ガンバライダーロード (覇王ライダー)
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リリカルなのは〜ミッドチルダ編〜
始まりの時なの


-ここはどこだろう-

暗い闇の底、彼はここ以外の場所を知らない。無論、眠る場所も。

少年は男に蹴りを入れられ、目を覚ました。

「さっさと起きろ。訓練の時間だ。」

少年の名はロード。これも本名ではない。

本名が何か。そんなことすら知らない。彼は生まれた時からここで生活し、地下深くで死に等しい訓練を幾多も重ねてきた。

この施設は「GRZ(ガンバライジング)社」という会社が運営しているらしい。

だがどちらでもいい事実だ。彼にとっては関係ない。

彼はこれまで、そしてこれからも「兵器」でしかなく、彼にとっての自由などどこにもない。

ロードは訓練施設に向かい、ライダーシステムのテストを行った。

過去の仮面ライダーを模した「シャドーライダー」との戦闘訓練を何度も行った。無論、ロードは偽物とはいえ、仮面ライダーを何体も倒してきた。

そんな時、事件は起きた。

裏切った彼と同じライダーシステムのライダー「ガンバライダー」が暴走し、別の異空間へと逃げた。という話だ。

「で、俺にそれを頼みに来た。ってわけか」

ロードは頭をかきながら白衣の男にそう問いかけた。

「そうだ。お前は「そのため」の兵器だからな。」

そう、ロードは元々裏切り者のガンバライダーを抹殺するために作り上げられたガンバライダーで、それに耐えるための訓練を、ロードは受けてきた。

「どっちでも良いよ。俺はそのためにいるんだろ?」

白衣の男は頷き、装置へと彼を誘った。

その歩く途中、彼は問いかけた。

「で、その逃げたターゲットはどんな奴なんだ?」

「奴の名はアクート。我々が作り上げた最高傑作だ。」

「それを俺に戦わせる…と?」

白衣の男はこの話になった途端、話をそらした。

「あと、これは敵と融合して能力を剥奪する力のあるブレスだ。」

ロードはそれを渡され、困惑する。

「でもさ、敵とどうやって融合するんだよ。無理矢理でも無理があるだろう。」

男は沈黙を保った。彼は早足で歩き、その後をロードが付いて行った。

そして、機械の前に立った瞬間、また男は話し出した。

「ここから、お前は奴が逃げた世界へ移転する。」

ロードは軽く頷き、装置へと足を踏み入れた。

「よし、始めろ。」

彼の前に光が迸る。彼が目を開けた時には、砂漠地帯にいた。

広大な砂と無限に広がる青空。彼にとっては新鮮な世界だった。

「ここが……外の世界。」

彼は初めて歩き出した。この大地を。まだ知らぬ未開の道を。

-次元世界-

いくつかある世界を「時空管理局」が管轄し、管理している世界のことをそう呼んでいる。

そして高町なのはは第九十七管轄地区「地球」で魔力を手にし、現在は第一管理世界「ミッドチルダ」で時空管理局の職員として今は働いている。

「はやてちゃん。話って何?」

なのはは時空管理局の上官であり友人である「八神はやて」にそう問いかけた。

「うん。なのはちゃんを呼び出したのは他でもないんやけどね。」

はやてはモニターに映像を映し出した。

「これは・・・!?」

その映像に映っていたのは鎧を纏った戦士が管理局の職員から魔力の源である「リンカーコア」を体内から摘出している映像だった。魔法を主体とするこの世界ではこんなことがあってはならないことなのは目に見えるだろう。

「どういうこと!?」

はやては冷静に話を続ける。

「リンカーコアを取り除いてる理由は分からへんけど、どうもこれを集めてるみたいやわ。」

はやての横にいた「シグナム」は桃色の髪をなびかせて呟いた。

「守護騎士事件の再来。というわけですね。」

「シグナム!!」

はやての横にいた少女「ヴィータ」はシグナムに憤怒の目を向けた。

-守護騎士事件-それはシグナムたち「守護騎士」がリンカーコアを奪い、はやての中に眠る「闇の書」を蘇らせる。というものだった。

「ただ、どうも今回の相手は魔導師じゃないみたいやねん。」

「どういう・・・こと?」

はやては映像を拡大した。

「ここにベルトみたいなんが見えるやろ?」

なのはは小さく頷いた。

「信じ難いけど・・・、今回の事件の主犯は「仮面ライダー」という可能性が出てるねん。」

なのはは小さく固まり、はやての目を見た。

「仮面ライダーって・・・あの?」

「うん。あの仮面ライダーや。」

ヴィータはその会話を遮るようにはやてに問いかけた。

「なあ?その仮面ライダーってなんだ?」

「昔に私たちが地球にいた頃にやってた番組だよ。悪い人たちをやっつけるヒーローものかな。」

ふーん。とヴィータは後ろに下がった。

「仮面ライダー・・・、懐かしい名ね。」

そこに入ってきたのは時空管理局の上官であり、なのはたちが搭乗している戦艦「アースラ」の艦長でもある「リンディ・ハラオウン」だった。

「リンディさんご存知なんですか?」

リンディはえぇ。となのはの質問に答える。

「かつて私も肩を並べて戦ったこともありますもの。しかし今度は敵に回るとは・・・。」

残念そうに話すリンディを置いてはやては話を進める。

「今回は相手がどう仕掛けてくるかも分からへん。やからこそなのはちゃんに頼んだ。油断もしないように。」

なのはは深く頷いた。

「うん。分かってるよ。相手の事情も聞きたい。油断ももちろんしないし!」

はやてはふぅ。と一息ついた。

「では、この件はお任せします。終了次第連絡を。」

了解。となのはは一礼し任務へと向かっていった。

「大丈夫でしょうか?我が主人。」

不安そうなシグナムの髪をはやては撫でた。

「大丈夫や。なのはちゃんならやってくれるよ。きっと。」

嫌な予感がする。そう思いつつも、はやてはなのはが去っていったドアをじっと見つめるのだった。

 

地上に降りたロードは少しばかり寝転がっていた。

「風が心地いい。これが世界の風か。」

しかし、その喜びは一瞬の出来事だった。彼の前に一人の少女が降り立った。

「あんた・・・誰だ?」

ロードの問いに答えることなく少女は話を続ける。

「あなた?魔導士を襲った犯人は。」

「………え?」

「あなたなんでしょ?そのベルト。」

茶髪の少女は彼を疑うような目で見つめる。無論、ロードはその疑いを晴らそうとするように首を横に振る。

「取り敢えずこちらまで引き取り願います。」

「ちょっと待って!?俺は違うよ!俺……は……。」

「えっ!?ちょっと!?」

少女は倒れかかるロードを抱きかかえた。彼の肌に触った瞬間、これまでにはない冷たさを感じた。

「これは……!!?」

彼女は自分の所属する部隊「時空管理局」へと通信を入れた。

「こちら高町なのは。容疑者を確保。容疑者は現在、かなり体が弱っています。戻り次第、診療を要請します。」

なのはは自らのインテリジェントデバイス「レイジングハート」に指示を与え、彼女はロードと共に時空管理局へと戻って行った。



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出会いの尋問なの

とある少年の夢だった。

炎に焼かれ、消されていく街並み。そこに少年の前に立つ一人の少女。

少女は少年を庇うようにその前に立ち、何発もの銃撃と斬撃を受け倒れた。少女の血が少年へとかかる。

少女のツインテールがしなやかに落ちていく様は少年には耐えられるものではなかった。

少年は立とうとするが、恐怖からなのか戦ったからなのか立つことが出来ない。守ることすら出来ない。

彼の姿には似つかわしくない涙が流れそうになる。

銃撃と斬撃が少年へと飛びかかろうとした途端、彼は目を覚ました。

「……夢か。」

「良かった。やっと目覚めたのね。」

悪夢から覚めたロードの目の前にいたのは、白衣を着た女性だった。女性の目の前には彼を映しているのであろうデータが並べられている。しかし、ロードにとってはそれどころではない。

「ってか!あんた誰だよ!ここどこだ!?」

ロードが動こうとした瞬間に彼女の魔法陣から鎖のようなものが放たれ、ロードを縛りつけた。

「そんなはしゃがないの!まだ体調が戻ったわけじゃないんだから!」

「おかしいだろ!こんなとこにいる場合じゃねえんだ!」

鎖を外そうとするも、ロードから鎖は外れずに余計に強まっていく。

「シャマル!お前一応容疑者だぞ!?」

「ヴィータちゃん…だって。」

ロードから鎖は外され、ロードが自由の身になって走り出そうとした時だった。

「逃げんなああああ!!」

ヴィータは魔法陣でハンマーを取り出し、自分の体格より明らかに大きいハンマーでロードを殴りつけた。ロードはその衝撃でベットへと叩きつけられた。

「いってぇな!テメェも容疑者にすることじゃねえだろ!」

「テメェが逃げようとしなきゃこんなことしねえよ!立場を弁えろ!」

ヴィータとロードが言い合いをしていると、その奥から金髪の少女がヴィータを引き止めた。金髪の少女はヴィータの三つ編みを撫でながらなだめた。

「ごめんね?状況はよくわかってないかもしれないけど、取り調べだけでも受けて欲しいんだ。」

ロードは背筋が凍るような感覚がした。無理もない。その金髪のツインテールは彼が見た夢にいたものにソックリだった。あの血飛沫の感覚が蘇っていく。

「あの……大丈夫かな?」

「え?あ…あぁ。」

ロードはその感覚が続いてしまい、思わず首を縦に頷いた。

その後ろ姿を見てヴィータとシャマルはお互いを見て首を傾げた。

「なんだ?あいつ。」

「分かんないけど…、恋の予感かな?」

 

少女とロードは取調室であらかたの状況を確認していた。

「なるほどね。あなたは敵を追ってここに飛んできて、その環境に耐えられずに倒れてなのはに助けられた…。でいいかな?」

「それで良いんだが、なのはって誰だ?」

少女はハッとしてロードに説明をする。

「高町なのは二頭空佐。あなたをあの砂漠地帯から救出した人よ。」

「ああ、あの茶髪の。」

少女は頷き、話を続けた。

「で、あなたの敵ってどんな人か分かるかな?」

ロードは首を横に振った。

「俺も向こうの研究者からはほとんど何も聞かされずに飛んできたからな。」

「そっかぁ。」

少女の肩の落とし方にロードは頭を掻いた。そして

「じゃあ、手伝ってやるよ。」

少女は目を光らせロードの方を見た。

「本当に!?!?」

ロードは冷めた目で少女を見つめ頷いた。

「あんたらは世界を救うため、俺は目的を達成するため。そこに利害の一致があるんならやる価値はある。」

少女はロードの手を握った。彼は触れたことのない手の温もりに違和感を覚えた。

「ありがとう!じゃあ、上の人に連絡してみるね!」

「あぁ。サンキュー。ええっと…。」

ロードは彼女の名が分からずに戸惑いを覚えるが、それをすぐに少女は察して自分の名前を名乗った。

「私はフェイト・T・ハラオウン。よろしくね!」

「あ…あぁ。よろしく。フェイトさん。」

上から見つめていたなのはともう一人の女性は意味不明の合致に困惑していた。

「シグナムさん!どうするの!?なんか手を組んじゃってるよ!?」

シグナムは桃色の髪をなびかせ、少し笑みを浮かべて答えた。

「あの者、未熟だが鍛えれば良き戦士になりそうだな。」

なのはは呆然とした。横のシグナムはバトルマニア、そしてフェイトは純粋で容疑者と手を組んでしまっている。

「どうしよう……。レイジングハート。」

「Good idea.」

長年一緒に戦ってきたデバイスのレイジングハートスラこの答え。

なのはは小さく呟いた。

「ダメだこりゃ。」

 

ロードは部屋に戻ると、すぐにベットへと飛び込み天井を見つめた。

「ガンバライダー・・・か。」

これまであったことを頭で整理しようとした。アクートのこと、そしてあの夢、そしてここにきた経緯を。だが、頭で整理するにはまだ足りないものも沢山あった。

「あー、わっかんねえな!!」

布団にくるまるも、その答えが出ることはなかった。自分の存在すら分からないのだ。無理もない。

「ちょっと良いかな?」

「・・・はい。どうぞ。」

そこに入ってきたのはなのはだった。なのははロードの部屋にあった椅子に座り込んだ。

「まだ調査がありますか?」

少し低いトーンでそう聞くと、なのはは横に首を振った。

「君のことを知りたいんだ。これから戦っていく「仲間」として。」

「なか・・・ま?」

初めて聞く言葉だった。仲間なんて言葉がどういう意味なのか。それすらも理解できなかった。

「仲間っていうのはね、お互いに信頼しあったり一緒にいる時に頼ったりできる存在のことだよ。」

「俺の・・・仲間。」

なのはは頷いてロードの手を握った。

「もし自分のことがわからなくなっても、どんな時でも私たちが助かる。で、きっと助けられる。それが仲間だから!」

ロードは小さく頷くと、なのはは繋いだ手を離した。

「少し知ることができた気がするなぁ。じゃあね!ロード君。」

手を振るなのはに手を振り返した。

「仲間・・・か。」

初めて知る言葉だった。たった一人で戦わなきゃならない。そう思ってた。

「一緒に・・・戦ってくれるのか?」

彼は自分の持つベルト「ガンバドライバー」にそう問いかけた。



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絆の模擬戦なの

-もう一週間も経つのか-

ロードは部屋の中で少し感心に近いものを感じた。

なのはやフェイトの努力もあり、管理局のお偉いさんからロードの協力の承諾も得られたそうだ。ただし、

「ロード。訓練に遅れるぞ?」

「ああ、シグナムさん。」

どういうわけか、彼も管理局の戦闘訓練を受けることになっているらしくそのまま訓練へと参加している。勿論、呼びに来たシグナムもロードもその訓練を共に受けるフェイトも意味はわからない。

ロードが訓練所に行くとフェイトは既に準備運動を終えており、いつでも戦える。ということを示すためかロードに向けて大きく手を振った。

「んじゃあ、戦ってみるか?」

「うん。実力を測るのも兼ねて・・・ね。」

そう言うとフェイトは自らのデバイスであるバルディッシュを魔力を与え、鎌のようなものへと姿を変貌させた。

「行くよ。バルディッシュ。」

「Yes,sar.」

バルディッシュが答えるとフェイトは一呼吸つき、ロードの変身を待った。

「Ganba driver stand by.」

そうロードのベルトであるガンバドライバーの音声が鳴ると、彼は赤い光をまとって一気に姿を変えた。

そしてガンバライダーとなったロードは空間からかつて仮面ライダーオーズが使っていたとされる「メダガブリュー」を取り出した。

「さあ、準備オッケーだ。」

「じゃあ、行くよ。」

フェイトはそう言うと、魔法陣を一気に開き、ロードへと多数の光弾を放った。

ロードはそれをメダガブリューで弾きかえすも、フェイトは返された光弾を鮮やかに回避しロードへと一気に接近した。

「疾風迅雷!!」

フェイトはバルディッシュを形態をザンバーモードへと変え、その平たい斬馬剣でロードを壁際へと殴り飛ばした。

「チッ!」

ロードは舌打ちをすると、メダガブリューにセルメダルを装填し、フェイトへと照準を向けた。

「プ・ト・ティ・ラノ・ヒッサーツ!」

その音声と共にメダガブリューと銃口から強力なレーザーである「ストレインドゥーム」が放たれた。しかし、フェイトはバルディッシュで受け止め、見事にその一撃を防ぎきった。

「あんた強えんだな!」

「こんなものじゃないよ!」

「sonic form」

バルディッシュのその音声と共にフェイトの後ろに付いていたマントが外れ、高機動に徹する「ソニックフォーム」へと姿を変えた。

「おもしれぇ!」

ロードは空間から仮面ライダー鎧武の力である「火縄大橙DJ銃」を取り出し、マシンガンモードへと形を変えた。

「いくぜ!」

マシンガンモードから何発もの弾丸が飛び散りフェイトへと放つも、高速移動したフェイトに当たるはずもなく、続々と銃弾が避けられていく。

「こいつ・・・!!」

ロードの攻撃が当たらず、フェイトは一瞬にしてロードの背中へと剣を向けた。

「もらった……!!」

フェイトが後ろからバルディッシュで攻撃しようとしたその時だった。

「取った……!」

DJ銃を後ろへと向けてフェイトのバルディッシュの斬撃を見事に防いだ。

「なっ・・・!!」

「一つ俺の方が上・・・だぜ!!」

そのままバルディッシュを押し出すと、ロードはそのままフェイトの腹に重い蹴りを放った。

「くっ…!」

「貰った!」

トドメの一撃を決めるべく火縄大橙DJ銃にエネルギーをチャージしたその時だった。

「もう少し見たいところだが時間切れだ。二人ともご苦労。」

シグナムはタイムウォッチを見せながら、二人の戦闘を止めた。

「痛たた……。最後のは効いたよ。」

フェイトはゆっくりと立ち上がり、ロードにそう言うもロードもまたそれに返した。

「あんたのザンバーもそこそこだったぞ。クソ痛えよホントに。」

二人は笑いながら話すも、シグナムは少し考えるような目でロードを見つめていた。

というのも、シグナムはシャマルからはこんなことを告げられていた。

「彼には二つの人格があって、恐らく今のロードくんじゃない方が本来の姿なの。なのはちゃんも会った時と少し違うって言ってたから、片方を保つのは今だと時間がかかるのかも。」

その言葉を胸に留めていたシグナムはロードの本当の姿、そして今とは違う片方の姿を見たいと思い、この場を設けたようなのだが、残念ながら見ることは出来なかった。

「どうしたの?シグナム。」

「どうしたんだ?」

二人のその言葉にシグナムは「なんでもない。」と一言だけ返したのだった。

 

訓練が終わり部屋に戻ったロードはベッドに寝転がった。

この短い間に自分自身に大きな展開がいくつも転がった。

兵器としてアクートを追う中でなのはやフェイトと出会い、この力を使う理由を考えるということにすらあった。

「俺は・・・。」

しかし、彼の中の葛藤はあった。

自分自身が兵器であること、つまり自分自身の人間が存在していいのか?ということである。

記憶も何も無い自分はこれまで破壊することが戦うことだと信じて戦ってきた。しかし、それは少し違っていて守ることも戦うことだということをここにいる人々彼は知った。

しかし、時折フェイトたちですら手に負えないほどの破壊衝動が模擬戦で現れるのも事実であり、この意思が邪魔してしまう時もあるのだ。

かといってこの想いや守りたいという意思を捨てることが全て。ということが間違いとも思えない。

「俺は・・・」

ただ、一人ベッドから天井を見上げる。そこには白い壁に蛍光灯の光が反射して少し眩しかった。

「・・・寝よ。」

こんなことを考えてたって仕方ないんだ。

守ることや兵器であること、きっと答えを導いてくれると勝手な決めつけをした瞬間全てが晴れた。

きっと今の俺なら・・・寝れる。そう感じた。

 

管理局の上官である八神はやてに召集されたロードとフェイトはこれからの任務についての説明を受けていた。

そこには守護騎士やなのはたち上官も説明を受けていた。

「恐らく次のポイントはここになる。二人にはここに向かってもらって、その「アクート」とやらと戦ってもらう。」

「でも、そこに現れなかったとしたら?」

フェイトのその問いにはやての横にいたヴィータがその質問に答えた。

「ここには大きな魔力反応がある。恐らく奴らはこれを狙ってくるだろう。」

なるほど。と二人は首を縦に頷けた。

「つまりここに現れた瞬間」

「アクートを叩く。ということだね。」

はやては軽く頷き、再度大きなモニターへと目を移した。

「でも、この任務はかなり危険やし、罠もあるかもせえへん。気い引き締めてかかって欲しい。」

シャマルははやてからの視線を合図に一歩前に出た。

「では、作戦の説明を終了します!」

ロードとフェイトはシャマルのその言葉を聞き、一礼して部屋を去った。

「フェイトはいい部隊に恵まれたんだな。」

「えっ?」

ロードの突然の言葉にフェイトは動揺を隠しきることが出来なかった。

「きっと、どこの部隊もこんな感じじゃないかな?ロードは違ったの?」

ロードは頷き話を始めた。

「俺はずっと研究施設みたいなところで兵士みたいに扱われてさ、俺以外のガンバライダーを殺すためだけに色んなことを聞かされた。でも、ここは人を守るために戦って、自分の命を省みない。ホントにすげえよ。」

フェイトはそれを聞いてロードの頭を撫でた。

「きっと、ロードの中の人間が言ってるんだよ。ここにある幸せを守りたい。って。」

「俺の中の人間が・・・」

ロードは少し照れながら、フェイト共に歩いて行った。

「フェイトとロード。いい感じやね。」

「うん。きっとあの二人なら今回は大丈夫そうだね。」

なのはだけ気付いていた。ロードが付けていたブレスレットの光が、二人の絆に応えるように強い光を放っていたことを。



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悲しみの傷なの

ロードとフェイトは空中を飛びながら、アクートがいるとされるポイントへと向かっていた。しかし、ロードは妙な気配を感じざるをえなかった。

「フェイト。」

呼びかけられたフェイトは少し首をロードに傾けた。

「どっかおかしくないか?」

フェイトはその言葉にさらに疑問符を増やした。

ロードはそのまま話を続けていく。

「何で魔力を大量生成できるところを管理局はアクートが狙うってわかったんだ?」

「つまり……これが罠だと?」

ロードはフェイトの言葉に小さく頷く。

でも何のために?誰が?そんな疑問が止まぬままそして話を続ける。

「アクートは誰かを呼び寄せようとして、わざと魔力を大量生成できる場所を提示したのか。それも分からないけどな。」

ロードの推測を聞き終えたフェイトはそこで飛行を中止し、はやてたちと連絡を取ることにした。

「こちら管理局フェイト・テスタロッサ。応答願います。」

「やあ…。随分と遅かったねえ?」

「!!」

男の姿二人は驚愕した。そこに映っていたのはロードと同じガンバライダー。しかし色が明らかに違う。青を基調としたガンバライダー。それが誰かはもうロードは察していた。

「お前か?アクートってのは。」

青いガンバライダーは高笑いしにやけて答えた。

「ご明察。だが、もう管理局は我らの支配下に置いた。」

「どういうこと・・・?」

フェイトの疑問符と同時に映像が送られた。そこにあったのは倒れこむなのはたちの姿だった。

「てめぇ・・・!!」

ロードの怒りを表した眼にアクートは微笑を浮かべた。

「友よ。助けに来るなら勝手にしろ。」

「友だと・・・!?」

ロードの疑問をすり抜けアクートは話を続ける。

「だが、そこの怪人集団を倒したあとになぁ!」

通信が切れた途端、灰色の壁から何体もの怪人が湧き出てきた。数百は超えるだろうその数にフェイトとロードは足を後ろに下げた。

「次元の壁・・・か。」

壁を超えてきた怪人たちは少しずつフェイトとロードへと近づいていく。

「逃げるわけにもいかなさそうだね。」

「さっさとぶっ潰すぞ…!!」

ロードとフェイトは互いに背を向け二手に走って行き戦闘は開始された。

ロードはメタガブリューを召喚し、ストレインドゥームで薙ぎはらっていく。一方でフェイトはバルディッシュから放つ黄金色の光弾「サンダースマッシャー」で敵を空中から爆撃した。

大きな攻撃を二人は何度も放つがそれによって敵の数が減っているようにはとても思えなかった。

「こいつらキリがねえぞ!」

「一気に大きな攻撃を撃ち込むしかないみたいね。」

ロードの言葉にフェイトは少し焦りを感じ、自らの魔方陣を解放し、一気に敵を覆い囲った。

「ファイア!!」

フェイトの放った何発もの大きな光線は敵を吹き飛ばし、たちまち消滅させていった。

そして数百といた怪人は一瞬にして消滅し、殲滅されていった。

「やったな!」

「うん。」

その刹那、後ろから撃ち込まれる銃弾にロードは気づき、直撃しそうになったフェイトを押し飛ばした。

撃ち込まれた銃弾はロードの心臓に向かって紫色の四角錐に広がった。

「ロード!?」

「ちっ!!この攻撃・・・デルタか。」

そこにいたのは黒と白の色を基調としたデルタ、そして白と金を基調としたイクサだった。

「シャドウライダーに攻撃を食らうとはな・・・!」

ロードはこの存在を知っていた。ライダーを模擬して作られたシャドウライダー。彼がかつて何度も訓練として使った兵器の一つだ。

シャドウデルタはロードに向かって四角錐へと蹴り込み、相手に攻撃する「ルシファーズハンマー」をロードへと直撃させ、シャドウイクサも同時にロードの腹に斬撃技である「イクサジャッジメント」を直撃させた。

「あぁ・・・。」

「ロード!!」

変身が解けると同時に倒れこむロードの元へと向かおうとするフェイトにデルタとイクサは銃を向けた。ロードはその光景を見たとき、夢で見た光景を思い出した。

彼の脳には一瞬にして血まみれで倒れる少女の残像が見えた。

「ダメだ!!やめろ!!」

デルタとイクサはフェイトに銃撃を撃ち込むも、フェイトは魔力を使ったを張り防御する。だが、通常の実弾で壊れないようなバリアが徐々に崩れていくのがフェイトには見えた。

「この力……魔力!?」

「どういうことだ・・・!?」

ロードは立ち上がろうとするも、先ほどの攻撃が傷口を抉る。立つことすらままならなかった。

「っ!!?」

フェイトのバリアは砕け、フェイトに何発もの銃弾がフェイトへと突き刺さっていく。

「フェイト!!」

ロードは力を振り絞りフェイトの元へと這って行った。

「手を伸ばせ!」

「ロード・・・。」

その伸ばす手はフェイトへと届かず、フェイトの手は静かに落ちていった。

「くそ…!!くそ!!」

ロードはフェイトから赤く垂れた鮮血に絶望した。力があっても守れなかった。自分の大切なもの1つさえも。

彼の脳に走馬灯のようにこれまでの自分の愚かさが描かれていく。

兵器であること、そして何も守れない力を得た自分に何の意味もなかった。

戦うことだけにしか執着しなかった自分を愚かだと嘆き、地面の砂を殴りつけた。

シャドウデルタとシャドウイクサは止めと言わんばかりに何発も魔力を込めた銃弾を放った。

ロードはその銃弾が放たれた瞬間、フェイトを庇うように覆い後ろを向いた。もう死ぬのだと確信した。何も守れぬまま自らも消えるのだと

だが、彼の背中には少しの痛みも感じず弾丸の刺さる音すらしなかった。恐怖混じりでロードはそっと後ろを向いた。

そこにいたのは虹色の羽を纏った少女だった。彼女は魔方陣を展開し、シャドウライダーたちの攻撃を物ともしなかった。そして少女はロードへと問いかけた。

「どうした?我の知っている貴様はそんなものではないぞ?」

はやてに酷似した声と容姿の少女にロードはその言葉に疑問符を浮かべた。

「あんた……誰だ?」

少女は少し笑みを浮かべ答えた。

「我が名は闇統べる王(ロード・ディアーチェ)だ。」



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本当の二人なの

ディアーチェはシャドウライダーの攻撃を魔力に変換しそのまま撃ち返した。

その攻撃はシャドウライダーを吹き飛ばし、そのまま倒れ込ませた。

「因みにこの羽も我が仲間によって出来ておる。」

ロードが唖然とする中、虹色の羽からは二人の少女の声がした。その声はなのはとフェイトに酷似していた。

「私は星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)。」

なのはに酷似した声に続いてフェイトに酷似した声が聞こえる。

「僕は雷光の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)。よろしくね!」

二人の紹介が終わったとみたところでディアーチェは目を瞑った。

ロードが辺りを見渡すと、そこにいたのはディアーチェと鎖で繋がれた自分自身だった。

「お前は・・・?」

ロードの言葉を聞かぬままディアーチェは鎖で繋がれた少年は問いかける。

「起きているのか?真のお前よ?」

その声の問いに答えるようにロードではない誰かの声がした。

「俺を…呼んだかい?」

ディアーチェは首を縦に頷き話を続けた。

「チヒ…いや、此奴と主は表裏一体。つまり今の奴では半分以下の力しか出せてないのは承知か?」

もう一人のロードは首を縦に頷き応答した。

「だが、今の俺は不完全な状態。つまり出れば消滅の可能性もあるわけなんだ。」

ディアーチェはそれを聞き、三人のデバイスから光を与えた。光は鎖を砕き、もう一人のロードは与えられたその力の暖かさを感じ取ることが出来た。

「少し力をやろう。下郎に力をやったのだ。感謝して使うが良い。」

「ありがとう。ディアーチェさん。」

ロードはディアーチェの手を強く握りしめた。ディアーチェは思ってもみなかった反応に驚きを隠せなかった。

「あ・・・あぁ、まあ我らはあまりこちらにもいられない。あとは任せる。」

ディアーチェは精神世界から離れ、二人が現実に戻るとそのまま虹色の翼を広げた。

「我らは遠い未来で貴様らに世話になる。その時はまた、我らをよろしく頼むぞ。」

「王ったら素っ気ない。」

「ツンデレというやつだよしゅてるん!」

「うるさいぞ貴様ら!」

ディアーチェはシュテルとレヴィに説教をしながら、空へと羽ばたき去った。

「立てるかい?もう一人の俺。」

「お前が・・・俺?」

もう一人のロードは頷き、話を続けた。

「どちらもロードだと呼びにくいね。名を変えよう。どちらが変える?」

と聞いた瞬間にロードはすぐさま答えた。

「俺が変える。名はお前が決めろ。」

もう一人のロードは少し考え、先ほどディアーチェが言いかけた言葉を思い出した。

「チヒロ。なんてのはどう?」

「ああ、オッケー。ならそれでいいぜ。」

何とも適当な・・・。ロードは頭を掻き毟り少し諦めたように話を続けた。

「ならいこうチヒロ。フェイトの傷も心配だしね。」

「当たり前だろ?さっさと決めるぜ?ロード!」

ロードは走り出し、シャドウライダーの攻撃を見事に避け切った。

デルタは自らのバイクであるジェットスライダーを、イクサも自らのバイクであるイクサリオンを召喚し、ロードへと何発もの攻撃を放った。

その瞬間にロードの眼は赤から緑へと変わり、チヒロからロードへとバトンタッチされた。

「着地回避場所。N35度地点。」

その場所へとロードは避け、同時に仮面ライダー龍玄が使ったとされる「ブドウ龍砲」を召喚し、シャドウライダーに銃撃を撃ち込んだ。その弾は全弾直撃し、シャドウライダーたちはバイクへと叩きつけられた。

「んじゃあ、とどめは決めるぜ!」

「任せるよ。チヒロ。」

ロードは眼が赤へと変化し、足にエネルギーを溜めた。それと同時にロードは走り出し、空中で回転した。

「ガンバライダーキック!!」

デルタとイクサはロードのガンバライダーキックを受け少しよろめいた後に爆砕していった。

その後ロードは、倒れこんだフェイトを連れてアクートの元へと向かって行った。

 

管理局へと戻ったロードは医務室の前で座り込んでいたいたシャマルへと抱きかかえたフェイトをゆっくり降ろした。

「フェイトを頼みます。」

「・・・ロード君なの??」

ロードは頷き、アクートのいるであろう場所へと走って行った。シャマルは少し不思議な顔でそれを見つめ、傷だらけの自分とフェイトを連れて医務室へと入って行った。

「シャマル!」

シグナムが走ってくると、シャマルはゆっくりと立ち上がった。

「ロードくん。もう一人が目覚めたみたい。」

「本当か!?」

嬉しそうなシグナムもその束の間、ヴィータとザフィーラが来た瞬間、顔を引き締めた。

「我々はコアの破壊へと向かう。いいな。」

「私はフェイトちゃんを治すわ。」

シグナムたちは頷くと、見送るシャマルを背にそのまま空へと羽ばたいていった。

部隊長室に入ると、そこにはアクートと気絶したはやてが倒れていた。

「はやて!」

向かおうとすると、アクートは仮面ライダーカブトと対峙したカッシスワームの爪を使用し、ロードを吹き飛ばした。

「ダメだろぉ?人質に勝手に触っちゃあ!!」

アクートは爪で刺そうとするもロードはそれを避け、仮面ライダーアクセルの武器であるエンジンブレードを召喚し、アクートの足へと切り込んだ。それを受けたアクートは少し下がった後に笑みを浮かべた。

「やるねぇ。だが、これはどうかな!!?」

仮面ライダーファイズと対峙したドラゴンオルフェノクの高速移動能力を使用し、アクートは高速で攻撃を叩き込んだ。その攻撃でロードは吹き飛ばされ宙に浮いた。

アクートがもう一撃加えようとした瞬間、一筋の光弾がアクートへと直撃した。光弾の色は薄い赤で後ろには純白の戦闘スーツ(バリアジャケット)に身を包んだなのはがいた。

「大丈夫?ロード君。」

「ああ、大丈夫だ。」

なのははブレスレッドを見て確信を持つように話し出した。

「そのブレスレッドがあれば勝機はあるかも。」

チヒロは完全に忘れてたようにブレスレッドを見る。

「そういや、これで他人の力が使えるとか云々言ってたな。」

「何でそんな重要なことを言わないわけさ。」

ロードは呆れたようにチヒロへと問いかけた。チヒロは少し慌てる素振りを見せるも、ロードはそれを無視し話を続けた。

「つまりあなたの光を受け取り、俺たちでそれを使う。ということかな?」

なのはは首を横に振り、バルディッシュを見せた。

「あなたたちが受け取るのは私じゃない。フェイトちゃんの力。」

「何話してんだ!!」

アクートの攻撃をなのはが防御しチヒロにバルディッシュを渡した。

「君たちしか今の状況は止められない。頼むよ!」

なのははアクートの攻撃を受け返すも、アクートは仮面ライダービーストの技である「ストライクビースト」をなのはへと蹴り込み、なのはは魔力を食われて倒れ込んだ。

「次はお前の番だ!」

アクートはロードたちへと少しずつ剣を向けて歩み迫ってくる。

チヒロは強くバルディッシュを握りしめた。どうすれば力を得られるかなんて分からない。だが今はこうするしかないと確信した。

「バルディッシュ!俺に…俺たちに力を貸してくれ!」

「stand by.」

アクートが攻撃を仕掛けようとした瞬間、周囲に黄金の光が拡散し、アクートは目が眩んで後ろへと仰け反った。

アクートが目を開けた瞬間、そこにいたのはロードの体をベースに金色の装飾と漆黒のマントを包んだガンバライダーだった。

「これが融合(ユニゾン)。」

「新武器を提げたところで変わりはしない!」

アクートは再度高速移動を開始しロードへと走り出した。それと同時にロードは黄色く輝く魔方陣を展開し、その勢いで走り出した。



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決戦は空の上なの

ロードとアクートは管理局内を飛び出し、空中で戦闘を行っていた。

アクートとロードは高速移動を互いに使い、一進一退とも言える攻防を繰り広げていた。

「ほぉ…この高速移動についてくるとはな!」

ロードはアクートから放たれる光弾を次々にかわすも、無限に飛んでくる弾を避けるのにも限界があった。

アクートの表情は余裕そのものであり、まるで防戦に徹するロードたちの動きを楽しんでいるように見えた。

ロードはその光弾を一気に弾くと、その光弾は花火のように彼の後ろで爆発して散っていった。

「ちっ!」

「チヒロ!どうする!」

ロードの問いかけにチヒロは体を翻した。そしてバルディッシュをアクートに向けた。

「雷光一閃で一気に蹴ちらす。」

「!!?」

チヒロは身体中から流れる魔力をバルディッシュへと収束させた。しかし、雷光一閃はフェイトが持つ大技中の大技。ユニゾンしただけの彼らではその魔力は足りずなかなか発動状態までにいかない。

「ほぉ・・・。一撃必殺に賭けようと言うのか?」

「だったらなんだ・・・。テメエのその口も開けねえようにしてやるよ!!」

チヒロの周りにまとう雷は徐々に強まり、その雷は彼の魔法陣を中心に様々なところへと光り轟いた。

「バルディッシュ!俺たちに力を貸してくれ!」

「無茶だチヒロ!あれはフェイトさんの魔力だからこそ・・・」

「俺を信じろ!!」

チヒロのその言葉にロードは背筋を震わせた。そうだ。一心一体と言ったのは自分自身だった。

信じられないなど言ってられない。守りたいものがあることには変わらないことも彼は不思議とわかっていた。

それに目が覚めたのか、ロードは自らの精神をチヒロに委ねた。感じる。彼の祈りを。

「何ごちゃごちゃ話してんだ!」

アクートは魔力で強化したガンバライダーキックをロードへと放った。魔力に集中している彼らは避けることなどできなかった。

「チヒロ!!」

「ッ!!」

彼は目を伏せた。その攻撃を凌ごうとするかのように、バルディッシュを盾のように自らの前に立たせた。

しかしそこにいたのは青い魔法陣をかかげ、アクートの魔力を凍らせていた一人の少年だった。

「義妹の力を使ってもこんなものか?ロード。」

「クロノさん!?」

そう。そこにいたのはフェイトの義兄であるクロノ・ハラオウンだった。クロノは自分のデバイスである「デュランダル」でアクートを弾き飛ばし、ロードへ手を差しのばした。そしてロードもその無言の言葉に応えるように手をつかんだ。

「やはり高クラスの魔導師はそう簡単に死んではくれないか!」

アクートが剣を振りかざすとクロノはその剣先を避けてデュランダルで押し飛ばした。

腹を押されたアクートの剣はそのままアクートを連れて地上へと降りていった。

「凍れ!!」

放たれた氷の矢はアクートへと突き刺さり、彼の体を侵食するように凍りつきアクートの動きを止めた。

「よくあいつから生きてるもんだ。」

「俺もあんたらと思いは同じだからな。負けるわけにもいかねえだろ?」

クロノは頭を掻きむしって、ロードへと真剣な眼差しを向けた。

「君とフェイトが行ってくれた魔力地帯は奴の動力源になっていたんだ。」

「やっぱりか。」

「それで他の五人にはそれの破壊へと向かってもらってる。」

そしてクロノはモニターを開き、そちらの情報を確認した。そこにはおかしな光景が広がっていた。

「はや・・・て?」

そう。先ほど傷だらけになっていたはやてが今そこにいるのだ。そしてヴィータやシグナム、使い魔であるアルフ、ザフィーラが戦っていた。

「どうだ?はやて。そちらの状況は。」

「ちょっと待て!?じゃあさっきのは!?」

はやてはきょとんとした顔でチヒロたちを見つめた。

「さっきの?アクートが来た時にこっちには向かってたけど……?」

アクートは高笑いをして身体中に纏わり付いた氷を一気に砕いた。

砕いた氷は魔力の光となってアクートの周囲から消えていく。

「あんなの擬態に決まってるだろ?本気で信じるとはやっぱり君は面白い!」

からかうように高笑いを続けると、チヒロの目に火がつくように怒りが湧いてきた。

「てめぇ……。」

チヒロは魔法陣を解放し、クロノもそれを見計らったかのように同時に魔法陣を展開した。

「奴の足は僕が止まる。その間に君は一撃をぶつけろ。」

「オッケー!任せてくれ!」

そういいクロノはチヒロから離れて魔法陣を開く。彼の青い魔法陣が周囲へと冷気を飛ばした。

「凍てつけ!!」

「Eternal coffin」

その音と同時にデュランダルから氷が放たれ、アクートとその周囲は一気に氷で凍てついた。

「いけ!チヒロ!」

「雷光!一閃!プラズマザンバー!」

チヒロとバルディッシュの元には大きな稲妻が落ち、それが力を与えるようにみるみる光が強まっていく。

「ブレイカー!!!!」

チヒロとロードが同時に叫ぶと同時にバルディッシュを振りかざし、一筋の光線が一直線に凍ったアクートへと落ちていく。その光は爆発と大きな光を生んだ。

「やった・・・か?」

雷光の光が晴れると共に倒れるアクートが見えた。アクートはゆっくりと立ち上がって首を軽く回した。

あれだけの魔力を高めた攻撃ですら微々たるダメージしか受けていない。チヒロは一種の恐怖に戦慄した。

「今回は退いてやろう……。またいずれ再戦を。」

「待て!!」

次元の壁の向こうへ逃げたアクートを追おうとするチヒロをクロノが制した。

「君が今追う必要はないさ。今はこちらの協力に従ってくれ。」

クロノの言葉にチヒロは小さくうなずき、はやてたちのモニターを見ると、倒れる怪人たちが多数見えていた。

それとは逆にはやてたちは余裕の表情で怪人たちをなぎ払っていた。

戦場にいた全員の表情は余裕そのものであり、近づいてくる雑魚の首を次々に落としていく。

「こんなんに苦戦してんのかよ。お前。」

「ロードよ。まだ我ら守護騎士の足元にも及ばないようだな。」

はやてを守る騎士であるシグナムとヴィータにものすごい言いようを叩き込まれ、彼は頭を埋めるも更に悲劇は続いた。

「これじゃフェイトは預けらんないねぇ。」

「まったくだな。主すら預けられんな。」

少し意味深な発言にクロノはチヒロの方を向き、鋭い視線を浴びせた。

チヒロとロードにはわかる。どういうことだ?詳しく説明しろ。そう義兄の視線が恐ろしくこちらへと突き刺さってくる。

チヒロとロードは頭を下げた。もう必死だったのだ。色々と。

「まあ、お話はこれくらいにしといて、決めよか。皆。」

全員が頷くと全員はデバイスに魔力を集め魔力地帯の周辺へと散らばった。

「バリアァ!!ブレェイク!!」

「うおおおおおお!!」

アルフとザフィーラは二人で同時にそこにあった魔法陣へと鉄拳を浴びせた。

「轟天!爆砕!ギガントォ!!シュラァク!」

「出でよ!隼!」

「Sturmfalken」

ヴィータはハンマー型のデバイスである「グラーフ・アイゼン」を巨大化させ、大きな打撃を打ち込んだ。

一方でシグナムは剣型のデバイスである「レヴァンティン」を弓型である「ボーゲンフォーム」へと変形させ、そこから炎の鳥を放った。

みるみる破壊されていく魔法陣を見てはやては一息つかせ詠唱を唱えた

「響け!終焉の笛!ラグナロク!ブレイカー!!」

はやては大きな魔法陣を展開し、そこから大きなレーザーを放った。だが、

「まだ壊れへんのかいな……。」

「硬すぎんだろ。こいつ。」

そしてそこへともう一つの通信が流れる。

「こちら高町なのは。ロード君を連れてそちらへと向かいます!」



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終焉の光なの

ロードはなのはの通信を聞いて驚きを隠せなかった。

「おい待て!あんたの魔力はほとんど残ってないだろ!無茶は…」

なのははその通信を遮るように首を横に振った。

「今無茶を出来るのは私と君だけだよ?」

その言葉にチヒロとロードは心の中で目を合わせた。

「そうだね。」

「一撃にかけるしかねえみたいだな。」

ロードは横にいたクロノとも目を合わせモニター上のなのはに伝えた。

「俺と共に戦ってくれ。高町なのは。」

なのはは笑顔で頷いてみせた。

「うん!それじゃ張り切って頑張ろう!」

なのははレイジングハートの通信を切り、上を見上げた。

「フェイトちゃん。この空は私とあなたが守った命で救ってみせるよ……!!」

なのはは飛翔した。命と世界を守るために。

ロードの元に来たなのはは作戦を軽く説明していた。

「で、あんたの力とユニゾンして同時攻撃で吹き飛ばす…と。」

なのはは頷き話を続ける。

「ブレイカーなら何とか壊せると思うんだけど…。」

チヒロは話を遮り肩を叩いた。

「あんたが不安なんじゃ俺たちも不安になる。信じよう。」

なのはは小さくうなずき、もう一つ、聞きたいことを聞いた。

「なんで協力しようと思ったの?あなたには何のメリットもないこの戦いを。」

「えっ!?何でって・・・」

ロードはその意外すぎる質問に考え答えた。

「強いて言うなら・・・、初めて信じてみようと思ったんだ。フェイトの優しさ、純粋さを。」

「そっか・・・。」

なのは安堵したが、ロードはなのはへと質問した。

「何で僕らを信じたんですか?敵かもしれないのに。」

「えぇ!?えっと・・・」

なのはもまたロードと同じように困惑しながら答えを絞り出した。

「どうしても最初から君達が敵には見えなかったんだ。もし敵だったとしてもきっと分かり合える仲間になるんじゃないかって。」

ロードもまたなのはから出た意外な答えに戸惑うも、すぐに気持ちを持ち直した。

「じゃあ、行こうか。初めて信じた世界を守りに。」

なのはの言葉にロードは頷いた。

なのはは言い忘れたかのように先に飛ぼうとしたロードへと叫んだ。

「最初出会った時に疑ってごめんね!!」

「その言葉、終わってからもう一回聞きますよ!」

ロードは後ろを向いて半笑いで答えた。

ロードの冗談混じりの言葉になのはは思わず笑みをこぼした。

もちろんそんな状況じゃないことも知っている。でも、無性に彼女としては嬉しくて堪らなかったのだ。

そのままロードはなのはと共に飛翔し、はやてたちの元へ飛び去っていった。それを見送っていたクロノに恋人であるエイミィから通信が入った。

「何だ?」

「いやぁ?あの二人お熱いなぁ。って!」

エイミィの少し嬉しそうなトーンにクロノは少し戸惑いながら、通信を続けた。

「帰ったら、晩御飯あるかな?」

エイミィは嬉しそうな顔でサムズアップをし、クロノもそれに応えるようにサムズアップで返してみせた。

ヴィータとシグナムは魔法陣の破壊のために何発もの攻撃を与えていた。

彼女たちの強力な攻撃も魔法陣は少しの破片すらも見せなかった。

「ちっ!こいつどんだけ硬えんだよ!」

シグナムは時々空を見上げては何発もレヴァンティンで斬りつけていた。

「どうしたんですか?シグナムさん!」

はやてのデバイスである「リィンフォースツヴァイ」はシグナムに問いかけた。

「いや、二人が来るのを待っているのだ。」

アルフはそれに続くように話を続けた。

「確かにあの二人ならやってくれるかもな。」

はやては何発もレーザーを撃つも魔法陣は硬く、何も動じていなかった。

「そろそろ…疲れてきたぞ。」

「あぁ。」

「ヴィータ!ザフィーラ!」

ヴィータとザフィーラが倒れ込み、心配して寄ってきたはやてがその近くに駆け寄ったその時だった。一つの無線がはやての元に届いた。

「こちら高町なのは!ロード君と共にもうじき到着します!皆は遠くに離れててください!」

「そういうこった!俺たちが終わらせるから気にすんな!」

ヴィータたちは笑顔でそれを聞き、全員はなのはたちの後ろを過ぎ去っていった。

はやては過ぎ去る際、なのはたちの元に立ち止まった。彼女の視線はロードを見つめていた。

「君のおかげで皆が救われた。本当にありがとうな。」

はやての言葉にチヒロは返す。

「いいや、そんなことはないさ。俺たちが拾われてなきゃ死んでアクートを追えなかったかもしれない。そして何より…」

はやては止まった言葉を聞き返そうとしたが、チヒロの表情をみて留まった。その顔からつらさが伝わってくる。そして何を言おうとしたのかも殆どはやての想像はついていた。

「ロード君。フェイトちゃんは任せてな。」

ロードは首を縦に振り、はやてはそれを見て去って行った。

それを見送った後、なのははチヒロの肩を叩いた。

「さあ、行こうか。ロード君。」

「ああ、なのはさん。」

チヒロはなのはから光を授かり、なのはユニゾンへと姿を変えた。その姿は純白で片手にはレイジングハートを持っていた。

なのはとロードは魔法陣の近くへと行き、同時に何個もの魔法陣を開いた。

その魔法陣は周囲の空気となった魔力を一点に吸い込み、更に大きさを増していく。

「行くよ!ロード君!」

「ああ!行くぜ!なのはさん!レイジングハート!」

「Star light breakr!」

二人は同時に光を見せ、叫んだ。

「これが俺たちの全力全開!スターライト!ブレイカー!!!」

二人は魔法陣へと光を放ち、その周囲を吹き飛ばした。消滅した魔法陣と共に。




作:というわけでガンバライダーロードなのは編のクライマックス終了しました!
ユ:でさ、僕ら何してるの?
作:もちろん!後書きで遊んでるんだよ!ユーノくん!
ユ:僕さ、このまま出ないことってある?
作:……ワンチャン
ユ:おかしいよ!僕最初からいるメンバーだよ!無印から
作:うるせぇ淫獣。
ユ:ひどいよおかしいよ!僕そんなキャラじゃなかったのに!
作:でも某サイトでよく淫獣扱いされてるよね。
ユ:僕誰にも手を出したことないよ!?バインド使えるくらいしかないよ!
作:完全に非を認めてるじゃねえか。
ユ:だから僕は…
作:次回のガンバライダーロードはついになのは編最終章!これからどう物語が動くかお楽しみに!!
ユ:えっ!?ここで切るの!?おかしいよおおおおおおお!!


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また会うその時まで

ここはどこだろう。暗く果てない闇の中。

少年はそこで一人立ち止まっていた。

「戦いは…どうなった?」

少年はそこで出会った仲間とともにその世界の危機を救った。彼女たちの援護がなければ不可能だっただろう。だが、彼には立ち上がる意思も見えない。

「立てねぇ……。このまま倒れんのかよ……!」

少年が上を見上げると、少女が一人手を伸ばしていた。その手は見覚えがあり、温かい光を感じた。

「さあ、行こう?チヒロ。」

チヒロは目を覚まし、上を見上げると医務室の天井。あの時と同じベッドだ。

「やっと目ぇ覚ましたか?」

チヒロはその声の方向に首を傾けると、ヴィータが眠そうにこちらを見ていた。

「ヴィータ……俺。」

「お前もなのはも無事でよかったよ。あの距離なら死んでてもおかしくない。」

チヒロは無言で上を向き、暫く上を眺めた。それを不思議そうに思ったヴィータはチヒロの手を強く叩いた。

「ってぇな!何すんだよ!」

「生きてる感触を持て!お前は今生きてんだ!だったら、生きてるなりの反応しろ!」

チヒロは一瞬その言葉にのけぞるも、ロードからも声が聞こえてきた。

「チヒロ、ヴィータの言う通りだ。僕らは生きてる。その感触は持とう。」

チヒロは手を強く握り、ゆっくりと立ち上がった。

「フェイトは?」

チヒロの質問にヴィータは顔を背けた。

「シャマルが頑張ってる。それしか言えない。」

ヴィータは寂しそうに外へと出て行った。チヒロはそれを見送り、ロードへと問いかけた。

「俺たちも帰るか。」

「……そうだね。」

ロードはチヒロの返答に答え、少しずつ歩みを進めた。しかし、ドアの先にいたのはクロノだった。クロノはチヒロにデュランダルを向け、鋭い目で見ていた。

「……あの擬態した敵はどうなったんだ?クロノさん。」

「逃げたさ。アクート共に。」

ロードは少しため息をつくも、仕方ない。と一言で済ました。

「帰るのか?元いた場所へ。」

「……あぁ。」

クロノはデュランダルの矛を首へと近づけ、さらに問い詰めた。

「フェイトが死に物狂いで守った命に礼も言わずにか?」

チヒロはその矛を持ち、クロノへと鋭い視線を向けた。

「確かにフェイトが守ってくれたこの命には礼を言いたい。だが、俺がするべきことはそれじゃない。あいつみたいに…アクートのせいで傷つく人を減らすことが第一だ!」

クロノはハッとしたようにデュランダルの矛先を少し退けた。

「多分…あいつがギリギリの状態でもそれを選ぶだろうよ。」

チヒロはクロノの横を通り過ぎ、去ろうとした。しかし、クロノは足を止めるように手を握った。

「名だけでも聞いておこうか…。君たち二人の名を。」

「!!?」

チヒロは二重人格をわかっていたことに動揺するが、すぐに冷静さを取り戻し答えた。

「俺がチヒロ、んで。」

「僕がロード。よろしくね。クロノさん。」

クロノは少し笑みを浮かべ、ロードの肩を叩いた。そして彼らの横を通り過ぎて行った。

「はぁ…。いるんだろ?なのはさん、はやてさん。」

チヒロは影に問いをかけると、そこからなのはとはやてが隅からこちらへと歩いた。その歩みは少しこれまでより軽く感じた。

「行くんやな。チヒロ、ロード。」

ロードは少し頷くと、なのはからユニゾンブレスを渡された。

「これ……!!」

「私たち全員の願いが宿ってる。頑張れって祈りが詰まってるからね。」

ロードはそれを受け取り、自らの腕につける。彼女たちの願いが伝わるかのように彼らに暖かみを与えた。

「ありがとうございます。なのはさん、はやてさん。」

なのはとはやてが去ろうとするその際にチヒロが少しだけ顔を出した。

「フェイトを頼みます!!」

彼が初めて頭を下げた。なのはやはやてはそれを見て少しだけ去る足を止めた。

「フェイトちゃんは任せて。あなたはこれからも戦って。」

「いつかの世界でまた会おうな。チヒロ、ロード。」

なのはとはやての励ましに彼は大きく頷き、二人は次元の壁へと姿を消していった。

「はやてちゃん。良かったんだよね。これで…。」

「良かったんとちゃうかな?少し寂しくなるけどな。」

彼女たちは次元の壁が閉まるまでその壁を見つめていた。

チヒロが研究所へと戻ると、研究員たちは残念そうな目でこちらを見つめる。そして、白衣の男が目の前へと来る。

「お前の失態のおかげでこちらは信頼を失ってるんだ。わかってもらいたいものだ。」

ロードはその言葉を無視し、もう一度レイシフトする機械の前へと立った。だが、白衣の男は少し自慢げに目の前へと立った。

「お前のような失態を起こさぬよう、もう一人のガンバライダーを用意した。」

「はぁ!?」

チヒロは研究員へと大きく荒い声を出した。無論、彼は失態を起こしたつもりもない。

「ふざけんな!!仕留めきれないくらいでそれがあってたまるかよ!!」

白衣の男はそれを無視し、そのガンバライダーの元へと向かった。そしてそこにいたのは白衣を着た研究員だった。

「僕はガンバライダーノヴェム。よろしくね。」

「お…おう。」

チヒロはいきなり来た研究員に名乗られ、困惑するも彼はすぐさま彼の横に立ち、レイシフトの準備をするよう話した。

「レイシフト開始!」

チヒロとノヴェムの周囲は光へと包まれた。

チヒロは不安だった。ロードのこと。フェイトのこと。そして…この白衣の男。




作「ということでガンバライダーロード一章!なのは編が終了しました!」
ユ「衝撃すぎるよ!フェイト生き返ってないじゃん!!」
作「まだいたのかい?」
ユ「僕の扱いだけ完全におかしいよね!?ねぇ!?おかしいよね!」
作「まあ、フェイトは生き返ってないですが、ユニゾンを得てずっと彼の元には居続けるわけです。」
ユ「でも、フェイト生き返ってないってことはこれから出てこないの?」
作「それは……。」
ユ「ワンチャンあるんだね……。」
作「管理局の皆が頑張ってる間、ロードとチヒロは戦い続けるわけですよえぇ。」
ユ「良い話になるといいんだけどなぁ。」
作「では、ここでユーノ君とはお別れです。」
ユ「え?」
作「別世界のゲストとまたお会いしましょう!さよなら〜♪」


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Dog Days〜フロニャルド編〜
二人目のガンバライダー!


レイシフトして飛ばされたチヒロとノヴェムはとある森へと叩き落とされた。

「ってぇな。どこだここ。」

「空が赤い色してる。こんな世界もあるのか。」

チヒロとロードが会話していると、横でぶつぶつと声が聞こえてくる。

「明らかに地球とは違う時間軸が流れてる。魔力検知は無し…….っと。」

ぶつぶつと喋っていたノヴェムの後ろからチヒロは機械を覗き込む。

「あーもう!付いてくんな!」

「見るくらい良いだろ!?」

ノヴェムはデータの入った端末を見せないかのごとく走り回った。だが、ロードもそれに負けじと後ろへとついて行った。

「何だよ!国家機密でもねえんだから見せてくれても良いだろ!」

「君には関係ないじゃないか!」

チヒロの憤怒に対抗するようにノヴェムも声を荒げた。二人は何も言わぬまま別の道へと進んでいってしまうのだった。

ノヴェムは一人見知らぬ森を彷徨っていた。

「ああ、怖いんだけどなぁ。」

彼は想像すらしていなかった。突然レイシフトしてこんな森に落とされ、身勝手なパートナーを持ってしまうこと。

「アクートの一件といいGRZ社お手製の兵器さんといい、こんなに不幸って続くもんなのかねぇ?」

この不幸はさらに続いた。目の前に真っ黒な巨大生物が見えたのだ。おそらくライダーの世界ではない。かといって人工物にも見えなかったのだ。

「よし、奴を分析…っと。」

黒い生物を持っていた端末で分析するが、エラーの文字とアンノウンの文字だけが広がった。弱点すら見当たらない。

「あーあ、ダメだこりゃ。」

彼は黒い生物が過ぎ去るまで、その場でじっとしていた。

チヒロは一人で森の中を彷徨っていた。勿論見知らぬ土地で何がいるかもわからずに。

「ねぇチヒロ。ノヴェムと和解した方が…」

「あんな奴いなくても俺はやっていける!俺一人でも…」

チヒロは荒げた声を静めるように声を殺した。ロードはそれを不思議に思って同じ方向を見ると、今まで以上に大きく、黒い化け物が目の前にはいた。シャドウライダーや怪人とはまた別物であることはロードとチヒロには確認できた。

「……さっさと切り抜けるぞ。」

「わかった。」

「Ganba Rider Stand by」

機械音とともにチヒロはガンバライダーへと変身し、一気に化け物へと向かった。

チヒロはメタガブリューで化け物へと斬りつけるも、化け物はビクともせず、そのまま弾き返した。

「こいつ……!!」

「冷静になるんだ。遠距離からなら…。」

そう言い、ロードへと目の色とともに意識が変わり、メタガブリューをバズーカモードへと切り替え、その距離からストレインドゥームを放った。周囲は土煙に包まれていった。

「やったか!!」

「いや…。」

チヒロの喜ばしい言葉とは裏腹にロードは苦い声を出し、相手からの攻撃を避けた。

ストレインドゥームを喰らっても尚生きており、ビクともしていない。

「だったらなのはさんの力で!」

「前の戦闘から学ばなかったのか!!」

ロードの指摘にチヒロはハッと我に返った。そうだ。前の戦闘でギリギリの距離からスターライトブレイカーを放ち、彼は気絶にまで追いやられた。誰もいないであろうこの森で使うには無理があった。

「だったら……!!」

「チヒロ!?」

チヒロは自分の意思へと変更し、ユニゾンブレスを光らせた。その輝きからはクロノが使用していたデュランダルが召喚された。

「そうか!!これなら!」

「凍てつけええええ!!」

デュランダルからバインドと共にに敵を凍らせる「エターナルコフィン」を発動し、化け物を凍らせることができた。その隙に倒そうとしたその時だった。

「あっ!いた!何してるんだ!」

割って入ったノヴェムに鋭い目を飛ばすも、ノヴェムは彼らを静めるように話しかけた。

「こいつは人間の手では倒せない物質で出来てる。僕らじゃ対処できないんだよ。」

「はぁ!?」

そのノヴェムの言葉を聞き、チヒロは驚愕する。その声と共に化け物が氷を解き、暴れ始めた。

「じゃあ…、どうしろってんだよ!!」

「知らないよ!何でこんな奴とエンカウントしてるんだまったく…!」

「こっちのセリフだよ!何でそんな情報を先に伝えねんだ!」

「喧嘩腰になってる場合じゃない!行くよ!チヒロ!」

ロードの言葉にチヒロは少しイラつきを見せるもすぐにそれを飲み込み、ノヴェムとは別方向に化け物の攻撃を回避した。

ノヴェムは仮面ライダーデルタの武器であるデルタムーバーを、チヒロは無双セイバーを召喚し、一気に射撃を与えた。

「効かないのは分かってても!!」

「疑似餌を撒くくらいなら!!」

二人は同時に放つも、砂けむりからこちらへと走ってくる。そして向かう方向はノヴェムだった。

「えぇ!?こっちに来るの!?」

「ノヴェム!!」

チヒロが走り出そうとしたその瞬間だった。一瞬にして化け物は真っ二つになり、そこから浄化されていくように黒い物体が空へと消えていった。チヒロには一瞬の閃光が光って見えた。

「誰だ!あんたは。」

チヒロが見た先には金髪の少女が後ろ姿のみを見せていた。彼女の頭には犬や猫のような「耳」がついており、服装からすると忍者ということがチヒロとロード、そしてノヴェムにはわかった。

「某こそ、この「フロニャルド」に御用でも?」

チヒロとロード、そしてノヴェムは頭が真っ白になった。そして確信した。変な世界に迷い込んだと。




作:というわけで第2章スタートしました!
ダ:あのー、ここに出た者は出番がなくなると聞いたのだが…。」
作:ああ、大丈夫ですよ!ダルキアンさん!アイツだけなんでwww
ダ:それだと良いんだが…。
作:都築真紀作品が二つも続くということなんですが、ある程度は大丈夫ですよね?(震え声)
ダ:それは拙者は知らん。お主の問題じゃ。
作:辛辣なコメントありがとうございます…。これからどんなことに期待されます?
ダ:取り敢えずそうだな…。拙者を倒すシーンとかあれば新鮮で良いのではないだろうか?
作:さて…。そんなえげつないシーンは出てくるのでしょうか!?では、次回お会いしましょう!さよなら!!


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交わる刃!

チヒロとノヴェムはこの世界について金髪の少女「ユキカゼ・パネトーネ」に質問をしていた。

「なるほどな。つまりこの世界はユキカゼみたいに耳のついた人間がいて、俺たちはそこに迷い込んだ…と。」

「まあ、ざっくり説明するとそんなところでござる。二人は恐らく目的はあれど「勇者」として導かれた者でもなさそう…でござるな。」

チヒロはそれに小さく頷いたが、横にいたノヴェムはその言葉に凄い食いつきを見せた。

「勇者!?この世界に勇者なんているのか!!」

「いるでござる!戦の時には活躍してくれるでござるよ!」

ユキカゼはその食いつきの良さにテンションが上がるのがチヒロにもわかったが、彼には一つ疑問点が浮かんだ。

「戦?戦うのか?こんな世界で。」

「そりゃ人がいりゃ争いくらいは起きるでしょうよ。」

ロードの言葉にチヒロは納得した。だが、それをつゆ知らぬユキは少し自慢げにこちらを向き、歩いていく方向を変えた

「どこ行くんだ?」

チヒロの疑問にユキカゼは答えた。

「当然でござる!戦の場でござるよ!」

「えっ?」

二人。いや、チヒロの中にいたロードすらその思考についていくことは出来なかった。

森を抜けるとそこには異様な光景が広がっていた。

その戦は彼らの想像するような「戦争」ではなくどちらかというと「競技」に近いものがあった。そして倒されるたびに小物のような動物になっていく姿に驚きを隠せなかった。

「人が倒されるたびに猫に……?」

ノヴェムとロードはその異様な光景に頭が空になった。一方でチヒロは少し笑みを浮かべてユキカゼに提案した。

「これって参戦したらダメなのか?」

「はぁ!?参加するの!?この乱戦に!?」

不安げなノヴェムとは逆にユキカゼは少し笑みを浮かべた。

「大丈夫でござるよ!拙者たちの国はあちらでござる!」

そこにいたのは緑色の髪をした中性的な少女と金髪の少年だった。金髪の少年は耳が頭についていないことから別世界の人間であることはハッキリとわかった。

「で、あの金髪の男性こそ我らが勇者「シンク・イズミ」にござるよ。」

敵を無双していく勇者を見てノヴェムは少し前のめりになっていた。

「うわぁ……。超かっこいいじゃん勇者!」

チヒロはそのテンションの上がりようを見て彼は降りようとする崖の高さを見た。この程度なら降りられる。そう確信した。

「んじゃあ、行ってみるか!」

チヒロが降りようとしたその瞬間だった。後ろから剣を向けられ、チヒロは動けば死ぬ距離にその剣は輝いていた。

「動かないでもらおうか。異世界の者よ。」

「お館様!!?」

ユキカゼは後ろにいた女性を見て驚いた。チヒロは後ろを見ると、中性的で和服を着た女性が剣を向けていた。もちろん、この世界の人間なのだろう耳がついていた。

「ちょっ!?どういうことですか!?」

お館様と呼ばれたその女性にノヴェムが質問すると、女性は話を始めた。

「この世界に魔物ではない異郷の者が住み着き出した。主らが呼び出したのだろう?」

チヒロは後ろを振り向き、怒るような目つきでベルトを装填した。

「随分と勝手な御託を並べてくれんじゃねか!」

「ちょっ!?チヒロ!?」

ロードが止めようとするがチヒロはガンバライダーにすぐさま変身した。そして無双セイバーを召喚し女性に斬りかかるが、女性はそれを見事に避け、鞘で殴り飛ばしてみせた。チヒロはその攻撃で近くの木に叩きつけられ、その木には叩きつけられた窪みができていた。

「ガハァ……。」

「召喚のみが取り柄ということか……。何と情けない。」

チヒロは息をしようとするが一撃の重さからか、うまく息が出来ない。それどころか息をするごとに苦しくなっていく。

「すげぇ……。」

ノヴェムがそう呆気に取られていると、次はノヴェムにその剣を向けた。

「さあ、答えてもらおうか?何が目的だ。」

ノヴェムは足が竦んだ。あんなにやられている姿を見て彼自身は逃げる道すら選んだ。黙り込むノヴェムを助けるかのようにユキカゼが間に入っていった。

「待ってくだされお館様!彼らは魔物に襲われていた身。恐らく別の者の仕業です。」

「なんと!?それは真か!?ユキ!」

ユキカゼの言葉を聞いて女性は少し驚いた顔をして、チヒロへと駆け寄った。

「すまない!拙者の早とちりだったようだ!!立てるか?」

チヒロは伸ばされたその手を掴み、何とか立ち上がった。

「まずあんた誰だ?」

チヒロはギリギリの張った声で女性に問いかけた。

「名乗っていなかったな!拙者はブリオッシュ・ダルキアン。ユキたちを纏めている棟梁だ。」

チヒロは納得し自分の力で足を張ると、ロードから声が聞こえた。

「チヒロ、それってアクートが呼び出したんじゃ?」

チヒロはロードの言葉に頭を掻いた。

「そうだとしたら……進化しすぎだろ。何で怪人呼び出せるようになってんだよ。」

ノヴェムたちはチヒロとロードの会話に疑問符を浮かべた。

「誰と話しているでござるか?」

「それ思った。」

ユキカゼとノヴェムのリアクションにチヒロは驚くような顔をして、よく考えた。そして二人は気づいた。自分たちが二重人格であることを。



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オンミツと悩みの先!

風月庵。ダルキアンやユキカゼが部隊を指揮する「オンミツ」の本拠地であり、彼らの住まいでもある。そこでロード、ノヴェム、ダルキアンはそれぞれの状況の確認をしていた。

「なるほど。ロード殿はチヒロ殿というもう一人の人格がいる。チヒロ殿、ロード殿、九重殿は「アクート」とやらを追ってこの世界まで飛んできた。ここまでに間違いはごばらんか?」

「まあ、そんなところです。」

ロードが返すと、チヒロは心の中でロードと会話する。

「ノヴェムの名前が「九重一成」っていうのに驚いたの俺だけか?」

「ちょっと黙ってて。」

ロードはチヒロにそう伝えると彼は少し黙り、黙ったタイミングを見計らったかのように九重は向こうの状況を確認した。

「で、アクートが来たことによってここの土地に化け物が増えて「魔物」も増えている。って感じですかね?」

ダルキアンは頷いて、話を始めた。

「しかし、戦などに被害があっても困るのでな。早めにこちらでケリをつけておきたいところでござる。」

ノヴェムが頭を掻き毟る一方でチヒロは少し笑みを浮かべていた。

「まあ、アクート探してぶっ潰すだけならこの四人でも大丈夫だ。」

ダルキアンもその意見に賛同した。そこへと話を聞いていたかのようにユキカゼがこそっと顔を出した。

「お話が終わったみたいなので〜、夕飯でござるよ!」

ユキカゼが持ってきたのは、四人で食べるには丁度良いくらいの鍋だった。そこには煮詰まれた肉や野菜が多く入っていた。

「さすがユキでござる!拙者も見習わねば……。」

ダルキアンはユキカゼの頭を撫でると、ユキカゼはそれを嬉しそうに受け止めた。

「じゃあ、食事にしましょうか。」

ロードとダルキアンとユキカゼは鍋をつつき始めた。だが、九重だけは少し頭を悩ました。これで良いのだろうかと。

「もう、なんかどうでも良いや。」

九重は静かに箸を持った。

食事が終わり、皆が寝付いていった。しかし、チヒロだけはその場で寝れずにいた。中にいたロードももう既に眠りについていた。

「ちょっと外に行くか。」

チヒロは一人縁側へと佇み、そのまま空を眺めていた。そしてこれまでのことを彼は思い出した。GRZ社での訓練、なのはたちの世界での出来事、そして今いるフロニャルドのこと。彼にとっては重い試練のように感じていた。

「俺は……誰と戦っているんだ?」

彼はアクートを倒すという任務を受けて世界を回っている。しかし、詳しい内容も分からず、何をしたのか。何故そうなったのか。アクートが裏切った理由すらも分からずに彼は戦っている。その理由すらわからない戦いのために人が傷ついていく。彼にとって大切な人すら失いかけたのだ。

「俺は…何のために戦ってるんだ?」

彼が遠くを眺めていると後ろから足音が聞こえた。

「どうしたでござるか?」

「あぁ、ユキカゼか。」

後ろから来たユキカゼは隣へ座り、チヒロと同じ方向を眺めていた。彼らの目の前には綺麗な月が映っていた。

「俺は何をやってるんだろう。ってたまに思うんだ。」

遠くを眺めるチヒロにユキカゼは少し顔を傾けた。

「元々兵士として生きて今は従うままに生きて、これが正解なのか時々わかんなくなるんだよ。」

ユキカゼはチヒロの手をそっとつないだ。

「拙者たちだってわからないでござるよ。人であれ兵士であれ、生きた道を正解へと導くのはその人でござる。間違いだと思うなら、それを正しい方向へと導けるだけの力は誰しも持ってるでござるよ。」

ユキカゼは笑顔でそう答えると、チヒロは先ほどよりも少し笑みを取り戻した。

「ありがとう。ユキカゼ。」

その二人の会話をこっそりと聞いていた九重は小さく呟いた。

「GRZ社。ガンバライダー。本当に正しいものなのだろうか。」

二人が月を見上げているのを背に、九重はその白衣をじっと見つめるのだった。

九重は監視を任されているため、夜になればGRZ社から通信が来るのだ。

「こちら九重。どうぞ。」

「こちらGRZ社。どうだ?兵器の順調は。」

彼の兵器という言葉に憤りを覚えそうになるも、彼はそれを押し殺して会話を続けた。

「特に異常なしです。今のところアクートも発見されていません。」

研究員は微笑を加えて、九重へと伝えた。

「お前は不完全なガンバライダーだ。お前が奴のせいで死にかけた場合、殺しても構わんからな。」

「!?」

九重はその言葉に驚愕する。本来味方であるはずのロードすら殺しても構わないなど、正気の沙汰ではあるまい。

「……了解。」

白衣の男はそのまま通信を閉じた。

「殺す……か。」

彼は言えなかった。チヒロたちの人間らしさ。そして、世界を渡るにつれて変わり芽生えていく彼の正義や優しさを。

「やっぱりダメだよなぁ。」

伝えられない。そうすれば自分すらどうなるかわからない。彼は端末を寝床に置き、小心な自分に言い聞かせるのであった。

"頑張れ俺"と。




作:ということでいDog days編第3話でございます!
エ:何で私なんだ?
作:エクレールさん。俺にも分からんのです。
エ:書いたのは貴様だろ!(腹パン
作:ウグッ……。海東純一並の……
エ:うるさい!(腹パン
作:痛い……。きょ…今日は痛いのでここらへんにしましょう。さよなら……。


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ノヴェムの特訓!

ロードたちが風月庵に来てから一週間が経とうとしていた。アクートの調査を行いながら、ロードとチヒロはある「新たなチャレンジ」へと力を入れていた。

「ユキ!床は磨いといたぞ!」

「おお!ありがたいでござる!」

彼らは一度も行ったことのない「家事」というものを日々ユキカゼに教わっていた。彼女の教えの上手さからか、少しではあるが二人か料理を作ることも出来るようになった。

「うむ!良い感じでござる!」

「よっしゃ!」

二人も褒められることが嬉しいらしく、この手伝いを悪くは思っていないようだ。

一方で九重もダルキアンと共に新たなステップへと踏み出そうとしていた。

「紋章砲!烈空一文字!」

九重はフロニャルドにて使用される技「紋章砲」を習得し、ダルキアンにその修行を付き添ってもらっていた。

「うむ。良い出来でござるよ。」

「ありがとうございます。」

紋章砲は自らの気を使うためそれなりに疲れるはずなのだが、彼は疲れたそぶりをまったく見せなかった。

「では、実戦形式で使おうか。」

ダルキアンの提案に九重は頷いた。ダルキアンも木刀を持ち、九重もガンバライダーへと変身した。

「……いくぞ。」

「はい!」

ダルキアンは高速で剣を振るうも、ノヴェムは召喚したファイズの世界の仮面ライダーオーガの武器。オーガストランザーで木刀を防いでみせた。

「紋章砲!烈空一文字!!」

オーガストランザーから放たれた烈空一文字はダルキアンを仰け反らせ、後ろへと退かせてみせた。

「…やった?」

ノヴェムが油断したその時だった。ダルキアンは砂煙の中から烈空一文字を放ち、ノヴェムを吹き飛ばした。

「戦いはどんな時でも油断大敵。煙の中であれど敵がやられたわけではござらんよ。」

「は……はい。」

一撃の重さでノヴェムは立つことすらままならなかった。さすがは「大陸最強」の名を持つ人。いくら訓練を重ねてもこの人には勝てないだろう。とノヴェムは密かに思った。

修行を終えた九重は立てぬまま、ダルキアンにおぶってもらった。チヒロやロードにそれを夕飯の話のネタにされたのはまた別の話である。

その明くる日、四人は魔物の調査のために周辺の森を探ることとなった。その際に別れ道になっていたところを二手になって探すこととなった。

「いましたー?そっちは?」

「いないでござるなぁ。」

ロードとユキカゼは周囲を探すもその気配はない。だが、ロードはこれまで培った感覚でその場所に無双セイバーのガンモードで銃弾を放った。

「さすがは我が友。ご明察だよ。

「アクート……!!!」

チヒロへと人格が変わり、アクートに突撃しようとすると、ユキカゼに肩を止められた。

「落ち着くでござる。相手の動きをよく見るでござるよ。」

そう、これは彼らが修行をした際にユキカゼに注意されたことだ。突っ込み過ぎれば相手に攻撃を取られる。

それを思い出し、頷いたロードはその場から無双セイバーで銃撃を続けた。

「ふん!ならばこちらからいこう!」

アクートは仮面ライダー龍騎のミラーモンスター「ディスパイダー」の力を使い、周囲に糸を撒き散らした。

「当たらぬでござるよ!」

ロードとユキカゼは回避するも、アクートは更に糸を放ち、避ける方向全てに糸を放った。

「かかった。」

「ユキカゼ式忍術!閃華風烈!」

ユキカゼは自らの忍術である戦果風烈を、ロードは仮面ライダー鎧武の世界の武器であるソニックアローで攻撃を放つも、アクートは糸でそれすらも封じて更に糸を放ち続けた。

ユキカゼたちに足場がなくなっていき、終いには逃げれぬような糸のドームのようなものが出来上がっていた。

「あっ!!」

「ユキ!!」

足が糸に絡まったユキを助けに行こうとチヒロはなのはの力とユニゾンし、糸を焼き払おうとするが、ディスパイダーの糸にしては焼けずにレーザーを通さなかった。

「こいつ……まさか!!」

アクートはチヒロが気づいた瞬間にユキカゼとロードに糸を放ち、糸で身動きを封じた。

「テメェ……ミラーコアの力なんてどっから。」

アクートの使っていた糸は仮面ライダー龍騎には本来存在しない。所謂「IF」の世界で戦ったミラーコアの力だった。正史ではない力を使えるところにロードは疑問を抱いた。

「まあ、どちらでも良いだろう。そこの女共々死ぬんだからなぁ!!」

ロードとユキカゼが完全に死を覚悟したその時だった。

「紋章砲!神狼風牙・封魔断滅!」

巨大なエネルギーの剣がミラーコアの力を使った糸を断ち切ってみせた。アクートは驚き後ろを見ると、そこにいたのはこれまでとは違う風格を持ったノヴェムだった。

「ノヴェム……お前。」

「九重殿…お館様は?」

「お館様は今、向こうで魔物と戦ってる。戦力としては一人で充分だって。」

二人の質問に答えると、ノヴェムは突撃してくるアクートの攻撃を止めた。

「何故だ!不完全なお前如きに!!」

「不完全だから、お館様やロード、ユキたちの力を借りれる。完全と思ってるお前なんかに負けてたまるか!!

ノヴェムは仮面ライダードライブの世界の仮面ライダーチェイサーの武器であるシンゴウアックスを召喚し、アクートを蹴り飛ばした。

「んじゃあ、ちょっと無茶するね。」

「!?」

アクートの周囲には仮面ライダーファイズの世界に存在するフォトンブラッドが多方向から三角錐を向いていた。

「はあああああああああ!!!」

ノヴェムはシンゴウアックスと共にそこへと走り、フォトンブラッドに入った瞬間にそれと同時に多数の三角錐がアクートを貫いた。

「アクセルブレイカー……なんてね。」

通り抜けたノヴェムの後ろには傷だらけのアクートが倒れていた。

「ちぃ……!!こうなれば!!」

アクートは空中に上がり、仮面ライダーキバの世界に存在するフエッスルを鳴らした。

"ウェイクアップ3"

「待て!それは……!!

アクートが使おうとしていた技はキバの世界で世界を滅亡に追い込む技、キングスワールドエンドだった。

「……使うしかないか。」

「Ganba Rider Burst Mode.」

ノヴェムはバーストモードへとその姿を変え、ユキカゼとロードを糸から断ち切った。

「ロード、止めるには僕たちの力を二つに合わせるしかない。」

「しかも大技でな。」

ロードは仮面ライダークウガの力を、ノヴェムは仮面ライダーアギトの力を使用した。

二人は呼吸を合わせると紋章砲を発動し、更に力を強めた。二人の足にはライダーの紋章が、そして後ろには紋章砲の紋章が浮かび上がっていた。

「ダブルライダー!!キーーーッック!!」

二人は世界破滅の大技に向かって蹴りを決めた。周囲は爆発と光に包まれた。

落ちてきた二人を見てユキカゼは世界破滅の阻止にホッとすると同時に、二人の体を気遣うように寄り添うのだった。

 




作:文章長くなりましたが、12話が完成しました!
エ:本当に私たちの出番ないな。
作:ほ…ほら、2章の2話で出てきたじゃん(震え声)
エ:あ"?
作:そんなキャラじゃないでしょうよ君。もっとなんか凛々しくなかった?
エ:こんだけ出番なかったらこうもなるだろ!早く出番を回せ!
作:えぇ……(ドン引き)
リ:えぇ……(困惑)
エ、作:リコッタ!?いつからいたの!?
リ:二人の息が合いすぎてびっくりなのでありますが…、ということはさておき、二人の会話はちゃんと聞いてたでありますよ♪
作:じゃあ、出てきてくれたところで今日はここまで!さよならー♪
リ:えっ!?リコッタまだほとんど喋ってないでありますよ!もうちょっとユキについて語りたいでありますうううう!!
エ:違う風に受け取られるからやめとけ……。


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救援の名は!

魔物を倒し終えたダルキアンはユキカゼ、ロード、ノヴェムの元へと向かっていた。

「九重殿、無茶はしておらぬでござろうか。」

彼女自身行かせたは良いものの、向こうから発する殺気を考えると彼がやられていてもおかしくはない。

「それに……先ほどの爆発。」

恐らく殺気の根元が放ったあの爆発だとノヴェムどころか残りの二人すら生きているかが危うい。

「急がねば……!!」

だが、それを阻むように目の前には多数の魔物が待ち構えていた。

「立ち塞がるなら…斬るまででござる!」

ダルキアンは太刀を構え、魔物を切り裂いていくも一向にその数は減らない。それでも彼女は斬り続ける。彼らだけでは確実に倒れている。はやくしなければ…。

その焦りからか、後ろの攻撃に全く気づかなかった。

「しまっ……!!」

だが、その攻撃が届くことはなかった。何者かがこちらへと光弾を放った。それも魔物を撃ち抜くほどの力である。

「この世界でも、何か不穏な影が動いているようだな。」

「助かったでござる……。」

そこにいたのはロードたちと同じように人型をしたライダーだった。彼はメロンを模したような模様。そしてカットメロンのような綺麗な目。そして彼の手には仮面ライダー鎧武の武器であるソニックアローを持っていた。

「どちらでござろうか?」

「私は呉島貴虎。別世界の人間だ。」

ダルキアンと貴虎は次々に魔物を斬り裂いていく。

「急いでいるようだな。」

貴虎の質問にダルキアンは笑顔で答えた。

「大丈夫でござるよ。こちらには「土地神」と二人の戦士がいるでござる。」

「神……か。それなら信じられそうだな。」

ダルキアンは不思議そうに貴虎を見た。

「いるのでござるか?そちらにも「神」が。」

「あぁ!あいつは世界を救ってみせた。正真正銘の神だ。」

貴虎の嬉しそうな声にダルキアンは少々の笑顔を見せた。あれだけの実力を持つ者が言うのだ。間違いなくその人は神なのだろうと彼女も確信した。

「一気に決めるでござるよ!」

「あぁ!」

ダルキアンは紋章砲を解放し、貴虎はソニックアローに「メロンエナジー」のロックシードを装填した。

「神狼風牙!封魔断滅!」

「これで終わりだ!」

ダルキアンと貴虎は同時に攻撃を放ち、周囲一帯の魔物を蹴散らしてみせた。

「早く行け。仲間が待っているのだろう?」

ダルキアンは頷き走り去って行った。それを見た貴虎は体が光へと包まれた。

「お前ほどではないが、俺も誰かを救えたか?葛葉。」

変身を解いた貴虎は、その凛々しい姿は青い光に包まれて上空へ、そして自らの世界へ導いたのだった。

ノヴェムたちの元へ辿り着いたダルキアンはその光景に驚きが隠せなかった。

「三人とも……!!」

彼らが生きていること、そして何より九重が寝ている姿に少しホッとした。

「あぁ、ダルキアンさん。九重さんは無事ですよ。彼がいなければ僕らはきっと……。」

「お館様の技を使えるほど九重殿は成長してたでござるよ!」

その報告を聞いて彼女自身も嬉しくなってしまっていた。やはり自分が技を教えた身。弟子が活躍してくれると嬉しい何かに心が包まれるようだ。

「さあ、三人とも帰るでござるよ!また戦いがあってはならんでござる。」

「お館様、嬉しそうでござる。」

ユキカゼの言う通りすごく上機嫌なダルキアンは九重をおぶってそのまま二人よりも嬉しそうにそして早く森を駆けていくのだった。

「……あれ?」

風月庵で彼は目を覚ました。九重はここ9時間ほどさっきの戦闘から起きていなかったのだ。

「って、うわぁ!!」

彼が横を見るとダルキアンがすごい近い距離で寝ていた。彼は後ろを見ると、彼の寝ていた場所にダルキアンの膝があった。

「ダルキアンさん……。」

きっと彼を気遣って見守ってくれていたのだろう。傷ついた彼をここでずっと見守っていたと思うと彼も思いやられるところがあるようで、小さな笑みと涙が溢れた。

九重はダルキアンに近くの布団をかけると、彼はそっと自分の端末を手に取った。

「こちら九重。応答願います。」

「こちらGRZ社。応答せよ。」

九重は話した。ロードが人間として成長していること。そして自分のせいでアクートを逃したこと。奴が「IF」の世界の力を使えることを。

「なるほどな。後者の二つは良いとしよう。」

「何?」

彼はGRZ社の人間(奴ら)の人格を疑った。当然である。あれくらいの子供が人間らしく成長することは人として喜ばしいことだ。それをそんな風に払い退けるなど普通では出来ない。

「良いか?ロードにこれ以上「人間」を教えるな。奴には兵器でいてもらわねば困るんだよ。」

「……了解。」

彼は反論出来なかった。自分の弱さを憎んだ。人間らしさを殺してまで戦士を作る外道な考えに立ち向かえなかったのだ。

通信が切れると彼はそっと端末を置き、ダルキアンの元へと少しずつ歩み寄った。そしてその側で寝転んだ。今は少しでも感じていたかった。人の温かみ、そして彼女の背中の大きさを。




作:てなわけでどうでしt……
葛:何で俺の出番ねえんだよ!ぜってぇ許さねえ!!
エ:お前は誰だ?
葛:俺は葛葉紘汰!貴虎の言ってた神が俺だ!
リ、エ:ええええええ!!?
作:絶許神はかえってどうぞ
葛:俺の扱い雑すぎんだろ!貴虎の優遇率もすげえし!
作:主任だからね。さすがは呉島主任だ。
リ:付いていけないであります……
エ:まったくだ……。
葛:そのうち俺は出てくんのか?
作:さあ……。
葛:オリジナルは……。
作:あっ、その予定は無いよ。
葛:ぜっってえええええ許さねえ!!!!
作:では、荒れそうなのでここまd……
「フルーツバスケット!ロックオープン!極アームズ!大大大大将軍!!」
全員:久保田悠来さん!お誕生日おめでとうございます!これからも応援しています!!


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拐われの姫

風月庵に帰ってきた一匹の部下が持っていたのはフロニャルドの国である「ビスコッティ」からの援軍要請だった。

「なんと……!!」

ダルキアンはその手紙の内容を把握すると、直様ユキカゼ、ロード、九重を呼び集めた。そして事情を説明していった。

「なるほど…。つまり一国の姫がさらわれたため、僕たちに援軍の要請が来た…と。」

ロードの言葉にダルキアンは頷く。ビスコッティの姫「ミルフィオーレ・F・ビスコッティ」が敵国である「ガレット」に攫われ、現在はビスコッティ勇者と騎士団が救出作戦へと向かっている。というものだった。

「だったら、行こうぜ?その姫とやらのところに。」

チヒロがそう言うと、ダルキアンは渋い顔をしていた。

「恐らく…アクートも混乱に乗じる可能性が…」

「んなもん、俺と九重がいりゃ充分だ。あんたらは勇者の援軍を頼むぜ。」

ダルキアンは不安そうに九重の方を向くと、彼は小さくサムズアップしてみせた。その立てた親指は不安ながらも信頼を表すようにも見えた。

「これで決まりでござるな。」

ユキカゼがゆっくりと腰をあげると、それにつられるように全員が腰をあげた。そして各々がそれぞれのことを始めた。久々の「戦」のために。

その一方でビスコッティの勇者「シンク・イズミ」とビスコッティの騎士団長である「エクレール・マルティノッジ」は姫のミルフィオーレを助けるためにガレットへと向かっていた。

「エクレ、もっとスピードあげられないの?」

「これがこいつらのトップスピードだ。これで向かうしかない!」

シンクの不満そうな顔にエクレールは鋭い睨みを付けた。その途端にそれを察したのか。シンクは別の方向を向いて気を逸らそうとした。それでも彼らが乗る動物である「セルクル」というダチョウに似た鳥はずっと走り続ける。

知っているのだ。女性。いや、エクレールを怒らせるとえらい目に遭うことくらい。

一方ガレットでは来るであろう勇者たちを迎え撃つべく、兵たちの準備が進められていた。

「よし、姉上が帰ってくる前にことを済ませるぞお前ら!」

ガレットの王子である「ガウル・ガレット・ト・ロワ」は姉である「レオンミシェリ・ガレット・ト・ロワ」が外出中の今、彼の指示により全てが進められていた。

「王子、よろしいのですか?」

「これやったら怒られそうやけどなぁ。」

「まあ、いっても無駄でしょうけど。」

「ノワール・ヴィノカカオ」が率いるジェノワーズはガウルに疑問を問うも、ガウルは少し希望を持った目で彼女たちを見た。

「あの勇者、俺の相手には相応そうだからな!相手にするのが楽しみだ!!」

全員がダメだこりゃ。と言わんばかりに呆れた顔を浮かべた。彼女たちが恐れているのがそこではないことを、ガウルはよく耳に届いていないようだ。

ガレットに着いたシンクたちはその兵の数に圧倒されていた。

「くそっ……!!このままじゃ!」

「姫様の元には……!」

そこへとシンクたちへ大きな鉄球が放たれた。ガレットの将である「ゴドウィン・ドリュール」からのものだった。

「行かせるわけにはいきませんなぁ!」

立ちふさがる巨漢と鉄球に二人が呆気に取られていたその時だった。二つの剣が周囲の兵を薙ぎ払った。エクレールにはその剣さばきが誰のものかははっきりと分かっていた。

「ダルキアン卿……!!」

そこにいたのはダルキアンとノヴェムだった。ノヴェムは無双セイバーを片手に次々に敵を薙ぎ払っていく。

「早くあなたたちは勇者の元へ!」

ノヴェムの声掛けにシンクとエクレールは目を合わせ、一斉に走り出した。

「待てぇぇい!!」

ゴドウィンが攻撃を仕掛けるも、ダルキアンによってその鉄球は弾き返された。

「九重殿、ここは拙者に任せてチヒロ殿のところへ!」

「はい!」

ノヴェムは無双セイバーに「イチゴロックシード」を装填し、空中にエネルギーを放ち、そこからクナイを大量に出した。そのクナイに当たった兵は次々にやられていった。

「では!」

ノヴェムは兵の頭を踏みながら次々に先へと進んでいった。

ゴドウィンとダルキアンはお互いの武器を向け、同時に走り出した。そこからの火花は測り知れるものではなかった。

先に進んでいたエクレールとシンクはその場にある状況を飲み込むことができなかった。

「三馬鹿!?どうしたんだ!」

「三馬鹿って扱いなの…?ってそうじゃない!大丈夫!?」

その会話をしていた刹那、後ろから忍び寄る影がシンクたちを襲った。アクートが仮面ライダー鎧武の世界のオーバーロードの一人である「デェムシュ」の紅蓮の剣を振りかざすも、二人に攻撃が届くことはなかった。二人は後ろの鉄の当たる音を見ると、そこには剣を止めるロードの姿があった。

「君は……?」

シンクの問いかけにロードは首を縦に振り、アクートの剣を弾き返した。

「アクート……お前は俺が潰す!」

ロードは紋章砲を解放し、力を纏った火縄大橙DJ銃はその大剣でアクートを壁へと吹き飛ばした。

「あんた…勇者なんだろ?さっさと行きな!」

チヒロの言葉にシンクは走り出した。エクレールも三人を庇うように静かに後ろへと去った。

「まだ前の世界を根に持つとは…やはり我が友だ!」

「黙れ!」

アクートは仮面ライダーWの世界のガイアメモリの一つである「トライアル」を、ロードはフェイトユニゾンへと姿を変えて、目にも留まらぬ速さで剣を交えた。

「やはり面白い!!」

「……ちっ!」

ロードは砲撃魔法を何発も放つも、その攻撃は高速で動くアクートには直撃せず、アクートはその隙に近づき、腹に一撃を決めてみせた。だが、その時だった。

「チェーン…バインド!!」

「何っ!?」

アクートの周囲をチェーンのようなものが巻きついて、完全に動きを止めてみせた。そのタイミングでノヴェムがロードの元へと来た。

「いいタイミングみたいだね。」

「あぁ。一気に決めるぜ!」

ロードとノヴェムは同時に紋章砲を解放し、二人はガンバドライバーから自らの「ICカード」を取り出した。

「バーストチェンジ!」

二人の呼吸に答えるように、彼らの姿が変わっていく。ノヴェムは足に牙のような刃がつき、ロードは身体中を炎で纏わせた。

「これで終わりだ!」

二人は同時にアクートへと近づき、ノヴェムは仮面ライダーWの技である「ファングストライザー」と仮面ライダーカブトの技である「ライダーキック」を融合させた技を、ロードは仮面ライダーアクセルの技である「アクセルグランツァー」に魔力を与えた攻撃をアクートに与えた。チェーンごと吹き飛ばした彼らの攻撃はアクートを地面に叩きつけ、彼をほぼ戦闘不能に追い込んだ。

「これでとどめ……」

ロードが攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、アクートは真紅の剣でロードを斬りつけ、ロードの傷からは多量の緑色の光が飛び散っていた。

「があああああああ!!!」

「チヒロ!」

ロードは倒れ込み、その瞬間に変身が解けた。ノヴェムはロードへと近づき、その抑止力として「リンゴ」のロックシードを彼に埋め込んだ。みるみるうちに彼の緑の光は収まり、彼は倒れこんだ。

「危なかった。危うく彼がインベスに……。」

ノヴェムはわかっていた。彼に危険なものを埋め込んだこと。だが、そうするしかなかったことも。




作:今回ちょっと?長くなりましたが、更新できましたぞい!
エ:やっと私たちの出番か。
リ:これ見る限り1期の4話辺りでありますな。
作:そうだね。ただ……ロードくん。
エ:リンゴロックシード。危険なものなのか?
リ:詳しくは仮面ライダー鎧武外伝!バロン編と斬月編を見るでありますよ!エクレ!
エ:催促するな!
作:まあ……、そこそこ危険なもんですわ()
エ:そんなものを何故……?
作:というわけで今日はここまで!さよなら〜!
エ:……。


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果実と獅子王

ユキカゼはミルフィオーレの救出へと足を急がせていた。

「早く見つけ出さねば……!!」

勿論、チヒロやロード、九重のことは信頼している。しかし……

「もし、拙者たちが着く前に攻撃されていたとするなら…。」

「ユッキー!!」

眼を凝らす彼女に遠くから声が聞こえた。彼女には懐かしい友の声。「リコッタ・エルマール」だということはすぐに察することができた。

「リコ!」

「手伝うでありますよー!!」

ユキカゼは走り続けた城の上から降り、リコッタを乗せてまた走り出した。

「ユッキー、姫さまは大丈夫でありましょうか?」

リコッタの不安そうな表情をかき消すようにユキカゼは笑顔をぶつけてみせた。

「大丈夫でござるよ!噂に聞く「勇者殿」と拙者「たち」がいるのだから!」

ユキカゼは再び、足を急がせるように空へと上がるのだった。

ダルキアンはゴドウィンと激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。

「久々の戦でこちらも舞い上がっておるのでな…。もう少し本気でいかせてもらうでござるよ!」

「ふん!面白い!大陸最強の本気、見せてもらおうではありませぬか!!」

ゴドウィンは斧でダルキアンを弾き飛ばし、ゴドウィンも後ろへと下がった。

「そこにいるのは何でござろうか…?」

ダルキアンは紋章砲でゴドウィンのいる逆方向。つまり自分の背後へと攻撃した。そこにいたのはシャドーライダーだった。影は消滅し、黒い物体だけが空へと上がった。

「今のは……?」

困惑するゴドウィンと両軍の兵士たち。ダルキアンはシャドーライダーのいた場所を少し見つめ続けた。

「二人は大丈夫でござろうか……?」

ダルキアンの嫌な予感は、異形の存在を見る兵よりも深い不安を募らせることとなった。

シンクとエクレールは最深部を目指していると、そこには白髪の少年が堂々と構えていた。

「君は?」

シンクの言葉に少年はニヤリと笑みを浮かべた。

「よく聞いたな!俺は…」

「ガウル・ガレット・ト・ロワ。ガレットの王子だ。」

エクレールに先に紹介されるとガウルは少しこけたそぶりを見せて少し早口で喋りだした。

「エクレ!人の段取り壊してんじゃねえよ!」

「これ如きで段取りが崩れたとかいうな!戦いも始まってないだろ!」

ガウルは言いたいことが済んだのか。一息ついて、またシンクへと眼差しを向けた。

「勇者シンク・イズミ!俺はお前との一騎打ちを所望する。」

ガウルの言葉にエクレールは焦りを見せるも、シンクはどことなく自信と笑顔に溢れていた。

「良いよ!その果たし合い受けて立つ!」

エクレールを退かせるように手を伸ばし、彼の神具である「パラディオン」を召喚した瞬間に、白髪の少年へとその棒を向けた。

「へっ……、面白いぜ!お前。」

ガウルは自らの紋章砲で爪を作り出し、両手両足にその爪が召喚された。

「いざ尋常に!」

「勝負!」

二人の少年は互いの武器を振りかざし、激しい火花を散らせた。

一方で姉であるレオンは城へと戻り、戦から離れていたジェノワーズの三人から事情を聞いていた。

「なるほど…、お前らはその戦士に救われてそこにいる…と。」

三人が頷くと、彼女は少しずつ前に歩みを進めた。

「閣下。どこに行かれるんですか?」

ノワールが聞くと、レオは少し笑みを見せて答えた。

「無論じゃ。そやつらに褒美を与えに行くのじゃ!」

レオンは城から降りると、ジェノワーズを救った戦士たちの気。つまりは感じたことのない気を感じるのだった。

チヒロは先ほど受けた攻撃を回復させていると、九重が少しの水を渡した。

「あぁ、悪いな。」

「ごめんよ。僕が不甲斐ないばかりに…。」

チヒロは九重の言葉に首を振った。そして九重が渡してくれた水を丁寧に飲んで行った。

「でもチヒロ、さっきの攻撃……。」

脳内で話したロードの言葉にチヒロは頷く。チヒロとロードが受けた攻撃は尋常じゃない痛みを発し、九重が体に埋めた「リンゴロックシード」がなければ恐らくさらなる痛みにもがいていただろう。

チヒロは水を飲み終えると再び、立ち上がった。

「さあて行こうか。九重。」

九重は驚きで声が出なかった。その痛みでは立つことすらままならないのに彼は立ち上がった。動く力がどこからあるというのだろう。

「君は動くな!そんな体では…」

チヒロは九重の額にそこそこの痛みのチョップを食らわせた。九重はその痛みに少し倒れこむも、ロードが直様手を差し伸べた。

「僕らは大丈夫です。僕らを信じてください。」

九重は額を撫でながら頷き、ロードの伸ばした手を掴んだ。

「貴様らか?我が部下を救ってくれたという猛者は。」

上から声が聞こえ、見上げるとそこには女性が威風を漂わせ仁王立ちしていた。

「あんたは……?」

チヒロが聞くと女性は少し笑みを浮かべ答えた。

「ワシはレオンミシェル・ガレット・ト・ロワ。この国を治めるものじゃ!」

二人は開いた口が塞がらなかった。何の用でこちらに来たのか。さっぱり分からなかったのである。




エ:まだ勇者は戦わないのか。
ユ:たあ、ロード殿たちが主役でござるし。
エ:ユキ!いつからいたんだ!?
ユ:ちょっと前からでござるよ♪しかし、主役の扱いが雑でござるなぁ…。
エ:まったくだ……。悲惨な目にしか遭わせてないじゃないか。
ユ:まあ、誰かが幸せにしてくれるでござるよ。
作:え?なんで勝手に話が進んでる!?
ユ:真打登場でござるな。
エ:あぁ。
作:はい?
ユ&エ:紋章砲!
作:えっ!?ちょっ!?
リ:ということでまた来週でありますよ!
作:ぎゃああああああああああああ!!!


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決戦の地

シンクとガウルは城内で激しい攻防を見せていた。

「やるな!!」

「そっちもね!」

シンクはパラディオンを駆使してガウルの放つ光弾を見事に弾き飛ばしていた。ガウルもシンクからの攻撃を爪を盾に使い、防ぎきっていた。

「これじゃ埒が開かねえな。」

ガウルはそういうと、爪を戻し新たな紋章砲を開こうとしたその時だった。

「グァァ……。」

エクレールがシンクとガウルの間に吹き飛ばされ、そのまま叩きつけられるように倒れこんだ

シンクとガウルはその方向を見つめた。そこにいたのは、先ほどジェノワーズの三人を倒したあの戦士だった。

「いやぁ、こんなところで力を奪えるとは歓迎歓迎。」

「何を!!」

シンクは戦士に近づくが、戦士が召喚したメカによって吹き飛ばされた。

「あぁ……。」

「シンク!」

ガウルはそれを見てシンクを庇うように戦いに出るが、マシンから出るマシンガンに彼もまた吹き飛ばされる。

「く……そ……。」

二人が倒れこむのを見てアクートは嘲笑した。こんなにも弱く、脆いものだとは思っていなかったからである。

「では、二人の力…いただくとしよう。」

彼が二人に触れようとしたその時だった。

「アクート!!」

そこに現れたのはロードとノヴェムだった。彼らは仮面ライダー鎧武の世界の力「キャバリエンド」と「無類キック」を使い、アクートを蹴り飛ばした。

「来たか……友よ!」

吹き飛ばされたアクートは微笑を浮かばせて、こちらへと突進した。彼は体から触手を伸ばし捕らえようとするも、ロードは火縄大橙DJ銃をマシンガンモードに、ノヴェムは仮面ライダーウィザードの力であるドラゴンブレスを放ち、触手を全て退けてみせた。

「傷の方は大丈夫かい?」

「ああ……何とかね。」

ノヴェムとロードは小さな声でコンタクトを取り、DJ銃とドラゴンブレスの威力を強めた。

「ほぉ……ならば!」

「エクレ!!」

アクートは動けないエクレールに触手を伸ばした。しかし、シンクの叫びに反応するようにロード走ってはその前に立ち、マシンガンで退けた。

「すま……ない。」

エクレはロードに礼を言うも、彼は少し振り向いてまたアクートへと突撃した。

「……かかった。」

ロードはマシンガンを放ちながら突撃するが、彼の下から大きなモンスターを召喚した。

「これは……魔物!?」

ガウルがそう言うと、エクレールは少し神妙な顔で立ち上がった。

「そうか……そういうことか。」

ノヴェムは全てを悟ったように、自らの武器である「ガンバブラスター」を召喚した。

「どういうことだ!?何で魔物があいつの言うこと聞いてんだよ!」

焦るガウルはシンクに問いを求めるも、シンクは見たこともない魔物と、その圧倒的な力に少し口が塞がった。

「それはそうなるか。」

エクレールは納得するように呟いた。無理もない。彼が来てから少ししか経っていないのだ。こんな危険で強大な力を見せられては恐怖になるのも無理はない。

「ノヴェム!!」

ロードはその間に人格がチヒロへと変わり、ノヴェムに呼びかけた。ノヴェムもまたそれに頷くようにガンバブラスターに紋章砲の力を加えた。

「さあて……特訓の成果ってやつを見せるかな。」

チヒロは少し助走を付けると、魔物を飛び越えてアクートの元へも飛び込んだ。

「無駄だあああああ!!!」

アクートは召喚した剣で貫こうとするも、彼はそれをすり抜け、回し蹴りで空中に上げた。

「ユキカゼ式体術…狐流蓮華昇-斬-」

チヒロは空中で一閃の斬撃を加えてアクートを斬り倒した。そのまま倒れこむアクートに追い打ちをかける。

「ガンバライダーキック!!」

アクートにガンバライダーキックが直撃し、そこだけがクレーターとなってアクートはそのクレーターと共に倒れこんだ。それと同時に魔物はおとなしくなり、唐突に動かなくなった。

「やっぱりねぇ……!」

ノヴェムは魔物に向かって紋章砲を放ち、動きを止めた後に彼は走り出し、足に紋章砲の力を蓄積した。

「紋章砲!神狼天牙!滅魔電蹴!」

彼は紋章砲を加えた自らの技で魔物を貫いた。

「あの紋章砲と体術……何故……?」

エクレールは二人の技を見て、仲間であるユキカゼとダルキアンの技を基にしていることはすぐに分かった。しかし、何故彼らが?という疑問はすぐには考えが浮かばなかったのだ。

「くくく……はははははは!!!」

アクートは高笑いを始めて、また立ち上がった。

「何!?」

「はぁ!!?」

チヒロとノヴェムはその姿を見て驚愕した。あれだけの攻撃を畳み掛けたにも関わらず彼にはダメージがないのだ。その証拠に彼に加えた斬撃の傷はなかった。

「では、さらばだ!!」

アクートはワープドライブを発動し、そこから彼は逃げ去った。

「なん……だったんだ?」

「くっ……。」

アクートの存在。そしてチヒロやノヴェムの力を見たガウル、シンク、エクレールはそれに動揺が隠せなかった。

「ガウル!!」

そこへと来たのはレオンミシェルだった。彼女は弟のガウルの傷を見て走ってきた。

「姉……上。」

「戦いのことは後で叱る。今は傷を休めろ!」

その二人の光景を見て、その後ろを去ろうとしたロードとノヴェムはエクレールに肩を掴まれた。

「お前らに……少し聞きたいことがある。」

ロードとノヴェムは少し考えた後にそれを良しとした。分かっているのだ。聞かれる内容くらいは。



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鎧を纏う覚悟

チヒロと九重はエクレールと共に少しばかり自分たちの現状、そしてエクレールたちの現状を確認していた。

「なるほど。つまりお前らも異世界から来て奴を追い、その最中でダルキアン卿とユキに会ったわけだな。」

チヒロは素直に頷き話をしようとした。しかし、九重はその口を止めるように話しだした。

「えっ?待って?今「も」って……。」

「そうか。まだ話されてなかったのか。」

エクレールは少し考え込むように呟き、疑問符を浮かべる九重やチヒロに話を進めた。

「さっきの金髪。奴は「シンク・イズミ」地球から来た勇者だ。」

チヒロからロードへと人格が変わり、話を続けた。

「つまりは彼も地球から使命を持ってここに来た……と?」

エクレールは頷く。そして彼女はまた話を続けた。

「そして今、このビスコッティにも危機が迫っている。」

彼女は神妙な面持ちで二人を見た。二人の少し呑気そうな顔を見てふと神妙な面持ちが崩れた。

「どうした?」

「ん?」

エクレールは自分で気付かなかった。自分がふと見せた笑顔。そして、彼女の尻尾が少し振り幅を大きくしていたことを。

「んで、使命ってなんだ?」

チヒロへと人格が変わり話し出すと、エクレールは面持ちを変えて話し出した。

「今、この世界の魔物が暴走している。なぜかは分からない。」

九重とチヒロは少し思い当たりがあり、目を合わせる。

「さっきのあの戦士が原因となるなら、話は早いが…。」

「待ってください。」

エクレールの話の途中に九重が入り込む。

「奴の攻撃は僕らはおろか、他の攻撃すら受け付ける様子がなかった。」

「そうだな。俺たちで戦って様子を見させてくれ。」

エクレールはその案に少し考え込み、

「わかった。ただし、傷だけは負わないでくれ。奴は強い。」

エクレールのその言葉に返すように二人は笑みを浮かべ、打ち上がる花火の方へと歩いて行った。

「どう思いますか?姫様。」

少し物陰に隠れていたミルフィオーレはエクレールの質問に答えた。

「彼らならやってくれる。そう思います。」

姫であるミルフィオーレが見込んだのだ。きっと間違いない。きっと……。

合流したユキカゼとダルキアンは彼女たちの見たもの。悍ましい影の姿の話をしていた。

「お館様が見た影はここで消えた……と?」

ダルキアンは頷くと、少しばかり考え込んで話を進めた。

「もしや、ロード殿たちが追っている「アクート」とやらと因果がありそうでござるな。」

「もしそうだとしたら……。」

ユキカゼは少し近寄り鼻をすする。しかし、臭いもしなければそのような跡すら見当たらない。

「まあ、アクートとはまた因果で巡り会う。その時に解決しよう。」

ダルキアンはユキカゼに背を向け歩いて行った。それに付いていくようにユキカゼもまた歩き出した。彼女たちの眼の前には赤い花火が何本も打ち上がっていた。

シンクは誰もいないたった一人で花火を呆然と見つめていた。

「あの敵……。」

彼が昔見ていたヒーロー。そう「仮面ライダー」の姿に酷似しているように見えた。そして助けられた二人の戦士もまた仮面ライダーのようにシンクは見えた。

「仮面ライダーは正義じゃないのか……。」

シンクは少し俯いていると、後ろから肩を叩かれ見ると二人の青年が居座っていた。

「どうした?勇者さん?」

「君たちは……!」

彼の聞き覚えのある声。そう、先ほどシンクとガウルを助けた戦士だった。彼らは横に座り込みしょげたシンクの顔を窺った。

「どうしたの?」

シンクに九重が問いかけると、シンクは心を決めたように話し出した。

「あなたたちは「仮面ライダー」ですか?」

九重とチヒロが何も言い返す間もなくシンクは話を続けた。

「僕の知ってる仮面ライダーは、人を守り自由や平和を愛する。そうだと思ってました。だけど、ライダーは僕やガウルに攻撃を向けた。これって…」

「もし、俺たちが「擬似の」仮面ライダーだとしたら?」

話し続けようとしたシンクに入り込むようにチヒロが話し出した。九重はそれを止めずに話を聞いた。

「俺たちは「擬似」で造られたモノだ。俺たちだって大元がどんなのかは知らない。」

「チヒロ!」

ロードがチヒロを脳内で静止させようとするも彼はそれを聞くことなく話を続けた。

「ニセモンで弱っちいのが俺たちだ。人も平和も守れてないかもしれない。それでもライダーだ。だから戦う。」

シンクは少し顔色を変えてその話を聞いていた。気付いたのだ。彼らに失礼だった。護ってくれた人に言うことではなかった。と。

「お二人共。すいませんでした。」

シンクは深々と頭を下げようとしたら、二人は土下座で彼の下へと這った。

「こちらこそごめんなさい!君のヒーロー像を壊してしまって!」

「本当に悪い!ただの俺の価値観だ!流してくれ!」

慌てふためく三人の姿をこっそりとリコッタは見ていた。

「三人共、良いヒーローになりそうでありますな。」

リコッタは自分で開発した新武器を持ちながら、そう言った。

ガウルはレオンミシェルから遠吠えのような説教を受けていた。

「何故あんなバカをした!異形の者を城内に入れよって!」

「いや…姉上それは…」

「閣下と呼べ!!」

レオンの大声にガウルは身震いしながら耳を塞いだ。王であるレオンミシェルからの承認なく兵を動かしたのだ。無理もないといえば無理もない。

「しかし、あの敵。どこかで会ったような気がするな。」

ガウルはレオンミシェルの呟きに疑問符を浮かべた。彼らを見たのは初のはずだし、自分にも身に覚えがない。

「まあ、良い。次からは承諾なく兵を使うな!分かったな!」

「はい……。」

ガウルは凹んだような声を出すと、レオンミシェルはよし。と彼を部屋へと帰らせた。

「閣下…あれは…。」

「主もそう思うか?ビオレ。」

レオンミシェルの側近であるビオレに彼女は問いかけた。確かに似ているのだ。かつて この世界を救ったある戦士に…。

「名をなんと申したか?」

「彼の残した言葉には「アーマードライダー」と申されたとか。」

「アーマードライダー……か。」

レオンミシェルは笑みを浮かべた。もしそうだとするなら…、彼らが同じだとするならこの世界は……。



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壊れゆく世界

アクートのあの戦闘から一週間が経ち、シンクとチヒロは特訓へと励んでいた。

「やるな!」

「そっちこそ……ねぇ!」

ロードはシンクへと蹴りを入れこもうとするもシンクはパラティオンで弾き返し、更にはロードに追い打ちをかけるように紋章砲を放った。

「ぐっ……!!」

「待って!?」

シンクはロードへと駆け寄り、彼の腹部を見た。

「この傷……。」

彼を削るヘルヘイムの傷。それをみたときシンクは何とも言えない恐怖に襲いかかられた。

チヒロはシンクの肩を借り、小さく呟いた。

「この傷のことは言うなよ?」

チヒロは傷を庇うように立ち上がると直様シンクの元を去って行った。

「あれ!?ここにいたのは勇者様だけでありますか?」

「!!?」

シンクは驚くように後ろを見た。そこにはかなり上機嫌なリコッタがちょこんと座り込んでいた。彼女の手には小さな宝石のようなものがあった。

「リコ、それは?」

「これは、あの異国の者に渡そうと思ってたのでありますが……。」

シンクは背筋が凍った。もしさっきの傷をリコッタが見ていたら……。

「い…今は彼も忙しいからねぇ。はははは」

リコッタは沈んでいた尻尾が更に沈み話し始めた。

「あの「チヒロ」という方にこれをお渡ししたかったのであります。」

シンクはそっとリコッタの手を握った。

「僕が渡しておく。だから安心して。」

「わかったであります…。」

リコッタはその小さな手に握っていた宝石をシンクに託し、そのまま歩き去っていっていった。

「チヒロさん…、ロードさん。」

シンクは先ほどの傷の色だけが浮かび、空すら歪んで見えた。

ロードはチヒロから無理やり人格を変え、少し歩みを止めた。

「何すんだよ!」

「冷静に考えろ!君の体ではアクートはおろか、他の敵と戦えるかすら危ういんだぞ!?」

チヒロはロードの言葉に口を閉ざす。彼の言ってることがわからなくはない。だが…、

「じゃあ黙って指くわえて見てるか?」

「!!」

それがチヒロの決心のようにロードは聞こえた。彼の戦う意思、そして彼が人を守る唯一の理由のようにも。

「……そうだね。だが無茶はしないでね。」

「わかってら!無茶なんて毛頭する気はねえよ。」

二人は一つの体を使って歩き出した。彼らもまた戦うために。

九重はダルキアンと共に山へと向かっていた。

「ダルキアン卿、少しよろしいですか?」

「どうされた?九重殿。」

ダルキアンと九重は歩みを止め、九重は話し出した。

「この世界にもし、願いがあるとするなら何を望んでると思いますか?」

ダルキアンは不思議な顔をして九重を見た。九重は説明を足すように話した。

「もし、僕らが世界を壊すような真似をしているのであれば……」

ダルキアンは不安げになる九重の頭を撫でた。その手は温かく、優しさを感じた。

「もし九重殿たちが世界を壊す真似になろうとも…それが間違いでも、拙者は世界ではなく二人を信じるでござるよ。」

「ダルキアン卿……。」

九重は少し自信が持てた。自分を信じよう。それがロードやチヒロを、世界を壊すようなことになろうとしても……。

ビスコッティの奥底にある祠。そこにいたのはアクートだった。

「やっと見つけた……。」

アクートは青く光る宝石に手をかけ、それを握り潰した。

「次は聖獣ユニコーン。これでこの世界は終わる……!」

彼が去ろうとしたその刹那。唐突にアクートの後ろから殴りかかる戦士。アクートはそれを避け、その戦士と睨み合った。

「そろそろ君もしつこいなぁリョウヘイ。いや、「ガンバライダークロス」。」

「世界を壊されるのを黙って見てられるかよ…!」

クロスはガンバソードを召喚し、アクートはなのはの世界の力である「ナハト・ヴァール」を召喚し、ガンバソードを防いだ。

「いずれお前も我が友も滅びの道を行く。それが楽しみだよ。」

「待て!」

クロスは追おうとするも、ナハト・ヴァールの衝撃波により吹き飛ばされた。彼が見たときには既にその姿はなかった。

「このままじゃまずいな……。」

彼が考えを絞っていると、GRZ社からの通信が彼の耳をよぎった。

「こちらリョウヘイ。アクートは……えっ?」

リョウヘイはGRZ社からの言葉に先ほど考えていたことがすべてショートした。彼は通信を切りさらに考える。

「どういうことだ…。何でアクートが「何体も」いるんだよ…。」

リョウヘイは頭を抱え、ガンバライダーのレイシフトシステムでワープした。「別世界のアクート」を止めるために…。

 



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その牙は敵か

ロードはユキカゼと共に特訓へと励んでいた。

「くっ!当たらない。」

「それくらいなら避けられるでござるよ!」

ユキカゼは紋章砲を使い、ロードの火縄大橙DJ銃から放たれた光弾を次々に避けていく。その火花の隙を見たからか、ユキカゼは光のごとくロードへと迫る。

「それでは一手を取られるでござるよ?」

ユキカゼはロードへと小刀を向けた。ロードは降参を表すように両手を上に挙げた。それを見てユキカゼも小刀をゆっくりと下ろした。

「俺の感覚が追いつかなかったばっかりだ。悪い。」

「チヒロが謝る必要はないよ。むしろ僕に難がある。」

ユキカゼは責め合うように話す二人を制した。そして声色を変えて話を始めた。

「今の二人ではアクートには間違いなく勝てないでござる。その傷があれば尚更。」

チヒロとロードは傷を見つめた。アクートに斬り込まれた傷。それは日とともに大きさを増していく。

「俺たちには何が必要なんだ?ユキ。」

チヒロの言葉にユキカゼが答える。

「二人の呼吸を合わせることでござる。まだ二人は一つになれていないでござるよ。」

チヒロとロードはお互いが目を瞑った。チヒロは自らの感覚に、ロードは自らの思考に頼り過ぎた。

「その二つが兼ね備えられた時に二人はもっと強くなれるでござるよ!」

ユキカゼは先ほどの鋭い眼はどこへやら、笑顔でチヒロたちにそう言ってみせた。

「ありがとう。ユキ。」

チヒロはユキカゼにそういうとユキカゼもまたそれを頷き返した。

「二人とも!」

二人の元へと走ってきたのはシンクだった。これまで以上に彼は顔色すらも変えてこちらへと走ってくる。

「どうした!?」

二人が駆け寄るとシンクは倒れこむように二人の手を借りた。

「大変なんだ……。ビスコッティが…!」

二人はシンクを連れ走り出した。この先の危機。悲劇へと。

 

ビスコッティでは仮面ライダー鎧武の世界のモンスターである「インベス」が大量発生し、人々を襲っていた。

「何が起こってるんだよ!」

ノヴェムは仮面ライダー龍騎の世界の能力である「アクセルベント」を駆使し、次々にインベスを倒していく。しかしその数は止まることを知らずに、むしろ増えているようにも感じる。

「九重殿!」

ダルキアンの声が聞こえノヴェムもそちらへと首を向ける。ダルキアンも紋章砲を駆使して次々に倒していく。

「これは一体……?」

ノヴェムは顔を渋らせて持っていた端末を開いた。しかし、そこから何のデータも映っていなかった。

「おかしい……。」

ノヴェムは頭を掻き毟るもどこにもデータがない。そこへとロードたちが向かってきた。

「九重!」

「チヒロ!」

ノヴェムを庇うようにロードは自らの武器である「ガンバソード」でインベスを斬りつけていく。

「クラックは!?」

「それが……ないんだ。」

「えっ?」

ロードとチヒロは驚愕の声を上げた。本来インベスが出現する際に必要となる穴「クラック」が必要となるのだが、それが見つからないというのだ。

「じゃあどこから湧いてんだよ!」

「まさか……!」

ロードは空中へと飛翔し、その影を探した。

「ここにアクートの気配はないでござる!」

ユキカゼはロードへとそう伝えるとユキカゼは紋章砲をロードは空中から銃撃を放ち、周囲を一網打尽した。

「じゃあ、誰が……!!」

チヒロのつぶやきと同時にノヴェムは紋章砲を放ち、遠くからの銃弾を防ぎきった。煙が晴れるとそこには一人のライダーがいた。

「お前……誰だ?」

チヒロがそう聞くもライダーは話を聞かず攻撃を続けた。

ユキカゼとダルキアンはその姿に驚きを隠せなかった。

「あなたは……!?」

そう、かつてこの国を救ったとされる「アーマードライダー」に酷似するものだった。

「俺の名は「新牙」。お前と同じ「兵器」だ。」

 

新牙はロードたちへと無双セイバーを向け走り出した。それと同時にチヒロたちも無双セイバーを持ち走り出した。

「君と今戦ってる場合じゃない!どいてくれ!」

新牙はノヴェムの無双セイバーを弾き飛ばし、彼を殴り飛ばした。

「九重!!」

「よそ見してる場合か?」

ロードを無双セイバーで斬りつけ、彼へと剣を向けた。

「何故兵器であるお前が人と関わり戦う?」

「何?」

ロードは向けられた刀を蹴り飛ばし、そのまま近づいた。しかし、

「甘い。」

「なっ!!?」

新牙は懐からもう一つの刀を取りチヒロを斬りつけた。その形は鎧武の世界の「大橙丸」に酷似していた。

「チヒロ!防御に回ろう!コイツの相手をしてる場合じゃ…。」

「でも戦わなきゃ一生攻撃してくるぞ!」

新牙はチヒロたちを睨みつけた。

「人間を守るなど愚かだ…!兵器のくせに…!」

彼の額からチヒロたちの持つ傷と同じ光をみせた。そしてユキカゼたちにさらに多数のインベスが押し寄せた。

「まさか……テメェ!」

チヒロは火縄大橙DJ銃を大剣モードへと形を変え走り出した。それに対抗するように新牙は剣を向け走り出した。

ダルキアンとユキカゼは増えていくインベスを倒していく。しかし、その数からか彼女たちの体力は消費されていく。

「親方……様。」

「ユキ…耐えるでござるよ!」

「しか……し。」

その時だった。背後にいたインベスの鋭利な爪ががユキカゼの体を貫いた。

「ユキ!!」

ダルキアンの声にチヒロはユキカゼの方向を向く。見るとユキカゼの腹には穴が開き、そこからチヒロたちと同じ光を飛ばしていた。

「ユキ!!」

走ろうとするチヒロの前に現れたのはアクートだった。

「友よ…更に俺が面白くしてやろう!」

アクートが放った黒い剣は光を放ったユキカゼへと突き刺さり、緑色と黒色の光が彼女を支配した。

「あああああああああああ!!!」

彼女の叫びを止めようと走るも、アクートはその先へ向かわせることを許さない。

「……潮時か。」

去ろうとする新牙をノヴェムが銃撃で足を止めた。

「何が目的だ……!」

新牙はその声を聞くことなく歩き、次元の壁の先へと消えていった。

「待て…!」

ユキカゼのを包んだ光はやがて闇へと変わり、周囲を取り込むかのごとくインベスを喰らい、大きくなっていく。

「……ユキ?」

ダルキアンは剣を落とし倒れこんだ。絶望しかなかった。彼女を取り込んだ闇はフロニャルドを包み込み、光は通らぬ漆黒へと姿を変えた。

 



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救済の光は

-ビスコッティを包む闇-

それは魔物とインベスが融合したユキカゼ・パネトーネが起こしたものだった。チヒロたちはただただ空を見上げる。

「手段が全く見つからないぞ……。」

「皆さん!」

焦るノヴェムたちの元に来たのはシンクだった。彼は飛行機のようなものに変身させたパラディオンを元に戻し、ダルキアンへと駆け寄った。

「ダルキアン卿……これは一体?」

シンクの質問にダルキアンは震えた手を止めるように小さく話し始めた。

「ユキの大元はこの地を守る土地神「ユニコーン」の子だった。」

震えが止まったダルキアンはゆっくりと立ち上がった。

「だが、ユニコーンはかつて拙者が魔物として断ち切り、彼女の肉親を奪う形となってしまった…。」

ノヴェムはダルキアンの手を取った。彼の手は傷だらけのはずなのに温かく、優しく感じた。

「過去は過去です。僕らに今できることをしましょう。」

「九重殿……。」

ロードは脳内でチヒロへと話しかける。

「チヒロ、僕に提案がある。聞いてくれるかい?」

「今の話を聞いた上で言ってるのか?」

ロードは小さくうなずき話を続ける。

「シンク……君の力も必要だ。やれるね?」

シンクもまた頷きパラディオンを剣へと形を変えた。

「私も行きます!」

「あんたは……!」

そこにいたのはビスコッティの王妃。ミルヒオーレだった。彼女は片手に剣を持ちそう言った。

「この剣は聖剣エクセリード。これなら闇を打ち払えます。」

それを聞いて思い出したようにシンクはポケットから緋色の石を取り出した。

「これはリコが作ってくれた武器なんです。チヒロさんたちに。って。」

チヒロたちはそれを受け取り、その石に光を宿した。

「これは……?」

ミルヒオーレの持つエクセリードの色を反転させたような青色の剣が彼の手へと残った。

「聖剣…アロンダイト。エクセリードの兄弟剣です。」

「アロンダイト……。兄弟剣ならこれも闇を打ち払えるってことか!」

チヒロがそう言うとミルヒオーレは頷いた。シンクはパラディオンを先ほどの飛行機へと、ロードはフェイトユニゾンへと姿を変え、ミルヒオーレはシンクの飛行機の上へと乗った。

「んじゃあ行くか!」

彼らが向かおうとしたその時だった。

「行かせると思うかぁ!!?」

アクートは大量のシャドウライダーを召喚し、チヒロたちを取り囲んだ。

「真上に飛ぶぞ!」

「あぁ!」

チヒロたちは真上へと飛翔し、ユキカゼの元へと向かった。しかし、シャドウライダーたちはそれを追うように射撃を始めた。

「これじゃ不安定に……!」

ミルヒオーレを抱きかかえるような体勢のシンクには安定などするはずはなかった。

「ここは俺たちに任せろ!」

地上の声。それはガウルからのものだった。ガウルは爪を研ぎ澄ましシャドウライダーを切り裂いていく。

「お前たちはユキを頼む!」

地上ではエクレール、ジェノワーズ、レオンミシェリがシャドウライダーを一斉に切り刻んでいく。

「ああ!任せた!」

チヒロとシンクは更に高度とスピードを上げていく。そして近づいていく。闇の大元。魔物の側へと。

 

地上ではエクレールを筆頭にガウル、レオンミシェリ、ジェノワーズが戦闘を繰り広げていた。

「さっさと片付けるぞ!」

「分かってるよ!」

背中を合わせてガウルはエクレールの指示に反応する。

ジェノワーズはレオンミシェリを筆頭に彼女の背後を守るように戦っていた。

「戦い。終わらせようね。」

ノワールからの言葉に少しベールとジョーヌは笑みをこぼす。

「どうしたの?」

「いや、なんでも?」

ベールは弓を放ち、ジョーヌは自らの斧を振り回して敵を一掃していく。

「……変なの?」

ノワールは迅速な動きで次々に敵を薙ぎ払っていく。

「こんな時でもお前らは呑気でええの!」

レオンミシェリは自らの神具である「魔戦斧グランヴェール」を使用し次々に敵を薙ぎ倒していく。

「話にならんな!」

「ならばこれでどうだ!」

レオンミシェリが見上げると、アクートは仮面ライダー剣の世界の武器である「キングラウザー」を振りかざしレオンミシェリへと振るった。

「だからどうした!」

レオンミシェリはキングラウザーをグランヴェールで止めた後、アクートを弾き飛ばした。

「くっ!!」

そこへと向かってきたのはノヴェムとダルキアンだった。

「レオ閣下。あとはお任せを。」

レオンミシェリは心配そうにダルキアンを見つめる。

「やれるのか?」

ダルキアンは笑顔で振り向いてみせた。

「きっと……ユキもこうすることを望んだでござろう?」

「いきましょう!」

ノヴェムは仮面ライダーBLACK RXの世界の武器である「リボルケイン」を召喚し、アクートへと走って行った。

「よし、任せるぞ!」

ダルキアンはレオの言葉に首を頷かせ、アクートへと走って行った。

「雑魚どもが……以前の借り、返させてもらうぞ!」

アクートもまた仮面ライダーBLACKの世界の武器である「サタンサーベル」を召喚し、ノヴェムへと走り出した。

「待っていてくれ…ユキ!」

ダルキアンは小さく呟いた。自分のために。皆のために。



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消えゆく闇の中で

真っ暗な闇。その中で少女は問いかける。

「母上は・・・?」

何も見えない暗闇の中、少女は必死に手探りを入れる。しかしそこには闇しかなく、もがいても何も生まれることすらない。

その度に浮かぶあの記憶が少女を壊していく。母の死に様の前に立ち、剣を振るい自分だけを助けたあの女性の顔である。

「親方・・・様。」

 

ビスコッティを覆う闇。それはチヒロたちが近づくたびに大きくなっていく。

「キリがねぇぞコレ。」

「そんなこと言ったって・・・」

チヒロに対してシンクは言葉を返した。無数に広がる闇。それはユニゾンして力をつけたロードですら撃ち抜けるものではなかった。

「どうやって切り抜ける?」

無数の光弾を弾き返しながらロードは思いついたようににやけた。

「無茶していいかな?」

「あぁ結構だ!やるぜ!」

ロードへと人格が変わり、シンクへと指示を出した。

「紋章法で大きなバリアを張って!」

「はい!」

シンクとミルヒオーレは言われたとおり、自らの体より何十倍も大きなバリアを作り出した。

「よし。」

ロードはレイジングハートを構え、そのままバリアへと砲撃を放った。

「おい!」

「でも・・・!」

バリアは押し出されるように先へ先へ進んでいく」

「あれにくっついて行こう!」

ロードは砲撃を続けながら前へと進んでいく。そしてシンクもそれに続くように飛んだ。

「ロードさん。先に向かってください!」

そう言ったのはシンクだった。

「何でだよ!」

チヒロの問いかけにシンクは答える。

「今、ユキを止められるのはあなた達だけです。」

チヒロはハッとして目の前を見た。ここの世界でしてきたこと。思い出が目の前に広がる感覚。

「さあ行って!ここは僕たちでなんとかします!」

彼はシンクの言葉に頷き、空高くへと勢いを進めた。

「勇者様・・・。」

「大丈夫だよミルヒ。あの人たちだって同じ「勇者」なんだから。」

不安そうに見つめるミルヒオーレにシンクはそう返したのだった。

 

ノヴェムとダルキアンはアクートと激しい攻防を繰り広げていた。

「やるな・・・」

アクートは仮面ライダー龍騎の武器であるドラグセイバーを、ノヴェムは仮面ライダーキバの武器であるガルルセイバーを手に取り、激しい剣戟を広げた。

「研究者の君だったら知っているのだろう?我が友の末路を。」

「あぁ、可能性の一部はな!」

ノヴェムが突き飛ばすと、ダルキアンがその隙にと紋章法を放った。

「くっ・・・。」

紋章法はアクートへと直撃し、彼を仰け反らせた。

「ただ、それは一部の結末に過ぎない。僕らが未来を変えることだってできるんだよ!」

「九重殿・・・。」

ノヴェムの言葉にアクートは高笑いする。

「不可能なことをほざかない方がいい。無駄な夢だ。」

アクートは再びノヴェムへと走った。それと同時にノヴェムも走り出した。

「はあああああああああ!!」

ノヴェムは声を荒げるように叫んだ。未来は変えられる。そう。きっと・・・。

 

チヒロ達はシンク達と離れ、闇の根源。つまりユキカゼの元へと到達した。

「いくぞ・・・。」

「あぁ。」

チヒロ達は奥へと進んでいく。闇は迎えているのかそれとももっと違う理由なのか先ほどのような攻撃の嵐がない。

「いた!」

深い闇の奥、そこにユキカゼは眠るように横たわっていた。

「ユキ!」

チヒロが近づくとユキカゼは少しずつ目を開けた。

「チヒロ・・・殿。」

「大丈夫か?」

チヒロの問いかけにユキカゼは首を横に振った。

「この傷が広まってきてるでござる・・・。心身に毒が回ってきてることが感じられる程に。」

「大丈夫だ!助けられる!」

「僕の考えていた方法が使えないまでに回ってるかもしれない。」

ロードの言葉にチヒロは驚きを隠せなかった。ここまできてそんなことがあり得るのだろうかと。

「故に拙者を断ち切る以外の方法は今の所無さそうでござる・・・。」

「なっ・・・。」

ユキカゼは傷を隠すように立ち、話を始めた。

「母上様が魔物として斬られてから後はずっと親方様に育てられてきました。きっと親方様は罪滅ぼしの気持ちもあったのでしょう。でも、それでも嬉しかったのでござるよ。」

「だったら・・・」

ロードが入ろうとすると、ユキカゼはそれを制した。

「でも、もう良いのでござるよ。あの方の罪も辛さも全部消してあげらる。それで本望でござるよ。だから・・・」

「勝手なことばっかり言ってんじゃねぇぞ・・・!!」

チヒロはユキカゼの背中へと拳を当てた。彼女の傷の部分から大きな光が生まれていく。

「あの人はお前を家族のように大切で大好きなんだ。罪のためにお前が存在したわけでもねぇ!!」

「チヒロ殿・・・。」

彼女の光は徐々に強まっていく。

「だから、死ぬなんて言うな!!お前には生きて幸せになる義務がある!!」

「チヒロ!無茶だ!!」

チヒロは体の中から埋め込まれたリンゴロックシードを取り出した。

「上手くいってくれよ・・・!!」

「チヒロ殿・・・?」

彼女の中から光がどんどん消えていく。その光はリンゴロックシードへと注がれていった。

「このままだと僕らがインベスになりかねない!!」

「上等だ。バケモンにでも何にでもなってやるさ!!」

光が全てロックシードへと向かうと、チヒロは再度それを体の中に埋め込んだ。

「うっ・・・。」

「チヒロさん!!」

シンク達が到達した時、チヒロからはエメラルドのような綺麗な緑の光が漏れていた。しかし、チヒロはすぐに立ち上がった。

「さぁて、この闇ともおさらばだ。」

チヒロ達は闇のコアに突き刺さった魔剣へと聖剣を向けた。

「ホーリー・・・カリバー!!」

聖剣から放たれた光は剣の闇を消し飛ばし、闇の空間そのものを撃ち払った。

「ここももう崩れる!行こう。」

ロードの言葉に全員が頷き、撃ち払った闇を背景に勇者達は大地へと向かっていった。




作;いやぁ久久に更新できたわ。
エ;何ヶ月ぶりなんだこれ
作;何ヶ月ぶりなんだろう・・・。4ヶ月くらい?
ユ;随分と置いてたでござるなぁ
エ;ユキ。来てたのか!
作;絶望展開で4ヶ月も置いててすまんねぇ
ユ;まぁ忙しかったのでござろう。許す!
作;あぁ、どっかの誰かさんとは大きな違い・・・
エ;置いてたお前が悪いだろ!
作;ごめんごめん。これからは割とペースあげますよーっと(今年中にこの賞は終わらせる予定)
リ;では!次回もお楽しみにであります!


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英雄と勇者

ビスコッティを覆う闇は消え、晴天となった地上ではビスコッティ、ガレット、そしてダルキアンとノヴェムが周囲の敵を薙ぎ払っていた。

「そろそろ限界やで・・・。」

ふらつくジョーヌを近くにいたノワールが肩を貸した。

「まだ・・・諦めちゃダメ。」

ノヴェムとダルキアンはアクートへと次々に攻撃を与えていく。

「そろそろ帰ってきてもいいと思うんだけど?」

「そうでござるな・・・。」

ガウルとレオンミシェリは上空を見上げた。

「あいつらはまだか!?」

レオンミシェリの一言と同時に空から無数の光弾が降り注ぐ。それはシャドーライダー、インベスを一瞬にして焼き払った。

「待たせたな!!」

上空からはシンクとロードが光弾を放ち、まるで彗星のようにユキカゼが大地へと降り立っていった。

「ユキ!」

ダルキアンが駆け寄ると、ユキカゼはダルキアンへと飛びついた。

「ご心配をおかけしました。」

ダルキアンとユキカゼはすぐさま背を向かい合わせにして剣を持った。

「行くぞ。」

「はい!」

二人の獅子は一斉に走り出し、刀を振りかざした。

「俺たちもいくか!」

「はい!」

「シンク!」

ミルヒオーレはシンクに駆け寄った。シンクはそれを心配するように頭を撫でた。

「大丈夫。ヒーローは死なないから。」

ミルヒオーレは少し頷き、後ろへと下がっていく。その姿はチヒロ、ロードにも確認できた。

「なぁ、教えてくれないか?」

「何をですか?」

チヒロはシンクへと問いかけた。

「お前の知ってる仮面ライダーは、どんな道を歩んだ?」

シンクは少し笑いながら話した。

「あなたたちと同じです。ただ目の前にいる大切なものを守るために必死になった。そして彼らはヒーローとして勝利しましたよ。」

そっか。とチヒロは小さく呟いた。

「んじゃあ、その「ヒーロー」とやらになってみせるか。シンク!」

「当然です!なってやりましょう!」

シンクとチヒロは走りだし、アクートへと光を同時に放った。

「紋章砲!烈空一文字!」

同時に放った光はアクートへと直撃し、仰け反らせた。

「会いたかったよ・・・友よ!」

アクートはドラグセイバーを召喚しロードへと走っていった。

「っ!!」

ロードは振りかざされた剣を避けるも、彼の片手に持っていたシャドーセイバーが見事に直撃する。

「ロードさん!」

シンクが駆け寄るも、アクートはシンクへと光弾を放った。

「シンク!」

ロードはすぐさま立ち上がり、光弾を弾いた。そして、ユニゾンブレスを見ると、光り輝いていた。

「ロードさん・・・。それ。」

「シンク、君の力を貸して欲しい。」

シンクは頷き、彼のユニゾンブレスに手を当てた。そこへと暖かな光が入っていく。

「はああああああああああああ!!」

ロードの姿は変わり、シンクの纏っていたマントを羽織り、片手にはパラディオンとアロンダイトを持っていた。

「新たな姿か・・・!!」

シンクユニゾンとなったロードは、アクートに向かってゆっくりと歩いていく。

 

アクートはドラグセイバーを振りかざすも、ロードはパラディオンで弾き返し、アロンダイトで殴り飛ばした。

「心を合わせてよ?チヒロ。」

「あぁ。当たり前だ!」

チヒロとロードはアクートへと次々に斬撃を加えていく。そしてアクートはそれに合わせるように攻撃した。しかし、

「なっ・・・!?」

「甘いんだよ!!」

チヒロはアクートをパラディオンで殴り飛ばし、さらに高速で唱えた紋章砲の光がアクートを追撃した。

「なぜここまでの力を・・・!!」

「当然だ。」

「俺たちは一人じゃねえからな!!」

怯むアクートへと何度も何度もアロンダイト、そしてパラディオンを叩きつけていく。

「くっ・・・!!」

アクートは一撃を避け、後ろへと下がっていく。

「シンク!」

「はい!」

シンクとチヒロはパラディオンへと紋章砲を込めた。その周囲には烈火とも言える炎が彼らの周囲を明るく照らした。

「炎王剣!」

二人から放たれた炎の剣はアクートを空へと吹き飛ばし、アクートは宙に浮くように吹き飛ばされた。

「まだだ!」

「あぁ!ユキカゼ式体術!」

ロードはすぐさまアクートの着地点へと飛び、彼もまた宙へと飛んだ。

「狐流蓮華昇・斬。」

宙に浮いた刃はアクートを切り裂き、叩き落とした。

「この・・・程度で。」

「チヒロ!」

ノヴェムが息を切らし、こちらまで駆け寄った。彼の後ろの軍勢は随分と言っていいほど消し去られていた。

「世話焼かせたな。」

「全くだよ。」

二人はそう言い合い、アクートへと刀を向けた。彼らの刃には既に紋章砲の光が宿っていた。

「神狼神牙!封魔断滅!」

彼らの刃はアクートを切り裂き、そのまま地面へと叩きつけた。そこには大きな穴が空いており、アクートはその穴の中心で倒れこんだ。

「やった・・・か?」

チヒロは見つめた。そしてアクートは少しずつではあるが、立ち上がった。

「マジかよ・・・。」

ノヴェムは頭を抱え込んだ。確かに大きな一撃は叩き込んだ。それでも尚アクートは立ち続けるのだ。

「面白いよ!別の世界でもっと楽しませておくれ!!」

「待て!」

アクートは次元の壁をすり抜けていく。ロードが手を伸ばした時にはもう壁の姿はなかった。

「仕方ない。あとは残業といくか!」

「その必要はない!」

ノヴェムの呟きに大きな声をあげたのはレオンミシェリだった。彼女の後ろには大きな紋章砲が展開されていた。

「あれ・・・逃げないとやばいやつなんじゃ・・・!!」

「逃げろ!喰らえばひとたまりもない!」

エクレールとチヒロは遠くへとさらに遠くへと走っていく。

「獅子王!炎陣!大爆破!!」

地面からは火を噴き、そして空からは火球の大炎陣が辺りを囲んだ。シャドウライダーたちはそれにぶち当たり消えていく。そう、それが「敵」のみに影響するのなら何の問題もないだろう。

「こんなの聞いてるわけねえだろおおおお!!!」

チヒロと共に逃げたエクレールは、噴いた火炎により戦いで満身創痍のはずのチヒロと共に吹き飛ばされるのだった。



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新たなる旅路へ!

あの戦いから二週間が経とうとしていた。

魔物とヘルヘイムの力を取り込み、ビスコッティ全体を闇で覆ったユキカゼを救い、そこへと現れたアクートを退けた。

「早いもんだなぁ。」

「そうだねぇ。」

チヒロは小さくそう呟いた。獅子王炎陣大爆破によるダメージは回復し、九重もまた傷は癒えていた。

「でも、君はダメージを負いすぎたな。」

九重の言葉にチヒロは苦笑した。尤も、彼のおかげユキカゼは救えたとは言えど、彼自身にヘルヘイムの力を取り込ませた。そしてその傷の大きさは以前よりも増していた。

「大丈夫さ。この程度の傷。」

チヒロは傷を叩いてみせた。ロードは少し怒りを含めた声で彼へと声を放った。

「僕は痛みはあるけどね!」

お前が考えた作戦だろうに・・・。チヒロは頭を少し掻いた。

「どうする?することがあるなら今のうちにやっときなよ?」

チヒロの言葉に九重は首を横に振った。

「生憎サービス残業は嫌いなもんでね。」

ロードは九重の言葉に少し笑った。尤も、平和が訪れた以上、ガンバライダーがここで活動することもない。

「んじゃあ、行くか。」

次元の壁を開き、去ろうとした時だった。

「何も言わずに行くとは、水臭いでござるなぁ。」

後ろを向くと、ダルキアンやユキカゼ、それにシンクやエクレールたちもいた。

「あんまりこういう湿っぽいのは好きじゃないんだけどなぁ。」

九重は笑顔で彼女たちに行った。ユキカゼは一礼した。

「お二人、いやお三方のお陰で何とか復興も進んだのでござる。礼も言わせずに行くのはズルイでござるよ。」

「そうだ!勝ち逃げはさせねぇよ。」

ユキカゼとガウルの言葉に九重とチヒロは苦笑いした。確かに復興は協力したが、彼らのおかげだとは微塵にも思ってなかったのもあって、何とも返す言葉が見つからない。

「それに、お渡しするものもあります。」

小さな光の玉をユニゾンブレスへと当てた。彼らはそれが皆の力、光であることはすぐに分かった。

「ありがとな。姫様。」

「こちらこそ、他のところに行ってもご武運をお祈りいたします。」

チヒロと九重は大きく一礼し、次元の壁へと歩いて行った。

「行っちゃったね。」

「生きてれば何処かでまた会えるでござるよ。」

少し肩を落とすシンクにユキカゼはそう慰めた。

「・・・」

「お館様?」

「あぁ、何でもない。」

アクートの言葉が頭をよぎる。彼の言う結末。そして九重が言っていた一つの可能性。彼女はそれに対して不穏な空気を隠さずにはいられなかった。

「最悪のシナリオにならなければ良いが・・・。」

一人彼女は空を見上げた。彼女には彼らの武運を願うことしか出来ない。そう初めて感じたのだった。

 

仮面ライダー新牙、「君島 龍」はたった一人廃墟に佇んでいた。無論、「独り」での行動ではないわけだが。

「今回は逃してしまったな。」

「あぁ、コウガネ。」

彼の中に秘めるロックシード「ダークネスエナジー」からは男の声が聞こえる。それはかつて神を名乗り、仮面ライダー鎧武たちに戦いを挑んだ「コウガネ」その人だった。

「あいつは俺の手で必ず・・・。」

「戦えたみたいだね。」

遠くから女性の声が聞こえた。君島の目の先には長い髪を靡かせた女性だった。

「噫蘭か。」

噫蘭と呼ばれる女性は龍へと近づいた。噫蘭は近くにあった瓦礫の一つに座り込んだ。

「お前は何のために奴と戦う?」

噫蘭は君島の言葉に少し考え込み話を始めた。

「彼を討つ理由なんてたった一つ。憎しみ以外の何者でもない。」

噫蘭の言葉に少し興味なさげに空返事を返した。

「なら俺と同じ・・・と言うわけか。」

噫蘭は小さく首を縦に振った。

「私と君が組む理由には他ないだろう?」

いや、と君島は言葉を切った。

「奴を討つのはどちらか。そこだけはハッキリさせておこう。」

噫蘭は少し笑った。大人しい表情からは想像できないくらい穏やかな表情だった。

「そんなもの早い者勝ちだ。倒したいなら私より先に・・・というだけだ。」

君島は遠くを眺めた。

「そうか・・・。なら、俺が仕留めるとしよう。」

二人はまた離れ、互いに違う世界を見ていた。

「カナデ・・・。君は私が倒す。それまで死んでもらっては困るんだ・・・。」

噫蘭氷菓は瓦礫で勢いを付けて降りていった。彼女の手にもまた「ガンバドライバー」鈍い光を放っていた。

 

次元の壁から戻ってきたチヒロと九重は研究員たちの目を見ることは出来なかった。

「・・・また失態か。」

「うっせぇよ。」

チヒロは研究員へと鋭い目を放った。研究員は後ろへと下り、またチヒロも九重に肩を叩かれた。

「今は反応してる場合じゃないよ。」

チヒロはそこで目を瞑ると、落ち着いた。と彼に目で合図を送った。

「次の世界へと向かってもらう。」

「休みなしかよ・・・。」

九重は残念そうにその報告を聞いた。疲れも癒してくれないこの会社はやっぱりブラックか。彼は心の中でそう呟いた。

「良いさ。さっさと行こうぜ。」

チヒロはレイシフト台の上に乗った。元気だねぇ。と九重は呆れを混ぜながら台の上に乗った。

「問題発生です!」

「は?」

二人は研究員の方を向いた。周囲のモニターには[Eroor]の文字が広がっていた。

「待て!これどうなんだよ!」

「知らないよ!こんなの初めてだし・・・。」

二人の時間は次第に乱れて行き、彼らがそれぞれに落ちた先に片割れはいなかった。

「どうなってんだよあのクソ会社。」

「ったく、着く先で聞いてないことしか起きてないじゃないか・・・。」

二人は困惑しながらも、少しずつ歩みを進めるのだった。




作:というわけでDog Days編終了です!
エ:実に半年の月日だったな。
リ:長かったでありますなぁ。
ユ:ここからはまた違う世界でござるなぁ。
ダ:武運を祈るでござるよ!
作:皆さん!ご愛読
全員:ありがとうございました!!


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白猫プロジェクト〜100億ドルの街編〜
その世界の名は


遠く暗い道が続いている。鉄の香りと腐り乾いた空気が彼らの鼻を通っていった。

「ったく、ここホントどこだよ・・・。」

チヒロは周囲を見渡すも、そこには薄暗い灯と牢獄しかない。

「ここに捕まった。と考えるのが妥当だね。意味はわかんないけど。」

「ったく・・・、どうなってんだよ。」

ロードの言葉にチヒロは頭を抱えた。今回は別々に空間が飛んだため、この世界に九重がいるかどうかさえ怪しいところだ。

「困ったね・・・。」

あぁ。とチヒロが小さな声で返すと、ギシギシと鉄の擦れる音がした。

「何だ?」

チヒロはその音へ近づいていくと、そこで少女が手首を鎖で繋ぎとめられていた。銀髪の少女はそれに気づいてないかのように眠りについている。

「おい!!」

咄嗟のことにチヒロが大きな声を出してしまった。その声に呼び寄せられたか、チヒロたちの背丈の二倍もある男たちが彼らへと迫ってきた。

「お前・・・誰だ?」

「お前らこそ誰だ・・・!」

大男は睨み付けたチヒロへと殴りかかった。彼はその大きなモーションを見事に避けガンバドライバーを装填した。

"Ganba rider stand by ready"

「変身!」

チヒロはライダー状態へと武装し、すぐさま仮面ライダー斬月の武器である「メロンディフェンダー」を召喚した。

「どけええええ!!」

チヒロは盾から衝撃波を繰り出し、大男たちを薙ぎ払った。そしてその衝撃波で牢獄の檻すらも砕いた。

「大丈夫か!?」

チヒロの問いかけに少女は寝息で答えた。無事なことを確認したところでロードへと人格が変わった。

「寝てるみたいだ・・・。すぐさま脱出しよう。」

ロードへと人格が変わると、鎖を壊しメダガブリューを召喚した。

「お前まさか・・・。」

「そのまさかさ。いくよ・・・!」

壁めがけてストレインドゥームを放ち、壁へと大きな穴を開けた。

「さあ、脱出するよ!」

「お前滅茶苦茶だなホント。」

チヒロの呆れ顔を遠のけ、ロードは少女を連れて空へと飛び上がった。

「おい!何事だ!」

大きなガトリングを背負った男が軽々しくこちらへと走ってきた。

「ブラッド!?収容者が逃げた!」

ブラッドは空を見つめた。空気を吸い、彼らの匂いを追った。

「まだ追える・・・。さっさと追うぞ!」

ブラッドを取り囲んでいた大男たちはすぐさま武器を持ち、牢獄の外へと走っていった。

 

一方で九重は暗い細道を歩いていた。すぐ横では男たちが騒ぐ声が聞こえる。

「もう・・・、あのポンコツ会社め。変な仕事ばっかり押し付けて・・・。」

チヒロと出会って一ヶ月ほど経つものの、彼へと与えられる仕事は本当に変わったものばかりだった。

「あの人たちだけ楽しやがって・・・。許さんぞ。」

九重は自分でもどうだってよくなる愚痴を言いながら入り組んだ道をフラフラと入っていく。そして明るい場所に出たと思ったその時だった。

「うわっ!」

「きゃっ!」

九重と女性は倒れ込み、しりもちをついた。先に立ち上がったのは九重だった。

「大丈夫ですか!?」

「えぇ・・・。大丈夫です。」

女性は金色の髪をなびかせ、その紅い目と歌声のような声で九重へと話しかけた。

「あ・・・あぁ、それなら良かったんですけど。」

危ない。と九重は心を止めた。この声を聞いただけで惹かれてしまいそうだ。しかし、その甘い時間は唐突に消し去られた。

「下がって。」

女性にそう言われると九重はあたりを見渡した。そこには真っ黒な影が無数に彼らを囲み、まるで闇のようにこちらに迫っていた。

「逃げ道はなさそうね。」

「戦うしかないってわけですか・・・。」

九重はガンバドライバーを装填した。女性は装填されたベルトを見たまま頭に疑問符を並べているようだった。

"Ganba rider stand by ready"

「変身!」

九重はノヴェムへと変身し、彼は仮面ライダー龍騎のモンスターであるドラグレッダーそして仮面ライダーリュウガのモンスターであるドラグブラッカーを召喚した。

「やれ。」

赤と黒。二頭の龍は一斉に炎を放ち、闇を焼き払っていく。そしてドラグセイバーを召喚し、同時に斬りかかっていく。しかし、闇たちは消えるどころか数を増していた。

「こいつら正気かよ・・・。」

九重の焦りようを見て女性は片手に銃を構えた。

「私も戦おうかしら・・・。」

女性がそう言うと、女性の辺りには蝶が舞い、あたりの空気を一瞬にして変えた。

「何だ・・・これ。」

ノヴェムが周囲を見ているのも束の間、闇たちは消滅していた。

「私と・・・組む気は無いかしら?」

女性は九重の後ろへと回り込み、小さく問いかけた。彼女の持っていた銃口は確実に九重の脳天へと向けられていた。

「・・・何が望みですか?」

ノヴェムは変身を解き、女性へと鋭い視線を送った。すると女性はとある写真を渡した。

「名前はティナ。この子がこの街で狙われているの。」

ふーん。と九重は目を細めた。

「こんな街で狙われる子もいるんですね。」

女性は返す。

「そりゃそうよ。私だって狙われてるかもしれない。この"100億ドル"の街でね。」

「100億ドル?」

女性はハッとしたように言葉を急かした。

「挨拶がまだだったわね。私の名は"ファルファラ"。よろしくね。」

九重は軽く頷く。

「協力しますよ。僕の名前は九重一成。僕も人を探してるもんで。」

二人は握手を交わし、九重は仮面ライダー鎧武のバイク「サクラハリケーン」を召喚し、ファルファラを乗せて夜の街へと走っていった。



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二人のガンバライダーは今

ロードは少女を背負いながら、夜の道を駆けていた。

「ったく・・・、どこに行き着けば良いんだ?」

裏道を抜けて行き着いた先は、大きな広場だった。そこには多くの人と何やら物騒な動物がうろついていた。

「何だここ・・・。」

チヒロが辺りを見渡した時、背負っていた少女が目を覚ました。

「ん・・・?」

「あぁ、起きたか?」

少女は驚き、大きな声を出した。

「あんた誰よ!?」

ロードに人格が変わり、話を進めた。

「君はどこかわかんないところに閉じ込められてたんだ。そこから僕らが偶然いて・・・」

少女は声を荒げて怒りを露わにした。

「あんたらの助けなんて呼んでないわよ!私は行くからね!」

「ちょっ・・・」

チヒロに性格が変わり、声を荒げた。

「お前どこに行くんだよ!一人じゃ危ねえぞ!!?」

少女は留まり言葉を放った。

「私は私の目的を果たすだけよ。だから私は行くの!」

チヒロは呆れの息を漏らした。

「じゃあ、いけよ。目的のためなら仕方ない。」

「ちょっ!?チヒロ!?」

少女とチヒロは別々の道へと歩いて行った。チヒロは街へ、少女は細い裏道へと入っていった。

 

九重はファルファラと共に小さな廃墟に身を寄せていた。

「ここはどこなんですか?」

九重の質問にファルファラは得意げに答える。

「ここは私の基地。みたいなものかしら?ここで私は生活しているの。」

九重は外を見た。外には警察らしき人たちが辺りを走っていた。

「ここは一体どういう世界なんですか?」

「ここは百億ドルの世界。この世界は百億ドルで作られた偽りの世界よ。この豪勢な街もね?」

寂しげな表情を浮かべて、九重は外を見つめる。

「寂しそうね?」

ファルファラは隣に座った。彼女は心配そうに九重を見つめた。

「大切な友人が・・・、どこかにいるはずなんです。何をしているかもまだ分からないです・・・。」

そう。とファルファラも心配そうに外を見つめた。

「きっと生きてるわ・・・。この世界のどこかで。」

二人はネオンの光る街をただただ見つめるのだった。

 

ネオンの街へが光る街。その中心部であるカジノの奥では、傭兵のブラッドと、その兄であるヴィンセントが話をしていた。

「すまねぇ兄貴・・・。俺が不甲斐ないばかりに・・・。」

ヴィンセントはブラッドを蹴飛ばした。その目の圧力は金髪で大きな体のブラッドすら目を背けるほどだった。

「じゃあさ〜、お前は早く追おうともしないわけ?軍がないと動けないわけ?」

ブラッドは目を背け続ける。ヴィンセントはそれを見かねたように胸ぐらをつかんだ。

「てめえ一人じゃ何も出来ねえのかって聞いてんだ!!?追うことぐらい容易いだろうがこのポンコツ!!」

ブラッドを壁に打ち付けると、ヴィンセントは息を整え言葉を交えた。

「軍を貸してやる・・・。これで失敗するようならてめえはただのポンコツだ!よく覚えとけ!!」

「・・・あぁ。ありがとう。」

ブラッドはその場においた身の丈よりも大きいガトリングを背負い、彼の元を去った。

「ったく・・・。」

ヴィンセントはいかにも高そうなソファに腰がけ、書類を見た。

「誰にも・・・、渡すわけにゃあいかねえんだよ・・・。」

その書類には逃げ出した少女「ティナ」についての情報が書かれていた。

 

少女は裏道を抜けて外へと歩いて行った。

「何でこんな目に遭ってるの・・・?どうなってるのかしら・・・?」

少女は歩き回り、行き着いた先には多くの男がいた。

「あなたたちは!?」

男たちは少女を囲む。大きな身体は小さな少女を囲む。

「ヴィンセント様のご命令だ・・・。悪く思うな?」

男たちが寄り掛かろうとしたその時だった。

「待てよ。」

そう声が聞こえる。そこにいたのはチヒロだった。彼は少し荒れた髪を撫でて彼らへと歩いて行く。

「何だお前は?」

少女も驚いた目で見つめた。チヒロはガンバドライバーを装填した。

「さあな。」

チヒロは小さく「変身」と呟き、男たちへと走って行った。

「やれ。」

男たちはロードたちへと走って行った。ロードは仮面ライダーアギトの武器である「シャイニングカリバー」を召喚し、男たちを薙ぎ払っていく。そして、少女を背に置いた。

「ほおっておいて・・・。って言ったのに。」

軽く笑い、少女を見つめた。

「お前がオッケーでも俺がダメだった。ただそれだけの話だ。」

ロードは二対の剣で敵を振り払っていく。その剣は残像で何本の剣にさえ見えた。

「こいつ・・・!!」

その途端、大男は合図を出した。彼らの後ろには不穏な影が近づいていた。

「なっ!!?」

チヒロが気づき、剣を振るったのも遅かった。獣が飛びかかり、彼へと飛び込もうとしていた。

「しまっ・・・」

しかし、彼らへと飛び込む前に獣は肉片へと姿を変えた。ロードたちが見ると、少女の手には二つの剣が宿っていた。

「私だって戦えないことはないんだよ?」

少女の自慢げな姿にチヒロは少し笑みを浮かべ、再び大男たちへと剣を向けた。

「さあ、大将を呼んでくるなら今のうちだぞ?」

チヒロはシャイニングカリバーを大男たちに向けた。忽ち大男たちは逃げ去って行った。

「・・・ふぅ。終わったか。」

少女は倒れ込んだ足を無理矢理あげるように立った。

「ありがとね。あと・・・ごめん。」

ロードへと人格が変わり、少女の頭を撫でた。

「心配することはないよ。追っ手が来ても僕らで何とかする。」

少女は小さく頷き声を出した。

「・・・ティナ。」

「ん?」

ロードが首をかしげたので、もう少し大きな声を出した。

「ティナ。それが私の名前。」

ロードはにこやかに彼女の手を取った。

「じゃあ行こうか。ティナ。」

ティナとロードはあまりにも感情に合わないほど明るいネオンの街へと歩いて行ったのだった。



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黒幕はどこへ身を隠すのか

街の明かりが少しずつ消えていく夜。そんな夜の中をチヒロとティナは裏路地に入りながら少しずつ前に進んでいた。

「どこに繋がってんだこれ?」

「分かんないよ!」

チヒロとティナは見たこともない街で地図もなく、ただ街灯の光に寄っていくように走っていた。恐らく敵も追ってきている。彼らの焦りは高まる一方だった。

「ねえ?これおかしくない?」

ロードの声にチヒロは疑問符を浮かべた。時計を見ると七時を指していた。

「僕らが降りてきたのは夜だった。つまり朝になってもおかしくないんじゃ・・・?」

チヒロは足を止め思考回路を回した。しかし、問いに対する答えなど出るはずもなかった。

「どうしたの?」

ティナの問いかけにチヒロはあぁ。とだけ空返事を返した。ティナはチヒロへと鋭い目を向けた。

「何か隠してるなら何か言って!じゃなきゃ分かんないよ!」

ティナの強い声にチヒロは後ずさりをしたような気分だった。チヒロは一息ついて話を始めた。

「この場所がまだ夜の理由ってお前にわかったりするか?」

ティナはうーん。と考え込む。そこへ聞き覚えのある声が答えを出した。

「この世界そのものが夜しかないとしたら?」

「!?」

聞き覚えのある声だった。何度も戦い、怒りをもぶつける存在。

「アクート・・・。」

ティナの疑問符は更に多くなった。彼女の前にはもう一人の鎧をまとった戦士がいた。

「またお前の仕業ってわけか・・・。」

アクートは首を横に振った。

「今回のゲームは私が仕組んだものではないのだ。」

「何?」

アクートの不満気な声にロードは少しの動揺を見せた。

「じゃあ誰がこの戦いを仕組んでるんだよ!?」

ロードの問いにアクートが答えることはなかった。そして去ろうとしたその時、彼はロードたちに聞こえるように伝えた。

「君たちは仕組まれて別の道へと落とされた。それは理解しておいたほうがいい。」

「待て!それどういう・・・!」

咄嗟に出たチヒロの声も虚しく、アクートは次元の壁へと消えていった。毎度のごとくその後に出てくるような敵がいることもなかった。

「どうやら本当に今回は彼が仕組んだものではなさそうだね。」

ロードは消えていった次元の壁の先を見つめた。ティナは呆然とそれを見つめた。

「・・・ねぇ?」

絞り出すような声でティナはロードへと顔を向けた。ロードもその声を聞き取りティナの方を向いた。

「その「もう一人」の人を探してみない?答えがあるかもしれないし。」

ロードは考え込むように顔を上に向け、少し経ってから顔を縦に頷いた。

「んじゃあ、決まりだな。」

チヒロとティナはまた暗い街路の中を走っていくのだった。

 

九重は後ろにファルファラを乗せてバイクを飛ばしていた。速度制限のないこの場所で普通の何百倍ものスピードを出せるライダーのバイクはどんどん車たちを抜かしていく。

「ねえ、これ危ないんじゃないかしら!」

「大丈夫ですよ!腕はありますから!」

風に飛ばされないよう必死なファルファラをよそに、バイクはどんどんスピードを上げていく。

「着きましたよ!」

「もう・・・、刺激が強すぎるんじゃないかしら?」

そして風のようなスピードで行き着いた先は一つのカジノだった。そこで文句たらたらなファルファラを降ろした。

「じゃあ、ライブ頑張ってください!」

「ありがとね。九重くん。」

ファルファラはそのままカジノへと入っていく。聞くところによると彼女はここらで有名な歌手らしい。そしてこの場所に呼ばれることも多いらしい。

「ここも儲かってんだろうな。」

九重はその大きな施設に背を向けバイクを走らせようとすると、後ろから男に掴まれる感覚がした。後ろを見ると、大柄な男が筒を持って彼を睨んでいた。

「・・・なんの用事ですかねぇ?」

「お前、そのベルトどこで手に入れた?」

男が指差していたのはガンバドライバーだった。九重は頭を掻きむしって頭の思考回路を回した。

「・・・答える気がねえんなら!!」

男は九重を投げ飛ばし、九重は叩きつけられるように地面に倒れた。その瞬間に彼もガンバドライバーを装填した。

"Ganba driver stand by ready."

「変身!」

ノヴェムへと変身し、即座に仮面ライダーファイズの武器である「ファイズブラスター」を召喚した。

「やっぱてめえも奴と同じか。」

「奴ってまさか・・・!!」

男は筒状のマシンガンをノヴェムへと放った。落ちていく薬莢はその弾数の多さを示した。

「っ!!」

ノヴェムはそれを防ぐようにファイズブラスターを盾にするも、攻撃が鳴り止むことはなかった。

「てめえの仲間の場所を教えろ!さもなくば・・・」

「教えて欲しいのはこっちだっつうの!!」

"Faiz pointer xceed charge"

鳴り止まない弾雨の中ファイズブラスターを構え、一撃のレーザーが彼の弾を消し去り、彼の横を通り過ぎた。そしてノヴェムは男の胸ぐらを掴んだ。

「君たち人間に危害を加えるつもりはない。だから戦いを・・・」

「ブラッド!」

周囲から兵士が集まってきた。おそらく先程のレーザーで勘付かれたのだろう。

「てめえら・・・何もんだ?」

「僕たちはガンバライダーだ。よく覚えておけ!」

ノヴェムは突き放し、自分のバイクへと跨った。そして瞬く間に走り去っていった。

「待て・・・」

「よせ!お前らで勝てる相手じゃない・・・。」

ブラッドは追おうとする兵士たちを制した。

「ガンバライダー・・・か。厄介なことになったな。」

ブラッドは走り去っていくガンバライダーの背を見つめるのだった。



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銃口を向け合う二人

百万ドルのネオンが輝く街。

そんな街をチヒロは走って行く。後ろにはティナがおり、その小さな手は強く千尋を握っていた。

「まずいな・・・。」

「どうしたの?」

チヒロは突然足を止めた。後ろにいたティナはそれぶつかり、ぶつけた鼻を抑えた。

「どうしたの?」

何度もチヒロに聞くが、答えようとしない。傍からそっと見ると、そこに立っていたのは一人の男だった。男は巨大な筒を肩にかけて二人の前に立ちはだかった。

「お前・・・。」

「どうやら味方ではないらしいね。」

ロードは男を見てそう言った。男の憤りが手の握り具合でよくわかる。強く握り何かを潰そうとするかのようにどこまでも力が入っていく。

「テメェがガンバライダーってやつか。」

「っ!?」

ロードとチヒロ、そしてティナまでもが驚愕した。チヒロとロードは名前を知ってるただ一つの手段しか思いつくことはなかった。

「テメェ・・・ノヴェムに、俺の仲間に何をした?」

男は筒を下ろし、こちらに銃口を向けた。

「逃げられたさ。だからテメェらで借りを返す。」

その巨大なガトリングの銃口は変わらずこちらを向いている。銀色に輝き、ロードたちよりも遥かに大きく見える。

「こいつ、やる気だな。」

チヒロは後ろのティナを見つめた。今ここで二人がやられるわけにもいかない、かと言ってここでティナが捕まればまた一からのスタートだ。

「僕に考えがある。」

ロードがチヒロにそう言うと、チヒロはその言葉に頷き、ティナの手を離した。

「ティナ。」

そっとティナを後ろに下げると、ガンバドライバーを装填し、ICカードをベルトへと入れた。

「変身・・・!!」

「うぉらあああああああ!!」

男がガトリングから何発もの銃弾を放った。その弾は無数の煙となり彼の視界から何もかもを消し去った。

「これで・・・っ!!?」

爆煙の中から飛ぶように戦士が現れ、男を殴り飛ばした。男は吹き飛ぶとそのままビルに叩きつけられた。

「テメェ・・・!!」

「こっちのセリフだ。名乗りもせず襲いかかって来やがって。」

変身したロードはそのまま殴り飛ばした手を払い、拳を男に向けた。

「俺たちはガンバライダーロード。何を思ってるかは知らねえけど、アンタが思うほど俺らに敵意はないぜ?」

男は笑ってもう一度ガトリングを構えた。

「テメェらに名乗る名なんてねえな!こちとら生活がかかってるんだ。その子供は渡してもらうぜ!」

ロードは拳を強く握りしめ、もう一度構えなおした。

「悪いが人の命を金蔓にしか見てないテメェなんかに渡す命はねえ。さっさとぶっ倒して道を切り拓く!」

ロードはチヒロへと問いかける。

「でも変じゃない?何もしてないティナちゃんが何で・・・?」

チヒロはバッサリとその言葉を切り捨てた。

「どうであれ救うことが先決だ。ケリつけて事情を聞くぞ。」

男はロードへと向かってくる。ロードの目が赤く光ると、ロードもまた走り出した。

 

再会した九重とファルファラは再びサクラハリケーンのアクセルを飛ばしていた。

「聞いてなかったんですけど、何でこの子は狙われてるんですか?」

「それは・・・」

「知りたいか?」

ファルファラが答えようとした瞬間、彼らへと呼びかける声がした。その声は九重もよく知る声だった。

「アクート・・・!!」

九重はバイクを止め男の前に立ちはだかった。そこにいたのは青いガンバライダー「アクート」だった。

「えっ誰?」

「やっぱりお前が黒幕か・・・!!」

九重はガンバドライバーを装填するとそのままノヴェムへと変身した。

「この世界に何をした!!」

ファルファラの質問に答えずにノヴェムは話を続ける。アクートは横に首を振った。

「残念ながら私ではない。来る前から崩壊してた故な。」

「何?」

構え続けていたノヴェムの肩にファルファラが手を置いた。そして一歩前に出る。

「あなたは誰?何が目的なの?」

アクートはフッと笑うと自らの胸に手を置いた。

「我が名はアクート。終末を見守り、進めるもの。とでも言っておこうか。」

「終末を・・・進める?」

ノヴェムがひどく引っかかり困惑の表情を浮かべていると、アクートは少しほくそ笑み話を続ける。

「本来は進めるためにいた。だがこの世界は歪んでいた。何者かの仕業によってな。」

ファルファラは少し顎に手を置くと、すぐさま答えを見つけたように言った。

「まさかティナちゃんが・・・!!」

「ちょっ!!ファルファラさん!!」

そのままファルファラが走り出すと、それを追うようにノヴェムもバイクに跨り追っていく。

「さあ、どんな破滅を見せてくれるのだ?我が友、いや「カナデ」。」

アクートはそっと後ろを向くとそのまま闇夜へと消えていった。

 

チヒロはソニックアローを召喚し、男と激しい銃撃戦を繰り広げていた。

「こいつ・・・!!」

「強い・・・!!」

お互いの攻撃は弾かれては飛ばしての連続だった。距離も詰まらず、ただたた横一線に走り続けるだけだった。

「埒があかねぇ・・・。」

「僕に考えがある。」

そう言うと、目は緑に変わりロードはそのまま高く飛び上がった。

「無駄だ!!」

「読み通り・・・!!」

男が空中に銃を放つも、その銃の照準はずれて当たりすらしない。

「何でだ!!どうして!?」

「悪いが空気抵抗を使った知力の勝ちだ。」

そのまま空中から矢を放った。その矢は一直線に男へと放たれ、男は後ろへと下がった。

「これで・・・っ!?」

「遅いよ。」

ロードはそのまま近づき、綺麗な回し蹴りを腹に見舞いした。男は無言は宙を舞い、そのまま地面に倒れこんだ。

「ふぅ・・・。」

さっきまで近くにいたティナは少し遠いところにいた。周りを確認するとすぐさまティナの元へと駆け寄っていく。

「怪我はなかった?」

「うん。」

ティナが頷いたのを見たのち、ティナを連れて男へと近寄っていく。

「さあ、聞かせてもらおうか?君の目的を。」

「ざ・・・けん・・・な。」

男が立ち上がり銃を持とうとした瞬間、ロードはその手を止めた。

「僕らは別にあなたと喧嘩しに来たわけじゃない。あなたの事情が知りたいんだ。」

「まあ、ふっかけられたのはこっちだしな。」

ロードはチヒロの言い分に頭を掻き、話を進めていく。

「あなたがティナちゃんに執着する理由は他にあるんじゃないですか?」

「あっ、いた。」

ロードたちが後ろを向くと、ノヴェムと女性が立っていた。

「九重?」

「今だ・・・!!」

ロードたちが後ろを見た瞬間に男は走り出し、瞬く間にロードたちの元から姿を消した。

「あれはあの時の!!」

ファルファラは見覚えのある逃げ姿にふと笑みをこぼした。

「あれはブラッド。ここらじゃ有名な傭兵よ。」

チヒロはふーん。とティナを後ろに下げた。九重もそれを見てこちらへの反応に気付いた。

「その子を渡してくれないか?こちらにとって重要な・・・」

「断る。」

やっぱりか。そんな表情でチヒロを見つめた。

「こっちは穏便に事を済ませたいんだけど?」

「知るか。渡せねえもんは渡せねえ。」

九重は大きなため息をつくとICカードを取り出した。それを見てチヒロもまたICカードを取り出した。

「だったら実力行使しかないよね?」

チヒロは一瞬もティナを前に出そうとしなかった。

「チヒロ・・・。」

「安心しろ。得体も知れない奴らに渡したりしねえよ。」

九重とチヒロは同時にガンバドライバーを装填すると、赤と青、互いに光が纏った。

「変身。」

二人は変身すると、そのまま構えた。

ノヴェムの頭にアクートの言葉がよぎる。結末、終末。そんな言葉が頭を何度もループする。

「来い・・・。」

「あぁ・・・。」

ティナとファルファラは一歩二歩後ろへと下がった。二人のガンバライダーの前には賑やかな街に流れない不穏な風が吹いた。



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ぶつかり合い赤と青は交錯

-その夜 周囲に銃撃戦の音が絶えず聞こえた-

ロードとノヴェムは互いに平行線を保ちながら何発もの銃撃を相手に加えていく。

その銃弾は互いにぶつかり合い、小さな粒が弾け飛ぶ音が幾つも響く。

「何故ティナを狙う!!?」

「何故君はその子を守る!!?」

二人のガンバライダーが互いの疑問をぶつけ合いながら、銃撃戦は加速を極めた。

それを横目で見ていたファルファラは、ティナへと少しずつ歩みを進めた。

「こっちに来てくれないかしら?あなたが必要なの。」

「ティナ!!」

ロードはファルファラに向けて銃を放とうとしたその時だった。

「っ!!?」

ノヴェムが投げたガンバブラスターがロードの手に直撃して、ロードの手に持っていたボルテックシューターは引き金を引かぬまま地面へと落ちていく。

ノヴェムは一気に加速をつけてロードへと近づいていく。

「君の相手はこの僕だ。」

「相手してる場合じゃねえんだ!!そこをどけ!!」

ロードはノヴェムに対して軽く舌打ちすると、ロードはシンクユニゾンとなりパラディオンを、ノヴェムはメタルシャフトを召喚した。

二人は大きな音を立ててぶつかり合い、その衝撃で周囲には砂煙が嵐のように巻き散った。

「やっぱり私の力が・・・。」

そうティナが呟くと、ファルファラは小さくため息をついた。

「やっぱりあの子・・・。」

ティナへと大きな声でファルファラは呼びかける。

「あなた自身も気付いているはずよ!自分の持つ力の大きさ、その危険性も全て!」

ティナは少し俯くと、ファルファラの声を塞ぐように首を横に振った。

「逃げてても始まらないのも、あなたが一番わかってるはずよ!」

ティナは俯いたまま顔を上げなかった。

勿論ティナには聞こえている。だが受け入れられない気持ちが大きく、彼女の声を聞くほどに自分の暗さがにじみ出るようだった。

ロードはノヴェムと鍔迫り合いになり、その棒を弾き飛ばした。

「お前がティナを狙う理由はなんだ!!!!この子は何を」

「君に答える義理は無いと言った筈だ!!」

ノヴェムは立ち上がると同時に一気に飛びかかり、彼へメタルシャフトを叩きつけた。ロードはパラディオンを両手で持ちそれを防御した。

「今回ばかりは君を巻き込めない。これは僕の判断だ!」

二人の間には火花が散り、小さく鉄が削れる音が二人には聞こえた。

「僕は君に勝てないかもしれない!!でも君を巻き込んで災難へと導くよりは大きくマシだろう!!!」

互いに弾き飛ばすと体勢を立て直して、再び火花が散った。

「幼い子供を巻き込んでおいてよく言うよ…。」

ロードはノヴェムの腹に蹴りを一撃加えた。ノヴェムは少しよろめいた後、壁へともたれかかった。

「どんな力を持ってたとしてもその命を守るのが俺たちの使命だろうが!!」

「・・・この分からず屋が。」

互いの棒に炎がまとい、二人は同時に近づいていく。

「炎王剣!!」

「メタルブランディング!!」

ぶつかった炎は衝撃波を生み出し、たちまち周囲に炎が燃え移った。

街は焼け、周囲には岩石が飛び散った。車は爆発で黒く焦げ、地面には大きな亀裂を生んでいた。

ロードとノヴェムは武器を捨て、拳をぶつけあった。

その有様は最早泥仕合いとも言えるような状態であり、互いにふらつきながらも拳を相手の顔面へとぶつけた。

「はぁ・・・」

二人から大きな息継ぎの音が聞こえてくる。

二人の体力・気力は限界へと到達しており、これ以上の戦いが見込めないのはティナとファルファラ、そしてロードとノヴェムにも見えていた。

「ねぇ」

「・・・なんだ。」

ノヴェムは手を止めてロードへと話しかけた。ロードは少しずつ手を下ろした。

「こんな醜い争いを見てなんとも思わないのか?ロード。」

彼が語りかけたのは、その赤い複眼の奥で静かに戦いを見守っていたもう一つの人格だった。

ロードは静かに口を開いた。

「おかしいよ。こんな戦火が広がっていても誰も誰かを助けようとしない。炎を生んだ僕らさえこうやって戦い続けてる。」

チヒロはロードへと少しずつ人格を変え、その赤い複眼はやがて緑へと変わった。

「僕らはもう巻き込まれている。この世界に来てティナちゃんを救ったその時からずっとだ。なのに今更この子を助けられないなんておかしいじゃないか!!」

ティナへと歩もうとしていたファルファラの足は止まり、ロードへと目線を向けた。

何も考えていなかった。ティナを救い、ずっと共に行動してきたロードたちのこと、そしてこの理不尽に巻き込まれて何も言えずいたティナのことを。

ノヴェムは静かに拳を向けた。ロードはチヒロへと人格を託してゆっくり去っていく。

「決着だ。」

二人は小さな静寂の後、一気に距離を縮めて拳を振るおうした。

「やめて!!!!」

その瞬間だった。ティナの身体から幾つもの宝石が生み出され、瞬く間に周囲へと吹き飛んだ。

その光は建物を修復し、炎もそれから出ていた黒煙も全て消し去った。

ロードとノヴェムが周囲を見渡す頃には街に溢れていたネオンの光が二人を照らしていた。

「これは・・・?」

「これが、ティナちゃんの力。」

ロードとノヴェムの傷は癒えて、先ほどまでボロボロだった二人はふらつくこともなくなった。

ティナは地面に吸い込まれるようにゆっくり倒れ込んだ。

「やっぱりこの力は危険だわ。だけど・・・。」

ファルファラはティナへと近づき、その小さな体をゆっくり抱き上げた。

「待て」

「私が間違っていた。」

ファルファラはロードたちへと近づくと、ティナをロードへと差し出した。

「良いんですか?ファルファラさん。」

ノヴェムはそう問いかけるとファルファラは頷いた。

「私はこの子の幸せを考えていなかった。危険だからその身を隠す。それだけを考えてこの子のことを何も考えちゃいなかった。」

彼女の言葉を聞いたロードはファルファラの腕で眠ったティナを預かり、そのまま変身を解いた。

「聞かせてくれないか?あんたたちの目的、そしてティナに降りかかろうとしてることを。」

ファルファラは頷きティナへと視線を向けた。

この子に降りかかる。いや、この子が振りまく災難を彼に伝えれば分かるはず。彼女自身そう感じた。



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傀儡を持つ闇の正体

夜の街を疾走する二つのバイクが大きな音を立てる。

チヒロと九重はファルファラ、そしてティナを乗せてとある場所へと向かっていた。

「あんたの勘を信じて良いんだろうな?」

「えぇ。っていうか勘じゃなくて確信よ。」

ファルファラはチヒロへとそう告げる。

「本当にお前の言う組織がティナを狙ってるのか?」

「えぇ、あの男"ブラッド"が関係してるとしたらほぼ確信に等しいわ。」

ファルファラとチヒロの会話を九重は知らずばかりと後ろに乗せたティナを見た。

ティナは先ほどの不思議な力を使った後、ずっと眠っていてそのまま目を覚まさない。

「大丈夫なのか・・・?」

ティナの先ほどの力を見る限りただの弱い修復能力でないことは確かだ。そしてもう一つ

「あの時何故何も反応がなかった?」

彼のタブレットの分析でも解析されない力が働いていたのだ。しかもそれは解析されないのではない。"検出"されなかったのだ。

「どういうことだ・・・?」

そのことが頭の中で邪魔して何も思考が働かない。これが奴らが力を狙う理由だとするならば・・・

「九重!!」

チヒロの言葉にハッとして前を見る。目の前を見た瞬間車にぶつかりそうになり急ブレーキをかけた。

ギリギリに止まったバイクは大きな音を立ててタイヤを引きずった。

「どうした?らしくないぞ。」

「悪い・・・。」

チヒロはその横に止まり九重の肩を叩いた。九重のその申し訳なさそうな顔を見てファルファラはその間に顔を覗かせた。金色の髪が二人の間で靡いた。

「ねえねえ、休憩にしない?」

チヒロと九重は後ろのティナを見た。彼女についてお互いの情報を知る必要がある。

 

ブラッドがヴィンセントの元へと帰ると、そこには足を組んだヴィンセントの姿があった。

「失敗したのか。」

「・・・。」

ブラッドへとゆっくり近づき、ヴィンセントは首根っこを掴んだ。

「俺が言った言葉・・・覚えてねえわけじゃねえだろうな?」

「・・・。」

ブラッドは黙り続けた。ヴィンセントのその威圧感から声が出ないのだ。

ヴィンセントはその威圧感を保ったままブラッドを地面に叩きつけて、背を向けた。

「お前は今日でクビだ。」

「っ!!?」

ブラッドはその言葉に稲光を打たれたような衝撃が走った。

これまで自分を使役していた兄 ヴィンセントからはとても出るような言葉ではなかった。

「で・・・でも兄貴」

「テメエはクビだつった。どこにでも好きなところに行きな。」

ブラッドはその言葉に耐えられなかったのかそのまま走り出して部屋を立ち去った。

「・・・随分と大胆なリストラじゃねえか?」

「これはこれはミスター・コステロ。」

コステロと呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべてヴィンセントの座椅子に座り込んだ。

「で、"プレシャス・チルドレン"は見つかりそうか?」

「えぇ。この島から逃げることは不可能ですので。」

ヴィンセントはその場にあったワイングラスを持ち、軽く回した。

今宵は一段といい月だ。そんな月を眺めて一杯、ワインを口へと運んだ。

 

近くにバイクを止めた四人はそのままティナをベンチに座らせて三人は立ちながら会話を続けた。

「つまり今回の首魁はアクートではなく、その組織に関わってる誰かである線が一番あると。」

チヒロと九重は背中合わせになり、周囲を見渡した。

こんな普通に話しているがここは敵の本拠地、油断など何処にも許されていない。

「そして、そのブラッドはその組織のドンにいる男の弟で傭兵として雇われている。ってわけか。」

九重はうーん。と首を傾げながらそっとチヒロを見た。横目に見えたファルファラは眠たそうな目をしていた。

「それにしてもその"アクート"って結局何者なのかしら?」

ファルファラの言葉に二人は疑問符を浮かべた。

「その人の目的が何なのか、そしてどんな人なのか。あなたたちはどこまで相手の情報を持っているのかしら?」

ファルファラの言葉に二人は黙り込む。そう言われてみれば彼らはアクートを追って相当の月日が経っているが、彼の情報など何も持っていなかった。

変身者は誰なのか、そして何の経緯があってガンバライジング社を脱退したのか。その全てが謎に包まれているのだ。

「そう言えばアイツのこと、何も知らないな。」

チヒロの言葉にロードと九重は何も言えなかった。

「んじゃあ、そのアクートの情報を集めるのも私たちの今回の目的に入れなきゃね。」

「その必要はない。」

全員は後ろを向く。そこにいたのは月明かりに照らされた黒い仮面ライダーだった。

「仮面ライダー・・・」

「新牙・・・。」

ロードと九重はガンバドライバーを装填し、ICカードを差し込んだ。

「変身!」

ロードとノヴェムへと変身した二人は同時に走り出して一撃の拳を振るった。新牙はその拳を弾き飛ばした。

「お前たちでは何も守れない。」

新牙の吐き捨てるようにそう言った。

「前の俺たちとは」

「ひと味もふた味も違う!!」

チヒロとノヴェムは同時に足刀で蹴りを放つが、新牙はそれを止めて一気に後ろへ払った。

「下がって!!」

払われた勢いで後ろへと下がるとファルファラが銃を構えて新牙へと向けた。

「取った!」

何発もの弾丸が新牙へと直撃する。煙を上げるその弾丸の奥には全くダメージを受けていない新牙の姿があった。

「これだけ食らっても生きてるなんて・・・。」

新牙は音を上げず一気に加速をつけるとファルファラへと一気に近づき首を締め上げた。

「っ!!?」

「どうした?その程度か。」

締め上げながらそのままの勢いで壁へと叩きつけた。

ファルファラの口からはツバの混じった血が飛び、そのまま息をしようと必死に口を開ける。

「テメェの相手は俺だ!!」

ロードはアップルリフレクターとソードブリンガーを召喚し、新牙の後ろから剣を振りかざした。

「邪魔だ・・・!!」

ファルファラから手を離すと、新牙はロードの出した武器に似たリンゴの剣と盾を召喚した。

「何・・・!?」

九重はそのデータを見て驚愕した。

まさかガンバライジング社ですら把握してない武器があるとは思ってもなかったし知ってすらなかった。

「ロード!!」

「来るな!!」

九重が助けに入ろうとした瞬間チヒロがそれを止めた。

二人の鍔迫り合いは火花を散らし、鈍い鉄の音が響き渡る。

「兵器の分際で・・・人を殺しておいてまだ命を守ろうとするか!」

新牙は一気に押し出すと、ロードはゆっくり立ち上がった。

その目は緑に変わり、ICカードを反転させてバーストチェンジした。

「君が何者かは知らない。だけど僕らを狙うことに理由があるなら教えてくれ。」

「教える義理など・・・」

「君になくても僕らにはある!!」

話を断ち切ろうとした新牙の言葉を切り裂いてロードは話を続ける。

「君は僕らが人殺しなんてした覚えはないんだ。だから誰が僕らの名前を使って人を殺めるようなことを行なったのか、僕らはそれを知る義務がある!」

「黙れ!!」

"ダークネススパーキング"

音声と共に新牙の足には大きなエネルギーが溜まっていくのが見えた。その力は闇そのものであり黒く、腐り果てたような色だった。

ロードは大きなため息をつくと、剣へとエネルギーを集中させた。

「僕は君から聞くよ。自分自身を傷つけてでも僕らを倒そうとする理由を。」

「はぁ!!」

新牙の放った蹴りはロードへと直撃し、そのまま硬直した。

「ロード!!」

「これで終わり・・・っ!!?」

チヒロとロードは少し笑うと、その足を片足で掴み、剣を地面へと突き刺した。

「・・・ゴールドチャージクラッシュ!!」

突き刺した剣から衝撃波を放ち、そのまま新牙を吹き飛ばした。それと同じくファルファラ、そしてダッシュしてティナを抱きかかえた九重も吹き飛ばされた。

「くっ・・・!!」

新牙は壁を通り抜けて道路へと飛び出した。

ロードは剣を抜くと、そのまま新牙へと近づいていく。

「さあ、僕らの質問に答えてくれ。君は何が目的・・・」

チヒロとロードは新牙の異変へと気づいた。新牙はゾンビのようにゆっくりと立ち上がり、首をゆっくりと上げた。

「私に刃向かうとはいい度胸だ・・・。」

新牙から聞こえていた声とは大きく違い、まるで大男のようなゆっくりとした喋り方だった。

「お前・・・何者だ?」

「私は・・・"新世界の神"だ。」

「神だぁ?」

チヒロの引くような声に神を名乗る男は背を向ける。そして、そのまま去るように歩いていく。

「君達に応えるようなことはない。それは私も龍も同じだ。」

「龍・・・それがそいつの名前か?」

それへと答えを出すこともなく、男は次元の壁を超えて去っていった。

「もしアイツが操ってるのだとしたら・・・。」

その瞬間、ロードとチヒロの思考には彼に対する不思議な感情が生まれた。

-救いたい。救わなければならない



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打ち砕く新たな力

突然の来訪者を退けたロードたちは公園から去り、再びバイクでその道を走らせていた。

「なあ、妙じゃないか?」

チヒロの一言で全員が足を止めてそれぞれがロードへと近づく。

「これだけ荒らしておいて敵が誰一人として来ない。」

「罠・・・とも考えられるな。」

チヒロと九重は顔を合わせる。おそらく狙いはティナただ一人、恐らく先ほど大きな力を使ったティナは暫く立ち上がれないだろう。

狙われているティナは九重の後ろでゆっくりと眠っており、もう暫く目を覚ますことはなさそうだった。

「撤退するか?」

「いいえ、考えたって仕方ないわ。」

二人の会話を切り裂くようにファルファラが意見を一刀両断した。

「たとえ罠だとしても彼らを討たない限りは先はないのでしょ?」

「その通りだと思うよ。」

三人が声のする方向へと目を向けると、そこにはハットを被った一人の少年が立っていた。

「ナーベル!!」

ファルファラが彼の名を叫ぶと、少年はゆっくりと街中へと降りていく。ネオンの光が眩しいのか、彼は降り立つ瞬間少し深く帽子をかぶりなおした。

「その少女・・・プレシャス・チルドレン」はいただくよ。」

「プレシャス・チルドレン?」

ナーベルは不気味な笑みを浮かべてチヒロたちへと一歩、また一歩と近づいていく。

彼の通った背後からは影から這い出るように黒い影がいくつも生み出された。

「あれは・・・?」

「あの時戦ったやつだ。」

ロードへと人格が変わり、二人はガンバドライバーを装着し、ICカードを装填した。

「変身!」

二人は変身して影へと一気に歩みを進める。ファルファラもまた銃を構えた。

 

-GRZ社-

ここでは並行世界の全てを守るために各世界に拠点が敷かれて日々研究、活動が続けられている。という表向きの姿を見せている。

特に力を入れている「ガンバライダー」は仮面ライダーたちの力を使役することで力を振るうシステムであり、適合者こそ必要なものの、その能力の高さと実績は各政府から補助金が降りるほどだった。

「ガンバライダーのデータの収集完了しました!」

「よし、ご苦労。」

研究員たちは日夜廊下を駆け回り、いくつもの書類に目を通していた。

だが、これは表向きの姿に過ぎない。

「使えねえなこんなクソみたいなデータ!」

「っ!!」

白衣の男は被験体であるガンバライダーへ罵倒を浴びせてその場を去っていった。

「始めるぞ。」

「うあああああああああああああああ!!!!」

少女は拘束された状態で電撃を撃たれ、死にも匹敵する痛みが身体中に広がっていく。

これがGRZ社の裏向きの姿である。本来の目的は世界掌握のために様々な並行世界のデータを手に入れることただ一つにあった。

無論、現在アクートを追っているガンバライダー「ロード」もその一人だった。

「Lordシステム、未だ活動せず。」

「ふざけるなよあのガキ・・・。」

白衣の男たちは映像を通してロードたちの戦闘記録が何枚もふくれあがる。

「どうだい調子は?」

「社長!!」

GRZ社の社長-檀 黎斗-はそのモニターに目を通す。そこには幾つもの数値が細かく割り出されていた。その数字の一つ一つを確認して、檀はモニターに目を通す。

「我々の大事な商品なんだ。是非とも大事にしてやってくれよ?」

はい!とそれぞれが返事をしたことを確認すると、そこにあったオフィスチェアに腰掛けた。

「彼の成長には期待しているんだ。失敗してもらっては困る・・・。」

不敵な笑みを浮かべて、そのモニターに集中して目を通す。

-Lordシステム-それは誰も未解明の言わば「発展途上」のシステム。彼の興味は彼へと一点に向けられた。

 

ロードとノヴェム、そしてファルファラは次々に影を掃討していく。しかしその数は減るどころか増える一方だった。

「これじゃキリがねえな・・・。」

「こっちが疲弊するだけだ・・・。」

少年は空中から傍観し、その機を伺っているようにも見える。

ファルファラは一気にへと近づき、何発もの銃弾を放った。

「あなたの相手は私よ!!」

「退屈だなぁ・・・。」

ファルファラが近づいた瞬間、ナーベルは姿を消して地上のロードたちの間に割り込んだ。

「僕の相手を忘れないでほしいな。」

ナーベルは周囲に魔法陣を描き、杖に炎を灯した。

「そーらっと!!」

魔法陣に囲まれた周囲は一気に爆発し、周囲を煙と炎に変えた。

「俺らも見下げられたもんだな・・・。」

「そうだね。」

ロードはガウルユニゾンへと、そしてノヴェムは紋章砲を展開し、炎を全て吸い上げた。

「一気に狩落とすよ。」

「あぁ。」

ロードの手に灯された炎の爪は巨大化し、一気にそれを振り回す。爪に切り裂かれて一気に影たちはその姿を消していく。

「神狼滅牙・封魔断滅!!」

ノヴェムのガンバソードに灯された炎は一直線に振りかざした方向へと燃え上がり、影たちは燃え消えていった。

しかし、影たちの数は増えていき、彼らを囲っていく。

「まだまだ!!」

「こんなもんじゃない!!」

二人が後ろを向くと、ノヴェムのバイクへと近づいていく。

「僕の目的はこっちさ。」

「待て!!」

ロードたちは影を切り裂きながら近づくが、その数は減らずこちらが押し返されるほどだった。

少年はその細い腕でティナを抱きかかえて、空中へと上がった。

「させない!!」

ファルファラが遠距離から何発も銃弾を放つが、彼の魔法陣により防がれてしまう。

「邪魔だよ・・・。」

「っ!!」

ファルファラへと放たれた何発もの銃弾はファルファラの眼前で止まり、大きな光を生んだ。

「閃光弾!?」

「じゃあ、また会おうね。」

光の中ロードたちを嘲笑うように満面の笑みを見せた。

「くそっ・・・!!」

ロードたちは押し返してくる影たちを弾き飛ばそうと何度も試みるが、その数に押されて動くことすらままならなかった。

少年とティナはその場の影となって一瞬で姿を消した。

「ティナ!!」

「チヒロ、今は焦っても仕方がない。今はこいつらを・・・!!」

小さく舌打ちするとロードたちはICカードを反転させてバーストチェンジした。

「こいつら・・・!!」

「どぉぉぉおおおけぇぇええええええ!!!」

二人はバーニアでなんとか移動し、腕に纏わり付いた影を振り払った。

「あいつらの相手は私がするわ!二人は追って!!」

「ファルファラさん!!」

ファルファラは一気に突撃していく。彼女の空中から放った何発もの光弾は敵を炭へと変えていく。

ノヴェムはゆっくりと背を向けて、バーニアをもう一度点火した。

「僕らは奴を」

「九重。」

「何?」

「俺たちのガンバドライバーのシステムってホントに普通のガンバドライバーと同じなのか?」

九重は生唾を呑んだ。チヒロとロードの力で何倍も生み出すことが可能なわけがないことなどロードたちも薄々気づいていたのだろう。

「・・・ない。」

「あるんだろ!?」

チヒロの怒号が混じった声はノヴェムの足を一歩引かせた。

「・・・あるにはあるが君たちに使わせるわけにはいかない。」

「使わねえとティナも何も救えないだろ!!」

「そんな温いことを言ってられる状況じゃない。僕からも頼む!!」

チヒロとロードの言葉に押されていくノヴェムは一つため息ついて彼らへともう一枚のICカードを与えた。

「君たちに与えられたLordシステム。それは二枚のICカードでバーストチェンジすることで二重の力ではなく二乗の力に変えるシステムだ。だが失敗すれば片方は消滅する・・・ってあれ?」

ロードはノヴェムに渡されたもう一枚のICカードを装填し、再度抜いて二枚のICカードを装填した。

「人の話聞いてる!?危険だって」

「今それを気にしてたら何も助けらんねえだろ。救えるもんくらい救ってやるよ!!」

「バカ!失敗したらどう責任を」

バーストチェンジしたロードはノヴェムの言葉を遮り強い光を生み出した。

"Ganba rider Lord Rerize"

「Lordシステム・リライズ!!」

周囲は光に包まれ、その光はロードたちに吸収されていく。

"Rerize open"

光が消えた時、ノヴェムの目の前には赤色の目、そして緑色の目を輝かせた二人のガンバライダーがいた。

「君が」

「俺・・・。」

二人は目を合わせて、再び下を見下げた。ファルファラが一人で善戦していた。

「いくぜロード!」

「あぁ、チヒロ!」

二人は一気に加速して闇へと何発もの光弾を放った。影は一瞬にして消滅していく。

「二人・・・なの?」

「あぁ」

「実際には一人だけどね。」

ファルファラと目を合わせると、ファルファラは空中のノヴェムの元へと向かった。

「あの子たちは大丈夫なの?」

「まあ、こればっかりは信頼するしかないよ。」

いかんせん使ったことのないシステムのため、ノヴェムも何とも言えない状態なのだ。

ロードとチヒロの二人のガンバライダーは背中合わせとなって、同時にユニゾンブレスを輝かせた。

ロードはなのはユニゾンへと、チヒロはシュテルユニゾンへと姿を変えた。

「彼女たちの力、使えたんだね。」

「みたいだな。」

二人はその場で魔法陣を展開して、そこへと大きな光の球を生み出した。

「行こうストライクカノン、レイジングハート!」

"All System Complete"

「いくぜルシフェリオン!!」

"委細承知"

「スターライト」

「ルシフェリオン」

「ブレイカー!!!!」

光の球は収束し、光線へと変わり大地へと降り注いだ。

二つの星の光は地面を覆っていた影を全て消し飛ばして、その周囲には二つのクレーターを生み出した。

「すごい・・・。」

「無茶苦茶だ・・・。」

ユニゾンを解除してロードのチヒロは一つの体へと戻ると、人間体へと戻った彼がそのまま地面一直線に落ちていく。

「チヒロ!!」

「ロードくん!!」

落ちていった彼を男が抱きかかえて、そのままゆっくりとクレーターへと置いた。

「今から向かうところはおそらく同じだ。俺も同行する。」

ノヴェムとファルファラの目の前にいる人物は予想すらしていない戦力だった。

「アンタは・・・」

「ブラット・・・。」



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共闘と裏で蠢く世界

彼らの前に姿を現したのは意外な人物だった。

「ブラッド・・・」

「なんで君がここに?」

彼らの目の前にいるのはこの世界にロードたちが来てから幾多も戦闘を繰り返してきた傭兵「ブラッド」その人である。

「君はヴィンセントの傭兵の筈だ。だからプレシャス・チルドレンであるティナを」

「細けえことは知るか。」

九重の会話を遮りブラッドはロードを静かに道路のアスファルトへと置いた。

「俺は兄貴・・・ヴィンセントに捨てられた傭兵だ。」

「!!?」

二人はその言葉を聞いて愕然とした。唯一ガンバライダーと互角に戦った兵士であるブラッドを捨て駒にするなど考えることすら出来なかった。

予想外を超える予想外に二人は困惑して目を合わせた。

ブラッドは一度俯くがすぐに顔を上げた。

「だから俺は兄貴に、ヴィンセントにもう一度問いただす必要がある。この計画の真意、そして兄弟である俺を捨てた理由。」

「分かった。」

「ちょっ九重くん!?」

ファルファラが差し出した右手を払ってファルファラの肩を抑えた。

「ロードが倒れている今、戦える戦力は僕とあなただけだ。勝つためには彼の力が必要なのは明らかです。」

ファルファラは九重の目を見つめた。これまでの彼には見えなかった鋭く強い目つきだった。

「・・・そうね。」

敵と組んでまででもこの戦闘を切り抜ける覚悟。彼女は彼のその目を見た以上認めるしかなかった。

「よし、決まりだな。ヴィンセントのところまで案内する。」

二人はそれぞれのバイク、そしてブラッドはロードのバイクに跨った。

「なんだアイツ使いにくいバイク乗ってんな。」

「調整した僕に対する文句かそれ?」

「あっ、悪い悪い。行くぞ!」

ブラッドに続くように二人もエンジンに点火して走り出した。

 

-またこの世界だ-

少年はこの光景を見たのは一度ではなかった。

なのはの世界で決戦を終えた後に眠った彼は全く同じ光景を目にしている。

暗く、冷たい闇の中に一人置き去りにされている。助けなど見えずただただ冷たいだけだ。孤独と闇の中でチヒロはこれまで起こったことを思い出した。

「俺はまた・・・。」

チヒロは自分の起こした事態を思い出して強く拳を握りしめた。

ナーベルと戦い、闇を振り払ったもののティナは攫われ、そのまま自分は倒れ込んだ。フェイトを守れなかったあの時の自分と全く同じだ。

守るべきもののため、大切なものを救うために自分は戦い続けていた「つもり」だった。だが、蓋を開けたらどうだろうか?

フェイトもユキカゼもティナも誰も彼も自分とアクートの戦いに巻き込まれて傷つき、悲しみへと突き落とした。

そして自分はこの戦いに巻き込んだ当事者にもかかわらず沢山の人に何もしてやれなかった。ただ戦いに巻き込んで人を傷つけただけだ。

「俺は・・・。」

「自分一人で背負い込めるものだとでも思っていたのか?」

チヒロはふと顔を上げた。そこにいたのは白と緑を基調とした仮面ライダーだった。もちろんチヒロはその人間が誰なのかも弁えている。

「仮面ライダー・・・斬月。」

かつて仮面ライダー鎧武の世界でユグドラシル・コーポレーションの主任として世界と戦い続けた仮面ライダー「斬月」。そしてその変身者である「呉島貴虎」その人だった。

「俺の質問に答えろ。お前は全て一人で背負い、戦い続けるつもりだったのか?」

「・・・あぁ。皆を俺の力で救えるって・・・そう思ってた。」

斬月はチヒロへと歩み寄り、その手を差し伸べた。

「そう思うのであればお前は間違っている。なぜならお前は既に沢山の人の光を受けたからだ。」

「・・・光?」

「これまでお前が出会った人たちはお前に沢山の光を与えた。そしてその光が今のお前を作っている。」

チヒロはふとこれまでの記憶が走馬灯のように走り出した。

ミッドチルダやビスコッティ、そしてこの街で出会った沢山の人達。自分は戦いに巻き込み傷つけただけじゃなかった。

自分は誰かに何かを与え、そして影響されるように自分も与えられていた。そんな簡単なことにさえチヒロは気付けなかったのかと頭を掻いた。

その姿を見た貴虎はチヒロへと背を向けて歩き出す。

「斬月!!」

貴虎は歩みを止めて少し首をこちらに向けた。

「お前と出会う次の時、その輝きがどこまで進化を迎えているか楽しみにしている。」

貴虎が去って行ったと同時にチヒロも少しずつ瞼が開いた。

「う・・・うぅ。」

「おっ、起きたか!」

チヒロが瞼を開けた目の前には自分のバイクを平然と使う男の姿があった。無論それが誰なのかも背中で理解した。

「ブラッド!!?」

「あーうるせえうるせえ。静かにできねえかな。」

「仕方ないでしょ?あなたが味方になるなんて誰も思ってないわけで」

ファルファラがブラッドにそういうと、チヒロはその言葉少しずつ状況を理解した。

「チヒロ、大丈夫かい?」

「あぁ、問題ねえ!こっから突っ走るぜ!!」

三台のバイクは加速して一気にヴィンセントのアジトへと飛ばして行った。

 

ヴィンセントはワインを片手に上がり続ける綺麗な満月を見ていた。

「そろそろかしら。」

ヴィンセントはワインを置いてソファへ座り込んだ。弟であるブラッドはおそらく捨てた自分を憎んでこちらへ兵を進める。彼にとってはそれが容易に想像出来た。そして彼が組むであろう協力者が誰なのかも。

「ガンバライダー・・・ねえ。」

彼にとっては俄かに信じられない。これまで世界を救ってきた仮面ライダーという存在の噂は耳にしていたが、この世界にまでくるとは思っても見なかった。

これもまた巡り巡った運命なのかもしれない。

そんなことを考えているとドアのノックが鳴る。戦闘配備に全兵を向かわせている今、ノックをしてくる人間などいないはずなのだが・・・。

「入れ。」

そこに入ってきたのは全身を純白ともいえるスーツを着た青年だった。ヴィンセントはこの男も組織も理解していた。

「財団X・・・か。」

-財団X-

各世界に拠点を置いて研究を続ける研究機関。というのが表向きの姿らしいがその裏ではモンスターを作り世界征服を目論んでいる。という何とも悪役のような企業だ。

そして目の前にいる男は財団Xの研究機関でも権威の位置にいる「カズ・ジュン」だった。

「大手研究機関であるあんたらがこんなところで何の用だ?」

「戦うつもりもないのにそんな目線を向けられるとは・・・私、悲しいです。」

ヴィンセントの警戒した鋭い眼差しにカズは平然と答えた。そして話を続けた。

「現在この世界では現在大きな歪みが発生しています。」

「・・・あのガンバライダーとかいうやつらの仕業か?」

カズは頷き話を続ける。

「そして各世界から歪みに触れたものが何人かこの世界におちてきたようなので、あなたに報告しようと思いまして」

「勝手にしろ。俺には関係のねえ話だ。」

「分かりました。こちらの好きにさせてもらいます。」

そうカズは言い残して部屋を出た。ヴィンセントは部屋の時計に目線を向けた。おそらくブラッド達がくるまで一時間といったところだろうか。

「軍を進めるか。」

ヴィンセントは指示を飛ばすための通信端末を手に取り、そのまま彼も部屋を去った。

 

カズは長い廊下を歩きながら携帯電話を手に話をしていた。

「えぇ、まさか予想外でした。」

カズ達からしてみれば時空の歪み、そしてそこからくる来訪者を放っておくなどという答えが出るとは予想もしていなかったのだ。始末もこちらに任せるのだから助かるには助かるのだが・・・。

「目的と違うとはいえ彼女達も大事な"駒"なので、こちらで丁重に扱いますよ。」

電話を切って資料を眺めた。これまでこの世界に紛れ込んだ人々のリストだった。彼の目に止まったのは一人の少女だった。

「ポケットモンスターの世界・・・クリスタル。」

おそらく駒にするには最適役であろう。カズは不敵な笑みを浮かべて空を見上げた。

彼女はこれまで数々の巨悪と戦ってきたそうだ。そう自分たちが憎むべき対象"仮面ライダー"のように・・・。



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新たなる兵士の影

ロードたちはティナの救出、そしてヴィンセントの計画を止めるために彼の潜むカジノへと向かっていた。

「お前のガトリング邪魔・・・ぶつかる!痛え!!」

チヒロの顔面には鉄がぶつかる。ガンガンと顔面に鉄がぶつかってくる。

「痛え!!お前のこれなんとかならねえのかよ!!」

「うるせえな静かにしろよお前!!何だ!!お前味方に対しての対応じゃねえだろそれ!!」

「うるせえ!!鉄が直撃してんだぞ痛えに決まってんだろ!!」

チヒロの顔に何度も彼の背負った筒がぶつかる。

彼を乗せながらガトリングを担いでいる。というよりはガトリングを乗せてその後ろにチヒロがいるためほぼ彼に座る席などなかった。

「お前後で覚えてろよ!絶対ぶっ飛ばすからな!」

「ああやってやるよいつでもかかってこいよ!!」

「チヒロ落ち着いて!!今喧嘩してる時じゃないって!!」

ロードの言葉に我を取り戻したチヒロはひとつ落ち着くと、彼の目線には彼らが落ちて来たあの監獄のような要塞が見えた。

元々ティナはあそこにいて捕らわれていた。よくよく考えれば彼女だけが捕らわれていたのも不思議な話であるが。

「なあ!?」

「何だ!?」

チヒロの問いかけにブラッドは聞き返す。チヒロはロードへと人格を変えて話を続けた。

「僕らが最初に着いた場所、あの監獄は何だったの?」

「あぁ、あれか。」

ファルファラと九重は前を向いてひたすら走っている。その中でブラッドは少し声を落とした。

「アレは兄貴の後ろ盾の奴らが密売するために作ったらしくてな・・・。あの子供もおそらくはそいつらに捕まったんだろう。」

「なるほど・・・。そこで僕らが転移してきてこうなったと。」

ブラッドは頷く。

「アレがどうかしたのか?」

「あれを混乱の手口に使えないかな?と思ってね。あそこを崩せば相手も混乱するだろうし。」

ブラッドはなるほど!と納得して一気にファルファラたちに追いつく。

「おい二人とも!提案があるんだがいいか?」

「あぁ。」

「ええ。構わないけど。」

三台のバイクはそのまま加速してカジノへと突き進んでいった。

 

-各員、戦闘準備整いました-

そうヴィンセントへと各所からの伝達が渡ってくる。

ここには世界全体を見渡すモニターが付いており、ヴィンセントはここから世界を見渡すことが可能となっている。無論、それはガンバライダー側についたブラッド、そしてナーベルに攫われたティナのことも見えていた。

「ったく想定外ばっかり起きやがって・・・。」

ヴィンセントは大きなため息をつくと、モニターを眺め続ける。

しかし、彼にも気掛かりなところが幾つかあった。

「財団X・・・ねぇ。」

世界をまとめる組織が何故今になって自分たちのところへと来たのか。そして、この世界で好きにしていいか。という質問をしてきたことも彼にとっては気掛かりだった。

「あの連中なら聞かずして暴れまわりそうな気がするがな・・・。」

今はそんなことを考えてる場合ではない。今目の前にあることに集中しよう。ヴィンセントは改めてモニターを眺めた。

彼らがティナを必要としているのもわかるが、こちらも必要なことには変わりはないし、こちらは彼らと違って時間がない。彼に与えられた職務を果たすには少々乱暴ではあるが彼らを止める必要がありそうだ。

少し考えるそぶりを見せていると、赤いガンバライダー 、そしてブラッドがカジノの門を通る姿が見えた。

「ん?」

先ほどまで一緒だった青いガンバライダーとファルファラがいない。何か妙な予感がするが今は戦闘への狼煙を上げることが先だ。

「よし、花火を飛ばせ!!」

了解!と各所からの伝達が入るとカジノの上からは綺麗な花火が何発も上がり、それを合図に一気に兵士が走り出した。

「女神様・・・私を導いてください。」

ヴィンセントは祈りの構えをとると、通信を切りそのまま赤いソファへとゆったりと座り込んだ。

 

一方でロードとブラッドは花火が上がったことを確認すると、人格が変わりブラッドと背を向ける。

「今の花火は?」

「第一陣だ。このあともう一発花火があがりゃ第二陣が来ることになってる。」

「花火の形とか決まってんのか?」

クソほど意味わかんねえ質問するなコイツ。そう呆れ気味にロードを見た後ブラッドは敵へと視線を戻した。

「決まってねえけど・・・それがどうした?」

それを聞いてロードはほくそ笑んだ後、なのはユニゾンへと姿を変えてそのまま空中へと飛翔した。ブラッドが後ろを向いた時にはかなりの高度を上昇していた。

「第二陣ごとぶっ飛ばす考えが思いついた。俺に任せろ!」

「えっちょっお前!!待てよ!!それどういう」

そう言い残して飛び去ると、大軍勢の中一人ブラッドが取り残された。

「ったく滅茶苦茶しやがんなアイツ・・・。仕方ねえ耐えてやるよ!!」

そう言い背中に背負ったガトリングを構えて狂うように回転ながらその大きな筒を振り回した。

 

チヒロはそのまま飛翔しながら先ほどの花火の上がった座標へと辿り着いた。

幸い敵は戦線に出ているようでその下には誰もおらず、空中に監視の目も届いていそうにはない。

「ねえチヒロ!!」

「どうした?」

チヒロはロードに落ち着いた表情で聞き返した。ロードが何度も問いかけていたのは知っていたが、彼へと一つ返事も返さなかった。

「第二陣ごと吹き飛ばす力ってどういうこと?そんなの」

「スターライトブレイカーだ。」

ロードは呆然とすると、少し考える。

「えっ?待って?やっぱり僕には理解できないんだけど。」

スターライトブレイカーは砲撃魔法として確かに吹き飛ばすことは可能ではあるが、どう考えても先ほどの花火の話と繋がらない。それに第二陣が出ていないのに今この座標に来ても意味がないのでは?言い分を言おうとしてもロードは大丈夫。としか答えない。

「俺とレイジングハートなら出来るって話だ。さあ、始めようぜ!」

"All right"

そうレイジングハートも答える。彼ら二人の思考をロードはどうも発想することすらできなかった。

 

ノヴェムとファルファラはロードたちが元々落ちた場所。ティナの眠っていた牢獄へと足を運んだ。

「ったく何よここ・・・汚いし暗いし。」

「全くだ・・・。こんなとこで働く奴らの気が知れない。」

ノヴェムの後ろにつくファルファラ。ノヴェムはフッと笑うとファルファラの手を握った。

「うわっ!!?」

「ビビってるんですか?」

「ビビってないわよ!!

揶揄うノヴェムへと本気で怒るファルファラ。真っ赤になっていくファルファラを見ると堪えていた笑いが溢れるようにクスクスと笑い続ける。

「なっ・・・何よ!」

「いーえ、何でもないですよ。」

そう子供のような目で言い返すと、ファルファラは深呼吸して彼の一歩前へと出た。

「向こうも戦闘してるでしょうし急ぎましょ!!」

ノヴェムとファルファラがそう話していると、ドーンという花火の音が遠くから聞こえた。ファルファラは不思議そうに身構えるノヴェムの肩を叩いた。

「あなたもビビってるの?」

「今"も"って」

「言ってない!!」

おー怖。と戯けた態度をとり、ノヴェムが一歩下がるとファルファラは一息ついてノヴェムから視線を外した。

「恐らく向こうの戦闘が始まったのよ。こっちも急ぎましょ。」

あぁ。と気を取り直すと二人はそのまま暗い監獄をそのまま突き進んでいく。しかし妙なことに人の声は何一つしない。

「なんだここ・・・。」

「誰もいないなんてこと」

「あるんだよ。ここにはあの女しか捕らえられてなかった。」

声のする方へと二人が目を向けるとそこには人、いや人ではない何かが棒立ちで立っていた。

「誰だ・・・あんたは。」

男はその仮面の奥でフッと吐き捨てた笑いを飛ばすと、男は手のナイフを向けた。

「ソルジャーネーム-スタンス-。それが俺の名だ。」



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闇と閉ざされた少女

ソルジャーネーム-スタンス-

そう名乗り男は刃をノヴェムに向けた。

「それ答えになってないんだよね・・・。」

ノヴェムもガンバソードを召喚しスタンスへと刃を向けた。

「ファルファラさんは他の階の捜索を。」

「ファルファラは頷くと銃を腰にしまい、そのまま階段へと走っていく。

「っ!!」

スタンスが走り剣を突き出した先にはノヴェムのガンバソードがあった。スタンスの無言で突き立てた剣が刺さりガンバソードが欠けていく。

「なっ・・・!?」

ガンバソードは少しずつ粒子となって消滅していく。ノヴェムは空かさず剣を離して後ろへ下がった。

ノヴェムはデンガッシャーとバッシャーマグナムを同時に召喚し何発もの弾丸を放った。

「これで・・・」

"Full charge"

"バッシャーフィーバー"

「トドメだ!!」

ワイルドショットとエンペラーアクアトルネードを同時に放ち、稲妻と海の力を込めた一撃は回避すらしなかったスタンスへと直撃した。

「やったか・・・!?」

煙の中から一瞬にしてノヴェムへと近づき、デンガッシャーとバッシャーマグナムは粒子となって消えた。

「なっ・・・!?」

「・・・。」

無言で近づいた機械兵はそのままノヴェムを蹴飛ばして後ろへ退かせた。

「どういうことだ?」

「貴様らの武器やアーマーを生成するRZ粒子を分解することなど俺の剣には容易いことだ。」

-RZ粒子-

ガンバライダーやガンバソードといったガンバライダーの全てを生成する上で必要な粒子である。これを分解するということは彼らへの武器の生成、そしてアーマーを無効化することに等しい。

厄介な奴を敵に回したな・・・。ノヴェムは後退りしていく。しかし、後ろの階段には上がっていくファルファラもいる。

剣を突き立ててスタンスは一歩、また一歩と近づき、彼へのトドメの瞬間を狙った。

その時だった。ヴィンセントたちがいる場所、ロードたちが戦っているところから花火が上がった。これが第二陣の動く時だということは二人は容易に察した。

「時間か・・・。」

「待て!!」

ノヴェムの呼び声も虚しくスタンスはガラスを割って去っていく。

「九重くん!!」

ファルファラは急いで降りてきてノヴェムへと呼びかけた。

ノヴェムから声は聞こえなかった。

「・・・どうしたの?」

「・・・いえ、何でも。」

何かがおかしい。これだけ機密を律するガンバライジング社がガンバライダーの主成分を解読されるなど本来あってはならない筈なのだがそれがされている。

それにあのスタンスという男は花火の音と共に去っていった。だがRZ粒子の分解なども考えると恐らくヴィンセントの差し金という考え方も低いだろう。

上がる花火の音は虚しくノヴェムの耳元から小さく去っていった。

「・・・早く向かいましょう。」

「ですね。」

今は考えながら前に進むべきだ。ノヴェムもファルファラの言葉に頷いてロードたちのいるカジノへと足を進めた。

 

-GRZ社-

そこには社長である檀を含んだ何百という人がロード一行を監視していた。

勿論ガンバソードやデンガッシャー、バッシャーマグナムを分解したスタンスの姿もそこには映っていた。

「どういうことだ・・・?」

機密にしてあるはずのRZ粒子が分解されるなど誰も想像しておらず、モニターを見た全員が騒然とした。

「一体誰が流出など・・・。」

辺りを見ても全員責任は取るまいと誰も檀と目を合わそうともしなかった。

そんな時、研究員たちのPCにはEnemyの文字が出てきた。

この期に及んで敵とは・・・。と思っていた檀へと最悪の知らせが届いた。

「社長!財団Xの反応がありました!」

「財団X!?」

何をしでかすか分からない集団であり、かつてのライダーたちが戦ってきた悪の組織。それは檀も十二分に理解していた。

想定外のことにそちらもモニターが開かれて研究所内は何が何やらの状態だった。

「社長、恐らくこれ以上の増員は不可能かと。」

最初にこの世界に飛ばす際に起こった謎のエラー。それについても解明されていないため増員を送るなど以ての外である。

しかし、恐らくロードたちにこれ以上任せて財団Xを野放しにすればこの会社の信用問題に関わってくる。

「っ・・・対策は」

そう考えていた時だった。ドアから銃声がなり、穴が開いたドアは打ち抜かれてそのまま倒れ込んだ。

彼らの前に姿を現したのは漆黒の鎧を纏い、橙色の複眼をしたガンバライダーだった。

「久しぶりだな、七光りさんよ・・・。」

「あぁ、久々だね"ブリッツ"。いや、恵田 光助くん。」

ブリッツは檀へと持っていたガンガンキャッチャーを向けた。彼の手は既に引き金を引こうとする寸前だった。

いいところに来た。彼を利用すればこの状況を打開できるかもしれない。不意に出た不敵な笑みを電撃の名を冠したガンバライダーは一ミリも逃さなかった。

 

花火が上がり第一陣、そして第二陣が迫ってくる中ブラッドはたった一人での戦闘を強いられていた。

「っそ!!もう第二陣かよ!!」

敵が減らない中で恐らく数で圧倒しようという考えなのだろう。そんな中でロードも戻らず一人で戦わされるなど鬼畜以外の何者でもない。

「せっかく教えてやったのに何だこの仕打ちは!!あのバカ許さねえからな!!」

「誰がバカだって?」

突然ブラッドの首根っこが掴まれてブラッドは空へと運ばれていく。

首を持った先には純白の鎧を纏ったロードの姿があった。ロードは足につけた光の羽で飛翔していく。

「お前!!」

「遅くなって悪いな。第二陣が来るまでには間に合うと思ったんだが。」

「まさかスターライトブレイカーにあんな使い方があるなんてね。」

ブラッドは少し黙ると思いついたようにチヒロに聞く。

「まさかさっきの花火って!!?」

「そう、俺が魔力を使って打ち上げたものだ。」

スターライトブレイカーに搭載されていた花火モード、チヒロ曰くはなのはに教えてもらったものらしい。尤も本人が使った際は結界を張っていなかった所為で軽い問題になったらしいが・・・。

「まさか魔力も持っていないときのことが役に立つとは思ってもみなかったがな。」

「で、どうすんだ!?」

チヒロたちが下を見るとそこには幾万もの軍勢が彼らに集っていた。

「あぁ、吹っ飛ばすさ。」

ロードへと人格が変わり、レオンユニゾンへと姿を変える。

彼を纏った銀色の鎧と獅子のような輝く目は正しくレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワそのものを表すものだった。

「じゃあ行こうか・・・。」

「いくってどこに?」

ロードの周囲へと紋章砲が開かれて周囲に炎を纏った。

「あっつ!!お前何する気で・・・」

「獅子王炎陣大爆破!!」

周囲に爆破は広がり、ブラッドの司会から煙が消えた時にはカジノごと吹き飛び下にいた雑兵は全員倒れこみ、起き上がって来るものなど誰もいなかった。

「おい待て誰がここまでしろって」

「さあいくぞ!!」

「話聞けええええええ!!?」

ロードたちがそのまま飛翔してカジノのあった場所へと突撃しようとした瞬間だった。

「危ない!!」

「ぐっ!!」

ロードへと向けられた刃はロードのギリギリを通り、その危機を悟りロードはブラッドを投げ飛ばした。

「ってぇ・・・。」

ブラッドが目を向けた先には黒く、影に包まれたような物体が立っていた。無論人型ではあるがそれを人とするには少し無理があるほどだった。

「何だあのバケモン・・・。」

ブラッドがロードに目を向けると、彼は膝を落として影へと悲しみに近いような視線を向けた。

「嘘だ・・・。」

チヒロたちは整理がつかなかった。何故こうなってしまったのか、何故こうなる前に止められなかったのか。さまざまな思考が交錯してぐちゃぐちゃになっていった。

「どうして・・・お前が」

黒い影を纏った闇。それは彼らが救おうとしたものであり彼らとこの世界を共に歩いた-ティナ-その人だった。



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告げられた真実

月が満ちる夜。そんな中黒い影は暴れまわり、ロードへと双剣を振り回した。月明かりに照らされた影は周りが暗いにも拘らずその姿をはっきりとチヒロたちに見せた。

「ティナ・・・!!」

チヒロは攻撃出来ずにそのまま彼女の攻撃を回避する。右、左、そしてまた右左と何度もその二つの剣を振るった。

ティナはチヒロの言葉に一つも返事せずその剣を振るった。

「っ!!」

「おいお前!!」

チヒロの肩へと一つの剣が刺さり、刺さったまま壁へと蹴飛ばした。チヒロはその言葉の通りされるがまま突き飛ばされた。

「チヒロ、このままじゃ君が」

「じゃあこのままティナを殺せってのか!!」

ロードはチヒロの言葉に黙り込んだ。今の彼らの状況は劣勢そのもの。このままティナを刺し殺すことが最も楽な策ではあるだろう。だが、恐らく彼女の実力、それ以上にロードとチヒロがそれを出来たとしても許さないだろう。

「テメェが出来ねえなら!!」

「よせブラッド!!」

「・・・。」

ブラッドはその大きなガトリングの銃弾を何発も放ち、直撃であれば跡形もなくなるほどに撃ち込んだ。

「これで・・・」

「ブラッド上だ!!!!」

ブラッドがチヒロの言葉につられるように上を向くと、そこには黒い影がすぐさままで近づき、ブラッドへとかかと落としを見舞いした。その威力は彼よりも数段背の低い子供とは思えないほどの力だった。

「ぐぁ・・・っ!!」

ブラッドはそのまま倒れこみ、彼はその後立ち上がってはこなかった。

「クソ・・・クソッ!!」

チヒロは地面にその拳を叩きつけた。この世界で守ったもの、そして守らねばならない仲間一人守ることが出来なかったのだから無理もない。

「うああああああああああ!!!!」

「チヒロ!!!!」

チヒロはロードの声を聞かず、叫びながら音撃棒烈火を召喚し何発もの火炎弾を放った。だがその煙の中からは無傷で埃を払う黒い影の姿があった。

「ふふふ・・・、この力はどうだい?」

チヒロの目の前にいたのはあの時ティナを攫い、彼らへと闇を相手にさせたナーベルその人だった。

「テメェ・・・!!」

ロードはチヒロから無理矢理人格を変え、目の色が赤から緑に変わるとロードはティナたちに剣を向けた。

「君たちか?ティナをこんな風にしたのは。」

「君たち?これは僕の計画さ。僕以外には誰も関わっちゃいないさ。」

ロードは加速をつけて一気に斬りかかった。しかし、ナーベルを庇うようにティナの双剣がそれを防ぐ。影はそのままロードの剣を弾き飛ばし、首をつかんだ。

「っ!!」

その力は強く、彼を絞め殺すなどたやすいと思わせるほどだった。

「ティ・・・ナ。」

息が止まる。彼の目の前が薄くなっていき、目の色が消えていく。目の前にいるナーベルすら霞んで消えていくようだった。彼が死を覚悟したそんな時だった。

「全く・・・、ここで死んでもらっては困るんだよ。」

そう声が聞こえ、声の主はティナとナーベルを二つの剣で薙ぎ払った。

「おま・・・え。」

「どうして・・・!?」

二人は目を疑った。彼らの目の前にいたのは青い鎧を纏い、赤い目をしたガンバライダー-アクート-だった。

 

アクートは二人を薙ぎ払うと、ティナの手から離れたロードを抱きかかえてそのまま地面へとゆっくり降ろした。

「何でお前が・・・?」

チヒロの言葉にアクートは鼻で笑ってチヒロを睨むように見た。その複眼の奥からまるで怒りと笑いを同時に起こしているようだった。

「君に死んでもらっては困るからだよ。俺も君も来たるべき時までは生きる意味がある。」

「来たるべき・・・時?」

アクートは銃を召喚すると周囲に紋章を開き、そこに銃口を向けた。銃口を向けた紋章へと光が移転し、その光は紋章を中心に次第に広がっていく。

「どうしてお前がそれを・・・!?」

ロードたちは驚きを隠せなかった。彼らが向かったビスコッティで使われた紋章砲そのものをアクートが使用し、チヒロたちの前で開いているのだ。彼らの頭の整理がつかないままアクートは話しかける。

「これが来たるべき時の真実とも言えるだろうな。」

「何!?」

「それより良いのか?そこでお仲間がくたばっているようだが。」

アクートの言葉にハッとしたチヒロとロードは驚きを隠せないまま、後ろへと下りブラッドの元へと走っていく。ブラッドの手を握るとまだ手のぬくもりが残っていて、彼が確かに生きていることが確認できた。

「おい!!」

チヒロたちは声の方向へと目を向けると、そこには長身の男性がチヒロたちへと手を振りこちらへと誘導している。

「何のつもりだいヴィンセント?」

「うるせえ!!さっさとそこのバカを連れてコッチに来い!!」

チヒロは困惑しながらも言われるままヴィンセントの元へと走って行った。

「行かせないよ!!」

「こちらのセリフだ!!」

ナーベルが向かおうとするとアクートは橙色の光弾を何発も放ち周囲に煙を起こした。

煙が晴れた頃には三人はおらず、青いガンバライダー一人がそこにいた。

「貴様・・・!!」

「真実を知らされていない君にとっては疑問も当然だろうな。」

アクートはそう呟くと、飛びかかったティナの剣をいなしてそのまま地面に叩きつけた。

「っ!!」

「ほぉ、感情が完全に消えているわけではないようだな?」

黒い影は再び剣を向けてアクートへと走っていく。アクートはため息をつくと片手から生み出した光を収束させた。

「スパークスマッシャー。」

雷を纏った光弾は剣を振りかざしたティナへと直撃してそのままティナを吹き飛ばした。

ナーベルの額からは汗が流れており、それを見たアクートは小さな少年へと問いかけた。

「何だ?焦りでも感じているのか?」

「っ!!」

ナーベルは怒りを一瞬見せてそのまま睨み付けると、ティナへと手を振りティナをこちらへと呼び寄せた。ティナは操り人形のようにナーベルの元へと飛んで行った。

「これくらいにしといてあげるよ。プレシャスチルドレンは渡さない!」

そう言い、光に包まれるとアクートの前から黒い影と魔術師の少年はその場から立ち去った。

「勝てると思っているとは・・・愚かなものだ。」

アクートは後ろからの気配に気づき後ろを向くと、そこには彼と対峙したガンバライダー"ノヴェム"ともう一人女性が立っていた。

「やあ諸君、次は君たちが相手か?」

「お前の目的は何だ。」

アクートの言葉を無視してノヴェムが銃口をその額に向けた。その引き金を握る手には力が入っており、アクートへの強い憎しみが伺えた。

アクートはカジノへと指をさして軽く鼻で笑ってみせた。

「我が友なら向こうヘと向かった。置いて行かれる前に向かった方がいいんじゃないか?」

まるでバカにするような言い方に女性が銃を握るがノヴェムはそれを制した。

「君の思う結末にはならないことをよく覚えておいた方がいい。」

そう言いアクートの横を通り過ぎた。ファルファラもそれに付いていくようにアクートの横を通り過ぎた。

たった一人残されたアクートは周囲の壊れたビルの様を見てため息をついた。

「我々をジャッジするのは神かそれとも人か。どちらだろうな?」

彼が空を見上げるとそこには大きな穴が広がっていて、そこへと物体が吸収されたり放出されているのが見えた。彼はその穴を見て鈍い汗を見せた。

「あそこまで広がっているとはな」

「アクート!!」

彼が鈍い汗を払って後ろを向くと、そこには黒いボディに紫色のアーマーを纏ったガンバライダーが立っていた。彼はその人物が誰かを知っている。

「クロス・・・。」

彼とは幾多もの因縁があり、忘れようにも忘れられない。と言っても過言ではない人間の一人だ。

尤も、クロスも任務で追っているため彼との因縁は切っても切り離せないわけだが。

「ここで一つ小話をしてやろう。」

「興味ないな。」

クロスはガンバブラスターを召喚しアクートへと向けた。アクートはその真面目な姿を見て呆れ笑いを見せてクロスを片手で止めた。

「まあそう言うな・・・。お前は世界の中心-ワールドコア-という存在を知っているか?」

「ワールド・・・コア?」

銃を向けたクロスはアクートの言葉に疑問を抱いた。アクートは話を続ける。

「ワールドコアは並行世界ごとにいる世界のコアでそいつは並行世界で同じ人物、同じ物質として生まれないそうだ。」

「それが何だ?」

「ワールドコアが移転し並行世界に二人存在するとあの空中にあるワームホールのように多次元世界との扉が開くと言われている。」

クロスはその言葉にハッとして空を見ると、その穴は大きくなっていくのが見えた。クロスの額に冷や汗が流れるとアクートへと再び銃を向けた。

「ならお前がコアだとでも言いたいのか?」

「さあな。ワールドコアが暴走すると多次元世界の扉を幾つも開き世界の壁を壊す力もあるらしい。そんなものをお前は今放っておけるか?」

クロスは黙り込むも、アクートへと少しずつ近づき心臓に銃口を向けた。

「だがお前を倒さない理由にはならない。」

「今は手を組もうって話をしてるんだ。俺もあの穴を放っておくわけにはいかないからな。」

クロスは俯くと、その銃を捨ててアクートへと背を向けて歩き出した。アクートはため息をついてクロスを睨みつけた。

「どんなことがあっても俺はお前と組むことはないだろう。お前が敵である以上それは変わらない。」

アクートは鼻で笑うと去っていくクロスへと大声をあげた。

「ならワールドコアに会った時に伝えてくれ!君は今絶望に屈している場合ではないとな!」

その言葉に返すことなく黒いスーツのガンバライダーはその場から飛び去って行き、その場にはまたアクートただ一人が取り残された。



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女神は誰へ味方するのか

ティナたちの追っ手から離れて早数時間、チヒロと眠ってるブラッドはとある部屋の片隅に座り込んでいた。

「あーら、起きたかしら。」

「あ・・・あぁ。」

チヒロは寝ているブラッドをそっと床に寝かせると、ソファに座り込んだ。

「あなたたち・・・いや」

男は目つきを変えてチヒロの横に座った。男のさっきまでのおちゃらけた雰囲気は完全に消えていた。

「お前たちは今この街で起きている現象について知ってるか?」

「起きている・・・現象?」

ロードへと人格が変わり、ヴィンセントの言葉を疑った。

夜が続いているとか、この街に関するこれまでのこととは全く違う何かを感じた。

「この世界に夜が続いていることですか?」

「違う。」

その瞬間チヒロのほくそ笑むような声が漏れたのがロードへと聞こえた。

「今笑った?」

「笑った。」

腹が立つ。君ならもっともっと的外れで頭のおかしい発言をしていただろうに・・・!!

そんなロードの的外れな言葉を一蹴するとヴィンセントはモニターを映した。

そのモニターに映し出されていたのは大きく黒い穴が空の上に出来ていてその大きさは少しずつ大きくなっていく。

「これは・・・?」

「ワールドホール-世界の穴-だ。この穴はワールドコアが二人以上存在すると出来るらしい。」

「世界の・・・穴。」

ロードはその大きな穴の大きくなっていく様に恐怖に近いものを感じていた。こんなものが放置されていて自分達が気づかなかったこと、そしてそんな中で自分たちが一人の魔術師と戦っていることに対して恐怖、そして情けなさに近いものだろう。

「そしてこの世界の穴からは別世界からの訪問者が何人も叩き落されるらしい。そのせいでこの街に起きた被害は計り知れないだろう。」

「じゃあ」

「じゃあその穴を・・・どうしてあんたは放って置いた?」

ヴィンセントとロードは壁の方へと目を向けた。目が覚めたブラッドはヴィンセントの元へと歩いて行った。

「どうして・・・あんたはそれを放置してあんな子供一人を狙うような戦いを」

その次の言葉を発しようとした瞬間、ヴィンセントはブラッドの首を掴んで強く握った。その強さは徐々に強まっていき首が折れる勢いだった。

「テメェを生きさせる意味をよくわかってねえんだなぁ・・・アァ!!?俺はテメェの為に」

「待てよ!!」

チヒロが一喝するとヴィンセントは驚いたように後ろへと下り、ブラッドへと向けていた手を離した。

「アンタがどういう理由でブラッドを拾ったのかは知らねえけど俺たちが今するべきことは」

「ブラッドの首を絞めることではないってことね。」

三人が後ろを向くと、そこには九重とファルファラが壁へともたれ付いていた。二人は少し勢いをつけて態勢を立て直すと、ヴィンセントの元へと歩いていく。

「二人とも無事だったんだな。」

「あぁ、厄介な敵には出会ったけどね。」

ヴィンセントもやっときたと待ち構えるようにソファへと座り込んだ。

「ティナちゃんのことはよく知ってる。このことを話せば長くなるんだが」

「必要なら話してもらえるかしら?」

そうファルファラに言われるとヴィンセントは頷いてモニターの映像を切り替えた。

「ならばお見せしよう。この百億ドルの街で何があったかをな。」

 

-20年前-

後に百億ドルと呼ばれる町はただの繁華街であり、多くの人が行き来していた。だが、そんな中に暗闇があることも一部の人間は知っていた。

「やめてくれ・・・まだ待ってくれないか?」

「・・・ジェノ一家に従った馬鹿どもは始末すんのが俺のやることだ。」

断末魔の叫びと共に男を殴り蹴る音が壁に響き、男が去る時には死体寸前の男が血まみれで倒れていた。

「・・・取ってきたぞ。」

「ご苦労だヴィーンセント!!!」

ヴィンセントは男の財布ごとスーツ姿の男に渡した。

ジェノ一家が支配するこの街の用心棒として飼われていたヴィンセントは彼らの命令に従い、ただ暴れて金を毟り取るというヤクザのようなことを繰り返していた。

だがそんな彼の目は死んでいて、まるで生きている人間ではないようだった。

「つまらねぇ・・・。」

ただ飼われるだけの人生、だがその中で彼自身が変わろうとしなかった。いや、出来なかったのだ。

変わろうとしても何に変わればいい?どうやって変わればいい?

彼はそんなくだらない自問自答を繰り返しながら毎日人を半殺しにしては金を毟り取った。

そんな時、彼を変える転機が訪れた。

彼が街に出た瞬間、その街はいつもの雰囲気の全てを破壊していた。

「これは・・・。」

ヴィンセントは唖然として声も出なかった。

繁華街のビルは砕け散り、地面には大きなクレーターやひび割れがいくつも生まれていた。

「なんだこれは・・・。」

-美しい-彼はそう感じてしまった。

初めての感覚だった。全てが破壊されていく様に絶望などどこにも感じなかった。ただつまらないものが壊されて新しいものが生み出されていく。そんな感覚に興奮すら覚えるほどに彼は魅入った。

「なんてこった・・・。」

破壊されたビルへと近づくと、そこには彼よりも背が低くてか細い少女が立っていた。彼女の足からは砕けた破片が浮かび、まるで灰にするように全てを消し去った。

-美しい-彼は女神を見て確信した。自分が変われないなら変われる人に仕えればいい、そしてその人に尽くすことによって変わればいいと確信した。

女神はそっとヴィンセントを見た。その美しさと神々しさに彼は声をかけることすらできなかった。

女神はヴィンセントへと言った。

「弟を頼む。」

そう言い、女神はまた空へと舞い上がりビルを破壊し、床を砕いた。

弟を頼む?どうすればいい?俺にそんなことが可能なのか?

ヴィンセントは考えたが今はそんなことはどうでもいい。仕える女神のお言葉に今は従うのだ。彼は誓った。

-女神様、弟は私が預かりました-と。

 

モニターを見終わると、チヒロたちはなるほどな。と頷く。

「じゃあ俺の姉ちゃんが・・・。」

ブラッドの言葉にヴィンセントは頷く。チヒロと九重は少し微妙な表情を浮かべた。

「でも突き放す理由がよくわかんねえな。」

「僕も同意見だ。そんな大切なものの首を容易に絞めるなんて考えられないんだけど。」

ヴィンセントはため息をつくとソファへとゆったり座り込んだ。

「そう、俺は女神に弟を頼まれた。だが俺は考えた。本当に-守る-ことだけが弟を頼まれたことなのかと、それが本当に女神の望んだことなのかと。」

「にしてはやりすぎなんじゃねえかなぁ?」

ブラッドは引いた目でヴィンセントを見た。ヴィンセントは輝くようなドヤ顔でブラッドを見た。

「でも、お前は強くなったぜブラッド!」

これ以外の方法あったろ・・・。全員がそう思うとヴィンセントは言葉を続けた。

「これ以下の方法はあってもこれ以上の方法はなかった。俺はそう自信を持って言えるぜ。」

「まあ・・・言いたいことは分からなくはないが。」

コイツに何を言っても無駄だな。そう確信するとチヒロは言葉を濁して話題を変えた。

「で、どこにティナを狙う要素があった。」

「契機は重なるからな・・・。女神がどういう判断を下すかを考えてずっと堪えていた。」

「契機?」

ファルファラにヴィンセントは頷いてファルファラを指差した。

「まず一つは歌姫ファルファラ、あんたはジェノ一家を疑っていた。」

「!!」

まさか気付かれているのは思ってもいなかったファルファラは驚いて目を丸く見開いた。

「そして二つ、ブラッドが外からの刺激により自分の解放を望んだ。」

ブラッドとチヒロは驚いてお互いに目を見合わせた。

「そして三つ、-女神の娘-の到来。」

「・・・え?」

全員が頭が真っ白になる中ヴィンセントは話を続ける。もはや誰も話について行っていない。

「この三つが繋ぎ、女神が導こうとしている運命は何か。それをすぐに頭を回転させた。」

「おい待て重要なこと言ったよな?」

チヒロが止めるとヴィンセントは疑問符を浮かべた。

「まさかテメエらティナちゃんが女神の娘だって知らなかったのか?」

全員が頷くと呆れたようにヴィンセントは大きなため息をついた。

「・・・じゃあ話を続けるぞ。」

「待てェェェェェェ!!!!」

チヒロと九重は続けようとしたヴィンセントを無理矢理止めた。

「何でそんな重要なことを言ってねえんだよ!!どっかもっとタイミングあったろうが!!」

「待て待て待て。それを今から話す。」

二人はヴィンセントから離れるとヴィンセントは話しだした。

「実は二十年前の破壊は途中で止まってるんだ。」

ロードへと人格が変わり、険しい表情を浮かべた。

「黒幕が逃げたのか!!」

ロードとファルファラが同時に言うと二人が見合っている間にヴィンセントは首を縦に振った。

「とすれば女神の願いは一つ。-闇-を潰す!ジェノ一家が邪魔ならそれごとなァ・・・!!」

「良いのかしら?あなたはこれまでいた一家を裏切ることになるけど。」

ファルファラはヴィンセントへと問いかけた。ヴィンセントは鼻で笑い飛ばした。

「あんなクソ野郎どもに未練もクソもねえ。俺はこのためにここにいるんだからな!」

ロードと九重はヴィンセントへと近づく。彼らには攻撃を加えたこともある。恨まれるのも当然のことだろう。

「信じていいんですね?あなた自身」

「そして女神への愛、忠誠。」

ヴィンセントは二人の肩を叩いて間を通りすがった。

「俺を信じるかどうかは自由だ。だが、女神への愛は絶対に信じていて欲しい。それが俺の全てだ。」

二人は頷くと、改めてモニターを見た。

「だが、問題はティナだな。街一個滅ぼせるほどの強さ・・・僕たちだけじゃ対処できない。」

九重は冷や汗をかいているのが見えてチヒロへと人格が変わる。

「お前なんか隠してんな?」

「えっ?いや何も何も?」

明らかに焦っている様を見てチヒロは九重の肩を掴んで影へと寄って行った。

「切り札があるんだろ?教えてくれよ?」

「嫌だ。」

あるんだな。チヒロは交渉を続けた。冷や汗が止まらない九重へ掴む力が強くなっていく。

「今俺たちが戦わなきゃ世界が滅ぶんだ。今戦えるのは俺とお前だけだ。」

「・・・君が死ぬことになるぞ。」

九重の声は重くなるが横のチヒロの顔を見ると明るく笑っていた。

「問題ねえよ!そうやって俺たちは生きてきた。だから俺とロードを信じろ。」

九重は頷いた。いや、頷くしかなかった。また彼を傷つけてしまう。そう思いながら彼はポケットに入っていた-魔術回路-の設計図をそっと握り締めた。



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新たなる力で闇を打ち砕く!

-満月の夜-

いつからかこの世界は朝がなくなり昼がなくなり夜だけになった。そしていつからか月は変わらぬ満月を見せ続けている。

仕組みはわからないがどうやら彼ら魔術師のせいだと言われているらしい。この世界では魔術師が卑下され事の元凶にされることもいささか珍しいことではなかった。

それにも拘らずこの世界の人間達は変わらずにいつまでも変わらぬこの月の下で闇の商売を続け、つまらぬ生活を送っている。

-つまらない-彼はそう思いながら、彼へと近づく黒い光達と戯れた。

彼の周りには黒い妖精が飛び回っており、この世界のあらゆる所の情報を届けてくれる。現にティナの捕獲もおそらく妖精なしでは叶わなかったことであろう。

ナーベルは眠る少女を傍らにそんな変わらぬ月を眺めていた。

「っ!!」

ティナが起きたことを確認するとナーベルはそっと彼女へと近づいた。

「やあ、起きたかい?」

「誰!!?」

ティナは後ろへと下がろうとするが、彼女に付けられた手枷と足枷が彼女の両腕両足を縛り付けていた。

少年はティナへと不敵な笑みを浮かべながら近づく。その姿はまるで天使を殺そうとする悪魔のようだった。

「な・・・何よ。」

恐怖で足が震えている。ティナの震えは少年が近づくたびに止まらなくなっていく。

「ふふふ・・・、君の大切な人は君の手で傷つけられたよ。」

「っ!!?」

ティナへと赤い血の付いた砂を見せた。その血は先ほどの赤いガンバライダーやガトリングを背負った青年が倒れ込んだ時に付いた血だ。

ティナの震えが止まらなくなるのを見ると、彼はまるで黒い光に指示をするように手を上げた。

「やめて・・・。」

「大丈夫。」

「やめて・・・。」

「今度は必ずー」

「やめて!!!!」

崩壊したビルから断末魔の叫びが聞こえる。少女へと黒い妖精が纏わりつき、彼女の体を覆っていく。

そう、今度は大丈夫。誰もこの地から-還さない-

 

地上へと出たファルファラ、ブラッド、ヴィンセントは潰れたカジノを背に遠くを眺めた。

「来るかしら?」

「来るだろ。」

ファルファラは銃を、ブラッドはガトリングを構えて背を合わせた。ヴィンセントも片手に持った銃を回しながら敵を今か今かと待ち構えた。

「しかし、魔術回路・・・か。」

-魔術回路-

かつて滅んだとされるシステムの一つで、コアを媒体に魔術バイパスを血流の流れる心臓の各所に突き刺すことにより、血と共に魔力を流し込むようにする。というものらしい。

「そんなもんが本当にあるとはねぇ。」

ヴィンセントが呆れ声になるのも無理はない。

かつて滅んだとされる危険なシステムを使用できる術者がいること、そしてそれを自ら所望するバカがこんなところで揃ってしまうとはこの三人も予測していなかったのだ。

「ともかく俺たちは」

「ロードくん達がここに来るまで耐え抜くのよ。」

二人がそう話していると、周囲のカラスが飛び去り近くで屯っていた猫達がどこかへと走り去った。

「来る。」

そうブラッドが呟いた瞬間、空中から何本もの剣が彼らを襲った。剣は地面に刺さった瞬間黒い霧となって闇に消えていく。

「ふふふ・・・やっぱり君の力は最高だよティナ。」

ナーベルは思わず溢れた笑い声で遠くで着地した闇へと語りかける。破壊のままに動く闇の正体はティナであり、その力は以前ロード達と戦った時よりも数倍に増していた。

「あら、ずいぶん余裕なのね?」

「っ・・・。」

ナーベルは気配に気付くと後ろからの後ろ回し蹴りを左腕でガードした。止められたファルファラはそのまま蝶の姿となって美しくその空間を舞った。

「君は全く美しくないなぁ・・・。破滅のカケラもない。」

「薄汚えテメエに!」

「何がわかるってんだ!!?」

ブラッドとヴィンセントから放たれた無数の弾丸はナーベルへと一斉に飛び散り、彼の一面を煙へと変えてみせた。

撃ち終わるとブラッドは筒をゆっくりと下ろし、ヴィンセントは両手に持った銃をクルクルと回転させた。

「っ!!二人とも!!」

煙の中から出てきたのは無傷のナーベルであり、彼らよりも小さい少年には傷ひとつ付いていなかった。

「バケモンかよ。」

ナーベルは肩を軽く回すと、ヴィンセントたちに笑みを浮かべた。

「さあ、次は僕らの番だ・・・!!」

ナーベルが手を上げると、まるで彼に操られるようにティナはブラッドとヴィンセントへと走り出した。そして二人の間へとジャンプした。

「なっ!!」

驚くブラッドと舌打ちするヴィンセントへそのまま回し蹴りを決めて次の標的を探すように四足歩行でファルファラへと近づいた。

「っ!!」

ファルファラは銃を向けて引き金を引こうとした瞬間、走馬灯のように彼女へと違う景色を見せた。

それはこれまで彼女の手を離れて亡くなっていった子供達だった。彼女は何一つとして子供たちの命を守れずにまた一人、また一人と亡くなっていく姿を目の当たりにしてきた。

だからこそ人身売買に手を染めるジェノ一家、そしてこうして悪魔へと変えていくナーベル達が許せなかった。

しかし今はどうだ。悪魔へと変えられた子供へと自分が銃を向け今引き金を引こうとしている。それは大いなる矛盾なのではないか?

彼女へと与えられた疑問と走馬灯を見終わった時には彼女は倒れてそのまま天を見つめていた。

「私は・・・。」

「そうさ、君は間違っていた。君のような偽善を振りかざして銃を向ける者がいるからこの世界に争いがなくならない。そうして悲しむ子供たちが現れるのさ。」

ナーベルから突き刺さる言葉のナイフが彼女の心を抉る。間違い、偽善、そこから導き出された無力。彼女はもう立ち上がることすらできなかった。いや、できたとしてもティナを撃つ事は出来ないだろう。

「これでおしまいだよ・・・。じゃあね。」

ティナのナイフがファルファラへと向けられた。ファルファラは少しずつ目を閉じた。もう死ぬんだと確信したその時だった。

「っ!!?」

銃声が二つ聞こえた時にファルファラが目を開けると、ティナの剣は闇として消えていった。ファルファラは一瞬の隙を見た瞬間に蝶となってティナの前から姿を消した。

「誰だ・・・!!?」

ナーベルの前にいたのは赤と青の二人のガンバライダーだった。

「ここからはガンバライダーロードと」

「ガンバライダーノヴェムがお相手するよ。」

青のガンバライダーはともかくあの垢のガンバライダーは確実に前と違う。彼の中に埋められた魔力の力をナーベルはすぐに感知した。

 

監視していたガンバライジング社はロードから放たれた数値の高さにどよめきが走っていた。

それはその場にいた檀 黎斗にも衝撃を与えた。

「これは一体・・・!?」

周囲の研究者や社員たちが走って状況を判断を求める中、檀はたった一人硬直していた。

戦闘の記録を別モニターへと映されるが、格段数値の上がるような事態は起こっておらず、これまでの戦いを見てもどこを見ても変化を感じる要素は起こっていない筈だ。

何がどうなっている?この数値をすぐに叩き出せるような方法があるはずがない。先ほどの戦闘からまだ数時間しか経っていない中でこんな成長を遂げたものなどいなかった。

周囲の声も聞かず檀の思考をいくつも駆け巡る中で横にいた恵田がモニターを見ながら不敵な笑みを浮かべた。

「さあどう責任取るつもりだ社長様?」

檀は彼の言葉に冷や汗をかいた。自分の立場、そして自分の今するべきことが頭の中で転がって目が回る。

「責任を負われる立場になればそれ相応の罰かもしれないな。」

今回ばかりは覚悟するべきかもしれない。これまで彼を放っておいたこと、そしてアクート討伐を彼に任せたことは自分自身の道を大きく落とす事態になることを今の彼は知らない。



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終わる世界と新たな危機

荒廃した建物を背に赤いガンバライダーはゆっくりと闇に包まれた獣へと歩み寄っていく。

それに続くようにノヴェムはロードの後ろを歩く。彼は少しずつ歩み寄り、まるで慣れない体に気を使うようだった。

「いいかいロード、君の体はまだ魔術回路が慣れていない。慣れるまでは慎重に」

「かもね。でも僕は。」

そう言ってティナへと一気に近づくと、ブレイラウザーとライドブッカーを召喚して斬りかかった。ティナはそれを双剣で防いだ。

衝撃からかティナの足元の地面が割れ、周囲には石粒と砂塵が舞い上がった。

「・・・。」

「っ!!?」

そのままロードが少しずつ力を込めていくと、ティナの腕が少しずつ引いていく。ロードの力は押し、ティナの双剣は少しずつ押されていく。

「バカな・・・!!」

驚きを隠せないナーベルへと幾つもの弾丸が放たれる。その方向は全く違う方向からであった。

「君の相手は」

「俺たちってわけだ。」

「覚悟しなさい!!」

ノヴェム、ヴィンセント、ファルファラ、ブラッドの四人はそれぞれの武器を構えてナーベルへと向けた。

「相手は僕だけじゃないみたいだけどね?」

ナーベルの視線の先をノヴェムが見ると、そこには黄金の蟹を模したマシンがゆっくりとコチラへと近づいてくる。

「まさか・・・コステロ!?」

「よくも俺をコケにしてくれたなァァァ・・・ヴィンセント!!」

蟹のマシンに乗っていたのヴィンセントの取引先であり彼を裏で牛耳っていたコステロ本人である。

蟹のマシンは大空へと大ジャンプすると、ナーベルの前に着地し砂煙を巻き上げた。

「俺をコケにした全員を"今"ここで叩き殺してやる!!」

ノヴェムは頭に点が浮かぶとファルファラへと視線を向けた。

「ねえ、アイツ誰?」

「今あんな化け物が目の前にいる時にそれ聞く!?」

ノヴェムの声は仮面越しでも分かるような緊張感のない声だった。

「お前マジであの状況で魔術回路のオペした人間かよ・・・。」

「これはギャップ萌えにもならねえな。」

圧倒的な罵倒の多さにノヴェムは三人に首を向けていく。その表情は驚きを超えて呆れに達している顔だった。

「おかしくない!?誰か聞いただけでこうなるの!!?」

「テメエらうるせえ!!」

蟹のマシンは腕のアームを動かして横へと回転した。その腕はノヴェムたちの何倍もあり、彼らへと風圧と脅威が襲う。

「っ!!」

早いスピードで回転したアームを四人は回避して再びコステロの乗る蟹のマシーンを見た。

「僕がこの蟹を相手する!三人はナーベルを!!」

ノヴェムの指示に三人がナーベルへと向かうと蟹のマシンは大きく大ジャンプする。

「テメエの相手はこの俺だァァァ・・・あ?」

下から蟹のマシンが浮き上がる感覚に違和を感じると、慌てふためくように蟹のマシンは腕を上へ下へ振り回した。しかし、真下から持ち上げられているためその腕が届かない。

「友よ・・・新たな力を手にしたか!!」

そう言い真下から蟹のマシンを持ち上げたのは青いボディに真っ赤な目のガンバライダー だった。

「君は・・・!!」

そこにいたのはガンバライダーアクートその人だった。

 

闇に包まれたティナはロードへと何発も打撃の剣を振るうが、それを幾度となく躱していく。ティナはもう一撃ともう一度剣を振るった。

「心のない君じゃ!!」

ロードは空中を一回転しティナの剣を弾き飛ばした。ティナの手元から剣は離れてそのまま地に落ちた。

ロードは回転させた体を翻して着地した。

「僕にその攻撃は届かない。」

チヒロへと人格が変わると、ティナへとゆっくり近づいていく。ティナはまるで牙を無くして怯える小動物のように後ろへと引き下がっていく。

「大丈夫。絶対にお前を救える。」

チヒロは変身を解除してティナを抱きしめた。その温もりに応えるようにティナも自然とロードへと手を伸ばした。

「お前はこんな闇の力を振るって幸せな筈がない。お前の母親も・・・誰もお前の絶望を喜べる筈がない!」

「違うね!彼女は闇を選んだ!そして彼女の闇は加速するのさ。」

焦るように叫ぶナーベルへとアクートが蹴りを入れる。蹴られたナーベルは後ろへと退け、そのまま片膝をついた。

「アクート・・・!?」

「今は君の声に集中しろ。君の全てを彼女へと届けてこい。」

アクートの言葉に頷くとチヒロは目を瞑り彼女を強く抱きしめた。その強さは1秒ごとに強まるがまるで絞め殺すような強さでなく包み込み闇を取り込むような強さだった。

「お前は破壊を求める化け物なんかじゃない。お前は小さくて勝手だ。でもお前の優しさは俺たちが知ってる。全地球の誰かが敵になってもお前の光はここにあるんだ!!」

チヒロの中にあるリンゴロックシードが体内から出てくると錠前が開き、ティナの胸元へと入り込んだ。

「っ!!」

ティナの体から黒い闇が少しずつ消えていき、その闇が完全に消えるとティナは倒れ込んでそのまま眠りに落ちた。

その時にリンゴロックシードが胸元から出てくると再びチヒロの胸元へと入っていった。

「ティナちゃんの闇はどうなったの!?」

ノヴェムは蟹の攻撃を避けながらファルファラへと近づいた。

「闇はあの錠前が全て飲み込んだ。あのロックシードは闇の物質を取り込む性質があるんだ。」

アクートはノヴェムへと放たれた弾丸を弾き飛ばすと、彼の目を見た。

「しかし妙だ。あんな特殊な闇すら吸収できるとは思えないがな。」

ノヴェムは頷いてティナを抱き上げるチヒロを見た。

「そりゃそうさ。あの力を引き上げるために彼の胸の中に「戦極ドライバーのコア」を埋め込んだんだから。」

アクートはチヒロの方をそっと見た。彼がもしこれを望んで行なったとするなら、自分の知る"彼"はもう存在していないのかもしれないと感じた。

 

チヒロがアクートたちの元へと来ると、黄金に輝くカニのマシンを見つめた。

「おいアクート」

「アイツ誰だ?と聞きたいんだろう?」

なんで分かった!?そう顔に書いてあってもうその一言を言うまでもなかった。

「・・・月が綺麗だな。」

それは無理がある!!どんな嘘だよ!!ノヴェムは心の奥底から間髪入れぬツッコミを入れると、再び巨大な蟹を見た。

カニのマシンは先程からノヴェムとアクートで攻撃しているものの輝いて見えないのか喰らっていないのか全く傷口が見えない。

「アイツにダメージが通ってるのかわからないな・・・。」

「無駄無駄無駄ァァァ!!!コイツにダメージを与えようなんざ不可能に決まってんだよ!!」

チヒロはICカードを二枚装填してツインバーストすると、ガンバドライバーは輝きチヒロとロードを分離させた。

「効かねえなら」

「効かせるまでだね。」

はあ。とノヴェムとアクートがため息をついてロードとチヒロから離れると、四角形に囲むように四人は離れていく。

チヒロはファイズポインター

ロードはカイザポインター

アクートはデルタムーバーを蟹に向けて

ノヴェムは仮面ライダーサイガの天の力と仮面ライダーオウガの地の力を纏いオーガストランザーを召喚した。その光はサイガの青、オウガの金へと輝きだした。そして各々が武器を装填した。

"Exceed Charge"

四人からは各々の光が放たれ、四方から押しつぶすように巨大な蟹を吹き飛ばした。

「クリムゾンスマッシュ!」

「ゴルドスマッシュ!」

「ルシファーズハンマー!!」

「コバルトストラッシュ!!」

四人から放たれた攻撃は巨大な黄金を打ち抜き、両腕と足を叩き落とした。

「負けてねぇ・・・負けてねぇぞ!!俺は返すんだ・・・!!そして取り戻すんだ!俺の栄光と力をな!」

「もうあなたは終わりよ・・・。」

コステロの怯える先に見えたのはゆっくり起き上がるティナの姿だった。彼女の体全体から白いオーラを纏い、右手の拳を強く握りしめた。

「あなたにも受けてもらう・・・。私の愛のゲンコツ!!」

そして後ろには銃を向けるファルファラとブラッド、そしてヴィンセントの姿があった。

「テメエら裏切んのか!!誰がテメエらをここまで伸し上げたと思ってんだァァァァァァ!!!!!」

そうコステロが叫び倒れると、ファルファラが銃を向けながら近づいていく。

「そうね。もしかしたらあなたかもしれない。私がこの世界で歌姫を誇れたことも何もかも。あなたがいなければ出来なかったかもね。」

ブラッドとヴィンセントもまたそれに続くように近づいていく。

「だがテメエには愛がなかったんだよコステロ。」

「アンタが俺たちに負けるのは偶然であって必然だ!」

怯え包まるコステロへと四人が近づいていく。

「これで!」

「終わりだ!!」

「やめろォォオオオオオオオ!!!」

マシンの胴体には何発もの弾丸が埋まり、撃ち抜かれる。そしてコックピットが割れた瞬間、ティナがそこへ飛び乗る。

「ま・・・待て、か・・・金ならある!いくらだ?いくら出せばいい?」

ティナはニヤリと笑って拳を向けた。

「そんな端金!!いらないに決まってんだろうがァァァ!!!」

打ち抜いた拳はコックピットを貫通し、黄金の蟹が真っ二つになるのと同時にコステロは地面に叩きつけられ白目になって倒れた。

「終わった・・・のか?」

「いや」

安堵をつくノヴェムの後ろから去ろうとする一枚の蝶の羽が見えた。

「ナーベル!!」

ファルファラが追おうとすると、アクートはそれを制した。

ナーベルは漆黒の蝶となり空を巻い、綺麗な満月へと彷徨い帰っていく。

「君達との因縁はここで終わったわけじゃない。君達とはいずれ決着をつけるとしよう。」

蝶は黒い粒子となって消えていき、その場から消えていった。

全員がその消える様を見届けると、少し街の方を見た。

街は何一つ変わらず夜の闇を綺麗なネオンのライトが照らしていた。

 

全員が去った後、コステロはゆっくりと立ち上がり、血まみれの顔を拭った。

「あ・・・アイツら。次会った時は」

「次なんてない。」

後ろにいたのは明らかに人ではない異形の者だった。

異形の者は腕を剣に変えるとコステロに話す間もなくその剣を突き刺した。

突き刺した剣はコステロの太った体を貫通して突き刺さる。喉元を刺した為声も聞こえず、無音でそのまま串刺しにされた。

「無様だな。」

血を指で触り彼の服へと文字を描く

「soldier stance」の文字は白い服によく映る赤色だった。



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財団X編
Cの邂逅/絡み合う糸


百億ドルの街を救ったチヒロ、ロード、そして九重は変わらぬ夜の街をファルファラの何所であった古びたマンションから見つめていた。

「こう見ると綺麗なんだがな・・・。」

「だね。裏にあんな奴らが蔓延ってると思うと背に虫がいる気分だよ。」

九重は冗談めかしくそう笑った。

裏には何億ドルも借金をしてここを作り上げたとされるコステロの存在があり、そしてそれの借金を返すべく取り立てるヴィンセントの姿があったという事実がある。

ファルファラが布団から出てくるとチヒロはファルファラの方を向いた。

「ん?ちと煩かったか?」

「ううん。ただ起きてきただけよ。」

ファルファラは目をこすりながらそっとチヒロたちの横へと座り込んだ。彼女だけは窓を見ずにそこにいたティナとブラッドを見ていた。

「私は歌姫として利用しながら彼らに利用されていた。覚悟はあったつもりだったけど甘かったのかもしれないわね。」

九重はファルファラの方に目を向けて再び街を見た。彼女の目は少し寂しそうでどこか違うところを見ているようだった。

「でも楽しそうだったよ。あなたがライブに行く前の笑顔は戦闘の時では考えられないほど綺麗に笑ってた。」

九重の言葉にファルファラは半分にやけたような顔で頷き、チヒロのユニゾンブレスをそっとポケットに入れた。

「あんたいつの間に・・・?」

チヒロが驚いた顔を見せるとファルファラは笑顔でそっとチヒロたちの方を向いた。

「私たちのルーンを少しだけ託してあるわ。行っちゃうなら二人がイチャつく前に行ったほうがいいでしょ?」

あー・・・。と二人が微妙な表情を浮かべて苦笑いした。そんな微妙な表情を浮かべるのも無理はない。

昨日の夜、ティナとブラッドに血縁があるという話になった時のことだった。

無論姉からその話を聞かされていたティナと真実を知ったブラッドは姉の話や自分たちの話で大いに盛り上がった。というかここまでは良かったというべきだろうか。

本当にキツかったのはこの自分たちの話が終わった後である。

「やっぱりブラッドおじさんだ!」

「そうだぞ〜!お前やっぱ姉ちゃん似で美人じゃねえか〜!」

こんな調子で現在の約二時間ほど前、トータルにして三時間ほど騒いで眠ったのである。

勿論テンションのボルテージは最高潮なので彼ら三人に寝ることを許されなかった。

もはや起きていて眠気が吹き飛び、暇を持て余したのがロード、九重の状態だった。

「しかしアンタはよくあの状況で寝てたよな・・・。」

「ファルファラさんだけ寝てたものね・・・。」

あの騒ぎの中ファルファラは端で寝ていて布団と毛布を握りしめていたのだ。絶対に起きないという強い意志すら感じさせた。

「あ・・・あれは疲れただだけで普段は絶対あんなことないのよ?」

二人がフフッと笑いをこぼすとどこかツボに入って笑いが堪えられないチヒロとロードが人格が変わった。

「ファルファラさんもここを去るんですか?」

ファルファラは立ち上がって彼らと同じく街を見た。街はいつもの賑わいを見せ、カジノは潰れたもののそれでも変わらずに復興しようと取り組んでいた。

「・・・私がここにいる意味もなくなったし、ここにはいられないわね。」

九重とロードは窓から離れてゆっくりとドアの方へと歩いて行く。ファルファラもその方向から彼らもここを去るのだろうと察した。

「じゃあ、次に会うときはあなたの歌を聴かせてください。絶対に会える約束です!」

九重が振り返ってそう言うと、ファルファラは笑顔で頷いて手を振った。

二人はそれを見ると一礼してそのドアを開けて去って行った。ファルファラはそのドアが閉まるまでずっと手を振り続けた。

「・・・ありがとね。あなたたちに出会えたことが本当に楽しかったわ。」

そう呟くと再び栄える夜の街を一人眺めていた。

 

マンションを去ったロードと九重はバイクに跨り、GRZ社側からワープの指示があるその時まで待っていた。

「最初はどうなるかと思ったな。」

「全くだよ。」

九重は半ば呆れ気味でそう返した。

最初にレイシフトをミスして突き落とされ、そして彼らはティナという同一の目的のために街を焼き払うほどの戦闘を行い、果てには倒す目標であるアクートとも組んだ。本来彼らがするべきをことを色々すっぽかした状態でこの役を終えたのだ。

「しかしアクート・・・か。」

今回の戦いで彼は自分たちと共同戦線を組む形でコステロ、ナーベルを討とうとした。それは敵と認識していたチヒロたちに驚きそのものだった。

「しかしアクートは何が目的だったんだろうね。」

チヒロはさあ。と首を横に振った。

「でもファルファラさんが言ってた"何者か確かめる必要がある"っていうのはこれからの俺たちの動きにも加える必要がありそうだな。」

結果として自分たちがアクートについて何も知らなかったという事実は確かなものだった。今回彼が手を貸したのも自分たちを"完全に敵と見なした"行動ではないことは確かであり、彼が逃げ出したことにも理由があると見ていいのではないだろうか。

チヒロはそう頭で回転させるも"何故逃げたのか""彼の呼ぶ友の存在とは誰なのか"この二つの疑問が頭をループする。

「まあ、頭ごなしに考えたって仕方ないんじゃない?」

ロードはチヒロへとそう問いかける。今考えたところでアクートの真実は見えてこないしそれを今知ってもどうすることも出来ないことは明らかだった。

「・・・だな。俺たちは俺たちのできることを今しよう。」

チヒロたちがバイクのエンジンをかけて走らせようとしたその刹那だった。

「ーーーー!!!」

「っ!!?」

チヒロは後ろへ方向転換してそのままバイクを走らせた。九重は気付かず前進し、そのまま進んで行った。

チヒロたちはバイクをフルスロットルでは知らせる。そのスピードは道を走る車を次々に追い抜くほどだった。

「聞こえたな!!」

「あぁ、でも今のは一体!?」

頭に電流のようなものが流れて彼らへと何かの信号を送った。それを示唆するものが何かは分からない。

だが、彼らは電流の示した道へと走り続ける。-そこに救いを求める人がいる限り絶対に-

 

逃げ回る少女は街を超えて林を抜けて行く。その道の行く先は少女にもわからず、また追っ手である-モンスター-にすら分からない。

少女は決して後ろは振り返らないと必死に前を見て走り、右そして左へと何度も道なき道を切り開き進んで行く。

「無駄だ・・・。人と俺たちが同じ体力であるはずがない!」

モンスターの追っ手は彼女が今感じている気配だけでも四体、恐らくそれ以上いることは大方予測出来た。

「何なんですか・・・。」

少女-クリスタル-は走り続けてずっと林を走り続ける。

クリスタルの体力も限界に近づいており、その足取りは少しずつ重くなり進む速度が遅くなっていく。

「でも・・・。」

彼女の頭には仲間たちの顔が浮かぶ。こんなところで死ぬわけにはいかないと重い足を無理矢理にでも走らせた。

「潮時か?」

少女は足を止めると化け物の方を向いた。モンスターたちは木の上からクリスタルを見つめた。

「どうした?鬼ごっこは終わりか。」

「はい終わりです。ここであなたたちを・・・!!」

彼女は懐からボールを取り出すとそのボールから生き物を召喚した。

「めがピョン、からピョン!あのモンスターを倒しましょう!」

「ふん、"メガニウム"と"カラカラ"・・・"ポケモン"とやらのデータにあったものに違いはないようだな。」

二匹のポケモンはモンスターたちに攻撃を開始し、めがピョンと呼ばれたメガニウムは葉をカッターのように飛ばし、からピョンと呼ばれたカラカラは自分の持つ骨をブーメランのように投げた。

モンスターたちは散らばり、その攻撃を鮮やかに躱していく。

「あなたたちは一体何者なのですか!?」

少女の言葉にモンスターは答える。

「我々は財団Xの捕獲部隊。君と同じ-捕える者-とでも言っておこうか?」

少女は自分の持つ端末-ポケモン図鑑-を強く握りしめた。辺りを見ながら散らばったモンスターたちの様子をうかがう。

「どういうつもりですか?」

彼らは攻撃を仕掛けるどころかずっとポケモンの攻撃を避け続ける。ポケモンたちはそれを追うように攻撃している。

「おかしい・・・。」

自分が指示していないのにポケモンが勝手に動いているのだ。まるでその姿は操られた人形のようだった。

「お気付きかな・・・?」

クリスタルの背後へと回ったモンスターはそっと呟いた。

クリスタルはモンスターから距離を取るように前へと前進した。

「この"パペティアードーパント"の力は操り人形。君のポケモンを少し操らせてもらったよ。」

「なんてことを・・・!!」

少女から見える怒りの目、その怒りの目をパペティアーは嘲笑うように見つめた。

「良いねえその怒りの目、じゃあこういうのはどうだろうか?」

「っ!!?」

パペティアーが指を動かすと、メガニウムはツルを伸ばして後ろからクリスタルを捕らえた。

「めがピョン・・・!!」

メガニウムにその声は聞こえておらずその強い力でクリスタルを絞めあげていく。

「っ・・・!!」

首を絞めあげられて声も出ずその場でもがき続けた。

「いいねぇその絶望の顔、君ももうリタイアしてもらおうか・・・!!」

メガニウムが空高く打ち上げると、クリスタルはそのまま打ち上げられて空を舞った。彼女は体勢を立て直そうと体を翻した。

「スパイダー…やれ。」

「御意。」

クリスタルは気配を感じて横から飛ぶ糸を間一髪で回避した。

「助かっ・・・!!?」

その糸を蔦のように使い、モンスターがこちらへと近づいてくる。モンスターのスピードは速く彼女はこのまま回避出来なかった。

「ぐっ・・・。」

首を強く掴まれてそのままクリスタルは蜘蛛の巣へと叩きつけられた。クリスタルは逃げようとするが首を掴まれたその状態で逃げるなど不可能に近かった。

「眠れ。」

クリスタルの首へと針が刺さりその針に刺さった瞬間クリスタルは眠りに落ちた。

スパイダーと名付けられた-スパイダードーパント"はそのままクリスタルの両腕両足を糸で縛り、蜘蛛の巣に貼り付けた。

「これであとは持ち帰るのみですね・・・。」

「そうだね。僕らの役割はここまでだから。」

そう呟いたのは"スコーピオンゾディアーツ"と"カザリ"だった。クリスタルは白兵戦が可能という情報もあり彼らが付いて来たが、結局彼らの出番はなくそのまま終わってしまった。

糸の解かれたポケモンたちは主人のところへ向かおうとするが木の上で縛り上げられた主人の元へと向かうことはこの二匹では不可能だった。

二匹の鳴き声が虚しく林の中に響いた。

「無駄ですよ。こんなところに助けに来れるものなどー」

その瞬間、ほかの気配を察知するとパペティアードーパントとスパイダードーパントは逃げようと足を動かした。

「誰だ!?」

彼らの周囲には蝶が舞い、その美しさと何者か分からぬ緊張感で包まれていた。

「あれ?ご存知ないかな?」

「バケモンじゃ考える知恵もねえよ。」

銃を構えて周囲に魔法陣を描く。その赤いボディの戦士を怪人たちは知っていた。

「貴様ガンバライダーか。」

魔法陣を描いた二人の攻撃はドーパントたちを貫き、そのまま爆散させた。

倒されたスパイダードーパントの貼っていた蜘蛛の巣が消滅してそのままメガニウムの背に落ちていった。

「ご名答。俺たちはガンバライダーだ。」

「君たちで相手になると思わないでね?」

そこにいたのは二人の赤いガンバライダー-ロード-だった。



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少女とベルトと動き出す影

チヒロとロードは二体の怪人に再び戦闘態勢に入り拳を強く握った。

カザリとスコーピオンゾディアーツもまた戦闘態勢に入る。

ガンバライダーという名はこちらのデータにも入ってはいるのだがこのタイプのライダーのデータはなかった。そして同じ個体が二体。

「どういう術式でこれを可能にしたのかな?」

「どちらにせよ我々がやることは変わりない。」

カザリは髪を逆立て一気にロードへと突撃する。鋭い爪が木々へ傷を入れていく。

そしてロードへとあと一歩で攻撃が届くというその時だった。

「甘いねえ。」

振り抜いたその爪は虚空を裂き、その勢いでカザリは空中で一回転した。

カザリはすぐさま受け身を取り立ち上がると周囲を見渡した。

「どういうこと・・・?」

「お前らじゃ俺達に勝てねえってことだ。」

スコーピオンゾディアーツが何かに気づきすぐさまカザリの元へと飛びかかるがすでに遅く、スコーピオンゾディアーツの目の前には赤い目のガンバライダーが首を鳴らしていた。

「そらよっと!!」

チヒロの振った音撃棒はスコーピオンゾディアーツの頭を直撃し、脳の焼かれるような感覚とともに地上へ落ちていく。

「何!?」

カザリがすぐさま逃げようとした時、彼の逃げる眼前には緑色の目のガンバライダーが走ってきていた。

彼の持っていた武器はメタガブリュー、かつてオーズがカザリを滅ぼした際に使用した武器である。

カザリが後ろへ逃げようとすると、赤い目のガンバライダーが片手に稲妻を灯して待ち構えていた。

「チヒロ!サポートは任せたよ!」

「任せろよ!」

チヒロはカザリへとエレクトロファイアを放った。カザリへと向けられた雷撃は直撃、そのまま吹き飛ばされた。カザリはそのまま立ち上がろうとするが異変を感じる。

「何が起こってる・・・?」

カザリを形成していたセルメダルは分解されていく。そのメダルは少しずつメタガブリューに吸われていた。

「君は何を・・・?」

カザリは怯えて逃げようとするがもう遅い。カザリの体は分解され、コアメダルだけとなって落ちていった。

「さあ、あとはこれを」

「あの空に向けてぶち当てるだけだ!」

空へ広がる大きな穴、その存在にはきた時から彼らは気づいていた。

そして彼らはこれだけの力があれば撃ち抜けることもまた確信していた。

"プトティラーノヒッサーツ"

その音声とともに放たれたストレインドゥームは大きな穴へと直撃し、周囲に無言の風圧を与えた。

近くにいたメガニウムたちは必死に地面に食いつくが、クリスタルだけがそのまま意識を失って倒れたままだった。

砲撃が終わると、チヒロたちはその光景に驚きを受ける。

「嘘・・・だろ?」

ストレインドゥームを受けた穴は破壊されるどころか更に大きさを増して侵攻を進めている。遠い彼らの位置でも吸い込まれていく塵の姿が見える。

「どうなってんだよ・・・?」

そして少しずつ歩いてくる男の気配に気づい

たチヒロはガンバソードを召喚し男に刃を向けた。

「敵意はありません。私、悲しいです。」

チヒロは獣のような鋭い視線を男に向けた。恐らく一歩でも近づけば突き刺される。冷淡な表情を見せていた男でも彼から放たれる威圧感は感じ取ることが出来た。

「私たちの名は"財団X"、あなたたちに交渉をしに参りました。」

「交渉だと?」

ロードが近づいてチヒロのガンバソードを下げさせた。そして彼より一歩前に出る。

男も彼らの交渉の意思を感じ取ったのか、一歩前に近づいた。

「内容は?」

「あなたたちの力を解析させていただきたいのです。」

「解析だと!?」

チヒロは驚愕の表情を浮かべた。

彼らからしてみればこのドライバーも全て機密情報、漏洩など起きようものなら自分たちが真っ先に抹消されることは言わずもがなだ。

「もちろんあなたたちの強化も含めて、なら条件はいかがでしょうか」

「断る。」

ロードははっきりそう言って去ろうとしたその時だった。先程まで後ろにいた少女がいないのだ。無論気を失っていた彼女に立つ力などない。

嫌な予感を感じ取ったロードは男に視線を再び向ける。男の余裕そうな表情が崩れることはない。

「そこにいた子供なら私たちが拘束しました。彼女も必要な"材料"なので。」

「っ!!」

ロードが殴りかかろうとしたその時、チヒロが手を止めた。ロードは必死に振り払おうとするが彼の力は強く、ロードの力では振り払えない。

「お前のその条件、乗ってやる。」

「チヒロ!?」

彼の交渉はあまりにもハイリスクすぎた。誰かも分からない人間にガンバドライバーを渡すなど、組織としてありえない行為である。

「分かりました。ではこちらに。」

男はロードたちに手招きをして誘って行く。

チヒロもわかっていた。これが正解ではないこと、この一件が誰かを犠牲にしてしまうかもしれないということも。

 

ガンバライジング社では九重からの通信で状況が一転、慌てふためいていた。

ロードがいなくなったという通信を受けてから早一時間、檀を中心とした捜索チームが編成され、急速な対応が行われている。

「ロードがいなくなったというのは本当かい!?」

檀の通信に九重は頷く。彼としても迂闊だったのかいつもとは違い重い表情を浮かべた。

彼としても監視係とはいえこれまで旅をしてきたパートナーだ。檀もそこまで理解がないわけではない。

「僕の油断が引き起こしたことです。僕の方でなんとか」

「そりゃならないなぁ。」

そこへと声を割いたのは恵田だった。恵田はガンバドライバーを手にとって、外へと出ようとした。

「どこへと行くつもりだ?」

檀の言葉に不敵な笑みを浮かべる。何かを企んでいるのは言うまでもなかった。

「勿論、そいつの探索さ。命令無視の痛い"お仕置き"も兼ねての話だが。」

檀が止めようとした時には既に遅かった。もう恵田は出て行っていた。

彼もまたこの場所では何人もの上司の部類に入る。恐らく彼が部隊を動かすのも時間の問題だろう。

どうしたものかと考える檀は一つ案が浮かぶように笑みをこぼした。

「九重くんの事情は分かった。こちらに戻ってくる前に恵田くんを止めてきてくれないか?」

「了解しました!」

九重はそのまま通信を切ってバイクを走らせた。

檀はすぐさま携帯を取り出して、ある人へと通信を送る。

宛名には"BLAZE"の名が書かれていた。

 

もう沈んでしまった廃墟ビル。そんな暗く汚い場所に彼はいた。

ソルジャー・スタンス

スタンスに与えられた名はその一つではあるが、彼がどう生まれ、何を目的としていたのか、そこまで彼が知ることではなかった。

スタンスが雑居ビルの中へと入っていく。おそらく人なんてこの暗い場所にはいないだろう。そう、スタンスともう一人のソルジャーを除いて。

「やっと帰って来たの?」

スタンスはその貧弱そうな体を突き飛ばして席に座った。その声をかけた主はスタンスへと近づく。

「もう!君からぶっ殺すことも出来るんだからね!」

その瞬間、お互いの刃が首筋に置かれた。緊迫した間が一瞬続いたと思うと二人は剣を納めて離れていく。

彼のコードネームは「HAPPY CHILD」、スタンスと同じく作り出された"ソルジャー"である。

ハッピーチャイルドはその貧弱そうな体をクネクネと動かしながらスタンスから離れていく。そして首を一八〇度回転させるとそのままスタンスに一二歩歩み寄った。

「で、例のターゲットは殺ったの?」

スタンスは黙り込みながら首を横に振った。それを見て"つまんない"とハッピーチャイルドは首を元に戻した。

「まあ、いいよ。」

スタンスの横にナイフを投げた。ナイフは回転しながら壁に刺さった。

「僕がそいつらをぶっ殺してあげる。」

そう楽しそうにスタンスに伝えるとハッピーチャイルドは部屋から出て行った。

「・・・貴様では不可能だ。」

スタンスは自らのデータを整理した。あのガンバライダーのこと、そして組織の計画のことを。

「・・・。」

あのガンバライダー"ノヴェム"とか言った。恐らく奴がこちらを解析するのも時間の問題であろう。そしてそれが時を同じく"組織の計画"の障害になることもなり得ない。

「・・・策を打つか。」

スタンスは刺さったナイフを取り、そのまま壁へと投げつけた。

自分がどうであれ関係ない。兵器として-任務を遂行するのみ-



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風・黒・動・世

財団Xの研究室へと辿り着いたチヒロたちはここまで誘導した研究員の男"カズ・ジュン"と名乗っていたか。

そのカズは殆ど無口で先々と歩いて行く。

こんな奴を信用していいものなのか。チヒロとロードは不安になりながらもカズへと付いて行った。

カズは目の前にあったセンサーに手をかざした。かざした手に反応して大きな扉が開いた。

「にしてもそんな簡単に俺たちを入れていいのか?」

「構いません。私、信用していますから。」

どこからコイツのこの揺るぎない自信が湧いてくるのか。

確かに人質を取られているのは事実ではあるが、その人質を犠牲にして彼らの研究室を破壊することはガンバライダーの力を使えば容易い。だが、それでも彼らがここまで呼び寄せるということは余程重要なことなのだろう。

ロードへと人格が変わり、研究室の椅子へ座り込んだ。

「カズ、少しだけ聞きたいことがあるんだけど。」

「・・・。」

こちらを向きはしたものの、その無機質な表情が変わることはなかった。そういう人間なのか聞いていないのか、そんなことは構わずロードは話を続ける。

「僕らを狙った理由はよく分かる。だがあの子供を狙った理由は何?」

カズは手元にあったデータを無言でロードに渡した。そこには-World Core-と書かれた研究書類が数十枚あった。

「つまり彼女がこのワールドコアに関係があると?」

「そういうことです。」

カズが口を開くと、モニターには沢山の地球の映像が映っていた。

その映像は同じ場所ではあるが、全くそこに住んでいる生き物の動きが違った。

「この世界には並行世界というものがあるのはあなたたちもご存じでしょう。」

ロードは首を縦に振った。彼らが辿ってきたミッドチルダ、そしてフロニャルドもココ百億ドルの街もまた並行世界の一つだからだ。

「その世界には幾人か世界を構成するコアが存在します。」

「それが彼女とどう関係があるんだ?」

カズはその質問に答えるように近づいて横に座った。彼の無機質な空気がロードにも伝わってくる。

「あの大きな穴を生み出したのが彼女たちワールドコアだとしたら?」

ロードはゆっくりカズの目を見た。彼の冷淡な表情が少しずつ歪曲した笑みにすら見えてきた。

「コア同士がぶつかってあの力を生み出したって言いたいのか?」

「そうなりますね。」

そう淡々と返すとカズは更に追い討ちをかけるように話し続ける。

「そしてあの大きな力とガンバドライバーの力、この二つの力が解明されれば我々の研究も大きな飛躍を遂げます。」

それで彼女たちを狙い、何らかの力でロードたちを呼び寄せて全ての利を得ようとしたというわけだ。

落ち着いて納得したロードは下がり、チヒロへと人格が変わる。

「なら俺からも質問していいか?」

「どうぞ。」

チヒロはカズへと少しずつ近づく。お互いの冷淡な目が睨み合うように視線を合わせる。

「あの子が発した声が聞こえて俺たちはあの場所がわかった。あの力は一体どういう仕組みだ?」

カズは後ろを向いて壁へ手をかけてチヒロたちに一言言った。

「分かりませんね。」

「はぁ!?」

企業秘密ではなく本当に分からないと言うのなら何が自分たちを呼び寄せたのか。チヒロは目を丸くしてカズへと近づく。

「わかんねえってどういうことだよ!お前らが発したものじゃないって言いたいのか!?」

「そうなりますね。」

彼の冷淡かつ平坦なトーンはチヒロを更に苛立たせる。

これではいけないとロードがすぐさま人格を変えて、カズから距離を置いた。

「つまり彼女のワールドコアの力の一部だってことでいいのかい?」

「そう考えるのが妥当でしょう。」

なるほど。とロードは頷いて椅子に再び腰掛けた。

「おいロード!」

「落ち着いてチヒロ。」

彼の気持ちが分からないわけじゃない。だが今自分たちがすることはそうじゃない。

これから知る必要がある。財団のこともワールドコアのことも。そして-自分自身-のことも。

 

GRZ社から少し離れた施設。そこに彼女たちはいた。

「お姉ちゃん」

「何だ?」

妹の篝が烈火へと話しかけた。

この姉妹-切風-姉妹はGRZ社の中でも風変わりな姉妹であり、組織に囚われずに動ける言わば… -一匹狼-な姉妹だ。

篝から呼ばれた烈火は腰掛けていた椅子から立ち上がって篝へと近づいた。

烈火妹「こっちにずっと電話鳴ってるんだけど?」

烈火「電話?何でまたここに?」

しかも見た所非通知での電話が鳴っていた。

彼女も誰なのか見当はついていた。ここに非通知でかけてくる人間などいたずら電話か見当がついているソイツしかいないのだ。

念のためにと烈火は近くに置いてあった変成器を取って受話器にあてた。

「俺だ。」

男の声がしたことに電話をかけてきた主は一瞬戸惑ったが、その後すぐに理解したのかすぐに返答した。

「私にまで変成器を使うことないんじゃないか?ブレイズ。」

やっぱりコイツか。烈火は呆れたような声でため息をついた。

GRZ社社長-檀 黎斗-

この施設"実験場-を用意してくれたのも無論彼である。彼には感謝も多いがやはり非通知でかけてくることはどうしても気に食わない。

そう思いながら、烈火は適当にそうだなと返した。

「で、要件は?」

あぁそうそうと檀も話を続ける。

「ある人の監視を頼みたくてね。君にしか出来ないことなんだ。」

「俺たちに頼むと高い借りと飯はいただくぞ?」

「分かっているよ。それほどこちらも急いでいるという話だ。」

そう冗談まじりで言った烈火に対して檀は落ち着いた真剣なトーンで返した。冗談がそれなりに通じる彼ですらこの態度、よほどお急ぎの事情なのだろうと烈火はすぐに察した。

「そんで対価は?」

「その者に働いている特殊な力が解析できれば、君を普通の人間に戻すことが可能かもしれない。」

烈火の言葉にそう返した。烈火は一瞬言葉に迷った。

-普通の人間-事情を知る彼だからこその言葉なのだろうが、烈火に複雑な気持ちを与えたのも事実だ。

「・・・乗った。ただしこちらの条件も呑んで貰う。」

「えっ!?良いのお姉ちゃん!!?」

烈火は少し苦そうな声で檀の策に乗ると伝えた。篝は横で驚くように烈火の持っていた受話器を握った。

離せ離すまいと二人は小さな攻防を続けた。

「構わないよ。君ほどの戦力が加わるならのちらも越したことはない。」

そう言って電話を切った。後は彼女たちが掌で転がってくれるだけだ。そう思うと少しずつ檀の表情に笑みが浮かんできた。

「私の掌でうまく転がってくれよ・・・ブレイズ。」

電話を切った烈火はそのまま椅子へ座り込んだ。

「ちょっと待ってよお姉ちゃん!!」

篝が止めると烈火がうるさいと止めた。

「何で行くの!?」

「仕事だよ仕事。」

適当に受け流す烈火の手を篝が握った。その手は強く、普通の人間なら折れていてもおかしくないくらいだ。

「バカ強いよ。」

手を振り払うとそのままドアの方に向かった。篝の言葉に振り向きもしなかった。

「大丈夫だ。仕事をこなしてくるだけさ。」

そう言ってドアを閉めて出て行った。

不安なのもわかってる。でも-今は-

 

しかし檀の策とは裏腹に恵田の計画は限りなく早く進んでいた。

恵田は何人もの部隊を組み、逃げたガンバライダーの殲滅作戦を行っていた。彼の伝手で何とか集めた掻き集めのガンバライダーの部隊だ。

彼としてそんな大した能力ではないがまだマシな部隊を組んだつもりである。

そして彼の後ろには集められた赤、青、緑、白のガンバライダーが並んでいた。

「隊長、どうなさいますか?」

赤いガンバライダーに聞かれると恵田は当たり前だ。と受け流す。

「ガンバライジング社の威厳においてガンバライダーの殲滅する。あんなものを置いておくわけにはいかんからな。」

そうですか。と青いガンバライダーは返す。

「しかし良いのですか?社長はこれを止めると思いますが?」

「構わん。檀の下にいつまでもついていては解決には至らない。」

ふーん。と緑と白のガンバライダーは頷く。

「まあ我々のやることは変わらんな。」

「だね。殲滅あるのみっと。」

五人のガンバライダーが歩き出そうとした瞬間、彼らの前に一台のバイクが通った。バイクは五人の前に止まり、ヘルメットを脱いだ。

「九重・・・一成。」

九重はヘルメットを置くと、恵田へと一歩二歩近づいていく。恵田へ向けられた視線は明らかに好意的なものではない。

「まだあの小僧を庇うのか?」

九重は無言でさらに一歩二歩歩み寄る。

「当たり前だ。僕はロードを今でも信じてるからね。」

檀はやはり人選をミスったな。と恵田は呆れた表情を浮かべた。本来彼がするべきはただ監視するだけ、それ以上の干渉など本来いらないのだ。しかし今はどうだろうか?彼の言葉に"信頼"などという言葉が出てくるのだ。

「・・・やはりお前を生かしておくのはミスだな。」

恵田がガンバドライバーを取り出すと腰に装填してICカードをドライバーへと挿入した。

そして九重もまた同じくドライバーを装填した。

「変身。」

変身したノヴェムと恵田のガンバライダー"ブリッツ"はお互いにガンバソードを召喚した。

「信頼なんて言葉がお前に必要だと思うか?」

「勿論だ。僕は彼を見守ることが役目だからね。」

後ろにいた四人のガンバライダーが動こうとした瞬間、恵田がそれを止めた。

「こいつは気に食わねえから俺が叩き潰す。」

四人が無言で頷いて下がったことを確認すると、恵田は召喚したガンバソードを手元でクルクルと回転させた。

九重は正眼に構え直してまっすぐに敵へと見つめた。

二人の剣はぶつかり合い、その場に大きな火花を散らせた。



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守りたいという想い

ー財団Xの最深部ー

ここは限られた人間しか入れない領域であり、入った人間は数人ほどしかいないという。

辺りを見渡せばそこには実験材料となった獣や人間、挙げ句の果てには怪人の死体まで転がっていた。

そんな場所にロードはいた。そこは血生臭く鉄のような匂いがプンプンしていた。

「こんな広い場所がここにあったとはな・・・。」

カズからはここは支部の一つでそんなに広くはない。という話を聞いていたが、支部にしては地下設備にこの開発に出た残骸たちを見るととても支部の規模を超えているように見える。

無論、彼らも無断で入ったわけではなくカズに見てこい。という御達しがあって今に至る。

「血生臭いところでよく仕事できるよね。ホント臭いがきついよ。」

ティナを捕らえていた牢獄のところでも感じたのだが、本当にこんなところでよく仕事ができるな。おそらく彼らなら2分も持たずにギブアップしているところであろう。

そう感じながら彼らは奥へと最深部へ進んでいく。その血生臭さはドアから離れるほどにその臭いはきつくなっていく。

その奥底にー彼女ーはいた。

「クリスタル・・・。」

「どうして私の名を・・・?」

クリスタルはチヒロへと疑問を投げかける。あの時気を失っていた彼女にとっては初対面の人間になるのだから無理もない。

「俺はチヒロ、二重人格の兵士だ。」

「は・・・はぁ。」

何となくわかるガサツな挨拶をされたところでチヒロはクリスタルがいる台の横に座り込んだ。

辺りは真っ暗だが、うっすらと見える光でチヒロのことを認識している。

チヒロは小さくため息をついて話し出した。

「俺はあんたを助けられなかった。」

「どういうことですか?」

クリスタルの疑問は膨らんでいく。否、何となくはつかめたがその靄が消えないというのが正しいだろうか。

ロードは「変わって。」とどこか落ち込んだ様子のチヒロを引き下げて人格を変更した。

「クリスタルさん、僕らはあなたとあなたたちのパートナーを庇うためにここにきました。」

「おいロード!!」

チヒロの言葉に黙っててと一蹴する。

「だからこそ僕らはあなたを救う必要があってここに来た。」

なるほど。とクリスタルは縦に首を頷く。

彼女の手には重そうな手枷が付いており、足は鉄の鎖で縛り付けられていた。

どうやらこの財団は子供相手にも容赦がなく冷酷な人間揃いらしい。

「あなたたちは先に逃げていただけませんか?」

ロードは言葉を失った。呆然とするロードをよそに話を続ける。

「恐らくここにいてはあなたたちの命も危ないです。私一人ならまだしもあなたたちまで」

「逃げられるわけねぇだろ。」

チヒロはクリスタルに対してそう呟いて、彼女の華奢な肩を掴んだ。クリスタルは驚いて背を後ろへ伸ばした。

「俺は絶対目の前の命を見捨てたりしない。もしアンタが死にかけた時は俺が守り抜く。」

クリスタルは彼の言葉に頷くことしか出来なかった。彼の言葉に圧倒されるがまま何度も頷いた。

「だからアンタも生きることを諦めんなよ。」

チヒロも納得したのか頷いてクリスタルに背を向けた。

「待ってください!!」

クリスタルの言葉にチヒロの足が止まる。ロードは彼が止まったことに疑問符を抱いた。

「きっといつかあなたにお礼をさせていただきます!!勇気をありがとうございます!!」

チヒロはゆっくりと歩き出す。彼がするべきはこうじゃなかったのかもしれない。でも・・・それでも

 

ー行ったかなー

クリスタルはチヒロが行ったことを確認すると緊張が解けたのかずしりと重い手枷と共に座り込んだ。

捕まった身のクリスタルはここから動くことも出来ず、先ほどまで呼び出せたメガニウム、そしてカラカラたちもこうも重い手枷と鎖が付いていては呼び出すことも出来ない。

「・・・私が足でボールを使えることも分かった上なんでしょうか。」

クリスタルは少し落ち込んだ様子を見せるが今はそんな時ではないと思考をすぐに変換させた。

自分がここにいる真意すら掴めない彼女は恐らく手枷足枷が付いてなかったとしても情報を集めることすら困難であろう。

それにこんな真っ暗な闇の中だ。自分を襲った怪人たちのような化け物が急に出てきたっておかしくはない。

そう難しいことを考えてしまうともしかしたら諦めのつく手枷があってラッキーだったのかもしれない。

そう思った時先ほど言われたチヒロの言葉が脳をよぎる。

「生きることを諦めるな・・・ですか。」

無理難題を通して奇跡すら起こす力を彼女はこれまで幾つも見てきた。

今頃彼は何をしているだろうか。自分が元々いた世界で私を探しているのだろうか。

そんなことを思いながら小さく呟く。

ーゴールドさん、私は今ここにいますー

 

百億ドルのネオンが輝く街、今はその面影はなく、吹き飛ばされた街の残骸だけが残っていた。

「ホント派手にやってくれたねぇ。」

烈火はゆっくりとその街を歩いていく。だが

「妙だ・・・。」

烈火はすぐにその違和感の正体に気づいた。

商業施設などが吹き飛んでいるのは確実だが、一般市民の住む家屋・アパートなどは破壊されていないのだ。

これで戦った相手は相当の手練れか幸運の持ち主とも言えるのかもしれない。

そんなことを思いながら瓦礫の山を進んでいくと、一人倒れる男がいた。烈火はその存在が誰かすぐに察した。

「ガンバライダー ノヴェム“九重 一成”」だね?」

九重もまた自分の名を知るGRZ社の人間であることを察した。

「あぁ・・・、情けない姿で申し訳ない。」

彼の優しそうな声とボロボロになった身体でああそうか、彼がこの街を守ったのかと。

烈火はその手を九重へと伸ばした。

「情けないなんて言わないでくれよ。アンタはこの街を守ったヒーローそのものさ。」

「ヒーロー・・・か。あいつなら否定してただろうね。」

九重は差し伸ばされた手を掴みゆっくり立ち上がろうとした。だが

「ッ!!!」

九重はフラついた後そのまま地へと倒れ込んだ。

「おい!」

烈火がその手を振り上げようとした時は遅かった。九重は顔を地面につけてそのまま立ち上がらなかった。

否、“立ち上がれなかった”のだ。烈火は容態をすぐに察した。

「まさかアンタ・・・折ったのか?」

「折ったっていうか折れたかな。」

九重は苦笑しながら烈火へと呟いた。彼の足はもう使い物にならないことが目で見ても伺えた

彼が立ち上がれないことを確認すると烈火はすぐさま電話を取った。

「こちらブレイズ、ガンバライダー負傷中。至急応援を求む。」

烈火がそう言い電話を切ると立てない九重へと寄り添った。彼女の赤い髪が風でなびく。

「で、アンタを折った強者様はどこに逃げってった?」

九重はゆっくりと指を指す。その先には遠くにここからでも見えるくらい大きな森があった。

「おそらく奴は向こうに行った。僕の相棒もきっとそこにいる。」

オーケー。と烈火は言ってその方向へと歩いていく。

長らく旅をしていたとは聞いていたが、まさか職員の兵器が人間らしくなるなんてね。

彼女の中で何となく嬉しい気持ちが湧いた気がした。

救護班が来た時にはもう烈火はおらず、九重たった一人だった。

「やっと来たか。」

九重は倒れこみながらそう呟いた。

烈火が呼んでくれてから恐らく30分近く経った上でのご登場、少し遅いような気もするが救われるだけマシかと九重はため息だけで済ませることにした。

救急隊員たちはヒソヒソと話を始める。

「ブレイズさんの本性見たかったよなぁ。」

「ホントそれ、都市伝説ではアイドルらしいけどどうなんだろうな?」

「男の声だしそりゃないっしょ!」

九重はその言葉を聞いていくたびに疑問符が浮かぶ。彼女はボイスチェンジャーを使っているのか?いやというか何のために?

さまざまな疑問は救急隊員によって遮られる。

「九重さんもういいっすかね?」

救急隊員の声に慌てて九重は「はい!」と答える。

どうやらあの烈火という子にも何か事情があるようだ。

彼がそれを知るべきか否かは、今の彼の思考回路の中にはないのだった。

ーGRZ社本社ー

GRZ社の本社では檀が様々なところへと電話しており、その都度「そうか・・・。」と残念な声が上がる。

「お呼びかい?」

そんな中、彼が最も信頼の置く男は即答でオッケーを出してくれた。

「朱崎!!」

檀は嬉しそうに朱崎の手を握った。相当人が集まってないんだろうなと今の段の様子を見るだけで察した。

「君も人集めに手を貸してくれないか!?」

「はぁ!!?」

俺は人事部か何か!?そんな人望が一社員の俺にあると思ってんのかこいつ!?

そんなことは胸の奥にしまって朱崎は檀へと話す。

「あのね、出来ることと出来ないことがあるんだよ?」

檀は朱崎を見た。朱崎はその目を見て長い付き合いの推測で諦めてないことをすぐに察した。

「君には次期社長を継いでもらおうと思っていたのだが・・・残念だ。」

「おい待て今サラッと衝撃発言しなかったかお前!?」

「ということで手伝ってくれェェェ!!!」

ホントこいつ無茶苦茶言ってくるな。そうは思うが結局権力の差かそれとも長い付き合いの差か泣く泣く手伝うのだった。

 

財団X支部ではカズを中心に研究を続けている。

勿論奥底で捕らえているクリスタルもまた実験隊の一つである。

「ワールドコアの研究は順調ですか?」

「勿論です。」

ーワールドコアー

その次元世界を司るコアでありそのもの自身が世界であると行っても過言ではない。

そのワールドコアは世界に複数人いる場合があり、クリスタルもまたワールドコアの一人であった。

かつて大ショッカーはこのワールドコアのシステムを利用、ワールドコア同士を叩かせることで融合と消滅のオーバーロードを起こすという何とも大胆な作戦に出ている。

尤も、彼らの作戦は自らが作り出した“ディケイド”によって失敗に終わったわけだが。

「しかしあれほどの力があれば我々も」

大ショッカーは失敗に終わった。しかし財団Xは違う。彼らよりも技術力のある我らなら。

そんな根拠のない自信だけが今のカズを動かしていた。

「カズ様!!」

「何ですか?」

カズがモニターを開くとそこには五人のガンバライダーが各々壁を超えながらこちらへと進んできているではないか。

しかし敵がいると分かればコチラが出向いて倒して仕舞えば終わる話である。

「怪人を出撃させなさい!!」

怪人たちは次々へと森へと出て行き、ガンバライダーたちへと襲いかかった。

しかし、ガンバライダーたちによって次々に消滅されていく。

「カズ!!」

チヒロが来た時には遅かった。すでに怪人たちは消滅してコチラへと進んでいる。

「ここは破棄しましょう。我々が」

「んなこと出来るかバカ!!」

チヒロはカズの胸ぐらを掴みその軽い体を投げ飛ばした。カズはそのまま地面へと叩きつけられた。

「テメェ一人の命だけじゃねぇんだぞ!!ここには幾百の人がいてその人たちが命枯らして戦ってんだろうが!!」

自分たちは許されないことをしている。こんなモンスターを「生きている」と表現してくれるのは彼が初であり最後かもしれない。

「・・・わかりました。これを持って行ってください。」

カズはチヒロにガンバドライバーを渡すと、そのまま受け取って走り去るチヒロを見送った。

「・・・よろしかったのですか?」

カズはその質問に答えなかった。彼にもこの決断が正しいのかはわからない。だがこうするしかなかったのだろう。

 

怪人たちを消しとばしたブリッツは怪人の死体を転がしながら前に進んでいく。

「いやぁ、テーマパークに来たみたいだなぁ。テンション上がるなぁ。」

ブリッツはマーキングするように周囲の木々にボルテックシューターの弾丸を撃ち込んでいく。

今か今かと楽しそうに歩いていると彼の背後に影を感じる。

「グルァァァァ!!」

後ろから襲いかかってきたラットファンガイアを召喚したガンバアックスで殴りつけると殴られた勢いでラットファンガイアは吹き飛んでいく。ラットファンガイアが立ち上がると、ゆっくりと黒いアーマーを纏ったガンバライダー近づいてくる。

ラットファンガイアにはその目は見えずとも目の前の悪魔が笑っているように見えた。

ブリッツはゆっくりとラットファンガイアへとその大きな斧を向ける。

「さぁその身体を切り刻んだ時の叫びを聞かせてくれよ?」

ラットファンガイアは逃げようとした。ブリッツへと命乞いをする前に体が動いたのだ。

しかしブリッツはそれを逃すまいとガンバアックスを振りかざした。

「ッ!!!」

ラットファンガイアが目を背け死を確信した時だった。

「烈空・十文字!!」

「烈空・一文字!!」

ブリッツは回避しきれずガンバアックスで防ごうとするがすでに遅く、空に描かれた光の一撃で吹き飛ばされた。光弾を放った二人のガンバライダーはラットファンガイアの前に立ちブリッツへと剣を向けた。

「俺たちに任せてアンタは避難を仰いでくれ。」

ラットファンガイアはそのガンバライダーへと一礼するとそのまま去っていく。

「待て!!」

追おうとするブリッツを赤い二人のガンバライダーは止めるように一気に距離を詰めた。

ブリッツはガンバアックスで二人の攻撃を防いだ。

「・・・なんだ。一礼の一つでも出来るんじゃねぇか。」

「ある意味そこらへんの人間より挨拶できるんじゃない?」

二人のロードはそのまま黒いガンバライダーを突き飛ばすと、後ろに引く黒い悪魔へと近づいていく。

血を浴びたような黒ずんだ赤はまるで血を浴びた処刑人のように見えた。



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光が齎す闇

戦闘に入ったロードとブリッツは森の中で激しい攻防を繰り広げる。

ブリッツが召喚したドラグレッダーの攻撃をロードはひとつ、またひとつと撃墜していく。

「意地でも火花を落とさないつもりか?」

ブリッツはガンバブラスターで背後から攻撃するが、それはロードの避けていく木々へと直撃した。

「次W45度、その後N20度の攻撃を撃ち落として!」

「ったく、忙しいやつだな!!」

ロードの指示にチヒロが答え撃ち落としていく。

ツインバーストしている状態とはいえ、二人の撃ち落とせる炎、そして避けきれるだけの余裕はあまり残されていなかった。

一方でブリッツはドラグレッダーを駆使して次々に攻撃を与えていく。変則的な攻撃はロードとチヒロを次々に翻弄する。

小出しの攻撃では埒が開かない。ロードは立ち止まり音撃棒烈火を召喚した。

"Strike Vent"

「音撃打!火炎連打!」

ロードの放った火炎連打はブリッツのドラグクローファイアを打ち消し、そのまま火炎の打撃を飛ばした。

「こんなもの!」

ブリッツは森の木を叩き切った。叩き切られた木はそのままブリッツの目の前に落ちていき、火炎に焼かれた。

炎は燃え移り次第に草木へと焼き移っていく。

「さあどうする?お前のターンはもうないぞ?」

「何が言いたい?」

ブリッツはロードの言葉に返す。

「もうじき俺の部隊が財団Xの基地をガンバライダーカットで叩き斬る。その時がお前の防衛ミッションの失敗さ。」

ブリッツの仮面越しからも分かる不敵な笑みはチヒロたちの焦りを加速させた。

「チヒロ!!」

走り出そうとするチヒロをロードが止めた。恐らくブリッツの仲間を討とうと向かおうとしたのだろう。

しかし今優先するべきはブリッツの足止め。コイツの仲間の相手をすることではないことは明白だった。

しかしチヒロのオフ想いはロードの考える目的とは別にあった。

「ここで俺たちが止まったらクリスタルが死んじまうだろうが!!」

確かにここで自分たちが立ち止まりブリッツの仲間たちに攻撃させれば間違いなくクリスタルや彼女のポケモンたちも亡くなってしまう。

「そんなことは分かってるよ!でも」

ロードだって承知の上だ。それでも被害を最小限に抑える為にコイツを止めることが優先だと言いたいのだ。

恐らく筆頭であるブリッツさえ抑えてしまえば仲間とやらの足も止まる。その間に筆頭さえ討てれば。そう考えたのだ。

二人が策を練る中、ブリッツが口を開いた。

「なら、ゲームをしようか?」

「ゲームだと?」

チヒロは少し苛立ったような口調でブリッツに問いかけた。それに対してブリッツはあぁ、と軽く答えた。

「俺とお前たちが同時にクロックアップし、クロックオーバーするまでの一分間で帰ってこれたら基地もお前たちも見逃してやる。だが」

「帰って来れなかった場合は死・・・か。」

ロードの問いにブリッツは縦に首を振った。

「何、お前たちが制限時間内に帰って来れば良いだけの話。上手い取引だと思うが?」

チヒロはブリッツに向けて剣を投げた。ブリッツは首を傾けてその剣を避けた。

「やってやろうじゃねえか。俺たちがこの勝負に勝てば良いんだろ?」

ブリッツはほくそ笑むと頷いた。

「ならゲームスタートだ。準備はいいな?」

二人は頷き腰部に手を当てた。

「クロックアップ !」

"Clock up!"

デスゲームの合図と共に加速した世界は動き出した。

 

騒々しい爆破音と共にクリスタルは目を覚ました。

クリスタルが起きた時には施設が崩れる音と共に周囲の鉄が音を立てていた。ここはすぐに崩れ落ちて自分ごと瓦礫へとこの地を変えるつもりだろう。

それだけは避けたいとクリスタルは少し手足を動かす。

「脱出しないと・・・。」

クリスタルはそう言い手足の枷を外そうとするが、十一になる少女にはその手枷を外せるほどの剛力は備わっていないし、暫く足掻くことをやめていたからか体に力を入れようとしてもあまり力が入らない。

数秒ほど力を入れて外そうとするが、それは叶わぬ願いだった。

一気に体の力が抜けると、そのまま元の体勢に戻っていく。

「マズイ・・・。」

このままでは自分はおろか連れてきているメガニウムやカラカラの命まで失いかねない。それだけは避けたいと手を伸ばすが、どれだけ手を伸ばしても届くことはなかった。

「はぁ・・・。」

彼女の身長以上の遠さに置かれてあるモンスターボールにどうやっても手が届かない。

「どうすれば・・・。」

彼女には祈ることしかできなかった。彼女を救う救世主-ヒーロー-の存在、自らとこの世界を救う大きな力に。

 

財団Xの基地へと入り込んだロードたちは広い道々を進んでいく。クロックアップでの制限時間は1分ほど。一刻の猶予など許されていない。

「クソッ、この構内広すぎるんだよ!!」

「仕方ないよ。ここを曲がって右、その次の角を左だ。」

ロードの脳内から流れるナビゲートで迷うことなく進むことができているものの、クリスタルのいる地下へはまだまだ先だ。このまま普通に進んでいてもおそらく埒があかない。

「どうする・・・?」

このまま進んでクリスタルたちの元に辿り着かないとすれば自分たちまで死ぬ羽目となり、それこそあのガンバライダーの思う壺だ。

「あの気に入らない面構えした奴に負けたくはないな!」

「だとすればー」

やることはただ一つだ。とロードはメガウルオウダーを召喚し、眼魂を装填した。

"デスローグ オメガウルオウド"

「ブチ抜けェェェェェ!!!!!」

地面をぶち抜いた拳は床を撃ち抜いてどんどん下へと進んでいく。しかし

「これじゃ限度があるよ!」

ロードの言葉に「心配すんな」とチヒロが笑う。

「こっからがこの力の本領だ!!」

掌へと集めた光は変形し、一つの大きな剣となり、床を切り裂いた。砕かれた瓦礫はスローモーションで落ちていく。

開いていく瓦礫の穴から一気にダイブした。

ここから進めば辿り着くはずだ。ー待っていてくれーという願いだけを込めた。

 

ブリッツとロードのゲームが開始してから1時間が経とうとしていた。

ブリッツは木に手を置いて確かめる。そこから聴こえる命の鼓動はクロックアップした彼にも感じ取ることはできた。

「良いねぇ。これを折れば命が消えるわけだ。」

命の消える音や風景。それはそれは美しいもので儚くも尊いものだ。

その消える音を是非聞きたいものだ。

そう思っているとクロックアップの時間も迫っていた。

ブリッツは自分の端末で各ガンバライダーたちへと告げる。

「俺だ。これより作戦を開始する。」

各ガンバライダーがそれぞれの反応を示したことを確認すると端末を閉じた。

ブリッツは笑みを浮かべた。その笑みは的中する。

"Clock Over"

ーさあゲームの始まりだー

 

クロックアップが切れた瞬間、ロードたちが降りた地下には大量の瓦礫が落ちてきて一気に砂煙と破片が落ちてきた。

「危ねぇな・・・。」

自分がぶち抜いた床とはいえ、クロックアップした後にこうなるとまでは二人とも予想はしていなかったのだ。

「チヒロ、今はそれより。」

そうだな。とチヒロは頷く。今大事なのはそこではない。今やるべきことは

「無事か!?」

砕けた破片の中からクリスタルを探し始めた。

無論、砕けた破片の中から一人の少女を見つけ出すことは困難だろう。それでも

「おい!どこにいるんだ!!」

砕けた破片の周りを探す。彼女のいる場所がどこかは分からない。それでも探した。探して探して探しまくった。そして、破片の中から一つ見つかるものがあった。

「これは・・・!」

クリスタルの持っていた赤いボールだ。この中には彼女が持っていたメガニウムたちが入っていた。

ロードがそのボールを投げると、大きな赤い犬のようなモンスターが召喚され、召喚された瞬間、大きな咆哮を上げた。

「よし、こいつなら」

「ウィン・・・ぴょん。」

チヒロがその犬を撫でていると、瓦礫から声が聞こえる。それが聞こえるとチヒロは瓦礫を上げるとそこには傷だらけになったクリスタルの姿があった。

「おい!しっかりしろ!」

傷だらけになったクリスタルをゆっくり引きずり出すと、ゆっくり抱きかかえた。

その小さな体はチヒロの腕で楽に抱えることができた。

クリスタルがゆっくり目を開けると、チヒロに微笑みかけて口を開けた。

「私は良いんです。早く逃げてください。」

「バカ!死ぬつもりか!?」

必死に説得するチヒロにクリスタルは首を横に振る。クリスタルは笑顔で話し続ける。

「私はここから一人で逃げられます。だから」

「そんな傷でどうやって逃げるんだよ!!」

その一言で無理して笑っていたクリスタルの顔が曇った。

「私一人で犠牲は充分です!だから」

その先を言おうとした刹那、上空の瓦礫が割れた。上を見ると、上から光の剣が四方から降ってきた。

遅かった。もう間に合わない。チヒロはすぐさまクリスタルを寝かせた。

「ツインバースト!!」

二人は一気にガンバソードを召喚すると、降り注いだ光の剣を防いだ。周囲に爆風が巻き起こり、瓦礫を吹き飛ばした。

二人の足元は砕けて少しずつ沈んでいく。

「ぐっ・・・。」

ロードが押し負けそうになったその瞬間、後ろにいるクリスタルのことを思い出してそっと見た。彼女は怯えた小動物のようにただただ怯えることしか出来ないようだった。

ここで負けるわけにはいかない。自分たちが負けるわけには

「アアアアアアアアアア!!!!」

ロードとチヒロの胸の内から黄金色の光、そして腕から虹色の光が発光すると、辺り一帯を光に包み込んだ。

強い光に包まれたクリスタルは一瞬目を閉じるが、そっと目を開けるとそこには様々な色が交錯して、まるで夢の中にいるかのような光景だった。

ロードたちを切り刻もうとした緑色の光の剣は虹色の光に包み込まれるように吸収され、天高くまで放たれた。

天高くまで放たれた光は漆黒の穴を突き抜けて周囲に流れ星のように降り注いだ。

流れ星はガンバライダーたちの前に落ちて、光から具現化されていく。

"仮面ライダークロニクル"

「君たちは絶版だ。」

"オーバー・ザ・レボリューション"

「俺を呼ぶとは幸運なやつだなァ?」

"ライダータイム"

「何だか・・・行ける気がする。」

これがー悲劇の始まりだったー



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その手に得た救いは何を示すのか

-烈火が来た時には遅かった-

彼女が来た時には既に爆散した建物の瓦礫と折られ潰れた木々が彼女の前に倒れていた。

「これは・・・?」

何かがおかしい。ブリッツが編成した部隊がここに来ていたとしても範囲が広すぎる。ガンバライダーの力といえど不自然にもほどがある。

烈火のような高い適合率を誇るガンバライダーであれば可能かもしれないがそんな情報は彼女の耳に入っていない。

「っ!?」

瞬間的に起こった爆破にブレイズは身構えた。強い爆風と炎が辺りへ巻き起こる。

「・・・誰だ?」

その影は間違いなくガンバライダーではない。恐らくこの木々を折ったのもコイツの仕業だろう。

白と黒を纏った戦士はハハッ。と軽く笑った。

「今俺が誰か。なんて気にする必要があるのか?」

刹那、烈火はガンバソードを生成し一気に踏み込んだ。正面から剣を振りかざして相手へと振り下ろした。

戦士はそれを止めて軽くいなした。流された烈火はそのまま後ろへとふらつく。

「お前・・・只者じゃない。」

戦士は笑いながらゆっくり烈火の方を向いた。そのゲスな笑みはマスク越しからでも伝わってくる。きっと無機質で感情のないような笑顔だ。

「そんなに知りたいなら教えてやるよ。俺の名は-エボルト-。仮面ライダーエボルだ。」

エボルは烈火へと襲いかかった。エボルの攻撃を避けるがエボルはそれを逃さない。

「逃すか!」

"アイススチーム"

エボルが一気に射撃して烈火を吹き飛ばした。

凍てついた炎と氷の爆風が一気に巻き起こった。これで終わっただろうとエボルが思ったその時だった。

エボルの目の前には赤いガンバライダーが煙を払った。エボルは煙を払いながら軽く鼻で笑った。

ガンバライダーとは珍しい遺産を見たものだ。エボルとガンバライダーが向き合うと、お互いに剣を抜いた。

「お前の名も聞こうか。」

「俺の名はガンバライダーブレイズ。」

ブレイズは一気に剣をエボルへと叩きつけるが、それを間一髪エボルは回避する。

「俺とお前では相手にはならないな!」

エボルはそうブレイズを鼻で笑うと自らの残像を生み出して一気に駆けていく。

「なっ!?」

ブレイズの攻撃を回避したエボルが一気に踏み込むとブレイズを叩き斬ってダメージを与えていく。一発、二発と見えないスピードで攻撃するがエボルは途中で気づく。

「何かがおかしい。」

何発もの連続攻撃を黙って受けている。しかも動きもしないのだ。

「どういうつも」

「いってえからやめてくんねえかな。」

エボルの振るった剣をブレイズが持っていた。

「衝撃くらいは受けるんだ。ちょっとくらいこっちの痛覚に気を使ってもらわねえと。」

エボルが衝撃を隠す間もなくブレイズは次の一手に出た。

「じゃあ、反撃開始だ!」

エボルの持っていた剣を叩き折って地面に叩きつけた。そして隠せない動揺を見せたエボルを殴り飛ばした。

エボルは殴り飛ばされた後そのまま顔を拭いながら立ち上がった。

「なかなかやるようだな・・・。」

ブレイズは殴り飛ばしたその手を握りなおしてもう一度攻撃しようとした時だった。待て待てとエボルはこちらに手を掌を見せた。

「ちょっと待て。お前が探している奴は恐らく下にいる。お前はそっちを優先するべきじゃないか?」

エボルの言葉にブレイズは少し躊躇いを見せた。しかし彼の言うことも確かである。

自分の来た理由は何だ。九重に任された命を優先するべきなのではないのか?檀が自分に任せたことはこんな事なのか?

ブレイズが考えてる間に時間は経っていく。エボルは退屈そうに下を向く。

まるで早く行かねえのかな。みたいな仕草がどうもブレイズの癪に触る。

「お前が行かないのは勝手だ。だがそうなった場合」

「黙ってろ。」

ブレイズはエボルの横を通りすがった。これ以上癪に触るとブレイズの怒りを爆発させてしまいそうだからだ。

エボルの横を通りすがって行くとエボルは行ったな。と安堵の息を漏らす。

あのまま恐らく自分と戦っていれば死んでいただろう。言葉で煽ることしか出来たのが唯一の救いだろうか。

エボルは空の黒い塊を見た。自分たちがここにいるとこれ以上はマズイ。

「立ち去るかな・・・。」

エボルはゆっくりと歩き出していく。ここに居座る理由がないことも自分がここにいてどれだけ危険ということも重々承知しているからだ。

 

烈火が来る数分前のことだった。空へ放たれた虹色の光は三人の仮面ライダーを召喚した。

五人のガンバライダーが構えると、各々の仮面ライダーは溜息をつくような態度をとった。舐められたものだ。態度を見るにそう言いたいのだろう。

白と赤のガンバライダーは敵へと剣を振りかざすがそれは呆気なく避けられていく。二度三度と同じ手を加えるが相手は効かぬ。と言わんばかりに全てを回避する。

「もう何個かねえのかよ!」

「やってるでしょ!?」

二人は斬撃を加えながら自分たちの当たらぬ攻撃に対して苛立ちを募らせていく。緑と黒の戦士は二人が振りかざしたガンバソードを受け止めた。

「君たちでは私には勝てない。」

そう粘着した口調で煽ると、二人の剣を弾いてそのまま後ろ回し蹴りを見舞いした。その蹴りを受けて二人は鈍い声を上げてそのまま吹き飛ばされた。

地面へと倒れ込んだ赤と白のガンバライダー は態勢を立て直して立ち上がった。

「同時に攻撃するぞ!」

「仕方ないわね。」

そう言い白と赤のガンバライダーは緑と黒の仮面ライダーへと攻撃を仕掛ける。だが

"Pause"

その瞬間、時は止まり二人のガンバライダーの動きは止まった。

止まった時の中で仮面ライダーは動き出した。腰に巻いたマントが動くたびに揺らめく。

男は少し笑うと小さく呟いた。

「止まった時の中で永遠に眠るといい。」

"決め技 クリティカルクルセイド"

一回転して放たれた一撃の蹴りはガンバライダー達を吹き飛ばした。

"Re start"

吹き飛んだガンバライダーは爆散して大きな煙を上げた。

仮面ライダーは振り向いて爆破した煙へと餞別の手を振る。

「私の名は仮面ライダークロノス、よく覚えておきたまえ。」

クロノスはそのまま歩き出して森の陰へと去って行った。

 

青と緑のガンバライダーは黒に銀の鎧を纏った仮面ライダーを挟むような形で一歩、また一歩と回るように歩いていた。

二人のガンバライダーは彼の顔に書いてある文字をそっと読んだ。

「カメン・・・。」

「ライダー・・・。」

そう書いてあった。彼らにとっては相手のデータも面識もないが彼の顔には紛れもなく「仮面ライダー」の名が刻まれていた。

銀の仮面ライダーは手元で銃を三回ほど回転させると青いガンバライダーへと銃口を向けた。

「お前たちが来ないのならこちらからいくぞ。」

そう言い勢い良く一回転しながら発砲された弾丸は地面で火花へと変わり二人の前で激しく飛び散った。二人は自分を守るような動きを取りながら後ろへと引き下がる。

緑のガンバライダーは腰元にあったガンバブラスターをゆっくりと抜き出した。青いガンバライダーがそれを見ると同じく腰元のガンバブラスターを抜き出した。

「なんだこいつ・・・。」

緑のガンバライダーは呟く。これだけの強さを持っている仮面ライダーならこちらが認知していてもおかしくはないはずだ。考えられるのは二つ

一つは仮面ライダーを名乗った紛い物のバケモノ。恐らくこちらであれば自分たちが知らない方が自然だろう。彼が恐れたのは過ぎった二つ目の可能性である。

「まさか未来の仮面ライダー・・・?」

緑のガンバライダーが口にした予感に戦士は彼をバカにするように鼻で笑った。彼の反応を見ただけでは正解か不正解、その二つの判断を見極めるのは非常に難解である。

青のガンバライダーはガンバブラスターを向けて銀の仮面ライダーへと問う。

「あなたは何者なの?」

仮面ライダーはベルトを一回転させて一気に攻勢の構えを取った。

"タイムブレーク!!"

二人がトリガーを引いて撃ち抜こうとした時には遅かった。銀の仮面ライダーが放った蹴りと衝撃波は二人のガンバドライバーを粉砕し変身を解除させた。

戦士は破壊された鉄くずを踏みしめながらゆっくりと前へと進む。

「我が名は-ジオウ-覇道を突き進む者だ。」

ジオウは灰色のオーロラを呼び出してオーロラが生み出す水面へと姿を消した。

 

ブリッツは赤と青の仮面ライダーを前に銃を向ける。赤と青に身を纏った仮面ライダーは軽く笑う。

「お前一人で俺に勝てるなら、俺はもう既にここにいないと思うんだがなぁ?」

「黙れ!!!」

ブリッツの放った弾丸は光とともに仮面ライダーの前で光った。戦士は手で取った弾丸をゆっくりとブリッツに見せてそのまま手元から落とした。

ブリッツは相手の強力な力、そして未知数な悪魔の力に戦慄した。こんな奴に勝てるのか。こんな奴にどう勝てば良いのか・・・?

「こんなバケモンに・・・。」

「こんなバケモンとはなんだ?俺は仮面ライダーエボルって名前があるんだが?」

エボルはそう名乗り、自分のベルトを軽く撫でた

「やはりエボルドライバーに勝てる奴は異世界にもいないようだな。」

エボルの言葉を聞きブリッツの思考回路は完全にショートした。幾つか手段を思い付いたが、彼を消滅させることはおろかダメージを与えられる可能性も低い。

エボルドライバーとやらを破壊すれば勝てるのかもしれないが恐らくあの強さでは勝てない。寧ろ自分がダメージを与えるのも不可能だろう。

「ならば・・・。」

ブリッツは銃を捨てて一目散に走り出した。何かの策なのかそれとも逃げ出したのか。

どちらにせよエボルは特に彼を追う理由も見つからず追うことをやめた。

「あんな奴より取り敢えずあれだな。」

エボルは空にある黒い渦を見上げた。

黒い渦は少しずつ動いていてこちらへと少しずつではあるが進んできている。

「アレをなんとかしなきゃなぁ。」

自分たちがここに呼ばれたことには何か意味がある気がする。エボルも幾度となく世界の危機を見てきたがこれは想定外であり予想外である。

エボルが推定するに世界を消滅させるブラックホールではなく、自分たちのような別世界を呼び寄せる「異空間」といったところか。

彼らが呼ばれた意味、そしてこの世界の物質をもっと調べてみる必要があるようだ。

 

財団X研究所

ここにはもう人もおらず、ただ瓦礫と灰だけが取り残されていた。

そんな灰の中赤いガンバライダー が歩いてくる。-ブレイズ-だ。ブレイズは任されたロードの救出のためにここに来たのだが・・・。

「広すぎて分かんねえなコレ。」

財団Xが持つ広大な土地を一人で探索するには無理がある。GRZ社でもそこそこ広大な土地だとは思っていたが更に広い土地まであるだろう。

こんなところから一人の人を探すなんてことが出来るのか?いや寝言も言ってられないとブレイズは再び探し始める。

「ッ・・・。」

「ん?」

ブレイズが後ろを向くと、そこには倒れた男の姿があった。あれがロードなのか。それとも研究員なのか。だが私服でこんな研究室を歩き回るか?

そんなことを考えてる場合ではない。まず目の前の人を助けることを優先しよう。

近づいて立ち上がらせようとした時だった。

男はゆっくりと自力で立ち上がり、その二つの足で立ち上がった。

「おい!あんたがロードか?」

「ん?そうだけど?」

ロードは飄々とした声で答える。その穏やかな表情と声は彼女が聞いていた情報とは違うが彼がロードであることは間違いなさそうだ。

ブレイズは更に話を続けようとしたその時、ロードは動き出した。

「クリスタル!!」

ロードの人格がチヒロに変わり走り出してクリスタルの元へと走り出した。ブレイズもそれについて行くように歩いていく。

後ろで倒れ込んだクリスタルは瓦礫にもたれるように眠っていた。恐らくロードたちが放った力によって吹き飛ばされたのだろう。

ブレイズはねぇ。と問いかける。

「もしかしてロードって二重人格だったりする?」

「え?」

チヒロは少し腑抜けた声を出すとブレイズは納得したように頷く。

「やっぱり。君の声と表情の変化で同じ人には見えなかったもんだからさ。」

コイツ何もんなんだよ・・・。チヒロの目には驚きを隠すことができなかった。

ブレイズはチヒロの表情の変化を見て少したじろいだ。

「あー、そうだよな。これに関しては職業病みたいなところもあるから気にしないでくれ。」

ますます何もんだよこの人。ロードはそう思いながらもその気持ちをぐっと抑えて頷いた。

「・・・あぁ、俺たちは二重人格。二人で一つの体をシェアしてるってところだ。」

ブレイズは変身を解除してゆっくりクリスタルへと近づいた。

チヒロたちは解除した烈火の姿に唖然とした。

「あ・・・あんた女だったのか。」

「え?そうだよ?何で?」

烈火は何食わぬ顔でチヒロへと返した。唖然としたロードを無視して烈火はそっとクリスタルに触れる。

「脈はあるから生きてるか・・・。でもこのままだと命が危ないな。」

チヒロからロードへと人格に変化してクリスタルへとガンバドライバーを向けた。

烈火はそれを不思議そうに横で見ていた。無論、ここから何をするかなんて知ったもんじゃない。

「何するつもり?」

「ガンバドライバーには世界移転の能力があるようで、これで彼女をいるべき世界へと送り返します。」

烈火は硬直した。はて?そんな能力あっただろうか。そんな能力があったらガンバライダーの世界移転能力もGRZ社のレイシフトも要らないんじゃないの?

そう思いながらロードのその移転とやらを後ろで見ていた。

クリスタルは周囲に風船のような青いフィールドに包まれてそのまま空へと飛んで行った。

案外あっさりしたもんだなと烈火はがロードの方を見ると、ロードは膝から崩れ落ちて泣き叫んだ。

「うわああああああああああああああ!!!」

何も守れなかった。自分が救おうとしたものも自分が守りたかったものも何もかも。崩れ落ちて泣き叫んだ。何度も何度も喉の底から泣き叫んだ。

「・・・なぁ。守れなかったものの痛みは分かるよ。でもな、ここで泣いてたってアンタは何も変わらない。アンタが助けたあの女の子に報いるためにも立ち上がんなきゃいけないんじゃないか?」

ブレイズは崩れ落ちたロードの横に座り込んでゆっくりと後ろから肩を撫でた。自分の感情の暴走を止めてくれるようだった。

 




ついに三章終了…どうも覇王ライダーです
ツイッターでは何度かお知らせさせていただいたのですが、この話を機に一度ガンバライダーロードの連載を休止させていただきます
こんな終わり方…と思われる方も多いでしょうが続きますので安心してくださいw
私自身もここからロードがどういう成長を遂げてどういう想いを背負うのかまだ分かりません
しかし、これからも彼は大きく羽ばたくガンバライダー となることは間違いないと思っています
他の連載は続きますのでそちらの応援もしていただけると幸いです。
長話が続きましたが、暫くの休載をお許しください。では皆様とまた会える日まで…


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ポケスぺーホウエン地方編ー
VS ハブネーク


百億ドルの街で起きたガンバライダー同士の戦闘と財団Xが関わった次元レベルの事件から何日かの時が経った。九重は恵田との戦闘で深手を負い怪我の完治まで数週間の休養、恵田はその場から姿を消して戻ってこなかったという。

今回の一件で世界的にガンバライダーの信頼度が暴落し、ほかの世界でもその力の強さに疑問を持つ人々が現れたそうだ。幸い行動に規制がかかるまでに至らなかったため、事件はロードと恵田の身勝手な命令無視だけで終わるものと周囲の人間も思っていた。

GRZ社の社長室では烈火と檀が広い応接間で座っていた。二人は少し険しい顔で小さなため息を何回もついている。お互いに今の状況は把握していた。

「・・・ロード君の現状は?」

「未だに部屋から出てこずだ。よほど今回のことがショックだったんだろうな。」

檀の質問に烈火はそう答える。以前の事件でロードはクリスタルを大怪我に遭わせる事態となり、ロード自身も推定で全治一週間の怪我を負う羽目となったが彼は治療を拒否して部屋に引きこもっていった。そこからは何も飲まず食わずなんだとか。

檀はその状況を聞いてさらにため息をついた。彼自身もコンタクトを取りに行こうとしたのだがロードが普段訓練などで暴れまわった経緯から止められたらしい。社長に対する判断としては正しいのだがなんとも歯痒いものを感じる。烈火は目の前にあった水を飲んで檀へと告げる。

「人の心の傷なんざそうそう消えるもんじゃないさ。これまで戦ってきた人間なら必ず戻ってくる。」

そうだといいんだが、と檀が不安そうに水を飲んでいるとドアの開く音がした。ノックもせずに入るとは礼儀がなってないなと叱ろうとしたが檀はその怒りすら安堵に変わった。

「ロードくん・・・。」

「・・・遅かったじゃないか。」

「医務室に用があってな、少しそちらに向かってた。」

安堵の声を上げた檀とは正反対にふてぶてしそうにそう答えて烈火の隣に座った。烈火はロードの腕を見てすぐ違和に気付いた。彼に付いていた傷が一切ついていないのだ。処置を受けずしてこんなに傷が早く治るものなのだろうか。彼の取り込んだロックシードの力かもしくは・・・。だが今はそんな話をしている暇もなさそうなので後で聞くことにしよう。

檀はモニターをすぐ動かして映像を映した。

「これから二人に行ってもらうのは一年前に起こった高度な次元移動の捜査だ。」

「ちょっと待てよ、アクートの処罰が俺の動く目的だろ?」

「君に行ってもらう義務があるから私は君を選んだ。」

檀の一言に反論したロードは黙り込んだ。隣で座っていた烈火はふてぶてしそうにするロードをそっと見ていた。

「話を続けよう。この世界にあるホウエン地方という場所で高度な次元移動が観測されている。恐らくはその手の犯罪者か偶発的にそれほどのパワーが生み出されたと考えている。」

ふーん。とロードと烈火は分かったようなわかってないような顔で頷いた。ロードは受け流してケースへ指さす

「で、その横の戦極ドライバーはなんだ?」

あぁ、と檀はロードのもとへと戦極ドライバーを持って行った。そのベルトは貴重品であるかのように保存されていてた。

「今回の件で世界的にガンバライダーの株が下がってしまってね、さすがに普段から変身されると困るからこれを使ってくれ。あくまで人目のつかないところでガンバライダーを使用するように。」

ロードは頷いて戦極ドライバーを受け取った。烈火には何も渡されないのは考え物だが信頼あってのことだろう。

ロードが席を立って出ていくと、烈火もそれに続いて席を外した。

檀はゆっくり席に座ると、またドアのノックが鳴る。招き入れて入ってきたのは朱崎だった。

「随分と先客を怒らせてたみたいじゃないか。えらくふてぶてしく出て行ってたぞ。」

「彼はああいう人だからいいんだよ。それより」

あぁ、と朱崎は一つのUSBを渡すと檀はそれを受け取ってPCに差し込んだ。そこには人名の入ったファイルが三つ入れられていた。

「これが今回集められたチームだ。実力も指折りだし問題ないだろう。」

朱崎はそれだけを渡してそっと部屋を出た。檀も満足そうに笑いながら椅子へと座った。檀の目論見など朱崎にも知る由はない。

 

 

研究室へと入った烈火とロード基チヒロは転移装置へと足を踏み入れた。研究員たちの焦りようを見るに一刻を争う状況だということが伺える。

普段の冷たそうな研究員はどこにもおらず皆真剣に物事と向き合っている。そこでチヒロはココは違う世界の違うGRZ社なのだと自然に実感が沸いた。

チヒロは烈火の方を見て一つの疑問を抱く。

「何で顔にマスク付けてんだ?」

「顔がばれると色々厄介なんだよ。」

チヒロはふーん。とどこか納得しないような表情で頷いた。

キョロキョロしている烈火はチヒロへと近づいて小声で問いかけた。

「医務室に何しに行ってたんだ?」

チヒロは一枚のICカードを取り出した。烈火はほぉ、と少しほくそ笑んだ。恐らく九重のICカードを授かってきたのだろう。ロードは強く握りしめた。

「いざとなった時のお守りにこいつを持っていきたくてな。」

チヒロはどこか嬉しそうに呟いた。彼は恐らく誰かに守り守られながらここまで進んできたんだろう。それは九重でありこれまで出会った人々でもある。烈火はそう思うとチヒロにつられてか思わず笑みをこぼす。

「ねぇチヒロ。」

「どうした?」

ロードはチヒロに問いかけた。

「もしまたクリスタルみたいな被害者がもう一度出るような事態が起きたらどうする?」

「それは・・・。」

チヒロは答えを出せずにロードの問いかけに黙り込んで手を震わせた。だがロードの言う通りこれから絶対怒らない事態ではない。だが

「同じ轍は踏まない。それだけは誓うさ。」

研究員たちがハンドサインを出すと烈火もまたサインを返した。チヒロは一瞬の戸惑いを見せたが烈火を見て同じくハンドサインを返す。

「転移を開始します!!」

二人は一瞬の光に包まれると、研究室から消滅してモニターの奥、つまり転移したホウエン地方へと向かった。

 

転移したチヒロと烈火は森へと落とされ、烈火はきれいな着地で大地に降り立った。チヒロはというと

「ぐおふッ!!」

顔面から落ちて落ちた木の葉と土が顔じゅうに付いている。烈火はふとチヒロの方を見た。チヒロは何だと烈火の方を見た。

「・・・ふっ。」

「おい今笑ったろ。」

「うん、今のは絶対に笑った。」

チヒロとロードは顔に付いた泥を落としながら烈火へと言った。笑いながら烈火はチヒロへ指さした。

「だってその顔はズルいだろ!そんなので笑わない方が無理だって!」

チヒロは近づくが烈火は一向に顔を合わせようとしない。チヒロは何とか顔を合わせようとするが烈火は必死に避ける。

後ろの茂みから音がした。二人が構えを取り、一気に二人の表情が険しくなる。茂みから飛び出してきた大蛇は紺色に独特な模様、充血したような赤い目で二人を威嚇した。応戦しようと烈火がガンバドライバーを取り出そうとした時だった。

「待ってくれ!!」

烈火を止めたのは檀だった。烈火は首元のボイスチェンジャーの電源をつけて檀との通信を繋いだ。

「何だこんな時に!!」

「今GRZ社は信頼を失った状態にある!ガンバドライバーの使用は極力避けてくれ!!」

そんな厄介な社内事情をこんな時に持ち込まなくても・・・。烈火はすぐガンバドライバーを戻して構えをとりチヒロもまた同じく構えをとる。二人の額からは冷や汗が流れる。

「魔術回路で一気に」

「相手が何か分からない以上使用は避けた方がいい!!」

ロードの一喝にチヒロはむしゃくしゃする。どうやって敵と戦えっていうんだ。自分より背丈の大きい大蛇に素手で勝つなど超人のすることだ。どうすることも出来ず二人が後ずさりしたその時だった。

「何だ!!?」

烈火たちの前に突如として現れたのは青い図体に大きなヒレを頭と背に付けた大型のモンスターと全身が赤く特徴的な肌白い毛を持った人型のモンスターだ。どちらも二人はみたことないが少なくとも財団Xたちが作り出すような悪趣味な怪人でないことは確かなようだ。

「こんな大型のハブネークが人間を襲うなんて」

「何かあったに違いなか!」

二人は息のあったコンビネーションでハブネークを後退させる。今だと目を合わせて同時に指示を出す。

「ZUZU、マッドショットだ!」

「ちゃも、オーバーヒート!!」

放たれた二つの攻撃は大蛇を退けて茂みへと追い込んだ。一撃が重かったのか大蛇は咆哮を上げて森林の中へと帰っていく。声の主はチヒロと烈火へと近づく。

「SO danger.こんなとこに手持ちもなく来るなんて。」

「本当ばい。何より怪我がなくて何より。」

近づいた二人の少年少女は茂みをかき分けて二人のもとへ歩いた。

硬直する烈火と冷えたような顔で見つめるチヒロ、ロードも同じく二人の持っていたものに背が凍った。

「おい・・・それ。」

烈火はハッとして二人を見た。腰元に付いていた赤いボールで全てを察した。少年と少女はそんな二人に疑問を抱きつつも何食わぬ顔で二人へと手を伸ばした。

「僕はルビー、そして彼は僕の相棒のZUZUだ。」

「私はサファイア、この子は私の相棒のちゃも!」

そして二人は名乗る-ポケモントレーナー-と



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VS G4

森で出会った少年"ルビー"と一緒にいた少女"サファイア"に連れられてある場所と向かっていた。烈火から彼らが来た経緯と二人の目的についての粗方、そしてチヒロたちが何故赤いボール"モンスターボール"を見て目の色を変えたかということまでここに来るまでに話していた。

「なるほど・・・烈火さんたちはここに極秘の調査を行うためにここに来たということですね。」

「まぁそんなとこかな。私たちはとある企業にやとわれてて、極秘の調査については言えないわけだけど。」

ルビーはなるほどと相槌を打つ。サファイアはチヒロへと寄って歩く。

「クリスタルさんが大けがを負ったことは知ってたけど、どうしてロードが関わったかが分からんのよ。」

「・・・悪い、それについては極秘なんだ。」

ロードはバツが悪そうにそう答える。サファイアはそれ以上聞こうとしたが咄嗟に何かを感じたのかそれ以上の追及を避けた。ルビーも何かを察したのか頷いてそのまま沈黙することを選んだ。

「チヒロ・・・。」

「悪いな。今はお前とも話せそうにもねえや。」

ロードもまたチヒロの何かを察したのか彼もまた周りと同じく沈黙することを選んだ。

数分ほど静かな空間が続いていた。あまりに静かなものだからポケモンの鳴き声や木々のさざめきが聞こえる。そんな中を歩いて四人の前に見えてきたのは木々に囲まれた小さな町だった。

「あそこが私の故郷のミシロタウン、長閑でいい町なんよ。」

四人はゆっくりと道なりに降りていく。ロードはふと後ろを向いた。微かに大きな影と木々の間から動く音がしたような気がしたが気のせいだろう。皆を追うようにロードもまた前へと歩き出した。

 

ルビーの家に入るとそこには椅子に座る少年の姿があった。背丈はルビーたちより低くその髪型は独特という言葉が似合うものだった。

「エメラルド、今戻った。」

あぁ、とエメラルドは会釈して立ち上がった。チヒロのバツの悪そうな顔を見てすこし不思議そうにルビーたちに話しかける。

「この二人は?」

「あぁ、この二人は」

話そうとしたサファイアを止めたのはチヒロだった。一歩前に出てエメラルドの前に出る。黙ってみていた烈火の表情は少し曇り、止められたサファイアは困惑の表情を浮かべていた。

「チヒロ!!」

止めようとしたロードの声など聞こえていない。そしてこれまでのことやクリスタルを傷つけたことを話し始めた。話を聞くエメラルドの拳は強く握りしめられていた。

話が終わると、エメラルドは頷きながらチヒロを睨みつけた。

「クリスタルさんが傷ついて帰ってきた背景でアンタが関わっていて、その事件の所為だって解釈でいい?」

「それは」

誤解だと言おうとした烈火を止めたチヒロは頷いて翳った表情を変えない。エメラルドはチヒロの横を通り過ぎていく。

「クリスタルさんは俺の大切な人なんだ。その人を危険な目に遭わせたアンタを俺は許さない。」

それは違うことは一番チヒロとロードが分かっていた筈だった。しかし彼は否定することもなくその一言を残して出ていくエメラルドを見過ごした。サファイアが止めようとしたが間に合わずドアの閉まる音が静かな部屋に響いた。

「ロード・・・。」

烈火は声をかけようと言葉を考えるが言葉が浮かばない。誤解もいいところだがクリスタルを巻き込んだ事実、そして事情を知らないエメラルドを責めることなどロードにも烈火にもできない。

「悪い・・・。一人にしてくれ。」

そう言ってチヒロも外へと出ていった。沈黙が続く中口を開いたのは烈火だった。

「この世界とそのポケモンとやらについて教えてくれないか?」

「それならルビーのお父さんに聞くといいったい!」

次にバツの悪い顔をしたのはルビーだった。サファイアのその発言、果たしてわざとなのか。サファイアは悪知恵を考えた子供のように少しわざとらしくもどこか純粋な表情でルビーと烈火に笑顔を向けた。

 

外へと出て歩いていたエメラルドは一人空を見上げる。

「分かってるんだよ・・・。」

頭ではあの青年が悪くないことは承知の上なのだが、どうしても彼自身許せないのだ。憧れの人が傷つけられてそれがそれを救ってくれたのがたとえ彼だとしても怒りのやり場が見つからない。ため息をついて座り込んだ時だ。

「・・・何だ?」

何かの音がするがその音は明らかにポケモンの足音ではない。緊張感を高めて腰元のモンスターボールを構える。出てきたのはエメラルドの目の前だ。

「何だ・・・ただの人間か。」

そこにいたのは人の形をした何かだ。黒い鎧をまとい、青い複眼の奥には殺意のようなまがまがしいオーラすら感じた。

「いけジュカイン!!」

エメラルドはトカゲのようなポケモンのジュカインをモンスターボールから呼び出す。ジュカインと戦士は睨みあいその場から一歩も動かない。

「ジュカイン、リーフブレードだ!!」

ジュカインは鋭利な肘の剣をふるい襲い掛かるが戦士はそれを鮮やかにかわす。ジュカインも力の限り振るうが一撃も届かない。

「無駄だ。」

ジュカインの首に直撃した裏拳の一撃はジュカインの巨体を一撃で打ち崩した。その一撃の強さでジュカインは倒れ込む。次のポケモンを出して抵抗しようとしたその時だ。

「!?」

エメラルドの真横に弾丸が放たれた。地に埋まった弾丸からは煙が舞い、エメラルドの恐怖心を一層あおった。あおられた恐怖心からかエメラルドはモンスターボールを持つことができないほど震えていた。

「ジュカイン・・・。」

倒れ込むジュカインにエメラルドは擦り寄る。殺意の目をした戦士は少年へと一歩、また一歩と歩みを進める。今度こそとどめを刺そうというのだろう。エメラルドにはジュカインを庇うことしかできない。どうにも出来ない自分を情けなく思い力が入る。戦士がとどめを刺そうともう一歩踏み込もうとしたその時だ。

「待ちな。」

黒い戦士に近づいてきたのはチヒロだった。黒い戦士は標的を変えたかのようにチヒロへと歩き出した。

「貴様が標的か。」

「仮面ライダーG4・・・死のシステムか。」

G4はチヒロ目掛けて殴り掛かるが、攻撃を捌き蹴りを躱した。ジュカインの時以上に圧倒していた。

「遅い。」

チヒロはG4の脳天目掛けて後ろ回し蹴りをぶつける。ぶつけた踵は鈍い音を立ててG4をぐらつかせた。

「いいか。俺はお前に許してもらおうだなんて思ってない。」

「!?」

エメラルドはチヒロの方を向いた。チヒロは再び構えをとるとエメラルドを庇うようにG4の前に立つ。

「許せないならそれでも構わない。俺を殺すことがお前にとって戦いならお前の戦いを貫け!」

「俺の・・・戦い?」 

G4はゆっくり立ち上がると、チヒロへとゆっくり離れる。そして手から光を呼び出した。

「どういうことだ・・・?」

「どうして・・・?」

G4が手に持ったのはフレイムソード、仮面ライダーアギトの武器である。フレイムソードをチヒロへと振るうが間一髪躱されてチヒロの後ろでおぼつかない動きを見せた。

「どうだ?未知との戦いは恐ろしいか?」

G4はそう言って何回もチヒロへと剣をふるうがそれは間一髪で避けられる。

GR粒子でもない限り武器の精製など不可能なはず・・・、疑問は残るが今それどころでもないのが事実。チヒロがガンバドライバーを取り出そうとしたその時だ。

「チヒロ待って!!」

「んだよこんな時に!!」

チヒロを止めたのはロードだ。

「僕らは監視されてる!今ここで変身すれば僕らがいられるか分からなくなるぞ。」

ロードの言い分もわかるが今打開策があるわけでもない故にどうにもできない。チヒロはフレイムセイバーを蹴りではじき飛ばして剣先を木へと突き刺した。G4が抜こうにも簡単には抜くことができない。

チヒロはガンバドライバーを取り出して腰部に巻いた。二人の戦いを唖然として見守るエメラルドをよそに姿を変える。

"Ganba rider stand by ready"

「変身!!」

殴り掛かったG4を吹き飛ばして変身したロードはタイタンソードを召喚する。赤い鎧を纏ったガンバライダーはG4の一撃を寄せ付けずにタイタンソードをの刃をG4へと叩きつける。黒い鎧からは火花が飛び散り、ダメージからか足がよろめいていた。

「あれが・・・。」

あれがクリスタルを救おうとしたチヒロの本当の姿、何も知らずに言葉にしたことが真っ白に消えていく。ジュカインはゆっくり立ち上がりG$を睨みつけた。

「ジュカイン・・・。」

そうだ、彼らだけが戦えるわけじゃない。自分たちだってこの世界を守るものとして戦える。ジュカインがいなければこのことにすら気づけなかっただろう。

エメラルドは深呼吸した後大きな声でジュカインに指示を出す。

「ジュカイン!リーフブレードだ!!」

G4の背後から切りかかった一撃はG4のバックパックに攻撃を与え、火花を散らした。G4が背後の攻撃に気付き攻撃しようとしたその時だ。

「ッ!!?」

G4の腹にはタイタンソードが突き刺さり腹部から血と火花が飛び散った。ゆっくり抜くとG4は倒れてそのまま沈黙していった。

チヒロはエメラルドへと近づき、右手を前に差し出した。

「ありがとな。あの時攻撃してなかったら俺も危なかった。」

エメラルドはそのまま握手せずに背もむけると、照れくさそうに頭を掻いた。

「アンタがクリスタルさんを傷つけたことを許すつもりはないけど、いまするべきことはアンタと喧嘩することじゃない・・・それが今俺がやるべき戦いだ。」

そう行って歩き出した。チヒロもまたその背を追うように歩いた。

「いいのかい?」

「いいんだよ。きっと。」

チヒロもどこか吹っ切れたようにロードにそう言った。過ちは消せない・・・だから。

 

チヒロたちがミシロタウンへと歩き出してから数分が経った頃、倒れ込んだG4は無言で立ち上がった。血に染まったその体を起き上がらせたのはまるで亡霊に取りつかれた魔物のようだ。

G4は無言で灰色のオーロラへと消えていく。そう

 

 

”代わり”などいくらでもいる。



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VS エターナル

G4を打ち倒したチヒロとエメラルドはミシロタウンへと戻り、ルビーの家へと入る。その道中も崖があり悪走路だったからか二人ともふらついて戻り、果てにはエメラルドが床に寝転ぶ始末だ。

「ったくあんな悪走路とは思いもしなかった・・・ん?」

後ろからいびきが聞こえてチヒロがふと振り向くとエメラルドが寝転がってやかましく寝ている。その寝方を見て相当疲れていたことがチヒロとロードにも伺えた。少年ながらあの悪走路を一人で歩ききっていたのだから無理もないかとチヒロも椅子へと座る。

部屋の様々な場所を散策していると一枚の写真に目が留まった。

「これは・・・?」

そこに映っていたのは肩を抱き合う男女の二人だ。その背の高さや場所からルビーの父母であることはすぐに察した。二人とも眩いという言葉が似合うほど明るい笑顔で映っている。

「アイツもいい父親とと母親に恵まれてるんだな・・・。」

父親や母親という存在を知らないチヒロからしてみれば実際の父母というのは分からないが、旅を重ねてユキカゼとダルキアン、ヴィンセントとブラッドといった兄弟や家族という言葉が顔に浮かぶ。ルビーと彼らもそういう関係なのだろうかとふと興味と感情がわいてくる。

「それにしても・・・。」

部屋に入ったはいいものの烈火やルビー、サファイアの姿が見当たらない。買出しにでも行ったのかそれとも何か手掛かりを探すべく自分たちと同じくどこかへ向かったのかは分からないがやはりいないならいないで連絡ぐらいよこしてほしいものだ。

辺りを散策していると、チヒロは机に目を向けた。

「何だこれ?」

そこに置いてあったのは置手紙のようなものだ。そこに書いてある内容から見るに烈火たちはどこかへ行ったと判断するべきだろう。チヒロはその文章に目を向ける。

 

”二人へ”

恐らくあなた方が戻るころ、僕たちはここにいないでしょう。二人には迷惑をかけますが私たちはとある調査でトウカの森へと向かいます。

森には僕の父であるジムリーダー”センリ”がいます。彼に今世界で起こっていることを聞き出そうと思っているだけなので心配しないで下さい。

僕たちが戻るまでに下の地図に記してある船へと向かってほしいのです。そこはかつて僕らが世界の命運を分けたアイテムが隠されていた場所、そこにも何かあるかもしれません。

既にこちらから仲間をそちらに向かわせているのでともに行動してくれると思います。では

 

ルビーより

 

「・・・まるでフラグだねこれ。」

大体こういうやつってピンチになって死ぬのでは・・・。ロードは些か不安を感じるがその地図に目を向ける。

「ここは・・・?」

そこに記されていたのはミシロタウンから南にある海を出たところからすぐそこの場所”すてられ船”と記されていた。

寝ているエメラルドを見たが、これは起きそうにないとチヒロはすぐにドアを開けてルビーの言うすてられぶねへと足を進めた。

 

トウカの森へと向かっていた三人はミシロタウンから徒歩で悪走路を歩いていた。

「ここほんとにデコボコだね・・・。」

道の舗装がされているとはいえやはりポケモンと共存する街、草木が生えて小石も大小ながら転がっていた。ポケモンたちも烈火の足元を通り過ぎ、サファイアたちを見るように寄ったり散ったりしていた。

「ここばポケモンも暮らしとるばい。そこらへんは仕方なか。」

烈火とサファイアがそう話している中、ルビーは具合が悪そうにげんなりしていた。

「ルビー君ずっとあんな感じだけどどうしたの?」

烈火は心配そうにサファイアへと寄ってそう聞く。ルビーに聞こえぬよう聞こえるか聞こえないかのはざまくらいのトーンだ。

「ルビー、昔お父さんと仲悪かったから多分それを引きずっとるんよ。」

なるほどと烈火は相槌を打つ。その事情まで聞くつもりはないがどうやら多大なる因縁があってよほど会いたくない人間なんだろうとうかがえる。

「大丈夫かい?」

「お気遣いどうも。僕は大丈夫なので・・・。」

そうは言うが横にいるキルリアが背筋を撫でている。感情を読み取れるキルリアがそこまで気にするほど彼は弱り果てていた。無理に帰すものでもないと思い烈火も止めずにそうか。と返した。

気にしないわけはないが割と本気で二人の間にある溝だけは気にしないといけないかもしれない。

 

トウカの森

環境や隠れ家、そして餌までそろっていてポケモンたちの住みかとして最適な場所であり、ジムリーダーであるセンリもここでポケモンたちを育てている。

「センリさん。」

「ご無沙汰しています。ベルリッツ博士。」

ベルリッツとセンリはとある実験からの長い付き合いではあるが、今回呼び出されたのはベルリッツである。センリは一礼してベルリッツへと歩み寄る。

「どうなさいました?トウカの森に呼んで。」

「最近この森に異変が起きているので本日は来ていただいた次第です。」

ベルリッツはポケモン研究者の権威、ここに呼ぶことも自然だったわけだ。なるほどとベルリッツは頷く。

「ところで異変とは?」

「この森で見たこともない焼け跡や傷が大量についているのです。これは明らかにポケモンの仕業ではないとうかがえます。」

ベルリッツは木の傷を見た。そこには削れた跡が出来ていて、人為的な傷であることは明らかだ。何者の仕業なのか。そう調査を進めようとした時だ。

「誰だ!!」

センリが出したケッキングの一撃は木を砕いて吹き飛ばした。木々が倒れて煙が舞う中、出てきたのは一人の男だ。男は拍手をしながらセンリたちに近づく。ケッキングの一撃をものともせず歩いてくる。

「いやぁ・・・さすがはジムリーダーだ。隠していた気配をすぐに察知するとは。」

センリはベルリッツを後ろにそっと下げた。その余裕っぷりから見るにこいつがこの傷を付けた犯人とみて間違いないだろう。

男はケッキングに走り出して懐にとびかかった。ケッキングも応戦しようとするがその時にはもう遅い。

「ケッキング!!!!」

ケッキングは殴り飛ばしてそのまま吹き飛ばした。ケッキングは木にたたきつけられてそのまま木にもたれこんで倒れた。

男はにやけながらセンリたちに近づく。ベルリッツを庇うセンリの額に汗が流れる。男がとどめを刺そうとしたその時だ。

「待てっての!!」

突然殴り飛ばされて地面にひれ伏した男はそのまま肘を地面につけながら立ち上がる。。センリの前に立ったのは一人の女性だった。

「間に合ったばい!!」

「父さん!」

センリはサファイアとルビーの加勢に頭が追い付かない。女性は男を殴り飛ばして森の奥へと殴り飛ばした

「あなたは・・・?」

「私は切風烈火、ルビーとサファイアの友人さ。」

烈火は走って敵を追う。ルビーとサファイアもまた烈火を追うように走り出した。

 

森の奥へと進んだ男と烈火は激しい殴り合いを繰り広げていた。烈火の拳は重く相手をよろつかせるが相手も負けじと立ち上がって殴り返す。

「お前は何者だ?」

男は烈火を蹴飛ばして余裕の表情を浮かべる。その不敵な笑みは烈火の警戒心を高めた。

「俺は一回死んだ財団の人間、そして俺はその最強核。」

”エターナル”

男はロストドライバーを巻いてガイアメモリを装填した。

「変身。」

男は白いアーマーを纏った仮面ライダーエターナルへと変身した。

エターナルはナイフをふるい烈火へと襲い掛かる。烈火はそれを避けて襲い掛かるエターナルに打撃を加える。

「お前と私じゃスペックが違うみたいだな!!」

烈火の攻撃はエターナルに直撃して後ろへ退く。

「いけRURU!!」

「お願いとろろ!!」

ルビーとサファイアもすぐポケモンを出して応戦する。攻撃を加えるが二匹のポケモンの攻撃をものともしない。エターナルはガイアメモリを腰元に差し込んで炎を纏う。

”ヒート マキシマムドライブ”

烈火へと放たれた炎は爆風を生み、周囲を炎に包んだ。

「烈火さん!!」

煙が消えたその場所には烈火の姿がなかった。ルビーとサファイアは愕然として膝をつく。高笑いするエターナルは二人へと近づく。

「過去の人間たちはこうやって滅ぶ・・・お前たちも同じところへと送ってやろう。」

「待て。」

エターナルが後ろを向くと、そこには紅い鎧を纏う戦士の姿があった。一瞬にしてエターナルの姿に回ったというのか。男は戦士を前に構えをとる。

「俺の名はガンバライダーブレイズ。お前はここで狩り落とす。」

魏木々に炎が燃え移る中、二人の拳は交わった。

 

ブレイズとエターナルは戦いを繰り広げ、お互いに炎の拳をふるった。

”ユニコーン ヒート マキシマムドライブ”

”ジョーカー マキシマムドライブ”

エターナルの拳を貫いてブレイズのライダーパンチが直撃する。エターナルはそのまま木々の奥に殴り飛ばされて倒れ込む。それを追うようにブレイズも走っていく。

「逃がすかよ!!!」

エターナルは立ち上がってもう一度腰元にガイアメモリを差し込む。

”エレクトリック マキシマムドライブ”

「くっ・・・。」

周囲に放った電撃はブレイズに直撃してブレイズの膝を崩した。エターナルはすぐ立ち上がり追撃を加える。ブレイズの顔にニーキックが直撃する。ブレイズはその一撃に頭から後ろに倒れた。さらに一撃を加えようとした時だ。

「RURU!!サイコキネシスだ!」

「とろろ!かぜおこし!」

「こんな子供だまし!!」

一瞬の動きを止められたエターナルはすぐにブレイズに追撃を加えようとした。

「どこ見てんだ?こっちだぞ。」

エターナルが後ろを見ると立ち上がったブレイズが足にエネルギーをためて一気に飛翔する。エターナルも攻撃をするべくガイアメモリを装填しようとするが間に合わない。

「ライジングマイティキック!!」

炎を纏った一撃はエターナルに直撃、、煙ごと白い仮面ライダーを吹き飛ばした。

 

エターナルが吹き飛んでから数分後、烈火は二人のもとへと戻ってきた。

「もう!どこ行っとったとね?」

「悪い悪い。さっきの爆風で吹っ飛んじゃって。」

苦笑いをする烈火に呆れに近いため息が漏れる。ライジングマイティキックの一撃で周囲の木々が吹き飛んだのだから烈火の苦し紛れの言い訳はサファイアに通ったようだ。ルビーとセンリは奥で話をつけてくれているらしく、ベルリッツ博士もその事情を聴いていた。

「つまりあの悪者のような存在がホウエンで悪さしているということだね。」

「はい。僕らは奴らと戦うために情報を集めているんです。」

センリは首を傾げてルビーに耳打ちする。ルビーは分かったと頷いてサファイアたちのもとに向かう。

「父さんからもう一つ有力な情報を得たからそちらに向かってみよう。」

ルビーはランニングシューズで一気に駆けていく。

烈火も向かおうとしたとき、センリに待てと止められる。烈火は足を止めて後ろを向く。

「ルビーをお願いします。」

「えぇ、任せてください。」

烈火はサファイアを連れて歩き出した。サファイアは烈火へと近づいて彼女に呟く。

「烈火さんばあのブレイズってやつの正体でしょ?」

「えっ?」

烈火の額に汗が流れる。どこでバレた?エターナルでさえ追えなかった煙の中など見えるはずがない。言い訳を考えてるうちにサファイアがにこやかに笑う。

「わたしば耳も鼻も利くんよ。されば分かったばい!!」

烈火はやれやれと苦笑いする。どうやらこの子は野生児の中でもトップクラスなのかもしれない



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VS ユム・キミル

すてられぶね

ホウエン地方の南側に位置するこの船は一見ただのおんぼろな沈没船だが、かつてここには探知機が埋められており、アクア団とマグマ団という二つの組織が探知機をめぐる攻防を繰り広げていた。

海底洞窟を示すそのアイテムは奪取されてアクア団とマグマ団が復活させた伝説ポケモンをよみがえらせる結果となったため、この世界の命運をかける戦いの重要な局面になったそうだ。

元マグマ団に所属していたその女性はかつて探知機をその手で奪取したその場所に足を踏み入れた。その当時とは違う服装で面影もないがその記憶には刻み付けられている。

「ここか・・・?」

そこに入ってきたのは一人の男だ。男はその女性より背が高く服装も恐らくこのホウエン地方では買えないようなものだ。男は女性に話しかける。

「誰だアンタ?」

女性は男に近づいてその高い視線を見上げた。

「ガンバライダーロード、コードネーム-ロード-。GRZ社から派遣された二重人格で相棒のブレイズと行動を共にしている・・・。ってとこでアンタの紹介はいいかい?」

ロードへと人格が変わると、ロードは落ち着いた口調で女性へと話しかける。

「隠す必要がないなら有難い。あなたのことを教えていただけないですか?」

女性は頷いてロードの持っていたベルトを手に取った。

「私はカガリ、ルビーから聞いていた通りの協力者さ。」

カガリはロードにそう自己紹介すると、ベルトを触りながら辺りを見渡す。カガリが歩く板はミシミシと音を立てて沈みそうな形を保っていた。

「ここに何があるか教えてもらえませんか?」

ロードはカガリにそう聞く。カガリは向けていた背から振り向いてロードへと近づいた。

「カガリでいいよ。ここにはかつて探知機っていうヤバいもののキーがあってね・・・それが今回も何かに関わってるんじゃないかって読みなんじゃないかい?」

どうやらカガリも詳しいことを聞かされてないようだ。話を聞く限りはその探知機とやらについて調べるのが早そうだと判断できた。

「んじゃあその本を探しに・・・おっと。」

書庫を探そうとロードが動こうとした瞬間、カガリがその首根っこを掴んだ。ロードはその勢いの反動で軸がよろめく。間一髪で立ち直ったロードはカガリの方を見る。

「カガリ?」

「下見なよ下。」

ロードはふと下を見た。そこは浸水していて開けた瞬間水が溢れ出しそうだった。

「ははは・・・助かります。」

「これはヤバかったな・・・。」

苦笑いを浮かべたチヒロとロードは冷や汗をかきながらカガリに陳謝する。これはどうやら彼女に付いていった方がよさそうだ。

 

烈火とルビー、サファイアはサファイアのポケモンであるトロピウスのとろろに乗ってホウエン地方の北側に位置する天気研究所へと辿り着いた。この場所は既に衰退した研究所ではあるが、ルビーにとっては思い入れのある場所だった。

「ここで僕と父さんは戦い僕は負けた。それと同時に父さんが僕を認めてくれたところでもあるんだ。」

あれだけ強いと言っていたセンリに挑んだルビーもすごいのだが、彼を認められなかったことに不思議に感じる。厳格な父であることはよくわかったが彼らの中にはもっと深い因縁があるようだ。

天気研究所に入ると、廃墟のような汚れた足場が続き、薄暗くなけなしの電灯が三人を照らしていた。

「にしてもこんなところに何があるってんだ?」

烈火はそう言うとある階に着く。サファイアはPCを開いて大きなモニターにホウエンの地図を映し出した。衰退した研究所にしては電力とか通りすぎだろという烈火の疑問をすっ飛ばしてサファイアは話を続ける。

「見てほしいったい。今このホウエン地方で起きているのはこことここの環境変化。ポケモンの生息地が変わっていることと同時に温度の変化が起きてるばい。」

「そして各地の天候も変化している。この時間を遡ってみれば原因が」

その瞬間だ。烈火たちの後ろから大きな音が鳴る。砂煙が三人を巻き込んで散らかっっていく。嫌な予感がしたのか二人を庇うように烈火が前に出る。

砂煙が晴れると、潰れたドアの破片を蹴り飛ばして男二人が入り込んだ。烈火は眉を細めて男を睨む。サファイアは驚きを隠せない表情で男たちを指さした。

「アオギリにマツブサ!!?」

「お久しぶりですねぇ・・・醜い子供たち。」

アオギリとマツブサは得意げな顔で三人を見た。その表情は余裕そのものと言っても過言ではないだろう。その余裕に警戒する烈火とサファイア、しかし烈火がふと後ろを見るとルビーだけが眉間にしわを寄せてアオギリたちを睨みつけていた。

「お前たち、僕の服を汚したな・・・。」

センリとルビーの確執、もしかしたらここなのかもしれない。

 

書庫を探すべくすてられふねの内部を散策する二人は一つ一つドアを開けてここは違う、ここも違うとしらみつぶしに探す。すでに十は開けたであろう扉を探しても書庫へは辿り着けない。

「見つからないね・・・。」

あまりにも多い部屋数に参ったのかロードは少ししょげたように呟く。見る限り廊下はさらに長く続いており、この探索が終わる気配を見せてくれない。そんな滅入ったロードを見かねてかカガリは手を引いてロードを引っ張った。

「ちょっカガリ!!?」

「なにしょげてんのさ。絶対見つかるんだから私たちが頑張るしかないよ。」

そうだね、とロードは返す。カガリはそのロードの様子を見て安堵したのか笑顔で笑ってみせた。

さらに部屋を進めていき、二十、三十、四十と扉を開けるがやはり書庫らしい部屋が見つかる気配がない。そんな単純な作業の中四十九番目の部屋を開けた時だった。

「・・・何か音しなかった?」

「え?」

ロードの言葉にカガリは驚く。耳を澄ますと人々の呻きのような音、ある時は木々が軋む奇怪な音がカガリとロードの耳に流れる。そこは何もない部屋のはずだが、確実に何かがいる音がそこにするのだ。

足がすくみ退くカガリに対してロードは一歩前に出る。

「カガリはここで待ってて、僕がこの場所を探索してみる。」

ロードはそう言って前へと進む。部屋に踏み込んだその時だ。ロードの耳には激しい雑音と幻影が目の前の景色をかき消した。目の前にはノイズのような霧が立ち込めて周囲から意識を消し去っていく。

「僕は・・・一体。」

「っ!!」

これはまずいとチヒロはすぐに人格を押しのけて前に出る。チヒロもまた同じく激しいノイズと幻覚に見舞われる。そこに見えるノイズの世界はまるで死の世界だ。

「なんだ・・・ここ?」

後ろをふと見るとドアが消え、暗い闇へと形を変えていた。チヒロは腰元のガンバドライバーを取り出そうとしたその時だ。

「・・・あれ?」

腰元に入れていたガンバドライバーがないのだ。ポケットなどを探すがどこにもない。これも幻覚なのか・・・?狂いそうなノイズと視覚が脳を襲い動くことすらままならない。

一方で待つカガリは不安そうにドアの先を見つめていた。

「あのノイズ・・・。」

あれは明らかに自然に鳴る音ではなく人為的なものだ。しかしいったい誰が?何のために?彼女の思考では追い付かない。考えているその時だった。

「おやおや・・・お困りのようですね?」

カガリが声の方を向くとそこには明らかに人ではないものがそこに立っていた。カガリがポケモンを腰元から出そうとして手元にモンスターボールを持った。

「遅いですね。」

カガリはその金色の腕によって壁へと叩きつけられた。倒れ込むカガリだったが、その叩きつけた音は内部にも響いていた。

その音はけたたましく響き、チヒロの脳へと音を叩きつけた。

「次は何だ!!」

チヒロは周囲を見渡していると埃が舞っているのが見えた。

「・・・そうか。」

チヒロはそう呟くと、突然足踏みを何度も何度もし始めた。足を叩きつける音は響き渡り、無論チヒロの脳にも響いた。だがそれを気にせず無我夢中で足踏みを続けた。

「ョ~ーーーン。」

その奇妙な音と同時に結界は消え、目の前には書庫が姿を現した。

「よし!!」

そう喜んでいるのも束の間、チヒロたちの後ろのドアが打ち抜かれる音がした。後ろを見ると、そこには金色の怪人と胸ぐらをつかまれるカガリの姿があった。

「よくもやってくれたな!!」

チヒロは手に持っていたガンバドライバーを腰に装着してICカードを装填した。

「変身!!」

ロードへと変身すると、その赤いアーマーは黄金の怪人を殴り飛ばしてカガリを手放させた。

「カガリ!!」

カガリは目を開けてロードの手を握った。

「私は大丈夫だから気にしないでくれ。」

見る限り戦っていたにも関わらず傷が殆どない。もし全て受け流していたのなら相当の手練れだ。

ロードが怪人の方を見ると怪人は立ち上がり、首を回しながらこちらへと向かう。

「十面鬼ユム・キミルにダメージを与えるとはなかなかですね・・・。しかしこの程度では私を倒せない。」

ロードはドラゴンロッドとストームハルバードを召喚してユム・キミルへと斬りかかる。ユム・キミルはそれを回避もせず喰らい、ほくそ笑みながら後ろへのけぞった。

「クウガ返し、アギト返し。」

「なっ!!?」

放たれた水流は直撃してロードを吹き飛ばした。立ち上がるロードへと更に追撃を加える。

「残念ですねぇ・・・私はライダーの力を跳ね返す。勿論、ゴーストなどの力もすべて。」

そう言ってロードの腹へと蹴りを入れる。その一撃に反吐を吐きながらロードは倒れ込む。

「くそ・・・っ。」

ロードは立ち上がりユニゾンブレスに手を当てる。

「お前がライダーの力を返すなら俺はそれ以外の力を使うだけだ!」

ブラッドユニゾンへと姿を変えて巨大な砲身から無数の弾丸を放つ。ユム・キミルの姿は煙の中へと消えていく。煙が晴れた先には余裕そのもののユム・キミルの姿があった。

「最強のギギの腕輪とガガの腕輪をつけた私がその程度で敗れるとお思いか?」

加速をつけたユム・キミルは一気にロードを殴り飛ばす。ロードにもう一撃加えようとしたその時だ。

「ョーーーーン。」

「何だ貴様?」

ロード達の前に現れたのは桃色の煙を身にまとったような不思議な生き物だ。煙の下には小さな石のようなものがついている。

「お前は・・・。」

困惑するロードだったがそれを見たカガリも驚愕する。

「何だあのポケモン、見たことも聞いたこともないぞ!」

謎のポケモンは闇の波動を何発も放ちユム・キミルへと応戦するがその攻撃が全く聞いている様子はない。

「愚かなポケモンです・・・確かデータには”ミカルゲ”とか言いましたっけ?」

ロードはミカルゲの攻撃をくぐりながらユム・キミルへと突撃する。ユム・キミルへと拳を何発もぶつける。

「無駄ですよ。あなたの攻撃は最強の私には通じない!!」

「それでもおまえを倒す!俺はお前らみたいに支配する奴らを放っておくわけにはいかない!支配されないために俺は戦う・・・勝ってみせる!」

"Ganba rider Lord Rerize"

ツインバーストしたロードは同時に拳をぶつける。しかしその一撃はユム・キミルへは届かない。

「無駄ですよ無駄無駄!!」

ユム・キミルがそう言っていると、彼の後ろに炎が放たれて一撃を喰らう。その瞬間にロードとチヒロは一気にユム・キミルを蹴り飛ばす。

「な・・・何が?」

後ろを見るとカガリの後ろには九尾の尾をばたつかせたポケモンが口の中にもう一撃と炎を溜めていた。そのポケモンの鋭い目つきは敵を威嚇する。

「私のキュウコンのダメージは喰らうみたいだね。」

よろめくユム・キミルへと二人のガンバライダーが猛追する。

「バーニングライダーパンチ!」

"ヒッサーツ マックスフレア"

「フレアストラップ!」

二人の炎の一撃はユム・キミルへと届くがその手には炎が宿された。

「アギト返し ドライブ返し!」

ロードとチヒロはそれを回避する。直撃させようとした時、ユム・キミルは異変に気付く。

「炎が・・・!!?」

手に灯った炎は流れるように消えていき、その行先はキュウコンへと渡った。

「キュウコンのもらいび、この特性は炎を無効化して自分の力へと変えるのさ。」

ロード達はさらに手に炎を灯して攻撃する

"チョーイイネ スペシャル"

"ストライクベント"

ドラゴンブレスとドラググローファイアを使い何発も放つ炎はユム・キミルを追い詰める。そしてこぼれた炎はキュウコンがすべて吸収していった。

「これでお前は攻撃を返せない!」

「なめるな!!」

ロード達の攻撃を受けながら二人の首を掴む。その力は強く振り払おうにも振り払えない。

「我々財団Xが新たな世界を作る・・・そのために」

「お話はそこまでかい?」

ユム・キミルをが後ろを振り向くとそこには掴んでいた筈のロード達の姿があった。ロードはリボルケイン、チヒロはライドルスティックを構えていた。

「今のはミカルゲのあやしいひかり、君にそういう幻覚を見せていたわけだ。」

ユム・キミルが逃げようとするがもう遅い。二人はとびかかって攻撃を仕掛けた。

「リボルクラッシュ!!」

「Xキック!!」

二人の同時攻撃はユム・キミルを怯ませる。ダメージを受けたユム・キミルは立ち上がることすらままならない。

「今だ!!」

キュウコンから放たれた炎は一帯を燃やし尽くして、ユム・キミルごと消し飛ばした。消え去ったその跡からは炎の火柱が立っていた。

 

炎が消えてからしばらく経って二人は書庫の本を読み漁っていた。

「・・・。」

二人の間に無言の時間が過ぎていく。それを傍からミカルゲがつまらなさそうに見ていた。

「ねぇ・・・カガリ。」

「何だい?」

「カガリはどうして僕らのことを知ってたんだい?」

「教えてやってもいいけどもう少し秘密にしておくよ。」

お互い顔も見ずそっけなく話が進む。ミカルゲは痺れを切らしたのか真ん中にそっと寄って立ち止まった。

「ョーーーーーン!!!!!」

「うわっ!痛ぇ!!」

驚いて腰を抜かした二人はそのまま後ろに退く。ロードはその時に上から落ちてきた本が直撃、脳に激痛が走った。

「・・・フッ。」

「今笑ったでしょ!」

「そんな顔真っ赤にしなくても・・・フフフ・・・。」

カガリは抑えられず口を押えていた。ロードも恥ずかしくなったのか落ちてきた本と手に取った。そこにはこう書いてある。

 

"財団X、奴らはかつてこの街を救ったヒーローを殺した。私が言うのだから間違いない・・・奴らは必ず裁きを受け"

手紙は途切れていて、その先を読むことはできなかった。

 



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VSクロノス&エボル

ーユム・キミルが倒れたー

そんな報せが男の耳に入ったのは今朝のことだ。男はそうか、と一言残して通話を切った。イマイチ現実味を帯びていないのか男は顎を拳に乗せて考えるようなそぶりを見せた。

とても優秀な部下だっただけに少しばかりショックではあるが受け入れざるをえまい。今できることはその敵を討ち墓に送ってやるくらいであろう。

「しかしあのユム・キミルがね・・・。」

男の端麗な顔は悩む表情で少し額にしわが寄る。強敵として送り込んだ相手をいとも簡単に破ってしまうほどの敵、奇跡的な勝利を仮定しても油断ならない相手ということは間違いないだろう。これから我々の前に立ち塞がることも考えれば抹殺、いやそれ以上の対価を払っていただいた方がよさそうだ。

そう考えていると、男の元にスーツを着た白髪の男性が話しかけてくる。

「侵入者がいらっしゃいました。」

「ふむ・・・ご苦労である。」

男はスーツの男とともにドアから外へと出た。先ほど連絡の入った敵ならば、死よりも重い罪を背負っていただこうと男のえくぼが不気味に上がった。

 

烈火たちの前に現れたのはアオギリ、マツブサと呼ばれた男たちだ。サファイアは立ち上がって二人を睨みつけた。ルビーも同じく戦闘態勢といったところ、それを見て少なくとも味方ではなさそうだと烈火も察した。

しかし何故敵もこの場所を察知できたのか。当然だがいろんなことは気になるがどうも今は気にしている状況ではなさそうだ。

「いけませんねぇ、そんな野蛮だと救世主の面目もありません。」

青服の男はそう言うと余裕ぶってかポケットに手を突っ込んだ。赤服の男は雅な笑みを浮かべて同じくポケットに手を突っ込んだ。

「いいじゃねぇか・・・それくらい悪態ついてもらわねぇと殺し甲斐がねぇからな。」

「何を!!」

ルビーとサファイアが同時に攻撃するためにモンスターボールを手に取ったその時だ。

“エボル・ブラックホール“

”ゲムデウス・クロノス”

二人の男から放たれたオーラは三人を壁に追いやり、その圧倒的な強さを一瞬にして見せつけた。その邪悪な黒いオーラの奥には人とは程遠い何とも形容しがたいモンスターの姿が映っている。肩からは角が生え、鋭い牙を生やしてこちらをあざ笑うように歯を見せている。ルビーとサファイアから見ればそれはこの世のものとはとても言えないだろう。嫌な予感がした烈火はすぐに立ち上がり、二人の怪人へと殴り掛かった。人間の攻撃などと高を括ったようなそぶりで怪人たちはそれを回避して烈火へと攻撃しようと膝を上げた。その時だった。

「・・・変身。」

「何!?」

炎は周囲の風と共に高く舞い上がり火柱を立てた。烈火の姿は変化して炎を渦巻いた中に黄色い複眼と烈火のような赤いボディが二人を睨みつける。戦士は包んでいた炎を振り払って攻撃を仕掛ける。油断したアオギリとマツブサは攻撃をしのぎ切れずに後ろにのけぞった。そのまま一転攻勢、更に追撃を与えていく。

烈火が姿を変えて赤い鎧を纏って戦っているそんな姿を目の当たりにしたルビーは状況を飲み込めるはずもなく茫然としていて、それを見たサファイアはルビーの手を引いて走り出す。

「ちょ・・・っ」

「こんなとこにいたら危険ったい!今はロードさんたちに連絡せんと!」

そう促されるままにルビーはサファイアに連れられて走った。ブレイズもそうしてくれると助かると視線を向ける。

その後ろではブレイズと謎の力を宿したエボル、クロノスは炎の中激しい攻防を繰り広げていた。

マツブサが変身したエボルは手の中に黒い物質を作り上げると、それをブレイズ目掛けて思い切り投げた。投げた物質は炎や小石、そして研究所の機材までも飲み込みながらブレイズのところへと飛んでいく。一瞬のうちに危機を察知して回避するが、ブレイズの後ろにはアオギリの変身したクロノスが立っていた。

「遅いですねぇ。」

「お前も・・・な!!」

ブレイズの体は一瞬のうちに翻り、回転した足がクロノスの顔面を直撃した。クロノスはその一撃を受けて後退した。ブレイズはその一瞬のうちに立ち上がりガンバソードを呼び出した。どんな手を使ってでも彼らのために時間を稼がねばならない。そう”どんな手を使ってでも”

 

 

ーカイナシティー

浜辺から降りられるその町は大きく発展していて、見渡す限りでも市場や研究所のような大きな建物が並んでいて人が住むというよりは出稼ぎに来る大都市のような印象だ。

そんな街に降りたチヒロとカガリは街を散策するべく浜辺を歩いていく。靴に砂の入る感覚はどうも慣れないらしく何度かチヒロが立ち止まり靴から砂を落としていた。一方でカガリは慣れているのか我先にと歩いていく。チヒロたちも追いつくために早足で彼女に付いていく。

周囲の人々はよそ者が珍しいのか何か話している様子だが、そんなことは気にしまいと二人は堂々と歩いていく。

「何でここに来たのかって説明、まだ明確にされてないんだが。」

「ここはすてられ船から近いのもあるが研究施設が多いしなんか隠してるならここかなと思ったのさ。」

チヒロはなるほど。と納得したがロードは腑に落ちないらしくカガリに彼から問いかける。

「確かに財団Xが関わるなら妥当だけど明らかに向かってる方向が研究所だよね?」

こういう時は町長か誰かに許可をとってから行くものだと思っていた彼としては不思議でもあるし何かあるんじゃないかと彼女に問う。その問いに彼女が答えようとした時だ。

「おやおやおや、お見掛けしない方々だ。」

二人の後ろから歩いてきたのはロードより少し背丈の高い男だ。端正な顔立ちでそのスーツ姿からここで何かしらの役員なのだろうと二人は察した。

「他の街から来られた方ですか?それとも空から落ちてきた・・・とか?」

突然の質問に戸惑う二人だったがカガリがすぐに口を開いた。

「ああよそ者さ。五年前に変わった市長ってのはアンタかい?」

「五年前に変わった・・・?」

いかにも、と男は一礼して二人に歩み寄る。その姿は何かの魅力というやつなのか見ているだけで吸い込まれそうになる。その雰囲気を感じたのかカガリも一歩また一歩と後ろに引き下がる。

「ここに来たのが初めてなら御存じないかもしれませんが通行料をいただいてましてね・・・。」

ここまでは良かった。次の言葉に二人は絶句する。

「ここを通るには一億円いただいてるんですよ。」

二人は驚きのあまり開いた口が塞がらない。こいつひょっとして馬鹿なのか?それともそういう面白いと思って言ったやつか?しかし先ほどの笑みとは一転男の顔に朗らかな表情などどこにもありはしない。

「ッ!!」

一瞬で何を察知したカガリはキュウコンを呼び出して周囲に炎を纏わせた。それを見て何かを察したのかロードへと人格が変わりミカルゲを呼び出した。

男はため息をつくと一体のポケモンを呼び出して手を後ろに組んだ。

「フーディン・・・エスパータイプなら互角だね。」

男はほくそ笑むと指を鳴らす。指を鳴らした瞬間周囲に異変が起きる。先ほどまで穏やかだった住民がまるで何かの糸に引っ張られるようにこちらへと歩いてくる。その目の奥には光が入っておらず、まるで死んでいるものを引っ張っているかのようだ。

住民から逃げようと言ったって追い込まれている彼女たちに逃げ場はない。男はさらに二人を追い込むように近づく。

「では、こういうのはどうでしょう?」

「下がって!!」

ロードはそう言ってカガリを建物へと走らせた。男は彼らへ白い球を投げた。球はロードの眼前で煙をまき散らし視界を奪う。人ごみの影は見えるがおそらく劣勢であることは変わらないだろう。この煙の中で変身しても恐らくは気付かれない。今なら・・・

「キュウコン!!待てって言ってるだろ!!!!」

カガリの声が聞こえる。後ろを見るとそこには九つのしっぽを持つポケモンがこちらに構えをとっていた。恐らくあれはカガリのキュウコンだ。しかしこちらに攻撃態勢をとっていることから異常なのは明らかだ。ロードが逃げようとした時だ。

「グルルル・・・ウォォォォォォン!!!!」

激しく放った炎は煙と化学反応を起こし大きな爆発を生んだ。爆発は建物を巻き込んで瓦礫と人々を吹き飛ばした。爆発に巻き込まれたロード、そしてカガリは吹き飛んで爆破で削れた大地へと倒れた。

「何だあれ・・・。」

明らかにただの爆薬じゃないことは明らかだ。黒煙の中立ち上がりカガリが吹き飛ばされた施設の方へと向かう。後ろから歩いてくる音をすぐに察知した。

「いやぁ・・・さすがはユム・キミルを倒しただけある。彼もこれを受けて死んだのだから大したものです。」

「・・・何を言っているんだ?」

ユム・キミルが爆薬で死んだ?彼にその言葉の意味をくみ取るのは不可能だった。

「えぇ、ユム・キミル、否「前カイナ市長」は我々財団の実験を受けて誕生した生命体、心は不要だったので抹殺しましたがね。」

「なん・・・だと?」

かつてこの街を救ったヒーロー、それが彼だとするならこいつらはまさか全てを殺したというのか?男はほくそ笑んでポケットからガイアメモリを取り出した。

”ナイトメア”

首筋に差し込んで男の姿は一変、禍々しい化け物へ変身した。

「アイツだけは俺たちがぶっ潰す!!」

チヒロへと人格が変わりガンバドライバーを取り出そうとしたその時だ。

「・・・けて・・・くれ。」

目を向けた先には先ほどの爆発に巻き込まれたのか老人が倒れていた。助けに行くことと同時に檀の言葉が過る。

”人目のつかないところで変身するように”

今はそんなことを考えてる場合じゃないと老人へと駆け寄った。

「だいじょう」

助けようとした瞬間老人はチヒロの腕と首を取り押さえて身動きを封じた。ナイトメア・ドーパントは高笑いしながら近づいてくる。

「見ず知らずの人間を信じるなんてお人よしもいいところです。そうやって損をしながらあなたは生きていくのだ!」

「さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ!!!」

振り払い一気に加速をつけてナイトメア・ドーパントに殴り掛かる。あと数ミリで攻撃が当たるというところだった。

「キュウコン、焼き払え。」

瞬間、獄炎がチヒロたちを襲い、そのまま炎とともに襲った風圧で壁へと叩きつけられた。チヒロの目の前にはフーディンとキュウコン、そしてカガリの姿があった。彼女の目からは光が消えていて、先ほどの街人同様屍のようになっていた。

「情けねぇな・・・。」

クリスタルの時だってそうだった。フェイトを死の直前に追いやってから戦い続けてきた。様々な世界を回ってきた彼が守れたものなど何一つなかった。彼女のような犠牲を出したくないと言っていても結局何も守れていなかった。

「俺の力は結局なんも守れてねぇ・・・誰も救えてねぇじゃねぇか。」

弱くてちっぽけな力じゃいけない。もっと高い力がなければ守れない。過去も未来もすべてを守れるだけの力が欲しい。

「強くなってアイツを・・・すべての敵をぶっ潰す!!」

その時黄金のロックシードは輝きを増して彼の周囲に光を纏う。それに呼応して戦極ドライバーが腰に巻き付いた。

「な・・・何だ!?」

これがガンバライダーの最終地点”仮面ライダー”なのだ。

「変身。」

昇華したその力はリンゴロックシードに力を与えて変身する。

”リンゴアームズ!デザイア・フォビドゥン・フルーツ”

少年が姿を変えて戦士は名乗る

”仮面ライダーセレジオン”



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VSナイトメア・ドーパント

セレジオンへと変身したチヒロは一歩、また一歩とナイトメアドーパントに歩いていく。赤い鎧は高貴さと美しさを放ち、額の水晶は美しく輝く。その両手にはアップルリフレクターとソードブリンガーを持ち、日の光に照らされて反射した剣は一層輝く。

”マスカレイド”

街の人々は姿を変えて怪人となる。その数は彼の見る限りでも百は足らないだろう。軍勢は大事な主に近づけまいとチヒロたちの前に立ち塞がり、それは彼らからナイトメア・ド―パントが見えなくなるまでになった。

「どうする?」

チヒロの言葉にロードは当たり前だと笑みをこぼす。

「百人切りに決まってるだろ!!」

一気に駆け抜けて一人ずつその剣で切り裂いていく。マスカレイド・ドーパントの拳をすり抜けた切っ先は体を真っ二つに割り断末魔とともに背後で爆散する。その手さばきはあまりにも早く、マスカレイド・ドーパントは残り十数体となる。それを見ていたナイトメア・ドーパントは痺れを切らしてセレジオンへと襲い掛かる。

「剣と盾など持って騎士にでもなったつもりかァ!!」

「背後からくるよ!」

「あいよ。」

ナイトメア・ド―パントの攻撃を盾で防ぎ、一回転して剣をふるう。ナイトメア・ドーパントはマスカレイド・ドーパントが持っていた剣を持ち、ソードブリンガーを弾く。短い剣ではあるがセレジオンの攻撃を受け流す。

「何故カイナ市長を狙った!?」

ナイトメア・ドーパントはセレジオンの言葉に笑いながら答える。

「理由?富と権力を持つものを殺して私が全てを手に入れる。そんな素晴らしいことに理由など必要か!?」

「そんなクソみたいな理由で!!」

「愚かな人類では我々の崇高な考えは理解できんよ!!」

二人の戦士の攻防は激しさを増してお互いに剣をふるう。しかしその圧倒的なセレジオンの力と剣捌きはナイトメア・ドーパントを退けて、ナイトメアドーパントは少しずつおびえるように後ずさりする。勝利を確信したセレジオンは一気にその剣をふるった。

「焼き尽くせ!!」

大声で叫んだ合図とともにセレジオンの後ろから炎が迫る。咄嗟に振り向いて盾を構える。アップルリフレクターで防がれた炎は彼の横を通り過ぎて火花が頬に当たる。街の潮風と共に吹き荒れた炎は止み、二人の間には焼き払われた黒い炭が道となる。煙の奥にはカガリとキュウコンがもう一撃と炎を蓄えていた。

「そうだった・・・。お前らも何とか止めないとな。」

恐らくはナイトメア・ドーパントの力で彼女を操り意のままにできるのだろう。夢の中に入り込む力があるとは聞いていたがこんなことも出来ようとは意外である。

「これはしてやられたね。」

鎧の奥に冷や汗が走る。状況は一転、防戦一方を強いられて挟まれたこの状況でやるしかないとセレジオンは構えをとって一気にナイトメア・ドーパントへと走る。

「忘れていないかい?」

「ッ!?」

瞬間、動きが何かに縛られたように動かなくなりセレジオンの体は止まる。勝利を確信したナイトメア・ドーパントは少しずつ離れて高笑いする。

「ご苦労だフーディン!さあカガリよ焼き払え!!!」

「・・・。」

黄金の体毛を持ったポケモンから放たれた炎は爆風を生み、焼き払われた周囲はたちまち煙と炎で包まれた。

 

GRZ社のモニタリングルームではロード、ブレイズの動きをモニタリングしてデータをとっている。勿論、炎に焼かれて倒れているロードの姿も映し出されていた。

「仮面ライダーセレジオン変身解除、まだ生存しています。ブレイズは精神、身体ともに安定していて問題はありません。」

檀はモニターを見ながら手元にあった水を一杯飲んだ。モニター越しにはナイトメア・ドーパントに蹴られて転がるロード、そして謎の敵を相手に奮闘するブレイズの姿、どちらも状況は良いものではなかった。

「これでは全滅もあり得るな・・・。」

考えたくはないがこの状況で二人が生き残れる保証はない故に普通なら増援を送るところだが今から増援を送ったとして彼らが生きているかどうかは定かではない。悩み考えているところに後ろから声が聞こえる。

「お困りみたいだな。」

後ろから現れたのは朱崎だ。彼の後ろには三人の男女が並んでいた。

「ったく・・・どこのどいつがこの世界を荒らそうってんだ?」

「ツルギだっけ?シマ荒らされてキレるのは分かるけどちと静かにしてもらえないかな?」

「そういう勇七さんも静かにな。」

ツルギと勇七の間に入ったのは柳だ。朱崎は後ろを見て小さくため息をついた後檀へと話を続ける。

「で、今回のミッションってのは後ろの人たちの増援か?」

檀は少し悩んでからいや、と否定して小さなモニターを朱崎に見せる。

「これは・・・!?」

想像を絶する光景に朱崎は絶句する。檀は頷いて朱崎の目を訴えるように見た。

「君が集めた最高のチームならきっとこの状況を打開できると信じているから頼んだよ。」

朱崎は不安そうに後ろを見る。いがみ合っている彼らを見るとさらに不安とこれから大変そうだと頭を抱えた。何もなければいいんだが・・・。

 

一方、目覚めたエメラルドは少しふらつきながらルビーの部屋へと向かう。しかしその部屋に誰かがいるはずもなく驚きを隠せないままリビングに戻る。

「アイツどこ行った!!?」

リビングに戻ると目につくところにあった書置きされている紙を見て彼らがすてられふねに行ったことはすぐに理解して、起きていることの整理と何か起きてないかとエメラルドは急いでニュースを開くとそこには恐ろしい光景が広がっていた。

「ただいまカイナシティ前です。周囲は炎に包まれており空中からでは何も確認できません。」

「何だよこれ・・・!!」

エメラルドはすぐに家を出ようとするが自分のモンスターボールをみて踏みとどまった。

「俺に何かできるのか・・・?」

先ほどのG4の戦闘では怯えて戦いにすらならなかった。もし彼がそこで戦っているのだとしたらまた足手まといになるんじゃないか。あんな見たこともない化け物に勝てる自信なんてない彼の脳裏にロードから言われた言葉が過る。

”お前の戦いを貫け!!”

今自分にできることは何か、ここで立ち止まるのが自分の戦いじゃない。見ているだけなど自分にはできない。

「そうだよな?」

彼とともに戦い続けたジュカイン、そして憧れたクリスタルもきっと答えは同じはずだ。すぐに走り出してカイナシティへとその足を急がせた。

 

変身解除され、煙の中胸ぐらをつかまれる。チヒロの目の前には高笑いするナイトメア・ドーパントの姿があった。

「いやぁ愉快ですよ。まさかここで邪魔者を排除できるとは思いもしませんでしたからね。」

「・・・。」

「あの少女は君を殺した後私がぼろ雑巾になるまで使ってあげますよ・・・たっぷり実験してあげないと。」

話しかけても何も返さない。恐らく失望や絶望、様々な念に囚われているのだろう。その表情を見てさらに男は嘲笑う。

「可哀想に・・・私がその愚かさからすぐに解放して」

「言いたいことはそれだけか!?」

首を絞めていた腕に足をクロスさせてそのまま回転、チヒロが捻った体ごとナイトメア・ドーパントは叩きつけられる。突然のことに戸惑う相手、チヒロはすぐに前転して距離をとった。

「あっぶねぇ・・・。」

「計算もしてなかっただけに賭けだったけどね。」

しかし今の状況を打開できたというだけで一転攻勢に出ることは不可能だ。変身解除までもっていくあの攻撃をもう一度受ければひとたまりもないだろう。煙の中ガンバライダーへと変身しようとした時だ。

「待て。」

そう待ったをかけたのはナイトメア・ドーパントだ。彼はカガリの首元に剣を向けて話を続ける。

「君が二つのベルトを捨てないのならこの子を永遠の夢へと眠らせる。もし君が捨てるのなら考えてやらんでもないがな!」

何を偉そうに。チヒロは変身しようとしたがロードが待てと止める。

「彼女の命が優先されるべきだろ!!」

「じゃあみすみすやられてカガリの命も捨てるのかよ!?」

いがみ合う二人、これは好機とナイトメア・ドーパントが動き出す。

「よしキュウコン!奴らを焼き払え!!」

ロードとチヒロはすぐにキュウコンへ目を向ける。打開策が何かあるはずだ。ロードはカイナシティに広がる海を見た。

「飛び込むよ!!」

「は?お前何言って」

すぐに人格は入れ替わり海へと一直線に飛び込んだ。キュウコンは追うように炎を放ち、その水蒸気は遥か高くまで舞い上がった。ナイトメア・ドーパントはしばらく海を見るが上がってくる様子もなく勝利を確信した。

「さあてあの世にいる彼らに彼女がボロ雑巾となるところを見せてあげないと。」

”オレンジスカッシュ・チェリーエナジー”

”トライアル”

「ッ!!」

二つの音速の動きはナイトメア・ドーパントを捉え猛攻を仕掛ける。その攻撃に翻弄されてその場で火花が散る。

「な・・・なんだ?」

そこには赤いガンバライダーと先程のセレジオンだが、アーマーも違えば二つのロックシードが付いている。

「貴様ら・・・何をしたァ!!」

 

これは先ほど海に飛び込んだ時のことだ。チヒロは突然のことに理解が進まずロードに説明を求めた。

「お前海に飛び込んでどうするつもりだよ!」

「ここなら人の目に付かず変身できるし油断もさせられる。ここでツインバーストして一気に叩き込むよ。」

そこまでは理解するにしてもどうやって人質のカガリを救うのか。夢というのは脳内のこと、逃げられれば一瞬で彼女を殺すことになる。二人が悩んでいるそんな時だ。

「よぉ、お困りみたいだな。」

「そうそうお困り・・・ってえっ!!?」

驚いて横を見ると明らかに怪しい男がこちらを見ていた。布で頭と首を覆い服は民族衣装のような装い、異国という言葉がまさにお似合いだろうか。男は驚くロードをよそに話を続ける。

「お前の持つリンゴロックシード、それは人間が神に近づくために作った紛い物の果実。人間の愚かさが生んだロックシードと言ってもいいだろう。しかしその力も正しく、いや「本来とは違い間違って」使えば人々の願い、善悪を正す知識の果実となるかもしれないな。」

「アンタはまず誰だ?あと」

男は聞く耳持たず話を続ける。

「お前はその果実に何を望む?愚かな争いのため、または人のため、自分のためでもいいだろう。」

そんなこと今更とロードは答える。

「誰かのためじゃなく自分のために戦う。僕が・・・俺が終わらせたい戦いのため、俺が守りたい人のため、これから出会う大切な人のためにこの力をふるう。」

信念のこもった言葉、きっと彼もそうだったのだろう。悩みながら答えを見つけ運命へとたどり着く。男は手から一つのアイテムを生成してロードへと託す。

「ゲネシスコア・・・?」

エナジーロックシードを装着する際に使用されるゲネシスコアだ。男は少しずつ彼の前から消えていく

「お前はまた運命を選ぶ時が来る。俺の名はヘルヘイム、お前がまた運命を選ぶとき俺は見届けよう!」

ガンバドライバーを装着、ロードへと変身した。ICカードを二枚装填して反転させた。

「ツインバースト!!」

分裂して二人となったロードはチヒロに戦極ドライバーを渡す。

「逃げられたその時は僕が彼女を救う。」

「勝手にしな。お前は止めても行くだろうしな。」

チヒロは戦極ドライバーへとベルトを変えてオレンジのロックシードを取り出す。ロードは手にチェリーエナジーロックシードを生成してチヒロへと渡した。

「変身!!」

”オレンジアームズ 花道オンステージ アールチェリー!イェッサー”

 

セレジオンとロードは一気にナイトメア・ドーパントへと襲い掛かる。二人のスピードは目にも止まらず、反撃の隙すら許さない。

「二人で一人を攻撃なんて卑怯じゃないか!!」

「二人で攻撃?笑わせんな!」

「僕らはいつだって一人で二人だ!!」

攻撃の手は緩まらず、一気に追い詰められていく。攻撃の中ナイトメア・ドーパントはキュウコンに叫ぶ。

「キュウコン!焼き払え!奴らを殺せェ!!」

二人は回避しようとナイトメア・ドーパントから離れるが何も来ない。見るとエメラルドと三匹のポケモンがキュウコンを追い詰めて後方へと退けていた。

「ふぅ・・・こいつどんな育て方したらこんな強くなるんだ?ウソッキーはいわなだれ!マンタインは水で炎をはねのけろ!

ジュカインはとどめまで後ろにいるんだ!!!!」

焦りに焦ったナイトメア・ドーパントはフーディンに指示を出そうとしたが、フーディンはミカルゲともう一匹いた単眼のポケモンの猛攻を受けて倒れていた。成す術がなくなったナイトメア・ドーパントはカガリの元に走り、どこかへ消え去った。

「手はあるんだろうな?」

「勿論さ。」

カガリの薬指に指輪を通しガンバドライバーへ手を当てる。

”エンゲージ プリーズ”

魔法陣へと飛び込んだロードの姿はなくなり、そこにはセレジオンただ一人が残る。

「さあて、お片付けと行くか!!」

セレジオンは一気に剣を数十体のマスカレイド・ドーパントにふるった。

 

辿り着いた場所は様々な記憶が宿る世界、脳にいるといっても過言ではないだろう。華々しい記憶や悲しい記憶、これが整理されて夢や想いへと繋がるのだろう。

ロードの目の前にはナイトメア・ドーパントがほくそ笑んで見ている。

「いやぁ心の中に入ることで夢の世界に入るとはなかなか大胆なやり方だ。」

「・・・能書きは飽きたんだ。さっさと決着に向かわせてもらう!」

一気に足を加速させてナイトメア・ドーパントへ駆けて剣を振りぬくがそれは不発に終わる。消滅したのだ。見渡すと彼の後ろに拘束されたカガリと共に姿を現した。

「見てくださいこの華々しい輝きとマグマ団の絶望・・・、彼女が何故こうなったのか考えるだけでもアドレナリンが出てしまう。」

「・・・。」

「あなたは罪人と共に明日を歩くというのですか?こんな悪人についたところで何の価値もない。栄光を捨て暴れたいからという理由で後悔して死んだんですよ。そんな女を庇う理由がどこにあるというのですか?」

ロードはべノバイザーを召喚してカードを装填する。

”コンファインベント”

その瞬間カガリを拘束していた鎖は解けて倒れた。ナイトメア・ドーパントはもう一度鎖をつけようとしたその時、飛んできたベノバイザーが脳天に直撃、痛みでふらついた。

「あぁ痛い!痛みを与えるあなたは絶対に許さない!!」

「闇があるならその闇も一緒に抱えて明日を切り開く。後悔があるなら一緒に泣いてでも進む。僕が持つ全ての力で闇を抱きしめる!」

”アクセル マキシマムドライブ”

「他人をあざ笑ったお前に待つゴールこそが絶望だ・・・!!」

炎の一撃は悪夢を打ち払い、救った烈火の戦士は現世へと戻っていった。



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VSハッピーチャイルド

マグマ団基地

 

かつて保護団体として動き、そのエゴが加速した結果世界を滅ぼしかねない力を得たマグマ団という組織は現在マツブサという主を失い解散している。エントツやま放っておかれた基地には様々な利点があることから現在は違う主を得て生存する形となった。

「・・・ふぅ。死ぬかと思いましたね。」

「失態だな。」

そうナイトメア・ドーパントに吐き捨てたのは仮面ライダーエターナル「右颯英司」だ。右颯は片手にどこかで拾ったの買ったのか肉をほおばりながらそう言う。ナイトメア・ドーパント「桐生哲夫」はそれを見て憤りを示す。

「敗北したあなたが言えたことか!?夢の中で無敵の私は負けてなど」

「インビジブルとゾーンの力を使って命からがら帰ってきたやつがよく言うよ。」

「お前も負けたけどな。」

仮面ライダーG4「神楽彪」はそう言って右颯の肉を奪う。豪快に一かぶりすると肉の底から骨が見えて口の周りは肉の油でベトベトになっていた。

「我々もGR粒子を得ているとはいえなかなかどうして厄介な存在だ。」

G4のデータは持ち帰っていたがセレジオンというデータの照合が合わない存在の登場を考えるとまだまだ隠し玉も多いだろう。そういう意味ではかなりデータが取れるかつ面白い相手と言える。

「だがあのアオギリとマツブサってやつら、俺たちにポケモンのデータなんて集めさせてどうするつもりなんだろうな?」

右颯がもう一つ気になるのが彼らが得たという力だ。アレは財団の技術なしに作り上げられた力であり野放しにするはずもないのだが、どうやら彼らがモルモットということではないらしい。それに財団からの依頼とはいえ右颯にとっては彼らの協力とデータの採取ということの接点がまるで見つからないのだ。大昔に住んでいた伝説の存在のデータを集めるより怪人を解き放って侵略した方が早いものを。右颯をよそに神楽は骨を片手でつぶしてそこらに捨てた。

「何があろうと関係あるまい。我々は財団のために動くだけだ。」

桐生はそれを聞いてほくそ笑む。そうだ、すべては財団と私の権力のために・・・。私のターンはまだ-終わり-ではない。

 

精神世界から帰ってきたロードはチヒロ、エメラルドと合流した。戻ってくる頃には消火活動していたのか火も消えていて煙も晴れていた。二人とも手ごたえがあまりなかったのか表情は晴れやかではなく寧ろ少し不満げなようだ。

「そんな顔されましてもね・・・。」

「まあ手ごたえがなかったのもあるけどどうも不穏でね・・・。」

エメラルドは少し癪なのかそう返す。ロードが見渡した時すぐにその疑問の意味を理解した。見渡す限りだが何故か住民が誰一人目を覚まさないのだ。瓦礫に埋まった人々やメモリブレイクされた住人も同じく誰一人立ち上がってはいないことを不思議に感じたロードは近くにいた男性を揺す振る。しかし全く反応がないどころか体が冷え切っているようにも感じる。

「・・・息がないかもしれない。」

ここで疑問なのは死体であることとそれと連鎖して脳が留止まっている可能性があることだ。夢を見るということは本来脳を使うはずなのだが動いていないとなると

「まさか死体の脳を操った・・・?」

しかし精神がない死体をどうやって?様々な疑問が残る中、一つのアラームがエメラルドから鳴る。すぐに持っていた端末を開いて通話を開く。

「ルビー!無事だったか!!」

「・・・あぁ、ボクとサファイアは何とかね。」

後ろからは爆音が鳴り、色々なものが倒れる音がする。ルビーの声色も少しずつ険しくなっていく。

「一緒に行動してるならロードさんたちに伝えてほしい。今烈火さんがバケモノと戦ってる。そっちの調査を取りやめてこちらに来てほしいと。」

「分かった!!すぐそっちに」

「ふーん。僕との遊びに付き合ってもらえないんだー。」

三人はその子供のような声に後ろを向く。そこには全身細長く腕は鋭利な刃、怪物というには少し遠いが明らかに人ならざるものだ。ロードは剣を構えて一気に振り抜く。それを鋭利な腕で弾いたとき異変が起こった。

「なっ・・・!!」

「ロード!!」

持っていたガンバソードは粒子となって粉々に消えてなくなる。その一瞬の動揺からか掠ったアーマーも粉々となった。

「まさか粒子を分解するような攻撃があるとはね・・・。」

「スタンスが戦ったガンバライダーより頭いいじゃーん。これは殺し甲斐があるね!」

スタンスだのなんだのはよく分からないがどうやらガンバライダーと戦ったことがあるのは確かなようだ。連戦に次ぐ連戦だがやるしかないとロードが構えた時、彼の後ろからセレジオンが歩いて横を通り過ぎる。

「お前じゃアイツには勝てないし変身する間を与えるのもよくないからな・・・ここは俺が引き受けた。」

鋭利な刃と大橙丸がぶつかり合う。お互い負けない強さで押し合っている。ロードはすぐに眠っているカガリを連れて後ろに下がった。

「来いジェットスライガー!!」

ロードは大型のバイク「ジェットスライガー」を呼び出すと隣にカガリを乗せた。

「エメラルドも乗って!」

ロードが手を伸ばすとエメラルドは街の外へと走りだす。

「俺は協力してもらえそうな人がいるから頼みに行ってみる。ここらは頼んだ!!」

各々が違う道へと走りだして残ったセレジオンと人ならざる者は剣を向けあう。

「お前、名前なんていうんだ?」

「僕の名はハッピーチャイルド、ソルジャーさ。」

ハッピーチャイルドはそう言って腕の刃をふるうがセレジオンによって躱される。

「ハッピーチャイルド、ここじゃバトルしにくいんでな・・・場所を変えようぜ。」

二人は走りだして戦いの場所を街から変えていった。

 

ジェットスライガーに乗って進むロードは天気研究所のあるヒワマキシティに向かっていた。空を駆けるバイクは野生のポケモンにぶつからぬよう群れを避けて通っていく。少し遠い場所にあるため一マッハで飛ぶジェットスライガーといえど時間はかかるし隣に一般人を乗せていることを考えて飛ぶとさらに時間がかかるのは明らかだ。

「・・・。」

一人になるのなんてとても久しい気がする。これまでは自分の中にもう一人いて九重やたくさんの人に囲まれて戦ってきたのだがもう何年も忘れていたような感覚だ。自分たちが違う世界を回っているから時間は止まって思うのだがこれが本当に何年もあったと思うと少しぞっとする部分もあるかもしれない。

「たった一人か・・・。」

「果たして一人かねぇ。」

いつ起きていたのかカガリは口に風船ガムを膨らませながらロードを見るが彼は少しこっちを見てから違う方を向いた。ロードの表情はどこか遠くを見ていて何か違うものを見ている。そんなところだろう。遠くを見ながら弱々しく話し出す。

「これまでは一人じゃなかったんだ・・・。誰かがいてその人たちと出会って戦って、それで別れがあった。でも一緒だった人もいたんだ。その人は今はいないからどっか一人なんじゃないかって。」

ふーん。とカガリは頷きながら空を眺める。そこには多くのポケモンが飛び交い仲間と共に高く羽ばたいている。

「ここに私がいるのに孤独だなんて寂しいこというんじゃないよ。私の闇も抱きしめてくれるんだろ?」

コイツ起きてたのか・・・!とたんに自分の言ったことがなんか恥ずかしくなりロードはマスク越しでも顔が赤くなり焦っているのが分かる。動揺しているロードを見てカガリは意地の悪そうな笑い声を出した。

「どうやって起きてたんだよアンタ!」

「フフフ・・・女って生き物は強いのさ。」

先程の孤独感はどこへやら、二人ははしゃぎながらヒワマキシティへとその足を走らせた。

 

カナズミシティ

ミシロタウンから北西に位置するこの街はデボン・コーポレーションという大企業があることから発展を続けていて、ポケモントレーナーの登竜門でもあるポケモンジムもあるという大きな街だ。エメラルドは足を走らせてこの場所へと来ている。

「よし!」

早速デボン・コーポレーションへと入り、向かう社長室一本道へ階段を上り続ける。階段を上がり切りデボン・コーポレーションの社長室へと入る。そこにはデボン・コーポレーションの社長であるツワブキ・ムクゲが椅子に座ってデスクワークをしていた。

「ん、エメラルドくんではないか。事件の話はセンリさんから聞いているよ。」

さすがセンリさん話が早いとエメラルドは話を続ける。

「そうなんだ!今ホウエン地方が危機に陥ってるんだ!だから社長さんに頼みが」

その時だ。壁にあった画面はニュースが読まれていて先ほどのカイナシティの一件のことが話されていた。後ろは先ほどと変わらず瓦礫が落ちていて施設もぐちゃぐちゃ。壊滅状態という言葉が相応しいだろう。そんな中でも先ほどそこにいたエメラルドにとっては信じられない光景が広がっていた。

”ロードとかいうやつがこの街を燃やしたんじゃ・・・あと紫の髪の女の子もキュウコンを連れて暴れまわっとった”

「どういう・・・ことだ?」

そこに映っていた老人は先ほどロードが揺す振っていた老人そっくりだ。血色が悪く死にかけだった老人が傷一つなく話しているのだ。ロードが街を壊すわけなんてない。あの化け物のはずなのに何がどうなっているんだ?混乱するエメラルドは頭を抱えて蹲る。

「なにがどうなってんだ・・・?あぁクソっ!!!!」

なにも飲み込めず錯乱しそうになったエメラルドにムクゲは声をかける。

「恐らく今回の一件と関係があるのだろう?詳しく話を聞かせてくれないか?」

エメラルドは項垂れるように首を縦に振って椅子に座る。信じてもらえるかは分からないがやるしかないのだろう。

 

天気研究所ではブレイズが孤軍奮闘してアナザーエボル、アナザークロノスに防戦一方を強いられていた。

「強いじゃねぇか・・・。」

ブレイズはアナザーエボルに二段蹴りを見舞いするが片手でいなされてそこからの連続攻撃も防がれてしまう。そこへ割って入るようにアナザークロノスがブレイズに裏拳、見事に直撃する。よろめいたブレイズに追撃を加えようと猛攻が走る。

「クリティカル・サクリファイス!」

肩から伸びる触手から放たれたアナザークロノスの一撃は炎と爆風を起こしてブレイズを吹き飛ばした。ブレイズは後ろに吹き飛ばされて倒れる。立ち上がった時、アナザーエボルの手から波動が放たれてさらにブレイズへと直撃する。壁へと叩きつけられた赤いガンバライダーは圧倒的な力の前にいよいよ追い詰められた気がした。

「やっばいな・・・。」

未知の敵との遭遇はガンバライダーを続けてきてこれまでにもあったがここまで強いとなるといくら防御に自信のある彼女でも太刀打ちのしようがない。もうここまでかと諦めかけたその時だ。

「ちゃも!ブラストバーンったい!!」

「ZUZU!!ハイドロカノンだ!!」

二匹のポケモンの攻撃はアナザーエボルとアナザークロノスに直撃、周囲は水しぶきと水蒸気に包まれた。奥義を放った二匹のポケモンは一撃使っただけでも満身創痍、少しでも休めないと動くのがやっとだろう。

「今のうちに逃げ」

「逃がすと思うなよ?」

サファイアが後ろを向くと扉の前にはアナザーエボルとアナザークロノスがいた。あの一瞬で彼らの背後に回ったというのか?逃げようとする二人を追う。

「おいおい威勢はどうしたクソガキども!」

「逃がしませんよ?」

ブレイズはボロボロの体を走らせてルビーとサファイアを追う。力いっぱい逃げる二人だったがとうとう追い詰められた二人は屋上の手すりに手をかける。

「やっと復讐を果たせるぜ・・・。」

「あの時の雪辱を忘れた日なんて一日もありませんからね・・・。」

二人から放たれた光は少年少女にまっすぐ飛んでいく。ブレイズのやめろという声も虚しく響き渡る。その光を見て二人はそのまぶしさに怯え目を瞑りお互いを庇いあう。遠くからはアオギリ、マツブサの高笑いが聞こえた

”デビル・スチーム”

少年少女の背後から放たれた一撃はアナザーエボルたちの攻撃を相殺して目の前で爆破した。後ろを見ると立っていた電柱からこちらを見る影、その姿は血のような赤色のボディと翡翠のような目だった。戦士は高く飛び、屋上の広間の中心で着地してゆっくりと立ち上がった。

「俺が暴れるための力を過剰に使われちゃあ価値が落ちちまうだろ?」

その声と立ち振る舞い、確かに容姿は違えどブレイズはその男に見覚えがあった。あの時ブレイズと互角に戦い決着に行きつかなかった戦士

「仮面ライダー・・・エボル。」

その名を呼ぶと否、とブレイズの言葉を否定した。そしてこう名乗る

”俺はブラッド・スタークだ”



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VSブラッド・スターク

ブラッド・スタークと名乗った戦士は中央に立ち剣を構える。機械のようなアーマーと赤いボディは怪人とライダーを混ぜたような容姿である。唖然とした全員をよそに動き出したのはブレイズでアームドセイバーを構えてその剣に炎を灯す。スタークは信用なさげなブレイズを見て信用ないねぇと笑いながらぼやく。

「まぁ仲良くしようや。」

「お断りだ。」

ブレイズに拒否されて先を越されたスタークはやれやれと次いで走りだす。仕方ないなぁと走って追いかけて更に敵を追いかけていく。ブレイズはアームドセイバーを召喚して一気に切り込んでいく。アナザークロノスは何発も光の玉を放つが炎の灯った剣は強力な一撃さえも凌いでしまう。そのまま振りぬかれた刀はアナザークロノスに直撃、一気に吹き飛ばした。その一瞬の隙でルビーとサファイアの方を見る。ルビーはともかく走り抜けてきたサファイアの体力は限界であることが遠くから見たブレイズでもうかがえた。床が焦げるほどの一撃をふるいさすがにダメージは大きいはず。剣を構えなおしてさっさと追撃しようとしたその時だ。

”クリティカルクルセイド”

「!?」

ブレイズは衝撃に吹き飛ばされて地に膝をつける。彼女の視線の先に敵はいない。どこだと辺りを見渡し後ろを向いた時だ。

「当たりだ。」

顔面を蹴飛ばされて転がり込む。その一撃はブレイズに対して大きなダメージを与えたのか先ほどよりもゆっくり立ち上がる。その後も見えない動きに翻弄されて何発も何発も攻撃を一方的に受け続けるブレイズをスタークは戦いのさなか見ていた。

「ありゃまずいな・・・。」

ブレイズが自分の攻撃を耐えるほどの防御力があるのは承知ではあるが恐らく体力が持たないと判断して向かおうとするがアナザーエボルはその進行をふさぐ。スタークは氷を放って動きを止めようとするがそれもまたブラックホールへと吸い込まれた。

「・・・さっすが俺と同じ力を使っているだけあるな。」

自分の力の強さをよく知っているだけにこいつの厄介さも自らが一番理解している。無論、その力と自分の力では大きな差があることも。

「降参するなら見逃してあげますよ?」

俺を煽るとはなんだこいつ。スタークの琴線に触れてしまったのか突然放たれた衝撃波を回避できずそのままアナザーエボルを吹き飛ばす。そしてそのままブレイズを攻撃しようとしたアナザークロノスを斬撃で薙ぎ払った。間一髪で救われたブレイズは緊張を解かずスタークに問う。

「・・・どういうつもりだ?」

「決まっているだろう?お前の強さなら俺の細胞を使いこなせるはずだ。」

どういうことだというブレイズの言葉を最後まで聞かずにブレイズの体内へと赤いスライムのようなものが入り込む。それがスタークであることは周囲の人間もよくわかっている。一瞬苦しむようなそぶりは見えたがその後、ブレイズから放たれるオーラは変化した。立ち振る舞いも変わり腰に手を当ててまるで挑発するかのような動きを見せる。

「お前たちが俺を本気にさせたことは褒めてやるよ。」

 

エメラルドとデボン・コーポレーションの通達があってから一時間、各所は大慌てでホウエン地方を守るために動き出していた。それはここにいる二人も同じだった。

「まさかこんな形で再会するとはね。」

「まったくだ。もう少しましな再会にしたかったものだ。」

元チャンピオンである「ミクリ」とヒワマキシティのジムリーダー「ナギ」はそうぼやきながらポケモンと共に空を飛んでいた。二人とも現在はとある調査に向かっていたのだがミクリの弟子であるルビー、ナギと親交も深いサファイアにも危機が迫っていると聞いてしまうといてもたってもいられなくなるのは当然と言えば当然・・・なのだが。

「べ・・・別にミクリとおなじ方向なだけだからでサファイアを気遣ってのことだからな!」

「承知の上さ。頼りにしているよナギ。」

この上からな感じと言い鈍感さと言いここの師弟は似た者同士か!ナギは心の中でそう大きく叫ぶ。ミクリは恐らく何も考えていないであろう顔で前を見つめる。ホントそういうところだぞと思い一緒に飛んでいたポケモンであるチルタリスを見た。その顔はまさに「しょうがないなぁ」って顔だった。しょうがないのか

・・・しょうがないのか!?

 

ブレイズと一体化したスタークは衝撃波を周囲に放ち赤い光を纏う。アナザークロノス、アナザーエボルはその圧倒的な力に恐れながらも一気に飛び掛かる。

「これだから人間は愚かだなぁ。」

その攻撃をブレイズは一蹴、先ほどと比べ物にならない強さに二人は圧倒される。力を得たはずのアオギリ、マツブサでさえもおぞましさを感じていた。

アナザークロノスは一気に光弾を放ちブレイズに攻撃するがエボルトの力を得たブレイズの前には無力も当然だった。アナザークロノスは先ほどの瞬間移動で動き一気に攻撃を与えた。ブレイズは受け身をとって倒れ込んだがすぐに立ち上がり銃を構える。ルビーは銃撃しようとするブレイズへと叫ぶ。

「そいつの能力は瞬間移動じゃない!時を止めて動いているんだ!」

「ルビー何言っとるん!?」

「・・・ほお、そういうことか。」

ルビーの一言を聞いたブレイズは銃を投げ捨てて足にエネルギーを集中させた。アナザークロノスは嘲笑いもう一度時を止めた。

”Pause”

「さてそろそろトドメといこうじゃねぇか。」

ルビーは止めに行こうとするが力さえもない。周囲を見渡すと先ほどブレイズが投げた銃が転がっていた。

「・・・。」

今は迷っている暇なんてないと銃をゆっくり持ち上げてアナザークロノスに向ける。一撃を外せば恐らくこの戦いに勝利はないだろう、緊張と恐怖が胸に刺さる。だが、

「ボクは逆境の方が燃えるタイプなんだ。」

放った光弾はアナザークロノスのベルトに直撃、終了の合図が鳴る。

”Re start”

再び動き始めた時を見計らったかのようにブレイズは回し蹴りでアナザークロノスの脳天に一撃、そのまま倒れ込ませた。

「坊主、やはりお前は俺の思惑通りに動いてくれた。」

ルビーは首を横に振って鼻で笑う。

「あんな誰でも思いつくような考えでやらないでもらいたいね。さあ、さっさと烈火さんを返してもらおうか?」

生意気ではあるがまぁコイツに免じてかえしてやるか。ブレイズの体を離れてもう一度スタークとして姿を現した。

「ったく、人使いが荒すぎるだろ!!」

「まぁまぁの居心地だったからまたよろしく頼むよ。」

そうこう話しているうちにアナザークロノスが立ちあがり光を放とうとしていた。回避は不可能な距離で二人が防ごうとしたその時だ。

「チルタリス、りゅうのいぶき」

「スターミー、ミラーコート」

アナザークロノスの攻撃は一筋の光に阻まれ、暴発して放った一撃はブレイズたちの前に展開された鏡によって反射されてアナザークロノスに直撃した。誰だと空を見上げると二人の男女がポケモンに乗っていた。ルビーとサファイアはその二人を知っていた。

「ナギさん!」

「師匠!」

二人は降りてきてルビーとサファイアと会釈を交わす。今は談笑している暇もないようで向こうはどうにも勝負を決めに大技といった感じだろう。それを察したブレイズとスターク、他のポケモントレーナーたちは一撃を放つためにエネルギーを集中させる。

「奴の攻撃はブラックホール、すべてを無効化するほどの力だ。」

「知ったこっちゃないな。こっちにもそういうのはあるんだ。」

それは楽しみだとスタークは銃にボトルを差し込み敵に向ける。

「ちゃも!ブラストバーン!」

「ZUZU!ハイドロカノン!」

「チルタリス!はかいこうせん!」

「ミロカロス!ハイドロポンプ!」

”デビルスチーム”

「ふん!お前らの力で勝てると思うな!」

”ブラックホールフィニッシュ”

”クリティカルクルセイド”

屋上で起きた爆発の中、ブラックホールフィニッシュはまっすぐブレイズへと飛んでいく。スタークは勝利を確信したように呟く。

「お前が決めろ。」

”ファイナルアタックライド ディディディケイド”

「強化ディメンションキック!!」

二つの究極奥義が激突、周囲は大きな爆発を生んだ。爆発の中立っていたのは紅い鎧を纏ったガンバライダーだった。

「・・・ふぅ。」

煙が晴れると皆は良かったとブレイズに駆け寄る。どうやら衝突時に起きた煙を使ってアオギリ、マツブサは逃げたようだ。そこにはスタークの姿もなく逃げられたと考えるのが妥当だろう。

「烈火さん!」

「君がルビーたちを守ってくれたこと、私たちからも礼を言わせてくれ。」

そんな大したことしてないよと烈火は首を横に振る。変身を解除すると、ボロボロになった烈火が周囲と談笑する。

「でも何でミクリさんたちがここに?」

「あぁ、それはエメラルド君から君たちが戦っているということを聞いて全国のジムリーダー、四天王、フロンティアブレーンが動き出しているよ。」

ナギの説明にルビーたちは彼らの安全であること、そして世界が動き出していることに安堵する。ナギに続いてミクリが続けて話を続ける。

「それにカイナシティでなにか事件も起きていたらしいからね。それについても現在調査を進めているところだ。」

ロード達が巻き込まれた事件、そしてトウカの森で襲い掛かってきた仮面ライダーエターナル、そして今回の事件。すべてが同じ組織の犯行であってもおかしくはないが気がかりなことも沢山ある。アオギリ、マツブサと名乗る男たちが変身したあの力は恐らく怪人だけでなく仮面ライダーの力も加わっている。まだGRZ社が知らない技術だとしたら恐らく生け捕りにして来いとでも言われそうなくらいには珍妙な技術だ。

周囲が談笑を交わす中ブレイズは周囲を見渡す。

「・・・エボルト。」

アナザークロノス、アナザーエボル。この二人にもかかわっていて何か知っていそうなエボルトという存在、もっと調べる必要がありそうだ



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VSセレジオン

GRZ社では精鋭を集めてホウエン地方で起きた時空転移を調査していた。そこに招集された朱崎たちは早速ロードたちとは違う時空のホウエン地方へとむかっていた。

「・・・ここか。」

朱崎たちがたどり着いたのは時空の歪みがあった地なのだが彼らがデータ上で知るホウエン地方の姿はなく、荒廃してまるで世界の終わりを見せつけられているかのようだった。

「ここでとりあえず何かが起こったってことは確かっぽいな。」

柳はそう呟きながら地面の砂を触る。ただの砂地なのだが、ザラザラしていて火山灰のようなガラスに近い感覚だった。火山灰が観測されている場所もあるがその地点とは明らかに遠く、ここの気象が乱れていることも明らかだろう。

ツルギと勇七も周囲を見渡すがポケモンというポケモンもおらず、荒廃した周囲と相まってまるでポケモンがいた世界じゃないかのようだ。

「何がどうなってるんだ?」

「君たち、想像力が足りないよ?」

四人は声の方向に振り向く。空高くにポケモンと共に現れた少女はそのまま話を続ける。

「誰かにとっての希望は誰かにとっての絶望。この意味、わかるかな?」

「君は一体何者だ・・・?」

少女は問いに応える

「わたしはヒガナ、崩壊を止めるために戦うものだ。」

 

荒廃したカイナシティ、再び戦火の犠牲となったこの街で火蓋が切られて周囲に爆煙が立ちこめる。

セレジオンとソルジャー・ハッピーチャイルドは互いの武器を振るいお互いの攻撃を弾き返す。一瞬の隙も許されないこの戦いは先程戦闘していたセレジオンの方が圧倒的に不利なものだ。チャイルドは挑発的、そして怪奇的なスピードでセレジオンへと攻撃を仕掛ける。

セレジオンはそのスピードに追いつくことに必死で次の攻撃に打ち出せずに文字通りの防戦一方だ。無双セイバーと大橙丸から飛び散る破片と火花は彼の横を通過して風とともに消える。その火花の奥には機械でよく分からないが確かに子供がほくそ笑むような顔で笑う敵の姿が映っていた。セレジオンはもう一撃を全力で振るうがその一撃は届かず弾き返されてしまう。

「どうしたの?」

チャイルドの挑発的な発言はセレジオンの怒りを募らせて彼の沸点が上がっていく。次第に攻撃は荒々しく粗雑に振るうようになっていく。しかし精密さを失ったその攻撃はチャイルドに弾かれるどころかその横を通り過ぎて届くことすらしない。

「・・・弱っちいの。」

「何を!!」

セレジオンの一撃がその横を通り過ぎた時だ。チャイルドの振るった剣の一撃がセレジオンのアーマーを傷つけ火花が飛ぶ。鉄と鉄がぶつかり合う音と共に鈍い衝撃がセレジオンを襲った。そのまま後ろへとよろめきながら倒されてしまう。

「ホントに期待外れだよ。」

セレジオンを踏みつけてその鎧を捻るようにさらに強く踏みにじる。セレジオンは無抵抗のまま踏みにじられてその痛みが直接胸へと刺さる。

「あぁ・・・かもな。」

思えばチヒロはずっと独りで戦ってきたわけじゃなかった。誰かと共に戦い生き抜き、そして何よりもう一人の人格であるロードがいたから戦ってこれた。彼がたった一人で戦えたことなど微塵もなければ守れたものなどこれ一つもなかったのかもしれない。力を持ちながら一人では何もできない弱小で愚かな存在だ。戦意が少しずつ欠け落ちてその手から力が抜けかけたその時だ。斬月の言葉が彼の頭を過ぎる。

「お前は全てを一人で背負い、戦い続けるつもりだったのか?」

あの時、彼の言う"光"はこれまで出会ってきた人たちのことばかりだと思っていた。しかしその答えが今ならわかる。

「俺は一人じゃない・・・俺は皆と世界を作り上げてきた。」

世界を作り上げられる力、彼はいつの間にか背負い知らず知らずのうちに自らが答えを持っていた。

「大切な人を守りたい・・・それだけだ!」

セレジオンの振るった無双セイバーの一撃はチャイルドの首を掻き切り、機械の体から破片と激しい火花の光が拡散した。後退したチャイルドの隙を見て後ろへと引き下がり傷跡を抑えた。正確かつ重い一撃を受けてチャイルドは抑えながら困惑の表情を浮かべる。

「どうして君がこんな攻撃を・・・?」

大橙丸と合体した無双セイバーは薙刀へと変化、セレジオンの両手から振り抜かれる一撃は徐々にチャイルドを追い込み、後退させる。チャイルドがその隙をついて一撃を加えようとしたその時だ。

"魔術回路-高速化-"

その攻撃届かず彼の視認できない速さで動く薙刀の攻撃がチャイルドを翻弄、一気に膝をつくまでのダメージを与えた。

「これで最後だ!」

「僕がこんなところでェェェ!!!!」

セレジオンが振り抜く一瞬の隙にチャイルドは腕の剣を振るい薙刀の攻撃を攻撃をすり抜けて直撃させる。二人の間には火花は散りセレジオンはそのまま後退して倒れ込む。すぐに受け身を取ったがそのスピードはチャイルドが勝った。

「これでサヨナラだ!!!!」

防御は間に合わない。一瞬で終わりを察知したセレジオンは目を瞑る。

「メタグロス、サイコキネシス。」

「ライコウ、かみなりだ!」

二人の間に飛び散った雷鳴はチャイルドを襲い、鉄の体を麻痺させる。何が起こったかわからないまま後ろへ後転、チャイルドとの距離を取った。彼の背には白銀の髪の男と紫の髪の中性的な少女がいた。

「エメラルドくんから要請があったときはどうかと思ったが間に合ってよかったよ。」

「まったくだ。僕らもギリギリセーフってところだね。」

少女は男の言葉に肯定しつつセレジオンへと手を差し伸べる。伸ばされた手を取り立ち上がると再びセレジオンは剣を構える。彼の前にはこれもまたポケモンであろう生物が二体彼を守るように塞がる。片方は四本足でその体は鍵爪のついた足で支えられた石のドームに見える。もう片方は黄色いボディに背中には雲を背負う獣のようなポケモンだった。

「話は後だ。まずは目の前のアイツを片付けよう。」

「そう簡単にやられると思わないほうがいいんじゃないかな!?」

猟奇的なスピードで一気にこちらまで距離を詰めて剣を振るう。それをセレジオンは弾き返して腹に蹴りを入れた。のけぞった時にはリラとダイゴは新たなポケモンを出して攻撃を繰り出した。

「ボスコドラ、みずのはどう!」

「フーディン!サイコウェーブだ!」

ふたつのポケモンの攻撃は直撃して、チャイルドの動きを封じる。異変に気づいたのは立ち上がった時だった。

「なん・・・だ。体と脳が・・・。」

「みずのはどうのこんらんじょうたい、そしてかみなりで麻痺している。一気に決めようじゃないか!」

銀髪の男に促されると無言で頷き、戦極ドライバーのナイフ部分を三回作動させる。そうすると右足に橙の光が宿りそれを宿したまま一気に走り抜けていく。

「メタグロス、ラスターカノンだ!」

「ライコウ!はかいこうせん!」

二体のポケモンの光線はチャイルドへと直撃してそのまま瓦礫へと叩きつける。避ける間もなくセレジオンの一撃が彼の胸部を貫く。

「グレイシアル・エンド!」

空中で縦回転に捻った体は蹴りの勢いを強めて敵の脳天を直撃、鉄の体を脳天から胴体を足の刃が切り裂いた。

電撃と火花が散り、後ろでもがくチャイルドの姿があった。

「覚えていてよ・・・僕は必ず君を殺す。」

フラフラとチャイルドはその場を去り、空中へと逃げていった。

チヒロは変身を解いて二人へと歩み寄る。傷だらけのその姿を見て男は安堵の表情を浮かべる。

「自己紹介がまだだったね。僕はツワブキ・ダイゴ。そして彼女はリラ。ホウエン地方では名の知れたトレーナーさ。」

リラと紹介された少女はよろしくと手を振る。リラはライコウと呼ばれた雲をつけたポケモンを撫でながら話を続ける。

「エメラルドがホウエン地方で名の知れたトレーナーたちを招集して対処に向かわせているし君の仲間とルビー、サファイアが救出もされている頃だろう。」

そう話しているとダイゴの端末が起動して通話を始める。

「ミクリか?そちらも終了を確認した。」

「あぁ、しかしブラッド・スタークなるものが介入していたらしくそちらの調査も必要のようだ。あ・・・ス・・・」

「すまない、回線が乱れていて通信が取れていない。もう一度」

そう言った時、通信は途切れた。ダイゴ、リラ、チヒロは目を合わせる。

「何かあったみたいだな。」

「あぁ、僕らが向かう必要がありそうだ。」

チヒロはライコウの背に乗り、ダイゴはメタグロスの上に乗りヒワマキシティへと足を運んだ。



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VSブレイズ

突然激しい風が吹き煙や小石を巻き込んで烈火たちに降りかかる。それぞれ飛ばされぬよう踏ん張ったり近くのものにしがみついたりして留まろうとするが一瞬の出来事に混乱と動揺を隠せずにいたが烈火はすぐにガンバドライバーを取り出して変身、爆風の奥地へと斬り込んでいった。ルビーとサファイアが手すりに手をかけて耐える中、ミクリとナギも烈火の攻撃に続けとポケモンに指示を出す。

「チルタリス、りゅうのいぶき!」

「ミロカロス、ねっとうだ!」

二人の指示からくりだされる一撃は砂煙を割いてその奥の景色へと貫通する。その先に見えた景色は確かに明るい光だったがそこに二つ、いや三つほどの影が見えた気がした。一瞬の出来事でミクリとナギも視認するのにやっとだったが色から見ても烈火の変身した戦士でないことは明らかだろう。二人が思考を回しているそんな時だった。

「POPO!ウェザーボールだ!」

ルビーの手持ちであるポワルンは収束させた岩石を放ちミクリたちの眼前へと放った。天から降ってきた巨大な岩石はそのまままっすぐ落ちてその衝撃で床は崩れて周囲に地ならしを起こす。足がぐらつきながらも次に指示を出したのはサファイアだった。

「じらら、みずのはどう!」

サファイアの手持ちから放たれたポケモン、ジーランスは周囲に水のエネルギーを放って先ほどの大きな岩を奥の景色へと投げ飛ばした。地ならしが起こったのちに景色は晴れて、岩の前には奥で戦っていたブレイズが戦闘態勢をとっていた。その後ろ姿からも伝わる気迫でよほどの強敵であることを全員が瞬時に察した。

「烈火さん!」

「おう!いい無茶してくれたな若造二人。」

褒められたのかどうかは定かではないが烈火の声は落ち着いているようにも聞こえた。ありがとうとルビーが声をかけに行こうとした時だ。

”メタル マキシマムドライブ”

一撃で岩は砕かれてその奥から三体の怪人が姿を見せる。二人に見覚えはないが真ん中の白い戦士に見覚えがあった。エターナルと名乗りトウカの森でセンリとナナカマド博士を襲った張本人である。二人は一瞬で臨戦態勢に入りそれを見たナギとミクリもまた強敵であることを察する。ブレイズはガンバソードを召喚して構えなおす。

「ほお、あの時のガキどもか。」

エターナルはそう呟き背のマントをなびかせる。G4はそんな姿をに目もくれず再びギガントを構える。ナイトメアドーパントは威圧に押されてか一歩後ずさりした。

「G4に加えてエターナル、そしてナイトメアドーパント・・・か。」

厄介な敵がそろったもんだと呆れを持ちながら疑問を抱く。この三人の共通点は何だ?この裏には何がある?疑問がいくつか浮かぶが今はそんな場合ではないと戦いの火蓋を切った。

 

GRZ社ではホウエン地方起こった事件の背景、そして本来姿を見せてはならない姿を見せたロード、ブレイズの処理に社員、そして社長である檀黎斗までもが奔走していた。謝罪する者もいれば言い訳している者もいる。そんな状況を医務室から動けずに見ているのは九重だった。戦いの傷は癒えておらずまだ手足を動かすと痛みが軋んでくる、そんな状況が続いてもう随分と経っていた。

「・・・」

監視という仕事の元、ロード達と戦い旅をすることが当たり前になっていて気付かなかったが自分の知らない社員や様々なところに変化を感じる。知っている人間がここを去ってしまったのか定かではない。そう考えているうちに九重は黙って自分のそばに置いていたガンバドライバーを見つめた。

ロードが起こした事件でともに研究員として働いていたシルバはGRZ社を去りロードを助けようとした環は目の前で消えていった。自分の大切な人たちを傷つけた人間、そんな彼と旅をしていつの間にか許していた部分があるのかもしれない。しかしそんな人間を、自分の大切な人たちを奪った存在を心の底から許していいのだろうか。

ならば自分の職務とは何か、自分が今するべきこととは何なのだろうか、許すべき存在とは何か。彼の頭を右往左往する中環が最後に残した言葉を思い出す。

”あとはお願いね・・・九重くん、シルバくん。”

何をどうしろっていうんだよ・・・。彼の頭にはさらなる疑問が飛び交う。本当に抗うべきもの、戦わなければならない存在を何かしらの形でそれを確かめなければならないのかもしれない。

 

様々なところに声をかけ続けたエメラルドとムクゲは一通りの作業を終えてカナズミシティへと戻ってきていた。戦闘もあった上にこれだけ動き回ったエメラルドの体力はすでに限界を超えていた。隣でずっと見ていたムクゲやジュカインも彼の体力の限界は見えていて見た目も心なしかげっそりしているように見える。

「エメラルドくん・・・。」

ムクゲは心配そうにエメラルドに話しかけようとするが心配無用とエメラルドは視線を外されてりゆっくりと歩き出す。ジュカインも止めようとするが彼の歩みが止まるとはとても思えない。その足はヒワマキシティの方を向いていた。

「皆が待ってるんだ・・・俺が足を止めるわけにはいかない。」

「エメラルドくん!」

ムクゲは怒鳴るような声でエメラルドを呼び止める。その声に少し驚いたのか足を止めて振り向いてムクゲの方を見た。

「そんな状態の君が行ってどうなる!?弱った君を見て皆が心配するだけじゃないか!」

エメラルドは俯いて後ろを向いた。彼だってどこかで分かっているはずだとムクゲはさらに話を続ける。

「ボロボロの君が今行ってもやられるだけだ。もう少し冷静になったらどうだ?」

エメラルドはその言葉を聞いて心苦しそうに口を開く。

「何もしないなんて俺には出来ない。大切な人が傷ついて倒れているのを、それを他者が味わうのももうごめんなんだ!」

エメラルドの口調はこれまで以上に強く大きく心の底の叫びのような乾いた声だった。その威圧に押されてムクゲは後ずさりするがそれでもと話そうとするその時だ。

「じゃあ二人で行けば解決しますね。」

現れた少年の一言は一瞬にして会話の風を切り一瞬にして場の状況を一転させた。

 

一方、ジェットスライガーを使って天気研究所へと向かうロードはなかなか着かないことに焦りと少しばかりの動揺を見せていた。

「あまりにも遠すぎません!?」

カガリはそうかな。と風船ガムを膨らませながら助手席でのんびりしていた。ロードの感覚では結構走ったつもりなのだがそうでもないらしく見える様子もない。地図を間違えているか自分の方向感覚を疑うくらい疑心暗鬼になっていた。見かねたカガリがロードへと提案を持ちかけるがそれは突拍子もないものだった。

「それもっと飛ばせるんだろ?マックスで行けば間に合うんじゃないのかい?」

「・・・は?」

時速一三〇〇kmを誇るスピードを出せるジェットスライガーだが無論そんな速度で人間が乗れば死に至ることはほぼ確実と言えるだろう。今は人間に合わせたスピードなのであってその何百倍のスピードなど出せば命はないだろう。それを伝えようとした時、カガリはロードの手を握る。

「危険も承知だが今は命を考えてる場合じゃないだろ?それに私も一人じゃないからね。あんたが隣にいりゃあいけるさ。」

正気かこの人?ロードはスピードを上げたがそれでカガリが臆する素振りもなく風船ガムを加えていて愕然とした。

「スピードには耐えられる?」

「あぁ、もっと飛ばしてもいいくらいだ。」

この人もうどうなっても知らないからな・・・。ロードはメーターを振り切りヒワマキタウンへと足を急がせた。

 

 

雨が降りしきる天気研究所の屋上で繰り広げられる攻防は激しさを増して火花が散っていた。

”ジョーカー マキシマムドライブ”

”サイクロン マキシマムドライブ”

ブレイズのライダーキックはエターナルが起こした風を切り裂き一撃が風ごとエターナルを押し返す。そのまま蹴飛ばしてG4を睨みつける。向けられた弾丸を回避して空へと飛びあがり

ストームハルバードを召喚する。同時にナギはチルタリスと共に空へ飛び新たなポケモンを呼び出す。

「ドンカラス、こごえるかぜ!」

ドンカラスが放った風は雨を凍てつかせてあられのような固形の粒へと変換させた。氷の粒は弾丸を凌ぎブレイズへの攻撃を阻む。その一撃の隙がブレイズの攻撃の糸口となる。

”クリアベント”

一瞬にして姿が消えたブレイズを探して辺りを見渡すがそれも見当たらない。G4がそうして周りを見て後ろを向いたその時だ。

「ZUZU!ハイドロポンプだ!」

「ミロカロス、れいとうビームだ!」

ミロカロスとラグラージの同時攻撃が直撃してG4の動きをさらに止める。押され気味になったその時目の前に炎を纏ったブレイズが姿を現した。

「ちゃも、ブレイズキック!」

「バーニングライダーパンチ!」

二人の同時攻撃はG4のアーマーに直撃して地に伏せさせた。エターナルが攻撃を仕掛けようとしたその時だ。

「俺がお前の攻撃を読んでないとでも思ったか?」

「何ッ!?」

エターナルの頭上から風と炎が降り注いで生み出された熱風の中にもまれていく。空中のドラグランザーとダークレイダーによる同時攻撃でエターナルは苦しみの中熱風の渦に閉じ込められる。悶え苦しんだエターナルは倒れて地に伏せる。やったかと思われたが烈火は異変を察知してG4とエターナルから離れる。

「どういうことだ・・・?」

ゆっくりと人形やゾンビのように何かに吊り上げられるように立ち上がり、再び何もなかったかのようにこちらに攻撃態勢を向けた。

「何が起こっとるの・・・?」

「冗談だろ・・・?」

一瞬の不気味な動きで呆気に取られたブレイズは一瞬の隙を突かれてG4に蹴飛ばされる。よろめいたところにエターナルの攻撃が襲い掛かる。

”ファング マキシマムドライブ”

エターナルエッジから放たれる獣の牙はブレイズを嚙み砕き一撃で地にたたきつける。油断したとはいえ先ほどの二人とは比べ物にならないほどの強さになっており、威力と動きともにまるで別人のようだ。ナイトメアドーパントはそれを好機とみたのかブレイズに光弾を放ち周囲を炎に包んだ。

「いやあ楽に仕留められてよかったですよ。さあ・・・あなたも夢の中に連れて行ってあげましょう。」

しくじった・・・。体を動かそうにもここから逃げる術が見つからない。術を失ったブレイズに触れようと近づいたそのときだ。

「ZUZU!」

「ちゃも!」

二体のポケモンの攻撃がナイトメアドーパントに直撃する。よろめいたナイトメアドーパントに追い打ちをかけようとするがナイトメアドーパントの攻撃が周囲に爆撃として広がる。燃え盛る周囲の中さらに足を進める。

「邪魔が入りましたが次こそは夢へと・・・」

「借りは返す。それがアタシのやり方だよ。」

”Rider Shoting”

声のする方から放たれた攻撃はルビーとサファイアの背を通り過ぎてナイトメアドーパントとエターナルに直撃して吹き飛ばした。ブレイズはその隙と同時にG4の顔面を足裏で蹴り上げて立ち上がる。ブレイズは半笑いで吐き捨てるような声をあげて後ろを向いた。

「ったく・・・遅いんだよ!」

後ろにいたのはロードとカガリだ。ロードはブレイズの肩を担いで後ろへと退く。

「こっちも色々あってくるのが遅れたわけさ。それよりかなり厄介な客が来てるじゃないか。」

「あぁ・・・厄介も厄介さ。」

ロードはファイズブラスターを召喚して構えながら砲撃するがG4のギガントと相殺してかき消されてしまう。砂煙の中余裕の素振りでこちらを待ち構える敵の姿がロードとにははっきりと見えた。

「僕一人じゃ勝てなさそうだしカガリさん、援護たの」

「やあ久しぶりじゃないかルビー。まったく言葉じゃなく文面で私に頼るとは思ってもいなかったよ。」

「カガリさんのところまで行く時間がなかったんですし仕方ないですよ。」

後ろを見たらこの光景だったのでロードは絶句した。そしてその横を見るとサファイアが二人が話しているのを怪訝な顔で見ていた。それを見て二人の入りにくい間に入ってロードが声をかける。

「あのー・・・誠に申し上げにくいのですがこちらのお手伝いをしていただきたくですね。」

わかったよとカガリは感動の再開を後にしてロードと並んで戦地に立つ。それに続くようにルビー、サファイア、ミクリ、ナギ、ブレイズも並んだ。

「ロード、片割れがいなくても戦えるのかい?」

もちろん、とロードは答える。

「僕は一人じゃないので。」

それでいいとカガリは背を押して二人そろって走りだし、炎の中戦いが始まった。



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VSリラ

二人のガンバライダーは二人の仮面ライダー、そして一人の怪人と対峙し戦いが始まる。ロードとブレイズは一気に斬りかかりポケモントレーナーたちはそれを援護するようにポケモンに指示する。戦いは激化して炎と煙に天気研究所の屋上は包まれた。

ブレイズとエターナルはお互いの剣をぶつけあい火花を散らす。ブレイズが弾き飛ばすと水と炎の混ざった攻撃がエターナルを襲い吹き飛ばすがすぐさま防がれて攻撃態勢へと変わる。

"ライダースラッシュ"

"アクセル マキシマムドライブ"

同時に打ち出された攻撃は二人の間で爆発を起こして消えていく。砂煙の中再度攻撃を仕掛けたのはブレイズだった。

"アクセル マキシマムドライブ"

「これが本場のマキシマムドライブだ!!」

アクセルグランツァーは直撃してエターナルを吹き飛ばして叩きつける。そこへルビー、サファイアはそれぞれのポケモンへと指示を出す。

「ZUZU、ハイドロカノンだ!」

「ちゃも、ブラストバーン!」

二つの攻撃はエターナルへと追い打ちを与えてさらに叩きつけた壁を破壊する。その威力はすさまじく大穴を開けて焼け跡を残した。一撃の大きさと後ろで倒れるポケモンのを見たブレイズもこれは立てまいと確信した。しかしそれはすぐに悲観に終わる。

「おいおいマジかよ。」

まるで人形に吊り上げられるようにエターナルは立ち上がりゆっくりと首を上げる、そして再び落とした剣を取り襲い掛かった。ブレイズは咄嗟に躱して飛び掛かって見えた足を引っかけてそのまま地面へとすかした。その戦いを見ていたロードは小さく"なるほどな"と呟く。G4はロードを殴り飛ばすがそれは受け身を取られて完全に防がれてしまう。銃弾を放つがロードも対抗してデンガッシャーのガンモードを向けてエネルギーを収束させる。

"Full Charge"

「ワイルドショット!」

収束させたエネルギーは電撃を纏って弾丸を吹き飛ばす。G4はその攻撃を受けて吹き飛ばされて地面に転がってそのまま伏せた。カガリとエメラルドは追い打ちを図るがロードは手を出してそれを止める。二人はその状況に理解が追いつかなかったがG4がエターナルと同じく吊り上げられるように立ち上がった瞬間ロードが手を上げた瞬間、二人は声を上げる。

「キュウコン、はかいこうせんだ!」

「ジュカイン、ハードプラントだ!」

二つの攻撃はG4に直撃してそのまま打ち抜いて周囲を焼き払いながら再び伏せた。ロードは立ち上がるG4をよそにナイトメアドーパントに攻撃を仕掛けていく。突然の動きに周囲は動揺して動き出した戦いを茫然と見続ける。ナイトメアドーパントは攻撃をいなして光弾を放つが振り返ったロードに防ぎきる。一気に斬りかかった攻撃を防いでロードとナイトメアドーパントは空中で鍔迫り合いとなる。

「お前の目的はなんだ?なぜあの時僕らではなくカガリを洗脳した?」

「ほお・・・我々の目的にまで気付きましたか。」

ロードは剣を振るって弾き飛ばしそのまま地上へと降りてカガリとエメラルドへと近寄りコソコソと話し始める。二人は一連の流れの意味不明さに動揺する。

「お前目の前の敵から目をそらすって何してんだよ。」

「攻略方法が分かったからね、伝えに来たんだ。」

二人は頭に疑問符を浮かべる。確かに意味不明だしよく分からないが彼の言うことならばと策に乗ることにした。無論、策は伝えられていないが・・・。

 

チヒロとダイゴ、リラはブレイズたちの危機に一早く辿り着くべく天気研究所へ足を急がせていた。ダイゴはメタグロス、リラとチヒロは召喚したエビルダイバーに搭乗して空を駆ける。遠くに見える天気研究所は煙に包まれているのがここからでもよく見えていてそれほど戦いが激化していると伺える。早く到達しなければと焦る二人をよそにチヒロは最中何かを察知したように笑みを浮かべる。それを見ていたリラは不思議そうに彼を見た。

「どうしたんだい?」

「いいや、どうやら向こうも戦いがかなりヤバいらしい・・・。ダイゴさん、一つ頼みたいことがあるんだ。」

ダイゴは静かに頷く。リラも彼らの話に耳を傾ける。戦いを終わらせる手段ならばと

 

天気研究所の戦いは激化してゾンビのように立ち上がる二人の仮面ライダーに対して疲弊していくポケモントレーナーとガンバライダーの体力にも限界が到達しかけていた。何度攻撃しても立ち上がり何度も攻撃してくる無限ループに精神、体力はどんどん削られていく。

「これはキッツいなぁ・・・。」

ブレイズは小さくそう呟く。後ろを見るとルビーとサファイアとそのパートナーポケモンは膝をついて満身創痍なことは明らかだった。限界を感じ始めていたその時に動いたのはロードだった。

「はーい注目!」

全員は声の方へ首を向ける。そこにいたのは空中でカガリを抑えて手を振るロードだった。その手に持っていたのはライターのような物体でナイトメアドーパントはそれを見て動揺を隠せないのは明らかだ。その反応を見たロードは話を続ける。

「君たちが求めているのはこれだろう?これを君たちが受け取れれば君たちの勝ちだ。」

「何を勝手な・・・ッ!」

カガリが話そうとした瞬間ドラグランザーが睨みつける。恐らくこれ以上言葉を出せば焼き払うという意思の表れのように見えた。カガリが口をふさいだところでロードは話を続ける。

「スリーカウントして拾えたら君の勝ち、拾えなかったら僕らの勝ちだ。」

勝手に話を進めるロードを咎めようにもあのドラグランザーが邪魔して何も言えない。ロードは周りを見渡して声を上げる。

「じゃあいくよー。スリー、ツー、ワン」

全員が固唾をのみ込む。そして

「ゴー!」

手から落とされた物体はそのまま落下していく。動き出したのはエターナルだ。

"ゾーン マキシマムドライブ"

ワープしてその場所へと動き出す。全員が止めようにも物質が邪魔して攻撃することすらできない。万事休すかと思ったその時だ。

「ライコウ!でんこうせっか!」

「メタグロス、ラスターカノン!!」

その刹那、一撃がエターナルを吹き飛ばして地面へと突き落としてそのまま追撃へと向かった。ナイトメアドーパントが動き出そうとした時、そこへ砲撃が降り注ぐ。そこには銀髪の青年が仁王立ちしていた。ロードが下を見るとそこには同じく赤い鎧を纏ったガンバライダーが落とした物体を拾っていた。それを見た全員が今だと言わんばかりに攻撃を始めた。

「本当無茶苦茶な奴だよ。だが」

ブレイズはブレイラウザーを召喚してエターナルへと雷撃を放つ。先ほど攻撃したリラのライコウも同時に電撃を放つ。

「このリラ、手加減はないよ!!」

「行こうかナギ!」

「ああ、行くぞ!」

攻撃を始めた動きを見たロードは安堵の息を漏らしながら周囲を見る。カガリはお察しの通りかなり不満げなわけだが

「間に合ったみたいだな!」

「ったくギリギリなんだよなぁ。」

ゆっくりと抱えていたカガリを下ろす。カガリは少し憤りに近い声でロードへと声をかける。

「吊り橋効果のつもりかい?ほんと無茶ばかりする。」

「人質みたいに扱ったのは申し訳ないと思ってるよ。」

もちろんそんなつもりはなかったんだけどなぁ。言い訳に近いことを考えているとチヒロは少しへらっとした表情を見せた。

「そんなつもりはなかったけど、めちゃめちゃお前のこと心配してたぞ。」

ロードとカガリは同時に目を合わせる。両方とも疑問気に「えっ?」と言いたげだ。ロードが再びチヒロを見ると俺何もしてないぞって顔で見ていた。カガリもチヒロを見るが何もしてないと言いたげだ。

「さっきから何ラブコメしてんですかァ!?」

ナイトメアドーパントの声に三人はおっとそうだったとロードとチヒロは目を合わせて同時に動き出してG4へと攻撃を仕掛ける。チヒロはシャイニングカリバー、ロードはギルスクロウを召喚して一気に畳みかける。その完璧な連携はG4に一撃の攻撃も許さずに文字通り一瞬で叩きのめした。そしてその標的はナイトメアドーパントへと向けた。

「さあ本丸は君なんだろう?」

ロードはそう言ってナイトメアドーパントへと近づく。ナイトメアドーパントは光弾を放つがロードはギルスクロウの爪を使い弾いた。ゆっくりと近づいて爪を向けるその姿に畏怖に近い感情を抱いた。

「んじゃ、G4は俺が相手すっかな。」

チヒロはヒーハックガンとギャレンラウザーを召喚して炎を放ちG4へと攻撃を始める。G4はその攻撃に後ずさりしながらも銃撃を始めた。

ロードはナイトメアドーパントへと攻撃を仕掛けていく。その斬撃は敵に痛みと共に火花を散らしていく。その時ロードは問いかける。

「おかしいと思ったんだよね。カイナシティでの出来事とエターナルやG4との戦い、なぜ立ち上がったのか。そしてそこに誰がいたのか。」

ナイトメアドーパントは膝をついてロードを見る。彼は手元にスカルマグナムを呼び出し銃口を向けた。

「君が住民も二人のライダーも脳を無理やり動かして死体を使役していたんだろう?」

ナイトメアドーパントがハッとした瞬間攻撃はナイトメアドーパントへと直撃した。

"スカル マキシマムドライブ"

ガイコツは攻撃的にナイトメアドーパントを噛み砕き怯ませる。怯んだ一瞬で一撃の蹴りを放ちガイコツごと吹き飛ばした。爆破した瞬間周囲を見るとエターナルとG4はその命令に従うようにその場を去っていった。

 

脅威が去って少し経ち、ブレイズは周囲を見渡す。雨は降っていても見えているものは先ほどとは全く違う景色だ。

「やったのか?」

「いや、一時撤退ってやつだろうな。確実には仕留められていない。」

ブレイズの問いにチヒロは答える。どうやらまだ終わってはないらしい。それぞれが落ち着きを取り戻す中、エメラルドはチヒロへと近づく。

「ごめんね、言わなかったことは謝るよ。」

エメラルドは横に首を振る。

「あんたを信頼してよかった。今回はアンタに礼を言うよ。」

ロードは意外な言葉にどう返すか迷って悩んで少しおどおどとしているロードをよそにチヒロはダイゴ、そしてリラと話していた。

「ありがとな。俺たちの案に乗ってくれて。」

「構わないよ。君の戦いを見て確信があったからね。」

ダイゴはそう答える。リラはそれに続いて話を続ける。

「君たちはこれからの困難にも立ち向かっていける。信じているよ。」

チヒロはあぁ、と頷く。それぞれがそれぞれの場所へ戻ろうとしたその時だ。ミクリのポケナビが鳴り響きすぐ出る。通信はトクサネジムのジムリーダー、フウからだ。

「ミクリさん!ルネシティが!!」

周囲は騒然とする。ガンバライダーたちはすぐにその脅威へと向かう。しかし異変に気付いたのはナギだ。

「あれ?ロード君たちは?」

二人のガンバライダーは一瞬にして姿を消していた。



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VSクロス

時空移動でヒガナと対峙したガンバライダーたちはその戦力と真っ向から戦い、荒れ地を戦火に包んでいく。セイオウ含むガンバライダーたちはその相手に防戦一方を強いられる。

「サメハダー、アクアジェットだ!」

「バクーダ、かえんほうしゃだよ。」

その攻撃にセイオウはメロンディフェンダーを召喚して応戦する。しかし相手は人間である以上ガンバライダーが攻撃することは許されない。全員が防戦一方を強いられる中、一人だけ攻勢に出るものがいた。

クロスはヒガナの乗るボーマンダへと拳をふるい襲い掛かる。しかしボーマンダはその俊敏な動きで回避しながら炎を放つ。お互いに譲らず攻撃の隙を見せない。クロスは拳をふるいボーマンダは風と炎を放ち互角の勝負を繰り広げる。

「アイツ何やってんだ?」

勇七が変身するジーナは彼の挙動に疑問を抱く。武器を使わないとはいえポケモンに襲い掛かるとは何事か。人間に危害でも加えたらどうなるのかわかっているのだろうか?そう疑問に見ていたがひとりはその動きを冷静に見ていた。

「・・・なるほど、考えたな。」

ツルギは冷静な声でそう呟く。どういうことかと勇七が聞こうとしたその時に事態は動いた。

「・・・やれ。」

クロスの全身から放たれた黒い波動はボーマンダとヒガナを吹き飛ばして怯ませてそのまま距離をとる。その瞬時にボーマンダは炎を放つクロスの横を通り過ぎて後ろで火花となって消える。勿論クロスから放たれた光を見たこともないしデータにそんな攻撃があるわけでもないので全員唖然とする。しかし一連の攻撃でヒガナは何かを察したように舌をかんだ。

「・・・ナイトバースト。」

何かがおかしいと思っていた。人間に対して戦いを挑み、周囲が怖気づく中勇猛な戦いを仕掛けた。しかしこれが「ポケモン」であれば説明がつく。つまりこいつは

「すべてはアンタが考えている通りだよ、ヒガナ。」

そう岩陰から出てきたクロスは三つのモンスターボールからポケモンを放つ。

「さあ、暴れろ。サマヨール、ニンフィア、ナットレイ。」

その合図とともに放たれた三匹のポケモンはすぐに動き出し、サメハダーとバクーダを圧倒する。

「どうするカガリ?」

「ターゲット確認、抹消。」

サメハダーとバクーダの同時攻撃を回避してセイオウと肩を並べる。赤いガンバライダーの背中はやや事態にご不満なようだ。

「なーんで作戦も伝えてくんないかね?」

「バクーダとサメハダーはあの三匹でまともにやり合ったら打ち負けるからな。ちょっと頼ったってわけさ。」

そう話しているとヒガナはクロス目掛けて飛んでくる。それを察知した二人のガンバライダーは素早く回避、クロスはさらに指令を出す。

「ニンフィア、ハイパーボイス!ゾロアークはかえんほうしゃだ!」

ニンフィアとゾロアークの同時攻撃は炎を音で響かせて渦のようになりボーマンダへと直撃する。ボーマンダはその手痛い一撃を受けてか動きを鈍らせる。

「・・・よくも!!」

ヒガナの目に怒りの色が見える。どうやら戦いはもう少し続きそうだ。

 

フウとランの報告を受けてルネシティへと向かったルビーやサファイアたちのトレーナーはその変わりように驚きを隠せない。

「なんね・・・これ。」

「どうなってるんだ・・・?」

街は破壊され中心の海は増幅、周囲は熱波で包まれていた。その熱は少し近づいただけでも周囲の人間を巻き込み、耐えがたい痛みを与えるほどだ。ナギたちはすぐに街へと降りて倒れていたツツジ、トウキを介抱する。

「なにがあったんだ!?」

「アレに・・・。」

指さした先は街の中心、そこには巨大なポケモンが立ち塞がる。しかしその姿は伝説のポケモンであるグラードンの体に青い紋章、背に生えた翼はカイオーガのヒレを彷彿とさせる。

その強い一撃に戦闘していたポケモンたちは吹き飛ばされいく。

「ルビー・・・さん。」

「ミツル君!」

ミツルはポケモンたちの攻撃に巻き込まれたダメージと熱風の炎で倒れ込んでいた。その姿から満身創痍であることがうかがえる。

「何なんだアイツは・・・。」

モンスターの方から笑い声が聞こえる。そこにいたのはアオギリとマツブサだ。モンスターの上から見下すその目は嘲笑うようだった。

「あなたたちにやっと復讐を果たせますよ・・・。」

「ああそうさ。時空を歪めて作り上げたグラードンとカイオーガを融合させたこのグラオーガでな!」

周囲を炎で包み、ポケモンたちを海に飲み込んでいく。その攻撃はトレーナーたちにもダメージを与えていく。

「ライコウ、かみなりだ!」

「ミロカロス、ハイドロポンプだ!!」

「チルタリス、はかいこうせん!」

「メタグロス、はかいこうせんだ!」

「キュウコン、かえんほうしゃだ!!」

「ちゃも、オーバーヒート!」

「ZUZU、ハイドロポンプだ!」

「ジュカイン、ソーラービームだ!」

放たれた攻撃はルネシティの中心のモンスターへと直撃する。爆風は周囲を包み込む。しかしその奥には巨大な影が見える。煙が晴れた先には無傷のグラオーガが直立していた。

「全く効いていない!?」

その絶望に追い打ちをかけるように当然ですよ。とアオギリは高笑いする。

「伝説のポケモンが二体分の力、君たちのような蟻んこが勝てるわけありませんよねぇ!」

「それに俺たちはこの世界で得た力がある!!」

"エボル ブラックホール"

"クロノス"

再び周囲に熱風を放ってポケモンとトレーナーたちを吹き飛ばし、熱風で再びルネシティの街は破壊されていく。そして再び彼らの目の前に異界のモンスターが立ち塞がり、破壊の渦は広がっていく。

 

ガンバライジング社は瞬時に消えたロード達の観測に追われていた。しかしホウエン地方に生体反応がなく生きているかどうかも不明な状態だ。こんな事態が起きたことは前例でも存在しない。檀はこの状況に頭を悩ませる。

「何がどうなっている・・・。」

ルネシティで起きた怪物の暴走、そして消えたロードたちとマツブサとアオギリが変身する怪人とドーパントや仮面ライダーたちの戦闘、そしてブラッド・スタークの存在、すべてが予想外すぎるのだ。そして事件の関連性も不明なままだ。

「そして何より・・・。」

あのヒガナという少女とセイオウたちの戦闘、彼女も何かが関係性があるのかそれとも・・・。すべてが謎に包まれている。

「どうされますか・・・ってあれ?」

研究員が声をかけた時、檀はその場所にいなかった。研究員たちは顔を合わせる。どこいったのだろうかと、そして何かあったのだろうかと

 

ここはどこだろう。

ロードとブレイズは一瞬のうちにどこかに飛ばされたような感覚と周囲の異質な感覚にすぐさま気付く。周りを見渡すと巨木が生えていて草原が広がっていて見たことのない木の実などが生えている。先ほどまでいた天気研究所ではないことは確かだ。タブレットを開いても開かないとなると何かで阻害されていることも確かと言える。何事かと二人が周囲を見渡していると一人の男の声が聞こえる。その声は静かで力強い声だ。

「・・・ここはマボロシじま、時空の歪みが起きた際に現れるとされる場所だ。」

男は紅い鎧を纏い、青い複眼にその姿を隠している。しかし二人はその男のことを知っていた。

「仮面ライダーカブト・・・。」

「天道・・・総司。」

仮面ライダーカブト、かつてZECT、およびワームと戦った仮面ライダーであり時間を司るクロックアップの使い手だ。その実力を知る二人はすぐに戦闘態勢に入る。

「天下の平成ライダー様が何の用だ?」

カブトはブレイズの問いに答える。

「今この世界は危機に瀕している、しかしそれをお前たちでは救えない。だから今から俺が今から鍛えてやる。」

「さっきから勝手なことぬかしてんじゃねぇよ!!」

"Clock up"

チヒロはカブトへと攻撃を仕掛けるがそれは回避されそのまま一撃を喰らい突き飛ばされる。木に叩きつけられて倒れたロードに対して話を続ける。

「アオギリとマツブサという男が俺たちと同じライダーの力を駆使している。あのブレイズというガンバライダーでも歯が立たないほどの力を持つ奴らにお前たちで勝てると思うか?」

「それは・・・。」

チヒロはカブトの問いに黙り込む。未知の力に対する戦いを強いられることへの不安が心のどこかで襲い掛かる。黙るチヒロにカブトは話を続ける。

「この世界の未来も他の世界の未来もお前たちに託されている。だからこそ俺はお前たちに戦い方を託すんだ。」

赤いガンバライダーの瞳は緑色に変わりファイズエッジを召喚した。

「やってやろうじゃないか・・・。僕らの未来は僕らがつかみ取る。」

「俺たちにしか救えないものがあるならそれのために戦ってやるよ。」

"Clock over"

見つめあうロードとカブトを見てブレイズは頭に疑問符を浮かべる。これ修行する流れなのか?



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VSカブト

GRZ社では引き続き消えたロードとブレイズの捜索が行われていた

来る日も来る日も彼らを探していよいよ三日が経とうとしている。レーダーにも感知されず生体反応すら見られない

死んだ、と考えるにはあまりに怪奇で生きている、と考えるにもどこか違うような現状が続く中、ドアが開く。そこに入ってきたのは九重だ。静かな部屋に松葉杖が地面に当たる音が響き渡る

「ロードたちは?」

九重の質問に皆が首を横に振る。まだ見つかっていないのか、と九重もまた頭を抱える。あまりに怪奇なことが起こったが故に彼もいてもたってもいられなかったのだろう

モニターに映るのは絶望的な状況でも戦い続けるトレーナーたち、そして天変地異により逃げ惑う人々だ。こんな中でも彼らはどこかで生き続けているのだろうか。生きていたとしたら何をしている。突然の消滅となるとどこかに消失した可能性もなくはない。様々な可能性が頭をよぎる中、九重はふと気づく

「・・・そういえば社長は?」

全員が後ろを再び向く。そこには檀の姿はなく周囲を見渡してもいる気配はない。全員はさあ?と首を傾げた。どうなっているのか、この会社もあの世界も

 

ヒガナたちと対抗していたガンバライダーたちはクロスの攻撃により一転攻勢、バクーダやサメハダーたちを一気に劣勢へと追い込んだ

ヒガナも他のポケモンたちを使い戦線へと立つがそれも少しずつ劣勢へと追い込まれていた

「ニンフィア!ハイパーボイスだ!」

ツルギとセイオウは音叉を響かせてハイパーボイスへと当てる。ハイパーボイスはその音叉に共鳴してか周囲を吹き飛ばすほどの一撃へと変わりヒガナのポケモンを一掃した

「ヌメルゴン!ヘドロウェーブだ!」

ヌメルゴンは決死の一撃をニンフィアへと放つがクロスは召喚したメタルシャフトにサイクロンメモリを装填、風を起こしてヘドロを薙ぎ払った。最後の体力を使い果たしたヌメルゴンは地に伏せてそのまま倒れた

「お前たちはどうしてこうもわたしの邪魔をする!」

「こっちをけしかけようとしたのはお前だろうよ!理由があるなら話せってんだ」

ジーナは一気にヒガナへと飛び込み押さえつける。ヒガナは暴れ回るがガンバライダーの力の強さにはどうにも勝てない

「往生しな。アンタの負けは」

その時だった。周囲に爆風が広がり光の弾がガンバライダーたちを襲う。攻撃を受けて回避する一同は敵の方向を見る

「今だ!」

ヒガナはモンスターボールを持ってすぐにボーマンダと共に飛翔する。待て!とジーナが追おうとすると光弾が襲いかかりジーナを吹き飛ばす

「ったく、誰だ誰だ?」

煙の先に現れたのは黒い仮面ライダーのような存在、足先にはシルバーのラインが入っており腰部にはベルトのようなものがついていた

「見たことないタイプの仮面ライダー・・・?」

男は名乗る"仮面ライダーゲンム"と

 

"Clock up"

閉鎖空間に閉じ込められた三人の戦士は時すらも操り森を駆ける

マボロシじま、ここがどこであるか何のために存在するのかさえ不明な場所だがここにもポケモンたちが生きて暮らしている。しかしクロックアップによって時が止まったこの空間では寿命がごく僅かの時しか進まない。本当に"生きている"と言えるのはカブト、ロード、ブレイズの三人なのかもしれない

外の世界では何日経っているのだろう、皆はどうなってしまっているのだろう、考えるだけ無駄だがどうしても頭をよぎる。体感では二週間はゆうにカブトを追い続けているが彼に全く追いつくことすらままならない。まずはカブトをどうにかしないと前には進ませてすらもらえないらしい

ロードはカブトに攻撃を仕掛けるがいなされてそのまま蹴りを喰らう。その隙にとチヒロとブレイズが攻撃を仕掛ける。二人の攻撃を避けながらカブトはゼクトクナイガンを構える

「それでは俺に攻撃を与えることすらままならないな」

ゼクトクナイガンから放たれた射撃は火花を散らして二人の装甲にダメージを与える。いくらガンバライダーといえどその攻撃には怯んでしまう

カブトはこの戦いが始まる前こう言ったのだ"俺に一撃でも与えれば合格だ"と。何の意味があって修行しているのかさえ分からない。しかしこいつを倒さない限り本当に前には進めないのだろう

「体感だと二週間ほど動きっぱなしだぜ・・・。こんなのに何の意味が」

カブトは三人の攻撃を凌いでさらに奥地へと進む。三人も逃すまいと追い、様々な攻撃を仕掛ける

あるものは不意打ち、あるものは狙撃、あるものは真正面から攻撃を仕掛けるがカブトには一向に届かない。カブトは奥地でブレイズと対峙してゼクトクナイガンを向ける。ブレイズはそれに対してブレイラウザーを向ける

「聞きたいことがある。アナザークロノスとアナザーエボル、奴ら何だ?お前たちは知っているのか?」

「・・・奴らは"本来存在しない"仮面ライダーだ」

存在しない?意味がわからない。じゃあ奴らはますますなんだというのだ?無から急に生まれて急に出てきたとでもいうのか?カブトは話を続ける

「本来存在しないものを生んだことにより無から正を生み出した。俺が知るのはそれだけだ」

それだけ?あまりに意味不明すぎる。じゃあクロノスとエボルには勝てないという結論なのか?修行して勝てないならこんなことに意味はあるのか?二人の間に弾幕が放たれてブレイズは急に肩を掴まれる

「えっ?ちょっ」

「いいからこっち来て」

ロードの声だ。ロードに言われるまま奥地へと進んでいく。進んだ先には待っていたかのようにチヒロはライドブッカーを持って木にもたれていた

「アンタらこっちが真剣にやってるってのに何を」

「さっきの話、全部聞いたよ。無から正を生み出す、あれの意味を理解しろってのが恐らくアイツの言いたいことなんだろう」

物音がした瞬間、ブレイズとチヒロは咄嗟に別方向へと向かう。向き合ったのはこちらへと来たカブトとロードだ

「答えは出たようだな」

「あぁ。無から正を生み出す。このマボロシじまもそうなんだろう?だからアンタはここを選んだ」

カブトの攻撃を避けながらロードは奥地へと進んでいく。どこかは分からない。しかし勝つには恐らくこの方法しかないのだろう

カブトを引きつけたロードが去ったのを見てブレイズはすぐにとっ捕まえたチヒロの首を持ってブンブンと振り回す

「いいから教えてよ!アンタらが分かることって何さ!」

「あー、教えるからその剛力で首持って振り回すのやめろ」

「めんどくさがんな!やんなきゃ勝てないんでしょ!?」

ロードはさらに奥地へと進む。走りながらカブトへと問う

「さっきの話聞いてたんだけどさ、無から正を生み出したって話、正は本当にあの二人かい?」

「・・・何が言いたい?」

ロードはさらに加速して奥地へ進む。カブトもまたそれに追いつくよう走り続ける

「時間や空間といった"正"が生まれた時、同時に生まれるのは"虚"だ。君たちが使うクロックアップだって元々はタキオンという虚実の世界だろ?」

「そうだな。続けてくれ」

ロードはありがとう。とさらに話を続ける

「しかし正と虚が生まれた時、真実と嘘の世界には確認し得ない歪みが生まれる。時間や空間にだって歪みは存在する。あなたがマボロシじまをそうであると言ったようにね」

「それが奴ら。というのがお前の答えか?」

答えではない。確証だとロードは返す

「だからここにも歪みは存在する。実態として存在する正と実態として存在しない虚ではどうしようもなく僕らに見えることすらない一瞬の穴が」

その瞬間、カブトのクロックアップが突然解けて動きが鈍る。チヒロとブレイズは一気に飛びかかる

「ライダースティング!」

「ライダースラッシュ!」

「ライダーシューティング!」

三人の攻撃は止まった世界のカブトへと直撃してその瞬間全員のクロックアップが解けた。カブトは変身を解いて笑顔で三人を見る

「・・・合格だ。」

天道はゆっくりと立ち上がり変身を解いた三人を見る。三人はクッタクタになりながらも倒れずに何とか立っているといった感じだ

「"無から有を生み出す"そこには限りない智慧と知恵を要する。お前たちにはそれができる。そしてその行動がお前たち自身の未来を掴む」

三人の上から空間が開き、飛んできたのは三つのハイパーゼクターだ。三人は掴み取り腰に装填する

「サンキューな。天道」

三人はハイパーゼクターを起動させてその場から一瞬で消え去る。天道もまた歩き出そうとした時、後ろの気配に気づく。天道は微笑みながら彼を見る

「これでよかったのか?」

「俺はいつだって正しい。お前だってそうしてきたはずだ」

天道は彼にそう言う。男は笑みを浮かべてそうか、と去ろうとした

「俺はいつだって忘れない。未来は俺たちの手で作らねばならないとな」

彼の後ろを通る光の翼は時を超えてまた消えていく。いつかの危機をまた救い、自分たちの未来を作り上げるために

そして男は託す。未来を、世界を生きていく新たな力に

 

マボロシじまを出た三人は時空の狭間を進んでいく。宇宙空間のような真っ暗な世界の中で様々な光景が周囲に広がる。過去と未来の光景がこんなにもはっきり見えるものかと困惑していると先に進み始めたのは烈火だ

「私はアオギリたちの過去に向かって変身アイテムを渡す前に向かう。二人は皆の元へと向かって!」

わかった。とチヒロとロードもまた自らの道を進み始める

烈火は更に奥地へと進んでいく。周囲を見て進んでいくと、アオギリとマツブサ、そして謎の男が一緒に光の空間から出てきているのが見えた。その奥へと少し進むと衝撃的な光景を目にする

「アオギリたちの歴史が存在しない・・・?いやそれどころかこの世界の記憶も途切れている」

どういうことなのか。時の流れをそこまで進んだはずではないのだが行き止まりが見えてその遥か先は闇のように真っ暗となっている。この世界の歴史が浅い、なんてことはあり得ない。ならばどうして

「いやあ、邪魔されちゃあ困るんですよ。せっかくの計画が台無しじゃないですか」

烈火は後ろをすぐに振り向く。そこにいたのはナイトメア・ドーパントだ。後ろの男の姿はまさかコイツ?この空間にどうやって入ってきた?疑問が飛び交う中、ナイトメア・ドーパントは更にアイテムを取り出す

「お前がアオギリたちにあの力を与えたのか?」

「御明察、まあここで気付いたところであなたに待つのはただ一つの答え、死のみですが」

"アマゾンネオ"

禍々しいオーラを纏ってドーパントの姿から更に強大な化け物へと姿を変貌させる。青いボディに身体中には触手がまとわりつき、目は赤い光を放っている

「お前・・・誰だ?」

男は答える"タイムジャッカー スタシス"そして"アナザーアマゾンネオ"と

 

時は遡ること二週間ほど前

アオギリとマツブサは海底にある洞窟で青い光の球と赤い光の球を祠のようなところへと置こうとしていた。ここに眠るのはグラードンとカイオーガ、かつて陸と海を作り上げたという伝承を持つ伝説のポケモンである。陸と海を作り上げた力を持つポケモン、その力を合わせれば更なる力を得て世界を我らのものに出来るはず。そしてこの二つの球"藍色の球"と"紅色の球"はグラードンとカイオーガを操る力を持つ。これさえあればあんな子供たちに邪魔されずにすべてを我が物にできる。封印を解こうとしたその時だ

「やめときな。アンタらが行おうとしてるのは創造じゃなく破滅だ」

「まさか・・・時を戻したってのか!?」

アオギリとマツブサは後ろを振り向く。そこには赤い鎧を纏ったガンバライダーが立っていた。またこんな子供に邪魔されてたまるかとアナザーライドウォッチを取り出す

“エボル ブラックホール"

"クロノス"

二人は禍々しい化け物へと変身してロードへと襲い掛かる。二人の攻撃をいなしながら後ろへと引いていく。バーニアを展開して下がりながら銃撃するがエボルたちには全く効いていない

「一筋縄じゃ行かなそうだなぁおい!」

一気に飛び込んでクロノスに掴みかかるがそのまま投げ飛ばされる。海の近くまで追い詰められてもう半歩も進めば落ちてしまうだろう

「ここまでよくやりました。しかしここまでです」

「・・・これを待ってた」

「何!?」

"コズミック リミットブレイク"

クロノスとエボルの後ろには大きな穴が開き、吸い込まれていく。その穴へとロードも進んでいく。穴が閉じるとそこは天気研究所の真上だ。見下ろすと皆が慌てふためいている。時を遡った結果困惑しているのだろう。

「いくぜ・・・ツインバースト!」

ロードとチヒロは一気に二体の怪人へ立ち向かうべく加速する。強まった雨と共に空で火花が散った



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