艦これ-提督と艦娘の鎮守府物語-改 (鶴雪 吹急)
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第一章
第一話「提督と指輪」


 どうも、鶴雪 吹急です。

 結局、最初の一人称のお話に戻しました。

 さて、場所は執務室。白い提督服に身を包んだその男は机で書類仕事をいました。


「よしっと」

 

 目を通し終えた書類に印を押し、欠伸をする。

 

「司令官、そろそろ桟橋に向かわないと」

 

 そう言って、読んでいた雑誌から目を離し、応接用のソファからこちらに視線を向けて言うのは俺の鎮守府着任当初からの秘書艦である吹雪だ。

 

「おっと、いけない。行くか吹雪」

「はい」

 

 席を立ちながら書類の机の端によせる。吹雪は雑誌を机に置きソファから立って駆け寄る。

 

「さあ、行きましょ」

「おう」

 

 

 桟橋に向かう道を歩きながら吹雪が話しかけてきた。

 

「何で、他の空母の方に頼まないんですか?」

「この位は自分がやってもいいだろう、俺は()()()()んだから」

「それもそうですね。そう言えば、夕立ちゃんが()()に誘っていましたよ」

「またか、まあいいが。吹雪も付き合ってくれるか?」

「いいですよ」

「頼む」

 

 そんなことを話していると、桟橋が見えてきた。上空に目をやれば、手のひらサイズの零戦が飛んでいる。

 桟橋に着き、俺は意識を集中させる。身体に光が纏われ、武器―――艤装が現れる。肩には飛行板、背には矢筒、左手には弓、そして『アマ』と書かれた前掛けが現れた。

 吹雪はそんな俺の姿を見て言った、

 

「いつ見ても違和感がありますね」

「まあ、これは俺が受けた()()のようなものだから、有効に使わないと。さて、交代させなければな」

 

 俺は、吹雪にそう言いながら飛行板を水平にする。上空を飛んでいた零戦は飛行板に順に降りてくる。着艦した零戦は数機集まると矢に変わる。俺はそれを矢筒に戻すだけだ。

 

(俺にとってはこれのほうが違和感だがな)

 

 そんな事を考えながら俺は違う矢を取り出し構える。矢を放つと矢は炎とともに零戦十機に姿を変え、上昇する。後は三本、矢を放つだけだ。

 空へ飛んでいった零戦は四機づつ編隊を組み、等間隔に並ぶ。後は、鎮守府周辺と警備を艦載機妖精に頼み、任せるだけだ。

 

「よし、終ったぞ。帰るか」

「はい」

 

 俺と吹雪は零戦たちが離れていくのを見てから執務室に戻るための道を歩き出す。

 吹雪は先ほどの様子を思い出しながら、

 

「それにしても雲龍型ではない『航空母艦「天城」』ですか」

「ああ」

 

『航空母艦「天城」』

 ワシントン軍縮条約により、巡洋戦艦より空母に改造中に地震に遭いそのまま解体されてしまった艦だ。その後、変わりに加賀型戦艦だった加賀が変わりに空母になり、天城はそのとき空母にならなかった。

 

 俺が()()として使えるようになったのは巡洋戦艦改造の天城だった。艤装としては赤城が参考にされ、赤城との違いは前掛けの『ア』が『アマ』になっているのみに近い。

 

「まあ、「天城」で良いと思うよ」

「でも、うちにはいないですが雲龍型の天城さんもいますし」

「雲龍型の天城とは俺は『提督』とか『司令官』って呼ばれてるから間違えないと思うよ」

「そうですね」

 

 吹雪と俺は執務室に戻っていった。

 

 

 

 執務室に戻ると、俺は机端の書類を手に取り、

 

「吹雪、書類出来たから大淀に届けてきてもらえる?」

「分かりました」

 

 吹雪は書類を受け取ると執務室を出て行った。

 俺は吹雪が出て行き、一人になったことを確認すると鍵付きの引き出しの中の箱を眺める。

 

「はぁ~」

 

 知らぬ間にため息が出る。

 

『ケッコンカッコカリ』

 そう呼ばれた戦力向上方法は錬度が上限に達した艦娘に不思議な力のこめられた指輪を送ることにより、さらに錬度を上げられるものである。

 

(どうすっかね。これ)

 

 俺は箱を机の上に上げ、見つめる。

 

「じゅうこんもか。ですよ?」

「そうです。だれにわたすのかまよっているのなら、じゅうこんですよ」

 

 置いた箱の先で俺の妖精たちがニヤニヤしながらそんな事を言っている。

 

「それ、艦娘には言うなよ?特に金剛とかには。嫌な予感しかしないからな」

「わかってますよ。そんなことをすれば」

「わたしたちのおやつがなくなります」

 

 俺は箱を仕舞いながら妖精に注意を促す。

 妖精たちはさっきのニヤニヤ顔から一転、苦笑い気味の顔になる。

 

「それに、誰に渡すかはもう決まっているからな」

「「だれです?」」

 

 今度は、興味津々と言う顔で見てくる。

 

「教えないよ。それもそれでめんどくさいことになるからな」

「「えー」」

 

 今度は、しょんぼりとした顔になる。

 

「まあ、そう落ち込むな。これあげるから」

 

 そう言って俺は、妖精用の間宮券を渡す。

 

「「わー」」

 

 顔がパァっと明るくなる

 

「それで他のやつも誘って休憩して来い」

「「ありがとです!!」

 

 二人の妖精は『パフェたべましょ』『ここは餡蜜です』などと話しながら食堂へ向かっていった。

 入れ違いで吹雪が戻ってきた。

 

「届けてきましたよ」

「有難う」

 

 俺は、吹雪にお礼を言いながら時計に目をやる。

 

「吹雪、そろそろお昼にしよう」

「はい!」

 

 吹雪はお腹が減っていたのか少しうれしそうに言った。




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第二話「模型演習」

「肉じゃが定食二つで」

「はーい」

 

 俺は、間宮にそう伝えると吹雪とともにカウンター席に着く。すると、提督の空いていた方の隣が埋る。

 

「提督さん!模型演習やるっぽい!」

「夕立か、いいが編成はどうする?」

「んー。それは考え中っぽい」

 

 夕立は出された日替わり定食を食べながら考え始めた。

 

「あら、模型演習面白そうですね。私も参加してもいいですか?」

「ん?別にいいよ。鳳翔」

「ん。鳳翔さんもやるっぽい?」

「はい」

「じゃあ、鳳翔さんは夕立側の艦隊に入ってほしいっぽい」

「分かりました」

「じゃあ、他の参加する人は各自で呼びかけようか」

「それが良いっぽい」

 

 夕立は食べ終わった食器を片付け、他の艦娘に声を掛けに行った。

 

「司令官?」

「はいはい?」

「他の艦は誰にしますか?」

 

 吹雪は肉じゃがを口に運びながら聞いてきた。

 

「んー。他には軽巡二隻と駆逐二隻いればいいんじゃない?」

「誰にしますか?」

 

 俺は吹雪と編成を考えながら食事を進めた。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

『模型演習』

 それは、1/700スケールの自分の艦船模型を操作して行う演習のことだ。自分が艤装を纏い、模型とリンクさせることによって艦砲や魚雷発射管、艦船の進行方向、速度を操作する。艦載機は妖精が操作しているらしい。ペンキの入った演習弾や演習魚雷を使ってダメージを明確にし、轟沈判定などを出す。1時間ほど行い、勝敗を決める。

 俺は模型演習施設の前に立つ人影の中の一人を呼ぶ。

 

「おーい、夕立ー」

「ん?あー提督さん、吹雪ちゃん!早くやろうっぽい!」

 

 夕立はその場で跳ねながら言う。

 

「まあまあ、そうせかすな。で、そっちの艦隊は?」

「夕立の艦隊は、鳳翔さんと神通さんと多摩さんと白雪ちゃんと時雨ちゃんと夕立っぽい!」

 

 夕立の後ろには夕立の述べた艦娘が揃っていた。一人一人に目をやると、微笑を見せる者、手を振る者と様々だ。俺は夕立に視線を戻し、

 

「了解、こっちの艦隊は俺と川内と球磨、電、綾波、吹雪だ」

「分かったっぽい!早くやろ!」

「よし、分かった。じゃあ、行くか」

 

 全員は施設の中に入った。

 

 

 施設内は広く、海上を模した正方形のステージは学校の教室ぐらいの広さはある。さらに、風や雨を再現できる、夜の再現は出来ないが..。

 ステージを中心に向かい合うように夕立側の艦隊、俺側の艦隊が立ち、艤装を展開する。それぞれが艤装を展開するとステージにはそれぞれの艦船が現れる。全て揃ったところで夕立が、

 

「じゃあ、いくっぽい!」

 

 と言いながら自分の艦の前方の艦砲を最大限あげて空砲を放つ。

 

「スタート!っぽい」

 

 両艦隊の全艦が動き始める。空母はその場で旋回、船首を風上に向け速度を上げ艦載機を発艦し始める、他の艦は空母を中心に輪形陣になり、同航戦で戦闘態勢に入る。

 

「「対空防御、砲撃戦よーい!」」

 

 川内と神通が予令を出し、艦砲は相手艦に砲身を向け、艦載機は空中集合し敵機へ向かう、機銃は迫り来る敵機に向かい構える。

 

「「はじめー!」」

 

 艦砲はそれぞれに向け弾を放ち、艦載機は相手の直掩機や機銃の攻撃を避けながら、目標艦に向かう。

 

 ◇ ◆ ◇ 

 

 1時間の戦闘の末、結果は引き分けに終った。鳳翔と俺は艦載機が残りわずかになるほど戦い、他の艦は艦砲が一基しか動かなかったりしていた。

 

「提督さん、ありがとうっぽい!」

 

 夕立は演習施設の外に出たときにお礼を言ってきた。後ろでは、『疲れたのです』とか『今度は夜戦がやりたいな~』とか『それは無理クマよ』などとそれぞれ感想を述べている。

 

「こちらこそ、楽しかったよ。疲れただろうからゆっくり疲れを癒して、明日に備えてくれ」

『はい!!』

 

 皆は海軍式の敬礼をする。こちらも敬礼を返して、吹雪をつれて執務室に帰った。




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第三話「暇な時間」

「あー暇だ」

 

 お昼過ぎ、書類仕事が一通り終わり、俺は身体を預けだらけていた。吹雪は夕立や睦月たちと間宮のところでパフェでも食べながら話しに花咲かしているだろう。そんな時、ドアをノックする音がした。

 

「ん?どなた?」

「翔鶴です」

「どうぞー」

 

 翔鶴は静かに入ってきた。俺は身体を起こして、翔鶴をソファーへ促す。

 

「失礼します」

「いらっしゃい。どうしたの?」

「暇だったので提督とお話がしたくて...」

「そうか」

 

 艦娘が暇な時間に執務室に来ることは珍しくない。翔鶴も暇を持て余して執務室に来たのだろう。

 俺は翔鶴と雑談することにした。最近あったことを思い出しながら話す。話は翔鶴の妹、瑞鶴のことに。

 

「この前のアレ、提督大変でしたね」

「ああ、アレは男としては喜ぶ?ことなんだろうけどだけど、喜んでいたらもっとひどい目に遭っていたな」

「そうですね」

 

 アレというのは、二日ほど前のこと

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

 俺は朝に暇だったので、執務室を出て散歩をしていた。

 

「今日も良い天気だな~。最近暑くなってきたし、夏も近いな~」

 

 俺はそんな独り言を言いながら、空母寮の横を桟橋に向けて歩いていた。そんな時、空母寮の入り口から二人走る音が聞こえてくる。こっちに向かってきていた。

 

「ん?」

 

ゴツン!

 

 音の方向を向いた瞬間、誰かとぶつかり俺はその誰かに抱き付かれる形で押し倒された。

 

「いたた...。ん?瑞鶴か?!大丈夫か?」

「うん。提督さん大丈夫だよ。っ!それより...」

 

 瑞鶴は起きたばかりなのか、まだ寝巻――浴衣のままだった。瑞鶴は途中で起き上がるのやめて固まっている。

 

「ん?どうした?」

「その...手が」

「手?」

 

 瑞鶴に指摘され、俺は自分が置かれている状況を確認する。右手にに何か軟らかい感触が伝わる。状況がつかめてきたとき、

 

「ふぁ!!」

「ひゃ!///」

 

 俺は咄嗟に手をグーにしようとしてしまった。それがいけなかった。

 

「て、て、提督さん!」

 

 瑞鶴は飛び上がり距離を取る、そしてどこから出したのか弓に矢を構えこちらに向ける。

 

「お、お、落ち着け!!その、たまたま当たっただけであって、気付いたときには触っていたと言うか...」

「問答無用!この変態!」

 

 瑞鶴はそのまま矢をこちらに放つ。矢はたちまち零戦に変わり、こちらに向かって来る。

 

「や、や、やめろ!!」

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

「あの後、咄嗟に艤装を展開して飛行板を盾にしたから中破状態になるだけで済んだものの、艤装を出していなかったら病院行きだったな」

「うちの妹がすみません」

 

 翔鶴は頭を下げた。

 

「いいや、いいんだよ。瑞鶴も誤解が解けた後謝ってくれたし。それより...」

「それより?」

 

 翔鶴は頭を上げ、首をかしげる。

 

「瑞鶴が言うには『加賀と喧嘩した』とか言っていたんだけど、どんな喧嘩だったの?」

「えっと..ですね」

「遠慮しないでどうぞ」

「それでは」

 

 翔鶴は少し困った様子で喧嘩の原因を教えてくれた。

 

「おやつを取られた?!」

「はい...」

 

 翔鶴が言うには、『先にやったのは加賀さんで、私たちの部屋の瑞鶴の机においてあった瑞鶴のおやつを加賀さんが窓から艦載機を一機忍び込ませて着艦フックで器用に持ち去っていったのです。しかも、その後もう一機忍ばせて挑発文を置いていきました。それに怒った瑞鶴は自分の艦載機妖精にそれを練習させて、そっくりそのままお返しした』という事らしい。

 

「つまり、それに加賀が切れて瑞鶴を追い回して、あんなことになったと...」

「はい、その通りです」

「まあ、いつものことだし、気にしなくてもいいか」

「そうですね」

 

 俺と翔鶴は笑いあった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「楽しかったかい?」

「はい」

 

 執務室前の廊下で翔鶴は頭を下げる。

 

「そんなにペコペコ頭を下げなくてもいいよ」

「そうですか?」

「そうさ」

「そうですか。それでは」

 

 翔鶴は頭を下げる代わりに手を振った。俺も振り返す。

 翔鶴は微笑廊下を歩いていった。

 

(ふー。楽しかったな)

 

 俺は執務室に戻ろうとドアノブに手を掛ける。が、ドアを開けようとしなかった。否、出来なかった。

 耳には二人ほどが走っている音がする。しかも、どんどん迫ってきている。俺は音のするほうへ向く。

 

「あ...」

 

 俺は、また誰かに押し倒された。

 

 数分後、鎮守府執務室前の廊下に艦載機の銃撃音と提督の『やめろーー!!』と言う声が響いていた。

 




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第四話「提督の一日」

ピピッピピ

 

「んーー」

 

 時刻は0600、俺はいつも通りに起きる。

 

「ふぁ~」

 

 ベットを這い出て洗面所に向かい顔を洗い、口を濯ぐ。

 

(今日の予定は...)

 

 頭でそんなことを考えながら、第二種軍服に着替える。身だしなみを整え、部屋を出る。

 

ガチャ

 

 執務室に入り、椅子に腰掛ける。執務室内は俺以外居らず静かで、外では鳥がさえずり遠くでは艦娘達が走る音と掛け声が聞こえる、掛け声の内容的に神通が先頭に立っているのだろう。

 外の音に耳を傾けていると、大淀がノックをして入ってくる。

 

「失礼します。任務と在庫の書類を届けに来ました」

「はい、ありがとう」

 

 大淀からノート並みの厚さがある書類の束を受け取る。

 俺は書類に目を通す。書類は二種類あり、一つは任務、いわゆるクエストの書類で、一枚の書類が一つ任務の報告書になっていて、任務を果たしたら書類に記入し大淀に提出する。もう片方は在庫の書類で資材等を書き込んだりする。

大淀が出て行ったのと入れ違いに吹雪が入ってくる。

 

「おはようございます!司令官!」

「ああ、おはよう。朝食にしようか」

「はい!」

 

 吹雪と執務室を出て、食堂へ向かった。

 

 ー食堂ー

 

 吹雪と共に日替わり定食を頼み隣り合わせで席に着く。時刻は0730を指していた。

 吹雪と俺が座り終えるのとほぼ同時に俺の回りの空いていた席が全て埋まる。回りでは『遅かったか』とか『転けるなんて不幸だわ』とか聞こえる。

 

「しかし、すごいですね」

「そうだな。こんなことはここにやって来てからずっとの事だから慣れっこが、最近は激しさが増している気がするな」

「この前は瑞鶴さんと加賀さんがぶつかり合って、食堂内で艦載機展開させて航空戦を始めましたものね」

「あの時は朝食時間帯のピークだったからほとんどの艦娘が被害を受けて臨時休暇を申請しなくてはいけなくなったしな」

 

 そんなことを話していると妖精たちが食事を運んでくる。4~6人で『えいほえいほ』運んでくる姿は可愛いとしか言いようがない。

 

「ごちゅうもんのひがわりていしょくです」

「ありがとう、妖精さんたち」

「はい!それでは」

 

 妖精たちはお辞儀をするとスタスタと厨房へ駆けて行く。

 

「では、食べるか」

「はい!」

『いただきます』

 

 俺は周りの艦娘たちと雑談しながら箸をすすめ始めた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「ごちそうさま」

「ごちそうさまです!」

 

 俺と吹雪は食器を返却コーナーに置きながら間宮にお礼を言って、食堂を後にする。

 

「司令官、この後どうしますか?」

「とりあえず執務室に戻って仕事をやるか」

「分かりました!」

 

 ー執務室ー

 

 時刻は1450を指し、執務室には無機質にペンの走る音がひびいて...おらず、二人のまったりとした雰囲気だけが漂っていた。お昼を食堂でさっさっと済ませて執務室に戻りこうしている。執務はある程度終っており、任務の報告書は後は帰投してきた艦隊の報告をまとめるのみになっている。

 

「暇ですね~」

「まあ、金剛が出撃でいないし、それに暇なのは毎度のことだろう?」

「そうですね。お茶、飲みますか?」

「もらおうかな」

 

 吹雪は座っていた秘書艦の椅子から立ち、お茶を入れに給湯室に向かった。

 

 数分後、吹雪はお盆にお茶と菓子を乗せて執務室に戻ってきた。

 

「お待たせしました」

「ありがとう。いただきます」

「どうぞ♪」

 

 俺は、吹雪から湯飲みを受け取り、一口飲む。

 

「ん~。やっぱ吹雪の作るお茶はうまいな!」

「そんな~司令官ほめすぎですよ」

 

 吹雪は照れくさそうに喜ぶ。

 

「ほめすぎな訳が無いだろう?ここに来てからずっとお茶を入れてくれているのだから、美味しいに決まっているさ」

「ありがとうございます!」

「今度、何かこのお茶に合うお菓子を探してみるよ。吹雪がすきそうなもので」

「本当ですか!楽しみにしています!」

 

 その後も吹雪の姉妹の話などをして残りの時間を過ごした。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

 ー提督私室ー

 

「ふぁ~~」

 

 時刻は2330。俺は自分の私室で一人、窓の外を眺めていた。

 ちょこんと、肩に一人の妖精が乗ってきた。

 

「よう」

「ん?ああ、お前か。最近はどうだ?」

「いつも通りさ」

「そうか」

 

 今、隣にいる妖精は俺がここに来てからの付き合いで俺所属の艦載機の一番機の操縦妖精である。初期は俺とともに奮闘しあれこれやっていたが、今は他に混じり哨戒をしている。よく、零戦を壊したりするが、鎮守府内で一番と言っていいほどいろいろ話せる存在である。

 

「そういえば...」

「ん?」

「ほんとうに『アノ』ひとでいいのか?」

「指輪を渡す相手か?」

「ああ」

 

 妖精は確認をするかのように聞く。

 

「良いんだよ。()()に来る前から決めていたことだし、それに」

「それに?」

 

 凄んだ感じで妖精はこちらに目を向ける。

 

「...いや何でも無い」

 

 妖精は少しがっくりした感じになった。

 

「気になるじゃねぇーか」

「気にするな。それよりもうすぐ寝るから帰ってくれ」

 

 俺は、逃げるように妖精を帰そうとした。

 

「...教えてくれても良いのによぉ。まあいいか、じゃぁな」

「おう」

 

 妖精は少し残念そうにムスッっとしながらスタスタと何処かへ行ってしまった。

 俺は、妖精が帰ったのを確認するとベットに潜り、目を瞑る。

 

(それに、俺が始めて見たときからあいつが好きになったからな)

 

 俺は心の中でそう呟きながら眠りに入った。

 




 いかがでしたか?
 何か内容が薄い気がしますが、それでもこの物語に関係が無いわけではないのであまりおきになさらず。
 では、次回もお楽しみに
 


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第五話「ミッドウェーを乗り越えて」

ー???????-

 

―――――遅れて出て行った偵察機が見た敵艦隊

 

―――――装備付け替え途中に遠くから迫る敵航空機

 

―――――次々と受ける攻撃に大炎上する空母三隻

 

―――――残った彼女は敵討ちと甲板にあった艦載機を次々発艦させる

 

『待って!!私を戦わせて!!まだ、戦いたい!!』

 

 攻撃され痛む(身体)に力をこめて動こうとしました。しかし、身体は動いたが右に回り続けるだけでした。

 

『私は戦います!!お願い指令を出して!!山本さん!!青木さん!!南雲さん!!』

 

 私は叫びました。私の艦長だった人を艦長を司令官を。しかし、誰も答えてはくれませんでした。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 あれからいくら経ったのでしょうか?私の相方も、同僚も、沈んでしまったようです。私も身体全体が丸焦げでこれでは艦載機が運用できません。私はただの置物になってしまいました。

 

(もう、魚雷処分にしてもらいましょうか...)

 

 そんな事を考えていたとき、数隻の艦船がこちらに魚雷発射管を向けます。泣いているようにも見えます。

 

(もう、終わりですね。今までありがとうございました。最期がこんなんですいません...)

 

 私は迫り来る魚雷を見ながら、最期の瞬間を噛み締めました。

 

ドーーーン

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

「赤城?大丈夫か?」

「っ!!はひ、だ、大丈夫です!」

 

 赤城は声をかけられているに気付いたのか、ハッ!とした顔をして返した。

 ここは、鳳翔が営む食事処、普段はどこかの軽空母が呑んだくれていたりしているが、今は俺と赤城、加賀、蒼龍、飛龍以外、鳳翔が調理場で作業をしているだけで誰も居なかった。時間は2200を指している。

 

「何で呼び出したんですか?提督」

 

 蒼龍が唐突に聞いてくる。

 

「今日が何の日か分かっているな?」

「6月5日です」

 

 加賀が無表情のまま答える。が、その奥には悲しみに満ちた表情があった。

 

「そう、今日は君たちにとって最悪の日だろう。気分は沈み、時折脳裏にはあの情景が移り、さっきの赤城のように上の空になっていたときもあったと思う」

『・・・』

 

 四人は黙ったまま聞いている。

 

「別に過去を忘れないのは悪いことでは無い。が、いつまでもそれを引きずっているのは、いつか前に進めなくなってしまうのではないか?」

『・・・』

「何かあるのなら話してほしい。俺がどうにかできるかは分からないが、出来るだけのことはする」

『・・・』

 

 まだ、四人は黙ったままだった。

 その無言を切ったのは赤城だった。

 

「怖いんです」

「うん」

「また、あの時のように隙を衝かれて私たちはほとんど全滅。この鎮守府が守勢に立たされて、皆が沈んでいくのが時折浮かんできます」

「うん」

 

 赤城の顔には涙がこぼれる。

 

「皆も同じか?」

 

 他の三人も共感してか涙がこぼれた顔で頷く。

 

「大丈夫さ」

「大丈夫?ですか?」

 

 赤城は涙で溢れた顔をこちらに向ける。

 

「そう、大丈夫さ。あまり根拠は無いが、大丈夫。今は、当時君らが運用していない、零戦52型や天山、彗星、他新鋭機がある。ボーキサイトなどの資材も大本営から支給されて、遠征に行けばさらに集まる」

 

 俺は、四人の顔を順に見ながら続ける。

 

「いざ、君たちがどこかの海域で同じ状況に置かれたなら、俺は工廠に飛んで行き空母を建造して、残っている艦載機を載せて、鎮守府の艦娘を出来るだけつれて、君らのもとにいく。そして、君らを守って見せる」

 

 自分の頬にも涙がこぼれているのが分かる。

 

「さっき言ったとおり根拠は無いけど、大丈夫」

『提督...』

 

 四人はもう大泣き寸前だ。

 

「だから、今はいっぱい泣いて、その恐怖を晴らせ。俺に抱き付きたいのなら抱きつけ、気が済むまで付き合ってあげるよ」

『うわぁーん』

 

 四人は糸が切れたように泣きわめき、俺に抱きついてきた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 あれから30分経ち、四人は安らかな寝息を立てて眠ってしまった。四人は今、お座敷で川の字になって寝ている。

 

「寝てしまいましたね」

「ああ、そうだな」

 

 カウンターに移動していた俺の隣に鳳翔が座った。

 

「それにしてもいい顔しているな」

「それは、変な意味ですか?」

「そんなわけ無いだろう?」

「そうですね」

 

 四人はどんな夢を見ているのだろうか?時折、笑みを浮かべる。

 

「さっき言っていた言葉は本当ですか?」

「ん?ピンチになったら助けるってことか?」

「はい」

「本当さ。何せ俺の大切な仲間なんだからな」

「そうですか」

「鳳翔だって同じだろう?」

「はい!だって、娘のような子たちですから」

 

 そこには、世界初の空母の意気込みのようなものがあった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 翌日、俺はそのまま寝てしまったようで、カウンターに座ったままだった。

 

「おはようございます!提督」

 

 お座敷に目をやると四人がこちらに向かって敬礼をしていた。

 

「ああ、おはよう。気分はどうだ?」

「はい!おかげさまですっきりしました」

「そうか...」

「提督!」

「ん?」

 

 四人は敬礼の形を崩さずに続ける。

 

『我ら、空母機動部隊はミッドウェーを乗り越えて、これからも戦います!!』

 

 その言葉には気合が込められていた。

 

「了解!」

 

 俺も敬礼を返して、その気合に答えた。

 

 ー執務室ー

 

 執務室に入ると吹雪が一枚の紙を持って、立っていた。

 

「おはよう吹雪」

「おはようございます、司令官。早速ですが大本営より電報です」

 

 そう言って吹雪はその紙を渡してきた。

 

「ありがとう。どれどれ...」

 

 電報にはこう書かれてあった。

 

『先月、日本本土の千葉県、房総半島沖にて空母ヲ級二隻より、敵、陸上機が飛び立つ姿が確認された。飛び立った航空機は横須賀鎮守府所属の赤城、加賀ら艦載機で迎撃、返り討ちに成功した。しかし、ヲ級は大破させるも、沈めることは出来なかった』

 

 その下に、敵兵力が記されていた。

 

「なるほど...」

「どうでしたか?」

 

 吹雪は心配そうに聞いてくる。

 

「ん?そうだな...。とりあえず」

「とりあえず?」

 

 吹雪はその先の答えを待つ

 

「とりあえず、大丈夫だ」

「そうですか。良かった」

 

 吹雪は安堵の息を漏らす。

 

「そう、大丈夫。だから他の子と朝食でもとってきなさい」

「はい!」

 

 吹雪は執務室を出て行った。

 

ガッチャン

 

 吹雪が出て行ったのを確認すると窓の外へ目をやる。

 

(これが、アレだとすると、今後は...)

 

 俺は、嫌な予感がした。

 




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――変更前に書いてあった雑学――
 ちなみに話に出てきた。青木さんもとい青木艦長は赤城の復旧のために残って奮闘していたそうです。山本さんは青木艦長の赤城の雷撃処分をに待ったをかけて遅らせたそうですね。が、結局、飛龍の沈没で負けを悟り、雷撃処分を命令したそうです。


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第六話「朝の散歩」

「ふぁ~」

 

 今朝、早く起きてしまった俺は自分の部屋を出て、鎮守府内を散歩していた。

 

「今日もいい天気だ」

「提督さん!」

「提督!」

「ん?」

 

 欠伸をしながら、ちょうど空母艦娘の寮の前を通りかかったそのとき、空母寮から二人の艦娘がこちらに駆け寄ってきた。

 

「瑞鶴と瑞鳳?どうしたの?」

「提督さん助けて」

 

 そう言って二人が俺の背中に隠れたのと同時に、空母寮から加賀が出てきた。加賀は俺の後ろに居る二人を見つけると、

 

「提督、その二人をこちらに差し出してください」

 

 そう言って加賀は弓をこちらに構える。

 

「とりあえず、その弓を下ろせ。何があった?」

「その二人は私の睡眠を邪魔しました」

「邪魔?」

 

 俺は、顔だけを二人に向ける。瑞鳳は苦笑いを浮かべ、瑞鶴は頬を膨らませている。

 

「だって、加賀さんが先に昨日、夕飯後に残したプリンを食べたんだもん」

「加賀...」

 

 加賀の方へ顔を向けると加賀から放たれた艦載機が十機、こちらに向かっている。そのうち五機は演習爆弾を積んでいる。加賀の零戦はきれいに瑞鶴のみに攻撃をして加賀に戻っていった。

 瑞鶴は加賀の攻撃を避けきり、弓を構えて艦載機を発艦させる。加賀も艦載機を出し二人は戦闘を始める。

 

 俺と瑞鳳はその場を少し離れて様子をみていた。

 

「なあ、瑞鳳」

「何ですか?」

「とりあえず、翔鶴と赤城を呼んで仲裁に入ってもらってくれ」

「分かりました」

 

 そう言って、瑞鳳は空母寮に戻って行った。俺は、とりあえず直掩機を数機飛ばしてその場を後にした。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 空母寮を離れて今度は桟橋に来ていた。桟橋には一隻の艦艇が泊まっており、わきには蒼龍が居た。

 

「提督、おはようございます」

「おはよう。朝早くにここで、何してたの?」

「自分の艤装の点検していたんですよ」

 

 そう言って蒼龍は艤装を―――――航空母艦「蒼龍」―――――を見上げた。

 

「異常は有ったか?」

「いえ、燃料とか被害箇所は帰投したらすぐに補給、修復してもらえるので、何も異常はありません」

「そうか、艦載機は?」

「今乗っているもので十分です」

「分かった」

 

 そう言って俺も蒼龍の艤装を見上げる。

 

「そう言えば...」

 

 蒼龍は思い出したように聞いてきた。

 

「提督も艤装を身体に纏えるんですよね?」

「そうだが?」

「じゃあ、何故、私たちのようにこういう艤装は無いんですか?」

 

 そう言って蒼龍は自分の艤装を指差した。

 

「んー。何故、無いと言われてもな~。見たことが無いからな」

「見たことが無い?」

「そう、見たことが無いから有るかもしれないし、無いかもしれない。だから、分からない」

「そうですか。分かりました」

 

 蒼龍は納得すると『それでは、私はもう少し点検しますので』と言って、艤装の中に消えて行った。俺は、桟橋を離れ、執務室への帰路についた。

 

(自分の艤装ね...)

 

 歩きながらさっきことを思い出す。

 

(自分の艤装があれば、俺も一緒に戦えるのかな...)

 

 そんな事を考えながら俺は執務室へ向かった。

 




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第七話「提督とお出掛け-吹雪・瑞鶴編-」

 朝の執務室。室内の壁に設置された時計は1000を指している。

 今日は鎮守府が休みになっており、働いているのは、近海警備のための艦娘だけだった。

 執務室の窓からは昨日、近海警備艦隊として編成された、瑞鳳、祥鳳、神通、川内、夕立、時雨、雪風、白雪、初雪、深雪、の艦船が埠頭から桟橋にかけて並んでいる様子が見えていた。

 朝の心地よい日差しが差し込み、休暇中の執務室は誰も居ないと思いきや、人影が一つあった。

 

「ふぁ~」

 

 今日は休暇であるにもかかわらず、俺はいつもの癖で執務室に来ていた。

 とりあえず、暇なのでいつもの椅子に座り、辺りを見渡すが、見えるのは、机に置かれた1/72ダイキャストモデルの紫電改と台座に置かれた1/2000スケールの五隻の軍艦模型以外、これといって面白みのあるものは無かった。

 

「おはようございます!司令官!先ず何かr」

 

 そんな時、吹雪がいつもの調子で執務室に入ってきた。が、俺に挨拶している途中で今日は休暇だったことに気付いたのか、固まっている。

 

「すみません、司令官。いつもの癖で...。今日は休暇でしたね」

「まあ、いい。気にするな。俺もいつもの癖でここに来ちまったから」

「そうだったんですか。あ、とりあえず、お茶でも入れますね!」

 

 吹雪は、給湯室に向かった。

 

(さて、吹雪がお茶を入れてくれるから、俺は...)

 

 ◇ ◆ ◇

 

「司令官!お茶が入りましたよ」

「お、来た来た」

 

 吹雪は、お盆に湯飲みを机に置いて、ソファに腰を掛けた。

 

「吹雪、これ前言ってた、お菓子だ」

「うわぁ~♪」

 

 俺は、お菓子の入った箱を持ってソファに座る。

 

「これ、何てお菓子ですか?」

「これは、紅芋タルトだ。沖縄のお土産で有名(?)なんだけど、今回は取り寄せしてもらった。口に入れたときの芋の感じとその食感がいいと思うんだ」

「そうなんですか。じゃあ、早速...」

 

 そう言って吹雪は、タルトを一つ口に運んだ。

 

「どうだ?」

「ん~♪美味しいですね!!」

「そうか!なら良かった」

 

 ◇ ◆ ◇

 

「それにしても、暇ですね~」

「そうだな」

 

 お菓子も食べ終わり、俺と吹雪はソファでまったりしていた。

 

「そうだ、そこら辺をちょっと散歩するか」

「いいですね!行きましょう」

 

 俺と吹雪は立ち上がり、出掛けるための準備を始めた。

 

ー鎮守府・正門ー

 

 準備と言っても、特にやることは無く、すぐに正門まで着いた。

 

「さ、行くか」

「はい、いきまsy」

「提督さん、吹雪ちゃん、どこか行くの?」

 

 突然、瑞鶴がひょこっと現れた。

 

「うぉ!瑞鶴?どうした?」

「いやー。提督さんと吹雪ちゃんが居るのが見えたから...。で、どこか行くの?」

「ああ、街に行くんだ」

「そう。なら、私も連れて行って!」

「「えっ?」」

 

 吹雪と俺は、驚いたが、瑞鶴はそっちのけで正門へ向かう

 

「さあ、行こ!」

「ああ、ちょっと!瑞鶴さん!待ってください!」

 

 俺は吹雪と瑞鶴を追いかけながら正門をでた。

 

ー鎮守府近辺・街中ー

 

 ここの鎮守府は日本とは少し離れた島にあり、深海棲艦との戦闘圏では前線に位置しているが、街中は特に変化は無くユ○クロや○Uなどの洋服屋やサ○ゼ○アやガ○トなどのレストランなどが立ち並び賑やかだった。

 とりあえず、俺たちは街外れの公園に来ていた。

 

「いつ見ても、にぎわっていますね」

「そうだな。とりあえず見て回る前に、何か飲み物でも買ってくるよ」

「「分かりました」」

 

 俺は、飲み物を買いに、自販機に向かった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「ん~と、これと、吹雪と瑞鶴は...」

「やめてください!」

 

 自販機に売られている飲み物を吟味していたそのとき、吹雪たちが居る方向から悲鳴が聞こえた。

 

「吹雪!?瑞鶴!?」

 

 振り向くと吹雪と瑞鶴が5人組の男たちに絡まれていた。吹雪に至っては手を引っ張られて、連れて行かれそうだった。瑞鶴は何とか連れて行かれないようにがんばっている。吹雪も艦娘であるため、何とか連れて行かれないように耐えているが、それも時間の問題だった。

 

「良いじゃんかよ~」

「姉ちゃんたち、少し俺らと遊ぼうぜ」

「嫌です!」

「やめてよ!」

「ちっ!俺としたことが二人だけにするんじゃなかった!」

 

 走って吹雪たちのもとに向かうが、吹雪は力の限界なのかずるずると引きずられ始めている。瑞鶴も腕を掴まれ、引っ張られそうだった。

 

(クソっ!何とかして吹雪たちとあの男たちを引き離さなければ!でも、どうすれば...)

 

 そのとき、瑞鶴が、

 

「このっ!放さないと爆撃するわよ!」

「へっ!やれるもんならやってみな!」

 

(そうだ!)

 

 俺は、いったん走るのをやめて艤装を展開する。

 

(こんなとこ、大本営に言われたら、大本営から何て言われるか分からないけど...)

 

 吹雪も瑞鶴もずるずる引かれている。

 

(あいつらを守るためなら...!)

 

 矢筒から、矢を一本出し、上空へ向かって構える。

 

「いっけー!」

 

 矢は勢い良く飛び、一瞬にして零戦二一型、八機に変わる。

 八機の零戦は俺が走るよりも早く、男たちに向かう。

 

「おい!てめぇらぁ!」

「あん?!」

「何だおめぇ」

 

 俺が叫んだのに気付いた男たちに俺は、上を見るように指す。

 

「ん?」

 

 男たちが上を向いた先には、急降下をして男たちに迫る零戦が八機いた。

 

「うわぁ!」

 

 男たちは咄嗟に屈む、俺はその隙に吹雪と瑞鶴の手を引き男たちから離す。

 

「っ!てめぇ!よくも!」

 

 男たちは上空からの襲撃が去ったのを確認しこちらに向かって来る。

 零戦は旋回して、急降下で再び男たちに向かう。

 

「同じ手は食わんぞ!」

 

 男たちは、零戦を迎撃しようと上へ身構える。

 

「そうやってると、腹ががら空きなんだよ!」

 

 上に身構えていた男たちの腹に、()()()()()()()()()()が一発ずつ当たる。

 

『ぐはぁ!』

 

 男たちは、その場から後ろへ吹き飛ばされる。

 

「クソっ!」

「覚えてろ!」

 

 吹き飛ばされて懲りたのか、男たちは逃げていった。

 俺は、男たちが逃げて行ったのを確認して、零戦を収容し始める。

 

「司令官」

「提督さん」

「吹雪、瑞鶴...。今回はすまない!!」

 

 俺は艦載機収容で、腕を平行にさせているので、頭だけを深々と下げた。

 

「俺の不注意で、怖い目に遭わせてしまったな。すまない」

「あ、あ、そんなに頭を下げないでください!」

「いや、でも」

「いいんです。確かに怖かったけど...」ゴニョゴニョ

「ん?怖かったけど?何?」

 

 吹雪の声が小さくなり、最後のほうが聞こえなかった。聞こうと思って吹雪に言うが、吹雪は顔がカァっと赤くなってしまった。可愛い

 

「えっ、あ、///」

「何?なんていったの?」

「だから、怖かったk」

「そうそう!怖かったのよ!提督さん」

「ふぇ?!」

 

 吹雪が言おうとしたとき、瑞鶴が割って入ってきた。

 

「怖かったんだから、お詫びに何か私たちに買って!」

「えっ」

「『えっ』じゃないの!早く行こ!」

 

 瑞鶴は艤装を仕舞い終えた俺の腕を引きながらずんずんと歩く。

 

「ほーらー。吹雪ちゃんも!」

 

 吹雪もハッとして、二人の後をついて行った。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 その日、お詫びとして、俺が買ったものの総額は、二人で6万ほどだった。

 ただし、ほとんどが瑞鶴だったがな!だって、上目遣いで見られたらNOとは言えないじゃん?吹雪が瑞鶴にやらされて、それをした時はそのままひっくり返るかと思ったよ。

 

「へ~。だから、お前はここで、ボヘーっとしていると...」

「ああ、そうさ」

 

 その日の夜の執務室には、ボヘーとした提督と、額に指を当てて呆れている。妖精の姿があったとか。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

『怖かったけど、私たちを守るために立ち向かった司令官はかっこ良かったです』

 

 同日、同じ鎮守府の駆逐艦寮の一室の布団の中、今日言った自分の言葉を思い出しては、顔を真っ赤にしてはうずくまる、特型駆逐艦の一番艦の様子があったとか。

 




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第八話「提督の一番機妖精-デストロイヤー-」

 快晴に見舞われた鎮守府近海の上空を一機の零戦二一型が飛んでいた。

 後方を、追うようにもう一機、零戦が飛ぶ。

 後方を飛ぶ零戦は機関砲を掃射しているが、前方を飛ぶ零戦にはペンキが一滴も付かない。

 それどころか、前方の零戦はいっきに速度を落とし、後方を飛ぶ零戦に近づく。

 後ろの零戦が驚き、速度を落とした隙に、前方に居た零戦はいっきに上昇、宙返りをして、後ろに付く。

 そして、驚いて体制が直しきれていない零戦にペンキを塗りたくった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 6月も終わりに近づき、そろそろ扇風機やらがほしくなるような日に俺は、鎮守府近海の海上を進む「赤城」の飛行板の上に立ち、二機の零戦の帰りを待っていた。

 

「そろそろ戻ってきます」

「そうか」

 

 赤城が妖精からの報告を伝えてきた。遠くにはこちらに向かって来る零戦が二機見える。片方はペンキできれいな白がオレンジに変わっていたが、もう片方はきれいな白に日の丸を輝かせながら戻ってきた。

 

 

 

「ううっ。負けてしまいました、赤城さん」

「いいですよ」

 

 ペンキを塗られたほうの零戦を操縦していた妖精は、赤城に手に乗せられ頭を撫でられ、慰められていた。

 一方、もう片方の零戦に乗っていた妖精は、零戦の主翼に乗っかり、その様子を見ていた。

 

「なぁ、提督」

「ん?」

「いいな、あの妖精」

「撫でて貰ってか?」

「ああ」

「お前のその機体が練習機みたいになって帰ってきたら、俺が撫でてやろうか?」

「いや、そんなになるんならいいや」

 

 自分の愛機をなでながら妖精は、そっぽを向いた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

ー執務室ー

 

 執務机で報告書の空欄を埋めていると、机に先ほどの妖精が上がってきた。

 

「よう、撫でて貰いに来たのか?」

「違うわ!ちょっと暇だったから来ただけだ」

「そうか。ならそこら辺でゆっくりしといて、これが終ったらお茶でも入れるから」

「あいよ」

 

 妖精は机に置いてあった模型に近づいた。

 

「何か増えてるな」

 

 机の上にある紫電改の模型の横には零戦五二型が置かれていた。

 

「相変わらず、ダイキャストモデルのやつなんだな」

「まあな。組み立てる模型も作ってみたいがな」

「最初は何を作る気で?」

 

 俺は、ペンを走らせるのをやめ、顔を上げる。

 

「『吹雪』」

「お前の口から最初に出てくるは大抵それだな」

「悪いか?!」

「いや、悪くは無いが」

 

 報告書を端に置き、席を立つ。

 

「じゃあ、終ったからお茶入れてくる」

「あいよ」

 

~お茶タイム~

 

「ふぅー。お茶は美味しいな」

「確かにな」

 

 妖精は小さな湯飲みを置いて、模型――紫電改を見ていた。

 

「紫電改がどうした?」

「ん?いや、アレに乗りたいなって思ってな」

「残念ながら、無いんだよなうちの鎮守府には紫電改も紫電改二も」

「そうなんだよな...」

 

 妖精は、肩を落としながらまた湯飲みに手をつけた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「じゃあな」

「ああ」

 

 妖精は、机から降りようとした

 

「そうだ」

「ん?」

 

 妖精は俺の声に、足を止めた。

 

「紫電改に乗りたいか?」

 

 妖精はこちらに向いた。

 

「ああ。紫電改に乗れるのなら、今演習で相手にしている、機体数の2倍と戦って見せる」

「そうか。なら、明石に頼んでみよう。お前も紫電改の機体のほうがいいだろう」

「ああ、だって俺は、菅野直」

「菅野デストロイヤー。だもんな」

「よく覚えているな」

「忘れないさ」

 

 提督と妖精――菅野は笑いあった。

 




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第九話「提督の一番機妖精-ワレ、一番-」

「司令官、明石さんから伝言です」

 

 工廠から戻ってきた吹雪は、明石から預かって来たであろう伝言の書かれた紙を渡してきた。

 

「ありがとう。どれどれ」

 

 吹雪にお礼を言って紙に目を通す。手紙には、『頼まれていた新装備が完成しました。提督に最初に見ていただきたいので、工廠に来てください』と書かれていた。

 俺は、吹雪に『工廠へ行ってくる』と伝えて執務室を出て行った。

 

ー工廠ー

 

「おーい、明石」

「はーい!」

 

 明石は工廠の奥から現れた。

 

「完成したものを見に来たぞ」

「待ってました!」

 

 明石は俺の袖を引きながら工廠内の開発スペースへ連れて行った。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「こちらです」

 

 そう言って明石は、開発スペースにどっしり構えた新装備を指した。

 指された装備は戦闘機で、20mm機関砲を左右2門装備し、濃緑色を機体上面に塗装され、胴体部と主翼には日の丸がつけられていた。

 

「ついに出来たか...」

「はい。どうなさいますか?」

「とりあえず。あと、七機用意してくれ。それと、着艦フックを付けてくれないか?」

「分かりました!」

「あと、この機体なんだが...」

 

 そう言って、俺は明石に耳打ちした。

 

「分かりました。そうしますね」

「頼む」

 

 明石は、『では、早速作ります』と言って作業スペースに行ってしまった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「よう、提督。集まったぞ」

 

 執務室の机の上に、部下7人を引きつれ、菅野が上がってきた。

 

「集まったか。じゃあ、工廠に行くぞ」

「おうよ」

 

 俺は、集まった菅野たちをそこらへんにあった空き箱の中に乗せて工廠に向かった。

 

「提督」

「ん?」

 

 箱に揺られながら菅野はこちらに目線を向けてきた。

 

「いきなり呼んでどうしたんだ?工廠に行って何するんだ?」

「それは、工廠に行ってからの楽しみだ」

 

 菅野はわくわくしたような、疑問を持ったような顔をして前を向いた。

 

ー工廠ー

 

「いらっしゃい、提督」

「やあ、明石。出来たか?」

「はい、パパッと作りましたが、安全ですよ!」

「じゃあ、早速」

 

 そう言って、明石は新装備にスポットライトを照らした。

 

「これは...」

 

 菅野は箱のふちに手をかけてそれを見た。

 そこには、着艦フックが付いた紫電改が八機止まっていた。そのうちの一機は、胴体に黄色い二本のラインが引かれ、胴体の日の丸には15の文字、垂直尾翼には『A 343-15』と書かれていた。

 

「それは紫電改、菅野機。お前の最期の愛機で、これからの愛機さ」

「・・・」

 

 菅野はじっと紫電改を見つめていた。

 

「この機体で、これからも戦ってくれるか?」

「おう!」

 

 菅野はこちらに振り向き、力強く言った。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 よく晴れた、海上を進む、空母「赤城」の飛行板の上から濃緑色を輝かせた、紫電改八機が飛び立つ。

 上空には零戦が十六機、紫電改一機に対して、二機ずつで戦えるように展開している。

 

「よーい。始めっ!」

 

 「吹雪」の甲板からその様子を見ていた俺は、紫電改の準備が整ったを確かめて、無線で演習の開始を告げる。

 上空で零戦と紫電改の戦闘が始まった。

 

 

 

 格闘性能では零戦に劣る紫電改だが、自動空戦フラップを駆使し、一機で零戦二機に対して互角に戦っている。

 

「すごいですね。あの零戦二機に互角に戦うなんて」

「まあ、零戦の後継機として開発されていた「烈風」に変わって、主力戦闘機とされたぐらいだからな」

「特に、あの紫電改はすごい強そうです」

 

 そう言って吹雪が指した先には、胴体に黄色の二本線を輝かせ、ペイント弾を零戦に塗りつけていく、紫電改の姿があった。

 

 

 

 今回の演習の結果は、紫電改が二機撃墜判定を受け、零戦が十機撃墜判定を受ける結果になった。

 紫電改から降り、俺のもとに菅野がやってきた。

 

「どうだったか?」

「良い感じだ。これなら零戦よりもっと戦える」

「そうか。壊すなよ?」

「壊すかよ。これは、俺の愛機だぜ?」

「過去に、何十機と機体を壊したやつに言われても説得力無いな」

「んだと!」

「ははっ。冗談だよ。これからは紫電改で戦ってくれるな?」

「おうよ!それにしても」

 

 菅野は気合いのこもった返事をした。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「にしても」ニヤニヤ

 

 菅野は紫電改から目線をこちらに向けてきた。

 

「お前は、こういうことがあるとほとんど吹雪の艦船に乗って見に来るよな。もしかして好きなのかぁ?」

 

 反撃と言う感じでその言葉を放った。

 

「っ!そ、それは、秘書艦だからであってすk」

「そう言えば、ずっと秘書艦だったな、吹雪は」

 

 続けて出された言葉に、返す言葉が無くなった。吹雪のほうを見ると顔が真っ赤になって俯いている。

 

「ほらほら、どうした?」ニヤニヤ

「っ!このやろう!」

 

 捕まえようと出した手を、簡単にかわし、菅野は紫電改に乗って上空へ逃げていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

―――――「ワレ、菅野一番 空母天城デ、紫電改トトモニ奮闘ス」

 

 菅野の前愛機、零戦二一型のコックピット内に残された、紫電改と菅野が共に写る写真の裏には、そう書かれていた。

 




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第二章
第十話「作戦命令」


 初夏の陽気が窓から差し込む昼の執務室。

 今朝届いた扇風機が送る生暖かい風を受けながら、提督は執務机である物と睨めっこしていた。

 横では、吹雪がその様子を見ている。こちらはこちらで何かと戦いながら見ている。

 提督の顔は真剣で、チンピラから吹雪達を離そうとしたときと似た表情をしている。

 

「出来た...」

「やりましたね!」///

「ん?吹雪?顔が赤いぞ?熱でもあんのか?」

「え、あ、いや、何でもありません!」

「そうか。とりあえず、これはケースに入れてっと」

 

 提督は、出来たもの―――――1/1250スケールの洋上模型、「あきづき型護衛艦『あきづき』」をダ○ソーで買ってきたケースに仕舞い、机の端に置いてあるケースの上に置いた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「しかし、こんなものを提督が買ってきていたんですね」

 

 吹雪は、完成品をまじまじと見ながらつぶやいた。

 

「ああ、これは2ヶ月くらい前に俺だけで、ヨ○バシに行った時に、模型とかおもちゃが置いてあるコーナーの端っこに置いてあったの買ってきたんだ。シリーズがあって、これがシリーズ2だったな。シリーズ3も置いてあって、一つずつ買ってきたんだ」

「買ってきてから2ヶ月経っているってことは、もう一つも完成しているんですか?」

「いや、出来ていない」

「何故?」

「それは、そいつを作り始めたときに、それが無かったからだ」

 

 そう言って、俺は机に置かれた物の二つを指す。

 

「接着剤とピンセットですか?」

「ああ、それが作り始めには無くて、煙突のアンテナを無理に付けようとしたら、折れた」

「何やってんですか!!」ドアバン!

「「!?」」

 

 吹雪に自分の失敗談を話していると、いきなり明石が勢い良くドアを開けて入ってきた。

 

「うぉ!いきなり明石どうしたんだ!てか、ドアが...」

「そんなことより」机ドン!

 

 大破したドアをお構いなしに、明石は机を叩く。

 

「何で道具もなしで模型を作ったんですか!」

「いや、せちゃくz」

「いやじゃありません!模型を組み立てるんだったら、この二つは必要ですよ!」ドン!

「...はい」

 

 その後も、明石による説教が30分続いた。

 

「いいですか!」ドンpart4

「わ、分かったから。執務室に来た用件は何だ」

「おっと。すみません、模型で熱くなりすぎましたね。用件はこちらです」

 

 明石は一枚のカードを渡してきた。

 

「これは?」

「この前、提督に頼まれて作った紫電改の管理カードですよ!」

 

『管理カード』

 それは、艦娘の艦船やそれに装備する艦砲などを管理するカード。

 艦船についてのカードは、長方形で

 装備についてのカードは、正方形である。

 裏にIDが書かれてあり、それで管理している。

 艦娘カードの裏には、現在どの装備を付けているかも、記載されている。

 

「ああ、そういえば貰っていなかったな」

 

 そう言いながら、カードを専用のファイルに収める。

 

「カード、ありがとな、明石」

「いえ!では、これd」

「それとな、明石」

 

 明石の、足早に執務室を去ろうとしていた足を止めさせる。

 

「壊したドア、治せよ?」

「...はい」

 

 明石に壊れたドアを持って帰らせて、俺は机に戻った。

 

「はぁ~」

「お茶、飲みます?」

「頂こう」

 

 吹雪は給湯室に向かった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 応接用の机に移動して、まったりする。

 吹雪はまた、模型を見ている。

 

「現代艦...自衛艦ってすごいんですか?」

「すごいと思うぞ?俺もそんなに詳しいわけではないが、対潜・対空・対艦装備その他、艦砲も口径は小さいものの速射砲になっているからな」

「そうなんですね」

 

 その後、すぐに明石が戻って来てドアの取り付けをした。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

 夜の静けさが包む執務室。

 吹雪はすでに自分の寮に戻っている。

 シリーズ3の組み立てに取り掛かろうとしている提督のもとに大淀がやってきた。

 

「提督、大本営と海軍から電報です」

「ん?なんて言っている?」

「こちらです」

「ふむふむ...ん?!」

 

 大淀が渡してきた電報には、

 

『大本営並びに海軍より、青ヶ鳥鎮守府へ

 先日、こちらに向かって来る深海棲艦の艦隊を発見した。奴らの目標は、我が本土の東京だと思われる。

 青鎮はこれの迎撃にあたれ。

 なお、迎撃にはこちらからの必須出撃艦隊を基本に使うように』

 

 と、書かれていた。

 さらに、その下には、

 

『必須出撃艦隊

 南雲空母機動部隊

 赤城、加賀、飛龍、蒼龍

 主力部隊

 長門、陸奥、大和

 偵察部隊

 利根、筑摩

 護衛駆逐艦

 嵐、野分、萩風、舞風』

 

 そう書かれていた。

 

「提督、これって!」

 

 大淀の発する言葉には、大本営・海軍に向けられた怒りのような感情が込められていた。

 

「ああ、ほとんどがあの海戦でのキーポイントシップ(重要艦)だな」

 

 提督は電報の書かれた紙をくしゃくしゃにした。

 

「どうなさるんですか?」

「簡単だ。この部隊を主力に置き、迎撃しよう」

「しかし!それでは準備が急すぎます!それにっ!」

「準備なら、大丈夫だ。日々の哨戒出撃先を今まで以上に難易度の高いところにしている。それに、今の赤城達は慢心に負けるほど弱くは無い。それに、またそんな悲劇を俺は繰り返させない」

 

 提督の目には、慢心なしの自信に満ちた。光があった。

 

「そうですか...。だといいんですが。それより、こちらです」

 

 そう言って、大淀はくしゃくしゃの紙のあるところを指す。

 

「うちの鎮守府には、『大和』が居ません。こちらは、どうなさるんですか?」

「問題は、そっちだ。この作戦を実行するには、彼女が居るのと居ないのとでは、差が大きいな」

 

 提督と大淀はそれぞれ腕を組んで、考え始めた。

 

ガチャ!

「提督!鎮守府近海になぞの艦船が侵入!こちらに向かって来ております!」

 

 突然、明石が飛び込んできた。鎮守府近海への侵入艦を知らせに来たようだ。夜間の発見のため、結構近くに居るだろう。

 

「深海棲艦か?!」

「いえ、そのような感じはしません」

「他には何か?」

「島の明かりにうっすら照らされている様子を見ると、前方には巨大な三連装砲が二基、高角砲が後ろに一基、確認できました。おそらく...」

「おそらく?」

 

 明石は自分も半信半疑なところでその言葉を口にした。

 

「おそらく、大和型だと思います...」

「...了解。その艦船を入港させろ!大淀は、臨時の秘書艦で俺と一緒に来てくれ」

「分かりました」

 

 三人は執務室を飛び出した。

 

ー同時刻・鎮守府近海、海上ー

 

 その艦は完成したのが遅かった。

 その艦が出来た頃には、巨砲巨艦主義は無くなり、航空戦が重要だった。

 彼女の最初の出撃のときに、日本の主力空母は波間に消えた。

 彼女の一人だけになってしまった妹は、先に沈んだ。

 彼女の最期の出撃は、沈んで来いといっているようなものだった。

 彼女は他五隻と共に、その艦生を終えた。

 

はずだった。

 

 何年経ったか分からないが、ある時声が聞こえた。

 その声は、旧海軍上層部の奴らの声ではない。乗組員や艦長たちとも違う。

 しかし、それは信頼できそうな声だった。

 気付けば、身体(船体)は元通りになっている。

 私は、艦橋に立っていた。

 何故か艦娘になったと分かっている。知っている。

 私は、声がした方向へ、舵を取っていた。

 

 声の主は、今、埠頭に立っている、提督らしき人の声だとすぐに分かった。

 横に居るのは、大淀でしょう。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 大和型らしき艦船は徐々に姿をくっきりさせた。

 それは、大和型そのものだった。

 

「君は?」

 

 艦船から降りてきた、きれいな女性――艦娘に聞いた。

 

「私は、大和型戦艦、一番艦、大和。推して参ります!」

 

 

 

 

 

 

「ヒゲキヘノ、ヤクシャハソロッタナ」

 

 東京への空襲成功のために、戦力を揃えた深海棲艦。

 その旗艦のヲ級エリートは、不敵な笑みを浮かべていた。




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第十一話「本土防衛作戦-悲劇は...-」

 大和来航の次の日。

 朝食後の時間に食堂で大和を鎮守府の皆に紹介した。

 皆は大和を快く受け入れ、大和も嬉しそうだった。

 

「さて、大和の歓迎もこれくらいにして、ここからは真面目な重要な話をする」

 

 食堂の喧騒が一気に静まる。

 俺の横に居る吹雪も緊張しているのか、背筋がピンと伸びている。

 吹雪には朝一番でこのことを伝えていた。

 

「昨日、大本営並びに海軍から電報があった。内容は、『本土への攻撃を仕掛けようとしている深海棲艦隊を迎撃せよ』だ」

 

 食堂内が一瞬ざわつく。

 

「これだけなら問題ないのだが、問題なのは次の二つだ」

 

 俺は、ホワイトボードを皆の見える位置に持ってくる。

 

「一つ目は、今朝大淀に頼んで、その深海棲艦隊の様子を偵察してきてもらった。それがこれだ」

 

 俺は数枚の写真を貼る。

 写真には、ヲ級三隻を主軸に固められた艦隊が写されていた。

 

「提督っ!これって...」

 

 赤城はその写真を見て、驚いた顔をして聞いてきた。

 

「ああ、分かっているかも知れないが、敵の編成はあの海戦を意識しているように見える」

 

 艦娘達の表情が険しくなる。

 

「大本営達もこれを知っているんだと思う。だから二つ目の問題、これを大本営は命令してきた」

 

 俺は、吹雪の反対に座る大淀に目で合図をする。

 大淀は席を立ちホワイトボードの前に立つ。

 

「提督の言っている、大本営、海軍の命令はこの深海棲艦隊の迎撃に艦娘を指定してきたことです。指定された艦娘は、『赤城、加賀、蒼龍、飛龍、長門、陸奥、大和、利根、筑摩、嵐、野分、萩風、舞風』です」

「提督!これは!」

 

 赤城が席を立ち上がる。

 呼ばれた艦娘も顔がますます険しくなっている。

 

「ああ、赤城の考えている通りだ。大本営はこれを見て、この編成で迎撃することによって国民の注目を浴びようとしているんだと思う」

「提督は大本営の要求を鵜呑みにするのですか?!」

「それを、これから説明する」

 

 とりあえず、艦娘達を落ち着かせて、俺は皆の前に立つ。

 

「今回の作戦、この二つの件があるのだが、それを考えた上での作戦を立てさせてもらった」

 

 吹雪は皆に資料を配り始めた。

 

「その資料は今回の作戦に関するものだ。俺から軽く口頭で説明させてもらう」

 

 皆に資料が行き渡ったのを見て話始める。

 

「先ず、この作戦の実行は、二日後だ」

『え?!』

 

 食堂内の艦娘の声が重なる。

 

「原因は大本営の電報が遅かったからだ、すまない。ちなみに横須賀鎮守府や他の鎮守府は別の作戦の指令が来ているらしい」

 

 艦娘達の雰囲気には怒りが見え隠れしている。

 

「次に編成についてだ。先ず、空母機動部隊は、赤城、加賀、蒼龍、飛龍を主軸に、護衛に嵐、野分、萩風、舞風、そして、長門、陸奥、神通を加える」

「その意図は?」

 

 長門が聞いてきた。

 

「空母機動部隊に戦艦を混ぜることで、三式弾での対空防御への参加をしてもらいたい」

「了解した」

「次に、その空母部隊の支援をしてもらう第二機動部隊は、瑞鶴、翔鶴を主軸に、護衛に夕立、時雨、吹雪、綾波、川内、金剛、比叡を加える。こちらの戦艦二隻にも三式弾での対空防御へ参加してくれ」

『はい!』

 

 呼ばれた艦娘は、気合いのこもった返事をした。

 

「次は、二つの機動部隊の前衛部隊だ。編成は、大和、榛名、霧島を主軸に、瑞鳳、愛宕、高雄で頼む」

『はい!』

「他は、鎮守府警備に徹してくれ。よし、では、質問は?」

「あの...」

 

 榛名が遠慮気味に手を挙げた。

 

「どうした、榛名」

「はい、大和さんは今日着任されたばかりなのですが、それなのにそんな重要な作戦に参加できますか?」

 

 榛名の言っていることは、ご尤もだった。昨日来たばかりの大和がいきなり重要な作戦に参加できるほどの技術は、()()はあるわけが無い。

 

「そう言えば、説明していなかったな。実はy」

「提督、ここは、私が」

 

 大和が、席を立ち前にやってきた。

 

「私から説明します。私は、坊の岬沖におととい現れました」

 

 食堂が何度目かのざわめきに包まれた。

 

「私の艦船は、鎮守府で建造されたものではありません。あの戦争で戦った船体です」

 

 大和は一息置く。

 

「あの戦争では、私は主砲を使うことはほとんど無く、初戦はミッドウェーでした。実戦にもほとんどしっかり参加はしていませんが、錬度は十分あります」

「つまりは、そう言う事だ。大丈夫か?」

「はい!ありがとうございます」

 

 榛名は納得したようだった。

 俺は、皆に目線を向けて話す

 

「作戦参加の艦娘達は、短い時間だが戦いに備え、設備点検をしっかり行うように、装備は最新鋭のものを用意する。空母は艦載機を最新のものに変更してくれ。以上だ」

 

 その日から二日間、鎮守府は作戦のためにと、忙しくなった。

 

ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーー

 

~二日後~

 

 当日、埠頭や桟橋から前衛部隊、第一機動部隊、第二機動部隊の順に出て行った。

 俺は、全部隊への指令のために鎮守府に残っている。

 

「第一機動部隊より報告です。『敵艦隊発見。コレヨリ作戦ヲ開始スル』だそうです」

 

 臨時の秘書艦の大淀が報告に来る。

 俺は、窓から空を眺めた。

 

ー戦闘海域ー

 

 事前の偵察から艦船の量が増えていた。

 大和旗艦の前衛部隊は敵前衛部隊と交戦、第二機動部隊も敵支援部隊を押さえ込むのに手一杯になっており、第一機動部隊は敵主力部隊との直接対決をしていた。

 俺の考え通り、三式弾での対空防御は成功しているようだった。各部隊が別々で交戦しているが、敵を倒しきるのも時間の問題かと思っていた。

 しかし...

 

「提督!第一機動部隊から報告!『空母被弾!赤城、加賀、蒼龍ガ一時戦闘不能』だそうです!」

 

 第一機動部隊はピンチになっていた。

 




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第十二話「本土防衛作戦-提督、出撃ス、そして-」

 大淀の一報を聞いて俺は、すぐさま執務室を飛び出していた。

 向かうは工廠。前に赤城達とした約束を果たすために...。

 

ー工廠ー

 

「おい!明石!」

「はい!」

 

 明石はすぐに出てきた。

 

「今朝の建造では何が完成した?!」

「え。えーと、確か、空母レシピを回して、愛宕さんの艤装と赤城さんの艦船がd」

「その赤城の艦船はどこだ?!」

「まだ、建造ドックに泊めっぱですけど...どうしました?」

 

 明石はまだ知らせが届いてないのか、不思議そうにしている。

 

「赤城達がピンチになっているんだ!」

「えっ!」

 

 明石は驚いて固まってしまった。

 

「提、督、待ってください!」ハアハア

 

 大淀が後ろから息を切らしながら追いついてきた。

 

「大淀、疲れているところすまないが、頼みごとを聞いてくれないか?」

「何ですか」

「鳳翔を呼んできてくれ、あと護衛に駆逐艦娘を数隻」

 

 大淀は急いで、戻って行った。

 

「それで、明石」

「はい」

「その赤城の艦船を使いたい」

「え?」

 

 明石はまた固まった。

 

ー工廠・建造ドックー

 

「いいですか?提督は艦長の役割として、艦船に乗り込みます」

「ふむ」

 

 俺は、明石に艦船の扱いについて教えてもらっていた。

 その後ろで、赤城の艦船に手入れがされていた。

 

 『ア』と書かれていた部分が『アマ』に変更され、艦首側の飛行甲板に大きな日の丸が描かれていた。

 そんな中、格納庫には俺に所属している、第一航空隊『菅野隊』、第二航空隊の爆撃隊、第三航空隊の雷撃隊、第四航空隊の索敵・直掩隊の艦載機が乗せられ始めていた。

 

「ということです。分かりました?」

「OK。ありがとう、明石」

 

 俺は、赤城―――――天城に乗り込んだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 曳航船によってドックを出渠した。俺は、鳳翔や護衛の駆逐艦と合流した。

 通信妖精に頼んで、全艦と艦隊司令部に繋げる。

 

「空母『天城』より全艦へ。これより、第一機動部隊の支援のために、出撃します!」

『了解!』

 

 他の艦からの通信の後、俺たちは出撃した。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

ー戦闘海域ー

 

「復旧状態は!」

「さんせきともまだ、ふっきゅうできていません!」

 

 妖精の報告を聞いて、赤城は絶望していた。

 今現在、赤城、加賀、蒼龍は一時戦闘不能になっており、何とか退避運動だけは出来るだけの状態だった。

 

(このままでは、あのときの...)

 

 赤城の頭にはそんな事が過ぎっていた。

 準備期間に問題があったものの、索敵、作戦に問題は無かった。

 だが、現状はあの時に見た風景を彷彿とさせるようなものだった。

 被害は、赤城が船首付近の飛行板をやられ、加賀は船尾の飛行板をやられ、蒼龍は真ん中のエレベーターが途中で止まってしまっていた。

 長門や陸奥、飛龍や他の駆逐艦、直掩機による対空防御のおかげで、それ以上の被害を受けることは無かった。

 赤城は着艦は可能だったため、加賀の分も着艦させて、修理を行っていた。

 

『赤城さん!雷跡!』

 

 そのとき、赤城に迫る無数の雷跡。

 赤城は諦めたように目を瞑り、衝撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう、ここで終わりですね。提督、すみません)

 赤城は静かにそのときを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつまで待っても衝撃は来なかった。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

ー第三機動部隊・戦闘海域目前ー

 

 赤城達の居る海域を目前にして、天城と鳳翔から、爆装した爆撃機と雷装した攻撃機、そしてそれらの直掩機からなる、第一次攻撃隊が飛び立っていった。

 報告によると、敵の支援艦隊と前衛部隊は倒しきったものの第一機動部隊の支援までは時間がかかるらしい。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 第一次攻撃隊は戦闘海域に進入後、赤城に迫る雷跡を発見した。

 

『ていとくのしじどおりにいくぞ!』

『『はい!』』

 

 攻撃隊は雷跡の先端に向けて、先ず、爆撃機による絨毯爆撃を開始。そこで爆弾とあたった魚雷が爆発する。

 次に、それを抜けた魚雷一本ずつに向けて正面から雷撃隊が複数の魚雷を放つ。これで、赤城へ向かう魚雷はなくなった。直掩機はこれを邪魔する敵機と戦っていた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「頼むぞ!」

「おうよ!」

 

 天城飛行板で菅野は紫電改に乗り、俺にVサインをして見せた。

 第一次攻撃隊の一報を受け、第二次攻撃隊は発艦準備を進めていた。

 天城から出る第二次攻撃隊は菅野隊と残りの攻撃隊で編成されていた。

 攻撃隊は30kg爆弾を装着、紫電改も60kg爆弾を装着し、敵空母への爆撃を第一に考えた編成になっている。

 

「第二次攻撃隊、発艦始め!」

 

 号令の下、菅野隊、攻撃隊の順に発艦していく、鳳翔からも攻撃隊が発艦、こちらは爆装しておらず、直掩の役割をになう。

 第二次攻撃隊は敵艦隊へ向かっていった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 俺たち、第三機動部隊は赤城達と合流した。

 赤城達の状態を見て俺は驚いた。

 赤城、加賀が順に縦に飛行板を繋げるようにぶつかっていたのだ。そして、加賀の飛行板から赤城の飛行板にかけて、艦載機が加速し発艦している。

 赤城から通信が来た。

 

『提督!その艦は!?』

「鎮守府に余っていたものを持ってきた。何とか間に合ってよかった」

『約束を守ってくれましたね』

 

 加賀が通信に入ってきた。

 

「ああ、『君らを守って見せる』と言ったからな」

 

 通信機越しににも泣いているのが分かった。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

 一時間後、第二次攻撃隊の菅野から通信が入った。

 

『提督、とりあえず空母二隻と他は沈めたぞ』

「そうか!」

『だがな...』

「ん?どうした?」

『あと一隻がどうしても倒せ無くてな、爆弾も機銃の弾も切れちまった。どうする?』

「分かった。それはこちらで対応する。菅野隊以外は帰って来てくれ」

『了解』

「あと、特攻はさせるなよ」

『分かってるよ』

 

 俺は菅野との通信を切った後、艦橋を出た。

 

「あ、ていとくさん」

 

 格納庫で作業をしていた妖精は俺を見つけると敬礼をした。

 

「お疲れ様」

「ありがとうございます。ところでそのかっこうは?」

「これか?ちょっとな。余った機体はあるか?」

「ええ、ありますよ。にいいちがたでよろしければ」

 

 そう言って、他の妖精に機体を持ってくるように指示した。

 

「あまりの爆弾は?」

「にいちがたいっきにのせられるぐらいはあります。のせます?」

「頼む」

 

 爆弾を積んだ二一型に俺は乗り込んだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

ー敵空母上空ー

 

 提空母上空では菅野隊が空母の様子を監視していた。

 赤い光を放つその空母――ヲ級エリートは大破して、艦載機を飛ばせず、漂っていた。

 甲板からは艦長が睨んでいる。

 

「おっ!来たな...」

 

 菅野が見つけたのは、白い胴体に日の丸と二本の帯を輝かせた、零戦二一型だった。

 ヲ級はその零戦を見つけると対空砲を放ち始めた。

 零戦は対空砲を避けながら急降下し始める。

 そしてヲ級へ積んでいた爆弾を落とした。

 

ドカーン

 

 ヲ級はゆっくりと海へ沈んでいった。その様子はこの作戦の終了を表していた。

 




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第十三話「お呼び出し」

「司令官。大本営からお手紙です」

 

 吹雪はそう言って手紙を渡してきた。

 

「ありがとう。どれどれ...」

 

 俺は、手紙を受け取り、中身を机の上に広げる。

 吹雪も中身が気になってか、覗き込んでいる。

 中には便箋が入っていて、

 

『青ヶ鳥鎮守府 宮島 清鶴中佐

 先ず、防衛作戦、ご苦労であった。時間が短く、大変であっただろう。

 そんな、作戦の後だが、至急、大本営まで来てもらいたい。

 大本営』

 

 っと、書かれてあった。

 

「司令官?」

「何だ?吹雪」

「この宮島 清鶴って司令官のことですか?」

「そうだよ。清く長生きしてほしいから、清鶴」

「そうなんですね」

 

 吹雪は納得すると手紙に視線を戻す。

 

「吹雪」

「何ですか?」

「手紙にも書いてある通り、俺大本営に呼び出しくらったみたいだから、ちょっと本土まで行きたいんだ」

「はい」

「吹雪の艦に乗せていってくれないか?」

「はい!」

 

 俺と吹雪は大淀に『大本営に行く』と伝えて、埠頭から艦に乗り、本土を目指した。

 

ー本土・大本営、会議室前ー

 

「ふぅ」

 

 俺は、本土に艦から降りた後、吹雪に沖に居るように言って、大本営に来ていた。

 

「失礼します」

「どうぞ」

 

 俺は、会議室の中に入った。

 会議室の中には、大本営と海軍の幹部が数人が面接官のように座っていた。

 

「あの、今回の用件は?」

「うむ、わしから説明しよう」

 

 そう言って、真ん中に座っていた一番偉そうな幹部が立ち上がった。

 

「今回の作戦、ご苦労だった。こちらの指定した艦娘を使ってよく戦ってくれた」

 

 そう言って幹部は拍手をした。

 

「あ、ありがとうございます」

「だが...」

 

 そう言って、幹部は顔色を変えた。

 

「君が、余っていた艤装を使って出撃したのはいただけないな」

「え?」

「それに、最後のとどめを刺したのも君が零戦に乗って刺したそうじゃないか」

「あの、何故それを?」

「何故って、偵察機を飛ばして観ていたからだよ」

 

 幹部は、笑った。

 

「現代兵器は深海棲艦には効かないが、偵察などには便利だ。敵も君の艦隊に気が行っててこちらには気付かなかったみたいだから、良く観れたよ。しかし、何故、あそこで君は出撃したんだ?君が出撃せずとも横鎮の防衛部隊で倒したしわし達は、偵察機の映像を使って、世間には青鎮が完全勝利したと報道するから問題なかったぞ?それに、赤城達が沈んでもまた建造すれば良いじゃないか」

 

 そう言って、今度は幹部全員が笑った。『艦娘は沈んでも建造すればまた出てくるではないか』っと言って。

 艦娘は人としては各鎮守府に一人しか居ない。例として、赤城を出そう。もし、その鎮守府の赤城が沈んだら、建造で新しい赤城が生まれてくる。それが、この世界のシステムのようなものだった。

 自然と握りこぶしが出来る。目の前の幹部たちは、艦娘を良い道具にしか思っていないのだった。

 

ドンッ

 

『?!』

「お前ら、ふz」

 

ガチャ

 

「あなた方は、艦娘を、提督と艦娘の関係をそのようにお考えなのですか?」

 

 ふざけた幹部に怒鳴ろうとしたとき、一人の少女が入ってきた。

 身体には艤装らしきものが纏われている。

 

「君はd」

「先に私の質問に答えていただけます?」

 

 そう言って、少女の艤装にある艦砲と白熱電球のようなものが幹部に向く。

 

「ああ、その通りさ!艦娘なんて、深海棲艦に対抗するための道具さ」

 

 幹部の一人が開き直ったように言った。

 

「それより、君は一体誰だ!俺たちにそんなものを向けるなんて、君の艦ごと、魚雷処分にするぞ!」

「出来るのならやってみてください。ジャマーで妨害してみましょう」

 

 幹部が笑い始めた。

 

「艦娘にそんなものついている訳無いだろう?」

「いいえ、載っていますよ。少なくとも私には」

「君は誰だい?」

 

 俺は、その少女に聞いた。

 

「私は、あきづき型護衛艦、一番艦のあきづきです。対空、対潜、対艦、どれでもお任せください。提督」

 

 そう言って、少女―――あきづきは微笑んだ。

 

「あきづきだぁ?何で、護衛艦が艦娘になんてなっているんだよ」

「提督」

 

 あきづきは幹部を無視して大きな声で話した

 

「こんな方たちと話しても意味がありません。鎮守府に戻って、資材補給の遠征案を練っていたほうが良いかと思います」

「そうだな。あきづきはこれからどうするんだ?」

「私は、今付けで青ヶ鳥鎮守府に所属し、定係港とします」

「ふざけるな!」

 

 俺が、さっき言いかけたことを幹部が言った。

 

「護衛艦は海軍のぶk」

「私は護衛艦ですが、艦娘です。艦娘の私は、そんな考えの方の下では働きたくありません」

 

 それでも食い下がろうとする幹部に、チャフを発射、煙幕を作りながら、俺とあきづきは大本営を出た。

 

「あきづきの艦はどこにある?」

「私の艦も吹雪さんと同じく沖合いに泊めてあります」

「そうか。なら、横浜の港に移動させてくれ、吹雪も向かわせるから」

「分かりました」

 

ー横浜港ー

 

 俺とあきづきは横浜港の一角まで来た。

 桟橋では吹雪が待っていた。

 

「司令官!って、その子は?」

「よう吹雪。この子は」

「あきづき型護衛艦あきづきです」

「何で護衛艦が艦娘に?」

「説明は後でしますから、とりあえず今はここを離れましょう」

「そうだな」

 

 そう言って、俺たちは出港した。

 

ー海上ー

 

 あきづきは自分の艦を妖精に操作を任せ、吹雪の艦橋に来ていた。

 

「さて、私が艦娘になったわけですが...」

 

 そう言って、あきづきは理由を言い始めた。

 

「私は、本土防衛作戦直前に艦娘となりました」

「どうして、そんな時期に?」

「提督はそのとき何か自衛艦に関係のあることをしたはずです」

「関係のあるって、模型を組み立てたぐらいだけど...」

「それです」

 

 あきづきは俺を指差した。

 

「その模型を組み立てられたときに、何かしらの力で、私は艦娘になったんだと思います」

「思います?」

 

 吹雪が首を傾げた。

 

「実は、私も良く分かっていません。が、艦娘の存在は以前から知っていましたし、艦娘になったときにあなたの下で戦うと決めましたから」

「そうか。これからもよろしく、あきづき」

 

 そう言って、俺は手を差し出した。

 

「はい!」

 

 あきづきもその手を喜んで握る。

 

「鎮守府に帰った後にも皆に説明してもらえるか?」

「分かりました」

 

 吹雪とあきづきは鎮守府に向けて並んで海を進んでいった。

 




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第十四話「吹雪の想い」

 吹雪は今、お昼過ぎの人が少ない食堂で一人、パフェを食べながら悩んでいた。

 悩みの種は提督である。

 この前に出掛けたときのチンピラの一件以来、提督のことが頭から離れないのだ。

 

「うぅ~」

「ブッキー?どうしたデース?」

 

 変な声を出しながら悩んでいる吹雪のところに金剛がやってきた。

 手元には、ティーセットを持っている。

 

「あ、金剛さん。いや、その個人的な悩みと言うか」

「言ってみると楽になるヨ?言ってみてくだサイ」

「実は...」

 

 吹雪は、金剛に悩みを話した。

 

「ふ~ん。つまり、ブッキーは提督が好きになったト...」

「あまり大きな声で言わないでくださいぃ」

「sorryネー!」

 

 金剛が謝っている周りで、ガチャっとどこかのサイドテール空母とツインテール空母が席を立つ音がしたが、その後すぐに二人が言い争う声が聞こえてきたので、あまり気にされなかった。

 

「とりあえず、ブッキーはどうしたいんですカ?」

「私は、提督と...」///

 

 吹雪の声は、最後のほうが小さくなって聞こえなくなった。が、金剛はなんとなく内容を察した。

 

「OK!私がブッキーをサポートするネ!」

「えっ?!」

 

 金剛は吹雪の肩をガシッ!っと掴んだ。

 

「それに、提督もブッキーのことが好きネ。でも、ブッキーの好意に気付いてないの」

「えっ?えっ?」

 

 吹雪の頭が段々混乱してくる。

 

(私の片想いじゃなくて、両想い?!しかも司令官は、私の好意に気付いてない?)

 

 吹雪の頭に浮かぶクエスチョンを無視して金剛は続ける。

 

「提督からこないのなら、ブッキーからいくネ!」

 

 吹雪は、ハっとした顔になった。

 

「分かりました!私、頑張ります!」

「その調子ネ!早速、ここでattackしてみるネ!」

 

 そう言って、金剛は一枚の紙を見せてきた。

 

「これは?」

「今度、呉で呉鎮守府主催の大本営非公式の観艦式があるみたいネ!横須賀、舞鶴、佐世保、呉、青ヶ鳥、五つの鎮守府が参加するみたいデース」

「そうなんですか」

「そうなんデース!で、うちの鎮守府からは、この六人が出マス」

 

 金剛は別の紙を見せてきた。

 その紙には『吹雪』『夕立』『時雨』『神通』『金剛』『赤城』と書かれていた。

 

「出る艦娘はうちはこれで全員デス」

「そうなんですね~」

 

 吹雪はその二つの紙をまじまじと見る。

 

「呉には観艦式の後、一日だけ滞在する予定デース。その一日間、私は四人をひきつけマス。なので、ブッキーは、提督とデートしてくるね!」

「ふぇ!」

 

 吹雪は顔を真っ赤にした。

 

「そんなー。だめですぅ」

 

 そして、手で顔を覆ってしまった。

 

「そんなんじゃだめネ!」

 

 金剛は吹雪の肩に手を置き、親指を立てる。

 

「うぅっ。頑張ってみます...」

「そのいきネ!提督の唇でも奪ってくるネ!」

「うぅ~。そんな~。無理ですぅ~」

 

 金剛と吹雪の話し合いは続いた。

 

 一方。二人の話の中心の提督は...。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「えっ。俺の過去?」

「はい」

 

 執務の書類をそっちのけにして、執務室で自衛艦を組み立てていた俺のところに来たあきづきは、そんなことを聞いてきた。

 

「私の艦娘化に提督が関係するなら、提督の過去に関係があるのかなっと思いまして」

「そうか」

 

 俺は、模型に付ける最後の部品を置き。

 あきづきをソファへ促し、俺もソファに座った。

 

「ここで話すのはあきづきが初めてだな」

 

 あきづきは息を飲んで、俺の次の言葉を待った。

 

 

 

 

 

「実は、俺はこの世界に転移した人間なんだ」

 

 あきづきは目を見開いた。

 




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第十五話「提督の過去」

「転移した...ってどう言うことですか?」

 

 あきづきは疑問をそのままぶつけた。

 

「転移したってのは、そのままだ。もといた世界からこの世界に来たというだけのこと」

「そのもといた世界ってのはどこなんですか?」

「んー。話すと長くなるが良いか?」

「はい。構いません」

「そうか。では、話そう」

 

 俺は、ソファに座りなおして話し始めた。

 

「俺は、この世界に来る前にまた別の世界に居た。そこは不思議なところで、科学的なんて言葉はありえない様なところだったな」

「そうなんですか」

「ああ、おそらく俺が艤装を纏えたりする特典はそこから来たからだろう。そして、あきづきを艦娘化させた何かしらの力もそこから来たからだと、俺は思う」

「それは如何してですか?」

「その世界は、不思議な力がごろごろと転がっているようなところだったからだ。魔法が使える奴が居たりしたからな」

「なるほど」

 

 俺はいったん、お茶を飲んだ。

 

「まあ、その世界にも転移して行ったんだけどな」

「と言う事は、その世界の前にも居た世界があると?」

「そうだ。そこが俺が()()にもと居た世界だ」

「その世界とは?」

「大東亜戦争。後に太平洋戦争とも呼ばれる大戦中の日本だ」

「えっ?」

 

 あかづきはコップを置く動きを止めた。

 

「太平洋戦って...どう言うこと?」

「ここからが難しいのだが...ついてこれるか?」

「はい」

「じゃあ、先ず...太平洋戦争はこの世界で起こったものでは無い」

「はい?」

 

 あきづきは思わず聞き返してしまった。

 

「簡単に言うと、この世界に平行にある世界での太平洋戦争に参加していた」

「と言うことは、この世界であった太平洋戦には...」

「俺は参加して無い」

「じゃあ、その平行世界の太平洋戦争では、提督どんな事をしていたんですか?」

 

 俺は無言でソファから立ち艤装を展開させる。

 

「俺のこの艤装から連想できるものは?」

「んー。空母の艤装ですよね...。艦載機のパイロットがすぐに思い浮かびますが」

「そうそれ」

「えっ?」

「俺は、その戦争では艦載機乗りとして、ずっと最前線で戦っていた。そして、死んだ」

「死んだ?!」

「ああ」

 

 俺は艤装を仕舞い、またソファに座った。

 

「俺は、『瑞鶴』艦載機乗りとしてずっと最前で戦った。真珠湾にも行ったし、その後の海戦も『瑞鶴』と共にいろいろ行ったな。岩本さんと一緒に直掩をしたこともあったかな。まあ、それも『瑞鶴』が囮としてエンガノ岬に行ったときまでだったがな」

 

 脳裏に昔の光景が浮かんできた。

 

「俺は、あいつから軍艦旗が降ろされるのを見た。あの光景は今でも忘れられないよ。その後、他の乗組員が降りていく中、俺は格納庫に仕舞われた俺の愛機の横に行ったんだ。そして、最期はその横で沈んだんだ」

「・・・」

 

 あきづきは静かにそれを聴いていた。

 

「まあ、そこから何故か転移を繰り返して、今に至るんだがな。すこし重かったかな?」

「あ、いいえ大丈夫です。ありがとうございました」

 

 あきづきは俺に一礼して執務室を出て行った。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

 あきづきの出て行った執務室。

 提督は、執務机引き出しから二枚の写真を取り出した。

 一枚は、提督が家族と写っている写真。

 もう一枚は、ある軍艦を写した写真。

 どちらも古びて焼けている。

 提督は、その写真を少し眺めた後、仕舞った。

 そして、机の上に置いてある。製作途中の模型の最後の部品を取り付け、展示ケースに仕舞い、執務室から出て行った。

 執務室から見える空は赤く染まり、海には夕日が沈みかけていた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

ー???????ー

 

 夜に静まり返った港から一隻の船が動き出した。

 当直で居たはずの乗組員は全員、埠頭へ降ろされている。

 船内は、小さな人らしきものがうろちょろと動き回り、艦橋の中心では一人の少女が指示を飛ばしている。

 

 

 

「両舷最微速!目標!青ヶ鳥鎮守府!」

 




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第十六話「決別」

「司令官、大本営から手紙です」

 

 七月ももうすぐ折り返し地点となったある日。

 執務室で菅野と話していると、吹雪が大本営からの手紙を届けに来た。

 

「ありがとう。内容は見ずとも分かるが、とりあえず見るか」

 

 手紙の封を空けその場に広げる。

 菅野と吹雪も手紙の中身を覗く。

 手紙の中身には、

 

『青ヶ鳥鎮守府 宮島 清鶴中佐

 大至急、大本営へ出頭されたし。

 「あきづき型護衛艦あきづき」も連れてくること

 大本営』

 

 と、書かれていた。

 

「どう言うことだよ。提督」

「司令官?」

「ああ、これか?この前、大本営に行った時に幹部の奴らといろいろあってな」アハハッ

「どうせ、お前が幹部の奴らの言い様に切れたんだろ」

「いや、俺じゃなくてな...」

「私ですよ。皆さん」

「あきづき...」

 

 あきづきは静かに執務机の横にやって来た。

 そして、大本営からの手紙を手に取った。

 

「提督」

「はい?」

「ここまでしつこい大本営とは一度、きっちりとけりを付けたら?」

「...そうだな」

 

 俺は席を立ち、窓から外を見つめた。

 

「吹雪、あきづき」

『はい!』

「これより本土へ向かう。場所は東京の大本営だ。吹雪とあきづきは護衛として同行してくれ」

『了解!』

 

 吹雪達は艦の準備のために出て行った。

 

「菅野」

「何だ?」

「菅野は俺の艤装に乗り込んでおけ。もしかしたら、幹部の奴らにチンピラと同じように急降下かますことになるかもな」

「了解だ」

 

 菅野は先に行ってしまった。

 俺も引き出しから、二枚の写真を持ち、吹雪達のもとへ向かった。

 

ー本土・大本営、会議室前ー

 

「ふぅ」

 

 俺は、横浜港で吹雪の艦から降りた。あきづきと吹雪の艦を沖に移動して、俺と吹雪、あきづきは大本営に来ていた。

 

「失礼します」

「どうぞ」

 

 俺は、この前と同じ会議室に入った。

 中には、この前と同じ幹部の奴らが座っていた。違う点といえば、後ろにSPがいることだけだった。

 

「やあ、久しぶりだね君」

 

 幹部はニヤリと笑った。

 

「前回、君の鎮守府の()()の内の一つ。あきづきが私達に逆らったな」

「そうですね」

「だからね、今回はその罰を与えようと思って呼んだ訳だよ」

「そうですか。で、その罰というのは?」

「あきづきと君をあきづきの艦ごと自沈処分にするんだよ」

 

 そう言って幹部は椅子にドカっと座りなおす。

 

「と思ったが、君は有能だから、そこに居る()()を君の代わりにあきづきと自沈処分にするがな」

 

 今度はワハハと笑った。

 吹雪は顔を青くしている。

 俺も自然に拳に力が入る。

 

「まあ、あきづきは、もう一回あきづき型を建造すればいいし、吹雪は君がもう一回建造で()()()()()()()()?」

 

 今度は皆で笑い出した。

 

「さあ、そこの()()()()()の艦をさっさt」

「いい加減にしろやぁ!」

 

ドッカン!!

 

『?!』

 

 幹部たちは驚いた相している。SPは拳銃に手をかけはじめた。

 

「何が、もう一回造る?建造で出せばいいだぁ?!ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

 

 SP達はもう拳銃をいつでも抜ける体制に入った。

 

「おめぇらにとっちゃぁ、建造すればいいだけかもしれねぇけどよ!俺にとっちゃぁ、大切な仲間で、家族で、」

 

 俺は艤装展開の準備に入る。

 SPも拳銃を持つ手に力を入れる。

 

「愛すべき奴なんだよ!」

 

 その言葉と共に俺は艤装を展開。

 それと同時にSPが拳銃を抜き、構える。

 しかし、それは弾かれた。

 あきづきがアスロックを発射。全てを拳銃に当て、拳銃を破壊した。

 その場に居たSPは無力化された。

 俺は、弓矢を先ほどまで喋っていた幹部に向けた。矢は菅野機を示すもので、まだ矢だがプロペラ音が聞こえている。

 

「うちの鎮守府は、現在を持って、実質上の独立した鎮守府として経営していく。指示は他の鎮守府を通すかしてくれ」

 

 矢を矢筒に仕舞い、怯えた幹部達にチャフを発射させて、俺達は会議室を出た。

 

ー大本営、廊下ー

 

「ありがとうな、あきづき。そして、ごめん!吹雪。怖かっただろう?」

「いいえ!司令官があんなに私達を想っていてくれて、嬉しかったです」

「あはは」///

 

 話しながら出口へ向かっていると、突然、あきづきが何かに気付いたのか、手で通せんぼをする。

 

「ん?どうした?あきづき」

「追っ手が来ます!」

「何?!」

 

 追っては先ほどのSPと同じ数ほどだった。

 俺は咄嗟に吹雪を背に隠し、矢を一本手に取る。

 あきづきは艦砲、CIWSを敵に向け構える。

 

「来た!」

「おとなしくしろ!そいつらを引き渡せ!」

「全ミサイル、発射!CIWS、127mm単装砲!うち~かた~始め!」

「菅野隊、発艦始め!」

 

 あきづきから出たミサイルは敵の拳銃を打ち落とした。しかし、数発は艦砲、CIWSともども防御盾に遮られる。

 菅野隊も少し相手の気を紛らわす程度にしか出来なかった。

 あきづきはミサイルの充填に時間がかかり、廊下内では菅野隊ぐらいしか航空機を展開できなかった。

 何も出来なくなった俺らに敵は盾の後ろから拳銃を取り出し、構えた。

 そのとき、

 

「シースパロー、アスロック、発射!」

 

 俺らの後ろから数本のミサイルが飛ぶ。

 ミサイルは今度こそ、全ての拳銃を打ち落とした。

 俺らは、煙幕を張り、その場から立ち去った。

 その先には、ミサイルを放ったであろう、一人の艦娘がいた。

 

「お前は?」

「たかなみさん!」

「どーも!たかなみ型護衛艦の一番艦、たかなみです!汎用型護衛艦の完成型の力、特とごらんあれ!」

 

 俺たちはたかなみを仲間に加え、港へ急いだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 港からそれぞれの艦に乗った俺たちを、金剛と赤城が迎えた。

 話によると、吹雪が無線で金剛たちに応援を頼んだんだとか。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

 伊豆諸島沖の海上を赤城を中心に進む艦隊があった。

 赤城の前方を吹雪が進み、後方を金剛が進んでいる。

 赤城の左右を守るは、大戦後に生まれた。日本の護衛艦、あきづきとたかなみだった。

 この艦隊は、自分の仲間が家族が待つ、母港()へ進んでいる。

 




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-第三章予告-
 さてさて、大本営から実質上の独立を宣言し、艦娘化した護衛艦「あきづき」「たかなみ」を迎えた青ヶ鳥鎮守府。
 そんな中、提督達は呉で行われる、観艦式に出るはずだった...。
 そんな提督達が呉で見たものは?


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番外編「祝!お気に入り登録者、10人突破記念」

 この作品「艦これ-提督と艦娘の鎮守府物語-改」が
 お気に入り登録者が10人を突破しました!
 気付けば20人超えてたんですがね...
 ということで、2016/07/17まで実施していた。
 アンケートの回答回です。
 今回は、台詞の前に名前があります。

 それでは、どうぞ!


 ここは、お昼の食堂。

 そこの一角に、提督と吹雪、あきづきと瑞鶴が居た。

 

提督「と言うことで、祝!お気に入り登録者10人突破記念!!」

 

艦娘一同『『いぇ~い!』』

 

提督「今回は、この小説の作者って言う奴から、質問を預かっている」

 

瑞鶴「提督さん」

 

提督「ん?どうした瑞鶴」

 

瑞鶴「どうして、私達だけなの?」

 

提督「それは、ここにいる奴らだけが、質問が届いてるからだ。吹雪は付き添いだが」

 

瑞鶴「そうなんだ」

 

提督「では、最初の質問は...俺か」

 

質問:宮島さんへ、宮島さんは戦闘に参加する時もあると思いますが被弾したら艦娘達と一緒に入渠するのですか??

 

提督「お答えしましょう!」

 

提督「先ず、この世界は艦を操って、深海棲艦との戦闘をするので被弾して入渠するのは艦のほうなんだ」

 

提督「しかし、戦闘に参加して被弾した艦に該当する艦娘は、帰投後に風呂に入る決まりになっている」

 

提督「確か、この前に瑞鶴と加賀と一緒に、近海に出撃したとき、運悪く一緒に被弾したんだ」

 

瑞鶴「!!!」///

 

加賀「!!!」///(食堂で聞いてる)

 

提督「そのときの、風呂に入るとき、瑞鶴と加賀に引きずられて、一緒に入ることになったっけ」

 

提督「別にやましいことは無かったけどな」

 

吹雪「そうだったんですね(今度、司令官を誘ってみようかな...///)」

 

提督「では、Next!!」

 

質問:あきづきちゃんは演習で恐らくアスロックなど使うと思いますがそれって無双しませんか??

 

提督「それでは、あきづき。どうぞ!」

 

あきづき「アスロックってVLA対潜ミサイルのことですか?他には、ESSM対空ミサイルと90式対艦ミサイル127mm単装砲とCIWS 20mm機関砲、3連装短魚雷あと、SH-60K哨戒ヘリですね」

 

あきづき「この装備は艦娘でない現用艦船が使うには深海棲艦と艦娘の皆さんには効きません。

     しかし、艦娘になった今の私やたかなみさんは深海棲艦や艦娘の皆さんにこの装備の攻撃が効きます」

 

あきづき「なので、演習や戦闘のときは無双できますね」

 

提督「まあ、そんな事分かりきったことだから、他の鎮守府との演習のときは普通の艦隊で行っているけどな」

 

あきづき「ちなみにSH60はヘリなので他の空母の方と一緒で制空権確保後でないと使えませんが...」

 

提督「では、Next!!」

 

質問:瑞鶴は爆撃数2回ですが爆撃した時の心境は???

 

提督「それでは、瑞鶴。どうぞ!」

 

瑞鶴「あんなの当然の結果よスッキリした気分になったわ。

   第一、何でぶつかったら私の胸に手があるのよ?」

 

提督「さあ?瑞鶴がぶつかって倒れる間に俺の手を胸に当ててるんじゃないの」アハハ

 

ピキッ!

 

瑞鶴「稼動全機発艦、始め!」ユミカマエ

 

提督「あわわ!ちょっと待って!ちょっと待って!」ギソウテンカイ

 

瑞鶴「問答無用!行け!艦載機!」

 

ドン!ドン!

 

瑞鶴「!!」

 

瑞鶴「誰!私の艦載機を落としたの!」

 

加賀「やりました」

 

瑞鶴「コノ~!」

 

提督「あ!ちょっと待って!瑞鶴!」

 

 

 

提督「行っちゃった...」

 

吹雪(私がぶつかってもそうなるのかな...///)

 

提督「まあ、いいか」

 

提督「そう言えば、あきづき」

 

あきづき「何ですか?」

 

提督「あきづきは何でたかなみや吹雪にさん付けするんだ?」

 

あきづき「それは、吹雪さんは駆逐艦(軍艦)や艦娘の大先輩だからですよ。

     たかなみさんは護衛艦の先輩だからです。

     他の艦娘も大先輩だからさん付けです」

 

提督「そうだったんだ。ありがとう」

 

提督「では、解散」

 

 ◇ ◆ ◇

 

ー鎮守府・本庁舎、廊下ー

 

吹雪「司令官!」

 

提督「ん?どうしt」

 

ドン!

 

提督「うわ!」

 

 吹雪が提督にぶつかった。

 提督は吹雪に押し倒されるように倒れた。

 

吹雪(よし!)

 

提督「大丈夫か吹雪」

 

吹雪「はい」///

 

提督「ふぁ!」

 

 提督は吹雪の胸に手が触れていることに気付いたのではなく...

 

提督(近い近い!顔が近い!)

 

吹雪(司令官の顔がすぐ近くに...///)

 

―――――金剛「キスぐらい奪ってくるネ!」

 

吹雪(このまま...)

 

 吹雪は目を瞑り、顔を近づける。

 提督もそれを受け止める体制に入る。

 そんな時。

 

あきづき「提督!瑞鶴さんと加賀さんが...って大丈夫ですか!」

 

 あきづきの登場により、吹雪のチャンスは逃げたのだった。

 




 いかがでしたか?

 アンケートに参加してくださった方。
 ありがとうございます!

 書いていて楽しかったので、
 またの機会に書きたいかなっと思います。

 では、本編もお楽しみに!


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第三章
第十七話「吹雪と提督-呉鎮守府へ-」


 今回から第三章。
 そして、ニューヨーク様とのコラボです。

 ニューヨーク様作:「-瑞の約束-」
 https://novel.syosetu.org/75246/


「行くぞ!吹雪!」

「はい!」

 

 夕方の鎮守府にガタゴトと物を運ぶ音が響く。

 埠頭には、吹雪、夕立、時雨、神通、金剛、赤城の艦が泊まっている。

 

「全員そろったな?」

『はい』

「それでは、これより呉での観艦式参加のために出撃する。ここから真っ直ぐに呉に向かい、それぞれの艦内で一泊し、翌朝に呉鎮守府に入港。俺と吹雪で向こうの提督に挨拶するために先に艦を降りる。挨拶が終ったら各自降りてきていいぞ。何か質問は?」

「はい」

 

 赤城が手を挙げた。

 

「どうぞ」

「観艦式後の行動は?」

「観艦式後は、一日あっちに滞在する。その間は、食べたいもの食べたりしていいぞ」

 

 赤城は静かにガッツポーズをしていた。何か食べたいものでもあるのだろう。

 

「よし、では出発しよう」

 

 各自、艦に乗り始め、吹雪から順に埠頭を出発していった。

 

ー洋上ー

 

 俺は吹雪の艦尾、第三砲塔付近で日向ぼっこをしていた。

 

「よう、宮島。空が飛べなくて暇か?」

「ああ、菅野か...。そうだな~」

 

 俺は菅野の姿を見て再び日向ぼっこに戻る...が、あることに気付いた。

 

「って、空?」

「ああ、そうだよ空。お前、艦載機乗りだろう?」

「何で、知ってるんだよ」

「だって、お前があきづきに話している時、俺はお前の執務机にある模型の紫電改を磨いていたんだからな」

 

 そう言って菅野は、俺の隣に寝転がった。

 

「まさか、お前が『瑞鶴』に乗って空を飛び回っていた艦載機乗りだったとはな...。『瑞鶴』ってことは、岩本さんと一緒だったんだろ?どうだったんだ?」

「岩本さんか?岩本さんはまさに『瑞鶴』の守護神に相応しい方だったな。体を動かすことが好きらしくて、よく体を動かしていたな。あ、でも、アリューシャンからは転属で『瑞鶴』から降りちゃったんだっけ」

「そうか。出来れば会ってみたいな...」

「呉に居たらいいけどな。そう言えば...」

「ん?どうした?」

「もう一人、すごい天才肌で旋転戦法やひねりをてきとうにやったで片付けるぐらいの奴がいたな。で、確かそいつは、まだ艦だった瑞鶴によく話しかけてたっけ」

「ふ~ん。なら、そいつがこの世界に居たら、今頃瑞鶴とイチャコラしてるだろうな」

「そうかもな」

 

 そう言って、菅野と雑談を続けた。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

「はっくしょん!」

「大丈夫?要さん?」

「ああ、ちょっと風邪引いたのかな」あはは

「もう、気をつけてよ!」

 

 吹雪の艦尾で菅野と雑談をしている提督とは違った世界にある、午後の呉鎮守府執務室。

 そこでは、戦闘服に身を包んだ、サファイアブルーの瞳の男と、ツインテールが特徴の空母艦娘が恋人のように話していた。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

 

「司令官。そろそろ寝ましょうか」

「そうだな」

 

 夜の駆逐艦吹雪の艦内。俺と吹雪は艦橋に当直の妖精を残し、艦長室へ向かった。

 吹雪の艦長室は、端に畳が敷かれてそこに一枚の布団が敷かれてあった。近くにはぬいぐるみが置かれている。

 

「相変わらずだな。ここは」

「あはは」

「しかし、何で布団が一枚だけなんだ?」

「あ、もう一枚はこの前降ろしてしまって...」(嘘ですけど)

「そうか。なら、俺はソファーに座るから、吹雪は布団にn」

「一緒に寝ませんか?」///

「ふぁ?!」

 

 吹雪の突然の誘いに驚いた。吹雪は顔を赤らめている。

 

「べ、べ、別に俺は良いが...」///

「そうですか。じゃあ、寝ましょう」///

「はい」///

 

 そう言って、俺たちは布団に入る。布団は狭く、結構身体が密着する。

 

「だ、大丈夫か?吹雪」///

「はい」///

(保ってくれよ。俺の理性...)

 

 布団に入って数分後、吹雪はすぐに寝てしまった。

 吹雪の静かな寝息に耳をくすぐられながら、俺は眠りについた。

 

 

 

 海上を輪形陣で進む青ヶ鳥鎮守府の艦隊。その艦隊は静かにスコールに突っ込んで行った。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

~翌朝~

 

「おはようございます。司令官」///

「ああ、おはよう吹雪」///

 

 昨日のことを思い出し、顔が赤くなる(やましいことはありませんよ)。

 妖精たちは甲板に出て、艦の掃除をし始めている。

 

「まもなく、呉鎮守府に到着しますよ!」

「了解。陣形を輪形陣から単縦陣に変更し、呉鎮守府に入港」

「了解」

 

 艦隊は、徐々に一列に形を変えて、呉の島々を通っていく。

 そして、呉鎮守府の港が見えてきた。

 しかし、そんな呉港に違和感を覚えた。

 見たこと無い現用艦艇があるのだ。

 

「あんな艦。日本にあったかな?」

「たぶん、新造艦なんですよ!」

「そうかな」

 

 俺の疑問をよそに、6隻の艦船は埠頭に接岸する。

 俺と吹雪は、呉の提督に挨拶をするために、吹雪の艦を降りる。

 

ー呉鎮守府・本庁舎・廊下ー

 

「司令官?」

「ん?何だ?」

「ここの司令官ってどんな方なんですか?」

「さあ。俺も知らないな」

 

 吹雪とそんな会話をしていると、執務室の扉の前に着いた。

 

(んお?見ない顔だね。しかし、あいつと同じ匂いがするなこいつ)

コンコン

「どうぞ」

「失礼します。青ヶ鳥鎮守府から来ました」

「ん?青ヶ鳥?どこだそこ」

「いや、東京の先にある島ですけどって、あなたは!」

 

 執務席には、戦闘服に身を包み、サファイアブルーの瞳を持った、かつての同僚が瑞鶴とパンフレットなどを広げながら話していた。

 

「司令官、知り合いなんですか?」

「ああ。この人は、鞍馬 要。通称、ゼロの撃墜王」

「そうだが...あんたは?」

「俺は、宮島 清鶴。真珠湾からエンガノ岬まで空母『瑞鶴』の艦載機乗りとして戦った者だ」

 




 この話の次は、-瑞の約束-で閲覧できます。

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第十八話「吹雪と提督-こちら宮島、吹雪に告ぐ-」

 今話もニューヨーク様との作品「ー瑞の約束ー」
 (https://novel.syosetu.org/75246/)
 とのコラボです。


「着いたぞ、お二人さん?」

『?!』///

 

 どうやら、吹雪と二人で顔を赤くしていたらしい。

 俺達は車から降り、大和ミュージアムへ向かう。

 

~大和ひろば~

 

「じゃあ、ここからは各自で見ようか」

「だな」

「行きましょう。翔さん♪」

「お、おう」///

 

 間宮達は砂糖を振りまきながら展示へと向かっていった。

 

「そんじゃあ、俺達も行くか」

「そうね」

「また後でな」

 

 続いて、鞍馬達も展示を見に向かった。

 

「俺らも行くか」

「はい!」

 

ー宮島&吹雪sideー

 

~零戦六二型前~

 

「零戦六二型か」

「五二型に爆弾投下装置を設置したものだそうだ」

「俺らは開発前に海の中に行ったからな、見たことも無いな」

 

 鞍馬達と間宮達もやって来た。

 

「五二型は二一型よりも運動性能が落ちたんだっけか」

「航続距離も落ちたな」

「乗ったときは少し動きが鈍ってたから驚きましたよ」

 

 その後も、飛行兵曹時代の話が続いた。

 翔鶴、瑞鶴は話についていけたが、吹雪は少し置いて行かれていた。

 

~2F模型大和が見える場所~

 

「司令官!大和が見渡せますよ!」

「そうだな」

「大きいですね~」

「模型なのに迫力たっぷりだしな」

 

~3F大和シアター~

 

「大和の潜水調査だって!」

「ふ~ん。吹雪見るか?」

「はい!」

「そうか、じゃあ俺は外に居るから見終ったら出て来いよ。土産を選びに行こう」

「分かりました」

 

~3F大和を見下ろせる場所~

 

「ふぅ~」

 

 俺は大和を上から眺めていた。

 

「宮島」

「鞍馬。瑞鶴は?」

「シアターで映像を見てる」

「間宮は?」

「翔鶴とべったりと一緒に」

「そうですか」

 

 再び、大和へ視線を戻す。

 

「いつも見ていた光景だな」

「ああ。大和じゃなくて瑞鶴だが」

 

 静かな時間が過ぎる。

 

「鞍馬」

「?何だ?」

「ちょっと頼みたいことがあt」

「トイレ、トイレっと、って何やってんだ?」

 

・・・鞍馬、間宮へ説明中・・・

 

「という訳だ」

「なるほど、面白いな」

「力になろう」

「ありがとう」

 

 俺らは映像を見ている吹雪達を連れて、ミュージアムショップに向かった。

 

~ミュージアムショップ~

 

「お!この模型いいな」

「司令官!」

「ん?」

「この零戦のマグネット可愛いです!」

「ほしいのか?」

「はい!」

「じゃあ、かごに入れといて」

「はい!」

 

 その後も限定カレーなど、土産物を買ってショップを出た。

 

「よし、今度は我が連合海軍の軍艦が見える公園にいこう」

 

~アレイからすこじま~

 

「おぉーすごいな」

「あれは空母「翔鶴」。艦載数は90機強、アングルドデッキで、装甲甲板。全長400m、チート級の世界最大空母だ」

「でかいですね!」

「それに比べて、瑞鶴はちいs」

 

ギィ~

 

「えっ、ちょ待って!瑞鶴!謝るからその弓矢を下ろせ!」

「まったく、要さんは」ユミオロシ

 

 皆で笑った後、また軍艦を見始めた。

 

トットットン トットットン トットットン

 

 俺は計って鞍馬達に信号を送った。

 鞍馬達も信号を返してくる。

 

「吹雪」

「はい?」

「俺ら少し用事を済ましてくるから、ここで待っててくれないか?」

「いいですよ」

「瑞鶴は?」

「私はここで待ってる」

「翔鶴は?」

「私は翔さんについて行きます」

「そうか」

 

 じゃあっと言って、四人は公園を出た。

 

~空母「翔鶴」飛行甲板~

 

 昼の「翔鶴」甲板上。そこには零戦二一型の明灰白色に白の帯を二本、『鶴』のマーキングを輝かせた鞍馬機と、白の帯を一本輝かせた間宮機が止まっていた。

 そこに、もう一機、二本の帯を輝かせた零戦二一型が着艦した。

 

「お待たせ。これが俺の愛機だ」

「海から引き上げたのか?」

「いや、こいつは俺と一緒にここまで転移してきたんだ」

「ほ~」

 

 鞍馬は宮島機の内部を覗き込む。

 

「お!懐かしいものめっけ!」

「ん?...!?お、ちょまって!」

 

 鞍馬が手に持っていたのは、駆逐艦「吹雪」を写した古びた写真だった。

 

「まだ持ってたのか」

「だ、だめかよ!」///

「いいや。やっぱお前、吹雪を愛してんだなっと」

「ま、まあな」///

「よし、惚気はそこまでにして...」

『今日のお前には言えんだろが!!』

「お、おう。まあ、やるか!」

 

 三人はそれぞれの零戦に乗り込んだ。

 

ー一方、吹雪・瑞鶴ー

 

「吹雪ちゃん?」

「はい?」

「宮島さんのこと、どう思ってるの?」

「はひぃ?!」///

「ほら、好きとか嫌いとか」

「え~っと、好き...です」//////マッカッカ

 

 瑞鶴は柵によりかかった。

 

「そう。なら、宮島さんも良かったんじゃない」

「?」

「宮島さんね、実は要さんと同じで私の艦載機乗りだったの」

「そうなんですか!」

「ええ、そうよ。要さん達は《海底干渉》で再びこの呉の地を踏みしめてるけどね」

「司令官は?」

「それが分からないのよね。あなた達がここに来た様に、っと話を戻すね」

「はい」

「だけどね、宮島さん本当は私よりも守りたい娘がいたの」

「誰ですか?」

「あなたよ」

「私?」

 

 公園内を涼しい風が吹き抜ける。

 

「そう。宮島さんずっと大切にあなたの艦の写真を持ってた。『きっといつか、お前を守ってやる』って、要さんが私に話しかけたようにね」

「・・・」

「だからあなたが沈んだとき、宮島さんすっごく悲しそうで悔しそうだった。その後の空戦のときは今までで自己最高撃墜記録を出して、皆に褒められたんだけど顔はまだ悔しそうだった」

「・・・」

「そんだけ、愛してたってことね。きっと」

 

 その時、「翔鶴」から零戦が3機飛び立った。

 

「ん?あの二本帯に『鶴』のマーキングは要さん、二本帯だけのは宮島さんの?あれは一本だから...間宮さん?」

 

 3機の零戦は上空でブルーインパルスのようなパフォーマンスを見せた。

 吹雪の周りにいた人も足を止めて上を見上げている。

 一通り終った後、鞍馬、間宮機は宮島機から離れていった。

 その時、吹雪に無線が入った。

 

『こちら宮島、吹雪に告ぐ』

「はい」

『どうだった?』

「かっこよかったです!」

『そうか』

「司令官が艦載機乗りだったのは本当ですか?」

『ああ、そうだ。俺は「瑞鶴」の直掩隊だった』

 

 宮島は一息置く。

 

『しかし、一番直掩として守りたかったのは、吹雪。お前だ』

「!!」

『あの戦争で俺はお前を守れなかった。でも、またこうして出会えた』

「・・・」

『だからこそ!今度は絶対に俺がお前を守る!沈めたりなんかさせない!』

「・・・」(涙)

『吹雪。俺は、お前が好きだ。付き合ってくれ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします!司令官!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!ドン!

 

「ん?あれは、三号爆弾!?」

 

 三号爆弾それは、三式弾のようなもので、空中で爆弾が分散するものだ。

 鞍馬と間宮はそれを花火のように落としていた。

 

ー数十分後ー

 

「吹雪!」

「司令官!」

 

 吹雪は俺に抱き付いてきた。

 

「改めて、よろしく!吹雪!」

「はい!こちらこそ!司令官!」

「宮島は鶴さんって呼ばれているから、鶴さんって呼んでやれ」

「そうなんですか。では、鶴さん!」

「お、おう」///

 

 

 空母とほとんど無縁だった駆逐艦とそんな駆逐艦に恋した艦載機乗りが結ばれた。

 




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第十九話「青ヶ鳥と連合海軍-提督、大変です!-」

 今回も「ー瑞の約束ー」
 (https://novel.syosetu.org/75246/)
 とのコラボです。


―――――夢の中―――――

 

―――――提督?

 

(ん?時雨か?)

 

―――――夕立達のこと、忘れてるっぽい?

 

(今度は夕立?忘れてるって...)

 

ドン!

 

『!?』

 

 吹雪への告白から次の日の06:00。

 俺と吹雪は鞍馬の勧めで()()で呉鎮守府の一室を借り、一泊した。

 吹雪も驚いたように飛び起き音のした方を見つめている。

 

「提督!」

「吹雪ちゃん!」

『私達の事、忘れてない?!』

 

 夕立と時雨が扉の前に立っていた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 部屋の端に置かれたソファーに対面する形で4人は座った。

 

「提督、僕達の事忘れてたの?」

「いや、そういうわけでは...」アセ

「呉に到着してから、一日音信不通だったっぽい!」

「だから、いろいろあったというか」アセ

「三号爆弾の爆発音がしてたりしたけど?」

 

 二人は徐々に顔を寄せてきた。

 

「分かった。説明するから、待て」

 

・・・宮島、説明中・・・

 

「そういう事だったんだね」

 

 時雨が頷きながら言った。

 

「ああ、だから観艦式は無しだ。代わりに呉でも観光してきてもらおうと思ってな」

「それなら、神通さん達はもう先に街に出掛けちゃったっぽい」

「えっ?」

「『呉に来て、一日経ったんで、観光のために街に出てもいいだろう』って言って行っちゃったよ。ガイドブック片手に」

 

 行動力に驚きながらも、なんとなくその気持ちは分かった。

 なんせ、青ヶ鳥の艦娘はほとんど本土へは行った事が無いのだからな。

 

「分かった。君達も行ってきていいよ」

『本当?!』

 

 二人の目がキラキラになった。

 

「ああ。せっかくの呉なんだから、楽しんでおいで」

『ありがとう!提督(さん)!』

 

 二人はウキウキした様子で部屋を出て行った。

 

「鶴さん」

 

 今まで半分空気になってしまっていた、吹雪が声を掛けてきた。

 

「ん?どうした吹雪」

「大丈夫ですか。夕立ちゃん達」

「大丈夫だろう。もしものために艦載機は飛ばしとくけど」

 

 そう言って俺はソファーから立ち空いている窓へ向けて、矢を放った。

 矢は零戦に姿を変え、上空へ向かう。

 

「さて、執務室に行こうか」

「はい!」

 

 俺は吹雪と身だしなみを整え、執務室に向かう事にした。

 

ー廊下ー

 

 俺は吹雪と執務室を目指していた。

 

「夢に神通が?」

「はい。それで『私達のこと忘れてませんか』って」

「俺の夢には時雨と夕立が来たぞ」

「そうなんですか」

 

 そんな事を話していると、執務室が見えてきた。

 

ー執務室ー

 

『失礼します』

「おお、宮島。どうした」

「鞍馬、実は...」

「ん?」

 

・・・宮島、説明中その2・・・

 

「あ?艦を見に行く?」

「ああ」

 

 執務椅子に腰を掛け、鞍馬ははてなマークを浮かべている。

 瑞鶴もソファーで同じ状態になっている。

 

「俺らが居た世界では、深海棲艦との戦闘は太平洋戦争時の艦艇を使用して行っていたんだ。だからここに来るにも艦に乗ってきた」

 

 鞍馬達の顔が在りし日の軍艦を思い浮かべているような顔になる。

 鞍馬はその後、子供のようにわくわくした表情になる。

 

「大和ミュージアムや空母「翔鶴」のお礼として紹介しようと思うんd」

「見に行こう」

「即答?!」

 

 鞍馬の即答で全員で見に行く事になった。

 

ー呉鎮守府埠頭ー

 

 朝日に照らされる呉鎮守府の埠頭。

 そこには、観艦式艦隊として連れてきた艦が静かに泊まっていた。

 前にはそれぞれの艦娘は吹雪以外は街に行ってしまっている。

 

「久しぶりに見たなこいつら」

 

 鞍馬は時雨の艦を見上げながらそんな事を言った。

 

「懐かしいだろう?」

「ああ。またこの目で見る事が出来て嬉しいな」

「要さん、何か来たよ」

 

 瑞鶴が沖を指差しながら鞍馬を呼んだ。

 沖からは今では見慣れた現用艦がこちらに向かってきている。

 

「ん?あれは...あきづき?」

 

 あきづきは艦番号である、115を消し、両舷に「あきづき」と書かれた船体で埠頭に接岸した。

 そこから一人の艦娘が降りてくる。

 

「提督!大変です!」

 

 あきづきが慌てた様子でこちらにやってくる。

 

「鎮守府の近海に不振な人工島が、それにカレンダーとかも...ってこの方は?」

 

 あきづきは説明を始めるが、鞍馬を見ると首を傾げた。

 

「ここの提督だが?」

「え?呉の提督は別の方だったはずじゃ...」

『あっ』

 

 そこで、俺と鞍馬はなんとなく察した。

 

「宮島、これは」

「おそらく、完全に転移したな」

「えっ、えっ?どう言うことですか?」

 

 あきづきはなんとなく分かったいるようだが、まだ、疑問が残っているようだった。

 

「俺は、観艦式参加組と共に呉に来る途中に転移した。これを半転移とする。そして、今朝になってあきづきが島が転移してきたことを伝えに来た。つまり」

「完全に転移した。ってとこですね?」

 

 あきづきが納得したように手を叩いた。

 

「どうするんだ?宮島?」

「とりあえず、島まで転移したとすると、もとの世界に帰る術は無くなったから、こっちの世界で生活してくしか無いな」

 

 それを聞いた吹雪が不安げな表情になる。

 俺は吹雪の肩に手を置き、

 

「大丈夫だ。この世界は俺が生きた世界だ。どうにかなるだろう」

 

 と、声を掛けた。

 吹雪の表情が少し晴れた。

 

「宮島、この世界について説明するから、執務室に行こう」

「分かった」

 

 俺は鞍馬に続いて庁舎へ向かった。

 

「あの、瑞鶴さん」

「ん?どうしたの?吹雪ちゃん」

「さっきの話もう一度教えてくれませんか?」

「いいよ」

 

 その後ろを、吹雪、瑞鶴、あきづきも続いて行った。




 続きはニューヨーク様の「ー瑞の約束ー」で
 閲覧できます。

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第二十話「青ヶ鳥と連合海軍-鶴と雪のひと時-」

 ニューヨーク様の「ー瑞の約束ー」
 (https://novel.syosetu.org/75246/)
 とのコラボ最終話です。


「それじゃあ、お世話になりました」

 

 そう言って、鞍馬に礼をする。

 

「おう。なんかあったらよろしくな」

 

 鞍馬と軽く握手を交わし、吹雪のタラップに足をかける。

 

 

「へぇ~これが、あきづきちゃんの艦なんだ~」

「はい」

 

 瑞鶴はあきづきの艦を見上げている。

 

「ほんと、現用艦だね」

「そう言えば、何で舷側に名前が大きく書かれてんだ?」

 

 鞍馬はあきづきに質問をした。

 確かに、普通の現用艦艇だと船首部分に艦番号、艦名は船尾に書かれるはずである。

 

「それは、呉に向かうとき、塗装がそのままだと間違えられる可能性もあるからと、工廠で軽く変更してきたんです」

「なるほど」

 

 あきづきもタラップを上り、甲板へ向かう。

 

 

「全艦、出航!」

 

 吹雪の指令後、埠頭に泊まっている、青ヶ鳥の艦隊全艦が動き出す。

 

「では!」

 

 俺は埠頭の鞍馬達に向けて敬礼をする。

 鞍馬達も敬礼を返し、その後こちらへ手を振る。

 

 艦隊は呉を離れていった。

 

ー呉→青ヶ鳥 洋上ー

 

 呉をお昼に出航した艦隊は洋上で一泊を過ごし、明日の昼に青ヶ鳥に戻る。

 現在は夜の20:00当直を残した就寝時間まで後一時間だ。

 甲板で夜の風に当たっていると吹雪がやって来た。

 

「お疲れ、吹雪」

「鶴さんこそ、お疲れ様です!」

 

 吹雪は俺が座っている横に座り、一緒に風に当たり始めた。

 

「風が気持ちいですね」

「ああ」

 

 しばしの沈黙が流れる。

 

「あのっ!」

「ん?」

 

 それを破ったのは吹雪だった。

 

「どうして、私なんかを好きになったんですか?」

 

 それは、吹雪にとっての疑問だった。

 

「艦載機乗りなら、戦闘機を好きになるか、艦艇でも空母のほうが好きになるのでは何ですか?」

「いや、違うな」

 

 俺は、それを否定した。

 

「確かに、空母も好きだが、それよりその空母や戦艦の周りで護衛する駆逐艦が俺は好きだった。何か、縁の下の力持ちみたいな感じがしたんだ」

 

 それを聞いて少し照れる表情を吹雪は見せた。

 

「で、吹雪を好きになった理由だが、あれは確か...」

 

 あれは、1940年10月11日の事。

 その日は、紀元二千六百年特別観艦式の日だった。

 俺はその観艦式で小沢さんの指揮する航空隊の一機として参加した。

 会場上空を飛行していたその時、俺の目に吹雪が映った。

 第二列の最後尾を進む姿は今でも覚えている。

 

「その時、一瞬、『こいつを見るのはこれが最後になるかもしれない』『こいつの上空を飛ぶのは最後かもしれない』っと思ったんだ」

「・・・」

 

 吹雪は静かに聴いている。

 

「だから、いろいろな手を使って、こいつを手に入れたんだ」

 

 そう言って、吹雪の写真を見せる。

 

「俺が瑞鶴に配属されたとき、一緒に吹雪がいる第十一駆逐隊と一航戦を組むなんて話を聞いたときには喜んだな...結局戦争のおかげで叶わなかったが」

 

 それからは俺は太平洋戦争を「瑞鶴」直掩機として真珠湾、ラバウル攻略、セイロン海と駆けまわった。

 始めはしっかりと急所を狙ってたんだが、鞍馬のやり方に感銘を受けて、できるったけ脱出時間を作る撃墜方法をやり始めた。まあ、鞍馬には敵わなかったが

 そして、あの日が来た。

 

「1942年10月11日。その日はソロモン海に向けてトラックを出撃した日だった」

 

 吹雪もその日付を聞いて顔を強張らせる。

 

「ソロモンに行くと聞いて、もしかしたら会えるかな?と思ったが、入ってきた話は吹雪の沈没だった」

 

 吹雪は静かに俯いた。

 

「俺は、吹雪を守れなかった。二年もお前を守って見せると誓い続けたのに...」

 

 心なしか涙が出てくる。

 

「でもっ!」

 

 吹雪は勢い良く顔を上げた。

 目には涙が溜まっている。

 

「この前、街に行ったとき、私を守ってくれました!」

「!?」

 

 吹雪はやわらかく微笑みながら続けた。

 

「確かにあの戦争では、守れなかったのかも知れません。でも、それならこれから守っていけば良いじゃないですか!私も、私の艦もここにあります。それに鶴さんの愛機の零戦二一型だってあります。だから」

 

 吹雪はこちらに身体ごと向いた。

 

「今度は、しっかり守ってください!」

 

 

「おう!分かった!今度こそお前を沈めやさせない!」

 

 心のもやもやが晴れた気がした。

 

「さっ。もうすぐ就寝時間だ。寝ようか」

「はい!」

 

 艦内に入る二人の後姿は何処か、晴れ晴れとしていた。

 




 これにて、ニューヨーク様とのコラボは終了となります。
 この場をお借りしてニューヨーク様にはお礼申し上げます。
 ありがとうございました。

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第二十一話「青ヶ鳥と連合海軍-独立、申請します-」

「鶴さん、もうすぐ着きますよ」

 

 吹雪は双眼鏡を下ろすと、そう言った。

 前方には懐かしの青ヶ鳥島が見える。

 ただし、違うのは、軽巡、駆逐で編成された哨戒艦隊が埠頭を出ようとしているのと、大和と長門、きりしま、らしき艦艇が埠頭の少し沖で上空を警戒している事だった。

 

「あきづきちゃんの言った通りですね」

「ああ」

 

 現在、青ヶ鳥鎮守府は近くに現れた謎の人工島を警戒して、この体制をとっている。

 俺は、通信妖精を呼び止め指示を出す。

 

「全艦に通達。我が艦隊はこれより母港に帰投する。帰投後は各自部屋で待機、艦艇は格納する事」

 

 妖精はこちらに敬礼すると、通信室に入っていった。

 艦隊の各艦が埠頭へ接岸した後、艦娘達は地上へ降りる。

 艦艇は妖精の操縦でドックへ向かって行った。

 俺と吹雪はとりあえず、執務室へ向かった。

 

ー執務室ー

 

「ふぅ~」

 

 俺は執務椅子に座り一息つく。

 吹雪も苦笑いをしながら、秘書艦の執務椅子に腰を掛ける。

 ちょうどその時、ドアをノックする音がする。

 

コンコン

 

「どうぞ~」

「失礼します」

 

 すると、四人の艦娘が姿を現す。

 その内の二人はあきづきとたかなみだ。

 他の二人はというと

 

「はじめまして!こんごう型護衛艦の二番艦、きりしまです」

 

 そう言って、きりしまと名乗る艦娘は頭を下げた。

 

「私は、おおすみ型輸送艦、一番艦のおおすみです。戦車などの海上輸送ならお任せください」

 

 そう言って、おおすみも頭を下げた。

 

「よろしく。俺はここの鎮守府の提督だ」

 

 二人と握手を交わす。

 

「それでは、これからはここが君達の定係港であり、所属だ」

 

 二人は『はい!』という返事と共に、敬礼をした。

 

「さて、あきづき」

「はい?」

 

 後ろに居たあきづきは呼びかけに答え前に出る。

 

「現在この体制を指揮してる艦娘は誰だ?」

「えっと...確か、大淀さんだったかと...」

「そうか、なら、大淀を呼んできてくれ」

「分かりました」

 

 そう言うと、あきづきは足早に執務室を出て行った。

 

「君達には先に伝えて置こう。きりしまは現在の警戒を解き艦艇を格納して、待機。他の子達も待機しといてくれ」

 

 三人は『了解』という声と共に、執務室を出て行った。

 すると、入れ違いで大淀が入ってきた。

 

「失礼します」

「ああ。大淀、留守の間ありがとな」

「いえ」

 

 大淀は手を横に振って見せた。

 

「とりあえず。この警戒態勢は終了。現在出て行った。哨戒艦隊が帰投後、通常の体制を取らせてくれ」

「分かりました」

「あと、俺は少し本土に用事がある。だから、その間も変わりに指揮を執ってくれないか?」

「了解です」

 

 大淀は敬礼をして、執務室を出て行った。

 俺も立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「鶴さん!」

「ん?何だ?」

「良ければ、私もついて行きますよ?」

 

 吹雪は心配そうな顔で言ってきた。

 

「一人で大丈夫さ。それに、向こうに何言われるか分からないし、そんなところにまた吹雪を連れて行きたくは無いからな」

 

 そう言うと吹雪は納得した表情を見せた。

 

「吹雪は睦月や夕立たちと間宮のところにでも行くといいよ。俺のつけで」

「いいんですか?」

「ああ。それと、お土産も渡しときなよ」

 

 そう言って、俺は埠頭を目指して、執務室を出た。

 

ー埠頭ー

 

 埠頭は先ほどの緊張が消え静かに俺の艦である『天城』が泊まっているだけだった。

 俺はタラップを上がり、艦橋の司令部までやってくる。

 

「両舷微速!」

 

 『天城』は静かに動き出し、埠頭を離れる。

 そして、本土へ向けて出航して行った。

 目的は連合海軍へ独立運営の意思を伝えるためである。

 

ー食堂ー

 

 私は夕立ちゃんや睦月ちゃんと食堂までやってきました。

 間宮さんにパフェを三人分頼んで席に座ります。

 

「はぁ~疲れたっぽい!」

「確かに疲れましたね」

「二人ともお疲れ様」

 

 夕立ちゃんは席に着くなり机に身体を預けダラ~っとしました。

 ちょうどその時、妖精さんがパフェを持ってきました。

 やっぱり、数人でエッホエッホっと運んでくる姿は可愛いです!

 

「「「いただきます!」」」

 

 パフェを食べ初めてから少したった後、夕立ちゃんが思い出したように聞いてきました。

 

「そう言えば、吹雪ちゃんなんで、提督さんと二人で同じ部屋に泊まってたの?」

「ふぇ?!」///

 

 身体が熱くなっていくのが分かります。

 たぶん顔も真っ赤かでしょう。

 

「そうなの、吹雪ちゃん」

「そうなんですか?吹雪さん」

「そうなの!吹雪ちゃん!」

 

 睦月ちゃんの他に食堂に居た、加賀さんと瑞鶴さんも寄ってきます。

 

「え、あ、それは、ほんとですけど...////」

 

 ほんとですけど、そんなに詰め寄らないでくださいぃ~。

 

「何でっぽい?」

「え、あ、その...」

 

 夕立ちゃんの疑問に言葉が詰まります。

 他の三人も何故か知りたいのか真剣な表情でこっちを見ています。

 

「秘書艦だから、そう!秘書艦だからです!///」

 

 そう言って、身体の熱を冷ますようにパフェを食べます。

 食べすぎて、キーンっと頭が痛くなって、もう踏んだり蹴ったりです!!

 

 その時、金剛さんが食堂に入ってきて、真っ先に私のところにやって来ました。

 

「ブッキー?提督が帰ってきたネ!迎えに行ったら?秘書艦でしょ?」

 

 その言葉にここから離れるチャンスと思った私ははじかれるように埠頭へ向かいました。

 後ろでは、金剛さんが付いていこうとした加賀さんと瑞鶴さんを引き止めています。

 

ー埠頭ー

 

 連合海軍から帰って来て、鎮守府に戻った俺を迎えたのは、吹雪だった。

 

「お帰りなさい!鶴さん」

 

 そう言って吹雪は笑顔を見せた。

 

「ああ。ただいま」

「あと、その資材、どうしたんですか?」

 

 吹雪はそう言うと俺の後ろから、工廠へ向けて運ばれる資材を指して聞いてきた。

 俺は真剣な顔をして、吹雪に伝えた。

 

「吹雪、今すぐ全艦娘を食堂へ集合させてくれ、緊急の会議だ」

 

 吹雪も真剣な顔になると敬礼をした。

 

「分かりました!」

 

 吹雪は足早に指令室へ向かった。

 俺はその姿を見送った後に手元の書類を見た。

 

「はぁ」

 

 そこに書かれた文字を見ると自然とため息が出る。

 

 俺はそのあしで食堂へと向かった。




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第二十二話「青ヶ鳥と連合海軍-新たな、作戦です-」

ワイワイガヤガヤ

 

 食堂には艦娘が全員集まっていた。

 正面には大きなホワイトボードが用意され、端には俺と吹雪が並んで座っている。

 

「あの、鶴さん」

「ん?何だ?」

 

 吹雪は小声で俺を呼んだ。

 

「緊急の会議って何ですか?」

「今から説明するから待ってくれ」

 

 俺は吹雪にそう言うと、立ち上がり皆の前に立つ。

 

「皆。いきなりですまない。今回は大事な話がある」

 

 そう言うと食堂内が静まり、全員の視線がこちらに集まる。

 

「先ず、この青ヶ鳥の周辺に起きた異常事態だが、『完全転移』が問題だ」

 

 艦娘達は周りと顔を合わせ話し合う。

 そのまま、俺は続ける。

 

「『完全転移』とは簡単に言えば、前の世界からこの世界に手にしてきたということだ。この世界にも深海棲艦が入りらしいから、特に変わったことはないかな」

「日本の状況は?」

 

 艦娘の中からそんな声が聞こえた。

 

「状況を確認したところ大本営がなくなり、連合海軍と呼ばれる団体が確認できた」

「それ以外には?」

「それ以外は問題ない」

 

 艦娘達が安堵の息を漏らしまたこちらに視線を集中させる。

 

「俺は前の大本営の一件があったため連合海軍に行き、独立運営の意向を伝えてきた。結果は独立運営を行って良いそうだ」

 

 大本営での一件での幹部の発言等は艦娘達には広まっていたため、皆喜びの声を上げる。

 

「しかし!独立運営の許可にあたって、一つの条件が出された」

 

 俺はペンをとり、ホワイトボードに大きく文字を書く。

 その文字を見て、誰もが顔をしかめた。

 

「その条件とは...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南太平洋 ソロモン海域の攻略

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はホワイトボードにそう書いた。

 

『ソロモン海』

 太平洋南西部の海でアイアンボトム・サウンドやソロモン諸島など、ミッドウェー海戦後の日本軍の戦闘の舞台で、多くの艦が失われた場所。特にアイアンボトム・サウンドは沈没艦が多く、吹雪もここで沈んだ。

 

「連合海軍は条件として、ソロモン海域全域の攻略を要請してきた。現在、南太平洋の日本近海の深海棲艦の拠点となっているここを叩ければ脅威の激減に繋がるらしい」

 

 俺はホワイトボードにソロモン海域の地図を貼りだす。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「相手の拠点とされている地点は、ラバウルとガダルカナル島だ。両方に飛行場等の陸上施設。それと多くの艦艇が確認できている。今攻略は相手を珊瑚海より南下へ追い出すまたは、全滅させれば成功となる」

 

 差し棒でラバウル、ガダルカナル島、珊瑚海を順に指す。

 

「大まかな作戦内容としては、ラバウルとガダルカナルを二方面で叩き、壊滅。壊滅に失敗したなら珊瑚海へ誘導しそこで殲滅させる。さて、質問は?」

「叩くって言っても飛行場あるし、艦艇も多いから昼間は危険じゃないの?」

 

 夕立が質問した。

 珍しくっぽいと言っていない。

 

「確かに昼間は危険だ。なので今作戦の二方面は夜間に飛行場や各艦艇に艦砲射撃をくらわせてからの攻略になる」

「ありがとう」

 

 夕立はそう言って席に座った。

 

「何か質問があったら後ででも執務室に来てくれ。以上、解散」

 

 

ー執務室ー

 

「はぁ~」

「大丈夫ですか、鶴さん?顔色が...」

 

 吹雪はそう言って、お茶を出してきた。

 

「ああ。ちょっと色々あって疲れただけだ」

 

 そう言ってお茶を飲み、紙を取り出す。

 

「さて、作戦開始までは時間がある。ゆっくり作戦内容を練ろう」

「あの、私に何か出来る事ありませんか?」

 

 吹雪は心配そうな声でそういった。

 

「いや。大丈夫だよ。もし、何かあったら言うから」

「分かりました」

「さあ、少し休憩しておいで」

「はい!」

 

 吹雪は元気良く部屋を出て行った。

 それを見送ってからまた紙とにらみ合う。

 

「さて」

 

 俺は紙に作戦草案を書き始めた。




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夏の番外編「終戦の日」

 さて、夏の番外編第一弾は終戦の日です。
 時系列的には、呉から帰ってきた後です。


ピピッ

 

 時計の6:00を示すアラームが鳴り、目が覚める。

 後から蝉の声が聞こえてくる。

 

(ん~。今日は...)

 

 そんな事を考えながら壁にかけられたカレンダーに目をやる。

 カレンダーにはその日は過ぎたことを示す×印が8月14日まで付けられ、今日が8月15日であることを表していた。

 

「終戦の日か...」

 

 一人、そんな事を喋りながらいつもの海軍二種軍服ではなく、着慣れた戦闘服に身を包み俺は桟橋へ向かった。

 

 8月15日。終戦の日がやって来た。

 

ー桟橋ー

 

「おはようございます!司令官!」

「おはよう。吹雪」

 

 桟橋から埠頭にかけて天城、吹雪、赤城、加賀、夕立、大潮、神通、川内、阿武隈、愛宕、高雄の艦が泊まっている。

 全艦、マストにはUとWの信号旗が上げられている。

 

「全員乗ったか?」

「はい。全員、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦の艦を中心に乗り込みました」

「了解。じゃあ、沖に出よう」

 

 そう言って、吹雪は自分の艦へ、俺は天城に乗り込む。

 艦橋へ付くと無線をとり、命令を出す。

 

「空母天城以下十一隻、これより、鎮守府正面海域へ向かう!」

 

ー鎮守府正面海域ー

 

 海域に着いた俺達はそれぞれ内火艇を下ろす。

 内火艇にはそれぞれの艦に乗っていた艦娘が乗り込み、艤装を展開しそこから海上へ立つ。

 艦娘達は普段は自分の艦艇を使用し、戦闘を行うが艤装を纏っているときは自らが海上へ立つことが出来る。

 海上へ立った艦娘は小さな花束を持ち、海上をスケートをするように進み、その場で泊まっている艦を追い抜き、先頭に居る吹雪と天城の艦の前に集まる。

 俺艤装を展開しそこへ向かう。

 

「全員そろったな」

 

 艦娘達は内側に軽巡、重巡。その外側に駆逐艦、空母の艦娘が来るように並んでいた。

 

「今日は8月15日。終戦の日だ。まあ、深海棲艦との戦争が始まってるがな」

 

 俺は手に持っている花束を胸の辺りに持ってくる。

 

「これは、太平洋戦争の終結。今まで国のため、大切な人のために戦った方たちへの慰霊だ。花束を海に贈り、手を合わせるように」

 

 皆も手の花束を落とすように構える。

 

「では、始め」

 

 手から花束を離す。花束は海上を漂い、流れ始める。艦からも妖精達が花を落とした。

 そして皆手を合わせる。

 

 

「よし、止め。後は慰霊の意味をこめて艦載機を使った曲芸飛行でも」

 

 そう言うと空母から艦載機が次々と飛び立つ。赤帯や白帯、青帯を空に輝かせ空を自由に艦載機は舞う。

 途中からは弓から発艦した艦載機や軽巡、重巡の水上機も混じり、最後にはあきづき、たかなみのSH60も混じった大編隊での飛行になった。

 

 俺はその場から離れ、天城に戻る。

 天城の格納庫奥には、零戦二一型が三機、止まっている。

 

「まもなく、ほかのきがかえってきますよ」

「分かった。菅野?準備は?」

「おう。大丈夫だ」

 

 エレベーター付近では菅野が紫電改の横で親指を立てている。

 

 曲芸飛行を見た艦娘達はわいわいと騒いでいた。

 そこにまたレシプロ戦闘機のプロペラ音が響く。

 上空には零戦三機を中心に紫電改八機があとに続いた。

 

 零戦は白帯二本を締める宮島機と白帯三本を締める天城所属機で構成され、紫電改は菅野機と黄帯を白帯に変更し三本締めた天城所属紫電改機で構成されている。

 この十一機の機体による曲芸飛行で今年の鎮守府での慰霊は終了した。

 

ー執務室ー

 

 今朝の慰霊も終わり、お昼になった鎮守府。

 執務室には俺と菅野の二人だけだった。

 

「今年も終ったな」

「そうだな」

「なあ、宮島」

「ん?」

「日本はあの戦争に勝利できただろうか」

「んー。どうだろう。真珠湾攻撃が奇襲になった時点で負けてたかも知れないな」

「じゃあ、戦争自体を避けることはできただろうか」

「どうかな。避けられるのかも知れないが、無理に近いのかもな」

「そうか...」

 

 そう言って菅野は外に向かおうとした。

 

「どこか行くのか?」

「今日は、終戦の日だが、その前に俺のオヤジの命日だからな。ちゃんと顔を見せに行かないとな!」

 

 そう言って応接間の机に止められた紫電改に乗り込み窓から飛んでいった。

 俺はその窓から飛んでいく紫電改を眺めた。

 その時、

 

「司令官!」

「ん?」

「今日は雷の竣工日よ!」

 

 雷が執務室に入ってきた。

 

「あら、五十鈴のことも忘れないでよ?」

 

 五十鈴も後から入ってくる。

 

「そうか、そうか。二人とも竣工日か。ならお祝いに間宮のとこのパフェでも奢ってあげよう」

「「わーい」」

「さ、行こうか」

 

 三人は執務室を出て行った。

 




 番外編なので、少し短めにしました。
 日本は71回目の終戦の日を迎えました。
 忘れてはならない太平洋戦争の記憶。
 特攻、原爆などの悪い部分も
 日本艦などが国のためと奮闘した部分も
 全てを忘れてはいけません。

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残暑の番外編「宮島と吹雪が入れ替わったら...」

ピピッ!ピピッ!

 

 聞きなれない目覚ましの音で起きた俺は、起きて早々回り始めた思考回路がショートを起こしそうだった。

 

「よっ!おはよ、吹雪!」

「もう!おきて下さいよ!初雪ちゃん!」

「ん...後、五分...」

「今日は朝一で哨戒任務なんですから!そんな時間ありませんよ!」

 

(は?!何で?何で、白雪と初雪、深雪がいるんだ?それに吹雪って...俺は宮島だよ!)

 

 と思いながら自分の周りを見てみる。

 見慣れない、パジャマ。吹雪こんなん着てたのか...

 枕元に置かれたぬいぐるみの数々。見覚えのあるカワウソのものや、時々出てくるペンギンのものまで様々だ。

 

「大丈夫か。吹雪?」

 

 深雪が心配した顔で聞いてきた。

 

「大丈夫だよ!ちょ、ちょと、司令官の所行ってくるね!」

 

 そう言ってパジャマなのも気にせず、否、パジャマのままだったのも忘れ一目散に部屋を出た。

 

「大丈夫かな?吹雪の奴」

「パジャマのままでしたね...」

「モーニングコールでもするんじゃないの...」

「やっと置きましたね、初雪ちゃん」

 

ー一方、その頃、宮島(吹雪)は...ー

 

「Zzzz...」スヤー

 

 まだ、夢の中だった。

 

「Zzz...おやつはやっぱり、間宮p」

 

ドカン!

 

「!?」

 

 そんな夢も扉が蹴飛ばされる音で一瞬で覚め、宮島同様思考回路がショートし始めた。

 

(えっ!、えっ!?何で、私がいるの?!)

 

 宮島(吹雪)がアタフタし始める。

 

「えっ、えっ...」

 

 このままでは吹雪が『えっ』しか言わなくなりそうなので、説明をする。

 

ー吹雪(宮島)、説明中...ー

 

「なるほど...私が鶴さんで鶴さんが私...ってどう言うことですか?!」

「分からん...だが、入れ替わったのは確かだからな...」

「どうしよう...って」

「ん?」

「何で、パジャマのままで来たんですか!///」

 

 困った顔をしていた宮島(吹雪)は、一瞬こっちを見て顔を真っ赤にして言った。

 

「あ、いや、びっくりしてそのまま飛び出して来ちゃった...///」

「もう!」プンスカ

「ごめん!」

「はぁ、分かりました。とりあえず、妖精さんに頼んで持ってきてもらいます」

 

 妖精も少しアタフタしたが、何とか吹雪の服を持ってきた。

 

「いいですか?着替えさせてる間は、目を瞑ってくださいね///」

「わ、分かってる///」

 

 俺が目を瞑ったのを確認すると着替えさせ始めた。

 

「ふぅ~。終りましたよ」

「何か...変な感じだ」

 

 特に何処とは言わないがいつもとは違う感覚だった。

 

「今度は、私の番ですね」メツブリ

 

 今度は俺が自分を着替えさせ始める。

 

「これでよしっと」

「何か、私服を着てるみたいです」

 

 宮島(吹雪)はクルクル回っていたが、途中ハッっとした顔になってこっちを向いた。

 

「そう言えば、私、朝一番で哨戒任務があるんでした!」

「あっ」

 

 一瞬部屋の中に沈黙が訪れた。

 

「どうしましょうか?」

「とりあえず、今日は提督も同行ってことにすれば良いんじゃない?」

「そうですね!そうしましょう」

 

 二人は、艦へ向かうため、部屋を出た。

 

ー埠頭ー

 

 朝早くのこともあり、誰にも見つからずに埠頭まで着いた。

 どうやら、一緒に哨戒に当たる三人は先に艦に乗ってしまっているようだった。

 

「見つからないうちにいきましょう」

「ああ」

 

 そそくさとタラップを上がり、艦橋の司令室へと着いた。

 

「全艦、出撃!」

 

 出撃の指令を出し、二人で後ろの簡易椅子に腰を掛ける。

 今までにいろいろあり、朝も早かったのでそこで二人で寝てしまった。

 

「...さん、鶴さん!」

「ん...」

 

 目が覚めると、目の前に吹雪が居た。

 正面は海で青々としていて、右舷側には青ヶ鳥の町並みが見える、どうやらまだ哨戒の途中のようだった。

 

「元に戻りましたよ!」

 

 吹雪は笑顔で言った、ここが甲板か陸ならぴょんぴょん跳ねているだろう。

 

「良かったな」

「はい!私は、鶴さんになるより、鶴さんの傍に居たいですから//」

 

 そう言って吹雪は隣に座った。

 アタフタした空気から今度は甘い空気に艦内司令部内は変わりそうだった。

 




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夏(残暑)の番外編「夏祭りだよ!青ヶ鳥祭り-鎮守府解放編-」

ワイワイガヤガヤ

 

 現在は08:00

 青ヶ鳥鎮守府の敷地外に設けられたテント周りは人で溢れていた。

 

「はーい!落ち着いてください!」

「整理券を配りまーす!もらった方から列に並んで荷物検査を受けてくださーい!」

 

 青ヶ鳥市役所から来た職員が人の固まりを整理している。

 整理券をもらった人は、列を作り、荷物検査用のテントへ流れる。

 

「今回はやけに人が多いですね!」

「そうだな」

 

 俺が居るのは鎮守府の塀の上、今回のイベント用のテントが見渡せるところに来ている。

 隣にいる吹雪は人の数に目を見張っている。

 

「全員入りそうに無いですよ?」

「大丈夫だよ。入らなかったら、どうせ今回()いる奴あれを追い出せば良い...」

 

 吹雪は嫌な事を思い出した顔になり、顔が少し青ざめる。

 

「また、居るのですか...」

「大丈夫さ。今回は俺の航空隊全機警戒。艦橋監視妖精も導入しているんだ。それでも何かあったら俺が出るまでさ」

 

 そう言って俺は、執務室を目指すため階段に向かう。吹雪もその後に続く。

 今日は青ヶ鳥島、年に一度の夏祭りと、同時に行われる鎮守府解放の日である。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

「こちら宮島から菅野へ。状況は?」

 

 執務室で俺は艤装を展開しながら菅野へ連絡を入れる。

 艤装展開中なら艦載機妖精たちと何もせずに連絡が取れるのである。

 

『こちら菅野。今のところ問題なし』

「了解。不審人物は?」

『今のところ複数人見えるな。一人一機で監視してる』

「了解。引き続き頼む」

『了解』

 

 通信を終え、一息つく。吹雪も監視妖精との通信が終ったのか肩の力を抜いている。

 

「そっちはどうでしたか?」

「こっちは、複数名発見だそうだ。そっちは?」

「こっちもです」

「やっぱりな...」

 

 俺はもう一度通信を繋げる。今度は全機に向けてだ。

 

「宮島から全機へ。菅野から順に一度『天城』帰投せよ。繰り返す。帰投せよ」

 

 通信を終えると部屋の窓を開け、飛行板を机に置く。

 

「どうしたんですか?」

 

 吹雪は不思議そうな顔で聞いてきた。

 

「今回は機銃に弾薬を入れてなかったんだが、ペイント弾を装填することにした」

「どうしてですか?」

「いざという時に威嚇射撃で相手の周りに撃つ。下手してあたっても汚れるだけだから?」

 

 そう言って、次々着艦、装填、発艦を繰り返す飛行板を見る。

 

「これが終ったら、少し二人で見て回ろうか」

「え、あ、はい!」///

 

 吹雪は顔を赤くしながらも嬉しそうに笑った。

 

 俺と吹雪は私服に着替えてから外に出た。

 俺は水色のポロシャツに濃緑のズボンと何の面白みも無い格好だったのだが、吹雪はと言うと白のTシャツに青のジャケット、白黒のボーダースカートで来た。

 

「どうでしょうか?鶴さん?///」

 

 そう言って、クルッっと一回転してみせる。

 

「お、い、良いと思うぞ////」

 

 クソッ可愛くてうまく言えねぇ。

 

「いきましょうか!」

「ああ」

 

 俺と吹雪は二人並んで歩き始めた。

 グラウンドには主に航空機の展示がされている。

 零戦や彗星、天山などの艦載機から、零式水上偵察機などの水上機。SH-60Kなどのヘリも展示がされている。

 俺と吹雪はそれらを両脇に見ながら、埠頭へ向けて進む。

 

「どれも、現在も使ってる機体なんですよね」

「そうだな。確か、あの零戦は赤城から、彗星は蒼龍から、天山は飛龍から、水上機は余ってたのをヘリはあきづきからだったな」

 

 俺はそれぞれ指を指して話しながら横を過ぎていく、吹雪も後から興味津々で航空機を見ながら続く。

 

「あの~」

「はい?」

 

 航空機を見ながら歩いていると、後ろからいかにもって言うような、赤のギンガムチェックの男性が来た。

 

「ここの食d...いや、本庁舎って知りませんか?」

「本庁舎ですか?」

 

 吹雪が聞き返すように男性に対応する。

 この時、俺は疑問に思った。

 

(こいつ、さっき食堂って言いかけてたな。建物への出入りは禁止のはずなんだがな...)

 

「食堂に何か用事でも?」

 

 俺は賭けに出る事にした。

 

「え、あ、いやいや。食堂じゃなくて、本庁舎ですよ」

 

 吹雪に応援を頼み俺は話しを伸ばす。

 

「本庁舎で何かやるんですか?」

「あー。自分がそういう建物好きなもので...」

 

 男と話している後ろで吹雪が『AM01 02 03は至急応援を...』と無線を飛ばしている。男からは死角になって見えていない。

 そうこうしている内に、上空にレシプロ音が響く。

 

「あの、そろそろ良いでしょうか...」

 

 男はこの場を離れようとする。俺は、それを引き止める。

 

「あなた」

「は、はい?」

「間宮さんに手を出さないでいただけますか?」

 

 男の同様が目に見えて分かる。

 ここの鎮守府の食堂と言えば、間宮が働いている。

 こいつはそれを何処からか聞きつけて来た。というとことだろう。

 

「そ、そんな何かm」

「実は、ここの提督なんですがね、自分」

 

 一瞬にして注目がこちらに集まる。

 

「え、あ、え...」

 

 男は声にならない声を出しながら、後ずさりする。

 そのすぐ後方へ、機銃の音が響く。

 

「ひぃ!」

「逃げないでくださいね。お話はあちらの方へ」

 

 機銃音の後ろには役所の人が二人立っており、男を連れて行く。

 

「一人確保っと、吹雪、各機に通達『不審者上空で、警告をしろ』っとしといてくれ」

「分かりました」

 

 吹雪の無線が終ると俺達はまた歩き始めた。

 そうして歩いていくうちに埠頭に着いた。

 埠頭では、艦艇の展示を行っている。

 展示されているのは、瑞鶴、長門、榛名、球磨、阿武隈、雪風、である。

 ちなみに展示艦はくじ引きで決められた。

 

「私達には見慣れたものですね」

「そうだな」

「あっ!屋台ありましたよ!」

 

 吹雪は屋台を見つけるとそちらの方向へ歩いていった。

 屋台が出ていると言っても二、三件で主に魚介類を使用した軽食を出している。

 運営は全て艦娘が行っている。

 

「どれが良い?吹雪」

「んー。たこ焼きとか美味しそうです。それに、あそこは夕立ちゃんがやってるとこなので」

「分かった。そこにしよう。すみませーん」

「はいは~いっぽい!ご注文っぽい?」

 

 置くから夕立が出てきた。エプロン姿で軽快に注文を聞きに来た。

 どうやら俺には気付いていないようだ。

 

「ああ。たこ焼き6個入りをお願い」

「分かったわ!はい!250円になります」

「ありがとう」

 

 俺は、たこ焼きを受け取り代金を払い、吹雪と埠頭端の腰が掛けられるところまで来た。

 

「「いただきます!」」

 

 二人で手を合わせ、湯気を立てているたこ焼きを頬張る。

 たこ焼きは新鮮なものを使っているようで、他より味がいい。

 

「んっ~!ほくほくしてて美味しいですねっ!」

「ああ。これならもう少し食えそうだ」

「もう!だめですよ鶴さん!今夜は神社でお祭りもあるんですから」

「そうだったな」

 

 そう言いながら二つ目に手をつける。

 今夜の祭りの事を考えながら...。




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夏(残暑)の番外編「夏祭りだよ!青ヶ鳥祭り-青ヶ鳥祭り編-」

「あっついな」

 

 蝉がまだ鳴く青ヶ鳥島。

 俺はその島の裏路地的なところを島唯一の神社へ向けて歩いていた。

 

「確かこの角を右に、その先を左だったっけか」

 

 そう言いながら右に曲がる。

 するといっそうに蝉の鳴き声が増し、暑さも比例するように増す。

 

「うわ。これじゃまるで東京か神奈川だな」

 

 俺はこの夏に一度だけ神奈川へ出掛けた。

 何と無く故郷を見たかっただけだが。

 

タッタッタ

 

「はぁはぁはぁ」

「ん?」

 

 すると正面から男が走ってきた。

 スーツ姿の俺と同い年くらいのそいつは息を切らしながらあたりを見渡している。

 

「おい、あんた」

「へ...何ですか」

 

 男は少しあせりながらもこちらを向いた。

 

「誰か探してんのか?」

「...だぶん」

 

 男は確信があるようでないような顔をした。

 

「んー。何なら、ここを真っ直ぐ進んで、右に曲がりな。そしたら何かあるかも知れないよ」

「え、あ、ありがとうございます」

 

 男は素直に礼を言って走り去ってしまった。

 教えた方向は勘だが、おそらく何かには出会えるだろう。

 それが探してた誰かかもしれないし、そうじゃないかも知れない。

 俺は、彼の幸運を願い、神社へ向けてまた歩き出した。

 

ー神社ー

 

 神社は小高い丘の上にある。

 それを難なく上り終え、俺は神社に作られた模擬店のうちの一店に声をかける。

 

「どうだ?吹雪」

「あ!司令官!」

 

 その声に周りに居た艦娘達も集まる。

 

「カキ氷は準備OKっぽい」

「後は、カレーだけですね」

 

 ここに居るのは吹雪達、雪型とも分類される四姉妹と夕立と時雨だ。

 皆、法被でカレーの準備に追われている。

 

「どれ、手伝おうか?」

「そんな、大丈夫ですよ」

「遠慮しないで、男手があったほうがいいだろ?」

 

 そう言ってテントの中に入る。

 

「で、何か手伝えるものは?」

「じゃあ、カレーまわすの代わってくれないか?腕が疲れて...」

 

 深雪が疲れたそぶりを見せながら言った。

 

「よっしゃ、まかせろ」

 

 俺は深雪に代わって、大鍋のカレーをまわし始める。

 

「それが、完成したら、カキ氷削るの手伝ってっぽい!」

「了解!」

「良いんですか!司令官!」

 

 その時、吹雪が言ってきた。

 

「良いんだよ。こういうのは皆でやった方が楽しいんだから」

 

 そう言うと吹雪は笑顔になって『そうですね!それじゃあ、お手伝いお願いします♪』と言って奥に行ってしまった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 夜になり、客がちらほらとやって来た。

 浴衣姿の女性や甚平姿の男性などお祭りは盛り上がりを見せた。

 俺らの出したカレーの模擬店も売り上げ良好だった。

 海軍カレーだからというのもあるのだろうが、美少女ぞろいってのもあるんだろうな。

 

「ありがとうございました~っぽい!」

 

 夕立が接客を終えて、こちらにやって来た。

 

「提督さん。そろそろ、休憩しても良いっぽい!」

「あ、大丈夫だよ」

 

 そう言うと夕立がプーっと頬を膨らました。

 

「ダメっ!ちゃんと休んでもらわないと困るっぽい!」

「わ、分かったよ...」

 

 そう言って、俺はテントから出ようとした。

 

「吹雪ちゃんも休んでいいっぽい」

「いや、わたしまd...」

 

 言いかけた吹雪に夕立は頬を膨らまそうとする。

 

「わ、分かりました。休ますね!」

 

 こうして俺と吹雪はテントを離れて二人で歩く事にした。

 

「楽しそうですね~」

「そうだな」

「こんな姿のままでも大丈夫でしょうか」

 

 吹雪は自分の法被姿と俺を見ながら聞いてきた。

 

「ううん、そんな事ないよ。その、法被も良く似合ってるし...///」

 

 そう言うと吹雪はパアァっと笑顔になり、『ありがとうございます』っと言った。

 

ー神社・外れのベンチー

 

 他の焼きそばや射的の模擬店を一通り楽しんだ後、神社の外れにあるベンチへやって来た。

 ちなみに吹雪の手には射的で落とした、クマのぬいぐるみがある。何故か腕つりをしてたりフルボッコされたような後があるが、店のおっちゃんの話だと『たまたま見つけた、唯一つだけのぬいぐるみ』らしい。後で調べたがそんなもの検索で引っかからなかったしそうなのだろう。

 まあ、吹雪が喜んでいるのなら良いが...。

 ちなみに、もう一つ「國鉄一日自由乗車券」なる物をもらった。

 私鉄しか通っていないこの島でどう使えと...。

 

「あの、鶴さん!」

「ん!な、何だ」

 

 久しぶりにその名で呼ばれで少し驚いて吹雪のほうを見る。

 吹雪は少し頬を赤く染め、もじもじしている。

 

「あの、周り、誰もいませんし...その...///」

 

 ぼそぼそっとそう言うと、目を閉じ、唇をこちらに向けてきた。

 俺も、流されて同じように目を閉じ、吹雪の唇を受け止めようとする。

 

「・・・」ドキドキ

「・・・」ドキドキ

 

 短いはずなのに長いような感じがする。

 双方共にまだ、相手にたどりつけていない。

 もう少しでっと言うその時、

 

「あ!提督さん!吹雪!おーい!」

 

『!?』ビクッ

 

 声の方向を見ると浴衣姿の瑞鶴が手を振りながら、まるで二人の空気に割り込みましたよ~というような感じでやって来た。

 吹雪はというとまた逃がした。見たいな顔をしている。

 

「提督さん!どう?この浴衣!」

 

 瑞鶴はクルクルと回って見せてくる。

 

「...渋いな」

「何よそれ!」

 

 瑞鶴はプクーっと頬を膨らませ、講義してくる。

 

「いやいや、その色合いは渋いなっと思っただけだ。似合ってるぞ」

「そう。ありがと♪それじゃ、翔鶴姉が待ってるから...」

 

 そう言うと瑞鶴は祭りの喧騒の中へ消えていった。

 吹雪の方を見ると

 

「鶴さん...」

 

 さびしそうな目でこちらを見ていた。

 

「...はぁ」

「?!」ナデラレ

 

 俺は少しのため息のあと吹雪の頭をやさしく撫でた。

 

「これで良いか?」

「...はい」

 

 吹雪は少し不満げだが何とか納得したようだ。

 

「よしっじゃあ、手伝いに戻るか」

「そうですね!」

 

 俺達はベンチを立ち、夕立たちのいるカレーの匂い漂うテントへ戻って行った。




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第二十三話「吹雪と宮島の息抜き」

「ん~」

 

 朝の鎮守府。

 終戦の日や祭りがあったりしたが、作戦はまだ出来ていない。

 俺は、×印やら、様々な艦艇の名前やらが書かれている紙と睨めっこしている。

 

「どうしようか...」

 

 ◇ ◆ ◇

 

(大丈夫でしょうか...)

 

 私は執務室のドアの隙間から鶴さんの様子を見ています。

 

「どうしたんですカ?ブッキー?」

「ひぇ!?」

 

 気付くと金剛さんが不思議そうな顔でこちらを見ていました。

 

「あ、いや、鶴s...司令官が難しそうな顔をしていたので...」

「そうですカ...」

 

 そう言うと金剛さんはガチャっとドアを開けて、執務室の中に入っていきました。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「ヘーイ、提督ぅ!」

「あ、ちょっと金剛さん!」

 

 いきなり、金剛が執務室に入ってきた。

 後ろから吹雪もついてきている。

 

「お疲れのようですネ」

「そ、そうか?」

 

 考えてみれば、暇さえあれば作戦を考えていたかもしれない。

 

「吹雪も心配してるデース」

「そうなのか?吹雪?」

「え?!あ、まあ、そうですけど...」///

 

 吹雪は顔を赤くしながら俯く。

 金剛はウンウンと頷きながら続けていった。

 

「まあ、こうやって吹雪も心配しているので、少し、息抜きでもしていくデース」

「「息抜き?」」

 

 俺と吹雪は口をそろえて聞き返した。

 

「そうデース。息抜きでもすればいい作戦が思いつくかもしれないネ!」

 

 金剛はそう言うと、そのまま俺達に出掛けるしたくをさせて、そのまま鎮守府の外まで追い出されてしまった。

 

ー鎮守府の門の外ー

 

「はぁー」

 

 最近ため息が増えた気がする。

 

「どうしましょうか?鶴さん」

 

 吹雪は私服に着替え、隣に立っている。

 と言ってる俺も私服だが...。

 

「島内は前に回って特に息抜きって所も無いですし...」

 

 吹雪は困ったように辺りを見渡した。

 

「んー。じゃあ、島の外に出るか」

「え?いいんですか?」

「まあ、いいだろう。まだ、朝だし行って帰ってくるぐらいならな」

 

 俺達は島の外に出るため、フェリー乗り場へ向かった。

 

 フェリーは完全転移後、本土と結ばれたものだ。

 仕様船舶はいたって普通の客船で名前は「あお」と「とり」。

 横浜港と青ヶ鳥港を結んでいる。

 俺達はそのフェリーに乗り、青ヶ鳥から横浜まで行った。

 

ー横浜駅ー

 

「電車がいっぱいですね」

「そうだな」

 

 横浜駅は相変わらず電車と人で溢れていた。

 

『普通、久里浜行き発車します』

「よし、これに乗ろう」

「はい!」

 

 俺達は横須賀線に乗り込んだ。

 

「そう言えば鶴さん?」

「何だ?」

「どこに向かっているんですか」

 

 吹雪は混雑が少し収まった車両の中で聞いてきた。

 

「ああ。言ってなかったな。横須賀に行こうと思ってな」

「横須賀ですか」

「実は、俺の故郷なんだよ」

「そうなんですか」

 

 車内には横須賀駅への到着を知らせるアナウンスが流れていた。

 

ー横須賀駅ー

 

 横須賀駅に到着し、駅舎出てその先の公園へ向かうと、ヘリコプター護衛艦「いずも」を一望する事ができた。

 もともと自衛隊の基地だったここは、時たま護衛艦が止まっているらしい。

 今日は当たりの日だった。

 

「大きいですね!」

「そうだな。赤城と大差ない大きさだそうだ」

 

 いずもやその先にあった護衛艦艇群を一通り眺め、近くにあったイ○ンでお昼を済ませると、今度は記念艦「三笠」までやってきた。

 現在は「三笠」の艦橋で周りの風景を楽しんでいるところである。

 

「高いですね」

「そうだな。こっからの景色もきれいだな」

「海に出れたなら、きれいなのかな?」

「きれいだろうな」

 

 「三笠」の艦内は歴代艦艇の模型や日露戦争時の艦艇模型、艦長室等を見てから、艦を降りた。

 

「どうだったか?」

「良かったです!でも...」

「でも?」

 

 吹雪は「三笠」を見上げながら寂しそうに言った。

 

「艦娘の三笠さんにも会ってみたかったです」

「そうだな」

 

 確かに、散々「三笠」の艦内を歩いたが、そういう気配はしなかった。

 

「何時か会えるでしょうか?」

「会えるといいな」

「そうですね」

 

 そう言って、記念艦「三笠」を後にした。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

「鶴さん?」

「何だ?」

「どこに向かっているんですか」

 

 吹雪から二度目の質問を聞きながら俺はあるところを目指していた。

 

「俺の故郷は横須賀だって言ったな」

「はい」

「親と住んでいた家は遠の昔に無くなっているんだが、新しく家を買っていたんだ。前の世界で、青ヶ鳥に着任する前に」

「そうなんですね」

「こっちの世界に来てから一回だけ行ったんだが、少ししか居なかったんだ」

「だから、もう一回行こうと」

「ああ。後、資料を取りに」

 

 そう言いながら、俺達は家の前まで着いた。

 鍵を開け、家の中へ入る。

 

「資料?」失礼します

「ああ。昔、勝手な想像で考えた、艦載機の図形があった気がするんだ」どうぞ

「へー」

 

 吹雪をリビングに通し、自室へ向かう。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 鶴さんの家へ来て、私はリビングに通されました。

 数分後、鶴さんは複数枚の紙と、模型を複数持ってきました。

 

「あった。あった」

 

 それをテーブルにドサッと置きました。

 紙には飛行機の設計図やら飛行機の技?らしきものが書かれています。

 模型はというと、一つが零戦のような形ですがあちらこちらが違います。

 

「鶴さん。その模型はなんですか?」

「ああ。これか?」

 

 鶴さんは模型を持ち上げます。

 

「これは、俺が勝手に考えた戦闘機、『零式夜戦戦闘機一一型・改』だ」

 

 少し自慢げに鶴さんは言いました。

 

「これは零式練習機――零練の一一型を基本にして、斜銃を複座後方に装備、普通の機銃も設置し、後部座席に乗る奴はレーダーを使い敵機を索敵する。前部座席は当たり前に操縦だ」

 

 鶴さんはその零式夜戦戦闘機一一型・改――零夜戦改の模型を子供のように飛ばす仕草をしながら言いました。

 私はその様子を見ながら誰しも聞きたいであろう疑問をぶつけました。

 

「本当にそれ作れるんですか?」

「えっ」

 

 それを聞いた鶴さんは黙り込んでしまいました。

 静かに模型を下ろします。

 

「分からない。零練、もしくは零夜戦は作れるかもしれない。その二つを合体は、明石や開発担当の妖精と相談しないと分からないな。それに、夜間戦闘機は彗星や彩雲にもあるし...」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 吹雪の指摘を受けて考え事をしていると

 吹雪は何かを見つけたように、後ろの部屋へ行ってしまった。

 

「これって、戦車ですか?」

「ああ。そうだよ」

 

 吹雪はそれをまじまじと見つめている。

 ん?待てよ、戦車?

 

「そうか!戦車!!」

「?」

 

 吹雪は俺がいきなり大声を出したのに対し、不思議そうな顔をしている。

 

「吹雪!」

「は、はい?」

「今すぐ鎮守府へ戻るぞ!」

「え、あ、はい!」

 

(もしかしたら、これならいけるかも...)

 

 夕方の住宅街。俺は吹雪を連れて急いで鎮守府へ帰った。




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第二十四話「東南の海と二人の思い-作戦説明-」

 吹雪と横須賀に出掛けてから、一週間経った。

 食堂には、前と同じように全艦娘がそろい、正面には大きくソロモン海域周辺の地図があり、端には宮島と吹雪が座っている。

 宮島は席を立ち艦娘達の正面に立った。

 

「皆。今回集まってもらったのは、『ソロモン海域攻略作戦』の説明をするためだ」

 

 艦娘達の目が変わり、一字一句聞き落とすまいという表情になる。

 

「先ずは、作戦内容だが、ラバウル、ガダルカナルの二方面での夜戦奇襲作戦で行く。本当なら正々堂々行きたいところだが、それは難しいな。

 詳しい内容だが、今作戦は四つの艦隊で行う。ラバウルは第三艦隊と第一陸戦隊だ」

「陸戦隊というのは?」

 

 赤城が疑問の声を上げた。

 

「陸戦隊はそのままの通り、陸上部隊のことだ。先日、「おおすみ」が着任した事で、戦車の海上輸送は八九式を大発動艇に以外の方法が出来るようになった。なので、今回は試験的にラバウルに戦車を上陸させ、地上から飛行場に砲撃、艦砲のような結果は期待できないが敵を混乱させる事はできるだろう。艦隊は夜間の艦砲射撃での飛行場破壊、敵艦隊の殲滅を行う」

「ありがとうございます」

「次に、ガダルカナルだな。ガダルカナルは第一、二艦隊での攻撃だ。こちらは、途中、サンタイサベル島で二手に分かれて、ガダルカナル手前で合流、後の流れはラバウルと同じで、艦砲射撃での飛行場破壊、敵艦隊の殲滅を行う。地図で示すとこの通りだ」

 

 

【挿絵表示】

 

(番号は無視でお願いします)

 

「赤の線が艦隊。緑が陸戦隊だ。何か質問は?」

「敵陸上機への配慮は?もし、突入前に見つかりでもすれば、アウトレンジから、敵空母と陸上の敵機からの攻撃を受けるのでは?」

 

 今度は加賀が言った。

 複数の同意の声が聞こえる。

 

「それはこっちの電探のほうが性能がいいことを示すチャンスだ」

 

 宮島はそう言い、顔をニヤつかせた。

 

「?」

「きりしま」

「私ですか?」

「いや、漢字じゃないほう。とあきづき、こっちも漢字じゃないほう」

「はい?」

「なんでしょうか?」

 

 宮島に呼ばれた二人は首を傾げる。

 

「二人に搭載されている電探...いや、レーダー、「イージス・システム」と「FCS-3A」は発見数や性能こそ違えど、あの戦争の時の技術をはるかに上回る。という事は、深海棲艦を先に発見できるという事だ。その状態で迎撃体制がしけたなら?」

「先制攻撃が出来る」

「さらに、敵の索敵範囲の外で待機できるわけだ」

 

 加賀は納得した顔をする。

 そして、宮島への艦娘達の気持ちは一致した。

 

『提督はソロモンの深海棲艦に容赦しない』

 

 宮島の過去を知るものは()()()()()少ない。

 しかし、護衛艦の投入や新戦力の投入と、絶対散り一つ残さず深海棲艦を消し去る気でいるのは見て取れた。

 

「最後に各艦隊の編成を発表する。先ず、第一艦隊」

 

第一艦隊

・旗艦

 天城(宮島)

・随伴艦

 陸奥、伊勢、霧島、翔鶴、瑞鶴、瑞鳳、古鷹、青葉、衣笠、那智、筑摩、大井、神通、那珂、能代、吹雪、初雪、朧、秋雲、風雲、沖波、早霜、清霜、朝潮、大潮、霰、荒潮、あきづき

 

「空母は現地までの艦隊防空を頼む」

『了解!』

「次に第二艦隊」

第二艦隊

・旗艦

 山城

・随伴艦

 扶桑、榛名、飛龍、蒼龍、祥鳳、加古、足柄、羽黒、愛宕、最上、北上、五十鈴、名取、由良、浦波、磯波、綾波、敷波、満潮、朝雲、山雲、村雨、夕立、時雨、春雨、五月雨、たかなみ

 

「次に第三艦隊」

 

第三艦隊編成

・旗艦

 大和

・随伴艦

 長門、日向、金剛、比叡、赤城、加賀、土佐、大鳳、飛鷹、隼鷹、妙高、高雄、摩耶、鳥海、利根、木曽、長良、川内、矢矧、白雪、深雪、曙、漣、潮、初霜、霞、雪風、浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、萩風、舞風、朝霜、秋月、きりしま

 

「第三艦隊は一艦隊での攻略だから、数が多くなる。大和のみでの指示は難しいかも知れないから、長門や金剛はサポートを頼む」

「了解した」

「了解デース!」

「最後に第四陸戦隊(輸送艦隊)だ。これは「おおすみ」に搭載する戦車も一緒に発表する」

「ちょっと待って下さい」

 

 その時、加賀が口を挟んだ。

 いつもの冷静な声ではなく少し動揺した様子で。

 

「と、土佐。私の名前の後に、土佐って言いました?」

「ああ。言ったよ」

「土佐って...」

「加賀型戦艦...否、加賀がt」

 

ガチャッ

 

「加賀型航空母艦二番艦、「土佐」進水しました。よろしくお願いします。おねぇさん?」

「あ、あ...」

 

 食堂の扉を開けて入ってきたのは、加賀と同じサイドテールの、でも、加賀とは違いクールさが見えない。艦娘だった。

 加賀はいつもの冷静さを失い、目からは涙を流しその場に座り込んだ。

 

「今回、建造の手違いというか、原因不明の何かしらで、「土佐」の建造に成功した。訓練はこれからだ、作戦も参加する」

「と、土佐ぁ!」

 

 加賀は泣きながら土佐を抱きしめた。

 

「いらっしゃい!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 数分後、加賀は落ち着きを取り戻し、話を進められる状態になった。

 

「よし、改めて、第一陸戦隊(輸送艦隊)」

 

第一陸戦隊(輸送艦隊)

・旗艦

 阿武隈

・随伴艦

 夕張、皐月、水無月、文月、長月、おおすみ

・戦車

 Ⅳ号戦車F2型3両、Ⅳ号戦車H型3両、ティーガーⅠ4両、10式戦車6両

 

「後、そこまでの燃料など補給として、補給隊も編成する。これは突入前に各艦に補給後、帰投する」

 

第一補給隊

・旗艦

 鬼怒

・随伴艦

 鳳翔、龍驤、神風、春風、睦月、如月、弥生、卯月、菊月、三日月、望月、間宮、伊良湖、極東丸、日本丸、東邦丸、東洋丸、東栄丸、国洋丸、神国丸

 

「川崎型油槽艦も一応艦娘が居る」

『はーい!』

 

 食堂の一番後ろで、手を挙げる7人を全員が確認する。

 

「これで、以上だ」

 

 宮島は一旦水を飲み、また正面に戻る。

 

「作戦決行は今日が...9/5だから...開始は10/5だ。一ヶ月ある。その間、各自、万全の体制をとるように、改装可能の艦娘は全員完全に改装を済ませ、装備は最新のものに、機銃は内部まで埃を散る勢いで行け!」

『『了解!』』

 

 食堂全体が了解の言葉で一体となり、ずれ一つ無い敬礼がされる。

 

「...以上、解散」

 

 宮島も敬礼をし、説明会は終った。




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第二十五話「東南の海と二人の思い-情報修正-」

「う~ん」

 

 艦娘達に「ソロモン海域攻略作戦」の作戦説明をしてから半月後のとある日、

 俺は、明石に借りてきた戦車の模型を並べながら進軍陣形などを練っていた。

 

「手こずってますね」

「ああ」

 

 吹雪が机にお茶を置き、対面するように座った。

 

「せめて隊長車が艦娘みたいに人なら良かったんだが...」

「そんなに都合よく事は進みませんからね...」

 

 そう言いながら吹雪はお茶を飲む。

 

「そう言えば、敵深海棲艦に戦車、陸上部隊は居るのでしょうか?」

「居ないだろな。居たら日本本土も制圧できただろうし」

 

ガチャッ

 

 その時、扉を開いて誰かが入ってきた。

 

「鶴さん、艦載機の整備で聞きたい事があるんだけど」

「ちょっと、瑞鶴、そんな勢いで入って行ったら鶴さんが...」

「何だ。翔鶴と瑞鶴か艦載機がどうs...は?」

 

 執務室内の空気が一瞬にして固まる。

 俺は唖然とし、瑞鶴は笑顔に、翔鶴と吹雪はアタフタしている。

 

「は?鶴さん?」

「そう、鶴さん。宮島清鶴一飛曹、瑞鶴直掩隊隊員」

「なぜ、それを知ってる」

「ここ数日で思い出した」

 

 とりあえず、瑞鶴達を座らせて、事情を聞くことにした。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

「えー。先ず、どんな感じで思い出したのかな?」

 

 俺は、瑞鶴に探るように聞き始めた。

 

「んー。まあ、朝起きたら何と無く記憶の中に入ってたみたいな?」

「だから、それはどう言うことだってことよ」

「今までは、たとえば、私に敵機が接近するときには、私の艦載機の所属を示す白帯一本しか見えませんでしたが、その中に白帯二本が混じってたり」

「あっ!それは...」

「そうそう。私が沈みかけてて、総員退艦がかかった艦上で他の乗組員に"あいつが沈んだんだ!誰があの世d"」

「ワーワー///」

 

 このままでは、やばい気がしたので、とりあえず鶴姉妹の暴露大会を止める。

 

「わ、分かった。お前らが思い出したのはよーっく分かった。だから、それ以上口にするな///」

「大丈夫ですか?顔赤いですよ?」

「だ、大丈夫だ//」

 

 暴走が止まったところで、話を元に戻す。

 

「ところで、そんな記憶が修正?されたってのが見られた艦娘は他にいるか?」

「んー。たぶん修正がかかったのは鶴さんに関する部分だけだから」

「私や瑞鶴、その他、私達翔鶴型と共に作戦参加したことのある艦艇の艦娘には、修正が見られるかもしれませんね」

「不思議な事もあるもんなんですね」

「そうだな」

 

 そう言って瑞鶴達は立ち上がり、部屋を出ようとした。

 

「整備について聞きに来たんじゃないのか?」

「あー。ただ、鶴さんって久々に呼びたかっただけだから、大丈夫よ。妖精だけで事足りるわ」

「すみません、妹が」

 

 そう言って二人は出て行った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

「そう言えば、鶴さん」

「何だ?」

「瑞鶴さんの言っていたあの言葉、ほんとは何て言っていたんですか?」

「あー。あれか...」

 

 思い出すだけでも顔が赤くなる。

 咄嗟にでたあの言葉は黒歴史の一ページであり

 名誉ある歴史の一ページでもある。

 

「別にたいした事ではないよ。軍人として、直掩としてのせめての償いって所かな」

「そうなんですか...」

「ああ。さて、昼だ。昼食でもとってきな」

「はい」

 

 吹雪は、少し気落ちした感じで執務室を出て行った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

「はぁー」

 

 昼前の翔鶴型姉妹の騒動後、特に何も無く、時間は21:00

 外はすっかり暗くなり、川内も珍しく静かで、

 綺麗な夜だった。

 

「作戦はしっかりと形に出来上がった。後はしっかり艦載機と武器の整備をするだけだな」

 

 窓の外を複数の戦闘機が通過する。

 月明かりに照らされて微かに光る機体は魚雷、爆弾を抱えた機体や抱えていない機体

 どれもしっかりと陣形を組み立て飛んでゆく。

 

「俺の考えた最後の切り札」

 

 作戦を組み立てた際、宮島の指揮する第一艦隊はガダルカナル島へは

 鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)を通り抜ける航路を想定していた。

 本土防衛の際に、ミッドウェーの米艦隊を模した様な編成を作った深海棲艦。

 今回もこの海峡で多くの艦艇を夜戦で沈めるつもりで編成してくる可能性は十二分にあった。

 

「今度は俺が直掩で、お前を絶対に守る」

 

 宮島は一旦机へ目を移し、そのまま布団へ潜っていった。

 

 宮島が寝る前に視線を向けたそのものは、

 静かに窓の向こうの夜空を睨みつけていた。



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第二十六話「東南の海と二人の思い-宮島の腕慣らし-」

 10月4日の早朝、青々鳥島鎮守府の埠頭には、作戦へ参加する艦艇が湾内沖まで全て停泊していた。

 その数なんと117隻。

 さすがにそんな数の大艦隊を見ることはあまり無いので、誰もが目を見張っている。

 

 そんな埠頭に集合した116名の艦娘と宮島。

 宮島は艦娘達の正面に立ち、指揮を執り始める。

 

「これより、明日の作戦開始に向けて、ソロモン海域に向けて、出撃する」

 

 艦娘達の表情がその言葉でより一層引き締まる。

 

「第一、二、三艦隊と第一補給隊は作戦海域正面まで、一個艦隊として、輪形陣で進行する。第一輸送艦隊は昨日の時点で出撃しており、今日の夜、作戦海域に突入、陸戦隊を上陸させる。質問は?」

 

 宮島の言葉の後には誰も言葉を発さない。

 つまり、異議なしである。

 

「よしっ、全艦出撃準備!出来次第、出撃を開始する」

『『了解!』』

 

 あっと言う間に、全員が各艦に分散していく。

 錨が揚げられ、妖精たちが慌しく動き出す。

 

『全艦に通達。青ヶ鳥連合艦隊出撃!』

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 早朝の出撃から数時間後のお昼過ぎ。

 艦隊は巨大な輪形陣をとり、ソロモン海域へ向かっている。

 宮島は天城の艦橋へ立ち、水平線を睨みつけている。

 その時、前衛のあきづき、きりしまから通信が来た。

 

『みやじまさん、あきづきときりしまからつうしんです』

「何だ?」

『"水平線上二敵艦隊ヲ発見"だそうです』

「了解」

『全艦、戦闘態勢。敵艦隊の状態を編成が確認出来次第、報告!』

『了解』

 

 その後、次々と通信が来て、敵編成が戦艦2、空母1、重巡3、軽巡4、駆逐10と判明した。

 宮島は、前衛に砲撃準備、空母には攻撃隊の発艦準備を指示する。

 その間にも敵艦隊は形を現し始めた。

 

『全空母、攻撃隊、発艦始め。空母を優先的に叩け!』

 

 宮島の指示で、全空母から零戦、流星が次々と飛び立ち、空中で複数の編隊を作り始める。

 

「さて、俺も行くかな」

 

 次々と飛び立つ中、宮島は艦橋を離れようとする。

 

「どちらへいくのですか?」

 

 一人の妖精が聞いてきた。

 

「ちょっと腕慣らしだ。指揮は吹雪に任せてくれ」

「は、はぁ。わかりました」

 

 そう言って宮島は艦橋を後にした。

 

 宮島は戦闘機発艦中の飛行板にやってきた。

 戦闘機服を着込み、艦橋で指示を出している妖精に近づく。

 

「菅野隊は?」

「いま、はっかんちゅうです」

「零戦二一型が一機積んであったはずだ」

「あ、ありますよ」

「それを出してくれ」

「?わかりました」

 

 数分かかって、零戦がエレベーターから甲板上に現れる。

 零戦は事前にエレベーター付近に配置しており、すぐに出てきた。

 宮島はそのまま零戦に乗り込み、エンジンをかける。

 

「みやじまさん!でるんですか!」

「ああ。発艦指示を」

「わ、わかりました」

 

 旗を振り、発艦の指示が出る。

 零戦は加速し、発艦する。そして、そのまま上空の菅野機に合流する。

 紫電改に零戦二一型という不思議な編隊が完成した。

 菅野は始めは驚いていたものの、察したのか、面白いものを見るような顔になった。

 

ー戦闘空域ー

 

 天城の攻撃隊は一番初めに、敵機と交戦する役を請け負っている。

 前衛の菅野隊は雲のすれすれを通り、敵機を探した。

 しばらくして、左翼側に敵機を発見。

 

(12機か)

 

 宮島は翼を左右に振り、左へ旋回し始める。

 それに複数機が続き、敵機上空へ向かう。

 

 宮島の接近に敵機も気付き、数機が旋回するものの

 宮島はそれをひらりとかわし、敵編隊に突っ込む。

 

(今こっちに向かったのは、護衛の機だから、そこに居るのが攻撃本体!)

 

 宮島はそのまま敵の機体後方に20mmを打ち込む。

 零戦から放たれた20mm弾は敵の後部中央に吸い込まれ、敵機は煙を上げながら降下していく。

 

 それに続くように零戦は海面へ降下、敵機一機も零戦の後ろに張り付く。

 宮島はその存在に気付くと操縦桿を手前に倒し、機首を上に向ける。

 敵機はそれに続き、20mmチェーンガンを放つ。

 宮島は、右のフットレバーと操縦桿を器用に動かしひねりを加える。

 敵機の放った20mm弾は零戦の回転している真ん中を通り抜け、

 零戦正面に居た爆装した敵機に吸い込まれる。

 

 墜落していく敵機を尻目に、宮島はその高度で零戦を水平に戻す。

 もちろん敵機も後ろに付きっぱなしである。

 

(さて、さっさと片付けよう)

 

 零戦はいきなり速度を落とし、敵機へ近づく。

 敵機はその行動に不意を突かれたのか。

 飛行が不安定になり、速度を落とす。

 宮島はその隙をつき、出力を上げ、速度を上げる。

 

 深海棲艦の主力である機体は

 F6Fヘルキャット、TBFアベンジャー、SBDドーントレスを足した性能と言われている。

 今回は護衛に使用されているので、

 F6Fの特徴が出ていると宮島は感じていた。

 

(零戦がヘルキャットに勝る点は...)

 

 敵機も零戦の加速に追いつこうとするが、

 加速が零戦に比べ遅いため、差は大きく開いてしまう。

 

 ある程度の差が開いた後、宮島は操縦桿を左に傾け、キャノピー網目状の骨組みから、敵機を睨む。

 あっという間に、敵機後方に付けてしまう。

 

(ここっ!)

 

 機銃を掃射する零戦、煙を上げて落ちる敵機。

 そんな事を気にも留めず、宮島は左フットレバーを蹴り、操縦桿を左へ傾ける。

 後方から飛んできた20mmは海面へ落ち、小さな水柱をあげる。

 

 宮島はそのまま低空で直進し、敵機を後ろに付けさせる。

 正面には、そのまま闇に引き込まれそうな位、黒々した空母と戦艦が並走し、こちらに向かって来る。

 

『カンタイショウメンテキキ!』

『センカントクウボデハサメ!』

 

 零戦は機体を縦にし、並走する戦艦と空母の間へ突っ込む。

 間一髪、零戦は挟まれずに済んだが、後方の敵機は戦艦と空母に阻まれ、離脱を図る。

 宮島は低空で敵艦隊群を抜けて、その敵機を追撃し、艦隊群から離脱した。

 

 それととき同じくして、敵艦隊群を包む多数の水柱、雷跡。

 流星の雷撃隊が魚雷を放ち、次々に敵艦に当たる。

 衝突で身動きが取れない戦艦と空母が爆発を起こし、沈没。

 敵前衛はとっくに崩壊しており、残る艦艇も数少ない。

 

 そこに、生じる大きな水柱。

 味方前衛による砲撃により残りの艦艇も沈み始める。

 

 最後の辺りは宮島も上空で観戦していた。

 

「よしっ。殲滅完了」

 

 宮島は満足したように、天城へ帰って行った。




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第二十七話「東南の海と二人の思い-艦隊、海域へ突入ス-」

ー??????ー

 

『11方向!砲撃確認!』

 

ドン!

ドカン!

 

『我、爆発炎上!爆発炎上!』

『右旋回!青葉に続け!』

 

(う、うそっ...)

 

ドン!

ドン!

 

『古鷹被弾!大火災発生!』

 

(そ、そんなぁ...)

 

ドン!ドン!

 

『左舷!砲撃確認!砲撃確認!』

 

ドン!

ドカン!

 

『我、被弾、我、被弾。大火災発生!』

 

(嫌...!いやだよぉ......)

 

ドッカーーーン!!!!

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「!!」

 

 駆逐艦「吹雪」艦長室

 私は悪夢にうなされて目覚めました。

 

「はぁ。はぁ」

 

 ソロモン海域正面に来て、数日が過ぎ、

 今日は10/11になってしまいました。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「10/11...か」

 

 俺はカレンダーを見ながら呟いた。

 4日に青ヶ鳥を出撃した連合艦隊は本当なら

 5日の夜にはソロモン海域に突入

 1,2日で攻略を終了予定だったのだが...

 

「ほんとに嫌な思い出を駆る奴らだなっ」

 

 出撃すぐの深海棲艦の出現から立て続けに

 複数の敵艦隊が出現。

 始めは航空機と前衛部隊での壊滅をしていたものの

 段々と、前衛の弾薬、航空機の魚雷、爆弾、弾薬が

 無くなり、そちらの補給が必要になった。

 すぐに、そちらの補給部隊を手配したものの、

 何かとトラブルに巻き込まれ、結局突入は

 今日、10/11にまで延期させてしまったのだ。

 

「みやじまさん、だんやく、ねんりょう、ともにぜんかんほきゅうかんりょうです」

「了解。夜になり次第、突入するから、準備するように」

 

 俺は、そう言って艦橋を出た。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 洋上に待機する連合艦隊

 100隻を超える大艦隊であるはずなのに、

 今朝から、深海棲艦は一向に攻めてこない。

 

「おかしいよな宮島」

「ああ」

 

 俺は「天城」のキャットウォークで菅野と共に静かな海を見ていた。

 正面には「吹雪」が泊まっており、上空には直掩機が飛んでいる。

 

「おそらく、この日付を狙ったんだろうな」

「10/11か?」

「そう。おそらく、今までにこちらにけしかけた深海棲艦隊の残した情報を元に「吹雪」や「古鷹」がいることから、10/11に交戦をして沈めることで日本側に精神的にも苦痛を与えるためだと思う」

「吹雪や古鷹いることがばれてるって事は、あきづきやきりしまもばれてるんじゃ?」

「そっちは大丈夫だろうな。普通の護衛艦は深海棲艦相手に有効な戦いは難しい。せいぜい、艦娘の目を借りての戦闘をするとしか考えていない可能性がある。塗装は闇夜なのかで、他の駆逐等に紛らせるためと考えるだろうな」

 

 菅野は一連の話を聞いた後、探るような顔で聞いてきた。

 

「新型機の導入、護衛艦の戦闘参加、戦車隊の導入、総勢100を超える大艦隊...お前、ソロモンをどうする気だ?」

「跡形もなくす」

「はぁ?!」

 

 菅野は少し後ろへ下がった。

 

「はは。冗談だよ、冗談」

「な、なんだよ」

「ちょっと深海棲艦に黙ってもらうために、相手の泊地を壊滅させて、奪い取るだけ」

「後は?」

「連合海軍に管理してもらえばいいんじゃない?俺は、青ヶ鳥で十分」

 

 二人は、その後雑談へ話の内容を移し、食堂へお昼をとりに行った。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「状況は?」

「せんしゃたいが、てきひこうじょうをかくにん。りくじょうきがりりくたいせいでたいきちゅう。いつでもしゃげきかのうだそうです」

「了解。戦車隊は艦隊突入の指示後、砲撃を開始。見えている敵陸上機を破壊、照明弾で第三艦隊を誘導してくれ。発見された場合はすぐに退避、退避後にまた支持を仰いでくれ」

『りょうかい』

 

 時間は進み10/11,20:30

 すっかり暗くなった外を確認しながら、宮島は各部隊へ支持を出していく。

 

「第三艦隊は海域突入後、照明弾を頼りに、ラバウルの飛行場を破壊、敵艦隊はできるだけ壊滅させるように」

『了解』

「第一、二艦隊は、途中まで第一艦隊と同行。サンタイサベル島で二手に分かれて進軍、第二艦隊はサンタイサベル島の太平洋側、第一艦隊は徹底海峡側を侵攻する。こちらは戦車による照明弾が無いので、結構接近してからの砲撃となる。第一、二艦隊だけでも50強の数の艦隊になる、衝突には要注意してくれ」

『了解!』

「よし、全艦に通達!戦車隊、第一、二、三艦隊、攻略海域へ突入!」

 

 その一言で、全艦隊が徐々に動き始め三つの艦隊に分かれる。

 

ー第一艦隊ー

 

「天城、瑞鶴、翔鶴、瑞鳳を中心に輪形陣!前衛は...」

 

ー第二艦隊ー

 

「飛龍、蒼龍、祥鳳を中心に輪形陣!扶桑ねぇさんと私は...」

 

ー第三艦隊ー

 

「赤城、加賀を中心と、大鳳、土佐を中心にした輪形陣に別れます!赤城達のを...」

 

ーーーーーー

 

 各艦隊の旗艦はそれぞれ指示を出しながら海域へ突入して行った。




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第二十八話「東南の海と二人の思い-攻略~ラバウル方面編~-」

『赤城、加賀を中心と、大鳳、土佐を中心にした輪形陣に別れます!赤城達のを先頭に、大鳳、土佐を後方に進軍します!』

 

 大和の指示で各艦が前方赤城達の艦隊と大鳳達の艦隊に分かれる。

 

~~~~~~~~~~

編成状態

 赤城、加賀、飛鷹を中心に

 長門、金剛が前方

 妙高、川内が左方

 高雄、木曽が右方

 曙、漣、潮、野分、舞風、きりしまが右方から前方、左方に掛けて展開

 

 大鳳、土佐、隼鷹を中心に

 日向、比叡が後方

 摩耶、利根が左方

 鳥海、長柄が右方

 白雪、深雪、浦風、谷風、嵐、萩風が右方から後方、左方に掛けて展開

 

 大和、矢矧、初霜、霞、雪風、磯風、浜風、朝霜、秋月は

 赤城達の輪形陣と大鳳達の輪形陣の間で

 二艦隊を繋ぐように第一警戒航行序列で展開

~~~~~~~~~~

 

『現在は空母を守る防御体制を採っていますが、ラバウル敵飛行場を発見次第、第四警戒航行序列を採ります!』

『了解!』

 

ー一方、戦車隊ー

 

『砲撃命令確認!隊長車より、各車へ、これより、敵飛行場への射撃を行う!』

 

 戦車隊は飛行場を狙える各所に散らばり、砲身を航空機に向けていた。

 

『主砲AP弾装填!撃ち方よーい!』

 

 ウォーンと低い音と共に、各戦車の砲塔が標準をしっかりと定める。

 

『撃て!』

 

 戦車の主砲は火を噴き、辺りが一瞬明るくなる。

 砲身から飛び出したAP弾は直線的な弾道を描き、そのまま敵陸上機へ着弾する。

 砲撃を受けた陸上機は相次いで爆発、火を上げた物は辺りを照らし、格好の標的となった。

 

『各車移動開始、移動後に、陸上砲に向けて、射撃を開始!』

「大崎、9時の方向に転進、100mぐらい前進。立川は前進後に一番近い陸上砲へ砲身を向けて射撃を行って」

「「はい!」」

 

 カタカタと履帯が動き、隊長者の10式が動き始める。

 闇夜の森に紛れる、濃緑と茶の迷彩。

 先ほどの砲撃からの爆発でうまく敵に移動がばれずに次の砲撃地点へ移動する。

 

「撃て!」

 

 隊長車を皮切りに次々と各車が砲撃を再開する。

 陸対艦の陸上砲は次々と火を上げて壊れる。

 

 自体を収集出来ていない敵は、慌てふためき、指令の人型深海棲艦も指示をまとめきれていなかった。

 

『照明弾装填!砲撃後、安全地帯へ一時撤退する!』

『了解!』

 

 各車は思いっきり上空へ砲身を上げ、ドーン!と一発照明弾を放つ。

 照明弾で上空でパッと明るくひかり、敵飛行場を明るく照らす。

 

『全車撤退!』

 

 各車はそのまま撤退して行った。

 

ー戻って、艦隊ー

 

 艦隊は二度の敵警備艦隊と交戦、レーダーによる優位位置からの攻撃によりほとんど被害を受けずに飛行場を前にしていた。

 

「艦隊12時の方向!照明弾を確認!敵の飛行場です!」

 

 監視妖精が大和に報告に来る。

 大和は報告を受け、前方の燃え盛り照らされた飛行場を睨みつける。

 艦隊は第四警戒航行序列を採り、大和、長門を中心に両翼に軽巡・重巡・駆逐が展開し

 後方を空母と護衛の駆逐が縦陣が追走する形になっていた。

 

『全艦HE弾装填!飛行場へ第一掃射を行います!敵、遊撃艦隊に注意!きりしまさんはハープーンの発射準備を』

『了解!』

『左翼側は左へ転進、空母の方達もそちらへ続いてください!右翼側は右へ、私もそちらへ続きます!』

『了解!』

 

 一つの艦隊は二手に分かれ、飛行場へ向かう。

 

『左80度に第一、二、三番砲塔旋回!撃ち方よーい!』

 

 大和に続き、各艦が飛行場へ砲身を向ける。

 

『撃ちー方ー始め!』

 

ドン!

ドン!

ドン!

 

 今までの比にならないくらいの轟音がビスマルク海に響き渡る。

 この時を待って居たかのように轟音を響かせる45口径46cm砲

 放たれたHE弾は爆発を伴い次々に飛行場を破壊する。

 

『今度は停泊中の敵艦隊群を狙います。戦車隊の皆さんは照明弾を海岸線側にお願いします』

『『了解!』』

『AP弾装填!撃ち方よーい!』

 

 深海棲艦側も動き出そうと、錨を揚げて、回避に動こうとするが、かたまって泊まっていたためになかなか動けない。

 そんな間にも、戦車隊による、照明弾で、船体をさらされ、薄闇からは大和や長門の主砲がこちらを捉える。

 

『第二掃射!撃ちー方ー始め!』

 

ドン!

ドン!

ドカン!

 

 次々に着弾する弾。

 装甲を抜かれた艦艇は爆発と共に船体が割れ、沈み始める。

 なんとか耐え抜いた、艦が大和へ反撃を行おうとするが。

 今度はそこに水柱と爆発がしょうじる。

 

「大和に攻撃を加えようなんて思わないでよね。魚雷、次弾装填」

 

 矢矧率いる臨時の水雷戦隊の酸素魚雷が当たったのだった。

 

「大和さん!5時の方向、敵の護衛艦隊です!」

『きりしまさん!発射して下さい!』

『了解!ハープーン!敵捕捉!』

 

 きりしま内部の戦闘司令室が慌しくなる。

 

『ハープーン発射!』

 

 シューという音と共に、ミサイルが放たれる。

 ミサイルは一度上空まで上がると標的に向けて一気に飛んでいく。

 普通のミサイルなら深海棲艦相手に、当てずっぽうに飛んで行き、大抵ははずすのだが、

 このミサイルは一直線に敵深海棲艦へ飛んで行き、敵の駆逐艦級から巡洋艦級を沈めた。

 しかし、戦艦となると、ちっとやそっとじゃ沈まないようで、反撃のために、砲身をきりしまに向ける。

 

 しかし、そこに旋回を完了させた金剛が砲撃を行う。

 赤い水柱が立ち上がり、敵艦は沈み始める。

 

『ラバウル方面、作戦終了しました』

 

 敵ラバウル飛行場とその護衛艦隊は壊滅した。




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第二十九話「東南の海と二人の思い-ガダルカナル方面-」

『飛龍、蒼龍、祥鳳を中心に輪形陣!扶桑ねぇさんと私は前衛に立ちます!重巡は後衛に、軽巡側面に駆逐艦の皆さんは、円を描くように陣形を作ってください!』

『了解!』

 

 第二艦隊は単独で陣形を組み立て、サンタイサベル島の太平洋側に消えていった。

 

「よし、こっちも行くか」

 

 宮島はそう言いながら隣を進む「吹雪」の船体に目をやった。

 

(大丈夫だろうか。赤城達のように近づいて悪夢にうなされたりしてないかな)

 

 宮島の今の気がかりはそれだけだった。

 過去に赤城達がミッドウェーの悪夢にうなされたように、吹雪もまた、サボ島沖夜戦の悪夢にうなされているのではないかと心配であった。

 

(いざとなったら、守ってやるからな)

 

 宮島は懐の写真に一度目をやり、無線を手にする。

 

『天城、瑞鶴、翔鶴、瑞鳳を中心に輪形陣!前衛はむt』

『私が行きます!』

 

 その時、吹雪が指示に口を挟んだ。

 

『古鷹さん、青葉さん、衣笠さん、初雪!ついて来て下さい!』

『おい!まt』

 

 その指示と同時に、吹雪と初雪、古鷹、青葉、衣笠は30knの速度を出し、前衛に向かった。

 

『おい!吹雪!なにをk』

『宮島さん。大丈夫です。今度は成功させます』

 

 吹雪はその指示を残し、艦隊全体の前方へ立った。

 

『...』

『ちょっと、鶴さん!どうすんの!吹雪達、どんどん離れて行ってるけど!』

『分かってるっ!』

 

 確かに吹雪達は離れていっていた。

 青葉、古鷹、衣笠が単縦陣を構成。

 青葉前方左に初雪、右に吹雪が立っている。

 

『あきづき、吹雪達を追えるか?!』

『追えます。ぎりぎりになりますが、他の艦艇とあの艦隊の間で連絡を取り合えます』

 

 宮島はその言葉を聞いて決意を固めた表情になる。

 

『じゃあ、あきづきはそのまま最大戦速で吹雪を追ってくれ、神通、朝潮、大潮、霰、荒潮はあきづきを護衛してくれ、霧島、伊勢、大井、能代、早霜、清霜はあきづき達の後方でいつでも援護体制を整えてくれ、残りは空母護衛!』

『『了解!』』

『私達は?』

 

 全体に指示を出した後、瑞鶴がまた無線を飛ばしてきた。

 

『瑞鶴、翔鶴、天城は()()発艦体制を進めるように、いつでも出せるようにしてくれ!』

『了解!』

 

 無線を元に戻し、宮島は近くに居た妖精に指示を出す。

 

「格納庫の妖精達に指示、30kg爆弾を搭載するように」

「分かりました」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 宮島を無視して前衛へと立った吹雪率いる艦隊(第六戦隊)

 青葉の妖精はレーダーに探知した艦隊を報告に来る。

 

「10時の方向に艦隊発見、第二艦隊の可能性もあり」

「確認信号をお願いします。違う場合は回避行動と攻撃を」

「分かりました」

『10時の方向に艦隊発見!敵味方の判別後に味方なら合流、敵の場合、回避行動と攻撃を行います!』

『了解!』

 

 そして、青葉は探照灯で確認信号を送る。

 

ワレアオバ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重巡リ級Flagshipは不気味な笑みを浮かべて砲撃指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!

ドン!

ドン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『11時方向!砲撃確認!』

『我、炎上!炎上!』

『右旋回!青葉に続け!』

 

「う、うそっ...」

 

 吹雪は艦橋で絶望の表情を浮かべていた。

 

 吹雪達の艦隊と敵の艦隊はT字の状態で交戦を開始したのだ。

 しかも吹雪達が劣勢の立ち位置での開始だった。

 青葉は煙幕を張りながら右へ転進しており、吹雪もそれに続いた。

 

 しかし、敵の攻撃は止まず

 古鷹が場しのびに探照灯を放ちながら二隻の間に入る。

 

「ダメ!そんなことしたらっ!」

 

 古鷹へ敵艦の砲身が向いたその時。

 

ドン!ドン!

ダダダッダダダッダダダッ

 

 敵艦に次々と上がる水柱、機関砲の砲声、レシプロ機特有の音。

 リ級は奇襲に驚いたが、被害の少なさに反撃の命令をあげようとする。

 しかし、そこにまた奇襲が起こる。

 レシプロ機のそれによく似た音を立てながら、闇の中にその姿はあった。

 

「あれはあきづきさんのヘリ?!」

 

 あきづきのヘリ――SH-60kはAGM-114へルファイヤを放ち上空へ緊急退避を行う。

 

シュー シュー シュー

ドカン!ドカン!ドカン!

 

 リ級に次々と当たるヘルファイヤ。

 リ級は爆発を伴って沈んでいった。

 旗艦のリ級が沈んだ事により乱れる敵艦隊。

 そこへ多数の魚雷が迫る。

 

「選り取りみどりっぽい?」

「鬼神の強さ、見せましょう!」

 

 第二艦隊の前衛から抜け、先に第一艦隊に合流した、夕立と綾波は魚雷を皮切りに攻撃を開始する。

 

『勝手に行かないでくれよ。吹雪』

『鶴さん...』

 

 その時、宮島から無線が入った。

 

『勝手に行かれたら俺はまた、お前を守る事が出来なくなるじゃないか』

『すみません...私...』

 

 吹雪はいつの間にか泣き出していた。

 

『今度からは離れるなよ。ちゃちゃっとこいつらを片付けよう』

『...はい!』

『私達が、飛行場への攻撃を行います!敵戦艦二隻がそちらへ向かいました!それ以外はそちらにいるので全てのようです!』

『了解!これより反撃に移行する!全艦攻撃始め!』

 

 宮島の号令の下、反撃が始まった。

 

「零夜戦改、発艦始め!」

 

 天城の甲板から零夜戦が飛び立つ。

 明石はどうにか正規空母三隻、三飛行隊分の零夜戦を作り上げたのである。

 零夜戦はレーダーを元に敵艦への攻撃を開始する。

 

 残党の駆逐艦へ落とされた30kg爆弾は弾薬庫へ引火し、爆発を伴って、轟沈して行った。

 

「霧島、突撃します!」

「援護しますね!」

「悪夢をみせるっぽい!」

 

 霧島、夕立、綾波の三隻は戦艦へ突撃をする。

 

「全砲門砲撃始め!」

 

 霧島の主砲は敵戦艦二隻へ向けて勢い良く放たれ、直撃。

 直後に魚雷が追い討ちを掛ける。

 

『こっちは片付いたッぽい!』

『こちら山城、こちらも破壊を確認しました』

『吹雪、後はお前が沈めるだけだ』

 

 吹雪の正面には沈没寸前の重巡リ級があった。

 

「魚雷、8門!放て!」

 

 吹雪は船体を横にし、魚雷を放つ。

 何も出来ないリ級はそれをただ単に見つめていた。

 

 リ級へ当たった魚雷の爆発は、ソロモン攻略の終了を表していた。




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第三十話「謎の訪問者」

 ソロモン海域攻略から10日過ぎた、10/21。

 連合海軍から独立し鎮守府は『青ヶ鳥鎮守府』という一つの国防機関としての役割を受け持つ事になった。

 しかし、会議等に特に参加する必要は無く、深海棲艦に本土が侵攻されそうな時は、連合海軍と連携して敵を壊滅させる。連合海軍の発案の奪還作戦等の際は奪還の手助けを行うというものだった。

 

―――――――――――――――

 

「ふぅー。これでやっと、のんびり出来るな」

「ですねー」

 

 昼間の執務室。

 俺は吹雪と揃ってダラーっとしていた。

 

「執務はしないの?」

 

 その横には何故か瑞鶴が居て、腰に手を当てて呆れた仕草を見せている。

 

「資材の残量、今日の建造結果、資材の入庫量の書類だけで今は執務が終わりなんだから、有ってない様なもんだぞ」ダラー

 

 俺は机に突っ伏しながら言う。

 大本営とのひと悶着から執務の内容はこれだけだったが、そんな事を瑞鶴が知るはずも無い。

 

「はぁ~」

 

 瑞鶴はさらに呆れたのか深くため息をついた。

 

「・・・!」

 

ギィ~

 

 弦を引く音にぱっと顔を上げると、瑞鶴が窓の外を睨みながら、弓をこちらに構えていた。

 

「お、おい!いきなりどうした!?」

「鶴さん!頭を下げて!」

 

 咄嗟に頭を下げると、スッっと矢は頭上を通り過ぎ、窓を抜け、零戦五二型に姿を変え、視界に見えぬ敵を追い始めた。

 

「外に何か居たか?」

「哨戒に関係ない彩雲が居たから不審に思って...」

 

 そう言われて、窓の外に目をやる。

 外では彩雲が先ほどの零戦に追われていた。

 残念ながら、零戦は彩雲のその速さに追いつけては行けなかったが、彩雲は零戦の20mmを避けながら、どんどん執務室を遠ざかってゆく。

 

「あの彩雲って加賀のじゃないのか?一瞬だけ赤の二本帯が見えたような...」

「い、いいのよ!そこを飛んでいるだけで不審なんだから!」

 

 瑞鶴はフンッとそっぽを向きながら言った。

 不思議に思いながらも机にまた突っ伏す。

 

トットットートー

 

 その時、瑞鶴に無線が入る。

 久し振りに聞いた、モールスの音に、緊張した空気が執務室内に張り詰める。

 

「鶴さん!さっき出て行った零戦から通信!『敷地内に不審人物を発見』だって」

 

 瑞鶴は焦り気味に言う。

 青ヶ鳥鎮守府は前の世界もこの世界でも、深海棲艦に対しては現在、太平洋側の最前線に位置しているのである。

 そんなところに位置する鎮守府だけあり、警備は鎮守府よりも堅い警備体制になっている。

 今まで触れてこなかったが警備兵の詰め所は他の1.5倍、配備されてるし、門の監視は昼夜変わらぬ人数で24時間体制のはずなんだが...。

 

「一応、今飛んでる零戦はペイント弾を積んでるけど・・・」

「侵入者の周辺に威嚇で撃ってくれ、けして侵入者本体を撃たないように」

「了解!」

 

ー一方、外ー

 

 加賀の彩雲を追っていた零戦は瑞鶴の命で、侵入者へ目標を移していた。

 眼下の鎮守府敷地内を優々に歩く侵入者の周辺に対し、7.7mm機銃からペイント弾を放つ。

 放たれたペイント弾は侵入者の周辺に着弾するが、侵入者はそんな事気にしないかのように、ゆっくりと歩く。

 

「♪~♪~」

 

 侵入者は、その長めの黒髪を揺らしながら、軽く口笛を吹きだす。

 零戦はなおも続けて、ペイント弾を放つ。

 しかし、侵入者は止まろうともせずに、そのまま鎮守府本庁舎に入っていった。

 

ー戻って、執務室内ー

 

「?!鶴さん、侵入者全然気にせずにこっち来てるって!」

「とりあえず、迎撃態勢!侵入者の特徴は?」

「・・・長めの黒髪...たぶん女性かもだって」

「なら、ほんの少しだけ手加減して、取り押さえろ!」

「「はい!」」

 

 数分後、カタッカタッと執務室にゆったりとした足音が聞こえ、ピタッと執務室の前で消える。

 執務室のドアの前では、吹雪と瑞鶴が、正面には俺が侵入者が入ってくる瞬間を待ち構える。

 

ガチャッ

 

「今!」

 

 瑞鶴の号令の後、吹雪と瑞鶴は扉から入ってくるだろう侵入者へ飛び掛るべく、ドアへ向かって飛び掛る。

 

「「あ痛っ!」」

 

 飛び掛った二人はガツンと頭を互いに頭ぶつけ、その場に蹲った。

 

「誰が扉を開けてすぐに入ると思ったのかしら?」

「ん~っ!!このっ!」

 

 額を押さえながら、瑞鶴は悔しそうな顔で侵入者に再び飛び掛る。

 

「ひょいっ」

 

 侵入者はぴょんっと軽く脇に避けて瑞鶴を避ける。

 瑞鶴は勢い良く廊下に飛び出てしまった。

 吹雪はそのまま「うぅ~」と蹲ってる。

 

「空母って物は近づくとそんなにか弱いものなのかしら?」

 

 廊下でうつ伏せの状態で、抑えている瑞鶴を見ながら、侵入者はやれやれと手で仕草をする。

 

「当たり前だろ、だから直掩機ってのが居るんだろうが」

 

 俺は侵入者――彼女に話しかける。

 ドア前のひと悶着後、改めて彼女を見ると見たこと無い顔ではなかった。

 日本人の特徴の黒髪を肩に掛かるぐらいに伸ばし、服装は軽快に動けるような軽装。

 瑞鶴を避けるときの軽々とした身のこなし具合、零戦の掃射の中を平気で進めるその根性...。

 

「やっぱりあんたか...」

「あんたって何よ」

 

 彼女はそのまま、執務室のソファーに何の遠慮も無く腰を掛ける。

 

「巫女さんがこんなところに何の用だ?」

 

 俺は彼女を睨みながら言った。




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第三十一話「ゼロの天敵」

「何の用って・・・。久し振りに顔を見に来ただけよ」

 

 彼女はそう言って、軽く座っていたソファに深く座りなおした。

 

「あなたは、一体誰ですか?」

 

 立ち直った吹雪が俺の隣にやってきて、聞いた。

 

「そう言えば、艦娘さん達とは始めましてだったね。私は生駒 見里よ。さっき、宮島が言ってた通り、ここの島の神社、青ヶ鳥神社の巫女をやっているわ」

「青ヶ鳥神社?」

 

 瑞鶴も立ち直ったのか、頭を押さえながらも執務室に入ってきた。

 

「この前、お祭りがあった神社ですよ。私達駆逐で屋台を出した」

「あ~あそこの神社ね」

 

 瑞鶴は思い出したのか、手をポンっと叩いた。

 

「でも、あの時、そんな人見なかったよ?」

「当たり前じゃない、そのときは縁側でお茶飲んでたんだから」

 

 生駒は瑞鶴に面倒そうな表情で答えた。

 

「何で、お祭りなのに」

「だって、外にいれば変な男が寄って来るし、そいつらは大抵イラッて来るような言動なのよねぇ」

「その上、短気だからキレるて逆に寄ってk・・・」ペシッ

 

 生駒の悪いところを言おうとしたところに、彼女の右からのパンチが入る。

 俺はそれを右腕で迎撃し止める。

 

「そうそう、こうゆうとこだ」

「くっ!」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 生駒は一旦離れ態勢を立て直し、不規則に動きながら、迫ってくる。

 それを宮島は身体全体で受け止める。

 しかし、受け止められずにそのまま執務室の窓から外へ投げ出されてしまう。

 

パリンッ

「うぉわ?!」

「・・・」

 

 外に出された宮島は空中で態勢を立て直して地面に着地する。

 そこへ生駒は降り立ち、すぐさま距離を詰める。

 

「ハッ!」

 

 生駒はすぐにパンチを加えようとするが、

 宮島はそれを受け止め、かわしながら後退する。

 

「あっ、そっちには海が...」

「鶴さん、後ろ!」

 

 吹雪と瑞鶴は声を上げるが宮島には届かず、埠頭端から海へ落ちてしまう。

 

「ふぅ。懲りたかしら?私は短気なんかじゃn」

 

ブーン

 

 勝ち誇っている生駒の前を紫電改二が通過する。

 紫電改二はそのまま上空へ向かいながら、生駒の気をひく。

 

「っ!また、ひこうき!」

 

 生駒の視線が紫電改二に向いている間に、宮島は陸に上がる。

 

「そっちに目を向かせてて、大丈夫か?」

「?!」

 

 宮島はその長い弓を振り回して、生駒へ向ける。

 生駒は避けながら宮島との距離をとる。

 

 距離が離れた事に気付いた生駒は周囲に中玉を展開させて個々を当てて煙を発生させる。

 

「何、あの玉っ!?」

「何処かで見たような?」

 

 生駒はそのまま煙に紛れて、相手のわきを狙おうとする。

 しかし、狙った先に宮島の姿は無かった。

 

「何処!」

「こんな煙は雲より探しやすいね、敵を」

 

 煙が充満する中、突如現れる青い中玉を生駒は寸前で避け、飛んできた方向に打ち返す。

 数回繰り返すうちに、煙は晴れて二人が姿を現す。

 

 宮島は全弾回避し、その上紫電改二を着艦させていた。

 生駒は回避はしているものの、何発かかすった様で、煤けている。

 

「さっきの言葉の続きだが、君は短気だから、男が寄り付かない」

「くっ、うるさいわね」

 

 「あ、あと」と宮島は続ける。

 

「もう一つ、そうやって短気になるから・・・」

「?・・・!?」

 

 宮島の言葉の間から、レシプロ機の音が聞こえ始める。

 生駒がその方向へ向くと彗星の爆撃隊が編成されて、今、爆弾を落とし始めた。

 

バン、バン

 

 爆弾は空中で炸裂すると、さっきと似た小玉が現れ、弾幕を張り、生駒の周辺へ落ち始める。

 

「っ!」

 

 生駒はそれを回避し始めるが、そこに宮島がさっきの言葉を続ける。

 

「視界が減って、劣勢になって弱点をつかれる」

「あ!」

 

 宮島は周囲に青い中玉を複数出現させると、生駒へ向かわせる。

 生駒に上空の小玉、目前の中玉が命中する。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「あー、負けた負けた」

 

 生駒はやれやれ仕草を見せて、ソファに腰掛ける。

 

「すごいですね鶴さん!」

 

 吹雪や瑞鶴は勝利に嬉しい言葉を漏らす。

 

「いや、まだまだだな」

「...え?」

 

 それを俺は否定した。

 吹雪や瑞鶴は頭に?を浮かべる。

 

「なんで?圧倒的に勝ったじゃない」

「いや、窓から落とされた後に開いた距離を容易く縮めさせてしまった」

「まぁ、そうさせる為に誘導させたやり方だったんだけどね」

 

 生駒はここぞとばかりに胸を張る。

 その胸の張り方に、吹雪と瑞鶴は悔しいような嫉ましいような表情を浮かべる。

 

「まあ、そうやって意地の悪いのもお前の悪いところだが」

 

 その言葉に生駒はムスッとする。

 

「意地の悪い...あんたはまるで『ゼロの天敵』ね」

「・・・はっ?何それ?」

 

 瑞鶴の『ゼロの天敵』と言う言葉に今度は生駒が?を浮かべた。

 

「あー。なるほど」

「えっ。ちょっと宮島、どうゆう意味?!」

「まあ、いい渾名とでも思っておけ。あと、そろそろ帰ってくれないか?執務をしたい」

「・・・ふーん。まあ、いいわ。それじゃあ、そろそろお暇させてもらうわね」

 

 生駒は少し考えながらも鎮守府を後にして行った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 時間は過ぎて、

 俺は自分の部屋で、一人、窓の前の机に向かっていた。

 

「『ゼロの天敵』か...面白い渾名だな」

 

 俺は机に置いてある自分の愛機使用の零戦と、その好敵手たちを眺める。

 

「F4U、F4F、F6F...あのときは力不足だったな。今回はなかなかの戦いになっているが...」

 

 俺は窓の外の月に目を移す。

 

「そう言えば、あの世界のときも力不足だったな...」

 

 俺は月を眺めながら、昔を思い出していた。




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第四章
第三十二話「宮島の昔話」


「ん~」

「ブッキー?どうしまシタ?」

 

 生駒訪問の数日後、吹雪は何時かと同じように食堂で唸りを上げていた。

 

「あ、金剛さん。その、悩み事があって......」

「提督と付き合えて、その他に何かあったのですカ?」

 

 吹雪は悩み事を話した。

 

「前に鎮守府内に侵入者が出たって話しましたよね?」

「確か、提督の昔の友達?って人ですカ?」

「はい、その人女性なんですけど今考えてみれば、すごく綺麗で、」

「もしかして、昔付き合ってて、再開してまた好意が戻ったとか考えてるんですか?」

「え?何で分かるんですか?!」

 

 吹雪の驚いた顔に、金剛はさも当然のように答える。

 

「提督は会うたび空を見てボーっとしている事が、最近多くなったネ。その侵入者が女性だったなら、その人のことを考えていると考えるのが自然だと思っただけネ」

 

 吹雪は正解といわんばかりにコクコクと頷く。

 

「だから、鶴さんに聞きたいのですが、なかなか勇気が出なくて......」

「そうネ~」提督のこと鶴さんって読んでるんだ。

 

 金剛は少し腕を組んで考えた後、ぽんと手を叩き、吹雪の手を引いて食堂を出た。

 

「私に良い考えがありマース!」

「え、あ、ちょっと!」

 

 ◇ ◆ ◇ 

 

(ボヘェー)

 

 軽すぎて、執務ともいえるか考えたくなるような執務を終らせた後、ソファで静かに空を眺めていると、菅野の紫電改二が飛んできて、滑走路と化している応接テーブルに着陸した。

 

「おーい、宮島、またボーっとしているのか?」

「いや、別にボーっとしてるつもりは無いんだが」

「はたから見れば、ボーっとしてるようにしか見えないが」

「そういうお前は、また紫電改二で移動しているのか」

 

 菅野は紫電改二を一旦見ると翼をなでながら言った。

 

「まあな、こんな小さい身体だし、こっちの方が楽なんだよ。っと、それより」

 

 菅野は急に真剣な顔になって、こちらを見てきた。

 

「金剛達が向かってるぞ?何か考えがあるかもしれないから、少し注意しとけ?」

 

ガチャッ

 

 菅野の注意に返事をする間もなく、金剛達が入ってきた。

 

「ヘーイ、提督ぅ!ブッキーが提督の昔話を聞きたいそうね!」

「えっ、あ、はいっ」

 

 吹雪の挙動を見るに、今初めて聞いたのだろうが、興味はあるのか、すぐに返事をした。

 

「あのっ、太平洋戦は瑞鶴さんや翔鶴さんの鶴さんと関わりがあった艦娘に聞いて、いくらか知っているので、『瑞鶴』が沈んだ後ぐらいの話をお願いします」

「・・・分かった。話そう、ちょうど俺も思い出して居たところだったしな」

「ワタシは、今から用事があるからこれで失礼しマースが、興味があるから今度話してネ!」

 

 金剛はそう言い残し出て行った。

 それを見送った後、お茶を出し、吹雪と応接間で対面になる。

 俺は、昔の事を思い出しながらその口を開いた。




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第三十三話「あの世とこの世の狭間」

「『瑞鶴』が沈んだ後か、分かった。少しずつになるかもしれないけど話そう」

 

 そう言って宮島は、口を開いた。

 

 

 

 瑞鶴が沈んだエンガノ岬沖海戦。俺は、瑞鶴格納庫で愛機の零戦二一型と共に居た。海水が入ってきたときの衝撃は、戦闘機のGとは違った感覚だったのを覚えている。

 格納庫の壁に叩きつけられて気を失った後、俺は気付けば零戦に乗っていた。それも駐機している零戦ではない、飛んでいる零戦だ。周りを見ると、何処か懐かしい山々が回りにあって、下はほとんど森だった。俺の意識がはっきりした途端に、ガタンっと揺れて機体がバランスを崩し始めた。まるで俺が起きるのを待っていたようにな。

 咄嗟に操縦桿を握り、各計器を見た。そしたら燃料はもうほとんど無く、あと数キロも飛べるほど無かった。その時、森の中に開けた場所を見つけた、神社っぽい建物があったが着陸するには問題ない。俺は、そこに着陸する事にした。

 普通は着陸には自機が程よい速度で、十分な距離と幅のある滑走路が必要なのだが、そこの開けた場所は幅はあっても距離が無かった。なので俺は、神社にある鳥居を着艦フックの容量できっかけ速度を落とす事にした。

 車輪とフックを出して鳥居から神社の本堂への直線に機体を合わせて、不時着に移る。鳥居にフックを引っ掛けると、グイっと速度が落ちてから鳥居が壊れ、機体はそのまま参道に落ちた。

 機体は所々損傷して、もう飛べる状態じゃなかったがどうにか俺は無事に地上へ降りることが出来た。

 

「ちょっと!何やってんの!?」

 

 まあ、鳥居をぶち壊して、参道をめちゃくちゃにすれば、神主か巫女は出てくる。驚きの混じった声にあわせて一人の巫女服の女性が出てきた。

 

「ああ、鳥居がめちゃくちゃ。参道もこんなにして……」

 

 女性は腰に手を当てながらあたりの惨劇を見渡していた。

 俺は申し訳なくなって、彼女に声をかけようとした。

 

「あの、すみません」

「もう。成功したと思ったら、っと何?」

 

 彼女はその声が聞こえていなかったらしく、ブツブツ小言を言いながら振りむいて、俺と目が合った途端「?」が浮かぶような顔でこちらにたずねてきた。

 

「ここは何処でしょうか?」

「あ~ここ?ここは邂逅神社よ。んで私はここの神主兼巫女の生駒よ」

 

 

 

「生駒さん?!」

 

 吹雪は宮島の話の途中で声を上げて驚いた。自分の悩みの種となっている、生駒の名がここで出るとは思っても居なかった。

 

「あぁ、そうだ。生駒とはその邂逅神社で出会った」

「でも、生駒さんって青ヶ鳥神社で巫女をやっていたような…?」

「確かに今は青ヶ鳥神社での巫女だ。まあ、色々あったわけなんだよ、今から話すから聞いとけ」

 

 宮島は吹雪の疑問の言葉を止めて自分の話を進めた。

 

 

「かいこう神社?」

「そう。邂逅神社。かいこうって字はめぐりあうとか思いがけなく会う事の「邂逅」ね」

 

 そう言われて俺はあたりを見渡した。崩れた鳥居から取れた表札って言うのか?板には確かに「邂逅」の二文字が書かれていた。生駒はそんな俺に付け足すように言った。

 

「ここら辺は何も無いわよ?この神社以外何もね。一様数時間も歩けば町にも繋がるけれど、それも不安定だし」

「不安定?」

 

 俺はそこに疑問を持った。この神社が町から離れすぎている事は百歩譲っていいとして、どうしてそれが不安定なのだろうか。

 

「様々な世界軸と繋げていると不安定なものなの」

「世界軸?」

 

 俺の疑問に生駒は、一つため息を吐くと、説明をし始めた。

 

「世界軸ってのはその世界の時間など、全てを含めた一本の軸の事よ。それを繋いだりする事で別の世界と別の世界をつなげて行き来をしたり、人を送り込んだりするの。で、その世界軸を操って、人を送り込んだり世界の調査をするのが、あなたと私が居るこのを始めとする『狭間』というところ」

 

 生駒の話を聞いていくと、狭間と呼ばれたこの世界は母艦のような世界が存在し、そこから派遣されたものが死んだ人間を天国か転生か、転移させるかを問うところらしい。

 全ての説明を終えると、生駒は「あなたにはお願いがあって強制的にこの狭間へ来てもらったわ」といった。

 

「お願いですか?」

 

 そう、と言って、生駒は言葉を続けた。

 

「あなたは大東亜戦争のエンガノ岬沖海戦にて空母瑞鶴と共に運命を共にした。本当なら、そのくらいの年代の人は転移に向いていないので転生か天国を勧めているんだけど、今回は転移をしてもらおうと思ってこの狭間に呼んだ。転移先は制空海権を奪われた世界。奪った敵に対抗できるのは大東亜戦争の兵器のみの世界。その世界への救いの手として、あなたには行ってもらいたいの」

「救いの手って、俺は戦闘機ぐらいしか乗れないぞ?」

「だから、その戦闘機に乗って、先ずは救いの手、救世主になってもらいます」

 

 生駒はそう言うと、大破した零戦を光で包み込み、元の状態に戻した。零戦に近づいて中も見たが、燃料が満載になっていること以外は、そこに来る前の状態に戻っていた。

 それに驚き、生駒のほうを見れば、彼女はにやりと笑って「行ってくれるかしら」といった。

 これらを目の当たりにして、俺の心の中は決まっていた。

 俺は「もちろん」と答えた。

 すると生駒は満足げな表情になり、神社の母屋へ促しながら「なら、その世界の説明をしなくちゃね」といった。

 

 

 それからの数日間はその狭間で過ごした。狭間には昼夜が無く、いつも日が上空に昇り続け、気が向いたら雨を降らしているらしい。数日の間は、生駒からその世界についての話を聞いた。そうなった経緯やそこに存在する敵の名称、艦娘と呼ばれる存在。その世界で教えられている常識を一通り聞いた。それと同時に、自分の嗜好で現代兵器――護衛艦やジェット戦闘機などの事も調べ、生駒から他の世界の話を聞いたりした。俺が使っている青い玉はその中で自分の興味で護身用として習得したものだ。技術の進歩に驚きながら、どうにか知識を詰め込んだ頃には、出発のときになっていた。

 数日間の間に神社の隣にあった森は滑走路に変わっていた。生駒の話だと「あなたが飛びだったら元の森に戻る」らしい。そうこうしている内に離陸のときが来た。

 

「実は、こういう他の世界からまた別の世界にって事には一つだけ特典をつけるのが普通なんだけど、特典の取得には時間とかが掛かるから私も全面的にサポートするわね」

 

 生駒の説明に了解とだけ返し、エンジンを回す。

 エンジンが温まり、カタカタと零戦は滑走路を走り出す。向かい風を起こさせて、発艦と似た状態にした滑走路で俺はいつも通りに離陸する。

 地上では生駒が小さくなるまで見送っていた。

 

 しばらくすると一瞬、気が遠くなり、場所が森の中から近代的な町へと変わる。正面に見えたのは昔の面影が消えた厚木の飛行場だった。





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第三十四話「厚木飛行場」

 ――あなたは、厚木基地の飛行隊に数年勤務、一等飛行兵曹までになった小隊二番機。実用機の訓練を終えて厚木基地に着陸するところへ送り込むから、後はうまくやりなさい。

 出発前日に生駒に言われた言葉を頭で思い出しながら着陸へ移る。厚木の飛行場は使った事は無いが、着陸は瑞鶴に乗り込むまでずっとやってきた事だ。何も考えずに着陸態勢に入る。

 脚を出してフラップを降ろす、地に脚が着いた後に惰性で流れるのに少し違和感があったが問題なく着陸できた。そのまま周りの奴らにならって長官らしき人物の元へ集合する。移動中に見た九六艦戦や零戦が並ぶ光景は、懐かしさを感じたな。

 

「佐藤長官に向けて、敬礼!」

 

 どれもこれも、懐かしいと号令に習いながら思う。佐藤長官が各中隊長に労いの言葉をしているその言葉を聞く限り、大尉階級の奴が中隊長なのは変わりないのか。というより、自分の階級一飛曹(いっぴそう)はいつの一飛曹なのだろうか。

 

「第四中隊第一小隊飯田飛曹長(ひそうちょう)小隊長、調子はどうかね」

 

 あぁ、その時代のか。って事は陸軍々曹と同じか。

 そこに合点が言って一人納得したが、今度は周りの目が気になった。第四中隊第一小隊と言う時点で、周りの目が笑っているようにも見えた。

 

「はい、良好でございます」

 

「また戦闘が起きた際はしっかり頼むぞ、ノルマを超えられなかったら、九六へ降格全機降格だからな」

 

 その言葉におそらく第一から第三中隊の奴らが笑った。

 飯田小隊長は「了解であります」と言っていたが、俺は我慢ならなかった。九六艦戦は俺が操縦訓練生を卒業してから瑞鶴に搭乗するまではずっと乗っていた飛行機だ、当時は零戦が出るまでは高速で運動性能の良さを武器に中国とかとやり合ってた。四年後に出た零戦のほうがさらに重武装と来てそっちの方が主力になっていったが、こちらでも戦えない事は無かった。笑い声は他から見れば飯田飛曹長に向いてるように見えるんだろうが、俺は九六艦戦に向いてるようにも思えた。

 

「では、佐藤長官」

「なんだ」

「ノルマの倍の数を撃墜した場合はその機種降格、永久的に白紙としては頂けないでしょうか」

「何だと」

 

 飯田小隊長に向いていた視線は全てこちらへ向いた。それどころかすぐ周りにいる奴らもこちらを向いた。

 全ての視線を集めたことに緊張感さえ持ったが、今はそれど頃ではない。

 

「もしそれが出来なかったらどうする」

「九六艦戦へ機種降格して、半永久的に零戦への更新はしなくて構いません。代わりに、成功した際は九六艦戦を零戦に更新してください」

「ふっ。なら良いだろうやって見せろ」

 

 佐藤長官は鼻で笑って、それを許可した。解散の号令を掛けると、真っ先に飯田小隊長が俺の元にやってきた。

 

「どうしてあんな事言った?」

 

 その口調はキレたものになるかと思ったが、彼はそんな事も無く興味が先行したものだった。

 

「飯田少隊長が小ばかにされていた事に怒りを感じましたが、それと同様に九六艦戦が小ばかにされている事にも怒りを感じました。九六艦戦は確かに零戦と比べると劣りますが、一様に弱いとは言い切れるものではないと自分は思います」

「では、零戦への更新を成功代償としたのは?」

「敵深海棲艦の差向ける航空機は九六艦戦では戦えても荷が重い、あのままでは搭乗員が危険です。なので零戦に更新して少しでも戦えるようにしなくてはならないのです」

 

 そこまで答えると飯田小隊長はそうかとだけ言って、ではよろしく頼むといって、自分の機体の元へ行ってしまった。

 

 

 

 その日の空いた時間は散歩と言って基地内を散策した。厚木は深海棲艦が現れたときと時同じくして現れた艦娘が扱う装備のうちの航空機を、人間が扱えるように変更させて対深海棲艦として航空運用をしてきた基地だった。基地内には攻撃機、爆撃機もあったが、圧倒的に戦闘機のほうが数が多く、そのほとんどが零戦だった。そこからでも九六艦戦が差別を思わせる使用がなされてきた事が分かった。

 基地内を一周して自分の機体へ戻って来た。垂直尾翼には『EⅠⅠ-105』の文字が俺の気持ちを高めた。あの『狭間』と呼ばれる世界でこいつと再会して以来、こいつへの気持ちの入れようは一層高まった。今回はそれを九六艦戦のこの基地の一部の搭乗員の苛まれている状況を覆す事に使う。自分の空戦の腕は胸張って良いとは言うともりは無い、むしろ足りないとさえ思っている。しかし、前線退役も出来ずに差別化の道具として扱われている(九六艦戦)をその任から遠ざけられるなら、思いっきり使う。

 その時だった。サイレンが基地内に響き渡り、整備員が次々に零戦や九六艦戦について発動機を回し始めた。

 

「戦闘想定空域は基地より南500km地点、数は50。準備出撃可能な機体から、順次発進せよ」

 

 サイレンと共に流れた放送が終った後に各中隊長が小隊長を呼び寄せ、号令を終えると小隊長が隊員を呼び寄せた。

 

「これより、敵機の迎撃に向かう。宮島一飛曹、何か迎撃作戦案はあるかな」

 

 発動機の音やサイレンが鳴り響く中、飯田小隊長は俺に作戦案を聞いてきた。突然の事で驚いたが、飯田小隊長の真剣な眼差しに、咄嗟に浮かんだ案を話した。

 

「先ず、我が第四中隊第一小隊は低空で戦闘空域に向かいます。巡航速度を超えた時速400kmほどで南進、戦闘空域へ達します。先に戦闘に入り、爆撃機を最優先に攻撃します。」

 

「低空で飛んでいくのか、それは何故だ」

 

「低空を飛ぶという事は、機体下の死角がほとんどなくなり、代わりに自分の上空は敵味方からは死角になります。死角からの攻撃は相手に有効ですし、急降下が苦手な零戦や九六艦戦にとって下からの攻撃はやりやすいもののはずです。また、九六艦戦は帰投を考慮すると戦闘可能な時間はわずかです。帰投が危うくなったら、すぐさま帰投に入ってください」

 

「なるほど」

 

「しかし、これは下手をすると我が小隊を壊滅させる可能性もありえますので、この作戦で行くかは飯田小隊長の判断でお願いします」

 

 俺が作戦案について一通り話すと、飯田小隊長しばし無言でこちらを見つめた。そして一つ頷くと「その作戦で行くぞ」と言って、出撃のために機体に乗り込んだ。それは気付けば出撃は他小隊より遅れており、南には飛び立った戦闘機が、小さくなろうとしていた中での事だった。俺は飯田小隊長に続いて、空へ上がった。

 

 

 

 空母に乗っていたときの小隊は大体3機が一個小隊だったが、基地の航空隊ってのは6機で一個小隊って括りらしく、俺が居た小隊は6機で低空を鶴翼陣形の形を採って空戦海域に向かっていた。6機中九六艦戦と零戦の数は半々、飯田小隊長と僚機2機が九六艦戦で他が零戦だった。

 他の小隊をしたから追い抜き先に戦闘空域付近に差し掛かる。上空には複数の小さな機影が見える。レシプロ機に見えないそれは、深海棲艦の機影だった。他の小隊を追い越して来たので現在は基地から550kmの地点。基地に戻る事を考えると九六艦戦は一回の攻撃しか許されない。

 

 飯田小隊長の機体が翼を振り、一気に上昇する。俺もそれに続いてというより、九六艦戦に先行して敵編隊に突っ込む。7.7mm機銃と20mm機関砲を一気に掃射、九六艦戦が目標にしている機の両端にいる機を撃墜してそのまま敵編隊を突き抜ける。続けて九六艦戦が目標機を攻撃、7.7mm機銃は時間が掛かったが何とか敵機を撃墜する。すぐさま飯田小隊長に並び、九六艦戦は退避するように手信号を送る。了解と返事をした飯田小隊長はそのまま九六艦戦たちを連れて、零戦たちには俺に続くように手信号を送って帰路につく。しかし、それを追うように敵機がそれを追尾しようとする。反転してそれを撃墜、そのまま他の敵機を引き付けて九六艦戦から引き離す。

 

「零戦隊、そのまま2000mまで降下、追ってきてる奴倒して、もう一回爆撃機行くぞ!」

 

 無線機にそう叫んだ後に機体を降下、2000mをきった所で左に旋回して後ろを回りこんでいき撃墜する。他の機も習って撃墜してもう一度上昇、爆撃機を狙って向かう。気付いた敵戦闘機の攻撃をかわして爆撃機を撃墜、上空で一回転した後に反転、これを繰り返す。

 何回も同じようには行かないが、大まか同じように攻撃を繰り返した。

 爆撃機への攻撃を六回、護衛の敵機との戦闘を四回。総撃墜数は自分だけで八機、うちの小隊では二十六機の大戦果を飾った。確たる証明は難しいが、途中からは観測のために第一中隊第一小隊に随伴していた観測機が観測しているため、ある程度は証明できる。

 

 

 

 厚木へ帰還したとき、零戦から降りて一番に俺の元にやってきたのは飯田小隊長だった。

 

「どうだった」

 

「自分は十機、他の奴も最低でも五機はやった筈です。観測機が観測した分が、我が小隊の最低撃墜数です」

 

「そうか」

 

 そこから飯田小隊長は何か言おうとしたが、俺と飯田小隊長は佐藤長官に呼ばれて長官室に出向くことになった。

 

 

「…小隊の撃墜結果を見たよ」

 

 佐藤長官はこちらを睨むような視線でそう言った。

 

「申告撃墜数二十六機、観測機が観測した第四中隊第一小隊の撃墜数は二十機、他小隊の撃墜数と比べても申告撃墜数はほぼ合っている様だな」

 

「……ノルマがどれ程かは、忘れましたが敵編隊のほぼ半数を撃墜しました。これは約束を守っていただきたいと思います」

 

「わかった」クシャっと手元の紙を握り締め、佐藤長官は呟く。「零戦へ更新しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 飯田小隊長と共に海軍式の敬礼をし、部屋を後にした。中から何かを机に叩きつける音が聞こえたが、そんなものは気にしない。

 

 

 

 

「それから…」

 

 宮島が続きを話そうとしたところで、執務室にノックの音が響いた。

 続けようとした言葉を一旦引っ込め、吹雪に断りを入れてから、ノックした主の入室を促す。

 

「どーも」

 

「…っ!」

 

 扉から覗かせた顔に、吹雪は目を見開き、宮島は呆れ混じりにため息を吐いた。

 入室した本人は二人の表情を見てむっとなるも、すぐにその表情をやめ、応接間のソファへ腰掛けた。

 

「何の用だ。生駒」

 

「ちょっと吹雪ちゃんには席を外してほしいんだけど」

 

 彼女は真剣な表情で、そう告げた。




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 ご感想ご意見等ありましたら、お気軽にどうぞ。

―――――
 あと、活動報告にて「今後の予定その2」を出す予定です。
 そちらに拙作やその他自分の作品の更新予定を書く予定ですので、そちらもどうぞお暇でしたら、ご覧ください。


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第三十五話「選択肢」

※報告※
 Twitterで確認した方もいらっしゃるかと思いますが、今作品は最終的に一人称として、お話を書いていくことにしました。色々計画の変更を行ってしまい申し訳ございません。


「……」

 

「……」

 

 吹雪を退室させた後、俺と生駒は互いに黙ったまま、目線だけを合わせていた。

 エスパーでもない俺は、そんなことで生駒の言いたい事は分からない。

 ただ、分かっている事は彼女は真剣だ――と言うこと。

 

「……っで、何の用だ」

 

 こんな事をしていても時間の無駄であるため、先に口を開いた。

 するとそれを皮切りに、生駒も口を開く。

 

「今回は、この転移について話に来たわ」

 

「転移、について?」

 

「そう、あなたが呉に向かう途中で先行的に転移し、その後にこの青ヶ鳥島が転移した今回の件について」

 

「アレはお前の仕業じゃなかったんじゃないのか?」

 

 最初、過去の事もあり、俺は今回の転移を青ヶ鳥島の俺の鎮守府の艦娘と俺を今の世界に転移させた『完全転移』とした。そんな事が出来るのは俺が知っている限り生駒のみで、そう仮説した上で生駒に事実を聞こうと思っていた。

 

「違うわ、確かにやろうと思えば、こんな島とあなたの呉観艦式参加艦隊をこの世界やはたまた別の世界に転移させる事も出来るわ」

 

「出来んのか」

 

「当たり前よ。私は一様『狭間』を扱う巫女よ?ただ――」

 

「ただ?」

 

「ただ、移動している艦隊を転移させたり、このぐらいの島を転移させるには、相当な時間か力が必要よ。移動するものは、未来位置をしっかり決定して範囲設定しないといけないし、島の場合は自分の範囲に収まらない場合は結界で延長点を作らないといけない。私の場合は、力が足りないわ」

 

「でも、時間を使えば出来るんだろ?」

 

「島を転移させるために必要な時間はあのくらいじゃ足りないわ。そもそも艦隊の航路を知らない私は、未来位置を知らないし」

 

 そうしてアメリカ人が困ったときにするような仕草を見せる。

 『狭間』に居た時に生駒のような『狭間』の管理者が扱う力というものを軽く聞いたが、それでもこのくらいの転移は難しいらしい。

 なら、この『完全転移』を可能にしたのは、なんなのか。

 

「今回の転移、これは『世界軸が勝手に捻じれた事による、転移』かもしれないわ」

 

 …?世界軸が勝手に捻じれた?

 世界軸を繋げ合わせることで、物や人を転移させる事ができる。それが『狭間』の原理だ。その繋ぎ合わせをするのが巫女や神様と呼ばれる管理者で、生駒がその管理をしている。

 

「最近はこっちの世界の青ヶ鳥神社に居て、ほっときっぱだったから気付かなかったのだけど、私の担当している『狭間』で捻じれが合ったみたいで、それがちょうどあなたの艦隊とこの島をこの世界の世界軸につなげて転移させちゃったみたい」

 

「ということは、この世界は来るべきしてきた世界ではないと?」

 

「まあ、そうなるわね。結果としてあなたのプライベートには、いい影響を与えたかもしれないけれどそれが全てとはいえない」

 

「悪い影響も有るという事か」

 

「えぇ。むしろそっちのほうが多いといえるわ。分かりやすいのがこの世界だと艦娘は水上を自身の身で往き、敵と戦う」

 

 俺らが居た世界は艦娘が艦長となって自分の在りし日の姿――艦船を操作して、深海棲艦と戦ってきた。もちろんこの世界と同じように水上を往くことも出来るが、それは移動手段に過ぎず。この鎮守府艦娘はそれでの戦闘は不慣れであり、錬度で見れば一の状態と言ってもよかった。

 

「先のソロモン奪還作戦は捻じれ方が幸いして敵も艦船状態のと戦ったけれど、これからは人サイズの敵が相手になるわ」

 

「そうなれば、機銃で攻撃できて当たるかどうか。しかも機銃が与えるダメージなど微々たる物だから、戦艦級下手をすれば巡洋艦級でも倒すのが難しい」

 

「そうね。つまり」

 

 敵が今までより小さくなり、艦船状態での戦闘は難しくなる。しかも鎮守府の艦娘は全て水上を往く戦闘は苦手。

 

 

「この世界じゃ、うちの鎮守府は横須賀や呉と同じぐらいの艦船数を誇っていても、新設の基地並の戦力だという事か」

 

 

 うちの鎮守府は130隻近く。前の世界で言えば、錬度はどの鎮守府・基地の中でも一位二位を争うほどの戦力を保持していた。しかし、今の世界ではそれが全て無くなる。艦娘は多いども、新設の基地並になる。

 

「おそらく。今この世界の深海棲艦に攻撃を受けたら、壊滅してもおかしくないわ」

 

「一様、あきづきやきりしまが居るが大量に戦力を向けられたら。壊滅するのが明確だな」

 

「そこで二つ提案なんだけど」

 

 ここまで来て生駒は俺が話しの途中で用意したお茶を口に含んだ。ゆっくり飲み込み、言葉の続きを話し始める。

 

「一つは、もと居た世界に戻るという案。二つ目は、艦娘の数から大幅に減らして、この世界若しくはこの世界に似た別の世界に移転するか」

 

 

 生駒の話を聞くところによると、二つの案の内容はこうだった。

 一つ目のもと居た世界に戻るという案は、今から俺も力を貸して延長点と世界軸を繋ぐ準備をして、目処としては十日以内にこの島を移転させて、もとの世界に戻るという事。

 二つ目の艦娘の数を大幅に減らして、この世界若しくはこの世界に似た別の世界に転移するという案。こちらは少し複雑になっており、この世界に残るというならば、解体などで艦娘の数を減らして基地の練度を急速に上げられるようにする体制を整える。似た別の世界に転移するならば、この島は世界軸の中で消滅させ、それとともに艦娘の数をある程度減らす、そして新たな世界で新たな基地で体制を立て直すというものだった。

 

 そして、一つ目の案のデメリットとして『元の世界に戻っても鎮守府が壊滅せずに済むという保障は無い』というのがあげられた。

 

「…それはどう言うことだ?」

 

「元の世界は日本の本土から300海里約556kmをなめるように重要防衛線として、伊豆諸島付近は青ヶ鳥が飛び出すように最前線を張っていたのは長なんだから知ってるわよね」

 

「あぁ、九六が往復して少し戦闘に参加できるほどに最初は防衛線は狭かったけど、そこまで広げたのには俺も関わったからな」

 

「そして北方からの攻勢は単冠湾泊地と大湊警備府が、南方は沖縄警備府と佐世保、呉が、日本海方面は舞鶴が、太平洋などの東方は青ヶ鳥と横須賀が担当してたのも知ってるはずよ」

 

「ああ」

 

「青ヶ鳥が()()()()()()()()してたときはそれで一先ずどうにかなってたんだけど、青ヶ鳥が捻じれで移転してしまったときに東方の戦線が崩れたわ。今まで西之島付近まで防衛できていたところが、青ヶ鳥島までなった」

 

「あぁ、なるほど」

 

 生駒の話をそこまで聞いて、元の世界の状況として考えられる事として生駒が言わんとしているとことが分かった。

 

「深海棲艦は青ヶ鳥まで戦線を延ばすために攻勢に出ていて、横須賀もそれの対応に追われている。もし敵に落ちでもすれば、北方、南方の戦線にも影響が出る。そんな敵の目の前に戻ってきたところで、そこに何処まで対応できるかってことか」

 

「その通り。そんなデメリットもあるから、一様の案として二つ目の案も出したのよ」

 

「そしてその二つ目の案のデメリットが、艦娘数が減る事による艦娘のメンタル面への影響」

 

 船魂を宿した女性の形としてこの世に存在するのが艦娘とされているが、内面は人間と変わらず、喜怒哀楽がある。別れがあれば泣くだろうし、その後の生活にも大きく影響を与えるだろう。

 

「これは影響が大きすぎるかしら」

 

「そうだな。うちの鎮守府は艦種の壁を越えて、其々の仲がいいからな……」

 

 うちは鎮守府としてこの島で戦い始めてから今まで一隻も轟沈艦を出すことなく、この島を本土を守ってきた。始めは吹雪と二人で四苦八苦しながらの歩みだったが、徐々に仲間が増え、近海の敵を掃討し、絆を深め、和やかな日常を送れる日が出来るほどにまで、海域を安定させてきた。

 その絆は艦種の壁を越え、上下関係を超えたものにまでなっていた。

 

 ……いまさらそれをぶち壊す事は出来ない。

 

 

「生駒」

 

「はい?」

 

「130の艦娘をどのくらい時間を掛ければ転移できる?」

 

「え?多分、一回に四艦隊分ならいけるかしら、全てを転移させるには一時間必要よ。もちろん未来位置を予測しないとだけどね」

 

「元の世界の現在の様子とかは分かるか?」

 

「向こうの世界の『狭間』の管理者だからいつでも見れるわ」

 

「生駒」

 

「はい?」

 

「一に近い案でいく」

 

「あなたならそう言うと思ってたわ」

 

 生駒は最初から分かっていたのか、俺の回答に満足そうな返事を返した。

 

「それで頼みだが、生駒には元の世界の敵勢力の分布図を作ってくれ、敵の特徴表は後で渡す。あと作戦結構当日には、転移させるのに協力してくれ」

 

「分かったわ」

 

 艦娘を減らす事は先ず考えない。なら、一人残らず元の世界に戻るだけだ。




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第三十六話「其々の決断」

「……」

 

 お昼を少し過ぎた執務室。そこには普段なら吹雪が雑誌のページを繰る音や、瑞鶴が暇と声を上げている声は無く、ただただ静寂だけがあった。

 その中で俺は、海域図と紙を交互に確認し、紙に艦娘達の名前を書いては消し、書いては消しを繰り返している。

 

「んっ―――!」

 

 そんな事を続けていればいずれ腰や目、それに頭も疲れるので、欠伸がてら外に目を移す。

 執務室のある庁舎から外へ目を向ければ、すぐそこには広大に広がる港湾――青湾(あおわん)がある。そして、その青湾から洋上へ出たすぐの海域で轟く砲火。戦艦や重巡で編成された遊撃艦隊と、軽巡や駆逐で編成された水雷戦隊が、演習を行っている最中だった。さらに、その庁舎の上空を100を超える攻撃隊が飛び去る。―――機体のマーキングを見るに翔鶴と瑞鶴の航空隊か。演習をしている海域のさらに外洋へ目を向ければ、小さくではあるが空母らしき艦が数隻の艦艇とともに航行している。

 その時、執務室の扉がノックされて吹雪が入ってきた。

 

「鶴さん、先ほどの演習の結果報告です」

 

 吹雪からバインダーを受け取り、内容を確認する。

 水雷戦隊対水雷戦隊の演習で、今回は神通率いる水雷戦隊が敵水雷戦隊との昼戦を想定した演習を行っている。

 

「…戦術的勝利といった言ったところか」

 

「昼戦での戦闘はさすが神通さんといったところでしょうか、水上戦は問題ありません」

 

「やはり、問題は敵基地航空隊か」

 

 ネックとなっていたのは、敵水雷戦隊とともに神通の水雷戦隊に襲い掛かった敵基地航空隊だった。

 

「はい、通常の空母航空隊と違い数が多いため、回避運動に制約が掛かり、被弾率が少々上がっています」

 

「補給隊の方はどうだ」

 

 バインダーを吹雪に返した後、外洋で行われているであろう演習の様子を尋ねる。敵基地航空隊がネックとなっている以上、こちらも確認しておきたい。

 

「現在外洋で敵基地航空隊の空襲を想定して、油槽船三隻、護衛の駆逐艦二隻で訓練を行っていますが、駆逐艦、油槽船ともに被害が大きいようです」

 

「分かった。引き続き訓練の報告をまとめてくれ」

 

「はい」

 

 吹雪は一礼した後に、部屋を後にした。

 

 

「…はぁー」

 

 再び静寂が戻る執務室で、ソファに勢いよくもたれかかる。

 なおも砲火の響きは窓の外から絶えず聞こえ、戦闘機やヘリのエンジン音がそこにさらに加勢する。

 鎮守府は今までに無い騒がしさの中にあった。

 

 

 

 それは、数日前のこと。生駒に俺の選択を伝えた日の夕食終わり。艦娘全員を食堂に集合させ、報告を行う事にした。ソロモン攻略作戦以来の召集に、皆の表情に不安の相も混じっている。今回は吹雪もその中に混ざってこの話を聞いている。

 

「えー。今回集まってもらったのは、これからの事に関わる重要な話があるからだ」

 

 真剣なをこちらに向け、一人一人が一字一句逃さまいと聞き耳を立てている。

 

「ここ青ヶ鳥は現在、今までとは違う世界に居る」

 

 それもすぐに終わり、その言葉を聞いた途端、ほとんどの者が拍子抜けした表情になる。

 

「提督、それはどうゆう事だ?」

 

 長門が代表するように声を上げた。戦艦、空母の艦娘を中心に首を縦に振ってその言葉に同意する仕草を見せる。

 

「ここからは俺もあまり知っていることではないのだが、狭間の捻じれというものが発生して、青ヶ鳥を始め、我々を飲み込んだ、ということらしい」

 

「らしい、とはどう言うことか?誰かから聞いたのか?まさか、数日前の侵入者じゃあるまいな」

 

「その侵入者だが、じ」

 

「やはりそいつに下手な事叩き込まれたのか!」

 

 ここで長門が声を荒げる。今日は虫の居所でも悪いのか、切れている様だった。

 

「…何があったかは知らんが、そこまで声を荒げるな。それと、話は最後まで聞け。実はその侵入者、俺の知り合いで、いつも勝手にことをしでかす奴なんだ。会った事も無いやつを信じろ何て言われても無理かもしれないが、言っていることに嘘偽り無い奴だから、信じてやってくれ」

 

「……そうだったのか、すまない。少々取り乱してしまったな」

 

 長門は頬を少し赤く染めると、すごすごと席に着いた。

 

「その狭間の捻じれの影響範囲だが、ソロモン攻略作戦時に相手した深海棲艦隊と我々青ヶ鳥鎮守府所属艦、青ヶ鳥島ほどらしい。ということは今後戦うのは人サイズの深海棲艦、ということになる。我々は艦艇の深海棲艦と戦うのには慣れているが、人サイズになると航空機や艦艇搭載の機銃のみが対抗できる武器になる」

 

「しかし私達は人サイズの深海棲艦との戦闘はほとんどしたことがありませんね」

 

 黙って俯いてしまい、陸奥に慰められている長門の脇で大和が今度は口を開いた。

 

「ああ、水上移動は出来るが、水柱と回避運動で波が縦横に打つ中での行動はほとんど無い。当然足取りが危うい中で砲撃、雷撃、発着艦、すべてに置いて練度が著しく落ちるだろう。そこでその知り合いから提案があった」

 

 端に置いておいたホワイトボードを正面に持ってくると、ペンで今回の本題の題を書き込む。

 

「青ヶ鳥上陸・硫黄島奪還作戦」

 

 大和は言葉の節々に疑問を含ませながら、ホワイトボードの文字を読んだ。

 

「そう。人サイズを相手にするには、130人いる艦娘が全員錬度の上げなおしとなる、それがどれ程の労力・時間を要すかは分からない。なら、全員で元の『場所』へ、本当の『世界』へ戻ろうではないかという事で立案した」

 

「それと青ヶ鳥、硫黄島がどう関係あるのでしょうか?」

 

「こっちは向こうの今の状況が関係ある」

 

 ホワイトボード裏に仕込んでおいた紙を正面に張り出す。

 

 日本近海――その中でも小笠原諸島周辺を映し出した地図は小笠原諸島や硫黄島、本土の海岸線から300海里、約556kmをなめるように防衛線と示された緑点線が引かれ、現在防衛線とされた緑実線がその少し内側に引かれ、青ヶ鳥の上を通り、静岡県付近の防衛線と繋がっていた。

 

「現在、知り合いからの情報によると、我々が向こうの青ヶ鳥を離れたため、東方・中部海域に向けての防衛線が下がってしまい、硫黄島までが防衛線だったのが、青ヶ鳥島が防衛線になってしまっている」

 

 防衛線をなぞった後に、緑実線をなぞる。

 

「さらに、敵は防衛線が下がったことで硫黄島に上陸。泊地を設営を進めているとの事、泊地には巨大な飛行場の設置も急がれているようで、もしかしたら後方の本拠地から大型爆撃機をそこに配置して本土爆撃も視野に入れている可能性もある。そこでこの作戦だ」

 

 地図上、青ヶ鳥島がある周辺に味方を示す青ピンを設置しそれを分散させる。

 

「まだ、向こうの細かな情報がないので確定的とはいえないが、今作戦は青ヶ鳥島の拠点回復を前段、硫黄島奪還を後段とした二段作戦で行う。はじめに青ヶ鳥島の奪還を行い、拠点としての機能を回復。硫黄島へ攻勢をかけて、防衛線の押し上げを図る事を大きな目的として行う。今回の敵泊地機能は暫定ソロモンに置かれていた泊地の数倍とされる。陸上機、周辺の敵艦艇、泊地の防衛機能、全てが数倍の強さだろう」

 

「ソロモンの時みたいに夜間攻撃しないっぽい?」

 

 顎に人差し指を当て、思い出すように夕立が質問する。

 

「夜間攻撃も手段の一つではあるが、先も言ったとおり泊地機能が倍の強さを有している。もしかしたら、艦砲射撃と陸上からの制圧という前回の流れを丸々使えないかもしれない。そこで、今回は空母機動部隊による絨毯爆撃と戦艦や重巡の三式弾による対陸攻撃、を行う、それから必要ならば、夜間攻撃を行う。本当なら戦車隊も導入したいところだが、硫黄島は擂鉢山以外ほとんど平坦なため、三式弾の攻撃に巻き込まれかねない。なので、戦車隊は三式弾による攻撃終了後に硫黄島へは上陸を行い、今作戦では青ヶ鳥奪還のほうへ力を入れてもらう。他に質問はあるか?」

 

「ないっぽい」

 

 夕立が答えた後、他の艦娘も同意するように首を縦に振る。

 

「泊地が強力なら、当然敵艦も強力なるだろう。なので、明後日より強化訓練を行う事にする。詳しい内容は後ほど紙を渡すが今この場で説明すると、全艦娘は艤装の近代化改修、大規模改装を行い、装備を最新のものに更新、水上打撃部隊、機動部隊、水雷戦隊、補給隊に分かれて、空襲、昼戦、夜戦を想定し演習訓練を行ってもらう」

 

 

 

「あの…鶴さん」

 

 食堂で作戦計画とそのための今後の活動を話した後の執務室。外は星がかすかに見える空に、月明かりに照らされた海が広がっていた。

 部屋の中は俺と吹雪以外誰も居らず、夜特有のゆったりとした静寂がそこにあった。

 その静寂に負けじと、吹雪は言葉を続ける。

 

「さっきの話って」

 

「アレか、吹雪には事前に何の話もしてなかったな」

 

「それもそうですけど、元の世界に戻るって…」

 

「ああ、そっちか、こっちの世界に来たとき、吹雪お前寂しそうな顔してたろ?」

 

「でも、鶴さんはここの世界に馴染みがあったんですよね?」

 

「馴染みはあるが、最愛の奴に寂しい顔されたら、やっぱ帰ったほうがいいだろ?」

 

 最愛という言葉に反応するように顔を赤くする吹雪、そんなことされるといった俺自身も恥ずかしくなる。

 

「た、確かに!私にとっては元の世界のほうが馴染みがありましたけど…」

 

「それにな、早くこの世界から出て行かないと、俺らが危ないかもしれないんだ」

 

「えっ」

 

 先ほどまで真っ赤に染まっていた吹雪の顔が、今度は疑問の相で染まる。

 

「この世界では人サイズの深海棲艦が敵となるため、うちの艦娘達は訓練を位置からやり直しになるってことは食堂で話したな?そんなアウェイに居るなら、元の世界に戻ったほうがいい――それがほとんどの艦娘に伝わった俺の元の世界に戻る理由だ。ただ、それが()()ではない」

 

「全てではない?」

 

「実は、作戦が終って数日後に潜水偵察部隊を派遣した」

 

 うちの鎮守府には、艦上偵察機からなる航空偵察部隊と、最近編成された伊号潜水艦からなる潜水偵察部隊がある。航空偵察部隊は中近距離の偵察と近海の哨戒を主任務とし、潜水偵察部隊は長距離の偵察や航空機を持ち込めない海域の偵察・哨戒を主任務とする。

 今回は鎮守府周辺の海域占領状況を掴むために、潜水偵察部隊を派遣した。

 

「昨日付けの報告によると、鎮守府より南方、サイパン島付近に敵の大規模艦隊を確認したそうだ。中には未知の深海棲艦も存在し、敵は数個部隊に分かれるほどの艦艇数だそうだ…」

 

 未知の深海棲艦というのがどのような敵なのかは分からない、空母のような甲板を有した固体や巨大な艤装を文字通り率いた個体も居たらしく、偵察部隊はキラーハンターが発見急速接近するまで敵情を細かく報告してくれた。

 

「そんなにギリギリまでってことは…」

 

「潜水偵察部隊は現在、キラーハンターから死ぬ物狂いで逃げ回っている。今日最後の通信では沖縄方面に逃走中だそうだ。あの辺りまで行けば連合海軍所属の艦娘が出動して敵を対処できるだろうし、その前に追うのを追うのを止めるだろうな」

 

「……敵の目的はなんでしょうか?ソロモンを奪還し、日本に占領地に挟まれているサイパン島にそんな固体を集結させる意図って」

 

「それは、中部海域に占領地の奪還とソロモンの奪還、そして何よりうちへの集中攻撃だろう」

 

 執務机の上に広げられた海域地図の上に、サイパン周辺を中心とした地図を重ねて、サイパン島を指差す。

 

「サイパン島は日本本土と中部太平洋、ソロモン海域を分断するように位置する事から、両海域へ攻勢へ出るとき、本土からの救援を切りながら攻撃を行う事が出来る。また、そのまま北上すればぶち当たるのはソロモンを一晩で壊滅させた艦隊の拠点、青ヶ鳥がある」

 

「もし、青ヶ鳥にその機動部隊が来たら…」

 

「ろくに対抗できずに、島は火の海、鎮守府は壊滅だろう」

 

「でも、今から皆で練度を上げれば…」

 

「錬度を上げるなら、艦娘を減らせ」

 

 壊滅の危機を突きつけられても尚、吹雪はこの世界へ残れる方法を提案する。

 しかし、その言葉を俺は冷徹な言葉で切った。

 

「え」

 

「もし、なんとしてもここの世界に残りたいなら、今居る艦娘を大幅に減らして練度を上げないと、何時か来るかもしれない攻撃に対抗できないとも言われた」

 

 それは生駒に言われた言葉を少し冷たくした内容。

 

「艦娘の数を減らすぐらいなら、俺は自分の馴染みの世界に居なくてもいい、お前らと居られるのなら何処でもいい」

 

 そして、それを受けての俺の中での最良の決断。

 自分勝手だが、艦娘を思って決めた事…。

 

「だから、あの作戦を立案した(青ヶ鳥・硫黄島奪還作戦)

 

 ただ、お前らが皆揃ってここに居てくれるなら、俺はそれで構わない。

 

 

「……」

 

 俺の皆に話さなかった、作戦立案理由を聞いた後、吹雪は俺の前で黙ったまま、視線をカーペットに向けていた。

 

「…分かりました」

 

 しばらくした後、小さな声とともに顔を挙げ、言葉を大きくしてその後を続ける。

 

「私は、その鶴さんの気持ちに応えて見せます。私達艦娘と鶴さんが一緒に居られる場所を取り返しに行きます」

 

 それは、何かを決意した表情。

 

「分かった。よろしくな、吹雪」

 

 

「はいっ、頑張ります!」

 

 その表情は、にこやかに綻んだ。




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第三十七話「作戦決定と未知の敵」

「ひとまずの作戦が纏まった」

 

 執務室で吹雪、大淀、瑞鶴、赤城、大和、長門、おおすみ、あきづき、明石を前にそう口にした。

 演習ばかりの日々が二週間続き、その後に呼ばれた瑞鶴や大和達はこのことを察していたのか、真剣な表情をしている。

 

「詳しい編成は後に表にして出すが、今説明すると、青ヶ鳥島奪還作戦は重巡戦隊を主軸に、二個の水雷戦隊と一個の航空戦隊の援護の下、おおすみが戦車を揚陸。戦車はソロモン作戦時に使用した戦車を流用し、Ⅳ号戦車はF2型、H型を一両ずつ、Tiger(ティーガー)Ⅰ戦車、10式戦車を各二両ずつ新造、合計二十二両で島内の安全を確保する。硫黄島奪還作戦は天城を旗艦に据えた空母機動艦隊、大和を旗艦に置き、空母機動艦隊とだいたい足並みをそろえて掃海、水上戦を行う遊撃艦隊、少数の空母を主軸に航空支援を行う支援艦隊、補給を行う補給艦隊を基本として硫黄島まで敵を掃討しながら南下、航空機は敵基地航空隊の攻撃を押さえ、水上艦は対地攻撃に専念する。必要があれば、戦車隊を送り込むことにする。何か質問は?」

 

「青ヶ鳥の防衛はどうされますか?」

 

 話を聞き終わったところで、赤城が手を挙げた。

 本当は赤城は呼んではいなかったが、瑞鶴だけだと心配だと出席していた。

 

「もちろん青ヶ鳥の防衛にも手を回す、大淀を旗艦に複数空母と航空戦艦、重巡の戦隊と少数の水雷戦隊を残すつもりだ」

 

「私達現用艦艇はどうなりますか」

 

 続いてあきづきが手を挙げる。

 

「今回も前回同様、その索敵能力を存分に発揮してもらう、情報供給を密にし、艦隊の損害を抑えてもらいたい」

 

「了解しました」

 

「あと、今回はあきづきや今ここには居ないがたかなみには防空の面でも力を借りたい」

 

「防空の面といいますと?」

 

「空母機動艦隊ではレーダー・ピケット作戦を起用する」

 

 レーダー・ピケットという単語であきづきは納得がいったようだか、他はピンときていないのか首を傾げていた。

 

「レーダー・ピケットというのは空母中心の輪形陣の外郭のさらに外郭に対空電探を搭載した駆逐艦を配置して、敵機をいち早く発見、漸減し輪形陣側にも情報共有することで輪形陣への損害を減らす作戦だ」

 

「太平洋戦争では沖縄での戦闘での神風特攻隊への対策として行われた事が有名でしょうか」

 

 俺に説明にあきづきが補足を加える。沖縄戦や神風特攻隊は艦娘にとって苦い記憶で、そこで次々と容易く航空機を落としたアメリカの戦闘機にどんな思いを抱いているかは自分の知るところではないが、その裏側で行われていたこの作戦を使える事自体は心強いであろう。

 

「遊撃艦隊のほうでは採用しないのでしょうか?」

 

 大和が質問する。大和はさっき言ったとおり、遊撃艦隊の旗艦だ。自分の艦隊でもその作戦を起用したいのだろう。

 

「遊撃艦隊は対水上戦に注力してもらう、ためそもそも空母を随伴させていない、なので今回は支援艦隊に防空してもらうことにする」

 

「そうですか…」

 

「まぁ、対空電探自体はほとんどの艦に装備させるつもりで配備を進めているから、レーダー・ピケットのような効果が期待できなくても、これまでより敵機を発見しやすいだろう、だからそんなくらい顔するな」

 

「そうだぞ、艦隊旗艦がそんな顔していると僚艦の指揮にも関わる」

 

 俺の言葉を継ぐように長門がフォローに入る。

 

「でも出来るでしょうか?たった九隻でさえまともに守りきれなかった私に…」

 

「ソロモン攻略でも艦隊の旗艦を受けたではないか。それに他の艦はほとんど損害を受けていない」

 

「でもあの時は夜間奇襲でしたし、長門さんもフォローもありましたから」

 

「大丈夫だ。過去の記憶を色濃く残す大和なら、昼戦でもきっと艦隊を守りきれるはずさ」

 

「大和が皆を守ろうとするように、皆も大和を守ろうとする、信頼する。大和はそれに応えられればいいんじゃないかな」

 

「……はい!頑張ります!」

 

 大和の暗かった顔が少し明るくなったような気がした。

 

 

「他に質問あるか?」

 

 気を取り直して全員の顔を見ると、質問が無いのか全員が首を横に振る。

 

「各艦隊に編成されている艦娘の名前が載っている紙はここにある。後で枚数を刷って書く艦娘寮などの前に張っとくから見といてくれ。あとこれは、向こうの状況を調査してもらってる奴から情報次第では変更もありえるからな」

 

「「はい」」

 

 全員が返答すると同時に執務室の扉が開かれた。扉の向こうから、先ほど話をしていた調査してもらっている奴が姿を現した。

 

「宮島、待たしたわね」

 

「生駒さん?!」

 

「っ貴様が、あのときの」

 

 長い黒髪を靡かせ、驚く吹雪や、掴みかかろうとする長門とそれを押さえている大和を気にも留めず、生駒は書類を机の上に置いた。

 

「とりあえず分布図に纏めておいたから、目を通して」

 

 生駒の置いた書類に目を通す。分布図には日本の各鎮守府と基地に配属されている各艦種の艦娘の数が書かれ、青ヶ鳥付近で確認されている艦艇については味方に関しては所属や艦型が詳しく書かれており、同じに敵艦も艦種艦型、航空機にいたっては形まで書かれていた。

 各鎮守府や基地に配属されている艦娘の数はこちらはいつでも確認できるので、あまり目に留めず、視線は敵の状況などに集中した。

 

「調査中に数十回の敵機飛来、二回の空襲が起きているわ、島民のほとんどは防衛線が下がった時点で青ヶ島などに避難していて人への被害は少ないけど、建造物への被害は徐々に大きくなってきているわね、敵戦車の存在が確認されていて、数両は市街地に入り込んで他はおそらく周辺をうろついてるワ級だったかしらね?その輸送艦の中だと思うわ」

 

「どうしてそう思う」

 

 書類から顔を上げて生駒を見た。ワ級は輸送艦では有るがそのほとんどが燃料などを積んでいる補給艦で、そうでなくても輸送するのは前線への物資輸送が主任務であるはず。

 

「宮島から渡された資料を何回も見直して確認したけど、物資輸送仕様の輸送艦と微妙に違うのよね、揚陸艦に使われているようなハッチみたいなのがついてたし、あと戦車輸送仕様に無理に改造したのか他のより速力が遅め、攻撃できる類の武装は積んでなかったわ」

 

「ちなみに市街地に侵入している戦車はどんな形したのか分かるか?」

 

 そう言って、戸棚からⅣ号戦車、TigerⅠ戦車、10式戦車、Churchill戦車、M4Sherman戦車の模型を机の上に並べた。

 

「んー。今のところ確認したのは、それに近い形のしか無いわね」

 

「シャーマンか」

 

 生駒はM4Sherman戦車を指差した。この戦車はアメリカの戦車で太平洋戦争では日本軍を苦しめた戦車だ。

 

「ほとんどそれしか見なかったというよりそればっかりだったわね。あとは車体に砲身が引っ付いた戦車を見かけたぐらいかしら」

 

「駆逐戦車か…」

 

 車体に砲身を付けた戦車は普通の戦車でもいくつかいるのだが。大体は駆逐戦車だろう。

 

「明石」

 

「あ、はいなんでしょう?」

 

 戦車という艦娘にとってはほとんど無縁な存在の話に上の空で居た明石が慌てて返事をする。

 

「Ⅳ号戦車70(V)って分かるか?」

 

「一様前に模型を作った事は…。確かドイツのⅣ号戦車を改造した戦車でしたっけ」

 

「そうそれ、Ⅳ号F2型の新造する一両と今ある一両をそれに改造してくれ、そうすれば少し強力な砲を搭載できるはずだ」

 

「分かりました」

 

 書類に目を戻して、ある一行を指す。

 

「横須賀から出ている青ヶ鳥警備隊てやつのこの駆逐隊のZ1とZ2は本当にそれでいいのか?」

 

「多分あってるわ。日本の駆逐艦の艦影と照らし合わせてもどれとも違ったし、話ではドイツからの救援艦に似ていたからそれだと思ったのよ」

 

 救援艦として来たとして、そんな艦艇を一番危険な警備隊のうちに入れるのだろうか?一様横須賀所属なのだから指揮は横須賀の提督が執っているのだろうが…。

 

「分かった。調査ありがとう」

 

 俺と生駒の会話の終了を見て、吹雪が生駒にお茶を渡す。生駒はありがたくそれを受け取りながら、ソファに腰掛けた。吹雪は他の艦娘にもお茶を配り始めた。

 それを尻目に一度資料に視線を戻した。敵の戦力分布に視線を合わせる。

 自然と深いため息が出た。

 

「明石、艦娘達の装備などの転換はどれくらい進んでいる?」

 

「はい、現在は空母は艦載機の更新を終了、今まで搭載されていた機体は戦闘機、攻撃機、爆撃機の順で保管できるだけ保管しあとは解体しています。艦砲などの装備も最新のものに変更後、搭載されていたものは解体または改修に使われています」

 

「改装のほうは?」

 

「改装可能な艦娘から順次改装を行っています」

 

「大淀、資材のほうはどうだ?」

 

「はい、ゆっくりではありますが備蓄が進んでいます」

 

「分かった」

 

 二人の報告を聞き終えるとまたため息が出た。こんなに人前でため息を吐くのは良くないな…。

 

「あの、どうしました?」

 

 あきづきが心配そうに声を掛ける。

 

「敵艦は嫌というほど湧き出てくるから、敵の数がこちらの数を上回るのは承知だが…」

 

 今までも、敵の艦艇の数が多かった事は数回あるため想定の範囲内の事だった。が、しかし……

 

「未確認の深海棲艦を青ヶ鳥島付近で確認。ワ級輸送艦を複数隻、空母隊と戦隊、水雷戦隊を随伴して青ヶ鳥近海から青湾に居座る。他、空母機動部隊、戦艦主軸の遊撃部隊少数確認、水雷戦隊については明確な部隊個数不明」

 

 その言葉の意味を理解できる、その場に居た誰もが静まりかえった。

 

「本当だったら、硫黄島の敵戦力も確認したかったところだけど、強行偵察に向かった艦隊に大破艦が続出してそれっきり、航空機で偵察しようとも母艦航空隊と基地航空隊に行く手を阻まれるばかりで、情報が全然入ってこなかったわ」

 

 生駒が書類に書かれていない情報を付け足す。

 

「どうするのだ提督。現在青ヶ鳥に向けている戦力だと対処しきれないかもしれないぞ」

 

 生駒の付け足した情報に長門が判断を煽る。敵に未知の深海棲艦、しかも空母隊や戦艦隊を引き連れているとなると、重巡だけではどうにもならない。

 

「全ての艦隊に番号を付番する」

 

 手元にある艦隊編成表に手を加え、艦隊に第一から順に艦隊番号をつける。

 

「今のところはこのうち第六と第七を主軸に、鎮守府防衛の艦と第二艦隊の戦艦戦隊で青ヶ鳥に望むことにする」

 

「各艦隊麾下の戦隊はどうする?今のところ番号が無いが」

 

「それは上から順に番号を付番する。航空戦隊は…順番が違うかもしれないが、許してくれ」

 

「了解した」

 

 全ての資料を一つにまとめ、机に置きなおす。

 

「あと、作戦決行は一週間後だ。どの艦隊もいつでも出撃できるように備えるように」

 

 執務室内には了解の応答が響いた。




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第三十八話「艦隊、敵地(青ヶ鳥)へ」

 作戦決行当日。晴天の下、複数の艦隊が其々陣形を組み、外洋へ進出して行った。

 先陣を切るのは青葉が旗艦を勤める第六艦隊、一個戦隊と水雷戦隊で形成され、後方から続くおおすみ旗艦の艦隊――第七艦隊を間接的に護衛する。その第七艦隊が形成する輪形陣後方では鳳翔と龍驤が甲板に艦載機を展開し、発艦準備を整えている。二つは揃って輸送艦隊と呼称され、おおすみによる青ヶ鳥への戦車上陸の任を与えている。

 

「輸送艦隊は青湾を出た後に青ヶ鳥より北西200km地点へ進出。後方から来る鎮守府防衛艦隊、第二艦隊から抽出した第一、第二戦隊と合流した後に、転移を待ち、転移後に青ヶ鳥へ攻勢をかけろ」

 

 俺は空母「天城」に乗り込み無線を送っていた。無線の向こうからは青葉が元気な了解の応答をする。青葉は第六戦隊の他に護衛艦隊の旗艦も勤めている。

 

「青葉、向こうに着いてからはお前の指示で青ヶ鳥を奪還してくれ」

 

「分かっています、司令官。司令官が吹雪ちゃんを手にしたように、青葉も青ヶ鳥を手にして見せましょう!」

 

「あまりからかいを混ぜるもんじゃないぞ…。それじゃあ、頼んだ」

 

「はい!」

 

 無線を切り、窓の向こうを眺める。水平線の向こうへ消える輸送艦隊の手前には大淀旗艦の鎮守府防衛艦隊、一時的に第二艦隊から抜け、長門旗艦の二つ戦隊で艦隊を編成している遊撃艦隊が輸送艦隊の後を追うように青湾を出て行こうとしていた。その上空を青ヶ鳥の飛行場から離陸し、転移前まで艦隊の護衛に当たる戦闘機たちが上空を通過する。

 

「大丈夫でしょうか」

 

 隣で様子を見ていた吹雪が不安そうに声を上げる。「天城」も「吹雪」も出撃までの間、埠頭に接岸しているため吹雪はこちらに立ち寄っていた。

 

「青ヶ鳥に居座る深海棲艦が全艦で襲い掛かってくるなら、あの艦隊にでかい損害が出るだろう。遊撃艦隊もそのうちではなく、最悪第二艦隊に復帰できるかどうかも怪しくなるだろう。ただ、相手が複数艦隊に別れるなら、勝算はある」

 

「相手の出方を次第、ですね」

 

 吹雪は心配する視線を水平線に消える艦隊に向けた。

 

「さ、俺らも行くぞ、いくら青ヶ鳥を奪い返せても、硫黄島への攻勢に出れなければ、あいつらが危険だからな」

 

「はい、必ず鶴さんを守って見せます」

 

 吹雪は笑顔で敬礼した後に、艦橋を後にしようとした。

 

「…っあ、あと吹雪」

 

「はい?」

 

「もう一つ話が…」

 

 引き止められた吹雪は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

「話ってなんでしょう」

 

 俺と吹雪は一度艦橋を出て、格納庫を抜け、天城の右舷側艦首に来ていた。接岸しているため、左舷側には陸が見えるが、右舷側は青々とした海が船縁の先には広がっている。

 

「俺は吹雪に呉に行ったときに告白して、OKをもらったよな」

 

「は、はい、い、言いましたね」

 

 俺の確認の言葉に顔を赤くしながら答える吹雪。何だろう、そうされると聞いたこっちも恥ずかしくなってくる。

 

「そこからは、ソロモン海域奪還や生駒とかの件もあって、しっかりとその…二人での時間ってのは取れてなかったな」

 

「そう言えば、そうですね」

 

 顔を赤くしながらも今までの出来事を思い出すように、視線を上に向けながら吹雪は応えた。

 夏祭りのときなどに少しそういう時間はあったものの、そのくらいで本当に時間がプライベートで二人で過ごす時間は無かったような気がする。

 

「その、だから、いきなり見たいな感じになってしまったが…」

 

 我ながら歯切れの悪さに少しむず痒さを感じたが、ズボンのポケットから、()()()()を取り出すと、吹雪の前に差し出した。

 

「そ、それって…」

 

 紺碧の手の平サイズの箱を見た吹雪は、両手で口元を押さえ、何か感情を抑えながら、声を発した。

 その様子は、箱のふたを開けることで、目じりに涙を追加した。

 

「ゆ、指輪…ですか」

 

「ああ」

 

 箱の中に入っていたのは、シンプルな指輪だった。宝石だとか、そんなものはついていないただの指輪。前に支給されてから、ずっと執務机の引き出しで肥やしになっていたもの。

 

「本当だったら、もっといい場所でって決めてたんだが……吹雪の決意を聞いたら、もうすぐにでも渡すしかないと思ってな。こんな場所で渡すのもなんだが、よかったら…」

 

 片膝を折り、箱を差し出す。

 

「受け取ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 しばらくの沈黙の後に、両手に乗っていたものが無くなる感触が伝わる。

 顔を上げると、そこには

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 涙を流しながらも笑顔の吹雪が居た。左手の薬指は光に反射して輝いている。

 

「ありがとう」

 

「それより、鶴さんも」

 

 そう言って、吹雪は俺の左薬指を手にとって、もう一つの指輪をはめる。

 

「あの、あのぉ……私、鶴さんのこと……大す……い、いえっ信ら……いえ…」

 

 それから一歩下がって、吹雪が何かを言いかけたとき、大きな霧笛が響いた。

 霧笛の主は「天城」「吹雪」のようで、両艦から出港準備のラッパが鳴る。

 

「い、行きましょう。私、これがあればもっと頑張れる気がします」

 

 吹雪は言いかけたことをいうのを止め、代わりの言葉を残すと、去り際に笑顔を見せ、急ぎ足で艦首を後にしていった。

 吹雪の言いかけた言葉は気になったが、そのことは頭の片隅に置いておき、艦橋へ向かった。

 

 

 

「準備は大丈夫か?」

 

 俺らの率いる第一艦隊と第二艦隊は青ヶ鳥を出撃後、輪形陣で西方方向へ進んでいた。

 無線で生駒に確認を取ると、無線の向こうから真面目な声音が聞こえてきた。

 

「こっちは大丈夫よ、そっちから艦隊の現在位置が送られてきているし、未来予測するのに情報は足りているわ」

 

「了解。転移頼んだぞ」

 

「任せて」

 

 生駒との無線を切ると伝達妖精を呼び寄せ、艦隊全体に指示を送る。

 

「艦隊、前進半速。転移完了まで、その状態を維持」

 

 数分で各艦から了解の応答を受け、艦は速力を下げる。

 

「転移完了まであとどれくらい?」

 

「そうね、あと一分は待って。転移範囲設定は完了してるから、とりあえず、その範囲内での回頭などは自由にして大丈夫よ」

 

 俺の問いに生駒が答える。それに応じて妖精に指示を出す。

 

「了解。艦隊反転、180度」

 

 反転を開始した艦隊は輪形陣の外郭前後左右が変わり、後方へ展開していた第一防空戦隊が前方へに展開する事になった。艦橋からも、あきづきやたかなみを中心に輪形陣を取っている様子が見える。

 反転終了と同時に、生駒から無線が入る。

 

「転移完了。青ヶ鳥は敵地になったわ。現在輸送艦隊から分離した第六艦隊と鎮守府防衛艦隊が主となって戦闘中。近海に展開していた艦隊を突破。今は敵の輸送部隊と支援部隊へ交戦を開始しているわ」

 

「了解。第一防空戦隊、レーダー・ピケット展開始め。あきづき、たかなみは駆逐艦二隻を随伴して艦隊両翼に展開。艦隊最大戦速、本艦隊は港湾棲姫が率いていると思われる艦隊を叩く」

 

 あきづき、たかなみを中心に了解の応答後、前方で輪形陣を取っていた艦隊は陣形を解体し展開を開始。あきづき、たかなみは駆逐艦を二隻伴って、あきづきが右、たかなみが左へ、駆逐艦二隻が後方へ、摩耶と残りの艦が前方に展開する。

 

「あきづき、たかなみはレーダーで得た情報を各艦に逐次共有。敵の航空機、水上部隊に注意せよ」

 

「了解。レーダー展開、敵の航空機、水上部隊に注意せよ」

 

「直掩機発艦始め、攻撃隊は発艦準備を整えよ」

 

 

 

 海上を進む事、数時間。ここに来るまでに数回の戦闘を航空攻撃や自衛艦によるミサイル攻撃で突破し、艦隊は青ヶ鳥近海――敵の青ヶ鳥で展開している本隊がいるであろうと予測されている付近――に到達しようとしていた。そのとき、あきづきから報告が入る。

 

「レーダーに感アリ、複数の水雷戦隊に、一個の航空戦隊と水上戦隊を発見。敵の本隊と見られます」

 

「港湾棲姫の状態はどうだ?」

 

「そのほか、イレギュラーな存在は確認されていないため、おそらく港湾棲姫は陸上型。艦隊にいないものと思われます」

 

「では陸上の様子はどうだ」

 

「敵によって配置されたであろう航空基地に、複数の航空機と思われる反応はありますが、それと同時に、破壊されたと思われる反応も確認されています。陸上要塞砲も同様で、複数基が破壊されています。ヘリを飛ばしてもう少し詳しい情報を集めますか?」

 

「そうしてくれ。こちらは輸送艦隊と連絡を取ってみる」

 

「分かりました」

 

 あきづきとの通信を終了した後、今度は輸送部隊の旗艦である青葉と通信を繋ぐ。

 

「こちら第一艦隊旗艦天城。そちらの艦隊の状況は?」

 

「こちら輸送艦隊旗艦の青葉です。現在我が艦隊は輸送部隊と支援部隊を壊滅に追い込み、撤退させる事に成功。輸送艦おおすみより戦車隊を青ヶ鳥島に送り込んだ後、海域掃海を行いつつ。青ヶ鳥島を北方より右回りで青湾へ向けて進行しています」

 

「戦車体の方の戦果はどうだ?」

 

「敵の戦車部隊三つを撃破、他の戦車部隊に警戒しつつ、青ヶ鳥鎮守府へ到着、基地付近で展開していた敵の基地航空隊と要塞砲へ強襲を掛けた後、いつでも第二次強襲を行える位置で待機中だそうです」

 

 ということは、敵の航空基地に発生していた損害は、こちらの戦車隊によるもの。あきづきには引き続いて情報収集をしてもらうとして、本体をどう対処するか…。

 

「そちらの艦隊は後どれくらいでこちらに到着できる?」

 

「道中で敵に遭遇しなければ、早くて一時間ほどで到着すると思います」

 

「分かった。そちらの艦隊は、第七艦隊の護衛として最小の部隊を残して再編成を行い、こちらに合流してくれ。あと、戦車隊へは第二次強襲始め、敵航空機を最優先に撃破するように指示してくれ」

 

「了解!」

 

 青葉との通信が終了した後、艦隊へ指示を出す。

 

「戦闘用意!第三次攻撃隊発艦始め、目標敵航空戦隊」

 

 号令と共に艦内が慌しくなり、それは徐々に艦隊でも見られるようになる。空母は艦首を風上に向けて加速、艦載機が次々に発艦していく。戦艦や空母を囲む護衛の艦は高角砲を上空に向けて、相手から来るであろう航空隊の攻撃へ備える。

 

「あきづき、敵の航空隊の反応などはあるか?」

 

 敵艦隊の居るであろう方向へ飛んでいく攻撃隊を見ながらあきづきへ通信を繋ぐ。

 

「今のところありません。敵偵察機と思われるものがこちらに飛んできていますが、それに発見されたところで、こちらの方が先に発見しているため、攻撃隊が飛来するまでは時間が思われます」

 

「了解。その偵察機は発見次第撃墜、敵への情報を少しでも減らせ」

 

「了解」

 

 その後に、天城の右舷側輪形陣外郭からミサイルの発射される音が響いた。

 

 

 

 第三次攻撃隊に随伴している観測機からの報告は良好であった。相手がこちらの攻撃隊の襲来に対応しきれない間に、艦攻、艦爆隊は輪形陣を突破、敵のヲ級flagshipとヲ級eliteの飛行甲板に破壊ないし一時使用不可の状態に陥れ、敵の(報告ではル級と見られている)戦艦を一隻轟沈、輪形陣外郭の一部を機能停止に陥れるという戦果を報告している。

 攻撃隊がそんな戦果を出している頃、第一艦隊と第二艦隊上空には敵の攻撃隊が姿を現していた。

 

「敵攻撃隊、南東方向に確認。こちらの艦隊へ向けて、二つの分隊に分かれて飛行していると思われます」

 

「対空戦闘用意!方位角右四〇度!」

 

 ばらばらに周囲を警戒していた戦艦の主砲や艦の対空砲が一斉に指示された方向へ向きを変える。上空に展開していた直掩隊も、数小隊がそちらの方向へ向かった。

 

「あきづき、たかなみは対空ミサイル発射、敵航空隊がこちらの戦艦の対空射程内に達し次第、発射を開始」

 

「「了解」」

 

 あきづき達の応答の後、艦橋内、艦隊内に静けさが訪れる。この静けさは艦橋に立つようになってから何回か感じる事はあったが、何回繰り返そうとも慣れる事は無いだろうといつも思う。

 

「敵航空隊、戦艦対空射程内に入りました!」

 

「対空ミサイル発射始め!対空戦闘開始!」

 

 あきづきの通信と俺の号令から始まり、先ほどの静けさが嘘のように、輪形陣の外郭からはミサイルの発射音が、近くに展開していた戦艦は主砲を発射する。それらは数秒後に、水平線付近で爆発を伴い空に咲き、敵航空隊の編隊を乱した。

 

「敵航空隊来ます」

 

「対空戦闘継続!敵攻撃機、爆撃機を優先して落とせ!」

 

 編隊が乱れても尚、敵の航空機は攻撃を突破したもの同士で小隊に別れ、今度は輪形陣の突破に取り掛かる。今度はそこへ上空から機銃音と共に、濃緑色の機体が小隊へ襲い掛かる。更なる奇襲に小隊も乱れ、敵の攻撃は完全に統率を失った。そこへ艦艇から機銃が放たれ被害は拡大、最終的に攻撃を与えられたのは数十機にも満たず、他は攻撃もせずに、その場に爆弾を捨てて帰還を図った。

 艦隊は数少ない攻撃を簡単に回避して、攻撃隊の帰還に備えて準備をし始めた。

 

 

 

「第四次攻撃隊発艦始め!」

 

 号令と共に作戦開始から四度目になる攻撃隊が発艦していく。

 その数は減ってはいるものの、目立って戦力低下を示すほどのものではなかった。

 攻撃隊は空中で二つの塊に集合すると、一つは青ヶ鳥方向へ、もう一つはそれとは九十度違う方向へ飛んでいく。

 

「敵基地航空隊の様子はどうだ」

 

 二つの編隊が飛んでいくのを見送りながら傍にいる妖精に聞いた。

 

「我が方の戦車隊が複数回の強襲を行い、航空機の減滅に成功。現在は正規空母一隻の戦力ほどだそうです」

 

「敵の主力の様子は」

 

「二度にわたる攻撃の中で、敵空母は航空運用能力をほとんど失いました。現在は硫黄島方向へ撤退をしていますが、第四次攻撃隊の攻撃で空母二隻のうち一隻は撃沈できる見込みがあるそうです」

 

「敵空母を戦力外に出来たとしても、戦艦が残っている。もうすぐ夕暮れだし、夜間に突撃してこないとも限らない。現在は青ヶ鳥の奪還を主目的に、港湾棲姫の撃滅に注力しつつ、主力艦隊を一旦硫黄島付近まで追い返そう」

 

「了解しました」

 

 会話が終ると、艦隊の様子へと視線を移した。

 敵の攻撃が途絶え静けさが戻ったものの、各火砲や対空機銃はあちこちの向きを変え、常に上空や水上を警戒している。それは、敵の主力艦隊から飛来してくる攻撃隊や敵艦隊そのものではなく、港湾棲姫へ向けてのものだった。

 

 港湾棲姫はイレギュラーな存在だ。陸上形の深海棲艦はソロモン海域奪還作戦で飛行場姫に遭遇しているものの、それは飛行場を統率した存在であり、今回の港湾棲姫は名前上は理解できても、どのような存在なのか掴みきれていなかった。作戦内で呼ばれている基地航空隊や要塞砲などもそれは港湾棲姫の武器であるのか、青ヶ鳥に設置された基地であるのかもはっきりしていないでそう呼ばれている。

 未知数の敵であるが故の恐怖が、艦隊内の行動に現れていた。

 

「艦隊後方に反応アリ。敵の航空隊です!」

 

 あきづきの声に合わせ、あちこちに向いていた火砲は敵の反応のあった方向へ向きをそろえる。

 

「おそらく、これは青ヶ鳥にある敵の基地航空隊からの攻撃だ。これを迎撃し撃滅すれば、敵はほぼ無力になったであろう港湾棲姫だけになる。気を引き締めて臨め!」

 

 了解の応答後、空母からはさらに直掩隊が発艦し、ほとんどが敵航空隊の方向へ向かっていく。

 其々が輝かす赤や白、黄色の帯を俺は天城艦橋から見るだけだった。

 

 

 

 

「とりあえず、損傷を受けている艦から優先して入渠を開始、他の艦についても補給を済まして、格納を格納を進めています」

 

 執務室で吹雪から報告を受け、俺は首を縦に振って応じた。

 敵の基地航空隊の攻撃を今までと同様の方法で迎撃した艦隊は輸送艦隊から分離してきた艦と合流しそのまま青ヶ鳥に接近。港湾棲姫の撃滅に臨んだ。しかし、その頃には青ヶ鳥に港湾棲姫の姿は見られず、存在が消滅した後だった。残っていたのは砲身を無力に下げた要塞砲と、所々で黒煙を吹き上げる航空基地だけだった。

 

「航空基地に残っていた敵の航空機などは鹵獲用に残っているもの以外は全て破壊、要塞砲も解析用に残っているもの以外は解体が進んでいます」

 

「建物への損害は?」

 

「グラウンドに数発、着弾の後が見られましたが、他に目立った被害は確認されませんでした」

 

 鎮守府への被害がほとんど見受けられないのは気がかりだったが、こうして問題なく機能回復へ迎えられるのだから、良しとして、別のことに集中する事にする。

 

「潜水偵察部隊の方はどうだ」

 

「沖縄付近でこちらに転移後、防衛線の内側を潜航状態でこちらに向かっているようです」

 

「航空偵察部隊の方は」

 

「先ほど青ヶ鳥飛行場より離陸した部隊は硫黄島付近を偵察、迎撃を受け数機が撃墜されましたが敵の情報を多く持ち帰り、帰還しました。今はその情報を整理している途中です」

 

「了解。引き続き整理の方を進めてもらってくれ」

 

「了解しました」

 

 吹雪は敬礼すると、部屋を後にしようとして

 

「鶴さん」

 

「なんだ?」

 

「後で少しお茶にしましょう」

 

「ああ、少しだけな」

 

「はい!」

 

 そう言って微笑んだ。

 

 外に目をやると、飛行場から離陸した戦闘機が哨戒を行うため赤く染まる上空から、少し暗さを覗かせる水平線へ飛んでいった。




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――――――――――
 活動報告の方に、このssについての報告を上げましたのでよろしければそちらの方もどうぞ。


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第三十九話「すれ違い」

 青ヶ鳥に再上陸を果たした次の日。執務室には大淀、明石、吹雪が集まり、応接机を介して其々難しい顔をしていた。

 

「今回の奪還作戦の戦果報告を集計した結果、敵は数の上では青ヶ鳥に投入していた戦力の約四割を喪失、しかし実際には港湾棲姫やelite級以上の艦艇を多数失っているため、被害は大きいものかと思われます」

 

「だから夜間の突撃が無かったのか」

 

「そう思われます」

 

 大淀は書類から顔を上げて頷いた。

 

「実際には被害の少ない戦艦や重巡も敵には残されていましたが、こちらには陸上基地や多数の健全な空母が存在。夜間に攻撃で損害を与えても、そこから残った空母などによる夜明けの空襲を考えると、消して良案では無いと考えたのでしょう。今後は新編された敵空母機動部隊による空襲が考えられますが、水上部隊に近づかれる事はあまり考えられないでしょう」

 

 ということは、一応の防衛線は青ヶ鳥島から青ヶ鳥島近海数海里に向上したという事か。微々たる物だが、少しは前進したというべきだろう。

 

「艦隊の損害のほうはどうだ?一様、吹雪から損害を受けた艦は入渠が進んでいると聞いているが…」

 

「今回の戦いは輸送艦隊に編成された艦の被害が目立ち、他艦隊の艦は微減の被害でとどまっているため、入渠ドックを二分して回しています」

 

 大淀に代わって、工廠関連を一括している明石が答えた。手元のバインダを捲り、入渠予定の表をこちらに見せる。

 

「このように入渠もすぐに終る艦が多いので、すぐに次の作戦へ移行する事も安易かと思います」

 

 表中の予定時間の欄はどの艦も短く、予定時間が長い艦も作戦進行に支障をきたさないものだった。

 

「また、提督に頼まれていた中攻の配備ですが、二中隊三十六機の準備を進めており、こちらは数準備をするのには時間が掛かりそうです」

 

 明石がこちらに到着してすぐに依頼したにも関わらず、もう三十六機もの中攻が準備を進めている事に驚く。妖精が操作可能な装備は、一回の開発で複数の機体が準備されるが、そこから部隊配備などを行うには資材と時間が掛かる。それを一晩でやってのけたのだからすごい。

 

「それはすごい」

 

「他に出払っている妖精を戻せば、一大隊分の中攻は準備できますが…?」

 

 一大隊は、四中隊からなる大きな部隊だ。明石の言いようでは、今に二大隊目も準備しましょうかとか言いかねない。というか、まで時間短縮出来んのか。

 しかし、そこまでする必要は無くなってしまったんだよな…。

 

「いや、そこまでしなくていい。というか、この作戦は一時中断だ」

 

「どうしてですか?」

 

「というより、作戦の一時中断ってどうしたんですか?」

 

 明石と吹雪が揃って中断という言葉に疑問の相を浮かべる。大淀だけは理由を知っているため、疑問とは違った相を浮かべてこちらを見ている。

 

「本当だったらあと数日で準備を整えた後に、艦隊を整えて硫黄島奪還へ移行する予定だったんだが…」

 

 そう、本当だったら敵との戦力差や、青ヶ鳥島と硫黄島という敵に落ちたら、日本本土が大型機などでの空襲が可能な距離に基地を構築できてしまうという危うい土地という事もあって、すぐにでも敵の撃滅ないし撃退をしたいところ。こうしている間に、我々に奪還されてしまった青ヶ鳥を、敵が再び手に入れるために包囲網を構築していてもおかしくない。

 

「作戦決行前から確認されていた横須賀鎮守府所属と思われる艦隊が、こちらに接触してきたんです」

 

 俺が説明する前に、大淀が先に事情を話し始めた。

 

「横鎮所属の艦隊って、あのZ1とZ3が混ざっていたというあの艦隊ですか?」

 

「はい。あちらは、青鎮が機能を取り戻すまで青ヶ鳥島近辺の敵の動きを牽制しつつ、敵艦隊の動きに注視するよう提督に命じられたとの事。奪還作戦が行なわれた当日はその命にあわせて、こちらが青ヶ鳥の機能を回復させたときにこちらに接触するように指示されたそうです」

 

「その時向こうから来た無線は、俺も大淀と共に応じた」

 

「先方は軽巡長良を旗艦とする横須賀鎮守府所属第七艦隊臨時青ヶ鳥警備隊を名乗り、横鎮の提督とこちらの提督の面会を希望しています」

 

「そしてそれを俺は了承した」

 

「どう言うことですか!?」

 

 俺の了承の言葉にいち早く反応を示したのは隣に座っていた吹雪だった。

 

「もしかしたら、ここの立地を目的に近づいている可能性があるんですよ!それに、大本営が絡んでいる可能性もあります!」

 

 青ヶ鳥が行った作戦としては、現在進行中と同じくらい大規模なものとなったソロモン奪還作戦より以前。あちらの世界に転移する少し前に、俺は大本営から独立して行動をすると、向こうの幹部の前で宣言し、もし指示を出したいようなら他の鎮守府を通すようにとも言っていた。

 吹雪は今回の接触は大本営が絡んでいる可能性をあることを危惧しているようだった。

 

「そのことは大丈夫だ。向こうが接触をしてきたときに確認した」

 

「でも向こうが嘘を付いているという可能性も…」

 

「仮に大本営が背後にいないことが偽りだとしたら、こちらが不利にならないように話しを進めていくつもりだ。それに場合によっては大本営が居たほうがこちらに有利になる可能性もある」

 

「大本営が居る方が?」

 

「あぁ」

 

 それは、向こうの世界で調べたり感じたりした事や、それを踏まえて今回の奪還作戦で実際に感じた事、これから深海棲艦と戦争をしていく上で重要である事を加味した結果、至った答えだった。

 

「俺は青ヶ鳥を独立した青ヶ鳥鎮守府という状態から、以前と同様の日本海軍青ヶ鳥鎮守府に戻したいと思っている」

 

「それは実質大本営の傘下に戻る、ということですか?」

 

「ああ、そうなるな」

 

「それには絶対に反対です!」

 

 吹雪は声を大にして異を唱えた。

 

「どうして、あの時のようなことを言う大本営の傘下なんかに戻るとか言うんですか!」

 

 かつて吹雪は大本営にあきづきと共に自沈処分すると言い渡されていた。それは吹雪にとっては、一番受け入れたくない指示で、俺にとっても絶対に聞きたくない言葉だった。

 しかし、そんな事を言い放つ大本営でも、ここ(青ヶ鳥)がその下にいなければいけない理由があるから、その答えに至った。この決断を曲げるわけには行かない。

 

「吹雪の言い分は分かる。前にあんな(自沈処分)事を抜かした奴らだ。しかし、それでも俺らは日本海軍―大本営の下で活動しなければいけない」

 

「いや、鶴さんは分かってません!」

 

 未だに今まで見たこと無いぐらいに声を大きくして否定する吹雪を、俺は妙に冷静に静かにじっと見ていた。

 そんな俺を吹雪もじっと見る。

 しばらく、にらみ合いとも言えるような状態になった後、口を開いたのは吹雪の方だった。静かに、普段の吹雪とは思えない声音で言葉を続けた。

 

「横鎮の艦隊と面会するのはいつですか?」

 

「とりあえず、日を改めてということで、数日後にやる予定だが…」

 

「鶴さんは私の言い分も分かると言っていましたが、全然分かっていません。大淀さん、鶴さんが私の言いたい事を分かってくれるまで、相手方には面会を延期してもらうように伝えてください」

 

 吹雪は表情を変えずにそう言うと、さっさと席を立ち扉のほうへ踵を返した。

 扉の前でこちらを一瞥すると、そのまま部屋を後にしてしまった。

 

 

「…だそうです。提督、どうされますか?」

 

 吹雪が出て行って数分の沈黙の後、大淀が不安と戸惑いの相を浮かべながらこちらに問うてきた。まあ、大淀が戸惑うのも無理は無いか。

 吹雪はうちの中では初期艦なだけであって、発言力は俺と同等なものを持っている。

 鎮守府の運営方針はここの指揮官である俺が決めている事だが、普段の業務は大淀や明石が指揮を取っており、艦隊行動に関しても現場では長門や赤城が、ここ最近至っては俺が直接取っていた。今は行っていないが、鎮守府初期こそは今は大淀や明石、長門や赤城が行っている指揮を吹雪が俺と分担だがほとんど持っていた。その指示に従って動いていた艦娘も少なくは無い。そのことがあり、吹雪の指示に反そうとする者は、この鎮守府にはまず居ない。

 

「吹雪の言った通り、先方には延期を申し込んでくれ。理由はこちらに予定の調整が入ったとか適当に頼む」

 

 なんにしろ、吹雪があれだけ頑なに反対を示すのも大本営のほかにも理由があるかもしれない。本当だったら吹雪の意見など無視して横鎮との面会を推し進めるのが運営していく上では良いのだろうが、ここは止めたほうがいいだろう。

 

「提督、大淀はこれからその旨を伝達するから席を外すでしょうけど、私はどうしましょう?」

 

 大淀の問いに答えたところで、空気になっていた明石がやっと口を開いた。

 

「工廠側は艦の修復を最優先に、他には基地航空隊の整備と陸上部隊の拡張を平行して行ってくれ」

 

「分かりました。では私もこれで失礼します」

 

 明石が立ち上がると、大淀もそれに続いて二人は部屋を出て行った。

 

 

 

 俺以外の人がいなくなった執務室は再び静寂が訪れた。外は青い空が広がり、そこに小隊を組んだ戦闘機が時々横切る。

 

 

 こう静かになると、自然と頭は行動ではなく思考に力を注ぎ始める。

 

 ――吹雪はどうして横鎮との接触を反対するのか。

 横鎮には大本営が背後にいないことや、うちの立地目的での接触ではない事は事前に確認済みだ。たとえ、それらが嘘だとしても絶対にうちの土地を渡すつもりは無いし、大本営の好きに操られるつもりも無い。

 何度も始めの問いに戻って考え直すが、どんな順路をたどろうとも吹雪が反対する理由が思い浮かばない。

 ――あんな事(自沈処分)をいう奴らの下で動きたくないのが理由ではないのか?

 分かっていたと思っていた吹雪の気持ちが分からなくなる。

 

 今まで、吹雪達艦娘や鎮守府の事を考えて判断してきたはずだ。

 大本営の吹雪や他艦娘へのぞんざいな考えに、独立する事を決めた。

 転移後も大本営のようなことが起きる事を危惧して、連合海軍に独立して運営を行う事を申請した。そして独立運営が出来るようにソロモン海域の攻略も行った。

 しかし、向こうの世界では艦娘達が満足に戦えない事が分かったために、元の世界に戻る事を決めた。

 そして艦娘達の負担を軽減させるために、鎮守府の運営を楽にするために、もう一度大本営の下に戻る事を決めた。

 

「何を、間違えた?」

 

 考えれば考えるほど分からなくなる。俺は本当に一体、何を間違えたのだろう。

 

 

「ヘーイ提督ぅ!」

 

 いつも通りの威勢のいい声で、執務室の静寂を破ったのは、金剛だった。

 金剛は椅子に沈むように座っている俺の顔を覗き込むと、笑顔のまま続けた。

 

「ブッキーから事情は聞いたネ」

 

 ブッキーと言う単語を聞いて自然に身体が起き上がり、金剛と対面する形に顔を移動させる。

 

「何でも提督は、ブッキーの言いたい事が解ってないそうですネ」

 

 いや、分かっている!

 そう言いたいが、今はそんなこと言える訳が無い。今の俺には吹雪の言いたい事が分からないのだ。

 それに、金剛は口調はいつも通りだが、表情は真剣で俺に有無も言わすつもりはなさそうだった。

 

「ブッキーは提督の初期艦で、ここの鎮守府に来てからずっと一緒にいます。提督が分かっていると言っていたブッキーの言い分ってのは、()()のブッキーの言い分の半分でしかありまセン。ブッキーが重要視してたのは提督が分かっていないもう半分の事で、それがブッキーが本当に言いたい事なのデス」

 

 …吹雪が、本当に言いたい事?それってなんだ。

 

「ブッキーは提督に考えさせるつもりと言っていましたが…、提督の場合、幾ら考えたって答えに行き着きそうにもありまセン」

 

 金剛は手の平を上に向けて、やれやれとやってみせた。

 

「なので――」

 

 金剛はわざわざ、執務机の正面まで移動すると、机を介して俺と対面する形をとった。

 

「ブッキーと二人で出掛けてもらいマース」

 

 吹雪とデートしろ。

 それは、金剛の口から突然告げられたことだった。




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第四十話「彼女の本音」

「な、何言ってんだ!」

 

「今俺と吹雪は二人で出掛けられるような状態じゃないんだぞ」

 

「そんなの百も承知ネ。でも、ブッキーにはもう話をして了承も得たのし、既に逃れる事は不可能デース」

 

 は?吹雪は二人で出掛ける事を了承した?

 

「説得するの大変だったんデスよ?いつもより頑なに拒否してましたから」

 

「吹雪が本当に良いと言ったのか?」

 

「そうデス。ブッキーがやっと折れて了承してくれたのデスから、提督もしっかり向き合って欲しいデス」

 

 向き合って欲しい…。

 確かに、自分だけで考えるより、本人と向き合ったほうが良いのかもしれない…。

 

「分かった」

 

「出掛けてくれマスか!」

 

「ああ。出掛ける日はいつだ?」

 

「出掛ける日はデスね……」

 

 金剛は安心したのか、声音を若干変えながら集合時間などを話始めた。

 

 

 

「じゃあ、頑張ってくださいネー」

 

 金剛が吹雪と出掛ける約束を取り付けてから数日後、庁舎前で金剛は笑顔で俺を送り出した。

 この数日の間のどこかで聞きつけたのか、瑞鶴が一緒に行くと出掛ける直前にやってきたが、今は金剛に行く手を阻まれ、身動きが取れないでいる。

 

「ちょっと!通しなさいよ!」

 

「ダメデース。今日は提督とブッキーだけのお出掛けなのデスから、他人がちゃちゃ入れるもんじゃないデース。てーとくぅ!早く行くデース!」

 

「あぁ」

 

 瑞鶴を押さえつけながら大きく手を振る金剛に、どうもうまく答えられず、短く返事をして正門のほうへ向かう。

 庁舎のすぐ脇に、駆逐艦娘が生活している寮があるのだが、吹雪とはそこの入り口ではなく正門での集合になっていた。

 ―そういや、ここ数日吹雪と会っていないな…。

 秘書艦の仕事は白雪たちが代行していたし、鎮守府内を歩いていても吹雪にだけは出会わなかった。

 

 正門に近づくと、一人の人影が見えた。きっと、吹雪だ。

 金剛は頑張れと言っていたが、今の俺は吹雪とどう接すればいいのだろう…。

 考えている間にも、吹雪の前までたどり着いてしまった。

 吹雪もこちらに気付いたのか、俯かせていた顔をこちらに向けてきたので、咄嗟に声を掛ける。

 

「よ、よう。吹雪」

 

「おはようございます。鶴さん」

 

 吹雪は普段の元気な声ではなく、真面目な声音でこちらの挨拶に答えた。

 服装はセーラー服のようないつもの服ではなく、私服。

 挨拶の後に会話は続かず、仕方なく吹雪に出発を促す。

 

「…行くか」

 

 コクっと頷くと、吹雪は先行して行ってしまった。

 

 ――そういや、吹雪。お前あん時も…

 

「早くしてください」

 

 吹雪の急かす声に、背中を追いかけるように俺も歩き出した。

 

 

 青ヶ鳥島は中規模の鎮守府が設けられるくらいには大きく島の中には空港や小さな鉄道があったりする。

今は吹雪と一緒にその鉄道に乗り、空港近くの街に来ている。

改札を抜けると今までムスッとしていた吹雪が町の景色に顔を輝かせていた。

 

「色々ありますねぇ!どこからいきましょ…あっ」

 

自分の顔を見たとたん、思い出したかのようにムスッとした表情を見せる。

 

「い、行きましょう。どこから行きますか?」

 

そう言いながら吹雪はスタスタと街のなかに踏み出してしまった。

素直になればいいのに…。

 

「早く、行きますよ」

 

吹雪にせかされて、俺も街のなかに踏み出した。

 

普段は鎮守府の周りの街に出掛けており、そこにも様々な店が立ち並ぶ通りは存在するが、ここは空港が近いからかお土産屋など旅行客向けの店はもちろん、店も鎮守府周辺の街以上に様々な種類のものが軒を連ねていた。

 

「吹雪はどこに行きたい?」

 

隣を歩く吹雪に視線をおとして聞いた。

今は二人で大通りをを歩いており、左右には洋服屋や雑貨屋など女子なら寄ってみたくなるであろう店が立ち並んでいた。

 

「そうですねぇ~…あっ。…あそこでいいです」

 

辺りをキョロキョロしながら、答えようとした吹雪だが、また思い出したかのように不機嫌そうな声音を発すると、すぐにピッとある場所を指差した。

指先には、店内から軽快な音楽を響かせているゲームセンターがあり、店先には数台のクレーンゲームが置かれていた。

 

「ゲームセンターか、OK行くか」

 

店内にはいると、音楽はさらにうるささを増して、音楽ゲームから流れるものも合わさりごちゃ混ぜになっていた。

 

「何をやろうか?」

 

吹雪に大声で問いかけると、吹雪はスタスタと店内を歩き始めた。なにも言わずに後を付いていくと、クレーンゲームが密集しているエリアに入っていき、吟味するように筐体を見始めた。

工廠や酒保で時々見かけるペンギンや雲の形をしたぬいぐるみや最近人気のアニメなどのキャラクターグッズはもちろん、大きいお菓子のセットが山積みになったものやアイスが取れるものもあった。

 いろいろと面白げなものを見ていると、不意に吹雪が足を止め一つの台を指さした。

 

「これ、やりたいです」

 

 指さした先には、モコモコした雲のようなカワイらしいぬいぐるみが大量に積まれた筐体があった。

 

「これって失敗の時に出てくるヤツだろ?なんでまた…」

 

 俺はこのぬいぐるみに覚えがあった。

 火砲などの開発を行うとき、開発に失敗すると妖精がダンボールにぬいぐるみを詰めて寄こしてくる。

 はじめぬいぐるみは希望する艦娘が自分の部屋に持って帰っていたが、段々量が需要を越していき最終的にはこうしてクレーンゲームの景品として一般に販売されるようになった。

 鎮守府が初期のころ、開発によく立ち会っていたのでぬいぐるみを見ることがよくあった。その頃には景品化していたため、ぬいぐるみは全て出荷品に回されていた。

 

「いいから、やりたいです」

 

「だからなんでって聞いてるんだけど…っ」

 

 吹雪にしっかりとした理由を聞こうとしたとき、彼女の向こうにある筐体が目についた。

 中身は今目の前にあるぬいぐるみと同じ鎮守府産のぬいぐるみだが、向こうの筐体に入っていたのはペンギンだった。

 ―――――確かあのペンギンのぬいぐるみ。

 

「…ん?」

 

「あの、早くやりましょ」

 

 袖を引っ張られ、すぐにコインを入れる。

 軽快な音楽とともにゲームがスタートする。吹雪は一歩下がって俺は作業に集中する。

 操縦桿と同じ仕様の操作のため、思っていた以上に簡単に操作することができた。

 

「…よし、取れた!」

 

 ポヨンという音がしそうな勢いとともにぬいぐるみが取り出し口に落ちた。

 

「二回で取れるとは運がいいな」

 

 吹雪にぬいぐるみを渡す。

 

「…ありがとうございます」

 

「他のも見ていくか?」

 

「はい」

 

 ぬいぐるみを抱きかかえながら、吹雪は他の筐体を見始めた。

 

(…うまくなりましたね)

 

 ボソリと、横切るときにそう呟いて。

 

 

 

 

 その後も、洋服屋に雑貨屋を回っているときに吹雪は今までの元気な表情を見せたり、ムッとした表情を見せたりと、感情はコロコロ変わった。まるで何かを抑えるような仕草は気になったが、折角金剛が用意してくれた二人だけのお出掛け、少々歪だろうと最後まで楽しもうと思った。

 ―――――それに、今日を最後まで楽しめば何かが分かる気がした。

 

「次はどこに行くんだ?」

 

 吹雪に次に行きたいところがあるか聞こうと隣を向いたとき、その瞬間に携帯が鳴った。

 

「っ!」

 

 それはプライベートで使っているものではなく、緊急連絡用の携帯だった。

 それには吹雪も気付いたようで、スイッチが切り替わるようにこちらに向き直った。

 

『もしもし』

 

『もしもし、こちら大淀です』

 

 電話の相手は大淀で、その向こうでは妖精が指令を出しているのか怒号が飛び交っている。

 

『本日ヒトサンフタマル頃、青ヶ鳥島近海南方に展開していた哨戒艦隊がさらに南方に敵機の大編隊を確認しました。』

 

『数と編成は?』

 

『戦闘機、爆撃機と攻撃機がそれぞれ半々といった編成のようです』

 

 防御に回るであろう戦闘機と攻撃に専念する爆撃・攻撃機が半々となると、被害を抑えつつある程度の被害を与えに来たという感じだろう。

 

『迎撃機は?』

 

『すでに上がり始めています』

 

『市民に被害を出すわけにはいかない、最低でも青ヶ鳥近海で撃墜できるようにしてくれ。あと、あきづきたちを中心に防空艦隊を出撃させてくれ。青ヶ鳥南方に展開、戦闘機を優先して撃墜してくれ』

 

『了解しました』

 

『あっ、あと、零夜戦改を一機空港の方へ寄こしてくれ』

 

『わかりました。提督は迎撃に上がりますか?』

 

『いや、とりあえず天城を中心にすぐに出撃できるように準備してくれ。俺の零戦はそこに乗せてくれ』

 

『了解です』

 

 大淀との会話を終えると、そばで心配そうに話しを聞いていた吹雪に視線を戻した。

 

「吹雪」

 

「はい」

 

 ムスッとした声音ではあったものの、緊急事態であることは分かっているらしく、やる気は感じ取れた。

 

「青ヶ鳥南方方面の太平洋で、敵の大編隊が確認された」

 

「では今から鎮守府に戻りますか?」

 

「あぁ、でも直接は戻らない、空港から零夜戦改で戻る」

 

「わかりました。では空港に向かいましょう」

 

 吹雪はスタスタと空港の方へ歩を進め始めた。

 

 

 

 

 零夜戦改はすぐにやってきた。

 乗ってきた操縦手の妖精はこちらに航空機を引き継ぐと、一緒にやってきていた零夜戦改に乗り込んで先に鎮守府に戻った。

 

「よし、行くぞ」

 

 吹雪を後部に乗せて、離陸する。

 他の航空機の邪魔にならないように旋回を行いながら高度を上げる。ある程度の高度になったところで、鎮守府の方向へ機首を向かわせる。

 

「…なぁ、吹雪」

 

「…何ですか?」

 

 プロペラの回る音にかき消されないように多少声を張って話しかける。

 外でも見ていたのか、一拍遅れて返事が返ってくる。

 

うち(青ヶ鳥)を大本営の傘下に戻す意思に変わりはない」

 

「だから、それには反対って言ったはずです!」

 

 吹雪は今までと違い感情を隠すことなく反応した。

 俺は今まで吹雪は、青ヶ鳥が大本営の傘下に戻ることで()()の命を軽率に扱う命令を受ける可能性を危惧して反対の意見を言っていたとばかり思っていた。

 

「それはあいつらが出してくる作戦で俺の身が危険になるかもしれないからか?」

 

「っ!」

 

 実際には彼女、吹雪は自分の命より真っ先に俺の命のことを心配したのだろう。彼女にとっては『艦娘の命を軽率に扱う命令』ではなく、『()()()の命を軽率に扱う命令』を受ける可能性を危惧して反対の意見を言っていたのだ。

 

「青ヶ鳥沖での戦闘の時、俺は久しぶりに飛んだ。別に敵機と交戦するでもなく、ただ敵艦に爆弾をぶつけるだけだったが、その一部始終を大本営は見ていた」

 

「…」

 

「あの時はお前とあきづきが自沈処分を命令されるだけで済んだが、俺が艦娘と作戦を共にできる、艦娘と同等の作戦行動ができると判ると、どういう扱いがされるか…」

 

「それを想像して反対の意見を言っていると言いたいのですか?」

 

「ああ、そんなことそれるぐらいならいっその事大本営の傘下になんか入らずに、青ヶ鳥で静かに、自分の身のみを守っていきたいと思ってるんだろう?」

 

 その先の言葉を待つように吹雪は黙っていた。

 

「だがそれは出来ない。青ヶ鳥だけで生きていくのには限度があるし、たとえ青ヶ鳥だけで生きていこうとするならば、日本本土や海外とのシーレーンを構築していかないと生きていくことは難しい。それにシーレーンの構築防衛は結局のところ大本営の傘下で行っていることと何ら変わりはない。それなら大本営の傘下に戻って資材の供給を確保し、いざというときのに使える手段を多くしたほうがいいだろう」

 

「そうですけど、結局命令を受ける可能性は…」

 

「その心配は恐らく無い」

 

「何故ですか?」

 

「傘下に戻る意思を示す前に、実践を通して青ヶ鳥鎮守府の実力を示す。しかもただ示すだけでなく、俺が司令官であり、その下に慕ってくれている艦娘たちがいることでその実力が発揮できているということも示してだ。そうすれば大本営は俺が死ぬような作戦を命令することは出来ないし、またそんな鎮守府の艦娘が死ぬような作戦も出せないはずだ」

 

 そう。そうすれば吹雪の危惧しているであろう俺が死ぬような作戦も、俺の危惧しているであろう艦娘が死ぬような作戦も受けないで済む。

 

「だから、心配するなって」

 

「…」

 

 

 そこから沈黙が続いた。二人とも何も言葉を発することなく、エンジンの音だけが響いていた。

 

「…私は、」

 

 しばらく経って吹雪が口を開いた。

 

「私は、私の心配していたことはそのことです。けど、ちょっと違います」

 

「違う?」

 

「私はただ、ただ鶴さんに私たちの司令官のままでいて欲しいだけです。最初のころのように一緒に書類仕事して、直掩して、時々模型演習やって、食堂で雑談したり、一緒に執務室にダラダラしたり、休日に遊びに出かけたり…。作戦の時はただ執務室で私たちの帰りを待っていて欲しい…」

 

「吹雪…」

 

「私はただ、そんな鶴さんであってほしいだけです」

 

 最後の言葉はなんだかとても優しいかった。

 

「吹雪、俺がお前に告白したとき何て言ったか覚えてるか?」

 

「今度は絶対に俺がお前を守る。沈めたりなんかさせない…です」

 

「俺が昔瑞鶴の直掩だったのも話したよな?」

 

「はい」

 

「俺は大切なやつのことを守る方法は直掩として守る…ということしか知らないんだ。さらに、たとえ他の方法を教えられたとしても直掩として守るということしかしないだろう」

 

 俺は昔から吹雪のことが好きだ。直掩として守りたかったがしかし、その前に逝ってしまった。

 

「だから、吹雪の言うただの司令官でいることは出来ない」

 

「でもそしたら鶴さんが…」

 

「俺は全力で吹雪のことを守る」

 

 俺があのころ艦隊の鶴さんと呼ばれているほどになったのはそのためだった。

 

「だから…」

 

「分かりました」

 

 言葉を遮るように吹雪が口を開いた。

 

「鶴さんが私のことを全力で守ってくれるなら、私は鶴さんのことを全力で守りますね」

 

 吹雪はにこやかな口調で言った。

 彼女との間にあったもやもやが晴れた気がした。




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第四十一話「鎮守府防空戦」

 空港から鎮守府へ向けて飛ぶこと10分ほど。

 無言に耐え切れなかった吹雪が雑談し始め、それに付き合っていたので鎮守府までの時間を長いと感じることはなかった。

 

「鎮守府が見えてきましたよ!」

 

 吹雪は眼下に見えてきた鎮守府の施設群を見て、声を上げた。海上から敵機が向かっているが、そこまで近くないためか、上空から見る鎮守府は静まり返って見えた。

 

「とりあえず零夜戦改は滑走路に降ろす…ぞ」

 

「鶴さん?どうしました?」

 

 言葉の端切れが悪くなったのを不思議に思ってか、後ろから声がかけられる。

 だが、俺はその問いには答えなかった。

 

「吹雪」

 

「はい?」

 

「今から少し無理な動きをするから耐えられるかどうか答えてくれ」

 

「え、え?」

 

「行くぞ!」

 

 戸惑いの声を上げる吹雪をよそに、操縦桿を前に倒した。

 機首が思いっきり下を向き、機体が速度を上げて降下していく。

 

「きゃぁ!?」

 

 後ろから悲鳴が上がるが、お構いなしに今度は操縦桿を手前に引き上げて、機首を上へ向けた。

 減速が最大になると、頭上には青い海が見える。

「うわぁ!海!海が上に!」

 

 叫んでいられるってことは、まだ大丈夫そうだな。

 一回転をして水平に戻ると、今度は操縦桿を右に倒した。

 

「鶴さん、ちょっ…んわぁ!」

 

 吹雪が何か言おうとしていたが、その前に機体が旋回を開始したために、途中で言葉が叫び声に変わった。

 てか、いちいち叫び声が可愛い。

 

「んー!んー!」

 

 今度は悲鳴ではなく。耐える声が聞こえてくる。

 一通りの動きを終えて、安定した状態に戻ってくると、すぐに吹雪が抗議の声を上げた。

 

「い、いきなり何するんですか!」

 

「なにって、空戦時にかかるGをかけてみたんだが」

 

「これから着陸するだけですよね?!そんなことしなくてもいいじゃないですか!?」

 

 これから着陸するだけ…ほんとにそれだけならこんなことしないんだがね。

 

「吹雪。前を見てみろ」

 

「え?…ん?あの黒い点は…敵機?」

 

 進行方向正面、おそらく五六キロ先に黒い無数の点が見えた。その点は徐々にシルエットがはっきりしてくる。

 吹雪も海上から何回も似たのを見ていたのだろう、すぐに状況を理解したようだった。

 

「鶴さんのことだから、迎撃機を上げてないわけはないですよね。ってことは迎撃を避け切ったって事?」

 

「多分迎撃を避け切ったといより、時間をかけてさらに爆撃機の連中より高い高度でこちらに飛んできたといった方がいいだろうな。しかも少しでも動きやすくするためか編成は戦闘機のみだし」

 

 徐々にはっきりししてきたシルエットは敵機の中でも戦闘機として会敵してきてたものだ気だった。しかもそのほとんどが爆弾をおなかに抱えている。

 

「すぐに対空戦に対応できる艦艇は全て迎撃機と一緒に出しちゃいましたし、鎮守府の対空砲が射程に入るころには、墜落した機体で結局被害が出る羽目になる。どうしましょう、鶴さん?」

 

 どうしようも何も他の設備が機能出来ないなら、残された方法は一つしかない。

 

「俺らで迎撃する」

 

「何言って…。あ、そのために」

 

 先ほどまでの行動を思い出したのか、合点がいったような声とともに吹雪が押し黙る。

 

「その無言は肯定ととるぞ?」

 

 その問いに吹雪は不敵な声で答えた。

 

「とらなくたって、肯定で正解ですよ!」

 

 吹雪の答えを聞いた途端、機首を下げて地面へ向ける。

 

「うわわっ!?」

 

 速度計があっという間に400km/h近くになり、それを確認するとすぐに機首を水平に戻す。スロットはもちろん全開だ。

 

「このまま編隊後方の敵機の腹に20mmをぶっこみに行く」

 

「あの私は?」

 

「そのままじっとしててくれ」

 

 そう言っているうちに、敵機はすでに真上に来ている。こちらがすぐに距離を詰めたので、戦闘は海上で行えそうだ。

 すぐに機首を上げて旋回。編隊後方の敵機の尾翼から敵に突っ込む。

 

「っ!」

 

 両翼から放たれる20mmと7mmの雨はあっという間に敵の両翼付け根に吸い込まれてゆき、ほぼ同時に両翼が折れた機体は重たい機首から海上めがけて落ちていく。

 そいつが落ちるのを確認して次はそのそばの機体に狙いをつける。今度は翼の付け根ではなく端、エルロンの機構が備わっている箇所めがけて機銃を打ち込む。エルロンとさらに翼の先端を削られた機体は当然バランスを崩し降下を開始、回転しまいと耐えながら落ちる機体のすぐそばをすり抜けてゆく。

 

「ざっとこんなもんか、あと4機…どうすっかね」

 

 後ろを見れば、2機は爆弾を落としてこちらに向かってきていた。

 

「鶴さんこの斜銃って使えますか?」

 

 斜銃を指しながら吹雪が聞いてくる。

 

「あぁ、一応弾は込めてあるから撃てるぞ」

 

 そんなことを聞いて何をするのかと思った次の瞬間、後方から銃撃音が鳴った。

 視界に曳光弾はない。後方に付いていた奴らがステルス弾でも撃ったのかと思い後方を確認すると、1機が煙を噴き上あげて落ちていた。傍らでそれを見ていた敵機は撃たれるのを回避しようと後方の位置を離れる。

 

「吹雪、お前…」

 

「飛行機を操ることが出来なくても機銃を撃つぐらいならできます!だから、私にも手伝わせてください!」

 

「…よろしく頼む!」

 

力づよく言った吹雪に俺はそう短く返してしまったが、彼女は嬉しそうに「はい!」と答えてくれた。

 敵編隊に背中を向けていた機首を戻し、再び敵機に狙いをつける。最初に中心を飛んでいた機体。おそらく隊長機。

 

「後方注意!これから敵の首を取りに行く!」

 

「了解!」

 

 元気な応答。高度を高く取り、位置エネルギーを最大限に使って降下する。

 接近に気付いた敵は回避するために、隊を乱して逃げようとする。

 

「遅い!」

 

 曳光弾で狙いを位置を定めて、本命のステルス弾を打ち込む。

 全て先頭の機体に吸い込まれ、操縦席後方の胴の部分で二つに分かれた。

 周囲を見渡すと、残りの機体は一直線に陸へ降下を始めていた。降下まで一連の動作を見るに、帰還は考えない突っ込み攻撃らしかった。

 

「特攻かよっ!」

 

「とりあえず攻撃を防がないと!」

 

「爆弾による攻撃は特にだ!」

 

 街に落ちようものなら、鎮守府への信用不振に繋がるし、鎮守府敷地内に落ちたとしても、それで機能が停止しようものなら今後の作戦展開に制限を受けかねない。

 

「止まれぇっ!」

 

 すぐに爆弾を抱えた敵機の横に回り、機銃発射レバーに手を掛ける。

 標準器に映る目標に集中し、射撃のタイミングを計る。

 

「鶴さん左前方!」

 

 吹雪の声で集中していた視線をずらすと、さっきまで俺らを追いかけまわしていた敵機が、こちらに機首を向けていた。

 このままいけば、爆弾を抱えた敵機は確実に落とせるが、こちらも落とされる。

 気付けば、機首を上げて俺はこちらに向かう敵機を狙っていた。

 弾は全てエンジンに吸い込まれ、盛大に炎を噴き上げて落ちていった。

 

「鶴さんもう1機が…!」

 

 吹雪が叫んだ時、左側から轟音が響いた。

 地面から吹き上がる黒煙。警報がワンワンと鳴り、小さな人影が火元に集まり出す。飛行場側から化学消防車が向かってきていた。

 ドックは混乱に包まれていた。

 

 

 

 その日の夕方、執務室に大淀がやってきた。手には書類の束を持ち、一部を執務机に置いた。

 戦果報告ですと一言置いて、話を始める。

 

「今回の奇襲による戦果は、敵空母ヌ級を3隻と戦艦複数を撃沈。旗艦と思われる空母ヲ級は戦闘不能にまで追い詰めましたが、沈んだかどうかまで確認できませんでした。敵航空機は爆撃機、攻撃機共にほとんどを撃墜、戦闘機も半分を撃墜しました」

 

 大淀は書類に視線を落として報告した。

 

「こちらの被害は?」

 

「機銃による甲板装備の損傷を受けた艦艇が数十隻、爆弾の至近弾による被害が数隻。どちらも主力艦を中心に被害が出てます。…それと」

 

 落としていた視線をこちらに向けた。夕日が差して顔に影を作る。

 

「一番ドックが損傷被害を受けました。詳しい内容はその書類にありますが、修復には一か月はかかると思われます。また、これによって修復能力が低下、被害艦の修復に時間が掛かるようです」

 

 報告を聞きながら、机の上にある書類の束をめくった。

 最初の数ページには、海上で展開されていたであろう戦闘の戦果が書かれていた。先ほどの報告通り戦果は良く、これなら硫黄島の敵艦隊は今後思うように動けないだろう。

 束の後半には、鎮守府への被害が纏められていた。大きな被害はドックに集中している。爆装戦闘機の捨て身の攻撃によってドックのそこには大穴を開けられ、爆風により水門機能や周囲の施設の機能さえマヒさせた。

 被害艦は片側のドックで修理をするしかなく、次の作戦展開に全ての艦が健全な状態で参加するには予定の二倍の時間が掛かりそうだ。

 

「結局、横須賀鎮守府と対話できるぐらいの時間は出来たってことですね」

 

 ソファで同じ書類を読んでいた吹雪が不意に言った。

 視線は書類に向いているが、声音に反対の意思は感じられなかった。

 

「あぁ、今回は互いにいい関係を築けるように話を進めるつもりだ。横鎮のドックを借りれるように話が持って行ければ、作戦の遅れを少しは取り戻せる」

 

 陸に戻った後、吹雪一対一で今後について話し合った。二人のではなく、鎮守府の方針だが。

 結果として、横須賀鎮守府との対話は予定通り行われることとなった。相手の意図が組み切れないが、こちらが要求することは大本営との仲介役と鎮守府間での協力体制の設定の二つに決められた。対話には吹雪も出席する予定だ。

 そして硫黄島奪還作戦も水面下で進められることになった。今は青ヶ鳥近海の制空海権の確立、潜水艦や陸攻部隊による敵硫黄島泊地の監視や他の基地からの通商(シーレーン)破壊で敵硫黄島泊地の弱体化を行う。横須賀鎮守府との対話次第で本格的な奪還の時期を確定する。

 

「先ほど横鎮の方にも予定通りに行う旨を伝えました。当初は海路を予定していたそうですが、空路で向こうの秘書艦と来られるそうです」

 

 概ね返答が遅れたことで海路だと予定日にたどり着けないとかそういう理由だろう。

 

「空路か、ならこちらも相応の対応を取らなければな」

 

 視線を書類から大淀に向ける。

 大淀は俺の視線と言葉の意味を図りかねてきょとんとしている。

 

「横鎮の航空機が来たら護衛と誘導のために菅野隊を上げよう。せめてもの歓迎はしないとな。大淀、菅野隊を天城から降ろして飛行場に設置しといてくれ」

 

「分かりました。指示してまいります」

 

 大淀は敬礼をするとすぐに部屋を出ていった。

 

「吹雪は俺と会議室を準備しに行こう」

 

「えっ!…執務室でしないんですか?」

 

 動きを止めて吹雪は聞いてきた。

 書類の束をテーブルに置いて、足は給湯室に向いている。

 

「互いにある程度の緊張感の上で話せるようにと思ってね。…なんか不都合でもあるのか?」

 

「い、いや~…」

 

 曖昧に返事をしながら微笑を浮かべる。これが数時間前まで怒っていた奴なんだから、ほんと表情の変化についていけない。

 

「とりあえず行くぞー。来ないと置いてくからな」

 

「あ!待ってくださーい!」



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第四十二話「片付け」

「…何だこれ」

 

「あ、はは…」

 

 会議室の扉を開くとそこには物の山が広がっていた。

 誰が持ってきたのかボードゲームが数十個に何かしらの小物が入っているであろうダンボールが何十個。それらの隙間に設けられた小さな通路が出来ていて、その先には文庫本が山を作ってその真ん中に人ひとり入れるスペースが作られていた。

 

「部屋にいても妹たちがいろいろ言ってくるので、一人になりたくて最近はここで過ごしてたんですよ」

 

 そこまでたどり着くと、照れた様子で吹雪が言った。

 

「二階って滅多に用事がないじゃないですか」

 

「だからってこんなことになるわけないだろ」

 

 あきれ交じりにつぶやくと吹雪が慌てるように続けた。

 

「本って意外と読むとハマるんですよ?気付いたらこんな山になっちゃって…。で、でも私の荷物はこの本だけで他のは私が使う前からこんなことになってましたからっ」

 

 本は吹雪が座っていたであろう所の周囲に積み上げられているだけで、他はダンボールの山であることを考えるとほとんどが吹雪以外の誰かの荷物になるってことか。

 

「誰だ置いていったの。物を置くなら物置きがあるだろ」

 

「それが…物置きに置くほどの物でもないものをここに置くようにしてるって、足柄さんが言ってました」

 

「ってことは足柄の荷物が殆どってことか?」

 

「いえ、他の人の荷物もありますよ。私がここで読書しているのに気付いて話しかけてきたのが足柄さんだっただけで、他にも誰かが出入りしているのが音でも分かりましたし。」

 

 誰がやり始めたかは分からないが、足柄が使っているのは分かったな。

 

「とりあえず、足柄を呼び出せ。他に荷物を置いているやつがいたら足柄が知っているだろう。…全く」

 

「分かりました。とりあえず呼んできますね」

 

「頼んだ。俺は空いてる段ボールに本を詰めておくから、他のやつらの片付けが済んだら部屋に運びに行こう」

 

「いいですよっ!私が広げたものですから、自分で片付けますって!」

 

「遠慮するな。それより、こんなにたくさん部屋に入るか?」

 

 立てかけてあった段ボールを組み立てて、手ごろな山から本を詰めていく。

 慌てて近くに戻ってきた吹雪は作業を手伝いながら、そのまま考えるような声を出す。

 

「んー。部屋から持ってきたものは入りそうですけど、本棚にはそこまで空いてるとこないですし…」

 

「じゃあ、俺の部屋に置いておくか?置くようなもんがあんまりなくてスペースだけは空いてるから、段ボール2、3箱ぐらいなら余裕で置けるぞ?」

 

 置くようなものが無いだけだが…。

 

「そんな悪いですよ!」

 

 吹雪は両手を振って遠慮した。

 そう何度も遠慮されるとこちらも勧めずらい。

 

「だから遠慮するなって、俺の部屋に置いとけば執務室と同じ階だし、仕事の合間とかに読みたい本を持って行ったり、逆に読み終わった本を仕舞いに行ったりできるだろ?それに、吹雪が読んでる本俺も少し気になるし」

 

 後者が本音だが、これくらい言えば伝わるだろう。

 

「わ、分かりました。それならお言葉に甘えて置かしてもらいますね。本は勝手に取り出したりして構いませんから」

 

 やっと吹雪が折れてくれ、段ボールは俺の部屋に持って行くことに決まった。

 吹雪と言い合ってる間にほとんどの本を段ボールに仕舞い終え、本が置かれていた周囲だけでも広くなった。

 

「よし、あとは一人でも仕舞えそうだから、吹雪は足柄を連れて来てくれ」

 

「分かりました!」

 

 持っていた本を段ボールに入れると、吹雪は部屋を出ていった。

 数十分で吹雪は足柄を連れて帰ってきた。

 

「戻りましたー。足柄さん連れてきましたよ」

 

 吹雪に続いて足柄が入ってきた。ジャージ姿であるのを見るに部屋でくつろいでいたのだろう。

 

「提督が個人的に呼び出しって珍しいわね。こんなところに呼び出して何の用かしら?」

 

 あきれ気味に部屋に入ってきた足柄は理由が分かっていなかったようで、俺が指した先を見て察したのか乾いた笑いをもらした。

 

「あのな?ここは会議室であって、物置じゃないぞ?」

 

「べ、別にほとんど使ってなかったんだからいいじゃない。いちいち物置に行くの面倒だったし、丁度良かったのよ」

 

「部屋の収納はどうした?」

 

「あるけど、こんなに入らないわよ。だからここに置いてたの」

 

「そんなに収納少ないのか?」

 

「ええ」

 

「確かに収納面は少し手狭ですねー…」

 

 二人とも頷いた。

 今まで誰にも言われなかったし、相手が女性だから部屋に入る事も滅多に無かっったから気付かなかったが、艦娘の部屋はどうやら収納が少ないらしい。

 

「そうなんだな…。分かった、その事はどうにかしよう。とりあえず今はこの部屋を使いたいから、他に荷物を置いてるやつにも言って片付けて貰ってくれ」

 

「分かったわ」

 

 そう言うと、足柄は自分の荷物を持って部屋を出ていった。

 その後も吹雪と共に掃除をしたり吹雪の私物を纏めている間に、巡洋艦娘をはじめ何人かが荷物を取りに、駆逐艦娘たちが片付けの手伝いに来てくれ、三時間程度で片付けは終わった。

 

「ほんとにきれいになりましたねぇ」

 

「あぁ、この鎮守府に初めて来た時ぐらいピカピカになったな」

 

 室内は雑多に置かれていた荷物がすべて取り除かれ、中央に会議机と椅子がきれいに並べられた。

 これで会議は問題なく行えるだろう。

 

 

「今日はすごく疲れたな…」

 

 窓の外はすでに真っ暗。夕食の時間は終わってしまったようで、廊下には食堂で食器を洗ってる音が聞こえるだった。

 

「朝からずっと動きっぱなしですからね」

 

「そうだったな」

 

 よく考えれば、午前中は吹雪二人で出掛けて途中から防衛のために空に上がり、夕方からは会議室の片付け…。ここ最近では一番ハードな一日だっただろう。

 気付けば、吹雪とは今まで通りに話をしていた。一緒に片付けをしていたということもあるんだろうが、ここまで関係を戻せたことが一番うれしかった。

 

「今日はその、いろいろありがとうな」

 

「えぇ?!」

 

 柄にもなく素直な感謝の言葉がこぼれたことで、吹雪が驚いた顔でこっちを見た。しかし、すぐに居ずまいを正すと、

 

「い、いえ!こちらこそ、よく話もせずに色々と…えっと、そのぉ…ごめんなさい!」

 

 吹雪も謝ってきた。悪いのはこちらなのだが、吹雪も思うところがあったのだろう。

 

「私も意気地を張りすぎました。鶴さんが考えてたことも聞かずに、一人で思い込んじゃって…」

 

「気にするな、こっちが悪いんだから」

 

「で、でも…」

 

 不安げな吹雪。

 その表情は愛らしく、自分の顔が熱くなるのが分かった。

 

「やっぱり私が…あっ」

 

 その顔を見ていられる自信が無くて、俺は吹雪の頭をなでていた。

 

「と、とりあえず飯食べに行くか。鳳翔に頼んで軽い夕飯でも用意してもらおう」

 

「んっあちょっと!」

 

 吹雪が追いかけてくる前に、さっさと部屋を出ていく。

 どう頑張っても火照った顔は隠せなかった。




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第四十三話「飛行団飛来」

 対話の会が開かれる日は思っていたよりすぐにやってきた。当日は鎮守府の主要部を受け持っている艦娘たちを中心に慌ただしく物事が動いていた。

 大淀は相手方とこちらとの中継役として、通信設備のある艦隊司令部と俺がいる執務室を行き来し、明石は俺の代わりに向こうの飛行隊の先導のために用意した菅野飛行隊の整備と飛行時の誘導をするため、飛行場の管制施設に缶詰めになっていた。

 他は周辺海域の安全確保のために護衛艦娘を中心に先の防空戦で被害の出ていない艦は外洋へ出ていた。

 

「やっていることは通常より多いのに比べて、結構静かですね」

 

「ほとんどが外洋にいるかドック修理の手伝いに行ったからな。この辺りが静かなだけで、島の南側海域は割と騒がしいかもしれない。にしても、久方ぶりに静かなところで物事の進行を見ている気がする」

 

 今まで現場に出て回っていた俺としては、こんな執務室に居るんじゃなくてそれこそ、菅野隊に混ざって一緒に相手方を迎えに行きたいところだが、それをしようとしたところで、吹雪と大淀に止められるだけなのでここに居て吹雪と時間を潰すしかない。

 

「外洋に出てった艦隊の皆さんは今日は帰ってこないんですよね?」

 

「あぁ、陸の近くじゃ何されるか分からんからな。指令室と連絡が取れるぐらいの距離で適宜補給を受けつつ外洋待機だ。横鎮の連中がさっさと帰ってくれるようなら今日のうちに帰すことも考えられるけどな」

 

「鶴さんのことですから逆に堂々と見せびらかして戦力の誇示でもするのかと思いましたよ」

 

「やりたいとこだが、今回は他のカモフラもやらなきゃいけないからな。それはそのうちもっと盛大にやりたいところだ」

 

「他のカモフラ…?奪還対策の他に何かありましたっけ?」

 

「ほら、『あきづき』に付いて行かせたのは?」

 

「確か『土佐』さんと最近改修を加えた駆逐艦が数隻でしたっけ」

 

「そうそう、そして『きりしま』にも改修を加えた駆逐艦を連れて行った」

 

 ドックの修理を依頼してから数日、突然の思い付きをすぐに明石にお願いしに行ったのだが、いやな顔一つせずに了承してくれた。仕事が増えたために、ドック修理の終了は遅れると言われたが、妖精を別の仕事に割くのだから仕方ない。

 

「そうでしたね。でもなんで…あぁ!」

 

 はじめは悩んでいたようだが、途中で合点がいったのか手をたたく。

 

「相手がどんな人間か分からない以上、問題になりかねないネタは伏せておくに越したことはないからな」

 

 カップを傾けると中身がなくなっていることに気付き、吹雪にお代わりを頼もうとしたら、彼女が口をぽかんと開けてこちらを見ているのが目に留まった。

 

「どうした?そんなツラして」

 

「いえ!鶴さんが珍しく考えて指示をしていたんで驚いただけです」

 

「いつも考えてないで指示してると思ってたの?!」

 

「言い方が変でしたね?上とか下とか、あまり考えない指示ばっかりしてるのかと思いました」

 

「間違ってはいないが…面と向かって言われるとやはりグサッとくるな」

 

 

 

 大淀から横鎮の飛行隊が到着するという報を受けたのは30分程経った後だった。

 本来なら会議室で待っているか、飛行場まで迎えに行った方がいいのだろうが、飛行隊を見るために空母寮の屋上へ向こうことにした。

 吹雪は支度をすると言って、庁舎へ残ったため一人で寮まで来たが、屋上には先客2名居た。

 彼女たちは特に話をすることもなく並んで寝ころんでいたが、一人が俺の存在に気付き起き上がると傍らの蒼髪の少女を起こした。

 

「やほー。どしたのここまで来て、珍しい」

 

 蒼髪の少女を起こしながらサイドテールの少女はこちらに問うた。

 

「そろそろ横鎮の飛行隊が来るから護衛機になに従えて来てるのかと思ってな」

 

「ほぉー、ねぇ蒼龍蒼龍!私たちも見よ?」

 

 蒼龍と呼ばれた蒼髪の子は寝起きなのか、目を擦りながらいいよ~と同意をした。

 

「寝てたの~?そんなに最近疲れることあったっけ?」

 

「長期の艦載機を使わない機会が出来たから、一機ずつ立ち会って整備してたの。朝から晩まで作業着で工廠に籠ってたらクタクタになっちゃって…。そういう飛龍こそ艦載機の整備とかしなくてもいいの?」

 

 どこからか現れた妖精を手にのせながら、飛龍と呼ばれた少女は大丈夫大丈夫と空いた方の手を胸の前で振って見せた。

 

「日々入念に点検してるからそうそう故障とか出ないよ!そもそも搭乗員も整備員もみんな休ませちゃったしねぇ」

 

 どうぞ、飛龍は自分の隣の床をトンと叩いた。立ってみるつもりだったが、促されれば仕方ない。言葉に甘えて隣に座ることにした。

 

「そういえば、少人数で提督とこうして一緒になるのも久しぶりだね」

 

「本土防衛戦前に空母で集まった時以来じゃない?」

 

 蒼龍が飛龍とは反対側の隣に座りながら、懐かしい作戦名を出した。然程日時は経っていないのに懐かしいと感じるのはその間が今まで以上に濃密だったからだろうか。

 そういえば、まともに彼女らと話したのはそれ以来か。

 

「何なら、こうして会話を交わすのは着任すぐに空母の数が少なった頃以来じゃないか?」

 

「私はそのあとも時々埠頭で話すことあったけどね~」

 

「そりゃ、蒼龍は暇あれば整備ばっかりしてるからね。私より話す機会多いでしょ」

 

「そういや、会えばいつも(ふね)のそばでなんかしてたな」

 

「整備が好きなだけですよ。私自身がそうだからか、弄ってると落ち着くんです」

 

 蒼龍は照れ臭そうに頬をかきながら答えた。

 

「飛龍は?蒼龍と違ってあんまり姿を見なかったけど、何やってたんだ?」

 

「私?私はーご飯食べたり、本読んだり…休む時にしっかり休んで仕事に備えてたよっ!」

 

「ダウト!さてはご飯時だけ食堂に出かけてそれ以外は、ずっと本は本でもマンガを読みふけってたでしょ」

 

 蒼龍に図星を付かれたのか、少し息を詰まらせたが、

 

「何だ悪いかっ!出撃にはちゃんと出てるし、しっかり休んでいるという点では間違ってないでしょ!」

 

 すぐに開き直ってけろっとした。

 

「そんなグータラしてるからこんなお腹になっちゃんだよー」

 

 蒼龍は手を飛龍のお腹に伸ばした。ムニと肉が摘ままれ、飛龍は頬を赤らめて止めてと抵抗した。

 

「抵抗するくらいなら、少しぐらい運動すればいいのに」

 

「運動は艦橋に出入りする時にいっつもしてるよ、ここ最近の出撃は泊りがけも多くて寝室まで移動するのも一苦労だったんだから」

 

「それでもこれだけお肉が余ってるってことは、もっと運動しないといけないってことだよ。今度一緒に走ろ?ね?」

 

「やーだー、めんどくさいぃ~」

 

「ほら、本音が出た!もー、嘘つきにはこうだ!」

 

「お、おい!」

 

 本格的にじゃれ始めたので、止めに入る。

 

「じゃれるのは構わないが、人を挟んでやるのは止めてくれないか?」

 

「え?じゃあ提督も混ざる?」

 

「そういう事じゃない!」

 

「本当はこうやってゆっくりお話しできるの久しぶりだから、提督とゆっくりお話をするためにこっち来たんだけど、飛龍が変なこと言うからつい…ね?」

 

「それ私のせいなの?!もとをたどれば提督が私に何をやってたか聞いたんだから、変なこと言ったのは提督でしょ?」

 

「そこ!原因をこっちに振らない!」

 

「それもそうだね…。じゃあ、提督に」

 

「え?あ、ちょ止めて!くすぐり苦手だから!」

 

「私も私も~提督くすぐっちゃお!」

 

「飛龍もヤメロ!」

 

 両側からのくすぐりに身をよじっていると、白いお腹が上空を抜けていくのが見えた。紫電改と零戦五二で構成された編隊が飛行場へ向けて高度を徐々に落としている。

 

「あ、ほら先導が来たぞ、そろそろだ」

 

 二航戦の二人と先導である菅野隊が飛んできた方向を見ると、デカい黒点を中心に小さな点がいくつも飛んできた。

 先頭に立つのは両翼かに機体と同じ蒼色の増槽を二個備え、他を大小様々なミサイルで固めたエアロインテークが特徴の機体。2機組みで先頭を抜けていく。次に飛んできたのは、恐らく横須賀の提督が乗っているであろう輸送機、珍しい胴体上部から延びる主翼は先端に向かうにつれて下方に傾き、翼下に2基のエンジンを備える。ずんぐりむっくりな印象の機体だ。そしてその両脇を固めるのはライトグレーを纏う機体。さっき先陣を切ってきた機体より大柄で確かな存在感を放つ。胴体下部に増槽を備え、両翼下にはミサイルが満載されていた。

 

「まあ、道中を考えればそうだろうが、それにしても重武装だな」

 

「資料は見たり読んだりしたことあるけど、実際に見るとやっぱでかいんだねぇ」

 

「今の戦闘機は零戦みたいな戦闘だけ特化みたいなやつじゃないからな、爆撃だってこなす。爆戦のその先のようなもんだと思えばいいかもしれん」

 

 飛龍も蒼龍も感心して声を出していたようだが、聞こえたのはそれだけで他はジェットの轟音にかき消されてしまった。

 輸送機たちの後、最後に飛んできたのはまた戦闘機だったが、数が少し多かった。まず先頭でやってきたのと同機種が1機、そのあとにはまた別の機種が2機飛んでくる。胴体下方からのびる主翼は茶目っ気を感じるが、形状から見れるスマートさは、他の戦闘機より印象が強く、汚れ具合から見ても歴戦の猛者の風格を感じられる。

 

「こんな異種ばっか持ち寄って航空祭でもやるのかな」

 

「そんなわけないだろ。こんなとこでやるなら横須賀でやった方がまだ人が来るだろう。きっと向こうに何かしらの意図があるんだろうな」

 

 2番手以降の戦闘機は輸送機の後に降りるためか、上空で何回か旋回を繰り返し並び直している。

 地上では輸送機回りで作業が始まっているようなので、そろそろ会議室に戻ることにする。

 

「よし、俺はそろそろ戻るわ」

 

「えーあんまりお話できなかったなぁ」

 

「今度ゆっくり話そう。鳳翔の居酒屋で食べながらでもな」

 

「もちろん3人だよね?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

「やったー。約束だかんね!」

 

「あぁ」

 

 手を振る二人に軽く手を振り返して屋上を後にした。




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 20/02/12 誤字修正しましたご報告してくださった方ありがとうございます。


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第四十四話「忘れていたこと」

 屋上からの階段を降りると、大淀が丁度こちらに上がってきていた。

 目が合うと、やっと見つけたとその場に直って口を開いた。

 

「横須賀鎮守府の一行が到着されました。もう会議室の方へ通しており、吹雪さんがお茶を出しています」

 

「了解、今行くよ」

 

 

 会議室に入ると、白い軍服を着こなした男が艦娘を脇に従えて座っていた。

 お茶を飲んで一息付くとこちらに一瞥くれた。

 

「すいません。お待たせいたしました」

 

「いいや、私も今来たばかりだから気にしなくていい」

 

 首を横に振ると、客人でありながら男は自分を向かいの席に促した。

 

「失礼します」

 

 言われるままに正面に座った。

 

「久しぶり、というべきかな?宮島大尉」

 

「泊中将殿、自分はもう中佐です。その階級はもう4年も前の話ですよ」

 

「そうか。もう4年も経ってしまったか…。宮島、ちなみに俺も中将ではなく大将なんだぞ?上官の階級を間違えるでない」

 

「申し訳ありません」

 

 ずっと側で立っている吹雪が気になって顔をうかがうと、ぽっかり口を開けて唖然としていた。

 どうした?と声を掛けると我に返ったのか。いきなり泊大将に向かって頭を下げた。

 

「泊大将殿申し訳ありません。宮島中佐が階級を間違えるなど…」

 

 本当に間違えて咎められているのだと勘違いしてしまったようだ。俺が口を開こうとすると先に泊大将が吹雪に話しかけた。

 

「はっはっ冗談だよ冗談。俺も宮島も分かってて言っているんだよ。なあ宮島?」

 

「はい。流石にお世話になった上官の階級を忘れるなんてことないから安心しろ吹雪」

 

「はっはぁ…」

 

 なんともピンと来てないようで頭にハテナが浮かんで見える。

 

「本題の前に少し彼女に私と泊大将との関係を紹介してもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

 吹雪を隣の席に促して、俺は正面の上官の紹介をすることにした。

 

「改めて。横須賀鎮守府提督の泊大将殿だ。提督をする前は特設空母『伊勢』の艦長だった」

 

「特設空母『伊勢』ってあの相模湾沖戦で大戦果を挙げたと言われる…」

 

「あれ?吹雪知ってるのか?」

 

 相模湾沖戦や『伊勢』の話はした覚えがない。

 

「確か、あの作戦には艦娘が投入されていたようだな。『伊勢』の護衛としては配属されてなかったはずだが」

 

「はい、私もその作戦に参加していました。『伊勢』の行動も実際に目にしたのと見聞きしたのである程度は把握しているつもりです」

 

 その時の艦長が泊大将だとは思いませんでした。と吹雪は驚きを隠せないようだった。

 俺も吹雪があの作戦に出ていたと聞いて驚いた。

 

「じゃあ話が早い。あの作戦行動に移る大元の進言をしたのは、そこの大尉なのだよ」

 

「宮島さんが大元ですか⁈」

 

「我ながら出しゃばり過ぎる行動だと今でも反省しているので、その話は触れないでいただきたいのですが…」

 

「なぁに、この前も大本営の方で出しゃばってきたばかりなのだろう?今さら気にすることではない」

 

「ですが…」

 

 言い訳をしようとするもガハハという大将の笑い声に遮られた。

 

「私は君のその出しゃばりも含めて評価しているのだ。だからこうして戦線のここ(青ヶ鳥)まで足を伸ばして会いにきている」

 

 そうですがと曖昧な返事をする。

 年功序列な軍という世界でそれはどうなのかと思わなくもないが、自分もそれに準じてる気はしないので人のことは言えない。

 

「そろそろ話に入った方がいいかな。一応急ぎでの案件なのだよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 居住まいを正して泊大将に向き直す。

 おほんとせき払いをしてから、泊大将は話始めた。

 

「青ヶ鳥鎮守府の艦隊が戻ってきた時に、大本営からすぐ横須賀鎮守府へ連絡がきた。内容は、青ヶ鳥鎮守府の大本営海軍への再編入を打診してきて欲しいというものだ。宮島たちがいない間の太平洋方面の戦況悪化が想像以上に堪えたのだろう。ある程度自分らの扱える範囲にいて欲しいらしい」

 

「察してはいましたがやはりですか…。もし、再編を拒否した場合はそうするつもりでしょうか?」

 

「私としては、強制してまで再編してくれとは言わないから、結果をそのまま上に言うだけだ」

 

 まあ、と泊大将はそこから一間置いて。

 

「お前の生死とここの娘たちがどうなるかは想像に難くないが」

 

「はい?!」

 

 吹雪が思わず声を放った。俺の生死と艦娘がどうなるか。ちょっと前なら俺は生死はともかく指揮官としての立場を失くすだろうし、艦娘は解体だったろう。

 

「そうでしょうねぇ。少なくとも艦娘は横鎮編入で戦力強化して戦線維持といったところでしょうか」

 

「その時提督はいないのでしょう?それは許せません!」

 

「結局再編入したところで変わらない気もしますけど」

 

「まあ、うまい具合にお前は邪魔な存在だろうしな」

 

「そんなっ…」

 

 上層部、大本営にとっては俺は目の下のたんこぶ、異物だ。気に食わないが『戦争の道具』である艦娘を一番保有し、最大限に活用して運用してしまっている。

 

「…その程度の認識だと思いますが…。」

 

「俺もそう思う。指揮取りなんて誰にでもできると思っているやつだっているだろうな」

 

「上は士官コース上がりが多いですからね。流石というか何というか」

 

「…ねぇ鶴さんやっぱり編入を受けるのは止めましょう?対立姿勢にいた方が、私たちも一緒に戦えますし」

 

「はっはっ。君のところの吹雪は怖いなぁ!君想いのいい子だが、一度君に牙をむこうものなら私が殺されそうだ」

 

 それを聞いた吹雪は一気に顔を赤くして我に返り、すみません…と自分の席に縮こまってしまった。

 その様子を見て泊大将はまた笑う。

 

「なぁに、別に謝ることはない。私も宮島の身だけを案じるなら、横須賀の航空隊に幽閉しときたいところだよ」

 

「幽閉って…それはそれで楽しそうですが」

 

「乗り気になるんじゃあない。それに再編を拒むつもりもないのだろう?」

 

「はい。資源の枯渇が一番怖いですから…。自力確保もできなくはないですが、本分である日本防衛に全力が出せませんしね」

 

「じゃあ目先の案件はこれで終わりだ。私がここに来る()()も終わり」

 

 泊大将がお茶をもらえるかなと言うと、吹雪は湯飲みを受け取り給湯室へ消えていった。

 吹雪がいなくなったのを確認して、口を開く。

 

「…では、本題の方を聞きましょうか」

 

「ああ、よかろう」

 

―――――――

 

 吹雪はやかんを火にかけながら考えに耽った。

 事前の話し合いの通りに青ヶ鳥は大本営傘下に戻る。資源のシビアな状況が後々に来るであろうことは、秘書艦である彼女にもわかっていた。その面ではこの話で今後の心配事が一つ消えたといってもいい。

 しかし、傘下に戻るということはある程度行動を大本営によって制限されるという事。つまりは、危険な作戦を指示される可能性だってあるし、その結果またあの時代(とき)のような状況になる可能性だってある。

 私達を守るために鶴さんがいなくなることは嫌だ。それだけは、絶対に。

 

 お茶を淹れて会議室に戻った。泊大将と鶴さんは話し込んでいてこちらに関心を示すことはなかった。

 それぞれの側にお茶を差し入れると、ありがとうと一言いい話に戻ってしまう。

 

「もう少し時間が欲しいみたいだ。吹雪さん、私と散歩に付き合ってくれないか」

 

 終始蚊帳の外であり、暇を持て余していたのか、泊大将が連れてきていた艦娘。戦艦武蔵は、吹雪にそう声を掛けた。

 

 

 

 

 

「ここは向こう(横須賀)より海までが近いな」

 

 桟橋までやってくると、武蔵はそう口を開いた。

 

「横須賀は東京湾の中にありますからね。青ヶ鳥も湾内にありはしますが」

 

「横須賀はそのおかげで攻められずらいからな。いい基地だと思うよ」

 

 桟橋から眺める青湾は静かに波打っていた。近海に敵潜水艦が潜伏している可能性もあるため、民間船の往来は無いに等しく。水平線まで海が広がっていた。

 武蔵は桟橋に胡坐を掻いて座った。吹雪にも座るように促し、彼女もそれに従う。

 しばらくして武蔵が問いかけた。

 

「吹雪さんは提督が好きか?」

 

「え⁈あ、はぃ…」

 

「好き所か夢中みたいだな」

 

 そう言って武蔵は笑った。吹雪は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまっている。

 

「私はまだそういう相手に会ったことが無いから、そういう好きは分からないが、けど、大事な奴…いいや奴らがいるんだ」

 

「誰ですか?」

 

「横須賀の仲間たちだ」

 

 仲間たちの顔を思い浮かべるように武蔵は、空を見上げた。

 

「留守が多い私でも慕ってくれたりしてな、ともに厳しい戦いをくぐり抜け、勝利を分かち、助け合い。日本を守る大切な仲間だ。って、これだと横鎮だけみたいだな。もちろん、他の鎮守府の仲間も大事だ。私たちの本命は日本を守る事だからな」

 

 ああ、そうか。

 

 鶴さんもそうだが、私たちはともにあの戦いを戦った仲間(戦友)だった。

 

「…武蔵さん」

 

「ん?どうした?」

 

 吹雪は立ち上がると深くお辞儀をした。

 

「ありがとうございます。忘れていたことを思い出せたような気がします!」

 

「ふ、そうか」

 

 武蔵も立ち上がると、左手を差し出した。

 

「何かしたか分からないが、これからもよろしく」

 

「ふふ…。はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 互いに手を交わした。視線が合うと、気持ちが一致しているのを感じる。

 

「そうだ、間宮さんのところへ行きませんか?日替わりで色々な定食があるんですよ」

 

「青ヶ鳥の食堂料理か…。いただくとしよう」

 

「是非!私たちの仲間も紹介しますね!」

 

――――――

 

 泊大将との話し合いの後、執務室に吹雪、赤城、長門、大淀、明石を集めた。

 横須賀の提督との話の後なのか、それぞれ緊張の面持ちで構えている。

 

「いきなりだが、集まってくれてありがとう。まず、話し合いの結果、正式に大本営傘下へ戻ることが決まった。これで、資材等の供給レーンを確保できるようになった」

 

 明石や大淀は明らかに胸をなでおろしたようだ。少し緊張がほぐれたように見える。

 

「それで、私や長門さんが呼ばれたのは別の報告があるからでしょうか?」

 

「鋭いな赤城、その通りだ。硫黄島奪還作戦を再開する」

 

 ほぐれた空気が再び張り詰める。一度は休止に入った作戦が、再び動こうとしている。

 

「そして、新たな海域奪還作戦も硫黄島奪還後に開始予定だ」

 

「ほう、いきなり飛ばしていくな」

 

 長門が感心したように声を上げた。

 

「しばらくは硫黄島奪還に注力することになるがな。この硫黄島を奪還することが、後の作戦を行う上で重要になってくる、みんなよろしく頼む」

 

『了解!』

 

 気合の入った応答。戦闘に備える凛とした目が、俺をさした。




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執務室の本棚(設定集)
人物ファイル-A6M2b-30


 自分での確認を兼ねた、第三十話時点での登場人物紹介です。


 宮島(みやじま)清鶴(きよかく)

 23歳 階級中佐

 青ヶ鳥鎮守府提督

 

 23という若さながら、総人数100名を超える鎮守府の長を務めている

 艦娘のみが纏えるといわれる艤装を身に着けることが出来、洋上航海・船舶操作が可能

 ちなみに、艦種は天城型戦艦の改装型である幻の空母「天城」

 軍艦をこよなく愛し、中でも駆逐艦が好きで艦型では吹雪型が大の好みである。

 前世というよりその身そのままで太平洋戦争を体感しており、自身はエンガノ岬沖海戦で戦没判定をされているも、転移という形でこの世界に生存している。

 吹雪への好意はその戦時当時まで遡るが、処々の協力により付き合うまでに至った。

 

 ――――――――――

 吹雪(改二)

 

 提督の初期艦で秘書艦

 元気でまじめな性格だが、それ故に対応できずアタフタする面もある

 しかし、青ヶ鳥鎮守府中の駆逐艦のトップであり、重要作戦参加時には必ずと言っていいほど主力艦隊にいる

 チンピラに襲われた一件以来、提督への恋心を募らせていたが、提督からのアタックにより晴れてお付き合いをする事になった

 提督への恋で何かが切れたのか大胆になる面もある

 

 ――――――――――

 夕立(改)

 

 好戦的な性格であるが、基本は人懐っこく「ぽい」が口癖

 模型演習をよくやり、提督も巻き込まれながらも付き合っている

 改二改装が可能までの錬度も近く、近く吹雪の代行戦力的な位置付けに期待がされる

 

 ――――――――――

 金剛(改二)

 

 英国生まれの帰国子女、と本人は言っているがバリバリ青ヶ鳥工廠生まれである

 世の提督からは提督Love勢の筆頭というイメージが強いが、ここの金剛は提督Loveと言うより提督Likeである

 提督と吹雪のもじもじした関係を吹雪側からサポートしている

 

 ――――――――――

 鳳翔(改)

 

 青ヶ鳥鎮守府の最初の航空母艦

 鎮守府の母親的存在

 温厚な性格でその性格がお母さん感に滑車をかけている。

 最初こそ一人もしくは赤城や龍驤と共に最前線で戦っていたものの、今は前線から退き食事処を営むなど後方から艦娘や提督のサポートを行う

 しかし、艤装を破棄したわけではなく、一度戦闘に向かえば少ない艦載機ながらも赤城たちに負けない立ち回りをする

 

 ――――――――――

 赤城(改)

 

 加賀と鎮守府空母のツートップ

 世の提督からは、金剛のように「大食い」というイメージで見られがちだが、そんな事は無く食事は人より少し多く食べる程度

 ただし、グルメ通なのは変わりなく、それに対する行動力は凄まじい

 戦闘時は真剣そのもの「慢心」の「ま」の字も見せない

 鎮守府では提督を気遣ったりと人に優しく、信頼・憧れの目は厚い

 

 ――――――――――

 加賀(改)

 

 赤城と鎮守府空母のツートップ。

 食事・先頭面では赤城とさほど変わりない

 物静かで無表情、クール・オブ・ビューティーの筆頭に見えるが、本当はその逆である......と赤城は影でヒソヒソ話している

 赤城の影話は瑞鶴との様子で垣間見れたりするという

 

 ――――――――――

 瑞鶴(改)

 

 鎮守府空母のトップスリーを翔鶴と共に君臨している

 加賀とは、向こうからの触発が主での喧嘩ごとが起きる事があり、戦闘機を出して来てまでになる事もある

 提督への爆撃回数は二回

 

 ――――――――――

 明石(改)

 

 青ヶ鳥鎮守府工廠の責任者であり、道具屋(青ヶ鳥支店)の店主

 趣味は模型製作で、明石の私室には軍艦模型がずらりと並び、工廠の空スペースまでに及んでいる

 

 ――――――――――

 あきづき

 

 提督があきづきの模型を組み立てたことにより、不思議パワーにより艦娘化した護衛艦

 大本営で提督の窮地に登場するも、提督と大本営の間の溝を作るきっかけになる

 吹雪や他の艦娘、先輩の現用艦艇をさん付けで呼んでいるが、他の艦娘達も駆逐艦秋月との区別のため一旦「あきづきさん」と呼んでいる為にわけわからん状態に

 

 ――――――――――

 菅野(かんの)(なおし)

 

 空母「天城」航空隊所属の一番機妖精

 妖精の癖して、一丁前に名前がある

 提督の一番の話し相手であるのは同じ艦載気乗りである故か、馬が合うらしい

 愛機は、紫電改(母艦装備)であり、紫電改二ではない

 渾名は、菅野デストロイヤー




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世界観ファイル-A6M5-

艦娘

自分自身の艦船を操ることができ、艤装を身に纏うことができる。

自分がただの艦船だった時の記憶は残っている。

重巡以上の艦娘はお酒が飲める。

 

妖精

ほとんどの妖精は平仮名でしゃべる。

艦内では艦載機の操縦士や監視員の役割を行う。

おしゃべりであり、甘いものに目が無い。

種類としては、工廠の妖精、船渠の妖精、食堂の妖精、艦載機の妖精、艦砲の妖精、監視員の妖精、操縦の妖精、その他にも様々な仕事をしている妖精がいる。

 

艦船

艦娘が艦長として乗り込み、深海棲艦と戦う。

 

装備

艦砲や艦載機などの武器。

 

カード

艦娘の『艦』や『装備』をIDで管理するカード。『艦』カードには今、その艦が何を装備しているかも記録される。

 

模型演習

自身が艤装を纏うことによって1/700スケールの自身の艦船模型を出し合い演習をする。

自身と模型がリンクすることで魚雷発射管や艦砲、艦船の操作を行う。

艦載機は艦載機妖精が操作している。

ペイント弾でダメージ判定をする。

制限時間は自分らで設定可能。

 

大本営

海軍、陸軍、空軍を統帥している。

基本世間には、盛って作戦の結果を報告する

 

海軍

各鎮守府を統帥している。

無茶な作戦を計画することが多く、提督は海軍を良くは思っていない。

 

鎮守府

青ヶ島と鳥島の間にある青ヶ鳥島にある。

建物としては、庁舎・艦娘寮・グラウンド・工廠・船渠・桟橋・大浴場・模型演習場がある。

詳しく 

・庁舎                                 

 執務室や提督の私室、大淀のいる艦隊司令部、来客者の宿泊室、間宮の部屋がある。

・執務室

 提督が執務をしている。大体ここに提督が居る。応接スペースあり

・私室

 20畳ほどの部屋にベットやテレビ、風呂がある。

・艦隊司令部

 大淀が連絡を解読したりしていて基本、大淀のみが居る。     

・艦娘寮

 各艦種ごとに寮がある(間宮などの特殊艦は本棟の三階にある部屋に入るが、重雷装巡洋艦と練巡は軽巡へ航空巡洋艦は重巡へ軽空母は空母へ潜水艦は重巡へ)。

 各寮の部屋数は基本全て四人部屋で一棟につき十八部屋あり、全ての寮は渡り廊下で繋がっている。

 一艦種につき、一棟だが駆逐艦は数が多いため二棟ある。

・本棟(3階建て)

一階:入り口右側に挌技場があり、本棟入り口正面に食堂がある。

    左側は鳳翔が夜に食事処を営んでいる。

二階:資料室と会議室、明石の道具屋、物置部屋がある。

   資料室

    指南書や図鑑が置いてある。

   道具屋

    カップラーメンや模型、文具など色々ある。

三階:間宮などの特殊艦の部屋がある。

・グラウンド

 サッカーコート一面分の広さがある。

・工廠

 建造、開発、破棄を行う。

 責任者は明石。

 建造レーンは二本。

・船渠

 艦船の修復を行う。

 修理のレーンは2つ        

・桟橋

 出撃時や帰投時に艦が泊まる。

・大浴場

 艦娘が疲れを取る為の風呂。

・模型演習場

 模型演習が行えるところ。

 



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