ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです (導く眼鏡)
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ディアベルは死に戻ったようです

息抜きに書いた。後悔はしていない


油断した。

偵察を行い、途中までβテスト版と変わりがなかったからと、ボスの行動パターンが最後までβテストと同じだとたかを括っていた。

様々な根回しを行い、LA(ラストアタック)ボーナスを獲得しようと皆を下がらせて一人で前に出たのが仇となった。

1階層目のフロアボス「イルファング・ザ・コボルトロード」の連続攻撃を喰らった俺のHPはあっという間に0になる。

意識が朦朧としてくる中、見覚えのある人物がポーションを飲ませようとするがもう手遅れだ。

意識を絞り、ポーションの無駄遣いを止めて目の前の人物に遺言をつぶやく。

欲をかいた結果が死というのも、当然の結末だ。だが、このままではボスに皆が蹂躙される未来しか存在しない事は分かっている。

ならば責めて、この少年に託そう。

間もなく、俺のアバターは消滅する。HPは0になっており、自然と自分が死ぬという事実だけが何故か分かる。

 

「頼む……ボスを倒してくれ……皆の、為に……」

 

そこまでの言葉を絞り出して、俺……ディアベルの生涯は潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

気が付けば、見覚えのある町に立っていた。

見覚えのある……というのは語弊がある、正確に言えば1ヵ月前に滞在していた、この世界に来て最初に訪れた場所だ。

どういう事だ? 俺は確かに、1層のボスにやられて死んだはず……

 

「どういう事だ……俺は、死に戻ったのか?」

 

辺りを見渡してみるがやはり始まりの街の主街区だ。そこで、俺はデスゲームというのはドッキリで、普通に死に戻ったのではないかと考えた。

だが、それでは現在俺が立っている地点が不自然だ。ゲームで死亡して蘇生する場合、

蘇生者の間と呼ばれる場所で蘇生されるのだ。

だが、俺が立っているのはゲームにログインして最初に訪れる広間だ。蘇生したのであれば蘇生者の間にいなければおかしい。

念のためと自分のステータスを確認してみる。レベルは1に戻っており、所持金やアイテムも初期のものになっていた。

これは一体どういう事なのだろうか? 死ぬと初期の状態にリセットされるのだろうか?

しかし周囲を見渡してみると、ほとんどの者が初めてこのゲームに訪れたかのように周囲を見渡している。

これも、デスゲームがドッキリで普通に死に戻ったという説を懐疑的にさせる。

では、今の自分の状況はなんなのか? それを考えようにも、分からない事だらけだ。

 

「一体どうなっているんだ?」

 

分かるのは、自分が今始まりの街にいるという事だけ。それ以外は全くといっていいほどわからない。

情報が必要だ。そこで、俺は現在の状況の確認と情報収集を兼ねて始まりの街周辺を探索する事にした。

 

 

 

 

……結論から言うと、このゲームがデスゲームだという事自体認知されていないようだ。

周囲のプレイヤーに話を聞けば、このゲームが普通のゲームだと思っている事がすぐにわかった。

デスゲーム化するという話もしてみたが、当然信じて貰えなかった。

やはり俺がおかしいのだろうか? それともデスゲームなんて本当は存在しなかったのか?

とは言ったものの、このまま途方に暮れるならばせっかくのゲームだし楽しもう。

そんなこんなで時間が過ぎていった時だった。

 

 

リーンゴーンリーンゴーン

 

 

あぁ、あの鐘だ。あの鐘と共に、確か俺達は始まりの街に転送されてデスゲームの宣言をされたっけ。

等と感慨深く思っていると、案の定始まりの街に転送された。

そして上空にはフードに身を包んだGMの姿。

俺がずっと懸念していた事項、頭の隅で考えてこそいたものの、確証がどうしても得られなかったが故にそむけていた仮設。

それがこれからGMから宣言される言葉次第で、仮設から確信に変わる。

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

 

そして俺は、彼の言葉から仮設が確信になる一言をしっかりと聞く。

 

「この世界でHPが0になったプレイヤーのアバターは消滅し、現実世界からも永久に退場する事になる」

 

あぁ、そうか……やはり俺は

 

 

あの時、初めてログインした時に巻き戻っていたのか。



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ディアベルはソロで奮闘したようです

前回のあらすじ

GM「デスゲーム開始宣言」
ディアベル「!?」

ディアベル「後は……頼む」パリーン

はじまりの街「おかえり」
ディアベル「!?」
GM「デスゲーム開始宣言」
ディアベル「デジャヴ!?」


やぁ、俺はディアベル。職業的は気持ちナイトやってます!

突然だけど、俺は今ソロでフィールドに出ている。

本当なら、パーティを組んで攻略に出た方が安全だし、負担も減るんだけど……訳あってソロでフィールドに出ざるを得なかった。

何故かというと、はじまりの街でデスゲーム開始宣言が行われた直後、何故か広場の一人が

 

「ディアベルを探せ! あいつ、このゲームがデスゲームになるって知ってやがったんだ!」

 

なんて言い出して、そこから俺が茅場とグルだとかいう騒ぎに発展して魔女狩りの雰囲気だったからね。

捕まったら何をされるか分からないし、気付かれないように街を離れたよ。

そんな事情があって、俺はソロで奮闘している。

少し先には、ボス戦で俺にポーションを飲ませてくれようとした少年が一人で必死に次の街をめざしている。

あの少年はキリト……β時代にLAをよくかっさらっていた人物だ。

彼にLAを取られる事を危惧した俺は彼にLAをとられまいと、色々策を練って彼には悪い事をしたっけ。

 

だけど、そんな彼に俺が声をかけるのは気持ちの問題として許せないし、何より今の俺の境遇を考えたら声をかける訳にはいかない。

一人ぼっちは心細いけど、今の俺はソロで攻略するしかない。

俺は逃げるように、ソロでフィールドを駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

1ヶ月後、トールバーナで第1層のフロアボス攻略会議が開かれる事になった。

俺は髪を蒼に染めて(前回の記憶を頼りに髪染めアイテムを気合いで手に入れた)フードを被るという変装のもと、攻略会議の端の席で話を聞く事にした。

ちなみに、前回一瞬でHPを削り切られた事を考えてレベルは念入りにあげて12にまでなった。

ソロでここまでレベルをあげるのは骨が折れたし大変だったが、同じようにソロで頑張っているキリト君を見かける度に、彼にやれるなら俺にだって出来ると自身に渇を入れて頑張り抜いた。

 

周囲を見渡せば見覚えのある顔ばかりだ。

ここまでで2000人のプレイヤーが退場しているのを考えるとそこまで差異はなさそうだ。

一番気になるのは、前回は俺が指揮をとっていたが、今回は誰が会議を主催して指揮を取るのか、というものだ。

 

しばらく待っていると、中央の会場に数人の人物が表れた。

 

「皆、集まってくれてありがとう。俺は、今回第1層のフロアボスを発見した第一人者として会議を纏めさせてもらう。宜しく頼む」

 

うん、彼は誠実な人間だというのが今の自己紹介で分かる。

パーティ……いや、レイドのリーダーとして命を預ける事の出来る人物だと言える。

少なくとも、欲に目が眩んで皆の命を預かる立場にいながら皆を危険に晒した俺なんかよりは余程いいだろう。

 

彼のトークを聞きながら関心していると、一人の人物が乱入してきた。

 

「ちょっと待っとらんかい!」

 

聞き覚えのあるこの声、確か彼はキバオウだったか。

覚えのあるやり取りを纏めれば、彼はβテスターの溜め込んだアイテムを全て寄越せという主張を声高らかに宣言したというものだ。

 

冷静に考えれば、詫びを入れろという主張は百歩譲って理解出来てもアイテム等を差し出せという主張等攻略全体からすれば足枷にしかならない。

βテスターは貴重な戦力足り得るのに、彼等から装備を剥ぎ取ったら戦力にならなくなる。

そうなればレイド全体の戦力低下に繋がり、ボス攻略が難しくなるからだ。

 

当然、そんな主張が通るかと言われればそうでもなく……という事もなく、会場からは彼に賛成してβテスターから装備を剥ぎ取っておこぼれに預かろうとする者が現れだす。

会場が不穏な雰囲気になり、これはまずいと思った束の間、黒人の男性……たしかエギルだったはず。

彼が攻略本を持ち出して会場をなだめてくれた事で九死に一生を得た。彼とは友好な関係を築きたいものだ。

 

そして、会場の皆でパーティを組む事になったが……さて、ここで大きな問題が発生する。

俺は今、指名手配紛いの扱いだ。俺が公然と姿を表せば魔女狩りの餌食だろう。

当然、そうなりたくない俺はソロで戦っていた為にフレンドもいない、パーティを組んでくれる人物に心当たりもない。

何より、パーティを組めば俺がディアベルだとばれる為迂闊に組む事も出来ない。

途方に暮れていた俺は帰ろうと席を立とうとするが、そのタイミングで声をかけられる。

 

「えっと、あんたも炙れたんだろ? よかったら俺達と組まないか?」

 

声をかけてくれたのは、キリトだった。

俺はこの時内心で泣いて喜んだね。こんな俺にだって声をかけてくれたんだから。

けど、二つ返事で入るかと言われれば否だ。俺の境遇を思い出してほしい。

 

「俺をパーティに入れると、君達にも迷惑がかかるかもしれないけど……それでもいいのかい?」

 

そう、俺をパーティに入れた後に俺がディアベルだとばれた時、彼とその後ろにいる人物が魔女狩りの巻き添えになりかねないという事だ。

当然、そうなったら彼等にも申し訳がない。だからこそ本来は問答無用で断るべきだったのだが……未練たらたらだった俺はやんわりと警告するだけに留まってしまった。

 

「気にするな。事情は分かるけど、そういうので排斥するような輩じゃない」

 

彼は、俺がβテスターだという事を隠しているだけだと思っているようだ。

だが、パーティを組めば名前が割れる。そこで、一度パーティを組んで俺がディアベルだとばれた時、怪訝な表情を彼等が見せたらパーティを解散して、俺は今回のレイドを見送ろうと決めた。

キリト君達とパーティを組む。後ろの人物はアスナというらしい。

 

「それじゃあ、改めてよろしく頼む。俺はディアベル、気持ち的にナイトをしているソロプレイヤーだ」

「キリトだ、同じくソロ」

「アスナ、貴方達と同じくソロ」

「全員ソロか、ならソロ同士気楽に行こう」

 

彼等は俺がディアベルだと知っても何一つ怪訝な表情をしなかった。俺、彼等とパーティを組めてよかったかもしれない。



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ディアベルはイルファング相手にリベンジするようです

前回のあらすじ

モブ「ディアベルを探せ!きっと茅場の手先だ!」
ディアベル「ナイトロールしたかったけど魔女狩りよろしくディアベル狩り?が横行しててソロをよぎなくされてます」
レイドリーダー「ボス攻略をしよう!パーティを組んでくれ」
キリト「一緒に組もうぜ」
ディアベル「よろしく」(キリト君、君という人は何て素晴らしい人間なんだ!)


やぁ、俺はディアベル。職業は気持ちナイトやってます!

突然だけど、俺達は今パーティメンバーの一人、アスナ君にスイッチやPOTローテ等のパーティ内で必須な連係について教えている。

彼女もソロでここまで来ただけあって、かなりの実力を兼ね備えている。特にリニアーの速さがとんでもない。

だが、VRどころか、ゲームそのものに関して初心者らしく、色々と教えなければならなかったりする。

キリト君とアスナ君はボス攻略の時、サポートポジションながらも目覚ましい活躍を見せていた。サポートポジションなのが勿体無いと思える程だ。

最も、3人パーティだからという理由で案の定俺達は取り巻きの取りこぼし掃除、つまりサポートポジションなのだが。

 

「よし、ひとまずはここまでにしよう。今日はゆっくりと休んで、明日の攻略に備えよう」

「わかった。明日は全員で生き残ろう」

 

そうして、キリトとアスナと別れた俺は、宿に戻る事にした。

明日は、因縁のイルファング・ザ・コボルトロードとの対決だ。正確に言うと再戦だが。

あの時、俺はボスの武器がβテスト時と変わっていた事態に対応出来ずフルコンボを喰らって敗れた。

だが、今度はそうはいかない。もしかしたら再び武装が変更されていたなんて事も考えられるから、油断は出来ない。

 

明日は絶対に犠牲を出さずに生き残ろう。その決意を固めて、眠りについた。

 

 

 

翌日、一人の欠員もなくレイドメンバーは集まった。

 

「皆、集まってくれてありがとう。必ずボスを攻略して、第1層をクリアしよう!」

 

皆でボス攻略に向かう。キリトは何があったのかは知らないが、昨日宿に入ってからの記憶がないらしい。

大丈夫だろうか?

そんなこんなでボス部屋にたどり着く。

 

「俺が先陣を切る。皆続け!」

 

リーダーがボス部屋の扉を開ける。

扉の先に鎮座しているのは、イルファング・ザ・コボルトロード。

俺が殺された第1層のフロアボスだ。

正直、恐怖で足がすくみそうになるがそんな事で弱音を吐く訳にはいかない。

リーダーが突撃指示を出すと同時に俺も、キリトとアスナと一緒に駆け出した。

 

 

 

 

ボス戦はある程度順調に進んでいた。途中、危うい場面こそ何度かあったがその度に俺達がフォローした。

このまま何事もなく終わればいいが、そうはいかない事を俺は知っている。

ボスのHPゲージが最後の1段にまで削れる。

ここからが本番だ。ボスが武器を持ち換えてバーサクモードに突入する。ここで一度下がらせて体勢を整え

……

 

「ボスのHPも後少しだ、全員突撃! このまま削りきれ!!」

 

 

 

……は?

ここで突撃? いくらなんでも無謀だ!

 

「待て、ボスの様子がおかしい! 一度下がって体勢を整えるんだ!!」

 

慌てて警告するが、リーダーを筆頭に皆突撃を開始する。

不味い、あのままでは……!!

 

 

 

「グオァアアアアアアア!!」

 

 

 

 

次の瞬間、俺の目の前で繰り広げられたのは、ボスのソードスキルによって突撃したレイドが纏めて凪ぎ払われるという虐殺的光景だった。

そこからは悪夢の始まりだった。突然のボスの豹変によってリーダーが対応出来ずただあたふたするだけ、混乱した戦場では連携も何もない。

我先にと逃げ出そうとして、イルファングにやられてHPを0にする者。一人逃げれず取り巻きに囲まれて虐殺される者。

一人、また一人と死んでいく。このままではいけない。

このまま、皆を見殺しには出来ない。

 

「キリト君、アスナ君! 俺達で体勢を整える時間を稼ぐぞ!」

「ディアベル……わかった! 俺がボスの攻撃を弾く。二人ともフォロー頼む!」

「わかった!」

 

3人で駆け出す。まずは……

 

「はぁあああ!!」

 

ソードスキル、ホリゾンタルでメンバーを襲っていた取り巻きの一人を倒す。

 

「な、なんでや……あんた、一体……」

「俺は、気持ちナイトやってるソロプレイヤーだ。キリト!!」

「任せろ!」

 

キリト君にボスの攻撃を捌かせる。思った通り、彼はボスの攻撃を見切っている。

 

「アスナ君!」

「任せて!」

 

アスナ君に、迫る取り巻きを潰させる。

彼女のリニアーラッシュによって取り巻きがまた一匹、ポリゴンに変わる。

 

「皆、ここは俺達が時間を稼ぐ! その間に体勢を建て直してくれ! 戦えない者や逃げ出したい者は逃げても構わない、まだ戦える者は今の内に体勢を整えてほしい!」

 

レイドの1パーティ風情が何を言っていると思われるかもしれないが、肝心のリーダーがまともに指示も出さないまま混乱しているよりはずっとマシだ。

戦意の無い者に残られても邪魔になるだけだし、戦う意志のあるメンバーが集まるにしても、体勢を立て直さなければ話にならない。

だからこそ、今俺達が何とか時間を稼がなければいけない訳だが……はっきりと言ってしまうと、キリト君とアスナ君がすごすぎる。

キリト君が悉くボスのソードスキルを弾いては、アスナ君がすかさずリニアーを刺していく。

このボス戦のキーマンは彼等二人だと、俺はこの時確信した。

俺もパーティメンバーとして、二人に負けちゃいられない。

キリト君もさすがに全てのソードスキルを見切れるかと言われるとやはりそうでもないようで、敵の攻撃を読み違えて攻撃を喰らってしまう。

 

「がっ……!」

 

攻撃を当てたボスがすかさず追撃のソードスキルを放とうとするが、ここで彼をやらせる訳にはいかない。

 

「キリト君!」

 

咄嗟に盾を構えて、ボスのソードスキルを防御する。ソードスキルなだけあって、盾で防御してもHPがかなり削られてしまったが追撃を阻止する事は出来た。

 

「すまない、ディアベル」

「俺達はパーティメンバーなんだ、お互い助け合うのは当然じゃないか」

 

 

「あいつらに続けぇえええええええええ!!」

「おぉおおおおおおおおおおお!!」

 

そうこうしている間に体勢を整えた仲間達が、ボスを止めようと前に出る。

 

「1パーティだけに何時までも前線を任せていちゃ、壁戦士の立場がねぇからな。今だ!」

「皆……ありがとう! いくぞ、ここでボスを倒して皆にこのゲームを攻略出来るって事を知らせてやるんだ!!」

 

激しい攻防を再び繰り広げ、ボスのHPを削っていく。

やはり危うい場面も訪れてはいるが、自分でも驚く程冷静な指揮とキリト君とアスナ君の奮闘のおかげで戦線は保つ事が出来た。

そして……

 

「決めるんだ、キリト君! アスナ君!!」

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「はぁあああああああああああああああ!!」

 

ボスの攻撃を俺が受け止め、その隙にアスナ君とキリト君がソードスキルを撃ち込み、ボスのHPを削り切る。

 

「グオァアアアアア……」

 

唸るようなボスの断末魔と共にボスがポリゴンとなって砕け散り、ボス部屋にクリアを示す文字が浮かび上がった。

 

「……勝った、のか?」

「俺達、生きてるよな?」

「勝った! ボスを倒したんだ!」

「よっしゃあああああああああああ!!」

 

ボスを倒した事によって、次々と歓喜の声があがる。

俺達全員が力を合わせた事で、ボスを倒せたんだ。

 

 

「お疲れ、ディアベル。お前の指揮は凄く助かったよ。リーダーとか向いているんじゃないのか?」

 

キリト君がこちらにやってきて労いの言葉をかけてくれる。

 

「よしてくれ、俺みたいな人間にはリーダーをやる資格なんてないさ」

「そんな事ないわ、少なくとも私は、貴方が指揮を取ってからの方が戦いやすかったと思う」

「俺もそう思うぜ。あの状況で冷静な指示ができるってのは相当なもんだ。あんたの冷静な指示のおかげで戦線崩壊を免れる事が出来たんだ。あんただって、この戦いの立派なMVPだ」

「アスナ君……エギル君……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでや!!」

 

 

 

 

祝勝ムード真っ只中だった空気は、その一言によってしんと静まり帰った、

 

「なんで……なんでモトはん達を見殺しにしおったんや!」

「見殺し……?」

「そうやろ! だって、あんたら、ボスの使うスキルを知っておったやないか!! あんたらがボスの使うスキルを教えとってくれたら、モトはん達は死なずに済んだやないか!!」

 

サボテン頭の人物、キバオウの言いたい事も分からないでもない。

彼は俺達が、ボスの使うスキルを知っていて黙っていたと思っているようだ。

その俺達が、皆にあらかじめボスの使うスキルを伝えていれば死人が何人も出ずに済んだのではないか、そういうものだ。

確かに、俺はボスの武器が変更されている事を知っていた。ボスのソードスキルを全て知っていたかと言われればノーだが、それでもボスが妙な武器を使って来る事は分かっていた。

それを伝えていれば、この戦いで犠牲者がこんなにも出なかった。全ては、俺の責任でもある。

だが、事態はそれだけに収まらなかった。

 

 

 

「そういえば、あいつディアベルって呼ばれていたぞ!」

「俺知ってる! ディアベルは茅場とグルだって!! あいつ、自分達がこの状況を楽しむ為にわざと黙っていたんだ!」

 

一度火が付けばあっという間に燃え広がるように、辺りの空気は一瞬にして俺を断罪するものへと変わっていく。

 

「おいお前達、いい加減に……」

「いいんだ、キリト君。俺に任せてくれ」

 

これは、俺の責任だ。君達にまで責任を背負わせる訳にはいかない。

 

「皆、聞いてくれ。俺は……」

 

 

 

 

 




余談ですがモトさんはその場限りのオリモブです。


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ディアベルは引き籠るようです

前回のあらすじ

キバオウ「なんでやry」
モブ「全部ディアベルって奴が悪いんだ」
ディアベル(何でさ)


ディアベル「すまない、二人とも……後は……頼む」

 

 

キリト「ディアベェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエル!!!」

 

 

 

 

 

 

やぁ、俺の名はディアベル。職業は気持ちナイトやってました!

突然だけど、俺は再び死んでしまったらしい。気付いた時には再びはじまりの街に立っていたよ。

勿論、前回やられた時に気付いたらはじまりの街にいた時と同じようにね。

ちなみに今回は第2層の迷宮区をボスの行動パターン含めて、3人パーティで全部情報を仕入れて来いという物をこなそうとしてフロアボスにやられたという死因だ。

まさか2匹のボスの内バラン将軍のHPをある程度削ると真打ボスが現れるなんて思わなかった。しかも麻痺ブレスなんてしてきたものだからそれにぶち当たって無様にやられてしまったよ。

3人PTは、俺とキリト君とアスナ君だ。あのままだとβテスター狩りに発展しかねない勢いだったから僕にヘイトが向いている内に僕一人で責任を負おうとしたらあろう事か僕とパーティを組んでいて黙っていた二人も同罪だなんて言いだされて、結局巻き込む形になってしまった。巻き込んでしまった二人には本当に申し訳ないと思っているよ。

 

それから、死に戻った? 俺はステータスや所持金、装備等も人通り確認してみたけど、全部このゲームに最初にログインした時と同じ、つまり初期状態に戻っていたよ。

周囲を見渡してみると、思った通りデスゲームなんてなかったと言わんばかりに皆意気揚々と周囲を探検していたり、フィールドに出たりしている。

ここで、俺は今の状況……そして、2度の死を迎えて尚俺がここにいる現状について考えてみた。

俺のHPがボス攻略で0になり、死ぬと気付けばはじまりの街に初期状態で戻される。

最初と前回の死因を考えると、共通点はここだ。もしかしたらボス攻略以外で死ぬと二度と死に戻る事も出来ないかもしれないから、下手に検証なんて出来る訳がない。

それに、俺が死に戻れているのが本来の仕様だとするならば、死んで行った者達全員がここに死に戻らないとおかしい。

それに、何故時間まで巻き戻るのかも分からない。何が言いたいかと言うと全く分からない。

分かるのは、条件こそ不明だけど俺は奇跡的に条件を満たせているから、死に戻る事が出来ているという事位だ。何が条件なのかも全く分からないし、次も条件を満たした死に方が出来るかと言われればNoだ。奇跡はそう何度も続かないから奇跡と言うように、次は無いと思った方がいいだろう。

 

さて、そんな事があって人間の闇というか、醜さというか……そんなのを真っ向から見てしまった俺は攻略に出ようと思えず、はじまりの街に引きこもる事にした。

勿論、生活費に困らないように適度に狩りには出る。けどそれだけだ。前回も最初も、攻略に出ようとした結果死んでいる訳だからね。なら攻略に出なければ生き残れるのではないかと思ったんだ。

生活するだけの資金は狩りで稼いで、後はアインクラッドでのんびり生活しながらゲームがクリアされるのを待つだけ。

完璧だ。完璧な引きこもり作戦じゃないか! 強いて言うなら娯楽が少ない事だけが難点かな。

けれど、それは仕方のない事だと言える。攻略を諦める訳だからね。

さて、そんな僕は早速はじまりの街での生活基盤を整える為にフィールドで狩りをしてコルを稼いだりどの辺りに身を置くか物件を見て回ったりしている。ちなみにデスゲームの開始宣言はまだされていない。

はじまりの街と言っても、やはり1万人もの人数が滞在しているのだから当然広い。2層の街なんかよりもずっと広い。

だから迷わないようにしないといけないね。地理を覚える事は重要だ。βテスト時とは一部地理が違うという事もあり得るのだから。そもそもβテスト時の記憶ではじまりの街の地理を隅まで覚えているなんていう人間こそ少数だと俺は思う。

という訳で現在進行形で道に迷っている訳ではない俺は道端で偶然助けた女性と共に街巡りをしている。ちなみに前回みたいにデスゲーム等の失言はしていないはずだ。

 

「しかしあんたも物好きよね。はじまりの街でずっと暮らすつもりで物件探しなんて」

「それだけこの世界が凄かったからね。はじまりの街だけでも想像を絶する作りこまれ具合だよ」

「それは同感ね。世界観こそ現実と違うけど、あたしもここがゲームの世界じゃなくて現実だなんて言われたら半分信じるわよ」

「それだけスタッフ達のこの世界への思い入れが強かったんだろう。全く恐れ入るよ」

 

ちなみに、彼女はリズベット。この世界でのアバターが勇者顔でありふれているのに対して珍しく悪役ロールなのか悪人顔の人物達に囲まれて恐喝を受けていた所を助け出した。

最も、圏内だからダメージは無くノックバックが発生するだけなので、不意打ちよろしく辻斬りを行って一人を吹き飛ばした後、彼女の手を掴んで一目散に逃げ出した。

サービスが始まったばかりでまだレベル差も全然開いていない上に多対一を正面から受ける程の腕前はないからね、誰だってこうする。俺だってこうする。

無事逃げ切った後にお互い自己紹介をして現在に至る、という訳だ。

 

「ゲームの楽しみ方は人それぞれだからね。他の人達は競って最前線でゲームの攻略を目指したりするのかもしれないけど、俺はのんびりと暮らしたい。リズベット君は?」

「あたしも最前線で攻略だー! なんて血の気の多い事はしないわよ。中堅位でのんびり狩りでもするか、あんたみたいにどこかの町に落ち着いたりするかも。鍛冶屋とかあるらしいから、それを目指してみようかなって」

「鍛冶屋か、それはいいね。店を持ったら是非俺も通わせてもらうよ」

「その時はお客様第一号として丁重に歓迎してあげるわ……っと、ごめん。そろそろログアウトしないといけないから、あたしはここで落ちるわ」

「分かった。せっかくだからフレンド登録だけでもどうかな?」

「んー、助けてもらったお礼もあるし鍛冶屋になった時にあんたに連絡する手段も欲しいから……いいわ、フレンド登録しましょう」

 

リズベットとフレンド登録を済ませる。しかし俺は知っている。彼女がログアウトする事は出来ないであろう事を。

前回、前々回を考えればそろそろ全員がはじまりの街に強制転移されてGMからデスゲーム宣言が行われるのだから。

 

「あれ、ログアウトボタンがない?」

「そんなはずはない、ログアウトボタンは……本当だ、ログアウトボタンがない」

「この後用事があるのに、バグ? 勘弁してほしいわ」

「ははは……GMコールとか試してみたらどうだい?」

「試してみたけど、反応なし。どうなって……」

 

リーンゴーンリーンゴーン

 

鐘の音が鳴り響く。さて、3度目の転移だ。

 

「え、何これ? ってちょっと何で光って……」

 

リズベットの身体が光って転移される。そして俺も転移される。

気付けば、皆はじまりの街の広場に転移されていた。GMが恒例のデスゲーム開始宣言を行うとやはりというか、周囲は混乱に陥った。

 

周囲の人物もアバターから現実の顔に戻された影響か、男女比が物凄い事になっている。先程まで一緒だったリズベットも……いや、余計な考えはよそう。

さて、ここで以前の俺だったら必死に自分の強化の為に駆け抜けるか颯爽とナイトらしく皆を扇動して纏め上げようとしたりするのだが……人間の闇の部分を垣間見たばかりの俺としてはどうしても人と関わったり命がけの攻略に身を投げ出そうとする気にもなれない為、予定通りはじまりの街に引き籠る事にした。

物件もある程度目星は付けている為、そうと決まれば話は早い。他の人に物件を取られる前に目を付けていた物件を抑える事に成功した(とは言っても部屋を借りただけだが)俺は当面の生活基盤を安定させる為に物資を買い揃えたりフィールドで狩りをしてコルを稼いだりしていた。ちなみにお小遣い稼ぎとしてちょっとしたクエストをこなしたりもしている。

ある日サーシャさんと出会って、彼女が子供達を集めて保護している事を知った。半人間不信に陥りかけていた俺だが、その献身に心打たれて彼女へのささやかな資金援助を開始した。

 

そんな事があって1ヶ月後、犠牲こそ出たものの第1層のボスが倒された知らせが届いた。攻略組様様だ。

フレンド登録していたリズベットが第2層で露店を開いたとの連絡をくれた為、早速行ってみた。

ネカマをしていたという訳でもなく、彼女は彼女だった。その事に少しだけ俺は安心した。

彼女作の剣を買って武器を新調し、第2層のモンスターを狩ってレべリングも忘れない。攻略組には入らないが、レべリングをしておいて損はないからね。というよりレべリングでもしていないと娯楽がまだまだ少ないから暇だというのが本音だが。

第2層、第3層も攻略されていく。第3層ではいくつかのギルドが結成されたらしい。攻略には一切顔を出さない俺には関係ない事だけど。

そんな風に、攻略が少しずつ進んで行く中俺ははじまりの街を始めとした主街区でのんびりと生活していた。

 

 

 

 

 

「やぁサーシャさん、子供達は元気かな?」

「ディアベルさん、来てくださっていたんですね! えぇ、子供達もディアベルさんが来るのを楽しみにしていました。よければ、あの子達にも顔を見せてあげてください」

 

デスゲーム開始からおよそ一年。今日はサーシャさんが子供達を保護している教会に支援金を渡しに行く日だ。

彼女の活動も善意から来るものとはいえ、そのままではコルが尽きていくばかりだ。だからこそ俺みたいなプレイヤーが支援金を送る事で、彼女は子供達の世話を続ける事が出来る。

人の闇を垣間見た俺だが、長い間その活動を見てきた彼女の事は信用出来る。だからこそ支援金を送っている訳だ。

しかし、心なしか彼女の笑顔には最近曇りが見られる。どこかの層のボス攻略で攻略ギルドの一つ、ALS(アインクラッド解放軍)が大打撃を受けて攻略組を離脱し、はじまりの街をはじめとする下層の治安維持に回った辺りからだ。

軍内のいざこざに関しては俺も知らないけど、最近は下層プレイヤーから税を徴収したり、更には攻略の為の徴兵を行ったりしているらしい。命がけの最前線に望まぬプレイヤーを無理やり送り込んだ所で死んでしまうだけなのに、ALSは余程攻略組への復帰を急いでいるのかやっきになっている。

話を聞けば、最近はサーシャさんの所にも税金の徴収が頻繁に現れるらしい。しかも、戦えない子供達の分まで理由を付けて巻き上げようとする始末だ。

 

「そうか……軍もなりふり構っていられないんだろうけど、だからといってこんな事をしていては、本末転倒じゃないか」

「最近は徴税も激しくなるだけじゃなく、徴兵にもやっきになっています。ディアベルさんの事を軍が嗅ぎ付けるのも時間の問題です……どうして、軍はこんな横暴をするんですか?」

「それは俺にも分からない。けど、このままにしておいていい問題でもない。だから……」

 

 

バンッ!!

 

 

「オラオラァ、軍の徴税の時間だ! お前達の安全が保障されてるのは軍のおかげだって事を忘れるなよ」

 

突然開かれた扉から軍隊らしき人物が押し入って来る。彼等が、徴税を行っている軍の連中なのだろう。

 

「また貴方達ですか……税金は先日払ったばかりだと記憶していますが」

「うるせぇ、誰がお前達を守って、解放の為に頑張ってやってると思ってるんだ!」

 

この短い間のやりとりだけでも、色々と察する事が出来る。とりあえず俺は我慢の限界だ。

 

 

 

「少し待ってもらおうか、軍の方達」

「なんだお前は?」

「俺はディアベル、職業は気持ちナイトやっていた」



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ディアベルがマイホームを求めて旅をするようです

前回のあらすじ

ディアベル「引き籠ろう」
軍「税金納めろ」
ディアベル「まぁ落ち着こうか」
軍「誰だお前は!?」
ディアベル「俺はディアベル、職業は気持ちナイト『やってました』」


「お、覚えてろぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やぁ、俺はディアベル。職業はナイトやってました。

突然だけど、俺はついさっき噂に聞く軍の連中を追い払った所だ。

彼等は俺達下層のプレイヤーから搾るだけ搾り取って何がしたいんだろうね?

下層中層のプレイヤーが攻略組に貢ぐのは当然の事? 意味が分からないよね!

当然、俺も分からない。それはそうと話が突然変わるけど、軍の連中を撃退した俺は、この日教会の子供達と一緒に夕食を食べる事になった。

 

「兄ちゃんかっけー! 俺もディアベルの兄ちゃんみたいになるんだい!」

「本当にありがとうございます、ディアベルさんには何とお礼を言ったらいいか……」

「いや、気にしなくていいよ。俺が勝手にやった事だからね」

「ですが、あの騒動でディアベルさんは……」

「確かに、軍の連中に目をつけられるだろうけど心配はいらないよ。なんと言ったって俺はナイトやってたから!」

「ふふ、SAOにジョブシステムはありませんよ?」

「知ってるよ。これは俺なりのこだわりだからね」

 

確かに、今回の騒ぎで軍の連中を追い払った俺は間違いなく軍に目をつけられるだろう。

しばらくははじまりの街から離れて中層で活動した方が身の為だし、活動の拠点を中層に移そう。

サーシャさん達の事が心配だから、ちょくちょく様子を見に戻るつもりだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、行ってしまうんですね……」

「あぁ、どこかの層で落ち着ける所を探す予定だよ。時々子供達の様子を見に来てもいいかな?」

「あ、その……是非来てください! 待ってますから!!」

「ディアベル兄ちゃん、また来てくれるよね?」

「お兄ちゃん、いかないでー!」

「もう……皆、そうやって泣きついたらディアベルさんが困っちゃうわよ」

「いいんだ。子供達にも元気に育って欲しいし、これだけ懐かれているなら俺としても嬉しいからさ。それじゃあ、行ってくる!」

「はい……いってらっしゃい、ディアベルさん」

「「「「「いってらっしゃーい!」」」」」

 

 

という訳で、俺ははじまりの街を離れてどこか別の層で落ち着ける場所を探す旅に出た。

色々な層で様々な物件を見て回りつつ、軍らしき連中からは隠れる日々だったけど寂しくはないぞ。

寂しくない寂しくない、それより物件探しだ。本当なら一人暮らし用の小さな部屋でもいいんだろうけど、やっぱりマイホームが欲しい。

どこか静かな所でのんびりと暮らせる所に家があったらいいんだけど……と、知り合いの鍛冶屋に相談しているとこんな話を聞いた。

 

「それなら、22層とかどうなの? あそこは迷宮区にでも行かない限りほとんどモンスターが出ないし、結構のどかな所よ」

 

そのアドバイスを元に、俺は自分が求めるマイホームを探し続けた。そして、見つけた。

 

「これだ……この家だ!」

 

今、俺の目の前にあるのは22層の森の中、湖のすぐ近くに建っている一軒のログハウスだ。

景色もいいし、中もかなりのものだ。落ち着けるし、何より気に入った。

値段を見てみるとやはりいい物件なのか物凄く高い。そこで俺は、この家を買う為にひたすらクエストをこなしたり狩りを行ってコルを貯める事にした。

装備の新調とか、消費アイテムの補充、食事等でもコルは消費されてしまう為収入はそれを軽く上回る位はないと話にならない。

当然、下層では効率が悪いので安全マージンを確保できる範囲で出来るだけ上層のフィールドで稼ぐ、という事を続けた。

そうして、貯金を続ける事約3ヶ月近く。中層プレイヤーとしては、相当なレベルになっていた俺は迷いの森と呼ばれる所に来ていた。勿論ソロでだ。

この森は地形が変わっていくらしく(情報屋に聞いただけで、今まで深入りしていなかった為詳しくは知らない)迷えば最後、街に戻るのには一苦労するらしい。全然最後じゃないとか言わないでくれ。

いきなりこんな話を何故しているのかと言うと、それは俺が珍しく深入りしすぎて迷ってしまったからだ。

うん、安全マージンを充分とかいうレベルじゃない位確保しているからって調子に乗りすぎたよ。

ビーターの噂が流れているキリト君はレベルが70を超えていてぶっちぎりだとか言われているから彼ら攻略組には遠く及ばないけどね。

ちなみに今の俺のレベルは59だ。貯金の為にレべリングをしていたら、気付けばこんなレベルになってしまったよ。

お金も大分貯まって来て、今受けているクエストを終えればマイホームを買える金額に達する。

目的のアイテムは未だ見つからず。このまま帰る訳にはいかないからとマイホームの購入を焦ってもロクな事にならない。現に俺は今、哀しい事に迷子だからね!

さて、そんな状況の俺だけど目的のモンスターを探して森を彷徨っていると話し声が聞こえて来たので様子を見る事にした。

 

 

 

「……、……!」

「…、………」

「…………!!」

 

 

さて、話の内容はよく聞こえないが(これ以上近づくと索敵に引っかかってしまいそうだから迂闊には近寄れないよ)見た所、パーティ内で揉め事が発生しているようだ。

おばさんらしき女性と、教会の子供達と大差無い年齢らしき少女が揉め事の中心らしい。

よく見えないが、少女の傍を小さなモンスターが飛んでいる。もしかして、噂に聞くビーストテイマーという奴なのだろうか?

おっと、少女の方がパーティを離れて行ってしまったようだ。

パーティはおろおろするだけで、彼女の事を追いかけようとしない。

揉めていたおばさんの方は感じが悪い、というより前回味わった人の闇に近い感じがするので個人的に近づきたくない。

それより、少女の方が心配だ。この森の危険度はソロで絶賛迷子中の俺ならよく分かる。

自分で言うのもなんだけど、生半可な実力ではソロ攻略は難しいと断言できる。

だからこそ、このまま少女を放っておいたらとんでもない事になる気がする。

そう思った俺は少女の方を追いかけた。

まぁ、元々距離が大分あったから途中見失ってしまった訳だけど。

危なくなったら転移結晶で帰ってくれればそれはそれでいいのだが、27層では結晶無効化エリアなるものがあったらしい。

そんなものが発動してしまえば無事に帰れる保証はどこにもない。

責めて彼女が無事街に帰るまでは見守っていたいと考えて探していた時だった。

 

 

 

 

「ピナぁあああああああああああああああ!!」

 

 

 

少女の悲鳴が聞こえた。

方向は向こう、ここから結構近い。

 

「くっ、間に合ってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……side シリカ……

 

 

迂闊だった。迷いの森探索途中でパーティを抜けたあたしは、迷った挙句3匹のドランクエイプと戦っていた。

ドランクエイプは迷いの森の中でも特に強いモンスターだが、安全マージンを確保していればなんとかなると思っていた。

だけど、ドランクエイプのHPを削れば別のドランクエイプが襲ってきて、その間に攻撃していたドランクエイプが回復してしまう。

そんな消耗戦を繰り広げ続け、回復アイテムが底をついてしまった。

HPの消費も激しく、後一撃か二撃攻撃を受けてしまえば死んでしまう程に追い詰められていた。

こんな事なら、責めて街に戻るまでパーティを抜けるんじゃなかった。

そう後悔するが、もう遅い。

ドランクエイプの攻撃があたしを襲い、その攻撃からピナが身を挺して庇った。

必死にピナの元へ行き、死なないでと叫ぶが……ピナは、その場でポリゴンと化して砕け散ってしまった。

あたしのせいだ。 あたしのせいで、ピナは……

ピナは、あたしにとって何よりも大切な存在だった。ピナが一緒にいてくれて、とても心強かった。楽しかった。

なのに、そのピナは私の目の前で死んでしまった。

ピナと共にフィールドに出るようになって、竜使いのシリカなんて呼ばれ出して舞い上がっていた。

その慢心が、ピナを死なせてしまった。

目の前では、ドランクエイプがあたしめがけて武器を振り下ろそうとしている。

あれをまともに受ければ、あたしのHPはすぐにでも0になって、死んでしまう。

逃げなきゃいけない、けれど体が動かない。

このまま死んで、ピナの後を追う事になるのだろうか……それも悪くないかもしれない。

そんな事を思う自分が、心のどこかにいた。そのままあたしは、目を瞑って訪れるであろう最期を待った。

 

 

 

 

 

 

…………何時まで経っても、あたしを襲うであろう衝撃はやってこない。

もう、死んでしまったのだろうか? 周囲は先程までと違ってやけに静かだ。

不思議に思ってあたしは目をゆっくりと開ける。するとそこには……

 

 

 

「大丈夫かい、君?」

 

 

 

青い髪の、騎士みたいな人が目の前に立っていた。




ディアベルが第一層の攻略に参加していない、この時点でキバオウ達がディアベルの意志を引き継いでいなかったりキリトが第一層でディアベルの遺言で心を動かされる事もなかったので大分原作からはずれてくる。
バタフライエフェクトって真剣に考えると恐ろしいものですね。


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ディアベルはプネウマの花を取りに行くようです

前回のあらすじ

ディアベル「マイホームが欲しいから貯金しよう」
    ↓
シリカ「ピナぁあああああああああ!!」
ディアベル「大丈夫かい、君!?」


やぁ、俺はディアベル。職業は気持ちナイトやってました。

突然だけど、俺は今隣にいる少女と共に47層にいる。何故かって? それを話すには少し時間を遡る必要がある。あれは2日前の事だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの森でドランクエイプの群れに襲われていた少女を間一髪の所で助け出した俺は、俯いている少女に声をかけた。

 

「大丈夫かい、君?」

 

少女はゆっくりと目を開けてこちらを見るが、その目に生気は感じられない。

それに、彼女の周囲を飛んでいたはずの使い魔らしきモンスターが見当たらない。

代わりに、彼女の足元にそのモンスターの残骸らしきアイテムが転がっているだけだ。

そこから、俺は彼女の使い魔が、主人を庇って死んだ事を悟った。

 

「すまない、もう少し早く駆け付ける事が出来ていれば……」

「いえ、いいんです……あたしの不注意が招いた事ですから。その、助けてくれて……ありがとうございました」

 

こちらにお礼を言うが、やはり彼女に元気は戻らない。ずっと一緒だったであろうパートナーが死んでしまったのだから、仕方のない事なのかもしれないが。

そしてどうやら俺はお節介らしい。何故なら目の前の少女の事が放っておけず、手を差し出そうとしているのだから。

 

「失礼だけど、そのアイテムのデータを見せてくれるか?」

 

一見すると、傷口を抉るような言葉。だが、これはこれからの為に必要な事でもある。

彼女は黙ってアイテムのデータを表示する。そこには、ピナの心と書かれていた。

使い魔が死亡した時に現れる心アイテム。これと、とあるアイテムを使えば使い魔を蘇生する事が出来るという噂を聞いた事があるのだ。

そのアイテムが出るという階層のNPCがそれらしき情報を出していた事から、信憑性は高いと思われる。だが、そのアイテムを取得するには使い魔を失ったビーストテイマーがいなければならない。

 

「ピナ……ピナァ……!」

 

少女が再び涙を流して泣き出してしまう。これ以上むやみに悲しませたい訳でもないので、慌てて説明を始めた。

 

「待ってくれ、落ち着いて聞いてほしい。もしかしたら、君の使い魔を蘇生出来るかもしれないんだ」

「え……それ、本当ですか!?」

「あくまで聞いた事がある程度だから絶対、という保証は出来ない。けれど、その階層のNPCや情報屋から同じ事を聞いているから、信憑性は高い」

「教えてください、どうすればピナを生き返らせる事ができるんですか!?」

「落ち着いてくれ。順番に説明しよう。使い魔の蘇生には、君が今所持しているその心アイテムと、47層で取れるプネウマの花と言われるアイテムが必要らしい」

「47層……ですか。今は無理でも、頑張ってレベルをあげれば……」

「……ここで希望を打ち砕く事を言ってしまうようですまないが、タイムリミットは3日だ。3日経過してしまうと、心アイテムは形見アイテムに変化して蘇生が完全に不可能になる」

 

そう、これこそが残酷な事実。彼女がレベルをあげて安全マージンを確保する頃には、ピナの心は形見に変化して蘇生が出来なくなる。

3日では、どれだけ短期間でレベル上げの計画を組もうが47層の安全マージン確保には届かないだろう。

よって、彼女が単身でプネウマの花を取りに行く事は不可能だ。

 

「そん……な……たった3日じゃ、どうやっても……」

「普通ならたどり着けない。けど、手段ならある……俺を護衛として雇うつもりはないかい?」

「護衛……ですか?」

「あぁ、俺は47層の安全マージンも確保している。さすがに明日朝一で47層に二人で攻略に向かうのは少しばかり不安だから、明日一日をレベリングに費やしてその翌日にプネウマの花を取りに行く事になる。それでも、その子……ピナの蘇生には十分間に合う。どうかな?」

 

手を差し伸ばすが、少女は困惑している。いや、警戒していると言った方が正しいのかもしれない。それも当然だろう、何故なら初めて会ったばかりの男性が魅力的な提案をいきなり持ち掛けてきているのだから。裏があるのではないかと考えるのが普通だ。

 

「その……護衛の代金は、どれくらいかかるんですか?」

「護衛の代金に関しては、プネウマの花を手に入れた後にこれ位出してくれればいい」

 

そう言って、俺が提示したのは47層の攻略を護衛として雇われるには破格の金額だ。

破格というのは、勿論安い意味でだ。当然、そんな金額を提示されては目の前の少女も驚きのあまり目が点になる。

 

「こ……こんな値段で、いいんですか?」

「あぁ、これ位の金額があれば今まで貯めた貯金も合わせてマイホームと家具一式を揃えられるからね」

「そ、それでも安すぎます……その、どうしてあたしにここまでしてくれるんですか?」

 

彼女に問われる。何故見ず知らずの人にそこまで手を貸してくれるのか、と。

そこで思い浮かべるのは、教会で保護されている子供達の姿。

 

「はじまりの街の教会に、君とほとんど変わらない位の子供達がいるんだ。君を見ていると、その子達を思い出してしまってね。言ってしまうと感情移入という奴さ。それで、君はどうしたい? 勿論俺が信用出来ないなら断ってもいい」

 

ここまで言った上で彼女の意見を問う。自分の手助けを必要とするか否かを。

すると、彼女は立ち上がって俺の前に向き直り、こう宣言した。

 

「そ、その……差し出がましいかもしれませんが……お願いします!!」

「改めてよろしく。俺はディアベル、職業は気持ちナイトやってました!」

「ナイトって、SAOに職業はなかったはずですよ?」

「こだわりだからいいの。何事も気持ち、形からって言うだろ?」

「あはは、変わった人ですね。あたしはシリカって言います。短い間ですが、よろしくお願いします!」

 

これが、俺とビーストテイマーの少女、シリカの出会いだった。

森を抜けた俺達は(先程撃破したドランクエイプが目的のアイテムをドロップしていたので、クエストクリア報告も怠らなかった)シリカのお願いでこの階層の宿を隣同士で取る事にした。途中ロザリアさんという人物が嫌味らしい毒舌を吐いていたがナイトらしく紳士な対応で追い払っておいた。

そこで翌日のレべリングの話、その次の日にプネウマの花を取りに行く47階層の思い出の丘の話等を相談し合い、明日に備える為にと眠った。ちなみに一人だと不安で眠れないとの事で、同じ部屋で眠る事になった。同じベッドで眠る訳にもいかないから床で寝たけど、堅くて全然眠れなかった!

 

その日は、シリカにとっての安全マージン目標値の47階層に出来るだけ近い階層でレべリングを行った。彼女も筋がよく、教えた分だけ伸びてくれるのは教える側としても嬉しかったりする。

ちなみに、何故か出てくる攻撃力の低いモンスターが事あるごとにシリカを襲っていたように感じたのは気のせいだと思いたい。

レべリングを終えた後は、宿に戻って明日に備えた話をしていた。勿論、部屋の扉は閉めているから外部から会話の内容を聞く事は出来ないから安心だ。

 

「明日はいよいよ思い出の丘に向かう事になる。今日のレべリングでシリカちゃんも大分強くなったけど、安全マージンには全然満たない。何が起こるかは分からないから、気を付けてくれ」

「分かりました。そういえばディアベルさんはマイホームを買う為に貯金をしているんですよね? どこの家を買う予定なんですか?」

「22層にある湖の近くに一軒のログハウスがあってね、そこから見える景色も絶景だし、何より周囲が自然に囲まれているから落ち着いて暮らせそうな家だよ。明日プネウマの花を取ってピナを生き返らせた後は、念願のマイホームを購入する予定だ」

「22層ですか……確かに、あそこはモンスターも迷宮区に行かない限りは出ないですし、ゆっくり出来そうですね」

「マイホームを購入したら、教会にいる子供達も我が家で軍のしがらみから解放されてのんびりとした自由な生活を送らせる事が出来る。それが一番の楽しみだ。よかったらシリカちゃんも、マイホームを購入した後でよければ気が向いた時にでも遊びに来てくれ。何時でも歓迎するよ」

「い、いいんですか!?」

「勿論。場所のマップも今の内に送っておくよ」

「あ……ありがとうございます。家を購入した際には、是非遊びにいかせていただきますね!」

 

マイホームの話で盛り上がり、シリカちゃんに家の場所を教える。

傍から見たら青年が少女を家に招こうとしている不審者の図になってしまうが、そもそもここは部屋の中なので人の目を気にする必要はない。これが酒場等だった場合周囲からは犯罪者予備軍を見るような目で見られていたかもしれない。

 

「それじゃあ、そろそろ寝ようか。明日は朝早いからね」

「分かりました。おやすみなさい、ディアベルさん」

「おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、47層フローリアに転移して現在に至る。

 

「わぁ、綺麗ですね!」

「この階層は一面が花に包まれたフロアだからね。特定の層には莫大な人気を誇っているらしい」

「へぇー……」

 

と、感心した所で周囲を見渡してシリカは気付く。

周囲にいる人達はほとんどが男女、つまりカップルというやつだ。

傍から見たら、自分達もそう見えるのではないか? そこまで考えた所で彼女の顔は真っ赤になった。

 

「シリカ、大丈夫かい?」

「な、なななんでもないです! それより早く思い出の丘に行きましょう!!」

「そうだね、それじゃあ出発しようか。観光はプネウマの花を取った後にでもゆっくりと出来るからね」

 

周囲の観光もゆっくりとしたかったが、今は彼女の目的の品であるプネウマの花を獲得する事が優先だ。

観光はその後にでもゆっくりとすればいい。

俺達は当初の目的であるプウマネの花を獲得する為に、思い出の丘へと向かった。

 

 

 

「いやぁああああああああ!? ディアベルさん、助けてくださぁあああい!!」

 

突然だが、道中には当然モンスターが現れる。この階層のモンスターは攻撃力こそ低いのだが、周囲に擬態している為に索敵がある程度あっても気付きにくい。

その為、勇み足になりがちだったシリカが植物型のモンスターに狙われて、逆さ宙吊りにされるという図式が出来上がってしまった。

彼女は必死にスカートを抑えており、俺としては顔を咄嗟に背ける事位しか出来なかった。

 

「見ないで、助けて、みないでくださぁあああい!」

「すまない、どっちかにしてくれないか!? 前を見ずに助けるのは無理だ!!」

「きゃあああああああ!?」

 

結局、仕方なしとモンスターを倒して彼女を助けた。

 

「そ、その……見ましたか?」

「俺は何も見ていないよ」

 

顔を背けながら答える。実際はその、察して欲しい。

そんなこんなで、シリカが奇襲にあったりモンスターを倒したりシリカがレベルアップしたりシリカが奇襲にあったり挙句の果てに俺が絡みつかれるという誰得な図式が完成したりと、色々なパプニングがあったが、なんとか思い出の丘の頂にたどり着く事が出来た。

 

「ぜぇ、ぜぇ……ようやく見えて来た。情報屋によると、あの岩にプネウマの花が咲くらしい」

「本当ですか!?」

 

先程まで彼女も息絶え絶えだったのが嘘かのように急に走り出す。フィールドで一人先走りするのは危険なのだが、この周辺にモンスターは現れないので無粋な事は言わないでおく。

 

「あれ、ない……ディアベルさん、無いです!」

 

岩の元までたどり着いたシリカがプネウマの花を探すが、見つからない事に焦りを感じて振り返って叫んだ。

 

「そんな事はない、岩をしばらく観察してみてはどうだい?」

「観察ですか? わかりまし……あっ!」

 

しばらくすると、唐突に一本の植物が岩から生えて急成長を始めた。

それはさながら植物の成長を超早送りで見物しているようであり、あっという間にプネウマの花が咲いた。

 

「これがプネウマの花……ありました! ありましたよディアベルさん!!」

「それがあれば、ピナを生き返らせる事が出来る。早速、ピナを生き返らせよう」

「はい、本当にありがとうございました!」

「お礼を言われる程の事ではないよ。それより、今度はピナを死なせないようにね」

「はい!!」

 

彼女がそわそわとプウマネの花を取り出し、ピナを生き返らせようとする。

 

 

 

 

「ちょっと待ってもらおうか」

 

 

 

 

その時だった。後ろから急に声をかけられて遮られたのは。

 

「おらぁ!」

「なっ!?」

 

振り向いた瞬間、突然男性のプレイヤーが斬りかかって来たので慌てて剣で受け止めた。

襲ってきたプレイヤーのカーソルはオレンジ。つまり、犯罪者プレイヤーだ。

 

「今プウマネの花を使われると困るのよねぇ。それって今すごく旬だからさ。シリカちゃーん、プネウマの花ゲットおめでとう。早速だけどそれを渡してもらおうか」

 

俺達が通ってきた道の方から複数人のプレイヤーを引き連れていつぞやの女性……確か、ロザリアだったか。が現れる。

 

「ロザリアさん!? 一体、どうして……」

「パーティのお金がたんまり溜まった所で一網打尽にして丸儲けしようと思っていたら、一番のお目当てだったあんたが抜けたもんだからどうしようかと思ってたけど、プネウマの花なんてレアアイテムを取りに行くなんて聞いたからさ。こうしてつけてきたって訳」

「ばかな!? その話は宿屋の部屋の中でしかしていない! 漏れる要素なんてどこにも……」

「世の中には聞き耳って言う便利なスキルがあってねぇ。あんた達の会話は丸ごと聞き取らせてもらったのさ」

「なん……だと!?」

 

気付けば、周囲はオレンジカーソルのプレイヤーが俺達を包囲するように陣取っていた。この状態から無傷で逃げ切るのは不可能だろう。シリカの持つプネウマの花を差し出せば見逃してくれる可能性もあるが、それで見逃してくれる可能性はほぼないだろう。恐らく、プネウマの花を奪った時点で俺達は用済み。そのままPKされてしまう。

ならば……

 

「シリカ、今すぐ転移結晶で離脱するんだ」

 

奴等に気付かれないように、小声ですぐ傍にいるシリカに伝える。

 

「で、でも! それだとディアベルさんが!!」

「俺は君よりもレベルが高い。君が脱出したのを確認した後、俺も隙を見て脱出するさ」

「でも……」

「頼むシリカ、ここで二人で戦っても脱出のタイミングはどんどんなくなる。今すぐ脱出してくれないと俺も逃げる事が出来ない!」

「ディアベル……さん……」

「安心してくれ、俺だって伊達にレべリングはしていない。そう簡単にはやられないさ。無事逃げ切れたら、一緒にまたチーズケーキを食べに行こう」

 

シリカを心配させまいと、笑ってみせる。

 

「ディアベルさん……必ず、必ず生きて帰ってくださいね」

 

そんな俺を見て決心したシリカが転移結晶を取り出す。

 

「させるかぁ!」

「おっと、彼女に手は出させないよ!」

 

シリカの逃亡を阻止しようとした男の攻撃を俺が弾く。そこから、一斉に奴等が襲って来た。

いくらレベルが高くても、相当レベルに差がない限りたった一人のプレイヤーが十人以上もの相手と一度に戦って勝てる訳がない。

そんな事は、俺でも分かっている。だけど、ここで諦めるつもりはない。

転移結晶を取り出す隙を作り出そうと奮闘する。だが、数の暴力の前ではそんな隙も出来ない。

やがて敵の攻撃が俺の身体を切り刻み、徐々に紅いエフェクトが刻まれる。

減っていくHP、いなしても次々と襲いかかって来る敵。

やがて俺のHPがイエローゾーンを振りきり、レッドゾーンにまで到達する。

 

「はぁ……はぁ……」

「チッ、本命を逃がしちまったよ。あたしらの御馳走を目の前で台無しにしてくれたんだ、覚悟は出来てんだろうね? あぁ、今からシリカを連れ戻してプネウマの花を差し出してくれるってんなら見逃してやらない事もないけど?」

「断る……ナイトは、悪党に屈したりなんかしないからね」

「そうかい。ならあんたのドロップするアイテムで我慢するとしようか。あの娘はまた今度だ……お前達、やっちまいな!」

「へい!!」

 

俺が我が身可愛さに一人離脱せず、シリカを先に離脱させたのには理由がある。

俺は既に、2度死んでいる……もしかしたら3度目があるかもしれない。そういう淡い期待に賭けていたのだ。

勿論、何かあった時の為に最善の事はした。その為に彼女を逃がしたのだ。

もしかしたら死に戻れないかもしれないけど、その時はその時だ。元々俺は死んでいたようなものだから。

 

 

 

 

そうして、俺は目の前で振り下ろされる武器を見つめたまま……0になるHPを最期まで眺めていた。




死の運命とは理不尽である。
何の前触れも無く、死はやってくる。
抗えない死というものがある。
死は、常に隣にある。
死と生は表裏一体である。




・追記:5:26日3:52分、プネウマの花がプウマネの花になっていた誤字を修正しました。


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ディアベルは血盟騎士団に入団するようです。

プウマネ編のディアベル死後の番外編を書こうとする→手が動かなくなる→後日(以下ループ
私は番外編を諦めた。

前回のあらすじ
ディアベル「ここは俺に任せて先に逃げ……」パリーン


やぁ、俺の名はディアベル。職業は気持ち、ナイトやってます!

 

突然だけど、どうやら俺はまた死に戻ったらしい。

ニューゲーム、というやつなのかな? 過去2回はボスにやられて死亡したけど、その次は他のプレイヤーに殺されて死に戻った。俗に言うPKだね。

3回目の世界で分かった事だけど、PKされて死亡した場合でも俺は死に戻るようだ。死に戻る条件がボスに殺される事、という密かな仮説は見事打ち砕かれた訳だ。いや、今回は打ち砕かれてよかったけど。

仮説が合っていたら俺は今、はじまりの街に立っていない。今こうしてゲーム開始地点にいるという事は、そういう事なのだろう。

しかし、情報でこそ聞いていたがいざ俺がPKされた時にはなんというか、不思議とそこまで命乞いやら何やらをしようとは思わなかったな。

皆がみんな、そうではないのだろうけど……あの時思っていたのは、シリカは無事逃げ切れただろうかという他人の心配だった。

既に2回死亡経験があるから自分の死に対する感覚が麻痺しているのかもしれない。

最も、俺が考えている通り死に戻る際何もかもリセットされているのであれば、彼女も再び会う時は俺とも初対面なのだろうけど。

今まで築き上げてきた人達とのコミュが全てリセットされている、というのはかなり精神的にきついものがある。

ましてや、それが一年以上もの絆ならば尚更だ。

しかし、他の人達が死に戻った様子がない、死んだ人物が戻って来ない、というのは確認済みだ。

過去に何度か死に戻ったものの、それまでで死んだ人物……モトやコペルを筆頭とした様々な人物との接触を試みたが彼等に死ぬまでの記憶はないというのは既に分かっている。

仕組みは分からないが、俺だけが死ぬ度に初期状態で戻されて記憶を引き継ぐ事が出来ているようだ。

もしかしたら、他の人も死ぬ度に俺と同じように死に戻っているのでは、という可能性も考えたがそれは否定出来る。

もし他の人も俺と同じように死に戻っているのならばそれ以前の周回とは何かしら違うアクションがあるはずだからだ。

死に戻った内2回は第一層での出来事の検証がほとんどだったからそれこそその先に関する出来事の検証はしようもない。

しかし、実はあれから何度も死に戻っている。その周回で得た情報を元に、次の周回、その次の周回……何度も繰り返した周回の中で俺は様々な検証を行っていた。

周回ごとの行動の差異……これは俺が何かしらのアクションを起こせば当然、違いが生じてくる。これは当たり前だ。では俺が何もアクションを起こさなかった場合に違いは生じるのか。答えはほとんどが否だった。俺が起こしたアクションが元になって、差異と差異が重なった結果俺がアクションを起こしていない部分での差異が出てくる事もあったが、それ以外での差異は一切発生していない。これが先程述べた、俺以外の人物が死に戻ったりしていないと言える根拠でもある。

死に戻った人物が俺以外にいたら、その人物は俺が何もしなくても、必ず違うアクションをする。いや、しない事はあり得ない。

人はやり直しが出来る場面に遭遇したら、必ずもしもの選択肢……ifの選択肢に興味を持つ。

あの時、こうしていたらどうなっていたんだろう。あの時、あんな事をしなければ。

自分の選択から発生する、もしもの展開。特に、その選択に強い後悔を持っていたらそれこそ必ずifの選択肢に手を出す。

ほとんどの周回で攻略組トップクラスのプレイヤーとして名を馳せた黒の剣士ことキリト君がその代表例と言ってもいい。

彼は自分の選択がきっかけでとある中層ギルドを崩壊させてしまったと強く後悔していた。

そんな彼が、死に戻り……やり直しができたならば必ずその中層ギルドの崩壊を阻止しようとするはずだ。

そのようなアクションが一切存在しない時点で……つまりはそういう事だ。

さて、長々と前置きを語っていたがここで今俺は何をしているのか、という話になる訳だが……

 

 

 

 

 

 

「皆、今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 知っている人はこんにちわ、知らない人ははじめまして。俺の名はディアベル、職業は……気持ち、ナイトやってます!」

 

 

 

俺、ディアベルは現在第一層のフロアボス攻略会議のスピーチを行っている。

ナイトやめたんじゃないのかって? 色々あったのさ。

なんで攻略から離れていたのに突然攻略組になろうという気になったのか、と事情を知っている者がいたら聞いていただろう。いたとしても今答えるつもりはないし、そもそも俺の事情を知っている人がいたら見て見たい。

と、まぁ周回の情報を利用して攻略組の最前線リーダーとして皆を一つに纏める。キリト君がβテスト時に誰にも到達した事のない層まで登ったとかでチーター扱いされていたが、俺の場合キリト君なんか目じゃないという程のチーターだ。

と、そんな後ろめたい事情こそあるがそれも言わなければいいしばれなければいい。

当然、ここに来るまでに出来る限り助けられる人は助けたのだから文句を言われる筋合いはない。

はじまりの街でビギナー達に指導を行ったりモンスターにやられそうなプレイヤーをすんでの所で助けたり、これでもかと言う程のプレイヤーの命を救って来たのだ。

おかげで、ゲーム開始から一か月時点での現在の死者は1400人。俺のアクション、行動がきっかけになって結果的に600人もの人が死なずに済んだ事を考えればよく頑張っている方だと思う。

皆がそれぞれの反応を見せる中、俺は会議を進める。以前ならばこの辺りでキバオウ君がβテスターは詫び入れろ云々と言って来ていたが今回はそんなアクシデントも発生せず順調に会議は進んでいった。

俗に言う仲のいい人でグループ作ってーというアレをすると、決まってキリト君が炙れるのも見慣れてしまった。

そして攻略会議は順当に収まり、翌日にはボスを無犠牲で討伐した。

その時は皆達成感で喜んでいた。これが自信に繋がり、この後の攻略も順調に進む。

ちなみに第一層のフロアボスのLAボーナスは当然の如くきりと君が掻っ攫っていった。

その後のフロアボスに関しても特に危なげなく攻略に成功し、順調に24層のフロアボスまでの攻略を見事無犠牲で一貫してきた。

何故初見のはずのフロアボスをここまで無犠牲で攻略出来ているのか、という根源は当然周回で得た知識が元になっているのだが。

周回を繰り返す途中攻略組に戻り、ボス戦を経験しては何度も死に戻っているのだから嫌でも攻略法が叩き出される。

そんな、ボス攻略で一度も犠牲者を出していない事からプレイヤー間から、「蒼の軍師」なんていう異名がついてしまった。気持ちはナイトやってるんだけどね。

しかし、次のフロア……25階層はクォーターポイント。このフロアのボスの強さは段違いの為、相当対策を練らなければならない。

過去の周回でも、クォーターポイントのフロアボス攻略ではどうあがいても死者が続出していた。

当然、俺だって何度もあのフロアボスに殺されている。そして問題の攻略会議を現在開いている訳だが……

 

 

「どうかしたかね、ディアベル君」

「少し、嫌な予感がしてね。25層といえば100層の4分の1。いわゆるクォーターポイントだ……これまでとは比べ物にならない程に強くなっていてもおかしくない。これまで以上に警戒しなければならない」

「けど、今までのフロアボス攻略で一人の死傷者を出さずに攻略を達成し続けた君ならば今回も犠牲者0の攻略を行えるのではないかね? ディアベル君が指揮をとる戦闘では一人も犠牲者が出ていない。フロアボスとの戦闘でも、だ。そんな君の優れた指揮だからこそ、私としても指揮を任せる事が出来る。私も一人の攻略組として戦線を支えるつもりだ。何かあったら、是非頼って欲しい」

 

 

今、俺と会話しているのはヒースクリフ君、アインクラッド攻略において、今までの周回でも幾度となく攻略組トップギルドである血盟騎士団の団長として君臨してきた人物だ。

今回攻略するフロアではヒースクリフ君が殿を務めてくれたり、アレの猛攻を凌ぎ続けたりと本当に彼様様だった。不思議なのは彼の姿をそれまでほとんど見かけなかった事だが……探しても会えないとは、何事だろうか?

信頼できる情報屋に彼の情報を求めても、口止めされているらしく情報を開示される事はなかった。

と、まぁそんなこんなで彼と初対面になるのは決まって25層になる(攻略に関与しない場合はこの限りではないが、それでも24層以前から彼に出会う事はない)。

そんな謎の多い人物だが、決まって彼は神聖剣と呼ばれる彼だけのスキル……いわゆるユニークスキルを発現させるのだから恐ろしい人物だ。

 

攻略会議が終わった後、俺はヒースクリフ君に食事でもどうだと誘われた。

彼から話しかけて来るというのは以前の周回でもあったが……その時の話は大体決まっている。

 

 

「先程の攻略会議、実に有意義な時間だったよ。何が来ても対応する為の細かい戦術、そして尚犠牲者を一人も出さない手腕。聞けば君の指揮したパーティ、及びレイドでは一人も戦死者が出ないそうだね。君程の人材が我が血盟騎士団に加わってくれれば頼もしいのだが」

「評価されるのは嬉しいけど、俺はそんな大層な人材じゃないさ。せいぜい起こり得る事柄を予測して対策を考える位しか出来ないよ」

「自らの実力を謙遜する必要はないさ。それに、攻略を続けるのであればギルドに所属した方がいい。君さえよければ、我が血盟騎士団は君の入団を何時でも歓迎している」

 

そう、血盟騎士団への入団の誘いだ。様々な事柄を調べていた俺はこの話が来る度に断っていたのだが、今回は違う。

 

「確かに、小人数での攻略では限界があるからそろそろギルドに入るべきなのかもしれない。けれど、所属するギルドを選ぶにしても後悔はしたくない。そこで、25層のフロアボス戦……そこでヒースクリフ君の実力を見せてもらえないだろうか?」

「勿論、そのつもりだ。会議で豪語した通り戦線をしっかりと支えてみせる」

「頼もしい宣言だね。ボス戦でも頼りにさせてもらうよ。フロアボス戦で一線級の活躍を示してもらえれば、俺としても信頼に足るからね。その時はギルドの件を前向きに検討させてほしい」

 

今回、俺は血盟騎士団に入団するつもりだ。勿論、はいそうですか入りますという二つ返事で入る訳ではないけど。

フロアボス戦で活躍すれば入団する、という条件こそ出しているが数ある周回でこの男が活躍するのは分かり切っている。よって、実質無条件のようなものである。

今までは断っていた血盟騎士団への入団を今回承諾した最大の理由、それは……

 

 

 

「君の指揮にも頼らせてもらうよ、蒼の軍師ディアベル君」

 

 

 

 

この男、ヒースクリフ君の謎に関して徹底的に調べ上げる為だ。

 

 

ちなみに、後日のフロアボス戦は彼の活躍によって戦線崩壊を免れ、キリト君の怒涛の攻めによって見事無犠牲で攻略に成功した。



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ディアベルが血盟騎士団で奮闘するようです

前回のあらすじ

ヒースクリフ「血盟騎士団に入りたまえ」



「それじゃあ、今日の見回りは第10層辺りを重点的に頼む。出てくるモンスターの数、ドロップしたアイテムの数はしっかりとレポートにして提出してくれ。ドロップしたアイテムは報告さえしてくれればドロップした者個人で所有して構わない」

「はっ、ディアベル殿!」

「頼んだよ、皆」

 

 

 

やぁ、俺の名はディアベル。職業はナイト(血盟騎士団)やってます!

突然だけど、俺は今血盟騎士団の参謀として働いている。

参謀と言っても、血盟騎士団の運用自体はヒースクリフ団長だけでも成り立つ。が、いくら少数精鋭の血盟騎士団とはいえギルドのすべてを団長一人で動かしきれるかというと否だ。

攻略組として最前線の迷宮区の探索も行わなければならないが、それ以外にもやらなければいけない事はたくさんある。

下層の治安維持(これは本来、アインクラッド解放軍が25層で大量の死傷者が出た事によって最前線から退いて治安維持に回る事で血盟騎士団がそちらに力を割く必要はなくなっていた(それでも軍が腐敗して悲惨な事になっていたが)が、当然今回のフロアボス攻略戦で大量に死にかけたとはいえ死傷者が出ていない軍が最前線から退く事等無い訳で結果治安維持をする人材が下層中層のギルドやボランティア位しかいない。当然、無法地帯になる事は避けたいしはじまりの街に籠っている人達を見捨てる訳にもいかないので人材不足の血盟騎士団からも人材を割く必要がある)、

中層でのモンスターからのドロップ率やレアアイテムの調査、中層プレイヤーの育成(これは俺の案で、中層プレイヤーを育成する事で攻略組の人材を増やそうという計らいが表向きの理由)等、やらなければいけない事はたくさんある。

 

「しかしよろしいのですかディアベル殿? ヒースクリフ団長と、アスナ副団長は最前線で攻略を進めているというのに我々は……」

「だからこそ、だよ。団長達が攻略を進めてくれているからこそ俺達はそれ以外の面でのサポートに集中出来る。後方支援が充実しなければ、前線も満足に立ち回る事が出来ないからこそ後方支援を疎かにしてはいけないんだ」

 

 

ヒースクリフ団長と、副団長を務めるアスナ君を筆頭としたギルドの中心となる精鋭は最前線の迷宮区攻略を務める事が多い。

で、参謀を務めている俺はそれ以外、つまり先程挙げたような雑務を他のメンバーにしっかりと指示して動かしているというのが現状だ。

新入りが何を、と思う者もいるが俺の指揮力、参謀としての実力は攻略組ならば誰もが知っている(ヒースクリフ談)ので文句を言う者もいない。

勿論、俺だって動く。指示を出すだけ出して椅子でふんぞり返るような趣味は無いし、繰り返して来た周回の知識を最大限活かすなら俺自身が動くのが一番効率がいい。

それに、どこでプレイヤーが命を落とすか、という情報もある程度は持っている。その情報を活かして周辺を見回りさせれば、俺一人ではすぐ限界になる所をかなり首尾よく救助する事が出来る。

本当に人員をある程度割いてくれた事には感謝しかない。

そして今日は、俺もしっかりと動く予定だ。特に今日は結構重要な日でもあるのだから……

 

 

 

 

 

「やぁキリト君達、こんな所で会うなんて奇遇だね」

「ディアベル!? なんでこんな所に」

「今日はこの辺りのフロアを再調査しようと思ってね、団員達も一緒だ。キリト君と一緒にいる人達は……」

「あぁ、紹介するよ。この人達は月夜の黒猫団のメンバーで、俺は彼等のギルドに入れてもらってる。サチ達にも紹介するよ、この人はディアベル、後ろの人達は血盟騎士団の人達だ」

 

キリト君が交互に紹介をする。ここだけの話だけど、俺はキリト君の事をすごく頼りにしている。彼との交流も出来る限り欠かさないようにはしているつもりだ。

当然、キリト君がレベルを隠して彼等の元にいるのも知っているので話を合わせるようにする。

 

「ディアベルさんって……もしかしてあのディアベルさん!?」

「キリト君って、あの蒼の軍師ディアベルさんと知り合いだったの!?」

 

それでも、やはり有名な(自分で言うのもおかしな話だけど)攻略組が目の前に現れれば彼等もはしゃいでしまうのは無理もない話だ。

 

「俺達は狩り目的でこのフロアにいるけど、ディアベル達はどうしてここに?」

「このフロアで調査不足な所があってね。ただでさえこのフロアは危険だし、万が一にも恐ろしい罠が隠されているかもしれないから、そういうのが無いかを調査しているんだ。さっきも向こうの隠し部屋でトラップの宝箱を発見したから、キリト君達も気を付けてくれ。決して未開封の宝箱があるからって、迂闊に近寄ってはいけないよ」

「わかった。色々ありがとうな、ディアベル」

「君達も、頑張ってくれ。また生きて会おう」

 

ひとまず、彼等を死に追いやる罠の忠告はしておく。後はキリト君もいる事だし、大丈夫のはずだ。

ちなみに、別れ際まで月夜の黒猫団の皆にサインをせがまれたりした。悪い気もしなかったし、ナイトとして応えない訳にはいかないから用意された色紙にしっかりとサインをしておいた。何時もサイン色紙を持ち歩いている訳じゃないから勘違いはしないでほしい。

 

 

 

 

と、このような調査という名目で中層プレイヤーの密やかな救助活動を行っているのが俺の主な活動だ。

当然、下層中層の救助活動と共にクエストやアイテムの調査も忘れないでおく。

 

そんな事を繰り返していたある日、団長から集合がかかった。

 

 

 

「という訳で、50層のボス部屋を発見した。今回も偵察を行う予定だ。迷宮区の攻略は我々でも出来るが、ボスの攻略ともなれば君の指揮がなければ厳しいものとなるだろう。そこで、君にはボスの偵察を行ってもらいたい。偵察パーティには、アスナ君も加えるつもりだ」

 

25層に続くクォーターポイント、50層の攻略。攻略の鬼と化したアスナ君もいるとはいえ、相当厳しい戦いになるだろう。当然、俺自身は敵の行動パターンはある程度覚えている。特にクォーターポイントの敵の強さは強烈なインパクトが残っているからね。

でも、それは俺だけの話だ。俺が偵察にいかなければボスの攻撃を予測出来る事に不自然さが出るし、俺は偵察に出るしかない。

 

「わかった。必ず偵察で有益な情報を持ち帰ってみせるよ」

「期待しているよ」

 

さて、アインクラッドももう半分……50層、ハーフポイントのボス戦だ。

気合を入れて攻略しよう。もちろん、犠牲なんて許さない。

白と赤で統一された制服をはためかせ、俺は団長の部屋を後にした。




やだ、この小説地の文多すぎ?


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ディアベルが世界の真実を知るようです(前)

やぁ、俺の名はディアベル。職業はナイト(血盟騎士団)やってます。

突然だけど、現在の攻略は72階層まで進んでいる。

このまま順調に行けば、75階層という最後のクォーターポイントまでもうすぐたどり着ける訳だ。

当然ながら、ここまで攻略するのに大きな苦労もたくさんあった。

血盟騎士団に入団しながらも、死の原因となり得る障害を取り除くように細心の注意を払って動いた結果今の状況があると言っても過言ではない。

殺人ギルドとして猛威を奮っていた「ラフィンコフィン」の討伐、ここで誰かを逃がしてしまった場合その人物が俺を暗殺する可能性が高いから、絶対に討ち漏らし、及び捕獲逃しが出ないように念入りに作戦を練って指揮を執った。

ここまでの指揮だけれど、50層を越えてからはやはり厳しい戦いを強いられて、どうしても死者が出てしまう。死者無しで済んだ戦いもあるけど、ここまででおよそ1レイド分の人数を犠牲にしてしまったというのは心苦しいものがある。

50階層はハーフポイントなだけあって、どれだけ念入りな対策を取っても、その対策が記憶にある戦った時の情報を元に練ったものであっても多数の犠牲が出てしまった。あの場面で9人もの死者が出てしまった時は、俺の力不足と理不尽さを感じたよ。

 

で、今の状況だけど……非常によろしくない。

 

 

「だから、今回のフィールドボス攻略の為にはこっちの作戦の方が効率的です!」

「何をいうとんのや! そっちが考えた作戦なんかに命預けられんで! こっちの作戦で問題ないはずやろ!!」

「おい、二人ともよせ。そんな作戦じゃ犠牲者が出るぞ」

「キリト君(はん)は黙ってて(とらんかい)!!」

 

最近の攻略会議は、このように各自対立気味だ。

以前までならば、俺がまとめ役として最終決定を下す事で全て丸く収まっていた。

だが、50層以降で犠牲者が出るようになってから俺の指揮だと死傷者が出る、俺達に指揮をさせろという人や俺が指揮をしたら血盟騎士団が得をするような作戦がまかり通るとか、そういう事を言う人物があらわれて来た。

当然、俺としても最善は尽くしたつもりだ。それでも、ばらばらになる位ならば無理に指揮にこだわる必要はないし無理にこだわった結果どうなるかは身を以て体験している。

だから俺は、自らの地位を落として指揮官としての立場を事実上降りている。

その結果としてだが、やはり死傷者は免れる事が出来ず、ついにはここまでで45人以上もの人が死んでしまった。

以前と比べると圧倒的に低い事は理解している。だが、それでもとやり直しを繰り返した身で考えてしまう。

 

「ふむ、このままではキリがない。ここはいつかのようにそれぞれの代表者同士でデュエルを行い、勝った者の作戦を採用する方針で決めてはどうかね?」

 

ヒースクリフ君のこの一言で、この場はデュエルによって誰の作戦でフィールドボスに挑むかが決まった。

 

 

 

 

 

勝者はキリト君だ。やはり彼は強かった。

本当は俺が作戦を出したかったけど、他の人達に目をつけられているからね。死にたくはない。

 

「お疲れ様、キリト君」

「ディアベルか。お疲れ」

「君が勝ってくれてよかった。俺としても犠牲者が出る前提の作戦はさすがに許容出来なかったからね」

「俺の作戦だって、結局は犠牲者が出にくいってだけで犠牲者が出る可能性は充分あるぞ?」

「それでも、他の人の案よりはずっと素晴らしいさ」

「お褒めの言葉はありがたく受け取っておくよ、蒼の軍師さん」

「その名では呼ばないで欲しいな、今はその名にふさわしくも無い。今の俺は見る影もないからね」

「けど、ディアベルの指揮は攻略には必要だ。俺はアンタが攻略組の指揮を取るのが一番犠牲を少なくクリアできると今でも思っているぜ」

「その言葉だけでも嬉しいよ。後これ、サチ君達へのお土産だ。俺は血盟騎士団の仕事で忙しいし、持って行ってやってくれないか?」

「分かった、わざわざありがとな」

 

 

 

 

 

キリト君達月夜の黒猫団は、あれからしばらくして死にかけた事がある。

その時の話で、攻略組に入る事を諦めたらしい。

その代り、後方支援等でサポートをしていくと決め、それからは彼らの

サポートのお世話になるプレイヤーも少なからず存在している。

キリト君はギルドの代表として攻略組筆頭だから、彼がそのサポートを

最も受けているのは当然かもしれない。ちなみにサチ君がキリト君に

好意を持っている事を俺は知っている。頑張れサチ君、ファイトだ。

 

 

 

「くしゅん!」

「大丈夫かサチ、誰かが噂でもしてんのか?」

「噂でくしゃみって、迷信だろ」

「いやいや、案外キリト辺りがサチが恋しいとか言っているかもしれないぞ」

「ちょっと、ダッカー!?///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディアベル君、少しいいかね?」

 

その日は、何時もと様子が少し違った。

あれから74階層までは無事攻略、キリト君が二刀流を手に入れていた事が公表された。

昨日はキリト君とヒースクリフ君のデュエルが行われ……ヒースクリフ君が勝った。

思う所、疑問こそあったけど……キリト君よりヒースクリフ君の方が一枚上手だったのだろう。

そのデュエルが行われた翌日、ヒースクリフ君に突然呼ばれたのだ。

彼と話をする時は事前にこの日に会議をしたい、とアポイントメントを取ってくるのだが……このようにいきなり話を、というのは数回あった程度で結構珍しい。

 

「はい、なんでしょう?」

「実は、気になる情報があってね。この話は機密事項の為、私から君に調査の依頼を頼みに来た」

「機密事項?」

「不確かな事柄な為に今回は情報が情報だからね。あまり公にする訳にはいかない情報なのだよ。手短に話そう、ディアベル君……第一階層に出現しているダンジョンについてはどこまで知っている?」

「ALSが独占していながら未だに攻略出来ていないあのダンジョンかい? 存在だけなら知っているけど、そのダンジョンがどうかしたのかい?」

「これはあくまで噂に過ぎないのだが……そのダンジョンの最奥に、GMコンソールに連なるものが存在していると言われている」

「何!?」

「その話が本当ならば、GMコンソールを確保する事でデスゲームを終わらせる事が出来るかもしれない。どうだろう、調査の程を引き受けてはもらえないだろうか?」

「……その調査を行うにあたって、メンバーはどのように編成するつもりだい?」

「今回に関しては同じ団員でも迂闊に他言は出来ない。そこで、ディアベル君が信用出来ると断言できる人物にのみ声をかけてほしい。私と副団長のアスナ君も共に向かう。残りのメンバーは副団長のアスナ君と相談して君がパーティを編成したまえ。もちろん、血盟騎士団以外の者に声をかけてもいい」

「驚いたね、他言無用と言っておきながら第三者に声をかける事は許されるのか」

「もちろん、噂の域を出ないGMコンソールに関しては出来る限り黙秘を貫き通してほしい。表向きは団長命令による、第一階層の隠しダンジョンの調査で通してもらって構わない。それでディアベル君、この調査依頼……引き受けてくれるかね?」

 

 

 

 

 

 

「分かった、そういう事なら俺に任せてくれ」

 

 

第一階層の隠しダンジョン、今までは最奥まで足を踏み入れた事がなかったが、GMコンソールが本当に存在するなら、何か大きく変わるかもしれない。

そこに何があるのか、直々に確かめてやろうじゃないか。

 

 

 

かくして、俺は第一階層の調査に赴く為の準備を始めた。

第一階層のダンジョンとはいえ、相当の難易度でALSも攻略出来ていない。

そこに赴くのであれば、やはり信頼できる実力の人物に声をかけるのがいい。

そこで、俺が声をかけたのは……



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ディアベルは世界の真実を知ったようです(後)

怠慢期からの脱出


やぁ、俺の名はディアベル。職業はナイト(血盟騎士団)やってます!

今回、俺達は第一階層の隠しダンジョンの攻略に赴いている。

攻略に赴く事になった理由だけど、その理由はこれからの攻略に大きく関わりかねない情報の出現だった。

 

 

第一階層の隠しダンジョンに、GMコンソールに連なる代物が隠されている

 

 

どこからこの情報が出たのかは全くの不明だ。そんなものが存在していて、プレイヤーが操作する事が出来ればデスゲームの終了、そして生存者全員をログアウトさせる事が出来るかもしれないからだ。

無論、本当にGMコンソールに連なる代物があればの話だ。

情報の真偽を判断する材料なんて存在しないし、誰かが勝手に噂しただけのガセ情報という可能性だってある。

だがそれでも、GMコンソールに連なる物の存在が例え噂レベルであろうともそこにダンジョンがあるのは事実。

ならば、ダンジョンを攻略して真偽を確認する価値はある。仮にGMコンソールに連なる代物がなかったとしても、ダンジョン攻略でアイテムが手に入るはずだから全くの無駄という事にはならない。

以上の点を踏まえて、ダンジョン攻略中にドロップしたアイテムはドロップした人の物というルールの元、俺が誘った4人の人物とアスナ副団長、ヒースクリフ団長と共にダンジョン攻略に赴いた。

 

 

 

「見ろよ、スカベンジトードの肉がこんなに獲れたぜ! アスナ、後で調理してくれよ」

「ちょっと、それ持ってこっちに来ないで! 絶対調理しないわよ!?」

「調理したら美味そうなのに……帰ったらサチに調理してもらうか」

「!?」

 

前方で微笑ましいやりとりをしているのは、黒の剣士ことキリト君と血盟騎士団副団長のアスナ君。

キリト君が道中のMob狩りを自ら名乗り出た為、彼を最前線に無双、アスナ君も対抗意識を燃やして実質二人だけで道中Mobが狩られていくという事態になっている。

おかげで、俺を含む5人は手持無沙汰な状態でダンジョンを進む事になった。

ちなみに、アスナ君がキリト君に少なからず好意を抱いているであろう事は察している。

キリト君がはたしてサチ君を選ぶのか、アスナ君を選ぶのか。SAO内や日本では一夫多妻制は認められていない。キリト君が最終的にどっちを選ぶのか、楽しみだ。

ついでに言うと、キリト君がどちらを選ぶのかは全く分からない。何故かというと、そこまでたどり着く前に俺は死んでリセットされるからだ。

 

「しかし、二人共凄い張り切り具合だね」

「彼等は攻略組の最前線に立つ二人だからね。その実力は折り紙付きさ」

「ディアベルがそういうなら、疑う余地もねぇな」

「攻略組最前線に立つ二人の内の片割れであるアスナ君を我が血盟騎士団の副団長に任命した私の目に狂いはなかったようだね」

「違いねぇな。で、キリトの野郎に関してだが……あいつはどっちを選ぶんだろうな?」

「にゃははは、同じギルドに所属していて普段からキー坊を献身的に支えるサッっちゃんと最前線でキー坊を支えるアーちゃん、両手に花ダ。キー坊も隅におけないヨ」

「羨ましい限りだね。花と言えば、シンカーは何時ユリエールにプロポーズするんだい?」

「なっ!?///」

「もうとっととアタックしちまえよ」

「そ、それはその……だな……」

「おーおー、若いっていいなぁ。俺も向こうにいる妻と早く再会したいぜ」

「ふむ、色々な人物がいる中でも色恋の話は出てくるもののようだね。色恋と縁がなさそうなのは、私とアルゴ君位かな?」

「団長のファンは結構いるみたいだけどね。ファンクラブの中に気になる娘はいないのかい?」

「生憎と、そういった事は苦手でね……そういうディアベル君こそ、どうなんだい?」

「ベル坊も幼子からオトナのお姉さんまで、結構様々な層のファンがいるけどネ。ん? どうなんだいベル坊、一人位気になる娘はいないのかい? オネーサンに話してごらん?」

「その手には乗らないよアルゴ、それに俺も団長と同じでその手の事にはうとくてね」

「へぇ、ベル坊が恋愛事苦手……ネェ」

 

アルゴがジト目でこちらを見つめて来るが、気にしない事にする。

キリト君とアスナ君以外のメンバーは、俺、ヒースクリフ団長に加えてALSリーダーのシンカー、商人のエギル、そして情報屋のアルゴだ。

シンカー君は第一階層の治安維持に協力してくれている筆頭で、一時期暴走しかけたALSを正しく纏め上げたのも彼だ。ちなみにユリエール君とは推測相思相愛。プロポーズも時間の問題と思われている。

エギル君は商人として店を運営していて、俺もよく利用させてもらっている。一部のプレイヤーだけが知っている事だが、彼は店の儲けのほとんどを中層プレイヤーの育成支援に費やしている。

アルゴ君はSAO随一の情報屋だ。こちらから会いに行こうとしても探すのには苦労する。本気で彼女が隠れたら見つけるのはほぼ不可能だ。

だが、彼女の情報は最も信用出来る。今回彼女は俺達が第一階層の隠しダンジョンを攻略する事を聞きつけて同行を申し出たのだ。

当然の事だが、少しでも信用出来ないと思っていたら問答無用で置いていっている。

ここにいる全員が、周回を繰り返して来た俺が最も信用出来ると思っているメンバーだ。

 

「ディアベル君、この迷宮がどれほどの深さなのかは未知数だが……大分奥の方までは進んでいるだろう。何時ボスが来てもいいように、気を付けてほしい」

 

ヒースクリフ団長から忠告を受ける。確かに、なんだかんだでキリト君がほとんど殲滅してしまっている為俺達はほとんど戦闘をしていない。

しかし、これだけの迷宮だ。第一階層にあったとはいえ、出てくるMobのレベルは50階層やそこらのレベルでは太刀打ちできないものだ。

そんなダンジョンのボスともなれば、やはり気合を入れなければいけないだろう。

 

「皆、下がれ!」

 

通路を進んでいると、キリト君が突然大声で叫びだした。

俺達はすかさず数歩下がる。すると、目の前に大鎌を持った死神のようなモンスターが壁から現れた。

 

「なんだ……こいつは!?」

「ステータスが見えない……気をつけろ、こいつの強さは90階層レベルかもしれない!」

「あたって欲しくねぇ嫌な予感ってのはどうしてこうも当たっちまうんだろうなぁ」

 

キリト君の言っている事が真実ならば、このMobはとんでもない強敵だ。

下手をすれば全滅する。ここは大人しく引き返すか? だが、その先には白い部屋がある。

もしかしたらあれが最奥なのかもしれない。あそこに……ログアウトの鍵があるかもしれない事を考えると、ここで退くのは……いや、ここで皆が死んでしまったらこの周回では生き返らない。

死に戻っていた事で感覚が麻痺していたが、冷静に考えれば他のみんなは死んだらそれで終わりなのだ。

それを考えると、無理な突破を試みる事はできない。

 

「奴がボスなら、無理に突破しようとするのは危険だ! 守りに徹して、隙を見て全員で離脱しよう!」

「いや、撤退を宣言するのはまだ早いかもしれないよ」

 

ヒースクリフ団長が前に出て死神の攻撃を盾で防ぐ。

さすがは神聖剣といったところか、彼は涼しい顔を崩さずに敵の攻撃を防ぎきってしまった。

 

「ヒースクリフさん!?」

「団長!」

「私が敵の攻撃を凌ぐ、キリト君達は隙を見て攻撃したまえ!」

 

彼は退くつもり等ないと言わんばかりに、敵の前に堂々と立ち塞がっている。

ここまで進んで来た以上、この先に何があるのかを俺は確かめたい。

危険だが……周りを見ると、全員退くつもりはないのか俺の指示を武器を構えながら待っている。

それを見て、決心がついた。剣を掲げ、力強く宣言する。

 

「全員、戦闘開始! 犠牲者を絶対に出さず、全員で突破しよう!!」

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、ボスを退ける事は出来た。

途中、シンカー君とユリエールさん、エギル君が犠牲になってしまったという点を除けば、突破出来た事自体は喜ぶべき事なのだろう。

むしろ、あの敵を相手に犠牲者が三人で済んだ事自体が奇跡的だった。そう呼べる戦いだった。

キリト君やアスナ君ではとてもじゃないが受けきれない理不尽な攻撃力。

ヒースクリフ団長の鉄壁ぶりがなければ、瞬く間に全滅していただろう。

 

「シンカー君……ユリエールさん……」

「三人共、どうして……!」

「たかが三人、されど三人と考える事は出来るけれど……その三人の犠牲が、ここでは大きいわね」

 

アルゴ君も思わず何時もの口調が外れてしまう程に沈痛な表情をしている。

そう、たった二人……一万人の内の三人だが、それでも長い時を共に過ごしてきた俺達にとっては大きすぎる犠牲だった。

だが、全員がいつまでも沈んだままでは先に進む事はできない。何も解決しない。

 

「行こう、皆……これ以上、犠牲を出さない為にも。あの先にある物が全員のログアウトに繋がる鍵なら、残っている人達を開放しなくちゃいけない。この場所でいつまでも立ち止まっていたら、その間にも犠牲者が出る」

 

振り絞って出した声は、震えていた。

皆、無言で立ち上がり……奥の部屋へと向かった。

 

 

 

 

「これは……?」

 

中にあったのは、よく分からない何か。

これが何なのか、これを使って何が出来るのか。そもそもこれはどう使えばいいのか。

正直、よくわからない。

 

「これは一体……うおっ!?」

 

キリト君が鎮座している何かに手を触れると、それが起動を開始した。

 

「なんだこれ……高度すぎるプログラムがたくさん組み込まれている」

「キリト君、分かるのかね?」

「キリト君、これが何か分かるの?」

「あぁ、一応これでも自作のマシン組み上げたりコンピュータ弄ったりしてるから、こういうのは得意分野だ」

「へぇ、キリト君って機械に詳しいんだ」

「まぁな。ただこれは解読に骨が折れそうだからしばらく待っててくれ」

 

どうやら、キリト君ならなんとか分かるらしい。見てもさっぱりな俺達が下手に介入するより、ここは彼に任せた方がいいだろう。

そう考えて、しばらく様子を見ていた時だった。

 

 

 

「なん……だ……これ」

「何かわかったのかい?」

 

キリト君が何かを見つけたらしく、俺達は彼の傍に駆け寄る。

 

「これは……どういう事なの?」

「ホライゾン計画……繰り返される実験記録がここに載っているようだね。なるほど、驚くのも無理はない」

 

ヒースクリフ君とアルゴ君もこの謎の羅列を理解出来るらしい。だが、気になる事がある。

 

「ホライゾン計画?」

「これに書かれている文言によると、どうやらアインクラッド全体に大きな仕掛けが施されているらしい。そしてそれはある特定の人物を中心に行われている、と書かれているね」

「そして書かれている文言にある特定の人物は……ベル坊、君の名前ダヨ」

「なっ!?」

 

心当たりはある。繰り返して来た死に戻り。何度も俺は死に、巻き戻って来た。

それが、このホライゾン計画によるものだとしたら……

死に戻っているのが俺だけなのも頷けるし、だが何故こんな事を?

どうして、選ばれたのが俺なんだ? どうして……

 

 

 

 

ドッ

 

 

「……え?」

 

一体、何が起きた?

どうして、俺の身体に剣が生えて……いや、生えて等いない。

これは……誰かに、刺された?

だけどこの場には俺達以外誰もいない……なら、一体……誰……が……

 

 

「君の役目もここまでだ、ここからは真の……始ま……」

 

潰えゆく意識の中で微かに聞こえた声は、男性のものなのか女性のものなのかもわからない。

そうして、俺は……

 

 

 

 

 

 

「…………ここは?」

 

気がつけば、始まりの街。

何事もなかったかのように、死に戻っていた。

いや、それは違う。

ループの最初に俺は戻されていたのだ。



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ディアベルに本格的に死が牙を剥くようです

運命「何時から本気を出していないと錯覚していた」


ディアベル「……………………ふぅ」

 

 

 

 

 

 

やぁ、俺の名はディアベル! 職業は気持ち、ナイトやってます!

もう何度この光景を繰り返し見たのか数えてないけど、ここまで繰り返し見ていると飽きを通り越してもう実家のような安心感があるね。

前回、俺は後ろから何者かに刺されて死んだ(と思う)訳だけど、そもそも刺したのは誰なのか、これをまず考える必要がある。

あの場所で掴めそうだった情報はSAOの根本に関わるもの……だと思う。

とにかく、それが後一歩で判明する所で俺は後ろから何者かに刺されて死んでしまった。

だから俺はこうして始まりの町まで巻き戻っているんだが……そもそも死ぬ寸前に何を見たのかがあやふやになっているのが痛い。

ホライ……なんだったか。重大なものがあそこにあった事位しか思い出せない。

 

 

ディアベル「どうしたものか……」

 

 

前回足を踏み入れたあの場所がどこにあるのかも、記憶に霧がかかったかのようにあやふやになっている。

第一階層のどこかにあった事までは覚えているのだが……

 

ディアベル「悩んでいても仕方ない、今は出来る事をやっておくしかないか」

 

アインクラッドで日が暮れる時、デス・ゲームの開始宣言が行われる。

その時から、このゲーム内は阿鼻叫喚となる事は避けられない。

そしてこの序盤でかなりの数の犠牲者が出る。それを止めるには誰かが導かなければいけない。

では、誰が皆を導かなければいけないのか。誰かがやらなければいけない事を、誰かがやってくれるだろうと見て見ぬふりをする事は簡単だ。

でも、それは出来ない。いや、正確に言うならばそれをする事をディアベル自身が許さない。

だから彼は決めている。

 

 

ディアベル「よし……行くか」

 

 

 

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ディアベル「皆、いよいよ第一階層のボス、イルファング・ザ・コボルトロードとの決戦が始まる。俺が皆に言う事はただ一つ……勝とうぜ!!」

 

 

死に戻ってから約1ヶ月、犠牲者を少しでも減らす為に動きながら順調に攻略を進める事が出来た。

何度も死に戻りながら第一階層の攻略にここまで時間がかかってしまうのは、俺一人が一歩先へ行った所で攻略が劇的に変わるわけがないというのもあるが、やはり寄り道とも言える行動が多かったのも起因しているだろう。最も、弱きを助けるナイトを目指す俺はその寄り道をやめるつもりはない。

 

 

キバオウ「よっしゃあ、いくでぇ!」

 

 

そうして、何度も繰り返されて来たコボルトロード戦が開幕を告げた。

といったものの、武器が変更されている可能性等、β版との違いが出てくる可能性をしっかりと警告して最大限警戒するように言ってある為余程の事が起きない限り事故は起きない。

そしてその事故が起こる可能性も何度となく繰り返された戦いから予め先手を打つ事が出来る。

そう、彼等が負ける要素はどこにもないのだ。 今まで何度も同じボスの情報を網羅してきた彼、ディアベルがいる限りは。

 

 

「う、うわぁああああああ!!」

 

キリト「させるかぁ!!」

 

 

敵の攻撃を受けて体勢を崩したA隊の一人が追撃をもらいかけた時、キリト君がすかさずフォローをしてくれた。

 

 

ディアベル「A隊、一度下がって体勢を整えろ! B隊はその間ボスのタゲを取り、出来る限り攻撃を喰らわないように!」

 

エギル「ダメージディーラーが火力を叩きだすには俺達タンクがいなきゃならねぇ! しっかり耐えるぞ!」

 

ディアベル「キリト君、アスナ君! 酷使してすまないが次が来る!」

 

アスナ「はい!」

 

キリト「辛かったら無理はするな、最悪俺が出る」

 

ディアベル「一人で飛び出すのだけはやめてくれよ」

 

 

キリト君とアスナ君は、このレイドの中で唯一のコンビPTだ。

本来なら取り巻きの取りこぼしに対するフォロー等に回すのが定石だが、俺は2人がどれだけ強いかを知っている。

この頃のアスナ君はともかく、キリト君の実力は随一だ。彼等には皆のフォローを意識しつつ自由に動いてもらっている。

そうするのが一番だと、これまでの経験で結論が出ているからだ。

 

 

「ゴアァアアアアアアアアアアアア!!」

 

ディアベル「皆、一度下がれ! ここからが正念場だ!!」

 

 

そうこうしている内にボスのHPゲージバーが一本まで減った。

ここからが本番、事前情報が無ければ今までになかった野太刀の攻撃にキリト君を除いて一切歯が立たないだろう。

 

 

ディアベル「武器が変わって攻撃パターンも変わるはずだ、まずは攻撃パターンの解析に集中する!! まずはC隊、俺と一緒に前線に出るぞ!」

 

 

慢心はしない。野太刀による連続攻撃の脅威は俺が一番よく知っている。

奴の武器から放たれるカタナスキルは全網羅している以上、敗北はない。

このまま堅実に詰めていけば、チェックメイトだ。

……だからだろうか。

 

 

 

 

キリト「っ! 全員、ボスから離れろぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

今までの経験則は絶対だと、そう思っていた。

いや、これまで繰り返されて来た数多くのボス戦での共通点をしっかり把握し、覚え込んでいたからこそ心のどこかで慢心していたのかもしれない。

だからなのか、俺は他の隊に比べて……

 

 

 

 

 

 

ディアベル「……………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

今までの戦いで野太刀だったボスの武器が2本になっていた事に気づく事が遅れてしまった事に。




※9/16 誤字報告適用いたしました。指摘ありがとうございます


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