いただきます!! (妖牙=飴んぼ)
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前菜、いただきます!

俺は生きている。

 

この世界に、生きている。

 

食べて、動いて、皆と笑いながら、この世界で生きている。

 

 

 

だが、そんな日常はもう昔の話。

 

 

 

ほんの十年で高層ビルは倒壊し、コンクリートを草が貫き、仲間たちを次々と飲み込んでいった。たった十年ぽっちで世界の常識が根っこから変わるなんて今まで思ったことはなかった。

 

 

ギュルルルルル(腹の虫の音)

 

 

?「・・・そうか。」

 

 

そして今、俺たちが最も欲していて、最も不十分なことがある。それは回数も、種類も、一緒にする仲間も少なくなっている。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ(地面の揺れ)

 

 

?「・・・」

 

 

地が揺れる。ただの地震ではない。草原の草花が不自然に揺れ、地中がカルメ焼き(砂糖水に重曹と卵を加えた菓子)のように膨れ上がる。

 

 

?「・・・・来たか。」

 

 

突如、地中から大きな影が跳ね上がる。五メートルはあるだろうか、全身は紫色で両手に鉤爪を生やしたモグラのような生物が空を舞った。見た目からしてこの巨体が乗っかってきた場合、為す術なく潰されるのがオチだろうが、そうはいかない。

 

俺はその巨体が落ちる直前でウサギのごとく横に跳び、ギリギリのところで避けた。巨体は地面へと落下し、またもや地震が起きるが立てない訳じゃない。むしろここで立てなかったらハンター失格だ。俺は腰のダガーナイフを手にとり巨体の前方へと突っ込む。

 

この巨体には良く見ないと分からない小さな紫の鱗が全身に付いており、背や腹を斬ろうとしても歯が立たない。

 

だがどんな物にも弱点はある。この巨体の頭、正確には口元だが、そこは人間と同じように食物を取り込むための口が備わっている。この生物に歯はなく、肉質が柔らかいため唯一刃が通る。もちろん生物だから呼吸もする、ここまで体が大きいと一度地中から跳ぶだけでかなりの体力を持ってかれる。つまり、より大きく呼吸をしなければならないため動きが鈍る。

 

ここまで言えば分かるだろう。今こいつは跳んだばかり、だから大きな隙ができた。

 

 

?「さあ・・」

 

 

心臓が高鳴る、この感情、久しぶりの、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「食事の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は口元めがけ、ダガーナイフを振り上げ・・・強く振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ ザクッ 

 

 

俺はもう片方の腰にあった剥ぎ取り用のナイフで、巨体の一部を剥ぎ取り口の中に放り込んだ。

 

 

?「・・・・うん、これは!」

 

 

そう、これは、

 

 

 

 

 

?「芋だああああああああ!!」

 

 

 

 

 

口の中に懐かしい味が広がる。

 

 

?「うんうん!この甘い香りと味、うまい!いやあ、最近になってこいつらが近くを通るって噂聞いたから来てみたけど、大当たり・・・ん?」

 

 

俺が豪華な(でもない)食事を一人楽しんでいると、向こうの方から一匹の馬らしき生き物がこちらに走ってくるのが分かる。でも良く見ると馬じゃない、今倒したこの生物のように紫の体色だが、大きさは馬と変わりはしない。

 

 

?「ああ、あいつも終わったのか。」

 

 

その生物の上には鉄製の鎧を着て兜を被った人物が乗っている。そいつが俺の近くまで来て兜を外した。

 

 

 

??「おい、そっちは終わったか?」

 

 

?「ああ、見てみろよ。この規格外の・・」

 

 

 

 

 

??「サツマンドラ!?」

 

 

 

 

 

この時期、毎年ではないがそこらに現れることのある巨大生物。紫の鱗を全身にまとい、左右の腕に鉤爪を備えた生物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サツマンドラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生物ではあるが、こいつから剥ぎ取れるのは肉じゃない、「芋」だ。

 

 

??「こんな馬鹿でかい奴、初めて見たぞ!?というか勝手に戦うなっつっただろ!命の危険もあるから、異常があったら隊長である俺に言えって!」

 

 

?「食いたいって衝動に駆られた。人間だったらそういう欲に勝てる奴なんてそうそういない、だろ?那須田隊長。」

 

 

那須田「ま、まあ、そうだが・・・それでも危険な物にわざわざ突っ込もうとするな!良いな?」

 

 

?「りょーかいです。俺も適度に言うこと聞きますよ。」

 

 

那須田「はあ、お前はいつになっても変わらないな、竜也。」

 

 

竜也「・・・そうか、育男。十年立っても変わりやしない。」

 

 

十年前、俺、「桐野 竜也」がまだ普通の高校生だった頃。あの時辺りだったのだろうか。俺の日常が変わり始めたのは。

 




~図鑑No.001~

サツマンドラ[薩摩土龍](元・さつまいも)

地を這いずって移動する肉食物。両手の爪を使って地中に潜り、その上に獲物が近づいたときに襲いかかる。この巨体ゆえ地中から出てきた後には大きな隙ができるため、唯一肉質の柔らかい口元を狙うハンターが数多い。


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一品目 放課後の鬼ごっこ

20XX年の八月のある日の午後零時、「桐野 竜也(きりの たつや)」はさび付いた脳を必死に回しながら社会のテストを受けていた。

 

回答欄はほぼ白紙、結果なんて待たなくとも分かる。

 

目の前のプリント用紙から目を背けると、たまたま視界に教室の時計が入った。その時計の針は竜也が目を向けた瞬間、「8」の数字に向けられた。

 

 

 

キーン コーン カーン コーン

 

 

 キーン コーン カーン コーン

 

 

 

担任「全員シャーペンを置け。テストは裏向きで後ろっから回してこい。」

 

 

 

・・・じ・・・だ・・

 

 

 

担任「名前は書いたな?よく確認しろよ。」

 

 

 

・・じか・・・ん・・・だ・・・

 

 

 

担任「おい桐野、何ぼーっとしてる。早く回しなさい。」

 

 

竜也は後ろっからきたテストの上にほぼ白紙のプリントを重ね、ただつぶやきながらテストを担任に渡す。

 

 

竜也「・・・終わった・・終わっt(ギュルルルル)っあ。」

 

 

担任「全員回収終わったな、じゃあ号令!」

 

 

生徒A「規律!」

 

 

合図で教室の生徒らが立ち上がる。竜也も少しゆっくりめに立ち上がる。

 

 

竜也「飯・・飯・・」

 

 

生徒A「礼!」

 

 

全員「ありがとうごz[竜也]「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」!?」

 

 

担任「おい待て桐野!号令くr・・・・はっや・・・。」

 

 

担任の言葉が届く前に、竜也の姿は教室から消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み

 

ある者は授業から開放され背伸びをし、ある者は授業が終わっても寝たまま体勢を崩さない。

 

竜也の場合は多くの生徒が行く場所、そこにいち早く行かなければならない。理由は特にないが、一番乗りで食う満足感を味わいたいそうだ。

 

 

 

 

 

竜也が食堂まで走ってきたとき、目の前には体育帰りだろうか、号令の中を駆けてきた竜也よりも早く着た生徒がいた。それも一人ではない、総数六人。背が周りの生徒より高いから三年生だろう。ちなみに竜也は一年生、目の前の先輩方とは背丈の差が大きく見られる。だからと言って踏みとどまるわけではない。奴らも今は券売機に向かう途中、今まで多くの状況にあってきた竜也だからこそ分かる。

 

 

竜也(六人・・そんでこの距離なら・・!)

 

 

竜也は走り出した。相手がどんなに大きくて迫力があっても竜也には関係ない。

 

 

 

 

 

どんなところにでも隙はある。

 

 

 

 

 

俺は前の先輩方の間を跳ねるように抜かしていく。部活をやっていたわけではないが、昔から運動には自信があった。飛び抜けて良いわけでもないが、のろのろ歩いている人間の間を抜けるぐらいたやすい。

 

前方の集団を抜けたら、もう勝利は竜也に訪れたようなものだ。

 

竜也は直で入れておいた五百円玉を手にとり、券売機にぶつからないギリギリの距離で立ち止まり、小銭を入れる穴に挿入した。五百円玉が奥にチャリンと音がすると同時に、券売機に付いた多くのボタンが中心から赤く点灯する。もちろん俺は一番乗り、売り切れの赤いサインはどこにも点いちゃいない。ここの食堂のメニューは豊富な種類があるが、選んでいる時間も興味もない。竜也は今出せる限界の力を振り絞り、たった一つのボタンめがけて、突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店員「へい!牛丼定食お待ち!」

 

 

竜也の好物は牛丼。肉汁の染み渡った米と厚い牛肉とのコラボレーションが昼の楽しみとなっている。

 

竜也の場合、何時・何処にいても牛丼を食べたがる癖がある。親が時々作る家庭の牛丼、近辺の牛丼屋も数多く回った。それらの牛丼もうまいの一言だが、恐らく竜也の人生の中で一番うまいと思われるのが、この食堂で売られている究極の牛丼だ。

 

 

竜也「っあー!やっぱ頭使った後の牛丼はマジで最高だわ!」

 

 

?「白紙のプリント出しといて何が頭使っただよw、脳に油でも入れとけば良いんじゃないか?w」

 

 

竜也が一人楽しんでいると、見たことのある顔の奴がいつの間にか後ろで笑っていた。

 

 

竜也「うおっ!?いつの間に!?」

 

 

?「お前早すぎだろ。まあ、教室戻ったら先生にシバかれるんだろうなw」

 

 

この紫の髪色をした男の名は「那須田 育男(なすた いくお)」。ここに入学してから知り合った奴で、好きな食べ物は麻婆豆腐だそうだ。

 

 

育男「なんでそんなに用紙が白くなる?俺なんか真っ黒d[竜也]「あーはいはいすごいですねそんけいしちゃいますよー。」

 

 

育男の得意科目は社会、竜也とはまったくかみ合わない。かみ合うつもりも元からない、なぜなら・・・

 

 

竜也「おい、お前も牛丼食ってけよ。今日もここの牛丼は絶品だぜ!」

 

 

育男「・・・よく牛肉なんて食えるな、お前。俺はカレーでも食うよ、じゃあな。」

 

 

竜也「・・・」

 

 

奴は牛肉が大嫌いなのだ。子供みたいに好き嫌いがあるのもいらつくが、牛肉が嫌いと言われるだけで竜也の血が沸騰するほどむかつく。人がうまいうまいと言って食ってるところで嫌いとか言われると本当にむかついてくる。

 

そんな奴の言葉もさっきの社会のテストも、こうやって牛丼を食べていれば、一緒に消化できる。とにかく竜也は牛丼が大好きでいるのだ。

 

 

 

 

 

まあ、今となっては肉を確保すること自体、困難な状況になってしまったがな。

 

 

 

 

 

全ての授業が終わった放課後。竜也は喉が乾いたために食堂にコーラを買いに行っていた。たまたま校内には人が少なく、それぞれの大会に向け練習中であった。

 

 

 

それで良い、校内に人がいなくて本当に良かった。竜也はこの日、そんなことをふと思うことになった。

 

 

 

一階にある自販機に足を運んだのだが、なにやら鉄臭い匂いがする。普段は廃棄処分となる食物の集合体が異臭を出しているのだが、今だけはなぜか嗅いだことのない鉄の匂いがした。

 

 

竜也(・・新しい製品の匂いか?)

 

 

先日から新しい機械が調理場に導入されると先生は言っていたが、竜也は微塵も興味はなかった。でもこの時はなんとなく調理場を覗きたくなった。理由は特にないが、ただ新しい機械とやらがどんなものか見てみたくなったのだ。そうして調理場の方へと近づいて行くと、何やらガタンガタンと音がしてきた。

 

 

竜也(あ、設置中か?やけに音でかいけど、そんな大型なもの注文したのか?)

 

 

音は何かが床に何回もぶつかっているようにガタンガタンと聞こえてくる。新しく買ったものならもうちょっと丁寧に扱えないものかと思いながら進むと少しゾクッと寒気がした。

 

ガツンガツンといっている中、その音に混じってグチャッ、グチャッ、と何かが潰されている音が聞こえてきた。機械を設置する際にそんな音が聞こえてくる訳ないし、生徒らは部活の練習で食堂の周りには竜也しかいない、よって誰かの注文で料理を作っているわけでもない。

 

竜也は少し不安がりながらも調理場の扉の前まできた・・・でも、扉の下に空いたほんの少しの隙間から、なにやら赤い液体が漏れている。その液体からは、さっきの鉄臭い匂いが出ている気がする。そしてそれは扉の奥から流れてきていた。

 

 

竜也(・・血・・なのか!?)

 

 

調理場から真っ赤な血が溢れているなんて事態が起こる訳ない。どんなものを解体していたら廊下に漏れだすほど血が出るんだ、でもそんなこと言っていられない。

 

調理場からは相変わらずガタンガタン、グチャグチャと、もう機械を設置しているとは思えなくなっていた。

 

それでも竜也は額に汗を垂らしながら、中にいる何者かにばれないように静かに扉を少し開けて覗いて見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜也「・・・・さ、」

 

 

調理場でうごめいている生物。

 

 

竜也「・・・さ、く?」

 

 

高さは竜也と同じくらい、普通の高校生ぐらいの大きさだった。

 

 

竜也「・・さく、さくら?」

 

 

それには赤い球体が二つ付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜也「・・・・・さくらんぼ?」

 

 

 

グチャァァァ(汚い物が飛び散っている)

 

 

 

「さくらんぼ」。枝分かれした茎の先に赤い実のついた果物だ。甘みがあって竜也も果物の中ではまあまあ好きだ。最近はよくファミレスのパフェの上にちょこんと乗っているのをよく見かけるが、

 

 

 

目の前の1メーター60はあって、やけに光沢のある赤い実の下には、

 

 

 

 

 

・・・今日、清々しい顔をして牛丼をくれた店員の頭がグチャッと潰れて、中身がボロボロになって飛び出ていた。

 

 

 

竜也「!?!?」

 

 

本来茎である部分は、ボディビルダーの鍛え上げられた足のように、太く膨らんでいた。甘い赤い実は店員の頭の潰れ具合を見ると、相当の重さがあるように見受けられる。

 

 

竜也(えーと、全部まとめると。太い筋肉の足の先に付いた鉄球みたいな実で、店員の頭を潰して遊んでい・・た・・と・・・・。)

 

 

竜也は気づいた。さっきからそのさくらんぼは目の前で店員の顔を潰していたのだが、いつの間にかさくらんぼの動きが止まっていた。

 

 

 

 

 

さくらんぼが振り向いた。

 

 

 

 

 

正直さくらんぼの前と後ろが分かるのかと言われたら分かる訳ないが、竜也に気づいたから振り返る動作をしたみたいだ。

 

 

竜也「こ、こんちはー・・・」ダダダッ!(その場から逃げる足音)

 

 

ちょっとあいさつをしてみたが数秒後に駄目だと感じ取り、その場からとっさに逃げ出した。そもそも人の頭を潰していた意思疎通できそうもない未確認生物に言葉が理解してもらえる可能性がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜也は必死の思いでその場から立ち去ったから、奴(さくらんぼ)も簡単には追ってこないだろうと思った。

 

 

 

 

 

その考えは、さくらんぼの如く甘かった。

 

 

 

 

 

バゴオオオオンッ!!(扉が破壊される音)

 

 

 

竜也「!?」

 

 

いきなり調理場の鉄製の扉が宙を舞いながらこちらに吹っ飛んできた。竜也はなんとかそれを避けるが、それだけでは安心できない。

 

調理場の奥からドスンドスンと音を立てながら、さくらんぼが全力でこちらに走ってきた。

 

 

竜也「うわっ!?」

 

 

竜也もとっさに走り出した。既に分かっていることだが、あれに追いつかれたら間違いなくミンチになる。それだけは避けなければならない。

 

竜也は走った。廊下や階段を走り、後ろから迫ってくる恐怖に怯えながら、息が切れそうになっても足を止めずに、ただただ、走って、走って、扉を開けたら・・・

 

 

 

 

 

行き止まり、屋上。

 

 

 

 

 

竜也「うわ!やっば!」

 

 

奴が来る前に場所を変えなければ、そう思い戻ろうとしたとき屋上の扉が破壊された。

 

 

竜也「くっ!」

 

 

ガタンガタンと音を立てながら、それはジリジリと距離を詰めてくる。竜也も縮められないように後ずさりしたが、もうすぐ後ろには床はなくなった。

 

そして勝ったとでも確信したのだろうか、さくらんぼが急に加速し、跳んだ。

 

さくらんぼのボーリング玉のような足が宙を舞う、このまま行くと竜也の頭蓋骨は砕け、脳味噌が辺りに飛び散る悲惨な光景となるだろう。

 

 

竜也「(終わったか・・)くそおおおおっ!!」

 

 

竜也が死ぬと自覚し、あまりの恐怖でその場にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

その上をさくらんぼが通過していった。

 

 

 

 

 

竜也「・・・え?」

 

 

標的が突然しゃがみ込んだ事でさくらんぼは自身の重さで勢いが止まらず、そのまま屋上から落ちていった。

 

 

 

 

 

バゴンッ!(さくらんぼが地上に落下した音)

 

 

 

恐らく実の部分が衝撃で割れた音だ。もう追いかけては来れない、竜也の奇跡の勝利だ。

 

 

竜也は自分が助かったことをその場で喜んだ。

 

 

 

 

 

でも、その日が奴ら、「肉食物」と初めて出会ってしまった日であった。

 




〜図鑑NO.002〜

ダンベリー[桜桃鈴](元・さくらんぼ)

茎の部分が異常に発達し筋肉の足に進化してしまったさくらんぼ。実の方はボーリングの玉程の大きさと重さを兼ね備え、人間が蹴るような動作で襲ってくる。ダンベリーには栄養を取り込むための口がないため、茎の側面に葉緑素を作り出し光合成して生きている。


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二品目 変わり果てた日常

ガタッ ガタッ

 

 

揺れ動く荷台、囲むように積まれた芋、俺を乗せた荷馬車を引くナス。そのナスの上に跨がった男、

 

 

 

その名は「那須田 育男(なすた いくお)」。

 

 

 

育男「どうした?腹が減ってたんじゃないのか?」

 

 

 

竜也「も、もういい。芋の食い過ぎで、は、腹が。」

 

 

 

育男「ハッハッハ!あれだけ狩ろうとするように肝は備わってるのに、胃袋は小さなもんだな。ま、どうせ今だけだろ。お前は消化が早いからな、竜也。」

 

 

 

竜也「いいから水をっ、水をよこせ・・げぷっ。」

 

 

 

育男「まあそう慌てんなって。そら、見えてきたぞ。」

 

 

 

俺の名前は桐野 竜也(きりの たつや)、十年前に起こった惨劇で両親を亡くし、今は兄と妹との三人で暮らしている。

 

ちなみに、元々住んでいた東京は暴れ回る肉食物達の手により甚大な被害を受けて、一般人は別の囲いで暮らすことになった。

 

 

そう、今の竜也達の住む街、「真央町(しんおうちょう)」に。

 

 

肉食物らが入ってこれないように4~50メートルはある巨大な壁で囲まれているのが特徴的だ。実はこの壁、見れば分かるが縦に真っ直ぐ伸びている訳じゃなく、植物の葉のように翻っているのだ。

 

誰が十年でこのような壁を作ったのかは知らないが、おかげで肉食物が壁をよじ登ってきても、ネズミ返しのように落とすことができる。

 

また、空を飛ぶ肉食物は壁の上に配備されている兵士が打ち落としてくれているから、人々は今日も安心して過ごせている。

 

 

竜也を乗せた馬車は壁の一部にある扉の前に立ち止まった。

 

 

 

育男「おい門番っ!?また寝てんのか?いい加減起きろ!」

 

 

 

隊長が叫ぶとゆっくりと門の土肥らが開かれ、竜也たちはそこを通りすぎていく。

 

真央町の東には、居住区がある。竜也の今の家であり、また仕事場でもある場所だ。ここには避難してきた元都民が住んでおり、いつも今か今かと食料を待ち望む住民のために、竜也たちのようなハンターが壁の外に出て毎日のように狩りを行っている。

 

そして今も、竜也たちは今日の戦利品を住民のために届けているのだ。

 

 

 

竜也「み~ず~、み~ず~」

 

 

 

育男「もうそこだから、潤せるから、そんなゾンビみたく唸るな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜也を乗せた馬車は灰色の建造物の前で止まった。育男はナスから降り、芋の中でうずくまっている竜也を引きずり出す。

 

 

 

育男「ほら、芋運び込むの手伝え。水飲むのはその後だ。」

 

 

 

竜也「・・はいはい。」

 

 

 

竜也は最初に積んでおいた籠に、有りったけの芋を入れてから職員用の鉄の扉を開けた。そこはきれいに清掃された調理場である。

 

ハンターが獲ってきた戦利品を獣の如く貪るのは女子供たちが好まない、というか調理ができる状況ならしたい。芋をただかじる以外に揚げたり蒸かしたりして食う、食材を料理にできる場がここにあるのだ。

 

そして、ここで働くおばさんたちがいるはずなのだが、竜也の視界にはその姿が見えない。

 

 

 

育男「皆さーん!食材獲ってきましたよ!今度の食材は薩摩芋です!」

 

 

 

育男が呼びかけると、奥の部屋から人の足音と共に休憩室の扉が開く。

 

 

 

住民の高橋さん「あらあら!薩摩芋だわ!」

 

 

 

住民の池田さん「しかもこんなにたくさん!」

 

 

 

住民のジェイソンさん「ハンターさんありがとう!」

 

 

 

育男「いえいえ、私たちは当然のことをしたまでです。」

 

 

 

自分が狩ったものだというのに、自分の功績のようにしゃべる育男にいらっと来た竜也は、芋の籠を置いてから蛇口のバルブを捻り、流れる水を直接口へと注いだ。

 

そんななか、竜也たちが入ってきた扉が開き、息の荒い見慣れた少女が入ってきた。

 

 

 

竜也「うん?明里、どうした?」

 

 

 

桐野 明里(きりの あかり)。

 

 

 

二歳下の妹、赤茶色のツインテールが特徴で背が低いが運動神経が良い。昔から料理が大好きで、町の図書室で料理の知識を増やしたり、時々調理場に足を運んでは大人顔負けの品を作ることもある。竜也こそ、今まで明里の料理を食べてきたが、彼女の料理への情熱はプロ並だと思っている。

 

 

 

明里「はあ、はあ・・・また、行っちゃった・・。」

 

 

 

竜也「行ったって、まさか!?」

 

 

 

竜也はすぐに誰がどこに行ったのか理解できた。それは最近壁の外に勝手に出ては、肉食物を勝手に狩り、調理場に寄付してくるのだ。外に出られるのはハンターだけだから勝手に出ることだけでも罪になるが、それをしているのが女の子というんだから誰もが慌てるに決まっている。

 

 

 

竜也「隊長っ!大変です!また例の子が!」

 

 

 

竜也が叫ぶと隊長を含め、周囲の大人たちも慌て始める。

 

 

 

育男「また彼女か!世話が焼ける!」

 

 

 

竜也「早く行かないと!」

 

 

 

?「その必要はない。」

 

 

 

竜也「え・・」

 

 

 

その声の主は扉を開け、持っていた何かを平然と調理台の前に置いた。

 

それを見たこの場の全員は凍りついた。

 

 

 

 

頭だ。

 

 

 

 

黄土色の色、頭部は尖り目は黒くなっている。生きているときは光ある目だったのだろうが、今は暗い目をしている。

 

 

 

?「本体はすぐそこまで持ってきた。あとはあなたたちでやって。」

 

 

 

冷たい言葉を投げかけ、腰の二本あるナイフの片方にこびりついた生物の肉をその場に落とした。

 

 

 

この人物こそ、今助けに行こうとした少女、鋭い目をした銀髪のショートヘアこそが

 

 

 

「小春 麗(こはる れい)」である。

 

 

 

話は変わるが、皆さんはプテラノドンという生物を知っているだろうか。大昔に地球上に存在していた翼竜だが、麗が持ってきたこの生物の頭がどうみてもプテラノドンにしか見えない形状をしている。

 

だがこれはプテラノドンではない。

 

この町の学者たちが、日々見つかった肉食物を研究し、名称を付けている。

 

この生物は形状は翼竜だが牛や豚のように脂の乗った肉はない。

 

 

ストレートに言えば、じゃがいもである。

 

 

ついさっき竜也が狩ったサツマンドラのようなもので、体がじゃがいもでできた「ポテラノドン」と言われている。

 

 

 

育男「お前まさか、こいつを一人で狩ったというのか!?どれだけ狩りが危険を伴うのか分かってるのか!」

 

 

 

麗「分かっている。周りの状況から行動まで的確に判断し、標的となる獲物を一発で仕留めるだけ。」

 

 

 

竜也「でも、ポテラノドンは飛行する生き物。そのナイフでやったみたいだけど、どうやって?」

 

 

 

麗「外は人が手入れをしていないから木が生い茂る場所が点在する。休憩しにきたポテラノドンの首を切り落としてきた。」

 

 

 

苺狩り行ってきたみたいな軽い口調で話しているが、話の内容がやけに残酷である。

 

 

 

麗「もう疲れた、部屋で休む。」

 

 

明里「あ!麗ちゃん待ってってば!」

 

 

そう言って麗は外に出て行き、そのあとを妹が付いて行った。別に関わるなとは言えないが、うちの妹を巻き込まないでほしいと願っていた竜也であった。

 

 

 

育男「まあしょうがない。せっかく持ってきてもらったんだし、この芋もメニューの食材とするか。」

 

 

 

竜也「そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、今夜のメニューは芋だ。

 

何、パッとしない?だってしょうがないだろう。

 

付け合わせの野菜は食料庫に厳重に保管されたものが少々ある。米と小麦は栽培できているが、メインディッシュがパッとしないのは獲物を狩るハンターの責任だ。

 

これでもサツマンドラから採れる芋は絶品だ。例え肉が無かろうが皆満足してくれるのだからありがたい。

 

 

 

竜也は今日のこんだてが居住区の掲示板に張り出されたので見に来ていた。

 

 

 

竜也「えーと、メインはじゃがいもとさつまいものバター和えか。久しぶりに豪勢なものが食えそうだ。」

 

 

 

そう独り言を言って一人涎を垂らしていると、門の方で多くの人々の声が聞こえてくる。

 

そして竜也の方へと隊長、育男が走ってきた。

 

 

 

竜也「どうした?あの騒ぎは、暴動か?」

 

 

 

育男「・・大変だ。」

 

 

 

竜也「何が?」

 

 

 

 

 

育男「・・・バターが。」

 

 

 

竜也「・・・は?」

 

 

 

竜也の顔が青くなる。

 

 

 

 

 

育男「バターが・・・・バターが底を尽きた。」

 

 

 

 

 

それは死の宣告のように、重い衝撃だった。

 




〜図鑑NO.003〜

ポテラノドン[馬鈴薯竜](元・じゃがいも)

見た目は古代の地球に生きていた翼竜と瓜二つだが、体はじゃがいもで形成されている。頭頂には毒を生成する器官があり、死の危険を感じると翼の爪まで伸びた管を通して毒液が流れ、爪の先から標的に毒液を飛ばす。既に科学者により解毒薬が開発されている。


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