Re:俺⁉︎ (かみかみん)
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第一幕 気が付いて

おはようございます、こんにちは、こんばんは。
かみかみんと申します。
初めましての方は宜しくお願いします。
一度でも見たことがあるという方…お待たせして申し訳ありません!m(_ _)m

以前某サイトで連載していたものです。更新ブレーキからユルユルとアクセルを踏み始めました。
更新速度は相変わらず亀並みですが、頑張って更新していきますので宜しくお願いしますm(_ _)m




別段つまらないと言う訳では無い人生だった。

それよか、普通に友人と一緒になりバカをしたり、普通に…とは違うかもしれないけれど恋もしたことだってある。寧ろ充実した人生だったと自負できる。

…まぁ、あまり感情を表に出す事が無い顔の為に傍から見たら友人だけが騒いでいるだけのようにも見えたかもしれないけれどな。

それに、恋と言っても初恋が女装大好きな綺麗系お兄さん言う時点で色々と終わっていた恋ではあるけれど…

 

……ゲフンゲフン。そ、それにだ!決して善人と言う訳でもなく悪人と言う訳でも無い位何もしていないと自信を持って言える。

…いや、自信を持って言える内容でも無いんだけれどさ。

 

しかしながら…――――――――――――――――― だからこそ問いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、この子は俺に似て強くなりそうだな」

 

「……………(何故俺は知らない人にあやされているのかを!!)」

 

おはよう、こんにちは、こんばんは。

何故だか気が付いたら赤ん坊になっていた以前の名前がわからない俺です。

俺の記憶が正しければ普通に一日を終えて普通に自分の家でご飯を食べて普通に自分の部屋のベッドで寝た……筈なんだが、気が付いたら見知らぬ人に…

 

「しかし…この子は殆ど泣かぬから手が掛らんな。俺はてっきりガキは泣いてばかりだと思っていたんだが…」

 

と言う感じであやされてる状態だ。

状況がまるっと理解できないと? 大丈夫だ。当事者の俺ですら一ミリたりとも理解できないし、理解しようとも思わない状況だ。

…ん? 夢オチとかそういうのではないのかとな? …うん、俺も始めはそういう路線から攻めようと思ったんだが……何て言うんだろう?

感覚がリアルすぎるんだよね。具体的に言うと……

 

「(――――――グシャ)……あ、力加減間違えた」

 

まぁ、こんな感じでさっきから抱っこされる度に力加減をニアミスって明らかに赤ん坊の身体からは出てはいけない音と言うか…手を滑らされていると言いますか…その度にすっごく痛いのが全身に押し寄せていると言う軽く拷問まがいな事を受けているのだ。

しかし、身体が赤ん坊でも中身が大人な俺なのでおいそれと泣くと言う選択肢が出てこないんだ。しかも、この赤ん坊の身体自体がやけにスペックが高いか知らないけれど、殆ど無傷という驚異の赤ん坊……ホントに恐るべしダ!!

 

おとと、俺の心内ばかり出していても仕方ない。それじゃあ、俺の目の前に居る人について話しておこうと思う。

 

「ふむ…俺が腹を痛めて産んだ子じゃなかったら死んでいたな」

 

………うん、驚いた人もいるよね? 自分の事を俺と言って、尚且つ俺を握り潰そうとした……と言うより、完璧握り潰した正に傍若無人なしゃべり方をしているこの人が母親らしいんだよねぇ〜確かに見た感じ、眼は釣り上がっているものの、端正な顔立ちをしているし…漆黒な髪を後ろで結びポニーテール見たいな髪型になっているんだよねぇ〜

ハハハ〜……ハァ…

 

『すぅぱぁらっき〜チャ〜ンス!!!!』

 

「……?」

 

何だろう?この場には赤ん坊になった俺と赤ん坊の母親しかいないのにこの人ではない別の女性の声が聞こえてきたようなそうでないような……?

 

『あ、そのままそのまま〜私は自称ゴッドゥ!! 何か知んないけれど、すっごく運が悪い君を生き返らせてしまった張本人さぁ〜!!』

 

テンション高けぇなこの人……えっと…自称 ゴッドゥさん? …変な名前だ。

しかし、生き返らせてしまった張本人って……誰が死んだんだろう?

 

『…君、意外と酷い事言うね。ってか、死んだのってどう考えても君でしょ!? 自室で睡眠中に不幸にも隕石が落下して脳天に大穴開けて死んだの君だよね!?』

 

へぇ~…本当に運の無い人もいたもんだ。 一度その顔を見てみたいもんだよ。…いや、その人は死んだんだから無理かな?しかも、脳天に穴があいているんだったら顔すら判別がムズそうだ。

それよか、俺もいよいよ危ないのかな?やけにリアルな幻覚と共に幻聴まで聞こえてきたんだから…しかも、自分の名前も思い出せないんだよね? うわ〜……病院行かないと危ない状況なのかな? 親には迷惑かけるなぁ〜

 

『いや、だから君だっつ〜の……あぁ〜埒が明かない!! ヘイYou!生き返っちまいなYo! 的なノリで行こうと思ったのにーーー!!』

 

相も変わらず幻聴は持続中…目の前では母親と思われる女性が俺を握り潰したことを悪怯れた様子もなく、先程と同じように抱き抱えて…

 

―――――――――グシャ

 

「あ、またやっちまった…」

 

(―――――――――――!!?

絶賛痛みのリフレインちゅう!?)

 

…そう言えば、何だかこの人の服装といい、家の内部といい古い時代のものに見えるけれど…

俺ってばそこまで歴史は好きではないのに此処まで歴史的な夢か幻覚を見るなんて…実は俺ってば隠れ歴史ファンとかだったのか!?

…そう言われてみれば、無双ゲームとかは好きだった気がするなぁ〜

 

「しかし…アイツには困ったものだ。俺の柚登(ゆと)に全く興味をしめさんとは…」

 

そう言いながら女性は誰かのことをブツクサと不満タラタラな感じ言っている。

へ〜幻覚だってのにやけにリアルな造りをしているんだな。まさか、独り言とかの設定まであるなんて…

 

「柚登も、あんなヤツの子供は嫌だよな〜」

 

いや、俺に同意を求められても…

そういや、合間合間に出てくる『柚登』って言うのはもしかして俺の名前なのかな?

 

『その通りだ柚登君!!』

 

「うぎょぉ!?きゃきゃっきゃ〜(うおぉ!? ビビった〜)」

 

「うおぉ!? まさか、柚登自身から同意を得られるとは思わなかったな…しかし、流石俺の倅だぜ!俺の味方をしてくれるなんて柚登はアイツと違って優しいなぁ〜」

 

そう言いながら俺の頬に自分の頬を当ててグリグリとあてがる女性。

いや…ヤメッ…!幾らこの身体が丈夫だからってそんな風に力任せにグリグリってやられると首に向かって負担が直に来て…

あ……あ…ら、らめぇーーーーー!!!!

 

………まぁ、この人は置いておいて、さっきから俺に向かって話しかけてるのこの幻聴って?

 

『だから、幻聴じゃないって!あと、君の今の状況も幻覚じゃないからね!って言うか、切り替え早っ!?』

 

だから、幻聴&幻覚につき合っているほど暇じゃないんだっての〜

俺はさっさと病院を紹介してもらって、慎み深く余生を堪能するつもり…

 

『アンタは何処かの老人か―――!! ったく、しゃあないわね…オラァ!!』

 

突如として女性としては似つかわしくない妙に気合の入った声が頭の中で響いた。そして、その一拍後、俺の意識は黒色に塗りつぶされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ここは…?

 

『お目覚めかしら?』

 

あぁ、幻聴の続きか……

 

『だぁ~かぁ~らぁ~! あれは幻聴でも幻覚でも無いっての!! 今から現実を見せてあげるから覚悟しておきなさいよ!!』

 

又もや何もない漆黒の暗闇から女性の声が響いてくる。どうやら若干お怒り気味みたいだ。

まぁ、コレだけ俺が否定しまくっているんだから仕方ないと言ったらそれまで何だけれどね。

ただ、現実味が無さ過ぎじゃね?隕石ぶつかって死亡~とかってさ。

 

そんな事を思っていると、突如として視界が明るく変化した。一瞬目をしかめたが、思ったよりも直ぐに眼は慣れてきた。

段々と鮮明になっていく視界…其処で俺が見たものは……

 

「…………俺…か?」

 

『何だ喋れるんじゃない。…そうよ、貴方の亡骸よ』

 

天井に大穴をあけて部屋をひっくり返した位ぐしゃぐしゃに変化しているが、其処は見間違えようもない先程まで俺がいた部屋…そして、その中心には頭部が存在しない『誰か』の…人間の身体がまるで人形のように横たわっていた。

 

「………親は…?」

 

『開口一番が自分の事より親の事って…まぁ、柚登君がそれだけ人の事を思えるってのは嬉しい事ね〜…おとと、親だったわね?まぁ、このままいくと発見されちゃうけれど……』

 

そ、それは不味い!信じる信じないは別として、こんな現場を一般人が見たら、それこそ卒倒しちまうじゃんかよ!!

えとえと…こういうのはどうにかしなければ………そうだ!!

 

「……消せ…」

 

…このビジョンを早く消して〜!!

 

『へぇ〜そういった結論に至るんだ…思った以上に達観しているわねぇ〜自分の死を受け入れさせない為に何をすればいいのか…それは自分がいたと言う事実を消すと言う事……成程〜やっぱり、柚登君は面白いわねぇ〜』

 

はへ? 何だか物騒な結論に至ってないかなこの声の主さん!?

ちょ、俺が居た事実を消すとか何だか幻聴にしては物騒すぎる事を言っているんですが!?

俺は唯、今俺が見ている映像を消せって言っただけで…だって、リアルスプラッタ映像なんて正直見ても嬉しくないんですが!?

 

『私、貴方の事を気にいっちゃいそうだわぁ~そうね……あのままだと不便かもしれないから色々とオ・マ・ケを付けておいてあげるわねぇ~』

 

そんな声と共に徐々に消えていく崩壊した俺の部屋……そして再び消えかかっていく俺の意識…

えっと、今の映像を消してくれるのは嬉しいんだけれど、実際の所、俺の状態はどんな感じな訳ですかぁ!!?

 

『そうそう、貴方の新しい人生は『三国志』っていう時代背景があるわよ~……まぁ、ただ少しパロってるけれどね…』

 

へ?何!? 最初の三国志は聞こえたけれど、最後の方が小声で聞こえなかった!!もう一度、もう一度プリーズ!!

しかし、そんな俺の声が届く事は無く、完璧に俺の意識は塗りつぶされていくのであった。

 

 

そうして気が付いたら俺の視界はあのぶっ飛び女性の後頭部が映し出されていた。どうやら、おんぶ…と言うより、布で女性の背中に固定させられているみたいだ。

しかしながら、周りは暗くて明らかに子供を連れて散歩するような時間帯ではないんだが……?

俺は今の状況を確認するために動かしにくい手を動かして女性の頭を軽く叩いて起きたことをアピールした。

 

「お? 起きたのか柚登。ちょっと待ってろよ今軽く賊をぶっ潰す所だからよ!」

 

そう女性が言った瞬間、俺の視界の一部分になにやら赤い絵の具の様なものが飛散しているのに気が付いた。

始めは、この女性の職業が絵描きなのかと思ったが、よく見ると女性以外にも人がいるらしく…しかも、なにやら人の悲鳴にも似た声が俺の耳に入ってきた。

そして、その悲鳴の正体知った瞬間、絵描きと言う選択肢をコンマ一秒後には消し去った。

更に、聞こえてくる何やらかなりの重量がある湿った物体が地面に叩きつけられる音…

そして漂ってくる鉄臭い…それでいて、かなりの異臭…

そう、この女性は俺を背負った状態で人を………同族である人間を殺しているのだ。

しかも、一人や二人ではない。暗い夜道で詳しい数までは正確に調べられないが、パッと見で数十から百人分位の屍が横たわっている。

そして、俺を背負っている女性の周りにはテレビでしか見たことが無いような剣や槍、人によっては棍棒みたいな物を持ち、女性に向かってきている。

辺りを見回すとまだまだ人はいるが、どうやら全員が女性の敵みたいだ。それを迎え撃つ女性の手には無双ゲームで一番好きだったキャラが使用していた太さ4,5センチある三本の棒を鎖で一直線に連結させた武器…三節棍が……真っ赤に血に塗られた状態で握られていた。

 

…………つまりは、この地べたに転がっている屍'sはこの女性一人で生成したものと言うことでして…

しかし、目覚めてこれか……もしかしてもしかすると、本当にあのビジョンはあった事…なのかな?だとしたら、俺は……一回死んだのか?

割とあっさりとその言葉を受け入れる事が出来た。寧ろ、何だかある意味で当然のことを自分で確認しているような感覚にさえ陥った。

 

成程…あながち、あの『自称 ゴッドゥ』さんの言っている事もあっていると言う事なんだな。しかも、先程の女性の『賊を潰す』という言葉から、間違いなく俺が知っている日本ではない。という結果からつまり俺は………

 

「さん…ごくし………」

 

「柚登、お前って生後三日なのに何で話せるんだ!!!!?」

 

………………え?最後の『オ・マ・ケ』ってこういう事なの?

 

「流石は俺の倅だ!! よっしゃぁぁ!!!!気合いが入ってきたーー!神速で終わらせてやるぜ!!!!」

 

………しかも、この赤ん坊って生まれてまだ三日しか経ってないの!!?

つーか、『流石は俺の倅』だけで片付けられる状況じゃなくね!?

 

そんなこんなで俺の三国志(?)ライフがスタートしてしまったのだった。

 




では、また次回〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ幕 母として

取り敢えずストック分までは毎日更新できたらいいかなと思います。


有体に言えば、あれから数年が経過し、俺は肉体的に10歳位となった。

あの後、やはり幻ではないのかと再び考えもしたが、これは覚める事無く、一つの物語を紡ぐかのように進んでいく。…つまりは、そう言う事なんだろう。

前世の記憶を持っているのにその時の名前も知らない俺は死に、新しく三国志の世界で柚登として生きていかなければいけないらしい。

最も、日本語が通じると言う時点で中国かどうかも怪しいんだけれどさ…。まぁ、文字は漢字だったから、やはり中国だと実感した。

 

そしてこの数年はこの世界の状況とか文字を覚えるのに費やした。

21世紀では他に色々とやる事があった為、中々一つの事を集中して覚えると言う事が出来なかったが、他にやる事が無いこの世界では思った以上に文字を覚えるのに集中できたし、根本的に漢字の文化がある日本生まれの俺は殆どの漢字も読める為、文法や、見た事もない漢字を覚えるだけで済んだんだ。

そして、世界情勢なんかも母や、ご近所の話し好きな奥様方に色々と聞く事により、学んでいった。

 

その結果、今俺が住んでいる地は揚州と言う地にある小さな村らしい。……うん、地名を聞いても全く分かんないや~そして、三国志の始まりと言っても過言では無い出来事である黄巾党がまだ出現していないとのことだ。つまりは、まだ三国志の主要な出来事が起きる前の時代と推測できる。

最も、三国志の知識に関しては某無双しちゃったぜ的なゲームの受け売りなため、あまり多くの事はわからない。

 

…話がそれてしまったではないか。話を戻して……しかしながら、俺は少しこの世界でやりすぎてしまったみたいだ。

新たな生を受けたと言う事実だけでは片づけられない程に様々な事を覚えすぎたんだ。

それこそ、生後三日で話すと言う伝説を作ったり、まだ生後一年にも満たない子供がハイハイをぶっ飛ばして二足歩行で全力疾走してみたり、二歳にも満たない子供が文字を覚えたりと普通では無い成長をしてしまった。

 

しかし、幾らなんでもこれは自分で言うのも変だが、ありえ無さ過ぎる。

脳だって、普通の子供の成長過程を無視し過ぎだし、体の構造上一歳の子供が二足歩行で全力疾走をするなんて不可能だ。

つまり、今俺に起きているあり得ない現象は数年前、俺に語りかけてきた『声』が言っていたオマケの一角と言う事なのだろう。

 

全く……面倒な身体にしやがって…しかし、幾らハイスペックな身体を有していても前世からの引き継ぎか知らないが、コミュニケーション能力が半端なく欠落していると言うのが悲しいところではある。

…そうなのだ。まるで他の成長と引き換えに俺は何故か感情と言うものが表に殆どで無い顔になってしまったんだ。考えられるか?中身は小市民過ぎる俺なのに、表では鉄仮面ばりに無表情な顔をしているんだぜ?

俺としては其処を一番改善してほしかったんだけれどなぁ〜…まぁ、憂いても仕方ないから其処らへんは今後努力しよう。うん!

 

…おっと、そう言えばこの世界での俺の名前を言っていなかった気がする。始めに言った『柚登』と言う名前は真名と言うものらしくて、それは文字通り本当の名前…親兄弟他、自分が信頼できる人にしか教えてはいけないモノ…らしい。

元日本人の俺からしてみたらそんな文化が中国に会ったと言う事に驚いている。

そして、一般的に使われる俺の名前は、姓は凌。名は統と言うらしい。つまりは凌統だ。

……やっべ、来たんじゃねコレ!?母が三節棍を使っていた時点で何と無く頭の片隅にあったけれど、凌統だぜ?凌統!

無双ゲームで好きなキャラ『なんば~わん』だったキャラだぜ!?

これで俺も三節棍使って無双が出来る……わけねぇか~俺ってば完全無欠な小市み…やめよう、悲しくなってきた。

それに、考えてみたら同姓同名って可能性も否定出来ないから喜んでばかりもいられないんだよな。

 

そういや、正史の凌統って父親が水賊に殺されちまうんだよなぁ~って事は、父も殺されるという事なのかな?

最も誰に殺されるとかは覚えては無いし、正直言ってどうでもいい事だしなぁ~

って言うか、そもそも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の父の名前って何だっけ?

いや、忘れているわけじゃ無いんだよ!ただ、根本的に聞いたことが無いなぁ~って思っただけで…

いや、誤解しないでよ!そもそも、知りたい情報ってわけでもないんだ。何でも父は軽侠らしくて家には殆どいない。それよか、母の話では余所に女をつくり、俺以外の子供もいる最低な奴らしい。

……因みに軽侠って言うのは軽々しく男伊達の振る舞いをする人…『侠』は本来己の信条に則って正義の為に行動しようという精神を言う。まぁ、現代風に至極簡単に言うと、ヤ○ザと同じだ。

…………何故、母はヤーさんと一緒になったのかが果てしなく疑問だったりする。

まぁ、それだけで嫌う理由にはならない。なら何をしたのかって?

あいつは成長の仕方が異常過ぎる俺に向かって殴る蹴るなどの暴行を加えたんだ。

所謂虐待っていうヤツだな。…いやまぁ、こんな成長の仕方をしている子供なんだから気持ちは解らないでもない。

俺だって正直自分の子供が無表情で尚且つ三日で話し始めたら不気味で仕方ないと思う。流石に虐待はしないと思うが…

 

だから、アイツの気持ちもわからんでもない。

だけれどさ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!酒持って来いつってんだろうがぁ!!」

 

「クッ…テメェ……!さっさと柚登を離せってんだよ!!」

 

俺を人質に母にあたるのはいかがと思うぞ?

所謂『でぃ~ぶい』と言うヤツですな?………ヤベェ、横文字に触れる機会が無かったせいか、スッゴイ発音の仕方が変だ!!?

 

 

……とまぁ、こんな感じで父からは虐待されているが、少し話し方は怖いがちゃんと面倒を見てくれた母のお陰で俺はスクスクと成長していった。

その過程で俺は一度興味本位で母にこういった質問をした事がある。

 

「……何故、父と…居る?」

 

相も変わらずな欠落したコミュニケーション能力で聞いたんだが…少し間違えれば色々と変な捉え方をしてしまいそうな質問だと我ながら思う。

しかし、そんな俺の言いたいことを理解しているのか母はこう返した。

 

「ん~…正直、柚登が生まれたから別れてもいいんだが…元々、夫婦になる気なんてなかったからな……いっその事、二人で出ていくか?」

 

割と本気な顔をして笑顔を浮かべる母に対して心の中で全力投球並みのツッコミが炸裂したのは言うまでもなかったりする。

 

そんな感じで過ごしていたある日……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虐待ばかりしていたあの男が死んだ。

割とあっけない最期だった。何でも、水賊に殺されたらしい。

ただ、その理由を聞いて俺も母も正直呆れ返った。

 

――――――――なんとあの男は子供を誘拐しようとしていたらしいのだ!

…衝撃の事実だったりする。しかも、結構日常的に行っていたらしい。ヤ○ザとは思っていたが、其処まで外道になり下がっていたとは…

其処を水賊に見つかり首チョンパとなったんだとさ。………あれ?水賊って海賊みたいな者なんだよな?何故に良いことをしているのだろうか?

…………………………そうか!きっと水賊王に俺はなる!!みたいな思考を持った人にやられたに違いない!それならば、あの男を殺す理由もわかる。

なるほど、なるほど…きっとこの世界のどこかにある水賊王が残したお宝を捜し出している集団なのだろう。

 

…そう言えば、本来の三国志で凌統の父は殺されていた。ここまではあっている。

だが、凌統が子供の時に死んだわけではなかったような…いや、よく考えたら俺が知っている知識は無双からのものだから、あんまり信用はできないか。

 

とかそんな事を考えながら俺は日々を過ごしていた。それにしても、この世界の母はこんな気持ち悪い位成長している俺を見離すことなく温かく育ててくれている。其処には凄く感謝だな。ただ………

 

「おう柚登、今から狩り行くぞ! 付き合え!!」

 

10歳の俺には明らかにレヴェルが高いことばかりをさせようてするのは止めて貰いたいです。

母よ…10歳の子供に武芸を教え込むのは良いが、殆どが野生の獣を使った実践と言うのはどういうものだろう? 偶の人間かと思ったら、村を襲おうとする賊って……俺に死ねと!?

それに、あの男が死んでから自棄にテンション高くねぇかこの人!?

 

 

 

―――― 母

 

 

正直なところ、俺はガキが苦手だった。

何かあったらビービー泣くし、繊細過ぎて力の加減を間違えたら壊れてしまいそうで……それは恐らく今も昔も変わらないと思う。だから俺が妊娠したと知った時は正直本気で喜べなかったんだ。

しかも、よりにもよってアイツとの子供だし…正直言うと折角の命だが、生まないという選択肢も出てきたくらいだ。

勿論、言うまでもなくアイツは全く喜ばない。…って言うか、無関心を貫き通していた。どうせ、余所で出来た女の事でも考えていやがるんだろう。そもそも、俺自身何でこんなのと一緒に暮らしているのかすらわからねぇ。

 

元々俺の実家は貧しい家柄だった。それに合わせて父が最悪な人であった。博打はやるわ、酒は飲むは…母上はそんな男の為に身を粉にして働いていた。

しかし、無理がたたったのだろう…ある時は母上は体調を崩し、帰らぬ人となった。流石に母上が大変な事になったんだ。あの男も働くだろうと思っていたんだが、よりにもよってあの男は当時10歳位の…丁度今の柚登と同じ位の歳であろうか…その位の俺を売った。引き取ったのはとある国の主だった。

其処の主は俺に優しくしてくれたなぁ~俺は其処で武官として働いた。働いて働き抜いて……既に高齢だった主の為に俺は頑張り抜いた。人だって殺した。それも、数え切れぬほどに…

だが、俺は幸せだったんだ。しかし、元が高齢の主だ。そんな幸せも長くは続かなかった。

 

割とあっけなく主が死に、その後を柚登の父であるあの男が…躁が継いだ。ソレからは最悪な毎日だった。就任して早々に諸侯の軍勢から城を奪われ、何故か俺を連れて近隣の村へ避難…家臣たちは俺を除いて皆死んだ。

其処でアイツは主の息子だという事を良い事に俺を襲い、軽侠になり下がったんだ。俺は元々アイツの事なんて愛してなんかいない。

アイツをその場で殺さなかったのも恩を受けた主の息子という肩書きがあったからだ。

 

そんなこんなで悩んでいる間に柚登が産まれた。今でこそ良い思い出だが、当時は焦ったもんだ…

だが、いざ子育てをしてみると生まれてきた子供は…思いのほか可愛くて手が掛らなかった。しかも身体は思っていた以上に丈夫で俺が何度力加減を間違えて握り潰しかけたか解らないくらいだ。更に、何時もケロッとした顔をして泣くことはない。

そして、生まれて三日で喋り出すし…しかも、腹が減ったり、おしめを替えないといかん時は自分で何らかの対処をしていた。…俺は赤ん坊って言うのがよくわからんが、コレが普通で……いいのか?

 

いや、きっとこれは俺の血を受け継いでいるから特別なんだろう!見た所あの野郎の血を受け継いではいるものの髪の色が黒い所とか、目が吊り上がっている所とか身体が丈夫な所とかは俺に似ている!つまりは、俺の血の方が濃いと言う事だ。

周りは『震動』とか、言っているが……あれ?『心臓』だったか? まぁそんなのは如何でも言いや。取りあえず何か珍しいって騒いでやがるが、そんなのは俺が知ったこっちゃあねえってんだ!

ただ、一度も笑った顔を見たことがねえってのが親心に少し悲しい気もするんだが…だが、決して感情が無いって言う訳ではない。よ〜く見てみると喜怒哀楽の時は微妙に顔が動いていやがる。つまりは、感情が表に出にくいってだけなんだな。それも慣れてくると愛しく思えるんだから子供ってのは不思議だなぁ〜

俺も俺で柚登に面白半分で武術って言うのを教えてみたんだが……これが以外とおもしれぇんだよな。

柚登は習った事をすぐさま吸収して自分のモノにしちまうし…新兵なんかよりも覚えがいい。

コイツは絶対に武官に向いてやがるぜ!! 最近は実戦と称して野獣の棲む森に放り込んだり、賊が蔓延っている地帯に連れて行ったりしているが、表情一つ変えずに10歳とは思えない身体能力でうまくたちあっていやがる。勿論俺は陰で見守っているんだが…やっぱりあいつは武官以外は考えられねぇぜ!!

柚登には悪ぃが、アイツの意志はこの際無視して、絶対に武官にしてやる!!

そうだ!武術を教えるんだったら、俺と同じ三節棍を使えるようにさせて最強の称号を目指すのもおもしれぇな!

 

……何だか最近、子育てって言うのが楽しくてしゃあねぇや!!

 

それに、俺を縛り付けていたあの男は死んでくれたし…正にあっぱれって感じだな~

さてさて、これからは自由にやっていけると思うとこれからの未来が晴れて見えるしよぉ!!

取りあえずは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――――――――― 修行の旅に出るぞ柚登!!」

 

「………わかった、母よ」

 

柚登10歳の出来事だった…

 




ありがとうございました
また宜しくお願いします( ̄▽ ̄)ノシ


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第三幕 戦乱始まりて

突然ですが、この破天荒な母を如何にかしてください。父が亡くなり、母と二人で旅に出る事になった俺だが、旅に出て早々…

 

「よし柚登、これ持って賊を潰してこい!」

 

…だぜ? そう言って母の愛用している三節棍を今迄見た事が無い位の笑顔で渡された時の俺の気持ちが解るか!?

血がべっとりと付いているんだぞ!! 正に年代物なんだからな~!!

 

一体母は小市民の俺に何を求めているのかを教えてほしいです!! じっくりコトコト5時間位説明してほしい位です!!

しかも、あれだぜ? 旅に出て直ぐって事はまだ俺10歳の出来事だぜ!!?

マジで母は正気かと思ったですとよ!! あ、やっべ何かテンパリすぎて訛っちまったぜ。

 

……いやいや、そうじゃなんだよ!! 流石に渋っていると…

 

「大丈夫だ。さっき俺が軽く潰しておいたからお前は弱った賊を倒せばいいんだよ」

 

……あれですか? ライオンやチーターといった肉食動物が自分の子供に獲物の狩り方を教える時と原理は同じなんですか?弱らせた獲物を狩って来いってか!?

ソレの人間バージョンを実施しろって事ですか!? どんだけ千尋の谷から突き落とす気なんだよこの母は!!

 

しかし最終的に半ばゲンナリしながらも俺は母が軽く潰したという賊の塒がある林の中へと足を運んだ。

正直、逃げ出したかったんだが母が遠くの方で俺を見ている気がしたんだ。

いや、実際に見たわけではないが何と無くそんな感じがしただけだ。一度試しに振り返ってみたが、母は何処にもいない…だがあの母の事だ、油断は出来ないな。

俺はほぼ強制的に覚悟を決めさせられて林の奥へと進んでいった。

 

そして、賊の塒に着いた俺が目にしたものは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………う、うぅ…」

 

「……………た、たすけ…て…」

 

「……眼……俺の眼がぁ…」

 

正に地獄絵図と言ったものだと思う。

床にのたうち回っている者……既に虫の息状態の者……両眼に相当な衝撃が加わったのだろう。両方の眼球がひしゃげて、深紅の血の涙を流している者…数にすると20人程の小さい規模ではあるが、皆が一様に重症者だ。

 

幾ら何でもやり過ぎではないんですか!?

明らかに軽く潰したって言う表現は間違っていると凌統君は思いますぞ!!

これは所謂、半殺しではなくて八分殺しと言うヤツではないかと判断いたします!!

普通の10歳児が見たら一生モノのトラウマものですよ!! 赤ん坊の頃から母に連れられてそう言った事柄に対してある意味で耐性が出来ている俺じゃなかったらマジで心に大きな傷を残してしまうレベルですよ! いや、耐性あってもエグ過ぎだぞコレは!!

 

 

あまりの酷い状況に賊たちに向けて同情をこめた視線を送りながら、この場をどうしようかを悩んでいると、八分殺しにあった一人の賊が俺の存在に気が付いたようだ。

 

「な、何だょ……もぅ…もう許してくれよぉ~」

 

どうやら、あまりの恐怖で俺のことを母と間違えているみたいだ。

俺は慌てて訂正しようと右手を顔の前に持ってきて手を振り、自分が母では無いことをアピールしようとした。

……しかし、そこで悲劇は起きてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――スッ……ポン―――――――グシャ…

 

なんと、勢いよく右手を上げてしまった所為で右手に握られていた三節棍が俺の手からすっぽ抜けて前方に向かって飛んでいってしまったのだ。

しかも、無駄に身体がハイスペックな為、三節棍はかなりのスピードで前方に飛んでいく。

 

俺は例のハイスペックな身体のお陰で視認出来るが、恐らくは弓で射る矢とそんなに変わらない速度だと思う。

そして、ソレは真っすぐ………………………………………俺の存在に気が付いた賊の脳天にクリーンヒットしてしまったんだ!

母からの八分殺しに加えて俺のお馬鹿により、+二分殺し…哀れこの賊は全殺しになってしまったとさ…………マル

 

 

………………………冗談じゃねぇーーーーーーーーーー!!!!!!

こんなギャグみたいなノリで人殺しのレッテルを張られてたまるかぁ!!

俺は慌てて三節棍がクリーンヒットした賊に駆け寄ろうとしたんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――グチャ……

 

「ぎゃぁぁああああああ!!!!!!!!」

 

 

何やら足から生々しい感触が伝わり、直後に響いた苦痛に満ちた悲鳴…ま、まさかねぇ~…

俺はゆっくりと今し方地面に接地させた足へと目を向けた。

あってほしくはないけれど…今の感触ってもしかして…

 

下を見やると股の部分から大量に出血をして泡を吹いている男が一人…そして、股に力のかぎり踏み抜いてしまったと思われる誰かさんの足が………………って俺だ!?

 

俺は慌てて屈み、その人の無事を確認しようとした。しかし、如何せん足元が悪すぎた。

粘性の高い血液は俺の足と床の間にてまるで潤滑油の様な役割を果たしてしまったんだ。

瞬間的に前方に倒れる俺の身体……咄嗟に保護伸展反応が働き、手を前に突き出した。しかし、その手がある意味で決定打となってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――拳に生暖かく、肉と骨を同時に潰すような感じがした。

 

「―――――――――――――――――――――ゲハァッ!!!!」

 

それとほぼ同時にカエルが潰された時のような声と水が跳ねるような音、更には枯れ枝が砕けるような音が同時に聞こえてきた。あまりにも生理的に受け付けない触覚と聴覚に全身に鳥肌が立ってきた気がする。

あまり視覚的に確認したくはないが、このままというわけにもいかず、意を決して俺はゆっくりと音の発生源と思われる自身の右手へと目を向けた。

 

 

あら方予想はついていた。やはりと言っていいのか、音の正体は俺の右の拳が急所を踏んでしまった男の顔面に炸裂した音に間違いなかった…

 

 

―――― 母

 

 

うへぇ~柚登のやつ、えげつねぇ事するなぁ~

柚登を賊がはびこっている場所へと送り込んで一刻程経過しただろうか?

俺は愛する息子の姿を見失わないように遠くから見守っていたんだが…

これは、俺の想像以上の育ち方をしていやがる。

 

まず、かなり距離を空けているはずなのに柚登のやつは俺が見ているのを気付いていやがる。

なるべくばれねぇ様に気配は殺していたはずなんだが…

 

そして二つ目…敵に対する冷酷さ。

齢10にして、ここまで熟していやがるとは思わなかったぜ…

獲物を手放したのはいただけねぇか、三節棍を自然な動作で投擲し、賊の頭(かしら)を仕留めた後、地べたに転がっている頭の右腕とされている男の急所を躊躇なく踏み抜くたぁ…更に追撃として全力の拳を顔面に打ち込むとは…もしかして、俺が弱らせておく必要なんてなかったんじゃねえのか?

 

…兎に角、これにより頭を殺され、更に頭に一番近い人物を潰したことになる。

そんな光景を目の前で見せ付けられちまったら賊なんかみたいな上下関係の希薄な奴らは一気に有象無象の集団になり下がっちまう。案の定、あの場に居るもの全てが抗う気力を潰えちまったみたいだ…

 

集団を相手にするにはまず頭を狙うのが鉄則だが、柚登は俺が教える間もなく自分自身でそれを開拓したんだ。

 

「やっぱり、柚登は戦の才があるな…こりゃあ俺なんかを、あっという間に抜いちまうぜ」

 

嬉しいような寂しいような…自分の息子が自分を抜いて行くという成長は嬉しいが、抜かれちまったら俺が柚登に教えられることが少なくなっちまうのは寂しいもんだなぁ。

 

そんなことを感じた母であった。

 

 

 

 

 

―――― 柚登

 

まぁ、こんな事を俺と母は数年続けたんだ。

時には村から賊の討伐を依頼されたり…時には村を荒らす猛獣を相手にしたり…そんで報酬として一夜の宿を提供してもらったり、食べ物を貰ったり…残念ながら賊に襲われたせいで村にはその日暮らしがやっとの所もあった為、何も貰わないことだってある。

あぁ……色々と大変すぎた数年間だったなぁ~

 

……え? 今までのトラウマ描写は回想ですが何か?

そんなこんなで俺は、年齢的に大人になった。イキナリすぎる展開かもしれないけれど、まぁ許して。

 

そして、この数年間で廻った村や国の数と言ったら…正直数えきれないくらいある。

そして、色々と見聞を広めてみてわかった事なんだが…今の世の中は三国志にあるような戦争はあまり起きていない。賊による略奪などは横行しているみたいだが…

 

やはり、戦乱の引き金となるべき出来事は何時起こるか分からない『黄巾の乱』のようだ。

えっと……張角だったっけか? そいつが頭になって農民やら何やらを巻き込んだ事件だったよな?

確かに、この大陸を回るにあたって徐々にだが賊たちの勢力が広まっている事を肌に感じた。

つまりは、遠くない近い将来に三国志の始まりと言える出来事が起こる筈だ。

 

………あれ?凌統が生まれたのってその後だった気がするけれど……俺の勘違いだったか?

そうだ凌統と言えば、正史から行くと亡き父の跡を継ぎ呉で将として仕える筈だ。

しかし、俺がいる世界ではあの男が呉にいたと言う事実はなく、凌統である俺自身が母に連れられて修行の旅に出るという、歴史に描かれていない出来事が起きている。

 

つまりは、この世界は三国志通りに事が運ばれていないと言うことになる。

しかし、今この世界では賊が蔓延してきている。

 

これらのことから、歴史に残るような事件、事柄は正史通りに進むが将の細かい設定などは色々と都合の良いように捻曲げられている可能性があるということだ。

うっわ…なにこの何でもありな世界って…そういえば、言葉が前世のまま通じる時点で本来の三国志って言う選択肢は無いんだったな。

 

……そうだ!聞いて聞いて~かなり成長してから気がついたんだけれど、俺の容姿ってのが正に無双さんに出てきた凌統にそっくりなんですよ~…まぁ、あそこまで皮肉めいた口調では無いいだけれどさぁ~

だから、髪型とかはあの後ろ縛りを意識してみたんだよね。

最も、幾ら格好を似せても中身は小市民な俺だけれど~

 

そんなこんなで俺は母と修行をしながら今後の事について考えていた。

 

そんなある日、俺と母は幽州のとある村に辿り着いたんだ。

この日は早朝にお世話になった村を出て丸一日歩きづめだったのだが、未だに次の村には辿り着けていなかった。

辺りは既に夕闇に包まれており、このまま野宿をするかと言う選択肢の色が濃くなったその時、遠くの方で何か光る物を見つけたんだ。俺と母はその光に向かって歩いてみると、小さくはあるが村を見つけたのだ。

元々現代っ子の俺としては、なるべく野宿をするという選択肢を選びたくなかったので、正にピッタリなタイミングであった。

 

「おう柚登、今日はこの村で世話になっぞ~」

 

母もどうやらこの村に一夜のお世話になる事を決めたみたいだ。

そうと決まれば、早速村長のお宅に向かわねば!! 俺と母は足取り軽く、村で一番大きな屋敷を探した。

 

村を半刻程歩いた頃だろうか…ふと、母がその足取りを止めた。

暗闇でよく分からなかったが、何やら少し顔を顰めているような感じもする。

たいてい母がこういった表情になる時は良くない事が起こる前兆なのだ。それこそ、賊が出たとか、猛獣が出たとか、食糧が底を付いたとか…

 

「……どうし…た?」

 

「柚登、気付かねえか? この村…人の気配が殆どしねぇ…いや、人の気配はするが、何て言うか…獣じみた感じがしやがるぜ」

 

え"!!? 人が居ないって事は…今夜の宿は!? 飯は!!? ふかふかとまでは言わないが、せめて屋根がある所で一夜を過ごすスローライフは!!?

母の発言で半ばテンパリながら俺は辺りを見回した。

 

………そこでふと、遠くの方で夕闇には不釣り合いな黄色い派手な何かが浮かび上がった。

それも、一つや二つでは無い。かなりの数だ。更には何だかこちらに近づいてきている感じもする。

母はゆっくりと臨戦態勢を取った。俺も母に習い同様に臨戦態勢を取る。

 

何故か何て今迄何度も見てきた集団だからに決まってるじゃんか。…そう、俺達の前方の集団は間違いなく賊…そしてその頭には先程夕闇に栄えて映った黄色いバンダナが巻かれている。

 

「…柚登、どうやら並の賊じゃねえみたいだぜ? あいつ等…賊のくせして陣形なんかとっていやがる」

 

マジか!?……いや、少し待てよ。黄色の……賊?

少し待ちんしゃいな……確か、ついさっきソレと同じような事を考えていた気がするんだが………………………って、黄巾!!!!!?

おいおい…それってまさか…

 

「数百人規模か…こりゃあ、俺と柚登の二人じゃあ五分五分って位か? しかも、なんだぁ、あの悪趣味な旗は?『蒼天己死、黄天富立』?……………なぁ柚登、説明頼む」

 

え、え?いきなりなキラーパスですか!?

えと、えっと……確か…

 

「………蒼天………漢王朝は死に絶え……黄天…恐らく………奴ら自身が、それに代わるものになる………か…」

 

確か、こんな意味だったよな?

 

「な、なんだってーーーー!!!?」

 

やっぱり、かなりヤバ気な事が書かれているんだよな?

中身が日本人の俺からしてみたら、あんまり危機が迫っている感じはしないけれど、この世界産まれでこの世界育ちの母からしてみたら考えられないことなんだろうな~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、ゆゆ柚登がこんなに長く話すなんてぇぇぇーーーー!!!?」

 

そっちかーーい!! いや、確かにこれまで長く話す機会なんて無かったけどさ~今現実から目を背けないで~!!

いやいや、それどころじゃないってば!!あの有名なスローガン…更には黄色のバンダナって言えば…

 

「おうテメェ等…この村のもんじゃねえな? 金目の物…出して貰おうか?」

 

「そっちの女は上玉だなぁ…可愛がってやるぜぇ」

 

「男は殺すか?」

 

この世界で黄巾の乱が始まった瞬間であった……

つーか、何にもしてねえのに俺の死亡フラグ的なものが立った!!?

 




ありがとうございました。
また次回も宜しくお願いします( ̄▽ ̄)ノシ


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第四幕 戦って

おはようございます、こんにちは、こんばんは。
かみかみんですm(_ _)m
それではお楽しみ下さい


「ゴルァ!! テメェ等ァ誰を殺すだってぇ!!!!」

 

こんにちは、早速黄巾党に囲まれて正に絶体絶命ピンチな凌統君です。

何でそんなにノンビリしているのかって? それが、俺もあまりの敵の多さに一時は死を覚悟したんだけれどさ…いや、別にピンチなのは変わらないんだけれど、すっごい気合が入った母が居てね…

その引き金となったのが、さっき黄巾党の一人が言った言葉で…

 

『男は殺すか?』

 

常日頃から俺の事を溺愛してくれている母にとっては息子を殺すという発言だけでキレてはいけないものがキレるのに十分すぎる言葉だったみたいでして……そんなキレるなら始めっから俺に危ない目をさせなきゃいいのになぁ…

 

そして、気が付いたら三節棍を両手に装備して母Tueeeeeeeeee!!!!

みたいな状態になっているのだ。正に、バーサーク母と言ったところであろうか。

因みに俺は母と同じ様に三節棍片手に持ってはいるが頑張って敵の攻撃を避けている最中だったりする……そういや、何故だか知らないが俺の周りだけ眠さがMAXだった奴が集まっていたみたいで、少し眼を離すと先程まで俺に向かって槍やら小太刀で襲い掛かってきた奴らが地面に寝てんだよなぁ~…………不思議だ。

 

そんなこんなで、確実に賊の数は減らしているが、敵は未だに数百名…いや、それ以上いる。更にヤバゲな事にさっき見た数百名の賊は先遣隊だったみたいで、数刻たってから何だか徐々に数を増やしてきているんですよねぇ~

普通に考えたら俺達に勝機は…………無いことも無い。

逃げようにも、この軍勢で追っかけられたら逃げ切れる筈も無い。

つまり、俺と母が生き残る道はコイツらを全滅させるしかないのです。

 

始めに言ったが、俺達は勝てないこともないんだ。それこそ、この世界に再び生を受ける際に受け取ったオマケなチート身体能力なら負けはしない。

ただ………………………………………あまり目立つような行動をしたくないだけなのだ。

 

昔からの歴史を紐解いて行くと、何かに跳出した人間程不慮の死を遂げている場合が多いのだ。

三国志で言うと、『孔明の罠』と言う言葉でいう有名な諸葛亮 孔明…彼は戦のさなか病で命を落とした。

また、武で有名な呂布なんかは部下に信用して貰えず、最後の方には戦に連戦連敗…気が付いたら部下が反乱をおこし、縛り首に処された。

自分が彼らの様になるとは到底思っていないが、正直俺は武に生きるよりも普通に暮らして普通に死んでいくのがある意味この世界での目標である。

 

そのため、常日頃は母から受け継いだ常人離れした身体能力を表に出さないように、母の武に頼りながら生きてきたんだが……今日の敵は数百人規模…しかも、陣形をとっているということは、今迄出会ってきた有象無象集団とは違い、母の突撃だけでは倒せない可能性が……

 

「―――――――――オラオラオラオラァァァ!!!!!」

 

……………まぁ、何事も例外は存在するという事で。

兎に角、今は考えろ俺!母みたいに突撃して蹴散らせない俺は頭を使って生き残るために最善の方法を考えるんだ。

 

勿論、この間も俺は三節棍を振り回す事無く四方八方から押し寄せる軍勢を紙一重で回避しまくっている。だが、これをしているのも正直言って辛い。

恐らく、これが今まで相手にしてきた賊ならば余裕とは言わないが、何らかの対処が出来る。

しかし、如何せん中途半端に統制がとれているからやりにくいったらありゃしねぇ~

 

こりゃあ、覚悟を決めて俺も戦うしかねぇのか?

 

「柚登、不味いぞ!!」

 

そんな感じで悩んでいると、賊を蹴散らしまくっている母が凄い剣幕で賊共を吹き飛ばしながら俺の方へと駆け寄ってきた。

 

「どう……した?」

 

母が此処までヤバそうな表情をしているという事は、そろそろ限界が近いのか…はたまた、何処か負傷したのかもしれない!

……まぁ、後者の可能性は無傷な母を見たらすぐに吹き飛んだんだが。

 

「柚登、実はな俺………………」

 

いよいよ深刻そうな顔をしだした母。しかし、そんなさなかでも賊どもを蹴散らす事は忘れておらず三節棍を自在に操っている。

そして、母はこう続けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――――――――――― 路銀を持ってねぇのに気がついたんだ!!」

 

………………は?

 

「不味いぜ…金がねぇんだ。これじゃあ賊をぶっ潰した所で宿に泊まれねぇよ~!!」

 

NA・NI・WO・I・TTE・N・NO!?

え、えーーーーーー!!?

今この瞬間に心配することじゃ無いよね?

命を削げるような展開の今現在にマネ~の心配する奴なんて普通はいねぇぞ!!

いや、確かに俺の目の前に一人いるかもしれないけれど…

 

「金は………稼げば…いい」

 

あ~ここに、『だから、今は逃げるか、賊を蹴散らすかに集中しよう』って続くのに言葉が繋がらねぇ~

 

「…そうか、つまりはさっさと賊を倒してコイツ等から金を奪えって言いたいんだな!? よ~し、そうと決まればチャッチャとこの野獣共を蹴散らすぜ柚登!!」

 

え~……そう解釈しちゃうんですかい?

いや、過程が違うだけで結果は同じかもしんないけれど、何故にそんな物騒な方面に辿り着いちまうんですか?

でもまぁ、母が冷静に戦ってくれれば何とかなる…

 

「貴様等…俺達をからかってんのか?」

 

「いや、どっちかと言うとおちょくっているな」

 

母ぁぁーーーーーーーーーーー!!!!

 

この時程、言いたいことが言えない自分が恨めしいと思ったのは今までに無かったりする…

 

 

 

――――母

 

俺と柚登を囲むように現われた賊は有に百超え…

何時もなら余裕に料理できんのによ~…誰が指示を出してんのか知らねえが、やりにくいったらありゃしねぇ~

 

しかし、そんな焦りとは裏腹に柚登の野郎はそんなの何処吹く風って感じで賊の攻撃を寸前まで引き付けて最小の力で捌いていやがる。

賊共は何らあらがう事なく地面に伏せていく…

これは確か…見切りだったか?これまた教えたこともねぇ技術を使いやがって…

流石は俺の息子だ!

こりゃあ、負けてられねぇぜ!!

 

俺は柚登みてぇな技術はねぇが、力の限り敵をぶっ飛ばす事は出来る。

さぁて、次に俺に喰われてぇのはどいつだぁぁ!!!!

 

そして俺はより一層気合いを入れて賊共に突貫するのであった……あ、さっき柚登を殺すって言った奴発見!

 

クケケケケ~~!!!!

挽肉にして森にばらまいて蛆虫の餌にしてやるぜーーーーーーー!!

 




ありがとうございました。
それではまた次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第五幕 援軍来て

――――公孫贊

 

私が太守をしている幽州の啄郡内にて最近巷で話題の『黄巾党』が押し寄せてきたと報告が入ってきたのは日が明けてまだ間もない早朝の事であった。

 

斥候の話では進路上には小さな集落が存在しており、このまま行くと今晩には村に到着するというものだ。

幸い、報告に来た者の機転によりその村の者は退避させたようで最悪の自体は回避出来た。

 

さて、後はその賊の討伐なんだが…

 

「おや、向かわぬのですかな?」

 

私の隣に待機していた露出の多い白い着物を着た客将、趙雲……いや、星が話し掛けてきた。

 

「いや向かうさ。ただ…」

 

「ただ…どうされたと?」

 

軽く口調が皮肉めいた感じがして、少しカチンときたが私はそれをおくびに出さず、続けた。

 

「あぁ、何だかそれ程不安に思えない自分がいるんだよな…」

 

「おやおや、太守としては危うい発言ではござらんか?」

 

ム……確かに太守たるもの人がいないとはいえ、村が襲われるやもしれないという最中にこの発言は不味いものだが、何故か星に言われると腹がたつ。

 

「…ですが、何故でござろうな…私も白蓮殿の様に不安は感じぬ」

 

「散々人に言っといてソレかよ」

 

人には散々いっときながら星も同じ意見なのかよ。

そして星は「ハハハ!」大きく笑いながら続けた。

 

「それで?白蓮殿はどうされるおつもりかな?」

 

「んなもん、決まっているだろ?その賊って言うのはズバリ黄巾党、ならばさっさと倒さないと民が平和に暮らせないってな」

 

私は近兵に出撃の準備をするように申し付けた。

 

「ならば、私も向かうと致しましょう」

 

「お?私が頼むときは一蹴するお前が自分から動くなんて珍しいんじゃないか?」

 

「フフフ…何やら新しい臭いを感じたものですからな」

 

………相変わらず、何を言っているのか解らない奴だが、まぁ何はともあれ星が付いてきてくれるというのは心強いな。

 

そうして私は千ほどの兵を連れ、報告があった集落へと急ぐことにした。

そして、そこで私達は出会ってしまったんだ。

他に例を見ないほど型破りな親子を……ただ、その時の私はまだその事を知らなかった……

 

 

 

――――凌統

 

 

賊に対等して既に二刻程(約一時間)が経過しただろうか?

未だに賊共はワラワラと増殖中……きっと奴らは、一匹いたら無限に増殖するGの遠い親戚に違いない!

もとは農民が多いかもしれないがきっと家畜ではなくてGだ!

確信は無いが自信を持って言えるぜ!!

 

………現実逃避はこれ位にしておこう。正直言って、二刻も逃げてばっかというのは疲労が半端なく溜まってしまう。

 

いや、身体的には余裕なのだが、内部と言いますか…精神的に辛いです。

元一般人現小市民の俺からしてみたら、よく二刻もったと思う位疲れた。

 

「フハハハハハハハ~!我最強也!!」

 

…………まぁ、母については全力でスルーして頂けたら幸いかと存じますが何か?

しかし、いくら母のテンションがバーストストリーム状態とはいえ限界がある。

これは……俺も本格的に動かないとヤベェんでねぇかな?

いよいよ、俺も覚悟を決めていると…

 

「ん…何だこの感じ………………ッ!!!? 柚登!なんか大所帯が来るぜぇ!」

 

母が叫んだ。どうやら、まだまだ増えていくみたいだ。

う~む……流石にこれ以上長引かせると母の体力がリミットアウトになるやもしれないし…何より、俺の正常な精神発達の妨げになりまくりな感じだ!

 

俺は三節棍を持つ力を強めて何時でも本気モードになれる準備をした。

俺が放つ独特の空気に気付いたのか、賊共が俺を中心に少し距離をとり留まる。

 

本能のレベルで読み取ったのだろう。賊は皆が皆、俺から同じ距離を取っている。

某最強の弟子風に言うのであれば、制空権と言ったところであろうか?

そして、誰か一人でもこの中に人が入ってきたら最後……俺のやる気スイッチがオン状態になることは間違いない。

 

 

そのままの態勢で数十秒が経過した。

そろそろ、痺れをきたした賊が突っ込んでくるだろうと踏んでいた俺の期待は……

 

「柚登見ろ!正規軍がやっとこさ、お見えになったぜ!!」

 

見事に空気を読まなかった母にゆって銀河の遥か彼方へと吹き飛ばされてしまったのであった…

だけれど、正規軍って事は……良かった~本気出さずに済んだ。

 

「チッ…………野郎共!二手に分かれるぞ!!俺の隊はこのままコイツ等の相手を…」

 

あ、なんか指示だしている奴を発見!

つまりは、アレが司令塔って訳か? 以外と距離が近いみたいだし早くアレを潰せば戦いやすくなるかも!

 

直ぐ様そう言う結論に至った俺はリーダーと思われる奴に向かって突撃した。

しかし走りだした瞬間、思いもよらないことが起きてしまったのだ。

 

 

―――――――――――――――――ズルッ

 

 

つい先程まで身体全身に色々と力を籠め過ぎていたため、急に一歩踏み出すことにより足を滑らしてしまったんだ。

そのまま、重力によって傾き始める俺の身体…しか~し!伊達に身体能力が高いわけではないんだ!

 

俺は足を一歩踏みだして何とか転倒を防ごうとした。しかし、今回のバランスの崩し方は半端無かったらしい。今度は重心が右斜め前方に向かって傾き始めた。

フフフ…だが、このままでは終わらんよ!!

今度は右手を地面につけて転倒を防ぐ。

 

――――――――――――――シュン…

 

ん?なんか今耳元で風を斬るような音がした気が……きっと気のせいだろう。

何とか態勢を立て直した俺は再びリーダーと思われる賊に向かおうとしたんだが、何かが足りない。

 

具体的に言うのであれば、つい先程まで右手に握られていたそれなりに重量がある物体を感じないと言いますか…

俺は恐る恐る右手の方へと視線をずらした。

 

………その時に気付いたのだ。つい先ほどまで俺の右手にあった筈の物が無くなっているということに……

 

…三節棍、どこいったーーーーーーーー!!?

いやそう言えば、今し方倒れそうになった時にライトな手を地面についたではないか。つまり、三節棍はそこに落ちている!!

 

自分自身でもウットリするような名推理だぜ…名探偵リョートー君!

やっべ、土曜の五時枠が狙えるんじゃね?

おとと…そんな事よりも三節棍、三節棍と~

 

 

俺は視線を右手から地面へとスライドさせた。

 

 

 

……………見事にナッスィングな状況に驚愕を感じえないよ…驚いたって事さ。

 

何故か俺の三節棍は姿を眩ましてしまったのでした。

も、もしかして何時まで経っても武器なのに武器として使わない俺に嫌気がさして無機物ながら一揆を起こしてしまったのかーーーーーー!!!

 

………………………ハッ!!!? そ、そう言えば、今俺って黄巾党の皆様方と絶賛死合っているところだったんだよな!!?

や、ヤバイ!武器を無くした俺ってば格好の獲物……

俺は慌てて体勢を立て直したのだが………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………? (何故に皆さんそんなおびえた目で俺を見てるんだ?)」

 

そして、何となしに先程まで俺が立っていた場所をみると……

 

「……………? (なして、槍が地面ばささっとると!?)」

 

「柚登ーーーーーーーーーー!!!!スゲェなお前! 後ろから来る投槍を交わして三節棍ぶん投げて頭を仕留めるなんて!」

 

………何がどうなっているのですか!?

謎が謎を呼ぶ………真実は何時も一つ……なのかな?

以上、名探偵リョートー君レポートでした!

 

 

………ごめんなさい、少し現実からエスケープ気取ってました。

 

だけれど…本当に何が起きたんだろう?

誰が…誰が教えてください!!

 

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第六幕 報奨貰いて

――――趙雲

 

 

我等が村に着いたときには粗方終わった後であった。

……いや、この表現は正しくあるまい。

正確に示すとしたら、我等が村に着いた瞬間に黄巾党の一軍を束ねていた輩が討ち取られたのだ。

 

討ち取ったのは髪を後ろで結った青年…

まだまだ荒削りな方法ではあるが、研けば間違いなく将として開花する…

 

それ程迄に鮮やかな手並みであった。

 

 

まさか、背後から自らを襲わんとする投槍を紙一重で回避したのち、自分の得物を投擲。

 

恐らく殺された黄巾党の頭は自分の仲間が槍を投げたことに気が付いたのだろう。

その為内心では、あの青年は既に亡き者として扱っていたに違いない。

 

そしてあの青年は、その敵の満身した隙をついて一瞬でかたをつけた。

 

……成る程、私も白蓮殿も不安を感じぬ訳だな。

あれほどの手慣れがいるのだからな。

 

「なぁ、星…」

 

「なんですかな白蓮殿?」

 

どうやら、二人揃って見入ってしまっていたようだ。

白蓮殿の声で我に返った私は何食わぬ顔で白蓮殿の問い掛けに答える。

 

「私らが来る必要ってあったのか?」

 

ふむ、確かに白蓮殿の言うことも解らないわけではないが…

 

「どうでしょうな……ですが、あれ程の逸材を見つけることが出来た。…それだけでも来た甲斐があったと言うものではありませぬか?」

 

「確かに…お? 私等に気が付いたみたいだぞ」

 

頭が討ち取られたことにより、取り残された数百名の賊は統率を失い、有象無象の集団に成り下がる。

敵前逃亡をはかるもの、無謀にも挑んでくるもの…それらを駆逐するのに差程、時を有することはなかった。

 

 

 

――――凌統

 

 

何とか生き残る事が出来た凌統君です。

なんか感動している母を置いておき、俺は無くしてしまった相棒(と言う名の三節棍)を探し始めた。

 

 

…………うん、まぁわりと簡単に発見することは出来ましたよ。

因みに、第一発見者は俺ではなくて黄巾党討伐に来たであろう赤っぽい髪をした女の人だ。

 

「お前凄いなぁ。この武器頭にめり込んでるぞ?」

 

……いや、少しどころの驚きではありませんです。

だって考えられますかな?

無くした物が人の頭から生まれ出ている状況なんだぜ?

まるで脳ミソと三節棍が入れ替わったかのように頭から三節棍が生えている…と言うか額から後頭部にかけて貫通している状態だぜ?

 

下手なB級ホラー映画以上にグロっぽい映像が生中継だぜ?

 

しかし、流石にそのまま放置しておくには忍びないし…具体的にはさっさと武器を回収したいです。

 

 

意を決して俺は黄巾党と頭に刺さっている三節棍に手を伸ばし…

 

 

―――――――――――――――ズリュ

 

 

生々しい音を響かせながら三節棍を力一杯引いた。

途端、頭部の大穴から勢いよく流れだす血と血ではない灰色に似たような固形物…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ま、まぁコレが何かと言うことは考えないようにしよう。

ソレよりも今は、この血も滴る三節棍をどうにかしなければ………………お?良いもん発見~

 

 

俺は地面に落ちていた黄色い布を手に取り三節棍を汚している血を拭った。

恐らく、そこら辺で死んでいるか寝ている奴らが頭に巻いていたものだが、今はそんな事お構いなしだぜ!

 

「フッ…中々度胸がある御武人のようだな…まだそこら中に黄巾党の残党が居る中で奴等の黄巾を血で赤く染め抜くとは…」

 

そう言いながら何やら露出の多い白い服を着た女性がニヤニヤ意地悪そうな笑みを浮かべて先程の赤毛の女性同様に近づいてきた。

 

 

しかしながら、言っている内容が気になる。

えっと…俺は今、奴等の黄巾で血を拭っているわけなんだけど…

…………た、確かにそう言われてみれば自分達の掲げている色を血で染め抜くってかなり挑発している感じが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ…頭がやられた!皆散れーーーーーー!!そして我等、黄巾を侮辱した奴の顔を忘れるなーーーーー!!!!」

 

……………何か、ヤベェ事になっている!!?

慌てて訂正しようとしたが、時既に遅く黄巾党の大部分が退いていってしまったとさ…マル

 

な、何だかとんでもねぇ事をしちまった気がするぜ!

 

「ところで、テメェ等誰だぁ?」

 

いつの間にか俺の背後に移動していた母が何時もの調子の傍若無人な話し口調で今し方俺に近づいてきた女性に問う。

 

「ん、あぁスマナイ。私は公孫賛。この地の太守をしている者だ。そしてこっちが客将の…」

 

「趙雲、字を子龍と申す」

 

はぁ、どうしよう~黄巾党相手に喧嘩吹っかけちまったよ~………………………………………………あり? 何だか今、俺が黄巾党に喧嘩吹っかけた並みにビックリな事が…具体的には女性の口から意外な名前が飛び出した感じがしたけれど…

 

「公孫賛に趙雲だな。………………よし、覚え……てたら良いなぁ~」

 

母も聞いていたということは間違いないのだろう。

だけれど……

 

「って忘れる事前提かよ!?」

 

「相手に飲まれてますぞ。さて、我等は名乗ったのだ。おぬし等の名をお聞かせ願おうか?」

 

――――――――――――なんで趙雲が女性なのーーー!!!

…いや、ちょっと待て。確か無双に公孫賛って言うモブキャラも居たよな?

しかも、太守の位置付けで。……つまり、こっちの女性も?

 

「おう名前だな?………って、どうしたんだ?ボケーーーーっとして…悪ぃもんでも食ったか?」

 

母は一体俺を何だと思って…おとと、いけない。自己紹介の真っ只中だったんだな。

 

「…………いや……俺は……凌…統……」

 

「…そうか?まぁいっか。さてさて、俺はコイツの母ちゃんだ!!名前は…捨てたからねぇ!」

 

…………なんか今日一日だけで色々と知りすぎていっぱいいっぱいだってのに、また一つ新たな謎が…………え? 母って名前捨てていたの? 確かに名前って父と同じで聞いたことは無かったけれど、名無しだったんですか!!?

 

「まぁあえて言うなら…『雪花』って呼んでくれ」

 

……母、それは真名ではないのか?

 

「…それは真名では?」

 

ほら見ろ、自称趙雲さんも言ってんだろ~

 

「まぁ今となっては誰もその名じゃあ呼ばねえから気にすんな!」

 

そんなもんなのかー

 

「まぁいいか…それじゃあ改めて……我が国にて発生せし黄巾党の討伐、感謝いたします」

 

って、え~何で急に公孫賛は頭下げて敬語で話すの?

しかも、後ろに控えている兵隊さんは片膝付いているし…唯一立っている俺と母と趙雲さんが変な人みたいじゃね?

 

「まぁ、気にすんな。俺達は偶々居合わせただけだしよ~」

 

母の言う通りだった為、俺は軽く首を縦に振った。

 

「しかしな、それでは色々と示しが付かないんだよな。何か欲しいものとか無いか?」

 

まぁ、さっき太守って言っていたしな~太守って要は王様みたいなものなんだろ? やっぱり、恩を受けっぱなしっていうのは不味いんだな。

 

「そうか?なら…」

 

「………飯…」

 

「「…………は?」」

 

あ、やっべ母と被った!

訂正しないと。今回の功績だって殆どが母の活躍によるものなんだし。

 

……でも、少しくらいは御飯を恵んで頂けたら嬉しいなぁって思ったりする俺はイケナイ子…なんでしょうか?

 

「――――――ハッハッハ! 開口一番が飯とは…良いではないですか白蓮殿! この御人等には色々と聞きたい事もあるのですから」

 

いや、訂正しますから! 成るべく母の意見を参考にしてくださいな!

 

「私は全然いいんだが…」

 

そう言いながら公孫賛さんは母の方を見た。

母よ自分の欲しいものを言うんだ~…でも、少しだけ俺の意見を取り入れて頂けると嬉しいかなぁ~

 

そして、渦中の母は…―――――――――――――――俯きながら肩を震わせていた…

 

うわ、うわ~無視して俺が先に意見を言ったからキレてんのか!?

やっべ~よ、さっきのバーサーク母になっちまったら止められる自身なんか無いんですが!!

 

良い具合にテンパっていると母は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――ッッッツ!! …ハハハハハ!!! いいなそれ! よっしゃ、柚登の言うとおり飯を頼むわ~!」

 

うわ~い、何だかハイテンションな母が再来したぜ…

 

「まぁ…わかったよ」

 

「おっと、一言……食料庫に気を付けなよ~」

 

 

 

――――公孫賛

 

 

そんなこんなで気が付いたら私のところには客が二人来ている。

あの後私たちは直ぐ様来た道程を戻り城を目指した。

他でもない今回の一件の功労者である二人を招待するためだ。

その最中に二人から……じゃなくて雪花から二人が旅をしている理由を知った。

何でも…『柚登を強くする為だ!』……至極簡単な理由であった。

って言うか、息子の真名をホイホイ他人の前で言っていいものなのか疑問なんだが…

そして、私が雪花から話を聞いている最中星は…

 

「凌統殿は幾つから母君と旅を?」

 

「……………………」

 

「ふむ…10歳から旅をしていると?」

 

「――――――――(コクン)」

 

「おぉ!旅に出てからは賊を討伐しながら暮らしていたと!」

 

「――――――――(コクン)」

 

なぜあっちは会話が成立しているんだ?

見た感じ正反対そうな性格なんだが……いや、同じ武人として何か通じるものがあったんだろう……多分。

 

そして、啄郡に着いた私なんだが、絶賛後悔の嵐に苛みえている。

最後に雪花から聞いた一言をもっと真面目に聞いておけば~!と思ったのは既に過去の出来事だ。

 

何が起きているのか気になるのか?

あぁ、いいよ。穴が開くまで見てくれよこの状況を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ~ら柚登、コレも美味いぞ~」

 

「あいや待たれよ凌統、このメンマも中々のものだ」

 

「………………………(コクコクコク)」

 

凌統がこんな大食漢なんて聞いてないぞーーーーーーーー!!!!

しかも、他の二人は凌統の食べる姿に惚れ込み後から後から追加するなーーーーー!!!

 

「……………美味…い」

 

「そうかそうか~ほら、俺の肉まんもやるから食え」

 

「おぉ? ならば、私の餃子を…」

 

「二人共いい加減にしてくれーーーーーー!!!」

 

私にしては珍しく泣きながら怒った日であった…

 




ありがとうございました。
また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第七幕 雇われて

――――凌統

 

 

どうも、何だかタダ飯をご馳走してもらってもらった凌統です。

黄巾党を退けた俺達は公孫賛さんのご好意によりご飯をご馳走してもらうことになったんだ。

…ただ、村から公孫賛さんの居城に行くにはかなりの距離があるので一回野営をしたんだ。

 

しかも、その時の飯まで都合してくれるから公孫賛さんは優しいなぁ~

ただ、持ってきた食料は限りがあるからと言う事で、腹には微々たる量の食料しか入ることはなく、大分少なくて夜中に腹の虫がオーケストラ状態だったのは言えなかったです。

 

そして、道中は自称趙雲さんが俺に色々聞いてきた。

と言っても変なことではなくて、何歳から旅をしている?とか、旅の最中どんなことがあったかと言う特別隠す必要の無いことばかり聞いてきた。

俺も彼女の期待に応えようと口足らずながらも頑張って応えた。

そんな様子を見ていた公孫賛さんは何やら納得がいかないような顔をしていたが気のせいだと思いたいです。

 

そんなこんなで辿り着いたお城~

俺と母は黄巾党討伐の事を色々聞かれたが当たり障り無い答えをした。

流石に黄巾党を伸した後、奴らの金品を奪う計画だったのは伏せて起きました。

ただ、公孫賛さんの重鎮は俺達の事を黄巾党と疑っていたみたいだが、公孫賛さんと趙雲さんの弁護によりその疑いは晴れたみたいです。

 

そんなこんなで、宴の準備をして会食という流れになった。

出てきた料理は決して高級品をあしらいまくったような料理ではなくて庶民の俺が見慣れたものばかりではあったが、逆に遠慮なくいただくことが出来た。きっと色々と公孫賛さんが気を利かせてくれたに違いない。

そこで俺は昨日の遅れを取り戻すかのように手加減無用で食べまくった。

 

それこそ、俺のまわりに『オラ、ワクワクしてきたぞ!』と言っていた銀河系最強の野菜人さん達みたいに食器が山の様に積まれる位食った。

前世ではこんなに食べなかったのに、何やらこの体になってから燃費と言うものがすこぶる悪くなったみたいでギャ○曽根もビックリな大食漢になっちまったんだよな。

……やっべ、伏せ字の意味ねぇじゃん。

 

 

更に母と趙雲さんがやたらめったら俺に美味いものを勧めてくれるもんだから調子にのってしまい当社比150%位食った気がする。

 

公孫賛さんに迷惑を掛けてしまったような感じがしたが、その後…

 

「気に…うん、気にするな…」

 

と言ってくれたから救われた気がした。

ただ、何だか公孫賛さんの目が死んだ魚の目に似ていた気がしたのは見なかったことにするのがジェントルの嗜みだと思います。

更には途中…

 

「食糧庫が…」

 

って言葉が聞こえた様な気もしたんだが、公孫賛さんの御好意だと思い耳に入ってきた言葉は全て銀河の果てにぶっ飛ばしました。

そんなこんなで一名を除いたメンツは楽しい一時を過ごしていた。

最も途中から半ばやけくそ気味な公孫賛さんも加わったんだけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばお前達親子はどこかに仕官するのか?」

 

食事の最中、半ば投げ遣りな感じで開き直った公孫賛さんがこんな事を聞いてきた。

元々俺は士官なんてするつもりはない。母の思惑は知らないが、武術と言うものに人生をかけようとは思っていないんだ。

 

「………ない…」

 

一応、俺の最大限の言葉を口にしたんだが…伝わったのかな? 多分伝わったよな? 趙雲さんは俺の方を怪訝そうな顔で見ているし…母は若干呆れ気味な顔をしているし…

 

「ないって……雪花、詳しく頼む」

 

何故苦笑いしながら母に聞くのですかな!? 今ので理解出来ないの!? ……いや、分からないのも無理無いか…良く考えたら普通の人にこういう風に答えたら何を言っているのかなんてわかるわけねぇか。

これも全部話す機能をほとんど失ってしまった俺の口が悪いんだぁ!!

 

「そういった事は考えていなかった。って答えてぇんだよ」

 

キッーーーーーーーー!! 普通にコミュニケーションを取れる母が憎いわーー!!

其処はせめて遺伝しろよーーーーーー!!!!

…………グスン

 

「しかしなぁ~柚登も良い歳だからそろそろどっか良い所に仕官させようかと考えてんだよなぁ~

ほら、よくいうじゃねぇか。確か…『逞しい我が子には地獄を見せよ』…だったか?」

 

…どこを探してもそんな我が子を貶めるような格言は存在しないと凌統君は思うのですが?

 

「成る程…中々後世の役に立ちそうな格言ですな」

 

いや、趙雲さんはのらんでいいよ。

って言うか、そんな格言は後世に残っていませんから。俺(中身現代人)が言うんだから間違いない!

 

「そうだろ、そうだろ~」

 

母もチョットどや顔するんじゃありません!

つーか、何だか俺が将になる方向で話が勝手に歩きだしている気がするのですが?

 

残念ながら俺は慎み深くのんびりと前世で生きれなかった分を今世で生きていく予定……………ウゥ…誰でもいいから俺の言葉を代弁してーーーーー!!

 

「それなら、私のところに来ないか?」

 

――――――――――――― What's!? 一体全体、何危険なことを軽々しく口にしちゃっているんだYo!

そないな言葉、冗談でも母の前で口にしたら…

 

「そうか?なら…」

 

ほら~微妙に本気に受け取っちゃって………

って母も俺をそっちのけで話を進めちゃラメェェェェェ!!

 

「ならば、雪花殿は如何なさるのですかな?」

 

「俺か? そうだな……俺は表舞台から去るって決めたからな。なんなら、さっきの村に入れさせてもらおうかな」

 

母よ、どこまでが冗談でどこまでがマジ話なんですか?

俺にはその真剣過ぎる顔がマジ話として話しているようにしか見えないのですが!?

って言うか、村で暮らすというならば是非とも俺にもその話を一口噛ませて…

 

 

「―――――――――――と言うわけで、今日から客将としてうちに来た凌統だ。みんな宜しくしてやってくれ」

 

 

 

「「「―――――――ハッ!」」」

 

――――――――――あるぇ~?

 

 

 

 

――――趙雲

 

凌統が私と同じように白蓮殿の下にて客将として留まる事になった。

 

何やら本人そっちのけで決まったような気もせぬ事はないが、あれほどの人物と共に矛(ほこ)を取り合えると思うと些細なことではあるかな。

 

その渦中の凌統は新人としては異例の一軍を任される身になった。

おそらく奴の力量から白蓮殿が割り振ったのだろう。

確かに奴程の武人を一般の兵と同等に扱うことはできない。

しかし、人を纏めるのは力とはまた違った才。

大部分の人間には備わっておらず、一握りの人間にしかない天性のモノ…

さて………凌統、お前にはあるのか?

人を魅せる事が出来る才を…

 

お前の手並みを拝見させていただこう?

そんな凌統は白蓮殿に任された隊に挨拶へと向かっている。

 

そこでふと私は思ったんだが……あれほどまで口下手な凌統はいかなる方法で顔合わせをするのか?

我らと顔合わせをした際は凌統の母君である雪花殿が付いていたが今はこの場に居ない。

あの宴の後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んじゃ、後は頼んだ~』

 

と言って凌統を残してどこかに消えていったのは記憶にも新しい出来事だ。恐らく宴の席でも言っていた黄巾党に襲われていた村にでも赴いたのだろう。

ならば、凌統はいかなる方法で…? 確か白蓮殿は凌統の言いたい事をあまり理解しておらぬようであった。

更に言えばあの場で母君を除いて凌統の言いたい事を何となく理解出来る私は別の所に居る。

 

 

何故だ? 気になる。

一度そう思ってしまうと覆らぬ私の性質か……私は直ぐ様行動に移した。目的は凌統の様子を見る為…

さほど重要そうな事ではないが気になる事柄に小さいも大きいも無い。

私は調錬場へと歩みを向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言おう。

 

「――――――――――――――――――ウォォォォォン(滝涙)」

 

「俺ぁ…おれぁ……絶対に凌統様に着いて行くぜぇぇぇぇ!!!!」

 

「凌統様ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

私が想像していた以上に凄い事になっているようである。……ふむ、何を言ったのか…白蓮殿に聞いてみるとしよう。

 

 

――――凌統

 

再び俺視点DAZE☆!! ……うん、ゴメン。少しテンパっていただけだから気にしないでくれると嬉しいなぁ~

何だか流れに流され過ぎて気が付いたら太平洋に出てしまったヨットレベルに予想外の状態に置かれている凌統君だ。

 

あの宴の後、気が付いたら母が消えているし…しかも気が付いたら公孫賛さんに兵を任せたとか言われているし…更に言うのであれば調錬場に連れてこられて何やら百弱位の人数が俺の目の前で一従わぬ姿で整列しているし……え? この人達って俺の部下になる人達なの!!? 色々な意味で早くね?

俺ってまだ仕官するとか言ったつもりも無いのに気が付いたら一小隊預かってもいいの!?

 

「さぁ凌統、何か一言話してやれよ」

 

何か公孫賛さんに話せと言われるし…俺が口下手なのを知ってのこの所業ですか!? 雇われたつもりはないけれど雇われて早々辞表を書きたい心境だよ!!?

 

「「「(―――――――――――――――ジ~)」」」

 

―――――――――――――――――― う…公孫賛さんに話を振られたせいで何か大人数の視線が俺に集中……逃げ…………たら不味いか。

なら、何を言えば良いんだ? 自慢じゃないが、小学校の卒業式なんて唯一俺だけが何も返事をすることなく卒業証書を貰っていたんだぞ? 他の子は『ハイッ!!』と元気な声なのに俺だけ『………』だぜ? ソレ位口下手な俺にヒト前に出て何をさらせと申すんじゃこの人は!?

 

「「「………ザワザワザワ」」」

 

………………あぁ、分かってるよ。何かを言わないとおわらねぇんだろこの空気?

明らかにアイツ大丈夫か?みたいな視線が向かって来ている感は否めないけれど何か喋ろうかな。

取りあえずオーソドックスに…

 

「……凌統……公積…」

 

「…お前さ、名前と字以外に何か言ったらどうだ?」

 

う~む…公孫賛さんにダメ出しをされてしまった。流石にコレだけじゃ足りないか。しかし、余りこういった自己紹介と言うものをした事が無いからな…どういった事を言えばいいのかが全くわかんねぇや。

……いや、此処はあえて少し違った…斬新な自己紹介をして俺の新たなキャラを構築するというのも良いかもしれない…ならば!!

 

「……一つ…………………死ぬ…な」

 

「「「………!!?」」」

 

うんうん、これから黄巾党って言う戦乱の始まりの出来事が起きるんだ。これ位言っておかないと今後起きるであろう事柄に対処できないだろうしね。それに、公孫賛さんって確か黄巾党、董卓といってその後滅ぶんだよな? だったら、公孫賛さんの軍にはこれ位言っても罰は当たらんよな?

コレだけ言ったんだ。文句はねぇし、もしかしたら『あれ? アイツって実は良い奴じゃね』程度には思ってくれるかもしれない。

そんな事を思っていると…

 

「お前…どんだけ、厳しくするつもりだ?」

 

…何だかその言いぐさは俺が厳しくするという響きに聞こえるんだが…どうして俺がそんな事をしなければならないのだろう?

まぁいいや。どれくらい厳しくって言ったって…

 

「……自らの…そして………家族…を……護り…きれる…まで」

 

「「「――――――――――――――――――――ッ!!!!!!」」」

 

な、何だぁ!? 今度は息を呑むような音が聞こえたんだが…それも、一つや二つではなくて大量に。

一方、俺の答えを聞いた公孫賛さんも何か驚いた顔をしているし…俺、何か変な事を言ったか?

 

確か軍ってのは人を護るのが主なんだろ? だったら何も変な事は言っていない気がするんだが。

寧ろ、自分の家族を優先的に護ってほしい。俺はこんな時代だからこそ、俺は敢えてそういう事を言ったんだが……やっぱり軍属の人間にはこういうのって禁忌なのかな?

だったら、不味い事を言ったかも知んないな。 も、もしかして風紀を乱すとして俺の首チョンパってことも…!!?

 

「……そうか、まぁ頑張れよ」

 

あ、首チョンパは無いみたい。…よかった、マジで良かった!!

そう言って公孫賛さんは調錬場から姿を消した。…あれ?首チョンパは無くなったけれど俺ってば何か気に障る事言ったか?

………いや、言って無いよな。なら何故?

俺は去っていく公孫賛さんへと視線を向けたが彼女が居なくなった答えは出てこなかった。

仕方なしに俺は任された隊へと再び目を向けると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――――ウォォォォォン‼︎」

 

「俺ぁ…おれぁ……絶対に凌統様に着いて行くぜぇぇぇぇ!!!!」

 

「凌統様ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

………………何これ、怖い。

 

何やら号泣している隊員達の姿があったとさ。……一体何が起こった!?

 




ありがとうございました。かみかみんですm(_ _)m

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第八幕 任されて

――――公孫賛

 

凌統は変な奴だ。まだ出会って一日も経っていないがこれだけは自信を持って言える。

初めて見たときは凄い強そうな奴という印象だったが……いや、今でもまだその印象は生きているんだが…

 

昨日色々とあって凌統が客将として私のところの軍に入ることになったんだ。

そこで、凌統の本質を知るために軍を任せたんだ。しかし奴の顔合わせをさせた時に…

 

「……一つ…………………死ぬ…な」

 

まさか、凌統の口からこんな言葉が出てくるとは思わなかった。

今の世の中兵に志願する奴らは限られている。家族がいるのに仕事が無いもの、訳合って家を継げない者、元盗賊…

挙げたらキリがない程訳ありな奴が揃った集団…だが、一様に言えるのは命を半ば捨てている奴のたまり場…ソレが軍にいる奴の現状だ。中には心から国を救いたいと思う奴もいる。だが、それはほんの一握りの連中だ。

更に無理矢理徴兵された奴もいる事だろう。

自ら死を望む訳ではないのに死ぬ可能性が一番高い軍に…

 

しかし凌統は、そんな奴らに死ぬなと言った。

国の為に命を投げうって戦に殉じる…それが今の世の将足る者の常識だ。

そしてソレを部下である兵達に押し付けるのも将…

 

そんな世の中で放った将である筈の凌統の死ぬなと言う一言…

 

勿論兵達は呆気に取られている。

かくゆう私もなんだがな。

…いや待て。この凌統と言う男はそこまで人に対して無責任な言葉を吐くか?

『死ぬな』一見、兵達の身を案じているような言葉だが、つまりは凌統自身部下を助けるつもりはないと言う意味に聞こえる。

 

俺は手を出さない…だから死ぬんじゃない。

とらえ方によっては有り得ないくらい無責任発言だ。だが、短い間とはいえコイツの人となりは何となく理解した。雪花と旅をした数年間、コイツは見ず知らずの民の為に身を擲って賊の討伐をしていたという。それ程までに人の為に何かをなそうとしている人間がそんな意味でこの発言をしている筈が無い。

 

つまり凌統は戦以外の面で死ぬなと言っているんじゃないのか?

そう、例えば…………………調練か!

そうか、調練で厳しくするから死ぬなと言いたいんだな?って…

 

「お前…どんだけ、厳しくするつもりだ?」

 

そして、次の言葉で私の考えは間違っていないことが証明され、凌統の真なる想いを垣間見た。

 

「……自らを…そして………家族…を……護り…きれる…まで」

 

……成程な。やはりコイツに軍を与えたのは正解だったかもしれないな。重鎮達からは客将に兵を与えるとは何事かと詰め寄られたが無理を押し通した甲斐があったもんだ。

兵達の息を呑む音が聞こえた。無理もない、本当に自分達を想ってくれる発言を凌統はしたのだ。

兵達の心を射たない訳が無い。

 

 

私は凌統のその言葉を聞いてから直ぐに調錬場を後にした。

別に他意は無い。ただ、敢えて理由を付けるのであれば私はあそこに居るべきではないと思ったからだ。

こんな私でも一応太守の身だ。凌統の考えは凄い事だと思うが、明らかに国よりも兵の身を案じている凌統の全てを肯定してはいけない立場の人間でもある。

 

調錬場を出て直ぐに後ろからまるで勝鬨でも挙げているような怒号が響き渡った。

 

「ふむ…中々面白い事になっているようですな」

 

未だ喧騒が納まらぬうちに聞き馴れた皮肉めいた口調の女の声が聞こえてきた。…まぁ誰かなんて聞く必要は無い。だってコイツは…

 

「何だ?盗み聞きか星?」

 

少しあきれたような口調で私は調錬場から少し離れた壁に腕を組みながらもたれ掛かっている星に声をかけた。

星は何時ものように何を考えているのか分からないような微笑を作り目を閉じている。

 

まぁ、聞く迄もなく凌統の様子を見に来たんだろうが…何か大事な場所が捻くれている星はまともに答えないだろう。

そして私の問いに答えようと星は瞼をゆっくりと開いた。

 

「ふっ…人聞きが悪いですな白蓮殿。あの場に向かうと言うそんな無粋な事…白蓮殿でもない限り無理であろう?」

 

「イキナリ厭味かよ!? ったく、へいへいどうせ私は空気が読めない女ですよ」

 

何だか星に会うたびにからかわれている気がするな。

それよか、私を山車にしたな…何だか疲れが増してきた…今日はもう寝たい。

 

「おや、今頃気がつかれたのですかな?」

 

「冗談じゃなくて本音かよ!?」

 

「何をおっしゃいます白蓮殿、私は何時も本当の事しか申しませんぞ?」

 

うっわ、欝陶しいなコイツ!?

 

 

――――凌統

 

 

やぁ、凌統だよ。気軽にユートと呼んでくれ。……何故だ?何処ぞのファンタシースターな部族の少年を想起させるんだが…まぁ、そんな事はどうでもいいかな。

何か知らないが兵達がみんな一斉にメダパニを食らった後、俺は一人で公孫賛さんの下を訪ねた。

なんて事はない。只、前世ではバリバリな一般人の俺。更には何の因果か知らないが三国志に産まれでた俺。

前者では争いのない平和な世の中を過ごしてきた俺…後者では根本的に母以外と話した事が無い俺。

つまり何が言いたいのかと言うと……

 

―――――――――――――――――― 兵ってどうやって纏めれば良いんですか?

ってな訳よ。…ふふ、根本的だと思わないかい? ゴクゴク小市民の俺に兵を渡すなんて根本的過ぎると思わないかい?

…………………どうすればいいのよ俺!? ってな状況だぜ?『ライフカード』なんて横文字、この時代じゃ通用しないんだぜ?

 

…少し鬱な凌統です、凌統です…りょうとうです……りょーとです…………ハッ!? 何か化石化した芸人みたいだった!?

…ん? 何だか話が270度くらい変化している気がする。えっとえと………おぉ!!そうだった、公孫賛さんの所に行って『Heyってどう纏めれば良いんだYo!!』って聞に行く所だった。

……あり? なんか違う気が……まぁいいかな。

 

 

~会議室~

 

そんなこんなで着きました会議室。…しかし、今俺は何だか変な状況に巻き込まれている。

いや、特に俺に不利益な事では無い。 …いや、特に得する事でもないんだけれど。

ソレは何かって? えっとな………

 

「凌統、私の真名を預かってくれ。私は白蓮、よろしくな!」

 

「ならば私の真名も…私は星と言う。よろしく頼むぞ凌統?」

 

………世界の中心で疑問を叫びたい凌統です。

 

そんなこんなで済し崩し的に真名を交換してしまった凌統君だが………あり? 確か何かを聞こうと思っていた気がするんだが………まぁ思い出せないのならどうでもいい事なんだと思いたい今日この頃です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……右翼……左翼…前…進………鶴翼の…陣……形」

 

そして気がつけば何故か俺は城下町から懸け離れた荒野にて演習のフリをしていたりする。

俺の小さな声に反応して兵士さん達が左右に広がり陣形を組む。

 

…言っている意味がわかるか?少なくとも俺自信は理解不能な状態だぜ?

因みにどんな事をしているかというと、取り敢えずは兵士さん達の動き、更に陣形の確認をしているところだ。

 

陣形の勉強は前もって母から教わっていたからなんちゃって指揮は出来るけれど…これは俺には向いていないな。

コンマ一秒くらいで理解した。

 

だって喋らないといけないんだぜ?

何百人と居る兵士さん達全員に聞こえないといけないんだぜ?

そもそも、この時代には拡声器と言う便利道具が無いんだぜ?

 

……………外面無口な俺にどうしろと?

 

そっこーで指揮は副長に任せましたが何か?

 

(―――――――――――――――――ブルル…)

 

やっべ、少しもよおしてきたかも…急に俺を体全身が冷水に付けられたかのようあ独特の寒気が襲う。

こりゃあ、少し興奮していて気がつかなかったみたいだ。我慢は…出来そうにねぇな。

 

如何やら指揮系統なんていう緊張しまくりんぐな状況な為に自分の尿意に気がつかなかったみたいだ。

そう言えば聞いた事がある。何か興奮したり緊張したりすると尿意が遠ざかっていくって。

成程ナルヘソ、自分でも気付かない内にハイな気分になっていたのか……………あ、もう無理ぽ…

 

「先……戻れ」

 

ちょっと廁に行きたいから先に返ってください〜

俺は近くにいた副長さんに指示を出した。

 

「いえ、ですが…」

 

しかし、其処は仕事に真面目な副長さん。やはり、隊長(俺)を残して帰る事は出来ないってか!?

クッソ〜!! 副長って言うのは何でこうも御堅いキャラが多いんでしょうね!?

寧ろ鬼だよね鬼! あれだぜ?新撰組とかいい例だとかおも……あ、無理。こうなったらみんな一緒に…………

 

 

 

いやいや、流石に俺の所用にこんな大所帯を引きつれたかぁねぇっての!

ウッ……かなりヤバイっぽいぞ俺の膀胱!

 

「……二度は…言わん………帰れ」

 

「――――――――――――ッ!!? りょ、了解いたしました!!」

 

やっと納得してくれたぁ!更にどうやらあの焦った表情から俺がもよおした事を察してくれたみたいだ。

帰ったらお礼を言っておこう。

 

副長は慌てて陣形を立て直し、隊を引きつれて戻っていった。さて俺は……

 

しばらくお待ちください

 

ふぅ、危なかったぜ。後少しというところで大人ながら地べたに世界地図を描いちまうところだった。

 

未曾有の危機を脱した俺は意気揚々と啄郡目指して帰還しようとした。

しかし、腰に刺さった三節棍は副長さんに持っていってもらえばよかったな。邪魔で仕方がなかった。ついつい何時も刺さっている所為で忘れていたんだがマジで邪魔くさかった。

…何の時に邪魔だったかを言わないのが大人のマナーこれjk

 

そんな事を思いながら三節棍を腰から外して何となしに振り回してみる俺。

端から見たら相当ヤバイ人だとは自覚しているが、別に今の時代こんな所を歩くような人なんて……

 

 

――――――――――――――スポッ…ヒュウゥゥゥン

 

 

………あ、すっぽ抜けた…じゃなくてなんかデジャブな出来事が再来ーーーー!!?

いや、振り回していた俺が悪いんだけれどさ、まさか三節棍が手から離れて回転しながら空高くへと飛んでいくなんて思わないじゃん普通。

まぁ、前方だったり後方だったりしないから人に当たる事はないだろうけど。

 

それに、さっきも言ったがただでさえ物騒な世の中で人通りが乏しいのだ。

こんな状況下で俺がぶん投げた三節棍が当たるなんて相当運が無い奴以外……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『―――――――――――――ぎゃ!!??』』』

 

……どうやら居たみたいだ。しかも……三人も!!?

 

だ、大丈夫か!? 一応ギャグみたいなノリだけれど、このノリで何人も葬ってきた俺だが(誤字非ず)また犠牲者を増やす結果になっちまったのか!? つーか何で三節棍みたいな細長い物で三人分の悲鳴が聞こえるんですか!?

…いや、もしかしたら三節棍は回転しながら飛んで行ったんだ。まさかまさかとは思うけれど……偶々三節棍が横になった瞬間に当たったとしたら………うっわ…どんだけ運が悪い…いや、ちょっと待てよ。

もし当たったのが一般人だとしたら……

 

『一般人を間違って殺すなんて以ての外だぞ柚登!』

 

『クッ…まさか、我が槍で同僚を討たねばならんとはな…しかし、亡くなった民の為、その血を持って償え柚登!』

 

…………………………うわ、うわ〜…

絶賛ピンチな俺!!? 頼むから生きていてくださいよ、名も知らぬ被害者さん's〜!

そして俺は三節棍が飛んでいき、尚且つかなりヤバ気な悲鳴が聞こえた現場へと歩を進めるのであった。

 

 

 

――――副長

 

 

凌統様の下につき初めての任務は凌統隊の陣形諸々を確認するための演習であった。

 

今の世、我等一般兵の事を気に掛けてくださる方は少ない。兵とは替わりが効く、捨て駒……恐らくソレが共通の認識だ。

しかし、我等凌統隊を治める凌統様はソレを根本的に覆す発言をなさった。

 

『――――――――――死ぬな』

 

それが凌統様が我等に向けて初めて放った言葉だ。

その瞬間私は悟った…

 

あぁ…この方こそが私の一生涯の主なのだと。

同性の凌統様に向けて正しい言葉なのかは不明だが、一目惚れというものに近いかもしれない。

そして私同様に魄で感じ取った者は少なくなかった。

 

『――――――――――――――――――ウォォォォォ!!』

 

少なくとも私を含めた過半数の者達が凌統様の御言葉に歓喜していた。

残りの一部の者は凌統様の真意を伺っているようだが、それは凌統様の下にいる時間が解決してくれるであろう、そう感じた。

 

「……右翼……左翼…前…進………鶴翼の…陣……形」

 

 

そして今現在、私の前で凌統様がその采配を振るっている。

決して大きな声では無いのに皆に響き渡るその澄んだ声…意識されているわけでは決してないだろうに…やはり、凌統様は人の上に立つお方だ。

勿論兵達も凌統様のご期待にお応えし様といつも以上に張り切っているのが肌で感じ取れる。

その様子を只黙って見つめる凌統様。

 

しかし何処か不満気な御様子だ。……何故? いや、しかし凌統様には何等かの御不満があるのだ。

きっと我等では計り知れない何か譲れないモノがあるのだろう。

そして、凌統様が口を開いた。

 

「………副長……兵達を……任せる」

 

一体何を言ったのかが理解出来なかった。 『兵達を任せる』? そう凌統様は仰った。

しかし、何故今更? 私は凌統様の真意を計りしれないでいた。

 

そして凌統様は矢継ぎ早に更なる支持を我等にだしたのだ。

 

「先……戻れ」

 

どういう事だ?軍の指揮を私に任せ、先に啄郡に帰還しろなどと…

凌統様には考えが御有りなのだろうが、当然のごとく一軍を任された将は自分本位に動いてはならない。

 

私は凌統様に対してその様に進言しようとした。しかし……

 

「……二度は…言わん………帰れ」

 

今まで感じたことが無いような強大な殺気を私に向かって放ったのだった。

恐らくこれが一騎当千の将足る一握りの人物が放つことを許された本物の殺気…

 

まごうことなきソレは一般兵である我等の本能に語り掛けてきた。

 

 

『従わなければ……明日はない』

 

 

凌統様の指示通り私は兵達を纏めて啄郡に帰還すると言う選択肢以外残されてはいなかった。

しかし私は凌統様に対して失望はしない、落胆もしない。

何故ならあの御方は……………

 

 

 

「我等の光なのだからな…」

 

小さな呟きが風に乗り消えていく………その後、私達よりも随分遅く、そして私が想像していた以上の成果を手に凌統様は帰還された。だが、この時の私はそのような事は考えもつかなかった。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第九幕 出会いきたりて

――――関羽

 

私が旅をしている理由は二つある。

一つはこの戦乱の世を終わらせる事。もう一つはとある御方のお側に仕え、何時如何なるときもその御方と共にいるということ。

 

その御方は慈悲深く、この混沌とした世を糾すために立ち上がった御人…

皆から愛され、皆を愛する私が敬愛してやもない人である。

旅の仲間はその御方と私の義妹である少女。

コイツは破天荒で良くいえば場の空気を盛り上げ、悪くいえば厄介事を運んでくる少女だ。しかし、何だかんだ言いながら手に掛かる子ほど可愛らしいというように、ソレすらも私の日常になりつつある。

 

さて、話は変わるが私達は今かなりの規模をほこる賊共に取り囲まれている。

何ら不思議な出来事ではない。今の世、女三人で旅をしていて賊に絡まれないなんて甘い考えは生憎と持っていない。

 

何時もなら私と私の義理の妹が何とかするのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、愛紗ちゃん…何だか規模が大きすぎない?」

 

「心配ありません。桃香様は私と…」

 

「鈴々が護るから心配しなくていいのだ!」

 

いつ現われたのか?という程、突然こいつ等は現われた。

皆一様に頭部に黄巾を巻き、賊だというのに妙に統率された動きで数千人規模で…

 

恐らくこいつ等が今の世を乱している黄巾党…成る程、確かに一介の賊とは訳が違うな。

一人一人の武はなっておらず有象無象の集団のような奴らだが妙な統率が取れている。

そこら辺にいる盗賊はただ突撃する事しか能が無い連中だが、こいつ等は我等一人一人を分断させるように動いている。

だがしかし、幾ら統率が取れていようとも所詮は人の道から外れた外道共。陣形の形成は甘く、未だ我等三人をその場から動かせていないでいる。

 

その事に鈴々も気が付いているようだ。なるべく私と桃香様から離れないようにしている。桃香様を護りながら戦うという不利な状況下ではあるが、私と鈴々が居れば可能だと思っていた。

しかし、そんな慢心した私の心が何処かに隙を創ってしまったみたいだ。

 

「愛紗、不味いのだ! 何だか崖に追い込まれている!!」

 

…チッ!油断しすぎてしまったようだ。気が付いたら我等は桃香様を後ろに崖の下へと追い詰められてしまっていたのだ。前方には数千人規模の黄巾党の軍勢…背後には聳え立つ絶壁の崖…

恐らく、この状態で戦った場合数で押し切られてしまう。幾ら我等の武が奴等よりも高かろうがこの状態はいただけない。数で押し切られたら最後、青龍偃月刀も鈴々の丈八蛇矛も振るう事敵わないであろう。

 

この状況下で既に勝利を確信したのであろう。目の前の男共は下劣な笑みを浮かべながら一歩、また一歩と我らとの距離を縮めてきている。

この後に我等に降りかかるであろう事を思うと背筋が凍りつくような思いとなった。だが、しかし…

 

「だ、大丈夫だよ二人とも…コレだけの人なんだもん。きっと正規軍だって近くに来ている筈…」

 

そんな我等に桃香様は健気にも励まそうとしてくださっている。確かにコレだけの規模であるならば桃香様の言うとおり正規軍が動いていても可笑しくは無い筈だ。しかし、今すぐに我等が追い込まれているこの崖に駆け付けてくれるなどという都合の良い話は残念ながら皆無に等しい。

 

つまり、この場は我等でどうにかしなければいけないのだ。

 

―――――――――――ジャリ…

 

そんな折り、黄巾党の軍勢の中から三人の男が前に出てきた。

恐らく降伏勧告であろう。しかし、我等はそんな脅しに屈することは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――グシャリ…

 

 

『――――――――――ギャァァァァァァ!!!!』

 

その瞬間、私は自分の眼を疑った。隣にいた鈴々と桃香様の息を飲む音が聞こえた。

二人もまた、私と同じような心境に陥ったに違いない。

 

まさに一瞬の出来事であった。

我等の前に出てきた三人の男…しかし、私は奴らの声を聞くことはなかった。

何故なら………

 

 

 

 

 

 

 

 

奴らの頭は一瞬の内に吹き飛んだのだから…余波を食らったのだろう。三人の後ろにいた男共の汚い悲鳴が辺りに響き渡った。

 

――――――――――――――な、何が起こったというのだ!? 言い知れぬ不安と恐怖が私の動きを鈍くする。

決して自らの身に降り掛かろうとしている明確な『死』に恐怖しているのではない。

 

……横目で共に旅をしてきた義妹と主の姿を見た。

 

喩え私はどうなっても、この二人だけは…

 

堰月刀を握り締める力が無意識のうちに強くなっていた。

そして、始めに動いたのは………以外にも黄巾党の中の者だった。

 

「お、おい…この三節棍は……………まさか!!?」

 

「あ、あん時の化け物か!?」

 

「に、逃げろぉぉ!!喰われちまう!!!」

 

 

―――――――――――三節棍?化け物?

 

 

奴らは何を言っているのだろう?

何かを見て蜘蛛の巣状に撤退し始める一部の輩。ふと地面に目を向けると、私達の近くに真っ赤に濡れた棒に鎖が付いたナニカが地面に突き刺さっている。

 

そして、逃げ出す黄巾党の顔は悪鬼羅刹を見たような恐怖に支配されている。

いったい何が…………?

 

「あ、あああああ愛紗ちゃん!う、上〜〜〜〜!!」

 

そんな折り、私の背で身を隠していた桃香様が悲鳴とも取れる声で私に何かを訴えている。

 

―――――――――上?

 

私は反射的に頭上を見上げた。思えば、敵を目の前にして何たる無謀な行為だと思ったが、桃香様の尋常ではない御様子…確実に何かが…

 

そんな私の読みは良い意味で叶うこととなった。

始めは私の眼に何ら異変は映し出されなかった。しかし、直ぐに…

 

「…………鳥?…いや、あれは…―――――――――――ッ!!!? 人か!!?」

 

只何も無い状態でそびえ立っていると思えた断崖絶壁の崖…其処に突如として現れた黒い影を私は始め鳥かと思った。しかし、ソレは徐々に人の形を織り成していき…私に『人が飛び降りた』という事実をまごう事無き真実を伝えた。

 

「な、何を馬鹿な事を!!?この高さから飛び降りるなどと…自害するつもりか!?」

 

誰だかわからぬが崖から飛び降りるなどと愚の骨頂である。そんな事をしたらどうなるのか等は子供でも理解できる。

勿論、始めに発見した桃香様をはじめ、私と鈴々は既に飛び降りた人物は死んだものと思った。

 

…………しかし、この時私は確認するべきだったんだ。

黄巾党の極一部の者が私達と同じように崖上を見つめていた事を。そして………

 

―――――――――――その眼が先程、逃げ出した黄巾党と同じく恐怖に支配されていた事を…

 

次の瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――スガァァァァァァァァアアアアン!!!!!!

 

耳を貫かんばかりに響き渡る轟音と共に…

 

「―――――――――――――――― な、なぁ!!?」

 

「人が吹っ飛んだのだ!」

 

我等の前に対峙していた黄巾党のうち前衛にいた数十人が…紙屑のように……まるで投石器が放った岩が直撃したかのように…吹き飛んだのだから…辺りを砂塵が覆い隠して飛び降りた者の安否は確認出来ない

 

「ふ、二人とも!中に人影があるよ!?」

 

桃香様の悲鳴にも似た声によって現実に引き戻された私は慌てて砂塵の中心へと視線を移動させた。

 

砂塵により塞がれていた其処には私の常識を疑うような光景が………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………無事……か?」

 

広がっていた………これが私達と凌統との出会いであった。

 

 

――――凌統

 

走る~走る~ゆぅとぉ~くん♪

流れる汗もそのま~ま~に~

 

やぁ、爆風で不調に陥ってしまった方達の歌を脳内BGMに変換して久々に全力走者をしている凌統君だ。

またもや俺のポカにより三節棍の犠牲者を増やしてしまうという正に絶体絶命で崖っ淵に立たされている。

まぁ、自業自得と言われたらそれ迄なんですがね。

こんな事なら先に帰ってもらった副長さんに三節棍を預かって(以下ry

 

そんなこんなで俺は三節棍が直撃してしまったと思われる三人の人物を目指して全速で地を駆けている。

 

しかしあれだね。吹っ飛んでいった三節棍は相当の勢いがあったんだろうね。

悲鳴が聞こえたほうに向かっても未だに人の姿を確認できないんだよ。

 

もうマジでヤバいよね?最悪な状況になっていたら、入って早々ながら公そ…じゃなかった。白蓮さんの所から『あばよとっつぁん』みたく逃げ出さないといけない状況だよね?

 

…よし、鬱っちまうな話を変えよう。…しかしながら、凄いよな微妙にチート気味なこの身体。明らかに馬より速く走っているんだぜ?

前世の俺からしてみたら有り得なさすぎなスピードだぜ?

 

人間は追い詰められると火事場の馬鹿力が発揮されると聞いたことがあるけれど、今の俺は間違いなくそれだね。

べ、別に額に『肉』って書く気なんてないんだからね!! 牛丼,カルビ丼は好きだけれどⅢ世になる気なんて無いんだからね!!

……色々と変なテンパり具合な凌統君です。

 

さてさて、そんな事を言っている今現在でも俺はこの世界に生まれ落ちて今まで感じたことが無いような感覚を味わっているわけよ。

何ていうのかな…そう、まるで飛んでいるような感覚になるくらいだ。

凄いよな、脚に全く負担が掛かっていない感じなんだよ。『あ~い・きゃ~ん・ふら~い!』って言いたくなるもんな。……何でだろう? 誰かが『いぇ~す!ゆ~・きゃ~ん・ふら~い!!』って言った気がする。

 

……疲れているわけでも、頭がおかしくなった訳でもないから悪しからず。

しかしながら、必死になるとここ迄の力が出せるんだな俺の身体…

 

………………だけれど何でだろう? さっきから景色が殆ど変わっていないような…更には何だか、下から下から新しい世界が開拓されるかのような…簡単に言えばフリーフォールに乗っている感…か…く……が……………ん?フリー………って、俺の身体何か知らんが落ちてねぇか!!?

 

気付いたときには既に手遅れとはよく言ったものだと思う。

俺の身体は既にかなり落ちていたみたいで…ってか、崖から落ちたのね俺の身体?

 

崖っ淵に立たされている状況だとは思っていたけれど、まさか本当に崖からロープレスバンジーを決め込むとは………冷静に考えている場合じゃねぇぇぇぇぇ!!!!

ふと、俺は自分がこのまま落下した場合の着地地点を見てみた。

うわぁ~い。黄色い団体さんのお通りだぁ~…………………………え"!!?

アレってもしかしなくても黄巾党の軍勢だったりしちゃう感じですか!!?……ま、不味い…ひじょ~に不味い!!

何が不味いかを口で言えない位、不味い!!

更にはこのまま行くと俺の体は地面とごっつんこでぺちゃんこでもっと不味い!!!!

ど、どうすればいいの俺!!? ………いや、少し考えろ俺。仮にも見た目は無双さんの凌統と同じなんだ。だったら、空中↑+強攻撃で地面の敵をある程度一掃出来て、尚且つ自分にダメージを与えることなく着地が出来るんじゃないのでしょうか!!

 

良い感じでテンパっていて三節棍を持っていないとかそういう条件を全く無視していた俺は即座に行動に移した。

武器が無いので取りあえずは自分の足を武器代わりにして、踵落としの要領で地面へ向かうスピードをアップさせた俺。そこで、ふと黄色い布をかぶっていない3人組の女の子が視界に入ってきたんだ。

しかも、その傍にあるのって………………………俺の三節棍!!!?

って言う事は何かい? 三節棍ってあの3人に当たったの!!!? うわ、うわ~!!? 生きているから良いものの、よりにもよって女の子に当たるなんて最悪すぎやしませんかい!? しかも、黄巾党に囲まれている状況なんて……あれ?でも、聞こえてきたのは男の声だったような………いや、きっと俺の聞き間違いだろう!

取りあえず、あの女の子達の無事を確かめて、謝罪の意味を込めて黄巾党さん達にはご退場願いましょう。

そんでそんで……………………慰謝料とかって幾らくらいが相場なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――ズガァァァァァァァァン!!!

 

特に黄巾党とは関係ない事を考えながら俺は地面に大穴をあけて着地した。

その時、砂塵が辺り一面に立ち視界が全く無くなってしまったのは予想外だったけれどね。

そして、徐々に砂塵が消えていき俺は…

 

「……………………無事……か?」

 

取りあえずは最優先事項である3人の女の子の安否確認をした。

 

『…………』

 

あ、あれ?何だか滑った感が否めないような…しかも、この子達ケガらしいケガはしていないし…

寧ろ、気になるのは………

 

この地面にめり込んでいる真っ赤なインクを塗り手繰ったような毒々しいながらも、どこか懐かしい武器と…

 

地面に倒れこんでいる頭の無い人の身体といいますか…簡単に言えば、何処の首無しライダーに襲われたのだろうか?と言うくらいグロ系満載の黄巾党の服を着ている胴体…

つまるところ……………俺の三節棍は敵サンセンサーを搭載しているハイテク型ということでいいのでしょうか?

 

―――――――― うん、現実逃避は良くないね。

取り敢えず今やらないといけないことは…

 

「この間の雪辱戦だ!野郎共やっちまえ!!」

 

一にも先にも変わらず黄巾党の殲滅だったりするんだよなぁ〜

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十幕 誘われて

――――凌統

 

やぁ、何だか最近小市民生活とは程遠い日常を送っている凌統だよ。

三節棍に導かれて辿り着いたのは数千にも昇る黄巾党の軍勢…そして、血塗れな相棒(三節棍)と、その傍にいた三人の少女。

 

取り敢えず優先順位をつけるとしたら…

 

 

―――――――――ズボッ…

 

 

未だ地面から頭しか出していない三節棍を引っ込抜いてみた。

かなり深くまで刺さっていたのだろう。抜いた三節棍は血やら泥やらに塗れている。

…簡単に言うと、酷く汚い状態だ。

 

そんな時、ふと地面に眼を向けると、俺の足元にどこかで見たような黄色い布が…

恐らく、黄巾の奴が巻いていたモノだろう。まぁ、これでいいかな。

 

そのように結論づけた俺は何の迷いもなく黄巾を拾い上げた。

 

 

『――――――――――――ッ!!?』

 

 

な、なんだ?何かしらんけれど、周りの人達が息を呑む音が俺の所まで聞こえてきたんだが…

しかも、黄巾党+その場にいた少女達もなんて…

 

俺は何もしていないよ〜

ほら、ただこの布で三節棍に付いた血やら泥やらを拭っているだけだよ〜

 

そんな感じで俺は何も疾しい事はしていない事をアピールしながら黄巾で三節棍に付いた汚れを拭いさった。

途端に赤茶色に染まった黄巾…そして、三節棍に付いた粗方の汚れを取った俺は何もしない事を強調しながら黄巾を手から離した。

重力を受けて血を吸い込み、少し重くなった黄巾は一直線に地面に音もなく落ちた。

 

……あり?そう言えば、何だか同じような事をつい最近やった気が…

何時だったな…?確か、本当に最近の出来事だったんだよな……そう、確かアレは…

 

「――――――な、なんと!桃香様、もしやこの者は、最近噂に流れ出ている各地の村で賊を一掃しながら旅をしている者では!?」

 

「鈴々もこの前、ラーメン屋のおっちゃんに聞いたのだ。えっと…賊をやっつけてもお金は取らないで一晩泊まっていくだけなんだって!」

 

「わ、私も聞いたことがあるよ!確か…黄巾党と戦った後はその人達の黄巾で武器に付いた血を拭っているって…」

 

…何その噂? 俺の記憶が正しければ、黄巾で血を拭ったのは今やったのを含めて二回目だし。

いや、確かに日々金欠だった俺と母は泊めてもらう代わりに賊の討伐をしていただけだから。

 

どこをどう回り回ったら、そんな厄介な噂が立つのかが知りたいですよ。

……………あり?そういや前回、黄巾で血を拭った時ってかなり面倒臭い事に巻き込まれたような………そう、具体的に言うのであれば今と同じ事をしていたときに…

 

「我等の象徴である黄巾を血で染め抜くとは…余程死にたいらしいな!」

 

そうそう、内容は違うけれど、同じ様な事を言われた気が……………………え"?

 

「野郎共、やっちまえーーーーーーー!!!!」

 

なんで、こうなるのーーーーー!!?

そして、押し寄せてくる数千人規模の黄巾党御一行とソレに立ち向かう自称小市民の俺。

普通なら勝敗は明らかだが、生憎とこの身体は普通じゃないんだよな。

 

そんな事を考えていた凌統〇〇歳、ある日の出来事であった…

 

え?伏せ字?……そんなのは飾りです!

 

 

 

――――劉備

 

 

私達の眼前に現われたのは髪を後ろで結った無表情な男の人だった。

その無表情な顔に合わせて眼を引く身体の奥底から凍り付いてしまうと錯覚するほど冷たく、何を想っているのか伺う事が出来ない瞳……

登場の仕方はまさに劇的過ぎると言っても過言じゃないかも知れません。

だって、空から降ってきたんだよ?

普通なら間違いなく死んでもおかしくない高さの崖だ。

ふと崖を見上げると………………………うん、何処まで有るのかわからない位の高さ。

 

そんな彼は着地して早々に、地に深く突き刺さった棒状の武器を無造作に引き抜いた。

飛んできた時は一瞬の事でよく見ることは出来なかったが、あの武器は三本の棒状のものを鎖で繋いだ物みたい。

武器の全貌を見ても今一ピンとこなかった。

だって、刃も何も付いていない只の棒で人の頭が吹き飛ぶなんて…

 

後々、愛紗ちゃんから聞いたんだけれど、あれは『三節棍』っていう武器で人の頭を吹き飛ばすには相当鍛練を積まないと無理なんだって。

 

最も、この時の私はそんな事を知る由もなかった。

おとと、話が逸れちゃった。えっと……私が小さい頃の話だったっけ?

………え、違った?

 

えと、えっと………あぁ!私達の前に現れた男の人の事だった。その人なんだけれど、急に落ちていた黄巾で武器に付いた土とか血を拭きだしたんだ。

その瞬間、私は思い出したの。つい最近黄巾党の人達を倒してその黄巾で血を拭っているっていうまるで《英雄》みたいな人の噂を。

 

《天の御使い》みたいな真実味に乏しい噂じゃなくて実際に会ったことのある人の言葉を…私だって、その話を聞いた時は『そんな人が一緒にいてくれたらな~』って思っていた位なんだけれど、まさか実際に会っちゃうなんて…そして、もっと驚いたのが愛紗ちゃんや鈴々ちゃんもその人について聞いたことがあったんだって。

でも、これで間違いないよね。三人が三人ともその人を連想するなんて…きっと間違いないよ!この人が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦乱を凌ぎ(しのぎ)全てを統める(おさめる)者…!!」

 

きっとこの瞬間に歴史は動き始めたんだと思う。

 

 

――――凌統

 

やぁ、再びな凌統君だ。かなりきゃわいい女の子三人(一人は犯罪チックな匂いがしたけど)をバックにハッスルしちまった俺は当社比30倍位のやる気で黄巾党に向かっていった。途中、女の子の内二人が一緒に闘おうとしていたけれど、俺は敢えてその二人の方に敵がいかないように誘導したり迎撃したりして一人で頑張ったんだ。

だって、武器を持っているとはいえ男が女の子に手伝ってもらうって何だか癪じゃね?って言うか、知らない子とはいえ、少しはカッコいい所を見せたいって言うのが男の性(さが)ってもんよ~…………ごめんなさい、調子こきました。実は言うとかなり手伝って欲しかったです。ですが、何故か黄巾の皆様は俺の方ばかり向かってきたので仕方なくです。

一応さっき言った二人の女の子が手伝おうとしてくれたのは間違いないんだけれど、何故か俺の方ばかり敵が集中…………ハッ!!!? ま、まさかあれか!!? 黄巾の皆様方は実はガチな兄貴属性の方達しか居なくて捕まったら最後『アッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』 みたいな状況に持ち込まれるのではないのでしょうか!?

だからそんな属性を持ち合せていない俺をそちら側に引きずり込もうとしているのでは!!? そ、それならば色々と説明がつく様な気がします。

な、ならば俺はこんなのんびりと物事を考えずにさっさとコイツらを如何にかしないといけないのではないのでしょうか?

 

思いこんだら一直線の俺はそう結論付けて自分の大切な『ナニカ』を護るために自分の背後に立った奴を優先的に三節棍でぶっ飛ばし続けた。……え? 何で背後に立っている奴が解るのかって? いや、だって……そういう仕様じゃね?

身も蓋も無い事を思いながらも俺は三節棍を…

 

振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう…以下エンドレス

 

みたいな状況で頑張ったんだ。そして気が付いたら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ…千を超える規模だったというのに…野郎共退却だーーーーーーー!!!!」

 

やった!! 俺は護り切ったーーーーーーーー!!!

主に俺の大切な何かを護ったぞーーーーーーーーーー!!!!

 

 

 

 

「あ、あの!」

 

心の中で万歳三唱をしている俺に誰かが話しかけてきた。と言うよりも、この場で話しかけるという選択肢が出てくるのは三人ほどしか俺には思いつかない。

そ、そうだった!!!!? 確か俺は怪我こそは無かったものの、女の子に三節棍を当ててしまうという暴挙に出てしまったのだった!!?

 

あわわわ~ど、どどどどどどどどうしよ~!!

 

えとえとえとえと…と、取りあえず…

 

「大…丈夫……か?」

 

「―――――――― へ!? あ、そ、えっと……はい、貴方のお陰で私達は無事でした。ありがとうございます!」

 

うっへぇ~い。何だか言いたい事が伝わってない感が否めない現状だぜ。

流石、コミュニケーションスキル[C-]な俺だぜ。簡単な会話ですら伝わらないとは…

 

まぁ、その辺はいいや。本人さん達もあんまり気にしていないみたいだし、軽く謝罪をしてこの場を去ろう。

 

「……すまな……かった…な」

 

よっしゃ、言い切った。

俺は言いたいことを言い残してその場を去ろうときびすを返した。

しかし……

 

「ま、待ってください!!」

 

何やらピンク髪の子に引き止められてしまいました。

な、なんでしょう?やっぱり慰謝料かなにかを請求させられるのでしょうか?

生憎、今の俺は公孫讃さんの所で働き初めてからまだ日も浅いので纏まったお金は用意できないのですが…

 

いや、少し待て俺。あの黄巾党の連中、俺を見つけてから俺にばっか向かってきていたよな?

と言うことはだ……

 

黄巾党に襲われる→俺登場

→黄巾党「あいつはこの前の!野郎共、この女達よりあいつを先に倒せ!」

→女の子①「…あれ?私たちって巻き添い?」

→女の子②「これって、あの男の所為?」

→女の子③「慰謝料倍増~」

 

みたいな図式になってもおかしくないよな!?

……ヤバくね?この時代にはないかもしれないが、臓器を狙われている感がマジぱねぇ〜

いや、この時代で現実的に考えると、一生奴隷のように扱き使われて…誰にも見取られる事無く…

 

『……んまっ…つぁ…ちょぎっ(対訳:マヨネーズをお持ちいたしました《空を仰ぎ見て》)』

 

地味な内容の割には軽快な名言を後世に残す羽目になるんでしょうか!?

しかも、自分で言っておきながらあれだけれど、何だかマヨネーズを空に向けて差し出しているという訳のわからん状況だし…あ、これはゲームのネタか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………だから、ちげぇぇぇぇぇえええええ!!!!!

 

そんな事を考えている場合じゃないんだってば! そもそも、この時代にマヨネーズは無いんじゃないのか?

しかも、何時もの如く内なる俺を表出出来ないもんだから無表情の俺が振り返りながら固まっているっていう変な状況になっているし!!?

 

「貴方が謝る必要なんて無いんですよ。だって、貴方はこうして私達を助けてくれたじゃないですか!」

 

「そ、そうです。我等はあのままでは一体どうなっていた事か…」

 

「お兄ちゃん強いんだな〜鈴ヶと手合わせをしてほしいのだ!」

 

……何だろう? 感謝されている……のか?

いやいや、そうだとしても一人だけ違う事を言っている感じがするのですが。

 

いや、たぶん気のせい…だと思いたい。

………およ?そういえば、話はかわるけれど、副長さんには先に帰るように言ってあったな…なら、副長が心配しないうちにさっさと帰ったほうがいいかな?

だったら…

 

「…三人旅は…気を付けろ」

 

「えと、えっと……ありがとうございます!私は劉備。字は玄徳っていいます」

 

――――――――――あい?

 

「ありがとうございました。私は関羽。字は雲長といいます」

 

――――――――――うえ?

 

「鈴々は張飛翼徳なのだ!」

 

――――――――――オオォォォォ!!!?

 

何だって、こんなビックネームが三人旅を!?

…いや、そもそもこちらまでもが…

 

――――――――――お・にゃ・の・こ・か!!

 

趙雲、公孫讃についで劉備、関羽、張飛の性別が逆転しているなんて……もしかして、曹操や孫策も……いや、やめておこう。

孫策ならまだしも、覇王になりたいって言っている曹操が想像つかないや。

 

って言うか、この身は呉の武将だってのに、呉とは関係ないビックネームに遭遇しているこの状況に驚嘆を感じ得ないよ…驚いたって事さ。

………今更だけれど、俺って本当に呉の武将になる凌統であっているのかしら? だって、劉備とね絡みなんて凌統の歴史上聞いたことがないし…

誰でもいいから5W1Hで説明が欲しいところDA☆ZE!

 

『間違いなく呉の凌統であっているわよ?』

 

そっか〜なら納得………………………………………………ん?

 

『反応うっすいわね〜あんた、その性格をどうにかしないとハーレムルートいかずにガチ………なルートに突入するわよ?』

 

《ガチ………》って何ですか!?

その点々部分からは危険なニホイしかしねぇぇ!!

あと、ハーレムつったって前世で女気皆無な俺には程遠いです!

そして、あなたは確か〔自称ごっどぅ〕さんではありませんか!!?

お久しブリーフなユート君です!

 

『ギャグ古ッ!! …いや、此処は過去の世界なんだからある意味で最先端すぎるギャグになるのかしら?あと、その呼び名だと私の苗字が自称で名前がごっどぅって言う考えられない名前になるからやめてちょうだい。最後に、その自己紹介の仕方はファンタシーな世界の部族な少年を連想させるわよ?』

 

す、スゲー…何段ツッコミですか…?俺にはある意味で真似できない。

……いや、最後のは二度ネタか?

 

って言うかごっどぅさん、久しぶりだねぇ〜元気してた?

 

『人の話は聞きましょうって習わなかったかしら!!?

兎に角、君は間違いなく呉の凌統であっているわよ。ただ……』

 

ただ?

 

『これは間違いなく君の生きる世界って事。殴れば痛いし、心臓を刺されたら死ぬ。そして、君は君の思うように生きることが出来る世界ってわけ』

 

………わかったようでサッパリわからん。

 

『今は其れでも無問題よ。その内理解できるわ』

 

……そんなもんかね?

 

『そんなもんよ。さて、いい加減正気に戻りなさい。あの娘達が困っているわよ?』

 

あ、ちょ、待てよ!!

 

最後に一言意味のわからない言葉を残して自称ごっどぅさんの声は聞こえなくなった。

何故いきなりあの人の声が聞こえたのかはわからない。いや、そもそも幻聴っていう可能性だって否定し切れていないし…まぁ、気にするだけ無駄だね。

 

 

「……………ぉ…」

 

 

しかし、俺が本物の凌統だとしたらどのタイミングで呉に行けばいいんだろう?

 

 

「……ぁ……ぉ〜…」

 

 

しかしながら今は白蓮さんの所でお世話になっているんだからおいそれと出ていくわけにも行かないし…

 

 

「あ……ぉ…〜」

 

 

あり?そういえば、さっきまで誰かと話していたような…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――あのぉ!!」

 

ウッヒョイ!!

―――――――――――ハッ!!?

やべぇそう言えば、自称劉備ちゃん達と話している最中だった。

と、兎に角、この女の子が本物の劉備なのかを聞かねば!

 

「………劉……備…?」

 

「はい♪劉備です」

 

そっか〜りゅーびなのか〜

そんでこちらの黒髪少女が…

 

「関………羽……」

 

「えぇ、関 雲長です」

 

そんでもって、此方のロリィで、いかにも活発そうな女の子が……

 

「張……飛……」

 

「そうなのだ。お兄ちゃんは誰なのだ?」

 

…なんだろう、この心の奥底からマグマの如く滲みだしてくる暖かな感覚は……?

 

―――――――――あぁ、そうか。此れが…………萌えか…

 

今迄、呼ばれた事のないような呼称だったもんで、ついついトリップ気味になる俺。

………は、始めにいっておきます!俺は小さい子を愛してしまうような特殊な性癖は持ち合わせていないからな!

……でも、愛でる事くらい許していただけたら幸いかと存じ上げますが何か?

 

 

―――――――ナデナデ…

 

「うにゃあ?何で頭を撫でるのだ?」

 

おぉうっと!? 無意識のうちに左手が俺の意志に反して動き始めているゼ!!?

や、やばい…このままでは、急に頭を撫で始めた変態の烙印を押されてしまうではないかな!?

 

俺はあわててエイリアンハンドみたく、勝手に動きだした左手を引っ込めた。

 

「すま…ない……俺は凌統………字……公積」

 

いつもと同じく、微妙に事足りないコミュニケーションでなんとか自己紹介をした俺。

勿論、勝手に頭を撫でてしまった事を謝罪するのは忘れない。なぜなら俺はジェントルなんだから!

 

「凌統……やはり、貴方様が『戦乱を凌ぎ(しのぎ)全てを統める(おさめる)者』でございますか!?」

 

うへっ? 俺の自己紹介が終わるや否や、黒髪の関羽さんがなにやら興奮した面持ちで俺につめよってきた。

…って、ちかっ…近いですよ関羽さん!?

いきなり顔を目一杯近付けないでください! あ、ほら今、唾が飛んで…あ〜も〜! だ・か・ら!

 

「近付き……過ぎ……だ」

 

「―――――――へっ? ………あ、あぁっ!? し、失礼いたしました…」

 

そういいながら羞恥から少し頬を赤くしながら関羽さんはすごすごと後ろに下がった。

ってか、何だか今少しばかり厨二臭い二つ名みたいなのが聞こえた気がするんだが…

 

「にゃはは〜愛紗は慌てすぎなのだ〜」

 

「ぐぬぬ………鈴々にしては珍しく正論なだけに言い返せん…!」

 

仲がよろしい事で〜ってか、始めてあった俺の目の前で真名を言われると困るのですが…

さらに言えばさっきの二つ名はきっと俺ではない誰かかと…

 

「ふ、二人とも。凌統さんが困っているよ〜」

 

そう言いながら劉備さんは二人をたしなみはじめた。

そうだ劉備さんもっと言ってやれ!

 

「それで凌統さんは、今迄どれくらいの人を助けてきたんですか!!」

 

うおっと……ブルータスお前もか?

っていうか、何だか俺のことについて色々と勘違いしていませんか?

取り敢えず、俺がそんな立派な人ではないことを言っておかなければ…

 

「………そんな…立派…な……ものでは…な…い…」

 

「御謙遜される事はありません。凌統殿は立派な事をされてきたのですから!」

 

関羽さんの熱の入り様がハンパねぇ〜

ってか、こんなところで時間をかけている場合じゃないよな。

副長さん達に先に帰ってもらってから大分時間が経っちまったな…早く帰らねば。

 

「話が…終わった……のなら……俺は行く…ぞ……」

 

再びきびすを返して帰ろうとした俺。しかし……

 

 

――――――――――グッ!

 

何やら手を引かれるような感覚~……………え?

 

「あの……あのっ!!」

 

何かを訴えるような目で俺を見上げながら両手で俺の右手をホールドしている劉備さん。

 

しかしながら、女の子の手に触れるなんて小学校の時のフォークダンス以来だな~

あの時は俺のあまりの無表情っぷりに運動会最中に相手の子が号泣してしまうという果てしなく悲しい思い出だったな。

あ、あれ?なんだか視界がぼやけてきたような……べ、別に泣いてなんかないやい!

ただ少しだけ、心から若かりし頃の甘酸っぱい思い出に浸っていただけだい!

 

…………………グスン

 

そんな事はお構いなしにと劉備さんは話を続けた。

 

「――――――――――――私達と…私達と一緒に旅をしませんか?」

 

……………………………はい?

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十一幕 お連れができて

――――凌統

 

「――――――――――――私達と…私達と一緒に旅をしませんか?」

 

イキナリ初対面の女の子に受け取り方を間違えたら告白されている様なシチュエーションなう。そんな状況の凌統です。

な、何が起きたかわからねぇって? 大丈夫だ俺にも何がなんだかさっぱりな状況なんだから。理解も納得もするわけねぇ状況だ。

 

それに、後ろの二人を見てみんしゃいな。突然の劉備さんの言葉に眼をまん丸にしているよ。驚いているって事が他人とコミュニケーションを取るのが苦手な俺ですら容易に分かるよ。

そしてこの子………………すべっている!!

 

「……じゃあ…な」

 

「……はぅ!!? 早速振られた!?」

 

…え?告白だったの!?

いや、これもフリなのかもしれない。だったら、変に乗っかちまわない方が良いな。

 

「…桃香様、前置きをすっ飛ばして突然その様に言われては誰でも断るかと」

 

「お姉ちゃんは慌てんぼうさんなのだ~」

 

ほらみろ~関羽さんや張飛ちゃんもイキナリで呆れて居るじゃんか~…と言う訳で俺は帰る。

 

「でもね愛紗ちゃん。私達だって何時までも3人で旅をするなんて……って、凌統さん待ってくださいよ~!!」

 

え~…まだ何かあるの? って言うか、あんまり三国志の主要人物と関係を持ちたくないんですが…

まぁ、星さんや白蓮さんと知り合いになった時点で手遅れっぽい気もするけれど、俺は自負共に小市民で、前世では果たせなかった平穏無事な毎日をこの世界で送るって決めていて…

しかし、そんな俺の想いとは裏腹に劉備さんは捲し立てるように話を進めた。

 

「私達は変えたいと思っているんです!!」

 

「……変え…る?」

 

はて? 変えるとは一体何をでっしゃろう? 今のすべっているこの現状でっしゃろうか? ……はっ!!? 帰ろうと思っていたのに気が付いたら歩みを止めてしまっている自分が居る!!

くっそ~ 一度足を止めてしまったのなら、最後まで聞いてしまう性分な俺はこれでは帰れないではないか!

そして、劉備さんの言葉に付け足す様に張飛ちゃんが喋り出した。

 

「今の世の中の事なのだ。漢王朝が腐敗して弱い人達から沢山税金を取って、好き勝手しているのだ。それに、盗賊達も一杯一杯いて、弱い人達をいじめているのだ!」

 

…お兄さんはそれ以前に、張飛ちゃんの口から漢王朝っていう難しそうな言葉が出てきた事に驚きだよ。いやはや、人はみかけで判断してはいけないと言うか、何と言うか…

さらに、其処に関羽さんも加わった。

 

「そこで我等三人が立ちあがったのです。…ですが、どうすればよいのか方策を考えている所で管輅の占いと…」

 

「村の人達が話している『噂』を聞いたんです」

 

……これまた、占いと噂って……そんなものを現代で当てにしたら世の中を生きていくのは難しいというに…

しかし、占いと噂か……

 

「『この乱世に平和を誘う使者』…そして、『戦乱を凌ぎ全てを統める者』。前者は自称大陸一の占い師、管輅の言葉で、後者が最近実しやかに騒がれている者を示した言葉です」

 

なるへそ。何だかどちらも胡散臭いって言うことには変わりないと……あり? でもさっき関羽さんって俺の事を…

 

「それで、占いは何だかあやふやだけれど、農民の人達が言っていた噂ならまだ信憑性があるかなって思って……」

 

え……え?何その期待に満ち満ちと溢れかえってしまったその眼は!? ま、まさかその噂の人物って…

そこまでふられたら幾ら俺でも分かっちまったじゃねぇかよ!!

 

「……それが……俺…か?」

 

つまるところ、その噂って言うのが持っているカリスマ性を頼りにこの辺りまで来たって事なのでしょうか? ……何て言うか、凄い人達ですね。まさか、そんなものを頼ったなんて…しかし、こんな所までご足労戴いたのに申し訳ないが、俺はそんな危なさそうな事に関してはなるべく関わらないようにしようと決め込んでいる。

もう、これは決定事項だ。そういったものは他を当たってくれって感じだね。

 

「…それは……お前達の勝手だ……俺には……俺の進むべき道(平穏無事な日々)が…ある……」

 

「「「…………」」」

 

あ…あり?何だか黙っちまったんだが…なんか変なことを言ったか?

 

「…凌統さんの進むべき道は険しい道…ですか?」

 

ほへ? 俺の平穏無事な生活に興味があるのかな?

まぁ、確かに険しいかと聞かれたら今の状況から言うと険しいっちゃあけわしいかな。

 

「そう……だ…な……今の状態…で…は……程遠いかも…な……」

 

本当にこのままじゃ、憧れのスローライフは何時になることやら…

 

「なら……なら!私達に凌統さんの目指す道を共に歩いていくことを許してもらっても…いいですか?」

 

……………なんだろう?やっぱり告白されているのでしょうか?

いや、勘違いしちゃいけない!昔誰かに聞いたことがあるぞぉ~

女の子という人種は無自覚に男が『惚れてまうやろー』と言ってしまう言葉を言うって聞いたことがある…

 

つまり劉備さんは、純粋に俺のスローライフを手伝ってくれるというわけで…

そ、そういうことならば、純粋に嬉しいぞ!?

 

「……何…故…?」

 

「何故って…ソレが(世の為に)必要な事だと思ったからです!!」

 

な、成程…(俺にとって)必要な事だと思ってくれているのか………何故だろう? 果てしなく勘違いが何処かで起きている気もしないでもないが、劉備さんも必要な事だと思ってくれるんだな!?

あ、ヤベッ…嬉し過ぎて涙が少し出てきた…

 

「お兄ちゃん…泣いているのか?」

 

しかも見られてしまったではないか!?

 

「…あぁ……理解し…て……くれる人物に…会えたと思うと……な」

 

もう、見られちまったのなら、隠す必要なんて無いよな? 本当にこの世界の人達と来たら、俺の言いたい事を一ミクロンも理解してくれないんだぜ!?

それなのに、そんな中で俺のスローライフを応援、更には支援してくれるって人が現われたんだぜ?

泣くなって言う方が無理ってもんだろう。

 

「な、ならば我等も…!!」

 

「……そう…だな……共に……来てくれる…か?」

 

もう、寧ろ俺の方からお願いしますって感じだよ!! 俺の夢(スローライフ)達成の為に一緒に頑張ろうではないか!!

 

「喜んで!」

 

「宜しくお願い致します凌統殿」

 

「にゃはは~仲間が増えたのだ~」

 

やったぜ!何だかお仲間ゲットだぜみたいな感じだ!

…そうだな、仲間が出来たんだから手始めに白蓮さんの城から出て、何処でも良いから村に永住をして……

 

「貴方様の生きる道…この曇りなき眼にてしかと刻み込みましょう」

 

「……あし……た…………イヤ…何でもない」

 

あっぶねーーーーー!! って言うか、何で関羽さんは○の○け姫の名台詞をサラリと言っちゃうかな!?

危うく未だ映画という概念すらないこの世界で『アシタ○!?』って突っ込んじまう所だったじゃんかよ~

だけれど、変な所で切ったものだから、少し関羽さんが怪訝そうな顔をしているよ…まぁ、ソレについてはスルーしておこう。

 

「それじゃあ、凌統さんも私達の仲間になったって事で~あ、そう言えばこの近くに私のお友達が太守をしているって聞いたことがあるんだ。そこに行ってみようよ~」

 

……何故だろう? 果てしなく俺が思い描いているビジョンとは程遠い事をこの少女は言っている気がするのですが?

…いや、疑っちゃあいけねぇ。信じ続けることが重要だって昔の偉い人が言った気がする!!

……あれ? 信じる事…信じ続ける事…ソレが本当の強さだ。だったっけか?

 

………何故だろう? 果てしなく運命の物語弐って感じがしたんだけれど…

 

「それってどこなのだ?」

 

おぉっと…何だか一人ボケしている俺をサハラ砂漠に放置して話を進めちまっていやがるぜこの二人。

ねぇねぇ~よかったら俺も混z……

 

「えっとね、確か……………幽州啄郡…だったかな?」

 

……あり?ソレって今現在俺がお世話になっている所の様な気が……まぁいい………のか?

いや、別に白蓮さんも将が増えることに関しては歓迎してくれるだろうし…

 

そんなこんなで俺達は俺がお世話になっている啄郡へと向かったのであった。

 

 

 

――――関羽

 

先の凌統殿が一瞬だけ見せた影…恐らく、旅を続けてきた中で自分のやるべき事を見つけ出し、その道に向かって愚直に歩き続けてきたのだろう。

だが不幸な事に、自分のやるべき事を今まで理解されないでいたに違いない。

 

 

 

――――――――――――――――――――――戦乱を凌ぎ全てを統べる者

 

 

 

誰が付けたのか分からないこの呼び名…恐らく『天の御使い』に並んでこの大陸にその名が轟いている名であろう。

しかし、唯一彼だけがそんな名を億尾に思わずにいるに違いない。

 

まるでその姿は『その様な名に踊らされてなるものか』という彼の心の叫びの様にも思える。

 

そして、周りの人間はそんな彼を崇め称える……その誰が付けたのか分からないような名に縋って…

気がつけば彼は縋ってきた人を助け今日まで生きてきたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………『凌統』と言う存在は民を助けるのが義務になっているかのように…

 

恐らく民達に悪気は無いのであろう。ソレが解っているからこそ凌統殿も苦言を申さずにいたのであろう。

しかし、そのせいで彼の進むべき道を誰もが誤解してしまっていたんだ。

彼はあくまでも『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』だ…賊を討伐し、民を救うのも立派な事ではあるが、彼の行く先は遥か遠くに見える天下泰平…

そして、彼は嘆いた………自分の道を理解する人物がいない事に…

 

其処に我らが現われた。私も始めは彼の持つ名を頼りにした。恐らく桃香様も鈴々………はどうだろう?

し、しかし!今では違う。確かに彼の通り名は有用な力になり得るが、そんな事は今は良いのだ。

今は只………

 

「貴方様の生きる道…この曇りなき眼にてしかと刻み込みましょう」

 

「……あし……た…………イヤ…何でもない」

 

……?今何を言おうとされたのだ? あした?………明日?

明日何かが起きるとでも言うのでしょうか?

 

「それじゃあ、凌統さんも私達の仲間になったって事で~あ、そう言えばこの近くに私のお友達が太守をしているって聞いたことがあるんだ。そこに行ってみようよ~」

 

「それってどこなのだ?」

 

「えっとね、確か……………幽州啄郡…だったかな?」

 

……はぁ、凌統殿が何やら意味深な話をしてくださっているというのにこの二人ときたら…

桃香様も桃香様です。こんなご時世、幾ら友人とはいえ突然押し掛けてしまっては門前払いを食うか、足元を見られるだけですよ?

しかし、ソレを口に出来る程私は桃香様に対して非情にはなれない。

 

結局は私もその意見に同調する形となった。しかし、先程凌統殿が言われた『明日』という言葉……どのような意味が込められているのであろう?

 

そして、その意味を理解したのは凌統殿の言葉通り翌日の事であった。

 

「…そう言えば、此処からそのお友達の所にはどれくらいかかるのだ?」

 

「へ? う~ん………そうだね、野営をして明日にでも着くと思うよ」

 

その時の私は今まさに話に上がっている桃香様の御友人と、凌統殿が知り合いだという事は全く知らないでいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――― オマケ

 

「う~む…………」

 

俺は雪花! 柚登の母ちゃんだ!! 今俺は正に重大な局面を迎えている。

これを間違えたら恐らく一生辿り着けねぇかもしんねぇぜ……

…あん? 俺が何をしているのかって? ふふふ~聞いて驚くなよ!! 俺は今現在…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――ポテ…

 

「――――――――――――――――――― よっしゃあ!! 枝が倒れたこっちが西涼だな!!」

 

自分の行く道ってもんを占っていたんだ。 ……ンだよ?悪ぃか!? これはコレで以外と当たるんだよ!!

…まぁ、柚登と一緒にいる時はアイツが先行していたから腕が鈍っちまっているかもしんねぇけれど…

 

と、兎に角!何だか風の噂に聞いたんだが、西涼にいる馬騰って奴が昔貧乏だった頃に木を切って生活をしていたらしいんだ。

ソレが気が付いたら世に名を轟かせているような太守になっているって話じゃねえか。

距離はあるが、今からそいつの所に行ってちょいと出世のコツってもんを聞きに行こうと思ってんだ。

 

そして俺は、その辺で拾った棒が倒れた方角に向かって一直線に進む。

……だけれど、何でだろうな? 段々と磯臭せぇ感じがしているんだが………

まぁ、俺は地形には疎いが多分間違ってねぇだろうな!!

 

よっしゃぁーーーーーー!!!! これも柚登の出生街道まっしぐらを目指す為だ。頑張るぞーーーーー!!!

 

 

「おーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

俺は雲一つない快晴の大空へと両手を高く上げ、意気揚々と足取りも軽く進んでいくのであった…

 

 

……母の旅も続く

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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外幕一 母むかいて

所謂外伝です


母親とは自身が腹を痛めて産んだ子のためなら、たとえ火のなか水の中へと問答無用に突き進む人種である。

人によっては、自分の子供に対して非常に接することも辞さない。

 

 

――――――――――これは、そんなとある武将の母である破天荒な女性のとある一日である……

 

 

――――雪花

 

「(―――――ムシャムシャ)」

 

なんだ、意外と蛇ってウメェじゃねぇか。旅の途中、柚登が捕まえてきていたのも、よくわかるな。

あの時は村が近かったし、尚且つあんなニョロニョロがうまいはずがないって思っていたからな。しかし、まさか今こうして柚登を否定しておきながら実行している俺がいるとはな…人生ってもんはわかんねぇな〜

 

ただ、何だか知らねぇが舌がイテェのは何でだ?

やっぱ、身の部分が美味かったからって内臓まで喰ったのは不味かったか?

しかも、途中で火が消えちまったから半生でいったのもまずかったかもしんねぇな……

 

うん、今度から捌いた後に火を通してから喰ってみるかな。

 

 

「うっし、メシ終わり! さぁて、今日も西涼目指していくぜ!!」

 

俺の名前は雪花。最近ちまたで噂になっている柚登の母ちゃんだ!

前にも言った事があるかもしんねぇが、俺は今西涼の馬騰って奴の所目指して旅をしている。ワケは前にも言ったからいわねぇぜ。

 

因みに柚登は今現在、幽州のこ、こう……コウ……………………フゥ、影の薄い奴の所『うおぉい!!』で客将として働いている。

…ん?何か今誰か喋ったか? ……気の所為……か?

まぁいいや。そんなこんなで旅をしている最中なんだが……

 

「……どうなってんだこりゃ?」

 

今俺は崖の上から一面に広がる荒野にポツンと存在する村に眼をやる。俺から大体二里(凡そ4km)離れているだろうか?……ん?何だか今俺のしらねぇ言葉が出てきたような……ま、気の所為か。

んん? 誰だぁ? 今俺の事を人間じゃねぇって思った奴、前に出やがれぇ!! ……何だかさっきから変な声が聞こえてしゃあねぇや。

俺は気を取り直して再び遥か遠くに離れし村へと目を向ける。

 

そして、そこには辺りを覆うように立ちこめる黒煙…さらには、なにやら羽虫ほどに小さくだが人が密集しているのが見える。更に目を凝らしてみると……村の中になにやら旗の様なものが見える。

恐らく、どこぞの軍の将がいるのであろう。俺は興味本位でその旗が立っている場所に意識を集中した。

 

「…………『夏候』の旗…か?」

 

如何やら戦の真最中の所のようだ。大方どこぞの豪族が内輪もめっているか、国の侵攻が始まったか…はたまた、賊に攻め込まれてんだろう。こういうのは関わらねぇってのが旅をするうえでの鉄則である。

態々、自分から危険に飛び込む馬鹿なんざ底抜けにバカが付く程のお人よしか、昼夜問わず戦い続ける事を生きがいとする戦闘狂位なもんだ。

…いや、恐らく昔の俺だったら後者に当てはまり、あそこに突っ込んでいく無望な行動を取っていただろう。

しかし、今は違う。今の俺は西涼の馬騰の所に行って柚登の出世街道に色を付けるという使命がある!!

……まぁ、柚登には内緒で勝手にやってんだが。

 

しっかし、何だか村に籠っている奴らが大分苦戦してんなぁ〜無理も無いか。あんだけ黄色い軍勢に取り囲まれたとあっちゃあ、援軍でも来ない限り巻き返すなんて至難の業だ。

ま、俺には関係ねぇな~俺は柚登の為に生きていくって決めてるしな~

 

そう心の中で自己完結した俺は勢いよくきびすを返した。…そこでふと、先程の黄色い軍勢について頭をよぎった。

そういや、さっきの黄色い軍……何だか、いくつもの塊が連なって出来ているように感じたな。

おそらく、小規模~中規模の軍を数十単位で大量に合わせていってさっきの大規模の軍勢になっていたのだろう。

俺の見立てでは軽く千は超えていやがる。下手すりゃ万を超えているかもしんねぇ。

…と言う事はだ、あそこの中に中枢にかかわる指揮官の一人や二人が紛れ込んでいるっていう確率がとことん高いって事か?

 

「………………そういや柚登の奴、何て言ったっけな? 確か…………そう……蒼天己死、黄天富立…だったか?」

 

確か、ついこの間俺と柚登が壊滅させた黄色い布を巻いた賊どもがそんな事が書かれた旗を持っていた気がする。

俺は直ぐ様、首だけ動かして大量に集まっている軍勢を見下ろした。そこには……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり…ってか? ニシシ~俺にも運が回ってきたぜ! 俺がここであの軍を軽くプッ血殺して指揮官の首を柚登にもっていきゃあ、柚登の出世街道順調明快!! 俺の夢に一歩近づくってわけか!」

 

そうと決まりゃあ話が早ぇぜ! 俺はたった今きびすを返した足を再び返してもう一度村の方へと向いた。

俺の予想が確かなら………………お? いたいた〜何にも知らねぇ状態で呑気に部下に指示を飛ばしている気持ちワリィ野郎がいるぜ〜 恐らくは、アレがこの軍の指揮官…もしくは、ソレに近しいものなんだろうな。

大凡二里…俺の力じゃあ三節棍はアソコマデ飛ばねぇ…柚登ならやれちまうんだろうが…ハァ、俺って母ちゃんなのにアイツよりも頼りなくなっちまったなぁ〜

 

………おとと、物思いにふけっている場合じゃなかったぜ。

取りあえずは、あの野郎をしょっぴきゃあ良いんだよな?だったら………

 

「俺らしく突貫するだけだぜ!!」

 

そう結論付けた俺は今俺が立っている崖から勢いよく飛び出したのだった。

少し傾斜になっている崖から俺は滑るように突貫する。さらに両手にはいつも愛用している三節棍を装備するのも忘れない。

未だに距離は離れている為中腹にいる奴らには俺の存在に気が付いていない。しかし、集団の端っこ…崖に近しい所に配置していた奴らは何かが自分達に近づいているという事に気付き始めたみたいだ。

 

しかし、こっちは俺一人…恐らく出てくるのは数人規模…だがそれでも良いんだ。

向かって来る野郎は全滅! 逃亡する野郎は半殺し! 大将は首だけチョンパ!

これが俺の心情だぜ!!

 

「オラオラオラオラーーーーーーーーーー!!!! 俺様が相手になってやんよーーーーーーーーー!!!!!!」

 

そんなこんなで俺は、敵に単身突貫と決め込んだのであった…

 

 

――――夏侯淵

 

少し厳しい状況だな…斥候の話ではこの村を襲撃していた賊は当初千余り。

此方には義勇軍の姿もあり、総勢千程…数のうえでは殆ど差異は無い。しかし、何故か判らないが、奴らは増加の一途をたどっている。今では既に我等の倍以上の数に膨れ上がっている事だろう。

しかし、こちらは先遣隊といっても軍だ。多少なりとも数が劣勢でも一方的に負ける事はない。

しかし、数で押し切られてしまった場合は……

 

「秋蘭さまっ!西側の大通り、三つ目の防柵まで破られました!」

 

季衣が慌てた様子で報告に来た。どうやら、黄巾を巻いた賊どもは直ぐそこまで来ているようだ。

その証拠に、奴らの発する轟音諸々が段々と近づいてきている事が容易に理解出来た。

そして、残る防柵は残り二つ……恐らく一刻もつか怪しい所だな。姉者達が間に合うか間に合わないか微妙な所だ。

 

「如何なさいますか夏候淵様?」

 

そんな焦った様子を兵達に見られて士気を落とすまいと顔に出すことなく思案していると褐色の少女…楽進が指示を求めに来た。

彼女を含めた李典、于禁は義勇軍に所属している。今回、これ程までに保つ事が出来たのも一重に彼女達のお陰だろう。

しかし、このままでは防柵が持たずに賊の軍勢がこの村に押し寄せてくる。そうなってしまってはどうしようもない。

何としても華琳様や姉者が来るまでもたせなければ…

 

「夏候淵さまー! 東側の防柵が破られたのー。 向こうの防壁はあと一つしかないの!」

 

「…あかん。東側の最後の防壁って、材料が足りひんかったからかなり脆いで。すぐ破られてまう!」

 

まずいな…李典の言う通りならば半刻も持つまい。…こうなったら、西側を最低限まで絞り、残る全ての兵を東側に向かわせるしか方法が…しかし、それでは西側が破られた時、不利な状況に働くか。

 

「し、失礼いたします!!」

 

そんな時だ。義勇軍の一人と思われる若い兵が私達の前に血相を抱えた状態で報告に来た。

 

「何や! 今こっちは手いっぱいで…」

 

李典が煩わしそうに吠える。仕方ないか、今この状況下で冷静にいろというのが少し無理な話だ。私ですら焦りを隠しきるので精一杯だというのに…

 

李典の眼光に一瞬身を引いた兵だったが、直ぐ様本来の目的を思い出したかのように口を開いた。

 

「ハッ! 原因は不明でありますが、東側の賊の数が突如減少の一途を辿っております!」

 

……何を言っているのか理解できなかった。限りなく優勢の賊が減少の一途をたどるなど信じることが誰が出来よう。

戦場では良くあることだが、新兵などが戦での興奮で気がやられ、本来は見えないモノが見えてくる事はよくあることだ。そして、目の前にいる兵もまだ若い。

恐らくこの場にいる将の器として呼べる者は皆、この兵の気がやられたのだと判断した。………しかし

 

「更に伝令! 東側の賊、逃走を始めました!」

 

『……は?(一同)』

 

どういう事だ? 一人ならまだしも二人も同じ幻影を見たというのか?

…いや、そう簡単にその話を信じては……一つの判断の誤りが後に取り返しのつかない事になりかねない。

ならばここは……

 

「…李典、于禁はそのまま此処に待機。防壁が破られた時はお前達が指示を出せ。楽進は私と共に東側の防壁まで行くぞ」

 

「信じるんでっか!?」

 

李典が意外そうな顔をしながら答えた。…いや、李典だけでなく楽進も于禁も同じ様な表情だ。

…いや、自分でもこれはある意味でかけに近い者がある。仮にこれが兵達の幻影で東側の防壁に押し寄せる賊たちの数に変化が無いとするならば、私と楽進では防ぎきれない。

また、本当だとしても全員で東側の防壁へ向かった場合は西側の防壁が手薄となり、これもまた詰みだ。

 

…これは一種の懸けといってもいい。私は軽く片方の口角を上げて答える。

 

「…どの道、ただでは済みそうにない状況だ。ならば、人を信じてみようと思っただけだ」

 

そうして、私と楽進は数十人の兵を連れて東側の門へと向かったのだった。

 

 

――――その日の夜

 

 

「…ソレが嘘偽りのない事実だと言えるのかしら?」

 

「はっ。確かに我等はこの目でしかと…」

 

「秋蘭、アンタもどっかのバカがうつったんじゃないの? 人一人で黄巾党の軍勢を退けたなんて…普通に考えても出来るわけないじゃない!」

 

「……なぁ季衣、今のバカってお前の事か?」

 

「えぇ!? ボクはてっきり春蘭様の事かと…」

 

「そっか、私なのか。……………なぁぁぁぁぁぁぁにぃぃいいいいい!!!!!?? どういう事だ桂花!!」

 

「ふん、バカにバカって言って何が悪いのよ!あと、うっさいのよアンタ!!」

 

「バカってうつるのか!!?」

 

「そこなんですか春蘭様!?」

 

「3人とも静かに! …まぁいいわ。それにしても、秋蘭の言うとおり、たった一人で数千もの賊軍を退かせるなんて…敵に回ったとしたら、この曹孟徳の覇道の障害となりうるわね…秋蘭、その者はどこに?」

 

「ハッ! 何やら『ユトーーーーー』と叫びながら西へ…」

 

「ふ~ん……どうみる一刀?」

 

「俺に振るのかよ!? …しかしな、この世界で何千人と相手に出来る将なんて俺は呂布位しか知らないしな…」

 

「ソレは無いと思う。我らが見たのは全くの別人だ。――――――――――――しかし…」

 

「『しかし』…ということは何か心当たりがあるのかしら?」

 

「えぇ…使用していた武器が三節棍であったのが引っかかるのです。確か、ここ最近三節棍を持つ親子の話が話題となっていた筈ですが…」

 

「それなら知っているわ。確か、『天の御使い』にならぶ『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』だったわね? …世迷い事だと思っていたんだけれど……桂花!」

 

「ハッ!」

 

「出来るだけで良いわ。『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』の事について調べてちょうだい」

 

「御意!」

 

 

――――その時、凌統は…

 

「(―――――ムシャムシャ)」

 

やぁ、白蓮さんの城がある城下町で絶賛食事中な凌統ご一行様だぜ。

何だかんだ言いながらあの後、俺は劉備さん達と一緒に白蓮さんの所を目指す事になった。

何でも、白蓮さんの所に士官することが目的らしい。…まぁ、断られても俺が何とかする予定ではあるんだけれどね。

そんなこんなで一緒に野営をした後、俺達は再び啄郡に向けて歩みを進めた。道中―――

 

『私の真名は桃香です。よろしくお願いしますね凌統さん♪』

 

『私の真名は愛紗と申します』

 

『鈴々は鈴々なのだ!』

 

……と、真名をいただいたりもした。一応俺も自身の真名を交換したんだがね。

そんなこんなで一夜が明けて、どうやったら白蓮さんのところに行って話を聞いてもらえるのかをご飯を食べながら話し始めたのだよ。

しかし其処は『俺の胃袋は宇宙だ』と忘れ去られしフードファイターの名台詞をサラリと言えてしまう程の大食漢にランクアップした俺だ。そんな場所で会議も出来る筈も無く気が付いたら……

 

「(―――――ガツガツガツガツ)………店主……オカワ…リ」

 

「ヒッ、ヒーーーーーーーーーーー!!!? も、もう!もう勘弁して下せぇ!!」

 

「おい、今10人目の料理人が倒れたぞ!!?」

 

「一体何人前食う気だこのあんちゃん!?」

 

「衛生兵!えぇせぇぇへぇぇぇぇええええええ!!!!!!」

 

何やら祭りでも起きたんじゃないのかと言う位喧騒に満ち溢れた店内と…

 

「あは、アハハ~……柚登さんスゴイ…」

 

「柚登殿…もしや、あの剛腕はこの食事の量に秘密が…?」

 

「ぬぬ~鈴々も負けてられないのだ~!! おっちゃんラーメン超特盛り叉焼十枚つけてなのだ~!!」

 

…………解せぬ。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十二幕 紹介して

――――凌統

 

やぁ、何やら料理人を十人斬してしまうという失態を犯してしまった凌統君だ。

しかしながら、軟な料理人達だったぜ。客の要望にこたえきれないとは…

 

「うにゃぁ~ 全然足りないのだ~」

 

ほらみろ、鈴々ちゃんなんか育ちざかりだってのに腹いっぱい食べれていないんだぞ? その証拠に元気印が付きそうな顔がかなり曇っている。

確か、最後に超特盛りラーメン+叉焼十枚を食べていたが、鈴々ちゃんくらいの年齢だったらアレと同じ量を五杯は食べないと足りないだろう。

俺だったら間違いなくその倍は食べないと足りないかもしれないけれど……

 

「鈴々、余りはしたない事を言うな。今日の夕餉まで我慢するんだ」

 

「にゃにゃ!? そんなの待っていられないのだ!」

 

愛紗さん、以外と酷な事を言うよな……俺的腹時計では現在の時刻は14時を回った位の時間の筈だ。

……以外と当たるって評判なんだぞ俺の腹時計。 取りあえず、まだヒルを少し回った時間だってのに夕食まで待てとかマジで鬼畜すぎやしませんか? ほら見ろ、鈴々ちゃんの顔が絶望色に染まり切っているじゃんかよ。 流石に子供の絶望した顔は俺の精神上良くない。 さてさて、確かこの辺に……

 

鈴々ちゃんの元気の無さを見て俺は自身の懐に手を入れてとあるものを探した。

 

「(ゴソゴソ…)……これ……食べ…ろ」

 

そう言って俺がとりだした物は…

 

「……肉?」

 

「……肉…ですか?」

 

「うにゃ~いただきますなのだ~!」

 

――さて、鈴々ちゃんに少しだけだが俺の非常食を分けた所で今後の動向についてのおさらいだ。

桃香さん達はこのまま白蓮さんの所に行くことを望んでいるみたいである。おそらく其処で俺の平穏無事な暮らしをする為の手伝い諸々をしてくれるのだろう。

 

「あの……桃香様? 私の目が変なのでしょうか? あの肉……」

 

「言わないで愛紗ちゃん。 私の目にも明らかに懐に入る程の大きさの肉じゃないって事は分かるんだから。 ここは、何も見なかった事にしておいた方が良いと思うよ」

 

「にゃにゃにゃにゃ~ ……でも、お兄ちゃん凄いのだ~豚さんの丸焼を出すなんて鈴々、真似できないのだ」

 

「「…………はぁ」」

 

ん? 何だか三人が話している様な気がしたけれど……ま、いっか。

 

さて、考えを戻して……俺は副長さん達を先に城に戻るように指示を出したのでさっさと報告に行かないといけない。……しかし、よくよく考えたら先に戻る様に指示を出してはいたが、一日あとに帰るなんて相当不味い事をしているかもしれない。だって、日本で営業に行っていたサラリーマンが部下だけ先に帰らせて自分はその日に帰らず、次の日に何食わぬ顔で出社したら、自分の席が無くなっていること請け合いだ。

おそらく、幾ら時代と国が違うとはいえ常識的に見ても不味いと思える。

 

……どうしよう? このまま戻ったら自分の部屋がないとかいう状態になっていたら。

 

就職して数日でファイアとかマジで勘弁なんだけれど。 はやくも収入ゼロとか勘弁だわぁ~

……いや、少し待てよ俺。 これはある意味でチャンスなのかもしれない。 ここでクビになっておけば戦争とか危険な事に頭を突っ込む機会も無いし、寧ろ俺の目指す平穏無事な毎日を送る事が出来るのではないのか?

見た目無双さんの凌統とはいえ中身は小市民の俺だ。 こんな俺が表舞台からいなくなったってそんな大きく歴史が変わるなんて考えにくいし、そもそもこの時期には凌統は生まれていなかった筈だ。 だったら、今から姿をくらました所でそれ程お事にはなりにくいんじゃないのか?

 

……ふふ…フハハハハハハ! よっしゃ、そうだねそうしよう。 このプランで行けば俺の平穏無事な生活が安泰になるではないか! 収入が無くなるのは少し辛いけれど、この身体能力だ。 力仕事関係なら幾らでも働き口が見つかるに違いない。

そうと決まれば、さっさと城に戻って……

 

「柚登さん、どうしたんですか? 黙ったまま遠くを見つめたりして」

 

……桃香さんたち、どうしよう?

元々、俺の平穏無事な暮らしを手助けしてくれるために白蓮さんの所に行くって言ってくれていたし……俺が軍から離れると決めた以上、特にやって貰いたい事も無いし……そうだ、彼女達には俺が居なくなった後の隊をまとめてもらおう。 俺みたいな初心者ではなくて、仮にも名前が劉備や関羽、張飛といったビッグネームが揃っているんだ。 俺以上に活躍してくれる事は間違いない。

よしよし、そうと決まればさっさと城に戻ってクビを言い渡されて、桃香さん達に引き継ぎをして、平穏無事な暮らしロードへ猫まっしぐらだゼ!

 

「なんでも……ない。 ……城…行くぞ」

 

「はぁ……でもでも、手ぶらで行って大丈夫でしょうか?」

 

……ん? 手ぶらでって、手土産を持っていく気なのかな?

 

「いくら公孫賛殿が桃香様の昔の御学友とはいえ、我等は無名。 流石に取り合ってもらえる可能性は低いかと……」

 

いや、俺がいるし。 一応これでもクビ予定とは言え、軍属だぞ?

 

「にゃ~お腹一杯! ふぁ~あ、それじゃあお休みなのだぁ……」

 

いやだから、普通に通して貰えるって。 あ、鈴々ちゃん非常食を食べ終わったみたいだね。

さっきよりも満足そうな顔をしているよ。 そして気が付いたら夢の住人に早変わり……って今この場で寝たよこの子!? どうしよう、こんな所で寝たら風邪引いちまうし、何よりも道端で寝るのは良くない!

 

俺の持っていた非常食を食べ終わった鈴々ちゃんはお腹がいっぱいになったのであろう。 見事なまでに入眠の早さを俺達に見せつけた。 兎に角、寝れるところを探しに……いやいや、話が変わりすぎだから。 そうだ、城に行けば寝台とかがあるからそこで寝かせれば良いな。

 

「問題……無い。 …俺に…任せ…ろ」

 

そう言い、俺は白蓮さん達が居る城へと歩みを進めた。 桃香さんと愛紗さんは少し怪訝な顔をしながらも俺の言った事を信じてくれたのか、黙って俺の後ろを付いてきてくれている。

鈴々ちゃんは爆睡モードに入ってしまった為俺がおぶって歩いている。 時折寝言なのか「ラーメン……チャーハン……餃子……春巻き……回鍋肉……酢豚……肉まん……焼きb」夢の中とはいえ、どんだけ食う気なのこの子!?

 

そんな事を心の中で突っ込みながらも俺達は白蓮さん達が待つ城へと歩みを進めるのであった。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

そんなこんなで、俺達は城内まで来た。途中、見知った兵士達が番をしていたので軽く会釈をしておいた。 何やら眼を引ん剥く位驚いた顔をしていたが、何も言わずに門を通してくれた。

だけれど、何であんなに驚いた顔をしていたんだろう? もしかして、早々に俺のクビの知らせを聞いたのかもしれない。 いや、もしくは「クビになった奴が女を連れてきたぞ!?」とか考えていたのかもしれない。

いやはや、まずったな……考えてみたらクビになる奴が代わりの人を紹介しても、その人を雇ってくれるのであろうか? さっきは俺の後釜として兵達をまとめてくれたらいいなぁ~って思っていたんだが、よく考えておけばよかったな。

 

まぁ、こうなってしまったら仕方ない。一応ダメもとで彼女達の登用を頼んでみるとしよう。

 

「あの……柚登殿?」

 

そんな時だ、少し小声で愛紗さんが俺に話しかけてきた。 その顔は何処か不安げと言うか、辺りをキョロキョロと見回して何だか居心地が悪そうな顔をしていた。

 

「勝手に入っても良かったのでしょうか? 寧ろ、外の者をここまで簡単に入城させるなんて警備に問題があるのでは?」

 

……何を言っているのこの子は? 俺が居るんだから問題なくね? って言うか、白蓮さんだってそう易々と外の人を入れないっての。

 

「問題……ない」

 

「はぁ…ならば良いのですが」

 

まだ納得しきっていない表情をしながら愛紗さんは再び俺の後ろを歩きだした。

再び無言のまま歩き出す俺達。 別段、話す内容は無いけれど何だか少し空気が重い感じがする。……何故だろう?

と、そんな事を思っていると白蓮さん達が居ると思われる会議室の前に到着した。扉の前には兵達が数人番をしている。

どうやら、中で何かを話している最中らしい。 恐らく城内が妙に騒がしい事と関係があるに違いない。

 

「……通…せ」

 

「いや柚登さん、何だか会議中みたいだし謁見は少し待ってか「――――ハッ!!」……ほへ?」

 

桃香さんが何かを言っているが、この際無視をしておこう。

 

「凌統様、御帰還いたしました!!」

 

そう言いながら兵の一人が扉を開いた。『ギギギ』と少し軋みながら開いて行く扉。

その先には俺の見知った顔が二つほど神妙な面持ちで並んでいた。

 

「おぉ柚登、漸く帰ったか!」

 

「全く、兵達を先に帰らせるとは…一体どのようにして油を売っていたのだ?」

 

うぅ、星さんにさっそく小言をいただいてしまった。やはり此処はクビになる可能性が高い……

俺は少し足取りを重くして進んでいく。 そうして、俺の眼前にいる二人は俺の後ろに控えていた桃香さんと愛紗さん、更に俺が背負っている鈴々ちゃんに気が付いたようだ。

 

「ん? 柚登、そこの三人はお主のコレか?」

 

そう言いながら星さんは少しニヤつきながら小指をピンと立てた。

いや、っていうかアンタはどこぞのオヤジかよ……少し心の中で呆れながらも星さんの言葉を少しだけ無視して俺はこう綴った。

 

「……白…蓮殿……この三人……雇……え」

 

「……は?」

 

少しだけボキャブラリーの少ない自分に腹が立ってしまったのは言うまでも無い。それに、三人を雇うに当たっての色々な経緯とかを無視しまくリングな俺自身の発言にビックリだよ!

ほら見ろ、白蓮さんなんか眼をまん丸にして『コイツ何を言ってんだ?』見たいな顔をしているじゃんかよ~

星さんですら口を半開きにして眼をパチパチと驚いている表情を浮かべているし。

えぇ~い、こうなったら嘘八百でもいいや!

 

「…強…い……ぞ?」

 

「そうか、柚登がそういうのなら……ってそれどころじゃないんだよ! 近隣に黄巾党が出現したって報告があったんだが、直ぐに消滅したって訳の分かんない報告が挙がったんだよ。柚登、何か心当たりないか!?」

 

なんですと! 黄巾党が近くに現れたって!? 俺達がいた場所以外にも黄巾党が現われていたなんて…どんだけいやがるんだよ黄巾党の奴らは。

やっぱり俺命名『Gブリ』とした方が良いんじゃないのか? こんな名前は嫌だから黄巾党脱退します! みたいな人が現れるかもしれないし……

 

「あの白蓮ちゃん!」

 

「ん? なんだって私の真名を……ってお前、桃香か!?」

 

そんな時だ、桃香さんが少し前に出て必死そうな顔で白蓮さんを読んだ。

一瞬だけ白蓮さんは怪訝な顔をしたが、やはり以前、共に勉学を励んだこともあってか直ぐに桃香さんだと気が付いたみたいだ。

 

「うん、久しぶり! じゃなかった。あのね白蓮ちゃん、今話していた黄巾党なんだけれどね……多分、柚登さんが倒した人たちの事だと思うの」

 

「そうか柚登が…………ん? 柚登が……倒した?」

 

「うん、私達が追われている時に――――」

 

その後桃香さんは俺達が出会った経緯やここに至るまでの過程を話した。

多少誇張表現や俺の知らないようなこともあったが、その辺は空気を呼んでスルーしたぜ。

 

……あり? そう言えばクビについてはどうなったの?

 

 

―――― 一方その頃…

 

「あぐあぐあぐ~」

 

おう、俺は雪花。とある理由で馬騰って奴のところを目指して旅をしている最中だ。

そんな俺も漸く馬騰の所にたどり着く事が出来た。

いや~振り返れば以外と短い旅立ったもんだ。 そうして俺はそいつの城の調理場でメシを食っている所だ。 そして俺の目の前には俺の好物である回鍋肉が山盛りになりおかれている。 勿論、ここの待女に作って貰ったんだがな。

 

……ん? この前の賊の首はどうしたかって? いやな、気が付いたらどっかに落としちまったみたいでよ〜 いやはや、柚登にはワリィ事をしたもんだ。アレさえあれば柚登の出世街道に色を付けることができたのになぁ。

 

「……あんた誰よ?」

 

そんな時だ、何か獣の耳が付いたかぶりモノをしたガキが俺の近くに寄ってきた。 恐らくこの城に奉公している奴だろう。 そういや、何だかんだ言いながら待女にはひとこと断ったが、それ以外の奴には何も言わずにメシを貰っているんだったな。 ……取りあえず一言断っとくか。

 

「よう、メシ貰ってるぜ~」

 

「いや、だからあんた誰よ!?」

 

そういや、今更なんだが此処って馬騰の城であっているのか? 俺の勘で来ちまったからな……まぁ、俺の勘は結構当たる筈だが、一つ確認しておこう。

 

「此処って馬騰って奴の城か?」

 

「はぁ? アンタ何言ってんのよ? 此処は後に世を治める曹操様の屋敷よ!」

 

……なんだ、やっぱり違っていたのか。確かにやけに早く着いたな~って思っていたんだよな。いや、残念だ。

そうと分かれば此処にいる理由は無いな。

 

そう結論付けた俺は残っている回鍋肉を勢いよく口に流しいれた。

 

「(ムグムグ……ゴックン)―――― ご馳走様でした。 それじゃ世話になったな~」

 

「いや、だからあんた誰なのよ!?」

 

そうして俺は再び馬騰を訪ねて旅を再開したのであった。

 




感想欄を長く放置してすみませんでした。
皆様に対して返信をうたせていただきました。

ではでは、また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十三幕 寝かせて

――――関羽

 

 成程、柚登殿が昨日言っていた『明日』と言う言葉はこの事だったのか。 恐らく柚登殿が自身が公孫賛殿の下で客将をしていることを告げなかったのは我等の人となりを試したのであろう。

 

 仮にあの場で柚登殿が客将であることを告げたとしたら、我等は間違いなく公孫賛殿に取り次いでもらえるように頼み込んでいた事であろう。 あの時の我等はそれ程までに追い詰められていた。 ソレを柚登殿は見抜いたに違いない。

 だからこそ、我等を試したのだ。 我等のこの想いが本物であるのかを……だからこそ、あの場で柚登殿は自身の道を告げたのだ。

 

『自分はこの戦乱の世を変える……お前達にはその覚悟はあるのか?』

 

 もしかしたら柚登殿は内心ではこう思っていたのかもしれない。 そして、我等は柚登殿の想いに添えたのだ。 そうでもなければ、我らがこうして何の障害も無く公孫賛殿にお目通りをして頂ける筈がない。

 ……だが、あの時柚登殿が流した涙は……あの時は純粋に柚登殿の想いを理解したからこそ流した涙だと思っていた。 しかし、今考えると何故あの時に涙したのであろう? ……いや、柚登殿の事だ、きっと何かしらの理由があったに違いない。 でなければ、あのように綺麗な涙を流せる筈がない。

 

 柚登殿……私は誓いましょう。 桃香様、鈴々と共に貴方を支え、共にこの乱世に終止符を打つ事を!

 

 

――――凌統

 

 ……いま、何処かで誰かが俺に対するイメージで盛大に勘違いをしている様な気がする。

 

 やぁ、地デジ化の影響で盛大に電波が入り乱れている凌統だよ。

 俺が桃香さん、愛紗さん、鈴々ちゃんの三人を白蓮さんの所に連れてきたところ、何だか話が進みに進んで三人を迎え入れるという方向で話がまとまったんだ。 これでやっと俺もお役御免でクビにしてもらえて、これからの夢見る生活について想いを馳せていたんだが……

 

「柚登、三人の面倒はしっかりと見ろよ!」

 

 ――と、白蓮さんからお言葉を頂いちまったんだ。 ……驚き桃の木山椒の木だろ? 大丈夫だ、俺も一体何を言われたのかを理解するのに三刻位有したんだからよ。

 しっかし、あれだね? まさか無断で一泊してきたのに処罰も何も無しって事についてはマジで驚いたね。 だって、普通の軍だったら何かしらの罰があるって昔読んだ本に書いてあった気がする。 寧ろ、報奨は何が良いか聞かれてしまった。 ……周りの人は当然って顔をしていたが俺としてはある種の天国から地獄に落とされた瞬間だったけれどね。

 

 そんなこんなで俺は、迷惑をかけた白蓮さんへの謁見を済ませた後、別の意味で迷惑をかけた副長さん達の居る兵舎を訪れた。

 しかし、此方はまた別の意味で行きにくい。 だって、俺について行くって言ってくれていたのにソレを無理やり帰らせたんだから。 絶対的に『あぁん? 重役出勤ですなぁ上司のくせに。 それに、先に帰らせた割に何にもなかったじゃねぇか』とか言われた日にはマジで号泣してしまいそうだ。 きっと心が折れて、再起不能状態になることだろう。

 ……うわ、そういう事を考えたら段々と胃が痛くなってきたよ。 この時代って胃薬とかあったっけ?

 

 そんな感じで副長達に会いに行くのを少し躊躇しながらも俺は兵舎へと近づいて行った。 途中、鈴々ちゃんを未だに担いだままだという事に気が付いたが、まぁその辺は気にしないでおこう。 ……だってさ、今から俺の部屋に行って寝かせるのと兵舎に行くのって明らかに兵舎に行った方が近いんだもん!

 そんなこんなで俺は鈴々ちゃんを背負ったまま兵舎へと向かったんだ。

 

 

 人と言うのは不思議魔生き物だと思う。 つい先ほどまで不安いっぱいの俺だったが、いざ扉の前に立つと以外と震え諸々は収まり、何だか頭の中もさえている様な気がする。 ……さぁ、此処まできたら覚悟決めちまえよ! と自分では無い誰かが言っているかのような錯覚にさえ陥ってしまう感じがする。

 実際は誰もそんな事は言っていないんだけれど。 そして俺は震えの収まった手で扉に手をかけ…『バン!』―― るまえに扉が開いた。

 

「凌統様、お待ちしておりました!」

 

 そして、目の前にはすっごく良い笑顔で俺を出迎えている副長さんの姿が……。

 いや、騙されるなよ俺。 一見、凄く機嫌が良さそうに見えるが、これはきっと副長さんの罠に違いない。 少し優しくしておいて、後からねちっこく攻めてくるという寸法なんだな?

 ――フフフ、この凌統をなめて貰っちゃあ困るぜ。 こんな事もあろうかと俺は秘かにとある作戦を考えていたんだ。 さっきも言ったが、こう見えても俺は徹底的に言われるとガチでへこむ人間だ。

 つまり『俺を責める=ガチでへこむ』×『ガチでへこむ=仕事が手につかない』×『仕事が手につかない=サラリーマンとしては致命的』=ユーアー・ファイアー!って寸法だぜ!!

 フッ……我ながら完璧すぎる作戦に惚れぼれするぜ。 ……さぁ、副長さんよ! 朝帰りした俺の事を罵るんだ~! そうすれば俺の術中にはまったも同「お疲れさまでした凌統様!」…然?

 

 

 

 

 ……あり? 何だか副長さんがすっごく良い笑顔で『お手柄でした!』みたいな事を言いそうな顔をしているんだけれど?

 

 そして、副長さんの声に反応したのか凌統隊の面々が兵舎から外に出てきた。 ……つーか、別に皆さん方が出てこなくてもいいんじゃね? って、更に何にも言っていないのに俺の目の前で整列し始めたし。

 俺の背中に嫌な汗が流れるのが感覚で分かった気がする。 うわ~今からあれか? 一人ずつ俺に罵倒していくって言う寸法か? クッ……鬼畜すぎやしませんか皆さん!?

 

 そんな感じで俺が身構えていると、始めに副長が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!」

 

『申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!!』

 

 ……はい? い、一体何が起こったというのですか!?

 副長が口を開いたと思った瞬間、副長を含めた凌統隊の面々が地面に膝をつき、見事なまでに整った土下座をしだした。

 もう、この時点で俺には何がなんだかさっぱりな状況だ。 っていうか、俺なんか謝られるようなことしたか? ……いや、寧ろ俺が謝るべき事をした覚えはあるんだが。 おとと、何か急すぎて混乱してしまったけれど、流石に数十人の土下座をこのまま放置しておくわけにはいかないよね。

 

「顔を……上げて…くれ」

 

「いえ! 我等一同は、凌統様に申し訳が立ちません!!」

 

 代表して副長が頭を下げたまま話しだした。 って、皆さん一糸乱れずに地面に額を擦りつけているよ。 ……何だかこの場面だけ見ると俺が悪い事をしているように見えるな。

 

「……寧…ろ……俺が…謝らね…ば。 戻るの……が…遅れた。 すまな……い」

 

そう言って俺は土下座とまではいかないが、って言うか鈴々ちゃんを背負った状態で土下座するのは流石に難しいので、軽く頭を下げた

 

「か、顔をお上げください凌統様!! 私は…いえ、我々は恥ずかしいのです……きっと凌統様はまだ戦いに不慣れな我々を見て、賊軍に耐えうる力が無いと判断されたのでしょう。 そして、我等には何も告げずに御独りで賊軍との戦いに向かわれた」

 

 ……え、何その勘違い? 俺はただ単にもよおしただけだから先に帰らせたんだけれど。

 

「しかも、そこでは女性三名をお助けするという勇姿を披露されたとの事……ですが、そんな中我等は何も知らずに安全な地にて、のうのうとしていたことが……!!」

 

 ……二回目だけれど。 え、何その勘違い? その後も副長さんの独壇場であり、『凌統様御独りにお任せするなんて』とか『我等にもっと修練を』とか『我等一同、凌統様の為に命をはる』とか兎に角、謝ったり頼んだり、命をはったり等の話を永遠と続けていた。

 むしろ俺としては、どうしてこんな話になっているのかが疑問すぎて仕方がない。

 その状態が半刻(1時間)程過ぎたあたりであろうか。 幾ら時間がたっても副長の話が終わらないので、流石に土下座をキープさせておくのも可愛そうだと判断した俺は、こう切り出した。

 

「いや、これ…は(トイレに行くことを伝えなかった)俺の……せい…だ。 しか…し、それでも……お前達…の気が……晴れぬ…と言う…のなら…今後…(トイレに)行くとき…は伝え…よう」

 

「―――――――― ハッ! 畏まりました!!」

 

 ……何だか、ちゃんと理解したのかが気になるけれど、まぁいっかな。

 

「――――んにゃぁ…うるさいのだぁ」

 

 おっと、どうやらあまりにも周りがうるさすぎた様で背負っていた鈴々ちゃんが起きてしまったようだ。

 俺は鈴々ちゃんを背負ったまま軽く首を捻り、後ろの方を見た。 如何やらまだ眠気が取れていない様で頻りに目を擦っている。 ……あれだね。決してノータッチロリータ思考の俺だけれど、こういう仕草を見ると少しだけ心がときめいちゃったりするよね。 ……まぁ、顔には変化は見られないけれど。

 

「起きた…か?」

 

「うにゃぁ? 何で鈴々お兄ちゃんにおんぶしてもらっているのだ?」

 

 如何やら少しずつ自分が置かれている状況を理解してきたようだ。 まぁ、さっきまで街中でに括っていた記憶しかないから無理も無いよね。

 脳内で少し笑いながらも俺は鈴々ちゃんの問いかけに答えることにした。

 

「道端……で寝た…ら風邪引…く……桃香、愛紗の所…に行く…か?」

 

 しかし、如何やら自分の仲間の所に行くよりも今の鈴々ちゃんには眠気が勝っていたようで…

 

「……いぃのだぁ……ふぁ~…おやすみなさい…」

 

 そのまま再び夢の住人に……って、ホントに寝ちゃったよこの子。 おっと、そう言えばこの子を寝かせようとしたんだったな。

 

「あの凌統様、その方は? 先程から気にはなっていたのですが…」

 

 如何やら鈴々ちゃんの事には気が付いていたようだが、聞くタイミングを逃していたようだ。 副長以外の面々も俺の背中で寝ている鈴々ちゃんの方を見ている。 そういえば、まだ彼女の紹介をしていなかったな。

 

「彼女は…張飛、いずれ……は将にも…なれ…る器だ。 客人……だから……丁重にもてな…せ」

 

 ……何やら凌統隊の面々が息を飲んだのが凄く気になる今日この頃であった。 あ、勿論その後は鈴々ちゃんを彼女に割り振られた部屋の寝台までちゃんと運びましたよ?

 

 

 

――――一方その頃…

 

 この日、曹操の屋敷は朝から騒がしかった。 理由は言うまでも無く今朝進入したとされる女の捜索だ。 女の目撃者は二名。 一人は女に食事を用意したという侍女、もう一人は『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』について徹夜で調べ物をしている最中、小腹を満たすために調理場を訪れた旬彧だ。

 現在玉座にはこの屋敷の主である曹操、楽進、そして目撃者の一人である旬彧がいる。

 

「華琳様、桂花様の言う女の姿はどこにも見当たりません」

 

「そう、ご苦労様凪。 ……それで桂花、その者は何をしていたの?」

 

「ハッ! 侍女に問いただしたところ、調理場で腹ごしらえをと。 侍女もその堂々とした態度から華琳様のお客人だと判断したらしく……」

 

「そう……黒髪を後ろで束ねた…ね?」

 

「華琳さま~!!」

 

 そんな折だ、けたたましい音と共に夏候惇が入室してきた。

 

「春蘭、何か分かったのかしら?」

 

「いえ、それが桂花の言う女は分からなかったのですが、こんなモノが……」

 

 そう言いながら夏候惇が右手を掲げた。その右手に握られていたのは……

 

「ちょ!? 華琳様の御前に生首持ってくるなんてアンタ頭相当おかしいんじゃないの!?」

 

 悲壮な顔をした中年男の生首であった。

 

「し、仕方ないだろう! こんなモノが城内に放置されていたのだ。 私だって一瞬目を疑ったんだからな!」

 

 その生首は最近切り取られたものなのだろうか。 肌の色は血が抜け切り白くなっているが所々腐敗が進みかけてはいるが、未だに腐敗していない個所も見受けられた。 流石の夏候惇も素手で持つのは少し抵抗があったのだろうか、自身の手に布を巻きその手で首を持っている。

 

「……あれ?」

 

「どうかしたの凪?」

 

 そんな折、生首を見ていた楽進が何かに気が付いたようである。

 

「いえ、この人物もしかしたら以前謎の人物が討ち取った者ではないかと……」

 

 楽進は少し自信なさそうに、自身の記憶を辿るかのように少し瞼を閉じながら答えた。

 

「謎の人物と言うと……秋蘭が言っていた三節棍で賊軍をなぎ倒したって言う『アレ』かしら?」

 

「はい。 私断言はできないのですが、この顔はそこで見た様な気が……」

 

「……確か貴女もその人物を見ていたわよね?」

 

「あ、はい。遠目ではありますが確認はしています」

 

「その人物は黒髪で髪を後ろで束ねていた女性だったわね?」

 

「はい……もしや今朝の人物は!?」

 

「……えぇ、その可能性が高いわね。 桂花、捜査範囲をさらに広げなさい! 今朝の事だからまださほど遠くへはいっていない筈よ!!」

 

「御意!」

 

「凪、貴女は真桜・沙和と共に警備を強化。 該当しそうな人物を見掛けた場合は全員城に招きなさい」

 

「――ハッ!!」

 

「……あのぉ華琳様?」

 

「何かしら春蘭?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局のところどうなったんですか?」

 

 一人話について行けなかった夏候惇は真顔で曹操に事の進み具合を聞いていたりする。

 

「…………はぁ、貴女はその手に持っているものを処分なさい」

 

「……何だかわかりませんが、わっかりました!」

 

 ……最も、説明した所で確実に話には着いて行けないと判断した主人によって違う任を言い渡されたのは御愛嬌だったりもする。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十四幕 取り締まりにて

――――凌統

 

 やぁ、凌統だよ。 桃香さん達が来てから数カ月が経過した。 しかし、それだけ時間がたっても俺は未だに白蓮さんの所でお世話になっている。

 あの時、悪質な横綱出勤をして色々な人に迷惑を掛けたのに俺をクビにしなかった白蓮さんの優しさに俺はえらく感動したからだ。 当時、俺は自分の平穏無事な毎日を暮らす事で頭がいっぱいだったのが恥ずかしくなった位だ。

 だから、その優しさに報いる為に俺は働きまくって態度で返そうと決めたんだ。

 そして今、仕事の一貫として街中の警邏をしている真っ最中というわけさ。

 

 警邏って言うのは簡単に説明するとパトロールと同じなんだ。 つまりは警察官と同じような仕事ってわけさ。 ……この時代の警察って資格とかいらないっていう事実に驚いたのは俺だけの秘密だ。

 

 

 さてさて、話を戻そう。 警邏に出て少し驚いたのだが、この時代は現代で言う引ったくり犯諸々の犯罪の件数が半端なく多いんだ。 いや、ひとむかしに比べたらだいぶ減ったんだがね。 この数カ月の間で、曹操が黄巾党を率いていた張角、張梁、張宝を捕えたと知らせが国中にわたった。

 ソレを機に黄巾党は急激に衰退していき、各地では賊による被害が少なくなっていった。 ……しかし、人はおろかな人種で脅威が去ったと思ったら引ったくりやらの犯罪が増え始めたのだ。

 まぁ、殺しとかに比べたら幾分か凶悪さは低くなったけれど……しかも、黄巾党の残党も結構な数がいるもんだからソレを捕まえるのも結構骨が折れるんですよね。

 そして、その余波は白蓮さんがおさめるこの地も例外ではなかった。

 城下町だけでもかなり敷地面積が広いから、ある程度は予測していたんだが一日で、百件を軽く超える位の検挙率だ。

 たぶん、検挙されずに逃げ延びている数をかぞえると恐ろしい犯罪数になると思う。

 しかも、この異常ともとれる状況がこの地に暮らしている人たちにとって『当たり前』な光景になっている。

 

 このままでは、俺の平穏無事ライフプロジェクトに重大な欠陥をつくってしまうことになる。

 ぶっちゃけ、そんな物騒なところに住みたかねぇです。

 そんなこんなで俺が出した一つの結論が……

 

「あのぉ…柚登さん?」

 

「何……だ?」

 

「警邏が重要なのはよ~くわかるんですけれど、何も愛紗ちゃんと鈴々別れて、しかも路地裏の見回りをしなくても良いんじゃないのかと…」

 

 俺と桃香さん、愛紗さんと鈴々ちゃんの二手に別れて町の警邏をしようと言うものだ。

 その際、ある程度この町の地理が解る俺は裏通りを。 まだ来て日が浅い愛紗さん達には表通りを回って貰っている。 因みに、何故この組み合わせかと言うと単純に効率を重視したためだ。

 こんな事を言っては失礼だが、俺が愛紗さんと組んだ場合、果たして桃香さんに鈴々ちゃんを抑える事が出来るのかと言う事だ。 ……俺はどうなのかって? いや、俺だと鈴々ちゃんの我儘とか直ぐに聞いちゃいそうだから謹んで辞退させていただくよ。

 取りあえず、そうなると見た感じ厳しそうな印象を受けた愛紗さんなら鈴々ちゃんを抑える事が出来ると判断したんだ。

 しかし、これを一字一句三人に伝えるには俺のコミュニケーション能力が低すぎるため、正しく伝わっていない気もするけれど……まぁ、その辺は割愛しておきましょう。

 

「――そうだ柚登さん。 星ちゃんに聞いたんですけれど、柚登さんってお母様と一緒に旅をしていたんですか?」

 

 警邏を始めて一刻もたたない内に桃香さんは俺の母について話を聞いてきた。

 如何やら桃香さんは俺とは違って積極的にコミュニケーションをとれる人種らしい。 ――べ、別に羨ましくないんだからね! ただちょっと俺にもそのコミュニケーション能力を分けてほしいと思っただけで……やめとこう虚しくなる。

 

「……あぁ、豪…快な……人…だ」

 

「へぇ~……でもでも、私の印象としては何だかんだ言いながらもやっぱり柚登さんみたいに寡黙って印象があるんですけれど?」

 

 寡黙? あの母が? いやいや、その言葉はあの人には程遠い……寧ろ対極に位置する言葉だと思いますよ。

 

「いや……鈴々の…ように……賑やかな…人…だ」

 

「……ごめんなさい、色々と想像できないかも」

 

 まぁ、息子がこんなコミュニケーションが欠落しているからね。 親が賑やかな人だなんて想像できないよな。

 そういや、死んだ親父も完黙とは程遠い人だったな。 っていうか、俺や母に対して当たり散らしている印象しか残っていないという事実だけでビックリなんだけれど。

 

「そうだ、柚登さんが使っている三節棍……でしたっけ? それはお父様から御指導されたんですか?」

 

「……いや、母…だ。 握り方しか……習っていな…い」

 

 

 

 

 

 

 

――――一方その頃…

 

「へ、へっ……ぺぷしっ!! うぉお~ぉ……ったく、何だぁ誰か俺の噂でもしてんのかよ? 全く、人気もんは困っちまうぜ」

 

 こんな事を言っているシングルマザーが居たとか居ないとか……

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 ……何だか今誰かが何処かで盛大に炭酸飲料の名前を叫んだように感じたんだが、気のせいでしょうか? 俺的には王堂のコ……

 

 まぁ、そんなどうでもいい事はさておき、俺が殆ど三節棍を習ったことが無いというのは事実だ。

 確かに俺の三節棍のお師匠は母だけれど、ソウル師匠は無双さんの凌統な為、この世界では殆ど我流と言っても良いかもしれない。 母も俺の三節棍の使い方を見て殆ど口をはさんだ事が無いから別に問題は無いと思うんだけれど……

 ただ、俺の記憶を頼りに使っているため多少は粗がある。 ……まぁ、その辺は俺のチート気味な身体能力でカバーだぜ!

 

 そう言いながら俺は腰に差してあった三節棍を握り抜いた。 なんて事は無い、ただ単に桃香さんに俺の三節棍の腕前を見てもらおうと思っただけだ。 丁度路地裏で周りには誰もいないしね。

 ……べ、別に良いじゃねぇかよ! 俺だって女の子の前では少しテンションが上がるんだぞ! 少しはカッコいいところを見せたいじゃんかよ!

 

「――――――――ッ!!」

 

 ……ただ、何でか桃香さんが息をのんだのが気になる所存ではありますが。

 そして、俺が手にした三節棍を振った瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――げはぁ!」

 

「――ヒッ!?」

 

「……」

 

 あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。 俺が三節棍を振った瞬間に、路地の細い道から男が飛び出してきたんだ。

 そして、俺の三節棍が奴の脳天にクリティカルヒット!こうかはばつぐんだ状態になっちまったんだ。

 頭から噴水のように血を流しながら地面へと倒れていく男の姿は、まるでビデオのスロー映像でも見ているかのような光景だった。

 夢や幻でもない。 恐ろしいモノを……イヤイヤイヤ、現実逃避しちゃいけないな。

 と、取りあえず落ち着け俺! いつもそうだけれど、俺の三節棍って不幸しか呼び寄せてなくないかな!?

 

 って言うか一般人に三節棍が当たっちまったんだ、それどころじゃねーーーー!!

 俺は慌てて地面に倒れ込んだ男を開放しようと近づいた。 その刹那……

 

「待てぇぇぇ!!」

 

「待つのだぁぁ!!」

 

 何処か聞きなれた声をした人たちが男が出てきた路地裏から現れた。

 

「愛紗ちゃんに鈴々ちゃん!?」

 

「ハッ、桃花様に柚登さん! 今ここに怪しいおとこ……が……」

 

「……ぶっ倒れているのだ?」

 

 状況を整理してみよう。 路地から男の人出現。 俺、その人を三節棍で半殺し。 同じ路地から愛紗さん&鈴々ちゃんが血相を抱えて出現! 『あ、その男は!?』みたいな表情で地面にぶっ倒れている男を見ている。

 ……うわ、何か知らねぇうちに不審者捕まえてねぇか俺!?

 

「流石は柚登殿です。 こやつは表通りにて老婆の持ち物を強奪した者で……」

 

「えっと……あ、財布見っけなのだ! 愛紗、鈴々はこれをおばあちゃんに届けに行ってくるのだ~」

 

 そう言い残して返答を聞かずに鈴々ちゃんは同じ路地を通り姿を消していった。

 

「あ、コラ鈴々! ……全く、話を聞かずに」

 

「まぁまぁ、愛紗ちゃん。 それより、この人を早く衛兵に引き渡しに行こうよ」

 

 そう言って愛紗さんは不審者の足を持ち、引きずりながら同じく路地に消えていった。

 そして、その後ろを桃香さんが着いていって……あれ?

 

 気が付いたら俺は路地裏で一人取り残されてしまっていた。 あ、あれ? 俺ってば桃香さんと一緒に警邏をしていた筈なのに、何で桃香さんが愛紗さんについていってしまったのですか?

 あれか、俺の事が嫌いで実は早くこの場から離れたと思っていたのですかな?

 

「……解せぬ」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ心の汗が目元から溢れ出てきそうだったのを俺は根性で押しとどめたのは言うまでも無い。

 ……しかし、このままでは埒が明かないので俺は一人寂しく警邏を再開する事に決めた。

 さて、頭を切り替えて再び警邏に戻ろう。 まぁ、確かに以前と比べたら軽犯罪が増えてきているご時世だが、それとは別に黄巾党の残党が治安を乱しているというのもまた事実。 ……普通に生活している奴がいるのもまた事実なんだけれどね。

 ふむ、何が言いたいのか分からないかな? 大丈夫、俺もわかっている様で分かっていない節があるし。 それにだね……

 

「おや、柚登ではないか。 警邏の最中か? それは重畳」

 

 ……真昼間から酒をかっくらっている星さんにあっちまって色々と混乱している節がある訳ですよ。

 しかし、俺は仕事の最中だというのに良い御身分で……あり? そう言えば、星さんがまともに仕事をしているのを見たことが無いのは気のせいでしょうか?

 

「ん? どうした、難しそうな顔をして?」

 

「いや……(星さん)やる事が…な…い」

 

 やっべ、言ってから気が付いたけれど、一応は仕事場の先輩なんだし敬うべきだったかな?

 俺は自分の言った事を少し後悔をして、星さんから視線を外し明後日の方を向いた。

 

「――――ふはははは! 良いではないか、やる事が無いというのはそれだけ平和の証し……ん?」

 

 星さんは俺が視線を外した事に疑問を思ったのだろう、少し怪訝そうな顔をして俺が向いた方を見た。

 いや、別にそちらを見ても何も無いんだけれど……

 

「――ふむ、流石は柚登……と言った所だな。 成程、一般人に紛れ込んでいるが血に飢えた獣のようなに匂いがするな。 黄巾党の残党……と言ったところか?」

 

 え、星さん何を仰ってんのですか? 残党って…「きゃぁぁぁあああ!!」……ほへ?

 俺が向いている先とは反対方向で女の人の悲鳴が聞こえた。 慌ててそちらを向くと……

 

「クッ、一人じゃなかったのか。 柚登はあの女性の方を頼む、私はあの一般人に紛れている奴を!」

 

 そう言って星さんは俺が始めに見ていた方向へと走り去っていった。

 ……え、俺がアレを治めないといけないの?

 周りを見回すも、そんな直ぐには衛兵も駆けつける事は出来ない為か野次馬に溢れかえっている。

 何だか今日は厄日かもしれないなと内心で思いながらもそれを顔に出すことなく、俺は仕方なしに女性を人質に取っている男に近づいた。

 男は女性の首元に小太刀を突き付けているようだ。 しかし、誰もいない中で何でこの男は急に人質を取ったのだろう?

 

「な、何でテメェは!」

 

「……役…人…だ、その人を離…せ」

 

「なんだと!? ――――チッ!早過ぎるじゃねえか、これでは我等の……いいや、此方には人質もいるんだ何も出来るわけねぇ。 オイッお前! 馬をよこせ、あと食糧もたんまりと持ってこい!」

 

 俺の言葉を聞き男は一瞬動揺し、小声で何かに対して愚痴を言っているようにも見えたが、直ぐに俺に向かって要求を伝えた。

 

「無理……だ」

 

「――――んだっと! この女がどうなっても良いのか!?」

 

 そう言って小太刀を女性の首元にあてがった。 女性が『ヒッ!』と息を声が聞こえた。 それにしても、気丈な女性だとおもう。 人質に取られた時は甲高い悲鳴を上げていたが、小太刀がさっきよりも首元に近づいているのに悲鳴を上げないなんて……

 きっと、彼女は肝が据わっているのだろう。 見た目20代半ばくらいの女性だが感心するなぁ……っていうか、俺ってかなり薄情な事を言ってねえか?

 人質交換するのにその材料を全て拒否っちまったんだから……普通に考えたらあの女性が殺されるんじゃね?

 いやいや、俺にだって断る理由はあるんだぜ! だって、急に馬とか食糧って言われてもこの場に俺以外の城に務める者がいない事、流石にこの場を放置して城に戻るわけにもいかないし……それに、こんな事を言っちゃあれだけれど黄巾党に物を与えたと言うだけでこの時代は罰則の刑がある厳しい時代なのだ。

 たとえこの場で物資を渡してあの女性が助かったとしても間違いなく渡した方にも罰が下る。 ……全く、誰だよコンな条例出したのは!?

 

 まぁ、そんな条例諸々の所為で少し無理な状況なのだ。 仕方ない、得意ではないけれど映画で鍛えられた俺のネゴシエータースキルを見せてやるぜ! ……まぁ、映画だししかも作中では結構三枚目な主人公の話だったけれど。

 

「……取りあえ…ず、話し……合い…といこ…う」

 

「話す事は何もねぇ! さっさと俺の言った物を持ってこい!」

 

「まぁ、落ち着……け、腹減った…なら…これでも……食…え」

 

 うんうん、腹が減るとイライラしたくなるよね? 俺もそうだもん。 取りあえずは腹ごしらえといこうぜ。

 俺はそんな思いを込めて以前鈴々ちゃんにも食べさせたことのある『アレ』を懐から取り出した。

 しかも、今回はスゲェぞ~以前のは子豚の丸焼きだったけれど、今回は子じゃなくて親なんだからな~

 どうやって収納したかは……禁則事項だぜ!

 

「ちょ、おまっ、な何で懐からそんな肉の塊が出てくるんだ!? 色々とおかし過ぎるだろう!!」

 

「気に…する……な、受け取……れ」

 

「おいコラ! こっちに投げん……クソッ!」

 

 俺は懐から取り出した豚の丸焼を男に向けて投げ渡した。 流石に色々と予想外の事が重なったのだろう、男は咄嗟に武器と女性を離して肉をキャッチしようとした。 ……あれ? もしかしなくても今がチャンスなんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……詰み…だな」

 

「う、ウソだろ…おい」

 

 あの後、俺が思っていた以上に事はスムーズに運んで行った。 何を思ったのか豚の丸焼きを受け止める為に色々なものをすべて手放して、尚且つ飛んできた物の受け止めたのは良いけれど、重量に耐えきれずに地面に潰れるとかマジで貧弱すぎね?

 そんなこんなで、俺が思っていた以上に事は簡単に運んでいった。

 

 そして、今俺の目の前には縄でグルグル巻きにされた男が絶望に染まった顔をしながら地面に座り込んでいる。

 傍らには掴まっていた女性も茫然とした表情で座り込んでいる。 ……ふむ、これは思った以上に肝が据わった女性だな。 解放されたというのに涙の一つも流さないなんて。

 その後、駈けつけた衛兵により黄巾の残党である男は牢へと連れて行かれた。 そして、女性の方は俺と、駈けつけた副長さんと一緒に自宅まで送り届けている最中だ。

 しかし、何でか分からないけれど女性は凄く挙動不審な感じで俺達の前を歩いている。 なんていうか……あたりをきょろきょろと見回したり、後ろを歩いている俺達の方を向いて凄くぎこちない笑みを浮かべたり。

 そんな女性の様子に副長の表情は今まで見た事がないくらい硬くなっている。

 ……ゴメン、この空気は小市民の俺には耐えられませんがな。

 

「……副長」

 

「何でしょうか凌統様?」

 

「あの男……死罪だな」

 

 ごめんなさい、かなり暗い話題になっちまったけれど正直話すネタが余りねえです。 仕方なしに俺は話をするべく先程捕まえた男について副長と話をする事にした。

 

「そ、そうですね、黄巾の生き残り……余程優秀なものでなければ死罪はまのがれぬでしょう。 確か、趙雲様が捕えた輩の言うには此処に紛れ込んだのは三人だという話です。 凌統様が捕えた男を含めても後一名何処かに隠れている可能性があると思われますね」

 

 おぉ~副長さん、すげ~説明キャラだな。 しかし、何だろう? 今の話を聞いて女性の方がすっごく震えているように見えるんだけれど?

 副長も何か変な空気を感じ取ったのか、少し身構えている。

 しかし、俺はお構いなしに話を進めた。

 

「そいつ…を……見つけた…らどうす……る?」

 

「恐らく生死は問わないでしょうね」

 

 まぁ、要するに捕まえるか殺すかって事ですかな?

 ……ねぇ、明らかに今の話を聞いて前の女性の動揺っぷリが半端無い事無いですか?

 何だか、俺だけでしょうか? かなり黄巾の残りの目星がついてきたのですが……

 

「そうですね、自首すれば恐らく温情が…「私が残りの一人です~!!」……見つけてしまいましたね」

 

 気が付いたら女性が地面に頭を擦りつけながら見事なまでの土下座を決め込んでいるのに驚きなんですが……まぁいっか。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十五幕 鍛えて

 やぁ、数日前に町に潜りこんでいた黄巾党の残党を副長との見事な連係プレーで捕えた凌統君だよ。 ……やっべ、『プレー』って発音が少しエロくね? 何だか俺と副長との間に薔薇の花が出現しそうな感じじゃね?

 ――――はいそこ、俺以上に危ない妄想は禁止だぜ! ……ごめんなさい、少し危ない妄想をしてしまいました。

 さてさて、あの後なんだが仕事の一環と言う事で白蓮さんから報奨等は頂く事は無かった。副長も『貰わなくて当然』みたいな態度を取っていたので何も渡していない。

 ただ、副長を含めて城の方から何やらキラキラした眼差しで見られたのが気になるんだけれど……まぁ、そんな細かい事は気にしない!

 

 そして、あれから数日が経過した。 あれからは黄巾党に会うことも無く、この数日は何時もの通り町に出て警邏の真似事をしたり、いつ起きるやもしれぬ戦(いくさ)に備えて凌統隊の隊列を揃えてみたり、隊内では戦いの錬度がバラバラなので個々の戦闘能力を上げて、なるべく一定のレベルにするべく模擬戦を行ったりしていた。

 心からスカ○ターが欲しいと思ってしまったのは決して俺だけでは無い筈だ。

 

 あ、そうそう黄巾党討伐の際に俺達に新しい仲間が出来たんだ。

 はい、見た目はロリっ子×2な女の子達です。 ……いや、驚き桃の木山椒の木は嫌いだけれどビックリじゃね?

 この時代って性別や年齢問わずに能力で働く事が出来たんだね。 因みに彼女らの名前は諸葛亮、鳳統って言うんだって~ ……えっ?

 ま、まぁ細かい事は気にしないほがいいかな。 そもそも劉備や関羽と言ったビッグネームが女の子になってしまっているんだ。 今更、孔明や鳳統がチミっ子だとしても気にしちゃいけないぜ!

 ただ、俺の顔を見た瞬間、すっごく怯えて泣きそうな顔になってしまったのを見て心の奥底がえぐられたような感覚に陥ったのは俺だけの秘密だ。

 

 そんなこんなで、今は早朝。 俺は一人調錬場で三節棍を振るって自主鍛練を行っている最中だったりする。

 早朝と言う事もあって、まだ気温は低く少し肌寒い。 しかし、俺は身体を動かして汗をかいているため肌着一枚と薄着だったりする。

 そして、鍛練でイメージするのは言うまでも無く無双さんの凌統をイメージする。 そういえば、この体になって無双のスキルとか使えるのかな~って思って試してみたんだけれど、中々成功しない。

 確か、凌統のスキルは移動スピードが格段に上がる『神速』ってスキルなんだけれど、常日頃神速並のスピードが出せる俺には使えないってことなんでしょうか?

 あと、ゲージを溜めて放つ無双乱舞もやってみようと思ったんだけれど……やり方ほとんど覚えてねぇんだよね。 まぁ、これについては後々オリジナルっぽく自分で作ってみようと一考してみたりした。

 

 そんな事を考えながらも俺は自分の体の一部のように三節棍を扱い続けた。 ガキの頃、武器は身体の一部として使えと母に口酸っぱく言われていたからね、それに前世で史上最強の弟子を作っちゃったぜてきな漫画の師匠の一人がそんな事を言っていたような気もする。

 とは言っても、特に特別な事をしている訳ではない。 調錬場に立っている木を軽く蹴って、落ちてくる葉っぱを一枚ずつ三節棍で弾き飛ばすといった地味な作業をするだけだ。

 しかし、これが一度やり始めると意外と面白いんだよね。 『あ、今当たった~』とか、『からぶった~』とか、色々と考えている内にのめり込んでしまうんだ。

 そんな状態が一刻程経ったであろうか、太陽は既に地平線から顔を出して早朝と呼べる時間ではなくなり、三節棍を振るいつづけた俺は少し疲労感を感じていた。

 次の後一枚葉っぱを弾いたら終わりにしよう。 俺は自分の中でフィニッシュのタイミングを決めて、最後の一振りに臨んだ。 自然と身体全身に込める力も強くなったように感じる。

 

 しかし、そんな時悲劇は起きた。 三節棍を少し振りかぶった瞬間、手についた汗で滑り、三節棍がすっぽ抜けてしまったんだ。 今まで何度も見た事がある様な光景であったが、慣性の法則にしたがって三節棍は俺の後方へと飛翔していった。

 ま、不味いぜこのパターンは……何時ものパターンだと、このまま三節棍が誰かしらにクリティカルヒットを決め込んでいる可能性が大な訳でして……

 

 俺はおそるおそる、三節棍が飛んで行った後方へを身体を捻った。 そして、そこで俺が見たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は柚登殿です、私が背後から近づいた事を気付いていたとは……」

 

 青龍偃月刀を手にした愛紗さんとその愛紗さんの傍にある柱へとめり込んでいる懐かしき俺の三節棍だった。

 いや、そんな事よりも当たっていなくて良かったぁ~ 下手すれば女性である愛紗さんに当たっているかもしれなかったという状況に肝を冷やしたが、ソレと同時に誰にもあたっていなかったという事実に俺は安堵の表情を浮かべた。

 

「いや……たまたま…だ」

 

「また御謙遜を。 ……そうだ柚登殿、折角ですから私と一手いかがですか?」

 

 謙遜してねぇし!ってか何が折角から一手に続くのか果てしなく疑問に感じちゃいけないのかな!?

 しかし、そんな俺の心の声を無視するかのように愛紗さんは柱に突き刺さった三節棍を引っこ抜き、俺の方へ投げよこした。 クルクルと回転しながら弧を描くように俺の方へと飛んでくるその様はさしずめ亀の怪獣が空を飛ぶような様だったと敢えて記しておこうと思う。

 そして、三節棍が俺の手に収まった瞬間、俺の返答を聞かずに愛紗さんは自分の武器を構えてこのように言った。

 

「では――――関 雲長……参ります!」

 

 ……これは、間違いなく逃れたら空気読めねぇパターンだよな? はぁ、俺ってば小し(ry

 仕方ない、気は進まないけれど頑張ってみよう。 そして、出来るならばある程度接戦にして負けないとね。

 だって、そうしないと手加減した~とかで、もう一度やらねばならないかもしれないからね。

 

「凌 公積……いく…ぞ」

 

 そうして、何が何だか分からないうちに俺は愛紗さんと手合わせをする事になってしまったのだった。

 あ、折角だしこれを期にオリジナル乱舞でも考えてみようかな?

 

―――― 関羽

 

 見事な武だ。 私は早朝、調錬場でとある御方の鍛錬の場を蔭ながら見学させて頂いている。 その方は扱う事すら難しいとされている三節棍をまるで自分の手足のように自由自在に扱っている。

 そして、空より舞い落ちる葉を器用にも一枚ずつ弾いている。

 三節棍を一振りすれば一枚、また一振りすれば一枚……それは簡単そうにやられているが、途轍もなく困難であるという事が同じく武を嗜んでいる私は理解している。

 

 空より舞い落ちる葉は一葉に非ず、その中から一枚だけを……恐らくあの御方は狙いを定めながら行っているのであろう。 流石は柚登殿だ。

 

 その光景を目の当たりにした私は自身の力が柚登殿とどれほどかけ離れているのかを確かめたいという衝動に駆られた。

 一介の武人ならば誰しも思う事であろう。 目の前のいる……自分と同じく武人である方とどれほど力の差があるのかと……

 そして、私は自身の気配を殺しながら柚登殿に近づいた。 残念ながら隠密術には長けていない為、全ての気配を殺す事は今の私には出来ぬことかもしれないが、死角から柚登殿に気付かれずに傍まで歩みよる事が出来ると私は思っていた。

 

 しかし、そんな私の慢心は一瞬後には崩れ去っていた。 突如として柚登殿が先程まで見られぬ行動を……柚登殿が愛用している三節棍を大きく振りかぶったのだった。

 その姿は先程まで感じられた繊細な動きではなく、まるで何かを暗示させるかのような……そう、まるで今から何か特別な事を行うと誰かに言い聞かせるようにも感じられた。

 そして、柚登殿はその三節棍を手放し、投擲した。 ――――私のいる死角へと。

 

 余りの突然の出来事で、私は一瞬身体を強張らせてしまった。 しかし、その一瞬が自分の首を絞める結果となってしまったのだ。

 柚登殿が投擲された三節棍は眼にもとまらぬ速さで私へと向かって来ている。 投擲した瞬間に青龍偃月刀を構えていれば事なきを得たであろう。

 しかし、私は前述の通り一瞬ではあるが、身体を硬直させてしまった。 結果的にその一瞬の遅れが私に回避も防ぐ事すら不可能にさせてしまったのだ。

 私は一瞬後に来るであろう痛みに備えるため、反射的に両眼を力強くつぶった。

 

 しかし、時が立っても私を襲う痛みは訪れる事は無かった。 恐る恐る両瞼を開いてみると、私のすぐわきにある柱へとたったいま凌統殿が投擲した三節棍が深々と突き刺さっているではないか。

 一拍置き、凌統殿がこちらを振り返った。 凌統殿は相変わらず表情は無いようにも見えたが、何処か安堵しているようにも見える。

 

 ……そうか! 柚登殿は近づいて来る者がいると気配を察知したんだ。 しかし、ソレが刺客であるにせよ、敵意がない事に気が付いていたに違いない! そして、わざと三節棍の軌道をずらして牽制したのだ。

 そして、振り返るとその場には刺客ではなくて私が立っていた。 それで安堵を浮かべていたに違いない!

 いやはや、まさかいとも簡単に私の気配を察するのは驚きを感じ得ぬが、流石は柚登殿と言ったところであろう。

 

 そして、その後は私の我儘を聞いてくださり、手合わせをして頂ける事となった。

 これ程の御人と手合せしていただけるのだ、私の体は自然と武者震いし始めている。

 しかし、そんな私とは裏腹に柚登殿は静かに動じず、何時もの平静を保ちながら音も無く三節棍を構えた。

 柚登殿の三節棍の構えは両手で三節棍の端通しを軽く握るものだ。 一見すると隙だらけで、どこからでも攻める事が出来るようにも見える。 しかし、この方に刃を届かせるのがどれほど困難なのかを私は知っている。

 私の眼の前で数百人の男を薙ぎ払うその姿を……だからこそ、私は一太刀目から全身全霊を込めて向かおう。 勝つか負けるかなんてのは二の次で、武人としての自分を柚登殿に見て頂く為に。

 

 始めに動いたのは私の方だった。 一回の跳躍で柚登殿との間合いを詰め、急所への突き、右肩からの袈裟斬へと続ける。

 しかし、ソレは柚登殿が身体を反らす事によって難なく避けられる。 そこに追撃をしようと仕掛けても今度は手にしている三節棍を振るう事により、意図も簡単に軌道を反らされてしまう。

 柄を遣い、更に体勢を崩そうともくろんでも、それすらも柚登殿には防がれてしまう。

 

 だが、今の柚登殿は防戦一方に近く、攻勢に出てくる事は無い。

 

「(私は試されているのか?)』

 

 そんな心情に駆られる程、柚登殿は攻勢に徹する事は一度も無く、私の斬激を避ける或いは三節棍で受け流すと言った戦法をとっている。 突きの連激でも全て自然な流れでいなされる。

 一瞬、もっと間合いを詰めて一気に畳み掛けるかとも考えはしたが、余りにも近づいてしまうと、今度は青龍偃月刀を振るい難くなり、逆に柚登殿の三節棍に最適な間合いへと入ってしまう。

 今ですら、三節棍の間合いにはなるべく入らないようにとしているのに、これ以上の接近は危険である。

 

 その様な煮え切らぬ状態のまま数合打ち合わせる。 しかし、それでも柚登殿には何ら変化は見られない。 もしや……いや、考えたくはないが……

 

 私は意を決め、刃の背に手を添え一気に間合いを詰めた。 柚登殿が少し顔をしかめたような気もしたが、そんな事はどうでもよかった。

 当然の如く、柚登殿は三節棍を遣い、青龍偃月刀の刃を眼前で止めた。 お互いの顔がグッと縮まり、我等の眼前では刃を三節棍から火花が散っている。

 その状態で私はこう切り出した。

 

「柚登殿、もしや手加減をされているのでは?」

 

 柚登殿がこれ程までに攻勢に徹さないところを見ているとどうにも私手を抜かれているのではないかと結論に達した。

 しかし、そんな私の問いに柚登殿は表情を崩すことはせずに、言葉を発した。

 

「……いや、そう…では」

 

「ならば! ……ならば、柚登殿も全力で来て頂きたい。 ――――武人ならばっ!」

 

 私は言いたいことだけを言い、次で決める為に足に力を込めて後方へと跳躍した。

 どうやら、柚登殿も次の打ち合いで終わる事に気が付いたのであろう。 先程よりも少しだけだが眼を細めた。

 何故柚登殿が今迄手加減をしていたのかは分からぬが、次は本気の柚登殿を見る事ができる。 ソレを考えただけでも私の頭の中は沸騰しそうな状態であった。

 

 私は軽く息を吐き、精神を統一させた。

 

「――――行きます。 ハアアァァァ!!」

 

「――――こ…い…」

 

 そして、次の瞬間……

 

 ……私の意識は一瞬で奪われていた。

 

 

――――一方その頃…

 

 おう、俺は柚登の母ちゃんだ! 曹操って奴の屋敷を出て気が付いたら何日か経っていた。

 あれから俺は馬騰の奴の所まで行こうとして見たんだが、如何やら今度も違うところに来ちまったらしいぜ。

 そして、俺の目の前には何だか肌の露出が極限まで高められている肌が褐色の女がいる。 場所は只の飲み屋なんだがよ。

 何かしんねぇが、街中を歩いていたらイキナリこの女に『ちょっと飲まない?』って言われたんだ。 要はおごってくれるっていうことだろう?だからこそ着いてきたんだが……コイツ、誰だろう?

 

「今、不名誉な紹介された気がするんだけど?」

 

「あん? 何か言ったかぁ?」

 

 女は何やら少し溜息をついている様にも見える。 なんだ知らねぇのか? 『溜息をつくと幸せが逃げる』んだぞ? 柚登の受け売りだけれどな~

 そういや、俺ってあんまり酒は飲めねぇんだよな……前に柚登が『あまり飲むな』っていた気がするしな。 勿論俺は柚登の言いつけをキチンと守って茶だけを飲んでいる。

 女はバカすか飲んでいるが……

 

「……まぁいっか。 さて、それじゃあ単刀直入に言うわね。 ――――貴方、私達の仲間にならない?」

 

 そして、唐突にこの女は俺を勧誘してきたんだ。 しかし仲間か……何の仲間だ?

 そういや、この露出具合……そして、胸がデカイ……

 

「……ワリィ、俺は自分の体は売らないって決め「――――何の話よ!?」……女として体を売る仕事?」

 

 だって、そんな露出だらけの服を着ているからよ……ソレに胸がありえねぇ位でかいし。

 

「違うわよ。 武官として貴方を雇いたいって話よ!」

 

 おぉ~そっちか。 俺はてっきり淫売をするもんだとばかり……って、武官だぁ?

 

「何で俺が武官だって分かったんだ?」

 

「何でって、貴女の腰についている物を見れば一発でわかるわよ」

 

 そう言って女は俺の腰を指差した。 しかし、俺の腰って言われても……

 

「――――こん中空っぽだぞ?」

 

 そう言って俺は腰についていた小物入れを取り出し、口を開いて女に見えるように向けた。 結構でかい袋状の物だから何でも入って便利なんだぜコレ。 因みに作ったのは柚登な。

 前はこの中に路銀とか食糧とか入っていたんだがよ~最近はその場その場でしのいでいたから気が付いたら中身が無くなっていたんだよな。

 

「そっちじゃないわよ! そっちの三節棍の事!」

 

「あぁ……これか」

 

 そう言いながら俺は袋をしまい、三節棍を手に取った。

 

「何でかしら……凄く疲れたわ」

 

「若いのに大変だな。 愚痴なら聞くぜ?」

 

 そう言いながら俺は女の杯に酒を注いだ。

 あれだな、最近の若い奴限定で疲れやすい病気でもはやってんのか? 前の曹操って屋敷にいたガキもグチグチ言っていたからよ。

 

「あら、悪いわね。 そうなのよ最近冥琳が『仕事しろ~』って口うるさく言うもんだから……って話それてるわよ! そうじゃなくて、私の仲間にならないかって話よ!」

 

「ん、淫売のか?」

 

「そっから離れろーー! 私の所で武官をしないかって話よ!!」

 

「……お~ そういうことなら始めから言えよな」

 

「始めから言ってるじゃない!! ……あぁ、何だか果てしなく疲れた感じがするわ」

 

 そう言いながら女は頭を軽く押さえながら首(こうべ)を垂れた。

 何だ、怒りっぽいのは身体によくないんだぞ? 柚登が『そんな時は魚の骨を食え』つってたぜ?

 

 しかし、武官にならないか……か。 俺にはやりたい事もあるしな。 何故なら俺は馬騰の奴のところに言って出世の仕方を教わって柚登を太守にするっていう野望があるんだ!

 俺はその旨を眼の前の女に伝えた。 ――――――――次の瞬間

 

「あら……私の誘いを断るの?」

 

 女は眼を細めると同時にかなり粘っこい殺気を噴き出しやがった。 一瞬、三節棍に手が向きそうになったが、俺はその衝動をとどめた。

 確かに殺気は確かに本物だけど、敵意らしいものがほとんど感じられねぇつーか、そもそもこんな飲み屋で人を殺すような真似は幾らなんでもしないだろ。

 因みに、周りの一般人は一瞬で俺達の周りから消え去っていき、店の中は俺と女しかいなくなった。

 

「まぁな、言ったろ? 俺にはやりたい事があるってな」

 

 女はまだ目を細めたままだ。 俺も負けじと女の目を凝視してやる。 そんな状態が続いたが、次の瞬間女はゆっくりと目を瞑り、放たれていた殺気が抑えられた。

 俺は軽く息をつくと、女をみた。 女は眼をつむったまま俺が注いだ杯を口元へ運ぶと一気にソレを飲みほした。

 

「――――ふぅ、なら仕方ないわね。 ……わかった、でも気が変わったなら私に言いなさい。 貴方……面白そうだから」

 

 そう言って、先程の冷たい目とは打って変わり女は無邪気に目を細めて邪気のない笑顔を俺に向けた。

 全く、さっきの冷たい印象はなんだったんだっての。

 

「それから、お詫びに貴方も飲みなさいよ~」

 

 ……何だか、話が変な方向に向いてきたじゃね~か。 女は悪びれた様子も無く俺に空いている杯を差し出した。

 俺って、始めに酒は飲まないって言ったよな? もう一度その事を確認したんだが、どうやら間違いなく俺は『酒は飲まない』と言っていたらしい。

 

「でも、一杯くらい良いじゃないのよ~ 何だか私一人で飲むってつまんな~い」

 

 こいつは…… 女は口を軽く尖らせてブーブー言って来ている。 はぁ、一杯くらいなら柚登も許してくれるよな?

 俺は心の奥で此処には居ない柚登に謝ると杯を受け取った。

 

「ほらほら、飲みなさいよ~」

 

「ったく、俺は一杯しか飲まねぇよ」

 

 そう軽口をたたきながら俺は杯を口に運び、中の酒をなめる程度飲んだ。

 

 

 そして次の瞬間、俺は―――――――― 意識を手放したのだった。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十六幕 目が覚めて

 や、やべぇんでねえか!?

 やぁ、つい先ほどまで関雲長こと、愛紗さんと手合わせをしていた俺だ。

 

 例によってNOと言えない元日本人の血が騒ぎ、愛紗さんとの手合わせをついつい承諾してしまった俺は後悔の嵐に見舞われていた。

 だって、よりにもよって模擬刀じゃなくてマジな青龍偃月刀で愛紗さんが向かってくるんだぜ? 薄皮一枚で止まれるようなスピードじゃなくて確実に斬りに掛ってきているんだぜ? もう俺としては、逃げるだけで必死だったよ。

 本当に自称ゴッドゥさんには感謝してもしきれないな。 身体能力が飛躍的に上がっていて、反射神経的な物も強化されているからこそギリギリで愛紗さんの斬撃を避けたり、三節棍で受け止めたり出来ているのだから。

 もう、さっきまで考えていたオリジナル乱舞を作りたいって言う野望なんか持ってしまってゴメンなさい的な位、余裕が無かった。

 しかし、そんな余裕の無さも鉄仮面ばりに表情筋が死滅してしまっている俺の顔には出る事が無く、無表情を貫き通している。 そのせいで愛紗さんも俺の心中に気付く事はないだろう。

 その状態で何合も打ち合っていると、流石に俺も疲れてくる。 寧ろ、頭がくらくらして意識がもうろうとさえしてきている。

 これは俺の感覚が正しければ、限りなく限界に近いシグナルだ。

 

 あぁ、本当にヤバい……俺は無意識に三節棍を持った手を自分の頭に当てがおうと手を上げた。 その時――――

 

 ――――俺の三節棍から火花が散った。 一瞬にして朦朧としていた意識が覚醒した。 気がつくと、愛紗さんの顔が俺の間近にあって、しかも三節棍と青龍偃月刀が鍔迫り合いのような状態になっているではないか。

 もしかしなくても、結構危ない状況だったのではないのかな? そして突然、愛紗さんが口を開いた。

 

「柚登殿、もしや手加減をされているのでは?」

 

 ……突然この娘は一体何を言っているのでしょうか? 手加減とか、そんな物は全くしていないと言いますか、必死になって生きている最中ですがナニカ?

 寧ろ、未だに負けていない俺を見るに愛紗さんの方が手加減しているんじゃないのかって感じなんですが……

 

 背中に大量の冷や汗をかき、口の中も水分が完全に飛びカラカラな状態で俺は何とか言葉を紡いだ。

 

「……いや、そう…では」

 

 ――――おしい! ここに『寧ろそっちが手加減してない?』って続ける筈だったのに、舌が上手く回らなくてこれ以上の言葉を出す事が出来ない!?

 勿論、愛紗さんに俺が伝えたい言葉は伝わってはおらず……

 

「ならば! ……ならば、柚登殿も全力で来ていただきたい。 ――――武人ならっ!」

 

 いや、俺ってそもそも武人じゃなくて唯の一般人――――

 

 しかし、そんな俺の心の声は愛紗さんに届くはずもなく、鍔迫り合っている得物に力を込めて大きく後方へと跳躍した。

 多分、次の一撃で勝敗を決めるつもりなんだろう。 ……いや、少し待てよ? もともと愛紗さん達って俺の平穏無事な毎日を応援する為に着いてきたんじゃないのかな?

 それなのに気が付いたら武人同士の模擬戦になっているし。 しかも、結構イッパイイッパイな俺に本気で来いとか言っているし……

 

 ――――ハッ!? そうか、そうだったのか! きっと愛紗さんは『この危険な世の中で多少の武が無いと生きていけない、だから私が貴方の力量を確かめましょう!』と言ってくれているに違いない! だからこそ、本気で来いと言ったんだ。

 そうだよな、初めて会った時に“それなり”に賊を倒していたんだから、ある程度強いと思われているのかもしれない。

 そして、此処で俺の強さのレベルを知って生きていくうえで必要最低限な強さを俺に与えてくれるに違いない!

 それなのに俺って奴はぁ……訳がわかんないという理由で逃げてばっかりで……でも、俺の本気と言われても内心チキンな俺が本気を出したって、たかが知れている。

 だったら、あえて此処は無様に負けて愛紗さんの保護浴的なモノを掻き立てる事が出来たら『此処まで弱いのか、きっとあの時の事は偶然に違いない。 ならばこれからは、私が守ってあげよう』的な感じになるのではないのでしょうか!?

 

 よ、よ~し。 少し強引な手法ではありますが簡単なシナリオを考えてみよう。

 

愛紗さん突撃

俺突撃

俺青龍偃月刀で吹っ飛ばされる

愛紗さん勝利!

愛紗さん「貴方は私が守りましょう」

 

 ふ、ふふふ……完璧すぎやしませんかこのシナリオ! よっしゃあ、後はこの通りに動くだけだぜ! どうやら愛紗さんも準備ができたみたいだ。

 愛紗さんの眼は先程よりも細まり、今まで以上に迫力を感じる。 具体的に言うと、美人さんだからこそ眼を細めた事によって多少怖くなっている状態だ。

 

「――――行きます。 ハアアァァァ!!」

 

 よし、愛紗さんが突っ込んできた! 俺も行動に移すぜ!

 

「――――こ…い…」

 

 順調そうに見えた俺の作戦。 このまま行けば俺は間違いなく敗北していた――――筈だった。

 しかし、次の瞬間俺の予想だにしない事が起きてしまった。 突然俺の脚に力が入らなくなり、地面に膝をついてしまったのだ。

 どうやら、愛紗さんの覇気が思っていた以上に恐ろしくて膝が笑ってしまっていたらしい。 ……それに気づかない俺もどうかと思うんだが。

 だが、そんな状況は俺のシナリオには書いていない。 如何にかして体勢を立て直そうと咄嗟に両手を地面に着いた。

 俺の咄嗟の判断により無様な転倒は避ける事が出来た。 しかし、今の俺の姿勢は陸上選手にあるようなクラウチングスタート状態だ。

 簡単に言えば『アンタ何やってんの?』レヴェルの体勢だ。 しかも、隙だらけ過ぎる。

 

 流石にこの体勢は不味いと思った俺は、両手片膝を地面につけた状態からバネのように体を伸ばして後方へと跳躍し、突っ込んでくる愛紗さんから距離をとろうとした。 しかし、この瞬間でさえも俺の予想していなかった事が起きてしまった。 思っていた以上に手に力が入ってしまっていたのだ。結果的に腰より上だけが見事なまでに後ろにのけぞった状態になってしまったのだ。

 このままでは盛大に尻もちをついてしまう。 女性の前で其処までの醜態をさらすのは流石に看過出来ない。 咄嗟に手を後ろに回して体勢を立て直そうとするが……俺が思っていた以上に後方へのベクトルが強かったのだろう、気がつくと俺の視界が一回転を果たした。

 そう、意図せぬ後方宙返りを決めてしまったのだ。 ……前世でも今回でも初めてかもしれないよ。 器械体操なんてやった事が無いのに。 だが、今は愛紗さんと模擬戦の真っ只中。 こんなバカみたいな事を考えている暇は無い!

 幸いにも三節根は俺の手の中だ。 何時もみたいに気が付いたら何処かに飛んでいましたなんて事は無い。 俺は急ぎながらも冷静に突撃してくる愛紗さんを迎え撃とうとした…………が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ……に?」

 

 俺はその瞬間、我が目を疑うような光景を目の当たりにした。 いや、確かに俺は転倒しそうになって咄嗟に色々と動いて最後には後方宙返りを決めたよ。 だけれどさ……

 

 勘の良い人は気が付いているかもしれない。 俺がこけて後方宙返りを決めた拍子に足が愛紗さんの顎に決まってしまったようだ。 その証拠に愛紗さんの顎先が真っ赤になってしまっている。

 いつもの賊のパターンだと首無し状態になっていたり、顎だけがそぎ落とされたりとスプラッタ映像ものになっていると思うのだが……いつもと違って今回は、幸運な事が三点あった。

 まず一点目は、愛紗さんの顎先に掠ったように足が当たったという事だ。これがモロ顎に入っていたら首の骨の心配とかもしれないが、顎先に触れただけと言う事で瞬間的に脳が揺さぶられて意識を効率よく刈り取ったのだろう。

 二点目は、相手が一般人では無くて愛紗さんだったという事。 将と一般人は武は勿論の事、身体の耐久性も天と地ほどの差がある。

 日々鍛錬し、自身の身体を引き締めている者達は酷く打たれ強く、並大抵のことでは怪我や病気をしない。 昔からよく見ていたが、俺の母なんかは毒蛇を食べても平然としているし、旅の途中で俺と手合わせをしている際、三節根を脳天に喰らっても平然としている程の化物クラスである。

 無名の母でさえ、それほどの強度を持っているのだ、将来的に名をはせる関羽がたったこれだけで死ぬ事は無く、傍から見ても意識を失っただけと言う事がわかる。

 そして、最後の一つは……

 

「転倒……見てな…い」

 

 俺がこけた瞬間に意識を失ってくれた御蔭で無様な姿をさらさずに済んで良かったー!

 ……と、まぁ酷く自分中心的な事ではあったりするのは仕方が無いと思う。

 そんな事から始まるとある日であった。

 

P.S:その後、眼を覚ました愛紗さんは俺と手合わせをしたという記憶自体が吹き飛んでいたみたいだ。 ……それはそれで、好都合。

 

 

―――― 一方、その頃…

 

 ふと、気がつくと見た事がない天井を見た。

 おかしいな、俺の記憶が正しければ、しらねぇ女と飲んでいた筈なんだが……しかも

 

「頭……痛ぇ……」

 

 今まで感じた事がない様な頭の痛みに苛まれた。 なんだこの痛みは? ある程度の怪我とか頭をうったとかなら我慢出来るのに内側から鈍器で殴られ続けているかのような痛さだ。

 

 俺は寝ながら両手で頭を押さえた。 特に良くなったとは思わないが、そうせずにはいられなかった。 多分、酒のせいだろうな。 っていうか、一杯で意識とぶってどんだけ酒に弱いんだよ俺は!?

 少し自己嫌悪に陥った気がするぜ。 これからは柚登の言うとおり、酒は飲まないでおこう。

 この場にはいない息子へと土下座をした後、俺は部屋の中を見回した。 其処には見た事が無いような豪華な装飾がされた寝台と机がある。

 

 ……困った。 何で俺はこんな知らない部屋でしかも寝台の上で寝てんだ?

 路銀も何もねぇから宿だったら最悪なんだがよ……

 そんな風に俺はこれからの身の振り方を考えていた。

 

「(カチャ…)あら? 眼を覚ましたみたいね」

 

 そんな時だ、俺の記憶が確かならば一緒に飲んでいたっぽい露出大好き女が部屋へと入ってきたのだ。

 その顔には満面の笑みを浮かべている。 ぶっちゃけ、嫌な予感しかしない状況だぜ。

 

「……おい、此処は何処だ?」

 

「何処って……あぁ、あなた酔い潰れちゃったから覚えてないのね?」

 

 ……やっぱり、酒は怖ぇぜ。

 ケラケラと手を口元にあてがいながら女は笑いはじめた。

 何故だ?スゲェイラつくんだが……

 

 俺の不機嫌な様子に感付いたんだろう、女は笑うのを止め、咳払いをした。

 

「ここは私の城よ。 ん、ん……それで、あなたの処遇だけれど……」

 

「ちょ、ちょい待ち! 城?処遇? 一体、何の事だよ!?」

 

「なにって、酒の席でアナタ言ったじゃない『しゃあねぇなぁ~そこまで言うんなら雇われてやんよ~!』……って」

 

 オイオイオイオイ、俺って酔った勢いでそんな事を口走っちまったのか!?

 ……もう、本当に柚登の言うとおりにしよう。 寧ろ、俺の視界に酒が入る事が無いようにしよう。

 

 しかし、そんな決意は既に遅い。 この女の言う通りならば、俺はコイツの城で兵にならないといけないらしい。

 

「あ、あのよぉ……酔った勢いだから断るって訳にゃ――――」

 

「――――却下よ。 って言うか、今更抜けられても困るわよ。 もう城のみんなに伝えちゃったしね♪」

 

 ……逃げられねぇ状況ってこういう事を言うのか?

 

「でも、そうねぇ~どうしてもって言うなら――――」

 

「抜けさせてくれんのか!?」

 

 だが、おてんとさんは俺を見捨てちゃいなかったみたいだ。 女は少し残念そうな顔をしながら、自分の懐に手を入れて何かを探しているようだ。

 もうこの際、軍を抜ける事が出来る方法があるなら、ソレに縋るしかねぇぜ!

 

「――――はい、これ」

 

 そう言って女は一つの竹簡を取り出した。 そこには何やら文字が……

 

「これ、この部屋を用意した費用と、昨日アナタが酔った勢いで暴れて壊した店の備品の費用なんだけれど……払えるかしら?」

 

 ……そこには、今まで見た事が無い程の金額が書かれた竹簡が……って、無理だってのこんな金!

 明らかに丸々一年働きっぱなしでも払えるか払えねぇかの金額だぞこれ!? そもそも、今の俺は鐚一文たりとも持ってねぇんだぞ!?

 ――――い、いや、あれだな……きっとコイツは俺を騙そうとしているに違いない!

 そうじゃなきゃ、店の備品を壊しただけでこんな額になるわけがねぇ! それに、俺はこんな部屋を用意しろなんて一言も言った覚えはねぇんだ!

 

「フフフ、疑っている眼ね? まぁこの部屋は私が勝手に用意した物だから引いてあげても良いんだけれど……壊しちゃったものは流石に弁償しないとイケないわよね?」

 

「へ、へん! お、おお俺が壊したなんて証拠でもあんのか? それにだ! 一体何を壊したらこんな金額になんだよ!」

 

「そう言うと思ったわ。 それなら私についてきなさい、面白い物を見せてあげるわ」

 

 そう言って女は俺に背を向けて部屋から出て行った。

 どういう訳か、冷や汗がとめども無く背中から噴き出てくるのが分かる。 気がつけば、さっきまで感じていた二日酔いの頭の痛さがきれいさっぱり消え去っている。

 

 な、何故だ? とめども無く嫌な予感しかしねぇんだが……

 

 

 そして、その後俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あ……足元見たぜこいつ!?」

 

「フフ、何とでも言いなさい。 そもそも、『店を全壊』させる程大暴れした貴方の借金の肩代わりをしてあげただけでも感謝しなさい!」

 

 俺の眼前には愛用している三節棍がまさに昨日飲んでいた店があった『はず』の廃屋にブッ刺さっている。これぞまさしく俺が酔った勢いで店を全壊させた証拠に他ならない。つまるところ、有無を言わせずに働かないといけないという状況に陥ってしまったのである。

 くぅ~……柚登の為に頑張ろうと思っていただけなのに、何でこんな事になっちまったんだよぉ~!!

 でもまぁ、しゃあねぇか。 だって今現在俺の目の前には……

 

「それにしても、三節棍だけでよくもまぁ店一件破壊させれるわね?」

 

 この女の言葉通り、昨日酒を飲んでいた店の残骸が積まれた状態になっていたのだから……

 だけどよ、俺って一体何でここまで暴れたんだ? 誰でも良いから教えてくれよぉ!!

 

 そんな俺の心の叫びがこだまする日であった。

 

 そうして俺は、気がつけば当初の目的地である馬騰の所から遠く離れた――――

 

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。 私は孫策、字は伯符、宜しく頼むわね」

 

「くぅ~……はぁ、わぁ~ったよ。 俺の事は雪花と呼べ。 まぁ、成り行きでこうなっちまったが宜しく頼むぜ」

 

「ソレって真名よね? ほぼ初対面の私に預けてもいいのかしら?」

 

「かまわねぇよ、俺は前の名前は捨てたんだからな」

 

「そう……わかった、私の事も雪蓮で構わないわ。 一方的に真名をもらうのってのも癪だしね」

 

「あいよ、んじゃまぁ宜しく頼むぜ雪蓮さんよ」

 

 孫策がおさめているこの地、揚州にて雇われる事になった。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第十七幕 怖がって

 やぁ先日、愛紗さんと摸擬戦をして相手をプチ記憶喪失にしてしまった凌統君だよ。

 幸いなことに早朝ということもあってか目撃者がゼロっていうのに救われたぜ。 もし、誰かが見ていたとしたら俺の醜態をさらすところだったぜ……

 

 さてさて、愛紗さんとの摸擬戦から数か月が経過し、俺はさほど変化しない日常を満喫……いや、一つだけ変わったことがあるな。

 あの後、なんやかんやしているうちに桃香さんが旗揚げしていたんだ。 そして、彼女について行ったものは愛紗さん、鈴々ちゃん、諸葛亮ちゃん、鳳統ちゃん、凌統君……あり?

 

 まぁ、白蓮さんのところで客将をさせていただいていたんだけれど、なんでも『もっと多くを見てこい』と星さんに言われて気がつくと俺も桃香さんたちについてきていたというのが現状だ。

 しかし、それ以外には変わることのない日々を過ごしていた。

 朝は母と旅をしているころから半ば日課になりつつある自主鍛錬をして、昼は街中をパトロール。 夜は副長さんと一緒に事務的な仕事……まぁ、凌統隊の事の関する仕事や軍師'sからあてがわれた仕事もろもろをこなすという生活だ。

 初めのころは俺に事務仕事なんて絶対的にできないと思っていた。 だって、一応大学は出ているけれど、専攻って医療系だし……あ、これは初出か?

 兎に角、この国でもらう事務的な仕事って国の経済とかに関することだから絶対に役に立たないと思うんだ。

 それに加えて、凌統隊での給与や隊員一人一人を確認して隊列とかを考えたりするんだぜ?

 ひどい時とかは徹夜の作業になる。 っていうか、何が悲しくて副長とはいえ同性と一晩同じ部屋ですごさにゃならんのだ?

まぁ、たまに愛紗さんが竹簡の処理を手伝ってくれたり、桃香さんが差し入れにお菓子を持ってきてくれたり、鈴々ちゃんが遊びに来て場を引っ掻き回したり……あり? 鈴々ちゃんって邪魔しかしていない……だと!?

 

……まぁいいか。 そう言えば今更なんだけれど、仲間になったはわわ&あわわ軍師と仕事以外で会話した事ないんだよなぁ~

って言うか、何度か話してみようとトライしてみたんだけれど、避けられているような……いやいや、こんな人畜無害で将来の夢が平穏無事な生活を送るという、いかにも平和主義者の俺を避けるなんて……気のせいだよな?

 

 ――――ムムッ! 噂をすれば二人の登場だ。

 二人は俺がいる様子に気付く様子もなく、楽しそうに話をしながら通路を歩いている。

 よ、よ〜し……今こそ千載一遇のチャンスだ!

 なるべく、フレンドリーな笑顔を浮かべて……表情筋を使うのは久しぶり――――寧ろ、使った覚えがほとんど無い気がするな。

 

 ……と、とりあえず俺ができりうる最高の笑みを浮かべて二人に話し掛けてみよう。

 

「――――でね~雛里ちゃん……はわっ!?」

 

「どうしたの朱里ちゃ……あわわ~」

 

 そして、二人は遥か彼方へと走り去っていき、気が付けば誰もいなくなって――――

 

 ……本当に気のせい…だよね? ってか折角、いままで作ったことの無い最高の笑みを浮かべていた筈なのに逃げられるなんて……

 俺ってそんなに嫌われているのかな?

 

 

 少し…少しだけ涙が出てきちゃう。

 

「あ、おに~ちゃ~ん!」

 

 そんな感じで落ち込んでいると、俺の後ろの方から聞きなれた少女の声が聞こえた。

 きっと、今の時間帯だとお昼を一緒に食べようという誘いだろう。

 

 同じくらいの年齢の少女だというのに、なんでここまで俺に対する関わり方が違うのかと、内心ため息を吐きながら鈴々ちゃんの声が聞こえた後ろを振り向いた。

 

「お昼食べに――――にゃわ!?」

 

 ん? どうしたんだろう? 俺の顔を見た瞬間に鈴々ちゃんの満面の笑みが崩れ去って、すごく引きつった笑いにかわったような……

 

「お、お兄ちゃん、鈴々とご飯食べに行くのイヤなのか!?」

 

 ……は? この子は一体何を言っているのでしょうか?

 寧ろ、俺的には鈴々ちゃんとご飯を食べるとその食べっぷりに癒し効果があるとふんでいるのですが……

 

「そうでは……ない」

 

「でも、お兄ちゃんスッゴクここに皴よっているのだ」

 

 そういいながら鈴々ちゃんは眉間を指差した。

 釣られて俺は自分の眉間を触ってみると……

 

 

 ――――成る程、確かにこれでもかって言う位に皺がよりまくリングな状況で……はい!?

 

 ちょ、おまっ! なんで笑顔を作っただけで眉間によるかな!? 触っただけでも不機嫌な顔をしているって実感するんだけれど!?

 ま、まてよ……確かさっきの二人って俺の顔を見て逃げていったよな?

 

 つ、つまるところ……避けられているのは事実で、更にその原因を作ったのは……俺自身!?

 

「どうしたのだお兄ちゃん?」

 

「いや……自分…の……浅はかさ…を…痛感し…た」

 

「ん~……鈴々、難しいことはよくわからないけれど、きっとお兄ちゃんなら何とかなると思うのだ!」

 

 そう言いながら鈴々ちゃんはいつもの元気な笑みを浮かべた。

 うぅ……鈴々ちゃんの優しい言葉が身にしみやがるゼ……でも、その根拠のない言葉が何よりも心をエグるのは何故だろう?

 

 そんな事を思いながら俺は鈴々ちゃんに手をひかれながら昼食をとるために町へと向かうのであった。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

「はわわ~驚いたね雛里ちゃん」

 

「うん……やっぱり、怖いね朱里ちゃん」

 

 彼女たちは凌統の前から逃げ出したのち、城下町へと来ていた。 彼女たちは凌統を一目見た瞬間から、その何を考えているのかわからない表情に恐怖を覚えていた。

 元々、軍師である彼女たちは他国の使者等と腹の探り合いも仕事の一環として行っている。 そのため、かかわる人間の人となりを見抜くことに長けている。

 

 もちろん、この国の太守である劉備、関羽、張飛と関わり、彼女たちの人となりを把握し、彼女たちを信頼し真名を交換していた。

 しかし、その中でたった一人だけ彼女たちが把握できない人物がいた。

 それが凌統その人である。 別段、彼に何かされたとかそういった部類の事はなかったが彼の内面が見ることができない、まるで彼との間に見えない壁が立ちはだかっているかのように他の人とは違った距離を感じていたのだ。

更には凌統が男性と言うことも、只でさえ近づきにくい状況に拍車をかけている。

彼女達は水境の下で学んできた。 そこは男性はおらず、いわゆる女学校と同じような塾だったのだ。

その為、只でさえ男性に慣れていないのに愛想はなく何を考えているのかわからない凌統は彼女達にとって恐怖の対象でしかないのだ。

 勿論、彼女たちはそのことを他の仲間たちにも相談した。 凌統はどんな人物なのか、自分達はどう接すればいいのか?

しかし、皆からは同じような言葉が返ってくるだけなのだ。

 

『柚登殿か? うむ……そうだな、見た目は冷淡なお人だが、内に秘めし想いは誰よりも熱く常に誰かを想う事のできる人……うん、そうだな』

 

『お兄ちゃん? ん〜とね、鈴々と同じくらい沢山食べて鈴々と同じくらい強いのだ!』

 

『柚登さん? 凄く良い人だよ。 誰かのために涙を流せる心の温かい人だし、それに本気でこの戦乱の世を正そうって考えているみたい。 だから、私も愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも柚登さんの事を信頼しているんだよ』

 

 弱冠一名、あまり参考になりにくい人もいるのだが、他の二人からの評価は上々のようであり、その所為で二人は余計に凌統という人物の人となりが分からなくなってきているのだ。

自分の目を信じればいいのか、それとも皆の意見を信じればいいのか……

 

 もちろん、彼女達も凌統に対して申し訳ない気持ちは持ち合わせている。

 今までだって散々、目の前で逃げ出したこともあったし、なるべく視線が合わないようにとあからさまに顔を背けたこともある。

 しかし、明らかにこれは失礼過ぎる態度だ。

 

「やっぱり……よくないよね?」

 

「うん……どうしよう朱里ちゃん」

 

 二人は互いの顔を見合いながら深いため息を吐いた。

 

 そんな時だ、遠くの方からたった今、彼女達が噂していた人物が歩いてきたのは。

 二人の少女は反射的にその小さな体を路地へと滑り込ませて姿を隠した。

 そこから火中の人物を見てみるとその人物の肩には自分達の知っている少女が器用に腰掛けていた。

 

「お兄ちゃん、鈴々ラーメンがいいのだ!」

 

「了……解」

 

 肩に座っていたのは張飛こと鈴々だ。

 凌統達は隠れた二人の存在に気が付いていない様子である。

 

 二人は安堵の表情を浮かべて息を付いた。よく凌統達を観察しているとどうやら昼食に向かう途中らしい。

 

「……ねぇ雛里ちゃん、後を付いてみようか?」

 

「えぇ!? それって尾行って言うんじゃ……」

 

「ち、違うよ雛里ちゃん! 後を付けて凌統さんを見極めるために……」

 

 注)人はそれを尾行と呼びます。

 

 そんなこんなで、朱里と雛里の二人は凌統達の後を付ける事にした。

 しかし、そこで思わぬ弊害があった。

 

 敢えて言う必要があるかは疑問だが、この付近は建てたばかりとは言え劉備達が善政を行っている町だ。

 勿論、外部からは商人や移民達で町中は溢れかえっていると言っても過言ではない。

 そんな中の移動は非常に困難である。

 

 そんな中、凌統は一般人と比べて体格が大きい。

 少し歩きにくくはあるが、前方を視認することが出来る。

 凌統と一緒にいる鈴々に至っては、あまりの人の多さから歩くことを諦めて逸れないようにと凌統の肩にまでよじ登ったので特に息苦しさなどは感じておらず、こちらも問題ない。

 

 そして、一番の問題となるのがチミッ子軍師sだ。

 二人の体格は間違いなく一般人のそれと比べて小さい。 寧ろ、小さすぎる。

 そんな彼女達が人でごった返している通りを人一人を付けながら歩くのは用意ではなかった。

 

 結果的に――――

 

「はわわ!? ひ、雛里ちゃーーーん!」

 

「しゅ、朱里ちゃーん!」

 

 人の波にもまれてアワや二人とも人通りの多い町の中でモノの数秒も経たないうちに離ればなれになり遭難するところであった。

 反射的に孔明が鳳統の手をとり自分の元へと引き寄せたので離ればなれになる事は無かったが、いかんせんこのままでは凌統を追いかけるどころの話ではない。

 二人がそんな風に手をこまねいていると、そこに数人の男性が近寄ってきた。

 

「へへっ嬢ちゃん達、何か困っているようだが俺たちが手を貸してやろうか?」

 

 人数にして五人ほどの集団ではあるが、明らかに一般人というよりも素行の悪そうなニヤついた目付きをしているチンピラ紛いな男達である。 善政が行われるということは、ただ人が集まるだけではなく、彼らのような人物をも引き寄せる事は理解していたが、まさかこんな形で遭遇してしまうとは彼女たちも予想外であった。

 もちろん、見た目は幼いとは言え彼女達も一端の軍師をやっている間柄、明らかに害意をもって自分たちへと近づいてきたということを瞬時に理解した。

 しかし、ここはかなりの混み合いを見せる大通り。 周りの人間達は困っている彼女達に気づく様子もない、しかも男等と彼女達との距離は近く、逃げることは難しそうである。

 

「い、いえ! 私たちは大丈夫ですのでどうぞお気遣いなく!」

 

「ゲヘヘ、そんなつれねぇ事言わずにさぁ、ちょっと俺たちに酌してくれりゃあいいんだよ」

 

「しゅ、朱里ちゃん……」

 

 気丈にふるまって見せる孔明ではあるが、明らかに語尾が震えており、恐怖心が少なからずあるということが傍から見てもわかる。

 鳳統はあまりの恐怖で男たちへ顔を向けることができずに、瞼を固く瞑り親友と繋いでいる手に力を込めた。 その目尻にはジワッと涙も浮かべている。

 

 そんな二人の様子を見て男たちは下賤な笑いを浮かべる。 明らかにその様子は二人が怖がっている様子を楽しんでいるようであった。 そして、そのうちの一人が彼女達へと手をゆっくりと伸ばしてきた。

 

 ――――しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を…してい…る」

 

 そこに思いもよらぬ人物が登場したのであった。

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 いやはや、驚きの光景が目の前に広がっている。 俺は鈴々ちゃんと昼食へ行こうとしたのだが、街中を歩いている最中財布を持ってくるのを忘れたことに気がついたんだ。

 流石に無銭飲食はいただけないし、自他ともに小市民な俺にツケにするという考えが浮かぶはずもない。 しかも、連れの鈴々ちゃんは俺同様に財布を持ってきていないようだ。

 初めは彼女に『ツケにするのだ~』と言われたが、先述のとおり俺にはそんな選択肢はない。

 仕方なく、財布を取りに城へと戻るために俺はきびすを帰したんだ。

 

 突然だが、この国の大通りは半端なく混んでいる。 正に乗車率100%と言ってもいいくらいの混みようだ。

 そんな中を流れに逆らって歩くのだ、流石に自称ごっどぅさんによって身体能力を高めてもらった俺といえども、そこいらの民間人を薙ぎ倒しながら歩くのは出来ないことはないが、迷惑極まりないのでやらない。

 そのため、大通りの端っこを体を縮こまらせながら歩いていた。 鈴々ちゃんは空腹がピークなのだろう、先ほどまでは俺の肩に座っていたのだが力無いように俺の頭の上でたれ●ンダ並みにへばっている。

 一応、俺の視界に入らないように移動させたので特に邪魔ではない。

 

 そのような感じで城に向かって歩いていたのだが、俺の進路上にどこか見知ったマジカルハットがあるのに気がついたんだ。

 もう言うまでもなく、見た瞬間に俺を若干避けている鳳統ちゃんの三角帽子だと気がついた。 そして、よく目を凝らすとその横には同じく俺を避けている節のある孔明ちゃんがいる。 二人は通りにある人の流れが少ない所にいるもようだ。

 ……少しだけ頬を温かい何かが流れたような気がした。

 

 おとと、話がそれちまったな。

 兎に角、俺を避けている二人が進路上に居ることを確認した俺は二人に不快な思いをさせないように二人の周りを回るように歩こうと思ったんだ。 だけれど、ここは乗車率100%並みの混んでいる大通りだ。 流石にそんな無駄すぎる動きができるわけもなく、俺は人の波にはじき出されて再び大通りの端っこまで来てしまった。

 ……仕方がない、二人に会った時は偶然を装って早々に退散するとしよう。

 

 俺はそう判断して再び前に歩き出した。 しかし、そこで俺は予想外な声を聞いてしまった。

 

「い、いえ! 私たちは大丈夫ですのでどうぞお気遣いなく!」

 

 何やら孔明ちゃんが叫ぶような感じで誰かに何かを訴えていたのだ。 ……なるほど、確かに二人の目の前には見た目が明らかに『私、チンピラッス!』的な主張をされている方達が五名ほど見える。

 なんだか明らかに危なさそうな感じがするゼ……うん、二人には悪いけれど、俺は何も見なか……

 

 そう判断した俺は再びきびすを帰して困っていそうな二人を尻目にその場を離れようとしたんだ。 しかし、そこでショッキング的な出来事が起きた。

 

「はい、今日お持ちしたのは南蛮から取り寄せた果物だ! このあたりじゃ滅多に手に入らない貴重品だよ! お、そこの奥さんこれどうだい?」

 

「凄く……大きいです」

 

「だろぉ? こいつを食すには……ほれ、こうやって皮を丁寧に向いて中の実を食べるんだ。 一口食べれば甘酸っぱくて芳醇な香りが口の中を駆け巡るよぉ!!」

 

 ……なんで聞こえたのかわからないけれど、孔明ちゃん達を挟んでちょうど俺とは反対側で街頭販売を始めたオッサンがいたんだ。

 ってか、その果物ってバナ……まぁいいや。 しかし、人間という生き物は新しいものを目にすると興味がわいてしまう生き物なんだな。

 

俺。流れに逆らって歩く

孔明ちゃん達発見! 俺Uターンして流れに沿って歩き始めようとした。

街頭販売開始! 再び流れに逆らうように……

 

 ついさっきまでの流れとは明らかに人の流れが変わっちまったよ。

 その所為で再び流れに逆らって歩くことになった。 しかし、今度の流れはいかんせんその勢いが違いすぎた。

 気がつくと俺はその人の流れに乗ってしまい、再びUターンする羽目になってしまい、またまた孔明ちゃん達に近づくルートを歩き始めた。

 

 しっかし、困った……明らかにこれはよくないことが起きそうだ。 気がつくと二人との距離は二メートル位まで狭まっている。

 だが、流石にここまで近づいてしまった以上、無視することはできないか。 俺は意を決して二人に声をかけた。

 

「何を…してい…る」

 

 どうやら俺の声は二人だけではなく、そのそばにいた男たちにも聞こえたようで、二人を含めて皆が一斉に俺のほうへと視線を動かした。

 ……な、なんだよ。 そんなに見つめられたら照れちまうじゃねぇか!!

 

「りょ、凌統さん……」

 

「あわわ……」

 

 な、なんでだろう? 二人の少女が男に囲まれたとき以上に怯えた表情で俺のほうを見ているのですが……鬱だs――――

 

「あんだぁ兄ちゃん邪魔すんじゃねぇよ。 俺たちはこの嬢ちゃん達に酌を頼んでいるだけなんだからよぉ~」

 

 いや、俺も出来るならなるべく関わろうとは思わなかったんだけれど……はぁ、なんだか面倒くさくなりそうな予感しかしない。

 

「……二人を見逃…せ」

 

「ああん? あわふいてんじゃねぇぞ!! んだごだぁきっけるわきゃねんだぁ!!」

 

 お願いですから俺にもわかるような言語で話してくださいな。

 しゃあない、ここは誠心誠意お頼み申しあげてみましょうかね。

 

「もう一度言う……さっさと…消えろ」

 

 あ、あり? いつもの事ながらいろいろとすっ飛ばしたセリフが俺の口から出てきた気がするのですが気の所為でありんすか?

 しかも、今の言葉で激怒してくると思いきや、なんだか男達+軍師sがめっさ青い顔しているのですが気のせいですか?

 いや、それだけじゃなくてさっきまで混んでいたはずの通りで何故か俺たちの周りから人が離れて行っている気がするのですが気のせいですか?

 

「お、おい……この人ってまさか…!?」

 

「ま、間違いねぇ……数ヶ月前にたった一人で黄巾党の軍勢を退けたっていう…」

 

「そうよ、確か凌統っていうこの国の将で…」

 

「確か先日も黄巾党の残党を捕まえたって…」

 

 なんだか野次馬の方から明らかに俺の噂話をしているのですが? ってか、最後の人、確かに黄巾党の残党は捕まえたけれど、あれは半ば勝手に自白したってだけで……

 しかも、将扱いされてはいるけれど、俺的にはさっさと辞めたい職業で……

 そんな俺の心の叫びは当然のことながら周りには聞こえない。 しかし、野次馬の声は間違いなく孔明ちゃん達に絡んでいた男達に聞こえていたわけでして……

 

「お……おい、まずいんじゃないのか?」

 

「しかも、凌統って言ったよな? 確か凌統って」

 

「お、俺知っているぞ! 『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』って字が……」

 

「――――くっ! きょ、今日のところは勘弁してやる!」

 

 そう言い残して男たちはその場から逃げるように走り去って行った。 最後に『これで勝ったと思うなよーー!!』と言い残していたところをみると、また出てくるのかな?

 そして、残されたのは俺と孔明ちゃんと鳳統ちゃんだけになってしまった。

 

「「……」」

 

 し、しかも、空気が滅茶苦茶重いぃ!! なんだか二人とも凄く驚いた表情で俺を見上げているし。

 そんな重い空気の中救世主が現れた――――

 

「んにゃあ……お兄ちゃんご飯~」

 

 ――――具体的に言うのなら俺の頭の上というしまりのない場所からだけれど。

 どうやら、結構限界値まで達したみたいだ。 そう言われれば俺も結構腹が減ってきたな。 さっさとお金を取りに行くとしますかね~

 そうだ、折角だしこの子たちも一緒にご飯行こうか聞いてみようかな?

 

「あ、あの――――」

 

「飯……」

 

 あ、孔明ちゃんと声が重なった。 声が重なった瞬間、孔明ちゃんは身を少し引いて目を固く瞑った。 その姿はまるで両親に怒られて叩かれるのを待っているかのような雰囲気だ。

 別に叩くわけがないんだけれど……そして、雛里ちゃんは俺の顔を見て半分以上泣いているんだが……これって結構、心の内側を抉られる感覚なのですが。

 

 そのままの状態で十秒ほど膠着の状態が続いた。 どうするか考えていると半分死んでいるような状態の鈴々ちゃんが再び口を開いた。

 

「朱里と雛里も……ご飯……行くのだ……」

 

 なんだか話し方が俺に似ていないかな? まぁいいや、そして鈴々ちゃんの言葉を受けて孔明ちゃんと雛里ちゃんはキョトンとした顔をして一斉に俺の顔を見た。 明らかに俺の顔色をうかがっているのは明確だ。

 別に俺は誰とご飯行くのも構わないからな。 俺は『一緒に行こう』的な返事をした。

 

「で、でしたら……!」

 

「わ、私たちがお支払いします!!」

 

 ……なんだか半分脅されて仕方なくお金を出します的な印象を受けたのは決して気のせいではないはずだ。

 でも、お金がない現状としてはとても嬉しい申し出だ。 俺は断ることなく軽く頭を縦に振った。

 俺が頭を振ったことにより頭の上の鈴々ちゃんが盛大に揺られて何かを言っているみたいだったが、あえて放置しておこう。

 そして、俺たちは四人で鈴々ちゃんのリクエスト通りラーメンを食べに行くことにしたのだが……流石に四人となるとこの道の混雑様によっては、はぐれる率も高いな。

 それに、鈴々ちゃんは俺の頭に乗っているから良いとしても、この二人はほおっておいたら人の波で流されてしまう。

 かといって、手を繋いで歩くとこの人通りでは流れを止めてしまって歩きにくくなる事受け合いだし……

 しゃあないな、ここは鈴々ちゃんと同じ手法で行こうかな。

 

「二人……とも…少し…我慢…しろ」

 

「ふぇ――――はわっ!?」

 

「あわわっ!?」

 

 俺は少し身をかがめると孔明ちゃんと鳳統ちゃんを担ぎあげて先ほどまで鈴々ちゃんがしていたように左右の肩に二人を座らせた。

 うむ、こうすればはぐれる事は無いし、尚且つ人にぶつかって危なくなる事もない最高の形だな。

 ただ、一つ難点があるとしたら頭に鈴々ちゃんを乗せて、左右の肩に孔明ちゃんと鳳統ちゃんを乗せているというとてつもなく不可思議な格好をした俺が不審者感満載ってことかな!

 

 ……グスン

 

「あ、あの凌統さん!?」

 

 何かを訴えようと孔明ちゃんが口を開いた。 ……そう言えば、何か違和感があると思ったらこの子たちって俺の事を名前で呼んでいるんだよな~

 同じ城に居るのに……そうか! これが何か壁を感じる理由の一つかもしれない。 だったら俺の真名を呼んでもらえるようにすればいいんだ!

 

「柚登……」

 

「「……え?」」

 

「柚登で…いい……」

 

「で、でも私達……」

 

「り、凌統さんの事を避けて……」

 

 孔明ちゃんと鳳統ちゃんが何かあわてた様子だ。 ってか鳳統ちゃん、やっぱり避けていたのは本当だったんですね? お兄さん、少しだけ泣きそうになっちまったよ。

 でも、避けるような仕草をしているのは決して君たちだけじゃないから気にしなくていいよ~

 昔から変な目で見られることとかに離れているからさ。

 

「気に……するな………慣れて…いる」

 

「慣れているって……」

 

「今までは……どうされたのですか?」

 

 なんだか、真名を教えただけでここまでおもっ苦しい空気になるとは予想外だったな。 それと、鳳統ちゃん? わざわざ俺の傷口を広げるような質問はやめていただきたいんだが……でも、答えるけれどね。

 

「どうも……しない…俺は俺…だから……しかし…理解される…と嬉しい……のも…また事実」

 

「「……」」

 

 そして再び黙ってしまうお二人さん。 えっと、これはやはり無理です的なお断りな返事なのでしょうか?

 別に、二人の真名を教えてくれと言っているわけではないのだが。 やっぱり、俺の真名は呼びたくないのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私は朱里です」

 

「え、えと……ヒナ、雛里…です」

 

 あ、あり? なんか真名を教えてもらえたのですが?

 

「私たちは誤解していたみたいです」

 

「りょう……柚登さんの事を怖い人って……で、でも本当は優しい人ってわかりました」

 

 やっぱり、怖い人って思われていたんだ。 でも、なんだかよくわからないうちに考えを改めてくれたみたいでよかったよ。

 うっわ、なんだか無駄にテンションが上がってきたぜ!! 今日の調子でいけばラーメン超特盛が十杯位をペロリと完食できそうだぜ!!

 

「……柚登…だ…」

 

 そうして、俺は朱里ちゃんと雛里ちゃんの真名をもらうことができたとさ~

 

 追伸:テンションがMAXの俺と空腹度MAXの鈴々ちゃんの食欲を見て再び朱里ちゃんと雛里ちゃんが涙目になったのはまた別のお話だったりします。

 

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに~(^o^)ノシ


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第十八幕 合流して

――――チャラララ~ン♪

 

――――凌統はレベルが上がった。

 

――――凌統はコミュニケーション能力が一ポイント上がった。

 

――――凌統は器用さが五ポイント上がった。

 

――――凌統はようじょの真名を手に入れた。

 

――――凌統はフードファイターの称号を得た。

 

 

 ……やぁ、ちょっといつもと趣向を変えてのオープニングをお送りした凌統だよ。

 なお、今表示されているレベルアップ時のステータス上昇値は物語とは全く関係ないので、箱のなかに入れて焼却処分してくれると助かるぜ!

 さて、気がついたらロリっ娘の軍師sとも真名を交換した凌統です。 なんだかんだで気がついたらこの国の将全員と真名を交換しているという事実に驚きを隠せない状況でもあります。

 

 え、そんなことはどうでもいいって? ……まぁ、確かに私事(わたくしごと)だから報告とかしなくていいかな。

 それじゃあ、今度は新しい報告をしよう。 ここで暮らし始めて早数ヶ月、つい先日の出来事なんだけれど――――

 

「おぉ柚登、半年ぶりではないか」

 

 ……何故だか、白蓮さんのところで客将をしているはずの星さんが俺たちを訪ねに来たことくらいであろうか。

 なんでも、黄巾党の乱が収束に向かいだした時に白蓮さんから暇をもらって各地を放浪し始めていたらしい。 初めは愛紗さんがなんでそんな事をしているのか疑問に思ったみたいだが、さらに話を進めてみると、士官先を自分の眼で見て自分の耳で聞いて探していたみたいだ。

 何ともまぁ、星さんらしい理由とだと思う。 白蓮さんには悪いけれど、あの場所には収まりきらなかったのだろう。 ってか、安易に言えば『伯珪殿は我が槍を預けるに相応しくない』って言っていないかこの人?

 

 それで、候補としては三国志には有名な覇王である曹操。 だけれど、その人のところに漂う百合っぽい雰囲気が気に入らないみたいだ。 ……どちらかというとぴったりの印象だと思うんだが。

 

「柚登、今不吉なことを考えなかったか?」

 

「……気の所為…だ」

 

 あ、あぶねぇなこの人……今俺が考えたことを読んだんじゃないのか?

 

「それにな、あそこには『天の御使い』と呼ばれる男がいたのだが……」

 

「えぇ!? 本当に天の御使いって人がいたの!?」

 

 おぉ~前に愛紗さんから聞いたことがあるぞ。 確か、乱世を治めるがどうとかこうとか……

 まぁ、特に興味がないから忘れまくっていたけれど。 でも、そんな人が曹操のところに居るなんて……少なくとも俺の知っているなんちゃって三国志にはそんな人はいなかったけれどな。

 

 やっぱり、名だたる武将が女の子だったり、凌統である俺が劉備と一緒に行動しているっていう時点で色々と変わっているのかもしれないな。

 でも、一度会ってみたいな天の御使いって人に。 男だっていうし、もしかしたら馬が合うかも――――

 

「うむ、そやつなのだが何やらこう……そう、将来的にあの国の種馬になっていそうな気がしてな」

 

 ――――なんだか、俺も変な目で見られそうだから会うのはよそうかな。

 そして、他の五人も微妙な顔をしているようだし……たぶん、今皆が考えていることは同じことなんだろうな~

 あえてそれを言わないのも優しさだと思うから何も言わないでおこう。

 

「そして、もう一つは孫策殿のところだ」

 

 おぉ、正史で凌統が仕えている呉の人のことだな? これは凌統である以上俺も興味がわいてくるな。

 俺は星さんの言葉を聞き洩らさないように耳を象のように大きくしたつもりで耳を傾けた。

 

「完璧な布陣過ぎてつまらんのですよ」

 

 ……ようは、自分が活躍したいってことか。

 でも、将である以上は名を挙げたいってのもあるから星さんには向かないのかもしれないな。

 

「おぉそう言えば、孫策殿のところで雪花殿にお会いしたぞ」

 

 ――――ブッ!? はぁ? ちょ、まちんしゃいな! 母は確か村で静かに暮らすって言って俺を白蓮さんのところに置いて行ったんでしょうが! なんだって、孫策さんのところで母に会うんだよ!?

 星さんの言葉に俺は内心で吹き出しまくった。 だって、ここ数カ月会っていない母に突然会ったと言われたのだ、誰だって驚く。

 しかし、そんな星さんの言葉に桃香さんたちはピンときた様子はない。 っていうか、確か母の事は伝えていなかったから仕方ないかもしれない。

 

「それって真名だよね? 星ちゃんのお知り合い?」

 

「いやな、以前お会いしたことがあるのだが柚登の母君のことだ。 以前は二人で旅をしていたようだが……」

 

 桃香さんの言葉に星さんは少し微笑みながら、そして俺には少し意地悪そうな目を向けながら話を続けた。

 

「なんでも、孫策殿のところで武官として働いているらしい。 理由はどうあれ、お前のことを心配していたぞ柚登?」

 

 しかし、俺には武官はやめるとか何とか言っておきながら……でもまぁ、あの母が大人しく暮らすなんて想像できないし……まぁあの人は――――

 

「――――自由……な…人……だから…な」

 

「ふふ、違いない」

 

「柚登殿の母君か……きっと柚登殿と同じく聡明な方なのだろうな」

 

 は、聡明? ってか愛紗さんの言葉に俺と星さんを除いたメンバーうんうんと頷いているけれど、あの母に一番似合わない言葉が聡明だと俺は思うんだけれど?

 星さんは何も言わずに笑いをこらえている様子で肩をプルプルと震わせている。

 

「――――ククク…柚登、よかったな『あの母君』を皆が聡明と思っているようだが?」

 

「俺も…母も……程遠い…」

 

 俺と星さんの言葉に再びキョトンとした顔をする皆さま。

 

「残念ながら柚登と雪花殿の性格は正反対だ。 あれは……そうだな、おそらく鈴々と似たり寄ったりなものだな」

 

 軽く俺自身も聡明じゃないって言ったのにスルーされた。 それよりも鈴々ちゃんと同じか……寧ろ、うちの母の方が性格的には破綻していると思うな。 だって十歳の子供を死地に送り込むような母なんだぜ?

 

「にゃ? 鈴々、子供いないのだ」

 

「鈴々と同じとは……それはまた、違うというかなんというか」

 

 皆さんが一斉に微妙そうな顔に早変わりしたのに驚いたよ。 おとと、そんな俺の母話はどうでもいいんだよ。

 今はどちらかというと星さんがなんでここに来たのかを聞くときじゃないのか?

 

「……何故…来た?」

 

「ふむ、何故私がここに来たかということか?」

 

 星さんの言葉に俺はゆっくりと首を縦に振った。

 

「それはだな――――やはり、抱かれるのなら見知った相手がいいと――――」

 

「何の話をしている!?」

 

「何って、ナニの話に決まっておろう愛紗」

 

 ……やっぱり、星さんは星さんだな。 シナを作りながら俺の頬をなぞってくるが星さんの性格上間違いなくからかってきている。 しかし、ここは敢えてこの冗談に便乗すると、俺のコミュニケーション能力がそれほど低いというわけではないというのを皆様方に証明するチャンスであるのかもしれないな。

 よ、よ~し……なんで俺自身こんな考えに至ったのかが不明ではあるが、ちょっとばかり便乗してみようかな。

 

「そう…か、光…栄……だな」

 

『…………』

 

 あ、あれ? なんだか星さん以外の皆さんが『あんた何言ってんの?』みたいな感じの視線を俺に投げかけている気がするのですが……

 

「柚登よ私が言うのもあれだが……自分らしくないことは言わぬが吉だぞ?」

 

「……了解…した」

 

 再び空気が微妙な感じになってしまったのは決して自分の責任ではないと言い逃れをしたいところだが、間違いなく俺のせいなのでどうしようもできない状況で困り果てた凌統でした。

 

 

 

 

 

――――一方その頃……

 

「――――――だああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ふむどうした、もう音を上げるのか?」

 

 よぉ、俺は雪花だ。 訳合って今俺は孫策のところで将として働いている。放浪時と比べると給料はそれなりにもらえるし、腕の良い将がいるから戦い足りネェ事は……たまに赤い水を見たくなるが事足りている。

 だが、俺にはどうにも肌にあわねぇ仕事がある。 ……それが何かって? それはだな……

 

「音を上げるも何も――――な・ん・で! 俺がテメェの仕事の手伝いをせにゃならんのだ冥琳!」

 

 なんでかしらねぇが、俺に対して必要以上に武官の仕事ではなくて文官の仕事をさせてくる褐色肌の眼鏡大軍師様の周瑜こと、冥琳が持ち込んでくる竹簡の山々だ。

 ここで重要なのは、冥琳が持ち込んでくるって言うところだからな、注意しとけよ。 ……俺は誰に言ってんだよ。

 兎に角、この冥林はなんでかしらねぇが必要以上に俺に対して文官の仕事を持ち込んでくる。 しかも内容に一貫性はなく、警邏の編成だったり、町の治安状態、はたまた民からの要望書なんかもあるもんだから半端ではない数になる。

 

 ウゲェ、こっちなんかは経理の事についてじゃねぇかよ。 ってか、入って間もない俺にこんな重要そうな物を見せても大丈夫なのかよ?

 

「ふむ、至極簡単な理由だ。 お前の借金は全て雪蓮が立て替えている。 そのお前を雇い、お前の仕事を決めるのをすべて私に託した……以上だ」

 

 な、納得いかねぇぇ!! ってか、雪蓮は何のために俺を雇ったんだ? 言っちゃあ悪いが第一印象は間違いなく武官だぞ俺!? なんだって文官をやらにゃならんのだ!?

 しかし、ここでぶつくさ言っても仕方がない。 俺は渋々新たな竹簡へと手を伸ばした。 えっと何々……不作についての対策案って……本当に俺、これ見ても大丈夫なのか?

 

「しかし、お前はおかしな奴だな」

 

「あぁん? 喧嘩売ってんのか? だったら買うぜぇ~給料一年分くらいの賃金で買うぜぇ~」

 

「武官のように見えて文官の仕事もこなすとは……意外と教養は良いのだな? 喧嘩は買わんぞ」

 

「チッ……しゃあねぇだろ、柚登が少しは勉強しろって言うんだからよ」

 

 二人で旅をしていたころのことだ。 その頃の俺は本当に武官気質で冥琳の言う教養のかけらも存在していなかった。

 しかし、そんなあるとき柚登が俺の言うのだ『勉強……し…ろ』ってな。 流石に俺も柚登に言われちまったら抵抗できないからよ、仕方なしに色々と習ったもんだぜ。

 いや、今思えば柚登は教えるのがうまかったなぁ~……あいつに教えたことなんてないけれど。

 

「ふむ、それは真名だな? なんだ、お前の好い人(いいひと)か?」

 

 俺の言葉に何を勘違いしたのか冥琳ニヤニヤしながら俺に詰め寄ってきた。

 ってか、柚登が良い人(いいひと)なのは間違いないな。 俺の子供とは思えないくらい良い奴だからなあいつは。

 

「そうだな、良い奴だぞ」

 

「……捉え方が違うようだな。 名は何と言うんだ?」

 

「んだよぉ~興味あんのか? つってもアイツは俺の倅だぜ」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、冥琳はキョトンとした表情になった。 ……そう言えば、まだここで柚登の事を話したことは無かったな。 良い機会だし、話しておくかな。

 

「せが…れ…? お、お前、子供がいるのか!?」

 

「おうさ、性は凌、名は統、字は公積ってんだぜ!」

 

「一体お前の歳は幾つなのだ? しかし、凌統か……ん? 凌……統……凌統だと!?」

 

 柚登の名前を何度か繰り返したのち、眼鏡の奥の眼を見開き、冥琳の表情が一変した。

 そして、急に俺の両肩を乱暴につかんできたのだ。

 

「ちょ、なにすんだよ!」

 

「――――お前の…お前の息子は管路の占いの天の御使いの名とほぼ同時期に大陸中に広まっていた『戦乱を凌ぎ全てを統める者』であっているのか?」

 

 冥琳はまるでそれが正解かのように確認の意を込めて俺に聞いているかのようだった。

 そう言えば、柚登と旅をしている時や一人旅をしている時なんかはその名前をよく耳にした気がするぜ。

 しかも、それが自分の息子を示しているんだから当初はなんでそんな噂が立ったのか不思議で仕方無かったなぁ~

 

「おう、そんな風に呼ばれていた時期もあったからな。 それであってる――――(バタン!)――――っていねぇしよ」

 

 そして、冥林は俺の返答を聞くや否や、勢いよく部屋から飛び出していき、残ったのは、ドアが乱暴にしまる音のみだった。

 なんだってあんなに慌てて出て行っちまったんだ? ……って、ちょっと待てよ……この竹簡の山、俺が一人で処理すんのか……?

 そして、この部屋に残されたのは俺と机の上に残された山のような竹簡のみ……内容はさっき言った雑務的なものから経理に関わる物とさまざまであるが、明らかに俺一人では捌ききれないほどの量だ。

 ってか、冥琳がいたとしても一日でできる仕事の量じゃねぇ。

 

 その後、幾ら待っても冥琳は戻ってこず、その日俺は夜を徹して竹簡の処理に当たる羽目となったのであった。

 しかし、その時の俺は気が付いていなかったのだ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~雪花の息子の凌統ね……うん、なんだか私のところに来る予感☆」

 

 俺の何げない一言で柚登がとんでもない目に遭うことになろうとは……このときの俺は竹簡の処理で頭がいっぱいでそのことを考える余裕はなかったのだった。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに~(^o^)ノシ


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第十九幕 手紙来て

 おっすオラご……凌統! なんでも願いをかなえてくれるという竜の玉を探してオラは仲間の劉備、関羽、張飛、趙雲、孔明、鳳統と共に世界中を旅してんだ。

 だけど、その道中、竜の玉を狙って悪い奴らがいっぺぇ襲ってきた。 金ぴか大将率いる『レンーゴー』との戦いは辛かったが、オラにはたくさんの仲間がいたんだ。

 そうして、やっとの思いでそいつらを倒して竜の玉を全部そろえる事が出来たんだ!

 さぁ、後は願いをかなえるだけだ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――という夢を見た。

 

「柚登さん、どうしたんですか?」

 

「なんでも……ない」

 

 桃香さんの戸惑いと心配が入り混じった声で少し悲しい気持ちになってしまった

 気を取り直して……現実に舞い戻って来た柚登だよ。 え? 今のは昨日見た俺の夢だから全力で気にすんな!

 さてさて、最近は俺も内政にだいぶ慣れてきた。 もっとも慣れたといっても仕事が山のようにあるのは変わらない。 町の警邏、財政状況、税収、作物の不作エトセトラエトセトラ……

 簡単に言えば忙しい現状に慣れてしまったと言った方が正しいのかもしれない。 だが、大きな戦もなくほんの少しだが忙しくも平穏な毎日を過ごしていた。

 しかしそんなある日、大陸全土を震撼させる事件が勃発してしまったんだ――――――

 

 

 

 ――――――漢の皇帝、霊帝って人が亡くなったのだ。

 元日本人の俺からしてみたらピンとはなかなか来なかったのだが、現日本で言うところの不謹慎かもしれないが天皇が亡くなったのとほぼ同義だと判断した。

 しかし、ここはあくまでも俺がいた日本とは違い、三国志の世で戦乱蔓延る世界なのだ。

この国の支配者である皇帝が死んだという事は、朝廷内ではびこっていた権力争いの始まりに過ぎない。

 それだけを聞いていると俺たちに関係あるのか? と思ってしまうが、どうやら事はそんな単純な事ではないらしい。 最も、難しい言葉を並べられても俺には理解できないし、理解しようとも思わない。

 つまるところ、至極簡単な言葉にまとめると……

 

「……戦乱が…始…まる……か」

 

 さて、何故いきなり俺のシリアスっぽいセリフから始まったのかと言うと、ある日俺達のもとに三国一の名家と言われている袁紹って人から書簡が届けられたんだ。

 さっき説明した権力争いがどうたらこうたら……そして、新しく皇帝になった人を董卓が傀儡のように扱って民に対して圧政を強いてるから反董卓連合を結成しましょうとかの檄文がどうたらこうたら……

 それを見た瞬間俺の頭にピンと来たんだ。『これは間違いなく董卓のイベントだ!』ってね。

 それを踏まえてでの発言でもあったりする。 そして、この袁紹から届いた書簡。 どうやら俺達のところだけではなくて各地で割拠する諸侯にも送られているとのことだ。

 俺達もこの書簡を受け取って緊急会議をする事となった。 俺的には面倒事には参加したくないんだけれど……ってか、日々があまりにも忙しすぎて俺の夢である平穏無事な毎日の事をすっかり忘れていたぜ……え、なんだかすっげぇ遠ざかってないか今の生活って?

 

「当然参加だよね柚登さん! 董卓さんにはさっさと退場してもらわないと!」

 

「桃香様の仰る通りです。 正義の鉄槌を喰らわせなければ」

 

「お兄ちゃん、悪い奴は鈴々がぶっ飛ばしてやるのだ!」

 

 ……皆さん、何故俺に聞くのですか? 少なくともこの地を治めているのは桃香さんなんだから俺じゃなくて桃香さんに同意を求めるのが筋……いや、桃香さんは既に参加する気満々か。

 ……はぁ、気が進まねぇなぁ~何で態々自分から戦乱の中に飛び込まないといけないのやら。

 しかし、やる気満々の彼女等をしり目に少し慎重な意見を持っている方々もいるようでして……

 

「柚登、お主も気になる事があるようだな?」

 

 おふぅ、星さん何で急に変化急まっしぐらのキラーパスを俺に向けるのですか? 気になる事って……しいて言うなら何で俺に意見を求めるのかって言う事くらいなのですが?

 

「柚登殿と星は反対とでも言いたいようだな」

 

 眉間にしわを寄せた愛紗さんが俺と星さんを鋭い目でみた。 や、やめて……俺みたいな小市民にそんな眼光を向けると問答無用で石化の効果が発動して動けなくなっちゃうから!

 

「私達はそうは言っておらん、ただ……」

 

 何故、其処に俺を含めて二人の意見としているのかが果てしなく疑問ですよ星さん!?

 

「御二人とも、この手紙の内容が気になるのですね?」

 

 そう言って前に出たのは我らがチミッ娘軍師こと朱里ちゃんだ。 だが、その前に俺にもひとこと言わせてくれ。

 

「一方的……すぎ…る」

 

 主に俺の意見を全く聞かない事に関して。 どうだ! 俺にも少しは意見を言わせてくれよ!!

 

「そうです、柚登さんの言うとおり敵対勢力について書かれているとは言え、あまりにも一方的すぎるんです」

 

「一方的~? ……どういうことなのだ?」

 

 どうして、俺の話しが手紙の内容にすり替わっているんですか!? だ、誰か説明プリーズ!! 一字一句間違えないで俺に対しての説明を要求します!

 

 そして、その後も俺を置き去りにして話し合いは続いていった。 話しの内容としては朱里ちゃんと雛里ちゃん曰く、『悪い奴がいる。 だから皆で倒そう! というほど単純な内容ではなく、諸侯の権力争いなのではないか』らしい。

 星さん以外の面々はこの意見に対して少し考えすぎ~という意見もあるが慎重に事を進めた方がいいかもしれないという意見まで飛び出した。

 

 何だか、俺って蚊帳の外状態じゃね? ……いいも~ん、俺ってば心の中で『の』の字を書きまくってやるんだから。おもに便箋いっぱいに書きまくって皆の枕もとに置いてやるんだからな!……妄想の中でって言う言葉がつくけれども

 そんな事を考えながら俺は自分の中へ逃避する為に立ったまま眼を閉じた。

 

 周りの方々は未だに『あーでもない』『こーでもない』と議論を続けている。 そんな中で一人だけ現実逃避をしていていいのかとも思うが、俺はやめる気なんて更々無いぜ!

 しっかし、俺ってどこで選択肢を間違えて将紛いの事をやっているのだろう? そもそも、将をやるなら呉じゃないの? このまま桃香さん達と行動していると蜀に属することになるんじゃね?

 ――――いやいや、そもそも俺は戦うために生活しているわけじゃないし。 俺は戦いと無縁な毎日を送ろうとこんなにも努力しているのに……はて? 何だか周りの喧騒がしなくなったような気がする。

 

 気がつくと、俺の耳には話声ひとつ聞こえてこなくなっていた。 もしかしたら、現実逃避している間に議論が終わったのかもしれない。 だったら、俺もさっさと自分の部屋に戻ろう。

 そう判断した俺はゆっくりと眼を開いた。 そして、眼を開けて飛び込んできた光景に一瞬体が固まってしまった。

 

『……』

 

 だって、皆が俺の顔を凝視しているんだぜ? 一瞬、俺が寝ていると思ったのかな? って思ったんだが、明らかに彼女らの眼が何かを期待しているかのようにキラキラしているんだ。

 い、一体、小市民の俺に何を求めているんだろう? この子たちは……

 しかし、この状態を続けていても現状は何も変化するわけではない。 仕方ないと俺は心の中で愚痴りながらとりあえず口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行…く」

 

 具体的には俺は自分の部屋に行きますので、後は任せますと続くわけだ。 俺の言葉を聞いて、その場にいた全員が息をのんだ気がする。

 正しく皆に伝わったのかが果てしなく疑問だったが、俺はそう言い残して自分の部屋へと向かうべく部屋から出て行った。

 

 

――――孔明

 

 流石は柚登さんです。 手紙の内容について疑問を持っているのは私のほかに雛里ちゃんと星さんだけだと思っていたのですが……ズバリ、言い当てられてしまいました。

 ……いえ、きっと柚登さんの中では私たちにとっての違和感をある種の確信として取っているのかもしれません。 だからこそ、一言『行く』と言い残して部屋を後にされたのだと思います。

 

 そう、きっと柚登さんは『これ以上話し合うことは無い』と言いたかったのでしょう。

 董卓が本当に圧政を敷いているのかが疑問視されているのですが、この戦いはきっと避けては通ることができない道。 それを柚登さんは感じ取ったに違いありません。

 だからこそ、本当の悪かどうかも定かではない董卓の討伐を決意された後、自身に襲いかかる罪悪感、背徳感に苛まれ部屋を後にしたのでしょう。

 

 そう、柚登さんはこの戦乱の世を生き抜くにはあまりにも優しすぎる……しかし、きっと柚登さん自身もそれを感じていることでしょう。 だからこその参加という意思を表明された……自分の心を固く閉ざして……

 それはすごく悲しいことだと思います。 でも、柚登さんには私たちがいる。 私と雛里ちゃんには愛紗さんみたいな武もなければ桃香様のような人を引き付ける才もない。そんな私達でも水鏡先生の元で学んだ知があります。

 それを使い、柚登さんを支えていかないと……この時の私はそう感じていた。

 

 

――――一方その頃……

 

「……なぁ、何だか場内が重々しい空気になった気がするんだが俺の気のせいか?」

 

 よぉ、俺は雪花。 柚登の母ちゃんで今は孫策こと雪蓮の下で扱き使われている。

 此処で働き始めて早くも数カ月が経過した。 その間に色々とあったもんだぜ……皇帝が死んだり、以前会った趙雲こと星が訪ねてきたり……うん、色々あったなぁ~

 そういや星の奴、前は……か……影……『最初の一文字すらあってないぞ!?』――――ッ!? い、今、誰かの声が聞こえた気がした気が……まぁいいや。

 取りあえず、誰かの下についていた気がしたんだが、そいつの事はもうよくなったのか? まぁ俺は星じゃないからどうでもいいことだがな。

 

 さてさて、話しを戻すとしよう。 今は日の光がてっぺんに位置する所謂昼時だ。 そんな折、何故だか兵たちが忙しなく動き回り、場内が騒がしくなってきたんだ。

 

「貴方は知らなかったの雪花? 私達は近いうちに反董卓連合に参加するらしいわ」

 

 俺の疑問にいち早く答えてくれた雪蓮に似た容姿を持つこの女は孫権、真名は蓮華。 雪蓮の妹だ。

 こいつ等は姉妹だというのに性格が真逆で雪蓮はちゃらんぽらんなのに対して蓮華はドが付く程の超真面目な嬢ちゃんだ。

 今現在は俺とこの蓮華、そして甘寧こと思春の三人で雑談をしていたんだ。 と言っても、話しているのは俺と蓮華だけで思春が話に入ってくることは無いが。

 しかし、反董卓連合か……俺は全く聞いていないんだが?

 

「……貴方、今変なこと考えなかった?」

 

「お、おう! そんな事はこれっぽっちも考えているわけね、ねぇじゃねえですかいな!」

 

「……どもり過ぎよ。 それに、その様子だと姉さまから何も聞いていないみたいね」

 

 そ、そうだよ! 今は雪蓮と蓮華の事よりも反董卓なんとかって言う奴の方が重要だぜ。

 

「諸侯に檄文が飛んだみたいよ。 皇帝死去、新たに皇帝に即位した者を拘束し、民に圧政を強いている董卓の討伐を目的とした連合を編成すると」

 

 ふぅん……俺には全く関係ないみたいだが、参加するって事はあの雪蓮の事だ。 何か狙いがあるんだろう。

 最も、俺には全く関係のない……ん?

 

「なぁ蓮華、今『諸侯に檄文が飛んだ』って言ったか?」

 

「えぇ、言ったけれど……何か気になる事でもあるの?」

 

 ……おいおい、これはもしかすると来たんじゃねぇのか!?

 

「も、もしかしてよぉ……その中に西凉の馬騰って奴も入ってんのか?」

 

「そうね……参加するかどうかは分からないけれど、西凉の馬騰殿の事だから参加するんじゃないかしら。 でも、何で貴方がそんな事を気に……」

 

 よっしゃあぁぁぁ!! ひょんな事だが、俺にも運が向いてきやがったぜ!! 元々、俺の旅の終着は西凉の馬騰に出世のコツを聞きに行ってそれを柚登に教えて柚登の出世街道を明るくする事が目的なんだ。

 それに、諸侯への檄文が飛んだって事はもしかすると久しぶりに柚登の野郎に会えるかもしれねぇじゃねぇか。 コイツは一石二鳥って奴じゃねぇのか!?

 柚登の奴はこういった戦乱の匂いがする場所には必ず現れるからな。

 それにしてもアイツ、成長したかな~? 数ヶ月会っていないだけだが子供ってのは少し目を話すだけで立派に成長するって言うしよぉ~

 そんでもって柚登は俺の自慢の息子だ。 そん所其処らのガキとは違って成長は凄まじい勢いに決まってるぜ。 まぁ、柚登はガキとも呼べる歳じゃなくなったけれどな。

 あぁ~今からでも楽しみになって来たぜその反なんたらかんたらって奴がよぉ~

 

「ちょ、ちょっと……雪花?」

 

「ゆ~と~」

 

「……蓮華様、コヤツは連れて行かないほうがよろしいかと」

 

「思春……でも、何だか凄く楽しそうに見えるんだけれど……」

 

「――――よっしゃあぁぁぁぁ!! み・な・ぎってきたぜ!!」

 

 ――――よし、待ってろよ柚登! 母ちゃん頑張るからな!!

 




昨日はおやすみいただきすみませんでした。

ではでは、また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第二十幕 連合にて

 やぁ、みんなの凌統くんの出現だ!

 よい子わるい子ふつうの子集ま……

 

「普通って言うなぁ!――――ってあれ? 私はいったい誰に……?」

 

 ……こほん、やぁ凌統だよ。

 今俺たちはとある場所に来ている。 そう、反董卓連合本拠地さ。

 そこには、俺達以外にも召集された方々で溢れかえっている。

 しかも、この場には階級の上の人しか集まっていないので、各国の将や兵の数をあわせたら、とんでもなく恐ろしい人数になる事だろう。

 そして、我が国からは代表である桃香さん、軍師に朱里ちゃん……で終わればよかったのに+俺もいたりする。

 

 全く持って意味不明な状況だと思う。

 コミュニケーション能力が皆無の俺を参加させるなんて……

 俺は静かに横に位置しているチミッ娘軍師こと朱里ちゃんをジト目で見た。

 

 見下ろす感じとなったのだが、相も変わらず背の低い彼女の帽子の天辺しか見えない。 その状態で俺は胸中で大きくため息をついた。

 そんな俺に気が付いたのか、朱里ちゃんは顔を上げて俺を見上げながら静かに微笑んだ。 太陽のように輝くその顔を直視しづらく、反射的に目を逸らしてしまった俺は悪くないと思う。

 

 さてさて話を戻すが、何を隠そう、俺をこの場に連れてきたのは半分以上、朱里ちゃんの采配なのである。

 

 俺は始め、問答無用で留守番をするつもりだったんだ。 前述したとおり、俺にはコミュニケーション能力が皆無と言ってもいい。

 更には冗談一つ言うだけでその場の空気を一瞬にして瘴気へと変貌させるほどだ。

 

 これだけで、着いていっても足手纏いにしかならないと容易に理解できる事だろう。

 しかし、何故だかその場で彼女は――――

 

『柚登さんもお願いします。 恐らく、会議には柚登さんにも出席していただいたほうがいいと思うんです』

 

 しかも何故か、この根拠の無い内容に対して俺以外の全員がGOサインを出したものだから大変だ。 気が付いたら逃げ場ゼロなんだぜ?

 絶望した! 誰も俺の意見を聞こうとしない世の中に絶望した!

 

 ……ふぅ、そんなこんなで俺は今ここにいる。

 

 さてさて、後ろ向きに考えても仕方が無い。 ここに来てしまった以上、俺も腹を括らないといけない。

 要は俺が目立つような事をしなければいいだけだしな、うん。

 

「柚登さん、柚登さん」

 

 おっと、桃香さんが何か俺に言いたげな表情をしているぜ。 ……だけれど、何だろう? 果てしなく嫌な予感しかしないんだが。

 

「袁紹さんが何か言っていますよ?」

 

 はて、袁紹とな? おかしいな、少なくとも俺は何か変な事をした記憶が無いんだが……ってか、袁紹って名前はわかるけれど、誰かなんてわからないんだが?

 俺の記憶の中の袁紹さんは『おのれ~名族にたてつきおって~』とか言っちゃう印象しかないんだが。 まぁ、あれはゲームの中のキャラだし実際の袁紹って人は凄く名君だって言うし、多分この世界の袁紹だって凄まじいオーラがバリバリの人の事を――――

 

「そこのブ男、私の話しを聞いておりますの!?」

 

 ……うん、前言撤回したいと思う。 ってか、数秒前の俺に全力でO☆HA☆NA☆SHIしたいぜ。

 俺の目の前に現れた人物……金ぴかの衣装を身に纏って天元突破と言いたくなるくらいのクルクルダブルドリルヘアーを風にたなびかせ、俺の事を微妙に睨んでいる少女。

 口調はまるでゲームの袁紹を女にしたらこうなりますとでも言いたい位、上から口調である。

 っていうか、サラリとブ男って言われている俺のピュアハートに罅が入りまくりんぐダゼ! ……泣いてもいいかな?

 

「ふん、何で貴方のようなブ男が此処にいるのかは理解できませんが、一つ聞いて差し上げますわ。 兵力、軍資金、そして装備……全てにおいて完璧な我ら連合軍。 而してただ一つ足りないもの。 ……さて、それは何でしょう~?」

 

 ……この子、俺に軽く喧嘩吹っ掛けてないかな? っていうか、貶すか聞くのかどちらかにしてほしいものだぜ全く。

 心の中でぶつぶつ愚痴を垂れてみるが、状況は全く変わるわけではない。 しかたなく俺は、袁紹のいう足りない物と言うのを答えてみた。

 何でわかったのかって? そんなのは簡単さ~だって……さっき、こっそりと桃香さんや朱里ちゃんと話したからね~

 

「総大…将……これだけ…の……人材を殺さ…ず……一つ…に纏める…事のでき…る……大将」

 

「あら~正解ですわ。 ブ男の割には中々見所がありますわね~ ならば付け加えましょう。 貴方ならば誰がふさわしいとお考えですの?」

 

 おっと、こいつは面倒くさい質問がきたぜ。 明らかに袁紹は自分がふさわしいって言いたい筈だ。

 しかし、それを安易に言ってしまうと何かあった際、全責任が袁紹に降りかかってしまう。 そこで、だれでもいい。 自分の陣営以外の人物から推薦さえしてもらえば『貴方が私を推薦したんだから、責任とってよね!』とでも言ってくるに違いない。…何となく頭の中でツンデレ変換してみたけれど、キャラ性が全くもって違うベクトル過ぎてやらなきゃよかったと後悔のバーストストーム状態だよ。

 それに、此方が推薦したとしても俺達に特別な援助等はしてくれる事は無いだろう。 ここは、慎重に答えないとな……

 

 俺はもしかしたら助言をしてもらえるかもしれないと朱里ちゃんの方をチラリと見た。 この子だって、こう言った事態の想定くらいしていることだろう。

 朱里ちゃんが俺の方を見上げてくる。 さぁ、伏龍と言われるその実力を遺憾なく発揮して俺に助言をプリ~ズだぜ朱里ちゃん!

そんなこと視線の中に匂わせながら俺は彼女の眼を見て軽くうなずいた。

 

 しかし、どうだろう? 俺の合図が通じなかったのか、朱里ちゃんは俺の目を見たまま軽く頬笑み、何やら『頑張ってください』とでも言いたげな視線を送った後に俺から視線を外したのだ。

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺が聡明な軍師殿にアドバイスをもらおうとアイコンタクトを飛ばしたらシカトしやがった。

な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……ハブられたとか、イジメだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

「あら、答えられないのですか? 所詮はブ男……」

 

 ――――うん、逃避行動はこれ位にしておこう。 さっさと返事をした方がよさそうだ。 ここで答えないとなると、連合に参加する気がないと認識されてしまう可能性があるしな。

 でも、弱ったな~どう答えればいいのやら。

 

「さあ……な……案外近く…に……いるかも…な」

 

「ええ、そうでしょう。 そうでしょうとも。 おーっほっほっほっ♪」

 

 何だか高笑いを始めた袁紹……本当にこれが英傑とされた袁紹なのだろうか? その部分が果てしなく疑問だが、如何にかこの場は切り抜けなければならないな。

 

「ねえ柚登さん……このままじゃまずいんじゃないかな?」

 

「そうだ……な……」

 

 確かに、このままでは果てしなくまずい。軍議が全く進まないうえに、他の諸侯たちは自らが関わるのを避けようとしている。

 このままでは話しが進まないうえに、俺の胃へのダメージが半端ないことになり、最終的にコル……ゲフンゲフン、金髪縦巻きロールにむかって盛大な何かを吐いてしまいそうな気がする。

 仕方ない、此処は一つ腹をくくって立候補をしてみようかな。それに前世でもクラスの学級委員とかやってみたくて立候補した事がある位、積極性を持っていると自負しているくらいなのだから! ……ただ、何故だか俺が立候補をするときに限って2〜3人ライバルがいて、みんなの前で演説する際に持ち前の小市民を遺憾なく発揮して言いたい事を言えずに落選するっていうパターンが主だけれども。

 

「そもそ…も……俺…は…この場…の……殆どを…知ら…ん……誰…も……やりたく…なければ……俺が…やろ…う」

 

「ちょ、柚登さ「――――ちょーーっとお待ちになりなさい!」……へ?」

 

「貴方ごとき、どこの馬の骨ともわからない輩に任せるくらいでしたら、この気高く、誇り高く、そして優雅に敵を殲滅できるこの私、袁本初こそ連合の総大将に相応しいですわ!! ……ハッ!?」

 

「なら……任せ…た…」

 

 正直、この某ダチョウさんが使っているギャグみたいな結果を出すとは予想外過ぎますね。って言うかさらりと馬の骨扱いされている事に悲しみを覚えたのはこの際忘れておこう。

 

「なら、決まりね。 『立候補』した袁紹が総大将になりなさい」

 

 そう言ったのは、金髪の覇王っぽい空気を纏った人。

 

「我らも異論は無い」

 

 更に付け加えたのは褐色肌のお姉さま……どこの国の人だろう?

 

「妾も問題ないぞよ」

 

 しめたのはのは金髪妾口調のロリっ娘……この世界、ロリっ娘率高くね!?

 

「くっ……ならば決定ですわね!では、この私が連合軍の総大将になって差し上げますわ!」

 

 どこか憎々しげな目で俺の方を睨んでくるが、俺は知ったこっちゃあないぜ。

 だって、『立候補』したのは袁紹なんだからさ~

 

 袁紹の宣言に少し苦笑いをしている諸侯の方々。 そして、何故か俺の方をみて微妙な視線を投げかけてくる諸侯の方々……え? 俺って何か変な事をしたかな? まぁいっかな。 後は袁紹に任せようと。

 

「戻る…ぞ……二人…とも」

 

「え? あ、はい」

 

「それではいきましょう桃香様、柚登さん。 あ、作戦内容は後で通達してください。 それでは失礼します」

 

 朱里ちゃんがぺこりと袁紹へと頭を下げて俺達はその場を後にした。

 それに続いて他の諸侯の方々も自陣へと戻って行ったのであった。

 

 

――――周瑜

 

 あれが雪花の言っていた倅の凌統……か。 なるほど中々見どころはあるな。

 あの場で袁紹を推すことは簡単だが、間違いなく袁紹はそれを逆手にとり駒にするつもりだったのだろう。

 しかし、そこで凌統が自らが総大将にと名乗りを上げるか……流石の私もそこまでは予想できていなかったが、それに袁紹が釣られるとはな。 ……いや、おそらく凌統には確信があったのだろう。

 そうでもなければ、あそこまで大胆な行動には移れまい。 そして、袁紹は自分で総大将になると発言してしまった。

 後は簡単だ、全て袁紹に任せてしまえばいいのだからな。 そうなると、凌統たちには危険な仕事をする手間が省ける…か。

 

 まさか雪花の子供があそこまでの逸材だったとはな……あれができるのは大がつくほどの馬鹿者か人の腹を探るのに長けている策士にしか無理であろう。 これならば、雪花があそこまで自身の息子をべた褒めするのもわからなくはないな。

 

「……私は陣に戻る。 決定事項は後ほど伝えてくれればいいわ」

 

「私も自陣に戻らせてもらう。 曹操殿、劉備殿と同様、作戦は後ほど通達してくれればそれでよい」

 

 さて、私は今起きた出来事を雪蓮に伝えることとしよう。 奴のことだ、間違いなく凌統に興味を持つことだろうな。

 さて、この連合……どう動くことになるのか、見ものではあるな。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第二一幕 陣にて

本来は昨日投稿しているはずなのですが、投稿日時を間違えていました。
楽しみにしていただいている皆様申し訳ありございませんでした。



 やぁ、凌統だよ。 連合の総大将を決めるとか何とかの話し合いの後、俺達は自分たちの陣営に戻ってきたんだ。 その最中、別の陣営の方からジロジロと見られていたような気もしないでもないけれど、そこは敢えて気づかなかったことにしようと思う。

 

 さて、そして俺達三人は話し合った内容を簡潔に自分たちの陣営の人間に話したんだ。

 

「な、何だそれは!?」

 

 まぁ、当然のごとく不毛なやりとりに愛紗さんが憤怒の表情を浮かべている。

 鈴々ちゃんは、よくわからないといった顔をし、星さんは何かツボに入ったのか『ククク…』と不適な笑みを浮かべ、雛里ちゃんは顎に手を当て、何かを考えるように目を閉じている。

 

 今気が付いたんだけれど、この陣営って十人十色って言葉がピッタリ当てはまるくらい個性的な面々が揃っているよね?

 ――――俺? 俺はほら、モブキャラAの立ち位置で間違いないはずだ。 ……きっと。

 

「柚登さんの采配により、総大将は袁紹さんに決定しました。 袁紹さんが『立候補』したのですから、私達には何ら憂いはありません」

 

 朱里ちゃんが愛紗さん達に決定したことを伝えた。

 うんうん、偶々とはいえラッキーな展開になったよね。

 ただ、間違いなく袁紹の中で俺の印象は最悪な部類に入ったと思うけれど。

 

「しか…し……風当たり…が……強くはな…る……スマナイ」

 

「い、いえいえ! あ、あの場では寧ろ最良な展開かと思いみゃッ――――か、噛んじゃいみゃした」

 

 く、クソーー! 朱里ちゃんは俺を萌え殺す気なのか!?

 そんなかみかみな台詞をはかれたら血を吐きながら果てる事だって俺は出来るぜ!

 

 ――――とかまぁ、軽い現実逃避を行ってみた凌統君だったりします。

 そんなピリピリとしており、尚且つモエモエな空気を吹き飛ばすかのような来訪者が現われたんだ。

 

「失礼いたします! 連合軍総大将袁紹様より書状をお預かりしてまいりました」

 

 突然の来訪者は全身金ぴかの鎧でコーディネートされた袁紹軍の兵士だった。 どうやら、軍議終了後に作戦を考えたのでその書状を渡しまわっているらしい。

 ……そう言えば、軍議が終了した時点でほとんどの諸侯がその場から立ち去ったんだよな。 しかも、その口火を切ったのが俺たちだって言うのだから、袁紹さんからの風当たりが余計に強くなるかもしれないな。

 

 そんなことよりも袁紹さんはどういった作戦を思いついたのやら。 兵が持ってきた書状は雛里ちゃんが受け取り、持ってきた袁紹軍の兵は足早にその場を後にした。

 そして、雛里ちゃんはその書状を開き軽く目を通す。 さてさて、どういった作戦が書かれているのやら。 そんでもってロリっ子ではあるけれど鳳雛って呼ばれた名軍師の龐統はどんな見解を俺たちに示してくれるのか……

 期待が高まる中、雛里ちゃんは一通り内容を読んだ後、直ぐに表情を曇らせてたった今届いた書状の裏を見たりしている。 ってか、なんでそんな事をしているのかな?

 突然な雛里ちゃんの奇行に対して俺を含めた一同が疑問に思っていると、雛里ちゃんがだんだんと困った顔から少し泣きそうな顔に……って涙が流れ始めたんだけれど!?

 

 あわわ~! と、取りあえず落ち着かせないと。

 

「どう……した?」

 

 俺はなるべく優しい口調で雛里ちゃんのマジカルハットの上から軽く手を当てた。

 俺の心配している様子に気がついたのか、目尻に少し涙を浮かべた状態で雛里ちゃんは無言のまま俺にたった今届いた書状をさしだした。

 どうやら、読んでみろって言いたいみたいだ。 俺はその書状を手に取り、内容を流し見てみた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――え?

 

 

『連合軍は雄々しく、勇ましく、華麗に前進するべし』

 

 

 俺は反射的にさっき雛里ちゃんがしたように書状を裏返してみた。 しかし、そこには何にも記されてはいない。

 何かの間違いで表側に落書きをしてしまって本来の作戦内容は裏側に書かれていると思ったんだけれど……なるほど、雛里ちゃんが困惑していたのも無理は無いかもしれない。 だってこれって作戦内容じゃなくて、ただの激励じゃね?

 

「柚登さん、なんて書かれていたんですか?」

 

 ずっとダンマリを決め込んでいる俺を不審に思ったのか桃香さんが代表として聞いてきた。

 兎に角、ここは書かれている内容を答えておこう。

 

「連合軍…は……雄々し…く、勇まし…く、……華麗…に前進する…べし」

 

『…………』

 

 まぁ、当然の反応だと思うよ。 俺の言葉に雛里ちゃん以外の面々は呆れかえったかのように口をあんぐりとあけている。

 

「そ、それ以外は書かれていないのですか?」

 

 朱里ちゃんが慌てた様子で俺に確信してきた。 とはいっても、裏まで確認したけれど何にも書かれていないし……

 

「……あぁ…何も…ない」

 

「そ、それは作戦とは呼べぬではないですか! 総大将が聞いてあきれる!」

 

 烈火のごとく愛紗さんが怒鳴り散らした。 まぁ、その怒りもわからないでもないけれど、ここで怒鳴っても仕方がない。

 それに作戦が無い以上、俺達が下手に動くとある意味で危険かもしれないしね。

 

「……作戦はなし…だ」

 

「えぇ!? ゆ、柚登さん……それはいくらなんでも「――――失礼いたします!!」って貴方は?」

 

 桃香さんが反対意見を出しているさなか、誰かが桃香さんの言葉をさえぎって軍議の場に乱入してきた。 ……って副長さんじゃないですか!?

 

「今は軍議の最中だ! 何かあるのならこの後に……」

 

「なん……だ?」

 

 あ、やっべ。 愛紗さんと言葉が被っちまったよ。 確かに愛紗さんの言うとおり、軍議のさなかに乱入はよくは無いよね。 副長さんには悪いけれど少しの間退場してもらわないと……

 

「――――ハッ! 先ほど袁紹軍の使者と名乗るものが我等の陣へと赴き、先陣は凌統隊に決まったと報告に参りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――ハァ!?

 

「ちょ、ちょっと待ってくだしゃい! 袁紹軍ではなくて劉備軍でも無くて柚登さん率いる凌統軍なんでしゅか!?」

 

 あまりの突然の出来事に俺は会いた口がふさがらないぜ……驚いたってことだ。 それに、ほら見ろ。 あまりの驚きようで朱里ちゃんがセリフを噛みまくっていることを気にしちゃいないんだぜ?

 しかも、劉備軍じゃなくて敢えて凌統軍を名指ししてきたとあっちゃあ、悪意以外感じられないっていうのが怖いところだな。 しかも袁紹さんの奴、俺が劉備軍に正式に入っているわけではないところを突いてきやがったな。

 今の俺はあくまでも客将であり、凌統軍も正式には劉備軍には属していない。 元々、白蓮さんのところで客将をやっていたてまえ、そのまま客将の身分として劉備軍に属しているにすぎないのだ。

 この連合内ではどうやら俺は独立した勢力と認識されているのかもしれない。

 しかし困った。 凌統軍は人が少ないんだよね。 白蓮さんのところから引っ張ってきた兵に、最近徴兵して入隊した人数を足すと……劉備軍の中では一番多いけれど、連合の中では明らかに少なすぎるな。

 

「あまりにも一方的すぎるではないか!」

 

「鈴々もお兄ちゃんと一緒に敵をぶっ飛ばすのだぁ!」

 

「……鈴々よ、それはいささか論点が違うのではないのか?」

 

 これはちと俺が出来る事のキャパシティをオーバーランし過ぎ……いや、少し待てよ。 これは上手く活かせば……どのみち袁紹さんに交渉する必要があるかもしれない。

 だったら、その間に時間があるから話を進めてもらうとしようかな。

 

「少し……出る……後は…任せる」

 

 そう言い残して俺は副長さんと共に袁紹さんの陣へと向かうこととした。

「兵…一万…兵糧……よこ…せ」

 

 そしてやってまいりました、袁紹の陣営です。 正直言って周りからの視線が怖いくらいに刺さっているような感じがいたしますが、そこは副長を盾に頑張るぜ凌統君!

 

「あら~? 貴方は確か私が先陣という武人にとって栄誉ある持ち場を託した凌統さんじゃありません事。 ……それで、何かおっしゃいまして?」

 

 うっわ、話を聞かなかったことにしようとしているよこの人。 全く、上司にしたくない人間ベスト十入りしそうな人種だね。

 

 イキナリ申請した俺もどうかと思うけれど案の定、袁紹さんは俺が提示した二つを飲む気はさらさらないようだ。

 元々、先陣を切るにしても戦の定石は相手よりも兵を集めることである。 あ、これは母の受け売りね。 そんでもって、俺の隊には兵が圧倒的に少ない。 それに、兵糧に至っては桃香さんのところと一緒になっているので、凌統隊だけの兵糧はほぼ無い。

 おっと、ここで一つ誤解を与えているかもしれないけれど、俺は先陣という役割を断りに来たわけではない。 だって考えてみ? ここで俺が頑張って凌統っていう名前が大陸中に広まれば――――

 

『何!? 凌統だと! くぅ……アイツに手を出したら俺達の命が危ねぇぜ……野郎共撤退だ!』

 

 ってな感じで今後、無用な戦いをする必要が無くなるかもしれないじゃんか。 ……ふっ、一見ピンチに見えてそれすらも利用しようとするなんて……我ながら恐ろしい奴だぜ。

 

「……先陣を切る為に必要……無理…ならば…別の者に…頼め」

 

「クッ……まぁいいですわ、兵糧なんて唸るほどありますもの。 恵んで差し上げましょう。 ですが何故、兵まで。 しかも一万なんてどうして私がそこまでしなければいけませんの!?」

 

 よし、兵糧はゲットだぜ! しかし、兵は中々寄こさないか。 無理もないか、そこまでする義理も人情もあったもんじゃないしな。

 だけれど困ったな、俺達の隊には兵が圧倒的に不足しているし。 流石に少数で汜水関、虎牢関を落とせとか鬼畜すぎる。 どうやって説得すればいいのやら……

 

 俺が手を拱いていると、意外なところから助け船が出された。

 

「僭越ながら申し上げます。 私、凌統隊の副長をさせていただいているものであります。 まずはこの度、我等凌統隊に先陣と言う栄誉ある持ち場をいただき感謝いたします。 ――――ですが、我等はまだ袁紹様ほどの有名はございません。 確かにここで先陣を切らせていただきますと我らの名が大陸全土に広まることでしょう。 それも一重に袁紹様のお心遣いによるものでございましょう。 ですが、どうせならば我等はこの栄誉を凌統隊だけではなく、有名名立たる袁紹様と共に手にしたいのでございます。 仮にこの場で袁紹様より兵一万拝借したといたします。 そうすれば我等の名だけではなく、影の立役者として袁紹様の名も全土に広まる事でしょう!」

 

 す、すげぇ……流石は副長。 ここまで口が立つ奴なんて俺は初めて見たぞ。 っていうか、口下手な俺にはもったいないくらい口が立つ副長だなおい。

 だけれど、ここで袁紹が納得してくれなければ意味が――――

 

「――――良いでしょう、貸してさしあげますわ。 一万ですわね」

 

 納得したよこの人!? しかも、結構吹っ掛けたつもりの一万を丸々寄こしてくれるなんて……もしかして、袁紹って良い人+少し馬鹿なのかな?

 

「感謝す…る」

 

「感謝いたします袁紹様」

 

 そうして俺は釈然としない思いを持ちながらも自陣へと戻るのであった。

 

 

 

――――一方その頃

 

「あんだとぉ! 柚登が先陣を切るだぁ!?」

 

 俺は雪花。 今現在、孫策こと雪蓮に連れられて董卓連合って言うところに参加させられている。 そして、今まで軍議が行われていたらしいんだが……何だって柚登が先陣になっちまってんだよ?

 確か、冥琳の話しによると連合軍は東の汜水関っていうところから進軍するだろうって事だが……

 

 しかし解せねぇぜ。 何だって柚登が先陣なんだ? 其処まで巨大な勢力の筈じゃないんだが……ってか、影の薄い奴の所にいたんじゃないのかよ?

 

「軍議でのお前の息子の様子……あれは見ものであったぞ。 結果的に総大将は袁紹が務める事となったが、アヤツが就いていれば逆に我等は動きにくくなっていたであろうな」

 

「あら? ならここは総大将に『立候補』してくれた袁紹に感謝しないといけないわね♪」

 

 俺の言葉を無視するかのように冥琳と雪蓮が柚登について話し始めた。 冥琳の話しによると、軍議の場で柚登が上手いこと袁ナンチャラを丸めこんで総大将に立候補させたとのことだ。

 しかし、一歩間違えていたら柚登が総大将となっていた可能性もあったらしい。 まぁ、自分の息子だがポッと出の柚登が総大将になろうものならば諸侯から反対の意見が出ていたとは思うんだがな。

 

 まぁ、袁紹が総大将となったもんだから俺達が自由に動けるってのはわかる。 だけどな……明らかに柚登に先陣を切らせるのは猿……あり? 何だか名前が違う気がするんだが……まぁいいや。 兎に角、そいつの思念が混じりに混じってんだろうが!

 

「――――でもまぁ、ここで恩を売っておくのも一考かもしれないわね」

 

「ほぉ、雪花の息子を我等孫呉に引き入れる為の餌とするのか?」

 

 あん? こいつ等、なに小声で話していやがるんだ? 全く、柚登が危ねぇ言うのにこいつ等は……あ、そういや冥琳以外は柚登に会った事もねぇんだったな。

 しっかし、どうしたもんかねぇ。 俺は雪蓮に使われている以上、下手に動くわけにはいかねぇ。 幾ら愛する一人息子の一大事だからと言って雪蓮達に迷惑をかけらんねぇぜ。 ……ぶっちゃけ、下手に恩を受けて借金が増えるのはごめんだぜ。

 

 ……いや、冷静になって考えろよ俺。 柚登が先陣を切るって話しが出ているんだ。 あの柚登が黙って行動に移るものなんか?

 俺の知っている柚登ならば、これ見よがしに自分に有利になるように状況を変化させていくのじゃないか? 俺が言うのも変だが、あいつは将と軍師を併せ持っていやがる。 戦(いくさ)は生き物みてぇに状況が変わりやすい。 あいつならば戦況を見抜き、それに見合った行動に移る事は容易い筈だ。

 だったら、きっと柚登は想定しうる事柄には対処できるように何かしらの行動を取っている筈だ!

 間違いねぇ!! アイツは……柚登はそういう奴だ! きっと今頃……

 

「それじゃあ、少し劉備の所に『挨拶』にでも行きましょうか……雪花も行く?」

 

「おうさ、もちのろんだぜ!」

 

 なんでぇ、雪蓮たちも何だかんだ言って柚登を助ける気満々じゃねぇか。 いしし~待ってろよ柚登! 母ちゃんが助けに行くかんな!!

 




ありがとうございました。

徐々にストックがなくなってきましたが引き続き宜しくお願いいたします。
ではでは次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニニ幕 久方ぶりにて

 結果的に俺は袁紹さんから兵士一万と兵糧をわけてもらえる事となった。

 これにより幾分かは戦を進めやすくなったと思う。

 

 それにしても、副長さんがあの場でフォローをしてくれなかったら危なかったな。 まさか、あそこまでまくし立てて話す副長さんの姿が見られるなんて……

 

「副長……先程は…感謝する」

 

「いえ、凌統様のお役にたつことが出来たのでしたら本望でございます。 しかし、連合の総大将……私は軍義に参加していなかったのですが今のやりとりから袁紹様より凌統様が適任かと思います。 袁紹さまは……腹の探り合いには向いていない」

 

 ありゃりゃ? 何だか副長さんにしては辛辣な言葉だな。

 ってか、俺は総大将が勤まるほど大器じゃないからね。 そこらへんは勘違いされては困るぜ。

 

「勘違い…するな……奴に…は……大将…を…務めて…もらわね…ば…なら…ん」

 

「――――成る程、敢えて多少裏があったとしても扱いやすい人物を上にたて影で操るおつもりなのですね?」

 

 おっつ……黒い副長爆誕すか?

 俺と副長はそんな他愛もない話をしながら陣へと戻る足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと良いかしら?」

 

 そんな時だ、誰かを呼びとめるかのような女の子の声がしたのは。 だが俺達に無関係な声だと判断してその場を後にしようとした。

 

「貴ッッ様ァァ! 華琳様がお声をかけてくださっているというのに無視するとは何様だ!!」

 

 何やら血の気の多そうな声がするな……あれだな、イメージ的には【猪、突進、猛発進】って感じだな。

 

 そんなどうでもいい事を考えていると不意に腰辺りが軽くなったような感覚がした。視線を下に向けると三節棍の留め具が外れて地面に落ちている。

 全く、これから戦だって言うのにこう言った整備が出来ていないのは感心しないな。 ……って俺の整備不良が原因か。

 俺は仕方なしに地面に落ちた三節棍を拾おうと身をかがめた。 その時、俺は気が付いていなかったんだ。 つい先ほどまで俺の真横を歩いていた副長さんが何故か俺から一歩離れた場所に居たということに……

 

 

 

 ――――次の瞬間、俺の頭上を風が斬るような鋭い音がした気がした。 あれかな、偶々俺の頭上でカマイタチでも発生したんでしょうかね? 髪が切り刻まれてハゲが出来たってことはないだろうか?

 

 重ねてそんなどうでもいい事を考えながらも、俺は何となく格好よく三節棍を拾おうと腕を振り子のように前から振りおろした。

 しかし目測は合っていたが、どうにも手を握るタイミングが早かったみたいで握り拳を作った俺の腕は三節棍を後方へと弾き飛ばしてしまったのだ。 しかし、ここでミスってしまってはとてつもなく格好悪いではないか!

 俺はとっさに体を捻りながら空振りした方の手で三節棍を空中で掴んだんだ。 そして、この目論みは成功し、ヒヤヒヤしながらも空中で三節棍の端の部分を掴む事が出来た。

 

 だがここでまたもや予想外の事が起きてしまった。 何故か俺の背後には黒いロングヘアーの女性が立っていたのだ。

 しかも、俺が空中でつかんだ三節棍はその勢いを止めることなくその女性の肘に激突したではないか。

 正に予想外すぎる光景である。 ただ、なんでかしらないけれどこの女の人……滅茶苦茶デカイ剣を持っているのが気になるところなんだけれど…… だが、そんな事は今はどうでもいいことだ。

 さて、ここで一つ人間の体について説明したいと思う。 誰しも一度は経験したことがあると思うけれど、肘の凹んだ部分にあるコリコリした所を触ると手全体が痺れたような感じがしたという人は多いはずだ。

 じつはここに神経があるのだ。 面倒くさい事は割愛するけれど、今まさに俺の三節棍は偶然にもその神経に激突しているのだ。

 触っただけでも痺れる場所に三節棍が結構な勢いで激突したんだ。 当然のごとく女性は手にしていた剣を地面に落してしまった。

 

 流石に焦ったぜ……俺は慌ててその剣を拾おうとしたんだが、身体を捻った状態で無理に一歩を踏み出そうとしたもんだから体勢を崩しちまったんだ。

 咄嗟に一歩を踏み出して何とか転倒を防ぐ事は出来たんだが……

 

「両者そこまで! ……それにしても噂は間違いではなかったようね。 春蘭の一撃を交わし、逆に反撃に投じるなんて……それと、そろそろ足を退かしてくれないかしら? その剣は私の将の魂とも呼べるべきものなの」

 

 気がついたら地面に落ちた剣を踏んづけている状態なんだぜ? しかも、なんでかしらないけれどこの声はさっき誰かを呼びとめていた人の声だ。

 どうやら、俺に用があるみたいね。 俺は金髪の少女の言葉に従って剣を踏んでいる足を退かして少女の方を向いた。

 隣には鼻息を荒くした黒髪の女性も待機している。 っていうか、何かあったらいつでも飛びかかってきます的なオーラが全開なんですが?

 

「何か……用か?」

 

「貴様ッ! 華琳様に向かって何たる無礼な態度か! 叩き斬ってくれ――――「黙りなさい春蘭」で、ですが……」

 

 全く持って俺にどないせいって言うんだよ?

 それより、こんな口調でいちいち叩き斬られるんだったら、一体いままでに何度斬られているかわかんないんだけれど。

 

「私の言うことが聞けないのかしら?」

 

「うっ……はぁい、かしこまりました」

 

 おっと、少し現実逃避している間にあちらさんは話がついたみたいだね。 っていうか、副長さんが離れた場所から戻ってきた。

 

「貴方は確か曹 孟徳様でございますね? 我が主の凌統様に如何様でございましょうか」

 

「下がりなさい下郎。 私はそこの男に用があるのそれ以外の人間には全く興味がないわ」

 

 うわっ……副長さんがバッサリと切り捨てられてるよ……なんか、すっごく不穏な単語というかビッグネームが聞こえたきがする。

え、曹孟徳ですか?曹操さんのことですか?この金髪ちゃんが?覇王なんですか?

 

な、なんでこんな覇王な子が俺に用があるのさ?

 あれだよ、俺ってば口下手だから君みたいな口のキツイ女の子への返しは大の苦手だよ? ってか、そもそも俺みたいな平平凡凡な人間に何ようですか?

 

「ダンマリって事は話を聞くって捉える。 ――――単刀直入に言うわ。 貴方、私の元に来なさい」

 

 これは告られていると判断してもいいのでしょうか?

 

「――――えぇ!? か、華琳様! 男を召し抱えるおつもりですか!? お、男は北郷だけで十分ですよ!!」

 

「貴方に言ってないわ春蘭。 それに、一刀よりも武はある……それは貴方がたった今身をもって味わったところでしょう? それに、噂によると知のほうもあるって聞くわ」

 

 えぇ! どうどうと二股宣言したよこの子!?

 男が居るのに俺に告ってくるなんて……将来的に俺は清らかに女性と交際するって決めているんだ。 流石にそれは許容出来やしないぜ!

 

「――――無理な……相談…だな」

 

 そう言った俺は何となしに地面へ視線を落とした。 すると、そこには紐のほどけてしまった俺の靴が眼に入った。

 こう言うのは目に付いたときに直しておいた方がいいな。 俺はそう判断すると、目の前の少女たちの事は言ったん頭の隅っこの方へと追いやって身を屈めて靴の紐を直そうとした。

 しかし、次の瞬間……

 

「――――クッ、貴ッ様! 華琳様の申し出を断るとは何事かぁ!! そして、避けるなぁ!!」

 

「やめなさい春蘭! それにしても、その身のこなし……ますます気に入ったわ。 凌統だったわね? 今日は様子見だったからここで引いてあげる。 だけれど私は貴方を諦めない。 それは覚えておきなさい」

 

 またもや頭上に局地的なカマイタチが発生すると何故か二人はその場を後にしてどこかへと歩いて行ってしまったのであった。

 いったい何が起きたんだろう? それよりも、あの子まだ二股を諦めるつもりはないみたいだな。

 確かに、あれだけ美少女だと心も揺らぐけれど、次言われても断固とした態度で臨まないといけないな!

 

「凌統様……無下に断ってもよろしかったのでしょうか?」

 

 およ? 副長さんの言い方はまるで受けたほうが良いって聞こえるんだが……

 いや、少し待てよ俺。 よく考えたらここはここは日本ではなくて平成から数千年昔の中国だ……もしかしたら一夫多妻ならぬ一妻多夫が認められている世の中なのかもしれない。 有名武将も女の子だし……

 そして、今の曹操さんの申し出は俺を側室か何かに迎えたいという話しだったのかもしれない。 それを俺は見事なまでに一刀両断して断っちまった……

 ……楽に暮らそうと思ったら、受けたほうがよかったかもしれないな。 少しだけ考えておこう。

 

 

 

 そんな不謹慎な事を考えながらも俺と副長は再び自陣を目指して歩き始めた。

 そして、陣が近くなったとき不意に副長が口を開いた。

 

「凌統様、私は袁紹軍一万人を受け入れた後、陣の再編成を行ってまいります。 凌統様はこのまま皆さまのところにお戻りくださいませ」

 

 そっか、一万人と言う大所帯が来るもんだからある程度は陣の編成をしないと混乱しちまうんだよな。 それよか、副長は細かいところまでサービスが行き届いているな~本当に俺にはもったいないくらいできた人だわ。

 

「済まない…な……後は頼…む」

 

「かしこまりました! それでは失礼いたします!」

 

 そのように言い残して副長さんは凌統軍がある陣へと向かっていった。 ……俺、一応隊長なんだけれど行かなくていいのか果てしなく疑問だ。

 まぁ、それを含めて副長さんが上手く立ち回ってくれるだろう。

 

 俺はそのように結論付けて皆が待つ劉備軍陣営へと戻った。

 

「あ! お兄ちゃんが戻って来たのだ!」

 

 俺の存在に初めに気がついたのは鈴々ちゃんであった。 彼女の言葉に皆が反応して一斉にこちらへ視線を動かした。

 

「柚登さん、お疲れさまでした。 袁紹さんは何て?」

 

 当然だと思うが、桃香さんが袁紹さんとの話について聞いてきた。 他の皆も声には出さないが、その事が一番気になっているようである。

 取りあえずは、決定した事でも話しておこうかな。

 

 

 俺は袁紹さんに要求した事を簡単に皆に説明した。 真剣な顔で俺の話に聞き入っていた様子をみると皆が俺の事を本気で心配してくれていた事が何となくわかり、若干気分が良かったのは決して誰にも話そうとは思わないぜ。

 あっと、帰りに遭遇した曹操さん達の事は今は言わない方がいいかもしれないと思い、あえてこの場では伏せておいた。

 

「成程……流石は柚登さんです。 それだけしていただけると戦略に幅が広がりやすくなります」

 

「お、おそらく汜水関では籠城戦になると思います。 それでしたら、先ほど柚登さんが仰ったように下手に策を立てるよりも臨機応変に動く事が重要と思います……だ、だからこそ、兵を増強させる事は今できる最善の事かと……」

 

 な、なんだか軍師二人して凄く俺の事を褒めてくれているけれど、俺ってばそこまで深くは考えていないからね? それにね、ほら見ろ。 君たち以外のメンバーが俺の事を何やらキラキラした眼差しで見ているではないか。

 明らかに勘違いした上でのこの眼差しは俺の良心が内側から抉りこまれて逆に心地悪いんだぜ? あ、星さんだけはニヤニヤしながら粘っこい眼差しを向けているけれど……

 

「邪魔するわよ~」

 

「相手方に許可も取らずに入るのは感心しないぞ」

 

 そんな折だ、劉備軍へと突然の来訪者が現れたのは。 初めは副長さんが来たのかと思ったが、あの真面目一筋の副長さんがこんな軽い口調で現れる筈がないので速攻で削除した。

 しかも、聞いた事のない女性の声が二つも――――

 

「おう、邪魔するぜ~」

 

 ――――訂正。 三人目の声は滅茶苦茶聞いた事のある声だ。

 

 そして、次の瞬間俺の後頭部に決して軽くない衝撃がぶち当たった。 しかし、武器の類ではなく、何か動物的なものが飛び乗ったというような感覚だ。

 っていうか、何があったのか言うまでもなく理解できてしまう自分が悲しいぜ。

 

 俺はしぶしぶ声のした方へと振り返った。

 

「貴方が凌統ね? 私は孫策。 よろしく頼むわね」

 

「周 公瑾だ。 まずは突然の来訪を謝罪したい」

 

 そこに立っていたのは褐色の肌がまぶしい妖艶なお姉さま方が二人……いやはや、着ている服の露出具合なんかまさにドストライクと言わんばかりにタイプ過ぎて驚きなんだが……それにしても孫策に周瑜まで女性か……本当にこの世界って男の将はいないのかな?

 

 少し現実に嫌気がさしていると、とあることに気がついた。 今しがたこの陣を訪れたのは声から推測すると三人……しかし、俺の目の前にはその三人目の姿が見えない。

 つまり、今俺の後頭部にしがみついている奴は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユトーーッ! 久しぶりだなぁ~ 元気してっか?」

 

 言うまでもなく母がしがみ付いているんだよな……はぁ。

 後頭部という事で姿は見えないが、こういう子供っぽい事をしてくるのは母しか思い当たら……いや、鈴々ちゃんもよくやるか。

 

 そういえば、星さんを除いて桃香さん達って俺の母に会うのは初めてなんだよね? だったら紹介しておいた方が――――

 

「貴様! 何故柚登殿の事を真名で呼んでいる! そして、なんとうら……んん、さっさと其処から降りろ!!」

 

「そこは鈴々の特等席なのだ~!」

 

「ほう、あの方は……いや、ここはあえて放置しておいた方がおもしろいことに……」

 

「は、はわわ~」

 

「あ、あわわ~」

 

「こんにちは、孫策さん。 私は劉備、字は玄徳っていいます」

 

 ……何このカオス? って言うか、確実に星さんってば自分が面白いと思う方向に事を運ぼうとしているよね!? この場では唯一貴女だけが母の存在を知っている貴重な人材だって言うのに!

 クソーッ! 俺の周りは敵だらけなのかーー!?

 

「ほぅ……柚登の真名を呼ぶたぁ良い度胸しているじゃねえか……テメェ等、潰――――――ヒニャ!? って、おいこら柚登ーー! 俺は猫じゃねぇぞ!!」

 

 なんだか危ないくらいに人の頭の上で殺気をぶちまけていた母。

 流石に洒落になっていなかったので強制的にシャットダウンさせるべく、俺は腕を後ろに回して母の首根っ子を掴み持ち上げて眼前まで移動させた。

 生憎と俺のほうが身長が高いために母は文字通り猫のように腕や足をジタバタさせている。

 

 ……何故だろう? 自分の母なのに見ていて和むわぁ~ ってコラッ!星さんは笑っていないで事態の収拾に努めろーー!!

 

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ三幕 手を取り合って

 やあ、袁紹さんとの交渉を終えて無事帰還した凌統だよ。 桃香さんの陣営に戻った俺は久しぶりに母と再会したんだ。

 まぁ、言うまでもなく母もテンションAGEAGE状態で手に負えない感じだ。 しかし、そのテンションMAX状態がいけなかった。 よく考えたら母は星さん以外のメンツとは会った事がなく、あまりの振る舞いに愛紗さんがプッチ切れてしまったんだ。 しかも母までもが臨戦態勢になるもんだから大変だ。

 もっとも、そこは空気が読める男である俺が見事なまでに母を止めたから事なきを得たはずなんだが……

 

「は~な~せ~!」

 

 未だに母はぶら下がったままジタバタと手足を動かしている。 勿論、母以外のメンツはポカーンと口を開けた状態で固まっている。 あ、星さんを除いた人達だけれどね。

 星さんは何かツボにはいったのか、先ほどまで笑いを押し殺すように肩をピクピク震わせながら笑っていたのだが、今では大口を開けて『ハァーハッハハ』なんて笑っている。 ……俺としては、この星さんを見ている方がポカーンとなりそうなんだが……

 

「ゆ、柚登殿! そんな輩をかばうのですか!? その者は柚登殿の真名を……」

 

「あっ! テメェまた柚登の真名を言いやがって! 柚登放せ! 俺はアイツをぶん殴らねぇと気が済まねえ!」

 

 ……はぁ、なんでこの二人は人の話を聞かないのでしょうかね?

 

 流石に止めようと俺が口を開こうとした瞬間……俺の言葉を遮るかのように別の人物が声を発した。

 

「両者共に落ち着け。 我等は下らない言い争いをする為に来たわけじゃない!」

 

 江東の麒麟児こと、孫策さんであった。

 しかし、その纏っている空気は先程まであった人懐っこそうなモノではなく、麒麟児と言う名前に相応しい程の迫力であった。

 

 とたんに静かになった場……しかし、愛紗さんと母は未だに憎々しげな顔のまま互いに睨み合っている。

 ここは孫策さんにならって俺もガツンと言ってやったほうがいいかもしれないな。今は味方同士で争っている場合じゃないし……

 

「二人共……頭…を……冷やせ」

 

「し、しかし! この者は…!」

 

 だが、愛紗さんは未だに納得がいかないみたいだ。

 明らかに納得がいかないという顔で俺に詰め寄ってくる。

 何だか話がややこしくなってきそうだったから、俺は優しく愛紗さんに諭すように少し静かにするように声を出した。

 

「二度は…言わん……黙れ」

 

――――――全然オブラートに包んでねぇ!?

 

 寧ろ、これ以上ないっていうくらい刺々しい言い方になっていないかな!?

 ほら見ろよ、明らかにショックを受けた顔をしているよ。 ……まぁ、残念ながら言った張本人だから俺はフォローを出来ないから放置しておくしかないけれど。

 

 ――――おっと、何だか色々ありすぎて孫策さん達がここに来た意図を聞いていなかったではないか。

 ……母はどうするのかって? この際放置で。

 

「用件……なんだ?」

 

「その前にうちのモノが迷惑かけたわね」

 

 そう言いながら孫策さんは未だ俺に首根っこを掴まれて空中でプラプラしている母を指差した。

 そう言えば母って星さん曰く、今は孫策さんのところで働いているんだよな? 凌統として産まれて、初めて本来の士官先である呉と接点を持った気がするよ。

 

「気に…する…な……慣れて…いる」

 

「慣れているって……フフッ、流石は凌統ね。 雪花から聞いたとおり面白いわ~」

 

 ……母は俺のことを一体全体どのような感じで紹介をしたのかが気になる今日この頃だぜ。

 

 まぁ、二人のことはこの際放置しておいても良いでしょう。

 そんな事よりも孫策さんってば俺の話を見事なまでにスルーされているし。

 俺は再度確認の意味をこめて再び問うた。

 

「用件……なんだ?」

 

「ありゃりゃ、嫌われちゃったかしら? まぁいいわ、私の用件は一つよ――――私達と手を組まないかしら?」

 

 あれま、それは願ったり叶ったりな申しで……いやっ! 少し考えろ俺、こんな美人さんが俺みたいなコミュニケーションが欠落した人間を誘うのはおかしい……いや、おかしすぎる!

 ――――成る程、手を組む代わりに何かを要求するつもりなんだな? そうに違いない!

 

「目的……なん…だ?」

 

「フフッ……本当に話に聞いたとおりの人間ね。 最も、誰彼構わずに信用するような奴よりもよっぽど信頼できるわ」

 

 ――――ふぃ~危ない危ない、危うく孫策さんの術中に陥るところだったぜ…… よくぞ気が付いた自分を誉めてあげたい! ただ、見返りはなんだろう?連合終わったら金寄こせとかかな? 確か今の孫策って袁術の傘下だっていうし……俺の記憶が正しければそのうち独立を果たすっぽいからな。

 ……ただ、何でだろう? 孫策さんが桃香さんの事を見ているのが気になるな。

 

「まぁいいわ、簡単な事よ。 それに目的って言っても難しい事じゃないわ。 凌統、あなた――――私達の元に来なさいな♪」

 

 ……予想外の本日、二回目の告白だったりした。

 

 

 

 

―――― ぶら下がりの母君

 

 

 全く、劉備って奴のところには礼儀のなってねぇ将がいるなぁ。

 歳上を敬う事は勿論だが、俺の目の前で倅である柚登の真名を言いやがるたぁ図太い奴だぜ。

 まぁ見た感じ柚登の仲間みてぇだが……気に入らねぇな。

 

 しっかし柚登の野郎、逞しくなりやがって~俺の事を軽くあしらえるようになるたぁ……嬉しい限りだぜ!

 しかも、首根っこを掴まれているのに痛くないとは……まさに絶妙な力加減だな。 むしろ気持ちいい――――ゲフンッ!

 あ、危ねぇ……危うく禁断の領域に足を踏み入れちまうところだったぜ。

 

 しかし、こんな絶妙なまでの力加減が出来るとは……それに、俺が身動ぎする度に腕を軽く振り、俺を動かしにくくしている……

 確か、前に聞いたことがあるな。 本当の武の達人は相手(敵)に反撃の余地を与えないって。

 ……なるほど、俺は達人って言うほど自分の武を高くは見ていないが、簡単にやられるような柔い武では無いと思っていた。

 しかし、倅の柚登はそんな俺を遥かに差を付けて追い抜かしていたんだ。

 

 そう、本当の達人の領域まで……

 

「ちょっと、何ニヤニヤしてんの? ……気持ち悪いわよ」

 

「うっっせぇな!! 少し感傷に浸っていただけだろうが! 寧ろ折角良い気持ちだったのを邪魔すんじゃねぇよ!」

 

 あまりの物言いに俺は雪蓮に向けて決して軽くはない蹴りを一撃……おっと、柚登に捕まっているんだったぜ。

 

「柚登、お前の仲間にゃ手を出さねぇ。 だから……は~な~せ~!」

 

「……少し…大人しく…してく…れ」

 

 ガーン!? ゆ、柚登に叱られてしまった……

 

「俺のめり……利点が見当たら…な…い」

 

「まぁ、はたから見たらそうよね。 だけれどね、アナタが今から先陣を務める汜水関の籠城戦……そこにいる将の一人、華雄って言うのが孫家と因縁があってね……」

 

 ……なんか疎外感だぜ。

 

「な~な~ 柚登~」

 

「俺が…それ…を……受ける…と?」

 

「えぇ、思っているわ。 少数精鋭の凌統隊が生き残るには短時間で汜水関を落したい……だけれど、汜水関周辺の地形を考慮すると簡単に落とせるものじゃあない、更に唯でさえこちらに不利な状況。 だって、そうよね? 相手は籠城してこちらが疲弊するのを待てばいいんだし……どう? アナタの利点は理解出来たかしら?」

 

 ……完全無欠なる無視かよ。

 べ、別にいいんだぜ~ 俺は柚登の母ちゃんで大人だから、これくらいでは泣いたりしないもんね~だ。

 

「なぁ~ ユ~ト~!」

 

「……なら…ば、孫策殿……の利点…は……なんだ?」

 

「私の? ……悪いわね、アナタが受けてくれるなら話してあげるわ」

 

 ――――グスッ……べ、別に…く、悔しくなんか……ウウッ…

 

「あのっ! お二人で話しているところ悪いんですが――――」

 

「なによ劉備? 私は凌統と……」

 

「どうし…た……桃香」

 

「柚登さんが捕まえている人……泣いてますよ?」

 

「……ゆ、柚登ー! あ、謝るがら俺の話を聞いでぐれよーー!」

 

『――――あ…』

 

 

 

 

――――劉備

 

「それで柚登さん、どうするんですか?」

 

 泣き出してしまった女の人を孫策さんが引き摺りながら私たちの陣を後にしてから柚登さんについての緊急会議が始まった。

 

 議題は言うまでもなく、柚登さんが孫策さんの援助を受けるか否か。

 実際には柚登さん率いる凌統隊と、孫策さんを筆頭とした孫家の問題で、私がとやかく言う資格が無いのはわかっている。

 だけれど、私たちは今まで一緒になって頑張ってきた。 それはこれからも変わらないと思っているんだけれど……

 

「私は反対です! 孫策殿の助力がなくとも我等がいるではないですか!」

 

「鈴々もお兄ちゃんと離れるのはイヤなのだ!」

 

 愛紗ちゃんと鈴々ちゃんは断固反対の意志みたい。 勿論私だって柚登さんと離れるのは絶対に嫌だ。 折角仲間に慣れたのに……折角柚登さんの進むべき道に同伴する事が出来たのに……

 ここで終わるなんて絶対に嫌だ!

 

 だけれど、そんな私たちの思いとは裏腹に冷徹な言葉を紡ぐ人が居た。

 

「……いや、俺…は……行こう…と……思う」

 

 他でもない柚登さん本人であった。

 あまりにも突然な事で私たちは一瞬、動きを止めて柚登さんの方へと鋭い視線を向けた。

 しかし、柚登さんはそんな私たちの厳しい視線にも動じる様子は見られない。

 

 だけれど、私たちの心中は決して穏やかとは言い難かった。 だって、大切な仲間だと思っていたのに……これからも私たちと理想の国を作ってくれると思っていたのに……

 しかし、それとは別に柚登さんの事だから何か深い考えがあるのだろうとは思う。 だけれど、その時の私たちは、それ以上に今までの事を全て否定され、裏切られたのではないかと思う気持ちでいっぱいであった。

 そして柚登さんは私たちに何も告げることなく陣を後にし、自陣へと戻って行った。

 

 だけれど、私たちはその背中を呼びとめることなく、小さくなっていく柚登さんの背中をただただ見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

「あ、あの桃香様?」

 

 そんな中で朱里ちゃんが申し訳なさそうに私に向かって何かを訴えるかのように私の顔を見上げていた。

 

「柚登さんをあまり責めないでください。 恐らく柚登さんは今回の戦いの後の事を考えられているのではないかと思います」

 

「戦いの後ってどういうことなの?」

 

 朱里ちゃんの見解はこうだ。 董卓軍討伐後は諸侯の領土争いもろもろが発生し、この国は戦乱に呑まれ続ける。

 ここまでは私たちも想定している事。 だけれど、朱里ちゃん曰く柚登さんはその後の事を考えているのではないのかと……

 

「私の見解が柚登さんと一緒ならよかったのですが……ですが、色々と考慮した結果、柚登さんはきっと桃香様率いる劉備軍と孫策さん達との間の架け橋になろうと思っているのではないでしょうか?」

 

「どういうことだ?」

 

 私の疑問を弁明するかのように愛紗ちゃんも話に入ってきた。 鈴々ちゃんは話にこそ加わらなかったけれど、話に内容には興味津々みたいで身を乗り出して聞いている。

 星ちゃんは……なんだか雛里ちゃんと話しているみたい。

 

「はい、この連合軍との戦終了後間違いなく世の中は戦乱に呑まれていく事でしょう。各地の豪族間のいざこざ、勢力争い……その行き付く先、本当の最後に残るべき勢力を予測してみたんです。 きっと、そこに柚登さんの真意が見られるはずかと……」

 

「真意って……朱里ちゃん、もっとわかるように教えてくれないかな?」

 

 なんだか朱里ちゃんの説明は難しすぎてよくわからないや。

 このあと、愛紗ちゃんに通訳してもらいながら私は何とか話を把握した。 簡単に言うと、今後残る勢力は私たち・孫策さん・曹操さんではないのか。

 私としては袁紹さんも残ると思ったんだけれど……朱里ちゃんはそうは思っていないみたい。

 そして仮にこの勢力達が残った場合、私たちと孫策さんとの間に手を取り合う材料があれば私たちの夢である戦いのない平和は世界の実現が強くなるって。

 

 つまり、柚登さんは私たちの夢のために自らがその架け橋になるべく行動に移しているという事だ。 確かに、この反董卓連合が解散した後の事はそんなに強く考えていなかったけれど……そう考えたら、突然柚登さんが孫策さんのところに行くと言い出したのも納得がいくかもしれない。

 だけれど、何だか考え過ぎの気もしないでもないんだけどな……

 

「しかしだな、いくらなんでも考え過ぎではないか?」

 

 愛紗ちゃんはまるで私の心内が分かっているのではないかと言うくらい私と同じ疑問を持ったみたいで、朱里ちゃんに詰め寄った。

 

「……そうですね、考えすぎなのかもしれません。 ですが、柚登さんがそこまで考えている可能性は大いにあると思います。元々寡黙な方のため真意は、はかりきれません。もしかしたらそれよりも先の事まで見通している可能性すらあります」

 

 確かにそうなのかもしれない。 柚登さんには柚登さんの考えがあるし……うん、考えても埒が明かないし後で直接柚登さんに聞いてみよう。

 

「ただ、まずは現状について考えてみると、何故孫策さんが何故柚登さんのことを詳しく知っていたのかということが気になりはしますが……」

 

 私の中で柚登さんについては解決した。 愛紗ちゃんはまだ納得しきっている様子ではないけれど……。 それに、朱里ちゃんにはまだ疑問に思っていたことがあるみたい。

 確かに、朱里ちゃんの言うとおり柚登さんの事を孫策さんが知っていたのは驚いたけれど……でもでも、柚登さん自体がこの大陸ではものすごく有名な人なんだからそこまで気にすることじゃなと思うんだけれど?

 

「それは私も思った。 確か、誰かに聞いたとか言っていたが」

 

 愛紗ちゃん凄い。 私、会話の内容ってそこまで覚えていないのに。

 

「おぉ、その事ならば私が知っていますぞ」

 

 私達がまた考え込んでいると、それを遮るかのように星ちゃんが話に入ってきた。 って、何で星ちゃんが孫策さんの事情を……ってあぁ、そう言えば星ちゃんって一度孫策さんの所を訪ねたことがあったんだよね。

 それなら、星ちゃんが教えたっていうことも考えられるし……

 

 しかし、そんな私の考えをまるで見透かしているかのように星ちゃんは片方の口角を上げて意地悪そうな口調でこう切り出した。

 

「以前申したではありませぬか、『孫策殿のところに柚登の母君がお見えになる』と。 その母君が教えたのでしょう」

 

 そう言えば、星ちゃんが来たばかりのときにそんなことを言っていたような気が……あの時は気にも留めていなかったけれど、確かにそれなら辻褄が合うかもしれない。

 その後、星ちゃんは『それに』と続けた後に私達に驚愕の真実を教えてくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに、御主等も先程お会いしたばかりではないか。 ほれ、柚登の頭に引っ付いていた御婦人、あの方こそ孫策殿の将にして柚登の母君である雪花殿ですぞ」

 

『…………え?』

 

 その後、少しの間だけれど私達のときが止まったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

――――一方そのころの凌統君

 

 ど、どうしよう。 つい、勢いで孫策さんの話を受けるって桃香さん達の目の前で言っちゃったけれど……唯単に好みドストライクの孫策さんの告白を断れなかったって言えないし……それに、母が泣いたのって俺が原因な訳で、その後が心配だし……あぁ、自棄酒とかしていないよね? あの人って酒にはとことん弱いからな。 御猪口一杯の酒ですら記憶を無限の彼方にさぁ行こうって言いたくなるくらい飛ばしていく人だからな。それで、人様に迷惑をかけていなければ良いんだけれど。

 

 どうしようか……しかも、よくよく考えたら曹操さんは断って孫策さんは受け入れるって言うのも……明らかにぼでぃ~の見た目で選びましたって言うのがミエミエだし……

 更に、桃香さん達の前で宣言したとき明らかに『うっわこの人、美人になびいたよ』とか言いたげな視線を俺に送っていたし。

 

 ――――――うがぁぁ!! 困ったぞーーーー!!

 

 ……取りあえずは宣言してしまった以上、孫策さんに提案を受け入れる旨を伝えようかな。 はぁ、後のことを考えると胃潰瘍にでもなりそうだぜ。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ四幕 攻め込んだって

 やぁ、いつも厄介事に巻き込まれて不幸体質だと自負している凌統だよ。

 俺は今、正に絶体絶命の状態に陥っていたりする。 え、意味がわからないって?

 大丈夫だ、俺自身も何でこんなところにいるのかが訳が分からない。 取りあえずは状況が分からない人も多いだろうから、俺の目の前の状態を教えておこうと思う。

 

「たった二人で乗り込む……か。 その気合いは良しやけれど、たった二人で何ができるか分かってんのか?」

 

「張遼、その男はお前に任せる。 私はこっちの女を相手する!!」

 

 あはははは~……はぁ、今現在俺の目の前には眼の釣り上ったデフォルトで胸にサラシを捲いて袴をはいている女性と特に特徴もなく血気盛んっぽそうな印象の女性が立っている。

 そして気が付いた人もいると思う。 張遼と呼ばれたこの袴の女性は”二人で乗り込む”と言ったんだ。 まぁ、此処まで説明すればわかる人も多いと思う。 って言うか、わからないとおかしい。

 そうなのだ、俺は今現在――――――

 

「ケケケッ! 柚登、そっちの破廉恥な女は任せたぜ! 俺はこっちの女を相手してやる!」

 

「誰が破廉恥や! 喧嘩売ってんのか!? いやそもそも、たった二人でこの汜水関に乗り込んでくるってどんだけ阿呆な二人組やっちゅうねん!?」

 

 ――――――母と二人で汜水関内部で乱闘騒ぎを起こしていたりする。

 

 さて、此処に至るまでには色々と経緯があるのだが、説明しておこう……

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 俺はその時、袁紹軍一万人・孫策さん達と一緒に汜水関の眼の前に陣取っていた。

 

 なに、簡単に言えば汜水関の籠城戦の前線を任されただけだからさ~ あっはははは……はぁ、マジで溜息が下がる心境だぜこの野郎。

 

「どうしたの? 辛気臭い顔し……って凌統はそれが普通か」

 

 俺の傍には孫策さんがいた。 流石に美人さんを横にしてやる気が出ないなんて事は俺に限ってある筈がない。軽くディスられていてもそれすら気持ち良く感じるとは――――――

 そうか……これが男としての性(さが)か……

 

 

 さてさて、俺の横に孫策さんがいる事に対して急な事すぎて驚いた人もいると思う。簡単なことだ、俺は前に言われた孫策さんの提案を条件付きで受けたのだ。

 

 条件と言っても、難しい事じゃない。 反董卓連合が終わるまでは俺の手伝いをすること。

 孫策さんの元に行くのは良いけれど、その時期はこちらが決めること。 これは桃香さんのところに残した仕事を終わらせたり、引継ぎをすませたりしたいからだ。

 そして最後に……俺が孫策さんの元に着いた後でも桃香さん達とは仲良くし続けること。 これについては、これからお世話になるところと今までお世話になったところが争い合うのが嫌なだけな俺の自己満足だったりする。

 

 さて、俺が出した条件は以上の三点だ。 自分で言うのもあれだけれど、かなり我儘な内容だと思う。

 だって、これだけ条件を出しておきながら孫策さんのメリットが何一つ見当たらないからだ。

 唯一あるかもしれないのは、俺が孫策さんの元に着くという事だけ。

 

 しかし、それでも孫策さんは嬉しそうな顔をしながらか全ての項目を了承した。 ……マジで裏とか無いか不安になってきたぜ。

 もし裏が無いのなら、どんだけ孫策さんは優しいのだろうか?

 美人で優しくて王様でって……流石に俺には高嶺の花過ぎるぜ。

 

「それで、孫策さんはどのようにして汜水関を落とすおつもりなんですか?」

 

 そう言いながら桃香さんが俺の背後から近づいてきた。

 ……俺の邪念に反応したのであろうか、一瞬こちらを見たような気がする。

 

 さてさて、なんで桃香さんが汜水関の籠城戦の前線にいるのかと言うと、孫策さんに条件を突き付けたあと、桃香さん達も俺達と一緒に先陣をきると進言してくれたんだ。

 俺としては仲間は多いに越した事はないから、その申し出を有り難く受けることにした。

 そう言えば、孫策さんに提示した条件の事を皆に話したところ、何故か皆の顔が驚いた様な表情になり『信じていました!』みたいな事を言われたんだけれど……ナニについて信じていたのかが疑問すぎて怖かったぜ。

 だけれど、聞き返すわけにもいかないから俺も『これからもよろしく』的なニュアンスな事を返しておいた。

 

「そうね……華雄は昔、私の母にボロ負けしたって経歴があるのよ、そこを挑発すれば簡単に開城するんじゃないかしら?」

 

 とまぁ、こんな流れで特に危険な事もなく汜水関を落とす予定だったんだけれど……

 

「んなまどろっこしい事する必要なんてねぇよ! あんな所、俺と柚登にかかればスグだゼ!!」

 

 何故か一介の将である筈の母が会話に流れ込んできた事によって話がややこしくなってしまったんだ。 事なかれ主義の俺にとって母の発言は俺に危害を加える事以外全くないので即座にその母の発言をもみ消そうと思ったんだが……

 

「ですが母上殿、流石にお二人でもあの堅固な水関を落とすとなると……」

 

「んだよ黒髪~さっきとは態度が偉く違うじゃねぇかよ? ってか、俺と柚登だぜ? あんなの簡単に落とせるっての!」

 

「いえ、それについては先ほど謝罪を……」

 

 救世主愛紗さん現る!! そうだ愛紗さん、もっとこの常識知らずな母に言ってやれ!まったく、母も母だぜ。 あれだけ常識は身につけておけって言ったのに……勉学をサボっていやがったな。 ……今度、孫策さんのところに行ったらみっちりと教え込んでやろう。

 

「あのね雪花、いくらアンタ等が強くても、根本的にあの門を開けない事にはだれも中には入れないの。 しかも左右は崖に面している特殊な地形だから、正面または裏手しか侵入は不可能。 城壁の上には兵たちが弓を持って待機しているからよじ登るのも不可能。 もう一度言うわよ、絶対にム・リなのよ!」

 

 流石に母の発言を聞いていられないと思ったのか、孫策さんも母を止めるような発言をした。 確かに汜水関は孫策さんの言うとおり左右を崖に囲まれると言う特殊な地形で正面と裏しか入れない。

 恐らく母の頭の中では内部に入るという工程を考えずに董卓軍兵士相手に無双を開いている姿しか考えていない事だろう。

 孫策さんの言葉に流石の母も身を引くと俺は思ったんだが――――――

 

「んだよぉ、皆して無理無理言いやがって……みてろよぉ!」

 

 母がそう発言すると自身の腰に差していた三節棍をおもむろに手に取り……

 

――――カシャン、カシャン

 

 三節棍の連結部がそれぞれを嵌め込まれて一本の棒を形成した。 連結していた鎖は嵌め込む際、棍内部へと収納されていった。

 ……ってか、三節棍って繋げて棍としても使えるんだ。

 

「――――よっしゃ、行くぜ!!」

 

 母はそう意気込み、単騎で水関へと突撃していった。

 

 

 って、半ば感心している場合じゃねぇ! 母を早く連れ戻さないと俺の考えが正しければマジで単騎で水関内に突貫しかねないぞあの人!?

 あまりにも一瞬の出来事で周りの皆はポカーンとしていたが、直ぐ正気に戻った。

 

「あの馬鹿! なに、本当にやってんのよ!? 祭、雪花を連れ戻しに行くわよ!」

 

「了解じゃ策殿! ……しかし、あの速さでは追いつけるかどうかもわからぬぞ」

 

 いち早く行動に移したのは孫策さんであった。 孫策さんは孫策さんと同じく褐色肌の妙齢の女性と共に母を連れ戻しに行こうとしているようだが、無駄に身体能力が高い母にはきっと追いつくことができないってのを知っていると思う。

 ――――いや、あの母を連れ戻すことのできるスピードを持っている人物がたった一人いるではないか。 しかし……

 俺はたった一人、突貫していき小さくなっていく母へと眼を向けた。

 

 あの人が負けるとは到底思えないが、万が一って言うこともある。 しかし、そのたった一人、連れ戻すことのできるスピードを持っているのが『俺』って時点で色々とつんでいる気がするよ。

 

 俺は内心で大きくため息をつくと、誰にもなにも告げず地面を思いっきり蹴り母が向かって言った方向へと足を急がせた。

 後ろの方で桃香さんや孫策さん達が何かを叫んでいたような気もするけれど、俺はそれを気にする事無く母を追いかけた。

 だが、どうやら俺が事を起こすのが少し遅れてしまったようだ。 確かに母との距離は徐々にだが縮まってはいるものの、俺が追いつくよりも早く母が水関の城壁にたどりついてしまったのだ。

 そして、単騎突貫してきている母に董卓軍も気がついたのであろう。 矢がまるで雨のように俺に向かって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――って、俺狙いかよ!? ……あ、母はあまりにも城壁に近づいているもんだから死角になっているのか~

 内心で、そ~なのか~と呟きながらも持って生まれた身体能力と反射神経で雨のごとく降り注いでくる矢を避けたり時には三節棍を駆使して凌ぎ続けた。

 その間にも母は態勢を低くして高飛び選手見たく足をバネのように縮めた。 その一拍後、母は高飛び選手もビックリな跳躍を見せた。

 しかし、城壁の高さは正確にはわからないが、20メートル近くある様に見える。 いくら母が常識破れの人とはいえ流石に中腹辺りで失速しているのがわかった。

 母もそれを感じたのであろう、突然手にしていた棍を石垣で構成された城壁に突き刺したのだ。

 ……俺はいいとして、母は本当に生身の人間なのかが疑問だぜ。

 そして母は突き刺した棍を足場にして、先程高飛びをしたように身を屈めて同じように……まるで天に落ちているかのような錯覚に陥るほどの速度で飛び上がった。

 そのまま母は、一気に城壁のてっぺんまで行き姿が見えなくなった。

 

 

 

 ――――――えっ!? や、やばい! このままじゃ見失う!

 そのように決断した俺は早かった。 絶えず矢が降り注ぐ中を真っすぐ城壁へと向かい、母が城壁に突き刺した棍目指して地面を思いっきり蹴り跳躍した。 ふと、気がつくと先ほどまでの矢の雨が嘘のように消え去っていた。

 多分、母が乱入した事によってそれどころではなくなったのだろう。 その辺についてはあまり深く考えずに真っ直ぐ、寸分の狂いもなく棍へ向かった。

 

 まるで、天に向かって全力疾走しているかのような錯覚に教われ、自身が矢のような速度でみるみるうちに地が遠ざかる。 そして、あっという間に俺の手の中に母の棍が治まった。

 よし、後はこれを足場にして俺も母みたいに城内に入って首根っこでもなんでも掴んで母を連れ帰れば終わりだ。

 

だが、そこで何時もの如く予想外な事が起きてしまった。

 俺が思いのほか力強く地面を蹴ってしまい、棍を掴んだ程度ではその勢いを殺す事が出来なかったのだ。 しかも、刺さっていた棍が抜けてしまうというビックリドッキリハプニングまでもが発生したのだ。

 ……ぶっちゃけ、呪われていないか俺って?

 そして、俺は母の棍を手にした状態で文字通り天へと登って行ったのだった。

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 とまぁそんな事があり、よりにもよって着地した地点が董卓軍の将二人と母が混線していた場所に乱入してしまい、気が付いたら槍の刃先をこちらに向けた張遼さんと対峙しているわけなのさ。

 

「構える事もせえへんなんて、随分と余裕かましとるやないか」

 

 余裕じゃなくて、少し混乱しているだけなんだけれどね……おっと、流石に刃先を向けられた状態で余裕ぶっこいていたら危ないか。 俺は手にしていた母の棍を地面へと捨て、自身の腰にさしてある三節棍を構えた。

 その様子を見て張遼さんの口角が少しだけ上がった気がしたんだが、気のせいかな?

 

「そうや自己紹介が遅れたわ。 ウチは張遼、字は文遠やアンタは?」

 

「……凌…統……公積」

 

「へぇ~アンタが『戦乱を凌ぎ全てを統める者』か。 まさか、こんなところで御目にかかれるやなんて夢にも思わなかったわ」

 

 張遼さんは俺の名前を知るとケラケラと無邪気に目を細めて笑い出した。 ……何て言うか、こうやって笑顔を見せられるとただの美人さんで通るのに、手にしている槍が全てを台無しにしている気がするのは決して俺だけではないと信じたい!

 

「黙りか……折角、名だたる凌統と手合わせできる機会やけれど、さっさと決めさせてもらうで」

 

 そう言うや否や、張遼さんは無双のスキルにある神速並みのスピードで斬り掛かってきた。

 俺は咄嗟に身体を反転させて避けた。 しかし張遼さんは刃の軌道から俺の身体がずれたと判断するとすかさず槍の軌道を修正して回避した俺を捉えようとした。

 急な事で驚いたが、俺も半端ないくらいの反射神経を有しているんだ、その後も何合か張遼さんの槍を避け続ける。 時には上段から、そこから薙ぎ払いも加えてフェイントを織り交ぜた下段……

 

 って言うかこの人……強くないかな!? いや、強さもさる事ながらそれ以上にこの張遼さんの槍が半端ないスピードなんだ。

 なんとか避けることは可能だけれど、チート気味な身体能力を有している俺でさえギリギリで回避をしているなんて……このスピードは少し洒落になっていないかもしれない。 だって、槍の軌道で残像が沢山見えるんだもん。

 

 って言うか、三節棍を構えておきながら未だに使っていないという現状に少しだけ驚いたな。 あり?そう言えば母って持っていた三節棍を城壁にさしたまま突入して、その三節棍は俺の足元にあるんだけれど……

 

 

 ――――――母って今、どうやって戦っているんだろう?

 

 

 至極どうでもいい事を考えながら俺は張遼さんの攻撃を避け続けたのであった。

 




ありがとうございました。

また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ五幕 撤退して

「本当に、親子揃って思いもよらない事をしてくれるわね」

 

 こちらは汜水関から幾分か離れた道中。 連合軍の先陣に位置している。

 そしてその中で彼女、孫策は呆れ半分、驚き半分の声をもらすのだった。

 

 その愚痴ともとれる言葉を投げ掛けられた人物は孫策が自ら声をかけて、結果的に将の一人となった雪花、そして彼女の一人息子で近いうちに自分のところを訪ねると約束した凌統の二人だ。

 すでに彼らが汜水関へと乗り込んでから一刻の時が過ぎており、辺りには不気味な静寂が漂っている。

 予定では汜水関に陣を張っている董卓軍の猛将・華雄を誘きだしている手筈だったのだが、二人が汜水関へと乗り込んでいる以上、それも実行することが出来ない。

 

「雪蓮、どうするのだ? あの二人がそう易々と討たれるとは考えにくいが……兵達が動揺している」

 

 そう言いながらも、面白いものを見たかのように、ニヒルな笑顔を浮かべながら近づいてくるのは彼女が一番に信頼している友にして軍師の周公瑾。

 

「どうするもこうするも、このまま突撃して徒に兵を減らすわけにはいかないわ。 ここはのんびりと待つつもりだけれど……」

 

 彼女は語尾に『だけれど』とつけて話を続けた。

 

「ここは連合軍、しかも総大将が『アレ』だからね……あんまり時間稼ぎが出来そうにないわ」

 

 二人は顔にこそ出なかったがその声には焦りの色が混じっていた。 自分達は立場上、現段階では必要以上に目立ってはいけない存在だ。 いや、それが良い意味での成果ならば今後好転に傾くかもしれない。 だがしかし、悪い意味で目立ってしまうと逆だ。 そんな事をしてしまえば無理をして凌統を迎え入れる意味が無くなってしまう。

 だからこそ二人は焦っていた。 しかし、そんな二人の様子を何も知らぬ一人の人物が近付いてきた。

 

「どうしたんですか孫策さん?」

 

 桃色の髪をたなびかせる少女は劉備玄徳。 今現在、凌統と共に行動をしている少女だ。

 

「劉備……だったわね? 別に何でもないわよ」

 

「そうですか? なんだかお二人ともここに凄い皴が寄ってましたよ?」

 

 そう言いながら劉備は自分の眉間を指さして『ここですよ』と無邪気な表情で話した。

 

「くだらない冗談は良いわ……それで何か用かしら?」

 

 勿論孫策達は自分がポーカーフェイスをしているのを自覚しているため、劉備の言葉をバッサリと切り、面倒くさそうな声で問いかけた。

 

「ばれちゃいましたか……でも眉間に皴が寄っているっていうのは冗談ですが、何か心配しているのではないかと思っているのは本当ですよ?」

 

 自分の嘘がバレバレであった事に関しては笑ってごまかした劉備であるが、最後の言葉は彼女らしからぬ真剣な表情をして答えた。

 彼女とて馬鹿ではない。 孫策達が何に杞憂しているのか位は理解している。 だが、それを敢えて孫策達に訴えかけた。

 

「……ねぇ、このやり取りは意味のある事かしら?」

 

「意味があるかなんて事は分りませんが、少なくとも相談相手くらいは出来ますよ?」

 

 相変わらずニコニコしながら話しかけてくる劉備を少し鬱陶しくは感じるがそれを表だって出すわけにもいかない。 劉備と仲良くすることを条件にしたのは他ならぬ自分が欲しいと思った人物、凌統の言葉だから。 それに、劉備は確かに甘いと思う場面はこの短い時間で多々見られたが、袁紹や袁術の傲慢と比べたら可愛いものだ。

 孫策は小さく息を吐くと劉備と向かい合った。

 

「そうねぇ、敢えて言うとしたらこの状況の打破……かしらね。 劉備は何かいい案でもあるのかしら?」

 

 特に意識したわけではなかったが、孫策の言い方には若干の棘が混じっていた。 しかし、劉備はそんな言葉を気にした様子もなく孫策の疑問に答えた。

 

「いえ、特にはありません。 寧ろ、そう言った策とかを練って動くのは今回に至っては必要ないって思うんです」

 

 劉備の口から出た言葉に今度は本当に孫策は眉間に皴を寄せた。 確かに、籠城戦は臨機応変に動いてなんぼだ。 だが、動かなくていいという言葉は聞き捨てならない様子だ。

 このままの状態で手を拱いていると少なからず劉備にも被害が及ぶ。 それを何もしなくていいっていうのは孫策は聞き捨てならなかった。

 

「それは……始まったばかりなのに諦めたって言う事かしら?」

 

「いえ、諦める事は過去も今もコレからもありません、私はただ柚登さんを信じているってだけですから」

 

「信じているって……はぁ、ずいぶん甘い考えかたね? 確かに私達も雪花の実力は信じているわ、でもねそれも数に押し切られたら終わりなのよ?」

 

 根拠はなかったが、孫策自身も劉備の言うとおり、信じていないわけではなかった。 短い時間ではあるが、彼の母である雪花と共に時間を過ごし、彼女が口から出まかせを言うことは殆ど無いという事は知っていた。

 だが、今回は相手が悪すぎる。 たった二人で敵地に乗り込むなんて愚の骨頂でしかない。 孫策はそのように考えていた。

 

「確かに孫策さんの言いたいこともわかります。 ですが信じれませんか? ご自身の仲間を。 私達は柚登さんを信じて待っているだけですから『何も』しないんです」

 

「そんな事わかって――――――――ッ!? ……フフッ、謝罪するわ劉備。 さっきまでの私の弱音は忘れて頂戴。 ……まさか、本当にアナタの言うとおりになるなんてね。 きっと凌統がうまくやってのね♪」

 

「何たって柚登さんですから♪」

 

 孫策、周揄そして劉備は堅く閉ざされた汜水関城門を見て、安堵の表情を浮かべた。

何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ドッシャラァァァ!! へん、どんなもんだい!」

 

「――――少し…反省……しろ」

 

 つい先程、城壁を飛び越えていった者達が変わらぬ姿で城門を蹴破って飛び出してきたのだから……

 

 

 

 

――――少しだけ遡った凌統

 

 結果から言うと、母は徒手空拳でも全く問題はなかった。

 戦斧を装備した敵相手に徒手空拳で挑む母は正に圧巻の一言につきると思う。 だって、素手で戦斧の刃を弾き飛ばしてカウンターブローをかましたり、飛び回ったり……更には戦斧の刃を掴んだでそのまま の状態で敵さんごと振り回したり……って危なっ!?

 

 オイコラ母ッ! オプションで人をひっつけた状態の武器を振り回すのは危ないんだぞ! 少なくとも俺が近くにいないときにやってください!

 ……そう言えば、彼女らの部下である兵たちは何故だか俺達に近づこうとはしないで俺達を囲うように円陣を作っていた。

 

「戦いの最中によそ見か? 余裕かましとるやないか!!」

 

 ――――――イャァァァ!?

 

 そう言えば、俺ってば関西弁な女性のお相手をしていたんだった。

 あまりにも俺の理想である平穏無事な暮らしから遠ざかっていたもんだから半ば現実逃避していたぜ。

 

 ある意味で正気に戻った俺は相も変わらずな速さでの猛攻を必死になって回避し続けた。

 しかし、このまま続けても切りが無い。 ってか、ぶっちゃけ面倒臭いし関西弁の姉ちゃんの目がマジ過ぎて萎えます。

 

 そう判断した俺は早かった。 相も変わらずの連撃をいつもの反則染みた身体能力で回避しながら数合食らうことを覚悟しつつ間合いを一気に詰めた。

 突然の俺の行動に驚いたのだろう、女性は一瞬顔をこわばらせたが直ぐに元の獲物を狙うような眼差しに変わったが、すぐさま頭を切り替えて槍を短く持ちかえて近接用に切り替えた。

 流石に張遼って名前は飾りじゃないか、反応速度はピカイチかもしれない。

 

――――――だけれど……

 

 こちとら、何の考えも無しに特効かましたわけじゃないんでい!

 張遼さんの得物の刃が俺に届く直前、俺は脚を力一杯地面へと叩きつけた。

 普通に考えたら『コイツ、何してんだ?』って思われちまうかもしれない。 しかし、其処は色々と策を練るのが三食とオヤツと夜食の次くらいに好きな俺だ。 ……忘れたのかい? 今、俺の足元には俺が無造作に捨てたように見せ掛けた母の棍が放置されているんだぜ!

 つまり俺が考えだした作戦はこうだ、俺が棍の端っこを勢い良く踏み付けて、棍を上に飛ばすんだ。

 次に俺がソレを掴み取って、グルグルグルグルと新体操の人がバトンを回すみたいにすれば張遼さんの槍を弾き跳ばせる寸法よ!

 

 何故に三節棍を使わないのかって? ……だって、三節棍って振り回したりすると結構タイムラグが発生するし、凄いスピードで迫られると結構キツいものがあるんだもん! ……うっわ、自分で言っておきながら『もん』とかキモッ!?

 ……うん、どうでもいい事は後から考える事にしよう。 ――――っと、そんな事を考えている間に棍が俺の手元まで来たな。 よし、後はこれを掴んで――――――

 

「――――――しゃらくさいわぁ!!(キィィィン!)」

 

「――――――ガハァ!」

 

「のわっ!? な、なんだぁ? イキナリ白眼向いて昇天しちまったんだが……ってこれって俺の得物じゃねぇかよ、何でこんなとこに転がってんだ?」

 

 ……はい!? ちょ、え、マジでかいな!?

 

 今、俺の眼の前であり得ない事が起きまくってしまった。 俺のプランでは棍を使って張遼さんを退けた後、母を連れて汜水関から出る予定だったんだが、よりにもよって準備段階の俺が棍を掴むと言う工程で空中に浮かびあがった棍を張遼さんが見事なまでにリフレクションしてそれがまっすぐ母と戦っていた筈の将の後頭部にジャストミートって……

 

「――――――な、華雄!? …………クッ、まさか今の棍が囮やったなんて。 なんて奴や、ウチとやりおうときながら本命は華雄やった言うんか? ……しゃあないな、皆一旦引けーーーー! 虎牢関で迎え撃つんや!!」

 

 あ、しかもさり気に今の奴を俺の所為にしたぞこの関西弁の張遼さん。 しかも、別に囮にした覚えなんてないし。

 

 そう言い残して張遼さんは気絶した華雄さんを肩にしょい込むと一目散にこの場を後にしたのであった。

 ただ、走り去る直前に『これで勝ったと思うなよーー!』と言われたような言われていないような……まぁ気のせいだと思うけど。

 そんなこんなで、気がついたら俺の周りには母以外誰もいないという状態になってしまった。 なにはともあれ、ほぼ無傷の状態で汜水関から兵が撤退して行ったんだ。 これで母の独断先行もある程度は大目に見てもらえるかもしれない。

 取りあえず、戦果を皆に報告しないといけないな。 俺はそう決めると未だに釈然としない表情を浮かべる母の元に近づいた。

 

「おぉ柚登、なぁ俺が相手にしていた奴って何で急に白目を剥いたか知ってるか? ……まさか持病でも持っていやがったのか?」

 

 それについては、同志討ちとしか言いようがないぜ。 ……いやいや、そうではなくてな。

 

「さっさと……戻る…ぞ」

 

「お、おう……なぁ、なんか機嫌悪くねぇか?」

 

 ……何だろう? 心配してついてきたって言うのに、本人はそれを知らぬが存ぜんって状態。 無性に腹が立ってきた。

 だけれど、残念ながらそれを発散したくても方法が……いや、ここは全力で何かモノにあたればこのモヤモヤ感が無くなるかもしれないな。 だけれど、俺が全力で当たると壊れるの必須だし……身近に壊れてもいい物ってのは無いもんか?

 

「ユトー、そろそろ帰ろうぜ~」

 

 ……まったく、母は俺の心情も知らないで――――――おぉ! 身近にぶっ壊してもいい物があるじゃないですか!

 能天気に俺を呼んでいる母の方を見てみると、巨大な城壁に装着されていた巨大な閂(かんぬき)が眼に飛び込んできた。

 ここで知らない人に教えてあげよう、閂って言うのは時代劇とかでよく見る屋敷の左右の扉に付けられている横木のことさ。 流石に汜水関ともなるとその閂は巨大なもので、とてもじゃないが普通の人間は一人では取り外しは不可能で数十人が一緒にならないと外せない程だ。

 まぁ、母なら難なく外してしまいそうで怖いんだが……でも、あれなら別にぶっ壊しても構わない。 いや、外せば再利用可能なんだけれど、そんなまどろっこしい事はこの際したくない。

 

「……どいて…いろ」

 

 そう決めた俺は早速母に一言掛けて扉に向かって走り出した。 母はと言うと、一瞬だけキョトンとした顔をしたが直ぐに悪戯を思いついた子供のような顔になり俺の横にぴったりとくっついた状態で走りだした。

 多分、いや恐らく母は俺が何をしようとしているのかを察知しているに違いない。 それを知った上で便乗しようとしているのだ。 きっと母も戦いが中途半端になってしまったせいで不完全燃焼を起こしているのだろう。

 直接は手を下していないにしろ、俺自身もその不完全燃焼に関係しているので『俺の見せ場を奪うな』とか『大人しくしていろ』とか無粋なことは言わない。

 

 

 ――――――だけれど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ドッシャラァァァ!! へん、どんなもんだい!」

 

「――――少し…反省……しろ」

 

 これくらい言ってもいいだろう、そう思いながら俺と母は堅固な汜水関の扉に綺麗なまでのダブルドロップキックを炸裂させたのだった。

 




ありがとうございました。
明日の更新でストック分がなくなります。
途端に更新速度が遅くなりますがご了承下さいm(_ _)m
ではでは、また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ六幕 空腹だって

 たった一人で汜水関に突貫していった母をなんとか連れ戻す(?)事に成功した凌統だよ。 ただ、人として城壁を飛び越えるという非常識極まりない行動をしてしまった為に、自分の行く末が少しだけ心配になってしまったと言うのは誰にも言わずに心の宝箱にしまい込んで大海原に流しておこうと思う。

 

 さてさて、あの後だけれど俺と母が蹴り破った汜水関の城門に兵達が次々へと流れ込んできたんだ。 理由は単純明快、董卓軍が一人残らず汜水関を捨てて虎牢関へと撤退していったからだ。

 何でも話を聞くと、次の虎牢関にはボスキャラとして名高い呂布がいるとかいないとか……は、果てしなく不安になってきたんだが?

 あ、そうそう母なんだけれど戻るやいなや孫策さんと周瑜さんに両腕をホールドされて捕われた宇宙人見たいな感じで連れていかれたんだ。 ……きっと、今頃お仕置きされているんだろうなぁ〜

 決して連れていかれる際に『ユトーー!』と叫んでいたり、俺の脳内BGMでドナドナが流れていたりはしないはずだ……多分。

 

「柚登さん、私達も進軍しましょう?」

 

 おっと、少しばかりトリップしちまっていたな。 あまりにもボーッとしていたもんだから心配してくれたのか、桃香さんが俺の顔を覗き込むかのようにみていた。

 

 ……上目づかい…イイッ!

 

「……了解…した」

 

 こんなちょっとした邪な気持ちを抱いている時は表情が現われにくいのって得だなと割と本気で思った。

 

――――トスッ

 

 そんな事を考えていると、何時ものごとく後頭部に何かがしがみ付いたかのような軽い衝撃が走った。

 そして態勢を崩さないようにするためなのか、俺の頭を抱え込むかの養にして腕が回された。

 

 ……うん、前科がある母は孫策さん達にお灸をすえられているナウ。 だから母以外でこんな事をスルのは……一人しか思いつかないや。

 

「だ~れだ、なのだ!」

 

 なんとベタな……ってか、語尾が全て物語り過ぎてわらえてくるんだけれど?

 しかし、これは狙っているのか? あえて珍解答を引き出すためのブラフだっていうのか!?

 

 ……やめよ、前に星さんの冗談に付き合って大火傷した事あるし。

 そして俺は頭を動かすことなく、俺の頭にしがみ付いている人物へと話し掛けた。

 

「なん…だ? ……鈴々」

 

「――――にゃ!? 凄いのだ、お兄ちゃん! きっとお兄ちゃんと鈴々は『こころのとも』なのだ! だから、孫策の所には行かないで欲しいのだ」

 

――――――え、どこのジャイ……コホン。

 鈴々ちゃんはそう言うと、俺の頭を抱える手に力を込め始めた。

 成る程……どうやら自分で言うのも変だけれど、かなり懐かれているみたいだ。

 確か陣内で話をしたとき、鈴々ちゃんって反対していたんだよな。 あの後、何も言ってこなかったから納得したと思っていたんだこれど……納得していなかったんだ。

 俺は胸中で苦笑いしながら鈴々ちゃんを引き剥がすべく手を回した。 しかし――――

 

「にゃあ~イ~ヤ~な~の~だ~!」

 

 全く離れないんだよね……でも、鈴々ちゃんも今言わなくてもいいのに……そういった文句なら後から幾らでも聞くよ?

 

 ってか、たった今汜水関を落としたばかりだっていうのに……この後、虎牢関があるっていうのに……呂布が待っているっていうのに……洛陽では董卓もいるっていうのに……そして何より――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――三国一の美女と謳われた貂禅がいるっていうのに!

 おっと、煩悩に塗れた電波が発生しちまうところだったな。

 

 しかしながら、鈴々ちゃんもその話題はこの反董卓が一段落してからにしてほしいな。

 そんな俺の意志を汲み取ったのか俺でも鈴々ちゃんでもなく、行動をした人がいた。

 

「コラ鈴々、あまり柚登殿を困らせるな。 それに、その事については話がついたはずだ」

 

 流石、鈴々ちゃんの義姉である愛紗さんだ。

 愛紗さんは俺の頭にへばりついている鈴々ちゃんを引き剥がしながら宥めてくれた。

 しかし、それでも鈴々ちゃんは納得がいかないのだろう、頬を口いっぱい膨らませて不満気な表情をしている。

 

 ……うん、あちらは愛紗さんに任せてしまおう。 それよりも俺は次(虎牢関)の事を考えておこうかな。

 鈴々ちゃんが離れたのを確認した俺は傍に控えていた副長さんに向き合った。

 

「次は……どうくる…と思う?」

 

「そうですね、恐らくは袁紹様が何らかの動きをすると思われるのですが…最悪な展開と致しましては、全てを凌統様に擦り付けるのでは――――「失礼致します、袁紹様より虎牢関への編成譜をお届けに参りました!」……噂をすればというやつですね」

 

 現われたのは袁紹さんの使者と思われる全身金ピカの鎧を身にまとった兵士さん。

 彼は書状を手にしている。 多分、あれが次の虎牢関に向けての作戦及び陣の編成表なんだろうな~

 ……とまぁ、そんな他人事みたいになっても始まんないや。

 さっきの汜水関では俺と母での二人という少人数攻略したとはいえ、仮にも俺達凌統隊と桃香さん、孫策さんが先陣を務めたんだ。 きっと次は後ろに回されるに違いない。

 

 俺はそんな安易な気持ちで使者から書状を受け取った。

 袁紹さんの所の兵は俺に書状を渡すと、直ぐ様この場から駆け足で立ち去っていった。見たところ、書状は何枚もあったみたいだから他の陣にも回るのだろう。 ……ホントご苦労なことで。

 

兎にも角にも確認……――――――――!?

 

「如何なされましたか凌統様? 何やら動きが制止しておりますが……」

 

 突然動きを止めた俺を不審に思ったのか、副長さんが心配そうな声をかけてきた。

しかし、俺はその声に答えられるほどの元気はまるでなかった。 それ以上にたった今、届いた書状の中身に驚いているんだ。

 それこそ某宇宙スポーツマンで切腹をスポーツと勘違いしている人の最期の言葉の『なんだと!?』と叫びたくなるくらい驚いている。 ……この例えって今の子供はわかんないか。

 

 おとと、脱線しちまったな。 取り敢えず、書かれている内容が問題だ。

 掻い摘んで説明すると――――『汜水関を簡単に落とせたのですから、虎牢関も優雅に攻略なさい! オ~ッホッホッホ~』……との事だ。

 

 まるなげされちまったじゃねぇかよ……トホホ。

 兎に角、兵を再編成……させる必要はないか、被害は文字通りゼロだし。

 

「副長…兵を…集…めろ……行軍…する」

 

「行軍? ……つまり!」

 

「……ああ…次も先陣…だ」

 

 

――――深夜

 

 ふぅ、何とか桃香さん達を説得する事に成功したぜ。

 汜水関の籠城戦の後、新たに虎牢関攻略の司令を受けた俺たちは又もや先陣をきることになった。

 そして気が付けば虎牢関城壁から少し離れた場所にて陣を立てて明日への英気を養っているところだ。

 いやはや、あの後は大変だったぜ。 俺のところに来た書状が発端となり愛紗さんや鈴々ちゃんがマジギレしちまって危うく袁紹さんの所へと乗り込みに行くところだった。

 何とか二人は宥めたんだけれど、口には出さないものの他のみんなも渋い顔をしていた。

 無理もないか、兵に直接的な被害こそ無かったものの、連続で先陣をきるとあっては兵達のモチベーションもガタ落ちだろう。

 更に悪いことは続き、袁紹さんから借りていた兵一万を返さなくてはいけない事態に陥ってしまったんだ。

 あちらの言い分としては『約束は汜水関だけでしょう? それ以外なんて知りませんわ』との事だ。

 俺もなんとか説得しようとしたんだけれど、結局兵を借りることはできなかった。 代わりに兵籠は分けてもらえたんだけれど……幾ら何でも俺達に不利な状況へと傾き過ぎている。

 

 何とかここいらで逆転の策が欲しいところなんだけれど……頼りになる我等がチミッ娘軍師'sは何を考えているのか、すっごい思案顔になったまま別れちまうし……マジで困るぜ。

 

 

――――グゥギュルルル~

 

 

 ……はぁ、こんな切迫した状況でも腹は減るんだなぁ、泣きたくなるぜ。

 

 こんな時位は大人しくしていればいいのに自己主張ばかり強い腹を擦りながら俺は深く溜め息を吐いた。

 

 普段だったら腹が減ったら非常食(豚の丸焼き)を食べたり、そこいらの店で食べられるんだが、残念ながらここは戦場で嵩張る非常食(豚の丸焼き)を持ってきていないし、荒野が広がるこの地に店なんてものがある筈もない。

 それに、流石に兵籠に手を出すのも気が引ける。 つまり、今は我慢するしか道は無いというわけで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――グゥギュルルル~

 

 

 我慢出来ないかもしれないや。

 ……しゃあない、幸いなことに近くに雑木林みたいなものが見えるし、夜通し狩りをすればなんかとれるだろう。

 幸いな事に、火打ち石や松明といったサバイバルキットは持参しているし。

 用意がいいな俺! 気が利く男な俺! 次期生徒会長候補だ俺!

 

 ……学校行ってねぇよ俺。

 

 こ、コホン。 一人ツッコミをしてもつまんないな。 とにもかくにも、予定が決まったんなら副長さんにでも伝えておこうかな。 流石に何も言わずにいなくなるのもマナー違反だし。

 

 そう決めた俺は早速副長さんが待機している簡易兵舎へと向かった。

 

 

 さて、やってきました雑木林!

 副長さんに腹が減ったから近くに行ってくる事を掻い摘んで説明したら何でか知らないけれど――――

 

「ハッ! 畏まりました、御武運を……!」

 

 何でか知らないけれど、コレでもかっていう位、励まされてしまったんだが……一体何が起こったのだろう?

 

……うん、考えても仕方ないや。 取り敢えず俺は今現在ナウの空腹が満たされれば満足だからね。

俺はそうして、副長の言葉を特に気にも止めずにたった一人で食材を求めて夜の視界が悪い林へと突入していくのであった。

 

 

 

――――副長

 

 汜水関攻略後、我等凌統隊の面々は反董卓連合総大将である袁紹様より新たな任務を言い渡された。

 内容は言わずもがな、次なる虎牢関を落とせというあまりにも馬鹿馬鹿しいものであった。

 

 ……いえ、コレは失言でしたね。 隊長である凌統様が何も仰らない以上、私は不当な発言をするべきではありません。

 

 ですが、恐らく袁紹様は自軍への被害を最小限に抑え、先にある洛陽を攻め入るおつもりなのでしょう。

 

 しかし、そこに至るためには次なる虎牢関の飛将軍、呂奉先を相手にしなければならない。

 そこで、凌統様を先陣へと置き自分達は後衛へと周り最大の障害をやり過ごすおつもりなのでしょう。

 

 

 ……私でも容易にこの結論に達したと言う事は、間違いなく凌統様をはじめ劉備軍の方々も把握しているはずです。

 ですが、それでも凌統様は袁紹様の命を受け先陣をきるおつもりなのでしょうか?

 ……いや、凌統様の事です。 きっと私が思いも付かない方法で解決されることです。 こんな時に不謹慎ではありますが、凌統様がどのような策をもちいるのか……今から気になって仕方がありません。

 

 そしてその晩、私の予想通り凌統様は行動に移されたのです。 夜も更けた頃、凌統様は私が駐屯している簡易の兵舎へと尋ねてまいりました。 そして直ぐにこのようにきりだしたのです。

 

「獲物を…狩って…くる……俺が戻らない…時は……劉備軍の指示を…きけ」

 

 内心で私は『来た!』と叫び、小踊りをいたしました。 きっと凌統様は私にこう仰りたい筈です。

 

『呂布は俺が引き付けておく、お前達は劉備軍と結託し虎牢関を攻め入れと……』

 

 私自身、凌統様の副官として御供したかったのですが、上二人が抜け出す事はやはり兵たちの士気にも関わります。 そしてなにより凌統様の瞳が『俺一人で十分だ』と言っているように見えたのです。

 全てを引き受け、私は闇夜に消えゆく凌統様の背をお見送りいたしました。

 

 その威風堂々とした凌統様の御姿は昔、父に読んでいただいた架空の英雄の姿を彷彿とさせ……

 

「……いや、彷彿ではなくコレから現実となるんだ」

 

 




ありがとうございました。
前回もお知らせしましたが、ストック分がこれでラストとなります。
次回は少し間が空いてからの投稿となりますのでご了承ください。


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第ニ七幕 出会ったって

――――翌日

 

 この日は早朝から劉備軍並びに凌統隊の陣内ではピリピリとした空気が漂っていた。

 理由は言わずもがな、昨晩から行方を眩ました凌統の事だ。

 去りぎわに彼の副官に言い残した何時もどおりの言いたいことを言い切れていない短い文章からは詳しい行動等を読み取る事は非常に困難であり、聡明な伏龍鳳雛と言えど解読は難解をきたした。

 

 勿論、彼女らは凌統が呂布を相手に敵前逃亡したとは微塵にも考えてはいない。 彼は自分を犠牲にしてでも自身の手の届く範囲の人を守る人間であると信じている。

 しかし、まわりの人間はどうであろうか?

 彼と深く関わっていない人間から見ると、今現在この場に凌統がいない=敵前逃亡と繋がってしまうのは避けることができないのだ。

 軍属において、指示無しでの敵前逃亡は重罪である。勿論それを黙認した者、手助けした者もそれなりに重い罪を課せられる。

 つまり、この場に凌統がいないということは、彼から言伝を預かった副長が罰せられる可能性がある。

 

 だがしかし、とうの副長はそんな事は有り得ないと言わんばかりに落ち着いていた。

 

「スミマセン、今一つ解らないのですが柚登さんは確かに『狩りに出掛ける』と仰ったのですか?」

 

 凌統隊の副長へとそう問いただしたのは諸葛亮孔明こと朱里だ。 一方の副長は朱里の問い掛けにたいして一切の迷い無く首を縦に振った。

 あたりの空気が緊迫している中でも副長は何時もの如く自然体でいる。 その姿は副長が心の底から凌統の事を信頼しているのだと髣髴させるかのようである。

 

「それは困りました……柚登さんの事ですから、何かしらの理由があると思うんですが……」

 

「ふ、副長さんは柚登さんが呂布の対策を興じる為だとお考えなんですか?」

 

 朱里と雛里の言葉に副長は重い口を開いた。

 

「凌統様の言い回しが私には引っ掛かっておりました。 翌日には籠城戦が控えているというのに、敢えて『狩り』と表現されたのか……もしや間者があの場にいたのかも知れません。 それを真っ先に御気付きになられた凌統様は咄嗟にあのように言われたのではないのでしょうか? ……ですが、これはあくまでも私個人の意見でこざいますのでご了解くださいませ」

 

 淡々と答えていく副長、発言している内容は曖昧な表現の仕方ではあったが、その口調はどこか確信に満ちていた。

 勿論両軍師共、その事に気が付いてはいたが敢えてこの場での言及は避けた。

 

「そうですか……柚登さんに何かしらの考えがある以上、私達も常に動ける状態で待機していたほうが吉かも……雛里ちゃんはどう見る?」

 

「わ、私は……確かに柚登さんの真意は気になるかもだけれど……やっぱり臨機応変に動かないとダメだと思う」

 

「……うん、私と同じ考えだね。 柚登さんが何を考えているにしろ、きっと私達にもわかる方法で合図が有るはず……無いにしろ一番動きやすいようにしておこうと思います。 桃香様、その様にしても問題ありませんね?」

 

「うん、朱里ちゃんと雛里ちゃんに任せるよ」

 

 軍師は本来ならば不確定要素に頼らず、現実に起こる事象に対処しなければならない。 しかし、彼女達は知っている。 たった今話しに挙がっている凌統が不可解な行動を起こすのは全て理由があるためだと……だからこそ、二人は彼が何をしても対処できるようあらゆる想定を考慮して作戦を立てるのだ。

 

 

 

――――凌統

 

 

 やぁ、昨晩からぶっ続けで食糧の確保に勤しんでいた凌統だよ。

 時計が無いからどれくらいの間狩りをしていたから判らないけれど、辺りは夕闇がすっかりと晴れて朝になっちまったぜ。

 成果は上々で、豚っぽい何かを二頭、魚っぽい何かを二匹、松茸っぽい何かを沢山ゲットだぜ!

 

 ……何故だ、危険なKA☆O☆RIしかしないのだが?

 

 

 まぁ、いいや。 そんなわけで俺は早速食事を摂るために、これから攻め入る虎牢関が見える林の入り口辺りで火を起こし始めた。

 この場所だったら、いざ戦いが始まったとしても直ぐに行動を起こせる俺なりの配慮だったりする。

 

 

――――パチパチパチ

 

 火は思ったよりも早く薪へと燃え移り、早々に焚き火が完成した。

 まさか、こんな所で母と旅をしていたときのスキルを発揮する事になろうとは……予想できないもんだな。前世の世界を考えてみると俺も随分とワイルドになってきた気がする、イヤマジで。

 俺はそんなことを考えながら、たった今採ってきた豚を一頭と魚二匹を火で炙り始めた。 豚は足を紐で縛り木の棒にくくりつけて、魚はそこらへんに落ちていた棒をぶっさして焼いた。

 程なくして肉や魚が火に炙られて徐々にだが焦げ目が付き初めて良い感じに油が滴り落ち、香ばしい匂いが辺りに立ち込めてくる。

 

 

――――――ジュージュー

 

――――――ジュージュー

 

 

 うんうん、こう肉や脂が焼ける時の音も子供の頃のキャンプみたいでワクワク感に加えて食欲を刺激するな。

 

 

――――――ジュージュー

 

――――――ジュージュー

 

――――――ぐ~ぐ~

 

 

 ほら、こんなぐ~ぐ~と良い具合に鳴って……あり? おかしいな、焼ける音ってこんな鈍い音だったか?

あまりにも調理場にふさわしくない音が耳へと入ってきたので俺は半ば反射的に顔を上げた。 するとそこには……

 

「………」

 

「………(ぐ~ぐ~)」

 

 なぜか焚き火を挟んで俺の反対側に肌が褐色の赤髪少女が俺の飯を凝視していた。

 しかし、この子は一体何をしているのだろう? これから近くで戦争が始まるっていうのに。 あ、俺も呑気に飯を食っている場合じゃなかったか。 それならさっさと食事を終わらせて副長さん達に合流したほうがいいな。

 俺は少女の事は脳内から消し去り食事に専念することにした。 何分焼いたかは分からないけれど、見た感じ魚や肉はこんがりとした色へと変わっている。 おそらく、そろそろ食べごろだろう。

 俺はまず魚を食べるべく手に取り……

 

「……(きゅ~ぐるる~)」

 

「……」

 

 え、何これ? 食べちゃいけないの?

 何故か知らないが少女は俺が手にしている魚に目が釘付け状態となっている。 ……何となく手にした魚を頭上へと持ち上げてみた。

 

――――――サッ

 

――――――バッ!!

 

 見事なまでに顔がついてきているんだけれど……そんなに食べたいのか? でも、一応は俺の飯になる予定だし……

 女の子とはいえ流石に見ず知らずの人にご飯を分けるほど俺はお人よしではない。 ここは心を鬼にして食事を済ませて……

 

「………(ぐ~きゅるるぐりゅ~)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ…食…え」

 

 そこまで非情に成りきれない俺は意外と良い人なのかもしれない。 流石に目の前でこれ程までにお腹を鳴らされると見捨てるのは心苦しすぎた。 って言うか、ある意味(腹ペコ的な意味)で同士みたいなものだ。

 俺は仕方なく手にしていた魚を目の前でお腹を鳴らしまくっている少女へと差し出した。

 

「……いいの?」

 

「……食…え」

 

 少女もまさか俺が魚を差し出すとは予想外だったらしく、目を真ん丸にしながら申し訳なさそうに聞いてきた。

 一応は遠慮しているみたいだけれど、目の輝きが半端な差過ぎて今更断ることもできない。

 無愛想かもしれないが、俺は再び彼女に魚を食べるように少女の顔の目の前へと魚を差し出した。

 それが皮切りだったのか、少女はオズオズと魚を受け取り俺と魚を交互に見た後、勢いよく魚を口へとほおばり始めた。

 

「――――――モキュモキュモキュ」

 

 口一杯に頬張らせているその姿はさながらハムスターやリスといった小動物っぽさを髣髴させる。

 こんな姿を見ていたら俺も腹が減ってきたな。 俺は別の焼けた魚を手に取り少女に次いで食べ始めた。

 

「――――――モキュモキュモキュ」

 

「――――――ガツガツガツ」

 

 意外と川魚っていけるんだな。 見たことない魚だったから不安一杯だったんだが、身もシッカリしていて旨いわ~

 脳内で一人ゴチていると……

 

――――――クイクイクイ

 

 なにやら袖を引かれている感じが……俺は魚を食べながらそちらの方へと目を向けると……

 

「……」

 

 魚が食べ終わったのか、少女が人差し指を加えながら俺のほうを物欲しそうな目で見ているではないか。

 もしかして、あれじゃ足りなかったのかな? 確かに、俺の空腹な状態で魚一匹では足りないかもしれない。 しかし、残念ながら魚は今少女が食べたのと俺が現在進行形で食べている2匹しかとらなかったからこれ以上はないんだぜ。

 俺は持っていた魚を骨ごと全て口に入れ、バリボリと擬音が付きそうな勢いで咀嚼し一気に飲み込んだ。 しかし、少女は相変わらず俺のほうを物欲しそうな目で見つめ続けている。

 

「足りない……のか?」

 

「……(コク)」

 

 俺の問いに対して間髪居れずに首を縦に振る少女。 仕方がない、ここは奮発してさっき仕留めた豚っぽい何かを切り分けると――――――

 

――――――クイクイ

 

 豚っぽいなにかを切り分けようと俺は懐から小刀を取り出したんだ。 そしたら何故か後ろから裾を引っ張られるような感覚がした。 一緒に飯を食べた少女は目の前にいる。 つまり、この子とは別の誰かが引っ張っているのか。

 俺は裾を引っ張る犯人を見るべく後ろを振り向くと……

 

「あ…セキト」

 

 何でか知らないけれど、赤っぽい毛並みをした犬が居た。 しかも、少女はこの犬のことを知っているみたいだ。

 

「探してた……」

 

 なるほど、つまりこの犬を探すために外を出歩いていたんだがお腹がすいてきて、そこに偶々魚っぽい何かと、豚っぽい何かを焼いていた俺たちに出くわしたと……

 よくもまぁ、今の一言からココまで推理できたな俺!? いろんな意味で凄いと感じちまったじゃねえかよ。

 

 ……そんなことよりも、早く豚っぽい何かを切り分けよう。 肉は冷めると旨くないって言うし。

 俺は少女が言うセキトを抱えると少女へと手渡しし、小刀を握りなおすと躊躇なくこんがりと焼けた豚っぽい何かへと突き刺して食べられる部位だけを切り離していく。

 

 ――――――フッ、伊達にサバイバル生活に慣れているんだ。 これくらい御茶の子さいさいっていうやつだな。

 

 

「……お腹…五分目」

 

「わん♪」

 

 す、全て食いやがったこの小娘+獣!? な、何なんだよ……折角捕まえた俺の飯を綺麗サッパリ食べ尽くしちまうなんて…… しかも、予備で捕っておいたもう一匹の豚っぽい何かまで綺麗サッパリ完食するとは。

唯一残ったものと言えばおやつ代わりに採集した松茸っぽい何かだけだが、見れば見る程に危険な色は匂へど散りぬるを…何言ってんだろ俺?

 

 いや、俺も男だ。可愛い女の子の為ならば武士は食わねど高楊枝精神にのっとりこの松茸モドキを……うん、これは別の機会にしようかな。

 

 気が付いたら集めた食材のうち魚一匹しか食べる事が出来なかった事実に頭を悩ませながら、俺は全ての食材を食べ尽くした少女の方を見た。

 少女は食事が終わって手持ちぶさたになってしまったのか、彼女のペットと思われる犬とじゃれ合っている。 ……あ、何だか少し和む光景かも。

 

――――グゥ~キュルル~

 

 ……しかし、幾ら和んだとしても腹が減っている事実までは誤魔化す事が出来ずに俺の腹が固形物を求めて自己主張を開始した。

 しかも、恥ずかしい事に鳴った音は思いの外大きく、少女の耳にも届いてしまった様子だ。

 

「……ごめんなさい。全部…食べちゃった」

 

 少女は申し訳なさそうに犬の頭を強引に下げながら自らの頭も下げてきた。 犬は無理矢理頭を押さえ付けられて藻掻いていたが、すぐに観念し大人しくなった。

 さすがにこんな姿を見せられて怒るほど俺は子供ではない。

 

「気に……するな」

 

 俺の言葉を受けて少女はオズオズと頭を上げ、覗き込むかのように俺の顔色を伺った。

 残念ながら、ここで一つくらい笑みを浮かべたら少女も安心するかもしれないが、俺の顔は鉄面皮だ。

 その代わりに俺は少女の双眼をジッと見つめて怒っていないことをアピールした。

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙の二文字が二人の間を包み込んだ。どうやら、俺の言いたい事が伝わっていないみたいだ。

 俺は先ほど以上に少女の瞳を凝視した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そんな状態が数十秒続いただろうか、沈黙を保っていた少女が突如として行動を起こした。

 

「……こっち」

 

 何故か、俺の手を掴みどこかに連れ出そうとしているみたいだ。

 しかし忘れてもらっちゃあ困る、今現在ココは戦争が起きる最前線の側なのだ。無闇やたらに動き回っては危険だ。

 少なくとも、何処に行くかくらい走っておかないと対処のしようがない。

 

「何処に……行く?」

 

「…………」

 

 俺の問いに対して少女は無言のままとある方角へ指を差した。

 彼女にならい指差した方へと顔を動かしてみると……

 

「……あそこ」

 

 何故か、彼女が指差した所には俺たちがこれから攻め入る予定の虎牢関が悠然とたたずんでいた。

 ……何故にそんなところを目指すんだ?

 

「……君、名は?」

 

「……? …呂……」

 

「……字」

 

「…奉先」

 

 そっか~呂奉先っていうのか~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ゑ!?

 




お待たせしました。次回の更新もいつになるかわかりませんが、ご了承ください
ではでは次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ八幕 火をつけたって

遅れて申し訳ありません。

先日ぎっくり腰になってしまい、パソコンの前に中々座れず長引いてしまいました。
何とか書き上げたのですが、次回も引き続き遅くなるかと思います。ご了承ください。


 やぁ、呂奉先こと呂布によって虎牢関に連れていかれそうな凌統だよ。

 まさかの事態だ。 まさか、飯を分け与えた腹ペコ少女が飛将軍こと呂布だったなんて……もしかして、捜していたっていうセキトっていう犬は正式名称が赤兎馬ってオチなのだろうか?

 ……ある意味で歴史が引っ繰り返る出来事だよな、馬じゃなくて犬だったなんて。

 

「……どうしたの?」

 

 おっと、あんまりな現実に意識が少し反逆していたんだが呂布ちゃんの心配そうな声で無理やりリボーンしてきたぜ。

 

「何でも……ない」

 

「……うん」

 

「…………」

 

「…………」

 

 あれだね、俺は極力無口な人と一緒にいないほうがいいかもしれないよね。 話が全くつづかねぇ~……ふぅ。

 だけれど、本格的に困ったな。 俺ってば、一応現段階では呂布と敵対関係にある位置に属しているんだよね。 無理に断って下手に感づかれたりしたら……やめよ、どう考えてもバッドな終わり方しか見えてこないや。

 ……だったら、さっさと飯だけもらって何事も無かったかのように帰るのが吉かもしれないな。

 

 この時の俺は敵地に乗り込むことに関して然程大きく考えてはいなかった。

 だって、ご飯を御馳走になってその後にこっそりと帰れば問題ないと思っていたんだ。

 目撃者だって目の前にいる呂布と、犬のセキトだけだし。 中に入っても呂布の客人として来たわけだから酷い扱いもされることは無いと思う。

 だから、開かれた裏口へと俺はなんら疑問を抱く事なく入っていった。

 

 

「――――お前は凌統やないか! 何時の間に虎牢関に侵入したんや!?」

 

 ――――そう思った時期が俺にもありました。しかし、俺の目論見は奇しくも崩れ去ってしまったのだ。

 気が付けば俺の目の前には先日汜水関で会ったばかりの関西弁少女の張遼が現れたのだ。……いや、正しくは現れたではなくて、虎牢関に元々配備されていたみたいだ。

 

 ……よく考えれば思い付くことじゃないか俺。

 軽く自己嫌悪に陥るも、所謂後のフェスティバルだ。 今更悔いても仕方がない。 そして、俺をココ(虎牢関)まで連れ出した呂布は何が何だかわかっていないみたいで、俺と張遼の顔を頻りに見比べている。

 

「霞……知ってるの?」

 

「何や恋、知らんで招き入れたんか? コイツには汜水関で苦渋を飲まされたんや!」

 

 張遼さんの言葉を聞き、呂布が俺へと向き合い口を開いた。

 

「……敵なの?」

 

 どことなく悲しげな表情を見て、一瞬だけ『イイエ味方です』と言ってしまいそうになったが、そばに張遼さんが居る以上、下手な嘘をついたとしても直ぐにばれてしまう。

 しかし、敵だということを肯定してしまったら後々が怖いことになりそうだ。 だって、目の前にいるのは癒しオーラを持っているとはいえ、飛将軍こと呂布なのだ。 幾ら俺が力だけ人間離れしているとはいえ無事で済むとは思えない。

 何も言わずに逃亡って言う手もあるけれど、いつの間にか周りは兵士に囲まれているし、ここは虎牢関の奥深くなんだ。 そう易々と逃げることも出来ないだろう。

 

 ……あれ?もしかしなくても詰んだのか?

 弱った……ここに誰かがいてくれれば、連携して一次離脱を図ることができたかもしれない。……訂正だ『母以外の誰かが』居てくれればよかったのに。

 あの人だったら、逃げるという選択肢の前に大暴れという選択肢を独自開拓して最終的に俺が尻拭いをするという光景が浮かぶもんな。

 

「……どうなの?」

 

 おっと、考え込みすぎて呂布達を無視してしまっていた……って、ギャァァァ!? め、目の前に何だかごっつい刃があるんですが!?

 り、呂布が持っているって言う事は、これがかの有名な方天画戟なのですか!

 しっかし、見事なまでに敵視されまくりんぐだぜ。 ここで嘘言ったらバッサリで、本当の事を言ってもバッサリ……しゃあない、ここは一つ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さらば!」

 

 三十六計逃げるに限るぜ! 俺は呂布と張遼へと背を向けて兵の集団へと島津義弘よろしくばりに突貫し始めた。

 俺のまさかの行動に呂布と張遼はすぐに行動を起こしたみたいだが、俺の突撃は止まる事は無い。強引に兵たちの隙間をぬい、離脱を図る俺。

 兵たちもただでは通さないと言わんばかりに隙間を詰めて俺の進路を塞ごうとしたり、槍や剣を突き立てて行く手を塞ごうとする。 しかし、そこは身体能力が反則レベルの俺だ。 そのわずかな隙間をぬって走ったり、三節棍で槍と剣の切先を僅かにずらし、出来た隙間を走り抜けり、時には兵士を踏み台にして飛び上がったりもした。 これくらいの事は今の俺には造作でもない!

…事もなく、微妙に穂先が上腕やら頬にかすってプチ流血っていたりしたし、人を踏むのは良い気がしなかったから飛び上がるのは直ぐにやめて普通に地面を走るようにシフトチェンジしたけれどね。

 

 さて、流石に兵たちの隙間を走り続けても幾らかく乱できるとはいえ、逃げる事は出来たもんではない。 それに、後ろからは呂布と張遼が追ってきているんだ。 兵たちが邪魔で俺にはまだ届いていないけれど、兵たちが散り散りになってしまったら俺なんかはすぐにつかまってしまう。

 俺の手元に使えそうな道具は……

 

・三節棍

・火付けセット

・松茸っぽい何か×大量

 

 ……何故だ、この現状を打破する方法が見つからない……だと!?

 まぁ、堅実に行けば火打石でどこかに火をつけて混乱しているすきに逃げだすって言うのが定石だけれど。

 

「――――なぁ!? あ、アイツが持っているもんはここいら近隣に生えるっちゅう猛毒の茸や無いか!?」

 

「そう……なの?」

 

 ……そう言えば、聞いた事があるな。 松茸によく似た茸があってそれは猛毒を持っているって……成程、これは毒キノコだったのか。 それじゃ、かさばるだけだし捨てておこう。

 

「ぎゃーーーー!? こ、こっちに投げんなやーーーー!! って恋はそれを拾うんやない!!」

 

「でも……もしかしたら食べられ――――」

 

「食べられんから!今度ウチがもっとええ茸を食べさせてやるさかい、ポイしなさい!」

 

「……わかった」

 

 もしかしなくても、今ってまさに逃げ出すのに絶好のタイミングなんじゃね?

 張遼と呂布が漫才をやり始めたのを確認した俺は、二人に気付かれないように兵達の隙間をジグザグに走りだす。

 別に直ぐ様見失うって事は期待していない。 ただ、一瞬だけでいいから二人の意識を俺から反らすことが出来ればいいのだ。幸いなことに兵達も呂布と張遼のやりとりを見て一瞬だけ俺から意識を外している。

 我ながらほれぼれするけれど、その意識が外れた一瞬をつき俺は虎牢関の頑丈な壁へと向かって一気に跳躍した。

 ……以前、汜水関で似たような事をしたけれど、俺ってつくづく人をやめているよな。流石、あの親ありてこの子ありって感じだな……うん。

 呂布と張遼は俺が飛び上がった事に気が付いたみたいだけれど、時すでに遅しというやつで、ロッククライミングばりに城壁へとしがみ付いている。 ……昔、母に修行と称して崖から突き落とされた事を不覚にも思い出しちまったぜ。

 そんなことを考えながら俺は要塞の壁を四肢を駆使して攀じ登った。 途中で矢が何発か飛んできて、その内の一本が顔の真横に刺さった時は流石に死を覚悟したぜ。 しかし、悪運が強いのか矢が俺に刺さることはなかった。

 

 そして、要塞の屋根へと上り切った俺は直ぐ様行動を起こした。

 木造で出来た屋根の一部をひっぺ返し、持参していた火打ち石をかち合わせ、飛び散る火の粉を綿みたいな火口へとあてがい、火を点けた。

 前世ではまず出来なかった動作ではあるが、この世界で母と旅をするにあたって習得したサバイバルスキルがこんな形で役に立つなんて……世のなか解んないね。

 

 トントン拍子で火を起こし、剥がした屋根へと火を移すとすぐに火は焚き火並に大きく成長をした。

 さてさて、後はこれをいろんな所に投げて、虎牢関内の兵達を混乱させてソレに乗じて俺は脱出するだけ! ……我ながら、素敵すぎるアイディアで恐ろしいわ!

 

 ただ、ここで俺は失敗してしまったんだ。今現在俺が足場にしている屋根が木造だということを……更に、木造建築の上で焚き火をするなんてしたらどうなるかを……

 

 

 

 

 火を起こして半刻も経っていないだろう。 火は俺の予想していた以上のスピードで燃え広がり、虎牢関要塞の屋根を覆いつくした。

 俺は、火が屋根へと燃え移った瞬間に飛び降りたもんだから火傷とかはしなかったけれど……

 

「火を消せーーーー!」

 

「不味いぞ、兵舎へと広がっている!」

 

「逃げろーー!」

 

「……開いた」

 

「阿呆!そっちの城門を開けたら連合軍が……って恋、勝手に攻めるんやない!……あーーコナクソッ! しゃあない、張遼隊は右翼から攻めるで。呂布隊の援護に回るんや!」

 

 ……なんか、ラッキーな出来事が起きた。

 そうして俺は、混乱に乗じて虎牢関からの脱出を試みたのであった。

 

 

――――一方その頃……

 

「伝令! 虎牢関要塞より出火を確認いたしました!」

 

 凌統の安否を気にしていた劉備軍へと舞い降りた一つの伝令が皆の士気を高めた。 理由は言うまでもなく、凌統が極秘で行っていたであろう計略の合図が起きたからだ。

 凌統の合図があるであろうと予見はしていたのだが、ソレは中々始まることがなく、彼女等に一抹の不安をもたらしていた。 だが、彼女等の心配も杞憂に終わった。

 さらに混乱に乗じて虎牢関を防衛していた呂布、張遼が飛び出してきたのも確認した。

 単独で火計を成し、さらに将達をも引き摺りだした凌統の手腕……それは正に神掛かりなものである。

 単独行動はそれによりもたらされる損害により場合によっては死罪に当てられるほど重罪ではある。

 だが、反対にそれによりもたらされる利益によっても変化する。

 今回は難攻不落の虎牢関が相手だ、それを兵達を消耗する事なく引き摺りだしたのだ、きっと罪には問われる事はないであろう。

 

「流石は柚登さん、次は私たちの番だね。……朱里ちゃん、どう動こうか?」

 

「はい、ソレも考えてあります。 今の私達に呂布と張遼の二人を同時に相手するのは難しいでしょう。 なので、ここは一度大きく後退します。 幸いにも私達の後ろは袁紹さんと袁術さんという兵力がある方々が揃っています。 ですから……」

 

「……うむ、しかし敵に背を向け退却するのは武人として――――」

 

「愛紗よ、今はそんな事を言っている場合ではなかろう? それに、我等が軍師殿の話はまだ途中のようだ」

 

 孔明の策を聞き、関羽が武人として苦言を呈した。 無理もないだろう、彼女は生粋の武人。 敵に背を向ける自分の姿など想像もつかない筈だ。

 そんな彼女を宥めたのは常山の登り龍こと、趙雲だった。 彼女もまた関羽と同じく武人だ。 だが、趙雲は孔明の真意に気が付いていた。

 我等が背を向けるのは反撃への伏線だということに……

 

「はい、呂布・張遼が袁紹・袁術と混戦した後、私達は全兵を反転させ、虎牢関へと一気に走り抜けます」

 

「成る程……柚登の単独火計の隠蔽と初めに虎牢関へと攻め入ったのは劉備・凌統であるとするためか……ならば、孫策殿は如何なされるのか?一時とは言え手を組むと交わしたのであろう?」

 

「それも問題ありません。袁術の兵力を削るだけで孫策さんには充分過ぎるほどの恩を売れるはずです」

 

 孔明の言葉に劉備と関羽は怪訝な表情を浮かべる。 一方の趙雲はその言葉に感じたものがあるのか、小さく『なるほど』と呟いたのだった。

 

「雛里、一体何を話しているのだ?」

 

「えっと……そ、それよりも早く動いたほうがいいんじゃ……」

 

 鳳統の呟きが小さく響いたのだった。

 

 

 

――――その時母は……

 

 何でか知らねぇが、虎っつう関所から火がゴウゴウと出ているんだが……

 

「雪蓮、どうやらあの炎は凌統の仕業のようだ」

 

「そう、何か仕掛けるとは踏んでいたけれど、まさか朝っぱらから単独で火計を仕掛けるなんてね」

 

 雪蓮へ冥琳が報告している様へと俺は耳を傾けた。 ってありゃあ柚登がやったのか? 何だよぅ……俺も一緒に連れていってくれてもバチは当たらねぇのによ~

 ここに居ない自分の倅へと愚痴をこぼしてみるが、よくよく考えたらアイツが人に頼る姿が想像できないな……俺の教育の賜物ってやつだな。 さすが一人前の男は違うぜ!

 

「雪花、アンタ一体どんな育て方をしたのよ? 朝っぱらからしかもたった一人の火計なんてほとんど聞かないわよ?普通、夜営に乗じて忍び込んで同時刻複数箇所でやるってのが定石なのに……」

 

「それと、風向きによっては味方の兵にも損大な被害を受けかねない。 まぁ、幸いなことに陣の展開は風上の為被害は少ないが」

 

「ん? そう言われてもなぁ……俺もそんな事を言った覚えはないんだよな。 まぁ、火計つっても見つからないようにやりゃ朝も昼も夜も人数も関係無いんじゃねぇのか?風のことだって柚登なら狙ってんだろ」

 

「……成程、アンタ等は似ていないようで根本的なものがソックリだって言う事が分かったわ」

 

 おぉ、柚登に似ているって言われたぞ! 今までそんな事を言ってくれた奴らなんて一人もいなかったからなぁ~それはそれで嬉しい事だな、うん!

 

「今はそんな事を言っても始まらんな。 それに見ろ、劉備軍が後退を始めた。 このままでは我等が戦線にて孤立するぞ?」

 

 ん?後退って……ありゃりゃ、本当に攻め込んでくる敵に後ろ向いて逃げていやがる。 まだ衝突もしてねぇのに逃げるなんて変な奴らだな。

 そんな俺の考えをよそに雪蓮と冥琳は何か思い当たる節があるのか、口角をグイッと挙げて楽しそうな表情をした。

 

「なるほどね……劉備たちも考えるじゃない。 ――――――冥琳!」

 

「――――――了解した、我等も陣を引くぞ!」

 

 って、俺達も引くのかよ!? 理由を聞こうにも、雪蓮と冥琳は各々の準備を始めちまって聞けなくなっちまった。

 しゃあない、誰か別の奴に……お、あんなところに穏が居るじゃねぇか。 アイツは変な奴だが一応軍師だからな。 何か思い当たる節もあるかもしんねぇや。

 

「なぁなぁ穏、なんで俺達も引くんだ?」

 

「あれ、雪花さんじゃないですかぁ。 何で逃げるのかって? ……そうですねぇ~あんまり難しく考えなくても良いんです。 敵が攻める、私達は深手を負いたくないから逃げる。 ついでに嫌な方々が少しでも減れば嬉しいなぁ~って事ですよ」

 

 ……わかったようで全くわかんねぇや。




ありがとうございました。
前書きでも記述した通り次の更新日は未定ですのでご了承ください。

…まさかこの歳で腰をやるとは、皆様も注意して下さいね!
ではでは次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第ニ九幕 隠れようとしたって

かなり遅れてしまい申し訳ありません。
リハビリがてら一話仕上げましたがかなり短いです。



 不味い事になってしまった……やぁ、何だか虎牢関内で見事なまでに大きなキャンプファイアを灯してしまった凌統だよ。

 色々と計算違いなこともあったけれど、呂布や張遼が虎牢関から出た事によって帳消しにはなったんだがね。 一息ついた俺はなるべく人に見つからないように虎牢関を抜け出して副長さん達と合流しようとしたんだ。

 だって、副長さんには食糧調達に行くって事しか伝えていなかったのに、気が付いたら戦が始まってしまったんだ。副長さんだって俺の安否を心配しているはずだ……多分。

 いや、思い返せば副長さん達に凌統隊の隊長としてらしい事をしてこなかった気がする……もしかしたら『凌統がいないんだってー』『うっそマジで!?敵前逃亡とかキモいんですけどー』『敵前逃亡が許されるのって新兵までだよねー』とか色々な事を言われているのかもしれない。

 うっわ、無性に心配が増えた感が否めないかもしれない。

 

 …そうだ、このまま虎牢関に留まっておくのもいいのかもしれない。 そんでもって副長さん達が来たら『いや~呂布に捕まっちまって逃げれなかったんだ~』ってな具合に言っておけば少なくとも敵前逃亡の罪くらいはかからないかもしれない。 ただ、問題は呂布がこの場にいないから信憑性がやや薄めってコトだ。日頃から自分保守のため副長達には嘘っぽい内容を言うことがあるため果たして信じてもらえるのだろうか?

まぁ、悩んでいても仕方がない。ただでさえ低い俺の人徳がこれ以上低くなるコトもあるまいて。

 そうと決まれば早いとこ身を隠せる場所を探したほうがいいだろう。 だって俺は現在on the 屋根状態なのだ。下手したら味方の誰かに見つかって捕まっていたと言い訳が通用しなくなるかもしれない。

 

 半ば強引過ぎるかもしれないが俺はそのように結論づけてなるべく誰にも見つからないように狭い路地みたいな場所めざして屋根から飛び降りた。

 普通の人間だったら飛び降り自殺の仲間入りとなってしまうが、生憎と俺は小さい頃から母に文字どおり千尋の谷へと突き落とされたり、下が見えない高さの崖からロープレスバンジーを強制的に決め込まれた経験がある。

 確かに恐怖こそあるが、ほぼ間違いなく怪我をする事はない。

 

ーーーーちょっとだけブルーな気持ちになった。

 

 そして、対空時間わずか数秒ではあるが、俺は予定どおり狭い路地みたいな場所へと派手な音を出すことなく着地した。

 

さて後は、皆が来るのを待つだ――――――

 

「――――――れ……」

 

 ……れ?

 

「――――――恋どのぉぉ! 凌統発見なのですぅぅ!」

 

 ーーーー早速発見されてんですけどーー⁉︎

 

 俺が華麗に着地した先には鈴々ちゃんよりもチンマイ少女がいた。 パッと見、吊り目具合が猫っぽいというか何というか……しかし、こんなところに人がいるなんて。余りにも小さいから建物の影とかで見過ごしたんだろうな。いやはや、衝突しないで何よりだよ。

 

 そして俺は何となく、目の前にいる少女に視線を合わせるために身を屈めた。明らかに体を反らされた時は少しだけ悲しく……なってなんかないやい!それにしても迷子……って訳ではないよな?こんな戦乱の最中、子供を敵の目の前に放置する親がいるわけがない。それに俺のことを知っている時点でただの子供っていうわけでもなさそうだ。

 

「な、何なのですか!お、おおお前なんか恋殿がいればしゅしゅしゅのぶわーなのですよ!」

 

 ――――やべっ、俺ってロリでもペドでも無い筈なのに……大袈裟な身振りをしているこの子を見ていたら不覚にも

 

「……もえる…な」

 

 そう、決してロリでもペドでも無いのだ!コレは言わば、愛でているだけなんだから!

 さらな半ば反射的にたかいたか~いをしてみたらホッコリ具合が倍増してきたではないか。コレが所謂『倍返しだ!』と言うやつなのだろうか?

 ……どこと無く違う気がする。

 

「ちょ、おまっ、急に何をしているのです『ブワァッ』――――か!?」

 

 あまりにも一瞬の出来事であった。完璧に愛でるタイムに夢中になっていたから特に狙ったわけではない。寧ろここから手を取り合ってキャッキャウフフと二人で回りだそうかとも考えていた位だ。

 

 ――――――ソレがまさか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……ねねを助けたのですか?」

 

 この子が立っていた場所に燃え盛る屋根の一部が振り落ちてくるなんて誰が予想できようか!いや、そんな信じられないって顔されても俺が一番感じていることですから、そんな顔はしんといてくださ――――――

 

「――――――と見せかけて凌統確保なのですーー!!」

 

 ……なぜか首をホールドされてしまった。しかも、この子器用に俺の後頭部まで移動しているし。ただ残念なことに腕力無いから全然苦しくもなんともない。まるで鈴々ちゃんを頭にのっけている感じだ。まぁ背丈的にはほとんど変わらないから当たり前か。

 そういえばこの前、母も乗っていたな。あの人は……うん、言葉にすると後が怖いから何も言わないでおこう。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

――――――――――一方その頃

 

 

「ぶえぇぇぇぇっくしょぉおおい!!」

 

「なぁに、風邪?」

 

「いんやぁ、誰かが噂でもしてんだろ。ほら俺って器量もいいし美人だろ?其処ら中の男がほおっておく訳がねぇじゃん? いや~モテル女は辛いなぁ~」

 

「……一体誰のこと言ってんのよ?」

 

「少なくとも雪花ではないだろうな」

 

「テメェ等ひでぇな!?」

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ……今一瞬だけ、孫策さんと周瑜さんにからかわれている母の姿が目に浮かんだ。

 

「凌統の首、この陳宮が頂いたのですーーーー!!!!」

 

 この子、陳宮って言うんだ~……陳宮?ちんきゅう……ちんきゅー……ちんきゅ……あ、この子あの陳宮なんだ。

 へー……――――――って嘘でしょ!? 何この世界は?将の女の子率高ッ!? 今さらだけれど俺こと凌統以外で有名な武将(男)を見たことがないんですけれど! なんだか三国志を盛大にパロってますよねこの世界。

 

 とと……今はそんなことに驚いている場合じゃないか。確か呂布の軍師さんだったよね? そして呂布はついさっきまで食を共にしていたあの赤毛で言葉数が極端に少ない女の子と……言葉数が少ないってところに関しては人のこと言えないか。

 ってかその呂布ってばつい今しがた兵を引き連れて外に走っていかなかったっけ? 多分俺のファイアー的な放火が原因なんだけれど。 もしかしなくても、この子はぐれたのかな?

 

「さぁ、きりきりと歩くのです!お前の命は我が手の中――――――」

 

 呂布のところに連れて行ってあげたいのはやまやまなんだけれど、つい今し方此処から動かないって決めたところだしな……ノコノコと外に出て副長さんや桃香さん達にでも見つかったら目にもあてられない。

下手しなくても軍法会議の末、首チョンパ……なんて事も有り得なくない……筈だ。

 

うん、やっぱりここは当初の予定通りこの場に留まって皆が来るのを待って――――――

 

「恋殿ぉーーーー!しあーーーー!かゆーーーー……は意識飛ばしてここにはいないところに運ばれたのです。しかしながらおかしいですね、誰も居ないのです。それに兵達の姿も殆ど見えないとは……やはりこの混乱に乗じて関外に出たと考えた方が良いのでしょうか?」

 

……はい、明らかに忘れ去られている感が否め無さ過ぎる。流石にチミッ子一人残したままこの場を後にできるほど俺は悪人というわけではない。しゃあないか明らかに呂布とはぐれたようだし、流石にこんなところで一人放置しておくわけにはいかないよな。つい先程バッドエンドルートに突入仕掛けていたくらいなんだから。一応敵だけれど、小さな子がこのままだと明らかに危なさすぎるし……

非常に……ひじょーに不本意極まりないけれど――――――大切な事だから敢えて2回言ってみました。

 

「……呂布…の所…行くか」

 

 外には何千何万って人が犇めきあっているんだし、呂布ならば一騎当千と言われる武を持っていることだろう。そんな人がいればいやようでも目立つだろうし、そんな中で副長さんやら桃香さん達に会うなんて事は俺の運が相当悪くなければある筈が無いだろう。

その様に判断した俺は女の子こと陳宮を頭にひっつけたまま呂布を探すべくまずは虎牢関を脱出しようと走り出したのであった。




ありがとうございます。
腰痛は随分落ち着いてきました。医師からも快方に向かっているとお墨付きです。
執筆の方は変わらず不定期ですが、今後とも宜しくお願いします。

ではでは次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ


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第三十幕 閑話休題だって

気がつけば前の投稿から7年とか…
別サイトの小説もほぼ放置していた事実に驚愕でさぁ( ゚д゚)
とりま、執筆中のものを途中でもいいかなと投稿してみました(汗


――――虎牢関での戦は熾烈を極めた。 堅固な要塞、神速の張遼、そして何より飛将軍呂布……間違いなく強敵だ。 三国志という歴史を把握している筈の俺ですら勝利を治めることが出来るのかと不安に駆られてしまう。

武はなく、策を練る頭すら無い俺からしてみたら、正史を把握しているという予備知識だけがアイデンティティだった筈なのにそれすらも霞んでしまう。

俺が世話になっている曹猛徳……華琳が負けるはずが無いと信じているのに不安に刈られてしまう。

 

だが、間違いなくこの戦を連合軍は勝利でおさめるはずだ。しかし、俺の不安感は拭いきれていない。

あぁ、わかっているさ。その原因だって把握しているさ。さっきも言ったが、正史を把握しているというアイデンティティがある。だからこそ不安一杯だ。なぜかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虎牢関って焼き討ちにあう歴史ってあったっけ?」

 

いや、そもそもの話をするけれど

 

「凌統ってこの時代の武将か?ってかいたとしても反董卓連合でこんなに目立つ将だっけか?」

 

この世界で言われる俺の『天の御使い』に並ぶほどのビッグネームで『戦乱を凌ぎ全てを統める』って…

本当に何者なんだろう凌統って人は?

 

そんな俺の心情を知らずか

 

「ちょっとあんた、そんな辛気臭い顔してると邪魔だから呂布のところに行って首を切られるなり、虎牢関に行って焼かれてくるかしてきなさいよ」

 

「いや、普通に死ぬから。どっちに転んでも苦しみ抜く間もない程にあっけなく死ぬ自信があるから」

 

桂花から何時ものような毒舌が飛んでくる。ある意味で非常識極まりない状態の中ではこんな何時もの光景が嬉しくも感じ……

 

「いや、そもそもここ(三国志時代)にいること自体が非常識極まりない状態か。ってか桂花、こんなところで油を売っていていいわけ?」

 

「はぁ?頭湧いてんじゃないの。なんで私がわざわざあんたに話しかけるなんて物好きでもやらないようなことをやらないといけないのよ? 華琳様から私直々にあんたを呼んでくるように命が出たから仕方なくきてあげてんの。そうでもしなきゃあんたと同じ空気を吸いに来る意味がわからない。そうだわ、息だけでも妊娠するかもしれないからあんた息止めてなさい。今から華琳様のところに行くかもしれないけれどその道中と最中、その後もずっと息を止めてなさい。ついでに心の臓も止めておきなさい。そうすれば私もある程度譲歩してあげる気もしないことはないわよ」

 

……取り敢えず全力で俺のことを嫌っているということがわかった。

 

 



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