永遠の17歳。の後輩22歳 (しおぽん)
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働きねずみ

注意
アニメ、シンデレラガールズに準拠。
作者知識不足の為オリジナル設定が入ってくるかも

問題なければどぞ。




新社会人の皆、これからの夢、展望はあるだろうか?

駅で見かける新品のスーツを着てどこかワクワクとした表情を伺わせる人達。

 

俺には夢はない。

いや破れてしまってもうないと言うべきか。

破れたその時、見える景色が全て灰色に染まった。

時間が解決するとは聞くが一向にその気配はなく、外の世界に怯え肩を狭め、背中を丸め生きていく姿はさながらねずみといったところだろうか。

 

 

「にしてもまあ、なんでこんな会社に入れる事になったんだろ?」

見上げるはプロダクション大手346プロである。

誰もがcmやドラマで見たことがある川嶋瑞樹や歌唱力と美貌で世間の注目を集めている高垣楓の所属する会社である。

 

短大卒、訳あって22歳

試験はスラスラ通り、常務との個人面談もあったがまさかと言ったところ。

学校側にどういう内容だったか根掘り葉は堀聞かれたがまったく覚えていなかった。

 

「入社式、配属前研修も先週終えたし、配属はアイドルプロデュース部門ね・・・」

高垣楓とかのサインもらい放題かな・・・?母さんが好きだったからなー

貰えたら貰っておくか・・・

 

ふと時計を見る。

「遅刻なんてありえないが、一時間前それはそれで迷惑だよな。」

たしか入社式で社内には独自のカフェテリアがあると言ってたような。

 

「よし、そこで時間を潰そう。」

これから毎日のように通る自動ドアをくぐり抜け、カフェの階数を確認してエレベーターのボタンをおした。

 

ドアは待ち時間などなく開き、俺をカフェがある階へと運ぶ。

 

途中でエレベーターが止まり、軽快な音と共にドアが開いた。

 

「あ、おはようございます!」

会釈と挨拶を咄嗟に行う。

 

「ん、おはよう。」

アルトボイスの声が綺麗に通る長身の女性がそこにいた。

「ああ、君は真壁君だったね?今日からこちらで勤務か。」

その女性とは面談の際に会った常務である。

「はい、美城常務。配属先はアーーーー」

俺の言葉を遮るように続けて美城常務が口を開いた。

「イドルプロデュース部門だろう?」

呆気にとられた俺の表情を見てかクスリと笑う。

 

「知っていたさ、いや知っていたと言うよりはそうした。と言ったほうがいいか。私自身がそうなるようにしたからな。」

 

「は、はあ・・・」

常務が俺の配属先を直々に決めた?

正直なところ、自分自身でもそこまで高い評価をされているとは思っていなかった。

 

「これから部内でも色々変えていくつもりだ。時がくれば君には手足になって貰いたい。今はまだ気負わず日々の業務を覚えていってくれ。」

現実味を帯びない言葉の羅列に戸惑いながらも投げ掛けられた言葉を少しずつ飲み込む。

新入社員、常務直々配属、手足?

 

「呆けるのはいいが真壁君、君はここでおりるのだろう?」

口許には小さな笑みが見える。

 

「が、ご期待に沿えるようがんばります!」

理解が出来ないままエレベーター外に出て常務に礼をした。

 

「心配はしていない、いや今の君は少し心配か。期待しているよ時間をとらせたなでは。」

また軽快な音と共にエレベーターはしまった。

 

「緊張した・・・カフェで少し落ち着こう。」

体の強ばりを解すように上がらない肩を回す。

「いてててて、・・・あっ!」

すぐ近くにカフェのメニューを書いたオシャレ?ファンシーな看板が目についた。

 

 

「なんというか、うさぎキャラクターが全面に押し出されているけどなんかのコラボレーション企画かな?」

何処か懐かしいような、既視感を感じるが、過去346プロに来たことはないのできっと気のせいだろう。

 

懐かしさを感じながらスタッフの誘導にしたがい窓際の席に座った。

 

すぐにスタッフは水とおしぼりを手渡しし注文を取ろうとする。

「コ、コーヒーでお願いします。」

飲めない物を注文するあたり、初日ということも自分自身でも知らない間に緊張していたということだろうか。

 

 

注文を受けたスタッフは俺が今日必要な書類等の確認を行っている内にコーヒーは手元に持ってきた。

「お待たせしました、こちらがご注文のコーヒーでございます。あ、それと新生活応援キャンペーンで(これから)人気(が出る)アイドルとのコラボクッキーも一緒にお付けいたします。」

 

うん、さっき見たウサギのキャラクター型のクッキーである。

 

「へえーやっぱり人気アイドルとのコラボ商品なんだ。」

あまり世間の流行りをしらないからか、呆けた反応しかだせないが346に居れば自ずと知ることになるだろう。

 

ご厚意で頂いたクッキーをひと摘まみし口へ運ぶ。

うん、甘くておいしい・・・

「コーヒーに合うなこれ。」

これからも付け合わせに居てくれるのであれば是非ともブラックさんとの付き合いも考えていきたいところである。

 

そうこうしている内にカフェを出る予定時間を迎えた。

さて、社会人としての開幕といこうか。

 

カフェを出て再度エレベーターに乗り事前に指定されていたフロアを選択する。

 

エレベーターから降りてすぐ近くに目的地はあった。

 

俺はその目的地の入り口、オフィスに繋がるドアをノックする。

 

「失礼致します。」

不安はいくらでも浮かんでくるがなるようにしかならないし、今を精一杯邁進させていただこう。

 

過去の事だって、時間が解決しないなら自分で解決するしかない。

社会人という区切りはある意味その転機、是非に活かしたいところである。

 

「アイドルプロデュース部門に配属されました真壁草太と申します。若輩者ではございますがご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します!!」

開いた扉から光が差し込みこれからの門出を祝うように思えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「は?」

 

開けた先、目の前には野球のユニフォームを着た

メガホンをバットよろしくこちらに構えウィンクをする顔の整った女性がいた。

 

「初めまして!これからよろしく!何か考え事?固まっちゃってー!自己紹介は置いといてキャッチボールする?」

 

 

「は?」

初の担当アイドルとなる姫川友紀と顔合わせを行ったのだった。

 




タイトルからしてうさみん優遇だと思ったか?あれは詐欺だ。

嘘ですごめんなさい。ヒロインだけど登場大分遅れます。

あと2話目投稿できるようがんばりたいです。


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働きねずみと夢追いうさぎ

独自解釈がでます。


キャッツの球団お気に入り選手のレプリカユニフォームを着ている彼女は相も変わらずメガホンをバットのごとく振り回している。

 

そんな彼女の後ろから、声を聞きつけたのか穏やかな雰囲気を纏った壮年の男性が出てきた。

「やぁ、真壁君早いねえ・・・」

少し糸目に見える何かを見透かす様に開いた。

「うん、うん、いい目をしているね。さぁ、こちらに掛けなさい。すぐに業務ともいかないから少し話そう。」

促されるままに俺は案内されたソファーの前に立ち一声掛けてから腰を落とす。

 

「固いなー、リラックスリラックス!」

ニコニコした表情のまま、俺が座っているの向かい側ではなくソファー横に平然と座るユニフォーム姿の彼女。

 

「あ、はぁ・・・すみません。」

というか誰だこの女・・・この格好から考えるに事務員等ではないだろうし、いや大企業だからこそ社内では働きやすさを追求したラフな格好を許容しているのだろうか?

しかし、他を見ればほとんどがスーツだ。一番最初に排除した事が想定されてきた。

 

まさかア イ ド ル ?

そんなまさか・・・、俺自身がイメージしていたアイドルはフワフワヒラヒラを着たメルヘンちっくなものなのだが・・・

まぁ、そのイメージも友人が無類のアイドル好き、最近の押しアイドルは765プロの伊織ちゃんという娘らしい。

一度テレビで見たが本当に「アイドル」というような娘だった。

 

その「アイドル」と比べてしまうと・・・なんだろう胸にこみ上げるこの気持ちは。

あくまでアイドルだとすればなんだけども。

 

「そっけないなー!知らない仲でも無いんだし・・・あぁ、そっかっ!私だけだった。」

笑顔のままグッと顔をこちらによせる。

 

「私は姫川友紀!346所属アイドルで好きな球団は強豪キャッツ!趣味は野球観戦!何か質問はっ?」

 

彼女の声には活力がありハキハキとした物怖じしない自信満々の笑み、そして何より

「え、あっあの顔が近い・・・です。」

不用心なこの女性はなんなんだ、無駄に距離感の近いその姿勢に年甲斐もなくドキドキしてしまう。

 

 

「あ、あはは~、ゴメンねー何だかさ!面と向かって話すのが初めてじゃない気がしてさあ。」

指摘を受けてか少し頬が紅潮している彼女。

 

「姫川君、真壁君が困っているからそろそろいいかな?」

「あ~、今西部長さんごめんなさい!」

向かい側に座っている壮年の男性が笑みを浮かべながら口を開いた。

「いいや、元気があっていい事だ。さて先程、姫川くんから紹介があったように私は今西といいます。私は君の直属の上司だ。」

これからよろしくと言ってからまた穏やかな笑みを浮かべる。

「そして君の隣にいるのは姫川友紀君だ。この会社に所属しているアイドルだね。もちろん、他にもアイドルはいるが紹介はしないよ知り合う機会も多いからその時にするといい。」

俺は相槌を打ちながら、これからの事を考える。

今西部長が言っていた通りにどういう仕事をしていくかはわからないがプロデュース部門なのだから少なからず接する機会があるだろう。

もちろん特異だとは思いたいが姫川友紀という女性を見るととある不安が浮かんでくる。ファンを構成する層がかなりニッチだと。

試案顔を見越したのか、その考えを断つかのように今西部長が話を続ける。

 

「あぁ、今ここにはいないがもう一人直属の部下がいてね。無愛想な男ではあるが君も学ぶ所があるだろう、今はとある大きな企画の為に出ていてね戻ってきたら紹介するとしよう。」

今西部長は最後にはなるがと一呼吸置いて言うと仕切りの向こう側に目配せをしていた。

 

するとそこから服装からおそらく事務員さんだろう綺麗な女性がでてきた。さすが346事務員さんですらアイドル級。

素晴らしい容姿もだがそれを置いて気になるのは三つ編みである、毎日セットしているのかと思うとその手間にただただ感嘆である。

「どうぞ、お茶です部長。」

事務員服の彼女はにっこりと笑いかけ目の前に置かれたテーブルにお茶を配膳する。

「ありがとう」と早速お茶を飲む小西部長。

 

「最後は彼女、千川ちひろさん事務職として在籍している方だ。社内でわからないことは私たちに聞いてくれればいい。」

「千川ちひろです、気兼ねなくなんでも質問してくださいね真壁さん。」

今西部長、千川さんの雰囲気にあてられたのか自然と肩に入った力が抜け緊張が解けていることに気付いた。

これが人の魅力というものなのだろうか、今まで抱いていた不安も無くなったとは言わないが小さくなったのは間違いない。

「千川さん、今西部長改めてこれからよろしくお願いします。」

俺は満面の笑みでそう応えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから1時間ぐらいだろうか、今西部長とプロデュース部門での主な仕事内容の話をしてこれからの方針を聞いた。

まぁ、さすがに新人にすぐ担当アイドルを付ける事はなく当分は今出先にいる先輩社員の後ろにつき経験を積むらしい。それからアイドルの担当、次いでユニットの管理との事。

 

「なに、難しく考えることはない一番に重要なのはアイドルの魅力に気づくことだ、もちろんそれだけではないがね。あぁ、もうこんな時間だ楽しい時間はすぐ過ぎるね、私はそろそろ失礼するかな。」

気負いすぎると君の為にもならないからねとこぼしてから残りのお茶を一飲みした。

 

そして千川さん、今西部長を通した事務的な手続きは終わり自分のデスクにも案内され荷物を置いた。

後ろに立っていた今西部長が口を開く。

「うん、それでは真壁君に会社の案内をしたいのだが・・せんかわk「はい!はーい!」」

 

ちらちらとこれまでの会話で横やりを入れてきた姫川友紀がここぞとばかりに手と声を張り上げた。

話を遮られた今西部長は苦笑いである。

 

「私がその仕事うけるよ!今日はレッスンが無いオフ日だし、紗枝ちゃんも来てないからね!ちひろさん今西部長さんダメかな?」

水を得た魚とはこのことか、目新しいものが手に入り生き生きとした表情が伺える。

 

「所属アイドルだから中の施設については詳しいし問題はないと思うけど・・・今西部長、真壁さんはどう?」

千川さんも忙しいだろうし、案内役がもらえるのであればありがたい話だとばかりに頷く。

「しっかり中の施設を見てきなさいそれだけでも勉強になるはずだ、姫川君もよろしくね。」

というと今西部長は扉から出て行った。

 

「それじゃ、行くよー!!」

天に向かって拳を掲げるアイドル、何故か様にはなっており一緒に腕を掲げそうになるくらいである。

「よろしく!」

上げかけた腕を右手で抑え照れて少し赤くなった顔を誤魔化しながら彼女の元気に応えるような返事をした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どうだった?かなり広いでしょ!しかも会社の部署だけじゃないからね!中は使用中だからみせられないけどエステルーム、温泉、サウナ、各種レッスンルーム、食堂、公園!!」

本当に広い、テーマパークの様だ。しかもTV、映画撮影の制作等のスタジオも併設されていたのは驚きだった。

もちろん部署以外の施設にいくとやはりアイドルっぽい人たちを見かける事も多く、レッスンルームにはアイドル事情に疎い俺でもわかる高垣楓がいてテンションが上がったがここは仕事と思い我慢。

 

「本当にすごいな・・・さすが346プロダクションだ。」

何もかもスケールが違う。そう思うとこのプロダクションに所属しているアイドル全員が金の卵に見えてくる気もする。

大体の案内も終わったのか先行していた彼女が急に立ち止まった。

 

「で、最後はカフェ!」

笑顔のまま振り返って言ったその場所は最初に来たところ。

「姫川さん、朝早く到着して時間があったので一休みした所なので案内は大丈夫ですよ。」

勿論有無を言わさず、まーまーまーと背中を押され屋外にあるテラスへと誘導された。

 

「今、この時間だとスペシャルな店員さんがいるから楽しみにしててね!」

と言ってスッとスタッフルームへ駆けていくユニフォームの彼女。

それにしてもニッチなアイドルだな野球+アイドルか・・・というか彼女の場合はキャッツ+アイドルかな。

少し346の方向性を疑いたくなるが、でも確かに彼女の姿を見ているだけで不思議と元気が出るのは確かだろうなどと考えながらあの時無邪気に掛け声と一緒に上げそうになった左腕をなでる。

遠くでは何か打ち合わせをしているのか、何か驚くような声と気合を入れるような声が聞こえる。

 

 

部長から手渡された方針内容の資料に手を伸ばし目を通す。

「約1年後の始動目指すシンデレラプロジェクトについてか・・・」

このシンデレラプロジェクトとは来年の1月頃に行われるライブのメンバーの人たち『川島瑞樹』『高垣楓』『城ヶ崎美嘉』『佐久間まゆ』『十時愛梨』『日野茜』『小日向美穂』『輿水幸子』『白坂小梅』のプロデュースに関わる上で、インスピレーションを受け出先の先輩がこの企画を立ち上げ綿密に作り上げ銘打ちされたものである。

 

今、外出しているのもどうやら候補生の選出を現在行っているらしい。

企画の立案から各アイドルのプロデュース方針やそのアイドルの仕事をとる事などを統括しているのが先輩だと聞き一人でできるのかという疑問と一人でも企画の内容、実現性によってはこれからこんな大きなプロジェクトに携わることができると思うと鳥肌がたってくる。

 

「楽しみだなぁ・・・」

この先輩に会うのも楽しみ、そしてこの企画されたシンデレラプロジェクトに末端としてだが参加できることが嬉しく思えた。

 

すると、とたとたとこちらに人が駆け寄る音が聞こえる。

それは俺のテーブル近くで止まり一呼吸置いて口を開く。

「346カフェへようこそ!メニューはここに置いておきますね~。」

どこか懐かしいような声、そんな訳はないのに今日はいろいろあって耳まで疲れたのだろうかとまた少し笑う。

目を通していた資料をカバンへと収めてメニューに目を通す。

 

「新人プロデューサーさんこんにちは!訳あって臨時バイトをしていますがそれは仮の姿・・・きゅぴーん!!うさみんパワーでメルヘンチェーンジ!」

懐かしさは濃くなるあまり、メニューをテーブルに置き顔を上げる。

そこにはしっかりセリフに合わせてキレッキレのポージングを取る

「ウサミン星からやってきた歌って踊れる声優アイドル安部菜々17歳で~す!きゃは☆ミ」

中学生時代、近所に住んでいた初恋で憧れのお姉ちゃんがいた。

 

「な、なにしてるの?菜々姉ちゃん」

 

 

「―――――――っヘぇ!?!?!?」

 

 

父さん、母さん芸能界は予想以上に怖い所みたいです。

 

 




ちなみにこの菜々さんは27歳設定
主人公と5歳差です。
小さいころは5歳差って大きいけど22歳と27歳なら・・・ワクワクしますね。

じかいのこうしんもがんばります
あしたはむりです
お気に入り10件も付きました歓喜!励みになります。

※アニメシンデレラガールズの一年前から始まっております。
なお、川島瑞樹等が行うライブを2月から1月に今後のストーリー状で変更いたしました。


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働きねずみと夢追いうさぎ2

「へ~!菜々さんと真壁君って昔馴染みの知り合いだったんだ~!」

キラキラとした純粋な目が菜々姉ちゃんに突き刺さり、俺は頭を抱えながら目をキョロキョロさせたうさみみ少女?に目を向ける。

 

 

「そ、そうですよ~、お互いの家が近くてですねぇ~!」

目に見えて額に汗をかいている菜々姉ちゃん。

 

「おー幼馴染ってやつなんだ!あ、という事は真壁君もウサミン星出身ってことなんだね!」

天然なのかわざとなのかはわからないがニコニコしたまま少しずつウサミン星出身者を追い詰めていく。

 

「あ、あはははは~えっと草太君はうさみん星生まれじゃなくてですね~うーんと、あぁ!私が地球に来たときのホームステイ先が近かったんですよ。」

俺をひっそりとウサミン星出身者から除外したのはいいが、急ごしらえで作った話は哀れにも予想以上に姫川友紀をひきつけてしまう結果になって事を菜々姉ちゃんはまだしらない。

 

「あ、あれですよ、草太君小さいころはすっごく可愛かったんですよ!すごく甘えん坊で菜々姉ちゃん菜々姉ちゃんってヒョコヒョコついて来てですね!」

動揺からか真っ先に地雷原を駆け抜けるうさぎ、墓穴を掘るその姿に目元に涙が浮かんくるよ。

 

「中学生頃ぐらいから以前の様に遊ぶことも少なくなって寂しくなった覚えが・・・そう言えばその頃ちょっと意地悪な子に・・・っは!?」

郷愁に駆られてか17歳とは思えないような微笑をこぼした彼女、今この場面でなければ誰もが惚けるほどの表情。

しかし、現実は非常である。

ウサミン星人はその墓穴に身を入れ土を被せ花さえ供えた、完璧なアシストだ。

テーブルの下で右手をサムズアップさせながらこの話の行方を見守る。

 

「あ、あれ?菜々さん17歳で・・・あれさっき、真壁君確か菜々姉ちゃんって言ってたような気が・・・ねぇねぇ真壁君何歳だっけ?」

姫川友紀は頭に疑問符を浮かべながらそっと視線が菜々姉から俺に向けられる。

視線外の菜々姉の目にはしっかりと『打開案募集中』と書かれており少し上の虚空を見つめ逃避していた。

 

「22歳だよ、その理由は恥ずかしながら当時の安部さんもなんというか包容力があって年下ながらも甘えてたんだろうね。中学からはそれが恥ずかしい事に気づいて距離を置くようになった訳だ。」

理由付けとしては上策ではないだろうか、我ながら黙っていた10分の間で考えた内容としては上出来だ。

まさかのフォローだったのだろうか、逃避していた菜々姉ちゃんの目が爛々と輝き、俺に向けて胸の前に手を組み祈っている。

 

「小さい頃から菜々さんって大人の包容力みたいなのあったんだ・・・なんか納得いくかな!」小学生菜々さんのしっかり度合を見てみたいー!と姫川さんはテーブルに上半身と腕を投げ出し顔をテーブルに伏せた。

そして無事、熱狂的なキャッツファンを欺く事ができた俺はまた机の下で空いたもう一つの手で小さくガッツポーズを取る。

 

姫川さんは伏せた顔をパッと上げて俺の方に視線を向けた。

「ふふふ、それにしても真壁君は年下に甘えちゃうほどの甘えん坊ということだね。いいネタだ~!」少しイタズラっぽい笑みを浮かべメモをとるような仕草をする彼女。

 

「あ~やめてやめて、さっきの嘘だって。」

笑いながら手を横へ振り否定をする。

 

「もう遅いぞー!これはアイドルのみんな達に共有だー!」

そういうと姫川さんは顔を腕の中へ埋める。

ふと視線を菜々姉ちゃんに向けると少しホッとした表情であははと笑っていた。

 

 

 

 

 

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時間はそろそろ昼休憩を終える頃、お昼は姫川さんと一緒に喫茶店で済まし勿論案内も終えていたのでそのまま嵐の様に居なくなった。

「千川さんが言っていた時間まで少しだしそろそろ出ようかな。」

食堂があるにも関わらずお昼のメニューが豊富且つおいしいかなり人気でそうなお店である、勿論社員や許可証持っている人たちだけらしいが。

 

時計で時間を確かめ席をたとうとした時後ろから声をかけられた。

「草太君、さっきはありがとう。」

この呼び方はもしかしなくても菜々姉ちゃんである、振り返るとお盆を両手に抱えて立つ彼女がいた。

「気にしなくて大丈夫だよ、それにしても安部さんがここにいたなんて知らなかったよ。」

言葉の途中で菜々姉ちゃんが少し顔を歪めたがその後困ったような顔で笑う。

 

「ごめんね、実家を離れてからも連絡取ればよかったんですけど上京してから色々大変で・・・草太君は元気にしてました?」

そんな伺うような表情はやめてほしい、今も菜々姉ちゃんは菜々姉ちゃんだし連絡が取らなかったからといって咎めるというのも筋違いだ。

 

「うん、こっちも元気でやってたよ。昔と変わらず元気そうで本当によかった。」

菜々姉ちゃんは首と手をぶんぶんと横に振り慌てたように口を開く。

 

「そんなことないですよ!お肌やお化粧のノリが昔と比べると・・・あの頃なんてほぼ素顔だったのに・・・。」

相も変わらず墓穴を掘っていくスタイルは変わらないようで込み上げる嬉しさがあった。

「そうだ、草太君!今も野球はやってるんですか?インターネットでですけど草太君が出場した試合は欠かさず見ましたよ!もちろん!しっかり応援してましたよ~えっへん」

いつの間にか両手は腰に当てられ胸を反っている菜々姉ちゃん。

 

「あ~、止めたんだ。なんだかやる気がなくなってしまって。」

また、少し困ったような笑みで菜々姉ちゃんは座っている俺の頭の上に手を置いて一撫でする。

「草太くんの坊主頭触り心地がよかったのに勿体ないですよ~。でも今は今で格好いいからよしとしましょう!ほら、なでなでー!」

出社前にセットした髪をわしゃわしゃかき回されているが何故だか悪い気がしない。事務所に戻る前にセットしなくちゃとぼんやりと考えていた。

 

「色々ありますよね、本当に色々あるものですよね。」

勢い任せの手の動きは鈍り最後にゆっくりと一撫でして菜々姉ちゃんの手は止まった。

 

「安部さんの手が名残惜しいのは山々なんだけど、戻らないと昼休憩の時間が過ぎるからいいかな?」

その言葉を聞いて菜々姉ちゃんは顔を真っ赤にして手を引っ込める。

 

「そうですよね!お昼からの仕事も頑張ってきてくださいねっ。あ、あとできれば菜々姉ちゃんって呼んでほしいなあ・・・な、なんちゃって~」

顔は真っ赤のまま、むしろこの呼び名の件に関しては改めて考えると俺の方が恥ずかしい感じがする。

最初は驚いて咄嗟に呼んでしまっただけだし、社内、社外で公と私を混同させたくないのもある、そして何より姉ちゃんの『設定?』件もある。同じ事務所のアイドルにも誤魔化していたことを考えると大手を振って呼ぶわけにはいかないだろう。

 

 

妥協するなら

「今回みたいなことにならないように二人で会う時はそうするよ、菜々姉ちゃん。」

今回だけは許してほしい。

 

「はい!草太君!」

パッと笑顔が咲く、俺はこの笑顔が好きだったんだ。

懐かしい気分やほろ苦い記憶を振り切りカフェを出る。

 

それからエレベータで移動して目指す先は事務所。

今西部長や千川さん優しそうな職場の上司、心躍るようなサプライズもあり気分は良くその気持ちが自然と足を速める。

 

目的地に到着するころ事務所内から重低音な声が聞こえてきた。

恐らくこれからお世話になる『先輩』だろう、初の顔合わせになるが不安はなかった。

この職場で出会った人たちから感じた裏打ちがあったからだ。

朝と同じくノックをし入室の許可を得る。

 

「あぁ、真壁君ちょうどよかった。紹介し――――――

そこには背丈は185~8ぐらい、目の据えた三白眼、無表情の大男がいた。

立っているだけで威圧感の風体で一切表情を変えず大男はスッと一歩前へでて懐からナニカを取り出す。

 

 

反射的に目を瞑り、少し間が空き目を開けるとそこには名刺を出している

「これからよろしくお願いします。これからお互いに頑張りましょう、真壁さん」

重低音ボイスが威圧感に拍車をかける。

名刺を受け取るとシンデレラプロジェクトと銘打ちされており、目の前にいるプロデューサーの名前が書かれていた。

この大男、いやこの人こそがこれから『お世話』になる先輩である事を名刺が明確に示していた。

 

 

父さん、母さんやはり芸能界は怖いところです




タイトル名を主人公とアイドルを動物に例えて表記してるんですが・・・思いつかないです。

今後はタイトルで躓きそう。

じかいのこうしんもがんばります。
お気に入りが50件突破・・・歓喜です。
ちゃっかり評価も頂きました励みにします。


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働きねずみと優しい熊

目の前にいる三白眼の大男は武内プロデューサー。

その風貌は堅気の人間とは思わせないような威圧感があり尚且つ表情をまったく変化させない事がより一層それを色濃くさせた。

武内プロデューサーとの話は今も続いているが少し話を入室頃に戻そうと思う。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「真壁さん、どうされましたか?」

名刺を差し出したまま静止している『先輩』。

懐から名刺をだす時に半歩下がった足を戻し、そして動揺した事に気づかれないように名刺を受け取った。

 

「武内と申します、来年4月からの活動開始を予定しているシンデレラプロジェクトの補助をお願いすることになると思います。企画統括が若輩者の私という事で不安かもしれませんがしっかり推敲し不備がないよう進めていくつもりです。もちろん真壁さんにとって成長の場であることも間違いはないのでこの企画に携わることで得られるものがあることを願っています。」

無表情な彼から紡がれる言葉は丁寧でこちらを気遣った言葉が目立った。

これだけでこの人の人柄が知れるのではないだろうか。

 

「武内先輩、ご迷惑をお掛けするとは思いますがこれからよろしくお願いします。」

名刺を受け取り、ソファーに誘導され互いに座る。

 

「あ、今すぐお茶用意しますね。」

デスクに向かっていた千川さんが給湯室に消え数分、両手にはお盆。すぐにテーブルへと運ばれ武内先輩と俺の前に配膳される。

 

「武内プロデューサーは初対面だと結構警戒とか誤解されたりするんですけど、真壁さんはどうでした?」

クスクスと口に手を当てて笑っている千川さん。

 

なかなか返答に困る内容だと感じたが誤魔化すのもおかしいと思い少し笑いながら正直に話す。

「あはは、なんというか風格?がすごかったです。」

すごかった、表現としてはきっと間違いない、決して誤魔化してなんかない。

うん、すごかった。

 

千川さんは笑いながら話を続ける。

「そうですね、実はプロデューサーが入社してから2回ほど警察に職務質問を受けて交番に連れていかれた事があったんですよ。」

話す言葉自体もすごく丁寧で腰も低いが、如何せん自分より3~4cm程高い背、肩幅も広くアメフトやラグビー選手かのような体格そしてこの三白眼。せめて口数や表情が柔らかであればといったところだろうか。

 

「名刺を見せても信用してもらえないってなかなかないですよね、交番でいつも通り首に手を当ててすっごく丁寧に弁明してるプロデューサーを見たときはなんというか笑っちゃいました。」

聞き上手なのか話下手なのか、視界に入った武内先輩は無表情だが困ったように首に手をあてていた。

 

「千川さんあの時はお手を煩わせてしまったすみませんでした。」

なんというか無愛想というより不器用な人なんだろうか。

 

千川さんは笑いながら本当に仕事に支障が無くてよかったです、と言ってまた自分のデスクへ向かっていった。

 

「それでは、真壁さんこれからについて詳しく話して行きましょうか。」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「えぇ、その認識でかまいません。」

武内先輩が書類をテーブルへ置き一息つく、説明を受けたこれからの活動内容についてはこういうものだった。

 

現状として、シンデレラプロジェクトメンバーの選出、所属アイドルまたはスカウトそして応募を予定している状態であり現346所属アイドルに関しては一部目星は付けているらしい。

しかし現状は予定していた人数を割っており年末、年始にかけても継続して応募やスカウトを行っていくとの事。

 

 

また、1月に控えたライブ『川島瑞樹』『高垣楓』『城ヶ崎美嘉』『佐久間まゆ』『十時愛梨』『日野茜』『小日向美穂』『輿水幸子』『白坂小梅』通称シンデレラガールズを担当するプロデューサーの補佐も兼任しているようで現状かなり忙しいらしい。

 

今回俺がこの部門、部署に配属されたのは勿論、現場に入って下積みをするというだけでなく、来年四月の始動を予定しているシンデレラプロジェクトを進める為に武内先輩を助けるべく割り当てられたという事だ、戦力になるかどうかは別として。

 

 

「明日から早速一緒に行動して頂くのですが、まずはシンデレラガールズ、及びシンデレラガールズ担当の間島プロデューサーとの顔合わせをします。」

忙しい時間を使って作成してくれたのだろうこれから1週間のスケジュール表を手渡しされ目を通す。

16時以降まではスケジュールにお昼休憩(移動時間)以外の空きはなく言葉じりだけではない事を理解した。

 

「シンデレラガールズの皆さん全員にはスケジュール状会う事ができませんので、346社内のレッスンルームを利用している『佐久間まゆ』さん、『十時愛梨』さん、『小日向美穂』さんに挨拶をします。その後レッスンルームにて間島プロデューサーと合流、1月に控えたシンデレラガールズのライブに関する会議に参加していただきます。今回は見学という事になります。」

スケジュール表に目を通し、時折武内プロデューサーへの言葉に理解を示すよう目配せをしつつ相槌を打つ。

 

「その後なんですが間島プロデューサー、私、真壁さんで『城ヶ崎美嘉』さん主催のイベントの見学と顔合わせ、『川島瑞樹』さんも近くのTV局で番組撮影を行っておりますので同じく挨拶を済ませます。」

名前がでなかったアイドル達に関してスケジュール状、後日顔合わせになるとの事。

その後会社に戻りシンデレラプロジェクトの選考に関する日程の調整や面接会場等の候補絞り込みと確保。

 

「申し訳ありません、配属二日目からこのような過密日程で。」

この部門自体が創設からの期間が短いためか、運営に関する人材の不足が現在でも問題視されているらしく、他の芸能部門からヘルプとして一時的な移動が行われるも『アイドル』という区画はそれまでの部門とは大きく違っているらしく芸能部門に長く所属する社員でも手こずっているとの事。

 

「いえ、先輩が悪い訳ではないので、それに私自身も体力には自信があるのでちょっとやそっとじゃヘコタレませんよ。」

むしろ望むところだ、と言いたい。高校卒業後1年間は何もせずただ抜け殻のようにボーっとしていただけの何もない毎日、考える事だけが先行して不安に押しつぶされそうな日々だった。

しかし、体を動かし疲れていると案外ネガティブは来ないものだとわかった。

そしてそれはきっと仕事でも同じことだろう。

 

そう言って頂けると私も助かります、先輩は言って視線を書類へと戻した。

「先ほどのスケジュールの続きですが、現在346所属の私が絞り込んだシンデレラプロジェクト候補生の方と面談をして頂き真壁さんが感じた率直な意見を頂けたらと考えております。」

 

「彼女達の『アイドル』を目指す姿を、夢見る姿をしっかりと見てきてください。私自身も感じ入る事があったように真壁さんも何か得られるものがあるはずです。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

ミーティング?を終えた後、配属初日という事で定時帰宅を許された。

先輩は専用のデスクから何かを取り出すと社用車を使い、間島プロデューサーと合流後翌日に控えた会議内容をさらに詰める予定らしい。

 

俺は事務所を出るとエレベーターでカフェがある階を選択する、大層な目的はなくただ一言挨拶をしてから帰るつもりだ。

エレベーターが開き足を進めてすぐにカフェテリアに着く。

 

「いらっしゃいませー」

そこには朝、対応してくれた店員さんがおり俺を一瞥してからニヤリと笑う。

すぐに表情を正して席に案内しようとする店員さんを手で制して声をかける。

 

「安部さん、居られますか?」

その言葉を聞いて店員さんは、ちょっとまっててねーと言ってからバックヤードに消えていく、すぐに戻ってきた店員さんの手にはウサギ型のクッキーがありそれを手渡される。

 

「菜々さんはお仕事のイベントでいないよ、このクッキーは菜々さんから君へだって!」

昔馴染みなんだって聞いたよ、あんなに可愛い菜々さん初めて見たわ!といいながら肩を叩く店員さん。

ひとしきり肩を叩き終えると颯爽と仕事に戻っていった。

 

カフェに居る本来の理由も無くなったので明日の為に早い帰宅の途に着く事にする。

そこで手に持ったクッキーを手にカバンへと収めようとすると朝配られたクッキーとは違う所があることに気付く、そこには二つ折りのメッセージカードがリボンと包装紙の間に挟まれていた。

 

「なんだこれ?あぁ・・・これは」

某有名メッセージアプリと彼女のID番号が書かれていた、つまりはこれで連絡をとろうという誘いだろう。

お互い話足りない事もあったし、もちろん俺としては大歓迎というか歓喜である。

すぐにIDを登録するとメッセージを打ち込む。

 

『菜々姉ちゃん、明日からもよろしくお願いします。』

送られたメッセージ対する返信はすぐに返ってきた。

 

『こちらこそお願いします、草太君。』

メッセージの後にはニコニコ顔のウサギのスタンプが何回か続いた。

このやり取りは菜々姉ちゃんのイベント開始までの待機時間中ずっと行われていた。

それが理由か、家まで歩く俺の歩調は今の気分を表すかのよう軽快に足を運んでいくのだった。




お気に入り90件突破@p@
あざーっす。

誤字脱字見つけ次第修正
寝ます。


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働きねずみと可愛い白鳥

電車を降りて会社までの道を歩く。

下車した人達は波のように出口へ流れていく浮ついた気持ちを落ち着かせるように腕時計を見る。

昨日の様な早すぎるものでなく時間としてはちょうど良いのではないだろうか。

胸がトクトクと早鐘を打ち今日の始まりの期待を裏付けている。

会社の門を潜り警備員さんに挨拶とカバンから出した社員証を提示し、そのまま問題なくエレベータに乗り込む。

乗り合いした方は上層階のようであっさり俺が下りる階に到着した。

 

「よし、今日も一日がんばりましょ」

自己暗示のようなものだろうか、軽く両手で頬を打ち事務所の扉をあける。

 

「おはようございます、千川さん。」

開けた先には恐らく先に出社していた千川さんが待機していた。

 

「おはようございます、真壁さん。」

ニッコリと笑いながら業務開始前の準備らしきことをしている千川さんが少し作業を止めて挨拶を返してくれた。

「カバンをもったままで構いませんのでレッスンルームへ直行して頂いてもよろしいですか。事務所集合でなくレッスンルームに変更みたいです。プロデューサーは午後の資料を持ったらすぐにレッスンルームへ行くと言っていましたよ。」

その言葉を聞き自分のデスクに置きかけたカバンを元に戻して返事をする。

 

「ありがとうございます、千川さん早速行ってきます。」

千川さんに会釈をした後にそう言って事務所を出た。

 

 

 

「うーん、それにしても本当に広いな。」

今回の目的地は多人数用レッスンルームでそれまでにいくつかの部署を超えて行く。

中庭が見え、足を進めると通路の脇に自動販売機が設置されていることに気づき水分補給用のミネラルウォーターを購入する。

時間を確認しまだ余裕があることを把握、中庭の風景を見ながら水の入ったペットボトルの蓋を開けて口に含む。

 

「ん?こんなところにもレッスンルームがあるのか。」

姫川さんに案内されたレッスンルーム、これから行く予定の場所とは別に設けられたものを見つけた。

規模自体は大きくないことと、目的地のレッスンルームは事前調整が必要な事を考えると自主練習用の施設だろうか。

 

離れた場所から様子を眺めていると扉にある覗き窓から中の光景が目にはいった。

視線の先にはまず薄い紫色の髪の毛、身長は低く小学生の高学年ぐらいだろうか、その少女は対面に置かれた鏡を見つめながら自身の動きを確かめるようにステップを踏んでいる。

鏡越しに微かに見えるその姿は真剣そのもので額には汗が光っていた。

 

「俺には少しまぶしいなあ。」

ため息をひとつつき手に持っていたペットボトルをカバンの中へと直すと視界からその少女を離し目的地へと足を進めた。

 

 

始業15分程前になるかというところでレッスンルーム前に着いた、部屋の名前を改めて間違いがない事を確かめてドアノブを握る。

 

「真壁さん、おはようございます。」

声の方向に顔をやると武内プロデューサーが小型のクーラーボックスを肩にかけていた。

俺の視線がそこに向けられていたことに気付いたのか先輩が口を開く。

 

「差し入れです、まだ夏ではありませんが脱水症状等はこれからに響きますから。」

空調があっても安心できません、と続けて呟いていた。

 

その後先輩はレッスンルームの入口に目をやる。

「それでは真壁さん入りましょうか。」

武内先輩の言葉に頷き、ノックをしてから扉を開け入室する。

そこには3人のアイドルが待っていた。

 

 

「おはようございます、十時さん、小日向さん、佐久間さん。」

先輩はレッスンルームの奥側の脇にクーラーボックスを置くと3人に挨拶をした。

 

「うふ・・・おはようございます、武内プロデューサー。」

「お、おはようございます!、武内プロデューサー。」

「おはようございますっ武内さん!」

・・・なんというかこれまで容姿の整った人たちが3人も並んでいる光景なんてそれこそTVでしか見たことがなかったので純粋に圧巻の一言である。

その所為か挨拶が遅れてしまったのは事実で俺は武内先輩の右後ろに立っていた。

 

挨拶をした3人の視線が俺に向けられると共に先輩が助け船を出す。

「皆さん、昨日から私と同じ部署に配属された真壁草太さんです。今日は私と一緒に間島プロデューサーの補佐兼見学をしますのでよろしくお願いします。よろしければ真壁さん、一言どうぞ。」

お膳立てを頂き一歩前に出る。

 

「おはようございます!初めまして、短い時間にはなりますが見学させて頂きます真壁草太と申します。恐れ入りますが本日はよろしくお願いします!」

そう言ってからお辞儀をし頭を上げる。

 

すると左手に立っている少女が口を開いた。

高校生ぐらいだろうか身長は153~6cm、身振りをみると何か小動物を連想させるような可愛らしい子だ。庇護欲を掻き立てられるとはこういう事だろう。

「は、はじめまして!わたしは小日向美穂といいます!今日はよろしくお願いします!」

あほ毛というのだろうか、ぴょこんと髪の毛が跳ねているトレーニングウェア姿の彼女が少し緊張した表情を見せながら挨拶をした。

 

続いて中央にいる女性が次に口を開く。

背丈は小日向さんより少し高いぐらい、ツインテール?二つ括りが少し幼さを感じさせる。

今、彼女が俺に向けている笑顔は大らかさがあり大人っぽさや包容力のようなものを感じさせた。

しかし・・・なにより・・・うん、なんというか発育が良い。

小日向さんはピンク色の可愛いジャージに対して、なんだか露出が目立つ、全体的に薄着だった。

「はじめましてっ、真壁さん私は十時愛梨ですっよろしくですっ!」

なるべく視線を下に向けず会釈をして終える。

もちろん動揺を最大限見せないように努力はした。

 

最後に一番右にいた彼女。

背は小日向さんとほぼ変わらず、この3人の中で一番服装に気合が入っていた。

もちろん、レッスンには支障がでない程度に機能的、動きやすそうな服装だ。

トレーニングウェア姿でさえ品を感じさせる立ち姿、たとえファンに見られていなくてもある種、万全でありたいと思うプロ意識だろうか。

左手首に着けられたリボンのアクセサリがより彼女を魅力を引き出していた。

それとなんというか目が少し怖い、本当にそうなる訳ではないけれど例えるなら吸い込まれそうな瞳ってやつだ。

「丁寧にありがとうございます、わたしは佐久間まゆです。真壁さんよろしくお願いしますね♪」

彼女のその笑みは綺麗だった。

 

 

 

 

その後3人から俺に関しての質問がいくつか出てそれを返答しているうちに、武内先輩のさらに先輩である間島プロデューサーがきた。

 

 

「いやー、ごめんごめん。お待たせ!」

黒味が濃い茶髪の男性が扉を開け入って、隅にある机にカバンを置く。

「小日向さん、十時さん、佐久間さんおはよう!」

彼女達は元気よく間島プロデューサー挨拶を返した。

 

「武内ー、彼が新人だな!俺は間島、よろしく!」

俺に向かって片手を出し握手を求める、ラフな話し方もあってか自然と緊張がほぐされていくのがわかった。

 

俺は彼の手を取り握手をする。

「新人の真壁草太です、今日からよろしくお願いします!」

間島プロデューサーはうんうんと頷きながら握手した手を振った。

 

「それじゃ見学をって言いたいところなんだけど見てるだけって暇でしょ?」

そういうと彼は隅の机に置いてあった少し集めの袋を2つ持ってきそして笑いながら俺と武内先輩に紙袋を渡す。

 

 

「武内!真壁!一緒にレッスンしようぜ!」

そこにはスーツをその場で脱いで、下に履いていたジャージと346と書かれたTシャツ姿になった間島プロデューサーがいた。

俺は困惑したように視線を武内先輩に向けると俺以上に困った表情をしたまま首を手にあてていた。

そして追い出されるようにレッスンルーム横の空き部屋で着替えをするよう促される。

 

 

 

数分後、先輩と俺は346と書かれたジャージを着てレッスンルームに立っていた。

 

「武内、心配する事ない、アイドル達には迷惑はかけないよ。簡単にレッスンがどういうものか体験してもらおうってだけだ。これから真壁がプロデュースをするって事になるなら知っていて損はない。スケジュールを組むのは真壁だ内容を知らないと痛い目みるからな!もちろん真壁もアイドルもだ。」

活力のある笑みを浮かべていた間島プロデューサーが笑みを薄めて真面目な顔をする。

武内先輩は納得がいったのか小さくうなずいた。

 

横にいる武内先輩と目が合うと

「がんばりましょう」と呟いた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

おこなわれたのはダンスレッスン。

346と契約をしているベテラントレーナーさんがアイドル3人の指導と漢3人の扱きがあった。

休憩をとりながらではあるがレッスンを開始して1時間半程立っていた。

漢3人は慣れないことをして満身創痍、主に最初の柔軟運動で体の固さが露呈したあたりからこうなるんじゃないかと思っていたのは秘密。

 

一区切りついたレッスン、ベテラントレーナーさんはクーラーボックスからだしたスポーツドリンクを間島さん、先輩、俺に配った。

「間島さんに武内さんに、真壁君だっけ?」

へたり込んだ間島さんは見上げ、両ひざに手を着いたまま肩で息をしている先輩はそのまま横にいるベテラントレーナーさんをみる。

俺も座り込んだ体制のまま体をその方を向いた。

 

「運動不足だね、健康管理の為に体を動かした方がいいよ。」

武内さんと真壁くんは鍛えればバランスの良い筋肉が付きそうな良い体してるのに勿体ない。とアドバイスを貰えた。その間、間島さんは磨かれたレッスンルームの床に『○』の記号を指で書きいじけていた。

その傍らには佐久間さんが寄り添うように励ましていたような気がする。

 

 

休憩が明ける頃、間島さんがニヤリと笑いベテラントレーナーさんに近づいていき少し話し込んだのち満面の笑みのまま戻ってきた。

 

その後、ベテラントレーナーさんと小日向さん、十時さん、佐久間さん達が話し合って3人は移動する。

ベテラントレーナーさんが手でokサインを出すと、間島さんは立ち上がり一礼し

 

「さぁ、レッスンの大変さも体感したってところでこれを見ていただこう!『お願いシンデレラ』特別3人verだ!!」

 

特別ライブが始まった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「すごく貴重な体験をしたんじゃないだろうか。」

アイドルのライブを体感したことはないが、恐らくこんなに近くで生歌を聴ける事なんて普通はあるわけない。

 

感想だけ言うなれば。

小日向さんはそれまでの小動物ちっくな動きは突如消え堂々としたダンスと声を響かせ、十時さんはダンスの一挙一動が丁寧、佐久間さんの声に耳がふやけそうになったと言っておこう。

 

これでまだ完成形ではないと間島さんは自信を感じさせる笑みを浮かべ、彼女達の表情にも間島さんへの信頼が伺えた。

 

 

その後、レッスン見学は終了し着替えを経て現在お昼には少しはやい頃、本社入口に30分後の集合を命じられて足を進めていた。

 

また中庭を通るとき、ふと自主練習用レッスンルームの事を思い出す。

気になって覗き込むとまだあの薄紫色の髪の少女はダンスを踊っていた。

「時間にして大体2時間以上か・・・。」

 

俺は中庭の道を戻り自動販売機でスポーツ飲料水を購入しまた来た道を通る。

そしてレッスンルームの前に立つと扉をノックし開けた。

 

ルーム内には先ほど3人が踊っていた音楽が流れており、その少女も踊っていた。

しかし、扉が開いたことに気付いたのかダンスを止める。

 

「誰ですか?」

ご尤もだ。

俺は警戒されないように社員証を提示する。

 

「真壁草太っていうんだ、よかったらこれ飲んで。」

スポーツ飲料水を持った手を彼女に向けて伸ばす、少し警戒したように彼女は受け取った。

 

「どうしてこれを?私が飲み物を持ってるとは思わないんですか?」

彼女は視線をペットボトルに向けをぐにぐにと両手で握っている。

 

「間違ってたらごめん、まず目に見える範囲に飲み物はない、君のカバンはあるけど閉じられてハンドタオルだけ出されてる。もし飲み物があるとしたら汗を拭うものはあるのに水分を取らないのは考え難いからかな。」

その少女は一驚してから少し間を置いてから手に持ったペットボトルの蓋を切った。

すぐに飲料水を1口2口と飲み下すとカバンのそばに置き、自信を持った顔で言い放つ。

 

「はは~ん、さては可愛いボクのファンですね!」

朝見かけた娘だったが彼女自体は初めて会う人であるのは間違いない。

 

「あぁ、君は綺麗だ。ある意味ファンかもしれないな。」

何かに憧れ追うよう一心不乱に踊る姿は神秘的で綺麗だった、お世辞じゃない正直な感想だ。

 

「な―――!?」

腕時計が集合時間まで残り少ない事を示し彼女の言葉を遮った。

 

「わかってるとは思うけど練習のしすぎは怪我の元だ。レッスンをするのはいい事だだけど君の唇を見ると乾燥しているし軽い脱水症状のそれだ。」

 

「あ、あとは自主練習するなら必ずこまめに休憩を挟むこと、いいね?」

一方的に捲し立てた後俺は時間に急かされ扉の前に立つ。

 

「は、はい!ところで・・・」

「良い返事だ、じゃあね。」

急げばまだ時間に間に合うかという懸念を抱えつつ扉を開けて部屋にいる彼女に向けて小さく手を振った。

 

「・・・っもう!!なんなんですかあの人は!」

部屋に残った彼女はカバンの傍に座り、何度かペットボトルに口をつけて気持ちを落ち着ける。

 

「ついにボクは可愛さだけでなく大人の綺麗さもみにつけてしまいましたか!」

上機嫌で両手に持ったペットボトルをにぎにぎと揉みながら彼女は物思いに耽る、そして思い詰めていた彼女は今日初めての休憩を取ったのだった。




なんだかんだで5話続く。

幸子は天使、それ一番言われてるから。

私生活多忙の為、更新遅れます。
書き貯めできたらしておきます。


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働きねずみと気高い獅子

遅くなりまして申し訳ございません。

活動報告も更新しました。


俺は今、テレビ局にいた。

武内先輩や間島さんに連れられて初の外部撮影所、スタジオへ行くまでにアイドルではないが有名なお笑い芸人や朝のご意見番を見たとき改めて自分のいる場所が特異だという事がわかる。

 

テレビ局についてから直ぐに『川島瑞樹』のところへは行かず間島さんはアイドル番組の企画を行っている番組プロデューサーへの紹介や同所にいた他の番組プロデューサーにあいさつ回りを済ませた。

 

間島プロデューサーを追うように着いたのは大きく開けた場所で中央にはTV番組のセットが設置されていた。

もうその先では撮影は回っているのか『川島瑞樹』が他の出演者と会話をしていた。

撮影カメラ横には恰幅の良い中年の男性が立ち間島プロデューサーと話しており、しきりに間島プロデューサーの肩を叩き笑っていた。

武内先輩と俺は撮影風景を見る。

目の前に繰り広げられるのは教育テレビ等で見かけるような討論番組である、アイドルが出る番組とは思えないがさすが元女子アナといったところだろうか。

場馴れを感じさせる司会進行と目の奥に光る知性の輝きこれが学があるということなんだろうと教えてくれる。

「これは天は二物を与えずっていうのは嘘だよなあ。」

率直な意見である。

 

 

そのまま順調に時間が過ぎると思ったが間島プロデューサーの言葉からそれは断ち切られた。

「武内、城ヶ崎出演予定のイベントの件だが、俺は他のアイドルの企画の話をするから頼んでもいいか?もちろん終わり次第直ぐにいく。」

 

「はい、大丈夫です。」

二つ返事で答える武内先輩。

 

「真壁も武内についてけ、川島瑞樹の紹介はまた今度だ。」

スマホに届いたメールにはイベント先の場所が明記されていて移動につぐ移動が武内先輩と俺を待っていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

お昼を過ぎて日が少しずつ傾きを見せ始めた頃、イベント会場へ着いた。

ステージではデビューして間もないアイドルや今だ日の目を見る事が出来ないアイドル達が歌やダンス、グループ同士のビジュアルバトル等をイベント会場で競い合っていた。

 

「どうですか真壁さん、これがフェスティバルです。」

アイドル達の気負いもそうだが、来場した観客の声もステージ上のアイドルのアピールが行われると呼応するように歓声があがっていた。

 

「すごい熱気です・・・」

俺の言葉に相づちをうつ武内先輩。

「えぇ、規模や場所関係なくステージ上のアイドル方々は輝こうとしています。」

346プロを見学した時に目にしたアイドル達の努力はこういったものに向けての準備なのだろう。

 

もちろん、他の事務所のアイドル達もきっと。

 

「真壁さん、そろそろ城ヶ崎さんのところへ行きましょうか。」

 

武内先輩の案内によって爛々と輝きを放つステージから離れ、運営事務所と楽屋が設営されたところへ向かう。

楽屋前で現場スタッフと話す学生服姿の女の子がいた。

今時というのだろうか、午前中に出会った小日向さん、十時さんや佐久間さんと毛色の違いを感じさせる風貌だ。

 

しかし、スタッフと話し込む彼女は真剣で声をかけることすら躊躇うような雰囲気があった。

武内先輩もその所為で声をかけられないのか、スタッフとの会話が終わるのを待っているのかはわかないが少し離れた位置に待機していた。

 

数分程たっただろうか、会話を終えた彼女はこちらに気付いたのか声をかけてきた。

 

「武内プロデューサーじゃん、こんなところでどしたの?」

手首に着けたアクセサリーを右手で少し撫で視線を改めてこちらに向ける。

 

「おはようございます城ヶ崎さん、本日は間島プロデューサーの代理で参りました。」

武内先輩の変化に乏しい無表情に慣れているのか、彼女は軽快に会話が弾んでいた。

 

「で、後ろにいるそこの人が間島さんが紹介する予定の人?」

武内先輩の少し後ろにいる俺に目配せをしてから口を開いた彼女。

 

「えぇ、年末に予定されております企画の補助、未来のプロデューサー予定の方です。真壁さん挨拶を」

武内先輩に促され一歩前に出て挨拶をした。

 

「初めまして今回補助として参加致します、真壁草太です。至らぬところもあると思いますがよろしくお願いします。」

今日何度目のセリフを言って礼をする。

 

「あー、よろしくおねがいします。ところでまかべさんはアタシより年上だよね?堅苦しく話さなくても大丈夫だから。」

困ったようにはにかむ、幾ばくか後、俺の少し後方をみた彼女。

「アンタが出来ない性分だっていうのは知ってるから大丈夫。」

振り返ると同じく困ったように首を掻く武内先輩がいた。

 

 

大体の挨拶が済み、リハーサルを前日に終えていた城ヶ崎さん直々にフェス会場を案内してくれる事になった。

 

それから色々なところを回った。

もちろん、会場やグッズの販売所が賑かなのは分かっていたが会場裏もそれとは種類は違うが確かな熱気を感じさせる。

 

「は、はぐれた?」

いつの間にかあの二人の姿は影も形もなく舞台裏にポツンと佇んでいた。

 

何歳なんだよ、とだらしない自分へ渇をいれながらも視線は熱気冷めやらぬ舞台へと向けられていた。

 

舞台ではデュオユニットのアイドルが歌とダンスを音楽に合わせて軽快に披露している。

パフォーマンスを終える頃会場に来ていた観客達が拍手をする。

 

「彼女達はまだ良い、日の目があたっている。」

ふと隣から声が聞こえ視線を向ける。

するとそこには壮年のハンチング帽を被った男がいた。

 

「ああ、どうも初めましてだね。私はこういうものだ。」

急いでスーツの内ポケットから名刺入れを取りだし名刺交換する。

 

「芸能雑誌記者の善澤さん・・・。」

ハンチング帽子の歪みを正し、笑みを浮かべる。

 

「346プロダクションの方か、見たところこういう場所に馴れていないと見受けるがどうだろう。」

何故わかったのだろうと驚きを隠せずにいる俺。

 

「この業界の取材は長くやっていてね、その勘だよ。」

シガレットケースを懐から一本、同じくライターを懐から取り出した。

 

「すごく華やかな世界だよここは、だが光があるように影もある。」

二人で会話をしている間にデュオユニットのアイドルが戻ってきた。

その表情は明るく達成感で満ちているのだろう。

 

入れ替わる様に他のアイドルが舞台上へ。

 

「彼女達の夢を叶える場所でもある、しかし私や君ならわかるはずだ。私たちは彼女達で生活しているんだよ。売れなければ切り捨てられるだろう、年端もいかないような娘達が競い輝こうとしているのはそんな場所だ。」

舞台袖から見える観客達の姿を見て俺は息を飲む。

そこには入れ替わりで出ていったアイドルがパフォーマンスをしていたのだがそれに対する会場の反応は芳しくないものだった。

 

「これがプロの世界だ。そして君がいる346プロは芸能プロダクションの大手、言わばヒットメーカーだ。」

少し苦い顔をしたまま口上は続く

「一方では幾人の人気俳優やモデルを排出し、また、その一方では売れない商品は切り捨ててきた。そんなところだ。」

 

「これから君が見ていくのはただ華やかなだけではない残酷さもある光景だろう、もし君がプロデュースに関わっていくのであれば覚悟しなければならないことをちょっとした親心で伝えておくよ。」

売れない商品は作られなくなる、そんなのは当たり前だ。

売れないアイドルは・・・?

夢半ばで切り捨てられた彼女達はどうなるんだ?

 

舞台からパフォーマンスを終えたアイドルが戻ってくる。

最後まで流れを変えられず盛り上がりに欠けた結果だったアイドルは舞台袖に戻る頃、舞台上での晴れやかな笑顔も消えそのまま逃げるように去っていった。

 

 

 

 

【ーーーーーーー入らない!】

【また、ーー君押し出しです!】

【この一年でーー何があったのでしょうか?】

 

【恥さらし!なんでお前なんかがーーーーー!】

【あいつって確かーーーーなんでーーなんかやったんだよ。】

【使えーーーーを出すなよ】

【お前の所為で最後の夏が無駄になったわ、なんでーー始めたんだよ。】

 

 

【あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ!!!!!!!】

 

 

【ええ、損傷が激しくリハビリ次第で日常生活に支障がでない程度には戻れますがーーはもう・・・】

 

 

 

 

 

「ーーー、ー壁君、真壁君?」

ぐるぐる停滞し濁った思考から善澤さんの言葉で醒めた。

去っていったアイドルの背に自己を投影してしまっていたのだろうか、久しくなかったこれに同様しながらも額に浮かぶ嫌な汗をハンカチで拭う。

 

 

「少し退屈だったかな、それじゃ私はこの辺で去るとしよう。」

ハンチング帽を少し目深く被る善澤さん。

しかし彼は何かに気付いたのか小さく声をあげる。

 

「最後にあのアイドル達だけ紹介しておこうか、君も見たことがあるんじゃないかい?」

そこには二人で何かを話している茶色がかった黒髪の毛を2つくくりにした娘とロングヘアーで柔らかそうな茶髪をワンサイドアップにしている娘がいた。

 

「765プロ所属のアイドルがブレイクして勢い事態は落ちたが知名度は依然に高い、こだまプロダクション所属の3人グループ新幹少女だ。」

善澤さん曰く、このフェスでの最後を飾るユニットで、一番人気かつ注目アイドルらしい。

 

「二人しかいないですね、3人目の娘はどんな方なんですか?」

注目のユニットであれば詳しく知っていて損はないだろうと問いかける。

 

「3人目はリーダーのひかりという娘だよ。あまり大きい声では言えないがこだまプロダクションで見切りをつけられたのか彼女達にはプロデューサーがついていない。リーダーのひかりがチーム内の全てをセルフプロデュースしているらしい。」

あまりいい噂を聞かないプロダクションだ、と呟いてタバコに火をつけた。

 

それから今回、フェス出場をしているアイドル達の総評を聞いてから善澤さんとは別れた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「城ヶ崎さんの活動は10代女子向け雑誌モデル等がメインの為、その他の層からの知名度はは高くはないが注目自体はされているか・・・」

出場の順番では最後から二番目、新幹少女の前座にあたるのだろうか。

 

そんなことを考えている内に城ヶ崎さんの楽屋近くに戻ってきた。

すると、楽屋の扉は勢い良く開き中から人が飛び出してきた。

飛び出してきた人は近くに俺がいる事に気付くもスピードは殺すことができず胸元に飛び込むようにしてその勢いを止めた。

 

目にはいったのは綺麗な長い髪。

近距離で顔をあげた子は勝ち気そうな目をこちらに向けると少し間が空いてから離れる為に飛び退き何も言わず足早にその場を離れていった。

 

「な、なんだったんだよ。」

ぶつかった事を謝る間もなく去っていった姿に困惑していた。

楽屋前で少し待機していると。

 

 

「あっ!いたっ!」

声の先の方には城ヶ崎さんと武内先輩がおり、小走りに駆け寄ってくることで無事に合流を果たしたのである。

 

 

それから城ヶ崎さんから武内先輩がどれだけ動揺していたかを笑いながら説明され武内先輩はそれをいつもの癖と共に黙って聞いていた。

 

 

少しして武内先輩が腕時計の時間を確認する。

「城ヶ崎さん、時間はまだ早いですが衣装に着替えておきましょう。」

城ヶ崎さんは相槌をうって手を振りながら楽屋の中へ消えていった。

 

それから先程出会った善澤記者と新幹少女の話をし始めた時、事件は起こった。

 

楽屋の扉は勢い良く開き、バンッと音をたてる。

「ちょっと来て・・・」

沈んだ声と表情で武内先輩の手をひく城ヶ崎さん。

何かあったんだろうかと思いながら後を追う。

 

 

 

そこにはフェスで着用予定だった衣装がずぶ濡れの状態で鎮座していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「出演する順番を変更できないか、ですか・・・」

あれからが大変だった、動揺する城ヶ崎さんを落ち着ける武内先輩。

 

突発的なトラブルとはいえ、フェスを締め括る役をこちらに回してくれと言っているんだ。

難しいのは端からわかる。

 

「今回の城ヶ崎美嘉ちゃんの件はこちらにも落ち度がありますし、こだまプロダクションには此方から伝えておきます。武内さん、美嘉ちゃんには期待してますからね!お願いしますよ!」

しかし以外にも話しはスムーズに通り。

出演順番クリア。

 

その頃俺は346プロが贔屓にしている衣装専門のクリーニング店が会場近くにあったので武内先輩から渡された地図を頼りに駆け込んだ。

 

手続きは滞りなく進み、終わり次第すぐに会場へ持ってきてくれるらしい。

 

お礼を言って急ぎ会場に戻る。

行きに利用したタクシーを待たせており、素早く乗り込む。

 

 

数十分程経ち、タクシーを降りて向かうは武内先輩の元。

 

「武内先輩!クリーニング屋さんの方は終わり次第至急フェス会場にきてくれるようです!」

 

到着後、直ぐに武内先輩へ報告をすませる。

こういう時に武内先輩は強い、ポーカーフェイスというのだろうか。

 

動揺を見せにくいというか無表情が良い方に転んだ。

 

 

現状、俺や武内先輩ができる限りの事はしており、悔しいが後は流れを天に任せるしかない。

 

城ヶ崎さんもソワソワと落ちつかない様子でこの少しの間に何度も楽屋前にいる武内先輩に衣装は間に合うのか、どれくらいかかりそうなのかを確認していた。

 

武内先輩が大丈夫だと促したが城ヶ崎さんは少しの出てくると言って楽屋を離れていく。

 

 

 

 

暫しの時間が経ち、刻一刻と出番は近付いていた。

しかし、衣装が届く気配は未だない。

 

腕時計で時間を確認してから武内先輩が口を開いた。

「城ヶ崎さんを呼んできてください。」

武内先輩は今でも何か方法がないかを模索しているような少し厳しい表情をしていた。

 

かける言葉が見つからずその場を離れる。

関係者用の入り口で待機すると言っていた彼女は楽屋に戻ろうとしていたのだろうか、その途中にいた。

 

しかし彼女は一人ではなく、他のアイドルと話している最中の様だった。

 

城ヶ崎さんと相対している女の子に見覚えがある。

「あれはさっき楽屋から飛び出してきた娘じゃ?」

俺達3人が楽屋外へ出ている間に中にいた娘だ。

まさかな、と思いながらそっと意識を二人へ向ける。

 

 

 

 

 

「城ヶ崎さん、どうしたの?折角のフェスなのにTシャツとスカートなんて衣装にトラブルでもあった?」

 

こちらからは城ヶ崎さんの表情は見えない。

しかし、わかるのは向かい合う彼女が嘲るような態度であることだけだ。

 

「・・・」

城ヶ崎さんからの返事はない。

だが、しっかりと握りしめた拳が震えているのがわかる。きっと悔しいのだろう。

 

居ても立っても居られず城ヶ崎さんのところへ駆け寄ろうとすると俺の横をすり抜けて詰め寄る武内先輩の姿があった。

 

そのまま、城ヶ崎さんの傍らに立つ、相手は武内先輩の威圧感に押されてか半歩下がった。

 

 

「私は346プロダクションのシンデレラガールズのサブプロデューサーを務めております、武内と申します。後ろにいるのは補佐の真壁です。何か担当アイドルに御用でもございますでしょうか。」

流れるように名刺を渡しいつもより低く聞こえるトーン

で挨拶をした。

 

目の前の彼女はその威圧的な風貌に少し怯んだが武内先輩を少しにらみ返した。

「特に何も、困った顔をしていたから励ま!?」

彼女が俺を視界に入れてから言葉を詰まらせて固まった。

「そろそろ出演だ、だから失礼します。」

焦りを見せるように足早に去っていった彼女。

 

その場には一向にこちらを向こうとしない城ヶ崎さんと動きを待つ武内先輩がいた。

 

「アタシ、負けたくないよ・・・」

ボソッと震えた声で吐露する城ヶ崎さん。

 

「勝ちましょう。」

そこには格上相手だが城ヶ崎さんが負けるとは思っていないように即答する武内先輩がいた。

 

「秘策とはいきませんが、演出について城ヶ崎さんに相談があります。」

春先だが熱いフェスバトルが勃発しようとしていた。

 

 

 




「川嶋瑞樹さんの登場!」
「(セリフがないなんて)わからないわ」

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【あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ!!!!】(脱糞)
【ええ、(肛門の)損傷が激しくリハビリ次第で日常生活に支障がでない程度には戻れますがーーは、もう・・・】

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