山月クッ記ー (ケンタウロス)
しおりを挟む

山月クッ記ー

この前青いあいつがTVのCMに出てるのを見て、ふと思いついて書いた。
反省も後悔もしている。
中島敦先生ごめんなさい。
まずはこちらを見てからのほうがネタがわかりやすいかと↓
https://www.youtube.com/watch?v=StOaEW-BBCc



 昔、中国の隴西というところに李徴という男がいた。

 李徴はとても賢い才に溢れた男で、まだ年若いうちに公務員の難関試験に合格するほどであった。

 そして江南で警備の職に就いたがこの仕事は所謂エリートとはかけ離れた仕事であった。

 自分に絶対の自信を持っていたある種傲慢と言える李徴はこれを良しとせず、数えるほどの年月も過ぎないうちに仕事を辞め、虢略というところに向かい人との交流を絶って、ひたすら詩を作った。

 俗悪な上司の下で何年も働くより、詩家として自身の名前を死後百年にまで残そうと思ったのであった。

 しかし、李徴の詩は全く評価されず、蓄えを徒に消費し続ける日々が続いていた。

 生活はどんどん苦しくなり李徴は焦燥に駆られてきた、昔は肉付きのよい美少年だった李徴の顔はやせ、眼光だけが炯々としていた。

 数年後、とうとう貧窮に耐えられず妻子の衣食のために東の方の地方官吏の仕事に就くことになった、昔の同輩は李徴より遙か高位の仕事に就いており、かつて歯牙にもかけていなかった連中に仕えなければならない事は李徴の自尊心を深く傷つけた。

 一年後、公用で旅に出て、如水のほとりに泊まったときついに発狂し、訳のわからないことを叫びながら闇へと消えた

 その後彼の行く末を知るものは誰もいない…

 

 

 さて、話は変わり陳群というところの観察御史で袁傪という人がいた、彼は李徴の親友だった、おそらく袁傪のふざけた温和な性格がプライドの高い李徴の性格と反発しなかったためだろう。

 彼は上からの命令で嶺南というところへ向かっており、今日は商於というところに泊まっていた。

 次の朝まだ暗いうちに出発しようとしたところ、この先の道には人を襲う青い獣が出るため昼間でなければ通れないという。

 しかし袁傪は

 

「フヒヒ多勢に無勢、この人数であれば獣など怖くないでござるwwwww」

 

 などとほざき、出発した。

 残月の光を頼りにおやつのクッキーを貪りながら林中の草地を通って行った時、突如一つの青い陰が草むらの中から躍り出た。

 

「ファッ?」

 

 クッキーを片手に突然の襲撃に意識が向かっていない袁傪、格好の獲物であった。

 青い獣は、あわや袁傪に躍りかかるかと見えたが、忽ち身を飜ひるがえして、元の草むらに隠れた。そして草むらの中から野太い声が聞こえてきた。

 

「クッキー…クッキー…」

 

 その声に袁傪は聞き覚えがあった。驚懼の中にも、彼はとっさに思い当たり叫んだ。

 

「そっその声は、我が友、李徴氏ではないか?」

 

 草むらからはしばらく返答がなかった、忍び泣きと思われる「クッキー」という声が時々洩れるばかりである。ややあって、野太い声が答えた

 

「クッキー(いかにも、自分は隴西の李徴である)」

 

「おお…久しいですな李徴氏、どうしたのでござるか?李徴氏はそんな草むらに隠れるようなシャイボーイではなかったと存じますぞwww」

 

 襲撃者の正体が親友、李徴であることがわかり、袁傪の心から恐怖は消えていた。そんな変わらない袁傪に対し、李徴は震える声で答える。

 

「クッキー…(自分はもはや異類の身となっている、おめおめと人前に姿を現すことは出来ない、しかし友に遇うことを得て、愧赧の念をも忘れる程に懐かしい。どうかほんの暫くでいい、かつて李徴であったこの自分と話を交わしてくれないだろうか)」

 

「フォカヌポウ、何を言う李徴氏、我らの仲であろう、例え李徴氏がどんな姿になろうとも我らの鉄の友情は砕けはしないでござるwwwwwww」

 

 袁傪はクッキーを食べきり、部下に命じて行列の進行を停め、自分は草むらの側に立って、見えざる声と対談した。袁傪の現在の地位のこと、それに対する李徴の祝辞、好きなアニメのキャラクター、都の噂、袁傪が相変わらずモテないこと、旧友の消息、などなど…。

 青年時代に親しかった者同志の、あの隔てのない語調で、それ等が語られた後、袁傪は、李徴がどうして今の身となるに至ったかを訊ねた。草中の声は次のように語った。

 

「…クッキー、クッキーイスベリーインポータント…(今から一年程前、自分が旅に出て如水のほとりに泊った夜のこと、一睡してから、ふと眼を覚ますと、戸外から甘く香ばしい香りが流れてきている。香りにつられて外へ出て見ると、香りは闇の中から頻りに自分を招く。覚えず、自分は香りを追うて走り出した。無我夢中で駈けて行く中に、何時しか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地を攫つかんで走っていた。何か身体中に力が充ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えて行った。気が付くと、手先や肱のあたりに青い毛を生じているらしい。少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既にクッキーモンスターとなっていた)」

 

「ほうほう…ファッ!?」

 

「チョコクッキー…(自分は直ぐに死を想うた。しかし、その時、眼の前を一人のこどもがが駈け過ぎ、その懐にクッキーを見た途端に、自分の中の人間は忽ち姿を消した。再び自分の中の人間が目を覚ました時、自分の口はクッキーのカスにまみれ、あたりにはクッキーの欠片が散らばっていた。これがクッキーモンスターとしての最初の経験であった。)」

 

「えっちょ李徴氏?」

 

「ジンジャークッキー…(それ以来今までにどんな所行をし続けて来たか、それは到底語るに忍びない。ただ、一日の中に必ず数時間は、人間の心が還って来る。そういう時には、曾ての日と同じく、人語も操れれば、複雑な思考にも堪え得るし、経書の章句を誦そらんずることも出来る。その人間の心で、クッキーモンスターとしての己の卑しい行おこないのあとを見、己の運命をふりかえる時が、最も情なく、恐しく、憤しい。しかし、その、人間にかえる数時間も、日を経るに従って次第に短くなって行く。今までは、どうしてクッキーモンスターなどになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気が付いて見たら、己はどうして以前、人間だったのかと考えていた。)」

 

「あの~李徴氏?拙者全く何がどうしてそうなったのか理解できないのでござるが…というか話聞いてくんない?」

 

「チョコクッキー…(これはとても恐ろしいことだ。袁傪、己がすっかり人間でなくなってしまう前に、一つ頼んで置きたいことがある。自分は元々詩人として名を残すつもりであった、しかしこのクッキーモンスターの身となってはそれももうかなわぬ、だからせめて自身の作った詩の何編かは後世に残したいのだ)」

 

「李徴氏…これ、お願いを聞くまで梃子でも動かない気でござるな………承知したでござる」

 

 袁傪は部下に命じ、筆を執って叢中の声に随って書きとらせた。李徴の声は叢の中から朗々と響いた。長短凡そ三十篇、格調高雅、意趣卓逸、一読して作者の才の非凡を思わせるものばかりである。しかし、すべて「クッキー」としか言わないため理解できるのは袁傪のみであった。

 

「クッキー、クッキクッキー(なぜこんな姿になったのか解らぬが、一方で思い当たることがないわけでもない、自分は臆病な自尊心と、尊大な羞恥心を持っていた、この二つが己を俗物とと供にあることを潔しとせず、かといって己を磨くことも出来なかったそんな自分にはクッキーのように甘く、モンスターのような質を持つが故にクッキーモンスターになったのだ、人は誰も皆、心の中にクッキーモンスターを飼っている。)」

 

「お、おう…」

 

「ディスクッキーイスインポータント…(別れを告げねばならぬ時が来た、クッキーモンスターが戻ってくる、だがお別れする前に頼まねばならないことがある。それは我が妻子のことだ。彼等は未だ虢略にいる。固より、己の運命に就いては知る筈がない。君が南から帰ったら、己は既に死んだと彼等に告げて貰えないだろうか。決して今日のことだけは明かさないで欲しい。厚かましいお願だが、彼等の孤弱を憐れんで、今後とも道塗どうとに飢凍することのないように計らって戴けるならば、自分にとって、恩倖、これに過ぎたるはない…)」

 

「…」

 

「クッキー?(袁傪?)」

 

「…李徴氏…妻子が…いたのでござるか…無駄にプライドが高すぎる李徴氏であれば拙者と形は違えど身を同じくする物と…」

 

 袁傪は駆けだした、袁傪の姿はすぐに見えなくなった、その少し後、李徴と袁傪の部下たちは遠方の丘の上に一匹の非リア充が躍り出たのを見た。非リア充は既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。

 

 山月クッ記ー   完

 

 




何がやりたかったんだろうか…それは作者にもわからない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。