ハイスクールD×D  一誠の魔神伝説  (新太朗)
しおりを挟む

魔神誕生
過去と現在


書いてり消したりを繰り返してすいません。

今度のは大丈夫だと思うので、読んでください。

では、どうぞ。


少年は言うならば一般人だ。

 

少年の家庭はどこにでもある極ありふれた一家だ。

 

少年の両親はサラリーマンの父とパート勤めの母。

 

少年はこの2人から生まれた。

 

少年は幸せだった―――ある事件が起きるまでは。

 

少年にある時、不思議な力がある事が分かった。その力を両親に見せようと兄が少年に言った。

 

『その力を2人に見せれば、きっとおもしろいことになるぞ』

 

少年は言われるままに力を見せた、両親の驚く顔が見たくて。

 

しかし少年が見た両親の顔は驚愕と恐怖に支配されていた。両親は少年に言った。

 

『このバケモノ!どっか行け!二度とここに来るな!!』

 

『あなたのようなバケモノは私達の子ではないわ!』

 

少年は否定された。実の両親にこれでもかと言うくらいに。

 

『お父さん。お母さん。どうしてそんなことを言うの?僕は見てほしくて……』

 

少年はただ見せたかっただけなのだ。自分の力を―――

 

少年は訳が分からなくなっていた。兄に言われるがままにしただけなのに。

 

少年は自分の兄を見た。その顔は笑って―――いや嗤っていた。

 

『お、お兄ちゃん!助けて!』

 

『気安く触れるな!バケモノが!』

 

兄は少年の手を強く振り払った兄の顔は酷く歪んでいた。まるで汚物を見る目で少年を見ていた。

 

少年は逃げた。

 

ただひたすらに逃げた。

 

逃げて逃げて逃げて逃げた。

 

今、自分がどこに居るのかも分からないくらいに逃げた。

 

そして疲れたのか、その場にうずくまり考えようとした。

 

しかし頭が混乱して上手く考える事が出来ないでいた。

 

そして自分が兄に騙されて両親に捨てられた事を自覚した時、目から大粒の涙が落ちた。

 

少年は泣きに泣いた。大声を出して―――叫んだ。

 

どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのか?

 

どうして自分は『バケモノ』と言われなければならないのか?

 

どうして自分を兄はここまで苦しめるのか?

 

そんな少年の叫び声を聞いて、顎に白い髭を蓄えた老人が現れた。

 

『………………儂と来るか?』

 

老人は少年に手を差し出した。

 

少年は差し出された手を掴み、老人と共にどこかへと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……懐かしい夢だな…………最悪な気分だ」

 

少年の寝起きの一言はまさに過去の事を夢に見たためだろう。ベットから出て窓から外を見た。

 

「あれからもう十年くらい経つのか……」

 

兄に騙されて両親に捨てられて十年の月日が経っていた。あれから少年は大きく成長した。

今年で彼は17歳になる。

あの日―――両親に捨てられた日に出合った老人のおかげで彼は今日まで生きる事が出来た。

今は老人から与えられた家で一人暮らしをしている。

 

 

 

 

彼の名前は真神一誠(まかみいっせい)。

十年前に性を『兵藤』から『真神』と変えて、今は北欧で生活している。

一誠は着替えて朝食を摂るためにキッチンに移動している時にある気配を感じ取った。

 

(…ん?……朝から来るとは爺さんもよほど暇なのか?)

 

一誠が感じ取ったのは自分の命の恩人で保護者の立場にある人物だ。その人物が一誠を訪ねて来るのはさほど珍しい事ではない。月に数回こうして訊ねて来る。

だが、事前に連絡をしてくれと言っているのだが、一行に聞き入れてはくれていないのが、悩みの種だ。

だから一誠は少し諦め掛けていた。

そんな事を考えている内にキッチンに着き朝早くから来ている恩人(保護者)に挨拶をする事にした。

 

「来るのはいいんだが、連絡くらいしたらどうなんだ?オーディンの爺さん」

 

「―――ほぉほぉほぉ。そんな事をしてはヴァリキリーの娘共にここに来ているのバレるではないか。イッセー」

 

一誠が挨拶を交わしている老人は北欧―――ユグドラシルの主神・オーディンだ。

十年前に一誠を保護したのはオーディンだ。それからはオーディンの下でさまざまな事を教わり生活している。

朝食の準備をしながら今日はどう言った用件か聞く事にした。

 

「それで?今日はどうしたんだよ。まさか、またヴァリキリーの尻でも触って殺されかけているのか?爺さん」

 

「半分正解じゃな」

 

「……半分は正解なのかよ……主神が何をやっているんだよ。まったく……」

 

一誠はオーディンのやらかした事に呆れていた。いくら主神相手とはいえやった事はセクハラだ。だからヴァリキリー達の我慢は限界だったらしい。

主神に勝つのは流石に無理だが、彼女達が束になれば主神に一矢報いる事くらい出来るだろう。

 

「じゃあ残り半分は?」

 

「それを説明する前にこの資料に目を通してからじゃ」

 

オーディンは自分が持ってきていた資料を一誠に渡した。一誠は渡された資料の一番上の人物の名前を声に出した。

 

「……リアス・グレモリー。……グレモリーは確か七十二柱の悪魔の一体だっけ?」

 

「そうじゃ。その娘が最近、赤龍帝を眷属にして『レーティングゲーム』と言う悪魔同士の戦いで不死鳥の一族の三坊を倒しておるのじゃよ」

 

「それくらい別に驚くほどでもないだろ。いくら不死鳥でも相手はあの神滅具の赤龍帝だぜ。神や魔王と互角に渡り合えるドラゴンの片割れの魂が封印してある神滅具だ。不死鳥くらい倒せない訳ないだろ?」

 

「確かに普通はそう考えるじゃろう。しかしその赤龍帝はグレモリーの眷属になってから覚醒したんじゃよ。しかも今代の宿主は今まで人外の者と接触した事もないような一般人なんじゃ」

 

「マジかよ……」

 

「その者は赤龍帝になって一ヶ月しか経っておらん。それで上級の悪魔を倒せるのは可笑しいじゃ。だから儂は何か裏があるんじゃないかと思うんじゃよ。それにその赤龍帝はおぬしと因縁のある人物じゃからのぅ」

 

「……因縁?」

 

一誠は自分と因縁のある人物を必死になって思い出そうとしたが、思いだす事はなかった。

何故ならそれは―――

 

「―――生憎と雑魚の事は一々覚えてはいないな」

 

―――からである。

 

これまで一誠が戦ってきた人外の類は一誠にとって取るに足らない者達だからだ。

悪魔、堕天使、吸血鬼、魔獣などは一誠の『敵』と呼べるものは誰1人として

居なかった。

 

「……そうじゃないわ。資料を見てみよ、その答えが分かるわい」

 

「?……誰だって言うんだよ。まったく……」

 

一誠はオーディンに言われるままに資料を読み進めるとオーディンの言う人物を見つけて驚いていた。

 

「!?……『兵藤一樹』だと……この資料は信用していいのか?爺さん」

 

「もちろんじゃよ。情報収集に優れた者が集めた情報じゃからな」

 

 

 

兵藤一樹(ひょうどうかずき)。

それは十年前に一誠を騙して両親から『バケモノ』呼ばわりされるようになった元凶にして自分の兄だ。

 

「まったく……久し振りにあんな夢を見たから何かあるかと思っていたが、これとはな……つくづく最悪な気分だぜ……!!」

 

「イッセー!!」

 

「……何だ?爺さん」

 

「この家をお前さんの魔力で押し潰すきか?」

 

「……はぁ?…………あぁ……悪い爺さん。こいつの顔を見たのと今朝の夢の所為だ」

 

一誠は無意識の内に自身の魔力を出していた。その所為で危うく家を崩壊させると事だった。

オーディンが声を掛けなかったら間違いなくそうなっていただろう。

 

「……落ち着いたかのぉ?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。……それでオーディンの爺さん。俺に何をさせる気だ?こんな資料を見せるくらいだ。他にやらせる奴がいないから俺の所に来た。そういう事だろ?」

 

「そうじゃよ。お前さんにやってもらいたいのは『リアス・グレモリーと眷属の監視』じゃ」

 

「監視が必要か?所詮は上級の悪魔の一体だろ?」

 

「お前さんの言いたい事は分かるわい。しかしリアス・グレモリーが管理している土地は中々に曰く付きでな。こちらとしても何かある前に手を打っておきたいのじゃよ」

 

一誠は改めて資料に目を通した。そこでいくつか気になる事を見つけた。

 

(……管理している癖に堕天使の侵入を許しそこに住んでいる人間を殺されているのか。よくこれで管理者を名乗れるものだな)

 

一誠はリアスが管理している土地で、ここ一、二ヶ月の間に起った事に目を向けていた。そこでリアスに管理者としての能力があるのか疑問に思った。

 

「了解。こいつらの監視の任務は受けるよ。俺としてもいい加減、過去の清算しておきたいと思っていたからな」

 

「すまんのぉ……お前さんにとって嫌な想いをさせる事になるのにのぉ……」

 

「いいよ、爺さん。俺は爺さんに拾われて良かったと思っているから」

 

「そう言ってもらってよかったわい。住む場所や編入手続きはこちらで済ませて置くからお前さんは軽い身支度だけしておいてくれ。来週には向こうに行ってもらうからのぉ」

 

「それは急だな。まあ、分かったよ、準備はしておく。……ほら、出来たぞ」

 

一誠はオーディンと会話をしならが朝食の準備を完了させていた。

ちなみに今日の朝食は白米、鮭の塩焼き、さつま芋の味噌汁だ。一誠は日本人なので朝食は大抵が日本食だ。

オーディンがここに来るのは一誠の作る日本食を食べに来る事の方が一番の目的かも知れない。

 

「ほぉほぉほぉ。やはりイッセーの作る日本食は美味しいのぉ」

 

「ホント、好きだよな爺さんも」

 

2人の食事はまるで祖父と孫の食事の光景そのものだ。乱入者が入ってこなければだが―――

 

「―――ずいぶんと楽しそうですね?オーディン様!」

 

「なっ!?お、お前達……どうしてここに?!?」

 

オーディンの後ろには鎧を着込んだ女性達がいた。彼女達は戦乙女―――ヴァリキリーだ。

年齢は20~30代くらいだろうか。その彼女達は全員が武器を持っていて戦闘態勢が整っていた。怒りのオーラが視覚出来てしまうほど、彼女達は激怒していた。

 

「覚悟はいいですか~オーディン様?」

 

「……すまんが、イッセー。儂はこれで帰る事にするわい」

 

オーディンは一目散に逃げ出した。それはまるで脱兎の如くだ。

 

「「「「「待ちやがれ!!!このセクハラ主神が!!!」」」」」

 

ヴァリキリー達はオーディンの後を凄まじいいき良いで追いかけって行った。

一誠は1人食器を片付けて身支度をし始めた。

 

「さあ、決着を付けようぜ。『兵藤一樹』!」

 

一誠は静かに闘志を燃やしていた。過去との因縁を清算する為に―――

ちなみにオーディンはヴァリキリー達に『おしおき』されて酷くボロボロになっていたとか……。

 




読んでくれて、ありがとうございます。

次回の更新はできるだけ早めにしておきたいです。

では、また。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰国と記憶

オーディンからの『リアス・グレモリーとその眷属の監視』を言い渡されて五日が経過していた。

一誠は今日、北欧から日本に到着した。

 

(この地―――日本に戻ってくるとはな……さっさと任務を終わらして北欧に帰りたい……)

 

一誠は空港に着いてから任務を早く終わらして北欧に帰りたい事をずっと考えていた。

しかし一誠は気付いていなかった。

任務は『リアス・グレモリーとその眷属の監視』なのだから少なくともリアスの眷属が全員が学校を卒業するまで続く事にまったく気付いてはいなった。

 

そんな一誠は空港でタクシーに乗り、オーディンが購入した家に向かっていた。

荷物は空間属性のボーンの能力ので作った『異空間』に収納して運んでいるので、一誠は手ぶらでいた。

 

「それじゃ、お客さん。行きますよ」

 

「……ええ、お願いします。ふぁ~……」

 

「寝不足ですか?お客さん」

 

「ちょっと、時差ぼけ気味で……すいませんが着いたら起こしてくれますか?少しだけ寝るんで……」

 

「分かりました。着くまで寝いていて結構ですよ」

 

時差ぼけ気味の一誠の頼みをタクシーの運転手は心優しく応じてくれた。

寝る前に一誠は思う。

 

(今度はいい夢が見れるといいな……)

 

少し前に見た夢はまさに悪夢と言う他ないものだったからと一誠は自分の願いが叶うように寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さん!お―――ん!お客さん!起きてください。着きましたよ」

 

「ん?……もう着いたのか?どうも、すいません……起きこして頂いて……」

 

「いいですよ。それではお会計は5890円になります」

 

「はい。……これで」

 

一誠は財布から6000円取り出して運転手に渡した。

 

「はい。ではこちらがお釣りになります」

 

「どうも」

 

一誠はタクシーから降りて家を見て、驚いた。

そこに建っていた家は一般的な一軒家などではなく、『邸宅』と言っていいくらいの大きさの家だった。しかも蔵付きで。

 

「オーディンの爺さん……いくらなんでも一人でここに住むのは広すぎだろ…………うん?何だ?」

 

一誠の目の前に一枚の『ボーン・カード』が現れた。

 

(これはどういう事だ?『ドラゴン・ボーン』が何かに反応している?)

 

『ドラゴン・ボーン』

火属性のボーンだ。一誠が持つボーンの中では1、2を争う攻撃力を持っている。

 

その『ドラゴン・ボーン』が赤い光を放って、まるで何かに反応しているように脈打っていた。

この時、一誠は気が付いていなかったが、近くの家に一樹が『悪魔の仕事』で来ていのだ。

『ドラゴン・ボーン』は赤龍帝に反応していたのだ。

 

(一体?『ドラゴン・ボーン』は何に反応しているだ?……あ、反応しなくなった)

 

一誠がカードを注意深く見ていると、反応しなくなった。

一樹が離れたために反応しなくなったのだが、一誠はまったく気が付いてはいなかった。

 

「……まあ、いっか。まずは荷物を出して整理しないと」

 

一誠は一先ず家に入り荷物の紐解きをすることにする事にした。

と、言ってもそんなに荷物はないので、そんなには時間は掛からなかった。

それでも夜の七時になろうとしていた。

 

(今日は作らずに外で食べるか。それにやっておかないといけない事もあるかならな)

 

一誠は帰国した際にやっておきたい事があった。

過去の清算を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外でラーメンを食べた、一誠は『清算』をするためにある場所に向かっていた。

住宅街を歩いていた一誠はふと周りを見て思った。

 

(あんまり覚えてはいないが、どことなく懐かしいと思うな……十年も経てば、記憶はおぼろげになっていくよな……でも家はこの方向にあるのはなんとなく分かる)

 

風景は忘れてしまったが、それでも自分が生まれ育った家の方向は分かっているようだった。

生物の帰巣本能が働いたためかもしてない。

 

「あれ?カズキか?」

 

「お、カズキだ」

 

「…………」

 

歩いていると後ろから二人組みの男が声を掛けてきた。

 

「……俺は一誠。真神一誠と言う者だ。お前らが言うカズキではない……」

 

「え?マジか!?それはすまんかった!元浜、違うじゃないか!?」

 

「すまんって、お前だってあの後ろ姿を見たらカズキと間違えただろ?松田!」

 

(一樹のクラスメイトか学校の知り合いか?)

 

一誠は二人が一樹の知り合い、もしくはクラスメイトだと思った。

後ろ姿を見ただけなのに間違えたと言うことはそれだけ一誠と一樹の二人が似ていると言う事だろう。

 

(あの憎たらしい男と間違えられるとはな……!!だが、こいつらに悪気はない……はずだ。もし有ったなら腕でもへし折ってやろうかと思っていたんだがな……)

 

考えている事がすでにヤンキーになっている一誠であった。

 

「……そんなに似ているのか?俺とお前らの言う人間は?」

 

「おう。もうスゲー似ている!顔もどことなく似ているな。元浜もそう思うだろ?」

 

「ああ、ホント。似ているな……双子じゃないかと思ってしまう程似ているな」

 

「……そんなに、か……悪いな二人とも俺はこれから向かわないといけない所があるからこれで失礼する。機会があれば、また会おう」

 

「おう、またな!」

 

「また会おうぜ」

 

一誠は二人から離れて目的の場所に向かって歩き出した。

 

(俺がもし……普通の一般人だったら、あんな二人のような友人を持つ事が出来ていたかもしれなかったのか……?……考えてもしょうがないか……今は目的を果そう……)

 

一誠はさっき会った二人の事を思い出して考えていた。

しかしそんな現実はどこにも存在しないし、無いものを求める事は出来ない。

そんなのは考えるだけ虚しいだけだ。

一誠もその事は十分理解していたが、それでも諦めきれない部分というのはあるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……十年前となんら変わっていないな……てっきり引っ越したものかと思ってが、そんな事はなかったな……」

 

一誠が目指していた場所は生まれて数年間だけ育った兵藤家だ。

引越していると思っていた一誠は思わず呆れていた。

一誠が戻って来て復讐をする事を考えなかったのか?自分達が『バケモノ』と呼んだ存在が居た家によく住んでいられるな?など考えていたが、それ自体がバカらしく思えていると一誠は考えるのを止めた。

 

「まあ、引っ越していないなら好都合だ。さっそく行くか……」

 

ピンポーン!

 

一誠は家のチャイムを鳴らした。

 

(ここは正面から堂々と行った方がいいな。隠れる必要はないかな。……家からは気配は二つだけだ。なら両親しかいないのだろう)

 

一誠は気配を探って、家に二人だけなのを確認した。

この家には一樹の主のリアスと眷属の少女がホームスティしていると資料に記さしてあったので、二つだけという事はリアス達は今は家にはいないという事だ。

 

『はい。どちら様でしょうか?』

 

「……どうも僕、兵藤君のクラスメイトの者ですが、兵藤君が学校に忘れ物をしてので届に着ました」

 

『そうなの?でもごめんなさい。一樹はまだ帰っていないのよ』

 

「そうですか。じゃあ物だけ渡しておいてください」

 

『ええ、ちょっと待ってね。今玄関を開けるか』

 

一誠の訪問に応対した女性が玄関から出てきた。一樹、そして一誠を生んだ母だ。

 

「おまたせしてごめんなさい。それで忘れ物って何かしら?」

 

「…………俺の顔を見て何も思い出さないんだな?」

 

「え?……あ、あ……そ、そんな事って―――――!」

 

「『バジリスク・ボーン』『マインド・コントロール』」

 

女性が悲鳴を上げる前に一誠は木属性の『バジリスク・ボーン』を着装して精神支配を女性に掛けた。

女性の瞳からは光が消えてまるで人形のようになっていまった。

 

『バジリスク・ボーン』

木属性のボーンだ。両肩にある大きな目のようなものを見たものを幻覚・精神支配するなどの能力を使う事が出来る。

 

「どうしたんだ?母さん」

 

「あんたも少しの間、俺の人形になっていろ!『マインド・コントロール』」

 

「―――――!」

 

女性が何時までも戻らないものだから家の中から男性が出てきた。一樹の父だ。

男性にも同様に精神支配の能力を使い人形にした。

これから一誠がやる事に二人は邪魔でしかないので暴れたりしないように操る事にしたのだ。

 

「命令だ。俺の用が済むまでリビングに行き、椅子にでも座っていろ」

 

「「……はい。分かりました……」」

 

二人は一誠の命令のまま、リビングに向かい椅子に座った。

そんな二人が椅子に座るのを見て一誠は二階のある部屋に向かった。

扉には何もない、部屋の扉を開けて入った。

 

「……十年間、放置していたのか……ホコリ臭いな……」

 

一誠が入った部屋は追い出されるまで自分が使っていた部屋だ。

十年間、放置していたようでホコリ塗れになっているが……。

 

「ふうー……ノートまでそのままなのか……」

 

机の上を軽く息を掛けたらホコリの下から一冊のノートが有った。

そこには『兵藤一誠』と書かれていた。

そのノートの字を見て昔、両親から小学校に入学する自分の名前だけ漢字で書きたいとだだをこねた事を思い出した。

 

(まったくホント……懐かしいな……戻ってきたんだな、俺は)

 

部屋の窓を開けて換気をしてホコリを外に出して部屋を改めて見渡した。

一誠が追い出された当時のままにして―――いや、部屋には一切入らなかったのだろ、この十年間。

 

(俺の存在は二人からしたらゴミと同列もしかしたらそれ以下かもしれないな……)

 

自分は両親からしたらどのよな存在だったのだろうと考えていたが、考えるのを途中で止めた。

 

(考えてもしょうがいない。どうせ、ここにはもう二度と来る事はないからな……)

 

一誠は部屋に有った物を全て纏めて部屋を出た。

一階に戻り両親の様子を見たが、一誠が命令したまま椅子に座っていた。

 

「父さん、母さん。……俺を産んで育ててくれて……ありがとう。もう会う事はないから言っておきたかったんだ。それじゃさようなら……命令だ。『兵藤一誠に関する記憶を全て封印して、もしそれを解こうとした者がいても決して封印を解くな。俺がこの家から出たら催眠状態は解除』だ」

 

「「……はい。分かりました……」」

 

記憶を消し去る事を考えたが、出来なかった。一誠は例え両親が自分の事を思い出さなくても頭の中に有る事を望んだ。

そこで一誠は記憶を封印する事にした。

しかも念のために記憶の封印を解こうとした者が現れた際の事を考慮してもう一つの命令を出した。

 

一誠は兵藤家から出て最後に家を見て歩き出した。

その顔には涙が流れた痕があった。

 

(これで両親に対しての『清算』は終わった。次はお前の番だ!……一樹!!)

 

二人の『清算』を終えた一誠は次のターゲットである一樹に殺意を向けていた。

もうすぐ駒王学園へ編入する日だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転校生と転生悪魔

駒王学園の2年生のある教室は朝から少し騒がしかった。

 

『このクラスに転校生が来る。』

 

その事で朝から生徒はソワソワしたりしていた。

男子だったらイケメンがいいなや女子だったら美少女がいいなと生徒は騒いでいた。

生徒が教室の扉が開いて担任の教師が入ってきて、生徒は自然と席に着いた。

 

「え~皆、すでに知っているかと思うがこのクラスに転校生が来る」

 

「先生!転校生は男ですか?女ですか?」

 

1人の男子生徒が教師に質問した。生徒はどちらか凄く気なってしょうがなかった。

 

「男共は残念だな、転校生は男子だ!」

 

「「「そんな~……」」」

 

「「「やったー!」」」

 

これでもかと言うくらいに男子は残念がっていた。逆に女子は喜んでいた。

 

「それじゃ入ってきてくれ」

 

教師が教室の外で待機していた転校生に入るように促した。そうしたら1人の生徒が教室に入ってきて教師の横に立った。

 

「まずは自己紹介をしてくれるか」

 

「はい。皆さん、始めまして。今日からこのクラスに転校する事になった真神一誠です。どうぞ、よろしく」

 

一誠は丁寧に挨拶をして頭を下げた。第一印象はこれでもかと言うくらいに良い人物だと思うだろう。

しかし1人だけ違っていた。

その人物の名は木場佑斗。リアス・グレモリーの眷属で『騎士』だ。

 

(どういう事なんだ?!彼の顔はカズキくんにそっくり―――いや、同一人物と言ってもいいくらに似ているんだ?!彼は何者なんだ?)

 

佑斗は一誠の顔を見た瞬間に驚きで頭が一杯になっていた。

 

「それじゃ席は空いている所に座ってくれ。授業に付いてくれなくなったら遠慮なくしつもしてくれ」

 

「はい。ありがとうございます。(くくっくっ………動揺が顔に出すぎだ……こいつが木場佑斗か)」

 

一誠は佑斗の動揺が露骨だったのが面白く、必死に笑いを噛み殺してした。

そんな一誠を他所に佑斗は混乱してた。

一誠は空いている席に座ったのを見た教師が授業を始めた。

 

(彼が何者なのか確かめないと。それで部長に報告もしなくちゃね。いっその事、彼をオカ研に連れて行った方がいいかもしれない)

 

佑斗は放課後に主への報告し、一誠をオカ研の部室に連れて行こうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーコン!カーコン!

 

「おっと、それじゃ今日の授業はここまで。日直、号令」

 

「起立、礼」

 

「「「「「ありがとうございました」」」」」

 

一日の授業が終わり生徒達はそれぞれ帰宅する者、部活に向かう者に別れ出した。

帰宅する準備をしている一誠に女子生徒が近付いて来た。

 

「ね!真神くん。これから私達とお茶しない?」

 

「すまない。俺はこれから用事があるんだ。また、今度誘ってくれ」

 

「そうなんだ~それじゃしかたないね……それじゃ都合がいい時、言ってね。その時お茶しよ!街とか案内もするからさ」

 

「ああ、分かった。その時は頼む」

 

女子生徒は一誠から離れて行った。、女子生徒離れてすぐに佑斗が一誠に近付いた。

 

「少しいいかな?真神くん」

 

「……お前は?」

 

「僕は木場佑斗。君さえ良ければ僕が所属している部活に来ないかい?」

 

「お前が入っている部活って、何だ?」

 

「オカルト研究部なんだけど」

 

「どうして俺を誘うんだ?理由があるのか?」

 

一誠は佑斗に自分をオカ研に誘う理由を聞こうとしたが、一誠は大体の予想していた。

 

(こいつの事だから一樹と会わせるつもりだな。だけど、再会はもう少し後だ)

 

「実はその君にそっくりな人がそこに居るから会わせて見たいと思ってね。どうかな?」

 

「……俺にそっくりな奴の名前は『兵藤一樹』か?」

 

「そうだけど。もしかして知り合いなのかい?」

 

佑斗が一誠に合わせたい人物の名を先に言ったものだから佑斗は一樹と一誠が知り合いだと思ってしまった。

 

「まあ、知り合いと言えば知り合いかもな……そうだ、木場。伝言を頼めるか?」

 

「伝言を?別に構わないけど……」

 

「そうか、ありがとう。それじゃ兵藤一樹にこう伝えてくれ。……『俺が帰ってきたぞ、一樹』と」

 

「……え?そ、それはどう言う意味なんだい?真神君」

 

「俺の名前を付けて言えば分かるさ。また明日な転生悪魔君」

 

佑斗は一誠の言葉の意味を必死に理解しようとしていたが、一誠は鞄を背負って教室を出て行ってしまった。

 

「ま、待ってくれ、真神君!」

 

佑斗は教室を出て一誠の後を追おうとしたが、すでに廊下にはその姿が見えなかった。

 

(廊下に居ない!?さっき出たばかりなのに?まずは彼を追わないと!)

 

佑斗は主であるリアスへの報告を後回しにして一誠の後を追う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた!」

 

学校を出て少し歩いた所に一誠はいた。佑斗はなんとか一誠を見つけて後を付けていた。一誠の正体を掴むために。

 

 

「……彼は一体何者なんだろうか?」

 

「―――さあ、何者なんだろうな?木場」

 

「ッ!?!?」

 

一誠を尾行していたら、後ろから一誠の声がしたので佑斗は振り返ってしまった。

しかしそこには誰も居なかった。

声がしたので誰かは居ると思っていたが、誰1人として居なかった。

 

「……誰もいない………し、しまった!」

 

佑斗は一誠が歩いていた道を見たが、そこにはもう一誠は居なった。見失ってしまったのだ。

後ろから声を掛けれた一瞬の隙に。

 

(さっきのは真神君の声だった。なら彼は僕が尾行していたのを気付いていた事になる。でも彼は一度も振り返ってはいなかった……一先ず部長に報告しよう)

 

佑斗はリアスへの報告をするために一誠の尾行を止めて学校に戻る事にした。

 

 

 

 

 

「まったく尾行が下手すぎるぜ、木場」

 

佑斗が去った場所に紫色の魔法陣が現れ、そこから一誠が出てきた。

手には一枚のカードが握られていた。

 

『ウロボロス・ボーン』

空間属性のボーン。

 

このカードを使って一誠は佑斗の後ろに小さな魔法陣を出現させて声を送ったり一瞬にして移動したのだ。

 

「木場を撒いた事だし、俺は調べ物に取り掛かるかな。転移」

 

一誠はオーディンからの仕事に関する事で気になる事があったので、それを調べるためにある場所に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カズキにそっくりな転校生?」

 

「はい。顔だけではなくて声のトーンもそっくりなんです。それだけじゃないんです。彼は僕が転生悪魔であると知っていました」

 

佑斗は学校に戻るとすぐにオカ研の部室に居る主であるリアスに一誠の事を話した。

一誠を尾行していた事や後ろから声を掛けられたのに誰もいなかった事等を。

 

「尾行していた後ろから声を掛けられたけど、誰もいなくてその隙に彼―――真神一誠君は消えていた。それに彼は佑斗が転生悪魔である事も知っていた。……そう言う事ね、佑斗」

 

「はい。その通りです、部長」

 

「……確かに少し気になるわね。そのカズキにそっくりなのも調べた方がいいわね」

 

リアスはすぐに一誠について調べる事にした。この駒王学園一帯の管理を任されている自分にとって有害な存在はすぐさま排除しなければならない。

 

「部長、少しよろしいですか?」

 

「どうしたの?朱乃」

 

リアスに話しかけてきた女性は姫島朱乃。リアスの眷属では一番の古株で『女王』

ても頼りになる右手なような存在でオカ研の副部長だ。

堕天使と人間のハーフで女王。『雷の巫女』と呼ばれて周りから恐れられている。

駒王学園ではリアスとともに『二大お姉さま』と称されている。

 

「例の廃教会に何者かが侵入したのを私の使い魔が知らせてきましたわ」

 

「あの廃教会に?確かあそこには人避けの結界を張っていたはずよね。だったらただの人間というワケではなさそうね」

 

「どう対処したしましょうか?」

 

「私が直接行くわ。朱乃、佑斗着いて来てちょうだい」

 

「はい。分かりましたわ、部長」

 

「分かりました。部長」

 

リアスが朱乃と佑斗を連れて出掛けようとした時の部屋の扉が開いて1人の少女が入って来た。

 

「……部長。戻りました」

 

「いいタイミングだわ、小猫。悪いのだけど、着いてきてくれるかしら。例の廃教会に向かうから」

 

部屋に入って来た少女は塔城小猫。リアスの眷属で『戦車』転生前が妖怪で元猫又だ。

駒王学園ではマスコット的存在のロリっ子少女だ。

 

「……あの廃教会にですか?どうして?」

 

「あの廃教会に何者かが侵入したのよ。張ってあった結界を通り越してね。それが何者なのか調べるのよ」

 

「……分かりました。でもカズキ先輩とアーシア先輩には言わなくいいんですか?」

 

小猫は部室にいない2人の先輩のリアスに聞いた。情を大切にするグレモリー眷属なだけはある。

 

「2人にはメールを送っておくから依頼を終えたら来るでしょう。もしも2人が戻る前に侵入者が居なくなって意味がないわ」

 

これはリアスが土地の管理者としての仕事だ。これは優先してしなければならない事くらいリアスでも十分理解している。

何あって自分の家の名に傷を付けるわけにいかない。

そんな想いがリアスにはある。

 

「さあ!私の可愛い眷属達、行くわよ!!」

 

「「「はい。部長!」」」

 

リアス達の気合いは十分高まっていた。

向かった先に何がいるのかも分からずに―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここに来るはもう十年ぶりになるんだな……」

 

一誠は廃教会を見上げながら感傷に浸っていた。最後に来た時より見るも無惨な教会の昔を思い出していた。

 

(昔は綺麗だったのにな……天使仕事しろよ。これじゃ心霊スポットじゃないか……)

 

仕事をしていないであろう天使に文句の一つでも言ってやりたいと一誠は思っていた。

 

「言ってもしょうがないか……さっさと終わらせるか」

 

一誠の身体が光に包まれて次の瞬間、一誠は鎧を着ていた。

白と黒の二色で背中に二羽一対の翼を広げた鎧は鳥を思わせる姿をしていた。

 

『フェニックス・ボーン』

 

時間属性のボーンだ。白と黒で彩られていて背中の翼が特徴的なボーンだ。

この廃教会で起った事を調べるのにもってこいのカードだ。

 

「それじゃ過去を見せてもらうか……」

 

フェニックス・ボーンの特殊能力の一つ―――『過去閲覧』。

一誠を中心とした一定の場所で起った出来事を録画した映像のように見たり声や音を聞く事が出来る能力だ。

 

「さてっと……何が見えるかな」

 

能力を発動した一誠が目にしたのは女堕天使レイナーレと左手に赤い篭手を身に付けた一樹の戦いだった。

堕天使の光の攻撃を一樹は魔法壁で防ぎ、一瞬の隙に懐に潜り込み左手で殴りつけた。

レイナーレはそのまま廃教会の外に出てしまった。

 

(異常だな、これは。それにしても赤龍帝として目覚めたばかりの一樹に何があったんだ?)

 

赤龍帝として目覚めたばかりの一樹の実力が上級悪魔並なのがイマイチ、一誠に理解出来ないでいた。

その後、リアスが一樹と合流してから少し話をした所でリアスは一樹の神器が赤龍帝の篭手である事を一樹に話した。

 

(ここでようやくか……でも一樹は自分の力の事をリアス・グレモリーから指摘される前から気付いているようだった……俺の気のせいか?)

 

リアスと一樹が話していると外に飛ばしたレイナーレを子猫が抱えてリアス達に合流した。

そこでレイナーレを叩き起こして話をしていた。

急にレイナーレが一樹に命乞いをしたが、一樹はそっぽを向き最後をリアスに託した。

リアスはレイナーレを自身の魔力で跡形もなく消し飛ばした。

 

(あれが滅びの魔力か……聞いていたよりショボいな)

 

一誠は聞いていたよりも大した事ない滅びの魔力を見た感想がそれだけだった。

レイナーレが消え去った後にはシスターの少女から奪った神器があるだけだった。

 

(ここで彼女が眷属に加わるのか)

 

一誠はシスターの少女が『魔女』として教会を追放されたアーシア・アルジェントである事をオーディンから貰った資料で確認して分かっていた。

最初から見直そうとした時に後ろから声を掛けられた。

 

「―――そこで何をしているのかしら?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

接触と再会

「―――そこで何をしているのかしら?」

 

一誠は顔を後ろに向けて声の主を確認したら、それはリアスだった。更に三名の眷属を引き連れていた。

 

(不味いな……ここで悪魔側と揉め事を起こしたくはない。どうする?)

 

悪魔側と今、問題を起こしたくない一誠はこの状況をどう切りぬけるかを必死に考えようとしていた。

 

(あの鎧は一体何かしら?……あんな神器は聞いた事も見た事もないわね)

 

リアスは目の前の鎧の人物を何者なのか見極めようとしていた。

 

「もう一度言うわ。そこで何をしているのかしら?」

 

「……それをあんたに言う理由は俺にはない。リアス・グレモリー……」

 

(声からして男で歳は近いわね。何者なの?正体を確かめないと)

 

リアスは相手の正体を探る事にした。

 

「……私の事を知ってなお、どうしても言う気はないのかしら?」

 

「ああ、無いな。それともここで何かをしていると都合が悪いのか?」

 

「………………」

 

一誠の質問にリアスは無言で答えてしまった。

 

(ここで目の前の人物を野放しにはしておけない。少し前に堕天使の事で私の評価は下がったと聞いたわ。ここでまたしても不審人物を逃がしたとなれば、更に下げてしまう事になりかけない。ここは強引にでも連れて行くしかないわね)

 

実際にここでの事を調べられでもして、何かリアスにとって不味い事でも見つかれば、家の名に傷を付けてしまう。

それだけはリアスの避けたい事だった。

 

「あなたが私に従わないと言うなら……力尽くで連れて行くわ、皆!」

 

朱乃、佑斗、小猫は戦闘態勢に入った。

 

(はぁ~面倒だな……資料にあった通りだ。あれでも言ってみるか)

 

一誠はリアスのあまりにも短気な性格に溜め息が出てしまった。

 

「……いい加減にしろよ、リアス・グレモリー。自分の言う事を聞かない奴は強引にか……流石は『グレモリーの我が儘姫』だな」

 

「な!?なんですって!!訂正しなさい!今の言葉!!」

 

一誠の言葉はリアスが一番に嫌っている二つ名だった。それでリアスは冷静さを欠いてしまった。

 

『グレモリーの我が儘姫』

これがいくつかある二つ名でリアスが一番に嫌っているものだ。

グレモリー家の令嬢として好き勝手に振舞っている内に付いた二つ名だ。

 

(これは資料にあって言ってみたが、想像したより怒りを露にしたな、これは使えるな)

 

一誠はリアスが相当にこの二つ名を嫌っている事を改めて知った

 

「あなたは私を怒らしてしまった。手加減しないわ!覚悟はいいかしら?」

 

リアスは全身から魔力を出して一誠を脅したが、一誠にとってリアス程度の魔力では『敵』にはなれない。

 

「……所詮は上級悪魔か……やっぱり大した事はないな」

 

「っ!?……大した事はないですって……!!その言葉、後悔されてあげるわ!滅び「遅い!」なっ!?」

 

一誠はフェニックス・ボーンの能力の一つ―――『時間停止』を発動してリアスの首を片手で締め上げた。

 

(どうしていきなり目の前に!?距離は十分にあったはずなのに!?)

 

リアスはいきなり首を締めれている事に動揺していた。

 

「「「部長!」」」

 

「下手に動かないほうがいいぞ?」

 

「「「っ!?」」」

 

朱乃、佑斗、小猫はリアスをすぐさま助け出そうとしたが、首を締められている状況では迂闊に手が出せなくなった。

 

「そのまま、動くなよ?」

 

一誠はリアスを締め上げたまま、ゆっくりと出口の方に向かって歩き出した。

もちろん朱乃達、眷属からは目を離さずにだ。

後、少しで出らそうな時に一誠の後ろの扉から乱入者―――一樹が現れた。

 

「―――部長からその手を離せ!!」

 

「おっと」

 

一樹の攻撃を難なく避けた一誠はリアスを離して一樹から距離を取った。

 

「部長!大丈夫ですか?」

 

「部長さん。大丈夫ですか?」

 

「ゲホッ…ゲホッ……た、助かったわ、カズキ。アーシアもありがとう」

 

一樹とアーシアはリアスの近くに寄って主の無事を確認した。

 

「ところで、あいつは誰なんですか?」

 

「分からないわ。でも声から若い男であるのは間違いないわ」

 

一樹は目の前の鎧の人物の事をリアスに聞き向き直した。朱乃達は一樹の周りの集まって来た。

 

「朱乃さん達は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、問題はありませんわ。でも目の前の人物の能力が不明なので遅れを取ってしまいましたが、もうそのような事はありませんわ」

 

一樹と合流した朱乃達は二度と遅れを取らないように構えた。

目の前の『敵』を倒すために。

 

「……その様子だとまだ、俺の伝言は届けていないらしいな木場」

 

「……え?……い、一体なんの事だ。僕は君の事なんて知らない!」

 

いきなり自分の事を呼ばれた佑斗はぼう然としてしまったが、すぐに我に返り目の前の人物に問いかけを否定した。

 

「知らないのは当たり前だ。なんたって、俺は今日転校してきたんだからな」

 

「……君は真神君なのか……?」

 

「おい、木場。真神って誰だよ?」

 

一樹はすぐに佑斗に呼びかけて質問した。

 

「真神一誠君って言って、今日僕のクラスに転校してきたんだ」

 

「真神、一誠……だと…………お前まさか、『あの』一誠なのか?」

 

「ああ、そうだぜ。一樹」

 

次の瞬間、辺りが光に包まれたと思ったら、一誠は鎧を解除していた。

 

「「「「……え?」」」」

 

一樹、佑斗を除くリアス達は目の前の顔を見た瞬間に驚愕してしまった。

その顔はまるで一樹とうり二つだったのだ。違いは髪の色くらいだろうか。

一樹は茶色かかっている髪が、一誠は黒髪だ。

 

「カズキ……?」

 

「カズキ君、なのですか?」

 

「カズキさん……ですか?」

 

「……カズキ先輩に似ていますけど、別人です」

 

リアス、朱乃、アーシアは目の前の人物を一樹と勘違いしていたが、小猫だけは別人と断言した。

 

「正解だ。塔城小猫。お前の言う通り、俺は一樹ではない。よく……いや、流石と言うべきか?」

 

拍手の後で一誠は小猫を賞賛した。一誠を一樹と違うときっぱりと断言したのだ。

 

「だったら、誰だと言うの?あなたは?」

 

「だから、さっき木場が言っていただろ。真神一誠だって……まったくさっさと分かれよな……は~」

 

一誠はリアスの理解力の低さに溜め息を出してしまった。

そんなリアス達をよそに1人だけ頭の中がパンクしそうな人物がいた。一樹だ。

 

(どうして!どうして!どうして!あいつが生きてここに居るんだ?!折角、転生して一誠の兄ってポジションになって、あいつを追い出して俺がハーレムを築くはずなのに!!それに一誠は原作とは違う力を宿していた。だから余計な事をする前にあいつを消そうとしたのに!!)

 

兵藤一樹は転生者だ。それも原作知識と前世の記憶を持った転生者だ。

だからこそ、一樹は原作ヒロインを全て自分のものにするために一誠が邪魔だった。

しかも一誠は一樹も知らない力を持っていた。それゆえに一樹は幼い時に一誠を家から追い出した。

自分こそが主人公で原作一誠が作ったハーレムを己のものにするために。

 

「どうした?一樹。さっきから顔が青いぞ?」

 

「……して……どうしてだ……!!」

 

「ん?すまん。声が小さくて聞き取りづらいんだが?」

 

「どうして!お前は!!生きて、ここに居るんだ!!!お前はあの時に死んでいなきゃいけなったんだよ!!なのに!なのに!お前は……!!」

 

「カ、カズキ?あなた……」

 

リアス達は今まで見たこともない態度に困惑していた。それだけ一樹の取り乱した態度を見た事がなかったという事だ。

 

「俺がどうして生きているか……それは十年前にある神に拾って貰ったらからだよ」

 

「拾って貰っただと……何処の神なんだ!答えろ!!」

 

「まあ、それを含めて改めて自己紹介をした方がいいな。一先ず十年前に俺を拾ってくれたのはユグドラシルの主神、オーディンだ。……俺は今オーディンの爺さんの私兵をしている。真神一誠だ、よろしく」

 

「オーディンだと……?まさか、そんな事が……ありえない!有りえてたまるか!!」

 

一樹は一誠が言っている事が信じられないでいた。

 

「落ち着きなさい、カズキ。彼が本当にオーディン様の私兵という証拠はないわ。きっと彼は嘘でこちらを混乱させようとしているのよ」

 

「……部長……!そ、そうですよね!そうに違いない。きっとそうだ……!!」

 

(確かに俺がオーディンの爺さんの私兵だと証拠を出せと言われれてもそれは出来ない。だけど、ここまで話が通じないとは……逃げた方がいいな)

 

リアスと一樹の会話を聞いていた、一誠はあまりの2人の頭の中が大丈夫かと本気で心配していた。

一誠がオーディンの私兵である事を示すものはないので一誠は逃げる準備をしていた。

 

(部長の言う通りだ。あいつがオーディンの私兵なんて事はない。確かに一誠には俺も知らない力が有った。だからなんだ、ここであいつを殺して『原作』を守るだけだ。そうだ。俺が赤龍帝なんだ!絶対に誰にも俺のハーレムを邪魔させない!!リアス達にバレないようにしないとな……)

 

一樹の頭の中では、一誠をどのように殺すか考えていた。リアス達に不自然に見えないようにこちらの攻撃でうっかり死んでしまった事になるように。

 

「さあ!カズキも持ち直した事だし行くわよ、私の可愛い眷属達!」

 

「「「「「はい!部長!!」」」」」

 

リアス達は改めて構えた。しかし一誠は特に構える事は無かった。

それでも手には一枚の『黒色のカード』が握られていた。

 

「……(逃げた方がいいかと思ったがこれは戦って『格』の違いを見せた方がいいかもしれないな)……盛り上がっているところ、すまないが……話を勝手に進めないでくれ。まあ、俺がここで暴れたら色々と面倒なんで……『コクーン』展開!」

 

一誠が持っていたカードから闇が広がって、リアス達を飲み込もうとした。

 

「朱乃!」

 

「はい!部長!」

 

朱乃はリアスが何を求めているのが、すぐに理解してリアスと同時に魔法障壁を展開したが、カードから出てきた闇はそんなの関係ないようにリアス達を飲み込んだ。

 

「「「「「「!?!?!」」」」」」

 

リアス、朱乃、佑斗、小猫、一樹、アーシアの六人と一誠は廃教会から忽然と姿が消え去った。

そこに居た痕跡すら残さずに……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遊びと喪失感

「……ん?……ここは?どこなの……?」

 

「ここは『閉鎖空間』―――俺が作り出したバトルフィールドだ。リアス・グレモリー」

 

「!?!?」

 

リアスは一誠が放った闇に飲み込まれたのまでは覚えているが、そこ先が分からなく周りを見渡した。しかし、ここがどこか分からなかったが、その疑問には一誠が答えた。

 

「バトル……フィールドですって?どうして私達をここに?」

 

「さっきも言ったが、あの場所で俺が暴れるとあの辺り一帯が更地になりかねないからな。ここなら俺が多少暴れても問題はない。そこでリアス・グレモリー。俺と遊び―――ゲームをしないか?」

 

「ゲームですって?生憎だけど、あなたとゲームをするつもりはないわ!朱乃、転移を!」

 

「はい。部長!」

 

リアスは一誠の提案を跳ね除けて朱乃に転移を言い渡したが、いつまで経っても転移されない事をリアスは疑問に思っていた。

 

「……朱乃。どうして転移しないの?」

 

「……それが、部長。転移出来ません……」

 

「な!?そ、それは本当なの!?」

 

転移が出来ない事にリアスは動揺を隠せ無かった。転移が出来ないという事は脱出はもちろん外に助けを呼びに行く事すら出来ないという事だ。

 

「まったく、人の話は最後まで聞くべきだと思うがな。それとも流石は『グレモリーの我が儘姫』と言った方がいいかな?」

 

「……一度ならず二度もそれを口にするとはね……!!」

 

(あれで殺気を向けているつもりか?やはり俺の『敵』にはなりえないか……どちらかと言えば子犬だな)

 

一誠の軽口にリアスは殺気を向けていたが、一誠にしてみれば子犬が威嚇しているようにしかみえないようだ。

 

「で?どうするんだ。この空間から外に出るには俺の許可が必要だぞ」

 

(ここは癪だけど、彼の提案に乗らないと出られないようね。私達に戦いを挑んだ事を後悔させてやるわ)

 

「……あなたの提案に乗るわ」

 

「そうか。でも一つだけゲームを受けずにここから出られる方法があるが、どうする?」

 

「一体なんなの……その方法は?」

 

一誠はここから出られる提案をした。その内容にリアスは激怒させるものだった。

 

「なに、簡単だ。兵藤一樹の『命』を俺に差し出せ」

 

「!?……ふ、ふぜけないで!!私の可愛い眷属を差し出すわけないでしょ!!!」

 

「そうだ!ふざけるのも大概にしろ!一誠!!!」

 

リアスと一樹は一誠の提案を否定した。そもそも『情愛』のグレモリーが眷属を犠牲にする事は無いと初めから分かっていたからこそ、一誠は無茶な提案をしたのだ。

 

「差し出す気はないと?……まあ、そうでなくては俺が楽しめないからな」

 

「!?……あなたは最初からそのつもりで……!!」

 

「ああ、もちろんだ。この十年、俺はそいつを殺す事だけを思って生きてきた。本当ならしばらくは様子見してからにするつもりだったが……辞めた。今日、この時をもって兵藤一樹を殺す!!……さあ、始めようか?殺し合いを!!」

 

「「「「「「!?!?」」」」」」

 

リアス達は一誠が出した殺気と魔力に少し後ずさりしてしまったのだ。

一誠が放出した魔力は悪魔で例えるなら最上級ほどあったのだ。リアス達にとっては過去に戦ってきたどの者達より格上だ。

『レーティングゲーム』で戦った、ライザー・フェニックスよりも上だ。

 

「……ここはやるしかないわ。皆、ここで彼を倒すわよ!!」

 

「「「「「はい!部長!!」」」」」

 

リアスは脱出が出来ない以上、ここで一誠を倒す以外の選択肢がないので戦闘は必然だと言えるだろう。

眷属達もそれは理解していたので構えた。

 

「こちらも戦闘準備をしないとな。『フェニックス・ボーン』」

 

「「「「「!?」」」」」

 

(((((不死鳥?)))))

 

一誠は『フェニックス・ボーン』を着装した。リアス達は一誠の鳥を思わせる鎧に驚いて一同に『不死鳥』と思って固まってしまった。

 

「―――戦闘中に余所見か?ずいぶん余裕だな!」

 

「ぐはっ!?」

 

「カズキ!!」

 

一誠が身に付けた鎧を見てリアス達が固まっていたので、一誠はその隙に一樹を殴り飛ばした。一樹は殴られた事で派手に転げていった。

 

「……クソが!!―――がはっ!?」

 

「まったく、これでよく上級悪魔のフェニックスに勝てたな?」

 

一誠は転げて態勢を直した一樹に対して容赦なく殴りつけたが、それで黙っている一樹ではない。

 

「な、舐めるなよ!一誠!!」

 

「ふん!甘い!」

 

殴り飛ばされた一樹を一誠は今度は蹴飛ばした。一樹もなんとか態勢を立て直し赤龍帝の篭手を装備した左腕で反撃したが、一誠に簡単に受け止められた。

 

「くそっ!!離せ!!」

 

「まったく、離せと言われて離す馬鹿がどこに居る?」

 

一誠は一樹の物言いに少しばかり、いや大いに呆れていた。

 

「吹っ飛べ!!」

 

「がはっ!?」

 

一誠は一樹をリアスの近くまで蹴り飛ばした。

 

(あまりにも弱い。これじゃつまらないな……それにさっきから感じている。この喪失感はなんだ?)

 

一誠は先ほどから一樹を殴り蹴るなどしてから自分の内から何かが消え掛けているような喪失感に陥っていた。

例えるなら今まで勢いよく燃えているロウソクの火が消えたようなそんな感じだ。

怒り、憎しみと言った負の感情が少しずつ一誠の心の中から消えていっていた。

 

「……リアス・グレモリー。俺の最初の提案を受ける気はないか?」

 

「……最初の提案?」

 

「ゲームの事だよ。正直、ここまで一樹が弱いとは思わなくてな。これでは俺が楽しめない。だから、クリア出来たらここから全員だしてやるよ」

 

「……信用出来ないわね。何が狙いなの?(彼が私達を素直に出すとは思えない……)」

 

リアスは一誠の提案に疑問を持った。ここで一誠に一撃与えて素直に外に出すのか。それともリアス達を騙す嘘なのか、とリアスは一誠を疑っていた。

 

「……別に、ただ俺は確かめたいだけだ。この喪失感を……」

 

「……喪失感?」

 

リアスは一誠が何を言っているかが分からなでいた。そもそも何に対しての喪失感なのかが分からない。

 

「いや、気にするな。それでゲームだが、時間無制限で俺の敗北はグレモリー眷属が『一撃与える』事だ。それが出来れば、ここから出してやる。そっちにの敗北条件は全員が『参った。と言う』か、『戦闘続行不可能になる』かの二つだ」

 

「……あなたは私達を甘く見ているのかしら?その条件だと私達に圧倒的に有利になるわよ」

 

一誠対グレモリー眷属では人数的に一対六なのでカバーに入ったり時間稼ぎしたりが出来てしまう。それではリアス達に有利になる事がリアスはどうしても理解出来ないでいた。

 

(こっちにはアーシアが居るのよ。回復係が居るのだから例え戦闘続行不可能になっても時間さえ稼げれば、戦い続ける事が出来るわ。彼はそれが分かって言っているのかしら?)

 

『聖母の微笑み』と言う神器を持つアーシアがいる以上、ダメージを受けても回復が出来るので、そうなればアーシアの気力が持つ限り戦闘は続行可能だ。

 

「有利?お前らが?まったく、自分と相手の実力差を測れないとはな……情けないにも程があるな、『グレモリーの我が儘姫』?」

 

「!!……またしても、言ったわね!!そのヘラ口を今すぐに閉じてくれるわ!!皆、彼に私達と戦う事を後悔させてやりましょう!」

 

「「「「「はい!部長!」」」」」

 

一誠の挑発にリアスは簡単に乗ってしまった。もはや、反射と言っても文句は言えないだろう。

 

「まずは、カズキと佑斗、小猫の接近戦で彼の注意を引き付けておいて、朱乃は私と魔力を貯めて一撃に備えるわよ。アーシアは私の後ろに!」

 

「「「「「はい!部長!!」」」」」

 

リアスの指示を聞いて一樹達はそれぞれ行動を開始した。

 

「カズキ君。僕と小猫ちゃんが左右から攻めるから正面を頼むよ」

 

「ああ、任せておけ。木場」

 

「……分かりました。佑斗先輩」

 

「―――敵を前に悠長に話をするなよな」

 

一樹達が話しているといつの間にか一誠が一樹達の目の前に立っていた。一誠は『時間停止』してから一樹達に近付いた。

 

「この!!」

 

「遅い!」

 

「がはっ!?」

 

一樹が殴りかかろうとしたので、一誠は一樹の顔面に自身の拳をめり込まして殴り飛ばした。

 

「「!?」」

 

佑斗と小猫は一誠がいつ自分達の目の前に来て、一樹を殴り飛ばしたのかが分からなく、驚愕のあまり固まってしまっていた。

 

「固まっていないで、かかって来いよ!」

 

「!?……よくもカズキ君を!」

 

「……えい……!」

 

佑斗は右から小猫は左から一誠に攻撃したが、二人の攻撃を一誠は左右の指一本ずつで受け止めた。

 

「「な!?」」

 

「なんだ?この程度なのか?これではゲームが楽しめないな」

 

一誠はつまらなそうに言った。実際、一誠にとってグレモリー眷属は『敵』ではなく、そもそも『遊び相手』にすらなっていない。

 

「木場!小猫ちゃん!そこを退け!!」

 

「「!!」」

 

佑斗と小猫は一樹の指示通りに一誠から距離を取るためバックステップで離れた。

 

「これでも喰らえ!ドラゴン・キャノン!!!」

 

一樹は一誠に自身の魔力の塊を殴りつけるように放った。その魔力弾は一誠に向かって真っ直ぐに進んで直撃は避けれなかった。

 

「『時よ』」

 

一樹の魔力弾に対して一誠はそう言っただけで、一誠はそこから居なくなって魔力弾は誰に当たる事なく無駄に終わった。

 

「……今、何が起った?一誠は、どこだ……」

 

「どこを見ている?一樹」

 

「後ろだよ!カズキ君!!」

 

「!?」

 

一樹は佑斗に言われて後ろを見るとそこには腕を組んだ一誠が立っていた。一樹はすぐさま一誠と距離を取った。

 

「なんなんだ、一体……お前の力は……」

 

「それで俺の力の事を話すと本気で思っているのか?だとしたらとんだマヌケだな?一樹。でも、俺がそっちの知っているだけでは不公平だな。まあ、教えた所で対応出来るとも思えないしな。『時よ』」

 

「!?」

 

またしても一誠が一瞬にして一樹の目の前に現れた。

 

(どうなっているんだ?一誠との距離は7~8メートルはあったのに……こいつはどうやって距離を詰めたんだ……!!)

 

一樹は一誠がどうやって自分との距離を詰めたのか分からないでいた。

 

「お前らはこの『フェニックス・ボーン』が回復か火属性と考えているようだが、違う。この『ボーン』の属性は『時間』だ」

 

「じ、時間?……そんな事が、出来るのか……お前は……」

 

「ああ、そうさ。『時間停止』『未来予知』と言った時間に関する事なら全て出来るのさ、俺は。……さあ、続きを始めようか。お前らの敗北が決まったゲームを!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策と対応

一誠VSグレモリー眷属の戦いは一誠の一方的な展開で進んでいた。

『時間停止』『未来予知』の二つの能力を持つ『フェニックス・ボーン』の前では誰もが無力に等しい。

圧倒的な一誠にリアスは諦めてはいなかった。

 

(カズキが居る限り私は戦える!!)

 

リアスの心が折れずに戦えているのはひとえに一樹の存在が大きいだろう。

政略結婚をぶっ壊してくれた一樹は、リアスにとって掛け替えのない存在へとなっていた。

 

(だからこそ、絶対に『一撃』当ててやるわ!!)

 

リアスは最初一誠の事を大した事はないと踏んでいたが、戦闘が始まってみるとその考えを改めさせられた。

一樹、佑斗、小猫の三人がかりでも未だに『一撃』も与える事が出来ずにいた。

だからこそリアスは一誠が今まで戦ってきた中で一番強いと思い、今自分に出来る事をしようと決めていた。

 

(カズキ、佑斗、小猫。もう少しだけ耐えて!確実に『一撃』与えて見せるから!!)

 

ゲームに勝利する事だけをリアスは考えていた。それがここからの出る唯一の方法なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスから少し離れた場所で一誠と戦っていた一樹達は、一誠から聞いた能力に愕然としていた。

 

(『時間停止』に『未来予知』だと!?そんな相手に勝てるはずない!)

 

一樹はすでに諦めモードに入っていた。いくら転生しても『原作』に出てきていないもは分からないのだ。

ちらりと横にいる二人の顔を見たが、微塵も諦めていない顔していた。

 

「……木場と小猫ちゃんはあんな事を聞いたってのに全然諦めて居ないんだな?」

 

「まあ、ね。それに彼の能力だけどなんとなくだけど、攻略できそうなんだ」

 

「そうなのか?でも、どうやって?」

 

「彼に触れる事さえ出来れば、間接的に『時間停止』の方は効果がないはずだよ。自分まで停止させては意味がないからね」

 

佑斗は一誠の能力の事を誰よりも理解していた。時間停止で自分までも止めては意味がない。

その事を佑斗は一番に理解していた。

 

「問題は『未来予知』か……」

 

「……だったら死角から攻撃してみてはどうでしょう?」

 

「死角から?」

 

小猫の提案に一樹は首を傾げた。

 

「……はい。もしあの人の『未来予知』が目で見えている範囲だとしたら、死角からなら触れる事ができるかもしれません」

 

「小猫ちゃんの言う通りかもしれないね。カズキはどうする?」

 

「乗った。あいつに触れて『時間停止』さえなんとかすれば、後は部長か朱乃さんが『一撃』当てる事が出来るからな!……よし、やるか!」

 

「カズキ君ならそう言うと思ったよ。それじゃあ僕が彼の目を潰すよ」

 

「……なら私は佑斗先輩を援護します」

 

「なら俺があいつに触れる。頼んだぞ、二人とも」

 

「うん!」

 

「……はい」

 

一樹達は構え直して一誠に今考えた作戦を実行しようとしていた。

 

(どうやら、作戦会議は終わったようだな。俺もそろそろ遊びを終わらせるか)

 

一樹達の作戦会議が終わったのを見た一誠が構えたと同時に佑斗が仕掛けた。

 

「はっ!!」

 

「そんな剣筋では俺を捉えられないぞ?」

 

「そんな事は分かっているよ!『魔剣創造』」

 

佑斗は一誠に切りかかると同時に自身の『神器』を発動して大量の魔剣を作り出して一誠の周りを囲い込んだ。

 

(俺の『未来予知』の対応しては上出来だな。だが、俺がそれ位考えないとでも思ったか?)

 

一誠は佑斗の事を素直に褒めてが、それ位で一誠に『一撃』を与える事は出来ない。

佑斗が作り出した魔剣が邪魔で一誠は他の二人の『未来』が視る事が出来ない。一誠の『未来予知』は小猫が指摘した通り一誠の『眼』で見た範囲しか『予知』する事が出来ない。

 

「すぐに俺の『予知』をどう言うものか理解してきたようだが、それでは俺に『一撃』与える事は出来ないぞ」

 

「そんなの百も承知だよ!」

 

佑斗は二本の魔剣で一誠に切りかかったが、一誠は『予知』で余裕で回避した。

 

(一樹と白頭が見えないから『視る』事が出来ないな。それでもいつかは仕掛けてくる。その時『視れ』ばいい)

 

一誠は佑斗を相手にしながら他の二人の事もしっかりと意識していた。

 

「……そこです!」

 

「『時よ』」

 

小猫がいつの間にか一誠の背後に回り殴りかかろうとしたが、一誠は『時間停止』を発動して時間を止めた。

一誠は小猫の腕を掴み『時間停止』を解除してから佑斗に向かって投げつけた。

 

「ほらよ!」

 

「「―――ぐはっ?!」」

 

小猫を投げつけられた佑斗は空中でバランスを崩してそのまま落ちてしまった。

 

「―――そこだ!」

 

「ッ!?」

 

一誠が佑斗と小猫に目がいっている隙に、一樹が一誠の背後からがっちりと抱きついた。

 

「……男に抱きつかれる趣味は持ち合わせてはいないんだがな」

 

「俺だって、好きこのんで男に抱きつくか!これでお前の『時間停止』は俺には効かない!!今です、部長!朱乃さん!!」

 

一誠の動きを止めた一樹がリアスと朱乃に向かって大声で叫んだ。

 

「……ええ待っていたわカズキ。こっちは準備完了よ!」

 

「ふふっ……カズキ達を散々痛み付けたお礼はしっかりとしないといけませんわね」

 

リアスと朱乃は自身の魔力を極限までに高め備えていた。まさに一撃必殺のために。

 

「……いいのか?このままだとお前まで巻き込まれるが?」

 

「はっ!それくらい、どうって事ないな!『プロモーション・戦車』!」

 

リアス達の攻撃は一誠に当たる事は間違いないが、それでは取り押さえている一樹まで攻撃の巻き添えになってしまう。一樹はそれを『プロモーション』で『戦車』へと『昇格』して防御力を高めることで対処した。

これで少なくとも直撃する一誠よりかはマシになると考えてのことだろう。

 

(カズキが攻撃に巻き込まれるのは嫌だけど、まずはここを出ないと!)

 

リアスは一樹が攻撃に巻き込まれるのを嫌っていたが、リアスは『王』なのだ。

勝つために出来る事をするのは当たり前だろう。

それにライザー戦で自分の甘さをしっかりと理解しているからこそ、この『眷属が自分の攻撃が巻き込まれる』作戦に賭けたのだろう。

 

「成る程な……甘ちょろい『王』かと思っていたが、少し評価を改めないとな。だが、いい加減離れろ!『ケルベロス・ボーン』!」

 

「な!?」

 

一誠はリアスの評価を少し改めた。そして次の瞬間に『ボーン』を変えた。

 

(姿が変わった、だと……こんだけ密着しているのに姿を変える事が出来るのか……!!)

 

一樹は一誠の鎧が変わった事に驚いてしまった。密着している状態でも自由に鎧を変えられる事は状況によって臨機応変に対応出来るという事だ。

 

『ケルベロス・ボーン』

雷属性のボーン。雷属性の中でかなりの破壊力を持っているボーンだ。

胸、両肩に犬が威嚇しているような顔があり黒と黄色で彩られている。

 

「今更、鎧を変えた所でどうにもならないわ!『滅びよ』!!」

 

「今更、無駄ですわ『雷よ』!!」

 

リアスは消滅の魔力弾を朱乃は雷を一誠に向かって放った。一樹は二人の攻撃に備えつつ一誠の拘束を緩めなかった。

例え二人の攻撃でダメージを受けてもアーシアが居るので即座に回復が出来るからだ。

 

「……『曲がれ』」

 

一誠がたった一言言い放っただけで、朱乃の雷がリアスの魔力弾に当たり相殺してしまった。

 

「「「な!?」」」

 

一樹、リアス、朱乃は何が起ったのか理解出来ないでいた。分かっている事は鎧を変えた一誠の一言で、朱乃の雷がリアスの魔力弾に当たった事くらいだろう。

 

「いい加減、離して貰おうか。『雷帝の解放』」

 

「―――ぎゃあああぁぁぁぁああああ!!?!!?」

 

「カズキ!!」

 

一誠は自身の身体から強力の雷を放った。一誠に密着していた一樹は回避する事が出来ずに一誠の攻撃を受けてしまった。

『プロモーション・戦車』で一樹は防御力を上げていたが、一誠の雷がその防御を軽々に超えていたのだ。

 

「ぁぁ……ぁぁ……」

 

「このくらいの攻撃でダウンか?情け無いな。それでも赤龍帝か?」

 

一樹は一誠の攻撃で完全に気を失って痙攣していた。そして一誠は右手を手刀にして魔力を集中させた。

オーバーキルと言ってもいい位の魔力を込めている。

 

(これでこいつへの『清算』は終わる……でも何で俺はこいつに対して今、何も思わないんだ?)

 

一樹への『清算』を前に一誠は妙な気分でいた。確かに一誠の中には一樹への復讐心があったが、今は何も無くなっていた。

一樹を攻撃している内に一誠の復讐心は綺麗さっぱり消えていた。

 

「……俺は結局、何がしたかったんだ……」

 

一樹にトドメを刺そうとして動きを止めてしまった一誠を見て動き出した者達が居た。

 

「カズキ君!!」

 

「……カズキ先輩!!」

 

佑斗と小猫の二人だ。一誠を挟み込むようにして攻撃をしかけた。一誠は手刀を一樹ではなく佑斗に向けて振りかざしたが、佑斗はそれを屈んで回避して一樹を抱えて一誠から離れた。

 

(僕の思った通りだ!鎧が違うから能力も違う!だから僕の動きを『予知』出来ない!!)

 

佑斗は鎧が変わったことで能力が変わったと考えていた。だからこそ一誠は佑斗の動きを『予知』出来ずに攻撃を避けられた。

まず『フェニックス・ボーン』ならこうはならなかっただろう。

 

そして佑斗は攻撃を回避して一樹を回収してからリアス達の後ろに居るアーシアの元に届けた。佑斗の狙いは最初から一樹だった。

瀕死の状態である一樹の回復が最優先だと佑斗は判断した。

 

「アーシアさん!カズキ君を!!」

 

「は、はい!カズキさん。しっかりしてくだい!」

 

アーシアは『聖母の微笑み』を使い一樹の回復に務めたが、ダメージが思いのほか大きく回復にはそれなりの時間が必要であった。

 

「……よくも私のカズキを……!!」

 

一樹を傷つけられて事でリアスの怒りは最高潮を迎えていた。リアスの人生の中で一番の魔力放出量だった。

怒りは力を引き出すのに最も適した感情だろう。

 

「…………」

 

一誠は黙ってリアス達を見ていた。ただ、呆然と。

 

(どうして俺の中から一樹に対しての感情が消えたのかは分からない。それなら……まとめて消すか)

 

怒り全開のリアスを他所に一誠は無言で考え込んでいた。そしてリアス達全員を消す事を決めた。

そうすれば、きっと自分の中から消えた感情の理由が分かるだろうと思い。

 

「……まあ、もういいか。まとめて消えうせろ!『雷帝の裁き』!!」

 

「喰らいなさい!!『滅びよ』!!!」

 

一誠はリアス達が消し飛ぶの十分過ぎる雷を放った。それに対してリアスの消滅の魔力弾は一誠の雷の十分の一に満たないかった。

このままいけばリアス達は一誠の攻撃で死んでしまっただろうが、二人の攻撃がぶつかろうとしたその瞬間

 

―――空が割れて『魔力の塊』が落ちてきた。

 

「何?!」

 

一誠はあまりの出来事に驚いてしまった。

 

(『コクーン』の中に入って来ただと!?そんな奴はユグドラシルにすら居なかったぞ!)

 

『コクーン』は出る事も入る事も不可能な『隔離空間』なのだ。そこに入ってきたのだから一誠の驚き様は尋常ではなかった。

そして入って来た『魔力の塊』が何なのか一誠とリアス達に分からなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔神と魔王

一誠とリアスの攻撃に割って入って来たのは魔力の『塊』だった。

それもリアスと同じ『滅び』の魔力だ。

 

(一体、何だ。この『塊』は?リアス・グレモリーと同じ『滅び』の魔力だが、リアス・グレモリーより質が圧倒的に上だ)

 

一誠は目の前の『塊』に今まで無いくらいに警戒していた。これまで出会った中でこれほど『異質』な存在はいなかったからだ。

 

(念のため、『アレ』を試してみるか……)

 

一誠は以前より試そうとしていた事をこの場面で使う事にした。一誠は一枚のボーン・カードを手に取った。

 

「『グリフォン・ボーン』レッグ。着装!」

 

一誠は用心のために足の部分だけ別のボーンへと変えた。

 

『グリフォン・ボーン』

風属性のボーン。ボーンの中でもドラゴンと並ぶ力を秘めている。

 

(『ボーン』の二体同時は初めてだが、これと言った代償があるわけではないんだな)

 

一誠の試したい事は二体のボーンの同時着装だ。しかし二体同時は一誠のとって初めての事だった。

一誠は代償の事を考えて今までしてこなかったのだ。力には代償があるものだから。

それも大きければ大きいほどにだ。

だが二体同時でもこれと言った代償はなかった。

 

(これなら三体同時も行けそうだな。それが出来れば、『あいつら』を呼び出す事が出来るな)

 

一誠には他にも試したい事があった。ボーンを三つ揃えて初めて呼び出す事が出来る存在がいる。

今回の二体同時はそのための準備と言える事だろう。一誠が考え事をしていると魔力の『塊』に変化が起った。

 

「……何だ?」

 

魔力の『塊』が段々と人型になっていったのだ。そして現れた人物を見てリアスは驚き大声になってしまった。

 

「!?……お、お兄様!?」

 

「やあ、リアス。それに眷属の皆も無事……とは言えないね」

 

魔力の『塊』の正体はリアスの兄して現四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファー。その人―――いや、悪魔だった。

サーゼクスはリアスの無事を確認してから眷属を見て、一樹以外は軽傷だと判断してリアスにある物を渡した。

 

「持ってきて、正解だったね。リアス、これをカズキ君に」

 

「は、はい。カズキ、しっかりしなさい」

 

サーゼクスがリアスに渡したのは『フェニックスの涙』と言う回復アイテムだ。

リアスもしくは眷属の誰かが大怪我をしているのではないかと念のためサーゼクスが持ってきていたのだ。

 

「それであの鎧の人物は一体、何者なんだい?」

 

「あれはカズキの双子の弟だそうです……」

 

「カズキ君の弟……?確か弟は行方不明のはずだったね」

 

サーゼクスはじっと一誠を見て、両手を上げた。

 

「こちらに君と戦う意思はない。話し合わないかい?」

 

「お兄様!?何を言っているんですか!彼に話す気になどありません!カズキを殺そうとしたのですよ!!」

 

「確かにそうかもしれないね。でも今はどうだろうね?彼はこちらを警戒しているだけで戦うようには見えないね」

 

リアスはサーゼクスがいきなり何を言っているのか分からなかった。助けに来たかと思いきや一誠に話し合いを持ちかけたのだ。

 

「それでも彼は危険です!ここで殺すべきです!!」

 

「しかしねリアス。私はここに『入る』事は出来ても『出る』事が出来ないんだよ」

 

「な?!」

 

サーゼクスの言葉に思わずリアスは驚きを隠せ無かった。

 

(やっぱりそうか……そうだよな。ユグドラシルでも誰も出る事は出来なかったんだ。だったら魔王はどうやって入ってきたんだ?)

 

一誠はサーゼクスが『コクーン』に入って来たのか分からなかった。

空間を隔離してある『コクーン』は外と連絡すら出来ない。そんな状態で『コクーン』の正確な位置を外に伝えて助けに来てもらう事は出来ないはずなのだから。

 

「私はサーゼクス・ルシファーと言う者だ。君の名を聞いても?」

 

「……俺は真神一誠だ。魔王直々とはな……どうやってここに入った?ここは俺の許可なしで入る事は出来ないはずだ。なのにアンタは入ってこれた。何故だ?」

 

「何、一樹君達の『悪魔の駒』の位置を調べただけさ。そしたらどこかの閉鎖空間に居る事が分かったから強引に入り口を開けたのさ」

 

「……なるほど、な」

 

サーゼクスが名乗り一誠も名乗った。そしてサーザクスが言った事に一誠はどこか納得していた。

流石は最強の悪魔だと。

 

 

 

最凶の魔神と最強の魔王の出会いは予期せずこうして果された。

 

 

サーゼクスは一誠の名前を聞いてからずっと考えていた。

 

(一誠?確かカズキ君の弟の名がそうだと聞いていたが、に……まさか彼がそうなのか?)

 

サーゼクスは一誠の名を聞いてからある事を思い出していた。

 

「アンタも俺と戦いに来たのか?魔王」

 

「その前に一つ聞いてもいいか?」

 

「……何だ?」

 

「どうして君は私の妹達と戦っていたんだい?」

 

「お前の妹が強引に俺を連れて行こうとしたから抵抗したまでだ。それとも悪魔は人権を踏みにじる事が出来るほど偉いのか?」

 

サーゼクスはどうしてリアスと戦っていたのかを一誠に聞いて、リアスを睨みつけた。

 

(……まったく、この子は。何とか彼を説得しなければ)

 

サーゼクスはリアスを睨みつけながら呆れていた。もしこの事が外部に知られたら『グレモリー』の名に傷がつくだけではすまないと思い、サーゼクスは一誠の説得を試みた。

 

「それは私の妹がすまない事をしてしまったね。それで一つ頼みを聞いてはくれないだろうか?」

 

「……頼み?」

 

「ああ、この事は我々だけの胸の内にして欲しい。どうだろうか?」

 

サーゼクスの頼みとは今回の戦闘を誰にも言わないと言う事だ。すでに一樹を殺す理由が無くなった一誠としてはどうでも良かった。

 

「……分かった。こちらも今回の戦闘の事は誰にも言わない。すでに俺に一樹を殺す理由はどこにも無いからな。『コクーン』閉鎖」

 

すると空間が収縮していき、一誠達を押し潰そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここは?元の場所に戻った?」

 

リアスが目を開けて見るとそこは先ほどまで居た廃教会だった。リアスは周りを見渡し眷属と兄の姿を確認した。

 

(お兄様やカズキ達は居るわね)

 

その姿を見てホッと安心したが、一人だけ姿が見えない人物がいた。一誠だ。

一誠だけが姿が見えなかった。

 

「皆!彼が居ないわ!!まだ近くに居るはずよ!見つけ出して!!」

 

「その必要はないよ、リアス。それに探しても見つからないよ、彼は」

 

リアスが探そうと眷属達に命令しようとした所、サーゼクスに止められてしまった。リアスはそれが我慢できないでいた。

 

「それでも彼は私の大事なカズキを殺そうとしたのですよ!このまましておけば、私達に害を及ぼす可能性があります!彼を捕縛しておかないと!!」

 

「それをすれば我々はユグドラシルを完全に敵に回しかねない。だから彼には何かする必要はないんだよ、リアス」

 

「?……それはどう言う意味ですか?」

 

「それについて話す前に場所を変えよう」

 

サーゼクスの言葉の意味が分からずリアスはしぶしぶと場所を変える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?……ここはオカ研?……ッ?!」

 

一樹はガバッ!と勢いよく起き上がって周りを確認してオカ研の部室である事を再確認した。

 

「カズキ……良かったわ。気が付いたのね」

 

「部長に……サーゼクス様!?」

 

一樹は目の前の人物に思わず驚いてしまった。誰だっていきなり魔王が居たなら驚いてしまう。

 

「それじゃカズキ君が目を覚まして事だし説明しようかな。急に呼び出して済まないねソーナ君」

 

「いえ、魔王様。お気になさらずに」

 

サーゼクスに呼ばれた少女ソーナは一行に構わないように言って頭を下げた。

 

ソーナ・シトリー。

シトリー家の時期当主でリアスとは幼馴染の関係だ。人間界では『支取蒼那』と名乗って駒王学園の生徒会長をしている。

 

サーゼクスは彼女にも知ってもらうためにオカ研の部室に呼んだのだ。

 

「ソーナ君は生徒会長だから知っているかもしれないが、今日転校してきた人物『真神一誠』君の事だ。彼は『魔神』だ」

 

「ま、魔神ですか?どうしてそう言いきれるのですか?お兄様」

 

「今から十年くらい前にユグドラシルの方で強い力の波動を感じたんだよ。それでユグドラシルに確認を取った所、オーディン殿が言われたのだよ」

 

サーゼクスは一呼吸置いてから険しい顔になって続けた。

 

「……『ユグドラシルにて魔神が生まれた』と。それは各神話勢力に広まったが、その殆んどがオーディン殿の嘘ではないかと思っていた。私も初めは嘘ではないかと思っていた。しかし私はあれは嘘ではないと今日、確信したよ」

 

「それはどう言う意味ですか?お兄様」

 

リアスはサーゼクスが言う確信と何か分からなかった。いや、部屋に居る他の者にも分からず首を傾げていた。

 

「つまり彼―――真神一誠君に私は恐怖したんだよ。彼は己の『力』の一割も出してもいなかった。私には彼の力の底が見えなかった」

 

「「「「「な!?」」」」」

 

部屋に居たリアス達はサーゼクスの言葉に驚きを隠せ無かった。

冥界最強の悪魔にして四大魔王の一人で『ルシファー』の名を受け継いだ。そんなサーゼクスが恐怖を覚えたと言ったのだ。

驚くなと言う方が無理だ。

 

「そ、それでお兄様。彼に何かすれば、ユグドラシルを敵に回すとは何なのですか?」

 

「真神君はオーディン殿の私兵なのだよ。もしリアスが強引な事を彼にすれば、それがオーディン殿の耳に入りユグドラシルが我々の事を『敵』を見かねない……我々を殺す大義名分を与えてしまう」

 

「そんな、事が……」

 

リアスはサーゼクスから告げられた事に信じられずに居た。それは一樹も同じだった。

 

(一誠の奴がオーディンの私兵なのか?ふざけるなよ!!『原作』に無い事ばかりしやがって……!!いつかあいつを消しておかないとな)

 

一樹は一誠をどう消そうかと考えを巡らしていた。転生者の彼にとってこの世界は自分にとって都合がよくないといけなった。

 

(交通事故に遭って転生出来たんだ。この世界でハーレムを作って生きてやる!って決めたんだぞ!)

 

一樹は前世の事を思いながらこの世界でどう楽しく過ごすのかと考えていた。

 

サーゼクスはリアスとソーナの顔を見て一誠についての事を話した。

 

「リアス、ソーナ君。君達はこれから真神一誠君に不用意近付かないように。これは魔王としての命令だよ」

 

「しかしお兄様!!彼はカズキを殺そうとしたのですよ!このままにしておくのは出来ません!!」

 

「リアスの言う事にも一理あります。せめて監視だけでもしてはいかがでしょうか?」

 

サーゼクスの命令にリアスは納得がいかず魔王である兄に怒鳴ってしまったが、ソーナが『一誠の監視をするべき』とリアスに助け舟をだした。

ソーナに提案にサーゼクスは少し考えて答えた。

 

「……分かった。監視は付けよう。ただし彼の気分が害さないように細心の注意をしてくれ」

 

サーゼクスはそう言って、冥界に帰って行った。

リアスとソーナはこれからの事を話し合い始めた。一誠の監視についての話を。

 

「それでどうしますか?リアス。監視を誰に?」

 

「それなのだけど、クラスメイトの佑斗に頼むわ。お願いね佑斗」

 

「はい。部長。……でも彼は学校に来るでしょうか?僕達と戦った後で?」

 

佑斗は自分が思っていた事をリアスに言った。普通ならあれだけの事をした後では居なくなっても可笑しくはない。

しかしリアス達の期待を裏切るように一誠は次の日から何事無かったように学校に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山の中を移動している集団がいた。

 

「早くしろ、フリード」

 

「待ってくれよ~コカビエルのダンナ~」

 

「グズグズするな。アザゼルの奴が動く前に始めるぞ。―――古の大戦続きを」

 

一体の堕天使と一人のはぐれエクソシストが日本の駒王町に向かっていた。堕天使の手には三本の『エクスカリバー』が握られていた。

 




次回からコカビエル編に入ります。

お楽しみに!では。

更新の間隔が開いていきますので、すいません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖剣事変
帰郷と期待


一誠とリアス達の戦いから数日後、二人の少女がヴァチカンから日本に入国した。

いや、一人に関しては帰郷したと、言った方が正しいだろう。

 

一人は紫藤イリナ。

教会から『擬態の聖剣』を与えられた使徒で栗色の長髪をサイドテールにしているいかにも元気がありそうな少女だ。

 

もう一人はゼノヴィア・クァルタ。

こちらは『破壊の聖剣』を与えれている使徒だが、それと別にもう一本の聖剣を持っている。

青い髪に緑のメッシュがある少々目つきが鋭い少女だ。

 

二人はヴァチカンの命令で日本の駒王町に来ていた。二人の任務は堕天使コカビエルに奪われし三本の聖剣の奪還。

それが二人に命じられた任務だ。

 

しかし彼女達が任務をこなす上で避けては通れない事がある。二人が向かう場所は魔王の妹達が管理しているという事だ。

それも彼女達は任務をこなすだろう。例え誰が相手だろうと。

 

 

 

 

 

「ん~……やっと到着したわ。私の故郷に!」

 

「そうだな。ここが君の故郷か。イリナ」

 

「そうよ、ゼノヴィア。任務で無ければ、良かったのに……」

 

二人の少女の内の一人―――イリナが日本に着いて自分の生まれた故郷を懐かしんでいた。

イリナの手には一枚の写真が握られていた。

 

「イリナ。その写真の隣が君の幼馴染の少年だな?」

 

「そうよ、ゼノヴィア!兵藤一誠君って言ってすごくカッコいいんだから!会うのが楽しみよ。ああ、主よ。再会の機会を与えてくださって感謝します。アーメン!」

 

「イリナ。祈るのはいいが、早く任務をすませよう。汚らわしき堕天使が何をしでかすか分からないからな」

 

「ええ、もちろんよ。まずは悪魔達に会わないとね」

 

「―――お嬢さん達、教会の人?」

 

二人は管理をしている悪魔に会うために駒王学園に向かおうとしたところ声を掛けられた。

声を掛けてきたのは路上販売をしていた男だ。

 

「そうだが?何か用か?」

 

「良かったら、見ていきなよ。サービスしておくからさ」

 

「え!?本当!?」

 

男の誘いにイリナは食い付いた。そして並べてある絵を見て一枚取ってみた。

 

「お嬢さん!お目が高い!それは聖なるお方が描かれた、素晴らしい絵だよ。買うなら今しかないよ!」

 

「う~ん……でもこれを買うと支給金が……」

 

教会から支給された金は聖剣奪還までの食費、宿泊費や必要な物を買うための金だ。ここで使えば持って来た金額の約9割を使う事になる。

 

(どうしよう!?ここで買わないと二度と買えないかもしれない!私はどうしたらいいのですか?主よ?)

 

イリナはこれでもかと言うくらいに考えた。

支給額を殆んど使ってこの絵を買うか、それとも諦めるかの究極の二択を頭がオーバーヒートするくらいに考えて結論を出した。

 

「……背は腹に変えられない……おじさん、私はこのを絵を買うわ!!」

 

「毎度!なら汚れないように包んでおくね」

 

「ありがとう!」

 

「おい、イリナ。ここで使うと宿泊費や食費がなくなるぞ」

 

「大丈夫よ、ゼノヴィア。それくらい色んな人から恵んで貰えば!なんせここは私の生まれ故郷なんですもの!」

 

イリナは自身満々にゼノヴィアに言ったが、ゼノヴィアはそれが心配でしょうがなかった。

 

(本当に大丈夫なんだろうか?これも試練なのですか?主よ。しかし見事超えてみせましょう!)

 

ゼノヴィアは絵を買ってご機嫌のイリナを見ながら相棒の行動を神からの試練だと勝手に変換して、超えなければと気合いを入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんが、リアスは今、席をはずしていまして……ここには居ませんので後日に来ていだかないと……街に関しては彼女の担当なので」

 

「そうか、分かった。今日はこれで失礼しよう。イリナ」

 

「そうね、ゼノヴィア」

 

駒王学園に着いた二人はさっそくリアスと話し合おうとしたが、リアスは私用で居なかった。そのためソーナが対応していた。

今、リアスは一誠の監視を眷属と交代でしていたのだ。

もちろんこの事をソーナは把握しているので特に問題ではない。しかし問題が起こった。目の前の二人だ。

 

(真神君の事があるのに……堕天使コカビエルとは、厄介ですね)

 

ソーナは二人から聞いた標的に冷や汗をかいていた。なにせ相手は『神の子を見張る者』の幹部の一人―――コカビエルだ。

しかも古の大戦を生き残った程の堕天使だ。

 

「会長……」

 

「椿姫……貴女の言いたい事は分かります」

 

ソーナの顔を見て眷属で『女王』の森羅椿姫が不安な顔を見せた。

彼女達は教会の使徒二人だけでコカビエルに勝てるとは思ってはない。むしろ負けるのが分かりきっているのにどうして戦うのかが分からなかった。

 

「彼女達はやはり教会の使徒と言ったところです。まずはリアスにこの事を報告しなければ……」

 

「すぐに連絡を取ります」

 

「ええ。頼みましたよ、椿姫」

 

ソーナ達は急ぎリアス達に連絡して教会の使徒二人が来た事やコガビエルの事を報告した。そして、会ってこれからの事を話し合いたいと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナの所を後にしたイリナとゼノヴィアは、イリナの案内である家に向かっていた。

 

「確かこの辺りのはず……」

 

「イリナ……覚えていないのか?」

 

「だって、もう十年近く前のなのよ!うろ覚えなんだから仕方ないでしょ!!」

 

道案内をしているイリナに不安顔でゼノヴィアは「こいつ、大丈夫か?」と見ている。

イリナは必死になって当時の事を思い出しながら探していた。

 

「……見つけた……見つけたわ。ここよ、ゼノヴィア!」

 

「やっと着いたか……主よ。私は見事、試練を乗り越えました」

 

「もう、ゼノヴィア。祈りもいいけど、早く入りましょ」

 

祈っているゼノヴィアを他所にイリナは家のインターホンを押した。

 

『はい。どちら様でしょうか?』

 

「お久し振りです。私、紫藤イリナです」

 

『え?イリナちゃん?本当に?待ってて今開けるから』

 

イリナに対応したのは家に居た女性だ。相手がイリナだと分かるとすぐに玄関を開けて二人を家に入れた。

 

 

 

 

 

「本当に久し振りね、イリナちゃん」

 

「はい。おば様もお変わりないようで」

 

「……」

 

イリナと女性が話している間、ゼノヴィヤは出されたお菓子や飲み物を口に運んでいた。

二人は昔話に花を咲かしていた。

 

「昔はよく遊びに来てくれたものよね。ご両親はお元気?」

 

「はい。二人とも元気にしています。それでイッセー君は?」

 

イリナが一誠の聞いた所、女性の瞳から光が消えた。彼女はまるで人形になってしまったかのようだった。

 

「……イリナちゃん。私の息子の名前は一樹よ?……『イッセー』って誰なの?」

 

「……え……?」

 

イリナは女性の言葉が信じられないでいた。その時、玄関から声が聞こえたきた。

 

「ただいま~」

 

「た、ただいま戻りました」

 

一樹とアーシアが悪魔の仕事が終わって帰宅してきた。

 

「お!イリナ。久し振りだな」

 

「カズキさん。お知り合いですか?」

 

「ああ、イリナは幼馴染なんだ」

 

イリナを見た一樹は挨拶をした所、隣にいたアーシアが一樹に質問した。そして一人は幼馴染だとアーシアに答えた。

しかしイリナは一樹が現れて、すぐに一樹に掴みかかった。

 

「一体、おば様に何をしたの!?」

 

「な、何だよ。急に?!」

 

イリナに掴みかかれて一樹は訳が分からないでいた。

 

(どう言う事なんだ?『原作』じゃあイリナってこんな性格だったけ?それに俺が母さんに何をしたって言うんだよ?!)

 

イリナに服を掴まれて締め上げられてた一樹は混乱していた。

 

「……私は知っていてけど、動けなかった。でも昔とは違う。お前のようなクズが兄なんて、本当に!!イッセー君が可哀相だわ!!」

 

「だから何であんな奴の名前を出すんだよ!?アイツは十年前に家を出て行ったんだよ!」

 

「それじゃあ何でおば様がイッセー君の事を知らないなんて言うのよ!?」

 

「……え?」

 

一樹は思わずマヌケな声を出してしまった。イリナが何を言っているのか分からなかった。

イリナは一樹のマヌケな声を聞いて、更に怒りに火が着いた。

 

「イリナちゃん。落ち着いてね?二人が言っている『イッセー』って本当に誰なの?」

 

「母さん……それ本気で言っているのか?確かに母さんはあいつの事を嫌っているけど、それは幾らなんでも……」

 

流石の一樹も母親の言っている事に動揺していた。

しかし一樹はすぐに母親の異変に気付いた。瞳から生気が消えていたのだ。

 

「……母さん……?」

 

「…………」

 

一樹の声にすら無反応になっていた。

 

「これで何かしていないと言えるの!?貴方は最低のクズよ!!」

 

「おい、イリナ!」

 

イリナは一樹に罵倒した後、家を飛び出た。ゼノヴィアはイリナを追いかけるように出て行った。

 

「か、カズキさん……」

 

「……アーシア。部長にすぐに連絡してくれ。大至急……」

 

「は、はい!」

 

一樹に指示されてアーシアはすぐにリアス達に連絡した。リアス達が一樹の元に来たのはそれから十分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでどう?朱乃」

 

「はい。カズキ君のご両親の記憶の一部が封印されていますわ。部長」

 

「そう……分かったわ。とりあえず二人を寝室に運んでおいてちょうだい。小猫、朱乃を手伝ってあげて」

 

「……はい」

 

リアスに言われて、朱乃と小猫は一樹の両親を寝室まで運んだ。

 

「それでカズキ。貴方の弟についての記憶が封印されていると言うのは間違いなさそうね」

 

アーシアがリアス達に連絡してすぐに一樹の父親が帰って来たので一樹は先程と母親と同じように質問した所、同じように瞳から生気が消えてしまった。

そこで一樹はリアスに二人の記憶を視て貰った。

その結果が、一部の記憶の封印だった。どうしてこうなったのかはリアスには分からなかったが、一樹は違った。

 

「記憶を封印したのは間違いなく一誠の奴ですよ!!」

 

記憶を封印した犯人は一誠だと断言した。

 

「一樹はどうしてそう思うの?」

 

「だって、二人そろって一誠の事を憶えていないんですよ!それならあいつが一番怪しいじゃないですか!!」

 

一樹の言葉は怒りに満ちていた。リアスは「そうね」と言って考える。

 

(彼が記憶を封印したとして、その目的は?封印した記憶は一部だけ、これは調べれば簡単に犯人を特定できる。どうしてそんな事を?)

 

一誠の事を知らないリアスはその答えがまるで見えてこなかった。

考え込んでいると朱乃と小猫が戻ってきた。

 

「朱乃。二人の記憶を戻す事は可能?」

 

「……すみません部長。とても私程度では無理です」

 

朱乃が自分程度と言った事でリアスはこれの封印の強さが大体分かった。これは自分達には到底解く事の出来ない代物だと。

 

「分かったわ。とりあえず今日はここに皆で泊まりましょう。カズキの安全のためにね」

 

「ありがとうございます!部長!」

 

「ふふっ……私の可愛い眷属のためだもの」

 

リアスはそう言って一樹を抱き寄せた。それを見たアーシアが対抗心を燃やして背中から一樹に抱きついた。

 

(前は巨乳。後ろは微乳。なんとも堪らない感触だな。でヘヘ……)

 

一樹は前と後ろからの感触を大いに楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹がリアスとアーシアの胸の感触を楽しんでいる頃、ゼノヴィアは飛び出したイリナに漸く追いついた。

 

「イリナ。大丈夫か?」

 

「……ゼノヴィア。私、分かんなくなっちゃった……一体何なの?全部あいつの所為なのに……!!」

 

「イリナ……」

 

イリナとゼノヴィアが居るのは堕天使の一団が根城にしていた廃教会だ。外では大きな雨音がしてきた。

 

「イリナ。とりあえず、どこか雨が凌げる場所に行こう。ここでは身体が冷えてしまって任務に支障が出てしまう」

 

「……うん。分かったわ」

 

二人がこの廃教会に入る前に雨が負ってきたため全身ずぶ濡れになっていた。体調管理も任務の一環なので、万全の状態にしておきたかった。

 

「―――こんな所で何をしているんだ?」

 

二人が外に出ようとした時、入り口の方で男の声がした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手伝いと出会い

「こんな所で何をしているんだ?」

 

と、一誠が廃教会で二人の少女に話し掛ける少し前まで時を遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠はざあざあと雨の降る中、買い物中だった。

 

「買い物はこんなもんか……そろそろ『あいつ』が現れそうだからな」

 

一誠は時々訪ねて来る人物の事を思いながら買い物をしていた。ちなみにメニューはカレーだ。

北欧ではあまり作った事がないので作ってみる事にしたのだ。

雨が降る中、妙な事に一誠は気が付いた。周りに人気が無くなっていたのだ。時間的にこれ程人が居ないのはむしろ不自然だった。

 

ガッキン!ガッキン!

 

雨の中、金属同士が当たり甲高い音を出していた。誰かが戦っているのは一目瞭然だ。

 

(戦っているのは誰だ?それに人気が無いのは人避けの結界が張られているからか)

 

一誠は人気が無いのは人避けの結界が張られているからだと見抜いた。戦っている人物が張ったか、もしくはその協力者が張っているという事だろう。

一誠は音が鳴っていた場所に向かって歩き出した。そこには傷だらけの意外な人物が居た。

 

「こんな所で何をしているんだ?木場」

 

「……真神、君……?君こそどうしてこんな所に?」

 

「音がしてたし人避けの結界が張ってあったんでな。それにしてもだいぶやられたな」

 

音の発生源に居たのは木場佑斗だった。佑斗の身体は所々に剣で斬られた傷が見えていた。それもただの傷ではない。

 

「聖剣か?悪魔のお前には相当なダメージだな」

 

「…………」

 

「ダンマリか?まあいいか。『クジャク・ボーン』」

 

一誠は一枚のボーン・カードを佑斗に向けた。カードからは緑色の光が佑斗を包んだ。

その瞬間から見るみると傷が治っていった。

 

『クジャク・ボーン』

木属性のボーン。生物の自然治癒力を数百倍にまで上げるボーン・カードだ。数ある『ボーン』の中で特殊能力が強いカードだ。

 

「…………どうして僕を治すんだい?君はカズキ君の事を殺そうとしたのに?」

 

「確かに俺は一樹を殺そうとした。でも勘違いするな、俺が殺そうとしたのは一樹であってお前ではない。それにどういう訳か今の俺はあいつに微塵も殺意を持っていない。それどころか興味すらない」

 

「……だから、どうして僕を治したんだ?治したところで良い事なんてないだろうに……」

 

「そうでもない。お前を治したのは確かめるためだ」

 

「……確かめるため?何を?」

 

「お前の復讐をだよ。……お前の目は以前の俺の目とそっくりだ」

 

佑斗は一誠の言葉の意味を探ろうとして一誠と目を合わせた。そこにいた一誠は以前、戦った時とは違い穏やかな雰囲気があった。

 

(あの時とは全然違う?)

 

それを見た佑斗は一誠が戦った時は違うと感じ取った。

 

「……僕に君の言う事を信じろと?」

 

「ああ、そうだ。俺は気になっているのさ。どうして俺の中から一樹への殺意がなくなったのか。それを確かめるためにも……俺の復讐と他の復讐を見比べてみるのもいいかなって、思ったからだ」

 

「……だから僕の復讐を手伝う……と?」

 

「まあ、そうだな。北欧と悪魔側で問題にならない程度に手伝ってやるよ」

 

一誠としても下手に悪魔側と関わってオーディンに迷惑を掛けたくは無かった。それでも一誠は佑斗の復讐が見てみたかった。

例えどんな結末が待っていたとしてもだ。

 

「とりあえず俺の家に来い。まあ拒否権は無いがな。『ウロボロス・ボーン』」

 

「!?」

 

一誠は『ウロボロス・ボーン』の能力で佑斗を亜空間に閉じ込めた。一誠が家に帰ろうとした所、二人の白いローブを着た少女が廃教会に入って行くのが見えた。

 

(あそこに入って行くとはな。少し様子を見てくるか)

 

二人の事が心配で一誠は廃教会の中に入って行った。そこで目にしたのは栗毛でツインテールの少女が蹲り泣いているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――こんな所で何をしているんだ?」

 

「……え……?」

 

イリナはどことなくこの声に聞き覚えがあった。そこで顔を上げて声の主を見た。

 

「……イッセー、君?」

 

「俺は一誠だが?どこかで会った事があるか?」

 

「イッセー君!!」

 

「うわぁ!?」

 

イリナは立ち上がり一誠に抱きついて顔を一誠の胸にこすり付けた。

 

「イッセー君!イッセー君!イッセー君!」

 

「おい!ちょっと!?……お前の連れだろ?どうにかしろ」

 

「いや……私にはどうにもな。しばらく付き合ってくれ」

 

ゼノヴィアは申し訳なそうな顔をして一誠に頼んだ。一誠は仕方なく付き合う事にした。

そして泣き止んだイリナが一誠の肩を掴んで前後に揺らした。

 

「イッセー君!!!どうしてがここに居るの?」

 

「ちょっと、待て!まずお前は誰だ?」

 

一誠は目の前の少女が誰なのかまったく分かっていなかった。

 

「わ、私だよ!イリナ。紫藤イリナ!昔、ここでよく遊んだでしょ!」

 

「……紫藤、イリナ……?」

 

一誠は首を捻り昔の事を思いだそうとした。

 

(確かに昔、ここでそんな名前の奴と遊んだ記憶があるが、あれは確か『男』だった気がするが?)

 

一誠は昔のイリナの事を完全に『男』だと勘違いいていた。

 

「人違いじゃないか?俺が知っているイリナは『男』だったはずだ」

 

「そんな事ない!これを見て!」

 

イリナが取り出したのは一枚の写真だった。そこには二人の子供が写っていた。

 

(確かにこれは俺が小さい時にイリナの家で撮った写真だな。と言う事はこいつは……)

 

一誠はもう一度、イリナの顔をしっかりと見た。

 

「……イリナ。なんだな……」

 

「やっと思い出してくれたの?!」

 

「ああ、ようやく思い出したよ。懐かしいな」

 

「うん。会えて良かった」

 

イリナは嬉しさのあまり涙を流して喜んでいた。一誠はイリナにハンカチを出して涙を拭った。

 

「ありがとうねイッセー君」

 

「まあ、こんな所じゃ風邪を引くから俺の家まで来いよ。そもそもどこかに宿を取っているか?」

 

「それは助かる。イリナが余計な所で出費してしまって宿代が無かったんだ」

 

一誠の提案にゼノヴィアは申し訳ない顔をして、どうしてここに居るのかを話した。

 

「何よ!ゼノヴィア。この絵はとても素晴らしい人が描いた有り難い絵なのよ!」

 

「それを買った所為で宿が取れなかったのではないか!この異教徒が!ああ、主よ。どうして私の相棒はこうも駄目なのですか?」

 

「ゼノヴィアって、いつもそうよね。後からグチグチと!もう過ぎた事なんだから言わないでよ。これだから異教徒は!」

 

「何だと!」

 

「何よ、やる気!」

 

「ちょっと待った!ここで喧嘩するな。とりあえず風呂に入れて飯食わしてやるから。喧嘩はその後にしてくれ」

 

たった一枚の絵で二人は一触即発になっていた。そんな二人の間に一誠は割って入った。

一誠の提案に二人は頷き、一先ず一誠の家に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがイッセー君の家なの……?」

 

「すごい、家だな……」

 

イリナとゼノヴィアは目の前の家を見て思わず息の呑んだ。

 

「まあな。服はカゴに入れてくれ。着替えは俺の服で申し訳ないが……」

 

「いや、それだけでも十分だ。助かる」

 

申し訳ない顔をした一誠にゼノヴィアが頭を下げてお礼を言って、二人は風呂に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう~……これが日本の風呂と言うものなのだな」

 

「……うん」

 

「……イリナ。あの男が君の言っていた。幼馴染なのか?」

 

「……うん。間違いないわ、ゼノヴィア。少し雰囲気は変わっているけど、あれはイッセー君だわ」

 

風呂でイリナとゼノヴィアは一誠の事について話していた。

 

「しかしあの男の性は『兵藤』ではなかったな」

 

「うん。表札は『真神』になっていた。私が居ない間に何があったの?イッセー君……」

 

「イリナ。聞いてもいいいか?君はどうして兵藤一樹にあれ程の敵意を見せたんだ?彼が何をしたんだ?」

 

「そうね。話すわ、ゼノヴィア。実は……」

 

そこからイリナは全てを話した。小学校に入る前から兵藤家とは交流がありそこで知り合った双子の少年達が一樹と一誠だった。

それから一樹だけがイリナをよく遊びに誘って一誠だけを除け者にしていた。

幼いイリナでもおかしな事はすぐに分かった。だから一樹に一誠を誘おうと話したら「あいつは一人が好きな変わったやつだから気にしてなくていいよ」と言ってイリナを一誠から遠ざけた。

それから何度もそう言う事があった。その度、一人ぼっちの一誠を見かけた。

イリナはある日、一樹がいない時に一誠に話しけた。

 

「どうしていつも一人でいるの?」

 

「お兄ちゃんがおまえはいらないやつだからどっかいけって言うんだ……」

 

「そんなのおかしい……」

 

イリナは一樹が言っている事と一誠が言っている事があっていない事がこの時、分かった。どちらかが嘘を付いているとも……。

だが、それはすぐに分かった。いつも寂しそうにしている一誠が正しいと。

それからイリナは一樹とは遊ばずに一誠とだけよく遊んだ。イリナは自分の家に一誠を入れたり、教会に行ってミサに参加した。

外国に引っ越すまで二人で色々な事をして、たくさん遊んだ。

 

「……そんな事があったのか……それにしてもあの兵藤一樹と言う男は最低な奴だな。実の弟をそこまでするか?」

 

「……私もそれをイッセー君のご両親に言ったんだけど、全然信じてもらえなくて……あいつ家では猫を被っているのよ!それに昔から変わらないあの厭らしい目が嫌なのよ」

 

「ああ、それには大いに同意だな。あの目は危険だ。すぐにでも断罪するべきものだ!」

 

イリナは一樹の目が自分の事を舐めまわす様な感じに嫌気が差していた。ゼノヴィアもそれに首を縦に振って同意した。

 

「それでイリナ。相談があるのだが……」

 

「どうしたの?ゼノヴィア。貴女にしては歯切れが悪いわね?」

 

「ここを我々の今回の任務の拠点にしないか?」

 

ゼノヴィアの相談とは宿代が無くなったので泊まる事が出来ないので一誠の家に泊めて貰おうというものだ。

 

「そ、そんなの駄目よ!イッセー君は一般人なのよ!巻き込めないわよ!!」

 

「ああ、分かっている。だから、ここに泊めて貰うだけで戦闘などには一切関わらせない。それに君だって、他にアテがないだろ?」

 

「そ、それはそうだけど……。分かったわ!私からもお願いしてみる!」

 

「決まりだな。風呂から上がったらさっそく頼んでみよう。その前に身体を洗っておくか。長旅で疲れているしな」

 

イリナとゼノヴィアは二人で一誠の家に泊めてもらおうと交渉する事を決めてから身体を洗う事にした。

 

「それにしてもイリナ。ずいぶんと髪が伸びたな」

 

「ふふっ……ゼノヴィアも伸ばせばいいのに。長い髪のゼノヴィアも素敵なのに」

 

「髪が長いと戦いの邪魔になるからな。短い方が戦い易い」

 

「もう!ゼノヴィアも女の子なんだからもう少し髪を大切にしなさいよ」

 

「私はこれでいいんだ!」

 

二人はお互いに身体を洗いあったり髪を綺麗にしていた。十分に日本の風呂を満喫した二人だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一誠と龍神

ついにあの幼女が登場します!


イリナとゼノヴィアの二人が風呂で今後の話をしている中、一誠は夕食の準備をしていた。

作っているのは北欧ではあまり作った事のないカレーだ。

元々は今日辺り来るであろう人物に食べさせるために作るつもりだったのだが、思わぬ来客が来ているので多く作ろうとしていた。

 

「……よし。美味くできたな。……それにしも二人とも遅いな?のぼせていないか?」

 

風呂が長い二人を気遣っているが、イリナとゼノヴィアは一般人だと思っている一誠に家に自分達の事情を話さずに泊めてもらえるように話し合っているため、入浴に時間が余計に掛かるのを一誠を知らない。

 

「……それにしても何か忘れているような…………あ、『ウロボロス・ボーン』」

 

一誠が忘れている事を思い出して、『ウロボロス・ボーン』で佑斗を異空間から外にだした。

出てきた佑斗の顔は先程とは違って落ち着いていた。

 

「……ようやく出してもらえたよ」

 

「悪い。すっかり忘れていた。それにしてもだいぶ落ち着いたようだな」

 

「ああ、君のおかげでね。それでここは?」

 

「俺の家だ。ちょっと待ってくれ。もう少しでカレーが出来るから、それと二人が風呂に入っているから出たらお前も入ってこいよ」

 

「……そうさしてもらうよ。それで君の言う二人って何者だい?」

 

「それは―――」

 

「イッセー君!お風呂ありがとうね!久し振りに湯船に入ったわ」

 

「日本の風呂と言うのも中々いいな。……ん?誰だ、その男は?」

 

一誠が佑斗に説明しようとしたらイリナとゼノヴィアの二人が出てきた。二人は一誠から借りたジャージを着ていた。

 

「こいつは木場佑斗だ。木場、こっちの二人が紫藤イリナとゼノヴィア……なんだっけ?」

 

「クァルタだ」

 

「……だそうだ。待ってくれ。カレーを持って来るから」

 

一誠はそう言って台所に向かった。そんな中三人はお互いに睨み合っていた。

先に切り出したのはゼノヴィアだった。

 

「……お前は悪魔だな?」

 

「え……?うそ!?」

 

「間違いない。この男は悪魔だ!」

 

ゼノヴィアは佑斗を悪魔だと断言した。イリナはゼノヴィアの発言に驚いてしまった。

ゼノヴィアはすぐに自分の得物である聖剣の『破壊の聖剣』を持ち構えた。

イリナもゼノヴィアに続き『擬態の聖剣』を佑斗に向けて構えた。

 

「それは、聖剣か……!!まさかここでも出会えるなんて……!!」

 

佑斗は聖剣を見ると殺気を聖剣に向けて魔剣創造で『光喰剣』を作り出した。

 

「魔剣を作り出しただと!?お前は何者だ!!」

 

「……なに、君達の先輩、とでも言えば分かるかな?」

 

「……なるほど、あの計画―――聖剣計画の生き残りか……」

 

ゼノヴィアとイリナの頭にはある計画の事を思い出していた。その名は「聖剣計画」だ。

 

聖剣計画。

人工的に聖剣に適合した人間を創ろうしたが失敗に終わってしい、被験者だった少年少女は一人を除いて全員処分されてしまった。この事から教会では忌むべき計画だ。

三人はお互いに剣を構えたまま動こうとしなかった。先に動いた方が後手に回ってしまうからだ。今まさに動こうとした瞬間、一誠が三人の間に現れた。

 

「―――何を物騒なものを出しているんだ。お前ら」

 

「「「!?」」」

 

「『ウロボロス・ボーン』転移」

 

現れた一誠は『ウロボロス・ボーン』の空間転移で三人の得物を異空間に飛ばした。

 

「まったく、人の家の中で刃物を振り回そうとするなよな。危ないだろ」

 

「い、イッセー君……何?その力は……?」

 

「う~ん……何と説明したらいいか……まあ、そうだな。『マジン』の力っと言ったところか」

 

「ま、魔人?!」

 

「ま、魔神だと?!」

 

イリナとゼノヴィアは一誠の言葉が信じられずに大声で驚いてしまった。特にイリナの心境は荒れていた。

 

(う、嘘よ!私がいない間にイッセー君が『魔人』になっているなんて……これは私が浄化してあげないと!!)

 

『マジン』違いなのだがイリナはそれに気付いていない。一方、ゼノヴィアは冷静に一誠の事を考え始めた。

 

(『魔神』か……だが、人が神―――魔神になるのか?そんなのは聞いた事がない!これは天界に報告した方がいいな)

 

イリナと違いゼノヴィアは『マジン』違いをしなかった。そしてこれを天界に報告する事を決めた。

 

「そう言えば、まだ二人には名乗ってなかったな。俺は北欧―――ユグドラシルの主神、オーディンの私兵、真神一誠だ。よろしく!」

 

「…………オーディン様の」

 

「…………私兵、だと」

 

イリナとゼノヴィアは一誠がまさかオーディンの私兵だと言う事に言葉を失ってしまった。

日本に着いてから色々な事があったが、二人にとって一誠の正体や所属している神話勢力に驚きを隠せ無かった。

 

「とりあえず、カレー食べるか」

 

「そうだね。頂くよ」

 

「……そうね。まずは食べましょ、ゼノヴィア」

 

「……そうだな。腹が減っては戦えないからな、イリナ」

 

四人はカレーが並べられているテーブルに向かった。そこでイリナは一つ可笑しな事に気が付いた。

 

「……あれ?イッセー君。カレーが一皿多くない?四人しかいないのに五皿もあるわよ?」

 

「別に間違っていないぞ。五人目はお前の後ろに居るぞ」

 

「……え!?」

 

イリナは一誠に言われるまま後ろを見た。そこには黒いゴスロリ幼女が立っていた。

 

「「「!?」」」

 

佑斗、イリナ、ゼノヴィアは幼女から距離を取った。彼らの行動は無理もない。いきなり気配も感じさせずに現れれば警戒してしまうのは当然だ。

 

「……久しい、イッセー」

 

「よお、来ると思ったぜ。オーフィス」

 

「い、イッセー君。その、オーフィスって……『ウロボロス・ドラゴン』の?」

 

「ああ、そうだ。こいつは『無限の龍神』ウロボロス・ドラゴンのオーフィスだ」

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。

『不動』の存在であり『無限』を冠する龍。世界最強でもある龍族だ。

各勢力のブラックリストの一番上におり、行動一つで各勢力が警戒する程の存在。

イリナは一誠に目の前の幼女の事を恐る恐る聞い驚愕で呆気に取られてしまった。そして返ってきた答えはイリナ達の予想通りになった。

 

「「「えええぇぇぇ!?」」」

 

「ああぁぁ!!もう五月蝿い!静かにしろ!!」

 

「だ、だって!『無限の龍神』だよ!世界最強の龍なんだよ。驚くなって方が無理だよ!!」

 

「まあ、今はカレーを食べるぞ。冷める」

 

オーフィスの事など関係ないようなに振舞っている一誠の態度に三人はどこか気が緩んでしまった三人はテーブルに置かれたカレーを食べ始めた。

そして誰一人として喋る者は居なかった。

 

「「「「「……………」」」」」

 

一誠は基本一人で食べたりたまにオーディンやオーフィスと食べるが特に喋る事はない。

 

佑斗は敵と言ってもいい一誠と教会の使徒二人と何かを話す気にはなれなかった。

イリナとゼノヴィアは教会の教えで食事中に私語をしないように教育されていた。

オーフィスは複数での食事などしたことがなかったために黙って食べ続けた。

 

「……ねぇイッセー君。聞いてもいい?今まで何があったのか……」

 

食事を終えて一番に口を開いたのはイリナだった。イリナは知りたかった。

自分が知らない一誠の過去をどうしても知りたかった。

 

「……そうだな。どこから話したらいいのか。迷うな……」

 

一誠は自分の過去を話していいものか、悩んでいた。内容は信じられないものもそうだが、教会の使徒であるイリナとゼノヴィアと悪魔側である佑斗がどこまで話していいのか慎重に考えていた。

 

(まあ、オーフィスとの出会いくらいだったら構わないか)

 

一誠は三人の顔を見て話を始めた。

 

「分かった、話す。俺とオーフィスの出会いは―――」

 

一誠はオーフィスとの出会いの事だけ話す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠がオーフィスと出会ったのは約1年ほど前だ。その日、一誠は日課にしている『ボーン』の力の使い方を研究していた。

使えると言っても全てを把握してわけではない一誠はユグドラシルの近くの人がいない森で力を使っていた。

 

「ハッ!セイッ!オラッ!!」

 

拳を突き出す。足で蹴る。一誠は格闘技の基礎を身体に覚えさせていた。

基礎が出来てこそ、応用が出来るものと一誠は考えている。一誠が基礎をしていると一枚の『ボーン・カード』が現れた。

 

(『ウロボロス・ボーン』?どうしていきなり現れた?俺、何かしたか?)

 

現れた『ボーン・カード』に驚きつつもその原因を一誠が探そうとしたが分からなかった。

 

「……?」

 

後ろから気配を感じた一誠は振り返って見るとそこには黒いゴスロリ風の服を着た幼女がいた。

 

(いつからあそこにいた?それにこんな所にあんな小さな子が来れる訳ない)

 

ユグドラシル近くの森と言っても魔獣などが出る場所でとてもではないが、幼女一人がここまで来るのは不可能だ。

 

「……お前は誰だ?」

 

一誠は警戒レベルを上げた。目の相手は一誠にとってギリギリ倒せるか倒せないかとくらいの力を感じ取った。

 

「……我、オーフィス」

 

一誠に幼女はそう一言だけ言った。

 

(オーフィス?それって確かオーディンの爺さんが教えてくれたっけ。この世界で一番強い龍族だったような?何でここにいるんだ?)

 

一誠はオーディンから教えてもらった事を思いだし、これからどうするか迷っていた。ここで戦い倒すのか。それともオーディンに報告するためにユグドラシルに戻るのか。

その二択で迷っていた。

 

「お前は何のためにここに居るんだ?」

 

「……力を借りたい」

 

「それは……俺のか?」

 

「……そう」

 

一誠の質問にオーフィスはただ一回頷くだけだった。一誠にとって疑問があった。

どうして世界最強のドラゴンが自分の力を借りたいのか?その事が一誠の頭の中にあった。

 

「俺はオーディンの爺さんの私兵だ。従わせたいなら力尽くでやってみろ、オーフィス」

 

「……そう。分かった」

 

オーフィスはおもむろに手を一誠に向けた。

 

(何をするつもりだ?)

 

一誠が首を傾げているとオーフィスは魔力の塊を一誠にぶつけた。とっさに一誠はガードしたが、あまりの威力に数百mも吹き飛ばされた。

 

「―――危ないな!?俺じゃなきゃ死んでいたぞ!?」

 

「……力尽くと言ったから示した」

 

「それだけで?」

 

「……そう」

 

オーフィスは一誠の「力尽く」を実践したのだ。思わず一誠は頭を抑えた。

 

「……そうか。なるほどな……いいだろ。『ドラゴン・ボーン』!」

 

一誠は『ドラゴン・ボーン』を纏ってオーフィスを攻撃した。世界最強のドラゴンに、だ。

 

「炎龍覇王拳!」

 

右腕に炎を纏わせオーフィスを殴りつけた。オーフィスはガードしたが、今度はオーフィスが吹っ飛ばされた。

転がり木を数本なぎ倒してようやく止まった。

 

「……?」

 

「おいおい……マジかよ」

 

一誠の攻撃をもってもオーフィスの腕に与えられたダメージは軽い火傷だけだった。

 

「もう一発!極・炎帝爆砕拳!」

 

一方、一誠はオーフィスと距離を詰めて二撃目を喰らわした。一撃目よりも多くの魔力を右腕に込めて、オーフィスを殴り飛ばした。

 

「…………」

 

だが、先程よりも強力な一誠の二撃目は神ですら消し飛んでも可笑しくはないはずなのに、オーフィスにはあまりダメージを与えられ無かった。

 

「まったくどんだけだよ?オーフィス。まだやるか?」

 

「……まだやる」

 

「上等だ!!とっとくたばれ!!」

 

一誠とオーフィスの戦闘はそれから一時間近く続いたが結局、決着は付かなかった。そしてユグドラシル周辺の森は甚大な被害を被った。いくつものクレーター出来て修復に長い時間が掛かってしまった。

さらにユグドラシル自体も危うく半壊しかけた。

 

ユグドラシルの神々はこの件を「ユグドラシル半壊事件」と命名した。そして神々は改めて知ってしまった。

一誠の強さが「無限の龍神」と対等に戦えるのを。

オーディンを始めユグドラシルの神々は一誠の今後の扱いについて話し合いが行われ、とりあえずは現状維持という事で落ち着いた。

 

 

 

 

 




次回更新は10月4日予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捜索と遭遇

真神家でカレーを食べていた、佑斗、イリナ、ゼノヴィアの三人は一誠の話を聞いて開いた口が塞がらなかった。

「不動」の存在である無限の龍神オーフィスと真正面から戦い引き分けたのだ。そもそもそんな事が出来る存在は「夢幻」を司る赤龍神帝グレードレッドだけだ。

 

「……オーフィスと引き分けたって……イッセー君って、何者?」

 

「何者と言われてもな」

 

イリナの問いに一誠は首を傾げるしかなかった。実際、「魔神」と言っている一誠ですら自分の正体を掴めないでいた。

一誠が「魔神」と言っているのは、ただオーディンに言われたからだ。一誠を保護した時にオーディンが一誠から出ている「オーラ」を見てそう判断したのだ。

だからこそ、一誠は自分が「人間」なのか「魔神」なのかは分からないでいた。

 

「……イッセー。我、帰る」

 

「そうか。また来いよな。次はハンバーグを作るからよ」

 

「……そう。分かった」

 

オーフィスはそれだけ言って立ち上がり家から出て行った。佑斗、イリナ、ゼノヴィアの三人はそれを黙って見ていた。

 

「それでお前ら二人はこれからどうするんだ?」

 

「え?何が?」

 

イリナはいきなりの一誠の話の切り替えについていけていなかった。

 

「お前ら二人の任務だよ。どう行動するんだ?」

 

「とりあえずは街の散策だな。恐らく我々を目にしたら向こうから出てきてくれるだろう」

 

一誠の問いかけに答えたのはゼノヴィアだった。一誠は首を傾げた。

 

「向こうから?ずいぶんと自信があるな。敵に心当たりでもあるのか?」

 

「ああ、向こうにはフリード・セルゼンがいる」

 

「フリードだって?!」

 

ゼノヴィアの心当たりに佑斗は思わず叫んでしまった。叫ばすにはいられなかった。

 

「木場。そいつに心当たりがあるのか?」

 

「あるも何も……真神君と会う直前まで戦っていたんだよ。そのフリード・セルゼンと」

 

「それは本当なの?!」

 

「間違いなのだな?」

 

イリナとゼノヴィアの問いに佑斗は首を縦に振った。その瞬間、イリナとゼノヴィヤの顔は険しくなった。

 

「それでそのフリード?って奴は何者なんだ?」

 

「……フリードは、はぐれエクソシストなのよ」

 

一誠の質問に答えたイリナの顔は少し暗くなっていた。イリナは一誠の顔を見て続けた。

 

「……フリードはとても優秀なエクソシストだったわ。でも任務中に一般人を殺害してしてしまって、教会から追放されたの」

 

「その後、奴は堕天使側に行ったと聞いている。そこでも色々と問題を起こしていることもな」

 

イリナとゼノヴィアはどこか暗い表情をしていた。

 

「そんな奴が今回の事件に関わっていると?」

 

「ああ。我々より先に日本に行った使徒と連絡が取れなくなる前にフリードを見たと言っていたらしい。それにそこの悪魔は戦ったと言っている以上間違いはないだろう」

 

一誠の問いにゼノヴィアは力強く頷いた。それから一誠達は明日の具体的な行動を話し合って明日のために眠る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、一誠は学校を休み佑斗と共に廃教会近くに集まっていた。一誠は佑斗の格好に心配そうな視線を送っていた。

 

「……何かな?真神君」

 

「いや、悪魔のお前が神父服を着て大丈夫なのか?消滅したりしないのか?」

 

「しないと思うけど……」

 

一誠と佑斗はイリナが用意した神父服を着ていた。これでフリードを誘き寄せる事になっている。

そして今いるのは一誠と佑斗の二人だけだ。イリナとゼノヴィアは一先ずリアス・グレモリーと今回のことを話し合ってから捜索する事になっている。そして効率を考えて二手に別れて探す事になっている。

 

(何と言うか金髪に神父服って、似合っているな)

 

一誠は佑斗の神父服を見た感想を言わないで心の中だけにしまった。今後も佑斗とは行動を共にする可能性があるので、一誠なりの配慮だ。

 

「それで僕らはどう探そうか?」

 

「そうだな……『聖剣』の気配を探しているんだが、この街には今、イリナとゼノヴィアが持つ三本しか感じないからな」

 

「……三本?ちょっと待ってくれ。君には『聖剣』の気配が分かるのかい?この街のどこにあるかどうか?」

 

「分かるが?それがどうかしたのか?」

 

佑斗は一誠がとんでもない事を言っている事に思考が追いつけないでいた。『聖剣』の気配を捉える事は佑斗でも難しくはない。

しかしそれはあくまで近くにある場合だ。佑斗でも街全体までは流石に分からない。

だと言うのに一誠はあまつさえ「明日は晴だな」と言うように言ったのだ。

 

(彼は自分が何を言っているのか、分かっていないのか?)

 

佑斗は一誠の発言に頭が痛くなるのを覚えた。これで大丈夫なのか心配になってきていたと思うほどに。

それから一誠を先頭に佑斗は街を散策した。

 

(こっちの方だな。妙な気配がするのは……)

 

しばらくしていると前から見覚えがある少年が近付いて、いや佑斗と一誠の方が近付いていると言った方が正確だろう。

 

「お~や~?そこにいるのは昨日俺っちがボコッボコッにした悪魔く~んじゃないですか!また、ボコッらにきたのかな?ギャハハハッ!」

 

「……フリード!!」

 

「ちょっと待て、木場」

 

「―――な?!」

 

フリードに斬りかかりそうだった佑斗を一誠は頭にチョップを喰らわして沈めた。あまりの威力だったのか佑斗は倒れてから起き上がる様子が見られなかった。

 

「……木場、すまん。強すぎた」

 

「…………」

 

佑斗が起き上がる様子がないので一誠は目の前の人物であるフリード見た。

 

(あれが『聖剣』か……まったく気配を感じないな。どうなっている?)

 

一誠はフリードが腰に帯剣しているのが『聖剣』だと見て判った。なのに『聖剣』の気配が掴めないでいた。それが何より一誠はそれが気になっていた。

 

「あれあれ~?君は~カズキきゅん―――ぐはっ?!」

 

「……あ、すまん。だが、お前が俺の事を一樹と言うものだから、つい」

 

フリードが一誠の事を一樹と言った瞬間に一誠はフリードに近付き顔面を殴った。一誠にとって禁句と言ってもいい事をフリードは言ってしまった。

一誠にとって一樹と間違われる事は何より屈辱的な事なのだ。だからフリードが一誠の事を一樹と間違えた時に思わず顔面を殴ったのだ。

 

「……マジ、か…………」

 

フリードは一言だけ言って佑斗と同じく気絶した。一誠はそれをぼう然と見ていた。

 

「……もしもし。イリナか?フリードを見つけたからこっちに合流してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー君!大丈夫?!」

 

「無事か?」

 

一誠がイリナに連絡して数分後、イリナとゼノヴィアは一誠に合流した。そして気絶しているフリードと佑斗の姿を確認した。

するとゼノヴィアが一誠にこの状況の説明を求めた。

 

「フリードが気絶しているのは分かるが、何故木場は気絶しているんだ?」

 

「ああ、木場もフリードも俺が気絶させた。木場は怒りで我を忘れていたからな。このままだと勝てないと思ってな。フリードは俺の事を一樹だと勘違いしていたようで、俺の事を一樹と呼ぶものだから顔面を殴ったら気絶した。以上」

 

「そ、そうだったのね」

 

「ふむ。中々、やるな。これで聖剣は回収できた」

 

「―――勝手に私の聖剣を持って行こうとしないで貰いたいね」

 

ゼノヴィアがフリードの聖剣を取ろうとした所、後ろから声を掛けられた。振り返ってみるとそこには一人の年配の男性が立っていた。

教会の関係者なのか白い服に身を包んでいた。

 

「な?!あなたは!」

 

「どうして貴様がここにいる!バルパー・ガリレイ!!」

 

イリナとゼノヴィアの驚きようは尋常ではなかった。一誠も男を見た。

 

(さっきのフリード?って奴と同じではないが、この男からも妙な気配がするな。数人の魂の欠片が集まったような?)

 

一誠がフリードを見つける事が出来たのはフリードの気配が妙だったからだ。そして目の前の人物からも似たような気配を感じていた。

一誠はイリナとゼノヴィアの驚きようから相手の相手の事を知っていると判断した。

 

「誰なんだ。この男は?」

 

「……この男はバルパー・ガリレイ。教会で昔、聖剣使いを生み出す計画の最高責任者だった男で『皆殺しの大司教』と呼ばれている」

 

そう、彼かこそが教会でかつて行われていた人工的に聖剣に適性して者を生み出す『聖剣計画』の最高責任者だ。

ゼノヴィアはバルパーを強く睨め付けていた。イリナも同様に睨んでいた。

 

「……そうか。その男が……!!」

 

「木場。起きたか」

 

気絶していた佑斗が目を覚ました。一度一誠を睨め付けたが、すぐにバルパーを睨め付けた。

そして『魔剣創造』で一本の魔剣を作りバルパーに先を向けた。

 

「誰だ。お前は?」

 

「昔、お前が殺し損ねた者さ」

 

「殺し損ねた……そうか!まさか生き残りがいるとはな!こんな極東の地で出会うとは驚きだな」

 

バルパーは佑斗が『聖剣計画』の生き残りであると分かると納得したのように何度か頷いた。そして視線をフリードに向けた。

 

「いつまで寝ている、フリード。さっさと起きろ」

 

「……へいへい。そんなに怒鳴んないでよ~バルパーのおっさん」

 

いつの間にか目を覚ましていてもフリードはふざけた態度をとっていた。だが、手にはいつの間にか抜かれていた二本の『聖剣』があった。

 

「それじゃ~これからクソ悪魔くんと教会のクソビッチ達をこの聖剣ちゃんでズタズタに切り裂いてやるよ~ギャハハハッハ!」

 

「フリード……!!」

 

佑斗は魔剣をフリードに向けて警戒していた。しかし目の前のフリードよりバルパーの事が気になって仕方なかった。

だが、それでも佑斗はフリードを警戒していた。

一度、負けてしまったのが大きいようでバルパーから視線をフリードに変えてからはフリードだけを見ていた。

 

「木場。そいつがお前の復讐するべき人間か?」

 

「……ああ、そうだ。あの男が僕の同士達を殺した。ここで同士の無念を晴らす!!」

 

「……そうか。だったら俺はそれを見届けないとな。見届けた先に俺の求める答えがあると思うからな」

 

一誠は佑斗の隣に立ちフリードとバルパーを対峙した。バルパーは一誠を見た。

4人の中で自分に関係があるとは思えなかった。聖剣計画の生き残りの佑斗、教会からの使徒のイリナとゼノヴィア。

その3人とは明らかに立場が違う事は見てすぐに分かっていた。

 

「ところで、そっちの少年は何者かね?聖剣計画の生き残りと言うわけでもないし、教会の使徒でもないのだろ?」

 

「ああ、俺は真神一誠。ユグドラシルの主神、オーディンの私兵をしている。よろしく」

 

この場において一誠ほど場違いな人物はいないだろ。まるで友人に挨拶するように気軽な挨拶をバルパーにしたのだ。

それが挨拶前の内容を分からなくしていた。

 

「……待て。お前のような餓鬼が北欧の主神の私兵だと……?」

 

「そうだけど?信じられなって顔だな、おっさん」

 

「ふん!そんなすぐにバレる嘘を言いおってからに……フリード!そこの餓鬼もまとめて始末しろ!」

 

「へいへい。分かったよ、バルパーのおっさん。それじゃあ、さっそく死ね!!」

 

バルパーは一誠の発言が気に入らずフリードに一誠もろとも3人を始末するように指示を出した。

フリードは自分が仕留める獲物が増えて、心底嗤っていた。

 

(あの顔は気に入らないな……)

 

フリードの嗤った顔を見て一誠は不快な気分になっていた。かつて一樹が自分に向けていた顔と同じだからだ。

一誠は気持ちを切り替えて迎え撃った。




次回更新は11月1日の予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘と逃走

佑斗、イリナ、ゼノヴィア、バルパーの四人は一誠とフリードの戦いを見ていた。

そう、ただ見ているのだ。

 

「……凄いな真神君は……」

 

「ホント、イッセー君って何者?」

 

「ああ、本当にな。二本の聖剣を使っているフリードと互角……いやフリードより彼の方が上か」

 

「バカな……!あの状態のフリードを押しているだと……?!それにあの鎧は?」

 

佑斗、イリナ、ゼノヴィアは一誠の戦いに思わず見惚れてしまった。バルパーは一誠の実力に驚きを隠せ無かった。

始めは佑斗もイリナもゼノヴィアも戦おうとしたが、一誠がそれを止めた。それから一誠はフリードと一対一の戦いを始めた。

 

「なんだよ?!その鎧!!どうなってやがる?!」

 

「なに、俺の『力』だよ。世界で最強のな!」

 

一誠は『ソードフィシュ・ボーン』のカジキ村正を使ってフリードに応戦していた。

 

『ソードフィシュ・ボーン』

風属性のボーン。

徒手空拳が主体のマジンボーンでは珍しい手持ちの武器を装備したボーンである。その切れ味はエクスカリバーにすら負けてはいない。

 

「なんでだよ?!なんでだよ?!最強の聖剣なんだろ!!どうして?!どうして?!ぶっ殺せないんだよ!!」

 

「そんなの知るか!お前が満足に使えていないからだろ!それともそれは偽物か?」

 

「ふざけんな?!こちとら伝説の聖剣さまを使ってんだぞ!!」

 

フリードの怒りは頂点に達しようとしていた。二本の聖剣を使ってなお、一本の剣を使う一誠を未だに仕留められていないからだ。

かつて古の大戦で砕け、錬金術で七本に別れたエクスカリバーだが、別れてなおその力は健在だ。

だと言うのに倒せないでいた。目の前の人物―――一誠を。

 

「クソッ?!……クソッ?!……チョーシに乗ってんじゃねえぞ!!」

 

「乗ったつもりは無い。それよりもっと本気できたらどうなんだ?それとも今のがお前の本気なのか?」

 

「ざけんじゃ……ねえぞ!!」

 

一誠の挑発にフリードは今までの比ではないくらいの速度で斬りかかった。フリードが持つ二つの聖剣の内一本は『天閃の聖剣』だ。

人間では絶対に出せない速度で動いている。

その速度を持ったフリードに一誠は的確に対応していた。

 

「どうした?所詮、聖剣の能力を使ってもその程度なのか?だったらガッカリだな!」

 

「だったらこれならどうだ!」

 

フリードはもう一つの聖剣である、『透明の聖剣』の能力を使い姿を消した。

 

「ッ?!……消えた……」

 

「―――死ねぇぇぇ!!」

 

「……甘い!」

 

「グハッ?!」

 

姿を消して後ろから斬りかかったフリードの攻撃を避けた一誠はそのまま顔面に左ストレートを叩きこんだ。

 

「……何でだ?!俺様の姿は見えなかったはずだ!!なのにどうしてだ?!」

 

「簡単だ。俺が身の纏っているこの鎧―――『ソードフィシュ・ボーン』の能力だ。風属性の『ボーン』は周辺の空気の流れを読む事が出来るんだよ。お前は姿が消えただけで、存在が消えたわけではない。風の流れを読めばお前の位置くらい簡単に知る事が出来る」

 

「……けんな…………ふざけんじゃ、ねえぞ!!こんな事で勝った気になるんじゃねえよ!!!クソが!!!!」

 

一誠の説明にフリードは完全に怒りが限界を超えてしまった。先程と違ってがむしゃらに二本の聖剣を振りまして一誠に攻撃し始めた。

冷静さを失ったフリードの攻撃など当たるはずもなく一誠は簡単に避けてしまった。

 

「こんなものなのか?これじゃいつまで経っても俺を殺せないぞ?」

 

「ちょーしに乗ってんじゃねぇよ!!クソが!!!」

 

フリードは片方の聖剣を鞘にしまって、懐に手を入れてそのまま一誠に筒状の長い何かを投げた。一誠は反射的に投げてきた物を斬ってしまった。

斬った瞬間、その筒状の物は強い光を放った。一誠が斬ってしまった物は「スタン・グレネード」だった。

 

「―――があああぁぁぁ?!?!」

 

一誠は光った瞬間に手で目を守ったが、すでに遅く強い光をかなり近くで浴びてしまった。本来なら失明しても可笑しくはなかったが、『ボーン』のおかげでそれだけは免れたのは不幸中の幸いだった。

 

「フリード!一度、撤退だ!」

 

「はぁ?!ふざけんな!!俺様はまだ、こいつをぶっ殺していないんだよ!!」

 

「今のお前では勝てない。撤退だ!」

 

「……チィ……!!」

 

バルパーは今のフリードでは勝てないと判断して共に撤退を始めた。

 

「待て!バルパー!フリード!」

 

「逃がすか!追うぞ、イリナ!」

 

「ええ。任務を遂行するわ!」

 

佑斗、ゼノヴィア、イリナは逃げるバルパーとフリードを追いかけて行ってしまった。一誠は未だに「スタン・グレネード」にやられた目が回復していなかった。

 

(あのバカ共?!フリードの奴に勝てると思っているのか?)

 

フリードと直接戦った一誠だから理解していた。佑斗、ゼノヴィア、イリナの3人ではフリードに勝つ事は出来ない事を。

視力が戻っていないので3人の後を追う事が出来ずに一誠はその場に立ったまま回復に務めた。

 

「……漸く、目が回復したか……あいつらを追わないとな!」

 

「―――なんでお前がここに居るんだよ!?」

 

「……ん?なんだ、一樹」

 

一誠が佑斗達を追いかけようとした所、後ろから一樹に呼び止められた。他に小猫と名前を知らない男子生徒が一人いた。

彼の名前は匙元士郎。シトリー眷属で「兵士」の駒で転生した少年だ。

 

「質問に答えろ!!どうしてお前がここにいるんだよ!!」

 

一樹は大声で一誠に迫った。彼―――一樹は『原作』を知っているからだ。

 

(一誠の所為で俺のハーレム計画が台無しじゃないか!『原作』にない事ばかりしやがって!!)

 

一樹は自分の思い通りにならない事に苛立っていた。それを全て一誠の所為にしていた。どこまでも傲慢で、自己中心的な一樹に一誠は視線すら合わせようとはしなかった。

それが一樹を更に苛立てさせた。

 

「……あ!待って!!」

 

一誠は一樹達の気にしないまま、佑斗達を追いかけて行ってしまった。

 

「クソが……!!」

 

「……カズキ先輩。私達はこれからは?」

 

一誠が立ち去った後、小猫が一樹に不安げな顔で訪ねてきた。

 

「……一度戻って部長達に報告しよう。あいつがどこに向かったのかが分からないからな。匙もそれでいいだろ?」

 

「ああ、分かったぜ」

 

一樹、小猫、匙の三人は一誠を追わずにリアス達に報告に戻るためにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹達がリアスに報告に戻っている時、一誠は佑斗達の気配を追って廃工場に来ていた。そこには人避けの結界が張ってあった。

 

(ここに人避けか……一般人は近付く事も出来ないな。それに廃工場にわざわざ近付こうとは思わないか)

 

一誠はゆくっりと廃工場の中に足を踏み得れた。そこで見た状況に一誠は思わず固まってしまった。

 

「……え?」

 

そこで見たのは血だらけで意識を失っているイリナと自身の得物を地面に刺してかろうじて立っている佑斗とゼノヴィアの二人だった。

今にも倒れそうな二人の目の前に一人の堕天使―――コカビエルがいた。その翼は五対十羽をしており嫌でも上位に位置していると思わせる。

 

「イリナ!?大丈夫か?」

 

「……真神一誠か。……すまないがイリナの事を頼む」

 

ゼノヴィアは一誠にイリナの事を頼むと「破壊の聖剣」をコカビエルに向けた。佑斗も力を絞って立ち上がり構えた。

そんな二人をコカビエルは鼻で笑い飛ばした。

 

「ふん!たかだか教会の使徒と転生悪魔で何が出来る?リアス・グレモリーへの宣戦布告にはなるか。死なない程度に痛めるけるか」

 

カビエルは手に光を集めて槍の形へ変えてゼノヴィヤと佑斗に向けて投擲した。そこに一誠が割り込んで「カジキ村正」で受けつつ別方向に弾き飛ばした。

 

「何?!」

 

コカビエルはまさか自分の攻撃が弾かれるとは思ってもいなかったようで、あまりの出来事に数秒の間、呆けていた。

 

「『ウロボロス・ボーン』。木場!触れろ!!」

 

「?!」

 

コカビエルの攻撃を弾いた一誠は『ウロボロス・ボーン』に換装して佑斗に叫んだ。佑斗はすぐに一誠に触れた。一誠はすでに負傷して動けないイリナとボロボロのゼノヴィアに触れていた。

佑斗が触れてすぐに一誠は『転移』して廃工場から逃げ出した。

 

一誠ならコカビエル程度、瞬殺すら出来るが、イリナの治療を優先して逃げ出す事を選んだ。コカビエルは消えた一誠達が居た場所をじっと見ていたがバルパーの方に顔を向けた。

 

「バルパー。準備はどこまで進んだ?」

 

「地脈の操作は問題ない。いつでも始める事は出来る」

 

「そうか。……なら今夜、始めるぞ!地獄から連れてきた『あいつら』が腹を空かしているからな」

 

コカビエルは残酷な笑みを浮かべながら廃工場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃工場から逃げ出した一誠達は一誠の家にいた。ボロボロにやられているイリナ、ゼノヴィア、佑斗を一誠は『クジャク・ボーン』で治療していた。

しばらくして落ち着いたと思い、一誠は何があったのかを佑斗とゼノヴィアから聞こうとした。

 

「それで、何があった?」

 

「……バルパーとフリードを追って廃工場に入ったまでは良かったんだけど、そこにコカビエルが待ち構えていたんだ。なんとか応戦しようとしたんだけど、コカビエルの攻撃が強力すぎてその余波に怯んでいる所に紫藤さんの聖剣をフリードが奪ったんだ」

 

「そうか。これで向こうには聖剣が四本か……」

 

一誠はイリナの治療をしながら考えていた。何故?コカビエルは聖剣を集めているのかを一誠なりに。

 

(戦力増強?いや、聖剣は確か適性がないと扱えないはずだ。向こうの聖剣使いはフリード、ただ一人だったはずだ)

 

聖剣使いは教会でもそう多くは居ない。だからこそ貴重な存在になっている。

だと言うのにコカビエル一派はイリナから「擬態の聖剣」を奪った。そこに一誠は注目した。必死に頭を働かして答えを見つけようとした。

そこで一誠はふと思い出した事があった。

 

(そう言えば、ここ数日の内にこの街の地脈の流れが変わったな。向こうのやろうとしている事に関係しているのか?)

 

街の下を地脈が流れが変わった事に一誠は気が付いていた。そこの事も含めて考え出した。

 

(地脈には膨大のエネルギーがある。相手がそれを利用としているのは流れを変えた事から明白だ。ならそのエネルギーをどう使うかだな。あ、一応オーディンの爺さんに報告しておかないとな)

 

一誠は『クジャク・ボーン』でイリナの治療をしながらオーディンにこれまでの経緯をメールにして送った。これからの指示を仰ぐためでもある。

 

(これ以上は流石に不味いよな……)

 

いくら佑斗の復讐の手伝いをすると言っても一誠はユグドラシル所属のオーディンの私兵だ。これ以上、三大勢力の問題に関われば、他の神話勢力にいい様に言われてしまう。

一誠とてそのくらいの弁えている。

イリナの治療が終わったと同時にオーディンから返信があった。

 

「…………え?」

 

その内容に一誠は驚きが隠せ無かった。決戦の時は静かに近付いていた。

 




次回更新は12月6日です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

待機と介入

「…………え?」

 

一誠はこれまでの教会の聖剣奪取の事で駒王町で起っている事をまとめてメールでオーディンに送った。

それからすぐに返事が帰ってきた。その内容は一誠の予想してものではなかった。

 

『今、ユグドラシルではお前さんの処遇について話しておる。流石に三大勢力の揉め事に首を突っ込んだのは不味かったのう。お前さんをよく想っていない神々が色々と文句を言ってきておるわ。』

と書かれていた。

 

(流石に問題になったか…………そしてやっぱり俺以外にも監視者がいるようだな。余程、俺の事が気に食わない神がいるらしいな)

 

メールを読んだ一誠は自分の行動を少し後悔した。そして自分以外にもユグドラシルの監視者がいる事を確信した。

ユグドラシルの神全てが一誠を受け入れている訳ではない。中には一誠を殺して『力』だけ自分達のものにしようと考えている神がいる。

一誠はバカではない。そんな考えの神がいるくらい知っていた。オーディンが受け入れたが、他が同じとは限らないのだ。

 

「……真神君。いいかな?」

 

「木場。どうした?」

 

メールを読み終わると佑斗が話しかけてきた。その顔は戦場に赴く戦士の顔をしていた。

 

「僕を駒王学園に送って欲しいんだ。頼めるかな?」

 

「行くのか?相手はコカビエルだぞ?お前がお仲間と束になったとて勝てる保証ないぞ」

 

「もちろんだよ。今更部長達が僕の事を受け入れてくれるかは分からない。でも僕は部長達を助けたと思うんだ。それにあの時、亡くなった仲間達の無念を晴らしておきたいんだ」

 

「……なるほどな。それがお前が見つけた答えか?」

 

「多分ね。そうだと思うよ」

 

(仲間か……俺にはないものだな。持っている者だけが、感じれるものか)

 

佑斗は自分なりの答えを見つけたようで満足とまでは言わないが、佑斗のどこかすっきりとした顔に一誠はどこか不満を感じていた。

一誠は『ウロボロス・ボーン』を佑斗に向けた。

 

「転送先は駒王学園でいいんだな?」

 

「うん。頼むよ」

 

「―――待ってくれ。私も送ってくれるか」

 

「ゼノヴィア。……教会の使徒も大変だな。勝てない相手にも挑まないといけないんだからな」

 

一誠が佑斗と話していると新しい戦闘服に着替えたゼノヴィアが話に加わってきた。

 

「だが、それが私達使徒の使命だ。それに奥の手は用意してある」

 

「奥の手?それで勝てるといいな。悪いが俺はこれ以上、関わる事は出来ない。ユグドラシルで俺の行動が問題になってな。待機していろとお達しが来たんだ」

 

「そうなのか?それならしかたないな。では送ってくれ」

 

「待って!ゼノヴィア!!わ、私も連れて行って!」

 

「イリナ!?」

 

一誠が佑斗とゼノヴィアを転送しそうとするとイリナがいつの間にかそこに立っていた。『クジャク・ボーン』で傷は塞いだが、それでも蓄積ダメージがまだ抜け切っていない。

それだと言うのにイリナは身体を無理矢理起こしたのだ。

 

「無茶をするなイリナ。まだ寝ていろ!」

 

「私だって、教会の使徒よ!こんな所で寝ていたら主への信仰を疑われるわ!」

 

「……分かった。だが、無茶はするなイリナ。それとこれを使ってくれ」

 

「うん。分かっているわ。ありがとゼノヴィア!」

 

ゼノヴィアはイリナに自分の聖剣の『破壊の聖剣』を渡した。イリナは受け取ると一誠の方を見た。その顔は覚悟を決めているかのように見えた。

 

「……転移・駒王学園!」

 

一誠は『ウロボロス・ボーン』で3人を駒王学園に飛ばした。急に静かになった部屋を見渡した一誠はそのまま仰向けに倒れて天井を見上げていた。

 

(急に静になると寂しいとか感じるんだな……)

 

一誠は込み上げてくる感情に戸惑っていた。その時、部屋に入ってくる人物―――いや人ではないく犬というより『狼』と言った方が正確だろう。

 

「……クロ?」

 

「ウォン!!」

 

クロと呼ばれたこの黒色の狼は神を喰らいし牙を持つ狼―――フェンリルだ。と、言っても大きさは大型犬くらいしかない。

そのクロを一誠が二年ほど前にユグドラシル近くの森で傷付いているの発見して保護したのだ。

それ以来、一誠にいたく懐いて一誠以外の命令を一切聞かなくなった。そんなクロを一誠は真神家の番犬代わりに連れてきていた。

クロは自らの主人が寂びしいのがわかっているかのようにそっと一誠に近付き、枕になるかのように一誠の頭の辺りで伏せをして少し横に倒れた。

 

「……慰めてくるのか?」

 

「ウォン!!」

 

「……まったく、お前は忠犬……いや忠狼だよ」

 

一誠は寝転がっているクロの腹の上にそっと頭を乗せた。一誠は自分の意識を少しずつ沈んでいくのを感じていた。眠ろうとしているのだ。

その時だった。一誠のスマホが音を鳴らしながら振れるえた。

 

「うぉ?!……オーディンの爺さんから……」

 

一誠は驚きながらもメールの内容を確認した。

 

『ユグドラシルは今回の三大勢力の件に介入する事を決めた。お前さんはとりあえずコカビエルでも倒しておいてくれ。反対しておった神はなんとか説得したわ。三大勢力に貸しを作っておいてくれ。

オーディンより』

と書かれていた。

 

「『ウロボロス・ボーン』転移・駒王学園!」

 

それを読んだ一誠は立ち上がり『ウロボロス・ボーン』を身に纏った。そしてクロと一緒に駒王学園に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァァァ!!」

 

「―――え?」

 

一誠が駒王学園に転移した瞬間、目の前に三つの首をもつ犬―――ケルベロスがいた。そして一誠の後ろにはイリナとアーシアがいた。

ケルベロスはイリナとアーシアを襲おうとしたのだが、一誠がそこに割って入って来たのだ。ケルベロスはそのまま一誠に噛みついた。

 

バキッ!!

 

「―――キャィィ?!」

 

「ふう……ビックリした。現れてすぐにケルベロスに噛みつかれるとはな」

 

一誠に噛みついたケルベロスはのた打ち回っていた。ケルベロスがのた打ち回っているのは自身の牙が粉々に砕けたからだ。

ケルベロス程度の魔獣の牙では『ボーン』に傷一つ付ける事は出来ない。

 

「……何者だ?貴様」

 

空中に浮いてるイスに座りふんぞり返っている堕天使―――コカビエルは一誠を見た。

 

(それにしてもあの鎧は一体?そして誰だ?)

 

コカビエルは目の前の鎧の人物が気になっていた。姿は違うが、少し前に現れた者と同系の存在である事は一目瞭然だからだ。

 

「貴様、一体何者だ?」

 

「コカビエル。お前と会うのはこれで2回目だ」

 

「……2回目、だと……?そうか。やはりお前はあの時の奴だったか。鎧は違えど中身は同じと言う事か」

 

「そう言うことだ。まあ、よろしく」

 

一誠は軽い感じでコカビエルと言葉を交わしていた。それを見ていた人物達は怒りを抑えておけなかった。

 

「何しに来た!一誠!!」

 

「そうよ!私達の邪魔をしに来たの?!」

 

「……どうやらまだ死んではいないようだな。今となってはどうでもいいか……」

 

一樹とリアスは一誠を怒鳴りつけたが、一誠は一樹の事など気にしない態度を取っていた。もやは眼中にすらなかった。

そして一誠はコカビエルに視線を向けた。『ボーン』を解除して素顔を見せた。

 

「……その顔は、そこの赤龍帝と同じだな」

 

「ああ、そこにいる奴とは『元』身内でな。だが、今は違うから」

 

「そうか。それで貴様の名はなんと言う?死ぬ前に聞いておいてやろう」

 

コカビエルは上から目線で一誠に名前を聞いてきた。自分の方が一誠より強いと思っているからだ。

だが、一誠はそんな事気にしないかのような態度をしていた。

 

「そう言えば、まだ名乗ってなかったな。俺の名は真神一誠。北欧はユグドラシルの主神、オーディンの私兵をしている。まあ、よろしく」

 

「……オーディンの私兵だと?お前のような餓鬼を私兵にするとはオーディンもついに頭が逝った様だな!ハハッハハッハ!!」 

 

コカビエルはオーディンの事を完全にバカにしていた。その瞬間、一誠の中にで何かに火が灯った。

 

「……黙れ!」

 

「がはっ?!」

 

一誠はコカビエルの目の前に跳躍して、踵落しでコカビエルを地面に叩きつけた。あまりの威力に地面は大きく陥没した。

 

「ぐっ!?」

 

それだけに終わらず、一誠はコカビエルの背中に勢いをつけて落ちた。

その衝撃で地面は更に陥没してしまった。一誠はコカビエルと距離を取った。

 

「堕天したとはいえ神を……オーディンの爺さんをバカにするなどと身の程を弁えろ。バカにした事を後悔させてやるよ。コカビエル!!」

 

「く、クソ餓鬼が!!調子に乗るなよ!!」

 

コカビエルは光を集めて槍のような形へ変えて、一誠に投げた。一誠は『ウロボロス・ボーン』を身に纏っただけで動こうとせず、手を前につき出し魔法陣を展開した。

光の槍は魔法陣に飲み込まれて、そのまま消えた。

 

「何?―――ぐうっ?!」

 

コカビエルは自分の足に痛みが走ったを感じて、足を見てみるとそのには光の槍が刺さっていた。先程、コカビエル自身が投げた光の槍だ。

 

「な、何故?俺の槍が……」

 

コカビエルは自分の足に先程投げた槍が刺さっているのが理解出来ないでいた。コカビエルは一誠を見た。

 

「な、何をした?!答えろ!!」

 

「お前はバカか?敵に自分の能力を話す奴がいると思っているのか?悪魔もそうだが、堕天使も存外、マヌケなんだな」

 

「な!?……クソが!!ケルベロスども!!そこの鎧の奴を食い殺せ!!」

 

『ガァァァァ!!』

 

コカビエルの指示でグラウンドにいるケルベロスが一誠に向かって走り出した。

 

「クロ、巨大化(フルサイズ)。ケルベロスどもを食い散らかせ!」

 

「ウォォォォォン!!!」

 

一誠の指示を受けてクロは嬉しそうに遠吠えで答えた。そして次の瞬間、クロの身体が光だし大きくなっていった。

ある程度の大きさになると光は消え、クロの本来の大きさになった。大きさはケルベロスより一回り小さいくらいだ。

 

「グルルルル!!!」

 

『ッ?!?』

 

クロの威嚇にケルベロス達は動きを止めた。完全にクロにビビっていた。

 

「どうした?!さっさと食い殺せ!!」

 

「無駄だ。ケルベロスどもは完全にクロにビビったからな」

 

「何?!たかが、犬にビビリおって!!」

 

コカビエルは言う事を聞かないケルベロスに怒りをぶつけていた。それでもケルベロスは微動だにしなかった。

それだけクロを本能的に恐れているからだ。

そして次の瞬間、リアス達がクロが消えたと思ったと同時に数匹のケルベロスの首が飛んだ。クロによって噛み千切られたのだ。

 

(((((み、見えなかった!?)))))

 

一誠を除いた誰もが思った。クロと呼ばれる狼は誰の目にも止まらない速度で移動しケルベロスを一撃で絶命させてしまうほどの実力があると。

 

「さあ、コカビエル。そろそろ終わらせてやるよ、お前の人生を!」

 

(あいつは『バケモノ』なのか……!!)

 

この時、コカビエルの目には一誠はこの世の何者よりも恐ろしく感じていた。

決着の時が刻一刻と近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒王学園に近付く影が一つあった。それは白い龍を模した鎧だった。

 

「まったく、コカビエルにも困ったものだな」

 

『その割りには楽しそうに聞こえるが?』

 

実際に少年は楽しみしていた。自分のライバルと出会えるのだから。

 

「そうだな。赤龍帝がいるからかもしれないな。噂では今代の赤龍帝は上級悪魔のフェニックスを倒したそうだからな。期待が持てる」

 

『そうだな―――何だ?この気配は?!』

 

「どうした?何を感じたんだ?」

 

『今までに感じた事がないが、強力な波動だ』

 

「それならまずはこの目で確かめないとな」

 

白き龍を身に宿した少年は速度を上げて駒王学園に向かった。

 




次回更新は来年1月3日です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

驚愕と真実

新年明けましておめでとうございます。

今年も頑張って更新していきますのでどうぞよろしく。

では、どうぞ。


コカビエルは恐怖していた。かつてこれほどの恐怖を感じた事がなかったと言えるだろう。目の前の少年が放つ魔力は自分すら簡単に超えていた。

一歩、一歩と近付いてくる一誠にコカビエルは後退りをした。

 

(俺が恐怖しているだと!?)

 

コカビエルは自分が後退りした事に怒りを覚えた。コカビエルは一誠を睨み付けた。それは鬼の形相と言ってもいいくらいの顔をしていた。

 

「どうした?来ないのか?大口を叩いていた割には小物だなコカビエル」

 

「っ?!黙れ餓鬼が!!調子に乗るなよ!!!」

 

コカビエルは一誠に向けてまたしても光の槍を投げた。先程のとは一回り大きい槍だった。

一誠は手を前に突き出して魔法陣を展開した。槍は魔法陣に飲み込まれた。

一誠は出口をコカビエルの背後に展開した。このままいけば、槍が背中から刺さりコカビエルは死んでしまう。

 

コカビエルは一誠が自分の背後に魔法陣を展開すると予想して……避けた。槍はそのまま一誠に再び向かっていた。コカビエルはニヤついていた。

このまま行くと槍は一誠に直撃してしまう。だが、一誠は避けるわけでも魔法陣を展開して別方向に飛ばそうともしなかった。

 

「そのまま死ねぇ!!クソ餓鬼がっ!!」

 

槍は一誠を直撃した。身体は仰け反り、そのまま倒れるかと思われた。しかし上半身が仰け反っただけで一誠の位置は動いてはいなかった。

一誠は身体を起こしコカビエルを見て、先程の槍が当たった辺りを触って確認した。

 

「なるほど、コカビエルでは俺に傷一つ付けられないか。まあ当然、か」

 

「な、何だと……?!」

 

コカビエルはそれ以上言葉が出なかった。自分の最大力で放った光の槍が無傷に終わったのだ。これほどの出来事は過去に例がない。

 

「真神君……」

 

「木場か。何だ?その剣は」

 

コカビエルと向きあっている一誠に佑斗は近付いて来た。一誠は佑斗が持っていた剣に興味が湧いた。白と黒の二色が混ざり合ったそんな剣をしていた。

 

「これは僕の『禁手』の『双覇の聖魔剣』だよ。これのおかげでみんなの仇が取れたんだ」

 

「そうか。お前の復讐は終わったのか」

 

一誠は近くで倒れているフリードとバルパーを見た。フリードは剣で斬られていたが、バルパーは身体を何かで貫かれた跡が見られた。

フリードは佑斗が、バルパーはコカビエルが殺していた。

 

(ああ……肝心な所を見逃したな)

 

一誠としては佑斗が二人を斬った場面を見逃した事を後悔していた。気持ちを切り替えてコカビエルを倒そうとした時、イリナとゼノヴィアの二人が一誠の隣に立っていた。

 

「イリナ、ゼノヴィア。あまり無茶をするな。傷だらけじゃないか」

 

「そんな事を言ってられないわ。私達は教会の使徒!主が見ている中、敵を前に無様な所なんて見せてられないわ!」

 

「ああ、イリナの言う通りだ!主が見守っている限り我々は戦う事が出来るのだ!!」

 

イリナとゼノヴィアは一誠の心配を気にせずにコカビエルに自身の得物を向けていた。イリナはゼノヴィアから借り受けた「破壊の聖剣」をゼノヴィアはエクスカリバーではない聖剣を向けていた。

ゼノヴィアが向けている聖剣はデュランダルだ。英雄ローランが持っていた聖剣でその切れ味はエクスカリバーを凌駕する。

 

(奥の手がデュランダルか……まあ、エクスカリバーよりかはマシか)

 

エクスカリバーより切れ味のあるデュランダルならコカビエルを斬れると考えたようだ。しかし魔物や悪魔なら兎も角、堕天使にはあまり期待できない。

それでも単純な攻撃力はエクスカリバーより上だろう。

 

「ハハハハハハッ!!……貴様達の信仰か……仕えるべき主を失ってもよく戦うものだな?」

 

「何?……コカビエル!主を亡くしたとはどういう事だ!!」

 

コカビエルの言葉にゼノヴィアは声を荒立てた。

 

「なんだ、知らないのか?いや、知らないのも無理はない。『神の不在』など信奉者であるお前達、教会の者に聞かせられないからな!」

 

「……そんな、主はお亡くなりに、なったの?私達の今までの信仰は?奉仕は?何だったの?違う、違う、違う……」

 

コカビエルが語った真実に一番衝撃を受けたのはイリナだった。彼女の心は神への奉仕または信仰によって出来ていた。

そこに主―――『神の不在』を知れば、その心は壊れるのは必然だろう。その場に座りこんで小さい声で『神の不在』を否定していた。

 

「イリナ!貴様のような穢れた存在の言葉など私は信じないぞ!!コカビエル!」

 

ゼノヴィアはコカビエルの言葉を否定する事でなんとか精神を保っていた。コカビエルは一誠を見て、嗤った。

 

「ならば、お前の隣の男にでも聞いたらどうだ?オーディンの私兵なのだろう?もしかしたら聞いているかもしれないぞ?」

 

「真神一誠。先程のコカビエルの言った事は真実なのか?主は……神がお亡くなりになったのは……」

 

ゼノヴィアは今にも泣きそうな顔を一誠に向けた。一誠は『ボーン』を纏っているので表情は分からないが視線をゼノヴィアに向けた。

 

「……ああ。コカビエルの言っている事は事実だ。お前らの言う、『聖書に記されし神』は先の三大勢力の戦争中に二天龍を封印する際に魔王共々死んだらしい」

 

「……そんな、主は居られないのか……だったら私の信仰は、なんだったのだ……」

 

一誠から『聖書に記されし神』が死んだ事を聞いたゼノヴィアはイリナと同様にその場に座り込んでしまった。

その目からは生気が無くなっていた。

 

「それで、コカビエル。俺はまだお前の目的を聞いてはいないんだが?何の為にここまでのことをした?」

 

「ふんっ!そんなのは簡単だ!先の古の大戦の再現よ!次こそ我ら堕天使が最強であると示すのだ!魔王の妹が二人も殺されれば、魔王も黙ってはいる事はないだろう!」

 

「―――最強だと?堕天使風情が!調子に乗るなよ!」

 

「ぐはっ?!」

 

コカビエルは顔面を殴られ校舎に吸い込まれるように飛んで行った。飛ばされたコカビエルは瓦礫の中から出てきて一誠を見た。

 

「クソ餓鬼がっ!!だが、貴様といえどバルパーが仕込んだ魔法陣で死ぬがいい!!!」

 

「ふ~ん……あらよっと!」

 

今まさに術が発動しそうな魔法陣を一誠は地面から引っぺがした。しかも片手でだ。

 

「……な?!」

 

「そんな!?魔法陣を引き剥がすなんて!!」

 

コカビエルとリアスが驚いている間に一誠は魔法陣を完全に引き剥がしてしまった。一誠はそのまま『ウロボロス・ボーン』の空間転移で亜空間に仕舞った。

 

「これでこの街が消える事はないな」

 

「き、貴様!!よくも俺の計画を台無しにしてくれたな!!」

 

コカビエルは一誠に突撃したが、一誠はコカビエルの後ろに転移して頭を掴んでそのまま地面に叩きつけた。

 

「がはっ?!……き、さま……がっ?!」

 

一誠はコカビエルを地面に何度も何度も叩きつけた。それこそ、喋る暇さえ与えずに。

 

「クソがっ!!」

 

「おっと……」

 

コカビエルは一誠が地面に叩きつける瞬間を狙って、一誠の拘束を強引に引き剥がした。

拘束を解いたコカビエルは一誠に攻撃しようとしたが、一誠はどこにも見当たらなかった。

 

「ど、どこだ!?」

 

「―――一体、どこを見ている?コカビエル」

 

「何っ?!」

 

一誠はコカビエルの翼を両腕で抱え込むように掴んでおり、右足を背骨に合わせて乗せていた。

 

「お、おい。貴様、まさか……」

 

「どうやら、これから起る事はある程度分かっているようだな。せーの!」

 

一誠は声に合わせてコカビエルの翼を思いっきり引っ張った。

 

ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち……!!

 

「ぎあぁぁぁぁあぁぁぁ!?!?」

 

翼が引き千切られる音はコカビエルの絶叫でかき消えた。いかにコカビエルと言えど十翼が同時に引き千切られたら絶叫を上げざるをえない。

一誠はコカビエルから引き千切った翼をその辺に捨てた。するとクロがやってきてコカビエルの翼を食べ始めた。

 

「クロ。そんなゲスなカラスの翼を食べると腹を壊すぞ」

 

「クゥ~ン。……ウォン!」

 

「いい子だ。ケルベロスを全部倒したのか。流石だな、クロ。後で亜空間に入れておいてやるからな」

 

「ウォン!」

 

グラウンドにいたケルベロスを全て倒したクロは元気良く返事をした。そんなクロを一誠は優しく撫でた。クロも主人に撫でられるのを求めるように身体を寄せた。

 

「さて、コカビエル。お前の戦力はこれでお前だけになったな。それでも続けるか?今なら命だけでも見逃してもいいぞ」

 

「クソ餓鬼がっ!!この俺がっ!!『神の子を見張る者』の幹部のコカビエルが!お前程度の餓鬼に命乞いだと……!!舐めるなよっ!!!」

 

「……そうか。なら遠慮はいらんな。ここで死ね!」

 

「―――それはこっちが困るな」

 

一誠がコカビエルにトドメを刺そうとした、その時に空から声がした。その場にいた全員が空を見上げて見るとそこには白い全身鎧がいた。

そして一誠の目の前に『ドラゴン・ボーン』のカードが現れた。

 

(『ドラゴン・ボーン』がどうして?そう言えば、前にも似たような事があったな。もしかして白龍皇に反応しているのか?だとしたら前、反応したのはもしかして……赤龍帝か?)

 

一誠はこの街に戻ってきた日の事を思い出していた。そして何故、『ドラゴン・ボーン』があのような反応を見せたのかが分かった。

 

「……『白い龍』か。赤に惹かれたか……邪魔をするな!!」

 

コカビエルは満身創痍だと言うのに白龍皇に強気だった。

 

「邪魔?そんな死に掛けで何が出来るんだ?それにアザゼルからお前を連れ帰るように言われているんでな。一緒に来てもらうか」

 

「白龍皇。そいつは俺の獲物だ。勝手に連れて行かないで貰いたいが」

 

一誠はコカビエルを勝手に連れて行こうとしている白龍皇に殺気をぶつけた。

白龍皇も一誠の殺気を感じて危険だと判断したのか。少し距離を取った。

 

『無視か?白いの』

 

どこからか声が聞こえてきた。声の発生源は一樹の左腕からだった。そこには赤い篭手が見えた。

 

『なんだ。起きていたのか?赤いの』

 

先程の声に応えるかのように白い鎧―――白龍皇の鎧からも声が聞こえてきた。

 

『まあな。それにしても白いの。お前から感じていた殺気がまったく感じられないな?』

 

『何、お前以外に興味を持てるものを見つけただけだ。そう言う赤いのも感じられないが?』

 

『お前同様、俺も別の事に興味を持っただけだ』

 

『そうか。ここで我ら二天龍の戦いを始めたいが、どうもそういうわけにも行かないようだな』

 

『決着はまた、いずれと言うわけだな。白いの』

 

『そうなるな。赤いの』

 

赤い龍ドライグと白い龍アルビオンはまるで久し振りに会った友人なような会話をしていた。

それを聞いていた一誠は放心状態のイリナをお姫様抱っこで抱えた。

 

「ゼノヴィア。帰るぞ」

 

「か、帰るのか?」

 

「ああ、俺は白龍皇と戦う理由が無いからな。それに後の始末は向こうがしてくれるようだしな」

 

一誠はイリナを抱えて帰ろうとした。だが、コカビエルがそうはさせまいと行動をおこす。

 

「逃げるなっ!!餓鬼がっ!!」

 

「だから大人しくしていろ。コカビエル」

 

「がはっ!?」

 

しかし、コカビエルの攻撃は白龍皇に阻止された。一誠はそれを確認してゼノヴィアと共にその場から消えた。

白龍皇は気絶させたコカビエルとフリードを抱えて飛び去った。

残されたリアス達は暫くの間、ボケッとしたが、魔王の増援が来てからは学校の修復作業を手伝っていた。

後にこの事件を「聖剣事件」と呼称するようになって、一先ずの決着がついた。

 

 

 

 

 




次回更新は2月7日です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

報告と試練

書き直して一年が経つのは早いものですね。

これからも頑張って更新するのでどうぞ、よろしくお願いします。

では、どうぞ。



駒王学園から少し離れた場所で一誠とコカビエルの戦闘を見ていた二人の青年が立っていた。一人は学生服に甲冑を着て、その手には黄金に輝く一本の槍を持っていた。

その槍こそが十三種の神滅具の一つ「黄昏の聖愴」だ。

 

「……まさか、コカビエルを無傷で圧倒するとはな。正直、驚きだよ。勝てる気がしないな」

 

「その割には楽しそうに見えるが?」

 

ローブを着た青年が訪ねると槍の青年が少し笑ったような顔をして答えた。

 

「そう見えるのならそうなのだろう。彼をこの槍で倒してみたいからな」

 

槍を掲げ青年は笑っていた。一誠の事を思って。

 

この槍で倒すべき強敵の力の一端を知れた事を。

 

自らを強くするための目標たるライバルに出会えた事を。

 

この槍を持って生まれた意味を見つけられた事を。

 

青年は嬉しそうに笑っていた。

 

「……一先ず、俺達も帰ろうか」

 

「ああ、その前に白龍皇を勧誘しよう」

 

「乗ってくるか?堕天使サイドなのだろ?彼は」

 

「乗ってくるさ。彼もまた俺と同じ部類だからね」

 

それは大変だと、もう一人の青年の顔がそう物語っていた。そして彼ら二人は突如出てきた霧によって姿がかき消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖剣事件」から数日後、一誠は自宅で今回の騒動の事をオーディンに報告していた。

 

「……と、これが今回の騒動の顛末だぜ。オーディンの爺さん」

 

『ご苦労じゃたな、イッセーよ。これで一先ず三大勢力に貸しを作れたわい』

 

「まあ、爺さんがそれでいいなら俺は一行に構わないがな。ああ、それと俺以外にも監視役がいるなんて聞いていなかったが?」

 

『それに関してはワシは何も知らんかったんじゃ。ユグドラシルにはお前さんの事を良く思っていない神がおるからのぉ……」

 

(まったく、神って奴は面倒だな)

 

一誠は神の事が面倒だと思っているが、自分が魔神である事をすっかり忘れている。

 

「真神一誠。少しいいか……」

 

一誠がオーディンと話しているとゼノヴィアが声を掛けてきた。

 

「それじゃ、オーディンの爺さん。また何かあれば連絡する。あ、それと監視役なんだけど、そのままにしておいてくれ。どうにも俺には監視役は無理そうだからな」

 

『……分かったわい。何かあれば遠慮はいらんぞ。イッセー』

 

オーディンの声はまるで孫を心配している祖父のような優しい声をしていた。

 

「……言わなくても分かっている。いいぞ、ゼノヴィア」

 

「すまない。オーディン様への報告はいいのか?」

 

「ああ、丁度終わった所だ。そう言うお前はどうなんだ?」

 

「……ああ、報告をして私は教会を抜ける事をした……」

 

「マジか……」

 

一誠はゼノヴィアの教会を抜ける発言に驚いていた。ゼノヴィアは教会の使徒で神への奉仕こそが生き甲斐だと一誠は思っていたかだ。

 

「それにしても教会がお前のような天然物の聖剣使いをよく手放したな?」

 

「……主―――『聖書に記されし神』が死んでいる事を聞いたらあっさりと了承したよ。ヴァチカンの上層部は知っていたのだな……」

 

ゼノヴィアは思わず苦い顔をした。しかし顔を横に振り気持ちを変えた。

 

「それで、イリナの容態は……」

 

「とりあえず、様子を見に行くか」

 

「ああ……」

 

一誠はゼノヴィアと共に「聖剣事件」でコカビエルから「神の死」を聞いて精神が崩壊し掛けた。

それから事件後はずっと寝たきりになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真神家の部屋の一つにイリナが寝ている。一誠はそこにゼノヴィアと共に入っていた。

 

「イリナ!?何をしているんだ!」

 

ゼノヴィアはイリナがしている事に大声を上げてしまった。イリナは傍らにあった果物ナイフで自分の喉元に刃を向けていた。

 

「……止めないでゼノヴィア。主がいない世界なんて、生きていく価値なんてないわ」

 

「神が一柱いないだけで生きていけないなんて、情け無いなイリナ」

 

「……イッセー君には分からないわよ。私の気持ちは……」

 

「ああ、まったく分からないし分かりたくはない。それに簡単に命を粗末にする奴が信仰者だと知ったら神はさぞかし人間の事をバカにするだろうな」

 

「お、おい。真神一誠」

 

一誠の物言いにゼノヴィアは止めようとしたが、それよりも早くにイリナが険しい顔を一誠に向けた。

 

「……いくらイッセー君でも亡くなった主に対して暴言は許さないわよ!」

 

「漸く死にそうな顔から抜け出したな」

 

一誠はワザとイリナを怒らすような発言をしたのだ。イリナを怒らせて元気を取り戻させるために。

 

「……私が元気になったところで、主がいない事に変わりないわ」

 

「そうだな。だったら、魔神たる俺がお前に試練を与える!」

 

「い、イッセー君?!」

 

イリナは一誠がいきなりの発言に頭が追いついてきていなかった。

 

「魔神だろうと『神』だ。なら俺がお前に試練を与えたところで問題はないはずだ。違うか?」

 

「そ、それは……」

 

「紫藤イリナ!お前が証明してみせよ!神がいなくとも人は生きていける事を!所詮は神とは道標だ!人の人生を決めるのは神でも誰でない。自分自身が選択してこそ人生だ」

 

「―――ああぁぁ……」

 

イリナは一誠の言葉に衝撃を受けたようだった。先程の死に掛けていたイリナはもうどこにもいなかった。

そこには与えられた試練を全力でこなそうとしている教会の使徒の顔があった。

 

「まあ、こんな事しか俺には言えないからな。やるにしろやらないにしろ、それはお前が決めればいいさ。でもやる前にはしっかり休んでおけよ。身体を壊したら元も子もないからな」

 

「……それじゃお願いしてもいい?」

 

「俺に出来る事ならいいぞ」

 

「……胸を貸してくれない?」

 

「ああ、いいぞ」

 

イリナはそっと一誠の胸に顔を埋めた。その瞬間、イリナの中で溜め込んだ感情が決壊した。

 

「……ごめんなさいっ!私がイッセー君を守る事が出来ればっ……!!」

 

「いい、もう昔の事だしな。お前が気にする必要はないんだよ」

 

「でもっ!それでも私がイッセー君のご両親を説得出来ていれば……」

 

イリナは昔の事を謝っていた。無力な自分が助ける事が出来なかった事を。

それから暫くしてイリナは泣き疲れたようで眠った。一誠とゼノヴィアはそっと部屋から出て行った。

 

「真神一誠。少し話があるんだが、いいか?」

 

「一誠でいい。いつまでもフルネームで呼ぶ必要はない。それで話って何だ?」

 

一誠とゼノヴィアはイリナを寝かした別の部屋でお茶を飲みながら話し合っていた。最初に切り出したのはゼノヴィアだった。

 

「ああ、それではイッセー。私をここに置いては貰えないだろうか?」

 

「……ここに?でもどうして?」

 

「私は孤児だったんだ。教会を抜けた私にはもう戻る場所はない。そして行くアテもだ」

 

「リアス・グレモリーかソーナ・シトリーの所でも行けば悪魔に転生させてくれたかもしれないぞ?」

 

「元教会の使徒の私が悪魔に転生など、笑えない冗談だな」

 

(ゼノヴィアもしっかりとプライドはあるんだな)

 

抜けたといえ、ゼノヴィアもに己の生き方と言うものがある。一誠は初めて会った時のゼノヴィアより生き生きしているように見えた。

 

「だから北欧か?俺は別に構わないぞ。オーディンの爺さんも天然物の聖剣使いでデュランダル持ちが自分達の勢力に加わるとなれば喜ぶと思うぞ」

 

「そうか。すまないがよろしく頼む」

 

ゼノヴィアは一誠に頭を下げた。一誠はさっそく、オーディンに連絡した。

 

『まさか、デュランダル使いがユグドラシルにとな。それはこちらとしても歓迎する。まあ、イッセーの部下と言う事にしておくわい』

 

「すまない。『遠慮するな』と言ってすぐにこんな事を頼んで」

 

『構わんわい。戦力の増加はこちらとて望む所だからのぉ。それでは頼んだぞ、イッセー』

 

「了解だ。オーディンの爺さん」

 

一誠はオーディンとの連絡を終えてゼノヴィアと少し元気になったイリナと一緒に三人で夕食を摂った。

その時、ゼノヴィアから教会を抜けてユグドラシルに移籍したと聞いたイリナは色々な意味で驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖剣事件」から約二週間が経った日、一誠はイリナと空港にいた。イリナがヴァチカンに帰る日がきたのだ。

ゼノヴィアは現在、ユグドラシルで駒王学園への編入手続き中でここにはいない。

 

「……そろそろ搭乗時間だから行くね」

 

「そうか。機会があれば、家に寄って来てくれ。何か手料理をご馳走するぞ」

 

「うん。機会があれば、絶対に。イッセー君が私に与えてくれた試練をどうやって行くかはまだ決めていないけど、もう簡単に命を粗末にしないから」

 

「そうか。またな、イリナ」

 

「うん。またねイッセー君」

 

「あ、そうだ。砕けた聖剣の欠片は俺の方で全部回収しておいた」

 

一誠はイリナにアタッシュケースを渡した。中には砕けた聖剣の欠片とゼノヴィアが使っていた「破壊の聖剣」が入っている。

 

「……ホント、色々とありがとね。イッセー君」

 

イリナは一誠からアタッシュケースを受け取ると搭乗口に向かって歩き出した。一誠はイリナを搭乗口まで見送った。暫くしてから一誠は家に帰ろうとした時だった。

 

「ま、間に合わなかったか!」

 

「ゼノヴィア。ああ、ついさっき行ったよ」

 

イリナを見送ろうとゼノヴィアは慌てて来たが、間に合わなかった。ゼノヴィアは悔しそうな顔をしていた。

 

「まあ、次会う機会がきっとあるだろうよ」

 

「……そうだな。それまで待つとしよう」

 

一誠とゼノヴィアは真神家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー。頼みがあるのだが、いいか?」

 

「頼み?何だ」

 

家に帰り、夕食を食べているとゼノヴィアが一誠に頼みごとをして来た。一誠はゼノヴィアの態度から軽いお願いだろうと考えた。

 

「私にイッセーの子を産ませてくれないか?」

 

「―――ぶぅぅぅぅっ?!」

 

一誠は飲み掛けていたお茶を思いっきり吹き出してしまった。しかし無理もない。いきなり目の前の少女に「子を産ませてくれないか?」と言われた時には誰だって吹き出してしまう。

いくら一誠でも即座に対応は出来ない。

 

「ごほっ……どうしてそんな頼みをしてくるんだ?」

 

「ああ、私は今まで主への奉仕こそが生き甲斐だった。しかしそれを無くしてしまった以上、何か生きる目的を新たに見つけたいと思っていてな」

 

「……それが、子作りだと?」

 

「そうだ!生まれてくれる子供には強くあって欲しいと私は思うんだ。なら強い父親の血を引いていれば、強い子が生まれてくるのは間違いない。だが、私の知り合いで強い男と言えばイッセー!君だと思ってね」

 

「ああ、なるほどな。……頭が痛くなってきた」

 

一誠はゼノヴィアの理由に頭が痛くなっていた。そんな一誠を見て、ゼノヴィアはどこか間違っていたか?と言う具合に首を傾げていた。

 

(俺も一般常識がある方ではないが、こいつの頭はどうなっているんだ?)

 

ユグドラシルで神々に囲まれて暮らしてきた一誠に一般常識があるかないかと問われれば、無い!とユグドラシルの神々は口を揃えるだろう。

 

「だが、人間から魔神になった俺が子供を作る事が出来るのか興味はあるな」

 

「おお、そうか。では、さっそく……」

 

「ちょっと待て!」

 

いきなり服を脱ぎ出したゼノヴィアに一誠は待ったを掛けた。ゼノヴィアも止められて不満げな顔をしていた。

 

「どうしてだ、イッセー。君も同意なら……」

 

「お前は駒王学園に編入する事になっているだろ。妊娠したら流石に通えなくなる。せめて、高校を卒業するまで待て。いいな」

 

「……分かった。イッセーがそう言うなら」

 

ゼノヴィアは一誠の言う通りにした。そして夜が更けていった。




次回更新は3月7日です。

次回から三大勢力の会議に入ります。

では、次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神魔会議
実験と訪問


「聖剣事件」からおよそ一ヶ月が経とうとしていた。その間、様々な出来事があった。ゼノヴィアの教会から北欧への移籍、ゼノヴィアの駒王学園への編入や更に近々行われる三大勢力の会談にユグドラシルも参加してくれと堕天使の総督、アザゼルから声が掛かった。

そんなある日、一誠はゼノヴィアにある事について相談されていた。

 

「それで、一体何だ?相談ってのは?」

 

「ああ、よくよく考えてみたのだが……私がイッセーと添い遂げるとして、ある問題に気がついたんだ」

 

「ある問題?それは何だ」

 

「それは……寿命だ!」

 

「寿命?」

 

「そうだ!イッセーは魔神で長生きするだろう。だが、私は人間だ。どうしても私が先に老いて死んでしまう」

 

ゼノヴィアは所詮、人間なのだ。寿命は70歳~90歳くらいだろう。それも事故などが場合だが。

その点、一誠は魔神へと転生した存在だ。神の寿命は計り知れない。

だからゼノヴィアは危惧しているのだ。自分だけ先に死にたくないと、ずっと一誠の隣にいつ続けたいと。

それが彼女―――ゼノヴィアの願いだった。

 

(……と、言ってもな。寿命の問題を解決するのは難しいか?いや待てよ。アレを試してみるか)

 

一誠はある事を考えついて、試そうとしていた。ゼノヴィアを実験相手にしようとしていた。

 

「……ゼノヴィア。俺でそれを解決する事が出来るかもしれない」

 

「本当か!?それでその方法は?すぐにでも出来るのか?」

 

ゼノヴィアは一誠に顔ぐいっと近付けた。鼻同士が触れても可笑しくない距離だった。一誠はゼノヴィアの肩に手を置いて押して落ち着かせた。

 

「まずは落ち着けよ。思い出してみたんだ。どうして俺が魔神となったのかを……俺が魔神となったきっかけはこの『ボーン・カード』だ」

 

「……『ボーン・カード』か。だが、それは言わばイッセーの『力』だろ?それを私が使った所でどうと言う事はないだろう」

 

「ああ、そうだ」

 

一誠は『ボーン・カード』をゼノヴィアに見せてあっさりと肯定した。

 

「だがな、これをゼノヴィアの魂に同化させて間接的に俺の魔力を送る事でゼノヴィアを俺の眷属神扱いにする事が出来るはずだ」

 

「眷属神?つまりイッセーの直接の部下になる事で私も神なるという事か?」

 

「正確には擬似神と言う認識だな。これで寿命の問題は解決されるし俺の魔力の一部を使う事が出来るようになる」

 

「それは凄いな!では、早速始めよう」

 

「まあ、待て。適当に『ボーン』を決めて同化させられないんだよ。お前と適応出来る『ボーン』でないと。この中、選んでみてくれ」

 

一誠は数十枚の『ボーン・カード』を出現させた。

 

「色々と種類があるのだな……」

 

「ああ、選んでみてくれ」

 

「そうだな。……これは……」

 

ゼノヴィアは一枚の『ボーン・カード』を取った。それに描かれていたのは……。

 

「『レオ・ボーン』か。それなんだな?」

 

「ああ、これを見た瞬間、なにか目が離せなくなった」

 

『レオ・ボーン』

雷属性のボーン。

ボーンの中で左腕に盾を持っており防御力が優秀だが、攻撃力にも優れたボーンだ。

 

一誠は他の『ボーン・カード』を仕舞って、『レオ・ボーン』を手に取るとゼノヴィアの胸にぴったり付けた。

 

「それじゃ……行くぞ」

 

「ああ、頼む」

 

一誠はゆっくりと『レオ・ボーン』をゼノヴィアの体内に入れていった。カードが完全にゼノヴィアの体内に入った。

 

「どうだ?身体に変化はあるか?ゼノヴィア」

 

「……いや、大丈夫だ。それと不思議なんだ……身体の内側から大きな『力』を感じる。これが『ボーン』なんだな」

 

「ああ、どうやら上手くいったな」

 

一誠はゼノヴィアに『レオ・ボーン』が同化した事に安堵した。

 

(初めての事をしたからな。上手くいかなかったらゼノヴィアがどうなっていたか……)

 

一誠は初めのての試みが無事に終わって、肩の荷が降りたような顔をしていた。

 

「ゼノヴィア。これから魔力操作を覚えてもらうからな」

 

「ああ、分かった。必ずものにしてみせる。そう言えば、話は変わるが近々授業参観があるが、私達の保護者であるオーディン様が来られるのか?」

 

ゼノヴィアは数日後にある授業参観の事を一誠に聞いた。一誠は首を横に振った。

 

「いや、オーディンの爺さんは来ない。まだ日本が安全とは限らないからな。授業参観には代理が来るらしい」

 

「そうなのか?オーディン様に会えると思ったのだが、残念だ……」

 

「ユグドラシルに移籍した時には会わなかったのか?」

 

一誠の質問にゼノヴィアは残念そうな顔をして首を横に振った。

 

「あの時はヴァルキリーと会っただけで神とは会っていない」

 

「そうか。まあ、一応警戒していたんだろ。すぐに会えるようになるさ」

 

「うむ。そうだといいが……」

 

ゼノヴィアは不安があったが、一誠が言う事を信じる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ゼノヴィアは不思議な夢を見た。そこは何もない黒い空間だった。

 

「……私は確か寝ていたはすだ。ならここは?」

 

「ここは俺の精神空間だ。ゼノヴィア」

 

「イッセー!?……ここがイッセーの精神空間とはどう言う事だ?何故こんな事に?」

 

「それはお前に用がある奴がいるからだ」

 

「私に用?それは……」

 

一誠はある方向を指差した。ゼノヴィアはその方向を見てみるとそこにいたのは人ではなく、巨大な生物―――ライオンがいた。

その大きさは人すら一口に丸のみしてしまえるくらいの大きさがあった。

 

『始めまして、と言ったところか。お嬢ちゃん』

 

「な……何なんだ?イッセー」

 

「こいつは『レオ・ボーン』だよ。お前の魂と同化させた」

 

「あれか!だが、私に何の用があって?」

 

『レオ・ボーン』はゼノヴィアに近付き、匂いを嗅いで一誠の方を向いた。

 

『この者の力になればいいのか、我らが創造主の後継者よ』

 

「ああ、頼めるか?」

 

『我らが神がそうお望みなら是非も無し』

 

「だそうだ。ゼノヴィア」

 

「……?どういう事だ。これは?」

 

話に付いていけずにゼノヴィアは首を傾げるしかなかった。

 

「まあ、簡単に言うと今日から『レオ・ボーン』がお前に力を貸してくれるんだよ」

 

「そうか。……よろしく頼む。『レオ・ボーン』」

 

『ああ、こちらこそな』

 

そしてゼノヴィアの意識は少しずつ一誠の精神空間から離れていき、現実の身体に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業参観を前日に控えた日、ユグドラシルからある人物が日本の駒王町に来た。その人物の名はロスヴァイセ。

ユグドラシルで戦乙女―――ヴァルキリーの一人だ。

彼女はある目的のために日本の駒王町にやってきており、一誠の家を目指していた。

 

「確かこの辺りだと思うのですが……」

 

キャリーバックを引っ張りながら空いている手に地図を見ながら目的の家を探そうとしていたが、完全に迷子になっていた。

しかしそれも無理はない。初めて来た土地でありがちだ。

 

「……はぁ~どうしましょう……」

 

「ロスヴァイセさん?」

 

「え?……イッセー君!」

 

ロスヴァイセが聞き覚えがある声がしたのでそちらを見てみるとそこにいたのは一誠だった。

両手には買い物袋を持っていた。

 

「良かった~道に迷っていたので……」

 

「そうだったんですか。でもどうしてここに?」

 

「それはイッセー君に渡すものがあるのと授業参観に出るためです」

 

ロスヴァイセが駒王町に来た目的はオーディンより預かった物を一誠に渡すのと一誠とゼノヴィアの授業参加に保護者の代理で出ることだった。

 

「そうだったのか。オーディンの爺さんは何も言わなかったからな」

 

「まったくオーディン様は……」

 

「それより俺の家に行きませんか?こんな道端で話すのなんですから」

 

「そうですね。行きましょう」

 

一誠とロスヴァイセは一先ず一誠の家に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠はロスヴァイセを連れて自分の家に向かっていた。

 

(まさか、ロスヴァイセさんが来るとはな。しかし渡す物ってのは何だ?)

 

一誠は先程、ロスヴァイセが言っていた渡すものが気になっていた。彼女が授業参加に出る事など忘れていた。

一誠はロスヴァイセを始めに色々なヴァリキリーから様々な事を習っていた。ロスヴァイセはその一人だ。

そんなこんなで一誠の家に着いた。

 

「それにしてもオーディン様はよくこれほどの家を用意出来ましたね?」

 

ロスヴァイセは一誠の家を見上げてそう思ってしまった。

 

「ここはどうも悪魔の管理から外れているらしい。俺も詳しくは知らないが、色々と問題があった家だったらしい」

 

「問題?それは一体……」

 

「悪霊だとか魔物だとかそんな噂が人をこの家から遠ざけていたらしい」

 

「大丈夫なのですか?それ……」

 

「何も問題ない。てか、そもそも何もいなかったからな。噂が一人歩きしただけ」

 

「そうなのですか。それは良かった」

 

ロスヴァイセは一誠に続き玄関に入って行った。靴を脱ぎ上がった。

 

「おかえり、イッセー」

 

「ああ、ただいま。ゼノヴィア」

 

「な?!」

 

一誠は出迎えてくれたゼノヴィアと普通に会話していたが、ロスヴァイセはゼノヴィアの格好に驚きを隠せ無かった。

 

「ど、どうして全裸なんですか?!ゼノヴィアさん!!」

 

ゼノヴィアは丁度、風呂上りで衣服をまったく着ていなかった。

 

「おっと、すまない。この家には私とイッセー以外いないのでな。ついつい開放的になってしまう」

 

「だからって!!女の子がそんな格好で歩き回るものではありません!!……って、イッセー君も何か言ってください!」

 

ロスヴァイセは一誠の方を向き怒鳴ったが、一誠の顔は「何を言っているんだ?」と書いてあるかのような表情をしていた。

 

「俺は見慣れているから大丈夫だが?」

 

「み、見慣れている?!ゼノヴィアさん!いくら同居しているとしても貴女は女の子なんですよ!もうちょっと恥じらいを持ってください!いいですか!?」

 

「うむ。ロスヴァイセ殿が言うなら次からは気をつけよう」

 

「次ではなく!!今から気を付けてください!」

 

ロスヴァイセの注意を二人は聞くには更々なかった。

 

「それでロスヴァイセさん。俺に渡すものって何ですか?」

 

「ああ、そうでした。すっかり忘れていました。これをオーディン様からイッセー君に、と」

 

ロスヴァイセは魔法陣から細長い箱を取り出して一誠の前に置いた。その箱は様々な封印が施されていた。

その程のものをオーディンは一誠に託そうとしてた。

 

(オーディンの爺さんから何が来るかと思ったが、何だ?これほど厳重に封印を施して俺に渡すものっては何だ?)

 

一誠は今か今かと箱の封印が解かれるのを待った。そして封印は解かれて一誠は中に入っているものを確認した。

 

「こいつは……」

 

一誠は箱の中身を確認して驚いていた。オーディンからのこれほどのものが送られてくるとはと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神の子を見張る者』の一室で総督のアザゼルと白龍皇の少年は近々ある会談について話していた。

 

「アザゼル。俺も例の会談に参加出来るのか?」

 

「ああ、もちろんだ。お前にも証人になってもらうからな。それにしてもコカビエルを連れ帰ってから妙に機嫌がいいな?何か面白いものでも見つけたか?」

 

「ああ、俺が全力でぶつかっても勝てそうもない人物にな」

 

「あの場にそんな奴がいたのか?お前が勝てない相手か。それは敵対したく無いな」

 

アザゼルは肩を竦め、嫌だ嫌だと嘆いていたが、白龍皇の少年は逆に自分が全力でぶつかる事の出来る相手に喜んでいた。

 

(楽しみだ……)

 




次回更新は4月4日です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

買い物と白龍皇

「ここがデパートか。大きいな!」

 

「そうだな。俺はここには滅多に来ないからな」

 

天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの四つの勢力が会談をする日が数日に迫ってきている日に一誠とゼノヴィアは駒王町の大型デパートに来ていた。

二人はあるものを買いにこの大型デパートに来ていた。

 

「しかし二人揃って水着を持っていないとはな」

 

「イッセーはてっきり持っているものかと思ったのだな?」

 

「俺はユグドラシルに居た時から空いている時間は『ボーン』の使い方や料理の勉強していたな。そういうゼノヴィアは何していたんだ?」

 

「私か?私は鍛錬だな。魔獣や悪魔などに負けないような」

 

「そうか」

 

二人が話していると目の前から一組の男女が近付いてきた。どちらも金髪の持ち主だ。

 

「ゼノヴィアさん!」

 

「待たせたな。アーシア」

 

「やあ、イッセー君」

 

「よお、木場」

 

近付いて来たのはアーシアと佑斗の二人だった。一誠としても好んでグレモリー眷属と関わろうとは思わなかった。

 

(……でもこの二人は別なんだよな。残りがな……)

 

一誠の中でアーシアと佑斗だけはそれなりに仲良く出来ると考えていた。主であるリアスと一樹、朱乃の三人とは仲良く出来ないと分かっていた。

しかし小猫だけがどちらでもない位置になっていた。

 

一誠は水着を買うに当たって自分ではどう選べばいいのか分からなかった。しかしそれを相談する友人は一誠にはいなかったので木場に頼んだのだ。

その話を聞いていたゼノヴィアが『ぜひ自分も』と言ってきたのだ。

しかし佑斗は男性だ。女性の水着を選ぶ事など出来ない。そこで佑斗はゼノヴィアと接点のあるアーシアに協力を求めたのだ。

 

「それでイッセー君はどんな水着がいいか、聞かせてくれないかな?デザインとか」

 

「ゼノヴィアさんも言ってくださいね。がんばって選びますから!」

 

「そうだな……とりあえず、丈夫なので」

 

「うん。私もイッセーと同じで丈夫なのがいいな。コガビエルが攻撃して破れないくらいのを」

 

「「…………」」

 

佑斗とアーシアは二人が求めている水着のリクエストを聞いてあ然としていた。最初の要求が丈夫な事となのだから仕方がない。

まさか二人がデザインよりも丈夫なものと言うのを予想していなかったからだ。

 

「……うん。アーシアさん、頑張って選ぼうか」

 

「……はい。ゼノヴィアさんが言う丈夫な水着があるといいのですけど……」

 

佑斗とアーシアはある種の脱力感に悩まされていた。このデパートに二人が求めているものが果してあるのかどうか。

 

 

 

 

 

「それじゃここで一端、別れてから後で合流と言う事で」

 

「ああ、分かった。ゼノヴィア、また後でな」

 

「ああ。それではアーシア、期待しているぞ」

 

「は、はい!任せてください!」

 

四人は男女に別れてそれぞれの水着を見ていた。

 

「イッセー君。聞いてもいいかな?」

 

佑斗は気になった事を一誠に質問した。一誠は首を傾げた。

 

「?別にいいぞ。何が聞きたい」

 

「どうして急に水着を買おうと思ったんだい?」

 

「実はオーディンの爺さんが日本の夏がどんなものか知りたいとメールが着たんでとりあえず水着の写真でも送っておけばいいかと思ってな」

 

「そ、そうなんだ……」

 

佑斗はそれが間違っていると気付いていた。水着の写真を送っただけで日本の夏を教えられる訳がないと。

しかし佑斗は指摘しない。真剣な表情で水着を選んでいる一誠に言うのが馬鹿馬鹿しくなったからだ。

 

「……どうした?」

 

「え?あ、いや……何でもないよ。それで気に入ったのはあったかな?」

 

「ああ、これが一番いいと思うな」

 

一誠が選んだ海パンはオーソドックスで特に変わった物ではなかった。

 

「いいと思うよ」

 

「ああ。それじゃ買ってくるか」

 

「いいのかい?他にも色々あるけど?」

 

「……ああ。『あんまり待たせる』と悪いからな」

 

一誠の言葉に佑斗は首を傾げた。一誠は一体誰を待たせているのか。その言葉は佑斗に向けてでない事だけ分かった。

その後、ゼノヴィアとアーシアと合流してからファーストフード店に入り軽く昼食を済ませた。

 

「今日はありがとな。木場」

 

「これくらい構わないさ」

 

「アーシアもありがとう。私だけではどう選べばいいか分からなかったからな」

 

「そ、そんな私もゼノヴィアさんとお買い物が出来て、すごく嬉しかったですから」

 

一誠とゼノヴィアは佑斗とアーシアにそれぞれお礼を言った。そして一誠は佑斗とアーシアの後ろにあるデパートの柱を見ていた。

気になって佑斗は後ろを見たが誰もいなかった。

 

「いい加減、隠れていないで出て来たらどうなんだ?」

 

一誠がそう言うと柱の影からリアス、一樹、朱乃、小猫が現れた。

 

「部長……どうして?」

 

「カズキさんも……」

 

佑斗とアーシアは驚きを隠せなかった。まさか、自分達の主や仲間達がコソコソ隠れて自分達を監視していたとは思ってもいなかったからだ。

 

「……どういうつもりかしら?真神一誠。私の可愛い眷属を勝手に連れまわすなんて!」

 

「きっと、アーシアと木場はこいつに洗脳されているんだ。待っていろ、二人とも。すぐに解放してやるからな!!」

 

「確かにカズキに言う通りね。でないと二人が彼と行動するはずがないわ!」

 

リアスと一樹は自分達に都合がいいように解釈していた。佑斗は違うと言うとしたが止めた。

 

(今の二人に言ってもダメだなね……)

 

リアスと一樹の二人は誰が何を言っても聞く耳を持たない事は誰から見ても明らかだった。それからも二人は一誠に罵倒暴言を吐いたが、一誠はまったく聞いていなかった。

それどころか一誠はリアス達など見てはいなかった。さらにその後ろを見ていた。

 

「俺は別にお前らに言った覚えはない。お前らの後ろの奴に言っただけだ」

 

「―――はぁ!?後ろだと!?」

 

一樹は後ろを振り返って見るとそこには一人の少年が立っていた。一樹は彼が誰か知っていた。

 

(どうして!?こいつとは学校で会うはずなのに!?)

 

少年は不敵に笑いながら近付いて来たが、一樹の横を素通りして一誠の前に出た。

 

「こうして会うのは初めましてだな、真神一誠。それとも『魔神イッセー』と呼んだ方がいいのかな?」

 

「どっちでも好きに呼びな、白龍皇。そう言えば、名前を聞いていなかったな」

 

「俺の名前はヴァーリだ」

 

少年―――白龍皇のヴァーリは周りの者達など気にしていないように一誠に話し掛けていた。実際にヴァーリの目には一誠しか映っていなかった。

 

(ふざけるなよ!?またも『原作』に無い展開だと!?)

 

だが、一樹はそれが許せなかった。本来なら赤龍帝の自分を見ているはずのヴァーリが自分が一番嫌う一誠しか見ていないのだ。

 

「俺を無視するな!?ヴァーリ!」

 

「―――黙っていろ」

 

「っ!?」

 

一樹はヴァーリの肩を掴み振り返そうとした瞬間、ヴァーリが一樹に殺気をぶつけた。それだけで一樹は動けなくなった。

それだけ一樹とヴァーリの差があるという事だ。

 

「ここじゃ、まともに話せ無いな。ゼノヴィア」

 

「ああ」

 

ゼノヴィアは一誠の肩に手を置いて、アーシアの方に顔を向けた。

 

「アーシア。今日はありがとう。君との買い物はとても楽しかった。よかったらまた付き合ってもらっていいか?」

 

「は、はい!もちろんです。私もゼノヴィアさんとまた買い物したいです!」

 

一誠はゼノヴィアが別れの挨拶を済ませたのを確認してからヴァーリの腕を掴み、『ウロボロス・ボーン』を出した。

 

「転移」

 

「―――待ちなさい!」

 

一誠とゼノヴィア、ヴァーリはリアス達の目の前から消えた。一歩、遅くリアスの手は一誠を掴む事は無かった。

リアスは拳を握り締め、佑斗とアーシアから事の経緯を聞き出した。そして二人に強めの口調で言い放った。

 

「―――今後、彼との接触を固く禁じるわ!これは命令よ!!」

 

アーシアは悲しい顔になり今にも泣きそうになっていた。元教会に属していた事もありゼノヴィアとは話が合うと分かったからだ。

それにまた買い物の約束をしたが、それが出来ないと思うと泣きそうになったのだ。しかしアーシアはグッと泣くのを堪えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠は『ウロボロス・ボーン』でゼノヴィアとヴァーリを連れて自宅まで転移した。

 

「……ここは?」

 

「俺達が暮らすしている家だよ。まあ、上がって行けよ。飲み物くらい出すぜ」

 

ヴァーリはいきなり転移したのに驚いたが、一誠の後に続いて家に上がって客間に通された。

ゼノヴィアは中庭に出てデュランダルを出して素振りを始めた。

 

「ヴァーリ。お前、コーヒーは砂糖とミルクはどうする?」

 

「どちらとも貰おう」

 

一誠はヴァーリの前にコーヒーを差し出した。一誠とヴァーリはコーヒーを飲み始めた。そして一誠の方から話を切り出した。

 

「それにしても良かったのか?」

 

「何がだ?」

 

「赤龍帝との戦いだよ」

 

「……ああ。その事か」

 

一誠の質問にヴァーリは素っ気なく答えた。その事に一誠は疑問に思った。

 

(興味がないのか……?)

 

本来、二天龍はお互いを求めて殺し合うものだ。どちらが強いかを競うように。だが、ヴァーリは今代の赤龍帝の一樹にまったく興味が無い様に一誠には見えた。

実際にヴァーリは一樹に興味は無い。

 

「今代の赤龍帝はあまりにも弱い。あれは一般人が悪魔に転生しただけで、特に興味は無い。俺の興味は君くらいだよ」

 

「俺にな……」

 

「アザゼルや他の幹部達から噂は聞いていたからな。『北欧最強の魔神イッセー』と言う噂が出回った時、幹部共はオーディンの流したデマと言っていたが、アザゼルだけは違った。『あのオーディンがそんなデマを流すはずが無い』と……」

 

「アザゼル総督が……」

 

『神の子を見張る者』でこの噂を信じているのはアザゼルと副総督のシェムハザだけだった。

幹部の見解は半分がデマ、残り半分が興味が無いと言うものだ。

 

「それで?お前はどうなんだ」

 

「俺も始めはデマだと思ったが、アザゼルの話を聞いても半分はデマだと……だが、コカビエルの一件でそれは本物に変わったよ。君は間違いなく強い!俺よりもな!アルビオンもこれほど強い者は神でもそうはいないと言っている」

 

「『白い龍』が……それは光栄だな。伝説の二天龍の片割れに絶賛されるとはな」

 

「アルビオンは戦うなと言うが俺は今すぐ君と戦ってみたいと思うが、君はどうだろうか?」

 

「ほう……」

 

ヴァーリはギラギラとした目を一誠に向けた後、自分が出せる殺気を一誠にぶつけた。それだけで家が軋み始めた。

それはヴァーリから一誠に向けての挑発だった。

しかし一誠にとってヴァーリの殺気でも恐れる必要が無かった。それでもヴァーリは一誠と戦ってみたと思っていた。

『白い龍』アルビオンがどんなに止めようともだ。

 

「くくくっ……いいね」

 

一誠は思わず笑ってしまった。一誠はこれまで悪魔、堕天使、吸血鬼、魔獣と様々な存在と会って来たが、そのどれもが一誠の『力』の一端を感じただけで尻込みして自分から戦おうとするものはいなかった。

 

(挑戦されているのか……意外に悪くは無いな)

 

挑まれる事、その心地よさに一誠は更に笑みを浮かべた。

そして今、北欧最凶の魔神と歴代最強の白龍皇の戦いの幕が切って落されようとしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

授業参観と魔王少女

北欧最凶の魔神、一誠と今代の白龍皇のヴァーリの戦いが今まさに始まろうとしていた。一誠の手には『黒いカード』が握られていた。

流石の一誠もそのまま戦おうとは思ってはいない。コクーンを展開して『隔離空間』で戦うつもりだった。

そこならば誰にも邪魔される事は無いからだ。

 

『―――おい!ヴァーリ!』

 

一誠がコクーンを展開しようとした時、ヴァーリの連絡用の魔法陣が起動した。そこから男の声が聞こえてきた。

 

「……アザゼルか。なんだ?」

 

『ヴァーリ。お前、今どこにいる?』

 

ヴァーリに連絡してきたのは『神の子を見張る者』の総督のアザゼルだった。アザゼルはどこか焦ったような声でヴァーリに質問した。

 

「真神一誠の家だが?」

 

『な!?バカ野郎!!今すぐ帰って来い!!』

 

アザゼルはそれだけ言って声は聞こえなくなった。

 

「……そう言う訳だ。真神一誠。俺はこれで帰らせてもうよ」

 

「そうか。俺としても残念だよ。もう少し早ければ戦えただろうにな」

 

「そうだな。君との戦いは次の機会に取っておくよ。それではな」

 

ヴァーリはそれだけ言って真神家を後にした。今戦う事が出来ずに心底、残念がっていたが次戦う事を考えて笑っていた。

一誠も笑って応えるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリと出会って数日後、駒王学園はこの日授業参観を向かえた。生徒達は落ち着かないのかどこかそわそわしていた。

しかし一誠とゼノヴィアの二人は他の生徒と違って普段通りだった。

 

「授業参観か。……イッセー、こんな時はどんな事をすればいいのだ?」

 

「俺に聞かれてもな。俺は小学生の授業参観を体験する前に一樹に騙されて両親に『バケモノ』呼ばわりされて家を出たからな。今まで体験した事がないんだ」

 

「そうなのか?私もないな。元々、孤児だったので学校へ行った事がないからな」

 

こんな感じで二人は周りと違っていた。ふと、ゼノヴィアが気になった事を一誠に聞く事にした。

 

「イッセー。聞いてもいいか?」

 

「どうした?ゼノヴィア」

 

「私達の保護者が来ると聞いたが、オーディン様が来られるのか?」

 

一誠とゼノヴィアの保護者は一応、オーディンになっている。それならこの授業参観に来るのはオーディンだとゼノヴィアは思ったのだ。

 

「いや、オーディンの爺さんは来ない。ここは一応、悪魔が管理している土地だから他の神から行くなと言われているらしい。代理でヴァルキリーが来る事になっている」

 

「……そうなのか。それは少し残念だが、仕方ないな」

 

ゼノヴィアはがっかりしてが授業が始まると気持ちを切り替えて真面目に授業に取り組んでいた。

 

「皆さん。親御さんが来ているからといって緊張する必要はありませんよ」

 

一誠とゼノヴィアの担任の女教師はそう言ったが、自分の親だけならまだしも他人の親がいる状況はどう頑張っても緊張してしまう。

そんな生徒達を他所に、一誠は覚えのある魔力を感じていた。

 

(この魔力はサーゼクス・ルシファーか。それの他にも強力な魔力の持ち主がいるな)

 

二つ感じた魔力の内、一つはサーゼクスだとすぐに分かったが、もう一つが分からないでいた。

だが、特に気にせず授業に集中した。授業参観は一誠のクラスは現国だった。

一誠は元々住んでいた土地の文字だったので最初から問題なかったが、ゼノヴィアは違った。しかし、最初こそ苦戦していたが今では問題なく読み書きをこなしている。

 

「それではこれで授業は終了です。日直、挨拶を」

 

「起立!礼!」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

授業参観は何事もなく無事に終わった。一誠とゼノヴィアは授業が終わるとすぐに教室を出てぶらぶらと歩いていた。

すると体育館近くに人だかりが出来ている事に気が付いた。そこからはパシャパシャとカメラのシャッター音が聞こえてきた。

一誠とゼノヴィアは気になってそこに近付いて見た。

そこにいたのは黒髪ツインテールの女性で、魔法少女のコスプレをして写真を撮らせていた。

 

「イッセー。あれは何をしているのだ?」

 

「コスプレの写真会だろうか?」

 

ゼノヴィアは一体何をしているのかを一誠に質問した。一誠はすぐに答えたがそもそも可笑しな事に気が付いた。

 

(どうして体育館でこんな事をしているんだ?)

 

そもそも学校でする事では無い事くらい一誠にも十分に分かっていた。そんな人だかりを散らしている人物が現れた。

 

「こらこら!ここは写真を撮る所じゃ無い!散れ散れ!!」

 

(あれはシトリー眷属の悪魔だったな)

 

人だかりを散らしているのは匙元士郎だとすぐに分かった。前に一度だけ見かけたからだ。匙は人だかりを無事に散らす事に成功していた。

 

「アンタもこんな所でそんな格好で写真を撮らせないでくれ!」

 

「これが私服なんだからしょうがないでしょ☆」

 

魔法少女の格好をした女性は可愛く舌を出していた。

 

「おい。シトリーの悪魔」

 

「え?兵藤?―――がはっ!?」

 

「……あ……やってしまった」

 

一誠は殴られて気絶してしまった匙を見下ろしていた。一樹と間違えられた一誠は、フリードの時と同じく反射的に殴ってしまったのだ。

 

「匙!?」

 

「ソーナ・シトリーか」

 

そこに現れたのは匙の主であるソーナ・シトリーだった。気絶している匙を見て驚ていた。それもそのはずだ、様子を見に来たら自分の眷属が気絶しているのだから無理もない。

 

「……真神君ですか。この状況の説明を聞いても?それと私の事は『支取蒼那』と呼んでください」

 

「分かった。こいつが気絶しているのは俺の事を一樹と間違えたからだ。殴った事は悪いと思っている」

 

「そうですか……「ソーたん見っけ!!」お姉様!?」

 

ソーナの言葉を遮り魔法少女はソーナに抱きついた。そんな魔法少女の事をソーナは「お姉様」と言った。

そんなやり取りを見れば誰にだって彼女達が姉妹である事は一目瞭然だ。

 

(と、言う事はあれがセラフォルー・レヴィアタンか)

 

一誠はソーナの姉が四大魔王の一人であるレヴィアタンだと思い出した。リアス達の情報と共にソーナの情報も念のために頭に入れていたのだ。

 

「イッセー。あの悪魔は一体?」

 

「あれが四大魔王の一人のレヴィアタンだよ」

 

「……あれが?」

 

ゼノヴィアは目の前の悪魔について一誠に思わず聞いた。そして意外な答えが返ってきた。そして自分の頭を抑えた。

 

「……あれが魔王なのか?あんなふざけた格好をする連中と戦っていたのか……なんだか自分が惨めに思えてきた」

 

「まあ、気にするな。所詮、悪魔なんて変態が大概だろうからな」

 

「私をお姉様と一緒にしないでください!?」

 

一誠とゼノヴィアの会話を聞いていたソーナが大声で否定した。それがショックだったのかセラフォルーは少し涙目になった。

 

「そ、そんな酷いよ!ソーたん!!お姉ちゃんはソーたんに喜んでもらうと思って頑張ったのに!」

 

「だ、だから!『ソーたん』と言わないでくださいとあれほど……!!」

 

今まさに姉妹ケンカが起ろうとしていた。そんな中、一誠に近付いてくる人物がいた。

 

「ここに居ましたか、イッセー君」

 

「ロスヴァイセさん」

 

彼女がオーディンの代理で一誠とゼノヴィアの授業参観を見に来ていた。

 

「あちらの方々は?」

 

セラフォルーとソーナの言い合いを見てロスヴァイセは一誠に聞いた。

 

「魔王とその妹です。それでもう帰るんですか?」

 

「ええ。私のやる事は終わったので。それに会談にはイッセー君が出る事になっていますから」

 

「分かっています。それにもしもの事があれば、そのまま三大勢力を滅ぼせばいいですから」

 

「イッセー君が言うと冗談に聞こえませんからね!?」

 

一誠が本気を出せばそれこそ、三大勢力のトップが力を合わせても『ボーン』にかすり傷を付けるのが関の山だろう。

 

「それではイッセー君、ゼノヴィアさん。会談は頼みましたよ」

 

それだけ言ってロスヴァイセは駒王学園を後にした。一誠とゼノヴィアは今だ姉妹ケンカをしている二人を見ていた。

 

「もう!どうしてソーたんはお姉ちゃんがあげた服を着てくれないの!?」

 

「わ、私はもう高校生なのですよ!あのような服が着られますか!?」

 

「でもでもきっとソーたんにとっても似合うとお姉ちゃん思うんだけど!」

 

「それでも絶対着ませんから!!」

 

二人は未だに姉妹ケンカを続けていた。

 

「それじゃあな、支取蒼那。行くぞ、ゼノヴィア」

 

「ああ」

 

「ちょっと待って!!」

 

一誠とゼノヴィアが立ち去ろうとしたらセラフォルーが二人を止めた。すると一誠は一気に不機嫌な気分になってしまった。

 

「……何だ?手短にしろ」

 

「君がリアスちゃん達をいじめた子だよね?どうしてあんな事をしたの?」

 

「……どうして?あんな事?」

 

セラフォルーが言っているのは初めてリアス達と接触してそのまま戦闘になった時の事だとすぐに分かったが、一誠にとってそれはもうどうでもいい事だった。

 

「忘れたな。どうでもいい事だったんでな」

 

「……どうでいい?それなのにリアスちゃん達を傷つけたの!?」

 

「強いていえば、復讐『だった』」

 

「『だった』?それはもう復讐しないと……?」

 

ソーナが一誠の復讐が過去系だったのに質問した。一誠はソーナの顔を真っ正面から見た。

 

「ああ。俺はもう一樹が死のうが生きようがどうでもいい。あいつに対しての気持ちは何も無い」

 

「……本当は生きて欲しかったのではないのですか?だからコカビエルとの戦い際、割って入ったのではないのですか?」

 

「……口が過ぎるぞ。悪魔が」

 

「っ!?」

 

ソーナは思わず息を飲んだ。一誠から溢れ出したドス黒いオーラを見たためだ。そのオーラの色はまるで夜空のような輝きを放っていた。

見る者が見れば、それは綺麗とも取れるし、別の見かたをすれば不気味に思えるだろう。

 

(お、恐ろしい……!?)

 

ソーナは震えた腕を必死に押さえつけようとしたが、震えは収まる事はなかった。その時、そっとソーナの手にセラフォルーが手を添えてきた。

 

「お、お姉様……」

 

「大丈夫?ソーナちゃん」

 

「は、はい。ありがとう、ございます」

 

「あんまり私の妹をいじめないでくれないかな?」

 

セラフォルーは一誠を睨みつけた。しかしそれで怯む一誠では無い。

 

「いじめるか……だったらもう少し利口になるんだな」

 

一誠はそれだけ言ってゼノヴィアと共に行ってしまった。ソーナは暫くの間、動く事が出来ないでいた。

ソーナが動けるようになる前に再びセラフォルーの撮影会が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神の子を見張る者』の総督の執務室で総督のアザゼルが白龍皇のヴァーリに注意事項を言っていた。

 

「いいかヴァーリ。会談ではくれぐれも戦おうとするなよ?」

 

「ああ、分かっている」

 

「断っておくが、赤龍帝相手でもだぞ!」

 

「ああ。それに安心しろアザゼル。俺が今、もっとも戦いたいと思うのは真神一誠だけだ」

 

その時のヴァーリの顔は不敵な笑みを浮かべていた。

幼い時からヴァーリを見てきたアザゼルでも、これほどの顔をするヴァーリを見た事が無かった。

 

「お前がそれだけ言うとはな。噂は本当だったのか?」

 

「ああ。いや、それ以上だと思った方がいいぞ。ああ、早く戦ってみたいんだ。例え負ける事が最初から分かっていても。俺は漸く産まれてきた意味を知ったからな!!」

 

「そ、そうか……」

 

アザゼルは驚きを隠せ無かった。歴代の白龍皇で過去、未来、で見ても最強のヴァーリが最初から負けると言っているのだ。

そんなアザゼルを他所に会談を邪魔しようと動いている連中が居る事にまだ誰も気付いていない。

天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの四つの勢力の会談がついに始まろうとしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会談と襲撃

授業参観が無事に終わり、ついに天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの四つの勢力の会談が始まろうとしていた。

駒王学園の会議室で今回の会談をする事になっている。

時間は一般人の居ない深夜に会談を行う事になっている。すでに天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの代表が全員揃っていた。

 

天界の組織である「熾天使」を率いる天使長で、四大熾天使の1人の天使ミカエル。

 

堕天使の組織の「神の子を見張る者」の総督で神器などの研究者をしている堕天使アザゼル。

 

冥界を統べる四大魔王の1人で冥界最強の悪魔と称される魔王サーゼクス・ルシファー。

 

同じく四大魔王の1人で外交などを取り仕切っている女性悪魔でコスプレが趣味の魔王セラフォルーレヴィアタン。今は正装で来ていた。

 

そして最後にユグドラシルの全権代理者で北欧最凶の魔神、真神一誠。腕を組み、目を瞑っていた。

 

今夜の会談ではこの五人がメインで喋る事になっている。さらにリアスとソーナ。それに彼女達の眷属が揃っていた。

ただしグレモリー眷属は小猫だけがいなかった。

小猫は最近、封印解除されたグレモリー眷属とオカ研の部室で待機していた。

そして時間になりついに会談が始まり最初に口を開いたのはアザゼルだった。

 

「まずはこの会談に集まってくれて礼を言う」

 

「……まさかアザゼルの口から礼を聞けるとは、驚きです」

 

堕天する前からの知り合いであるミカエルが驚いた顔をしていた。

 

「おい、ミカエル。それはどういう意味だ?」

 

「そのままの意味ですよ」

 

「まったく、今夜はお前に嫌味を言われにに来たんじゃないぞ。まあ、コカビエルの件は済まなかったな。あれはあいつの暴走だったんだ……と、俺が言ってもそう簡単にお前らは信じないだろ?」

 

「ああ。あれは我々をここに集めるための罠ではないかと今でも怪しんでいるよ」

 

「うんうん。アザゼルちゃんは信用出来ないからね★」

 

サーゼクスにセラフォルーがアザゼルに疑惑の目を向けていた。

 

「まったくこれっぽっちも信用されていないんだな。それで北田舎のじじいの代理のお前はどうなんだ?」

 

アザゼルだけはなくミカエルもサーゼクスもセラフォルーも一誠へと視線を向けたが、一誠は腕を組んでいるだけでこれまで一言も喋ってはいない。

目を瞑りただ椅子に座っているだけだった。そして口がついに開いた。

 

「…………ぐぅ…………」

 

一誠はいびきをかいていた。そう、一誠は話を聞いていたのではなくただ寝ていただけのだ。

誰もその事に気が付いていなかった。誰もが唖然としていた。大事な会談で寝ていたのだ。それは唖然としてしまう。

 

「い、いい加減にしろ!?一誠!!!」

 

「……何だ?会談、終わった?ふぁ~……」

 

一樹の声で起きた一誠は腕を思いっきり伸ばして固まった筋肉をほぐしていた。

 

(ふざけるなよ!?)

 

一樹はそんな一誠の態度に今にも殴りかかろうとした。

 

「お前は分かっているのか!?この会談に来たんならふざけるなよ!!」

 

「……別にふざけてはいないさ。ただ、この会談は三大勢力同士の問題であってユグドラシルには直接的な問題はない。むしろこっちへの言い訳を聞きたいものだな?」

 

「な、何だと!?」

 

「―――それと下級悪魔風情が組織のトップの会談に口を挟むなよ」

 

「っ!?」

 

一樹は一誠が向けた殺気に後退りをしてしまった。そして一誠は他の勢力のトップに顔を向き直した。

 

「俺がここに居るのは三大勢力が今後、どのような対応を取るのかを見届けるためだ。ここでそっちから何かを提案しても受けるつもりは最初から無い」

 

「いいのか?お前がそんな事を決めて?」

 

アザゼルはもちろん、ミカエルもサーゼクスも思っていた。一誠のはっきりとした物言いに。

 

「ああ。そのために俺はオーディン様からこれを預かっているのだからな」

 

「そいつは……?」

 

アザゼルは一誠が置いたアタッシュケースに注目した。そのまま一誠はテーブルにアタッシュケースを開いた。そこには一本の槍が収められていた。

 

それは主神の槍、名をグングニル。

 

この槍は決して的を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手もとに戻る。また、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすと言われている。

一誠はロスヴァイセから授業参観前に渡されたのがこれだ。

 

「まさか北田舎のじじいがそれを誰かに預けるなんてな……それだけお前さんを信頼しているんだな」

 

「私も驚きです。主神とは過去、何度か会った事がありますが、まさか自分の武具を少年に持たせるなど……」

 

アザゼルに続き、オーディンと何度か会っているミカエルも驚いていた。それだけオーディンがグングニルを一誠に預けた事が信じられなかったのだろう。

 

(ふざけるなよ!?ふざけるなよ!?ふざけるなよ!?)

 

その中で一樹だけは違う感情に支配されたいた。それは怒りだ。『原作』を知る一樹はこれから何が起るか知っている。だが、それが狂い始めていると最近、思ってきていた。

しかし本当に狂い始めていたのは随分昔なのだが、一樹はまったく気付いてはいない。

 

「……まあ、あのじじいもいつまでもそのままとは行かないか」

 

アザゼルは頭を軽く掻きながらそう言った。変わらないものなど無いと言うかのように。

 

「……なら我々も変わるべきだと?」

 

「そうだぜ、ミカエル」

 

ミカエルの質問にアザゼルは即答した。

 

「『神』がいなくても世界は回る……って、事だよ。だから俺はお前らに提案する。三大勢力の同盟を!」

 

「同盟、ですか?確かにこのままではいられない事は薄々、感じていました」

 

「それは確かにいいかもしれない。いがみ合ってもいられないからな」

 

「うんうん。同盟賛成だよ★」

 

アザゼルの提案にミカエル、サーゼクス、セラフォルーは乗り気であった。これまでに無い事が起こった以上、今のままではいられない。

それは三大勢力のトップして考えた結果だった。彼らは変わる事を選んだ。それがいいのか悪いのかはまだ誰にも分からない。

 

(変わるか……人外って存在は神も含めて面倒な……)

 

一誠は彼らの選択にそれと言って興味が無かった。それもそのはずだ。所詮、彼らの問題であって一誠の問題では無いのだから。

ぼんやりと一誠が見ていると不意にある方向を向いた。その視線の先には丁度、オカ研の部室があった。

 

(何だ?これは……『何者』かの力が膨れ上がっている?)

 

その瞬間だった、会議室に居た何人かの動きが完全に止まっていた。まるでビデオの一時停止をしているようだった。

 

「どうしたんだ?そいつらは?止まって見えるが?」

 

「見えるんじゃ無くて実際に止まっているんだよ」

 

一誠の疑問にアザゼルが答えてくれた。一誠は部屋の中をぐるっと見渡した。止まっていないのはゼノヴィアと三大勢力のトップとリアス、一樹、佑斗くらいしか動いてはいなかった。

止まっているのは朱乃、アーシア、ソーナとシトリー眷属が全員に部屋を警護していた三大勢力の兵士だった。

 

「これはどうなっているんだ?」

 

「襲撃だよ。俺達のやろうとしている事が気に食わない連中のな。それにこれはグレモリー眷属のハーフ吸血鬼の神器の『停止世界の邪眼』の力だな。こいつをどうにかするには本人をどうにかしないとな」

 

「なら部屋ごとそいつを消した方が早いな」

 

「止めろヴァーリ。同盟を提案しておいていきなりそれは亀裂を生むだろうが!」

 

ヴァーリの提案を即座にアザゼルが止めた。確かにその方法ならすぐに片付くが、それでは悪魔側との有益な関係はもう二度と築く事は出来無いだろう。

 

「イッセー。我々はこのままで良いのか?」

 

「ああ。これはどう見ても悪魔側の落ち度だ。向こうがしっかりと対処するだろ」

 

動かない一誠にゼノヴィアはどうするか聞くと、一誠は悪魔側の問題だからと動かないと答えた。

 

「貴方に言われるまでもないわ!行くわよカズキ!」

 

「はい!部長!」

 

リアスと一樹は『悪魔の駒』の力の応用の『キャスリング』で小猫ともう一人の眷属の下に行こうとしていた。

そして、リアスと一樹は準備が整うとすぐに眷属の下に向かった。

 

「面倒だがやっておくか……『フェニックス・ボーン』」

 

リアスと一樹が部屋から居なくなると一誠は『フェニックス・ボーン』を装着して『停止世界の邪眼』で動けなくなった者達に軽く触れて回った。

 

「『時よ』」

 

そう言って両手を合わせた。すると動けなくなった者達が動けるようになっていた。

 

「―――あれ?私は一体?」

 

「ソーナちゃん!」

 

何が起ったのか分からないソーナにセラフォルーは抱きついた。そんなソーナは困惑していた。彼女は自分や周りに何があったのか分かっていなかった。

そんな中でアザゼルは一誠に近付いた。

 

「おい、今何をしたんだ?お前さんは?」

 

「ハーフ吸血鬼がどんな時間停止の神器を持っていようと俺より格下なのは明白だからな。そいつの時間停止を俺の時間停止で上書きしてから解除しただけだ」

 

「だけって、お前さん……自分が凄い事をした自覚はあるのかよ?」

 

一誠がやって事は周りの者からすれば、とんでもない事なのだ。他者の力に干渉して上書き、そして能力の解除、と言った事は本来『理』に触れるという事なのだ。

ここに居る者でそれが出来るのは一誠以外居ない。

例え冥界最強の悪魔であるサーゼクスですらそんな事は出来ない。もちろんアザゼルにもミカエルにも出来ない。

 

「まったくオーディンのじじいはとんでもない奴を私兵にしたもんだ」

 

「そうですね。彼が敵になれば、我々に勝ち目は無いでしょう」

 

「悪魔側はまだ引き入れる可能性があるだろ?赤龍帝が兄らしいじゃないか」

 

「それは無理だよ。真神君はカズキ君の事を本気で殺そうとしたらしいから」

 

一誠の話を聞いたミカエル、セラフォルーは驚きを隠せ無かった。血を分けた兄弟で弟が兄を本気で殺そうとしていたのだ。どんな理由で兄を殺そうとしているか、と。

 

(あいつも身内を恨んでいるのか……)

 

その中、アザゼルだけは違った。一誠と似た存在が自分の近くに居るからこそ、アザゼルは一誠に複雑な感情を持った。

アザゼルはヴァーリと一誠を重ねて見ていた。

 

「ゼノヴィア。いつでも戦える準備をしていろ」

 

「戦うのか?イッセー」

 

ゼノヴィアは自身の得物であるデュランダルを構えた。その時一誠は外を見ていた。すると、外には無数の魔法陣が現れ、そこから童話の魔法使いのような格好の者達が次々と出てきた。

その中に一人、悪魔の翼を広げた褐色の女悪魔が居た。

 

「さあ!私から奪ったものを返してもらおうかセラフォルー・レヴィアタン!!!」

 

四大勢力の会談は更なる混沌へと進もうとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勧誘と召喚

天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの勢力の会談中に何者かの襲撃を受ける事になった。そんな中、リアスの眷属でハーフ吸血鬼の神器である『停止世界の邪眼』の力で会談に参加していた何人かは時間を停められていたが、一誠の『フェニックス・ボーン』によってその力は上書きされ解除された。

そして一誠達の目の前に褐色の女悪魔が現れた。

 

「そんな……カテレアちゃん」

 

「カテレア。どうして君が……」

 

セラフォルーとサーゼクスは目の前に現れた女悪魔に動揺した。二人とも……いや、アザゼルとミカエルも知っていた。

先代魔王の血縁者の彼女―――カテレア・レヴィアタン。

それが彼女の名前だ。

 

「ふん!偽りの魔王が私の名前を気安く呼ぶな!それと私から全てを奪ったセラフォルー!!今夜は私から奪った物を返してもらうために来たわ!!」

 

「カテレアちゃん!どうしてカテレアちゃんがこんな事をするなんて嘘に決まっているよ!!」

 

「黙れ!偽りの魔王が!!」

 

カテレアは誰の言葉も聞く気は無いと言わんばかりの態度を取っていた。そしてカテレアはヴァーリの方を向いた。

 

「いつまでそこに居るつもりですか?ヴァーリ」

 

「何……?」

 

アザゼルはゆっくりとヴァーリの方を向いた。だが、ヴァーリはアザゼルにもカテレアにも視線を向けてはいなかった。

その視線の先には一誠が居た。一誠はヴァーリと視線を合わせた。

 

「真神一誠。俺と一緒に来る気は無いか?」

 

「……何がだ?」

 

「俺は『禍の団』と言うテロリストに所属している。そこで真神一誠、君を勧誘しているんだ」

 

『……っ!?』

 

ヴァーリはカテレアを無視して手を一誠に向けてそう言った。周りの者の驚きようは尋常ではなかった。ヴァーリは自分からテロリストである事をバラし一誠を勧誘しているのだ

 

「どうして俺を勧誘するんだ?ヴァーリ」

 

「なに、君に興味があるんだよ。人間が神……まして魔神にどうしたらなるのか。実に面白い」

 

「だから勧誘するのか?」

 

「ああ。そうだ」

 

「一樹―――赤龍帝はいいのか?ライバルなのだろ?」

 

「あれが?あの男は俺のライバルとは言えんよ。『赤龍帝の篭手』を持っているだけの下級悪魔だ。あれはどれだけ修行しようが強くはなれないな」

 

一誠が一樹の話をしたがヴァーリは毛ほども興味がなさそうだった。実際にヴァーリは一樹の事をライバルとは微塵も思ってはいない。

 

(ああ……真神一誠が俺のライバル―――赤龍帝だったら良かったのに……)

 

むしろヴァーリは一誠が赤龍帝であったらとコカビエルを連れ戻す時に出会ってからそう考えていた。

 

一誠が赤龍帝であればどれほど良かった、と。

 

そうであったらどれだけ自分は楽しめたのだろうか、と。

 

一樹と同じように転生悪魔になっても落胆する事は無かったのでは、と。

 

「真神一誠、俺は強くありたい。誰にも負けないくらい強くだ」

 

「それと俺を勧誘するのとどう関係しているんだ?」

 

「それは誰にも取られないためだ」

 

「……取られないため?」

 

「ああ。君を倒したいと思っているのが他にもいるからな」

 

一誠はヴァーリが何を言っているのか分からず首を傾げた。そもそも誰が取るのかと言いたい。さらに言えば一誠は自分より強い奴が居るのかと疑問に思っているのだ。

それだと言うのにヴァーリは一体何を心配しているのかと一誠は思っていた。

だが…………

 

「―――それはむしろ願ってもない事だな」

 

「何?」

 

「ヴァーリ。俺は今まで『本気』を出した事が無い。それは俺より強い奴と出会わなかった事もあるが、俺を殺そうと思っていた奴も俺を恐れて向かっては来なかったからだ。一度でも俺の力を見れば心が折れて諦めてしまうからだ」

 

一誠は笑っていた。まるで宝物を見つけた子供のように純粋な笑みを一誠はヴァーリに向けた。

 

「それだと言うのにヴァーリ、お前は俺の力を見ても心は折れず、諦めなかった。それを知れたからよしと思っていたが、お前以外にも俺に挑もうと思う奴がいるんだ。これは嬉しくてたまらない」

 

そんな一誠はヴァーリに手を向けた。

 

「だからお前をこのままテロリストにするのはもったい無い。ヴァーリ、お前俺の仲間になる気は無いか?」

 

「……何?」

 

「勧誘だよ。お前が俺にしたように俺がお前にしている。お前は俺を殺す事の出来る存在かも知れない。―――だが、お前は弱い。だからこそ、俺はお前を『最強』にしてみたい!」

 

一誠の顔は先程の純粋な笑みではなく、不敵な笑みを浮けべていた。そして誰もが思った。十代の少年が見せる笑みでこれほど恐ろしいものは無い、と。

 

「……なるほど、それもある意味手ではあるな」

 

「ヴァーリ!!我々を裏切るつもりですか!?」

 

一誠とヴァーリが話しているとカテレアが怒りながら間に入って来た。

 

「裏切る?いつから俺を自分達の仲間だと勘違いしていた?俺は強者と戦うために『禍の団』に入ったんだ。それが叶うならどこだろうが構わない」

 

「……やはり低俗な人間の血を持つ『ルシファー』に期待したのが間違いだった!!」

 

「―――調子に乗るなよ屑悪魔!」

 

「がはっ!?」

 

一誠はカテレアの言葉に怒りを感じ、カテレアを殴り飛ばした。カテレアは勢い良いよく飛んで行き校庭にクレーターを作った。

 

「まったく……テロリストが他人を見下してんじゃない!それでヴァーリ、どうするんだ?俺の勧誘は?」

 

「もちろん、受ける。俺としても強者の側で強くなれるなら願ってもいないからな」

 

「そうか。ならよろしくなヴァーリ」

 

「ああ。真神一誠」

 

一誠とヴァーリは握手を交わした。周りの驚きなど関係など無いように。ミカエル、アザゼル、サーゼクス、セラフォルーも誰もがまったく付いて行けていなかった。

 

「そう言えば、あの悪魔はお前の事を『ルシファー』って言っていたよな?あれ、どういう事なんだ?」

 

「ああ、その事か。俺は先代魔王のひ孫に当たるんだ」

 

「……本気で驚いた。まさか、ひ孫が居たとは……」

 

一誠の顔はこれまでの人生で一番の顔をしていた。それだけ一誠にとって驚いた事だった。レヴィアタンだけでなくルシファーの血縁者までもがこの場に居る事に。

 

「さてと……魔王、ちょっといいか?」

 

「なんだい?真神君」

 

「あの悪魔は俺が相手にするから手を出すな。出して来てもいいが、巻き込まれて死んでも文句は言うなよ」

 

「ま、待ってくれ!真神君!!」

 

一誠はサーゼクスの制止を無視して校庭のカテレアの目の前に飛び降りた。当のカテレアは目の前の一誠を睨みつけた。

 

「に、人間ごときが!レヴィアタンの血を引く私を!!」

 

「一つ訂正があるな。俺は人間じゃなくて魔神だ。しっかりと覚えていろ悪魔が」

 

「魔神?馬鹿な!人間ごときが『神』になるなど……!!」

 

「まあ、いいさ。カテレア・レヴィアタン、お前には俺の実験に協力してもらう。強制だがな」

 

一誠は三枚の『ボーン・カード』取り出した。『ドラゴン・ボーン』『フェニックス・ボーン』『グリフォン・ボーン』の三枚だ。

 

「『ドラゴン・ボディ』『フェニックス・ライト、レフトアーム』『グリフォン・レッグ』着装」

 

ボディがドラゴン、ライトとレフトアームがフェニックス、そしてレッグがグリフォンという今までに無い三体の『ボーン』の同時着装を一誠は行った。

『ボーン』を見た事がある者も見た事が無い者にもまさに異形の存在へと一誠はなっていた。

 

「それがお前の『神器』か、人間!!」

 

「『神器』?これは『神器』ではない。そもそれも『神器』を持てるのは人間だけだ。神が―――魔神が持っているわけ無いだろ?」

 

「何?だったら何だと言うのだ!お前のそれは!?」

 

「わざわざ敵に情報を与えるわけが無いだろ?ホント、純血の悪魔ってバカしかいないよな。カテレア・レヴィアタン?」

 

「人間がぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

カテレアは一誠の挑発に乗ってしまって怒りのまま一誠に魔力弾を浴びせた。一誠は避ける事なくカテレアの魔力弾を真っ正面から受けた。

しかし一誠の『ボーン』はコカビエルの時と同様に傷一つ付いてはいなかった。

 

「なっ!?……ば、バカな……!!」

 

「ホント、純血ってのはどんだけ自信家なんだ?リアス・グレモリーもそうだったが、どこから出て来るんだ?その自信は」

 

「くっ……だったらこれを使うまで!!」

 

カテレアは懐から瓶を取り出した。中には一匹の小さな蛇が入っていた。一誠はその蛇がなんなのかすぐに分かった。

 

(あれはオーフィスの『蛇』か?どうしてあいつがあんな物を持っているんだ?)

 

カテレアは瓶の中の蛇をそのまま口に運び、飲み込んだ。するとカテレアの魔力が先程の比ではないくらい大きくなった。

 

「なるほど、オーフィスの『蛇』にはそんな効果があったんだな」

 

「その通りだ!人間。命乞いをすれば助けてあげなくもないわよ!」

 

「命乞い?それをするのはお前の方だと思うが?」

 

「なんだと!?どこまでもイラつかせる人間だ!」

 

カテレアの怒りを無視して一誠は校舎に居るヴァーリに視線を向けた。ヴァーリも一誠の視線を感じてそちらを見た。

 

「ヴァーリ。見せてやるよ、俺の実力の一端を。それとなカテレア・レヴィアタン。お前が魔王に選ばれなかった理由がなんとなく分かったぜ」

 

「何!?どう言う事だ!!」

 

「お前が弱いからだよ」

 

「弱いだと!?違う!私は強い!!」

 

カテレアは一誠に図星を突かれそれを掻き消すかのように一誠に怒りを向けた。それでも一誠は続けた。

 

「オーフィスの『蛇』を使ってその程度なら今の魔王の足元にも及ばないな」

 

「言ってくれるな人間!!まずはお前から殺してあげるわ!」

 

「はっ!……言うな、ならしかと見るがいい!『ボーン』が三体ある事で『ライン』は整った!今こそ、現れよ!火の魔神!!降臨(ディセント)!!」

 

すると一誠の背後に巨大な赤い魔法陣が出現した。そこから『何か』がゆっくり火を出しながら上がったきた。

そしてその姿を完全に現した。

 

その姿は四本の腕を持つ火を纏った巨人だった。

 

ただしその足元が少し透けていた。だが、それはこの場に居る者全てを釘付けにするだけの存在感を持っていた。

さらに一誠が纏っていた魔力が赤く染まっていた。

 

「くくっ……この感じ!最高だ!!」

 

一誠は自分から溢れ出す魔力にこれまでに無い満足感を感じていた。まるで今まで失っていた何かを取り戻したかのように。

 

(何なんだ……この『バケモノ』は……!?)

 

一誠が満足感に浸っている中、カテレアが感じていたのはまったく違うものだった。目の前に感じた事の無い『バケモノ』が現れた。

自分はもちろん、現魔王のサーゼクスやセラフォルーなど絶対に勝て無い存在が今、目の前に現れた。

 

「さあ!始めようか?カテレア・レヴィアタン」

 

『ボーン』の中の一誠の顔は誰にも見せる事が出来ないくらい残酷な笑みを浮かべていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無限と無力

カテレア・レヴィアタンには絶対の自信があった。次の魔王―――レヴィアタンには自分が選ばれるだろう、と。

だが、現実は違った。彼女が選ばれる事は無く代わりにシトリー家のセラフォルーが選ばれた。その事にカテレアは納得していなかった。

どうしてレヴィアタンの血を引く自分では無くセラフォルーが選ばれたのか、と。そしてカテレアは居場所を失った。

 

カテレアは居場所を失った者達と共に冥界の隅に追いやられた。

そんな中、現魔王が堕天使の総督のアザゼルの呼びかけで天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの代表との会談に参加する事を知った。今更、冥界の覇を争っている相手と何を話すのだろうと考えていた。

そこで彼女はふと、最悪な結果を考えてしまった。

 

(魔王が天使と堕天使と手を組んだら?)

 

もしそうなれば、カテレアや彼女に付き従っている現魔王反対派として非常に厄介になってしまう。悪魔の弱点である『光』を使う天使と堕天使を相手にしないといけないからだ。そうした場合、自分達の敗北は確定してしまう。

そこでカテレアはある『ドラゴン』の力を利用しようと他の同胞と共に考えていた。その『ドラゴン』を後盾にすれば現魔王を倒せるのでは無いか?と考えたからだ。

 

そして彼女の行動は早かった。カテレアは部下を引き連れて会談に乗り込んだ。それぞれの組織のトップが一同に参加するこの会談はまさに千載一遇のチャンスだった。

これで会談を邪魔するだけではなく現魔王を殺せると思ったからだ。

だが、現実はまったく違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテレアは会談を邪魔して現魔王を殺すはずだった。だが、それは一人の少年によって阻まれた。どこにでも居そうな少年だった。

少年の名前は真神一誠。ユグドラシルの代表として会談に参加していた。

 

(どうして!?どうして!?どうして!?)

 

カテレアは人間一人くらい瞬殺出来ると思っていた。しかしそれは違っていた。一誠は強かった。そのうえ、強さの次元がカテレアとはまったく違っていた。

一誠が出した魔法陣から出てきた火を纏った四本の腕を持つ巨人のような存在が出てきて、彼の『力』が更に増した。

最早、魔王級など足元にも及ばない程に。それにカテレアには一誠と同じくらいの『力』を持った存在を知っている。

 

(まさか……オーフィスと同格だと言うの!?)

 

自分達が利用しているある『ドラゴン』―――『無限の龍神』オーフィスと同じくらいだと嫌でも感じていた。

まさに目の前の存在は『バケモノ』と言わざるを得ないものだと。

 

「それじゃ行くぜ。カテレア・レヴィアタン!!」

 

「―――え?」

 

一瞬にして一誠はカテレアの目の前に移動してカテレアの顔面を殴った。たった一撃でカテレアは絶命した。

いや、あまりの威力にカテレアの身体は肉片一つ残さず吹き飛んだ。ただし殴った余波でカテレアの後ろの校舎と民家をまとめて吹き飛ばしたのだ。

 

「……あ、やってしまった」

 

一誠はカテレアを殴ってからその殴った跡の残骸を見た。殴った衝撃の余波は4~5キロほど見晴らしが良くなっていた。

もちろん、そこに住んでいた関係の無い人間を巻き込んでしまったのだ。死んだ人間は数百人は下らないだろう。

一誠はたった一撃でそれだけの命を奪ってしまったのだ。

 

「……不味いな。ついはしゃぎ過ぎた」

 

一誠は数百人を殺してしまったと言うのにまったく動揺してはいなかった。無関係の人間を巻き込んだと言うのにだ。

 

「流石に戻さないとな。時の魔神よ!魔神召喚(ディセント)!」

 

すると先程まで赤い色をしていた魔法陣が今度は白い魔法陣へと色を変えた。火を纏った巨人のような存在もその姿を変えた。

身体は白く顔には時計で使われている大きい針と小さい針の二本針を持つ巨人のような存在が現れたのだ。

先程まで一誠の赤い魔力だったのが白い魔力へと変わった。

 

「『世界の時よ』」

 

そう言って一誠は両手を合わせた。すると一瞬、周りの者の視界がホワイトアウトしたかと思うと全てが元に戻っていたのだ。

そこには先程、一誠が殺したはずのカテレアの姿があった。それだけでは無い、殴った余波で壊した建物までもが元に戻っていた。

 

(何が起こったの?)

 

カテレア自身も何が起こったのか分からないでいた。身体を触って無事なのを確認していた。意識を失う前に起こった事を思い出そうとした。

 

(確か私は殴られた……そこからの記憶が……無い?死んだの?でも生きている)

 

疑問が尽きなかった。自分は死んだのか?死んだとしたらここはあの世なのか?だとしたらあの世は死んだ直後と同じ風景を見せるのか?

カテレアは必死に考えたが答えを見つける事が出来なかった。

 

「どうしたカテレア・レヴィアタン。まるであの世に行ってきたみたいな顔をしているぞ」

 

「に、人間!!わ、私に何をしたぁぁぁ!?」

 

「何をって……俺は『時間を戻したんだよ』。お前が死ぬ前までな」

 

「じ、時間を戻した……?バカな!?人間にそんな事が出来るはずが無い!!?」

 

「だから言っただろ?魔神だって。神以外にこんな芸当が出来る訳無いだろ?」

 

「な……!?」

 

カテレアは一誠が言った事を理解する事が出来ないでいた。そもそも時間を停めるならまだしも時間を戻すなど本来は神にすら出来る事では無い。

その事はカテレアと言えど、分かっている。それは何故かと言うと時間を戻すためのエネルギー―――魔力が圧倒的に足りないからだ。

世界全体に術を掛ける事など魔王や神ですら無理だ。それは力が有限だから。無限でない限り行使する事すら出来ない。

 

「安心しろ。次は上手くやる」

 

「―――な!?」

 

一誠はカテレアの胸に手刀を突き立てた。手刀はカテレアの胸を簡単に貫通した。またしてもカテレアは絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リアスと一樹は無事に小猫とハーフ吸血鬼の眷属のギャスパー・ヴラディを救出する事が出来た。

四人は先程まで居た会議室に無事に戻ってこられた。部屋に入るとそこでは部屋の中に居る全員が校庭を見下ろしていた。

何かと思いリアスは兄であるサーゼクスに近付いた。

 

「お兄様。一体、何があったのですか?先程の大きな音やギャスパーの神器に似た感覚は……?」

 

「………………」

 

「お兄様?」

 

「無駄だ、リアス・グレモリー。何を話し掛けてもな」

 

「ヴァーリ?」

 

リアスに話しかけてきたのはヴァーリだった。サーゼクスは未だに校舎を他の者と一緒になって見下ろしていた。

 

「……それはどういう事かしら?」

 

「あれだ」

 

「あれ?」

 

リアスが目にしたのは奇妙な鎧をした人物が褐色の女悪魔の胸に手刀を突き立てた所だった。リアスにはその二人が誰なのかすぐに分かった。

 

「……真神一誠とカテレア・レヴィアタン……?」

 

「ああ、そうだ」

 

一誠は手刀を胸から抜くと両手を合わせた。すると先程と同じように視界がホワイトアウトした。そしてリアスが目にしたのは手刀で貫かれて死んだはずのカテレアが生きている姿だった。

 

「あれは……一体?」

 

「真神一誠が時間を巻き戻したんだよ」

 

「巻き戻す……そんな事が個人で……いえ!例え大人数だとしても出来るはずが無いわ!!」

 

ヴァーリに対して思わず大声で言い返してしまったリアスは一度落ち着いて校庭を見た。そこでは逃げるカテレアを一誠が背後から手刀で左胸を貫通させた。

そしてまた手を合わせたら視界がホワイトアウトした。するとカテレアは殺される前に戻って生きていた。

そこからは先程の繰り返しだった。一誠はカテレアを殺しては時間を戻しては殺し、殺しては時間を戻す、一誠はただそれを続けた。

 

おそらく一誠がカテレアを殺した回数が三十回を越えた辺りからカテレアの様子が可笑しくなっていた。

逃げる訳でもなく攻撃を防ぐわけでもなくただ泣きながらカテレアは一誠に何かを言っているようだった。

 

「……彼女は一体どうしたと言うの?」

 

「おそらく……限界が来たんだろうよ」

 

「限界?何の?」

 

「魂のだよ」

 

リアスの疑問に答えたのはアザゼルだった。その顔はカテレアを哀れんでいる様にも見た。実際、アザゼルはカテレアを哀れんでいた。

 

「真神一誠はカテレアを殺して時間を戻している。だが、そうすると起こった出来事を俺達が覚えているのは可笑しい。確かに真神一誠は時間を戻しているが、記憶もしくは精神までは戻せ無いのだろう」

 

「……………」

 

アザゼルの説明にリアスはどこか納得が出来なかった。一度、一誠と戦った事のあるリアスだからこそなのかもしれない。

 

(あの力がカズキにあれば……)

 

リアスは一誠と戦ってから何度もその事を考えていた。そうすれば、ライザーとのレイティングゲームもコカビエルとの戦いも余裕で勝てたのだから。

いいえ、とリアスは首を横に振りその考えを飛ばした。『赤龍帝の篭手』を持っているだけもいいのだからと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテレアはすでに限界に達していた。一誠に殺されては時間を戻されてまた殺される。その繰り返しを気が遠くなるほどやられた。

その度に記憶に魂に刻まれた殺された瞬間の痛みが徐々にカテレアの『心』が壊われかけていた。

攻撃は通じず、防御も出来ず、逃走すらままならない。そんな状況に追い込まれたが、カテレア信念は死んではいなかった。

 

「わ、私は!し、新世界の神に……!!」

 

「新世界?神?お前は相当バカな様だな。悪魔が神になれるわけないだろ。今度こそ殺してやるよ」

 

一誠は手刀を構えるとカテレアは懐から小瓶を取り出した。中にはオーフィスの『蛇』が入っていた。

カテレアは念のためにもう一つ『蛇』を用意していたのだ。

 

(これを飲むと……)

 

カテレアは躊躇した。すでに一匹、腹の中にいるのに更にもう一匹飲もうとしているのだ。戦闘後の反動がどのような事になるか想像すら出来ない。

だが、飲まなければ現状を打開出来ないかもしれない。そしてカテレアは『蛇』を飲んだ。

すると先程とは比べられないほど魔力が上昇した。

 

「こ、これでお前を殺してやるぅぅぅ!!!」

 

「……御託はいい。来るならさっさと来い!」

 

「その減らず口を閉じてくれるぅぅぅ!!」

 

カテレアの魔力は先程よりも黒く不気味な雰囲気を発していた。カテレアは無数の魔法陣を展開して一誠に魔弾の雨を浴びせた。

その魔力弾は最上級悪魔でも致命傷になってしまうほどの威力を持っていた。一誠が立って居た場所には盛大に土煙が立ちこめていた。

 

(こ、これでやったはずだ……!!)

 

カテレアは今度こそ仕留めたと確信した。過去最大の攻撃をしたからだ。

 

「……がはっ!?」

 

急にカテレアは吐血した。本来、一匹で十分に力を与えるオーフィスの『蛇』を二匹も飲んだのだ。その反動が来たのだ。

二匹分の反動がカテレアの身体を蝕んでいた。これ以上の戦闘は行う事が出来ない。

 

「―――これで終われ」

 

(ああ……私は魔王に―――)

 

一誠はカテレアに止めの一撃を与えた。それがカテレアの聞いた最後の言葉になった。一誠は動かなくなったカテレアを見下ろしていた。

その時だった。一誠の視界に『赤い』何かが近付いて来た。

 

「一誠ぃぃぃ!!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天龍と激戦

ヴァーリ・ルシファーは興奮に震えていた。それは一誠が見せた『魔神の力』にだ。世界の時間を戻すなどそう簡単に出来る訳が無い。

それだと言うのに一誠はまるで出来て当然のように言った。

 

(ああ……真神一誠。君はやはり最高だ!!)

 

ヴァーリは嬉しさの余り笑みを浮かべていた。ただし残酷な笑みをだ。それだけヴァーリを一誠は楽しませたのだ。

ヴァーリは強さを求めていた。誰にも負けない『最強の力』を。

だからこそ『聖書に記されし神』と戦ってみたかった。しかしその神はすでに先の三大勢力の覇を争う戦いで二天龍を封印すると同時に四大魔王と共に死んだ。

 

それを知ったヴァーリは落胆した。どうして自分はこの時代に生まれてきたのか。かの神や先代魔王達が生きている時代ならどれだけ楽しめたのか容易に想像出来る。

しかしそんな時、ヴァーリはユグドラシルのある噂を聞いた。

 

『ユグドラシルにて最凶の魔神が誕生した。』

 

それを聞いた時、ヴァーリは半信半疑だった。『神の子を見張る者』の殆んどの者が嘘だと、オーディンの妄言だと吐き捨てた。

だが、総督のアザゼルや数人の堕天使はそうは考えなかった。

 

(確かめてみたい)

 

ヴァーリはそう思い始めた。自分の目で、耳で、直接確かめれば済む事だと考えた。そしてその時は訪れた。

『神の子を見張る者』の幹部コカビエルが教会から聖剣を奪取して魔王の妹の暮らす街で面倒事を起こそうとしているとアザゼルから聞かされた。

そこでヴァーリはコカビエルを連れ戻すように頼まれた。そしてついに疑惑の対象―――真神一誠を見る事が出来た。

 

(あれが……真神一誠か)

 

コカビエルが面倒事を起こしている場所、駒王学園にヴァーリが到着してみるとそこには羽を全て引き千切られて満身創痍のコカビエルが居た。

周りには無数のケロベロスの死体が転がっており、コカビエルに協力していたフリードは気絶して近くにはバルパーが斬られ死んでいた。

ヴァーリはコカビエルを連れ帰ろうとした時、一誠に殺気を向けられた。その時、ヴァーリは確信した。

以前聞いた噂は本物だと。

 

(これほどなのか!真神一誠!!)

 

興奮に全身の血が沸騰しそうになったのを感じた。それと同時にヴァーリは理解した。どうして自分がこの時代に生まれたのか。

 

彼―――真神一誠と戦うためだと。

 

弱い赤龍帝などもうどうでもいいと思えるほど、ヴァーリは嬉しかった。倒すべき最凶の魔神が居る。越えねばならない壁がある。

ヴァーリは生き甲斐を見つけた事を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹はリアスと共にオカ研に居る小猫とハーフ吸血鬼のギャスパーを助け、サーゼクス達が居る会議室に戻ってきた。

帰る際は『キャスリング』は出来ないので校舎を通ってきた。そこにも敵は居たが何とか倒す事が出来た。

そして会議室に着いてみると部屋に居る全員が校舎を見下ろしていた。

 

(どうしてヴァーリが居るんだよ!?)

 

『原作』を知っている一樹はヴァーリがどうしてまだそこに居るのかが分からなかったが、それはすぐに分かった。

 

(『また』一誠の奴が余計な事をしているんだな!?)

 

一樹は校舎を見下ろした。そこでは一誠がカテレアを殴って殺した所だった。そして一誠が両手を合わせたら視界がホワイトアウトした。

先程も似たような事になったのを一樹は感じた。

 

「……っ!?」

 

そして校舎を見て驚愕した。先程、殺されたはずのカテレアが生きていたのだ。

それを見た一樹は一体何が起こったのかすぐに分かった。

 

(時間を戻した……そんな事が出来るのか?)

 

そして次の瞬間、一樹の心の奥底から怒りが湧いてきた。それは今にも一誠を殺しそうだった。自分の知らない事を次々とやっている一誠に一樹は殺意を持つようになっていた。

 

(お前はもう要らないんだよ!もうこれは俺の物語なんだよ。リアスも朱乃もアーシアも誰も彼もが俺のハーレム要員なんだよ!!)

 

一樹は周りの女性達を自分の欲望を満たすだけの存在だと思っている。リアスと朱乃は例え一樹の本性を知ったとしても受け入れるだろう。

それだけ二人は兵藤一樹に『依存』している。だが、それも仕方ないと言えるだろう。二人はやっと自分の事をしっかりと見てくれる異性を見つけたのだ。

 

 

グレモリー家の娘ではなく一人のリアスと見てくれる一樹。

 

ハーフ堕天使だと知っても優しく受け入れてくれる一樹。

 

 

そんな一樹だからこそ心を開き甘え、時にはからかい、癒された。それはもちろん一樹にとっては計算された事だった。

『原作』を知る彼にとって彼女達を自分へ『依存』されるなど朝飯前の事だ。だからこそ一樹は一誠の存在が許せなかった。

自分の女になるはずだったゼノヴィアを取り『原作』の流れを事如く邪魔する一誠が憎くて憎くてしょうがなかった。

 

(あいつはここで殺すべきだ!!!)

 

そういった結論に一樹は至った。常に『主人公』たる自分こそが正義であり絶対であると一樹は考えている。

物語に関わる女性は自分の欲求を満たすだけの存在だと認識している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠ぃぃぃ!!!」

 

『赤龍帝の篭手、禁手化!!!』

 

『BoostBoostBoost!!!』

 

一樹は赤い鎧『赤龍帝の鎧』を纏い叫びながら一誠に向かって殴りかかった。だが、一誠は避ける事も防ぐ事もなくただ黙って一樹の拳を受けた。

強化された一樹の拳は上級悪魔であってもただでは済まないレベルの攻撃だ。だが、魔神を召喚して力を増した一誠にとってはまったくダメージになっていなかった。

 

「……なんのつもりだ?一樹」

 

「黙れ!!お前さえ!お前さえ、居なければ!全て上手く行っていたんだよ!!これはもう俺の物語なんだよ!!俺が主人公なんだよ!!お前は必要無いんだよ!!!」

 

(こいつは何を言っているんだ?)

 

一誠は一樹の言っている事が分からなかった。そもそも一誠は一樹が『ハイスクールD×D』と言うラノベを読んだ事がある別世界の人間だとは知らない。

だからこそ、一誠は言葉の意味を理解出来なかった。

 

「お前はあの時、死んでいれば……!!」

 

「だから今度は確実にするために自分の手で俺を殺そうと?舐められたものだな。以前、束になっても俺にダメージを与えられなかったくせに」

 

「黙れ!!あの時とは違うんだよ!!……なっ!?」

 

その時だった、一誠と一樹の周りに大量の魔力弾が降り注いだ。その魔力弾を放ったのは一誠と一樹の頭上に『白龍皇の鎧』を纏ったヴァーリだった。

一誠は疑問を持った。ヴァーリは確かに一誠の仲間になったはずなのにだ。

 

(もう裏切ったのか?)

 

一誠はそう思うのも無理はない。仲間になってすぐに攻撃されれば、誰だってそう思うのは当たり前だろう。

 

「……どういうつもりだ?ヴァーリ。裏切った……と言う事なのか?」

 

「いいや違う。君の仲間になるにあたって自分自身で確かめてみたくなっただけだ。君の実力を!!」

 

「なるほど……まさにドラゴンだな。いいだろう!二天龍を相手にするなど滅多にないからな。掛かってこい!!『ドラゴン・ボーン』!!」

 

一誠は三体のボーンを解除して『ドラゴン・ボーン』だけを纏った。すると召喚されていた魔神が霧散して消えた。

先に仕掛けてきたのはヴァーリだった。

 

「まずは挨拶代わりだ!!」

 

「こい!!」

 

一誠はヴァーリに手招きをした。ヴァーリは無数の魔法陣を展開して魔弾の雨を一誠に浴びせた。だが、一誠は動かずに拳を固めて腕を後ろに引き前に突き出した。

 

「覇っ!!!」

 

「っ!?……ハハッ……まさか拳圧だけで俺の魔弾を吹き飛ばすとはな!!」

 

「どうした?それで終わりではないだろ?ヴァーリ」

 

「もちろんだ!!」

 

ヴァーリは一誠の挑発に乗り先程の倍近い魔弾を浴びせた。一誠は拳で吹き飛ばすでもなくただ避けた。

 

「やはり君は最高だ!真神一誠!!」

 

「それはなりよりだ、ヴァーリ・ルシファー!だから俺を失望させてくれるなよ!」

 

「元よりそのつもりだ!!」

 

一誠はヴァーリに少しだけ期待していた。『歴代最強の白龍皇』と言わしめる彼に。自分の『力』を見せても恐れるどころか嬉々として向かってくるのだ。

これまでの人生でこれほど心踊った事はないと言っても良いくらいだ。だからこそ、一誠はヴァーリに期待しているのだ。

一方、一樹は一誠とヴァーリの戦闘をただ見ていた。二人が放つ圧倒的なオーラに足が竦んでしまったのだ。

 

(なんなんだ?あの二人は!?)

 

足が震えて動けない。本能が逃げろと叫んでいる。あの『バケモノ』達の戦いに参加するなど冗談ではない。

 

(どうして!?どうして!?どうして!?俺は『主人公』なんだぞ!ヴァーリと戦って勝たなきゃいけないのに!どうして『力』が出て来ないんだよ!?)

 

『それは単純にお前が俺の「力」を出し切れていないからだろ?相棒』

 

一樹が動けないでいると赤い龍・ドライグが話かけてきた。

 

(だったら!俺に『力』を寄越せよ!?)

 

『無茶を言ってくれる。今のお前では俺の「力」に身体が持たない。それに相棒がもっと感情的に戦える奴だったら俺の「力」を十分とは言わないが、それなりに引き出せたはずだ』

 

(ふざけるなよ!!!)

 

一樹はドライグに怒りを向けた。だが、実際に一樹が『力』を出せないのはドライグが指摘したところだ。

ドラゴンの『力』を引き出すのは『感情』だ。

 

怒り、憎しみ、嫉妬

 

これらの『感情』は『力』を引き出す重要な要因だ。だが、一樹にとってここは自分が『主人公』の世界。

全てが自分を輝かせるための『駒』に過ぎないと考えている。だからここでヴァーリが「両親を殺そう」と言っても『原作』の一誠のように怒る事はない。

それ故に一樹はドライグの―――ドラゴンの『力』を引き出す事はできない。

 

「くくっ……今の状態は最上級悪魔と同等だと言うのに……お前は俺を大いに楽しませてくれるな!ヴァーリ!!」

 

「そうか!それは何よりだ、真神一誠!!」

 

「もっとだ!もっと!!俺を楽しませてみせろ!ヴァーリ・ルシファー!!」

 

「これならどうだ!!!」

 

一誠とヴァーリの戦いは更に激しさを増していった。学園に張られた結界は限界ギリギリだった。もし二人の攻撃が外に出れば大ごとになってしまう。

それだけの戦いを一誠とヴァーリはやっていた。まさに強者の戦いだ。

 

(何なんだよ!?何なんだよ!?俺と一誠の何が違うって言うんだ!?俺が赤龍帝なんだよ!俺こそが主人公なんだよ!俺のハーレムなんだよ!!!)

 

自分が世界の―――物語の主人公であると考えている一樹は全てが否定されたようだった。それは十年前の一誠のようだった。

自身の『力』を周りに見せたが受け入れてもらえず、否定されたあの頃の一誠と自分が被って見えてしまった。

 

(違う!違う!違う!俺は一樹だ!兵藤一樹なんだ!俺こそが主人公なんだよ)

 

一度、頭を過ぎった事を必死に否定したが、一樹の心には大きな歪みが出来上がっていた。それはもう誰の手に負えるものではなくなっていた。

それから一誠とヴァーリの戦いは数十分間続き、学園はほぼさら地になっていた。もちろん一誠が『時間』を戻して破壊される前の学園に戻した。

一誠と戦ったヴァーリはボロボロになってもご機嫌だった。それはヴァーリと戦った一誠もだ。

そして一誠はヴァーリを担ぎゼノヴィアと共に学園を後にした。

 

こうして天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの勢力の会談はなんとも言えない終わりを迎えた。

後日、天使、堕天使、悪魔の三大勢力で改めて会談が開かれてそこで協定が結ばれた。その名も「駒王協定」だ。

この協定が三大勢力の未来を大きく変える事になった。

 




これでこの章は終わりです。

次から新しい章に入ります。

冥界に行く前の話にしようと思っています。

では、次回に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入界前話
一誠と一樹


ユグドラシル、天使、堕天使、悪魔の会談が終わって数日が経ったころ一誠は夢の中に居た。

周りは暗くどれくらいの広さがあるのか分からない。だが、そこには一つの椅子があり前には大きなスクリーンがあった。

一誠が椅子に座るとスクリーンに映像が流れる。しかし最初の内はノイズが走りとても見られたものではなかった。

それが少しずつノイズが無くなりハッキリと見え始めた。音声も聞こえ始めた。そして最初に聞こえた声が……

 

『おっぱい!!おっぱい!!』

 

である。それも一誠と似ている声で恥ずかしがる訳もでなく堂々と大きな声で言い放ったのだ。それを聞いた一誠はゲンナリとなった。

だが、それでもスクリーンから目が離せなかった。

 

『ずむずむいやーーーん!!』

 

またしても聞こえてきた声に一誠は急な脱力を感じた。だが、どこか笑ってしまう自分がいた。

 

「はっ……ははっ……ははははっ……!!!」

 

可笑しかった。決して自分では言わない言葉だと思うが、スクリーンの人物が言うと思わず笑ってしまう。

 

(まったく……こいつの頭には女の事しかないのか?)

 

そう思わずにいれない。一誠は笑った。それは腹が捩れるのではないかと思うほどに。

 

(こんなにも笑ったのはいつぶりだろうか?)

 

過去を思い出しても一誠はあまり笑った事が無い。日本では兄に周りにいじめられ、北欧ではオーディンに迷惑をかけないように神々に隙を見せないように気を張っていた。

だからオーディンに拾われてから、腹が捩れるほど笑った事が一誠には無かった。

 

『俺はハーレム王になる!!』

 

「くくっ……ははっ……ははははっ……ははははははっ!!!!」

 

またしても恥ずかしがる事無く自分の夢を堂々と言い放った。そして一誠はスクリーンの人物の性格が分かってきた。

 

エロと熱血を持ち最弱と言われても仲間とおっぱいで数々の危機を乗り越えてきた少年。

悪魔に転生したが魔力は他と比べたら少なすぎた。それでも自分を鍛え自分の夢に真っ直ぐ歩き続けた。

それが赤龍帝の兵藤一誠だ。

 

(今の俺とはまったく違う俺。俺とは反対だな)

 

エロも熱血も持たず最凶と恐れられ仲間どころか友一人すら居なかった少年。

これまで危機と言える戦いは無かった。魔神に転生して魔力がすでに誰よりも膨大だったから無敗で戦いに何も思えなくなった。

復讐に燃え、ただそれだけのために生きて夢など一切持たなかった。今はどこに向かっているのかすら分からない。

それが魔神の真神一誠だ。

 

 

最弱と最凶

 

兵藤と真神

 

一誠とイッセー

 

赤龍帝と魔神

 

 

似ている所はそれなりあるが違う所が多い。だから一誠はしっかりと自覚している。スクリーンの自分とそれを見ている自分はどうあっても違う存在だと。

自分は彼にはなれないし彼は自分にはなれない。歩いてきた道が違う。目指している場所も違う。

 

「ああ……ホント、羨ましいぜお前。お前の人生は幸福か?…………まあ、答えるわけ無いか」

 

独り言。いくら強くても一誠はまだ十七歳なのだ。それも親の愛も友人との思い出も何も無い。それが真神一誠が歩いて来た人生だ。

だから一誠はスクリーンに映るイッセーが羨ましかった。親も居て友人達に囲まれ信頼出来る仲間達が居る。

何より愛すべき大切の人が側に居た。すると別の場面に変わった。

 

 

堕天使レイナーレに光の槍で胸を貫かれる場面。

 

全裸のリアスに添い寝されている場面。

 

ライザー・フェニックスにレイティングゲームで敗北する場面。

 

結婚式に乗り込みライザーと一騎打ちで勝つために左腕を犠牲にする場面。

 

幼馴染のイリナと再会して祐斗と一緒に戦う場面。

 

学校でコカビエルと戦う際にリアスからのご褒美にテンションが上がる場面。

 

三大勢力の会談の時に白龍皇のヴァ-リと戦った時にアザゼルの一言で感情が爆発する場面。

 

 

上げていけばキリが無い。それでも一誠は全部の場面をしっかりと見ていた。するといきなりスクリーンにノイズが走り出した。

会談からのノイズで見ることが出来ないでいた。

 

(内容は俺が今いる時間軸までなのか……この先は『未来』か……ネタばれは無しか)

 

一誠がいる時間までしかスクリーンには映らなかった。その先はノイズが走り見る事が出来ないでいた。

だからと言って一誠は気にしなかった。

スクリーンに映っていたのはあくまで兵藤一誠の経験した場面を映していたに過ぎない。だから一誠は気にしない事にした。

 

(だからって続きが見たいか見たくないかは別問題だよな……)

 

違うのだからもう少し続きを見たかったと一誠は思っている。違うのだからもう少しだけ見てもいいのではいいではないか。

しかしそんな一誠の頼みなど聞いてはくれなかった。スクリーンはノイズが走っているだけで変化は無かった。

 

「……駄目か。それで、何の用だ?」

 

一誠は後ろに振り返りそこに居る人物―――いや存在に問いかけた。そこに居たのはまるで宇宙を人型にしたような押し込めた存在だった。

一誠はその存在から感じる魔力に覚えがあった。一誠の魔力だ。

 

(俺と同じ?……いや、こいつは俺の前の魂?)

 

輪廻転生。魂は世界を巡り廻って別の存在に転生する。目の前の存在は一誠の生れ変わる前の存在だ。

その存在が口を開いた。人のましてや人外が使う言語では無かった。

 

『■■……■■……■■■……■■……■■』

 

「別に心配してもらう必要はないぞ?俺には生きる目的は無く、果たすはずだった復讐も無くなった。だけど、希望が無いわけではないさ」

 

『■■■……■■……■■……■■……■■■』

 

「ああ。『神滅具』が俺の生きる希望だ。十三種のどれかが俺を『殺せる』ものだといいんだけどな。まあ、白龍皇は俺の手の内にあるから鍛えれば俺を半殺しには出来るかもな」

 

死ぬために生きる。そのためにヴァーリを鍛えようとしていた。今のままでは弱いが、『覇龍』をコントロール出来れば、もしくはと言うくらいだ。

それでも少しでも可能性があるならそれに賭ける。最凶の魔神は自らを殺せる存在を求めて夢から覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユグドラシルとの会談の後に行われた三大勢力の会談後、兵藤一樹は自宅で二週間にも及ぶ謹慎状態だった。

何故、彼が謹慎状態なのかと言うとユグドラシルの代表代理の真神一誠に攻撃したからだ。代理と言ってもユグドラシルの代表に攻撃したのだ、ただでは済まされない。

そこで魔王サーゼクスは一樹を謹慎処分にした。

だが、一樹は納得してはいなかった。

 

(どうしてだ!?どうしてだ!?俺は間違った事をしてはいないのに!!あいつはもうこの物語の『主人公』じゃないんだぞ!!俺こそが『主人公』なのに!?)

 

一樹は物語の主人公だと言う事を理由に自分がやった事を正当化していた。自分のしている事、やっている事はは全て正しい、と一樹はそう思っている。

 

「カズキ……」

 

「カズキ君……」

 

一樹の様子をリアスと朱乃は一樹の部屋の扉の隙間から覗いていた。一樹が謹慎になってから様子を見ていた。

部屋の様子から一樹の精神状態が酷く荒れているの分かっていた。今の一樹の部屋はまるで泥棒が荒らしたようにグチャグチャになっていた。

 

(カズキがこうなったのも全部、真神一誠の所為よ!!)

 

リアスは一樹が荒れているのを全部、一誠の所為にした。彼女もまた一樹に依存して一樹と同じ思考に染まっていた。

 

(カズキ君。今なら色々と出来そうですね。ふふっ……)

 

朱乃は一樹が情緒不安定なのをいい事に、一樹を逆に自分に依存させようと考えていた。そうなれば相思相愛となり一樹を自由に出来ると思ったからだ。

朱乃も朱乃でリアス並みに考えが逸脱していた。

 

「リアス、朱乃……」

 

「カズキ」

 

「カズキ君」

 

一樹は部屋の扉に居た二人と目が合った。二人は黙って部屋の中に入って行った。そして一樹に抱きついて身体をこれでもかと押し付けた。

 

「―――げ」

 

「え?何、カズキ」

 

「何か言いましたか?カズキ君」

 

「脱げと言っている!!」

 

「「っ!?」」

 

リアスと朱乃は一樹の大声に驚いてしまった。これほど感情を出して声を荒げた一樹は二人にとって初めての事だったからだ。

二人は一樹に言われたとおりに服を脱いで産まれたままの姿になった。

 

「いいわ。カズキ、貴方の好きにして……」

 

「カズキ君、私達を堪能して……」

 

そして一樹はリアスと朱乃の二人をベットの上に招き、身体を味わった。三人は大人への階段を昇っていった。

そして二人が気絶するように寝ている時、一樹はふと目が覚めた。

 

『これでお前は大人へとなったわけだ。おめでとう相棒』

 

「……ドライグか。一体なんの用だ?」

 

赤い龍・ドライグが一樹に話しかけてきた。しかしその態度は一樹をからかっている様に感じられた。

 

『元弟と白龍皇の戦いにろくに参加しないで腰が抜けていたのに女を抱く時にはしっかりと動くものだと思ってな。それでどうだった?女を抱いた感想は?』

 

「黙れ!!」

 

『しかもお前への依存がもっとも強い女どもだな。それにしても真神一誠が俺の相棒だったら二天龍の戦いは面白い戦いが見れたかもしれないのにな』

 

「黙れと言っている!!!だったらお前が俺に『力』を寄こしていれば、俺だって戦えたんだよ!!」

 

一樹はあくまで自分が戦えなかったのをドライグが『力』を渡さなかったのだと言った。もちろん、それも一樹が戦えなかった理由の一つだがそれだけでは無い。

一番の原因は一樹の気持ちだ。それに一樹は気がついていない。

 

『ハハハッ……戦えなかった事をここまで俺の所為にしたのはお前が始めてだぞ。相棒!ハハハッ……相棒、お前は才能は確かにあるだろう。恐らくはあのヴァーリ・ルシファーを超えているかもしれないが、お前はそれを生かしきれていない』

 

「うるさい!!?黙っていろ!!お前は俺の『神滅具』だ!なら黙って俺に従っていればいいんだよ!!!」

 

『…………いいだろう。「力」は与えてやろう。精々、早死にしないことだな』

 

それだけ言ってドライグは何も言わなくなった。一樹はさらに怒りを感じた。『原作』のドライグはこうでは無かった。

まるで一樹の存在自体を否定しているように聞こえてきた。

 

(ふざけるな!?俺が『主人公』だ!!俺こそヒーローなんだよ。一誠に代わって俺がハーレム王になるんだよ!!それを邪魔する奴は誰だろうと殺す!!)

 

一樹はすでに誰の言葉も聞こえないようになっていた。歪んでいた心はさらに歪められて、そして色は黒く濁り周りに広がり始めた。

これはヒーローになるはずだった赤龍帝が悪に染まり世界を崩壊させる存在になるための序章に過ぎない。

世界最悪の龍は静かに覚醒しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙最凶の魔神と世界最悪の魔龍の戦いはそう遠くない内に起こるだろう。その時の周りの選択はどうなるのかは誰にも分からない。

世界を滅ばすのは神か龍かそれとも人か悪魔か。終末へのカウントダウンはもう始まり刻一刻と刻み始めた。

 

さあ、生きとし生ける者よ。選択せよ。

 

魔龍か魔神か

 

最悪か最凶か

 

愚兄か賢弟か

 

選択しだいで世界が滅びるか救われるかが決まる。さあ、選択せよ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇龍と教師

祝!!お気に入り登録1000突破しました!

これからも頑張って更新していくのでどうぞ、よろしくお願いします!

では、どうぞ。


天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルを巻き込んだ会談は途中、テロリストの介入で中止になった。後日、ユグドラシルを除く三大勢力で改めて会談を行って、そこで同盟が結ばれた。

だが、ユグドラシルの神々はこれと言って行動はしなかった。例え、三大勢力と戦う事になっても一誠が居る限り敗北はありえなかった。だからこそ、強気なのだ。

しかし一誠を動かせるのはこの世界にたった一人だけ、オーディンにしか無理なのだ。

その事に神々もそうだが、他の勢力も気がついてはいない。

世界いや、宇宙最凶の魔神の覚醒は始まりもうそれを誰にも止められない。目覚めるのは善人か悪人か。

それとも創造主か破壊者か。はたまたそのどれでも無いのか誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会談が終わってヴァーリは一誠の家に住みついていた。そこで一誠と時間があれば戦っていた。ただ強くなるために。

 

「『覇龍』のコントロールだと!?」

 

「ああ。そうだ」

 

この日、ヴァーリは一誠からの提案に驚きを隠せなかった。一誠の提案とは『神滅具』にある『覇』のコントロールを習得する事だった。

ヴァーリが驚いたのはそれは不可能だと思うからだ。これまでの歴代の白龍皇が誰も成し得なかった事をしようとしているのだ。

それは過去、未来で産まれる事は無いと言われる歴代最強の白龍皇のヴァーリであっても不可能に近かった。

 

『真神一誠。「覇」のコントロールは不可能だ』

 

「アルビオンか」

 

ヴァーリが何かを言う前に白い龍・アルビオンが話しかけてきた。アルビオンには一誠が言っている事がどれほど不可能なのかを誰よりも知っている。

全盛期の二天龍の『力』を使うには人間の身体ではその負荷に耐えられないほど脆弱なのだ。

 

「だけどな、ヴァーリのこれ以上の強くなるには必ず通る道だと思うが?」

 

『それはそうだが……』

 

アルビオンは言葉に詰まった。一誠の言う事は正しいからだ。だが、今までに「覇」のコントロールを出来た所有者はいない。

そして一誠は続けた。

 

「ユグドラシルにある『神滅具』の『覇』についての資料は目を通した事はある。だからこれは俺の考えなんだが……『覇』をコントロールするために必要な事は二つだけだと思う」

 

「二つだけ?たったそれだけで『覇龍』がコントロール出来るのか?」

 

ヴァーリは信じられないと言わないばかりの顔をしていた。たった二つだけで『覇龍』をコントロール出来ると言われれば、歴代の白龍皇は何故、暴走したと言うのかというものだ。

 

「俺の考えだけどな。まず一つ目は『呪文』だ。『覇龍』を発動させるにあたってこれは不可欠だ。そもそもこの『呪文』は誰が考えたんだ?初代の白龍皇か?俺は違うと思う。この『呪文』を作ったのは二天龍を『神器』に封印した神だと思う」

 

「なるほど……」

 

「それでここからだ。他人が作ったもので『力』をコントロール出来るはずが無い。そこで自分―――ヴァーリだけの『呪文』を作れれば、少なくとも暴走はしないと俺は考える」

 

「自分だけの『呪文』か……そんな事を考えた事は無かったな」

 

一誠に言われてヴァーリはどこか納得してしまった。ようは他人の作った機械では何をどうするればいいのか分からないが自分で作ったものなら話は別だ。

どこをどうすればいいのか、しっかりと把握しているからだ。

 

(彼の下に来たのは正しかったな。『禍の団』に居てもその事に気づけてはいなかっただろうな……)

 

ヴァーリは一誠の誘いに乗った事は正解だったと思っていた。

 

「次に『白龍皇の光翼』の中に居る歴代所有者の魂だ」

 

「歴代の白龍皇の魂?それは一体……」

 

「暴走する要因の一つが歴代の所有者の負の感情だ。怒り、憎しみ、絶望と言った感情がトリガーとなって『覇龍』は発動する。だから歴代の所有者の魂をどうにかしないと例え『呪文』を作っても暴走する可能性がある」

 

「魂を……どうすれば?」

 

「俺が知るわけないだろ。そこはお前が頑張るしかないな」

 

「………………」

 

ヴァーリはここまで説明した一誠がここでまさか自分に丸投げてくるとは思わなかった。ヴァーリは何も言えなくなった。

 

(いや、本来それを考えるのは俺のはずだ。彼に頼るのはここまでだな)

 

だが、ヴァーリは気持ちを切り替えて自分自身で考え始めた。歴代所有者の魂の負の感情をどうするか。

自分がこれ以上、強くあるためにする事を考えた。

 

(負の感情……これをどうにかする、か。だが、どうする?)

 

ヴァーリは必死に考えた。ここまでヒントを出して貰った一誠にためにも必ず答えをみつけようとした。

毎日、命がけの戦いが出来て自分でも判るくらい実力が付いてきていると嫌と言うほど分かるほどだ。

だからヴァーリは一誠に恩を返したいと思っている。

 

「方法が迷っているなら自分の性格を考慮してから考えてろ」

 

「自分の性格……ああ、そうか。そうだな、これが俺のやり方だな」

 

「思いついたのか?」

 

「ああ。俺のやり方、全てを『力』でねじ伏せる。それが歴代の白龍皇の魂であってもだ!!」

 

それが、それこそが彼―――ヴァーリ・ルシファーのやり方だ。グダグダと回り道などする気など無い。強くなりいつか自分の手であの憎たらしい男を殺すまで強くなるつもりだ。

 

「イッセー!もう少しだけ付き合ってもらってもいいか?」

 

「ああ。いくらでも付き合うぜ。だからもっと強くなって俺を楽しませてくれ!ヴァ-リ。歴代最強を完全なものにしてみせろ!!」

 

「ああ。もちろんだとも!!待っていろ!最凶の魔神よ!!」

 

一誠とヴァーリは互いに笑っていた。二人が望み者は近いものがある。最凶の魔神は自分の理解者を求めた。だが、それは無理だった。

自分と同格の存在などこの世にはいない事は分かっていた。しかし一誠はある事を考えた

 

(居ないなら届きそうな奴を鍛えればいいんだ!!)

 

居ないなら鍛えて自分と同じ次元に立たせればいい。そう一誠は考えた。だからこそヴァーリを鍛えているのだ。

それでも届かないかもしれない。それでもほんの一瞬、届きさえすればそれで良かった。世界最凶の力を理解してくれればそれで良かった。

 

ハーフ悪魔の白龍皇は誰にも負けない強さを求めていた。それは単純にドラゴンを宿した者の本能だと言えるだろうが、ヴァ-リは違った。

ハーフである自分を幼少期に暴力を振るように父に指示していた祖父を殺すためだ。

 

(奴だけはこの手で殺す!!)

 

弱かったからこそ母を守る事が出来なかった自分が許せなかった。毎日、悲しい顔しか見た事が無かった。笑って欲しかった。

だから神も魔王も倒すだけの『力』が欲しかった。理不尽するら捻じ伏せられる絶対的な『力』が。

ヴァーリは新たな環境で更に高みへと目指そうと決意を固めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ!イッセー」

 

「アザゼル……どうしてお前が?」

 

もうすぐ夏休みに入る前に一誠は学園で『神の子を見張る者』の総督のアザゼルに出会っていた。気配でアザゼルが学園に居る事はすでに一誠は分かっていた。

だが、一誠が気にしていたのはアザゼルの格好だった。スーツを少し着崩していたのだ。

 

「なに、俺はこれからオカ研の顧問になってな」

 

「堕天使の頭がこんな所で油を売っていいのか?」

 

「まあ、大丈夫だ。仕事は副総督のシェムハザに任せてきたからな」

 

「それは大丈夫なのか?」

 

一誠は会った事が無い副総督が少し気になっていたが、それ以上気にしないことにした。

 

「―――それで?俺に何か用か?無いならもう行くぞ」

 

「待ってくれ……。ヴァーリは元気か?」

 

「ああ、元気だぞ。今は『覇龍』のコントロールをものにしようとしている」

 

「は、『覇龍』だと!?」

 

アザゼルは柄にも無く驚いてしまった。一誠の……いやヴァーリのやろうとしている事がどれだけ無謀なのか『神器』を研究しているアザゼルは分かっていた。

過去にどの白龍皇も他の『神滅具』所有者が『覇』をコントロールした記録など無い。研究者だからこそアザゼルは知っているのだ。

 

「だ、大丈夫なのか?いくらヴァーリと言っても『覇龍』のコントロールは無理だろ」

 

「それは本人次第だな。だけど、俺はコントロール出来ると思うぞ。いや、してもらわないと困る。折角、見つけた『挑戦者』なんだ。どうせなら『超越者』になってもらわないと」

 

「…………」

 

アザゼルは一誠の言っている事に何も言えなくなった。だが、アザゼルは一誠がどんな人物なのかだいだい理解した。

 

(こいつは『孤独』なんだな……)

 

強すぎる力はその者を一人にしていく。コカビエルでさえ圧倒し歴代最強の白龍皇に勝てないと言わせる少年―――真神一誠。

アザゼルは調べられるだけ部下に一誠の過去を調べさせた。

そこで知った。両親や兄の一樹にどんな事を言われたのか。それを悪魔側が知らないわけが無い。

だが、それが多くの者に知られれば一樹やリアスがどのような扱いを受けるのかは容易に想像出来る。だから隠した。

 

(俺の方で出来る限りフォローしてやるか)

 

アザゼルは気持ちを入れ替えて一誠を見た。見た目はどこにでも居そうな10代の少年だ。だが、その内側は世界最凶の魔神だ。

オーディンが保護したといってもそれでもユグドラシルでは一誠の事をよく思っていない神からは腫れ物扱いをされていた。

それでもユグドラシルの神が殺されなかったのはひとえにオーディンの優しさがあったこそだろう。

 

「ヴァーリの事が気になるなら自分の目で確かめたらどうなんだ?」

 

「そうしたいのは山々なんだがな……。イッセー、お前の『力』について調べさせてくれないか?」

 

「『ボーン・カード』をか?……本当なら嫌だと断ると事だが、俺もこいつについてもっと知りたいからな。ほらよ」

 

「ああ。確かに……ちなみにこの文字は何て書いてあるんだ?」

 

アザゼルは一誠から受け取ったのは『シャーク・ボーン』だった。しかしアザゼルは書いてある文字がまったく読めなかった。

 

『シャーク・ボーン』

水属性のボーン。地面を水のように潜ったり泳いだりする事が出来る。

 

「それは『シャーク・ボーン』と書いてあるんだよ」

 

「『シャーク』って事は鮫か。これもそうだが他も動物がモチーフなのか?」

 

「ああ。他にはドラゴン、ケルベロス、フェニックス、レオ、グリフォンなんかがあるな」

 

「なるほどな……」

 

アザゼルは『ボーン・カード』をまじまじと観察した。書いてある文字がどういう意味なのかさっぱり分からないでいた。

 

「それじゃこいつは借りるぞ」

 

「ああ、何か分かったら教えてくれ」

 

「任せておけ。オーディンの爺さんによろしく言っておいてくれ」

 

アザゼルはそれだけ言って一誠の前から去った。一誠は離れていくアザゼルが見えなくなるまでその場から動かなかった。

 

(アザゼルは意外にいい奴なのか?後でヴァーリにでも聞いておくか)

 

そんな事を思いながら一誠はゼノヴィアと合流して帰路に着いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カードと可能性

「見れば見るほど、謎だな」

 

今日、『神の子のを見張る者』の総督のアザゼルは一枚のカードを見ていた。アザゼルが持っているのは一誠から借りた『ボーン・カード』の『シャーク・ボーン』だ。

アザゼルは一誠の使う鎧について非常に興味を持っていた。生物を模した『神器』はそれなりの数があるが『ボーン・カード』は『神器』や神々の武具のそのどれにも当てはまらない。

その事が一番気になっていた。

 

(さて、何から調べるか……)

 

「アザゼル!!」

 

「げっ!?……シェムハザ……」

 

アザゼルが歩いていると前から一人の男性堕天使―――副総督のシェムハザがいかにも不機嫌な顔をして近づいてきた。

 

「貴方は何を考えているのですか!?リアス・グレモリーやソーナ・シトリーが通う学園に部活の顧問として入るなど私は聞いていませんよ!!」

 

「ああ。言ったら止められるからな」

 

「っ!!?……はぁ……本当に貴方は昔から不真面目なのですから……」

 

「その分、お前が真面目だからいいバランスが取れているだろ?」

 

いつもの二人のやり取りだ。堕天してから付き合いの長い二人だから信頼しているし信用している。それだから『神器』の研究の資料などの重要な部分はアザゼルとシェムハザしかしらない。

だから『禍の団』にも重要な資料は渡らなかった。

 

「まあ、顧問についてはきっちり説教させてもらうとして。その手に持っているカードは何ですか?」

 

「ああ。これか?これは一誠が使っていた『ボーン・カード』ってやつだ。一枚借りてきたんだ。早速、調べるぞ!手伝えシェムハザ!!」

 

「ま、待ちなさい!アザゼル!!!」

 

アザゼルはシェムハザの説教を聞かずに『神の子を見張る者』の研究チームで調べ始めた。様々な機材を使いありとあらえる角度で検査を始めた。

その過程で色々と分かってきた。だが、アザゼルとシェムハザはどこかぐったりしていた。

 

「……シェムハザ。お前、どう思う?このカードを……」

 

「ありえない。その一言に尽きますね。このカードは製作不可能です。こんなのまず誰にも作れない……」

 

「ああ。そうだような……まったく凄すぎて頭が痛くなるぜ……」

 

アザゼルもシェムハザも他の研究員も頭を悩ましていた。分かった事は確かにあるがそれは『分からない事が分かった』というやつだ。

だから根本的に何も分かっていない。だから悩んでいた。『ボーン・カード』は何で何で出来ているかさっぱりなのだ。

これは長年、『神器』を研究してきたアザゼルにもお手上げ状態に陥っていた。

 

「ああっ!?どうしたらいいんだ!!」

 

「少し落ち着きなさいアザゼル。……私です―――入ってもらいなさい」

 

シェムハザは部下から来客の知らせを受けて入ってもらうように指示した。

 

「……来たのか?」

 

「ええ、もうすぐ着ますよ」

 

するとシェムハザの言うとおりに来客達は研究室に入ってきた。男女二人ずつの悪魔が二人と天使が二人が入ってきた。

 

「やあ、アザゼル」

 

「シェムハザ。久しぶりですね」

 

入ってきたのは魔王サーゼクス・ルシファーと四大熾天使の天使長のミカエルだ。後ろにはサーゼクスの眷属のグレイフィアとミカエルと同じく四大熾天使のガブリエルが居た。

 

「よく着てくれたな、お前ら……」

 

「随分、疲れているようだね?アザゼル」

 

「まあ、な……」

 

ミカエルは不思議だった。アザゼルがこれほどまでに疲れているのを見るからだ。研究している彼なら疲れなど知らないと言わんばかりに研究しそうだからだ。

なのにアザゼルは疲れてきっている。それがミカエルは不思議が顔で見ていた。

 

「ミカエル。早速、悪いがこのカードに攻撃してみてくれ……」

 

「……はぁ?いや、流石にそれは不味いのではないのですか?」

 

「大丈夫だ。どうせ無駄だからな」

 

「まあ、そこまで言うなら……」

 

ミカエルはアザゼルに言われるがまま『ボーン・カード』に光の槍で突いた。本来ならこんな薄いカードなど貫通するはずだったが、まったく刺さっていなかった。

 

「これは……!!アザゼル、これはどういう事ですか!?」

 

「……ああ。ミカエルでも無理か。ならサーゼクス、お前も試してみてくれ」

 

「ああ……」

 

ミカエルの驚きを無視してアザゼルはサーゼクスにも『ボーン・カード』を渡した。サーゼクスはカードを受け取るとアザゼルを見た。

 

「……消滅の魔力でしてくれ。念のため全力で」

 

「だ、大丈夫なのかい?もしかしたら……」

 

「その心配はいらない。だから全力でしてくれ」

 

「わ、分かった。はっ……!!!」

 

サーゼクスは自身の魔力の『消滅』を全力で出してカードを消しにかかった。本来ならすぐに消えてなくなるほど薄いカードだ。

だが、サーゼクスは指で摘んだカードの感触がいつまでも感じるのに違和感を覚えた。

 

「アザゼル。どうしてこのカードは……」

 

「消えないのか?って事だよな。そのカードは守られているんだ。物理的だろうと魔力を使ってもどうしても傷一つ付けつ事が出来ない。お前らが来る前に色々と試したんだ」

 

アザゼルとシェムハザがした実験はまずカードの耐久値を調べる事にした。手で曲げたがある程度までしか曲がらなかったので機械を使って曲げようとしたが、機械が駄目になってしまった。

次に表面を火で炙ったが焦げすら付かなかった。そして水の中に入れたが一切濡れなかった。

だからアザゼルとシェムハザは材質を調べたがこちらもまったく分からなかった。それ故にいきず待っているのだ。

 

「しかしアザゼル。このカードは確かにここにあります。なら材質が分からないという事はないんじゃないですか?」

 

「確かになミカエル。だが、分からない。可能性としてこれは俺達の理解の及ばないシロモノと言うことだ……」

 

アザゼルは心配いや不安な顔をしていた。ミカエルもサーゼクスもその顔が何を意味しているのか分からないでいた。

 

「このカードは調べれば調べるほど謎が深まっていく……分かった事はこのカードは破壊不可能でイッセー以外には使えない。例外としてイッセ-の従属神になれば使えるらしい」

 

アザゼルの報告にこの場にいる者達は頭を悩ませていた。ただし一人だけを除いてはだが、その人物はサーゼクスだ。

 

「……これは使えるな」

 

「何が使えるんだ?サーゼクス」

 

「ああ、実は冥界の子供達向け番組を考えていてね。ここは人間界に習って特撮ヒーローを考えていたんだ。そこでイッセー君の『ボーン』だったか?これを使えないかと思ってね」

 

「なんだ、それ!面白そうだな!!俺にも一枚噛ませろ」

 

「ああ、もちろんだ。色々と意見が欲しいからね」

 

段々話が逸れているアザゼルとサーゼクスだった。他の者は呆れていた。それで痺れを切らしたグレイフィアがサーゼクスの耳を引っ張った。

 

「……いい加減にしてください。サーゼクス様」

 

「いたたたたっ……痛いよグレイフィア!?」

 

グレイフィアの動きはまるで夫婦漫才をしているような動作だった。

 

「……アザゼル。話を戻しましょう。彼、真神一誠君が使う力は貴方―――『神の子を見張る者』の技術を以ってしても解析出来ない。そういう事ですね?」

 

「ああ。そうだ。そういうミカエルはどうなんだ?このカードの文字とか属性とかの模様は見覚えないのか?」

 

「……残念ながらありませんね。文字も模様も見た事がありません」

 

アザゼルとミカエルはカードに描かれている模様や文字などに注目したが二人には見覚えが無かった。『聖書に記される神』に仕えてきた二人も覚えが無かった。

 

「ミカエルも知らないんじゃお手上げだな……イッセー自身も分かっていない部分もあるようだし……だぁぁぁ!!こんな面白いものを解析出来ないとか研究者としてむず痒いぜ!!」

 

「……しかし分からない事には調べようがありませんね」

 

アザゼルが頭を抱えている中、ミカエルは至って冷静だった。彼はアザゼルと違い何かを調べるといった事がそれほど得意ではない。

だからなのかそれほど困ってはいなかった。どちらと困っているのはアザゼルの方だ。

 

「ああっ!?こんな凄いものを調べらないなんて最悪だ!!こんなおも……不思議なものを!!」

 

「アザゼル……今、何か言いかけましたか?」

 

「な、なんでもないぜ!!」

 

シェムハザの視線からアザゼルは逃げるように逸らした。

 

(危ない危ない……)

 

間違っても『面白い』と言えば後でシェムハザから何を言われるか分かったものではない。

なのでアザゼルは途中で言葉を飲み込んだ。

 

「分からないものはしょうがない。アザゼル、ここは先ほどの話を続けようではないか」

 

「ああ!そうだな、そっちの方が面白そうだしな!!」

 

サーゼクスの提案によりアザゼルは先ほどの一誠の『ボーン』をモチーフにした戦隊をどう作るかの話に切り替わった。

 

「サーゼクス様……」

 

「アザゼル……」

 

グレイフィアとシェムハザの『こいつら何言っているんだ?』という気持ちが乗っている視線をサーゼクスとアザゼルは受けていた。

二人の視線を受けてかサーゼクスもアザゼルもどこか申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「だ、だってしかたないだろ!?これ以上、解析しても何も分からないんだからよ!!」

 

「そうだよ。アザゼルに無理なら我々にだって無理だ。それに最近、セラフォルーの番組だけで他にも子供向けの番組が無いと思っていたんだ」

 

「……確かにそうですが、だからと言って今、話すような内容ではない筈です」

 

「す、すまない……」

 

グレイフィアに正論を叩きつけられてサーゼクスは気まずそうな顔で頭を下げた。

 

(まったくこの人は……)

 

グレイフィアは知っている。自分の主にして夫たるサーゼクスの事を。冥界のために色々と考えて盛り上げようとしている事を。

誰よりも近くでそれを見て、支えてきたグレイフィアだからついついサーゼクスに甘くなってしまう。

 

「……その手の話は一度、戻ってからにしてください。今は真神一誠様の事を」

 

「あ、ああ!」

 

サーゼクスはキラキラした目でグレイフィアに頷いた。

その後、色々と話し合いをしたが結局、結論は出なかった。そしてこの件は一旦保留扱いになった。

だが、この時『ボーン・カード』の秘密にアザゼルもミカエルもサーゼクスも誰も気がついてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこれ…………」

 

一誠がアザゼルに『シャーク・ボーン』を預けてから数日後に一枚のDVDが一誠の元に届けられた。その中身を見て一誠は愕然とした。

そこに映っていたのは『ボーン』を纏った五人の悪魔達がポーズを決めていた。

 

『世界を!そして宇宙を守るため!我々は今!!魔神の力をこの身に纏う!我ら魔神戦隊マジン・ボーン!!我らが居る限りお前らの好きにはさせないぞ!!暗黒龍皇ジ・ドラゾ!』

 

『ふん!!お前達に我が野望は止められると思うなよ!!マジン・ボーン!!』

 

ドラゴン、シャーク、ライノス、ジャガー、レオの『ボーン』を纏った悪魔達がいかにも悪の親玉と思わしき人物に言い放っていた。

一誠もまさか『ボーン』を戦隊ものにするなど聞いていなかったのでどう反応していいか分からなかったが、真っ先にするべき事だけは分かった。

 

(アザゼルとサーゼクスを半殺しにする!!)

 

すぐさま一誠はアザゼルとサーゼクスの所に行き二人を半殺しにした。その後で一誠は番組の売り上げの7割で話をつけた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間と関係

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞ、よろしくです。

では、どうぞ。


一誠とゼノヴィアが通っている駒王学園は夏休みに入った。それでも一誠たちの生活に変化は無かった。時間があれば一誠はゼノヴィアとヴァーリの修行を手伝っていた。

ゼノヴィアもヴァーリも順調に実力を付けていた。そんな日にヴァーリから会って貰いたい連中が居ると一誠は家で待っていた。

 

「すまないイッセー。待たせたな」

 

「来たかヴァーリ。そいつらがお前が俺に会わせたい連中か?」

 

「ああ。そうだ」

 

ヴァーリの後ろには男女四人が居た。

 

(二人は人間で残りが妖怪と妖怪の転生悪魔か。それにあの男の持っている剣から感じるのは……)

 

一誠は気配で四人がどのような種族なのか見抜いていた。そして人間の二人の男女の内、男が持っている剣から聖なる力を一誠は感じていた。

 

「なあ、お前が持っているのは聖剣か?」

 

「ええ。『支配の聖剣』と『聖王剣コールブランド』です。これはヴァーリのおかげで見つける事が出来たのですよ。それと私の名前はアーサー・ペンドラゴンです。どうぞ、よろしくお願いします。北欧の魔神イッセー殿」

 

「ああ。こっちこそな。それでそっちは?」

 

一誠はアーサーの隣に居る少女に視線を向けた。少女の格好はマントにとんがり帽子を身に付けておりまさに魔女と言える人物だ。

 

「はい!私はルフェイ・ペンドラゴンです!どうぞよろしくお願いします!」

 

「ペンドラゴン?兄妹なのか?」

 

「はい!兄ともどもお世話になります!」

 

ルフェイは勢いよく一誠にお辞儀をした。しかし一誠には色々と聞きたい事が出来たので質問する事にした。

 

「兄妹でテロリストだったのか?」

 

「えっと……お兄様は強い方と戦いたいだけで私はそれが心配で付いて行っているようなものです。それにお父様もお母様も心配なようで……」

 

「なるほどな……戦闘狂なのか」

 

一誠はどこか納得した。それはアーサーから感じられる気配なようなものがどこかヴァーリと似ている事を感じたからだろう。

そしてアーサーやルフェイの後ろに視線を向けた。

妖怪の気配を感じさせる二人。男の方の格好は赤い鎧を着て長い棒を持って顔つきはどこか猿を思わせた。

 

「始めましてだな、真神一誠。俺っちの名は美猴だぜ。よろしくな」

 

「ビコウ?……もしかして孫悟空の身内か?」

 

「おっ!よく気がついたな。そう俺っちは孫悟空の末裔なのさ。ヴァーリが『禍の団』を抜けるって聞いた時は驚いたがお前さんのような怪物の下につくとはな。爺以外でこんな奴が居るなんてな……」

 

美猴は一誠から漏れていた魔力を感じていた。それは彼がこれまでに感じてきた気配の中でダントツで一番だろう。

敵だったら真っ先に逃げ出していただろう。

 

「アーサー王と孫悟空の末裔が揃ってテロリストだったとは世も末だな」

 

「俺っちは初代と違って自由が好きなのさ」

 

美猴は悪べれる事無く答えた。そして一誠は最後の黒い着物を着た獣耳の女性に視線を向けた。するとその女性が一誠の腕に抱きついてきた。

 

「黒歌だニャよろしく♪」

 

「お前は妖怪の転生悪魔だな。それにお前と似た気配の奴を知っている。グレモリー眷属の塔城小猫だ。身内か?」

 

「……そうニャ。妹だニャ……」

 

黒歌はどこか暗い表情を浮かべて先ほどとは違って元気が無くなっていた。一誠は聞いては不味い事を言ってしまったのか何とも言えない顔になっていた。

 

「……とりあえず、家の中に入れよ」

 

「い、イッセー!そ、その前にいいか?」

 

「ゼノヴィア。どうした?」

 

家に入ろうとした所でゼノヴィアが何かを言いたげな態度を取っていた。それはまるで子供が新しいオモチャを貰うような心境だろうか。

そして一誠は気づいた。ゼノヴィアの視線はアーサーの二本の聖剣に向けられていた。

 

「ああ。なるほどな……アーサー、良かったらゼノヴィアにその聖剣を見せてやってくれないか?」

 

「ええ、構いませんよ。その代わりに貴女のディランダルを見せてもらえませんか?」

 

「あ、ああ!全然、構わない!!これがデュランダルだ!」

 

「ええ。では、コールブランドを」

 

ゼノヴィアはデュランダルをアーサーに渡しアーサーはコールブランドをゼノヴィアに渡した。二人は互いの得物をまじまじと見ていた。

他は完全に蚊帳の外でその光景をただ黙ってみていて。

 

「……入ってくれ」

 

「そうだな」

 

一誠に促されてヴァーリに美猴に黒歌、ルフェイが続いて家の中に入っていった。

 

 

 

 

 

一誠はヴァーリ達に一先ず麦茶をだした。一誠から話を切り出した。

 

「それで、ヴァーリ。お前とこいつらとの関係ってのは何なんだ?」

 

「彼らは俺の『禍の団』で集めた仲間だ。アーサーとルフェイは別の派閥に居たが俺が勧誘した。それと周りは白龍皇眷属もしくはヴァーリチームと言っていたのさ」

 

「『禍の団』って団結した組織では無いんだな」

 

「所詮、寄せ集め集団だからな」

 

ヴァーリはざっくりと前まで居た組織の事を言った。本来なら色々と聞いたりするところだが、一誠は特に聞く事は無かった。

 

「後でオーディンの爺さんに報告しておくか。お前らの事を」

 

「それで俺っち達はイッセーちんの命令に従わなくちゃいけないのか?」

 

美猴は一誠に質問した。ヴァーリが一誠の下に付いた以上、自分達を従わせようとしているのかが気になっていた。

 

「いや、そんな事をする必要は無いが?」

 

「え?無いの?」

 

「ああ。無い」

 

一誠は「何を言っているんだ?お前は」と言わんばかりの顔をしていた。それは美猴はもちろん、黒歌もルフェイも驚いてた。

まさか従わなくいいなんて言われるとは思っていなかったのか三人はあ然としてしまった。

 

「意外だぜ。てっきりヴァーリが部下になったから俺っちらも従うものかと思ったぜ」

 

「生憎、ヴァーリを部下にしたつもりは無い。どっちかと言うと弟子?……まあ、俺としてはヴァーリを強くしているだけで、特に縛り付けるつもりは無いから好きに動いていいぜ」

 

「いいのか?そんな事を言って……」

 

美猴まるで毒気を抜かれてような気持ちになっていた。だが、一誠は先ほど言った通り彼らを縛るつもりは毛ほども無い。

アーサー達が従ってくれるならそれでいいと思っている。それに一誠の興味はヴァーリだけなので他はおまけとしか考えていた無い。

 

「まあ、お前らは元テロリストだしある程度は言う事を聞いて貰うがそれ以外は好きにしてくれ」

 

「そう言うことなら好きにさせて貰うぜ!」

 

美猴がそう言うと黒歌は一誠の腕に抱き付き胸を押し付けていた。ルフェイは一誠の前に行くといきなり頭を下げた。

 

「い、イッセー様!」

 

「イッセーで構わないぞ。ルフェイ」

 

「は、はい。イッセーさんにお願いがるのですけど……」

 

「お願い?」

 

一誠はルフェイが言ったことに首を傾げた。

 

(もしかして魔女的なお願いだろうか?)

 

一誠はルフェイのお願いを魔女と関係しているものと考えた。悪魔と契約してその魔力を使い研究などをする魔法使いや魔女と一誠は聞いていたのでそう考えていた。

ルフェイはヴァーリから一誠の話を聞いてからずっと気になっていた。魔力を持つ人外のどれとも違う魔力を持つ一誠はルフェイにとって興味津々だった。

 

(この人の魔力は一体何なんだろ……)

 

ルフェイは一誠が何故、魔力を持っているのかずっと疑問に思っていた。一誠は純潔の人外でもハーフでも転生悪魔のどれでも無いから一誠が持っている事は本来無い筈だった。だが、一誠はそれを持っていた。

 

それは……魔力だ。

 

本来、それは人間が持つ事は無いものだ。一誠は純潔はおろかハーフですら無い。一樹はリアスが『悪魔の駒』を使い転生させたから魔力を持つ事が出来たが、一誠は悪魔に転生してはいない。

そして今現在に悪魔以外に『転生システム』を持っている勢力は無い。

仮にあったとして神―――魔神に転生させるなど出来るはずが無い。

 

「は、はい!この水晶に魔力を入れてくれますか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

一誠はルフェイが取り出した水晶に手を触れて魔力を入れた。しかし水晶は「ピキッ……」と音を立てた後、そのまま砕け散った。

 

「……え?」

 

「ああ……なんか済まないな」

 

「い、いえ!気にしないでください!」

 

ルフェイは気にしなくていいと言っていたが、一誠は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

(どうして砕けたんだ?)

 

一誠はただルフェイに言われたとおりに触れて魔力少し入れただけで特に何もしていないのに水晶は簡単に砕け散った。

だが、それこそが問題だった。一誠にとって少しでも他の者からしたら相当量の魔力になるのだ。

つまり水晶は許容量を軽く突破して砕けたのだ。しかしそれに一誠もルフェイも気づいてはいない。

 

「『フェニックス・ボーン』」

 

一誠はすぐに『フェニックス・ボーン』を使い壊れた水晶を元通りにした。今度は細心の注意をしてルフェイに水晶を渡した。

 

「俺が魔力を込めると壊れるようだな」

 

「そうですね……イッセーさんの魔力が大きいのか、もしくは別の理由があるんでしょうか?」

 

「さあな……それは俺には分からない」

 

こればかりは一誠にも謎だった。するとヴァ-リが近づいてきた。

 

「イッセー。そろそろ始めよう」

 

「ああ。そうだな」

 

「始めるって何ですか?」

 

ルフェイは思わず首を傾げた。二人が何を始めるのか気になっていた。

 

「まあ、一言で言えば……命がけの修行だな」

 

「しゅ、修行ですか?」

 

「ああ。ヴァーリにはもっと強くなってもらわないと俺が困るからな。俺が戦いを楽しむためにな」

 

一誠はルフェイにそう笑って答えた。それと同時にヴァ-リも少しだけ笑っていた。ヴァーリにとって一誠との修行は日々の楽しみの一つだ。

強者と戦いは彼が望むものだ。だからヴァ-リは毎日が楽しくてしょうがなかった。

 

「『コクーン』展開」

 

一誠は『コクーン』を展開してヴァ-リと共に消えた。二人が再び現れたのはそれから三十分後だった。

しかもボロボロになったヴァ-リを一誠が引きずりながら現れた。一誠は『クジャク・ボーン』でヴァーリを治療した。

 

「ま、毎日こんなになるまで戦っているのですか?ヴァ-リ様……」

 

「ああ……彼との戦いは実に楽しい!!」

 

ルフェイは苦笑するしかなかった。ヴァーリの性格は知っていたがそれでもその戦闘凶の顔は誰もが引くほどだろう。

だが、それが彼―――ヴァーリ・ルシファーだ。

人、悪魔、龍。この三つが彼を構成している。人、最弱ゆえ最強をも倒せる可能性がある。悪魔、長い寿命と魔力を持つ人外。

龍、神と並ぶ強大な存在であらゆる者が恐れる最強。

この三つがあるからこそヴァーリは最強を目指すのはもはや本能と言ってもいいだろう。

 

ピンポーン!!

 

一誠が休んでいると家のチャイムが鳴った。しかしこの日の来客はヴァ―リの仲間以外はいなかった。

 

(誰だ?それにこの気配は……)

 

一誠は来客の中に妙な気配を感じていた。とりあえず来客の相手をする事にした。玄関に向かい扉を開けてみるとそこには男女五人が居た。

 

「お前らは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠が来客を家に入れる少し前、駆王町を歩く男女五人が居た。一人は学生服に甲冑をしており一人はローブを着ている魔法使いに一人はまだ十歳前後の子供だが、その目はどこか年頃の少年とは思えなかった。

一人は白髪でその腰には五本の魔剣があった。最後の一人は女性で金髪で自身に満ち溢れた顔をしていた。

彼らはどこから発生したのか分からないが霧から現れた。

 

「それでこれから彼の家に向かうのか?」

 

「ああ。間近で会ってみたくなってな」

 

ローブの青年に甲冑の青年は楽しみだと言っている顔をしていた。それを見て少しだけため息をついてしまった。

そうしていると目的の場所に着いた。チャイムを鳴らすと目的の人物が現れた。

 

「やあ、お邪魔していいかな?」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄と友人

2年経つのは早いと思ってしまう。

でも、頑張ってこれからも更新していきます。

では、どうぞ。


一誠の家では今、まさに一触即発に陥っていた。それは一誠の家に来た人物達が原因だろう。同じ組織に居た者同士が同じ部屋に集まればそうなるだろう。

だが、一誠は特に動くつもりは無い。一誠が相手にすれば簡単に決着がつくからだ。

最初に動いたのは甲冑に学生服を着た青年からだった。

 

「改めて……始めまして真神一誠。俺は曹操。三国志の英雄、曹操の末裔で『禍の団』の『英雄派』のリーダーをしている」

 

「知っていると思うけど。ユグドラシルの主神、オーディンの私兵の真神一誠だ。まさか『黄昏の聖槍』の保持者が来るとはな」

 

曹操と名乗った人物は『禍の団』の『英雄派』のリーダーだとしっかりと言った。彼はテロ組織の派閥のリーダーなのだ。しかも『神滅具』の『黄昏の聖槍』の保持者だ。

だが、一誠はこれと言って驚かなかった。

 

「それと始めましてではないぞ」

 

「……それはどういう意味かな?」

 

「コカビエルをボコボコにしているのを遠くから見ていただろ」

 

「っ!?……気づいていたのか」

 

「……っ!?」

 

曹操はまさか気づいていたとは思っても見なかったようで驚いてた。隣に座っているローブの青年も驚いていた。

 

(十分距離はあったはずだが?いや、流石と言うべきか)

 

曹操は一誠がコカビエルをボコボコする所を見ていた。それでも気配を消して十分な距離を保っていた。なのに一誠はしっかりと曹操の位置を把握していた。

 

「あの程度でバレないと思っているなら俺の事を甘く見すぎだな。曹操」

 

「……確かに見込みが甘かったようだ。次は気をつけるとしよう」

 

「それで?三国志の英雄が俺に何のようだ?まさかヴァーリと同じで俺を勧誘にでも来たか?」

 

「ああ。その通りだよ真神一誠。俺達の仲間にならないか?」

 

「マジかよ……」

 

一誠は言った事が当たっていたのについあ然としてしまった。まさかあたるとは思ってもみなかったからだ。

 

「曹操。彼は俺の獲物だ。勝手な事をするな」

 

ヴァーリが身を乗り出して殺気を曹操に向けてきた。だが、曹操は笑ってヴァーリを挑発した。

 

「これは早いもの勝ちだと思うが?」

 

「それでも最初にイッセーの相手は俺だ」

 

「なら先に君を倒しておいた方がいいかもしれな」

 

二人の殺気がぶつかっていた。その瞬間、二人の殺気を越える殺気が一誠から周りに放たれた。

 

「それくらいにしておけよ!!」

 

「「「「……っ!?」」」」

 

二人もそうだが、周りも完全に固まってしまった。

 

「この家で暴れるなら俺とて容赦はしないぞ?二人とも……」

 

「……分かっているさイッセー」

 

「……ここで暴れたりはしないさ」

 

ヴァーリも曹操も殺気を納めた。誰にだって分かっている。目の前の最凶の個には勝てない事くらい分かっている。

だが、それであきらめた訳では無い。曹操は人間だ。魔力や強靭な肉体も持たない脆弱と言っていい種族が人間だ。

しかしそれでも人間は知識を得て、力を付けて様々な人外を屠ってきた。それこそ、人間では到底勝てない存在にだって勝ってきた。

 

(今のままでは勝てないな。完成を急がないとな……)

 

曹操は『禁手化』の亜種を開発しようとしていた。今のまでは勝てない事は分かったいたのでどうすれば勝てるかと彼なりに考えた結果、亜種の『禁手化』を開発する事だった。一誠に会いに来たのその一環だった。

強者と会う事でいい刺激になればいいと考えたのだ。

 

「そういえば彼らの紹介がまだったな」

 

「ああ。そうだな、教えてくれ」

 

そういえば大事な事だなと一誠は思いながら曹操からその隣に座っている彼らに意識を向けた。

 

(『神滅具』が三つか……テロリストも大概だな)

 

一誠は曹操も含めて彼らの中にある『神器』が何か把握している。どうしてそれが分かるのかは一誠自身にも分からない。だが、特に気にしていた無かった。

 

「まず俺の隣がゲオルク。伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫にあたる」

 

(こいつは『絶霧』だな)

 

上位神滅具の一つで所有者を中心に無限に霧を生み出す神器だ。ここで一誠は妙な事に気がついた。

 

(俺はどうしてこいつの『神器』を知っているんだ?)

 

一誠は彼らとは会うのは今日が初めてだ。しかも『神器』を使った所など見てはいない。なのに一誠は彼らがどんな『神器』を持っているかを見た瞬間に分かっていた。

 

「それでその隣がジークフリート。英雄シグルドの末裔だ」

 

「フリード?コカビエルの時にヴァーリが連れて行った奴が似た名前だったきがするが?」

 

「フリード・セルゼンの事かな?彼とは同じ施設の出でね」

 

フリード・セルゼンとジークフリードの二人は『シグルド機関』で産み出された試験管ベビーであり、同一遺伝子を持つ存在だ。

しかもジークフリートは『シグルド機関』の長年の宿願であった「魔帝剣グラムを扱える真の英雄シグルドの末裔」の完成形にあたる。

 

(こいつの『神器』は『龍の手』だな。だが、妙な感じだな。もしかして亜種か?)

 

一誠はジークフリートの『神器』から他からは感じた事ない気配を感じていた。それが亜種であると考えた。

極まれに『神器』には亜種が存在する。

 

「それで彼女がジャンヌ。聖女ジャンヌ・ダルクの魂を受け継いだ者だ」

 

「よろしくね」

 

(こいつは『聖剣創造』だな)

 

ジャンヌは軽く手を振ってきた。

 

「そして彼がヘラクレス。ギリシャ神話のヘラクレスの魂を受け継いだ者」

 

「よろしくな」

 

(これは『巨人の悪戯』だな。結構、珍しいな)

 

そして一誠は最後に残った少年に目を向けた。その少年は年相応の雰囲気をしていはいなかった。それはどこか過去の一誠に似ていた。

 

(俺と同じだな……あの子もたま『バケモノ』と言えるだろう)

 

「最後にあの子がレオナルドだ」

 

「…………」

 

レオナルドと呼ばれた少年は黙って麦茶を飲んでいた。一誠は彼らの中で一番、レオナルドが気になっていた。

 

(よりにもよって『魔獣創造』か……それはキツい人生を歩いてきたな)

 

上位神滅具の1で創造系神器の最高峰に当たる。使用者のイメージした生き物を作り出すことが可能な神器だ。

直接的な攻撃力は無いが使い方次第で国ひとつ滅ぼすことも可能な力を持つ極めて危険な代物だ。

 

「自己紹介が終わった事だし昼飯にでもするか」

 

「いいのか?ご馳走になってもこの人数だぞ?」

 

「別に構わない。それに今日はそう麺だからな。あ、そうだ。箸が使いづらかったらフォークがあるから先に言ってくれ。ゼノヴィア、手伝ってくれ」

 

「あ、ああ……」

 

曹操と話していた一誠とゼノヴィアは台所に消えていった。残されたのはヴァーリと曹操のチームだけとなった。とても気まずい空気が漂っていた。

 

「それで?彼のもとで強くなれたのかな?ヴァーリ」

 

「ああ。もう少しで俺は真の意味で歴代最強の白龍皇になれるからな」

 

「ほお……それは俺としても楽しみだな。彼に挑む前に君と戦うのもいいかもしれない」

 

「ふん……例え『黄昏の聖槍』が相手でも負ける気がしないな」

 

「そこまで言うか……」

 

ヴァーリも曹操もどちらも笑みを浮かべて互いに挑発し合っていた。そこに一誠が大きな皿を持って戻ってきた。

 

「ここで『神滅具』バトルを始めるなよ?それより食べようぜ」

 

一誠が持って来たのはそう麺と他にから揚げやポテトサラダなど色々とあった。皆、様々な料理に驚いていた。

 

「真神一誠。これは全部、君が作ったのか?」

 

「ああ。そうだ。俺の趣味は料理でな。ゼノヴィアと住むようになってレパートリーが増えたからな」

 

「なるほど……」

 

曹操は一誠がとても一人では作れ無そうな量の料理に驚かずにはいられなかった。それから皆で一誠の料理を食べ始めた。

 

「美味いな」

 

「ホント、美味すぎだな」

 

「美味しいわね」

 

「…………美味しい」

 

ヴァーリ、曹操のチームは料理の美味しさに次々と料理を口に運んでいった。

 

ピンポーン!!

 

食べ終わったと同時に一誠の家のチャイムが再び鳴った。またしても予定にない来客だ。

 

(この気配はアザゼルとグレモリー眷属か……何しに来たんだ?)

 

来たのはアザゼルにリアスを含めたグレモリー眷属だった。アザゼルはヴァーリの様子が気になったようだったから一誠は自分と確かめたらどうだ?と言ったのでアザゼルがリアス達を引き連れて来た様だった。

 

「ゼノヴィア。アザゼル達が来たようだ。悪いがここまで連れて来てくれ」

 

「ああ。わかった」

 

それから暫くしてゼノヴィアはアザゼル達を連れて戻ってきた。

 

「なっ!?なんでお前らが居るんだよ!!」

 

いきなり一樹が曹操達を見るなり怒鳴り散らした。ビクッとレオナルドが不安な顔していた。一誠が立ち上がりレオナルドの頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫だ。心配するな」

 

「…………うん」

 

「それで?いきなり怒鳴るとは一体どういう事だ?」

 

「どういう事だと?テロリストとつるんで何を企んでやがる!!」

 

「……ヴァーリならもうテロリストでは無いと思うが?」

 

「俺が言っているのは曹操の事だ!!」

 

またしても一樹は怒鳴り散らした。一誠は一樹の前に立ち不敵な笑みを浮かべていた。

 

「曹操達がテロリストだと?」

 

「そうだ!そんな連中と居るって事はどうせ何か企んでいるんだろ!!まさか三大勢力の転覆を狙っているのか!!」

 

「……どうしてそんな事になるのかお前の頭はどうかなっているな」

 

一誠は一樹に頭痛を感じていた。一樹が言っている事は誰がどう聞いてもまとな判断力があるとは思えなかった。

 

「もし仮に曹操達がテロリストだとしてどうしてお前は曹操の名前とテロリストに所属していると知っているんだ?」

 

「それは……」

 

「眷属の一樹が知っているならもちろん主であるリアス・グレモリーも知っているんだよな?」

 

「…………」

 

一樹は言葉に詰まりリアスは何も言えなかった。二人は何も言えなかった。一樹は『原作』を読んだ事があるから曹操達がテロリストだと知っているが、それを説明する事は出来ない。

 

(不味い!?どう説明したら……)

 

一樹は焦っていた。一誠の言うとおり彼らがテロリストだと証明する事は出来ないからだ。素直に『原作』を読んだからとはとても言えない。

 

(どうして何も言わないの?カズキ……)

 

リアスはショックを受けていた。それは一樹が何も言わないのそうだが、何よりテロリストの事を周りにも自分にも黙っていたからだ。

話す機会はいくらでもあったのにだ。それゆえにリアスは一樹に対してショックを受けていた。

 

「言っておくが彼らは俺の友人で決してテロリストでは無い。もしお前の言うとおりテロリストだとしてそれを証明してみせてくれ。証明出来るなら俺も納得して彼らを捕縛しよう。どうした?テロリストだと確信しているんだろ?なら周りが納得出来る証拠を見せてくれ」

 

「そ、それは…………」

 

「それともし彼らを傷つけようとしているなら俺が相手になるぞ?ここで最凶の魔神を敵に回すか?」

 

そう言って一誠は魔力を身体から出して一樹達を黙らした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

崩壊と破壊

真神一誠は不機嫌になっていた。その原因が目の前に居る元兄の兵藤一樹の所為だ。彼のこれまでの言動は目に余るものが多かった。

コカビエルの襲撃事件も四大会談の時もそして今も。

一樹の言葉や行動は一誠をイラつかせていた。昔と変わらず自分が誰よりも上で他人を下に見ている目が気にくわなかった。

そして今回だ。家に上がっていきなりそこに居合わせた人物達をテロリストだと言い、それを証明しろと言われれば黙ってしまう低脳さ。

 

(こいつの訳の分からない事に一々付き合っていられるか)

 

一誠は今すぐにでもグレモリー眷属に帰って欲しかったが、一応ユグドラシルの主神の私兵を名乗っているので無下に返すと魔王を通じて抗議が来るので一誠はパパッと帰ってもらうつもりでいた。

 

「それで?アザゼル。お前ら一体何しに来たんだよ?用がないなら帰れ」

 

「いや……ヴァーリの様子を見に来たのとサーゼクスから会談の件で色々と話がしたいから冥界に来て欲しいんだとよ」

 

そう言ってアザゼルは一誠に手紙を渡した。それはサーゼクスから一誠に向けてのものだった。内容はこうだ。

 

『会談の際はこちらの不手際で巻き込み申し訳ない。謝罪や詳しい話がしたいので一度冥界に来て欲しい。

サーゼクス・ルシファーより』

 

長々と挨拶も無し。ただ簡単に完結していた。それはつまりサーゼクスは一誠のご機嫌取りをするつもりは無いと言う事だろう。

それは魔王であるサーゼクスなりのけじめなのだろう。

 

「分かった。だが、オーディンの爺さんに一応断っておかないと冥界には行けないからな」

 

「ああ、頼む」

 

「イッセー。そろそろ我々は帰るとするよ」

 

曹操が立ち上がると他のメンバーも立ち上がった。すると一樹が曹操達の前に立ち、道を塞いだ。

 

「行かせるかよ、テロリストが!!」

 

「とりあえず、寝ていろ!」

 

「がはぁ!?」

 

曹操達の前に立ち塞がった一樹に一誠は思いっきり顔面を殴りノックダウンさせた。リアスはすぐさま一樹に駆け寄った。

 

「カズキ!?―――よくもカズキを!!」

 

「待てリアス!!」

 

リアスが魔力弾を放とうとした瞬間、アザゼルが一誠とリアスの間に立ってリアスを止めた。リアスはアザゼルを睨み付けた。

 

「退いてアザゼル!そいつはカズキを!!もうこれ以上、好き勝手にするなんて我慢できないわ!!ここで私が消し飛ばすわ!!」

 

「今のはどう見ても一樹が悪いだろ!そいつらがテロリストだと言う証拠は無いんだ。それなのにカズキは……」

 

「いいえ!!カズキが言うのだから彼らはテロリストなのよ!!それに真神一誠と一緒にいるのよ!!一般人なわけが無いわ!」

 

アザゼルから見てリアスの言い分は子供の癇癪だ。リアスはグレモリーの子で魔王の妹として散々甘やかさせて育てられた。

だからこそ、自分の思い通りにならない事は許して置けない性格が出来上がってしまった。それゆえに『グレモリーの我が儘姫』などと言う二つ名が付いたと言えるだろう。

 

(はぁ~……甘やかされて育てられたツケだな。少し痛い目にあわせて置くか……ん?)

 

一誠は一樹から妙な気配を感じて見てみると僅かに黒い色のオーラが一樹の身体から滲み出ていた。

すると一樹は立ち上がり一誠を睨み付けた。

 

「『赤龍帝の篭手』!!バランス・ブレイクゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「『ドラゴン・ボーン』ライトアーム、装着」

 

一樹は『赤龍帝の鎧』を着て一誠目掛けて殴りかかった。だが、一誠にとってその程度の攻撃などスローモーションなほど遅い。

一誠は『ドラゴン・ボーン』のライトアームだけを装着して一樹の腕を掴んだ。

 

「だからお前程度のザコが俺に攻撃を当てれると思っているのか?」

 

「黙れ!!―――くらえ!!ドラゴン・バスター・キャノン!!」

 

「な!?バカが!!」

 

一樹は掴まれた腕の手のひらを開きそこから一樹が放てる極大な魔力弾を放った。だが、一誠が強引に一樹の腕を曲げて真上に撃たせた。

もし一樹の魔力弾がそのまま放たれていたら大惨事になっていただろう。と言っても一誠は無傷で終わるだろうが。

しかし問題は一誠の後ろだ。放たれた魔力弾がそのまま一般家庭に当たっていたらその家に住んでいる人間は無傷とはいかない。

 

もちろん一樹はそんな事など考えていない。一誠を殺す事で頭が一杯だからだ。もし一誠を殺す余波で誰かが死んでもそれは不運だったと考えている。

それが例えリアスだろうと朱乃だろうともだ。一誠を殺すのが第一に考えるようになった一樹に誰も気がついてない。

 

「カズキ!!よくもカズキを……!!」

 

「待てリアス!」

 

「そこを退いてアザゼル。あいつはカズキを!!」

 

リアスが今にも一誠に攻撃しようとした所、アザゼルが一誠とリアスの間に入りリアスを止めた。だが、アザゼル相手で止まるほどリアスは冷静では無かった。

 

「そいつはカズキを傷つけたのよ!オーディン様の私兵だからと言ってもう我慢できないわ!!」

 

「先に攻撃したのはカズキだろ!それにもしイッセーが攻撃を逸らさなかったら大惨事になっていたかもしれないんだぞ!」

 

「それは真神一誠も同じでしょ!?会談の時に何人殺したと思っているの!!」

 

「だが、実際には一般人は誰も死んでいない」

 

アザゼルの言うとおりなのだ。一誠は確かにカテレアとの時に勢い余って学校もろとも民家を何棟も巻き込んだ攻撃をした。

だが、一誠は『時間の魔神』を降臨させて力を使い破壊される前の状態に戻した。一般人からすれば、夢の中で死んだという認識なのだ。

しかしリアスからすればそんな事はどうでも良かった。問題は一樹を傷つけられたと言う事だ。それだけが許せなかった。

 

「とりあえずアザゼルと木場、アルジェントはいいとして残りは出ていけ」

 

「ふざけないで!!まだ話は終わっていないわ!」

 

「ここは俺の家だ。つまりこの家に入った以上、家主の俺に従うのがスジだろ?それが嫌なら強制排除するぞ」

 

「くっ……なら彼女は引き渡してもらうわ!」

 

「彼女?」

 

一誠はリアスが言う彼女―――黒歌に視線を向けた。黒歌は先ほどからどこか元気がなく俯いていた。だが、一誠は黒歌の前に立ちはだかった。

 

「黒歌をお前らに渡すつもりは無い。黒歌はヴァーリの仲間だ。ヴァーリが俺の仲間である以上、彼女もまた俺の仲間だ。それにどんな理由で引き渡せと?」

 

「黒歌は主殺しのSS級はぐれ悪魔よ!そんな彼女を放っておく事はできないわ!!すぐに私に引き渡しなさい!!」

 

リアスが黒歌を引き渡すように言っているのは自分の評価を回復するためだ。リアスの評価はコカビエルとの戦いから少し下がってきていた。

そして会談での眷属のハーフ吸血鬼の神器を利用されてのテロ活動を許してしまい、さらに赤龍帝が北欧の代表代理を攻撃してしまって評価は右肩下がりになってしまった。

だが、もしここでSS級のはぐれ悪魔の黒歌を捕縛出来れば評価は回復すると考えていたのだ。

 

(私の評価を取り戻さないと!!)

 

リアスの頭にはそのだけがグルグルと回っていた。兄である魔王のサーゼクスからも釘を刺されていたのだ。これ以上は庇いきれないから自分で評価を戻すしかないと。

もし回復出来なかったらどこかの有力貴族に嫁に出されてしまうのだ。

 

(それだけは絶対に嫌!私はカズキと結ばれるのよ!!)

 

もうライザーとのようにはいかない。レーティングゲームでは勝てたが次も勝てるとは限らない。だからこそ、リアスは焦っているのだ。

 

「なるほど。つまり黒歌が『転生悪魔』でなくなれば、連れて行く理由は無いよな?」

 

「何を言うかと思ったら一度転生した存在を転生前に戻せるわけがないじゃない!」

 

「ああ。だが、もう一度転生させればいいことだろ?」

 

「……は?」

 

リアスが間抜けな声を出した時にはもう遅かった。一誠は振り向き黒歌の胸に自分の腕を突っ込んでいた。黒歌もいきなりの事で動けなかった。

 

「……な、にゃで?」

 

「そのままじっとしていろ」

 

黒歌は一誠に言われたとおりじっとしていた。そして一誠の腕が黒歌から離れた途端、黒歌はそのまま床にへたり込んだ。

 

「黒歌姉様!!」

 

「……白音」

 

座り込んだ黒歌に真っ先に駆け寄ったのは塔城小猫だ。黒歌の胸を触り何もなっていないのかを確認していた。

 

「だ、大丈夫なんですよね!?」

 

「だ、大丈夫にゃ……胸に腕を突っ込んできた時はびっくりしたけど、全然痛みが無かったにゃ……」

 

「よ、良かった。……真神先輩!黒歌姉様に何をしたんですか!?」

 

「俺がしたのは破壊と転生だよ」

 

「破壊と……転生?」

 

小猫は一誠が言っている事を繰り替えた。しかしその意味は分かっていない。すると一誠は自分の手の中にあるものを見せた。

 

「それは……『悪魔の駒』?それが身体の外に出たら……!!」

 

「ああ。普通は死ぬよな。俺もそれなりに『悪魔の駒』についてある程度は知っている。転生悪魔から『駒』が出るという事はその悪魔が死んだときだけだ。なら『悪魔の駒』が出た以上、黒歌はもう転生悪魔ではない。ならはぐれ悪魔として対処する事は出来ない筈だな?」

 

「そんなの理由が通用するとでも思っているの!?話なら無いわ!」

 

「……いや、駄目だリアス。黒歌には手を出すな」

 

リアスをアザゼルは止めた。それも妙に強張った顔をして。

 

「アザゼル!?何を言っているの?『悪魔の駒』が抜かれて生きているなんて話なんて聞いた事が無いわ。生きているならそれはまだ『悪魔の駒』があると言う事!ならはぐれとして対処して問題ないはずよ!」

 

「問題大有りだ!!ここで黒歌に手を出せば、各神話系統の大物が黙っていないぞ!」

 

アザゼルが危惧しているのは悪魔を殺す大義名分を作ってしまう事だ。もしここで黒歌をはぐれ悪魔として対処した場合、それを知った各神話の神はどう思うだろうか?

転生悪魔で無い者ですらはぐれ悪魔として対処する悪魔の事を。そんな悪魔が自分達もはぐれ悪魔として対処するのではないだろうか?

そう考えたら悪魔が動く前に悪魔を絶滅させようとするのではないか。

 

アザゼルはその事をリアスに説明した。リアスは話を聞くにつれて顔を青くしていった。流石に冷静を取り戻したようだった。

そして今、自分が何をしようとしていたのかを考えただけで立っていられなくなっていた。評価を回復するどこか悪魔全体を危険にさらしていたのだ。

 

だったらと一樹が言うテロリストの集団を捕らえようとしたが、影も形も無かった。リアスが一誠と言い争っている間に一誠やヴァーリを除き気づかれずに立ち去ったのだ。

リアスは折角のチャンスとも言える事を逃してしまったのだ。その顔は苦虫を潰したような顔をしていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉妹と仕度

ある所に人間の父と猫の妖怪の母を持つ姉妹がいた。幼い時に両親を亡くし頼るものなどいない姉妹は苦しい日々を送っていた。

そんな時にある純血の悪魔が姉に眷属になるように言ってきた。その際に『僕の眷属になれば妹を保護してあげよう』と話を持ち掛けてきた。

姉にとってそれは救いの手だった。親も頼る者もいない彼女達にとってそれは地獄の日々からの脱出だった。

 

しかしそれは更なる地獄の始まりに過ぎなかった。姉は『僧侶の駒』二つで悪魔に転生した。それから彼女は才能を開花させた。

そして彼女の主は次第に無茶な命令を出すようになった。それは日に日にエスカレートしていった。

そこで姉は気がついた。自分達は救われたのではない。嵌められたのだと。それから姉は主に歯向かおうとしたが、妹を人質に取られており下手な事が出来なかった。

姉は我慢した。我慢に我慢を重ねて主の命令に従順になった。

全てはたった一人の妹のため。自分が我慢すれば、妹は幸せになると信じて。

 

だが、そんな姉の想いを主悪魔は踏みにじった。妹を自分の眷属にしようとしたのだ。そして姉の我慢の限界だった。

ついに主である悪魔を自分の手で殺したのだ。はぐれ悪魔になってしまうが妹が幸せになるなら姉はいくらでも罪を背負うつもりでいた。

しかし姉が思い描くような結果にはならなかった。妹は上層部より姉のように『力』に飲み込まれて暴走するのではないかと危険視されたのだ。

その中には処刑を強く言うもまでいた。だが、魔王サーゼクスが待ったをかけた。その妹を保護して自分の妹の眷属にしたのだ。

 

流石の上層部も魔王が相手では強く言えるはずもなくそのまま引っ込んでしまった。そして時は経ち、姉妹は再会をする事になった。

それは姉が想い描いていたのとは少し違うがそれでも幸せを感じられるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白音ぇ……」

 

「黒歌姉様ぁ……」

 

黒歌と白音は何かを確かめるようにお互いに抱きしめ合っていた。それを一誠を始めゼノヴィアとヴァーリチームの面々は暖かい視線を送っていた。

その視線に気がついたのか黒歌と小猫―――いや白音は顔を赤くして照れ臭そうな顔をしていた。

 

「……真神先輩聞いてもいいですか?」

 

「何が聞きたい?塔城」

 

「……黒歌姉様はどうして『悪魔の駒』を抜いたのに生きていけるんですか?」

 

小猫の疑問はもっともだった。本来『悪魔の駒』が身体から出た時点でその転生悪魔は死んでしまう。

だから一誠は『悪魔の駒』を抜き取ると同時に『ボーン・カード』を黒歌の身体に入れた。ゼノヴィア同様に眷属神にしたのだ。

それにより一誠から魔力供給がされている限り黒歌は生きていける。その事を一誠は小猫に告げた。

 

「……そうですか。では、黒歌姉様の事をどうぞよろしくお願いします」

 

「ああ。もとよりそのつもりだ。俺にだってそれなりの責任があるからな」

 

「……多分、相当ご迷惑を掛けると思いますけど」

 

「ああ。もちろんだ、拾ったからには最後まで面倒見るさ」

 

「白音ぇ!?それに一誠ちん!?二人とも!!どう意味かにゃ!!!」

 

一誠と白音は黒歌をまるで捨て猫を見るような視線を向けて遊んでいた。それが分かったのか黒歌は顔を先ほどより真っ赤にしていた。

 

「ふ、二人の事なんてどうでもいいニャ!!」

 

黒歌はそれだけ言って部屋から飛び出して行った。と、言っても家の中に居るのだが。

一誠と白音は悪戯が成功した子供のような顔をしていた。

 

「流石にいじめ過ぎたな。塔城、少しかまってやってくれないか?」

 

「……分かりました」

 

白音は黒歌の後を追った。そこには先ほど違ってどこか自信に満ちている瞳を持った塔城小猫いや白音が居た。

 

(これで大丈夫だろう……)

 

一誠は白音を見送ってから準備を始めた。魔王の顔を立てるために冥界に行く準備を。

 

 

 

 

 

白音は黒歌の居場所はすぐに分かった。これまではあまり使わなかった仙術で黒歌の気配を探したからだ。

黒歌が居た場所は台所だった。そして白音はそこで酒瓶をラッパ飲みしている黒歌を目撃した。

 

「ぷはぁ~……このおしゃけ、おいひいにゃ♪」

 

「……黒歌姉様、勝手に人のお酒を飲むのは駄目ですよ」

 

「あへ?しろねがよひん、いるにゃ♪」

 

「……黒歌姉様、もう酔っているのですか?」

 

白音は黒歌が持っていた酒瓶を奪い取った。その瓶にはラベルが何も無かった。ただ強烈な臭いが白音の鼻を刺激した。

 

(……これは一体、何の酒なのでしょうか?……まさか!?)

 

そこで白音は気がついた。ここが誰の家で何が住んでいるのか。ここは魔神一誠の家だ、そしてその保護者は北欧の主神オーディンだ。

ならここにある強烈な臭いの酒は『神酒』なのではないかと。

 

そしてそれは正解だった。黒歌が飲んだ酒は一誠がオーディンに送るように買っておいたものだ。それも一番強力のものだ。

それを黒歌は短時間で3瓶も飲んだのだ。黒歌が酒に強かろうと弱かろうと関係ない。日本でも指折りの酒なのだ。すぐに酔ってしまう。

 

「……………(弁償しないと不味いですね)」

 

白音は呆れて何も言えなかった。それどころか飲んだ酒を一誠に弁償しないといけない事を考えていた。

その時だった。いきなり白音は黒歌にキスされた。

 

「んんっ!?んっ……ぱぁ……な、何をするのですか!!黒歌姉様!!!」

 

「しろへもいっしょにのふにゃ♪」

 

「……一緒に飲む?……まさか!?」

 

黒歌は白音にキスすると同時に『神酒』も一緒に飲ませたのだ。お酒に耐性のない白音はそのまま酔い潰れて寝てしまった。

 

「わたしもいっしょにねるにゃ………」

 

黒歌も続けて白音の横に並んで寝てしまった。そしてこの眠ってしまった二人を一誠達が見つけるのは一誠達が冥界に行く準備を終わらせる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠は冥界に行くに当たってまずユグドラシルに居るオーディンに連絡して魔王からの招待で冥界に行く事を告げた。

 

「―――そんな訳で俺はヴァーリ達を連れて冥界に行く予定だ」

 

『そうか。魔王……というより堕天使の小僧あたりが提案した事だろうのぉ。それにちょうど良かったわい』

 

「ちょうどいい?」

 

一誠は首を傾げた。オーディンの言うちょうどいいとは一体なんだろうか?

 

『少し前に魔王から同盟を結ばないかと申し出があってな』

 

「……それ、大丈夫か?破滅する未来しか想像出来ないんだけど……」

 

『まあ、そこのあたりは魔王しだいといったところじゃろ』

 

「ふ~ん……それで?一体、何に釣られたんだ?」

 

一誠はオーディンを怪しんでいた。何のメリットも無いのに同盟など結ぼうとはしない。それにオーディンは同盟に関してかなり前向きに検討しているように一誠には見えたからだ。だから怪しんだ。

 

『なに、悪魔どもの「レーティングゲーム」の映像をこっちに流してくれると言っておったのでな。神は最近、暇なのじゃ』

 

「なるほど……」

 

一誠は納得した。神は基本、暇を弄んでいる。神には神の役割があるが、その役割を果たす時以外は何もしていない。

だからこそ娯楽が大好物なのだ。特に悪魔が開発し始めた『レーティングゲーム』は心躍るものだ。それを同盟を結べば見られるのだから食いつかないわけが無い。

 

(まったくこの爺さんは……)

 

一誠はオーディンに呆れていた。だが、一誠は思う。自分が戦ったり誰かの戦いを見るのは面白いと感じている。それが白熱しているならなお更だ。

だからこそ、オーディンは魔王の同盟に前向きに検討している。

 

「まあ、同盟に関しては俺からは何か言う事はない。爺さんはそれでいいんだな?」

 

『もちろんじゃよ。他の神々も賛成しておるからの。問題は賛成しておらん神があるという事じゃ……』

 

「そうだよな。居ると思ったよ……」

 

賛成している神は居るが、それと同時に反対している神も居る。それは一誠が一番分かっていた。何故なら一誠は反対派だからだ。

悪魔と直接関わってきたからこそ一誠は反対派なのだ。

だが、一誠は反対の事をオーディンには言わない。オーディンの決定には余程の事がない限り反対の意思を表さない。

命を救ってくれた恩人でここまで育ててくれた親代わりだからだ。それに何かあるようなら一誠自身が動けばいい事だからだ。

 

「ちなにみ聞くけど、反対している目ぼしい神は誰だよ?」

 

『一番は……ロキ辺りかのぉ……』

 

「悪神ロキか……」

 

一誠はかなり嫌な顔になった。一誠の中で悪神ロキはダントツで嫌いな神になる。それはまだ一誠がユグドラシルに来て間もない頃、一誠の力を危険視したロキが一誠を処刑するべきだとオーディンに強く進言したからだ。

それからはロキは一誠の力の危険性などを他の神々に言い一誠を殺そうとした。しかし主神の庇護下にある子供を殺すなど出来る訳でもない。

 

なによりロキ以外の神は一誠をそれほど危険視してはいなかった。所詮は子供、神に勝てる筈も無いと揃いも揃ってロキの事を小馬鹿にしていたのだ。

だが、一誠がオーフィスと対等に戦って見せたものだからそれまでロキの事を馬鹿にしていた神達は手の平を返したように一誠を危険視した。

 

しかしオーフィスと対等に戦えたという事は一誠は神や他の種族では決して勝てない存在だと証明されたと同義だ。

だから手が出せなかった。それに一誠に戦いを挑めば、必然的にオーディンも敵に回すという事だ。主神を敵に回せばもはやユグドラシルでは生きてはいけない。

 

『まあ、お主を敵に回すほどロキも馬鹿ではないじゃろうよ』

 

「そうでありたいけどな。でもあの悪神は昔から俺を殺そうと虎視眈々と狙っているからな。まあ、何にしても警戒はしておくさ。それじゃ冥界で合流で良いんだよな?」

 

『そうじゃ恐らくこっちが遅く着くかもしれんから冥界旅行でもしておいて構わんぞ』

 

「……気が向いたらそうしておくよ。それじゃ……」

 

一誠はオーディンとの連絡を切った。それからヴァーリ達が居る居間に戻った。そこではヴァーリと美猴、フィルがテレビを見ていた。

黒歌と白音はまだ戻ってきていたなかった。それとゼノヴィアとアーサーの姿が無かった。

 

「ヴァーリ。ゼノヴィアとアーサーは?」

 

「中庭で手合わせをしている」

 

「そうか。黒歌と白音はまだ戻ってきていないのか。まあ、いいか。ヴァーリに美猴、フィル。お前ら冥界に行く気はあるか?」

 

三人は顔を合わせてから一回頷いた。

 

「ああ。イッセーが行くなら行くさ」

 

「いいぜ。冥界って一回行ってみたかったんだぜ」

 

「はい。私も大丈夫です」

 

三人全員行き気になっていた。一誠は満足そうに頷いた。

 

「ゼノヴィアとアーサー、黒歌には後で説明するとして各自準備をしておいてくれ。無ければ冥界で買えば良いだろ」

 

最凶の魔神はついに冥界に向けて準備を始めた。物語は更なる混沌へと向かおうとしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔境極地
入界と迷惑


平成が終わって令和が始まり一発目です!

これからも更新頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。



魔王サーゼクスからの招待により一誠はゼノヴィア、ヴァーリ、黒歌、美猴、アーサーにルフェイを連れて冥界に向かっていた。

冥界に行くには二通りの方法がある。

 

一つ目が魔法陣による転移で一気に冥界にジャンプする方法。

 

二つ目が列車に乗っていく方法だ。

 

冥界に行くにあたって転移する方法は事前に冥界に登録していないと不法侵入となってしまうので一誠達は使えない。

だから一誠達は少し面倒だがもう一つの方法で冥界に行くしかない。時間は掛かるがここで登録を済めせてしまえば、これからは列車に乗らずに転移で冥界に行けるようになる。

 

それに急いで冥界に行く理由が無いので一誠はぼんやりと外を眺めていた。変わらない景色に少しばかり退屈していた。

 

(殺風景だな……何か面白いものでも期待していたんだけどな……)

 

進めど進めど変わらない外の景色。列車に乗って初めの十分で一誠は見飽きていた。座っている位置を変えれば何かと思っていたが、太ももの上でスヤスヤと寝ている二人を見て動くのを諦めた。

右にゼノヴィア、左に黒歌。二人が一誠の太ももを枕代わりにして寝ていた。ヴァーリは横になって寝ているようだった。

だが、違う。ヴァーリは今、『白龍皇の光翼』の中に精神を送りそこに居る先代の白龍皇と対話……と言うか戦っている。

ヴァーリなりの対話が戦う事だった。しかしそれが合っていたようですでに八割以上の白龍皇達と対話を終えていた。

それとルフェイと美猴は携帯ゲームで絶賛対戦中であった。二人の対戦は白熱していた。

 

「やったー!!これで私の勝ちです!!」

 

「ちくしょ……もう一回だ!次は勝ってやるぜ!!」

 

「いいでしょう!望むところです!!」

 

そんな白熱した戦いをしている二人を紅茶を飲みながら観戦しているアーサーはただ黙って見ていた。

するとアーサーは一誠の方を向き新しくコップを取り出し紅茶を注ぎ始めた。それを一誠に差し出した。

 

「よければ一誠君もどうですか?」

 

「いいのか?貰っても……」

 

「ええ、構いません」

 

「それじゃ遠慮なく……美味いな。それに後味も抜群だ」

 

「そうでしょう。これは私のお気に入りですから」

 

一誠はアーサーと共に紅茶を楽しんだ。ゼノヴィアと黒歌の二人が未だ起きないので動けないのもあるが、もう一つ理由がある。

それは一誠達とは反対側に座っている銀髪メイドが居るからだ。

魔王の眷属で『女王』にして女性悪魔で上位に居る人物―――グレイフィアだ。

魔王の命令で一誠達を迎えに来たのだ。

 

(それなりのもてなしを期待してもいいかもな)

 

魔王の眷属……それも『女王』が来ればそう考えても可笑しくはない。しかし別の考えも同時に思いついた。

 

(監視かもな……)

 

どうしてそう思うかと言うと一誠と一樹の関係だ。二人は同じ親から産まれた兄弟だ。しかし兄は弟を蔑み弟は兄を殺そうとしたのだ。

普通ではない兄弟。兄は悪魔、弟は神。どこにでも居そうでありえない兄弟。

それが兵藤一樹と真神一誠だ。

だからこその監視でありそれゆえの監視でもある。

 

「……一誠様、少し聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「俺で答えられるのでしたら」

 

先ほどまで黙っていたグレイフィアが口を開いた。一誠は一応年上なので敬語で話していた。

 

「ヴァーリ様は何をなさっているのですか?」

 

「瞑想ですけど?」

 

「瞑想ですか?何のために?」

 

「『覇龍』のコントロールのために。出来ればヴァーリは本当の意味で歴代最強になるんですよ。そうなれば俺を殺せるかもしれない」

 

「…………」

 

グレイフィアは一誠の発言に絶句していしまった。自身を殺してもらうために鍛えていると言われれば絶句してしまう。

グレイフィアは気を取り直して一誠を見た。

 

「……一誠様は死にたいのですか?」

 

「ええ、死にたいですよ。ただ自殺じゃなくて誰かに殺されたいんですよね」

 

「それは何故ですか?」

 

「だって、自殺だとまるで負けを認めたようなものじゃないですか」

 

グレイフィアは一誠の言葉が分からなかった。それどころか一誠が穏やかな顔で言った事が彼女を恐怖させた。

 

(これが真神一誠なのですね……)

 

改めて思い知らされる。間違いなく一樹と一誠は兄弟なのだと。考えや思考がとても一般人では無いのだと。

自分の主である魔王サーゼクスが彼のもとに自分を使いに出したのかがようやく分かってきた。

 

「それで後、どれくらいで着きます?」

 

「もう30分も掛からないかと。それと冥界に着きましたら首都リリスでサーゼクス様と会って頂きます。それにヴァーリ様についての話があるので」

 

「ヴァーリの?」

 

「先に軽く説明させていただきます」

 

グレイフィアはヴァーリの今の立場について説明した。ヴァーリは現在所在が掴めているルシファー血族の人物だと言うことを。

そして冥界には先代魔王ルシファーに忠誠を尽くしてきた悪魔がおり彼らがヴァーリを新たな魔王として祀りたてるのではなかいと危惧している。

 

もちろんグレイフィアやサーゼクスはヴァーリが魔王になる気は無い事は彼の育ての親のアザゼルから散々聞かされた。

自分より強い者との戦いを好む『戦闘凶』だと言う事を。だから今は自分のもとを離れて一誠のもとに居るのだと。

 

「……なるほど。でもヴァーリは魔王になる気は無いですよ?戦えればいい奴ですからね。魔王なんてなったら自分の時間が無くなって戦いどころじゃないですからね」

 

「ええ。それは十分承知していますが、彼とその周りの者の思惑はまったくの別物なので」

 

「ああ……それもそうか。お~いヴァーリ。起きてくれ」

 

一誠の声でヴァーリは目を覚ました。周りを見渡して首をかしげた。

 

「……イッセー。まだ着いていないのに何故起こした?もう少しだけ潜っていたかったんだが……」

 

「まあ、そう言うなって。ちょっと話があるんだ」

 

寝起きで少し機嫌が悪いヴァーリに一誠は先ほどグレイフィアから聞いた事をそのままそっくりヴァーリに話した。

 

「―――くだらん!」

 

ヴァーリはただそう切り捨てた。しかし一誠は首をかしげた。

 

「魔王にはならないと?」

 

「ああ。俺が『ルシファー』を名乗っているのは誇りとあの忌まわしき日々を忘れないためだ!いつかあの男を……リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを殺すために名乗っているに過ぎない」

 

「だからなる気はさらさらないんだな?」

 

「ああ。そうだ!!」

 

ヴァーリの目には殺す相手であるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーしか映っていなかった。殺意に満ち、その身体から溢れ出る魔力は純潔の悪魔でもそうは居ない。

そんなヴァーリを一誠は嬉しそうに見ていた。

 

(いいね。いいね!これこそ復讐に燃える奴の顔だよ……俺も同じような顔をしていたんだよな。さあ、見せてくれヴァーリ・ルシファー!お前の復讐を!)

 

これこそ一誠がヴァーリを自分の近くに置く理由の一つだ。自分を殺させるためと復讐を見届けるため。

この二つがあるからこそ一誠はヴァーリの事が気にっている。

 

「魔王の『女王』!!魔王とその周りに言っておけ!俺を勝手に魔王に祭り上げるなら真っ先にそいつらから始末すると!」

 

「……承知しました。確かに伝えておきます」

 

ヴァーリの覇気に少し押されてグレイフィアは頭を下げた。ヴァーリが言葉と共に放った魔力はグレイフィアの予想を超えて魔王級まで後一歩まで迫っていた。

会談の時にはこれほどまでは無かった。短期間にどれほどの鍛錬を積めばこうなるのだろうか?

それだけ真神一誠の影響が大きかったのだろう。

 

(あの子―――リアスが彼を選んでいたら……)

 

グレイフィアはリアスの選択を心のどこかで間違っていると思っていた。自分よがりの自己中心的な性格は彼―――兵藤一樹が眷属になってより一層強くなってきた。

特別な存在にするのは構わない。でもその所為で選択を誤ってはいけない。最善最良な選択をしなければ、この裏の世界では生けてはいけない。

 

(このままではリアスが最上級になるのもレイティングゲームで王者になるのも夢のまた夢……それに『あれ』をどうにかしないと……)

 

グレイフィアはリアスのこれまでの選択で受けたグレモリー家の損害の事を考えていた。今、グレモリー家の信頼は地の底まで落ちかけていた。

それはリアスの失態―――堕天使の侵入からコカビエルの襲撃の不手際、会談での眷属の力を利用したテロ。

更には眷属の赤龍帝がユグドラシルの代理代表への攻撃。

失態に失態を重ね過ぎた。当主も限界だったようで厳しい処罰を言い渡した。

 

人間界における行動の制限ならびに私的財産の没収、向こう100年の昇格剥奪。

 

これを言い渡されたリアスは何度も父である当主に抗議したが取り合ってもらえなかった。リアスの処罰は言わば、自由に旅行に行けず好きなものを好きなだけ買えない事を意味しており、更に100年の昇格剥奪はこれからどんだけ功績を残しても無意味だと言う事だ。

その時のリアスは眷属が引くほど荒れようだった。

 

「どうかしましたか?」

 

「……いえ、何でもありませんので……」

 

グレフィアが考え事をしていると一誠が不意に話しかけてきた。この際だからグレフィアは前から聞いてみたい事を一誠に聞いてみる事にした。

 

「一つよろしいでしょうか?」

 

「ええ。何です?」

 

「一誠様は兄である一樹様を殺そうとしていたと聞きました。それはどうして殺そうと思ったのですか?血の繋がった兄弟ではないのですか?」

 

一誠は指をグレイフィアに向けて立てた。

 

「まず訂正があります。俺と一樹は血は繋がっているけど、もう兄弟では無い。あいつは兵藤で俺は真神。それに弟を蔑ろにする兄がどこにいます?」

 

「それは……」

 

「それに俺はもう一樹の事を殺そうだなんて考えていませんから」

 

「それは何故ですか?」

 

「……だって、自分より弱い存在に憎しみなんてあるわけないじゃないですか」

 

自分より弱い存在。この場合、一樹の事を指している。

グレイフィアも一誠の言っている事をある程度は理解できる。確かに自分より弱い者に憎しみがあるわけが無い。

 

(嘘では無いようですね……)

 

その言葉に嘘は無いとグレイフィアは思った。すると窓の外の景色が一変した。冥界に到着したのだ。

 

「……冥界に到着しました。質問に答えてくださってありがとうございます」

 

「いえいえ。これくらい別に構いませんよ。ゼノヴィア、黒歌。そろそろ起きろ。太ももがいい加減、限界だ」

 

二人を起こした一誠は改めて外を見た。これから起こるであろう面倒事を考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは北欧ユグドラシルの外れも外れで殆どの神々も知らない場所だ。そこに神が一体不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ……オーディンの奴もこれで終わりだ。真神一誠は人間界だ。狙うならまたとないチャンスだ!!」

 

笑みを浮かべていたのは『悪神ロキ』だ。その周りには人を一人を丸呑み出来るほどの狼―――神喰狼・フェンリルが一匹が居た。

そして側には二周りほど小さい神喰狼が二匹いた。この二匹はフェンリルの子供だ。更には灰色の巨大なドラゴンが数十体が居た。

このドラゴンは五大龍王の『終末の大龍』ミドガルズオルムを元に量産したものだ。

 

ロキの狙いはオーディンだ。オーディンが悪魔達と何かしらの話し合いが気に入らないのだ。だから潰そうとしている。

更に笑みを浮かべてオーディンが恐れる姿を想像しているのだ。

 

「さあ!いくぞ、お前達!!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大王と獅子

「ここが冥界か……」

 

何事も無く一誠達は冥界に到着する事が出来た。見上げた空の色は紫色でどこか毒を思わせた。一誠もだがゼノヴィアやヴァーリ、黒歌、美猴、アーサー、ルフェイは身体を動かし固まった筋肉を解していた。

 

「イッセー。ちょっといいか?」

 

「どうした?ゼノヴィア」

 

身体を解しているとゼノヴィアが近づいてきた。その手には『レオ・ボーン』が握られていた。しかも『レオ・ボーン』が光を出して脈打っているようだった。

この現象は以前、一誠は見た事がある。

 

(これはオーフィスや一樹、ヴァーリと初めて会った時と同じだ。なら冥界に『神滅具』か世界的に伝説級の『獅子』を代表する何かがあるのか?)

 

一誠の考えは概ね正解に近い。無限の龍神に反応した『ウロボロス・ボーン』、赤龍帝と白龍皇に反応した『ドラゴン・ボーン』

『ボーン・カード』は世界に存在する伝説級のものに反応するようになっている。しかし一誠はそんな事は知らない。

『ボーン・カード』を使う一誠でもこの力の事を全てを知っているわけではない。

 

(これが何に反応しているのか確かめる必要があるな)

 

一誠はゼノヴィアから『レオ・ボーン』を渡してもらいぐるりと身体を回転させた。そしてもっとも強く光る方向を確認した。

 

(向こうが一番強く光るな)

 

一誠は次にヴァーリの方を向いた。

 

「ヴァーリ。俺はこれから単独行動をする。後で合流しよう」

 

「それは構わないが、いったいどうしたんだ?」

 

「なに、ちょっと気になるからな。もしかしたら『神滅具』が見つかるかもしれないな」

 

「なら後で教えてくれ。相手次第で戦ってみたいからな」

 

「相変わらずの戦闘凶だな。いいぜ」

 

「お待ちください一誠様、どちらに?」

 

一誠がヴァーリと話しているとグレイフィアが間に入ってきた。流石に聞き捨てならない事を一誠が言っているのだ。それに気にはなる単語をグレイフィアが聞き逃すはずがない。

 

「俺がどこに行こうと関係無いだろ?それとも止めるか?アンタにそれが出来るか?」

 

「それは……」

 

まず無理だ。魔王以上の力を持つ魔神を相手にして無事なわけがない。間違いなく死ぬか身体の一部は確実に破壊される。

だが、彼女もただでは下がらない。

 

「……ならせめてどこに向かうか何をするのかだけでもお教え願いませんか?」

 

「向こうに『レオ・ボーン』が反応する『何か』があるんですよ。それを確かめに。それにもし『神滅具』だった場合、魔王も把握していないって事ですよね?」

 

「確かにそれは……」

 

現在冥界が保有している『神滅具』は『赤龍帝の篭手』だけだ。それだと言うのに未確認の『神滅具』があるとすれば、それを確認しなくてはならない。

だが、悪魔ではそれは分からない、それが分かるのは一誠だけだ。

ならここは彼に確認してもらった方が確実だ。だからグレイフィアは頷くしかなかった。

 

「……分かりました。それについてはお願いいたします。ですが、もし『神滅具』だった場合は……」

 

「はいはい。分かっていますよ。『ウロボロス・ボーン』」

 

一誠はグレイフィアとの会話を終わらせて『ウロボロス・ボーン』を装着した。そして転移でどこかに向かった。

残されたゼノヴィアとヴァーリ達はグレイフィアの案内で一度、魔王の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア達が魔王の元に案内されている時、一誠は『ウロボロス・ボーン』の連続転移で移動していた。

一秒間に100m間隔での転移をしていた。一誠以外にこんなマネは出来ない。まず魔力がすぐに枯渇する。次に転移には高度な計算が必要とされている。転移してすぐに転移は出来ない。

だが、一誠には出来る。『ウロボロス・ボーン』に転移制限など無い。だから一誠にしか出来ない芸当だ。

 

そして一誠は『レオ・ボーン』が強く反応する場所に到着した。目の前には巨大で立派な門が立ちはだかっていた。

どこか純潔の名家だろとすぐに分かった。

すると門番をしていた悪魔が一誠に近づいてきた。

 

「おい!そこのお前、何をしている?」

 

「……ここで間違いないな。もうゼノヴィアの元に戻れ」

 

一誠は門番の悪魔を無視して『レオ・ボーン』にゼノヴィアの元に戻るように言った。『レオ・ボーン』は霧散して消えた。

 

「おい!聞いているのか!?」

 

「……少し黙っていろ!!!」

 

「っ!?」

 

門番悪魔が一誠の肩を掴み振り向かせると一誠は脅しの意味で魔力を解放した。いきなりの魔王級の魔力に門番は腰を抜かして尻もちをついてしまった。

すると門が開き悪魔の一団が出てきた。先頭に居るのは黒髪のガタイのいい男性悪魔だ。

 

「いったい、何事だ!?」

 

「さ、サイラオーグ様!し、侵入者です!!」

 

「なに?……一体お前は何者だ?」

 

「俺は北欧の主神オーディンの私兵の真神一誠だ。お前は?」

 

「俺はバアル家次期当主サイラオーグ・バアルだ」

 

「お前が次期当主?」

 

一誠は首を傾げた。目の前の悪魔は大王の一族の次期当主だと言った。だが、一誠は彼から悪魔なら在るはずのものを感じれなかった。

 

(どうしてこいつからは『魔力』を感じないんだ?)

 

そう悪魔なら持っていて当然の魔力を彼は持っていなかったのだ。一誠は疑問に思った。悪魔にとって魔力とは象徴のようなものだ。

特に貴族その中でも特別な魔力はより重視される。『バアルの滅び』もその一つだ。だと言うのに彼には魔力が無い。

それで本当に次期当主になれるのだろうか?一誠の疑問は尽きない。

 

「魔力をまったく感じないをお前がよく次期当主になれたな?」

 

「……どうして俺に魔力が無いと?」

 

「俺は魔力感知関しては敏感なんだよ。それと聞きたいんだが……」

 

「何だ?」

 

「『獅子』の名を冠する神滅具がここにあるんだが、お前知らないか?」

 

「……なんの事だ?」

 

「お前、嘘が下手だな」

 

一誠はサイラオーグの僅かな間を見逃すほど甘くは無い。サイラオーグが嘘をついているとすぐに見抜いた。

それでもサイラオーグは口を開こうとしなかった。何か事情があるようだが、一誠には関係ない事だ。

 

「喋る気は無いか……なら力尽くで探すか」

 

「ま、待ってくれ!?」

 

「―――これは何事だ!!」

 

サイラオーグが一誠を止める前に大きな声がその場に静寂をもたらした。その人物はどこかサイラオーグに似ていた。

 

「……父上」

 

「おい。これは一体何事だ!説明しろ!!」

 

現れた悪魔はサイラオーグの父親であるバアルの現当主に当たる人物だ。だが、彼はサイラオーグの事をまるで親子ではないように振舞っているのだ。

一誠は知っている。サイラオーグの父親の目を。見下し存在自体を否定するようになめを。

一樹と同じ目だ。

 

「おい!!」

 

「なん―――がはっ!?」

 

「父上!!?」

 

一誠はある程度加減してサイラオーグの父親の顔面を殴った。飛ばされ地面を数回バウンドしてようやく止まった時に腕や足が明後日の方向に曲がっていた。

 

「父上!?よくも……!!」

 

「お前の事を身内とすら認めていないような奴の事を気にかけるのか?正直分からないなその気持ち……」

 

「確かにお前の言う通りかもしれないが……それでも父親なのだ!」

 

物心ついた時に一樹によってバケモノとして生きてきた。

 

親の子への愛情を知らない。

 

親の子への厳しさを知らない。

 

親の子への優しさを知らない。

 

一誠は知らない事が多すぎた。例えオーディンが親代わりだとしても一誠はどこか心の中で孤独を感じていた。

だから一人暮らしをしていたのだ。

 

「なんじゃ?騒々しいのぉ」

 

「しょ、初代様!?」

 

「初代?」

 

周りの悪魔達も新たに現れた見た目初老の男性悪魔に驚いていた。それは一誠もだった。もっとも一誠が驚いていたのは魔力についてだった。

 

(魔力の色がここまで濃いのは初めてだな……)

 

一誠は人外が放つ魔力やオーラを視覚として捉える事が出来る。その人物の魔力の大きさや色の濃度などが分かる。

これまで出会った悪魔の中で目の前の老人はダントツで一番濃い魔力の色をしていた。

 

「何者だ?爺さん」

 

「ゼクラム・バアル。バアルの隠居者よぉ。あまり派手に暴れるのはよして貰えないか?」

 

「へぇ……初代か。それならその色も納得だな。なら爺さんの方でいいか。それで、獅子の神滅具を俺に見せる気があるのか無いのか、どっちか決めてくれ。ちなみに俺はそう気が長いそうではないから」

 

「…………」

 

ゼクラムは思わず黙り込んでしまった。自分はすでに家督を譲り隠居した身だ。現当主のやり方に口出すほど野暮ではない。

しかし今の状況ではどうしょうもない事くらい分かる。ゼクラムは決めるしかなかった。

 

「……サイラオーグ。お前が決めよ」

 

「よ、よろしいのでしょうか?」

 

「この状況なら誰も文句は言わんじゃろ……」

 

ゼクラムは気づいていた。一誠の実力が魔王すら超えている事に。ここで戦う事になれば、周りは更地になる事を。

それくらいなら一誠の望んでいる事を叶えた方が賢明というものだ。

 

「……分かりました。真神一誠だったか。少し待てすぐに連れてくる」

 

「ああ、分かった。なら俺はそこで死にそうな男でも治療しておくか。『クジャク・ボーン』」

 

サイラオーグが神滅具を取りに行っている間に一誠は瀕死になっている現当主を治療した。治療が終わったと当時にサイラオーグが戻ってきた。

傍らには体長5メートルほど大きなライオンがいた。あれが『獅子王の戦斧』なのだろう。

 

(あれ?確か獅子王の戦斧は斧だったはずだが……?)

 

一誠は北欧にあった資料と違う事に疑問を持った。神滅具が勝手に形を変えるとは考えにくい。あれは『聖書に記されし神』によって作られた。

だから誰にもそれこそ神器を研究しているアザゼルにすら無理なことだ。

 

「形、違わないか?四足で歩いているし、斧じゃないのか?そもそも転生悪魔になっているって……何があった?」

 

「俺が人間界で見つけた時にはすでにこの状態だった。元々の所有者は何者かに殺されて後でその殺したもの達をレグルスが殺していたのだ……」

 

「自立型じゃない神滅具が自立に……神のシステムのバグか?だとしてもこれは……実に面白いな!」

 

一誠はサイラオーグからレグルスのこれまでの経緯を聞いて興味が湧いてきた。それと同時にどうしてレグルスが自立型になったのかある程度予想を考えていた。

神のシステム。聖と魔のバランスは先代魔王と神の死によって崩れた。今は辛うじて天使がシステムを回しているが以前とは比べ物にならない。

 

バランスが崩れてからシステムのバグが溜まりに溜まり神滅具など神が創ったものに影響を及ぼしている。

だから一誠の考えは概ね当たっていると言えるだろう。しかし本当の事をすべを一誠は持ち合わせていない。

 

「それでお前は使えこなしているのか?」

 

「それが……転生させてからどうも調子が良くない。父上の命令で隠しているので……」

 

「ふん~……それなら俺に出来るかもしれないぞ」

 

「……はぁ?」

 

サイラオーグは一誠に言葉に間抜けな声を上げてしまった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

調整と挑戦

「……それでは神滅具は無かったのですね?」

 

「ああ。それに『ボーン・カード』は絶対に神滅具に反応するとは言えないからな。『ドラゴン・ボーン』は二天龍に反応してが、『ウロボロス・ボーン』はオーフィスに反応したからな」

 

「そうですか……」

 

グレイフィアは戻ってきた一誠の報告を聞いていて何か引っかかるものを感じていた。だが、それが何かを証明する方法はグレイフィアには無い。

一誠がどこで何をしているのかまったく分からないでいた。自分の主であるサーゼクスから監視は付けるなと念を押されていた。

 

一誠の機嫌を損ねれば、冥界が何も無い死の世界になってしまうからだ。冥界の全戦力で挑んでも一誠にどれだけダメージを与えられるか分かったもではない。

だから一誠が『無い』と言えば『無い』のだ。グレイフィアに追求は出来なかった。

 

「やあ、イッセー君」

 

「よお、シスコン魔王」

 

「……ふぅ……そう言われても仕方ないね。私は―――いや私達はリアスを甘やかし過ぎた。その事は反省しているよ」

 

「本人が反省していないと周りの頑張りなんて無に等しいだろ?」

 

一誠の言った通りに今現在リアスと一樹はまったく反省していなかった。冥界に里帰りしてからリアスの母から直々に再教育されている。

それでも一誠に対する感情はまったく収まる様子は見られなかった。

 

「まあ、そうだね。リアスは落ちた評価を戻そうと躍起になっているようだしカズキ君は君に対してどこか焦っている様に見える」

 

「あいつが俺に?何を焦っているんだか……」

 

「そうだね。それは彼の胸の内だと言う事だろう。君が冥界に居る間は出来る限りリアス達と接触させないようにしている」

 

「ああ、俺としてもそっちの方がありがたい。ここであの嫌な顔は見たくない」

 

一誠はこれでもかと言うくらいの嫌な顔を作った。それを見たサーゼクスは苦笑するしかなかった。一誠は続けた。

 

「それに俺が冥界に居るのは建前は魔王に招待されたからで本当の理由はオーディンの爺さんの護衛だ。爺さんが言っていたんだ、ここ最近ある神が妙な動きを見せているってな……」

 

「流石にユグドラシルといえ一枚岩ではないか……」

 

「どこも似たようなものだろ?ユグドラシルしかり冥界しかり禍の団しかりな」

 

「そうだね……」

 

サーゼクスはどこか寂しそうな顔をしていたが一誠には関係なかった。一誠はそのまま部屋から出て行こうとした。

 

「どこに行くんだい?泊まる部屋なら用意してあるが?」

 

「生憎とそっちが用意した部屋に泊まるつもりは無い。あのアホ共が嗅ぎ付けてきそうだから。それに面白い奴を見つけたからオーディンの爺さんが来るまでそいつで時間を潰すさ。じゃあな」

 

一誠は『ウロボロス・ボーン』で転移した。部屋に残されたサーゼクスはそっとため息を吐いた。そんなサーゼクスにグレイフィアは飲み物を差し出した。

 

「ありがとうグレイフィア」

 

「いえ。それでいいのですか?」

 

「それは監視の件……と言う意味でいいのかな?」

 

「はい……」

 

サーゼクスは一誠の監視をする事を辞めた。リアスと一樹からは絶対に付けるべきと言われたがそれを聞くつもりは無かった。

 

「彼の機嫌を損ねて、悪魔を滅ぼす訳にはいかないよ……一応、彼以外付けるつもりだ。恐らくバレるだろうけどね……それとリアスの事だ」

 

「はい。お嬢様には一誠様の居場所を知られないように眷属も含めてスケジュールの調整はすでに」

 

それから一誠にリアスを近づけない話をしてから二人はグレモリー邸に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお、サイラオーグ」

 

「真神一誠」

 

一誠はサーゼクスと別れた後、ヴァーリ達と共にサイラオーグの元を尋ねていた。彼が今住んでいるのは現当主が住んでいる館ではなく小さな別館だった。

 

「実の息子を別館とかお前はいいのか?」

 

「構わない。これでも昔よりいい暮らしをしている。贅沢は言えない」

 

「ふ~ん……あ、そうだ。こっちが俺の仲間だ」

 

一誠はサイラオーグにゼノヴィアやヴァーリ達を紹介した後、サイラオーグも眷属を一誠達に紹介した。

 

「お前が今代の白龍皇の……」

 

「ああ。ヴァーリ・ルシファーだ。次期大王」

 

ヴァーリはどこか獲物を狙う獣のような顔をしていた。まさに戦闘凶の顔になっていた。しかし一誠が待ったをかけた。

 

「ちょっと待てヴァーリ」

 

「待てないな!今の俺の実力がどの程度なのか測るにはいい相手だ!」

 

「聞いていた通りの戦闘凶だな。ヴァーリ・ルシファー!」

 

ヴァーリとサイラオーグが臨戦態勢に入っていた。一誠が止める前に。

 

(もしかしてサイラオーグも戦闘凶なのか?)

 

そう思わずにはいれなかった。一誠はレグルスの前に立つと手を向けた。すると二種類の魔方陣が現れた。

一つは『聖書に記されし神』ものともう一つが転生悪魔としての魔方陣だ。一誠はその二つに手を向けているだけで、何かをしているように見えなかった。

 

「イッセー!何しているのかにゃ?」

 

「黒歌……調整だ。レグルスは本来、保有者の人間が死んだ時に消えるはずだった。でも自立型になって残ったのは神のシステムのバグが溜まった結果だ。しかもそこに悪魔の駒を入れた所為で余計にバグが強くなった。だから調子が良くない。だから今の状態で力が安定するように調整しているんだ」

 

「……にゃ~難しすぎだにゃ……」

 

一誠の背中にくっ付き話を聞いていた黒歌は説明されて頭が痛くなるのを感じていた。黒歌にとってちんぷんかんぷんな事だからだ。

そしていつの間にか寝落ちしていた。それから少しして一誠はレグルスから離れた。

 

「お~い、サイラオーグ。調整終わったぜ」

 

「そうか。レグルス、どうだ?調子は……」

 

「はい、サイラオーグ様。先程までとは違い、違和感がありません」

 

「そうか……」

 

レグルスは自身の調子の良さに満足していた。

 

「ふぁ~……調整でちょっと疲れたから少し寝る」

 

一誠はそれで言ってクロに寄り掛かり黒歌と一緒に寝始めた。サイラオーグ達はそれを黙って見るしかなかった。

そしてサイラオーグはヴァーリと再び向かい合った。

 

「……ヴァーリ・ルシファー。聞きたい事がある」

 

「何だ?サイラオーグ・バアル」

 

「どうしてお前は真神一誠の仲間になった?」

 

サイラオーグはヴァーリのこれまでの経緯は知っている。最初は『神の子を見張る者』で次が『禍の団』で今は一誠の下に居る。

その怒涛な人生には共感できるとサイラオーグは思っていた。自分は魔力が無いと理由だけで母までも辛い経験をさせてしまったと思っている。

だからこそ魔力が無い事を糧に身体を鍛えて今は次期当主までに昇り詰めた。自分を産んで育ててくれた母に恩返しをするために。

 

「挑戦だ」

 

「挑戦?何に挑むのだ……」

 

「もちろん真神一誠だ。彼は自ら倒れる事を―――殺される事を望んでいる。強者ゆえの想い。考えで俺を仲間にした。俺を鍛えて自分を殺させるために」

 

「…………」

 

サイラオーグはヴァーリの言葉が理解出来なかった。いや正確には一誠の事が。サイラオーグの印象としては一誠は暴君に見えた。

自分の欲望をただひたすら満たすだけで周りの事など考えない『人間』と。

しかし違った。違い過ぎた。彼は『人間』ではなく『魔神』なのだから人のそれとは考えが根本的に違う。

 

「別に彼も自分の考えを理解しろとは言わないだろ。だが、俺は彼の気持ちが少し分かる。俺は強くなった……だが、それが本当に強者になったのかと言われると疑問に思う。だからこそ俺は挑戦するんだ。最凶の存在に自分の全てを賭けて!」

 

「……なるほどな。大体、お前達の事が分かった……」

 

サイラオーグは一誠を見た。大きな狼を枕に黒歌と一緒になって寝ていた。見た目は『人間』だ。起きて食べて寝て、それを繰り返し生きている『人間』だ。

それを言うなら悪魔に天使に堕天使、吸血鬼、神すらも人の姿をしている。しかしそれは些細な問題だ。

要は中身だ。内に秘めたる『力』。それがもっとも重大だ。

 

「真神一誠は生きたいのだな……」

 

「それがお前が見い出した結論か?サイラオーグ・バアル」

 

「ああ、そうだ。生を実感出来ないからこそ死を求める。死ぬ事で生きていると証明しようとしている。俺には真神一誠が悲しい男に見えるよ」

 

「ならお前が与えてみせろ。彼に死を―――生を実感させてやれ。恐らくお前は候補の一人なのだから」

 

「候補だと?一体、何のだ……」

 

サイラオーグは首を傾げた。ヴァーリの言っている候補とは?何を示しているのか。

 

「なに、考えれば自然と思いつく。自分より強い者がいないなら自分で作ればいい、と」

 

「まさか……候補と言うのは」

 

「そう。真神一誠を殺す候補と言う事だ。俺の見立てでは俺を含めて三人と言った所だ。三人の内、一人はお前だ。サイラオーグ・バアル」

 

「……では、最後の一人は一体誰だ?」

 

「『禍の団』の英雄派のリーダーをしている男で『聖槍』の保持者だ」

 

「何!?『黄昏の聖槍』だと……」

 

近くで二人の会話を聞いていたサイラオーグの眷属達も驚きを隠せ無かった。様々な逸話がある『神滅具』だ。それが今やテロリストが持っているのだから無理もない。

サイラオーグも『神滅具』を持っているからこそ分かるものがある。『神器』とは一線をかく存在だ。注意は必要だ。

 

「サイラオーグ・バアル。お前にその気があるならイッセーの下で強くなる気はないか?」

 

「何?お前はなにを言っている……」

 

「これは強制ではない。むしろこれはお前にとってより高みに昇るチャンスだと思うが?」

 

「…………」

 

サイラオーグは迷っていた。幼い昔と比べたら格段に強くはなったが、これ以上の実力を伸ばそうとすれば、時間が掛かる。

近々行われる六代名家のレイティングゲームで活躍すれば上層部に一目置かれるチャンスだ。これを逃す者などいない。

ならばサイラオーグの答えは決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちくしょう!?ちくしょう!?どうして俺の物語なのに!思い通りにならない!?)

 

一方冥界に着いた一樹達を待ち構えていたのは元龍王の『魔龍聖タンニーン』の手荒な歓迎だった。その際に一樹達はタンニーンと戦ったがまったく歯が立たなかった。

これにはタンニーンも付き添いのアザゼルも呆れて何も言えなかった。その後、グレモリー邸にて反省会が行われた。

その時にアザゼルに散々言われて一樹はこれまでに無いくらいに凹んでしまった。

 

そして夕食を食べた後に一樹はリアスと共にリアスの母に数時間におよぶ説教を正座で聞かされる事になった。

それゆえに一樹はストレスが溜まっていた。一樹の心はまた黒く黒く濁ってきていた。

破滅の魔龍へとまた一歩近付いて来た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚悟と覚醒

「どうした、二人とも。この程度か?」

 

「まだまだ!」

 

「まだいける!」

 

一誠は冥界に来てから『神滅具』である『獅子王の戦斧』の保有者にしてバアル家の次期当主であるサイラオーグ・バアルをヴァーリと一緒に鍛えていた。

一誠は『ドラゴン・ボーン』を纏いヴァーリは『白龍皇の鎧』を。サイラオーグは『獅子王の戦斧』の亜種の禁手の『獅子王の剛皮』だ。

レグルスを鎧として身に纏い攻撃力と防御力が上昇し、飛び道具に対する防護性能も健在になる。

 

「どんどんいくぞ!!」

 

「はあぁぁぁ!!」

 

「のおぉぉぉ!!」

 

ヴァーリとサイラオーグは一誠に負けじと力を振り絞った。それでも二人合わせても一誠にはまったく歯が立たない。

しかしそれで諦めるほどなら彼らはここにはいない。これまでの苦悩の人生を経験した三人にはそれぞれに思う所がある。

 

 

兄に騙され「バケモノ」と呼ばれた者

 

祖父に命令されて父に暴力を振るわれた者

 

無能と呼ばれ母に苦労をかけた者

 

 

三人が三人違う人生を歩いてきた。そして出会った。ほか二人が歩いてきた道など知らないしその苦労は分からない。

しかし互いに高め合う理由はある。

 

 

魔神は自らを殺せる者を育てるために。

 

白龍皇は自身を最強と証明するために。

 

獅子王は己の力で勝ち取るために。

 

 

戦う理由など些細で構わない。やるなら徹底的に容赦なく思う存分に。自分が納得するまで戦えばいい。

 

(そうだ!二人とも……もっと!もっと俺を楽しませろ!俺に生きていると実感させてくれ!)

 

 

生きる理由が欲しかった

 

死にたいと願った

 

自分で自分を殺した事があった

 

でも死ねなかった。

 

それから魔神は生きる屍になってしまった

 

 

「はははっ!!俺を楽しませる奴がまだ居るとは予想外だ!サイラオーグ!」

 

「そうか。だが戦いを楽しむなど……」

 

「楽しんで何が悪い?戦いを楽しまない者など戦士と言えない!だから心のそこから満足するまで戦え!サイラオーグ!」

 

真神一誠は喜んでいた。冥界に来たのはオーディンの護衛のためだ。正直、最初は乗り気ではなかったが、今は違う。

 

(サイラオーグもいつか俺を……)

 

自分を殺せるかもしれない存在が目の前に居る。それは一誠を何より喜ばした。自分が生きている事を実感させてくれるかもしれない。

それは一誠にとって何より吉報だ。彼は心から喜んだ。

 

(この感じは……)

 

ヴァーリ・ルシファーはかつて感じた自身の血が沸騰していくのを感じていた。会談の時に一誠と戦った時ほどではないが、自分の魂が―――本能が戦えと叫んでいる。

目の前の『神』を超えない限り自分が最強だとは言えない。全てを見返すために全てを覆すために。

自分を鍛え強くなってきた。だが、そんなのは目の前の魔神に比べたら足元にも及ばない程度だ。しかしそれは絶対ではない。

自分自身で証明する。最凶たる魔神を倒すのは自分だと。

 

「ヴァーリ!お前はどうなんだ?この程度か!?」

 

「いいや!まだだ、これからだ!!」

 

「ははっ!!そうでないとな!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

一誠との戦いは常に命がけだ。だからこそ掴めるものがある。ヴァーリはそれを知っている。一誠と何百回と戦った彼だからこそ分かる。

アザゼルの所に居た頃はどこか安全な修行をしていた。しかしそれでは足りなかった。

 

覚悟が。

 

自分を知る覚悟

 

自分を超える覚悟

 

自分を傷つける覚悟

 

自分を守る覚悟

 

それらがヴァーリには足りなかった。だが、今は違う。一誠との戦いでヴァーリはついに高みが見える場所まで到達する所まで来た。

 

(ああ、分かるぞ!俺に足りなかったものが!)

 

一誠の攻撃で飛ばされたヴァーリはフラフラになりながらも立ち上がった。ヴァーリから噴き出したオーラはこれまでと比べられないくらい大きく純度の高いものになっていた。

 

「アルビオン!いくぞ!!俺はこの時をもって!己を超える!!」

 

『ああ、ヴァーリ。見せてみろ!お前の示す道を!!』

 

「我、目覚めるは律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり

 

 極めるは、天龍の高み往くは、白龍の覇道なり

 

 我らは、無限を制して夢幻をも喰らう

 

 無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く 

 

 我、無垢なる龍の皇帝と成りて 

 

 汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」

 

『Juggernaut Over Drive』

 

ヴァーリはついに呪文を口にした。これまでの白龍皇が唱えてきた呪文ではなく自分だけの―――ヴァーリ・ルシファーだけの呪文を。

そこには白い龍ではなく白銀に輝く覇龍がいた。

 

「くくっ……ははははっ!!ヴァーリ、お前はついに至ったんだな!」

 

「ああ、そうだ。これが俺の『白銀の極覇龍』だ!」

 

「ついに!いつに至ったか!覇龍を超えたか!ならその力、存分に俺で試せ!お前の本気を見せてみろ」

 

「ああ!いくぞ!」

 

最凶の魔神と白銀の覇龍が今、衝突した。拳と拳がぶつかると空間が悲鳴を上げているように空気を震わせてた。並みの上級悪魔だったらオーラだけで吹き飛んでいただろう。

それだけ二人から出ている魔力が計り知れなかった。

 

(これが神と龍の戦いか……)

 

サイラオーグ・バアルにとって戦いとは自分の存在意義を有一証明する事の出来るものだった。しかし今は違うと断言出来ると。

目の前の神と龍との戦いはこれまで戦いと明らかに違った。

拳を合わせる度に身体の奥から溢れ出てくる感情があるのを感じていた。これまで味わった事のない不思議な感情だ。

不快とは思えない。むしろ心地よかった。

だからなのだろうか?彼らとの戦いは命がけだと言うのに楽しいと思えるのは。

 

(母上……)

 

サイラオーグは今、病に伏せている母親の事を思い出していた。魔力をまったく持たない自分を産んだばかりに様々な苦労をしてきた。

しかしどんな時でも自分を見て力強く言い聞かせてくれた母。寝たきりになる前に時より見せた寂しそうな顔は今でも忘れない。

 

(俺は……)

 

拳を握り考える。

 

何をすれば超えらる?

 

何を得れば超えられる?

 

何を捨てれば超えられる?

 

目の前の神と龍を

 

自分は大王だが魔力無しだ。彼らと対等に戦うには何が必要か。それはすでに己の心に聞けばわかる事だ。

 

「はははっ!これでヴァーリ、お前は歴代最強の白龍皇だ!」

 

「そうか!それは俺としても嬉しいな!だが、まだまだこれからだ!!」

 

「そうでないと鍛えている意味が無いからな!」

 

「はあぁぁぁ!!」

 

サイラオーグは『獅子王の戦斧』から何かを感じていた。するとレグルスから話し掛けてきた。

 

「サイラオーグ様」

 

「……レグルス」

 

「行きましょう!私はすでに貴方様の『力』!ならば、遠慮など無用です。思う存分、お使いください!」

 

「ああ、いくぞ!レグルス!!」

 

「はっ!サイラオーグ様!」

 

次の瞬間、サイラオーグの出していたオーラが変化が起こった。オーラの量が増え、床を陥没させたのだ。

 

「此の身、此の魂魄が幾千と千尋に堕ちようとも

 

 我と我が主は、此の身、此の魂魄が尽きるまで幾万と王道を駆け上がる

 

 唸れ、誇れ、屠れ、そして輝け

 

 此の身が摩なる獣であれど

 

 我が拳に宿れ、光輝の王威よ

 

 舞え 舞え 咲き乱れろ」

 

レグルスの鎧は先ほどと違い、金色と紫を基調としてフォルムがより攻撃的に変化した。サイラオーグのオーラもそれに合わせるかのようになった。

 

「……おい、ヴァーリ。見てみろ、あれを。サイラオーグもまたお前同様に自分だけの『覇の理』を見つけたようだぞ」

 

「……ああ、そのようだな。これでまた楽しみが増えたな」

 

「ああ、あれを名づけるなら……『獅子王の紫金剛皮・覇獣式』って所か?」

 

まさに覇獣のようにレグルスは変化していた。そして次の瞬間、サイラオーグは一誠の目の前に移動して殴り飛ばした。

 

「なっ!?」

 

一誠はサイラオーグの重い拳の一撃に思わず驚いてしまった。先ほど戦った時とは明らかに威力が上がっていた。

それも『ボーン』を纏っていたなければ一誠ですら骨折しても可笑しくはないほどであった。しかし『ボーン』には変化があった。

サイラオーグの拳を受けた『レフト・アーム』が白く変色した。

 

「イッセー。それは?」

 

「これはボーンクラッシュだ。一定以上のダメージが蓄積するとこうなる。しかも腕が上がらないほど重くなる」

 

ボーンクラッシュ。ボディ、ライト、レフト・アーム、レッグの四つのパーツが一定以上のダメージが蓄積すると白くなりそのパーツが使用不能になる。

これまでの戦いでこのクラッシュになったのは『無限の龍神オーフィス』との戦いだけだ。

 

(嬉しいぜ……二人の力は俺を殺せるまでに上がった。だが、まだ足りないな)

 

一誠は嬉しさを感じると同時に物足りなさも感じていた。何故ならまだ一誠は全力でも本気ではないからだ。

 

「イッセー。魔神を呼べ」

 

「……ヴァーリ」

 

「全力のお前にこの状態がどの程度、通じるのか知りたい」

 

「ああ、いいぞ!」

 

一誠は二枚の『ボーン・カード』を出現させた。『フェニックス・ボーン』と『グリフォン・ボーン』の二枚だ。

 

「『フェニックス・ライト、レフトアーム』、『グリフォン・レッグ』着装!」

 

一誠は両腕と足の『ボーン』を変えた。それはかつて会談でカテレア・レヴィアタンと戦ったのと同じ状態になった。

 

「ライン構築。風の魔神よ。現れろ!魔神降臨!!」

 

一誠の後ろに巨大な魔法陣が出現してそこから蒼い身体を持った巨人―――魔神が現れた。その姿は翼を持った騎士のように見えた。

すると一誠が出していた魔力の色が変化した。風の魔神と同じ蒼い色になった。

 

「……さあ、二人とも。かかってこい!第二ラウンドだぁ!!」

 

「ああ!イッセー!やはり君は最高だぁ!!」

 

「望みところだ!全力でいくぞぉ!!」

 

この日、最凶の魔神と歴代最強の白龍皇と最高の獅子の大王は隔離空間でぶつかった。拳と拳がぶつかる度に空間が悲鳴を上げた。

それでも三人は戦う事を止めない。その程度のなど些細な事に過ぎない。

 

(二人になら見せてもいいかもしれないな……)

 

一誠が動きを止めたらヴァーリにサイラオーグも動きを止めた。いきなり今の三体の『ボーン』を纏っている状態から『ドラゴン・ボーン』だけに戻した。

魔神もラインが無くなったので霧散して消えた。

 

「イッセー?どうしたんだ?」

 

「真神一誠。どういうつもりだ?」

 

ヴァーリもサイラオーグも訳が分からなくなっていた。

 

「なに、お前ら二人なら俺の本気を見せてやろうかと思ってな」

 

「それは願ってもない事だ!」

 

「お前の本気か興味があるな」

 

「ああ。見せてやるよ!火の魔神よ、我が声に想いに答えその姿を今こそ現せぇ!!」

 

するとまたしても一誠の後ろに巨大な魔法陣が現れた。そこから赤い身体に四本の腕を持つ魔神の火の魔神が現れた。

ここまでは先程見た風の魔神を似ていたがヴァーリは異変に気が付いた。

 

「……実体があるだと?」

 

「なに?」

 

そうこれまでの魔神降臨と違い魔神には実体があったのだ。その証拠に魔神が足を動かすたびに地響きが轟いた。

 

「いくぞ!これが俺の本気だ!マジン・ボーン!!」

 

一誠は魔神の胸にある紋章に飛び込んだ。そして現れた存在を見た瞬間、ヴァーリとサイラオーグの意識は暗転した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

収穫と羞恥

北欧オーディンの自称私兵の真神一誠はベッドで寝ている男二人を『クジャク・ボーン』にて回復させた後、自身の使い魔になっているフェンリルのクロを枕にぼんやりと冥界の空を眺めていた。

一誠は今、とても機嫌が良かった。何故なら自分を殺せるかもしれない存在を新たに見つけたからだ。

 

サイラオーグ・バアル。バアル家次期当主にして純血の悪魔にも関わらず魔力をまったく持たずに産まれた異端児。

さらには十三種神滅具の一つ『獅子王の戦斧』を持った悪魔。

 

本来、魔力を持つ純潔の悪魔は肉体を鍛えようとはしないが彼は違った。極限までに身体をいじめ抜いて鍛え上げた強靭な肉体。

だからこそサイラオーグは『獅子王の戦斧』の禁じ手を使用する事が出来た。他の純血の悪魔では負荷に肉体が持たなかっただろう。

 

そんなサイラオーグは更なる高みへと上がった。歴代の所有者で成し遂げられなかった。『覇の理』をコントロールしたのだ。

暴走する力を抑え別の力へと変換する事に成功した。それでも一誠には敵わなかった。

一誠が最後に見せた、ヴァーリですら見た事のない姿になり『一撃』で二人同時に倒されてしまった。

神々しくあり、まさに最凶の魔神に相応しい姿だったと言えるだろう。

 

一誠はヴァーリとサイラオーグに自分の出せる本気にして全力を出して相手にした。一歩間違えれば死んでいただろう。

だが、一誠には二人が死なないと確信があった。目的のために生き強くなろうと高みを目指そうとする二人なら必ず耐えると思ったのだ。

 

(まったく俺の予想通り……いや予想以上だ。ヴァーリ、サイラオーグ。二人に加えて曹操が俺を倒そうとしている。三人も俺を『殺せる』可能性を持った奴が居るなんてな……)

 

これなら魔王の招待で冥界に来た甲斐があると言うものだ。つまらないと思っていた旅行が一変して楽しい楽しい旅行になった。

 

(サイラオーグもヴァーリ同様に俺が鍛えたい。そうすればサイラオーグも……)

 

ヴァーリと同じようにさらに強くなるだろう。魔王も神も……そして魔神である自分すら超える存在になるだろう。

一誠の機嫌が良くなるのも頷ける。

最凶の魔神はここ数日で一番機嫌が良く紫色の冥界の空をぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こ、ここは?」

 

サイラオーグは瞼を開けて天井を見た後、首を左右に振り周りを確認した。そこは自分が与えられたバアル家の屋敷の別館の自分の部屋だった。

次期当主が寝るにはいささか狭い部屋だ。

 

「「「サイラオーグ様!」」」

 

「……お前達……」

 

サイラオーグのベッドの周りには彼の眷属達が心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。

 

「くっ……俺はどうして……」

 

どうしてベッドに横になっているのか、まだ分かっていないサイラオーグは身体を起こそうとした。眷属がすかさず身体を支えた。

 

「真神一誠との修行が終わって我々の前に戻ってきた時にはすでに気絶しておられたので……」

 

「そうか……」

 

自分の『女王』であるクイーシャ・アバドンが何があったのかを説明した。そしてどうして自分がベッドに横になっているのかが分かった。

最後に見た一誠の姿が最後の記憶だ。

 

(あの姿に俺は……)

 

魅せられた。輝く姿に。圧倒的な魔力に。

 

自分がどれだけ小さい存在なのかを嫌でも分かってしまった。目の前の魔神との差を。

だが、ここで諦めるほどサイラオーグは弱くはない。これほどの逆境など産まれてから幾度もあった。

 

(いいだろう……いつか必ず……!!)

 

サイラオーグはいつになく燃えていた。その時だった、一誠が入って来たのは。

 

「よお、サイラオーグ。起きたようだな」

 

「真神一誠……ああ、それでヴァーリ・ルシファーは?」

 

「別室でまだ寝ている。お前も寝ておけ。まあ、寝る間に聞きたい事があるんだ」

 

「聞きたい事?」

 

サイラオーグは首を傾げた。今更自分に何を聞きたいのだと言うのだ。その時、一誠はサイラオーグに手を差し出した。

 

「サイラオーグ。お前、俺のもとでもっと強くなるつもりはないか?」

 

「何?」

 

一誠が聞きたい事とはサイラオーグの勧誘だった。ヴァーリ同様に自分を殺せるように鍛え上げようとした。

それに対してサイラオーグはどこか迷っている顔をしていた。

 

「……真神一誠。お前は俺を鍛えて何がしたいのだ?」

 

「俺は死にたいのさ」

 

「……死にたいだと?」

 

サイラオーグは顔を歪めた。自分から死にたいなどを口にするなど余程の事だ。なのに一誠はまるで夕食のメニューを応えるように言ったのだ。

それはサイラオーグにとって不快としか言えなかった。今まで必死に生きてきた自分を否定するような発言だからだ。

今にも怒りをぶつけたかったが、サイラオーグは一旦落ち着く事にした。

 

「……何故、お前は死にたい?その理由は?」

 

聞かずにはいられなかった。答え次第ではここから追い出そうとさえ考えた。すると一誠の表情が少し寂しそうな顔になった。

 

(なんだ?この表情は?)

 

どうして聞いただけでそんな表情をするのか、サイラオーグには理解出来なかった。いや誰にも真神一誠の気持ちを理解する事は無理だ。

 

「そうだな……理由は俺自身って所か?」

 

そこから一誠はサイラオーグに自分の産まれてから今日までの話をした。双子の兄である一樹に言われるがまま、両親に『ボーン』の力を見せて『バケモノ』呼ばわりされ家を追い出されて、北欧の主神オーディンに拾われた。

そこから一樹への復讐だけを考えて生きてきた。そして一樹と再会して戦い、殺そうかと思ったが、急に殺意が消えた。

 

憎しみも怒りも興味すらも消えてなくなった。そこから自分は何をしていけばいいのか分からなくなった。そんな事になるのは一樹への復讐を終えたからだと思っていたからする事が特に思いつかなかった。

そこで死ぬ事にした。だが、自殺ではなく誰かの手で死にたかった。誰かに負けて敗北してからこの世を去りたかった。

 

「……なるほど、お前がどのような人生を歩んできたのかは分かった。だがそれでも俺はお前を殺せないだろ。済まない」

 

サイラオーグは一誠の話を聞いて上で断り謝った。サイラオーグはヴァーリと違い戦闘狂と言うわけではない。

優しい彼にとって一誠は少しの時間だが、拳で語り合った友と言える存在になっていた。それは一誠も同じだった。

答えが分かっていたのか一誠は特に落胆する様子はなかった。

 

「……お前ならそう言うんじゃないかと思ったよ。でも俺を殺せる候補には変わりない。時間があったらまた遊ぼうぜ」

 

「……お前との遊びは命懸けだ」

 

「だからこそだろ?」

 

一誠はそれだけ言って部屋から出て行った。サイラオーグは何も言わずにその背中を見送った。一誠との修行は自分に新たな可能性を生み出した。

まだまだ強くなれる。自分の夢のためにもっと力を付けなくてはと考えてしまう。そんなサイラオーグを心配してか眷属達の顔は少し曇っていた。

 

「心配するなお前達。付いて来てくれるか?」

 

「「「「もちろんです!サイラオーグ様!!」」」」

 

サイラオーグは拳を握り誓いを立てた。

 

(次は勝つ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはグレモリー領のリアス達が夏休みに住んでいる屋敷だ。そこの部屋の一つが悲惨な事になっている。

部屋は荒れ、飾ってあった絵などは引き裂かれ、ベッドは中身が飛び出して部屋を舞っていた。

 

「ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!」

 

部屋で暴れている人物―――リアス・グレモリーはまだ暴れたりないようで部屋の置物を投げては壊していた。

このように暴れる原因になったのは昨日、帰省した時に母親から呼び出されて三時間にも及ぶ説教を聞かさせたからだ。

他にも昇格、行動、金銭の制限を両親ならびに兄に言われからだ。

 

(どうして私が!我慢しきゃいけないの!?)

 

赤龍帝の一樹を眷属にしてフェニックス家とのレイティングゲームも勝ち、評価が上がってきたと思いきや一気に真っ逆さまに落ちた。

周りから向けられた羨望の眼差しも今や失望の見下しになってしまった。自分に懐いていた甥っ子、ミリキャスですら失望の眼差しを向けてきたのだ。

 

リアスにはそれは許される事ではなかった。帰省したさいにはよく抱きついてきたミリキャス。それがどこか親の仇を見るような眼を向けてきた。

一樹と毎晩、肌を重ねて少しずつ解消されていた真神一誠に対するストレスが、一気にぶり返った。

 

そして今、自室で暴れているのだ。人間界で買った置物などお気に入りだったはずの物まで投げては壊していた。

幸いに朱乃が防音用の結界を張ったおかげで音は一切外には漏れていない。

 

「リアス……」

 

「カズキ……どうしてなの?みんな、私にあんな眼を向けてくるの?ミリキャスですら私にみんなと同じ眼を向けてくるのよ?」

 

「ああ、俺は分かっている。全部、あいつ―――一誠の所為だ!あいつが来なければ全て上手く行っていたんだ。だからあいつを殺さないと俺達の評価は戻らない!!」

 

一樹は全て一誠の所為だと思っている。確かに原因が一誠だった事もあるだろうが、評価を下げる結果になったのは一樹達の行動だと分かっていない。

彼らはもう正常な判断が出来ない所まで来ている。もう原因なんてものは彼らにとって些細な事になっていた。

 

一誠を殺す。

 

ただそれだけしか頭には残っていなかった。そのためだったらどんな卑怯な力でも手に入れてみせる。

一樹とリアスはただそれだけのために燃えていた。

 

「あらあら……リアスもカズキ君もまだその時ではないでしょ?もっと確実に殺すために力を付けないと」

 

「朱乃……」

 

「朱乃さん……」

 

朱乃はいつもの―――いや不気味なまでの笑みを見せた。彼女を知っている者が見たらきっと驚きのあまり腰を抜かしてしまうかもしれない。

それだけ彼女達は変わってしまった。変わりすぎてしまったのだ。兵藤一樹に依存したばかりに。

 

そして今夜も三人は肌を重ねる。溜まった鬱憤を解き放ち、獣のようにただ性を貪る。誰も止めない。違う。

もう誰にも止められない。歪められた物語の登場人物はただ一人のイレギュラーによって本来進むべき未来を捨て、行き止まりの現実にやってきた。

 

「いいわ!カズキ!もっと私を求めて!!」

 

「カズキ君!リアスだけじゃなくて、私も愛して!!」

 

「ああ、お前らは俺のハーレムでとびきり可愛がってやる!!」

 

ベッドの上で交わる一樹、リアス、朱乃。朝まで誰も眷属ですら近寄らず朝までただ獣以下に成り下がった三人は性を貪りつくす。

元72柱の悪魔の1柱の次期当主とは思えない。彼らに羞恥などと言う言葉は無い。

 

「「カズキ(君)!私を愛して!!」」

 

「ああ、死ぬまで愛してやるよ!!」

 

ただ、今は性の快楽に身を寄せて今日の事を全力で忘れようとした。もしも兵藤一誠のポジションが奪われる事がなければ、彼女達は今のように堕落はしなかっただろう。

全ては彼から現在を未来を奪った一樹の所為だ。だが、誰もその事には気づかない、ただ一人の男を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠やリアス達が駆王町を離れている時、一人の男いや人型のドラゴンが一誠の家を訪ねていた。三日月の暗黒龍のクロウ・クルワッハだ。

クロウ・クルワッハは一誠が家にいない事を確認すると着た道を引き返した。

 

「今回はタイミングが合わなかったか。日を改めるしかないな。次は会えるのを楽しみにしているぞ。真神一誠……」

 

クロウ・クルワッハはどこかに静かに消えていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

護衛と誤算

7~8月は日本の学生にとって夏休みなので殆んどの学生が夏を満喫する事だろう。そんな日に冥界に北欧ユグドラシルの主神オーディンが降り立った。

服装は茶色スーツを着て、まるで893のご隠居のような風貌を出していた。

 

「ようやく到着かのぉ?老体にはちと堪えるわい」

 

「そうですね。私も腰が……」

 

「なんじゃ?ロスヴァイセ、もう歳か?」

 

「オーディン様?」

 

ロスヴァイセの顔は笑っていない笑顔を浮かべており、それを見た者は恐ろしさのあまり腰を抜かすだろう。それだけの破壊力を持っていた。

 

「い、イッセーはどこかのぉ?」

 

「帰ったら覚悟してくださいね♪」

 

「…………」

 

その時、オーディンは夏だと言うのに小刻みに震えていた。するといきなり一誠が二人の前に現れた。『ウロボロス・ボーン』を使い転移してきたのだ。

 

「お待たせオーディンの爺さん。……どうしたんだ?震えて」

 

「な、何でもないわい!!」

 

オーディンがそれ以上何も話さなかったので一誠は聞かない事にした。オーディンが何をしたのかは大体の予想はついてる。北欧に居た時に似たような事はそれなりにあったのでオチも分かっているで一誠は軽く流した。

 

「それにしても護衛が俺とロスヴァイセさんだけって……大丈夫なのかよ?」

 

「ほっほっほっ……むしろその方が仕掛けてくるじゃろ?」

 

そのためにオーディンの護衛は戦乙女のロスヴァイセと一誠だけにした。その上、ユグドラシルや他の神話勢力にはロスヴァイセ以外の護衛はいないと公表していた。

今回、オーディンが一誠の冥界行きをすんなり許可したのはこれが目的だったのだ。誰とは言わないが、一誠の事を未だ危険視している誰かを炙り出そうとしているだ。

それで掛かればよし、掛からなくても近い内にチャンスがあると勘違いしてくれる。

 

「一応、ゼノヴィアやヴァーリ達も呼べばすぐに来てくれるようにしている」

 

「それはなんとも心強いのぉ」

 

「あの連中は俺抜きでも十分強いからな」

 

聖剣デュランダルの使い手にして一誠の眷属神のゼノヴィア。

 

歴代最強の白龍皇にして先代魔王ルシファーの血族のヴァーリ。

 

元SS級はぐれ悪魔で一誠の二人目の眷属神で猫魈の黒歌。

 

初代孫悟空の末裔の美猴。

 

聖剣コールブランドの使い手でアーサー王の末裔のアーサー・ペンドラゴン。

 

その妹で魔女のルフェイ・ペンドラゴン。

 

贔屓目で見なくても十分、強いメンバーになっていた。並みの上級悪魔では太刀打ち出来ずに最上級でも相手よっては勝てる。

それだけのメンバーが今や一誠の下に付いていた。するとオーディンの顔がニヤけていた。

 

「爺さん。悪い顔になっているぞ」

 

「構わん構わん。それよりどうじゃ?こっちは」

 

「昨日、行ったパーティがあるんだけど、そこに居た上層部の悪魔?ってのが性格が最悪であれじゃ未来は無いな」

 

一誠は昨日、魔王に招待された六大名家次期当主お披露目会のパーティに参加していた。と言っても魔王に頼まれて嫌々参加してのだ。

そこでは次期当主が自身の夢を発表してが、上層部の悪魔の何人かが、ソーナ・シトリーの夢を馬鹿にする発言をした。

それに対して彼女の眷属の匙元十郎が反論しようとしたがソーナに止められた。彼は悔しいのか下唇を噛み締めていた。

 

ここで一誠がその上層部の悪魔に「他人の夢を馬鹿に出来るって事はそれは立派な夢を持っているんだろうな?」と聞いた途端、彼らは黙ってしまった。

彼らに他人に自慢出来るだけの夢など無い。まして他人の夢を馬鹿に出来るほど立派な夢など持っている訳が無い。

 

一誠が言った事が気に入らないかったのか上層部は一誠を会場から強制退去させるように魔王に進言したが、サーゼクスは逆にその上層部達を睨み付けて黙らせた。

それにパーティに参加していた全員が驚いた。一誠の事をあまり詳しくない者からしたら一誠はオーディンの代理の人間の子供、と言うのが認識になっている。

 

それだと言うのに自分達の上に立つ魔王が頭を下げた。それによって力関係は魔王より一誠が上だと嫌でも分かってしまった。

それからは気まずいパーティになってしまった。その後、ソーナは一誠にお礼を言ったが、一誠は「イラっとしから」と笑顔で言った。

ソーナと眷属達はその笑顔にドン引きしてしまった。

 

「……なるほどのぉ」

 

「本当に同盟とか組むのか?」

 

「いや、同盟ではなくただの協力じゃよ。オーフィスに対してだけじゃが」

 

「なるほど……」

 

オーディンは最初から決めていた。今回、どのような好条件だろうと三大勢力と同盟等などの手を組むような事はしないと。

それどころか他神話勢力と裏でテロリストに対しての協力関係を構築していた。もちろん、三大勢力はまったく知らない。

 

「三大勢力はまったく知らないんだよな……」

 

「ほぉほぉほぉ……同盟を結ぶだけの価値が無かった連中が悪いのじゃよ」

 

「……爺さん」

 

これには一誠はドン引きしてしまったが、一樹の事を考えた瞬間、どうでもよくなってしまった。

 

(まあ、一樹がいるからどうでもいいか……)

 

今や興味すら無い双子の元兄の事を一瞬考えてすぐに頭から消した。両親から捨てられてから一日も忘れずに憎しみだけを募らせてきたのに今はその影すら無い。

業火のように燃え一日も消えた事がなかったのにだ。それなのにどんな感情も一樹には無い。

まるでそこに誰も居なかったように。

 

(どうしてなんだろうな……)

 

一誠はあの日、一樹達をボコボコにした日からずっと考えていたが、今はオーディンの護衛の事が最優先だと気持ちを切り替えた。

その後の魔王との会食や総督、天使長などの話し合いはスムーズに進み。これと言って問題は起こらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリー邸の一樹に当てられた部屋は荒らされた後のように荷物などがゴチャゴチャしていた。その部屋に居る一樹は頭を抱えていた。

 

(どうしてだ!?どうしてだ!?どうしてなんだ!!?)

 

こうして彼が頭を抱えているのは先日行われた六大名家のレイティングゲームの結果になる。彼のグレモリー眷属は初戦の相手のシトリー眷属に大敗を帰した。

次期当主同士がぶつかる事でいい刺激になるだろうと企画されたものだった。そこでリアスは落ちた評価を取り戻そうと躍起になっていた。

そんな中、一樹は余裕を取り戻していた。何故なら彼は相手チームがどのように動くのか『知っている』のだから。

 

しかし彼はまだ気がついてはいなかった。相手チームの動きが分かったとしてそれに対応出来るかは別問題だ。

そもそも彼の知る物語は大きくズレている事にまったく気がついていない。そうなったのは小猫が自分の力を早くに受け入れて一樹の知る『原作』より強くなっていたからだ。

これなら不参加のギャスパーの分も補えると考えたからだ。

 

ソーナ戦でギャスパー・ヴラディは不参加だった。その理由は屋敷に引き篭もっていたからだ。会談前に封印状態を解除された彼だったが、引き篭もりがちな彼の性格をたった数日で変えられるはずもなく、ズルズルと先送りにしていたのだ。

そして会談の時にテロリストに『神器』を利用された事が彼の更なるトラウマを作るきっかけになってしまったのだ。

 

それでギャスパーは他人を避けるようになり、同じ学年で仲が良かった小猫ですら避けるようになり、以前にも増して引き篭もるようになった。それでもリアスは強引に連れて行こうとした所、自分で瞳を傷つけるような行動に走り入院する事になった。

これがギャスパー・ヴラディがソーナ戦で不参加だった理由になる。

 

これが一樹の計画を大いに狂わせる事となる。そもそも眷属の質では勝っていても数や連携の部分で負けていた。

ソーナは自分の眷属の能力をしっかりと把握していたが、リアスは自分と朱乃と一樹しか把握していかった。一樹もまさかリアスが自分達しか把握していなくて、アーシアと木場、小猫の事を把握していないとは思ってもみなかった。

 

だからリアスが立てた作戦はガタガタだった。一樹から相手の行動を聞かされていたのにだ。リアスはどうして一樹がソーナ達の行動が分かったのは聞かなかった。

それで嫌われたくなかったからだ。

しかしリアスが一樹に相手の行動を知っていたのかを聞いていれば少しはマシな未来があったのかもしれない。

 

だが、リアスは聞かなかった。またしても彼女はターニングポイントを間違ってしまった。負の連鎖が続き落ち続けた。

本来なら彼女は眷属と共に栄光を手にしたいたのに、だ。変えれる場面は今までいくつもあった。しかしリアスはそれをものに出来なかった。だが、全てリアスが悪いとは一概には言えない。

 

何故ならリアスの今の性格を構築した過程には両親の影響を強く受けているからだ。それでもこれまでの悪行はリアスが全て悪いと言えるだろう。

両親や隠居した者もリアスの性格を知ってどうしてこうなるのか疑問が尽きなかった。

だからこそなのかグレモリー家では誰もがリアスと距離を置いていた。

 

「私は!悪くないのに!!全て真神一誠が悪いのに!どうして誰も!分かってくれないの!!ああああぁぁぁぁ!!!」

 

これまでの評価が下がった事を全て一誠の所為にして部屋で思いっきりリアスは暴れまわっていた。以前の部屋の面影など殆ど残っていなかった。

残っているのはベッドくらいで他は全て廃品回収するほどのガラクタに成り果てていた。

 

「ねぇ……カズキ。私は間違っているの?」

 

「何言っているんだよ。リアスが今まで間違えた事があったか!?な!朱乃」

 

「ええ、カズキ君の言うとおりですよ。リアスは間違っていませんわ。また違っているのは周りですわ」

 

「そうよね……二人がそう言うのだからそうよね……」

 

これまでした事を完全に忘れて一樹と朱乃は精神状態が不安定になっているリアスを励ましていた。二人に励ましてもらわないと一日寝込むほどになっていた。

 

「カズキ、もう一回いい?」

 

「ああ、もちろんだ!朱乃もこい!」

 

「はい!では……」

 

三人は部屋の中で有一原型を留めている天蓋付のベッドで服を脱いだ。そこからは部屋から卑猥な声が漏れ出したが、屋敷の誰もが聞いても何もしないようになった。

これは最早グレモリー邸では日常茶飯事になっているからだ。そもそもグレモリー家でリアスに関わろうとしているのは誰一人といない。

 

もしもリアスがサーゼクスやアザゼルの忠告を聞いていればこんな事態にはならなかっただろう。それこそリアスの誤算だったに違いない。

たった一人のために本来とは違う道筋を通ったがために起こった。しかしもう後戻りは出来ない所まで来ている。

過去は無かった事には出来ない。

 

それは例え神でもだ。

 

今日もリアスの部屋では三人の篭った卑猥の声が響く。これは一人の男に固執した結果に全てを失う女の話だ。

ただ全てを失うのはまだ先になるが、彼女は嫌な事を忘れるために男に抱かれる。

 

誰かが言った。リアス・グレモリーはもう終わった、と。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻夢と限界

冥界で知り合ったバアル家次期当主サイラオーグ・バアルの『神滅具』である『獅子王の戦斧』を調整したサイラオーグとヴァーリと戦った一誠は暗闇の世界に立っていた。

 

(ここは……確か前にも……)

 

この暗黒の世界には来た覚えがあった。駆王学園での会談の後に来た一誠の精神世界だ。前回と同じで暗黒の世界に椅子が一つとスクリーンがあるだけだった。

ただ前回と違う所があるとすれば、椅子の隣に例の人型の宇宙が居る所だろう。

 

「今回は最初から居るんだな?」

 

「■■■……■■……■■……■■」

 

「お前の方は相変わらずだな。ちょっと安心したぜ。それで?今回はどうした?」

 

「■■……」

 

人型の宇宙は椅子を指差した。一誠は言われるがまま椅子に座った。すると前回と同じでスクリーンには最初ノイズだけが流れていた。

しばらくするとノイズが無くなり声が聞こえてきた。

 

『ずむずむいやーーーん!!』

 

「またか……ははっ……ホント、お前は幸せそうだな……」

 

スクリーンに映る兵藤一誠は恥ずかしがる素振りなどまったく感じさせない態度だった。一誠はそれを見て笑っていた。

顔や声が同じだが、人生が違うスクリーンの一誠を見るのが楽しくて仕方がなかった。ここは一誠にとって自分と一誠を肯定出来る有一の場所だ。

 

否定する者はいない。そこにあるのは肯定のみだ。誰が否定出来るものか。違う人生を歩んできたとしても自分も彼も紛れもなく一誠なのだから。

兵藤か真神など些細な事に過ぎない。重要なのはあり方にして本質だ。

場面が進み、前回の続きになった。

 

「これはやり過ぎだろ……」

 

兵藤家の一軒家が三階建ての立派な豪邸にグレードアップしていたのだ。両隣の家の敷地まで広がっていた。

そして朝になって家が豪邸になっていた事に両親は最新の建築技術だと信じきっていた。そんな訳がないのは明白なのだが、脳が麻痺していたに違いない。

 

それから夏休みに帰省するリアスに付いて冥界に行く事になって列車で冥界まで向かった。その途中で元龍王の『聖龍魔』のタンニーンにどれほどの戦闘力があるか戦いになった。

 

そしてグレモリー邸に到着した時にリアスの甥っ子のミリキャスと対面した。魔王の息子でしっかりとした子供だった。

一誠に興味があるようで色々聞かれたが、屋敷に入った。

 

屋敷に入ってリアスの母であるヴェネラナとも出会った。その時の一誠の反応は鼻の下を伸ばしてリアスに摘まれてアーシアが頬を膨らませた。

それから夕食になって雑談などを交えながら近況の話になった。

 

「―――これはどうゆう事だ?」

 

「うん?」

 

一誠はいきなり後ろから声が聞こえてきたので振り返ってみるとそこには本来ここには居ないはずの人物いや龍が居た。

ギラついた大きな牙、しっかりとした鋭い爪、どんな攻撃でもビクともしないような強靭な鱗、天を自由に飛ぶ事の出来る翼、どんなものでも一振りで薙ぎ払えそうな尻尾、睨まれたら身動きが出来ないほど力強さがある緑色をした瞳。

 

そこに居たのは『赤い龍』と言われ、天の名を冠する龍の帝王にして神と魔王を葬ったドラゴンが立っていた。

赤龍帝のドライグだ。しかし一誠は思った。

 

(何でこいつがここに居るんだ!?)

 

頭の中がパニックになっていた。一誠の人生でこれほどのパニックになったのはゼノヴィアの『子供を産ませてくれ』の次くらい驚いた出来事だろう。

だが、一誠は一旦冷静になった。以前からパニックになったとしても少しすると何故だか急に精神が落ち着くようになっていたのだ。

 

「どうしてお前が俺の精神世界に?」

 

「それはこちらのセリフだ。ここは『赤龍帝の篭手』の中のはずだ」

 

「「んん?」」

 

一誠とドライグの声が被った。お互いに今いる場所を自分の精神世界だと思い込んでいた。だが、それ以外に考えれないのも事実だ。

一誠はスクリーンと椅子があるからこそ、ここを以前来た精神世界だと確信していた。

ドライグは大昔に滅んだ自分の身体があるからここを『赤龍帝の篭手』だと思ったのだ。

なのにどちらの精神世界とはありえなかった。

 

「俺とドライグは繋がってないはずだよな?」

 

「ああ、そのはずだ。接触はしたが、俺とお前に繋がりなどあるはずがない」

 

「だよな……あ!もしかして……」

 

「何か心当たりがあるのか?」

 

「あれだよ」

 

「あれ?」

 

一誠はスクリーンを指差した。ドライグは一誠の指に先にあるスクリーンを見た。そこに流れている映像に目を見開いて驚いていた。

 

「な、なんだ!?あれは……お前か?真神一誠?」

 

「正確には兵藤一誠だ。赤龍帝のな」

 

真神一誠と赤い龍ドレイグを繋ぐのは間違いなく兵藤一誠の存在だ。

 

「なに?お前が俺の相棒だと?」

 

「だから俺じゃなくて兵藤だって言っているだろ?俺は真神だ」

 

「うむ……」

 

ドライグは一誠の横に座り一緒にスクリーンに流れる映像を見ていた。その内容はドライグにとって驚くべき内容だった。

自分が兵藤一樹ではなく横に座っている一誠の相棒として戦っていたのだ。

それは以前、ドライグ自身が一樹に言っていた事で望んでいた事だ。兵藤一樹ではなく真神一誠が相棒だったら、と。

 

(俺の言っていた事をこうして見る事になるとはな)

 

宿主が違うだけでこれもう違うのかとドライグは痛感した。今の宿主より映像の宿主の兵藤一誠の方がずっどいい。

しかし一点だけ、どうしてもドライグとしては許せない所があった。

 

(メスを求めるのはオスとして問題ないが、胸に対する欲求がストレートすぎるだろ……)

 

そう、兵藤一誠は女性の胸に対する欲求が凄かった。それもは歴代の赤龍帝よりもと言うより10代の少年にしてはだ。それにこれほどのバカは今までいなったほどだ。

しかも力の解放が毎回、胸を触ったりなどを求めてくるのだ。一々気にしては身が持たないほどのものだった。

 

「ホント、胸を求め過ぎだろ。兵藤一誠は」

 

「そうだな。相棒と比べると弱いが、それでも相性は抜群だろうさ」

 

「そのようだな。それにしても酷い技だ……」

 

真神一誠とドライグは今、冥界で行われたソーナ戦を見ていた。タンニーンとの厳しい修行を生き抜いた兵藤一誠の実力は確実に数段上昇した。

実力からすれば中級程度なら十分戦う事が出来るだろう。そして公式戦初となるソーナ戦で兵藤一誠はとんでもない技を生み出してしまった。

 

『これぞ、おっぱいの声を聞く技!乳語翻訳だ!』

 

そう兵藤一誠は女性の胸から当人の思考を聞き取ると言う世界でも絶対に誰も作らない技を作ってしまったのだ。

これには真神一誠も驚きを通り越して呆れていた。そもそもどうしたら女性の胸から声が聞こえると言うのだ。

 

しかし彼、兵藤一誠は女性に関して不可能はないと思える行動力を持っていた。もはや誰も兵藤一誠を止める事は出来ない。

もしかしたら神すらも止められないかもしれない。そして兵藤一誠はまたしてもとんでもない技を作っていた。

 

『これが洋服破壊だ!』

 

女性の服限定で発動する魔法を作ったのだ。触れた女性の衣服をズタボロにしてしまう恐ろしい魔法だ。

これには真神一誠は目を背けてしまった。まさか女性の服だけを綺麗に吹き飛ばす魔法を誰が思いつくだろうか?

だが、それを作ってしまうのが兵藤一誠なのだ。

 

(でも女性の動きだけではなく近くに居る男性の動きも止められる。ある意味、画期的な魔法なのではないか?)

 

真神一誠はある意味、兵藤一誠の生み出したものを肯定してた。それは間違いなく一誠だからだろう。

例え、進んできた道は違えど。自分自身を否定する事はなかった。

 

「はははっ!!まったく兵藤一誠は中々に面白い男だ!!」

 

「それは俺も思ったぜ。…………うん?」

 

この時、真神一誠はドライグの顔が先ほどまでと違って見えた。先ほどはどこか疲れたような顔をしていたが、今はそれが消えてスッキリしたような顔になっていた。

 

(こいつも疲れるような事があったんだな……)

 

ドレイグが疲れるような事は一樹の事だけだろう。二天龍の片割れを疲れさせる事をした一樹を一誠は軽蔑する事なく特に考えなかった。

 

「……まだ兵藤一誠が相棒だったら良かったものだ……」

 

「何かあったのか?」

 

「……今、兵藤一樹はリアス・グレモリーと姫島朱乃と寝ているのだ」

 

「寝ている?あいつ、高校生になって誰かと寝ているのか……」

 

「……済まない。俺が言っている。寝ているとは恐らくお前が思っているのとは違うだろう」

 

「?どう違うんだ?」

 

ドライグは真神一誠が言っている。『寝ている』は自分が言っているのとは違うとすぐに理解した。真神一誠が言っているのは親子のような川の字の事だろう。

しかしドライグが言っているのはまったく違う。

 

「つまり俺が言っているのは……俗に言う、交尾と言うやつだ」

 

「…………ああ、なるほど。それは済まん」

 

「分かってもらえてよかった」

 

二人の間で何とも言えない空気になってしまった。まったく違う意味をしていた。『寝ている』なのだ。

そもそも真神一誠には性知識が殆どない。赤ん坊はコウノトリが運んでこない事は理解していたが、行為そのものは理解していなかった。

 

「天龍でもストレスの限界か?」

 

「……そうだな。相棒は歴代の宿主で一番最悪の相棒だ。俺の忠告など聞かず、自分が世界の中心にいるような態度はホトホト嫌になっていたのだ」

 

「あの性格は死んでも直らないだろうな」

 

「ああ、そうだな。俺の我慢もこの辺りが限界か……」

 

ドライグは一誠の方に向き直した。するとドライグの胸から一つの赤い宝玉が出てきて一誠の手の平の上に落ちてきた。

一誠はドライグと宝玉を交互に見て首を傾げた。

 

「?これは一体、なんだよ。ドライグ」

 

「これは本来、相棒に渡すはずだったものだ。だが、奴には必要なさそうなのでな。ここで出会えたのも何かの縁だ。受け取ってくれ」

 

「いいのかよ……まあ、預かっておく。何かあればお前に返すよ」

 

「ああ、それで構わない。ではな……」

 

ドライグはそのままどこかに歩いて行ってしまった。一誠はドライグの姿が見えなくなるまでずっとドライグが去った方向を見ていた。

 

(お前も一樹に限界を感じていたんだな……)

 

一誠は一樹のこれまでの行動に問題を感じて我慢していた。だが、その限界も近くなっていた。一樹に対して何も感じなくなってもイライラは少しずつ溜まっていった。

しかしドライグは一誠以上に一樹に限界を感じていたようだ。それは当たり前だ。つねに近くに居たのだから。

 

「■■■……■■■……」

 

「あ、おい……」

 

居る事をすっかり忘れていた人型の宇宙がいきなりドライグから渡された宝玉を一誠から取ると一誠の胸に押し付けた。

宝玉はそのまま一誠の身体の中に消えていった。

 

「おい!……あれ?」

 

一誠が怒りをぶつけようとしたが、人型の宇宙はいつの間にか消えていた。仕方ないと一誠は諦めて現実に戻る事にした。

宇宙最凶の魔神の覚醒は果たされた。後は呑み込まれるだけだ。

 

さあ、世界よ!誕生を祝え!

 

宇宙を

 

星を

 

世界を

 

この世の全てを生み出した魔神の再降臨だ!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遊園地と襲撃者

「きゃぁぁぁああぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉぉ!?」

 

「やふぅぅぅぅぅ!!」

 

「すげぇぇぇぇ!!」

 

真神一誠は夏休みを利用して日本最大のテーマパークに来ていた。もちろん連れて来ているのはゼノヴィアを始め、ヴァーリチームの面々だ。

それぞれがテーマパークを楽しんでいた。一誠もこの手のテーマパークに来た事は今までなかったので大いに楽しんでいた。

 

ジェットコースターなどの絶叫マシンーに乗って楽しんでいた。今は夏休みと言う事もあり多くの家族連れが来ていた。

それを見た一誠はテンションが少し下がった。

 

(俺が普通の人間だったら両親に連れて来て貰えたんだろうな……)

 

後悔が無いと言えば嘘になる。両親の記憶を封印して自分の存在を消した一誠としても罪悪感が無いわけではない。

だが、これで良かったと思っている。自分はもう人でない。神すらも超越した存在の魔神になってしまった。

 

進んだ道を引き返す事は出来ない。進んだ先に何があるのかは誰にも分からない。しかし進む事しか出来ない者には足を止めると言う選択肢は無い。

一誠はこれまで見てきた。進むと決めた者の覚悟を。なら自分もそろそろ決めなくてはならない。

 

「イッセー!」

 

「どうした?ゼノヴィア」

 

「次はあれに乗ろう!」

 

「あれにか?」

 

ゼノヴィアが指差した乗り物はこのテーマパークで一番の絶叫マシンーだった。すでに乗っている人間の絶叫が一誠が座っているベンチまで聞こえてきた。

 

「よし!行くか!」

 

「ああ、他にもまだ乗りたい物があるんだ!」

 

「全部乗るぞ!残りの夏休みは全部、ここで過ごす予定だ」

 

「そうなの!?なら全て回れそうだ!」

 

それから一誠はゼノヴィアと時間が許す限りアトラクションに乗りまくった。冥界に行って日本に帰ってきてゆっくりと過ごせる時間が中々一誠は大いにテーマパークを楽しんだ。

 

「イッセー。私は向こうに行くがどうする?」

 

「少し疲れた。俺も少ししたら行くから気にするな」

 

「分かった!では後では!」

 

一誠と別れたゼノヴィアはさっそく気になったアトラクションに乗り込んだ。一誠はそれを見送った。

すると一誠がベンチに座るとオーディンが横に座ってきた。

 

「オーディンの爺さんはこの手の乗り物は乗れないはいいのか?」

 

「ほぉほぉほぉ……お前さん達が乗っているのを見ているだけで十分じゃよ」

 

「そうか……それで?動きはあったのか?」

 

「そうじゃな。近い内にこっちに接触して来るじゃろ」

 

「ふ~ん……暇しているんだな」

 

ユグドラシルにはオーディンの今後の他勢力との関わり方に不満を持っている神も少なくない。

だからオーディンは自分が命を狙われているのを承知していた。そこで自分を餌にしてその神を誘き出そうとしていた。

ユグドラシルに戻ると手を出してこないが、ここは日本。ここで何かあればその土地を管理している者の責任にする事が出来る。

 

そうなれば、ユグドラシルと三大勢力との関係は悪化してしまう。それはオーディンを狙っている者からしたら万々歳な事だろう。

しかしオーディンはそうはさせる気はない。だから護衛に一誠を連れてきた。

 

表向き一誠は冥界に居る事になっている。オーディンの護衛をしていない事になっている。そこがオーディンの作戦だ。

もし襲ってきても一誠よって返り討ちにされる。だからオーディンは自分を囮に使えるのだ。

 

「それでどうじゃ?」

 

「ああ、周りに結構な数が配置されているな。気づかないと思っているのか?」

 

「ほおっておけばよい。こちらに借りがある以上、それを返したいからのぉ」

 

「まったく一樹が余計な事をしなければ良かったのにな」

 

一誠は周りに配置されている三大勢力の者達を感じ取っていた。彼らの目的はオーディンの警護だ。

ミカエル、アザゼル、サーゼクスは日本に居る間、警護隊を準備していたが、それをオーディンが断った。一誠が居る以上、警護など不要だからだ。

 

そこで三人は警護隊をオーディンに秘密で派遣した。もしもオーディンがトラブルに巻き込まれた場合の事を考えてだ。

三大勢力はユグドラシルに借りが一つあるのでそれを返すのに必死なのだ。

 

「それにしても面倒だな……」

 

「どうしたんじゃ?イッセー」

 

「警護の中にグレモリー眷属が居るんだよ」

 

「ああ、あるほどのぉ」

 

そう、『あの』グレモリー眷属が居るのだ。数々の問題を起こしてきた三大勢力内でも扱いに困っている悪魔達だ。

本来なら彼女達はここに居るのは場違いなのだが、そこはシスコン魔王の職権乱用発揮をした結果だ。

 

もちろんそれにはアザゼルやミカエルは反対したが、悪魔の上層部の後押しのために護衛部隊に組み込まれたのだ。

だからアザゼルとミカエルは護衛部隊は自分達の勢力内でも精鋭の者達を送った。そして何か問題が起こった際にはグレモリー眷属を一誠から遠ざけるように命令されている。

 

一誠と一樹を近づければどうなるかをアザゼルとミカエルはこれでもかと言うくらいに部下に言った。

だからグレモリー眷属の周りにはバラキエルとガブリエルがスタンバイしていた。

 

(どう考えてもグレモリー眷属はないだろ……)

 

周りの気配を感知して一誠はグレモリー眷属だけはないと感じていた。バラキエルとガブリエルを入れるのは分かるが、グレモリー眷属だけはない。

そんなのはこれまでのグレモリー眷属の問題行動を見れば一目瞭然のはずだ。

 

「オーディンの爺さん。ちょっとトイレに行ってくる」

 

「分かったわい。戻ってくる時に何か飲み物を頼む。ちと喉が渇いたのでの」

 

「了解」

 

一誠はベンチから立ち上がってトイレに向かった。その時だった。一誠とオーディンの目の前に魔方陣が展開された。それは北欧で使用されているものだった。

 

「ついに来たかのぉ……」

 

オーディンの予想通りそこに立って居たのはオーディンと同じ北欧の神の一体、悪神ロキであった。

 

「ロキよ。一体、何のようじゃ?」

 

「もちろん、貴様の命を頂きにきたのだ」

 

「主神を亡き者にしようとはそこまで堕ちたかのぉ……ロキ」

 

「黙れ!貴様が勝手な事をし過ぎるのが悪いのだろうが!!あの人間の子供の事や三大勢力との接触など許しがたい!!」

 

ロキはオーディンの勝手な行動が許せなくてこうして出てきたのだ。オーディンはため息を漏らした。もう後戻りは出来ない。

 

(もう少し利口なら良かったんじゃがな……)

 

オーディンはロキの事をある程度は許すつもりでいた。自分を殺そうとしても同じユグドラシルの神なのだから。

だが、それはもう無いとオーディンは思った。

 

「なら精々気をつけるのじゃな」

 

「気をつけるだと?ふんっ!ついにボケてきたか!!」

 

「後ろじゃ」

 

「後ろ?」

 

「―――よぉ、駄神。元気にしていたか?」

 

ロキの後ろに立っていたのは一誠だった。一誠の事を認識するとロキの顔が一気に青ざめた。たださえ色白の顔がさらに青白くなったのだ。

ロキは忘れた事はない。真神一誠がどれだけの脅威なのか。ユグドラシルで一番に一誠の危険性を理解しているのはロキなのだ。

 

「おら!!」

 

「がはっ!?」

 

一誠はロキに腹パンを一発かました。ロキは数メートル吹き飛んだ。ロキは腹を抱えて痛みに悶えていた。

ボーンを纏っていない一誠の拳はどんな相手だろうと悶絶するほどの威力を持っている。

 

「な、何故!?貴様がここに居る!」

 

「何故って……俺はオーディンの爺さんの私兵だぜ?近くに居るのは当たり前だろ」

 

「で、では冥界に居るという情報は……」

 

「その情報は半分正しい。冥界には行ったが、ちょっとして帰ってきたんだよ」

 

「糞が……!!」

 

ロキは苦虫を潰した様な顔になっていた。ロキのオーディン殺害計画は一誠が居ない事が前提なのだ。計画を修正する必要があると考えているとロキの周りに三大勢力の隠れていた護衛達が囲んでいた。

 

「オーディン様!お下がりください!!」

 

「拘束しろ!!」

 

「魔王様に報告だ!」

 

「アザゼル総督とミカエル天使長に連絡だ!」

 

三大勢力のオーディンの護衛はロキを拘束して自分たちの上司に連絡を取ろうとした。その時だった。ロキがニヤリと不気味な笑みを見せた。

 

「ぎゃぁぁああぁぁぁ!!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「き、気をつけろ!!」

 

「うわぁぁぁ!!」

 

ロキを拘束していた者達が次々と何かに殺された。しかも殺された瞬間を三大勢力の者達は捉える事が出来ないでいた。相手が早いのだ。

 

「クロ!」

 

「ウォン!!」

 

一誠のペットのクロが威嚇すると先ほどまで捉える事の出来なかった相手がついに止まって正体が見えた。

クロと殆んど同じ大きさの狼だったのだ。クロと違い毛並みは灰色だった。

 

「まったくフェンリル相手じゃ流石に荷が重いか……クロ、足止めしていろ!」

 

「ウオォォォォン!!」

 

一誠の指示に遠吠えで答えたクロは目の前のフェンリルを全力で威嚇した。フェンリルも自分と同格の存在に動けなかった。

自分の主人であるロキの命令で周りの者達を殺さなければならないが、それをすれば隙を作ってしまう。そうなれば、確実に目の前の者にやられる。

だからフェンリルは動けなくなってしまった。

 

「おい!あの役立たずが!!」

 

「おいおい。自分のペットに怒りをぶつけるなよ」

 

「真神一誠……」

 

動けないフェンリルに怒りをぶつけたかったが、目の前に居る者をどうにかしないとロキは頭を働かせた。

腹のダメージがまだ痛く思考が上手く纏める事が出来なかったが。

 

「まあ、いい。お前が居るならお前から殺せばいいだけの話だ!」

 

「お前に殺せるのか?腹が痛くて動けないだろ?」

 

「お前を殺すのは私ではない」

 

「何?」

 

「―――隙だらけですよ!真神一誠!!」

 

一誠の背後に新たな神が出現した。名はヘル。死の国を支配する女神でロキの娘だ。一誠がロキに気を取られている間に背後に回ったのだ。

いくら一誠が強くてもゼロ距離からの攻撃を生身で受けてしまえば、ただでは済まない。

 

だけど、ヘルの攻撃は一誠には当たらなかった。いや、身体をすり抜けたのだ。そして身体がグニャリと曲がり消えた。

ロキとヘルは周りを見渡した。確かに一誠はそこに居た。だけど、先ほどの現象はどう見ても幻覚だ。しかし自分達がいつの間にか一誠の幻術に掛かったのか分からなかった。

 

「ど、どこだ!?」

 

「私達が幻術に……いつから!?」

 

「―――最初からだ」

 

「「なっ!?」」

 

一誠の声が聞こえたと思ったら景色が一変した。遊園地かと思っていた場所は何もない場所だった。オーディンもいつの間にか消えていた。

 

「お父様!空を!」

 

「空だと……こ、これはどういう事だ!?ここは……」

 

「そう冥界だよ」

 

一誠とロキ、ヘルは冥界に来ていたのだ。ロキは改めて一誠の姿を見たが、そこに居た一誠は生身ではなくボーンを纏っていた。

しかし一つだけではない。三体のボーンを纏っていた。さらに一誠の背後には紫色の立方体に座っているマジシャンのような格好をした何かが。

 

「さあ、神狩りの時間だぜ!ロキ!!」

 

最凶の魔神と悪神の戦いが切って落とされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。