自由を求める兵たち (RedSun366)
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国境無き軍隊(水陸両用)

仲間に銃口を向けず。

身分の差なし。

自らに出来る事を率先。

やめたくなったらボスに相談。

 

Boss is watching you!

――司令部プラント中央ポスターより。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな海の音と、海鳥の鳴き声と、ナイスミドルの軍事教官と、ナースコスの電と潮に出迎えられる。

電と潮は目覚めた赤神を見て、慌てふためき二人して抱き合って泣き出す。

それを尻目に軍事教官は説明を始める。

あの日から半年経っている事。

赤神をはじめとする鎮守府関連の人物全員の戸籍が抹消されていた事。

赤神の計画通り、中部海域の片隅に海底資源採掘プラントを装い新拠点を建設した事。

艦娘達と共に本国を脱出した事。

死人はいない事。

そして此処がその新拠点である事。

全てを把握した赤神は満足げに頷く。

そしてベッドから起き上がろうとするも、半年間の時間経過による筋力低下でままならない。

まずはリハビリだ。軍事教官が笑い交じりで言う。

そうだな、まずはヒゲでも伸ばして人相を変えなければな。赤神は苦笑いで言う。

 

ああ、そうだ。と軍事教官が去り際に言う。

お前の右額に、何か分からんが【破片】が刺さっている。手術で取り除こうとしたが、脳にまで刺さっていて迂闊に刺激できない。…気になるだろうが、それにはあまり触るなよ。

軍事教官に言われ、赤神は手元の手鏡で自分の顔を見る。

手鏡すらまともに持てない程に衰えた腕力で鏡を持ち、震える鏡の向こうの自分の顔を見る。

自分の顔がそこにあった。だが、右額に黒い【欠片】のようなものが突き刺さっていた。…よく見ると、十センチほど突起している。

まるで、鬼の角。

うつ伏せで寝られないどころか、仰向けでしか寝られなさそうだな。と自嘲するように赤神。

まぁ、今のところ此処は誰にも発見されていない。…良かったな、人相が大変わりしているぞ。そう言って、軍事教官は病室から出ていった。

 

司令官さん、…えっと、お帰りなさい!

提督…信じてました!

二人の小さなナースから、熱烈な歓迎を受ける赤神。

ああ、ありがとう。…ところで、他の娘達はどうしている?

赤神が問うと、二人は事情を説明し始める。

もやもやぐちゃぐちゃした二人の説明を整理すると、本国からの支援が無くなったため自分達で食い扶持を稼がなければならない。…深海棲艦は世界的に出現していたらしく、他国は比較的初期に対応…殲滅出来たらしい。だが、深海棲艦の殲滅後、銃口は人へと向いたらしい。本国以外の国のほとんどで、紛争や内戦が頻発している。軍事教官はそんな情勢を利用し、艦娘を【傭兵】として派遣するビジネスを開始したらしい。

つまり、食い扶持稼ぐために部下の兵士を派遣している。

娘達に殺しをさせているのか!?何を考えているんだアイツは!赤神が声を上げる。

いえ、教官さん曰く「歩兵にアンチマテリアル持ち出してどうする」とか言ってたのです。…もっぱら、戦車の破壊とかが主な仕事だって言ってました。潮がなだめる間、電が慌てて説明する。

電の説明を受けた赤神は、どこか納得がいかないような顔をしたものの大人しくなる。

というか、ウチに来る依頼のほとんどが敵戦力の破壊剥奪ばかりで…。と、どこか気に入らないように潮がぼやく。

でもいいじゃないですか。時々戦車を持ち帰って、解体してパーツごとに売りさばいて大儲けしているとか聞くのですよ?電が不機嫌そうな潮に言う。

それも、大国ばかりじゃなく、色んな国に売りさばいてるとか。続けて電が言う。

…成程。…これじゃ、俺達が世界の戦いを支配してるみたいだな。赤神が漏らす。

すると、電と潮が目を丸くして赤神を見る。

どうした?赤神が不思議そうに問う。

どうしたもなにも、そうしろって言ったのは司令官さんなのですよ?

…全部、提督の指示じゃないんですか?

二人の言葉に、赤神は耳を疑う。

そして、二人は声を合わせて言う。

互いに行使し合う戦力。金で買える抑止力。需要を供給し戦場を操り世界を一つにする。

二人の言葉に、唖然とする赤神。

…もしかしたら、起きたばかりで記憶が曖昧になっているのかもしれません。

ゆっくり、思い出してください。時間はたっぷりあるのです。

電と潮は優しげな笑顔で言う。

 

赤神は目を閉じる。

浮かび上がるのは。

解体指令を下したお偉方の顔。

自分を襲い傷だらけにした兵士達の顔。

艦娘達を化物のように疎む民衆の顔。

総じて、醜悪。

醜悪な顔が瞼の裏に映し出される。

嫌悪感。

自らの右額に触れる。

黒い突起。角。鬼の角。

復讐鬼の角。

 

いや、時間などいらん。

赤神が目を開ける。

その目の濁りは消え去っていた。

二人を見据える。

そして、確認するように言う。

思い出した。俺は赤神。

 

地獄から帰ってきた鬼だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…慣れたか?」

「元々俺の体だ。…と言っても、四か月もリハビリする羽目になるとは思っていなかったが」

海底資源採掘プラントに偽装した拠点を歩きながら、二人は話す。

「いいじゃないか。四か月の間、女をとっかえひっかえだったんだろう」

「女と言っても艦娘だ。さらに言えば部下だぞ。…まったく、依頼をほっぽって俺にばかり構わんでもいいだろうに」

「それだけ慕われているんだろう。お前を好いている奴も多いと聞く」

「やめてくれ。首をもぎ取られるのは御免だ」

軍事教官こと氏神と、元提督こと赤神は語らいながら甲板の上を歩く。

「ずっと口を出そうと思っていたんだがな。艦娘とはいえ、戦闘に向かない奴も多い。むしろ戦闘以外の事が得意な奴もいる。…お前が寝てる間、勝手だがいくつか班を作った」

「ほう。どんな」

「戦闘班。…これは、実際に依頼を受けて稼いでくる実働部隊だな。次に警備班。俺達を追ってくる奴がいないとも限らない。【目】が利く空母娘が主だな」

氏神はふと遠くの娘を指さす。紫っぽい色をした長髪の娘…隼鷹である。

隼鷹の周囲には、飛行機の模型のようなものが浮かんでいる。

「ほう、隼鷹か。…確かに空母系は索敵が得意だったな」

「ああそうだ。空母達は前線には向かない」

 

「糧食班。…料理だけでなく、食料生産も担当している。離島棲鬼の所有地をもらってな、ありとあらゆる食材を作っている。…凄いぞ。島全体が畑か田んぼ、あるいは畜産舎だ」

氏神が目を輝かせながら語る。彼も糧食班の一員であり、誰よりも作業を楽しんでいるクチだ。

続けて氏神が真面目な口調で言う。…不安げな表情をした赤神に向けて。

「安心しろ。比叡は入れてない」

「…それを聞いて安心した」

赤神は大いに安心した。

「続いて、医療班。やはり仕事柄怪我が多くてな。お前も知っているだろうが、電や潮が所属している」

「そうか。…確かに、彼女らは戦闘には向かんだろうが芯は強い。ああいった仕事に強いだろう」

階段を上りながら、いまだ語り合う二人。

「他にも色々あるんだが…まだいいだろう。…早速だが、お前には此処を指揮してほしい。指揮と言っても、今までと変わらんが」

「指揮…か」

階段を上った先の扉をくぐると、そこには空間があった。

鉄製の床に鉄製の壁。そして、中央に赤神が愛用していた机が配置されている。

殺風景な部屋を見て、赤神は口を開く。

「…いや、指揮はやらない」

「は?何を言い出す」

「氏神、俺を戦闘班に配属しろ。…俺も戦おう」

「…何を言っている。お前に死なれると困るんだ。お前が体を張る必要は無い。そもそもお前が急に戦闘なぞ……まさかお前」

「ああそうだ。…俺の計画、覚えているよな」

「…アレが動くとも限らんぞ。…万が一失敗して、お前が死ぬ可能性もある」

咎める氏神の言葉を受け止めつつ、赤神は語りだす。

「氏神。俺はな、もどかしかった。力を持っているとはいえ女子供を戦場に送り出して、俺はただ信じて待つ事しかできない。…それが実にむずがゆかった。だが、もう待つ必要は無い。俺はもう既に提督ではない。…ただの、透明人間だ。…死ぬつもりは無い。俺達は生きる為に戦う」

「…」

「俺も、彼女達と同じ力を得よう。此処の指揮はお前か、適当な奴に任せるさ。指図なんて、誰にでも出来る」

 

氏神と別れ、赤神は工廠へと向かう。

ノックをしようとして、やめ、やはりノックしようかと迷い、結局何もせずに工廠の戸を開けた。

「いらっしゃいませー!…って、提督ですか。もう動いても平気なので?」

「ああ。年頃の娘達による、熱いリハビリのおかげでな」

工作艦こと明石の熱烈な歓迎を受け、赤神は工廠内部へと入り込む。

そして周囲を見渡し、適当に座れそうな機材を探し、座る。

「ああ、座らないで下さいよ提督。それまだ途中なんですから」

違う機械を相手にしながら、明石が咎める。

「別にいいだろう、変なところは触らん。…あと、提督はやめてくれ」

全く気にせず赤神は笑い、すぐに笑顔を消した。

「あー、話は変わるが。…例の物は」

「………あと少しで完成します。…おそらく、今日中には」

赤神の問いは、普段明るい明石の顔を曇らせた。

「そう暗い顔をするな。…これは俺の覚悟だ」

一番弱い男がそう呟き、工廠内には重い雰囲気が漂う。

明石の作業音だけが、室内に響く。

「…手術の詳細、聞きますか?」

唐突な明石の問い。

「…ああ、聞いておこう」

赤神は熟考し、返事をした。

 

腰のあたりに、生体端子を増設します。多くの艦娘は、この端子を通して艤装とリンクします。…艤装とリンクすることにより、常人とは比較にならない程の筋力や体組織再生能力を得ます。生体端子の増設程度なら失敗率は低いですが、艤装とのリンクまで併せると…五分五分です。そもそも艦娘が女性ばかりなのは、体構造的に【受け入れる】構造になっているからこその【適合率の高さ】故です。…男性である提督に施術するとなると……分かりますよね。

それに、提督の艤装に名前はありません。艤装は沈没した軍艦から造るのですが、普通…例えば私が【明石】であるように、艦としての名前があります。ですが提督が適当な沈没船を引き揚げてきたのか知りませんが、その沈没船の詳細が全く分かりません。色々調べたり海軍本部のデーターベースを漁ってみたりもしたのですが、該当する船は見つかりませんでした。…つまり、全くの不明。未知のエリアです。そんなよくわからん船で艤装を造り、人体にリンクさせるとなると…。…ね?

 

「という訳で、…正直やめてほしいってのが私の意見です」

「…ほう」

「そもそも、力が欲しいのならもっと別の方法もあるでしょう?」

「…いや、それじゃ駄目だ。…お前達と同じ目線に立つ事が目的だ」

明石があれやこれやと屁理屈を重ねて赤神に諦めさせようとしているのだが、当人は変わらずであった。

キリと、赤神の首筋に刃物が突きつけられる。

明石によって。

唐突に。何の脈絡も無く。

「…提督、やめませんか。提督はただの人間なんですから。…私達とは違う」

明石が抑揚なく言う。

赤神はただ言い放つ。

「俺は提督ではない」

「いえ、私達の提督です」

「俺は透明人間だ」

「いえ、ただの人です」

「俺は鬼だ」

「…ただの人間なんですよ。…自覚してください」

二人は子供の言い合いのように口論をしていたが、明石の声は段々とか細くなる。

「お前の事だ。どうせもう用意はできているんだろう。…なら、さっさとやれ。俺を戦士にしろ。…これが俺の、提督としての最後の命令だ」

赤神は毅然として言い放つ。明石はうつむき、ぽつりと漏らす。

「結局、守らせてくれないんですね」

 

「…じゃあ、あの部屋へ」

明石は一筋だけの涙を流し、首筋の刃物をのけ、笑顔を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「氏神、頼む。今だけは。…ただ今だけは。…今だけは、指揮官としての重責を、…何もかも忘れさせてくれ」

「…ああ。…全く。それが人の上に立つ者か?…いいよ、何もかも忘れさせてやろう」

 

「…みたいなネタで一本描いてみたいねぇ!」

秋雲の盛大な独り言は、娯楽班室中に響き渡る。

その巨大な独り言にいち早く反応したのは、意外にも霧島であった。

「確かに、そういうシチュってなかなか無かったわよね」

次いで、

「でもさー、ウチで腐ってるのって…そんなにいないでしょ?多分一部の人にしか売れないよー」

と気だるげに望月が。更に

「でも固定ファンを味方につける…いえ、固定ファンを増やすのは良い作戦かもしれません。此処のところBLネタは出していませんでしたし」

と白雪。

…此処は娯楽班の活動拠点。

娯楽班とは。…主に漫画や小説を書き提供し、娯楽の少ないプラント内へ心のゆとりをもたらす班である。早い話、同人作家グループである。悪く言えば、オタクどもの群れ。

同人といえど割と高評価で、一定のファンがついているという。

無論、作品を無料で提供している訳ではない。子供の小遣い程度であるが、金を要求してくる。

それでも人気なあたり、作品の質が良いのか娯楽が少ないのか。

 

「…というか、私達こんな事していていいんですか?司令が半年間の眠りから覚め、現在リハビリ中だというのに」

自然とのっかった割に、咎めるような口調で霧島が言う。

…そう。現在、赤神が目覚めて一週間後の事。娯楽班の面々は、指揮官の復活をガン無視して作品のネタを考えているのだ。そのようにして出来上がった作品を、他の娘達が買ってゆく。そう思うと、彼女達の作品はなんとも罪深い。

「でもさー。具体的に何するの?お祝いに司令官の絵でも描くの?」

望月が半分気だるげに、半分嫌味に答える。投げやりな返答を聞き、霧島は少々渋い顔をする。

そして、

「秋雲さん、描ける?」

悩んだ挙句その案で行くようだ。

唐突に無茶振りをされた秋雲は驚きペンを落とし、しばらく考え、そして

「描いてもいいけどさー、私が描くと…角が生えた毒蛇になるけどいいの?」

危ない事を言った。

「…それは、困りますね。……いろいろ。…そもそも司令官は葉巻吸いませんし」

そして白雪が、苦虫を噛み潰したような顔をつくる。

「義手でもないしー」

追い打ちをかけるように望月が言う。

「…隻眼でも眼帯でもないわね」

諦めたように霧島が言う。

「では、皆で司令官のリハビリの手伝いをしましょう」

それならばといった風に、白雪が切り出す。

だが、「いいですね」と言ったのは霧島だけで

「やだよめんどい」

「そんな事より絵描きたい」

残りの二人は随分とそっけない返事であった。もしくは、提督への好感度が低いとも言う。

「まあ、でも?今まで好き勝手させてくれた恩もあるし?」

と思えば、望月が前言を撤回するような発言を。

「私も、前にデッサンのモデルになってくれた恩あるし…」

秋雲の方も、これまた前言を撤回する。

「…全く」

「面倒くさい人たちですね」

霧島と白雪が、呟いた。

 

医療班の根城こと病室にて。

元提督こと赤神が鬼気迫るようにリハビリをしていた。

そして、そのさまを心配そうに見つめる潮と電。…と、娯楽班の面子。

鬼のような顔をし、必死に立とうと手すりを掴む彼の姿に、以前の赤神の面影は無い。

コイツが駆逐艦娘を肩車して喜んでいた変態です、と言われて誰が信じるだろうか。

ついでに鳳翔さんに膝枕してもらって大喜びしていた変態です、と言われて信じる馬鹿はいまい。

「ぐっ……がぁ!ふんっ…ぬぅ!がぁ!」

静かにうるさいとは、この事だろうか。

赤神は手すりに掴まる事すらできず、仰向けに手を伸ばしてバタバタしている。

傍から見れば、あるいは平時に見れば笑いものだが、状況が状況だけに笑えない。

「…あの、やっぱりお手伝い」

「いらん。…俺の面倒くらい、俺が見る」

手伝いを申し出た電を、赤神は一蹴する。必死な顔をそのままに。…ああ見えて赤神と電の付き合いは長い。電は『半ば予想通り』とでも言う風に下がる。

眠っていた半年間に何があったのか、赤神は豹変した。

外見も、内面も。

彼の痩せた体からは、怒気というのか殺意というのか、そういったものが発せられてる。手すりを掴もうとする手も、まるで敵の首を絞めるようにこわばらせている。

それに、彼の一人称はいつから『俺』になったのか。

霧島は、見ていられないとでも言う風に目を伏せる。

来なければよかったとさえ、望月は思った。

かつての優しく優男な提督は、どこにもいなかった。

彼女たちが知る提督は、そこにいなかった。

 

「ぐぁ!…ハァ、ハァ、ハァ………電、やっぱり手を貸してくれ」

…否。案外中身は変わらないのかもしれない。

赤神の弱音を聞いた電は笑顔を作り、彼の元へと駆け寄る。

そんな光景を見た潮と娯楽班の面々は、気が抜けて思わず笑いあった。

 




何度も言います。
どこかで見た事があるという人。貴方は正しい。
こんな感じで、オリジナリティもクソも無いような駄作を、不定期にひりだしていきます故、好きだと言ってくれる方はどうか御贔屓に。

ちなみに、戦闘描写はほとんど無いと思っていてください。
あと、個人的には一人称小説の方が書きやすいと思ってます。全部の話が三人称視点で進む訳ではない…と思います。ご了承ください。
…提督ってオリ主でいいのです?


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