」

「!?あなたが、英玲奈とあんじゅが言ってた探偵さん?」

 ケビンは頷く。

「どうして本性隠したんだい?服飾なら、直接教えてって言えばいいのに」

「UTX内でも変な幻想抱いてる子達がいて、直接会って教わることが出来ないんです。しかも入学してきて困ってるんです」

「なるほど。具体的にどう困ってんの?」

「ファンレターはもちろん、何故か下着を送ってきたり、帰り道に待ち伏せしてたり・・・」

「OK.もういい。次なんだけど、どうしてことりちゃんに手紙で『助けて』って伝えたの?英玲奈ちゃんは俺と顔見知りだし、話しやすかったはずだよ」

「・・・だって、心配されたくなかったもん。リーダーは弱みを見せちゃダメだと思って」

「なるほどね。でも、身近な仲間を頼るのも、リーダーの仕事だよ。軍隊でもリーダーが全部一人で抱えるんじゃなくて、相談して決め合ったりすることもある。一番危ないのはリーダーが問題抱え込んで行動不能に陥ること、そんなことあったらチームが全滅する」

 アンゴラで行った他社との共同作戦の際、何でも一人で決めたがる男がいたことを思い出し、そのことをオブラートに包んで話した。

「そう言われても」

「友達を信じなよ。今回は良かったけど、次は無いと思った方がいい」

 そう言うと名刺を渡す。

「これが俺の事務所の連絡先だ、悩んだら電話をくれ。最初は女性事務員が出るから、俺じゃ相談しづらいことも話せると思うよ」

 優しい笑みで彼女を癒す。

「ありがとうございます」

「良いんだ。これで全貌がわかったし、俺は帰るよ」

 ケビンが帰ろうとした、その時だった。部屋の窓ガラスが割れ、とっさに破片から彼女を庇う。

「大丈夫?」

「え・・・どうして?」

 窓から見下ろすと、サングラスに黒い服を纏った何者かが逃げていくのがわかる。ケビンは追跡しようと思ったが、たとえ二階から飛び降りても追いつかないと判断し、投げられたものを確認する。

「なんだこりゃ」

 投げられたものの正体、それはエアガンの空弾倉だった。手袋をはめ、それを手に取る。

「もしかして、こんなこと他にあった?」

 彼女は震え上がっていた。それもそうだ、安全なハズの自宅に物が投げ込まれたのだ、怖いに決まってる。大きな足音が聞こえ、母親が入ってきた。

「大丈夫!?」

「無事ですよ。それよりも、これは重大な案件です。警察に連絡を」

 

 

 

 

 

 

 警察の聴取を終え、依頼人のことりに報告した。今回は彼女の身に危険があったことを話さないことにする。

「・・・と、いうわけで綺羅ツバサちゃんが送り主。怪しい人じゃなくてよかったね」

「ありがとうございました。これで安心して妄想できます!」

 妄想内容を深く聞くことはやめよう。そう思ったケビン。

「報酬が2000円、いつでもいいから事務所でね」

 

 

 

 

 

 電話を切り、改めてツバサに先ほどの攻撃的なことがあったのか確認する。

「ありません!ファンを裏切らない、それが信条ですから」

「まぁ落ち着こう。その話は信じるが、さっきの君の話のように重症の追っかけがいるんだし、裏切られたと勘違いして攻撃する可能性だってあるんだ」

「じゃあどうしろって言うのですか!」

「証明すればいい。自分達はファンを大事にし、裏切っていないってことをね」

 ツバサは考えた。結果、ケビンに窓を割った犯人を捜してもらうことにする。

「お願い、犯人を見つけて。その人と直接会って誤解を解きたいの」

「わかった。ちゃんと捜すから、安心してくれ」

 綺羅邸を後にし、捜査に当たることした。

 

 

 

 

 

 

 ケビンはまず、カフェで英玲奈と待ち合わせることにした。彼女から知っていることについて聞き出すためである。

「久しぶりだね、元気だった?」

「おかげさまで。ツバサが大変な目にあったって聞いたのですが?」

「その通り。彼女から依頼があってね、犯人を自分から説得したいって言ってるんだ」

「探偵さんが一緒なら大丈夫だと思うのですが、何をお話しすればいいのですか?」

「まず、変わった幻想を抱いているファンについて知ってることがあれば。次に、学校内でそれぞれの住所とか知られる可能性があるか否か。それだけでいい」

「住所ですが、公表は一切しておりません。卒業したら芸能界に入ることを約束されているため、基本的に他人には教えることはないかと。ファンレターはマネージャーが管理していて、検閲が済んでから私達が読みます」

「なるほど。電子メールとかの場合は?」

「SNSがありますから、そこから受け取ります。それもマネージャーが確認していて、セキュリティーは抜群です」

「・・・つまり、君達の住所を知っている人間は本人達とマネージャーぐらいしかいないのかな?」

「そういうことになります。ファンの方々も個性的な面々が多いですので、誰が送ったかなんて、わかりかねます」

「学内に追っかけが来たって話を聞いたけど?」

 動揺している。どうやら本当のことだったようだ。

「まぁ困ったら俺に連絡をくれ。なんとかする」

 手土産のほむまんの入った袋を渡す。帰ろうとし、ふと足を止める。

「そうだ、マネージャーは一人かい?」

 

 

 

 

 

 

 ケビンは事務所に帰り、地下射撃場でUMP-9を手に取った。訓練がてらに情報を整理することにした。

(情報を知り得ることができる人物、それは間違いなくマネージャーだ。英玲奈ちゃんによればグループにつき一人らしいから、誰かが監視している状態ではないらしい。つまり情報を流そうと思えば流せる立場だ。だがそんな簡単に情報を漏らさないだろう、何故ならリスクが大きく多くの場合見返りがあって情報を渡すケースが圧倒的だからだ。以前のミコトちゃんのケースとは違い偶然装って犬にカメラ仕掛けられないだろうし、昨今では犯罪が過激化している。迂闊に動けば、怪しまれる可能性も高い。取りあえず、会ってみるしかないか)

 ターゲットを改めて見ると、狙いが少し拡散していることがわかった。

「その前にUMP-9の改造もするか」

 清掃し、マウントレールにホロサイトを取り付け、今度の任務で持って行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 昼11時頃、ツバサを通じてマネージャーに会うことにした。二人で待ち合わせのゲームセンター前で時間を気にしながら待っている。

「お待たせしました」

 やって来たのは正装姿の女性。彼女がマネージャーの道下政子だ。

「道下と申します。綺羅について相談があるとか」

「えぇ。ご存じかと思いますが、彼女が家にいるときに物が投げ込まれたのです。誰か心当たりがありますか?」

「心当たりですか。宇野日美香って1年生の子が休暇中の3人に付きまとったり、ライブには絶対に顔出しては熱烈な応援する子なら」

「そうですか。顔写真はありますか?」

 道下は宇野の証明写真を取り出した。眼鏡をかけ、一見地味な印象を受けた。それを受け取ると、続けて

「手紙に住所が書いてあるかと思いますが、預かってもよろしいですか?」

「えぇ」

 宇野が書いた手紙も受け取る。

「彼女の身の安全は守ります。ご安心ください」

 その後道下と別れると、ツバサと一緒に事務所に帰ることにした。

「行かないの?」

「いきなり君と一緒になんてリスクが高いよ。まだ犯人と決まったわけじゃないし、君に被害が及んだら探偵失格だ。事務所なら誰が来たかわかるように最新式のカメラに敵だったら反撃できるよう、自動機銃が設置されてる。攻撃されても大丈夫だ」

「ちょっと待って、本当に探偵なの?」

「本業は特別警備会社の職員。わかりやすく言えば民間軍事会社の兵士ってところかな」

「うそ・・・」

 ツバサは口が開いたまま塞がらない。

「まぁリラックスしてくれ。安全だから」

 安全と安心は似ているようで違うと、胸中ツッコむツバサであった。

 

 

 

 

 

 

 宏美に預け、ケビンは住所に記載された場所に行った。何やら目的地が騒がしいことに気がついた。

(なんだ、胸騒ぎがする)

 呼び鈴を押すと、慌てた様子の中年男が出た。

「たたた大変だ!」

「どうしましたか?」

「娘が、首吊って死んでるんだ!」

 ケビンは彼の肩を叩き、真剣な顔で

「まずは落ち着いてください。深呼吸」

「ふぅはぁ、こっちです」

 二階の部屋に案内されると、証明写真で見た眼鏡をかけたパジャマ姿の少女が部屋の中で首を吊っている。脈を確かめるが手遅れだった。

「失礼ですが、何も触れていませんよね?」

「え、えぇ。あなたはいったい?」

「俺は特別警備会社の菊地と言います。探偵業も営んでおります」

「元軍人さんってことですか・・・探偵さん、私はどうすれば」

「とりあえず警察に連絡を。一階で待ってください」

 ケビンは部屋の様子を確認する。何も荒らされていないうえに、踏み台に使ってであろう、学習机の椅子が転がっている。

(遺体は素足だな。座る部分の素材のクッションが化学繊維。次に重要なのは机の上だ。A-RISEやらμ’sのグッズが置かれてる。本当に好きなんだな)

 ふとノートをめくり、字の特徴を見る。払いや跳ねが手紙の字と似ていることに気がついた。

「これは聞くことができたな」

 一階に戻り、男性に手紙を見せる。反応があった。

「間違いなく娘の字です。娘に何があったのですか?」

「実はですね、彼女、重度の追っかけでして、綺羅さんから依頼されて俺が真偽を聞きに来たのですが、これでは聞けません。非常に残念です」

「確かにUTXに入学したいって相談があったことは確かです。しかし追っかけ目的だとは思いもしませんでしった」

「彼女、元々アイドルに興味があったのですか?」

「好きでした。追っかけもしたって話も聞いてます。でも自殺なんて考えられません」

「なるほど。それともうひとつ、彼女のノート、お借りしても大丈夫でしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 大隈のもとに向かったケビンは、早速筆跡鑑定を依頼した。そこには根岸もいた。

「君も大変だね。聞き込みに行った先が殺人現場だったなんて」

「え?どうしてそれを?」

「根岸さんだよ。依頼したって聞いてさ」

「確かに殺人事件です。誰がどう見たって」

「話だけだけど、踏み台の椅子に足の指紋がなかったんだって?素足なんだから、指紋出ないとおかしいよ」

 鑑識が調べた結果だそうだ。

「それに、首に手形が残っていた。小さかったから女性のものだと思うよ」

「死亡推定時刻は今朝の9時から11時ぐらいだ。ケビン、今回は彼女の友好関係を洗ってくれないか?」

「わかりましたよ。報酬、上乗せしますからね」




 


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21話  34号

 ちょっと遅くなりました


 調査の結果、宇野日美香は基本的に友達を作るタイプではないらしく、母親が早くに亡くしているため、親しい人間が父親と遠くに住む祖母、そして

「A-RISEの非公式ファンクラブ会員、34号。誰だよ」

 謎の人物34号。ホームページを見ても顔こそわかるが本名ではなくナンバーで呼ばれていることがわかる。どうにか接触するため、リーダーで創始者である、1号に接触することにした。返事が返ってきて、『明日の午後1時、ミナリンスキーのいるメイド喫茶で会う』とのことだった。

(どうしてそこなんだ・・・まっいっか)

 

 

 

 

 

 

 約束は約束。ケビンはUMP-9を薄手のジャケットの下に隠し持ち、1号と会うことになった。

(彼女が接客していない。まだだな)

 ミナリンスキーこと、ことりを指名し、人を待つことになった。

「探偵さん。お客さんとしてお店に来るなんて珍しいですね?」

「まぁ、仕事の都合でここで待ち合わせさ」

 すると、一般的なオタクのイメージとはかけ離れた、背広姿の男性が席についた。

「初めてお目にかかります、1号こと、新垣と申します」

 新垣と名乗った男は本業は税理士をしているらしく、趣味が高じた結果、非公式のファンクラブを立ち上げたらしい。メンバーとは会場やプライベートで会っているらしいが、34号と被害者とは実際に会ったことがないらしい。

「基本的に会員登録するには、メールアドレスと電話番号、任意で住所を記入するだけでできます。ですから、顔写真は必要ないんです」

「なるほど。総勢どのくらいいるんだ?」

「40人ぐらいですが、34号と36号さんとは会ったことがないんです」

「ほぅ」

 ひとつの疑問が浮かんだ。彼女は必ず会場に来ているのだ。にも関わらず、新垣はニュースで知るまで顔を見たことが無いと言う。つまり、たとえ同じ会場にいても、遠く離れた場所にいたため、彼女達の顔を知らないということだ。そんなことがあるのだろうか。

「何度もツイスターで飲み会の勧誘をしたのですが、絶対に欠席すると返事をよこすんです」

「ちょっといいですか?」

「?」

「彼女、ツイスターやってたんですか?」

「えぇ。ミニマムニコルってネームです」

 新垣がタブレット端末でミニマムニコルの名前を検索し、そのページを見せる。A-RISEのコンサートでダンスがどうとか、サインもらって嬉しさのあまりに逃げ帰ったとかしかない。

「少ないですね。写真は一切ないから、だから知らなかったんですね」

「はい。ですが、34号の写真なら見たことありますよ」

 検索した名前に見覚えがあった。

「道下政子」

「そうですが、何か?」

「いえ、何も」

 彼女が取ったであろう写真に自撮りが入っていた。

(どういうことだ、彼女と交流があったのか?なんだか暗雲が漂ってきたぞ)

 まさか二人が顔見知りというだけでなく、友好もあったことに驚く。初めて会ったときの威圧的な態度は演技だった可能性が高い。

「それにしても驚きましたね。まさかミナリンスキーと知り合いだなんて」

「以前、暴漢から彼女を救っただけですから」

「すごいですね。本当にそんな探偵さんがいたなんて」

 その後、質問攻めにあい、内容をオブラートに包んで簡潔に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。UTXに問い合わせるも今日は彼女が出勤していないと聞き、今度はツバサに電話しようとしたが、今日は平日で学校だと判断し、躊躇する。

「SNSだと返事遅いしな」

 仕方なく事務所に戻ろうとすると、電話がかかってきた。相手はツバサだった。

「もしもしどうした?」

「探偵さん助けて!」

 切迫した声だった。

「どうした!?」

 しばらくして、今度はボイスチェンジャーを通した声が聞こえる。

「・・・お前が探偵だな」

「誰だ?」

「綺羅ツバサは預かった。返してほしければ他の二人も呼べ」

「その二人ってのは、英玲奈ちゃんとあんじゅちゃんのことか?」

「そうだ、場所は画像で送る。変な真似するなよ」

 電話が切れ、今度は宏美から電話が入った。

「大変よ!A-RISEの二人から電話があって・・・」

「俺にもさっき。車、用意出来てるか?」

 急いで事務所に帰り、レミントンR5とUMP-9をハマーに積み、出撃準備をする。

「あ、あのぅ、戦争に行くんじゃないんですから・・・」

「人質救出は戦争と一緒だ。殺すつもりじゃないとダメ」

 

 

 

 

 

 

 出発してから2時間半。北関東にある、大型の倉庫前に止まった。ここにツバサがいる。ちょうどいいタイミングで電話がかかってくる。

「お前ひとりで来い。車の鍵は開けっ放しにしろ」

「わかった、待ってろ」

 UMP-9と右手、レミントンR5を肩にたすき掛けし倉庫内へ向かった。照明はついていないため薄暗く、遮蔽物が多い。

(どこにいる・・・)

 すると、テンポの早い足音が聞こえ音のする方へ歩く。誰かとぶつかったかと思いきや、ツバサだった。

「無事か?」

「えぇ。でも、なんでなの?登校中に英玲奈とあんじゅもいたのに、私だけ」

「言われてみればな」

 外で待っている二人が心配になり、戻ってみると案の定機転を利かせロックをかけていたため、複数の男達に囲まれており無理矢理こじ開けようとしている。

「修理代増やさせんぞ」

 R5に持ち替え、次々に敵の脳天目掛けて狙撃していく。それに気がついた連中がこちらに向かってUZIを発砲してくる。数を減らしていき、どうにか撃退に成功した。念のため、UZIを拾った。

「クリア。さて、帰るとしよう」

 3人を送る途中、簡単に事情を聴くことにした。ツバサによると、下校中、白のバンが近くで停まり自分だけ攫って言ったのだとだという。犯人の指示でケビンに電話をかけた。彼らはケビンを消そうと考えたらしく、呼び出したのは良いものの、主犯が電話で誰かと口論してる隙に逃げ出し、どうにか撒いたところでケビンにぶつかったのだという。

「でもどうして二人も呼ばれたの?関係ないと思うけど」

「恐らく保険だろうな、もし君に逃げられていいようにロックの解除された車内にいる二人を押さえようと思っただろうが、二人が機転利かせたことで失敗した」

「・・・だったら、手足縛ってもいいと思うのですが」

「確かに不自然な誘拐事件だ」

 どうやら彼に恨みがある連中の犯行ではないようである。それだけではない、ツバサを誘拐して得られるメリットが目立つ以外にない。茶番劇に終わったのも計算に入れていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 すっかり日が暮れ、3人を家に帰すとそのまま事務所に帰る。拾ったUZIのマガジンを取り出し、弾を見る。Px4でも使われる、9mmだとわかる。

「通常の9mmだ。メタルジャケット弾でもない」

 パウダーもマグナム弾に使用される、速燃性のものではないこともわかった。つまり改造を施していない弾丸を使用しているのだ。機関部も特に改良していることはなく、強いて言えば銃身が太くなっておりヘビーバレルに交換していることがわかった。

「変な奴だ」

 通常サブマシンガンを改造するなら、機関部をより良いものに改造し弾詰まりを回避しようとしたりする。ヘビーバレルに交換するなら一層のこと、そこまでするはずだ。

「中途半端な改造だ。ガンスミスを雇っていないことがわかる」

 つまり、解体した際に銃身を交換してしまえば、素人でもできる。

「でも何故ツバサちゃんだったんだろう、彼女が関連する事件は弾倉投げ込み事件だけ。今回の件で二回目だ」

 犯人の目的がわからない。流石に頭を抱えるケビンに電話が鳴る。

「はい、トライデント・アウトカムズ」

「宇野です。ちょっと来ていただけませんか?」

 日美香の父親が電話をしてきたのだが、声が小さいことがわかる。

「わかりました。お待ちください」

 

 

 

 

 

 

 居間に案内されたケビンは宇野父に注目する。

「お話しとは?」

「実はですね、気になることがありまして」

「気になることですか?」

「部屋にμ’sのグッズが置かれていたんですが、あの子はA-RISE一筋なんです、どうして置かれていたのか気になって」

「ほぅ」

 最初に見た時はあまり気にしなかったが、今思えば何故ライバルグループを応援するのか疑問に思う。つまり、両者の関係を知っており宇野日美香の顔を知っている人間が犯人であることがわかった。

「宇野さん、犯人がわかりました。μ’sのグッズ、お借りしていいですね?」

 大隅科学捜査研究所に証拠品を持って行き、以前渡された手紙も提出し指紋鑑定を依頼。結果、道下政子の指紋と認定。彼女が事件当日に持っていったことが判明した。

「道下政子が人を殺したのは確かだ。これで彼女を追い詰めることができる」

 翌日、速報で道下政子が逮捕されたことが報道された。人を殺し、担当アイドルを脅かしたマネージャーとして世間に知れ渡ることになったのだった。




稚拙ですが、堪忍してください


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22話  探偵の優雅な一日

 


 この日は事件が無く、二人は休みを取っているため特にやることがないため一人くつろいでいると、ミコトと穂乃果が事務所に遊びに来た。最近流行りなのだろうか。

「どうしたんだい、依頼か?」

「そうではなくて、顔が見たかったので」

「そっか。・・・穂乃果ちゃん、顔色悪いよ?」

「え!?いや、その・・・」

「さては勉強がイヤで逃げてきたのか?まぁ、いいよ。せっかく来てくれたんだし、俺と少しクイズでもしないか?」

「クイズですか先生?」

「クイズと言っても、しっかり考えないとわからないから、問題をよく聞いてね」

 こうして、ケビンは過去に解決した事件をもとにクイズを作った。

 

 

 

 

 

 

 蒸気機関車による、満員の観光列車が駅に着いた。機関助手が慌てた様子で車掌に連絡する、その内容はなんと、機関士が発狂して飛び降りたのだった。驚いた車掌は客室乗務員全員に事情聴取したが、誰も飛び降りる様は見ていないという。冬なので雪が積もっており、足跡の一つや二つ残っているはずだが見当たらなかった。さて、機関士はどこに消えたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電車って繋がってるから、お客さんのフリでもしてたんじゃないの?」

「・・・穂乃果さん、機関車による列車の場合、客車とは行き来できませんよ。でもこれがヒントになりますね」

 年下であるミコトが彼女を引っ張っている。

「機関士は基本的に客車には乗らないよ」

 ケビンもヒントを出し、助け舟を出す。

「うーん・・・あ、わかった、屋根の上に隠れてたんじゃないかな?」

「煤だらけになって、落ちてる姿が発見されてもおかしくないかと・・・」

「あ、そっか」

「逆にこう考えればいいのです、機関助手しか見ていないってことですよ」

「そうなの?」

 ミコトは答えが分かったらしい。

「うーん・・・」

 考えるのが苦手な彼女が必死に考えている姿を見て、ケビンはミルクティーを振る舞った。

「穂乃果ちゃん。この写真見てくれる?」

 D51機関車を横から見た写真を見せた。

「・・・もしかして、石炭の入ってる中に機関士さんが?」

「それならまだよかったよ。ミコトちゃん、答え言ってみて」

「火室の中で焼かれてたんです。犯人は機関助手。スコップで殴り殺した後、大きな火室の中に詰め込んで処分したんです」

「御名答。炎の中じゃ見てわかんないし、臭いも走行中に消える。まさに走る火葬場だ」

「ひぇぇぇ・・・」

 あまりに物騒な答えだったので、顔が青ざめている。さすがに刺激が強かったと反省する。

「いきなりごめんね。でも、これは序の口だ」

 

 

 

 

 

 

 バレンタインの日、検問で持ち物検査をしていた。先日、宝石店強盗事件が発生し、盗難届が提出されていたからだ。頭の良い強盗は検問を通過するため、ある方法でバレないようにし、見事通過したのだが、どうやって通過したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでも簡単にした方だ。っと言うわけでヒントなし」

「えぇ~ひどいですよ!」

「穂乃果さん、本当にリーダーだったの?」

 呆れて本音がこぼれたミコト。決して他力本願ではないだろうが、ここまで考えるのが苦手な人間を初めて見た。

「思い立ったら即行動だったから、考えるのはちょっと・・・」

「海未さんや真姫さんがいなかったら、μ’s無くなってた可能性大ですね」

 言われたい放題言われ、HPがほぼ無くなりかけている。不憫に感じたケビンは、彼女に冷蔵庫の中にあったチョコレートを出してあげた。

「君が悪いんじゃないよ。でもね、ここでモノの見方を変えて考えることを覚えて欲しいんだ」

「モノの、見方?」

「そう。例えばこの問題、普通に持って行ったらさ、絶対に引っ掛かるよね。でも、検問を通過したってことは極めて自然だったってことだよ」

「あ、そうか、怪しかったら声かけますもんね」

「しかもバレンタインデーですよ、木を隠すなら、森の中です」

「バレンタイン・・・チョコレート・・・あ!わかった、宝石をチョコレートでコーティングしたんだ!バレンタインデーだから持ってても不自然じゃないもん!」

「素晴らしい、御名答だ。考える基本は、どうやったら自然かをシミュレーションすることだ。次は難しいぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝方、海鮮料理が名物のレストランで殺人事件があった。被害者の宮川は店のシェフで腹部を一突きされており、警察は全力で凶器を探したが全く見つからなかった。殺人の凶器はいったいなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはミコトちゃんでも難しいぞ」

「手強いですね・・・」

「見方を変えるってのが肝ですよね?」

「今回の場合、犯人は計画性があったとも取れるね。包丁やナイフとかいっぱい厨房にはある、しかし、それらには全く彼の血痕が付着していなかったんだ」

「う~ん、質問していいですか?」

「どうした?」

「傷口の形はどんな感じですか?」

「そうだね、小さなカラーコーンの先みたいな形状だったよ」

(もしかして、調理器具じゃない?)

 ミコトは内心感づくが、あえて喋らないことにした。

 

 

 

 

「キッチンでそんなものあったっけ?ロウトかな?」

「さすがにわかるのでは?穂乃果さん、先生の言っていた、モノを見る基本に戻ってみましょう」

「えっと、どうやったら自然になるかって話だったよね?」

「常識だけで考えるって意味じゃないですよ。人間に傷をつけられるのは、なにも道具だけとは限りません」

「道具だけじゃないって、ミコトちゃんのイジワル!」

「そうやって考えるのをやめたら、一生バカって言われ続けますよ」

「ぐぅ・・・他に思いつかないよ」

「そうですね。さっきも言いましたが、道具じゃないなら、別のモノに変化するものが凶器になります。厨房が舞台でしたよね。っで、あれば、食材に注目できると考えられませんか?」

 穂乃果はミコトの着眼点に度肝を抜かれた。

「え?へ?」

「尖がっていて太さのある食材。お祭りでも見ることができると思いますよ」

「なんだろう、リンゴ飴と綿菓子しか」

「・・・イカですよ。凶器は冷凍されたイカ。実際にそれでスイカに穴を開けることが出来るほど強度がありますから、人間の腹部にも穴が開きます。恐らくそのイカは調理して自分で食べたか何かしたんでしょう。違いますか?」

「相変わらず素晴らしい推理だ。御名答、凶器は冷凍イカだ。それなら血を洗った後に解凍して調理してしまえば隠滅が可能だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 問題に集中するのも疲れるため、タイムアウトを取ることにした。出された菓子やお茶を満喫していると、ジョセフが事務所に入ってきた。

「よぉケビン。仕事か?」

「いや、ちょっとしたクイズで遊んでた」

「驚いた。ケビンが遊ぶって言葉使うとはな」

「どういう意味だ」

「悪い悪い、ところで転職者が来たって聞いたからどんな奴か見たくてよ。どこにいる」

「二階の客間だ。会って見てやってくれ」

「珍しいこともあるもんだ、ヒヒヒ」

 意地悪な笑いをしながら階段を上る。新垣は事件の後、入社を志願し経理兼オペレーターとして活躍したいと志願してきたのだ。彼は元々自衛官だったらしく、任期満了で退役したあと、雇われ税理士として生きてきた。だが雇い主は権力に弱いうえに恐ろしいケチで給料が安く人望が薄いため、今か今かと機会を待ち続け、トライデント・アウトカムズに入社したのだという。防衛省にも届出しているため、あとは武器を自分で選ばせるだけだった。

「ホント、にぎやかになったな」

「最初の事務所、一人だけでしたから」

「まぁな。凶悪事件があまり起きなかったから、一人で十分だったけど、最近はそうはいかん」

「何があったんですか?」

「銃撃戦プラスカーチェイス。おかげで車がお釈迦になるところだった」

「そうでしたか・・・無事で何よりです」

 彼女達の見せる穏やかな笑顔。

「さて、クイズの続きをするか。今度はちょっと難しいぞ」

 その後3問ぐらい出し、終わるころには日が沈む時間になっていた。

「もう帰る時間だ、今日は送っていくよ」

 

 

 

 

 

 

 二人を送り届け事務所に帰ってきた。新垣が書類の山を整理しており、ため息をついていた。

「菊地さん。銃、高いです・・・」

「89式ほどじゃないだろう」

「そうですが、SCAR-L CQBカスタムが6万するなんて・・・」

「まぁ最新モデルは高い。っで、何を買ったんだ?」

 地下射撃場に行き、買ったものを並べてもらった。しかし、あったのはベレッタM9A1だけだった。

「おいおい、M9だけって本当に金無いんだな」

「くぅぅぅ泣けてきた・・・」

「仕方ない。サイガ12貸してやる」

「本当ですか!?」

「ただし、ちゃんと働いてもらわないと買えないから覚悟しておけ」

 ケビンは思った。アイドルのライブ見に行くお金を回したらどうだと。しかし、プライベートまで指導するわけにはいかないため、黙っておくことにした。



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23話 招待されたと思ったら

 


 平和な事務所に一通の封筒が届く。黒澤金剛からだった。なんでも明日、山中湖付近にある別荘でパーティーがあるらしく、ケビン及び宏美宛てに招待状を同封したらしい。

「あら、ずいぶん洒落た招待状ね」

「我々にはないみたいですね。まぁ会ったことないですから仕方ないですが」

「二人は来るであろう様々な依頼をこなしてくれ。まぁ日帰りできると思うから、気にしないでくれ。オマル、新人のショットガン指導を頼んだ」

「はい。わかりました、ミスタ新垣、早速射撃訓練です」

 オマルと新垣が地下射撃場に入った直後、ミコトが絵里と花陽を事務所に入ってきた。

「おや、この組み合わせは珍しい。どうしたんだ?」

「これを」

 見せられたのは自分達にも届いた招待状だった。

「君達も呼ばれたの?」

「先生もですか?でも、何故絵里さんも呼ばれたのか・・・」

「娘二人がμ’sのファンだからさ。だいぶ、家族間の隔たりも減ってきたんだろうな」

「よかったですね。・・・でも、行き先書いてなくて」

「そう言われてみれば、そうだな」

 電話して聞いてみたところ、ただ単に地図を記載し忘れただけらしく、ケビンは住所だけを聞き、地図をネットで見てみることにした。敷地の広い別荘周辺には山と湖があり、桟橋もあるようだ。

「本当に別荘みたいだ。でも、金剛さん名前負けしてるからな」

「どんな人なんです?」

「自分の非を認めようとせず、力で無理矢理納得させようとする悪い癖がある男だ。まぁそれが原因で死にかけたことあるから、多少は良くなったと思うぞ」

「ケビンが言うんなら、相当ね。二人とも明日に備えて準備したらどう?」

「そうします。じゃあドレス新調してきます」

 二人は帰っていくのを見届けた。ケビンは宏美を早めに帰し、山中湖に行く準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝。ハマーのエンジンをかけ5人が乗ったことを確認し出発した。中山道を通り3時間後、無事に到着した。

「ねぇケビン、どうしてハマーなのよ、セダンがあったでしょ?」

「オマルが任務で使うんだと。それに山道走るかもしれないから、こっちにしたんだけど」

 確かにオフロード向けの車でパーティーに参加するものではないとは思うが、ケビンにはそれなりに考えがあったのだろう。

「まぁ落ち着けよ。それより先に行っといてくれ、あとで追いつくから」

 宏美達を先に行かせると、荷台にあるレミントンR5を取り出し、山に入って行った。地形の確認と狙撃の可能性を確かめるためである。

「想像以上に狙いにくい立地だな。木々が邪魔して、視界が悪すぎる。だが、良いものが採れるらしい」

 ケビンは蔓になっている茶色の小さな木の実を見つけた。これはムカゴといい、平たく言えば山芋の実である。

「見たところ誰も手につけていない。勿体ないな」

 手で摘み取りビニール袋にいっぱい入れていく。

「親父と山登りしに行ったとき、よく茹でて食べたな」

 背後から気配を感じ取り、ナイフを抜き取った。

「誰だ?危害が無いなら姿を現せ」

 振り向くと主催者の金剛がそこにいた。抜き身のナイフを見て腰を抜かしている。

「ヒィ、ど、どうしてここに!?」

「山の幸を見に来たんですが、ほぼ採ってないみたいですね」

 ナイフをしまい、安心させる。

「ところで探偵さん、これは?」

「ムカゴですよ。知りませんか?」

「ムカゴとは?」

「・・・塩で茹でて食べたら美味いですよ、前菜でお出ししてみては?」

 ムカゴの入った袋を渡し、山を下りようとする。

「勿体ないですね。こんなに良いものがあるのに全く利用してないなんて」

「えぇまぁ・・・山の幸を知らないので」

「じゃあその履き古した登山靴は何ですか?」

 金剛は自分の足元を見てハっとする。

「調べさせてもらいましたよ、アウトドアが好きだってね。にも関わらず山の幸に手を出していない」

「妻が山菜を食べようとしないんです。ですから、ここに来たらコッソリ採って一人で楽しむんですよ」

「そうでしたか。そろそろパーティの始める時間ですし、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 改めて別荘に入ると、エントランスホールに自分達以外の客人がいることに気がついた。金剛曰く、友人達らしいがケビンの目にはそうは映らなかった。どちらかと言えばお零れを狙うハイエナのような雰囲気だった。

(鈍感なだけなのか、バカなのか・・・独裁者の腰巾着みたいにも見えるな)

 彼らには彼らの事情があるのかもしれないが、権力抗争と言うものには必ず腹の探り合いがある。ケビンには縁がないことは確かだった。

(しかし、何故俺に注目を?)

 背中を触れ、答えを知る。

(・・・それもそうか。銃背負ってたら誰だって気になる)

「アー・・・お気になさらず」

 興味があるのか、こちらに寄って来た一人の男。

「こんなもの持ち歩いて良いのか?」

「は?」

「ジョークグッズなんてそんな不謹慎なもの、僕が没収します!」

 手に触れようとした瞬間アームロックをかけ、そのまま投げ飛ばす。

「仕事道具に触れるな。素人が触れて良いものじゃない」

「!?どういう意味だね?」

「これは本物の銃だ。紹介が遅れたな、トライデント・アウトカムズの菊地って人間だ」

 彼を起こし、ついでに名刺も渡す。

「ま、まさか・・・本物?」

「そうに決まってるだろう。これ見て信じろ」

 マガジンボックスに入ってる弾丸を見せ、納得させる。

「アンタ名前は?」

「し、白山寿です・・・」

 この後金剛が駆けつけ、どうにか事態は収まった。

 

 

 

 

 

 

「探偵さんどうして彼を投げたんですか!?」

「俺の仕事道具に触れようとしたからですよ。暴発してケガさせたら責任、取れますか?」

「ですがね、ダイヤにカッコ悪いところ見せて良いわけじゃないですよ?」

 ケビンは静かに驚く。

「あの、白山は何者ですか?」

「白山君はダイヤの見合い相手の一人なんですよ!今日はお見合い相手の見定めパーティーです」

「じゃあ俺が呼ばれたのは?」

「あなた達には審査員ポジションとして」

 ケビン渾身のコークスクリューパンチが金剛の左頬に入る。

「てっきり仕事だと思って来たのにそれか!」

「だって一人じゃ不安だったんだもん」

「・・・はぁ・・・審査員引き受けますから、報酬はガッポリもらいますよ。100万で」

「な!?・・・た、探偵さんが言うなら」

 諦めた様子で小切手に100万を書き、ケビンに手渡した。

「さて、彼らにどのような試験を?」

「まずは知能を見たいので、簡単な問題を作成できませんか?」

「いいでしょう。ざっと3問ぐらいですがね、推理系の」

 パーティーが盛り上がっていたところで、ケビンが現れる。

「招待された青年諸君、君達はもう知っているだろうが、これは黒澤ダイヤさんの見合い相手を決めるパーティーだ。君達には最初に柔軟な思考を持っているかのテストを受けてもらう、制限時間は5分、さぁ考えてみろ」

 青年達が動揺するなか、大型スクリーンに即席で作った問題を映し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある女性が後頭部を殴打され殺された。その時間、男が出入りしていたらしく、その男を調べたが凶器が発見されなかった。さて、彼はどうやって凶器を隠したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 映像の部屋の見取り図にはタンスや引き出し、テーブルがあって、その上にはグッピーの水槽が映っている。

「なんだこりゃ?」

「ヒント、ヒントはないですか!?」

「そうだな、木を隠すなら森の中ってところだな」

 意地悪なヒントにブーイングが響いたが、ケビンの一睨みで一瞬で黙ってしまう。

「これは回答用紙とシャーペンです。近くの人と相談はダメですよ~」

 宏美がそれらを配り終えると、候補の青年たちは一斉に頭を捻って考え出した。隣にいたミコトが小さな声でケビンに話しかける。

「これもこの前やった、どう自然に見えるか考えることが大事でしたよね?」

「そう。疑われないってことはそういうことだよ」

 5分経ったところで次の問題を映すことにした。

 

 

 

 

 

 

 4階建ての、とある高校で男子生徒が花壇に落下して死亡した。彼の持ち物は生徒手帳に財布、鉛筆だけであり、事件性がないように見えたが、刑事が目撃者C・Dと、被害者と親しい人間A・Bに事情聴取すると、一人、不自然な証言をしていることがわかった。さて、誰が嘘をついていたのだろう。ちなみに、事件発生後、誰も現場に触れていない。

 

A 彼ってちょっと変わってて、本を窓に座って読んでたのよ。いつもCさんに注意されてた。今日も窓に座って本読んでたかも・・・いつかはと思ってたけど、本当に落ちちゃうなんて思いもしなかったわ

 

B アイツさ推理系のラノベ好きで、将来ラノベ作家になりたいって言ってた。そこまで成績悪くないけど、化学と社会全般の成績が悪くて向かねぇと思ったんだよ

 

C 彼は今日も窓に座って本を読んでいました。いつも注意してたんですが、どうも聞かなくて・・・私は書架で本の整理してたのですが、悲鳴が聞こえ駆けつけたときには既に姿が見えませんでした

 

D 放課後、花の手入れを終えて道具を整理して帰ろうとしたんです。背後からドサッって音が聞こえたから振り向いたら・・・彼が頭から血を流してて・・・

 

 

 

 

 

 

 

「よく問題読めよ」

 そういうと塩ゆでのムカゴを摘み、中身を出して食べる。

「やっぱうまいなぁ」

「あらケビン、ずいぶん楽しそうね」

 今度は宏美が興味津々に寄ってきた。

「ボンボン達の困ってる顔見てたら、そりゃね」

「これっていわゆる仮定して考える問題でしょ?」

「宏美、それ以外にも重要なことがある。よく問題を読んでみな」

「・・・なるほどね、これぐらいは出来て欲しいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アパートの一室でしがないサラリーマンの男が腹を刺され死んだ。彼の手にはカップラーメンの出来上がり時間を計るであろう、砂時計が握られていた。捜査の結果、死亡推定時刻にアパートに出入りしていた人物がおり、それぞれ三好、赤城、岩井と名乗った。さて、ダイイングメッセージの意味とそれを示す犯人を答えよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで来ると誰もブーイングしては来なかった。彼らも真剣に考えるようになり、中には既に回答を書き終える人間もいた。

「終わったら挙手してくれ。俺が回収する、他の奴に回答見せるなよ」

 ケビンが回収しているなか、絵里がスクリーンに静かに注目している。

(意味がわかれば一発でわかる問題ね。探偵さん、人が良すぎ)

 回答用紙を回収し終えた。

「これで試験終了だ、お疲れさん。結果は後日、金剛さんに伝えるから、じっくり待っててくれ」

 こうしてパーティーは終わり、ケビン達も秋葉原に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 道中のサービスエリアで休憩することにしたケビン達。車内でトイレに行った宏美を待っていると、後部座席に座っている花陽がケビンに質問してきた。

「探偵さん。あのテストに意味はあるんですか?」

「あるよ。俺が注目したのは問題に真剣に取り組みかつ、頭の回転が早いかを見てた」

「へぇ・・・」

「君達には簡単だったと思うのだが、どうだった?即席にしてはいいと思うけど」

「即席だったのですか!?」

「下地はあったけど、アレンジにしては下手だったような気がしてね」

 ケビンは宏美が帰ってきたタイミングで答え合わせ及び解説をすることにした。

「さてと、この問題のヒント、どこにあったかわかった?」

「映像にあるんじゃないですか?それと殴打されたってことは鈍器を使ったってことですよね」

「そう。でもハンマーやらバールじゃない、むしろ鈍器はそんなものじゃなくても作ることができる」

「あれ~追いつかないんだけど・・・」

 宏美がパニック寸前に陥っている。ミコトが彼女をカバーするように話し始めた。

「宏美さん。凶器を隠すには自然でなくてはいけません、ですから、注目すべきは水槽のある部分です」

「水槽に凶器なんて入ってないわよ?」

「確かにそのものは入っていません。ですが、一部なら入っていました」

「わかりやすく言いなさいよ!」

「砂利ですよ。それが凶器の一部です」

「水槽に入ってたから見つかりにくかったってこと?じゃあ残りはどこよ?」

「皆さん、誰もが履いたことあるものです」

 

 

 

 

 

 

 絵里はハッとした表情で

「靴下だ!靴下に砂利を詰めたものが凶器だったんだ、水槽に砂利を捨てて自分で履けば、全くわからない!」

「御名答。だからと言って実際にやらないでくれよ。2問目も問題をよく読めばできる問題だから、花陽ちゃん、ズバリ嘘つきは誰だろう?」

「ええ!?えっと、たぶんCだと思います・・・」

「Cの何処が嘘だと思ったの?」

 完全に固まってしまい、答えようにも答えられないようだ。

「ちょっとケビン、彼女シャイで控え目なんだからいきなりは無いわよ」

「・・・すまない」

「これは私でもわかったわ。Cの不自然な点、それは、被害者が窓に座って本を読んでいたって部分よ。誰も触れていない現場でしょ?遺留品に本がなかったのに、Cはどうして本を読んでいたって言えるのかしら。明らかに嘘をついてた以外に考えられないわ」

「記者だった宏美には簡単だったな。さて、ラストは・・・ミコトちゃんにシメてもらおうかな?」

「先生・・・私は中学3年のころから助手をしてきたんですよ。砂時計の意味は上下が無い。つまり、上下どちらから読んでも同じという意味です。犯人は岩井ですね」

「最後が一番簡単だったと思うが・・・流石だね。でもひとつだけ違うところがあるんだ」

「?どういうことですか?」

「俺は君を正式に助手にしたつもりはないよ・・・そりゃ手伝ってもらうことはあるけどさ、危険な張り込みやボディーガードとかさせたくないんだ。俺の仕事、鉛玉が飛んでくるからね」

「そうですね・・・ですが、先生に認められる存在を目指して頑張ります!」

(銃は持たせないし危険な仕事はやらせないけど、最初に会ったころとは違って、冷静な分析ができるまでになった。彼女がどう成長していくか、楽しみだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女達を送り届け終え、一人自室で回答用紙を見る。その出来高は想像以上に悪く、オマルが見たら腹抱えて絶倒するほどだった。

(・・・俺の文句ばかり書いてるやつもいるな。こいつら全員不合格でいいんじゃないか)

 金剛に電話し、全員不合格という結果を伝えると、一通のメールが届いた。ミコトからだった。

(近日、北海道で人気のSaint Snowが池袋に来るから一緒にどうですか。か・・・その日予定無いし見に行ってもいいか)

 しかし、この行動が新たな事件に遭遇するとは思いもしなかった。




 もし金剛のような依頼人がいたら、私なら依頼蹴ります


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24話 不思議な襲撃者

 AKが何故、世界中の紛争地で使われているか
 それはどんなに乱暴に扱っても弾が出る信頼性が高い銃だからだ


 10:00池袋のサンセットビル屋上に仮設のステージが建てられている。北海道で人気のスクールアイドルSaint Snowがライブに来るらしく、ミコト曰く、かなり勢いのある姉妹とのことだった。しかし、ケビンにはスクールアイドル全体が同じように見えるため、彼女の言葉の意味は分からなかった。

「北海道から東京に来るなんて、なかなか無い勢いです。二人ともクールでアクロバティックなダンスが見物なんですよ」

「と、言われてもなぁ・・・」

 確かにバック宙返りや激しいステップは魅了できるものはある。

「なんか違和感があるんだよなぁ・・・」

 演技自体の完成度ではなく、姉妹の深層心理に違和感を感じていたのだ。余裕がない、そんな感じが肌に感じたのである。演奏が終わる少し前に、視野に映った何かに気がついた。

「!?みんな伏せろ!!」

 ケビンはBGMを超える声量で叫び、右斜め前にいた客が握っている拳銃に目掛け、警棒を投げつけた。命中し拳銃を飛ばすと一気に駆け寄り無力化してみせた。

「・・・何者だ、こりゃ」

 飛ばした拳銃を調べてみる。グリップに黒い星が刻まれていたため、中国製であることがわかった。

「マカロフのコピーモデルか。マガジンには弾丸が10発ほど・・・」

 薬包紙を取り出し、弾丸を調べることにした。火薬に触れた瞬間、男のしようとしたことに違和感を覚えるようになる。

「先生・・・どうしたんですか?」

「どうなってんだ、花火で使う火薬が入ってる・・・」

「?」

「銃の弾に使われる火薬は、いわゆる爆薬ではない。無煙火薬と呼ばれる、いわばロケットを飛ばす燃料みたいなものなんだ。だがこれは違う、花火が空に撃ちあがって爆発する爆薬が入っていたんだ」

「もし、このまま撃っていたら」

「この量だとコイツは死ぬし、周囲の人間もケガするな」

 

 

 

 

 

 

 Saint Snow殺害未遂事件は豊島署に任せ、二人で行きつけのピザ屋に入ることにした。

「捜査しないんですか?」

「休暇中に仕事はしたくない。それに、積極的に捜査に参加できる立場じゃないんだ」

「そう・・・」

「もちろん気になる点がある。あのマカロフは右手用だったが、男は左手で握っていたんだ。つまり」

「左利きの素人?」

「その通りだ。無論、一時的に左手に持ち替えて戦うこともあるけど、もし二人のどちらかが対象だったとしても、通路寄りの席より、むしろ真ん中の席につくだろうね。人混みに紛れやすい。何より、使用する弾をオーダーメイドにするなんて珍しい。市販品で十分だ」

「確かに・・・じゃああの弾は?」

「男を憎んだ人物が友好的に近づいて渡したものだろう。爆発する弾をね」

 これ以上はわからないと言わんばかりにカルボナーラパスタを口に運んだ。

「ここ、ご一緒してもいいですか?」

「「?」」

 よく似た雰囲気の姉妹が声をかけてきた。

「ん?イベントは中止になったのかい?」

「あんなショッキングなことがあったら、中止にせざるえません。申し遅れました、鹿角聖良と申します」

「鹿角理亞です。お兄さん強いんですね」

「これでも体は毎日鍛えているからね。まぁ立ち話も難だから座ってくれ」

 鹿角姉妹を座らせ、本題に入ることにした。

「用件は?」

「その・・・助けてくれた人にお礼が言いたくて・・・」

「誰からここにいるって聞いたんだい?」

「えっと、そ、それは・・・」

 理亞がツインテールの髪をいじりながら口ごもってしまった。どうやら言い辛いことがあるらしい。

「まぁいい。どうせつけてたんでしょ?最初からわかってたよ」

「「え、どうしてわかったんですか!?」」

「気配だよ。消すのが下手すぎるし、1メートルぐらいじゃ尾行するには近すぎるんだ。それに殺気も感じない。それに音も理由に上がるね」

「・・・あ、もしかして普通のスニーカーだから?」

「尾行は音にも注意を払う必要性があるからね・・・っと、話が逸れた。気持ちはわかったよ、もう十分だから何か好きなものを取ってきな」

 二人が料理を取りに行ったことを見計らい、ミコトと話すことにした。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、どうしてわざわざ礼を言いに尾行したのでしょうか?」

「簡単だよ、他にも尾行がいた」

「え!?」

「俺が目的じゃない、彼女達だ。簡単な質問をしようと思う」

 二人が戻ってきた。

「本当の目的、俺に相談があるんじゃないか?」

「そ、その通りです。北海道にいた時から・・・」

 二人の目線の先にはサングラスをつけた男がピザを堪能している。しかし、こちらに目線を向けていた。

「追っかけか何かかい?」

 姉妹は首を横に振る。

「なるほど。見覚えもないってことだね」

 突然男は立ち上がり、Vz61サブマシンガンを向けてきた。だが、ケビンのショルダーホルスターから抜かれたM629リボルバーに撃ち砕かれ、床に部品がばら撒かれた。

「俺の目の前で女子供に銃向けるなんて、ずいぶん良い度胸してるな」

 急に非日常な空気に晒された姉妹は気が動転し震えながらミコトに抱き着いてきた。

「ななななんで銃持ってんの!?東京じゃ普通なの!?」

「ヒィィィ!」

「そんなわけないですよ、あの人が特別なの」

 ケビンは男に近寄り、耳元で尋問する。

「誰に雇われた?」

「くっ・・・」

「さっさと吐け、苦痛が短い方がお互いいいだろう?」

 M629リボルバーの銃口を顎にくっつける。

「わ、わかった話す。黒いパーカーの男に依頼されたんだ、北海道すすき野の路地裏で二人の写真を見せられて、それで銃も渡されたんだよ」

「銃を渡された?」

 男を駆けつけた警察に引っ張ってもらい、再び席に戻る。

 

 

 

 

 

 

「あ・・・あのぅ?」

「?」

「あなた、何者なんですか?」

「おっと忘れてた。俺は秋葉原に事務所を置く特別警備会社の日本支部長、ケビン菊地だ。これどうぞ」

 名刺を渡し、それを受け取るがどうも顔色が悪い。

「・・・ごめんね、物騒なもの見せて」

「どうして持ってるんですか!?」

「ちょっと莉亞、恩人になんてことを」

「まぁ理解されない仕事だから仕方ないよ。俺達の仕事は猫探しから護衛までなんでも引き受ける、言ってしまえば探偵と一緒だよ、違いがあるとすれば国から銃携帯と発砲の許可を持ってる。でも、殺しとか誘拐とか犯罪に関わることは一切拒否してるから安心して」

「そう・・・ですか。さっきのおじさんはじゃあ?」

「彼は君達を殺しにきたらしい。けど不審なんだ、覚えてると思うけど、サンセットビルの男もさっきも銃に不備があるものを渡されてるんだ。通常銃を使うなら信頼性を最重要視するんだけど、彼らの持たされた銃にはそれがなかった。つまり、彼らは素人である可能性が非常に高い」

 先ほど騒動があったにも関わらすフライドポテトを三枚ほど美味しそうに食べ、すぐに平らげた。

「恐らく君たちは狙われていない。狙われたのは襲撃者の方だってことさ・・・金は俺が払うから、ゆっくりくつろいでくれ」

 妹の理亞はミコトの顔をじっと見つめている。

「何かしら?」

「もしかしてもしかすると、二宮ミコトちゃん?」

「そうだけど、サイン上げないわよ」

「ふーん・・・どうして一緒に行動してるの?」

「今日はあなた達のライブに行く予定だったの。でも、どうしてここまで事件を引き寄せるか、不思議なものね」

「・・・なるほど、結構危険な目にあってんだ」

「まぁそうね。ファンに帰り道尾行されて公園で押し倒されそうになったりしたから、それよりはマシよ」

 修羅場の経験が自分以上と判断した理亞はこれ以降質問してこなかった。



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25話  札幌進出

 トライデント・アウトカムズの特徴

 ・銃は私物が基本。弾薬は会社持ち

 ・職にもよるが誰でも入れる。ただし、殺人の前科があったり不名誉除隊は基本的に門前払い

 ・実力主義

 ・貧しい村などに井戸を掘ったり、学校を建てたりする慈善活動には積極的

 ・規則を破ったものは基本的に解雇


 ライブか中止になったため、ケビンは姉妹を空港まで送り届けることにした。

「もし北海道で困ったことがあったら、名刺の電話番号に連絡してくれ。解決するからさ」

「いろいろと、ありがとうございました」

「いいんだよ、本来なら金もらうけど、正式に依頼したわけじゃないから」

 空港に入ったことを見届け、事務所に帰ることにした。運転中考えることは二人を襲った連中の共通点が北海道で暮らしていることと、彼女達には特に非がないことだった。

「有名税ってか。下らない」

 オマルから電話がかかってくる。どうやら沼津に出張に行くらしい。

「ケビン。ミスター新垣とヨハネと名乗る、痛い少女の護衛に行くことになりました。ヨハネって男性名詞なのに・・・」

「まぁ事情があるんだろう。俺は事務所に帰るから、何かあったら電話してくれ」

「はい。ではそろそろ行きますので失礼」

 

 

 

 

 

 

 夕方。銃の整備をしていると、鹿角姉から電話がかかってきた。

「どうした?早速騒ぎかい?」

「いえ、そうではなくて。今から札幌に来ることできますか?」

「どうして?」

「理亞、気が強そうですけど実は臆病なんです。今度こそ銃撃されるかもって心配してて」

「・・・要は少女のケアってことかな。カウンセラーじゃないが、行ってやろう。ただし、1週間だけ。その1週間で騒ぎがなければすぐに帰る。1日でも騒ぎがあれば護衛の仕事をしよう」

 急遽札幌に行くことになったケビンは準備を始めた。実を言うと北海道に遠征しに行くのは初めてである。武器を持って行くため飛行機を使うわけにはいかず、車で津軽海峡まで行き、そこからフェリーで函館へ、そして札幌に着くのだが、それだけでも1日かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 初めて行くすすきので釣竿ケースは不自然と判断し、防弾仕様のアタッシュケースにレミントンR5を入れ、待ち合わせ場所の喫茶店へ足を運ぶ。

「あっ」

「ごめんね、仕事の都合で飛行機乗れないんだ」

「まさかフェリーですか?」

「車は防弾仕様だし、何より信頼性高いからね」

 ケーキと紅茶を頼み、話の続きをする。

「っで、依頼の確認だけど、妹の理亞ちゃんの子守りってことでいいかな?」

「まぁ・・・そうなりますね」

「つきっきりの警護は難しいぞ。学校もあるだろうし、何より俺に警戒していなくなった際に襲ってくる可能性もある。したがって、少し離れた場所から見守る形になるけど、いいね?」

「はい。報酬の方は」

「成功報酬でいい。女子高生相手に多額の金は請求しないさ」

 そういって運ばれてきたケーキを一口食べる。

「ここからは雑談だけど、どうしてスクールアイドルに?」

「A-RISEみたいなストイックになりたかったんです。今でも目標として目指していますよ」

「ほぅあの3人にね。確かにプロ意識は高いね」

「会ったことあるんですか?」

「以前ウチに依頼しに来たことがあってね。全員と交流あるよ」

 意外すぎる人脈に開いた口が塞がらない。

「さすがに依頼内容は話せないけど、すごくいい子達だよ」

「・・・ひとつ、よろしいですか?あなたは自衛隊か何かなの?」

「いいや。元アメリカ陸軍75連隊レンジャーだけど」

「?」

 よくわかっていないが、彼は普通じゃ考えられない波乱万丈な人生だったのだろうと勝手に納得することにした。

「そんなことはいい。そういえば理亞ちゃんは?」

「今日は別の方に護衛させております」

「・・・は?」

 他の人間にも護衛させている。ケビンにとって大きい計算違いだ。

「どうして、それを最初に言わなかったんだい?護衛計画が大きく狂うし、複数で動く場合、マンツーマンでやるより警戒されやすいんだよ」

「そ、そうなんですか!?てっきり数が多ければいいと思って」

「プロでも方針が大きく違うんだ、仲間割れで対象が殺害されるケースもある。簡単に守ると言っても、実際にやると思ったより違うんだ」

 誰にも見せたことがないぐらい厳しい目で聖良を見つめる。レンジャー時代と中東で働いていた時に培った経験が物を語った。聖良が固唾を飲む。

「今後はそう考えてくれ。理亞ちゃんの護衛の人、誰なんだい?」

 聖良は一枚の写真を見せる。ガタイの良い白人の男が写っている。

「この男、名前は?」

「ドミニクさんって名前です。しつこいファンに困っていたところを助けられました」

「ドミニクね・・・」

 ケビンは宏美にドミニクの映像を転送し、調べてもらうことにした。結果すぐ返って来て、ドミニクはチェコ出身の元警察官で、現在札幌にPMC、アーロン・インターナショナル日本支部で働いていることがわかった。ケビンも同業者としてその企業のことは知っていたが、最近設立された企業のため、あまり気に掛けていなかった。

「(一応、叔父貴にも話すか)今からドミニクと話がしたい。彼と連絡できないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 札幌タワー前で合流することになり、ケビンは聖良を連れて待つことにした。

「これはこれは、東京のPMCの方がわざわざ遠く札幌までお越しになって」

「アンタがドミニクか?」

 正面から現れたドミニクと理亞。

「そのコートの下にある、AK74Uはともかく、M10は明らかに護衛向きじゃないと思うが?」

「ひどい言い草だな。ウチは設立して間もないから、装備もオタクとは違って貧乏そのものなんだ」

 ほかの人間には見えないように装備を見せる。そのタイミングで護衛計画をドミニクに伝える。

「離れての警護?」

「そうだ。相手はどんな奴かわからないし、こちらの存在も知られていない。したがって、明らかに守ってるより、離れた場所から見守っていくのがいいと思うんだ」

「なるほど。確かにそうだな」

「アンタの装備を心配したのはそのためだ。M10は弾が飛び散って一般人に被害が出る」

「それはわかってるがな、俺達金ないんだ」

「・・・それ、支給品か?」

「軍などからの払い下げだけど。私物だよ」

 途端、ロバートから電話がかかってきた。

「ハロー。僕だけどいいかな?」

「なんです?」

「今決まったことなんだけど、ウチ、アーロン・インターナショナルを買収したから」

「え、もう一回」

「だから、アーロン・インターナショナルってPMCを買収したって言ったんだ。友人でもある設立者のグルカ兵が内戦に参戦して部下を虐殺されるポカやってさ、僕のところに泣きついてきたんだよ、だから助けるかわりに買収したってわけ」

 あまりの展開に置いてけぼりにされかけるが、冷静になって今おかれている状況を話すことにした。

「実はですね、その買収したアーロン・インターナショナルの社員と仕事することになっていまして」

「おぉいい機会じゃないか。明日、ジョセフが札幌に行くって言ってるから、弾薬補給も兼ねたらどうかな?」

「ドミニクの評判、聞いてますか?」

「ドミニク?・・・あぁ優秀だけどケチなドミニクね。安い武器しか買わない、貯金が趣味だって言ってたよ」

「そうですか。仕事に戻ります」

 こうして、前代未聞の護衛作戦が始まった。




 冬が近くなると、温かい抹茶が恋しくなります。

 茶菓子も良いものが欲しい


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26話  無差別な殺し

 


 札幌のドミニクの事務所前に大型トラックが停まる。ジョセフのトラックだ。

「新人指導か?」

「コイツ金ケチって護衛する気ないから、一応見繕えるか?」

「任せろ」

 ジョセフはドミニクをトラック内まで案内する。中には様々な国家の武器が置いてあり、別世界のようにも見える。

「すげぇ・・・」

「まずはお前の武器を見せろ」

 AK74UとM10を作業机の上に置いた。ひとつひとつ丁寧に鑑定すると、彼に振り向き

「確かに護衛向きじゃないな。AKはともかく、M10は制御が難しい。これを下取りして新しいのやる」

「え?」

 M10を手に取り、ガンボックスを開ける。取り出したのは2丁の銃。ひとつはイタリア製短機関銃、Mx4。もうひとつはワルサーP99。

「お前まさかPMCやるのにサイドアーム無しでやるのか?ケビンが倉庫見てハンドガンが無いって驚いていたぞ」

「そういわれても・・・」

「金は使ってないからあるだろ。ハンドガンはサービスしてやるからMx4の代金を払いな、今なら110ドルでどうだ?」

「円に直すと・・・55000円!?高いなぁ・・・」

 渋々金を渡し、2丁受け取った。

「命を預かるんだ、安いぐらいだと思うがね」

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンは鹿角姉妹から重要な話を聞いた。なんでも、札幌では脳天を撃たれて殺害される事件が立て続けに発生しているらしく、市民は陰で怯えているらしい。

「どんな人なんだ?その、被害者は?」

「ヤクザから幼稚園児まで、幅が広いんです。猟奇的としか思えません」

「ふむ・・・(日本に来て初めてのケースだな。まず、犯人はミラーではない。子供は絶対に殺さないからな。ターゲット以外を襲っているとなると、戦場に毒された異常者。となると、殺害も仕方ないな)」

 持ってきたM629に弾を装填し直す。

「これって、池袋で使ってた」

「そうだけど。どうかしたか?」

「デカイですね。近くで見ると」

「マグナムリボルバーだから、このくらい大きくないと反動制御できないんだ。もっとも、デカイのが良いわけじゃあないけどね」

 ホルスターにしまい、今度はR5をアタッシュケースから取り出した。姉妹から見たらまるで戦争しに行くようにも見える。

「あのぅ、もしかしてですけど、これも使うのですか?」

「そうだよ。ハンドガンだけで護衛はまず不可能だ」

「そこまでしなくても」

「まぁ確かに、ハンドガンだけで十分なケースもあるけど、札幌の猟奇殺人の話聞いて持ってきて正解だと思ったんだ。アサルトライフルなら基本的にどの距離も対応しやすいからね」

 背中にかけ、今度はボディーアーマーを取り出した。これを二人に渡し、取り付けるよう指示する。

「服の下に着るタイプだから、ファッション気にしなくても大丈夫だよ。これはマグナム弾受け止められるタイプだから、死亡率は大きく下がるはずだ」

「本物だ・・・」

 もの珍しさに戸惑うも、上から着けてみる。想像以上に軽く、不安こそあるがプロの言葉なので信じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁドミニク、連続猟奇殺人事件の情報ないか?」

「猟奇殺人?・・・あぁ最近だよ、勃発したの。俺の知り合いの刑事の話だと、幼稚園児を除く全員が狙撃銃の弾を使ってたって話してんだ」

「どんな口径だ?」

「確か408チェイタック弾、7.62NATO、一人だけだったけど12.7アンチマテリアルライフルだった。すげぇ趣味悪い奴だぜ」

(アンチマテリアルライフルか。持ち運びに困るだろうから、おそらく協力者によって処分されたと考えてもいい。持ち歩くなら7.62の銃だ。408チェイタックなんてマニアックな弾を使う銃を使うんだ、身元がわかる。少なくとも一人だけとは考えにくい、協力者が必要だ)

「おい、どうしたんだ?」

「持ち主がわかったか?」

「いや、誰が持ってんのかわからん。だから警察関係者は口揃えてこう呼んでる」

 息を整え、ゆっくり口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

                    ゴーストってさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンはドミニクの紹介状を手に札幌の街を歩くことにした。すすきのに情報屋がいるらしく、その人物なら何か握っている可能性が高いらしい。最初はドミニクが行こうとしていたが、街の状況を把握したいため、姉妹を彼に預けてケビンが一人で行くことにした。

「狙撃するには狭い気がするが、するとすれば札幌タワーの広い公園だな。ビルの屋上からなら出来そうだ」

 肩に誰かぶつかってきた。

「ごめんねぇお兄さん」

 後ろ姿が東洋人の雰囲気だが、彼の肩から漂った硝煙の臭いに気がついた。跡を追おうとするが人混みに消えてしまった。

(なんだろう、あの男から死臭と硝煙が臭ってた・・・まさかな)

 商店街の一角にある骨董店に入る。その店主らしい老人に紹介状を渡すと、店の裏に案内された。

「あんたがボウヤの言ってた東京の探偵か?」

「あぁ」

「話は聞いてるぞ。犯人は顔も見せない、名前も不明。ただわかってんのは狙撃の名人だってことだ」

「一件だけ違うじゃないか。その・・・小さい子供の件だけ」

「確かにそうだが、少し変わったところがある。弾丸だ、5.7ミリの弾が少年の向こうにあったブロックに埋まってあったんだ。つまり」

「P90かファイブセブンを使って撃たれたと?」

「御名答。手口も脳天一発だ、P90よりもファイブセブンを使ったって説が有力。PDWは馴染み薄いし、ハンドガンなら携帯に便利だ」

「目撃者はいたのか?」

「いや全然。昼間に撃たれたのに、誰も見ていないんだ。しかも音が聞こえていない」

「(サプレッサーか)厄介だな」

「あぁ。すぐ身元わかると思ったんだが、全くダメだ。狙いもわからない」

(確かに被害者の共通点がサッパリだ。だが調べる価値がある)

 小切手を取り出し、5万円の数字を書き手渡す。

「兄ちゃん。用心しろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(せっかく来たんだから、寿司のひとつやふたつ、食って帰ってもいいだろう。捜してみるか)

 その時だった。札幌タワー付近から銃声が聞こえ、多くの人間の悲鳴が響き渡る。現場に駆け寄ると、若い金髪の男が脳天を撃ち抜かれて死んでいた。その恋人だろうか、女性が遺体を揺さぶっている。

「ケント、ねぇケントってば!」

「おい、離れろ。警察が捜査できなくなる!」

 ケビンが彼女を無理矢理引き剝がし、現場保管をする。遺体を見てみると、コメカミから左斜め下に貫通していることがわかる。

「ここから計算して・・・あのビルか」

 目線の先のビルの屋上に何やら光るものが見えた。ケビンは見覚えがあった。

(スコープか!?やはり狙撃だな)

 光る物体はすぐになくなり、追うことも考えたが現場を荒らさないことを先決した。

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、警察が駆けつけ、ケビンは事情聴取を受ける。

「Saint Snowの護衛を引き受けた探偵が、何故ここに?」

「この街を歩くのは初めてなので、頭の中に地図を叩きこんでおこうと」

「ふむ・・・特別警備会社のケビン菊地。聞いたことありますよ、東京で多くの殺人事件を解決し、大臣に襲い掛かる暗殺者達をひとりで退けた武勇伝は」

 どうやら過去に解決したことが、遠くの札幌にも知れ渡っているようだ。

「ともかく、あなたの仕業ではないことは確かです。口径が合わないようですし」

 既に荷物検査しており、R5のこともそこで知った。被害者を襲った弾丸は、7.62NATOだった。5.56NATOより大きい。

「また誰も見ていないんですよね。被害者達の共通点、調べた方がいい」

「もちろん、調べましたが・・・奇妙なんですよ。なんせ、Saint Snowのファンという事しか共通点がないんです」

「そのSaint Snowだが、東京で二回も命を狙われていた。しかも不良品の銃を渡されていたんだが、心当たりないか?」

「なんですって!?その襲撃者はどうなったのですか」

「そいつらは二人とも北海道の人間で東京で捕まった。秋葉原署にいるんじゃないか?根岸って刑事に連絡したら、教えてくれる」

「わかりました。詳細も聞きたいと思います」

 刑事と別れ、一旦事務所に戻ることにした。帰路でも通りすがった男のことを思い出していた。

(ゴーストの正体及び目的がわからない以上、これは慎重に手掛かりを探す必要がある。相手はスナイパーだ、R5じゃ射程で負けるからな。こちらが先制しないと勝ち目がないだろう)

 途中で寿司をテイクアウトし、手土産に持ち帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 札幌某所。一人、木箱に入っているM40A3を手に笑う人物がいた。

「幸せの絶頂に死んだんだから、感謝してもらいたいな。でも、女の狂ったように泣き叫ぶ顔も、なかなか面白いもんだなぁ」

 そのゴーストの薄ら笑みは消えることはなかった。そしてまた、闇へと消えていく。




 札幌に現れたゴーストという謎の人物。彼がどう動くかは、次回をお楽しみに


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27話  行動開始

 まだ滞在しているジョセフに事件のことを教えた。すると、R5を渡してほしいと頼まれた。

「相手はスナイパーだってな。だったら今の装備じゃキツイだろう、俺が改造してやる」

 トラックの工房でR5に小型のレーザーサイトをハンドガードの左側面に取り付け、バレルも新品のヘビーバレルに取り替える。

「そうだ、CEOから連絡があるんだ。日本にヤバイ奴が入ってきたぞ」

「誰だ?」

「これまた海兵隊出身のスナイパーらしい。ケビン、もしゴーストがそいつだとしたら厄介だぞ」

「確かにな」

 R5を持ってみる。少々重くなっているが、的に向かってフルオートしても高い精密性を維持していることに驚く。

「これはいいな。戦えそうだ」

 

 

 

 

 

 

 朝、彼女達の通う高校まで送迎する。スクールアイドルはあくまでも高校生であることが条件だ、無論、登校中にゴーストから狙撃があってもおかしくない。学校から少し離れた場所で姉妹を降ろし、しばらく車内で見守ることにした。共学なのか、男子生徒・女子生徒問わず彼女達に声をかけてくれる。ケビンはこれまで3つのグループを相手に見てきたが、男は全員彼女達より年上ばかり。だから新鮮に映るのもおかしくない。

「よし、ドミニク。お前は今からすすき野に戻ってゴーストの調査。俺は周辺で聞き込みをする」

 車から降り、ジェラルミンケース片手に歩くことにした。

(敷地は広いな。周辺は住宅地で学校以外に高い建物はない、あっても二階建てのアパートのみ。おしゃれな喫茶店が良い味を引き出している・・・っと、俺がもし襲うとするなら、裏口に防犯カメラが1台だけみたいだし、そこからだ。だが、狙撃銃はなしだ。建物内は防寒のために風を通さないようになってるし、廊下は体育会系男子高校生3人分ぐらいしか広さがない。つまりアサルトカービンかサブマシンガン、ショットガンを装備して歩くのがベスト。無論、短い打撃武器でもよい・・・また逸れた。狙撃がしにくい環境だ、いくらゴーストでも彼女達を学校内で狙う可能性は低いだろう)

 それでも警戒は怠らない。何も殺すだけなら狙撃でなくていいからだ。

「早速、近所の人達と仲良くなっておこう」

 ケビンは喫茶店に入り、店内にいる全員と会話し、心をつかむことに成功する。探偵の基本としてターゲット周辺の人々とは信頼関係を築いておく。そうすれば彼らしか知り得ない情報も入手しやすいし、いざ困っても味方になってくれるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 すすき野に戻り、ゴーストの調査に当たっていたドミニク。雑居ビルの屋上で証拠品を探していると、溝の排水溝に詰まっている金色の筒を見つけた。それを拾ってみると、7.62NATOの空薬莢だとわかった。

(本当にここから狙撃したみたいだな。・・・ん、何か彫られている)

 小さくI’m Sniperと彫られている。その薬莢を袋にしまい、同行していた知り合いの警官に提出する。

「ドミニクさん。アンタも大変だね、まさか勤め先が吸収されて上司が出てこのビルを調査するなんて」

「まぁいい人っぽいからいいけど、ケビンはどんな人なの?」

「調べた結果。元アメリカ陸軍75連隊レンジャー出身のハーフらしい。去年日本に帰って来て東京の難事件を解決してきたらしいんだ」

「確かに射撃の腕は本物だけど」

「マーキュリーセキュリティーってPMCが不正した事実を調べたのも、そのケビンなんだ。探偵としても優秀な部類なんだろうな」

 左側面から殺意の籠った視線を感じる。ドミニクは本能的に警察官を突き飛ばした瞬間、彼の左腕に穴が開いた。そこから赤黒い血液が流れ出る。

「痛ってなぁ!って、ドミニクさん大丈夫か!?」

「あぁ、大丈夫だ。まずは身を隠さないと」

 穴の開いた部分を押さえ、素早くビル内に入る。警官が買ってきた止血剤でどうにか止血し、ケビンに電話を入れる。

「くそ、撃たれた。ゴーストが俺達を狙っていたんだ!恐らく証拠品の空薬莢をわざと残して狙ってやがった」

「わかった。一応、病院で治療を受けてくれ。詳しい話はあとで聞く」

 

 

 

 

 

 

 

 電話を切り、ケビンは迎えの車を校門近くに停める。

(容赦ない奴だ。・・・そろそろ下校時刻だな、迎えに行こう)

 ジェラルミンケース片手に学内に入ろうとした矢先、校舎の方から爆発音と悲鳴が響き渡った。ただ事ではないことを察知し、声のした方向に走る。

「み、みんなはここから離れなさい!」

 女教師が生徒達を遠ざけている。目線の先には頭部が爆ぜた男子生徒だったものが倒れていた。右手に何か握られている。

「ちょっと、あなたは!?」

「俺は鹿角姉妹の護衛をしてる探偵です、少し調べさせていただきます」

 ケースを置き、ポケットから手袋を取り出しそれをつける。握られたものをよく見てみると、ピストルグリップだとわかった。

「もういいでしょう。あとは警察に任せます(どういうことだ、何故学生がピストルを・・・まさか、彼に恨みのある人物が不良品銃を渡したのか?)」

 数分後、警察が到着し取り調べを受け、それが終わった鹿角姉妹と一緒に車内に戻った。

「亡くなった学生の名前、中村君だっけ?どんな生徒だっだの?」

 理亞が答えた。

「同級生で、趣味が悪いDQN」

「DQN?そんなにクソッタレだったの?」

「だって毎日口説いてくるし、生傷絶えないし喧嘩早いし、好みじゃないし」

 延々と続く彼の愚痴に痺れを切らした。

「言いたいことはわかった。でも、君の愚痴でお腹いっぱいだ」

「だって、どんな人間か聞きたいって言ったから」

「個人的なことはわかったから、客観的に見ての評価だよ」

「たぶん、みんな同じこと言うと思うよ」

 そこまで嫌われている人間がいることを考えると、悪い仲間に唆されて不良品銃を渡され殺されてもおかしくない。ケビンはゴースト事件を一旦保留し、学校内暴発事件の捜査をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。警察の調査資料が事務所に届く。中村青年が握っていたグリップは、池袋であったSaint Snow狙撃未遂で使用されたのと同じ種類の中国製マカロフだと判明。これにより中村青年をはじめとする犯人達は特定の人物と接触した可能性が浮上した。ケビンはドミニクを中村邸に派遣し、友好関係を調べるよう指示、ケビンは護衛さながら学校付近で聞き込みをすることにした。仲良くなった近所の人の集会場、喫茶店に入る。

「探偵さん、昨日大変だったね」

「マスター。中村青年に関して、知ってることある?」

「あぁあの悪ガキか。一昨日は退学した人間と一緒にこの店に入って騒ぎまくっていたんだ・・・なぁ、事件と関係ないかもだけど、見慣れない男が混じっていたの覚えてるぞ」

 客の一人が写真を撮っていたらしく、それを見せてもらう。派手な髪色の男達のなかに、一人だけ浮いている黒髪でスーツ姿の地味な男がいる。

「その後。白い袋を配ってさ、コーヒー代払って立ち去って行ったんだ」

「防犯カメラ、見せてもらえるかな?」

 バックヤードにあるカメラ映像を見せてもらえた。証言と写真の通りの人物達が一つのテーブルに張り付き、白い袋をそれぞれに渡しているのがわかる。

(男の顔がよく見えないな。だが、解析できれば大きな一歩になる)

 映像を警察に提出するよう進言し、喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 車の中で待機していると、ドミニクから電話がかかってきた。

「どうした?」

「中村の通っていたたまり場がわかったぞ、場所はすすき野のバー。未成年のクセにそんなとこ行くなんて、金持ちじゃないと考えられないぜ」

「お疲れさん。狙撃には注意しろよ」

 電話を切ると車を出し、事務所に帰ることにした。

「そういえば探偵さん、中村の奴、金持ちなの思い出した」

「ほぅ」

「中村建築って会社だけど、最近古い町並みを壊して新しく創り直すって話があるんですよ。でも、知り合いの不動産屋に話によるとですね、耐久年数はまだ余裕があるって話なんです。なんかおかしくないですか?」

「確かに情報収集する必要がありそうだな」

 こうして、中村建築も調べることになった。この行動が事件の転機になることになろうとは、夢にも思わなかった。




 時には味方キャラも撃たれてもいいかと思いまして


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28話  荒事

 


 札幌のオフィス街にある中村建築を前に異様な空気に包まれる。戦場で感じたことがある、殺伐とした空気だ。何故カタギでそのような空気が流れているのか、その多くが犯罪集団と結託し銃を密輸しているケースだ。ケビンは受付を通して社長であり中村青年の父親、中村洋二と会うことになった。

「はじめまして、中村洋二でございます。今日はどのようなご用件で?」

「アンタの倅が死んだ事件で話がある、心当たりはないか?」

「いやぁそんな覚えないですよ。倅は爽やかな男で、学校でも人気者だって話じゃないですか」

 鹿角姉妹から聞いた話と正反対のことを喋っている。この男は実際に息子がしてきたことを知らないのか。

「なんてたって、Saint Snowの鹿角姉妹と波長が合ってて学校が楽しいとか」

「そうか。彼女達と会ったことあるがね、そんなことは一切感じなかったぞ」

「倅が嘘をついていたって言いたいのですか?」

「アンタこそ、ろくに息子を見てないんじゃないか?参観日とか見に行ったことあるのか?」

 洋二が黙ったところを確認すると、遺体の写真を見せる。

「あぁ・・・どうしてマカロフなんて握っていたんだ」

 ケビンは違和感を覚えた。警察より先に事情聴取しに来たハズなのに、どうして彼の手に握られているものがマカロフだとわかったのか。

「事件のことはどうやって知ったんだ?」

「テレビでやってたんですよ。緊急特番でね」

「・・・俺はここで帰らせてもらおう、他に仕事があるんでね」

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンは帰りがてら商店街を歩くことにした。理亞の言う通り、確かに古い感じはあるものの素人目で見ても耐久年度に余裕があることがわかる。しかも張り紙には取り壊し反対の文字が書かれており、住民は強い憤りがあるようだ。

(確かここの少し外れに、クソガキ共の集り場があったな)

 明るいうちにそこを訪れる。静かで人間二人並んでようやく通れるほど狭く、多少入り組んでいることがわかる。

(よし。夕方ぐらいに行ってみよう、手段は・・・まぁいいか)

 

 

 

 

 

 R5をドミニクに預け、ケビンは一人、不良たちの集り場に足を運んだ。向こうから気取った格好の男達が現れる。

「外人さんか?噂通り金持ってそうだ、金奪って飲もうぜ!」

「やめとけ、ケガするだけだ」

 一人が殴りかかってきた。それを躱し、その勢いを利用し腹部に蹴りを入れる。怯んだ隙に顎に拳を食らわしKOしてみせた。

「ヤケだこの野郎、一斉にかかれ!」

(彼らは狭い場所での戦いを知らない。一斉に動いたら詰まるだろうが)

 冷静に攻撃を避け、返しの一撃を与え、時には掴み、投げ技で一網打尽にしていると立っている人間がケビンとリーダー格のチンピラだけになった。

「何故俺を襲った?」

「う、噂だよ!金持ってる外人がいるから巻き上げたらいいってヒロの親父から!」

「ヒロ?」

「そいつは表じゃ建築会社やってるけど、裏じゃ武器の密売やってんだ!俺だってほら・・・!?」

 チンピラがポケットからマカロフを取り出した瞬間、M629の銃口が向けられ、マカロフを撃ち抜いた。

「どうした、奪って飲みに行くんじゃないのか?」

「ヒィィィ、お、お助けェェェ!」

「銃を向けるって意味を教えてやる」

 無慈悲に両足を撃ち、動けなくした後、今度は両肩を撃つ。

「それと話がある。中村って男が死んだニュースを知ってるな?」

「ひ、ヒロだろ、どうして銃が暴発したのかわかんねぇ!知らねえよ!」

 ケビンはマカロフを左手で拾い上げ、マガジン内の弾を見る。

「弾が10発。同じだな」

「へ?」

「・・・まぁいい。コイツをもらっていくぞ、文句はないな?」

 ケビンはチンピラの頭に強力な一撃をおみまいし、気絶させることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 証拠品のマカロフを回収後、事務所に帰り、解体することにした。予想通り、弾丸に花火の火薬が入っておりチンピラを殺すつもりでいたことがわかった。

(中村・・・あの親父が暴発銃を配っていることはわかった。根岸さんが奴らから聞き出していることを祈るだけだな)

 解体したマカロフを写真に撮り、これを現像する。

「ケビン、いつになく顔が険しいぞ」

 ドミニクの右腕に巻かれた包帯が痛々しく見える。

「当たり前だ。息子を殺しておいてノウノウと生きてるクソッタレがいるんだ、そいつを野放しにできるか?」

「無理だな、できない」

「だが決定的な現場を押さえてからじゃないと攻め込めない。無理する必要はないから、俺一人で張り込みをする」

 スマホが鳴り、見てみると宏美からかかってきていた。

「ケビン、札幌の仕事どう?CEOの指示で私が派遣されるからよろしくね」

「CEOが?」

「沼津出張が終わって二人が帰ってきたの。彼らに留守番任せて向かって欲しいって直接言われたのよ」

「危険だ、昨日はゴーストってスナイパーが一般人狙撃した事件があったんだぞ」

「ゴーストの詳細データ、欲しくないかしら?」

 一瞬口ごもる。正体不明のスナイパーのデータがあればそれに越したことはないからだ。

「まぁ明日には新千歳から向かうし、時間掛からないわ。札幌事務所で落ち合いましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、宏美はゴーストの資料を手に事務所に入った。そこでケビンと合流し、それを手渡す。

「コードネーム・ゴースト。元アメリカ海兵隊所属のスナイパーでB4、わかりやすくいえばスナイパー養成専門学校卒業。腕は超一流で、700mにいる動き回る標的を全てヘッドショットで仕留めることが可能。PTSDである」

「危険すぎるじゃないのよ。ケビン、大丈夫なの?」

「俺がもしターゲットならとっくに撃ってる。彼にとって、一番まずいのは狙撃を阻止されること、つまり姿を見られることだ。特定されれば狙撃し辛いからな」

「ってことは、別の誰かを狙ってるってことよね。誰が狙われているか特定できればゴーストの暴走を止められるってことよね」

「そうだ。しかし、俺は既に奴に見られてる。狙撃地点を確認したからだ」

「でも狙われていない。つまりエサってことかしら」

「宏美。そこで久しぶりの記者の仕事だ、商店街再開発について調べてくれないか?誰が率先して反対しているのか、調べてくれ」

「わかったわ。任せなさい」

 宏美は持ってきた取材道具を手に、商店街へ向かった。

「元気だな、あの女性は」

「そうだな。言う通りだ」

 ケビンもまた、鹿角姉妹の護衛をしにジェラルミンケースとクラウンの鍵を持っていった。




 札幌は1度だけ行ったことありますが、いいところですね。


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29話  憎しみの交差

 宏美は商店街周辺で聞き込み調査していた。ほぼ全員の住民が反対しているだけでなく、中村建築の雇ったチンピラ達に嫌がらせを受けていたという。噂レベルではあるが、商店街を立て直すのではなく、別のショッピングビルを建てるのではと語られているそうだ。

(一見にぎやかで楽し気だけど、中村建築の評判といい、やり方といい、あまり評価出来たもんじゃないわね。しかも議員と友人と来た・・・抜け出す方法もあるってわけね。報道関係の人間が黙ってないわよ)

 目を光らせ、宏美はそのまま市街地にある、議員の坂本の家に向かった。しかし、警察車両が囲んでいることがわかる。

「何かしら?」

 野次馬のおばさんに話を聞く。なんと、坂本が何者かに殺されたらしい。

「でねでね、仲良くなった警官から聞いた話なんだけどさ、坂本さん、頭を撃ち抜かれたって話よ?窓には小さな穴が空いてたみたいなのよ」

「撃ち抜かれた・・・ねぇ」

 メモを取り、そのまま様子を見ていると、灰色の布をかけられた何かを担架で運ぶ姿が見えた。

(変ね、中村がもしゴーストを雇ったのなら、わざわざ仲間の坂本を殺すよう依頼するかしら?それはともかく、ケビンに報告する必要性が出てきたわ)

 

 

 

 

 

 

 夕方、調査報告を終え、ソファに座ってコーヒーを一服する。

「協力者である議員の坂本が殺されたか・・・ゴーストは恐らく、中村と対立する立場の人間が雇った可能性が高い。対立する人間を調べてくれ」

「わかったわ。狙撃されないように、気をつけるわね」

「・・・いや、今度は俺も行こう。ドミニク、鹿角姉妹の迎えは任せた」

 久しぶりにコンビを組み、有力候補を絞り込むことにする。聞き込みとインターネットによる検索の結果、一人の人物が浮上する。それは意外な人物だった。

「対馬芸能社長、対馬治五郎。元々は中村の友人だったが、ある事件を境に決別。Saint Snowの鹿角姉妹の才能を見出し振付指導とビジュアルレッスンを無償で行う人徳者。人徳者って見られてる時点で怪しさ満載なんだが」

「芸能なんてそんなもんでしょ?まぁミコトちゃんは例外だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 対馬芸能に電話、治五郎と会う約束をし、集合場所の商店街にある高級寿司屋で待つことにした。しばらくすると、気さくな声が後ろから聞こえる。

「やあやあ東京から来た探偵さん、ワシが対馬治五郎だ。ここの大将と仲が良くてね、会合の場所として使ってんだよ」

 芸能事務所の社長とは思えぬ、穏やかな目つきの初老の男性が現れる。

「そうですか。では、この写真を見てください」

 子供以外のゴースト狙撃事件被害者全員の写真を見せる。

「彼らに心当たりは?」

「コイツら知ってるよ。全員中村の会社の工作員じゃないか」

「何ですって!?」

「ワシの事務所にビンを投げ入れたり、睡眠薬入りのお茶を提供したり、挙句には社用車のブレーキを壊したり・・・昔から癇癪持ちだから、アイツ何するかわからないよ。探偵さんも気をつけた方がいい」

「えぇ、肝に銘じます。ところで工作員とは?」

「文字通り妨害活動する奴の陰さ。元公安やら軍の工作兵だったり、とにかく性質の悪い者共だ。実はね、そいつらに撃たれたこともあるんだ」

 腹に巻かれている包帯を見せつけられる。それを取っていくと、肝臓辺りに銃創があり、本当に撃たれたことがわかった。

「弾は貫通してることが幸いだったよ。もし残っていたら、今頃ベッドの上かも」

「巻くの手伝います」

 ケビンは丁寧にまき直す。

「ありがたいねぇ。あの子がもし生きていたら、こんな感じに孝行してくれたかもねぇ」

「あの子?どなたですか?」

「佐伯エリカ。亡くなったよ、デビューして間もない頃にね」

「ど、どういうことですか?」

 目を白黒させながら聞く宏美。

「後でわかったんだけどね。彼女、帰宅途中に中村の工作員に拉致され暴行を受けたんだ。発見された時には既に冷たくなっていたってさ・・・」

 どことなく悲しい顔で熱い焼酎を飲む。

「佐伯さんの両親は?」

「元はビル管理の会社をしてたけど、二人とも後を追ってね・・・会社は中村によって買収・・・後悔してるよ、もしも送っていたら、もっと輝いていただろうにね」

 中村と対馬が対立している理由、それは過去にあった少女暴行殺人事件に関係しているのではないか。

「なぁ探偵さん。自分を慕っていた夢を抱いた若者が先に亡くなるって悲しいと思わないかい?」

 彼の手が震え、目には涙が浮かんでいる。ケビンは彼の手を優しく握った。

「対馬さん。俺も大事な人を同時に亡くしました、だからその気持ちよくわかります。ですが、あなたが泣いた顔を天国にいる佐伯さんが見たいと思いますか?それに、鹿角姉妹を指導してるのでしょう?彼女達を心配させることをしてはいけない」

「・・・若いのに立派だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。事実確認のため、被害者の経歴を調べてみた。すると、全員が同時期に中村建築の庶務3課と呼ばれる窓際部署に配属されており、元社員話を聞いてみると、庶務3課地下に部屋を設けているらしく、庶務3課社員と社長以外は誰も入ったことが無いという。

 その事実を踏まえ、ケビンは仮設を立てた。庶務3課は窓際部署に見せかけた工作部隊で、自分達に不利益な人間に対して妨害活動を行い、果ては裏ルートで手に入れた武器を用いた実力行使をも厭わない危険な連中ではないか。そうであれば、ゴーストは彼らの味方ではないことがわかる。

(その場合、ゴーストを雇ったのは誰か・・・一番可能性が高いのは、対馬治五郎だ。復讐という連続殺人の手助けしてることを考えると、やはり・・・)

 ケビンはドミニクに佐伯絵エリカ殺人事件の資料を警察に取り寄せることを指示した。数分後、FAXで捜査資料と加害者のデータが送られてきた。

(全員で7人か・・・狙撃された被害者の名前と顔、どれも一致してるな。しかも二人は池袋で捕まった男だ。あと1人は自殺している・・・っとなると、最後の標的は・・・中村社長か)

 考え込んでいると、ドミニクが声をかけてきた。

「暴発銃事件も調べたんだけどさ、中村のガキ、親父さんの事業に反対してたらしいね。馴染みの店がなくなるととかどうとか」

「つまり、反対派だったってことか?」

「そうみたいだな。息子に不良品銃持たせて事故に見せかけて殺したのも、説明がつくんじゃない?」

「あぁ、これで中村を追い詰められそうだ。ドミニク、宏美、姉妹を頼んだ」

 R5を手に取り、クラウンに乗って中村建築へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの近くにたどり着くと、通常なら賑わっている時間にも関わらず誰一人として歩いていないことがわかる。ケビンはR5を手に取り、マガジンを装填する。宏美から電話がかかってきた。

「大変よケビン、対馬さんが中村の手下にさらわれたわ!恐らく今まで部下を殺してきた報復をするつもりなのよ、早く探し出して!」

「落ち着け。俺に任せろ」

 電話を切り、出ようとしたその時、運転席側の窓ガラスが一瞬で白く染め上がった。雪の白ではなく銃撃を受け防弾ガラスに当たった際に出来る白色だ。

「盛大な歓迎だな。嬉しいねぇ」

 助手席側から出、車を遮蔽物にし、様子を見る。遮蔽物に身を隠した、黒のスーツの男達がVz61やらマカロフやらを握っていることがわかる。

「どうやら素直に通してくれそうになさそうだな」




 次回は銃撃戦が多めになります


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30話  静かな終結

 新年最初の投稿です


 昼間の札幌が一気に戦場になる。銃声が響き渡り、グレネードが爆発する轟音、逃げ惑う民間人の悲鳴が支配していた。当然、警察も対応するが訓練されているのか、押され気味であった。

「社内から敵がわんさか出てきやがる、なかなか進めないな」

 敵を倒しながら進むものの、想像以上に数が多いため社内に入り込めないでいた。敵は何も一階から出てくるだけではない、上の階からも銃撃の雨が降るのだ。

「くそ、いくら俺でも進めねぇ」

 倒した敵から鹵獲したM18スモークグレネードを投げ、仮の壁を作りながら少しずつ進んでいく。その時、宏美から連絡がくる。

「ケビン、このビルの裏にある非常口が空いてるわ。そこから入り込めそうよ」

「ラジャ。命令違反はしたが、いいアシストだ」

 時間の経過と同時に雨脚も緩やかになり、ケビンはビルの脇を通り、非常口を目指す。そこには腰を抜かしPx4片手に震え、涙目の宏美がいた。

「・・・どうした?」

「人、初めて撃ったのよ・・・怖いの、引き金を引くだけで命が終わると思うと」

 彼女の足元を見ると、倒れている兵士の姿があった。ケビンは応急薬と止血剤を取り出し、首に打ち込んだ。

「おい起きろ、お前には生きてもらう」

「・・・・・・・」

「うちの事務員に人を殺してほしくないからな。それと、対馬はどこだ?」

「地下だ。それにしても、結構アマちゃんなんだな・・・」

「まぁな。宏美、彼に肩を貸してやってくれ」

 ケビンは二人を立たせるとビル内に入り、対馬救出に戻る。地下に続く階段を探しながら一階のフロアを制圧していく。弾薬がそこまでないことに気がつくと、M629に持ち替え、慎重に進む。一つしかないドアのノブに手をかけ、勢い良く開け、瞬く間に制圧した。

「クリア。遅かったか」

 部屋の真ん中に対馬の遺体があった。散々刃物で痛めつけられた挙句、頸動脈を切られ絶命しているのがわかった。遺体の左手に書かれたメモには753と書かれていた。

「罠かもな。だが、そこにいるのは間違いない」

 

 

 

 

 

 車に戻り、ケビンは新千歳空港に向かうことにした。カーナビで場所を設定し、現場に急行する。

(ゴーストの目的が中村であるのは確かだ。だが、わざわざ目立つ空港に向かうか?)

 753、これは普通に読んではいけない。シチゴサンと読み、札幌付近でそれに関連していそうなキーワードが千歳、高飛びできそうな場所を想像すれば大方ターゲットの居場所が特定できるというものだ。

『緊急速報をお伝えします。新千歳空港に向かう道路が何者かに爆破され、現在、渋滞が発生しています』

 耳を疑うニュースだった。まさかこちらが移動してくることを計算していたかのようで、絵厚PAに車を止める。

『速報です。中村建築社長、中村洋二氏が新千歳空港で何者かに射殺されました。頭をほぼ真上から撃たれた模様』

 ゴーストは先回りし、任務を果たしたようだった。悔しさのあまりにドアを叩く。

「札幌に戻って姉妹に報告だ」

 事務所に戻り、任務を終えたことを鹿角姉妹に告げた。恩人が亡くなったからだろうか、晴れた表情ではなさそうだ。このとき、誰もかける言葉を失った。

 

 

 

 

 

 後日、宏美と二人、フェリーに乗り東京に帰還する。深夜、ケビンは冴えない表情で報告書を書くことにした。

(完全に後手だった。あのスナイパーにはバックに何かある、彼一人で仕事していないことは確かだ。今後、彼が動いている情報があれば、早急に仕事を終わらせよう)

 電話が鳴り響く。ケビンは受話器を取った。

「こちらトライデント・アウトカムズ」

「ケビン。札幌の任務、お疲れ様」

「CEO、任務は失敗しました。ターゲットがゴーストにやられました」

「そうだけど、ゴーストに始末されなくてよかったよ。情報屋によれば、CIAの汚れ仕事を専ら請けてるって話だったからさ。まぁ今回はフリーランスだったけどね」

 渋い顔しながら紅茶を飲む。

「っで、誰が彼の依頼人だったか、わかった?」

「対馬氏でしょう。彼が今回の事件の渦中にいるようなものでしたから」

「実はもう一人いたんだ。誰だったと思う?」

「?・・・なるほど、依頼人が一人だけなら放棄も考えられますが、二人なら別ですね。だったら、彼女しかいないでしょう。鹿角理亞、対馬が以来した際に彼女も同席していたなら、説明がつきます」

「ビンゴ、ドミニクが彼女を簡単に聴取して発覚したんだ。しかし・・・悲しいものだね、いたいけな少女が暗殺者に殺人依頼なんて・・・」

「この時代、おかしくもないでしょう。では書類が書き終わってないので、また」

 受話器を戻した直後、再び電話が鳴り響いた。

「・・・はい、トライデント・アウトカムズ」

「どうだった?俺の描くショーは?」

 ボイスチェンジャーを使った誰かが相手だ。思わず構える。

「誰だ貴様?」

「ゴーストと言えばわかるか?」

 込み上げる憎悪を必死に堪え、平静に応対する。

「あぁ。貴様がここにかけてくる理由がわからんがな」

「簡単だよ、札幌のハンティングショーの感想を、一番のVIPに聞くためだ」

「狙撃がショーだと?ふざけたことを言うな!」

「お気に召さないみたいだったな。もっと華麗な狙撃術を披露したっていいんだぞ・・・まぁ、これから日本を離れるから見せられんがな」

「今度日本に貴様が現れたら、絶対に眉間を撃つ。せいぜい覚悟しておけよ」

「おぉ怖い、用心しておくよ」

 電話が切れ、受話器を戻す。ケビンは複雑な気持ちで書類を書き終え、机に飾られている、優しい顔をして写る家族写真を見つめた。

(俺、誰かを守れたかな?)

 事務所の戸締りを終え、2階の居住スペースに戻って行った。




 


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31話  白昼夢

 ゴースト事件から、彼らはどうなったのか・・・


 この日、札幌大量狙撃事件解決の報酬として宏美にはPx4の代わりにT62電気ショックを、ケビンには金一封が送られた。T62の理由はいうまでもなく彼女に銃使用が不適格であるためだ。

「宏美、無理して出社しなくても良いんだぞ。精神的に疲れてるだろ?」

「いいの。札幌の一件は良い教訓にしたから」

 どこか疲れた表情をしながら答える。ケビンは彼女が好きなオレンジペコーの紅茶を淹れ、彼女のデスクに置いた。

「たとえ戦力でなくても大事な仲間なんだ、辛かったら言ってくれ」

 そう言って地下射撃場に向かう。メンテナンス用の机にマイクロUZIがあることに気がついた。確かめると、誰かが使用した形跡を発見する。

「UZI使うとしたら、新垣か?オマルなら、UMP-9だろうしな」

 レミントンR5を手にポップアップ式ターゲットを狙い、次々と倒していく。訓練時最速のクリアタイムを叩き出し、ゆっくり息を吐いた。

(あのまま精神疾患になっては大変だ。宏美とミコトちゃんでどっか旅行でも行くか)

 そう思った矢先、電話が入った。隣のメイド喫茶からだった。なんでも、人が不足しているらしく、補充として来てほしいらしい。しかし、なぜかケビンにも来てほしいとも言われた。不審に思いながらも、宏美とともに仕事へ向かった。

 

 

 

 

 

「探偵さん、お待ちしてました」

 聡明そうな女性オーナーが二人を迎えた。

「なんで俺もなんだ?ここは一応メイド喫茶だろう?」

「実はですね、女性客にも足を運んでもらいたくて、あるものを着て頂きたいと」

「!?これは・・・」

 シックで無駄な装飾のない、執事服を手渡される。

「執事さんにも店に入ってもらいたくてですね、お願いできますか?」

「他にいなかったのか?」

「臨時採用だと、経費掛かるから」

 度し難い理由に何も言い返せなかった。

「いいじゃないケビン、時にはそういうのも挑戦してもさ」

「しかしだな、どうも女の子の中に居辛い・・・」

「ボディガードも兼ねてるのよ。この店、結構やばい客も多いからボディーガードも兼ねて」

 断る理由も無いため、ケビンは渋々引き受けることにした。しかし、背中に掛けたUMP-9を見られ、一斉に止められたのは言う間でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局武装したまま営業していったが、想像以上に客足が伸び、客の男女比が五分五分と良い数字を叩き出していた。昔のようなむさ苦しい男だけでなく、若い女性や外国人客も入っている。特に日本語の通じない客に対してのケビンのネイティブイングリッシュには誰もが注目した。

「探偵さん、本当にアメリカンだったんだ・・・」

「そうね。彼、聞いたところだと陸軍の75レンジャー出身らしいわ」

「レンジャー?軍人だったの彼?」

「みたい。そうじゃなかったら銃なんてぶら下げてないわよ」

 いつもと違う緊張感に常連客の男は恐る恐るケビンに問うことにする。

「あ、あのう・・・」

「どうしました?」

「今日は物騒なことが起きるのですか?銃持ってますから」

「職業柄ですよ。手伝いで参加してるだけですから」

 この客はかつて、とても不遜で評判が悪いことで有名だったが、ケビンが前店長殺人事件解決後、頻繁に店を出入りするようになってから身形を意識しかつ、態度も改めるようになった。今では彼に憧れて体を鍛えており、贅肉だらけだった体が引き締まった。

「ご用件はそれだけですか?」

「そうなんですがね、気になる噂を聞きまして・・・」

「ほぅ?」

「ミナリンスキーに恋人が出来たって噂です。なんでも、二枚目でお似合いなんだそうでして・・・ちょっと嫉妬してしまいます」

「俺にはそうには見えませんが」

 以前、ケビンも情報屋のタクシードライバーから聞いていたが、男性と街を歩いていたり彼氏の家に出入りしてる様子を見たことがない。仮に真実だとしても、友人達が既に把握している。

(彼氏ねぇ・・・いてもおかしくない年齢だが、彼女はちょっとおっとりしてるから、悪い男に引っ掛かってないか心配だな)

 店のドアが開き鈴が鳴る。無表情だが端正な顔立ちに物腰柔らかそうな男性が入ってきた。近くにいたことりがハッとした表情で彼を見ているのがわかった。希が案内をかけ、席に案内をかけるが無視してことりに近づき、頬に思いっきり平手打ちをした。緊急事態を察したケビンはUMP-9を構え、銃口を男に向ける。

「やめろ、これ以上彼女に近づくな!」

 耳を貸さないため、止むを得ず腕に発砲し怯ませ、力づくで取り押さえ、ストックで殴って気絶させた。

「・・・この男は?」

「私の幼馴染です・・・でもどうして」

「コイツから尋問する必要性が出た。君にも事情聴取をする」

 

 

 

 

 

 

 地下に縛り上げた男を連れて行き、コップの水をぶっ掛ける。

「冷!って、どうして縛られてんだ?」

「メイド喫茶で女の子殴ったからだ。どうしてそんなことしたんだ?」

「・・・え、俺行ってない」

 UMP-9の銃口を向ける。

「ヒィ!暴力反対!」

 ケビンは違和感を覚えた。先ほどまで無表情だった男が怖がっている。どうにもおかしい。

「質問を変える、南ことりに会ったことは?」

「あの子は幼馴染だ。でも大学進学の際に千葉に引っ越して以来、会ってないけど」

 ケビンは監視カメラの映像を見せる。予想通り驚いた表情を見せる。

「俺が彼女をビンタだって!?しかも撃たれてる!」

「これが証拠だ。しかし、今のお前見てるとどうも同じ人間がやったとは思えない。今日何してたか教えてくれ」

「寝てたんだ」

「は?」

「今日バイト休みだから寝てたんだ。夕方起きるんだけど、まだ午前中だし・・・」

(どうなってやがる・・・千葉の人間が寝てる間に暴力事件だと?こりゃ気になって仕方ないな)

 拘束を解き、事務所で待っている警官に引き渡す。その後仲間達に連絡し、緊急招集を掛けた。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんですか?我々を呼びつけて」

 犯行の一部始終を映した動画を見てため息をつくオマル。

「この映像の加害者、野平の経歴を調べてくれ」

「・・・は?加害者を追撃するつもりですか?」

 ケビンは全員に尋問したことを話す。

「なるほど。人格が全く違う、ですか。稲村ケ崎の件に似てますね」

「あれは先天的なものだが、今回は違うと思うんだ。何より、目が虚ろだったしな」

「ふむ・・・ミスター新垣と一緒に彼の経歴及び、評判を聞いて回ります。一応、武器を持って行きたいのですが・・・」

「明日ジョセフが来るから、新垣も武器を新調したらどうだろう?」

 トライデント・アウトカムズのメンバー全員による、奇妙な暴行事件の捜査。果たして、どのように転がるのやら。

 

 

 

 

 

 




 
 次回

 新垣君に待望のメインアームが!?


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32話  握手会

 


 オマルはこの日、非常に笑顔だった。彼によればジョセフに注文した銃が今日手に入るかららしい。

「ふふふ、とうとう手に入りますね・・・デザートイーグル357マグナムモデルが!」

「それを注文したのか。だが、357マグナムモデルって、ジャム酷いって聞いたけどよ」

「最近、改良されて使い勝手が良くなったんですよ。陸軍時代に仲が良かった友人に借りて使ったことがありますから」

「・・・なんか信用できないな」

 そう雑談しているうちにジョセフのトラックが事務所前に停まる。3人は荷台に乗り込んだ。

「おうオマル。頼まれてたデザートイーグル6インチ357モデルだ」

 Px4やグロッグ17とは桁違いの大きさのハンドガンを手渡される。

「ありがとうございます。ところで、新垣のメインアームですが」

「これだ」

 ジェラルミンケースを開け、中身を見る。新垣は思わずうなった。

「空艇隊が使用するために短くした、FNC-paraだ。まぁオリジナルはもう入手できないからイタリア製のコピーモデルだけど、はっきり言ってオリジナルよりいい出来だぜ」

「へぇ・・・試しに撃っていいですか?」

 試射してみると、多少、弾が飛び散るものの想像以上に反動が素直で制御が容易、折り畳み式ストックのおかげで取り回しにも困らなくなっている。

「すごい使いやすい!いくらですか?」

「まけて40ドルだ」

「日本円で、4400円ですか。買います!」

 日本円で購入し、早速ホロサイトを取り付けた。

「っでだ。これもタダでやるから持ってけ」

 壁に掛けてあったイサカM37ソードオフモデルを新垣に渡す。

「これもっすか!?太っ腹っすね!」

「売れ残りの処分に決まってるだろ。安心しろ、ちゃんと弾出るからな」

 

 

 

 

 

 

 

 オマルと新垣は武器の準備のため、一回地下室で整えることにする。ケビンは宏美と共に別の仕事に向かうことにした。笹山充治からの以来で、内容はアイドルになった矢澤にこの護衛。彼女が芸能界入りしたことでファンが駆け出しにしては多く、誘拐予告の手紙まで来ているのだと言う。CD販売ど同時に開催される握手会を心配になった笹山は彼を護衛として雇ったのだ。

「・・・」

「よろしくね、にこちゃん」

 彼女の顔が不安だと言い張っている。

「アンタが妹と弟の通う保育園を救って、二宮ミコトの憧れの人?想像してたより、外人っぽくないわね」

「驚いた、怖いとかって言わないんだ。てっきりビビられると思ってた」

「恩人に対して失礼よ、それよりも」

「?」

「そんな物騒なモノ持ち歩かれちゃ困るわよ。ファンが逃げるじゃない」

 背中のサイガ12を指差す。流石のケビンも頬を掻く。

「この国も武力行使が増えてきたから、徹底的にと思ったけど・・・お気に召さないみたいだね」

 そう言ってマガジンを取り出し、弾を一発抜いて見せ、それをテーブルの上で解体してみせた。

「ねぇ。何がしたいの?」

「銃は人を殺す道具だけど、この12ゲージを見てくれ。この小さなペレット、何で出来てると思う?」

「?・・・あれ、何だろう、コルクみたいな触り心地ね」

「コルクだよ。これは暴徒鎮圧弾と言って、非殺傷で犯罪者を捕らえるのに使うんだ」

「死なない弾使ってるってわかっても、やっぱり怖いわよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 予定通りCDショップで握手会が開催された。ケビンは犯人を刺激しないために、彼女の後ろにあるカーテンに隠れて隙間から様子を伺う。

(このタイミングで誘拐かよ。ファンに取り押さえられるのがオチだろう)

 呑気に身構えている間に多くのファン達が握手を終え、嬉しそうに立ち去って行くのが見える。

(いつの時代にもいるんだな、なんだが腹が立つな)

 ふと、外の様子がおかしいことに気がついた。ケビンは耳を澄ませ、目を配る。

「おい、横入りは禁止だ。最尾に戻ってください!」

 花束を持った男の様子がおかしいのは明白だった。視線が定まっていない。昨日のことり襲撃事件を思い出し、ケビンは矢澤にこの前に立った。

「ちょ・・・ちょっと」

「下がってろ。まずいことになりそうだ」

 予感は正しかった。花束に仕込んでいたであろうMP5Kを抜き、ケビン、否、にこに銃口を向けるがケビンのサイガ12が火を噴き、男は成すすべなく倒れた。

「え、うそ・・・銃?」

「社長。コイツを警察に引っ張ってくれ、にこちゃんはバックヤードで事情聴取する」

 

 

 

 

 

 

 更衣室のドアを閉め、誰も入って来ないことを確認すると、武器を収め、落ち着いた様子で彼女に対面する。

「早速だがさっきの男と面識は?」

「スクールアイドル時代からのファンよ。久しく顔見せないと思ったらどうして・・・」

「わからない。これから調べてみるし、ちょっと引っ掛かるんだ」

「どういう意味よ?」

「実はな、ことりちゃんも似たような被害にあったんだ。痣が出来るほどではないけど、平手をな」

「え・・・」

「その加害者ってのは、彼女の幼馴染って話だ。しかも彼女とはしばらく会ってない」

 唖然とする様子に、ケビンも内心穏やかではない。

「どうもおかしい。ここまで共通点があるなんて・・・」

 ふと、アフリカの紛争地で起こった過去を思い出す。そこでは奇妙なことに銃声が響かないのだ。その代わり、カルト集団の謎な経文が土地中に響き渡り、足を踏み入れた国連軍やNGOは姿を消したことを。調査を依頼され、潜入し、そこで見たものは教祖と呼ばれた男による催眠術によって作られた、偽りとも取れる楽園があった。よそ者だったケビンも勧誘があったが、それを断ると地下牢に閉じ込められ拷問を受け、危うく死にかけたが座標を送っていたおかげでCEO率いる救助部隊によって助け出された。その後入院し、体こそ動くが、頬の傷が惨事を物語っている。

(日本にもカルト集団いるが、まさか・・・ね)

 外から悲鳴と銃声が響き渡る。サイガ12を握り直し、暴徒鎮圧弾から通常弾に装填し直した。

「ついて来い、脱出するぞ」

 

 

 

 

 

 

 売り場を覗いて見るが、荒れ果てた店内を武装した男達が占拠し、CDとガラスが散らばっている。

「(おかしい、あれだけやって射殺してないだと・・・あの類なら殺ってもおかしくないんだが)裏から出よう、俺が先行する」

 ケビンは違和感を覚えながらも焦らずゆっくり歩きながら非常口を目指す。

「どうなってんのよもぅ!アイドル活動ってそんなにハードなの!?」

「そこまでじゃないと思うが・・・」

 気配を感じ、一旦別の部屋に身を隠す。

「どうしたのよ?」

「さっき大声出したろ?なのに追っ手が来なかった。普通なら、既に後ろから攻撃されている、しかしそれがないってことは?」

「先回りってこと?」

 静かに頷き、ドアを閉めサイガ12を構えた。

「こうなったら答えはひとつ」

 足音がこちらに近づいて来て、ドアが開かれたと思った瞬間、引き金を引き、敵を次々と射殺していく。

「入り口前で待ち伏せし、一掃するしかない」

 クリアする頃にはにこは既に気を失って入た。彼女を抱え、今度こそ脱出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「っで、収穫は?」

「野平は千葉の某私立大に通う普通の大学生ですね。そこまでは供述通りです。しかし、彼の部屋から変わった写真が複数見つかりました」

 テーブルに写真を並べる。そこには一件のビル周辺を撮ったであろうものが写っていた。

「コイツは?」

「外資系企業、モルグ社が買い取ったビルです」

「モルグ?聞きなれんな」

「実態不明ですね。今頃ホームページすら作らない、情報機密の強い企業です。近隣住民も気味悪がっています」

「宏美。モルグ社と繋がりのある人間を探してくれ、新垣は彼女のボディーガードを。オマルと俺はもう一度、野平を洗う」

「わかったわ。しっかり守りなさいよね」

「言われなくっても」

 




 外は暖かくなってきましたが、小説の中はまだ真冬です


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武器紹介 その2

 またやってみました


 

 L85

 

 イギリスが開発したブルバップ式アサルトライフル。命中精度が高いものの、4キロ弱と非常に重い上にジャム(動作不良)が多すぎる駄作。しかし、ドイツH&K社に改良を依頼し、A2モデルでどうにか平均的な性能になった。

 3話でA1モデルが登場。犯人グループが所持している。

 

 

 AK74

 

 ロシア製アサルトライフル。AKシリーズに違わない堅牢さと生産コストの低さで中東やアフリカで使用されることが多い。小口径高速弾を使用しており、扱いやすさが増している。

 コンパクトな74Uモデルをドミニクが使っている。作中では発砲しなかった。

 

 

 

 M10

 

 拳銃サイズのサブマシンガン。連射速度が非常に高いため一瞬で玉切れになるだけでなく、命中精度が最悪とピーキーな性能。コストが低いため、多くの犯罪者が使用している。

 ドミニクが所持していたが、Mx4に買い換えている。

 

 

 

 Vz61

 

 チェコスロバキア製の拳銃サイズのサブマシンガン。M10同様、連射力に長けており、携帯性に優れている。足を狙い、確実に頭を撃ち抜く戦法が取れることから、スコーピオンとも呼ばれている。

 中村建築の庶務3課の連中が使用。しかし、戦果は決して多くなかった。

 

 

 

 MP9

 

 MP5サブマシンに対抗して作られたオーストリア製の銃。しかし、既に市場ではMP5に占領され、高い性能にも関わらずあまりヒットしなかった悲劇な一品。

 4話で犯人であるダニエルが使用。犬や警官に発砲した。

 

 

 

 M870

 

 ポピュラーなショットガンで、日本でも猟銃として入手できる。そのシンプルな作りはレミントン社のロングセラー商品となっている。

 作中では敵が使用している。

 

 

 

 FRF2

 

 フランス製のスナイパーライフルで第二次世界大戦の頃から存在する。今でもフランス軍のスナイパーライフルとして現役である。

 フランクリンと言うフリーのスナイパーが使用。しかし、整備を怠ったため、ターゲットに命中しなかった。

 

 

 M40

 

 アメリカレミントン社が開発した、ボルトアクションスナイパーライフル。性能、生産コスト、耐久性において優れたパフォーマンスを持った名銃。装填数が少なく、連射力が低いのが欠点。

 モブ兵士がA5、ゴーストがA3を使用。ゴーストはこの銃だけでも多くの標的を葬ってきた。

 

 

 デザートイーグル

 

 イスラエル製の大型オートマチックハンドガンで、現在存在するマグナム弾を使用するオートマチックでは最も性能が高い。ただし、ハンドガンにしては非常に大きい。

 オマルが357マグナムモデルをジョセフに注文し、購入している。




 質問があれば、私にメッセージを送信してください


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33話  捜査進まず

 


 23:00 千葉県市原市沿岸部。オマルは一人、モルグ社の所有する倉庫付近で身を隠しながら情報収集していた。そこで判ったことは、彼らは表向きは外資系総合商社を謳っているが、実際には非合法で武器や薬物、果ては臓器の売買までする巨大なブラックマーケットだった。

(今回はいくらなんでも巨大すぎますね・・・しかし、同時に)

 持ってきたC4を天然ガスタンクに仕掛け、自分は安全な場所に避難すると、スイッチを押し爆破する。しかし想像以上に爆発し、隣の建物も吹き飛んでしまった。

(は、派手にし過ぎましたね。幸いケガはしてませんが、警備も厳しくなりましょう)

 騒ぎに乗じて乗りつけていたセダンに乗り込み、その場を脱出する。

「オマルさん。心配してたんすよ、さっき爆破して」

「ケビンに可能なら爆破するよう指示されてました。武器の割にはザルだったのが幸いでした」

「双眼鏡で覗いたんですが、一部兵士にF2000、MP5って高価にも程があるのでは?」

「確かに。倉庫の中身は武器弾薬ばっかりでしたし、これで多少は敵の脅威も削いだでしょう。それに」

「?」

「軍にいた頃は工作兵でした。ですから慣れているとも言えますね」

 

 

 

 

 

 

 翌日。報告書に目を通すケビン。いつも以上に目つきが鋭くなる。

「MP5A4に最新ブルパップF2000か・・・資金は豊富みたいだが、訓練の練度はいまいちねぇ」

「高価なもの使うんですから、施設ももっと頑丈にすればいいと思いましたよ」

「あからさまに頑丈にすれば、明らかに怪しいものがありますよって宣伝するようなものだろ」

 宏美が取材から帰ってきた。

「ただいま・・・ふぅ死ぬかと思ったわ」

「おかえり。まぁ休んでくれ」

 ソファに寝そべり、だらしなく取材メモを取り出した。

「っで、どうだった?」

「まず一つ。社内には入れなかったわ、厳重すぎるセキュリティーに武装した兵士が数名・・・入ろうとしたら銃口突きつけられたわ」

 彼女の表情が真っ青に染まっていることがわかる。

「次に、表から入ってる人間が営業マンとは思えないサングラスを掛けた男達。よく見たら上海の臓器ブローカーの連中だったわ。以前、資料で見た連中とそっくりだったのよ」

 トライデント・アウトカムズ研修の一環で資料を読む。その中に危険因子を持つテロリストや商人、闇ブローカー等の犯罪者の写真付き名簿がある。

「闇ブローカー、一般学生、秘密主義企業・・・今後、宏美は俺と組め。オマルと新垣は街の小さな変化を見逃さないために依頼をこなしながら様子を見てくれ」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ミコトは真姫と共に穂むらで和菓子を堪能していた。なんでも、穂乃果の部屋の片づけを手伝ってくれたお礼らしい。

「ありがとう二人共、とっても助かったよ!」

「・・・こんなこと言いたくないけど、受験生でしょ?もっと頑張んないと行きたい学校行けないわよ」

「もっともです。特に英語は壊滅的ですし・・・」

 以前、ケビンから英語の特訓をしたのは良いものの、いかんせん、覚えが非常に悪すぎるが故に彼も匙を投げそうになったことがある。

「ごめんなさい探偵さん・・・」

「こうなったら英語を重要視してないか、選択科目で行くのが良いわね。しっかりしなさいよ」

「まぁその辺にしませんか?それよりも、重要な話があるのでは?」

 取り出したのは穂乃果の部屋にあった切手の無い手紙。それは、ラブライブ運営委員会から届いた特別審査員の推薦状。話によれば昨日の朝、ポストにあったらしく、その日のうちに友人達に相談したらしい。

「そうなんだけどね、ことりちゃんも海未ちゃんも背中押してくれたんだけど・・・」

「けど何よ?」

「変なんだよね・・・だって、この事をツバサちゃんにも話したら、私には届いてないって」

「今のスクールアイドルにとって、μ’sとA-RISEは伝説的存在。穂乃果さんに届いてツバサさんに届かないってこと、あるのでしょうか?」

「そこなんだよ!だって比べられないもん、みんな頑張ってんだから」

「「そこ?」」

 呆れながらミコトは脳内で整理してみることにした。まず、推薦状にはおかしいところがある。それは切手と印が無いことだ。すなわち郵便ではなく直接ポストに入れ、あたかも朝届いたように見せかけた。入れた人間は彼女の実家を知っており、かつポストの前に近づける人間だけであることがわかる。もし、住所だけ知ってる赤の他人ならば近所の人間が怪しみ、動き辛いハズだ。誰が入れ、目的すら不明だが、誘いに乗れば危険であることは確かである。

「・・・いずれにしろ、返事もせずに無視がよろしいでしょう。危険すぎます」

 ふとテレビに流れるニュースを見る。

「最新ニュースです。関東地方中心に暴行事件が多発しています。どのケースも久しぶりに会った親しい人間から被害を受け、加害者は無実と主張します」

 テレビから目線を外す。

「ことりちゃんもにこちゃんも同じような被害にあったんだよね?」

「にこさんの場合、あれは殺意あったでしょう」

「探偵さんいなかったら大変だったわ。私たちも気をつけましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真剣に話し合っているとき、スーツ姿の冴えない外国人の男が来店してきた。

「ほむまんとお茶くれ」

 案内された席に座り、スーツケースを自分の手元に置く。不気味な雰囲気に三人は凝視してしまう。

(初めてのお客さんだけど、こんなに異様な雰囲気の人、初めてだよ!?)

(不気味すぎよ、なにあれホントに人間!?)

(スーツケース大事に持ってるけど、中身なんだろう?)

 それぞれ違う思考をしながら、彼がほのまんを食べ終え帰るまで、じっと息を潜めて見続けていた。



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34話  怪しい協力者

 


 この日、本社からあるものが大量に届いた。5.56NATOのAP弾が入ったマガジンボックスだ。

「何よこれ、APって意味何?」

「アーマーピアシング。ボディーアーマーを貫通させることが可能な特殊な弾丸だ」

「実は宏美さんが撮った兵士の写真を送ったところ、通常弾では防がれることがわかりましてね」

「それって、戦争になるって捉えていいかしら?」

「まだifだがな。全員アサルトライフルを装備し、各自調査に当たってくれ。あぁ、宏美は俺とバディな、戦えないから」

 

 

 

 

 

 

 二人はモルグ社にいたという、星空光喜と名乗る男性から話を聞くことができた。腕にはスイス製の高級腕時計がはめられていた。

「内部情報を教えてくれるか?」

「アンタらはどこまで知ってんだ?」

「そうだな、表向きは外資系総合商社だが、裏じゃ武器や薬物を売りさばいてるってとこだ」

「調べてんだな・・・俺はモルグの運輸部地場配送課にいたんだ、商品の主な搬入先は小さな雑貨屋。場所はこれに記してある」

 東京23区の地図を渡す。赤い点がつけられていた。

「裏のことはいつ知った?」

「半年前だったな。同僚に怒られてばかりの男がいて、勤務態度を改めないからソイツん家に行ったんだ。セキュリティー万全なマンションでな、俺より給料が良いのかと悪態ついたんだ」

「ほぅ」

「でもよ、ソイツいないんだよ。警備のおっさんに聞いても仕事に行ったって話でさ。俺は夜勤組の友人にも頼んで調べてもらったんだ・・・そうしたらよ、配送先にあり得ない場所にトラックを止めていたんだ」

「どこなの?」

「テナントが入ってない、空きビルさ」

「場所はわかるか?」

「秋葉原にある、サラミビルだ」

 

 

 

 

 

 

 夜中、街灯が少し点いてるだけの商店街に、ケビン一人でサラミビル前に張り込みをする。宏美を危険に晒さないためだ。

(案外暗い通りでよかった。ビル内に2名、入っていくな。ん、4名出てきたぞ・・・)

 出てきた4名がおかしいことに気がついた。冬にも関わらず夏を過ごすような恰好だったのだ。途端、トラックがビル前に止まり、荷下ろしする様子を見る。

(どうなってる、荷台に乗って行くぞ・・・これは重要だ)

 荷下ろしを終えたところを見計らい、Px4を運転手の背に突きつける。

「ここで何をしている?」

「荷下ろしですよ。なんすかいったい?」

「テナントのないビルに荷下ろしねぇ、おかしくないか?」

「・・・」

「荷物は何だ?さっき人間が荷台に入ってぞ、何が行われてんだ?」

 今度は左腕を運転手の頸部に回し、締め上げる。

「し、知らない、俺は何も!荷物は玄関前に置いてる!」

 荷台の扉が開いた音がしたかと思えば、AK74を武装した薄着男達が現れこちらに発砲してきた。運転手と一緒に身を隠し、隠れながら応戦する。窓から援護する二人を倒すと、最後の一人が接近戦を挑んできたため、カウンターからのアッパーカットを決めた。

「荷物を一緒に見ようか」

 運転手を先に行かせ、箱の中身を開けさせる。すると、先ほどの男達が持っていたAK74が入っていた。

「他の箱には・・・結晶状の物にPP-19か。なんか統一性ないな」

 オマルが爆破した倉庫にはF2000、このトラックにはAK74。それぞれ西側、東側の銃なのである。もちろん使用する弾が違うため、管理するには多額の資金が必要となる。したがって、AK74はモルグ社の取引先が購入したと考えた方が自然である。あのビルには武装犯罪組織がいると推理したのだった。

「どのみちお前は運び屋として咎められる。知っていることを警察及び俺に言ってくれ」

「俺は仕事がサボりがちだったんだ。ある時、主任に呼ばれたからクビを覚悟してたんだけど、夜間にまわってこの場所に、伝票のない荷物を運んでほしいって頼まれたんだ。おかげで給料もらえたし憧れのマンションも借りれたんだ」

「・・・知り合いの運び屋はこう言ったんだ。ワケのわからない荷物は絶対に運んじゃダメだ、例え大金を積まれても首を縦に振るなってな。アンタは運び屋としてやってはいけないことをしたんだ」

 その後警察が駆けつけ、運転手はおとなしく連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 帰還したケビンは遅くまで残っていた宏美に声をかける。

「もう帰っていいんだぞ、捜査に支障が出るし」

「気になることがあったの」

「何が気になったんだ?」

「あの星空光喜って男よ。珍しい苗字だから調べてみたんだけど、そんな人間が存在しなかったの。彼は何者なの?」

「やはり、くさい奴だったか」

「どういうこと?」

「アイツの腕時計を覚えているか?あれは1個数百万以上するスイスのブランド時計だ、一介のトラック運転手が到底買える代物ではない。にも関わらずアイツは高給取りと悪態をつけたと言った。矛盾であると同時に奴は運転手ではない可能性がある」

「なるほどね。じゃあ何者なのよ?」

「恐らくだな、モルグ社に派遣されたCIA工作員。あれだけ情報を持って外部に漏らすんだ、従業員でもそんな真似はしない。それに右懐にP226があった、シグ製の銃なんて高くて買えない」

 




 なんか短くなってきたような気がする・・・


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35話  修羅場

 ケビンは消耗品の紅茶を買いに出かけていた。アメリカ人にも関わらず紅茶好きなのは、母が好んで飲んでいたからだ。一杯飲むたびに母の顔を思い出すという。

(やっぱり、アールグレイだな・・・ん、何だ?)

 店の外が騒がしい。様子を伺うと、高校生ぐらいの男女が口論しているのがわかる。

「マー君のバカ、誰よこの子、いったいどんな関係なの!?」

 スマホ画面を見せる、小柄で髪を二つに縛っている少女が控え目そうな男に問い詰めている。

「いやいやその、あくまで友達だよ、そう、ともだ」

「おい、喧嘩は他所でやってくれ。ギャラリーがどんどん増えて、帰れなくなるぞ」

 会計を済ませたケビンが間に入る。

「ふん、いいもん、じゃあね」

 少女がご立腹な様子でその場を去り、男の方も逃げるように去って行った。

(恋愛の若年化で、修羅場も身近になったってことか?依頼が増えそうな気がする)

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンが事務所に戻る。宏美が客相手に丁重にもてなしていた。

「あっ、ケビンお帰り」

「依頼人か?」

「なんでも、彼氏の浮気の証拠を探ってほしいって話よ?」

 日本で探偵業を初めてから、その手の依頼は珍しくない。依頼人の顔を見るため、正面に向かって座る。

「・・・あれ、さっき喧嘩してた」

「あ・・・あなたがケビンさん?」

「お嬢さん、名前は?」

「小西ミカです・・・先ほどはすいませんでした、見苦しいところを」

 さっきまで彼氏と喧嘩してた少女だった。

「もしかしてだけど、浮気調査?」

 ミカは静かに頷いた。

「さっきの騒動で話は予想つくけど、スマホの写真、見せてくれる?」

「これです」

 見せてくれた写真は、一見するとスキー場でミカとその友人と一緒に撮っている写真だ。

「ここをよく見てください、一緒にスキーに行けないって彼言ってたのに、別の女の子と行ってるんです」

 左端を拡大してみると、画像こそ荒いが見覚えのある男が少女と腕を組んでいるのがわかる。

「もしかしてこれだけで浮気と決めつけたのか?」

「そうですけど・・・」

「これだけじゃ証拠としては弱いかな。物的な証拠、例えば普段彼には必要ないものが部屋にあったとか、目撃証言とかないかな?」

「これしか、ないんです」

「なるほど。このスキー場の名前と彼の住所、顔写真を俺に渡してくれないかな?探ってみるよ」

「引き受けてくれるんですか?」

「まぁね。証拠が挙がんない場合、金は取らないよ。特別に格安で引き受ける」

 ケビンはミカからスキー場の名前と彼の住所、宿泊場所、顔写真を受け取った。満足気に帰っていくミカを見届けると、宏美はケビンに声をかけた。

「ねぇいいの?モルグの調査と並行して、失敗したじゃ済まされないわよ」

「わかってる。だが面白いことがわかったぞ、スキー場の住所を見ろ」

「?・・・ここって確か」

「モルグの北関東支社と近いんだ」

 群馬の山奥に外資系総合商社の支社がある事態、かなりおかしい話だ。

「明日早朝に一緒に行くぞ。運転は任せとけ」

 そういうと地下射撃場に足を運び、射撃訓練を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 二人は住所をもとにスキー場へと向かった。この日雪が多く振っており、共に冷えない格好で浮気疑惑の調査をする。最初からモルグの調査するよりも住民の信頼を築きやすいからだ。

「まずはロッジで聞き込みをしよう、しかし・・・」

「すごい人の数ね。覚えてる人いるかしら?」

 シーズンだけあって多くの人間が集まっている。もちろんスキー客だ。ミカの話によればスキー板を持っていないと聞いていたため、ロッジに入り最初に声をかけたのはレンタル品を扱うカウンターにいた店員だった。彼は覚えておらず、次は昼を食べた食堂のおばちゃん。やはりと言ったところか、これといった情報を得られなかった。

「ケビン。泊まったホテルも調べてみましょ?記録が残ってると思うわ」

「そういや泊まりって言ってたっけか?」

 ホテルに向かい、宿泊名簿を見ることができた。

「確かにいるな。1月14日の19時にチェックイン、1月16日7時にチェックアウトしてる」

「東京行きのバスの発射時刻は7:40ね。ちょっと早くない?」

「一月経ってこの雪だから積もって動けないことも考えたか、もしくは別の理由があったか」

 聞き込みをして早2時間、ようやく有力な2つほど情報が入った。スキー教室のインストラクターとホテルのフロントの男性が彼のことを覚えていたのだ。

「二人も覚えていたのは奇跡だったわ。証言をもう一回聞いてみましょ?」

 ホテルに泊まることにした二人は早速、ボイスレコーダーに録音した証言を聞いてみることにした。

『この人確か、女の子と一緒に来てた人よね、親子みたいだったから覚えているわ。共に初心者でよく転んでたの覚えてる、うん。でも、次の日には彼、見違えるようにとてもうまくなってたわ、1日2日でうまくなるなんて考えにくいし、演技してたのかしら?』

『1人でチェックインしましたよ、それに写真の方が22時半にホテルを出て行くのを見ました。しばらくして日付が変わるか否かの時間に辺りを警戒しながら帰ってきましたね。熊は出てませんから幽霊でも見たんでしょう』

 

 

 

 

 

 

 聞き終えた二人は一呼吸置き、宏美から意見を述べる。

「ちょっと変じゃないかしら?だってスキーできない人が翌日うまくなってたっておかしいわよ」

「ミカちゃんによれば彼、運動得意じゃないって話だし・・・なんか引っ掛かるな」

 ケビンはスキーロッジでもらってきた1月14日から1週間分のスクラップを読む。

「なんか疲れちゃったわ、入って来ていいかしら?」

「誰もいない時間に入れば気兼ねなく入れるぞ?」

「ちょっと、だらしないわよ寝ながら読んで」

「?宏美、これ見ろ」

 ケビンが1月16日の新聞に載っている記事に指差す。それはスキー場付近にある、大沼と呼ばれる場所で全ての臓器が無い男性の遺体が発見されたという事件だった。

「俺はこの事件について明日、警察に行ってみる。宏美は車で待機」

「わかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 警察署に向かい、根岸の知り合いという刑事の話を聞く。彼によれば発見時、黒いビニール袋に入っており、目立った腐敗がなかったため1月14日に殺され、その場で捨てられたものだと思っていたが、死亡推定時刻が1月12日で、その彼が16日の7:00にスキー場の無料シャトルバスに乗っているのを目撃したと情報が入ったらしい。

「ちょっと待ってください、その男なら昨日、秋葉原にいましたよ。女の子と揉めてた」

「・・・それホント?この子幽霊と会話してるの?」

「刑事さんしっかりしろ!その男は現実にいる!・・・待てよ、そうか・・・このままじゃまずい!」

 ケビンはオマルに電話する。

「俺だ!小西ミカの身柄を確保してくれ、このままじゃまずい!」

 電話を切る。

(恐らく、犯人の目的は臓器だ。モルグの工作員なら平気で臓器を売りさばいて金に換える・・・じゃあ不倫相手はどう説明する?・・・そういえば親子みたいって言ってたな。と、なれば、ミカちゃんもターゲットの可能性が非常に高い)

「どうしたんだいったい・・・」

「死人が増えるかもしれない・・・奴は化けてる、自分が殺した相手に」

「!?な、なんでそう言えるんだ!」

「モルグ社をご存じで?」

「あぁ。あの薄気味悪い外資系総合商社の・・・そうか、そいつらが絡んでいるのか!」

「秋葉にいる工作員を逮捕すれば奴らを追い詰められる。協力願います」

 

 

 

 

 

 

 

 連絡を受けたオマルは新垣と共に小西ミカの自宅に向かった。家を訪問すると、本人が出迎えてくれた。

「初めまして、トライデント・アウトカムズのオマルと申します。ケビンの仲間です」

「探偵さんの?」

「はい。ケビンの指示であなたのボディーガードをやってくれと頼まれました。契約料はいりませんから安心してください」

「へ?で、でも、今日彼氏とデートで」

「中止に出来ますか?不用意に動いたら守れませんから」

 本当のことを今言っても信じないと判断したオマルは遠回しに彼から遠ざけようとする。しかし、思いもよらぬ事態が発生した。マー君が姿を現したのだ。

「遅いから来ちゃった、さぁ行こっか」

 オマルは危険を察し、彼女に手を伸ばそうとする彼を素早く拘束した。新垣はコートに忍ばせていたイサカM37を抜き、文字通り威圧する。

「な、何の真似?」

「とぼけても無駄ですよ。あなた、モルグの工作員にしてマー君を殺した犯人ですね?骨格は似てたみたいですが、あなたはミスを犯しました」

「ミス?」

「あなたは運動が得意みたいですが彼はそうではなかった。うっかり上手く滑ったところを見た方がいらっしゃいました。さぁ、観念してください」

 彼はハンズアップし、降伏を示した。

「思ったより優秀な連中だな。そう、俺らはモルグの社員だ。俺のパートナーが外で待ってるから、迎えに行けばどうだ?」

 新垣に行かせよとした矢先、銃声が響いた。新垣は停めてあった車を発見と同時に驚く。フロントガラスに穴が開き、向こうには眉間を貫かれた女性の遺体があったのだ。

(あの家の屋根か!?・・・いや、追うのは危険だ)

 狙撃ポイントであろう場所をじっと見つめ、力無く肩を落とした。

(彼女を狙撃したのは誰だ?趙さんは確か上海だし、フランクリンは入社してアフリカにいるし・・・しかも家から300メートルあるぞ、きれいに殺すならスナイパーライフルしかないし)

 何度考えても答えが出なかった。

「これは、闇が深そうだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンは帰還後、改めて証言を確かめてみた。おかしい点に気がついたからだ。

(なんてことだ・・・まさか本当に幽霊がいたってことか?)

 それを知った宏美もケビンに抱き着くように震えていた。




 


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36話 平凡と非凡

 ミコトはこの日、ことりや希が働いているメイド喫茶でアルバイトをしていた。週2日ほどだが出勤してきており、彼女が来ている日は繁盛している。もっとも、彼女目当ての悪質な客もいるが隣の探偵事務所の名前を出せば大抵料金を置いて逃げ帰るため、さほど問題ではなかった。

「ふぅ・・・メイド服ってコスプレの仕事でしか着たことないけど、結構ゴテゴテしてないんですね」

「ちょっと走りにくいけど、カワイイ衣装だよねぇ~」

 休憩時間がことりと被ったため、簡単に雑談する。

「まさかミコトちゃんが入ってくれるなんて思ってもみなかったって、店長さんとオーナーさん言ってたよ。でも何があったの?」

「私には親がいません。高校に行けたのは社長と先生のおかげなんです。二人に迷惑かけないためにも、稼ぎを作りたいと思ったんです」

「ここなら探偵さんに相談しやすいし、良い人ばっかりだから安心できるよね。・・・重い過去喋らせちゃってごめんなさい」

「いいんです。それより、受験はいいのですか?」

「もう合格したよ。これでもちゃんと勉強してんだよ?」

 笑顔ではあるが、時折辛そうな表情をする。やはり、この前の暴行事件が尾を引いてるのだろう。

「やっぱり、真実が知りたいですか?」

「そんな人じゃなかったもん。何があったのか知りたいし」

「・・・ことりさん、相手はどんな手を使ってくるかわかりません。催眠術みたいなものを用いて邪魔してくるか、はたまた、堂々と殺しにくるか・・・私は自分で調べるのはおすすめしません」

「穂乃果ちゃんでも同じこと言うかな?」

「さすがに」

 沈んた空気に清涼剤が現れる。

「なんやなんや、そんな元気のない子には」

 希は怪しい手つきでミコトの胸を弄り始めた。

「!!な、なに!?」

「エリチに比べると弾力あるなぁ」

「・・・スケベ」

 英玲奈による悪戯で慣れたミコトの冷静ぶりに希も頭が冷えた。

「さっきの暗い顔、お客様に見せちゃアカンで。探偵さんも、ファンの方も心配するで」

「わかってます。希さん、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 隣のトライデント・アウトカムズでは、真剣な眼差しでテレビを見ていた。昨日あったと思われる、フィリピン特殊部隊NAVSOGによる麻薬王「アナコンダ」暗殺作戦が失敗したと報道されているからだ。チームのリーダーである、エディ・カーマイケル少佐はロバートのかつての部下で、ケビンも面識があった人物が殉職したと報道されている。

「カーマイケル少佐・・・」

「麻薬王ですか。もしモルグと繋がりがあるなら、早速調べてみないといけませんね。確証はないに等しいですが」

 アナコンダの顔写真が映し出されると、宏美が頭を傾げる。

「・・・」

「何だ、腹減ったのか?」

「違うわよ。出入りしてた男に似てる」

 3人一斉に宏美を見る。

「ちょ・・・いい歳した男が一斉に睨まないでよ!」

「新垣、ブラックリストの名鑑持って来い」

 分厚いファイルを机の上に開き、先ほどの男に似た写真があるか確認する。

「・・・あった!」

 白髪でケビンよりも濃い色の肌の男。彼が東南アジアの麻薬王、アナコンダ。

「間違いないわ。彼よ」

「今度の敵は麻薬王か・・・知らずに宣戦布告したみたいだな」

「相手はNAVSOGを裏をかいた男、どうするのよ?」

「新垣、情報を防衛省に送れ。俺とオマル、宏美は大隅科学研究所に行こう」

「?」

「野平の尿からハッシシに似た成分が検出されたんだ。それと奴の売ってるやつと比べんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人は大隅所長から渡された書類を目に通す。

「主成分はハッシシ。彼の身体から出たのはそれの強化版だ、かのアナコンダのモノと考えてもいい」

「ケビン・・・だとしたら野平君は」

「悲しいが、もう幼馴染として彼女とは会えない。残念だが」

「・・・ねぇ。彼はどうして会社の写真撮ったのかしら?」

「それなら調べがついてます。彼が通う大学にビリヤード同好会っていうサークルがあるんです、まぁ実際にはヤリサーに分類される危険サークル扱いされるバカの集いですが、その彼らがモルグ社に出入りしてるところをタクシー運転手が見てました。ドラレコの映像にもあります」

「大隅さん、ほむまん食ってください。俺達は大学に足を運びます」

「気をつけろよ、お前の絡むことは大抵危険だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 アクアラインを通り、そこから車で30分ほど。学長から捜査許可をもらい、ビリヤード同好会の活動拠点でもあるアミューズメントバーの前にいた。

「ケビン、なるべく穏便にしてね?」

「まぁ何とかなるさ」

 宏美をクラウン内に待機させ、ケビンとオマルはトレンチコートの下にそれぞれアサルトライフルを隠し持ち、店の中に入る。ビリヤード台にいる学生に声をかける。

「ビリヤード同好会か?」

「どうしたんだよお兄さん、まさか興味あんの?」

「リーダーを出せ」

「山田さんに会いに来たの?アンタ何も」

 二人同時にトレンチコートの脱ぎ、アサルトライフルを構えた。

「隠すなら隠してもいいが、もう二度とこの世には戻って来れないぞ?」

「・・・山田さん逃げて!」

 他の台でビリヤードをしていた男達が一斉に武器を抜こうとしたのを見た瞬間、二人は躊躇いなく引き金を引き、素早く確実に頭を撃ち抜いていく。数十秒もすればカウンターに隠れたマスター以外は骸と化していた。

「忠告したのによ、バカ共が」

「学生が銃を持っていた・・・野平君はこれを知ってたかもしれませんね」

「マスター、アンタの知ってること、全部聞かせてもらおうか」

 途端、外から宏美の悲鳴が聞こえた。ケビンは大急ぎで飛び出し確認する。

「どうした!?・・・コイツは?」

「いきなり乗り込んできて胸触ってきたからこれで痺れてもらったわ・・・酷くない?」

 助手席に泡を吹きながら気を失っている男がいた。

「T62スタンガンが役に立ったな」

「このまま人質になると思ったわ・・・ありがと、助けに来てくれて」

 最初に比べるとタフになったと、ケビンは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 任務を終え、他のメンバーが帰宅し報告書を書き終え、銃の手入れを行っていると電話が鳴り響いた。

「はい、トライデント・アウトカムズ」

「あ、わたし高海千歌です」

「依頼かい?」

「いえ、その・・・ちょっとしたお話を」

「・・・話を聞くよ、それも仕事だしね」

「わたし、みんなからよく普通って言われるんです。だから将来、普通怪獣チカチーになるんじゃないかって心配になるんです」

 ケビンは思わず笑いそうになるが堪える。

「続けてくれ」

「探偵さんみたいに身体も動かせて頭もいい人になるにはどうすればいいのですか!?」

 一息おき、落ち着いた声で答えた。

「・・・ねぇ、千歌ちゃん。俺をそう思ってるのは勝手だけどさ、普通のどこが悪いの?」

「え?」

「確かに生きてると他の人にはない非凡さを求めたくなる。でもね、非凡を求めすぎて俺みたいに人に銃口向けて平気な人間になりたいと思うかい?紛争地歩いてきた経験から言わせてもらうと、普通でいることって実は並大抵のことじゃないんだ。だから千歌ちゃん、普通でいることこそが君の魅力なんだよ、誇りに思ってもいいと思う」

「・・・探偵さんって傭兵さん?」

「厳密に言うと違うけど、その認識で合ってる」

 少しだけではあるが、彼の過去を垣間見た千歌は机の上にあるみかんを食べる。

「ごめんなさい探偵さん、いつも通りでいいんだね」

「そう。もう夜も遅いから早く寝なよ、おやすみ」

 電話が切れ、再び銃の手入れに戻る。

(・・・普通でいることこそが魅力か・・・俺には全くないな)

 組み立てて終わり、Px4を構えてみる。

「黒に染まれば白に戻れない・・・が、白のままでいる人を守れるもの黒だけか」




 作風が急に深夜アニメ風になってた・・・

 まぁ最初からですが


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37話  大蛇は闇へと消えゆ

 


 山田を縛り上げ、法すれすれの尋問をした結果、フィリピンにあるモルグ本社の社長及びアナコンダは名前を変えた同一人物であり、度々日本に入国しているだけでなく東京中心に多くの新型麻薬を売りつけている。突入許可をもらうため新垣とオマルに防衛省まで足を運んでもらい、ケビンと宏美はマニラ支社と連携しモルグ社の日本本社前で待機していた。

「ケビン。まだここにアナコンダがいるかわからないけど、絶対に成功させなさいよね。私は車の中で監視カメラをハッキングでサポートするから」

「任せとけ・・・ところで二つほど聞きたいんだが?」

「な、何よ?」

「まず、ハッキングなんてどこで習ったんだ?」

「専門学校がコンピューター関係だったのよ、だからどうやって網くぐっていくかなんてお茶の子さいさいってこと」

「なるほど。取材の一環で使ったって認識でいいか?二つ目だが、お前触られるほど胸あるのか?」

「な!?これでも84のFよ!そりゃミコトちゃんや絵里ちゃん、希ちゃんには敵わないけど、自信はあるわよ!」

「・・・悪かった、すまん」

 バツの悪そうな表情で謝るケビン。

「まぁいいわ・・・突入準備、出来てる?」

「当たり前だ。お前が着痩せしてるって、他のメンツには黙っておいてやる」

 顔を真っ赤にしてケビンの胸板に顔を埋めた。

「もぅ・・・こんなこと言うの、好きな男の前だけなんだから」

「?おい、何ブツブツ言ってやがる」

「何でもないわよ!」

 オマルから連絡があった。攻撃の許可だ。

「さてと行って来るかな。宏美、事件終わったら話がある、覚えておけよ」

「ま、まさか解雇じゃないわよね?」

「そうじゃねえから安心しろ。ちょっとした進路相談だ」

 そう言うとR5を片手にケビンはクラウンから降りた。

 

 

 

 

 

 

 

(危うかった・・・これ、渡す時間が欲しいからな)

 懐から小さなジュエリーケースを取り出す。中にはシルバーのリングが入っており、K&Hと小さく彫られている。

(死亡フラグぐらい乗り切ってやるからな)

 それを仕舞い、裏口付近まで移動し、突入しようとしたその時、ビル内が騒がしいことに気がついた。チャンスと判断したケビンはマニラ支部の数人の仲間達と突入し、すぐに1階のフロアを占拠、次々に制圧していき、最上階にある社長室前まで駒を進めた。

「ケビン、吐き気がしてきた・・・」

「どうした?」

「社長室に生きてる人間がいないわ」

「は?」

「ごめん、無理、一度画像を切るわ」

「わかった。突入する」

 仲間の一人がブリーチングハンマーでドアを破り、一斉に突入する。そこには血の池地獄を再現した光景が映し出されていた。だが、遺体の中にアナコンダはいなかった。

「捜査開始、証拠になりそうなものを残らず確保せよ」

 ファイルやSDカード、PC本体と言った情報メディアから本物の麻薬と言った物的証拠も出てきた。ケビンは窓にある多数の弾痕を見つけ、驚きを隠せないでいた。外を見ると狙撃できそうな場所は向かいのビルの屋上しかなく、距離も直線で200メートルほどと結構遠い。

(10ぐらいいる護衛を一人残らず始末するスナイパーか。ボルトアクションじゃあなさそうだな、どうしても連射力がお粗末だしコッキング中に逃げられる可能性がある。セミオートスナイパーライフルを使って狙撃したな)

「隊長、これを」

 隊員の一人が紙媒体の顧客名簿を見つける。野平の通う大学の同級生や裏の殺し屋、ヨーロッパの富豪の名前が乗っており、それぞれ必要なものも明記されていた。

(ふん、予想通りクソみたいだ)

 突入及び捜査を終えたチームは一旦解散し、証拠品を警察に提出することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。宏美と二人でモルグ社の向かい側のビルの屋上に行った。身を低くし徹底的に調べていくと、7.62NATOの空薬莢が多く見つかる。どれもI’m Sniperと彫られているのがわかる。

「俺はスナイパー・・・奴め日本に来やがったな」

「ゴーストが来たのね。見た感じアナコンダの敵みたいだけど、信用できるかしら?」

「俺は快楽殺人鬼と手を組まん。こっちが殺されかねん」

「確かにそうね。・・・ひと段落したんだし、どこかで休みましょ?」

「だな」

 

 

 

 

 

 

 

 東京に戻り、大隅科学研究所に行く前に穂むらで休憩することにした。

「はぁ・・・いい店よね」

「こういうの好きだぜ、風情があって」

「ふぁあ・・・なんか眠たくなってきちゃった・・・」

 そう言って本当にケビンに寄り添って眠ってしまった。思わず驚くが彼女が普段、あまり寝ていないことを知っていたため、少しの間だけでも寝かせることにした。寝顔を少しのぞき込んでみた。

(こうして見ると、結構美人なんだがな)

 音ノ木坂学院で出会い、多くの事件を一緒に解決した。ケビンは知らず知らずのうちに彼女のひたむきさに惹かれ、結婚まで意識するようになっていったのだ。

(母さんと初めて会った時の親父もそんな感じだったのかな?)

 気配を感じその方向に顔を向けると、穂乃果がこちらを面白そうに見ているのがわかる。

「見世物じゃないよ」

「ご、ごめんなさい。でも探偵さんにしては珍しく、宏美さんに優しい表情で見つめるなんて、ねぇ」

「はぁ・・・俺ってそんなにしかめっ面してる?」

「銃持って歩くときなんかしかめっ面ですよ?」

「警護任務は当たり前だろう、そうじゃなくって普段は?」

「うーん、いつも笑ってはいないですね」

「だろうよ」

 白けた表情でほむまんを口にすると、不気味な雰囲気を醸し出している男が入店し、隅の席に座りお茶とほむまんを注文する。

「?見たことないな」

「最近、しょっちゅう来るお客さんです。悪いことこそしてませんが、怖い感じがするんです」

(確かにこの店にしては珍しいな。気になるが、今はアナコンダの調査だ)

 宏美が目を覚まし、案の定、大いに驚いてくれた。

「エエエエ!?ちょっ、寝てるなら起しなさいよ!」

「別に寝てても事務所の上にあるベッドに置いてくつもりだったが」

「・・・恥ずかしいじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 大隅科学研究所に持ち込んだ、7.62NATOのライフリングを調べてもらう。

「さっき速報で流れてたよ。モルグ社はもう日本じゃ営業できないだろうな、臓器売ったり麻薬売ったり・・・どうして警察は見逃してたかな?」

「まぁ表向きは外資系商社だったし、つけ入る隙がなかったってことでしょう。ですがボスが分かった以上、相手の戦力は大幅ダウンは確実です」

「そうだろうけど、窮鼠猫を噛むって言うから気をつけて。それと終わったぞ」

 結果をプリントアウトし、二人に見せる。

「使用した銃はSR-25Mスナイパーライフル、しかもライフリングを増やしたカスタムバレル。海兵隊を始めとした米軍が使う、セミオートスナイパーライフルの中でも最高の銃だ」

「やはりな。じゃなかったら正確かつ、そんなに速射できん」

「海兵隊の奴が好んでそうだ。市街地戦でこれを使うんだ、重々気をつけてな」

 

 

 

 

 

 

 その後、事務所で起きたことを報告し、4人で話し合うことにした。

「ふむ・・・アナコンダはいなかったですか。どこかに潜伏してるでしょうね、主要の空港はもちろん、関東圏の港にも非常線が張られるとのことですから成田や羽田は使えません」

「出国する術は残っている。今度は陸路でどこに向かったか調べよう、もしかしたら関東圏以外、例えば東北や東海地方で外国船舶が入港している場所があったらそこに行く必要性がある」

「しかし多いですね。主要道路も監視対象でしょうに」

 オマルは呆れた表情でソファにふんぞり返る。

「網を抜ける方法か」

 ケビンはストレートティーを入れ、テレビをつけた。

「おっ今日はローカル線の旅か」

 北陸の山間部にあるローカル線の特集が流れる。新垣はそれに食いつく。

「菊地隊長。俺実は田舎で育ちでして、東京に来るのが夢だったんですよ、しかも車窓が故郷そっくりで」

「おいおいそんな偶然あるのか?」

 ふとケビンは考える。もし、突入前に既に東京から脱出し、船でフィリピンに逃げる算段だとしたら。

「なぁ新垣、アナコンダって時間にルーズか?飛行機は好きか?」

「山田によれば、会議にはいつも遅刻してて飛行機嫌いらしいですよ」

「そうか・・・彼は思ったより呑気らしい」

 本棚にあった新しい時刻表を取り出した。

「みんな聞いてくれ。これは俺の推理だが、アナコンダは新幹線ではなく、在来線、しかも普通列車で東海地方に向かったと思われる。奴は東南アジア系だ、寒さの厳しい東北には行かん。なら自然に東海地方に行ったってことになる。次に目的地だが静岡の伊豆半島、もしくは沼津港といった港のある場所に身を潜めるだろう」

「外国人が目立たずに住める場所が重要ってことですね」

「そうだ。伊豆半島は多くの外国人観光客がいて目立たないが、逆に母国語で何を言ってるのか気づかれる危険がある。したがって、東南アジアが程よく居てかつ警戒心を抱かない都市に潜伏していると思われる」

「だとしたら、どこにいるのでしょうか・・・まさか」

「あそこしかないだろうな。沼津だろう、今一番勢いのある9人組のファンのフリさえすれば、怪しまれないどころか親近感すら湧きそうだ」




 ここ最近、だいぶ暖かくなってきた


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38話  沼津での調査

 


 2台の車で沼津に向かった4人。車中でラジオから流れる、5日前宮城県仙台市で起きた、東南アジア系マフィアの会合現場であろうホテルが襲撃されたというニュースを聞く。捜査が終了し、専門家が意見を述べているがケビンにとっては重々承知していることだった。

「首に蛇の刺青をした連中の会合だったらしいわ。おそらくアナコンダの仲間ね」

「襲撃した連中は恐らくゴーストだ、仲間を多く抱えてるだろう」

「・・・ケビン、ひとついいかしら?」

「なんだ」

「実行犯はゴーストで決まりだけど、どうして彼はわざわざリスクを冒してまで攻撃したの?ケビンが彼に威嚇したって話だし、アナコンダは逃げる達人よ。返り討ちに可能性もあったんじゃない?」

「理由は不明だが、依頼されてる可能性が高い。たとえ遭遇しても奴と極力戦闘を避け、アナコンダの居場所及び、奴の組織に関わるモノを全て回収、不可能なら破壊する」

「それがいいわね」

 

 

 

 

 

 

 到着後、二手に別れることにする。4人で行動するのはいくら何でも目立つからだ。駅構内、バス停、駅ビルにアナコンダの手配写真が貼られており、情報提供するよう呼び掛けている。

「これじゃ奴に逃げてくれって言ってるみたいだな」

 ケビンと宏美は外国人が泊まりやすいホテルをしらみつぶしに探すが、どこも彼を見ていないという。

(そりゃなぁ。変装してる可能性だってあるしな)

 ホテルではないとしたら個人宅、もしくはホームレスに混じって暮らしている可能性もあった。

「意外と広い街だ、しらみつぶしじゃ日が暮れるだけじゃなく、人間が足りんから効果が薄いな」

「ねぇ。Aqoursのファンに混じって潜んでそうな場所って、限られてない?」

「なんだ急に?結構ファン多いぞ」

「多くは学生よ、しかも所得がないんだから安宿かどっかにいるんじゃない?」

「1人で入っても違和感がない宿・・・カプセルホテル調べるぞ」

 調査の結果、アナコンダと似たような雰囲気の男が泊まったというホテルを見つける。監視カメラも見ると、眼鏡を掛け、髪を黒く染め、サイリウムやコートの下に少々痛いTシャツを着た東南アジア系の男がチェックインしているのがわかる。日付は4日前しかし、確定とは言えなかった。

「どの名前かわかるか?」

「えーと、これですね」

 Hunterとサインされている。ケビンはモルグ社にあったアナコンダの筆跡と似てると判断した。

「この名簿、お借りしてもよろしいですか?あと映像を録画してるディスクも」

「え・・・いや、しかし」

「少しの間でいいんです。この街に、アナコンダがいると言ったら信じますか?」

「・・・わかりました、支配人を呼びます」

 名簿と録画したディスクを借りるとすぐに大隅科学研究所に送り、改めて捜査に戻る。

 

 

 

 

 

 オマルと新垣は裏路地にある、チンピラの溜まり場に来ていた。

「少々よろしいでしょうか?」

「あん?誰だ、外人さんの来る場所じゃねぇぞ」

「実はですね。捜査に協力をしてもらいたくて」

「話聞いてんのか!」

 殴り掛かってきたところを頭突きで受け止め、そのままアッパーカットでダウンを奪うと、AUGA2を取り出し、銃口を突きつける。取り巻き達も襲い掛かろうとするが、FNC-paraを構えた新垣に制圧される。

「死にたくなかったら、有無言わずに協力しなさい。ここ最近、大勢の外国人が沼津に来てることはご存じで?」

「し、知らねぇ。モルグの連中が来たって話なんて」

「何故私の聞きたいことを?」

「!!」

「洗いざらい話してもらいますよ」

 曰く、ここ数日、モルグ社が近隣のビル買占めを行っていたらしいが、犯罪に関わっていたことが判明し、一気に手放し幹部級の人間が四散したという。

「そうでしたか。ここにも合成麻薬を」

 飽きたと言わんばかりに遠慮なく顔面を踏みつけ気絶させる。

「地図に書いていただきたいのですが、よろしいですね?」

 

 

 

 

 

 

 予約していた旅館に集合し、その一角にある休憩場で捜査報告することにした。

「なるほど、この街にも」

「そのようですね。駅から少し離れた場所のビルばかりを買い占めていたらしいです」

「そこ全てに訪問したら、多くのビルを手放しており、残っているのは2つだけ」

「さっき解析結果が来たんだが、アナコンダで間違いない。この街に潜伏している」

「会社が潰れた今、彼の目的はなんでしょうか?不明です」

「・・・カムフラージュにしては随分本格的だったわ。ラブライバーの格好」

 映像の一部を写真として切り取ったものを見せる。

「ぷぷ・・・いい歳こいたオッサンが何を」

「カムフラージュでも、こういうのはちょっと嫌だな」

「この写真、不自然なところがある。護衛がいない」

 ケビンの一言に改めて写真に注目する。確かにそれらしい人間がいないのだ。

「ライバーに化けてんじゃないの?」

「あの無防備な服装で銃を隠し持つなんて無理だ。たとえハンドガンでも、どうしても気休め程度の威力のモノしか隠せん」

「ミニUZIも持てないですね。護衛は置いてきたと、考えてもいいのでは?」

「なるほど、現地で合流ってことか。気まぐれな奴らしい」

 横から目の隠れた大型犬がオマルに寄ってきた。そして彼の側に着くと、その場で伏せる。

「すみません、うちのしいたけが」

 しいたけと呼ばれた犬を起こすブラウンの短髪の女性。

「いえ。我々もそろそろ部屋に戻る予定でしたから、お食事よろしいですか?」

「はい、かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻り、ケビンは早速、隅で銃のメンテナンスをする。

「懲りずにやるわね」

「銃は撃ってなくてもジャムが起こる可能性がある。メンテナンスは大事な仕事だ」

 R5を瞬く間に解体し、全てに異常がないと見るや再び組み立てた。

「早いわね。それも軍で?」

「そうだな、レンジャーでなくてもする基本中の基本。修理も出来なくちゃ戦えない」

 R5を構え、サイトにガタがないことを確かめ、再び床に置き、今度はUMP-9に手を伸ばす。

「そうやって戦ってきたのね」

 途端、玄関側の襖が開いた。料理を持った黒髪の女性が現れる。

「お待たせしまし・・・た」

 ケビンの持つUMP-9に目が行ってしまった。

「あ、あのぅ・・・それは・・・」

「仕事道具です、予め自分達の職業を名乗ったうえに持ち物もお伝えしたハズですが?」

「いえ、その、本物の銃を見たことなかったものですから」

 淡々とテーブルに料理の盛られた食器を置く。

「驚かれても無理ないですよ。我々特別警備会社が日本に来たのは最近です、しかも馴染みがないでしょう」

「ええっと、先ほど特別警備会社とおっしゃっていましたが」

「言い換えれば民間軍事会社です。政府に特別な許可をもらい、国防及び犯罪者への攻撃に加わることができる傭兵だと思って頂ければいいでしょう。もっとも、トライデント・アウトカムズは一般人から依頼を受け、解決する探偵業も実施しておりますので」

「はぁ・・・」

 想像以上に奇抜な客だと思った。

「困ったことがあれば連絡をください。もっとも、今扱ってる案件を終わらせてからですが」

 

 

 

 

 

 

 夕飯を食い終わり、宏美は再び持ってきたノートPCを開き情報収集する。

「何かないかしら。アナコンダが出てきそうなイベント・・・」

 ネットで調べていると、奇妙な情報を見つけた。

「ねぇこれ見て?」

「?・・・これは、学生映画の撮影か?」

 沼津港の大型船舶を停める外港で地方大学の映画同好会が明日、公開撮影するとあった。キャスティングに注目する。

「ほぅ、Aqoursのメンバー全員が主演ねぇ。ジャンルはドキュメンタリー」

「偶然にしては出来過ぎよ。あそこにアナコンダの迎えがいるかもしれないのに」

「もし関わってしまったなら良くて誘拐、最悪フィリピンで内臓売られるな。二人にも教えておけ、ターゲットが現れれば取り押さえ、不可能なら排除するよう言っとけ」

「わかったわ」




 ハードなシーンは比較的抑え目です


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39話  不自然な立て籠もり

 


 撮影前夜、大学生の男はノートPCでメールを送り終えると、窓から顔を出す。

「明日は撮影だな。星も見えるし楽しみ」

 突然、彼の視界が真っ暗になる。

(あれ・・・闇夜だったっけ・・・目、開いてるよな、体が冷たいし動かん)

 太陽が昇るころ、撮影現場に来ない彼を迎えに行った同好会の仲間が心配してアパートの部屋に入ると同時に悲鳴が四方に響き渡ったという。額に大きめの穴が開いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、撮影現場では混乱が生じていた。ケビンは同好会の学生に声をかける。

「どうした?」

「き、気にしないでください、ちょっとしたトラブルが」

「クルー全員が混乱してちょっとじゃないだろ。俺に話してみろ」

「・・・会長が自宅で亡くなってました」

「は?」

「実は」

 学生はケビンに知っていることを話した。

「なるほどね、額に穴か」

「警察から聞いた話です、現場を見たわけじゃないんで」

 ケビンはビリヤード同好会の連中を思い出す。彼らは直接アナコンダと交流し麻薬を買っていた。そのことを聞いたり知った人間をモルグに突き出し、身体を掻っ捌いて臓器を現金に換えてきた。もしかしたら、彼もその類ではないか、そう疑いたくなった。

「撮影は中止です。脚本書いてる会長がいないんじゃ」

「そうか。今回のやつ、ドキュメンタリー風の作品だったのか」

「えぇ、まぁ」

「俺が彼女達に撮影中止を伝えてくる。これでも顔見知りだから安心しな」

 

 

 

 

 

 

 ケビンは現在来ていないダイヤとルビィを除く7人に事情を話す。

「・・・そうですか」

「まぁ仕方ないよ。俺達で君らを送迎する、しかし・・・」

「?」

「あの姉妹はいないのかい?」

「えぇっとその、あの」

「話を聞くよ」

「実は・・・ここ数日連絡が取れなくて」

「どういうこと?」

「わかんないんです!捜してください!」

 頭を下げ、必死に頼み込む果南。冷静に答えるケビン。

「・・・落ち着いて話そうか。情報なしで捜せって方が無理だ、まず全員の履歴見せてくれる?」

 確認すると、5日前から連絡が途絶えているのがわかる。アナコンダが沼津に入った日付と一緒だ。

「その日の夕方にねぇ。花丸ちゃんは持ってないの?」

「持ってないずら。ルビィちゃんとは家の電話で話すから、実家のお寺で話するずら」

「わかった。花丸ちゃんと彼女と家が近い子は俺の車に乗ってくれ、それ以外はオマルのハマーに乗るように」

 

 

 

 

 

 

 

 他のメンバーの送迎を終え、ケビンと宏美は花丸の実家である寺に着く。住職らしき男性が出迎えてくれた。

「あなたが、以前、娘とこの子の友達を救ってくれた探偵さんですね。国木田元尚と申します」

「トライデント・アウトカムズの菊地です、彼女はパートナーの小畠」

「えぇっと・・・菊地さん?レオンとかじゃなくて、菊地?」

「父はアフリカ系アメリカ人、母は日本人です。父の血が強いのでしょう」

「ハーフの方と会おうとは未来ですね」

 住居スペースに入るや否や、二人は驚く。なんと照明以外ほとんど家電がなく、あっても冷蔵庫と洗濯機、古い型のテレビがあるだけだった。

「あのぅホントに断捨離を?」

「いやぁその、電気屋に行っても横文字ばっかりで全然わからないから買ってないだけでして・・・はぁ、テレビが見られない・・・」

「なるほど・・・これじゃスマホどころじゃないですね。今度一緒に見に行きませんか、家電を見に」

 ちょっとした約束を取り付けたあと、気を取り直して本題に入った。

「ところで、お嬢さんが定期的に電話してることはご存じで?」

「えぇ。ですが5日前ぐらいから残念そうにして受話器を切ってます。そのせいか、最近ごはんの通りが悪くて心配でして」

「・・・」

 彼女の食いっぷりを知っているケビンは心配そうに見る。確かに少し瘦せている。

「確かに顔色が悪いですね。俺達はこれから黒澤家に向かいます、事情聴取に行くんで」

「あのぅ、それはいったい」

「お嬢さんが電話かける先をご存じで?」

「黒澤さんのルビィちゃんです、仲良しですから」

「ちゃんと話するんだな。いい家族だ」

「お母さんはもちろん、お父さんもおばあちゃんも知ってるずら」

 安心した様子で黒澤家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 家付近に辿り着く。車を出ると、嫌な予感が漂っていた。

「宏美、市街地に撤退して2人と合流、俺はこのまま向かう」

「どうして?」

「嫌な予感がする。早く行け」

 R5にマガジンを装填し陰に隠れながら家に近づく。

(誰かいる)

 彼が何故、黒澤家以外の人間がいると判断したのか。昼間にも関わらず全ての部屋から物音が聞こえないからだ。

(翡翠さんは専業主婦だから何かしらの生活音が出ているものだ。しかし、それらしい音がない。昼寝なんてするような顔じゃないから、何かあったに違いない)

 塀を乗り越え裏口から潜入する。廊下からフィリピン訛りの英語が聞こえてきた。

『ボスはこの一家を押さえろって言ってたけどどうしてなんだ?小原ファミリーの方が持ってるだろ?』

『あそこは警備が厳重だぞ、装備も正規軍で使用されるものだし元Sealsのボディーガードも多数。無駄に労力を使うだけだ』

『だからこの警備もクソもない金持ちの家を狙ったのか。東京じゃアクション起こしにくかったしな』

『トライデント・アウトカムズってPMC、資金豊富でビル内の警備も厳しいらしいから攻撃しなかっただけさ』

 Px4に持ち替えサプレッサーを取り付けると、素早く狙いをつけ仕留めた。

(俺達に喧嘩売ったろうが間接的に)

 足音に気をつけながら進んでいきながら探索していき、最後である奥の居間の前で停まる。そこでR5に持ち替える。

「・・・GO!」

 襖を蹴り破ると敵に攻撃し、制圧してみせた。拘束されている姉妹及び母親を解放する。

「あぁ・・・助かりました」

「何があったんです?教えてください」

「5日前、主人が仕事に出かけた直後、彼らが襲って来て、主人に電話で身代金と会社の株式を売れと要求がありまして・・・警察には言ってません、そう脅されてましたから」

「ご主人に連絡させてください」

 ケビンは金剛に電話をかける。変わらないオーバーな感謝の言葉を聞きながら事情を説明し終え電話を切る。

「二人とも、みんなが心配してたぞ。電話の一本でもかけてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 警察からの事情聴取を終え、旅館に戻ってきた。

「・・・千歌ちゃん」

「あ、ありがとうございました。二人を救ってくれて」

「偶然だ。なんでも、黒澤家の株式が目的だったらしいから警備の手薄な時に狙ったって話らしいし」

「もしよかったらですけど、襲った人達の」

「ダメだ危険すぎる。何する気?」

「手伝えることがあったらと思ってその・・・」

「ミコトちゃんの時と違って、追ってる連中は銃を持ってるんだ。一般人、しかも少女に危険な目に合わせるなんて俺には到底できないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻り、それぞれの調査結果を報告する。

「自宅で拘束ですか・・・昼間に電話させて助けを呼ばれたら困るはずですがね」

「恐怖で何もできないと踏んだんだろう。まぁおかげで不自然すぎるほど音が消えたのが盲点だったがな」

「そうそう、殺害された男子学生ですが、彼の身体から麻薬の反応がありました。それと持ち物のノートPCが持ち去られていることもわかりました」

「・・・額に穴があったんだな。口径は?」

「7.62NATOですね。SR-25Mが使用されていることがわかっています」

「ゴーストだろうな、彼が殺しその後、仲間が持ち去ったってことが考えられる・・・振り出しに戻ったな」

 苛立つ心を抑えながら寝っ転がる。

「今日はこれで終了。各自調査するなり休憩するなりしてくれ」

「珍しいですね、投げやりなんて」

「違う。無駄に疲れたからだ」

 静かな人質立て籠もり事件に疲れたケビンは、テーブルに置かれている饅頭を口にした。

「・・・腑に落ちないな、金剛はチキンだから家族に何かあったら即座に俺達を呼ぶハズだ。だがそれがなかった」

「兵士も私達に警戒していたんでしょ?釘刺してたんじゃないの?」

「だったら俺達が来ない間に交渉して殺すだろう。現に突入されてんだ、リスクも考えないと人質を取らん」

「ねぇこうも考えられない?金剛氏もグルって発想」

「アイツも?・・・電話してみるか」

 ケビンは金剛に電話をする。しかし、かかりもしなかった。

「キナ臭いな。翡翠さん及び姉妹にも電話をしてくれ」

 結果、彼以外とは連絡は取れ、金剛は出張と聞いていたという。

「行き先を知らないみたいだな・・・本当に出張かわからんから警戒しておこう」

 Px4を抜き、玄関前に近寄りドアノブを握る。目くばせしてドアを開けた。

「うわっ!」

 銃口を突きつけられ腰を抜かした千歌がいた。

「・・・何しに来たんだ?」

「ゆ、夕食を・・・」

 4人分の料理が積載されたカートが廊下に置いてある。

「すまない」

 



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40話  複雑な絡み

 県警の公安とケビン達は山の中にある倉庫の前にいた。県警が独自につかんだアナコンダの潜伏先と思われるからである。

「隊長」

「これより突入を開始する」

 スレッジハンマーでドアを破り、一斉になだれ込むが、ケビン達は動かない。

「ケビン、我々も」

「待て。大勢で入ったらまずい」

「一気に制圧できるでしょう?」

「わからんか、人間がもしいたら反撃されるし、たとえされなくても何らかの動きを見せる。だが、突入したにも関わらず銃声が響かなければ公安の声も聞こえん。恐らく、ここに奴はいない」

 ケビンの指示で一度森の中に隠れ、様子を伺うことにした。数分後、中から逃げろと聞こえた途端、轟音とともに倉庫が大爆発する。

「情報はダミーか・・・全員撤退、マスコミが来る前に戻るぞ」

 これにより合計20名の公安課の突入部隊が命を落とした。全員で公安課の指揮官と対談し、情報源を聞き出すことにした。彼によればタレコミの電話があったらしく、それをそのまま鵜呑みにしたらしい。ケビンは呆れた顔で軽い説教をし、その際、録音された音声を入手した。

 

 

 

 

 

 

 

 急いで大隅科学研究所まで運び、金剛の音声データと照らし合わせる。すると、あろうことか一致することがわかった。

「これは・・・とんでもないことになりそうだ・・・」

「グルってことでしょうね。もう、容赦する必要性がなさそうです」

 AUGA2を手に構える。

「まだ結論は早い。そもそも出張先に顔を出してるみたいだし、電話もそこじゃなく駅の公衆電話。時間も発覚してるのに調べないのかが疑問だな。まぁ喝入れたからするだろ」

 体たらくぶりに憤りを感じるが、急いで沼津に戻り調査を再開することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘書から電話が入り、今日出張から帰ってくると聞いたため、彼の会社で待ち構えることにした。

「あれか」

 黒のベンツがビルの前に停まり、後部座席から金剛が出てきた。

「おや探偵さん。御用ですか?」

「用があるから来たんです、俺のクラウンに乗ってもらいましょうか」

 後部座席に隣り合って座った瞬間、ケビンはPx4を彼のコメカミに突きつけた。

「ヒィ!な、なんなんですか!?」

「家族人質に取られててノコノコ帰ってきた人間のセリフじゃねぇな。何故電話に出なかった、言え」

「は、外せない会議があったんですよ、石材メーカーと新しい墓石作りの件で」

「普通なら仕事投げてでも家族を心配しそうなお前が、そっち優先させるとは思えん。本当は誰と会っていたんだ?」

「こ・・・この方です・・・」

 一枚の写真を見せてもらった。痛々しい恰好とはいえアナコンダだった。

「まさか本当に金渡したって話じゃないだろうな」

「げ・・・現金だけは」

「良いこと教えてやる。奴は金及び保身のためなら平気で人を裏切り、紙屑同然に始末する。たとえ女子供が相手でもな。お前はそんな相手と取引したんだぞ!」

「ひ、ヒィ!ご、ごめんなさい・・・」

 威厳の欠片のない彼が哀れになり、運転席にいた宏美が助け舟を出す。

「ケビン、生きていたんだから良しとしましょ?今度こうならないようにするのが得策じゃないかしら?」

「・・・フン、まぁいい。これから家族と話し合って今後のことをしっかり考えるんだな。今度は警備を強化することを薦めるぜ。ところで、奴とはどこで会ったんだ?」

「沼津港深海水族館。シーラカンスの展示場所で取引があったんです」

「随分近かったんだな」

「人質に取られて音信不通だと思った4日後、彼がそこで話をするって言ったんです。渡し終えるとすぐ、探偵さんから電話が掛かって来たんです」

「なんだそりゃ」

 まるで最初から殺すつもりがなかったと言わんばかりだ。現金を手に入れ、その後どうするのかはわからない。

「アイツの行動パターンだと考えられん」

 ケビンは改めて写真を見る。すると、彼の持っている団扇にダイヤの写真が貼ってあることがわかった。

「なるほど、彼女のファンでもあるってことか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 資金を調達し、フィリピンに逃げ帰る算段が出来た彼が未だ沼津に残っている。船が来ていないだけなのか、それとも別の目的を成し得てから逃げるのか、4人は手に入れた情報を照らし合わせることにした。

「新垣。まずはお前から」

「倉庫を爆破した爆弾は燃料タンクに張り付けたC4であることは間違いないでしょう。現在、情報漏洩については俺と公安、監察で調査中」

「オマルは?」

「駅の監視カメラにアナコンダと思われるラブライバー及び、複数名の日系人ボディーガードを確認しました。コート下に見える銃口から装備はAK74にF2000、MP5A4でしょう。ロッカーからC4を取り出していることが確認できます」

 タブレット端末で様子を映し出す。

「宏美」

「2日後に沼津の多目的ホールでラブライブの地方予選が開催されるわ。奴らがそこに来る可能性があるから警戒する必要があるわね」

「俺はアナコンダとは別に外港から沼津に潜入した複数人の外国人を確認した。これを見てくれ」

 自分用のタブレット端末を取り出し、監視カメラの映像を見せる。日付はケビン達が沼津入りした時と同じだ。パっと見るだけだと漁船に見えるが、それに見立てた輸送船だとわかる。

「5人全員アタッシュケース持ってるわ。大小それぞれね」

「身振りからして工作員ですね」

「そして拡大映像だ」

 1人の男のアップを映した。ケビンと宏美にとって見覚えがある男の姿があった。

「あっ!」

「星空光善。俺に近づいてきた男がいるってことは恐らくCIA関係者と思われる。目的は恐らく・・・アナコンダの暗殺だ、アメリカにも奴の麻薬が流れてる」

「危険を察して派遣ですか。にしては多いような」

「5人は多すぎる。せめて2人が妥当かと」

「どっちにしろ早く奴を捕まえないといけないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 遠くから悲鳴とバタバタと足音が聞こえる。ケビンと新垣はアサルトライフルを手に音のする方に走った。

「どうした!?」

 千歌の部屋の窓から華麗な宙返りで隣に飛び移る赤毛の少女を見る。

「探偵さん・・・えっと、梨子ちゃんがしいたけから逃げて・・・」

 千歌の足元にいる、しいたけを見る。

「そんなに凶暴に見えないけど」

 R5を収め軽くじゃらし、窓の向こうから声をかける。

「おーいケガないか?」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・だ、だいじょ」

 背中から見えるR5を見て即倒してしまった。

「ここからかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 桜内家にお邪魔し、家族及び梨子本人に自分達のことを説明する。

「我々はそういう者です」

「民間軍事会社って日本にあったんですね」

「ウチは国の許可を得て銃の携帯を許可されてます。一般人に向けて撃つことはないのでご安心ください」

「とは言っても、やっぱり銃を見ると怖いですね」

「俺もこれを使わないで解決したいものさ。だが、多くの案件がコイツが必要になってる」

 梨子の目には彼らが殺人鬼ではないことがわかった。目の内に狂気がなく、とても澄んでいるからだった。しかしあえてそこには触れず、沼津にいる理由を尋ねる。

「仕事だ。少なくとも君達が知っていい案件ではない」

 用が済んだと言わんばかりに立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 会場となる多目的ホールに足を運ぶ。駅の北口から東側にあるガラス張りのビルだ。周囲は建物に囲まれており狙撃で始末しづらい立地ではあるが、逆に大勢の人間が足を運びやすい立地になっているため、暗殺にはうってつけの舞台になっていることがわかる。

(CIAもアナコンダの動きを察知するはずだ、客に紛れてヤるだろう。問題はボディーガードが近くにいた場合、大勢の人間が犠牲になるのは必至だということ。いかに交戦せず奴を確保するか・・・)

 居場所がわかっていない今、急襲はできない。かと言ってCIAと対峙するにはメリットが少ないばかりかデメリットしかない。

(そういえばどんな奴だったんだろう、情報を流した奴は)

 途端、銃声が聞こえ悲鳴が上がった。現場に駆けつけると、オマルの映像で見た、アナコンダの護衛の特徴と似た男が側頭部左側を撃ち抜かれていた。貫通してその弾が女性の肩を掠めていた。向かい合うビルを見ると、工事をしているのかグレーの防音シートで覆われているのがわかる。

「救急車!警察も呼べ!」

 現場に人間が近寄れないようにし、駆けつけた警察官に保管を任せ、辺りを警戒する。

(・・・被害者の所持品にMP5A4、M9A1、スモークグレネードがあった。警戒していたのは確かだな・・・スナイパーに対抗するような装備ではないが)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅館に帰還し、金剛に電話を入れる。

「金剛さん、アナコンダはどうやってあなたに会う約束をしたんですか?・・・なるほどね、これなら足がつかないわけだ・・・それだけです、では」




 


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41話  夜間調査

 


 警察から連絡があり、思いもよらぬ知らせが来た。先日狙撃された同好会会長の遺体はダミーだという。

「歯形が違いました。どこからか別場所で狙撃し似せたのでしょう」

「どういうことだ、ダミーを置く必要性が見えないぞ」

 ダミーを置く理由があるとすれば、ターゲットから情報を聞き出すときか、死んだことにさせ整形しスパイとして潜り込ませるかぐらいだ。

(だが素人の大学生をわざわざ使うか?情報を聞き出すと言っても・・・もうソイツ終わったことは変わらんか)

 宏美が慌ただしく駆け寄り、ケビンに報告する。

「前日、地方都市のホテルで爆発事件があったよね、犯人とされる外国人の特徴が、ケビンが見つけた5人組の外国人と一緒だってわかったわ」

「ふむ・・・(もしかして、CIAとは別の組織か?)」

 

 

 

 

 

 

 

 一度再集結し、アナコンダがどうやって金剛に指示を送ったか説明する。

「金剛から、重要な情報を入手した。彼がどうやって指示を送っていたかの方法だ」

「電子機器使ったら逆探知されかねないですよ?このご時世、まさか糸電話だって、言いませんよね」

「まさか・・・この画像を見たら答えがわかる」

 ケビンは魔法使いが主人公の映画のポスターの画像を見せる。

「ケビン、頭打った?」

「魔法なわけないだろ。主人公の肩に乗ってるモノを見ろ」

「・・・シロフクロウですか・・・まさか」

「フクロウは夜間で飛ぶことが出来、訓練すれば狙った人間に、手紙ぐらいの荷物なら届けることが出来る。奴はペットのフクロウに金剛の顔を覚えさせ指示書も持たせ飛ばした。逆探知できるわけがない、アナログなんだからな」

「ってことはつまり、空見上げて一羽のフクロウを探せって言うんじゃ」

「効率の悪いことはしない。フクロウがいても問題のない場所を徹底的に探す、いいな」

 

 

 

 

 

 

 しかし、神社仏閣にある林から学校の裏山まで隈なく捜せるハズがなく、日が暮れる寸前、国木田元尚から電話が入る。最近夜中に森から人影が見えると言うものだった。ケビンはR5を手に夜の森に入っていく。

(人影か・・・ハズレじゃないことを祈る)

 ふと足元に違和感を覚え、ペンライトを取り出し照らす。

(ほぅ、ワイヤーか。特に爆薬があるわけじゃなく、出入りしたか否かのサイレントアラームか)

 低い位置の木と木の間に細い金属糸が見える。仕掛けに注意しながら進むと、木の葉や枝で擬装したテントを発見する。

(ここか・・・)

 テントを調べてみると一羽分のフクロウが入りそうなゲージに作戦資料、ダイヤの写真が貼られた団扇、修理中のマカロフが置いてあった。足元を触れるとまだ暖かいことがわかる。

(最近までいたようだな。足取りはともかく、これはデカイ)

 スマホを取り出し、中の様子を撮り、作戦資料の中身も拝借した。足音が聞こえたため、こっそり抜け出し木々の中に隠れる。しばらくして覗き見るとタヌキがテントの近くで通り過ぎて行った。

(化かされたか)

 持ってきた暗視機能付き小型カメラを設置し山を降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、オマルは多目的ホールの近くにある狙撃現場付近にいた。殺人場所となった現場は工事中止になり、入り口には見張りの作業員と警察官以外はいなかった。

(作業員の多くが日雇い。それをいいことに忍び込んでズドンっですか)

 オマルは疑った。あまりにも無防備すぎではないか、まるでその護衛が邪魔だと言わんばかりに偵察に行かせたかのようにも感じる。

(奴らの中に内乱が?あり得ますが、確信と言えるモノがないですね)

 ふと空を見上げると少量だが雨が降ってきた。

「帰りましょうか」

 帰ろうとした矢先、殺気を感じたオマルはAUGA2を取り出し構える。

「隠れても無駄ですよ。出て来てください」

 柱の陰からイタリア系の男が姿を現す。彼の手にはP90が握られている。

「尾行に気付くのが遅いんじゃないか?」

「いいえ、最初から気づいてました。ですが、互いに殺し合う気がないので気づかないフリをしてましたがね」

 AUGを肩に掛け、すぐに撃てない状態にすると、男もそれに応えるようにP90をしまう。

「パキスタン陸軍に優秀な工作員がいるって聞いてたが、君だったのかオマル」

「私のことをご存じなら、何をしていたかわかりますね」

「狙撃地点に残っている証拠の回収及び多目的ホールの観察。確かにここなら気づかれずに向こうの様子が見える・・・しかし」

「ここではライブステージは残念ながら見えない。アナコンダ狙撃は不可能と言えるでしょう」

 ずばり言い当てると、わざとらしい態度で拍手する。

「では、君をつけた理由はわかるか?」

「さしずめ、忠告でしょうか。アナコンダの件から手を引けってことでは?」

「残念、少し違う。俺達のリーダーからの伝言を頼まれたんだ、明日の予選会で現れるであろう奴を、どちらが先に確保するか勝負しようっとな」

「ふーん。フェアではないですね、偽物の死体を用意できるチームと資金が限られるこちらではワンサイドゲームです。ハンディぐらい用意してもいいんじゃないですか?」

「残念だけど無理だ。もう、ゲームは始まったばかりだからな」

「まぁ、そう来ると思いましたね」

 用事が済んだとばかりに男は去って行った。

(奴は恐らく、アナコンダの行動パターンを把握してますね。厄介な相手です)

 

 

 

 

 

 

 

 

 宏美はと言うと、カフェでPCと睨めっこしながら防犯カメラの映像を確認する。

「あぁ~!何もないじゃない!」

 イライラした様子で大声を上げ、周囲を驚かす。それに気づいた彼女は恥ずかしそうに小さくなってしまう。

(うぅ・・・こんなことならケビンと一緒に行動すればよかった)

 軍事関係出身の他のメンバーと違い、記者上がりの彼女が得意とするのは取材であり、決して監視カメラの分析ではない。

(もういいわ・・・旅館に帰りましょ)

 バスに乗り、無事旅館に帰ってくると、先に帰っていたケビンが布団に入らずに壁に寄りかかったまま眠っている。

(お疲れ様。でも布団で寝なさい)

 顔をつねったりくすぐったりしても起きないため、鼻をつまんでみると勢いよく飛び起きた。

「ウオッ!頼むから寝てる間に鼻を塞ぐな!」

「ごめんなさい、でも布団に入って寝なさいよ」

「あーあーわかったわかった」

 自分の母親みたいな態度を取る彼女に押され、渋々布団に入って眠りについた。

(彼と私とじゃ、生きる世界が違う。でも、彼の支えになりたい)

 予選会まで、あと数時間。果たしてどう転がるかは天のみぞ知る。

 




 この三つ巴に終着は来るのか・・・


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42話  ヘビの頭に食らう牙

 BF3のテーマと共に読んでください


 予選会当日。ケビン・オマル・新垣は委員会に働きかけ、会場の警備に当ててもらえるようになった。敢えて銃を見せることで威圧感を与え、アナコンダが迂闊に動けないようにし、同時にスクールアイドル達に対して興奮し襲い掛かる暴漢達を鎮圧させる狙いがあった。会場が開く前に、最近進出し、合同で仕事する地元特別警備会社の職員にも通達することにした。

「このライブ会場に国際指名手配の男が現れる。護衛も同行するだろうから、銃身の短いサブマシンガンかアサルトカービンを携帯。多くを巻き込むフラググレネードは使用禁止、使うならスモークを持ってくれ」

「了解。ところでケビンさん、敵の装備はわかってんのか?」

「敵はAK74、F2000もしくはMP5A4を武装してる可能性大。ただし、彼らを狙っている連中は俺達だけじゃないのが問題だ」

 外港から沼津に入る男達の写真をテーブルに置く。

「こいつらは?」

「所属不明の武装集団。三つ巴になるのは確かだが、彼らとは交戦しない方向で行く。1人だけ身元が割れたからだ」

 イタリア系の男の顔写真を見せる。

「コイツは元DEAFASTA、コードネーム・シュガー。北海道・札幌を恐怖に陥れたスナイパー、ゴーストと交流があることがわかっている」

 全員、背中から戦慄を覚える。遠くの沼津にも影響力があったようだ。

「残り4人の1人にゴーストがいると思われる。スナイパーを敵に回すことほど怖いものはない、したがって交戦は許可しない」

「わかった。だが、ひとつ質問いいか?アナコンダの目的はなんだ?」

「複数ある。一つは日本撤退も兼ねた新薬の臨床実験、ハッシシの強力版を関東の大学生達に使わせ兵器としての実用性を確認すること。その大学生達は我々によって射殺及び拘束されたため、次の目的を実行した」

「逃亡資金を地元綱本の黒澤金剛からせしめること。これは簡単すぎるほど早く終わりました」

「そして次が重要。Aqoursメンバー、黒澤ダイヤ、松浦果南、小原鞠莉の誘拐。目的はフィリピンの自宅で飼い慣らすことだ」

「か・・・飼い慣らすって」

「奴のアジトに面白いことの書かれた作戦資料を押収しておいた・・・正直、呆れたがな」

 

 

 

 

 

 

 

 宏美は地元特別警備会社から借りた爆弾探知機を使って周辺のあらゆるものを振るいにかける。

「爆弾は無さそうね。あってもオマルが解除するでしょ」

 クラウンに戻り、気楽な態度でPCを開き、監視カメラの映像を見る。やはりターゲットらしき人間は見当たらない。

「変装してるかもしれないわね」

 ふと窓の外を見ると、雨が多く降り出した。まだ二月にも関わらず。

「(酷い雨・・・雪よりはマシね。でもおかげで視認し辛いわ)ケビン、外は大雨よ。音に紛れての襲撃もあるから気をつけて」

「了解」

 いつも以上に警戒しながら巡回していると、入場してくるファンの中に星空らしき男を発見する。

「おい、あの男を追え」

 ケビンは近くにいた警備兵に指示し、星空を追わせる。

「こちらアルファ、男はトイレに入った模様。追跡を続けます」

「了解。油断するなよ」

 トイレに入り、M9A1を手に警戒しながら進む。大便器のある場所のドアを下から覗き、有無を確かめるが、いない。

「東京モンの見間違いか?」

 後ろを振り向くと、その星空らしき男が立っており、アルファの視界が一瞬にして消えた。しばらく経っても報告がないため、ケビン自身がR5を手にトイレまで行くと、便座に座ったまま事切れているアルファの姿があった。眉間に穴があることから、サプレッサー付きの武器で撃たれたことがわかる。

「(消されたか。まずいな)ケビンから全員へ、アルファがやられた、厳戒態勢を敷け。トイレ付近にいる兵士は清掃員に変装し死体袋を用意しろ」

 清掃員に変装させ死体を運ばると、ケビンは改めてトイレを確かめてみる。ドアを閉めて下から覗くと足元は碌に見えず靴が辛うじて見える視界だとわかる。しかし、上はかなり広く、170センチほどの身長でも登れば脱出も容易だとわかる。襲撃者は靴を脱ぎ、登って隣のトイレに忍び込み、隙をついてアルファを攻撃したのがわかった。現場になかったため、既に靴は回収したものと思われる。

(既に観客に紛れてるかもな。だが、何故アルファが撃たれる必要があったんだ?俺達とは関係ないからか?)

 客を一度、会場から退出させ外で待機させていた宏美も呼ぶ。捜査の結果、爆発物はなかったが、アルファが何故殺されたのかわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋葉原のメイド喫茶で働くミコトは休憩室で休んでいた。ここでも雨で、窓が濡れているのがわかる。

(あの時も、雨だった・・・初めて先生に会った、あの日も)

 佇んでいると、一緒に休憩に入ったことりが声をかけてきた。

「どうしたの?お客様にそんな悲しい顔見せちゃダメだよ?」

「あ・・・すいません・・・」

「当ててあげる。探偵さんの事、考えてたでしょ?」

「う・・・あ、当たりです。出会った時、雨でしたから」

「へぇ。でも、出会ったときのことじゃないでしょ?そう・・・宏美さんに対しての嫉妬!」

「もう嫉妬してません。先生が今回の任務終わったら、宏美さんにプロポーズするってこと、知ってましたから」

「・・・え?ホント?」

「二人は両想いです。先生から聞く前に、宏美さんが私に好意があるって話してくれたから」

 前日、宏美とミコトはカフェで落ち合い、互いの心の内を晒し合った。

「その時わかったんです。私ではなく、宏美さんの方が先生に近いうえに良いパートナーになるって・・・寂しかったけど、いい思い出です」

「そう・・・でも、危険な目に晒される必要がなくなったよ。探偵さんのお仕事って凶悪犯ばっかり相手してるから、ミコトちゃんみたいな普通の女の子を、自分の近くに置きたくないって思ってたんじゃないかな?」

「・・・戻ります、仕事に」

 ことりが気まぐれにテレビをつけると、速報が流れていた。沼津駅周辺で大規模な銃撃戦が発生、交通機関及び多くの一般人が被害を被っていると報道されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2017/2/14 昼間

 

 駅前に、バンから降りてきたサングラスを掛けた集団が現れ、突然AK74を取り出し空へ向かって発砲した。それに驚いた通行人たちは逃げ出し、駅の北口周辺は一瞬にして戦場となった。そのことに気がついたケビンは大部分を引き連れ戦闘を開始し、残りのメンバーは逃げ遅れた民間人の救出及び治療に専念させた。

「敵は何人かわかるか!」

「おおよそ100名、全員がケビンの予想武器を持っています!」

「了解。全員、車両を遮蔽物にし応戦!スモークで敵の視界を遮るんだ!」

 前代未聞の銃撃戦に地元警察もこちらに加担するが、装備がベレッタM9と最低限のものなだけにあまり戦力にならないと判断したケビンは、会場内の一般人のいる場所まで行くよう指示する。

「ここは俺達に任せ、アンタ達は奥にいる一般人と一緒にいてくれ!」

「我々も戦う、機動隊の繋ぎぐらいには」

「手が震えて弾が敵に当たってない!そんなに銃を向けるのが怖いなら、ホール内にいる一般人を安心されてくれ!」

 新垣に警官達を護衛させ、再び戦闘に戻る。最後の一人を倒し終え、現状を確認する。

「無事か!?」

「5名負傷、3名死亡。強襲こそ退けましたが、仲間が・・・」

「巻き込んでしまってすまない・・・敵の死体を確認するぞ」

 全員で死体の顔を確かめることにした。東南アジア系と日本人がおり、彼らの持っていた身分証から行方不明になっていた一般人であることがわかった。彼らの口内を調べると、独特の香りが漂う。

「これは・・・新型ハッシシ・・・造られた兵士ってことは」

「彼らを捨て駒に逃亡を図ったと考えるべきでしょう」

「なら急ぐぞ、向かった先はわかってる」

 ケビンとオマルはハマーで沼津外港へ向かう。その途中、予想していた事態が発生した。大型トラックでアナコンダ一味が追ってきたのだ。窓から身を乗り出し、R5で運転席にいるドライバーを狙う。

「どんだけ大将逃がすのに精一杯なんだか!」

「さぁ知りませんね。とりあえず頭潰せば弱体化でしょう」

 この非常事態に冷静なオマル。ドライバーの頭を撃ち抜くと派手に横転し、複数の車を巻き込みながら炎上し、停まった。

「ぶっ飛ばすぞ」

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 外港では東南アジア系の中年が数人の幹部級の部下を引き連れて迎えのクルーザーを待っていた。

「いやぁ最後は残念だった。ダイヤちゃんのパフォーマンスを見られなかったのが」

「左様ですな。かの陸軍中将、トーマス・ハミルトンの息子、ケビンが我々の計画の邪魔をしたばかりに、日本にはいられなくなりますからな」

「多くの国で入国禁止されてる我々だ、今さらだろう?」

 変装用のサングラスを外した男が落ち着いた口調で部下を諫める。彼こそが麻薬カルテルのボス、アナコンダだ。

「もう日本には用はない。これを中東・アフリカのレジスタンス及び、政府関係者に売れば良いビジネスになるだろう、来たようだぞ」

 手にしたジェラルミンケースを手に不敵にほほ笑む。

「おっと待ちな、このクルーザーに乗ることはできん」

 動こうとした瞬間、鉛玉が足元を弾く。アナコンダはゆっくり飛んできた方向に振り向く。

「初めてだな。まさかこんな優男がリーダーだったとはな」

「こちらも聡明な青年が軍人の息子だとは、思いもしなかったよ。コードネーム、グレイ・ウルフ。ケビン菊地伍長」

「俺の前歴を知ってるのか?だったら話が早い、大人しく連行されろ」

「勇ましいことは結構、だが、私は逃げるのが得意でね」

 オマルは足音に気がつき、振り向くと、数十人の部下がこちらに向かってAK74を構えていた。

「ゲームオーバーだよ、君の父君のように土の中で眠るがいい」

 その時だった。クルーザーが大爆発を起こし、近くにいたアナコンダ一味を吹き飛ばし、港口公園の方向から何者かが狙撃し頭を撃ち抜いていく。

「今です!」

 二人は背後の敵を排除し、アナコンダの眉間に銃口を突きつけた。

「どうする・・・君の父上も似たようなことをしたよ・・・あの時は助かったがね」

「ケビン!」

「わかってる、やることは一つだ」

 顔面を勢い良く踏みつけ、気絶させた。遠くからサイレンが響き渡っているのがわかる。

「殺す前に親父のことを聞き出す。殺しても生き返らないからな」

 港口公園の方向を見るが、誰もいない。既に役割を終えたのだろうか。

(蛇の頭を潰した、組織は弱体化するだろう。同時に、沼津の街もボロボロだ・・・コイツのエゴで、大勢の人間が犠牲になった。今度こそ、年貢を納めてもらう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、事務所に帰還し使った銃のメンテナンスをする。

「終わったな。宏美、冷蔵庫の羊羹取って来て」

「私もクタクタよ・・・何人の一般人を看護したと思ってんのよ」

「まぁまぁそう争わないでください。今日の打ち上げはミスター新垣が奢るらしいですし」

「ちょっ!そりゃないでしょ!?」

 この事件で公務員より迅速な行動が可能なPMCの重要性が証明されたものの、復興には多くの時間を要する結果になった。しかし、死亡者の中に一般人はいなかったことを考えると、良かったのかもしれない。ケビン達は報酬全額を沼津復興に回すことにした。

「親父と母さんの仇がアナコンダってことがわかっただけでも、いい収穫だ。復讐は果たした、未練はない」

 メンテナンスを終え、浮かない顔のまま、自室へと帰って行った。

「トーマス中将を危険とみなした奴が車に工作し、事故に見せかけた・・・一番悲しかったのは、日本を離れていたケビンだったかもしれないわね・・・」

「私達が出来ることはありませんよ。見守っていきましょう」

 雨が上がり、月が見える夜。ケビン達は細やかな祝杯をあげるのだった。




 狼の牙は欠けない


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43話  日常

 


 アナコンダ事件も終わり、ケビンは普段の仕事に戻っている。変わったことと言えば宏美と同棲することになったことだろう。先日引っ越しも終わり、嘘のように平和だった。

「ケビン、そろそろ桜が咲くころよね?」

「そ、そうだな。だが花見なんてする輩にみえるか?オマルと新垣が」

「そうだけど、二人で見に行かないかって聞いてんのよ」

「・・・仕事を押し付けることになるけど、行こうか」

「へへん、そうこなくっちゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 書類仕事も終わり、休憩していると珍しい客が入ってきた。

「いや~この間はお世話になりました」

「笹山社長、それに、にこちゃんまで」

「社長。どうして私も来なきゃいけないの?」

「にこちゃん、これも映画のヒロインに抜擢されたからだよ。探偵さん、射撃のご指導」

「却下です。ウチは射的屋じゃないんです、それに銃の危険性、ご存じのハズでしょう?」

「そ、そうですが、彼女はスパイアクション系映画のヒロイン役として抜擢されて、実物を持たせて訓練させてほしいって監督が仰っておりまして」

「監督?」

 笹山は懐からA4のポスターを取り出す。にこがM10イングラムの握ってポーズを決めている。トリガーに指をかけているのがわかる。

「特命スパイ・リトルフェアリーって映画のタイトルなんだけど、いいでしょう?」

 笑顔の笹山と正反対にしかめっ面のケビン。

「社長・・・今すぐこの監督の仕事は取りやめにすることをお勧めします」

「え?」

「証拠はこのポスターに二つあります、よく御覧ください」 

「?カッコカワイイですね」

「一つ目は銃を握ってる際、トリガーに指を掛けない。気が緩んで暴発し、思わぬケガをする」

「た、確かに!」

「そしてもう一つは・・・」

 イングラムに指を差す。

「この銃は明らかに隠密活動向けではない、彼女が使うなら、9mmハンドガンを使うべき!」

「・・・え、そうなのですか?」

「この資料を見てください」

 ケビンはサブマシンガンの射撃テストの結果を見せる。

「にこちゃんが持ってるM10は45ACPと呼ばれる高威力な弾を使ってる。そもそもこの銃は一発一発を狙って撃つ銃ではなく、弾を連射し、ばら撒くようにして撃つ銃。反動もバカにならないから小柄な少女が使うには厳しい。先ほど言ったとおり、スパイが喜んで使うハズがありません。使うなら、コンパクトかつ命中力がある拳銃を選ぶでしょう」

「た、探偵が言うのなら・・・間違いないです」

「理解していただけましたか?なら、お引き取りを」

 途端、中途半端なハゲの目立つ男が入ってきた。

「おい探偵!ワシの映画に協力しろ!」

「か・・・監督!」

「監督?彼が?」

「白樺陽一。ジャパンガンマンシリーズを作成した映画監督よ」

「あの駄作映画の監督・・・さっさとお引き取り願いたい」

「て、てめぇ!俺をバカにすんのか!」

「映画を見た感想ですよ。遠距離の敵相手にサブマシンガンでフルオートしたり、ハンドガンの名前を間違えたり・・・ハッキリ言って銃のプロが見たら激怒する内容ですからね」

「上等だ!本物出しやがれ!」

 頭に血が上っている陽一に弾を抜いたPx4を見せ、それを手渡す。

「ほぅ・・・グロッグか、いい銃だな」

「おっさんやっぱガンアクションやめろ。ベレッタPx4だ、どこをどう見てグロッグって判断できるんだ?」

 Px4を取り上げ、自分のショルダーホルスターにしまう。

「ぐっ・・・」

「それに、人にモノを頼む態度でもないしな。天才って言われて天狗にでもなったのか?」

「こ、ここまで言われるとは・・・」

「あなたは取材が足りない。だから駄作映画って言われるんだ。良いものを作るなら俳優選びも重要だけど、話がダメだったら最悪だ」

 先ほどとは違い、しょんぼりした顔で事務所を後にする白樺。

「た、探偵さん、言い過ぎでは?」

「正直、この前の件でイライラしてたんだ・・・実際に映画面白くなかったけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依頼を受けることなく、再び静かな事務所に戻る。自分の椅子にもたれかかり、うなだれる。

「はぁ・・・ダルい」

「嵐のようだったわね。大丈夫?」

 大丈夫じゃないと言わんばかりに手を横に振る。

「二人休みなんだから、事務所閉めてもいいんじゃない?疲れてんだし」

「ウチは不定休だって知ってんだろ?今度はまともな依頼人が来ると思うぞ」

 数分後、ロバートが訪問してくる。

「お疲れ様。ケビン、どうしたの?」

「見ての通り、面倒な客に疲れただけです」

「実戦と比べたら?」

「実戦の方が疲れない」

「うーん・・・まぁ部下の様子がわかったし、本題に入るよ。アナコンダの残党が護送される奴を救出しようと画策しているんだ。残党と言っても武器もあるわけだし油断はできない。警察庁からの正式な依頼だ、引き受けてくれる?」

「いつ作戦実行です?」

「5日後。奴には手錠及び身体にGPSを組み込んで、頑丈な護送車で成田まで運ぶ。そこから国際裁判所で裁きを受けるって算段だ。みんなには東京~成田まで警護してほしい。武器は自由、爆発物の使用は許可、頼めるかな?」

「・・・俺達だけじゃ厳しくないです?もしかしたら、ゴースト達も狙ってる可能性も」

「確実に現れるだろうね、車から飛行機に乗るところを狙撃するかもしれない。成田空港にはSATも配備されるから、連携も忘れないでね」

「これだけ情報があるなら、引き受けます。・・・アメリカではどのように?」

「僕達が引き継ぐ。久しぶりに前線に立つよ」

「スケアクロウがお出ましですか・・・失敗したら?」

「まぁ咎めないよ。なんたって、極悪非道だし、報酬も最近減ってるし。公務員じゃないんだからケチらないでほしいよね。じゃっ、またね」

 笑顔で事務所を出て行った。今度はR5を持ち、射撃訓練しに向かった。この時のスコアは普段よりも高いものだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンは気分転換に本屋に行くことにした。探偵神宮寺三郎の新作小説が今日販売だからだ。

(待ってたぞ、さぁ一日で読破するぞ)

 目的のものを買い、満足げに帰ろうとすると、悲鳴が聞こえる。ひったくりが現れたらしく、事務所の方角へ逃げているのが見える。Px4を抜き、ひったくりに発砲。弾丸は通行人の間を通っていき、肩に命中する。突然の痛みに勢いよく転げていった。ひったくりに近づき、銃口を向ける。

「動くな。盗んだものを渡せ」

 無理矢理奪うと、グリップで頭を殴り気絶させた。被害者に盗品を返すと、そのまま帰っていった。

(9mmと言っても、人混みで使うもんじゃないな)

 気分が沈んだまま戻ると、穂乃果とことり、海未、ミコトが遊びに来ていた。

「おや遊びに来てたのか?」

「えぇ。今からカラオケに行くんですけど、ご一緒しませんか?」

「そろそろ高校卒業ですから、思い出作りにと」

「一緒してもいいけど、俺下手だよ」

 結局、一緒に行くこととなったが、ケビンの歌のうまさに誰もが肝を抜いたのは知る由もなかった。帰り際、ことりは母親にこう言った。センスは難ありだったけれども、もし同世代だったら、自分達より人気が出たかもしれないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。ひとりで報告書を読み終え、東京~成田までのルートが記された地図を見る。

「高速を使い、空港へ入る時も特別車両が入るところから入り、飛行機でニューヨークか。高速でカーチェイスする可能性もある・・・いや、銃撃戦も考えられるな。どちらにしろ一筋縄じゃあないな」

 ケビンの予感は大いに当たり、困難を極めたことは言う間でもなかったが、それは後の話である。




  ケビンの選曲:セガサターン、シロ!等の熱い曲しか歌ってない


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44話  昔話

 暖かめです


 ケビンは事務所で書類仕事をしていた。昼休みに入ろうとしたその時、穂乃果とことり、海未が事務所を訪れる。

「連日来るなんて、どうした?」

「みんな受験終わったから、探偵さんのところに遊びに来たんです」

「ここは女子高生のたまり場じゃないんだが・・・まぁいい、俺は何をすればいいんだ?」

 穂乃果が挙手した。

「どうして、探偵になろうと思ったんですか?」

「穂乃果!いくらなんでも失礼ですよ」

「構わないよ。探偵になった理由じゃないけど、昔の話ぐらいはしてあげる・・・紛争地、アフリカにあるL国で任務に就いていた時だ」

 

 

 

 

 

 

 

 当時22歳。トライデント・アウトカムズの仕事の一つに依頼人の護衛がある。レジスタンスのピエールと言う男の警護をしていた。

「俺はピエールのことは同じキャンプの兵士に聞いた、なんでも今の独裁政権に反抗し革命を成し遂げる、ただ一人の男だと。皮肉気味に言ってたから俺は疑問に思った。英雄を持ち上げた挙句、私利私欲に走るパターンが多かったし、何せ民主主義のミの字を知らない連中が革命だなんだを起こすんだ、また元の木阿弥になるってわかったんだ」

「カリスマ性はあったんですよね」

「夢を実現しようとしたのは事実だ、学はあってなかったようなものだったがな」

「どういうことですか?」

「勉強できるバカってことだ。アイツは机上の空論を実現しようとした、ロマンチストだったのさ。だから現実に背を向け、自ら戦いに出ようと思わなかった臆病者」

「探偵さん、酷評ですね」

「一つ教えておく、革命には金と血が必要だ。血を流さず、言葉だけで国を動かそうとしたけどな、ほぼ信頼なんてないに等しかった」

 思い出すようにゆっくりコーヒーを飲む。

「だが転機が訪れた。奴の幼馴染、ハンスがイギリスから帰国したんだ。彼はそこで民主主義の何たるかを学び、革命軍にわかりやすく説明した。ピエールより兵を動かすのがうまかったから、次第に彼に権力が動いていった」

「でもそれって、ピエールさんにとって面白くないんじゃ」

「そう。アイツは自分について来てくれた兵士と弾薬、資金の半分を土産に政府軍に寝返ったんだ。まぁ続きはお察しの通りだ」

「ど、どういうことですか?」

 話について行けない穂乃果がケビンに問う。

「・・・まぁ、なんだ・・・バカだったんだ」

「教えてくださいよ!」

「穂乃果ちゃん探偵さん困ってるよ?」

「でも、穂乃果にはわからなくていいのでは?」

「そうだな。金が無い軍隊に勝ち目はないと思われたが、ダイヤモンドの密輸で資金を得ていた。ヤミだろうがダイヤはダイヤ、高値で売れた。その売上金で一般人の生活にあて、残りで武器を買った。そんな日々が続いたある日、決戦と言える戦いが始まった。首都近くのサバンナのど真ん中で鉛玉と砲弾の雨、悲鳴が飛び交う中、俺はM4A1を手に戦った。900発撃ったところで武器が壊れ、敵のAKを奪ってどうにか生き延びた。革命軍が勝利したが、残ったのは屍の山と破壊された兵器の残骸。戦いのあと、その足で攻め込み、独裁者を逮捕。革命を成し得た。現在は俺達の支援を得ながらアフリカでも安全な国へと統治してる」

 終わったような口調で再びコーヒーを飲む。

「その後、俺は日本に帰国して探偵業もするようになったんだ。顔の傷もL国での戦争の傷だ」

「アフリカの情勢を生で聞けるなんて・・・」

「探偵さん、ご無事でよかったです」

「まぁ俺にもいろいろあったってことさ。今日はここでお開きにしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人が帰ったのを見届け、上へあがる。自室のテレビでゲームで遊ぶ宏美がいた。

「ねぇこれ難しくない?古いゲームだし、キャラ強烈だし」

「せがた三四郎の真剣遊戯か。熱くなるだろ?」

「まぁ暑苦しいわね・・・道着着たおじさんが熱血ミニゲームするから」

 例のテーマ曲が流れると、思わずケビンも口ずさむ。

「まさかケビンがゲーム好きだっただなんて、信じられないわ」

「新型ゲーム機のFPSもTPSも把握してるぞ」

「しかも銃撃戦ものばっか、仕事じゃないなら考えなくていいじゃない」

「職業柄、とでも言っとこうか」

 ケビンはソフトを取り出し、宏美の近くに置く。

「気が向いたらやってくれ。事務所閉めてくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所の玄関の鍵を閉め、気分転換に街を歩く。近所の店の売り子から電気屋のオヤジまで、彼を見かけた人間は挨拶してくれる。

「探偵さん、また定食屋かい?」

「探偵の兄ちゃんカメラ買わないか!」

「ケビンさん一緒に新作メニュー考えてくれ!」

「兄貴頼む、格ゲー一緒にしてくれよ!」

(俺がここに来て間がないってのに、信頼されてんだな。依頼を通じていろんなことにチャレンジしたのが昨日のことのようだ。アフリカや中東の戦場じゃ、まず考えられない、温かさが心地よく感じる)

 ふと自分の手のひらを見る。自分で触れてもわかるぐらい固く、逞しい。

(数日後にはアナコンダ護送作戦が開始される。また俺は戦場に立ち、銃を握る。昔は死んでも構わないと思っていたが、ミコトちゃんや大隅さん、依頼人達、何より宏美と出会って、生き残ってまた会いたいって思える人達が出来て変わった。必ず依頼を遂行し、帰ってくる)

 向かいのビルの屋上から視線を感じ、そちらに向く。

(やはりいたか。俺を殺りたいかもしれないが、まだ死ねないんでね)

 再び目線を前に戻し、事務所に帰っていった。




 男はただ、歩みを続ける


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45話  報い

 任務当日、影はゆっくり動いていた


 護送任務当日。街頭モニターでもアナコンダ輸送が報道され、全国的に感心が高まるなか、ケビンは任務前にオマル、新垣、宏美を集める。

「これは護送作戦だ。残党共が奴の救出にどんな事をしてでも行われると思われる、宏美は警察庁内の作戦本部でNシステムを用いて不審車両がいないかのバックアップ、ハマー運転は新垣、銃撃は俺とオマルだ」

「了解。武器はアサルトライフルですね?」

「そうだな。バックアップは忘れるな、不安ならもう一つメインを持って行ってもいい。弾薬は予備を積んでいくから安心してくれ」

「ありがたいですね」

 次に車両配置図を置く。

「真ん中の大きい四角がアナコンダ。上下左右にある、小さい四角が俺達とSAT車両、他PMCだ。上空からはヘリで監視するし、先ほどのNシステムもフル活用する。なお、俺達が通行する間は全面通行止めになってるから、ICから入ってくる車両があったら射撃しても構わない」

「PMCの名前はわかりますか?」

「オーストリアに本部を置く、新参者のカイロス・セキュリティーだ。ウチの他にいるのが不思議だから彼らもマークしておこう。もしかしたら、ってこともある」

「確かに」

「この作戦は失敗は許されない、何としても襲撃者を始末しニューヨークまで届けるんだ。以上、質問は?」

 全員が首を振る。

「よし、準備して行こう。出発は10分後、解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京拘置所から出発した護送車は、首都高速から成田空港へ向かった。沿岸部を通るルートは一般的で襲撃されても逃げにくい場所であるが、それは自分達も同じことだった。

「海も見せてくれないのかね?」

 人を食ったような笑みで監視の警察官に声をかける。

「脱走するつもりだろうからな」

「手を拘束され、体にGPSを埋め込まれてんだ。逃げても意味がない。私も歳をいってる、逃げられないよ」

「・・・」

 監視達は静かにその場を制する。

「君達に人生を楽しむ、唯一の方法を教えてあげたい。それはだね・・・」

 途端、タイヤがバーストした音が聞こえ、車が急停車した。監視員の一人が後ろのドアを開き、外の様子を見る。

「スパイクが仕掛けられていたぞ!クソ、多くの車がやられた!」

 残ったのは一部SAT車両と軍用に改造されたケビン達のハマーと装甲車、カイロス・セキュリティーのジープだった。

(不測の事態に陥ったか。部下が作業員に扮して設置したのだろうな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 警察庁作戦本部では、GPSからの位置情報を映した画面を注視する、偉い方々が口論をしていた。陰で呆れた表情でせんべいをかじる宏美。

(一番安全だけど、一番疲れる場所にいるかも・・・)

 Nシステムの画像を見ていると、下り車線に不審車両を見つける。マイクを手に取り、ケビンにオペレートする。

「ケビン、みんな、向こうから複数の車両が来てるわ。迎撃できる態勢を作って!」

「了解した。全員武装せよ!」

 タイヤが減った音が聞こえ、AK74、PKP、PP―19を武装した兵士達が現れ、ケビン達の襲い掛かる。

「車を盾にしろ!PKP消すまであまり姿をさらすな!」

 隠れながら射撃し、前に出られるところでは徹底的に出る。

「グレネード!」

 オマルの足元に転がって来たそれを拾い、敵に投げ返す。こちらの想像以上の反撃に押され、最後のひとりが倒された。

「クリア!」

「オールクリア。しかし、呆気ないですね」

「まだ似たような奴らが来る、そう考えた方がいい(しかし、ヘリの奴らは何をしてる。まるでサボってるみたいじゃないか・・・上空から見えるだろうし、予め教えてもいいハズ)」

 ケビンは護送車の様子を見る。中を開けると衝撃的な光景が映っていた。監視員全員が殺され、アナコンダがいなくなっていたのだ。

「やられた・・・奴が逃げたぞ!」

 叫んだ瞬間、カイロス・セキュリティーのジープが急発進した。後方座席にアナコンダがいるのがわかる。

「急いで追うぞ。絶対に逃がすな!」

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ直線コースのカーチェイスを、報道の連中がヘリを飛ばし生中継していた。全国に流れ、警察は記者会見を開き、苦し紛れの説明をし、本部内は混乱に陥っていた。そんななかでも宏美だけは冷静になりカイロス・セキュリティーについて調べてみることにした。その結果、存在すらしない、幽霊企業であることが発覚した。

(何やってんのよ警察は・・・調べたらわかることなのに、どうして)

 隣の席に座っていた女性オペレーターが肩を叩く。

「SATとSITが仲が悪いことはご存じですか?似たような任務に配属される二つの部隊ですから、出会い頭に派閥争いみたいになって、任務どころじゃなくなってしまうんですよ。だからSITには成田空港で待機させ、SATが護衛するみたいな形になったのですが、人数が足りなくて、おたくとカイロスに依頼したんです。あっ、これは上の会議の話を盗み聞きしたものですよ」

「・・・どいつもこいつも意地っ張りばっかりなんだから・・・ケビン、殺傷許可が下りてるから、殺しても差し支えないけど、できるなら捕縛して頂戴ね」

「わかってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 障害物がないがSAT車両が破壊され、一対一の勝負。敵が成田空港方向にハンドルを切ったことを確認すると、こちらもそちらに向かった。

「もうすぐ空港だ、SITの連中も待ち伏せしてる。協力して捕まえたいが、装備が心許ない連中だ、さっさと追いつこう」

 敵護衛を全て倒し、途中、高速を降りる。しかし、それでもまだスピードが落ちておらず、ゲートを無理矢理突破してみせた。

「その先の大きな道路はカーブだ、そこで追いつけ!」

 カーブに差し掛かり、膨らみながら曲がる瞬間を狙って平行に走り、R5でドライバーの頭を撃ち抜く。車は暴走し壁にぶつかりながら停まる。さすがのアナコンダも瀕死したかと思うような傷を負いながら脱出を果たす。急停車し、3人は降り、彼の元へ走る。

「ぐ・・・君達も欺けたかと思ったのに・・・」

「ここで殺してもいいが、檻の中にぶち込むのが任務だ。さっさと拘束しろ」

 途端、ヘリの音が近づいてきたかと思えば。SR-25を持った男がアナコンダに狙いを定め脳天に3発撃ち込んだ。ヘリは急いで引き返す。

「野郎ふざけやがって!」

 R5を連射し、ヘリを落とそうとするがこちらの攻撃が当たっていない。

「よしなさい!もう、終わったのですよ」

 悔しそうに地面に仰向けで倒れ、声にならない叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦から数日後、防衛省から報酬を受け取り、臨時休業することにした。宏美が調べた結果、警察庁のトイレで本物のパイロットが下着姿で拘束されていたらしく、変装して任務に尾行していたという。

「奴の目的がアナコンダ殺害か・・・俺は沼津で殺せばよかったのか?」

「ケビン、あなたは間違ってないわ。復讐で殺すのは簡単よ。でも、人間として正しいかは別。殺さないで司法にかけようとしたのは正しいと、私は思うわ」

「宏美・・・」

 チャイムを鳴らす音が聞こえる。外では宅配業者が待っており、荷物を受け取ると、早速開けてみた。

「何かと思えば、ラブライブのチケットとサイリウム、沼津土産の干物が届いたぞ。千歌ちゃんの実家からだ」

「あら、気が利くわね。今度の休みに開催されるらしいから応援しに行きましょうよ」

「行ってみるか、彼女の好きな大会を見に」

 二人は希望を胸に膨らませるのだが、その日に別の場所で事件が起こるとは知る由もなかった。




 長編終結


 


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46話  探偵業復活、そして

 彼らは人々のために動く。己が正義のために


 準備を終え、ラブライブの会場へ足を運ぼうとしたその時、久しぶりの顔に出会う。

「ケビン、ちょっといいか?」

「どうしました根岸さん?」

「実は、依頼なんだがちょっと多くてな」

 そのリストを見せられ、思わず頭を抱える。

「今日中にやってほしい依頼が、下着窃盗事件解決に通り魔の確保、迷子捜しに身代金受け渡しの同行・・・総動員すればいけますが」

「引き受けてくれるのか!?」

「えぇまぁ」

 ケビンはオマルと新垣を呼び、依頼内容を確認させる。

「今回はチームプレイが必然的にできませんね。それぞれ請け負う形になりますから」

「どれか選ぶとしたら、オマル、お前ならどうする?」

「通り魔の確保ですね。工作員として尾行と張り込み得意ですから」

「俺は身代金受け渡しを。子供が苦手でして」

「私は・・・迷子捜しにするわ、一番危険がないかもだし」

「余った下着窃盗事件は俺がやる。根岸さん、報酬は個別でよろしいですね?」

 根岸は納得した様子で帰って行った。

「念のため、銃携帯を許可する。何を持って行くかは自由、以上解散」

 

 

 

 

 

 

 

 

 新垣は早速、秋葉原署に向かい、身代金受け渡しの仕事をすることにした。何でも、矢澤にこの妹が誘拐されて、親御さんがなけなしの身代金を指示通りの紙袋に入れ、取引先のスーパー銭湯の更衣室のロッカーに入れて張り込みをし、ロッカーを開けようとした人物を確保するという、鉄板な作戦らしい。

「誰も来ないですね。根岸さん」

「使用禁止の張り紙を張ったロッカーを昼間っから開けはせんよ。不用心すぎるし、捜査員も客に扮しているんだ、バレはせん。それはそれとして、そろそろ交代の時間だし、風呂に入ろう。更衣室にいるだけじゃ怪しいからな」

 ところが、二人が風呂に入って上がったとき、ロッカーの中の身代金が無くなっていたのだ。依頼失敗に頭を抱える新垣。お気楽ムードを作った根岸は沈んだ顔で励ました。

「まぁ人質は生きてなんぼだし、根気よく解決しよう」

 

 

 

 同時刻。渡された写真の少女を駅前で偶然発見し、交番に送り届ける。

「さぁて・・・どこに行こうかしら。とりあえず、オマルは無しね。戦力にならないから。新垣君の仕事もすぐに終わるだろうし、ケビンの仕事、手伝いに行きましょうか」

 合流先である交番から近い住宅街へ向かい、ケビンと合流する。

「宏美。終わったのか?」

「捜してたら偶然ぶつかって来て、早速交番に預けてきたわ。ケビンは?」

「さっき事件を解決してきて、その報告だ。今回は撃たなくてよかった」

「ここ最近銃撃戦多かったからね。久しぶりの探偵業じゃないかしら?」

「あぁそうだな。せっかくだし、ちょっとしたクイズでもしないか?犯人は盗んだ下着をどこに隠し持っていたか、推理してほしい」

 向かった場所は2階建てのアパートで古き良き時代のにおいがする、六畳のワンルーム。一階に住んでいる女性がここ最近、下着を盗まれていた。警察が捜査した結果、近くに住むトビの男が網に掛かったまではよかった。しかし、彼を調べてみても何も出てこないのだ。

「そこで俺は仕事着姿の奴のあるところを重点的に調べたら、案の定あったんだが・・・」

「ねぇひとついい?家宅捜索は?」

「奴が吐いたから今頃してるだろうな」

「ふーん・・・ケビンが盗む側だとして、そこに隠すかしら?」

「不意を突くなら、一番良いかもな」

 トビの仕事については何となくわかるが、あの特徴的な作業服にヘルメット姿を思い浮かべる。

「・・・まさか・・・被ってたの、頭に?下着を頭に被ってヘルメットで隠せば、たとえ建築現場でも怪しくないわ。脱がない限り見えないし」

「いかにも・・・正直、恐ろしかった。うちのビル建築にもアイツみたいな連中が携わっていると思うとな」

 背中に寒気を覚えながら、新垣の応援に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 捜査本部でうなだれている二人を見た。

「くそ、どうやって金を受け取ったんだ!」

「根岸さん。風呂に入った隙を突かれて持ってかれたんだろ?連絡はなかったのか?」

「そうだな・・・こころちゃんが無事に母親のもとに帰って来たことぐらいかな。実際に見届けたし」

「あとはその、こころちゃんに事情を聴くだけですね。新垣、ロッカーの特徴を教えてくれ」

「指示されたロッカーは部屋の真ん中にあって、薄い板一枚で向こうと隔てていました。動かそうと思えば結構簡単に外れましたね」

「・・・指示されたロッカーの反対側を使っていた男は?」

「確か中肉の男性・・・え?」

「ようやく気付いたか。その男が犯人だ。似たような袋を用意し、普通の客として風呂に入る。次に上がった後、着替えを取り出しながら板を外し向こう側の金を取り、しまい込んでそのまま去ったのさ。カメラの映像を持って調査すれば捕まるよ」

「おぉ!さすがケビンだ、よしもう一度風呂屋に行って監視カメラデータを回収するぞ!」

 根岸は生き返ったように元気になり、現場に向かった。その様子を見たケビンは思わず小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり夜になり、オマルを除いた全員が事務所に待機していた。

「遅いわね。何をしてるのかしら」

「通り魔の正体が掴めないんだろうか」

「オマルはお前と違ってある程度知恵はあるぞ」

 噂をすればなんとやら、オマルが事務所に帰ってきた。

「いや~すいませんね。アジトを聞き出してそこに殴り込み行ってたら時間が掛かって」

 よく見ると頬に煤が付いていた。爆破でもしたのだろうか。

「まさかお前」

「殺してません、アジト内に花火を撃っただけです」

 そう言ってロケット花火の入っていた袋を見せる。珍しく発砲してないようだった。

「しかし、通り魔の正体が複数いて全員が学生だっただなんて・・・手加減して正解でした」

「普通なら警察と連携するだろうがな」

「いいじゃないですか。ところで、報酬は?」

「後日払うって話だ。リストには明日も似たような仕事があるぞ、今日は解散だ」

 二人が退社し、ケビンと宏美も上へあがる。

 

 

 

 

 

 

 

 昼間の速い展開から一転、夜になると静かに時間が流れる感じがする。

「明日も忙しいから、少し休んだら?」

「君もね」

 ケビンは宏美の隣に座る。

「あれから、いろいろあったわね。夜の音乃木坂で出会って、スカウトされて、札幌行って、沼津行って・・・たくさんの事件を解決してきた」

「スカウトじゃなくて、押しかけだろ。だが、俺一人ではできないこともあったのは確かだ。宏美がいてよかったこと、多かったぞ」

「そりゃどうも・・・って、何よ今さら」

「感謝してるんだ、俺にはない優しさでみんなを鼓舞したり、コンピューターで援護したり、情報収集力でサポートしたり・・・多すぎて言葉にならん」

「私もよ。ケビンに会えてよかったって・・・これからもずっとよろしくね」

「あぁ。街のため、宏美のために戦うよ」

 良い空気の最中、根岸から電話が入る。

「もしもし」

「ケビン、事件だ。休んでいるところですまないが来てくれ!」

「・・・行きますから、場所を教えていただけませんか?」

 場所を聞き、電話を切ると、武器を手に出ようとする。

「私も行くわ。なんたって、パートナーだからね」

「よし、行くか」

 二人は夜の秋葉原をクラウンに乗って走る。難解な事件を解決するために。




  本編はここで終わりにさせていただきます

  なんだか煮え切らない感じがしますが、一段落つけたかったので




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事件黙示録
黙示録1  闇


 これはケビン達とは違う目線の人間の黙示録である


 午前04時50分35秒

 札幌のとある雑居ビルにダッフルバックを持って入る一人の男の姿があった。警戒のために、市販の防犯ベルを改造したセンサーを仕掛け、上がっていく。

屋上の脇の階段でダッフルバックからM40A3を解体した物を組み直す、機関部、銃床(ストック)、ボルト、二脚(バイポット)、そして丁寧に調整されたスコープを取り出し装着する。

 サプレッサーを銃口に嵌め直し、時間を確認し直す。

密着型のサングラスを掛ける前に目の下にグリスを塗り、マガジンを差し込むと、右手でボルト・ハンドルを前後に操作し薬莢に文字を刻み込んだ弾を銃身に押し込んだ。腹這いになると出っ張りから5cmぐらい銃口を出す。

 スコープに眼を当て右手でピントを合わせて意識を右目のスコープから見えている景色と右手の銃爪(トリガー)のみに抑える。

 背中のバックパックからチューブを取り出し口の近くまで持っていき、数十分ごとに水分補給を行い、トイレは紙おむつにする。

 そうして集中力を男は保つ。

 

 

 

 

 

 

 数時間後………

 

 午後20時31分06秒

 雑居ビルの屋上、コンクリートの床に腹ばいになっていた男はスコープにターゲットを写したままニヤリと不自然に笑う。

 

 

 

 

 

 

(さて、集中しよう)

 iphoneを耳にあてたまま突っ立っているターゲットが、狙撃銃モデルM40A3のスコープに映っていた。画像は揺れていない。

 俺は落ち着いている。いい傾向だ。

 

 

 

 

 

 夜でも通りは暗くはない。街灯とネオンのおかげだ。これなら、念のために高い金を払って買った

全てが緑色になった画像が気色悪い暗視装置は必要ない。

それにしても、今回用意したこのスコープは優秀だな。明るいからストレスを感じない。

 

 

 

 

 

 ターゲットは、いまだ突っ立った状態。

『フリーズするなよ、莫迦。違うだろ、逃げるんだよ』

 ニヤリと気味の悪い笑いをしながら、スコープを覗く。

 タイム・オブ・フライト、弾丸の飛翔時間はここからだと0.93秒も掛かる。

『引き金を引いた瞬間、予測不能の動きをされたら命中しない。それが楽しいから、俺はスコープを覗き続けているんだよ。そこから動くんだよ、ターゲット。そうでもしないと俺が楽しめないじゃないか。まさか、いつまでも突っ立ったままでいる訳にはいかないだろう、ええ?』

 ターゲットが歩き始める。唇の左端が上へゆがんだ。コートははためかせ、ターゲットは駐車場に向かう。

(思った通りだ、その高い車はほっとけないよな)

 トリガーガードにかけていた右手の人差し指を、輪の中に滑り込ませる。引き金に指をかすかに添えた。引き金は冷たかったが、すぐに体温でなじんだ。息を口から吐き、鼻から空気を吸い込む。無意識に指が動くのに任せるのだ。駐車場の前までゆっくりと歩くターゲットは、両手がふさがっていることに気づく。

 右手にあったiphoneをジャケットのポケットに突っ込み代わりに駐車場の券を取り出そうとする。

 ジャケットには無かった様でパンツのポケットを探る。右手は右ポケットに、左手は左ポケットに。右ポケットから券を取り出すと、ホッとした表情をする。

 

 

 乗り込むまでの一連の動きは読めているのだ

(0.93秒、頭の動きが停止する状態を見つければいいだけだ。さあ、止まれ──)

 ターゲットが左手でドアノブをつかむ。

人差し指は反応した。

 銃床を通じて鈍い衝撃が右肩に伝わる。

 

 弾が銃身のライフリングに沿って回転し、飛び出す様がイメージできた。スコープを覗き込んでいた右目を閉じる。

 スコープの向こうにいたターゲットは、ただの物体に変わっていた。

 

 

 

 

 

『これで、8人目』

 

 

 

 

 

 

 スコープから視線をはずす。コッキング・レバーを引きボルトを開放した。

 薬莢が飛び出し、硝煙の臭いが鼻を刺激した。

 

 ダッフルバックに簡単に、解体したM40A3を仕舞い込み、バックパックもダッフルバックに突っ込むと作業服を脱ぎ捨て、いかにも仕事帰りのサラリーマンの様な安いスーツを着て、顔のグリスを落としながらトラップを回収しながら、階段を降りていく。監視カメラに写らないように地下鉄に向かう。作業服と紙おむつを駅のゴミ箱に突っ込むと闇の中へと消えていった。



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黙示録2  魔の手

 この日もゴーストは誰かを狙う


 街の一角にある、他よりも少しだけ背の高い廃墟ビルの屋上に若い男が一人。

 光沢を持たない禍々しい黒色の長い銃を構えながら片膝立ちでスコープを覗いていた

 

 銃本体のフレームから前方に伸びる長い銃身(バレル)には、それよりも幾分太い円筒状の減音器(サプレッサー)が装着され、フレーム後方には体にがっちりと銃をホールドさせるためのストックが備えられており、フレーム上部には倍率の変更が可能なスコープが装備されている。

 

 男は、ビルの壁面や床材で使用されているコンクリートとほぼ同色の布で自分の全身はおろか、構えたスナイパーライフルの半分ぐらいまで覆い被さっており、ほぼ完璧とも言える程、視覚的に背景と同化している。 

 

 太陽の光を反射させて黒く鈍い光を放つロングバレルは、ほとんどブレることなく一点を狙い続けている。

 

 

 朽ちかけの廃墟と化した冷たい雰囲気が漂うビルの屋上で狙撃体制をとっている若い男は右手で銃のグリップを軽く握り、左手をストックに軽く添えて頬ほほに当てると、そのまま顔を近づけて狙撃用のスコープを覗き、内部に浮かぶ十字の照準線の中心を700m以上先にいる口ひげを生やしたスーツ姿の男にゆっくりと重ねた。

 

 

 男が手にした銃は正真正銘、一撃必殺の凶器である。

 

 

 

 トリガーに掛けた指を動かすほんの少しの動作で約一秒後にはスコープの中心に収めた人物の命を容易く奪うことが出来る。

 命という何にも代え難い財産を一瞬で、そしていて一方的に絶やす恐ろしさ、彼はそれを嫌というほど知っていた。

 しかし、だからといってこのトリガーを引くことに何の躊躇もない。

 標的の事は何も知らないし、知ろうとも思わない。

 

 あと僅かの人生という点では同情はするが、それ以外の感情は全くない。

 

 命を殺めるということに罪悪感や後ろめたさなどを感じることはなかった。

 

 彼の中にあるの物は機械のような冷酷さだけである。

 

 故にいつでも迷うことなくトリガーを引くことが出来るのだ。

 

 再確認すると男は体制を崩さぬまま一度大きく深呼吸を入れる。

 

 再度スコープへと顔を近づけると、ストックに頬を当て、レンズ越しに映る目標へと照準を合わせ、自分の位置から目標までのおおよその距離を目測し、ビルの上から地上の目標を狙っているという高低差や風向きも考慮し弾道を計算してスコープを調整する。

 

「距離730m、高低差25m、左からの風プラス2度、気温、確認。」

 

 狙撃銃スナイパーライフルのアッパーフレーム上に固定された、すらっと細長いスコープ中央の上部と右部備えられている調整ダイヤルを回すカチカチカチという軽い音でさえも、静けさに覆われた廃ビルの屋上では耳障りなほどうるさく感じてしまう。まとわりつく喧騒を払うかのように、男は小さく息を吐いた。

 

 「調整完了」

 

 目標が現れる数時間も前からこの場所に身を潜めていた男は、風速や距離、気温や湿度といった狙撃の瞬間まで正確な調整が行えない点以外は事前に全て準備を済ませていた。そしてスコープの調整を終え、最後の狙撃準備を完了させた男

 

 男はボソっと呟き、今までグリップを握った状態で伸ばしきっていた右手人差し指でゆっくりとトリガーに触れる。

 

 

 ここからは狙撃手としての技量が物をいう孤独な戦い。

 

 スコープを調整したからといってそれだけで放った銃弾が標的を簡単に射るわけではない。

 

 標的は動体である以上不規則な動きを繰り返す。

 

 その動きと銃弾が描く軌跡を読み、絶えず変化する風にも注意し、自らの身体状態も考慮しなくてはならない。  

 

 男はただ目標を確実に仕留めることしか考えていなかった。

 人差し指から伝わる金属特有の無機質な冷たさでさえ全く気にならない。

 

 レンズ越しに見える歩き始める。

 

 スコープを覗きながらいつ来るかも知れぬタイミングをただ静かに待ち続ける男…

 

 男がこの一瞬の好機を逃すことは無かった。

 標的の頭部に寸分違わず合わせられていたスコープのレティクル。

 狙撃銃のトリガーに掛けていた人差し指にグッと力を入れる。そして音速を超える弾が銃口から吐き出される。

 

 男は予め必要とされる情報を一通り資料でまとめて用意していた。

 

 それには標的の名前や年齢、これまでの経歴、外見的特徴などに加え家族構成や友人関係まで記されていた。 

 

 低い銃声と排出された空薬莢がビルのコンクリート床に跳ねる甲高い金属音のみが響く。

 

「これでよし。」

 狙っていた敵が誘き出て来ない限りはゲームは始まらない。

 

 

 

 

 

 時よりあちら側から自動小銃による反撃の音が聞こえるが、おおよそ検討をつけた方角に適当に撃ち込んでいるだけで狙撃手の場所を特定出来ていないのか、一発たりとも危機を抱く場所には着弾していない。

 

 もとより彼らが装備している自動小銃ではこの距離での精密な射撃は厳しく、例え居場所がばれたとしても驚異にはなり得なかった。

 

 

 

 男は深呼吸をし一息つく。

 

 時間にしてみれば大して長いわけでもない時間であった。

 

 研ぎ澄ましていた感覚を緩めた男はゆっくりと立ち上がると手際よく撤収作業を終え、狙撃場に選んだ廃ビルから出ると、セーフハウスに向けて歩き出す

 

 

 彼は感じる。

 

「ここからが先が本当のゲームだ。俺を楽しませてくれよ」




 


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黙示録3  ゴースト誕生

数年前……………

ドイツ ルクセンブルク

某駅構内

 

5月2日

13:40:33

 

 駅構内の作業用通路を通りながら丸刈りにした頭を撫でる男がいた。

 彼は軍から技能識別コード『B(ブラボォー)4』を持ちことを許された後のイラクでの派兵で死亡したという正式な記録しかない

 その後は全く記録にも残されていない

 

いや

 暗殺者「ゴースト」としてCIAの工作員として記録はある。

 登山用の25Lのバックパックを背負って通路を歩いていく。

ラークス計画の被験者で、最高傑作とも呼ばれた彼はPTSDを持ちながらも完璧な暗殺者として作り出されている。

 彼は又、語学にも通じており、英語の他にもフランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語に堪能である。

 左手に装着していた時計を見ると、左耳に装着しているイヤホンからの無線をチェックする。

 普段はフリーランスの殺し屋として生活しているが、CIAからの連絡を受けると行動を起こす「暗殺者」だ。

 ニット帽を被り直すとサングラスを外し、目的のポイントに到着する。

ネメシスアームズ・ヴァンクィッシュを分解したパーツをまとめた収納袋から取り出すとてきぱきと組み立て

銃身に消音器(サプレッサー)を取り付け

高倍率スコープの調整ネジを回して十字(クロスヘア)を顔が見える程度に重ねる。

 二つ折りの旧式の携帯がポケットの中で振動する。

携帯を開くと、メールボックスに任務内容が送られている

開くと標的の写真が写し出される。

特に素性は聞かない、それが元仲間の工作員であろうとテロリストであろうと、国に害をもたらす敵であろうと

 

 仲間を待つためかは知らないが茶色のコートを羽織った標的がエスカレーターを上がってくる。

携帯が鳴ったようでふと取り出し、立ち止まりながら、右耳に当てながら、話をしている

高倍率スコープの十字の向こうに今回の標的、敵工作員を収める。

残り数秒の命とも知らずに、

青ざめた顔がスコープに写り、キョロキョロと辺りを見回す

 

 一度、目を閉じる。

 

 スコープ越しに目が合う。

 その目を見た瞬間、俺は冷めた気持ちのまま引き金を引いた。

 ポッシュという消音器独特の銃声が上がると、標的は眉間に穴を開けフラリと崩れ落ちる。

 周りでパニックを起こすサラリーマン達には目もくれず、俺はネメシスアームズ・ヴァンクィッシュを分解し、バックパックから収納袋を取り出し、元の形に仕舞い直すとバックパックに入れる。

 少し離れたところに転がった空薬莢を拾い上げ、ポケットに入れる。

しばらくの間、雨の街に沈黙が降りる。

ニット帽をゴミ箱に投げ込み、サングラスを掛けなおすと駅のホームへと回りの喧騒を気にせずに歩き出す。

 

 この世界は、美しくなければいけない。そのために、泥をかぶって、見下されて、それでも動き続ける者たちがいるのだと。

 

 

 ふと目を覚ますと紙煙草を口に加えて火を付け、一服する。

 懐かしい夢を見たものだ。

 今回はフリーランスとしての仕事だということを確認し直し、缶コーヒーを冷蔵庫から取り出すと、電話が鳴っていることに気づく。

「はい、レオナルドですが?」

『すまない、用件はいつものだ。』

「了解した。今回は一人か?」

『いや、ファイルの受け渡しのみだ』

「言っていたデータは?」

『ケビンのか?、いつもの場所に置いてある。では場所は◼◼◼◼◼で、』

「了解した。」

 

 いつものようにイヤホンマイクを左耳に装着すると、シャツにジャケットを着ると札幌駅に向かう。

 監視カメラを交わしながら、指定されたロッカーに向かう。ロッカーに番号を打ち込むと、中から数札のファイルが出てくる。

 バックパックに詰め込むと、さっさと隠れ家に戻り、テーブルの上に広げる。

 

 

ケビン菊地 27歳 身長184cm

 

職業探偵

 

元第75レンジャー連隊

アフリカ系アメリカ人と日本人のハーフ。

アメリカ陸軍に入隊。

2年後に除隊。

トライデント・アウトカムズに入社。

アフリカや中東の紛戦地域への派兵経験あり

 得意武器はアサルトライフルとショットガン

レンジャーでの射撃成績は高い

陸軍での格闘技訓練では評価が高い。

 

 

爆発音が聞こえた。

にやりと彼は笑うと武器庫となっているクローゼットの裏を開く

念のために、デザインスーツの下に防弾ベストを着込み、ショルダーホルスターにFN Five-sevenとこの間拾い、綺麗にしたCz75を仕舞う。

バックパックの中にはMP7、数が多いための狙撃用ライフルとしてサプレッサーを装着したSIG552とG3に精密射撃用にM40A3を閉まった。

 

そしてふと辺りを見やり、屋上を伝って向かった。




 


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黙示録4  動き

 03:59:6

 東南アジアのある場所……

 

「ターゲットのヨットを視認。全チーム、待機せよ」

「了解、D1」

「D2、了解」

「こちらD3、待機完了」

「D4、援護可能位置に移動完了」

「D4、スナイパーポイントで待機」

「D6、発電機を確保、いつでも行けます」

 

 エディ・カーマイケルこと"ギャンブル"は浮力調整ボンベを調整しながら全長40mのヨットの横からプカリと顔を出す。

 

 NAVSOG(フィリピン海軍特殊作戦グループ)から選抜した12名により構成した部隊を率いて、6年間追い続けた麻薬王「アナコンダ」を暗殺するために今回極秘裏に 作戦を決行した。

 

「こちらD1、突入準備完了。ヨットの横に付いた」

 ギャンブルと一緒にいるブーニーハットを被った隊員二人に確認を取り、暗視ゴーグルを降ろすとG36Cを水のなから出すと、梯子に手をかける。

「こちら、D2。反対側にいた監視を始末、バレていません」

「こちら、D3。キャビンを監視中、兵士を何人か確認。所持している武器はAKの類」

「D4、準備完了」

「D5、最上階のヘリ近辺にいる兵士に照準を合わせる」

「D6、行けます」

 

ボルトを引き、腰のホルスターに入っているグロック18を確認すると、後ろの隊員と頷きあう。

「スリーカウントで合図する。全員、行くぞ。3、2、1、作戦開始!」

梯子の手前にいた敵をヘッドショットすると後半の二人を待ち、来たのを確認すると後ろのスパス12を持った隊員がドアをぶち破り、横からフラッシュグレネードを投げ入れる。

 

制圧(クリア)!」

制圧(クリア)!」

 周りから、仲間の声が聞こえ、制圧を完了したことを確認しながらアナコンダがいる部屋に突入する。

「5、4、3、2、1、ブリーチング!」

 壁とドアが吹き飛び、迷彩服にブーニーハットを被った男達がG36CやG3、スパス12を持ち、突入していく。

 

 しかし、パソコンがテーブルに置いてあるだけだ。

「さらばだ、諸君」

 覆面を被った男が合成音声で語りかける。

「全員、撤退!、出ろ出ろ出ろ!」

 その瞬間、目の前が閃光に包まれる。

 

 

 

 

 

麻薬王「アナコンダ」暗殺作戦

作戦結果=失敗

参加メンバー

全員死亡。

 

情報提供者の死亡を確認。

以後この作戦は失敗した作戦としてマスコミには提示

同時にエディ・カーマイケル隊長の死亡により、「アナコンダ」作戦の終結をここに命ずる。

 

 

 

 

 

 

 宮城県某所

 同日20:10:22

 コードネーム「ゴースト」がバーで一人バーボンを水割りで飲んでいたところにメキシコ系の大柄な男がフラりと座る。

「久しぶりだな、ゴースト」

「うるせぇな、スコーチ」

二人は拳を軽く合わせる

 そう彼もラークス計画の被験者の内の一人で、ゴーストはPTSDのように、スコーチは左腕を神経電動型義手という風になっている。

 二人とも元々はNavySealsで活躍した後、溢れた後にスカウトされた身、ゴーストはチーム1、スコーチはチーム8だが、親近感は湧いた。

 

 最近の状況について話をぼそぼそとすると、次の瞬間ニュース番組から衝撃の事実が伝えられる。

『フィリピン特殊部隊NAVSOGによる麻薬王「アナコンダ」暗殺作戦は失敗に終わりました』

「アナコンダか・・・・・・スコーチ関わったことあるか?」

 ゴーストは紙煙草にライターで火を付ける。スコーチは画面から目を外さずに、水割りを飲む。

「いや、あまり」

『この作戦により、作戦を率いたエディ・カーマイケル少佐を含めた12名の命が失われました』

 この言葉を聞いた瞬間に、スコーチもゴーストも顔つきが変わる。スコーチはグラスを落とし、ゴーストは煙草から口を離すと深く息を吐く。

「ギャンブル・・・・・・」

 二人ともとある作戦にてギャンブルに救われたことがある。

「スコーチ、アナコンダの情報手に入れられるか?」

「ゴースト、つてがあるはずだ。後は武器を揃えてくれ」

「後は何人か、連れてこい。空いてるやつ呼ぶ」

「わかった。おそらく、被験者の面子で呼べるやつは呼ぶ。最高俺達含め5人、最低3人だ」

「二日後、同じバーで」

「了解」

 二人とも、フッと立ち上がり夜の街に消えていった。

 

 

 



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黙示録5 アベンジャー

 彼の人徳がもたらしたは、善か悪か


 韓国 ソウル 韓国国立中央博物館

 紺の眼鏡を掛けたト・ハジュンという偽名を使う男が学芸員としてツアー客に対しての説明を終わらせ、控室に戻ると着信音が鳴っていたスマートフォンを起動し、メールボックスを開く

 確認すると上司に貯まっていた休暇を10日分申請し、帰るためにバッグの中に書類を仕舞う。

 同僚のウルという女性がこちらを見る。

「珍しいですね。ハジュンさんめったに休暇取らないのに」

「たまには、親の所に顔を出さないといけないんですよ」

 男は愛嬌のある笑顔で言う。家にしているセーフハウスへと戻ると移動用の鞄を掴み、日本行きの航空券をスマートフォンで取った。

 

 

 

 

 

 

 スペイン マドリッド とあるバル

 デザインスーツを着たネル・デュークスという偽名を使うプラチナブロンドの髪を短めのポニーテールにした女性が同僚と飲んでいた。

「ちょっと失礼」

 スマートフォンでメールを確認すると、脱いでいたジャケットを手に掛け、店を出ようとする。

「ネル、男のとこかい?」

 同僚が酔った調子で言ってくる

「まぁね。一週間出張してくるから寄ってくるよ。」

 酔いを覚ますと、デザインスーツからジーンズとジャケットに変え、作戦用のバッグを抱え、日本行きの航空券で取得した。

 

 

 

 

 

 数日後・・・・・・ 日本 宮城 バー 20:35:55

 短めのブロンドを刈り上げた頭をした男、ゴーストはバーボンを水割りで飲んでいると横にイタリア系アメリカ人の二枚目男が座る。

「久しぶりだな、ゴースト。俺を呼んだからにはきっと何かあるんだろ?」

 彼のコードはシュガー、ニヤニヤと笑っていたがふとゴーストの話を聞くと顔を変えた。

「元DEAFASTA(麻薬取締局所属特殊部隊)のお前だから、呼んだんだ。アナコンダについて」

「どれだけの奴か、奴を知らないから言えるんだ。俺がDEAに所属していた頃、5人の諜報員が派遣されて、四回、アジトとされる場所に俺達とSWATの合同作戦で突入したが四回ともほぼ全滅に近い損害を受け、諜報員の指が10本、終いには当時指揮を取っていた捜査官は俺の目の前で家族もろとも爆死させられたよ」

 嘆くように酒を飲む。

「NAVSOGの作戦で、ギャンブルは死んだ。敵討ちだ。だから専門家のお前を呼んだ、シュガー」

「わかったよ。作戦を行うメンバーは?」

「今のところは3人だ。俺とスコーチ、そしてお前だ」

「用意出来る武器はどれくらいあるんだ?」

「後で見せる、ハワイ経由で昨日届いた」

「了解した、おっとお客様の登場だ」

 入り口を除き込むとフラりとスコーチと誰かが来た。

「久しぶりだな、シュガー」

資産(アセット)の爆殺魔、久しぶりだな」

「お前も、バックブラスト作戦以来だな証拠隠滅の天才」

 スコーチもシュガーもニヤニヤしながら、拳を合わせる。

「ゴースト、久しぶりです」

「ベクター、いつ以来だ?」

「トライ・ダガー作戦ですよ」

 常に眼鏡を外さず静かに暗殺する黒髪をスポーツ刈りにした韓国系アメリカ人、コードはベクター。

「幽霊のコードを持つあなたがいるのは心強いですよ」

「偵察にかけてはお前に勝てるやつはいない。参加に感謝するよ。ベクター」

 ベクターが注文したグラスとグラスをゴーストはカチリと打ち合わせる。

「スコーチ、これで全員か」

「いや、あと一人来るはずだ」

 ドアが開くと、ひっそりとラフな格好をしたプラチナブロンドの髪をショートカットにした女性が入ってくる。ゴーストは少し驚く

「お前なのか、ブルー」

「呼ばれたから、来たのよ。ゴースト」

 スコーチは笑うと

「お前以外に、電子工作担当は任せられないからな」

「ブルーがいるなら、心強い」とベクター。

「このメンバーかよ。全員ギャンブルに救われてるじゃねぇかよ」

 シュガーは愚痴る。

「全員、こっちのテーブルに来てくれ」

 スコーチが設計図を広げる。

「今回の作戦はアナコンダを確実に暗殺することが目的だ。奴の行動パターンを計測した結果、こことここ。

ホテルと会合の為のビルの最上階、この瞬間が狙い目だ。ブルー、情報を」

「了解、アナコンダ御一行、こいつらには護衛を30人程度防弾ベストは着用済み、武器はおそらく軽機関銃程度なら持ち込んでいるはず、確認出来たのはAK系統のみだが、用心はすること、護衛の何名かは元メキシコ陸軍特殊部隊GAFE出身よ」

「狙い目はホテルだ。時間帯としては明後日の19:00~24:00、奴等は最上階の一つ下、25階を全て貸しきりにしている。確実に殺しても問題はない」

「それでは、武器の場所に案内する。バンに乗り込んでくれ」

「掃除なら鮫島にお任せ」と書かれたバンに乗り込むと、とある倉庫街に向かう。

 到着すると、ゴーストは鍵を開け、暗証番号を入力してコンテナを開く。

 開くと、中には様々なライフルからサブマシンガン、拳銃にいたるまで、金額を予想出来ない位の武器が揃えられている。

「全員、好きな武器をとれ。弾も好きなだけある。」

 ベクターはSOPMOD M4に使いなれたAK-12、拳銃にはP226を、シュガーはMP5とP90、グロック17をホルスターに差し込む。

 スコーチはMP5とベネリM4に1911を、ブルーは悩んだ末に、HK416Cとロングバレル仕様のM4に、ワルサーPPQを

 ゴーストは手早く、SR-25をダッフルバッグに突っ込むと、MP7にSIG552に使いなれたCz75を装着する。

「全員、明後日が決行日だ。ギャンブルの敵討ちの為、体を休めておけよ」

 全員が、荷物をバンの中に整理して置くと、闇に姿を消した。

 

 

 

 




 


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黙示録6  進撃

 そして牙を向いた、見も知らぬ大蛇に


「さて、諸君。狩りの時間だ」

 

全員がボルトを数センチスライドさせる金属音が鳴り響く。

 

 

 

24:30:55

某ホテル

 

作業服を着て、バラクラバの上から咽頭マイクをした二名がホテルの階段を上っていく。

 

『こちら、ブルー。

エレベーターは止めた。

合図が有ればいつでも電源をオフに出来る』

 

「ゴースト了解。配置についた」

 

『ベクター、準備完了』

 

『同じく、シュガー。オーケーだ』

 

『こちら、スコーチ反対側の入り口にて、待機中』

 

「スリーカウントで、突入する。アナコンダは殺すな。じっくり調理してやる。3、2、1、GO!!」

 

 電気が一瞬で全て消える、すかさず暗視ゴーグルをバラクラバの上から装着するとドアを蹴破る。

 AKの類いを持った男が二名いたが、MP7をダブルタップ(連射)し、頭を撃ち抜く。

 

 ラペリングしていたベクターとシュガーは合図で、窓ガラスを破ると、MP5とAK-12を撃つ。

 すかさず、暗視ゴーグルで銃身に装着したレーザーポインターから出る緑色のレーザーを確認する。

 二人はカバーしあいながら単発に切り替えて撃つ。

 

 スコーチはベネリM4をドアに向かって撃ち、銃声のノックをする。

 ベネリM4で敵を文字通り吹き飛ばしていく

 

 誤射を防ぐためにと暗視ゴーグルで見えるように全員が左肩に赤外線発光タイプのテープを巻いている。

 

 横のドアから少し長めのナイフを振りかぶる男が出てくる、スコーチは組みかかられると袖を引っ張りながら背負い投げる。

 左足で引っ掛けるとショットガンのストックで顔面を殴り、顔面をズタズタにする。

 

 ノートパソコンを閉じると、タブレットバックにしまう。

 

 ブルーはホルスターから拳銃を取り出すと数発でドアノブを撃ち抜く。

 死体を足で避けると、リロードしながらゆっくりと歩き始める。

 

 

「シュガー、どうしますか?」

 

「ここで言うかい、ベクターくんよ」

 

 敵のAKが乱射されるなか、ベクターはAK-12をリロードしつつ、左肩に吊るしていた注射器を取り出すと注射器のロックを外す。

 

「使うのか、ベクター?」

 

「仕方ないでしょ。」

 

 ベクターは左腕を剥き出すと、一思いに刺す。

 AK-12をゆっくりとスリングだけで吊るすと肩のホルスターから拳銃を取り出す

 眼の白目が黒眼と同じように、黒く染まる。

 

「僕が化け物(ベクター)と呼ばれている理由をお教えしましょう。」

 無数の銃弾がベクターに飛んでくる。

 

 ベクターは特殊な薬物を吸収すると能力を強化するように改良された実験シリーズの一人

 

 彼は注射器により、自己加速に加え細胞の再生も一時的に強化される。

 

 P226を六発撃つと弾が吸い込まれるように、敵の頭に当たる。

 

 三発程左腕に当たるが、弾は腕から落ちていく。

 

 

 ゴーストはMP7をダブルタップしながら、確実に当てていく。

 後ろから、敵にタックルされると

 ゴーストはMP7を手放し、両足を踏ん張らせ筋肉を勢いよく縮ませる。

 バネのように勢いよく反発させ、左腕から取り出した極細ワイヤーを首に引っ掛け、右手で先端に付けた小さなリングを掴み相手の口から泡が出るにも関わらず万力のような力で首をしめていく。

 フラググレネードが転がってくると、靴底で蹴りあげ、敵の銃撃を引っ掛けた男を盾にして防ぐ

 爆発音がした時、彼は死体を吹き飛ばして暴風避けにした。

 

 敵が一人フラりと立ち上がった瞬間

 右手首を勢いよくスライドさせ、細長いメカアームに取り付けられたナックルダスター部を切り取り銃身とグリップのみになったアパッチ・ピストルを取り出す。

 

 必殺には届かない威力の弾丸だから、一発突き刺さっただけでは傷が浅い。

 ゴーストは手の中の残弾が尽きるまで、撃ち続ける。

 

 

 

 気づくと、廊下の敵は全て死亡していた。

 ある部屋をスコーチが蹴り破り、中にいたスーツの男を全員で取り囲む。

「アナコンダはどこだ?」

「私は、知らない、知らないんだよ。信じてくれ!」

 泣きべそをかきながら小柄な男は頼んでくる。

 ゴーストは回りのメンバーを見回し、スコーチを見るとにやりとする。

 

 

 

 二時間後………

 ブルーが置いてあったパソコンを解析している間にスコーチを含めた四人は、バンに寄りかかりながら煙草を吸っていた。

「今回の襲撃の意味あったのか?」

「まぁな。一応奴の最高戦力は全て使い潰したはずだ。奴の情報網がどれだけ人を呼べるのかが重要だがな」

「まぁ、数日分の戦力は削いだ。下手に手出しをせず裏でこそこそなんとかするだろうな」

「そういえば、スコーチ。細工は?」

「ここからなら、バッチリだ」

 ブルーがバンから降りてくる

「情報の回収完了。次の目標が決まったわよ」

 スコーチは携帯を取り出すと決めておいた番号を打ち込む。

「でかい花火をあげるぜ」

 

 その頃、ホテルの一室では小柄な男がダクトテープでぐるぐる巻きにされ、身体の水分全てが漏れ出ているのではないかというぐらいの汗をかいていた。

 

 床には小麦粉がフワフワと舞い、バカじゃないかという位の量の「C4」が置かれていた。

 携帯電話が複雑に繋がれたコードに接続されている。

 

 スコーチが電話を掛けると、着信音が鳴り響く。

 

 小柄な男は身をよじって逃げようとするが、逆に爆弾に近づいてしまう。

 そしてコールが三回鳴り終えた

 

 

 ホテルの一室が黒煙と共に爆発した。

 一同はなにもないような表情でバンに乗り込んだ。

 




ゴーストCVのイメージは
イケメンボイスと言えばこの人、高橋広樹


ブルーCVイメージは今井麻美

シュガーのCVイメージ木村良平

スコーチCVイメージは安元洋貴

ベクターCVイメージは中村悠一


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黙示録7  幽霊は何を思うか

 


 現地工作員と合流し、換気扇を使い家の中に睡眠ガスを撒く

 睡眠ガスが充満した部屋にくぐもった声でこういう事態に手慣れたシュガーが指示をだす。

 防護服を装着した四人は静かに会長を遺体袋に押し込む

「持ち出せそうな物は全て回収しておいてくれ。カレンダーや財布に残ったレシートでもいい。全て証拠になる」

 

 パソコンを丁寧にビニール袋にしまいこむと、ベクターは簡単にダンボール箱を組み立て、大量の証拠品をしまう。

 バンの側でゴーストは煙草を吸いながらダンボール箱を受け取り、運び込む。

 ラジオからはStanding In Rainが流れ続ける

 ゴーストはギャンブルに救われた作戦を思い出す。

 

 

数年前

 

シンガポール 旧市街

 

「機密作戦コード241」

参加メンバー

不正規戦特殊部隊

第94施設任務大隊「ダーク・スパイダー襲撃群」

第2小隊全5名

資産(アセット)エージェント部隊「AAP」

全5名

目的

ロシア系マフィアの研究員二名の回収。

追跡部隊の民兵を殲滅すること。

 

 

「船の道具を頼む」

 屋台にスキューバの道具を並べた老人にゴーストは声をかける。

 老人がカーキ色のアーミーボストンを奥から取り出すと

 今回の得物を収納したバックを受け取り、サングラスを掛けたプロフェッサーは灰色のボストンバックを受けとる。

 

 セーフハウスとしている部屋に到着すると中の得物を取り出す

 ルガーM77"ホークアイ"、手にいれやすいハンティングライフルに手を加えたマンハンティングをメインとした武器になっている。

 

 サプレッサーを横のボックスから取り出し、二脚がしっかり動作するのかを確認する。

 マガジンの弾を抜き出しながら、並べる。

 

 プロフェッサーは灰色のボストンバックからM4SOPMODを取り出し、レーザーポインター、A-COGサイトにフォアグリップを取り付け調子の確認を行う。

 目的の場所へと向かうために、アーミーボストンに装備をしまい、二人は屋上を歩いていく。

 目的の場所にたどり着くと、アーミーボストンの中からM77を取り出し二脚を開く。

 スコープを覗きながら調整し事前に屋台の看板に貼り付けておいたテープを視界に収めて風圧を頭にいれ体勢を整える。

 

プロフェッサーは観測手用のスコープを取り出し、三脚に固定、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が開発した支援用の三枚羽(さんまいばね)と呼ぶ灰色の直径わずか40cm程度、重さ2kg以下のトライローター式のドローンを飛ばし辺りの3Dマップを構成させていく

 

『ターゲットとの接触へと移る』

スパイダーズが接触を図る。

スコープ内にメンバーを写し出す。

「嫌な予感がする。」

プロフェッサーは彼の得物のナイフを回転させると腰にしまい、M4を取り出す

案外予想はしていたが、早かった。

スパイダーズの面々はターゲットを庇うように腰を低くしながらバンに押し込む。

 

「ターゲット、ライト」

ターゲットにしたリーダー各の男の眉間に穴が開く。

 

ゴーストはボルトを引くと薬莢を排出し、ボルトを押して弾を装填する

「ワンダウン、ネクスト」

 

マフィアの構成員は銃を乱射し、バンを追いかける。

『スパイダーズより各員。ターゲットは回収、繰り返す。ターゲットは回収』

『こちらラチェット、交通渋滞を起こす。早く逃げろ』

「こちら、ゴースト。撤収しながら敵を撒く」

『こちらギャンブル、ターゲットを回収するためブラックバードを回す』

『こちらスコーチ。ジャニュアリーは死亡。

繰り返すジャニュアリーは死亡』

「撤収するぞ!」

 プロフェッサーはM4をしまい、ゴーストはルガーM77をボストンバックに突っ込み、腰からワルサーP99を引き抜きサプレッサーを装着して、合流地点へと向かって走り出す。

 

 ラチェットによる電子工作で交通渋滞がバンの後ろに出来上がっていた。

 

 その代わり、こちらに敵が向かっていた。

 スコーチはバイクで車の間を抜けるように走っていく。

 ゴーストはP99を何発か空に向かって撃っていく

 

 プロフェッサーはスモークグレネードを撃ち敵を撒く

 しかし…………

 

 

「ゴースト、掴まれ!!!!!」

 用意していた4WDにマフィアの車が突っ込み横転した。

 

 頭が混乱している。

 P99をとりあえず掴むが、何がなんだかわからない。

 ヘリの爆音が響く。

 誰かが肩を貸してくれるが左耳の鼓膜が破れているのか全く聞こえない

「……プロフェッサー、」

 眼鏡だけで彼を判断すると

 

 ブラックバードが接近する

 ゴーストをブラックバードに乗せ、プロフェッサーも乗り込む。

「プロフェッサー、すまねぇ。」

 苦い顔で笑うと、プロフェッサーは首をふる

「今は何も言うな。腹にパイプが刺さっているし礼ならスコーチとお前を拾い上げたギャンブルにな」

 

 そんなことを思い出した。

「ゴースト、アナコンダの脱出ルートがわかった。」

「了解した。シュガー、ベクター、スコーチ。ケビンの奴らが巻き込まれる。出来るだけ敵が民間人に被害を与えないように頼む。ブルー、俺の観測手たのむ。」

 全員が頷き、最後の行動を開始した。

 




 ゴーストチーム、始動


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