賑やか家族Diary♪ (犬鼬)
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0話 いつもの朝

はじめましての方はじめまして!
僕の他の作品を読んでくれている方、ありがとうございます!
白犬のトトと言います‼

今回は前々から一次を書いてみたいと思っていた気持ちを遂に解放して書いてみました‼

他作品もあるため更新遅かったり初めての一次なので変なところも多いかもですが楽しんでいただけたら嬉しいです‼

という訳でまずはプロローグ。
いってみ
ましょう‼


某県某所。

小鳥のさえずりが響き渡るのどかで少し静かな朝。

比較的晴れの多いこの地域でとある家族が暮らしていた。

そんな家族が住むのはこの辺では少しの存在感を放っている周りと比べると若干大きな一軒家。

その家からはのどかな朝の静寂を打ち消すような賑やかな声が響いた。

 

「ほらみんな、早く起きて‼︎もう朝ごはんもできてるから‼︎」

 

一番最初に響いた声はこの家に住む兄弟姉妹の長女、滝沢(たきざわ)加奈(かな)

大学卒業後就職した女性で現在24歳。

兄弟姉妹の中で一番頼れるお姉さんで、不定期の休み+忙しい仕事で帰るのが遅くなったりするけどそれでも料理を作ってくれたり、面倒を見てくれたりと優しいお姉さん。

そのためみんなにも物凄く頼られている。

弟妹みんなの憧れの存在である。

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

次に響くは兄弟姉妹の長男、滝沢(あずさ)

21歳の大学生で長女の加奈が忙しいときに代わりにみんなをまとめる副リーダー的立場の人。

加奈ほどではないが料理も出来、面倒見もいい兄。

あまり自分のやってることを表には出さないが陰でみんなを支える存在。

そういった点では加奈とは対となる存在かもしれない。

 

「ふぁあ……眠い……」

 

次に弱々しく聞こえるのは次男の滝沢百斗(とと)

20の社会人で工業系の高校を出てすぐに就職した子で、自分からあまり意見を言わない少し引っ込んだ性格。

身長とかも低めであまり20に見られず、性格もやんわりとしていて天然な所がある少し甘い男だ。

 

「おはよー‼ってもうこんな時間!?」

 

次に一際大きく響くは三男の滝沢清風(きよかぜ)

明るい声色が特徴的な彼だが意外とシャイで兄弟のなかでは一番口数が少なかったりする。

爽やかな声とは裏腹で少し奥手な18歳専門学校1年生。

ちなみに次男より背が高い……と言うより次男の背がかなり低い。

 

「いや……学校行きたくない……お家大好き」

 

そして最後。

兄弟姉妹の末っ子の次女、滝沢黒愛(くろめ)

黒愛という言葉が「こつめ」とも呼べることからこっつーなどの愛称で呼ばれている。

五人の中のアイドル的存在でなにかと甘やかされている彼女は現在中学3年生。

どちらかというとインドア派の彼女は家にいることが好きで学校をだるそうにする。

だけどそこがどこか愛らしく、他の兄姉はついつい甘やかしてしまう。特に長女の加奈は甘々である。

もちろん過度に甘やかしているわけではないがそれでも扱いは少し違ったり。

 

そんな5人の兄弟姉妹。彼女たちがこの家の主人である。

両親は海外で仕事をしており、その仕送り+加奈と百斗の稼いだお金で生活をしている。

とても裕福、とまではいかないもののそこそこ幸せな暮らしをしている5人の家族の朝はいつも賑やかだ。

 

「ほら、早く食べちゃって‼」

 

「っと、百斗。醤油とってくれ」

 

「わかった~。はい、あず兄」

 

「ちょ、こっつー‼︎俺のおかず取らないで‼」

 

「キヨ兄がぼーっとしてるのが悪いんだもん♪」

 

「ほらほら二人とも取り合いしないで……ってもう本格的にまずいかも……ごめん、私先に行くね?片付けは百斗お願い‼」

 

「了解~。加奈姉行ってらっしゃい~」

 

「加奈姉いってら!って俺も早く行かねえと……じゃあ出るな」

 

「あ、待ってあず兄!ごちそうさまでした‼俺も出るからー‼」

 

「ちょ、私も行くから置いてかないでよ‼︎」

 

時間が厳しいことから加奈が家を出て行き、それに続くように清風と黒愛も続いて出て行った。

 

「……せめて皿くらい運んでよ〜。まあ、いいけどさ」

 

そして最後まで家に残るのは一番家を出る時間が遅い百斗。

机に残ったお皿を片付けて洗っていく。

全ての洗い物が終わったところで百斗も準備をして家の扉を開ける。

 

「……行ってきます」

 

誰もいなくなった部屋の中を振り返りポツリと言葉を零しながらゆっくり扉を閉めて鍵を閉めた。

コレがこの兄弟姉妹のいつもの朝である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはとある5人の兄弟姉妹がのんび〜り、ゆる〜く、ほのぼのと暮らしていく。

そんな日常系のまったりとしたお話……・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?と言ってもまだ始まったばかりなためどのキャラがどんな感じなのかわからないと思いますww

次回からは一人ずつに焦点を当てて少し深く紹介します!
トップバッターは長女、滝沢加奈です!

お楽しみに~



さて、ここであらかじめ来そうな質問を。

滝沢百斗 白犬のトト

……名前が一緒じゃね?

まあ、正直に言いますとこのキャラのモチーフは僕ですね。
勿論僕をモチーフにしたキャラと言うだけで現実の僕とは一切関係はないです。
と言うより、この作品の登場キャラほとんどにはモチーフとなった方がちゃんといたり……
全員年齢とか学校とか適当ですけどねww
あ、勿論モチーフとなった方にはちゃんと許可はいただいているのでそこのところはご安心を。

あとはすべての設定を僕が考えている訳ではないです。
他の方の意見も受けながら書いていますが・・・これ以上いくと長くなりそうなのでこの話はまた今度。
次回以降の後書きにて少しずつ裏話をいれていきますね!

では今回はこの辺で。
また次回、よろしくしていただけたら嬉しいです‼


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1話 滝沢加奈

お待たせしました第1話!

少し遅めの投稿申し訳ないです……
やっぱり1次って厳しいですね……早速洗練を受けていますww
果たしてこれはほのぼのになっているのかな?ww

では本編へ!
今回は兄弟姉妹の長女、滝沢加奈の自己紹介兼普段の生活みたいな感じです。

ではどうぞ!


私たち兄弟の家は広さだけではなく、立地にも恵まれてたりする。 と言うのもここから歩いて、そうだね~……8分くらいかな?の所に大きな駅があって、走れば5分かからないくらいでつくことができるから足には全然困らないんだぁ。

他にも皆が通っている学校も全部徒歩で行ける距離にあるから通学もとても便利!

具体的にどういうとき便利かって言われると……

 

「急がないと遅れちゃう‼」

 

遅刻しそうになっても問題ないってことかな?

いや、違うの!普段からこんなにギリギリって訳じゃないの!

今日は皆起きるの遅かったし、梓も大学の講義が1限目からだったからついバタバタしちゃって……

 

(って今はそれどころじゃなくて!)

 

頭の中の雑念を振り払って急いで駅のホームへ。

改札にカードをかざして通り抜け、3番ホームへ駆け降りるとすぐ左手にドアの空いた車両が。

横目でその車両が目的のものであることを確認してすぐに飛び乗る。

乗った瞬間ブザーが鳴り響きゆっくりと扉が閉まっていく。

 

(ふう……間に合った)

 

腕に付けた時計を確認するといつも通り一本前の電車に乗れていることを改めて知り、ほっと一息。

え?一本前なら慌てなくてもいいって?だって一本後だと間に合うけど満員電車だもん……

この時間だと多いのは多いけど若干の余裕はあるから。

やっぱり朝ってゆっくり、まったりしたいと思うのが普通でしょ?

とりあえず偶然見つけた空席に腰を下ろしホッとため息。

 

一息ついたところで改めて自己紹介。

私の名前は滝沢(たきざわ)加奈(かな)

24歳の社会人で一応皆の長女。

皆からは頼れるお姉ちゃん何て言われるけど私からしてみれば可愛い弟妹なんだから頼ってもらうのは当たり前だし、寧ろ皆がいるお陰で毎日ほっこりして日頃の疲れなんて吹っ飛ぶんだけとな~……

この前だって買い物いってるときこっつん(黒愛のこと)、『手、繋ご♪』っていいながらもっぎゅって握ってきて……

 

(あのときのこっつん可愛かったな~♪っていけないいけない)

 

頬が緩みそうなのをグッとこらえる。

こっつんのあのスマイルからのあの声は卑怯だと思うんだよね~。でもここでにやけちゃうと回りから変な目でみられるから我慢我慢!

 

そうこうしている間に電車は目的の駅に到着。

空気の抜ける音と共に開かれる扉へ人の流れに沿って続き、外へ出る。

改札を抜けて駅から出て、回りを見渡せばそこはビルが立ち並ぶ大都市。

パッと見全部同じに見えるそれのうちの一つへと歩を進め中に入る。

 

「あ、かなっち‼」

 

自動ドアを潜り抜けてすぐ聞こえる聞きなれた声。

そちらへと視線を向けると予想通りの子がいた。

 

「おはようかなっち~。今日もいつも通りの時間だね~……少し疲れてるみたいだけど」

 

「何でわかったの?」

 

「髪の毛の手入れがちょっと雑になってるわよ~」

 

「え、ホントに!?」

 

「ええ。後で直してあげるわね♪」

 

「ありがと!」

 

話をかけてくれたのは私がこの会社に入社した時から意気投合して仲良くなった 上坂(こうさか)真尋(まひろ)

高い身長にすらっとした体型でモデルって言われても納得してしまう体型をしている。の割には言葉とか行動が少し子供っぽくて、そのギャップがすごく可愛い子だね〜。

……羨ましい。

 

「そんなじっと見ないでよかなっち。かなっちだってかっこ可愛いじゃん?」

 

「何その新しいジャンル」

 

「そんな目で見ないでよ〜、それにかっこ可愛いって別に新しいジャンルでもないでしょう?」

 

「そうなのかな〜」

 

聞いたことはあるけど正直そんな人見たことないからなんとも言えないんだよね〜。それにかっこ良さなら間違いなく真尋の方が上だと思うんだけどな〜。

そういう意味ではかっこ可愛いって真尋のためにあるような気がする。

 

「それにしても、かなっちが焦って出勤ってことは……またいつものアレ?」

 

「それは……ね?本当、皆朝から大変なんだから……」

 

「っふふ、聞いてて飽きないわよ?かなっちの弟と妹さんたち」

 

「私の立場になってみる?毎日大変だよ〜……」

 

「それでも、弟と妹さんたちのこと、大好きなんでしょう?」

 

「それは勿論」

 

私のことを慕ってくれる子たちだもん。嫌いになれるわけないでしょ?

特にこっつんは可愛いし!

 

「本当に仲いいわよね〜。それにみんなそれぞれ特徴的で面白くないかしら?」

 

「そう?確かに似てる人はいないけど……」

 

言われて思い出してみると確かにみんな特徴的なのかも……。

 

「ほら、2番目のお兄ちゃん……梓君だっけ?あの子はなんかクールでかっこいいし、背も高いでしょう?それに話によれば影から支えてくれるタイプの人なんでしょう?もうすごくかっこいいじゃない‼︎ちょっと紹介を……」

 

「すると思ってる?……って、実はそれでもいいんだけどね〜」

 

「だよね〜……ってえ?」

 

「別にそれで二人が幸せになるんだったらそれもいいのかな〜って」

 

「な、なるほど……」

 

「……え?真剣に考えてる⁉︎」

 

「そんなまさか〜」

 

一抹の不安がよぎるんだけど……ま、そのときはその時でいいかな?もしかしたら意外と似合ったり?

そういえば他の子の事はどう思ってるのかな?

実は私たち兄弟姉妹、何故かいろんな人に知られているみたいでそこそこ噂になっているらしく、こっつんや清の事は会社に少し知られてるし、逆に百斗の職場や梓の大学の人にも私のことは知られているらしい……

噂って怖いね〜。

 

「ちなみに他の子のことはどう思ってるの?」

 

「他の子か~……そうねぇ。黒愛、ちゃんだっけ?あの子もの凄く可愛いでしょ‼何て言うかぎゅってしたくなるような可愛さがあるわ‼」

 

「それには同感!」

 

毎朝目を少し擦りながら小さく欠伸をするこっつん……凄く可愛いんだよね~。

例え寝不足でもあの子の笑顔見たらすっかり元気になっちゃうんだもん♪

 

「後は清風君!若くて爽やかな声なのに恥ずかしがり屋で可愛いよね〜!なのに背は高くて顔はかっこいいからギャップがあってすごく可愛いのよね〜」

 

「そう?……でも、わからなくは……ないのかな?」

 

「そうそう!……さて、こんなものか」

 

確かにどこかおどおどしているところとかあるし、そういうところを見ると母性本能をくすぐられると言うか、ついつい見守ってしまうと言うか……そういわれるとなんだか凄く可愛いこのような気がしてきた。……ってあれ?誰か忘れて……あ!

 

「ね、ねえ。百斗は?」

 

そう言えば今まで全く名前が出てこなかった……い、いや、決して忘れてたわけじゃないんだよ!?

 

「ああ、百斗君ねえ……あの子は……小さいし面白い子よね」

 

苦し紛れに褒めてくれた真尋。

百斗。哀れなり……

しかも小さいって言われている……。

確かに梓と清風は170超えてるし、お父さんも身長高いのに百斗だけ160前半なんだよね……なんでなんだろう?

 

そんなこんなでいつも通りの中身のない会話を楽しみながら階段を登っていき、自分たちのデスクに座り準備をする。

今日も今日とて仕事日和だ。

 

(さ~て、今日も頑張ろう‼……っと、あれを置かなきゃね)

 

鞄の中から少し小さめの写真を取り出して見る。

そこには私たち兄弟姉妹とお父さんお母さんの写真が……

これを皆に見つからないようにこそっと飾って、疲れたときにこれを見てほんわか癒されながら仕事をするのが私のスタイルだったり。

ストレスフルな時に皆の顔を見るとやっぱり落ち着くんだよね~。

勿論この事は会社のだれにも……

 

「お、かなっちまたこの写真持ってきてる!みんないい笑顔よね~」

 

「……」

 

「それにしてもかなっちって表に出さないけど本当に家族が……ってかなっち?」

 

「さ、朝礼始まるよ!早く準備しなくちゃ!!……ね?」

 

「かなっち……怖い」

 

一体いつからばれていたのか……今度はばれないようにしなくちゃだね。

後写真も別のものに変えよう。

え?なんでばれないようにしたいかって?……だって、恥ずかしいでしょ?

今度はばれないようにもうちょっと小さい写真にして……でもそれだと皆の顔が……う~……っていけない!朝礼始まってる!?急がなきゃ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ~……疲れた~……」

 

「はい、お疲れ様。かなっち!」

 

「あ、ありがと~真尋~」

 

今日も長い長い就業時間がやっと終わりを迎え、安心感と脱力感と達成感から机に突っ伏す。

そんな私の横からコーヒーを置いてくれる真尋。本当、こういった些細な気遣いって嬉しいんだよね~。

 

「今日も残ったね~……」

 

「だね~……」

 

ふと顔を上げて時計を確認すると21:30を指していた。

正直これくらいまで残るのが普通に感じ始めているあたり私の感覚って変わって来てるのかも……他の職場ってどんな感じなのかな?今度百斗に聞いてみよっと。

 

「さて、私達も帰りましょうか」

 

「だね~」

 

日没が遅くなり始めたと言っても流石にこの時間はもう遅く、外はもうまっくら。

今日やらなきゃいけない部分も終わったし、会社に残る必要もないから荷物を持って退社。真尋は車で私は電車帰りだから会社を出てすぐわかれる。

家の方向が同じだったら送ってくれたかもなんだけどね……そこは仕方ないね。真尋に迷惑かける訳にもいかないしね~。

帰りの電車で若干うとうとして寝過ごしかけたけど何とか覚醒していつもの駅で降りる。

改札を抜けたところで携帯に着信が来たので携帯を開く。

梓からのメール。

 

『もう料理作って待ってるけど何時くらいに帰ってこれる?』

 

一緒に写真もついており、そこには百斗に乗っかって遊んでいる清風とこっつんの姿が。

それを見て微笑んでいる梓も容易に想像できる。

それを思いながらクスリと笑みをこぼす。

 

(また大切な写真が増えちゃった)

 

写真を保存して少し駆け足になりながら愛しの我が家へ。

だんだん見えてくる我が家から漏れる光と人影を確認して抑えても頬が緩んでしまうのがわかる。

気が付けばまた更に足の進みが早くなっており、気が付けば家の扉の前に立っていた。

 

『・い、・・まりあ……な』

 

『ちょ・・!おも・!』

 

『いい……!たま・・あそ・・よ、・・兄!』

 

『わた・ものる・!!』

 

中から聞こえる皆の談笑。

何時も聞いている落ち着く声。

 

さあ今日もみんなの声を聞いて、会話をして……仕事の疲れを癒しちゃおう!

扉のドアノブを掴んで開け放つ。

中から流れる暖かい風に包まれる感じを受けながら家の中へ。

 

「ただいま~!」

 

「「「「お帰り~!!」」」」

 

お決まりの言葉を言うと四倍になってお決まりの言葉が返ってくる。

その事に幸せを感じながら私はそっと足を踏み入れた。




滝沢加奈

皆から頼られるお姉さん。
だけど意外と加奈自身が周りを頼りにしていたりも?
喋り方も相まってどこか柔らかな印象を受ける。

上坂真尋

加奈の同期。
加奈がふわふわした感じならこちらはすっとしたクール系。
ただ性格は子供っぽい。

今回は加奈編という事で短いながらも彼女の普段の動きを大まかにでした。
今回出てきたキャラ。加奈と真尋ですが、真尋は完全オリジナルですが、加奈の方は元となった方がいます。
ただ紹介は控えておこうかなと思います。

しいて言えば僕はこの方を尊敬してますし、いうなればファンですww
そのため結構動かすのに気を使っていたり

なんて言ってみますww

次回は次男の梓回です~。
お楽しみにです!


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2話 滝沢梓

お待たせしました第2話、長男梓編!!

今回のお話ですが僕は書いておりません。
そう言った所の細かい話は後書きでしますので出来れば見ていただけると嬉しです!

では本編へどうぞ!!


「行ってきま~す」

 

俺は誰もいない家に挨拶して、鍵を閉めて大学へ向かって歩き出す。

今日は講義が2限からだから、5人の中で家を出るのが一番遅い。まぁそんな事はしょっちゅうあるからもう慣れてるんだけどね。……あ、飲み物買わないと。

 

「さてと、何を買うか……」

 

「あ、梓さん。おはようございます」

 

「あ、翔おはよう。翔も今から登校?」

 

近くのコンビニで飲み物を選んでたら肩を叩かれる。振り返ると手を上げて挨拶をしてくる翔。

そういえばまだ自己紹介がまだだったね。

俺の名前は滝沢(あずさ)

21歳の大学3年で長男。

長男だから皆を引っ張らなきゃいけないんだろうけど、いかんせん2番目だからそんな事しなくて済むんだよね。まぁ俺はそんなに表に立ちたくないから加奈姉には助けられたりしてる。その代わり俺が出来る事はやるようにしてる。さすがに加奈姉がいない時は動くけど。

 

「ねぇ梓さん。話聞いてます?」

 

「あーうんうん聞いてるよー」

 

「嘘ですよね!絶対聞き流してますよね!」

 

分かってるなら聞いてこなきゃいいのに……

あ、翔の事説明してなかったね。翔はウチの近所に住む大学1年。本名は藍沢(あいざわ)(かける)。まぁ近所に住んでるから昔から付き合いはあったりする。まさか同じ大学に通うとは思わなかったけど。

あ、そうそう。翔には双子の弟で専門に通ってる光樹(みつき)と中学1年生の叶音(かのん)ちゃんがいたりする。まぁそっちの紹介はまた別の機会にでも。

ちなみに今はコンビニで買い物を済ませて大学に向かってる道中。

 

「だから梓さん。加奈さんを紹介してくださいよ~」

 

「え、何言ってるの?ちょっと分からない」

 

「加奈さんがダメなら黒愛ちゃん!お願いしますお義兄さん!」

 

「誰がお義兄さんだ!こっつーはあげません!」

 

まったく。それにこっつー中学生だから、翔が手を出したら犯罪だよ?

などと歓談してる合間に大学に到着。講義までまだ時間があるから、近くのベンチで翔と少しばかりのお喋り。内容は基本的にアニメについて。

 

「ねぇ翔。来期で何かオススメのアニメ、なんかない?」

 

「そうですね。来期だとあれですね。九人の少女がスクールアイドルを始めて廃校の危機に立ち向かうやつ。あれの2期がやりますよ。確か梓さんも見てませんでしたっけ?」

 

「あーあれね。ウチは家族ぐるみでハマってるから、勿論抑えてるよ」

 

ちなみに俺たち兄弟姉妹は好きなキャラが全員違ったりする。加奈姉は語尾が猫みたいな子、百斗は生徒会長、清はリーダー、こっつーは生徒会副会長の巫女さん。俺?俺は赤毛のツンデレちゃんが好きです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから講義の時間になり、ノンビリと教室に向かったり、昼休みに加奈姉の手作り弁当を持参と知った輩どもから逃げたりしてる内に気付けば放課後に。

大学生の放課後って、人によって違うから面白い。まぁ俺はその日の講義が終わったらそれからが放課後だけどね。

 

「おーい梓ー」

 

「ん?あぁ秋か。今からサークル?」

 

「そう言う梓もだろ?」

 

「まぁね」

 

サークルの部室に向かってると、後ろから秋に背中を叩かれる。これがまた地味に痛かったりする。

背中を叩いてきたのは室伏(むろぶし)秋太(あきた)。あだ名は「秋」。

学年は大学3年生と俺と同じ。入学した時に知り合って、なんやかんやで今まで付き合いがあったりする。サークルも同じなのもたぶん理由の一つだと思う。

 

「今日は確かあれが届く日だっけか?」

 

「昨日部長から連絡来たでしょうに」

 

あ、まだ何のサークルか言ってなかったね。俺と秋が入ってるサークルは「文芸サークル」。

活動内容は月1で冊子を発行、校内で販売。売り上げは次回の印刷代とかに充てられたりする。秋が言ってたあれは冊子の事だよ。

え?サークルか部かはっきりしろ?名義上はサークルだけど、話す分には部の方が楽なんだよね。ま、そこら辺気にしてる人いないから、これからもごっちゃになると思うよ。

 

「こんにちはー」

 

「ちーっす」

 

部室に入ると、奥の席に部長の沼白(ぬしら)(たみ)(3年生)がいるだけだった。どうやら他の部員は来ないのか、講義中なのか。まぁなんにせよ部長が1人だった。

 

「よっ。2人とも来たか。ほらこれ。2人の分」

 

民は横に置いてある段ボールから2冊取り出すと、俺と秋にそれぞれ渡して来る。

 

「あ、民。あと4冊頂戴」

 

「あいよ~。梓は部員割引で計600円ね」

 

民の手に600円丁度払い、代わりに4冊受け取り鞄にしまう。それから部室に備えられてるソファに座り、冊子を開く。

今号は今年に入ってから最初、つまり1号だからまだ1年生の分がない。だから2.3年生が2作品載せてたりする。それは民に頼まれた俺だったり、暇な秋も例外じゃない。

俺が今号に提出したのは12話(1年)で完結する「冷たい火傷」って話と、今号限りの短編「少女がきゅうりを食べるだけの話」の2本を載せてる。

 

「にしても梓のこの短編の背景設定ぶっ飛んでるよな」

 

「あ、やっぱり?まぁ短編ゆえに深く考えないで書いてたからね。どっかに矛盾があってもおかしくないんだよね~」

 

「むしろこっちの連載の方、よくこれだけの名前考えられるな」

 

「まぁね。名前のストックだけならまだ100人近くあるよ?」

 

もちろん名前だけだから容姿とかの設定はしてないけどね。

なーんて考えてると、秋と民の2人が口をポカンと開けていた。どうしたんだろう?

 

「いや、ストック量に驚いただけだ」

 

「なんでそんなにあるんよ」

 

「え、多過ぎても困る事ないでしょ?なにかモブ出そうとして、名前考えるのが面倒になったらそこから持って来ればいいだけだし」

 

最も大抵その場で考えちゃうから消費はあまりされない。今回のだって2作品19人中17人が即興の名前だしなぁ。っと、清からメール?

読んでいた冊子を閉じ、携帯を開く。一体何のメールだろう?

 

『今日の晩ご飯何?』

 

あー今日は加奈姉の帰りが遅いんだっけか。今日の晩ご飯……何にしよう。何がいいかな。あ、確か卵の賞味期限が近かったような……じゃあ帰りに鶏肉とタマネギ、みつば辺りを買えば大丈夫かな?ちょっと不安だな。

 

「じゃあ2人とも、俺もう帰るね」

 

「あいよ~」

 

「お、もしかして今日は梓が料理当番か?」

 

秋め、目敏いな。まぁ否定する理由も特にないから頷くけど。

 

「じゃあさ!俺もご相伴に預かっても良いか?」

 

「その場合、お金が発生するけど?」

 

「今月厳しいので遠慮します」

 

まぁ余裕があっても断るけどね。せっかくの一家団欒の時間を邪魔されてくなかったりする。

俺は鞄を持って日が落ちかけてる空を見上げながら、スーパーに向かって歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「あ、あず兄お帰り~」

 

「あれ?清だけ?」

 

家に帰るとそれを出迎えたのは三男の清風だけ。

あれ? 加奈姉と百斗はともかく、こっつーはどうしたんだろ?

 

「こっつーなら部屋で寝てるよ」

 

「あ~なるほどね。それじゃあ晩御飯作るから手伝って」

 

「は~い」

 

それから下準備をしてるタイミングで百斗が帰宅。晩御飯が出来たタイミングで加奈姉も帰宅し、こっつーも眠い目を擦りながら階段を下りてくる。

あ、加奈姉がスーツのままこっつーに飛び付いて倒れこんだ。大丈夫かな?

 

「ほら加奈姉、晩御飯出来てるから早く着替えてきな」

 

「ん、分かった!」

 

加奈姉が部屋に向かったのを見届けてから、こっつーを起こし食卓に着かせる。

あとは加奈姉を待つだけっと。

 

「お待たせ!」

 

よし、加奈姉も席に着いた事だし皆手を合わせて~

 

『いただきます!』

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
正直僕もほんわかしながら読みましたww

滝沢梓

加奈と同じく頼れる兄さん。
ただ加奈のように表だって動くより陰からそっと支える感じのクールなタイプ。
加奈とは違った意味での保護者。




藍沢翔

梓と同じ大学に通う大学一年。
一見クールで声を低く、いわゆるイケメンに該当されるがちょっと変な思考を持っている。
特に女性に飢えている?




室伏秋太

梓の同級生。
所謂腐れ縁という奴。
がたいがよく筋肉もよくついているスポーティーな見た目。
肩を叩くときの力を本人は加減してるつもりだけど全く加減されてない。




沼白民

梓が所属しているサークルの部長。
眼鏡をかけたインテリキャラ。
のわりには結構砕けた感じでつかみにくい。




では前書きで言ってたものの説明と+α。

今回の話は僕は書いておらず、この話の主人公、滝沢梓の下となった、方に書いていただきました!
元となったかたはこのハーメルンで活動している 名前はまだ無い♪さんに書いていただきました!
というのも、この作品自体この方と共同で設定を考えてたりしてます。
代表例を言えばキャラの名前はすべてこの方に考えてもらったりしてます!
本当にありがたや・・・

そしてもう一人。
藍沢翔。
このキャラの下となった方は頭文字Fさん。

お二人とも素晴らしい作品を書いているので、気になる方はユーザー検索で調べてぜひとも読んでください!!

ちなみに他二人のキャラはオリジナルです。

さて……次回は二男、滝沢百斗変(誤字にあらず)になりそうです……
いや、是非とも百斗編を書きますよ!!

お楽しみに~


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3話 滝沢百斗

お待たせしました!第3話、滝沢百斗

百斗(トト)という名前から分かる通り今回のモデルは作者である僕自身です。
そのためある意味書きづらい……ww

今回も友情出演(?)として他にもモデルとなった方がいますが……いつも通り後書きで!

新しく評価をつけていただきありがとうございます!
田千波 照福さん!!

他の方も付けてくれていいんですよ?(チラチラ)

では本編、滝沢兄弟姉妹次男、百斗編、どうぞ!!


「ふわぁ~~~~……眠いな~……」

 

寝ぼけ眼を擦りながら自分の家においてある一台の車に乗り込む僕こと滝沢百斗。

家族のなかで一番家を出るのが遅い(あず兄が2限目からの日を除く)僕は家の扉の鍵をかけていざ出勤。

毎日見ているせいですっかり覚えてしまったこの景色を特になにも感じずに運転していく。

 

『今日の運勢最悪なのはごめんなさい……』

 

「ああ、今日は僕の運勢が最下位か~……」

 

ただでさえ不幸体質と言うか、損しやすい性格のせいで色々面倒なことに巻き込まれたり遭遇したりする僕はこういった占い事を信じてしまう傾向があったりする。

僕の周りは信じない人が多いからよくバカにされるんだけどね……。

あず兄とか凄く笑ってくるし……ちくせう。占いなめてたら痛い目にあうんだよ?

 

そんな占いとその後のニュースを聞きながら会社へ向けてゴーゴー幽霊船。

ちょっと病弱なセブンティーン(20)な僕が頑張ること10分……全然頑張ってないね。

仕方ないジャン‼

家から職場が近いんだもん。

加奈姉にちょっと申し訳ないけど近いって最高。

尤も車じゃないと入れない職場ってのが面倒なところなんだけどね~。

 

まだ人があまり来ていないこの時間にいつもの場所に車を止め、作業着に着替えて就業開始前に携帯を弄りながら時間を潰していく。

携帯ゲームをしたりTwitterを開いたり小説を読み書きしたり……

 

「おいっす‼」

 

「うわっと!?」

 

と言った僕にとって割りとヘブンな時間を邪魔するやつが一人……

 

「今日も頑張ってるな~。何してるかは知らないけど」

 

「いきなり背中叩かないでよ大祐‼」

 

佐藤(さとう)大祐(だいすけ)

会社に入ってからの付き合いで僕の同期……なんだけど正直あまり馬が合わないというか、個人的には苦手な人。

ムードメーカー的な人で悪い人じゃないんだけどね~……

 

「今日も誰かにメールか?このたらしめ」

 

「そんなわけないでしょ?それにまたってなにさ」

 

生まれてこの方そういった経験は0である。

年齢=勢なめるな‼……言ってて悲しくなってきた。

 

「だってお前の兄弟皆レベル高いじゃん?だったら誰かしら付き合ってる人とかいるだろ?そうなれば百斗にだって彼女の一人や二人……」

 

「生憎そんな軽い男じゃないんで~」

 

「なんだ~?俺がチャラいっていうのか?」

 

「実際チャラいじゃん」

 

「お?やるか?」

 

「やらないよめんどくさい」

 

いつも通りの軽口の言い合いをしたところで先程の会話を思い出す。

 

(恋愛ね~……)

 

今まで縁もゆかりもなかった話題だし、僕自身彼女っていいな~って思いこそすれ手に入れようと自分から動いたことないんだよね……。

家にいるときも……いや、家にいるときはたまに話してるね~。

好きな人出来た~とか、付き合い始めた~とか……でも今は皆フリーだったかな?

最近その手の話してないからわかんないや。けど……

 

(かな姉は優しくて頼りになるし、あず兄はクールでカッコいい。キヨは少し引っ込み思案だけど明るくて楽しい人だし、こっつーは純粋に可愛いし……あれ?もしかして僕だけなにもなくない?)

 

「?おい、百斗。急にどうしたんだ?」

 

「いや、なにも……ただ未来に軽く絶望したよね」

 

「何があったし」

 

「明日に絶望しろ!未知に絶望しろ!思い出に絶望しろー! 」

 

「希望は前に進むんだ!」

 

「ムワアアア」

 

某ゲームのやり取りをしたあと某黄色いあの人のやられ声をあげていく。

え?お前ら馬合わないの嘘だろって?そんなまさか。

 

「しかし、本当にいないのか?もったいない……」

 

「そうだよね~……皆いい人なのに」

 

「お前自身はどうなんだよ」

 

「僕?そんな人いないって~……だって僕だよ?僕の事気になる人なんて……」

 

不幸体質で基本ネガティブ野郎のどこがいいのか……。

 

「いやいや、お前が受けに回ってどうするよ。お前男だろ?だったら自分から行かないと……好きな奴とかいないのか?」

 

「好きな人……かあ……」

 

そういいながらある人を思い浮かべ……かけてやめた。

ここで思い出したら多分顔に出る……。

それだけは避けないと……。

 

「お?顔が少し変わったぞ?」

 

「何が?」

 

「まさかいるな?」

 

「いないってば‼︎」

 

「お前らなにしてるんだ?」

 

そんな僕たちを若干冷めた目で見る影が一つ。

 

「あ、先輩。お早うございます」

 

「先輩ちっす‼」

 

「ちゃんと挨拶しろ」

 

「痛って!?」

 

相変わらずバカなことやって殴られている同期は無視して先輩の紹介を。

 

夢水(ゆめみず)隼人(はやと)先輩。

 

僕たちの二つ上の先輩で結構気さくな人で話しかけやすく、仕事もそつなくこなしながら僕たちに色々教えてくれる優しい先輩だ。

意外にもかなりのゲーマーで、僕もちょくちょく通信して一緒に遊んだりしている。

 

「ほら~、先輩だってやんちゃじゃないですか~‼」

 

「やかましいわ‼」

 

なんてことをいつ待てる間にまた始まる先輩と大祐のいつものやり取り。

先輩とか関係なく弄っていく大祐に対してチョップを放つ。

 

「ムワアアア」

 

「さっきから最高なぜやられ声が黄色いデブなんだ?」

 

「ちょ、先輩~。黄色いデブのことをマ◯さんって言わないでくださいよ~」

 

「誰も◯ミさんのことデブなんてないだろ‼」

 

おっとこれはマミさん好きの僕に対する宣戦布告だろうか?

 

「ってこんな話してる間にもうすぐ就業時間だぞ。ほら、お前たちも準備しろ」

 

「「は~い」」

 

先輩の一言で席につき装置を起動。

ここから長い長い単純作業の繰り返しである。

 

(さてと、確か今日までって言ってた依頼があって、それは今日中に終わるの確定だからよしとしよう。問題は次の依頼だね。これはなかなか厄介な……)

 

頭のなかで今日はどのように動こうか大まかな一日の予定をたてていく僕。

こういうのがあった方が動きやすいんだよね。

ってことで今日の行動を決めたところで早速……

 

「おい滝沢、ちょっといいか?」

 

「あっはい!」

 

仕事を始めようとしたところで上司に呼ばれて走っていく。

こういった時の移動は迅速に。

これ鉄則ね。……最も物凄く嫌な予感がしてるんだけどね。

 

「お前に頼みたいものがあってな」

 

「は、はあ……」

 

そう言いながら渡されたのは一枚の紙。

僕以外にも大祐と隼人先輩も気になったらしく横から覗き込んでくる。内容は……

 

「……へ?」

 

「すまんがそれも今日中に頼む。特急の依頼だ」

 

「……嘘ぅ」

 

内容自体は難しいというわけじゃないけどかなり時間がかかるもので、もともと今日やらないといけないものと合わせたらとてもじゃないけど終わらせれるものじゃない。

つまりは……

 

「うう、残業確定……」

 

繁忙期ならいざ知らずこの時期はまだそんなに忙しい時期じゃないのになぜこんなことに……。

 

「うわあ、この量は……」

 

「手伝えればいいんだがな……」

 

思いっきりひとり作業の仕事だ……。

手伝ってもらうことが無いから自分一人でしないといけない。

これはもう……

 

「完全に乙だな」

 

「ドンマイ百斗!」

 

「はあ……」

 

どうやら朝の占いは僕が思っている以上に大きな影響力があるようだ。

はあ……憂鬱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(カタカタカタカタ)

 

夜中の部屋に響くタイピング音。

外はもう暗く、周りに人も全くいないこの状況。

少し薄暗い部屋の中に一人だけ残った僕は寂しくパソコンと計器とにらめっこする。

時計を見るともう時間は9時を過ぎており、それでももうちょっと先にならないと終わらない量残っていた。

 

「あう〜、最悪だよー……まだ終わる気しない〜……」

 

なんて思っているときに携帯に着信が。

開いてみるとかな姉からのメール。

 

『珍しく遅いね。これからご飯作るけどいつ帰れそう?』

 

このメールを見てさらにうなだれる。

今日はどうやらかな姉が早く帰って来ているらしい。

いつもは逆な立場なだけに何だかとてつもない疎外感を覚える。

だってこのあときっと僕以外の4人でわいわいいいながら食べてるんだもん……羨ましい。

けど今日はまだ帰れそうにないからメールを打つ。

 

『ごめん、まだ時間かかりそう……。先に皆で食べてていいよ!帰りにコンビ二よって弁当かなんか買うよ』

 

メールを送信して再びパソコンとにらめっこ。

まだまだかかるといっても長くてあと1時間弱……ようやく見えてきた終わりに少しずつ作業の手が早くなり、そして10時を迎える少し前に……

 

「終わった~~~~‼ 」

 

今日出された分が全て終了。

あとはこの結果を明日の朝一に渡せばミッションコンプリート。

片付けもさっさと済ませて急いで更衣室へ。

途中廊下までもまっくらになっていて怖くて後ろを振り向けなかったのは内緒で。

 

着替えも終わったところで早速車の鍵を取り出して乗り込む。

あとはさっさと家に帰るだけなんだけど……

 

「もうご飯食べ終えてるだろうな~……」

 

言わなくてもわかっていることだけどついつい呟いてしまう。

若干の寂しさを感じながら家への帰り道にある唯一のコンビニへ。

鞄の中をあさって財布を取り出して……

 

(あれ!?財布は!?)

 

慌てて色々探してみるけどどこにも存在しない。そこでそういえば朝自分の机に財布出しっぱなしだったということに気がついて落胆。と同時に嫌な予感にたどり着く。

 

(今お金無いってことは夕飯……)

 

今から帰ったところで間違いなくご飯は残ってない……というか自分でいらないって言っちゃったから残ってるはずがない。

家にはインスタントとかあまりないし、あってもキヨが食べちゃうから多分ないし……これ、詰んでない?

 

僕の夕飯抜きが決定した瞬間だった。

 

どうやら星座占いというのは一人の楽しみの半分を失わせる力があるようだ。

 

「ああ、もう……最悪」

 

どこにもぶつけられないストレスを抱えながらも帰るしか選択肢がないため仕方なくエンジンをかける。

若干心地いい車の揺れに揺られながらあとわずかいかない帰路につく。

たった3,4分しかないから景色を楽しむこともないし、何か面白い事を見つけることもなく家に着く。

家の横にある駐車場に車を止めて降車。

扉を閉めるときに静電気を喰らってまた溜息を一つ。

なんでこの時期になってまで僕を襲うのか……。

そんなこんなでようやく家の扉の前へ。

ドアノブを触る時に先ほどの静電気を思い出し恐る恐るドアノブに触り、やっぱり静電気を受けて軽くドアノブを叩いて回していく。

 

「ただいま~……」

 

ドアを開けた先にはまっくら&静かな廊下。

もうキヨとこっつーは寝たころかな?

 

靴を雑に脱ぎ捨てて廊下を歩き、まだ電気がついているリビングへの扉を開ける。

すると……

 

「「「「おかえり、百斗(兄)!」」」」

 

「……え?」

 

机の上に料理が並べられており、みんなが待っていた。

 

「遅いぞ百斗」

 

「もう、せっかくの私の料理がさめちゃったよ~」

 

「なんで……先に食べててって……」

 

「あの後キヨ兄が百斗兄の部屋に財布落ちてるの見つけたんだよ」

 

「加奈姉のメール聞いた時あれ?って思ってね……だったらいっそのこと百斗兄待とうって思ったんだ」

 

皆の視線が僕に向けられる。

 

……本当、皆の兄であり弟で本当によかった。

 

目じりにたまりかけた涙を悟られないようにさっと拭いて皆に笑顔を向ける。

 

「……ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、滝沢家は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆からいじられ、何かと損をする役回りだけどなんだかんだで愛されているキャラ。
そんな感じで書かせていただきました百斗編、いかがでしたでしょうか?
僕を知っている人と良く知らない人で見え方がかなり変わると思いますww


滝沢百斗

兄弟姉妹の真ん中の次男坊。
皆によく弄られており、その時におこすリアクションがおもしろいから余計にいじられる完全な受けキャラ。また性格のせいでよく損をする。
ただそれは愛されている証拠でもあり、本人も理解しているため強く言えない。身長小さい。




佐藤大祐

百斗の同僚でいわゆるチャライ属性のキャラ。
百斗とは馬が合わないとお互い理解しているもののそれでもなんだかんだで一緒にいる(周りからは嘘だと言われている)
先輩に対しても物おじしないタイプでよく言えばムードメーカー、悪く言えば失礼な奴。




夢水隼人

百斗の会社の上司で厳しいながらも優しい。
口調もかなり砕けており喋りやすい。
百斗とよくゲームをしており、最近ではイカが出てくる陣取り合戦ゲームに夢中である。
ちなみにゲームの腕前は百斗の方が上である。




さて、それでは今回も元となった方の紹介を。

滝沢百斗

まあ、僕ですww
果たして読んだ方はこのキャラを僕と照らし合わせてどう思ったのですかね?ww

そしてもう一人、夢水隼人

アルリラさんがモデルとなっています!

気になる方はユーザー検索からやってみてくださいね!

ちなみに佐藤大祐はオリキャラです。


では次回!!
三男、滝沢清風編

お楽しみにです!!


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4話 滝沢清風

お待たせしました三男回

今回は作家さんが元となったわけではないのでこちらでの紹介は控えさせていただきますが、大切な人ですよ〜

今回も友情出演が何人か!さて、今回は誰でしょうかね〜ww

では本編へどうぞ!


「行ってきます!!」

 

「行ってらっしゃい~」

 

今日は一番最後だった百斗兄に挨拶を言って外に出る俺こと滝沢清風は慌てて先にいるあず兄とこつめちゃんを追いかけていた。

今日はちょっと寝坊したせいで遅れてる状態……急がないと二人に追いつけないよ‼︎

俺がこんなにも急ぐのにはある理由がある。と言っても結構簡単な理由なんだけどね。

 

(朝のこの時間だけは大切にしたいんだ‼︎)

 

そんな急ぐ俺の視線の前には何人かの見知った顔が。

 

「遅いぞ、キヨ」

 

「キヨ兄、私よりも寝坊〜」

 

「ごめ~ん!でも、こつめちゃんの寝坊時間よりは早いからこつめちゃんより寝坊なのは認められないね‼︎」

 

ようやくあず兄たちに追いついて回りを見渡すと他の影が……3人ともよく見た顔だ。

 

「おはよ〜キヨっち〜。寝坊って珍しいね」

 

「喉痛かったんだよね……それでそれに悶えているうちに時間が経っちゃって……」

 

最初に声をかけてきたのは藍沢翔さん。

同い年であず兄と同じ大学に通っている人で、見た目がイケメンで羨ましい人。

 

「おはよ〜キヨ君。よく眠れた?」

 

「おかげでぐっすり……まだ寝たいよ〜……」

 

次いで声をかけてきたのは同じく同い年の藍沢光樹(みつき)

翔とは双子の兄弟だけど二卵性だから顔はあまり似てない。

光樹はあず兄とは違う学校……というよりも俺と同じ学校に通っており、いつも俺と一緒に登校している。

少し高めの声が特徴的でどちらかというと中性的な人だね。だけど実は人を弄るのが大好きなSっ気ある性格だったり……。

 

「キヨさん、おはようございます!」

 

「うん、おはよう、叶音ちゃん。相変わらず礼儀正しいいい子だよね〜」

 

「そ、そんないい子だなんて……当たり前のことしてるだけですよ?」

 

「叶音ちゃんはいい子なの〜〜〜‼︎」

 

「ちょ、ちょっと、黒愛ちゃん⁉︎」

 

いきなりこつめちゃんが叶音ちゃんに飛び込んでいった。

最後に声をかけてきたのは藍沢家の末っ子で藍沢叶音(かのん)ちゃん。

中学一年生の子でこつめちゃんとよくセットでいて、同じくまるでアイドルみたいな扱いを受けている子だね。

本人に自覚はないけどものすごく真面目で丁寧な子でとにかく純粋。

いててとても癒される子で物凄く可愛らしい子だ。

 

名字を見て分かる通りこの三人は兄弟で、僕たちの近所に住んでおり、同じ学校に通っているってこともあってこうして一緒に通学したりするこもあるんだ。

他にも一緒に遊んだりお泊まり会もしたり……普通のご近所さんに比べると間違いなく仲はいいね。

 

しかし、こつめちゃんと叶音ちゃんがこうセットでいるとなんだか見てるこっちもほんわかしてきて……

 

「叶音ちゃん可愛いよね~‼撫でてあげる‼」

 

「はう~……で、でも黒愛ちゃんの方が可愛いよ?」

 

(わああああああ!?なにこの可愛い生物‼凄く可愛いよ~~~‼お持ち帰りしたい‼いいよね?いいよね!?ねえキヨ兄‼良いって言って‼すぐにお持ち帰りするから‼)

 

(こつめちゃん、とりあえず落ち着こ?さもないと俺は今すぐこのポケットの中にある長方形のもので110の数字を打たないといけなくなるから……)

 

……前言撤回。

ちょっとうちの妹が暴走しているようだ。

母さんや加奈姉もだけどうちの女性陣、普段は普通……と言うか、頼りになるんだけどこと可愛いものが関係するとたまに豹変しちゃうから……ほら、そのせいでたまにあず兄吹き飛んだし……。

 

「お~い!!」

 

そんな時に遠くからさらに一人の声が。

そちらに視線を向けるとまたもや見たことのある顔。

 

「遅いぞ~直輝」

 

「ごめんごめん」

 

あず兄に呼ばれて謝ってきたのは加川(かがわ)直輝(なおき)

俺や翔、光樹と同い年で翔とあず兄と同じ学校に通っている。

若干関西交じりの喋り方で、明るく喋りやすい人で周りからの信用もかなり高い。

正直俺にもこれくらいの積極性があればなんていつも思ってたよ……

ちなみに直輝にも弟がいるんだけど、弟は高校に通っていて、今日は高校組は別行動らしい。

本当は一緒に話したいけど仕方ないね。

というか俺が寝坊したのと歩きながらそこそこのスピードで歩いていたせいでもう分かれ道なんだけどね……

 

「んじゃ、行くか~。俺達はこっちだからな。行くぞ~翔、直輝」

 

「あ、待ってくださいよ梓さん!」

 

「ちょ、俺まだ来たばっかなんやけど!?」

 

あず兄を先頭に大学組が先に歩いていく。

 

「ああ、お兄ちゃんたちいっちゃった……」

 

「じゃあ私達も行こ!叶音ちゃん!!」

 

「え!?あの、黒愛ちゃん引っ張らないで~~!!」

 

次いで中学校組。

交差点には俺と光樹だけが残された。

勿論このままここにいたら置いて行かれるから

俺達も歩を進める。

 

「全く、朝から騒がしいね~」

 

「でも嫌じゃないんでしょ?にぎやかで俺は楽しいよ!!あず兄もなんだかんだで楽しんでるし」

 

「俺も嫌いじゃないよ?」

 

「勿論知ってるよ」

 

「だよね~、なんだかんだで俺も楽しみだもん」

 

二人になっても途切れない会話。

小さい頃から一緒になって遊んでいるからずっと会話は続くし、例え沈黙になってもそれが全然苦じゃない。

そんな素晴らしい関係を持ててほんとうに幸せだよ。

そんなことを思いながら学校へと歩を進めていく。

そこそこの距離があるのに気づけば目的地で、いつも校門をくぐるこの瞬間がどこか物寂しかったりする。そして校門をくぐったあとに向けられるたくさんの視線。そのすべてが女性から向けられるものだった。

勿論、これは俺たちがモテモテって訳じゃなくて、俺たちが通っているのが看護、福祉系の学校だから。

男子なんて全校合わせても30前後だと思う。逆にこれでも多い方なのかもしれない。

そんな学校だからこそ男だからっていう理由で結構視線を向けられるんだよね……。

 

「嫌だな〜……いつまでたっても慣れないよ……」

 

「針の筵って言葉がここまでぴったりなのも珍しいよね〜」

 

「本当、辛いね」

 

女性からの視線と言うのは結構羨ましがられたりするんだけど実際そんなに良いものでも無いんだよね……ただただ居づらくて。

とにかく、みんなが羨むようなものでは決してないって断言するよ。

 

「はぁ~……辛いね」

 

「本当……でもキヨくん。こうなることわかってたんでしょ?」

 

光樹の言う通りこうなることは分かっていた。

この学校を受験する前から先生には何回も確認されたし、面接のために色々調べていたからこの学校が男女比が凄いことは分かっていた。

それでもここに来たのにはちゃんと理由があって……。

 

「これくらいじゃあ負けられないよね‼」

 

(この視線の一体何割が……というより、全部がキヨ君への好意の視線なんだろうな~……)

 

「?光樹、俺の顔になにかついてる?」

 

「ううん、なんでもないよ~」

 

「う、うん……」

 

少し陰ってる微笑みを見せながら返してくる。

少しこわいんだけど……まさか光樹も嫉妬?いやまさか……

 

「光樹はもう相手がいるもんね~」

 

「ふええ!?////」

 

おお、面白いくらいに反応した。

中性的ってこともあってこういった反応が凄くかわいいんだよね。本人にいったら怒られるから絶対に言わないけどね。

あ、あと一応言っておくけど俺もそっちの気は無いからね?

 

「いや~楽しみだね。どうなるんだろ!!」

 

「うう~///」

 

普段みんなを弄る側の彼をこんな形で弄れば物凄く面白いんだよね。

こういった感じがとてもニヤニヤするんだよね。

 

「そういうキヨ君だって‼……///」

 

「俺はそう言うの縁無いしな~……」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……本当に言ってるの?」

 

「……え?」

 

光樹から物凄い視線を送られる。

俺、変なこといったかな?……

 

「ねえ、キヨ君って昨日もクラスの女の子に呼ばれてたでしょ?なんの話だったの?」

 

「え?付き合ってほしいって……」

 

「ふぁ!?……へ、返事は?」

 

「え?勿論okしたよ?」

 

「ふぁ!?」

 

俺の回答に二連続で素っ頓狂な声を上げる。

 

「え、じゃあキヨ君付き合うの⁉︎」

 

「だからそう言ってるじゃん?……なんかおかしいところあった?」

 

「いやいやいや、おかしいところしかないからね⁉︎」

 

物凄く焦ったように言う光樹に首をかしげる俺。

おかしいな、俺は本当になんでもないんだけど……だって……

 

「付き合ってくださいって言われたら普通買い物に付き合うってことでしょ?」

 

「……は?」

 

「え?」

 

だってよく加奈姉とか、こつめちゃんに付き合ってって言われるし……

 

「……ごめん、キヨ君。君はどうやら男の敵みたいだ……」

 

「ええ!?どう言うこと‼」

 

慌てて聞くものの俺を無視して先に進む光樹。

その日一日、光樹は受け答えはしてくれたものの反応が物凄く冷たいものだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でなのさ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の叫びはむなしく空に消えていった……




おかしい……最初はこんなキャラになる予定じゃなかったのにwww
ということでまさかのモテモテ鈍感キャラになりましたww
間違いなく元となった人とは性格が違いますが……いいですよね!




滝沢清風

したから2番目の三男。
爽やかで少し大きめな声でぱっと見活発そうだけど実はちょっと奥手で引っ込み思案。
下の黒愛と一緒にふざけあうこともしばしば。
何気に黒愛に沢山お願いされることがあり、そのせいで若干唐変木に。
身長170越えで次男より7以上大きい。




藍沢光樹

のほほんとした性格で中性的な男性。
若干のSっ気があり、人をからかうこともしばしばあるが、その攻められると弱い一面も。
藍沢翔の双子の弟で二卵性。





藍沢叶音

翔と光樹の妹で黒愛と同じ中学に通う1年生。
可愛らしい見た目と優しい性格、さらには純粋の三拍子で周りからは黒愛と同じくアイドルのようにもてはやされている。
天然なところがあり、たまにとんでも発言をすることがある。




加川直樹

梓と翔と同じ大学に通う1年生。
若干関西弁が混じっており、たまに言葉に混じって出てくる。
活発な性格で話しやすく、自然と人をまとめる力を持っている。
同じく滝沢家の近所に住むいわゆるお隣さん。
弟がいる。




では今回も作家さん紹介を!

まずは藍沢光樹。

映日果さんという方がモデルとなっています。

続いて加川直樹。

シベリア香川さんが元となっています!

お二方とも素晴らしい作品を書いていますのでよろしければユーザー検索の方からどうぞ!

他にも今話の清風と藍沢叶音に元となった方がいますが、ここでの紹介は控えさせていただきます。
ただ、お二方ともいい方ですよ?
これからもよろしくです!

では次回、いよいよ次女黒愛回!
兄弟の末っ子のお話です!
ではではお楽しみに〜


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5話 滝沢黒愛

連日投稿、末っ子黒愛回です!!
今回も梓回と同じく、僕ではなくこのキャラの下となった方、こつめ様(様までが名前)さんに書いていただきました!!

ではでは早速どうぞ~


頭上で鳴り響くベルを止めもう一度夢の中に帰る。まだ寝てても平気…だよね。

 

 

 

 

 

「…つ……こっ……こっつー!」

 

聞き慣れた声に起こされる。この声柔らかい優しい声は…

 

「むぅ……百斗兄?」

 

百斗兄こと次男の百斗だった。私の事を起こしに来たんだろうけど

 

「ほら!起きて!もう時間だから!」

 

「むぅ…起きるー…」

 

「ほら!じゃあ起きて!」

 

「ぅーん…」

 

起こしに来たのが百斗兄ならまだ寝れるね。百斗兄は優しいし緩いから言う事聞かなくても平気!…なはず。適当に返事をして二度目の夢の世界へ…

 

「こっつー!起きてよぉ…」

 

よしよし、トト兄も諦めてどっか行ったし、寝れる寝れる。意識がゆっくりと遠ざかって行く。

なんか百斗兄と誰かが話してる?まぁどうでもいいか…。ん?なんか足音がこっちに来た?この足音…百斗兄じゃない?

頭の中が睡魔に襲われて何も考えられずベッドに体を預け夢の世界へ。

その瞬間

 

「おはよー!!!」

 

「ひゃああ?!!」

 

と耳元で叫ばれる。眠気が一気に飛んでいく。

 

「はーい、おはよう。百斗に呼ばれて起こしに来たよー」

 

と爽やかな笑顔で挨拶をしてくる。だが耳元で思いっきり叫ばれたので爽やかに見える訳がない。

 

「あ、あず兄…!!!」

 

あず兄こと長男の梓。優しいのか意地悪なのか分からないお兄ちゃん。起こしてくれるのは嬉しいけど…!

 

「起きれたでしょ?」

 

「起きれたけど…」

 

「ほらほら、下いくよー」

 

耳元で叫けんでくれたお陰で意識は覚醒したのはいいけど

 

「うぅ…」

 

体は言う事を聞いてくれずにベッドから離れようとしない。

 

「こっつー?早くー?」

 

「うーごーかーなーいー」

 

甘えてる訳じゃないんだけどね?体が動かないからぁ…。

 

「ん?動けないこっつん?」

 

扉の向こう側から微かに声がした気が…。気のせい…?

 

「ほら、じゃあおぶってあげるから」

 

あず兄が私に背中を向けてしゃがんでくれる。手を伸ばしてあず兄の首に腕を…

 

刹那、目の前にいたはずのあず兄が横に吹き飛ぶ。壁に当たり百斗兄の叫び声。そしてまた私の目の前に背中、あず兄に比べ狭い肩幅。少し肩に掛かる髪。そして私の方を振り向き

 

「こっつん!私がおぶってあげるよ!」

 

何事もなかったかの様に目を輝かせ笑顔を向け私の名を呼ぶ。

 

「加奈姉…」

 

加奈姉こと長女の加奈。しっかりしてるはずなんだけど…。あず兄を吹っ飛ばす位には強い。

 

「ほら、こっつんおいで〜」

 

「い、今あず兄…」

 

「ん?あぁ、私の目の前でこっつんのおんぶを狙おうだなんてそんな事させないよ!」

 

「で、でも吹っ飛んで…」

 

「大丈夫!梓も男だから!ほら!大丈夫だからこっつんおいで〜」

 

加奈姉に誘われてまんまと腕を出す。

あず兄の代わりに加奈姉の首に腕を伸ばして加奈姉の肩に頭を置く。

 

「よっこらしょ」

 

加奈姉が立ち上がり歩き出す。

加奈姉の柔らか香りと温もり、そして歩く度に揺れに再度眠気を誘う。

そして加奈姉におぶってもらってやっと部屋から出るのであった。

 

 

 

 

 

あず兄大丈夫かな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、加奈姉、こつめちゃんおはよう」

 

加奈姉の背中に乗って下まで降りてリビングへ。挨拶してくれたのは

 

「キヨ兄おはよう」

 

「風おはよう」

 

キヨ兄こと三男の清風。風とも呼ばれてる。とっても優しいお兄ちゃんで私といっぱい遊んでくれる。

 

「とっくに朝ご飯出来てるんだから、早く座ってよー。全く…上で何してたの?」

 

「えっとね…「別に何もしてないよー?単純にこっつんを起こしてただけよ?ねぇこっつん」…うん」

 

私の言葉に上乗せする様に被せてくる加奈姉。しかも最後の威圧…。優しいお姉ちゃんだけど逆らえない…。

 

「あー、うん。分かった分かった」

 

そう私の顔を見ながら納得するキヨ兄。キヨ兄は察しがいいなって。

 

「…何も無かった…?」

 

またまた扉の向こう側から声が…。

 

「俺は傷だらけです!!」

 

どう見ても平気そうなあず兄と苦笑いしてる百斗兄がやっと下に降りてきた。

 

「あず兄遅いよー」

 

「そうだよー、早くしてよー!」

 

「キヨ君ごめんね!ただ!加奈姉のせいだからね!」

 

「ははは、ごめんごめん。ただこっつんのおんぶは譲れなかったの」

 

「分かるから許すけど!」

 

何が分かるのか私には分からないけど…。それ以上口出しすると余計に話が膨らむ気がするから静かにしてよう…。

 

「ほらほら、食べようよ」

 

やっと百斗兄が場を静めてみんながそれぞれ自分の席に座る。今日の朝ご飯は加奈姉が作ってくれた洋食。少しおしゃれ。このいつもの光景がとても安心する。

 

「はい、みんな座ったね。じゃあ、いただきます」

 

「「「「いただきます」」」」

 

加奈姉に続きみんなで『いただきます』を言うのはルールかな?

 

「ん!加奈姉!今日も美味しい!」

 

「こっつんありがとう!」

 

「美味しいー」

 

「梓もありがとう」

 

「うん!美味しい!」

 

「百斗もありがとう」

 

「流石加奈姉!」

 

「風もありがとうね」

 

ちゃんと作ってくれた人にはお礼と言う名の『美味しい』は言わないとね!百斗兄に教えてもらったし!

加奈姉のご飯は美味しくていくらでも食べられる気がするけど…

なんだかどんどんお腹いっぱいになってきて眠くなってきたなぁ…。また眠気が来てぽけーとしていると

 

「こつめちゃんお腹いっぱいなの?食べてあげるよ。あ、これもらうね」

 

「あ、うん」

 

………………ん?

今………………

食べるって……………?

 

「キヨ兄待って?!」

 

「ん?何が?」

 

そう言いながらもぐもぐしてるキヨ兄。

もぐもぐしている……。私の………!!!

 

「い、今…!わ、私の…」

 

「あー、うん。食べていいっていうから」

 

「返してええ!!」

 

「食べちゃった」

 

と満面の笑みで笑う清兄。爽やかだけど!爽やかだけどぉ!

 

「うわあああ!!」

 

確かに眠くて頭働いてなかったけど!言い訳ないじゃん!私のウインナー……。

食べられてしまったものはもう仕方ない。ならば………

 

「それ!」

 

キヨ兄のお皿に手を伸ばして…

 

「あ"!!」

 

ウインナーをフォークで刺して…

 

「パクッ」

 

うん!美味しい!

 

「あ"あ"っ!!」

 

「モグモグ…ゴックン」

 

「あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

これで五分五分。やられたらやり返えさないとね。

 

「こつめちゃん……」

 

キヨ兄の食べれたしキヨ兄にやり返せたから満足!満足!

 

「ほらほら、早く食べ終わって?食器洗わないと時間が…」

 

そう百斗兄に言われ時計を見る。

 

「うわ!こつめちゃんのせいだ!」

 

「嘘!もうこんな時間?!キヨ兄も悪いでしょ!」

 

あと十分位で出ないといけない事に気がつく。

 

「「ごちそうさま!」」

 

キヨ兄と同時に食べ終わって百斗兄に食器を渡す。

 

「百斗兄よろしく!」

 

「はいはーい」

 

百斗兄に託して急いでリビングを出る。階段を駆け上がり自分の部屋に飛び込む。家の階段少しキツイのはいつも通りただ急いで登るのとゆっくり登るのでは体力の消費量が…!

息を荒らげながらパジャマを脱いで制服に着替える。

Yシャツのボタンを慣れた手つきで止めていく。スカートとブレザーを片手に持ち鏡の前に立ってここが私の大事な作業。スカートを履いてブレザーを着た後私の一番拘るスカートの丈を確認する。

 

「うん!二回折るのが一番いいね!」

 

スカートを二回折って形を綺麗にする。

これでこそ私の制服!二回折ってスカート短くして…靴下履いて…よし!

 

「そして……」

 

いつもの紫色のヘアゴムとくしを取り出す。ちゃっちゃと髪を解かして、ぴったりになる様に半分に分けていつもの高さで束ねるんだけど……

 

「うーん…もう少しかな」

 

片方の高さに合わせるのは苦手でいっつも時間がかかる。

 

「あ!時間ない…!」

 

本当は拘りたいけど…。時間ないし…。

適当に束ねて鏡を確認する。

 

「まぁいいか」

 

点数で言うと85点位。よろしくない。

でも今は時間が無いので諦めよう。

昨日の夜に準備して置いたリュックを背負い、忘れ物がないか一瞬確認してまた部屋を飛び出す。

 

「あ!」

 

大事な日課を忘れかけ部屋に戻り

 

「お母さん!お父さん!行ってきます!」

 

自分の部屋に飾ってある家族写真のお母さんとお父さんに挨拶をする。これは私の宝物。大好きな家族皆がいるから。忙しくても挨拶はしないとね!

日課を済ませ改めて部屋を勢いよくでる。急ぎつつも転ばないように気をつけて階段を降りる。

玄関に着き急いで靴を履いていると

 

「はい、こっつー、お弁当」

 

「あず兄ありがとう!」

 

いっつも作ってくれて本当に感謝しきれない。今日はどんなのなんだろうなぁ。あず兄の作ってくれたお弁当をリュックにしまったし、よし!

 

「じゃあ行ってきますー!」

 

「あぁ!こっつん待って!」

 

出ようとした私を加奈姉が止め、すっと結んだ髪を解く。

 

「ほらほら、曲がってるよ?よっ…と。はい、直った」

 

「ありがとう!」

 

この一瞬でこんなに綺麗に結べるなんて…流石加奈姉…。見習わないとなぁ…。

 

「じゃあ行ってきます!!」

 

しっかり皆に聞こえる大きな声で挨拶をして

 

「「「「いってらっしゃい!!」」」」

 

皆の声が帰ってくる。こんな毎日が本当に本当に大好きで幸せ。

扉を開けて

 

よし、今日も一日頑張ろう。

 

この家に帰ってこれるのだから。




天然交じり、ほわほわした皆のアイドル的存在黒愛回、いかがでしたでしょうか?と言いつつ書いたのは僕じゃないんですけどねww

読ませてもらったときついつい頬が緩んでしまいましたww





滝沢黒愛

マイペースでのんびり屋。
兄弟の末っ子で、故に皆からちやほやされているアイドルっこ。
実際歌う事とかも大好きでたまにやっていたり?
特に加奈からの愛が大きく、たまに暴走する姉の姿に吃驚することも・・・
ただ彼女自身、可愛い物には目が無い。


今回はお一人だけ紹介を。

前書きでも言った通り、滝沢黒愛はこつめ様さんが元となったキャラです!
よく会話とかもするのでお世話になっている方です・・・いや、本当に・・・

気になった方はユーザー検索からどうぞ!!

では今回はこの辺で!!


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6話 藍沢光樹のラッキー(?)な1日

お待たせしました(?)

最近投稿スピードが異常ですがこれも僕だけが書いているわけじゃないからですねww
というわけで今回はサブタイトルにも載っている藍沢光樹の元となった方、映日果さんに書いていただきました、藍沢家の長男だか次男だか分かりませんが(おい)藍沢光樹回です!
この作品の主人公は皆ですからね。
脇役を作りたくないのが本音です。

では早速どうぞ!!


「おはよ〜キヨくん。……さすがに今日は梓さんとか黒愛ちゃんとかは一緒じゃないんだね」

 

「そういう光樹だって、翔さんも、叶音ちゃんもいないじゃん」

 

「まあだってこの時間だしね〜」

 

今の時刻は7時ちょっと前。

なんで今日はこんなにはやく学校に行こうとしてるかっていうと実技演習の準備をしないといけないから。

 

「それにしても今日の演習の動画資料見た?」

 

「見たよ、なんか僕たちがやるといろいろだめなきがするよね」

 

今日の内容は患者さんの体の位置を変えたり、向きを変えたりするらしいんだけど、いろいろときわどいところを支えないといけないから、女子を相手にするのはちょっと・・・って思ったりしてるんだよね。

 

そんなこと話してるうちに学校に到着。

いつもと違って入った瞬間視線が集まるなんてことは……あったね。キヨくんにやっぱり視線が集まってるよ。準備に来た人しかいないから大分視線は少ないけど。

学校に入って実習着に着替えた俺とキヨくんは今日の実習をするところの準備をする。

 

「えっと、ベッドとバスタオルと……ねぇ、キヨくん、これで全部だっけ?」

 

「んー、そうじゃない?」

 

キヨくんとお互いに確認しあって準備完了!

あ、そういえば……

 

「今日の実習の相手ってもう言われてたっけ?」

 

「ううん、これからって言ってた」

 

やっぱりそうだよね〜……出来ればキヨくんとか男子と一緒がいいけどそんなこと考えてくれないのがうちの先生。

きっと女子と一緒なんだろうなぁ……

なんて思いながらキヨくんしゃべってるうちにみんながちらほら登校し始めた。

 

「おはよ!」

 

「いって! って理咲か……おはよう」

 

勢いよく来て俺の背中を叩きながら挨拶をしてきたこいつは小藤理咲(ことうりさ)。俺とは幼稚園から一緒で何故か進む道も同じだったっていう腐れ縁。

 

「なにその反応!」

 

「ちょっ、理咲!?///」

 

うしろから抱きついてきた理咲に俺はドキドキ。キヨくんは笑ってそれを見てるし!

 

「朝から熱いね〜」

 

「そんなこと言わないで!///」

 

「どうしたの?」

 

「と、とりあえず離れて!///」

 

色々と当たってるから! ドキドキしまくってるから!

 

「あ、今日の実習のペア発表されたみたい。いこ!」

 

と今度は手を引いて来る理咲。

ってだからぁ!

 

「離して!///」

 

もう絶対俺の顔赤いよ、だって顔熱いもん……///

顔を真っ赤にしながら(多分)、結局俺は理咲に引っ張られて掲示板の前に連れてこられ、俺は今日のペアを確認する……

 

「あ、私と光樹がペアだ」

 

前に理咲から言われた。

って、本当に!?

慌てて確認すると確かに俺の名前と一緒に理咲の名前があった。

 

「よろしくね、光樹」

 

俺より少し低い身長から繰り出される眩しい笑顔。

それだけでまた俺の心臓はドキドキし出して。

 

「あ、うん。まあお前が一緒なら失敗しても大丈夫そうだからありがたいな」

 

「どういう意味なのかな、それは!」

 

なんとか普通に返した俺は実習内容を思い出して、今度は体全体が熱くなった、そんな気がした。

 

 

 

実習がなんとか終わって昼休み。

俺はキヨくんと理咲と一緒に食堂にいた。

 

「ねえ、光樹、君あんなに実技下手だっけ?」

 

食堂でお昼ご飯を買って席に着いた途端、そう聞かれた。

 

「まあ、初めてだし……」

 

気づいてよ! 俺がどんな気持ちでやってたのか!

やばかったからね、ドキドキし過ぎて汗びっしょりだったからね?

そのくせ俺にやるときは平然とやってきて重いとか言ってたし……

実習中のことを思い出して、ジト目で理咲のことを見て無言の抗議をしてみる。

 

「ん? んく。どうしたの?」

 

口に入れていたハンバーグをしっかり飲み込んでから首をこてんと曲げて聞いてくる理咲。

本当にかわいいなぁ……

 

「光樹、見惚れすぎ」

 

横にいたキヨくんに横腹を突かれ我に返った俺はとりあえずお茶を飲もうとして……

 

「空なら入れるよ?」

 

さらに気恥ずかしさを覚えながら素直に理咲にコップを手渡した。

渡されたお茶を一口飲んでから理咲の方を見るとハンバーグについているニンジンとにらめっこしていた。

 

「相変わらず人参ダメなんだ。かなり食べれないものあるよね?」

 

「違うよ光樹。一回食べてはみた。でもやっぱり私とは合わなかった。だからしかたないでしょ?」

 

いや、いくら理論的に説明されても好き嫌いが多いってことは何も変わらないんだけどね?

しばらくにらめっこして諦めがついたのかフォークでニンジンを刺して口に運ぶ。

すごく嫌そうな顔をしながらもなんとか飲み込んだ理咲はすぐに水を飲んだ。

でも、あと2つ。付け合わせのニンジンはあと2つ残ってる。

ニンジンと俺の顔を交互に見て、一度ハンバーグを口に入れてご飯を食べる。

 

「本当に光樹食べるの早いよね」

 

「そう? 男子ならこれくらい普通だと思うけど」

 

理咲が食べ終わるのを待ってる俺にそう声をかけてきた。

確かにいつも10分くらいで食べ終わるけど、普通くらいじゃないのかな?

 

「ねえ、キヨくん……って、あれ? キヨくんは?」

 

「ああ、また女子に連れて行かれてたよ」

 

2つ目のニンジンを食べ終わった理咲が苦い顔で教えてくれた。

それにしてもキヨくん本当にモテモテだよね。それなのに鈍感で……この前の子とは結局一緒に買い物行ったのかな……?

 

「もう無理、光樹一個食べて」

 

理咲が少し不機嫌そうに言う。本当は3個のうち2個食べたし食べるよって言ってあげたいけど、好き嫌いをこのままにしておくのもね。

 

「ダメ、あと一個なんだから頑張って」

 

「もういーやー!」

 

「だからダメ……「ん!」……えっと……?」

 

ダメって言おうとしたらフォークに刺さったニンジンが目の前に差し出された。

 

「ん!」

 

「はぁ、しかたないなぁ……」

 

結局理咲の勢いに負けて食べさせられた。やっぱり理咲には甘いなぁ、俺。

 

「ありがと!」

 

満面の笑みで、でもちょっと恥ずかしそうにそう言われたら、理咲のために注意しようとした言葉も出てこなくて。

 

「あ、ああ、別にいいよ……」

 

そう返すしかできなかった。

 

 

 

 

 

その日の夜、今日はうちの親が2人ともいないからということでキヨくんの家で夕飯を食べることになってた。

 

「加奈さん、ちょっとスープの味見してもらっていいですか?」

 

「うーん、気持ちコンソメ足そっか。それでいいと思うよ」

 

「わかりました! いつも思いますけど手際いいですよね〜」

 

「まあ私がだいたい作ってるからねぇ。今日は梓が大学で遅くなるって言ってたから助かったよ」

 

「そう言えば翔もいってた。……よしっと。あとはみんなが帰ってきてからですね」

 

ただ夕飯をご馳走になるのは申し訳ないし、時々料理はしてたということでだいたい料理の手伝いをしてる。

でも、梓さんがいるときは邪魔にしかならないからできないけど。

 

「一旦休憩?」

 

「うん、百斗さんもお仕事お疲れ様です」

 

「うん、ありがと〜」

 

たまたまリビングにいた百斗さんに声をかけてから叶音と黒愛ちゃんが遊んでるはずの部屋に行く。

あの2人だから多分、間違いなく叶音が黒愛ちゃんに抱きつかれて窒息しそうになってる。その様子を傍観しに……じゃなくて叶音を助けに行かなきゃ。

 

『く……ちゃ……しいよ』

 

『でも……い……いよね』

 

やっぱり……。

いつも通りの拘束を受けてることを確認した俺は部屋のドアを一応ノックして、多分気付かないけど、ドアを開ける。

 

「あれ、キヨくんもいたんだ。ていうか、いたなら止めてよ!」

 

「光樹、俺が止められると思う?」

 

「かわいい〜!」

 

「もう黒愛ちゃんの方がかわいいよ〜!///」

 

「無理だね」

 

うん、キヨくんにこの黒愛ちゃんを止めるのは無理だね。

 

「そう言えば、今日、小藤さんにアーンしてもらってたよね、光樹」

 

え? アーン……?

……あ、そ、そっか、あれって……!

 

「なになに!? 私詳しくその話聞きたいなぁ!」

 

「ふぁう……///」

 

「ほら止めたよ?」

 

「標的を変えただけじゃんー!///」

 

「はやくはやく!」

 

「私もその話、聞いていい、かな?」

 

「私も〜!」

 

「叶音に加奈さんまで! うう……///

絶対に話しませんー!」

 

巻き込まれた俺は急いで部屋を出て逃げ出す。

結局、梓さんと翔が来るまで追いかけっこは続いて、梓さんに捕まえられて今日のこと洗いざらいはかされた……

でも思い出したらまた幸せな気分になったから、いいのかな……///




というわけで前々回でほのめかしていた光樹君の相手が登場です!
可愛いですよね~。そして恋愛っていいですよね~・・・
他人の恋愛は蜜の味ですから!

キュンキュンして僕は好きですよ!!(←キモチワルイ)




小藤理咲

藍沢光樹、翔の幼馴染で光樹が好意を寄せている相手。
天然か計算か一直線に相手の心を揺さぶる動きをしてくる。
本人に自覚はないだろうから恐らく前者だが・・・
また活発な子で考えるよりは行動する方が得意な子……?




このキャラは一応オリキャラです。
一応と着けたのには理由がありますがオリキャラです。
(そもそもこんなきゃらせっていでいいのかふ(ry)
このキャラも以降ちゃんと出てきますが……どうやってからんでいくんでしょうかね~ww

では次回もお楽しみに!!


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7話 はちゃめちゃ?おかいもの!

お待たせの第7話です。
今回も映日果さんに書いていただきました!!

また、タグに合作を追加いたしました。
この先も僕だけではなく沢山の方が何話か書いていくと思います。
いろんな角度から書かれる家族たちの日常をお楽しみください!

今回は女性陣のちょっと激しいお買い物のお話……


「おはようございま〜す!」

まるで自分の家みたいなお隣さんの家に遊びに来ました!

黒愛ちゃんち、5人兄弟で生活してるすごい人たち。

今日は黒愛ちゃんに呼ばれて朝早くから黒愛ちゃんちにお邪魔することになったんだけど……

 

「かなねえ、お願い! 今日、お買い物連れてって!」

 

「ごめん、こっつん、わたし今週の休み今日だけだからお家でのんびりしたいんだけど……」

 

珍しく黒愛ちゃんと加奈さんが言い合いしてる。

いつもなら加奈さんが黒愛ちゃんのわがままを飲んでるのに……

 

「あ、叶音ちゃん、いらっしゃい」

 

「あ、梓さん! おはようございます」

 

梓さんは結構何でもできるかっこいいお兄ちゃん。いつもそう言うと自分のできることをしてるだけって言われるけどねそれって自分のできることが結構あるってことじゃないのかな……?

 

「黒愛ちゃんたち、なにしてるんですか?」

 

「ああ、加奈ねえの休みが今日だけだから、加奈ねえはゆっくりのんびりしたいって言ってるんだけど、こっつーが買い物に連れてけって言ってるの」

 

「あれ、私、黒愛ちゃんから一緒に買い物いこって誘われたから来たのに……」

 

「またこっつーは……まあきっと大丈夫だよ」

 

梓さんが二人の方を指差すから私も思わずそっちを向いてしまう。

 

「加奈ねえ……お願い……!」

 

加奈さんに上目遣いでお願いした黒愛ちゃん。

す、すごく可愛い……やっぱり黒愛ちゃん可愛いよね!

 

「こ、こっつん……」

 

「え……えー! か、加奈さん!?」

 

加奈さんが鼻血出しながら倒れちゃったよ!?

しかもけっこう血が出てたよ!?

大丈夫なの!?

心配しながら見ているとすぐにキヨさんが来てパッと処置をした。

そっか、そういえば光樹お兄ちゃんと同じ学校行ってるんだもんね。手当てとかはキヨさんが1番できるのかも?

 

「さ、叶音ちゃん、加奈ねえ復活したら出かけるだろうからもうちょっと待ってて」

 

「え、でも……」

 

「そもそも加奈ねえがこっつーの頼み断るわけないんだから。しかも叶音ちゃんも一緒って言ったら余計ね」

 

なんかすごく無理矢理な感じがしたけど、加奈さんならなぁって思っちゃった。

加奈さん、ごめんなさい……

 

 

 

 

 

 

梓さんが言った通り、加奈さんが復活してすぐにお出かけすることになった。

なんかすごくノリノリなんだけど、本当に大丈夫なのかな……?

 

「大丈夫だよ、叶音ちゃん、私はみんなと一緒なら疲れなんて吹き飛んじゃうから」

 

百斗さんから借りた車を運転しながらそう答える加奈さん。

かっこいいなぁ、私も大人になったら加奈さんみたいになれるのかな?

 

「ところで黒愛ちゃん、今日はなに買うの?」

 

「え? ううん、特に決まってないよ?」

 

「そうなの?」

 

「こっつんのお買い物はだいたいそうだねぇ。叶音ちゃんは決めて買いに行くタイプ?」

 

「私はなにが欲しいってことを決めるくらいですね。加奈さんは買うものまで決めて買い物いきそうですよね」

 

「私もそんなには決めていかないよー。

……あ、そうだ……」

 

加奈さんの目がいたずらっぽく光った気がする……

嫌な予感……

 

「ねえ、叶音ちゃんも今日1日は私のことお姉ちゃんって呼んで?」

 

「え、それは恥ずかしいです!」

 

 

「いいじゃん、お願い!」

 

そんな顔で見られたら断れないよぉ!

でも……

 

「わ、わかりました。

か、かな、お姉ちゃん……///」

 

「お、お姉ちゃん! みんなから普段加奈ねえって呼ばれてるからなんかドキドキする……

なにより、恥ずかしがってる叶音ちゃんがかわいい!」

 

「叶音ちゃんかわいいよー!!」

 

「わっ! く、黒愛ちゃん!」

 

横から黒愛ちゃんに急に抱きつかれた。

嫌じゃないんだけど、苦しいよぉ〜

 

「あー、こっつんずるい! 私も後でやるー!」

 

「もうすぐつくもんね! でも叶音ちゃんは渡さないよ!」

 

「黒愛ちゃんも加奈さんも「んー? 叶音ちゃん?」……か、加奈お姉ちゃん……も! 私で遊ばないで!」

 

「ほら二人ともついたよ」

 

「無視ですか!?」

 

遊ばれてるうちに目的地、近くのショッピングモールに到着。

でもなんかもう疲れちゃった……

 

「どうしたの、叶音ちゃん? ほら、早くいこ!」

 

そう言って手を出してくれた黒愛ちゃん。

 

「うん!」

 

わたしはその手を握って……

 

「さあ行くよ!」

 

「ええ!」

 

走り出した黒愛ちゃんに引っ張られる!?

 

「待って待って!」

 

わたしの言葉は聞いてもらえなくて。

加奈さ……加奈お姉ちゃんも助けてくれなくて、楽しそうに見てるだけだし!

とりあえずわたしは黒愛ちゃんが行きたいところまで頑張って走ろうと決めた。

 

 

 

「ついたよ!」

 

黒愛ちゃんについて頑張って走った先にあったのはお店の雰囲気からとってもかわいい小物やアクセサリーが置いてあるお店。

なんか楽しそう!

お店の中にはわたしや黒愛ちゃんくらいの女の子がいっぱい。

あ、このリボンかわいいっ! あ、でもあっちのちっちゃいハートのネックレスもきれい……

どっちも買えるくらいのお金は持ってるけど、そうするとこのあとが……どうしよう……

リボンとネックレス、どっちも手に持って悩んでるとその両方が一瞬でなくなっちゃった……?

 

「買ってあげるよ、どっちも」

 

「か、加奈さん! いいですよ、さすがに申し訳なさすぎます!」

 

「今、また加奈さんって呼んだからわたしが買うー」

 

「もぅ、加奈お姉ちゃん!」

 

「妹はお姉ちゃんに買わせとけばいいの。こっつんのも買うし」

 

「結局そうなるじゃないですか! ダメです!」

 

思った以上に大きな声が出ちゃったわたしにみんなの視線が集まる。はぅぅ……///恥ずかしい……

 

「はい、叶音ちゃん」

 

加奈お姉ちゃんに紙袋をわたされた。

わたしがちょっと恥ずかしがってる間に加奈お姉ちゃんが黒愛ちゃんのと一緒にお会計しちゃったみたい……

何度もお金払うって言ったけど全然聞いてくれなくて結局……

 

「じゃあ……あ、ありがとう、お姉ちゃん!」

 

ありがたくもらっちゃうことになっちゃった。

お姉ちゃんって呼ぶの敬語外れちゃうなぁ……普段から加奈お姉ちゃんには、昔みたいに敬語使わないでって言われてるんだけど、一回敬語にしちゃうとなかなか戻らないみたい。

で、さすがに貰いっぱなしは悪いからって何か一個お願い聞きますって言ったら今度は加奈お姉ちゃんがわたしを引っ張って違うところへ!?

……なんか今日よく引っ張られるなぁ……

頑張ってついていきながらわたしはそんなことを冷静に考えてた。

 

 

 

 

そして連れてきてもらったのはお洋服のお店。

 

「いつもこっつんのばっかりだから違うタイプの叶音ちゃんのコーディネートもしてみたい!」

 

ちょっと待っててねって言われてお店の中に入った加奈お姉ちゃんについて、とりあえずお店の中に入る。

 

「叶音ちゃん、頑張って!」

 

「黒愛ちゃん?」

 

「加奈ねえがああなると1時間は着せ替え人形だから……」

 

私もお洋服見るの好きだから全然平気じゃないかな?

なんて話してるうちに加奈お姉ちゃんに呼ばれた。

渡されたのは少し大きめのTシャツにホットパンツ。

なんかいつも着てるのとは全然違うから着るの緊張したけどいざ着てみるとなかなかいい気がした。

 

「おお、叶音ちゃん、普段の女の子な格好もいいけどこっちも似合うね!」

 

「太もも……」

 

「叶音ちゃん、ちょっと一人称を僕にしてみてよ!」

 

「え、えっと……ぼ、僕と一緒に遊びに行こうよ!///」

 

ちょっと恥ずかしすぎるよぉ~!

ちなみに加奈お姉ちゃんと黒愛ちゃんはしばらく動かなくて心配だったけど……

 

 

加奈お姉ちゃんが復活してから次に選んでくれたのは、ミニ丈の白いワンピース。小さいリボンがアクセントになっててすごくかわいい!

夏にはピッタリだよね! これに麦わら帽子とかいいんじゃないかなぁ?

 

「やっぱり当たり前のようにこういうのは似合うね」

 

「太もも……」

 

「黒愛ちゃん、そんなとこばっか見ないで!」

 

次は少し短い丈の、七分丈っていうんだっけ?、のパンツにちょっと薄い青のブラウス。このブラウス、裏地が小さいお花ですごくかわいいんだよ!

 

「ちょっと大人っぽくなるねぇ。ちゃんとお姉さんだね」

 

「叶音ちゃん、かわいいっ!」

 

「加奈お姉ちゃんも黒愛ちゃんもそんなに褒めないで……///」

 

さすがに褒められすぎて恥ずかしいよぉ!

 

 

 

あのあとも何着か加奈お姉ちゃんにコーディネートしてもらってたくさんお着替えして、楽しかったけど……さすがに疲れたよぉ……

黒愛ちゃんが頑張ってって言ってた意味がよくわかったよ……さすがにこれは大変……

 

お手洗いに行った加奈お姉ちゃんを黒愛ちゃんとまってるときにこのショッピングモールにあるお店が入ってる見つけた。私、ついてるかも?

しばらくして、加奈お姉ちゃんが戻ってきてから私は休憩するために私の大好きなホットケーキのお店を紹介してそこでお茶にしようって提案。すぐ行こうってなって今度は二人に引っ張られながら私はそのお店の場所を教えてあげる。ふたりとも興味を持ってくれてよかったぁ。ただ、引っ張らないで〜!

 

「もう、加奈ねえが叶音ちゃんで遊んでるからそろそろ帰らないとじゃん!」

 

「ごめんごめん、でも楽しんでたでしょ?」

 

「私はちょっと疲れました……」

 

ホットケーキを待ってる間、時間を見ると食べたら帰らないといけないくらいの時間だった。

私、今日一円もお金使わせてもらってない……

でもさすがにみんなの分出せるほどお金は持ってない……

 

「叶音ちゃん、お金は気にしないで? 私が出すから。というか、出したら怒るからね?」

 

「でも今日そうやって全部……」

 

「あ、ホットケーキきたよ!」

 

「あっ……もう、加奈お姉ちゃんずるい」

 

「聞こえなーい」

 

ちょっと厚いけど見た目ほど全然重たくなくて1人でペロッと食べられちゃうこのふわふわなホットケーキ、私大好き!

 

「これふわふわ〜美味しい!」

 

「うーん、うちで作るならどうやってやろう……?」

 

加奈お姉ちゃん、もしかしてこれお家で作ろうとしてるの!? それなら毎日食べに……ううん、自分で作れるようになろうかな?

 

「加奈お姉ちゃん、作れたら私にもつくり方教えて!」

 

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、肩に重さを感じて横を見ると黒愛ちゃんが私の肩に頭を乗せて寝ちゃってた。

その気持ち良さそうな顔につられて私も黒愛ちゃんの頭に頭を寄せて、いつの間にか寝ちゃってた。

 

「はい、叶音ちゃん」

 

家に着いて加奈お姉ちゃんが大きな紙袋を私に渡した。

 

「えっと……?」

 

「今日のお礼。私の好みで選んじゃったからちょっと気に入らないかもだけどよかったら着てくれると嬉しいな」

 

中身をちらっと見るとさっきお洋服やさんで試着したのが何セットか入ってた。

 

「貰えないですよ、今日全部出しとてもらってるのに……」

 

「いいから、お姉ちゃんのプレゼントもらっといて」

 

「……わかりました。ありがと、加奈お姉ちゃん!」

 

「やっぱりかわいい!」

 

ちょっと苦しいけど、全然嫌な気持ちはなくって、むしろとっても幸せな感じ。

私も、お姉ちゃん欲しかったな、ちょっとそんなこと思っちゃった。

またこんなお買い物行けたらいいな。




……なぜ、加奈姉はこんなキャラにww

だんだんキャラ崩壊して行ってますねww
おかしいな~初期の頼れるかっこいいお姉さんはどこに……

恐らくこの先このように何人かはっちゃけていきますww
すでに滝沢家から二人壊れた人でてますからね(失礼)
では続きもお楽しみに!!


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8話 藍沢翔の(アン?)ラッキーな一日

お待たせしました。

今回のお話の主役は滝沢家ではなく前にもあった藍沢家のお話で、さらに今回は同じサイトで執筆している頭文字(イニシャル)Fさんに書いていただきました!

藍沢光樹の双子の兄、翔。
彼のちょっと波乱万丈な、それでも何気ない日常をどうぞ!


ジリリリリ!!!

 

……うるさいなあ……。まだ寝てたいの!!

お前はこれでも食らってろ!!

 

ガンッ!!……

 

これでいいや……おやすみ……

 

 

———————————————————

 

 

「うわああああああ!!!なんでええええ!?」

 

 

とある朝に、俺の叫び声がこだまする。

だって……だって……!!!

 

 

「遅刻だああああああ!!!!」

 

 

遅刻だからですともッ!!!

叫びつつ急いで2階から駆け下り、リビングのドアを思い切り開く!

 

 

「あ、おはよう。翔。」

 

「おはよう♪翔お兄ちゃん♪」

 

 

そこには既に、弟、妹がいた。優雅に朝食を頂いている。羨ましい。

 

 

「遅刻だ……」

 

「……それっておはよう、ってこと?」

 

 

光樹が呆れた様子で聞いてくる。なんだ、しょうがないだろう。遅刻だもの。

……みつを風になった。

 

 

「うん、そういうこと……」

 

「そんな翔お兄ちゃんに良いお知らせっ!」

 

 

ん?妹の叶音が完璧、と言って良いほどのドヤ顔をしながら、胸を張っている。

光樹はそれを見て微笑んでるんだけど……

何かあるの??

 

 

「……今日は休講らしいです!お兄ちゃんの携帯がリビングにあって、通知で画面に文面が出てましたからっ!」

 

「……」

 

 

叶音から衝撃の事実を伝えられる。

……ってことは……!!

 

 

「やったああああああ!!!!」

 

 

ま だ 寝 れ る!!!

この最高の5文字に気がついた俺は叶音を持ち上げる。嬉しいからね、しょうがないね。

 

 

「うわわわ!?翔お兄ちゃん離して〜!?」

 

「やったな叶音!!」

 

「私は学校あるよぉ〜!!!」

 

 

この時の俺は正に聞く耳持たず。

だけど、さすが弟。こういう時の対処法は知ってるようで……。

 

 

「……加奈さんと黒愛ちゃん……」ボソッ

 

「……」ゾクッ……

 

「?どうしたの翔お兄ちゃん?……っていうか下ろして〜!!」

 

 

……隣に住んでいらっしゃる、滝沢家。

昔からすっげえ仲良くしてくれてるんだ!

……けど。

 

俺が叶音を持ち上げている時、必ずと言っていいほど怖い視線を感じるんだよ……。その視線ちなみに貫通能力があるんだよね……。

 

だから俺は。

 

 

「……ごめん、叶音。」

 

 

叶音をすっ、と下ろす。

俺だって、命を自分から投げ捨てるほど馬鹿じゃないんだ。

……ノリは馬鹿だけどね。

……そこ!知ってたとか言わない!!

 

 

「え?う、うん……」

 

「ほら、叶音が戸惑ってるじゃないか!」

 

 

誰のせいだ全く!!

 

 

「翔のせいだけどね。」

 

 

光樹がこちらに目も向けずにそう言う。

冷たい……コールド……。

 

……こんなことをしていると、家のインターホンが鳴る。モニターを見てみると、先ほど話題に浮かんだ2人が!コワイ!ニンジャコワイ!

……忍者じゃないけど。

 

多分、叶音を迎えに来たんだな。よし、呼ぶか。

 

 

「叶音〜、黒愛ちゃんと加奈さんが迎えに来てく「お待たせ〜、黒愛ちゃん、加奈さん!」……早いね。良いことだ。」

 

 

あれ、なんで涙が。……泣いてなんかないもん!!

 

叶音を見送るために光樹と共に玄関まで。

 

 

「叶音、行ってらっしゃい。黒愛ちゃん、加奈さん、よろしくお願いしますね。」

 

この2人はいつも叶音と一緒に、彼女の通学路を歩いてくれるんだ。加奈さんは途中で駅へ向かっちゃうけど。

 

「うん、任せて!翔さん!」

 

黒愛ちゃんが俺に向かって笑顔で答えてくれる。

堪えろ俺!堪えるんだ!!

さもなければ……

"女に飢えてる" 真髄が見えてしまう!!

 

「うん、途中までだけどね!」

 

加奈さんも俺に向かって笑顔を見せてくれる。

……なんでこの姉妹は揃って綺麗な笑顔なのか。

俺が女に飢える理由もわかるだろ?ってかわかれ。

 

「それじゃあ、行ってらっしゃい!」

 

その笑顔に応えるべく、俺も飛び切りの笑顔で叶音を送り出した!

 

"今日もいい一日でありますように!"

 

そんな思いを込めながらね!

 

 

 

 

……プルルルル!

 

「は?携帯??」

 

そんな矢先に電話がかかってくる。

ポケットから携帯を取り出して、画面を見ると……ゲッ……!!

 

「……て、店長じゃん……」

 

出たくない……!でも出ないと……!

 

「南無三!!」

 

応答ボタンを勢いよくポチっと!

……嫌だ嫌だ嫌だ。どうせシフトだろ?そうなんだろ?今日入れって言うんだろ?

 

「あ、藍沢くん?」

 

「……はい……」

 

「あのさ!」

 

……さぁ、どうなる……!?

あ、今日もいい天気だねって電話かな?

店長もシャイじゃ「今日入って、今からラストまで」……ないな、うん。

 

今からラストって言うと……

 

今8時30分だから……

……ラストまで……。

 

……16時間……??

 

「嫌です。」

 

キッパリ断る。これはブラックだもの、行ったら過労死する……!

 

「拒否権ないから。」

 

「えぇ……」

 

これはひどい。せっかく休講で休みになったのに……。

 

「……訴えますからね?」

 

せめてもの抵抗を……!喰い下がれ、俺!

 

「へぇ、知識もないのに。」

 

ニヤリ。この言葉を待っていた。ここから逆転だ!

 

「実は俺、法学部なんですよ?」

 

「はいはい、外国語外国語。」

 

「アッハイ」

 

逆転という言葉は何処へ……

もう逃げ場がない……

そんな中、電話の向こうの憎っくき店長は声のトーンを上げて夢のような言葉を発する。

 

「時給千円にするから、ね?」

 

馬鹿野郎……そんな条件で釣れる奴なんかいるかよ……。

 

「行きます」

 

釣れました。馬鹿は自分です。ごめんなさい。

だけどお金は大事だからね〜……

 

「じゃあ待ってるね。」

 

プツッ。

 

店長の言葉を最後に電話を切る。

家の中に入って、自分の部屋へ向かう。

……ドアを閉めて、っと。

あの店長への憎しみ……休日を潰されたことへの怒り……!

 

それをこいつにぶつけろ!!!!

 

「……クソッタレぃ!!」

 

こいつ(ベッド)に!!!!

……なにをしたかって?飛び込んだだけ。スマホ叩きつけようとしたけど、一回それをしたらスマホがバウンドして窓から飛び立ったことあるからトラウマなんだ。

だから、自分の体を投げてるってわけ。

 

「よし……満足。」

 

身体を起こして、バイトの準備をしてっと……よし!

階段を駆け下り、リビングへ向かう。

まだ光樹はいるかな?

 

「おっ、いたいた。光樹〜、バイト入ったから行ってくる〜。」

 

「えっ?今から?」

 

「そう。今から。……今日もラストまでだから申し訳ないんだけど、叶音と晩御飯作って先食べといて!」

 

帰る頃には日を跨ぐか、11時後半だから光樹に晩御飯のことをお願いする。

……バイトがラストまでの時はいつも、光樹に晩御飯を作ってもらってるのだ。とてもありがたいんだけど……それと同時に申し訳なさも感じるなぁ……。

 

代わりと言っちゃなんだけど、親のお小遣いと一緒に俺のバイト代も少しプラスしている。

もちろん叶音のも。それでも大変さは変わらないんだけどね……。

 

「うん、わかった。気をつけてね。」

 

「サンキュ!行ってくる!」

 

心配してくれたことに感謝の言葉を返し、玄関を飛び出る。

すると、タイムリーなことに……。

 

「おっ、翔じゃん!」

 

「あっ、梓さん!おはようございます!」

 

梓さんがちょうど家から出てきた。

いつも通りのカバンを持ってるからきっと大学だろう。

 

「……今からバイト?」

 

「はい、そうですよ〜。休講になって……」

 

「またラストなの?」

 

「……はい。」

 

ラスト。もう聞きたくない。ラスト恐怖症と言ってもいいくらいには、ラストという言葉が怖いのだ。

 

「そっか〜。あっ、そうだ!」

 

梓さんが急に手をポン、と叩く。

なんだなんだ?

 

「光樹くんと叶音ちゃん、晩御飯うちで食べさせとこっか?」

 

……というアイデアを梓さんから頂いた!

ナイスアイデア!……なんだけど……。

 

「え?いいんですか?」

 

やっぱり何か申し訳ないんだよねぇ……

本来長男の俺が作らないといけないのに……

 

「いいんだって、昔からの仲じゃん!」

 

だが梓さんはそれを許してくれた。

人の良さに感動である。

……変なプライドは張ってられないね。

光樹と叶音も、ご飯を食べる時は人数が多い方がいいだろう……。

 

「……それじゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

「ん、おっけー!あ、俺が光樹くんに言っとくから翔はバイト行ってきな!」

 

「お願いします!!行ってきます!!」

 

梓さんの提案に甘え、バイト先へ走る。

……嫌だけど……いっちょ、頑張りますか!!

 

 

 

 

————————————————————

 

 

 

 

「つ゛か゛れ゛た゛」

 

皆さん、いかがお過ごしですか?

散々こき使われ、瀕死状態の私、藍沢 翔でございます。

 

なぜこんなに疲れてるのかって??

それは、拘束時間の長さ……えっ、聞いてない?

……まあ聞いてけよ。

なぜなら……あ、本当にいいって?

ごめんなさい。

 

まあとりあえず、バイトが疲れたんだ、うん。

 

今は帰路についてるんだけど……って言ってるうちに家に着いたね。さ、入って休むかぁ……。

 

鍵を取り出してドアを開けると、リビングの明かりがついている。

……え、あの2人まだ寝てないの?もう12時だけど……。

 

……って、あぁ。今日は土曜日なのか。

土曜日といえば土星。あの輪っか滑りたいね。

 

そんな下らないことを考えつつ、リビングのドアをオープン。

 

すると。

 

「お、翔〜おかえり〜」

 

「「「「「「おかえり〜」」」」」」

 

「ここでご飯食べようってことになっt「あ、これ家間違えたな。お邪魔しました〜……」ちょっ、おま!!」

 

静かにリビングのドアを閉める……

……待て待て待て……マテ茶。……プッ……面白くねえ。

なんであんなに大所帯なの??

母さんと父さんの隠し子なの??多すぎるでしょ。

っつか、それ以前に皆見たことがある顔だしね……。隠し子じゃないのはわかってるよ。

 

光樹と叶音以外の5人は滝沢家の人たちだね。

何から何までお世話になってます。

……って、独り言でお礼言ってる俺寂しいな。

 

……こういうのは、本人たちの目の前で言わなきゃな!

取っ手に手をかけて……っと。……よしっ!

 

「みんな、ただいま!」




いや~、想像できますねww
見てる分には面白いかもだけど実際にこうなると……
考えないようにしましょう!

さて、いくら合作とっても投稿者は一応僕……
僕もちょいちょい出さなきゃですね。
ネタはたくさん抱えているのでちょっとずつ出していきます!

ではまた次回!!


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9話 滝沢家VS黒い三連星

お待たせしました第9話
今回は好き嫌い別れるかもしれない回です‼(身内ネタの時点で(ry))

思いっきりギャグな回。色々おかしなところがあるのでそこに突っ込みを入れながらお楽しみくださいww

ではどうぞ!!


「ふぁあ……よく寝た……」

 

窓から朝日が差し込む中俺、滝沢清風は寝ぼけ眼を擦りながら階段を下りていた。

今日は日曜日。

基本夜更かし推奨(?)な俺たち兄弟の日曜の朝は結構遅い。

時計を見ると時間は11時くらい。

おはようじゃなくてもうこんにちはの時間だね。

そんなことを意識するとお腹が少し空いてきた。

 

「早く加奈姉のご飯が食べたいな……」

 

椅子をひいてそこに腰をかけてコップを置き、冷蔵庫に作ってある麦茶を取り出す。

一口のどに通すとキンとした冷たさがのどを刺激して残っていた眠気を綺麗に取り去っていく。

まだまだ春と言ってももう昼に差し掛かるところ。

寝起きという事もあってか若干体温も高く、ほんの少しの熱を感じるそんな時間。ゆっくりまったりとこの家では珍しい一人の時間を過ごしていると階段から降りてくる二つの足音。

もう何年も一緒にいるせいかその足音だけで一体誰が下りてきたのか簡単に想像できてしまい、無意識のうちに体が動き、二つ上の兄と三つ下の妹のコップを取り出す。

 

「おはよ~……」

 

「ねむぅ……」

 

「おはよ!百斗兄、こつめちゃん!」

 

やっぱりというか予想通りというか朝(というより寝起き?)がとことん弱い二人が下りてきた。

……しかし本当に朝つらそうな二人だなっていつも思う。低血圧か何かなのかな?

 

「二人とも、ここに麦茶あるけど飲む?」

 

「うん……ふう、頂戴」

 

「ふあぁ……」

 

こつめちゃんの欠伸も肯定ととらえて二人のコップにお茶を注ぎ、それを飲む二人を見守る。

のんびりとした大好きな休日のこの時間。

今日はこの後どうするのかななんて想像してみる。

買い物か、遊びに出かけるのか、はたまた家でずっとゲームするのか……これからどうするのかなんて特別な事が起きない限り大きなことなんて起きないのについつい考えてしまう。

何気ない日常でも皆といれば毎日楽しいんだもん!

 

「ふう……目が覚めた。ありがと」

 

「う~ん、ふぁあ」

 

「どういたしまして~、ってこつめちゃんはまだ眠い?」

 

「うん……」

 

「顔洗ってくる?」

 

「ううん、もうちょっとで覚めるから行かない……」

 

「了解、麦茶こぼさないでね?」

 

「うぅん……」

 

「本当に大丈夫かな?」

 

「いつも通りだからいいんじゃない?……それより今日はどうしよっかな~……ふうは何かしたい事とかある?」

 

なんて質問されるけど特にすることなんてないんだよね……いつも通り某ポケットの化け物ゲームの厳選でもしておこうかな……。

思い立ったが何とやら。早速準備をするためにスリーダブルスクリーンを取りに……

 

「……!?」

 

行こうとして足が止まってしまう。と同時に起きる体の震え。

 

「……ふう?何があった……!?」

 

「ねえ、キヨ兄百斗兄急にどうし……!?」

 

急に動きが止まった俺に不信感を覚えてついてくるこつめちゃんと百斗兄も俺が見つけたものと同じものを見つけ固まってしまう。

 

「ね、ねえ……キヨ兄……あれって」

 

「き、気のせいだよ……ね?百斗兄?」

 

「は、はは……」

 

俺たち3人が見たもの、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングのど真ん中で三匹寄り添っている黒いあいつだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ぎゃああああ‼︎‼︎!⁇」」」

 

「ふぁああ……朝からうるさいぞ〜。どうかしたのか?」

 

「こっつんの悲鳴が⁉︎何があったの⁉︎」

 

寝ぼけ眼をこすりながら降りてくるあず兄とこつめちゃんの声に反応して物凄い速さで降りてきた加奈姉。

対照的だけどどちらも俺たちを(加奈姉はこつめちゃんだけだろうけど)心配して降りてきてくれた。

本当に頼りになる人たちだ。

 

「あず兄‼加奈姉‼」

 

「あ、あれ‼あいつ‼」

 

「い、いやぁ~……」

 

二人が来てくれたことによる安堵で忘れかけたけど根本的問題は解決してない。

俺たち三人揃ってあいつらを指差しいることを教える。

俺たち家族のなかでもあいつと戦えるのは加奈姉とあず兄だけであとはこのように完全に腰抜け……面目ない。

 

「なんだゴキブリか。あんなの箒一本でどうにでもなるだろうに」

 

「ほんとだよ~。こっつんはともかくとして、百斗と清君は退治出来るようにならないと」

 

「「はい、ごめんなさい」」

 

百斗兄と声を合わせて謝罪。とは言うもののどうしても本能が拒否してるから今日明日でどうこうできる問題じゃないんだよね……はぁ、なんで加奈姉とあず兄は平気なんだろ。

隣を見たら百斗兄も同じように溜息を吐いていた。

こつめちゃん?今も隅っこで震えてるよ。

 

「まあ、とりあえずさっさと片付けるか~」

 

「だね」

 

そういいながらいつも通りの装備(あず兄が箒、加奈姉が1.5Lペットボトルの上側1/3位とゴキジェット)を構えながらゆっくり歩いていく。

 

朝から凄く驚いたけどこれでもう大丈夫。

3匹って言ういつもより多い数だけどいつも通り二人がしっかり退治してくれる。そうなればまたいつもと変わらない楽しい休日を送れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人がそれぞれの武器を構えて近づいたその時‼

 

「(ぴょーん)」

 

「「な!?」」

 

「きゃああああ‼」

 

慌てて飛び退く加奈姉とあず兄、そして叫ぶこつめちゃん。

俺と百斗兄は信じられないと言う顔で()()()()()()()を見た。

 

「び、吃驚した……」

 

「まじか……」

 

これにはあず兄も加奈姉も驚きを隠せない。

ゴキブリは本来飛ぶのが苦手な生き物で例え飛んでも高いところから低いところへ飛び降りることしかしない。

勿論なかには下から上へと飛ぶ個体も存在するがそれは極めて稀なケースで……まさかこの目で見るとは思わなかった。

しかもなんだろう……

 

「(ちっ、外した‼)」

 

「(兄貴、惜しかったっす‼)」

 

(お互いに意思疏通してる気がする!?)

 

果たしてゴキブリにそんな能力あったっけと割りと真面目に考えてしまう俺。

もしかしたらあいつらは兄弟なのかもしれない。いや、ゴキブリの兄弟なんて山ほどいると思うけど……

 

「飛んでくるあいつは初めて相手にするね……」

 

「っていうかあいつ飛ぶんだな」

 

「大きさはないみたいだけど……その分すばしっこそうだね」

 

「ああ、これは結構厳しく……!?加奈姉‼︎」

 

「え?きゃあ⁉︎」

 

加奈姉の腕を掴んで引っ張るあず兄。

バランスを崩しながらもなんとか動いた加奈姉がいた場所をちょうど2匹目のゴキブリが飛んでいった。

避けられたゴキブリは着地したあとすぐに他2匹のところへ戻っていく。

 

(会話の隙を、しかも加奈姉の死角から飛んで来た!?)

 

本当に知能があるんじゃないかと疑うレベルだ。

 

「気をつけて加奈姉。本気でいかないとヤバい」

 

「みたいだね……」

 

ゴキブリを退治できるからといってゴキブリにさわられるのが平気では決してない。

さわられたら二人だって気持ち悪さから逃げ出したくなるかもしれない。

現に今も冷や汗を流していた。

 

「加奈姉、俺が先にいってあいつらを動かすからうまくスプレーかけてくれ」

 

「わかった!!」

 

顔を会わせてコクリと頷くやいなや一気にダッシュ。

相手は2と1にわかれ、1はテレビ台の下に逃げ込んでしまう。

チッと舌打ちしながらあず兄は標的変更。

2匹の方へ走りだし、持っている箒を地面に這うようにおもいっきり振り抜く。

これを避けようと空中へジャンプ。そのままあず兄の方へ飛んでいこうとしてた。が、それを読んでいた加奈姉がスプレーの発射口を向けて射出。

これで2体撃退……

 

「(兄貴‼俺を踏み台に‼)」

 

「(すまない‼)」

 

「「な!?」」

 

と思った瞬間、一番大きいやつがもう1匹を踏み台にしてさらに跳躍。踏み台にされたやつは踏まれたせいで下に落ちることによってスプレーを回避した。

そのまま1匹は奥の方へ、もう1匹は2階へと上がっていった。

 

「……あいつら、かなりの切れ者だな」

 

「これはここで退治しておかないとめんどくさくなりそうだね……」

 

「あんなにお互いがフォローしあうなんて……」

 

あず兄、加奈姉、百斗兄が神妙な顔で話し合う。

僕はこの間にこつめちゃんの介抱を。だって……

 

「いやあ……怖い……嫌い……」

 

こんな感じで呪文のように呟いてるから……

 

「大丈夫だから、ね?」

 

頭を撫でながら落ち着かせていく。それでもまだ不安なのか俺の服をギュッと掴んで引っ付く。

こつめちゃんは本当にあれが駄目だからいつもこうなっちゃう。かく言う俺も駄目なんだけど……退治はできないからこういうところで力になりたい‼

 

「大丈夫だから、落ち着いて。ね?」

 

「本当に?」

 

涙めになりながら上目遣いで俺を見る。

そんなに怖かったのかと思いながら頭をゆっくり撫でてあげて……

 

「チッ」

 

「!?」

 

直ぐに手を離す。

だって……後ろから物凄い殺気が……

 

「私のこっつん私のこっつん私のこっつん私のこっつん私のこっつん……」

 

(ひいいいいい!?)

 

物凄く怖い‼

あず兄も引いてるし‼

ここは百斗兄にヘルプをと思い視線を向ける。すると百斗兄が溜息を吐きながら加奈姉のところへ。

 

「加奈姉、2階に行ったやつを頼んでもいいかな?」

 

「……どうして?」

 

若干……いや、かなり不機嫌な加奈姉にゆっくり話しかける百斗兄。

頑張って‼

 

「2階には寝室とかもあるでしょ?あいつがどこに行ったかはわかんないけど……もしこっつーの寝室に行っちゃったら……」

 

「2階は私に任せて‼」

 

言うやいなや脱兎のごとく走り去っていく加奈姉。

た、助かった……

 

「ありがと……百斗兄……」

 

「ま、まあね……」

 

肩が少し震えているところを見ると百斗兄もちょっと怖かったっぽい。本当にありがと……今度は僕があず兄みたいに吹っ飛ばされるところだった。

 

「と、とにかく……俺は奥に行ったやつを追うぞ?」

 

「うん、お願い」

 

「ああ……だがテレビ台の下のやつはどうする?」

 

「そこは……僕とふうでどうにかする。最悪、逃げられなように時間稼ぎだけでもするよ……ふう、頼める?」

 

「……うん、わかった‼」

 

百斗兄からのお願いだ。しっかり答えなきゃ‼

 

「よし、ただ無理はするなよ?」

 

「うん、わかってる」

 

「じゃあ行ってくる!」

 

あず兄も奥へと走っていく。

それを見送って俺たちもテレビ台の方へ。

 

「こつめちゃん、ちょっと離れててね?」

 

「うん……清兄、頑張ってね?」

 

「うん!」

 

さあ、最悪な狩りの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここらへん、か?」

 

奥の部屋に入った俺、滝沢梓は顔だけをのぞかせて畳の部屋を見渡す。

まあ、探す必要は一切なかったんだが……というのも大胆にも部屋のど真ん中にこちらに背を向けて鎮座していた。

ゆっくり近づいてこの箒で潰すことを考えたが何故か直感が無理だと判断し、こそこそとせずゆっくりとだが堂々とあいつの後ろに立つ。

 

(なんだろうな。ただの虫なはずなのにやけに凄い気迫を感じる)

 

なにかに押し潰されるようなそんな感覚。

背中越しでも伝わるプレッシャー。あいつが振り向いて来た瞬間それはさらに大きくなる。

 

「(あなたが追いかけてきたか……あのときの箒さばき、見事だった)」

 

何を言ってるかわからないが触覚がピクピク動いており、なにかを伝えようとしてることはわかった。

随分と器用なやつだ。

 

「(あなたが兄貴の方にいってたらと思うと鳥肌が立つ。間違いなくあなたがあの5人の中で一番強いだろうからな)」

 

何を伝えたいかはわからないがこれまたなぜか直感が誉めてくれていると悟る。

ほんと、なんだろうな。この不思議な感覚。

 

まるで良きライバルと対峙してるみたいだ。

 

「お前が何を言ってるか知らんが……そんじょそこらのゴキブリではないことはよくわかった。俺も敬意を持ってお前に挑もう」

 

「(……初めてだ。俺たちを見くびらずに真正面から立ち向かってくるやつは。俺も、本気でいく‼)」

 

相手の評価を改め、自分を正し気を引き締める。

箒を握り直して構える。

 

束の間の静寂。

 

動いてないはずなのに緊張から汗が少し滴る。

手汗で握った箒が滑らないように少しきつめに握りしめて……

向こうも直ぐに走り出せるようにクラウチングスタートでもとってるかのように右後ろ足を少し下げた。

 

俺たちの間に風が通る。

 

 

 

カタッ

 

「「‼」」

 

その風によりなにかが動いた瞬間お互い行きなりトップスピードで走り出す。

たった一室分しかない広さだからお互いが出会うまでに1秒あるかなくらい。

そんな刹那の時間で俺は箒を振るい、あいつはジャンプを行う。

 

すれ違うのも一瞬。

 

その一瞬を逃さずに俺は素早く箒を降り下ろし、少し通り抜けて止まる。

後ろであいつが着地した感覚も感じ取った。

 

再び訪れる静寂。

 

しかし今度は長く続かず、俺は箒をくるくると手の中で回しすっと構えをとく。と同時に崩れ落ちるゴキブリ。

 

「(やはり……強い、な……)」

 

「お前は強敵だった。あと少し俺の反応が遅れてたら袖の中から入ってこられるところだった……そうなればお前の勝ちだったな……」

 

崩れ落ちるゴキブリにゆっくり近づく俺はそっとティッシュをかけてやる。

 

「(なんのつもりだ……)」

 

「なんだろうな……お前には敬意をはらわないといけない気がしてな。お前を助けることはできないが、せめて苦しまずに安らかに逝ってもらうことはできるはずだ……だから、ゆっくり、な」

 

「(……本当に、お前は不思議なやつだ。俺はいままで、お前という強者に出会うために生きてたのかもな……)」

 

「はあっ、ったく。俺はいったい何をしてるんだろうな」

 

「(全くだ……じゃあ……な……)」

 

「はあ……」

 

ティッシュを被せて数分後、こいつは動かなくなった。

俺が無意識のうちにとっていたのは敬礼の姿だった。

言葉はなかったが俺たちの間には、無言の男の詩が……

 

「ってんなもんあるか。さっさと百斗たちのところに戻らないとな……2階もドタドタ言ってるし、これは加奈姉苦戦してるな……」

 

なんて呟きながら俺はティッシュで包まれたこいつを拾い、始末しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

息殺し、回りに注意してゆっくり見渡す。

私が今いるのは元々は空き部屋だったけど、海外にいる両親がちょくちょく送ってくるお土産やよく分からない骨董品をおく場所に変わっている。

なんとかフォールが発動しそうだけど気にしない。

いつもはこっつんや清君がわいわい言いながら触ったりするかっこうの遊び場なんだけど……今回はこれがあだとなっている。

 

(物が乱雑に置かれ過ぎて何処に隠れてるかわからない……)

 

とにかくたくさんのお土産があるせいで相手が隠れるにはうってつけだ。

 

(こんなことならいっそのこと寝室で出てくれた方がずっとよかったな~……こっつんのところは許さないけど……っ!?)

 

百斗や梓のところなら出ても問題ないからね‼なんて考えたら視界の端に黒い影を発見。

直ぐに後ろにとんで回避。

すると私の目の前をあいつが通りすぎていく。

あとワンテンポ遅れてたらあいつが私の体を這っていたと思う。

いくら退治ができるからといって体にくっつかれるのが平気かと聞かれると勿論嫌。

だって普通に気持ち悪いし……っとこんなこと行ってる場合じゃない。

すぐさまスプレーを向けて発射。

正確に発射された煙はしかし、あいつの素早い動きで回避されてしまう。

けど……

 

(そこに逃げるのも予想通り‼)

 

あいつが避けたさきに1.5Lペットボトルの上部分を切ったものを投げる。

あれに閉じ込めておけば後は上のキャップを外したらそこからスプレーを送りまくっちゃうって言う寸法。だけどこれもあいつが急停止したことによってわずか数ミリ横を掠めていく。

 

(本当に意味がわからないんだけど‼)

 

さっきから上手く動きを読めてるし、仕掛けるタイミングもすべてドンピシャなのに全部見透かされて避けられちゃう。

タコ糸で繋がったペットボトルを引き寄せながら再び飛んでくるあいつを右に転がって避ける。

すぐさま振り返り着地に向かってまたペットボトルを投げるけど今度は近くにあるものにしがみついて避けられちゃう。

もう一回糸を手繰り寄せようとするけどあいつがまさかの糸の上に着地をした。

このまま引っ張れば自分からあいつを引き寄せることになるのであわてて糸を捨て、糸が落ちた所めがけてスプレー発射。だけどこれも糸からすぐ飛び降りることで避けられる。

更に着地したと同時に私の足に向かって物凄い速さで走ってきた。

 

(くっ……このままじゃあ……よし、こうなったら一か八か‼)

 

あいつが全速力で走ってきて私の足にたどり着く瞬間に前に飛び込む。

スプレーの臭いを息を止めて我慢し、手から着地する瞬間先程投げたペットボトルを取る。

そのまま柔道の前回り受け身をとり、すぐに振り向いて反撃をとろうとする。だけど受け身をとっているとき手が滑ってペットボトルが真上に飛んでいく。

こうなってしまうともうあれは使えないからスプレー一本で戦う。

覚悟を決め振り返ったその時だった。

 

(……え?)

 

振り返った先にいるのはすでにジャンプをしていて、こっちに飛んでくる途中のあいつ。

黒い塊がゆっくりと視界を埋めていく。

このままいけば私の顔に直撃する……けど。

 

「お疲れさまでした!」

 

「(は?)」

 

言葉とともに上からペットボトルが落ちてくる。

それはまるで引き寄せられるようにあいつめがけて降ってきて……

 

「捕獲完了っと」

 

「(な、なにぃぃぃぃ!?)」

 

飛んできているあいつを打ち落とすかのようにすっぽり入って地面へと落ちていく。

 

「やっぱりね~。なんか、普通のやつと違うからまっすぐだと思って搦め手を使って見たけど上手くいってよかった~」

 

「(お前、まさかわざと上に投げたのか⁉)」

 

「こういう遠回りなのは百斗の役目なんどけどね~」

 

あの子、なぜかこういった変な作戦考えるの好きなのよね~……まあ、決まれば確かに気持ちいいんどけどね。

さて、無事捕まえたことだし、とりま目の前のやつを処理するかな~っと。

 

「(や、やめろ……来るな……俺のそばに、近寄るなあああああああ‼)」

 

「さ~て‼こっつんをびびらせた代償……ちゃんと払ってね♪」

 

そういいながらペットボトルの蓋を外し、そこからスプレーの煙を大量に送り込んだ。

 

「さ、こいつを処理して早く1階に降りないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これでいい?百斗兄」

 

「うん、これでいいよ」

 

加奈姉たちがここを離れてすぐに俺と百斗兄は百斗兄の指示でとりあえずテレビを囲むようにバリゲートを作った。というのもテレビ台の回りには他にものがなく、隠れる場所がないため天井を這われない限り他のところには行かれない。そして二人して柄の長い箒を装備していて、もしさっき言った行動をとってきたらこれで追い返すって寸法だ。

百斗兄は最初から倒すつもりはないらしい……。

これが本来なら見るのさえ嫌なあいつにたいして俺たちができる最大限。

でも……

 

「ふぅ~……」

 

若干震える手で筒状に丸めた新聞紙を握る百斗兄を見ると、いざという時の覚悟はしてるみたい……って来た‼

 

「ふう‼」

 

「うん‼」

 

百斗兄の言葉に頷いて天井を這うやつを箒で飛ばそうとする。これは避けられてしまうが、その回避を読んで百斗兄が先回りして吹き飛ばしてくれる。

 

正直こうでもしないとあいつを塀のなかに釘付けできない。

あんなすばしっこいのは見たことないよ……。

百斗兄曰く、どうやらこの部屋から出ていった2匹より速いらしい。もういや。

かれこれ10分くらい。止めれてる方が奇跡だと思うが、長引けば長引くほどこっちが不利になる。

さて、どうしようか……

そんな百斗兄の呟きが聞こえたときだった。

 

「「おまたせ!」」

 

後ろから聞こえる頼もしい声。

思わず俺たちの顔色は明るくなり……

 

「「加奈姉‼あず兄‼」」

 

思わず歓喜の声をあげる。

 

「盾‼メイン盾来た‼これで勝つる‼」

 

「勝った‼第3部完‼」

 

「誰が盾だ‼あと変なフラグたてんな‼」

 

ごつんという鈍い音とともに俺と百斗兄が殴られる。

地味に痛い……

 

「こっつんは!?」

 

「痛て……こ、こっつーならあっちn「こっつん!!」ってちょっとストップ!!」

 

こつめちゃんを見つけてさっそく飛びつこうとする加奈姉を必死に止める百斗兄。

……あの暴走加奈姉を止めるなんて……朝の発破かけと言い今回といい、なんだか百斗兄すごい頑張ってる……。

 

「何するの!!」

 

「こっつーより先に最後の一匹お願い!!じゃないと、こっつー笑ってくれないよ?」

 

「こっつんが……笑わない?」

 

「それに二匹も倒したって報告したらきっとこっつー『加奈姉すごい!!』って抱き着くかも……」

 

「よし!!最後の一匹も私が仕留める!!」

 

「はあ、俺もフォローするか〜」

 

言うや否や塀を飛び越えて加奈姉が戦場へ入っていき、あず兄もついていく。

本当なら俺たちも入りたいんだけど……本当に入り辛い。

ここは二人に任せるしかない。

 

……しかし百斗兄、加奈姉の扱いが少し上手くなった気が……。

 

「梓、さっさと仕留めるよ‼︎止めは私がもらうけどね」

 

「はいはい、加奈姉に任せるから俺が先に行って誘き出すよ」

 

「任せたよ‼︎」

 

「(そっか……兄さんたちはみんな死んじゃったのか……)」

 

いつの間にか姿を出していた黒色のあいつ。

あの3匹の中で1番小さかった個体だけど、何故かそいつから哀愁が漂ってきた。しかし……

 

「(だったらなおさらただでは死なない‼︎ここで一矢でも報いてやる‼︎)」

 

突如感じるものすごい気迫。

気のせいかもしれないけど確かに感じた気がした。

それを感じてみんなの動きが一瞬止まる。

その間にあいつは再びテレビ台の下へ。

 

「……速攻で決める。加奈姉‼︎」

 

「いつでもいいよ‼︎」

 

その声を合図にあず兄がスプレーを持ってダッシュ。

台の左側に回り、下の隙間にスプレーを発射する。

それから逃げるように右側からあいつが現れる。

もちろんその動きは読めたから加奈姉が先に回ってペットボトルを投げる。しかし相手も動きを読んでいたらしく、ギリギリ横を通って回避。加奈姉目掛けて猛ダッシュする。

これに対してあず兄が解体しておいた塀を投げつける。

加奈姉とあいつの間に塀が滑り込む。

さすがにこれは想定してなかったらしくあいつが慌てて後ろに下がり、今度はそれを迂回するようにダッシュ。が、もちろんその先には箒を構えたあず兄が。そしてその後ろには死角に隠れるように加奈姉が構えている。

あいつの反射神経ならあず兄の攻撃はおそらくギリギリ回避する。それを読んでの後ろの加奈姉だ。

 

最強の布陣。

もう最後の一匹が倒されるのは決まった。

 

……そう思ってた。

 

「(……ギアセカンド)」

 

一瞬、あいつの体から煙が噴き出したような気がした。そして気付いた時には……

 

「(……俺のスピードには誰も追いつけない‼︎)」

 

「「なっ⁉︎」」

 

加奈姉とあず兄の後ろに回り込んでいた。

そのままダッシュしていく。

こいつを隔離していた塀はあず兄が投げるために解体したからもうない‼︎

 

「百斗‼︎清君‼︎どっちか止めてくれ‼︎」

 

いきなりの出来事に俺は一歩も動くことができず、そのまま横を通り過ぎてしまう。

 

(しまった‼︎)

 

慌てて追いかけようとするけどそれよりも先に百斗兄が動いていた。

丸めた新聞紙を構えて飛んでいた。

タイミングもスピードもバッチリ。

もともとテニスをしてたこともあってか反射神経はおそらく兄弟1。そんな百斗兄の渾身の一撃……

 

「(トランザム‼︎)」

 

しかしこの一撃も影を残し急加速したあいつを捉えることができなかった。

 

「外した⁉︎っていうかこいつ本当にゴキなの⁉︎ありえないんだけど‼︎」

 

百斗兄が思わず叫ぶ。

百斗兄をも通りすぎたあいつはさらに直進。そしてここで気づくあいつの本当の目的。それは……

 

「きゃあああああああ!!!!????こないでえええええええええ!!!!!!」

 

こつめちゃん。

真っ先に百斗兄が動く。

 

「させてたまるか‼︎」

 

地面を殴った後の不安定な体勢にもかかわらずものすごい速さで筒を投げつける。しかしこれをまるで後ろに目がついてるかのようにジャンプして避けられ、新聞紙はこつめちゃんの近くに転がっていってしまう。

攻撃を避けたあいつがさらにスピードに乗ってこつめちゃんの元へ。

みんなが急いでフォローに向かうが間に合わない。

そしてとうとうあいつがこつめちゃん目掛けて大ジャンプ。

恐怖に怯えるこつめちゃん。たとえ間に合わないと気づいてもそれでも足を止めない。

しかし現実は非情で……あと数センチで顔に到達……

 

「(一人だけでも倒す‼︎)」

 

「「こっつー‼︎」」

 

「こっつん‼︎」

 

「こつめちゃん‼︎」

 

いよいよ顔にへばりつく……その時‼︎

 

「ピギャアアアアアああああああああああああ!!!!????」

 

ものすごい叫び声を上げながらものすごい速さで落ちていた新聞紙の筒を拾い上げ……

 

ズパアアアアアン‼︎‼︎

 

物凄い音を放ちながら斜めに振り下ろし、宙に飛んだあいつをはたき落とした。

 

「(……は?)」

 

「「「「……・え?」」」」

 

一瞬時が止まった気がした。そして……

 

 

「来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んでええええええええええええええ!!!!!」

 

最初の一発でほぼ瀕死になったあいつをそんなことに気づかないこつめちゃんは何回も滅多打ちに……

あ、ちょっと汁が……

 

「ごめん、僕ちょっと無理‼︎」

 

口元を押さえて走っていく百斗兄。

……正直俺もちょっと。

 

「……これは掃除大変だね」

 

「……はあ」

 

「……手伝ってね?」

 

少しげっそりしながらも威圧的な笑顔を見せる加奈姉に仕方なく頷く俺たち。

 

せっかくの日曜日の朝。

俺たちは最悪の気分で過ごすこととなってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「不幸だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゴキブリ、僕は超苦手ですww
作中では百斗君は勇気を振り絞っていましたが僕にできないww

お楽しみいただけましたか?
次回からはちょっと甘く、切ないお話も増えそう……
次はなにが来るのか作者にもわからない。それがこのdiaryですw
ではではまた次回‼



あ、言い忘れてましたが今回のお話はちゃんと僕が書かせていただきました‼


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10話 どきどきショッピングでどうしよう?

お待たせしました10話です‼
今回はまたもやお買い物回!!ですが前回とは又違う感じの展開に……?

ではお楽しみに‼


「そうだ! あず兄にお買い物連れてってもらおう!」

 

黒愛ちゃんがそういったのは突然でした。

 

「あ、梓さんに?」

 

「そう、あず兄に。加奈ねえは買うもの決まってないときは楽しいんだけど、決まってるときはなかなかそこにたどりつけないから。でも楽しいからいいんだけどね!」

 

そういわれて私は加奈さんと一緒に行った時のことを思い出して……苦笑い。

確かに楽しかったけど、ちょっと疲れちゃったっけ。

確かに梓さんならそういうことはなさそうだけど……

 

「今回こそ加奈さんの方がよくない?」

 

「う~ん、加奈ねえもそんなに暇じゃないしね……何回も頼むのは無理かも」

 

「そっか、そうだよね」

 

加奈さんはお仕事してるんだもんね。

だけど……

なんて思ってても最後は黒愛ちゃんに押し切られちゃった。

私も嫌じゃないんだけどね、でも買うもの的に……

 

 

 

 

 

 

「ってことであず兄、私と叶音ちゃんを買い物に連れてって」

 

「別にいいけど、俺車運転できないよ?」

 

「じゃあ百斗兄!」

 

「じゃあって何!? まあいいけどさ」

 

なんだか大ごとになってきちゃった……

なんだかんだ言ってもいいよって言ってくれる百斗さんは優しいよね。

 

「あ、もちろんあず兄も来るんだからね」

 

「えぇ、めんどくさい……」

 

「ほら黒愛ちゃん、無理言っちゃだめだよ」

 

「え? 大丈夫だよ、だってあず兄行かないって言ってないもん」

 

「くそ、黒愛、なぜわかった」

 

「いつもそうだからいい加減わかる」

 

いつもそうなんだ……でもやっぱり梓さんも黒愛ちゃん大すきなお兄ちゃん、だよね~

本気で面倒くさそうにしてるのに頼めばちゃんとついてきてくれるんだから。

ちなみに加奈さんはもうお仕事に行ったんだって。加奈さん抜きでこんな話してて、あとがちょっと怖いなって思ってるのは私だけなのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけでこの前、加奈さんと一緒に来たショッピングモールにまたやってきた私たち、というか私は黒愛ちゃんに手を引かれながらまっすぐ目的のところに……はいかないでフードコートに直行。

あ、そういえば私が黒愛ちゃんの家に行ったちょっと前に起きたって言ってたっけ。朝ごはん、というかもうお昼だからお昼ごはん、だけど、食べてなかったんだね。

私もちょっとおなかすいてたし一緒に食べちゃおっかな。

ラーメン屋さんにうどん屋さん、ハンバーガー屋さん……

スイーツをごはんにするのはさすがにあれだから……

なんて考えてるうちにラーメンを持った黒愛ちゃんが戻ってきた。

私も早く決めなきゃ、そう思った私の目に入ったのは

 

「お寿司屋さん?」

 

海鮮丼やちらし寿司が看板に書いてあってどれもおいしそう!

せっかくだからあそこにしてみようっかな。

お店に近づいてメニューを選んでると

 

「何食べるか決まった?」

 

梓さんに声をかけられた。

 

「ごめんなさい、決めるの遅くて……」

 

「全然、気にしなくていいよ。別に俺も急かしに来たわけじゃないから」

 

そう笑顔で言ってくれる梓さん。

ようやく決まった私が注文しに行こうとすると先に梓さんにお金を出されちゃった。

 

「いいですよ、梓さん!」

 

「いいのいいの、俺らと叶音ちゃんの仲だし、それに出しとかないと加奈ねえ怖いし」

 

それは確かに否定できないかもしれないけど、それでも!

 

「なら加奈さんに怒られてください!」

 

「払ったのもを返してもらうつもりはないよ、割り勘とかで元々決まってない限り、ね」

 

こういわれるともうきっと梓さんはもらってくれないだろうからしぶしぶ私はお財布をしまう。

みんなのところに戻ると百斗さんのきつねうどんのきつねが黒愛ちゃんに丁度取られていた。

 

「あははは・・」

 

「はぁ、まあいつもの光景だけどさ……」

 

やっぱりいつもなんだ……

 

「ふぁ! ふぁおんちゃん、おふぁふぇふぃ~」

 

「黒愛ちゃん、ただいま。ってそのあぶらあげ……」

 

「ああ、百斗兄のだよ。おいしかったぁ」

 

「喜んでくれたならよかったよ、はぁ……」

 

なんか百斗さんがかわいそうな気がするけどどうすればいいかわかんないから私もご飯食べちゃいますね!

百斗さん、ごめんなさい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百斗さんへの申し訳なさが膨らみながら私たちはこんどこそ目的の場所に向かっていた。

 

「ところで今日は何を買いに来たの?」

 

「あれ? 言ってなかったっけ? あれだよ、あれ」

 

と黒愛ちゃんが指さした方には特設の水着売り場ができていた。

 

「ああ、水着ね……って水着!?」

 

百斗さん、驚き過ぎじゃないですか!?

もう、だからやめようって黒愛ちゃんに言ったのに……

 

「ほら、毎年、夏に海行くでしょ? だからその時用の水着買おうかなって、というか買ってもらおうかなって!」

 

「まあ別に買うのは買うけど……俺らじゃなくて加奈ねえの方がよかったんじゃね?」

 

「ほら、加奈ねえだとここに来るまでにいろいろして水着選ぶ時間が無くなっちゃいそうだったし、せっかくなら男子の目から見てどうかっていうのも聞きたかったし」

 

「それは確かにな……まあいいや、とりあえず見て来いよ。選ぶ時間なくなるぞ?」

 

「確かにそうだね。うん! かのんちゃん、行こ!」

 

また手を引っ張られる私。黒愛ちゃんと行くと本当によく手を引っ張っていかれるよね!

私がのんびりしてるからなのかもしれないけど!

 

「これもいいよね、あ、叶音ちゃんにはこっちも似合いそう! あとは……あ、あれも!」

 

「黒愛ちゃん、私のは自分で探すから自分の探してきなよぉ~」

 

「ダメだよ、叶音ちゃん!」

 

あ、あれ……黒愛ちゃんの目が、ひかった?

 

「だめだよ、だってどうせ叶音ちゃんが自分で選んだらじみーーーなやつ選ぶでしょ?」

 

「そりゃあだって……恥ずかしいし……」

 

「だから、今年は叶音ちゃんのも私が選んであげる!」

 

もう今から恐ろしい気しかしないよぉ!

でも、せっかく選んでくれるっていうならその中でもおとなしめなのを選べばいいかな。

 

1着目。うん、可愛い、可愛いよ、でもね……

 

「黄色い花柄のビキニ! こういう可愛い奴は叶音ちゃん普通に似合うよね~

どう? あず兄、百斗兄」

 

「どうって言われてもな……普通に似合ってると思う」

 

「う、うん、僕も……」

 

「ちょっと黒愛ちゃん! なんでこうなるの!?」

 

2人で選ぶのかと思ってたらなんでか梓さんと百斗さんにも見せることに……

あとおへそが出るのは恥ずかしいよ……

 

「と、とにかくもういいでしょ!」

 

私は急いで試着室の中に戻る。

ほんとにどうしてこんなことに……

 

「じゃあ次これね」

 

って黒愛ちゃんが入れてきたのは、またビキニタイプの水着。

 

「黒愛ちゃん、わざとやってるでしょ……」

 

「ううん、ちゃんと似合うと思ってるよ。大丈夫、安心して」

 

安心とかそんなことより恥ずかしいの!

なんて叫んだら迷惑だし、黒愛ちゃんが私が逃げないようにって私の荷物と一緒にお洋服も持ってかれちゃってるし。

恥かしいけど、黒愛ちゃんの気が済むまでやるしかないんだろうなぁ……

もちろん、自分じゃ絶対に選ばないのばっかりだから試着は楽しいんだけどね。梓さんたちに見られるっていうのが……

いろいろ考えながらもお着替え完了した私は覚悟を決めてカーテンを開ける。

 

「おお!」

 

「ど、どう、かな?」

 

今度のは上は白いフリルが付いていて下はピンクで腰のとことに一周だけフリルがあしらわれてる。

これもこれでかわいいんだけど……

 

「それもなかなか似合ってると思うぞ?」

 

百斗さんはもう私の方をチラチラとしか見てないし。

梓さんは素直に褒めてくれるけど……

 

「おへそ出てるの恥ずかしいの!」

 

黒愛ちゃんにそれだけ言って私はまた試着室のカーテンを閉める。

 

「叶音ちゃ~ん? そんなに恥ずかしいの~?」

 

「恥ずかしいの!」

 

仕方ないないぁって声がして黒愛ちゃんの声が遠くなる。

試着室の中にいるのが私だけだといっても、この格好でいるのは結構恥ずかしいんだよね……

しばらくしてすっと黒愛ちゃんの手が入ってきてまた新しい水着が渡された。

なんかこれは見たことない形だね。

上がおなかのあたりまであるけど、しっかり下とは別れてる、ビキニっていうよりはセパレートタイプ? って感じで青と淡い赤のいかにもなギンガムチェック。

ちょっと子供っぽく見えないかな……でもこれで麦わら帽子とかかぶったらかわいいかも。

おへそもちゃんと隠れてるしね。これなら少しは平気……かな。

 

「叶音ちゃんがおへそ出るの恥ずかしいっていうから探してはきたけどお姉さんちょっと不満」

 

「だ、だって……これでも少し恥ずかしいのに……」

 

「百斗兄は、どう思う?」

 

「ぼ、僕!? え、えと……」

 

突然黒愛ちゃんに話を振られた百斗さんは私のことをしっかり見て……

ってちょ、ちょっと……

 

「百斗さん、じっと見過ぎです……恥ずかしいですよ……」

 

「あ、ごっ、ごめん!」

 

そういってまたそっぽを向く百斗さん。極端すぎだよぉ!

 

「で、百斗兄。凝視した感想は?」

 

「そんな人聞き悪いこと言わないで! えっと可愛い、と思うよ……」

 

しどろもどろになりながら百斗さんはそう言ってくれた。

私も気に入ったし、これにしようかなって黒愛ちゃんの方を向いたとき、私の目に一つの水着が止まった。

 

「ごめん、黒愛ちゃん、あの水着持ってきてもらってもいい?」

 

「え~あれ? 結局今年も挑戦しないの?」

 

「ごめん、そんなつもりはなかったんだけど、素直にあれが気になって……」

 

「まあ叶音ちゃんが気に入ったのが一番だからいいけどね。結構楽しんだし。ちょっと待ってて」

 

そういって取りに行ってくれる黒愛ちゃんはやっぱり優し……ってちょっと待って、楽しんだって、やっぱり私、遊ばれてた?

 

「はい、叶音ちゃん」

 

「ありがと! ねえ、さっき楽しかったって……」

 

「あ、ああ! 遊んでたんじゃなくて、叶音ちゃんの水着選びがってことだよ!」

 

「そう? それならいいんだけど……」

 

やっぱり考え過ぎかな。まあとりあえず着てみよっと。

 

 

 

 

 

「どう、かな?」

 

「やっぱり最終的にはそういうのがいいのかもね~」

 

「なんか安心するな。見慣れてる感じがいい」

 

「に、似合ってる、と思う!」

 

みんなからも好評だし、私も気に入ったからこの黄色い水玉のワンピースタイプの水着に決まり!

もっと子供っぽいかもしれないけど、気に入ったからいいの! 可愛いし!

 

「でさ、黒愛ちゃん」

 

「うん? どうしたの?」

 

「お洋服と荷物、返してもらっていいかな?」

 

「ごめん、忘れてた! はい、どうぞ」

 

意外とすんなり返してもらえた私はちゃんと服を着てから試着室の外へ。

 

「お疲れさま、叶音ちゃん」

 

「いいえ、私も楽しかったですし! じゃあ黒愛ちゃん、次は黒愛ちゃんの……」

 

「どうかな?」

 

選ぼうと思ってたのに先に着替えてた!

黒愛ちゃん、さすが……

私が出てすぐに入ったらしい黒愛ちゃんがきてたのは上が前でリボンで結ばれてて、下がミニスカートみたいになってる小さい花柄のビキニ。

普通にかわいいし、似合ってるんだよね……

しかも私みたいに恥ずかしがらないでああいうの着てるし……すごいなぁ

 

「こっつーかわいいな」

 

「うん、よく似合ってると思うよ!」

 

「うん私も! でもこれは?」

 

私はさっき目をつけてた水着を渡す。

 

「じゃあ私、これに着替えてくるね!」

 

試着室に戻った黒愛ちゃんを見送る。

きっと似合うと思うんだよね~

私が渡したのはレースがあしらわれてるピンクのビキニに水色のパレオを合わせたもの。

 

「どう?」

 

「うん、思った通り可愛い!」

 

「いいと思うぞ」

 

「なんか大人っぽくなった?」

 

みんなに好評な黒愛ちゃんはそのまま私が選んだ水着を買ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちが楽しんで選んでる間に梓さんと百斗さんも自分の水着を買ってたみたい。

帰りの車の中で夕飯に誘われてせっかくだから一緒に食べることに。

加奈さんに連絡を取るともうすぐ帰ってこれるっていってたから待ってることになった。

 

 

そして……

 

「ただいま!」

 

「「「「「おかえり(なさい)!」」」」」

 

そしてご飯を食べながら今日一日の話になる。

 

「ところで今日、なんでかのんちゃんはうちに来たの?」

 

「ああ、えっとね、私と叶音ちゃんの水着買いに行くのにあず兄と百斗兄と一緒に行ったから!」

 

「ちょっ、ばっ!」

 

「あ、こっ……」

 

「水着? へぇ、こっつんと叶音ちゃんと一緒にねぇ……」

 

あ、やっぱり怖い……

 

「私のこっつんと叶音ちゃんと、ねぇ……」

 

「ぼ、僕は二人に運転手頼まれただけで誘われたのはあず兄だから!」

 

「百斗、てめぇ……」

 

あれ、百斗さん、加奈さんの扱い上手になった?

ゆっくり立って、ふらふら梓さんに近づく加奈さん……お化け屋敷にいるみたいなんだけど……

 

「ね、ねえ、黒愛ちゃん……」

 

「大丈夫だよ、いつものことだし」

 

これもいつもなの!?

 

「何もせずには死ねねえ!」

 

逃げようとする梓さんを一瞬で追い詰めた加奈さん。

 

「まあ気にしても仕方ないし、あず兄も大丈夫だからご飯食べちゃお!」

 

「う、うん……」

 

いろいろすごい音がしてるのがすごく気になるけど見ちゃいけないんだろうなって思って見れない私。

梓さん、本当にごめんなさい。本当に、大丈夫、だよね……?




いかがでしたでしょうか?
梓……南無……
百斗が成長してくれて僕は嬉しいなって‼

では今回はこの辺で‼
ではでは~


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11話 I want to stand by … 前編

お待たせしました第11話
今回はdiary初の長編もの(一万字超えたゴキブリ回は数えません!←おい)
そのため前、中、後の三つに分けてます。

三編に渡るドキドキをどうぞ!!


同じように見えるビルが建ち並ぶ大都会に滝沢家の長女、加奈が勤める会社がある。

普段なら基本的にしゃべらず集中して仕事をこなす加奈だが、最近は少し違っていた。

 

 

 

 

――広瀬亮一

 

 

 

 

彼女の視線の端に映るようになってしまった彼の存在が加奈の心を大きくかき乱していた。

亮一は加奈の大学時代のサークルの先輩だった。

友達との付き合いで入ったようなサークルだったが、そこでだいたい最後まで練習に付き合ってくれたのが亮一だった。

結局、その友達が辞めた後も加奈はサークル活動を続け、今でも暇を見つけてはやっているほどにはまっている。

さらに言えば、加奈にこの会社を勧めたのも彼だった。

休みの日はときどきどこかへ連れて行ってもらったり、ご飯食べに行ったり。もちろんサークルのメンバーと一緒だったため、二人きりではなかったが……

 

などと、彼のことを考え始めてそれに完全に意識を持っていかれたとき

 

「……っち! 加奈!!」

 

「っ!? な、なに!? 突然どうしたの、真尋」

 

真尋に声をかけられていることに気が付き、加奈の思考は現実に返ってきた。

 

「どうしたの、じゃないの~。さっきからずっと呼んでたのよ?」

 

「そ、そうなんだ……ごめん、どうしたの?」

 

「まあ別に大した用でもないんだけどね。それより……また、広瀬さんのことみてたの?」

 

最後だけわざと加奈の耳元で小声でいう真尋。

 

「ち、ちがっ! そ、そんなこと……///」

 

見事に言い当てられた加奈はただ動揺するしかなく、少し頬を赤く染めて否定する。

 

「あらら、これは図星かな~?」

 

「もう、真尋~!」

 

こりゃ危ない、そういって楽しそうに自分の席に戻る真尋を見送った加奈は

 

「もう、本当に何なの……」

 

と小さくつぶやいた。

真尋のせいでもやもやしてしまった頭をリセットするために、持ってきたお茶を一口飲んで、いつも通り持ってきている家族の写真を見て癒される。

幾分か落ち着いた加奈は仕事を再開するためにパソコンに向かおうとして……また停止。

今度は視線に気づいた亮一が不思議そうに首を傾げてきた。

まさか反応されると思っていなかった加奈は慌てて微笑みながら首を振って何でもないことを伝える。やはり彼女の頬はピンク色になっていた。

納得したようなしていないような何とも言えない反応をして亮一は自分の仕事に戻る。

ほっと息をついた加奈は、その様子を見て笑っていた真尋をにらんでから自分の仕事に集中し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、かなっち! こっちこっち~」

 

午前の仕事がようやく終わり昼休み。

いつも通り真尋と一緒に食事をとるために食堂に向かった加奈は、先に席を取っていた真尋と合流する。

 

「ごめんね、遅くなって……」

 

「ううん、珍しいね、かなっちが時間かかるなんて」

 

「誰のせいよ……」

 

「あはは」

 

文句を言いながら加奈は持ってきた弁当を取り出す。

 

「やっぱりかなっちはお弁当なんだね~」

 

「うん、いつも梓には買うからいいよっていってるんだけどねぇ。こっつんのお弁当作るから変わらないんだって」

 

「さすが梓君……それに色合いもきれい」

 

「でしょ? 私の自慢の弟だもん! それなら真尋もお弁当、作ればいいじゃん」

 

「私、朝はバタバタしたくないんだよね~だから作りたくないの」

 

そんな話をしながら彼女たちは昼食を食べ進めていく。

 

「ところでさ」

 

「なに?」

 

真尋が唐突に話題を変えた。

 

「来月あるプレイアデスのコンサートチケットが当たったんだけど」

 

プレイアデス、加奈が好きな七人のアイドルグループで最近急激に人気が出ている。

このグループの人気に火が付く前から加奈はプレイアデスを応援していた。

 

「本当に!? いいなぁ……」

 

だから、加奈の子の反応も当然で、ライブこそ初めてであるものの、倍率はかなり高くなっているらしく、加奈はチケットをとれなかった。

 

「だけど! 最後まで話聞いてよ」

 

「ご、ごめん……」

 

「私ね、その日用事が入っちゃって行けなくなっちゃったから、誰かと行ってきなよ」

 

「え、もらっちゃっていいの……?」

 

「うん、二席余らせとくのもなんかね」

 

ふーんと聞いていた加奈がある言葉に反応した。

 

「え、二席?」

 

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

 

「うん、聞いてなかった……」

 

「ごめんごめん。……あの人の影響で好きになったんでしょ? せっかくだから誘っちゃいなよ」

 

こそっと言われた言葉に加奈は体を固くした。

 

「あ、あの人って……?」

 

かなり警戒した様子でそう聞く加奈。彼女の心臓はいつになく速く動いているようだった。

 

「え、広瀬さん。前に飲みに行った時言ってたじゃない」

 

「ほん、とに……?」

 

「うん。……もしかして覚えてないの?」

 

「全然……」

 

記憶にないところで好きになったきっかけを真尋に話してたと知り、頭を抱える加奈。

大学時代、偶然亮一から教えてもらい、それから完全にファンになっていた。

 

(何やってるの私~!!)

 

内心悶えつつ、うわべだけは平静を取り戻した(つもり)の加奈はチケットのことに話を戻す。

 

「でも本当にもらっちゃっていいの? さすがにお金くらいは……」

 

「いいのいいの。気にしないで」

 

頑張ってね、そういって真尋はカバンからふうとうを取り出してチケットが二枚あることを確認してから加奈に渡した。

 

「う、うん……///」

 

かなり小声でありがと、それだけ言うと加奈は恥ずかしさを紛らわすように残っていたお弁当をかきこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、広瀬さん!」

 

終業後、加奈はいつも以上に緊張した面持ちで帰ろうとする亮一を呼び止めた。

 

「うん? どうした、滝沢。どうせ、お前も電車だろ? 駅まで一緒に行こうぜ」

 

「は、はい!」

 

先を行く亮一を見て、慌てて荷物をまとめて追いかける加奈。一瞬目が合った真尋は加奈を応援するように微笑む。加奈もそれにこたえるように微笑み返し、亮一の後を追った。

 

「待ってください、亮一さん!」

 

「ったく、おせえよ、加奈。帰り支度済んでから呼び止めろよ」

 

「それ、なんか理不尽じゃないですか?」

 

中身のない会話をしつつ駅への道を歩く二人。

意識はしているものの、いざ普通に会話をし始めれば何となくは会話を続けられる不思議な関係だった。

 

「ところで加奈、最近よく見られてるような気がするんだけど気のせい?」

 

「にゃ!?」

 

いきなり聞かれて変な声が出てしまう加奈。まさか亮一からそのことを聞かれると思っていなかった、そもそも気付かれていると思っていなかった加奈は一瞬で顔を赤く染めた。

 

「にゃって……ねこかよ」

 

「ち、違います! きっと気のせいじゃないですか」

 

「気のせいか? それならいいけど、席替えしてからやけに視線を感じてな……」

 

「き、気のせいですよ!」

 

そんなことを言いつつも

(それ、完全に私だぁ~!)

と内心穏やかじゃない加奈。

 

「まあそれならいいや。それで、俺になんか言いたいことがあったんじゃないのか?」

 

加奈がなかなか言い出さないため、亮一が先に話を振る。

気がつけば駅の建物が見え始めていた。

話を振られた加奈は決意をするかのように一度立ち止まる。

加奈につられて一緒に立ち止まる亮一。

夜空の星がかすむほどの人工の光に照らされた2人は彼女たちだけの特別な空気を作り出す。

周りにある居酒屋から漏れ出す喧騒はなにも気にならず。

帰りを急ぐ人々の動きなど気にもせず。

わずかな緊張感が走る彼女たちだけの空間に流れる沈黙を先に破ったのは加奈だった。

 

「亮一さん、来月のプレイアデスのチケット取れました……?」

 

「ああ、あれか……残念だけど取れてないよ。加奈は? まさか取れたのか……?」

 

「いえ、私も外れちゃったんですけど……」

 

一瞬、真尋にもらったことを言おうか迷ったが、名前を出さなくていいと判断した加奈はそのまま話を続ける。

 

「友達が2枚当たったけど用事が入っちゃったからってチケットをくれたんです。

そ、それで、あ、あの……」

 

「そうか、ライブ行けるのうらやましいな」

 

「……あの! よかったら、一緒に行きませんか!」

 

勢いをつけて放たれた加奈の言葉は自分が思っている以上に大きかったらしく、辺りの喧騒が一瞬静まる。だが、すぐに大きくなった喧騒に加奈は安堵する。

 

「いい、のか……?」

 

「はい、むしろ一緒に行きたいです!」

 

「行っていいならもちろん行かせて欲しい。あ、チケット代……」

 

「大丈夫ですよ、私もタダで譲ってもらいましたし」

 

「なんかそれは悪いな……

あ、そう言えば加奈と出かけるのもなんだか久しぶりだな。折角だから朝からどこかで遊んでからライブ行かないか?」

 

「は、はいもちろんです!」

 

(これってデート!? デートだよね!?)

突然の誘いに動揺しながらも平静を装おうとする加奈。

当然、装えてはいなかったが。

特に加奈の様子を気にしていない亮一は再び歩き出し、それを慌てて加奈が追いかける。

当日のことをなんとなく決めて別れる2人。

まだしばらくまともに仕事をすることは難しそうだった。




次回中編です。
はてさて、うまくいくのでしょうか?
お楽しみに!!


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12話 I want to stand by … 中編

お待たせしました中編!
前回に引き続きどうぞ~


I want to stand by…(2)

 

 

ライブ前日、何時にもなく部屋を散らかしている加奈の姿があった。

どんな服を着ていこうか、仕事から帰ってきてから数時間、それにひたすら悩んでいた。

どうしよう、そんな思いがどんどん思考を埋め尽くしていって、それはだんだん大きな焦りに変わる。

誰かに頼ってみるかと考え始めたとき……

 

「ねえ、加奈ねえ、ちょっと……ってどうしたの?」

 

「こ、こっつん……」

 

遠慮なしにドアを開けたのは加奈の妹、黒愛。

 

「あ、もしかして、明日のデート用の服、選んでたの?」

 

「で、デートじゃないよ! ライブのついでに遊びに行くだけだって」

 

「それはもうデートだよ、加奈ねえ! 服、悩んでるなら手伝てあげようか?」

 

出来れば家族に見つかりたくはなかったが、見つかってしまった以上仕方ない。

それに自分一人では決められないレベルで悩んでいたのは間違いなかった。

うん、お願い、そう黒愛に頼んでからさらに一時間近くが経過し、ようやく服選びが済んだのだった。

 

「あれ、そういえばこっつん、私に用事があってきたんじゃないの?」

 

「え……? ああー!! ケーキ食べようかなって思って呼びに来たんだっけ!」

 

「うーん、お夕飯も近いけど……食べちゃおうか!」

 

「うん! やったっ! 早く降りよっ! 加奈ねえ!」

 

嬉しそうに加奈の腕を引く黒愛を見て微笑む加奈。

さっきまでの焦りはすでになく、引っ張られながらも楽しそうな加奈はもう普段と何も変わらない様子だった。

 

 

 

 

 

 

そして次の日。

 

「すみません、わざわざ来てもらって」

 

加奈を迎えに来た亮一。

いつも亮一が誰かを連れて行くときは絶対に全員迎えに行っていることを加奈は知っていたし、実際大学時代には毎回迎えに来てもらっていた。

だが、今回は本当に二人だけ。黒愛には否定こそしたが、加奈もデートみたいであることはずっと考えていた。

だからこそ、迎えに来てもらうという行為だけでも意識してしまっていた。

 

「ほら、行くぞ」

 

車の中から早く乗るように催促される。

そして、車に乗り込もうとドアを開けたとき、後ろからツンツンとされているのを感じ振り向くと

 

「こっつん? どうしたの?」

 

加奈の言葉には答えず、乗り込むために姿勢を低くしている加奈の耳元に

 

「頑張ってね、加奈ねえ」

 

そう小さくささやいて走って家の中に戻っていった。

 

「もう! こっつん!!」

 

そう叫ぶが、すでに黒愛の姿はない。

 

「なんか言われたのか? ってか、顔赤いけど大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です! 早くいきましょ!」

 

さっと車に乗り込んだ加奈を不思議そうに見て、亮一は車を発進させた。

 

『星の瞬きよ 僕の想い きみに届けてって 何度も願った でも違うの ぼくにチカラください』

 

プレイアデスの歌がかかる車の中、2人はしばらく無言だった。

 

「あの、これからどこ行くんですか?」

 

加奈はふと思った疑問を口にする。

確かに、遊びに行くとは言っていたが、どこに行くかは一言も言われていなかった。

 

「ああ、そういえば伝えてなかったか。

会場の周りで調べてたんだけど、あんまり大した施設が他になくてな、とりあえず近くのアウトレットにでも行ってみようかと思ってるが、どこか行きたいところあったか?」

 

「いえ、私もそんなに考えてなかったので。それにアウトレットって楽しそうですよね」

 

「そうだな。スポーツショップとかコートとかもあるらしいから久しぶりに一本やるか?」

 

「いいですね、やりましょう」

 

大学時代、こうやって遅くまで練習に付き合ってもらっていたことを思い出し、加奈は少し懐かしむ。

自分の気持ちがはっきりしたのはいつのことだろう。

もしかしたらもうその時にはまだ小さくても胸の中で熱が生まれ始めていたのかもしれない。

そんなことを考えながら、亮一と会話を続けているうちに目的地のアウトレットに到着。

 

「で、どこか行きたいところあるか?」

 

「そうですね……亮一さんとせっかく一緒なんで、靴、選ぶの手伝ってもらってもいいですか? 前のやつ、だいぶボロボロで……」

 

「そうか、じゃあとりあえずカルビンいくか」

 

このアウトレットの中にあるスポーツショップの名前を出した亮一に加奈はうなずき、移動を始める。

 

「どんなのがいいとか、決まってたりするのか?」

 

「うーん、あんなリこだわりはないんですよねぇ……履きやすくて動きやすければそれでいいやって感じなので」

 

「そうか、なら前と同じか、ほかにもおすすめなメーカーがあるからそこから探してみるか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

そんな会話をしながら、南国風にデザインされたアウトレットの中を進んでいく。

途中にある店でウィンドウショッピングを楽しみながら歩くと、目的の店に行くのにそれなりに時間がかかってしまった。

 

「思ったより遠かったな」

 

「そうですね、それに私もいろんなお店で引っかかっちゃいましたし……」

 

「こういうところの楽しみはそれ、だろ? 何も気にしてないよ。さ、靴選ぼうぜ」

 

先に店に入った亮一を追って加奈も店に入る。

 

「加奈は今どこやってるんだ?」

 

「えっと、特にどことかは決まってなくて、いろんなところやってますね。あ、でも割と真ん中が多いかも……」

 

そうかそれなら……などとつぶやきながらいくつかの靴をピックアップする。

つま先の曲がり方や、クッション性などを考慮しながら選ばれたその靴はどれも性能に優れているものだった。

 

「この辺はどうだ?」

 

亮一からかごに入れられて渡された靴に、加奈が自分で選んだものを加えた中から自分が一番気に入ったものを選ぶというのは楽しい作業ではあるものの、難しいことでもあった。

改めて自分で性能を確認し、履いてみる。履き心地や靴のグリップ性を考えながらようやく1つに絞ったのは店に入ってから1時間以上たってからのことだった。

 

「じゃあ、これ買ってきますね」

 

レジにむかおうとする加奈を亮一が呼び止めて、加奈が持ってるかごを取る。

 

「俺が買ってやるよ。今日、誘ってくれたお礼だ」

 

「いや、私ももらいものですし、連れてきてもらうだけで十分……」

 

「いいから、持ってきたやつ片付けといてくれよ」

 

そういうと亮一はさっさとレジに向かってしまう。

いつもそうやって……そんなことを思い文句が出そうにだったが、そこも理由の一つだと気づき赤面する加奈。

その恥かしさを隠すように靴を急いで元あったであろう位置に戻しに行った。

会計から戻ってきた亮一と合流し、昼食をとるためにフードコートに向かう。

 

「思ったより時間かかったからここで買って車の中で食べるか。向こうで買いたいものもあるだろ?」

 

「そうですね、そうしましょうか」

 

世界中に広がるハンバーガーショップミクスドール、通称ミックもあったが、日本で生まれた日本人向けのハンバーガーショップ、ムクバーガーを選択。少し値は張るものの、そこのテリヤキバーガーを割と加奈は好んで食べていた。

 

「それだけで足りるのか?」

 

と心配する亮一は加奈とは違い、ミックでセットを2つ買っていた。

男性の質より量という思考と、女性の量より質という思考が食い違うのはまさにこれだろう。

笑顔でうなずいた加奈は近くの自販機にむかい、ライブに持ち込ためにペットボトルの飲み物を2、3本買う。

亮一はもともと持ってきているようだった。

車に戻った二人は会場に向かって出発。

車で30分ほどのところにある会場に向かう間にさっき買ったバーガーを頬張る。

 

「お、オニポテも買ったのか。1個もらっていいか?」

 

加奈が了承もしないうちに適当にオニオンリングを一つ取り、口に運ぶ。

 

「りょ、亮一さん、それ……!」

 

奇しくもそれは、加奈が食べかけていたものだった。

 

「うん? なんかまずかったか?」

 

「い、いいえ! 全然! おいしいですよね!」

 

「あ、ああ。そうだな。俺も好きだよ、これ」

 

(これっていわゆる間接キスだよね!)

間接キス程度で興奮なんて、そう思っていた加奈も実際にそれが起こるとしっかりテンションが上がっていた。

 

「あ、そうだ、ナゲットくうか?」

 

そういって差し出されたナゲットを加奈は凝視する。

(え、これ、食べていいの? このまま? え? え!?)

混乱が混乱を招く中、加奈は食べるか食べまいか迷う。

そして、意を決して口を開けて近づいた瞬間……

 

「残念でした~」

 

差し出されていたナゲットは亮一の口の中に消えた。

そこに残ったのは口を開けて間抜けな顔をしている加奈だった。

 

「え……?」

 

「どうした? いつまで口を開けてる気だ?」

 

そういわれてからかわれていることにようやく気付いた加奈は慌てて口を閉じる。

 

「もう、亮一さんなんて知りません!」

 

「急にどうしたんだよ。そんなにナゲットくいたかったのか?」

 

的外れな回答を口にしながら、急にへそを曲げてしまった加奈に戸惑う。

なんとか機嫌を取ろうと頑張る亮一だったが、加奈は期待が外れただけにショックが大きく、しばらく機嫌が直らなかった。

ライブ会場までついたところで

 

「すみません、急に変な態度をとってしまって」

 

「いや、俺も……なんかごめんな」

 

機嫌を直した加奈と亮一がお互いに謝る。だが、結局なぜ加奈が突然こうなったのかはわかっていないようだった。

グッズを買うために並んでようやく手に入れると、もう開場時間が過ぎていた。

入場の列に並ぶ間、2人は先ほどの戦利品について話す。

ライブのパンフレットに、サイリウム、キーホルダー……

一度に全部、ではなく、午前と午後の二回に分けて物品販売が行われたため、加奈たちはグッズを手に入れることができた。だからこそ、午前中遊べた、ということもあるが。

 

「買えてよかったですね。まさか亮一さんがぬいぐるみを買うなんて思いませんでしたけど」

 

ふふっ、と笑いを含んで話す。亮一の新たな一面が見つかった瞬間だった。

 

「わ、笑うなよ! いいだろ、別に」

 

「ええ、いいと思いますけど、ふふっ、ははは……」

 

「……先行くぞ」

 

「あ、すみません! 笑ったの謝りますから待ってください!」

 

車の中とは立場が逆だった。

亮一に案外子供っぽい部分があることを知り、嬉しくなる加奈。

嬉しさを顔ににじませながら加奈は会場の中に入った。

全席指定の座席であるため、2人は当然隣同士だった。

加奈にとって初めてのライブ。

亮一と2人だからこそ、より楽しめることだろう。

今の彼女には彼といるだけで十分幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ほどなくして爆音とともにプレイアデスのライブが始まった。




いよいよ来週で最後‼
さて、どうなるのでしょうかね~


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13話 I want to stand by … 後編

1日遅れての投稿となってしまって申し訳ありませんでした‼

いよいよ後編……

さて、どうなるのでしょうか……


会場から出てきた加奈たちを待っていたのは瞬く星で彩られ始めた空だった。

といっても、会場の周りはかなり明るくライトアップされていて、きれいに星が見えたわけではなかったが。

プレイアデスのライブの最後に歌われた曲、『Twinkle heart』。

亮一の車でも聞いたその曲の歌詞に加奈は勇気づけられた気がした。

 

「どうする? 飯でも食ってから帰るか?」

 

「そうですね、梓にもみんなの分の夕飯頼んであるのでそうしましょうか」

 

早い時間に終わったため、まだ食事するくらいの時間は残されていた。

前に仕事で使ったことがあるレストランが近くにあるという亮一の案内の元、今度は徒歩で会場から移動する。

近くのビルの前に来た亮一はためらうことなくそのビルの中に入る。

加奈もあとを追いかけ、2人はそのままエレベーターに。かなり上の階のボタンを押した亮一を見上げる加奈。

 

「ああ、このビルの上に小洒落たイタリアンレストランがあるんだよ。確か好きだっただろ?」

 

「そうですけど……よく覚えてましたね」

 

「まあ何回も一緒に出掛けてればな……っとついた」

 

エレベーターのチンという音とともに目的のフロアに到着する。

エレベーターのドアが開くとそこはレストランの入り口だった。

 

「この階全部を使ってるらしい。まあそこまで大きいビルでもないけどな」

 

窓際の席に座った亮一が説明する。納得したようにうなずきながら加奈は亮一のむかえに座った。

 

「わぁ~きれい……」

 

加奈が窓の景色を見て感嘆の声を漏らす。

まだ完全に暗くなったわけではないため、完全な夜景とはいかなかったが、そこから見える景色は十分美しいものだった。

 

「まだまだこれからだぞ? そうだ、あとでここのもう少し上の階の展望台に行ってみるか」

 

「いいですね! 行ってみたいです!」

 

加奈にしては少し興奮気味に言った。

そんな加奈の様子に驚きを感じながらも亮一はそれを了承した。

丁度いいタイミングでコースの前菜も運ばれてきて、食事を始める。

今日のライブの感想を話し合ったり、自分たちがやっているスポーツのプロの試合に関して意見を出し合ったり、家族の話に触れてみたりと食事をしながら会話に花を咲かせる2人は、時間など忘れていた。

 

 

 

デザートまできっちり食べ終わった2人は割り勘でそこの食事代を払い(加奈が出すといったものの亮一が聞かなかった)、さらに上の階を目指して再びエレベーターに乗る。

そして、エレベーターのドアが開いた先には……

 

「……」

 

声も出せないようなきれいな景色が広がっていた。

都会のビル街の夜の様子なら加奈も会社から何度も見ているが、それとはまるっきり別物だった。

まるで地上にもう一つの星空ができたようなそんな光景。その光はそれぞれが精一杯光り輝いているようで、空に瞬く星々にも勝るとも劣らない輝きをはなっているようだった。

亮一はというと……

 

 

 

 

――無邪気に望遠鏡をのぞき込んでいた。

 

 

 

その子供のころに帰ったような表情に加奈は瞬きさえも忘れてしまった。

やがて望遠鏡の使用時間が切れて何も見えなくなってしまうととても残念そうに、そして名残惜しそうに望遠鏡から離れた亮一は普段の凛々しい様子からは全く想像できなかった。

 

「なんだ、加奈。また俺が子供っぽくて笑いたいのか?」

 

なんだか居心地悪そうにそういう亮一に加奈はただ見惚れていて。

亮一の視線に吸い込まれそうで、少しだけそらした視線の先に見えたのは瞬く星たち。

そしてふとききなれたフレーズが頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 

――星の瞬きよ 僕の想い きみに届けてって 何度も願った でも違うの ぼくにチカラください

 

 

 

 

 

 

加奈から迷いが、消えた。

迷いという最後のタガが外れた加奈の思いは奔流となって外にあふれだす。

 

「あの……亮一さん……」

 

「うん? どうした?」

 

「亮一さん! わたし…私! 亮一さんのことが好きです! わたしと、付き合ってください」

 

全く予想していなかった展開。

考えてもみなかった可能性。

亮一は不意をつかれたようだった。

 

「本気、なのか……?」

 

「はい、もちろんですよ……?」

 

加奈の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

もしかしたら彼女は薄々気が付いていたのかもしれない。

この先の展開に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、俺は加奈とは付き合えない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきりとした拒絶の言葉。答えはそれだけで十分だった。

 

 

 

 

 

「そう、ですよね…ごめんなさい……!」

 

 

 

 

 

 

それだけ言うと加奈は自分だけ先に展望台を出ていってしまう。

そして、亮一はそれをただ見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、まだ……いまはまだ、気持ちがそんな風にならないんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

亮一がつぶやいた言葉は誰の耳に届くこともなく、静かに展望台の空気に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやって帰ったのかはまるで覚えていない。気が付けば家の近くにいて梓たちの声が聞こえていた。

加奈は自分の気持ちを抑え込む。

弱さを見せないように。

自分がしっかりしないとみんなに心配させてしまう。

だから加奈は自分の顔に笑顔を張り付ける。

今日だけは家族に嘘をつこう。そうすれば明日はきっと普通に笑えるから。

そう考えた加奈はその張り付けた笑顔のまま鍵を開ける。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

「ただいまぁ!」

 

 

 

 

努めて明るい声で言った。

 

「「「「おかえり!」」」」

 

いつも通り4倍になって帰ってくる挨拶に加奈はホッとすると同時に崩れそうになる。

自分で何度も言い聞かせ、その笑顔を保持した加奈は普段と同じように家族と会話をする。

 

「ごめん、今日結構体力使ったからもう眠たいや。また明日話すね」

 

いつも通りに演じきった加奈はいつもより早く階段を登り切って自室に入る。

そしてベッドにダイブした。

 

「……ぐすっ……うぅ……」

 

加奈の部屋から嗚咽がこぼれる。

心配そうに階段から加奈の部屋をのぞき込む4人。

もちろん、加奈の様子がいつもと違うことは気が付いていた。

だが、こんな様子の加奈は初めてで、誰も何も声をかけることができなかった。

 

「私、行ってくる」

 

そう名乗りを上げたのは黒愛だった。

今日のことに関しては彼女だけがわかりえることが多かった。

 

「加奈ねえ、入っていい?」

 

黒愛がドアの外から声をかける。

だが、返事はない。

だからこそ、黒愛はドアを開けた。

待っていてもいつまでも許可は出ない、加奈の性格からしてそうであることがわかっていた。

 

「わたし、いいって言ってないんだけど……」

 

「いつまでもいいって言ってくれないでしょ」

 

顔を涙で濡らしている加奈が非難するがそれに全く動じない黒愛。

後ろ手にドアを閉めながら

 

「ねえ、なにがあったの?」

 

単刀直入に質問する。

 

「別に何も……」

 

「じゃあなんで泣いてるの? みんな気が付いてたよ、加奈ねえが何か隠してること」

 

完全に隠せていたと思っていた加奈は驚きで目を見開く。

 

「加奈ねえもしかして……」

 

最悪の可能性を考えてもどうしても口にすることができない黒愛。

 

「たぶんこっつんが思ってることで正解。終わっちゃったの……」

 

黒愛は悟った。加奈が告白し、振られたであろうことを。

黒愛は優しく抱きしめる。自分が小さいとき加奈にそうしてもらったように。

黒愛のやさしさに包まれて加奈の嗚咽はさらに大きくなる。

落ち着くまでの間、黒愛はずっとそのままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……こっつんに恥ずかしいところ見せちゃったかな?」

 

落ち着いた加奈は目を赤くしながらベッドに腰掛けていた。

 

「うーん、私的には可愛い加奈ねえが見れてラッキーだった、かな?」

 

「もう……でもすっきりした。ありがとね、こっつん」

 

「まだだよ加奈ねえ」

 

完全に諦めがついたかのように言う加奈に黒愛は待ったをかける。

 

「まだって、何が?」

 

「加奈ねえは再アタックの方が成功率が高いって知ってる?」

 

「……そうなの?」

 

加奈の表情が少し明るくなった気がした。

 

「そうらしいよ! だから、もう一回だけ、チャレンジしてみない?」

 

それは加奈にとって小さくても、確かな希望になった。

 

「……うん! 一回で諦めたら私らしくないよね」

 

折れかけた気持ちをもう一度立てなおすにはまだ時間がかかりそうだったが、それも時間が解決するだろう。

安心した黒愛は、おやすみ、そう声をかけて加奈の部屋を後にした。

 

 

 

 

加奈も帰ってきた時よりも明るい雰囲気で鏡に向かって笑顔を作る。

 

 

 

 

 

もうそこに張り付けられた笑顔はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ、再び加奈は告白するだろう。

今度もどんな返事になるかはわからない。

今度こそ本当に打ちひしがれなければならないかもしれない。

それでも。

小さな希望がある限り。思い描く未来がある限り。

そうなることを望んで彼女は告白する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私! やっぱりあなたのことが!」




いかがでしたでしょうか?

ちょっぴり切なくてほろ苦い、それでいて甘々できゅんきゅんしていただけたら幸いです‼

もしかしたら他の兄弟のこんな展開もいつか見れるかも……?
その時はまたきゅんきゅんしていってくださいな‼

ではまた次回‼


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14話 私とお姉ちゃん

お待たせしました14話です!

今回は過去の話です。
いったい誰と誰の過去でしょうか?

ではどうぞ!!


「これ、どうするの? 黒愛おねえ……黒愛ちゃん」

 

お掃除中、何気なく黒愛ちゃんを呼んだ私は呼び方をあわてて変える。

 

「叶音ちゃんがそう呼ぶの久しぶりだね。前はいつもそう呼んでくれてたのに」

 

「だって、さすがに恥ずかしいし、それに……中学生になったし」

 

「独り立ちしてくのをみるの、お姉ちゃんはうれしいような悲しいようなだよ」

 

「もう! からかわないでよ!」

 

そういった私の手が整理してたものの山にあたってちょっと崩れた。

崩れた山の一番上にあったアルバムが落ちてとあるページを開く。

そこには涙でぬれた顔で笑顔で手をつないでる私と黒愛ちゃんの写真があった。

 

「懐かしいね、かのんちゃんが初めて私のこと、お姉ちゃんって呼んでくれた日」

 

そういわれて私もそのことを思い出す。

確か幼稚園の年中くらいの時のことだったはず。

実はそのころ、私と黒愛ちゃんは今みたいに仲良かったわけじゃないんだよね。

いっつも喧嘩ばっかしてたなぁ……

 

 

 

 

 

 

私が3歳か、4歳になった年、私は初めてお母さんに頼まれてお使いに出ることになった。

その時ついてくることになったのが年が近かった黒愛ちゃんだったの。

その時一生懸命一人で行くってお母さんを説得したのを今でも何となく覚えてる。

今考えるとなんでそんなに黒愛ちゃんのこと嫌ってたんだろって感じだよね。

でも当時の私はなんでか黒愛ちゃんのこと嫌ってて、それでどうにか一人で行こうとしたんだけど、結局押しきられて黒愛ちゃんと2人で行くことになった。

 

「そうそう、私はなんでか叶音ちゃんに嫌われてたんだよねぇ」

 

「うん、本当になんでだろうね。私もわかんないや」

 

「う~ん、たぶんだけど、同じくらいの年で同じ性別で、同じくらい可愛がられてたから嫉妬してたんじゃないかな」

 

「そう、なのかな……? だとしたらすごく恥ずかしい……」

 

「私もそういうふうに思ったことあるしそうなんじゃないかな? 小さい頃はよくあることだーって加奈ねえが言ってた」

 

「へぇ、そうなんだ。加奈さんって本当にいろんなこと知ってるよね」

 

「まあ加奈ねえだしね。それにしても叶音ちゃん、私と映ってる写真、みんなぶすっとしてるね」

 

アルバムをめくりながらそういう黒愛ちゃん。

私も少し気にしてるのにぃ~!

 

「ところで、黒愛ちゃんは私のお使いについていくってどんな風に言われたの?」

 

「私? 加奈ねえについてってあげてって言われただけ……あ、あと仲良くなるチャンスとも言われたかも?」

 

「そうだったんだ」

 

「でも実際についってたら何にも会話してくれなかったよね。ずんずん先歩いて行っちゃったし」

 

「そうだっけ?」

 

「そうだよ。まあでも、極めつけはあれだよね」

 

そういわれて私は少し悲しい気持ちになる。

 

「うん……」

 

歩いて15分くらいのところにあるコンビニに買い物に行った私と黒愛ちゃんは頼まれてた朝ごはん用のサラダとソーセージを買ったんだけど……

 

『なんでかのんがとるっていってのにとっちゃったの!』

 

『叶音ちゃんじゃ、あそこはとどかなかったでしょ』

 

『かのんだってとれたもん! かのんひとりでできたのに!』

 

『無理だったよ! だって黒愛だってぎりぎりだったんだから!』

 

『できたもん! くろめのばか!』

 

『ばかって言ったほうがばかなんだからね! もうしらない!』

 

今でもよく覚えてる最後の大ゲンカ。っていってもただの子供のけんか過ぎて今考えるとなんでそんなことでって思っちゃうんだけど、お互いムキになっちゃったんだよね。

それで黒愛ちゃんは先に帰っちゃって、私はそのまま帰るのがなんか悔しくてサラダとソーセージを持ったまま無我夢中で走っていったらいつの間にか自分がどこにいるのかわからなくなっちゃって。

周りを見渡しながらなんとか帰ろうとしたけど結局どこにいるかわからなくて、すごく寂しくなって、私は泣きながら歩き回ってた……気がする。その辺記憶があいまいなんだよね。

 

「で、迷子の私を探しに来てくれてのが黒愛ちゃんだよね?」

 

「そうだよ。先に帰ったら加奈ねえやみんなからすごく怒られてね、仕方ないから買いに行ったコンビニに戻ったら叶音ちゃんがいなくて。で、そのときに加奈ねえから言われた『叶音ちゃんが迷子になったらどうするの!』ていうのを思い出して。あとは必死に走って探した。名前呼んで、駅の方行ったり、商店街行ったり……最後は私も泣いちゃってた気がする」

 

「そういえばそうだった! 誰かに呼ばれた気がするって思って振り向いたら泣きながら走ってくる黒愛ちゃんがいて、そのままギュって抱きしめてくれたんだよね」

 

「見つかったときは多分すごく安心したんじゃないかな、よく覚えてないけど」

 

あれ、もしかしてすごいことだと思ってるの私だけ?

黒愛ちゃんにとってはそうでもないことなのかな……

 

「だって、小さくて消えちゃいそうな声で黒愛お姉ちゃんって言ってくれたのが嬉しすぎたんだもん!」

 

不安だった私の心がぱぁって明るくなった。

私、ほんとにひどいこと言っちゃってたもんね。

 

「そのあとしっかり手をつないで、少し迷子になりながら帰ってすぐ撮った写真がこれ、だよね」

 

「うん! 私と黒愛ちゃんがちゃんと仲良くなった記念の写真!」

 

お使いのあと、私はすっかり黒愛ちゃんと仲良くなって、いつもくっついてるようになった。

今までが何だったんだろうっていう感じにいつもべったりになったんだよね。お母さんたちにちょっとびっくりもされたっけ。

 

「ねえ、叶音ちゃん、もうお姉ちゃんって呼んでくれないの?」

 

「たまになら……黒愛お姉ちゃん」

 

私もなんだかんだでこっちの方がよびなれてるしね。つい呼んじゃいそうになるけど……学校で呼んじゃったりすると恥ずかしいし! 

だから黒愛お姉ちゃん、じゃなくて、黒愛ちゃん。

いつまでも頼ってちゃだめだと思うし。

 

「叶音ちゃん、好き!」

 

「私も、大すきだよ、黒愛お姉ちゃん!」




というわけで黒愛と叶音の過去でした。

この小説での癒し枠ですね~
今後も二人が癒してくれそうですww

ではまた次回!!


追記

ごめんなさい‼
前回まで出てきてたキャラ紹介を忘れてました‼

広瀬亮一

加奈の会社の上司でクールなイケメン。
どんな仕事もそつなくこなすエリートだがそれを表に出さず、驕ることもしない真面目人。
公私混同しないために呼び方も気を付けている。
加奈が想いを寄せている相手。

以上です‼
申し訳ありませんでした‼


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15話 星座占いの起こす……

お待たせしました!15話!

今回は百斗のお話。
慣れないお話ですが頑張って書いたのでどうぞ!!


「さてと。どうしようか?」

 

誰もいない部屋で僕こと滝沢百斗の声が響く。

今日も今日とて休日を満喫‼……と言いたいところなんだけど加奈姉とこっつーは駅に行って電車で少し遠くへショッピングに、あず兄はサークルで大学に、ふうは翔たちのところに遊びに行ってしまってる。

まあ、何が言いたいかと言うとさっきも言った通り今現在家に誰もいないのである……暇だ。

 

ゲームも執筆もなんかやる気になれず、とりあえずなにかないかとテレビをつけてみる。

すると朝の星座占いをやっていて……

 

『今日の運勢第1位は魚座のあなたです!』

 

「あ、魚座だ」

 

1位になっていたのは奇しくも僕の生まれ星座である魚座だった。

 

『外に出てみると何か良いことがあるかもしれません‼︎ラッキーアイテムは……』

 

そのまましばらく流れる星座占いをゆっくりと見ながらぼーっと考えてた。

 

「外、ね〜……」

 

基本的にこういったオカルトの類いを信じてしまう方の僕はついつい見いっちゃうんだよね~

 

「何か欲しいものあったっけ?」

 

自分の部屋に戻りCDやDVD,BD,漫画等が置かれている棚のところへ移動する。

綺麗に整頓してあるからどこになにがあるかは一目でわかる。

普段はおおざっぱだけどこういうところは細かい僕なんだよね~

 

とりあえず右手の携帯でそろそろ発売してそうな漫画とCDを検索していき発売日が来ているかどうかを探していく。

本当は日にちを覚えてたらいいんだけどね……なかなか多過ぎて覚えられない……

一つ一つ検索して探すこと十数分。欲しいものをまとめた結果……

 

「え~っと、漫画1冊とCD2枚か~……よし、買いにいこう!」

 

こうして珍しく僕一人での外出が決定

 

(……占い、当たるといいな~……)

 

そんな希望を胸に抱きながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、何もないよね」

 

あれから愛用の車で近くのモールに行き、本屋とCDショップをよって目的の品を手に入れた僕は一人ぶらぶら歩いていた。

 

占いを信じる→行動→何もない→諦め。

 

僕は一体あと何回このループを繰り返すんだろうね……

まあ、別にいいんだけどね~。

こうして外に出る口実(?)ができたんだし。しかし……

 

「買い物もう終わっちゃったんだよね~……このまま帰るのもいいんだけど……」

 

せっかく外に出てきたのにこれじゃあ何か味気ない。

懐が潤っている訳ではないんだけどもともとお金を使う方じゃないから貯金はそこそこたまっている。それにどうせなら何か見たいしね?という事で何かないか散策開始‼

いやはや、まさかこの僕が一人で純粋にショッピングを楽しむときが来るとはね~……

 

「さてと、じゃあまずは……」

 

『あ、せんぱ~い‼』

 

「ん?」

 

別に僕が呼ばれたって断定できた訳じゃないけど妙に聞き覚えのある声が聞こえてきたため思わず振り向く。だけど気づいたときにはもう遅く、視線の先には腕を広げた一人の女性が……

 

「とう!」

 

「うわっとっと⁉きゅ、急になに⁉」

 

いきなりの衝撃にたたらを踏んでしまうもののこけることはなんとか阻止してしっかりと受け止める。

数歩下がってしまうものの、どうやら力は加減されてたみたいで思ったよりは簡単に受け止められた。

微かに香る甘くて懐かしい匂いと女性の柔らかさを感じながらゆっくりと体から離していく。

体からある程度離したところで顔を確認してみると……

 

「お久しぶりです‼先輩♪」

 

「た、高梨さん⁉」

 

僕の高校時代の生徒会執行部の後輩で学年は僕の二つ下で名前は高梨(たかなし)飛鳥(あすか)

学校行事などの準備のため共に活動した仲間である。そして……

 

「あれ、先輩顔赤いですよ?熱でもあるんですか?」

 

「そ、そんなことないよ⁉///」

 

なぜか話していると鼓動が速くなる相手……

会ったばかりの頃はこんなことにはならなかったのに……あず兄や加奈姉に聞こうと思ったときもあったけどなんとなく聞きづらくて……結果なんだかよくわからない。

 

(ほんと、なんなんだろう……)

 

自分の胸にそっとてを当てるとドクン、ドクンと激しい音を奏でていた。

 

「先輩?」

 

首をこてんと傾げながら不思議そうな顔で、それでいて上目遣いで見つめてくる高梨さん。

僕も低めの身長だけどそんな僕よりもさらに10cmは低い子からじっと見つめられる。

 

(か、かわいい……じゃなくて!)

 

すぐにはっとして首をふりなんでもないように答える。

 

「なんでもにゃいよ!」

 

「にゃい?」

 

「ない!///」

 

思わず噛んでしまった……うぅ、変に緊張しちゃう……

 

「あはは!変な先輩‼相変わらずかわいいですね~」

 

「うぅ……///」

 

昔からだけどいつも会話のペースは彼女に振り回されてる。

仕方ないとはいえちょっとダメな気がする……

 

「先輩、この後暇ですか?」

 

「え?う、うん……暇だけど……」

 

「本当ですか?だったらこの後一緒に買い物にでもどうかな~なんて……ダメですか?」

 

「う、ううん!全然いいよ」

 

 

「本当ですか⁉やった」

 

小さなガッツポーズをとりながら喜ぶ高梨さん。

なんだか生徒会として活動してた頃を思い出してほっこり。

 

「じゃあ、はい!」

 

「……?」

 

「だから……はい!」

 

ほんわかしていた僕の前に急につき出される手。だけど急に出されたそれの意味を僕はとっさに判断することができず、思わず首を傾げる。

 

「……なんですか?その、『は?』って顔は」

 

「ご、ごめん。急すぎてよくわかんなくて……」

 

「も~、だから手を繋ごって意味です!」

 

「ええ⁉」

 

まさかの提案に心臓がさらにドキッとする。

いままで異性と手を繋ぐなんて仕方なくで以外したことなんてないし、何より相手が妙に意識している人だからか余計に緊張しちゃう。

その緊張が表に出ているのか、高梨さんの手をとろうとする僕の手の動きは物凄く遅くて……

 

(うう、手は繋ぎたいのに上手く動いてくれない……)

 

それでも必死に近づける。

そして……

 

 

 

ギュ

 

 

 

 

「こ、これでいい?///」

 

「えへへ♪///」

 

手を握った瞬間恥ずかしさか興奮か、少し頬を赤くしながらにへらっと笑う彼女に凄く惹かれる。

手から感じる温もりと優しさのお陰で少し落ち着いた。

 

「よ~し、さぁいきますよ‼先輩♪」

 

「え、ちょちょ!いきなり引っ張らないでって‼」

 

と思った矢先手を引っ張られ、前のめりになりながら前を走る高梨さんについていく。

 

「えへへ♪レッツゴー‼」

 

「わわわ!」

 

今日僕の体力と心、持てばいいな~……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~……楽しいですね♪」

 

「そ、そうだね……」

 

あれから色んな所を回った。

食事をとったり服を見たりバッグを買ったりまたCDを見に行ったり。

効率なんて言葉をぶん投げた状態で回ったからとにかく走りまくっていた。

お陰でへとへとになっちゃったけど……その間ずっと手を握っていられたのは嬉しかった、かな?

 

「♪♪♪」

 

凄く楽しそうに繋がれた手を振りながら歩いてるんだもん。

この笑顔見たら疲れなんて飛んでっちゃう。

 

(ありがとう、朝の占い‼)

 

まともに当たったのは初めてだ。感謝しておこう。なんてわりとどうでもいいことを考えながら歩いていると高梨さんの動きが急に止まった。

どうしたのかと思い彼女の方を見ると視線が上の方を向いて止まっていた。

視線を追いかけるとその先にはこのモールの目玉と呼べる巨大な観覧車があった。

 

「高梨さん?」

 

「⁉ご、ごめんなさい先輩。さ、速く次のお店行きましょ‼時間的に次が最後ですし」

 

なんでもないことを装いながら次に行こうとする高梨さん。そんな彼女の手を引き、僕は無理やり観覧車の方へと歩を進めた。

 

「せ、先輩?」

 

「乗りたいんでしょ?時間も無いんだから速く行こ?」

 

「い、いいんですか?」

 

「勿論!」

 

そのまま列にならび自分たちの番を待つ。

ほどなくして回ってきたのでちゃちゃっと二人分のお金を店員に渡してさらに前へ。

 

「あ、お金……」

 

「いいのいいの。さ、速く行こ?」

 

「……こういう時の先輩はずるいです」

 

「え、何が?」

 

「なんでもないです!」

 

「?」

 

「さ、来ましたよ!速く乗りましょ‼」

 

高梨さんの声ではっとして前を見るともう僕たちが最前列で今まさにゴンドラが到着しようとしていた。

店員さんももう扉を開ける準備をしていたので慌てて前へ。

案内にしたがってすぐに乗り込んだ。

 

「ふぅ~」

 

ゴンドラに入って腰を下ろしようやく一息つく。

席は当たり前だけど向い合わせで座っている。

 

「……先輩、今日はありがとうございました」

 

「ううん、僕の方こそ。凄く楽しかった」

 

「本当ですか?」

 

「うん!……なんだか、昔を思い出しちゃった」

 

「生徒会の時、ですね……」

 

今からもう2、3年も前の話だなんて未だに信じられない。

つい昨日のように覚えている。

 

「また皆で集まろ!幸いグループ登録してるんだからいつでも集まれるんだし」

 

「……そうですね‼その時は先輩が卒業した後に入ってきた子たちも呼びますね‼」

 

「うん!楽しみにしてる」

 

昔話に盛り上がったところで観覧車も上の方に近づいてきた。

時間もちょうど夕方。

上の方からは綺麗な夕日がバッチリ見えた。

その光景は本当に幻想的で、二人して見惚れていた。そんな時。

 

「先輩、隣……いいですか?」

 

「え?」

 

「と言うか行きます!」

 

そういうやいなや僕の隣にちょこんと座って来たかと思ったら僕の方にもたれ掛かってきた。

 

「⁉」

 

「どうしたんです?先輩♪」

 

イタズラ成功みたいな感じでニヤリとしながらこちらを見てくる高梨さん。

夕日のせいで少し赤くなっている顔が余計に眩しくて、思わず目をそらしてしまう。

 

「ふふ、やっぱり先輩の反応可愛いです!」

 

「か、可愛くなんかないの!もう……///(高梨さんの方が)(可愛いのに……)

 

「なんですか?」

 

「なんでもないよ!///」

 

「ならいいですけど……(急にそんなこと)(言わないでくださいよ~……///)

 

少し気まずいけど心地いい空気が流れる。ほら、恥ずかしいけどうれしい……いやこれだとただのM発言だ。そうじゃなくて……ほわほわする……あの感じ。あれなんていうんだろうね。

 

観覧車は一番上を通って少し下ったところ。

この観覧車は一周16分ほどだったからあと7分くらいで一番下に戻ってくるだろう。

そんなことを考えていたら隣でごそごそ動く音が聞こえる。

音の元が気になってそっちを見ると今日買った袋の中から一つの箱を取り出した。

 

「先輩、今日色々奢ってもらったりわがまま聞いてもらったりしたので……プレゼントです」

 

「ありがと……開けていい?」

 

「はい!」

 

許可を貰ったところで箱を開き中を確認する。すると……

 

「青色のブレスレット……」

 

青というより藍色に近い綺麗な色をしていた。

何よりも自分の大好きな色だ。

 

「とりあえず何かお礼をしなきゃと思って……嫌でした?」

 

「ううん、凄く嬉しい。ありがとう!!」

 

さっそく腕につける。

僕に似合うかどうかはわからないけどそれでも大切な後輩からのプレゼントってだけで僕は凄く嬉しかった。

 

「そういえば……僕からも」

 

僕も僕で買っておいたものを取り出す。

 

「ファッションセンス皆無だから似合うかわかんないんだけど……何か買った方がいいかなって思って」

 

「ありがとうございます!!」

 

さっそく中身を見る高梨さん。

中身はブレスレット。しかも青色……

 

「色かぶりはごめんなさい!」

 

「い、いえ!別に私は嬉しいですよ?先輩からもらえるだけで!」

 

そういいながら手首につけてくれる高梨さん。

 

「大切にしますね!」

 

「お願いね?」

 

「はい!」

 

お互いの腕につけられたおそろいのアクセサリーを見つめる。

残りの観覧車の時間はお互い雑談で時間をつぶし、一番下まで降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ帰ろっか」

 

「そうですね~」

 

二人で並んで歩きながら駐車場へ。

ちなみに高梨さんはバスで来たらしい。そのためそろそろお別れだ。

 

「じゃあ、ここでお別れだね」

 

「はい!今日はとても楽しかったです!あとプレゼントありがとうございました!!」

 

「ううん、僕ももらっちゃったからね。ありがと!今日暇だったし楽しく過ごせたよ!」

 

「それは良かったです!……次も誘っていいですか?」

 

「え?……うん、勿論。連絡頂戴!」

 

「やった!」

 

ちょうどやってくるバス。

それを見て高梨さんがこちらを見る。

 

「では先輩、また会いましょ!!」

 

「うん!またね」

 

バスに駆けていく高梨さん。

それを見送ったところで僕も自分の車のところへ歩を進め……

 

「先輩!!」

 

高梨さんに呼ばれ後ろを振り向く。

 

「何?高なs」

 

呼ばれて振り向いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唇に柔らかい感覚が伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会いましょう!優しい先輩!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬を少し染めた後輩が走って去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま~……」

 

「お、帰ってきたか百斗。俺帰った時家が閉まってたから軽く驚いたぞ~」

 

「ああ……ごめん、連絡入れればよかったね……」

 

「ま、みんな鍵持ってるしいいんだがな」

 

「あ、百斗兄!買い物何買ってたの?」

 

「えっと……CD……後でパソコンで落としておいて?ふう」

 

「わかった!」

 

「百斗~。もうちょっとでご飯だからね~」

 

「うん……それまでに片づけるよ……」

 

「百斗兄、どこ行ってたの?」

 

「ちょっと……買い物にね……?」

 

「そう……なんか変だけど大丈夫?」

 

「うん……大丈夫」

 

みんなと言葉を一言二言交わした後自室の二階へ。

後ろから『どうしたんだろう』や『あのブレスレット持ってたっけ?』とか『珍しいな』とか聞こえるけど無視して自分の部屋の扉を開けて中へ。

 

中に入って後ろ手に扉を閉める。

瞬間体の力が一気に抜けて扉にもたれかかってしまう。そのままずるずる体が落ちて床に座り込んでしまう。

 

 

 

 

ドクン!ドクン!!ドクン!!!

 

 

 

 

同時に来る激しい心臓音。

近くに人にも聞こえるんじゃないかと思うほど激しい音が聞こえる。

 

(うう……うるさい……苦しい……)

 

体の温度がぐんぐん上がっていく。

 

(これ……やばい……)

 

抑えていたけどここにきて呼吸が荒くなる。

 

「どうしよう……」

 

服の胸の部分をぎゅっと握りしめる。

 

「もしかしたら、どうしようもなく……」

 

 

 

 

好きになってるのかも……

 

 

 

 

この日初めて僕は真剣に恋を知った気がした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで百斗の恋愛(?)回でした!

……ドキドキできたかな?
不安ですww

というわけでキャラ紹介!

高梨飛鳥

百斗の高校時代の生徒会仲間で百斗より二学年下。
活発な子で行動力の高い子。
前話で紹介した小藤理咲に似ているところもあるが彼女と違ってこちらは計算して行動する。
攻め攻めのタイプだがいざ受けに回ると……

こんなところですね~
加奈編と違ってちょいちょい挟む感じになります。
ゆっくり進んでいく二人の関係をお楽しみに!!

ではでは!!


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16話 再起の一球

こんばんは!
少し遅れてしまいました……

今回は初参加のシベリア香川さんです!
どうぞ~


「あ〜だりぃ……なんで土曜日やのに講義あんねん……

くそっ、あの教授……恨んでやる!」

 

この男、滝沢家のお隣、加川家の長男加川直輝。

説明は何話か前でしているから省略。

梓と同じ大学に通っている。

 

さて、直輝は少し不機嫌のようだ。

それもそのはず、今日は土曜日なのに大学の講義があったのだ。

一講目の講義の教授に、講義後に呼び出されて研究室で話に付き合わされていたのだ。

これも接しやすい人柄ゆえの不幸であった。

 

「そういや梓さんも一講目やったか……きっと今頃家でゆっくりしてるんやろうな〜……はぁ……」

直輝は歩きながらため息をついた。

 

 

 

「ハックション!ん、風邪か……?」

梓は滝沢家の自室でくしゃみをして、また本を読み始めた。

 

 

 

 

場所は直輝の帰り道に戻る。

直輝はお昼ご飯を用意しておらず、近くのファーストフード店で済ませた。

 

 

「ありがとうございました〜!」

「いやぁ〜やっぱりここのポテトは美味い!しかも、今は"ポケモン"のエンジョイセットやったしさ!」

直輝はファーストフード店のエンジョイセットを頼んでいて、滝沢家の人達ともよく遊んでいるポケモンのおまけがついてきたともあって、朝からの不機嫌も吹っ飛んでいた。

 

すると……

 

「あら、加川君じゃない?」

「ん……!?」

直輝は自分の名前を"あの人"に呼ばれて驚きを交えながら振り向いた。

「こんにちは」

「あっ、こっ、こんにちはっ!綾澤さん!」

その人は綾澤恵美(あやさわえみ)

直輝と同じ大学に通う、直輝の二つ上の先輩である。

恵美は長い黒髪をポニーテールでくくって、澄んだような目をしている。

その魅力は大学一と言ってもいい。

てか言え。

「今日は講義だったの?」

「あ、はい……その後に教授に捕まっちゃって、こんな時間になっちゃいました……あははは……」

直輝は自分の後頭部を撫でて言った。

「そうなの?私は一講目と二講目だったの」

「それは、お疲れ様です」

「お互い様ね。あら?それ……」

恵美はふと直輝が手に持っているポケモンのエンジョイセットのおもちゃを指さした。

「あ、これですか?」

直輝は恵美にそれをわかりやすいようにした。

「やっぱりポケモンね!私も好きなのよ!」

「そうなんですか!?俺も好きなんです!」

「加川君も好きだったなんて!

あ、このキャラクターかわいいわよね!」

恵美は目をきらきらさせて直輝の持っているおもちゃを見ていた。

「あっ、綾澤さんはこのキャラクターが好きなんですか?」

「えぇ、この子かわいいのよね〜」

「わかりますわかります!

あ、よければ差し上げますよ?」

「え、いいわよ!そんなの悪いわ」

恵美は片手を左右に振って言った。

「いえいえ。これ二つ目なので別に構いませんよ」

直輝は笑顔でそのおもちゃを差し出した。

「なら、お言葉に甘えて……」

恵美はそのおもちゃを受け取った。

そのとき、お互いの手が少し触れ合って、二人共顔を少し赤くしたが、手を離すことはなかった。

「あ、ありがとう加川君。大切にするわ」

「い、いえいえ!大切にしてください!」

「じゃあ、私は家でやることがあるから帰るわね。また学校で」

「はい!」

恵美は手を振って帰っていった。

その後ろ姿を直輝は見えなくなるまで見つめていた。

見えなくなると、直輝も家に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

直輝が景色を眺めながら歩いていると、向こうから手を繋いで歩いてくるリア充が一組………

 

 

「おっ、あれは……」

直輝は目を細めてその二人を見た。

「あ、加川さん!」

一人の男がそう言うと、その隣にいた女性は頭を下げた。

男の方は古宇多来阿(ふるうたらいあ)、女性の方は壁谷瑠璃(かべたにるり)。両方とも高校一年生で、付き合っている。来阿は直輝と同じ少年野球のチームに入っていた。

「来阿、久しぶりやな〜!瑠璃ちゃんも久しぶり」

「お久しぶりです」

瑠璃は彼氏である来阿を通して直輝と知り合った。

「ったく……お前らは相変わらずラブラブやな〜」

「や、やめてくださいよ〜」

瑠璃は照れながら言った。

「なんや、今日は仲良くデートかいな?」

「ま、まぁ……そんなところです」

「そんなところじゃなくてデートなのっ!」

瑠璃は頬を膨らませて言った。

「ご、ごめん……」

「あははははっ、仲が良さそうでなによりや!」

直輝はそんな二人を見て声高に笑った。

「もう!からかわないで下さいよ!」

来阿は顔を赤くして言った。

「はははっ……じゃ、俺は家に帰るわ。デート楽しめよ〜」

直輝は頭の斜め上で手を振って歩き出した。

来阿と瑠璃はまた仲良く手を繋いで歩き始めた。

 

 

 

カキーン!

コロコロコロ………

 

「ん、ボール?」

直輝が歩いていると、野球のボールがころがってきて、直輝の靴に当たった。

「すみませ〜ん!」

すると、一人の少年が走ってきた。

「これ、君の?」

「はい!ありがとうございます!」

少年は帽子を脱いで礼を言い、直輝はその子にボールを手渡した。

「ん、もしかして君は……"白犬ファイターズ"の選手?」

「はい!キャプテンをしています!」

「そうかそうか……あ、沼谷監督はいる?」

「はい!」

「あ、それやったら連れてってくれる?」

「わかりました!」

直輝はその子の後ろを歩いていった。

 

 

 

 

「おい!もっとしっかり取れ!」

「はい!」

白犬ファイターズの監督、沼谷(ぬまたに)は怒鳴り声をあげた。

 

白犬ファイターズ……『F』のマークが帽子に描かれていて、白い犬のマークが特徴的。そして、直輝と来阿が小学生時代に入っていた少年野球チームである。

 

「監督〜!」

「遅いぞ方志(ぼうし)!」

「すみません!このおじさんが監督に会わせろって!」

「おじさん言うな!まだ19や!」

「ん……もしかして加川君かい!?」

沼谷はメガネを上下に動かして言った。

「はい!お久しぶりです!」

直輝は真っ直ぐと沼谷の目を見て言った。

「おぉ〜!大きくなったな〜!」

沼谷は直輝の両肩に手を置いた。

「監督もお元気そうで!」

キャプテンの方志十(ぼうしてん)を含め、選手達は「誰だこいつ」という表情で直輝を見ていた。

「お前達、この人は卒団生の加川君だ。去年の甲子園の決勝に出てた人だぞ!」

「ちょっとそんな……」

「うお〜!すげぇ〜!」

「そんな人が卒団生にいたなんて!」

選手の子達は目を輝かせて直輝を見た。

「い、いや……そんなすごくねーよ?」

「ほう……お前があの(・・)加川か?」

「あなたは……?」

「俺はここのコーチをしている方志だ。あの加川の実力が見たいんだ……一打席だけ勝負してくれるか?」

「え、え〜っと……」

直輝は断ろうという感じで言った。

「一打席ぐらいいいんじゃないか?」

「監督……」

すると選手の子達は口々に勝負を見たいなどと言った。

「はぁ……わかりました。一打席だけですからね……」

『やった〜!』

選手の子達は口々に喜びの声をあげた。

直輝は少し苦笑いした。

 

 

 

直輝はほぼ1年ぶりとなるマウンドに足をつけた。

そしてプレートのところに右足を置き、左足で土を蹴って、真っ直ぐキャッチャーをしている沼谷を見つめた。

 

(久しぶりだな……マウンド(ここ)は……)

 

方志コーチは素振りをしている。

直輝はボールを3球ほど投げて肩慣らしをした。

 

「準備はいいか?」

「はい、いつでも!」

方志コーチはバッターボックスに立った。

「じゃあ……始めようか!」

「はい!」

方志コーチはバットを構えた。

直輝も腹の前でグローブとボールを構えた。

 

直輝は第一球目を投げる。

 

 

 

 

 

『見損なったよ……』

 

 

 

「くっ……!」

球はストライクゾーンをズレてボールの判定だった。

 

(肩に力が入ってるな……)

 

沼谷は直輝にボールを投げ返す。

直輝はボールを受け取り、歯を食いしばって土を蹴った。

 

そして第二球目を投げる。

 

 

 

 

 

 

『お前がおさえていれば……』

 

 

 

 

 

「くっ……!!」

またボールの判定。

「おいどうした?その程度なのか?」

「ちょっと調子が悪いだけですよ!次は入れますから」

直輝は汗を拭いてボールを受け取る。

 

(次こそは……!)

 

直輝は第三球目を投げる。

 

 

 

 

 

 

 

『弱い人なんていらないわ。

さようなら……』

 

 

 

 

 

 

「くっ……そぉーー!!!」

 

「ふんっ!」

 

カキン!

 

「なっ……!?」

方志コーチの打った球は三塁側のラインを越えてファウルとなり、直輝は安堵の息をはいた。

「ちっ……次こそはヒットにしてやるからな」

「くそっ……!」

直輝は自分にしか聞こえない声で言って、新しいボールを受け取って、悔しがるように土を蹴った。

 

 

「…………2アウトランナーなし」

 

「えっ……?」

 

直輝は沼谷の言葉に驚いた。

 

「ピッチャー王子太陽(おうじたいよう)!バッター加川直輝!

思い出せあの試合を!お前にとって野球はなんなんだ!」

 

「っ……!」

 

 

 

 

 

『セーフ!セーフ!』

 

『いよっしゃ〜!!』

 

 

 

 

「……楽しい…………」

 

直輝はそう呟いて構えた。

方志コーチもバットを構える。

 

第四球目………

 

 

 

方志が気付くと、そのボールはキャッチャーミットの中だった。

 

「なっ……!?」

「ストライク……!」

「っし……」

直輝はグローブを開いて、ボールを返すように促した。

「面白いじゃねーか……!」

直輝はボールを受け取り、構えた。

 

第五球目……

方志は空振りした。

「なっ……!?」

「ストライク2!」

沼谷はボールを返す。

「追い込まれたか……」

方志は先程よりも強くバットを握った。

 

直輝は振りかぶって、脚をあげ、横に出し、第六球目を投げた。

 

そのボールは激しく回転して、キャッチャーミットに向かった。

 

(打てる……!)

 

方志はフルスイング!

 

ボールはバットに当たった。

 

だが……そのバットは音をたてて折れて、ボールは上空に上がった。

 

折れたバットはグラウンドに転がり、ボールはキャッチャーグローブの中におさまった。

 

「……キャッチャーフライでアウト。俺の勝ちですね」

直輝はニヤッと笑って言った。

子供達は口々に「すげー!」などと声をあげて直輝に群がった。

「ははは……加川君の球、速くて強いな……手が痛いぞ?」

「監督……ありがとうございます。おかげで野球が楽しいって思い出しました」

「あぁ、何があっても忘れるなってずっと言ってただろ?」

「はい……『楽しんだもん勝ち』……ですもんね!」

「その通り!」

2人は笑いあった。

「負けたよ……流石は甲子園決勝出場校のエースだ」

「いえ、そんな」

直輝は照れ隠しか、頬を人差し指でかいた。

「なぁ、野球教えてくれよ!」

「俺!?」

「あんなすげーピッチングする人に教えてもらえば最高だぜ!」

「え〜っと……監督……?」

「いいんじゃないか?」

「っ……はい!よし、お前ら!ノックしてやるからポジションにつけ!」

『はい!』

子供達はそれぞれのポジションにつき、直輝はノックをした。

直輝はベンチにも人を置き、声を大きく出す練習もさせた。

 

 

そして時間はいつの間にか時刻は夕方になっていた……

 

「今日はありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

「あぁ、お疲れ。ゆっくり休めよ?」

『はい!』

「よし、じゃあ片付け〜」

監督が声をかけると、子供達は片付けをしていった。

「今日はありがとうな」

「いえ、久しぶりにして楽しかったです!」

「また遊びに来てもいいんだぞ?」

「はい、また暇があれば」

直輝は監督と話をしていた。

 

すると……

 

「お〜い!兄ちゃ〜ん!」

「ん、お〜う!守〜!」

直輝はある男に呼ばれ、手を挙げて応答する。

その男は加川守(かがわまもる)。直輝の弟で中学三年生である。

「帰りが遅いと思ったらここにいたんだね。兄ちゃんのせいで僕が買い出しに行く羽目になっちゃったじゃんか!」

「ははは……すまんすまん」

直輝は怒って近付いてきた守に戸惑いながら言った。

「あ、沼谷さんすみません……兄がご迷惑を……」

「おまっ……!」

守が沼谷に頭を下げると、直輝は「余計なことを」と言いたげな表情をした。

「はははっ、そんなことないよ。子供達の練習に付き合ってもらって助かったよ」

「えっ……?」

直輝は驚いた表情で見てきて守にドヤ顔をかました。守はそれを見てムスッとした。

「さ、帰ろうぜ!腹へったし!」

「はぁ……わかったよ……」

「それじゃあ、失礼します!」

直輝と守はグラウンドを去って行った。

 

 

 

「兄ちゃん、また今度当番代わってもらうからね」

「わかってるよ〜」

守はスーパーの袋を一つ持ちながら、直輝はスーパーの袋を一つ、頭の後ろで持ちながら歩いていた。

直輝がどこか楽しそうに歩いているのを見て、守は笑いをこぼした。

「兄ちゃん、楽しそう……」

「ん、そうか?

まぁ……野球の楽しさを思い出したからかもな」

「そうなんだ」

「なぁ、守……」

「なに?」

「……俺さ……………」

 

 

 

 

 

 

 

「っ……何故瑠璃ちゃんがここに!?」

「デートの帰りです」

 

瑠璃が突然現れるというハプニングが起きたが………

 

 

 

 

 

 

 

月曜日……

 

「加川君!今度こそ、野球部に入ってくれないか?」

「えぇ、いいですよ」

「やっぱりダメ…………っていいの!?」

「はい、よろしくお願いします」

 

直輝はまた、野球を始めることにしたのだった。




綾澤恵美

スレンダーでスタイルもいいかなりの美人さん。
真面目な性格でみんなを引っ張っていく人だけどどこか抜けていてたまに変なことを天然でする人。
加川直輝が想いを寄せる相手でここのそこから惚れ込んでいる?



古宇多来阿

黒愛の先輩兼直輝の野球チームの後輩。
さっぱりした性格で敬語を使うこともあるが抜けることもしばしば。
後述の壁谷瑠璃の彼氏で、この事に対してからかうとたじたじしてしまう。




壁谷瑠璃

古宇多来阿の彼氏で高校一年生の同級生。
中学の時、古宇多来阿と同じ部に所属しており、黒愛たちの先輩として活動していた。
来阿と同じくからかわれると照れるがまんざらでもない模様。




加川守

加川直輝の弟で文句をいいながらも何だかんだで尊敬してる兄思いの人。
からかいぐせがあり、よく人をからかうけど根はいい人。
たま~にいきすぎて起こられることもしばしば?




以上です‼
細かいキャラはちょいちょいありましたが重要なのはこの辺でしょうか?
以降もちゃんと出ますよ!(はずです)

では今回はこの辺で‼


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17話 いつものサークル

お待たせしました第17話‼

ではどうぞ!


「ふわあぁぁ~」

「眠そうですね、民さん」

「まぁね」

 

部室の奥の椅子であくびを零すと、ソファに座ってパソコンで作業している二年生の松原(まつばら)曜子(ようこ)がこっちを見ずに言う。今は休日の二限がそろそろ終わろうとする時間。いつもならこの時間、俺しかいないのに珍しいね。

 

「それで? 曜子はどうしてここに?」

「今日が期限のレポートを忘れてて今やってるんです」

「へぇ曜子が課題遅れそうになるなんて珍しいな」

「一体誰のせいなんでしょうね」

 

いやそんなジト目で見られても、基本締め切りは前もって伝えてるわけだし、レポートがギリギリなのは俺のせいじゃないし。

 

「こんにちは~」

「おはようございます」

 

曜子と少し話していると二年生の江原(えばら)友和(ともかず)と、一年生の小坂(こさか)真里(まり)が入ってくる。二人とも今日って講義ってあったっけ?

 

「二人が揃って来るとは。明日は雨かな?」

「今日は次の話を書きに来たんですよ。あと少しなのに家だと色々と邪魔が入りますから」

「それにさっきの講義が同じだったんです。なので別に珍しくとも何ともないですよ」

 

そうだっけか? まぁ興味ないしなんとなく聞いただけだから、正直どうでもよかったりする。あと来てないのは七人か。今日は休日だと言うのに全部員揃うんかね。ほら噂をすればなんとやら。早速部室の扉が開くよ。

 

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

「おー海里に春一も来たか。暇潰し? それとも執筆?」

 

背もたれに寄りかかりながら一年生の南條(なんじょう)海里(みさと)とその双子の弟の春一(はるいち)が入ってくるのを見る。

それにしてもこいつらいつも一緒に来るイメージがあるんだが、なんでだ?

 

「いつも近くで会うんですよ」

「なんで分かるんだよ」

「エスパーですから」

「エスパーってお前……」

「冗談です。女の勘ってやつですよ」

 

海里が冗談っぽく言ってるが内容の読み取り正確なんだよなぁ。しかも今回だけじゃなくて前にも何回か経験あるし。

 

「あの、僕は次の講義までの時間を潰しに来ました」

「私は今日は講義ないからね、暇潰しだよ。帰りに春と買い物行く予定だし」

「相変わらず仲がいいこって」

「仲良きことは良いこと也、ですよ。民さん」

「それを言うなら、仲良きことは美しきかな、だぞ。曜子」

 

仲良し姉弟といえば今日は梓来てないのか? 確かあいつも今日講義があったはず。

 

「梓なら今日は講義が終わってさっさと帰ったぞ」

「ん? 今日って何かあったっけ?」

 

梓がさっさと帰るってことは近くのスーパーで特売か何かあるのか? それとも姉弟の誰か、梓が帰るってことは加奈さん辺りか、が風邪でもひいたのか?

 

「あ、今日は小澤サンはバイトで来れないって言ってましたね」

「梨歌もか……てか秋太と夏生はいつ来たんだよ」

「たった今だけど?」

「そこで室伏サンとあったんですよ」

 

気付けば秋太と二年生の高野(たかの)夏生(なつき)まで来てるし……マジでいつ来たんだ? しかもなんか着々と揃ってきてるし。梨歌と梓が来れないから来てないのはあと一人か……ここまで揃ってたら来そうだけど……あいつはなぁ……

 

「あ、遥さんも梓さんと同じで講義が終わった途端消えましたよ」

「だからなんで……ってもういいわ。それじゃあ今日はこのメンツか」

 

海里から目を離して改めて部室を見渡す。

曜子と友和はパソコンと睨めっこ中。そんな二人の後ろに秋太と真里が眺めつつ、偶にちょっかいを掛けてる。いや、辞めてやれよ。

その隣の余ったパソコンで夏生が何か描いてる。多分今度の冊子の挿絵でも描いてんだろうなぁ。

その正面のソファじゃ春一がノートにペンを走らせてる。偶に冊子を見てることから、きっとこっちも挿絵を描いてると思われ。挿絵担当は春一が受け継いでくれるから安泰だな。

 

「そういえば民さんはあんな時間から入り浸ってるなんて、もしかしなくても暇なんですか?」

「おー暇だぞ~」

 

また欠伸をしてるとプリントされた原稿を持った友和がやってきた。てかあんな時間って一限が終わって少しだから、お前といた時間そんなに変わらないと思うんだが……

 

「民はレポートとか、執筆とか終わってんの?」

 

秋太も面白いこと言うな。三年の付き合いになるのにまだ分かってないのか?

 

「俺はやることやってからここに来てんの。だから後は皆の原稿待ちなわけ」

 

だから皆の提出が遅いと俺がバタつくんだけど、やっぱしそのイメージが目立つのかね。ちなみに部内で提出が早いのが梓に真里、曜子、秋太の四人。秋太は提出が終わると同時に自分と他三人の挿絵を描き始める。遅いのが大体友和、夏生、遥辺り。

 

「へぇ~そうだったんですか。それはご迷惑を……?」

「いや、民はそこら辺考えてスケジュール調整してるっしょ。……してるよな?」

 

秋太が心配そうにこっちを見てくるも、それを教えて余裕を持たれても厄介だから答えないでおこう。

 

「ま、まぁたぶん大丈夫だろ……きっと、恐らく」

 

おいおい秋太、いやこの部室にいる全員か。何を不安がってる。てか、不安がるならもっと余裕をもって原稿寄越せ。そこ、友和、夏生。お前らだよ。あ、目を逸らしたな。

 

「おいーっす」

 

そんな中、突然部室の扉が開いた。

誰だろうか? 入稿の締め切りは来週末だから催促はまだ先だし、心当たりがない。しかも今は講義中だからなおさらだ。

 

「あれ? 梓帰ったんじゃないん?」

「聞いてくださいよ梓さーん。民さんが構ってくれないんですよー」

「はいはい」

 

海里が梓に甘えようとするも、軽くあしらわれてる。てか、いつの間に移動したんだあいつ。

 

「梓さん今日用事あったんじゃないんですか?」

「そ〜なんだけどね〜」

「部室内見回して、誰か探してるんですか?」

「ん〜いないみたいだから良いや。それじゃあ皆頑張ってね〜」

 

何しに来たんだ、あいつ……

 

「いや〜励んでるね〜」

「まぁな……で、なんでお前もいるんだ?」

「ちょっとしたデート?」

 

声がしたから振り返ると、そこには田口(たぐち)(はるか)が悪戯な笑みを浮かべて立っていた。

デートって……まぁ今は急ぎじゃないから良いんだけど

 

「デートって誰とですか!? まさか滝沢サンとですか!?」

「夏生は早く原稿続き書く。どうせ来月もギリギリになるんだし」

 

てか二年生以下はなんで驚いてんだ? 相手なんて分かりきってるじゃん。俺らとしてはいつの間に付き合ったんだって話だけど。

 

「まぁデートって思ってるのは私だけだと思うけどねぇ〜」

「だろうな。あの様子じゃ」

「遥はなんて言ったんだ?」

 

取り敢えず話のわかる俺ら(三年生)だけで話を済ませよう。

 

「えーっとね、「今日暇だからどっかに行かない?」ってなって、気付けばこんな事に」

「何がどうしてそうなったし」

 

ほんと、こいつはいつもこうなんだよな。自由奔放神出鬼没って言葉がよく似合うんだよなぁ。

 

「つか、いつからいたんだ?」

「んー? 民が欠伸を漏らしてる時からだよ?」

 

つまりは俺らより先に入って……ってあれ? 遥って確か一限の講義に出てたんじゃ……

 

「民さん。考えるのやめましょう」

「だな。お前と遥相手に深く考えるだけでバカらしくなる」

「ちょ、それどういう事ですか!」

 

目に涙を浮かばせないで泣きついてくる海里は無視して、部室に置きっ放しのトランプで大富豪で無双してる遥を見る。

 

「遥、梓の事だからそろそろ学外に捜索範囲広げると思うんだが」

「それはダメッ! てな訳で私はもう行くね!」

「え、ちょ、ま」

「遥さんここ三階!」

 

トランプを机の上に投げて窓に向かって走り出した遥に、秋太と曜子が止めようとするけど、まぁ、無駄だろうね。あ、海里窓開けてくれてありがとう。

 

「とぅっ!」

 

目だけで海里にお礼を言うのと、遥が開けられた窓から飛び降りるのはほぼ同時。

 

「あぁぁぁずぅぅぅさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫びながら落ちて行く遥を、窓から顔だけ覗かせて見送る。着地点には狙ったかのように梓。

あ、落ちてくる遥に気付いた。

 

「梓さん、驚いてますね」

「まぁ、普通驚くよな。俺だって驚く」

「じゃあ私が落ちて来たらどうします?」

「急いでその場から離れる」

「酷い」

 

隣の海里とそんな軽口を叩いていると、梓が遥をキャッチした。

 

「おぉ〜よく二人とも無傷だな」

「て言うか、受け止め方凄くないですか? なんで普通にお姫様抱っこしてるんですか」

「そのまま校門に向かいましたよ」

「田口サン、恥ずかしいのかジタバタしてますね」

「あ、下ろした途端ドロップキックされた」

 

いやいや、校門前で何してんのあの二人。あ、梓が本当にドロップキックされてる。起き上がろうとした所に背中からのしかかられてるし。て、梓それ無視して歩き始めんなよ。

 

「あれ、絶対に周りから注目されてるの気付いてないよな」

「まぁ気付いてないでしょうね」

 

気付けば部室にいた全員が窓から二人の様子を見ていた。

二人が見えなくなると同時に各々窓から離れ、好きなように過ごし始める。そんな時、再び勢いよく開かれる扉。誰かと思いそっちに目をやると

 

「皆大変だヨ! さっき梓が校門でドロップキックされてタ!」

「おー梨歌来たか。バイトお疲れ様」

 

何やら興奮した様子の小澤(おざわ)梨歌(りか)がいた。

大方、さっきのを見て報せに来たってとこか。だけど生憎とここにいる全員それ見てたから、梨歌に反応する部員は皆無。

 

「あ、梨歌が来たって事はもうそろそろで次の講義始まる時間か」

「ですね。名残惜しいですが民さん、お別れです」

「それじゃあ行ってきます」

 

一人おかしいのがいたが三人が講義に出るため部室を出て行く。

秋太、海里、真里の三人がいなくなって静かになると思ったんだけど、梨歌が来たからそんなに変わらんか?

 

それから三限、四限、五限と部員達が入れ替わりで来たり帰ったりするのを一人部室で眺める。

今日は一日特に何もなかった。部での急ぎの用もなかったから別に家でボーッとしてても良かったんだけど、なんとなくここに来たくなった。

結果今日も一日楽しく過ごす事が出来た。

 

「そんじゃ、今日も一日お疲れ様でした」

 

五限も終わり放課後。皆が帰ったことを確認し無人になった部室に鍵を掛け帰路に着いた。

 

さて、明日は一体何をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう梓」

「なんだよ。変な笑顔浮かべて」

「へ、ん……!? 偶にだけど梓ってかなり失礼だよね」

「それで? 何を言おうとしたの?」

「……あぁ、うん。百斗くん、いるじゃん?」

「いるね。何か失礼な事した?」

「いや、この前バス停でキスしてたよ」

「ふ〜ん………………はぁ!?」

「反応の遅さからして信じてないみたいだね。はいこれ。証拠写真」

さすはる(さすが遥)。これは家に帰ったら家族会議案件だな」

 

 

 

 

その日の夜。とある一軒家から叫び声が上がったとか、上がらなかったとか




いかがでしたでしょうか?
とりあえず、大量に出たキャラ紹介ですw





田口遥

滝沢家とは小学生からの腐れ縁で、梓とは毎年同じクラスになる程。
七歳下に妹がいる。
本編で言われてる通り自由奔放、神出鬼没の似合う人。一度見失うと、家族と梓以外の人が見付ける事は困難と言われている。


高野夏生
文研部所属の二年生。
友和、遥、夏生で原稿の提出が遅い三人として民から「(民の)三遅(SAN値)ピンチ」と呼ばれる事もしばしば。
現文研部で春一とともに挿絵を担当している。


小澤梨歌
文研部所属の二年生。
校内に設けられてるコンビニでアルバイトをしている。
語尾がカタカナになるのが特徴。
暇を見つけては文研部室に入り浸っている。


江原友和
文研部所属の二年生。
家では家族がいて集中できないとの事で、原稿は部室で書いている。その為原稿を出すのが遅い。


松原曜子
文研部所属の二年生。
集中すると周りが見えなくなるタイプ。と言い張るもそんな事はなく、よく集中が切れ周りと話してしまう。
やる事よりやりたい事を優先してしまうタイプ。


南條海里
文研部所属の一年生。
双子の弟、春一とともに文研部に所属している。
何かと民の近くにいては心の中を正確に読み取っている。
その正確さは民曰く「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺は奴の前で考え事をしていたと思ったら、海里がそれに返答してきやがった。な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……俺の独り言を聞いていただとか読心術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ」とのこと。


南條春一
文研部所属の一年生。
双子の姉、海里とともに文研部に所属している。
部室に向かうと必ず海里と遭遇する為、いつも一緒に来るイメージが文研部員全員にある。
現文研部で夏生とともに挿絵を担当している。


小坂真理
文研部所属の一年生。
原稿や課題は早く終わらせるタイプ。それ故に周囲からは真面目なイメージを持たれるも実際はそんな事なく、後々楽をしたい為早く終わらせているだけ。


文研部
正式名称「文化研究部」
三年生四人、二年生四人、一年生三人の計十一人からなるサークル。サークルだが呼びやすさから「部」を使っている。
活動内容は月一での冊子作成及びそれの販売。学園祭では昨年までの作品ごとに纏めた冊子や特別号を販売している。この冊子が学祭には人気で毎月売れ行きが良い。
一年生以外の部員は梓周辺の人達とは知り合いである。






さあ、いよいよたくさんではじめて動かすのが大変になってきましたねww
どうなるのかな?ww

ではまた次回‼


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18話 急遽勃発モンスタートーナメント!! 前編

長らくお待たせしました申し訳ありません。
というのも予想よりもかなり長くなってしまいました。
前編と書いてある通り今回で完結しません。
また後編も書きあがってないため投稿まで時間がかかると思います。

そして注意ですが今回はポケモンのお話となっています。
そのため原作知らない型は置いてけぼりに……え?もともと身内いがいは置いてけぼりだって?そんなまさか……

そんなわけでどうぞ!



「う~ん……ここはAを厚めに振っておいてBはあいつを意識して……」

 

「ここは全振りでもいいんじゃないです?特に意識しなくても持ち物これ持たせるんですし」

 

「でもそれだと無駄に火力行きそうだな……もともとAの値がちょうどいいからここまで振れば……」

 

「こいつで無理なやつは他のやつで処理すればいいしね~」

 

今日も今日とて暇な一日を潰すために集まっている。

場所は滝沢家のリビングで集まっているのは百斗、光樹、梓、清風の4名。

各々が3DSを片手にあーだこーだと言い合っているこの状況。

端から見れば変な光景であり、それは一緒に遊びに来ていた翔、叶音、そして同じ家族の加奈と黒愛にも等しくそう見えた。

 

「皆何やってるの?」

 

「あ、加奈姉。それにこっつーと翔と叶音ちゃんもってああ‼振り分け間違えた⁉」

 

「百斗兄何やってるのさ……とりあえず俺たちは見ての通りポケモンやってるんだよ」

 

「!?」

 

「ポケモンか~……」

 

「聞いたことあるけど詳しくは知らないな~……」

 

「かわいいの?」

 

一方で恐らくポケモンを詳しく知らないであろう叶音、加奈、翔、黒愛の4人は各々が不思議な反応をする。

その中でも黒愛は特に興味があるみたいで少し眼をきらめかせながら聞いて来る。

それに対して光樹が画面を見せながら説明する。

 

「可愛い系ならここら辺とか?」

 

「どれどれ?……か、可愛い‼」

 

有名どころで言うピカチュウやトゲピー、マリルなどのポケモンを見せていく光樹。

それらは見事に黒愛の目に叶ったみたいで。

 

「ねえねえ!他の子もいたらみてみたい‼」

 

「あず兄がほぼ全部のポケモン揃えてるから見せてもらったらどう?」

 

「ほんと⁉あず兄見せて~‼」

 

「ほいほい、ほら」

 

清風の提案に笑顔で乗った黒愛が梓から3DSを借り顔をキラキラさせながら画面を見つめる。

そんな黒愛にほっこりしながら話を続ける。

 

「ポケモンか~……あれよね?戦うやつ」

 

「ま、まあ大雑把に言えばそうなんだけどね。ただ結構奥が深いんだよ?他にも交換とかできるしね。さっきも僕とふうで交換してたしね~」

 

「ふ~ん、でそのポケモンって何匹くらいいんの?」

 

「新作でどこまで増えるかわかんないけど現状720じゃなかったっけ?」

 

「「720!?」」

 

清風の言葉に思わず驚く二人。

確かに今この数字はしらない人を驚かすのには充分な値だ。

20年間コツコツと増えていった結果である。

開発者も開発当時はここまで人気なコンテンツになるとは思いもしなかっただろう。

 

「ちょ、さっき梓がほぼ全部集めているって言ってたよね!?」

 

「ああ、俺はほぼ全部集めてるぞ。流石に配布ポケモンまでは全部持ってはないが」

 

「それでも十分多いんだけど……梓ってそんなに暇だったの?」

 

「失敬な。ちゃんとやることやってその合間にやってるぞ!」

 

「まあ、普段の姿見てるから信じるけどさ~」

 

これでもちゃんとバイトとかにはちゃんと行ってるし家の事もちゃんとこなしている梓である。

もっともプレイ時間だけ見ればとてもじゃないけどそうは思えないが……それだけここの四人はやり込んでいた。

 

「よくそこまでできるよね~ホント」

 

「それだけ楽しいってことなんだよ。ね?百斗兄」

 

「うんうん。一生懸命育てたポケモン達で戦わせたり交換したりして、ね?」

 

「ふ~ん……でも見たかぎりターン制のゲームでしょ?なんか誰がやっても大差無さそう……」

 

翔のこの一言に全員の目がキランと光る。その目を見た翔と加奈が首を傾げ、頭の上に?マークを浮かべながらいると梓が高らかに宣言する。

 

「そう思うなら実際にやってみようか‼」

 

「「?」」

 

「実際に戦ってみようって話でおk?」

 

「簡単な説明ありがとう百斗。ま、つまりそういうことだ」

 

「「「えええ!?」」」

 

梓の提案に翔、加奈、黒愛の三人が驚愕の声を上げる。

当然だ。いきなり提案されたところで三人ともソフトを持っていない。

勿論その事を言おうとする三人だったが梓側だってこの質問が来るのは予想通り。

これを見越してあらかじめ考えてあった案を口に出す。

ちなみに使うソフトはORAS。

SMも考えたがまだまだ厳選環境が整ってないので断念。

こうご期待といったところか。

 

「大丈夫大丈夫。カセットは俺たちのを使い回せば良いしポケモンに関してはさっきもいった通り俺がほぼ全部集めているからそっから適当に好きなのを6匹選んでくれ」

 

「俺たちは自分のカセット使えば良いかな?」

 

「というより、俺は自分のじゃなきゃ使えない……」

 

「ああ……光樹は仕方ないよな。じゃあキヨ君が言ってるように自分のカセット持ってる人は自分の使うか」

 

「わかった。じゃあ加奈姉と翔とこっつーとかのんちゃんが……」

 

「あ、あの~」

 

「?」

 

「わ、私はROM持ってるから大丈夫です!!」

 

そういいながらポケモンのカセットを掲げる叶音。それを見て意外そうな顔をする滝沢家の面々だったが、それに対して光樹が説明をする。

 

「CMで出てたポケモンがかわいいって気に入っちゃったみたいでね?それでほしいって言ったから買ったんだよね。データは見せてもらえなかったんだけど一時期ずっとやってたからそこそこ育っているんじゃないかな?」

 

「ほえ~、あの叶音ちゃんが珍しくわがままを……」

 

「えへへ、どうしても気になっちゃって……だって、アチャモとかすごくかわいくないですか?」

 

「あちゃも?どんなポケモンなの?」

 

「ああ、これだよ加奈姉」

 

目をキラキラさせながら言う叶音ちゃんに思わず全員ほっこり。本当に純粋でいい子だなーと全員が思っていた。

 

「でも……あれ?」

 

「?どうしたキヨ君」

 

「ううん、なんか気になるところが……きのせいか?」

 

「そっか?じゃあ他のことを決めてくぞ。形式はトーナメントでいいか?」

 

「ちょうど8人だし僕はそれでいいと思うよ」

 

百斗の提案に皆も首肯。

 

「よし、じゃあ組合せを考えるか。ここにあみだくじを置いたから好きなところに名前を書いてくれ」

 

一枚の紙に適当に書かれた線に皆が順番に名前を書き込んでいく。

全員が書き込んだ所で梓が最後のあまりに名前を書き、開封。

皆がドキドキしながらその紙を見つめるなか、いよいよ順番が決まった。

 

 

清風VS加奈

 

百斗VS翔

 

光樹VS梓

 

黒愛VS叶音

 

 

 

「キヨ君とか~。よろしくね?」

 

「うん、よろしく加奈姉。大丈夫。俺結構変なパーティだからね~」

 

「百斗さんとか……強そうだ」

 

「さあどうだろね~。とりまよろしくね」

 

「梓さんとか……」

 

「げ、光樹か……厄介だな~……」

 

「叶音ちゃん、よろしくね?」

 

「はい‼よろしくお願いします黒愛ちゃん‼」

 

各々が相手との会話を繰り広げる。といってもガチ試合ではないから会話内容は緩いものである。

 

(これが公式戦とか高レートでのマッチングとかだったらこうはいかないんだろうな~……)

 

百斗がそんなことを考えている間に話はさらに進んでいく。

 

「さてと、カセットの数の関係で4試合同時はできないから二回ずつで分けて行うか?それとも一回ずつに分けるか?」

 

「そもそも対戦形式考えなくちゃね。いつも通り3VS3にする?」

 

「いや、せっかく六匹選ぶんだからフルバトルにしよう

。加奈姉やこっつーだって選んだのに使わず終いはいやだろ?だから今回は6対6でやるぞ。後伝説とかはありだ。まあ、限度はわきまえてほしいけどな」

 

「わかった。あず兄がそういうなら~。じゃあカセットは僕とあず兄のカセット使う?」

 

「そうするか。ってことは俺と百斗は同時に戦わない方がいいな」

 

 

 

第一試合

 

清風VS加奈

 

光樹VS梓

 

第二試合

 

黒愛VS叶音

 

百斗VS翔

 

 

 

話し合いの結果、二試合ずつの同時進行に決定した。

 

「さてと、ほいじゃ各々使うポケモンを6匹決めようか」

 

梓の一言でとりあえず解散。

カセットを持ってる人は自分が育て上げた自慢のポケモンたちを。加奈や翔といった持ってない人たちは梓と百斗がさっさと6匹決めたあとにDSを渡しゆっくり決めてもらった。

 

「720以上いるだけあって本当に選り取りみどりね~……あ、この子かわいい!」

 

「俺はポケモンは確かにあまり知らないけど動画とかで調べてるからっと‼」

 

「私もかわいいもので固めたいけどせっかくだし加奈姉とは被せたくないな~……あ、この子いいかも!!!」

 

三人ともポケモンをしたことがないということもあってか決めるのにカなりの時間がかかってしまったけどとりあえず無事決めることができた。

 

「さあこれで準備は整った。じゃあ早速始めるか!」

 

「「「「「「「おお!!」」」」」」」

 

「よし、じゃあまずは第一試合の人準備!」

 

梓の言葉によって動くは清風、加奈、光樹の三人とオーナーの梓。

それぞれがDSを持ち対戦相手と通信をする。

 

(さて、僕はどっちの試合見ようかな?……それぞれの手持ちのポケモンから考えよっか)

 

百斗はそう考えながら四人の手持ちを順番に確認していく。

まずは清風のパーティ

 

カイリュー、リザードン、チルタリス、プテラ、エンペルト、コラッタ

 

(最後のいったい何⁉)

 

ドラゴン統一かと思ってたらプテラに裏切られ飛行統一かと考えたらエンペルトに裏切られじゃあ最後は何と思ったらまさかのコラッタ。

これにはポケモンをあまりやってない翔たちも仰天である。

そもそも進化系のラッタにしたところでろくな使い方が思い付かないのだが……

 

(と、とりあえずここはおいておいて。加奈姉はどんなパーティかな?)

 

加奈パーティ

 

デンリュウ、トリミアン、エルフーン、ミミロップ、ブースター、キュウコン

 

(あらかわパーティだね。かわいいものをよせ集めたんだから偏るのはまあ仕方ないことかな?)

 

加奈の選んだ子たちは全員見た目がかわいいに部類される方でお気に入りキャラにしてる人も少なくないだろう。しかしそうやって選んだ割には結構強いのもちらほら……少なくとも清風のコラッタよりは強い。

 

(なかなか面白そうなカードだね……で、もう一つの方はっと)

 

次に梓と光樹の方に目を向け、二人のパーティを確認する。

 

梓パーティ

 

ゲンガー、ヨノワール、ジュペッタ、ムウマージ、ゾロアーク、ユクシー

 

光樹パーティ

 

ボスゴドラ、ニンフィア、アチャモ、ドクケイル、マグカルゴ、フーディン

 

(お、おおう……)

 

お互いかなり癖の強そうなメンバーである。

梓は梓でかなり偏りがあるし光樹は光樹で何してくるかわかんない。

ミステリー的な考えでは光樹のほうが凄く上だ。

 

どちらもなかなか面白そうな戦いでどっちを見ようか悩む百斗。

でもここは光樹と梓の戦いが気になったので見に行こうとしたら百斗の腕を黒愛がつかむ。

 

「ごめん。百斗兄。このゲームのことよくわかんないから教えてほしいんだけど……」

 

ここで百斗が対戦メンバーを見て気づく。

ポケモン経験者四人のうち三人が対戦に入っているため動けるのが百斗だけだ。

そのため必然的に百斗に頼ることになる。

これは説明はもちろんだが何も知らない加奈がつらいことになりそうなので加奈と清風の方に行き加奈の裏に回って黒愛、翔、叶音へ説明しながら戦うことに。

勿論こうなれば清風が不利になるんだけど……

 

(ごめんね?ふう……)

 

(ううん、いいよいいよ!ちょっとしたハンデさ!!)

 

ということになり第一試合は百斗によるポケモン説明試合になってしまった。

タイプ相性、持たせるアイテム、積み技などいろいろ教えて後ろからアドバイスしながら。そして質問に答えながら要点を伝えていく。

三人とも吸収スピードは速いのですぐにいっきあの説明ですぐに覚えてくれた。

まあ結果としては僕が後ろについてたっていうのもあって勝敗は加奈に軍配が上がった。

 

「ああ、負けちゃった」

 

「ご、ごめんね?キヨ君」

 

「ううん、いいのいいの!楽しかったしね!!だから加奈姉、次も勝ってね!!」

 

「勿論、任せて!!」

 

ぐっと握手を交わす二人。

そんなほほえましい二人の奥でぶすっとした表情の二人が。

 

「いいよいいよ。どうせ俺たちの結果なんて興味ないんだろ?」

 

「そうですよほんと……せっかっく勝ったのに……」

 

「ご、ごめんごめん……教えてたらちょっとね……そっちは光樹が勝ったんだ」

 

「はい……結構ぎりぎりだったのに……」

 

「ご、ごめんね?私が教えてって頼んじゃったから……」

 

「あ、いえいえ!加奈さんは悪くないので!!」

 

「そ、そう?ならいいんだけど……」

 

というわけで結果は勝者は加奈と光樹となった。

次戦う人は勝者が四人そろったところで再度あみだくじをして決めるため今は放置。

そんなわけで二回戦。

戦うのは百斗、翔、黒愛、叶音。

経験者が百斗だけということもあり自然と百斗の方に注目が集まる。

そんな中でいよいよ二回戦が始まる。

 

(百斗さんのポケモンは何匹か見させてもらってるけどその中で何を選んでくるのか……ものによっては本当に対処できないからな~……)

 

光樹が頭の中でどれに対してはどのように対策しようか考えていたらすでに黒愛と叶音の方がもう始まろうとしていた。

 

(やばいやばい、二人のパーティ見なきゃ)

 

慌てて二人の方を見るけどもう選出も終わっており、見えたのは黒愛の方だけだった。

 

黒愛のパーティ

 

ジラーチ、トレディア、チラチーノ、カビゴン、ピチュー、シェイミ

 

(ははは、加奈さんとは別の方向で可愛いパーティだね)

 

なんともほほえましい光景である。

見れなかったけどきっと叶音の方もかわいい子たちで固められているだろう。

向こうでキャッキャ言いながらゲームしている二人はいったんおいておいて。

 

(さて、百斗さんと翔はどんな感じになっているかな?)

 

百斗パーティ

 

ブルンゲル、ギルガルド、ムウマ、ヨノワール、ゲンガー、オーロット

 

翔パーティ

 

ガルーラ、ファイアロー、ギルガルド、ウォッシュロトム、ランドロス、グラードン

 

「「きっつ!?」」

 

見た瞬間光樹と百斗の声が重なる。

動画勢とは言っていたものの翔の手持ちはまごうことなきガチ面子である。

 

(百斗さんの手持ちはやっぱりゴースト統一。その中でも比較的安定して強いメンバー。それに加えて動画勢とは言え本気の面子できた翔。百斗さんはどうやって乗り切るのかな?)

 

選出も終わったところでいよいよ戦闘開始。

戦闘開始前に独特の空気が流れる。

ポケモンは初手がとても重要なゲーム。

最初に出したポケモン同士の相性が悪かっただけで相手に1ターンの遅れをとることになってしまう。これは相手がうまく、そしてガチのメンバーであればあるほど痛いものになる。

そんな中肝心の初手は……

 

百斗はヨノワールを、翔はグラードンを繰り出す。そして……

 

ヨノワールはグラードンをのべにいろのたまをお見通しだ!

 

「やっぱりゲンシグラードンか……ヨノワさんでよかった」

 

「動画で見た中ではないこれが一番強いって思ったからね‼︎行くぜ‼︎」

 

(さて、百斗さんのお手並み拝見だね)

 

グラードンのふんか

 

ヨノワールもじしん

 

ヨノワールのかげうち

 

グラードンのだいもんじ

 

ヨノワールは倒れた。

 

「ここまでは予定調和だね。正直ゲンシグラードンはどうしようもないや」

 

「よし一体‼︎このまま行くぜ‼︎」

 

「次は……これでいけるよね」

 

次に繰り出すのはゲンガー。

そしてこのゲンガーがメガ進化。そのままシャドーボールを放ってゲンシグラードンを沈める。

 

「グラードンが‼︎」

 

「こいつ落とすのに一体なら安い方だね……」

 

ただ以前百斗の方がきついことに代わりはない。

 

「メガ進化したってことは地震が当たるはず。なら次は‼︎」

 

翔の二番手はランドロス。

選ぶ技はもちろん地震。だが……

 

「ちょっと安直だね」

 

それに合わせてムウマを出す。

特性浮遊によって地震は無効化された。

 

「な⁉︎」

 

「ふぅ」

 

(ここでゲンガー落ちちゃったら百斗さんに勝ち目ないもんね。でここでムウマで避けれても……)

 

ランドロスははたき落とすをつかった

 

ムウマはしんかのきせきをはたき落とされた。

 

(これでムウマは使えなくなったも同然)

 

その後痛み分けで体力をそこそこ削ったが2回目にはたき落とすでムウマは退場。

 

「そっか、ゴーストしかいないからはたき落とすに一貫性が……ふっふっふ」

 

(さて、翔は気付いちゃったけどどうするの?百斗さん)

 

「確かにはたおとはキッツイけど……‼︎」

 

トトはギルガルドを繰り出した。

 

(ああ、これは翔気づかないと……)

 

ギルガルドのキングシールド。

 

ランドロスははたき落とすを使った。

 

ギルガルドは攻撃から身を守った。

 

ランドロスは攻撃がガクッと下がった。

 

「ああ‼︎」

 

「ふう」

 

キングシールドの追加効果で接触技で攻撃した時相手の攻撃を二段階下げる。

 

「で、でももう一回やれば……」

 

ランドロスははたき落とすを使った。

 

効果は抜群だ。

 

ギルガルドは弱点保険で攻撃と特攻がぐーんと上がった。

 

「うそぉ!?」

 

「動画見てたならこれは予想されそうだったけどね……」

 

あきれながら言う百斗に梓や光樹も苦笑い。

 

(攻撃2段階ダウンって言ってしまえば攻撃力半分だからね……そんなんじゃあギルガルドにとってはカモでしかないし)

 

「ちなみに僕のガルドは物理型だからこれないときつかったんだよね~」

 

ギルガルドのいわなだれ!

 

ランドロスは倒れた。

 

「いわなだれ!?」

 

「ああ、これは動画でもあまり見ないかな?」

 

「こ、これだとこいつじゃあ……」

 

翔の次はファイアロー。

 

(本来なら勝てるけどこいつアイテムがこだわりだし、いわなだれは言ってるってことは……)

 

ギルガルドのキングシールド。

 

ファイアローのフレアドライブ。

 

ギルガルドは攻撃から身を守った!

 

ファイアローの攻撃がガクッと下がった。

 

ファイアローのフレアドライブ。

 

「これで死んで!!」

 

願うように言う翔。だが……

 

ギルガルドのいわなだれ。

 

ファイアローは倒れた。

 

「耐えられた!?」

 

「流石ギルガルド。頼りになる」

 

(統一パーティの怖いところってこういうところなんだよね。統一にする以上どうしてもきついやつがいるからそれ対策に一部が予想できない型になることが多い。これが本当に怖いんだ)

 

もっとも全部が全部強い訳じゃない。

実際に百斗は物理ゲンガーなるものを作ったが弱すぎて話にならなかった。

 

「だ、だけどまだ負けてない!!」

 

翔は次にガルーラを出す。

 

「ガルーラか……また読みづらい……とりあえず……」

 

ギルガルドのキングシールド

 

(きもったまからのねこだま対策……安定択だね。さて翔のガルーラはどう出る?)

 

ガルーラの猫だまし。

 

ガルーラの攻撃がガクッと下がった。

 

「また!?」

 

「翔、素直すぎ……」

 

「うぐぐ。だ、だけど次で落とせる!!」

 

ガルーラのガルーラナイトとメガバングルが反応した!

 

「まあ、そうだよね」

 

ガルーラがメガシンカし、そこから不意打ちでとうとうギルガルドが落ちる。

 

「ありがと。ギルガルド……じゃあ次!」

 

百斗の次はオーロット。

 

「ガルーラでかつ!」

 

「まだ勝てるはず!!」

 

ガルーラのふいうち。

 

しかしうまく決まらなかった。

 

オーロットの鬼火

 

ガルーラは火傷を負った。

 

「ぐっ!」

 

(あれ?動画で見てたのならオーロットの型はよく知ってるはず。なのにリスキーな不意打ちをうったってことは……まさか?)

 

疑問を感じる百斗。それを確かめるために選んだのはヤドリギの種。ガルーラはまたもや不意打ち。

 

「ま、また!」

 

「……」

 

ここで百斗が確信する。

 

(間違いない。このガルーラ嚙み砕くを切ってる。なら怖くない!!そして次は必ず後退してくる。だったら!!)

 

翔はたまらずガルーラからギルガルドにチェンジ。そのギルガルドに鬼火が直撃する。

 

「やけどが……」

 

「よしよし」

 

(だけどここで出てくるってことはおそらく特殊型だよね。まあ、することは変わんないんだけど……)

 

次いでオーロットのヤドリギが入りギルガルドはシャドーボール。

オーロットは耐えてオボンの実で回復。ヤドリギもあるためさらに回復するが……

 

「こいつって確か収穫するのだっけ?」

 

(されたら耐えきられるかも……)

 

心配する翔の願いが届いたのか収穫は発動せず。

 

(よかった!これで次にこいつもギルガルドで落とせる!!)

 

(収穫発動しなかったね。最もヤドリギ分で半分超えて回復してたから収穫来ても回復できなかったんだけどね)

 

ほっとした翔に対して落ち着いているが内心焦っている百斗。

次のターンはギルガルドのシャドーボールでオーロットが沈む。

そして次のブルンゲルが場へ。

 

(相手の残りはロトムにガルーラ。だったら溶ける必要なしだね)

 

ブルンゲルが熱湯を行いギルガルドがシャドーボール。

お互い死ななかったが火傷とヤドリギ分でギルガルドが落ちる。

次に翔が出すのはロトム。

ここはみんなの予想通りロトムの十万ボルトが炸裂しブルンゲルが落ちる。

そしていよいよ百斗は最後の一匹。

 

「お願い、ゲンガー!」

 

メガゲンガーとロトムの対面。

Sはゲンガーの方が上だがロトムを一撃では倒せない。

一方ロトムは十万でしか打てないためここで倒せるかどうか。

 

(メガゲンガーになればDも少し上がっているはず。一回耐えてくれれば勝ちは確定なんだ!!)

 

(急所でもなんで当たってくれれば勝てる!頼む!!)

 

ゲンガーのヘドロ爆弾が当たる。そしてロトムの十万ボルト。

結果は……

 

12/162

 

「残った!!」

 

二回目のヘドロ爆弾が当たりロトムが沈む。

 

翔にはまだガルーラがいる。が、ガルーラは噛み砕くを入れてない。

他はおそらく恩返し、グロウパンチ、ねこだまし。

ゴーストタイプに対してことごとく効果がない。

しかもやけどを負っているからゲンガーは道連れ連打。ガルーラは決まらない不意打ちを連打することとなりそのまま火傷ダメージでガルーラは沈んだ。

ここでようやく決着。

 

「まけちった~」

 

「ふう、勝ててよかった~……」

 

「お疲れ様、百斗さん」

 

「ありがと~光樹。と言っても実際負けのようなもんだけどね~」

 

「まあ、俺が使ってたら勝ってましたね~。俺ならガルーラメガシンカさせないです」

 

「だよね~」

 

「どうせ俺は動画勢だよっつうの!」

 

「の割には強かったと思うけどね~。私の目からはわかんなかったもん」

 

「そうだぞ~。もっと言えば対策が甘かった百斗に問題があるんだからな」

 

「ははは、痛いところを……まあ3VS3ようだからこればっかりはどうしようもね……」

 

「まあ本来は3VS3だから考えないよね……俺もカイリューとかのドラゴン統一で潜ることあるけど3VS3用だからね~」

 

「そういえばふうも統一やってたね。今度僕とする?」

 

「うん!いいよ~」

 

「はいはい、とりあえず勝者は百斗だな。あとはこっつーと叶音ちゃんの試合だけど……」

 

百斗の方に熱中してたためまたもや放置となってしまったもう一つの試合。そこに視線を向けると……

 

「うう……加奈姉~~!!」

 

「うわあっと、どうしたの?こっつん」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと差がついちゃって……」

 

「ああ、そういうことか」

 

ポケモンは読みあいも大事だが運も大事。っというか運次第ではとんでもないことになる。

試合内容は見てなかったがおそらくそうなったんだろうと思い加奈はそっと黒愛を抱きしめ、ほかのみんなは苦笑いをしながら見ていた。

 

「さて、じゃあこっつーは加奈姉に任せるとして引き続き試合を始めるぞ。あの間にすでにアミダは用意したからな。順番に選んでくれ」

 

梓の言葉にしたがって勝った四人が順番に名前を書いていき、梓が開封。

結果はこうなった。

 

 

百斗VS叶音

 

加奈VS光樹

 

 

「叶音ちゃんか……よろしくね?」

 

「はい‼」

 

「負けないよ‼光樹君‼」

 

「俺もです‼」

 

四人がみあって準備を始める。

 

(この四人の試合か……手堅くいけば光樹と百斗が勝つが、どうなるかな?)

 

梓はその様子を遠目から見ていた。

普通に考えれば先ほど立った予想通りになるが加奈はこういったターン制でゆっくり頭を使うものは得意分野。そして叶音。

 

(正直一番怖いのは叶音ちゃんなんだよな~。こっつーが負けるのは仕方ないがそれ以上に何か引っかかるんだよな。百斗もかなり警戒してるような気がするが……杞憂だといいな。流石に光樹の方は勝てるだろうが……加奈姉のトリミアンとかが運要素絡んでくるから怖いな)

 

梓が大方の予想をしながら試合を見守る。が今回もまた注目される試合は偏っていて。

 

(((((((叶音(ちゃん)のパーティが気になる)))))))

 

観戦者はもちろん戦闘に入っている光樹と加奈も画面を覗きこんでる。

そんななか、ぽつりと……

 

「百斗さん……」

 

「?」

 

「……よろしくお願いしますね?」

 

「!?」

 

百斗の背筋に冷たいものが走ると同時に悟る。

 

(この子、まさか‼)

 

選出待機画面に入っていよいよ叶音のパーティを目の当たりに……

 

 

叶音パーティ

 

ローブシン、グライオン、メタグロス、マリルリ、ポリゴン2、ボーマンダ

 

 

(なんやこの厨パァ!!!しかも2連続かよ!!!)

 

百斗、心からの叫び声である。

 

「え、えと……叶音ちゃん?」

 

「はい?」

 

「レートいくつかとか、解る?」

 

「はい‼1900、1800辺りをうろちょろしてますけどいまは1902位だったかな?」

 

(あかん、この子ガチすぎる!!!!)

 

百斗のみならず回りも大層驚いている。

 

(本来害悪なグライオンがゲンガーで止めれるだけまだましに見える……けど攻撃技がじしんかハサミギロチンかで変わってくる。……ギロチンだといいな~……しかもそれ以上にローブシンがきつすぎる‼あのコンクリートで命をはたき落とすんでしょ知ってる‼なんでゴースト使って格闘にビビらなきゃいけないのさ‼……はぁ、グロスがましに見える程度だよ……あのアチャモ可愛い!!って言ってた純粋な叶音ちゃんはどこへ……でも、ここで逃げちゃダメだよね。今までだってこんなきついのは戦ってきたんだ‼やってやる‼)

 

加奈は首をかしげていたが他の皆は、動画勢の翔までもが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

叶音が使ってるポケモンもまた翔と同じようにガチの人たち御用達のポケモンたちだ。

一方叶音は叶音で厄介な敵を考えていた。

 

(厄介なのはやはりゲンガーでしょうか?個人的にはブルンゲルも気になります……型によっては苦戦必至ですからね。グライオンが通りにくいところも考えないと。ローブシンもギルガルドがいる以上下手に使ってはダメですね。最もまだ戦いやすいのに変わりはないです!裏にはボーマンダも控えてますしね‼ここも勝って行きます‼)

 

お互いが選出を終えていよいよバトル‼

 

((相手の初手は……))

 

選出の時点で始まってるこの戦い。

お互いの初手は……

 

百斗→ギルガルド

叶音→ポリゴン2

 

「……そうだよね」

 

「ギルガルドですか……」

 

(おそらく百斗さんは初手ポリゴン2は何となく考えていたはずだけどローブシン警戒。一方の叶音は安定択かな。百斗さんはどっちにしろきついから不利な賭けを挑まなきゃ勝てないもんねおそらくお互いの持ち物も予想はできている数。対面的には……五分五分、って言いたいけど先考えると百斗さん、辛いよね~……)

 

お互いの初手を確認したところで一手目を動く。

 

ポリゴン2がイカサマをしギルガルドに攻撃。

効果抜群だがシールドフォームということもありダメージは3.5割程度。そして効果抜群を受けたギルガルドは弱点保険によって攻撃、特攻が二段階上昇。その状態で放つせいなるつるぎはポリゴン2に対して効果抜群。

圧倒的攻撃力を見せるが……

 

(当然沈まないよね。やっぱり輝石ポリゴン2は硬いな……はたき落とすが欲しい)

 

それでも3割近くを残すポリゴン2。

さすがはお互い環境に居座るだけのスペックを秘めたポケモンである。

そして次の2手目……

 

「「……」」

 

叶音も百斗も即決出来ずにいた。

その様子を梓も見ながら考えていた。

 

(確かにギルガルドは強いポケモンだが特性の事もあって変なところで珍妙な読み合いが発生する。この場合百斗はせいなるつるぎかキングシールドで悩み、叶音ちゃんはじこさいせいかイカサマで迷ってるはず)

 

変化技、攻撃技。どっちの種類を取るか。

種類が被れば叶音の、違えば百斗の勝ち。

二人が選んだ選択肢は……

 

ポリゴン2のイカサマ

 

ギルガルドは倒れた

 

「うぐ」

 

「やりました!」

 

選ばれたのはせいなるつるぎとイカサマ。

Sはポリゴン2の方が早いから先に行動しギルガルドを沈めた。

読み合いは叶音の勝ちだ。

 

「はぁ……次だね」

 

大きくため息をつきながら次をだす。

出てきたのはブルンゲル。

耐久の高いポリゴン2を削るために百斗はどくどくを行う。が、これを読んだ叶音がメタグロスバック。

鋼タイプに毒は効果無しなためなにも起きなかった。

 

(ここは溶けるが正解だったか。くぅ~……ことごとく読み負けてる……)

 

頭のなかで僅かしかない勝ち筋をどうにか見つけようと模索する百斗。

一方の叶音はかなり余裕を持てていた。

 

(今のところ完璧です。控えも考えれば負けることはありませんが……油断はできませんね)

 

そんななかでの4ターン目。

メタグロスが雷パンチ、それを受け止めたブルンゲルは溶けるで自身の防御をぐーんと上げて2倍にする。

 

(ここでもう一発耐えてじこさいせいできれば‼)

 

メタグロスのしねんのずつき。

 

急所にあたった!

 

(よかった‼倒せました‼)

 

(ジーザス‼とうとう運にも見放された‼……と言いたいところだけど体力的に微妙だったね。もしかしたら無駄急かも。だけどブルンゲルがなにも出来ずに倒されたのは痛すぎる……仕方ない、ここから挽回)

 

次の百斗のポケモンはゲンガー。

純粋に火力でぶっ倒すための選出。

そのため百斗はまよわずシャドーボールを選択。

 

(この速さでゲンガーを選出⁉勿論メガ……私のメタグロスはDには振ってないので一撃で持っていかれます‼ここは急いで交換を……あ‼)

 

シャドーボールが来ることはわかっていたので慌ててポリゴン2を選択する。が、した瞬間ミスしたことに気づいてしまう。

 

ポリゴン2の体力が減っているのは当たり前だがそれ以上に不味いことが。

 

予想通りポリゴン2でシャドーボールを外し、次のターンヘドロ爆弾でポリゴン2は倒れる。

そしてここ……

 

(メタグロス……まだバレてないと信じて……お願い‼)

 

時間をかけずに再びメタグロス。

この行動に一瞬怪訝そうな顔を浮かべる百斗。

 

(メタグロスはメガシンカするとDも上がります。また、ポリゴン2が倒されてすぐに出したのでこれで耐えられるのではと不安になってもらえれば‼)

 

そんな叶音の願いもむなしく……

 

ゲンガーのシャドーボール

 

メタグロスは倒れた‼

 

(よし‼ノータイムでゲンガー出して向こうが焦ってくれたお陰でメタグロスが恐らくASの極振りだってことに確信が持てた。振ってないメガメタグロスのDくらいなら十分吹っ飛ばせる‼さて、次はなにかな?)

 

(やっぱりダメでしたね……では次‼)

 

出てきたのはグライオン。

毒みがまも型のよく見るそれはテンプレ通り初手守るで特性ポイズンヒールを発動。

百斗はゲンガーを変えるかどうか悩んだが残りではうまく削れないと判断して居座り。

身代わりを張ろうとするグライオンに先制でシャドーボール。

6割近く削れたところでグライオンの身代わりが入り人形が場に現れる。

ここでグライオンは一度守を入れて体力を回復。

次のターンでゲンガーに身代わりを壊されてしまうがグライオンが地震を放つ。

もともと浮遊だったゲンガーだがメガ化したせいで特性がかげふみに変わり地面技が直撃してしまう。

叶音がグライオンの相手ひとつの枠に入れた技が地震だったためゲンガーに大ダメージを与える。が……

 

4/126

 

((残った!?))

 

お互い死んだと思い込んでいたためまさかの耐えに驚きを隠せない。

こうなったらS130という高速から放たれるシャドーボールでグライオンを上から殴る。

 

(これは仕方ないです。切り替えて次行きます!!)

 

次に出るはマリルリ。

 

(アクジェだね。交換先もいいのいないし……お疲れ様。ゲンガー)

 

予想通りアクジェでゲンガーが沈む。

次に百斗が出すのはオーロット。

 

(さて、このマリルリがポンポコするのかヤリルリなのか……)

 

どっちの型でもめんどくさいことこの上ないがまた変な択が出てくる。が

 

(Sはオーロットの方が上だし、ぽんぽ越されてもアクジェじゃ落ちない。ならここは鬼火!!)

 

オーロットの鬼火。

 

しかし外れてしまった。

 

(ジーザス!!!!なんでや!!今度は外し!?)

 

命中不安定とはわかってはいるがまさかの外し。

マリルリは何事もなく腹太鼓を決めて攻撃ランクが最大まで上昇。

勿論体力は偶数に設定してあるためオボンの実発動で最大HPの三割回復。

次のターンはオーロットのウッドホーンが入るがマリルリは沈まず、攻撃力四倍のじゃれつくが決まりオーロット撃沈。

ただマリルリのHPはほんの少ししか残ってない。

次に百斗が出すはヨノワール。

 

(ヨノワールのSは45でしたね。マリルリの方が上……いけますかね?)

 

ここで叶音はじゃれつくを選択。が、ヨノワールがかげうちを覚えてたためそれで沈む。

 

(まあ仕方ないです……ですが、次で勝ちなので平気ですね)

 

そんな叶音の次のポケモンは……

 

かのんはローブシンを繰り出した。それを見た瞬間の百斗の感想は……

 

(あ……オワタ)

 

ローブシンははたき落とすを使った。

 

効果は抜群だ!

 

ヨノワールは倒れた。

 

まさしくHP溶けてヨノワール撃沈。

百斗の手持ちは残るはムウマのみ。

一方叶音はローブシンとボーマンダ。

 

(まあ、ギルガルドやられた時点で負け確だったね……しゃーなし)

 

はたき落とすを耐えたムウマがでんじはを決めるが輝石を失ったムウマの耐久なんて知れている。そもそも次のターンローブシンがマヒることなかったため二回目のはたき落とすが入りムウマご臨終。

百斗VS叶音の戦いは叶音の方に軍配が上った。

 

その時のみんなの心の中は……

 

(((((((叶音(ちゃん)怖い……)))))))

 

皆が百斗VS叶音の試合を見ている間にもう一つの準決勝も終了していた。

こっちの戦いは皆の予想通り経験者の光樹の勝利となった。

 

次は三位決定戦を予定しているため戦うのは百斗と加奈の二人。

ポケモン大会もいよいよ佳境。

ほんのちょっとした遊び心から開かれたこの戦い。

意外な波乱を生み出しながらここまで来た。

そのことに驚きながらも大いに楽しむ八人。

 

果たしてこの先どのような戦いが繰り広げられるのだろうか。

 

八人全員がこの先の展開を読めずに、ワクワクしていた……。




いかがでしたでしょうか?

ちなみに今回の戦いですが実際にポケモンの型を考えて実際に構成を作り、実際に戦ったモノをもとに書いています。
そのためダメージ計算などは行ってないため変なところがあるかもです。
ご了承ください。
では次は後編で!!

いつかけるかな~……


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19話 急遽勃発モンスタートーナメント!! 後編

お待たせしましたポケモン回後編です!!

長らくかかってしまい申し訳ないです!

ではいよいよ三位決定戦と決勝戦です!!


大会もいよいよ佳境を迎えたポケモン大会。

次は銅メダル。つまり三位を決めるための対決が始まろうとしていた。

 

「さて、次は加奈姉と百斗の対決だな」

 

「そうだね~。百斗、負けないからね!!」

 

「勿論!いろいろ加奈姉にかなわないところはあるけどここで負けるわけにはいかないからね!!」

 

「ゴーストパ対あらかわパ……性格の悪さが出てるな」

 

「僕の性格が悪いって言いたいのかな翔!?」

 

「まあまあ、ほら、百斗兄早く準備して~」

 

「うぐぐ……うん……」

 

はぁと溜息を吐く百斗とよし!と気合を入れる加奈。

お互い最初のテンションは真反対だが勝ちたい気持ちは同じ。

ここで勝てば栄えある第三位。オリンピックでは銅メダルを貰える位置。

最初は乗り気ではなかった加奈もやはり勝ちたいという欲は変わらない。

こう見えても負けず嫌いである。

 

「じゃあ……」

 

「いざ……」

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

ここで改めて二人のパーティの確認。

 

 

 

 

加奈パーティ

 

デンリュウ、トリミアン、エルフーン、ミミロップ、ブースター、キュウコン

 

 

 

 

 

百斗パーティ

 

ブルンゲル、ギルガルド、ムウマ、ヨノワール、ゲンガー、オーロット

 

 

 

 

可愛いポケモンながらも割と強いポケモンが集められているパーティとゴーストの特徴を表に出していやらしい戦い方をする統一パ。

二つの癖のあるパーティのぶつかり合いにみんながじっと見入る。

 

(加奈さんのポケモンの一部がタイプのせいで何匹か動けなさそうだけど大丈夫かな?)

 

光樹だけがそんな不安を残すまま試合開始。

初手は……

 

(デンリュウとムウマか……)

 

「その子もかわいい!」

 

「ムウマはうちのマスコットみたいな感じだしね~。勿論強さも兼ね備えているし!」

 

いきなり会いまみえるかあいい対決。

緊張していた最初とは違い思いのほかほのぼのとした戦いの始まりに思わずみんなほっこり。

 

「じゃあ早速!!」

 

意気揚々とボタンを押していく加奈に答えるようにデンリュウがメガシンカ。

頭の鬣がさらに増えもふもふさが一気に増しさらに可愛くなったデンリュウがそこにいた。

 

「やっぱこの子可愛い♪」

 

メガシンカし強化されたデンリュウだがお互いに特防が高めということもあり有効打がなくシャドーボールと十万ボルトの投げ合いが初手数ターンという本当に穏やかな戦いから始まった。

メガシンカすることでさらに遅くなったメガデンリュウだが特攻も特防もこちらの方が高いため打ち合いにデンリュウが勝つ。

百斗側が次に出すのはヨノワール。

 

(一応この体力ならデンリュウの防御の低さもあるしこれで倒せると思うけど……)

 

(あの子って確か先制攻撃するんだっけ?ってことは……)

 

加奈が百斗のかげうちを読んでトリミアンに交代。

ノーマルタイプにゴースト技は効果がないので不発。

 

(加奈さん、相変わらずの見込み早いな~……)

 

すでにタイプ相性をしっかり把握している加奈に感心する光樹をよそに試合は続いていく。

 

(トリミアン……ファーコートだっけ。いやだな~……)

 

ファーコート。

トリミアンの特性で物理技の威力を半減にしてしまう。

物理技しかないヨノワールにとって最悪の相手。もっとも加奈はそこまで考えての選出ではなく、たまたま目に留まったノーマルタイプがこっちだっただけ。

現に……

 

(変えたは良いんだけどこの子攻撃技が一個だけでそれがノーマル技だ……)

 

またもやお互いに決定打がない。が……

 

(……でもこの技おもしろそう!!)

 

加奈が何かに気づきボタンを操作。

百斗はやることがないので仕方なくかわらわり。

素早さはトリミアンの方が速いので先に行動。選んだ技はコットンガード。

防御を三段階アップ。元の値から2.5倍にする技。

ファーコートもあり本来効果抜群のはずのかわらわりが体力の1割ちょっとを削るだけだった。

 

(かった……)

 

(よし!)

 

硬さにあきれる百斗と心の中で喜ぶ加奈。

この硬さを見てヨノワールでは無理と判断しブルンゲルに変更。この間に二回目のコットンガードを積む。

これで元の値の4倍の防御力。

六段階が最高値なのでこれ以上は上がらないが絶望的な硬さとなる。

この一ターンを境に流れが加奈に向かい始める。

 

 

トリミアンの でんじは!!

 

ブルンゲルは まひして 技が出にくくなった!

 

ブルンゲルの どくどく

 

しかし トリミアンには当たらなかった

 

 

「外れた!?」

 

ここでまさかの外し。

めげずにもう一回どくどくを選択するが……

 

 

ブルンゲルは体がしびれて動けない

 

 

(ジーザス!!)

 

まさかの行動不可能に頭を抱える百斗。ここであることに気づく。

 

(なんでマヒしてるのに先攻なんだろう)

 

本来マヒすれば素早さは六段階ダウン(元の値の1/4になる。ちなみに第六世代までの仕様)。それなのに相手が遅いということは……

 

(後攻技!?)

 

 

トリミアンの ほえる !

 

 

ほえるによってヨノワールを手持ちに強制的に戻されてオーロットを出される。そして無理やり出されたオーロットにさらに電磁波をまかれ……

 

(あかん、ほとんどマヒってる……)

 

 

(あ、あかん!むっちゃ回されてる!?)

 

(やばい、楽しいかも)

 

吠えるによってどんどん回されていく百斗のパーティ。

次々と手持ちが麻痺状態にされていくなかなんとかオーロットでやけどを入れてじわじわと削っていく。

その途中でギルガルドを場に出す。

 

(この子は物理だから……耐えれるよね?)

 

そう思い最後の一匹も麻痺にするためにほえるを選択。

後攻になるため先にギルガルドが動く。

 

(よし‼加奈姉はほえるを選んでる‼あとは……動いて!!)

 

マヒしてるギルガルドが動くことをただただ祈る。

 

 

ギルガルドの せいなるつるぎ!!

 

 

(うし!!)

 

(動かれちゃった……でも防御積んでるし平気だよね?)

 

 

効果は抜群だ!

 

トリミアンは 倒れた

 

 

(嘘!?)

 

(うし!)

 

火傷のスリップダメージでそこそこ削れていたとはいえギルガルドの不一致でトリミアン撃破。

 

せいなるつるぎ。

ただの物理格闘技ではなく能力変化を無視してダメージを与える攻撃。

つまりコットンガードで上がった防御を無視できる。

ファーコートまでは無効にできないがそれでもトリミアンを倒すには十分な火力。

 

(やられちゃった……でもたくさん暴れられたしいっかな!)

 

加奈の次のポケモンはキュウコン。

キュウコンの特性、ひでりにより日差しが強くなる。

この状態の炎技を恐れた百斗はキングシールドを選択。

 

 

ギルガルドは痺れて動けない。

 

 

(知ってた)

 

そんなギルガルドにキュウコンのあやしいひかりが当たる。

混乱したギルガルドに対してすかさずたたりめで大ダメージを奪う。

マヒになっているからたたりめのダメージも倍で入り、シールドフォルムといえども致命傷を受け残りミリまで減らされる。が、代わりに弱点保険で攻撃と特攻が二段階上がる。

次いで後攻のギルガルド。

弱点保険で威力が上がったギルガルドの攻撃が当たればキュウコンは吹き飛ぶ。

バトルスイッチで構えが変わり……

 

 

ギルガルドの いわなだれ!

 

 

混乱、麻痺、命中不安を乗り越えてギルガルドが技をぶち当てる。

効果抜群ということもありキュウコンが一撃で倒れる。

 

(つよ!?)

 

(流石ガルド!)

 

ギルガルドが勝ち、加奈が次のポケモンをだす。

出てきたのはブースター。

 

(まさかあの剣の子にキュウコン倒されちゃうなんて……でもさすがにこの子で倒せるはず‼)

 

(ブースター……さすがにきついね。とりあえず様子見のキングシールドを……)

 

 

ギルガルドは 訳もわからず自分を攻撃した。

 

ブースターの オーバーヒート!

 

しかし ギルガルドには 当たらなかった

 

 

((えぇ……))

 

なんともやるせない1ターンが過ぎた。

しかしこの1ターンはなかなか大きく……

 

(ここに来てわざわざオバヒを撃つ理由なんてないよね……ってことはメガネか。なら少しでもPP削っておきたいね。とはいえこれ以上ギルガルドに仕事ないしここはかげうちでオバヒ喰らって退場かな)

 

 

ギルガルドは 訳もわからず自分を攻撃した

 

ギルガルドは 倒れた

 

 

(……)

 

ギルガルドが自傷により落ちる。

本来当たるはずだったブースターのオーバーヒートも外れまたもややるせない1ターンが続く。

しかし混乱で自傷する確率は半分。

確率上仕方ないと割り切って次のポケモン、ブルンゲルを出す百斗。

こだわりメガネを持っているせいで威力は高くなるものの一つの技しか出せないブースターはもう一回オーバーヒート。

効果はいまひとつの攻撃はたとえメガネを持っていても威力はしょっぱい。

四割ほど削って終わり、さらにブルンゲルの特性、呪われボディでオーバーヒートが封じられてしまう。

返しのねっとうでブースターにダメージが入る。が、防御面が強いブルンゲルでは例え効果抜群をとっても半分も減らせない。

しかしブルンゲルにはたべのこしと自己再生があるため体力を回復できる。

 

(そもそもキュウコンの日照りのせいで水技の威力下がってるしな~……)

 

しかしそんな日照りもここで終了。

天気がいつも通りになり炎技の威力が下がり水が通るようになる。

 

(呪われてオーバーヒート使えないんだけどその場合ってどうなるんだろう?)

 

加奈が気になり攻撃を選択。

出せる技がないときに出すわるあがきで攻撃。

これは自分の体力を削りながら攻撃するため両者微量なダメージを負う。

一方後攻のブルンゲルは自己再生を行いオーバーヒートとわるあがきで受けたダメージすべてを回復しきる。

 

(こ、これはまずい。水には電気だよね?)

 

(ブルンゲルの耐久はいいね~♪)

 

慌ててブースターを戻し、ほぼひんしのトリミアンを出すしねっとうを受ける。

ここでトリミアンが倒れ、代わりにメガデンリュウを出す。

 

(いけ‼)

 

メガデンリュウの繰り出す強力な十万ボルト。

ブルンゲルに対しては効果は抜群‼だが、特殊耐久も高いブルンゲルがあと少しのところで耐えきり、ねっとうでカウンター。

ムウマにぎりぎりまで追い詰められてたデンリュウにはいまひとつでも体力を削りきるには十分の火力。

デンリュウ、落ちる。

しかしブルンゲルも致命傷を負っている。そのため次に出てきたブースターのオーバーヒートを耐えきれずに落ちる。

ブルンゲルを落とした百斗は次にヨノワールを出す。

対して加奈はオーバーヒートによって下がってしまった特攻を元に戻すためにミミロップに変更し、命の球で行動ごとに体力が減ってしまうがその分威力の上がった炎のパンチで攻撃する。

対するヨノワールは麻痺の障害を乗り越えて弱点である格闘技のかわらわりを叩き込み撃破とはいかないでもほぼ死に体。

あと一撃何かかすれば死にそうというところだが……

 

 

ミミロップ のメロメロボディ!

 

ヨノワール はメロメロになった

 

 

(また状態異常!?)

 

(運はいいんだけどな~……)

 

麻痺で動けない、メロメロ、混乱で自傷と芸人もびっくりなネタにまみれた百斗のポケモンたちの自爆とトリミアンのでんじは祭りでものすごく遠回りしてしまったが……

 

(ここまでくれば十分かな。あとはあの子で全部落とせる)

 

メロメロとマヒによって全くごけないヨノワールに命の球によって威力の上がったはずの炎のパンチが当たるがミミロップのAの低さとヨノワールの耐久の高さもあってなかなか削れず、ヨノワールが倒れる前に命の球のダメージで自滅してしまう。

 

「あの幽霊全然体力減らないんだけど!!」

 

(ヨノワールの耐久はなめてたら普通にに三縦喰らうレベルだからな~……)

 

加奈の叫び声に心の中で清風が突っ込む。

叫びながらも次のポケモンはしっかり決めていたのか特に迷うことなくエルフーンを出す。

 

(エルフーン……ここで流石のヨノワールもたぶん死ぬよね)

 

これから先の役割もないのでヨノワールを捨てるため死ぬ間際のかげうちを選択する。

 

(かげうち!?てっきり効果抜群のいわなだれかと……アンコールで外し期待したのに意味ないかも……こうなったら耐えなくちゃ)

 

次のターンは二発目のかげうちを受けながらヤドリギの種をうち少し回復。

三ターン目はそこにさらにギガドレインを入れてさらに体力を回復していく。

食べ残しもあるので想像よりは安くすんでいる。が、ここでヨノワールは退場し次のゲンガーが出てくる。

もちろんメガシンカするこのゲンガーは残りのエルフーンとブースターを上からヘドロ爆弾で上から叩き潰していき決着がつく。

途中グダグダしてしまったものの、結果だけ見れば二体残しで勝つと言う実力差を見せつけての勝利となった。

 

「ふぅ~……なんとか勝てた……」

 

「途中いい感じだったのにな~……」

 

「まあ、百斗としては負けるわけにはいかないよな」

 

「こっちは統一とはいえガチガチに組んでるからね~。さすがに加奈姉に負けるわけにはいかないな~」

 

「む~……」

 

「でも楽しかった‼ありがとうございました。加奈姉‼」

 

「うん、そうだね~」

 

お互い握手を交わして健闘を讃える。

この勝負によって三位が決定。

百斗、加奈の順で並んだ。

 

「さぁて、次はいよいよ決勝戦だね。叶音」

 

「うん‼……光樹おにいちゃん……私、負けないからね‼」

 

胸の前でぐっと握りこぶしを作りながらやる気満々に言う叶音。

 

(相変わらず可愛い妹だな~……使うポケモンがガチでなかったら抱き締めてるよ……あのパーティ、どうするかな~……)

 

そんな中光樹は心の中でシスコンを発動させながらパーティ対策を考える。

お互いにポケモンの腕はピカイチ。

肝となるのはいかに相手の裏をかくか。

最初に出てくるポケモンさえもその対象。

ものによってはその時点で勝負が決まってしまう。

その事を踏まえて慎重に順番を考えていく。

そしてついに……

 

「お互い準備できたね?じゃあ行くよ‼決勝戦、スタート‼」

 

決勝戦、光樹VS叶音が始まる。

 

改めて二人のパーティを確認しよう。

 

 

光樹

 

ボスゴドラ、ニンフィア、アチャモ、ドクケイル、マグカルゴ、フーディン

 

 

叶音

 

ローブシン、グライオン、メタグロス、マリルリ、ポリゴン2、ボーマンダ

 

 

方やガチパ、方やガチのようで違う奇形。

全く正反対の構築で先の展開が一切読めない。

 

(さぁて、テンプレのガチパ。どう崩すかな?)

 

(相変わらずの奇形……だけど、読まれないっていうのを盾に逃げているだけ‼絶対勝つんだから‼)

 

お互い決意を胸に初手を選びバトル開始‼

 

光樹はニンフィア、叶音はポリゴン2を繰り出す。

 

(ポリ2。読みは当たってるし型は知ってるからいけるね)

 

(ニンフィア……まだわかりやすいよね。メガネハイボは痛いけどまずは足を奪う‼)

 

でんじはを選択する叶音。しかしそれは守によって防がれてしまう。

 

(守で様子見……?だけど意味ないよっ‼)

 

次のターン改めてでんじはをいれて麻痺にする。

これで少し優位にたてたと確信する叶音。だが……

 

 

ニンフィア のとっておき!

 

ニンフィア の命が削れた

 

「ええ!?」

 

(え⁉物理の珠ニンフィア⁉)

 

一般的な型とは大きく変わった戦い方に思わず声を上げる叶音。

そのうえ思った以上に火力が高く硬いはずの輝石ポリ2の体力を7割も持って行っていかれ、いきなり面食らってしまった叶音は少しだけ焦ってしまいついつい冷静な判断を失い、次にトライアタックを選んでしまう。

特防が高いニンフィアに対しては大した火力にならず2割ほど削って終わり、返しのとっておきでポリ2が落ちる。

 

(うんうん、いい感じだね)

 

(いきなりやってくるね……びっくりしたよ……。でもここから落ち着けばまだまだ行ける!!)

 

次に叶音が繰り出すのは弱点をつけるメタグロス。

吹っ飛ばすためにメガシンカしながらアイアンヘッドを選ぶ。

対して光樹はメタグロスを読んでアチャモに変更。

メガシンカしてもこうかがいまひとつならたいしたダメージにはならない。

進化前のアチャモでも悠々耐えていく。

 

(あ、アチャモ!!……かわいい……)

 

まさか自分が一番最初に手に入れたポケモンが出てきたことに大きく動揺&ときめいてしまう。

 

(な、殴りたくないよ~……でも、やるしか……ないよね?……ごめんね)

 

心を鬼にしてしねんのずつきを選択する叶音。

これが直撃するが一割ほどだけ残してアチャモが耐える。

 

(嘘⁉)

 

「もらった‼」

 

アチャモが耐えることを確信していた光樹は返しのカウンターを当てていく。

受けたダメージを倍にして返すそれはメタグロスに直撃し、体力をぶっ飛ばす。

まさかのアチャモがメタグロスを突破した瞬間だった。

 

(あ、あのアチャモが私のメタグロスを……あとで型を聞かなきゃ……じゃなくてそんな……)

 

決して小さくないショックを受ける叶音。しかしここは一旦落ち着く。

先程みたいに焦ってプレミすれば勝てるものも勝てなくなる。

 

(今のところは順調だね)

 

一方の光樹はだいぶ心に余裕が持てている。

この状況下で二体先に倒したのはでかい。まだまだ油断できないのはかわりない。

お互いに深呼吸して落ち着き、次の一手へ。

 

叶音が次に出すのはマリルリ。

出す技は安定のアクアジェット。

はらだいこも考えたが相手が特性加速なのでここでバトンタッチされたら面倒と言う判断のもとの行動。

光樹もこれを読んで何かしようとしたがさすがにすることがないのとアチャモの仕事はもう終わったためおとなしく落とされる。

 

次に光樹が出すのはフーディン。

メガシンカして出す技はアンコール。

はらだいこされるよりはと考えての行動だがフーディンの耐久の低さとマリルリの特性ちからもちによって小さくないダメージを受ける。

次のアクアジェットもなんとか受け止めサイコキネシスで攻撃。

6割くらい削るがオボンの実で回復される。

そして三回目のアクアジェットでフーディンが落ちる。と同時にここでアンコールが解けてしまう。

 

(よしよし、いい感じです‼)

 

(やっぱりだめだったか……)

 

悔しさをにじみ出させながら次に光樹が出すのはニンフィア。

守からのとっておきをしようとするが……

 

「同じ手にはのらないよ‼」

 

守るのターンにはらだいこをしてとっておきを出される前にアクアジェットでぶっ飛ばしてく。

マリルリ一体に半分持ってかれた結果となった。

 

(やっぱりつよいね……仕方ない、ここはこいつで‼)

 

次に光樹が出すのはボスゴドラ。

 

(頑丈で無理矢理突破、だよね……?でも、マリルリの方が速いと思うしアクアジェットにする意味ないかな。たきのぼりで怯ませて無傷で突破っ‼)

 

 

ボスゴドラ のストーンエッジ!

 

マリルリ はたおれた

 

 

(嘘⁉)

 

(叶音、見謝ったね。ボスゴドラとマリルリの素早さ種族値はどちらも50、つまり同速。しかも俺はこのSに全力で振ってある‼意味なんてほとんどないけどこういうときにうまく働くんだ‼)

 

まさかの攻撃が通りマリルリ陥落。しかし叶音が有利なのに代わりはない。

 

(落とされたのはビックリしたけど問題ない。この子で一気に決める‼)

 

叶音の次はローブシン。

格闘四倍のボスゴドラにはきつい相手だ。

 

(ローブシンなら絶対にボスゴドラより遅いはず。なら迷うことなくマッハパンチ‼タイプ一致の1.5倍、特性てつのこぶしの1.2倍、効果抜群で4倍、えーっとだから全部で……と、とにかくすごい威力、受けてみて‼)

 

先制技が超強力なものになってボスゴドラを襲い……

 

 

ローブシン のマッハパンチ!

 

ボスゴドラ は倒れた……

 

 

「……え?」

 

「いやぁ~、この子特性石頭なんだよね~」

 

(なんで頑丈じゃないの⁉ヘヴィメタルならまだしもなんの役にもたたないじゃん‼……私、光樹お兄ちゃんがわからないよぉ~……ぅぅ)

 

さっきから全くもってわからない行動をしてくる光樹に頭を抱える叶音。

 

(し、しかしこの状況はむしろこっち有利っ‼相手はあと二体しかいないんだから‼)

 

次に光樹が出すのはマグカルゴ。だが出た瞬間にまたもやローブシンのマッハパンチで一撃で倒されてしまう。

マグカルゴの特性ほのおのからだでローブシンがやけどになってしまったが現状1対3。

叶音圧倒的有利だ。

 

(よし、あと一体‼でも、最後の一匹、なんだったっけ……?)

 

(あちゃ~……もう最後の一匹だけか~……でも、マグカルゴのお陰で勝機は見えた‼あとは……頼むよ……相棒‼)

 

 

いけ! ドクケイル!!

 

 

光樹の最後の一匹ドクケイルが姿を現した。

 

「ど、ドクケイル……?こ、こんなので何ができるの?」

 

「こんなの……?ふふふ、見せてあげるよ。この子の恐ろしさをね‼」

 

 

ドクケイル のてっぺき!

 

ドクケイル の防御が ぐーんと上がった!!

 

ローブシン のれいとうパンチ!

 

 

「てっぺき!?」

 

「マユルドの時だけ覚えられる技だよ。それにそのローブシン、てつのこぶしっぽいから火傷厳しいでしょ?」

 

光樹の言葉通りローブシンの攻撃はドクケイルの体力を0.5割ほどしか削れていない。

減った分はくろいヘドロで回復しきってしまっている。

 

(しかし相変わらず硬いね~ドクケイル!これが根性だとしてもこの二倍しか入んないんだもんね~)

 

(ローブシンじゃどうしようもない!今すぐこの子に交代しなきゃ!!取り返しがつかなくなっちゃう!!)

 

再びてっぺきを積むドクケイルの前でボーマンダに交換する叶音。

 

(もう物理であの子を落とすのは無理。なら特殊を覚えているこの子で!!流星群でとどめっ!!)

 

(このタイミングでボーマンダか。流星群か火炎放射と見た。確かにまだ特殊は上がってないけど……果たしてこいつにダメージを与えられるかな?)

 

注目のターン。

先手のボーマンダが先手でりゅうせいぐんを放つ。

ドラゴンタイプ最強の技で威力130のタイプ一致1.5倍補正で195。

かえんほうしゃは効果抜群だが威力90の2倍なので180。

こっちの方が強い計算になるが……

 

「その程度なのかな?」

 

「そ、そんな……」

 

ボーマンダの流星群はドクケイルの体力を黄色までもっていくのが関の山だった。

この攻撃で減ってしまった量ははねやすめですべて回復し、その後蝶の舞を積んで強力になった虫のさざめきでボーマンダが落ちる。

 

「せ、せめて凍って!!」

 

次に出すローブシンのれいとうパンチの追加効果で氷状態を狙う叶音。しかし……

 

(残念ながらドクケイルの特性ってりんぷんなんだよね……)

 

特性りんぷん。

技の追加効果を一切受けない特性だ。

ネコだましを貰ってもひるまないし、凍える風で素早さが下がることもない。

つまりれいとうパンチでこおるという可能性さえも0。

強力だがマイナーなポケモンしか持ってない特性のため認知されておらず、結果ローブシンも……

何もできずに陥落。

 

「……」

 

「やっぱりドクケイル強い!!ここまでくればドクケイルの独壇場だね」

 

「だが、まだ叶音には一匹手持ちが……」

 

「それがグライオンじゃなかったら……勝てただろうね」

 

「あ……」

 

梓の言葉に百斗が返す。

グライオンの技構成は百斗との戦いで確認済みで、じしん、みがわり、どくどく、まもる。

ドクケイルへ有効打は存在しない。

みがわりも虫のさざめきが音系の技なので貫通してしまう。

 

(この中のうちの一つがハサミギロチンならまだ可能性があった。けどこれじゃあ……)

 

百斗の予想通り、このまま虫のさざめきが直撃してしまいグライオンまでもが何もできずに陥落。

 

グライオンが落ちたことによって決着。

ポケモンバトルの優勝者は光樹となった。

 

 

「さすがトップの2人。すごいバトルだったな」

 

「あの奇形で勝てちゃうのがすごいというか、単純に奇形すぎて叶音ちゃんが知らなかっただけというか……」

 

「まあ、俺の型が読めなかったから勝てただけだと思うよ。次やったらきっと負ける」

 

正統派の叶音と搦手、というか異色な光樹。

正統派の戦法を知ってる上で搦手を使っているからこそ勝てたというのもあるのだろう。

 

「いやー、それにしてもやっぱりさすがレート1900。強いね、叶音」

 

彼女をたたえながら、握手のために手を差し出す光樹。

だが、その手は取られることはなく。

 

「……ぅ、ぅぅ……」

 

「……え?」

 

「うぇーん!黒愛お姉ちゃ〜ん‼︎」

 

「ええ!?」

 

叶音はよほど悔しかったのか、光樹の後ろにいた黒愛に泣きながらダイブ。

さすがにその展開は予想できなかった光樹はただ手を出したままその様子を見ていた。

 

「よしよし、叶音ちゃん、勝ちたかったね〜」

 

「うん、かのん……お兄ちゃんに勝ちたかったよぉ!かのん、ポケモンなら負けないって思ってたのに……」

 

「惜しかったね、叶音ちゃん」

 

抱き止めながら叶音をあやす黒愛は完全にお姉ちゃん。

その様子を羨ましそうに見ていた人は突然光樹の方に振り返り

 

「あんなに可愛い叶音ちゃんを泣かせるなんて許さない……」

 

「え、えーっと……」

 

「覚悟は、できてるよね……?」

 

「出来てないですー!」

 

鬼の形相で追いかける加奈から逃げる光樹。

 

「加奈ねえは相変わらずだな」

 

「運もあるし仕方ないと思うけどね……あ、捕まった」

 

「あーあ、これは光樹、しばらくあの壁から出れないね」

 

「まったく、後で直すのも楽じゃないのに……」

 

「あ、あれ、加奈さん……?」

 

しっかり加奈にお仕置きされた光樹が復活した頃には叶音も立ち直っており、2戦目が行われた。

光樹のパーティは先程と同じ。対して叶音はメガ進化枠をリザードンYに変え、憎きドクケイルを焼き尽くした。




これにて閉会!!

いや~長かったですねww
こんなことになるなんて思ってなかったですww

ちなみに、今回最後にドクケイルが焼き尽くされたとなっていますが努力値の振り方次第で攻撃耐えることができます。

ドクケイル、恐ろしい子……!!

これははやる!!()

ではまた次回会いましょう!!


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20話 バレンタイン 1

長らくお待たせしました!
今回は番外編のバレンタインのお話です!!

滝沢家のバレンタインの風景をどうぞ~♪


姉妹のチョコ事情

 

 

 

 

「ねえ明日みんなおやすみだよね?」

 

「まあそりゃ日曜日だし」

 

お夕飯食べてるとき私はこっつんたちに予定を確認する。

 

「まあ俺は朝までバイトだけどね。どうしたの?」

 

「明日一日家を空けてほしいんだよね、こっつん」

 

こっつんに話を振ると目が合った。

うん、にこっていいスマイル! かわいい! ほんとに私の妹だけど可愛い!

 

「そうなの! だからどっか行ってて?」

 

ねえ、こっつん、いい笑顔ですごくかわいいし言ってることもあってるんだけど、言い方がちょっと、ね?

どっか行っててって…

 

「あ、ああ…」

 

「う、うん、僕もゲーム買いに行ってこようかな?」

 

「俺もどこか行ってくるよ」

 

うん、やっぱりこっつんからそんな言葉が出ると思わなくて困惑してるよ。

ていうか若干黒いオーラ出てない? 笑顔は可愛いし私には何も感じないからいつも通り可愛いこっつんだけどね!

 

「まあそんなわけで三人ともよろしくね?」

 

私からもお願いして出かけてくれることになった。

ところでみんな忘れてるのかな、明後日が何の日か。

まあそれならそれでもいっか、驚かせられるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「加奈さん、こんにちは! 今日はよろしくお願いしま…「叶音ちゃんいらっしゃい!」」

 

叶音ちゃんも今日は一緒に頑張ろうってこっつんが誘ったんだって。

この子もまたこっつんに負けず劣らず可愛いのだから抱きしめたくなっちゃう!

 

「ふぁなふぁん、ふるひいれふ」

 

「ん~なぁに~叶音ちゃん」

 

叶音ちゃんがどうにか私の腕から抜けようとじたばたしてる。けど甘いよ叶音ちゃん、私の腕からは逃れられないんだから!

 

「加奈姉、叶音ちゃんあんまりギューってやり過ぎると死んじゃうよ?」

 

「む~しかたないなぁ…ごめんね、叶音ちゃん」

 

あんまりやり過ぎちゃうのもよくないかと思って解放してあげて一応謝っておく。

いきなりだったからびっくりさせちゃったかもしれないし、苦しかったかもしれないし。

 

「い、いえ、大丈夫で…きゃっ!」

 

「あと叶音ちゃんは私もギューってしたいんだから取っちゃダメ~!」

 

「く、黒愛ちゃ~ん・・・」

 

ちょっと待って!

一心不乱に叶音ちゃんを抱きしめて満足そうなこっつんと少し涙目でこっちを見てる叶音ちゃん……可愛すぎるよ……

なんだか私の頭が真っ白になった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…え、……ねえ

 

あれ、誰かの声が聞こえた気がする・・・

 

「加奈姉!」

 

「わあ! こっつん! びっくりしたぁ」

 

「もう、加奈姉呼んでも反応してくれないんだもん。早く始めよ?」

 

なんか二人の可愛さに夢中になりすぎちゃったみたい。

でも可愛いんだから仕方ないよね!

 

「ごめんごめん、じゃあ始めよっか」

 

みんなでエプロンつけて、台所へ。

 

「それで加奈さん、何作るんですか?」

 

「今年はチョコシュー作ろうと思って」

 

「え! シュークリームなんておうちで作れるんですか!?」

 

「まあね。ホットケーキミックスを使えば簡単にできるよ」

 

いつも思うけど本当にホットケーキミックスって便利だよね。小麦粉を使う甘いお菓子なら大抵何でも代用して作れちゃうもん。手軽で簡単に作れるよね。

 

「加奈姉、まずはどうするの?」

 

「えっとまずは容器に水と油を入れてレンジでチンだね」

 

チンした容器にホットケーキミックスとココアパウダーを入れてよーく混ぜる。

 

「この生地、結構重たくなるんですね・・・」

 

「そうだよ~重たくなってきたらもうちょっとだね。私がちょっとずつ溶き卵入れていくから混ぜてて」

 

「は、は~い・・・」

 

ちょっと大変かな? でもこれくらいは頑張ってもらわないと!

 

「加奈姉、私も!」

 

「叶音ちゃんのできたら行くからちょっと待ってて~」

 

持ち上げて混ぜてるヘラからゆっくり落ちるようになれば生地の出来上がり。逆に卵が足りないとすぐに落ちちゃうからわかりやすいね。

 

「叶音ちゃんってあんまりこういうことしないの?」

 

「いえ、しますよ? バレンタインチョコも結構作ってますし…ただ、あんまり小麦粉を使ったお菓子はやらないかもです。ケーキを作るんでも簡単なレアチーズケーキとかそういうのばっかで」

 

「確かにレアチーズケーキならヨーグルトで代用できるし簡単だよね。チョコはコーティングとか?」

 

「はい、あと生チョコですね。今年もこの後作ろうと思ってて」

 

「それいいね! 私も作りたい!」

 

「いいよ、あとで一緒に作ろ! かなさんもやります?」

 

「んー、私は私で別なの作ろうかな? 一緒の場所ではやるけどね」

 

わいわい話しながらやってるうちに二人とも生地は完成。

あとはこの生地を絞り器に入れて適当な大きさに絞って焼けばしっかりとシュー生地になってくれるはず!

あ、霧吹きで水かけとかなきゃ膨らまないんだった。

 

「焼き上がりが楽しみだね、黒愛ちゃん!」

 

「そうだね~」

 

2人で少し身をかがめながらオーブンを覗く。それを見てるとなんだかほっこりするね。

でも今は私も我慢してっと。

 

「ほら二人とも焼けるまでの間に中に入れるチョコクリームつくるよ」

 

「あ、そっか、中に入れるクリーム作らなきゃ」

 

2人と話しながら材料をそろえてテーブルに並べる。

 

「あれ、またホットケーキミックス使うんですか?」

 

「そうそう、簡単にクリームのとろみがつくし甘さも入るからね」

 

ホットケーキミックスや卵、あとメインのチョコを湯煎してからいれてよく混ぜる。

であとはレンジで加熱しながらとろみが出るまでやったら完成!

 

――チンッ

 

うん、いいタイミングで生地も焼きあがった!

 

「入れるためには冷めないとだからその間に別なの作ろうか」

 

「うん、じゃあ叶音ちゃん、教えて!」

 

「じゃあ材料とかこっち持ってくるね、ちょっと待ってて」

 

楽しそうだねぇ。さて、じゃあ私も濃い目のチョコでマドレーヌ作ろっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じでみんなでそれぞれ別のものも作ってチョコシューもちゃんとクリームを詰めて。

こういう時ようにたくさん買い込んであるラッピング用品で可愛くデコレーションしたら完成!

 

「思ったよりたくさんできたね~」

 

「ですね~加奈さん、ありがとうございました!」

 

「ううん、こっちこそ、こっつんに教えてくれてありがとね」

 

「ありがと、叶音ちゃん」

 

あ、叶音ちゃんすごく照れてる。やっぱりかわいい!

明日、みんな喜んでくれるといいなぁ…




いかがでしたでしょうか?

いやはや、うちの女性人ってなんでこんなにもかわいいんですかね?ww

そして今回は……なんと一気に三本同時に投稿です!!

なんかサ○エさんみたいですね!!

では二つ目のお話へ!!


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21話 バレンタイン 2

バレンタイン編第二話!!

加奈、黒愛、叶音の三人がチョコを作っていた裏では?

ある一人の物語もどうやら進んでたようです!!


幸せな一日

 

 

 

 

 

 

加奈姉になんか変な圧力をかけられて有無を言うことも許されずに追い出された日曜日のお昼。

まあもともと外に出る予定だったから問題はなかったんだけどね。

 

「んん~……、さて残ってるかな~」

 

車を走らせていつものモールに着き迷うことなくゲームショップへ一直線。

 

「あ、あった‼」

 

目当てのものを早速掴みとり……

 

「みーつっけた‼」

 

「ひゃぁ⁉」

 

手をかけた瞬間かけた手の腕を捕まれる。

急な出来事に思わず体が跳ねてしまい変な声が上がる。

こんなことをするのは一人しかいない……

 

「高梨さん⁉」

 

自然と鼓動が速くなる。

あの日自覚して以来、より顕著にわかるようになった。

 

「はい‼先輩の可愛い後輩の高梨飛鳥ですよ~♪」

 

「じ、自分で言うの?」

 

「冗談ですよ~。言ってみたかっただけです‼」

 

(まあ、可愛いって言うのは……本当なんどけどさ?)

 

「うぅ……///」

 

「高梨さん、どうかした?」

 

頭のなかでそんなことを考えてたら急に顔を赤くし始める高梨さん。

なにかあったのかな?

 

「なんでもないです‼///……相変わらず急に来るんですから……///」

 

「?」

 

「なんでもないです‼」

 

なにかぶつぶついってるっぽいんだけどよく聞こえない。

難聴系主人公なんてあり得ないでしょワロスwwなんて思ってたけど実際にこうして対峙してみると案外聞こえないもんなんだね……。

さすがに実際のアニメみたいに重要な台詞じゃないよね?

そう思いながら高梨さんに他の疑問をぶつける。

 

「で、今日はどうしたの?みつけたってことはなにか用事があってきたってことだよね?」

 

さすがに偶然とは考えにくいしね~……

いや、まえここで偶然であったことあったけどさ。

 

「そうなんですよ‼先輩がここにいると言う噂を聞いてですね?」

 

なぜLINEを使わないんだろうなんてごくごく普通のことをついつい考えてしまう僕はひねくれてるのかな……?

 

「だってばれたらドッキリにならないじゃないですか!!」

 

「心読まないで!あとドッキリしかけないでよ!!」

 

「だって先輩反応が面白いんですもん。ふぇえ!?とかふにゃ!?とか!!かわいいですよね~」

 

「こ、声真似しなくていいから!!///」

 

「あ、ちなみに先輩の位置情報はあz……AZさんからもらってます♪」

 

某ポケモンのおじさんの名前に思っちゃうけど間違いなくあの人から情報が洩れてる……。

 

(そういえば前もあず兄から秘密喋られてとんでもないことになったっけ……忘れないぞ!)

 

そうあの時は高梨さんとのキスをたまたま見られてて……

キス……

 

「……///」

 

「先輩?」

 

「な、何でもないよ!?///」

 

いやでも思い出してしまうあの日の出来事。

いまだにあの時の柔らかい感触が……

 

「~~~~~~ッ!!!///」

 

「先輩本当に大丈夫ですか!?」

 

「だ、大丈夫……うん……」

 

「……また、やります?///」

 

「げふ!?」

 

「じょ、冗談です!!///」

 

僕もかなり恥ずかしいんだけど高梨さんも同じくらい来てるみたいで……

お互い顔を赤くしたまま沈黙が……って!

 

「そ、そうだよ!!高梨さん、今日の目的って?」

 

「ふぇ?……あ、ああ!!そ、そうですよ!!」

 

ようやく本来の目的を思い出し、肩から掛けていたカバンを自分の前に持ち上げて……

 

「せ~んぱい!明日、何の日か覚えてます?」

 

「明日?」

 

ポケットから携帯電話を取り出して今日の日付を確認する。

 

2月13日

 

(となると明日は2月14日……)

 

「何かあったっけ?」

 

「うう~、せんぱい~……」

 

若干涙目ながらに訴えてくる高梨さん。だけど本当に思い出せない……

 

「先輩……そんなに縁がなかったんですか?」

 

「え?」

 

「明日はバレンタインですよ!!」

 

「バレン……ああ!!」

 

「もう……」

 

頭の中で歯車ががちっと組み合わさったかのようにしっかり思い出す。

通りで道行く人にカップルが多いわけだ。

リア充め……末永く幸せになりやがれ!

 

「本当は明日渡したかったんですけど……はい、先輩!」

 

そういいながらカバンから取り出したのは一つのプレゼントボックス。

 

「え?これって……」

 

「明日は先輩も私も仕事と学校ですからね。だから、一日早いけどバレンタインのチョコです!」

 

「……いいの?僕に?」

 

「はい!先輩のために作った甘々なチョコレートですよ~♪」

 

「あ、ありがと……」

 

そっと渡されたプレゼントを受け取って包みを開けてみるときれいな箱が出てきた。さらにそれを開けると中からはさらに何個かの包まれた状態のチョコが。

そのうちを一つ取り出して包みを広げシンプルに四角状に作られたチョコを口に入れる。

 

「……おいしい!」

 

「本当ですか!?よかった~。先輩の好物の一つに確かチョコがあったから結構なこだわりあるのかな~なんて……」

 

「そんな大げさなものなんてないよ。でも……うん、すごくおいしい。ありがと!!」

 

「え、えへへ♪」

 

本当においしくて。

大げさかもしれないけど世界で一番おいしいって素直に思えた。

うん、残りは家で一人でおいしく味わって食べよう。

 

「本当にありがとう!ホワイトデー、絶対いいのお返しするから!!」

 

「はい!待ってますね!!……じゃあ!」

 

「え?」

 

急に僕の手首をつかむ高梨さん。何をするかと思えば……

 

「さあ、どうせこれから暇ですよね!じゃあ一緒に遊びましょ!!」

 

「ちょ、!?確かに暇だけど急に引っ張って走らないでえ~~~!!!」

 

気が付けばいつも通りの僕たちへ。

相変わらず高梨さんと遊ぶのは疲れちゃうけど……

 

 

 

 

 

(うん、やっぱり楽しい!ありがと!!)

 

 

 

 

 

それ以上に幸せな気分で僕の心は満たされていた。

 

 

 

 

 

バレンタイン。

縁がないって思ってたけど……うん、いい日だな!なんてね!!

 

 

 

 

 

 

 




書いてて思います。
なんだこいつらはとww

見てて何度甘すぎると思ったか……変なところないですよね?
書いてて恥ずかしかったですww

では三本目も張り切っていきましょう!!


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22話 バレンタイン 3

いよいよ最後の一話です。

百斗にイベントがあったようにもう一人イベントがあったみたいです!!
流石バレンタイン!!


チョコレートの味

 

 

 

 

「おはよ、理咲」

 

「あ、光樹。おはよ」

 

「あ、おい……」

 

いつも通りの学校生活。でもなんか今日は違った。

なんか理咲が冷たい。

いつもならもっと話すのに挨拶しただけでどっかに行っちゃった。

 

授業中、いつもとは様子が違う理咲をついつい見てしまう。

なんか俺理咲に悪いことしたか……?

いや、でも理咲の性格から考えて嫌ならその場ではっきり言ってくるはずだし、そのあと倍以上になって仕返しが返ってくるから多分その線じゃないと思う。

じゃあなんだろう……

嫌われたなんてことはそれこそ心当たりがないんだけど……

もしそうだとしたらどうしよう……

頭の中はぐるぐるしまくっててもうほかのことは何も考えられないようなそんな状態。

それだからか……

 

「いてっ」

 

なんか結構固いもので頭をたたかれた。

 

「何度も呼んでいるのに返事しないとはいい度胸だなぁ、おい?」

 

「あ、え~っと……」

 

この学校で一位二位を争う怖さだと言われる織原先生に出席簿の角でたたかれたらしい。

 

「すみませんでしたぁ!」

 

「呼んだら返事をせんかこのバカタレが」

 

えっと、あのところでいつの間に一コマ授業終わって二コマ目に入ってるんですか?

何もノート取ってないし。

はぁ、あとで前の授業のノートはキヨ君に見せてもらうとして。

何でかなぁ、理咲……

何となく理咲の背中に目を向けると理咲と目が合った。

あった瞬間すごい勢いで目を背けられたけど。

がっくりと首を下げたくなった、というか下げた俺は結局この後3、4回出席簿の角で頭をたたかれた。

織原先生、出席簿は生徒を叩くものではないと思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、いつも一緒のお昼すら今日は一緒に食べてくれなかった理咲は何も言わずに先に教室を出ていった。

 

「ねえ、なんかあったの?」

 

「キヨ君、さっきはノートありがとね。うん、なんか朝からずっとあんな感じなんだよね……俺がなんかしたのかもしれないけど心当たりがなくて……」

 

「なんだろうね?」

 

いつも結構一緒にいるのに、いきなりここまで何もないとさすがに気になるよね。

一緒に過ごした時間が長いからこそ逆にわからないのかな。

時々自分でもわからなくなる。幼馴染の彼女っていう設定はアニメとかゲームではよくあるし、王道キャラだけど実際は結構難しいと思うんだ。一緒に過ごした時間が長いってことは友達という関係でいた時間も長いっていうことなわけで、そこから一歩踏み込んだ関係に進むのって本当に難しいと思う。

この友達よりは近いけど恋人までにはいかない、みたいな関係に慣れちゃってるし、この距離感がちょうどいいとも思う。それにもし、それでこの関係が崩れてしまったら、そう考えるとなかなかうまく言い出せなくて。

 

「とりあえず、ごめん、俺も先帰るわ」

 

こんなこと考えても仕方ない。とりあえずまずは理咲に話を聞かなきゃ。

それからじゃないと何もできない。

困ってるなら助けてあげたいしね。

さてと、そう思って学校から出てきたはいいものの、どこにいるかな……

校舎にはいなかったから多分外にいるはず。

理咲が教室を出てそれなりに時間は経ってるけどまだそんなに遠くには行ってないはずだし……

とにかく理咲の家までたどってみるか。

走って理咲の家までの最短ルートを探しても見つからず、途中の道とかもいろいろさがしたけどどこにもいなくて。

あいつ、本当にどこ行ったんだよ……

まさか……

いそうな場所に心当たりを見つけた俺はそこまで全力で走る。日はだんだん落ち始めて空が朱くなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、やっぱりここだったか」

 

寂しそうにブランコに乗ってる女の子に声をかける。

 

「理咲」

 

「光樹……」

 

俺が探していた女の子はなんだかとても辛そうだった。

 

「なありs「光樹!」

 

「これ、毎年のだけど」

 

小さな紙袋を渡された。

 

「これって……」

 

「バレンタインデーでしょ? だから」

 

「ありがとう。開けても、いい?」

 

「もちろん」

 

中に入ってたのはかわいらしい小さな箱。その箱の中から出てきたのは小さなパイと可愛くデコレーションされたムース、だよね、このカップのやつは多分。

 

「そっちのムースはついでよ。余った材料で適当に作っただけだから」

 

「そうなのか、やっぱりすごいな、理咲は」

 

チョコパイにチョコムース。俺の中でトップを競うお菓子。

 

「食べていい?」

 

「え、うん、もちろん……」

 

許可をもらってからチョコパイを一口食べる。

 

「うん、おいしい!」

 

「ありがと、光樹」

 

やっぱりいつもと雰囲気が違う。

俺と話してても何か違うことを考えてるみたいでなんかちょっと嫌だった。

 

「ねえ、光樹、ここ、覚えてる?」

 

「もちろん、理咲と初めてあった場所だからね」

 

俺と理咲は家が近所というわけじゃなくてたまたま幼稚園が一緒だっただけ。まあ学区も一緒だったしそこからずっと同じ学校に通ってるんだけど。

実は幼稚園に入る前に一度この公園に偶然遊びに来たことがあって、その時に理咲とあってるんだ。

 

「あの頃はずいぶん大きな遊具だと思ったのに今じゃみんな小さく見えるね」

 

「私たちが大きくなったからね。光樹、来てくれてありがとう。今日一日ごめんね、なんだか光樹とうまく話せなくってさ」

 

「え……?」

 

突然目の前が明るくなった気がした。

真っ赤に染まった空に照らされた理咲がなんだか直視できない感じがして、でもなぜか目をそらすことはできなくて。

 

「光樹、わたし、わたしね……」

 

ここまで来たらさすがにわかった。

でもなんでか俺は動けなかった。

 

 

 

 

 

「私! 光樹のこと、好き! だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と、付き合ってください!」

 

 

 

 

 

 

言葉よりも先に体が動いた。

気づけば俺は理咲を抱きしめていた。

 

「え、え……?」

 

「理咲、俺も理咲のこと好きだ」

 

「……!」

 

理咲が息をのんだことが抱きしめた体から伝わってくる。

 

「今日一日ずっと不安だった。嫌われたんじゃないかって……」

 

「ごめんね、光樹に告ろうって決めたはいいんだけど、いざ顔合わせたらうまく話せなくってさ……」

 

俺は一度理咲を離して向き合う。

 

「改めて言うよ。俺も理咲が好きだ。ずっと好きだった。

だから、俺からもお願いする」

 

 

 

 

 

 

「俺と付き合ってください!」

 

 

 

 

 

 

「光樹、顔あげて?」

 

理咲にそう言われて俺は下げていた顔を上げていって……

 

 

「……!」

 

唇に柔らかいものが触れた。

キス、されたんだ……

あはは、ファーストキスは甘酸っぱいってよく言うけどあれ、嘘じゃん。

 

 

 

ファーストキスはチョコの味だよ。

 

 

 

すごく長いように思えたけどたぶんほんの何秒かでしかなかったのだと思う。

唇が離れた後俺はつい理咲の形のいいぷっくりとした唇を意識してしまう。

 

「今のが私の答え……私のファーストキスなんだから……」

 

「あ、ああ俺も……」

 

「ふふっ、お互い様だね」

 

なんだかふわふわしてる。

脳の処理が追いついてない感じ。

それでも理咲と付き合える、それだけはちゃんと理解していた。

 

 

 

いつの間にか日は暮れて真っ暗になっていた。

 

「さすがにそろそろここにいるのも寒いね。帰ろっか」

 

「うん、そうだね……」

 

公園を照らす頼りない街灯に照らされた俺たちは自然に手をつないで公園を後にした。

 

「ほらこんなに手を冷たくして」

 

「光樹だって変わらないじゃん! でもあったかい」

 

「……よかった」

 

今のこの瞬間が何よりも幸せ、そんな気がした。




というわけでこのお二人さんがくっついちゃいました!

うらやましいですな~

今回のバレンタインはこれで終了です!!

ポケモン回に関しましてはただいま後編を鋭意執筆中です。
出来次第挿入投稿をし、Twitterでも報告するのでお楽しみにですよ!!

ではでは!!


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23話 梓の誕生日‼

今回は梓さんの中の人が誕生日という事でそのお祝い回です‼(のわりには中の人に書いてもらいましたがww)

梓がどんな祝われかたをするのか!
ではどうぞ~‼


二月ももう終わりに近付いたある日。俺は目覚ましの音で目が覚める。

 世間の大学生は二ヶ月間という長いようでやっぱり長く感じる春休みを謳歌しているであろう。なんで二ヶ月もあるんだよ。いや、入試関連ってのは理解しているよ。うん。

 

「…………あー、起きなきゃ」

 

 眠い頭を無理やり動かし、寝巻きから着替えリビングに下りる。

 

「さすがに誰もいないか」

 

 今は平日の午前九時。かな姉と百斗は会社でキヨとこっつーは学校に行ってる時間だもんね〜。さて、朝食どうしよう。いつもは皆が食べるから作ってるけど、今は俺一人だしな……よし、コンビニで済ませよう。どうせ出掛けるし!

 今日は民から文研部で何やら話があるらしく、全部員十時までに部室に集合って連絡が昨日来た。もっと早く連絡しろよ、と思わなくもなかったけど、題名が「緊急招集!!」ってあったから、まぁうん、許そう。

 

「にしても緊急か……思い当たるのは」

「新入生勧誘で一冊作るとかじゃない?」

「だよなー。他には印刷所とのトラブルとか、そこらだけど。ま、民ならそこら辺心配ないでしょ」

 

 ……ん? 今なんかおかしかったような。

 声の発生源を見ると遥が椅子に座ってトーストを齧っていた。

 

「や。おはよ」

「なんで遥がいるのさ」

「私がいたいからいるんだよ」

「あーはいはい」

「何でそんなに冷たいかな〜」

 

 だって遥だし。つか朝一番で碌に頭働いてないのも要因の一つかな。

 

「で、何しに来たのさ?」

「やっぱり時々ひどいよね。理由ないと来ちゃいけないの? まああるんだけどさ」

「やっぱりな。だって遥、用事なきゃ来ないだろうよ」

「別に用事って訳でもないけどさー?」

「いやいや。遥が来る時だいたい何かしら用あるでしょ」

「ちょっと行きたい所があってね、梓と行こうかなーって。ほら早く早く」

 

 遥に手を引かれてるも、ちょっと待ってほしい。俺まだ部屋着だから着替えさせて欲しいんだけど。

 てなわけで遥に放してもらって自分の部屋で着替える。今日は遥と行動をともにするってことを考えると、動きやすい恰好の方がいいな。

 

「あー、ずー、さー、はー、やー、くー!」

「うるせー!」

 

 着替え終わったタイミングを狙ったかのように扉の前から声をかけてくる遥。最後に何か忘れ物をしてないか確認すると、部屋から出て遥の元へと戻る。

 

「お待たせ。で、どこに行きたいの?」

「ふっふーん。秘密だよ」

 

 これはちょっと珍しいか? 遥が行きたいところがあるなんて言うなんてめったにない。だいたいどこかに消えて見つけたらそこが遥の行きたい所ってのが多いからな。

 家に鍵をかけてから何気ない話をしながらどこかに向かって歩く。もう俺らがどこを歩いてるのか全く把握できてないが、きっと遥はわかってるんだろう。とにかく遥を見失わないように……っていないし。

 どこ行ったんだ?

 

「おーい、梓ー! こっちこっちー!」

 

 あ、見つけた。いつの間にあんな所に移動したんだか。

 声の方を見ると、遥は小さな店の前で手を振っていた。いったい何の店なんだろう?

 

「なんか面白そうなお店見つけたよ~!」

「面白そうな店って失礼でしょうに」

「いいから早く入ろ〜!」

「分かった。分かったから手を放して」

「照れてる?」

「違う違う。民に俺らが遅れることを連絡するんだよ。このままだと言われた時間に着くの無理そうだから」

 

 てか照れるもなにも、小学生からの付き合いなのに手を繋いだくらいで照れるわけがないでしょうに。

 

「そこら辺は全部一切合切完全無欠に気にしないでいいから」

「いや、でも」

「連絡なら私がしたから」

 

 それならそうと早く言いなさいな。ま、そういう事なら大丈夫だな。それに早く入らないと遥がなにするか分かったもんじゃない。

 

「遥」

「な、なに? 真剣な顔して」

「頼むからどこにも行かないでくれ」

「そ、それってまさかプ、プロ……」

 

 そこまで言って遥は真っ赤になった顔を手で隠す。

 

「何想像してるか知らんが、そのままの意味だぞ? お前よくどっか行くから、いちいち探すのに時間取られたくないし」

「……は〜い」

「そんな落ち込むなって」

「べっつに〜。その度に梓に探してもらうの、凄く凄くすごぉ〜く嬉しいから別に良いんだけどさぁ〜?」

 

 遥が笑顔で言ってくるも、探すこっちの身にもなってほしいんだけど。ま、慣れとか腐れ縁とか抜きにしてもそんな遥との関係が楽しかったりするんだけど。

 俺は遥に続いて店の中に入りながらそんな事を考えつつ、商品を見て回る遥を見る。

 

「あ、見て見て梓。これとか似合うんじゃない? うーん、こっちかな?」

「なぜ確認を鏡じゃなくて俺を使うのか聞いても?」

 

 遥はネックレスをいくつか手に持つと、なぜか俺にあてて見繕っていた。あれでもないこれでもない、といった様子で色んなネックレスを楽しそうに試す遥。

 

「だって梓に買うやつだし」

「えー、別に買わんでいいよ。俺がそういった小物付けないの知ってるでしょ?」

「すいませーん、これ下さ〜い」

 

 遥は緑と水色のリングがついたネックレスを手に取ると会計に向かった。

 無視ですかそうですか。しかも何やら店員さんと話してるし。何々? いらっしゃい。また買いに来たの? また? またってことは遥は前にもここに買い物に来たことが……あ、このペンダントとかこっつーに似合いそうだな。

 

「お待たせ。さ、梓どうぞ」

「ありがと」

「さ、次々!」

「まだ行きたい所あるんかい」

 

 遥に手を引かれ店を出る。その時、店に入る見慣れた一組の男女とすれ違う。

 

「あれ? 梓さんがここにいるなんて珍しいですね」

「梓さんってこういうのあまり興味ないイメージでしたのに」

「瑠璃!? なぜ瑠璃がここに!」

「来阿くんとデートなんです」

「梓さんもデートですか?」

「そうだよ〜」

「はいはい。それじゃ、二人はデート楽しんでね」

 

 腕に抱きついてきた遥をそのままに店を出る。振り払わないのは、どうせ払ってもまたくっ付いてくる事が分かってるからで、別に嬉しいわけではなくなくはない。

 

「それで次はどこに行くのさ」

「どこに行こっか」

「おいこら」

 

 てことは今はアテもなく歩いてるわけか。ふむふむなるほど。

 

「なぁ部室に行っちゃダメなん?」

「まだダメ、かなー?」

 

 なんで疑問形よ。いくら民だってさすがにこれ以上遅れると怒るんじゃ? メールのタイトル「緊急招集」だったし。

 

「あ、梓。たい焼き売ってるよ」

「まだ昼前なんだけど。そういえば朝食べてないからちょうどいいし、買うか」

「ゴチ!」

「いや自分で買えよ?」

「じゃあ半分ずつね」

「はいはい。すいませーん。あんことクリーム一個ずつください」

「あいよー」

 

 二人分の代金を払い、たい焼き屋のおっちゃんから二つ受け取ってあんこを遥に渡す。さすがに腐れ縁なだけあって、遥の好みは把握していたりする。

 

「……梓ってなんだかんだで優しいんだね」

「んあ? 別々に注文すると店員とか、他の客に迷惑でしょ」

「そうなの? ま、ありがとね」

「へいへい」

 

 たい焼きを手に近くの空いてるベンチに座ってたい焼きを食べる。

 平和だなー。

 

「ねぇ梓。一口ちょうだい」

「仕方ない、ならそっちも一口ね」

「なんかさーこうして見ると恋人みたいだよね」

「あーそうだなー」

「もうちょっとこう、別の反応とかリアクションあるんじゃない?」

 

 へいへい遥さんや。反応とリアクションは同意義ですぜ。にしてももっと別の反応かぁ……

 

「遥みたいな人が彼女なら幸せだろうね〜」

「げほっ! ごほっ!」

「大丈夫?」

 

 さっきとは違うリアクションしたら、遥が急に咽せたから背中を摩る。まったく、何してんだか。

 

「き、急に変な事言うんじゃないよ!」

「じゃあなんて言えば満足するんよ」

「……いや、もう満足した」

「変な遥」

 

 背中を摩るのをやめ、ベンチにもたれかかる。

 

「あ、そうだ。梓はいこれ、上げる」

「なんぞ?」

 

 遥はどこからともなく出したラッピングされた箱を取り出し渡してくる。

 ほんといつも思うけどどこから取り出してるんだろ? 聞いてもはぐらかされるし。

 

「ちょっと遅れたけどバレンタインのチョコ」

「それなら当日にサークルでチョコお渡し会したじゃん」

 

 あの時は大変だった。なんせ海里が民に等身大チョコを作ろうとして、女子勢に止められてたもんな〜。しかも春一と夏生がその光景を写真に収めてコミカライズしようとして、それがバレて一悶着。

 それから少年が神話になったりならなかったり、運命とか知ったり知らなかったり、羽根が生えているとかいないとか、熱い何かが裏切るかもしれないともっぱらの噂で、何はともあれやっぱり少年が神話になったりすると思われたりしたからなぁ。

 

「それとは別に個人的な贈り物だよ」

「ま、ありがと。味わって食べるよ」

「お返し楽しみにしてるからね」

「期待しないで待っててね」

「断る」

 

 遥はそう言って嬉しそうに笑うと立ち上がる。

 

「さ、名残惜しいけど楽しかった二人の時間はもう終わり。部室に行こっか」

「あ、もう行っていいんだ。じゃあ行きますか」

「うん……あ、そうだ梓。一つ聞いても良いかな?」

 

 立ち上がり、振り返りながら聞いてくる遥。

 俺は頭の片隅で、背景が沈みかけの夕陽だったら幻想的だなぁ、なとと考えていた。

 

「ねぇ梓。さっき言ってた「()が彼女なら幸せ」って」

「正確には「遥みたいな人が彼女なら幸せだろう」って」

「梓はさ―――――――」

 

 突然吹いた強風で遥の言葉の最後の方が聞こえなかった。なんとなく言いたいことは分かるような気はするし、聞き返すのも違う気がする。

 遥もそんな空気を察したのか、黙って背を見せると大学の方へと歩き出す。

 

「遥?」

「……なんでもないよ。さ、早く部室に行こ。皆待ってるよ」

 

 それから部室に着くまで遥がこちらを見ることはなかった。俺も遥の隣に立って歩くことはしなかった。

 そして部室の前に着いた時、ようやく遥がこちらを振り返る。その笑顔は普段の遥の笑顔だった。

 

「さ、梓。準備はいいかい?」

「え? 何の準備?」

「It's a showtime!」

 

 遥が扉を勢いよく開けるとともに鳴り響く何かの弾ける音。そして鼻腔をつく火薬の匂い。そして

 

『誕生日おめでとう梓!!』

 

 部室から聞こえる怒号に等しい声量が廊下に響き渡る。

 

「……え?」

「まさか梓、今日が何の日か忘れてる?」

「今日って、なんかあったっけ?」

 

 今日は朝刊のチラシを見る暇なかったけど、昨日見た感じだと特売日ってわけでもないし、誰か知り合いの冠婚葬祭の日でもない。うん、特に思い当た……あー

 

「まさか俺の誕生日?」

「気付くのが遅い! なぜ自分の誕生日なのに忘れてる! ていうか、さっき俺達「誕生日おめでとう」って言っただろうが!」

「ツッコミサンキュー秋太。てな訳で今日は食って飲んで騒ごう!」

「騒ぐのはマズイでス! 怒られますヨ! そして未成年飲酒はダメでス!」

 

 梨歌が未成年組みにソフトドリンクを渡して回る。

 ていうか、学校内での飲酒がアウトなんだけど……まぁ見た感じアルコール類はないし、問題はないか。

 それから部室で俺の誕生日パーティーが始まった。

 

「そういえばさ、あの「緊急招集」って何だったの?」

「え、お前には送ってないけど?」

「いや送られてたぞ。ほれ」

 

 ポップコーンを食べてる民に携帯のメールを見せる。メールを見た民はやらかした、とポップコーンを落とす。

 

「民さんやっちゃいましたね〜。梓さんにサプライズするつもりだったのに、間違って送っちゃいましたね〜」

「あ、コラ海里! 色々とバラすなし!」

「キャー襲われるー」

 

 笑いながら逃げる海里と追いかける民。それを見て笑ったり呆れたりしてお菓子を摘んだりしている。

 しかし楽しい時間は早く過ぎるもので、夕方になってしまった。ゴミを片付け、それぞれの家への帰路へつく。

 俺は遥を家に送り届けるため、二人で帰っている。

 

「どうだった、梓」

「まさかこの歳になっても友達に祝ってもらえるとは思わなかったから、嬉しかったよね」

「そっか。でも安心してね、私はいつでも梓の誕生日を祝ってあげるから」

「じゃあ俺も遥に贈らないとね」

「何貰えるか、毎年楽しみにしてるね。それじゃ、送ってくれてありがと。バイバイ」

 

 話している間に田口家の前に着く。遥は玄関の扉の前で立ち止まり、こちらを見る。

 何かやり残したことでもあるのかな?

 

「ねえ、また明日もどっかに行かない?」

「あーそうだな。予定が入らなければいいかもしれんね」

「ふふ。梓は相変わらずだね。じゃあまた明日」

「あいよ」

 

 遥が家の中に入るまで見送り、俺も家に帰る。

 暗い夜道を歩きながら今日遥から貰った二つの物の片方を取り出し、包装紙を丁寧に剥がす。

 

「ネックレス、か……偶に付けてみるのもいいかもね」

 

 俺は大事にネックレスをしまい、そして俺は甘い香りのする我が家へと入っていった。

 

「ただいま!」




改めて誕生日おめでとうございます‼&ありがとうごさいます!

これからもよろしくお願いします‼

ポケモン回の後編もほとんど書き終えました‼
もうちょっとで投稿されるのでお楽しみにです‼
ではでは!


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24話 おやすみbirthday♪

今回も番外編‼
あまいあまーい二人のお話となっております!
お楽しみください♪


おはようございます!

いきなりなんですが、わたしは今、百斗さんの家に来てます。待ち伏せです。

え? 今日? もちろん普通に平日だよ?

高校って中学生の受験で休みになりますよね?今年は今日なの。運がいいよね、だって今日は百斗さんの誕生日!

それで、あらかじめある人にお願いして百斗さんを今日1日フリーにしてもらってるので私はこうしてそれを知らない百斗さんが出てくるのを待ってるってわけです。

 

「いってきまーす」

 

あ、出てきたみたい!

私の格好、変なところないよね?

久しぶりに編み込みのハーフアップしたからちょっとバランス悪いかなぁ……?鏡で確認した時はいいと思ったんだけど、いざこうなると気になっちゃうかも。

でも今更直せないし、行っちゃお!

 

「おはようございます、先輩♪」

 

「ああ、おはようこざい……た、高梨さん!?」

 

ふふふっ、めっちゃ驚いてますね。その顔です、その驚いた顔が見たかったんですよ、百斗さん♪

 

「はい、3週間ぶりくらいですね、先輩♪」

 

「あ、うん、え?」

 

ひたすらなんでって聞きたそうな顔です。

ん~でも、疑問解決まで待ってると遊ぶ時間なくなっちゃいそうですね。

 

「先輩と1日一緒に遊びたいなって思いまして!」

 

「ぼくも高梨さんと遊びたいけど仕事あるし……それに、高梨さんも学校でしょ?」

 

「忘れちゃったんですか、先輩? この時期、高校は入試休みがあるんですよ?それに、ある人から先輩の休みを取ってもらってあるので、今日は先輩はお仕事お休みなのです!」

 

「嘘!?」

 

「ほんとです!だってあず……AZさんに頼みましたから!」

 

危ない危ない、また本名言いそうになっちゃいました……一応秘密って言われてるんだよね。

 

「というわけで、さっそく出かけましょう!」

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

先輩にしては珍しく強めに言われちゃった。

私、一人で勝手に舞い上がって盛り上がっちゃったけどやっぱり……

 

「……もしかして迷惑でした……?」

 

勝手にお仕事おやすみにしたり、朝から押しかけちゃったり、私何も百斗さんのこと考えてなかったです……

 

「ううん!迷惑なんてそんなわけないよ!」

 

「ほんとですか?ほんとにほんとですか?」

 

「もちろん!ボクがそういう嘘つけないって知ってるでしょ?」

 

「そ、それは……そう、ですけど……ふぇ?」

 

はふぅ……気持ちいいです……

百斗さん、やっぱりずるいです……

 

「不安にさせるようなこと言っちゃったならごめん。ほら、ボク仕事行く気満々だったから適当な格好してるからさ」

 

「そ、そんなことないですよ?十分かっこいい、と思います……あ、い、今のなしです!」

 

「え?あ、うん……」

 

私のバカぁ!何言っちゃってるの~!

 

「……」

 

「……」

 

あーやっぱり気まずくなっちゃった……

もう、こうなったら勢いです!

 

「百斗さん、私、百斗さんと一緒に水族館行きたいです!」

 

「た、高梨さん……?」

 

「はい?どうかしました?」

 

「そ、その……な、名前……」

 

名前?飛鳥ですけど……?

あれ?私さっきもしかして……

 

「先輩のこと、もしかして名前で呼んじゃってました……?」

 

「う、うん……」

 

勢いに任せすぎたぁ!

どうしよう、すっかりペース乱れまくりですよ!

 

「あ、あの先輩!」

 

「は、はい!」

 

なんかすごく緊張してそうですけど気にせず行きます!

 

「今日一日お互い名前で呼びましょう!せん……と、百斗さんも私のこと飛鳥って呼んでください!」

 

「う、うん、がんばるよ……」

 

「じゃあそうと決まれば早く行きましょう!百斗さん!」

 

「あ、ちょっと待ってよ高梨さ……あ」

 

さっそく名前で呼んでくれてない……

これはちょっと頑張らないとですね。

 

「百斗さん?」

 

「う、うん、飛鳥ちゃん……」

 

あ、なんだか自分で言ったのにすごく照れます……

どうしよ、顔が熱い……

 

「と、とにかく行きましょう!せっかく朝から来たのに遊ぶ時間なくなっちゃいます!」

 

こんなに遊びに行くのが楽しみなのっていつ以来かな?

とにかくめいっぱい今日は楽しむぞ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけでやってきました水族館!

ここは結構大きくていろんなイベントやってるんですよね。

……あ、今日は何もやってないや

 

「ど、どうしたの、たかn……飛鳥ちゃん?」

 

「あ、いえ、なんでもないです……」

 

せっかくなら百斗さんと何か一緒に体験とかしたかったですけど、しかたないですね。

さて、最初はどこにしようかな……?

 

「百斗さんはどこか行きたいところありますか?」

 

「う~ん、そうだなぁ……」

 

ここって近いけど結構広いし、遊園地も同じ敷地にあるから一日中遊べるんだよね。

前、一緒に観覧車乗ったとき、楽しかったなぁ……

もちろん、あの時のブレスレット今日もしてる。百斗さん、気づいてくれなかったけど……

やっぱり、男の人ってあんまりそういうこと気にしないのかな……?

 

「とりあえず大水槽行ってみない?その途中に面白い水槽もあるかもだし」

 

「そうですね!」

 

それじゃあいこっかと先に行く百斗さん。

あっ……思わず手を出しちゃったけど気付いてもらえなかったです……

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いえ!なんでもないですよ!」

 

百斗さん優しいからきっと気にしちゃいますよね。

すぐに百斗さんの隣まで移動して普段通りに!

 

「さあ、たくさんのお魚さんに会いに行きますよ!」

 

「うん、そうだね」

 

私たちがまず最初に向かうのは大水槽なんだけど、その途中に小さいお魚の水槽がいくつかある。

あっ、透明なエビがいる!

 

「百斗さん、ここ、小さいエビがいますよ」

 

「どこどこ?あ、ほんとだ。きれいだね~」

 

「ですね~海の底の方にいるのがもったいないですよね」

 

「ほんとにね。あ、あっちにサンゴの水槽もあるよ。あっちも行ってみよ?」

 

「はい!」

 

百斗さんが見つけたサンゴの水槽。ほんとにサンゴしかないんですけど、いろんな色のサンゴがあってまるでお花みたい……

 

「なんかこの水槽、いろんな色の花があるみたいだよね」

 

百斗さんもおんなじこと思ってたんだ!

なんかうれしいです♪

ふと水槽に映る私たちを見て友達に言われてことを思い出しました。

なんでも水族館は恋人になる前の男女がデートに行くのに一番いいところなんだとか。

今みたいに小さい水槽を二人で見ると自然と距離も近くなっちゃうし、天候も気にしなくていいし、時間が余るなんてことも少ないかららしいんですけど。

って、なんか改めてそれを思い出したら急に恥ずかしくなってきた……

 

「どうかしたの?」

 

「ひゃい!?」

 

「ご、ごめん、驚かせちゃったね」

 

「あ、いえ、大丈夫です!それよりどうかしたんですか?」

 

ちょっと恥ずかしいところ見せちゃいました……

 

「なんだか顔が赤い気がしたから……」

 

「だ、大丈夫です!」

 

気付かれてた~!

ううん、これはチャンス。

ここはあえて……

 

「百斗さん、大水槽見えてきましたよ!」

 

手を引っ張っちゃいましょう!

ふふふ、顔赤くなってますね。百斗さん♪

 

「きれいですね……」

 

「そうだね……」

 

キラキラ光を反射してる魚さんたちがすごく幻想的で言葉が出てきません……

あの群れになってるのってイワシ……だったっけ?

あの群れが一つの生き物みたいに形を変えるのって見てて面白いですよね。

 

「海の中っていつもこんな感じなのかなって思うとすごいよね」

 

「そうですよね~あの、いつも気になってたんですけどサメと普通のお魚って一緒の水槽にいても大丈夫なんでしょうか……」

 

「う~ん、たぶん大丈夫なんじゃない?ほら、さめって一口に言っても肉食のやつばっかじゃないし」

 

「なるほど、確かにそういわれてみればそうですよね」

 

プランクトンとかを食べる子もいるんだっけ。

きっと食べられちゃわないように気を付けているんですね。ちょっと安心。

 

「あんな下の方にもエイがいるよ」

 

「え、どこですか?」

 

百斗さんがエイを見つけたらしいんですけど私、見つけられない……

どこにいるの?

 

「ほら、ボクが指でさしてる見て?あの岩の近くの地面に……」

 

って、百斗さん近い!教えるためなのはわかってるんですけどむしろ百斗さんに気が向いちゃいますよぉ!

なんとか水槽に集中して百斗さんが指してくださっている方を見ると……

 

「あ、いた!いました!」

 

「ね、なかなか見つけにくいよね」

 

「ほんとです。よく見つけましたね」

 

「あはは、たまたまだよ、たまたま」

 

ほんとにたまたまなんですかねぇ……?

あれ、あそこって確か……

 

「百斗さん、あそこにこの水槽の中を通れるところがあるみたいなんです。行ってみましょ!」

 

アクアトンネル、そこから上に上がるエスカレーターのアクアチューブ。

なんか本当に海の中をお散歩してるみたい……

海にダイビングしてる人ってこんな景色いつも見てるのかな。

なんかうらやましいかも。

ほんとの海にダイビングもちょっとしてみたいです。

 

「すごいね、周りが本当に海に囲まれてるみたいだ」

 

「ほんとですね……すごいでsきゃ!」

 

エスカレーターの途中でお魚の大群に囲まれちゃった!

 

「た、高梨さん!?……大丈夫だよ、ちゃんと水槽の中だから。僕たちの方には来ないよ」

 

あ、確かに!

思わず百斗さんにくっついちゃいました……

ってそれよりも……

 

「百斗さん?今、わたしのこと、高梨さんって言いましたよね?」

 

「え、あ……ごめん」

 

「もう、そんな百斗さんにはあとでツーショット写真お願いしちゃいますからね!」

 

「う、うん、わかった。いいよ」

 

「えっ、いいん……ですか?」

 

「もちろん」

 

流れで言ってみるもんですね!

これで百斗さんと写真撮れる!

どこで撮ろうかなぁ……

 

一個上の階は小さい水槽がたくさん並んでていろんな種類のお魚がいるみたい。

あ、タコとか熱帯魚とかもいるんだ。

日本にいるお魚はどれも似たような色してますけど、なんで熱帯に行くとカラフルになるんですかね?

そっちの方に住んでる人の服がカラフルなのと何か関係あるのかな……?

いや、きっとないですね、えへへ。

このカニおっきい……ええっと、タカアシガニ……?って種類なんですねきっと。

さっきからただただ何も話さずに一緒に見て回ってるんですけど、これだけでも十分楽しいですね。

たぶん、百斗さんとなら何でも、なんだと思いますけどね!

 

「あ、百斗さん……」

 

私のおなかが小さく鳴りました。

百斗さん気づいてないよね?

ちょっと失礼だけどあんまりこういうとこ気付かない方だからきっと大丈夫なはず……

 

「大分お昼の時間過ぎちゃったもんね。どこか食べれるところ探そっか」

 

「なんでそういうところだけ気づくんですかぁ!」

 

「え、ええ~……」

 

また恥ずかしいところ見られちゃった……

おなかすいたんだもん、しょうがないですよね!

いっそのこと開き直りますよ!

幸い、水族館の展示はほぼ見終わって、あとは外の展示だけみたいですから一度外に出て再入場でも問題ないみたいですね。

でもその前にどうしても一つだけどうしても行きたいところがあるんですけど、ここにもあるのかなぁ……

あっ、あったあった!

 

「百斗さん、ここ出る前に一度下の階に降りてもいいですか?」

 

「いいけど、なにかあるの?」

 

「はい!ふれあいプールです!」

 

というわけでやってきましたふれあいプール!

ここにいるヤドカリとか、エビとか、ヒトデとか触るの好きなんですよね。

なんだかなかなか味わえない感触で……あ、とくにナマコの独特なぷに感いいと思うんです!

 

「あれ?百斗さんは……?」

 

水槽の近くで私の様子を見てました。

 

「百斗さんも触ってみればいいじゃないですか」

 

「あ、う、うん、ボクはいい、かな……」

 

「あの、もしかして……」

 

「う……そ、そうだよ、苦手だよ!」

 

「ふふ~ん、そうなんですね~やっぱり百斗さん可愛いですよね」

 

「か、可愛くはないから!……のに」

 

そういうふうに必死に否定するところがかわいいって言われるポイントなんですけどねぇ。

百斗さんはちょっといじるとかなり過剰に反応してくる節があるのでその反応がかわいいんですよね。

男の人だってわかってるんですけど、なんだかいろいろいじりたくなっちゃいます!

さて。あんまり私ばかり楽しんじゃってるのもよくないですし、たくさんぷにぷにし過ぎるとここの子たちも弱っちゃいますからそろそろ行きましょうか。

 

「あ、もういいの?」

 

「はい、あんまり長く触ってるとあそこにいる子たちも弱っちゃいますから」

 

「そっか、それもそうだね。じゃあお昼食べにいこっか」

 

「はい!」

 

ここは水族館だけじゃなくて遊園地とかも併設されているアミューズメント施設。だから水族館の中じゃなくてレストラン街みたいなところが別に作られてる。

私たちはワンデーパス買ってるんでここにあるどこのエリアに行ってもいいんですけど、一部だけのチケットもあるみたいですね。

レストラン街の中心辺りにあるパスタ屋さんでお昼ごはん。

こういうときってタレとか飛ばしちゃうといやだから何を頼むか悩みますよね。

う~ん、どれにしようかなぁ……

 

 

 

 

 

さんざん悩んで危険なケチャップ系を避けて無難に明太マヨのパスタを選択。

 

「さて、次どうします?私的にはあとイルカショー見たいくらいなんですけど……」

 

「飛鳥ちゃん的にはこれもじゃないの?」

 

「か、観覧車……一緒に乗ってくれます?」

 

「もちろん」

 

また観覧車一緒に乗れる!

百斗さん、この前のこと覚えててくれたんだ……えへへ、嬉しいです♪

 

「じゃあイルカショー見てから遊園地のブースに行きましょう!」

 

調べたところによると次のイルカショーの時間まであまりないことがわかりました。って、ほんとに移動の時間とか考えると時間ない!

 

「行きましょ、百斗さん!」

 

「あ、うん、待って!」

 

でもとりあえずお金……あれ?伝票は?

 

「これくらい払わせて?ワンデーパスは別々に買っちゃったから……」

 

「い、いや、そんな悪いですよ!それに、誘ったのわたしですし……」

 

「いいから、ね?」

 

「……わかりました」

 

ちょっとしたところでかっこいいんですから……

ほんとに

 

「ずるいです」

 

「え?」

 

「なんでもないです〜!」

 

「教えてよ〜……」

 

「百斗さんには教えません!ほら、それより時間!急がないとですよ!」

 

聞き逃した百斗さんには教えないんですから。

えへへ、でもなんだかこういうのも楽しいな。

 

 

ショープール、普段からイルカの展示場として使われてるらしいです。

ギリギリの時間になっちゃったので前の方の席にはなりませんでしたけど、なんとか席を見つけて座れました。

そろそろ始まりますよ〜

 

「すっごい……」

 

「あんなに高く上がれるんですね……」

 

多分10mくらい?の高さにあるボールにタッチ。

ジャンプ力すごいですね……思わず拍手してたよ。ほんとにすごい……

あ、今度はアシカさんです。

お鼻でボールを器用に回してます!

アシカさんが笑ってる!ほんとに器用ですよね、ちょっと羨ましいくらいです……

4匹のイルカが一緒に飛び上がって、着水して。

今度はリングをくぐって着水して。ステージではアシカさんが拍手して。

なんだか、ここだけ別の空間のようです!

すごく、きれいで、感動しちゃいます!

 

「すごいですね、百斗さん!」

 

ふと見上げた百斗さん顔はとても無邪気な顔をしててしばらくジッと見ちゃいました。

ほんとに百斗さん……

ううん、まだ、です。

今はこれがすごく楽しいですから。

 

『以上でドルフィンドリームは終了です。なお、この後イルカと写真撮影ができるイベントを行います。参加希望の方は……』

 

これだ!

 

「百斗さん、イルカと写真撮影行きましょう!」

 

「うん、いいよ。行こっか」

 

よし!

百斗さんとツーショット写真!

ちょっと自撮りするの自信なかったのでラッキーですね。百斗さんは多分したことないでしょうし。

しかもイルカとなんて水族館ならではですしいいですよね!

 

「まさかこんなイベントがあるなんてよかったね」

 

「はい本当にそうですね!私もびっくりしました」

 

たぶんどこかに書いてあったと思うけど、お互い気づいてなかったから結果オーライ!ですよね!

百斗さんとお話ししながら並んでるとあっという間に私たちの番になりました。

1人で並んでると短い列でも長く感じますけど、何人かでしゃべりながらだとあっという間ですよね。

 

「はい、じゃあ撮りますよ~イルカのイー!」

 

って何ですかその掛け声!

驚いて変な顔してないよね?

 

「お二人ともいい笑顔ですよ。お似合いですね」

 

「「えっ!?」」

 

「ち、違います、まだそういう関係じゃ……」

 

「あら、それは失礼しました」

 

もう、いきなりすごいこと言わないでくださいよ~!!

びっくりしたぁ……

でも、撮ってもらった写真はちゃんといい顔してる。

また一つ、私の宝物増えちゃった。

 

「ありがとうございました!」

 

「はい、またお越しください。……今度はカップルになって、ね?」

 

「ふぇ!?」

 

この人、怖いよぉ……

でも、本当に……

 

「飛鳥ちゃん?」

 

「と、百斗さん!」

 

「どうしたの?またぼうっとして」

 

「いえ、なんでもないです!」

 

「むぅ、またそれ……」

 

「女の子には秘密も多いんです♪」

 

これは流石に……ね。

百斗さんにこそ言えないことですよ。

でもいつかはきっと……

 

「さあ、遊園地のブースに行きましょ!」

 

「……うん、そうだね」

 

……ちょっと悪いことしちゃいましたかね?

まさかこんなにショック受けるなんて……

そ、それでも今は無理です!ごめんなさい!

しばらくギクシャクしちゃったけど観覧車に乗る頃にはすっかり元通りにお話できるように。

よかったぁ……

 

「もう、すっかり夕方ですね〜」

 

「お昼食べたの遅かったもんね。うん、でもよかった」

 

「よかったです?」

 

「うん、今日一日、最初はびっくりしたけどすごく楽しかったもん。それに、今も夕陽がすごくきれい」

 

「そうですね……」

 

「百斗さん、隣行ってもいいですか?」

 

「え?」

 

「ていうか、行きます!」

 

覚えてるかな、百斗さんとこの前一緒に観覧車乗った時と同じ言葉に同じ展開。

 

「百斗さん、今日一日、わたしに付き合ってもらってありがとうございました。それと……」

 

「それと……?」

 

「お誕生日、おめでとうございます!」

 

用意してたプレゼントを渡す。

ふふっ、また百斗さん驚いてますね。

 

「覚えててくれたの?」

 

「当然です!だって、百斗さんは……」

 

ここまで言っちゃったけどなんて言おう!?

勢いでなんとかならなかったよ……

えと、えーっと……

 

「百斗さんは、大切で憧れの先輩ですから!」

 

「……そっか。こんなボクをそんな風に言ってくれるなんて、お世辞でも嬉しいよ」

 

「お世辞なんて、そんなことあるわけないじゃないですか!」

 

もう、相変わらず百斗さんは自己評価低いですね。

 

「えへへ、これ、開けてみていい?」

 

「もちろんです」

 

前にプレゼントしたブレスレットとお揃いのネックレス。色的にも合わせやすいし、なにより百斗さんの好きな色ですから、これしか思いつきませんでした。

 

「ありがとう……なんか照れるね」

 

「そんなこと言わないでください。私も照れちゃうじゃないですか……」

 

観覧車はもうそろそろ降り場に到着しそう。

急に気恥ずかしくなって、お互い無言になる。

 

「……飛鳥ちゃん、ありがとね」

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

この後、百斗さんのお家まで付いて行って百斗さんがドアを開けた瞬間後ろからクラッカーを鳴らしてびっくりさせたのはまた別のお話、です♪




ぴゃー!
この二人のいちゃいちゃ本当に好き!
書いてくださりありがとうございます!
いろんな意味で!

ではまた次回!!


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25話 白日夢のような

さあ、まだまだ番外編ですww
ここまで来たら本編でいいような……ww

今回はホワイトデー回‼
ではどうぞ‼


光樹に告って、光樹に告られて。

私たちが付き合い始めてから今日でちょうど一か月。

つまり……

今日はよく言うところの一か月記念日?ってやつだよね。

たぶん私たちは特別なことも何もなくいつも通りだと思うけど。

あ、でもそういえば今日は久しぶりに光樹の家に行くんだっけ。

もしかしたら何かサプライズとか……?いや、ないか、光樹だし。

あいつ、そういうの私に隠してとくの苦手だし。

幼馴染ともなるとやっぱりお互いのことよくわかり過ぎちゃうね。

 

「ふんふふんふふ~ん」

 

あ、思わず鼻歌出ちゃった。

えへへ、早めに光樹のところいこっかな~っと。

そう思ったら即行動!

カバンに荷物入れて、あとお母さんに今日のこと話したら渡されたおやつとかも持って、うん、準備完了!

 

 

 

それにしてもほんとに久しぶりだなぁ、光樹のところ行くの。

中学のころまでは結構よく行ってたんだけど高校では同じ学校に入ったって言っても部活やらなんやらでいろいろ時間が合わなくて全然いけなかったからね。うん、ほんと久々。

私がいけてない間に叶音ちゃんも中学生になっちゃったのかぁ……大きくなったんだろうなぁ……って、なんだかこれじゃ親戚のおばさんみたい。

やめたやめた、まだ私もそんなに年じゃない。

 

「やっほー、きたよ」

 

「うん、いらっしゃい、理咲」

 

「あ、理咲さん!お久しぶりです!」

 

「もしかして、叶音ちゃん?」

 

「はい!お久しぶりです!」

 

叶音ちゃんがお姉ちゃんって呼ばなくなってる……なんか成長が嬉しいような、理咲お姉ちゃんって呼んでくれないのが悲しいような……すごく複雑。

 

「え、えっと、あの……」

 

「そっか、理咲は叶音がいろいろと変えた理由知らないのか」

 

「……それ、私が聞いて大丈夫?」

 

「ああ、少なくともいじめとかそういうのじゃないから」

 

「なんだ、よかった……」

 

きっと何か意識が変わったのかな?中学生になるといろいろしっかりしなきゃ、というか思春期で大変……あれ?

叶音ちゃんと光樹って相変わらず仲いいんだ……これからかな?それともずっとこのまま?

まあ、お兄ちゃん嫌い臭いとか叶音ちゃんに言われたらシスコンの光樹はショックで死んじゃいそうだけどね。

いや、それじゃ私が困る。何とかしなきゃ……って、まだ気が早いかな?

 

「え、えっとですね、りさs……」

 

「きゃっ!」

 

急にドアが開いて誰かが入ってきたよ!?それもものすごいスピードで!

 

「大丈夫?理咲ケガしてない?」

 

「あ、うん、大丈夫……」

 

光樹、かばおうとしてくれたんだ……

う、嬉しいんだけど、ちょっと、ち、近い……

 

「まったく……人が玄関にいるときもあるんだから気をつけて開けなきゃだめだよ、黒愛ちゃん」

 

「はぁ~い……ってあれ、あれれれれ?もしかして、彼女!?」

 

「うん、そうだよ。俺の彼女の理咲。そっか会ったことなかったか。じゃあ……」

 

か、彼女……うん、わかってるんだけけどね、改めて、それもほかの人への紹介に彼女って言われると照れるよ……

とりあえず、叶音ちゃんのお友達でお隣のうちの黒愛ちゃんね。うん、叶音ちゃんと同じくらい可愛くていい子だ。って、あれか、清風君の妹さんか。苗字同じだし。

 

「最近、百斗兄も怪しいと思ってたけど先にこっちとは……あず兄も無自覚で彼女作ってる感じだしこれは負けてられないね叶音ちゃん!」

 

「な、なんで私!?それなら黒愛ちゃんだって……」

 

「だって、叶音ちゃんはあ……」

 

「言わないで―!!しかもほんとかもわからないんだから勝手にそういうことにしないで!!」

 

「別にあの人のことって言おうとしただけなのに……」

 

「う、うぅ……」

 

ふふふ、なんだか懐かしいなあ。私も友達に光樹のことでよくからかわれたっけ。

でもまさか、ほんとに付き合えるなんて。

夢みたい。

 

「知ってる?夢みたいとか、夢のようなってつまりそれが夢じゃないってことなんだよ」

 

「へ?あれ、もしかして声に出てた……?」

 

「ん?まあすごく小さな声だったけど」

 

「もう、そういうのは聞かないふりしてよぉ!」

 

「悪い悪い。でも、俺も同じ気持ちだなって思ったから」

 

「え?」

 

「いつからかはわからないけど、気がついたら好きだった。だから今、こうして理咲と付き合えてることが何よりも幸せだし、夢みたいだなって」

 

もう、余計恥かしくなるじゃん!そういこと二人っきりの時に言ってよ、せめて!

こんなみんないるリビングで言わないで!

翔なんてもう今にも怒り狂いそうだよ!?

とりあえず翔も頑張って!

 

「というわけで、これ」

 

光樹が棚から持ってきたのは二つの箱。

 

「こっちはホワイトデーのチョコ。あまり時間がなかったから凝ったものは作れなかったんだけど……」

 

「だからさ、君はなんで私より女子力高いものを作るのかな!?かな!?」

 

「え、あ、いや、そんなつもりはなかったんですけど……」

 

もう、こんな可愛くラッピングしちゃって。きっと中身はクッキーかな?光樹のクッキーってちょっとほろ苦くておいしいチョコクッキーなんだよね。レシピ教えてくれないから自作できないのか悔しいんだけど……

 

「それと、これは……その、一応最初だし、一か月記念日?のプレゼントしようかなって」

 

透明な石、ピンクの石、淡い水色の石……どれが何か大体わかる。

それに、私の誕生石もある……!

 

「理咲、昔から石集め好きだったから。こういうブレスレットもいいかなって」

 

覚えてたんだ……!

ほんとにうれしい!

 

「ありがと!」

 

感謝を込めて光樹にキス。

そのあとその場にいた人から茶化されたのは恥ずかしかったけど……

ありがとね、光樹!




あまーい二人だな~……ww
羨ましい‼

ではまた次回です‼


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26話 もうひとつのホワイトデー

はい、まさかのもうひとつですww
今回は後書きを別の方にお任せしました。
どこかでみたことあるぞ~?

そしてもうひとつ。
番外編をすべてナンバリングに変えました。
さすがに多すぎてもういいやってなりましたww

では本編、どうぞ!!


「今日集まってもらったのは他でもない。明日に控える一大イベントの為、一致団結を」

「長いし、部室の電気消してカーテンまで閉めて何してんのさ」

 

 真っ暗な部室、そこの電気スイッチを入れつつ、呆れた視線を部長席に座る民に向ける。

 現在部室にいるのは文研部の男子だけ。昨夜急に民から緊急招集をタイトルに連絡が来たんだけど、なんかデジャブを感じるんだよね。それに導入からそんなに大事な案件じゃなさそうだし。

 

「それで?なんで俺たちを集めたの?」

「ああ、明日ってなんの日か知ってるでしょ?」

「明日ですか?」

 

 民の質問に春一が首を傾げるも、何人かは納得のいった表情を浮かべていた。もちろん俺も納得側の人間。ていうか前言を撤回させてもらう。これは大事な案件だ。

 

「民さん、今日この場を設けてくれて感謝します」

「良いってことよ。俺とお前の付き合いじゃん」

「それで、結局何するんです?」

 

 友和と民の二人が握手してる中、夏生が冷めた目で見ながらこの集まりの意味を聞く。今いる中で分かっていそうなのは主催者の民と俺、友和に秋太だけか。いつまでも教えられない二人がなんだか可哀想だからそろそろ教えるか。

 

「春一、夏生。明日ホワイトデーだよ」

「あぁ!」

「そう言われてみれば」

「お前ら本気で分かってなかったのかよ……」

 

 二人の反応にガックリと肩を落とす民。

 

「だって今までそういう事と無縁でしたし」

「僕も海里姉に貰ったのは今年が初めてですし」

「そうか。まぁというわけで、バレンタインのお返しとして今から明日渡すもの作るぞー」

 

 民の言葉にパラパラと拍手が返される。そんな中、秋太が手を上げる。

 

「なぁ民。作るの良いんだけど、どこで作るんだ?」

「先に言っておくけどウチは無理だからね?」

「大丈夫心配しなさんな。場所はちゃんと考えてあるって。んじゃ今から移動するぞ〜」

 

 民は部室の扉を開けると外に出るように促す。皆は貴重品だけを手に部室を出ていく。

 

「ほれ梓。早く出た出た」

「はいはい」

 

 俺が出ると民は鍵を閉め、先頭に立って歩き出す。なぜか隣に俺を置いて。

 

「それで? なんで急にこんな事を提案したのさ」

「そりゃお前あれだよ。サークル内の男女仲を考えてだな」

「さいで。それで本当は?」

「今年は思ったよりも人数が多かったから、お前がいたら作るのが比較的楽かなと思って」

 

 やっぱりか。でも民は知らないんだろうな。こういうお菓子作りなら俺よりも光樹の方が上手いということを。

 

「まぁそう悲観的になるなって。よく考えてみ? 今日家で作ったとして、そこに姉妹が帰って来たらと」

「別にあの二人ならそこまで大騒ぎしないけど」

 

 リクエストとかなら大いにありそうだけど、あってその程度。邪魔とかはしてこないから特に家で作っても問題なかったんだよね。

 

「でもまあ今年は量があるからね、助かるのは否定しないよ」

「ほうほう」

「……なんだよ」

「べっつに~」

 

 なんか民の笑顔にイラッと来たので脇腹に肘を入れる。横で民が悶えてるけど普通に歩けてるから問題ないか。後ろの皆は慣れてる目で逸らしてるし。よく訓練されてるなぁ。

 横腹を押さえている民を連れて目的地であろう調理室に着く。

 

「さ、材料の準備は既にしてある。各々作りたいものを作れぇい!」

 

 タァーンと勢いよく扉を開け放つ。なんか扉からしちゃいけない音がした気がするけど気のせい気のせい。

 さて何作ろうか……皆にはクッキーでいいかな? 手間かからないし。かな姉たちにはキャラメルでいいかな。遥は個別でくれたからこっちも個別で返した方がいいよ。

 

「梓さん何作るんですか?」

「ん~クッキーでも作ろうかなーと」

「その割には材料多くないですか?」

 

 春一に言われ集めた材料を見る。今俺の手元には薄力粉、アーモンドプードル、ごま油、パウダー各種、粉砂糖、粉糖、牛乳、マーガリン、卵白、グラニュー糖、食紅、アーモンドパウダー。確かに多いな。まぁ作るものが作るものだからこんなもんだろ。ていうか民はどこからこれらの材料をかき集めたんだろうか。

 

「春一は何作るの?」

「僕はクッキーですかね」

「なるほど」

 

 春一と話しながら砂糖、牛乳、マーガリンを小鍋に入れて中~強火で煮始める。

 

「そういえばホワイトデーのお返しってなんか意味あってりすんのか?」

「なんで俺に聞いてくる」

「梓なら知ってそうだから?」

 

 鍋を見張ってると秋太が話しかけてくる。ていうか疑問形なのね。でも返しの意味か……

 

「確かバームクーヘンが「あなたとの関係が続きますように」とかだっけ?」

「あー、結婚式の引き出物によくありますもんね」

「引き出物の時は木の年輪にかけて長寿繁栄も含めてるらしいな」

「なんだ、秋太も知ってんじゃん」

「他にもあんだろ? 今二人が作ってるものとか」

 

 今作ってるものっていうとキャラメルとクッキーか。前にネットで調べた時にチラッと見たな。

 

「キャラメルが「あなたは一緒にいると安心する人」で、クッキーが「あなたは友達」だよ」

「やっぱり知ってるじゃないか」

「偶々だよ偶々」

「偶々でも勉強になりましたよ。あれ? でも梓さんそれ姉たちに渡すんですよね?」

「いやいや。俺のは家族とその周りの人用だよ。皆に渡す用は別に用意する予定」

 

 じゃないとあんなに材料とらないしね。

 周りの声を聴きながら火を止めた鍋の中からクッキングシートを敷いたバットに薄く平らに伸ばすように入れ、冷蔵庫に入れる。

 さて、これであとは固まるのを待つだけと。次はどっちを作ろう……クッキーの生地を先にしようかな。えーと最初はごま油と粉砂糖を混ぜてっと。

 

「あれ? 梓さんバター使わないんですか?」

「使わないでも作れるレシピがあるからね。今回はそっちでいこうと思ってるんだ」

「そんなレシピもあるんですね」

 

 まぁ俺も調べるまでは知らなかったけどね。前に一度こっつーと叶音ちゃんにせがまれた時に作ろうとして、ちょうどバターが切れてた時に調べたんのが功を奏したよね。

 

「……よくさ、ホワイトデーは三倍返しって聞くけど、あれって何を基準の三倍なんだろうな」

「量とか?」

「普通に考えたら義理の場合は値段とかじゃない?」

 

 薄力粉とアーモンドプードルを入れ混ぜた生地の四分の一にわけ、それぞれに抹茶、キャラメルパウダー、ブラックココア、イチゴパウダーを入れて混ぜながら二人の会話にも混ざる。あ、今のはパウダーを混ぜると会話に混ざるをかけた……誰に言ってるんだろう。

 

「梓さんって考えが時々酷い方向に行きますよね」

「失礼な。じゃあ春一は量と値段じゃない場合は何が三倍になると思うんだよ」

「う~ん、速さ、とか?」

「でもよ。渡された時の速さなんか誰か覚えてるのか?」

「覚えてないんじゃないでしょ。っと、これで良し」

 

 混ぜ終わった生地をラップで包んで冷蔵庫で休ませて、っと。その間に最後のお菓子も作ろう。えっと、アーモンドパウダーと粉糖をふるいにかけて食紅を入れる。

 

「そういえばさっき調べたら出てきましたよ」

「調べたって何を?」

「ホワイトデーのお返しの意味ですよ」

「してその結果は?」

「外れ枠でマシュマロが存在するみたいです」

「外れ枠ってなんだよ、外れ枠って」

 

 お返しに外れもあたりもないでしょ。あって相手がそれを好きか嫌いかくらいでしょうに。

 

「なんでもマシュマロの意味は「あなたのことが嫌い」らしいですよ」

「「そりゃあ確かに外れだ!!」」

 

 あれ? でもマシュマロって他にもいい意味合いがあったはず。そうそう確か……

 

「「あなたの愛を純白で包みます」ってのもなかったっけ?」

「へ~そんな意味もあんのか」

「前にマシュマロに豚足突っ込んでる友達がいましたね」

「「豚足!?」」

 

 え、春一の友達何入れてんの? マシュマロに豚足って、豚足って!

 

「なんでもバレンタインの時にサプライズでカエルの肉入りチョコをもらったらしく、そのお返しとばかりに作ったそうです」

「にしても豚足って」

「コラーゲンがたっぷりなマシュマロになってそうだな」

「仮に誠意込めててもカバーしきれませんって」

 

 春一の友達の話に恐怖を覚えながらも卵白とグラニュー糖を加え作ったメレンゲに最初にふるったものを数回に分け入れ、つやが出てきていい感じになるまで混ぜる。次にクッキングシートに直径3~4㎝になるくらいに絞り出す。

 

「あとはこれを冷ましてる間にクッキーでも焼いて、こっちを焼いてちょいちょいすれば完成かな?」

「なんだか梓さん手慣れてましたね」

「そう? まぁ普段から料理とかしてるからそれが関係してるのかもね」

「よ。こっちはもう終わりか?」

 

 使っていた容器とかを洗っていると民が声をかけてきた。

 

「あとは焼きあがるのを待つだけな状態」

「民さんたちの方はどうです?」

「ま、順調かな。あとは夏生だけだ」

 

 民たちのほうで料理できるのって友和だけだった気が。それに比べてこっちは春一もできるから比較的楽だったのかな?

 

「なにはともあれ何事もなくてよかったよかった。んじゃ後片付けまでよろしくな。て言わなくても大丈夫か」

 

 民はそれだけ言って夏生と友和のもとに戻っていく。

 そして一時間後。机の上にはラッピングされたクッキーやらチョコやらと様々なお菓子が並べられていた。

 

「で、これどうするの?」

「部室の冷蔵庫に入れておいて明日渡す」

「よーし皆で運ぶぞー」

 

 民の言葉を最後まで聞かすに秋太が手を叩く。といってもそんなに量があるわけじゃないから、それぞれが作ったものを手に持ち部室に戻るんだけどね。っと持ち帰るやつまで入れないようにしないとね。

 

 翌日の部の様子を簡単にまとめると俺らの用意したものに女性陣の皆は喜んでくれた。特に海里が泣きかけてたのには驚いたよね。早く付き合えばいいのに。

 さて、やることやったし帰りますか。

 

「遥。俺帰るけどどうする?」

「ん~? 私もそろそろ帰るよ」

「そんじゃまた今度な~」

「まったね~」

 

 遥とともに部室を出ていつもの通学路を二人で歩く。平日の昼近くだというのに通子人は俺たち以外の誰もいない。

 

「遥」

「何?」

「はいこれ。バレンタインのお返し」

 

 俺はカバンからマカロンの入った袋を取り出して横を歩いている遥に渡す。遥は少し驚いたように目を開くも、しっかりと渡した袋を手に持つ。

 

「ねぇ、ちょっと公園に寄ってもいかない?」

「ああ、いいぞ」

 

 遥の提案ですぐそこにある公園のベンチに並んで座る。座った並びは偶然なのか、一か月前と同じだった。

 

「ねえ梓。先月私に言ったこと、覚えてる?」

「先月っていうと「遥が彼女なら彼氏が幸せだね」って話?」

「う、うん。覚えてくれていたんだ……」

「まぁね」

 

 ニュアンスは少し違うだろうけど、確かに似たセリフは言ったはず。ちなみにその時遥が言った言葉も覚えている。

 

「俺は遥が彼女でも嬉しいし、幸せだよ」

「……!?」

「だからさ遥。俺と付き合ってください」

「…………」

「……遥?」

 

 突然告白をしてしまってもしかしたら失敗したのかと不安になり、遥の顔を覗き込もうとする。あ、顔逸らされた。

 

「遥?」

「……るい」

「え?」

「そんな突然告白だなんてずるいよ」

「ははは、ごめんね。でもいうなら今かなって思ってさ」

「本当に私でいいの」

「もちろん」

「それじゃあ、これからもよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね」

 

 俺たちは頭を下げたあと、お互いの顔を見て笑い出す。俺たちの関係は付き合っても今までとそんなに変わらないんだろう。俺は遥を抱きしめながらそう思った。




【だいありー】
梓「これ何?」
遥「君の元になった作者が許可を取って催しているなんの変哲もないキャラ同士のメタ発言の場所だよ!」
梓「お前自由すぎだろ」
遥「まぁまぁそんなこと言わずに。何から話していく? 今回の私と梓のイチャイチャ回? それとも前回(23話)の遥と君のイチャイチャ回? それとも前々回(17話)の私様と貴方のイチャイチャ回かしら?」
梓「そこまで俺らイチャついてないだろ。前回はほかの作家さんにも言われてたけど、今回と前々回はイチャついてはいないだろ」
遥「それにしてもAZさ……梓。前回のホワイトデーの回でのこつめちゃんに「さりげなく彼女作ってそう」って言われてたけど、本当にサラッと彼女にしたよね」
梓「なんで他人事なんだよ。俺とお前の話でしょうに」
遥「えーだって恥ずかしいじゃん」
梓「恥ずかしいも何もその回の出来事を話していくんだろうに」
遥「実は前話までのネタが多くあるからそれ話しても全然構わないよね! ってね!」
美「お姉ちゃ~ん!」
梓「おっとここでまさかの美咲ちゃん登場だね。いらっしゃい」
遥「さすが私の妹。本編で登場する前にあとがきの茶番で登場するなんてね」
美「あ、どうも皆さん初めまして。存在自体は17話のあとがきで登場していた田口遥の実妹の田口美咲(みさき)中学三年生の黒愛ちゃんの同級生をやってます! きっといつかどこかで登場すると思うのでよろしくお願いします!」
梓「にしても美咲ちゃんみたいにあとがきに先に出るキャラって初めてだよね」
遥「あ、本文中に出てきたレシピは量とかそこらへんかなりテキトーに書いてるから、真似したら大惨事間違いなしだから注意してね」
美「それにしてもお姉ちゃんと梓さんがくっ付くなんて」
梓「意外だった?」
美「いえ、お姉ちゃんが登場した時から決まっていた展開なので特に驚きはしませんでしたよ」
遥「あっはー! かなりメタいね!」
梓「てなわけでそろそろ時間だから、終わりにするよ」
遥「また次の話でも出てくるかもね~」
美「次はだれになるんでしょうね! 私気になります!」


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27話 最高のありがとうを

さあまだまだだしますよ!
というのも今日、3/15は滝沢家長女の滝沢加奈(のもととなった方)の誕生日なのです‼

という訳で誕生日回、どうぞ!

ちなみに後書きにかんしてはこれからはずっとこのかたちになると思います‼


滝沢家の朝は遅い。なぜなら基本皆よふかしをしているからむしろ昼から活動するなんてざらだ。

だが今日は違った。

現在時刻朝の11時。外は充分明るく、お天道様の光のおかげで辺りはすっかり白く輝いていた。

 

しかし我が家、滝沢家のなかはカーテンが閉められ、電気も消し、外から一切の光が入ってこないようにしており、光源は起動してあるエアコンの少しの光と俺たちが囲んで座っている机の真ん中においてある蝋燭だけだ。

 

そんな少し異端な状況で俺、百斗、清君、こっつーの四人が椅子に腰掛けながら向かい合っていた。

加奈姉は今日は休日出勤となっている。

……何回か見学したがその度にゴミ箱がエナジードリンクの空き缶で埋まってたがきっと気のせいだと思うことにしよう。

じゃないと気が気じゃない。

 

「……現状報告を」

 

「「「はっ!!」」」

 

上座に手を組んで両肘をついて座る俺の声を合図に返事をする三人。

どうでもいいが某アニメの会議みたいな感じだ。

 

「ケーキの準備も完了してるね」

 

「飾り付けも順調だよ‼」

 

「私と清兄で飾り付け頑張ってるからね‼」

 

「うむ……」

 

みんなの報告を聞いて頷く俺。

みんなのいった通りこの部屋は今飾りつけをされており、明かりをつけたら三男と末っ子によってきれいに飾り付けされた部屋を拝むことが出来るだろう。

 

なぜこんなことをしてるか。

それは他でもなく今日が滝沢家の長女こと滝沢加奈の誕生日だからだ。

いつも俺たちを支えてくれる加奈姉。

そんな加奈姉の一年に一度のめでたい日。

いつもお世話になっていることもあるし、その恩返しも込めて是非とも祝いたい。

みんながみんな同じ意見のため今日は珍しくこうして朝早くから(世間から見たら遅いかもだが)起きてこうして準備をしているというわけだ。

 

……が。

 

「お前ら、肝心のプレゼントはどうだ?」

 

「「「……」」」

 

「だよな~……」

 

プレゼントが未だに決まっていない。

誕生日を祝うのにプレゼントが決まってないなど言語道断。なのだがさすがに20何回、他の兄弟たちも考えればもう三桁届くのではないかと言うレベルもすればいい加減ネタが尽きるというものだ。

それに……

 

「加奈姉の欲しいものってわかんないんだよな~……」

 

「欲しいものがあったら自分で手に入れちゃう人だからね~……いや、みんなそうなんだけどさ」

 

「あ!最近でたゲーセンの音ゲーの機械欲しいって言ってたよ‼」

 

「清君や、冗談ってことをしっかりと認識しようか」

 

「そうだよふう。そんなのかったってメンテナンスとかアップデートとか出来ないんだから」

 

「百斗。お前もちょっとおかしいからな?」

 

「「え?」」

 

「そのなにいってんだこいつみたいな顔でみるのやめろ‼」

 

「ねえねえ、それよりも本当にどうするの?買い物に行くならそろそろ準備しないと……」

 

「あ、ああ。そうだな……」

 

最愛の妹の言葉でなんとか本筋を思い出す。

そうだ、今日は加奈姉仕事だから仕事が終わって帰ってくるまでに準備をすべて終えなくてはいけない。

定時帰りがめったにないことが幸いか……本当に加奈姉の会社ブラックじゃないよな?

まあとにかく何でもいい、プレゼントを準備するチャンスだ!!

とは言ったものの……

 

「さて、本格的にどうするか……」

 

「逆によく毎年プレゼント決まってたよね」

 

こっつーの言葉に皆で頷く。

去年は確か……こっつーを1日自由にしていい券だったか。

今思えばとんでもないものを送ったなと思ったがよくよく考えたらあの後二人とも幸せそうな顔してたし別にいっかと思うことにする。

 

「とりま準備を進めながら考えようよ」

 

席を立ちながら言う百斗にそうだなとうなずきながら立ち上がり、締め切ったカーテンを開け放ち、蝋燭を消して準備の続きをする。

 

進行度で言えばまだ50%ほど。

時間に余裕はまだあるが

早くするに越したことはないしな。

 

「足りないものはメモに書いておいて~」

 

「俺と百斗兄でみんなのお昼買ってくるついでにそれらも買ってくるよ~」

 

「おう、そのメモだったら……」

 

「私が書いておいたよ!はい!!」

 

「ありがと。じゃあ百斗兄、早くいこ!」

 

「ほいほい、じゃあ行ってくるね~」

 

百斗の腕を引っ張りながら外へと飛び出していくやけにテンションの高い清君を見送りながらこっつーと準備を続けていく。

 

「しっかし、どうすっかな~……」

 

「加奈姉の欲しいものって何だろう……」

 

「欲しいものつってもな~……」

 

正直清君とこっつー以外は成人してるから欲しいものは自分で買ってしまえるんだよな~……

 

「加奈姉ならなに買っても喜びそうだけど……」

 

「そうだろうけどそれじゃあダメなんだよ」

 

こっつーの言った通り何だって喜んでくれる。でもどうせだすなら記憶にしっかりと残るものを出してあげたいと思うのは当たり前のことじゃないかな?

出来れば百斗たちが買い物にいってる今のうちに決めてあげて少しでも無駄な手間を省きたいんだけどな~……

 

「疲れたよ~……あず兄~……」

 

「そういや朝から動きっぱだもんな。少し休むか」

 

「わーい!」

 

冷蔵庫から麦茶を出してコップを二つ準備。机の上において二人揃って麦茶を飲んでいく。

ほどほどに冷えたのが適度に喉を刺激して美味しい。

 

「落ち着く~♪」

 

隣で美味しそうに飲む末っ子をみてほっこり。

これだけで今日の疲れが吹っ飛んだ気がした。しかし現状が困ったままなのは変わらない。

 

(さて、どうしたものか……)

 

思考の渦に飲み込まれていく俺だが考えが一切まとまらない。

ぐるぐるする頭をスッキリさせるためにもう一度つめたい麦茶をあおって落ち着く。

そんな俺の隣ではこっつーがなにか面白い番組はないかとテレビのリモコンのボタンをポチポチ押していた。

お昼特有の街角インタビュー多めの番組や、新グッズ、目玉スポットの特集番組を適当に眺めていく。

俺的にはなかなか面白そうなのがあったがうちの姫様の要望に答えれるものはなかったのか唇を尖らせてぶーふーいいながらリモコンをおいて再び麦茶を飲む。

 

(まあこの時間帯、こっつーくらいの子を満足させられる番組はなかなかやってないわな)

 

なんてことを考えながら最後に映された番組をみていた。

内容は今更ながらのホワイトデー特集。

昨日すでにお返しを渡して終わってる俺たちからしたら関係ない話だな。

まあいつも通り百斗がいじられたのは別の話だ。

……いい加減くっつけよあいつら。

ま、そんなこんなで俺には関係ないないようだと思い、リモコンに手を伸ばして……

 

『さあまだお返しができていない男性諸君‼まだまだ間に合いますよ~‼ホワイトデーを過ぎて値段が安くなっている今がチャンスです‼しっかりと感謝の気持ちを━━━━━』

 

(遅れてる時点で感謝の気持ちなんか半減だろ)

 

かるくディスりながらチャンネルを変えようとしたときにふと頭のなかで閃く。

 

(感謝の気持ちを伝える……これだ!)

 

「わわ⁉あず兄急に動かないでよ~‼お茶こぼしかけたじゃん‼」

 

「ああ、ごめんな?ただいい案が思い付いてな」

 

「ホント⁉」

 

「ああ!百斗と清君が帰ってきたら……」

 

『ただいま~』

 

『百斗兄と一緒にご飯と頼まれたもの買ってきたよ~‼』

 

「……早速作戦会議といくか‼」

 

さあ、最高のプレゼントを準備しようか‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あず兄、ここはこうかな?」

 

「いや、先にこっちの動画を……」

 

「私最初がいい‼」

 

「こつめちゃん元気だね~」

 

あれから昼御飯を食べて数時間後。

俺の考えたプレゼントを全力で準備していた。

机の真ん中にノートPCを置き、百斗がその真正面に座りポチポチと操作している後ろで俺たちが指示を出す。

何をしているかと言うと簡単に言えば動画の編集だ。

 

ここまで来ればプレゼントがなにかわかるかもしれないが、俺が考えたプレゼントはビデオレター。

俺たち四人の感謝の気持ちを込めて作ったもの。

手抜きって言われたら反論しづらいけど、それでもやっぱり大事なのはありがとうと言う気持ちを伝えること。

誰よりも俺たちを見守ってくれた最高の姉への心からのプレゼント。

貧相だって思われてもいい。だがこの感謝の気持ちだけはなにがなんでも伝えて見せる‼そのためにも……

 

「さあお前ら、最高の想い(プレゼント)を送るぞ‼」

 

「「「うん‼」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く、もう」

 

私はほんの少しだけ開けた扉からこっそり部屋の中の様子をうかがっていた。

 

休日出勤だった今日も無事に終わり家について妹弟たちに癒されようと玄関の扉を開けたものの誰一人として迎えに来なかったことにショックを受けていたらリビングから話し声が聞こえてきたためこうして覗き見をしてみたら……

 

「抜けてる百斗や清君とかならまだしも梓まで気づかないなんてね」

 

それだけ集中してプレゼントを作ってくれてるのかななんて思ったら私の心が凄くポカポカしてくる。

本当にかわいい子達なんだから。

 

「気持ち、ちゃんと伝わってるからね?」

 

本当はプレゼントなんていらない。

こうして大好きな妹弟たちにおめでとうって言われるだけで嬉しくて、それが私にとっては充分幸せなプレゼントなの。

 

「って言っても、あの子達納得しないんだろうな~……。ほんと、不器用な兄弟なんだから……」

 

あ、私も含めてかな?なんて。

 

「さてと……」

 

ここでリビングに突撃してみんなを驚かせるのもいいかもなんて思ったけど、せっかくこんなに一生懸命準備してくれてるんだもん。ちゃんと祝ってもらわなきゃね♪

 

思い立ったが吉日。

私は物音をたてないようにゆっくりと玄関まで引き返していき、そっとドアノブに触れる。

 

(ありがとう、皆。本当にありがと‼)

 

心のなかでそう唱えながらドアをわざと大きく音が鳴るように開け放ち……

 

 

 

 

 

 

「ただいま‼」

 

 

 

 

 

 

幸せの色をのせた言葉は、この世のどんなところよりも暖かい空間を広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【だいありー・おふらいん】
清「第二回目は俺と」
百「僕の二人でお送りするよ!」
清「今回はかな姉の誕生日回だったね」
百「なかなかプレゼントが決まらなくて絶望的だよね。でも諦めないで。その絶望を乗り越えてこそ、真の希望が輝くんだ。さぁ風、ボクと勝負してくれるよね?」
清「希望厨はお帰りください」
百「ハッ、俺はいったい何を」
清「ということで今回は買い物組で進めていくよ」
百「ちなみに読みながら書いてるから、まさかこの組み合わせが買い物組に当たるだなんて思いもよらなかった、ていうのがあとがきを書いてる最中の内心だよ」
清「それにしてもまさか動画編集してるところを加奈姉に見つかっていたなんて思わなかったね」
百「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ!」ロンパ!
清「バレてるし、犯罪じゃないし、何もロンパできてないから」
百「にしても去年のプレゼントは二人が喜んでたみたいで良かったよね」
清「噂では18もののif展開もあったらしいよ?」
百「もしあったとしても賑やか家族Diary(この作品)には求められてないから……」
清「頼まれても書かないと、あとがき担当作家(仮)の名前はまだ無い♪が言ってたよ」
百「あとがき作家なんだ」
清「まぁ他の作家さんや投稿主の百斗さん……トトさんからも許可もらってるし」
百「今わざと間違えたよね? 間違えたよね!?」
清「そうそう大半の読者の皆さんが思ってることだけど、話によって一人称、二人称、口調その他諸々が違うのは書いてる人が違うからだよ!」
百「あず兄回に至っては作者がキャラを忘れてるってのが大きな理由だけどね」
清「さて、なんか色々言ってたけど加奈姉の誕生日回。あとがきもあっさりおわろっか」
百「そうだね。これ書いてる最中にあとがきのタイトルが二転三転したけど、もう終わりにしようか」
梓「それじゃあ最後にあれ言って終わりにするか」
黒「そうだね。それじゃあせーっの!」

『加奈姉! お誕生日おめでとう!!』


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28話 新たなご近所さん

お待たせしました~
今回はまたもや登場の新キャラです!

……いったい何人出るんですかね?ww

家族の日常を賑やかにする新しい人物をどうぞ!


「ふわぁ……よく寝た……」

 

朝の爽やかな空気を吸いながら、僕は大きな欠伸をした。

昨日は某バケモノゲームの厳選を夜遅くまでやっていたから眠いのなんの。

ま、色違いのヒトモシのメスが出たから満足だけどね♪

と、ここまで言っといて自己紹介がまだだったね。

 

僕の名前は羽生 努。

少し遠くの高校に通う高校1年生だ。因みに言っておくけど、僕はフィギュアスケートはやっていないよ。

この名字だからよく言われるんだ……。この間なんか直樹さんに、「努さ、フィギュアスケートやんなよ!」

とか言われちゃったから、今日は直樹さんが打ったボールが頭に当たって、そのまま僕が記憶喪失になって、フィギュアスケートに目覚めるという夢を見ちゃったからね……。イミワカンナイ。

 

あ、直樹さんっていうのは加川 直樹さん。僕の家の斜め前に住んでいる明るい大学生だ。

なんて紹介をしている間に家を出るのに丁度いい時間になった。

朝ご飯を食べて、身支度をして家を出る。

 

「いってきまーす!」

 

と、明るい声で家を出ると、そこにいたのは……。

 

「あ、おはようございます!加奈さん!」

「おはよう!努くん!」

 

この人は真向かいの滝沢さん家の長女の滝沢 加奈さんだ。

滝沢さん家は兄弟5人で住んでいて、皆んな個性的な方達だ。

そんな人達を引っ張っているのがこの加奈さんだ。

面倒見が良く僕もよくお世話になっている人……なんだけど……。

 

「あ、羽生先輩!おはようございます!」

「羽生先輩。おはようございます。」

「あ……あぁ……おはよう、滝沢さん……藍沢さん……」

 

この2人は、1人は滝沢さん家の末っ子の滝沢 黒愛さんと、滝沢さん家の隣の藍沢さん家の末っ子の藍沢 叶音さんだ。

2人とは中学時代の知り合いだ。

しかもこうして、家が近いから仲はいいんだが……。

 

「ジィィィィィィ……」

「ひっ……」

 

いかんせん加奈さんの視線が怖すぎる……。

加奈さん、2人のこと好きすぎだからなぁ……。

2人が僕に挨拶してくれるのはいいけどね?挨拶してくれる度に加奈さんが怖い顔で見てくるからね……。心臓が持たないよ……。

ここは逃げるが勝ちだ!

 

「そ……それじゃ!僕急いでるんで!」

「あ!羽生先輩!?」

 

三十六計逃げるに如かずだよっ!

僕はそのまま駅へと走って行った。

 

☆☆☆

 

「あ!努ー!おはよー!」

「あ、紗季!おはよ」

 

春海 紗季。僕の幼馴染に当たる女の子だ。小学校の時から仲がいいし、親同士でも仲がいい。

そんな彼女とは小学3年生の頃から今に至るまでずっと同じクラス……所謂腐れ縁みたいなものだ。

 

「どうしたの?随分疲れてるみたいだけど」

「いやぁ……今朝ちょっとね?」

 

紗季に聞かれそうになったが、ここはスルーしておく。

まさか、近所の女の子関連で逃げてきたなんて言えないじゃん?

 

「なになに〜?隠し事〜?」

「そんなんじゃないって!」

 

と、紗季から問い詰められそうになった時電車が来た。

 

「ほ……ほら!電車きたよ!」

 

それをいい事に僕はこの質問攻めから抜け出せた。

ま、電車の中でもしつこく聞かれたけどね!意味ないじゃん……。

 

そんなこんなで、僕の慌ただしい日常は始まる。

 

☆☆☆

 

教室に入ると、僕の友達が声をかけてきた。

こういうと友達少ないように聞こえるよね。

実際そうなんだけどっ!

 

「おはよう、努、紗季」

「おはよ、来阿」

「おはよう!来阿くん!」

 

古宇多 来阿。

僕とクラスメイトの友達。朝話した直輝さんと同じ野球チームだったらしく、彼とは来阿の方が関わりが強いだろう。

そして、もう1人。

 

「おはよう!努くん!紗季ちゃん!」

「おはよー!瑠璃ちゃーん!」

「きゃ……。もう……紗季ちゃんてば……」

 

壁谷 瑠璃。

彼女も僕らとクラスメイトだ。

紗季と、とっても仲がいい。現に今抱きついているくらいなのだから。

そして何より、来阿の彼女でもある。

 

「努も早く彼女作らなきゃな」

「ね〜」

 

来阿と瑠璃が言う。あ、紗季が離れた。

でも僕は彼女とかはなぁ……。

 

「あまりそういう欲はないしな〜。それに相手もいないし」

「「え?」」

「え?」

 

何故か2人に疑問詞で返された。後ろでは紗季がため息ついてるし……。

 

「努……お前マジでそれ言ってんの?」

「マジって……そりゃあね?」

 

相手を見つける気もないからな〜。

 

「まぁ?努にはそんな相手が出来るわけないけどね〜?」

 

紗季が何故か目を泳がせながら言った。こいつは何がしたいんだ?

ほら、来阿も瑠璃もジト目で紗季見てるじゃん。

あ、連れてかれた。もうすぐ朝のHR始まるのに……。

ま、そのうち戻ってくるでしょ。

 

僕は自分の席につき、ホッとしながら読書を始めた。

朝から慌ただしかったからここで一息つけたのはありがたい話だ。

 

しばらく読んでいると、先生が入ってきた。

それと同時に紗季達も後ろの出入り口から入ってきた。

なんか紗季の顔赤かったけど、大丈夫かな……?

 

☆☆☆

 

怠かった授業も終わり、皆が皆帰り支度を始めている。

僕もそろそろ帰ろうと、腰を上げ帰り支度を始めた。

すると、来阿が話しかけてきた。

 

「努!今日ゲーセン寄らねぇか?」

 

ゲーセンかぁ〜。魅力的な誘いだけど、今日はやめとくかな。やりたい事もあるし。

ん?やりたい事?睡眠だよ?

 

「今日はやめとくよ」

「珍しいね?努くんがゲームセンター行こうとしないなんて」

「まぁまぁ。今日はお二人さん水入らずで楽しんできなよ」

 

これ以上追求されるのはちょっとね……。眠いから帰るだなんて言えないしね?

こう言えばこの2人は照れ出すから、この隙に帰るとするかな。

 

「ばっ!おまっ……///」

「えへへ///」

「んじゃねー」

 

さてと、脱出成功☆

帰るとしますか〜。

 

「ま、こういう時は努は寝たいから帰るんだもんね」

 

いつの間にやら紗季が隣にいた。

流石腐れ縁と言うべきか。こういうのはお見通しのようだ。

ヨノワールですか?あなたは。

 

「ま、そうだね。じゃ帰るか」

「うん!」

 

そんな可愛らしい笑顔で笑われると、幼馴染として恥ずかしいような、嬉しいような気分かな。

 

☆☆☆

 

駅で紗季とも別れ、今僕は家に向かって1人で帰宅中である。

と言っても、もう目の前なんだけどね?

その前に、家の前で話してる人たちに声をかけとこ。

 

「こんにちは。百斗さん、光樹さん。」

「やぁ、努!」

「こんにちは。努くん」

 

やぁと返事したのが、滝沢 百斗さん。滝沢さん家の次男さんだ。

そして、もう1人が藍沢 光樹さん。

叶音さんの兄にあたる人で、この人には二卵性の双子の兄の翔さんがいる。

 

よくこの滝沢さんとこと、藍沢さんとことは、仲良くしている。

本当ありがたい話だ。

 

「努くん。ブルンゲルの対策出来た?」

「ブルンゲル許すまじ」

「だってさ。そろそろヤバイかもね?百斗さん?」

「あはは……」

 

これは、某化け物ゲームの話だ。

僕は百斗さんのブルンゲルというポケモンにボッコボッコにされた事があった。その時から僕は百斗さんのブルンゲルを、絶対に許さないと心に誓った。

 

「まぁ僕も易々とはやられないけどね〜」

「俺もそろそろ育成に入らなきゃ」

「光樹さんは読めないから本当苦手……」

「そういうコンセプトだしね」

 

だって!光樹さんさ?予想外の育成方法でこっちをあっと言わせてくるんだよ!しかも、それが妙に強いという……。

 

「それじゃ、そろそろ時間かな?」

「そうだね。帰ろうか」

「といっても、目の前ですけどね〜」

 

そりゃ、お互いの家の前で話してればねぇ。

そう言って、僕たち3人はそれぞれ自宅に入った。

滝沢さんの家からは明るい声が聞こえ響いていて。

藍沢さんの家からは、叶音さんの声が聞こえてきて。

それを少し羨ましく思いながら、僕は自分の家のドアを開けて、こう言った。

 

「ただいま!」

 




【家族トーク】
務「こんにちは~」
来「ここでは初めましてだね」
瑠「皆初めまして!」
務「瑠璃!? なぜ瑠璃がここに! まさか自立で脱出を!」
瑠「え、なんでも何も呼ばれたから来たんだけど」
来「さてさて。俺たちのことは本編に何回か出てるか知ってると思うけど、今回では俺たちと紗季は昔からの付き合い……てわけじゃないんだよね」
務「そうだね。高校になってから知り合ったんだよね~」
瑠「さて、そんな務くんこと羽生務くんにも私達同様中の人がいます」
来「こちらになります。どうぞ!」

羽生 努

滝沢家の近所に住む少年で高校一年生。
滝沢家に負けず劣らずの夜更かし堪能組でこちらも活動時間が夜遅い。
黒愛、叶音の中学の先輩でもあり仲は良好。(そのため針のような視線を常に受けているが)
一つのことへの執念が強かったり変なこだわりがあったりと謎なところがあったり?

務「雑か!」
瑠「それでこっちが紗季ちゃんのものになります」

春海 紗季

羽生努の幼馴染で親同士の交流も深い。
昔から羽生のことを大事に思い、同時に想っているが一つのことに集中する彼にはなかなか気づいてもらえない?
苦悩の毎日を送っている恋する乙女。

来「ちなみにあとがきでのキャラと本編でのキャラは別人だと思って頂戴ね」
務「なぜ今それを言った」
瑠「こっちでツッコミをしてるからって本編でボケないってことはないし、本編でしっかりしてるからってこっちでしっかりするってこともないからね」
務「そろそろ話し戻さない?」
来「いいよ。何から話す? 「実は最初、滝沢家も藍沢家も全員出すつもりだった」とか話しちゃう?」
瑠「今回名前すら出てないのって梓さんと清風さんの二人だけよね」
務「まぁ文字数とかで書かなかったないし書けなかった。て線が濃厚だけどね」
来「なんで書いた本人が曖昧な回答なんだよ」
務「だってこれ書いてる人と本編書いてる人別なんだもん!」
瑠「と、いうわけで結論は神のみぞ知る」
来「あ、翔の存在が薄かったのは、翔の存在を光樹を書くまで忘れていたからなんだってさ」
務「翔ごめんね!」
瑠「段々扱いが酷くなってるよね。かわいそうに」
来「そう思うならもうちょっと感情入れてやれよ」
瑠「えー」
務「はいはーい。時間がないから今回はこれで終わりにするよ!」
来「なんか無駄に長くなった気がしないでもないが」
瑠「ま、次回以降もこんな感じでやっていくからよろしくね!」
務「それじゃあバイバーイ」


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29話 リア充を観察せよ!

お待たせしました第29話!!

ちょっと濃密な話が多かったので今回はちょっとした小話を。

ではどうぞ~


男性から見て看護系の学校に入っていちばんの問題といえばやはり男子の少なさではないだろうか。

その結果、男子たちは各学年だけでなく、全学年通じて協力し男子コミュニティを形成することで強大な女子たちの力に対抗して行く……

だが、男子の中にも男子を敵に回しつつある人物もいる。

 

 

 

 

 

 

 

−−滝沢清風。

 

 

 

 

 

 

彼の天然ジゴロに多くの女子たちがやられた結果、他の男子が女子たちを狙いに行きにくくなっているのである。

ちなみに最近もう一人彼女を作った裏切り者、藍沢光樹という奴がいるがあれはとりあえずどうでもいい。

強いていうならば爆ぜろリア充、弾けろシナp……おっと、間違えた。

とにかくだ、我々と清風の何が違うのかこの私、RTN、リア充とってもなりたい委員会会員No.102の私が調査しようと思う。

 

 

 

 

 

さて、今日もやはり藍沢光樹と共に登校か。

まさか……そんなバカな……

もしや、奴を毛嫌いするのではなく逆に仲良くすることでリア充になれるということか!

これは我々の失策であったということか……

い、いや、まだ結論を出すには早すぎる。

まだ調査を……って清風はどこへ消えた!?

くそう、あいつこの私の尾行に感づいた上に私を撒くとは……

仕方がない、情報を……ん?

あれはいつも一緒に行動している女子三人組、江波彩加、中澤弥栄、的場奈緒ではないか……

何やら怒っているようだが……

まさか、あれはリア充崩壊イベントの修羅場という奴なのでは……?

早速行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、急に呼び出しちゃって。でもどうしても直接伝えたいことがあって」

 

「ううん、それはいいけど……どうかしたの? 教室じゃ言いにくいことなんでしょ?」

 

「あったりまえじゃない! あんたわかってないの? この状況、このシチュエーション、どう考えても私たちが言いたいことなんて1つでしょうよ!」

 

中澤よ、その低身長で何を言っても怖くないぞ……?

しかし、これでわかってしまった。

この場は我らが最も望み、望まぬ場面である。

だが、これも我らがため。しかと見せてもらおう。

 

「私たちみんなあなたと付き合って欲しいと思ってるの。でもいくら仲がいいとは言ってもこればかりは譲れない。だから、あなたが私たちの中で誰がいいか選んでくれないかしら?」

 

「え、えーっと……なんで3人でじゃダメなの? 別に付き合うくらいするけど……」

 

「ばっ! ダメに決まってるじゃない! 欲張りすぎよ!」

 

的場、その通りだと私も思う。

まさかこいつ、最初から狙ってハーレムを作り出していたとは……やはり敵かっ!

 

「欲張り……? だってみんなで一緒の方が楽しいしいつも仲がいい的場さんたちをバラバラにするのは申し訳ないと思っただけなんだけど……」

 

「……彩加、奈緒、私たちの負けね」

 

「そう言えば私たち、清風くんのこういうところがよかったからなのよね……」

 

「べ、別に私はどっちでもよかったんだけどね!」

 

おお〜清風に引き出されたのは複雑だが的場のツンデレはありがたや……やはりうちの学校の女子はレベルが高い。

 

「あんた、ここまで言ったんだからそれなりの責任は取りなさいよね。わかってるわよね」

 

「も、もちろん、やることはやるよ」

 

「あ、あんたもそういう……!」

 

「え? もちろん責任は果たすよって意味だけど……」

 

「せ、責任!? いくらなんでも気が早すぎるわよ!」

 

中澤が走り去った。追って的場と江波をその場を去る。

しかし、清風もやはり男か。

女子、それも多人数で行いたいとは……

 

「うーん、買い物の荷物持ちくらいいくらでもやるよって意味だったのに……なんか変なこと言ったのかな……?」

 

……は?

お前、馬鹿なの!?

完全にアレじゃん、おれらが望んでるのにこないイベント、告白イベントだったじゃん!

なんなのお前!

それをどうやったら買い物の誘いと間違えられるの!?

むしろなんでそんなに馬鹿なの!?

さすがに頭大丈夫か疑うよ!?

 

 

 

……はぁはぁ、少し取り乱してしまった。

私としたことがまだまだ修行が甘いということだな。

しかし、本当に何故だ。

むしろわざとかと思うレベルだぞ?

まさか現実の世界に難聴系鈍感主人公キャラが存在したとは……

つまりこれは我々のせいではない。

ただただ清風の主人公補正がすごすぎるということだな。

だが、逆に言うとこれは我々にチャンスすら与えられないということなのでは……?

それはそれで困る。

やはり清風には何かしらのミスをしてもらい、女子たちに失望してもらわなければならない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもこれでわかったぞ、女子にモテる秘密!」

 

「そこのお前、ちょっといいか?」

 

「え? あ、はい、なんでしょう……」

 

「見た所お前、ここの生徒ではないようだが……どうしてここにいる」

 

「え、えーっと……」

 

「ちょっと職員室まで来てもらおうか。何、少しオハナシするだけだ」

 

「えっと、その……」

 

「覚悟は……できているよな……?」

 

 

 

 

「嫌だー!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「あれ……なんか今聞き覚えのある声がした気が……うん、きっと気のせいだよね」




さて、どこかでみたことあるようなないようなww

ちなみに最後の説教を受けた人。
名言はされてませんが藍沢家の問題児です。

読者様さん
ここまでいえば
わかるわね?

ではまたw


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30話 小さな台風が来た休日

お待たせしました‼

今回は30話という事でちょっと長めのお話を!!

この作品ももうそんなに話数出てるんですね~
これからもよろしくお願いします‼

あと前回の後書き、忘れてました申し訳ございません‼

では本筋、どうぞ!!


「というわけで、預かってきた」

 

どういうわけ!?

そもそも誰を!?

うちの前に車が止まる音で目が覚めた私はまだ眠い目をこすりながら下に降りてすぐ光樹お兄ちゃんに言われた。

 

「光樹、さすがに省略し過ぎじゃね?」

 

「だよね~」

 

ならちゃんと説明して! って言おうといたら私のおなかの下の方に鈍い衝撃が来た。

視線を下にすると私にちっちゃい女の子がくっついていた。

その子も私の視線に気づいたようで私を見上げてくる。

ぱっつん前髪に大きなくりくりとした目。髪の両サイドを細く結んだその子は私も知ってる子で。

 

「おはよ! かのんおねえちゃん!」

 

「うん、おはよ、ひなちゃん。ちょっと久しぶりだね」

 

私のいとこの赤城ひなのちゃん、通称ひなちゃん!

お母さん同士が姉妹でうちのお母さんの方がお姉さん。今でもすっごく仲良くて、よく二人でお出かけしてるんだ。

 

「お母さんは?」

 

「ひなちゃんのお母さんと出かけた。俺らがいるからってひなちゃんを預かったってわけ」

 

ああ、またひなちゃんおいていかれちゃったんだ……まあ本人は全くそんな風に思ってないみたいだけど。

私たちと遊ぶ方が楽しいって自分でも言ってたし。

 

「なるほど~それで、いつお迎えに来るの?」

 

「明日の昼頃」

 

「へ?」

 

驚き過ぎて思わ変な声出ちゃった。

ちなみに抱っこをせがまれて私はひなちゃんを抱っこ中。とっても気持ちよさそうにしてくれるのはうれしいんだけど、私あんまり体力とか筋力とかないから長い時間は大変かも……

 

「明日の昼まで……つまりそれまでひなちゃんと遊び放題キタコレ゛ッ!!」

 

「女子だったら見境なく手を出すなこの変態」

 

「やっぱり光樹は冷たい……やっぱり俺の味方は……かの~ん」

 

「う~ん、私もさすがに……」

 

「ついに叶音も冷たく……もしかしてこれが反抗期……? お兄ちゃん悲しいよ……」

 

だってまだひなちゃん3歳だし、幼稚園年中さんだし。

 

「かのんおねえちゃん、ひな、どっかいきたい!」

 

「どこかかぁ……ひなちゃんは行ってみたいところってある?」

 

時々ゆすってあげながら抱っこを続けてるけど、ほんとにちょっと疲れてきたよぉ……

 

「う~んとね、え~っとねぇ……うさちゃんのとこ!」

 

「うさちゃんのところかぁ……ひなちゃん好きだもんね」

 

「うん!」

 

「じゃあ、ちょっとお兄ちゃんたちと話してくるから一回降りてもらっていい?」

 

ちなみにうさちゃんのとこっていうのは近くの、って言っても車で40分くらいのところだから近くもないんだけど、ふれあい動物園のこと。ウサギとか、かめとか、馬とかヤギとかいろんな動物がいて抱っこしたり、えさやりしたりできてとっても楽しいから私も好き!

それで、ウサギがとっても好きなひなちゃんはウサギのところに一日中いるんだよね、だからうさちゃんのところ。他にも動物はいるけど目もくれずにウサギのところに一直線だから多分ウサギ以外の動物のことは知らないと思う。

 

「いや! ひなもいっしょにいく!」

 

まさかの拒否……でも私そろそろほんとにつらい……

 

「じゃ、じゃあ一緒におてて繋いでいこ? 私ちょっと疲れちゃった」

 

そういうと素直に降りてくれた。ならもうちょっと早くお願いすればよかったよ……腕がすっごく重たくなっちゃった……

 

「というわけで、お兄ちゃん、ひなちゃんがふれあい動物園に……「うさちゃんのとこ!」うん、うさちゃんのとこだね。そこに行きたいって言ってるんだけど、免許もってないよね?」

 

私がひなちゃんの頭をなでると気持ちよさそうに目を細めてくれた。

 

「俺も翔も忙しいからまだとってないな」

 

「だよねぇ……」

 

せっかくだからひなちゃんが行きたいところに連れてってあげたいなって思ったのに……

でもしかたないよね。

 

「ごめんね、今日車運転できる人がいないからおうちであそぼ?」

 

「や! うさちゃんとあそぶの!」

 

そうだよね……私がもうちょっと気を使ってあげればよかった……

近くでウサギと触れ合えるところ……

あ、そういえば

 

「「「黒愛ちゃん(梓さん)(きよくん)のとこは?」」」

 

さすが兄妹、息ぴったり。

 

「確か黒愛ちゃん、ウサギのぬいぐるみ持ってた気がするし!」

 

「ちょっと申し訳ないけど百斗さんか加奈さんにお願いして連れてってもらってもいいし!」

 

「多分あの兄弟なら何とかしてくれそうだし! あと加奈さんとか黒愛ちゃんに会いたいし……」

 

翔お兄ちゃんの動機は若干不純な気がするけど、私たち三人の意見は同じだった。

でも問題はひなちゃん。何とか説得しないと……

 

「ねえひなちゃん、お外見てごらん」

 

「……?」

 

私が考えてると光樹お兄ちゃんがひなちゃんと話し始めた。

 

「あそこに止まってる車さんは誰のかわかる?」

 

「ママの?」

 

ひなちゃんがお兄ちゃんを見上げながら聞く。

確かにあそこから見えるのはひなちゃんのお母さんのだけど、今日会社の人とどこかに行ったお父さんの車が裏にあるのに、お兄ちゃんどうしたんだろ?

 

「うん、ひなちゃんのママのだね。ひなちゃんは遊びたいおもちゃがあるとき、そのおもちゃを持ってる人に何て言わなきゃいけないってママから聞いてるかな?」

 

「え~っとねぇ……かしてっていわなきゃいけないっていわれた!」

 

「そうでしょ? でも今ひなちゃんのママがいないから貸してって言えないよね?」

 

「うん……」

 

「だから、今日はうさちゃんのとこ、行けないの。ごめんね?」

 

「うぅー……」

 

お兄ちゃんすごい……まだちょっと不服そうだけど納得してくれたみたい!

 

「ね、その代わり、お散歩に行っておうちじゃないところで遊ぼうよ! お出かけはしよう」

 

「うん! おさんぽいく!」

 

納得しちゃった! さすがお兄ちゃん、小児科の看護師を目指すって言ってただけのことはある。

 

「すごいよ、お兄ちゃん!」

 

「この前授業でこういうこと習ったばっかりだったから。それより叶音は早く着替えろよ。まさかパジャマのまま出かけるわけじゃないだろ?」

 

そういわれて私はようやくパジャマのままなことに気づく。ってことは髪も……

 

「な、なるべく早く準備するから!」

 

それだけ言い残して私は急いで自分の部屋に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっと寝癖を直してピンクの細いリボンで左側のひと房だけ髪を結ぶ。

うーん、しばっちゃったけどどんな格好で行こう……? ひなちゃんと遊ぶとなるとかなり頑張らないといけないし、スカートじゃない方がいいかな?

じゃあせっかくだから前に加奈さんにもらったパンツとTシャツにしよっと。

あとは最近お気に入りの小さいリボンがかわいい黄色いバッグにお財布と、ゲームとあと一応持ってた方がいいものをいくつか入れて……支度完了っ!

 

「ひなちゃんお待たせ! お散歩いこ!」

 

「うん!」

 

ひなちゃんと手をつないで玄関を抜ける。

私にとっては歩きなれた道でもひなちゃんにとっては新鮮みたいでいろんなところで立ち止まってはこれ何って聞いてくる。なかなか答えるのが難しいのもあるけど聞いてくれるのはうれしい。でも難しいのはお兄ちゃんに任せちゃってるけどね。お兄ちゃんたちも難しい言葉を使わないで説明するのに苦戦してるみたい……

そんなこんなで普段なら10分くらいで回れるところを30分くらいかけてゆっくり回って、私たちも実は知らないところを見つけられたりして面白かった!

 

「あ、ひなちゃんそっちじゃなくてこっちだよ」

 

素直に私の家に入ろうとするひなちゃんを止めて黒愛ちゃんちの方を指さす。

不思議そうに首をかしげるひなちゃんの手を引いて私たちはお隣さんへ。いつも通り、ってあんまりよくないんだけど、インターフォンを押してそのまま中に入る。

 

「こんにちは~!」

 

「あ、いらっしゃい……ってその子誰?」

 

出迎えてくれた加奈さんが今にもひなちゃんにとびかかりたそうにしてる……加奈さんも、黒愛ちゃんも可愛い子に目がないもんね……

 

「あ。この子は叶音の子供です」

 

「え?」

 

「「え!?」」

 

ちょ、ちょっと光樹お兄ちゃん!?

しかもいつの間にか黒愛ちゃんいるし!

 

「叶音ちゃんの子供!? あ、よく見れは目元とか似てるかも!」

 

「子供ってことはやったの!? 誰と!? ねえ、叶音ちゃん誰とやったの!?」

 

確かに似てるとこあるかもだけどそれはお母さんたちからのものだし!

あと黒愛ちゃん、私が何をやったって聞いてるの!?

 

「違います! この子は赤城ひなのちゃん。私のいとこです!」

 

もみくちゃになりながらなんとか叫ぶ。

それを言うとようやく納得してくれたのか、解放してくれた。もう、髪がぐちゃぐちゃだよぉ……

 

「ほらひなちゃん、自己紹介」

 

光樹お兄ちゃんがひなちゃんにそう言ってひなちゃんは元気良く頷いた。翔お兄ちゃん? なんか必死でいろんなものを押さえてるんだって。何してるのかよくわかんないけど。

 

「うん! あかぎひなの! 3しゃい!」

 

「うん、ひなちゃんだね、初めまして! 私は滝沢加奈。よろしくね。それでこの子は……」

 

「加奈ねえの妹の黒愛だよ! みんなからはこっつーとかこっつんって呼ばれてるよ! よろしく、ひなちゃん!」

 

「うん! かなおねえちゃん、くろめおねえちゃん!」

 

「「ぐふぅ……」」

 

2人が鼻血出して倒れた!?

加奈さんのこれは前に見たことあるけど、やっぱり姉妹というべきか黒愛ちゃんもなんだ……ってそうじゃなくて!

 

「お兄ちゃん!」

 

「は、加奈ざっ!」

 

「翔、邪魔。叶音、キヨくん呼んできて。1人じゃ2人の相手できないし。あ、ついでにひなちゃんを百斗さんのとこに預けてきて。これはさすがに怖いだろうし……百斗さんと翔と3人でひなちゃんの相手してあげて?」

 

「う、うん! ひなちゃんいこ!」

 

「うん……」

 

あちゃー……やっぱりちょっと怖かったかな?

しばらくすれば治ると思うし大丈夫だと思うけど……

 

「あれ? 光樹ってあんなキャラだっけ……?」

 

翔お兄ちゃんがちょっと痛そうに呟くのが聞こえた。

うん、私もあんなに怖かったかなって思ってたよ。でもきっと真剣だったから周り見えてなかっただけ、だよね?

 

 

 

 

「こんにちは〜」

 

「こんにちは、叶音ちゃん、翔と……」

 

「いとこの赤城ひなのちゃんです。私たちだけじゃちょっと相手するの大変なので……」

 

「加奈ねえたちを頼りに来たってわけね。それで加奈ねえは……?」

 

「あ、そうだった! キヨさん、加奈さんと黒愛ちゃんが!」

 

「……ああ、いつものね。光樹が処置してくれてるのかな? 俺も手伝いに行ってくるよ」

 

黒愛ちゃんたちのことも伝えて一安心。

さてと、ひなちゃんとたくさん遊ぶぞ〜!

 

 

 

「さてひなちゃん、何してあそぼっか?」

 

「う~ん……おままごと!」

 

「えっと、百斗さんおままごとの道具ってあります……?」

 

「たぶん物置部屋にこっつーのがあったはずだよ」

 

「じゃあそれ貸してください!」

 

「うん、見てくるね〜」

 

「お願いします」

 

私もちっちゃい頃、黒愛ちゃんとよくおままごとしたなぁ……懐かしい。

まだ残ってたんだ、あれ。なんだか嬉しいな。

 

「お待たせ〜」

 

「わぁ、やっぱり懐かしい!」

 

「叶音ちゃんはこっつーとこれでよく遊んでたもんね〜」

 

「はい!久しぶりだなぁ……」

 

「お姉ちゃん、おままごとしよっ」

 

「うん! じゃあ百斗お兄ちゃんにお料理作ってあげようか」

 

「うん!」

 

おもちゃのキッチンを広げておままごとの準備。

とりあえず……普通のプラスチックのの方がいいよね?

私がちょっと大きくなってから加奈さんからもらったフェルト製のやつも持って来てくれたけど、これはまだひなちゃんに渡すと危ないかな……?

普通のよりちょっと小さいし。もちろん飲み込めるサイズじゃないけど接着用に何使ってるかわかんないしね。

 

「はいひなちゃん。お野菜に、お肉に、卵も持って来たよ〜何作ろうか?」

 

「んとね、おこさまランチ!」

 

「おっけー、さあ可愛く作って百斗お兄ちゃんをびっくりさせちゃお!」

 

「おー!」

 

私は頼まれた時以外はひなちゃんの様子を見てるだけにしようかな?

まずは……ご飯だね。ケチャップライスが富士山みたいな形になってるのをお皿に乗せて。

あと、ポテトサラダにエビフライに、ハンバーグ……

デザートは……イチゴのショートケーキなんだ!

美味しそうにできたね。

 

「できたー!」

 

「うん、すっごく美味しそうだね!」

 

「うん、かわいくできたかな?」

 

「できたと思うよ。さあ、百斗お兄ちゃんに食べてもらお!」

 

「うん、ととおにーちゃーん!できたー!」

 

「おー、美味しそうだね!いただきます!」

 

百斗さんも慣れてるなぁ、さすが黒愛ちゃんのお兄さん。

こういうの相手にするの上手だ。

しばらくすると加奈さんと黒愛ちゃんも復活して今度は6人で鬼ごっこをすることに。

それにしても家の中で鬼ごっこってやっぱり黒愛ちゃんの家は広いなぁ。

 

「まてまて〜!」

 

「鬼さんこちら〜」

 

「ひなちゃんこっちおいで〜」

 

いや、加奈さん、逃げてくださいよ!

あ、でもそう言えば私が小さい頃も私や黒愛ちゃんが鬼になると途中で逃げるのやめてくれてたっけ。

あの時は疲れちゃったっていう加奈さんの言葉を信じてたけど、実は私たちが楽しめるように、適当なところで鬼変わってくれてたんだ。

本当に、加奈さん優しいね。

 

「あちゃー捕まっちゃった。ひなちゃんすごいね!」

 

「えへへ、次かなおねえちゃんおに!」

 

「よーし、ひなちゃん捕まえちゃうぞ〜」

 

「やだー!」

 

加奈さんは本当に慣れてる感じだよね。

梓さんに、百斗さん、キヨさんに黒愛ちゃん、それに私、もしかしたらお兄ちゃんたちもかも? ってくらいお姉ちゃんなんだもんね、当たり前なのかな。

それにしてもみんな、ずっと動いてるよね……私、そろそろ疲れてきたよ……

でもなんか鬼になるのは悔しいし、上手く書くれて休憩しながらにしよっと。

ちょうど近くにいいところあった。

小さいころ、かくれんぼとかしてた時も見つからなかったここならちょっと休憩するくらいならバレないよね。

ふぅ、それにしてもひなちゃん楽しそうでよかった。完全にうさちゃんのことも忘れちゃってそうだけど、加奈さんたちにこれ以上迷惑かけるよりはいいよね。

さてと、少し息も戻ったしそろそろ……

 

「叶音ちゃん、みーつけた!」

 

「きゃっ! か、かなさん!?」

 

え、なんで!? 絶対見つからないと思ったのに!

 

「叶音ちゃんって昔からここに隠れるの好きだよね〜かくれんぼとかちょっと隠れたい時にいっつもここにいるんだもん」

 

え、えー……もともと気づかれてたんだ……

まだ小さいからって見逃してくれてたんだ……

なんか嬉しいような悔しいようななんだけど!

 

「ということで、タッチ! 次叶音ちゃん鬼ね」

 

「はぁ〜い……」

 

すぐに捕まえるんだから……!

覚悟してください、加奈さん!

 

「あらあら叶音ちゃん、ムキになっちゃってどうしたの〜?」

 

「絶対捕まえますから覚悟してください」

 

「この家のことをどっちが知ってると思ってるのかなぁ?」

 

く、くぅ〜! 余裕ぶってられるのも今のうちなんですから!

 

 

 

 

 

そして数分後。

 

「もう来ないの?」

 

「加奈さんいじわるです……」

 

完全に負けました……

加奈さんさすが……

 

「かのんおねえちゃん、だいじょうぶ?」

 

「だ、大丈夫だよーちょっと疲れちゃっただけだから。でね、ひなちゃん」

 

「うん、なあに?」

 

「今、おねえちゃん鬼なんだ。捕まえちゃうよ?」

 

「やだ!」

 

おお、速い速い。

やっぱり元気だね。私ももうちょっと体力つけたほうがいいのかな?

さてと! ひなちゃん追いかけよっ!

 

「待て〜!」

 

「やだ〜!」

 

「ただいm……」

 

「あ、ひなちゃんストップ!」

 

ちょうど帰ってきた梓さんにひなちゃんがぶつかっちゃった!

梓さんも慣れてるから大丈夫だとは思うけど……

 

「ほら、大丈夫か? 怪我してないか?」

 

「う、うん、だいじょうぶ! おにーさんだれ?」

 

「おれh……」

 

「ひなちゃん大丈夫!?」

 

あれ……?

梓さんと加奈さんが一瞬で場所入れ替わった気が……

っていうか梓さんはどこに?

あ、開いてるドアから外に飛ばされちゃったんだ……

誰か女の人にお姫様抱っこされてる? あ、落とされた。

なんか、なんだろ、この気持ち……やっぱり、そう、なのかなぁ……

 

 

 

「さて、梓も帰ってきたしお昼にしよっか!」

 

「わ〜い! おひる〜!」

 

お昼ご飯……あ、私たちどうしよう?

って言ってもきっと加奈さん作ってくれる気なんだろうなぁ。

 

「加奈さん、手伝いましょうか?」

 

「ん? ああ、いいよ、梓に手伝わせるし。ひなちゃんの相手してて」

 

「そうですか? わかりました」

 

う〜ん、やっぱり断られちゃった。なんとなくわかってたけどね。

じゃあ私はひなちゃんと遊んでよっと。

なんかいつもより加奈さん張り切ってる気がする……

やっぱり可愛いからかな?

黒愛ちゃんも加奈さんも可愛い子好きっていつも言ってるもんね。

私が可愛いって言われるのはまだ慣れないけど……

私、そんなこと全然ないと思うんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

お昼を食べた私たちは午後もたくさん遊んでお夕飯もしっかり食べて……

 

 

 

「お風呂はいろっか、ひなちゃん」

 

「うん! ととおにーちゃん、一緒に入ろ?」

 

「え、ええ! ぼ、ボク!?」

 

あ、そういえばひなちゃんってお母さんよりもお父さんと入るほうが多いんだっけ……

で、今日一番長く遊んでくれてるから百斗さんなんだね、きっと。

でもこれきっと……

 

「ひ、ひなちゃん、あのn……」

 

「ひなちゃん! 私とお風呂はいろ! なんなら女の子みんなで入ろ!」

 

あ、やっぱり……って、なんだかそう思っちゃったらいよいよダメな気がしてくるよぉ〜……

でもこれはさすがにひなちゃん怖がるんじゃないかな……?

 

「……すっごーい! かなおねえちゃん、しゅんかんいどーできるの!? それにととおにいちゃんも……あれ? ととおにいちゃんはざんねんでした?」

 

……こ、子供って純粋だなぁ……って、私も子供か。

えへへ、なんだかやっぱり変な感じ。私もみんなからこんなふうに思われてたのかな?

それにしてもいつも壁って誰が直してるんだろうね。

あ、ひなちゃんが百斗さんの頭なでなでしてる。

もうここまでくるとひなちゃん狙ってるんじゃないかな? って疑うよね……

 

「と、とりあえず! ひなちゃん、お風呂いこ?」

 

「うん、おっふろ、おっふろ〜!」

 

ふぅ、これで一安心。加奈さん、本当にいつもは優しくて頼りになるのになぁ……

 

「珍しいね、叶音ちゃん。自分から一緒にお風呂なんて」

 

えっ? ……あ……加奈さんそう言えばみんなでって……

嫌じゃないんだけど、恥ずかしいし……あと黒愛ちゃんもなんか、触ってくるし……

 

「私も一緒に入りたいから嬉しいけどね! 叶音ちゃん!」

 

「きゃっ! もう、黒愛ちゃんってば……」

 

急に後ろから抱きついて来たら危ないよ?

なんだか押し切られちゃった感じはするけど久しぶりだしいいかな?

 

「おねえちゃんたちなかよしさんなんだね!」

 

「そうだよ〜仲良しさんなの。ひなちゃんもおいで〜」

 

「うん!」

 

えへへ、ひなちゃんはやっぱり私の腰くらいまでだね。

 

「あ、ずるーい! 私も入れて!」

 

か、加奈さん……さすがに私真ん中は少し苦しいです……ひなちゃんがちっちゃいからまだ平気だけど……

 

「うん、とりあえず満足した。みんなでお風呂いこ〜!」

 

「「「はーい」」」

 

ひなちゃんもいるしせっかくだからみんなでの方が楽しいもんね!

 

 

 

 

「それにしても加奈さんって本当に大きいし綺麗ですよね」

 

「そ、そう?」

 

「そうだよ! 私なんて加奈ねえと同じもの食べてるはずなのに……」

 

「ほ、ほら! 叶音ちゃんもこっつんもまだこれからだから大丈夫大丈夫!」

 

「ひなはひなは?」

 

「うん、ひなちゃんもそうだね〜」

 

きっとひなちゃんはなんのこと話してるのかわかってないんだろうなぁ。仲間はずれっぽかったのが嫌なだけだよね、きっと。

 

「ひないっちばーん!」

 

「ほらほら走ったら危ないよ」

 

「ひなちゃん、あとで頭洗ってあげるね」

 

「うん!」

 

いくら髪がそんなに長くないとはいえひなちゃん一人じゃうまく洗えないからって言ったら加奈さんがすぐにやってくれるって言ってくれた。

昔黒愛ちゃんの髪も洗ってあげてたんだって。

 

「じゃあひなちゃん先に洗っちゃおうか」

 

「うん!」

 

「じゃあシャワーするから目をぎゅーってしててね」

 

「ぎゅー!」

 

あはは、ひなちゃん口に出ちゃってる。でもちゃんと目はつぶってるんだね。えらいえらい。

 

「あ、ごめんね、ちょっとそのまま待ってて」

 

「んー?」

 

どうしたんだろ?

加奈さん、急にお風呂のドアの方に……

 

「翔く〜ん? バカなことはやめようね?」

 

「か、加奈さんのh……」

 

お、お兄ちゃん……

さすがにそれは引くよ……

どこまで飛ばされたんだろうっていうか加奈さんのあれどうやってるんだろう……?

 

「だ、だが見たぜ、加奈さんの……」

 

「大丈夫なんですか、あれ……」

 

「男の子だから大丈夫でしょ。それによく言うじゃない、強い衝撃を受けたら記憶が残らないって」

 

なんとなく大丈夫な気がするから何にもいえないや……

光樹お兄ちゃんにも彼女ができちゃったし焦ってるのかもしてないけど今回のはされて仕方ないんじゃないかな……

 

「さすがに覗きはねえ……やっぱり男子ってああ言うのやりたいのかな?」

 

「そ、そうなのかも?」

 

「それにひきかえ私は女の子だから……」

 

「く、黒愛ちゃん?」

 

「叶音ちゃんに触り放題!」

 

「ひゃっ! 黒愛ちゃ……変なところさわら、ない、で……」

 

なんだかくすぐったいし、恥ずかしいよぉ……

 

「う〜ん、いつも思うけど叶音ちゃん相変わらずピュアな反応だよね。自分でしないの?」

 

「しないって何を?」

 

「えっとねぇ……」

 

「こっつん? それ以上はダメだよ」

 

「はーい」

 

う〜ん、何度かそうやって聞かれたことるけどなんのことなんだろう……なんかいつも加奈さんに止められるし、こういうことした後に黒愛ちゃんが聞いてくるからなんとなくお兄ちゃんたちにも聞けないし……

でも知らなくていいって言われてるから何も調べてないけど……ちょっと気になったりもする。

今度理咲さんに聞いてみようかな。

 

「は〜い、おしまい! お姉ちゃんたちと交代ね〜」

 

「ありがと、加奈お姉ちゃん!」

 

「うん、どういたしまして!」

 

加奈さん、無駄です、すごく顔緩んでますよ。

というかもう今更遅い気が……

 

「叶音ちゃん、洗いっこしよ!」

 

「うん、いいよ!」

 

黒愛ちゃん、洗うのすごく上手で気持ちいいんだよ!

そのまま寝ちゃいそうなくらい……はっ! ちゃんと起きてないとね、えへへ。

結局色々お話ししたり遊んだりしてたら結構長くお風呂はいっちゃった。

久しぶりのみんなでお風呂、楽しかったなぁ。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいことに変わりはないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいさんは金之助に言いました。『お前はこれから……ん?」

 

絵本の読み聞かせをしてたらひなちゃん、いつのまにか静かな寝息を立てて寝ちゃってた。

おやすみ、ひなちゃん。

 

 

「ひなちゃんすぐ寝ちゃいました」

 

「ありがと、叶音ちゃん」

 

「いえ、私も楽しんでますし!」

 

声をかけてくれた梓さんの隣に座る。

梓さん、かぁ……

彼女さん、いるんだよね……

私のこの気持ち、なんなんだろ……

 

「光樹くん、翔くん、ちょっと」

 

「はい! なんですか、加奈さん!?」

 

お兄ちゃん、テンション高いなぁ。

でも加奈さん、どうしたんだろ……

なんか小さい声で喋ってる……

 

「何話してるんですかね?」

 

「なんだろうね? まあでも加奈ねえなら何か考えがあってなんだと思うし何か危ないことさせようってわけじゃないと思うから心配いらないよ」

 

「そうですよね」

 

う〜ん、でも気になる。

多分、私に関係ないとは思うけど……

 

「叶音」

 

「ふぁ……み、光樹お兄ちゃん?」

 

「なあ叶音、今お兄ちゃんに抱きしめられてどんな感じ?」

 

突然どうしたんだろ……? 加奈さんに何か言われたのかな……?

 

「ど、どんなって、安心する。暖かくて、優しくて……」

 

あっ、終わっちゃった……

みんなに見られてる……もしかして、声出ちゃってた?

は、恥ずかしい……

 

「梓さん、叶音を抱きしめてくれませんか?」

 

「え!?」

 

お兄ちゃん何言ってるの!?

 

「……は?」

 

「お願いします」

 

「……わかった」

 

「あ、梓さん……」

 

あ……あれ、なんだか違う……ドキドキ、しない……?

 

「なあ叶音、梓さんに抱きしめられてどんな気持ち?」

 

「すごく、安心する……お兄ちゃんと同じくらい暖かくて、安心する……」

 

……そっか、私、梓さんに恋してたわけじゃないんだ。

いつも私に優しくしてくれて、お兄ちゃんみたいに頼りになるしかっこいいけど、きっとこれはお兄ちゃんに感じるのと同じなんだね。

家族みたい。

えへへ、そっか、私の勘違いだったんだ。

 

「お兄ちゃん、ありがと」

 

「当然だよ、俺は叶音のお兄ちゃなんだから」

 

「そうだよね、翔お兄ちゃんも光樹お兄ちゃんも大好き!」

 

「俺も叶音のこと大好きだぞー!!」

 

「翔うるさい」

 

「光樹酷くない!?」

 

あはは、いつものお兄ちゃんたちだ。

私も、眠く……

 

「……ありがと、あずさおにい、ちゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叶音ちゃん、寝ちゃったね」

 

「多分安心したんだと思うよ。布団に連れてくね。ありがとうございました、梓さん」

 

「それは別にいいけどなんだったんだ、あれ?」

 

「ああ、加奈さんが叶音が梓さんに恋愛感情を持ってるのか悩んでることを見抜いて……」

 

「でもそうじゃないことはわかってたからちょっと荒療治。翔くんと光樹くんもごめんね」

 

「いえ、俺もなんとなく何かあることはわかってましたけど確証はなかったので。後腐れなく一番いい形だと思いますし」

 

「俺は全く気づいてなかったけどああいうところでかっこよく決めるの苦手だから光樹に任せて正解だったぜ」

 

「だからダメなんだよいい加減気づけバカ」

 

「なんか今日辛辣過ぎない!?」

 

「まあ光樹はいつものことじゃない?」

 

「同感」

 

「百斗さんにキヨくんまで!」

 

「まあお前の立ち位置はそこだあきらめろ」

 

「梓さん……」

 

「あ、そうそう梓」

 

「どうした、加奈ねえ」

 

「今回だけ、だからね……」

 

「い、イエスマム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん、ん〜?

……誰かの声……それにほっぺペチペチされてるような……

 

「ん〜……?」

 

「おはよ、かのんおねえちゃん!」

 

「あ、ひなちゃん、おはよ……」

 

あれ、昨日私いつ寝たっけ……

あんまり記憶ない……

あ、あれ、なんで黒愛ちゃんの部屋に……

お泊り、に、なっちゃったんだ。また迷惑かけちゃったなぁ。

ってそういえば今何時……?

 

「あ、もう9時!」

 

慌てて降りるともうみんな起きてた。

 

「ごめんなさい!」

 

「ううん、全然まだ寝てても良かったんだけどね、ひなちゃんがみんなを起こして回ってくれたの」

 

「そうだったんですか。ありがとね、ひなちゃん」

 

思わずお礼言っちゃったけど迷惑じゃなかったのかな……

 

「それでね、ひなちゃんがうさちゃんのところ行きたいっていうんだけど……」

 

「あぁ、えっと、車で30分くらいのところにふれあい動物園あるじゃないですか。あそこのことなんですけど」

 

「うん、それはさっき翔から聞いたよ。で、今から行こうって加奈ねえと百斗兄が言ってて……かのんちゃんも行くよね?」

 

「もちろんです! ちょっと待っててください!」

 

すぐ支度しなきゃ!

私も結構好きなんだよね、ふれあい動物園!

 

 

 

 

 

「お待たせしまs……なんだか増えてません?」

 

「うん、なんでだろうね……」

 

「先輩、この女の子誰ですか?」

 

「光樹と翔の妹の叶音ちゃんだよ。で、この子が……」

 

「先輩の後輩の飛鳥です! よろしくね、叶音ちゃん!」

 

「か、叶音です! よろしくお願いします、飛鳥さん」

 

「はぁ、可愛い! 先輩、この子妹にもらっちゃだめですか?」

 

「そもそもボクの妹じゃないからね? どっちにしてもだめだよ!」

 

楽しそうだけど、きっと百斗さん振り回されてるんだろうなぁ……

それにしても昨日梓さんが一緒に帰ってきてた梓さんの彼女さん、遥さんっていうんだって、もいるし、理咲さんもいるし、なんだかおおごとじゃない?

あ、美咲ちゃんもいる……黒愛ちゃんが呼んだのかな?

 

「どうせならみんなでって感じで人がたくさんになったんだよ……これじゃひなちゃんのためっていう目的から離れてるんじゃ……」

 

百斗さん、あきらめましょ。なんとなく誰が言い出したのかわかりますけど。

お向かえさんも驚いて窓から覗いてるし、なんだか申し訳ない感じがするよぉ……

 

「さて、みんなでふれあい動物園いくよ!」

 

『おー!』

 

まあひなちゃんもなんだか楽しそうだしいいのかな。

でも、これ乗れる……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乗れました、すごいね、車って。

 

「うさちゃんのとこいくっ!」

 

「ひなちゃん、走っちゃだめだよ!」

 

慌てて手を掴んでなんとか止める。ふう、危なかった。

今日は日曜日だし人も多いだろうからいなくなっちゃったら私たちが見つけられなくなっちゃう。

 

「私がひなちゃん見てるからみんな好きなところ行ってきていいよ」

 

「あ、私も残ります!」

 

さすがに加奈さんに任せちゃうのは申し訳なさすぎるよ!

黒愛ちゃんと美咲ちゃんも同じ部活だけど学年違うし……それにひなちゃん見てて可愛いしね!

 

「さすがに加奈さんと叶音に任せっぱなしもよくないから俺も残るわ。リア充ど……カップル組は1時間交代くらいで戻って来てもらっていいか?」

 

「おっけ、じゃあ俺らが最初に残るわ。それでいい、理咲?」

 

「いいよ」

 

さすが双子、息ぴったり。なんか若干翔お兄ちゃんが黒いところ発揮してた気もするけど気にしちゃ負けだって前に加奈さんに教えてもらったから気にしない!

結局、キヨさんにも残ってもらって6人でひなちゃんを見ることに。

無邪気にうさぎと触れ合うひなちゃんを見守ってるだけ、なんだけど……

 

「やっぱりうさぎさんもふもふ〜!」

 

せっかく来たんだから触らないと勿体無いよねっ! というわけで一緒になって楽しんでます!

ひなちゃんはうさぎさんを抱っこしたり追いかけっこしたりで目がキラキラしてるから喜んでるみたい。目を離さないようにしないとね。

加奈さんはやっぱりこういうのに目がなくてもうデレデレ状態だし、翔お兄ちゃんはうさぎを恨めしそうに見てたり、光樹お兄ちゃんは理咲さんといちゃいちゃしながらうさぎと触れ合ってるし、キヨさんも楽しそうだし、みんな楽しんでるみたい!

 

「あ、清風くんだ! なにしてるのー?」

 

あの女の子3人は……キヨさんの知り合い、というよりもお兄ちゃんたちの同級生さんかな? お兄ちゃんと理咲さんにも話しかけてるし。

あ、キヨさん、あの子たちに連れていかれちゃった……

き、きっとすぐ戻ってくるよね。

加奈さんも加奈さんでいつの間にかふれあいスペースからでて女の人とお話ししてるし……って、あれ?

 

「光樹お兄ちゃん、ひなちゃんは!?」

 

「1人で抜け出そうとしてた、っていうか抜け出してたから翔が追いかけたよ。そんなに広くもないし、翔じゃなくても誰かと会うと思うし心配しなくても大丈夫だよ」

 

びっくりしたぁ。こういうところは頼りになるんだけどなぁ……どうしてあんなに残念な感じなんだろ……

 

「そっか、そう言えばそうだったな。わかった、みんなでそっち行くよ」

 

あ、見つかったのかな?

お兄ちゃんが電話で話してる。

 

「というわけだ、いつものあそこ行くぞ」

 

「いつものって……ああ! そっか、そう言えば今日行ってなかったね」

 

「そういうこと。みんなを回収しながら行くから加奈さんと一緒に先行ってて」

 

「おっけー!」

 

問題はあの2人にどうやって割り込もうかなってことだよね。

お話ししてるのを邪魔するのもよくないし、でもあっち行きたいし……

 

「あれ? かなっち、この子は? 知り合い?」

 

「あら、叶音ちゃん。どうしたの?」

 

「えっと、ここにきたらいつもきてるところがもう1つあるのでそこに行こうかなって思ったんですけど……」

 

「なるほど、それでひなちゃんが先に行っちゃったんだ」

 

「気づいてたんですか?」

 

「そりゃもちろん。私が最初に手をあげたんだから見ててあげるのは当然でしょ?」

 

さすが加奈さん。今はさすがに見てないと思ってた……

 

「で、この可愛い子は誰なのよ、かなっち」

 

「ああ、ごめんごめん。紹介するね。この子は私のお隣さんの末っ子、藍沢叶音ちゃん。で、叶音ちゃん、こっちが……」

 

「かなっちのお仕事の友だちの上坂真尋です。よろしくね、叶音ちゃん」

 

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 

かっこいい人だなぁ……

どうしたらこんな風なかっこいい女性になれるのかな……

 

「うーん、礼儀正しくて可愛いいい子! かなっちはほんとに羨ましいなあ!」

 

「でしょー。じゃあ、私は行くね。また職場で」

 

「うん、じゃあね〜」

 

「かっこいい人ですね」

 

「そうだよね〜でも、案外子供っぽいところもあるんだよ?」

 

「そうなんですか?」

 

全然そんな風に見えないのに……

でも、だから加奈さんと気が合うのかも?

 

「それで、叶音ちゃん、どこ行くの?」

 

「売店ですよ。そこで売ってる動物の形をした容器に入ってるアイスを食べるのがお決まりなんです」

 

「そうなんだ! 持って帰れるの?」

 

「器ですか? もちろんです! あんまりにも数が増えすぎてひなちゃんのお母さんが時々捨てて数を減らしてるらしいですけど……」

 

「あはは、まあ行くたびに持って帰って来ればたくさんになっちゃうよね……っと、ここかな?」

 

「はい、多分お兄ちゃんたちが……」

 

あ、いたいた。翔お兄ちゃんがひなちゃん抱っこしてるね。

他のみんなは……って、みんないる!?

私が一番最後だったみたい……

 

「遅いよ、叶音ちゃん!」

 

「ごめんね、美咲ちゃん!」

 

それにしてもまさか梓さんの彼女が美咲ちゃんのお姉ちゃんだったなんて……

世の中って狭いね。

 

「はやくたべようよー!」

 

「ごめんね。じゃあ食べようか。せーの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いただきます!』




赤城ひなの

通称ひなちゃん。
藍沢家の三人のいとこで幼稚園年中。
純粋無垢で元気な子。
いとこのみんなのことは大好き


【だいありー♪】
清「毎度タイトルが安定しないね」
叶「ですね」
瑠「あの、なんで私がここに?」
清「ほら、今回でナンバリング30話目じゃん? せっかくだから今まで出た主要キャラ出そうってなったんだけど」
叶「その割にはセリフ量にばらつきがありましたけどね♪」
瑠「その割には私出てませんが」
清「うん。何人か出てない人は忘れられてて出番が消えたんだってさ」
叶「まぁ出ても空気な人がいましたし、ねぇ?」
清「あ、でも瑠璃ちゃんがここにいるのはルーレットの結果だよ」
瑠「え、ルーレットって何? 私初耳なんだけど」
叶「それはそうですよ。今回から導入された、書いてる人(名無し)しか知らなかったんですもん」
清「てなわけで話していくよ」
瑠「今回は叶音ちゃんの心の整理がついた回だったわね」
叶「あぅあぅ」
清「まあ作者間でフラグを折るとか折らないとかの話あったみたいだし、あず兄もこんな感じで折ってくるとは、って驚いてたよ」
瑠「ま、後腐れない綺麗な折り方だったんじゃない?」
叶「そ、そういうキヨさんはとうなんですか! 前回これ(あとがき)がなかったから碌に触れられてませんけど、三股ってどういうことですか!」
清「ちょ、今はその話はストップストップ!」
瑠「すっごーい! あなたは女の人を誑かすのが得意なフレンズなんだね!」
清「やめて! 中の人への風評被害とか考えてもの言ってね!? この作品でも「なんでこの人のキャラこんなのになった?」てのが結構あるから!」
叶「それにしても翔お兄ちゃん、酷いよ……私たちのお風呂覗くだなんて……私、信じてたのに……」
清「いや、翔は最初からあんな扱いだった気がしないでも……」
瑠「この作品、無駄に人多いからね。キャラ把握出来てないのよ」
叶「それはそれでどうなんでしょう」
瑠「さてそれではお時間となりました。今回のお相手は、叶音ちゃんの次の恋を応援したい、壁谷瑠璃と」
叶「翔お兄ちゃんに幻滅しました藍澤叶音と」
清「この先、あとがきではツッコミになるであろう滝沢清風がお送りしました〜」
『バイバーイ』


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31話 七夕サプライズ!

「ねえお兄ちゃん、もう直ぐ七夕だよね!」

 

「ん? ああ、そういえばそうだね。毎年恒例のあの商店街の七夕まつりの時期だね。それで、突然どうしたの?」

 

「お兄ちゃん、理咲さんと付き合ってるならそういうところのデートって素敵だなって!」

 

……なるほど、俺がちょっとお祭りの雰囲気が得意じゃないから全く考えてなかったけどありだな。

 

「ナイス叶音。今度何か買ってあげるね」

 

「ほんと!? やった!」

 

他人には遠慮がちで礼儀正しいって言われるけどやっぱりまだ中学一年生。身内には素直だよね〜

でもいきなり大人にならなくてもいいのにな〜……

とりあえず今はそれはよくて。

理咲に連絡取らなきゃ!

 

 

 

『七夕まつり?』

 

「そそ、ちょっと歩くけどうちの近くに商店街があって、そこで毎年七夕まつりやってるんだよ。だから一緒に行きたいなって思ったんだけど……」

 

『私も行きたい! 浴衣着ていくね!』

 

「わ、わかった! 楽しみにしてる!」

 

理咲の浴衣、かぁ……

楽しみだなぁ……!

 

 

 

 

 

 

 

そして当日

場所がわからないって言われたから理咲を家まで迎えにきたけど……

なんか、やけに緊張する……いつも遊びに来てたのに……

もう、意味わかんない! とりあえずチャイム押さなきゃ!

 

『はーい』

 

「あ、藍沢で〜す……」

 

『み、光樹!? ちょ、ちょっと待ってて!』

 

なんかすごく慌ててるみたいだったけど、ちょっと早く来すぎたかな……

そして言葉通りしばらく待ってると……

 

「お、お待たせ!」

 

「いや、だいじょうb……!」

 

薄い緑に朝顔の柄が入ってる理咲のちょっと子供っぽいところにぴったりな浴衣。

それにいつもはおろしてる髪を今日は綺麗に編み込んでアップにしてあった。

それを星飾りがついたかんざしで止めてる。

やばい、可愛すぎて直視できない……

 

「ど、どう、かな?」

 

「う、うん、すごく似合ってて、か、かわいい、よ……?」

 

お互いすごくぎこちないんだけど、これ……

すごく気まずい沈黙が……

 

「と。とりあえずいこ! 色々出店あって楽しいらしいよ!」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

やっぱり人多いなぁ……

これだとなかなか先に……

 

「きゃっ!」

 

「理咲!」

 

押し出されて転びそうになった理咲を支える。

 

「大丈夫?」

 

「う、うん、大丈夫……だけどこれはちょっと大丈夫じゃない……」

 

「え、あ、ご、ごめん!」

 

とっさだから意識してなかったけど思いっきり理咲のこと抱きしめてるじゃん!

慌てて離れるときに理咲が少し残念そうな声をあげたけどこれでいつまでもいるわけにもいかないから……

 

「理咲、手、つないでおこ。さっきみたいになっちゃうかもしれないし、逸れたくない」

 

「うんっ!」

 

嬉しそうな満面の笑顔。やっぱりかわいいなぁ。

 

「ちょっと、いきなりそんなこと……照れるじゃん……」

 

あ、これ口に出てたやつだ。

 

「そ、それより、どこ行ってみたい!? 食べ物買ってもいいし、射的とか、金魚すくいとか!」

 

「う〜ん、まずかき氷かなぁ……あ、私いちごがいい!」

 

「わかった。じゃあ俺はレモンにしよっと。すみません、いちごとレモンください」

 

「はいよ! にいちゃん達カップルかい? にくいねぇ。ほら、サービスしてやっからささっと出ていきな。こんなところにいつまでもいちゃいけないよ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

あ、理咲が照れてる。

まあ、あんまり言われ慣れないから俺もちょっと照れてるけど……

 

「んー、冷たくて美味しい〜!」

 

「やっぱり暑いとかき氷食べたくなるよね〜」

 

「うんうん! たくさん食べちゃって……」

 

あ、そんなに一気に入れると確実にあれが……

 

「んー!」

 

ほら、やっぱりきた。

 

「ほらほら、そんなにかきこむから……ねえ知ってる? そうなった時って、かき氷の器の底をおでこにつけると良くなるんだよ」

 

「あ、ほんとだ、すーっと引いてく……ありがと、光樹! でもよく知ってたね」

 

「前読んだ本に書いてあったんだよ。それをたまたま覚えてただけ」

 

「なるほどね〜あ、ね、ねえ、光樹? 私の、一口あげる」

 

「え、え?」

 

「ほら、早く口開けなさいよ……」

 

「あ、うん……あーん」

 

氷の冷たさが口に広がる。

味は……わかんない。

だって、これあーんじゃん? 男の憧れじゃん?

もうドキドキしすぎて無理だわ……

でも、俺も負けっぱなしじゃ悔しいから……

 

「じゃあお礼に理咲にも一口。ほら、口開けて?」

 

「え、あ、あーん……」

 

「どう? 美味しい?」

 

「お、美味しいよ?」

 

うん、きっと理咲も味がわかってないんだろうなぁ……

 

「さ、さて、次どこ行く?」

 

あ、今度は俺が決めてってことかな?

そうだなぁ……

じゃあ、こっちから、やっちゃおうかな?

 

「理咲」

 

「ん……!」

 

振り向きざまに不意打ちで唇を奪う。

前は理咲からだったから今度は、ね。

 

「も、もう! そ、そういうこと急に……」

 

「いやだった?」

 

「……いやなわけないじゃん、だって光樹のこと、好きなんだから……」

 

「なら良かった! ねえ、理咲?」

 

「な、なに?」

 

「大好きだよ」

 

「私のだって光樹のこと、大好き。そこだけは光樹に負けないんだから」

 

出た、理咲の負けず嫌い。

やっぱり、一緒にいると楽しいな。

このままずっと一緒に色々な思い出作ろうね。

 

「ん?」

 

「ううん、なんでもない」

 

「……変なの。あ、そろそろだよ!」

 

花火が始まる。

色とりどりの光に照らされる夜空よりそれを無邪気に見上げる理咲に俺は視線を吸い込まれていた。




【だいありー】
梓「いや〜今回は甘かったね〜」
遥「青春だね〜」
梓遥「「恋愛っていいねぇ〜」」
黒「私は砂糖吐きそう」
遥「さて、最近は夏真っ盛り。日差しも強く、暑くなって来ましたが」
梓「まだ夏入りたてだけどね」
黒「夏祭り、プール、海水浴に夏祭り……リア充が怖い!」
遥「まったくだよね。人前でイチャつくとかやめて欲しいよね」
梓「遥、ブーメランって知ってるか?」
遥「もちろん。歴史を辿っていけば古くは紀元前からあったとされている、投げて戻ってくる棍棒のことだよね」
黒「そういうかとじゃないよ!」
梓「遥に言った俺がバカだった……」
遥「やーいやーい梓のばーか」
梓「よし分かった。オシオキするからこっちに来なさい」
遥「オシオキってナニされるの! きゃー梓さんのえっちー」
梓「おけ、ヘッドロックかけるから待ってな」
黒「はぁ……私も彼氏欲しいなぁ」
梓「お兄さんが許しませんよ!」
遥「お姉さんも許しませんよ!」
黒「遥さん字が違う」
梓「まあ、かな姉も許さなそう……」
遥「ていうか、相手が見つかるかが心配。ほら、滝沢家って恋人近所含めてスペック高めじゃん? 相手が物怖じしないといいけど」
黒「そういう人を探すことにします」
遥「頑張って〜」
梓「それじゃあまたいつか!」



梓「あ、そういえば今度海に行くけど、遥くる?」
遥「行く行く! メンバーは?」
黒「滝沢家と藍沢家、その他数名です」
遥「楽しみだねぇ〜」


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32話 某姉妹の水着買い物録

「お姉ちゃん!」

「な、なによ」

 

休日のお昼過ぎ。いつも通り部屋でのんびりと本を読んでいたら、妹の美咲が扉を勢いよく開けて入ってきた。

部屋の扉は外開きだから壁が傷付く心配はないとはいえ、ビックリするからやめて欲しいな。ていうか勝手にベッドに座らない。

 

「それでどうしたの?」

「聞いたよ、今度梓兄(あずにい)さん達と海に行くって聞いたよ!」

「誰から?」

「黒愛ちゃん」

 

……うん? 今なんか聞き慣れない言葉が聞こえた気がしたんだけと……

 

「ねえ。さっきなんて言ったの?」

「え? 黒愛ちゃんから海に行く話を聞いたって」

「その前」

「……我、堕天の王なり?」

「いつの話よそれ。そうじゃなくて誰と行くって話」

「ああ梓兄さん達とって」

 

はいそこおかしい。あなた今まで梓のこと「梓さん」って言ってたじゃん。いつの間に梓兄さんとか呼んでんの?

 

「梓兄さんに直接許可もらったんだよ」

「くぅ……私だって名前で呼ぶのに数年かかったのに……」

「何言ってるのお姉ちゃん。知り合ったその場で名前で呼んでたって梓兄さんから聞いてんだからね?」

 

ちっ、なんだよバレてたのか。まぁその通りなんだけどね。にしても梓も私と初めて会った時のこと覚えてくれてるのかぁ〜、なんか嬉しいね。

 

「お姉ちゃん顔がにやけてる……てそうじゃなくて! なんで海に行くのに誘ってくれなかったの!」

「だって今年受験生じゃん。それにアンタ泳げないでしょ」

「お、泳げるもん! あれから練習して泳げるようになったもん!」

 

おーそうかそうか。じゃあちょいと黒愛ちゃんに確認とるからちょっと待ってね〜。

 

「お姉ちゃんなんで携帯取り出すの? どこに電話してるの?」

「あ、もしもし黒愛ちゃん? ちょいと確認したいことがあるんだけど」

「姉上殿! 後生でごさる! それだけは、それだけはぁ!」

「なぁ〜んてね」

 

必死に携帯を奪おうとした様子から、やっぱり泳げるようにはなってないみたいね。これは海で練習かな?

 

「それで? そんな泳げない受験生の妹さんは海に行きたい、と」

「だってせっかくの中三の夏なんだよ!? 思い出たくさん作りたいじゃん!」

「あーはい、そうですか。で、なんで私のところに来たの?」

「ふっふっふ。それはね」

「あ、やっぱり言わなくていいや」

「酷い!」

 

美咲が落ち込んでいるけどまぁアレだ、私だって学ぶんだよ。こういう時の美咲って何かと厄介ごとを運んでくるからね。先回りして断らないと

 

「せっかく新しい水着買いに行こって誘おうと思ったのに」

「よし行こう、今すぐ行こう、早く行こう」

「え、ちょ、お姉ちゃん!?」

 

美咲の言葉を聞いた瞬間体が動いていた。美咲の手を掴み財布と携帯を持って外へ出る。

さっきと言ってること違うじゃんって? いいのいいの。所詮人間なんてそんな生き物さ。それに美咲のことだから出かける準備は済んでいるだろう。あ、お金あったかな?

 

 

 

 

 

「で? なんでその流れで俺が巻き込まれてんの?」

「男性目線のアドバイスが欲しいからってお姉ちゃんが」

「まぁいいんだけどさ」

 

家でテレビを見ていたら突然美咲ちゃんから電話がきた。内容を聞く分には買い物に付き合って欲しいとの事。別にそのくらいならいつもの事だし、二言返事で了承したんだけど……まさか水着を買いに来ていたなんて……なんだろうすごい既視感を感じる。

あ、今俺達がいるのは黒愛と叶音ちゃんの水着を買いに来たショッピングモールだよ。今日は車を二台とも加奈姉と百斗が使ってるから、ここまではバスでの移動。

加奈姉は目的も言わずに出かけちゃったし、百斗は百斗で市民プールに行くって言ってた。あいつ一人でプールに行くとは思えないから飛鳥ちゃんと行ってんのかね。

 

「ねぇ梓兄さん、これどうかな?」

「ん? どれどれ」

 

試着室の前で周囲の視線に耐えながら二人の着替えを待っていると、先に美咲ちゃんの入った試着室のカーテンが開かれる。

そこにいたのは水着に着替え、こっちにVサインをしている美咲ちゃんがいた。

 

「これはね、タンキニって言って、タンクトップビキニの略称なんだって。それでね、セパレート型だから着やすいし、脱が」

「ゔゔん! 分かったからストップね」

 

なんか今社会的に死ぬところだった。とにかく周りの目が痛い。あ、そこの奥さん方小声で話さないで。携帯取り出さないで!

 

「変、ですか?」

「いや、似合ってて可愛いと思うよ? うん」

「ホント! じゃあこれにしよっかな〜」

 

嬉しそうにくるくる回る美咲ちゃん。回るのはいいけど試着室って狭いから、どこかぶつけないか心ぱ……あ、手を壁にぶつけてしゃがみこんだ。

 

「大丈夫?」

「な、なんとか……」

「とりあえず服に着替えよっか」

「……うん」

 

コクンと小さく頷くと、カーテンを閉めた。

そういえば遥はまだなのかな。いくつか持って入ったっきりだけど……

 

「ね、ねぇ梓」

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

「そう?」

「うん」

 

遥のその声とともに、カーテンが開く。

 

「ど、どう……かな?」

 

カーテンを開けた遥は黒のビキニを着ていた。

ビキニ。古くは五世紀頃のローマ帝国時代のモザイクには、ビキニ似た服を着て運動する女性が描かれていた。また1946年にフランスで考案され、日本に輸入されたのは1950年、一般に着用されるようになったのは1970年代だとか。

マーシャル諸島のビキニ環礁でアメリカによって、第二次世界大戦後初の原爆実験が行われた。この実験の直後にルイ・レノアールが、その小ささと周囲に与える破壊的威力を原爆にたとえ("like the bomb, the bikini is small and devastating")ビキニと命名したのが由来であり、「水爆実験になぞらえた」というのは誤りで

 

「梓兄さんしっかり」

「ハッ、俺は今何を」

 

思考が飛んでいると、私服に戻った美咲ちゃんに肩を揺すられ現実に戻ってこれた。目の前では遥が試着室のカーテンで体を包んでいた。

 

「……美咲、それ取って」

「それ? どれ? これ?」

「そう!」

 

遥が視線だけで美咲ちゃんに取ってもらいたい物を指すと、美咲ちゃんは戸惑いながらも一枚の服を渡す。

これは俺でも知っている。確かラッシュガードっていう水着の一種で、日焼け防止とか体温の低下を防止するやつ……だった気がする。

遥はそれを奪うように取ると、再び試着室のカーテンを閉め、すぐに私服で現れた。……あっさり言ったけど、早着替えなんてもんじゃないぞ、今の早さ。

 

「お、お待たせ。梓、買ってくるから外で待ってて」

「あ〜うん、じゃあ出口で待ってるよ」

 

視線で付いてこないで、と背中を押されながら言われたので一人寂しく店から出る。

ここにきて改めて思う。今回、俺が来る意味はあったのか、と。

そんな考えを打ち消す為にポケットから携帯を取り出し、電話をかける。

 

「あ、もしもし民?」

『なんだよ、こんな時間に』

 

電話の相手は我らが部活の部長である沼白民。

こんな時間って言ったけど、時間はまだ夕方になったばかりの頃だから、そこまで非常識な時間ではない……はず。

 

「いや、なんか久し振りに声を聞きたくなってね」

『いや久し振りも何も先週会っただろ』

 

そうだっけ? なんか四ヶ月近く姿を見てない気がするんだけど。

 

『んで? どうしたんだよ』

「今度、皆で海に行く事になったんだ」

『…………うん。んで?』

「それだけ」

 

それだけ言ってから「じゃねー」と電話を切る。あ、すぐに折り返しが来た。

 

「もしもし?」

『だからなんだよ!』

「いや、民の分まで楽しんで来るねって」

『……もしかして俺以外の文研部全員集合なのか?』

「いやいやそんなわけないじゃん。ウチの家族プラスアルファで行くんだよ」

『あ、もしかしてお誘いの電話だったり……?』

「は? んなわけないでしょ」

 

何寝ぼけた事言ってるんだか。まさかこの時間まで寝てたんじゃなかろうか。

 

『なぁ、今日のお前なんか辛辣じゃね? 悪いことでもあったか?』

「特に何も。まあ強いて挙げるなら急に呼び出されたと思ったら超気まずい空気に晒される上に、危うく通報されかけただけ」

『お、おう、そっか。海楽しんでこいよ?』

「ん。お土産期待せずに待ってな」

 

そして電話を切る。切る直前「期待させろよ!」って叫びが聞こえたけど無視無視。ちょうど遥と美咲ちゃんが店から出て来るのが見えたからね。こっちの方が優先度は高いんよ。

 

「お待たせ」

「いやそんなに待ってないよ」

「あ、もしかして私お邪魔かな?」

 

まるでデートの待ち合わせみたいなやりとりをしたら、美咲ちゃんが口元に手を当てて言う。

うん、どちらかと言うと姉妹の買い物に俺が邪魔だよね。

 

「じゃあ美咲一人でこれから時間潰す?」

「じょ、冗談だよ? ホントだよ?」

「ほらほら。いつまでも店の前で話してると迷惑でしょ。行くよ」

 

「はーい」と返事を返す姉妹とともに、どこに行くでもないウィンドウショッピングを三人で楽しんだ。




【だいありー】
瑠「水着回、どこかで見たことあるような、ないような」
来「でもやっぱり俺らは出てないんだね」
瑠「まぁほら、私達は「瑠璃! なぜここに瑠璃が! まさか自力で脱出を!」枠だし」
来「その枠はちょっと嫌だなぁ」
瑠「もっと出番欲しいよね〜」
来「そうだよね〜」
瑠「誰か書いてくれないかな〜?」
来「さて、作者さん方にゴマをすったところで、何を話そうか」
瑠「何話そうね」
来「あ、そういえば闇鍋した話はいつ投稿されるのかな?」
瑠「あーいつになるのかな。暫く予定はないとか言ってたけど……まぁ待っていればいずれって感じかな?」
来「…………」
瑠「…………」
来「あれだね。作品でそんなに出番ない組は動きづらいね」
瑠「そうね。でも出てる組にしたらメンバー固定されそうじゃない?」
来「まぁそこは相談して決めるとするよ」
瑠「さて、話す人によって長さの変わるこのあとがき。今回はここまで」
来「次回以降、固定メンバーになるのかならないのか、お楽しみに?」
『バイバーイ』


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33話 幸せな日常

今日八月三日もまた誰かの誕生日!!
毎日が誰かの誕生日って言葉があるけど今日はいったい誰の誕生日なのかな?

今日誕生日の方、おめでとうございます!!

ではどうぞ!!


「まだかな……」

 

「そんなに穴が開きそうなくらい見つめなくてもケーキは逃げないよ?叶音」

 

「だって~……お兄ちゃんの作るケーキ、とても美味しくて今から楽しみなんだもん……」

 

「はいはい、ありがとね?今年もうんと美味しいのつくってあげる」

 

「本当!?えへへ~」

 

オーブンの前でうずうずしてる私に諭すように声をかけ、頭を撫でてくれる光樹お兄ちゃん。

えへへ、やっぱりこうされると落ち着いちゃいます!

 

「リビングの準備はできたの?」

 

「あとちょっとで終わるから翔兄ちゃんに任せてこっちの様子を見に来たんだ」

 

「そっか、お疲れ様!」

 

「うん!」

 

ねぎらってくれたお兄ちゃんも少し疲れたような声をしている。

朝からみんなでバタバタしてたもんね……

 

8月3日

この日は私たち三人兄妹にとってはとても大事な日。だって私たち三人全員の誕生日なんです。

光樹お兄ちゃんと翔お兄ちゃんは双子だからまだわかるけど私まで一緒ってすごく珍しいことだよね……。

前に翔お兄ちゃんがお母さんに聞いたことがあったらしいんだけど狙ったらできちゃった♪って返さたらしくて……その話を聞いてちょっと力が抜けちゃったのを今でも思い出しちゃうな~……

 

なんてことを思い出していたらオーブンから時間が来たことを告げる音が聞こえた。

スポンジさんが完成したのかな?

 

「おっと……さぁて、できてるかな~?」

 

光樹お兄ちゃんがオーブンをゆっくりと開けて中身を確認すると中から甘い匂いが漂ってきて……綺麗な色をしたスポンジさんが顔を見せました。

 

「うわ~……」

 

「うん、見た目はばっちり!」

 

しっかり火が通っていることを確認して型を持ち上げ、軽く二、三回トントンと落とし、逆さにして置いておきます。そして5分くらい置いておいたところで元の位置に戻して……

こうすることで形が崩れないみたいです!型から取り外しやすくもなるし一石二鳥ってお兄ちゃんが教えてくれました!……光樹お兄ちゃん、私よりも女子力あるんじゃあ……うぅ、ちょっと悔しいよ~……私も頑張らないと!!

 

「よし、あとは冷ますだけ……ん?」

 

玄関の方から呼び鈴が。

もしかしてみんなが来てくれたのかな?!

 

「叶音、お願いして良い?」

 

「はーい」

 

光樹お兄ちゃんに言われて玄関に向かい扉を開けると……

 

「叶音ちゃ~ん!!」

 

「わわ!黒愛ちゃん!?」

 

「叶音ちゃ~ん♪」

 

いきなり加奈さんと黒愛ちゃんに抱き締められちゃった……

暖かくて柔らかくてポカポカするんだけど二人からギュッとされると……

 

「か、加奈さんまで~……く、苦しいよぅ~」

 

「はいはい、こっつー離れようね~。あず兄は加奈姉をお願い~」

 

「はいよ~」

 

百斗さんと梓さんのお陰で何とか解放されました……二人とも前より加奈さんたちを止めるのが上手くなった気がします……

 

「こんにちは叶音ちゃん」

 

「こんにちは!」

 

「こんにちはです、清風さん!……と理咲さん!?」

 

「光樹の誕生日のこと教えたら飛びついてきてね」

 

「光樹君はどこにいますか?」

 

「中にいますよ!よかったら入って━━━━」

 

「光樹ーーーーーーー!!!」

 

『ん?って理咲!?なんで急に!?』

 

私が言い終わるよりも早く中に入って行っちゃった……

 

「あ、あはは……ごめんね?叶音ちゃん」

 

「いえ!大丈夫ですよ!!」

 

確かにびっくりしちゃいましたけど奥から聞こえたお兄ちゃんの声、凄く嬉しそうだったから私も大丈夫です!!

恋人っていいですよね~……まだ恋愛とか私はわからないけど、ちょっとあこがれちゃいます……ってここで止まってちゃダメでした!!

 

「皆さん、どうぞ中に入ってください!」

 

「「「「「お邪魔します!」」」」」

 

滝沢家の皆さんもそろってリビングには光樹お兄ちゃんと理咲さんを除いた7人もの人が。

一年に一回、私たちのために集まってくれる皆さんには本当に感謝しかないです!

 

リビングは一気ににぎやかになってみんなが楽しそうに話しています。そして数分後、光樹お兄ちゃんと理咲さんが二人でケーキを(こういうのって共同作業っていうんでしたっけ?)真ん中に置いて準備は完了です!

 

「それじゃあメインのケーキもきたし、初めちゃおっか!」

 

加奈さんの言葉に皆がうなずきます。

 

「「「「「「光樹!翔!叶音ちゃん!誕生日おめでとう!!!」」」」」」

 

クラッカーの音が私たちを祝福します。

どこかでシャンメリーが開いたのかな?料理たちと一緒にとてもおいしそうな香りが漂います。

 

毎年やってもらっていること。

 

もはや当たり前になっている一年に一回の行事。

 

でも何回やってもらっても飽きることはなくって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ありがとうございます♪」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たち兄弟は、今年も楽しく、幸せに過ごせそうです♪

 

 

 

 

 




【だいありー】
梓「てなわけで」
百「こっちでも」
梓百「「光樹誕生日おめでとう!」」
光「ありがと〜」
梓「いや〜これで一つ大きくなった……ね……?」
百「なった、のかなぁ……?」
光「なったってことにしておこ?」
梓「この世界は日曜夕方アニメと同じ時空間です」
光「うんはっきり言おうか」
梓「誕生日を迎えても年なんか取らないよ! やったねトトちゃん!」
百「おいバカやめろぉ!」
梓「ちなみに前にも言ったけど、このあとがきでの口調、ポジション、その他諸々はdiary本編とはあまり関係ありません」
光「それ今言う必要ないよね?」
百「ないね」
梓「それにしてもさー、やっぱり女子力高いよね。光樹って」
光「そうかなー? 梓さんの方がなんでもできると思うけど」
梓「いやいや。俺なんてできることそんなにないよ? できることをできる範囲で誤魔化し誤魔化しやってるだけだし」
光「そのできることが多いんだよ」
百「あれ? どっかで聞いたことあるようなやり取り……」
梓「気のせいでしょ」
光「そうそう。気のせいだよ」
百「ならいいんだけど」
光「だってA……梓さん至る所に手を回せるじゃん?」
梓「設定上ね! 実際のリアル梓はそんなに器用じゃないから」
百「そういえば今回久しぶりに翔が出て来たような」
梓「お、これはまたもや俺らの話無視ですよ光樹さんや」
光「まったく、これだから百斗さんは」
百「せっかく本編に触れたのにその言い草はなにさ! いいよもう好きに話しててよ。僕一人でも本編振り返るから」
梓「そういじけるなって」
百「いじけてないけどね!?」
光「とまあ遊んでる間にもうお時間が」
百「ほらぁ、あず兄が遊んでるから全然振り替えれなかったじゃん!」
梓「え、俺のせい?」
百「違うの?」
梓「合ってるけど?」
光「知ってた」
百「それじゃあ今回はここまで!」
『バイバーイ』


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34話 淡く輝く旅行の果てに

皆様、お久しぶりにございます。
そして年末ぎりぎり……いかがお過ごしでしょうか?

今年最後の投稿、遅れたお詫びではないですが割と真面目に書かせていただきました!!

とある二人の旅行です。

……どうなるんでしょうか?


「……」

 

 

まだ人の通りも少ない早朝、僕は公園で一人で立っていた。

 

「……ぅぅ」

 

若干そわそわしながら待つ僕ははたから見たら明らかな不審者に見えるかもしれないけど……仕方ないじゃん!!

 

だって今日は……

 

「……集合時間までまだ20分くらいはあるっていうのに……もうドキドキしているよ……」

 

腕にブレスレットをつけ首にはそれと同じ色のネックレスをしているんだけどそれが時折シャラシャラなっているところが僕のそわそわをより引き立てているようで余計に落ち着かない。

 

さて、ここまでの僕の行動でわかった人がほとんどだと思うけど……うん。僕はこの後飛鳥ちゃんと待ち合わせをする約束をしている。

ただ待ち合わせするだけならば前見たく買い物するだけなんだけど……

 

「旅行か……うぅ、緊張するなぁ……」

 

そう、旅行である。

まだ始まってもないのに今からちゃんとリード出来るか不安になってきた……しかも今から行く場所が意外なところだからなおさらだ。

あ、ちなみに家族には内緒だよ?

旅行に行くとは伝えてるけど一人で行くって言ってる。

 

「岡山か〜……久しぶりだなぁ……」

 

そう、岡山だ。

昔何回か言ったこともあってそこそこ知っているけど……割と真面目に見るところがあまりないんだよね〜。

世界遺産もないし、どこにあるかわからない県ランキングで島根県を越して1位になってしまった。じゃあなぜそんなところに行くかというと僕が昔行ったことがあるって飛鳥ちゃんに言ったら私も行ってみたいって言われたからなんだけど……。

 

「僕が案内できるところと言ったら……美観地区、くらいなんだよな〜……」

 

こんな岡山だけど有名なところくらいはちゃんとあって、岡山城とかその城下町の後楽園とかがその代表例だ。

そんな中で僕が特に好きな観光地は美観地区。

昔の町並みを残したままいろんな店でとても賑わっており、だけどうるさすぎず平和で……まるでそこだけ別世界にあるんじゃないかと錯覚してしまうほど……そんな場所……。

 

「……うん、大丈夫。しっかり覚えているからちゃんと案内できるはず……はず」

 

「だ〜れだ♪」

 

「うひゃあ⁉︎」

 

急に真っ暗になってしまった視界に驚きへんな叫び声を上げてしまう。

……自分で言ってなんだけどきょうびこんな悲鳴あげる人いないよね……。

だって仕方ないじゃん。こういうの……なれないんだし……。

 

「いつやっても変わらない反応ですね!いや〜楽しいですよ!」

 

「う、うるさい!」

 

本当にいつもいつもペースを握られっぱなしだ。

こんなことで今日1日大丈夫なのかな……今から不安しか感じなくなってきた……

 

「……あ」

 

「?……どうしたの?」

 

「い、いえ。何でも……」

 

「もしかして……これ?」

 

飛鳥ちゃんの目線から気にしてるものを見つけて持ち上げてみる。

それは先日彼女から貰ったネックレス。

大切な貰い物だから大事に使って見ようと思ったんだけど……

 

「あ、やっぱり似合わないかな?普段小物なんて付けないから自信なくて……」

 

「そ、そんなことないですよ!すごく似合ってます!」

 

「ほ、ほんと?良かった〜……」

 

どうやら似合ってるみたい。

いつもは重かったり邪魔だったり、それに仕事上付けれなかったりとほとんど付ける機会なんてないんだけど今つけてるブレスレットとネックレスは付けていて違和感を感じないし……もしかしたら体にあってるのかな……?

それに……

 

「飛鳥ちゃんに貰ったものだからね……」

 

「あ……その、ありがとう、ございます……」

 

「ふぇ!?」

 

やばい、また口から出てた!?

ああもう、なんで僕の口はこうも軽いのさ!

 

「気に入ってもらえて嬉しいです!……それに、飛鳥ちゃんって……」

 

「前からの約束、だし……」

 

「それ、あの日限定だったんですよ?」

 

「……え?」

 

あれ?そうだっけ?と思いながら振り返ってみる。……確かにそう言ってたきがしなくもない……。

 

(このままじゃあただ話を聞かないだけの人じゃないか!)

 

若干嫌われることを意識しながら慌てて弁明。

きらわれるのだけは嫌だから……

 

「ご、ごめんなさい!いやなら高梨さんって……」

 

「やめないで……」

 

「……え?」

 

「やめないで下さいよ……飛鳥って、呼んで下さいよ……」

 

僕の袖を掴みながら切なそうに言う飛鳥ちゃん。

その姿は守ってあげたくなるほど物憂げで……

 

(こんな形で頼まれたら、断れるわけないじゃんか……それに僕だって……)

 

名前で呼びたいもん。

 

「……うん。わかったよ。飛鳥ちゃん」

 

「!!……はい!百斗さん、ありがとうございます!」

 

「わわわ、急に抱きつかれたら危ないってば……」

 

「えへへ!」

 

ぎゅっと抱きつきながら眩しい笑顔を見せてくれる飛鳥ちゃん。

お返しと言わんばかりに頭を撫でてあげるとはにゃ〜なんて少しだらしない鳴き声が帰ってくる。それがまた可愛くて可愛くて……

 

「……はっ!ひゃ、百斗さん!」

 

「んー?」

 

「むぅ〜……」

 

「はいはい……って、時間!?」

 

「え?」

 

慌てて時計を確認してみると集合時間はとうに過ぎており、もう出発しててもおかしくない時間だ。

せっかく早めに集まれたのに話すのに夢中でいつの間にか時間が経っていることに気づかなかった!

これで電車に遅れたら流石に笑えない……。

 

「行こう、飛鳥ちゃん!」

 

「はい!百斗さん!」

 

飛鳥ちゃんの手を引っ張りながら僕達は駅の方へと走っていく。

 

(……思わず手を握ったけど大丈夫、だよね?)

 

きっと赤くなっているだろう顔を悟られないように前だけを見ながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく到着〜!」

 

「んん……、座りっぱなしもなかなか腰が……」

 

新幹線に乗り数時間。途中電車への乗り換えもあったから本当に疲れた……。

これからが本番だというのにこの疲れはなかなか……。

 

「ここが……岡山……」

 

「正確には倉敷、だね」

 

「ほぇ〜……」

 

辿りついたのは岡山は倉敷駅。

決して大きいとは言えない駅だけど人がそこそこいるあたりこの辺では重要な場所なのかもしれないね。

 

「さて、それじゃあ目的地に行こうかな」

 

「はい!早く行きましょう!」

 

「あ、ちょっと!!」

 

いきなり走り出す飛鳥ちゃんだけど昔と同じだと確かこの辺は小さな段差や階段が多かったからあんまり走ると……

 

「きゃぁ!?」

 

「ちょ!?危な!!」

 

こけそうになる飛鳥ちゃんの体に手を回してなんとか受け止める。

 

(セーフ……)

 

旅行先で怪我とか笑えないし、こういう時は僕が守らないと……

 

「大丈夫?」

 

「え?あ……はい。だ、大丈夫です……」

 

顔を赤らめながらしどろもどろに答える飛鳥ちゃん。

ちょっとびっくりしちゃったかな?

 

「落ち着いて、ね?」

 

「はぅ〜……」

 

頭を軽くポンポンとしてあげる。

生徒会からの付き合いだけどその時から何故かこうしてあげると喜ぶというか、落ち着くんだよね。

 

「えへへ……はっ!?」

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい……ありがとうございます……うぅ」

 

ふにゃっとした顔からすぐに赤い顔へ戻る飛鳥ちゃん。

撫でられるのが嬉しいながらも恥ずかしい……とか、かな?

だといいんだけど……

ただその反応が見てのとおりとても可愛くて……

 

反応に惹かれてドクンと波うつ。

 

(ま、またあの時みたいに……やっぱり……)

 

胸にそっと手を当てるとよりわかる鼓動。

とっくの昔に心は落とされている。

 

(早く……伝えた方がいいのかな……)

 

うるさい鼓動。でもその音に煩わしさはなくて……むしろ……

 

「百斗さん?」

 

「!?……ど、どうしたの?」

 

「いえ、百斗さんこそ急にぼーっとしてどうしたんですか?」

 

「か、考え事をね?あ、あはは……」

 

「もう、こんなに可愛い後輩が一緒なんですから他の事考えたらめっ!ですよ?いいですか?」

 

「う、うん。ごめんね?」

 

「なんて冗談です。えへへ!さぁいきましょう!百斗さん!」

 

すっかりいつものテンションに戻った飛鳥ちゃんに手を引かれながら道を行く。

人だかりがそこそこあるはずなのにその瞬間だけは僕達二人しかいないような気がして。

 

(歩くだけでなのになんでこんなに楽しいんだろう……)

 

ただの店も光って見える。

本来は少しあるはずの道があっという間に感じてしまい気づけばあたりの風景は一風変わった昔の趣がある建物の並ぶ町が広がっていた。

 

 

 

 

倉敷市が誇る和の観光地、美観地区。

 

 

 

 

「さぁ百斗さん!どこから見て回りますか?」

 

「そうだね~、じゃあ━━━」

 

最愛の(大好きな)人との旅行(デート)がいよいよ始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……いきなりここ選んだのはまずかったかな……」

 

「百斗さ~ん!お~そ~い~で~す~よ~!」

 

「あの元気娘め……」

 

美観地区について最初に向かったのは阿知神社。

商店街から美観地区に行く間にある左手に見える階段からどんどん山を登るとたどり着く神社だ。

 

「はぁ……はぁ……引きこもりにはつらい……」

 

「百斗さん、運動神経は悪くないというかむしろある方なのに体力はないですよね~……」

 

「運動する機会がめっきり減っちゃってるからね~」

 

ソフトテニスを必死にしていた昔が本当に懐かしいよ。

 

「じゃあ今度私と一緒に何か運動しましょう!!」

 

「そうだね~、それなら楽しくできるかも……」

 

新しい約束を交わしながら神社の境内へと足を踏み入れる。

 

「ふわぁ~……」

 

隣で声を上げる飛鳥ちゃんの反応に満足しながら僕も進む。

 

阿知神社。

 

決して有名じゃないし人に聞いても?がかえってきそうな小さな神社。だけど僕はなぜかここの空気が好きだ。

ものすごく落ち着くんだよね。

一応パワースポットになってはいるみたいだよ。

 

「いい場所ですね!!」

 

飛鳥ちゃんも気に入ってくれたみたいでよかったよかった。

自分の好きなものに共感されるのって凄く嬉しいよね。

 

門をくぐったすぐ横にあるみずで手を洗い賽銭箱へ。

5円玉を投げて二礼二拍手二礼。

願い事を頭の中で考える。

 

(とは言ったものの……何を願おうか……)

 

現状で満足しちゃっているからこれと言ったものが思いつかない。

どうしようかと悩んでいるとふと横から必死に何かを願っているのを視界の隅で捉える。

可愛くて面白くて楽しくて、そして大好きな……。

 

(……よし、じゃあこう願おうかな)

 

ようやく決まった願い。

ちょっと僕らしくないそれだけど……うん、頑張るんだ‼︎

 

「百斗さん!こっちですよ〜‼︎」

 

「ん?」

 

お願いもそこそこにいつのまにか少し離れたところにいる飛鳥ちゃんに呼ばれ賽銭箱の前から移動する。

ウズウズしながら待っている飛鳥ちゃんの横には神社では見慣れた六角柱。

 

「神社といったらやっぱりこれですよね‼︎」

 

「御神籤か〜……」

 

「やりましょ‼︎」

 

2人分のお金を出し、飛鳥ちゃん、僕の順で籤を引く。

カラカラと小気味のいい音をたてながら中から1本の棒を取り出しそこに書かれた番号を確認する。

 

『8』

 

「あっ……」

 

この番号が書かれた棚に行き、中に入っている紙に結果が書かれているんだけど……うん、なんか察したよね。

 

飛鳥ちゃんが機嫌よく『7』と書かれた棚を開けに行く。

こちらも何となく結果が……

 

88なら縁起が良いのに〜……とか考えながらゆっくりと棚から紙を取り出し結果を確認する。

中身は……

 

『大凶』

 

(デスヨネー……)

 

こうなところまで来て幸運-Eの力発揮しなくてもいいのにね……でも。

 

「百斗さん!大吉ですよ大吉!!」

 

手をパタパタさせながら喜ぶ飛鳥ちゃんを見るとそんな気分はどこか遠くへ……というより、これが見れただけで大吉だよほんと……。

 

「おめでとう!」

 

「はい!今日の旅行、きっと最高の旅行になりますよね!!」

 

「うんうん!」

 

……ごめん、今の一言が結構心に刺さった。

 

「百斗さんは何だったんです?」

 

「ぼ、僕!?」

 

「はい!……よっと!」

 

「あ!?」

 

大吉が出て旅行が楽しくなると喜んでいる人の横で大凶を引いちゃったからどうしようかと悩んでいるうちに手をひっぱられて中身を見られてしまう。

もちろん中身が変わることもなく大凶の文字が飛鳥ちゃんの目に入る。と同時に彼女の顔が少し悲しそうになっていく。

それをフォローするために慌てて言い訳を……

 

「あ、あはは!僕の不運もここに極まれりだね!!」

 

「……」

 

フォロー失敗!!

 

(って、フォローするならもっとましな言葉選べよバカァ!!)

 

盛大にかける言葉を間違える僕。

新しく言葉をかけなきゃと慌てて探していると……

 

「えい!」

 

「?」

 

いきなり僕の大凶の紙に大吉の紙を押し当てながら手を握りしめてくる飛鳥ちゃん。

 

「な、何してるの?」

 

「私の大吉で、百斗さんの大凶を消してあげるのです!!」

 

「ふぇ?」

 

「大凶でも、大吉と合わせて二で割ればふたりとも吉になりますよ!!」

 

ぎゅ〜って言いながら僕の手を握りしめる飛鳥ちゃん。

 

(……あたたかい)

 

「えへへ!2人とも吉になれば二人のを合わせて中吉ですね!!」

 

「……何そのむちゃくちゃな理論」

 

「理論じゃなくて気持ちなんですーだ!百斗さんはもう少しロマンチストになった方がいいですよ?」

 

「し、知らない!」

 

イタズラな笑顔を浮かべながら言う彼女にやっぱり見とれてしまう。

その事がバレないようにぷいっとよそを見る。その先に映る景色にまた見とれながら……。

 

「……飛鳥ちゃん、こっち」

 

「え?百斗さん?」

 

手を引いて向かった先は小さな木造りの建物の中。

小さな山の上にあるこの神社は近くの建物から下を見下ろすことができる。そしてその先には……

 

「わぁ〜……」

 

美観地区を真上から見た景色。

真ん中を大きな川が通りその周りに立つ昔の風情を残した趣のある建造物群。

美しく並ぶその姿はまるでその空間だけ別世界のような気がして……。

 

「……これからあそこを見て回るんですね!」

 

「うん……さぁ、行こう!!」

 

「はい!」

 

大吉と大凶のおみくじを一つに結び、僕達は山を降りていった。

 

 

 

 

 

降りているあいだ、僕達のは自然とお互いの手で繋がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜〜〜〜!!すごいですよ百斗さん!!」

 

「わ、分かったから分かったから!落ち着こ?ね?」

 

山から降りていよいよ美観地区の中。

足を1歩踏み入れた瞬間、まるでタイムスリップしたかのように空気が変わった。

流れる川に泳ぐコイたち。

道をゆく人達や人力車。

道行く人までもがこの昔の景色を作り上げる背景となっていた。

 

「綺麗〜……」

 

興奮したと思ったら次は見とれて、相変わらず忙しい人だな〜と思いながらも喜んでくれている事が嬉しくて……ああ、連れてきて良かったな〜って凄く思えた。

 

「さて、じゃあどこから回ろっか?」

 

「お任せします!」

 

「ハイハイ、任されましたっと……」

 

とは言ったものの到着してからの計画なんてほとんどないも同然なんだよね。

とりあえずは来ていきなり山登りなんて疲れることをしたし、降りる時もここに来るまでも歩き続けたから一休みできるところがいいかな?

 

(え〜っと……あ、あそこだ。確か評判いいところだったよね)

 

「とりあえずあそこ行こっか。岡山来てからまだ何も食べてないし歩き続けたから少し休みたいでしょ?」

 

「そうですね〜、私はOKですよ!!」

 

「りょーかい」

 

我が姫君の了承を得たところで僕は近くにあったシガーフライというお菓子で有名なお店に入った。

木造りなのはもちろん、なかの照明も暖色系なので全体的に暖かさをかんじるお店だ。

 

「ここはどんなお店なんです?」

 

「シガーフライとか、ビスケットにディップを付けて食べるお店だよ。まぁ、ようはお菓子屋さんかな?」

 

「???」

 

頭にハテナを浮かべる飛鳥ちゃん。

確かにシガーフライって名前聴いたことないって人多いんだよね〜。形を見せたら知ってる!って言う人は多いんだけど……。

 

(ここは百聞は一見にしかず、ということで早速頼んじゃおっか)

 

早速お店の人にビスケット、シガーフライと4種類のディップを注文。

ほどなくしてお待たせしましたという声が聞こえたので注文したものが乗っているトレーを受け取り、飛鳥ちゃんが待っている席へ運んでいく。

 

「おいしそう……」

 

「実際に美味しいよ~?このビスケットをディップって言われるクリームとかジャムにつけて一緒に食べるんだよ」

 

飛鳥ちゃんの目の前で実演して見せる。

シガーフライで白桃味のジャムを救って口に入れて……。

 

「うん、やっぱり美味しいなぁ~」

 

白桃の香りと甘さがビスケットにとてもマッチしてすごく美味しい。

落ち着く優しい味っていえば……うん、わかりづらいね。

 

「飛鳥ちゃんもほら!」

 

「は、はい……」

 

初めて見るものなのか少し戸惑いながらも僕がつけた白桃ジャムとはまた違う味のディップにシガーフライをつけて食べる飛鳥ちゃん。

 

「……はぅ〜……」

 

「どう?」

 

「凄く美味しい〜!なんだか落ち着きます!!」

 

「お口にあって何よりだよ」

 

「はい!!」

 

幸せそうにお菓子を食べる彼女を見て思わず頬が緩んでしまう。

だって物凄く美味しそうに食べるんだもの。見ていてすごく気分がいいよね〜。

機嫌よくパクパク食べる飛鳥ちゃんをまったり観察していたら僕の視線を感じた飛鳥ちゃんがこっちを見ながら首を傾げる。

何でもないよとジェスチャーで伝えると今度はいつものイタズラな笑みを浮かべ……

 

「と〜とさん!」

 

「?どうしたの?」

 

「口開けてく〜ださい!」

 

「え?」

 

「食べ物があって〜、口を開けてくださいって言ったら〜……ね?」

 

「……ふぇ!?」

 

いきなり飛鳥ちゃんから出されるトンデモ提案。

いくらなんでも急すぎて……

 

(い、いやいやいや急に言われても心の準備が……)

 

「いや……ですか?」

 

返答に戸惑っている僕を見て嫌がってると感じた飛鳥ちゃんが涙目になりながら聞いてきて……

 

(うぅ、こう言われたら断れない……)

 

いや、本音は「断りたくない」なんだけどそれを認めちゃうのがまた恥ずかしくて……え、えーい!やってやる!

 

「あ、あ〜ん……」

 

「!!」

 

目を瞑って口を開ける。

ものすごく恥ずかしい……けど、嫌じゃないし……い、今だけ。今だけだから……

 

「あーん!」

 

必至に羞恥に耐えているあいだに飛鳥ちゃんが元気な声で言いながらビスケットを僕の口の中に入れる。

舌で中に入ったことを感じてゆっくり口をとじて咀嚼……。

 

「どうです?美味しいです?」

 

「う、うん……」

 

(味なんてわかんないよ!!)

 

恥ずかしさが勝ちすぎて味覚が麻痺したせいで全く味がわかんない!!

後ろの方から店員さんが『あらあら』とか言いながらすごく優しそうな笑顔浮かべてるしさ!?

……見守られてる感が凄いして恥ずかしい……。

 

「百斗さん、どーしたんですか〜?」

 

ニヤニヤしながら見つめてくる飛鳥ちゃんから視線を逸らす。

とりあえず落ち着くために一緒に買ったウーロン茶をひとくち……

 

「百斗さん、かわいい〜!!」

 

「ケホッ、ケホッ……も、もぅ!!」

 

「えへへ!」

 

(やられっぱなしは流石に……こうなったら反撃を……!)

 

「こっちだって……飛鳥ちゃん、口開けて!」

 

「え、してくれるんですか!?」

 

「……あ、あれ?」

 

(思ってた反応となんか違う!?)

 

「百斗さん、ありがとうございます!あ〜ん……」

 

「うっ……」

 

言うや否やこっちを向いてこっちを向いて口を開ける飛鳥ちゃん。

ちょっと上を向きながらこっちに口を開ける姿はなんだか雛鳥が親にご飯を求めてる姿に似ていて……可愛さとなんかいけないことをしてるんじゃないかという背徳感と恥ずかしさが同時に来て、胸をギュッとつかまれたような感覚がして……

さらに追い打ちと言わんばかりに言ってくる『若いっていいわね〜』という声にますます恥ずかしさが……。

 

「まだれふか〜?」

 

「あ、あぅ……」

 

さらなる追い打ちと言わんばかりに首をこてんと傾げながら開けたままの口で喋る飛鳥ちゃん。

それがまた可愛くて恥ずかしくて……

 

「あ、あ〜ん……」

 

なんだか前が見れず、下を向いたままゆっくりと口の中に入れてあげる。

口の中に入ったことを感じ取った飛鳥ちゃんはシガーフライを食べるためにゆっくりと口を閉じた。

 

 

……僕の人差し指と一緒に。

 

 

「ひゃん!?」

 

「あむあむあむ」

 

「ちょ、ちょっと!?あ、あ……飛鳥ちゃん!!???」

 

人差し指を甘噛みされるせいですごく変な感覚が指から伝わってきて……

プチパニックになってしまい口が少し空いた瞬間思わず指を引っ込めてしまい、そのままどうすればいいのか分からずあわあわしてしまう。

一方飛鳥ちゃんはそんなことつゆ知らず、美味しそうに最後のビスケットを口に運んで頬張って……

 

「ん?百斗さん、ど〜しました?」

 

まるでイタズラ成功とでも言いたげに浮かべられる笑顔。

なんだかそれすらも魅力的に……

 

(……って、もうぞっこんってレベルじゃないよ)

 

「も、もう!食べ終わったなら次行くよ!!」

 

「あ!?百斗さん待ってください〜!!まだディップがまだ残ってるんですから〜!!」

 

逃げるように店を出る僕。そんな僕を追いかけるために慌ててスプーンでディップをすくい食べて、トレイを返却する。

結構な動きをすぐに終わらせるあたり運動神経がすごいというかなんというか。

 

その後数秒も経たずにむ〜なんて言いながら僕の横に並ぶ飛鳥ちゃん。

なにか文句を言いたげだったけど……横しか見てないせいで前から来る通行人にぶつかりそうになる飛鳥ちゃんをそっと手を繋いで引き寄せる。

 

「あ……えへへ」

 

「前方、注意してね?」

 

「百斗さんが先に行くからじゃないですか〜!!」

 

「はいはい」

 

「むぅ〜……」

 

「あ、アイスあるよ?」

 

「話を逸らさないでください!!」

 

「いらないの?」

 

「……欲しいです」

 

「素直でよろしい」

 

「むぅ〜……」

 

ささやかなお返しだよ!なんて心の中で宣言する。

こうでもしないと気が済まないってね。と、そんなこんなでソフトクリーム屋(?)の前に到着。

なんで(?)かと言われるとこの店はハンバーガーとかも売っているから。で、この店は実はちょっとしたクセのある商品があって……

 

「うわぁ……」

 

「ま、まあ初見の反応はそうだよね」

 

飛鳥ちゃんの目の前にはハンバーガーの食品サンプルがあるんだけど……衝撃的なことにこのハンバーガー、バンズとソースが青色というすごく体に悪そうな色なんだよね〜……

日本のジーンズのほぼ全てを作っている岡山なんだけどそれにあやかってなのか作られたこのデニムバーガー。

 

(いつ見ても真っ青って食欲をうせさせるよね〜……)

 

店に出す以上は美味しいものなんだろうけどそれでも普通の人は食べたいとはならないよね〜……

嬉しがるのはダイエットを目指して食節制してる人……いや、無いね。うん。

 

「……これ食べるの?」

 

「食べないからね!?アイスって言ったよね!?」

 

「えぇ……」

 

分かるけどさ!?こんな見た目だけ見たらゲテモノを売っている店のアイスが怖くて嫌って気持ちは分かるけどさ!?そこまで露骨嫌がらなくても……店員さんも苦笑い浮かべてるしさ!?

 

って言っても納得しなさそうだから先に二つ注文する。

もし飛鳥ちゃんの口に合わなかったら僕が全部食べよう。うん。

そう心に決めながら待つこと数分。

二つのソフトクリームが出てきた。

 

「……ソフトクリームも青い……」

 

「デニムソフトって言ってね?あぁ色をデニム色に合わせてるだけなんだけどさ」

 

「……デニム味なんですか?」

 

「うん、そんな味はない」

 

あってたまるか。

 

「味はちゃんとしてるよ?この店はブルーベリーが下味だったかな?」

 

デニムソフトと言っても合わせているのは見た目の色だけだから味は普通だし美味しい。

その証明と言わんばかりに毒味役として先に食べる。

 

「……うん、これも美味しいね」

 

「ほ、ほんとですか?」

 

「ほんとほんと。ほら、ね?」

 

大丈夫だと軽く促しながしてみるとゆっくりとうなずきながら一口……。

 

「……おいしい!」

 

不安げな顔から一気に幸せそうな顔へ変わる飛鳥ちゃん。

そのまま幸せそうな顔でパクパクと食べ進める飛鳥ちゃん……

 

「……って、慌てて食べすぎ!!クリームついてるよ?」

 

「ふぇ?」

 

ポケットからハンカチを取り出してそっと口元を拭いてあげる。

 

「はい、オッケー」

 

「んむぅ。えへへ、ありがとうございます!」

 

再び美味しそうに食べ進める飛鳥ちゃん。

僕も合わせてじゃないけど先に飛鳥ちゃんが食べ終えて待たせるなんてちょっと嫌だから早く食べ進める。

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

無事食べ終わりコーンを包んでいた紙を捨て、再び歩き出す。

川をたどって歩いて行き道路にぶつかるところで引き返し、今度は中道を通っていく。

煎餅屋でお土産といたずら用の激辛煎餅を買ったり鬼太郎博物館に入って妖怪の文書を読んだり、い草の展示品を見て薫りを楽しんだり作品に触れてみたり。

あ、あとふくろうカフェっていうのも行ったっけ?

やっり猛禽類ってかっこいい……。

 

そんなこんなことをしていたら時間もなかなかいい時間になってきて……。

楽しくて仕方ないけど日帰りだし早めに帰らないとだからね……。

泊まった方がいいのはわかってたんだけどお互い社会人だしこの日くらいしか合わせられなかったんだよね……。

 

(今度はお泊りで行きたいな……)

 

「あ……先輩!」

 

「ん?」

 

物思いにふけっていたら袖を引っ張られて何かと思い視線を向けると先にはガラス細工のお店。

 

「ちょっと見ていく?」

 

「はい!」

 

手を引いておそらく今日最後のお店訪問へ。

中にはたくさんのガラス品の小物がありネックレスや髪飾りと言ったアクセサリに飾りとしておくものや、中には水に浮かべて楽しむものなんてものまであった。

その中でも特に目を惹いたものが一つ。

 

「わぁ~……百斗さん!この中綺麗ですよ!!」

 

「作り自体は簡単ですぐ作れるのにね〜……すごく綺麗」

 

二人で覗き込む万華鏡。

その気になれば小学生でも作れる……というか僕が実際に小学生の時に図工の夏休みの宿題で作ったことがあるもの。でもそんなものとは比べ物にならないくらい綺麗で……簡単故にどこを変えたらこんなに綺麗になるのか不思議でたまらない。

その世界に魅入ってしまう……。

 

「百斗さん、こっちにもありますよ?」

 

飛鳥ちゃんの言葉で現実に戻り指を差された方を向くとビー玉より一回り大きい色とりどりの、見た目丸い蹴鞠のようなものがあった。

 

「これもガラス細工?」

 

「じゃなくて……ここを覗いてみてください!」

 

「?」

 

言うやいなや渡してきたそれを受け取り、指示された場所を覗き込んでみる。

すると……

 

「これ……これも万華鏡なんだ……」

 

ストラップの紐がついているそれは1箇所に覗き穴があり、そこを覗くと小さな、しかし大きなものにも負けない綺麗な鏡面世界があった。

 

「いいね〜これ」

 

「はい!……」

 

ほんの少しだけその世界を堪能して満足し、元の場所に戻しておく。

他にもなにか面白そうなものはないかなと周りを見ようとしたとき、飛鳥ちゃんの視線がさっきまで見ていたもの固定されているのに気づく。

声をかけようとも思ったけどあまりにもじっと、集中して見ていたからなんだか声を掛けづらくて……

 

……ただ、何となく……飛鳥ちゃんの考えてる、というか思ってることは伝わった。

 

(これは気に入っちゃったのかな?)

 

色とりどりの玉の中から青色を手に取る。

そしてもうひとつ……こっちは赤色。

 

「?先輩、それどうするんですか?」

 

「……買ってあげるよ?」

 

「え?」

 

「だってそんなに欲しそうに見つめられてたら……ね?」

 

「で、でも……」

 

「お揃いのプレゼント!……だめ、かな?」

 

「っ!?」

 

いきなり顔を背ける飛鳥ちゃん。

 

(何かあったのかな……?)

 

少し心配になって回り込もうとしたらそれより先に振り返る。

その時には既にいつもと変わらない顔に戻ってたけど……本当に何があったんだろ……?

 

「本当に……いいの?」

 

「う、うん……もちろん」

 

いつもの敬語じゃなくて砕けた言葉。

そのギャップがやばくてつい顔をそらしてしまいそうになるのをぐっと我慢する。

 

「……ありがと!!」

 

「……う、うん」

 

真っ直ぐに向けられる笑顔に今度こそ顔をそらしてしまう。が、何となく悟られるのが恥ずかしくて……。

商品を持って慌ててレジへ。

後からついて来るのを背中に感じながら会計を済ませる。

袋は断って店からでてすぐに赤色の方を飛鳥ちゃんに渡し、青色の方は自分の鞄に取り付ける。

飛鳥ちゃんも自分の鞄に付けてくれたみたいだ。

 

「「……えへへ」」

 

なんだかこうしてつけてみると嬉しくて、恥ずかしくて……

少し顔が熱くなってくる……。

ブレスレット、ネックレス、万華鏡……この短期間で宝物がどんどん増えていく……。

 

(ちゃんと大切に持たないとね)

 

心の中で誓うと同時に時計の確認。

時間はもう少しで3時半をむかえるところだった。

 

「3時半か……」

 

「あぁ……そろそろですよね?」

 

「うん、もう帰らなきゃね〜」

 

「……そうですね」

 

とりあえず今日美観地区で回りたいところは全部回ったので飛鳥ちゃんと駅の方へ歩く。

普通に遊ぶだけならまだ遊べる時間……だけど僕たちは社会人だしここは僕たちの住んでいるところじゃない。

明日仕事だし休みたかったけど今は繁忙期。

今回だって飛鳥ちゃんが久しぶりにたくさん一緒に遊びたいって言ったのを聞いて無理やり考えた旅行コースだ。と言っても僕が案内できる範囲なんて限られてたんだけどね。

本当なら美観地区よりももっと有名なところだって案内したいんだけど……おかげで観光時間より移動時間の方が長くなっちゃった。それに岡山までって決して近くない。

お金だって結構かかっちゃったし……。

考えれば考えるほど自分のプランの穴が目立ち、そして不安になる。

飛鳥ちゃんの笑顔をたくさん見た。

飛鳥ちゃんの可愛いところもたくさん見た。

楽しかった。

僕は幸せな時間をおくれた……でも

 

(飛鳥ちゃんはどうなんだろう)

 

やっぱり不安。

やっぱり怖い。

もともと他人の顔色ばかり気にしていた僕はこんな時でもうだってしまう。自信が持てない。

 

(……楽しんでもらえたかな?)

 

「百斗さん……百斗さん!!」

 

「え?」

 

頭の中でずっとそんなことを考えていたら飛鳥ちゃんに引っ張られた。

どうやらいつの間にか倉敷駅まで戻っていたらしい。

そこではっとして手元の時計を確認。

時刻は3時50分。

 

「飛鳥ちゃん、こっち!!」

 

「え?」

 

今度はさっきの逆で僕が飛鳥ちゃんを引っ張る。

戸惑う飛鳥ちゃんを無理やり引っ張ってとある場所へ。

 

倉敷駅。

 

美観地区の最寄り駅で距離にして徒歩10分ほど。

朝も来たけどあの時は美観地区が目的だったからあまり見てなかったけど……ここにだって紹介したい場所がある。

 

美観地区側の出口にある花時計を横目に改札の前を素通りして反対側の出口へ。

反対側は陸橋と一体化しており形は円形になっている。

反対側はアウトレットへの入り口となっておりその間を人が左回り、もしくは右回りに動いている。

そしてその円形の陸橋の中心。そこにはここに来た人の目を引く高い時計塔がある。

形状は屋根の部分以外は四角柱になっており、屋根は四角錐になってとんがっている。そしてその四角柱はすべての面に時計版がついており、陸橋のどの位置にいても時間を確認できるようになっている。

僕が物心ついたころには働いていた立派な時計塔だ。

 

「ほぇ~……こんなものもあるんですね~……なんかすごい……」

 

「と言っても見た目は普通なんだけどね」

 

あれだけ大げさに説明しておきながらまあ簡単に言ってしまえば普通の時計塔だし、むしろ若干細くも感じる。

……でもこの時計塔のすごいところはここからだ。

時刻は3時59分……ジャストタイミング。

 

「飛鳥ちゃん、始まるよ」

 

「え?」

 

時計塔の針が4時を差す。

 

「……来た」

 

「え!?」

 

4時になると同時に時計塔から鐘の音が鳴り優しげな音楽が流れ始める。

その状態が数秒続いた後、今度は時計塔の上部が少しずつ上へスライドしていく。

 

「百斗さん……これはいったい……」

 

「見ていればわかるよ」

 

いきなりのことに驚く飛鳥ちゃんにドッキリ成功という嬉しさ半分と子供の時の懐かしさを思い出した懐かしい気持ち半分で答えた。

 

この時計塔の正体はからくり時計。

毎日定刻になるとこのようにからくりが作動する。

 

(昔はこれが好きでずっと待っていたっけ……)

 

皆でこれを見た記憶と照らし合わせながらスライドされる時計塔を見送っているとスライドしきった時計塔の中から人形が出てくる。

ほどなくしてそれぞれの位置につく人形たち。

人形が位置についたと同時に一瞬止まる曲。そしてまた鳴り響く曲。

その音楽に合わせて今度は人形たちが演舞を始める。

演舞内容はアンデルセンの童話の一つ、人魚姫のワンシーン。

他の3面でも演舞は行われており、人魚姫とは違うアンデルセンの作品のワンシーンが人形たちの手によって演舞されている。

 

(昔と変わらないな……)

 

いい意味で変わらない。

昔と同じで大人になっても落ち着く大好きなもの。

落ち着く包まれるような……そんな感じ。

 

「わぁ~……!!」

 

感嘆の声を上げる飛鳥ちゃん。

楽しんでくれているようで何より。

きっと満面の笑みを浮かべて楽しんでくれている。そう思い飛鳥ちゃんの方を見て……

 

「ッ!?」

 

子供のような真っすぐな笑顔。

純粋で無垢な笑顔。

夕日に照らされてその輝きを増していく。

 

 

……僕の視線が奪われる。

 

 

時間により人形の舞台が回転。左へ移動。

続いて行われるのはマッチ売りの少女。

 

僕の鼓動が早まっていく。

心臓の音が耳に響く。

 

(うるさい……)

 

けど……止められない。

 

時間により舞台が回転。

続いて裸の王様。

 

次々変わる舞台にさらに笑顔になる飛鳥ちゃん。

鼓動が加速。

その速さ、僕が彼女への好意を自覚した時と同じくらい……

 

時間により三度舞台が回転。

最後を飾るは錫の兵隊。

 

クライマックス。

飛鳥ちゃんのテンションも最高潮へ。

そして僕の鼓動も……

 

10分弱経過。

演舞を終えた人形たちは時計塔(舞台裏)へと下がっていく。

これにてアンデルセンによるからくり時計ショーは幕を引く。

見ていたほかの人たちも散り散りになり僕たちの旅行メニューもこれにて本当に終了。

音と人の消失により周りは静かになっていく……反して激しく響く鼓動……。

 

「……百斗さん、凄かったですね!!」

 

「……うん」

 

生返事でしか返せない。

それほどにまで動揺していて……

 

「……百斗さん、今日はとても楽しかったです!神社でお参りしたり、お菓子たべたり、お土産買ったり……」

 

飛鳥ちゃんの口から紡がれる今日の思い出。

言葉にされるたびに鮮明に思い出される。

 

「……とても楽しかった……今まで生きてきた中で一番です!!」

 

(……僕もだよ)

 

 

言いたかったけど口に出なかった。

 

 

ドキドキで動かなかった。

 

 

「本当に……ありがと!百斗さん!!」

 

最高で最幸の笑み。

今度は時計塔ではなく僕へ。そして僕の胸へ飛び込む飛鳥ちゃん。

 

「……本当にありがとうございます」

 

備考をくすぐる甘い匂い。

優しく温かい体温。

 

ドキドキ……

 

止まらない。止められない……止めたくない!!

 

 

 

 

もっと……世界で一番大好きなこの人と……ドキドキしたい。

ここで終わりにしたくない!!

 

「……百斗さんの気持ち、聞きたいな」

 

……今思えばこの言葉は単に旅行の感想を聞きたかっただけなのかもしれない……けどここで言えなかったら二度と言えない。そんな気がして……。

 

だから……

 

「……僕も最高に、人生で一番楽しかった。だって……大好きな人と一緒だったから……」

 

「……え?」

 

……一つ、深呼吸。

 

「高梨飛鳥さん」

 

「……はい」

 

二つ、深呼吸。

抱き着いてきた飛鳥ちゃんをゆっくり離し少し距離をとる。

……なぜか緊張はしなかった。

 

 

 

 

「……あなたのことをお慕いしています。……僕と、付き合って……くれませんか?……お願いします!!」

 

 

 

……いった。

……あとは、飛鳥ちゃん次第。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何秒、何10秒、何分。

どれくらい経ったかわからない。

何もない時間が過ぎていく……

 

 

 

(だめ、なのかな……?)

 

 

 

 

怖い

 

 

 

 

恐い

 

 

 

 

こわい

 

 

 

 

(飛鳥ちゃんは……どう、思っているのかな)

 

気になる。

 

ゆっくり顔を上げる。

 

確認する。

 

(……え?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前には、目に涙をため今にも泣きだしそうな飛鳥ちゃんの……

 

「どう……!?」

 

したの?

 

……その言葉は続かなかった。

 

……だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり飛び込んできた()()と影が重なったから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某月某日。

晴れ時々曇り。

今日も新幹線はダイヤの乱れることなく順調に運航しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……寄り添う赤と青の球状の万華鏡のように肩を寄せ手をつなぎ、幸せそうな顔を浮かべながら夢の世界へ旅立った二人を乗せて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで晴れてくっつきました!
書いててとても難しかったです……

そして今回出てきた美観地区。
割とほとんどが実際にあるものです。
もしよろしければ岡山にきてここを観光してみてはいかがでしょうか?

ではでは!
みなさま、よいお年を!!

今年一年ありがとうございました!!
来年もよろしくお願いします!!


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35話 驚きの体験回

お久しぶりの投稿ですね。
今回はちょっと書いたことないジャンルに挑戦です。
変な描写等々ありましたら申し訳ありません。

では今回も、そう文字数9000越えの長い短編をお楽しみくださいませ。


「準備はできてる?」

 

「ま、まって~!まだ帽子が決まってないの~!!」

 

「はいはい、え~っと、今のこっつんのファッションで似合うのは……これかな?どう?」

 

「あ、ありがと!!」

 

「相変わらずどたばたしてるな~……」

 

「キヨ君も早く準備しろよ~」

 

「わかってるよ~あず兄」

 

「先に車のエンジンかけとくね~」

 

今日も賑やかな我らが滝沢家。

一人喋り出せば全員が喋りだしいつの間にかワイワイガヤガヤと盛り上がってしまう僕たち5人の兄弟姉妹は珍しくみんなで外へ出掛ける準備をしていた。

確かに皆仲良いし一緒に遊ぶことも多いんだけど皆で揃って外出って実はあんまり無いんだよね。

加奈姉とこっつーの二人で買い物いったり、ふうとあず兄の二人がゲーセン行ったり。

基本引きこもってる僕は外にでるときは大抵一人だしね。

だけど今日は珍しくみんなの予定がきれいに開いていたのでだったらみんなで買い物に出かけようといった感じでこういう珍しい状況になったとさ。

 

さ、状況確認はさっさと終わらせて僕はエンジン掛けとかないとね。

最近熱くなったし五人も車に乗ると若干車内が熱くなるから少しクーラー効かせておきたいんだよね~。

 

「ふぃ~……おう百斗。冷やしてたんだな。あぁ~……涼しい」

 

「こうでもしないと今からの季節はつらいからね~」

 

「よっと!涼しい~♪」

 

「ごめん、待たせちゃった?」

 

「俺が最後だから気にしないで~」

 

ある程度掛けたところであず兄、こっつー、加奈姉、ふうの順で乗車。

 

「よし、準備OKだね」

 

全員乗ったことを確認して車発進。

目的地はいつも利用してるモールへ。

一気に賑やかになる車内はいつもより陽気に騒ぎながら目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石土日、混んでるね~……」

 

「駐車場空いてるかな?」

 

「空いてはいるかもだけど……探すのに時間がかかるね」

 

数十分後、楽しい談笑をBGMにしながらドライブしていると渋滞に引っかかった。

流石に休日というだけあって家族で買い物っていう人たちが多いみたい。

信号だけじゃなくて警備員の人まで案内してる。

横から見てるだけでもぶつかりそうな瞬間があって一瞬どきってするときもあるし……

 

(うーん……先に行ってもらおっかな)

 

ちょうどすぐ右が歩道だし他にも降りている人がいるからそうしてもらった方がよさそうだ。

 

「みんな先に降りて買い物に行っててくれる?多分渋滞のせいで駐車場もすぐに空かないと思うし……」

 

「任せて大丈夫か?」

 

「平気平気。先行ってて~」

 

あず兄の心配に感謝しながらもみんなを先にいかせる。

じゃないとこっつーがいい加減退屈してるしね~。

 

「じゃあ先に行ってるね~」

 

「百斗兄早く来てね!!」

 

加奈姉、こっつーが先に降りてその後ろをついていくあず兄とふう。

一瞬にして静かになった車内に若干の寂しさを感じながらも車を動かし続ける。

早く車を置いて皆に合流しないとね……なんだけど本当に動かない。

 

「暇……。ふうくらいに残ってもらって話し相手になってもらった方がよかったかな~?」

 

なんて愚痴をこぼしても仕方ないからおとなしく待ってゆっくり進めていく。

時間にして二十分くらい待ったのかな?正確には回っただけど……そこでようやく空いているところを見つけて駐車。

車内が熱くなることを防ぐために日陰に止めることを忘れない。

無駄にうるさい人が多いからね〜……

 

「よし、行きますか〜」

 

車から降りて鍵を閉め、お店への道を歩いていく。

家族みんなの店の回る順番なんて嫌でも覚えちゃうから経過時間とメンバーで今どこにいそうかを割り出してっと……

 

「ここじゃないかな」

 

行き着いた場所はちょっと小洒落たファッションショップ。

加奈ねえとこっつーが一緒にいれば他に誰がいようともまずはここによる。

優先度高いからね。それに全部の買い物を通して食料品を除けば一番時間をかけるところだ。

それを踏まえればまだギリギリここにいるはずなんだけど……

 

「……ちょっと遅かったかな?」

 

店内を見渡してもどこにもみんなの影がない……もう二つ目の店に行っちゃったかな?

まあ次に行ったところで次に回るところもなんとなく予想はついているし特に問題なかったり。

ということで次の場所へ足を向けようとしたとき、少し気になったものが目に入る。

なんだかあたふたして周囲を見渡す女性。困っているというよりは誰かを探している感じなんだけど……

 

(どうしたんだろ?……まあいっか)

 

僕は聖人でもなければお人よしでもないしそもそも人見知りだから声何てかけれないのである。

ここはスルーで……

 

「あ、すいません」

 

(なんで声かけられたのかな!?)

 

自分の不運もここまで来たかなんて思いながら人見知り発動によりかなり緊張した声色で返事をする。

 

「は、はい!何でしょうか……?」

 

「滝沢百斗さんですよね?」

 

(なんで身バレしてるの!?)

 

情報社会怖いなんて思いながら若干後ろに下がると向こうが申し訳なさそうに話を続けてくる。

 

「あ、すいません!私こういうものです」

 

そういいながら出される一枚の名刺。

おそるおそる受け取りながら名前を確認する。そしてその人が勤める会社を確認するんだけど……

 

(どこだろ?聞き覚えないけど……)

 

「私、ファッション誌の編集をしているものです!この度は百斗さんの御兄弟に声をかけさせていただきまして……」

 

「……へ?」

 

僕の中の時が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はさかのぼって数十分前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まずはお洋服みなきゃね‼」

 

「うんうん!!」

 

「んあ~、俺たちはベンチで休むか?」

 

「休むほど疲れてないし、まだ何もしてないんだけどね……」

 

「つっても俺たちが見るものはここにはないからな」

 

「だね~……」

 

るんるん気分で前を歩いて行く加奈姉とこっつー。

楽しそうに行くのはいいんだけどやっぱりそこは女子。

ウィンドショッピングだけでもかなりの時間がかかるからあず兄と百斗兄はいつも退屈そうにしてるんだよね~……。

俺は大丈夫なんだけど二人はファッションに全く関心がないからね……。

じゃあ他のところ回ればいいんじゃ?なんて思うけどそれをして前加奈姉に怒られちゃって……理由はみんなで一緒に回らないと楽しくないからだって。

こっつーへの愛がでかすぎてかすんで見えちゃうかもしれないけど加奈姉は俺たち兄弟のこと皆大切に思ってるんだなって改めて実感したよね。

 

まあそんなわけで二人が買い物に行っている間はこうやって待っていたりするんだ。

 

「しっかし本当に女子の買い物って長いよな~……」

 

「仕方ないよ~。うちの二人は特におしゃれ好きだもん」

 

「だったな~……」

 

昔から服の話については話題に事を欠かさない二人だったもんね。

俺ももし女として生まれてたらこんな感じになってたのかなと思わなくもないけど。

 

「しっかし長ぇ……」

 

「でも慣れておかないと遥さんとの買い物で困るよ?」

 

「余計なお世話だ!!っと、それに遥はそういう所は意外とちゃんとしてるんだよ」

 

「へ〜……よく見てるんだねえ」

 

「……キヨ君、性格悪くなってないか?」

 

「気のせいじゃない?」

 

あず兄もひどい人である。

 

「ったく……さて、ちょっと行ってくるわ」

 

「ん?どこに?」

 

「自販機。なんか買ってくるよ。いる物あるか?」

 

「ああ〜……ごめんね?」

 

「気にすんなって。それよりも何がいい?」

 

「あず兄に任せるよ」

 

「あいよ」

 

言いながら席を立ち、自販機の方へ歩いていくあず兄を見送る。

まだまだ加奈姉とこっつーのショッピングも盛り上がってるところだしあず兄が戻ってくるまでに終わるってこともないだろう。

それにそろそろ百斗兄も車置いて合流する時間だろうしね。

しかし短いとはいえ1人の時間が出来てしまった。

 

(うーん……本でも読んどくか)

 

懐から一冊の小説を取り出して栞を挟んだページを開く。

こういったときに時間をつぶせるように毎回一冊は持っているんだよね。

 

「さて……ん?」

 

早速続きを読み進めようと思っていたらどこからか視線を感じた。

 

(誰だろ?)

 

その視線の正体は案外すぐ見つかって……

こっつーたちがいるお店の二つ隣の写真を撮るスタジオを借りれるお店からの視線だ。

そっちの方に顔を向けているとこっちをじっと見つめてくる女性の人が一人。

もしかしたら人違いかもと思い回りを見渡すけどなぜか俺の周りだけ人影が……

 

(え?となるとやっぱり俺?)

 

ふと視線を再びお店の方へ受けるとさっきまでこっちを見ていた女性がこっちへ歩いてきた。

 

「あの、今お時間ありますか?」

 

「は、はい?」

 

「私こういうものなんですけど……」

 

恐る恐るといった感じで一枚の名刺を渡してくる女性。

俺も俺で学生生活しかしたことないから名刺の正しい受け取り方なんてもちろん知らない。そのせいでこっちまで変に緊張しながら受け取って書いてある字を読んでいく。

 

「えっと……月刊雑誌『Wool』?」

 

「『Wool』!?」

 

「うわぁ!?」

 

名刺の内容を読んでいたら突如後ろから現れるこっつー。

その後ろには買い物袋をもった加奈姉も。どうやら向こう側の買い物が終わってこっちに来たみたい。

 

「なんだ?騒がしいな?」

 

時を同じくあず兄も帰還。五本のペットボトルを抱えながらこっちに来た。

地味に冷たそう。

 

「『Wool』って言ったら今話題のファッション雑誌だよ!?キヨ兄知らないの!?」

 

「最近のこっつーのお気に入り雑誌だよね」

 

「そうなの?あず兄」

 

「俺に聞かれても知らんぞ?」

 

それぞれの反応を見てようやく目の前の女性がどんな人か理解できた。

でも何で人気ファッション雑誌のライターさんが俺なんかに声をかけたんだろう?

 

(……この家族レベル高い)(……私の見込み通りね)

 

「何か言いました?」

 

「い、いえ、何でもありません」

 

整ったスーツを着た女性が咳ばらいをしながら話を始める。

 

「実は来月の特集で素人の方からモデルを選んで今流行りの服を着てもらおうという企画を計画していてですね……なかなかいいモデルが見つからなくて右往左往していたところにあなた方家族を見つけまして……」

 

「え~っと、つまり?」

 

「見たところあなた方家族は全員素晴らしいモデルになると思いましたので声をかけさせていただきました!ぜひモデルのお仕事をしてみませんか?!」

 

「「「「……え?」」」」

 

俺達の時が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで今に至ると……」

 

「そうそう」

 

謎の女性に声をかけられて半ば無理やりスタジオに連れてこられた僕を待ち受けていたのは既に話を通されたふうたちで。僕もたった今ふう伝いで何が起こったのかを知れた。

 

「大体の状況はわかったけど……よく引き受けたね、加奈姉とか猛反対しそうだけど……」

 

誰がどう見ても怪しい勧誘だしこの手の犯罪とかになるとその……ねぇ?いろんな意味で危ない勧誘の可能性だってあるし……。

 

「それに関しては大丈夫みたい」

 

「なんで?」

 

「はるk……謎の構成員HALさんに連絡とったら素性とか裏事情とか全部調べ上げてくれてさ。どうやらあの女性も本当に『Wool』のそれもその中でもだいぶ有名なライターさんみたいでさ。そういう変な危険はないんだって」

 

「後半はわかったけどその前半のまったく無意味な設定もうやめない!?」

 

AZと言いHALと言い隠しきれてないんだからいっそ本人以外にいらない混乱与える設定なんて消してもいい気がする。っていうかだれ一人として正体隠す気ないだろ!

 

「だから、百斗兄も安心していいよ」

 

「あ、スルーですか。さいですか……」

 

なんかこんなぞんざいな扱い久しぶりに受けた気がする……とりまそんなことは置いておいて。

 

「ま、安全ならよかったや。で、結局僕らは何をすればいいの?……ってまあ、見ての通りか」

 

「そうゆう事」

 

僕とふうの目の前にはこれでもかと言わんばかりの服がハンガーにかけられて並んでいた。

おそらくこの中から自分で服を選んでコーデしろってことだろう。……けど

 

「いいの?僕ファッションセンスのかけらもないけど……」

 

「俺も自信ない……」

 

「こういうのは自分の好きなやつ着ればいいんだよ」

 

「あ、あず兄」

 

服の山から出てきたあず兄の服装は赤紫のシャツに紺のジャケット。ズボンはベージュの所謂カーゴパンツ?みたいなのを着ていた。

 

「おお!あず兄かっこいい!!」

 

「流石あず兄。様になってるね」

 

「そりゃどうも。俺は先に行ってるからお前らも早く来いよ~」

 

「「うん」」

 

部屋からスタジオへ移動するあず兄を見送って僕たちも服を探す。けど……

 

「う~ん、どれ着ればいいのかわかんないや」

 

どれも素敵に見えてるようで……でもどの組み合わせも違うようで……

 

「うう~、やっぱりわからん!!ねえふう。どういったのがいいか……っていない!?」

 

気づけば部屋に一人だけで余計に焦る。

 

「ど、どうしよう……」

 

「百斗さん?」

 

「はひ!?」

 

後ろから声をかけられて素っ頓狂な声が……って何度目だこの声!いい加減慣れたい……

 

「そろそろ撮影を始めようかと思うのですが服の方はいかがですか?」

 

「あ、えっと……それがなかなかうまく決まらなくて……」

 

「そうですか……では一度スタジオに来てほかの方の衣装を見てはいかがですか?その後でしたらもしかしたら何かひらめくかもしれませんよ?」

 

「なんかすいません……そういう事でしたら一度スタジオ行きますね」

 

ライターの女性の方に案内されスタジオへ。

入った場所にはテレビとかでよく見るセットがあり、そこには女性のカメラマンが一人とすでに着替え終わった僕の兄弟たちがいた。

 

「あ、百斗~遅いよ~って着替えてないじゃん」

 

「どうせわかんなくて先に俺たちの撮影見てから服決めよってはらだろ?」

 

「まあね」

 

僕が着替えてないことに不満の加奈姉と逆にすべてを見通してあきれるあず兄。

まあねなんて軽く返してるけどその実綺麗に見透かされてかなり驚いてる。顔に出すのは癪だから隠すけど。

そんな僕より上の二人のコーデ。

あず兄の服装は更衣室で見た時と一緒だ。

加奈姉の方はネイビーストライプのシャツにブラックのワイドクロップド。

ハンディバックも持っていてものすごくクールで大人な感じがする。

 

「百斗兄服意識低いもんね~」

 

「見た目はいい方だと思うんだけどな~」

 

「はいはい低くて悪かったね。ふうもお世辞なんかいらんからね?」

 

「その言葉、飛鳥ちゃんが聞いたらすごーく怒るんだろうな~」

 

最後の言葉を軽く流して今度は年下二人の服装チェック。

ふうはグレーのシャツに水色のパーカー、下はあえて色落ちさせたジーパンで明るめのコーデ。

一方こっつーはペールピンクニットにチェックパンツ。

長めのネックレスもつけていつにもまして女の子してる感じがする。

こうして並んでいるところを見ると本当に絵になる人たちだと感嘆してしまう。

……いやぁ、ここに肩並べてる自分がほんと信じられない。

 

さて、みんなのファッションを見たところでとりあえずの写真撮影開始。

カメラマンの女性の方があれこれ出した指示に従ってポーズを取ったところを撮影したり、一般的なリビングを模した場所で自由に過ごしているところのワンシーンを撮影したりと本当にモデルの仕事をやってる雰囲気がいよいよ出てき始めた。

はたから見ても絵になる四人の雰囲気を見ていると……うん。

 

(これ僕が中に入らない方が写真映えしそうだなぁ)

 

そんな感想を抱いてしまっても咎められないと思う。

いやぁ、それなりのファッションセンスがあれば僕も交じれるんだろうけどね。

 

「本当にレベル高い家族ですね~」

 

「……はい、そう思います」

 

いつの間にか隣にいたライターさんの言葉に無意識のうちに返答していた。

それほどまでに見入ってしまってて……ちょっと疎外感。

 

「……百斗さん」

 

「はい?」

 

「ちょっと来てもらっていいですか?」

 

「ふぇ?ちょ!?」

 

有無も言わさずに袖を引っ張っていくライターさんに無理やり連れていかれ再び戻るは更衣室。

 

「きゅ、急にどうしたんですか?」

 

「百斗さん、あなたにお願いがあります」

 

「は、はい……?」

 

「あなたを私にコーデさせていただけませんか?」

 

「……へ?」

 

何を言ってるのか意味がわらからなくて思考が停止しする。

そんな僕にお構い無しに話を続けるライターさん。

 

「私の見立てではあなたが1番コーデしがいがあるとおもうんです!ですから是非!!」

 

「し、しがいと言われましても……それこそ加奈姉とかあず兄みたいなすごい人のが絶対見た目いいと思うんですけど……」

 

「私は()()()()()()()()()()って言ったんですよ?」

 

「……?」

 

ますます意味が分からなくて首を傾げる僕。

そんな僕にライターさんがしっかり説明してくれた。

 

「たしかに梓さんと加奈さんは素晴らしい方ですけど一方で完成されていると言いますか、顔立ちがハッキリされているのでどうしてもコーデが固まってしまうんです。その中でもクオリティが驚くほど高いので問題は無いのですが……例えるなら梓さんの見た目でわんぱくな感じは表現しづらいですよね?」

 

「……確かに」

 

あず兄の見た目はどちらかと言うとクールよりだ。

その状態で無理やりわんぱく感を出せば……少しは出るだろうけど違和感バリバリになりそうというのは想像に固くない。

 

「その点、あなたは中性的。パーツも悪い訳ではなくどちらとも見ることの出来るいい具合の見た目なんです!ほかの兄弟さん達が完成された宝石だとすればあなたはカット次第で如何様にもなる原石……だからこそ、お願い……聞いていただけませんか?」

 

物凄いいい笑顔で熱弁をしたかと思えば急に真面目になって頭を下げる忙しない彼女。

あまりにも真っ直ぐなその視線……その、こういうの向けられちゃうとすごく僕弱くて……あはは。

 

「だ、大丈夫ですから!その、僕なんかで良ければ……ぜひ……」

 

「いいんですか!?」

 

「うわぁ!?」

 

いきなり両手を握られてたじろぐ僕。

どうして僕は毎回異性に勢い負けするのだろうか。

こればっかりはどうも直せそうにないと思い、心の中で溜息をつきつつ前を見ると……

 

「では早速……いいですか?」

 

「……ひっ!?」

 

ものすごくいい笑顔を浮かべたライターさんのどアップの顔が目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、休憩でーす」

 

「「「「ありがとうございます」」」」

 

約50分程の撮影が終わりカメラマンさんの言葉で休憩に入る俺達。

こういうのは初めてだけど……うん、すごく疲れるね。

ただ写真を撮るだけなのにこんなに疲れるとは……

みんなの顔色も楽しさが確かにあったけど少なくない疲れの色が見て取れた。

 

「うぇ〜……疲れた〜……」

 

「おつかれこっつん」

 

椅子に座り伸びているこっつーにパタパタとうちわであおぐ加奈姉。

あず兄も口には出さないけどいつもより飲み物を飲むスピードと量が多い……きがした。

 

「でも、こんなに大変な仕事してるんだね」

 

「実際やってみないと分からないものだな。たかが写真と思っていたが……なかなか疲れるものだな」

 

俺の言葉にあず兄が乗っかりみんなでウンウンと頷く。

きっとプロの人達はもっと長い間撮影しているのだろうと思うとやっぱりプロは凄いんだなと改めて感じた。

 

「ではお願いしまーす!」

 

「「「「??」」」」

 

なんて物思いにふけっているとスタジオの入口から声が上がる。

もう休憩終わりなのかな?なんて思ったけどどうやら俺たちに向けてじゃないみたいで入口の方を見たら俺たちを勧誘したライターさんとその横に1人の女性が立っていた。

 

「うわぁ……」

 

「……へぇ」

 

「……凄い」

 

「……うん」

 

かける言葉が見つからないというのはこのことを言うのだろうか?というレベルで見ただけですごく綺麗で可愛らしい子がそこにいた。

 

「じゃあ始めますね」

 

「……(は、はい)

 

「「可愛い」」

 

すごく小声で答えたその人はただでさえ恥ずかしがっていたその顔を加奈姉たちの声のせいでさらに赤くしてスタジオ入りする。

若干たどたどしくてすこし危なっかしくて……大丈夫かな?と思ってたけど……

そんな心配、一瞬で消えた。

 

そこからは夢のような時間だった。

 

次々出されるお願いを的確にこなし、さらに自分でアレンジして1番可愛く、綺麗に見えるようなポージングをとっていき、さらにどんどん出される新しい衣装を全て華麗に着こなしていっていた。

 

ああ、これがプロなのか……

 

口に出さずとも俺たち4人、全員の意見が一致した。

 

もう一生見れないかもしれないその光景を焼き付けるために。

俺たちはじっとその世界をみつめていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄かったー!!!」

 

帰りの車の中響くこっつーの声。

あれからまたしばらく撮影をして仕事を完了し、報奨金を受け取った俺たちはショッピングの続きを終わらせて帰路に着いていた。

車の中での話はもちろんあのファッションモデルの話で持ち切りだ。

本当にすごい体験をさせて貰えた。ただ一つ不満点があるとすれば……

 

「そんなに凄かったんだ〜」

 

「百斗兄見れなかったの惜しいんだ〜!」

 

「って言うかお前、スタジオに帰ってこなかったよな」

 

「あ、あはは……迷ってたら時間経っちゃって終わりの時間になってたんだ。許してよ」

 

「まあ、俺たちは困りはしないがな……」

 

「だからちゃんと謝ったし僕は報奨金貰ってないってば」

 

「そういう意味じゃないんだけどなぁ」

 

加奈姉の言葉に頷く3人。

その様子に苦笑いを浮かべる百斗兄。

 

「まあまあ、それにきっと僕いない方が映えてたって。うん。間違いない」

 

((((そのネガティブ、また飛鳥ちゃん/さんに怒られるなこれは……))))

 

なんて4人の心が今日何度目かの一致を果たしたのであった。

 

でも……

 

(……ほんと、百斗兄の撮影してるところ見たかったなぁ……)

 

やっぱり少し後悔の残る体験となってしまった。

また今度やる時は今度こそ……そう思いながら俺たちは家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……よかった、バレてない)

 

車の中、一人だけ安堵の息をこぼす僕。

 

(本当は違うんだけどこんなこと言えないから……)

 

スタジオでみんなの前に出なかったことを謝罪しながらもこればかりは誰にも言う訳にはいかないから……だって……

 

(あの少女が僕の女装姿なんて言えるか!!……このことは後生大切な秘密にしておこう)

 

この時の覚悟のおかげもあってかこの少女の正体が家族にバレることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、()()()()……ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はぁ、なんであの時僕達は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名刺の会社名ばかりに気を取られて名前を見なかったんだろうね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま!()()

 

「おかえりなさいお母さん。元気だね〜。もしかして今度の雑誌のモデル決まったの?」

 

「そうなの!!聞いて聞いて物凄くいい子がいてね!!滝沢百斗君って言うんだけど、その子の女装姿が可愛くて綺麗で……!!」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月刊ファッション雑誌ライター

 

彼女の名前は

 

高梨(たかなし)雲雀(ひばり)であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ええ、しばらく飛鳥ちゃんにおもちゃにされましたとも……母娘共に……

 

 

……ちくせう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、是非とも娘をよろしくね♪」

 

「「/////////」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この母、ちゃっかりものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで読モ回でした。
服の描写間違ってなかったでしょうか?
作者にはファッションセンスがないものでして……
楽しんでいただけたら幸いです。

そして百斗さんがとうとう保護者公認に……
ボクの分身として出ているのに本体より幸せそうで羨ましい限りです……

新たに謎の研究家HALが出ましたね……
イッタイダレナンダー


では今回はこの辺で筆を置かせていただきます。

次回、また気が向いたら何か書くかもしれません。
その時まで、のんびり待っていただけたら幸いです。

ではまた次回、お会い致しましょう。ではでは


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36話 ご賞味あれ、ウミガメのスープを

久しぶりなdiary。
今回は皆さんがウミガメのスープというアナログゲームで遊ぶようです。

ウミガメのスープというのは言ってしまえば一種の謎解きゲーム。ということで書き方に工夫を入れてあります。

問題を読みながら謎を解くというのもこのお話を楽しむ方法でしょう。
もし謎を自力で解きたい場合は少しずつお読みください。

また、途中で

A finishing question

という文字が出たら答えが出てくる合図です。
自力でとかない限りは先を見たくない。そんな方はこの先に進まないようにして解いてから先をお読みください。

さて、長いまえがきはこの当たり。

では特注のウミガメのスープ、どうぞご賞味くださいませ……


「んん〜……疲れた〜」

 

土曜日の朝。

珍しく夜更かししなかった昨日もあってか朝早くから起きていた僕は少しパソコンで作業していた。

まあ作業って言ってもそんなに大したことじゃなくて軽い趣味の創作活動なんだけどね。

時間にしても一二時間ほどだから滅茶苦茶疲れたってほどでもないし。最も……

 

「……お腹はすいたな」

 

寝起き弱いはので朝食は相変わらず抜き。

多分みんなも食べてないだろうから作られてないだろうしね。

とは言ってももう11時半。そろそろ起き始める人は起きてくるし、加奈姉なんかはお昼ご飯を作ってたりするんじゃないかな?

ぐぅ〜っと腹の音も鳴いてきたことだし下に降りて腹ごしらえでもしようかな。

階段をおりてリビングへ。

部屋の中から物音はしなけど電気とかエアコンの稼働音は聞こえるし多分みんないるのだろう。

ガチャっとドアをあけてみんなに挨拶!

 

「みんなおはうぇぇぇぇ!?」

 

「「「「…………」」」」

 

物の見事に全員で机に顔を突っ伏していた。

 

「あ、百斗……ご飯そこね……」

 

「う、うん……」

 

リビング横のキッチンにあったフレンチトーストを貰って1口。

うん、流石加奈姉。とても美味しい。……んだけど、さっきから突っ伏してるみんなが気になってあまり集中できない……。

 

「え、えと……みんなどうしたの?」

 

「「「「暇なの察して!!」」」」

 

怒鳴られた。

 

「いやそんな無茶な……」

 

「「「「見てわかって!!」」」」

 

理不尽。

 

「まあ退屈してるってことはよく伝わったよ……」

 

「わかったらなにか暇つぶしできるの出してよ〜……」

 

「暇つぶしかぁ〜……」

 

こっつーの言葉に色々思考を巡らせる。

きっとみんなのことだから今すぐにできることの方がいいよね〜……

少し考えてそう言えば最近面白いの見つけたなと思い提案。

 

「じゃあウミガメのスープなんてどう?」

 

「ウミガメのスープ?」

 

「ご飯ならもう食べたけど……」

 

加奈姉とふうから疑問の声が上がった。

結構メジャーだと思うけど意外と知られてなかったりするのかな?

それでも梓兄は知ってたみたい。サークルのメンバーと遊んだことでもあるのかな?

 

「水平思考パズルゲームか」

 

「難しそう……」

 

梓兄の言葉にこっつーが首をかしげながら言う。

まあこう言われると難しいけどルールはいたって単純。

 

「全員参加型の謎解きクイズで出題者が問題を提示。それに対して回答者がみんなで質問を出題者に出していくアナログゲームだよ。ただし質問の内容は『Yes』か『No』で答えれるものに限られる。質問してそこから貰える情報を元にどんどん推理していくゲームだよ。ああ、質問回数に限度はないよ。20の質問と違うところだね」

 

「なぞなぞっぽいやつ?」

 

「なぞなぞと違って質問が許されるほど理不尽な答えが用意されてるのが特徴だな」

 

「なるなる〜」

 

僕と梓兄の説明で加奈姉は納得。

こっつーとふうもなんとなーくは理解出来たみたいで一応頷いてくれた。

 

「ま、習うより慣れろだよ。まずはやってみよう。その方が理解しやすいしすぐ分かるよ」

 

「ふーん、なんか面白そう!」

 

「問題はあるのか?」

 

「まぁ何問か……いきなりきついのやっても仕方ないし少し簡単なのやってみよっか」

 

僕の一言にみんなが頷いて問題を待つ。

うん、たとえ家族でも視線集めるのはちょっと緊張するね。

 

「じゃあ第1問。

 

とある果物販売を営んでいる男性が朝から『みかんを盗まれた』と騒いでいた。

しかしみかんが盗まれた事実はなかった。男は何故そう騒いでいるのでしょう?

 

さぁ、質問をどうぞ」

 

比較的簡単とは言ったものの閃きを問われるこの問題はちょっとハマるとなかなか抜け出せないタイプのそれだ。

さて、まずは1番の不安や嘘なんだけど……

 

「ふぅむ……」

 

顎に手を当てて思案顔になる梓兄。

 

(よしよし、梓兄の知らない問題みたいだ)

 

クイズもの全部に通る事だけど種が割れるとものすごくつまらないことになるからね。

とりあえず1番の懸念事項が消えてくれてよかったよかった。

あとはこっつーとふうが理解してくれるかだね。

 

「じゃあ質問、盗まれたのはみかんだけか?」

 

「『No』。問題にあるように盗まれた事実がありません」

 

「ほうほう……」

 

「なんかカッコイイ!」

 

「なるほど、そんな感じにやるんだね」

 

最初に手本として梓兄が質問することによってこっつーとふうも理解したみたいだ。

参加しながら周りへの説明も同時にこなす。さすがだね。

これで心置き無く出題者の仕事が出来そうだ。

 

「うーん……じゃあその店はみかんしか売ってなかったの?」

 

「うーん……恐らく『Yes』だけど関係はないかな?」

 

「売ってたものは関係ないのね……」

 

「盗まれたと思ったのはみかんの減った数と手持ちにあるお金にズレがあったから気づいたの?」

 

「勿論『Yes』だよ。基本の気付き方はそうでしょ?」

 

「じゃあじゃあ、犯行は夜行われたの?」

 

「まぁ……『Yes』、なのかなぁ。まぁ朝から叫んでるって問題文にもあるから夜行われたんだろうね」

 

「それもそっか……」

 

加奈姉、ふう、こっつーと質問をしていくけどまだ進展はないかな?

 

「えーっと、じゃあみかんを盗んだのは動物ですか?」

 

「『No』。動物は関係ありません」

 

「あらら、猪とか猿が勝手に食べたのかなって……」

 

「それは俺も思ったなぁ。でも動物だとどうやって入ったか気になるよね……屋根裏かな……?」

 

「あっ!」

 

加奈姉とふうの考えを遮るこっつー。

なにか思いついたのかな?

 

「みかんの値段はいくらでしたか?……ってこれじゃあYesNoで答えられないから……みかんは1個87円でしたか?」

 

「なんでそんなピンポイントな上にくっそ高騰してるの!?……『No』、というか値段は関係ありません」

 

「じゃあ!店の店主はお金の計算できない馬鹿でしたか?」

 

「ああ!!」

 

「身も蓋もないよね!?加奈姉も納得しないの!!『No』!!ちゃんと計算できるよ」

 

「ならこれしかない!!店主は老眼老害クソジジイだったんだ!!」

 

「さらに酷いわ!!『No』だよ!!」

 

「じゃあ店主は頭がパッパラ「店主障害者説から離れようか!?」はーい」

 

全く……やれやれと思わなくもないんだけどこの『ウミガメのスープ』においてはたまーにこういう質問がドンピシャな時もあるから可能性を潰すという意味では間違っては無いんだけど……

 

「んー……そもそもなんだが、店主は店の鍵をかけ忘れましたか?」

 

ふざけた質問から急にあず兄からの真面目な質問。

少しびっくりした……なんせ

 

「おお……少しいい質問だね。でも答えは『No』だよ」

 

「ん、進展ありなのか」

 

なかなかいい質問だからだ。

いい質問があったらちゃんとそういう。そうすることで少しずつ正解に導くというのも出題者の大事な役割だ。最もヒントの出しすぎもご法度だけどね。

 

「へぇ、いい質問は褒められるんだ〜」

 

「じゃあ頑張って考えなきゃね」

 

梓兄の質問結果にみんなのやる気が少し上がる。

こういう少しずつ真実にたどり着くってやっぱりワクワクする所があるよね。

 

「いい質問ってことは鍵が関係あるの?」

 

「でも店の鍵をかけ忘れたわけじゃないよね?じゃあレジの鍵……?百斗兄、レジの鍵はかけ忘れましたか?」

 

いい質問。でもこれも『No』だね」

 

「じゃあそもそもレジに鍵なんてなかった!!」

 

「これもいい質問なんだけど『No』かなぁ……」

 

「うぅ、Noばかりだと進んだ気がしないよ〜……」

 

加奈姉の言葉にふうとこっつーが質問するけど同じような質問であまり進展はない。

ううん、こう悩んでる妹と弟を見ると凄くヒントを出したくなるなぁ……

 

「ちょっと見てるところが違うかなぁ……鍵が大事なのはそうなんだけど……」

 

「うん、鍵がキーなのは分かるんだがな……」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「梓兄、寒い」

 

「ひど過ぎないか?」

 

だっていきなり寒いギャグ言うから……ほら、部屋の気温が5°くらい下がった。

 

「と、とにかくだ。鍵は大事な単語なんだよな?」

 

「重要とまでは行かなくても関係はあるよ」

 

「うーん、待って。そもそもなんだけどさ……レジの鍵って言ってる時点でこう解釈しちゃってたけど……そもそもこれってみかんが盗まれたんじゃなくてお金が盗まれたの?」

 

「おお、加奈姉凄くいい質問!!答えは『Yes』。盗まれたのはお金の方だよ」

 

「あ、盗まれたのはお金って言うのは合ってたんだ」

 

「それを早く行ってよ百斗兄!!」

 

「最初のあず兄の質問でも言ったしそもそも問題文にも盗まれた事実はないって言ってるんだけど……」

 

こっつーの言葉に苦笑いで返す。

僕はてっきり最初からそう気づいてるものばかりと思ってたんだけどね……。

 

「じゃあ盗まれたのはお金として……ってあれ?これもう答え出てない?」

 

「まだ出てないよ?だって問題文はみかんが盗まれだ事実がないのに盗まれたと騒いだ理由……現段階でみんなの分かってる言葉を使うのならみかんじゃなくてお金が奪われてるのになんでみかんが盗まれたと騒いでるの?って聞かれてるんだもの。まだその謎は分からないでしょ?」

 

「あ、そっか……そもそも聞かれてる部分が違うんだ」

 

「そういうこと。でも大分真実には近づいてるよね」

 

「……あれ?ってことはこの男の人ってそもそもお金を盗まれたとは考えすらしなかったの?」

 

「うんうん、いい質問。答えは『Yes』。だからこそ騒いでたわけだしね」

 

加奈姉とふうの質問のおかげで何を解かなきゃ行けないのかがかなり明確になってきた。

これはもう答えまではあと一息かな?

 

「ふむ……じゃあ前提に戻るんだが……この売ってるみかんってのはダン〇ン〇ンパの罪木〇柑のフィギュア……」

 

「なんでゴール手前からブラジルまで吹っ飛ぶような回答が出るかな!?その脚力をゴールに使ってよ!!『No』!!」

 

「ではこのみかんを作ったのは高海家の……」

 

「学園偶像は関係ありません!!『No』!!」

 

「じゃあ……このお店がある村には人狼がいた?」

 

「『No』……人狼だったらお金じゃなくてこの店主の命を盗みそうだよ……」

 

「じゃあこのお店のある村の人達が全員クズだった!!」

 

「だったら商売しようという考えすら思いつかばないでしょ!!っていうかさっきからこっつー口悪くない!?」

 

あず兄から始まり加奈姉、ふう、こっつーとネタばかりの質問。

真面目にやる気はあるのだろうか?

 

「……ふーん、なるほどね?じゃあ聞くよ?お店のある村にいる人たちはみんな優しい人たち?」

 

「……『Yes』。凄くいい質問だね」

 

ちょっと喋りすぎたなぁ……ボケのツッコミに集中しすぎてヒントを言ってしまったみたいだ。

こっつーの質問に対する答えから足がかりを掴んだ感じだね。

加奈姉はまさかこれを狙って……?んなわけないか。

 

「優しいのがいい質問なの?」

 

「いい質問だよ。優しい人たちばかりじゃなかったらこの人は販売して無いはずだ」

 

こっつーの言葉に首肯して言葉を返す。

そう、村人たちはみんな優しくないとこれは成り立たない。

 

「……大分見えてきたかも?」

 

加奈姉が目を光らせる。

……これは答えわかったかな?

 

「質問、行くよ?」

 

「どうぞ」

 

「商品は商品棚に陳列されてますか?」

 

「『Yes』。普通の店と同じように陳列されてます」

 

「男性は商品やお金のやり取りをその人の手で行っていますか?」

 

「『No』。男性自身の手は使われていません」

 

「そのお店はバイトや店員は雇っていますか?」

 

「『No』。自営業なのでしょう、誰も雇ってないみたいだよ」

 

「「「……あぁっ!!」」」

 

……うん、これはチェックメイト。かな?

加奈姉はボクのこの答えによって確信を得たのかそっと微笑む。

梓兄、ふう、こっつーも答えにたどり着いたようだ。

 

「じゃあ最後の質問……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A finishing question

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男性のお店は無人販売ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………『Yes』。……では、答えをまとめてくださいませ」

 

「OK!

 

男性は無人販売のお店を経営していた。無人販売は周辺に住んでる人たちとの信頼関係があって初めて開くことの出来るもの。そんな中ある日料金箱と自分が出品しているみかんの数を確認するとその数字に誤差があった。無人販売であったがために男性は料金が減ったみかんの数から計算して少ないことをみかんが盗まれたからだと勘違いしてしまった。そのため盗まれた事実がないのに男性は朝から騒いでいた。……どう?」

 

「……お見事。正解だよ」

 

「ふぅ……よかった〜」

 

「さらに解説を入れる余地もない完璧な回答だね。流石加奈姉」

 

「無人販売か……なるほどな」

 

「確かにそれならおかしくないよね」

 

あず兄もこっつーも納得してくれたみたいだ。

たまーにこういう問題って解かれても納得出来なかってりするんだよね〜。

 

「でも気になることがひとつ……鍵とレジのくだりっていい質問だったの?関係なさそうだけど……」

 

「鍵がいい質問なのは料金箱に鍵がかかってないからこの事件が起きたから。レジに関してはそもそもレジ自体が存在しないからだね。だから僕はそのふたつの質問に関してはNoと答えてるはずだよ?レジがなくて鍵もないだと一気に無人販売まで絞れるからね」

 

「あ、そっか……一応他にもあるかもだけどほぼ絞れちゃうね……」

 

ふうもこれで納得したみたい。

良かった良かった。

 

「まあ質問への回答に若干の意地悪を混ぜた感は否めないけどね」

 

「なんでそんないじわるするの〜」

 

「そんなの簡単だよ?」

 

頬を膨らませながら言ってくる妹に向けてちょっと意地悪な笑顔を浮かべながら返してやる。

 

「だって、聞かれてないもん!」

 

「うぐっ……」

 

そう、レジと鍵の有無については一言も聞かれてない。

なら質問されてない僕に答える義務も権利も無いもの。

この一言にみんなが一本取られたなという顔をした。こういうのが出題者の1番ゾクゾクするところだよね!!

 

性格悪い?少しくらい悪くならなきゃこういうのは面白くないのさ!!

 

「さて、じゃあ2問目する?」

 

「したい!!」

 

「今度はギャフンの言わせる!!」

 

「ま、まだ時間あるしな」

 

「今度はもっと早く答えてあげるよ〜」

 

こっつー、ふう、あず兄、加奈姉、みんなやる気満々だ。

 

「よし、じゃあ行くよ〜

 

第2問

 

昨夜の夏祭りのことを覚えていた瑞希ちゃんは、私がやきそばを食べようとするのをやめさせた。

 

一体なぜ?

 

……では質問どうぞ」

 

「はい、やきそばを食べるのを止めたのは夏祭りが関係しますか?」

 

「『Yes』だね」

 

「じゃあ夏祭りに行った先で起きたことが原因で止めたんだ」

 

「これも『Yes』。問題にもあるけど覚えてたから止めたんだ」

 

「じゃあもし夏祭りに行かなかったらやきそばを食べるのを止めなかったのか?」

 

「うーん……ちょっといい質問。でもこれは『No』だね。もしかしたら行かなくても止められたかもしれないよ」

 

「はいはい、夏祭りの会場でやきそばを食べたことに関係はありますか?」

 

「『No』。関係ないね」

 

こっつー、ふうが前提を固めて梓兄と加奈姉が周りを掘っていく。

うんうん、もう慣れてきたみたいだ。流石みんなだね。

 

「じゃあ……瑞希ちゃんは焼きそばの無人屋台を運営してましたか?してましたね!!Yes!!」

 

「『No』!!してないから!!勝手に断定しないで!?」

 

と思った瞬間にこっつーからまたボケがっ!!

 

「いや、可能性はある……瑞希ちゃんはお金が盗まれたのにやきそばが盗まれたと勘違いしましたか?」

 

「してねぇよ!!『No』!!梓兄まで乗らないで!?ていうか料理の屋台で無人販売ってなに!?作り置き置いてあるだけ!?そんなの冷めて美味しくないでしょ!?」

 

「え?人がいないままで鉄板にやきそば置いてあって焼かれてるだけでしょ?」

 

「Yesだ。キヨ君」

 

「Yesじゃねぇよ!!焦げてるだけだろその焼きそば!!」

 

「あ、じゃあブラックやきそばはその夏祭りで1番売れましたか?」

 

「かっこよく言い換えないで加奈姉!?『No』だよ」

 

1人ふざけたらみんなふざけるんだから……ツッコミが足りないよ。

ここに遥さんや飛鳥ちゃんがいたらさらにカオスになってただろうな〜……

 

「うーん……じゃあそもそも屋台は関係ない……とか?」

 

「そうだね……『Yes』だよ。屋台は関係ない」

 

「じゃあプログラムか!!」

 

「うん、いい質問。『Yes』だよ」

 

ふうとあず兄の質問でようやく真面目モードに。

さて、今度はボロを出さないように気をつけなきゃね。

 

「夏祭りの行事……って言ってもそんなに沢山ないよね?」

 

「こっつんの言う通りあまりなさそう……私たちの近所で考えるなら盆踊りと花火と浴衣コンクールと屋台選挙……かなぁ?」

 

「屋台は関係ないって言ってるから最後は除外でいいよね」

 

「じゃあ残り三つなんだが……どれもやきそばと繋がる気がしないんだが……」

 

ここで2問通して初めての長考タイム。

むしろ今までこれがなかったことがびっくりだ。

確かにここから答えにたどり着くのはちょっと厳しいと思う。まぁこの場合の突破方法はとにかく色々聞くしかないんだけどね。

それに踏み込んだのかこっつーが口を開く。

 

「夏祭りからだとこの先進まなさそうだから別のこと行く!!ズバリ、瑞希ちゃんはバカですか!!」

 

「「ぶっ」」

 

いきなりのトンデモ質問に吹き出すふうとあず兄。

ここに来てまたこっつーの毒舌質問が来たら確かに面白くて吹き出しちゃうよね。でも……

 

「……いい質問だね。答えとしては『No』だけどなかなか鋭い質問だよ」

 

「「嘘だっ!!」」

 

「うるさいレナブラザーズ」

 

まさかの僕の回答に荒れる男性2人

耳元で叫ばれたらうるさいでしょうが!!

 

「レナブラザーズ……すごいパワーワードだね……じゃなくて……バカでいい質問……あっ!もしかして、瑞希ちゃんは子供ですか?」

 

「これもいい質問。『Yes』。瑞希ちゃんは子供です。小学生低学年くらいの子を想像して貰っていいよ」

 

「つまりこの子は知識が足りなかった、もしくは何かしらの勘違いをしちゃった!!」

 

「うんうん、ディ・モールト。ベネ。いい質問。答えは『Yes』。瑞希ちゃんはだからこそやきそばを食べるのを止めたんだ」

 

「じゃあこの瑞希ちゃんと私って言うのは親子関係?」

 

「うん、『Yes』だよ」

 

「ありがと〜こっつんのおかげで少し分かってきたかも〜!!」

 

「あそこからここまで話を広げられる加奈姉も凄いもん!!」

 

お互いにスキンシップし合う2人。とても微笑ましい光景である。

 

「うん……納得できないが進展あったならそう認めよう。だがまだイマイチその勘違いと夏祭り、やきそばの3つが繋がらないんだが……」

 

「結局なんでなんだろう……あ、百斗兄。やきそばを食べるのを止めたのはなぜですか?」

 

「それはね〜ってそれが問題だって言ってるでしょうが!!考えなさい!!」

 

「ちぇ〜っ。百斗兄なら口滑らせると思ったのに」

 

やはり僕はみんなに下に見られてるのでは……?

 

「うーん……でも確かに繋がりが分からないのは確かなのよねぇ……まだあと1つか2つピースが足りない感じ」

 

「でもでも加奈姉のあの質問のおかげで……答え、なんか喉まででかかってる気がする……」

 

こっつーが少し真相に近づき始めてるかな?

……正直、この問題を1番答える確率が高いのはこっつーだと思ってるからちょっと期待。

 

「うーん……夏祭りを覚えてたからやきそばを食べるのを止めたんだよね?なら夏祭りの時に勘違いしたの?……あ、また決めつけちゃってた……えっと、百斗兄。そもそもこれは勘違いなの?まだ勘違いか知識が足りなかったからかわかんなかったから……」

 

「え〜っと……順番に答えるね?まず夏祭りの時に勘違いをしたかって話だけど……これは『No』。別に夏祭りの時に勘違いをした訳じゃないんだ。そして次の勘違いなのか?という質問に関しては……」

 

「Yesだろ?1つ目の質問に対して夏祭りの時にした訳じゃないと言ってるし……」

 

「それが『Yesとも言えるしNoとも言える』んだよ。というのも勘違いをした理由が知識が足りなかったから。だからね」

 

「う〜ん……?どういうことなの?」

 

「簡単に言えば両方当てはまってたからやきそばを食べるのを止めたんだ」

 

「……?」

 

うーん、ちょっとふうが混乱し始めたかな?

あず兄も少しまとめるためか黙ってるし……加奈姉も少し考え事をしてる。

さて、1番期待してるこっつーは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「……小学生特有の教えて貰ったものをそのまま受け取りすぎて……勘違いしちゃった……とか?だから知識が足りないから勘違いもしたって言う表現だった……どう?百斗兄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……やばい、凄くゾクッとした。

こんなにもこっつーがかっこよく見えたのは初めてかも……。

 

「……今日一で1番いい質問だよ。素晴らしい。答えは『Yes』、その通りだ」

 

「私、加奈姉たちに沢山教えて貰って色んなこと勉強したけどたまに間違えて覚えたり勘違いすることがあったから瑞希ちゃんもそうだったのかなって」

 

「そう言われたら確かにそんなこともあったなぁ……」

 

「買い物言った時もそういうことあって周りの人から柔らかい視線向けられたこともあったっけ」

 

「も、もう!あず兄もキヨ兄も思い出させないでよ!!……何もしなくてもたまに思い出して恥ずかしくなるんだから……」

 

ああ、あの時は商品買う時に読み込むバーコードを見て不思議がってたこっつーに加奈姉が「これを機械が読み込んだらこれから買う物の値段を教えてくれるんだよ」って説明した時にちょうど店員のお姉さんさんがレジの責任者登録するために首から下げてるカードのバーコードを読み込ませてて……それを見たこっつーが「お姉さんも買っちゃうの!?お姉さんはいくらなの?」って大きな声で言っちゃって周りに柔らかい空気が流れたことあったっけ。

子供らしい可愛い勘違いで加奈姉だけじゃなくて周りの人も何人かがノックアウトしてたのは割愛するけど……

 

「と、とにかく!!……私、そういうの色々あったからだからこうかなって。で、もし私の予想がほんとに当たってたなら……答え、分かったかも!!」

 

「え、ほんとに!?」

 

さっきと違って誰もまだ答えにたどり着いてないままこっつーが正解宣言。

 

「うん。だってこの勘違いもその……私、したことあったから……」

 

……うん、出題者の僕だから分かる。

これは正解しそうだなぁ……。

 

「いいよ、おいでこっつー。こっつーの予想が正解かどうか確かめてあげる!!」

 

「うん!!じゃあ質問行くよ!!」

 

大きく息を吸って……吐いて……こっつーが口を開く。

 

「夏祭りのプログラムで重要なのは花火ですか?」

 

「『Yes』」

 

「瑞希ちゃんはお母さんと花火についてお話ししましたか?」

 

「『Yes』」

 

「瑞希ちゃんが覚えていて、そして勘違いしたのはその花火の話が関係ありますか?」

 

「『Yes』だよ」

 

「……うん、多分これで間違いない!!百斗兄、次が最後!!」

 

いやはや、これはお見事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A finishing question

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さんが次の日に食べたやきそばはカップやきそばですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、『Yes』だよ」

 

「え?なんでカップやきそば……」

 

「「あ……ああ!!」」

 

ふうはまだだけど加奈姉とあず兄は理解したみたいだね。

 

「さぁこっつー、答えをまとめて!!」

 

「うん!!

 

昨夜の夏祭り、瑞希ちゃんはお母さんと花火を見に行ってて花火を見てた。その花火を見て疑問に思った瑞希ちゃんが「どうして花火は光って大きな音がなるの?」って聞いてそれに対して多分お母さんは『火薬』を沢山使って爆発させてるってニュアンスで教えたんだと思うの。

で、翌日お母さんがカップやきそばを作ろうと中に入ってるひらがなで『かやく』って書かれた文字の袋を空けてやきそばに入れようとした所を見た瑞希ちゃんが昨夜の花火の話を思い出して『加薬』と『火薬』を勘違いしちゃって、お母さんが爆発すると思ってお母さんを止めた!!

 

……どう?」

 

「……うん、大正解!!お見事だよ」

 

「やったあああ!!」

 

両手をあげて思い切り喜ぶこっつー。

うんうん、とても微笑ましい。

 

「子供の気持ちになるのが大事な問題だったんだよ」

 

「なるほどね〜……確かに昔私がカップやきそばを作ってた時にこっつんに「やめて!!加奈姉爆発して死んじゃう!!やだぁ!!」って泣きながらひっつかれたことあったっけ〜」

 

「あれからしばらくこっつーの前でカップやきそばを作らないようにって家族会議したっけな……懐かしいな」

 

「もー!加奈姉もあず兄もぶり返さないでよ!!……うう、恥ずかしい」

 

「でもあのこっつんも可愛かった……ふふふ……」

 

「と、百斗兄……加奈姉が怖い」

 

「あ、あれはほっておこう、ね?」

 

黒いもやみたいなのも見えたし触らぬ神に祟なしだよ。うん……

 

「さて、暇つぶしはこれくらいでいいかな?」

 

気づけば大分時間が経っていた。

そろそろ家事とか色々した方がいい時間だろう。

 

「楽しかった〜!!」

 

「次は他の人も誘いたいね〜」

 

「俺たちは答えられなかったから次はリベンジだな」

 

「出題者になるのもいいかも」

 

「楽しんでくれたようで何よりだよ」

 

うん、本当によかった。

出題者冥利に尽きるってものだ。

 

「さて、僕もこの後は……ん?」

 

部屋に戻って掃除でもしようかななんて思ってたら携帯にLINEが。

 

『これから遊べませんか!!』

 

飛鳥ちゃんからのお誘いだ。

 

「全く、急だなぁ……」

 

でも嫌いじゃない。

ふと周りを見ればみんな各々部屋に行ったりでもう解散していた。

 

(じゃあ僕も、好きにしようかな!!)

 

暇つぶしのアナログゲームを終えた僕達は、こうしてまた日常へと戻っていった。




というわけでいつもとはちょっと変えてみました。
いかがでしたでしょうか?
また気が向けば更新しますのでその時またお会いしましょう。
ではでは


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