第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐― (ケット)
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ファウンデーション/時空の結合より半年

 百万の天球の結合。それは多くの並行時空を、門でつないだ。
 多元宇宙の歴史という本が貫かれ、ページがばらばらになって継ぎ合わされたように。
 それぞれの銀河で『覇』を競う英雄たちが、圧倒的に広くなった多元宇宙そのものを舞台に野望を追った。
『すべてを俺のものに』それが、英雄たちの共通の意志。
 愛のために、愛する故郷を、人々を守るために戦った人たちもいた。信じるもののために自らを犠牲にする人もいた。
 さらに、多くの時空は別の、人ならぬ脅威の襲撃も受けた。時には幾つもの帝国が連合し、一つの銀河を救うために奮闘することもあった。
 円卓の騎士たちはキャメロットを離れ、タネローンという聖杯を目指し、そして守ろうと奮闘した。
 これは、幾多の並行時空が絡み合い綴れ織られた、歴史という終わりなきサーガの一篇である……

*〈ファウンデーション〉シリーズ(アイザック・アシモフ)の重要なネタバレがあります*


 ある時空の銀河帝国が、まだ強大で豊かだった時代。一人の学者……ハリ・セルダンが帝国の衰退に気づいた。

 心理歴史学。たとえるならば、気体原子運動論……一つ一つの原子の動きは予想できなくても、億・兆よりもさらに上の数字の原子の集まり、全体の挙動は容易に計算できる。

 同じように、とてつもない数の人間が集まれば、その挙動は数学的に予測でき、そして操ることができる。

 計算結果。『銀河帝国の衰退と滅亡は止められない』しかし、『三万年の無政府状態を、一千年にすることは可能』

 セルダンにできる最善のことは、後者の予想を実現することだった。彼は学者仲間たちとともに、帝国の腐敗した裁判制度を利用して追放の身となり、間もなく死んだ。……最果ての資源の乏しい惑星ターミナスに、銀河百科事典を作る『財団(ファウンデーション)』が遺された。

 それから数十年、セルダンは死に、銀河帝国が力を失って近隣の豪族にターミナスも狙われた。

 そのとき〈セルダン・プラン〉が発動した。一見詰んで見える状況……技術しかない、軍事力のない少数の国。沈滞した社会。だが、進取の気性を持つ一個人が、ただ一つしかない解決策を選び押し通すことで見事に逆転し、独立を維持し社会を変革した。

 原子力技術を用いた、勢力の均衡で。それは危機のたびに繰り返された……技術の飾りのはずだった宗教。貿易。

 そうして、ファウンデーションはいつしか強国となっていた。だが、ファウンデーションは突然、セルダンにも予測不能と思われる、ミュールという突然変異(ミュータント)の個人によってなぎ倒された。

 

 さらに、セルダンも予測できなかった要因はもう一つ加わる。

 多元宇宙がつながり、この銀河そのものと、いくつもの別の宇宙の帝国が出会ってしまったのだ……

 崩壊したプランを再修正するには、心理歴史学が必要だ。

 心理歴史学の知識を持つのは、今や『銀河の反対側』に隠れ潜み、ミュールの激しい追及を逃れている、第二ファウンデーションのみである。

 その複雑な数式には、多くの定数が代入され、それが新しい数学を切り開く。

 支配されたファウンデーションの力強い人たち。ミュールの手を逃れ、今もファウンデーションの理想のために戦う人たち。

 多元宇宙の幾多の帝王たち、そしてその臣民も、同じく拡張された数式に代入される数値にすぎない。

 

 

 かつて快楽の観光惑星だった星に、〈世界連邦〉の君主がいた。

 その顔を知る人自体ごく少ない。親衛隊もいない。大衆の前でのパレードや儀式をせず、肖像や似顔絵も許さない。さらに異様なのは、彼には家族がなく、ハーレムも作っていないことだ。

〈第一市民〉という、飾り気のない肩書。ミュール(ラバ)という、奇妙な名。

 外見は痩せこけた、異様に長い鼻の男。人類世界の第二法則、「指導者はアルファオス、すなわち平均より身長が大きく体力に優れる」を裏切っている。

 ただしこの第二法則は歴史上何度も裏切られてはいる……ナポレオン・ボナパルトやアドルフ・ヒトラーの名を挙げるまでもあるまい。ミュールがこの地位にあるのは、その二人ともまったく違うものだ。

 その眼には、銀河の十分の一を支配してもなお満ちることのない悲哀がたたえられていた。だが、それを知り憐れむ者は、この時空に一人しかいない。その一人とは永遠に会うこともない……彼女は人しての共感と友情よりも、夫と〈セルダン・プラン〉を、ミュールを憎むことを選んだのだ。

 ミュールの統治は非情にして有能。支配下の奴隷たちがフォアグラ用ガチョウのように喉に押しこまれたもの……秩序と平和。衣食住。峻厳だが公正な法の支配、治安。医療と教育……特にファウンデーションが独占していた原子力技術の公開。実力主義の人材登用。安定とチャンス、経済成長……仕事と賃金。封建と戦乱の悲惨、支配者の気まぐれと残酷よりずっといい暮らし。愛国の誇りと魂の自由以外、すべて。

 最大多数が、ミュール以前よりいい世界にいるのは間違いない。特に、腐敗と圧制のきわみにあったファウンデーションの民こそミュールに感謝すべきだ。理性的には。

 

 ファウンデーションを落とした男、第一市民ミュールがまず最優先で調べているのは、第二ファウンデーションの位置である。そのために帝国の拡張すら止めているほどだ。

 そして、最近報告された別宇宙の艦隊についての情報。

「どこに門があり、どんな手段でやってくるのか。向こう側に何があるのか」

 そう、その強力な超能力で転向させられた、何十人もの有能な人が……そして切り札として、転向させられていない人たちが送り出された。

 銀河のすべてを、そしてあらゆる並行時空のすべての星を支配するために。敵を知るために。

 

 まず使者を送ってきたのは、いくつもの「別の宇宙」の一つ、〔UPW〕を名乗る組織だった。

 強力な戦力を持ち、二つの時空を支配し、人がいない多数の時空の門も握っている。だが自分からは攻撃せず、まず交渉を求め、〔UPW〕への加入を求めてくる。

「多くの戦争で鍛えられた精鋭です」

「根本的には貴族主義ですが、トランスバール皇国の若い女皇シヴァが開明的で、急速に民主化と実力主義による人材登用が進んでいます」

「紋章機と呼ばれる少数の大型戦闘機が、桁外れの戦力を持っているようです」

「ゲートキーパーと呼ばれる、一人の能力者が並行時空への出入りを支配しているようです」

「〔UPW〕長官のタクト・マイヤーズはゲートキーパーの夫だということです」

「別の時空の帝国に、トランスバール皇国が攻撃されているそうです」

 それら情報がミュールの手元に集まる。

 

 ついで、警告もなく攻撃してきた艦隊があった。

 皇帝パルパティーンが派遣した、超巨大戦艦スター・デストロイヤー。

 帝虎級を前面に立て、破壊と殺戮の限りを尽くす練。

 すべての他者を敵としか見ないコロニー連合。

 

 竜牙雷率いる五丈、グレゴール帝治めるバラヤー帝国は武器をちらつかせつつ交渉してくる。

 ピーターウォルド家は交渉と交易と見せながら、制圧のための戦力を送ってくる……と、ロングナイフ家は警告してくる。

 

 ミュールは、使者や敵の捕虜と直接会うことはなかった。転向もさせなかった……相手の技術水準や超能力の有無がわからないからだ。超能力シールドと探知器を持つ相手や、自分以上の超能力者に感情制御をかけようとしたら目も当てられないことになる。

 むしろ、道化に扮して下級者と接し、肌で情報を手に入れようとした。

 戦争を仕掛けることはしなかった。

 最低限の防御に徹して、他の余力は相変わらず、第二ファウンデーションの探索に回した。

 今や、第二ファウンデーションの脅威だけが、並行時空の艦隊から帝国を守り、反撃の糸口になる最大の武器になると、ミュールは知っていた。

 

 

 第二ファウンデーション。そこの人々は情報を集め膨大な数式に代入し、計算を続けていた。

 その成員は、言語を用いた会話などしない。だが、あえて言語に翻訳しよう。

「この、多数の並行時空がつながるという現象は、ミュール同様〈プラン〉にとって破滅的です」

「そして、並行時空の帝王たちは、心理歴史学という学問について知ろうとするでしょう。自らの帝国を永続させるための、最終兵器になるのですから」

「われわれの銀河の前帝国は、衰退しうぬぼれていました。だから心理歴史学を利用して自らの王朝を永続させよう、という発想は誰も抱きませんでした。しかし、並行時空の英雄たちは若く、たけだけしく、柔軟な心を持っているのです」

「皮肉なことに、ミュールが我々を守っているようなものだ」

「また、並行時空には異星人が存在する宇宙もあります。それは心理歴史学の第三法則に抵触し、〈プラン〉を崩壊させるものです」

「われわれがすべきなのは、すべての並行時空とミュールを項に入れて、〈プラン〉を再設計することだ」

 そのような会議があって間もなく、彼らはこの宇宙から消失した。

 ミュールが必死で追い求めている謎……第二ファウンデーションの位置、『銀河のもう一つの端』。かつての銀河帝国の首都、今は帝政末期の大略奪によって農業惑星に戻ったトランター。

 その、大略奪からも保護された帝国図書館を含む、それ自体が脱出用の巨大戦艦となっていた地域が、突然消え失せた。

 そして消えた中には、ミュールから隠れてファウンデーションの再興を待ち、農業世界で働いているベイタ・ダレルとトラン夫婦、その小さい子もいた。

 それは、ミュールのもとにも届かないほど小さいニュースに過ぎない。

 ただし、銀河各地に散る第二ファウンデーションのエージェントは、消え失せた第二ファウンデーションと奇妙な方法で連絡を維持していた。時空の壁も貫いて心の連絡ができる、複製も分析もできないレンズを持つ男たちを通じて……




ファウンデーション
ギャラクシーエンジェル2
スターウォーズ
銀河戦国群雄伝ライ
老人と宇宙
ヴォルコシガン・サガ
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ギャラクシーエンジェル2/時空の結合直後

GA2『永劫回帰の刻』完結後。タクト~ミルフィー、カズヤ~リコのルートです


「とんでもないことになったものです」

 ルフト宰相がため息をつく。

 トランスバール皇国。本星は今も再建中である。エオニアの攻撃は本星の環境も深刻に損なう水準だった。

 そしてシヴァ女皇は、自らの宮殿などより一人でも多くの、餓死や渇死、窒息死に瀕する民を助けるために資金と資源を注ぐよう、当時から厳しく命じていた。

 さらにその後の戦いで、EDENを解放し援助し、次いでヴァル・ファスク領星を多数勢力下におさめたため、確かに技術水準は向上し交易で潤いもしたが、出ていく金も大きい。

 そのためまだまだ質素きわまりない宮殿で、ルフト宰相が報告書を女皇に差し出した。

 

 多数の時空をつなぐ〈ABSOLUTE〉をトランスバール皇国が発見して自らの時空を〈EDEN〉とし、間もなく〈NEUE〉を発見した。それがきっかけに〔UPW〕(United Parallel World)が設立され、トランスバール皇国に限らずEDEN、ヴァル・ランダル、〈NEUE〉からも人材が集められた。

 しばらくは、四つの衰退した文明以外に、人がいる時空は発見できなかった。

 だがウィルを撃退して間もなく発生した奇妙な時空震の直後、いくつも、多数の人間が生存し……高度な文明を持つ銀河と接触してしまったのである。

 

 星京(ほしのみやこ)を中心とする、比較的安定しているが争いもある銀河。

 巨大な帝国が崩壊し、多数の群雄が割拠する銀河。

 謎に包まれ、交渉不可能なバルマー帝国が支配する銀河。ただ、そこにはトランスバール人に近い人類が生息している……ただその地球は、異常なほど内戦が絶えない。

 ゴールデンバウム銀河帝国と、自由惑星同盟が争う銀河。

 さらにそれぞれの時空は、また別の並行時空ともつながっており、そこにはもっと激しい侵略性を持つ帝国もあるらしい。

 ほかにも見つかってもおかしくはない。

 

 それらは〔UPW〕への加入を拒み、逆にトランスバール皇国に服属を迫る勢力もある。〈ABSOLUTE〉を閉ざすと脅しても見るが、〈EDEN〉銀河の別のところにも門が開いてしまったりする。

 今判明している、廃墟と化したローム星の近くに開いた門の先は安定した文明が、強大な宇宙海賊と激しく争っているようだ。

 

〔UPW〕のリソースにも限界がある。確かに戦力は高いが、実質的に敵に勝利できるのはエルシオールなき今、ルクシオールだけだ。それ以外はいくら数がいても、ほとんど戦力にはなっていない。

 だからこそ紋章機の量産が急がれてはいるが、いくらノアが徹夜しても一夕一朝でできることではない。〈黒き月〉の技術を応用した無人艦・少人数艦は多数あるが、戦力としては正直あてにならない。

 

「そう、いくつもの勢力の、力を均衡させるのが最善と思われます」

 ルフトの言葉に、シヴァが思慮深く目を伏せる。

 驚くほど若い……まだ少女と言っても差し支えはないだろう。だが、若さと美しさのみではなく、多くの経験を積み苦悩を知り尽くした強靭さがその表情にはある。

「特に、〈星京(ほしのみやこ)〉に属する星涯(ほしのはて)の企業や政府が、『あれを持っているだろう、よこせ』と脅迫してきます。そしてその、『あれ』が何なのかをはっきり言わないのですよ」

「それではどうしようもないな、『あれというのがなにかわからない』と返すしかない」

「まったくです。相手がそれを信じない以上、要求はより激しくなるでしょう。ただ、その『あれ』かもしれないもののヒントがあります。銀河パトロール隊が支配する時空とつながるところでは、細胞活性装置とかいう道具を用い、事実上不老不死になっている指導者たちがいる、という情報が入っています」

「恐ろしいことだな。誰もがそれを血眼に追い求め、多元宇宙そのものが戦乱の巷と化してしまうであろう。むろん、余はそんなものは求めはしない」

「ご立派です、陛下」

(といっても、その美貌に衰えが出たら……いや、そのころにはわしは生きてはおらぬ)

 ルフトが静かに人の業を見つめる。

 

「順番にこなしていこう。〈NEUE〉は?」

「はい、現在のところ特に問題はありません。アライアンスの抵抗はありますが、それも大きな変化はないものと」

 レスターがタクトに代わって報告する。

 シヴァ女皇はにこりと微笑みかけ、レスターの堅苦しい答礼を受ける。

 すぐに次の者を振り向く。

「帝国が滅んだばかりのあの銀河、最大勢力はミュールとやらの〈世界連邦〉。前の報告を受け、確認した。それ以降の進展は?」

「は」

 外交官がひざまずいた。

「そことの交渉は?」

「支配者であるミュールとの会見はかないませんでした。誰とも会わない君主のようです。最前報告したように、肖像画や写真もありません。

 ほかの小国といくつか接触しましたが、〔UPW〕の基本方針上、体制が整っていない宇宙に無理な干渉はできません。

 ただ、面白い噂を聞いています。銀河帝国が盛んだった数百年前、ハリ・セルダンという学者が心理歴史学という学問を興し、帝国の滅亡を予言したそうです」

「予言者ならどこにでもいくらでもおる」

 ルフトがしかりつける。

「ごもっとも。説明を続けることをお許しいただけるなら、それは数学に裏付けされ、実際に予言通りに帝国が滅び、セルダンが次の帝国となるべく準備していたファウンデーションという勢力が勃興したそうです。ミュールに占領されましたが」

「ふむ」

「その、未来を予測し操る、という技術も注目すべきですな」

「だが、帝国が滅びるのを止めることはできなかったというぞ……よい、よく調べてくれた。これからも争いが起きぬよう、これまでと同じく忠恕を忘れるでないぞ」

「は」

 女皇の笑顔と信頼という、何よりの報酬を受けた外交官が引き下がる。

 そして次。

「カザリン・ケートヘン一世陛下の代理として、ラインハルト・フォン・ローエングラム宰相閣下からご挨拶があります」

「ふむ」

 と、ルフトとシヴァは手紙を何度も読み返す。

「〔UPW〕への加入は拒むが、相互不可侵か」

 ルフトが不満げにつぶやく。

「人としての感情は漏らしていないな。美辞麗句、だからこそ」

 シヴァはそれに不満そうだ。

「同盟は相変わらずなしのつぶてですが、ヤン・ウェンリー殿から、この加工画像のみ暗号通信です」

 別の技官が報告し、それ以上を言おうとせず冷や汗をかいている。

「どうした?見せよ」

「その、それが」

「どのようなものでもよい。真実のみを求める。たとえこちらが十隻の艦を持ち、そなたが敵が万隻だと報告しても、それを罪として斬りはしないし、ルフトが止めてくれるであろう」

 ルフトが瞳を輝かせてうなずく。

「事実を」

「は」

 と、震えながら技官が、プリントアウトを手渡す。

「ほう」

「おお」

 ルフトとシヴァが考え、相好を崩した。

「皆に公開しよう」

 シヴァはそう笑って、実行した。

 居並ぶ臣下たちは激しい好奇心に身を乗り出して画像を見、一瞬笑いそうになり、慌てて感情を殺した。

「笑ってよいぞ」

 と、シヴァがまず大笑いする。

 小さい子供が一人食卓についてフォークとナイフを手にしている。その食卓は巨大で、そこには巨大な家畜の丸焼き肉がどん、と置いてある。

 明らかにその子の体重の百倍はある。

「戦力もないのに多くの銀河を制しようとは愚かしい、そう言っているのですな」

「まさしくその通りなのだから、怒りもできぬ」シヴァが大笑いを続け、すまなそうにノアを振り向いた。

「そなたが、〈黒き月〉の技術すら封印を解いて戦力を増やしてくれていることは知っている。だが、この事態に対応するのに必要な戦力は、さらに桁外れなのだ」

「わかってるわよ、あ・り・が・と・う」ノアはつんつんと答えた。

「さて、ではどうしようというのかな?」

 シヴァの言葉に、全員がしんとなった。

「十分な戦力をそろえて、すべての銀河を平定しよう……というのは誇大妄想であり、いたずらに民を苦しめるだけだ。だが、巨大な戦国を傍目に見て、皇国の国益だけを思って戦えばよい、も、それでは大切なものを失い……これまでの戦役で死んだ英霊たちを裏切ることになる」

 シヴァの静かな言葉に、皆がしんと首を垂れる。

「皆、考えてくれぬか?わしも考える」

 焦ったようなルフトの言葉に、シヴァとルフトがはっとなった。

「そう、考えればよい。多くの、すでに人がいる並行時空、そのどこにもヤン殿のように、ものを考える人はいるだろう。集めるのだ、頭脳を」

 

 数日後、〈ABSOLUTE〉からつながるすべての時空に、またそこからつながる時空へも、あるいは公式の、あるいは貿易商人を装った使者が飛んだ。

『賢者よ集え。多元宇宙のつながりが戦乱となり民を苦しめることを防ぎたい。知恵を集めよう。

 皇国の国益のためにあらず。

「私利私欲・自国の国益を脇に置いて考えられる」、「人間の弱さ、この世は思い通りにならないことを知っているが絶望はしていない」この二つさえ満たせば、学問や地位にかかわらず賢者である』

 というメッセージとともに。




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スターウォーズ/時空の結合より2カ月

 銀河帝国と反乱同盟軍の戦いは続いている。

 第二デス・スターの建造の情報が流れており、反乱同盟軍はそれを破壊する作戦を練っている。

 だが、帝国の戦力は分散を始めた。

 多数の並行時空とのつながりに乗じ、そのつながった時空を支配するための戦争に、多くの艦船将兵が、この時空を離れているのだ。

 逆に並行時空から攻め寄せた軍勢と、帝国軍の戦いも起きている。

 それに乗じて、反乱同盟軍に、別時空の勢力に救援を求めようとする動きもある。

 

 そんなとき、レイア姫とハン・ソロを救出したルーク・スカイウォーカーは、ジェダイの騎士として修行を終えた。

 師ヨーダはフォースの霊体と化したが、ダース・ベイダーこそルークの父アナキン・スカイウォーカーであるという衝撃の事実とともに、「タネローンを探し守れ」という奇妙な指示を遺した。

 彼はまず、助け出されたばかりの友ハン・ソロに、その件について相談した。

「タネローン?聞いたことがねえな」

「レイアは?」

「わたしも聞いたことがありません」

 宇宙のあちこちを回った密輸商人であるハン・ソロ、そして王女にして元老院議員のレイアの二人とも聞いたことがない。

「どこに行けばいいのか、それこそ最近つながったっていう、別の宇宙にでも行くしかないか」

「ですが、そのような暇があったら第二デス・スターを調べて、破壊しなくては」

 そこにランド・カルリシアンがやってきた。

「いや、それを言うならソロの救出や、それまでルークがしてきた修業も、同盟軍を無視していた。しかし結果的に士気は高まった。

 タネローンの探索も長い目で見れば、同盟の勝利に貢献するよ」

「そうですね、将軍」

 レイアが高貴に微笑みかける。

 そして正式な任務としてアクバー提督の許可を受け、ルーク、ハン・ソロ、チューバッカ、C-3PO、R2-D2の五人は、ルークが感じるフォースの導きに従って旅に出た。

 辺境の星域だが、最近別宇宙へのゲートができたというエレム星に。

 

 エレム星は赤色巨星と白色矮星の二連星で、人類の居住には適していない。

 しかし、二重星から離れた軌道を回る大規模な小惑星帯から、特殊なコンピューターに必要な希少素材エレミウムが得られるため、ちょっとした無法の鉱業都市となっていた。

 その小さな港は今、別時空からの商人と、別時空への調査・征服を始める銀河帝国艦船などが集まり、一気に人数が膨らんでいる。

 その混乱の中に、ソロたちは紛れこんだ。もちろん帝国から見れば最重要指名手配人物であることは百も承知だ。

 ミレニアム・ファルコンはやや離れた小惑星に隠し、目立ちすぎるチューバッカは留守番に、おんぼろロケットでプレハブの街に出る。

「すごい人が多いな」

「こういうところには儲け口がたくさんあるぜ」

 向こうの街路では、たくさんの美女や若者が一人の、薄汚れた隕石鉱夫を追って歩いている。

「ワイルド・ビル・ウィルアムスだ!」

「ついていこうぜ、また大鉱脈当てたってよ!」

「大将!あいっかわらずいい飲みっぷりだ!」

「すてきぃっ!」

「ビル!ビル!」

「宇宙一の拳銃使い!」

「ビル!ビル!ビル!ビル!ワイルド・ビル・ウィルアムス!」

「妙な騒ぎだな」と、ルークがそちらを振り向こうとして、素早く心に鎧をまとう。

(とてつもない力の持ち主がいる。普通の人に見せかけるんだ)

 冷や汗を流すルークの肩に、ハン・ソロはのんきに腕を回した。

「こういう街が好きなんだよ。賭博場は……」

「だめだソロ、止めろってレイアにいわれてる」

 ルークが止めるのに、ハン・ソロは手を広げた。

「おいおいお堅いなあ坊主、女のいうことに従って大の男がなすべきことをするのを止めるのか?」

「どうせまたすってんてんになってトラブル起こすにきまっている、とランド将軍もおっしゃっておられましたよ」

 C-3POの言葉に、R2-D2がピポ、と電子音を漏らす。

 ソロが言い返そうとした瞬間に、激しい喧騒と悲鳴が響いた。

 手練れたちは素早く身構える。

 ストームトルーパーが、長身の若い男女+メイドの三人を追って、目の前に飛び出してきた。

 三人とも重武装し、抵抗している。重装甲のストームトルーパーだが、的確に隙間を撃ち抜いている。

 二人のストームトルーパーが、近くの店で茶を飲んでいた、頭に布を巻いた少年が放った紐に足を絡まれて倒れた。

「いい腕だな」

「それどころじゃ」

 とルークが言った瞬間、ストームトルーパーはソロに発砲、ルークはとっさにライトセイバーではじき返してしまった。

「あ」

 ストームトルーパーたち、さらに街のならず者たちも目の色を変える。

「まずいですよルークさま。帝国最重要指名手配犯のあなたたちを捕まえれば、千人が一生遊んで暮らせる金額に」

「黙れ」

 ハン・ソロがC-3P0にすごむ。

 あっという間に、ストームトルーパーのみならず、周囲の群衆からも血に飢えた悪漢どもが進み出てきた。

 だが、奇妙なことに一発の銃弾……布を頭に巻いた少年が放った、古い火薬式の銃……がきっかけで、むしろ帝国兵と悪漢たちが争い始めている。

 その、わずかな力の空白。

「こっちだよ、兄ちゃん、姉ちゃん」

 ルークたちと追われていた三人は、少年に導かれるように人波の隙間に走った。

 追われていた側の女性が何かつぶやくが、言葉は通じない。

「罠じゃねえか?」

 ソロのつぶやきにルークがうなずく。

 いつか、少年の姿は消えた。

 路地の中の、ちょっとした空地。そこには、黒ずくめのマントとストームトルーパーと同じマスクの巨漢が待っていた。

「ダース・ベイダー」

 ソロが恐怖を押し殺す。カーボン冷凍の苦痛は思い出すだけでも全身が震える。

(父さん)

 ルークの心が叫んだ。

 ダース・ベイダーが静かに反応する。

「来るのだ」そう言って、ルークを見る。また、ルークたちにはわからない言語をコンピューター発声しつつ追われていた娘を見る。

 ダース・ベイダーの機械呼吸音が静かに響く。

 娘が、同じくわからない言語を口にしつつ、ベイダーのほうに決然と歩もうとする。

「だめだ」

 ルークが止めた。理由もわからず。

 追われていたほうの、男とメイドが娘に警告する……

「狙撃兵か」

 ソロはすぐにわかった。

「上空に中型艦」

 娘の、口が動いていないのにルークたちにわかる言語で声がする。

「もうだめです!」

 C-3POが叫んだ、その時。

 ダース・ベイダーも小さく見えるほどの巨漢が、鉄塊のごときハルバードをふるってダース・ベイダーに打ちかかる。

 柄を切り落とそうとしたライトセイバーは、別方向から放たれる光弾に吸い寄せられた。

 宇宙斧がベイダーの身体に食い込もうとした瞬間、ベイダーは高いジャンプでかわし、もう一発の光弾をはじく。

 遠くのビルから放たれる光弾を、ルークのライトセイバーが正確にはじき返した。

 さらに、上空で爆発音。

 気がつくと、ダース・ベイダーと、見覚えのある小汚い隕石鉱夫が対峙し、互いにすさまじい力を放ち合っている。かたわらには斧槍を持つ巨漢。

「フォース?違う、でも」

 ルークの声に、ソロは戦いながらいぶかしんだ。

 突然、ベイダーのライトセイバーが振りかぶられるが、そのまま硬直した。

「伏せて!」

 娘がハンドサイン付きで叫んだ、言葉はわからなくとも何人かは地面に身を投げる。

 爆発、別の方向でも激しい銃撃戦が起きる。

「行くぞ!」

 爆発で吹き飛んだ壁の穴から、ダース・ベイダーに呼ばれた娘が率先して走る。奇妙なことに、彼女の胸の片方はしぼんでいた。

「胸パッドが爆弾だとぉ?」

 ソロのデリカシー皆無の一言。翻訳機を持っているらしく、三人は殺気を込めてにらむ。

 いつしか、数人の重装甲兵が群衆の間から出現し、三人を援護しはじめた。

 ルークたちには言葉がわからないが、

「こっち」「はやく」

 と、女の肩からルークたちにもわかる言葉が出る。

 グレネードが乱射され、煙が渦巻く。

 強引に、ほとんど落下するように降りてきたシャトルに、次々と重装甲の海兵隊が乗る。

「早く」

 真っ先に飛び乗ったメイドが、武器を長い狙撃銃に切り替えて連射する。

 だが、もう二人……ロングナイフと呼ばれた女と男は、最後まで乗ろうとしない。

 C-3POとR2-D2、ソロは素早く乗る。だが、ルークと男女、隕石鉱夫は最後まで戦い続ける。

 ルークが光弾を次々とはじき返しつつ、

「さっさと乗れ!」

 と叫んだ。

 男も何か叫ぶ。

 女が叫ぶのを、面倒になったのかハン・ソロが強引に引きずりあげる、その一瞬前まで彼女がいたところが大口径弾にぶち抜かれる。

「上げろ!」

 叫びとともに、ルークと男がドアに飛び込む。ドアが上がりながらシャトルは地面を離れた。

 

 静かに見送る、ダース・ベイダー。

 隕石鉱夫の姿は、いつの間にか消えていた。

 

 

 上空で、帝国の中型艦を撃破しシャトルを収容した艦が待っていた。

 そのブリッジで、胸の大きさが左右違う女が不敵に微笑む。ハン・ソロが、腕を組んで三人の男女をにらみつける。

「さて、自己紹介といこうかしら」

 また、口を動かさない、ルークたちにわかる言葉。

 そして、驚いたことに艦の壁が変形し、女の胸元から響く電子音を聞いたR2-D2が端子を伸ばして接続、さらに数秒間C-3POのあちこちが光る……

「はい、新規言語データ受領しました」

 C-3POが通訳を始める。

「こちらは、知性連合海軍大尉、クリスティン・アン・ロングナイフ王女でございます。並行時空とのゲート現象の調査のため、このワスプ号でこちらにいらしたとのことです。外交交渉ができる相手を求めて」

「こちらの帝国とは、外交交渉は難しいと思いますよ」

 ルークが苦笑気味に言い、C-3POが通訳する。

「ぼくはルーク・スカイウォーカー。こちらはハン・ソロ。これはC-3POとR2-D2。ぼくたちは反乱同盟軍の士官で、同じく並行時空の調査に出ようとするところだ」

 じろり、とソロがクリス側の、メイドと男を見る。

「クリスお嬢さまの専属メイド、アビーと申します」

「護衛のジャック中尉だ」

「それより、下が騒がしくなったんなら、とっとと俺のファルコンに行きてえんだよ」

 ソロが言う。

「ワスプ号にようこそ、艦長のブレット・ドラゴだ。今はステルス形態に変形したまま、漂流を装ってる」

 と、いかにも海賊風の艦長が告げた。

 ドラゴ艦長とハン・ソロはちらりと目を合わせただけで、何か通じ合うものを感じたようだ。

「ちょっと待ってくれるか?」

 ルークが船の一方を見た。

 同時に、クリスもうなずく。

「船に侵入者がいるわ。さっきのどさくさで入ってきたのね。ネリー」

(侵入者をこっちに)

 クリスの声のない命令に従い、ネリーから船のスマートメタルに連絡が行く。

 それで変形した船は、錨庫の隙間に潜んでいた少年を引っ張り出してきた。

 だが、戦塵に慣れた船長たちの目には、その年齢と豊富な実戦経験は一目で見てとれた。

「へへっ」

 悪びれもせず、武器を向けるクリスたちに微笑みかける。その人懐っこい笑顔と鋼の度胸に、思わずクリスもソロも微笑んだ。

「密航者か?」

「どこの所属だ?」

「さっき助けてくれたな」

 と、これは目が行き届いているジャックだ。

「ストームトルーパーは悪者だってわかったから、それに追われてるあんたたちは正義の味方、だろ?」

 当然のように言葉を覚えている。

「われわれは軍人です。善も悪もありません。あなたも同じですね」

 クリスの容赦ない目、普通の子供ならちびっているところだが、彼は笑っている。

「名は?」

 ルークがじっと少年の目を見つめる。

「おいら、太助ってんだ」

「どこの出身だ?所属は?」

 ルークの目に、太助は静かに、激しく抵抗する。精神の戦いの末、やっと口を開いた。

「新五丈、竜牙雷の、密偵だよ。これを見てよ」

 と、太助が、クレジットカード大の乾パンを油紙袋から取り出す。

 それには、下手な漢字で「新五丈王 竜牙雷 これを所持する太助をわが代理と思うべし」と書かれ、美麗な「銀河帝国皇帝」印が押されていた。

 それをクリスとソロに渡し、

「食べて食べて」

 と笑う。

「いざという時には完全に隠滅できる、というわけね。それにしても、別の文字に言うのもなんだけど……あまりうまい字じゃないわね」

「まあ、その手を使うやつらもいたな。お、うまいじゃないか」

 食べたソロが笑った。

「雷の兄きは身分も何もない雑兵として、おいらと肩を並べて戦ってきたんだ。だからまだまだ字は下手で、お姫さんのほうがうまいぐらいさ。でも狼刃元帥に言われて、本はたくさん読んでたよ」

 太助が軽く鼻の下をこする。

(この人たちは、完全に信じるべきだ。こっちが腹を割れば、応えてくれる)

 何もかもあけっぴろげに言うのは、ちゃんと覚悟と人を見る目あってのこと。

「しばらく見てきたけどさ、すごい腕だよねみんな」

 と、笑う太助に、

「あのどさくさに船に入りこんだ腕もすごいよ」

 アビーが鋭い目と言葉を突き刺す。

 ほっと、皆が息をつく。

「お忙しい中すみません、ちょっと加速しますよ」

 士官の声、ともにぐっとGがかかる。

「いい腕だな」

「まあね」

「ファルコンは」

 とルークが言いだそうとしたとき、R2-D2がビーコンをキャッチする。

「お、迎えに来てくれたか」

 ミレニアム・ファルコンが彗星の陰から出現し、並走を始めた。

「そちらのハッチの規格を教えてください」

「ああ、R2」

 ルークの指示でR2-D2が情報を送る。その通りの大きさに船殻のスマートメタルが変形して、全く未知の船のドッキングが成功してしまう。

 チューバッカとハン・ソロが派手に喜び合う。

「どうやってここに」

 チューバッカの声をC-3POが翻訳する、

「神のような存在からの精神通信を受けた、と言っております」

「神だぁ?妙な情報で船を動かすな、といいたいところだが結果よければいいか」

 ソロがリラックスする。

「先ほど私を呼んだ黒い士官、かなり高い地位にあるようですね」

 クリスの言葉に、ルークとソロが苦笑する。

「帝国のナンバー2、ダース・ベイダー卿だ」

(父さん)

 ルークの口調には苦味が混じる。

「なら思いきって」

「無理だって。クリス・ロングナイフという名とそのお顔は、見つけ次第殺せの指名手配犯だったよ?それに、ここの帝国とは交渉なんてできないよ。師真さまも話にならないって」

 太助が笑う。その笑顔に、皆がすっかり警戒を解いた。

「あの帝国は、どうやらピーターウォルドと仲がいいようだ、とアビーおばさんの地獄耳が」

 メイドがクリスの髪を整えながらつぶやく。

「実際、ピーターウォルドお得意の船籍不明船が、帝国船に係留されていました」

 女性士官が苦々しげに言う。

「ロングナイフだのピーターウォルドだの、意味がわからないんだが?」

 ルークの言葉に、ジャックとクリスが苦笑気味に目を見合わせる。

「そうね、わたしの故郷の歴史から語らなければならないのかしら?」

「ああ、別の時空の情報など、同盟にはほとんど漏れてこないから」

「仕方ないわね。では説明いたします」

 そう背筋をぴんと伸ばしたクリスは、王族という言葉が嘘ではないと思わせる気品があった。

(レイアと同じだ、本当にお姫さまなんだな)

 ルークの思いをよそに、慣れた口調で説明が始まる。

「わたしの故郷時空、では、人類はすでにあったジャンプポイントを利用して地球から広がりました。

 そこでイティーチ族という種族の領土を侵してしまって大戦争になり、滅びかけました。その戦争で活躍した」

 最近の、曽祖父との確執を思い出してクリスの胸が痛むが、平静を装って続ける。

「曽祖父レイモンドらを中心として人類世界はまとまっていました。

 しかし、矛盾が広がり人類社会は、大きく分けて三つに分裂しました……地球を中心とした人類協会、私が属する知性連合、そしてピーターウォルド家。

 ピーターウォルド家はあちこちに、主に経済活動と闇社会を通じた手を広げており、潜入した地上軍・砲艦の双方で積極的に勢力を広げています。また、拡張主義を取っており、人類の領域を広げることにも熱心です。

 知性連合は専守防衛で、むしろ内政と各星の人権・技術・経済水準を高めることに力を注いでいます。

 地球を中心とした人類協会はリム星域とは対照的に中心の位置にあり……保守的、です」

 少し苦々しげに。つい最近、身分制度さえ残す腐敗をしっかりと見た。

「最近、この人類領域の各地に別の時空との連絡路が生じました。

 知性連合からは、誰もいない時空にしか行けませんでした。〔UPW〕の無人設備があったので連絡を求めるメッセージは送っておきましたが、向こうがそのメッセージを読むまでは連絡が取れません。

 知性連合としては〔UPW〕の方針を是とし、全権大使として私が派遣されました」

「というか、故郷時空から追放されたという面もあります」

 とアビーがぼそっと言う。

「それで、ここの時空の政府と連絡しようと……でも」

 ルークが静かに問い返す。

「そう、でも。こちらに来るまでに通った、半ば無政府状態の時空で、この帝国の残虐な侵略性はつぶさに見ました。知性連合としてはこの帝国との外交関係は正直言ってごめんですね」

「ですが、ピーターウォルド家にとってはいいパートナーでしょう」

 と女性士官が憎々しげに言う。

「ピーターウォルドってのがどれほどの存在だか知りませんが、この帝国を利用しようとしたら……あっさり、あなたの故郷の時空ごと滅ぼされるだけでしょう」

 ルークの言葉に、クリスが微笑む。

「少しですが、こちらの帝国の軍事力・経済力は調べました。その危惧も理解できます。しかし、私たち知性連合には別の危惧もあります。

 もし別時空から私の故郷時空を侵略した場合、最悪はイティーチ族をつついてしまい、両方の時空から人類が根絶されるリスクがあるのです。そのことだけでも、こちらの帝国に伝えたかったのですが」

「そりゃ大変だ。それも兄きに知らせないと」

「竜王陛下ともぜひ連絡したいものです。どうかその折はおねがい」

 とクリスが太助にも向き合う。

「いいよ」

 と、太助は気軽に請け合う。

 冗談半分のクリスは、のちに雷と太助の絆に驚くことになる。

 腕を組んで聞いていたソロが、強いため息をつく。

「まあ、そういう演説はレイアの前ででもすればいいさ。それより今、ここからどうする?そこにある時空ゲートからは、どこに行けるんだ?お姫さんたちは、どうしたいんだ?帝国の首都に行きたいのか、それとも反乱軍の首脳部に会いたいのか?」

「あなた方のご希望、目的をうかがってもよろしいでしょうか?」

 ソロの乱暴さを何とも思わないように、クリスが静かに微笑む。ソロはそれを見て見直した。

「姫、という言葉にごまかされないように。姫は副業で、本職は一海兵隊員、一番向いているのは提督だ」

 ジャックがあさっての方向を見ながら誰にともなくつぶやく。

「われわれはタネローンを探している。だがそれが何なのか、どこにあるのかはわからない。あちこちの並行時空を見てみたいんだ」

 ルークの言葉に、クリスたちは呆れたように顔を見合わせる。

「少なくともこのゲートを抜けた先は、大戦争直前ですよ」

 クリスが苦笑気味に言った。

「そうそう。ここの帝国のスーパースターデストロイヤー二隻とスターデストロイヤー三十隻、それと帝虎級二隻・艦船百以上、七十万人の大軍、もうすぐ激突するってさ」

 太助の言葉に、ソロは度肝を抜かれ、女性士官が一瞬立ち上がった。

(ネリー!)

(正確な情報です)

 クリスとネリーが素早く語り合い、おどろく。

「たいした腕だな」

 ソロが口笛を吹いた。

「この時空から、ほかにゲートはないのでしょうか?われわれは〔UPW〕と連絡を取りたいのですが」

 士官に聞かれたソロは軽く首を振る。

「〔UPW〕?ちょっとややこしいね。えーと、あれはあちこちにつながってるから、〈世界連邦〉に行くか……」

 太助が首をひねる。

「少し待ってくれ」

 ルークが立ったまま、瞑想に入る。

「ここに来たのは、君たちに会うためだ。そしてタトゥーインの近くにできたゲートに向かう」

 半ばトランス状態で漏らした言葉に、ソロとドラゴ、ジャックがとても苦く酸っぱいものでも食べたような表情で目を見合わせ、軽く首を振った。

「おいおい、そりゃ怪しすぎるだろ」

「でも、ほかにあてがあるのですか」

 C-3POがぼやく。

「わたしたちは、この時空で動き回るのは危険すぎます」

 女性士官の声に、クリスは軽く首を振る。

「こちらの帝国と交渉することも任務なんだけど」

 クリスが苦しげに言う。

「ダース・ベイダーを見ただろう?」

 ルークの言葉に、クリスはうなずくほかない。

「二度と会いたくはないです」

 アビーが震えている。

「同感だ」

 ジャックも震えを抑えきれない。

「でも、ベイダーと戦ってたあんちゃん二人もすごかったなあ」

 太助が無邪気に笑うが、すさまじい恐怖を呑みこんでなのは、だれにもわかる。

 軽く、クリスとドラゴ艦長が目を見合わせる。

「その前に、一度レイアたちのところに戻ろう。クリスと太助を、二人に会わせておきたい」

「よーし、じゃあ出発だ!」

「調子に乗るんじゃねえ、小僧」

 陽気な太助の叫びに、ソロが苦笑気味に怒鳴る。

(すっかりペースを握られてるわね)

 軽く歯を食いしばったクリスは、わざと軍隊用の声で、

「では、スマートメタルを利用して、ミレニアム・ファルコン号とワスプ号をつなげてよろしいでしょうか?ソロ船長」

 と呼びかける。

「スピードだけならファルコンが最速だ、小人数だけ乗ってくってのもありだぜ」

「こちらには海兵隊一個中隊もいます。とても乗れませんね」

 女性士官が鋭く言う。

(そういって、王女だけ拉致されたらたまったもんじゃない、この人たちだって敵か味方かわからないんだから。海兵隊の人数で脅す)

 と、いうわけだ。

 ソロは素早く察して、

「で、この船はどれぐらい出るんだ?」

 と、技術的な話を始める。

「それよりクリス姫さん、あんたの故郷の話も聞かせてくれよ。兄きはあちこちの宇宙の話を知りたがってるんだからさ。さあ錨を上げろ!」

「調子に乗るんじゃねえ」

 と、ドラゴとソロのダブルツッコミが入る。




スターウォーズ
レンズマン
海軍士官クリス・ロングナイフ
銀河戦国群雄伝ライ


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銀河戦国群雄伝ライ/時空の結合より2カ月

「きょーみないね」

 大覚屋師真は手紙をあっさりと焼いた。

「行かなくていいんですか、兄さん?」

 弟の英真は焼けていく手紙を、見ている。

「五丈の利害を離れて、なんてきれいごと、あるわけねーだろ」

「でも素晴らしいきれいごとですね」

「行きたいか?」

 師真の言葉に、英真は微笑み、話題を変えた。

「〈ABSOLUTE〉は、狼刃元帥が亡くなられた金州海近くに門を開けたそうですね」

(行きたい、か。だが、お前にもその資格はない。『この世は思い通りにならないこと』を知らないからな)

 師真のおひゃらけた目に、弟を心配する憂いが、ほんのかすかによぎる。

「やっかいなこった。まあそれより、正宗がどう動くか見てみるか」

「今正宗公がいる夷にも、また南蛮のほうにも門があるとか。練はそちらにも軍を出している、と。兄上はどのようにお考えですか?」

「んー?練とその向こう側が戦争やっててくれれば、少なくともこっちに来るのは遅くなるだろ。今はうちは、骸羅の暴政から国を立て直すのに精いっぱいだからな」

 と、師真は自堕落に姿勢を崩して伸びをし、膨大な書類をまた一枚処理して、英真が差し出した茶を飲んだ。

「竜王陛下は?」

「あいつも、自分の実力はわかってるさ。金州海とつながってるトランスバール皇国は攻める気はないと言ってる。それだけでもありがたいよ、交易でも儲かるし」

 英真も別の商人との交渉に出て、師真はまたひとしきり仕事を進める。しばらくして、廊下を通りかかった英真を師真が呼び止めた。

「そうそう、南京楼の商人を通じて、南蛮方面から来る連中に情報を流せ。心理歴史学はうちが手に入れた、と」

「え?あのあちこちが求めている、素晴らしい数学ですね?手に入れたなんて初耳です」

「んなもん手に入れてねーよ。いいんだよ、〈セルダン・プラン〉はずるいんだ、現状がどうなっていようが、『これは一時的な逸脱だ』ってごまかせる。まるっきり儒者の戯言だ、ホンモノであろうとなかろうと。だが、それを武器にすることならできる」

 師真はそう笑い飛ばして、首を振りながら出ていく弟を見送った。

 その手には、乏しい情報で作られる多元宇宙の、複雑なつながりを描く図や各時空が擁する戦艦の戦力など、多くの情報が積まれている。

 

 王宮の広い庭には、激務の間を縫って時間を作り、兵たちと木刀で汗を流す若い男…新王、竜牙雷の姿があった。

 激しく息をつき、井戸水を頭からかぶって、岩に腰かけて一息つく。

 横からどんぶりでぬるい茶が差し出され、一気に干した。

「うまい」

 振り返ると、正妻の紫紋。彼女は優しく微笑んで、同じく疲れている兵たちの間もまわり、水や菓子を振舞っている。

 その謙虚で仁慈あふれる振る舞いは、旗上げ以来の武官や兵士、賢者たちにこの上なく愛されている。豪奢で廷臣や商人に人気のある側室の麗羅とは対照的に。

 だからこそ、懐妊が待たれてもいるのだが……

 いつしか替えてくれた、熱く濃いおかわりの茶を干しながら、雷は空を見ていた。

「多元宇宙、か」

 師真らがまとめた報告を思い出す。知られている限り、有人だけで14、無人を含めれば100を超える別時空。その一つ一つに千億の星と千億の銀河、いくつかは銀河一つで百兆の人口を持つという。

(正宗、羅候……やつらを倒し、この銀河を統一しても、幾多の宇宙と戦わなければならないというのか。狼刃元帥……誓いました、必ず銀河を統一し平和を実現してみせる、と。でも、そこへの道が、見えなくなりそうです。広すぎる、多すぎる……)

(シヴァという女皇帝の手紙。率直な言葉が偽りでなければ、平和を求め多元宇宙の広さに圧倒されている。俺と同じく)

(俺は平和は、剣と血、恐怖からしか出てはこないと知っている……だが、これほど広い多元宇宙を、一人の力で統一することが……疑うな、疑ったら狼刃元帥も、俺のために死んだ幾多の将兵、俺が殺した敵の命も、すべて無駄になってしまう)

(話したい、知恵を借りたい……狼刃元帥、弾正公……正宗……)

 遠い正宗との幻のような逢瀬も、もう終わりを告げた。その肌の感触を改めて思い出す。

(次に正宗と会うとすれば、どちらかが死ぬ時……それが戦国の世、ならそれを終わらせる)

 雷は静かに茶を干し、立ち上がった。

(今は、今できることを。足元を大切にしよう)

「三楽斎!税率と港湾整備の話、さっさと片付けるぞ!」 

 

 

「行きたいなあ」

 片目の女将軍、智の紅玉……すでに正宗の名は幼い弟王に譲ったが、誰もが正宗と呼ぶ……は〔UPW〕からの手紙を手に、そうつぶやいた。

 彼女は策を用い、練から弟王を取り返しはした。だが軍事力の衰えはどうしようもなく、智の大半を放棄し、辺境の名もない星で勢力を立て直そうと苦心している。

 そんな彼女を、甲冑に身を固めた同じく女将軍が必死でいさめた。

「そんなめっそうもない、多元宇宙各地から優れた軍師を引き抜き自分のものにしたい、というだけです。まして御屋形様は最強の武将の一人、それを部下にして自分を強めたいと……それに御屋形様が行かれては、この智は終わりです。それによるこの時空の変化を、自国の利に用いるのみでしょう」

 わかっているよ、とうなずきかけ、星空を見つめる。

「行きたくても、〔UPW〕への門は五丈領内だ」

 それでもあきらめきれぬように、何度も手紙を読み返す。

(私が行けば、智は終わり……なら、終わっているということだ。後継者を育てられなかった指導者など指導者失格)

 自らの余命が短いことも自覚している。

(このシヴァという女皇は、この頭脳を必要としてくれるのだな)

 そう思うと、胸が激しく騒ぐ。

(だが……ああ、〔UPW〕に行きたい、竜牙の部下全員と練の大戦艦全部が欲しい……そう思っても愚かなことだ。私についてくる者のため、智のために最後まで戦い抜く……それしかできぬ)

 自嘲気味に手紙を破って未練をふり捨て、立ち上がった。

「それより、〔UPW〕とは別の時空との門に、手が届くそうだな」

「は、そちらは……」

 飛竜は、手紙が破かれるまでの時間の長さを気にしていた。だがそれ以上考えることはなかった、しなければならないことは多いのだ。

 並行時空からの使者や、五丈の密使も何人も紅玉との面会を待っている。彼らも暗殺者かもしれず、それから主を守るためには……

 

 

 その頃、練軍は〈ファウンデーション〉の銀河に攻め込み、殺戮を繰り広げていた。

 そして、同様にその銀河を攻めているスター・デストロイヤーを中心とした艦隊とぶつかりつつある。

 さらに、離れたところではファウンデーションの残党や、ハン・プリッチャー将軍率いるミュールの高速船団も様子を見ている。

 多元宇宙がつながってから最初の、大戦が始まろうとしていた。




銀河戦国群雄伝ライ
ギャラクシーエンジェル2
ファウンデーション
スターウォーズ


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ファウンデーション/時空の結合より3カ月

 百を超える惑星は、劫火におおわれていた。

 六十以上の星と百の居住可能惑星、銀河帝国最盛期には合計人口は兆を超える。

 七つの豪族に分かれ争いつつ、千億以上の人口を維持していた。

 その人は、もはや一人も生きてはいない。

 パルパティーン帝国、練、両国とも、この地域を容赦なく蹂躙した。強い勢力がいない、原子砲やシールドを備える艦船も技術の低下で使い物にならない地元民のはかない抵抗は、圧倒的な武力で粉砕された。

 炎。

 一人ひとり、営々と生きてきた。名前があり、父祖があった。地を耕し、過ちを犯し、伝統を受け継ぎ、祭りを楽しみ、子を産み育ててきた。男であり、女であった。母であり、父であり、息子であり、孫であった。さまざまな仕事をする人であった。

 そのことごとく、いまは劫火に焼けて屍をさらしている。少なからぬものには、死は果てしない拷問と輪姦の終わり、救いでもあった。

 虐殺、拷問、強姦。略奪。あらゆる文化財の徹底した破壊。

 人間の性であり、多元宇宙の誰もが共有する最大の楽しみである。

 力あるものが力なきものを蹂躙する、それこそが多元宇宙唯一の掟なのだ。

 

 力ある二つの艦隊が、今や激突の時を迎えようとしていた。

 背後には累々と広がる、徹底して破壊された星々。

 一方には鋭い矢じりのようなデストロイヤー艦隊。

 他方には鋼の塊、鬼の面を思わせる、帝虎級を中心とした艦隊。

 

 いくつもの目が、その戦いを見守っている。

 

 決戦の場として選ばれたのは、とてつもなく巨大な赤色巨星のすぐそばであった。

 すさまじい炎とガスが渦巻き、そこに浮遊惑星の水が激しく荒れ狂う。血の池地獄ともいうべきだ。

 どちらも出いくさ、全力など出さなくても勝てると思っている。ともに二個艦隊程度しか派遣してはいないし、将帥も優れてはいるが、王・皇帝自らではない。

 だが兵卒たちにとっては、いのちがけであり楽しみでもある、いくさにほかならない。

 故郷から遠く離れ、厳しい規律と慣れぬ食物。並行時空の産物を略奪したものが、構成する分子は同じとはいえ口に合うはずもないのだ。

 昨日まで虐殺と拷問に明け暮れた、地獄の悪鬼たちも今はいくさを前に震える、弱い一人のひとに過ぎない。

 食べ、飲み、大小をたれる。ただそれだけだ。

 だが集まれば虐殺魔ともなり、また一つの機械のように巨大な戦艦を運営もする。

 練の、未開野蛮の民はより勇武を重んじ文化を嫌う。

 対照的にパルパティーン帝国の軍人は、人命軽視と厳しい規律で機械的な服従が身についている。

 だが、いくさを前に隊形を組みなおす今は、どちらも血の流れる人だ。

 

「牛魔王さま!敵スターデストロイヤー三十あまり、帝虎級銀虎を狙って円錐陣を組んでいます」

 報告を受けた牛魔王将軍は軽くうなずき、超巨大戦艦にさらに本隊から遠ざかるよう命じた。

『よいな、帝虎級は単独で一個軍団に匹敵する。艦隊の中核に据えるより、むしろ囮として動かす、敵の最も固い陣を突き破ったりするなど、使いこなすのだ』

 姜子昌の言葉と訓練を思い出さずにはいられない。

 

「見よ、あの原始的な船を!火薬砲ではないか」

「よくもまあ、あのような船で恒星間を飛び、超光速で進撃しているものよ」

 パルパティーン帝国側は、すっかり笑い油断しきっていた。

 見るからに文明水準が違うのだから。

 ぶつかった先遣艦隊がなぜ帰ってこないのかなど、考えようともしない。うぬぼれきっている。

 ゆえに、特段の考えもなく単純な円錐陣を二手に分け、戦利品にと二隻の帝虎級戦艦に突撃した。

 

「ぎりぎりまでひきつけろ。ぶつかられてもいい」

「あの敵の砲火には耐えられる。水と塩をたっぷり配っておけ!」

 高速で迫る艦隊を前に、帝虎級艦隊の将兵はおびえつつ刃の柄をいじっていた。

 二秒……三秒……じりじりと、その時は迫る。

「動くなよ、勝手に撃つな。勝手に撃った者は八つ裂きにしてくれる」

「敵射程圏に入ります」

 突然、天の一角が太陽より眩しくきらめく。

 無数のターボレーザーが集中して着弾する。

 鉄板が瞬時に白熱し、蒸発する。

「やられたふりをしろ!煙幕を出せ!全速前進!」

 牛魔王の叫びとともに、機関が回り轟音を上げ、加速に将兵は壁に押しつけられる。

 煙を吹く巨塊。パルパティーン帝国側は歓声を上げ、移乗白兵戦の準備を始めた。

 そして距離が急速に迫り……突然、巨大な鋼の塊がまばゆく輝き、真っ黒な煙におおわれた!

 巨砲が一斉に火を噴いたのだ。

 だが、それはパルパティーン帝国側は、単に敵艦が破壊されたとしか見えなかった。

 違った。パルパティーン帝国には想像もできないほど分厚い装甲の、表面三メートル……ほんの薄皮が蒸発したに過ぎない。その蒸発した鉄蒸気は有効な対ビームシールドとなる。さらに、残りの熱は艦全体に、急速に分散される。その世界の装甲材は、異常なほど熱伝導率が高くビームに抵抗があるのだ。

「あちち」と、船の奥にいる何人かが、暖かくなった艦の壁から身を離す。

 ちょうど暖かいと壁にへばりつく者もいる。

 逆に、誰もがせせら笑う火薬式の巨砲……質量実体弾は、パルパティーン帝国艦隊の誇るシールドとは、全く無関係だった。シールドはあくまでレーザーや荷電粒子砲を防ぐためであり、鈍速大質量の実体弾など想定されてすらいなかったのだ。

 艦が次々と破壊される。その内部では何千もの人が、死んでいった。

 巨大な鉛の塊に、一瞬で液体・固体・気体の区別をなくす者。

 油圧を制御する、超高圧で有毒な液体のパイプがちぎれ、噴出した刃に胴体を両断された者。その近くの、毒液を頭からかぶって目がつぶれ呼吸もできなくなりのたうち回る者。

 真空にもがきながら目を飛び出させ、破裂する者。

 高電圧に焼かれ、意思と関係なしに全身の筋肉を跳ね回らせる者。

 切断された手足を呆然と眺め、笑いながら死んでいく者。

 タンクが破壊されてあふれる汚物に呑まれる者。

 爆発に呑まれ一瞬でハンバーグと化す者。

 頑丈な部屋にいて、安全だと思っていたら激しい衝撃でひき肉と化す者。

 一人一人、名前があった。親があった。子や妻がある者もいた。友があり、仕事があった。

 もちろん、その多くは虐殺に手を染めた、罪ある者でもある。同情には値しないかもしれない。

 だが、一人一人は人間なのだ。

 

 そのようなことは、艦隊指揮官が考えることではない。艦隊の被害は、スクリーンに浮かぶ光点の色の変化でしかないのだ。

「ひるむな!移乗白兵戦で仇を取れ!あのでかぶつをぶんどって皇帝陛下に献上するぞ!皆殺しだ!」

 そう、全艦隊に放送が回る。

 ハッチで準備をしている兵士は、今兄弟たちがどのように死んでいったかは知らない。

 

「踏みつぶせ!」

 スター・デストロイヤーと帝虎級が、正面衝突する。

 鋭い刃が、すさまじい速度で厚い厚い装甲板に深く食い込む。

 大きな被害を出しながら移乗する兵たち。迎え撃つ練・南蛮連合の兵。

 どちらも、修羅だった。

 ブラスターの嵐に、特に顔を撃ち抜かれたものが次々と倒れる。

 そして矢と銃弾が帝国兵をなぎ倒す。

 練・南蛮の兵が着る、重厚な金属鎧はブラスターにもかなりの耐性を持つ。

 そして旧式火薬の銃器は濃い煙幕を作り出し、装甲化されていない兵の肺や眼を冒す。

 接近戦となれば、南蛮の蛮兵がふるう剣や薙刀が優位となるが、集団白兵戦の訓練は帝国兵も受けている。

 ひたすら、意思と意思、力と力……白兵戦に、正義もないし戦略もない。ただ目の前の敵を倒すだけだ。

 

 艦隊そのものは、それとは関係なしに動いていた。

 帝虎級を狙う敵艦隊を、牛魔王の命令を受けたほかの戦艦群が横から突撃し、分断したのだ。

 戦列艦。何十隻も並ぶ戦艦が、ベルトコンベヤーのように行きすぎながら巨大な機関砲と化す。

 次々と、スター・デストロイヤー級が粉砕される。

 そしていくつかの練戦艦は大型艦に突撃し、その巨大な衝角をぶちこみ、息を止めた兵が何千と乗り移る。

 あとは、芋を洗うような白兵戦……ブラスターも槍も役に立たない泥沼となる。

 

「おのれ……スーパー・スター・デストロイヤー級をもって叩き潰してくれる!」

 超巨大艦が、超巨大艦に迫る。

「相互支援で後退せよ。敵陣を伸ばすのだ」

 牛魔王自身は突撃したかった。敵の巨艦に正面からぶち当たりたかった。部下たちも、みなそれを望んだ。

 だが、姜子昌の命令と訓練は、それを許さぬ別の思考回路を勇将たちに植えつけていた。

 二隻の帝虎が、激しく砲煙を上げつつ後退していく。一方が下がるときはもう一方が弾幕を張り、そして交替し後退する。

「屈辱はもうすぐ晴らしてやるぞ!敵の血を浴びるときを楽しみにしていろ!」

 牛魔王が絶叫する。

 次々とスター・デストロイヤーが肉薄し、粉砕される。

 帝虎級の装甲も何メートルも蒸発し、あちこちには敵艦が刺さった本物の傷が口を開いている。

 艦全体が熱くなり、鎧を脱ごうとして殴られる兵もいる。

 都市一つ蒸発させられる火力が注がれているのだ。

 

 伸びきった帝国艦隊の両横から、ガスに隠れていた高速戦艦二十の小艦隊が襲いかかった。

 狙いはスーパー・スター・デストロイヤーのみ。

 集中射撃に先頭の三隻が爆散するが、その残骸と蒸発した金属ガスをそのままシールドに、縦陣は突撃した。

 その瞬間、帝虎級二隻も後退から前進に切り替える。

 

 スーパー・スター・デストロイヤーと帝虎級、その巨体はどちらも白兵戦の地獄と化した。

 次々と練の戦艦が砲撃し、激突し、兵員を送り込む。

 広い広い、巨大艦のいたるところが地獄と変わる。

 

 帝国艦隊のほかの艦は、旗艦の危機に浮足立ったと同時に、大きく回って襲撃する練艦隊の本体と激突する羽目になった。

 火薬砲の煙と濃い星間嵐が反応し、全く視界がきかない。

 それは、巨艦内部の白兵戦と全く変わらない、敵も味方も見えない泥沼の戦いだった。

 その戦いを続けさせるのは、ただ訓練と意思だけ……戦う機械になりきり、命令に従って。

 

 巨大な爆発が、赤い水流れる星間空間を揺るがした。

 スーパー・スター・デストロイヤーが、万に及ぶ移乗していた敵兵を道づれに、崩壊し赤い水に沈んでいく。

 そして激しい流れに引きちぎられ、砕かれていった。

 練・南蛮連合艦隊の激しい勝どきとともに、戦いはさらに激しさを増した。

 

 勝利、というべきであろうか。

 帝虎級も一隻は大破していた。

 練・南蛮連合艦隊の、半分は破壊されていた。

 パルパティーン帝国艦隊は、三割がかろうじて逃走した。残りは破壊され、降伏した者も容赦なく皆殺しにされた。

 

 戦いが終われば、虚脱と……戦っていたうちは気づきもしなかった傷の痛みと疲労、それだけだ。

「さあ、これでこの銀河はわがものとなった。征服を続けるぞ」

 そう笑う牛魔王も深い傷を負っている。補給や修理、兵員補充の必要もあった。

 勝利者は、むしろ敗者をうらやみすらした。

 そして次の戦いの勝敗は、どちらがより多くを戦いから学んだかで決まるのだ。

 

 その無残な戦いを、ただ眺めていた人たちも多かった。

 その人たちにとっては、数万の死者は意識すらされない。

 ただ、双方の武器・防御の性質、そして士気の良しあしを、他人事のように論評するだけだ。

 まして、両艦隊に踏みつぶされた数百億の弱者のことなど、思い出す者もいない。

 

 一人一人は生きていたのだ。血の流れる人だったのだ。誰かの父であり、兄であり、息子だったのだ。母であり、妹であり、娘だったのだ。

 命を捨ててかばってくれた戦友だったのだ。

 

 多元宇宙の戦乱は、これからも続くのか…それを思って暗澹とする者もいる。

 そして、ただ復讐心と、征服の喜びに満たされる者もいる。

 明日のことも考えず、ただ戦い続ける者もいる。

 助けようとする手を封じられ、唇を噛み破る者もいる。

 すべてを計算式の変数としか考えず、代入して計算を続ける者もいる。

 

 赤い水流れる星団の星間空間に、わずかな鉄が混じった。炭素と水素と酸素、少々のリンやカルシウムも。

 星々は美しく輝き、傷ついた艦は修理と治療……苦痛の叫びと、安楽死を感謝する最後の言葉さえ多くある。

 虐殺を前に拷問される捕虜の絶叫が、徐々に弱くなっていく。

 多元宇宙には、戦乱しかないのか。弱肉強食だけが、多元宇宙の現実なのか。




ファウンデーション
銀河戦国群雄伝ライ
スターウォーズ


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ワームホール・ネクサス/時空の結合より2カ月

「シヴァ女皇?」

 皇帝直属聴聞卿、マイルズ・ヴォルコシガンは目を光らせた。

 聴聞卿とは、バラヤー帝国の皇帝の耳目となり、重大事件をしらべる役目である。これは制度の外にあり、皇帝自身と同じくすべての鍵を開けさせ、従わせる力を持つ。

 ゆえにその役割を受けるのは、皇帝の絶対の信認はもちろん、名誉にも富にも飽いた、実績のあるものでなければならない。

 だが、マイルズがそのようなものであるとは、とても見えない。

 若い。三十かそこらだ。退役大尉の徽章も、親の七光りとしか思われていない。何より、その肉体。ねじくれた小さい体に大きい頭。後進のバラヤーでは突然変異は忌まれ、厳しい禁止にもかかわらず地方では嬰児殺しも絶えない。

 そんな彼と、若きグレゴール帝は親しげに話している。

 いくつかのワームホールから、これまでとは知られていない銀河に直通する道ができた。それで新しい侵略者の予感にピリピリしながらの、私的に近い報告会が行われているのだ。

 その中で、ある使者がグレゴール帝に届けた手紙の話が出た。

「知っているのか?」

 脳内の記憶補助チップの破壊をきっかけに引退したが、まだまだバラヤー帝国の重鎮であるシモン・イリヤン元秘密保安庁長官がマイルズを見つめる。

 グレゴールのもの静かな目に、マイルズは肩をすくめて語り始めた。

「グレゴール、イリヤン。これは嘘になるんだろうか。

 ダグーラから地球への道筋で、報告していないことがあるんです。証拠が何もない、ただの夢だといわれればそれまでだから」

 シモン・イリヤンの目が見開かれる。

「そう、何の証拠もない。デンダリィ隊のみんな、断片的な記憶しかない。記録は全部改竄されている。

 ぼくの、この記憶と……記憶装置に入っている、何万という歌だけだ。それは地球に着いた時、軍資金のたしにはなった」

 マイルズが、ネイスミス提督の表情で苦笑する。

 ダグーラでセタガンダ帝国相手に大作戦を成功させたマイルズ……デンダリィ傭兵隊のネイスミス提督は刺客に追われ、予定外の地球まで逃げた。そこでバラヤー大使館と接触して軍資金を受け取るつもりだったが、大使館に潜入していたコマール人テロリストの妨害で金を受け取れず、散々苦労したのだ。

「ブラックホールに近づき、その勢いで追手を逃れた……そこまでは報告通り。ここからはぼくの記憶だけ……

 ブラックホールに近づきすぎて、別の時空に飛んでしまった。

 そこで、ほかのいくつもの時空から来た戦艦と出会い、共に戦った。いくつもの並行時空をめぐって。合計二年近く」

 グレゴールの表情は変わらないが、雰囲気の違いからとても興味を持っていることがわかる。

「その旅の中、敵に捕まって、数人の味方と脱走し、半年ぐらい未開の星で獣を狩って暮らしたり、何カ月も宇宙を走る汽車で旅をしたりした……共に過ごした一人が、トランスバール皇国のシヴァ皇女。

 家族を殺され、追われる少女だった。脆さはあったが、潔く高貴な魂の持ち主だった」

 軽く、マイルズはホロを見直して息をついた。

「戦いに勝利し、別れた時から彼女も、ぼくも何年も過ぎています。彼女がぼくを覚えていない可能性も高い」

 グレゴールのもの静かな表情に、マイルズはため息をついた。

「もちろん、会いたいです」

「奥方には秘密かな?」

 イリヤンの苦笑の目。マイルズは軽く笑い、同じく新婚ほやほやのグレゴールと目を見かわした。

「まだ子供でしたよ」

「妻の嫉妬はおかまいなしだぞ」

 グレゴールにからかわれ、マイルズは散々な目にあった。

「で、どうすればいいんだろうか」

 グレゴールが突然、遠くを見る目をした。イリヤンははっと真剣になる。

「何十もの宇宙、そのいくつかは何兆もの人口、何万もの戦艦を持つ。ワームホールなしの超光速飛行技術をもつ帝国もある。どうすればいいんだ?」

 二人とも沈黙した。つばをのむ音が響く。

「まず事実。バラヤーがどう軍事力を強めても、すべての並行時空を征服するのは絶対無理。誇大妄想はぼくだけで充分」

 いうマイルズは、自分が狂気すれすれと自覚している。

 近いグレゴールも、近い親戚であるマイルズと同じく、ユーリ狂帝の血は常に意識している。

 二人とも、狂気とごく近いところで踊りつづけているのだ。

「今までだって、いくつもの国が連合してバラヤーを潰すと決めたら対抗できる戦力はありませんでした。今回も同じように、巨大国同士の争いを利用してその間を泳ぐしかないでしょう」

「そうだな。……シヴァ女皇の苦慮もわかる。マイルズ、助けてやってくれ。その答えは、もしかしたらバラヤーを助けてくれるかもしれない」

「ぼくにそんな力があるとでも?」

「いないより、ましだろう?」

 三人が心安げに菓子を楽しむ。

「それより、セルギアールの近くから行ける、『智』とかいう国との外交交渉は?」

 グレゴール帝が次の書類を一読した。

「ヴォルコシガン総督ご夫妻が努力されていますが」

「もう一つの、コマール近くからの門はあの、不毛の銀河。ワームホールを使用しない超光速航行技術を手に入れるまでは、何にもならないね」

「智と交渉して、超光速技術を売ってもらうか、または智にそのワームホールを利用する便宜を図っておこぼれをもらうか」

「危険が大きすぎないか?」

「どうなるかはあっち次第だ」

「マイルズ卿を派遣しては?」

「それは最後の手段だね。むしろ今は、〔UPW〕に連絡する方が先決だ」

「かしこまりました、行ってきます」

「シヴァ女皇に、どうぞよろしく伝えてくれ」

 マイルズは〔UPW〕との連絡役を受け、〈ABSOLUTE〉に向かうことになった。

 とはいえ、それは簡単ではない。〔UPW〕の使者も辛苦をした。

 ワームホール・ネクサスも広く複雑であり、しかも多元宇宙のつながりそのものが、ワームホール・ネクサスに劣らずこんがらがっている。

〈ABSOLUTE〉から多くの時空への門はあるが、そのいくつかは侵略的な相手なので門はふさがれている。〈ABSOLUTE〉が有利なのは、開くことも閉じることも自在だということだ。

 ちなみに、バラヤーからは並行時空に行くゲートがない。だが、バラヤーが支配するコマールとセルギアールの近くにゲートができた。

 セルギアールからは智につながっている。コマールからは無人と思われる銀河がある。

 智から五丈に行き、そこから〈ABSOLUTE〉に行くか。だが智と五丈は戦争中であり、危険が大きいと判断される。

 これはワームホールなしの超光速航行ができればだが、無人と思われる銀河から、別の門を探すか。

 バラヤーの外を通るならば、エスコバール近くにできたゲートからガルマン・ガミラス帝国に行き、そこからローエングラム朝銀河帝国など、そこから行けるという銀河に向かい、〔UPW〕とつながるところを探すか。

 ほかにもゲートはあるかもしれないが、今は判明していない。ワームホールがなければ超光速航行ができないこの銀河は、まだそれほど広くは開拓されていないのだ。

 

 

 そんなとき、セルギアール総督であるアラール・ヴォルコシガン国主総督、コーデリア・ヴォルコシガン共同総督夫婦のもとに、急報が入った。

 ゲートを通じてつながった隣国である智の、大艦隊が押し寄せてきたのである。

 名将としても知られる夫婦は、即座に防衛艦隊を出動させた。

 

「なんて数だ」

 アラールが呆然とする。

 千隻近い巨大戦艦が、天を埋め尽くしている。

「要求は何だ!」

 通信に、鎧に身を固めた片目の女性の姿が浮かぶ。

「バラヤー帝国の即時無条件降伏を要求する。抵抗すれば皆殺し、降伏すれば公平な扱いと繁栄を約束しよう」

 幾多の戦場で鍛え上げられた、殺気に満ちた目。長く実戦を経験していないバラヤー帝国軍の将兵にはちびった者も多かった。

 だが、アラール・ヴォルコシガンは微動だにしない。

「三惑星を皆殺しに?できるか?できるというならまず、この艦を落としてみるがいい。こちらからは攻撃しない」

 と、大型戦艦一隻だけが、艦隊から堂々と加速する。

 アラールの部下たちは、敵のすさまじい数にぞっとしているが、智のテクノロジーの遅れを見て笑ってもいる。

「火薬式の大砲なんて、孤立時代みたいじゃないか」

「ああ、どれだけたくさんいたって」

 バラヤーは一時期、ワームホールが重力異常で失われて星間文明から切り離された。その間高度技術を失って中世の地球と同様の生活に陥っていた。再びワームホールが出現して星間文明とつながったとき、セタガンダ帝国に征服されたこともある。

 独立を勝ち取るには、アラールの父、ピョートル・ピエール・ヴォルコシガンのはたらきが大かった。

 それゆえにバラヤーは社会的には遅れはあるが、テクノロジーは星間文明水準に追いついている。

 

 堂々と進んでくる大型艦に、くろがねの巨艦は見事な包囲陣を敷く。

 智の戦艦の砲門は全門一点を狙える。揚弾機構に欠陥があるため連射は遅いが、出会い頭の斉射では最強である。

「ってーっ!」

 正宗の絶叫とともに、巨砲が次々と火を噴く。

 鉄と鉛の塊が、見事な狙いで全弾命中した。

 殺戮の喜びに沸く智の将兵。だが、正宗の隻眼がかっと見開かれた。

 無傷。

 ワームホール・ネクサスのテクノロジーは、超光速技術ではおくれをとっている。しかし、防御はきわめて強い。レーザーもミサイルも無効、艦を倒せるのは小型化できず射程の短い重力内破槍だけである。

「ま、正宗さま」

「さわぐな」

 正宗は平然と、迫ってくる巨艦を見つめる。と、ふっと背を振り向き、

「回頭、最大加速!」

 鋭く命じると、旗艦が鋭く方向を転換し、ぐっと加速する。

 大帝山の鋭利な衝角が、中型の高速艦をピタリと狙う。

「見事!」

「戦艦に集中している間に旗艦を狙う、か。そして……ほほう」

 正宗が微笑する。後方の、いくつもある輸送船隊の一つにも、ぴたりと数隻のバラヤー艦が狙いを定めていた。

「智王(虎丸)の場所も読んでいたか、さすがに。だが、こちらもその程度は想定している」

 高速艦は鋭く停止し、旗艦の艦橋を狙う。

 巨大な旗艦も止まり、鋭くにらみ合う。

「正宗さま。貴艦は核爆弾で狙われています。われわれは、あなた方の艦隊を壊滅させることはできます。しかしあなたがたには数がある、たとえば艦そのものを質量弾として、光速に近い速度で惑星にぶつけるなどされればたまったものではないです」

 高速艦から、女性の凛とした声が響く。

 コーデリア・ヴォルコシガン国守夫人も艦隊を率いたことのある、優れた提督でもある。

 これまでの外交交渉で、智とは何度も通信を交わしてもいる。

 だからこそ、自らの弱みをさらけ出しもした。

「ですが、このセルギアールを、高度な医療技術なしに占領しても、ここには厄介な風土病があるのですよ」

 コーデリアは声とともに、おぞましい患者の姿の映像を送信した。

「停戦しよう」

 正宗が静かに微笑する。

「ふ、あくまでこちらを叩くつもりなら、王だけは脱出させ、われらは大帝山で敵弾をひきつけ、飛竜艦隊をあの惑星の都市に叩きつけるつもりだったが……屈強の兵士でも、病にはおびえるものだ」

「飛竜です、すぐに参ります」

 通信が横から入り、別働隊の旗艦が大帝山に向かう。

「ありがとう。こちらから参ります。前から、直接お話ししたかったのです」

 コーデリアの艦が、身軽に大帝山に横付けする。

「いい機会です、切りこんで艦を奪取し、あの女を人質にして敵の武器を学べば」

「あれほどの将が、その程度のことを想定していないと思うか」

 正宗は言い捨てた。

 

 コーデリアは、大帝山に足を踏み入れ驚いた。内部は狭く、飾りも何もないのだ。

 バラヤーの常識では、戦艦は外交手段でもあり、晩餐会や国際会議も可能な、ホテル・オフィスの機能もある。

 だが、常識が通じない別の世界との接触は、それこそベータから後進的なバラヤーに嫁入った彼女にとっては慣れたものである。

「直接お目にかかるのは初めてですね、コーデリア・ネイスミス・ヴォルコシガンです」

「智の紅玉だ」

 コーデリアが無造作に差し出した手を、正宗は強く握った。

「希望」

 ただ一言、コーデリアの唇をついた。

 飛竜が刀に手をかけるのを正宗は止めた。

「死中に活。智の残った臣民ことごとく引き連れて来た。五丈、練に比べ智は弱体、じりじりと弱まっていくだけ。ならば別時空で新しい兵器、新しい兵を手に入れて、と」

 正宗は堂々という。どれほどの苦しみに耐えての言葉かは、握った手を通して伝わっている。

「そちらの時空、こちらからも調べさせてもらっています。その判断で間違っていないと思うわ。そして、もう二つ……ご病気と、後継者」

 率直な言葉に、正宗は一瞬凍りつき、ふっと表情を微笑にした。

 すさまじい戦陣の経験がある。偉大な相手との戦いも何度も経験している。

 肉体とこころは深くつながっている。絶望すれば、顔だけでも笑ってみればよいのだ。そうすれば、その笑うという動きは心に影響を与える。

 コーデリアも、相手がそれができるほどの力があると知って、むしろ嬉しく思った。

 もちろん背後の、智の将兵は衝撃に動揺している。

「映像記録は徹底的に分析しましたし、使者はにおいサンプルも取ってきています。指導者の健康は歴史を動かしますからね。……われわれは、確かに艦船だけで光速を超えることはできませんが、医療水準は高いです。どうか診察を受け、治療していただけませんか?」

 コーデリアの目と、正宗の隻眼が激しい火花を散らす。

 

 正宗は、絶望を通りこして死びとであった。

 文明が爛熟に至っていた智の家臣はいまや党と閥、この二字よりほかにない。飛竜も、正宗が死ねといえば問い返さず即座に死ぬであろうが、現実をありのままに受け止めるつよさはない。

 対して、竜牙雷の強さはどうだ。その家臣団の闊達な団結はどうだ。

 王、幼名虎丸も幼いころはいいつけにそむいて戦艦に密航する勇敢な子だったが、この数年にすっかり身も心も弱っている。文弱な重臣・親族たちにすっかり牙を抜かれてしまったのだ。それもまた、練の謀臣姜子昌の深謀遠慮でもあったのだが。

 何よりも、もう数年もない、自らの死後に後を任せられる者がいない。それだけは、どうにもならないのだ。

 あとはただ、自らを信じてくれる武官のために戦い抜き、死ぬ……闘志だけに心を埋め尽くし、死を受け入れた。だが、そこに多元宇宙という機会が生じたのだ。

 乾坤一擲、臣民一人一人を説得し、ほぼ全員で故郷時空を脱出してセルギアールを襲った。よく死ぬことだけを願って。自らの死後を考えることも捨てて。

 だが、コーデリアはすべてを見抜き、希望を持つよう諭してくれた。

 正宗自身に強さがなければ、その言葉と誠意を真正面から受け止め、自らの心を変えることはできなかったろう。

 

「こちらがほしいのは、あなたがたの、ワームホールを使わない超光速エンジン。エンジンの技術そのものを得られないとしても、コマールから行ける不毛の時空を、そちらの超光速船を借りて探検し、その果実を分け合うことができれば申し分のない利益になるわ。

 それに、あなたたち智の存在は、練・五丈両国がこちらを侵略することを止めてもくれていた。その両国の追撃を考えれば、智とバラヤーは唇歯輔車よ」

 軍を掌握し、停戦を維持するのをアラールに任せたコーデリアが、ずばずばと交渉を続ける。正宗も楽しげに言葉をかわした。

「不毛の星を開拓できるだけの資材と人材はあるのか?」

「わたしたちはこのセルギアールを、四十年かそこらでここまで開拓したのよ」

「そんな、裏切られたら」

 これはコーデリアについてきたヴォルだ。

 コーデリアは目顔できびしく制し、正宗に鋭く語りかける。

「あなたは、わたしたちを裏切るほど愚かではないはず」自分も相手を裏切るほど愚かではない、という意も伝えている。「裏切るとしても、非戦闘員を含め数百万人のあなたたちが無人の時空を開拓して戦力をととのえるには、かなりの時間がかかるはずよ。わたしたちはその時間だけで十分。どこからであっても、新しい超光速技術を手に入れさえすれば」

「大したものだな。植民地総督の身でそこまでの決断ができるとは」

「グレゴール皇帝がここにいても、同様に考えることは間違いありません。そちらも、こちらのことはいろいろ調べているでしょう?女のあなたが、孤立時代のバラヤーのような世界で軍を率いているのも大したものよ」

 二人の女傑が微笑をかわす。

 コーデリア・アラール・そしてグレゴールの三人には、深い信頼関係がある。そのことは正宗も調べぬいていた。コーデリア自身がセルギアール発見、そしてバラヤーの内乱で男もおよばぬ活躍をみせたことも。

「ならば、さっそく診察してほしい。それから、無人の時空へ行く計画を」

「コマールに行くのに、ネクリン・ロッドを積みジャンプ・パイロットを養成するには時間がかかりすぎるわ。あなたの治療がここでできたらいいけれど、バラヤーや、エスコバールまで行くほうがいいかもしれない。どこに行くのであろうと、同行します」

 人質、ということだ。

「また、見たところあなたたちの艦船はメンテナンスが必要なようね。こちらの軌道基地をお使いください」

「何から何まで、痛み入る。練と五丈に対しては、まだ智が存在し、いつでも逆襲すると見せかける。もし追撃艦隊があるのなら、飛竜に迎撃させよう」

 戦いでは鬼にほかならぬ猛将。だからこそ、誠意には誠意を、と心を固めた。

 もののわからぬ者は、バラヤーを信じることに反対するだろう。智の名誉を思え、と。だが、命を捨ててかかれば、小さい名誉など大したことではないのだ。どちらを選ぶも同じく死を覚悟してなのだから。

 内の反対、そして新天地の開拓は、バラヤーを征服するより困難な道であろう。

 与えられるかもしれない生命をあらためて燃やし尽くす覚悟を固めたのだ。

 

 

 マイルズが、その知らせを受け取ったのは、バラヤーを離れたあとだった。切歯扼腕したが、自らの任務が優先であることはよくわかっていた。

 新婚夫婦は、半ば新婚旅行として、公務であることすらも秘密で出発した。平穏な旅になろうとは、彼自身思ってはいなかった……新妻は置いていこうとしたが、ヴォルコシガン家の危険を知り尽して結婚を承知したエカテリンには説得されるだけだった。

 残念だったのは、智との信頼関係が確立したため、五丈経由で〈ABSOLUTE〉に行くほうが早いかもしれない……が、今からセルギアールに向かうには費用も時間もかかりすぎる。

「ワームホール航法が、無意味になったら……」

 マイルズはそのことを考え、研究しながら船旅を続けていた。




ヴォルコシガン・サガ(「任務外作戦」直後)
ギャラクシーエンジェル2
銀河戦国群雄伝ライ
銀河英雄伝説
宇宙戦艦ヤマト(旧、3と完結編の間)


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宇宙戦艦ヤマト/時空の結合より3カ月半

旧・3と完結編の間。復活編や2199は完全無視です


 ガルマン・ガミラスがボラー連邦を撃破し、地球はそのガルマン・ガミラスと同盟を結び適度な距離を取って交易に力を入れていた、そのときに多元宇宙の扉が開いた。

 地球の近くには〈ワームホール・ネクサス〉のエスコバール、ガルマン・ガミラス本星の近くからはローエングラム銀河帝国につながるルートができた。さらにボラー連邦残存勢力と並行時空の艦隊が激しい戦闘を繰り広げているという。

 新たな動乱を前に、二組の招かれざる客が訪れた。

 

 

 ルークたちは一度同盟本部に戻り、クリス・ロングナイフらを首脳陣に紹介した。

 彼女の警告や、故郷についての情報は高く評価された。またスマートメタルや先進的なコンピューターとの交換で、ワスプ号にも最先端のエンジンが取りつけられ、単独で超光速航行ができるようになった。

 また太助も雷からの親書を渡した。

 そして再びタトゥーインに向かう。そこではやはり、ボラー連邦を攻めるために帝国艦隊が次々と集まり、出撃している。

 その中にミレニアム・ファルコンとワスプ号は、スマートメタルを用いて姿を変えてもぐりこみ、時空のゲートを抜けた。

 

 ゲートそのものは、こんな現象である。

 恒星の近く……大体は住める惑星のやや外側の公転軌道に、木星大の新しい惑星が出現し、公転しているように見える。だが、それは重力を発しない。

 厚みもない。薄い円盤が、常に恒星をむいているだけに見える。

 光も、日光よりずっと弱い、虹色の光が出るだけだ。その光はどう解析しても無秩序情報で、反対側を観測することはできない。

 その円に恒星側から侵入すると、別の時空のゲートの「裏」から、恒星から離れる方向に出る。

 逆に、恒星から遠い側から入ろうとすると、奇妙な反重力にはじかれてしまう。

 艦隊でもそのまま入り、何事もなく別時空に行くことができる。

 交通整理の必要さえない、しごく便利なものだ。

 現在知られている限り、いかなる兵器でもその門を破壊することはできない……

 

 

 

 一方、マイルズ・ヴォルコシガン皇帝直属聴聞卿と新婚の妻エカテリン、エカテリンの連れ子であるニッキの三人はエスコバールに着いた。

 思いがけない歓迎が待っていた。

 エスコバールの宇宙港で、とんでもなく異質な船を見て、マイルズは震えた。

 赤く塗られた、優美な曲面で構成された喫水線下。城のような巨大な砲塔と艦橋。正面を睥睨する波動砲。

「ヤマト……」

 マイルズは、以前の冒険をほぼ覚えている。

「古代!島!」

 港にすっとんだマイルズの絶叫に、振り返ったクルーたち。

 叫びとともに、マイルズは携帯装置から大音量で音楽を流し始める。

《サリアの娘》。

 滅びたレシクの笛の音。

 ノリコ・バッハのヒット曲。

 次元をかける竜と黒の剣が響かせる煉獄の歌。

 ヤマトの誰かが目を輝かせ、音楽を響かせる……ヴォルコシガン領の深山に伝わる民謡。バラヤー帝国国歌。

「ヤマトーっ!」

 小さい体の、両手を全力で振り回す絶叫を、全員が見た。

「だれか、ぼくを覚えていないか!」

「おぼえて、覚えていますとも!」

 雪が叫び、マイルズに激しく手を振りながら古代と島をゆさぶる。

 驚いたことに、その傍らではタウラ軍曹とローワン・デュローナが微笑んでいた。

 タウラ軍曹の、三メートル近い巨体と狼じみた顔は恐ろしく目立つ。それが大きく手を振れば、さらに目立つ。

 マイルズのボディーガード、親衛衛士のロイックがぱっと笑顔になる……彼は、マイルズの結婚式に訪れたタウラと恋仲になっていた。タウラとローワンは、マイルズの昔の恋人でもあったのだが。

 エカテリンの手を引き、全速力でヤマトのクルーに駆け寄ったマイルズは、爆発するような笑顔で古代の手を握る。

 そして小声で、

(今はヴォルコシガン卿だ、ネイスミスの名は出さないでくれ)

 とささやく。

(了解してる)

 古代も小声で返す。

 マイルズは追いついてきたエカテリンの腰を抱いた……肩を抱くような腕の角度で。

「紹介するよ。ぼくの、多元宇宙でもいちばん美しい妻、エカテリン」

「まあ、おめでとうございます!」

 雪が嬉しそうにエカテリンと握手する。

(この方も昔の恋人?)とマイルズに目で聞くエカテリンに、

(ちがう、って示さなきゃ)と焦ったマイルズは古代をつつき、

「古代、もう式は挙げたのか?それともまだ、みんなをやきもきさせてるのか?」

 と豪快に笑った。

「余計なお世話だ!」

 エカテリンはタウラを振り返り、

「タウラ軍曹、結婚式の際は命を助けてくださり、改めてありがとうございました」

「幸せそうで何よりね」

 と微笑み合う。

「おい、公務がまだあるだろ、古代艦長」

 島が『艦長』を強調した。

「ああ、そうだな……すまないが、雪」

「はい、ご案内しておきます」

「第三艦橋は勘弁してくれよ」

「いえいえ、ていと……閣下にふさわしいのは、第三艦橋ですよ」

 と、雪とマイルズ夫妻は笑いながらヤマト艦内に戻る。ニッキとロイックも、当然のように通された。

 並行時空への船のチケットを必死で求めている大金持ちや貴族たちは、あきれる思いで見送った。

「あの軍服、バラヤーの威光か?」

「いや、あの小さいのは見たことがある……デンダリィ自由傭兵隊の前隊長、ネイスミス提督じゃないか?」

「あのダグーラ第四の英雄?」

「あの人造スーパー兵士もデンダリィ隊の名物だし」

「いや、ネイスミス提督はセタガンダが作ったクローンで、最近戦死したというぞ」

「引退じゃなかったか?」

「なら、元親の……バラヤーの?」

「こちらではそう名乗っているらしいが」

「いや、ジャクソン統一星で、延命用クローンを多数盗んだという、ネイスミス提督のクローンじゃないか?」

「マーク大豪?デュローナ・コンツェルンのオーナーだろう」

「地球からのニュースを見たけど、もう一人クローンがいるらしいぞ」

 ざわざわ、と港は騒ぐ。そしてくろがねの巨艦を見上げながら商売と、脅威を計算していた。

 そんなおえらがたを尻目に、平常業務に励む人たちももちろんいる。

 

 艦内で、マイルズは周囲を見回した。

(ほとんど知っている顔がいないじゃないか。艦隊の再建でみんなが昇進した、のだったら古代と島が同じ艦にいるのはおかしい、二人とも提督になれる存在だ。

 新顔ばかりだ……多くの人が戦死していた、ということか……)

「ヴォルコシガン卿」

 タウラ軍曹が振り返る。その目は良く知っている、戦死者報告の目だ。

 マイルズはうなずき、雪に振り返る。

「森雪」

 提督の、大貴族の態度。雪はとっさに態度を改める。

「はい」

「ヤマトの、あれからの戦死者たちに敬意を表したい」

「はい」

 と、雪は第二艦橋にマイルズを連れて、戦死者を記録した名簿を出した。

 クルーが闖入者に驚くが、雪に制止された。

 マイルズは亡き戦友一人一人の名を声に出さず読み、必死で涙をこらえていた。

 最敬礼し、抑えきれぬ悲しみに腹を波打たせた。雪も敬礼を返し、涙を流している。

 タウラも、あらためて悲しみに打たれている。

「みな、立派に死んでいきました。地球を守って」

 雪が涙を流しながら、誇りに満ちて静かに言う。

「心から敬礼します」

 しばらくして気を落ち着けたマイルズが、士官たちが秘密で話せる部屋に移った。

「ヴォルコシガン卿」

 タウラが少し悲しげに言う。マイルズは悲しみをおぼえたが、それよりヤマトの戦死者の悲しみのほうが何倍も大きかった。

 彼女が、部下だった時の口調で報告を始める。

「デンダリィ隊がヤマトのクルーを見て、お互いに思い出しました」

「ぼくの船旅中、だな」

「デンダリィ隊の、他の……ネイスミス提督の正体を知らない者はクイン提督に率いられて、バラヤーに向かっています」

 身分を偽装し、デンダリィ隊を指揮していたマイルズとデンダリィ隊が接触するとややこしい問題になるからだ。

 そこに佐渡医師が出てきて、マイルズに笑いかけた。

「佐渡先生」

「実は、あと二カ月の命だったんですが、佐渡先生に伸ばしてもらったんだよ」

 タウラが平然と笑う。皆の表情がぱっと輝いた。

「元気なようじゃな」

「二回ほど死んだけどね」

 と、笑い合う。冗談でなく死んだことは、はっきり伝わる。手榴弾で胴体を失い低温治療で再生され、さらに軍を罷免されネイスミス提督の地位を失い……

「ようし、飲もう!」

 雪や佐渡は、どれほどのことだったか感情を察し、酒にしようと誘った。ヤマトの古参クルーはそれができるほどの百戦錬磨であったし、以前の戦で深い絆をマイルズたちとも結んでいた。

 

 並行時空へのチケットはそうして手に入ったが、ヤマトもマイルズも、エスコバールにも滞在しなければならない。用事は多いのだ。

〈ワームホール・ネクサス〉時空では、ワームホールがあるところでしか超光速航行はできない。まず来たのはヤマトであり、エスコバールと相互不可侵条約を結んだが、波動エンジン技術のリバースエンジニアリングは拒否した。

「利益のためじゃない。波動エンジンを悪用したら危険すぎるんだ」

 と、古代は叫んだものだ。

 ヤマトに帰って波動砲のことは漏らしていないぞ、と威張っていたが、

「ヤマトの姿を見れば巨大兵器があることは一目瞭然だろう」

 真田に指摘され、

「なら波動砲を搭載していない艦で未知の世界に行けというのか」

 と、わめいていた。

 それ以降は、巡洋艦程度の軽武装で輸送力を増強した波動エンジン艦で貿易を始めている。まだ試験的な段階だが、ワームホール・ネクサスの高い医療技術は地球で高く評価されている。特にエスコバールは、ジャクソン統一星からデュローナ・グループが亡命したことで、医療技術は大幅に底上げされている。

 地球には、うち続く戦乱で重い傷を負った英雄も多くおり、彼らが回復できる希望には高い需要がある。

 逆に地球からも、波動エンジンそのものは与えないにしても超時空通信など、いくつかの技術は売っている。ガミラス・白色彗星帝国・暗黒星団帝国から奪った技術は豊富だ。

 だが、まだまだ船便は少ない。

 

 マイルズはバラヤーの大貴族として、エスコバールのバラヤー大使館、そこの機密保安庁分室と緊密に連絡を取り合い、外交もする。

 また、まちまちの年齢の姉妹たち多数からなる遺伝子改良された天才一家、デュローナ・グループと会うのも、重要な仕事だった。彼女たちがジャクソン統一星から脱出したのにはマイルズの弟、マークの功績が大きい。

 彼女たちにとっては投資家でもあるマークから、関係する話も取り次いだ。ジャクソン統一星で作られ売られたマークは、特にクローン延命技術に対する恨みが激しい。金持ちがクローンを作り、成長を促進して健康な大人の体格まで、適度な運動をさせて育て……金持ちの脳をクローンに移植し、クローンの生来の脳は捨てて死なせるという、ジャクソン統一星ならではの悪魔じみた不老長寿技術だ。

 本当にその商売を潰すには、その技術を時代遅れにするしかない……デュローナ・グループはその意を受けて研究に取り組んでいる。成功すれば莫大な儲けになることも当然のことだ。

 そして、多元宇宙の結合に伴い、大きな進展もある……ヤマトがもたらした、暗黒星団帝国の技術は、外見は人間と変わらないサイボーグに脳を移植するものだ。それは大いに有望な延命技術である。

 ヤマトの地球ではまだそれを延命技術にするほどバイオ技術が進んでいないが、ワームホール・ネクサスの、デュローナ・グループの高いバイオ技術なら……

 あわただしい日程を駆け抜けたマイルズはヤマトに乗った。

 ヤマトの側も交易や外交日程をこなし終え、ゲートを抜けて故郷の地球に向かう。

 だが、そこで突然飛んできた奇妙な船にデスラーの危機を知らされ、ヤマトは地球に降りる暇もなく全速で連続ワープに入った……

 

 

 ボラー連邦とパルパティーン帝国の戦いに紛れて離脱したミレニアム・ファルコンとワスプ号は、ガルマン・ガミラス帝国の首都に向かった。

 絢爛豪華なドーム都市、強大な新興軍事帝国。

 その規模、空中を走るチューブ軌道車など、クリスやルークでさえも唖然とするほどの技術力があった。

 だが光あれば必ず闇はある。巨大な都市だからこそ、悪党もいる。

 デスラー総統は遠征中。クリスやソロは面会の予約を求めつつ、ピーターウォルドの覆面企業やソロがよく知る麻薬商人を何人も見出していた。

 悪党さがしは、ソロ・太助・アビーの三人が主に担当している。アビーと太助は大いに気が合っているようだ。

 

 ガルマン・ガミラスの高官に招かれ、故郷時空の話や商談をした帰り道。

 クリスの故郷にとって処女地であるここで、通貨も身分保障もなにも効果がない……それでどうやって、高官に招かれるような社交活動を始めたのか?

 彼女は、故郷では大富豪でもある。だが、並行時空では故郷の貨幣は無意味だ。貨幣は本質的に、政体の内部でしか通用しない。

 黄金やダイヤモンドさえも価値はない……宇宙進出ができる種族ならば、小惑星から黄金などいくらでもとれる。ダイヤモンドでできた惑星すら珍しいものではない。現にイスカンダルでも今のガルマン・ガミラスでも、ダイヤモンドは建材だ。

 それを理解しているクリスは、並行時空の探索に志願した時、莫大な信託財産の大半を技術に換えた。

 三種族……人類が宇宙に進出する前に繁栄し、理由不明で消えた文明の遺物を、かなりの数。クリス自身遺跡発見者としても有名だし、すぐれた学者や大企業のトップも家族にいる。金で買えない遺物も入手できる。

 彼女自身が持つネリー、超ハイエンドのコンピュータの一世代下を多数持ってきているし、それは部下全員に配られ戦力を底上げしてもいる。

 スマートメタルや、ソフトウェアも、どこでも膨大な金になる。また芸術やポルノのソフト、スパイスから伝染病まで多様な遺伝子も、並行時空のどこでも高い換金価値がある。

 書画骨董のたぐいは明白な希少価値があり、高く売れる。

 身分については、故郷時空の場所と連絡先を教え「嘘であれば照会すればわかります。ですから、嘘をつく動機がありません」とするしかない。

 ルークは本来のボディーガードであるジャックとともに、話の幅を広げるために同席していた。

 ガルマン・ガミラスの高官の多くも最前線で戦う武人であり、激しい戦いを経験した武人であるクリスやルークの話は喜び、多くの人に紹介もしてくれた。

 華やかな席だが、クリスのナノバグを用いた、水の羽衣のように変形し続ける服は、男性の目をひきつけ夫人たちの憧れとなった。

 無論それはとんでもない価格で売ることになる。どうせ分析されるのだからと先にメーカーに特許を売ってしまえば、二重に大もうけできる。

 晩餐の席には、高い名誉を持つ名物男もおり、軍談を楽しみもした。

 その帰り道には、海兵隊の一個分隊がついていて、奇妙な集団となっている。

 ある広場で、ルークは始めて見る設計思想の涙滴型の宇宙船を見かけ、激しい衝撃を受けた。見たこともない船、だがその中に……

「どうしたの?」

 クリスが様子を見とがめた。

「ここに、とんでもない力の持ち主がいる」

「敵か?」

「邪悪な感じはしないな」

 もしその中を見たらさぞ驚いたろう。

 その中に隠れていたのは、地球大気では生きられぬ、レンズを持つ生物だった。おぞましいとしか言いようのない外見の。

(ジェダイよ)

 心に響く声に、びくりと驚く。そして、中にいる者の正体も洞察した。

(ドメル広場に急げ)

(わかった)

 そう、心の声で返したルークは、相手の力に圧倒されていた。その命令に従うべきだと、はっきりわかっていた。

 走り出した。

 

 都のはずれにある、英雄の銅像に見下ろされる広場。たくさんの群衆がさんざめいている。

 その群衆を激しい怒号とともに、デスラー親衛隊の制服を着た一個小隊がかきわけ、一人の男を襲撃しようとした。特徴のあるひげの男に、容赦なく銃がつきつけられ……。

 ルークとクリスが、ひげの男を守って立ちはだかり、

「動くな!」

 と叫ぶ。

「む」

 先ほどの会食で座を共にした、ひげの男が驚いた表情で、ルークとクリスを見た。

「フラーケン大佐!」

 クリスが叫んで……彼を押し倒すように伏せさせる。

 立ちはだかったルークが、別方面からの狙撃をライトセイバーではじき返す。

「何をするか、デスラー総統のご命令で反逆者を抹殺しようと」

 親衛隊の声に、

「嘘だ!」

 ルークが叫び返す。

「正規の命令書はあるのですか?」

 クリスの言葉にかまわず襲おうとした数人の兵、

(非殺傷制圧)

 ネリーへの、声を使わない命令を受信し、素早く動いた海兵隊員が群衆の間から滑り出て、兵士を格闘で制圧していく。

 親衛隊の一人が、異常なほどの身体能力でフラーケンを襲い、ルークのライトセイバーに両断された。

「きさま、デスラー親衛隊になぁにしやがる」

 親衛隊の隊長が海兵隊員に膝を蹴られ腕を縛られ、親衛隊らしからぬ下品な口調で怒鳴った。

 フラーケンが、逮捕しようとした部隊の、一般兵の一人を鋭く指差す。

「貴様は知っているが、他のものは見たことがないぞ。親衛隊の態度ではない、ただのチンピラと……ルークが斬ったのは、身体改造を受けた暗殺者だな」

「こいつ以外の、親衛隊の制服は偽造であり、発信機能がある偽造困難な身分証は持っていないですよ」

 クリスはネリーの報告を、群衆に聞こえるように大声で言う。

「なんということだ」

「それだけじゃないぜ」

 群衆の中から、一人の美女の腕を両側からソロと太助がつかんで引っ張り出し、クリスとうなずき合う。

(ルーク、自殺予防)

 クリスの、口を動かさない言葉をコンピューター経由でルークは聞いた。

 女が目を見張り、口を動かそうとした瞬間、ルークの手が動く。

 毒を噛み破ろうとしたあごが凍りつく。

「すごくたちの悪い麻薬を売ってた女が、なんかすごい嫌なにおいの陰謀をやってるようだから追ってた」

 太助が笑う。

「ネリーから、こいつをつかまえろって指示があったんだよ」

「そう。この女が、超小型の通信機でこの親衛隊員に指示を出していた」

 クリスが厳しく、どこも動かせない女をにらみ、群衆を警戒する。

「そうそう、ここの地下街で、別の宇宙で発明されたっていういい薬を手に入れた……即効性ペンタ、というらしいな」

 そう言ったソロが、ハイポスプレーを女に当てる。そして女の表情がだらしなくゆがむと、尋問に応じて語り始める……

「誰の命令だ?どうやって親衛隊の兵士を動かした?」

「ピーターウォルドさまの命令で、その親衛隊の男に麻薬を売って、命じた。シオナイトに逆らえる人間なんていない」

「うまくいっていたら、どうなっていた?」

「フラーケンを、親衛隊の制服を着た人たちが抹殺する。

 それでガイデルが反乱しなくても、ガイデル反乱のうわさを流しつつ、あたしたちの戦闘部隊がガイデルの味方を名乗って暴れ、混乱に乗じてガルマン・ガミラス帝国をピーターウォルドさまのものに」

「あいつららしいやりかたね」

 クリスが唾を吐き捨てる。その自白は、しっかりネリーを通じて増幅し、群衆に聞かせている。

「さらに裏があるだろう。シオナイトという麻薬は、クリスが教えてくれた彼女の故郷にも、僕の故郷にもないぞ」

 ルークの言葉に、女は激しく口をゆがめる。

「デスラー艦を襲う、ボスコ」

 とっさに、ルークが女を突き飛ばした。女の頭が爆発する。

「感じられなかった、殺気も、どこにもない」

「ネリーも、電波信号を何も検出していないわ」

 ルークとクリスが目を見合わせる。

 そこに、本物のデスラー親衛隊の士官・憲兵隊士官などが、フラーケンの連絡を受けてあらわれた。

「何があったのだ、ヴィスト、フラーケン」

「まず、その群衆から話を聞いていただきたい」

 クリスの、士官としての権威ある声に、親衛隊士官もとっさにうなずいて情報収集を始める。

(親衛隊と前線士官の抗争があったら大変よ)

 と、政治的なことを考えてしまうのもクリスの、自分では好まない面だ。

「そしてこれには、すべての音声・映像記録がある。未編集だし、そこの監視カメラも同様の音声・映像を拾っているはずよ」

「わかった」

 親衛隊士官がうなずいた。

「いい?フラーケンは無実、巻き込まれただけ。そのことはこの広場の群衆、全員が証人よ。むしろわたしたちは、あなたの仲間の仇を取るため、にっくき麻薬売人と戦う。まずこいつらの戦闘部隊を奇襲しなければ」

「行こう、クリス」

「ああ、そうか。ヴィスの仇は、麻薬売人、ピーターウォルドなのだな」

 親衛隊士官が、呆然としてあちこちに連絡をする。

 憲兵隊が、海兵隊が潰した一人一人をあらためて拘束する。

「そうよ」

 クリスがとっさに恐れたのが、親衛隊が敵味方思考でフラーケンやクリスたちを敵とみなしてしまうこと……最悪、ガルマン・ガミラスを二分する内乱に巻きこまれることになる。

 実は、親衛隊士官の感情を、ルークがフォースでなだめ、怒りを抑えている。

 

 フラーケン、その上官ガイデルというガルマン・ガミラスの武人には、功があった。ヤマトを倒したという巨大すぎる功が。

 彼ら自身はヤマトの名もろくに知らず、デスラーの命令を無視してでも戦いぬいただけだ。

 だが、その結果……命令に背いたのだから譴責は当然と受け入れたが、巨大な名声に困惑した。

 旧ガミラスの者は誰も、ヤマトに完全勝利した、ということを、信じない。記録を確認したら、神様扱いする。

 ガイデルたちの軍事的な功績は、ヤマトの件を除いてもきわめて高いのだが、それとは桁外れの扱いを受けてしまう。

 それは、独裁国家では身の危険につながることを、ガイデルもフラーケンもよく理解していた。

「きみたちは、並行時空から来たという……先ほど、カールティリの夜会でお目にかかったな」

 フラーケンがクリスたちを、あらためて見た。

「はい」

「助かった、そんな手で来られたら、われわれはデスラー総統閣下に忠誠を誓っているというのに反逆者にされてしまう。デスラー総統が危ないというなら、こうしてはおれん、すぐに出撃しなければ」

「いえ、事情聴取は必要です、申し訳ありませんが」

 といいながら親衛隊士官は死んだ女の言葉を再生して聞き、ぞっとした表情で目を見開いている。

「は、はやく増援を出さなければ」

 フラーケンが拳を握り締めている。その間に、太助とソロが軽くクリスにウィンクをして、群衆の中に消えた。

 すぐに飛び立ったミレニアム・ファルコンは地球に急ぎ、ヤマトに助けを求めた。

 太助もソロも、ヤマトのことなどろくに知らない。だが、ルークはあの、謎の涙滴形船の中のレンズマンから、『地球のヤマトに知らせるように』と言われていたのだ。

 そのルークが持っている、ネリイより少し劣るだけのコンピュータから、ソロに連絡が行っていた。その指示通り、一連の騒ぎの映像を送信したら、ヤマトはすぐに動いた。

 

 

 デスラーは解放したガルマン人の多い星を訪問し、同時に周囲での戦線を監督し、将兵に顔を見せ鼓舞する……かなり外交的な遠征をこなしていた。

 また、ボラー連邦はパルパティーン帝国と争っており、次の敵としてその情報を集める目的もあった。

 その道中、半ば感傷で、かつてガトランティス帝国に身を寄せていたころに戦った戦場に花を手向けようと、少数の艦隊で複雑な宇宙気流の中を通っていた……その時に、奇妙な艦隊の強襲を受けた。

 敵の中心に、かなり巨大な艦がいる。

 奇妙なほど機動性が高く、多数の、巨大な虫のような兵器を出して襲ってくる。

「わたしに牙をむくとは。デスラー親衛艦隊の名にかけて、叩き潰してくれる」

 デスラーは冷静な怒りを込めて、激しく抵抗していた。

 だが、どう見ても絶体絶命……

 そこに突然、三隻の船がデスラーを援護して激しい砲撃を始めた。

 ヤマトと、ミレニアム・ファルコン。さらに、恐ろしく遠くから、とんでもない精度と威力の狙撃。

「古代」

「デスラー!無事だったか」

 デスラーのパネルに映った古代が笑顔を見せた。デスラーも嬉しそうに微笑み返す。

「そちらの船は?」

「われわれはミレニアム・ファルコン。並行時空のものだ。デスラー総統を助けに来た」

「ほう。われらも負けてはならんぞ」

 デスラーが親衛隊に命じ、精鋭艦隊も発奮して戦い始めた。

 ミレニアム・ファルコンがスピードで斬りこみ、虫型の小型機を撃墜していく。

 そして謎の、遠くからの狙撃が大型艦の推進部と兵器を破壊し、接近したヤマトの強力な主砲がとどめを刺した。

 

 またガルマン・ガミラス治安維持組織が慌てている間に、ルークの指示でクリスが率いている海兵隊が素早く動いた。

 工業地帯の近くの、最近シャルバート教団から分かれたという妙な寺院……そこが、一個大隊の兵士を吐き出したのだ。

 敵は全員服装は民間人だが、重武装している。

 海兵隊が、乗ってきた車をバリケードに必死で抵抗する。

 激しい銃火が飛び交い、手榴弾が炸裂する。

 海兵隊が優位に立つのは、全員が装備しているきわめて優秀なコンピュータ。全員死角なしに周囲の状況を見て分析し、一つの生き物のように動くことができる。

 だが敵は、強力なレーザー兵器と数の優位、そして麻薬中毒で苦痛なく襲ってくる。

 ひたすら海兵隊が稼いだ時間、そこにクリスとルーク、親衛隊と憲兵がやっとかけつけた。

 ルークが指示した標的の一つ、麻薬商人の拠点は、小さかったが抵抗が激しく、親衛隊からも犠牲者が出た。強力なロボット兵もおり、ルークがいなければ勝てなかったろう。

 そちらの拠点は不利と見るや大爆発し、すべての証拠は消し去られた。

 

 

 そしてガルマン・ガミラス本星に向かったデスラー親衛艦隊とヤマトは陰謀を聞いた。

 もちろんデスラーと、名士となっていたガイデルがクリスらに深く感謝したのは言うまでもない。

 それでピーターウォルド家の企業を叩き潰し、さまざまな外交関係を練る……そのつもりだったデスラーたちは、恐ろしい知らせを受けた。

 

 ガルマン・ガミラスの辺境にできたゲートの向こう、ローエングラム朝銀河帝国を、とてつもない数の艦隊が襲っているというのだ。

 地球人に似てはいるが、巨人の艦隊が、千万隻以上……




宇宙戦艦ヤマト
スターウォーズ
海軍士官クリス・ロングナイフ
銀河戦国群雄伝ライ
ヴォルコシガン・サガ
レンズマン
銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス


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都市と星/時空の結合より2年半

 その銀河は、遺跡だらけだった。星々は老いていた。爆撃されたような虚空も多くあった。生身の肉体を持つ知的生命体は、一つの星にしかいなかった。

 が、その星は今、息を吹き返そうとしていた。

 一つの都市と、一つの森の民。手を携え、残されていた膨大な技術遺産を用いて、砂漠と化していた惑星に海をよみがえらせ、木を植えた。

 だが、それは他者の目を引き寄せることにもなる。

 もとより、昔のように閉じこもっていても、見つかるときには見つかったろうが……

 

 その銀河には、〈ABSOLUTE〉に直行できる門はなかった。その時空には〈ABSOLUTE〉への門があるが、二十億光年かなた。〔UPW〕はこの時空を無人時空として扱っている。

 どこの勢力にとっても、手つかずの処女地。だが、それは魅力がないということでもある。

 元寇は、日本を侵略して抵抗に遭い撃退された。北海道を侵略すれば抵抗もなかっただろう、だがそうはしなかった。朝鮮・明を侵略した豊臣秀吉も、北海道なら楽に占領できたはずだが、そうしなかった。なぜ?

 費用対効果の問題だ。元や秀吉が当時の北海道を占領しても、得るものはほとんどない。バイキングがアメリカに力を注がず地中海を目指したのも、同様の理由だ。

 それに対してコロンブスの、ピサロやコルテスの侵略は儲かった。元……モンゴルが中国を、またイスラム諸国を攻めるのも、儲かった。日本を滅ぼしていても、少しは儲かったろう。

 すでに存在する帝国と、それがない無主(狩猟採集民しかいない)の地……その違いは、ちょうど金塊と金鉱に等しい。

 金塊はほぼ100%。それに対して金鉱は、1トンの鉱石あたり金が10グラムあれば優良とされる。金鉱石から黄金を取り出すにはえらい手間と費用、有能な人間が多数必要なのだ。

 モンゴルが滅ぼした宋やイスラム諸国、スペインが滅ぼしたアステカ・インカ帝国は金塊だ。精製された黄金が大量にある。銀や銅も。布も。家畜も。

 別の種類の、もっとも価値のある家畜もたくさんいる……奴隷。都市には何万という人間がいて、それはそのままとても高い換金価値を持つ商品になる。

 しかも都市で、支配されることに慣れている人が多数いる。たとえば、元寇当時のアイヌを奴隷にしても仕事を教えるのにえらく苦労するが、当時の日本人であれば誰もが布を織り、田畑を耕し、牛馬の世話をすることができる。読み書きできる者もいる。磨かれた美女もいる……文化を破壊する蛮族でも性技は高く評価する。それは奴隷の価格差であり、金で数えられる価値、費用対効果だ。

 さらに農地も整備されているし、社会階級の頂点を倒して従わせれば、何万何十万という人の支配体系の、その頂点にぽんと乗り移ることができる。何十万という人を集めさせ、労働者は皆すぐに死んでいくポトシ銀山に流しこみ続けることもできたのだ。

 それに対して、狩猟採集民しかいない地を支配し、先住民を皆殺しにして自分たちで開墾し、堤防を築き、鉱山を掘る……それには膨大な費用が必要で、割に合わないのだ。

 加えてモンゴルのような遊牧民、スペインのような武人貴族は文化的に、自ら地を耕し働くことを嫌う。彼らにとって、文明のない侵略先は価値がないのだ。

 

 ただ、地球の歴史では皮肉なことに、「割に合う」侵略先に恵まれたスペインはそのために収奪的な政治・経済に固定されて衰退し、遠い未来まで本国も独立した植民地も苦しんだ。それは資源の呪いと同様だった……豊かすぎて工夫を怠ったのだ。

 反面、先住民を皆殺しにして開拓した、イギリスから来たアメリカ・オーストラリアの人々は包括的な政治・経済を築き、後の繁栄につながった。

 

*参考文献:「国家はなぜ衰退するのか(上・下)」*

 

 そのことは、恒星間戦争の時代もさして変わるものではない。

 ファウンデーションのある時空を攻めた練・パルパティーン帝国の両軍は、略奪で膨大な資源を手に入れ、儲かったのだ。

 ただし、〔UPW〕は無人の時空も、ちょうど〈黒き月〉が資源惑星一つ・わずかな月日で無人艦隊を作り上げたと同じように活用できる。ほかにも、いくつかの高水準の文明には、無人の星系から短期間で巨大艦隊を作り上げる力はある。

 

 というわけで、この銀河につながる侵略性の高い文明は、あまり関心を持たなかった。だが、本当はこの星々には宝があった。砂利に混じる小さな、特上のダイヤモンドが。土の下に埋もれた黄金が。

 流浪の女将軍と別時空から流れてきた移民船が、それを同時に見つけた。

 

 

「明らかに、この七つの星は人工のものです」

 人質として正宗に同行しているが、実際には結婚前のベータ植民星での仕事、天体調査隊隊長をしているコーデリア・ネイスミス・ヴォルコシガンが分析した。

 正宗は黙ってうなずく。以前よりやせているが、目は健康と回復にかがやいている。

 こうして旅をしていれば、思い出すゆとりもある。バラヤー帝国との戦いから、二年以上が過ぎていた。

 病院まで生き、立って歩いていたのも気力でだった。すぐに診察と延命が同時進行だった。セルギアールからバラヤーまで行き、治療を続けた。内臓の多くを新しく培養して交換し、遺伝子改良されたウィルスで細胞を書き換えた。

 回復までの長い時間、様々なことを学んだ。

 意識が回復してから、動けない状態でも一千万近い臣民を指導した。

 何人もの人に会った。アラール・ヴォルコシガン。グレゴール・ヴォルバーラ帝。

 智の廷臣たちと変わらない、伝統はあるがくだらぬ人々も多くいた。伝統に潰されながら祖国のため、名誉のために生きている人々もいた。

 弟王はグレゴール帝に人質として預けた。また隠し子の雷丸はセルギアール総督アラール・ヴォルコシガンにゆだねた。

 また臣民たちはセルギアールの開拓を助け、別世界の技術と学問を学ぶよう命じた。

 

 アラール・ヴォルコシガンは正宗にとって、理想というべき存在だった。

 戦争の英雄であり、内戦を乗り越えて幼帝を守り育て国を保った。そして人々の予想を裏切り青年皇帝に権力を譲り、今は新天地の開拓を指導している。

 戦場でも、情報とシールドを信じ迷わず砲火に身をさらす勇気は自らの目で見た。

 彼に育てられたグレゴール帝も印象の強い人物だった。まだ若く、細身で物静かだが、かなりの修羅場をくぐってもいる。

 何よりも驚かされたのが、無人銀河の開拓に、ベータ・エスコバールなどワームホール・ネクサス各地から協力者を募ったのだ。バラヤーで独占するのではなく……とてつもない度量と勇気である。

 特に人口過剰で厳しい産児制限があるベータでは、それは福音だった。その教育水準の高い人々は、開拓の上でも大いに役立つのは当然である。

 バラヤーの人々の話に出てくる、今は留守だというマイルズ・ヴォルコシガンにも強い印象を受けたが、実際にどんな人物かは会ってみなければわからない。

 

 弟王、幼名虎丸をグレゴールに預け、入院した時のことは忘れられない。

 ハサダーにある、帝国で最も高水準の病院での予備手術……面会が許されたとき、虎丸の様子は一変していたのだ。

 幼いころの無謀さが消えて、ただ流されるだけ、快楽と怠惰に溺れる弱い存在になっていたのが、少年らしい狼のような雰囲気になっていた。

 どんなことをしたのか、いきりたつ廷臣を抑えて話を聞いて、あきれ返った。

 グレゴール帝は、留学から期末休暇で帰省していたアラール・ヴォルコシガンの次男マーク卿に幼子をゆだねた……教育せよ、と。

 

 マークはグレゴール帝の命令を受けると、幼王を守ろうとする廷臣たちを無視してあっさりと本人を拉致し、山岳地帯出身・元軍人の親衛衛士数人とともにヴォルコシガン領の山奥に閉じこもった。

 それから丸一日、ともに最低限のサバイバル技術を教わるや、幼王を何日も一人きりで放りだしたという。自分で尻を拭いたことすらない子を。それから数日間暗殺者の技能で気づかれずに見張り、死にかけたときだけ助けていたという。

 それからヴォルコシガン邸で、暗殺術だけを叩きこんだそうだ。一言も言葉をかわすこともなく。

 それを知った正宗は、自分のコマンドも補助教師として送った。

(暗殺術を学ぶには、人体を学び、自分の体を使うことを学び、人の心の虚実も学ぶことになるな。体力が増せば自信にもなる)

 廷臣どもが国の品格だの帝王学だの王の地位だの騒ぐのを尻目に、正宗はほくそ笑んだ。

 

 マークは、最初はグレゴールに文句を言った。

「まともに育っていないぼくに、子供を育てるなんてできるわけないでしょう」

「智王陛下も、まともとは程遠い。生まれの身分自体が、悲惨としか言いようがない宿命だ。王家の跡継ぎであり、しかも偉大な姉と比べられる、という」

 グレゴールはもの静かに話し、そして黙ることでマークの言葉を引き出した。

「陛下をまともに育てた、うちの国主夫婦こそがふさわしい。ぼくには、暗殺術と経済学を教えるぐらいしかできない」

「それでいい。暗殺術と経済学を、しっかり教えてやってくれ」

 

 智王の目には、マークも最初は大嫌いな英雄の一人にしか見えていなかった。

 何日も、ただわけのわからないことを教え、生命の危険にさらす、身長が自分とさほど変わらない、不気味な姿で怖い大人……さらにその眼を見れば、まともな精神でないことすら感じられる。

 マークがなんとか片言を覚え、少しずつ会話をするようになった。

「姉上がどうした?ぼくだって、偉大な」思い切りゆがんだ口調で、「兄上さまと父上さま、お祖父さま、もーっととーんでもなく偉大な母上さまがいるんだぞ。逆立ちしたってかなうわけがない」

「できることをやれ、生き延びろ。配られたカードでプレイしろ」

「ぼくが英雄?冗談じゃない。初陣で、どんな大失敗をしたか」

「命がある限り、終わってないんだ。金でもなんでもいい、手に入れろ」

 

 グレゴールの静かな言葉も、正宗の耳に残っている。

「智王陛下は、自分が無力だという思いにとりつかれています。

 彼の回りには、これまでふたつしかおりませんでした。

 一方は、姉を越えよと無理を言う武官。

 一方は、しきたりに従い生きて子を残せばいい、自らは快楽をむさぼる以外何もしてはならぬ、という文官。

 これで潰れないほうがおかしいでしょう。

 マークは偉大な兄や父を、普通の何倍も意識させられて育ち、重大な失敗を乗り越えて人となったのです。だからこそ彼に預けました。

 まずは人となることです。王家に生まれた者の義務を受け入れるのは、それからでいいでしょう」

(虎丸を一人の人、一人の男として扱っていなかったな。臣下たちはもちろん。グレゴールは虎丸を一人の男子、血の流れる人間として扱っているのだ)

 そして、マークもまた偉大な兄と自分との比較で苦闘したことを調べて知った。

 アラールの長子マイルズのクローン、それもコマールのテロリストが注文し製造させたという。マイルズといれかわってバラヤー帝国首脳部を暗殺するために、訓練・教育された。さらに生来の障害で骨が砕けやすく極端に体が小さいマイルズに合わせ、手足を折らて肉体を造型される子供時代を送った。

 あまつさえ、アラールに激しい恨みを持つテロリストはマークにも、狂気じみた虐待を繰り返していた。

 マイルズと出会って一時は入れ替わり、育ての親を自らの手で殺したマークは、ヴォルコシガン家に引き取られて主にベータ星で教育を受けている。自分自身で莫大な財産を獲得し、それを事業投資で増やしてもいるそうだ。智が持っていた遺伝子資源を、バラヤーの技術で研究する事業も主導しているらしい。

 また、グレゴール自身が若いころ行方不明事件を起こしたことも知った。

(私はなんということをしていたのだ、虎丸自身の教育に何をしてきた?)

 グレゴールの慧眼に改めて敬服した。

 

 

 ちなみに、マイルズ一家が留守でマークも留学、アラール夫妻もセルギアールにいるヴォルコシガン邸には、シモン・イリヤンとその恋人アリス・ヴォルパトリルの肝煎りで智の重臣が何人か住み、ある意味大使館の機能を果たしている。

 

 赤子の雷丸も心配はない。正宗は老齢で引退する、という家臣を数人、幼子も含めてアラールの総督邸に住まわせてもらい、その一人……身分は低いが忠誠は絶対に信頼できる……に赤子をゆだねたのだ。

 無論、アラールは事情を知っている。

 

 

 正宗が健康を取り戻してから、もう一年半は、何百隻もの超光速船で無人の銀河を探検している。

 住みやすい惑星はいくつもあった。重力井戸がない分扱いやすい資源小惑星もあった。そこに、智の臣民を何万人もおろし、バラヤーから買いつけた機械を用いて開拓する……機械の使い方を学びながら。

 マーク・ヴォルコシガンが経営する企業の製品、バター虫の存在も大きい。人を拒むジャングルの植物を短期間で食い、腸内の微生物で分解し、ミツバチのように分泌した食物を巣穴に貯めこみつつ増えていく。それは人が必要とする栄養をすべて満たしてくれ、どのようにも調味できる。

 それで食料を確保すれば、あとは安心して山を切り開いて水路を作り、繊維作物を栽培する。

 鉱山を掘り、水を確保して工場を作り、智の超光速機関とバラヤーのシールドを兼ね備えた艦を作る……。

 最初の艦が進宙するまで五年はかかるだろう。

 

 戦いがないことに不満もあったが、むしろ雑兵や連れてきた貧民たち、一人一人に広い土地を与えることで下から不満をなだめた。また、使えない智の貴族層も、土地の欲望を利用してなだめている。

 黄金や勝利も魅力的かもしれないが、土地の魅力はまた違うものがある。地平線まで見渡す限りおまえのものだ……そう言われて喜ばぬものはいないのだ。

 だが天下を目指した英雄の方向転換に、反対する者は多かった。自分の脳内で作り上げた英雄や国の像しか見ない狂信者も多くいた。そして、利益よりも仲間との争い、党閥を優先する者も多くいた。何の意味もなく悪意を暴走させる者もいた。

 忠義勇猛で知られた臣に暗殺されかけたことも一度ならずあった。

 正宗は多くの臣一人一人をよく知っており、だからこそ一人一人にほしいものを与えた。欲望をあおり、競争心をあおった。人間が思い通りにならないことも、よく知っていた。

 それは戦いそのものだった。

 親友にしんがりの死を命じ、落伍した兄弟にとどめを刺して人肉をくらう撤退戦と同じ地獄だった。

 変化についていける強い者以外、内心涙をふるって切り捨てる……土地を与えて引退させるという形であっても。

(練・五丈と戦い続けるほうが、どんなに楽だったか)

(治療を拒み、死んでいればよかった)

 そう思わぬ日もなかった。

 ただ、新しい戦いに順応する者、伸びる者もいた。

 バラヤーの側も、智に、開拓に対する反発はあった。それは主にグレゴール帝と、アリス・ヴォルパトリルが巧妙になだめ、政治的な噴火を押さえ続けた。

 ベータやエスコバールからの移民が銀河テクを用いて短期間での開拓を監督し、教育水準の低い智の民を助けている。遺伝子改良でつくられた四肢がすべて手のクァディーも、資源惑星を工場とするのに活躍している。

 それが身分制度になって智の臣民が抑圧されないよう、正宗とコーデリアは卓越した政治力を発揮した。

 

 バラヤーとも緊密に連絡できている。智では、星の間でも電話ができる……多少雑音は入るが、即時通信が可能なのだ。

 もちろんその技術は、とんでもない金額でワームホール・ネクサス全域に売られている。

 さらに智の超光速船はこのゲートの向こうの銀河だけでなく、ワームホールがなかったために利用されていなかった、バラヤーのある銀河の星々の探検にも使われている。

 

 

 開拓と探検の中、正宗たちが明らかに人工的に配列された七つの恒星を見つけた。七色の宝石を並べた指輪のように、華やかな色の違いで、完璧な形で並んでいた。

 ほぼ同時に、近くにフォールドしてきた超巨大艦の通信を受信した。

 1620mの圧倒的な規模。

「こちらメガロード01、艦長一条未沙」

 

 第一次星間大戦ののち、生存者たちは滅亡を免れるために星々に種を播くことを決めた。タンポポが風に乗って多くの種を飛ばすように。

 その最初の試みが、戦前から作られていたメガロード級移民艦。ゼントラーディ艦を含む護衛艦隊とともに地球を出発し、銀河中心部で謎の歌声を調べ、消失していた。

 その行きついた先は、いくつもの遺跡はあるが生きている人の形跡がない銀河だった。

 

「こちらは智・バラヤー連合の銀河探索隊旗艦大帝山」

 にらみ合う。もう、メガロードからは航空隊が出動している。智の空母からも爆撃機は出ている。

「防御隊形を崩さないで」

「りょーかい」

 一条艦長が、夫でもある輝に命令した。昔の命令無視傾向は最近はおとなしいが、心配ではある。

 二万人もの移民団と愛娘のことも心配だ。

 ライトニング3は高速で飛び、瞬時にバトロイドに変形するや捧げ筒で整列した。

 厳しい訓練の成果、一糸乱れぬ隊列。敵意はないが、攻撃されたら徹底的に叩く、と表現している。

「ほう」

 正宗の頬がほころび、負けじと整列を命じる。

 ライトニング3の陣には、訓練だけの甘さはない。本当に殺してやる、という、戦場の狼の気配があった。

 輝たち地球人は、百億の人口を百万人足らずまで減らされている。家族を失い、絆の濃い戦友を喪っている。

 戦国の世で戦い抜いてきた正宗たちと、同じ殺気だった。

「戦う必要はありませんよ、どちらも」

 コーデリアが深く息を整え、正宗と未沙の双方に向けて言う。

「群れがふたつ、飢えていて一つの獲物を取り合うのなら、戦うしかないかもしれません。でも、両方の背後には豊かにおいしい実がなる森があります。ただ背を向ければいい。

 いいえ、今はまるで、船を持つ人と網を持つ人が出会ったようなものです。船から糸をたれるだけでも、岸から網を投げるだけでも多くの魚はとれない、でも船から網を投げればいくらでもとれます。

 わたしたちバラヤーと智も、一方にシールドとバイオ技術があり、もう一方に超光速機関があったから協力した……また技術をつがわせることで、より大きな可能性が開けるでしょう」

「だが、部下たちは戦いたがっている。バラヤーのヴォルたちもだ」正宗が冷徹に言う。「理屈で人が動くなら、戦国などない。戦いたいという人の狂心は、すさまじく強い」

「ええ、そうよ。人間はもともと、群れて互いに戦って進化してきたのだから。ある意味戦闘のために作られた機械のようなもの」

「デカルチャー!戦闘のために作られた機械、というなら、われらゼントラーディこそまさにそうだ!!」

 メガロード01を護衛していた駆逐艦から激しい叫びが入る。

「なぜそれほど、必要がなくても戦いたがるの?」

 未沙が悲痛に訴えた。

「未沙と未来、妻と娘を殺されるのは嫌だ。メガロードや護衛艦隊のみんなも。それを殺そうとする相手とは、命をかけて戦う」

 そう、輝が言う。

 未沙も、コーデリアも正宗もうなずく。

「ええ。それはわたしたちも同じです。ですが、それだけではない……戦争による名誉は、社会における重要な評価基準です。

 また、他者に対して、まず恐怖を抱くのも人の常です。傲慢で他の群れに対する軽蔑と憎悪、まず戦闘というプログラムが染みついているのも、智の貴族層とバラヤーのヴォルに共通します。

 さらに、軍隊や国家という階層があり洗脳状態にある集団を維持するのには、戦い続けて考える暇をなくすことも必要とされます。略奪に経済を依存していたころからの伝統もあります。

 ちなみに、智は技術差があまりない、狭い世界の出身です。容赦なく戦って天下を狙う行動も、多元宇宙が開かれるまでは正しかったのです」

 正宗は無反応だが、内心はほっとしている。

「なぜでしょうね。戦争はあれほどの地獄なのに」

 未沙が苦悩を目に出し、身を乗り出す。

「実戦経験者は、罪悪感を紛らわすために戦いに溺れることがあります。未経験者は現実の戦場の地獄を知らず、物語の世界の栄光を追うだけ。また前線を知らない貴族・官僚は、抽象的な言葉の世界を現実と混同し、自国民の被害すら数字にしてしまいます」

 コーデリアの冷徹な分析を、未沙も正宗も冷静に聞き入った。むしろ、背後では智の武将たちやヴォルたちが激しい怒りを訴えている。

 戦わせてくれ、と脅し、哀願し、叫ぶ獣たち。

 しばし沈黙した未沙が訴えかける。

「おっしゃるとおりです。協力できるのに争ってしまった場合、大きい損をする可能性もあります。

 何より、こちらを観測してください。明らかに遠い過去、桁外れに優れた文明の遺物……あなた方と争うことに、時間を費やしたくないのです。

 争うのであれば、痛撃を与えて逃げうせ、別のどこかを開拓して復讐する自信はあります」

「そうね。その遺跡は見たいわ」

「そう、いまだ智の旧領にとらわれている臣民たちのためにも、より大きい力が必要だ。下らない争いで時間と人材を浪費する時間などない」

 コーデリアと正宗が同意する。

「行動を選ぶことは、結果を選ぶことよ。いい結果をもたらすため、どのような行動を今とるか」

「困難な道を歩くべきだな」

 正宗が歯を食いしばって決意する。

「防衛は解除しませんが、お互いの歴史情報をある程度交換いたしませんか?」

「こちらは、別時空出身の勢力が連合している」

「わたしも歴史情報を送ります」

 正宗とコーデリアがうなずきあう。

「皆のもの!あちらには桁外れの富がある。小さな敵などを食っている暇があれば、富をかき集めよう!」

 正宗の大音声が、人々の狂気を欲望にかきたてる。

 

 

 美しく並べられた七つの恒星、それらをめぐるいくつもの惑星を、二つの艦隊が共同して探索する……互いを疑い、監視し合いながら。

 凶暴な生物だらけの、緑の惑星があった。生物のいない砂漠の惑星があった。

 そして、明らかに人工の遺跡があった。

 その人工遺跡の分析も始めたが、巨大な球をこじ開けることすらむずかしい。科学技術水準の高いエスコバールやベータの人々が挑み、小さなおもちゃのようなものから原子単位で解析している。

「信じられない」

 そればかり、科学者・技術者たちの口からは漏れている。

 緑の惑星では巨大な生物に襲われ、ライトニング3が格闘することもあった。

 サンプルを取ってくるにも苦労する。

 

 そんな苦闘をしながらも、連合艦隊は探索を続けている……特に、人がいる文明はどこかにないか。

「人がいれば、開け方を教えてくれるかもしれない」

 そのためだけでも。

 

 多数の艦が星々をめぐり、情報を集め、ついに辺境の、砂漠の惑星に生きた都市が見つかった。

 訪れた大帝山とメガロード01は、都市の規模と美しさに呆然とした。

「こんな巨大な都市、見たことがない」

「わたしの故郷時空にも、ここまでの都市はありません。バラヤーからの手紙で、ガルマン・ガミラスやボラー連邦の首都、イスカンダルのダイヤモンド宮殿も見ましたが……それらも圧倒しています」

「密偵が手に入れた、インペリアル・センター(コンサルト)の映像を思い出す」

「なんという美しさ」

 その周囲は砂漠ではあるが、ふたたび水が流され、新しい木々が育ちつつある。水が流れ始めてから三十年ほど、と分析結果が出ている。

 また、かなり離れたところに古くからの森林地帯がある。農地と人家も、高性能の望遠鏡には見える。

 都市の近くの砂漠であった場所には、砂が除かれつつある巨大な宇宙港があり、いくつもの船が転がっていた。

 

 さらに、よく調べてみるとその星系の惑星は、どれも徹底的に開発され、放棄された痕跡がある。

 巨大なガス惑星の核だったと思われる、地球以上の質量をもつ人工球が何百個も太陽をめぐり、帰らぬ主を待っている。

「木星や土星にあたる星のようですが……その、膨大なガスはどこにやったのでしょう」

 コーデリアと未沙が目を見合わせ、震える。

 

 軌道から都市を観測していた正宗がついに断じ、コーデリア・未沙を連れて、都市のそばの巨大な港に降下した。

「ダイアスパーにようこそ。アルヴィンといいます」

 恐ろしいほど美しい青年が出迎えた。

 いや、その周囲の人々も、半分はすさまじい美形だ。

「ヒルヴァーだ。先に言っておく、私たちリスのものは、人の心を読める」

 年老いた、むしろ醜い男の言葉に、並行時空からの客たちは衝撃を受ける。だが、百戦錬磨の強さ、平静を保つ。

「許可を受けなければ、読むことはしない」

「能力を証明するため、三桁ほどの数字を思い浮かべてください」

 アルヴィンの言葉に応じて、三人がそれぞれ数を頭に浮かべる。

 ヒルヴァーはそれを正確に読んだ。いたずらに、亡父の名を思った未沙が正確に当てられ、一番驚いた。

「この能力だけでも、恐ろしいことだ」

「あなたがたの目的、そして侵略するつもりかどうかを教えていただけますか?」

 アルヴィンの厳しい目に、三人はふっと笑みを漏らした。

「嘘を言っても無駄だな。侵略が必要なら、利益になるならする」

「国という化け物の挙動はコントロールできるとは限りません。が、国益にならぬ侵略はしないようにこころがけています」

「攻撃されれば自衛します」

 三人それぞれ、せいいっぱい率直に答える。

「そのようだな。しかし、後ろの乗組員どもは……」

 ヒルヴァーがぞっとした表情で、智の乗組員を見る。

「どうしたんだ?」

 アルヴィンの問いに、ヒルヴァーが首を振った。

「おまえに、人の心を読む力がなくて幸いだよ」

 ヒルヴァーが読み取った、戦国の普通の人間……まさに豺狼であった。

 ダイアスパーとリスの人間自体、メンタリティは大きく異なっている……ダイアスパーの人には性も子も死も病もない……

 が、リスも戦争や疫病、奴隷制はない。どちらも、野生とはかけはなれたニワトリだ。

 戦国の普通人は、爪とくちばしを血と腐肉にまみれさせた野鳥だ。何億年もの文明、遺伝子改良を受けていないのだ。

 育ちもまったく違う。暴力が当たり前……マクロス出身者たちも、地球人の大半が死ぬ激しい戦争を経験し、またゼントラーディは文化を奪われ戦いの生涯を送ってきた。

 バラヤーや智の士官たちも、武を尊ぶ伝統で厳しく鍛えられている。

 飢え、虐殺、拷問と言っていい体罰と異常な規律、家族や愛する戦友の残酷な死、狂信……どれも、平和なリスの人間には想像もできない。

「これほど技術がかけ離れ、しかもあなたがたは心を読むこともできる。こちらから征服しようとしても無理でしょう」

 コーデリアが釘をさす。

「はい、無駄でしょう」

 アルヴィンの言葉に冷徹さが混じる。そう、無限の力を持つ超絶存在がいる……いや、戦艦一隻、ダイアスパーの〈中央コンピュータ〉が起動させれば、バラヤーとセタガンダに智と五丈と練が加わって総がかりでも一蹴できる。

 もし降りてきた船が敵対的であれば、まずリスのテレパシーが読み取り、すぐにダイアスパーに攻撃を命じるだけのことだ。

「わたしどもに、あなたがたにさしあげられるものがあればいいのですが。せいぜい、つたない歌と物語程度しかないですね」

 そう、未沙が圧倒されながら言う。

「われわれダイアスパーのものも、千年を千度繰り返す生涯の中、芸術を磨いてきました。芸術はとても好きです。喜んでわかちあいましょう」

「われわれが侵略をしなくても、別のものはするかもしれない。だからわれらは、できる限り強くなければならない。技術がほしい」

 正宗はまっすぐに要求した。

「わたしたちバラヤーも、それを方針としています」

「わかりました。議会と〈中央コンピュータ〉にかけあってみます」

 アルヴィンは冷静に受け止めている。

「もしよろしければ、メガロードには優れた歌手が何人か乗っています。歌を交換いたしませんか?」

「それはすばらしいですね」

 未沙とアルヴィンが笑い合った。

「われらにも、メガロードのように専業ではないが歌い手はいるぞ」

「バラヤーからも呼んできましょう」

 正宗とコーデリアも、なんとか平和な雰囲気を維持しようと笑う。

 さっそく特設されたステージで、リン・ミンメイが歌う。ダイアスパーとリスの人々も、智やバラヤーの宇宙戦士たちも楽しげに拍手をはじめた。

 

 この時空には桁外れに高い技術水準が残る。それこそ、塗料ひとかけらの分析に何世紀もかかりそうなほど。

 源平の武士団がイージス艦・原子力空母・原子力潜水艦を手に入れてしまったようだ。素材や機械の原理すら理解できない。

 確かに莫大なごちそうではあるが、それを食べて血肉にするのに、どれほど時間がかかるかわからない。その水準の戦艦を作れるのは、いつになるかもわからない。

 ダイアスパーの〈中央コンピュータ〉が、一瞬で智・バラヤー・マクロス・ゼントラーディの技術を解析し、その連絡を受けて海王星があったところに置かれた巨大工場が動き始めている。客のそれぞれの技術の、次の段階を教科書にして配ってもくれた。

 数十年前にダイアスパーとリスが鎖国を解いて以来、ダイアスパーの人々は自らを支える技術の勉強も始めていたので、それが参考になった。

 これまで、ずっと何の疑問もなく、人や食物、家具を部屋に出現させ、ロボットを動かしてきた……それが、どのようにして動くかを数学から学び始めるのだ。とてつもないことになるが、千年の寿命があり死を知らず、全員が天才であるダイアスパー人にとって、どれほど困難なことであってもなんということもない。

 ちなみにリスは、完全にではないが技術を理解し、再生産し続けていた。

「ここがどんなに素晴らしい都市でも、突然の太陽の異常で滅びるかもしれません。別の星に、ダイアスパーとリスの複製を作るべきです」

 コーデリアもそう言った。

「自分に満足し、向上を怠るものは負けて滅びた。常に向上する以外、生き延びるすべなどない」

 それが正宗の実体験だった。

 

 また、ダイアスパーは観光地としても、智の千万近い人々や、バラヤーや周辺国からの人々をやすやすと受け入れた。

 何十億でも部屋はあり、そのどの部屋も心で思うだけで心地よい家具・十億年かけて磨き上げられた料理がいくらでも「出て」くるのだ。

 もちろん音楽も映像も本も、限りなくある。

 どれほどあるかわからぬ通路・天井・壁のどれも、素晴らしい芸術作品に飾られている。

 それは教育にも転用できる。

 エスコバールやベータ、もっと遠いワームホール・ネクサスの星々にもその話は伝わり、金持ちたちはこぞって行きたがった。

 グレゴールはじめバラヤー首脳陣は、他国からの観光希望をあえて受け入れた。

「昔の地球で、広い土地に金が出たときに、それを独占しようとしてもだめでした。自由に掘らせ、シャベルを売ればもうかりますよ」

 そうマークが言って、旅行代理店に投資したものだ。

 それは出入り口であるコマールに莫大な金を落とし移民を増やすことにもなった。

 

 また客人たちの記憶から、様々な美しいものや激しい感情そのもの、一人一人の人生を含む無数の物語が取り出され、ダイアスパーの人々の手で見事な芸術に加工されもした。

 

 

 そして、正宗・コーデリア・未沙の三人は、ひとつの想を得た。

「多元宇宙では、争うよりも技術をつがわせ、古い技術を探し、無人の銀河を高い技術で開拓して富国強兵を進めることが、最も強く豊かになれるようです」

「富国強兵は、戦国の誰もがつとめてきた。だが常にいくさと、伝統や汚職に足を引っ張られてきた」

「一つの星を戦い取るより、何千もの星を得る方がよい……当たり前のことですよね?」

「一見、開拓より征服のほうが費用対効果がいいように見えます。ですが、技術水準がある程度以上であれば、水星や天王星のように一見不毛の星からでも、何兆人も贅沢に暮らせる都市を築き、宇宙艦隊を作りだすことができます」

「時間がかかるのは、指数関数で増殖する機械が増え始めるまでと、機械を使いこなす人の教育ですね」

「これが、答えだ」

「そう。〔UPW〕のシヴァ女皇が、どうすれば多元宇宙が戦乱にならずにすむか、問うたと皇帝陛下に聞いています」

「私も手紙を受けている」

「これが、答えです」

 彼女たち、そしてバラヤーのグレゴール帝は、また使者を送りだすことに決めた。

「シヴァ女皇がこの技術と、この想を託せる人か」

 それを判断するためには、正宗とコーデリア、そしてグレゴール自身が行きたかった……だが、この大開拓、三国の人々を思えばとても行けない。

 体が二つほしい、と激しく思いつつ、エリ・クインはじめデンダリィ隊の精鋭、そしてメガロード航空隊員とマイクローン措置を受けたゼントラーディの腕利き、さらに読心能力を持つリス人が、ダイアスパーの〈中央コンピュータ〉が改装したアリエール号に乗った。

 外見は変わらないが、中身はまったくの別物。八日で銀河を横断できる速度、エスコバールとベータのすべてを集めた以上の計算能力がある。

 ファイター形態全長9メートルまで小型化された体に、巨大人型艦マクロスに倍する推進力・腕力・火力があり、自力フォールドが可能な半可変戦闘機が積まれている。

 そして、ダイアスパーのコンピュータの一部……一つの可動部もない、キャベツ大の石に見えて、巨大発電所・コンピュータ・工場・病院・大劇場・図書館を兼ね備えた《技術》を積み、コマールからバラヤーへ、そして〔UPW〕に向かって旅立つことになった。

 あくまで正使はマイルズ・ヴォルコシガン皇帝直属聴聞卿であり、彼に追いつけ、彼の判断がなければ技術は渡すな、と厳命されたうえで、だ。

「マイルズ卿の目は朕の目だ」

 グレゴールのその言葉を、正宗も未沙も、アルヴィンも信じるほかなかった。

 誰もが、どれほど欲しがるだろう。危険な旅になることは避けられまい……

 

 また、理性とは程遠い人々を治める正宗やコーデリア、安全を求める未沙、そしてあまりにも心の在り方が違う人々を結びつけようとするアルヴィンも、見た目ほど穏やかな日々は待っていないのだ。




都市と星
ヴォルコシガン・サガ
銀河戦国群雄伝ライ
超時空要塞マクロス


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銀河英雄伝説/時空の結合より1年

*今回は、「銀河英雄伝説 マクロス」で検索すれば今のところ出てくる動画をご覧の上、それをビジュアルとしてお楽しみください
*改めて注意:多元宇宙の扉が開いて以降は、全く別の歴史です。「後世の歴史家の分析」や「その短い生涯に」のたぐいは事実上全部キャンセルです
*ミレニアム・ファルコンの速度はネットで調べたら1.5光速とかで、一年で四十万光年往復するヤマトに比べ超鈍足ですが、実際に1.5光速では映画内での活動も無理ですので『スパロボ補正』とします


 新帝国暦1年、12月4日。

 誕生したばかりの新帝国に、とてつもない戦乱が降りかかった。千万隻……ゼントラーディ基幹艦隊が襲来したのだ。

 

 

 戦い抜いた数百万将兵全員に、功績はある。だが、数人の超人的なちからがなければ、すべては無駄だったはずだ。

 ヤン・ウェンリー。ラインハルト・フォン・ローエングラム。アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト。エルネスト・メックリンガー。

 そして援軍の、マイルズ・ヴォルコシガンとハン・ソロ。

 あの、チャーチルの演説はかれらにもふさわしい。

 

 読者にとっては、もどかしい話だ。どうすればよかったのか、よくわかっているのだから。

 そして、後にこの戦いについて聞いた、メガロード01の人々ももどかしさに狂いそうになった……自分たちがもう二年早く、この時空に来ていれば、と。

 無理な話である。この戦いの時には、メガロード01は故郷の時空にいた。そして、その故郷の時空は、多元宇宙につながってはいなかった。

 どうしようもないのだ。

 

 そう、どうしようもない……

 微生物を培養する技術の成立から1928年にフレミングが気づくまでに、いくつのシャーレが青カビに汚染され、捨てられただろう。

 写真の発明から1895年にレントゲンが気づくまでに、どれだけの乾板が感光し、捨てられただろう。

 抗生物質やX線診断があれば助かった人が、何百万人死んだことだろう。

 どうしようもないのだ。

 

 読者はどれほどもどかしいだろう。

 ファーレンハイト艦隊が、あり得ない大勝利を治めた。

 通信兵が負傷し、臨時代理として通信席に座った新兵が、歌を敵に放送してしまった……それだけのこと。

 真相が突きとめられるまで、25日もかかった。その間に死んだ人は、軍民合わせて七百万人にも及ぶ……

 どうしようもないのだ。無理というものだ。

 新兵は軍曹に殴り倒されて配置転換された。その軍曹は、軍法会議にかけない優しさと保身感覚があった。さらにその艦の艦長は、その違反でもある温情を追認した。艦隊の皆、激戦でそれどころではなく忘れ去った。

 無理だ。人間には無理だ。軍隊の至上価値は、規律・伝統・前例墨守・思考停止・保身だ。技術なしで男が出産し、裸で空を飛ぶのと同じ、無理だ。

 25日で、その無理を成し遂げた人たちが偉大なのだ。

 何かあることに気づいたヤン。

 ヤンを信じたラインハルト。

 激戦の中情報を集め、保身なく提出したファーレンハイト。

 ミルフィーユ・桜葉の強運を使うことを思いつき、奔走したマイルズ。

 激戦の中、追跡を振り切って〔UPW〕まで情報を届けたハン・ソロ。

 軍の常識とは外れた現実を受け入れたメックリンガー。

 

 

 誰も考えていなかった。異星人はいない、それが常識だった。一銀河の五分の一程度しか探査されていないのに、おろかな傲慢というものであった。

 この襲来は多元宇宙の結合に関わることであり、それまでの常識からは外れたことだ。

 

 多元宇宙そのものが「発見」されたのはゼントラーディ来襲以前だった。クロノゲートが開き、〔UPW〕の使者が訪れたのは、帝国暦490年=宇宙暦799年6月22日にラインハルト・フォン・ローエングラムが自ら戴冠し、新帝国暦一年となった、その半年ほど前。

 クロノゲートが開いたのは帝国領の、フェザーンに近いエックハルト星系。

 また、ウルヴァシーの近くにも別のゲートが開いた。

 帝国・同盟とも戦乱のため対応は遅れたが、ラインハルトは戴冠直後に相互不可侵を中心とした返信を返した。〔UPW〕は『一つの時空内での政権には干渉しない』方針を守り、ローエングラム朝を承認。

 だが、新帝国において、〔UPW〕の優先順位は低かった。

 同盟は膝を屈してバーラトの和約を結んだが、ヤン・ウェンリーの逮捕と逃亡、レンネンカンプの自殺、エル・ファシルの独立宣言と、次々に非常のことが起きる。

 帝国内も、ラインハルトの暗殺未遂など、一日たりと寧日はない。

 さらに新帝国暦1年10月9日には、帝国首都オーディンからフェザーンへの遷都が始まった。

 その多忙の中、多元宇宙についての関心は自然に後回しとなっていた。

 ラインハルト皇帝自ら、今度こそ銀河を統一せんと「黄金獅子旗(ゴールデンルーヴェ)」の旗を掲げた、その時に恐るべき知らせが来た。

 知らせは混乱しきっていた。

 

 ファースト・コンタクトで、どちらが撃ったのかは後に大問題となった。

 イゼルローン回廊にほど近いアムリッツァ星域にフォールドした艦隊と、近くを警戒していた帝国艦隊が戦端を開いた。

 どちらの部隊も、上級者に接触を報告するより先に戦っており、間もなく全滅した。

 その後、メックリンガーやオーベルシュタインが再検討し、〔UPW〕も協力して探った結果、ボスコーン艦のシュプールが発見された。

「第三勢力の発砲」

 そのことを知った怒りは激しかったが、それは後のことである。当時はどちらも、敵と戦うこと以外は考えていなかった。

 

 惑星がひとつ、女子供の脱出も許されず殲滅された。メックリンガーの部下からメックリンガー、またメックリンガーからラインハルトへの連絡もそれぞれ困難だった……フェザーンへの大本営移動から遷都、そして親征という混乱の中だった。

 また旧帝国領自体が広大であり、複雑だ。

 だが、新帝国軍の情報面は軍務尚書オーベルシュタインを中心に高い水準で機能していた。実情をつかんだラインハルト皇帝は、敢然と立ち上がった。

 これほど美しき三位一体は、多元宇宙のどこを見ても見つかるまい。太陽を紡いで絹糸としたかのような豪奢な金髪に、完璧な白磁のかんばせ。純白の槍先、旗艦ブリュンヒルト。掲げられし黄金獅子旗。

 全軍、誇りと怒りに燃えている。

 

 

 ゼントラーディの側から見ても、それはとんでもない災厄だった。

 監察軍との戦いのさなか、大艦隊でのフォールドが突然失敗し、全く未知のマイクローン集団に突然攻撃された。

 自分たちが今いるのが、フォールド前にいた故郷銀河とは違うことに気がついた。敵艦の破片を分析して文化の痕跡を認め恐怖し、プロトカルチャーと思われるマイクローンの絶滅を決定した。

 まず、艦隊・惑星を殲滅しつつ進撃し、自動補給工廠が人の住めないホットネプチューンなどを材料に「兵站」を形成する。

 その無尽蔵の補給を受けたゼントラーディ部隊は、まず目についた巨大要塞に戦力を集中した。ワープとは違うフォールドでは、イゼルローン回廊は回廊ではない……帝国にとっては通れない場所を、彼らはゆうゆうと通った。

 

 

 イゼルローン要塞。直径60キロメートル、表面は耐ビーム鏡面仕上げ、超強靭な鋼やセラミックでがっちりと固められ、帝国・同盟戦艦の主砲も通用しない。

 強力な主砲、「雷神(トール)のハンマー」とあわせ、無敵を誇った。

 一万五千隻余の護衛艦隊をあわせ二百万人の軍人、さらに三百万人の後方支援民が定数とされる。内部の核融合炉と大規模な人工照明農場、循環システムにより、膨大な人数を半永久的に養うこともできる。五百万人より人口の少ない惑星もざらにあるのだ。

 

 ただ、無敵という割には、近頃はころころと主が変わる。

 ヤン・ウェンリーが奇策で内部から奪取し、その後自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)の降伏によって帝国が奪回し、現在はコルネリアス・ルッツ上級大将が守っている。

 

 そのイゼルローン要塞に、ゼントラーディ艦隊は殺到した。

「こいつらは、なんだ」

「帝国側から?」

「か、回廊の、通行不能宙域からの侵入です!」

「敵、推定……い、一千万隻!」

「メックリンガー上級大将より通信。『この新勢力は、人類を殲滅する気だ』と」

「敵艦、推計3000メートル級です」

「超巨大質量出現!……ありえない、失礼しました、この計器が正しいとすれば、全長600キロメートルあまり」

「こちらからの通信には、一切応答しません」

「閣下!いかがなさいますか」

 ヴェーラー中将の問いに対し、ルッツの決断は早かった。

「ガイエスブルク要塞を移動させた技術、あれで要塞ごと、同盟方面に移動する。ああならないよう、エンジンはしっかり防御しろ。

 防衛艦隊のうち六千隻を三交代で、要塞砲の死角を守る。

 残りと輸送艦には非戦闘員を全員収容せよ。詰めこめ。生命維持装置と食料も準備しろ。

 これから通信を書く。同盟方面に、暗号化せずに送れ。

『イゼルローン要塞および駐留艦隊司令官コリルネリアス・ルッツ上級大将より、わが主君ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝陛下へ。

 誰であれ、この通信を受信した者は、ラインハルト本営とヤン・ウェンリー氏、双方に再送信するように。

 当イゼルローン要塞は、既知の人類に属さぬ大敵に攻撃されております。

 小官は味方と合流すること、二百万非戦闘員、また回廊出口付近の、今や帝国臣民にほかならぬ非戦闘員の生命を優先すべき、と判断し、同盟方面に要塞ごと移動します。

 以下、こちらで収集できた限りの、敵の情報を添付します』

 データを添付し、送信せよ」

「か、閣下」

「全責任はおれがもつ。卿が軍法会議で証人になれるよう、死力を尽くそう」

 ルッツが指さすスクリーンの、めちゃくちゃな数の巨大艦を見つめ……通信官は反逆にほかならぬ文章を入力し、最大出力で送信した。

 問い返す目に、ルッツは静かに答えた。

「説明しておこう。

 選択肢は三つ。動かぬか、帝国方面か、同盟方面か。

 そしてラインハルト陛下の本隊は、すでに同盟方面に進発している。その慣性を無駄にする陛下ではあるまい。

 動かぬのは、敵が見かけ倒しでなければ自殺、またはわずかな名誉と時間稼ぎに四百万の生命を浪費することだ。敵の弱きを前提とするのは愚だ。

 メックリンガーと合流するのも必要かもしれぬ。特に帝国側にこそ、将兵の家族はいるのだ。だが、合わせて三万にしかならぬ。ラインハルト陛下の十五万本隊に合流し、十六万となるほうが、勝利の可能性は増すのだ。

 また、最前線で敵と戦うわれらが得る多くの情報こそ、ラインハルト陛下が何よりも必要とするもののはず。少しでも近くから発信する方がより早く多くの情報が届く」

 幕僚は表情を輝かせてうなずいた。

「また、ヤン・ウェンリーだが。ラインハルト陛下の、彼に対する好意は明らか。そして陛下が好意を持つほどの人ならば、人類と多くの非戦闘員の危急に駆けつけぬはずもない。

 それに必要なのは情報であり、その情報を彼が受け取れるよう、平文で送ったのだ。

 それが間違っていたというなら、戦後におれが責任を取る。決断し、責任を取るために指揮官の重職を拝命したのだ。

 そして、その戦後を作るために、恥も恐れず戦い抜かねばならぬ。まず、艦隊を出せ……敵を引き寄せ、トールハンマーだ」

 ルッツの言葉に、二百万将兵は覚悟を決め、戦いの喜びに瞳を輝かせた。

 

 

 同盟を再征服すべく遠征の途上にあった皇帝は報を受け、即座に立ち上がった。

「ルッツ・メックリンガーからの超光速通信(FTL)、またシュタインメッツの地方治安部隊もとてつもない数の、同盟も帝国もなく全人類を滅ぼさんとする巨人艦隊について報告している。

 予は人類すべてを統べる唯一の皇帝として、この殺戮者、人類の敵を叩き潰す。

 今、予は大艦隊を率いて戦いに向かっている。その方向を変えるだけでよい。

 全艦隊、全速でイゼルローン回廊の帝国側出口に向かえ」

 音楽的な声とともに、蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳が激しくきらめく。

(この方は、戦いの中でこそ、敵が強ければ強いほど輝きを増す)

 それは誰もが思うことであった。

「ですが陛下、これまでの帝国領はいかがなさいますか」

 美しき首席秘書官、ヒルダことヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが発言したのは、出席者の思考を整理するためでもある。

「わが艦隊の将兵の故郷はあちらにあります。メックリンガー艦隊の一万余隻で支えきれるでしょうか」

 シュトライト首席副官がそうつけ加えた。

 ヒルダの目が強い光を帯びる。皇姉アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃の名を出すことは誰にもできない、ラインハルトにとって重要すぎる存在だから。

「今から引き返せば、接敵が遅くなります」

 オスカー・フォン・ロイエンタール元帥の言葉に、ラインハルトは明確にうなずいた。

 主君が家族への私情で判断を誤るようであれば、ロイエンタールの叛骨に火がつくこともあろう。かすかな、ちりちりする思いのままに金銀妖瞳(ヘテロクロミア)は注意深く主を見計らっている。

「まず、われらが勝利するシナリオは何がある?このまま進み、数を恃む敵の指導者を討つか弱点を暴いて敵の大軍を無力とする、それ以外に活路はない。

 それが一日でも早いこと、それこそ旧帝国領の臣民を助ける路である。

 今からフェザーン回廊を通じて引き返しても、ただ時間を空費するのみ。兵站に便はあれど、その利はさしたるものにあらず。

 何よりもわれらは、前に出て勝つ軍である!」

 ラインハルトの明確な言葉に、ロイエンタールも、誰もが莞爾とうなずいた。

「応!」

「ジーク・カイザー!」

「プロージット!」

 絶叫が艦隊を包み、全艦隊は最大速度でワープを始めた。

 そしてラインハルトは、秘密裏にヤン・ウェンリーに連絡した。ただ一言だけ。

『信じている』

 

 独立を宣言したエル・ファシル星系に向かっていたヤン・ウェンリーは、ルッツの通信を傍受し、即座に決断した。

 通信だけでなく、事前にイゼルローン回廊に配置していた無人観測施設も、多くの情報をヤン不正規隊(イレギュラーズ)に伝えており、ルッツの通信と矛盾はなかった。

「もちろん、助けに行こう」

 ここにムライ中将がいれば、何か常識論を言っただろう。だが、その日のムライはハイネセンに向かっている。

「われわれは一応、民主主義のために立ち上がったとされている。なら、民間人の生命を守るのが民主国家の仕事だろう?」

「もともと伊達や酔狂で集まったんですからな、我々は」

 とダスティ・アッテンボローは言ったものだ。

 話が決まれば、もともと向かっていたイゼルローン要塞にひたすら急行するだけだった。

 

 先の戦いで帝国は、同盟領のガンダルヴァ星域にある不毛星ウルヴァシーを直轄領とした。

 そこに集積された艦隊を預かっているのはシュタインメッツ上級大将である。

 ちょうどそのウルヴァシーにも、並行時空とのゲートが開き、その交渉も任され多忙でもあった。

 もし多元宇宙というものがなければ、シュタインメッツは自身ハイネセンに赴くつもりもあった。だが、どちらにしても皇帝ラインハルトの親征によりその予定は変更され、合流していたことだろう。

 だが、ルッツからの通信とラインハルトの命令を受けたシュタインメッツは、フェザーンからイゼルローン回廊に至る長い補給網の結節点であるウルヴァシーの防衛にも心を砕きつつルッツ救援に急行することとなった。

 そして半ば公然の秘密として、ヤン一党との合流も命じられていた。

 

 ハイネセンの同盟政府は、事実上無視されていた。

 ラインハルトはただ一言、

「知らぬ」

 ですませてしまった。

「愚物どもに一艦も一秒も割く気にならぬ。目前には千万隻の敵があるのだ」

 であった。

 そして同盟政府は、何一つ決める力がなかった。

 ヤンの脱出・レンネンカンプの自殺に至る顛末を発表する力すらなかった。無造作に公表し自らの非を認めたラインハルト皇帝の前に、完膚なきまでに威信を砕かれた。

 再宣戦したラインハルトに抵抗すべく、老いたビュコック元帥が現役に復帰したが、それでどちらと戦うのだろうか。

「といっても、もうラインハルト皇帝はイゼルローン側に向かっているそうです」

 チュン・ウー・チェン総参謀長は何とか笑おうとしていたが、最高評議会議長ジョアン・レベロの耳には届いてすらいない。レベロただ一人、まったく無駄な努力を続けているが、もはやかれを相手にする人すらいなかった。

「宇宙に異星人などいるはずがない。それもヤン・ウェンリーの策謀だ、と皆が言っているのだ」

「なら確かめに行けばいいでしょう!そして本当に敵があるのなら、民主主義なのですから民を守るのが少なくとも建前のはずです」

「偽りであれば物笑いになってしまうではないか」

「確かめる方法なら」

 そう言いかけて、ただ絶望するしかなかった。

 現実を確かることすらも、権力者というものはできないのだ。決めることができないのだ。

 今は一秒の時間を惜しみ、間違ってもいいから決断すべき場なのに……

(決断ができぬことこそ、民主主義の欠点である)

 そう、同盟にとって最大の敵であるルドルフ・フォン・ゴールデンバウム皇帝も、またラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝も同意するであろう。

 歴史家志願のヤン・ウェンリーならこう反論するだろう……

(腐敗した帝政も決断力・行動力を失う、現実を見ない廷臣の群れになるものだ、リップシュタット戦役における門閥貴族を見よ、メルカッツ提督は旧主を誹謗しないがシュナイダーからいろいろ聞いた、そちらのシュトライトやファーレンハイトにも聞いてみよ。古代史を振り返り明帝国や豊臣氏の滅亡を見よ)

 と。

 本質は、腐敗した権力は思考停止が蔓延し、現実を確かめ決断する力をうしなう……それが人類の一般法則である、それだけのことだ。

 そして、

(ではどうすればいいか)

 行動し、機能している点ではラインハルトのほうが上手であろう。ヤンは、民主主義を信奉しつつその欠点も、珍しくもその運動神経をもって数センチの差で、数秒後には一秒の差で、愛妻の助けと執行者のええかっこしいもあり死を免れた経験もあり、よくわかっている。それでもなお、民主主義以上の方法を見つけ出せないでいるのだ。

 ただ、ラインハルトも結婚しようとせず、帝国の後継について諫言されたら不規則発言ばかりしている。彼の、軍事や統治では天才にほかならぬ脳には、人類がいまだ発明していない新政体が眠っているのだろうか。それとも、多元宇宙で噂になっている細胞活性装置に賭けているのか。だとしたらヤン・ウェンリーは悲鳴を上げるだろう。歴史は常に、専制君主が不老不死を求めたらおしまいだと告げているのだから……だが、それは不老不死が実際には不可能であった時代の話でもある。ペリー・ローダンは千年以上の年月、統治に成功しているとも伝えられる……

 

「では、われらは同盟を守るため、民主主義のために戦います」

 そういったチュン・ウー・チェンは、精神的に崩壊した議長に最後の、憐みの視線を落として議場を去り、同盟宇宙艦隊司令部に戻った。

 会議室に入ると、ビュコック元帥に加え三人の軍人が待っていた。

 ヤンの股肱であるフィッシャー中将、ムライ中将、パトリチェフ少将。三人とも「バーラトの和約」以来、辺境星区に配属されていたのだ。

 三人は「パン屋の二代目」と称される総参謀長に敬礼し、言葉を待った。ここでは謹厳なムライの雰囲気が感染している。

 チュン・ウー・チェンは微笑した。

「ヤン・ウェンリーは迷わないでしょう。彼は、民主国家の軍隊が存在する意義は民間人の生命を守ることにある、という建前を本気で信じこんでいます」

「貴官の言うとおりだ」

 ビュコックが静かにうなずいた。

「トリューニヒトや憂国騎士団の連中から見れば、反国家思想として糾弾されそうな言ですな」

 パトリチェフがまぜっかえす。

 ビュコックが、静かに目を開いた。

「同盟軍であること、同盟市民であったことに少しでも胸を張りたいのなら、同胞を脅かす人類そのものの敵と戦おうではないか。勝ち目がないといえば、ラインハルト皇帝の軍と戦っても勝ち目はないのだからな」

 老いた目が閉ざされる。何千万という味方を見送ってきた目が。

「最後ぐらい……」

 それ以上、言葉は必要なかった。

 微笑と酒がかわされ、同盟最後の艦隊がかき集められた。

 

 

 ほかにも意外の援軍があった。

 ウルヴァシーの近くに開いたゲートから、艦隊が出てきたのだ。

 その姿は、銀河帝国の者には異質にすら感じられた。

 水上艦のデザインそのままのヤマト。円盤状のミレニアム・ファルコン。氷装甲とスマートメタルに覆われたワスプ号。

 大規模なガイデル移動要塞と艦隊、フラーケン潜宙艦隊。

「ラインハルト皇帝陛下、お初にお目にかかる。ゲートの向こう側の、ガルマン・ガミラス帝国東部方面軍司令長官、ガイデル」

「これはこれは、おうわさはかねがね」

 ラインハルトも、礼を保つ。その眼は、相手が本物だということを見誤りはしない。

「手元にあるだけ引き連れてきた。これからも艦隊を編成しつつ、次々と援軍が加わることになろう。また地球や、並行時空の友たちも来てくれた。

 聞いた情報によれば、そちらがやられれば次はわれわれです」

 誰もが思っている、艦隊は三百隻程度、こちらの基準では吹けば飛ぶような小規模ではないか、と。

「ご厚意、心よりありがたく思う。デスラー総統にも感謝の意をお伝え願いたい」

 答えたラインハルトは、その艦隊……そしてヤマトの恐ろしさをまだ、知らない。ただ、闘志に快い好意を感じるのみだった。

 古代やハン・ソロは、ラインハルトのすさまじいまでの美しさに驚くばかりだった。

「そちらのヤマトの艦長、ヤン・ウェンリーと声が似ているな」

 ラインハルトがいぶかしげに言うのに、

「いえ、それは、まあ事情が」

 古代が声を変え、ガイデルが首をひねる。

「なぜ総統閣下と似た声になるのだ?」

「それはその、今は……それにガイデル長官、デスラーのこの声を知ってるのか?」

*お好きな声でどうぞ*

 

 

 

 12月15日。ヤン艦隊は、エル・ファシルに寄る間もなくすさまじい数の敵を前にしていた。

「観測範囲だけで、三十万隻」

「……帰りましょうか?」

 アッテンボローの冗談に、皆が笑う。乾いた笑いだ。

 冗談というなら、この敵の数こそがまさに冗談だ。

 苦笑したヤン・ウェンリーが、玉砕の如き美学の支配を拒むことは後世の歴史家も認めるところである。

 ヤン艦隊は、途中で合流した艦もあるが、一万隻を超えるかどうかだ。

「むりだね。背後も断たれてる」

 後ろを親指でさすヤンはいつも通り、行儀悪く指揮デスクの上に、片ひざをたてて座っている。

「それに、エル・ファシルの、女子供だけでも脱出する時間を稼ぐ。イゼルローン要塞の女子供も、です」

 アレックス・キャゼルヌの言葉に、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツが深くうなずいた。

 ヤンはおさまりの悪い黒髪を乱暴にかき回す。

「エル・ファシルからの脱出計画は二度目だ。だから楽だろう」

「といっても、百万人を逃がすのは簡単ではないですよ。時間もかかりますし」

「まあ、帝国軍なら前やった手品の種を知ってるが、また同じ手を使えるかな。そう、隕石に偽装するなら、動力がない、ただの殻でもいいんだ」

「まあ、そのあたりの計画は革命政権に任せる。前にやったことをマニュアルにすればできるだろ、みんな経験済みなんだし。それよりこの、いやになるような大軍だ」

 ヤンの苦笑をしりめに、とんでもない苦労をぽんと丸投げされたキャゼルヌと、ヤンの妻フレデリカは死ぬ思いで書類と通信の山に優先順位をつけはじめた。

「まあ、あの敵はまず、なんなんだろうね?」

 ヤンの言葉に、アッテンボローはきょとんとした。

「中身だよ。ルッツの通信では、12メートルの巨人とあった。遺伝子情報が妙に人類に近い。内臓や骨が異様に強化されているが、構造も人間に近い。

 だが、どこまで人間なんだろう。人間でない相手に、人間用の策略をかけたらこっちが自滅することになる」

 そっと、信頼する将たちを見まわす。まだユリアン・ミンツは合流していないが、それにはむしろほっとしていた。

 

 ゼントラーディ軍は大軍である。

 大軍であればあるほど、機敏には動けない。

 全くの処女地であれば、フォールドも偵察船を出してからでなければ大軍を断層に失いかねぬ。

 じわじわと、とてつもなく巨大なアメーバのように仮足を出し、広がっている。

 エル・ファシルに達したのは、ほんの前哨艦隊でしかない。

 だが、それだけでも膨大であり、ヤン艦隊を踏み潰してエル・ファシルを溶岩の海にし、逃げようとする輸送艦を皆殺しにするのはたやすい、誰が見てもそう見える。

 

 

「ま、段取りはつけておいたよ」

 ヤンの気楽な声に、絶望に陥っていた将兵はかすかな希望を持つ。数の比ではこれ以上の危機を、何度も乗り越えてきたのだ。

 ……ゼントラーディ艦隊の艦の、平均全長は自分たちの二倍以上だと知ったらどう思うだろう。

 だが、艦隊は移動し、エル・ファシルを守るように布陣した。一見、多数の方が有利な、何もない空間だ。

 ゼントラーディ艦隊は堂々と押し寄せてくる。ヤン艦隊からの交信には一切応じない。

「撃つな、動くな。シールドに全エネルギーを集中して、じっと我慢するんだ」

 ヤンはそう命じ、じっと、膨大とも何とも言いようのない敵を見つめる。

 帝国艦とも同盟艦とも異質な、ワニのような姿の艦。

 いくつかの超大型艦は口を開き、こちらの射程外から強烈な砲撃を放ってくる。

 主力戦艦のシールドが飽和寸前になり、かろうじて持ちこたえる。

 二発、三発。

 最前列の戦艦が、次々と破壊されていく。

 それでも動かず待ち受けるヤン艦隊に、敵艦隊が殺到しようとする……どう見ても近すぎる。

 手を伸ばせば敵艦の前面アンテナをつかめそうな至近距離、ヤンの右手がさっと振り下ろされた。

 耐えに耐えていた砲撃が、一斉に放たれる。

 すでに敵の攻撃で全滅していたはず?

 否。被害を引き受け破壊され、爆発していたのは、人がいる生きた艦ではない……以前の戦争で破壊された、艦の残骸と不良品の弾頭だ。

 その煙幕を敵が踏み越えた瞬間に、至近距離から最大威力をたたきつけた。

 鉄砲と槍の一隊をたけ長い草原におりしかせ、敵の攻撃を耐えに耐えて、至近距離で発砲し突進するようなもの。

 外しようがない。前面のゼントラーディ艦は、すべて五発以上をくらって粉々に破壊される。

 かまわず包囲しようと押し詰めるゼントラーディ艦隊の広い翼に、多数の水爆ミサイルがなだれ落ちる……何日も前から、エル・ファシル星の、有人惑星の工業力を総動員して作っては打ち上げた……無人防衛システムに全弾発射させた……ありったけのミサイルだ。

 その瞬間だけは、ヤン艦隊は二十万のミサイル艦隊が円盤陣となっていたに等しい。

 そして気がついたときには、ヤン艦隊は全速力でイゼルローン要塞方面に向かっている。

 怒り狂ったゼントラーディ艦隊が追った……そこも、大量の核融合機雷が待っていた。

 それでもゼントラーディ艦隊は、追撃を続けた。エル・ファシルも、その周囲に漂う、よく調べれば生命反応のある小惑星も無視して。

 

「こちらを追ってきた。人間を殺すことだけを目的とした機械じゃない、人間らしい心を持っているようだな」

 ヤンは静かに瞑目した。

 彼は、戦争はしょせん人殺しだということをよくわかっている。特に戦ってきたラインハルト艦隊に、何人も心から尊敬する人がいる。その前日までの戦友、同盟クーデター艦隊を殲滅したこともある。

(今回は、人殺しではなく戦える)

 ……そうも思ったこともあった。

(だが、そうではなさそうだ……)

 それというのも、歴史をただで勉強したいと士官学校に入った、その選択のせいである。

「小惑星帯を通る。こちらはここの地理には精通しているが、あちらさんはそうじゃない。そしてあの巨大ガス惑星の近くを通ってやればいい」

 追跡艦隊は、小惑星帯の隙間を非常識な速度で走るヤン艦隊を追い、小惑星に次々と激突し消滅した。

 そして、巨大ガス惑星をかすめるヤン艦隊が通り過ぎた直後、追いすがろうとして……爆発的な電磁嵐を受けてまた大損害を出した。

 ヤン艦隊は、小惑星帯の隙間や巨大ガス惑星の周期的な噴出のことは知り尽くしていた。

「さ、イゼルローン回廊に急ごう」

 相変わらずの魔術(ミラクル)に酔いしれた不正規隊の皆は、疲労もかまわず誰彼かまわず喜び合い、忙しく働きつつワープの準備をする。

 

 

 ティアマト星域内、自由浮遊惑星近く。

 エンジンをつけて移動し、回廊を脱したイゼルローン要塞は、瀕死だった。

 破壊されていないのが奇跡のようだ。ゼントラーディが、その本来の敵とは違い巨砲主義ではないことが幸いしている。

 雷神(トール)のハンマーも、無理な連射と敵の猛攻にほぼ沈黙している。一発一発は千隻以上を葬るが、焼け石に水なのだ。

 まして、敵は回廊の制限を受けない。こちらの、帝国も同盟もワープでは通れぬ壁を、平気でフォールドしてくる。

「これでは、こちらだけ橋の上を歩き、敵は小舟で自由に水面を動き回るようなものだ」

 そう、誰もが思っていた。

 全員の心が、負けたと思い秩序を失っていない……そのことだけでも、ルッツは名将の名をほしいままにしてよいだろう。

 巨大なイゼルローン要塞は、しんがりとして敵の猛攻を食い止めている。

 回廊を脱してからも、入り口付近の有人星から人を、砲火で脅してでも疎開させ、護衛した。

「こ奴らもすぐに、帝国の臣民となるのだから」

 である。

 護衛艦隊も、二千を残すのみだ。もはや交代もできず、ひたすら戦い続け疲労は限界を超えている。

 必死で逃げ続ける、輸送艦隊。そこには、イゼルローン要塞の百万を超える非戦闘員がいる。ほかの、イゼルローン回廊入り口に近い星から脱出した人も何百万と加わっている。

「来ました!」

 無残に右腕を吊った、右足も機械に交換した士官が、しわがれた声を喜びにはりあげた。

「来たか」

「はい、ヤン艦隊です!」

「やっと……やっと。ヤン・ウェンリー。非戦闘員を頼む」

 ルッツは傷だらけだった。自ら、ダメージコントロールに奔走し、炎の中を走り続けた。

 疲れ切っていた。何日眠っていないかも数えていない。

「これだけ距離があれば、そちらは安全だろう。ガイエスブルク同様、一万隻ぐらい道連れにしてやる。今度は、敵を」

 そう言ってボタンを押そうとした、そのときに通信が響く。

『健康と美容のために、食後に一杯の紅茶』

 ルッツは意味不明の言葉にいぶかりつつ、

「皇帝ばんざい!」

 出ぬ声をふりしぼり、ボタンを押し込んだ。

 莞爾と目をつぶる。

 ……なにも、おきない。

「ど、どうしたのだ」

「ぜ、全機能停止しています」

「自爆装置、作動せず」

「ばかな!」

 ルッツは絶叫した。

「眠らせてくれぬのか。まだ生きよというのか。

 いや、あの爆弾はおとりだったか。こんな仕掛けがあったなら、もしあの巨人どもが来なかったら……大恥を……まあ、ヤンにやられた提督の仲間入りをするだけか。陛下も含めて。はは。

 ははははははは……ははははははははははははははは」

 ひたすら笑い転げる。

「外付けのエンジンは動くか?」

 ひとしきり笑ってから、ルッツは命じた。

「あ、はい。制御できます」

「ならばヤン艦隊の左翼につくように動け」

「は、は……」

 そう言って機材を使うオペレーターたちも、もう限界を通り越している。

『ロシアン・ティーを一杯。ジャムではなくマーマレードでもなく蜂蜜で』

 ヤンからの通信とともに、イゼルローン要塞の機能は回復した。

「ふ……」

 ルッツは静かに、疲れた部下全員に穏やかな声で語った。

「ヤンに命じられた。生きよ、死んで楽になることは許さぬ、立て、戦え、と。戦い抜こう」

 疲労と痛みで瀕死の、そして自爆による死を覚悟しきっていた兵たちは、全員奇妙な表情を浮かべた。

 人間がそんな表情を浮かべることができるとは、人間には想像もつかないだろう。その表情を知っているのは、硫黄島の守備兵ぐらいだろうか。華々しく散って楽になることも許されぬ、最後の最後まで……指一本動くうちは、手足を失っても歯で噛みつき、戦い続ける覚悟……

 自分の生を思わず、美しい死すら捨てる。ただ戦う。

 それは透明で、たまらなく美しいものであった。

 

 ルッツの自爆を止めたヤンだが、絶望的には変わりない。ルッツ艦隊と合わせても一万隻あるかどうか、目の前の敵は百万隻近い。

 さらに、ヤン艦隊を追ってきた艦隊も少なくない。

「さて、と……」

『戦い抜く』

 ルッツの通信に、ヤンは深い痛みを感じた。本当は仕込みをいくつかしていたが、予想より早くここに着いてしまった……

 ちらり、とかたわらの、愛妻フレデリカの顔を見る。

 彼女がここにいることにも、胸をえぐられる思いでいる。

 エル・ファシルの人々とともに逃げるよう、いくら説得しても無駄だった。

「計算では、そろそろ来るはずなんだが。戦場で計算通り行くことなんてない」

 そうつぶやくと、イゼルローン要塞を包囲している敵艦隊の一角に得意の集中射撃を浴びせる。

 一点集中した砲火の前に、巨大な敵艦も虫眼鏡の日光を浴びたアリのように焼けていく。

 構わず突っ込もうとする艦隊と、それを嫌って砲火の薄いところに回りこもうとする艦隊……

 そのわずかなずれに、メルカッツ艦隊が深く突進し、撃ちまくる。

 宇宙の闇を花々が彩る。

 美しい花々の中で、何千もの人が死んでいる。炎に包まれのたうち回る人、苦痛も感じず素粒子まで分解される男、切断された足を見つめて血の海に呆然とする女……本当はゼントラーディ・メルトランディの男女も、同じように死んでいる。

 ヤンは、よくわかっている。

 イゼルローン要塞の、傷つきすぎた姿が見えた。

 故郷とも思っている母なる人工星の、無残な姿に胸が痛む。

 そのとき、さらにフォールドしてきた、イゼルローン要塞すら小さく感じさせる超巨大要塞。

 さらに、とてつもない数の護衛艦隊。

「二百万……三百万?」

「おいおい……」

 ヤン艦隊の全員、疲労がたまっている。撃ちつづけた砲身は効率が落ちている。敵の攻撃を受け機能しない兵器も多い。

 無理なものは無理だ。自分は神ではない……ヤンがそう心の中、つぶやいて、愛妻の目を見た。

 彼女の目には、理解と許しが浮かんでいた。

「何人か、助けられたなら」

 覚悟を決め、巨大要塞が強烈な光を浮かべるのを見る。

 おそらく、トールハンマーのたぐいだろう。ここでくらったら、旗艦はもたない。

 ヤンは智将といわれるが、常に最前線に立つ猛将の面もある。ラインハルトを含め、帝国の提督たちがヤンを尊敬するのはその面もある。

 

 そのときであった。

 絶叫のような通信とともに、猛烈な火箭がゼントラーディの巨大艦隊を襲う。

 どこから?見えぬ。いや、星々を隠す、黒い点……

「ビッテンフェルト!」

 アッテンボローの表情が、今回は絶望ではなく満面の喜色だ。

 後退なしとうたわれる、黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)の比類なき破壊力が、後先考えず敵陣をえぐっていく。

 ヤン艦隊に迫る4000m級超大型艦を、極太の閃光が貫く。

「アースグリム……ファーレンハイトか」

 メルカッツの老い疲れた目が輝いた。

 ファーレンハイトの旗艦アースグリムの艦首には、巨大な砲がある。

 そのメルカッツ艦隊を背後から包もうとした艦隊を、今度は同盟艦隊が襲って引き裂く。

『ご無事でしたか』『ビュコック元帥もすぐに来ます!』

「ムライ!パトリチェフ、フィッシャー……」

 ヤン艦隊が大沸きに沸く。

『間に合いました』

 ミッターマイヤー元帥の誠実な、かなり疲労した表情が、ちらつくスクリーンに輝く。

 速度を優先する艦隊運用で「疾風ウォルフ」の異名を持つ彼だが、そのさらに限界を超えた高速で移動してきたのだ。速攻で知られるビッテンフェルトとファーレンハイトだからこそ、それについてこれた。

 ヤンが安堵のあまり、半ば突っ伏した。

『ヤン・ウェンリー元帥。僚友ルッツを、非戦闘員を助けてくださり感謝の言葉もありません。

 われらは、絶体絶命のタイミングを見計らって登場することなどしません』

 ミッターマイヤーがおさまりの悪い蜂蜜色の髪を振ってちらり、と視線を向けた先には、見たこともない異質な艦。

 赤と黒の、水上艦の姿の艦が輝き、画面がすさまじい光で真っ白になる……二分。光が晴れたとき、敵の超巨大要塞は爆発し続ける煙でしかなかった。

「あ、あんな小型艦が、トールハンマー以上の威力だと?」

 300mに満たないヤマトは、ゼントラーディの基準でも同盟の基準でも、小型艦だ。

 さらに、そちらに向かおうとした艦が次々と、何もない虚空から放たれるミサイルに大破する。

「ウルヴァシーにできたゲートの向こうの、地……うむ、宇宙戦艦ヤマト、ススム・コダイ艦長とガルマン・ガミラス帝国のフラーケン大佐をご紹介します」

 ミッターマイヤーの紹介とともに、小画面が二つ浮かぶ。地球、という名は出せない。憎んでも飽き足らぬ地球教の名を思い出させてしまう。

 古代の情熱的な表情、そして次元潜航艇の狭さの中での、フラーケンの精悍なひげ面。

『お目にかかれて光栄です!なんという戦いぶり』

『ガイデル長官も追いついてくる。支えよう』

 二人とも、タイミングを見計らっての登場をミッターマイヤーに却下されたことは、おくびにも出さない。

『ラインハルト陛下のお言葉をお伝えします』

 ミッターマイヤーの表情が戦いのものにかわる。

『〈第一候補、アスターテ方面。第二候補エル・ファシル。十日後にはどちらかへの途上で合流できる〉。また、ルッツ提督ならびにわれら全員に〈ヤン・ウェンリー元帥の命令に従え〉と。ヤン艦隊の一員となれて光栄のきわみ。名を汚さぬよう、全力で務めます』

 余計な言葉がない。だが、それこそが、ラインハルトのヤンにむけた信頼の深さをはっきりと示している。

〈ヤン元帥〉の名も、さまざまな意がある。ヤンはすでに同盟元帥だが、脱走時点で普通なら剥奪……だが、混乱した同盟に、元帥号剥奪の煩雑な手続きなど、できてはいない。同時にヤンが断った、帝国元帥の意味もある。帝国の軍人はただ一人をのぞき、それを当然のように受け入れている。

 ミッターマイヤーが、そしてビッテンフェルトとファーレンハイトがヤンに敬礼した。

 ルッツも、疲労と苦痛を押して敬礼する。

 古代も、『戦うためには指揮が必要です』と敬礼。フラーケンも敬礼する。

 同時に、ヤンの手元には膨大なデータが流れてきた。ミッターマイヤー艦隊すべての、最高機密を含むデータ。そしてヤマトや次元潜航艇のデータまで。

 そしてすべての艦の指揮権限コード。いざとなれば遠隔操作でラジコンのように動かし、自爆させることすら可能だ。

 同時に事務処理用データを受け取ったキャゼルヌの、絶望の絶叫は誰も聞いていない。一人の地球人に処理できる情報量ではない。帝国艦隊の情報フォーマットはまるっきり違う。さらに簡易機械翻訳されただけの異言語データすら多数ある。ムライとパトリチェフ、さらにミッターマイヤー艦隊の幕僚たちも何人も助けに飛び出したが、それでも今の、合計七万で百万近い敵と対峙しているヤン艦隊より絶望的だ。

 ヤンは、くしゃくしゃと黒髪をかいてベレーで一瞬顔を覆った。

 とんでもないものを背負ってしまった。

(信頼されるというのも、つらいなあ)

 である。

 それも長い戦いの中で、ひとつひとつのおこないから積み重ねたものだ。

(こうして尊敬できる人と出会うことができた。それだけでも、生まれてきてよかった)

 と、胸が熱くなる。

(だが、こんな素晴らしい人が生まれるのも戦乱の時代だからか。悲しいなあ)

 とまで考えてしまうのが、ヤンのさがである。

 深呼吸する間に、作戦をまとめる。五万を超える艦隊が加わったとはいえ、それでも数の差はすさまじいものがある。

「まず必要なのは時間だ」

 そういうと、

「フィッシャー、艦隊の制御。

 ミッターマイヤー艦隊、現在針路に近いこの一点に、レールガンを全力斉射。敵の主力から外れていますが、一時間後敵の主力を、その時弾がある場所に追い込む予定です。

 それからビッテンフェルト艦隊、右翼から突破。ミッターマイヤー本隊はその後について、敵の本隊を薄く包囲。

 ヤマト、あの砲を連射できますか?できない?なら、イゼルローン要塞を盾に、要塞を防衛しつつ応急修理をお願いします。

 ルッツ提督、補給基地・病院となってください。ムライも要塞防衛、補給作業の補助。

 ファーレンハイト艦隊、メルカッツ艦隊とともに、この軌道で横から。

 次元潜航艇、ミッターマイヤー艦隊の輸送艦から機雷を受け取って、ここに散布し、こちらの小惑星帯を詳しく索敵してください。

 アッテンボロー、前進。ビッテンフェルトの出口を掘る。

 全艦、アスターテ方面への長距離ワープにも備えよ」

 すばやく命令をすませる。

「はっ!」

 画面の全員が喜びの笑顔とともに敬礼し、一言の反問もなく動き始めた。

 百万隻の敵艦隊は、すさまじい圧力で押してくる……

 ヤンの右手が、ふりおろされた。

 

 ちなみに、ミッターマイヤーらの高速艦隊だけが先行するのは、本来は兵力の逐次投入であり、絶対にやってはならないこととされる。

 だが、「大軍は動きが鈍い」かつ「助けねばならぬ味方がいる」……それだけでも、戦史にこれほど多くの、兵力の逐次投入・各個撃破がある理由もわかるというもの。

 兵力の逐次投入をやらかすのは意思決定が不全状態にある組織の、病状というべきものであり、ラインハルト艦隊はそれとは程遠い。「疾風ウォルフ」が先行して勝利を収めたことも多くあり、「逐次投入はだめだ」と言葉に縛られていては「理屈倒れのシュターデン」でしかない。

 ミッターマイヤーを中心にした艦隊を送ってからは、ラインハルトは焦りを抑え、ビュコック艦隊も含めた再編に全力を注ぎ、ビュコックの名で同盟の資源を兵站とし堂々と押し出している。

 十万の大軍。大軍の鈍さを押し切るように光の龍が動く。光より早く、それでいて鋼の統制を失うことなく。

 全多元宇宙に、これほど美しいものがあろうか。

「予が、何よりも求めていたのはこれだった」

 ラインハルトの美しすぎる顔は、戦いの喜びで燃え立っていた。

 ヤン・ウェンリーと轡(くつわ)を並べ、何十倍もの敵に突入する。その喜びの前に、同盟など眼中になく、また遠い旧帝国領オーディンの、最愛の姉を含む人々のことすら脳裏にはなかった。

 だが彼は、己の胸には穴があることを知っていた。その穴は彼の愚かさがつくったものであり、決して、何者をもってしても埋めることのできぬものであった。それは何人もの将がまた思うことであった。

「キルヒアイスが右に、ヤンが左にいれば」

 と。

 また、

「旧帝国暦487(宇宙暦796)年以前であれば、同盟と帝国の艦の総数は何倍もあった」

 とも。

 だが、そうであれば無能な者も多かったろう。今生きているのは、間違いなく筋金入りの有能な者ばかりだ。といっても、帝国・同盟問わず、有能な者も多く死んでいる。

(今、配られたカードで勝負するしかない……)

 のである。

 ラインハルトは、遠足前の子供のように、初デート前の少年のように胸のときめきを抑えかねていた。

 それは全艦隊に、またビュコック艦隊・ガイデル艦隊にさえも感染せずにはおかなかった。

 

 追撃を受け、多数の非戦闘員の脱出船を右に左に守りつつ戦い抜いた、ミッターマイヤー艦隊を主力としたヤン艦隊。

 艦数は65%まで減少している。

 中性子星の近く、激しい電磁波と濃密なガスを利用して、敵の大軍を引きずりこんでしばし静止し、敵が勝手に考えて動くのを利用して時間を稼いでいる。

 艦隊に新しく加わったものも、ヤンを知らぬヤマトやフラーケンたちも含め、今や魔術師の手腕に心からの信頼感を抱いている。

 逆にヤンも、ミッターマイヤーたち帝国の提督たち、またヤマトやフラーケンの能力に心から満足していた。

(ヤン元帥の魔術、その指揮を受ける身になれば、想像以上だ。厳しい指揮者ではあるが、素晴らしいやりがいだ)

(なんてやりやすさだ、こんな素晴らしい艦隊・将帥を持つラインハルトは幸せ者だ。いや、それも苦労して発掘し、育ててきたからこそだ)

 イゼルローン要塞の存在もありがたい。補給品を内部で生産し、将兵の病院にも休養場所にもなる。

 ヤンはじっと考えていた。合流直後の戦いで、ファーレンハイト艦隊が突進したとき、五倍の敵が機能を停止し無秩序に動き、壊滅したのだ。

 そのような反応は、隣を突撃するメルカッツ艦隊の相手にはなかった。

 次にファーレンハイト艦隊が戦ったときにはそのようなことは起きず、敵は普通に、有能に戦った。

「いったい、何が違ったのだろう」

 ファーレンハイトから受け取った、報告書の山。全部読もうとすれば、不眠不休でも十年はかかる。

「なにもかも、全部どんな一見どうでもいいことも」

 ヤンの頼みにこたえ、ファーレンハイトは

「一日にしたこと、覚えている限りすべて書いてくれ。犯罪、大逆に至ることでも、誰の悪口でも、どんなことでも罰しない。すべてを書いてくれ。勝利か敗北かの境目だ」

 そう、艦隊の全員に、深く頭を下げて頼みさえしたのだ。

 それを誰に分析させるか……キャゼルヌもフレデリカも、時空の隔たりさえある四か国の連合艦隊の事務処理だけで、ルッツ以上に限界を通り越している。

(マイルズ・ヴォルコシガン)

 なぜか、その名が浮かんだ。

 オブザーバーとしてヤマトにいる、ヤマトの故郷とも異なる遠い時空の大使。英雄の子で大貴族。

 昔のゴールデンバウム王朝であれば劣悪遺伝子として殺されたであろう、奇妙な矮躯だが、その眼の知性と情熱は隠れもなかった。

 優れた提督という噂もあるが、旅先で軍事に携われず、ひたすら艦内の雑用に励んでいるようだった。戦いが激しくなればなるほど、表情が良くなる男だ。

「ヤマト、ヴォルコシガン卿を」

 呼び出し、報告をゆだねた。

 そうしながらも、わずかに盗んだ休みを取り返すように、大軍は押し詰めてくる。

「そろそろ、か」

 ヤンは微笑し、素早くいくつかの指示を出した。

「全艦、中性子星をかすめるように逃げろ。あとは、おまかせして楽をするとしよう」

 言うや、指揮をミッターマイヤーに任せて自分はタンクベッドに向かった。

 どうやって睡眠を取るか、それがこの混成艦隊では最大の問題のひとつだった。

「とにかく交代で、眠ること。信頼できる交代要員を作ること。人数が少なすぎたり、信頼できる士官が足りなかったりする艦は、負傷者の後送に回して艦隊規模を縮小してでもだ」

 言うはやすし、行うは難し。

 だが、ミッターマイヤーやムライ、キャゼルヌの有能さは、それすらやり遂げた。

 

 熟睡したヤンが目覚めたときには、全速で逃げる艦隊を敵が追い詰めようとしていた。横から敵が襲えば、ヤン艦隊はすべて中性子星に追い落とされ全滅するのみ。

「波動砲は後ろには撃てないからねえ」

 ヤンはふっと微笑する。

『トールハンマーの修理、75%なら発射可能。100%発射まであと2時間』

 ルッツの通信。

 全艦隊も知っている。ラインハルトを中心に、ビュコック・ガイデルが加わった連合艦隊が、もうすぐ近くまで迫っていることを。

 罠の口は閉じようとしている……

「すみません、通信が、向こうからも同時に来たようで、混乱しました」

 オペレーターの声にヤンはやれやれ、とベレーで顔をあおいだ。

 ラインハルトも、その白く美しい顔に微笑を浮かべていることだろう。

 ただでさえ中性子星が近く、通信が難しい。

「いいや、通信の努力だけしていれば。必要ないよ」

 ラインハルトも、旗艦で同様のことを言って上機嫌に笑っている。

「同盟艦すべて、ヤマト、イゼルローン要塞、回頭せよ。ミッターマイヤー艦隊は加速しつつ針路を中性子星に」

 ヤンの命令が響く。

 この世界において敵前回頭は、絶対のタブーである。もし普通に追われていたら間違いなく、発砲より前に敵に呑まれていただろう。

 逆に、敵はそれこそ、絶対に予想していない。意表を突かれた。そしてその、なによりもうまそうなエサに、理性を失った。

 回頭中のヤン艦隊を食いつくすと見えた、毒蛇の頭に大釘が叩きこまれた。

「いーやっほう!」

 誰ともなく絶叫する。

 ロイエンタール艦隊がワーレン・アイゼナッハ両艦隊とともに、長く伸びた追跡縦隊の先端部に砲撃を叩きこむ。それも、ヤン艦隊のお株を奪うように、輪を描いて布陣し全弾を一点に集中したのだ。

 ついでに、イゼルローン要塞が生産し続けた核融合機雷がばらまかれていた。

 回頭を終えたヤマトとイゼルローン要塞、二門の巨砲が同時に咆哮した。

 絡み合う二匹の光龍は、長く伸びた追撃艦隊に深い穴をあけた。波動砲の時空崩壊とトールハンマーの高密度エネルギーが反応し、単純な出力の合計をはるかに超える破壊力となる。

 中性子星の影、激しい異常電波で索敵できぬ死角から、ラインハルトの本隊が突撃し、大蛇を胴切りにしてから胴体をがちりと包囲し締め上げる。ロイエンタール艦隊と二手に分かれ、指向性ゼッフル粒子を目くらましに用い敵の迎撃艦隊二十万とすれ違って、突入したのだ。

 巨砲を放った直後のヤマトとイゼルローン要塞を守るのは同盟艦隊、回頭しても隊形を崩さぬフィッシャーの名人芸。

 さらに相談する必要もないビュコック艦隊が加わり、頭を潰され串刺し・胴切りにされた大蛇の前方をふさぐ。

 速度を殺さず、中性子星の超重力を利用して迂回したミッターマイヤーら帝国艦隊が、まず大蛇の前半を後ろから包囲する。

 敵の後半はラインハルト艦隊に反応して別方向へのベクトルを持っている……まず前半を包囲、次に後半を中性子星に押しつぶすと、流れるような分断・各個撃破。

 戦史に残る、芸術的な変形釣り野伏せ。

 ラインハルトの旗艦・ブリュンヒルトの反対側で包囲陣を守る、ひときわ巨大なガイデル要塞に、それだけでも二十万を超える、ラインハルト艦隊を迎撃しようとしてかわされた艦隊が襲いかかる。だが、要塞はものともせずに敵陣に身をねじ込むと、内蔵砲塔を開いた。

 巨大な六連装ガトリング。戦闘空母デスラー艦のデスラー砲に匹敵する威力で、事実上無限に毎分二発近く連射できる、ガルマン・ガミラス帝国艦隊でも屈指の決戦兵器だ。

 4000mのノプティ・バガニス級艦が、次々と蒸発爆散する。

「捕獲してもらえてよかった」

「あれを食らったらさすがにたまらないよ」

 ヤマトのクルーが背筋を寒くする。

 それを黙らせようと小型機が次々と突撃してくるが、ガイデル艦隊の大半はきわめて強力な対空艦や空母であり、迎撃には事欠かない。

 同盟・帝国、両方の個人戦闘艇部隊も仲良く助け合いながら、敵に突撃を始めた。

 そしてラインハルトが、乱れた敵の一点を指さして突撃を指示する……

 

 ラインハルトにとってもヤンにとっても、

(これほど、すばらしいことがあろうとは……)

 まさかに、思いもしなかったろう。

 何光分もはなれていても、ふたりは四つの目を持つ一つの脳のようだった。のちにその戦闘記録を見たアンドルー・ウィッギンは、

(バガーがアンシブルで脳をつなげて艦隊を操っているような)

 とさえ思った。

 少なくとも軍事的には、ヤンはラインハルトが失った半身にも匹敵した。ヤンの指揮は、亡きジークフリード・キルヒアイスを思わせる正統派でもあった……

(キルヒアイス提督の用兵は最高だった。訓練でも手本にしてる。最高を目指せば、似るのも道理だよ。ラインハルト陛下には申し訳ないが)

 と、ヤンはラインハルトに心で謝っていた。

 ラインハルトはそれを痛みと怒るより、戦いの喜びのほうが圧倒的に大きかった。

(お前は、失われてはいなかったのだな。予の心に、優れた敵の訓練マニュアルの中にすらいたのだな)

 ラインハルトが勢子となり、敵を引き出せばヤンが無造作に撃ち落とす。ヤンが嗅ぎ出し、ポイントした敵をラインハルトが撃ち、回収する。芸術的なダンスが踊られる。

 通信の必要はなかった。

 フィッシャー艦隊がラインハルトの命令を受けても、逆にヤンがロイエンタール艦隊に命令しても、どちらも違和感なく、気持ちよく従い戦えた。

 ラインハルトの命令は、常に理にかなっていた。ヤンは、ラインハルト陣営の諸将のことを良く知り、尊敬し、だからこそひっかけることができた。だからこそ、能力も気性もよく知ったうえで使いこなすことができた。

 敵も、数におごらず様々な作戦を用い、反撃してくる。

「敵にもかなりの将がいるな」

 ラインハルトにとっては、むしろ喜ばしいことだった。

 相手がかけた罠を逆用し、自らをエサとして敵を引き出す……そこにミッターマイヤーが痛撃を入れ、ロイエンタールが大釘を叩きこみ、ビュコックに花を持たせる。

 戦いの流れだけをよく見て、相手が押すから引くに変ずる瞬間に黒色槍騎兵をぶちこみ、崩れたところにしっかりとアッテンボロー艦隊が待ち受けている。

 敵の全面攻勢をペチコートのような多重陣で受け流し、地形を生かした罠に引きずりこむ。

 ヤンとラインハルトの二人からは、神算鬼謀が泉のごとく沸き出てくる。

 

 だが、もともと敵の方が圧倒的に多い。ヤンもラインハルトも、寡兵が大軍を倒すのは正しいことではない、そのことはよくわかっているのだ。

 ヤンは本当は敵の三倍の兵力で戦いたいが、政略嫌いもあり実現できないだけ。ラインハルトも、権力を得て以降は政略を用い、自軍の方が多い状態を作ってきた。

 グリルパルツァーの戦死を悼む暇さえなく、悪しき報は響き続ける。

 また、押し返される戦線、圧倒的な敵の数に、有人星から避難しようとする輸送艦の過半をやられたこともあった。ヤン、ラインハルトともに、それは激しく悼み、自らの無力に傷ついた。それでも倒れこむ暇もなく戦い続けなければならなかった。

 さらに、ラインハルトの健康問題までが出てきたのだ。

(敵の方が圧倒的に多い。ジリ貧は避けられない……)

(まして、ほぼ無防備な帝国側……この敵には回廊は無意味なのだから、直接フェザーンを突かれ、さらにそちらから同盟側を蹂躙されて、生き残るのはこの艦隊のみになっては意味がない)

(あの、ファーレンハイト艦隊の攻撃で、なぜ敵があんな混乱をしたんだ)

(その理由さえ)

 ヤンはそのことばかり考えていた。

 激戦の中で、先にファーレンハイト艦隊に起きたような敵陣の崩壊がまた起きた。今度はアッテンボロー艦隊に。

 また、ミュラー艦隊が偽りの退却を行っていたとき、敵がごく短期間激しく動揺し、むしろゼントラーディ軍の艦と同士討ちさえしていた。

 帝国艦隊もヤンの進言もあり、その件の情報を集めたが、余裕のない戦線でその分析に人的資源を振り向けるわけにもいかない。軍の情報分析担当官たちも、連合軍を維持するためのデスクワークで個人戦闘艇パイロット以上にあっぷあっぷなのだ。

 

 そしてヤンに、マイルズ・ヴォルコシガンから連絡があった。

 前線で戦い抜く戦士たちに劣らず疲れた表情で、思い切って決断した雰囲気だ。

「これだけの書類を見るのは、人には無理だ。〔UPW〕に連絡する。ミルフィーユ・桜葉が書類の山から一枚抜けば、そこに答えがあるはずだ」

 自分には無理だ、その一点を認める勇気がどれほど大きいか、わからないではない。失望はするが。

 とはいえ超光速通信でも、大量の書類を届けるとなるとクロノゲートがある帝国領は遠い……

 その話を聞いたハン・ソロが発言を求めた。

「ミレニアム・ファルコンこそ宇宙最速だ。全速で届けてみせる。おれたちには、回廊も何も関係ない、最短距離で飛べるんだ」

 言葉を聞くが早いか、マイルズはファルコンに飛び乗った。

 同時に、真田志郎がキャゼルヌに劣らず疲れた表情で、イゼルローン要塞の工作室から中継した。

「こんなこともあろうかと、作っておいた……スピードと機動性だけを極限まで優先した、ハイパードライブとコスモタイガー用エンジンのハイブリッド艇だ」

 コスモタイガーを一回り大きく改装しただけだ。だが、そのすさまじい速さに、データを見た者は皆呆然とした。

「操縦はルーク・スカイウォーカー。生活は随時ミレニアム・ファルコンに乗り移ればいい」

 それをファルコンとつなげる間ももどかしく、すさまじい速度でイゼルローン要塞から流星が虚空を切り裂く。

 同時に、〔UPW〕幹部と旧知である森雪を中心とした、むしろおとりの小艦隊がフェザーン回廊方面に向かった。

 もちろん、その戦闘艇改装を帝国・同盟問わず多くの将兵が注文することになる……

 

 その時、とある星の暗い片隅。陰謀をめぐらすことしかできない、過去に生きる人たちの潜伏基地を、奇妙な商人が訪れた。

「ルーク・スカイウォーカーを〔UPW〕にたどり着かせてはならない。何としても阻止しろ。この同盟の、書類上は破棄された戦艦を使え。また、このシオナイトやベントラムをさずけよう。資金としておまえたちの大義を成就させるがよい」

 その言葉に、ド・ヴィリエは飛びついた。もちろん、彼らを踏み台にしてより上に行くつもりではある……愚かにも。相手が何なのも知らずに。

 潜伏基地を突き止められたこと、それ自体で相手がどれほど恐ろしい存在か察するべきだったのだ。

 それ以前に、マイルズの任務が失敗すれば、この時空の人類は皆殺しにされるというのに。

 

 

 残る艦隊は、マイルズを希望にゼントラーディ本隊の圧力に直面していた。

 ついに巨象が動き出したのだ。

「まあよかった、こちらに抑えだけ置いて、分散してすべての有人惑星を殲滅する……ということをしない敵で」

 連絡のため、ブリュンヒルトにいたヤンは、半ば呆然としながら、皮肉に言った。

「負けない、に徹する戦いをしよう」

 ラインハルトが静かに、彼の好みとは遠い決断をする。

「先年、ビュコック提督がされたようにですね」

 ミッターマイヤーが楽しげに笑いかける。

(結局負けて、多くの将兵を死なせ多くの未亡人や孤児を作った。せめて今死に場所を作ってくれるとよいが)

 ビュコックは、敗軍の将は兵を語らなかった。

 そのときだった。無理を重ねていたラインハルトが、ついに倒れたのは。

 エミール・フォン・ゼッレ少年が、美しき主君を支えつつ自分も倒れそうな恐怖の声をあげる。死線を幾度もくぐった勇将たちも戦慄し凍りついた。

「陛下!」

「さわぐな。隠しても無駄だ……全艦に通信せよ……ヤン・ウェンリー」

 ラインハルトの声は、弱々しかったが冷静沈着だった。

「はい」

 ヤンがラインハルトの手を取る。

 透き通るように白い、そしてやけどしそうなほど熱い手。

「卿に、すべてをゆだねる。健康を取り戻すまでは」

「引き受けました」

 そう言うほかなかった。

 通信画面のミッターマイヤーとロイエンタールが、迷わずヤンに敬礼した。

 ヤンは一瞬熟考し、シュトライトに命ずる。

「フェザーンに、どのような手段でも連絡。帝国の、後方はすべてこれまで通り、オーベルシュタイン元帥に任せます」

 少し、ミッターマイヤーとロイエンタールをすまなそうに見る。帝国の将兵がどれほどオーベルシュタインを嫌っているか、よくわかっている。

 だが、信頼を悪用し帝国を引っかきまわす気はない、というアピールとしてほかにないことは自明であった。

 シュトライトは歯を食いしばって承知した。

「ロイエンタール元帥、ミッターマイヤー元帥、相互支援をしつつ後退。アッテンボロー、というわけで、艦隊の指揮は任せる、追う敵を横から断て」

 そうして、ヤンが連合軍を率い、情報を待って戦い続けることになった。

 皇帝の身を気遣いながら……帝国の侍医は役立たずであり、ヤマトの佐渡医師がセカンドオピニオンを求められ、診断を下していた。

「この病気は、厄介ですぞ。変異性劇症膠原病……エスコバールのデュローナ・グループなら治療法を知っていたかと思いますが」

「それはうれしいことだ。だが、この激戦の最中に、別の時空に治療のため旅をする、というのは無理だな。勝利ののちだ」

 病床のラインハルトは静かに笑い、傍観者の視点でものしずかに戦争を見つめた。

 帝国将兵の動揺は激しかった。皇帝のカリスマは巨大なのだ。だが治るという希望があった。ロイエンタールとミッターマイヤーという巨大な石があった。

 そして長い戦いでも短い共闘でも、ヤン・ウェンリーを強く認めていた。

 ガイデルが通信を開き、

「諸君のワープでは近づけないとされる、イゼルローン回廊の壁を形成している大型赤色巨星を敵が本拠としているようだ。総統が作られた兵器を試すにいいかもしれん、そこに敵を集め、かつこちらの工作隊が星に近づけるようにしてくれんか」

 そう頼み、それが作戦の中核となった。

 

 その夜、ヤンにビュコックから、秘密裏の通信が入った。

『妙なことになったな、長生きはするもんじゃ』

「ええ、その、というわけで忙しいので」

『聞きたくないことを聞かない者に、総司令官どころか士官の資格さえないぞ』

 ビュコックの、老いてはいるが厳しい叱責と威厳ある姿に、ヤンは歯を食いしばった。用件はわかっている。

『次に戦死するのは、わしじゃ』

 何の飾りもなく、聞きたくない核心が置かれた。

 ヤンもわかっている。帝国将兵に、公平を示すために……同盟軍の誇りのために、必要であることは。

『アーレ・ハイネセン以来、自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)の名誉のためじゃ。何千億とも知れぬ死者たちのためじゃ。ラインハルト皇帝に軽蔑されることはしてはならん。

 この老人に、死に場所をくれ。同盟の死に水を取り、民主主義を残すんじゃ』

(同盟も何もどうだっていいんだ、あなたに生きてほしいんだよっ!)

 その叫びは、口に出せなかった。涙とゆがんだ口元が、雄弁に語っていた。

『ありがとう、孫よ』

 それだけ言って、通信は切れた。

 ヤンは、ラインハルトを恨みたくなった。絶叫しかった。

(ただで歴史を学びたい、それが、それがここまで、ここまで……)

 

 

 一方、エルネスト・メックリンガー上級大将もまた、絶望的を通り越した抵抗を続けていた。

 あちこちの星に分散した艦を集め、五万隻にはなっている。だが、敵は百万を超えるのだ。

 一つの惑星から数百人の、人間国宝級の何かを伝える代表者と遺伝子資源、文化財のみを救出し、残りを切り捨てる選択を迫られていた。それこそ、古典学者が時間旅行をして燃え上がるアレクサンドリア大図書館に行き、一冊だけ持ち帰ってよいと言われるようなものである。

 そして最大の問題がある。オーディンに住むラインハルト皇帝の姉、アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃。彼女の無事こそ、ラインハルトにとって実際には最優先事項であることは、誰もがわかっていた。

 だが、アンネローゼが退避を拒んだらどうするのか。また、どこに退避するというのか。

 また、オーディンには、もはや退位した最後のゴールデンバウム皇帝、幼きカザリン・ケートヘンもいる。ヒルダの父親、フランツ・フォン・マリーンドルフもいる。

 ほかにも要人はいる。フェザーンや戦場にいる要人たち多くの家族もいる。

 

 その、玉砕も許されない、ほんの一日二日を稼ぐために多くの犠牲を強いられる……一人で大津波を防ぐような苦闘を前にしたメックリンガーの肩に、銀河の天使たちが舞い降りた。

 

〔UPW〕は、ゼントラーディの侵略を知ってすぐに全面的な支援を決めた。

「これは、一つの時空にとどまらぬ、多元宇宙の人類すべての危機である」

 と。

「人類だけが特別だと?」

 という声もあったが、

「〔UPW〕は、ラマンを差別しない。対話を拒む者は、すべてバレルセである」

 とも宣告した。

 死者の代弁者による『窩巣(ハイブ)女王』『覇者(ヘゲモン)』『ヒューマンの一生』やデモステネスの著作は〔UPW〕でも広く読まれており、「ラマン」「バレルセ」などの言葉は定着しつつある。

 

 ルーンエンジェル隊からは文句も出た。まあ、アプリコット・桜葉は戦いを悲しむだけ、ナノナノ・プディングはわかってない、リリィ・C・シャーベットは命令されれば従うだけ、カルーア・マジョラムはあらあらうふふ……文句を言うのはアニス・アジートとテキーラ・マジョラムとナツメ・イザヨイだが、まじめで忠実なカズヤ・シラナミはそのこともまじめに伝えた。

 何よりも、いつもの無人艦隊との戦いと違い、巨人とはいえ人が乗った艦と戦うと知らされたからでもある。

 

 文句を聞いたフォルテ・シュトーレンと蘭花・フランボワーズは、ルーンエンジェル隊全員を映写室に放りこんだ。

 二時間。

 エオニアによるトランスヴァール星の爆撃と、ローム星砲撃を一時間ずつ。

 

 二時間後、ドアを開けたときは、そこは地獄だった。

 七人とも吐きつくし、半狂乱。ドアや壁には血の筋がつき、爪が突き刺さっていた。

 ナノマシン集合体であるナノナノは、激しすぎる感情で半ば以上崩壊していた。

 暴走した魔力が部屋をとことん破壊していた。

 フォルテとランファは、素早く全員を制圧し鎮静剤を投与し、病院に放りこんでヴァニラ=Hの治癒にゆだねた。

 

 アプリコットは、ある程度のことは知っていた。だが、レーティングなしの未編集映像を見せられたのは初めてだった。

 まして〈NEUE〉出身者にとっては、ショックを通りこしていた。

 無造作に殺された何億人もの人……

 ほかの、〈NEUE〉出身のルクシオールクルーも、その洗礼は受けた。

 

 皆がわずかに立ち上がれるようになったころ、フォルテが語り始めた。軍人の、権威という力を使って。

「これが、あたしたちトランスヴァール軍の、シヴァ陛下の源体験だ。

 見るしかなかった。何もできなかった。

 その無力が、あたしたちにとって最大の悪夢だ。今だって、狂うぎりぎりのところでやっと生きてるんだ。

 そして今回、〈世界連邦〉の策略でその悪夢を繰り返しちまった。

 確かに別の時空だよ。でも、一人一人の命に、子供が目の前で焼けていく親の絶叫に、何の違いがあるというんだい?」

 じっと、泣きじゃくる子供たちを見つめて沈黙し、絞り出すように言った。

「覚悟だけは、共有してくれ」

 

 つい最近、〈ファウンデーション時空〉での、練・パルパティーン両帝国による侵略・虐殺を、〔UPW〕は止められなかった。外交的な脅しは無視された……両帝国とも、むしろ〔UPW〕も侵略する意図をむき出しにしている。

 そして実力行使は、ミュールに止められた。〔UPW〕が攻撃したら多くの自国民が死に、〔UPW〕が侵略者の汚名を着るよう手配し、さらにミュールの側から攻撃を仕掛けてゲートを閉ざすよう仕向けたのだ。

「ミュールは、〔UPW〕の権威が強まり、技術を盗まれるのを防ぎたかったんだ。それで〔UPW〕による干渉を止め、やつらが争うのを傍観して情報を収集しやがった」

 フォルテが、静かな口調に激烈な怒りをこめて吐き捨てた。

 その無力と判断に、シヴァやタクトがどれほど傷ついているか、良く知っている。いや、地上戦の経験も豊富な歴戦の兵であるフォルテこそが、虐殺地獄は一番良く知っている。視覚だけでなく、聴覚・嗅覚・味覚・皮膚感覚で。

 瀕死のうめき声、幼児の断末魔、獣といえば獣に失礼な男の叫びと女の悲鳴、わが子を目の前で殺され狂った母の声……

 人が生きながら焼かれる、焼肉の食欲をそそる匂いであることが余計吐き気をひどくする匂い、死体の内臓部が糞ごと焼ける匂い、腐臭……

 血と糞尿と内臓が混じる腐泥の味、押さえても大腿動脈から噴水のように吹き出る鮮血の熱い鉄味……

 腐った内臓の踏みごたえ、ウジ風呂につかり全身の肌くまなくうごめき穴という穴に入ってくるウジ……

 忘れることができないのだ。悪夢を見ずに眠れる夜はないのだ。

 

 その覚悟を共有したルクシオールを中心にした艦隊が、すさまじい気負いとともにクロノゲートを飛び出したとき、大声の通信がトランスバール皇国軍の専用波長で届いた。

『トランスバール皇国軍か?』

「いえ、〔UPW〕軍ですが、トランスバールから出向……」

『ココ・ナッツミルク大尉!ネイスミスだ!タクト艦長は、ミルフィーユは?』

 激しい声に、ルクシオールの時間は一瞬止まった。

 オペレーターの、

「パルパティーン朝銀河帝国が支配する銀河の、反乱……同盟軍の信号です」

「ココ艦長はもう准将ですよっ!」

 などの通信だけが虚しく響く。

『ああ、昇進したのか、失礼した。おめでとう。君にふさわしい昇進だ』

 そういうマイルズの口調からも、激しい焦燥が伝わってくる。

 

 ミレニアム・ファルコンもボロボロだった。

 戦艦を与えられた地球教テロリストは、フェザーンに無駄な攻撃をかけて艦を失い、余力をおとりの艦隊に向けた。

 そちらの被害は大きく、遅れも大きかったが、おとりの役割は果たした。

 また、解放されたアンドリュー・フォークが同盟・帝国どちらの技術でも通過不能な宙域で、奇妙な無人艦隊を用いてミレニアム・ファルコンを襲う事件もあった。

 だがフォークの、優等生丸出しで半ば狂った艦隊運用は柔軟を欠いた。

「艦隊から逃げるのは、さんざんやってるんだよ!」

 叫ぶハン・ソロはルークの超高速艇で牽制、白色矮星をかすめてスイングバイ加速、敵陣の真っただ中に飛び込み、ギリギリでかすめて飛び去った。その時に砲撃を浴び、大破しながら。

 敵前回頭の愚を犯し、同士討ちしつつ混乱する敵艦を、すでに分離して大きく回っていたルークが次々と沈めた。

 そしてフォーク自ら出たスパルタニアン戦闘艇とドッグファイトの末に、鮮やかに撃墜した。優等生で操縦も高得点だったとはいえ、豊富な実戦経験とフォースの助けもあるルークでは相手が悪かった。

 それから超高速艇を予備エンジンとして、半壊状態のファルコンをだましだまし飛んできたのだ。

 それでも遅延は一日程度、フェザーン回りの最大到達時間の三分の一以下である。

 その一日に何人死んだか、恐怖の計算にマイルズは身を裂かれていた……

 

 ルクシオールの、ココ・ナッツミルク艦長は、前にはエルシオールの艦橋オペレーターとしてネイスミス提督……マイルズと共闘したことを、おぼろげながら覚えていた。

「たのむ、ミルフィーユ・桜葉に会わせてくれ!何億人もの命がかかっているんだ!」

 叫ぶマイルズに、ココは素早く決断し、リプシオール級戦艦を一隻つけてミレニアム・ファルコンを送った。

 彼女たちは知らない。そのクロノゲートを急襲しようとする、トランスバール以上の技術を持つ艦隊と、別の艦が見えないところで閃光一つ出さず、激しく戦っていることを……

 

 何もない虚空〈ABSOLUTE〉に浮かぶ奇妙な施設……崩壊したセントラル・グロウブの機能を引き継ぐ、六つの月の技術を結集した巨大要塞。

〔UPW〕長官タクト・マイヤーズは、懐かしい人からの通信を受け驚いたが、再会を喜ぶ暇すらなかった。マイルズの危機感ははっきり感じられ、それゆえに全力で、ゲートキーパーである妻、ミルフィーユ・桜葉を奥津城から引き出し、マイルズに会わせた。

 マイルズにとって見慣れた紋章機搭乗用の服ではなく、美しいドレスを着たミルフィーユ。

 再会を喜ぶ暇もなく、マイルズは小さい体でかろうじて抱えたトランクの、書類の山をぶちまけた。

「一枚、拾ってくれ、ミルフィーユ。今こうしている間にも何百万人死んでいるか。わかっている、こうして君の運を使うことが、どれほど君を傷つけるか。それでも、ほかに手段はないんだ」

 タクトは激しい怒りを感じたが、マイルズの思いもよく理解している。

 ミルフィーユはみるみる涙をあふれさせつつ、つぶやく……

「もう、あんな思いはしたくない。死んでいく人が一人でも少なくなるなら、この運だって」

 それが、トランスバール本星やローム星の地獄であることは、言わなくてもわかった。

「ミルフィー……」

 タクトがミルフィーユの肩に触れた。

(どちらを選んでもいい、支える)

 というサイン。

 ミルフィーユは決然と、目を閉じて一枚の紙を拾い上げた。

 マイルズは一読し、膝からくずおれた。そして、データパッドで検索しなおす。

「ありがとう、ミルフィーユ……これで何億もの人が助かる。歌が答えなのか、三つとも共通して、敵の通信波長で歌を流してしまった。彼らは、歌を聞くと混乱するのか」

「それじゃ、人間みたいじゃないか」

 タクトの驚きに、マイルズは頬をゆがめた。

「人間なんだ。遺伝子操作はされているがね」

 ミューティ疑惑に苦しんできた彼にとって、他人事ではない。その遺伝子操作された相手を、これからこの情報で殺戮する、そのことは理解していた。

 泣き崩れるミルフィーユの肩を、タクトが抱いた。そしてマイルズはひざまずき、貴族の態度でその手に接吻し……次の瞬間には、ポートに全力で走りだしていた。

 夫婦とも、以前並行時空をめぐりともに戦った、変わり者の友のことは覚えていた。彼が、どんなに友を思うに熱く、戦いに熱い男であるか。

 ミルフィーユの悲しみを知らない男、女を傷つけて平気でいる男ではないことは、よくわかっていた。だから傷つきながらも許せた。

 

 

 ガイデル要塞とヤマト、それにイゼルローン要塞の設備で急造したハイパードライブをつけたクナップシュタイン分遣艦隊が赤色巨星に迫っていた。

 その赤色巨星の周囲では、五百万に及ぶ敵艦隊が翼を休めていた。

 波動砲が膨大な艦の渦に大穴を空け、ガイデルのガトリングデスラー砲が大きくばらまかれる。

 いかなる艦隊も決してその正面には立てぬ、地獄の先端だった。

 だが、敵も圧倒多数、包囲殲滅しようと激しい攻撃を仕掛けてくる。

 クナップシュタイン分遣艦隊は、時間の制約で艦数は少ないがありったけの戦闘艇を発進させ、敵のおびただしい機動兵器を迎撃する。

 死角から浴びせられる砲撃の渦を、ガイデル要塞は耐え抜いていた。

 赤色巨星の熱さと、すさまじい各種素粒子流が迫る。ニュートリノ、電子、中性子……電場、磁場、重力波、すべてが桁外れだ。

「惑星破壊プロトンミサイル、斉射」

 ガイデルの命令で、機体の何倍も巨大なミサイルを抱えた機から赤色巨星に巨大な筒が放たれる。機体は素早く反転帰投する。いくつかは敵の猛撃に爆裂した。

 そしてガイデル艦隊についていた、奇妙な工作船が赤色巨星に張りつき、ビームを放つ。

「この規模の巨星、理論上は82時間」

 技師たちが忙しく働く。

「ヤマト、70時間後に波動砲を赤色巨星の中心にぶっ放してくれ。それがトリガーになる」

 任務に殉じたフラウスキー少佐の置き土産だ。太陽制御技術は刃を返せば恒星に超新星爆発を起こさせる最終兵器にもなる、制御には失敗しても爆発させるなら使える。

 ヤマトがルダ・シャルバートに与えられて地球を救い、今は地下深くに封印されているハイドロコスモジェン砲と同じである。

 多数の工作艦を守り抜き、巻き込まれないようにワープする……とてつもない無理を、連合軍は強いられることになった。

 むろん超新星化技術は、ローエングラム朝銀河帝国とガルマン・ガミラス帝国が戦争になるとき切り札にもなりえる技術で、見せることは問題ともされた。だがデスラー自ら超光速通信を受けて、

「出し惜しみをしてはラインハルトとやらに足元を見られよう。そして脅しともなろう」

 と笑って許可した。

 敵もその意図を知ってか、それともガイデル要塞を狙ってか……もともと多数の要塞や艦隊がいる集積地の一つに侵入したのだ、攻撃されない方がおかしい。

 コスモタイガー隊が、工作船を狙う敵の機動兵器と激しいドッグファイトを続け、弾を撃ち尽くしては帰投する。

 ガイデル要塞のガトリングデスラー砲が、次々と艦隊を葬り続ける。

 ヤマトは波動砲すら封印し、ショックカノンの連射に全力を尽くしている。波動砲はその時、確実に撃てなければならない。それまで、主砲の弾幕も切らせてはならない。

 そのメンテナンス、たまに命中する敵弾のダメージコントロールに、クルーは総出で働き続けている。戦術や命中精度ではなく、修理と兵站と医療こそが生死を分ける戦闘だった。

 万一、82時間後のその時にワープが不可能であれば、それで終わりなのだ。波動砲全力発射から12時間後の、しかも不安定な大重力源の近くからの遠距離ワープは、ギリギリなのだ。

 

 おとりとして動いているヤンは、敵を動かしていた。まるで、レンズマンが敵の脳に侵入し、操るかのように。わずかな艦隊のひく手さす手が、敵艦隊を動かして大きな穴を作った。

 だが、次々と被害は入る。

 まず、ビュコック率いる同盟残存艦隊が壊滅した。

 ビュコックの旗艦リオ・グランデは、ラインハルトに静謐な通信を残し、ヤンに同盟軍をゆだね、敵の攻撃を一手に引き受けて散った。

 病床のラインハルトが率先し、帝国の全将兵が、老人の死に敬礼した。

 さらに、ウルヴァシーとの兵站線を維持し、有人星からの避難民を護衛していたシュタインメッツ戦死の報告も入る。

 

 70時間と、七分。その七分に、千人が生命を捨ててヤマトが回頭する時間を与えた。

 波動砲が赤色巨星の中央を貫き、恒星の反応はさらに激しくなった。

 ヤマトは必死で波動エンジンの修理を進める。11時間と53分以内のワープのために。

 ヤマトを守るクナップシュタイン艦隊が、次々と撃沈されていく。

 一時間どころか、一分が何と長いことか。なのに、波動エンジンを修理している機関員にとって、どんなに11時間が短いことか。

 六時間。数千隻が、ヤマトに集中攻撃をしかけてきた。

「動けるか?」

「今動いたら、ワープができない可能性もあるぞ」

「……主砲を連射しろ!波動カートリッジ弾だ」

「最後の二発です!」

「やらせるなっ!」

 クナップシュタイン艦隊が全艦、全速で敵艦隊の横腹を突き、突き破る。

 残った艦は二隻。旗艦も粉砕されている。

 それでも、敵艦隊の三分の一程度しか減らせていない。

「クナップシュタイン……ミサイル残り全部撃て!」

 古代が絶叫し、コスモタイガーに飛び乗ろうとする。

「よせ古代!お前が出たってミサイルは残ってない!」

 南部が叫んだ。

「ワープ準備……ちくしょう、第七パイプ交換しろ!斧だ、斧を持って来い!」

 噴き出す高圧ガスに片腕を失いながら、徳川太助がわめく。

「もう、超新星爆発の兆候です!40分早い!」

 相原の悲鳴。

「残り時間……」

 千隻を超える艦が、至近距離まで迫っている。

 赤色巨星はビームを注がれ、不気味に脈動している。その激しい重力変動は、まるで巨人に殴られるようにヤマトクルーの内臓を揺さぶり、機関員の手元を、あらゆる機械や計器を狂わせている。

 次々と工作艦がワープした。ワープし損ねて爆発する艦もある。

 目の前の艦隊に、光が蓄積される。放たれたら最後か……不思議なほど静謐だ。

 突然画面が閃光に満たされる。

 もうワープしていたはずのガイデル要塞が、ガトリングデスラー砲のみならず、全身に装備する無数の兵器をぶっ放しつつ突進し、敵艦隊を蹂躙した。

 波動砲すら通用しないとされる頑丈な外壁が、あちこち破られ炎上している。

「ガイデル!」

「ヤマト……われらはヤマトを破った宇宙一の兵(つわもの)。デスラー総統の名誉にかけても、クナップシュタインごときに負けるわけにはいかぬ。どれほど総統にとってヤマトが大切か」

 禿げ頭に包帯を巻いたガイデルが、乱れる画面の中で微笑した。

 巨大要塞から、何隻かの大型艦が飛び出し、ワープする。

 クナップシュタイン艦隊の、最後に残った二隻のうち一隻がワープし、もう一隻はガイデル要塞から出た艦を狙う敵の巨大艦に激突し、大爆発に散った。

「さすがだな。よし、これで兵のほとんどと、超新星化兵器のデータは総統にお返しできる」

 もはや声のみ。

「さっさといけえっ!」

「もう、間に合いません。異常衝撃波来ます!」

 太田が絶叫した。

 その声に応えるように、傷ついた要塞が赤色巨星とヤマトの間に動いていく。

「ガイデル!だめだ!」

 もう、超新星爆発のすさまじいエネルギーは要塞を呑みこみつつある。さらに敵艦隊が恨みの攻撃を叩きこむ。

 爆発していく要塞……それが、わずかに衝撃波を弱め……

 ヤマトにも迫る弾幕を、巨大な、要塞最後のミサイルが受け止めて煙幕を作る。

「デスラー総統……ガルマン・ガミラス帝国万歳……」

 通信に雑音だらけの声が響く。

「ワープ」

 島が、涙ながらにワープに入った。すさまじい爆発が宇宙を切り裂いた。

 イゼルローン要塞があった恒星アルテナに有人星があれば、14年後には陸上生命は全滅するほどの……エル・ファシルなどでは何十年か後、満月より明るく観測できる爆発。銀河のすべての星の輝きより強い、遠くの銀河からでも観測できる爆発。

 無数の重元素を産み出し、生命の基を作りだす爆発……だがその爆発はゼントラーディ艦隊主力にとって、生ではなく死だった。

 多数の艦隊が計画性もなく逃れようとする緊急フォールドは、むしろ被害を拡大した。

 恐ろしい数の艦が、光速で広がる爆発に呑まれ、消滅していく。

 超光速通信搭載の観測無人機からの映像を見たヤンやラインハルト、将帥たちはみな恐怖した。

 だが、もしグリルパルツァーが生きていたら、またラインハルトが元気なら気づいていただろう。超新星爆発で赤色巨星が吹っ飛んだことで、イゼルローン回廊は大幅に広くなった。まあ、それがなくても新しいエンジンの入手で、回廊はもはや回廊ではなくなっている。

 それが帝国の今後をどう変えていくか、フェザーンの文官やオーベルシュタインは考えているだろう。

 まあそれも、この戦役を乗り越えたらの話であり、それは絶望的なのだ。

 

 

 

 メックリンガー艦隊が、絶望的というも愚かな数の敵に直面していたとき……

 そこに、銀河の天使の歌声が鳴り響いた。

 混乱する敵艦隊に、メックリンガーさえ混乱した。

「何が」

「〔UPW〕所属、ルクシオールより通信です!『歌を敵の通信波長で流せば、敵は混乱する。今攻撃せよ』」

「ばかな!だが、実際に敵は混乱している。確かに、今がチャンスだ……総攻撃!」

 メックリンガー艦隊の戦艦がビームとミサイルを連射しつつ、崩れた敵陣に身をねじ込む。

 同時に別方面から、六人の天使が舞い降りた。

 六機の紋章機、その一機は合体により能力を増幅させている……今回はファーストエイダーと。戦闘継続能力を優先するためだ。

 その火力は圧倒的だった。戦闘機よりは大きいが駆逐艦より小さい個人戦闘艇が、次々と戦艦を屠る。

 クロスキャリバーから放たれる二門の、戦艦を何隻も貫通する粒子砲。

 イーグルゲイザーの遠距離狙撃。

 ファーストエイダーは味方機を修復すると同時に、針の嵐を放って敵を貫く。

 スペルキャスターの、魔法技術による六芒星魔法陣は超巨大艦もあっさりと粉砕する。

 迎撃しようとする高機動機は、レリックレイダーが機動性で追随、次々と鋭い一撃で葬る。

 そしてパピヨンチェイサーの圧倒的な火力が、4000メートル級の艦すら粉砕する。

 ただでさえ百隻ぐらいの艦隊となら問題なく戦えるルーンエンジェル隊、しかも敵艦隊は混乱し機能していないのだ。

 さらにルクシオール自体、リプシオール級や無人艦も数百隻が激しく攻撃をかける。

「〔UPW〕の?」

 それを見て、メックリンガーは決意した。葛藤は激しかった……

(だが、今われらが美しく死ねば、次は大公妃殿下に戦火が及ぶ。笑われてもこれ以上悪いことになど、なりようがない!)

 愛蔵の、私用音楽データを、旗艦の、全艦を支配する通信システムに震える手で挿す。

「敵艦隊の通信波長。最大出力」

「閣下!」

「勝利のためだ。全責任は私がとる」

 メックリンガーの……普段は柔和な芸術家だが、衣の下にしっかりと鎧を着た威に、オペレーターはおもいきり出力を上げ、放送を始めた。

 敵の混乱、『デカルチャー!』の絶叫が響く中、艦隊と紋章機がおびただしい戦艦をたたき破っていく。

 

 

 同盟側の連合艦隊は、追い詰められていた。

 ついにゼントラーディ本隊が動き出したのだ。

 大軍が動きにくいダゴン星系に引きずりこんだが、ゼントラーディ軍はその圧倒的な数と破壊力で、小惑星帯を粉砕しながら攻め寄せてきた。

「負けない戦いをしよう」

 ヤンは、ブリュンヒルトの大本営でも、相変わらず行儀悪くあぐらをかいていた。

 それは、もう帝国将兵も安心させるものになっていた。

 ヤマトは帰ってきたが、戦闘不能で修理のためイゼルローン要塞に収納された。そのイゼルローン要塞と並び、10万隻に匹敵する火力源となっていたガイデル要塞が失われた……

 確かに何光年も先では、何百万もの敵艦隊が粉砕されつつある。その映像は全艦に流され、士気を高めている。

 だが、現実に今、ここでは、15対1の絶望的な戦力差があるのだ。

「あえて突っこめ!」

 アッテンボロー艦隊と黒色槍騎兵が肩を並べ、その背後を重厚に覆うロイエンタール艦隊が、逆に鋭く突撃する。ロイエンタールは、ヤン艦隊得意の一点集中射撃ももう身につけていた。その猛火の前に、どんな数も巨大艦も、烈火の前の淡雪のように消えていく。

 ミッターマイヤー艦隊が大きく周囲を回り、またも縦陣切断を狙う……

「ここだ」

 ヤンが読んだ通り、そのミッターマイヤー艦隊にこそ、敵は巨大要塞をフォールドさせ、叩き潰そうとしてきた。

 そこに、何日も前に放たれていた塊が、光速の99.9%で迫る。アルテミスの首飾りを粉砕した時と同様、巨大な小惑星をラムジェットで加速させ、そこにこそ敵が最大の力を置くように敵を動かしたのだ。

 巨大要塞の、ばかでかい目のような巨砲が、氷塊を粉砕する。

「トールハンマーの、何倍だ?」

「惜しいっ」

「だが、連射はできまい」

 ルッツの凄味を帯びた微笑。そう、移動可能なイゼルローン要塞が突進し、トールハンマーを全力で放った。

 巨大要塞が一時的に動きを止め、親衛艦隊が大量に粉砕される。

 だが、残った親衛艦隊は巨大要塞を守ろうと、激しい攻撃をイゼルローン要塞に集中させる。

 トールハンマーもおかまいなしだ。

「まさか、イゼルローン要塞が、数で押しつぶされるのか」

 帝国・同盟ともに戦慄していた。

「ここだな」

 病床のラインハルトが呟く、そのポイントにこそヤンはファーレンハイト艦隊とメルカッツ艦隊を向かわせていた。

 ぴったりの息で両艦隊は、ヤン艦隊お得意の火力集中……突っ込もうとする鼻先を痛打するような一撃で艦隊の足を止め、貴重な時間を稼いだ。さらにくさびを打ったように敵艦隊を分断した。

 ファーレンハイト・メルカッツともに重傷を負ったが。

 ヤンはその知らせを受けながらも、全艦に命令を送り続ける。

「アスターテを思い出せ。敵は多くても、分断されて局地的にこちらが多い状態を作ればいい」

 その瞬間に、全員がわかった。そう、全艦隊は、敵の一部だけをゆるやかに包囲していたのだ。

「目標、エル・ファシル星……射て!」

 ヤンの右手がふりおろされる。一隻の遊兵もなく、全艦の全砲が敵を押し潰していく。

 ここから二等星の明るさで見えるエル・ファシル星を狙うのだ、狙いの狂いようがない。

 そしてきれいに集中した弾幕は、容赦なく敵艦隊を引き裂いていく。

 だが、それもひとときのこと……いまこの宙域にいる敵の、七分の一を破壊したに過ぎない。

 じっくりと、超巨大要塞……イゼルローン要塞のさらに十倍の要塞が、トールハンマーすら軽傷で動き始める。

 その背後には、今ヤンが率いている艦隊の、軽く五倍が従い、加速し始めている。

「要塞同士の撃ち合いほど、楽しいことはないな。ケンプも楽しかったろう」

 ルッツの両目が藤色に輝き、イゼルローン要塞を突撃させる。

「全員を退避させろ」

 ルッツの命令とともに、イゼルローン要塞から次々と艦が飛び出し始める。スズメバチの巣が転がったように。

 ゆっくりと、何時間もかけてイゼルローン要塞と、超巨大要塞は向き合う。

 何発ものトールハンマーが、艦隊を蹂躙する。

 ヤン艦隊も、多数の艦隊の猛攻を受けている。

「ヤマト、修理はそろそろ終わるかな?」

 ルッツの、むしろのんびりとした館内放送に、古代は呆然とした。意図を悟ったのだ……腹の中からぶっ放せ。

「巡洋艦二隻をタグボートとする。接続しておいてくれ」

「は、波動砲……発射可能まで、あと22分」

「まあ、持ちこたえてみるさ」

 ルッツの微笑に、古代はただ歯を食いしばるだけだった。

 

 アイゼナッハが、地面にたたき倒されてその口から、まれな言葉が漏れる。

「大事ない。熱いぞ」

 飛んできていた、幼年学校の従卒が落としたコーヒーを浴びていたのだ。

 

 パーツィバルが猛攻を浴び、艦隊の三割とともに致命傷を負う。ミュラーは重傷を負いつつ旗艦をまたも移した。

「あの時はこんなものではなかった。陛下さえご無事なら」

 

 ワーレン艦隊は巧妙に敵をひきつけ、長く伸びた敵の一隊はアッテンボロー艦隊とガイデル残存艦隊が作った、死の縦隊に閉じ込められる。

「ああはなりたくないものだ。あれではまるで昔の、列を作り棍棒を持って殴りつける兵の間を走り抜ける死刑のようなものではないか」

 殴られながら走り続け、どんどん減っていく敵艦に、ワーレンは心から同情した。

 

 ヤンは、ミスはしていなかった。徹底的に負けない戦いをした。

 だが、それでも多勢に無勢は、多勢に無勢なのだ。

 次々と艦は減っていく。そして敵は、倒しても倒しても増えていく。

 味方の疲労は重なるばかりだ。負傷者は増えるばかりだ。残りが、半数を切る……

 

 イゼルローン要塞から、突然二本の閃光が放たれる。ヤマトの波動砲と、トールハンマーの同時発射……超巨大要塞の、半分が吹き飛ぶ。

「やった!」

 破壊されていくイゼルローン要塞から、ヤマトが巡洋艦にロケットアンカーで牽引され、かろうじて出てくる。

 最後に脱出したルッツの、わずか五隻の小艦隊は巨大要塞の親衛艦隊と戦い抜き、ヤマトを守って次々と破壊されていく。

 要塞と生命を共にするなどしない、最後の最後まで戦い抜く。

 巨大要塞は、わざとエンジンの一つを自爆させ、恐ろしい勢いで回転しながら敵陣につっこみ、多数の敵をまきこんで大爆発した。

 

 それでも、敵の超巨大要塞はその一つだけではなかった。

「どれだけ……」

 それだけ戦っても、戦っても……

 ヤンの体が、疲労に崩れそうになる。脳が溶けるようだ。

「また、別の超巨大要塞が」

「またか、いくつあるんだ」

 

 そのとき。歌が流れた。

 名曲とされるが、少々古い歌が。

 敵艦隊の通信を傍受しようと流していた回線に、混線していた。

 そのとき、ヤンの疲れ切った目に、それが映った。

 敵艦隊すべてが混乱しているのを。

 そして、次の瞬間、強烈な閃光が目をくらませる。敵艦隊の、最も濃密な中央部が粉砕される。

「……きたか」

 ルクシオールの、デュアル・クロノ・ブレイク・キャノン。

「陛下!」

 メックリンガーが叫んだ。

「いや、今は陛下は……生きてはおられるが、ご病気で」

「なんと!」

「まさか、われらが卿を助けるのではなく、卿がわれらの援軍になるとはな」

 ロイエンタールが苦笑し、

「全艦突撃!黒色槍騎兵のごとく!」

 絶叫に、艦隊が応えた。これほどわかりやすい命令もない。

 さらに、ウルヴァシー方面からもすさまじい閃光が、敵艦隊を襲う。

「お初にお目にかかる。ガルマン・ガミラス帝国総統、デスラー」

 百隻近い、巨大な砲そのものの艦や、甲板から巨砲を見せている戦闘空母。

「デスラー閣下。病中失礼する、ラインハルト・フォン・ローエングラム。話はわが代理、ヤン・ウェンリーとお願いする」

 ラインハルトが病床から身を起こす。

「ほう」

 と、デスラーはヤンを見る。

「デスラー閣下。ガイデル長官は、まことにご立派でした」

 ヤンがデスラーに敬礼する。

「武人の鑑(かがみ)、まさしく宇宙一の兵(つわもの)の名にふさわしい最期だった」

 古代が敬礼する。

「武人ならば当然のこと。勝利をもって弔いとしよう」

 デスラーが不敵に笑い、全艦デスラー砲装備の親衛艦隊が発砲を続ける。

 敵は膨大だが、混乱してまともな艦隊機動はとれていない。

「よし……どれほど多くても、羊の群れを獅子が襲うのだ」

 ラインハルトが笑った。

『き、きみたちには文化があるのか』

 ついに、敵艦から奇妙な、そして人間でもある姿の通信が入る。

 次々と。

『文化を、文化を取り戻せるのなら……』

「ああ、ある。われわれは人間だ。歌い、踊り、愛しあい、愛のために戦う人間だ」

 古代の声が、戦いの終わりを告げた。

 次々とゼントラーディは降伏し、

『邪悪な文化は、滅ぼさねばならぬ』

 と叫ぶ、超巨大要塞の総指揮官に立ち向かう。

 波動砲、デスラー砲、デュアル・クロノ・ブレイク・キャノンの斉射に超巨大要塞が消滅するのは、もはや終わりの仕上げでしかなかった。

 

 

 

「ジョアン・レベロ議長が殺害されました。殺害犯のロックウェルらが、ハイネセンを無血開城」

 その知らせを受けたヤンの表情は、何とも言えなかった。

(ああ、そうか)

 と。

 死を何度もくぐったからこそ、できる表情だ。

 人間とはそんなものだということを、底の底まで理解して。あるがままの現実を受け入れて。

 それで、

(ああ、そうか)

 である。

「また、異星人の大艦隊を、ヤン・ウェンリー一人が倒したとか……その、ラインハルト皇帝がヤンに降伏したとか……ものすごい英雄話が、マスメディアに。

 同盟の星の多くは、お祭り騒ぎです」

 ユリアン・ミンツの表情は、嫌悪感を示していた。

(それが、まだ若いということだ。人間に期待して、失望などをするのだから)

 ヤンは、もう老いたような思いだった。

「ロイエンタール元帥。超光速通信で、同盟のできる限り多くの人が、声を聞けるようにしてください。同盟のマスメディアは信用できない」

「二日」

 金銀妖瞳をきらめかせたロイエンタールは、忠実に、有能に命令を果たした。部下には災難だったが。

 残った5万艦隊、すべてをあちこちの惑星に配備し、惑星降下可能な艦載艇を低空に浮かべ、音声を鳴らせるようにした。

 ヤンは、あちこちの惑星の広場に集まり、歓呼の声を上げ同盟国歌を歌う群衆に、静かに語り始めた。

 音声が、そして多くの画面にヤンの顔が映る。その背景が帝国の艦であることに気づいた人もいる。

「ジョアン・レベロ議長が死んだ。わが身がかわいい人に殺されて。ああ、ぼくはヤン・ウェンリーだ。演説なんてできないから、ただおしゃべりをさせてもらう」

 熱狂。

「ルドルフ皇帝が出てきたときもこんなだったのかな」

 アッテンボローが皮肉気に言うが、画面の熱狂に圧倒されている。

 ちらり、と見たヤンはため息をついてつづけた。

「恥ずかしくてならない。民主主義の旗で戦ったことが。

 誇らしくてならない。ビュコック提督たちと同じ旗で戦ったことが」

 もう、涙声だった。

「同盟の残存艦隊は、ほとんど残っていないよ。もう、帝国に抵抗できる力などない。自由惑星同盟は、負けたんだ。

 ああ、今病気で治療しているラインハルト陛下は、ぼくに全部任す、って言ってくれた。

 ウェンリー朝を作ってもいいし、帝国も含めてこの銀河全部を民主主義にしてもいい。アンネローゼさんに帝位を継がせて立憲君主制にしてもいい」

 もちろん、聞いている帝国艦隊の多くは愕然としている……だが、ミッターマイヤーが「騒ぐな!」と一喝し、かろうじておさまった。

 呆れたことに、「ジーク」の声さえあった。

「レベロたちは、多元宇宙ゲートも、ゼントラーディ艦隊も……目の前の現実を受け入れることもできなかった。いいやつだし、頑張ってたけど。

 トリューニヒトは、同盟を売った。

 同盟に致命傷を負わせたのはサンフォードとウィンザー夫人。

 そしてレベロを殺した連中、名前を知りたくもない……」

 中断は、効果を狙ったのではない。単に、かろうじて体ごと横を向き、床に嘔吐したからだ。

 その音と映像、「ごめん」と謝る声、うがい音はそのまま中継された。マスメディアは次々と中継を中止し、別の番組を始めたり扇動政治家を登場させたりした。

「そんな連中を選んだのは、君たちだ。今、ぼくが見てる情報画面で、一人の人間の名前を怒鳴ってる君たちが、同盟だ。君たちが負けたんだ」

 ヤンは、静かに息を整えた。

「同盟の将兵は、そんな君たちのために戦いぬいた。その素晴らしさは、帝国の将兵一人一人がよく知っている。血を流して人類を救った……敵であった帝国の将兵、また存在を否定された並行時空の将兵とともに。ぼくはその一員であることは、誇っている。

 君たちも言うだろう。銃後で耐えてきたと。立派に戦った退役兵も多くいることは知っている。ビュコック提督の未亡人……こんな形で知らせて申し訳ない……あなたも、有権者の一人だ。

 ぼくも何度も選挙の機会があった。責任がある。

 陰謀をやって政権について歴史の流れを変えなかった責任は、拒否するよ。ぼくは神じゃない、そんなことをしてたらもっとひどくなったろう。

 正しければ勝利する、なんて幻想にすがるのはやめてくれ、ゴールデンバウム帝国の門閥貴族だって見たいものだけを見て滅んだ。

 英雄を求めるのはやめてくれ、ゴールデンバウムを選んだように。

 集団での熱狂と暴動はやめてくれ、それは何も生まない。自分の頭で考えることをやめるな。

 陰謀と権力、テロで歴史を思い通りにできると思うのはやめてくれ、誰だって神じゃない、歴史は、宇宙はあんたのママでも奴隷でもない。

 国家やイデオロギーに魂を売るのはやめてくれ、国家なんて幻想でしかないんだ。人類が滅びる直前だったんだよ」

 泣きながらしゃべる言葉が、やっと、熱狂する聴衆の耳に伝わっていく。ビュコック夫人は、しずかに、しずかに涙を流しつづけていた。

「現実を見て、自分の頭で考えて、立ち上がるんだ。暴力ではなく、アーレ・ハイネセンの勇気と賢明をもって。

 ぼくは、同盟を帝国に売るよ」

 重大すぎる言葉は、内容の重みに比べてとんでもなく軽い、なんでもない口調だった。

 ヤンはいつも、なんでもない口調で艦隊を動かしてきた。何万もの味方を、何十万もの敵をそんな口調で殺してきた。

「自由惑星同盟軍総司令官、ヤン・ウェンリー元帥は、ローエングラム銀河帝国摂政ヤン・ウェンリー元帥に正式に無条件降伏し、降伏を受け入れる。

 実際に同盟には、帝国に抵抗する力なんてないんだ。同盟政府には、当事者能力はない。

 といっても、民主主義の種火が根絶されたら帝国が腐ったときに、また種火を作るのに何百年もかかるから……帝国にはいくつか約束してもらった。

 エル・ファシルは自治領として民主主義を残す。

 帝国・同盟問わず、ルドルフ皇帝の登場、自由惑星同盟の誕生と敗北を、義務教育として教える。どんなに民主主義がひどいことになるかを。

 言論などの自由は守る。まあ、ローエングラム朝の帝国は、実は最近の同盟より自由だよ。

 同盟領は、地方自治は民主主義でいい。それを帝国がしっかりと見て、民主主義が機能するようなら、民主主義を少しずつ拡大していく。

 帝国は、甘い母親にもなるけれど、厳しい試験官にもなる。

 好きに選ぶといい。

 これまでのように、考えるのをやめて鳥のひなのように口を空けてエサを待つか。それならローエングラム朝は最高さ、すてきなエサをちゃんとくれる。ラインハルト陛下が治っても、治らなくてもだ。まあ、しばらくは。

 それとも、敗北を認めて、自分の頭で考えて、もう一度氷河を掘るつもりで民主主義の道を歩むか。

 簡単だとは思わない方がいい。人間の集団は妙なことになるし、歴史の流れはものすごい力で思いもよらない方向に流れるもんだ。

 ローエングラム朝という試験官は、厳しいが公平な試験官だ。暴動などに走らず、足元からしっかりと民主主義を積み上げ、実績を積み重ねれば、いつか憲法や議会だって認めてくれる。

 ぼくは、治療で出かけるラインハルト陛下を護衛して、この時空から出ていく。あとは帝国のみんなに任せる。

 では、さよなら」

 それだけ言い終えて、ヤンは通信を切った。

 みな、言葉もなかった。アッテンボローも、ロイエンタールも、ユリアンも。

 聞いていたラインハルトは、何とも言えない微笑を浮かべた。

 同盟の民衆は、徹底的に打ちのめされた。

 中継を途中で打ち切ったマスメディアは、根こそぎ信頼を失った。

 レベロを殺した人たちは、自殺する者もいた。リンチに遭った者もいた。しぶとく生き延び金持ちになった者もいた。

 ヤンの言葉が伝わったのは、やはり少数だった。

 大多数は、単にヤンを裏切り者として憎むだけだった。そんな連中は、あっさりと帝国の善政に忠誠を誓った。

 人間そのものに絶望し、自殺する者も多かった。

 だが、少数は立ち上がった。考え、学び、語り始めた。語り部の先頭にユリアン・ミンツがいた。

 放送は、ロイエンタールによって少しつづけられた。

 特に、ゼントラーディについての情報……降伏した生存者との共存。

 新しい技術によって人類の領域が広がること。

 ガルマン・ガミラス帝国や地球、〔UPW〕との友好条約。

 また、ゼントラーディが理解もせず利用していたプロトカルチャー製の兵站技術で、これまで利用できなかった不毛な星も資源にできること。

 ついでに、戦勝祝賀パーティーにのこのこと出てきたヨブ・トリューニヒトをデスラーが一目見た瞬間、拳銃を抜き射殺し平然と「顔が気にいらぬ」とのたもうたことも。

 

「あれこそ、専制の良いところではないか。デスラー総統閣下がああしてくれず、予が病死して帝国を民主化していたら、二十年後にはトリューニヒト帝国だったやもしれぬ」

「そういうことがあるのは認めるしかないですよ」

 苦笑しあうラインハルトとヤンは、ブリュンヒルトに乗ってウルヴァシーから、デスラーとともにガルマン・ガミラス帝国に向かおうとしていた。

 フレデリカら、何人も同行している。

 

 事実上全人類を統一したローエングラム朝銀河帝国は、アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃を摂政とし、ロイエンタール・ミッターマイヤー・オーベルシュタイン三元帥の合議を中心として統治されることになった。

 ゼントラーディは主に帝国側の、帝国領域の外側にフォールド航法を利用して広がり、帝国とも技術を交換して開発を進め、文化を学び直すことになる。

 ロイエンタールはデスラーと協議の末、デスラーに自らのワープとゼントラーディの無人工場技術を分け、そのかわりに破壊された艦の破片の分析を黙認してもらい、ガミラス式準波動エンジンの技術も手に入れた。

 イスカンダル式波動エンジンに比べ出力は劣るが、生産性・整備性・信頼性ははるかに高い。

 

 そしてマイルズ・ヴォルコシガン、ワスプ号のクリス・ロングナイフ、ミレニアム・ファルコンのハン・ソロらはついに、エックハルト星系に開いたクロノゲートから、〔UPW〕を訪れた。

 そこでマイルズは昔の部下に再会し、新たな冒険が始まることになる……




銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス
ヴォルコシガン・サガ
スターウォーズ
宇宙戦艦ヤマト
海軍士官クリス・ロングナイフ
ギャラクシーエンジェル2
レンズマン


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銀河戦国群雄伝ライ/時空の結合より2年半

 

 独眼竜正宗、行方不明……その知らせは、五丈・南天を駆け巡った。

 それは智に残された臣民にとっては絶望であり、羅候にとっては福音だった。そして軍師たちにとっては、疑心暗鬼の始まりだった。

 

 雷の受け取り方は奇妙だった。

 彼はいつも、何万光年離れていても正宗の動静を本能的に嗅ぎ当てるのだが、むしろ嬉しそうに知らせを受けた。

「正宗に、一体何が起きたんだ」

 と、師真のほうが雷に聞いたぐらいである。情報を集め分析し報告するのは彼の職分なのだから、話は逆だ。

 

 智の宮廷があった、夷の星々には、ごくわずかな艦隊が残っている。

 だが、そこにある並行時空へのゲートを目当てに威力偵察すると、撃退される。その領域に近づくことも許さないが、置かれている兵力は非常に少ない。

 

 練はその件にはそれほど関心を見せていない。別時空の征服に精力を傾け、雷の五丈に向けた侵攻準備を続けている。

 五丈の主な課題は、新興の自国を安定させること、練の侵攻を迎撃することだ。

 産業を奨励し、商業を保護する。法治を守り、裁判を公正にし、汚職を断つ。民を保護し、戦乱に故郷を追われた者は新田を作らせ入植させる。

 そしてその余力で、新しい艦をつくり、兵を育てる。技術者、官僚、裁判官、士官を教育する。

 特に古戦場からスクラップを得て、それを鋳なおす工場が多く建っている。

 地味な統治だ。

 

 もう一つ、特に師真ら大覚屋一族が強い関心を持っているのは、最近つながるようになった並行時空の技術、交易である。

「おれたち五丈がつながるのは〔UPW〕だけだ。あちらから攻撃してこないのはありがたいが、軍事技術は売ってくれない」

「それでも、民生品だけでも交易できるだけ、ましというものです」

 そう愚痴を言いつつ、輸入した娯楽品のたぐいから相手の技術を学び、なんとかそれを軍事に応用できないか、多数の若者を集めて頭を絞らせている。

 どんな技術も、軍事的に応用はできる。特に通信技術の宇宙戦・陸戦双方への応用は高い優先順位を持たされた。

 

 練では、牛魔王の大勝利が祝われていた……だが、姜子昌は浮かぬ顔だった。

 牛魔王の軍は、姜子昌の厳命にもかかわらず、一人の捕虜も連れて帰ってこなかったのだ。〈ファウンデーション〉の時空からも、戦ったパルパティーン帝国からも。

 また、技術の参考になる道具・艦船・兵器も何一つない。

 ことごとく殺し、焼き尽くしてしまったのだ。

「命令を聞いていなかったのか」

「いくさですぞ、勝利の勢いに乗っているとき、そんな細かいことは考えられません。兄弟にまさる戦友を殺された兵が、多少はめを外すのは仕方ありませぬ」

「そうだ、いくさなんだ。勝てばいいんだよ!勝ったんだ、何の文句もあるものか!」

 王の羅候もそちらに同調している。

(五丈は、師真が観戦武官を派遣し、戦闘に参加させず情報収集に専念させる制をとっているようだ。戦友を見捨てる仕事だから士気を下げる、と採用できなかったが、利も大きい。敵を知り味方を知ればは兵法の基礎だ。

 こちらが諸将の軍に入れている密偵を使うか)

 諸将を信じ切らず、密偵を入れるのはむしろたしなみというべきである。

(いや、密偵にとっては同調こそ生き延びる唯一の道。戦友に逆らって捕虜を助けるなど、正体がばれて殺されるだけだ。無理だ)

(このことによる技術の遅れが、練にとって致命傷にならねば良いのだが……)

 姜子昌の悩みは戦勝にもかかわらず尽きない。

「よおし、そっちの時空は二個艦隊いれば征服できる。北伐も進めるぞ!帝虎級をもっと増産するんだ!」

 羅候の情熱と楽天主義が、血に飢えた将兵を鼓舞する。

 

 その練にも内憂はある。正宗が抜け出し、夷に身をひそめたときに、智やその周辺の旧国を制圧していたのだが、そこはどうしても不安定だ。

 正宗が姿を消してから、逆に智の旧臣の一部が過激化し、暴動が起きることもあるのだ。

 反乱には無差別殺戮で制圧しているが、それはそれなりの戦力を食う。

 その艦隊の隙をつき、智の旗を掲げた艦隊が智の旧領を襲い、智に忠実な民だけを大量に拉致して去る事件が多発した。

「飛竜の艦隊だな?」

 姜子昌は首をひねっていた。

「むしろ身分の高いものは無視することが多い……健康で、紅玉に特に忠実な民だけを積めるだけ積んでいく、か」

「むしろありがたいほどですな。その、人がいなくなった土地は領主が売り物にできる」

 報告者は笑っていたが、姜子昌は飛竜をよく知っている。

 若いころ、共に学んだ仲でもある。

(あいつは無意味なことはしない)

(正宗が拠点とした星にも、夷への門がある。全艦隊をそちらに向けて、そのまま消えた……当時はその行動を厳重に秘匿していたが)

(そして、たった二十隻の艦隊に、五十隻さしむけたというのに、二隻撃沈しただけ。本隊を捕捉できていない)

(正宗は、飛竜は何を考えて、今どうしているのだ?正宗は、生きているのか?あの星は病とも解釈できたが)

(それは、練が五丈を攻めたり別時空を攻めたりしたとき、何か重大な事態につながらないか?)

 

 練に多くの密偵を入れている師真も、そのいくさには注目していた。

 雷と師真が報告を見て、頭をひねっている。

「なんか、勝ち負けより、思い通りにすることを目的にしてる気がするんだ。飛竜らしくないな」

「智の側に、一人も死者がいない、ということでいいよな?」

「白兵戦からは徹底的に逃げ回ってるな」

「やられるのが前提の無人艦以外はやられていない。

 最悪を考えれば、智の艦は今は無敵だ。それでわかりやすく勝利するより、無敵であることがばれないように、練艦隊から逃げることを選んだんだ」

 雷の分析に、師真はうめいた。

(報告を総合すれば、そうとしか読めんな……く、どっちが軍師だよおい)

 

 夜、天文を見ていた師真。そのかたわらに、メガネのさえない青年がやってきて、いくつかの星を指さした。

「師真さま」

「ああ林則嘉か。この星の変化は間違いない。病んでいた星が、また明るく輝いている」

「これは、一つの解釈しかありません」

「言ってみろ」

「正宗公は死病に冒されていた、それが治ったのです」

「ああ」

「智のそばにあるゲートから行ける、バラヤー帝国の技術でしょうか」

「遠交近攻の原則を崩す……何か、それでも得になる何かがあるということだ。智は医療技術と、何か戦争の切り札になる技術を手に入れて、今度の戦いで飛竜が隠したのかもしれない」

「バラヤー帝国側にはどんなメリットがあるでしょう?遠交近攻の原則は簡単には崩れない……いや、確かあの時空は、超光速航行にワームホールを用いる……超光速航行技術と、医療などを交換した?」

「やばいことになったな」

「竜王陛下に報告しましょう。情報収集も」

「反間の策も練らなければな。幸い、バラヤーは権力闘争が常に激しい」

 

 だが、情報収集・調略は困難をきわめた。バラヤー帝国の優秀な機密保安庁は、五丈がさしむけた密偵をきっちりとはばんだ。

 それだけでなく、夷の、智が管理していたゲートに近づこうとすると、平和目的と言っても飛竜の艦隊が通さない。無理に戦おうとすると、うまく練艦隊と戦わされそうになってしまい、引き上げるしかなくなる。

 智との外交関係も、事実上断たれている。のらりくらりとかわされ、智の政府があるのかないのか、誰もはっきり言えない状態になっているのだ。

 練に残されている智の旧臣たちも、わけがわからないといきまくばかりだ。

 だが、商人の星南京楼を通じて、ほんの影程度の情報は入る。

 智の旧臣が、口を極めて正宗をののしっていると、うわさが入ったのだ……正宗が天下取りを諦め、別時空の者と協力して開拓をしている、と。

「つい最近のことだろう。正宗は酒と快楽に溺れると見せ、諫言した忠臣すら自殺させ、その油断につけこんで練皇后を人質にし、奸臣を斬って智王を捕え離脱した」

 師真の言葉に、皆がうなずく。

 だが、雷はにやにやと笑い、足元を固めていた。

 

 そんなとき、智からバラヤー帝国に向かう時空間ゲートから、突然一隻の船が出現した。

 練と五丈がにらみ合う中、その船は通信を始めた。

「本艦はデンダリィ自由傭兵隊所属、アリエール号。艦長、エリ・クイン」

「敵か、殺せえっ!」

 練の艦隊が問答無用で襲いかかる。だが、アリエール号はすさまじい速度で、争いもせずに切り抜け、広い五丈領土に突進し星の間に消えた。

「ほう」

 情報を聞いた雷は素早く、意外な星に軍を率いて動いた。

「こんなところへ?」

「それほど速いなら、激しい重力変動で人がいないこの南函星を選ぶだろ。金洲海クロノゲートへの最短距離だ」

 そして、アリエール号は、重力嵐や空間に浮いて飛び交う惑星規模の球形巨木の森の陰を縫おうとして、突然飛び出してきた艦隊に囲まれることになる。

「戦って実力を見せるか、それともここで話すか、どちらかを選ぶんだな。とんでもない速度があることはわかっている。次に何を見せてもらうかな」

 雷の交信に、エリ・クインは舌打ちをした。雷のすさまじい迫力は、歴戦で鍛えられた彼女たちも圧倒せずにはおかなかった。

(さすがね、紅玉公に聞いた以上。紅玉公にもグレゴール皇帝にも全面的に任されてるけど、とんでもないものを預けられてるわ)

「ああ、話してもいい。バラヤーのグレゴール皇帝から、親書を預かっています」

「正宗は、紅玉公はどこで、どうしている?生きているのはわかってる」

 揺るがずに聞いてくる。

「元気よ。バラヤーに」

「嘘ではないが事実すべてではない、もやめろ。智の民は?」

 刀の鯉口を切った雷の殺気に、エリは唇をかみしめた。

(検証できることばかり……隙がないわね)

「バラヤーからつながる、別時空で開拓をしているわ」

「そこで、そのとんでもない技術を手に入れたんだな?バラヤーは超光速技術。確かバラヤーたちは、ワームホールに限定された超光速航法しかなかったはずだ。智は医学や兵器か?」

「そうよ」

「この星を通るってことは、目的地はクロノゲートだな。〔UPW〕に行ってどうする?」

「言わなきゃだめ?」

 雷の笑みが凄味を増す。

「はいはい。マイルズ・ヴォルコシガン卿に会うことです。そして彼に、この船の技術と、紅玉公の伝言を伝え……彼が判断して、〔UPW〕に渡す、と」

「ほう。それを俺にもよこせ、と言ったら?」

「抵抗する」

(全滅させる、だけど)

 もう、数機の万能機が出撃準備を済ませ、主砲が艦隊を狙っている。

「おれたちに勝てる戦力がある、ということか」

 雷の凄味のある笑顔に、強大な戦力があるにもかかわらず、エリたちは圧倒されていた。

(話せば話すほど、情報を取られる……それ以前に、すべてを見抜かれているような、それでいて包まれているような。天下人、ね。

 度量はグレゴール帝、実戦で磨かれた殺気は紅玉公を思わせる。両方に会っていなければ思考を奪われ支配されていたかもしれない。

 すさまじい)

 エリは呼吸すら圧迫されていた。

「さて、ならクロノゲートまで送っていう。こちらでくつろがないか?」

「……そうね。もし何かあれば、わたしを無視し五丈艦隊を撃破してクロノゲートに向かいなさい」

 そう部下に命じて、エリと、智の重臣の一人が金剛に降りる。

「久しぶりだな」

 雷は、気軽に智の臣に声をかける。

 

 球形巨木の、太さ20キロメートルはある大枝に彫られた宮殿で、ささやかな宴が催された。

 どこを見まわしても、とてつもない大きさの一本丸木の美しい木目。華やかな彫刻こそ施されているが、色は一切なく素の木目を活かしており、見事な美意識だ。

 東洋風の奇妙な食事が、驚くほどおいしい。

「さて、紅玉公はあれからどうしたのか、話してくれるか?」

「話さなくても調べる、と?」

「ああ。確かに智からバラヤーへの門は閉ざされているが、別の時空から情報を集めることだってできる。最優先だとわかったからな」

(『竜牙雷は恐ろしいが信頼できる男だ』と紅玉公が言っていた)

 マイルズが引退し、エリ・クインが引き継いだデンダリィ隊は、智のバラヤー侵攻・同盟以来、コーデリア・ヴォルコシガンの直属に近い立場で活動してきた。

 紅玉・早瀬未沙とも何度も接し、三人の能力を何度も痛感し、深く信頼している。

 その紅玉の言葉以上の、雷たち五丈首脳陣の迫力に、エリたちは圧倒されていた。

 悪く言えば、美女に対して欲望むき出しの、粗野な雑兵たちの匂いがぷんぷんしている。だが、粗にして野だが卑にあらず、といえる男たちばかりだ。

(智の貴族の大半のような、甘やかされた愚か者はほとんどいない、みんな明日から傭兵になってもやっていける)

 エリは、ふっと息をついて覚悟を決めた。

(率直に話せば信頼される人。この人の信頼を得ることができれば、巨大な資産になる)

 強めの酒をぐいっと干す。そうなると、人工ではあるが美貌が印象を変える。

「智はゲートを超えて、バラヤー帝国を攻撃しようとした。そして和平を結び、紅玉公本人は故郷では受けられない治療を受けた。また智の超光速技術を用いて、共同で別の、無人の時空を開拓することにした。

 そこでも技術を手に入れた。

 バラヤーの隣国とも協調し、無人と思われていた時空や無人の星を開拓し、軍事力を強めているわ」

 雷は莞爾と笑ってうなずき、客に酒を勧めた。

「なんか、裏切られたようだぜ」

 項武が面白くなさそうに言った。

「まあなあ。これまで正宗を目標に血ぃ吐くような訓練してきた……陛下だって、目標正宗で頑張ってきた。それがこうしてかわされるってのは、面白くないんじゃないですか?」

 古くからの武将らしく、孟閣が雷の心をおもんばかる。彼自身の気持ちも大きい……雷と出会う前から、正宗との戦いで多くの部下を失い、自分も傷ついているのだ。

 雷と師真は軽く目を合わせ、うなずき合った。

「いや、正宗はやはりすごい」

 雷の笑顔に、かげりはなかった。

「あいつの立場で考えてみろ。ずっと天下統一だけに突っ走ってたのが、ぱっと目標を切り替える。反対だって多いだろう。

 俺だって、一兵卒だったのが師団長になって、いろいろと変わっちまった。それに合わせきれず、とりかえしがつかないこともやらかしてる」

 その時に部下となり、厳しく叱咤した孟閣が苦笑した。

「あんたも、一兵士から傭兵隊長になるまで、そんな苦労をしなかったか?」

 ぽん、と雷がエリに酒を向ける。

「した」

 彼女も苦労の記憶は多い。ここにいるのは、それを共有できる人だと伝わる。

 師真が酔い、エリを体で口説きながら諸将に鋭い目を向ける。

「もともと、正宗は智の紅玉姫だ。舞扇より重いものを持ったことのないお嬢さまが、親父が死んで弟が幼いからって、戦場に飛び出した……状況に合わせて自分を変えたんだ。

 自分、というのは服とかだけじゃなく、何を目標にするか、何が善で何が悪かまで変えちまうってことさ。項武、お前も海賊から軍人に変わったろ?」

「思い出したくもねえな、正直言って。まあ、訓練といくさは変わってねえからまだいいけどよ」

 海賊出身の猛将、項武が大杯をあおる。

 師真が目を光らせ、奇妙な情熱をこめて言い始める。

「正宗はふたたび、変わった。自分を書き換えたんだ。並大抵の精神力じゃないぜ。

 それに雷、お前がそのまま……そうだな、正宗と羅候を倒して天下を取ったとして、その時には兵卒から師団長より大きな変化が待ってるんだ。平和な時代の天下人という」

「それは、その時に考えるつもりだった」

「それに失敗してすぐ滅んじまった王朝だって多い。まあ俺は、お前にその強さがあると思ったから、お前を選んだんだがね」

「ありがたいな。そして、俺たちは今どうする?」

 雷の問いに、師真は酔って美女をひっかけようとする態度の陰に、鋭すぎる知性を閃かせた。

「まず、足元を固める。そして正宗にならい、正宗に対抗するためにも、なんとか並行時空の技術を何でもいいから手に入れ、こちらの軍制も変えていく。

 そのためにはたくさんの学者と技術者がいる。そのためには、できるだけ多く、できれば民全員が読み書きそろばんできるようにする。大変だぞ」

「ああ、大変だからこそやりがいがある。ついてこない奴は置いてくぞ、正宗に負けるわけにはいかないからな」

 雷の瞳に冷たい光が走り、背には炎風が盛るかに見えた。親友でもある豪傑たちは打たれひれ伏した。

 

 その宴席に、同盟国となっていた西羌から突然急使が来た。五丈に半ば人質として仕えている秦公旦が、いつも通り手紙を自分では読まず雷に渡した。

「竜王陛下!兄上より急使です」

「西羌に、おそらく練と同じ宇宙の門が生じた。そこを探索する艦隊を送ったが帰らず、恐ろしい敵が襲ってきた、と秦宮括からだ」

「陛下」

 兄である秦宮括や母親、他多くの親族・知人を案じる若者を、雷は暖かい目で見た。

「それより、どんな敵だ?必ず助ける、そのためにも情報が何より必要だ」

 雷が急使に激しく問う。師真が身を乗り出し、筆紙を構える。

「とにかく、われらの軍船の何十倍もある、とてつもなく巨大な戦艦です。射程がやたらと遠く、巨大な弾を次々とはなってきます……恐ろしいことに、それらはすべて敵が乗っているのです。大きい戦闘機で体当たりするように」

 百官が戦慄した。

「連絡は?」

 師真の表情が変わっている。

「あらゆる波長で求めましたとも。ですが何一つ返信しないのです」

 

 次々と続報が入る。いくつも星が落とされる寸前だという。

 雷は焦る秦公旦を抑え、必死で情報を収集しつつ戦争の準備を進めている。

「分析でわかったことがいくつかある。あっちの船は、絶対的な距離とは関係がない、別の基準で行けるところと行けないところがある」

 師真が、秦公旦と雷を中心にした諸将に情報を伝えた。

「バラヤー帝国の話とも似ている。機関出力だけで光速を超えられない船が、重力を使って飛ぶ場合に、同じ距離の隣星でも行ける星と行けない星があるらしい」

「不便なもんだな」

「だが、戦力は圧倒的だ。一切話ができない、という点を強調すれば、練は無理にしてもバラヤーや〔UPW〕から援軍をもらえるかもしれない」

「兄上から、最新情報が入っています……捕虜を取らず、取らせないようにするのが敵の方針のようなのですが、たまたま事故を起こした船をとらえたら、これが」

 と秦公旦が見せた絵に、全員びっくりした。

 小さい子供のサイズだが、頭も体も丸っこく毛深い。要するにクマのぬいぐるみ。

 それが死体になっている。微妙にグロい。

「捕まった、と思った時点で、道具が何もなくても自殺するそうです」

「奇妙な奴らだな」

「死を惜しむこともない、目の前の動くものがなくなるまで戦い続けるそうです」

「理想の兵士だ」

「だが、自分の頭で考える人間のほうが強い局面もあるぞ」

 雷がニコッと笑った。

「一番いいのは、同じ戦争バカの練とぶつかり合わせる……そして〔UPW〕やバラヤーからも援軍を集める。西羌は大切な同盟国だ、決して見捨てはしない」

 雷の言葉に、秦公旦が嬉しそうに笑った。

「あと、なんとしても技術をせしめることだ。そうしなければ練や、他の並行時空の敵には勝てないぞ」

 師真が強調する。

「いいな、敵の武器・船・死体でも捕虜。その入手は、短期的には勝利に勝る最優先事項だ。練みたいなバカはやるなよ、あれ聞いたとき姜子昌に、とおっても同情したぜ」

 大笑いが広がる。

「ムリに戦うよりは時間を稼ぎ、退却して民を逃がす。そして敵の武器を手に入れ、できれば練とぶつからせる」

 雷の言葉に、諸将がうなずき仕事に散った。

 残ったエリ・クインに雷が圧迫感のある微笑を向ける。

「エリ、通行料は傭兵代でいいな」

 彼女は苦笑し、ため息をついた。

「それしかなさそうね。この調子だと、金洲海のクロノゲートもふさがれそう……次は〔UPW〕も危ない」

 

 雷の艦隊は、西羌の戦闘記録を参照しつつ戦法を考えていた。

「今までのこちらの戦法ではまったく通用しない。新しい戦法を試し、敵の兵器を手に入れるんだ。

 地形そのものを武器としてあたるぞ」

 師真がにんまりと笑った。彼は、地形そのものを用いた大規模大量殺戮と、人間の心理を巧妙に操る作戦を得意とする。

「十分に距離を取れ。敵に撃たせず、追わせろ」

 突撃に慣れた艦長たちには欲求不満がたまる、厳重に管理された艦隊機動。

 日頃の訓練の成果がもろに出る。

「速い!敵はこちらと、相対速度0.2光速近くを出しています」

 五丈のある銀河では、接敵時にはあえて相対速度を低速にする。衝角戦が伝統になっているからだ。0.2光速でぶつかったりしたら両方閃光になってしまう。

「なら超光速航法でかわせばいい。正面からぶつかるなよ」

 師真の羽扇が丁寧に艦隊を動かし、敵の突撃をいなす。

 そして追い詰めてくる、とてつもなく巨大な戦艦が旗艦をとらえようとした瞬間。

 その三重星に安定軌道はない。巨大水惑星と小規模な白色矮星が不安定な軌道でからみあい、定期的に莫大な量の洪水が起きている。

 その洪水を一時せき止め、敵の超巨大艦に叩きつける。

 超巨大艦の圧倒的な出力は一時水にあらがったが、抗しきれず押しつぶされ、次々と白色矮星に引きずりこまれ粉砕されていく。

 中には損害が軽い敵艦もあり、それには五丈の艦隊が襲いかかった。

 生きていた砲はある。だが、もともと五丈の装甲艦はビームには強いので損害は最低限、水圧で速度も出せない巨艦に衝角を次々と叩きこみ、息を止めた将兵が刀槍を手に乗り移る。

 白兵戦。

「うあ」

「え」

「敵の銃、恐ろしく連射が早い!」

「こちらの銃器の比じゃない」

「ひるむなっ!どうせ一度しか死なないんだ!」

「敵陣の中だけが安全だぞ!」

 高連射速度の弾幕にもひるまず、敵陣に飛びこんでは切りまくる!西羌から得ていた情報で、事前に厚い鉄盾を持たせてあったのも功を奏した。

 天井の低さで頭をぶつけながら、鉄と血の、どこでも変わらない戦いが始まる。天井が低ければ長槍や戦斧は無用……鎧通しで殴り、鉄鎧の肘や膝をぶつけ、鉄兜で頭突きをかます、血で血を洗う肉弾戦。

 牛馬羊が群れて虎狼の牙に立ち向かうような密集集団戦をとる「生きたぬいぐるみ」に、同じく訓練と実戦で鍛え抜かれた精兵が突撃し、鉄と血の饗宴が終わることなく続く……

 

 エリ・クインは、金洲海に近い星を襲う巨大戦艦の迎撃を志願した。五丈の孟閣艦隊もついてきている。

「どうせ五丈の軍監に見られるのなら、思いっきり戦力差を見せつけて威嚇するほうが得ね」

 敵艦の数も多く、遠距離から光速の30%近くまで加速した、駆逐艦サイズのミサイルを叩きつけてくる。

 アリエール号は、光速の99.9%に達する巡航速度と高機動性……卓越した慣性補正装置あってのこと……でわずかな隙間をかいくぐりつつ、四機の小型戦闘機を発進させた。

 見かけはA-4スカイホークに似、ひと回り小さい全長9メートルの、大気圏用小型機。だが中身は……

 自力短距離フォールドで瞬時に敵艦の至近距離に出現した戦闘機が、すさまじい光砲を放つ。戦闘機としても小型なのに、出力は巨大砲艦SDF-1マクロスの主砲にも匹敵し、しかもエネルギーは一点に集中している。

 強力なシールドと装甲がやすやすと貫通され、次々とパワー・コア部が破壊される。

 ついてきた、五丈の艦隊は呆然とするほかなかった。

「あの正宗が、こんな戦力を持っているだと……」

「なぜ、こちらに攻め込んで五丈も練も片づけないんだ?」

 さらに戦闘機はガウォークと化して敵艦表面近くを高速で駆け巡りつつ、兵器を潰してまわる。ちなみにライトニングやバルキリーに比べ、腕が極端に細長く、バトロイド形態がない。人間の形をまねることを放棄し、機能を優先したデザインだ。

「あとは任せるわ」

 エリは次々と敵艦を無力化し、あとは五丈に花を持たせた。

 ちなみに、敵艦の一つに特殊なミサイルを撃ちこみ、瞬時に……キノコの菌糸が巨木にはびこるように大型艦のすべてを読み取り、データ化してアリエール号の、ダイアスパー由来の超絶なコンピュータが分析を済ませた。

 

「片づけたわ」

「ありがたい、それで侵攻線を断ち切れた。こちらもなんとか勝ったよ。逆に門を通り越して攻めてやる!」

 自ら前線に立ち、敵の血で紫に染まった雷の咆哮に、戦いの興奮に酔ったエリ・クインたちも同調を抑えきれない。

 重傷を負った秦公旦が痛みも感じず笑っている。

「よくやったよ!」

 秦公旦の手を高く揚げた項武は、まだ興奮が収まらないようだ。

「〔UPW〕からの連絡は?」

「状況は伝えたよ。アリエール号を受け入れてくれるってさ」

 師真が微笑している。

「なら援軍が来るかもな。それもまた、新しい技術を学ぶ機会になる」

 雷が微笑し、奇妙に表情を陰らせた。

 エリが、封をした手紙を差し出す。

「この手紙を、智のゲートを守っている飛竜に送って。デンダリィ隊にも、コーデリア総督の許可があれば援軍に来るよう、書き添えておいたわ」

「わかった。報酬は弾む」

 雷の表情は、戦友に対するあけっぴろげな信頼。エリも微笑し、一瞬目を閉じて覚悟を決めた。

「これを」

 厚い紙束と、タブレットを差し出す。

 敵……ベア=カウ族の技術情報。

 マイクロブラックホールを用いる燃料電池駆動システム。

 ……星系内で、短時間で光速の半分以上に加速できる。超光速航法も可能……雷がすでに持っている技術より不便だが。

 また、パワー・コアをオーバーロードさせれば、反物質並みに強力な爆弾にもなる。

 その高加速に耐える慣性補正装置。

 0.2光速で微小デブリを排除でき、むろんビームや爆発物に対しても強力な防御になるシールドシステム。

 そして巨大要塞にしか搭載できないが、巨大運動エネルギー兵器を偏向させる防御システム。

 強力な重粒子ビーム、重量弾頭も光速近くに加速する電磁加速レールガン。

 高連射速度・高初速・多弾数の携帯火器。

 高度なコンピュータ。

 超巨大戦艦が長期間自給自足できるシステム……下水を処理して食料を生産する農場や、小惑星を材料に艦の部品や消耗品、燃料電池を作る自動工場。

 雷たちも敵艦を一つ拿捕しているが、それをリバースエンジニアリングするには相当な時間がかかってしまうだろう。

 だが、ダイアスパー由来の超コンピュータの手にかかれば、その技術すべてを、五丈の技術者が理解できる教科書にするのは難しくなかった。

「……ありがたい、何よりのものだ。今建造中の艦の工事を止めろ!俺たちの技術と合わせて、もっと強力な艦隊を作るんだ。

 あの獣どもも、練も、そいつで倒してやる。天下は俺のものだ。誰にも渡さねえ」

 雷の気迫に、エリは圧倒された。

(怪物を解き放ったのかもしれないわね。とてつもなく巨大な龍……ここで、今、殺しておいたほうが、故郷の時空にとって……)

「やるか?」

 雷はその殺気を正確に受け止め、嗤った。

「いいえ。幸い、このデンダリィ隊は自由傭兵。誰の臣下でもないわ」

「そうじゃなかったら殺ってる、か」

「……」

 言葉が出ない。

(あの紅玉公が惚れた男、か)

「一度、会ってほしい人がいるわ。ちびだけど、とんでもない精力と運の持ち主」

「ちび?バラヤーの、ヴォルコシガン家の、どっちだ?」

(そこまで調べてたの!情報も重視しているのね)

 エリは突然、笑いが止まらなくなった。

「両方、ね」

「ぜひ、会いたいな」

(どういう意味?敵として戦い倒したい?それとも征服者としてひれ伏させたい?あのちびを、バラヤーを征服するのは簡単じゃないわよ……でも、わたしの故郷の時空には、こんな覇王なんていなかった……)

「伝えておくわ」

「ああ。じゃあな」

 圧倒的な覇王の気迫。すごみのある笑みを浮かべたまま、美しき傭兵提督の高速戦艦を見送った。




銀河戦国群雄伝ライ
ヴォルコシガン・サガ
彷徨える艦隊


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ギャラクシーエンジェル2/時空の結合より1年3カ月

今回はミスがきっかけです。…もちろん、「昔の部下と再会」はエリのつもりでしたが、時系列計算したら一年以上のずれ…でも、「昔の部下」はエリだけではないと思ったら話が膨らみました


 ゼントラーディ基幹艦隊を倒したルクシオールとともに、ヤマト、ミレニアム・ファルコン、ワスプ号が〈ABSOLUTE〉に着いた。

 ガルマン・ガミラス帝国、ローエングラム銀河帝国からも外交官がついてきている。

 

「さあ、パーティだ!」

 タクトが音頭を取る。古代もマイルズも、すっかり慣れている。

「クリス、ルーク、覚悟しておけよ。ここの連中はピクニックが大好きだから」

 マイルズの忠告に、クリス・ロングナイフらは戸惑っていた……アビーはクリスを磨きあげ、ジャックはルークやハン・ソロ、太助まで海兵隊的にワックスに浸け、頭からつま先まで回転砥石にかけていた。

 まあ、それはフェザーンでもやられたことだ。

 

 数日前までの、ローエングラム朝銀河帝国での祝勝パーティも大変だった。

 ラインハルトは治療のためガルマン・ガミラス帝国に出発、ヤン・ウェンリーらもついて行ってしまった。デスラーも、ウルヴァシーでのちょっとしたパーティ……そこでトリューニヒトを射殺した……だけつきあって、さっさと帰ってしまった。

 だが、帝国としては何かしなければならない。本当はほかにやるべきことが山ほどあるとしても、国家の体面が優先する。

 いやもう、ほかにやるべきことは、山ほどあるのだ。

 ガルマン・ガミラスや〔UPW〕との外交交渉、貿易の準備。安全な航宙に必須な、信号体系・交通法規のすり合わせ。

 並行時空の人たちから話を聞き、外交を準備する。

 降伏したゼントラーディの監視、恨みから虐待して和平を台無しにしないよう自軍を監視。技術調査。

 軍の損失査定。消費した物資の査定。

 戦死者の処理……何百万通もの通知と、恩給措置。負傷兵の見舞い。賞罰。戦死した将官から下士官に至る穴埋め人事。

 難民となった人々の生活確保。

 同盟の正式併合に伴う、膨大な政治処理。同盟の民間人被害の情報収集、処理と、難民対応も指導しなければならない……同盟の官僚と協力する体制の構築。

 ラインハルトがいないという非常事態に対応する、国家組織の構築。

 新しい技術に対応した社会、軍のビジョン構築。それこそ技師将兵の育成、工場建設から。それ以前の問題として、新しい技術を理解することから。

〔UPW〕から多くの時空に紋章機がある、と話を聞いて、あらためてこの時空での紋章機さがし。

 この戦争以前からの、新帝国の立ち上げと遷都。

 それらすべての優先順位付けと、人事の割り振り。

 本当はパーティどころか、一日100時間あっても足りないのだ。オーベルシュタインが自殺や発狂をしていないだけで、実はロボットだったんだ疑惑が強まっている。

 このパーティは、どちらかというと一時の現実逃避に属する……

 

 アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃が、唯一の皇族としての責任を果たさんと立ち上がった。

「わたくしはローエングラム王朝唯一の皇族。本来ならば、この私も戦陣に出なければならぬところでした」

 その覚悟に、説得に出たヒルデガルド・フォン・マリーンドルフはさすが皇帝を育てた姉と感じいったものだ。

 特に、並行時空からの援軍の皆は歓迎された。

 ただ遷都の最中で、しかもラインハルトは質素な性格でもあり、フェザーンのホテルで開催されている。

「こういうことになると、ラインハルト陛下の質素さが恨めしくも思われますな」

 メックリンガーが苦笑気味に言うのに、マイルズが笑って答えた。

「幸い、ここには気にする者は一人もいませんよ。全員実戦で、ラインハルト陛下の雄姿はしかと見ています」

「道端で飢え死にしてる人がいない、ってだけでもたいしたもんだよ。まあ、弾正さまもしっかりしてたし、兄きもがんばってるけどねえ」

 太助の言葉に、帝国の貴顕たちはうれしそうに笑った。

「まさに。民を飢えさせず、侵略者の剣にかけさせぬ、それこそが国家のすべてですな」

「至言です」

「路傍に窮民がいれば、それは伝染病となり、国家の危機です」

「ローエングラム朝は、民を敵・家畜とのみ扱うゴールデンバウム朝に反する王朝です」

「まあ難しいことはおいらわかんないけど、雷の兄きはいつだって、みんながおなかいっぱいで、笑って暮らせるように、ってがんばってる。おいらにも、いつも腹を減らしたり、やってもいない罪で拷問されたりしてる人がいないか見て回れ、って」

「それは名君ですな」

「われらも油断できぬ」

「見習わねば」

 その笑い声を見守る、またナノバグを用いて自在に姿を変え、みえそでみえない状態を作る高度技術そのものをまとった長身のプリンセスに、一人の男が笑顔を向けた……ケスラー憲兵総監がクリスに話しかけた。

「あの太助という男とアビーというおつきの方、もうかなりの情報を集めていますね」

 自分たちの能力をアピールし、(人の庭で好き勝手するな)と釘をさしているのだ。

「おほほ……」

「いや、この短期間で使用人層とお見事なつながりをつくっています」

「……何か聞き出せたら、お伝えします」

(あの二人をコントロールしろといわれても無理だけど!)

「お任せします。この銀河の人類のため戦い、われら帝国を救ってくださった方ですから。特に地球教徒やフェザーンの残党など、面倒な連中は多い。味方は多いにこしたことはありません」

(味方になってくれ、私たちは敵になったら恐ろしいぞ)という意味でもある。

「クリス王女、お国の詩についてのお話を続けましょうか」

 助けに来てくれたメックリンガーに、クリスはあでやかに微笑みかけた。

 

 生来の貴族教育を受けていないルークやハン・ソロ、太助には、クリスのボディーガードであるジャックが軍人としてのマナーを指導していた。

「本当はとても、公の場に出せる水準じゃないです。故郷の方々は何を考えてこのような」

 ジャックは頭を抱えているが、ルークたちの方がずっと苦しんでいる。

 結局、アビーがボディーガードの名目で海兵隊員を貼りつけて、妙なことをしないようリードを持たせている。

 といっても、彼らと話が合う粗野な将兵も多くいるし、豊富な実戦の話や遠い故郷の話だけでも人々をひきつける。

 ちなみに、古代進たちもジャックやクリスから見れば容認できないほど粗野。まともなのは南部ぐらいだ。古代は宇宙戦士訓練学校の優等生だが、出身は中流階級であり、戦闘以外の教育は不足している。

 軍や政府としては、その古代が事実上外交を独占しているのは重大な問題とされており、別に外交官をしつらえようとしている。だが、デスラーが事実上古代以外相手にしていない以上どうしようもないのだ。

 万一古代が死んだときどうするか、という者もいるし、なら仕方ないから古代を教育しようという者もいる。

 古代が私腹を肥やそうとしたら、という人もいる。まあ古代や雪の身辺は清潔で、ふたりを買収・脅迫しようとしたら南部や藤堂司令長官が強烈に報復するので、それは起きていないが。

 

 マイルズ・ヴォルコシガン一家はそつなく外交をこなしている。大貴族のマイルズと厳しくしつけられたヴォル・レディのエカテリン、どちらもマナーは、異質ではあるが完全だ。

 ルクシオールのルーンエンジェル隊は、約三名……正規の軍教育が短いカズヤ・シラナミとアニス・アジート、年齢自体があれなナノナノ・プディング以外は、申し分ない。

 

 

 パーティが終わってすぐ、エックハルト星系から〈ABSOLUTE〉に向かった一行を、またもパーティが待っていた。

 トランスバールからもシヴァ女皇・シャトヤーン・ルフト宰相らが来ている。

 そして、解散している元ムーンエンジェル隊のメンバーもそろい、ミルフィーユの菓子をはじめ用意はできていた。

 ヤマトが港に着くのももどかしく、マイルズと古代たちはタクトたち、ムーンエンジェル隊、そしてシヴァ女皇と再会を喜びあった。

「ネイスミス……会いたかった……」

 少女に戻ったシヴァ女皇が、マイルズを固く抱きしめた。

「シヴァ、こんなに美しくなるとは思わなかったよ」

「雪、古代!」

 シヴァはすぐにそちらにも走る。

「エルシオールは?」

 古代の問いにミントが、なんでもないことのように答える。

「自爆しましたわ、でも人的被害はございませんよ」

「それは……よかった」

 どれほどつらいことか察してはいる。それがなんでもないほどの経験を、相手が積んでいることを理解して軽く答えた。逆に古代も経験を積んだからこそ、そこまでわかる。

「奥さま?おめでとう」

 シヴァの言葉にマイルズがにっこりして妻を抱き寄せる。

「エカテリンだ。ありがとう!タクト、ミルフィーユ、きみたちも結婚したんだね。あらためておめでとう」

「おめでとう!」

 島や古代が拍手する。

「はい、式に出ていただけなくて残念でした」

「出たかったよ!」

「そちらの方々は?」

 シャトヤーンが、ゆっくりと降りてきた人々を見る。

「あ、紹介する」

 古代が前に出る。

「ローエングラム朝銀河帝国のヴォルフガング・ミッターマイヤー元帥。

 元同盟、エル・ファシル自治政府のダスティ・アッテンボロー氏、ワルター・フォン・シェーンコップ氏。

 こちらはガルマン・ガミラス帝国のフラーケン大佐。

 こちらは、また別の時空から……

 知性連合のクリスティン・アン・ロングナイフ王女。

 反乱同盟軍のハン・ソロ将軍、ルーク・スカイウォーカー中佐、チューバッカ副長。

 新五丈の太助どの」

「〔UPW〕長官のタクト・マイヤーズだ。よろしく」

 タクトのあけっぴろげな表情に、笑顔が広がる。

「さあ、しゃっちょこばらずにとっととパーティにしよう。

 こちらはトランスバール皇国のシヴァ女皇陛下とルフト宰相、それに〈白き月〉管理者のシャトヤーンさま」

「無礼講でよい」

 シヴァが率先して会場に向かった。

 そして全員、ミルフィーユとカズヤのクッキーに舌鼓を打つ。

「ちょっと、話しておきたいことがある。ヤマトのみんなとマイルズだけでいい……冷静に聞いてくれ」

 酒の気がないレスターが、一人の少女を連れてきた。一瞬戦闘態勢になるかつての仲間を抑えて、冷静に説明を始める。

「説明させてくれ。この子は、似ているが君たちが知っているあのノアじゃない。

 これはあの戦いの後に判明したことだ。まず、〈黒き月〉と〈白き月〉から……どちらも、ずっと昔の文明が作った実験的兵器だ。人類を守るために。

 だが、その文明が崩壊し、〈白き月〉はトランスバールの人々を導き、同時に記憶の大半を失った。

 それに対して〈黒き月〉は一人の管理者が、代理の要するにロボットを作って眠った。みんなが知っている、エオニアを操ってたあれは、その代理が暴走したものだ。

 今の、このオリジナルのノアは、今までのところ行動では人間の味方をしている。信頼してほしい」

 昔の戦いを共有したものは、激しいショックを受けている。

 していないメンバーにとっては意味不明だ。

「……どうも。さっさと研究に戻りたいんだけど」

 ノアはただ、憮然としていた。

「こらちゃんと謝れ」

「謝ってなんになるの?過去を変えることはできないのよ。未来のために戦力と技術を高める、あたしはそのためにいるの」

「すまん」

 レスターとタクトが深く頭を下げた。

 

 ショックはあるが楽しいパーティの中、トイレに出たマイルズは廊下で夫婦者と出くわした。

 知っている二人だ。とても、とても。エレーナ・ボサリ・ジェセックとバズ・ジェセックの夫婦。

 エレーナは(作戦中。接触してはならない)という意味の、デンダリィ隊の暗号ハンドサインを出してマイルズを無視した。バズは憔悴しきっていた、マイルズに気づかないほど。

 マイルズの体が従い、何事もなかったように離れた。

 エレーナの態度は、完全に傭兵時代。それも決死作戦の最中だ。

 衝撃にふらつきながら戻ったマイルズを、彼よりも小さく動物のような耳がある女性が誘った……元ムーンエンジェル隊、ミント・ブラマンシュだ。

「ヴォルコシガン卿、お話があります。むしろ、パーティの中でしたほうがよい話です」

 以前の冒険も共にした彼女だが、「ネイスミス提督」と間違えるような隙がある女ではない。秘密の話ができる密室、などというものは存在していないことを、よく知っているのも優秀さのあらわれだ。群衆の中で大きい声でしゃべれば、誰の耳にも入らない。

 マイルズが食物と飲み物を用意した、そこで妻エカテリンと目が合う。彼女は、心配そうにささやいた。

「誘発しないと」

「大丈夫。話が終わったらかけるよ」

 冷凍療法の後遺症で、マイルズは緊張が高まりすぎると発作をおこす。幸い、外から頭に埋め込まれた電子機器で発作を起こさせ、制御する方法が発見されている。

「はい」

 マイルズは発作を少し心配しながら、ミントのところに向かう。

 エカテリンとロイックがすぐ介護できるよう、比較的近くに来ていた。

「コーデリア……子供は?」

 マイルズがまず聞いたのはそれだ。

 夫婦二人。それが最大の違和感だった……エカテリンとの結婚式で二人の赤ん坊を見た。マイルズの母の名をもらったコーデリア・ジェセック。マイルズは、両親の初孫を見たような喜びようや、エカテリンやタウラの笑顔をはっきりと覚えている。

「誘拐されましたわ」

 単刀直入。

 ミントは相手を低く見ているときは外見通り幼いふりをすることもある。水準の高い相手には冷徹で隙のない姿も見せる。

 これほど隙がない彼女は、戦場でも見たことがない。

 マイルズの目の前が暗くなり、爆発的に噴出したアドレナリンをコントロールして冷静を保つ。

 その眼の端で、エカテリンが石になるのがわかる。彼女は感情を表に出さないことに、いやというほど長けている。

「ご夫妻はこちらに、三日前にいらっしゃいました。退役されたんですってね。そのことは言葉でうかがいました。

 ここから申し上げることは、ご夫妻の心から読み取ったことです……

 クァディー宇宙に寄港されていたご一家が、白昼襲撃されたそうです。

 エレーナさんは、ご自分に人質としての価値があることをご存知ですし、お仕事にはハイジャックの脅威があります。退役兵士の護衛はいましたし、警備がある施設でした。

 ですが敵は明らかに技術水準が上の、訓練された小隊。護衛と、近くにいただけの十人ほどがとても残酷に、死体も残らないように殺されたそうです。

『警察はもちろん、バラヤーとは接触するな。

 第三ステーション七番倉庫から4-225コンテナを積め。お前たちなら大型荷物を、検査なしで船に積みこめる。

 超光速エンジンを手に入れ、船ごとグリーンフェルド星に持って来い、子供はそこで返す』

 と命じられ、多額のおカネまで渡されました」

 丁寧な言葉、この上なく冷静でなめらかな口調で語るミントが、ふと視線を上げた。

 長身の女がそびえていた。クリス・ロングナイフ……ジャックが引き止めるのも無視し、すさまじい殺気を噴き出している。

 パーティは、内緒話にはいい場所だ。「誘拐」という言葉限定で地獄耳の人間がいなければ。

「で?」

 マイルズの目には入っていない。ミントはクリスを無視して語り続ける。

「従うしかありません。エレーナさんは〔UPW〕から派遣されていたブラマンシュ商会の者に連絡し、エンジンの購入を希望されました。もちろん、一言も余計なことはおっしゃっていません。

 たとえ監視されていても、文句のつけようがない行動です」

「ブラマンシュ家がテレパスだと覚えていたから、か」

 マイルズが激情を抑えて言った。

「はい。そちらにいたのは能力の弱い親戚でしたが、わたくしに連絡してくれ、ぐらいは読めました。また、ジェセックご夫妻はわたくしの話をして、個人的な知り合いだとも伝えました。

 それでわたくしが、こちらにご招待したのです。大きい契約のチャンスですものね」

「グリーンフェルド星は、ピーターウォルドの本拠よ」

 クリスの言葉にこめられた殺気に、ミントもマイルズもぞっとした。

「すまない。彼女は」

 ジャックが何を言おうか迷っているが、クリスははっきりと言った。

「弟を誘拐され殺された。心を読めるなら、全部読んでいい」

「〔UPW〕ならびにトランスバール皇国は、戦友でもあるエレーナご夫妻のためにいかなる支援も惜しみません。わたくしも、もちろん」

 ミントの態度は冷静そのものだ。

「わたしも」

 クリスの口調は地獄の底から響いてくるようだ。

「プリンセス・ロングナイフ、あなたにはお国のためのお仕事がおありでしょう?」

「いまからわたしは、その子を救い出すことを最優先します。

 信用できない?なら……ネリー、すべてのプロテクトを解除。外から、分解・解析されても自己破壊せず解析されなさい。プリンセス・クリスティン・アン・ロングナイフ、168321-55、168321-55、168321-55」

 そう言って背中から故郷の技術、機密情報、コンテンツのすべてが入った最高の……長年の相棒でもあるコンピュータを外し、ミントに差し出す。

 さらに左手で、ティアラを外した。

「このティアラはスマートメタル製。ふくらんだ部分に入ったカプセルには三種族の遺物、ネリーでも解析しようとして死にかけた代物だ」

 ミントも、マイルズも度肝を抜かれている。

「うあ……」

 マイルズの声は、人間の声とは思えないものだった。かたわらで、エカテリンがニッキを強く抱きしめていた。

(この子がそんな目にあったら)

 と、エカテリンの全身から伝わってくる。

「発作を処理してくる」

 マイルズはそれだけ言って、自室に引き上げた。

「エカテリン」

「コーデリア坊やを助けて、どんなことをしても」

 エカテリンの激しい言葉に、マイルズは妻の腰を強く抱いた。彼の気持ちの強さは、言葉にできるものではない。

 クリスはシヴァ女皇のほうに足を向け、

「おいとましてくる」

 と言った。即座に行動する気だ。

「お待ちなさい。誰であれ妙な行動を取れば、人質の身に危険が及びます」

 ミントの言葉が引き止める。

「なら、指示を」

「わたくしは、ブラマンシュ商会として販路を開拓するため、ご夫妻に同行するつもりです。ハイジャック防止のため、軍経験のある人を雇えればうれしいのですが」

「わたしは」クリスが激情をこらえ、冷静さを取り戻す。「ピーターウォルドに、顔を覚えられている。どう変えようと、しぐさでもDNAでも暴かれたら人質がやられる。

 隠密性のある船」

 と言って、会場を見まわした。

「フラーケン大佐!」

 談笑している、ひげの英雄のところにクリスは飛んで行った。

「マイルズの、戦友が、子を誘拐され脅迫された。次元潜航艇とあなたが欲しい。なんでもする」

 率直無比な必死の言葉に、フラーケンは一瞬呆然とした。

 だが、にっと笑う。

「命の恩人、だ。ガイデル長官が、名誉の戦死ができたのも、あんたのおかげだ」

「ありがとう」

「まず、顔だけでも笑うんだな」シェーンコップが微笑みかける。「乗った。伊達や酔狂ってやつだ」

「妙な予感がする。手伝う。ソロも、行こう」

 ルーク・スカイウォーカーが微笑みかける。

 少し低いところから、全員にワインの盆が差し出された。

「おいらもいくよ、一つでも多くの世界の情報が欲しいし、恩を売れるし」

 太助が盆を手に、自然に加わっていた。

「帝国風に行こうか。グラスを床で割って、『プロージット』って言うんだ」

 シェーンコップが皮肉に笑う。

「そうね。プロージット!」

「プロージット!」

 時ならぬ、ガラスが砕ける音。ミッターマイヤーは敏感に反応した。

「力はいるか?」

 大股に歩み寄り、穏やかに語りかける。誠実な表情と声。

「今は軍事力は無用、でも必要があれば」

 クリスは必死の表情で懇願する。

「何でも。帝国元帥として、ローエングラム朝の名誉にかけて」

「必要にならないよう、がんばってみる。ピーターウォルドに気をつけて」

 クリスの脳裏に、ミッターマイヤーとタクトが率いる何万隻もの艦隊が、星々を焼き尽くしていく業火が一瞬浮かんだ。そしてフラッシュバック……幼い弟を最後に見た姿。堆肥から突き出した、ふさがったパイプ。何年もアルコール漬けになった。

 クリスは見たことのない子の無事を、自らの体を引き裂きたいほど願った。

 

 翌朝、発作誘発の後遺症で憔悴したマイルズ、タクト、レスター、ココ、新旧エンジェル隊、そして志願者たちが集まった。

 多忙なミッターマイヤーは……もちろん、前夜は徹夜でルフトと条約を詰めて……駐在官を残し、帰った。

「クロノゲートの近くに、演習の名目で艦隊を集めておく。クナップシュタイン艦隊の生き残りが情報を持ち帰った、赤色巨星超新星化兵器の研究も命じておく。

 いつでも呼んでくれ」

 事情も聞かずそう言い残して、だ。

「ヤマトには何も言わず、帰ってもらったよ。ずいぶんと故郷を空けているしね」

 見送ったばかりのタクトが部屋に入って、会議を始める。

「必要なのは密偵と白兵戦の強者、残念ながら名将も星を破壊する戦艦も無用だ」

 マイルズがつけ加えた。

「必要にならないことを祈るよ」

 フォルテ・シュトーレンが、平静そのもので脱線を止める。

「ジェセック夫妻の船の作業は、二日長引かせた。明後日の昼出発できる」

「確認しておきます。運べといわれたコンテナは点検しない、で?」

 ココの言葉に、フォルテが軽くうなずく。

「エレーナは、単なる毛皮だって言ってる。こっちは間抜けにも真に受けることにした」

「エレーナさんは、こちらが全面協力していることを、明らかに理解されています」

 ジェセック夫妻と朝食を共にし、ひたすら商売だけの話をして、たくさんの情報をテレパシーで読んだミントが微笑んだ。何事もないかのように。

 クリスが発言許可を求め、ネリーから、故郷の星図を見せる。ネリーはノアが徹夜でいじれるだけいじって、五分前にしぶしぶ返した。

「〔UPW〕からの最短ルートですが、われわれ知性連合が見つけたゲートから、無人の銀河がありました。そこに〔UPW〕の無人ブイがあったので、そこにこちらから連絡してあります」

『ゲートの無人銀河側からの、天体観測データを送信しました』

 ネリーの声が補足する。機械的な声、拗ねているなどというものではない。

「確認してくる」

 レスターがドアから出た。もちろん、外部との通信が遮断された部屋だ。

「それで知性連合からグリーンフェルド星へ向かえるはずです。わたしの故郷は三種族が作ったジャンプシステムを用いていますが、そちらの超光速航行を用いますか?」

「そのほうがいいですね。ロングナイフ王女、確認します。あなたと海兵隊、それにマイルズ・ヴォルコシガン卿は、フラーケン大佐と?」

 ココが名簿を広げた。

「ちょっと生活できるコンテナを増設させてもらいます」

 クリスとフラーケンが目を合わせる。

「わかりました。ルクシオールの工作設備をご利用ください」

「はい」

 今、アビーとジャックは文句たらたらで準備を始めている。

 レスターが戻ってきた。

「無人銀河は確認した。艦船の出動準備リストも作っておいた」

 と、全員にリストを示す。

「さすがに有能だな、レスター」

 ほめたマイルズは軽く机に手を乗せ、注意を引く。

「ここで、メンバーの能力を一度、確認しておきたい。

 密偵として、社会に溶け込んで物事を調べ出せるのは太助、ハン・ソロ、アニス、ミント」

「カズヤやミルフィーユも料理で、ヴァニラやナノナノも医者で潜入できるぜ」

 アニスの言葉に、

「年単位の時間があるなら。今回は日単位です」

 とタピオ・カーが首を振る。

「歩兵として、戦闘力が特に高いのはテキーラ、ルーク、シェーンコップ。フォルテ、リリィ、蘭花も次ぐ。アビーは……敵のブラックリストに入っている」

 マイルズが指折り数え上げる。

「リリィは銃ではなく剣だから、不利な局面もある。テキーラと蘭花は、武装解除・身体検査の後でも戦えるのが強みだな」

 レスターがつけ加えるのにタクトが、

「裸だと別の意味でも強烈だね、二人とも」

 と冗談を飛ばし、女性陣の冷たい視線に謝罪する。カズヤなどは真っ赤になっていた。

「ハッカーとしてはわたしとR2-D2……ただし、ネリーの一段下のコンピュータを身につければ、誰でもかなり水準を上げられます。

 指揮能力は役に立ちません。傷を治す能力も、ここでは役に立ちませんね」

 クリスが話を引き継ぐ。

「ナノナノは変身もできるけど」

 カズヤの言葉に、ナノナノが少しひきつった。

「ナノマシンでの治療は、拷問や暗殺にも使えないか?地球を救うために研究された太陽制御技術が、赤色巨星超新星化兵器になったように」

 フラーケンの言葉に、新旧両エンジェル隊の表情が凍りついた。

 凍りついた会議場に、ヴァニラ・Hの静かな声が響く……

「ご指摘ありがとうございます、潜在的な可能性はあります。

 だからこそ、迫害を防ぐためにナノマシン使いは、宗教を用いて悪用を禁じてきました。ナノナノたちにも、とても深い部分でプロテクトがかけられています。拷問や暗殺はできないように作られているのです。

 もちろん、わたしたちも紋章機を通じて人を殺しています。手がきれいだとは言いません」

「……すまない」

「いや、事実を机に乗せるのはいい」

 謝罪したフラーケンをタクトが慰めた。

 震えているナノナノを、ヴァニラが抱きしめる。

「変身能力も、使い方の難しい札ですね。準備が必要ですし、優れた機械技術の持ち主にはすぐにばれます」

 タピオが冷静に言う。

「でも、小さい子がお母さんやお父さんからさらわれて、泣いてるのだ。助けるためならナノナノ、がんばるのだ」

「ありがとう」

 マイルズが、限りなく深く優しい声で言って、クリスとうなずきあう……

(もし、拷問や暗殺が必要なら、ぼくたちが手を汚す)と。

「ぼくも、潜入工作には実績がある。ただ経験上時間がかかるし、敵に顔を記録されている可能性がある」

 そう話を変えたマイルズは、本当は自分こそ探索任務を志願したい。

 だが、経歴を思い出している……指揮官として客観的に見れば悪夢としか言いようがない、ゲートキーパーの資質を試してもらいたいほどの凶運のなせるわざばかりだ。それをあてにするのは、狂気の沙汰だ。

(イリヤンは狂っていたんだな、ぼくを使うなんて)

「ジェセック夫妻の船に、ミントとあたし、リリィ、アニス、テキーラ、ルーク、シェーンコップ、太助ってとこか」

 フォルテが冷然という。

「紋章機を、増設エンジンに偽装する。そのほうが作業も早い」

 レスターが皮肉気に笑う。

「技師は苦労してますけどね、別の船を二機で押してクロノ・ドライブなんて」ココが苦笑する。「つき従う次元潜航艇には、コンテナに積んだ紋章機を収納できますか?かなり大きな増設作業になりますが」

「まあ、やってみるさ」

 フラーケンは余裕のある表情だ。

「こちらに残るのはドラゴ船長、ハン・ソロ将軍とチューバッカ氏、それにエカテリン・ヴォルコシガン夫人とニッキ……」

 ちとせが実際的にリストアップしていく。

「ミレニアム・ファルコンで密偵を先行させたらどうだ?」

 ハン・ソロが身を起こし、机を拳で押す。じっとしていたくないのだ。

「そうだな、修正しよう。今からミレニアム・ファルコンをグリーンフェルド星方面に先行させておく、太助とアニス、ミントかな?」

 タクトの提案。

「リプシオール級をつけたほうがいいんじゃないか」

 レスターが言うが、

「時間が命だよ」

 フォルテの言葉に納得する。

「レリックレイダーなら、ファルコンについていけるな?」

「あったりめえだろ」

「だいじょうぶ、今確認しました」

 カズヤが軽くフォロー。

「間違いありません」

 アプリコットが検算し、レスターとタピオがうなずく。

「ミントは、別に商売の船として送ったらどうだ?」

 マイルズの提案に、ミントがうなずく。

「そのほうが自然ですわね」

「いっそルクシオールを出そう。それならそのまま紋章機を運用できる」

 タクトの提案。

 タピオ・カーが発言許可を求めた。

「メリットとデメリットを。

 メリットは単艦でも高い戦力があり、紋章機すべてが戦うことになった場合、補給や修理が可能になること。

 デメリットは、見るからに軍事力が過剰で、砲艦外交の非難や開戦のリスクがあること」

(砲艦外交でいいじゃない、あいつらがさんざんやっていることよ!)

 クリスが内心叫んだが、自重した。

「砲艦外交、というのも手の一つですわ」ミントが平然と言ってのけた。「ですが、この中型輸送船がすぐ動けます。ルクシオールはもう三日もかかってしまいます。

 こちらの船でも、紋章機を一機ぐらいなら乗せられますし、商品もすぐに積めます。そのほうが準備期間が短いです」

「一度、紋章機とメンバーの割り振りを整理してみよう」

 レスターが告げて、プレゼンを準備する。

「ジェセック夫妻の船。ルーク大尉、シェーンコップ、フォルテ、リリィ、テキーラ。紋章機はイーグルゲイザーとスペルキャスター、エンジンに偽装する。

 フラーケン大佐の次元潜航艇。マイルズ卿、クリス王女と海兵隊、ナツメ。紋章機はパピヨンチェイサー。

 商船でミントと蘭花、アプリコット。クロスキャリバーを乗せる。

 一番先に、ハン・ソロ将軍のミレニアム・ファルコン。太助が同乗し、アニスがレリックレイダーでついていく。

 ルクシオールとリプシオール級五隻が待機。ナノナノとカズヤ、ファーストエイダーとブレイブハート。ホーリーブラッド改部隊もつく」

「各方面に、ぼくやシヴァ陛下も手紙を用意しておく。ある程度の技術も、貨幣としてつける」

 タクトがつけ加えた。

「わたしも紹介状を書きます。知性連合では有効なはず、判断はお任せします」

 クリスはもう、ネリーに文面をまとめさせている。

「ミッターマイヤー元帥も、バックアップとして艦隊を準備してくれている」

 と、アッテンボロー。

「〔UPW〕も全艦隊を準備しておく。連合艦隊の指揮は?」

 レスターがつけ加える。

「レスター、きみが見てくれ」

 タクトの命令にレスターがうなずく。

「わかった、バラヤーへの連絡は?」

 マイルズは首を振った。

「一切しない。もちろん、父上も母上もグレゴールも、聞けば何でもやるだろう。だがそうすれば人質を危険にさらす。必要があればぼくから連絡するし、成功失敗にかかわらずバラヤーの感謝は、ヴォルコシガンの名、皇帝直属聴聞卿の誓約にかけて誓います」

「やれやれ、一人の幼児のために多元宇宙の外交関係が、根こそぎ変わってしまうんだな」

 レクターがため息をつく。

「責任は〔UPW〕長官のぼくが負う」

 タクトはへらへら笑っているが、実はマイルズやクリスに劣らず怒っている。決意は固い。

「ここにいる全員、支持します。その結果を共に負います」

 全員が立ち上がり、ばらばらな故郷の敬礼を……敬礼に近い動作をした。

「タクト、シヴァ陛下も全面的に支持している」

 レスターの言葉に、タクトはうれしそうにうなずいた。

 

 無人銀河とされ、たまにしか開かない銀河へのクロノゲートが開き、無人設備が回収された。

 同時にミレニアム・ファルコンが高速で飛び、星図を読みつつゲートに向かう。

 

 そして、焦燥と感謝を瞳に宿したエレーナの操船で、何事もなく商売をするだけのようにコンテナ船が埠頭を離れた。奇妙な大型エンジンが、激しいエネルギーを放出している。

 その航跡から、小さな潜望鏡が突き出し、すぐに引っ込む。異空間で、ぶかっこうにコンテナを増設した次元潜航艇が静かに動き出した。

 もう一隻の輸送船が、無人の銀河に航りだす。




ギャラクシーエンジェル2
銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス
宇宙戦艦ヤマト
スターウォーズ
海軍士官クリス・ロングナイフ
ヴォルコシガン・サガ
銀河戦国群雄伝ライ

*すみません、EP6でハン・ソロが救出された直後の、チューバッカの同盟軍での階級がわかる方いたら教えてください


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海軍士官クリス・ロングナイフ/時空の結合より1年5カ月

日本語の6巻まで=原書で出ているうちの半分しか読んでいません。
今後続刊の邦訳が出たら矛盾が出るかもしれませんが、ご勘弁を。
かなりギリギリで主要人物の性格が変わって慌てました。


 この世界の人類は、その船に気づくこともできなかった。人類は単独では超光速航行能力がなく、三種族と呼ばれる、行方不明の超文明異星人が構築したゲートに頼っている。

 何カ月もしてから、たまたま最優秀の望遠鏡が正確にそちらを向いていれば、強力なクロノ・ストリング・エンジンの光を観測できたかもしれないが。

 

 

 ウォードヘブン星に、ジャンプポイントとは極端に違うところから異質な宇宙船が侵入した。それだけでもありえない事態だ。

 政府・軍はパニックになりかけた。つい最近、五隻の戦艦に蹂躙されるところだったのだ。

 だが、出現と同時にはじめられた放送を、冷静な人は聞いていた。

『こちら〔UPW〕全権大使、ミント・ブラマンシュ。あなたがた知性連合からのメッセージを受信しました。クリスティン・アン・ロングナイフ王女殿下からのメッセージも預かっています。

 また、ブラマンシュ商会代表としても交易の機会を求めます』

『こちらペニー・パスリー・リェン大尉。ブラマンシュ大使の言葉が真実であることを誓約します』

 政界・マスコミは半ばパニックになった……クリスの名に。

 首相の娘。王のひ孫。反乱を起こして艦をのっとり戦争を未然に止め……ウォードヘブンが蹂躙されそうになったとき、軍の序列をひっくり返して義勇兵を募り撃退した、若くして伝説の女。英雄ではあるが超絶トラブルメイカー。

「なら、会おう」

 立ち上がったのは老いたレイモンド・ロングナイフ王である。

 

 ミントは、レイモンド王をじっと見つめていた。

 老王はその目をじっと見つめ返す。相手の見かけにごまかされてはいない。

 二人、ふっと微笑した。互いに相手を歴戦と認めたのだ。

「話せそうですわね。まず、この手紙をお読みください」

 ミントが差し出した手紙……間違いなくクリスティン王女の筆跡、ネリーのナノ署名がある。

『〔UPW〕に到着しました。

〔UPW〕幹部の、別の時空で暮らす戦友が、娘を誘拐され脅迫された。誘拐犯の命令は、ある荷物をグリーンフェルド星へ運ぶこと。

 夫婦はそれに従っている。ミント・ブラマンシュ大使をはじめ〔UPW〕は、救出の支援を目的に、ウォードヘブン星を経由してグリーンフェルド星に向かう予定。

 われわれと戦友の船を妨げることなく、便宜を図るよう要求要請する。

 わたしは、知性連合への忠誠より戦友との絆を優先し、なすべきことをする。

 クリスティン』

 大尉の階級も、王女の称号もつけていない。すべてを捨てる覚悟だ。

 その後には、データの形でそれまでの旅、途中で見てきた世界の情報なども、マイクロ電子情報で添付されている。

 読み終えた老王が目を上げる。

 ミントは静かに微笑した。

「王女殿下のお手紙にある通りですわ。

 邪魔をしなければ、クリス王女からすでにいただいている技術と引き換えに、さまざまな技術や製品をお渡しし、交易を始めます。リバースエンジニアリングで技術水準を高め、利益を得、お国を強めればよいでしょう。交易そのものも、どちらにとっても得になるでしょう」

「妨げるならば」

「潰すだけですわ」

 ミントの声は、まったく変化がない。

「〔UPW〕の標準駆逐艦一隻で、知性連合の全艦隊を簡単に撃滅できます。この輸送船だけでも可能です。攻撃・防御・移動ともに、長弓と機関銃の差があります。

 この件ではわたしたち〔UPW〕も、全艦隊を動かしても惜しくありません。別時空の戦友たちからも、戦艦を十万ぐらい動かすと言質をいただいています」

 戦艦五隻で首都を落とされかけた首脳部は、その数を現実と考えることができない。

「そしてあなたがたも、誘拐でご家族を殺されている……誘拐への怒りは、クリス王女と同じはずです」

「……」

「あなたがたは愚かではないはずですわ。ですが、国家という大きい獣を動かすのは大変、それをお願いするだけです」

 老王はため息をつくだけだった。

「簡単に言ってくれるな。それに」

 クリス本人はどこにいるのだ、言おうとしてレイ王は気づいた。

 彼女の性格を考えれば、最前線にいる。すでに動いている、敵陣深く侵入し、身を隠している……こちらはそのことに触れてはならない。

「わからぬものもいるからな。少しだけ、力を見せてほしい」

「かしこまりました」

 と、ミントが素早く指示を送る。

 すぐに、報告が激しく入った。

 信じられないほど強力な荷電粒子流が、何にも当たらないように衛星網を縫って、ウォードヘブン星上層大気をかすめた……と。

「われわれの戦艦主砲の、百万倍を軽く超えています」

 青ざめた表情で報告を中継するトラブル将軍にも、ミントは穏やかに微笑みかけた。

「交易品には、この水準の重粒子砲も含まれていますよ」

 政・軍・財が本能的な恐怖で色めき立つ。

 レイ王が疲れ切った表情で言う。

「騒いでもどうにもならん。今ここに現実がある。

 だが、ミントさん。われわれはピーターウォルドと戦争をしたくない。

 力が拮抗してしまっている。今戦争を始めたら、何十年何百年と、何百万ともしれぬ血が流れることになってしまうじゃろう。戦争を起こさないためには、わしはなんでもする」

「すべてをなかったことにする……こちらの船を消して。それは残念ながら、不可能ですわ」

 ミントの目には、殺気すらこもっていた。

 レイ王は静かにため息をつき、トラブル将軍と目でうなずき合った。

「おっしゃるとおりにするほかあるまい。抵抗しても損しかない、協力すれば大きい得になる、ではな」

「さすがクリス王女のひいおじいさま、ものわかりがよくて助かりますわ」

「気をつけることじゃ。最近、ピーターウォルドの艦が、妙に強い。並行時空の技術を買ったという噂もある」

「多元宇宙のあちらこちらで、ピーターウォルドの名で暗躍している勢力があります。この時空の技術水準を考えると、不思議なことですわね」

 手短に会談を終わらせると、ミントは輸送船から、異常なほど急いで積み荷の半分をおろしてクリスの祖父の一人、大富豪のアレックスにゆだね、そのまま全速力でグリーンフェルド星に向かった。

 水先案内も必要なかった。ネリーのすべての情報がコピーされ、配られているのだから。

 

 

「お二人とも、限界です。それに場所を空けていただかないと」

 ジャック・モントーヤが、運動器具を動かしつづけているクリス・ロングナイフとマイルズ・ヴォルコシガンに強い声で言い、肩をつかんで揺さぶる。

 次元潜航艇内の小さなカプセル内でできる、ガルマン・ガミラスの艦内運動……地球で言えば500メートルクロール、自分の体重を背負って800メートルハードル走、五回が限度の重量で各種ウェイトトレーニングのサーキットを、繰り返すようなものだ。トライアスロンの三倍にはなる。

「おーい、そろそろ運動部屋空けてくれ。体伸ばしたいんだ」

 潜水艦乗りの乱暴な声も響いた。

 ただでさえ狭い次元潜航艇に、コンテナを増設して十数人+大型戦闘機を詰めこんでいるのだ。

 星空が見える通常空間航行はまだましだが、少しでも有人惑星や無人設備が近くにあれば、即座に潜航する。何も見えない超空間は閉塞感が倍加する。

 海兵隊が全員ではなく、一個分隊だけなのも欲求不満を増している。

「すまない」

 声をそろえた二人が器具から降り、倒れこむ。大量の汗で全身ずぶ濡れだ。限界をはるかに超えて続けていたのだ。

「今戦いが始まれば、疲れて戦えぬであろう。愚かものめ」

 ナツメ・イザヨイに言われ、

「すまない」

 また、二人の声がそろう。

 マイルズにとって初恋の人であり、幼いころから自分を守ってきたエレーナ……傭兵隊員としても忠実に役割を果たし、あらゆる激戦を共に潜り抜けた。その夫バズも、傭兵隊の大切な部下だ。マイルズの母の名をもらった幼子のことを、思わずにはいられなかった。

 クリスも幼い弟の死を思い、胸が張り裂けそうだった。また、仲間の多くがいないことも辛い。ペニーもアビーも、ドラゴ船長も、学者たちもキャラもいない。

 何もできないわけではない、こうして時空から深く潜航して、エレーナの船を追っている。戦力もある。

 次元潜航艇の魚雷も炸薬を変更され、威力は三倍以上になっている。

 一個分隊だが、海兵隊もいる。〈白き月〉の巫女たちが申し出たコンピュータのアップデートは、実戦で使えなくなると困ると断った。だが歩兵火器も全員、〔UPW〕やミッターマイヤーから桁外れに強力なのをもらっている。

 攻撃力はヤマトに匹敵する、パピヨンチェイサーまである。その主ナツメは、元公女でもありクリスやマイルズとも対等に話している……二人が人質を思って半狂乱になっていないときは、だが。

 

 

 どの有人星からもかなり遠く、思いがけない航路からグリーンフェルド星まであと数日。違和感のあるコンテナ船の一室では、三人の男女が光の剣を交えていた。

「すごい素質だな、二人とも」

 手を止め、汗一つかいていないルークが笑う。

「便利だがえらく使いにくいな、このライトセイバーってやつは」

 ワルター・フォン・シェーンコップが汗をぬぐった。

「資格のない私たちのため、予備のクリスタルを費して剣を作っていただき、教えをいただいて、大変恐縮だ」

 リリィ・C・シャーベットも息が荒い。

「ま、バックアップとして持っていてもいいが、実戦はナイフ頼りになりそうだ。斧を持ちだすのは無理だろうからな」

 シェーンコップが、緑のライトセイバーをひっこめた。

「銃撃戦のリスクもある。ゼッフル粒子を散布しても、敵が理解せずに発砲したら両方全滅だ。私も、できれば使い慣れた剣の方がよい」

 リリィが青紫のライトセイバーを、剣士として敬意をこめて見つめる。

「出番がなければそれにこしたことはない、が」

「それに備えて腕を上げておくべき、か。今度は実体のナイフでやるぞ」

 シェーンコップがにやりと笑う。リリィの頬にも微笑が浮かぶ。

「お、お手柔らかに……」

 ルークに冷汗が垂れる。リリィとシェーンコップがにやりと微笑み、刃渡り35cmはある刃引きのナイフを二刀に握る。

 実体の刃物となると八煌断罪刃に余裕で入れる二人には、ルークはまだ及ばない。素質は劣らないが、修業期間がまだまだ短いのだ。

 ルークが深く息を吸い、フォースを集中してシェーンコップを柔らかく見る。

 シェーンコップは頬に笑みを浮かべ、精神に働きかけるフォースを実戦経験で受け流す。

 リリィは二人を直立不動で見つめ、二人の筋肉と気……フォースの流れを見ようとしている。

 三人とも、じっとしていられない。

 特にリリィは、子を誘拐された親のことを思って泣き叫ぶのをやっとこらえていて、ひたすら修行でごまかしているだけだ。

 

 船のブリッジでは、三人の女が仕事を続けていた。

 船長のエレーナ・ボサリ・ジェセックは、戦闘用マウスピースをぎりぎりとかみ続けている。そうしなければ、唇や爪がなくなってしまうからだ。鉄棒を両手で、全力で握り続けている。そうしなければ、どんな誤操作をするかわからないからだ。

「爪を噛むのはクィニー(傭兵時代の仲間、エリ・クインのこと)の癖だったわ」

(彼女がいてくれたら、デンダリィ隊がいるならどんなに心強かったか)

(デリア……絶対助ける。あなたの名付け親、コーデリアさまにもう一度、抱かせてみせる)

(生きているの?返事をして!泣き声を聞きたい、笑顔を見たい!)

(マイルズ。私たちを見たということは、もう全部知ったはず。そしてどんなことでもしてくれるはず。多元宇宙を滅ぼしてでも)

(シヴァ陛下……ミントさん、タクトさん……フォルテさん……どう感謝していいか、返しようもない。戦友のためだから。こちらも、戦友のため、なんでもする。いつでも死んであげる)

(なんでもする。なんでも。どんなことでも)

(殺してやる。皆殺しよ、星ごと、銀河全部)

(おそい、遅すぎる……クロノ・ドライブでも)

(はやく、はやく、はやく。もっと加速できないの?)

(ミスを犯してはならない。現実的に、冷静に、仲間を信じて。わたしはプロの傭兵よ。あれだけの戦いを生き抜いてきた)

 

 テキーラ・マジョラムは遠隔で二機の紋章機をチェックしていた。

 カルーアに戻ってしまったら、とても耐えられない。強い魂を集めたテキーラだからこそ、耐えられる。

 それでも、複雑な作業に没頭していなければ、平静を保つのは無理だ。運動でごまかすのも限界がある。

 

 フォルテ・シュトーレンは、骨董品の火薬銃を磨いて磨いてみがきぬいている。すりへってしまうほどに。

 重いが絶対の信頼性を誇る歩兵機関銃。

 接近戦では最強の、ポンプアクション式散弾銃。

 身長より長く、当時の医療技術では使用者は身体を壊す、機関砲弾を用いる対戦車ライフル。

 ガンブルーと銘木が美しいボルトアクション狙撃銃と、大口径長銃身のリボルバー。

 切り札となるスナッブノーズリボルバーと、延長マガジンの多弾数オート。

 最後の保険、銃身を切り詰め銃床を切り落とした水平二連散弾銃。

(頼むよ、相棒)

 そう、銃に語りかける。もう一つの相棒、ハッピートリガーはヴァル・ランダル星を救うために自爆した……

(待機も戦いだ。今できるのは、その時に銃が動くように、完全に整備することだけ)

 

 エレーナの夫バズは、あまりにも長く眠っていないため、テキーラが魔法で眠らせている。エレーナにも、八時間後には同じことをする予定だ。

 

 エレーナたちが飛んでいるのは、グリーンフェルド星のオールト雲ではある。地上の距離感覚が残っていれば虚空としか思えない。知性連合の、もちろんピーターウォルドの文明水準でも、何もあるはずがない。普通なら油断しきっている。

 だが、全員針が落ちても飛び上がるほどに緊張しきっていた。

 それを襲った海賊こそ、災難にほかならない。

「両方の紋章機のセンサーが、ネリーのデータにある核融合炉のニュートリノを探知したわ。三光分ほど離れたところの長楕円軌道小惑星に隠れてる」

 カルーアの言葉に、エレーナが素早くうなずき、マウスピースを外した。

「戦闘準備。こちらからは迎撃しない、近づいたら交信を始める。逆方向にも警戒」

「あいよ。リリィ、紋章機につきな。ルークは機関室、シェーンコップは中央ハッチ」

 と、フォルテが素早く通信する。

 テキーラはもう紋章機にすっ飛んでいた。

「ゼッフル粒子は?」

 シェーンコップからの通信。

「まかない。敵が知らずにぶっ放したらドカーンだからねえ、いつでもばらまけるようにしときな。全員簡易宇宙服着用」

 フォルテがさっと答えた。

「了解」

 このコンテナ船が襲われるということが何を意味するか……全員、考えることすら恐れている。

 そう……最初からエレーナ夫妻を殺して、コンテナの荷物だけを奪う、と予定されていたのでは。人質は必要ない、拉致直後に殺されているのでは……

 考えることすら耐えられない。ひたすら、闘志に集中しなければ崩れてしまう。

「戦闘の指揮はお願いします」

 エレーナがフォルテにうなずきかける。

「ああ」

 もう簡易宇宙服に着替えたフォルテが、軽く片手を上げる。その表情には何の動揺もない。

 エレーナも、最悪の想像は押し殺して傭兵艦長の表情でいる。

「イーグルゲイザー、戦闘準備完了」

「スペルキャスター、オールグリーン」

「分離機構、油圧・爆薬とも準備はできています」

 エレーナが静かに言う。

「そろそろいいよ、逃げはじめよう」

「はい。面舵、加速3」

 エレーナが氷のような声で復唱し、操縦を入力する。

 不自然な船の、不自然な二つのエンジンが激しい光を上げ、ぐっと航跡が曲がる。

「リリィ、機関室に第二通路を通って行きな。ルークを援護」

『承知した!』

 船はデブリをかわす。拳程度の大きさだが、もともとの速度が早いので、クリスの船なら当たったら完全に破壊される。

 大きく針路を修正した船の下腹部に、奇妙な船がせまる。

 前面にスマートメタルを、斜めの板のように掲げている……クリスの船のアクティブレーダーなら、完全に無効にできる。核融合炉も切っており、慣性で動いて、突然化学ロケットで姿勢を制御、エンジンにレーザー砲を放ってきた。

「煙幕出します!推力停止」

 エレーナが即座に、エンジンである紋章機の近くとブリッジから煙幕を放つ。むろん、シールドによって中身は無事だ。それを敵に悟られないためだ。

『この程度の攻撃、平気よ』

 通信。

 同時に、彗星の陰からも小型の、妙に機関部が大きい船が襲いかかってくる。

「テキーラ、魔法で標的Aの機関部を無力化。ルーク、敵が侵入しようとするのをカウンター。シェーンコップは第二シャトルに」

 フォルテの命令に、全員が素早く動く。

『了解』

『承知』

『アイ、マム』

「できるだけ生かしときな」

 言ったフォルテ自身も、散弾銃に非致死性弾をこめる。

 エレーナは腰のスタナーを叩いた。

 リリィは、剣と同じ長さ・重さの特殊金属棒を手にした。

 

 海賊船から見れば、エンジンとブリッジをやられて煙を吹いている船に横付けし、ハッチを破って侵入、そのまま内部を制圧する……予定だった。

 慎重に船の相対速度を調整し、コンテナ船に横付けし、連絡チューブをハッチに当てようとする……

 簡易宇宙服を着たルークは、敵からは死角になるハッチから出て、フォースを用いた大ジャンプで敵船に飛び移った。熱噴射も光もないので探知はできない……ライトセイバーで敵船の壁を切り破り、噴き出す空気が収まると同時に、背後から襲いかかった。

 奇襲などというものではない。減圧の強風で立ってもいられず、何の反応もできない海賊たちは、ライトセイバーを使うまでもなく電撃棒で制圧され、針金で縛りあげられた。

 

 ルークが向かった船からは、別働隊が小型シャトルで襲撃し、ハッチを爆破しようとした……と思ったらハッチが内側から開けられ、悪鬼が襲いかかってきた。

 リリィの棒が縦横に振るわれ、四人の海賊が手足の骨を折られるのに三秒はかからなかった。

 

 そして、リリィが制圧した小型シャトルで敵船に『帰り』、ルークとの挟み打ちで制圧するのもあっという間だった。第一、テキーラの魔法によって敵船の留守番は全員、精神の働きが自覚なく鈍くなっていたのである。

 また、二人ともライトセイバーがある以上、電子ロック付きのドアは無力、壁を切り破って考えられないところから奇襲される。

 

 エレーナの船の小型シャトルに乗ったシェーンコップは、彗星の陰から出てこようとしたもう一つの敵船に向かった。

 魔法攻撃で主機関が故障、パニック状態……その壁に取りつき、あちこちに小さい爆薬をしかける。

「始まったか」

 微笑みつつ、遠隔点火スイッチを入れる。

 あちこちが一気に減圧し、警報と暴風で全員がパニックになった……ライトセイバーで切り破った穴から侵入し、スタナーで一人一人気絶させるのは造作もなかった。

 

『制圧終わり』

『こちらも終わった』

『終わったぞ』

「了解。ちょっと力仕事になるけど、倉庫に全員引っ張るぞ。エレーナ、だんなを起こして、ブリッジを誰かに任せな」

「はい」

「油断するな、徹底的に警戒するんだ。今が一番危ないと思いな」

「はい」

『そうね』

「制圧した、と油断させて隠れ場所から、ってのもよくある手だよ。トイレとかにいるやつもいる。姫さんが言ってたけど、奴らは証拠隠滅をしたがる。体にも船にも爆弾があると思いな」

『了解。あんたがイゼルローンの守備隊長だったら、無理だったな』

 シェーンコップの声は、奇妙な落ち込みかただった。

 

 そして縛り上げられ、気絶し、骨折した何十人かの男たちが、すさまじい怒りに燃えるエレーナ・バズ夫妻の元に引き出された。

 頭と思われる男に、エレーナは手早くパッチテストをし、即効性ペンタを投与した。

 善意に満ちあふれ、とろけた表情をした男に、エレーナは規定通り、簡単な質問をしていく。名前。生年月日。所属。最近のニュース。

 何の抵抗もなく答えていく屈強の男に、背後で縛り上げられた海賊たちは震えはじめた。下手な拷問より、薬で簡単に心が破壊されていく方が怖い。

「そう、船の人間を皆殺しにして船荷を第四惑星に送る、と。……コーデリアはどこ?人質の娘は?」

 強烈な感情を抑える水晶のような言葉に、ルークもシェーンコップも、彼女が凄腕の傭兵艦長だとやっと実感した。

「知ぃらねえ、子供なんて知ぃらねえ。おれたちはただ、船を襲って皆殺しにして荷物をいただいて、第四惑星のステーションに向かえ、ってだけだ」

「そう」

 エレーナは拮抗薬を注射し、尋問をバズに交代して引っこんだ。目顔でテキーラを呼んでから。

 物陰で、エレーナはテキーラに、

「魔法で、何かないか探ってください」

「そうねぇ、やってみる」

 と、相手に気づかれないようにテキーラが魔法を使う。

 その結果、少なくとも命じた人間の人相は出てきた。保安局のナンバースリーと、最近になって顔を見るようになった変な海賊らしい。

 尋問は続いているが、エレーナはデブリーフィングにかかる。

「組織を細分化して、ほかの部署がやってることは知らないし、上にたどるのも難しいようにするのがピーターウォルドのやりかた、とクリスのレポートにあったよ。おそらくあの海賊がコンテナを運んだら、問答無用で皆殺しにされてたろうね。

 で、これからどうする?」

 フォルテが出した言葉に、リリィなどは息を呑んだ。

「確かに、予定がその一本線だけなら、コーデリアはもう死んでいるわ」

 それを冷徹に言うエレーナ。エレーナがフォルテを見る目は、もっとも言いにくいことを言ってくれた勇気への尊敬がある。

「いいかい」フォルテが鞭を軽く動かす。「海賊たちはあとで証人になる。エンジンを破壊して外宇宙に飛ばし、物資が切れる前に救助してやればいい。それからはロングナイフ王女に任せる」

「それでいいわ。コンピュータの分析は済んだ?」

「ああ、その、保安局のやつにつながってる」

「あとは、このままコンテナを持ってグリーンフェルド星に行きます」

「ああ」

 

 

 数日後、グリーンフェルド海軍艦隊は臨戦態勢にあった。

 二隻の、まったく未知の時空からの船がほぼ同時に着いた。

 一隻は交易を求める、〔UPW〕の正使を乗せた輸送船。

 もう一隻は単なるコンテナ船。そちらが先に、応答した。

「約束通り、コンテナは持ってきました」

『ここはグリーンフェルド星、許可のない船の航行は禁じられている!』

「エレーナ・ボサリ・ジェセックです。そちらに呼ばれたんですよ、コード155-シグマ・オミクロン-22-デルタ・ファイ。繰り返します。155-シグマ・オミクロン-22-デルタ・ファイ」

『し、知らん!われら海軍は、呼んだ覚えなどない』

「あなたがたは一枚岩ではない、とは聞いているわ。宮廷と保安部にも連絡します」

 エレーナが平然と続ける。傭兵艦長として、また民間人船長としても、厄介なところでの政治交渉はお手の物だ。

『即刻炉心反応剤を投棄せよ!』

「炉心反応?わかったわ」

 と、何かが核融合炉から投棄される。クリスの故郷時空の水準では、エンジンの再始動が相当長期間、補給と修理を受けない限り不可能になる……クリスのワスプ号は裏技でかなり早く再始動できるが。

 もちろん、核融合炉自体の世代が違い、紋章機をメインエンジンとするエレーナの船はいつでも即座に再起動できる。

『動くな、臨検する!そちらの貨物船もだ!』

「こちら、〔UPW〕全権大使ミント・ブラマンシュ。外交特権を要求します。当船への攻撃は、〔UPW〕への攻撃とみなされますよ」

「〔UPW〕など知らん!どこだろうと、ここグリーンフェルド連盟領宙ではわれらが法だ!」

「それが、平和な外交関係と交易を求める船に対する態度ですか?ウォードヘブン政府とは違うのですね」

『き、きさまら、ロングナイフの手先か!』

 その間に、ミントはもう別の連絡を命じている。

「ロングナイフ王女に聞いた、クレッツ艦長とヴィクトリア・ピーターウォルドお嬢様の連絡先に。ウォードヘブン大使館に、レイ王とマクモリソン将軍からのメールを転送」

 

 グリーンフェルド星を守ろうと、多数の艦隊が出撃している、といっても戦艦が二十隻に巡洋艦や小型艦がいくらかだ。

「これが、全部?首都の?」

 シェーンコップが呆れた表情で見ている。

「バラヤーも似たような数ね」

 エレーナが苦笑した。

「ハイネセン、アムリッツァ前では二十万隻はいた……」

 みんな、呆然とシェーンコップを見る。あごが外れる思いで。

 何人かは、十万隻と一千万隻の戦いは見ており、沈痛にうなずいている。

 突然、その中の一隻がエレーナの船の方に突出した。

『そのコンテナをよこしてもらおう』

 恐ろしく着飾った、冷酷非情すぎる雰囲気の男が通信してくる。

「人質と交換ですよ」

『人質など知らん!』

「なら、コンテナは渡せません。人質を連れてきてくださる人としか、交渉はしません」

『黙れ。服従すれば死なせてやる。服従せねば何年も拷問する。お前たちの家族も連れてきて、目の前で拷問してからだ』

 眉ひとつ動かさず、エレーナが軽く命令する。即座にリリィのイーグルゲイザーが船から離れて移動、命令してきた男の艦をかすめてかなり遠い小惑星を遠距離狙撃し、粉砕した。

 クリス・ロングナイフと同水準の艦隊には、雲の上の破壊力なのは明白だ。

「人質を連れてきてくれる方に、替わってください」

 エレーナの言葉は静かなままだが、強い圧力になる。

「人質ですか?それは聞き捨てなりませんね」

 ミントが虫も殺さぬ顔で、星系全体に公開通信する。

「〔UPW〕には、あちらこちらの時空におけるグリーンフェルド連盟についての苦情が集まっています。特にガルマン・ガミラス帝国のデスラー総統は、強い不快感を持っていますよ」

 実際にはデスラーは、グリーンフェルド連盟の皆殺しを宣告している。忠臣を反逆者に仕立て上げられそうになり、帝国首都をのっとられかけたのだ。

「さて、交渉相手はどなたですか?」

 ミントの微笑に、複数のチャンネルから非難の声が注がれる。

『こ、これは砲艦外交だ!〔UPW〕は砲艦外交をするのか?』

「砲艦外交?砲艦外交というのは、こういうことですよ」

 ミントが微笑し、指先だけで何か命令する。

 輸送船の底から離れたクロスキャリバーがまず、強烈な二発を同時発射。

 さらにその背後がゆらりとゆらぐと、巨大な球体が出現し、とてつもない威力のエネルギー砲を放つ。

 さらにその球体から次々と戦艦が飛び出すや、何本もすさまじいエネルギーが星系を縦横に切り裂く。

 被害は一切与えていないが、あらゆる観測手段が振り切れてしまう。どの一発も、地球型惑星を破壊するか、弱くても恐竜絶滅クラスの威力、それが何隻も。

「〔UPW〕代表タクト・マイヤーズだ。〈影の月〉、ヤマト、ルクシオール、リプシオール級二隻、アースグリム、デスラー親衛艦隊所属〈シュルツ〉〈ドメル〉」

 通信画面でタクト、古代進、ココ・ナッツミルク、頭に包帯を巻いたファーレンハイト、ガミラス士官らが微笑している。

 ルクシオールはデュアル・クロノ・ブレイク・キャノンをつけたまま。デスラー砲艦二隻も、熱い砲身を冷ましつつ、惑星破壊ミサイルを積んだ艦載機を出撃させている。

 さらにルクシオールからはファーストエイダーとブレイブハートが出撃している。

「ヤマトは帰ったはずじゃなかったのか?」

 リリィがうれしげにいう。

「ま、あたしは知ってたけどー」

 テキーラはとぼけている。

「みんなごめんね、敵をだますにはまず味方から、って。ミントだけは無理だけど」

 タクトが微笑しつつうそぶいた。

「さてと、砲艦外交といかせてもらおう。コーデリア・ジェセックを渡してもらう、そうすればエレーナが約束通り持ってきたコンテナは渡し、条約を結んでわれわれは帰る。ほかにもいくつかの技術を渡し、交易を始めよう。悪い話じゃない。

 渡さなければ、ピーターウォルド連盟すべての星の、宇宙航行施設を破壊する。

 もちろん、子供に武器を突きつけて武装解除しなければ、なんてやったらまとめて吹っ飛ばし、徹底的に報復する……悪いね、エレーナ、バズ」

「もちろん。お任せします、マイヤーズ長官」

 エレーナは表情を硬くしたが、断固たる決意を見せてタクトにうなずいた。

「この件に関しては、僕たちは決して引き下がらない……どんなことでもする覚悟だ」

 ジェノサイドの脅しすらかけている。

『待て!いいか、どこかの誰かが、グリーンフェルド連盟の名を勝手に名乗っただけかもしれないんだぞ』

 全く別のところから通信が入った。

「その可能性も考えたわ。でも、それならわたしたちを襲った船から、そちらにつながるということはないはず……ヘルマス・サンドファイアの名前が出たわ」

 画面の、グリーンフェルド側の人たちはその名に、激しく緊張している。

「あの」

「サンドファイアの私生児、並行時空を旅していたという」

「あのとんでもない技術をもたらしてきた」

「〈ディスペア〉の」

 ざわざわ、とピーターウォルドの高官たちが目を見かわし合う。

 一つの艦が静かに動き始める。次の瞬間、消えていた。

 気がつくと、ヤマトのすぐそばにいた。

「ゆ、液体窒素パイプが」

「止め、いや、目に見えない刃が、艦内主要部を次々に切り刻んでいます!」

「なんて速さだ」

「島、緊急加速!」

 古代が叫ぶが、

「はい……あ、あれ?だめだ、鎖につながれたように、動けない!」

「トラクタービームだ!」

 ルークが絶叫する。

「あれはさらに、スパイ光線で中を見て、ニードル光線で内部の弱点を切り刻んでいる」

 真田が叫ぶ。

「ヤマトに被害が出ていい、撃ってくれ!」

 古代の絶叫に、スペルキャスターが機体を向かわせる……

 直後、またその……試験戦艦〈ディスペア〉がかき消える。

「速い!」

「光速の、一千倍は出ています!しかも慣性質量が観測できません!」

 雪が絶叫する。

「慣性質量を中立化?な、なら、わずかな力でも加速度は無限大、相対性理論の制限もかからない……」

 真田がうめく。

 光速に近い速度を出せるヤマトや紋章機、だがそれも、この速度の前では超音速戦闘機と歩兵より差は大きい。

 ルークがかっと目を見開く。

「リリィ!すべての計器を切れ。フォースで狙うんだ」

「はい!」

 リリィは素早く操作し、虚空に発砲した……

 ばしっ!

 光の槍が、突然爆発になる。

「ほう、当てるとは。だが、このシールドは破れんよ」

 機械でできているような、四角い顔の男がずんという。

「ば、ばかな……光速の千倍になれば、わずかな光弾でも百万倍の衝撃になるはずだ、それに耐えるシールドもあるだと?」

 真田が叫ぶ。

『は……はは……ははははは、無敵!むうてぇきい!』

『無力!むうりょぉくう!』

 通信画面の、ピーターウォルド側は大喜びで叫んでいる。

『これがピーターウォルド連盟の強さだ!見たかみじめな侵略者どもめ』

『最期だ!』

「ああ、きみたちのね」

 タクトは苦笑いする。

「ええ、私が彼らならこんな力の差を見たら、絶望しています」

 内部を切り裂かれたリプシオール級で奮闘している、ヴァニラが瞑目する。

「われらの力はわかったろう?そうだ、ピーターウォルド……おまえたちも、すべての時空、すべての生命はわれら、ボスコーンの奴隷だ。容赦なき力、おまえたちの信条通りに」

 そう、サンドファイアは顔の皮を脱ぎすてる。その下には青白い、不気味な皮膚があった。

「う……」

『そうはさせない!』

 サプライズ号と名乗った艦の、美しい女士官が叫ぶ。

『ヴィクトリア・ピーターウォルドだ!戦いぬく!ウォードヘブンやチャンス星防衛でのクリス・ロングナイフは、もっと絶望的な戦いを切り抜けた、ロングナイフにできてピーターウォルドにできないわけがない、同じ人間なのだから!』

『そうだとも!グリーンフェルド同盟の誇りにかけて、人類の尊厳を守りたい者は立ち上がれ!』

 上官のクレッツ艦長も同調する。

「なら、死んでもらおう。こちらの武器を使うまでもない……10254-12ベト・ヴァウ」

 と、サンドファイアだったボスコーンが眉をかすかに動かす。

 突然、サプライズ号艦内で、政治将校とその兵が、瞳から力を失って艦長や、ヴィクトリアに襲いかかってきた。

 応戦するが、ダート弾が当たっても平気で動き続ける。

「な」

 無表情で、無造作に金属の、床と一体で作られた椅子を引き抜いてヴィクトリアを叩き潰そうとする兵。

「機械なのか」

 クレッツ艦長がうめき、駆け寄ろうとするが間に合わない……

 平然と椅子を振りおろそうとする胴体を、ブラスターの高熱が両断する。

「いいタンカだぜ、嬢ちゃん」

 ハン・ソロがにやりと笑う。

『ありがとう。クリス、聞いていますね?人質は第6ステーションにいるわ。

 いいろな派閥が、処分しようとかバラヤーを脅そうとか、奪い合って宙に浮いていた。

 グリーンフェルド星の地下をうごめいていたソロ将軍に、得になるから探すよう言われていたわ』

 その通信を、タクトとミントが即座に光通信に変える。虚空に浮かぶ潜望鏡が、それを受信してまた虚空に消え……

「サプライズ号を破壊せよ」

 サンドファイア=ボスコーンの命令で、何隻かの無人戦艦がサプライズ号に襲いかかる。

 守ろうとする僚艦が破壊される、無人艦の技術水準が高い。

 そして大口径のレーザーがサプライズ号を狙い、光がほとばしり……はじかれる。

 ミレニアム・ファルコンと、レリックレイダーがシールドを展開し、盾となった。

「ウフォーオ」

「やーっと出番だ!」

 チューバッカの声とともに、二機がサプライズ号を襲う無人艦と戦い、圧倒していく。

「無駄な抵抗を、われが」

 と、サンドファイア=ボスコーンが動こうとした、その時。

 涙滴形の美しい船が、強力な牽引ビームでがっちりと〈ディスペア〉号をつかまえる。

「みんなで撃て」

 と、通信ではなく、全員の心にメッセージが流れる。

「よおし、深皿陣、全艦全力で一点を狙え!星系のほかの施設を破壊しないように」

「了解!」

〈影の月〉を中心に、ルクシオール、ヤマト、アースグリム、リプシオール、デスラー砲艦が次々と空間内に位置を占め、強大な光を集めていく。

 紋章機たちも翼を広げ、陣に加わる。

「デュアル・クロノ・クエイク・キャノン」

「波動砲発射十秒前。総員耐ショック耐閃光防御」

「デスラー砲」

「発射あっ!」

 次々と放たれ、一点に集中する惑星破壊級砲。〈ディスペア〉号のスクリーンが赤、青、白……色を変えていく。二秒、三秒……信じられないことに、耐え続ける。

(これですら、だめなのか)

(なんてシールドだ!)

 戦慄する士官たち。

「くそう……殺せ、コーデリア・ジェセックを殺せえっ!」

 絶叫。

 だが、敵の最後の言葉に、タクトたちは凍りついていた。自分の死よりも……

 特異点の刃も含む集中砲火に、頑丈無比なスクリーンが徐々に崩壊を始める。

 

 静止軌道をめぐる第六ステーションに、何隻ものサンドファイア閥の艦が襲いかかる。

 中の人ごと吹き飛ばそうと、砲撃を始めようとエネルギーを充填している……

 その時。

 虚空から大型の船が出現するや、ステーションのハッチに深く身をめり込ませた。次元潜航艇が浮上したのだ。

 待ちに待っていたクリスとマイルズ、海兵隊が斬りこむ。

「殺せえっ!なすべきことをせよ!」

「タイミングがすべてだ、走れえっ!」

「地図よ」

 ヴィクトリアから送信された地図を、ネリーが受け取り即座に全員が共有する。

 同時に、コンテナから出現したパピヨンチェイサーがサンドファイア側の艦を、次々と粉砕する。

 ステーション内部でも、複数の派閥が争っているようだ。

 さらに、一気に加速したエレーナの船も別の方から横づけし、エレーナ・バズ・フォルテ・ルークが一気に駆けこんできた。

 すさまじい怒りの前に、敵兵は人も、機械も、すべて無力だった。全員、強力なブラスターを装備している。クリスが軍に入ったころのネリーと同等のコンピュータを全員がつけている……三十の目と手、十五の多目的センサーを持つ、広がった生物に等しい。

 マイルズは、何の躊躇もなく敵兵の銃口の前に飛びこむ。頭を下げさせる制圧射撃を、完全に無視して。

 思いがけないタイミングの突進と、身長の低さでわずかに弾道がずれる、狙い直そうとする一瞬で、クリスがグレネードを放つには十分だった……自分たちの安全を度外視した至近距離に。

 そしてマイルズはもう次のドアを蹴り破り、身を投げている。

 エレーナも、躊躇なく自分を投げだして最前線を走り、敵の想像を絶する攻撃をかける。ここまで身命を惜しまない攻撃は、訓練された軍人には逆に想定できない。

 それを、フォルテが精密にフォローする。大口径の旧式火器は、装甲服を着た兵士も圧倒的な運動量で吹っ飛ばす。戦いが激しくなればなるほど、フォルテは冷静になる。

 ルークとシェーンコップは、ぴったりの息で別方面から攻めている。

 実体弾にはライトセイバーは使えない……溶けた金属塊にやられるだけ……が、それは体術でフォローする。敵の射撃の先を読み、射線のすきまに、器械体操のように体を入れる。

「幽霊なのか?なぜだ、なぜ当たらん!」

「大した芸当だな」

 それに惑う敵を、冷徹にシェーンコップが狙撃していく。こちらには一片の容赦もない。

「敵を殺すことより、人質だ」

「そうだな」

 無人の野をのんびり行くかのような二人、その前に、光の剣を構える十数人の、人間とはかなり違うシルエットの存在が出現した。

 骸骨のように痩せ、手足は機械だ。

「ヴ……」

 奇妙な声とともに、鋭く斬りかかってくる。

「これは……ジェダイ騎士のクローンを、さらにサイボーグ化したものか」

 ルークの知らないメイス・ウィンドウが三人。そして若き日のアナキン・スカイウォーカー、さらにルーク自身の顔も二人ずついる。ほかにも何人も。

「シェーンコップ、先に行け!コーデリアを助けてくれ!」

 ルークが絶叫し、最強のジェダイといわれたメイス・ウィンドウの無残な影に、絶望的に切りかかった。

「ああ」

 叫びざま走りだすシェーンコップに、別のサイボーグ・クローン・ジェダイが切りかかる。かろうじて不慣れなライトセイバーで抜き合わせるが、相手はドゥークー伯爵のクローン、圧倒的な強さでシェーンコップの首をはねようとする……

 その機械の体が、あっさりと両断された。

「え」

 無言。柔らかな髪の成人女性。眼鏡に赤い瞳。

「リリィの」

 リリィ・C・シャーベットに、顔は似ている。柔らかすぎる雰囲気は違うが。手には不釣り合いな大きさの、鋼の剣。

 その彼女のとてつもない剣気に、サイボーグ・クローン・ジェダイたちは圧倒され、ルークも、歴戦のシェーンコップさえちびりそうになった。

「アイラ・カラメルと、申します。リリィの母親で師です。子をさらわれた母親の気持ち、誰よりも」

 口調はおどおどしているが、剣技は悪魔としか言いようがない。手練れのジェダイのサイボーグ化クローンや保安局の兵が、大根でも切るように切り倒されていく。

 ライトセイバーに鋼の剣を合わせることなく、微妙に動くだけで敵は首を差し伸べるように転びかかり、さらりと斬られる。

「そ。最後の切り札、ってノアさんがセルダールのソルダム陛下に頼んで、ファルコンに乗せててくれたんだ。で、ヴィクトリアのお嬢ちゃんが、人質を確保しとけっておいらたちをステーションに送ってくれた」

 その後ろで、太助がのんきに笑っている。その腕には、幼い子がくるまれていた。

 写真と見比べ、コンピュータで生体状況を確認したルークの表情が、ぱっと明るくなる。

「救出成功、生きてる。総員脱出せよ」

 シェーンコップの通信に、全員が歓声を上げた。

 

 ステーションの戦いは、ほんのわずかな時間だった……

 そして、二十秒以上耐え抜いた〈ディスペア〉号のスクリーンが崩壊する。地球を軽く蒸発させるエネルギーの前に、どんな頑丈な装甲も瞬時に蒸発していく。中の人たちも……

 

「コーデリア……」

「ああ……ああ……」

 幼い愛娘を抱きしめ、泣きむせぶエレーナ・バズの夫婦と、そのかたわらでマイルズとクリスは大喜びしていた。

「ああ、ありがとう、ありがとうございます」

 エレーナが泣き崩れる。渡された幼子をクリスが、固く抱きしめた。

 

「ピーターウォルド連盟に、ボスコーン派はかなり深く食い込んでいるのが現実」

「できることなら、なんでもする。ありがとう……」

 クリスがヴィクトリアに、深く深く頭を下げた。

 

「さて、あなたは」

 タクトが、援軍の涙滴艦と通信を開く。

「銀河パトロール隊グレー・レンズマン、第二銀河調整官、キムボール・キニスン」

 かつてルークたちが見た、小汚い隕石鉱夫とは一変した、グレーの飾りない制服がだれよりも似合う美丈夫。

「まず、率直なことを。あなたたちは弱い」

 ぐ、とタクトは表情を殺した。そのことは嫌というほど思い知った。

「多元宇宙に出て、自分が弱い、自分の故郷は劣った文明だ、っていやというほど知ったわ」

 クリス・ロングナイフが痛々しそうに言う。

「それを笑えないね。これほど圧倒的な差を突きつけられたら」

 タクトが沈痛に言う。

「そうだ。その程度の力で、〔UPW〕などと名乗るのはおこがましい。

 ボスコーン、ほかにも多くある多元宇宙の脅威に対抗するため、タネローンを守るために、力をつけよ。技術を学べ。将兵を鍛えよ」

「ああ、そうするしかない」

 ファーレンハイトが歯を食いしばる。

「手始めに、先ほどのボスコーン艦が持っていた、バーゲンホルムとスパイ光線、宇宙線からのエネルギー受容機の技術はさずけよう。

 また、智=バラヤー連合とも力を合わせるがいい。

 そして、タネローンを探すのだ」

 そう言って小さなカプセルをルクシオールに放つと、涙滴艦は瞬時に姿を消した。

 タクトたちは、人質救出の目的こそ果たしたが、悔しさに震えていた。

「ああ……そうするしかない。もっともっと技術を学ぼう。多くの多元宇宙と接触しよう。技術をかけあわせよう。技師や将兵を教育しよう」

「はい!」

 新旧エンジェル隊の皆が、うれしそうに声を上げる。

 マイルズが送った、少し弱ってはいるが母の美貌を受け継ぐ幼子、コーデリア・ジェセックの動画に、みんな夢中になっている。

 

 膨大な戦後処理は待っている。多くの巨大艦の、内部の考えられないところが深く破壊されている。

 グリーンフェルド連盟の、奥に食いこんだボスコーン派閥と戦うと決意したヴィクトリア・ピーターウォルドに、タクトたちは多くの技術を資金として与えた。

 渡さずにすんだコンテナの中身は、マイルズの故郷が開発している頑丈なシールドとそれを貫通できる重力内破槍、ジャクソン統一惑星由来のいくつもの遺伝子技術資料だった。

 それは盗品であり、マイルズの故郷で元の持ち主に返すと決めたが、別にマイルズの独断で同水準の技術をヴィクトリアに提供した。

 

 多元宇宙はまだまだ底が知れない。

 レンズマンとボスコーンの争いの前では、ヤマトやルクシオール、そしてガルマン・ガミラスやローエングラム朝銀河帝国も、低技術の土人・虫けらにすぎない。

 今はただ、幼子の無事を喜び、目の前の仕事をこなすだけだ。遠い遠い、はるか星のかなたを見上げながらも……




海軍士官クリス・ロングナイフ
ギャラクシーエンジェル2
ヴォルコシガン・サガ
スターウォーズ
銀河英雄伝説
宇宙戦艦ヤマト
レンズマン


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エンダーのゲーム/時空の結合より1年半

 ルシタニア星の近くに、クロノゲートが開き〔UPW〕の船が訪れたのは、ウィル戦が終わって間もないころだった。

 通信を受けた住民は、絶叫するように止めた。

「近づくな!この星はとんでもなく危険な病原体に汚染されています!

 そしてこのルシタニアは、〈百世界〉の代表ではなく、反乱者です。スターウェイズ議会と接触するなら、ここから22光年離れていますがトロンヘイム星があります」

 ルシタニアの、人類である住民は苦しんでいた。自らが犯してしまった罪……復讐にかられ、友と誓ったペケニーノを虐殺したことに。そしてバガーと粛清艦隊、病の恐怖に。

 

「このゲートは厳重に監視してください。デスコラーダ・ウィルスの入ったプローブが通過するかもしれません」

 その連絡に、〔UPW〕はゲートの出入り口に大型の無人衛星を常駐させ、連絡がなければウィルスより大きい物体はすべて破壊するシステムを構築した。

 

 ルシタニアとの連絡は安定していたが、しばらくは電波を通じた情報のやり取りが主だった。ルシタニアから直接物資を上げることはできなかった、デスコラーダ・ウィルスに汚染されている可能性があるから。

〔UPW〕は、その反乱に対しても中立の態度を取った。〔UPW〕の助けがなくても、ルシタニアの人々は問題を一つ一つ解決した。

 フィロティック物理学を、生命を深く理解した。ジェインを用いた、超光速どころかどんな距離でも瞬時に移動できる航法をつくった。デスコラーダ・ウィルスの毒性と知性を抜き、ペケニーノたちの生命と変態を維持できるウィルスを作った……妙な副産物はあったにせよ。

 ジェインがフィロトの糸を伝い、この時空の外側に出た……その時に乗っていたミロは、健康な肉体を作ってそちらに魂を移し、古い肉体はあっさりと崩壊した。そしてエンダーの両隣には、若いころの姉ヴァレンタインと兄ピーターがいた。どちらもエンダーの記憶から創り出されたものだ。

 

〔UPW〕も、フィロティック物理学やアンシブルの知識と引き換えに、ある程度の支援はした。艤装前の中型船をいくつか、ルシタニア母星に近い惑星軌道に運び、一万人程度なら半永久的に暮らせるコロニーとした。

 だが、それは木に変態するペケニーノにとっては暮らしにくい場であり、あまり人気はなかった。

 むしろ、降下した……汚染の危険があるので〔UPW〕は所有権を放棄する……シャトルに積まれた、先進的なコンピュータのほうがありがたがられた。

 

 別に、超光速のクロノドライブでトロンヘイム星に行き、スターウェイズ議会にも接触した。その対応は、〔UPW〕にとってはすっかり慣れたものだった。要するに現実を拒む者が多い。証拠も見たがらない。

 ルシタニアが反乱と同時に交信を絶っていた……にもかかわらず『ヒューマンの一生』などルシタニア由来という情報が多く流れたため、多くの要人が疑心暗鬼になっていたこともある。実はジェインが切ったふりをしていたのだが。

 トロンヘイム星の人々は、何年も前に旅立ってはいたがヴァレンタインが長く滞在し、多くの人を教育していただけに比較的柔軟だった。その人々は、アンシブルを通じて知っている人に、多元宇宙について伝え始めた。

 スターウェイズ議会が口を封じようとしても屈しなかったし、議会の制御を受けない裏回線は広くあった。

 またルシタニアの別働隊として、超光速で動いていたピーターと惑星パスのシー・ワンムが、上層の思想家たちから説得していたこと、何人かの予言者のような人たちが事実を受け止めたことが、動きのきっかけになった。

 巨大な人間集団というのは、大きい船のように動きが鈍い。舵を切ってもなかなか曲がりださない。

 それが動くまでの間、〔UPW〕は半ば無関心に見守っていた。

 だが、その状況は一変した……〔UPW〕がボスコーンに敗北し、レンズマンと出会ったことで。

 

 エンダー・ウィッギンは、ぬけがらになりつつあった。

〈異類皆殺し(ゼノサイド)のエンダー〉にして、初代・死者の代弁者。人類の救世主であり、人類最悪の犯罪者であり、魂の救い手であり、人類史上最大のベストセラーの書き手であるアンドルーが。

 妻ノビーニャは〈キリストの心の子ら〉修道会……宇宙時代になって新設された、結婚と禁欲を同時に義務づける……に入り、研究を含め世俗とのつながりを絶ってしまった。

 できたばかりの超光速船を動かす仕事は、〈外側〉で作りだされた二人が引き継いでいる。

 エンダーの肉体はゆっくりと崩壊を始めており、魂は若いピーターとヴァル二人に分け与えられていた。

 だが、〔UPW〕はエンダーを必要としていた。多元宇宙屈指の軍事指導者を。〈死者の代弁者〉、比類ない洞察力を持つ賢者を。

 

 特に、エンダーを助けろと叫んだのが、突然訪れた第二段階レンズマン、ウォーゼルだった。

「彼は必要である、多元宇宙の軍事力をまとめ、ボスコーン……ほかにもある大きな悪に対抗するために。死なせてはならない!」

 恐ろしい姿……多数の、柄に支えられた目を持つ竜……第二段階レンズマンである彼はエンダーを、そのレンズでじっと見つめた。

「アイウア……魂は一つ。肉体は三つ。エンダー、そして若いヴァルとピーター。さらにジェインも、魂が密接に混じっている」

 ウォーゼルの声にも、皆だいぶ慣れてきている。

「ジェインも、大切なラマンなのです。死なせてはならない」

 ミロが強く言った。

「でしたら、われわれのコンピュータを使ってみますか?」

 ロゼル・マティウスが提唱する。

「いえ、その前に……そう、あちこち試してみるように、と窩巣女王から」

 エラが首を振った。

「でも、魂はまだ完全には理解されていないわ、いじって大丈夫なの?何が善で何が悪か、わかっているの?」

 傷つきすぎたエンダーの妻、ノビーニャは修道会の立場から言った。

 シー・ワンムが静かに答えた。

「善とは……こう思います。他人の成長を願うこと。自分がもっている良いものを、すべて他人にあたえようと願うこと。できることなら悪しきことは取り除いてやること」

 ノビーニャは素直にうなずけなかった。

(なら、なんで死んだの!)と、死んだ両親やピポ、リボに訴えていた。

 無論、彼女は身勝手だ。デスコラーダ病を研究して死んだ両親は同胞と娘のために研究に身をささげた。ピポとリボは同胞のように愛するようになったペケニーノにつくし、そして儀式のためとは言えペケニーノを刃で切り刻めなかったため、犠牲になった。ノビーニャは、自分だけのために生きてほしい、全存在を自分に向けてほしい、そう願っている……それは幼子が母に求めるのと同じだ。

 クァラも、「どんな甘っちょろい育ちしてんのよ」と、ワンムの悲惨と言える育ちを百も承知で怒鳴りつけた。

 司教は「いや、ワンムの言葉こそ、善だ。『あなたの神を愛せよ』『自分を愛するように隣人を愛せ』それこそ律法の、イエス様の教えのすべてなのだ」と、認めた。

 

 そしてジェインは、エンダー・ヴァル・ピーターの三人の肉体、そしてペケニーノ……第三の生を生きている父樹、そして母樹の間を駆け巡った。

 エンダーたち人間は、体をのっとられそうになる衝撃に改めて、自分は生きたいということを再確認した。

 また、ジェインの力を通じて母樹と語り合えた父樹たち、そして母樹が何万年かぶりに実らせた花と実を味わったペケニーノたちの喜びも大きいものだった。

 その経験で、あちこちを飛び回ることに慣れてきたジェインは、リプシオール級が持ってきた試作コンピュータに飛び移ってみた。

 もともとリプシオール級も、航路計算や機関制御のために強力なコンピュータを持っている。

 量産型紋章機には、クロノ・ストリング・エンジンの制御も可能にする先進量子コンピュータがある。

 ナノナノ・プディングの故郷、ピコ星に残るナノマシン技術から作りだされたナノマシン集合体がある。

 加えて、クリス・ロングナイフがもたらしたネリーをコピーし、改良したきわめて先進的な携帯コンピュータがある。三種族の遺物を〈紅き月〉が解析した、とんでもないコンピュータも試作されている。

 R2-D2・C-3POやミレニアム・ファルコンのコンピュータも解析され、ドロイド技術もろとも量産試作の段階に入っている。

 ノアがアンシブルを用いるコンピュータを理解し、さらに改良した、クロノ・ストリングを用いる試作的な超光速コンピュータも運ばれてきた。

 それらを試験的につなげたコンピュータは、〈百世界〉の何万ものアンシブルコンピュータの集合体の、何十兆倍ものメモリと計算速度があった。

 フラクタルの無限を内包した母樹たちには及ばないにしても、ジェインを受け止めるには十分だった。

 

 また、〔UPW〕はエンダーにも、新しい肉体を作り始めた。古い肉体の崩壊が止まらないことは明らかだったからだ。

〔UPW〕総がかりで作りだした、新しいエンダーの体……

 保存されていた、エンダーのDNA。

 ナノナノ・プディングと同系のナノマシン。

 事実上人格を持てる、ネリーのコピーを十個ほど。

 暗黒星団帝国やアナライザー、ドロイドの技術を用いた機械ボディ。

 それらをひっくるめ、刻んで混ぜて、健全な中年男性の肉体を一つ作り上げたようなものだ。

 

 同様の、美女の体はジェインにも提供された。完全な人間とは微妙に違うにせよ、人間に混じって生活するには支障はなかった。

 ……信心深いカソリック系のルシタニアでは、教会とかなりの軋轢にはなったが。ピーターとヴァルが〈外側〉でエンダーにより作りだされた時も、神に創造され受肉したアダムとイブの子孫ではない……洗礼を受けさせるわけにはいかない、と教会と軋轢になった。

 だが、教会はその軋轢のことは忘れていた。ウォーゼルがレンズの力を用い、エンダーとヴァレンタインを除いて記憶を操作した……ピーターとヴァルは最初からエンダーとノビーニャの子供だ、と。

 教会関係者が書類を調べれば洗礼記録がないことに戸惑うかもしれないが、そのことは意識されないように精神を操作されていた。

 

 ちなみに〔UPW〕でも、例えばナノマシン集合体であるナノナノ・プディングは洗礼を受けられないだろう。受ける気もないが。……暗黒星団帝国は全員自害したため捕虜がいないが、帰化する捕虜がいたら教会とは軋轢になったかもしれない。

 本当は、今のエンダーと若いヴァルには魂が欠けている。その問題を解決するため、ウォーゼルは二人を故郷、惑星アリシアにいざなった。

 ゲートから〈ABSOLUTE〉、クロノゲートで〈EDEN〉に出、トランスバール皇国領のローム星にあるゲートからリゲルに出て、そこからアリシア。短い旅ではない。

 

 

 ウォーゼルたちが出かけた直後に粛清艦隊が襲ってきたが、それは〔UPW〕と、超光速どころか即時移動が可能になったピーターの、ただの気密カプセルでしかない船が抑えた。ジェインが情報さえ覚えていれば、絡み合うアイウアをフィロトの糸を通じて〈外側〉に一度持って行き、また好きな場所で再構成できる。

〔UPW〕は次元内での政権交代には不干渉……クーデターさえも容認するが、ジェノサイドだけは止められれば止めるのを方針としている。

 ちなみに、ドクター・ディバイス……分子破壊砲、たいていのシールドを通して焦点を結び、そこに高密度の物体があれば、分子のつながりを断つ連鎖反応を起こす、戦艦でも密集した艦隊でも、惑星すら破壊する最終兵器も使用されかけた。それはピーターが敵艦の倉庫に返し、使用不能にしたが、〔UPW〕はレンズマンにもらったスパイ光線で隅々まで調査し、リバースエンジニアリングを開始した。

 そして、〔UPW〕とスターウェイズ議会は本格的に交渉を始め、またスターウェイズ議会は、ルシタニアにおける多くの科学の進展や、デスコラーダ・ウィルスを散布している星の情報をやっと受け入れた。

 またルシタニア以外の星も、〔UPW〕の技術……最近、キムボール・キニスンに提供された、近くの恒星のエネルギーを宇宙線の形で直接受容できる技術も含む……を受け入れた。

 超光速船は、それまでの恒星間旅行の常識を一変させた。それまでは、エンダーがそうしたように、光速ぎりぎりで恒星間を渡り、乗員は年を取らないが故郷の家族友人は、特に往復したらこちらは数日でも故郷は何十年後、知っている人はみんな死んでいる……だった。実質片道切符だったのだ。

 それが、恒星間を数カ月……新型のバーゲンホルム船なら分単位、ジェインに負担がかかるが計算船なら瞬時に航行できるようになった。

 特にジェインを用いる計算船は、計算能力は必要だが船そのものの設備が必要ない。要するに気密カプセルでいいのだ。……〈外側〉で余計なものを産み出すリスクもあるので、人気はないが。

 太陽系で言えば水星・火星・木星や土星の大型衛星・冥王星といった不毛な星々に、短期間で億単位の人間やバガー、ペケニーノが居住できる見通しもできた。

 それまでの〈百世界〉は、無人機が光速ギリギリで観測した情報をアンシブルで受け取り、緑の木が生えている惑星に入植するだけだったのだ。生命のない岩塊でも使えるとなれば、候補は百倍以上に増える。

 さらに、〈ABSOLUTE〉から行ける何万もの無人時空にも、バガーとペケニーノも入植が認められることになった。それで全滅の可能性は大幅に下がる。

 

〔UPW〕も、待望のアンシブル……どんな遠距離でも即座に通信でき、コンピュータの最後の制約である光速の制約を破る装置を手に入れた。

 またバーゲンホルムで接近し、マイルズが渡した事実上あらゆるシールドを貫通する重力内破槍と、たいていのシールドを無効にし惑星すら破壊する分子破壊砲で攻撃、即座にバーゲンホルムで消え失せる、という戦術を量産紋章機に標準装備するようになった。



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ギャラクシーエンジェル2/時空の結合より1年7カ月

 幼いコーデリア・ジェセックが救出され、連合艦隊は大型艦公園内でのピクニックを終えて解散した。

 フラーケンらガルマン・ガミラス帝国艦、ヤマト、ファーレンハイトは、大変なおみやげを持ち帰ることになった。技術だ。

〔UPW〕からは、クロノ・ストリング・エンジンとナノマシンの技術。

 マイルズ・ヴォルコシガンが独断で提供した、レーザーとミサイルを実質無効にするシールドと、それを貫通する重力内破槍。致命傷を負っても脳が無事なら携帯用器具で冷凍睡眠状態にし、後に内臓を培養して治療できるシステム。最高の非致死性兵器スタナーと、絶対自白薬の即効性ペンタ。

 クリス・ロングナイフからは、きわめて高度なウェアラブルコンピュータとスマートメタル。

 レンズマンからもらったバーゲンホルム。

 タクトは、そのすべてを皆に提供した。

「ま、まさか」

「そのまさか。コーデリア救出作戦に参加してくれた戦士たちへの、気持ちだ」

「皇帝直属聴聞卿として、バラヤー帝国を代表した感謝の気持ちです。この程度では、この感謝の十分の一ですらない」

 タクトとマイルズが深く頭を下げた。

 そしてミルフィーユやカズヤのお菓子がたっぷりと用意された、心のこもったパーティで別れを告げ、外交・貿易制度を整えた。

 

〈ABSOLUTE〉のセントラル・グロウブはウィル戦で崩壊しており、今は〈黒き月〉が作った巨大戦艦を集めて仮の設備を作っている。

 パーティ会場も港も、艦船の整備・訓練場もそれらにある。

 事実上無限の虚空に、無数のクロノゲートが浮かぶだけの時空だ。

 資源は無人の時空から小惑星を持ってくれば、あっというまに巨大戦艦・戦闘要塞を次々と作りだす。数年前から、〈黒き月〉のような全自動工場を作る全自動工場の研究が進み、トランスバール皇国を中心に生産力が爆発的に増大しつつある。

 他との連絡が取れなくなる場合にも備え、資源も地球三個分ぐらいは準備されている。

 

「さて、君たち一家にお願いがあるんだが」

 タクトがエレーナ、バズ、幼いコーデリアの一家に語りかけた。

「はい」

 コーデリアが、このパーティの主役だった。戦勝ではないが、任務は成功しているので、『コーデリア・ジェセック誕生パーティ』と強引に名づけてしまった……誕生日とはまったく違う日なのだが。幼い彼女は何百人もの、男女比が男に偏っている人たちに抱きしめられて、囚われていたときより疲れているようだ。

「マイルズとも相談したんだが、君たちには人質としての価値がある。故郷時空で船を動かすのは危険すぎるし、バラヤー帝国に保護されるのも嫌だ、そうだね?

〔UPW〕に就職してほしいんだ」

 エレーナとバズは、その頼みはわかっていた。一瞬のためらいもなく、

「はい、喜んで」

 と手を差し出した。

 タクトは両手で、二人の手を強く握り、にっこりと笑った。

「とても忙しくなると思う。多元宇宙を結ぶ外交、文明のない時空を探検しながらの航海、軍事。それができる人材の育成、教育。凄腕の傭兵で、恒星間船も経営してきた君たちが加わってくれるのは本当にうれしいんだ」

 それにお世辞が一片もないのは、レスターやココの表情を一目見ればわかった。

「マイルズ、君もバラヤーに帰るのかい?」

「もう出かけてから、一年近く……帰りたいですが、これから仕事はたっぷりあるでしょう。トランスバール皇国やセルダールにもお礼にうかがわなければ」

「そうだね。ルーク、君たちは?」

「しばらく、ジェダイの技を教える学校の基礎を作りながら『タネローン』の情報を調べて、帰るつもりだ。あと、あのおみやげはいらない」

 ルークは笑顔だが、ハン・ソロはちょっと文句を言いたそうだ。

「そう言ってくれて助かる。内戦の結果を大きく変える、内政干渉になりそうだから。それにジェダイの技術を若い兵たちに教えてくれるのもありがたい。

 クリス、君たちは?」

 タクトがまた目を向ける。

「太助さんと、少し五丈を訪ねてみたいと思っています」

 クリスは、故郷に事実上居場所がない。行く先々で騒動を起こしているからだ。侵略を防ぎ戦争を食い止めたのだが、事なかれ主義者から見れば呪いのような存在なのだ。

「わかった。〔UPW〕からもメッセージを書くよ。あと、よかったらワスプ号の改造を進めておく。太助の貢献に対する感謝も添えておく」

「太助、きみにはバラヤーも心から感謝しています」

 マイルズの礼はよく計算されていた。周囲の貴族を不快にさせないギリギリで、本来雑兵に属する太助が困惑しないよう、水準を合わせて感謝を尽くした。

 大貴族に生まれながら、最下層の傭兵まで広くつきあってきたからこそできることだ。

「いいっていいって」

 と笑う太助だが、酒やごちそうには遠慮をしない。

 太助は五丈からの使者や文官の、彼の重要性を知る者とひそかに接触していた。そして雷が直接の報告を、多くの並行時空の情報を喉から手が出るほど求めていることも知っている。

 

 そしてマイルズ一家は、クロノゲートを通って〈EDEN〉に赴いた。

 バラヤー帝国を代表して、また同じ〈ワームホール・ネクサス〉出身者も頼ってくるので、外交の仕事も多くある。また、ボスコーン=ピーターウォルドの麻薬商人狩りも頼まれた。

 マイルズが知るエオニア戦役から、皇国にも多くのことがあった。

 ヴァル・ファスクの襲撃、それに対応する反撃からEDEN星系ジュノーの発見、そしてヴァル・ランダルを中心としたヴァル・ファスクとの決戦。

 敵の最終兵器を防ぐため、時空のはざまにとらわれたタクトとミルフィーユを救うために〈ABSOLUTE〉を発見し、〈NEUE〉との交流が始まった。

 その後、ヴェレルの乱、ウィルとの戦いを経た〔UPW〕は、突然多数の有文明時空との接触を迎えた……

 歴史を教わり、ルーンエンジェル隊との親睦も深めながら、マイルズはトランスバール本星を訪れた。

 かつて多元宇宙の戦いでタクトたちとともに戦ったときは、常に戦いと旅の中だった。

 じっくりと星を見る時間などなかった。

「いい星ですね」

「あの時は、本当にひどかった」

 迎えに出たシヴァ女皇と楽しく笑いあい、ニッキの気まぐれに従った、予定も何もないツアーがはじまる。

 シヴァにとってもいい気分転換になる。彼女はその美貌と戦いをくぐった実績もあり、民にも慕われている。

 軌道からの無差別爆撃で一度は荒廃したトランスバール本星だが、急速に復興している。

〈黒き月〉の、圧倒的な生産力。エオニア戦役から半年で巨大要塞と無人艦隊を作りだしたほどだ。それを破壊ではなく住居や工場にしたり、恒星近くの軌道に透明屋根のドームを固定して農場とすれば、膨大な力となる。

 人間は自動工場や収穫を助けるだけだが、それだけでも焼け出された膨大な人たちに十分な職があった。

 ブラマンシュ商会を中心として、経済は円滑に動いていた。

 

 マイルズが訪れたのは〈EDEN〉だけではなかった。ウィル戦以前からつながる時空〈NEUE〉、〈PHOS〉、〈RUIN〉、〈ALTE〉、〈SKIA〉を次々と回ることになった。

「この間までは、人がいる時空はこの六つだけだった。ヴァル・ファスクの、クロノ・クエイク・ボムで超光速航行ができなくなり、衰退していた。

 トランスバールもその一つで、剣と馬の時代があった、それがバラヤーと同じだと前にも話したな。

 この〈EDEN〉と、魔法などが残っていた〈NEUE〉はまだ文明があり、成長していたほうだ。ほかの四つはかなりひどい状態で、放っておけば滅んでいたと思われる。

 ウィルにやっと勝利し、〔UPW〕はその四つの支援に力を入れよう、そのときにあの時空震から、いくつもいくつも文明が栄え、クロノ・クエイク・ボムの歴史を共有せぬ時空とつながってしまった……おかげでそなたとも再会できて、うれしい」

 笑うシヴァはもう立派な、美しい女皇だった。傷つき張りつめ、性別も偽った子供の面影はもうない。言葉は少し男言葉だが。

「そちらの、グレゴール皇帝陛下はもう結婚したのか?」

「はい、二年ほど前に」

「それは残念だな。今私は、誰と結婚すべきかがいちばん問題とされている。本当は問題は他にも多くあるが」

「あいつがそれを聞いて陛下の写真を見たら、さぞ残念がることでしょう」

「皇后陛下に言いつけますよ」

 エカテリンがにこやかにほほ笑む。

 仲のいい夫婦を見て微笑したシヴァは、

「ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝も、どうやら……」

 と、エカテリンを見る。

「ええ、明らかに腹心のヒルデガルド・フォン・マリーンドルフさまと」エカテリンは楽しげに答えた。「残念ですね、ラインハルト陛下とシヴァ陛下……どれほどの美男美女になったか」

「私は少し若すぎるな。いや、マリーンドルフ嬢も」シヴァが写真を並べ、「素晴らしい美女で、お似合いではないか。デスラー総統閣下はどのような方だ?独身か?」

 など、話は尽きない。

 かつての戦いから今までの歳月、それぞれが経験した戦いも語り合う。

 この上なく率直に、弱さもすべてさらけ出して。

「デンダリィ隊は引退したと聞いた」

「はい。……全部聞きますか?それとも表向きだけ?」

「辛いことのようだな。話したくなったらでいい」

 マイルズにはありがたかった。彼にとっては、今も痛みと恥に満ちたことだ。

 シヴァがふっと震え始めている。

「私は恐ろしいのだ、いくつの時空があるのだ?どれほどの戦力の時空が?〈ABSOLUTE〉は、その中でも重要すぎる位置にある。だれもが欲しがるだろう。

 今も〈SKIA〉に開いた門から、奇妙な敵が攻撃してくる。撃退はしているが。〈ABSOLUTE〉にせっかくつながったのに、一方的に服属を求め攻撃してきたので閉鎖した門がいくつもある。

 それにこれからもあちこちで、ローエングラム帝国で起きたような戦もあるだろう。虐殺を止められないこともあるかもしれない」

 そう、口にしただけで激しく震えている。

 マイルズは黙っていた。

「私は天才ではない」

 その言葉には、生木が割れたような、ぷんと青臭い香りがたちのぼるような痛みがあった。

「アザリン陛下……直接はお目にかかっていないが、ラインハルト陛下や竜牙陛下……ペリー・ローダン大執政官、デスラー総統……偉大な帝王が何人もいる」

 マイルズは、言っていいか一瞬迷った。

「グレゴールも、同じことを悩んでいます。あなただけじゃない」

「そうだな」寂しげな、それでいてうれしげな微笑。「そして新しい技術……バーゲンホルム。アンシブル。さらに新しい技術が手に入るかもしれない。マイヤーズたちが直面したように、われらを子供扱いする技術を持つ敵と会うかもしれない。

 どうなるのだ、これから?」

「技術を、変化を恐れるのは、まともです。われらバラヤー帝国は、多元宇宙以前でさえも、新しい技術による社会の激変で誰もが大変な思いをしてきました」

 マイルズ自身、新技術による社会の変化とは縁が深すぎる。彼の祖父ピョートル・ピエール・ヴォルコシガンは、剣と馬の世界からセタガンダに抵抗するため宇宙技術を手に入れて戦った英雄である。待望の孫は、母の胎内にあるうちに両親が受けた毒ガスの解毒剤の副作用で、ゆがんだ体のまま人工子宮で育った。奇形のある子を殺す伝統があったバラヤーで育ったピョートルにとって、マイルズの存在を受け入れるのは不可能ですらあった。

 祖父に命を狙われ、毎日のように最先端の医療を受けてやっと育ったマイルズにとって、技術の変化とその受容は存在そのものにかかわっている。

(〈白き月〉がトランスバール皇国にもたらしていたクロノ・ストリング・エンジンでは、400年で128の星しか統治できなかった……退廃と腐敗で足を止めたのだが、エンジンの性能がもっと高ければもっと広い範囲を開拓していただろう。

 それが、圧倒的な速度を誇るバーゲンホルム航法と、さらに桁違い……無限速度であるジェイン航法、さらにアンシブルによって一変するだろうな。

 それだけでなく、普通の人の生活だって、クリスの使いやすいコンピュータが普及したらどうなることか)

 マイルズには、見えていた。

 六つの時空ではもう、何百という無人機がジェイン航法であちこちの恒星を探査し、アンシブルで情報を送り返してきている。その何百はすぐに何百万となる。一つの時空に、恒星は千億の千億倍あるのだ……新しい航法では銀河間距離も無視できる。

 新技術による変化は、ローエングラム帝国でも予想されている。

「こちらで聞いた、あなたがしてきたこと……戦ったのはマイヤーズ長官やナッツミルク准将ですが、彼らを信じぬいたあなたの功績ですよ。それだけで、十分にラインハルト陛下にも肩を並べられます」

 シヴァは、ほんの数秒沈黙して微笑した。

「こう、気持ちが沈んでいたらそなたは、すぐに山登りに連れ出してくれたり、厳しいトレーニングを課したりしてくれたな。そして楽しい話を聞かせてくれた。

 そうそう、何度も話してくれたな、グレゴール陛下が家出されて、半ば売られて電気の仕事をさせられて喜んでいた、そなたは毎年二週間ほど塩鉱山で重労働でもさせればいいと思った、と。私もどこかで重労働でもすれば、気分よくなるだろうな」

 マイルズはすっかり恐縮し、エカテリンは目を丸くしていた。彼女は、グレゴールの「家出」の話は初耳である、当然極秘事項だ。今の彼女ならあらゆる機密が許されているので問題はない。

 シヴァもマイルズも、かつて多元宇宙の旅で、ともに敵の手から逃れ名もない森と鉱山の星で、数人の仲間と狩りで生き延びつつ鍛治を手伝って船を修理したこと……またシヴァたちを幼年学校式に教育しながら銀河鉄道で旅をしたことを思い出し、なつかしさに胸があふれそうになっていた。

「エカテリン、そなたにも話したいことはたくさんあるぞ。昔の旅でマイルズが……」

 悲鳴を上げながらも、彼にはシヴァとエカテリンの笑顔がまぶしく、うれしかった。

 

〈ALTE〉をマイルズたちが訪問していた時、そこでちょっとした噂が入った。

 人類が生きていた星は一つだけ……自力では宇宙にも出られず、資源枯渇や環境汚染によるじり貧を待つ星があるだけだったが、〔UPW〕の支援で急速に復興している。

〈黒き月〉ばかりでなく、白・赤・青・緑・黄の六色の月が次々と技術を出し、冥王星程度の星を短期間で多数の船・スペースコロニーに変え、農業や工業の生産も増やし続けている。

 虐殺はさせない。誰も餓死しない。働けば豊かになれる……それを徹底している。

 過剰な人口はそのまま労働力として、広い時空の開拓に回っている。

 そのうえで、ウィルのように先進文明を押しつけることはしない……ある程度住民の自主性、時空ごとの文明の成長を尊重するため、とても神経を使う仕事だ。

 

 さらに最近手に入れたバーゲンホルム、ジェイン航法、アンシブル。それらを用いた時空全体の探査も進んでいる。

 昔のクロノ・クェイク・ボムで孤立し滅んだ星も多くあり、遺跡が次々と発見されている。

 そんな探索担当者のあいだに、『蜃気楼の都市』のうわさが流れてきた。

「恒星も何もない星間空間に、ふっと二万キロメートルはある豪華な都市が見えて、そのまま消えるんだってよ」

「ん、んなばかな」

「予兆波は?」

「何もなし」

「ひょっとしたら、それがタネローンかもしれない」

 そう思ったマイルズは、ジェダイ学校を作っているルークを誘ってみた。リリィの母で師でもあるアイラ・カラメルもおり、剣術とフォースを教え合っている。

 彼女は迫害されている赤い眼の一族の生き残りであり、セルダールでは正直肩身が狭いのだ。

 その剣術は、ルークやシェーンコップですら足元にも及ばない。ヨーダでも勝てるかわからないほどだ。フォースを習得するのもあっという間だった。

 トランスバール皇国やセルダールの軍人も習いたがる者は多く、資質が高くダークサイドに落ちにくい者を選ぶのに苦労している。

 霊体であるヨーダとオビ・ワンも、文句たらたら手伝っている。ヨーダはルークどころかアナキンの訓練にすら反対したほど、幼児期から訓練する掟の時代の人だったので、特に文句が多い。

 ルークがそちらをやっていると、ハン・ソロたちは暇になる……が、彼らはひたすら、ミレニアム・ファルコンを新しい技術を全部つっこんで改良するという楽しみがあった。

 クリス・ロングナイフのワスプ号とファルコンの二隻は、あらゆる文明のテストベッドとしてひたすら強化改良が進められている。

〔UPW〕のタクトは、マイルズたちの探査のために巡洋艦を一隻動かしてくれた。ロゼル・マティウスとナツメ・イザヨイがつく。ルーク用にも戦闘機が用意された。

 ルークは、せっかくだからと学校ぐるみ連れていくことにした。

 

 

 そのころ、太助に先導されたクリス・ロングナイフのワスプ号は〔UPW〕からクロノゲートで金洲海に出た。

 全権大使としてランファ・フランボワーズも同乗している。

 斉王都に着いた太助は、王宮とはまったく別のぼろ寺に一行を案内した。

 やぶれ板の影から、いくつもの目が一行を見ているのがわかる……そして、太助が仏像の頭のぶつぶつを、いくつか順に触ると、突然足元の床が開いた。

 そこから、柔らかく照明された長い地下通路が通じていた。

 光が見えて、出ると、そこは明るい王城の真ん中だった。

「いざというときの脱出路も兼ねるのね、でも」

 それを教わっている、深い信頼を意味している。

 光に満ち、木々と池の中のあずまやの、大きいかまどに見せかけた出口から出た一行を、竜が待っていた。

 若い男。右脇には柔らかな印象の美女。左には、魁偉な巨体の僧侶と、柔らかな羽扇を持つ優男。

「兄き!」

「太助、よく帰ってきてくれた!」

 満面の笑顔で、覇王は雑兵時代からの親友、年齢より若く見える凄腕の密偵を迎えた。

 クリスたちが目を丸くしているのを見て、雷も太助も大笑いしていた。

「お姫さん、やっぱり全然信じてなかったろ!」

 兵募集の張り紙を見て応募し、雑兵から雷・太助、破戒僧で今は近衛隊長の雲海和尚はともに戦ってきた。

 雷が小隊長から師団長、王と出世しても絆は変わらず、雲海と太助は主に裏から助けてきた。太助は敵の軍師を陥れたことがあるし、雲海は雷の側室の一人、旧主の娘である麗羅を保護した。

 クリスたちは、その話は話半分に聞いていた。だが、目の前にあるものを先入観で否定するほど愚かではなかった。

 新王の笑顔には、へだてがない。

 そして、その瞳が使者たちを射抜く。百戦錬磨の二人が圧倒された。

 明らかに、前線で戦いぬいてきた兵士の迫力。クリスの曽祖父レイ王をしのぐ圧倒的なカリスマ。

(ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝やデスラー総統と……比べられるほど、わたしの物差しは大きくないわ)

 クリスはその目を見るだけで、吸いこまれそうだった。

 ランファも呆然としていた。いつものように、いい男と騒ぐ余裕などない。

「〔UPW〕のランファ・フランボワーズさまに知性連合のクリス・ロングナイフさま、斉王都にようこそいらっしゃいました」

 雷の正室、紫紋がしとやかに一行を迎える。深い気品のある優しい微笑に、使者たちはこれまた圧倒されていた。

「素晴らしい美女をお迎えでき、うれしいですなあ」

 軍師の師真が、こちらは遊び慣れた優雅さと、綿中の恐ろしく鋭い知性で客を測っている。クリスもランファも、その針を見落としはしなかった。

「タクト・マイヤーズ〔UPW〕長官は、太助殿の功績に大変感謝しております」

 ランファが圧倒されながら、必死で感謝を伝える。

「何かやったんだな。どんな旅だった?」

 雷の声と目配せに、衛兵たちや忍びの気配が消える。残った者は機密を聞くことを許されているようだ。

 そのまま、長い冒険談が始まる。

 太助は話しながら次々と、デスラーやラインハルト、シヴァやタクト、レイ王からの手紙……高度な技術で作られたホロビッドやタブレットを渡し、使い方を教えて見せている。

「こりゃすげえ。これが将兵にいきわたっていたら、いくさはまるっきり変わるぜ」

 雷はにっと微笑する。

(頭もいいようね)

 ごく、とクリスののどが鳴った。

 短い話だけでも午後いっぱいかかり、そのまま酒食を持ちこませて話をつづけた。

 クリスも、あちこちでさまざまなものを食べてきた。珍しいごちそう……熱した油をかけた大魚、香辛料の強い細肉と野菜の炒め物、太い麺、熟成期間が非常に長い酒なども、おいしく食べた。

「その麻薬商人や海賊の話は前も出たな、師真」

「ああ。ものすごくしっぽをつかみにくい。それほど高い技術があり、下手に戦ったら全艦隊でも返り討ちにされかねないとは……総攻撃をしなくてよかったな」

「その件は、レンズを持った人に任せるのがいいでしょう。あの人たちは心を読めます、心の中に伝えたいことを浮かべていれば、それで伝わりますよ」

「しゃくにさわるな。宮廷にも入ってると思った方がいいな、気をつけておいてくれ」

「はい」

 紫紋の厳しい表情に、使者たちはあらためて見直した。

(戦国の女ね)

(ただのお姫さまじゃないわ。太助が尊敬しているわけね)

「あちこちの薬物の、症状のリストです」

 クリスが渡した紙束を、紫紋はふたたび柔らかな雰囲気で受け取る。

「ありがとうございます」

 三人それぞれから話を聞くだけでもかなりかかった。

 クリスが改めて驚いたのが、太助の報告だ。彼女と何十人もの一行は全員、録音録画つけっぱなしですべてを記録している。それを総合できる彼女より、太助は細かいところ、重要なところをよく見、しっかりと記憶している。

 服装、歩き方、庶民の飲食物。どんな商売が売れているか。交通機関、その運航の安定度。政府に対する人民の不満、公務員の腐敗。貧困層の暮らしぶり、麻薬中毒患者がどれぐらいいるか。どんな娯楽が流行っているか。

 また下層の、使用人層のうわさを通じて、どの時空でも有力者たちの人間関係をよく知っている。誰が誰を嫌いか、どの奥方が誰と不倫しているか、誰が本当は同性愛者や禁止された宗教の信者か、誰の好きなものが何か、誰が危険思想を読みその弱みを誰に握られているか、誰が本当に忠実か……恐ろしいほど広く知っている。

(この話を、オーベルシュタイン元帥やケスラー憲兵総監が聞いたら絶叫するわね)

 何よりクリスが恥ずかしくてならなかったのは、自分が何も知らないグリーンフェルド本星の内情も地理も軍事配置も、ひと月足らずで調べ上げていたことだ。

(至急マクモリソン、いやトラブルおじいさまに送らないと!いいえ、これは私に聞かせていい部分。本当のところは主君だけに話すつもり)

 クリスの口はふさがらなかった。

 それから、ランファはいくつか貿易に関する話をまとめて〔UPW〕に帰った。

 クリスは太助とともにしばらく新五丈で麻薬売人(ズウィルニク)狩りに精を出し、また旅立つことになった。

 

 

 半年近く、虚空を駆け回ったマイルズたちが見つけたのは、光り輝く蜃気楼のような都市だった。

 時には別の時空に戻り、巡洋艦は艦隊に返して戦いを遠くから見守ることもあった。

〈EDEN〉の星々で、麻薬商人を調べ出す仕事もした。

 

 マイルズはどうしようもない長逗留になっている。〈ABSOLUTE〉でもトランスバール皇国でも、頼られては仕事を引き受けてしまった。

 傭兵隊を率いていたマイルズの、軍を管理し教育する能力は、〈ABSOLUTE〉軍の増員・ジェダイ学校の基礎づくりに大いに重宝された。

〈ABSOLUTE〉で活躍しているエレーナ・ボサリ・ジェセックを助けても、幼馴染で元上官であるマイルズ以上に息が合う者もいない。

〔UPW〕長官のタクトもシヴァ女皇も、これ以上なく頼っている。

 レンズマンの銀河、ローエングラム朝銀河帝国、〈百世界〉と、すでに伝統と高い国力がある国々との貿易・外交でも、故郷銀河の全域で豊富な経験を持つマイルズの精力と経験は恐ろしく重宝される。

 ボスコーン=ピーターウォルドの麻薬商人(ズウィルニク)狩りでも、それこそ今の本業である皇帝直属聴聞卿と同じく、調べかぎつける能力が高く評価される。

 もともと桁外れのエネルギーを持てあまし、膨大な仕事がなければ生きられないマイルズと、多元宇宙の膨大な仕事の山……離れるタイミングがつかめない。

 造園デザイナーである妻のエカテリンも、いくつもの仕事を引き受けて忙しく働いている。トランスバール皇国でも仕事を得た。特にローエングラム銀河帝国で彼女のデザインが流行し、ミッターマイヤー元帥の、いまだ現役植木職人を誇る父親とも意気投合している。その縁を通じて皇帝代理であるアンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃やヒルデガルド・フォン・マリーンドルフとも、また多くの高官の妻や母たちともすっかり親しくなった。

 

 ルークの、フォースに目覚め始めた生徒が、戦闘機や省力艦を操縦し、戦場に出て活躍することもあった。その成長度の高さに、ますます入学志願者は増えて、選ぶルークは大変になる。

 

 そんな生徒たちとともに、やっと見つけた謎の都市。百光年にわたり星ひとつない暗黒星雲に浮かんだ都市は、ちょっとした惑星ほどもあった。

 全体像を測ることはとてもできない。別の角度から飛ばした無人機は、まったく別の映像を送る。波長によっては何も存在していない。

 重力波は、星系規模の巨体を感知していた。

 見える形だけでも、無数のひらめく輝きが、たまらなく美しい交響曲のように響き合い、絡み合っている。

 大艦隊が激しく入り乱れて戦うようでもある。

「これが、タネローンか」

 マイルズが呆然とするのに、集中したルークが首を振った。

「これは違うな」

「コンテナを取り付けるついでに次元潜航艇技術を調べておいたおかげでわかったわよ。あれは、半径……0.4光年ぐらいあって、次元潜航艇でもある生き物の、潜望鏡ね」

 ついてきたノアが肩をすくめる。

「潜望鏡で、あれ?」

「生き物というのも正確じゃないわね。何なのか、人間の言葉には近いものもない」

「そんなのが襲ってきたら大変だな」

 ハン・ソロがつぶやくが、

「いや、あれに敵意はない。というより、人類やその産物なんてあれには、見えてすらいない」

 ルークが首を振った。

 

 多元宇宙は、いや一つの宇宙でさえも、どれほどさまざまな驚異に満ち人は何も知らないか……そのことを思い知るほかなかった。

 

〔UPW〕に戻ったマイルズが報告して、何か言い出しにくそうにしているのを、レスターは敏感に見取った。

「そろそろ一度帰りたい、か?」

 マイルズは苦笑した。

「ここも素晴らしく居心地はいいですよ。ニッキも教育してもらっているし、エカテリンも専門の造園や、それ以外のこともたくさん教わり、いくつかの仕事をもらっています。

 ただ、やはりヴォルコシガン卿としては、復命して報告すべきことがたまっています」

「それはそうだろう。ただ、〈ABSOLUTE〉から最短距離になる五丈経由は、バラヤー行きの門が封鎖されているそうだ。ミントがエレーナ夫婦を連れてきた道は、戦争中の時空を通る上に半年はかかる」

「そう、多元宇宙が広いのはわかっています。ですがそれも、バーゲンホルムとジェインを使えば、今後は狭くなるでしょう」

「それはそれで、大変そうだな」

 実務を一手に引き受けているレスターは深くため息をついた。

「そういえば、あのパルパティーン帝国包囲作戦はどうなりました?」

 タクトたちはルークやクリスから話を聞き、多元宇宙にとって最大の脅威になりうる侵略的帝国についての対策も考えていた。簡単に言えば、複数の時空が協力した包囲網である。

 

 新しい大戦勃発の知らせと、エリ・クインらバラヤーからの使者が訪れたのは、ちょうどその時だった。



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宇宙戦艦ヤマト/時空の結合より1年9カ月

 ヤマトの故郷に、奇妙な事故が起きた。いきなり、別次元から銀河が飛んできて銀河系にぶつかった。

 ガルマン・ガミラス本星は壊滅した。

 といっても、ほかの星にはほとんど被害はない。銀河の星の密度……宇宙の広さをなめてはいけない。

 地球の大きさを一センチにすれば、太陽系に一番近い星でも何万キロメートル。地球内に収まらない距離になる。

 どこの宇宙でも常時いくつも起きている銀河衝突で、星の衝突などほとんど起きていない。多少起きていても、千億の二倍から考えれば些細なことだ。

 

 その、億に一つの偶然にあたってしまったガルマン・ガミラス本星にとっては災難だったが、多元宇宙のおかげで被害は大きく軽減された。

 隣のローエングラム銀河帝国がゼントラーディ基幹艦隊に襲われ、デスラーが救援に行ったお礼として、ローエングラム銀河帝国艦隊が救援に来てくれたのだ。一万隻ものキロメートル級艦船、収容人数は膨大だ。

 また、ガルマン・ガミラス帝国の側も、並行時空から多くの技術を手に入れていた。特にありがたかったのがゼントラーディの、無尽蔵の艦を作り続けるプロトカルチャーの自動工場技術。

 本格的に動き出し、さらにその工場自体が自己複製を始めるにはまだ間があったが、すでに六千メートル級の巨大艦がいくつも作られ、本星近くに集められていた。

 それで、ガルマン・ガミラス本星の人間はほとんど退避できた。

 ほかの星々で起きた災害も早期に収め、ガルマン・ガミラス帝国は力を取り戻した。むしろ、利用できる星が二倍に増えただけだった。

 

 それ以上の災厄を受けたのは、地球である……

 

 しばらく前に帰還していたヤマトは、ガルマン・ガミラス本星に見舞いに旅立った。

 それで本星の惨状にデスラーが死んだと勘違いし、さらに爆発から逃げるためにランダムワープをした先で、ディンギル星の水没を目撃した。

 救助作業に努力はしたが、助けられたのは一人だけ、しかも多くのクルーとコスモハウンドを失う結果にもなった。

 その後悔で集中力を欠いたか、直後の急襲への対応は遅れた。

 だが、ヤマトは〔UPW〕で技術を受け取り、航海しながら実験を重ねていた。ハイパー放射ミサイルはバラヤー式のシールドを貫通できなかった。

「総員戦闘配置!」

「古代、あれはハイパー放射ミサイルだ。強力な放射能ガスを出す」

 真田が目を見張って叫ぶ。

「全員宇宙服を着用」

 命令は、即座に実行される。ガルマン・ガミラス帝国やボラー連邦との戦い、そしてゼントラーディ軍との戦いで鍛え抜かれた宇宙戦士たちだ。

「それだけじゃない、核反応も促進するから、補助エンジンやミサイルの核弾頭も爆発しかねん。今の地球の標準戦艦なら一発で轟沈だな」

「なんて恐ろしい兵器だ。新しい技術をもらっていてよかった……あれのデータを持ち帰るためにも、ここを切り抜けるぞ!島、バーゲンホルムだ。南部、爆発を偽装しろ」

 素早く宇宙服を着た古代が指示を出す。

「ああ。無慣性に移行する!」

「煙幕を張れ」

 南部が叫び、何人もの人が素早く動く。

「ミサイルを投棄し、近距離で自爆させます」

「予備装甲版を艦外投棄します!」

 芸細かく、爆発を偽装したヤマトは、光速がのろのろに思える高速で太陽系へ飛んだ。

 ヤマトの偽装爆発に、ルガール・ド・ザールは見事に引っかかった。

「ふん。む、母星は爆発したか……よい、弱者は滅びるのが宇宙の真理だ」

 彼が悼みもしない弟が、ヤマトにいることも知らないまま。大型艦は静かに、同朋の大半を見捨てた強者たちのもとに帰っていく。

 

 ヤマトは旅から帰り報告を行った。

 ガルマン・ガミラス本星の崩壊。

 アクエリアスによる有人星の大災害と、謎の敵の急襲……そしてハイパー放射ミサイルのデータ。

「あの敵と戦う場合には、われわれ地球防衛軍の基本戦法である、マルチ隊形からの波動砲斉射は通用しないでしょう」

「ばかな!」

 古代進を怒鳴りつけたのは、参謀である。

「縁起でもないことを言うな」

 と、同調する者がわらわら出てくる。

 藤堂司令長官はひたすら黙っている。

「敵の、小型水雷母艦がヤマトの退路を断とうと小ワープしました。そのワープはきわめて始動が早いものです。

 波動砲はどうしても、一分以上前から異常なニュートリノが出ます。それを見てすぐにワープし、こちらが行動できないうちに別の方向から反撃することが可能でしょう。

 まして敵の主力武器は、ワープ直後でも問題なく使えるミサイルなのです」

「黙れ!波動砲の斉射は宇宙最強なのだ」

「宇宙最強?こちらの資料を見てください。デスラーは赤色巨星を」

「見る必要などない!地球防衛軍の無敵を疑うか!」

「コスモハウンドがいくらすると思っているんだ、無意味で無謀な救助作戦で何人殺したんだこの無能艦長!」

 参謀の表情を見れば、おびえていることがわかる。見たくないものは見ない。砂ダチョウは官僚色が強く、権力闘争に注力する高級将校の常だ。

「マルチ隊形は白色彗星にも粉砕されたじゃないか、あの時一隻でも波動砲を撃てる艦が残っていたら、徳川さんも斉藤も」

「反逆者の報告など聞く耳もたぬ!」

「それで死ぬのは誰なんだ、今艦に乗っている、若い宇宙戦士たちだ。オレの後輩だ。誰かの息子で、兄なんだぞ!あんたは、嘆き悲しむ母親に、くだらない感情で息子さんを殺しました、といえるのか!」

「黙れ!」

「きさまが吊るされていないことがおかしいんだ!」

 またも会議からつまみ出された古代進は、屈辱と怒りでボロボロだった。

「またやったのか……」

 島があきれ返っていた。

「どれだけの、どれだけの犠牲を出せばわかるんだ?」

「どれだけ出したって、痛くもかゆくもないさ。軍人さんは、部下を殺すのがお仕事だ。そして無駄にたくさん戦死させるバカから出世するのが軍の常だ」

 笑っている島の言葉は、心に突き刺さった。ゼントラーディとの戦いで、何人も戦死者は出ているのだ。

 罵倒として言われなくても、ディンギル星での救出で部下を死なせた罪悪感も……形容できないほど大きい。

 兄の守を死なせた……誤報だったが……沖田艦長を責めたことも思い出し、体の芯が冷え切る。沖田のほうが何万倍辛かったか理解して以来、中学校の時の黒歴史と同様になってしまっている。

 島が静かな表情で話す。

「それより現実には、少しでも死者を減らし、生き残る艦を増やすにはどうするか、だ。

 南部が、あのミサイル野郎のうわさを流してる。真田さんや山崎さんも、技術関係から説得して、バラヤー式のスクリーンを入れるように言っている。宇宙服を着て空気を抜き、核燃料や核弾頭を密封しておくだけでも、被害は半減できるんだ」

「ああ……防衛軍は、戦法を完全に誤っているんだ。まして、新しい技術を使ったら、まったく違う戦法だって考えられるのに」

「そうだな」

 と、島は壁を殴りながら歩いていく親友を見送った。

 

 再び地球を水没させるのは遠い未来のこと、と思われていたアクエリアスが急なワープで地球を襲うことが判明した。

 今回は大量の水、ガミラス戦役のように地下に隠れても、どこかが水圧で破れたらすべて水没する。

 太陽系内のコロニー、火星や木星衛星の基地への移住が始まろうとしたが、それをディンギルの艦隊が襲撃する……

 迎撃した地球艦隊は、古代らの予想通りマルチ隊形からの波動砲斉射をかわされ、ハイパー放射ミサイルの飽和攻撃を受けた。

 多くの艦が行動不能にはなった。

 だが、ヤマトからの情報で戦闘前に宇宙服を着て、核物質を厳重に密封していた船も多くあったため、死者の数は少なかった。何隻かは、禁止命令を無視しバラヤー式のスクリーンをつけていて無傷だった。

 そのディンギル本隊を、修理と補給を終えたヤマトが襲った。

 バーゲンホルムの圧倒的な速度。敵陣の中央に出現したと思ったら主砲を、三基とも別々の目標に叩き込み、煙突ミサイルと舷側ミサイルをばらまく。

 月基地から出撃していたコスモタイガー隊も、Xウィング同様ハイパードライブを装備している……瞬時に敵陣に押し寄せ、ミサイルの嵐を放ってかき消える。

 戦いを見ていたディンギルの少年は、かばい合い助け合いながら戦う地球艦隊と、弱肉強食以外にない同朋たちの違いに心揺らいでいた。

 

 ディンギル艦隊を壊滅させた残存艦隊とヤマトは、あとワープ二回の距離にあるアクエリアスを急襲した。

 そこで、敵本拠地を探り交渉を求め続けた。

 波動砲は使えない。敵のニュートリノバリアに波動砲が当たったら、何が起きるかわからないと真田らが警告した。

「ルガール大神官大総統、新たな故郷を求めるのなら、プロトカルチャーの技術を用いれば短期間でいくらでも船を作ることができる。

 エネルギーだって、船団ごとバーゲンホルムで可住惑星のない星の近くに行き、太陽電池を広げれば事実上無限だ。宇宙線から無制限に近くの恒星のエネルギーを得る装置を与えてもいい。

 もう、不毛の星でも、何兆人でも人が住めるようにできるんだ。争う必要なんてない」

「だまれ愚かな臆病者。他者を踏みつぶし、皆殺しにして生きることこそ、宇宙の掟。弱肉強食こそ大宇宙唯一の真理なのだ」

 ルガールの目には狂信と軽蔑のみがあった。それこそ、彼らが地球人の子孫であることの明白な証拠だった。

「それは欠乏がある場合だけだ、もう欠乏はない!」

 叫びは、ヤマトの外殻のように硬い拒絶にはじかれた。

「力のみが決めるのだ。力をもってヤマトを、地球をもみつぶして、故郷をふたたび手に入れる」

 ルガールの叫びに、ヤマトのクルーはむしろ悲しくなった。

 彼らも、ディンギルと同じ祖をもつ人間である。戦争でゆがんだ人間を、戦争が引き出す人間の本性を、人間を嫌というほどよく知っている。

(また、皆殺しの戦いを繰り返すしかないのか)

 絶叫したいほどの痛みをこらえ、通信の切れた画面を見つめる。

「おとう…さん…」

 物陰から通信をみつめてつぶやく、ディンギルの少年の涙にも、胸がはりさけそうになる。

「すまない。おれの言葉に力が足りなかった」

「ううん、だって弱肉強食……でも、ウルクで脱出したのは、若く強い男だけだよ?大神官大総統の息子でも、弱いからって置いて行かれた。女は一人もいないのに」

「それじゃ、たとえ勝利して地球を滅ぼしたって、意味がないじゃないか」

「ごめんなさい!考えるのは僕の仕事じゃない、ごめんなさいお兄ちゃん」

 激しい体罰を思い出してわき腹を押さえ、うずくまり涙をこらえる少年の姿に、ヤマトのクルーは激しい憤りと悲しみを感じた。

「まあ、あっちのベータ星では男女の性転換も簡単にできるらしいから」

「太田くん!」

 雪が太田をとがめる。

 

 そして本隊との戦いが始まった。

 ハイパー放射ミサイルはバラヤー式シールドがある艦には通じない。それを持たない艦も、真田が新開発した、広い空間に稲妻状の破壊力を充満させる対ミサイルアクティブスクリーンでミサイルを防いだ。

 だが、ディンギルの目的はアクエリアスのワープまでの時間稼ぎ。そしてハイパー放射ミサイル以外にも、ニュートリノ砲や通常ビームで激しく攻撃してくる。

 ショックカノンの嵐で敵を破壊していったヤマトは、強力な援護射撃を受けて敵の巨大要塞に直接着地した。

 マシン馬に乗ったルガール大神官大総統が白兵戦を挑んだが、一瞬の隙をついてコスモタイガー隊が発進し、惑星ワープ装置の本体がある神殿を急襲する。

 神殿を守るため引き返したルガールは、古代と激しい白兵戦を繰り広げる。

 そのとき、後継ぎであるルガール・ド・ザールが、敗北の罪で抹殺されかけた恨みをこめて父親に打ちかかった。

 それを逆に殺したルガールは、その首を邪神の像にささげた。

 父子相打つ、愛も何もない闘争の醜さに、古代は吐き気をこらえた。

 そのとき。突然邪神が動きだした。

 一番驚いていたのは、ルガール自身だった。大神官である彼自身こそが、狂信しつつもまやかしを一番よく知っていたのだ。

 驚くルガールの心臓に、邪神の手が突き刺さった。

「ぐ…ぐお…」

 すさまじい苦痛のうめき声とともに、その姿が変わっていく。

 突然、神殿の壁に揺らめく影が、うごめく。

 とっさに伏せた古代の頭があったところを、高速の弾丸が貫いた。

 そして防衛軍の戦士も、ディンギルの戦士や神官たちも貫かれ、うずくまる。

 いつしか、ルガールの肉体は消えていた。壁のうごめく影が、何億もの甲虫のような何かとなって高速で飛び始める。

 自分をかすめたそれを壁から抜いた古代、

「バッタ?なんなんだ……生存者、全員撤退しろ!」

 古代は絶叫しながら走り出した。息が上がり、心臓が破れそうになっても走り続ける。

 その背後では何千という人間たち、石像が次々と、不気味な異形と化し動きだしている。そのことが、目の前の柱や壁に映る影からだけでもわかる。直視したら発狂してしまうということも。

 

 生存者とともにヤマトに帰った古代たちは、とてつもないものを見てしまった。

 都市衛星ウルクの人々が、機械が、次々に巨大な異形となっている。

 それだけではなく、アクエリアスの光も不気味に脈動し、暗黒の触手をほとばしらせているのだ。

「古代!なにが」

「全艦緊急離脱!戦闘隊形をとれ!」

 絶叫にヤマトが、多数の艦が次々とエンジンをふかす。

 だがいくつかは、おぞましい触手に飲みこまれて爆発していく。

 必死で制御する機関士たち。

 徳川太助は問題なく作業をしている……赤色巨星を超新星化させる戦いで片腕を失ったが、ローエングラム帝国軍の治療で義手をもらった。その後〔UPW〕でナノマシン治療を受け、生身と変わらず力だけは三倍になっている。

 激しい揺れに耐えるブリッジクルーの前に、醜く傷つき恐怖にゆがんだ、クイーン・オブ・アクエリアスの姿が浮かぶ。

「アクエリアス」

『おねがい……戦って……

 あれは、ディンギルの人々、あなたたちと共通の先祖が遠い遠い昔あがめていた古代の邪神、バズズ。別の名で呼ぶなら、アガックとカガックの娘の一人グガック。

 科学とともに邪神たちの力は失われていたはずでした、でも多元宇宙の結合で、悪霊の世界と、命と原子の世界の境界も薄くなったのです。

 この私も、食われています……生命である私が、ゆがんだあってはならない生命、生ける邪神としてすべての宇宙の滅びをもたらしてしまう……

 どうか、多元宇宙を守って』

 あとは人の言葉ではなく、聞くに堪えない絶叫となり、その美しかった姿は崩壊していく。

 ともに、巨大な美しい水の惑星は、ウルクと融合するように変化していく。地球より大きい莫大な水の塊が、アメーバのように不気味に変動していくのだ。

 巨大クラゲのように、無数の触手が吹き上がる。その先端部は100キロメートルを超える、ディンギル艦と不気味な土壌生物を融合させ、超巨大化させたような代物になっている。

 地球防衛軍艦隊は、半ば絶望しながらそれを見ていた。見るだけで発狂しそうな姿なのだ。

「戦え!」

 ヤマトが、率先して打ちかかる。

 怪物は何層ものニュートリノバリアをまとっている、波動砲は使えない。

 そして突然襲いかかる、50キロメートルはある氷の拳……光速に近い戦闘速度でそんなものがぶつかれば、どんなシールドも装甲も無意味だ。

「島」

「おうさ」

 島の絶妙な操縦が攻撃をぎりぎりでかわす。むしろこちらから当たりに行くように動いて、ミリ単位ですれちがっているのだ。

「戦い続けろ」

 主砲はまったく通用しない、相手が大きすぎる。

 だが、闘志だけで戦い続ける……どう見ても絶望であっても、ヤマトクルーに絶望はなく、それを見た地球防衛軍艦も戦い続ける。

 一隻、また一隻とかばい合い、爆発していく。ヤマトも第三艦橋が破壊されるほどの打撃を受ける。

「そうか」

「真田さん、なにかあるのか?」

 何かを思いついた表情の真田に、古代が必死で聞く。

「ああ、これだ」

 真田が手にしているのは、マイルズ・ヴォルコシガンたちにもらった神経破壊銃。そして画面に、あの呪わしい重核子爆弾の像も浮かべている。

「あの怪物は、超大型艦のサイズだがどれも、どうやら神経系のある生物のようだ。波動砲のエネルギーを、神経破壊銃と重核子爆弾の原理を利用して、敵の神経系を破壊する兵器にすれば、どんな巨大でも絶命するだろう」

「どれぐらい時間がかかる!」

「……五時間くれ」

「ああああっ!」

 あと十秒生き延びることすら無理そうな状況なのだ。

 あきらめはしない。

 だが、理性は詰んだと叫んでいる。

 ほぼ光速で迫る氷塊が直撃する……

 その瞬間、氷塊を何本もの強力な光槍が貫き、蒸発させる。

 無数の破片が、シールドにはじかれる。

 後方を振り返ると、艦隊の艦も次々と、極太の光槍の援護を受けている。

 何十隻かの艦の姿が一瞬浮かび、即座に消え失せる。

 ヤマトのすぐわきの射撃点に、1000メートルの巨大艦がワープアウトし、デスラー砲を発射し特大のミサイルを放ち、即座にかき消える。

 それが、何度も何度も繰り返される。

 敵はとらえることができない。

「あ……」

「無人ブイから通信。『三光年離れた青色巨星に向かえ』」

 報告に、ぶるっと震えた古代。

 島が素早くバーゲンホルムを入れる。

「全艦、あの青色巨星に向けてワープしろ!援軍が隙は作ってくれる」

 古代が味方に通信し、守り合いながら移動する。

 

 そこには、2100隻あまりの艦隊が待っていた。

 多くは〈トリスタン〉に似た、1000メートル級。100隻ほどはガルマン・ガミラス様式。見たことのない様式の、100メートル程度の小型艦も混じっている。

「古代」

「古代艦長!」

「進」「おじさま」

「デスラー!ワーレン提督、兄さん、サーシャ!」

 古代の笑顔に、白いバラを唇に寄せたデスラーが微笑する。

 アウグスト・ザムエル・ワーレンもぱっと表情を輝かせた。

 そして古代守とサーシャが苦笑気味に笑う。

「最前は失礼をした。ローエングラム帝国の救援もあり被害は最小限ですんだのだが、避難ついでに領内を巡回していたのだ」

 古代がデスラーを悼んでささげた花を、そっと胸にさす。優雅な動き、キザなしぐさがいやみにならない。

「イスカンダルから急使が入った。地球がやられたら次はラインハルト陛下のいるエスコバールが危ない。ガルマン・ガミラス救援任務はアイゼナッハ上級大将に任せてきた。

 艦数こそ少ないが、全艦バーゲンホルムとバラヤー式シールド、ガミラス式波動エンジンとデスラー砲装備の最新鋭艦だ」

 ワーレンがうれしそうに艦隊を見回す。

 そうしている間にも、画面の端でワーレン艦隊から十隻かき消え、別のところに十隻出現するのが、二秒に一度ほど繰り返されている。

「あれは……そうか、敵のそばまでバーゲンホルムで接近、デスラー砲を発射し、すぐさま別のエンジンでフォールドして離脱する、それを繰り返しているのか」

 真田の声にワーレンがうなずく。

「デスラー砲発射直後は時空が乱れ、多量の微粒子が散乱しており、ワープやバーゲンホルムに適していない。フォールドは別の次元を使うから問題ない。

 治療に出かける前にラインハルト陛下が思いつかれたことだ」

 ワーレンの表情は、主君の天才を誇り輝いていた。

「間断なくデスラー砲を撃たれ、しかも反撃してもそこにはいない、か。やられたら、どうしようもないな」

 相原が呆然と目を見張った。

「志郎、なにかいたずらは思いついてるだろう?」

 古代守が真田に微笑みかけた。

「ああ」

「なら、時間は稼いでくる」

 そう言って、守たちの少人数艦も消える。

「さてと、私も戦いに出かけよう」

 デスラー艦隊が素早くワープする。

「さて、新戦術を試しているのはいいが、やはり敵の質量が大きすぎるようだな」

 ワーレンが報告画面をちらりと見る。

「どうなんだ?」

 古代進の問いに、

「ほとんど効いている様子はない。この新鋭艦隊だけで、多元宇宙以前の十万艦隊でも圧勝できるんだが……」

 ラインハルト自らが選んだ上級大将の一人ワーレン、彼自身も最前線に突撃する勇猛さは諸将にひけをとるものではない。

 だが、あえてそれを抑えて遠くから全艦を指揮し、情報を集めて戦場全体を理解することに集中している。それまでとは比較にならない速度と通信密度、戦闘範囲での戦いのデータをとることを求められている。

 ローエングラム朝銀河帝国の明日のために、すべきことはわきまえている。

 

 二時間。

 真田たちは、波動砲の改造に必死で取り組んでいた。

 前線では、古代守とサーシャの艦が敵を翻弄し、ワーレン艦隊の艦が数十隻ずつ一瞬だけ出てきてデスラー砲をぶっ放して消え、デスラー艦隊が瞬間物質移送機を用いて猛攻をかけている。

 その中で、戦場にとどまって暴れているのは古代守とサーシャの艦だ。100メートル級の小型艦だが、イスカンダルに残っていた技術を大山がいじり倒した怪物だ。

 ずんぐりとした艦体のいたるところに戦艦のメインエンジン級スラスターが搭載され、コスモタイガーよりはるか上の機動性を発揮している。

「ワルキューレのような動きだな」と、データを見るワーレンがうめくほどだ。

 同時に強力な波動ミサイルの連射……いや、射撃ではない。爆弾倉を開いて押し出すだけ、あとは小型波動エンジンを搭載した超大型ミサイルが自力で小ワープし、敵の内部にワープアウトし重力ひずみごと自爆。波動エンジンの暴走自爆の威力は、範囲こそ狭いが収束波動砲に匹敵する。しかも波動砲と違い一切の準備も硬直もなく、艦本体の機動性を全く損なっていない。

 内部動力は補助程度。即時通信でイスカンダルに注文すれば、爆弾倉の受容力場にミサイルが出現する。エネルギーも、機関部に直結した受容力場に波動エネルギーを満たした蓄電池が出現する。弾切れなどない。慣性補正装置も桁外れに強力だ。

 サーシャが敵の攻撃はすべて読み、伝説的な腕を持つ守が操縦する。膨大な攻撃もすべて紙一重でかわせている。

 イスカンダルはもともと技術は高い、ひたすらさぼっていただけだ。

 その戦いは敵の注意の多くを惹きつけ、デスラーやワーレンに大きな余裕を与えていた。

 間断なく放たれるデスラー砲の嵐が、惑星サイズの魔水の塊を容赦なく切り刻んでいる。

 

 四時間。

 ワーレン艦隊、デスラー艦隊の消耗が激しくなる。

「あの敵は、近づいただけでクルーの精神がやられる。突然笑い転げたり泣きさけんだりするんだ。攻撃が一手遅れ気味だ」

 これ以上なく苦々しい表情だ。力と力なら喜んで戦う、だが精神を攻撃するのは卑怯だ……それは古代たちも共感できる。

「ところで、あの味方も知り合いか?」

 ワーレンがちらりと送った映像。

 ヤマト艦橋士官たちの表情が輝いた。

 多数の艦がごく短い滞在期間で得た情報を総合した画像だ。それでも遠く隠れた、ステルス性の高いその双胴艦の輪郭はぼやけていた。

「アカガネ。かつてともに戦った戦友だ」

 古代進が大喜びで告げる。

「あちらからはレンズマンが来てくれているようだな。精神崩壊を起こしたクルーを何度も助けてくれた」

 通信記録にはトレゴンシーの、人間とは異質すぎる姿。どっしりしたドラム缶から無数の触手が生えている、その中心に輝くレンズ。

 目はない、だが半径二百光年球内の砂粒以上の物体はすべて知覚されている。

 その触手の中に人間の、一歳の誕生日を迎えたばかりの幼児が抱えられていた。本当は全艦隊を発狂させるだけの力を抑えこみ、多少の不快感、ほんの数十人に発作を起こさせる程度にとどめているのはその子だ。そしてそのことを第二段階レンズマンにさえ意識させないほどの熟練を、その幼さで持っている。

 

 四時間半。

「よし、できた!テストの暇はない、ぶっつけで行くぞ!」

 真田の、憔悴しつつ輝く表情を見れば、どんな恐ろしいものができたのかは一目瞭然。

「総員、対神経破壊銃ネット着用!」

 万一漏れがあったら……波動砲の出力で増幅された死に、気休めでしかないのは百も承知だ。

「自由状態に移行」

 島もバーゲンホルムの扱いにすっかり慣れた。

「前方シールド最大」

「波動エンジン120パーセント!」

「全速前進!」

 ただでさえ宇宙最速を誇るヤマトがバーゲンホルムの翼を与えられたのだ。

 1メートルの立方体に原子一つあれば多い星間物質、それが大量に積もって核融合が起きる勢いで前面シールドで押しつぶし、押し渡る。一瞬で戦場の真っただ中に、赤と黒の雄姿が有慣性化する。

「神経破壊波動砲、発射十秒前」

「波長転換装置、オン!」

 そのヤマトを素早く襲う超巨大な氷の触手を、はるか遠くから正確な艦砲射撃が射抜く。一秒間に五発以上、どれもが正確無比の狙撃で。

 別の方向から襲う、ミサイルのような多数の水の塊。

 左手側では黒い稲妻が順番に打ち抜き霧散させる。右手側では緑の曲線を描く帯が八本ずつ、正確に貫通し消滅させる。

 長い10秒、白い稲妻が至近距離から、ゆがんだ生命に支配された水惑星を包む。

 内部の、高等生命の神経系がすべて焼き切れる。

「よく止めてくれた、ヤマトはそのまま加速せよ」

 デスラーの指示を信じて動かぬ水の塊に加速するヤマト、そこに数十本のデスラー砲が機関銃のように突き刺さり、ヤマトがちょうど通れるだけの穴をあける。

 穴の形の悪いところは、古代守艦とアカガネの狙撃機関砲が正確に加工する。

「離脱、バーゲンホルム」

 島の声とともにヤマトが遠く離れる。

 ワーレンの声とともに、全艦が同時に、凹面鏡の形に出現する。

「ファイエル!」

 叫びとともに、二千本のデスラー砲が正確に、一点に集中して着弾する。

 ヤン・ウェンリーお得意の集中射撃、それを新装備で再現するために厳しい訓練を積んできたのだ。

 発射後、即座に別のエンジンを用いて離脱し、再編する。ヤマトの僚艦が波動砲斉射を小ワープでかわされ、ハイパー放射ミサイルを食らったようなことはしない……残心こそ武の神髄である。

 すさまじい熱で水が蒸発し、時空が引き裂かれる。食われた生命と死の星霊と、超時空の悪霊のもらす悲鳴が時空にまきちらされる。

 その声だけで、そのままでは艦隊すべて人は発狂していただろう……だがトレゴンシーの腕の中の幼児が、服の中に腕を隠すとレンズを輝かせ、その力が邪悪な思考波を弱める。

 圧倒的な火力で露出した……何か。

 それを形容できる人間などいない、いや見た瞬間発狂するに決まっている。全員の目や知覚力が、第三段階レンズの力で閉じられているのだ。

 そこに竜機人の姿が出現した。

 美しい大型MSが、巨大な黄金竜が変形した鎧をまとってさらに大型化し、50メートルにも及ぶ漆黒の巨剣を手にしている。

 その剣が、静かに振るわれると、無限を超えた闇の生命が剣に吸いつくされていき、一層激しい悲鳴が響き渡る。

「逃げて、全艦ワープ!」

 サーシャの絶叫に、迷う者はなかった。

 別の時空にもぐりこむことで、まるで核攻撃を水に潜ってしのぐように、グガックの断末魔から逃れる。

 本来、万単位の艦が同時にランダムワープなどしでかしたら全滅がオチだが、すべてのワープは正確に計画通りだった……デスラーとワーレンが先を読んで緊急時のワープ先を事前に入力していた、と全員の記憶とコンピュータ記録が書き換えられていた。

 犯人はもちろん、一歳の女の子である。

 

「助かった」

 古代進が激しく息をつく。

「全艦……無事か」

 ワーレンが急いで、艦隊各艦からの生存報告FTLを数える。

 デスラーは静かに、油断なく虚空をにらんでいる。

「終わったのか?」

 サーシャが父親にうなずき、そして画面内のトレゴンシーに微笑みかける。

 リゲル人第二段階レンズマンの腕の中で、幼子が笑いながらトレゴンシーと、とんでもない思考通信をかわす。

「デスラー総統、ワーレン上級大将、そしてヤマト、古代守。戦いは終わった。アカガネは事情があり別の時空での戦いのために去った。

 共に戦えてうれしい、と伝言をもらっている」

 トレゴンシーの言葉で、やっと戦いぬき、精神を痛めつけられた将兵は息をつく。

「デスラー総統ばんざーい!」

「ジーク・カイザー!」

 少しずつ上がる声が、どんどん広がって絶叫となる。

 

 

 戦いは終わった。

 デスラー艦隊とワーレン艦隊は、ガルマン・ガミラス国民を避難させる仕事に戻る。

 その前に、ディンギル帝国の残骸から技術はしっかりもらっていった。

 戦友の危機には助け合う、手に入れた技術は山分け。ロウソクの火を別のロウソクに移しても火は減らない……

 一人の幼女の名をとってコーデリア盟約と呼ばれる条約だ。

 惑星ごと動かすワープ、ハイパー放射ミサイル、反応の早いワープなど得たものは多い。

 そして奇妙な……生命と機械の両面を持ち、精神すら破壊する魔物についても様々な情報を得た。

 多元宇宙にあるのは、幾多の文明だけではない。人間には想像もできぬ魔も存在しているのだ。

 そして、その中で戦う〈永遠の戦士〉たちもいる。精神の戦いではすさまじい強さを誇る第二段階、そして第三段階レンズマンも……

 今はただ、戦いの余韻に呆然としつつ傷をいやし、勝利を喜び誇るのみ。

 

 そしてディンギル帝国唯一の生き残り、ルガール少年は古代守に引き取られることになり、イスカンダルに向かった。

 一応王族である彼の血液は、ディンギル帝国の残骸から技術や文化を絞り出す鍵となった。引き換えにどこの時空に来ても十分な富や教育を与える、と名誉にかけた誓約をもらっている。

「いつかは〔UPW〕やフェザーンにも留学に行くかもしれないわね」

「おい、お前が行きたいのか」

「さあ、ね。その時は送っていってね、おじさま」

 雪の目の前でサーシャが古代進に妖しい視線を送り、進は守と雪に殺意すらこめてにらまれ、仲直りにえらい苦労をすることになる……

 

 




今回は完結編を片づけました。…スターシヤ・守・サーシャは、途中までは原作通り殺すと書いていましたが、「書いてて楽しくなければ」と思ったのでゲーム版準拠全員生存でいきます。どうかお許しを。
また、ヤマト3と完結編の時間間隔とかは完全無視で。

宇宙戦艦ヤマト
銀河英雄伝説
(逆襲のシャアなど)


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スターウォーズ/時空の結合より1年10カ月

 パルパティーン=ダース・シディアス皇帝は、「第二デス・スターの弱点を漏らし、皇帝自らが行幸してエサとなり、反乱軍をおびき寄せルーク・スカイウォーカーを手に入れる」作戦を、なかなか実行できなかった。

 肝心のルーク・スカイウォーカーがこの時空そのものから出てしまっている。

 そのことから、第二デス・スターは事故を装って工事を中止し、秘密裏に第三・第四デス・スターの生産を始めている。

 また、並行時空との戦いにもリソースを割かねばならない。

 

 戦力でも勝つのが困難な敵がある。

 それ以上に、精神を操る能力の気配があり、うかつに侵略を進められないのだ。

 

 味方面はしているが信頼していない、ピーターウォルドを名乗る勢力。

 その中には、精神力の強い者を強大なテレパシーで支配してとらえ、すさまじい拷問にかけて苦痛と生命そのものを吸い尽くすデルゴン上帝族(オーバーロード)もいる。

 反乱同盟軍だけでなく、パルパティーン帝国側の人間も何人も犠牲になっている。

 ほかにも人間型も、極低温の生物も、上帝族すらかわいらしく思える邪悪さ、加えて強大な科学力を持つ連中がいる。その思考波スクリーンはフォースによる心身の支配をかなり排除できるのだ。

 交易といいながら戦力を潜入させ、麻薬を売って暗黒街に食い込んでくるのがまた煩わしい。ジャバ・ザ・ハット死後の真空を埋めてもいるようだ。

 ピーターウォルド=ボスコーンとは敵対する、帝国内に潜入して奇妙な工作を行う者たちもいる。

 人の心を読み取り、ある種のテレパシーで意志を伝えあう。人間型とは限らず、視覚とは関係なしに周辺の情報を完全に手に入れられる種族もいる。

 その一人は奇妙なレンズを腕につけていた……分析も複製も不可能、着用者が死んだらすぐに消滅した。

 

 巨大帝国が崩壊したばかりの、切り取り放題と思えた銀河に侵入した艦隊にも奇妙なことが起きている。何人かの指揮官が感情を操作されて味方を誤った方向に動かし、粛清せざるを得なかった。

〈世界連邦〉と呼ばれる最大の星間国家にその能力者がいるようだが、まったく隠れた勢力も存在しているようだ。

 その時空の、シンナックス星にできたゲートからコロニー防衛軍と呼ばれる遺伝子改良人類の艦隊が押し寄せている。

 練艦隊との戦いも激しさを増している。どちらにも圧倒的な物量と人材があり、百年戦争になりそうな気配すらある。

 

 また、ホス星近くにできたゲートの向こうの、〈惑星連邦〉にも征服すべく多数の艦隊を送った。

 惑星連邦側はバルカン星にゲートがあり、艦船をゲート近くに集中して帝国の攻撃に抵抗している。

 ワープ速度こそ遅いが、火力が高く手ごわい。

 

 ボラー連邦も、ガルマン・ガミラス帝国とのはさみうちに苦しみながら激しく抵抗している。

 

 この状況は、たとえば五丈の軍師、師真なら「手を広げすぎだ、優先順位をつけろ」とあざ笑うだろう。

 だが、皇帝には絶対の自信があった。

 そして別の計画も動き出していた。

 

 

 ダース・ベイダー卿さえ存在すら知らぬ暗黒極寒の自由浮遊惑星に、ある日皇帝の姿があった。

 氷のマントルの深くに掘られた研究所には、多くの、クローンの頭脳をのせられたドローンが忙しく働いている。

 部屋の一つには八人の、裸の男女が並んでいる。

 ジャンゴ・フェットが四人。

 恐怖に凍りつくほど完璧な、同じ顔と体の美女が四人。

 そばのドアが開き、奇妙なドロイドが飛び出す。

 四体の、デストロイヤー・ドロイドがリング形態から歩行形態に戻る。最新型、三本の脚には小型のジェットがついており、左腕のブラスターは装甲車に載せるような大型機関砲だ。

 身長250センチほどで相撲取りのように肥満した人間型が四体。ストームトルーパーのヘルメット、機械の細い手足。その巨大な胴体には、R2-D2の胴体部を黒くしたようなものが埋めこまれている。

 どちらも、帝国のどこでも知られていないバージョンだ。

 そして部屋の壁にしつらえられた、いくつかのカプセルが皇帝自らの手で開かれた。

 次々と裸の青年が立ち上がる。

 ルーク・スカイウォーカー。アナキン・スカイウォーカー。メイス・ウィンドウ。クワイ=ガン・ジン。ダース・モール。ドゥークー伯爵。ヨーダ。若き日の皇帝自身。

 皇帝がクローンたちに語りかける。

「お前たちは、先のプロトタイプとは違う。オリジナルより優れた剣士だ。ダークサイドのフォースもオリジナルよりはるかに強い。

 オリジナルより優れていると証明しなければならぬ」

 フォースによる指示か、ジャンゴ・フェットと美女一人ずつに二人のクローンが加わり、それにドロイドも一体ずつ加わって、四組のチームができる。

 皇帝が満足げに見回し、語り出した。

「ジャンゴ・フェットは記憶も遺伝子もオリジナルのまま、最高の賞金稼ぎで機知と機械操作にこの上なく優れる」

 美女のことはコメントしない。クローンなのかドロイドなのかもわからない。人間であればこれほど同じ顔と体、美しさはありえないと思われる。

「デストロイヤー・ドロイドR、自律型で短距離なら飛行でき、火力も強化されている。

 RDSの電子頭脳も助けになろうし、嗅覚や聴覚にも優れている。また人間の行うことをすべてこなすことができ、百倍以上の力もある」

 誰もうなずきもせず聞いている。石像のようだ。

「おまえたちは第二ファウンデーション、心理歴史学を見いだせ」

 メイス・ウィンドウとクワイ=ガン・ジンがうなずく。

「幼子クリストファー・キニスンを連れてくるのだ」

 スカイウォーカー親子……肉体年齢は同じだが……が不敵に微笑する。

「細胞活性装置」

 ドゥークー伯爵とダース・モールがひざまずく。

「〈黒の剣〉。タネローン。そして、〈天秤〉そのものを見出せ」

 ヨーダと、若きパルパティーンが笑った。

 そして深い岩を掘ったトンネルを歩き、宇宙港へ向かう。帝国が秘密裏に建造した、二機の高性能戦闘機を備えた超高速戦闘艇に乗り、浮遊惑星から飛び立っていく。

 ドゥークー伯爵が通り過ぎる際、皇帝は小さな紙片を握らせた。

 見送った皇帝は、洞窟の岩に思える何かを叩いた。

 それが開くと、人影が二人出てきた。

 一人は、深く眠っている手足が機械のストームトルーパー。それを支えるもう一人は、オビ=ワン・ケノービのクローン。

 命令はしない。

 皇帝が安楽椅子に座って目を閉じると、ストームトルーパー型の、半生体機械が意識を取り戻したように立つ。

 パルパティーン皇帝がそれを遠隔操作しているときは、皇帝自身は自分の肉体との接続が断たれるため、部屋に閉じこもるか眠りを装わなければならない。その間はパルパティーンの耳目・手足そのままとなり、ダークサイド・フォースもそのまま使えるのだ。

 二人はそのまま別の、きわめて高いステルス性のある戦闘艇で去っていく。

 

 

 そのころ、惑星バルカン……地球人から見ればエリダヌス座40番星では、艦隊が激しく戦っていた。

 円盤型の本体、背後に二本の太い平行棒状ワープナセルを引く戦艦が12隻。ミレニアム・ファルコンにも似たデファイアント級も7隻。

 それと、スター・デストロイヤー60隻の艦隊。

 数は不利に見える惑星連邦側だが、量子魚雷の圧倒的な威力と地の利がある。フェイザーですら、スター・デストロイヤーなら破壊できる。

 何より、いくら広いとはいえ帝国側は、ゲートという制限がある。

 超光速航行速度は帝国のほうが圧倒的に早いが、ハイパードライブに入る前に量子魚雷を受けて轟沈する。

 また、惑星連邦は補給にも利がある。首都の一つである惑星バルカンは無尽蔵の設備があり、量子魚雷の補給にも不自由はない。

 それに対して、ホス星は同盟軍を攻撃し、その後ゲートが発見されて基地を作り始めてはいたが、もともと人類の居住は不可能に近い寒冷星。大艦隊を動かす基地としては決して適してはいない。

 

 惑星連邦から見て運がよかったのだ。ゲートが開いたのが無人の星や、艦隊の誓いで保護されている未開の星、軍事を軽視する価値観の文明を持つ連邦未加入星だったりしたら、大艦隊で橋頭保を作られ本格的な侵攻が始まっていただろう。

 まあ、帝国も運がよかった。ボーグや、もっとたちのわるい住民のいる星だったら……

 首都の一つである惑星バルカンだったから、惑星連邦は即座に対応できた。

 帝国側から見ると、反乱同盟軍が帰ってきたら叩くため哨戒していたごく小さな艦隊がゲートを発見し、侵入した。

 惑星バルカンの側の艦は、ゲートという奇妙な現象を慎重に調査していた。

 帝国艦は服属を要求して攻撃した……内部に兵員を転送されて拿捕され、多くの情報を先に取られた。そして帝国側はホス星の、同盟が放棄した残骸も利用して基地を作り、艦隊を増やし……今のところは逐次投入各個撃破の状態になっている。

 

 帝国側の方面軍司令官は、それでも楽観していた。

(逐次投入をやらかす愚者と見せて敵を油断させ、何万隻もの大艦隊で圧倒する)

 計画はできていた。

 ホス星には大車輪で膨大な資材が運ばれ、混乱している……遮蔽された船なら、そこにもぐりこむこともできる。

 

 惑星連邦側……キャスリン・ジェインウェイ提督も敵の計画は読んでいた。

「敵のコンピュータや捕虜から情報を得たわ。敵帝国の戦艦保有数は万単位。いくらキルレシオ20対1でこちらが有利とはいえ、敵が本格的に大軍を投入したら橋頭保を作られ、そこから本格的に侵攻される」

 単艦で銀河を横断した名物提督の言葉には、強い説得力がある。

「そう、あなたたちの言いたいことはわかる。それでどうするか、よ。

 私が考えているのは、これよ」

 ジェインウェイが画面を動かし、宇宙の虚空に浮かぶ冷蔵庫を指さした。強力なシールドに何重にも包まれている。

 ジャン=リュック・ピカード艦長が、激しく席を蹴った。ほかの艦長たちも、衝撃に凍りついている。

「そう、ボーグの破片。今は厳重に封印されている。

 これを戦利品として敵に与えれば、敵の帝国を内部から破壊することができるわ」

「それが、何兆人の、死より悲惨な運命につながると思っているのですか?別の時空の、敵であっても、非人間型エイリアンでも。そして、敵の帝国を食いつくした何兆人ものボーグが押し寄せてくる……その時こそわれわれの最後です。

 また、相手がもしボーグを抑えきってしまったら、報復のリスクもある」

(私が敵の皇帝なら、そんなことをした敵は皆殺しにする!)

 ピカードの声は、誰もがぞっとするほどの冷静さだった。

 その、視線だけで人を殺せそうな怒りと悲しみを、ジェインウェイは正面から受け止めた。

「考えてもみて?ピカード艦長、あなたは並行時空はあの帝国だけだと思う?」

「いえ」

 記憶がよみがえっているピカードは、即座に否定した。

「なら、時間を稼ぐ。別の並行時空と接して戦力を得る。そして戦う。

 今、敵軍が大艦隊をゲートの反対に準備していると仮定して、これ以外に時間を稼ぐ方法はある?」

 ピカードの頭脳は激しく回転していた。

 ノーノーノー、心の激しい絶叫を抑える。

(データがここにいたら)

 今は亡き親友を思い出し、その冷静さをもらおうと必死で自らを抑えた。

 何か代案を出さなければ、恐ろしい計画が実行されてしまう……

(並行時空……タイラー提督はワープの余波を兵器とした。敵の密集した大艦隊を、それで粉砕……いや、バルカン星にも被害が及ぶ……)

「会議中申し訳ありません、大至急報告します」

 後方を哨戒していた、戦艦タイタンのライカー艦長が通話してきた。

「敵艦隊に混じってこの時空に侵入した、帝国とは違う勢力と名乗る高度な遮蔽装置を持つ艦を捕らえました。こちらの責任者との対話を望んでいます。

 ……古き戦友です、ピカード艦長」

 満面の笑顔。

「〔UPW〕のヴァニラ・H(アッシュ)少佐です!」

 激しい怒りと悲しみから一転して喜びの嵐に包まれたピカード、だがぎりぎりで自制し、ひたすら上官の目を見つめている。

 ジェインウェイが、にこっと微笑した。

「こちらにご案内して、大至急」

「はいっ!」

 ピカードも笑顔を浮かべる。

 

「はじめまして、並行時空のおかた。現在この戦場を指揮している、惑星連邦宇宙艦隊中将キャサリン・ジェインウェイ」

 ジェインウェイの迫力は強烈だ。

「はじめまして、〔UPW〕全権大使、ヴァニラ・Hです」

 ヴァニラ・Hの美しさと、雪像のような静かさが皆に、ただものではないという感じを与える。

「同行していただいた、銀河パトロール隊のグレー・レンズマン、クリフォード・メートランド。同じくレンズマン、〈百世界〉のアンドルー・ウィッギン提督。

 元自由惑星同盟のバグダッシュ退役中佐。

 途中から、独自の外交のために同行を求められた、反乱同盟軍のプリンセス・レイア・オーガナ」

 腕にレンズを輝かせ、グレーの制服に身を包んだメートランドもたくましい肉体と豊富な実戦経験をマグマのように放射している。

 傍らの、壮年期の男はもの静かだが、桁外れの知性と人格の深みはわかる。

 バグダッシュだけ、少し違和感がある。ひげも弱い印象を与え、やや斜に構えた態度だ。だが、見る人はその仮面の奥も見通している。戦後、バグダッシュはオーベルシュタインやケスラーの招聘を受け、ヤンにも力を発揮するよう勧められた。だが彼は丁重に辞退し、〔UPW〕に行った……シェーンコップらと同じく、ローエングラム帝国の敵にならないと誓約して。

 レイア・オーガナも美しさだけでなく、ジェインウェイ提督にも迫る迫力がある。

「お目にかかれてうれしいわ。でも私たちは、あの帝国と戦争中。もうすぐ大艦隊が押し寄せてくると予想している。ついでにあなたたちのことも、当然疑っている」

「当然のことですね」

 ヴァニラ・Hには動揺はない。

 メートランドがレンズを出そうとして、ひっこめる。

(レンズでこちらが真実を言っている、と伝えても、心を操る超能力、と思われるだけだな)

(はい)

 並行時空の結合以来、レンズマンたちはレンズを、銀河パトロール隊を知らない世界とも隠れて交渉してきた。経験は積んでいる……レンズの能力を知ったら、まず攻撃する者も多いのだ。

「ざっとだけど、手紙は読んだわ。〔UPW〕の方針は素晴らしい。反乱同盟軍との接触もうれしいことです。至急、最優先で艦隊・連邦上層部に伝えます。

 でも、私たちにとって重要なのは、今のこの戦いよ。時空間の侵略、無差別殺戮は防ぐ方針、なら、助けてくれるわね?」

 ヴァニラ・Hは静かにうなずく。

「プリンセス・レイアからうかがっています。あの帝国は惑星ごと、何億もの人間を殺戮しています」

 家族と故郷を奪われたレイアの目は、この上なく雄弁に真実を語っていた。惑星連邦の士官たちは恐怖をこめて視線をかわす。

(ピカード艦長からヴァニラ大使へ。ジェインウェイ提督はボーグを使うつもりだ、させないでくれ、と)

 エンダーがレンズで中継する。

「力はあります」

 ヴァニラ・Hの言葉に、エンダーが強い罪悪感を押し殺したのをピカードは雄弁に感じた。

「分子破壊砲(ドクター・ディバイス/マッド・ドクター)。シールドを無視し、焦点を結んだところに大質量があれば、そこから分子のつながりを連鎖的に壊します。近距離にいる艦も破壊されるので、固まってゲートを抜けようとする大艦隊をまとめて破壊できます」

 切り札はそれだけではない。〈影の月〉……何十門もの波動砲とバーゲンホルムを搭載した、不可視の巨大機動要塞の量産はもう始まっている。そしてバーゲンホルムを応用すれば、不毛の惑星をぶつけることすらできる。

 ジェインウェイはにっこりと笑った。

「それなら安心して、代案を考えられるわね。武力によらずに勝つ方法はない?」

 ピカードや、ヴァニラ・Hやエンダーの目が輝く。特にその三人がもっとも言ってほしいことを言ってくれたのだ。

 今ゲートの向こうで準備をしている大艦隊だけでも、一千万人近くを殺戮することになるのだから。

 だが、ウォーフなどは失望を表情に漏らした。戦友を失い復讐を誓った士官たちも。誰よりもすさまじい実戦経験を誇るジェインウェイでなければ、とても言い出せないことだ。

「よろしいでしょうか?」

 エンダーが静かに発言許可を求める。ジェインウェイが柔らかくうなずいた。

「こちらに向かうとき立ち寄った、大帝国が崩壊し無政府状態にある時空があります。そこでの、数十年前のできごとです。

 崩壊しつつある帝国で、ベル・リオーズという将軍が地方の強力な勢力を征服しようとしましたが、無実の罪で処刑されたそうです。

 本人はよき武人だったそうですが、本人の内心は関係ありません。皇帝の立場で考えれば、将軍が豊かで広い地域を征服してより強くなり、反乱を起こす実力を持つだけで、処刑しなければならないのです。強い皇帝と強い将軍はともに存在できないのです。

 強い皇帝が自分で親征すれば、その時は空白の首都を別の誰かが奪います。

 弱い皇帝と強い将軍なら、将軍は帝位というより大きな戦利品をめざします。

 同様の状況を作り出せば、別時空の征服は困難になるでしょう」

 ファウンデーションを帝国から守った、心理歴史学によって構築された罠である。エンダーは心理歴史学についても、相当な洞察をしている。もともと数学にも優れた天才児である。新しい肉体を作り、その一部となった高度なコンピュータは桁外れの演算力を持つ。そして、今は隠しているが第二段階水準のレンズの力で自らの知性とコンピュータの記憶・演算能力を整理している……ほかの直結者には不可能なことだ。

「それは私の仕事ですな」

 と、バグダッシュがエンダーとうなずき合う。

 ジェインウェイは二人を見て、莞爾とうなずいた。

 十代の若さで、ネットの書き込みだけで世界を操った兄と姉を持つエンダー。彼自身も同等の知能を持つ。三つのベストセラーの書き手でもある。

 言葉の力、そして人が何を求め、何に弱いか、何が真実かを洞察し物語を紡ぐ能力……人を深く共感し理解する能力。〈死者の代弁者〉として人々を傷つけつつ救うこともできる能力だが、策謀にも使える。

 彼が救い手であり、また〈異類皆殺し(ゼノサイド)〉の異名を持つ人類史上最高の将軍でもあるように。刃物は命を救うメスにも暗殺にも使えるように。

 さらにレンズマンの能力があるのだ。要所の人間に、気づかれずに本来とは違う思考を書きこみ、言葉を発させることもできる。小さな足踏みで雪崩を起こさせるように、人間集団を操ることもできる。

 それがバグダッシュと組むのだから、敵が気の毒というものだ……だが、そのおかげで、分子破壊砲で艦ごと汚泥にならずにすむ者が何百万人といる……

 

 ピカードもヴァニラ・Hも、そしてジェインウェイも、心底ほっとしていた。

 そしてエンダーも、友が自分と同じ罪悪感に苦しまずにすむ希望に胸を熱くしている。

 その共感力によって、家族より深く理解し愛するようになった帝国の提督を、容赦なく陥れる痛みは覚悟の上だ。記号でしかない一千万人を殺すよりも、辛いかもしれないが。

 

 

 皇帝は、並行時空の征服に向けた大提督たちの反乱のうわさが流れ、更迭によって計画に崩れが出始めたことで、恐ろしい敵の存在を洞察した。

 

 また間もなく、反乱同盟軍の一部が大幅に武装が強化され、同盟から離反した。その勢力は民間人に対する無差別攻撃も行い、宇宙海賊化している。 

 それ自体は同盟軍のイメージを下げ、宣伝上有利になるが、被害も大きい。

 

 また〈ファウンデーション〉時空で、シンナックスのゲートから突然、緑の改造人間の背後から奇妙なエイリアンが出現した。それは出身を問わず周辺の人類を皆殺しにしつつ急速に拡大し、帝国艦隊すら壊滅させた。

『☆』のような形の艦で、空間跳躍が巧み。探知不能な距離から直接、シールドを無視して艦の外壁近くに出現し、奇妙な何でも溶かす物質で壁を破り、中に侵入して次々と人間を襲う。

 その姿は、クモヒトデに似ている。60センチほどの塊から、5メートルほどの鞭のような触手が五本伸びている。

 ストームトルーパーでさえ、反撃はろくにできない。鞭のような触手でターザンアクションをするように、音速に近い速度で移動し、壁を溶かす。柔らかな見かけと違い、表面は頑丈で細かい装甲版で守られており、ブラスターにすら耐える。

 人に覆いかぶさったヒトデが胃を反転させると、人はドロドロに溶けてしまう。どんな装甲を着ていても、裏のいたるところから出てくるとんでもない力を持つ小さい管足に引き裂かれ、わずかな隙間からでも死の液が侵入する。おぞましいことに意識があるまま溶かされるのだ。

 その溶けた人体の一部は吸収されて食物になり、残りは表面に膜ができて、奇妙なほど保存性の高い塊になる……そこには数万の卵が産みつけられ、数日で無数の幼体が出現する。

 また、その星型の体のあちこちからは何千と細長い管足があり、驚くほどの知能で機械を操作する。宇宙なら事実上無限に手に入るメタンを代謝する生物を培養・加工して食物とし、膨大な子を育てることもできる……だが、成体はその食物を好まず、異星人を食べたがる。

 言語による交渉は一切できない。

 コロニー連合にとって、特に恐ろしい敵の一つだった。なぜそれが急速に勢力を伸ばしたか……

 

 そして帝国のある時空の中で、隣の銀河からユージャン・ヴォングという戦力が攻撃を仕掛けてきた。

 

〔UPW〕は、反乱同盟軍には技術を供与していない。渡したのは別の時空への、紹介状だ。残虐な海賊と化した、反乱同盟軍の反乱者のことなど知るはずもない……帝国の陰謀だ、という考え方が同盟幹部の間では支配的だ。

 まして、コロニー連合に替わって出現した殺戮者やユージャン・ヴォングのことなど知るはずはない。

 アリシア人は知っているかもしれないが、第二段階レンズマンたちもその指示は受けていない。

 

 ダース・ベイダー卿やスローン大提督は激しい戦いに奔走していた。

 だが、皇帝はそのすべてを冷然と嗤い、遠い未来を見据えていた。

 

 




スターウォーズ
海軍士官クリス・ロングナイフ
レンズマン
ファウンデーション
スタートレック
エンダーのゲーム
老人と宇宙

ヒトデ型異星人はオリジナルです。〈老人と宇宙〉時空にはそれぐらいいてもおかしくないですが。

スターウォーズ対スタートレック、もっとも豪華な対決があっさりしてしまいました。


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銀河英雄伝説/時空の結合より1年4カ月

 銀河の人類を統一したローエングラム銀河帝国。

 ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝は病気治療のため、ガルマン・ガミラスを通る長期間の行幸に出た。ヤン・ウェンリー夫妻も同行している。

 その間はアンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃が摂政となり、ロイエンタール・ミッターマイヤー・オーベルシュタインの三元帥を中心に統治することとなった。

 ゼントラーディとの大戦で戦死したシュタインメッツが元帥に叙された。ほかにも賞罰はある。

 シュタインメッツ、生者では旧領土(アルターラント)を守ったメックリンガー、イゼルローンで戦い抜いたルッツ、そして戦死したアレクサンドル・ビュコックにジークフリード・キルヒアイス武勲章が与えられた。ヤンの身びいきではない、彼が全権を三元帥に返し、帝国同盟問わずすべての地位を捨てて時空からも消えてからだ。

 ほかの上級大将たちも文官たちも、ゼントラーディやガルマン・ガミラスの技術を入手したことによる、急速な人類の生活圏の拡大に対処するため、忙しく働いている。

 

 三元帥は本格的に遷都を進めたフェザーンに。

 ビッテンフェルトが三元帥の下で、引きしぼった弓につがえられている。というのがたてまえで、全滅に近かった……旧同盟やゼントラーディの生き残りで、帝国で軍務に就くことを希望した者も艦船ごと入れて、艦隊を作り直している。

 アイゼナッハは全体の兵站・物流を担当。大型輸送艦を多数指揮していたので、後にガルマン・ガミラスが災害にあった際に急行した。

 ケスラーは引き続き憲兵総監として、帝国全体の治安を担当する。

 ルッツが、新技術を用いた人類領域の拡大にあたることになっている。ゼントラーディとのかかわりも深い。

 メックリンガーはオーディンに本拠を置き、引き続き旧領土を守る。

 ファーレンハイトは旧領土のエックハルトを拠点に、〔UPW〕との外交と、戦禍がひどいイゼルローン回廊周辺の復興にあたる。

 ワーレンはウルヴァシーを拠点に、ガルマン・ガミラス帝国との外交と、地球教対策。新領土・イゼルローンへの予備軍でもある。

 ミュラーはハイネセンを中心とした新領土(ノイエ・ラント)方面軍。ただしレンネンカンプとは異なり、彼の仕事はほぼ軍事に限定されている。新技術のおかげで政治の多くは、フェザーンから見ることが可能になっているからだ。エル・ファシルの民主自治政府との外交も担当する。

 距離の暴虐は軍事において重大だが、平時でも中央集権を不可能にし、割拠の元となる……だが通信速度・輸送速度ともに速くなれば、大領土の中央集権も十分に可能なのだ。

 明治日本の中央集権は、電信・鉄道・汽船によってなったのでもある。

 また、旧同盟対策の困難さはレンネンカンプの自死で証明された。ロイエンタールならば単独でも、という声もあったが、ラインハルトの不在を補うには三元帥の総力が必要、と判断された。

 三元帥はフェザーンにありつつ、事実上直接ハイネセンを治めているのだ。

 

 

 これまでイゼルローン回廊・フェザーン回廊にはさまれていた宙域だけでも膨大な星があり、短期間で入植できる星も何百もある。

 さらに、プロトカルチャーの兵站技術を利用すれば、太陽系で言えば金星や海王星のような住めない星から、数年で何万隻もの巨大艦と莫大な食糧を作りだすことができる。

 巨大艦は改装すれば巨大な、宇宙に浮かぶ集合住宅都市となる。衣類や自動車の類もほぼ無限に生産される。

 それで人間の仕事はなくなる、ということはなかった。たとえば、ゼントラーディの兵糧も人間は食べられるが、それだけだと飽きる。兵糧をブタやニワトリなど雑食性の高い家畜のえさにして、料理にする。

 そうして作られたうまい料理は、文化がなかったゼントラーディはとびついた。二流の料理人でも高給を得られる……空前の好景気が、銀河全体をかけめぐっているのだ。貴族の没落で職を失った料理人などが不満を持つこともない。むしろ彼らは自由と富をともに得ることができた。

 戦闘集団のゼントラーディだが、金はいくらでも入ってくる。フェザーン・イゼルローン両回廊に挟まれた宙域に行けるのは、新しいエンジンのついた艦船が増えないうちはゼントラーディ艦船のみ。さらに従来は不可能だった近道航路が、フォールドなら可能というケースも多い。ゆえに、今フォールドエンジンを使えるゼントラーディ人に多額の金が入る。

 

 経済的には開放的で市場を重視し、抑えられていた平民の活力を引き出すローエングラム朝の統治は、平和において爆発的な好景気につながっている。それは王朝への、旧領土・新領土問わぬ支持率の高さにもなる。

 帝国側の教育水準の低さは労働力としての質の低さでもあったが、クリス・ロングナイフがもたらした先進個人携帯コンピュータのおかげで、低教育の労働者でも複雑で大規模な仕事ができるようになっている。半年もすれば、R2-D2やC-3POをリバースエンジニアリングし、より高度なコンピュータを載せた産業用ロボットが次々と加わった。

 プロトカルチャーの量産技術は、製造工程さえプログラミングすれば短時間で、個人携帯コンピュータを何百億個も複製できた。

 帝国の旧貴族、同盟の腐敗に依存していた者など、自力では生きられぬ人たちであっても、新しい生産技術で衣食住は一応受けることはできた。

 だが、同盟の軍関係者など失業者の多くは、無限の開拓に向かっている。

 また同盟では、これまで過剰な徴兵・戦死によって社会が維持できなくなりかけていた、そこに必要だった人々が帰り、社会が円滑に回るようにもなった。ロイエンタールを中心に、同盟も帝国も、腐って社会の動きを阻害している部分を手早く取り除いたことも、さびついた機械を掃除し修理し油をさしたように社会をよくした。

 また、〔UPW〕やガルマン・ガミラス帝国との貿易も、徐々に収益が増えていく。新しい文化が流入し、旺盛な文化需要を持つゼントラーディ人がむさぼるのだ。

 それもまた、新帝国の支持率を高めることになる。

 

 新技術の影響はほかにも多くある。

 通信と情報処理能力の爆発的な向上は、軍事にも大きな影響を与えずにはおかない。

 ただでさえ、巨大要塞ごとワープする技術とヤンによる〈アルテミスの首飾り〉の破壊により、補給不要で敵要塞・惑星を粉砕し進撃する、移動要塞を中心とした艦隊の構想があった。並行時空のつながりがなければ、それが有効な敵が存在しないので没になっていた構想だが……

 それに、並行時空の技術が次々と加わっていく。ガミラス式波動エンジンとデスラー砲。フォールド航法。ハイパードライブ航法。クロノ・ストリング・エンジン。バーゲンホルム。新しいシールド。アンシブル。分子破壊砲。

 順次、新技術を搭載した試験艦を運用し、それが次々と新しい技術で時代遅れになる。

 帝国暦三年の新型艦は、百隻で従来の十万艦隊をやすやすと壊滅できる。

 旧同盟から接収した艦も含め、どの艦に新兵器を載せ、どの艦は武装を外して輸送艦や宇宙都市にするか、その判断だけでも大事だ。

 生産力に余裕があるからこその、ぜいたくな悩みともいえるが。

 それ以前から、帝国の新艦建造設計思想には長い戦いがあった。

 門閥貴族が好んだ巨大艦の流れと、ラインハルトの美しき旗艦ブリュンヒルト、ミュラーのパーツィバルに代表される流線形傾斜装甲。ちなみに同盟は、多砲門のトリグラフが最後の建艦となった。

 しかし、並行時空の新技術はそれらすべてを吹っ飛ばした。新しいシールドと砲に比べればいかなる装甲も無意味。そして数カ月に一度、とんでもない新技術が手に入る。

 宇宙以前の、船が海に浮かんでいた人類史でも何度も繰り返された、悪夢だ。スクリュー、ドレッドノート級、空母、イージス……二十年の年月をかけ国家予算の何倍も叩きこんだ建艦計画が、計画の半分しか完成せずしかも時代遅れ、というオチが何度繰り返されたことか。

 だからといって、旧式化した艦隊のままでいるわけにもいかない。並行時空はその間にも分け合った技術で進歩しているのだ。

 とりあえず、古い艦に新しいエンジンを追加したやっつけ艦を多めに作る。エンジンだけでいいので安くあがる。

 同時に、今あるだけの技術での試作艦も少数作り続ける。〔UPW〕がミレニアム・ファルコンとワスプ号を、ヤマト地球がヤマトを新技術テスト用にしているように。ヤマトを援けたワーレン艦隊のように、試作艦だけの艦隊で訓練もしておく。

 さらに、ゼントラーディの生き残った艦船も数百万を数える。それらは技術的に枯れており、新しい技術で改造するには適していない。元が巨人用で何かと不便でもある。だが、信頼できるという長所と、圧倒的な数がある。

 ある時代の戦車の計画で、一つの車体に戦車砲・自走砲・レーダーと対空ミサイル・歩兵戦闘車の機関砲と人員箱・戦車回収用のクレーン・渡河用の橋などなんでも乗せ換えて費用を節約する構想があった、それと同様に何が来ても乗せられるような、大ぶりの船体をゼントラーディの古い艦につけ加えることも、大規模に行われた。追加のほうが主力になれば、古いゼントラーディ艦は生命維持装置と脱出装置となる、というわけだ。

 同様の思想で、とにかく大きい船体だけ作っておき、とりあえず今ある技術を乗せるという船も大量生産が始まっている。

 武装を外し、民間の輸送船として活躍することになる艦も勢力を問わず多い。

 新技術で作られた艦船の運用も頭を絞るところだ。新しい艦を古い戦術で使っては意味がない……新しい技術には新しい戦術が必要だ。マニュアルから訓練から、悪夢だ。

 それを動かすのは人材……特に留学が問題になる。中でも、ジェダイやレンズマンの修業に誰を出すか。たとえばケスラーがジェダイやレンズマンになれば、どれほど仕事が進むか……だが、体が百あっても足りないのに留学する時間などあるはずがない。部下たちでも、留学させたい素質のある者こそ、忙しいのだ。

 そして何よりも、新しい科学技術を理解し、つがわせることができる、科学力の優れた技師こそ求められている。

 となれば、教育や配置転換。軍の中の、優れた人材の活用。……将官の過労はますます激しくなる。

 

 新帝国は、常に陰謀にさらされていた。地球教のド・ヴィリエ、そしてフェザーンの自治領主だったアドリアン・ルビンスキー。

 地球教はボスコーン=ピーターウォルドの支援も受け、強力な麻薬も用いる。

 ルビンスキーも、まったく独自に様々な陰謀をめぐらしている。

 だが、どちらもある意味手詰まりだった。ラインハルトを暗殺するにも、ロイエンタールに反乱させてラインハルトを暴君にするにも、ラインハルト本人が別時空で入院中だ。

 ロイエンタールは帝国中枢におり、反逆する必要などない……いつでも自分が皇帝になる、と宣言すればなれる状態なのだ。

 一時帝国全権を握っていたヤン・ウェンリーが去り際に、ロイエンタールの誇り高い性格を読み切って仕込んだことだ。

(ラインハルト陛下の留守に乗じるぐらいなら、ロイエンタール元帥は自死を選ぶだろう)

 と。

 ゼントラーディと人類の間で再び戦いを起こさせようとしても、ボスコーンによって戦わされた両方は、二度と同じ過ちは犯さないと固く決意している。そっちはレンズマンの協力も得て、徹底して防止されている。

 最大の弱点、ハイネセン……だがそこも、かなりの距離をとって宇宙空間から惑星破壊可能な銃口を突きつけられ、細かな行政単位に分割されている。

 起こせるのは暴動だけであり、それも新しく手に入った非致死性銃のスタナーで制圧される。

 何よりも、三元帥の巧妙な統治と新技術による急速な経済成長で、不満はない。公正で、しかも経済成長の希望がある。

 

 ケスラーがトレゴンシーの協力を受け、読心による即決裁判を公開で行ったことで、多くの人は心の中までお見通しだと芯から恐れた。

 マイルズ・ヴォルコシガンが提供した、スタナーと絶対自白薬の即効性ペンタも、捜査の幅を大きく広げている。

 また、出かける前にヤンは、ユリアン・ミンツが持ち帰った情報をそのままいくつかコピーし、オーベルシュタイン・ロイエンタール・ミッターマイヤー・ケスラー・ワーレンに配った。

 それにも重要な情報が多くあった。

 

 

 旧同盟軍の数少ない生き残りは、

「全員、人類のために戦いぬいた名誉ある者である……」

 と、昇進の上帝国軍に編入されるか、または十分な恩典を受けての退役を選ぶ権利を与えられた。

 それまでの帝国との戦いも含め、戦傷者・戦死者遺族に対する恩典も継続される。戦士に対する寛大さはローエングラム帝国共通の心のあり方である。

 

 メルカッツとフィッシャーは三顧の礼を受け、帝国軍士官学校に招かれた。メルカッツは校長として、フィッシャーも艦隊運用の最高権威として後進を教えることになる。それは将来の、帝国の健全な民主化にもつながるとまで説得された。ミッターマイヤー、ミュラー、ワーレンらが何度も何度も頼みこんだ……最後は懇願と脅しを混ぜていた。

 シェーンコップ、アッテンボロー、ポプラン、バグダッシュらかなりの人数は、これからそちらが楽しくなりそうだ、と常時人材急募の〔UPW〕に行くことを決めた。もちろんローエングラム帝国に敵対しないと誓約を入れて、だ。

 ポプランはそれまでのスパルタニアンだけでなく、コスモタイガーや量産型紋章機ホーリーブラッド改も乗りこなして見せ、さっそく教官兼エースパイロットに収まってしまった。残念ながらジェダイの素質はなく、シェーンコップに笑われていたが。

 民主主義での自治が許されたエル・ファシルに移住した者も多い。

 ムライは半ば引退し、エル・ファシル近くの、不毛だった星の開拓に赴いた。

 

 

 ユリアン・ミンツはエル・ファシルで民主主義運動の先頭に立つと決めた。

 帝国軍からも招聘され、ルーク・スカイウォーカーからも名指しで呼ばれたが、決意は固かった。

 出かける直前にその決意を聞いた、保護者であるヤン・ウェンリーは条件として、とんでもないことをした。

 銀河一多忙で銀河一恐れられ嫌われている、パウル・フォン・オーベルシュタインに、留守中ユリアンを教育してくれ、と依頼したのだ。

 気でも狂ったのか、と多くの人が言った。ミッターマイヤーやロイエンタール、ミュラーやワーレン……その誰でも喜んで引き受けただろう、と。

 ユリアン自身も、軍人になるために訓練に耐えたし、帝国の、前線の軍人たちは心から尊敬している。どんな厳しいことでも大喜びで耐えたろう。

 ただ、フレデリカとキャゼルヌは、難しい顔でうなずいた。

 ヤンは、ユリアンが問い返す前に、

「本当に民主主義のために働きたいなら」

 と、いつになく真剣な目で言った。

 ユリアンは黙って従った。軍入隊以上の、死ねといわれれば自殺する覚悟、どんな拷問にも耐える覚悟でオーベルシュタインの課題を待った。

 文書で簡潔な連絡が来ただけだった。

『ヨブ・トリューニヒトについて調べ、卿自身が彼を演じた映画を三千人以上の映画館で上演せよ。同時に、添付するレンズマン訓練校の学科および体育課題を通信課程で修めよ。

 以上』

 であった。

 

「あれをか?」

 キャゼルヌも、元薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)の猛者たちもあきれた。

「レンズマン訓練校の課題自体は、帝国同盟問わずあちこちのジムにできた。近所のジムにもある。でも人間がやるものじゃないぞ、あれは」

「シャレで置いてるだけですよ」

「ローゼンリッターのオレでも五日でつぶれた」

「帝国軍でも、志願者のみ……何万に一人しかできないことを軍がやるわけにはいかない」

「実際、レンズマンの合格率はそんなものだそうです。でも、もう一つの課題の方がよほどひどい。

 どんなことでもやると覚悟したんです、挑戦のしがいがあります」

 そういったユリアンの若さに、キャゼルヌはため息をついた。その課題の恐ろしさを理解していた者も、特に老練な者に何人かいて、ある意味覚悟を決めていた。

 ユリアンは、別のことで歯を食いしばっていた。

 トリューニヒトのことなど、知りたくもない。激しい嫌悪感、憎悪といってよい。援軍のデスラーがトリューニヒトを一目見て射殺したとき、ヤンたちに帝国の上級大将たちも加わって踊り回り快哉を叫んだのはつい最近のことだ。

 だが、

(だからこそ……オーベルシュタイン元帥は……)

 ボリス・コーネフなどには、

「若さがないぞ」

 と揶揄されるユリアンの賢明さは、理解した。

(民主主義の天敵。人間を支配し、組織を動かす達人。人間の弱点。それを知らずに、民主主義をよみがえらせるなんて、できるはずがない。一番の敵から学べ。そういう、ことですね)

 あらためて、オーベルシュタインの底知れぬすごみも感じていた。

 

 さらにこの課題の困難さ……調べるだけ、学ぶだけならできる。

 だが、映画。スタッフと資金を集め、撮影し、上映する。それも大きい映画館で。

 一介の退役軍人・退役奨学金学生である彼には、不可能と言っていい課題だった。

 商売の、ビジネスの世界に参加せよ、ということだ。大きいカネを、多数の人間を動かせということだ。ヤンの名前を、カネのために利用しろということだ。

 ヤンが、仲間たちが、自分が心から軽蔑している側の人間になるということだ。

(人を動かし、カネを動かせ。きれいでいることなどあきらめろ。というわけか)

 

 ユリアンはその日から、取り組んだ。ただ、やるだけだった。

 軍の新兵訓練など、それに比べれば幼稚園だった。

 

 運動が、毎日一時間。

 筋肉トレーニングと格闘基礎動作の反復練習、休憩なしで多人数相手の白兵戦訓練、ハーフマラソンなどを日替わりで。

 どれだけやれば『今日で失格』にならないかは非公開。これだけやれればいい、という線はない、毎日本当に限界まで頑張らなければならない。人間の記録に近い一時間でハーフマラソンは、最低限だ。

 さらに定期的に予定を作り、何日もぶっ通しで地獄の特訓を課せられる……のちには何日も不眠不休、命にかかわる低温や溺水も含めた激しい訓練。地球時代のSASやSEALSと同様だ。

 加えて一日二時間、数学などの学科。大学+修士三つ分を三年で、というぐらいだ。ヴァンバスカークのように、体力と精神は卓越していても数学で落ちる者も少なくない。

 高校スポーツのスター選手であり、勉強でも軍のあらゆる訓練でも卓越していたユリアンですら、自分の限界に毎日直面した。死にもの狂いだった。IQ130以上限定の学校に入ったような、初めての体験だった。

 どちらも、もう一つの課題に比べれば喜びでしかなかった。

 故トリューニヒトの記録を、目に消毒液を注ぎたくなる思いで調べ、存命の人々に取材した。死んだばかりの故人を知る人はたくさんいた。

 それは同盟の政治・軍・経済のさまざまな人と会うことだった。政治そのものだった。内臓がまだ色鮮やかに湯気を立て液を吹くほどに生きた歴史だった。ユリアンも多くの人に誤解され、汚いと後ろ指をさされるようにもなった。

(戦艦ユリシーズの汚水のほうがどれほどきれいか)

(男娼になるほうが、人糞を食うほうがましだ!)

 そう、内心で叫び続けながら、もっとも軽蔑する人間を理解する努力を続けた。

 歴史の勉強もした。多くの書を読んで歴史上の扇動政治家たち、民主主義や革命運動の失敗の歴史を学ぶことで、間接的にトリューニヒトを学んだ。

 耐えた。毎日、限界をはるかに超える思いだった。通信課題は毎日送られ続けた。

 

 激烈な運動と勉強。さまざまな人たちの取材。本を読み映画を見て、トリューニヒトや周辺の人間を歴史上の人物と比較する。そして民主主義復興運動に参加する……いつしか、ユリアンは気づいた。

 人間なのだ。同盟の、名を聞くだけで耳を洗いたくなるような悪徳政治家も。

 まさかと思うような人に、信じられないような面があることを知った。

 悪の権化と思っていたハイドリッヒ・ラングが匿名で高額の寄付をし、家庭ではこの上なく愛情深い夫であることもあった。

 かのウォルター・アイランズが、国家危急の時に精力的に活躍したのも、驚くべきことではないと理解した。

 それを悟れば、自分を八つ裂きにしたくなるような後悔もした。

(イメージだけで決めつけ、レッテルを貼って裁き、自分が悪いのに相手のせいにしたんだ)

 それからは多くの人に会う、それ自体が喜びとなった。

 それに気づけたのも、ユリアンは知情ともに天才的に高かったからだ。その卓越した知性と強い意思は、感情とは別に、不都合な真実を直視する、という困難すら可能にしたのだ。

 時間をかけた、積み重ねの成果でもある。

〔UPW〕経由でもたらされた、(初代)死者の代弁者=アンドルー・ウィッギンの『覇者(ヘゲモン)』『窩巣(ハイブ)女王』『ヒューマンの一生』を読んだこともある。

 特に〈覇者〉……エンダーの兄でもある、宇宙進出時代の人類を支配し平和をもたらしたピーター・ウィッギンの、善も悪もありのままに描かれた姿は、膨大な洞察を与えてくれた。他の二書、人類とはまったく違う知的生命のあり方も、間接的に人間を教えてくれた。

 レンズマンの通信課題で、数カ月に一度三日から十日にも及ぶ、特殊部隊のような不眠不休の激しい運動と試験の連続で、精神が崩れかけたこともあるかもしれない。

 殺されかけたことも、変化のきっかけかもしれない。

 シェーンコップ直伝、同盟軍でもトップクラスの白兵戦技術と実戦経験さえあり、超人的なまでの格闘訓練を毎日こなしている彼が、危うくルイ・マシェンゴたちに救われたのだ。

 相手の愚かさ、凶暴さが想像を超えていた……そんな人間がいると考えることもできなかった。理由も何もない、獣の反応で体と心を粉砕して奴隷にしよう、と。布をかぶせられればどんな技も役に立たず、多人数に金属パイプで全身を殴られ八か所骨折し、拷問で指を二本潰された。

 

 地球教徒すら「取材」した。トリューニヒトの、地球教やフェザーン、帝国内部にすらつながる腐った陰謀の網は恐ろしいほどの深さだった。そしてそちら側の人たちの方が、怪物の別の面も知っていた。知る必要があった。

 トリューニヒトを知ろうとすることは、銀河の陰謀網全体を知ることにほかならなかった。同盟の権力網全体を知ることにほかならなかった。そして人間の弱点を知ることにほかならなかった。

 取材で陰謀を聞きつけて知己のワーレンに通報し、テロを未然に防いだことも何度もあった。

 ケスラーなどは、

「それを見越して指示したのか、オーベルシュタイン元帥は……」

 と思うほどだった。

 

 民主主義のための勉強会にも参加し、ヤン・ウェンリーの思想を主張することもした。若く純粋な主張は、トリューニヒト関係の人に会い取材する中で、急激にこなれていった。

 人間がありのままに見えるようにもなった。トリューニヒトの真の恐ろしさも、少しずつ見えていった。

 映画つくりも民主主義運動の一環だと気づいた、キャゼルヌが悟ったように。若者の、映画や演劇……それは政治との縁が深い。それを通じて知り合った人々も、民主主義再興運動のさまざまな結節点につながっていた。

 その人たちは、ユリアンが知っている人たちとはまったく違った。ユリアンは、ヤンと不正規隊、そして帝国軍の前線上級士官しか知らなかった。狭い世界、ほぼ同じ価値観の中で生きていたのだ。かれらにとって、ユリアンにとっては、トリューニヒト派や憂国騎士団、金持ちや権力者たちなど、のっぺりした射撃標的に「汚」「悪」と書いた紙を貼りつけただけの存在だった。

 民主運動家たちも、大衆も軽蔑すべき人形、抽象的な言葉、感情とレッテルの混合物でしかなかった。

 実際、とんでもないほど無能な人間ばかりだった。幼児にすら見えた。

 ヤンや、ユリアンさえ崇拝する者もいた。崇拝を勝手に憎悪に変え、ストーカーと化す者もいた。何度も殺されかけた。あらゆる誹謗中傷を受けた。

 イデオロギーで脳が固まった、思考停止と権威主義の権化が多くいた。

 すべてを他人に任せて文句しか言わない、責任逃れ人間も山ほどいた。

 純粋すぎてすべてを破壊してしまう者もいた。

 百万の人命より抽象的な言葉を、そして勝利よりも派閥抗争と私的な恨みを優先する者もいた。

 高学歴高IQなのに、呆然とするほかないほど無能な者もいた。

 知的障害を疑うほど愚かなのに、高い地位にある者もいた。

 単純な暴力と罵声で、人間集団を残酷に支配する獣のような者もいた。

 教条主義者は無能だった。草の根と称する、小さい組織で感情だけで固まる変種宗教団体も無能だった。社会正義を求める集団は、すぐどちらかに暴走して固まってしまう。

 おぞましい人間の世界だった。人間の愚かさ、欲深さ、凶暴さには底がないように思えた。

 その誰もが人間だった。

 トリューニヒトを、歴史上の多くの扇動政治家を、先進的な心理学を学ぶことで、人を操る技術も身につけていった。

(言葉、内容は有権者を動かすことはない。トリューニヒトは無意識を操っていたんだ、機械を操るように)

(言葉も態度も、解釈する人の感情が、真実なんだ。血の通った人間を相手にしているんだ。正しく伝わらなければ、悪いのは僕だ)

(人は信じたいことを信じ、見たいものだけを見る)

(動物なんだ。感情に支配された。僕だって、誰でも同じなんだ)

(僕も、愚民を軽蔑する愚か者になるところだった。あの戦場より危なかった)

(愚民を責めるのも愚かだ。どんなに善意で頑張っても、その努力が悪い方向に力を与える、歴史の局面がある)

(民主主義はきれいな理想じゃない。この上なく汚い、生きた人間の営みなんだ)

(下水処理には近づきたくない……でも下水処理は現実の、必要なことなんだ)

(それでも、決して譲ってはいけないこともある。現実を見ない教条主義者にも、トリューニヒトにもならない!)

 ラインハルトたちが民主主義を否定するのも、いやというほど理解できた。レンズマン制という、きわめて有効な代案すら提示された。

 もともとユリアンには人望……カリスマ性もある。それが人の群れを操る技術を学び実行し、ヤンの名前も使って、汚れることも恐れず励むのだ。

 みるみるうちに、質のいい人の集まる、小さいが誰もが一目置く集団ができていった。

 暴力沙汰でもすさまじい強さを発揮した。暴力を未然に防ぎ、集団を説得することも何度もあった。どんな犯罪者でも受け入れ、極悪人にも会った。

 清濁併せのむ懐の深さは、中傷の種にもなった。誰にどう思われても流されぬ強さも、いつしか身につけた。いろいろな人が、いろいろな評価をする存在になった。

 資金も集まり、多くの人が様々な思惑で近づいた。それに溺れることもなく、巧みに使いこなしていった。

 

 ユリアンにとって、実戦よりよほど恐ろしく困難だった。耐えられないほど自分を汚し、人間を知ることは。変わることは。何も知らないまま、穢れないままでいたかった。

 ヤンの、不正規隊の元で、暖かな家族に守られ、固まったイメージにしがみついていたかった……半分しか帰らないスパルタニアン乗りの日々のほうがよかった。

 ミッターマイヤーの帝国軍で、メルカッツの帝国軍士官学校で、また〔UPW〕でシェーンコップやルークたちと……価値観を同じくする、尊敬する人たちと励むことに、どれほどあこがれたか。善と悪がはっきりした、子供の世界に。

(選んだのは、僕だ。思い通りでない現実の世界を、現実の人間を直視する。何度でも自分が砕かれることを、変わることを、恐れない。選んだんだ)

 彼は、吐くほどわかっていた。

 しかも、エル・ファシルも含めて急速に変化していく中で、それらの活動を行ったのだ。唯一の民主主義の種火として多くの人が集まり、ゼントラーディや〔UPW〕の技術で不毛の惑星をいくつも開拓し、次々と古い仕事がなくなり、新しい仕事が生まれ、新しい文化が流れ込む、変化の時代。その不安と恐怖を若者たちの激情が増幅する濁流に、まともに飛びこんだのだ。

 

 ユリアンの成長は大きかった。若すぎる身で軍を率いて戦うよりも、経験の幅は広かったかもしれない。

 彼に直接会った人間も彼の文章を読んだ人間も、誰もが強い印象を受けた。

「最近会ったが、ユリアン・ミンツという、ほらヤン元帥の被保護者の目、とてつもないぞ。皇帝陛下とはまた質が違うが……

 なんというかな、旧知なのに、そう、人類ですらない、初めて会う異星人を見るような、好奇心と情熱に満ちた目だ。地位も、昨日までの俺のこともどこかに置いて、まっすぐありのままに見られてる……そんな気がした。

〔UPW〕のアンドルー・ウィッギン提督の、底まで理解されたと実感させる目に似ていた。

 たとえ殺そうとしても、武器でも素手でも無理だ、という空気もあったな。あのアイラ・カラメル女師に感じたような。

 一度は傷を負ったことがあるが、それ以来、信じられないような武勇伝をいくつかやっている。本人を見ればそれ以上だとわかるさ。

 帝国軍に来てくれれば、将来は元帥が務まる」

 のちの、ワーレンの言葉だ。

 

 

 

 ブリュンヒルトに乗ったラインハルト皇帝一行は、ガルマン・ガミラス帝国、ヤマト地球を経由し、エスコバールに着いた。ヤン・ウェンリー夫妻も同行している。

 身分はお忍びだが、マイルズ・ヴォルコシガンの手紙はバラヤー大使館とローワン姉妹を動かせる。バラヤーにも手紙は届き、グレゴールはかなりの国力を割いた。

 そしてデスラーからの手紙を受けたヤマト地球の政府も、恐怖半分で全力で支援している。白色彗星帝国、そして脳以外の機械化を達成していた暗黒星団帝国の技術を手に入れているヤマト地球の医学水準は多元宇宙で見ても高い。

 ヤンの、

「二つの高い技術を組み合わせればとても高い技術になる。それを両方が使えば、両方大儲けだよね」

 という言葉が、真田とローワン姉妹を動かした。

 さらに、〔UPW〕からマイルズ・ヴォルコシガンを仲介し、ナノマシン技術も届けられた。ローワン姉妹はそれも研究し、応用している。

 何より、ラインハルトの圧倒的な美貌とカリスマで動かせない人間はいない。特に女性は。

 それでも、活動できるようになるまで一年はかかるといわれ、ラインハルトの落胆は深かった。

「いっそ機械の体でいい」

 といったが、かえって時間がかかるし、第一そんな美しい機械は作れない、もったいないとローワン姉妹が悲鳴を上げた。

 ラインハルト自身は自分の美しさには何ら価値を感じていないが、なんとか医学的なリスクを挙げて説得した。

 故郷が心配なわけではない。ロイエンタール・ミッターマイヤー・オーベルシュタインの三人と、マリーンドルフ父娘がいる。心配なのは地球教やフェザーン残党の陰謀だが、それは自分がいてもどうにもならない。

 ひたすら、激しい活動を続けてきた彼には、静止そのものがつらいのだ。

 会話さえできない時間……ひたすら自分と向き合うしかない孤独は、治療の苦痛よりも悲惨だった。

(痛い治療は今日はないのか)

 と思い、自らの弱さを否定しようと苦悩したこともあった。

 敗北と死に、これ以上ないほど近く直面したときも、そのような辛さはなかった。むしろそのときは、無我夢中でありこの上なく幸せな時間だったと言っていい。

 ある程度治ってきても、動けない時間は長かった。できることは、学ぶことだけだった。

 膨大とも何とも言いようのない科学技術。多くの社会制度、それぞれの結果の比較。

 その美貌と偉大な功績は、それだけでも名士として歓迎されてしかるべきだが、病気療養中でもありほとんど社交はしていない。ひたすら学んでいる。

 ラインハルトを看護しつつ医者の勉強を始めたエミール・フォン・ゼッレ少年は、主君に負けじと励んでいる。

 

 反面、のんびりと様々な星の紅茶を楽しみ、歴史を学んでいるヤン・ウェンリーと新婚旅行を満喫しているフレデリカは、幸せの絶頂であった。

「どこの宇宙も、歴史は歴史なんだ。人間はみんな同じだよ」

 嬉しそうに語りつつ、また新しい本を手に取る。

 本だけでなく、エスコバールの町に出てみると、急激な変化と混乱も感じられる。

 智の様式の超光速船や、波動エンジンの輸送船が行かい始め、プラチナチケットの争奪戦が繰り返されている。

 超光速通信がものすごい金額で、金持ちの楽しみのために使われている。

 次々と、新しい装身具……携帯コンピュータが流行している。

 どう見ても詐欺だろう、というような開拓団に人々がわっと集まっている。

「まるっきり、この本にあるミシシッピとジョン・ローじゃないか」

 と笑ったものだ。

 

 ラインハルトが入院して間もなく、病院で奇妙な出会いがあった。

 バラヤー帝国出資の、難病・高プライバシー病棟。入れる人は限られている。

 二人の女……智の正宗、人質のコーデリア・ヴォルコシガン国主夫人と、廊下ですれ違った。

 ほんの数秒、立ち止まって視線をかわす。

 言葉はなかった。

「面白い。まだまだ、この多くの並行時空は面白い」

 ラインハルトは楽しげに笑っていた。

「恐ろしい英雄がいるものだな」

「別の時空の、皇帝だと聞いています」

 二人の女傑も、その出会いを忘れることはなかった。

 無論どんな女も、ラインハルトの美貌を忘れることはない。だが二人には、たとえ顔を焼きつぶしても変わらぬ帝王の迫力もしっかりと見えていた。

 その一度きりだった。会おうと思えばどちらも会えただろうが、どちらも何もしなかった。また、正宗たちは無人銀河の開拓で忙しい身でもあった。

 会う必要すら感じなかったのか、それとも健康体で、軍を率いて激突したかったのか……どちらも語らなかった。両方、多くの情報を集めたことはまちがいない。

 

 多元宇宙を直接旅した一行はみな、はっきりわかった。

 あたりまえは簡単に崩れること。

 どれほど異質な、優れた技術が存在し得るか。

 それがどれほど社会を変えるか。

 人間の能力が、ある意味ではどれほど限られ、時にはどれほど高くなるか。

 そして、どこであっても人間は人間であり、どれほど変わりがないか。

 ユリアンが肥溜めに頭まで沈めて学んでいることを、別の形で知ったのだ。

「人類を統一してしまえば、つまらなくて死んでしまうかと思っていた。病はそのためではないかとも。

 だが、これほど多くの宇宙があり、すべきことは多くある。楽しくて死んでなどいられぬ」

 それが、ラインハルトの熱すぎる魂を支えていた。




銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス
レンズマン
ヴォルコシガン・サガ
銀河戦国群雄伝ライ


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ワームホール・ネクサス/時空の結合より2年2カ月

 ついに病癒えたラインハルトは、迎えに来たワーレン艦隊と合流し、故郷に向かうことになった。ゲートを通って地球へ、そしてガルマン・ガミラスから故郷へ。

 ワーレン艦隊が迎えに来ている。

 千隻のキロメートル級戦艦に、エスコバールの人々は度肝を抜かれた。

 健康を取り戻した主君に、ワーレンたちは感泣し「ジーク・カイザー」を叫んだ。

 すぐにワーレンの号令でデスラー、ヤマト、エスコバールにも感謝の声を上げた。

 

 快癒と出発は、別れも意味していた。

「卿は」

 エスコバールの港で、ラインハルトはじっと、入院中そばにいてくれた夫婦を見つめた。

 ヤン・ウェンリーとフレデリカ・グリーンヒル・ヤンは深く頭を下げた。

「私たちは、故郷の時空には戻りません」

 わかっていたことだった。

 同盟にとどめをさしたヤンは、同盟方面には帰れない。帝国に仕えれば地位は思いのままだが、むさぼる気はない。望むのは、引退と平穏だけである。

「ゆっくりと、いくつもの並行時空を巡って歴史を学びます」

 というヤンに、皇帝は柔らかな笑みを向けた。

 友、の言葉はただ一人のみ。だが、この夫婦は入院中、家族同然に尽くしてくれた。

「書物ができたら送ってくれ。きっと、予の統治にも役だとう」

「喜んで。……故郷を、多元宇宙すべてのラマンを、頼みます」

 あっさりとした別れだった。

 

 主君を迎え入れたワーレン艦隊は、ディンギルとの戦いで打撃を受けた地球を横目に見、古代進と再会し外交日程をこなした。

 そしてガルマン・ガミラス帝国の新しい首都、新ガミラスを訪れた。天然の居住可能惑星こそないが、巨大惑星の衛星や小惑星帯が多く、使いやすい資源に恵まれた星系である。そこに巨大艦が集まって都をなしている。

 500キロメートル級の小惑星を自動工廠が貪欲に食っている。6日に一隻の割で4000メートル級の艦が完成している。半年後には、〈白き月〉に匹敵する規模の、宮殿・工場・要塞を兼ねた超巨大船ができる予定だ。

 そこでラインハルトたちはデスラーとも会談した。

「そのままで住める、海と森があるような惑星にこだわることは、惑星破壊ミサイルがあり、自動工場の技術を得たわれらにとっては無益だ。

 ワープ可能な惑星破壊ミサイルの脅威に常におびえ、守りの姿勢で心を固く臆病にするだけではないか。今は、居住できぬ星々の資源を巨大要塞にすることは容易なのだ。

 ガトランティスの利を思うべきだ。

 あのように、征服した地を荒廃させて次を求めることはしないが、分散していることでたとえ災害にあっても、生き残りがガミラス民族の栄光を取り戻すことができる。戦いでも戦力集中がしやすく、戦場を選べる強みがある」

 デスラーの言葉を、ラインハルトは静かに聞いた。

 同じく覇王であり、実に気が合う。美意識の高さも共通している。

「卿が敵であれば楽しかったろう」

 は、どちらもいつも思うことであった。

 ラインハルトの天才は、ガトランティス帝国の優位も即座に理解した。ハリ・セルダンが死後はるか後にベル・リオーズを斃し、エンダーがパルパティーン帝国を苦しめている『強い将軍と強い皇帝』の、有効な対抗策でもあるのだ。

「ズォーダー大帝のことは、今も尊敬している。漢(おとこ)だった」

「ぜひ、お手合わせを願いたかった」

 ラインハルトは十分にその事績を学んだうえで、楽しげに美しい笑みを浮かべていた。

 

 

 ヤン・ウェンリーは、エレーナ夫婦を連れてブラマンシュ家の船が、〈ワームホール・ネクサス〉から〔UPW〕に至った道に行くことにした。

 とても遠く、時間のかかる道だ。

 だが今、短い道である五丈から智が支配する夷を経てコマールに至る道は、正宗がふさいでいるのだ。

 さらにワーレンは、旅立つヤンのためにといろいろと持ってきた。無論ラインハルトの命令がある。

 ユリシーズ号が、バーゲンホルムを含む最新技術で改良されて与えられた。

「虎を野に放つのなら、身ひとつでも三個艦隊をつけても危険は変わらぬ。信じるか、信じぬかだ。予は彼を信じる。先も、信じたとおりにやってくれたのだ」

 ラインハルトの言である。

 その乗員たち、もちろん忠実な不正規隊(イレギュラーズ)の最精鋭もおまけ。

 中でも元薔薇の騎士(ローゼンリッター)のカスパー・リンツは、ジェダイの修業をやりとげている。

 ローエングラム帝国に敵対しないと誓約した自由傭兵、という扱いだ。報酬に不自由はない。故郷の、帝国・フェザーン・同盟すべてのデジタル文化資源と支障のない程度の技術が、そのままとてつもない金額の貨幣となっている。ラインハルトの治療はバラヤー持ちなので、大使館や商館が必要とする分を除いた相当部分はヤン夫妻に渡されている。

 それだけでなく、同じバラヤー関係者で難病患者であるデンダリィ隊のタウラ軍曹も、コーデリア・ヴォルコシガンの依頼もありヤンのボディーガードに加わることになった。

 

 ヤンはまず、バラヤーに向かうことにした。

 礼儀上はラインハルトが挨拶に行くべきという意見もあった。だがバラヤーの側も、例えばローワン姉妹がジャクソン統一星から救出された事件にマイルズが関係していること自体、機密だったりする。

 ラインハルトの滞在自体が秘密でもあり、動けばそれだけ秘密は漏れる。

 何度か、ラインハルトとグレゴール皇帝らとの間で、即時通信を通じた会談は行われているので今回はそれで十分、となった。同時に、いつか皆が集まり首脳会議(サミット)を、という話も出た。

 グレゴールは映像ながらラインハルトの美貌と迫力に感銘を受け、ラインハルトもグレゴールの、若くもの静かだが平静な威厳を認めた。

 

 エスコバールからバラヤーへの旅は、従来のワームホールを用いる技術ではかなり長くかかる。だが、バーゲンホルムやガミラス式波動エンジンを備えたユリシーズ号改にとっては、ゆっくり行っても四日だった。

 バラヤーでは、秘密裏だがグレゴール皇帝夫妻自らが出迎えてくれた。

 そこで、何よりもヤン一行を驚かせたのは、バラヤーも別の経路からゼントラーディ人とかかわりを持ったことである。それはバラヤーでもかなりホットなニュースだった。

 その話を聞いたヤンは、人目もはばからず泣きじゃくった。戦死者たちのことを思って。

 もちろん、バラヤーがゼントラーディ人に出会ったのはラインハルトたちがゼントラーディ軍と戦った、それよりかなり後のことだ。戦争中はバラヤーとローエングラム帝国の国交を考えたりする余裕などなかった。

 もちろん、メガロード01についてきていたゼントラーディ人も驚き、連絡を強く望んだ。

 そのためにも、エスコバールとバラヤー、またバラヤー・コマール・セルギアール三星の、バーゲンホルムに適した星間物質が少ない航路、ワープやクロノドライブに適した重力場が安定した場、そして即時通信網の増強が強く望まれた。

 ヤンはそのような外交・商売関係には無関心なので、有能な副官であるフレデリカが頑張ることになる。

 彼女の外交官としての手腕だけでも、ヤンたちがもらった金には充分値するとラインハルトが評したほどだ。

 

「マイルズの手紙は読みました。お目にかかれて光栄です」

 グレゴール皇帝はヤンの事績を知って会う人が常に見せる、

(ギャップに驚く……)

 表情を、みごとに抑制している。

 そして、まっすぐな目と暖かな手にも圧倒された。ラインハルトやデスラーとは質が違うが、威厳は確かだ。

(こういう支配者もあるのだな)

 と、ヤンは目を開かれる思いだった。

(このひとも世襲の皇帝のはず。それでこれほどの専制君主ができるなら、君主制にも可能性があるのではないか?自論を疑う姿勢がなければ狂う。この方の教育は、ラインハルト陛下の後継者を育てるのに、参考になるのでは?誰が教育したんだ?)

「マイルズ閣下のおかげで、わが故郷の何千億人もが助かりました。ラインハルト陛下の治療に協力していただき、ありがとうございました」

 そう返すヤンの、威厳も何もない雰囲気に、フレデリカは少し心配にすらなる。だが、グレゴールの目を見れば彼女もわかった。皇帝は見ためにごまかされてはいない。

「こちらも、あなたの故郷の皆さんには大きな借りがあります。ジェセック一家は、われらバラヤー帝室にとっても家族同然なのです。バラヤー帝国の、すべての支援と最大の友情を誓います」

 お互い穏やかに、最高級の紅茶を楽しむ。

(好みまで調べてくれていた、部下たちも有能なんだ)

 そして皇帝夫婦に別れを告げ、イワン・ヴォルパトリル大尉の案内で大学の歴史学科を訪れバラヤーの歴史を学ぶことができた。

(やはりバラヤー史にも暴君はいる。世襲の専制は、どうにも質が安定しない。といっても民主政治も絶対ではないか……グレゴール帝は、幸運な偶然というべきか?)

 フレデリカはレディ・アリス・ヴォルパトリルの案内で服選びを楽しみ、ヴォル・レディたちと深いつながりを作る……それがのちにどれほど役に立ったことか。

 宇宙の男どもはバーゲンホルムの超速を活かし、ベータ植民惑星の快楽を楽しむ者もある。

 

 バラヤー滞在を終えたヤンは、紹介状を手に地球の、ブラジルに向けて旅立つことにした。

 そこに、マイルズのかつての恩師というべきカイ・タング准将が引退している。

「地球、というのがウソのようだ」

 ユリアンの報告、ヤン自身が学んだ歴史にあった、破壊と搾取に荒れ果てた惑星とは違う。

 多少の温暖化被害などはあるが、豊かな星だった。

 中でも、アマゾンの大森林には圧倒された。

 地球の人々も、ある程度超光速船に慣れ社会の変化も始まりつつある。だが、地球の大人口と盛んな産業は、巨大船のように鈍さにもなる。

 ブラジリアのホテル。美しい石のヴォールトに、柔らかなソファが点在している。ヤンは存分に素晴らしい紅茶を堪能していた。

 とんでもない身長と不思議な美しさで目立ちまくっていたタウラが、突然すさまじい速度で飛び出し、ずんぐりした男を激しく抱きしめる。

「べっぴんさん!アナコンダより痛いぞ、この」

 娘に再会したような、うれしそうな悲鳴が上がる。

「まだ生きてたとはなあ、タウラ軍曹。もうとっくに死んだと思ってたよ。いい服を選んだな、昔のピンクとは違って似合ってる。何度も言おうと思ったんだが、頭をつかまれて背骨ぐるみ引っこ抜かれたくなかったからな!」

「准将こそ、潰れるかと思うほどの力でしたよ。服は、レディ・ヴォルパトリルのおかげです、バラヤーの。これこそ最高の武器だって」

 タウラがもう一度、男がつぶれそうなぐらいに抱きしめて横に動く。

「まったくとんでもない武器だよ! ヤン・ウェンリー元帥ですな。カイ・タングだ」

 濃く日焼けした初老の男だった。ものすごい力の握手。どう見ても現役軍人の体格だ。

 マイルズが見れば、現役時代よりさらにたくましくなっていると驚くだろう。

「ヤンです。妻のフレデリカ。ネイスミス提督……ですよね、あなたにとっては?彼の紹介でうかがいました」

 真相を知っていたタングが、にやりと微笑んだ。

「メールは読んだよ。しかし、ワームホール時代の、船が最速だった時代を思えば驚きに口もきけないな。一千万隻の敵艦というもの、ぜひこの目で見てみたいもんだ」

「それと戦う立場になれば、あまり見たくない光景ですよ?」

(正直、思い出したくもない)

 引退した傭兵は、大いに笑った。

 

 やや本通りから外れた、地元民ならではのレストランでスパイスの強い内臓・脂身・豆の料理をむさぼり、チリワインに舌鼓を打ちつつ、話は弾んだ。

 タングたちはもちろん、あちこちの時空の話をしたがった。

 ヤンも、聞きたいことは山ほどあった。

「こちら、〈ワームホール・ネクサス〉の地球の近くにも、別の時空につながるゲートが開いたそうですね」

「ああ。地球の人々は二年前に太陽系に出現したゲートを慎重に観測していた。

 こちらから有人船が入るより先に、あっちから使者の船が訪れ、超光速航法に驚かされもした。

 その時は技術が違いすぎる、一方的に征服されるんじゃ、とおびえていた。おれまで徴兵されるところだった、少将として死ね、ってことさ!」

 タングは強く息を吐き、笑った。

「本格的な交渉ができるようになったのは、バラヤー帝国が≪向こう側≫のひとつと同盟して、安く超光速船を借りられるようになってからだ。

 エスコバールにつながったヤマトの地球はケチだし、船も少ない。この地球とつながった地球……ああ、ややこしいからここらのみんなは、DEって呼んでる。デビルーク・アースだ」

 フレデリカはバラヤーから得た情報を思い出してみる。

 その地球、DEはローエングラム帝国や〈ワームホール・ネクサス〉と同じ地形であり、その太陽に所属するほかの惑星も同じ。経験上、その場合は西暦1970年まで同じ歴史を共有している。

 だが、奇妙な情報もあった。

 かなり先進的な超光速艦船が行きかっている。その中には、ゲートを越えて通商を求めてきた船もある。

 それなのに、地球は開発がまったく進んでいない。地球表面を観測したら、生活水準は21世紀初頭程度。

「DEの時空は、銀河大戦が続いていたって話だ。それが最近、ギド・ルシオン・デビルークという英雄王によって統一されたそうだ。まあそう言ってるだけで、信じる理由はないがね。あっちに行って帰ってきた人もまだまだ少ない。

 DEは、長らく異星人との交流がなく独立して発展してきた。異星人は一応訪れているが、まだ公式かどうかは曖昧な状態だそうだ。こっちの人間ももちろん立入禁止。どんな病気が残ってるかもわからないしなあ。

 で、面白い情報があるんだ」

 情報こそ、命や武器より大事な傭兵の通貨である。

「なんでしょう?」

「そのデビルーク王の娘が三人、DEに留学してるって話も聞いた。それでDE周辺に、妙に船が多い。

 あと、これは別のうわさだが……」

 フレデリカがタイミングよく、バラヤーで手に入れたヴォルコシガン領名物、高度数のメープル酒と、それを利用した虫バター菓子を取り出す。

「お、わかってるなあ美人の奥さん! そのデビルーク帝国の首都近くの星から、さらに別の銀河につながって、そこからうわさの〔UPW〕に達するらしい」

 そういって、なぜかタウラの目をじっと見つめる。彼女は察してうなずいた。

「言っても大丈夫か?」

 タウラが微笑する。

「はい。解決しました」

 深いため息とともに、タングの表情がふーっとゆるむ。

「ああ……よかった。よかった。そう、デンダリィ隊の仲間だったジェセック夫妻が、〔UPW〕から来た船とともにそのルートに向かったんだ。絶対知らんぷりしろ、と暗号が来たからそうしたが、心配していたんだ」

「ひどい話でした。お子さんが誘拐されたのです……クアディー宇宙、というところで」

「ああ、あれか。ひっでえ事件らしいな」

 タングが不快そうに吐き捨てる。

「解決したならいい。で、ネイスミス提督閣下は……」

「それはもう、獅子奮迅だったそうです」

「目に浮かぶよ! あいつ、エレーナにものすごく惚れてて、いろいろあってバズに奪われてすっごい苦しんでたからなあ」

 笑っている男の目が、突然戦場の殺気のこもった目となる。

「……助けたかった、どんなことをしても」

 人のものとは思われぬ声。筋金入りの軍人でなければ、ヤンもフレデリカも失禁ものだった。

「無事ならよかった。ジェセック夫妻とコーデリアちゃんは?」

「〔UPW〕に就職しました」

〔UPW〕のジェダイアカデミーから来たばかりのリンツが答える。

 ふ、とタングの雰囲気が戻る。

「そりゃあよかった。さてと、少し話の続きをしますかね、と。

 地球、バラヤー帝国、エスコバール。三つの星から、非ワームホール超光速技術が手に入った。どうする?」

 沈黙に、ヤンは静かに食べ続けつつうなずく。もうそのことは、何カ月も前から考えている。

「まず、こっちの事情を説明しておこう。

 うちの時空……って言い方も慣れないな……では、ワームホールを用いる超光速航法しかなかった。それは、一度に一隻しか通過できない。無論出現場所も明白だ。それが防御の異常進化と巨大艦を産んだ。

 だが、前提が変わった。

 それまでは、二百隻の艦がある星と、五隻の艦しかない星はある程度互角だった。出口を三隻で押さえて出るそばからつぶせば負けなかった。戸口を歩兵三人で守れば、百人でも千人でも同じことさ」

 軍事の話はヤンもフレデリカも、見た目とは違い知能の高いタウラも、夢中で聞いている。

「だが、非ワームホール超光速技術ができれば、多数の艦をそのままぶつけることが可能になる。実力がそのまま出てしまう。

 特に、超光速で動く多数の艦を手に入れたと言っていいバラヤーには、三つ選択肢があった。

 一つは、技術を盗まれるより前に、多数の超光速艦ですべての星国を制圧すること。

 だがグレゴール皇帝は、それを選ばなかった。なぜだと思う?」

「食べきれないから」

 シヴァ女皇に、食べきれない量の肉にかぶりつこうとしている子供の画像を送って忠告したヤン本人にはすぐわかった。自らフォークで七面鳥のローストを丸ごと刺し、かぶりつこうとしてみせる。

「そうだ。『いくらかかる?』『統治に必要な費用は、君が出してくれるか?』とおっしゃられたもうた、って話さ。セタガンダ帝国一つを征服し支配するのに、バラヤー帝国予算の何十倍もの金額がかかるのはここから計算してもわかる。

 脳が沸いてるバラヤーヴォルにそんな計算ができるとは思えんがね!」

 この〈ワームホール・ネクサス〉では、ワームホールの消失で長く孤立し、剣と馬の封建時代に逆行していたバラヤー人は、まあ蛮族扱いされている。

「はい」

「それに、もしバラヤーが時空全体を統べる侵略的帝国になりそうになれば、ヤマトの地球に告げる。その場合にはヤマトの地球は、エスコバールなどに波動エンジン技術を渡す……って、エスコバールから通告されたそうだ。

 ここの地球も、同様のはったりをかました。デビルーク王がそんな親切にしてくれるかは、おれみたいな下々にはわからない話だがな。それにあっちの戦力は知らないし」

「ヤマトだけは絶対に、どんなことがあっても敵にしてはいけません。ガルマン・ガミラス帝国もです」

 ヤンが真剣に言う。トールハンマー以上の破壊の雷剣を、何度も目の当たりにしたのだ。さらに、ガルマン・ガミラス帝国主導だが、超新星爆発兵器……その圧倒的な破壊も、戦場で肌で感じてしまった。

(同盟の、アムリッツァ以前の全軍でも勝てる気がしない……)

 のが、正直なところだ。

「占領し、統治するのがどれほど大変で……無限に金と資源と人材を浪費する愚行か、知っています」

 フレデリカが、硬い表情で話した。

 同盟にとっての致命傷、アムリッツァに終わった帝国侵攻……後方勤務だからこそ、その書類と資源の流れは悪夢のように覚えている。

 ヤンも、歯を食いしばっていた。

「やったことがあるのか?」

「はい」

 タングはそれ以上聞かず、とっておきのラム酒を注文した。

 しばらく酒を楽しむ。老兵のやさしさに、タイプは違うがビュコックを思い出し、酔いも手伝って泣きそうになった。

「さてと。次の選択肢……自分たち以外皆殺し。敵が生じるリスクはなく、占領政策の金もかからない。

 智の正宗が平然と言い出し、否定されて笑ったって噂を聞いた」

 ヤンたちもバラヤーで聞いた話だ。バラヤー首脳を試したのか、それとも本気だったのかは、誰も確かめようとしなかった。セタガンダに家族を殺された老人など結構賛成者はいたが、逆に危険人物をあぶりだす結果になったそうだ。

 ヤン自身も、正宗を一目だが見ている。

(必要ならやる強さはあった。だが、虐殺の楽しみに溺れるばかでもない。恐ろしい女だった)

「ま、そんなことをしたらヤマト地球とデビルークが敵に回るだろ。次はわが身だからな。

 最後の選択肢……技術を全部まとめて、すべての国に売ってしまう。バラヤーのグレゴール皇帝は、それをやらかしたそうだ! さすがマイルズ坊やの、いとこでご主人さ。アラール・ヴォルコシガン閣下が赤ん坊から育てたという皇帝陛下だ! グレゴール・ヴォルバーラ帝とバラヤー帝国、アラール・ヴォルコシガン国主総督に乾杯!」

 アラールの大ファンであるタングは上機嫌である。

「どうせ盗まれる。なら、今売ればカネになる。そのカネで、より多くの星を開拓できる……聞いています」

 それに加え、各星国と折衝し、要するに

〈開拓に力を入れる。他国を征服しようとしたら、みんなで寄ってたかって潰す〉

 という条約を結んだ、とも。

「先にそれをやられて、ここの地球政府もエスコバールもパニックだ! せっかく先に超光速文明と接触した優位が、一発で、パア。あはは、やったもん勝ちだったんだな」

 タングが大笑いし、突然憧れの表情になる。

「それというのも、智と強い同盟を作り、超光速技術をちゃんと手に入れていたからだ。地球もエスコバールも、船を借りるだけだった。それもアラール・ヴォルコシガン将軍がみごとに勝利し、寛容にも固い同盟を結んだからだ!」

「ですが、そんな条約が実際に効力を持つのは大変でしょう」

 フレデリカの言葉に、タングは誇らしげに笑った。

「おれが前にいたデンダリィ傭兵艦隊が、どこかからとんでもない技術を手に入れたんだ。

 妙な動きをする星国があれば、ばかでかい艦がワームホールもない虚空に出現、迎撃艦隊をあざ笑うように超光速……たまったもんじゃないさ」

 ゼントラーディ戦直後、マイルズは得た立場を最大限に使い、自由惑星同盟の半壊艦大小三隻をせしめ、故郷……デンダリィ隊のエリ・クインに贈ったのだ。

 押し切られたのは摂政だったヤンなのだ、苦笑するしかない。

 

 

 タングやバラヤー帝国がくれた情報のおかげで、これからの旅の見通しも立った。

 デビルーク銀河帝国を横断し、首都星近くにある別の時空ゲートから、東銀河連邦の首都〈星京(ほしのみやこ)〉へ。

〈星京〉からはるばる辺境の〈星涯(ほしのはて)〉の、そのまた辺境にできた〈ABSOLUTE〉のクロノゲートに至る。

〈星京〉を中心とした銀河は争いが続いており、いくつもの星国がそれぞれに無茶な要求をしてくるので通るのが大変で、時間もかかるそうだ。

 

 以前、マイルズがそちらのルートを選ばなかったのは、まだそのルートで〔UPW〕に行けると知らなかったからだ。

 また、(ワームホール・ネクサスの)地球方面にはあまり行きたくなかった。タングには会いたかったが、敵が多すぎる方面なのだ。

 

 ヤンたちの近くの店で、〈星涯〉の名に惹かれ、そちらに向かう準備をしている人たちもいた。

 ほしのはて……スターズ・エンド。〈ファウンデーション〉創立者、ハリ・セルダンが言ったという、第二ファウンデーションのありか。

 もちろん、セルダンが多元宇宙のことを知るはずはない。藁をつかむような連想だが……




銀河英雄伝説
ヴォルコシガン・サガ
宇宙戦艦ヤマト
ToLOVEる ダークネス
銀河乞食軍団


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時空の結合より2年7カ月

 第一次タネローン防衛戦と呼ばれる大戦は、始めはそれほどの戦いになるとは誰も思わなかった。

 結婚が、戦いを準備していた。

 

 病癒え故郷に帰ったラインハルトを出迎えたのは、暗殺未遂だった。

 それはヴェスターラントの罪を思い出せるもので、逃避のためにラインハルトはヒルデガルド・フォン・マリーンドルフを求め、結婚につながった。

 一つの過ちにより友を失い、妻と嫡子を得た……といえば、春秋の筆法にしても味つけがすぎるだろう。

 

 少し前から、レンズマンからも奇妙な指示が多元宇宙各地に出されていた。

 要するに、

(偽の標的を作れ)

 というものだ。

 銀河パトロール隊は、第二銀河の、一見無価値な星を厳重に防護した。五百パーセント重複した監視網、何千もの鉄槌、星を軽く砕く要塞砲……誰がこれを落とせるというのか、という鉄壁の要塞であった。

 ガルマン・ガミラス帝国は、破壊されたテレザート星跡を厳重に防護し、

「ここがタネローンである」

 と宣伝した。

 五丈の竜牙雷は、六紋海の小さい星を要塞化して、

「ここが心理歴史学の研究所だ」

 と宣伝し、学者や本を集め学術都市を作りあげた。

 以前から、五丈は心理歴史学を手に入れていると周辺に宣伝していた。

 ほかにも、極秘の命令を受けた者はいた。

 第二段階レンズマンは人数も少なく、顔も知られているので動きがとれない。

 だが、ひそかにアリシア星に行き、レンズを手に入れた者もいる。ジェダイの修業を済ませた者も多い。

 

 

 古代進と森雪も、長い婚約からついに結婚式を挙げた。

「新婚旅行は新ガミラスだろ?」

「グリーセンベック大将からも手紙が来たけど、すごくいいところらしいな」

「でかい船がまるまる一つ、魔法の国テーマパークになってるってよ」

「それともベータ植民惑星にでも行くか?」

「ほらうわさの」

「こら!」

「ダイアスパーとかいう、すごい観光地が見つかったらしいな」

「観光地?もっと想像を絶する技術だ、話半分だとしても」

 見えているのは真田や上層企業に連なる南部など、わずかな人だけだ。

「ヤンさんから動画メールが来たけど、ワームホールの地球やその向こうのデビルークアースもきれいらしいな。豊かな森がある地球、ぜひ見てみたいよ」

「そうはいっても、私費で行けるのはせいぜい」

「いや……申し訳ない」

「長官!」

 突然ドアが開き、入ってきた藤堂司令長官自身が、雪に深く頭を下げた。

「ヤマトで〔UPW〕に行ってくれ。新ガミラスからローエングラム帝国経由だ」

 古代の表情が天国から地獄になった。

「え?」

「トレゴンシーどのから要請があった。〈白き月〉に、〈武蔵〉以外の、撃沈されて多数の戦死者を出した艦船の残骸を運ぶように」

(ヤマトの強さの秘密は?)

 それは多元宇宙でも大きな疑問の一つである。

 地球防衛軍の愚かさとも言われている。

 だが、アリシア人には別の考えがあったようだ。

〈白き月〉と〈黒き月〉の対照も、注目すべきだろう。

〈黒き月〉は機械的な同一規格大量生産で、物量で押す思想だ。人間も個性なき部品にするのが、その規格思想のあらわれでもある。

 それに対して〈白き月〉は、人間の可能性……奇跡を起こす力を重視する。人間のテンションで、不安定だが上限のない力を発揮する紋章機があらわれだ。

 奇跡を起こす力……〈白き月〉なら、ヤマトの、

(〈大和〉の英霊の加護を再現できるのではないか?)

 と、考えたらしい。

 もちろん、冒涜だという叫びは百も承知だ。

 だが、トレゴンシーたちは卓越した交渉力で、許可を取りつけた。

(ヤマト地球が否んでも、別の地球から調達すればいいのだから……)

 である。

 なぜか〈武蔵〉は禁じられた、どの時空であれ。だが〈信濃〉〈ビスマルク〉〈プリンス・オブ・ウェールズ〉……英霊を抱いて眠る鉄塊・木塊は、数多くあるのだ。

 それをできるだけ調べ、その残骸の一部を集めている。

「それはもう、ヤマトに積むよう命じた。事後承認ですまないが、急だ」

「はい、承認します」

「新ガミラスにも寄るように、とトレゴンシーどのから。何か対〈混沌〉の作戦があるらしい」

 長官が辛そうに加える。

「それに、デスラーからの戦況情報だ……ボラー連邦がそろそろ追い詰められている」

 相原の言葉に、当然だろうという顔をする皆……だが、島だけは顔色を変える。

「それって」

「ああ。ボラー連邦が滅んだら、ガルマン・ガミラスと、ルークの故郷の帝国が直接対決だ。十万単位の艦船、十兆単位の人口らしい……」

「それは……」

「なら、地球のために、情報収集は、絶対に必要よ。何よりも最優先で」

 雪が、必死で平静を装う。女にとって新婚旅行がどんなに大切か、それでも……

「でも雪」

「古代くん。多元宇宙の平和、ひいてはこの地球の平和のためよ、新婚旅行ぐらい……新婚旅行ぐらい……」

 必死で涙をこらえる雪に、宇宙戦士たちは歯を食いしばることしかできなかった。

 

 

〔UPW〕では、エリ・クインらが五丈方面からマイルズの元を訪れた。

 彼女はマイルズの、昔の恋人でもある。彼が妻エカテリンを紹介するのを、みんなにやにやと見ていた。エレーナ夫妻とシヴァ女皇、タクト・マイヤーズも。

「お久しぶりです、マイヤーズ長官」

 エリは任務を最優先として、気まずさをごまかした。

「ああ、思い出してくれたんだね。相変わらず美人だ」

「ご結婚おめでとうございます、タクト長官。マイルズ・ヴォルコシガン卿、グレゴール皇帝よりの伝言をお届けします」

「ありがとう、提督」

「こちらも」

 エリは子を抱くように大事に抱えていた、キャベツ大の漬物石をマイルズに渡した。

 思っていたほど重くはない。

「これは、バラヤー・智・メガロード01同盟が手に入れた、ダイアスパーの技術です。グレゴール皇帝陛下より、皇帝直属聴聞卿として渡すに値する相手に渡せ、と」

「……ああ」

 5キロほどだったそれが、一気に重くなった。生涯で二番目に重いものに……部下の生首に次いで。ネイスミス時代の戦いで、抱えてしまったそれがフラッシュバックしてしまう。そうなると必ず思い出す、斜路とともに落ちていく赤毛……

 一瞬目を閉じて心を整え、ためらいなく、マイルズはタクトに歩み寄った。漬物石を差し出す。

「お渡しします。エリ……聞いているか、コーデリア・ジェセック誘拐の件は」

「え」

 エリが凍りついて、エレーナ夫妻と、父と手をつないでいる幼児を見た。

「この子が誘拐され、脅されました。デンダリィ隊ともバラヤーとも連絡するな、と言われ、〔UPW〕を頼ったのです。〔UPW〕も、ヤマト、ガルマン・ガミラス帝国、ローエングラム銀河帝国、反乱同盟のソロさんたち、五丈の太助さん……そして銀河パトロール隊。多くの助けがあって、救出できました」

 エレーナの声は冷静だが、冷静だからこそ強い感動がこめられていることが、元同僚のエリには伝わった。

(変わらない、絶対に信頼できる戦友。

 というかアレグレ(現秘密保安庁長官)のやつ、黙ってたわね?いいえ、ちゃんと今のシヴァ陛下たちを、私が先入観なく判断できるように、ってわけね)

 エリが笑ってうなずいた。

 タクトがそれを手にしたのは一瞬で、ノアがひったくって飛んでいった。

「ラグビーでもするんだろうか」

「誰も取らないと思うけど」

「いや貴重品だ。リリィ、護衛」

「は」

 レスターの言葉に、リリィ・C・シャーベットが飛び出した。

 エリ・クインはシヴァの方を振り向いた。

「そしてシヴァ女皇。あなたにも伝言を預かっています。コーデリア・ネイスミス・ヴォルコシガン国主夫人、智の紅玉公、メガロードの一条未沙提督からです。

 多元宇宙が戦乱にならぬために……ある程度以上の技術があれば、物質的な欲望は誰もが事実上無限に満たすことができる。居住可能惑星にこだわらなければ、全自動工場が作った都市宇宙船で十分生活できる。

 人はパンのみにて生きるにあらず、というけれど、衣食足りて礼節を知る、ともいう。全員に十分な衣食を与え、争う理由を減らそう。

 そのために、ことなる時空の技術を組み合わせ、より優れた技術を創ろう。

 以上です」

 シヴァの顔が喜びに輝いた。

「ありがとう……うれしい。早速お礼を、自ら言いにうかがいたいほどだ。無理はわかっているがな」

「では、パーティにしようか」

 タクトが待ちきれないように言った。

「残念ながらその暇はないな」

 レスターが苦々しげに言った。

〔UPW〕の者はわかっている。皆がクリス・ロングナイフがもたらしたネリーの複製をつけている……常に視野の隅に小さいパソコン画面が浮いているに等しい。

「はい。五丈の情勢も報告すべきことはあります」

 エリ・クインも、それを話したいようだ。

「まずその話を聞こうか」

 タクトの言葉に、エリが五丈を侵略したベア=カウ族について語り始める。

 

 

 花束を抱えてマリーンドルフ家を訪れ、義父にため息をつかせたラインハルトだが、結婚だけが皇帝の仕事ではなかった。

(ゴールデンバウム帝国の、子を産むだけの無能皇帝どもとは違う……)

 である。

 それこそラインハルトの、

(矜持というもの……)

 と、いうわけだ。

 何人もの忠臣にさんざん、結婚も重要な皇帝の仕事だと言われながら逃げ回ってきた彼だが、ついにその仕事は済ませ、より好む統治という仕事に復帰した。

 留守を預かっていた文武百官は、びくびくしつつあらゆる情報を提出し、皇帝の裁断を待った。

「見事であった」

 そう、ラインハルトは笑った。

「予がいなくても、なんとかなるものだな」

「いえ、われらは自らの限界を思い知りました」

 誰よりも有能に留守政府を牽引したオスカー・フォン・ロイエンタール元帥はひざまずいた。

 

 オーベルシュタインとの不仲は相変わらずであったが、それもヤン・ウェンリーが去り際に調節していた……三元帥の多数決が基本、となれば双璧が優位。ただし必ずヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが同席し、彼女が重要と判断すれば決を止め、摂政大公妃アンネローゼ・フォン・グリューネワルトに伝える……皇姉もオーベルシュタインの理を認めれば、それに従え、と。

 結果的に、誰にとってもラインハルトがいるのと、さほど変わらなかった。

 むしろ、オーベルシュタインも、ロイエンタールもミッターマイヤーも、アンネローゼを煩わさないため、対立を公然化しないよう事前に調整することが多かった。

 三元帥だけではない。ヤンが摂政として帝国全権を握っていたわずかな間に、人事職権を絶妙に組み合わせていたのだ。誰も暴走できない、対立は誰かが止める、そして正しい判断に落ち着くように。

「これほど性格も能力も人間関係も、全部知られていたら……」

「かなわないわけだ。戦場の心理学者、か」

「見事、レースのようです」

「これからも、宰相として帝国にいてくれたら」

「キルヒアイス提督とヤン元帥が陛下の左右に……ああ、何億隻の敵でも、どんな政治問題でも楽勝だ」

「オーベルシュタインなどは出ていってくれてよかったと思っているだろう、ナンバー2不要論ってやつでな」

 などと、約二名以外は語り合っていた。

 オーベルシュタインもその人事・制度素案を丸のみした。

 真相は、ヤンとオーベルシュタインがともに構想を整え、ヤンの名で命じた……ハン・ソロやシェーンコップを手先に使って極秘に連絡して。帝国では二人とラインハルト以外知らない。

 オーベルシュタインとヤンには、奇妙な信頼関係があるようだ……無私と能力、視野の高さ、という共通点か。

 実際、オーベルシュタインは自らもやりにくくなるのに、帝国の国益を考えてヤン案に同意した。ヤンも彼がそうすると信じきり、短時間で最小限の修正を受け入れ命令した。

 閑話休題。

 

「船はなんとか浮いています。しかし、新しい技術と多元宇宙諸国という新しい前提を見つつ、ローエングラム朝銀河帝国という船の舳先をどちらに向けるかは、われらの力を越えております」

「よし。卿たちは、正しいことをした。

 特にコーデリア・ジェセックの救出に参加し、コーデリア盟約を結んだこと、ガルマン・ガミラス帝国とヤマトを助けたことも、帝国の大きな利益となろう」

 と、微笑みかける。

「わが帝国が多元宇宙の辺境となるか、中核となるかはこの数年で決まる」

 美しい姿が炎のごとく燃え上がる。群臣はみな主君の快癒を実感し、背筋に震えが走る。

「生存。向上。公平。それが舳先の向きだ」

 直接観測した、ガルマン・ガミラスの新兵器が起こした超新星爆発より激しい気迫がこもっている。

 一息、言葉をしみこませる。

「先の大戦で、われらは滅亡の瀬戸際に追い詰められ、勝利した。

 次の脅威はいつあるかわからぬ。どんな敵があろうと、また勝利せねばならぬ!

 人の望みは、自らと家族が生きることであろう。生きた民なくては帝国もない。

 生きるためにはまず、いかなる侵略者にも打ち勝てる力が要る。そのためには向上せねばならぬ。科学技術を学び、子を教育し、現実を直視せねばならぬ。

 また臣民を飢えさせてはならぬ。

 帝国が腐り崩れても、民は飢え殺される。それも防がねばならぬ。

 国が腐らぬために、必要なのは公平である。予は、公平な法と公平な税、公平な実力主義によって繁栄と勝利をなした。これからもそうする。

 多元宇宙を無用に侵略しなかったことも、勝利につながった。これからも侵略はせぬ。

 生を脅かすのは飢えと外敵、内乱のみではない……今後、罪なきを処刑せぬ。虐殺を見逃しはせぬ」

 粛然。リヒテンラーデ一族の処刑。そして公衆の面前でぶちまけられてしまった、ヴェスターラント虐殺を戦略的理由で見逃したこと。二つの罪の自己批判だ。

 ラインハルトは、ヤンの逃亡・レンネンカンプの自殺について自らの非を認めたことで当時の同盟の威信を粉砕したことがある。

(妻が、そして他郷での長い療養で自らと向き合ったことが、強さをくれた)

 ラインハルトがキルヒアイスに、言えなかったこと。今も胸をさいなむ、それを言うためなら帝位とひきかえてもいい。

 取り返しがつかない。だから、二度としない。ヴァルハラの、赤毛の友が望むのは、それだけだ。

「予も、卿ら臣も、そして帝国・同盟・フェザーン・ゼントラーディ問わず民たちも、すべて新しい技術を学び向上し、生と勝利をもぎとるのだ。

 そのためには自由も与えよう、枷があっては向上はできぬ。科学教育にも力を入れる。

 もしも予が、帝国が向上を妨げ、不公平に生命を奪う、ゴールデンバウムや末期の同盟のごとき寄生虫になったなら遠慮はいらぬ。倒せ!」

 以前から自分が弱ければ倒すよう言ってはいるが、やはり衝撃的な言葉だ。

(キルヒアイス、予も誓いを果たしたぞ……)

 一瞬瞑目して友を思い、皇帝は口を開いた。

「新たに誓おう。死者たちにも、今生きる者にも、これから生まれる者にも。

 予はローエングラム帝国を、多元宇宙の中核となす!」

「ジーク・カイザー!」

 絶叫が上がる。

 

 叫びが収まるのを待ち、自らの興奮を沈めたラインハルトは静かに、音楽的な声で続けた。

「バラヤーと智の探検隊が発見したダイアスパーという超技術都市のことを、予はごく近くで聞くことができた。

 想像を絶する超技術と、多元宇宙の多くを結ぶ〈ABSOLUTE〉の道筋にこのローエングラム帝国は位置している。

 一つ、われらには優位がある。今この時の軍人の数だ」

 美しき皇帝は、言葉が百官にしみるのをじっと見る。

 そのとき、皇帝は次々に流れるニュースの一つに目をとめた。

「今入った、このニュース」と、全員に共有させる。「に関連して、最優先で命じる。

 ロイエンタール、今動かせる帝国全戦力の三分の一を率いて〈ABSOLUTE〉に行き、タクト・マイヤーズ長官の指示に従え。

 オーベルシュタイン、五万隻前後のゼントラーディ艦と、旧同盟軍人より希望者を集め〈ABSOLUTE〉へ。旧同盟軍人が各艦を指揮し、ダスティ・アッテンボローに従うよう、手配せよ」

 大胆な命令にざわざわと声がする。

 ラインハルトが示したニュースは、〔UPW〕からだった。五丈の同盟国を、新く発見された並行時空の奇妙な艦が攻めている、というものだ。

「ご説明をいただいてもよろしいでしょうか?」

 シュトライトの言葉に、ラインハルトは静かにうなずいた。

「まず、人選について。

 ミッターマイヤーは先に〈ABSOLUTE〉に赴いた。だがオーベルシュタインもロイエンタールも、並行時空を知らぬ。予も学ぶことがあった。ある程度以上のものは、別の時空を見るべきだ」

「ありがたきご高配、身命にかえて」

 ロイエンタールが深く礼をする。

 オーベルシュタインは無言で礼するのみ。

「〔UPW〕は無人艦や、数人で動かせる戦艦を事実上無限に作る能力がある。人口も多い。だが艦も軍人も減って、育てているところだ。

 銀河パトロール隊も多くの艦船と多数の兵員がある。五丈も、技術水準は低いものの兵員数が多い。彼らが〔UPW〕に参加してしまったら、〔UPW〕軍の中でわが時空出身者は少数派となってしまう。

 今だけだ。今、われらの時空を出身地とする艦船を多数送ることで、〔UPW〕軍の中で多数派となることができる」

(同時に、潜在的危険分子の排除にもなる……一時しのぎかもしれないが)

 そう考え、口に出さなかった者もいる。

「ですが、旧同盟の軍人は、叛徒ではありませぬか」

「卿が今生きてそう言えるのも、戦友、血の兄弟である彼らのおかげではないか。

 そして別の時空で、帝国と同盟の違いなどかまう者はいない、この時空の出身者だ。一惑星の別の大陸ほどのことだ。

 予は、敵であったものも信じることにより天下を取った。これからも信じることで帝国を強くしていこう。猜疑心の塊となり果てて生きながらえたくはない」

「ジーク・カイザー!」

 群臣は思わず叫んだ。

 特にかつて敵であった、シュトライト、フェルナー、そしてファーレンハイト、メルカッツ、フィッシャーらの、

(この信頼に、応えずにおくものか……)

 思いは、格別であった。

「これも強調しておく。ヤン・ウェンリーやバラヤーのグレゴール帝とも話したことだが、今後多元宇宙において重要になるのは智の故地であろう。先に言った、ダイアスパーと〈ABSOLUTE〉を結ぶ最短距離にある。五丈の新王はその優位を逃しはすまい。かの時空が統一される前の時間を、有効に使わねばならん」

 することは多くあった……もちろん、リヒテンラーデ一族の恩赦、連座制の廃止も含めて。拷問禁止、旧同盟に準じる法の適正手続も。そちらは即効性ペンタのおかげで抵抗は少なかった。

 旧同盟から、〔UPW〕に行きたいという志願者は多かった。

 軍人でいたい、だが帝国の旗はローエングラムの黄金獅子旗だろうと嫌だ、という同盟軍人は不正規隊を中心に、結構いたのだ。

 またそれは、ラインハルト不在の一年に起きた現実の事態に対する、柔軟な対応というべきであった。

 不在中の方針ともそれほど違わなかった。別時空への援軍、最低生活保障、科学技術の受容と教育、公平な裁判と機能する政府、どれも必要に応じたとはいえ留守政府がやってきたことだった。

 ラインハルトをよく理解する人たち……ヤン、アンネローゼ、オーベルシュタインらが立てた方針でもあった。

 

 

 バラヤー帝国のグレゴール帝、智の正宗も、エリ・クインの報告を受けて即座に援軍を準備した。

 戦力は……超光速の艦船は、ありすぎるほどあった。

 

 智の艦船も数千ある。バラヤーのある時空の全域を回って超光速船の存在をアピールし、超光速交易の基盤を作り、新銀河の探検や開拓をし、あちこちの星国から近くのワームホールがない星に人やモノを運び、と大車輪で活躍してきた。さらにそれらは、ダイアスパーの太陽系に残されていた巨大工場で、順次「近代化改修」を受けている。

 加えて……

 ダイアスパーのある地球で、ダイアスパーの〈中央コンピュータ〉の協力で再起動された遺棄船が、最初の数日で千近く。1カ月で銀河のあちこちを探して、数万。月や地球の大きさの超巨大艦もいくつもある。

 バラヤー・智・メガロードから人を抜擢し、それどころかベータやセルギアールからも人を募集して、とにかく一隻でも動かせるようにコーデリア・正宗・未沙の三人は必死で働いた。

 その激務をあざ笑うように、艦船の数は果てしなく増えていく。

 ダイアスパーの近くにも、造船所は残っていた……それもすぐに多数の船を作り始める。

 さらにダイアスパーによって改造された、ゼントラーディ名物プロトカルチャー由来自動工廠。

 ダイアスパーと接触した24日後。約200メートルの小型艦が150隻、約2000メートルの標準戦艦と約3000メートルの輸送・強襲揚陸艦が各30隻、約4000メートルの指揮戦艦が3隻完成していた。

 

 攻撃・防御・速度・通信情報すべて強化されている……親切なことに、リミッターがついた状態では2世代ほど上の性能に。リミッターを外せば、対空機銃で惑星を破壊できる水準に。

 外見だけでもわかる、細身のワニを思わせる姿が、やや肥えてどれも体積は5倍近く増えている。

 修理の概念がなくても何十万周期も戦い続けられる冗長性と頑丈さも、どれもこれまで以上だ。

 艦隊のシステムも変わっている。

 本来のゼントラーディ艦隊にとって主力だった、艦首部を分離し大気圏突入艇にできるケアドウル・マグドミラと砲艦は生産されなかった。

 エンジンの強化により、大型旗艦でも問題なく大気圏に出入りできる。

 指揮も、標準戦艦でもこなせる。

 また小型斥候艦の砲や可変機の手持ち大型銃が、1500メートル級で艦首全体が砲となる砲艦に倍する打撃力を持つ。

 

 4000メートル級旗艦ノプティ・バガニス。大幅に増えた搭載量で多数の小型艦・可変機を搭載したまま、鉄壁の防御力と速度で突撃し、艦載兵器と艦そのものの圧倒的な火力で中枢を破砕……別時空でいうISA(Integrated Synchronizing Attack)さえ可能だ。もちろん情報能力も大幅に増強され、艦隊を率いる仕事も有能にこなす。

 2000メートル級主力戦艦、スヴァール・サラン。攻撃・防御・速度・情報・搭載、すべてバランスよく強化されている。

 3000メートル級輸送・強襲揚陸艦キルトラ・ケルエール。定評のあった搭載量と頑丈さはさらに高まり、桁外れの速度が加わった。さらに可変機や改良されたクレーンの類により、短時間で膨大な荷物や戦力を積み下ろしできる。戦場でも頼りになるし、平時では最高の船だ。

 そして200メートルほどに小型化された斥候艦。その改修は特に徹底的だ。ゼントラーディでもマイクローンでも三人で操縦可能、速く頑丈で整備しやすい。

 基本形の能力は最低限……それでも砲艦より火力は上……だが、さまざまな装備を追加できる。連射速度の高い砲、高い索敵能力、荷役・輸送能力など。様々な役割をこなせ、費用も安い、理想的な多目的艦となった。

 キルトラ・ケルエールもそうだが、平時に特に役に立つ艦だ。

 多数の、A-4スカイホークに似た小型可変機もある。

 

 それを直接、また映像で見た、人の上に立つ者たち。

 大半は呆然自失するか、大喜びした。

 だが、何人かは、必要な事務処理を概算し、絶叫をこらえていた。

 泣き出してしまって、「感泣しているのですな、わかります」といわれた者もいた。

 ヤン・ウェンリーが、遠いトランスバール皇国のシヴァ女皇に、巨大獣の丸焼きの前に一人フォークを握る子供の絵を送った、という話を思い出す者もいた。

 さらに、

「今後も17日ごとに同じ数の艦船を作るか、または強化自動工廠自体を52日で作るか」

 という、頭がおかしくなるような選択肢まで受け取ってしまった。

(数年で、バラヤー帝国総人口より、艦船の数が多くなる)

(将棋盤に米粒を、最初はひと粒、次はふた粒、その次は四粒、という話ではないか?)

(ちょっと待て……)

 指を折り、携帯コンピュータを叩いて震えている者もいた。

 キロメートル級の超巨大船が何十隻も進宙して並ぶ、それだけでも圧倒される。3キロメートルは、事実上町のスケールなのだ。

 バラヤーと智の全軍人を合わせても、とても動かせるとは思えない……実際にはどれも少人数で動かせるといわれても、信じられるものではない。

 現場では、人員不足の悲鳴が響き渡った。

 智の軍民も人数はいたが、技術水準の低い人々はほとんど戦力にならない……といっても、ダイアスパーから見ればベータの工科大学学長も智の無筆人足もあまり変わらない。新しく手に入った艦船は技術水準が高いので、より簡単に操作できる。コンピュータによる教育を受けながら、操作訓練を受けることもできる。

 ただしさすがに一晩では、知識を頭に入力することはできても経験もないし信頼もできない。艦を任せる士官としての訓練、というか膨大な学科を学び、経験でそれを骨肉にしていなければ、艦を動かすなどできるはずがない。

 一人で動かせる、月サイズの、十日で銀河を横断できる艦……わずかなミスや悪意も、惑星破壊級の大惨事になる。

 それ以前に、その学ぶべき教科書がない。その技術水準の軍法・艦隊運用マニュアル・民間交通法規自体が、ない。参考にできるものもない。

 日露戦争の軍人が湾岸戦争時の米軍兵器をもらっても、軍の組織から法制度から人間集団を制御する言葉にならないノウハウから、要するにまったく対応できないのだ。単発銃が前提、中大隊横一列で行進する軍が、十人前後の分隊で散開し相互支援するアサルトライフルを手に入れたところでなんにもならない。かといって分隊に権限を委譲する現代軍制にするには、読み書きできる人間の絶対数がまったく足りない。

 まして船。バラヤーやメガロードは、地球の末裔……スターボード優先主義。だが智やゼントラーディは……右側通行と左側通行の違い。しかもそれが超光速で何次元かもわからない……船と馬車しかなかった世界に、新しく飛行機が加わり……二次元が三次元に増えたとき、交通法規を作る人たちがどれほど苦労したことか。

 無人で艦船を動かすこともできるが、その無人艦船に何を命令すればいいかすらわからない。タクシーや運送会社の、通信で運転手に命令する本部にあたるものが、ない。

 コーデリアも正宗も未沙も、部下たちも、

(体をふたつと、十年ちょうだい……)

 といいたいような仕事を三日でやっつけ、すぐその倍の仕事の雪崩に埋まる。

(これではまた体を壊すな……)

 正宗はそう思うこともあった。一人で一国を背負い、二大強国と戦っていた時よりずっと忙しいのだ。

(部下を育てないことは最大の無能)

 コーデリアと夫アラールは息を合わせて、そのことに力を注いでいた。

 セルギアール総督でもあるアラールが、仕事の間を縫って多くの若者を面接し、仕事を与える。それで伸びた者をコーデリアの元に送り、さらに激務で選別し伸ばす。

 もちろん、未熟者に仕事を割り振って、確認してほめたり叱ったり指導したり尻ぬぐいしたりするより、全部自分でやった方が早い……仕事が倍になっているのは、夫婦とも、百も承知だ。

「全面戦争でも、ここまでひどくはないんじゃないかしら?」

「種をまいて、よさそうな苗を送ってるようなもんだ。それもとんでもない促成で」

「ゆっくり育てれば使える子も、何人もつぶしているわね」

「セタガンダからの独立戦争だな、まるで」

「心臓は……?」

 アラール・ヴォルコシガンは指揮官の持病である胃痛もひどく、さらに食生活がひどいので心臓も悪い。つい数年前に心臓発作で倒れ、心臓を培養して交換したこともある。

「ダイアスパーから来た医者が、胃も心臓もとんでもないのに取り換えてくれた」

「わたしも、内臓を交換する必要がありそうね」

 そう、無理に笑うこともあった。

 

 クルーがいきわたり、訓練もされている数百隻がなんとか即応できる。

 正宗自身はある意味人質としてバラヤーに残った。

 形式として智王……幼名虎丸も初陣を許され、その後見には軍人であり血筋のいいイワン・ヴォルパトリル、一条輝もいた。

 輝は実際の指揮権なし、前線に出るな、といわれて不満を持っていたが、将官の娘である妻未沙に、

「なら、智王はどうなるの?あの子こそ、前線で刀を振り回したいはずよ。お飾りも立派な軍人の仕事です。

 安全でラッキー、と思ってるクズなんて、あなたたちが思ってるよりずっと少ないわ。少なくとも父とグローバル総司令は、前線で共に死にたいと唇を噛み破っていたほうよ。

 あなたも、前線に飛び出さない自制と、前線で死んでいく部下を思う心をともに持ちなさい。飛び出してもだめ、自分の方が辛いといいわけして冷酷になってもだめ。それが士官よ」

 と諭され、

「それでかわいそうだから、とあの子を連れて前線に行くなんて、娘を殺したくなければしないで。未来は智の家臣に、人質として預けたのよ」

 と、考えを読まれてしまった。

 さらに未沙は、アリス・ヴォルパトリルを通じてイワンに、

(二人を絶対暴走させないで)

 と監視も頼んだ。

 自分が言ってもいい加減だろうが、母親の命令には絶対に逆らえないことをよく理解して……それほどバラヤー首脳とも親しくなっている。

 

 ダイアスパーの地球に眠っていた戦艦が70隻ほど。200キロメートルに及ぶ超巨大機動要塞2基、50キロメートル級巨大戦艦4隻も含む。

 外見は変わらないが中身は大幅に改造された智の戦艦も150隻、百戦錬磨の将兵とともに初陣の王をいただき、久々の戦いにたぎりたっている。

 改修され新造されたゼントラーディ艦隊も50隻。

 それが、ついに偽装を脱ぎ捨てた飛竜艦隊とともに、智の故地へ、そして五丈へ押し寄せた。

(新五丈を落とすためではなく、助けるためでもない……)

 守るべきは、多元宇宙。だが、本当に守るべきは、そして敵は……

 若すぎる仔狼と歴戦の勇士は、戦陣の興奮を抑えかねていた。背後から祈る者の辛さは、たとえようもなかった。

 

 

 

 ガルマン・ガミラス……新ガミラスを訪れたヤマト。

 惑星を持たぬ、巨大艦船の集まりで構成された首都。

 何日も観光したいような壮大な眺めも、ろくに見る間もなく誘導を受け、超巨大な新デスラー艦……実質的な首都でもある都市艦のハッチにヤマトが近づく。

「でかいな」

「ゼントラーディの技術もあって、すごいペースで艦が作られているらしい」

「いくつもの艦がつながってできた船のようだな」

「一つ、見慣れないのがあるな……でもでかい」

「あれだけでかければ、もう大都市だよ。何万人も暮らして、行政もできる」

 と、艦そのものがいきなり、ものすごい力でつかまれた。

「引っ張られる」

 島が目を丸くする。

「このまま向こうの誘導に任せろ。トラクタービームだ」

 真田の声に、

「でもそれって、逃げたくても逃げられないってことか」

 太田が余計なことを言って、

「外交上の配慮もしてくれ」

 と南部にとがめられた。

「ま、楽でいいな」

 と、島が操縦桿から手を離して居眠りをするふりをする。

「デスラーも、次々に別時空の技術を使いこなしているんだな」

 古代が複雑な表情でいった。

 

 礼をかわし、艦を降りた古代と雪は、意外な再会に目を丸くした。

 埠頭に迎えに来てくれたのはデスラーだけでなかった。古代守・サーシャ父子と、ルダ・シャルバートがいたのだ。

「兄さん、ルダさ……マザー・シャルバート」

 奇妙な寒気。

(この人たちが出てくるって、とんでもない事態じゃないか?)

 と、言葉にならない予感が走ったのだ。

「結婚おめでとう。だが、その一言を言う間も惜しい」

 守の目は、完全に軍人の目だった。

「パルパティーン帝国は、事実上全軍でシャルバート星を狙っています」

 静かにそう述べるルダ・シャルバートは、一別以来の美しさだ。だが、その雰囲気はまぎれもなく、犯しがたき現人神(あらひとがみ)にほかならなかった。

「技術がないと偽った事情も、今は理解しているよ、古代」

 デスラーの表情は清明だ。

 進は深く頭を下げ、謝罪した。いいわけはしない。

「ですが、人と人との争いならともかく、アガックとカガックの娘たち、それに〈混沌〉と〈法〉の戦いまでが絡むとなれば……この戦いは無抵抗で殺されればよい、というものではありません。多元宇宙の、あらゆる生命が存在できるか否かにかかわるのです。

 激しすぎる嵐のような〈混沌〉のもとでも、風もない氷原のような〈法〉のもとでも、生命は存在できません。生命が存在できるのはその中間、穏やかな光と適度な多様性がある〈天秤〉のもとだけなのです」

 と、ルダ。

「わたしも、おかあさまも、予知してしまったの。偽タネローンとして設定されたテレザート星跡に、〈混沌〉の軍勢が押し寄せる、って」

 サーシャが辛そうに言う。

「偽物だからやられてもいい、というわけじゃないわ。そこを破られたら、そのままパルパティーン帝国と〈混沌〉が……どちらが上かわからないけど、融合して」

「そうなれば、わがガルマン・ガミラス帝国も滅びる。地球も」

 デスラーが強く言う。

「だから、わたしも、ルダさんも、すべての技術をデスラー総統に預けることにしたの」

「だが、私だけでは危ないと思うだろう?ラインハルト皇帝にも、〔UPW〕にも渡せばいい。そうすれば、お互いに抑止となる」

 デスラーがあっさりと言い、ヤマトの近くに係留された大型艦を見る。

 卵のようにのっぺりした、2000メートル級の艦。

 その隣には、先の戦いで使われたイスカンダルの小型戦艦もある。

「シャルバートの技術を積んだ艦です。艦内の工場で複製した一組は、デスラー総統に渡してあります」

 シャルバートの言葉は人を打つものがあった。

「ヤマト。同行してください。これから、ローエングラム帝国、そして〔UPW〕にも複製を渡します。今回の戦いには間に合わないかもしれませんが、船そのものが戦力になるでしょう。

 そして、その次の戦いに……」

 任務の重さがますますとんでもないものになった進は、背骨が折れる思いだった。

 

 

 急襲を受けているのは、新五丈とガルマン・ガミラス帝国だけではない。

 

〔UPW〕の、例の時空震以前の六時空(*ギャラクシーエンジェル原作に出てくる時空*)の一つ〈SKIA〉。

 そこの星の一つにできたゲートから、以前から蜘蛛型の昆虫様異星人が侵略してきていた。

 だが突然、その敵の強さも残虐性も、桁外れに激しくなったのだ。

 そちらの時空には地球と人類、ほかにも様々な種族があるという。

 

 また、以前から〈ABSOLUTE〉の引き渡し、〔UPW〕の服従を要求していた、ゼ・バルマリィ帝国……通称バルマーの攻撃を縫って訪れたヒリュウ改が、再会を喜ぶ間もなく別の脅威を訴える。

〈混沌〉に汚染されたバルトールの大軍が、地球すら無視してバルマー帝国に属する、そちらの時空でのテレザート星所在地に猛攻をかけているという……

 

 さらに、銀河パトロール隊が守る、〈EDEN〉のローム星につながる銀河も、ペリー・ローダン率いる太陽系帝国との争いが熱戦になりつつある。

(どうやらボスコーンが侵入しているようだ)

(あれは、上位存在によって作られた悪の存在らしい。善の側のローダンたちがどこかにいる)

 という話もある。

 逆に多くの勢力が、太陽系帝国を狙ってもいる……多元宇宙の至宝、不老不死をもたらす細胞活性装置を求めて。

 

 

 援軍を出したローエングラム帝国にも、脅威が迫りつつある。

 多くの民主主義運動とかかわりつつ、多元宇宙と映像・音楽・通信教育・データ産業の貿易もしているユリアン・ミンツが、その取材から奇妙な陰謀を察知したのだ。

 ユリアンは経済面でも有利すぎる位置にいた。目的はオーベルシュタインが与えた課題、トリューニヒトの映画作りだが、それは民主主義運動にも陰謀にも金にも深く広く根を広げた。

 取材を通じて知り合ったトリューニヒト派の欲深人脈。もともとトリューニヒト派扱いもされていた。

 さらにボリス・コーネフを通じ、フェザーン商人にもつながりがある。

〔UPW〕でも高い地位を得つつある元ヤン艦隊幹部との絆も強い。

 外交でも商業でも貢献したフレデリカ・ヤンを通じ、ガルマン・ガミラス帝国からバラヤー帝国にまで糸が伸びている。

 メルカッツやフィッシャーは帝国軍の最上層に入った。それでワーレン、ミュラーなど帝国上層部との絆も太くなる。

 そしてアレックス・キャゼルヌとミント・ブラマンシュという、人とカネの扱いでは凄腕の教師もいる。厳しいが。

 自分がどんなとんでもない金流と人脈の結節点にあるか、今のユリアンは潔癖ゆえに見ることを拒むことはせず、存分に利用した。

 欲深い者にはカネを、チャンスが欲しいものには人脈を与えることで、並行時空の映像コンテンツという膨大な金脈をつかみ、破綻なく使いこなせるようになった。

 そしてその情報は、対テロにおいてかなり重視されてもいる。

 

 帝国も、対テロには注意を払っている。

 ラインハルトは地球教対策として、こう言った……

「地球教はもう、その根本から壊れている。

 唯一の人類の故郷と奴らは言う。愚かな……

 ヤマトの地球。

 バラヤー帝国の人々の故郷である地球。

 デビルーク・アース。

 プリンツェッシン・クリスの世界にも地球はある。

 銀河パトロール隊の本拠も地球と聞く。

 さらにその向こう、太陽系帝国もまたテラ、地球を故郷とする。

 百世界も、遠くの緑のコロニー防衛軍も、地球が故郷だそうな。

 かのパルパティーンとやらの帝国のかなたに見つかった〈惑星連邦〉も、中心は地球だ。

 どれも、同じ大きさ、公転や自転、大陸配置。ある時点までそれぞれの人類の歴史も同じ、同じ遺伝子を持つ。

 どの地球が、唯一だというのだ?まして神聖など笑止」

 そして旅の間に収集したデビルーク・アース、ワームホール・ネクサスの地球、そしてヤマト地球それぞれの、多数の映像コンテンツを銀河中に流した。

 要するに、「地球大紀行」の類を。

 地球教徒にとってそれは、脳天をハンマーで殴られるに等しかった。

 だが、ド・ヴィリエはそれを逆に利用しようとした。

 多元宇宙、また超技術と公平な統治で急速に発展する新王朝という、現実を認めたくない人々に訴えたのだ。

 生存。向上。公平。新しい仕事を学び新天地に行けば豊かになれる。失敗しても飢え死にはしない。

 しかし、人はパンのみにて生きるにあらず……古い仕事を捨てるのはつらく、飢え死にしないだけでは満足できない人は、いた。人は理性の動物ではないのだ。

 旧帝国の貴族。旧同盟の腐敗政治家。古い利権にすがる、ラインハルトに言わせれば寄生虫ども。

 彼らにはどうしても不満があった。

 そしてその不満は、現実そのものを拒絶することでしか正当化できぬものだった。

 多元宇宙という現実を受け入れれば、ラインハルトが与える自由のもとで向上するほか、選択肢がないのは自明だった。

 それをしたくないなら、現実そのものを拒絶するよりほかにない。信じたいことを信じ、見たいものを見るよりほかにない。

 ド・ヴィリエはその逃げ道を与え、そこに逃げ込む者も多かったのだ。

 その逃げた人間たちに、ボスコーンは無尽蔵に戦力を与え、蜂起の準備をさせた。

 その戦力には、〈混沌〉の罠が仕込まれていた。

 ボスコーン……エッドア人と〈混沌〉、どちらが優位にあるのかは、アリシア人すら知らぬことだった。




銀河英雄伝説
宇宙戦艦ヤマト
ギャラクシーエンジェル2
ヴォルコシガン・サガ
超時空要塞マクロス
銀河戦国群雄伝ライ
スーパーロボット大戦OG
宇宙英雄ローダン・シリーズ


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銀河戦国群雄伝ライ/時空の結合より2年8カ月

 練は奇妙な動きをしていた。

〈ファウンデーション〉の、無政府状態の時空を攻め、そして世界連邦の星の一つを蹂躙し……突然、羅候は軍を返し、五丈に襲いかかってきた。

 

 どれほど凶暴な軍でも、勝利が続き占領地から富を得ようとすれば、どうしても生き残りを奴隷としてしまう。奴隷とした女も、共に暮らし子が産まれれば情も湧く。

 二年に及ぶ侵略、侵略者の側も変化なしにはいられないのだ。

 モンゴル帝国はそれを恐れ、宮殿を作らず草原のテントで暮らそうとしたが、結局は都の誘惑に呑みこまれた。

 旧約聖書にも、皆殺しの神命に従わず罰を受けた者がいる。

 

〈世界連邦〉の境界近くにある星で、差し出された奴隷の中にいた、恐ろしく痩せた奇妙な芸人……そのヴィジフォンと曲芸は、最前線に出ていた羅候に献上されるほどのものだった。

 だが、その芸人はいつしか消えていた。彼の演奏、そのあとさきを覚えている者はいない。

 歌が気に入らぬと猛獣の檻に落とされて食われ、煙突の排気に放りこまれて蒸発した捕虜は、数えるのもばからしい。誰も関心すら持たないことだ。

 そのとき、姜子昌は新五丈に攻め入る準備をしていて、別行動をとっていた。のちに彼は、それを痛恨の思いで思い返すことになる。

 

「この時空は、今はここまでだ。変なのも入ってきているしな。

 五丈を攻め落とし、心理歴史学を手に入れるんだ!」

 羅候の叫びに、特に武官たちが喜びの雄たけびを上げる。むろん、心理歴史学など知らないで。

 ヒトデと接触している艦隊の、多くの犠牲と徒労感もある。相手は人間ではなく、食欲だけのテレポーター。対抗のしようもない。

「心理歴史学など儒者の戯言です、今は」

 姜子昌が諫言しようとするが、羅候は激しい怒りを叩きつけた。

「黙れ!誰が主だ」

 親友でありながら忠臣でもある。

 それがどれほど……言葉にできぬ厄介事か。五丈の大覚屋師真も、今はなきジークフリード・キルヒアイスも、知っている。後者は命を捧げ、前者も常に族滅腰断の覚悟はある。

 アレクサンドル・ビュコックは死に際、ラインハルトに、

(専制君主に、友はない……)

 と伝えた。ラインハルトは言われるまでもなく、胸の風穴とともに知っていることだが。

 オーベルシュタインは、ラインハルトに嫌われることを選び、そのジレンマを回避している。

 姜子昌は、忠臣であることを選ぶほかなかったのだ。羅候が聞く耳を持たなくなった今。かすかな疑いは、抑えつけた。考えないことにした。考えてしまえば、すべきことが重大すぎるのだ。

 

 羅候は奇妙にも姜子昌を遠ざけ、竜緒らの言にも耳を傾けなくなり、武断のみの将を愛するように変化していった。

 そして、炎の激しさで五丈に攻めこんでいった。

 

 

 五丈王の竜牙雷は、同盟国である西羌を助けるべく出陣していた。

 そこに、報告がなだれ落ちる。

「わけがわからないことになったな。あの毛玉どもに、羅候に……」

「ええ」

 林則嘉と大覚屋師真が目を見合わせ、ため息をつく。

「どこであんな艦隊を手に入れたんだろうな」

「玄偉は、もともと妖魔みたいなもんだって話だがなあ」

 

 星々のない、空虚な方面から奇妙な艦隊が攻め寄せてきた。

 掲げる旗は、玄偉。五丈の母体、比紀弾正の四天王と呼ばれた男だ。弾正の死後、同じく四天王であった骸羅が後継の座を奪った折に一度は斬られたとされる。だが斬られたのは影武者であり、偽帝討伐に起った竜牙雷に先んじて骸羅を討ち、雷と対立し、妖術を用いて消え失せた。

 四天王時代持っていた軍は解体され、一兵もないはずの彼。だが現実に艦隊がある。

 新五丈全艦隊に近い数。しかもどの艦も一回り大きく見える。

 兵たちが奇妙に表情に乏しいことも、報告される。

 

「さて、どうする?」

「国をとった時と同じだな。できることを、確実に。失敗は許されない」

 骸羅を討った雷たちは、暴政に破綻した国に愕然とした。だが行政官としても優れる師真は、大風呂敷を広げず優先順位をつけ、民の生活から的確に国の再建を進めた。それによって民の信頼を得たのだ。

「ただでさえ少ない軍を三分するのは愚行だ」

 師真の言葉は恐ろしい意味を持つ。残りの二つには最低限の軍しか送らない、見捨てるということだ。

「並行時空からの援軍も考えられる。あてにするのは愚かだが。〔UPW〕は、一つの時空内での争いには干渉しない、だが別時空からの侵略は止める、だったな」

「つまり、毛玉との戦いには手を貸してくれる、よな?」

 雷の視線に、違う服装の男が身をすくませる。麻薬商人狩りで残っている、レンズマンだ。並行時空とも即時通信が可能な、生きた電話でもある。

「はい、援軍は行動を開始しています。先遣隊としてリプシオール級戦艦2隻、ザーフ級戦艦2隻、バーメル級巡洋艦8隻、スパード級駆逐艦14隻、大型輸送艦2隻。2日以内にこちらに到着できます」

(タクト・マイヤーズ……逐次投入をするバカなのか?太助の報告が正しければ、万単位のはずだ)

 師真は一瞬思ったが、

(ああ、素早く動かせるのを先行させて情報収集か。リプシオール級は最新と聞く、少数精鋭だな。最強戦力のルクシオール級は温存か?)

 思い直した。

 太助らの調査から、〔UPW〕の戦力もかなり把握している。新五丈は情報収集をきわめて重んじる。

「よし。毛玉どもは〔UPW〕と項武に任せる。玄偉は孟閣を中心に足止め。オレの本隊は練を迎撃する」

「おうよ」

「はっ」

 方針は成った。あとは実行するだけである。

 くろがねの艦が方向転換し、慣れ親しんだ敵に向かう。

 そして雷は、異邦からの援軍を待ち、情報分析を続けた。

 

 

 斉王都がある、五丈の中枢を攻撃してきた玄偉艦隊を前に、孟閣を中心とした守備軍は必死の防御戦を続けていた。

「くそう……」

 孟閣軍は、豊富な実戦経験から冷静に現実を見ていた。

「まともにやって勝てる相手じゃない、敵の足を遅らせるんだ!」

 数が少なすぎるが、厳しい訓練で統制がとれた五丈軍は善戦していた。

 突出し、砲撃し、反撃される前に方向転換で抜ける。

 敵が追おうとすれば、そこに第二の戦列がきていて砲弾をぶちこむ。その間に第一陣は抜け、反転して補給を受け、再び前進の速度を得る。

 

 攻撃力そのものは向上していた。〔UPW〕からの交易で手に入れた化粧品の一つが、五丈原産の樹脂に混ぜると強力な爆薬になるのが判明した……半ば事故で。

 それで、徹甲榴弾の威力は4倍近くになっている。

 また、〔UPW〕から輸入した通信機能がついた携帯ゲーム機も、通信統制を大幅に高めて戦力を増している。シミュレーションゲームのエディットモードで地図を含めて行動を指定し訓練を効率化し、カードバトルゲームで暗号化した命令を出し、計算教育ゲームで下級士官の教育水準を高めた。ほかにも用途は次々と見つけ出された。

 五丈から〔UPW〕には、刀や革武具、書画、手作りの陶器、かすり苧麻布などが高く売れている。

 

 猛訓練と実戦経験。たたき上げの五丈兵は、かなり下の方の兵でも白兵戦だけでなく大砲・機関、操艦も手広くできる。

 新兵も徹底的に教育する。それは除隊後も技術水準・生活水準を高め国力を増す、と林が強く勧めたことだ。

「竜王陛下は必ず助けに来る!希望を持って戦い続けろ!」

 激しい叫びが何度も、疲れた将兵を鼓舞する。

 

 武王都。

 旧都で、骸羅の暴政と遷都で荒れてはいるが、銀河の要衝である。

 守る鄭衆は、敵の大軍におびえて降伏を口にした。

 そこに、一人の衛兵が口を開いた。もとより死も覚悟の上で。

「この武王都は交通の要衝。竜王陛下が母と慕う狼刃将軍の墓所、聖地ともいうべき場です。救援は必ずあります」

「だが、今この時、このわずかな軍勢でどう、あの大軍を防ぐというのだ!」

 晏石は衛兵の身分で、雲の上の将の怒りを静かに受け止めた。

「玄偉は智謀の将、敵城を戦わずに落とすのを得意としていました。

 それがしが玄偉ならば何よりうれしいのは、こちらが内紛の上に内通することです。それを餌にしておびき寄せ、酒と宝物を。

 そして敵を青稜関、巨大水惑星の環と衛星が作る閉所にとどめるのです。あそこはもとより風光明媚の地としても知られます。

 酒には強い蒸留酒を混ぜ、援軍の到着を待って、酒を運ぶといって油を積み火船を送れば閉所での火事となります」

 主君と敵の心理生理、天文地理をも読み切った、見事な理路。

 怒りに流されず耳を傾け、聞きいれた鄭衆も見事だった。

 偽りの内紛と内通の知らせに、かなりの数の敵艦が押し寄せてきた。

 そこにいたのは、古く頭の固い、使えない貴族や不満ばかりたれる悪党、だがその多くは半ば人間を失ったよう。ある者は肉体の一部が肥大し、ある者は奇妙な顔色をし、ある者はわけのわからない生物を表面に寄生させている。

 だがそれでも、欲望は以前より激しく、酒と宝物によだれをたらして食いついた。

〔UPW〕との交易で得た品の一つ、アルコール95%に及ぶ高濃度の蒸留酒を混ぜた酒は、一日、また一日と時を稼いだ。

 

 稼いだ時は報われた。

 一度目は失望に終わったが。

 

「やっと救援だ!」

「いえ、その……智の旗なんですが」

 孟閣軍はパニックになりかけた。

「おい五丈軍、味方だ!智の趙晋だ!正宗さまじゃない紅玉さまのご命令で、新五丈を助けよと」

「予もいるぞ。幼名は虎丸、正式に元服し、正宗号も継いだ!」

 若すぎる男子の姿に、五丈艦隊は驚きを隠せなった。

「われら、智と連合しているバラヤー艦隊だ」

 先行して到着したのは、智艦隊60隻と、超光速に改装した大型バラヤー戦艦が7隻。メガロード航空隊を乗せたダイアスパー艦一隻と、10隻少々の飛竜艦隊も混じる。

 残る主力はゲート近くで隊形を整え、補給を受けているところだ。

 超巨大艦は、それ自体の速度がいくら速くても、そんなに早く動けるものではない。

「なぜ智が」

「そう聞きたいのはこっちだ。紅玉さまの命令なんだ、これは必要だと」

 趙晋が苦々しげに言う。

「ヴォルの誇りを見せるためだ!敵はどこだ」

 ヴォルたちはたぎりきっている。

「まあ……」孟閣は首を振り、気持ちを入れ替えた。

(智とも何度も戦っているが、向こうもそれはお互いさまだろう。ありがたい、それだけだ)

「感謝する」

 と、玄偉の艦隊を指し、情報を送る。

 驚いたのが、援軍のスピードだ。とんでもない速度で突進し、かなり離れたところから射撃を始めている。

 それがしっかり命中するのだ。

「艦の速度も、砲の威力・射程・連射速度も7倍なのだ!」

「われらのスクリーンは、通常のミサイルやレーザーなど通しはしない」

 確かに、強い。知っている智の艦隊より、はるかに。

 だが、エリ・クインのすさまじさを見ている将兵は、わずかな疑問を持った。

(あの女傭兵は、あんなものではなかった……)

 このことである。

 だが、勇猛でうれしい味方には違いない。

「援軍に笑われるな!」

「智の誇りを!」

「ヴォルの名を!」

 激しい名誉欲、敵を滅ぼしたい望み。

 孟閣の艦隊は日ごろの猛訓練で、かろうじて艦隊の体はなし、そのために少し遅れている。わずかに、飛竜の艦隊も遅れる。

 それが命運を分けた。

 従来の戦闘速度の5倍で、鋭利な艦首衝角が敵艦にぶち当たる。普通ならぶつかった自艦が粉砕され、急減速で乗員も潰れるところだ……だが桁外れの船体強度と人工重力装置がある。

 もちろん、敵は圧倒的な運動エネルギーでものすごいことになる。前方が強烈な衝撃で爆発するように粉砕され、後半も引き裂かれる。

 血に飢えた兵が乗り移り、激しい戦いを始めた。

 バラヤー艦隊も激しく敵に襲いかかる。敵の砲撃をスクリーンで防ぎ、従来よりはるかに長い重力内破槍でぶち抜き、兵員を送る。神経破壊銃、プラズマ・アーク銃、ニードルグレネードで撃ちまくり、殺戮に酔う。

(おかしい)

 イワン・ヴォルパトリルは嫌な予感がした。とある親戚のせいで、彼は嫌な予感にはやたらと敏感なのだ。

 そして孟閣も、歴戦の勘からわずかな不審を感じていた。

 だが、殺戮と勝利に酔う艦隊は、次々と数に勝る敵に襲いかかり、隊列も何もなく艦と艦の混戦、泥沼の白兵戦を繰り広げている……

 輝は飛び出て戦いたくて仕方がないのを、イワンが止めていた。

 そして血まみれの兵が艦に戻る。

「手ごたえのない!」

「勝利は確実だ!」

「見たか、新兵器などいらぬ。この刀と闘志さえあればよい!」

 そう叫んでいる将たちは、コンピュータの警告シグナルなど見てもいない。

 そして足元の、自分の鎧から垂れる血だまりが、静かに動き出すのも見ていない。

 突然。

 血だまりが、ポンと飛んで将の顔を覆い、口鼻をふさぐ。

 占領したはずの敵艦で、倒したはずの敵兵が動き出し、倒した時とは比較にならぬ力で、斬られても刺されても構わず暴れ始める。

「ああ」

 すべての通信が、恐怖の悲鳴に満たされる。

「な、なんだなんだ、ひるむな、戦え!」

 将の叫び声も届かない。最前線は混戦で、ほとんど統制も取れていないのだ。

「罠か……あの艦隊は、アンコウの、魚のふりをした釣り針でしかなかったんだ!人間を引き寄せるために、人間の艦隊の姿をしていたのか!」

 孟閣が叫び、かろうじてとれていた統制を利用して艦隊を引かせ、遠距離射撃に切り替えた。

 だが、戦線はもはや地獄……〈混沌〉そのものと化していた。

「あんな、あんな化け物に斉王都を蹂躙されてはならん!戦え!」

 そう叫ぶ五丈軍も絶望していた。

 おぞましいことに、敵と戦っていた五丈も智もバラヤーも、将兵が次々に艦そのものと融合し、巨大な怪物となって味方に牙をむきだしたのだ。

「うおおおおおっ!」

 その中で、激しく戦い続けるライトニング3の姿があった。

 動く血だまりに追いつかれる直前、輝は脱出ボタンを叩き、席ごと艦橋に直結している可変機に乗った。イワンが智王を抱え、スピードと防御を重視した脱出艇に。

 イワンはスピード狂だ。そういう年ごろのとき、マイルズ・ヴォルコシガンと危険運転で競い合ったものだ。だからフライヤーと操縦系が似た、だが速度は何十倍もある脱出艇で、常人には思いも及ばない機動ができる。

 即座に、輝の部下三機も合流した。

「脱出艇を守れ!」

 と輝が命じ、襲ってくる敵に抵抗を続ける。四機編隊、リミッターを解除し、両腕からマクロスキャノンに匹敵する威力の砲を放つ。

 それに四隻ずつ巨艦が消し飛ぶが、それでも数にまさる玄偉の艦隊は押し包もうとする。

 艦隊、というのは適切だろうか。いまや宇宙を駆ける、奇妙な巨大生物の群れといった方が正しい。

 自在に形を変えて動き回るスライムもいた。

 雪の結晶のようななにかもいた。

 長い体のいたるところから長い触手をはやした怪物もあった。

 怪物たちに囲まれ、一機また一機と呑みこまれるライトニング。

「ばかやろう、無理するな!」

 輝が叫ぶが、

「命令違反常習犯の命令は聞けませんねえ?その坊やが死んだら未来ちゃんの命もないんだ」

「そうそう……ぐふ……今だから言いますけどねえ、オレはロリコぐぇっ!」

「無理はしませんよ、一秒でも生き延びて戦い抜いてやる」

「あ……ああ……」

 そこに十隻ほどの小艦隊と、一隻のダイアスパー艦が襲いかかった。メガロード軍の艦だ。

「全制限装置解除!全力攻勢に移る。計算機、敵を分析して、最適の攻撃を選択してくれ」

 飛竜の声とともに、智の標準巡洋艦が変形し、分厚いスクリーンに包まれる。

「全機出撃!リミッター解除」

 何十というライトニング3が飛び立つ。

 そのすべてが自力フォールドし、脱出艇と隊長機を抱え、戻る。

 多数の小さい結晶を置き土産にして。

 それに食いついた怪物艦たちは、奇妙な悲鳴を上げた。

 表面が結晶と化し、そして全体に結晶化が広がり……そして突然、大爆発したのだ。

 さらに飛竜艦隊は、まだ何天文単位も離れているのに、砲塔を動かした。

 砲は反動に後退しているが、砲口炎は出ていない。いや、砲口が消えている。

 ……巨大化し苦悶する趙晋はじめ将兵の額に、突然虚空から大砲の先端が出現し突きつけられた。

 炎を吐く。

 大穴が開いた。

 大したダメージではなさそうだ。

 砲口が消え失せる。

 だが数秒後……その穴の奥で、何かがうごめき始めた。

 黒い炎が噴き出す。

 大量の膿があふれる。

 黒い死。艦の大きさの巨大な生物が、激しくのたうち腐り果てていく。重い病で悶え死ぬ十日間を、数時間に短縮するように。

『敵は〈混沌〉、エントロピーの怪物を中心に人間の悪意や艦船そのものが融合したもの。その融合副産物で高速繁殖して超強アルカリを分泌する、古細菌と極微小自己増殖機械の融合体を放ちました』

 飛竜の艦で、冷淡な声が解説した。

「任せる。敵を滅ぼせ」

『イエス、マーム』

 冷徹な命令、機械音声の無感情な応答。飛竜艦隊が次々と、無声の砲撃を始める。

 多様な……つい今しがた智・バラヤー連合軍を呑みこみ取りこんだ敵は、その敵に合わせた弾を撃ち込まれ、内部から次々に崩壊し崩れていった。

 結晶は正確な打撃で粉砕される。スライムは内部でとてつもない数の線虫が繁殖し、破裂……その線虫は別のスライムに感染し、別の化け物にも襲いかかる。

 その攻撃は、〈混沌〉より恐ろしいものでさえあった。

 かろうじて逃れている孟閣艦隊の艦船は、嘔吐の海になっていた。

 それに追いつこうとする、汚水の洪水のような〈混沌〉に数十機のライトニング3が立ちふさがり、一斉に両腕から砲撃を放った。

 マクロスの主砲に匹敵する熱衝撃砲と、ミニブラックホールが次々と敵をえぐり、呑みこんでいく。

 

 武王都にも大型艦が救援に着いた。

 同時に、人間であった欲の怪物たちが油を積んだ火船に焼かれる。

 遠くに待機していた、引っかからなかった敵も、斉王都で見かけたよりおぞましい本性をあらわにした。

 普段見る生物の論理とは全く異なる、想像を絶する姿だった。

 高貴薬にセミから生えるキノコがあるが、まるでそのように戦艦が変形して腐り、そこから内臓のように不気味な何かが屹立し、おぞましい色の液をまき散らす。

 鉱物・金属・動物・植物の区別がない、すさまじい存在だ。

「〈混沌〉……」

 智者たちは、そういった。

 

 惑星サイズのダイアスパー艦は、怪物に容赦ない攻撃をかけた。

 先に小型無人機を飛ばして膨大な情報を収集し、敵に最適な生物化学ナノマシン兵器を瞬時に合成する超技術。

 敵も、人間ならぬ力、現実の理(ことわり)を越える存在、おぞましい力で反撃してくる。しかも尽きる気配もない。

 

 

 

 ベア=カウ族に襲われる西羌に、信じられないほど早く〔UPW〕軍の援軍が来た。

〔UPW〕もあちこちに戦線を抱え、ごく少数の先遣隊のみ。

 それでも、雷はあつく感謝してから六紋海に向かった。

 援軍を率いるのは元ムーンエンジェル隊の烏丸ちとせ。

 元同盟少佐スーン・スール……元の名はスーン・スールズカリッターがついている。

 パイロットとしてロゼル・マティウス、オリビエ・ポプランと最上級のエースもいる。

 

 ベア=カウ族の巨大戦艦と、五丈・西羌の連合艦隊が対峙している。

「竜牙雷だ。援軍に感謝する」

 覇王からの通信に、ちとせは思わず圧倒されかかった。

「〔UPW〕の烏丸ちとせです。時空間の侵略を防ぐのが〔UPW〕の方針です。

 ただし先に交渉をさせてください」

「わかった。任せた」

 と、雷は素早く主力を六紋海に向かわせる。

 ちとせは軽く息を整えて仕事にかかる。

 自らのリプシオール級戦艦を前進させ、

「ラウールさん」

 グレー・レンズマンが軽くうなずく。

「前方スクリーン最大。あらゆる波長で、休戦・友好、停戦条件を求めるメッセージを。攻撃されたら反撃できるよう、無人戦闘機も準備しなさい」

 人数は最小限の半自動艦が鋭い加速でベア=カウ族の巨大戦艦に肉薄する。

 もちろん、猛烈な攻撃が撃ち込まれるが、スクリーンを抜くことはできない。

 

 ひたすら敵の攻撃に耐えつつ、ベア=カウ艦の兵器とエンジンを破壊し、交渉しようとする。

 言語の問題はない、レンズマンがいるのだ。

 だが、報告は芳しくなかった。

「だめですね。遺伝子によるプログラミングが非常に強い。単純なロボットのようです。

 ひたすら自分たちと、自分たちが許す生物以外、すべて捕食者だから皆殺しにして土地を奪え……その命令、感情が圧倒的に強い。

 自爆も辞さない狂信者と、本能で動く昆虫の中間といえばいいでしょうか。

 どうやっても交渉はできません」

「せめて侵略を止めることは?」

「わずかな合理性はあります。攻めた軍が何度も全滅したら、侵攻を止めて妥協するかもしれません」

「なら、そうしましょう」

 ちとせの言葉にスーン・スールがうなずき、全面攻勢が始まる。

 

〔UPW〕の艦隊は、トランスバール皇国軍を母体としている。

 それに〈黒き月〉、ヴァル・ファスク、そして〈NEUE〉のナノマシンや魔法の技術、解析できた範囲だがウィル艦隊の技術も加わっている。

 さらに時空の結合以来、ほかの時空からの技術流入もある。

 名前こそ、機密保持のために従来の皇国軍艦のものだが、別物だ。どの艦にも、両脇に大きな筒がついているように見える。

 

 エンジンは従来のクロノストリングエンジンに加え、レンズマンからバーゲンホルムと、(本来はボスコーンの)近くの恒星のエネルギーを受け取るシステムを手に入れた。

 さらに、両脇の筒……ヤマトからイスカンダル式波動エンジンの技術を手に入れ、改良して大量生産した、160メートルの小型無人艦である。

 ついでに言えば、ヤマト式の小型無人艦とは、完全には一体化していない。柔軟なホースと牽引・圧縮ビームでつながっているだけ……噴射方向を変えることができ、高い機動性につながる。

 エネルギーも何百倍にもなっているし、推進剤も必要としていない。

 しかもバーゲンホルムにより、桁外れの速度で、しかも重力が不安定な場所での超光速航行も可能だ。

 

 攻撃は波動砲とショックカノンが主となる。ショックカノンは従来のレーザーやレールガンより大きいエネルギーを叩きつけられるし、実弾兵器も発射可能だ。

 そして分子破壊砲(リトル・ドクター)……惑星、要塞、接近しすぎている艦隊、すべて光速の連鎖反応で分子のつながりを断たれ、完全に破壊される。

 波動砲に匹敵するクロノ・ブレイク・キャノンもかなり小型化され、リプシオール級に搭載されている。

 特筆すべきなのが、多くの艦に積まれている魔法兵器。それは物理攻撃が通用しない相手にも有効だ。

 

 速度が速く、自分を仮想敵とすれば攻撃力が強すぎるので防御は重視されていない。が、バラヤーから手に入れたスクリーンはレーザー・ミサイルとも事実上完全に防ぐ。

 加えてネガティブ・クロノ・フィールドを瞬間的に、特定の方向にだけ張ることもできる。逆位相相殺のリスクもあるが、どんな攻撃も別時空に流してしまう絶対防御だ。

 バーゲンホルムで無慣性状態になることも、多くの攻撃を無効にする。

 

 内部のコンピュータも恐ろしい水準だ。

 アンシブルにより光速の壁さえ打破され、クリス・ロングナイフがもたらしたネリーの技術が加わる。

 さらに三種族の技術も、〈青き月〉〈白き月〉が解析できた範囲で加わっている。

 

 どの艦も、12メートルほどの小型無人戦闘機を積んでいる。戦艦で20機ほど。

 ベースはX-ウィングだが複雑な変形機構はなく、ラグビーボールのような形だ。

 紋章機の圧倒的な戦力と比べれば、そんな小型機は無力……そう思う者もいるだろう。だが、一種のテストとして、必要十分な機能の無人機が試されることになった。

 クロノストリング・エンジンは一本も積めない。だが、バーゲンホルムとハイパードライブがあって超光速航行可能、波動魚雷を4基と分子破壊砲を搭載している。あとは自衛用の機銃だけ。

 要塞どころか惑星すら破壊でき、密集した艦隊も一掃できる分子破壊砲がある以上、攻撃力は十分とされた。

 何よりも極超光速と、通常状態での高機動性がある。

 無人なので失っても惜しくないし、小さいので安価ですぐたくさん作れる。

 むろん、艦そのものが高速で接近し、多数のミサイルをばらまいてもそれほど変わらない。だが危険なところを攻撃したり偵察したりするのに、高価な艦を使いたくない局面もある。

 

 次々と、巨大要塞が分子破壊砲で破壊されていく。

 だが、ベア=カウ族はとにかく数が多く、圧倒的な数の巨大有人ミサイルで攻撃を続ける。

 それが次々とショックカノンに撃墜され、弾幕を抜けて艦に迫り……標的となった艦は瞬間移動と思える速度でかわし、数秒後には元の場所に戻る。

 

 

 

 

 羅候との対決にはやる雷は、練軍にふと違和感を感じ、探りを入れてみた。

 本来なら殺戮で手間取るはずの南京楼にも、ほとんど時間をかけていない。まるで狂ったように、六紋海の、ニセ心理歴史学研究所に向かっている。

 ベア=カウ族との戦いで手に入れた巨大艦などは隠したまま、前哨戦を始める。

「おかしい」

 何度も雷はそういいながら、丁寧に艦隊を動かす。

 数と物量に勝る練が相手だが、何とか総崩れは免れる。

 従来の艦砲が通用しない帝虎級巨大艦だが、五丈の炸薬強化と、昔の要塞砲を使うことで打撃を与えることはできるようになっている。

 そして旗艦同士の接近戦となり、大将同士の一騎打ちにもなる……だが、雷は一合剣を交えて驚き、身を引いた。

 雷の怒りの表情は、誰も直視できないほどだった。

 

 一度引いた五丈軍は、六紋海の複雑な地形に練軍を引き込んだ。

 そこで雷は奇妙な命令をした。

「敵が鶴翼でこちらを包囲するよう仕向け、その背後から敵旗艦に奇襲を?」

 林が首をひねる。

「こちらには、毛玉から奪った艦がある。桁外れの速さがあるんだ」

「確かに、敵から見れば正統派の用兵でこちらを殲滅できる機会、食いつくな……待て、敵が机上でしか兵法をやっていないバカだっていう前提だ。カンで気づかれちまったら終わるぞ」

 師真が慌てて止めた。

「ああ、そうだ。羅候は、今別人なんだ。あいつだけどあいつじゃない……」

 雷の意味不明の言葉に、師真は苦々しげに考えこんだ。

「確かにお前は、正宗の場所をかぎ当てたり、合理じゃはかれないことをやってる……ああ、俺たちみんな、お前に賭けたんだ。お前がそうだと言うんなら、命を賭けてやるさ」

「ああ、ありがとな。

 この戦は、いつも以上に統制が命になる。わずかなミスが全滅に直結することを忘れるな」

「はっ!」

 諸将の声とともに、くろがねの巨艦が次々と動く。

 敵が追い詰めようとする動きに、わざとミスをして追い詰められる。

 総大将の雷が、流れ矢に傷ついたように甲板から落ち、姿が見えなくなる……五丈軍の士気は下がり、潰走すれすれで簡単な罠にかかり、方向を変える。

 六つの星が至近距離で交わる美しき地獄、背後には巨大な濁流が荒れ狂う地獄に、五丈軍は追い詰められた。

 練軍は整然とした鶴翼で囲み、要所を補強する帝虎級が動く鉄壁のように逃げ道をふさぐ。

 どう見ても絶体絶命だ。

「あとはないぞ。戦え!水で死ぬか、鉄で死ぬかじゃ!男なら鉄で死ねぇ!」

 項焉の叫びとともに、死の恐怖だけで絶望的な抵抗が始まる。

 その乱戦の中、信じられない速さで敵味方を抜ける一隻の小型艦に、気づく者はなかった。

 遠ざけられたとはいえ姜子昌がいる。魚鳥目もある。そしてふんだんな兵力がある。

 伏兵が隠れられる場所は、徹底的に探索されていた。

 だがその岩場は、遠すぎた。

 帝虎すら小さく見える超巨大艦が、目を覚ます。その表面はベア=カウ族から奪われた時とは全く違う、黒いハリネズミのような姿になっていた。

 人間には低すぎる天井や操作室。いくらマニュアルをもらっていても、操作は難しい。

 燃料電池が咆哮し、慣性補正装置の限界が近づき船殻がきしむ。

 0.2光速……0.4光速……

 すさまじい加速が続く。星々がゆがむ。

「0.7光速」

「加速やめ。撃て、鉄をぶちまけろーっ!」

 広大な艦表面に強引に積んだ、とんでもない数の機銃や、釘を詰めた大砲が無数の鉄粒をぶちまける。針路とは垂直方向に。

「弾切れです」

「こちらも」

「敵艦隊まで、あと……」

「撃ちかたやめ、減速開始」

 慣性補正装置に負担がかかる。

 いくら巨大であっても、0.5光速の艦に反応できる者などいなかった。

 止まって見えるような敵艦隊の、わずかな隙間に巨艦が減速しつつ滑りこむ。

 鉄の衣が先に、等速度運動をした。

 銃弾の速度など、光速に近い速度……毎秒何万キロメートルに比べれば止まって見える。弾丸からみれば横向きに0.7光速で飛び、練艦隊を襲ったのだ。

 横一列で並んで包囲している歩兵隊の、横から散弾を、大砲でぶっぱなしたようなものだ。

 無敵を誇る帝虎級も含め、どの艦も何にやられたのか分からなかった。

 分厚い装甲、普通なら蚊でも刺したかという威力の小銃弾……それが、核弾頭以上の爆発となり、装甲もその内部も深く切り裂く。

 弾薬は誘爆し、パニックはパニックを呼ぶ。

「いけえっ!おれは元気だ!」

 雷の絶叫は、輸入品の通信機を通じて五丈艦に響き渡った。

 背水の戦いを続けていた兵は奮い立った。

 練軍の混乱は倍増した。

 混乱は、練旗艦をも露出させた。

 必死の減速……

「ふとんに体を押しつけろ」

 命令が響く。

 ハッチ近くで、大量のふとんに勇士たちが身をゆだねる。

 すさまじい衝撃!

 常識を外れた速度での激突。

 両軍とも、衝撃で死んだ者も少なくなかった。

 ベア=カウ族の巨大戦艦も、帝虎も、大きくひしゃげていた。

 血を吐きながら雷は立ち上がり、あえて愛刀ではなく、ベア=カウ族から奪い人間向けに改造した機関銃を手にする。

 衝撃に死にかけてる敵兵をほとんど無視して、ひたすら艦橋に走る。

 崩れかけていた艦橋に飛びこむと、雷は撃ち尽くした銃を捨て、刀を抜いた。

「羅候!」

「竜……」

 いつもの、若虎のような、白熱した鋼のような、はつらつした激しい怒りとは違う、ぼうっとした反応。

「お前は何のために攻めてきた」

「心理……歴史学、ああぅっ」

 羅候が苦悶しつつ突きかかる、その剣を雷の刀が叩き落す。

「じゃま者は殺す、殺す」

「馬鹿野郎!」

 左手に刀を持った雷の鉄拳が、容赦なく羅候を吹き飛ばした。

「おまえが、そんなわけのわからないもののために戦うやつか?お前が求めるのは天下だろ!」

 胸ぐらをつかみ、炎のような目が曇った目を貫く。

「あ、ああ……心理歴史学、み、」

「み……ミュールか?」

 雷の声は、鋼鉄の固さと冷たさに変わっていた。

「ミュール……さまに、心理歴史学を」

 刀の柄頭が振り下ろされ、羅候が倒れ伏した。

 反応もできなかった姜子昌が、初めて状況に気づいた。

「竜牙雷……あ、操られていたのか?わが王が」

「おまえら、なにをやってるんだ!気づかなかったのか?勇気がなかったのか。それでも忠臣か!」

 雷の厳しい告発。

「……ああ。なかった。反逆の汚名を着る勇気が。医者に、診せる勇気が」

 姜子昌が突然土下座し、激しく頭を鋼鉄の床に叩きつけた。何度も、何度も。

「頼む……竜牙雷……お願い申し上げる。どうか、どうか……わが主を、正気に……」

「頼まれなくてもやるよ」

 雷は平然と答え、羅候を縛り上げて担いだ。

「操られているふりを続けろ。両方の犠牲が最小になるよう。そっちの影武者に、これを使わせればいい。これで連絡しろ」

 雷が姜子昌に渡したのは、〔UPW〕では普通に使われている、外見を似せるための装置と、小型の通信機だ。

 雷の厳しい目に、額から血を流す姜子昌は打たれたように目を伏せ、死力をしぼって見返した。

「は……」

 

 戦いは終わらず、変化した。

 圧倒的に多い練軍、奇妙な攻撃に混乱したとはいえ戦力は大きい。

 それが、姜子昌の命令によって軍を引き、両軍とも地形を活かした、ちょうど塹壕戦のような状態を作って対峙を続けた。

 動いた方がやられる、動きがない、犠牲者もほとんどいない戦いに……

 だが、激しい混戦は奇妙なことも起こしていた。

 妊婦の適度な運動と称し、前線で戦っていた練皇后・邑峻が捕虜になったのである。

 その彼女も、夫の変化を心配していた。

 

 

 引き分けにも見えるが、実質は勝利している竜牙雷は、奇妙な行動をとった。

 捕虜にした羅候と邑峻を連れて、智の辺境にできたゲートに向かったのだ。

 そこには、正宗が待っていた。コーデリア・ヴォルコシガンもいる。

「久しぶりだな。こちら、コーデリア・ネイスミス・ヴォルコシガン国主夫人共同総督」

「ああ、よろしく」

 宿敵が静かに見つめ合う。奇妙な超常現象で銀河の距離を越えて床を交わし、一児もいる仲でもある……だが、ここでは敵国の主どうしだ。

「要件は?」

「まず、援軍に感謝する。グレゴール帝にも。あと、こいつを頼みたいんだ」

 と、縛り上げた羅候を突き出す。

 正宗の隻眼さえ、驚きを宿した。

「このバカ、あっちの……ミュールとかいうやつに操られてるみたいなんだ。天下のことも忘れて心理歴史学のことばかり言いやがる。

 バラヤーには密偵が入れない。なにか、心を読むようなやつと同盟したんじゃないか?なら、治療もできるだろ?」

 正宗は、わかってはいたが雷の勘と推理の鋭さに呆れかえっていた。

「わかっていますか?あなたが敵の首領を治療することで、味方も敵も、何万もの生命が失われることを」

 コーデリアが冷静に言った。

「ああ、わかってる」

「それどころか、次の戦であなたが敗北し……臣下も、家族もあなたの目の前で、残酷に殺されるかもしれないことを」

 冷静に、容赦のない言葉になる。

「知っている限りの戦力比では、おまえが滅びる方に誰もが賭けるだろうよ」

 正宗も容赦がない。

「わかってる」

「いいか、国を率いる者は、通常の道徳に従う必要は無い……おまえも、下剋上をしたろう。骸羅の政府に、一度は忠誠を誓約し、破ったのだろう」

「ああ。破っていい約束と、守らなければならない約束を見極めることが、覇者の道だ。そう俺は思っている。それで約束を破り非難されることは、俺は受け入れる。天下を望むということは、そういうことだろう」

「おまえに、わかるのか?……見極めることが」

「できる!」

 三人の目が、激しい火花を散らす。

(まさしく、天下人ね)

 コーデリアは圧倒される思いだった。

「わかった」

「頼む」

「あの、バラヤー帝国としては、〔UPW〕とも通行したいのです」

「ああ。金州海への道は開けてやる。斉王都も危ないから、もう行くぜ」

「ああ」

 それだけの、あっさりした別れだった。

 

 

 羅候を引き取り、リスの者にゆだねた正宗は、壊滅から逃れてきた少年王を迎えた。

「よく生きて帰ったな」

「あ、姉上……申しわけありません」

「人には、できることとできないことがある。生きて帰っただけでもたいしたものだ。

 だがその、理不尽なことの責任も負うのが、主というものでもある」

「おい」

 智王が引き下がった時、声がした。一条輝が、すさまじい怒りを目に正宗に向かっている。

「何をする、御屋形様に」

 飛竜が正宗をかばい刀を抜く。

「この女は許せねえ」

 正宗の隻眼が、鋭く光る。はっきり理解している目だ。

「そう。わたしは許せないことをした。必要なことをした」

「こうなることを読んでいたな?死ぬ人間を選んだな?」

「そのとおり」

 正宗の隻眼は、輝の視線をがっちりと受け止める。輝は強い圧迫感を感じた……中学生が横綱にぶつかったような人格の差だ。

「あんたに忠実な勇将もいたじゃねえか。勇敢な男ばかりだった!」

「新しい技術を受け入れない、現実を見ない、勇敢なだけの将は、何千万も味方を殺す。技術進歩のない戦国では、彼らが必要だった。進歩してしまった今は、巨大な害になる」

 病中歴史を学んだのは、ラインハルト・フォン・ローエングラム帝だけではない。

 第一次世界大戦。ひなげしの花畑。

 鉄条網と機関銃に、横一列で行進しなぎ倒された兵。絶対確実な犬死を知りつつ命令のまま、指先を伸ばして歩いた一千万。

 命じた将に言い訳の余地はない。日露戦争を見た観戦武官の報告があったのだ。見たくない事実を無視し、変化を拒んだ結果、千万を殺し、その家族を破壊したのだ。

(これをやってたまるものか)

 正宗は決め、おこなった。グレゴールも承認した。

「何も知らない、何の罪もない兵だっていたんだ!」

「そのとおり」

 飛竜は、輝に斬りかかろうとする。それを正宗が止めた。

「彼は一言も間違ったことは言っていない」

 飛竜の歯が、激しく噛みならされる。

 輝が、突然意識を失った。コーデリアの手にスタナーが握られている。

 

「気がつきましたか?」

「コーデリア……未沙」

 コーデリア・ヴォルコシガンと、妻の未沙、飛竜もいた。

「いいか」

 飛竜が輝の服の胸を締めつけ、激しい怒りをこめて叫んだ。

「お前が言いたいことぐらい、御屋形様は百倍も千倍もわかっているんだ!わからないのか、『なぜ、戦いや病で死なせてくれなかった』と、心で叫んでいるのが。むしろ殺してくれたらありがたい、というぐらいなんだぞ!!」

(「飛竜。死よりつらい役を引き受けてくれ。味方を見捨て、王、一条輝、イワン・ヴォルパトリルの三人を助け、敵の情報を得るのだ」)

 正宗の平らすぎる、だからこそ深い痛みを秘めた声が、彼女の耳に今も鳴り響いている。

「殺された兵士、その家族にそんないいわけが何になる!」

「紅玉公は、それがわからない人ではない。だから何倍も辛いのよ」

 未沙の言葉にも、輝は激しく苦しんでいた。

「一条輝隊長。あなたも部下に死を命じましたね。脱出艇を守れ、と」

 コーデリアの言葉に、輝の表情が凍りつく。

 長い沈黙。

「あなたも、士官なのです。敵も、味方も殺す側。殺される側の痛みをわすれないようにしつつ、命を無駄にせず前進し続けるしか、ないのです。

 わたしも、紅玉公も、一条提督も、飛竜もそうしています」

 輝は突然号泣した。はらわたを吐き出すような激しい号泣が、いつまでも続いた。

 三人の女士官も、いつしかともに泣いていた。

「泣け、泣けえっ。これほどに、泣ける男のために兵は死ぬものだ。御屋形様は、グレゴール皇帝も、泣けぬのだ。おふたりの分も泣いてくれえっ」

 飛竜は、そういいながら泣いていた。

 イワン・ヴォルパトリルと智王が、茫然と見守っていた。




銀河戦国群雄伝ライ
ファウンデーション
ヴォルコシガン・サガ
超時空要塞マクロス
彷徨える艦隊
ギャラクシーエンジェル2
銀河英雄伝説
レンズマン


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宇宙戦艦ヤマト/時空の結合より2年8カ月

 ベムラーゼ首相を討たれ、銀河衝突に苦しむボラー連邦の残存勢力は、パルパティーン帝国の本格侵攻に抵抗していた。

 ボラー連邦は、辺境星域にできたゲートを無視していた。多元宇宙の存在自体を無視し、報告を握りつぶしたのだ。その遅れに大艦隊の侵攻を許し、橋頭保を築かれた。

 反応の遅れの理由は、ベムラーゼ首相を含む主力の壊滅もあった。だが、根本的には組織としての病状だ。デスラーがガルマン・ガミラス帝国を興した時と同様に。

 多元宇宙の報告を拒絶したのは、自由惑星同盟のレベロ政府もだ。

 秦の二世皇帝の耳に、反乱の報は長く届かなかった。権力を握る宦官、趙高が握りつぶしたから。

 気がついた時には、ガルマン・ガミラス帝国との絶望的な二正面戦となっていた。

 どちらかと和して、遠交近攻、など判断ができる者はなかった。

「われわれは無敵だ!」

 と叫び続け、内部で誰がベムラーゼ首相の後を襲うかの権力抗争を優先したのだ。ものを考える人間はいなかった。ものを考えることは死に値する重罪であり、とっくに排除されつくし、教育と自然淘汰によって防止されていたのだ。

 ガルマン・ガミラスの新興を許したこと自体、ボラー連邦自体が文明として衰退過程にあったしるしだ。

 ボラー連邦はパルパティーン帝国に比べ、戦力・技術力は決して劣ってはいなかった。ワープする惑星破壊ミサイル。ブラックホール砲。火力、デスラー砲すら防ぐ重装甲。

 惑星破壊ミサイルの飽和攻撃は、スーパー・スター・デストロイヤーすら撃沈した。

 緒戦の勝利は、ボラー連邦残存幹部の傲慢を、致命的に深めた。

 

 パルパティーン帝国のペカッティ・シン大提督は、大敗にへこたれなかった。

 インペリアル・センター=コンサルトには戻らなかった。別時空を攻めた将軍や大提督が次々と粛清されたこともある。

 大規模な橋頭保を築いていたことが幸いした。

 ヒットアンドランに戦術を切り替え、粘り強く戦い始めた。

 

 パルパティーン帝国に対するため、ボラー連邦は周辺の収容所惑星を、次々と惑星破壊ミサイルで囚人・看守・駐留軍ごと破壊した。

 極端な焦土戦術。利用されるかもしれない惑星を、次々と住民ごと粉砕する。

 足元を掘り崩す愚行だった。強制収容所は、ボラー連邦の経済にとって欠かせないものだったのだ。ナチスドイツもソ連も、強制収容所の超安価な労働力こそが、急速な工業成長を支えていた。

 また、シン大提督は惑星の破壊を、むしろ幸いとした。

 同僚のマテオ・バッチ大提督が、わざわざ超兵器を持ちだして惑星を粉砕し、資源をたくさん手に入れたことを知っていた。同僚のところにスパイを入れて知ったのである、もちろん。

 というわけで、鉱石を加工してプレゼントしてくれてありがとう、というほどのことだ。

 ちなみにガルマン・ガミラスは、プロトカルチャー由来の自動工場技術を手に入れてから、惑星破壊ミサイルを資源採取用に使っている。その目的に、惑星破壊ミサイルごと艦船を別時空に貸すこともある。

 ちなみに、強制収容所の看守を倒して囚人たちに武器を与えたり、圧政下にある諸民族を扇動したりして敵国を倒す……これはうまくいかない。一見うまくいきそうに見えるが、歴史的に成功例がないのだ。

 敵本国から離れた植民地の独立運動を支援するなら、成功例はあるが。

 ハンニバルがローマ軍を壊滅させ、イタリア半島で暴れても、ローマに征服された緒都市は誘いに乗らなかった。

 ナポレオン一世は、アイルランドを応援しイギリスに叛かせようとしたが、失敗した。

 ヒトラーがソ連を攻めた時、強制収容所で苦しむ囚人や、民族虐殺の地獄にいた諸民族を解放し、戦力にして勝つ……それはしなかった、できなかった。

 自由惑星同盟がゴールデンバウム朝銀河帝国に侵攻し、アムリッツァの大敗に至った戦争でも、占領した星々の窮民たちは立ち上がるどころか、食を求めるブラックホールでしかなかった。

 

 

 銀河衝突による被害から回復したガルマン・ガミラス帝国は、新技術の圧倒的な力でボラー連邦を追い詰めつつあった。

 デスラーは、ボラー連邦滅亡後の、パルパティーン帝国との直接対決も視野に入れていた。ゼントラーディ=ローエングラム大戦で、ルーク・スカイウォーカーらにも会い話を聞いている。

 プロトカルチャー由来の技術で多数の艦を作り、人も育てた。隣のローエングラム銀河帝国と競い合うように、コーデリア盟約で手に入れたバーゲンホルムはじめ新技術を全艦に導入し、訓練と実戦を積んだ。

 

 ボラー連邦は、あくまでガルマン・ガミラス帝国を主敵としている。だが、もう対抗できる水準ではない。銀河衝突でガルマン・ガミラス本星が被災したために、わずかに延命したにすぎない。

 ボラー連邦に、銀河衝突で破壊された星はなかったが、これまでの航路の多くが使えなくなった。それは経済の足元を大きく崩した。ガルマン・ガミラスには新しいエンジンがいくつもあったので、その問題は最低限だった。

 

 

 シャルバートの技術で改良を済ませたデスラー艦隊は、ボラー連邦の諸領土をほとんど無視し、パルパティーン帝国とボラー連邦の大艦隊がぶつかり合うど真ん中に突撃し、両方を相手取った。

 

 ボラー連邦主力艦隊が、まさに鎧袖一触。

 ガルマンガミラス艦の影もとらえられない。艦載機がほんの一瞬出現し、ボラー艦の位置を確認して、即座にバーゲンホルムで消えるだけ。

 ボラー艦のオペレーターも、ほとんどはそれを見落とす。ステルス水準も高いのだ。少数はいぶかしむが、もう遅い。すぐさま宇宙の虚空、しかも至近距離からハイパー放射ミサイルが何百発も出現する。瞬間物質移送機とハイパー放射ミサイルを合わせたら、どういうことになるかは言うまでもない……敵にとっては悪夢だ。

 対空砲火など暇もなく、仮に当たっても主砲の直撃でもなければ破壊できない。浸透するように装甲を貫くミサイルから死の放射能ガスが放たれ、乗員を殺戮し、核分裂・核融合問わず核燃料・核爆薬の核反応を暴走させる。核弾頭や核を用いる補助エンジンが、次々に大爆発を起こす。

 反撃したときには、常にそこにいない。すさまじい速度、超光速に入るまでの時間の短さ。複数のエンジンがあるガミラス艦は、従来の常識では侵入できない暗黒ガスや大重力場にもゆうゆうと逃げこむ。偶然反撃がデスラー艦隊をとらえた、と思っても、常に濃密な対空砲火が弾を撃墜し、無傷のまま艦は姿を消す。

 スター・デストロイヤーも、同じくデスラー砲とハイパー放射ミサイルに次々と蒸発し、あるいは乗員が全滅して幽霊船と化す。

 ハイパードライブやその探知機もデスラー艦隊には標準装備、さらにバーゲンホルムやフォールドで先回りされる。

 ヤマトや古代守艦も手を貸したが、必要はほとんどなかった。

 シャルバート艦も参加する必要はなかった……もとより、教義上人間同士の戦いには参加できないのだが。

 

 シン大提督の旗艦〈ファイ〉がまさに破壊されようとしていたとき、デスラーに至急の連絡が入った。

「何事だ!せっかく敵の大提督を討ち取ろうとしていたときに」

「申し訳ありませんデスラー総統」

 惑星連邦を訪れていた、ヴァニラ=Hとエンダー・ウィッギンが古代とデスラーに呼びかけた。ロミュラン式遮蔽装置をつけた、〔UPW〕のリプシオール級戦艦。惑星連邦から、パルパティーン帝国を横断して駆けつけたのだ。

 二人のかたわらには、奇妙な戦士がいた。

 ウォーフ。

 そして二人の人……ルダ・シャルバートやサーシャがはっとした。

 一人は地球人、黒人男性。惑星連邦士官の服装をしているが、なにともいえず雰囲気がある。

 もう一人は地球人に似ているが、繊細すぎる美貌。エルフ耳と、ラインハルト姉弟と比べたくなるほど繊細な髪。片目は潰れており、片腕もない。

「モーグの息子、ウォーフだ」声からあふれる力は相変わらずだ。「古代艦長、再会できてうれしい。デスラー総統、古代守、お初にお目にかかる。

 紹介する、

 ベンジャミン・シスコ退役大佐。

 コルム・ジャエレン・イルゼイ公子」

 エンダーが進み出る。

「エンダー・ウィッギン提督です。第二段階レンズマンとして、知らせるべきことがあります。

 ヤマト、われわれを護衛し〔UPW〕に急いでください。

 また、シン大提督は殺すべきではない、マザー・シャルバートに帰依させましょう。彼は常に信仰の対象を求める男、彼が若いころ信じていた宗教は平和主義でシャルバート教に近い」

「何を考えているのかな?」

 殺戮の喜びを止められ、デスラーのなめらかな声にかすかな不快がにじむ。

「帝国の、ミスローニュルオド大提督が将来必要になると、とある上位存在から」

 謎めいた言葉ではある。

「総統閣下には贈り物も用意しています。ロミュラン式遮蔽装置、レプリケーター、トリコーダー、転送、ホロデッキ」

 まっすぐに見つめるエンダーに、デスラーは苦笑気味に笑った。

「ふん、戦場はここだけではない。行くがいい」

 その時には、第二段階レンズの力でエンダーが〈ファイ〉を制圧していた。

 そしてシン大提督を、ルダ・シャルバートの船に移乗させる。

 支配を解かれた大提督は、慌てて武器を探すが、そこにいたルダ・シャルバートを見た。

 打たれたようにひざまずく。一目で、その神聖な雰囲気はわかる。

「あなたは」

「マザー・シャルバートです。あなたを迎えに来ました。悔い改めなさい、あなたの罪はすべて許されます」

「ああ……」

「あなたは若いころ、『神聖な道』のよき信者でした。信仰を禁じられ、棄教を誓い大提督として働き、ダークサイドをあがめていた間も、あなたの心は光を求め、真の信仰に飢えていたのです。

 与えましょう」

「ああ、ああ……帰依します、帰依します。シャルバート、永遠の忠誠と信仰を誓います」

「相手が人ならば、たとえ殺されても無抵抗を貫きなさい」

「はい、誓います」

「〈混沌〉と〈法〉、どちらの極端とも戦い、〈天秤〉を守って戦いなさい」

「はい、誓います」

 ……宗教に飢えていた大提督にとって、マザー・シャルバートは餓死寸前の人に差し出されたハチミツ入り粥だった。

 彼は帝国とのゲート付近に駐留し封鎖を守ると誓い、兵をまとめて去る。

 

 同時にその戦いは、ボラー連邦の戦力を致命的に失わせた。もはや大帝国の維持も、パルパティーン・ガミラス両帝国と戦うことも不可能、反乱を抑えることもできない。

 何もしなくても10年は持つまい……誰が見てもそれはわかった。

 

 ボラー連邦を深く切り裂き、戦線をヒステンバーガーに任せたデスラー艦隊は、そのままテレザート星跡に赴いた。

 レンズマンの言葉を受け、テレザート星跡をタネローンと偽りの発表をし、敵を引きつけるえさとしている。

 

 ヤマトでは、秘密の会議があった。最初のイスカンダルへの、そして多元時空の旅をともにした者だけだ。

 ウォーフとの再会の喜び以上に、懸念すべきことがある。

「みんな記憶はあるよな?ピカード艦長の故郷では、貨幣がない……デスラーに言っておくか?」

 最初に島が言った。

「島、それは対岸の火事じゃないぞ。おれたちの故郷も、遅かれ早かれだ」

 真田がやや憤然という。

「これがなくても、ダイアスパーもそういうところだって話ですね」

 太田がため息をつく。

「まあ、言うだけは言っておこうか」

 古代はため息をつくだけだった。

 

 

 テレザート星域。ヤマトの皆にとっても、デスラーにとっても懐かしい場だ。

 白色彗星帝国に粉砕された、かつて栄華を誇った惑星。

 そこには、わずかに精製金属の痕跡こそあれ、破壊ガス雲がうずまくのみだ。

 その周囲は、デスラーやゴーランドも利用した宇宙の難所でもある。

 それはまた戦闘にも活用される。

 

 宇宙のサルガッソー。交通の要所にある大暗礁、悪夢の宇宙気流。

 長い時間に幾多の艦船を呑み、その墓場となっていた。

 その艦船はことごとく、長い眠りから覚めてかりそめの生命を与えられていた。しかも、おぞましい生物と融合した姿で。

 それが、偽りの防塞に攻め寄せた。

 

 大型の艦をいくつか送り、破壊され破片も資源として吸い尽くされた星跡に駐留しているだけのハリボテ、指揮官にとっては奇襲だった。

 そこに何もないと知りながら守るのは心を崩すが、デスラーは死守を厳しく命じている。怠慢も死だ。

 そして敵の存在こそ、

(総統は正しかった……)

 ことを示している。

 普通ならば、これほどの距離、何十日もの防御となり敗れるだろう。

 だが現在のデスラー艦隊には、即時通信のアンシブルとバーゲンホルムがある。

 ほとんど瞬時にかけつけたデスラー艦隊は、理想的なハンマー&アンビル(金鎚と金床)を形成した。もとよりテレザート星周辺星域の地形は、デスラーも知り尽くしている。

 

 

 デスラー艦隊にはただでさえバーゲンホルムなどがあるのに、シャルバート星の技術でさらに大幅に強化されていた。

 すでに完成した艦船を改造しようとしたら大変だ。だが、ヤマトに積んだハイドロコスモジェン砲は対空機関砲のサイズで外付けできた……そんなお手軽兵器が、シャルバート船内部の工場で、何万も大量生産され提供された。

 外殻に、死角ができないよういくつかつければいい軽自動車サイズの半球、艦長に渡されるサングラス、コンピュータの端子に垂らす泥のような液体。そして全員分の錠剤薬。すぐ艦隊全部にいきわたる。

 要するに、レーダー、CIWS……自動対空機銃、高速化ソフトのセットだ。

 そのセットは、ヤマトも受け取っている。艦橋の左右と第三艦橋下に機銃をつけた。

 

 サングラスのレンズを降ろして見たいと思えば、100光年先の大腸菌が見える。電磁波とは違う、ワープアウトの予兆もわかる。

 むろんその情報はコンピュータにも流せるので、艦長の許可があればレーダー担当が使うこともできる。

 加えて攻防一体の、強力なCIWS。

 威力はヤマトの15.5副砲程度だが、毎秒40発の連射速度。精度と追従性も高く、弾切れもない。またその弾には重力衝撃波が含まれ、敵のレーザーやビームも霧散させるし、ワープ中の異空間にも破壊は届く。

 アンドロメダ級多数に囲まれ、ショックカノンとミサイルの片舷斉射を受けても防ぎきれる。

 その情報が流れ込み、CIWSを制御するコンピュータは、泥状のピコマシン集合体から侵入したプログラムで別物と化した。

 見た目は変っていない。安定し処理速度が上がるだけである。さらに即時通信でつながったネットワーク全体が安定し、桁外れの処理速度になる……それだけのこと。とんでもない天才プログラマーが全体を見直し、ユーザーインターフェイスを変えることなくスパゲッティを櫛ですき切りそろえたようなものだ。たまらない美しさで。

 ただでさえネリーやR2-D2などの技術をもらっており、コンピュータの性能は桁外れだ。それが最適のソフトを得たのだ。

 特に兵站の効率化はすさまじかった。自動生産工場の性能も爆発的に高まる。

 どの艦も何種類も詰んでいるエンジンの、使い分けも最適化された。ハイブリッド車の燃費・性能はコンピュータプログラムが命であるように。行く手の航路を観測し、観測結果を分析し、最適のエンジンを選ぶ……それが自動で、瞬時よりさらに短い時間でできる。速度も安全性も、航行可能領域も、桁外れに広がる。

 瞬間物質移送機の、転送距離も転送質量も大幅に増えることになる。

 戦後の民生にも、それは大きくかかわるだろう。

 

 味のない、一度飲めばいい錠剤薬も人数分渡された。

 それを飲んだ者は、幻覚や精神支配に高い耐性を持つことになる。

 その価値は、戦いが進むにつれて明白になった。

 

 デスラーは、内心震えあがった。まあ、シャルバート文明の恐ろしさはハイドロコスモジェン砲を見ればわかるが……母星を超新星爆発させ星系を一掃するのが本来の使い方、太陽を安定させ地球を救ったのは応用に過ぎない。

 それとフラウスキーの研究をヒントにした超新星爆発兵器はゼントラーディ=ローエングラム大戦で試験され、実用化のめどはついた。が、赤色巨星でなければ時間がかかる。普通の主系列星を短時間で爆発させるにはまだかなりの研究が必要だろう。

 

 

 瞬間物質移送機と次元潜航艇を擁し、さらにバーゲンホルムと強力なエンジンを併用するデスラー艦隊の機動は、地球西暦2000年前後の水上艦、アメリカ空母打撃群にも似ていた。違いがあるとすれば、デスラー砲の存在……空母打撃群なら、トマホーク戦術核が許容されている、といえる。

 空母が中心となり、戦艦がイージス艦の役。数もあり主力であるデストロイヤーはF/A18にあたる。次元潜航艇はそのまま潜水艦。艦載機はその目と手を精緻にする。

 四隻一組のデストロイヤー改が、瞬間物質移送機で何光年も離れた宙域に送られる。そこから四隻のセンサーがまとまり一つの大レーダーとして、あらゆる情報を収集する。

 瞬間物質移送機+ハイパー放射ミサイルがある。敵の位置をつかむだけで、決定的な打撃力になる。

 その場にいた四隻一組は互いをカバーしつつ、すさまじい超光速でドッグファイトもこなし、敵が地上標的のようなものであれば精密に打撃する。かなわなければ速度に飽かせて逃げ、情報を収集し続ける。もちろんデストロイヤーもハイパー放射ミサイルで、十分な破壊力を手にしている。

 臨検や物資回収、機雷原破壊など人手が必要な作業もこなす。

 さらに、動き回る敵も仕留められるように、ハイパー放射ミサイルを搭載した戦闘爆撃機も瞬間物質移送機で送られ、任務が終わればハイパードライブで帰投する。

 亜空間は次元潜航艇が守って敵のワープアウトを防ぎ、また敵の退路などに出現して確実に打撃をぶちこむ。これまたハイパー放射ミサイルだ。

 比較的単純な、使い捨て無人観測機を何千もジェイン航法で戦域にばらまき、アンシブルで返ってくる膨大な情報も参考にし、必要があれば敵のレーダーを飽和させる。それは空母打撃群を支援する偵察衛星や盗聴網にもあたるだろうか。

 膨大な情報を、旗艦の超コンピュータが確実に処理する。

 そして敵の本拠をつかめば、瞬時に主力が出現してデスラー砲を叩き込む。

 

 ディンギルの技術を吸収したため、波動砲斉射も回避可能になった。前兆のニュートリノを観測し、砲本体が届くまでにワープすることで。

 もともとバーゲンホルムの超速度がある、打撃群全体でヒットアンドアウェイができる。

 

 その艦隊にとって、シャルバートのプレゼントはそのまま大幅な戦力増になった。

 桁外れの速度と打撃力に目・脳・盾が加わり、さらに怪物による狂気にも免疫ができたのだ。

 

 半径20光年に及ぶ戦闘域。

 そのすべてをデスラー艦隊は支配している。

 多数集まれば、そこにデスラー砲艦が何十隻も同時に出現し、何十門も束ねた一撃を放ち、反撃を待たずに消え失せる。

 撃ち漏らした敵艦が突出しようとしたところに、虚空からミサイルと爆撃機が出現し、猛撃を浴びせてまた消える。

 どこに出現しても、濃密な無人観測機が即座につきとめ、即時通信で中央に情報を送る。

 地の利を知り尽くしたデスラー艦隊は、激しい攻撃で敵を宇宙暗礁に追い込み、デスラー機雷を瞬間物質移送機で送って行動を束縛する。

 

 その圧倒的な力を持つ金鎚は、敵艦隊を正面から粉砕した……かに見えた。

 不安はあった。ハイパー放射ミサイルが、ほとんど通用しないのだ。

(生身の人間が乗っているのではない?)

 まずその疑問が出た。

 ハイパー放射ミサイルから、ローエングラム朝から手に入れたレーザー水爆・超低周波弾頭に切り替えてからある程度敵を破壊できるようになった。

 それに次々と怪物艦が破壊され、残りは追い詰められたように、テレザートの恒星に飛びこんでいった。

「かなわぬと見て自殺したか」

「いえ、気をつけてください!」

 サーシャが叫ぶ。

 テレザートの主星が奇妙な周波で点滅すると、恒星内部から怪物艦が次々と飛び出したのだ。恒星の炎をまとった、巨大な火の鳥を無数に従えて。

「迎撃しろ!」

 デスラーの叫びに、強大な艦が次々と襲いかかる。ヤマトやシャルバート艦も加わり、波動砲や、名前も知らない強大な兵器を発射する。

 だが、それは外されてしまう。

「ディンギルの、ワープを読んでよけるのと同様か?」

「いや、予兆波のないミサイルもよけられている。敵には、読心能力、または予知能力があるのか」

「それに、強大な幻覚波も放たれています。幻覚予防剤を飲んでいなかったら、今頃我々は見当違いの方向を攻撃し、勝ったと思ったところを奇襲されて全滅していますよ」

「行動と攻撃に、乱数を入れよ」

 デスラーの命令。読心ならランダムな攻撃には対処できない、予知ならランダムな攻撃でもよけられる。

「命中!ですがまぐれですね。効いている様子もない」

「よし、読心ということか。なら乱数行動を徹底せよ。友軍誤射に注意」

 デスラー艦隊の、バーゲンホルムを含む超速度と、先読みでの回避……運よく命中すれば御の字の、極端に被害が少ない消耗戦。

 時に出現する、圧倒的な数の炎の艦……それは読心能力がないようで攻撃が通用するが、数が何百万だ。それを破壊しつくすのには時間もかかるし、兵站の消耗も大きい。

 悪態をつくデスラーに、古代守が告げた。

「スターシヤから通信。つなぎます」

「ああ」

 スターシヤの美しい姿が画面に映る。デスラーの胸は甘酸っぱい喜びに満たされる。たとえ人の妻となっていても、それでも命を捧げようとしたほどに愛した女性だ。

 ヤマトにとっても地球の恩人、総員最敬礼する。

『デスラー、ヤマトの皆さん。多元時空のための戦いに、心から感謝いたします。

 この戦いは、艦隊戦では勝利は望めず、支えることしかできません。敵の読心を支える、とある怪物を倒さない限り。

 守、ヤマト、急いで、急いでシスコ退役大佐とコルム公子……それにカーテローゼ・フォン・クロイツェルと彼女の紋章機を、〈ABSOLUTE〉に送ってください。

 デスラー、それまでこの戦線を支えてください』

「承知したよ」

『デスラー、どうかご無事で』

 複雑な思いを込めた微笑みに、デスラーは騎士らしく礼した。

 

 その言葉を受け、ヤマト、シャルバート、古代守、リプシオール級艦らは、ローエングラム銀河帝国に向かった。デスラーの無事を祈りながら。




宇宙戦艦ヤマト
スターウォーズ
スタートレック


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銀河英雄伝説/時空の結合より2年9カ月

 

 皇帝ラインハルトの命令で、ロイエンタールとオーベルシュタインは艦隊をつくり、ウルヴァシーを通って〔UPW〕に赴いた。

 艦隊編成は、両元帥の競争でもあった。

 どれほど大変か……

 攻めてきたゼントラーディ基幹艦隊は、約一千万隻。生き残り帰服したのは半分強。帝国と同盟を合わせた、民間船舶を含めた全宇宙船の三倍近く。

 大半は武装を外し、民間交易・開拓に使われているが、それでも三十万隻以上が帝国軍に編入されたのだ。

 もうひとつ大変なのは、最新技術を詰めた艦をどう割り振るかだ。特に信頼でき、有能な士官でなければまかせられぬ。

 

 オーベルシュタインは軍務尚書としての仕事を部下に分け、旧同盟やゼントラーディから人を選び艦を動かす仕事をこなした。

(おのれが頓死すれば役目がとどこおるならば、それは無能にほかならぬ……)

 このことは、これまでラインハルト・ロイエンタール・オーベルシュタインの、神がかった有能さに頼っていた新帝国にも浸透してきた。

 何より、現実にラインハルトの不在という非常事態を経験した。部下をそだて、仕事を分かりやすく整理し、集団をうごかすノウハウの必要性を、上は皇帝自身から下は少佐まで、身に染みて思い知ったのだ。

 ロイエンタールは、全軍の三分の一を掌握し、一つの生き物とした。

「どちらが大変だったろう?」

 多くの人は、自らも激務に追われつつ、元帥ふたりの競争を興味深く見ていた。

 そしてふたりそれぞれの、形は違うにせよ有能な働きぶりに感動すらしていた。

 

 オーベルシュタインは、旧同盟の現役軍人のみならず、退役軍人や傷痍軍人、在野の人物についての資料も手に入れていた。同盟が降伏した時に軍や政府から資料を接収したのだ。

(軍務からは離れがたいが、帝国の旗はいやだ……)

 という、ある意味危険分子で、有能な人物も、先にリストにしていた。

 状況によっては、危険分子を草でも刈るようにまとめて検挙するつもりも、あったろう。

 そしてゼントラーディの軍制度・人事情報も的確に理解しており、その指揮系統に旧同盟軍人を入れて再編することもできた。

 その希望者たちは、原則として家族ごとの移住になる。現役軍人だけでなく、退役軍人も多くいる。ある意味追放でもある。それでも、帝国の旗に従うのをよしとしない、気骨のある者ばかりだ。

 旧同盟将兵には、帝国将兵と比べて強みがあった。教育水準の高さだ。

 人口比は帝国が二倍、だが国力は48対40。一人当たりの能力は倍近い。平民を軽蔑・憎悪し、ろくに教育もしなかった大半の帝国貴族と、義務教育と福祉がいきとどいていた自由惑星同盟の差だった。トラバース法のようなゆがんだ軍国主義的なものであっても、だが。

 さらに、プロトカルチャーの技術で大量生産された、いくつもの並行時空の技術を集めた先進個人携帯コンピュータ……それがいきわたったのは帝国将兵も同じだが、読み書きができるほうが使いこなすのは早いに決まっている。改良版ドローンなどの流入で、低教育でも働けるようになったのはかなり後の話だ。

 ちなみに、ネリー最新型のように脳に直結する度胸がない大半に普及しているのは、要するにメガネだ。フレキシブルなマイクも口元に伸び、耳にかけるつる先から短いケーブルでカナル式ヘッドホンが出る。ひっこめたペンで字や絵を書けばその動きを見、机の上に手を置けば視野にはキーボードが表示され、指を動かして入力できる。

 もうひとつ、オーベルシュタイン艦隊には優位があった。ゼントラーディが帰服したのは、もともと文化を求めるがゆえ……その文化、艦隊として集まる以上、食と音楽。

 この二つの幅と質……料理人や選曲者としての能力は、生活水準の高い同盟のほうが圧倒的に高かった。また、フェザーンや並行時空の商人たちとのパイプも、兵站も扱うオーベルシュタインのほうが太かった。

 ゆえに、ゼントラーディ将兵の管理に苦労が少ない。

 

 ロイエンタール艦隊も、今は帝国将兵のみではない。旧同盟の志願者やゼントラーディ人も、オーベルシュタイン側ほどではないがかなりの数入れているのだ。

 それは艦隊の士官たちに、思いもかけぬ苦労を強いることになった。

「我々は艦隊士官であり、ホテルやレストランの経営者ではないんです!」

 という悲鳴が、あちこちから響いた。

 帝国士官たちは誰もが、ロイエンタールとオーベルシュタインの確執はよく知っている。

(敬愛する将のために、絶対に負けるわけにはいかない……)

 と決意をこめてはげむが、何よりもゼントラーディが要求する文化、毎日の食が最大の問題として立ちふさがることになる。

 ロイエンタールはさすがに、同盟やフェザーン商人、ブラマンシュ商会の力も借りて食事の質を大幅に上げた。

 それはますます、帝国と同盟の文化の違いを際立たせてしまった。

 帝国は、前王朝の建国帝であるルドルフ・フォン・ゴールデンバウム以来、退廃芸術を徹底的に弾圧してきた。ローエングラム朝はゴールデンバウムのアンチテーゼではあるが、その多くはゴールデンバウム朝の教育を受けている。それに退廃芸術のソフト自体がない。

 文化そのものがかなり偏っているのだ。

 だが、それはことなった文化が二つある、ということ。どちらが優で劣かは果てしない論争の種だ。

 それが、同盟と帝国の火種にならぬよう注意しつつ、ゼントラーディを満足させ、何よりもオーベルシュタインに負けぬよう……

 ロイエンタールの有能さも、また際立つものがあった。

 

 多忙を極めるロイエンタールだが、

「ミッターマイヤーをうらやむ気にはなれんな。フェザーンと同盟、ゼントラーディ、新技術で行けるようになった航行不能宙域……帝国は五倍になった。

 陛下の天才があるとはいえ、負担はとてつもない。さらに陛下は、教育と開拓に力を注ぎ、ほかの統治の多くを部下に任せると決められた……」

 と、友を気づかうゆとりもあった。

 

(民生を高め、教育水準を高めることでしか、超技術を持つ幾多の並行時空に伍していくことはできぬ……)

 ラインハルトは開拓で、特に旧帝国の生活・教育水準が低い農奴層の生活水準を高め、また子供たちすべてを教育する、という遠大な志を公表した。

 もっとも虐げられていた人たち。貴族に対する不信感も強く、進歩を受け入れるのも苦手とする。

 だからこそ、力とカリスマ、実利や流言を巧みに用い、特に若い者に新しい仕事を体験させる。体験した者が故郷に帰り、二度と帰らないわけではない……塩原と鞭と飢餓どころか、変な道具を使うわけがわからない仕事をさせられるが軍隊以上に毎日満腹の天国だ、と納得させる。

 そして優秀な子供から、新天地で成功を目指せるように。はじめは口減らしに近い。

 

 ゼントラーディ大戦の後、帝国が集中して取り組んだプロジェクトがある……健康診断を兼ねる国勢調査だ。

 四百億+ゼントラーディ数億を全員登録する。

 旧ゴールデンバウム帝国では、多くの星は貴族に任され、領民は領主の奴隷にすぎなかった。帝国とは、兵士の割り当て以外関係なかった。

 同盟とゼントラーディは、制度的には行き届いていた。が、民主共和主義を目的とする同盟と、軍事を目的とし人を兵器として管理するゼントラーディ、もちろん帝国とも思想が違う。

 それを、混乱が起きないように統一する……全員の名、指紋・足裏紋・掌静脈・虹彩・声紋・DNA、性別や能力をひとつのデータベースにする……それだけでも大反乱がおきかねぬ難事だ。

 さらに、子供たちの能力評価。新基準の知能や運動能力だけではない。フォース……ミディ・クロリアン値、セルダールで開発された魔法の素質など、並行時空由来のとんでもない基準も入る。

 脳直結型コンピュータを考えに入れれば、身体障害は事実上ハンデにならない。精神障害、特にイディオ・サヴァンも、考えられなかった使い道がある。

 

 その調査で、特に優れた子が選別され、ラインハルトの手元に送りこまれる。

 皇帝直属の教育機関で、皇帝夫妻とほとんど寝食を共にし、試行錯誤で教育する。

(天才は天才を知る……)

 と、いうわけだ。

 その分、拡大した新帝国統治の仕事の多くは、ミッターマイヤーやフェルナーにゆだねている。

 

 また、ラインハルトの姉アンネローゼも、自ら仕事を担った。ラインハルトが病み、ヤンが去って後は摂政を引き受け、三元帥の重石となっていた。

 ラインハルトが落ち着いたとき、彼女は正式の謁見を願い出た。

(姉上)

 公の場で、ラインハルトとアンネローゼはほとんど会ったことがない。旧帝国ではアンネローゼは遠慮し、ラインハルトが帝国を掌握してからは、彼女はキルヒアイスの悲劇から弟を避けて閉じこもっていた。

 姉ではなく、臣グリューネワルト大公妃として扱わねばならぬ、それ自体がラインハルトには苦痛であった。

 姉がもし老帝の寵姫とされなければ、キルヒアイスの妻となった彼女をたびたび訪れる、つつましい幸せがあったのだろうか……そのような空想にふけるには、半身を失った痛みは大きすぎたし、仕事が忙しすぎた。

 また、アンネローゼ自身は、家計の破滅をよく知っていた。

(相手が誰であれ、身を売ることにはちがいなかったろう……)

 女なればこそより現実的に理解している。

「さて」

 こうして二人が相対していれば、二人ともの美しさに誰もが打たれずにはおかない。

「陛下。まことに厚かましきことながら、お願いがございます」

(姉上のお頼みを断るはずがない……)

「なにか」

「なにとぞ、わたくしに、仕事をたまわるか、政略結婚の道具としてください」

 ラインハルトの表情が氷と化した。

 姉に、この表情を見られたくはなかった。

(また、自らをごまかしていた……この時が来ることは、わかっていたはずだった)

 アンネローゼを政略結婚に……その話は、誰も出さなかった。ラインハルトはよくわかっていた。

 だが、今知られる多元宇宙を見渡すと、独身男性の支配者は存外少ない。

 トランスバール皇国は女皇。〈知性連合〉のレイ王は老人である。

 バラヤー帝国のグレゴール、新五丈の竜牙雷、デビルーク王国のギド・ルシオン・デビルークは既婚だ。

 ヤマト地球は一応民主制であり、セタガンダ帝国はきわめて奇妙な婚姻制度だ。

 最高の候補は、隣国にほかならぬガルマン・ガミラス帝国のデスラー総統。

 また、〔UPW〕に早くから加入した、セルダール王国のソルダム王も有力候補と挙げる者はいた。

 友好関係にはないが、〈世界連邦〉のミュール、パルパティーン皇帝、練の羅候、ペリー・ローダンの名も計算には挙がっていた。

 だが、ラインハルトは動けなかった。帝国を奪ったのも、すべては最愛の姉を取り返すため……どうしてその姉を、政略結婚の道具になどできようか。それでは、あれほど軽蔑し憎んだフリードリヒ四世以下ではないか。

「生存・向上・公平。それが新帝国の原理、ならば今のわたくしの暮らしは、それにもとる、寄生虫にほかならぬものです。

 皇族として、範を見せねばなりません」

(そんな、そんなつもりではなかった!姉上を、姉上を取り戻したいだけだったのに)

 ラインハルトは、圧倒的な光に打たれたモグラのように、つややかな毛並みを震わせていた。

「どのような……」

「わたくしは、帝国の慈悲を担当したく思います。急速な改革と進歩に、取り残される真の弱者に仕え、涙をぬぐう仕事をしたいのです。

 わたくしは、戦場の手柄もなく、陛下との血縁をたてに重い地位をねだっているのです」

 何もせず暮らしていれば、ラインハルト自身が否定した寄生虫にほかならぬ。政略結婚もそれに近い。

 何かすれば、皇帝の親族が政治に介入し、地位俸給を実力ある者から奪う害毒となる。

 どちらにしても、害……ならば、帝国の基本理念『生存・向上・公平』を支持し、範となるべき。アンネローゼはそう決断したのだ。

「悪しき先例とならぬよう、皇后陛下のいとこが軍に入ったように倍も厳しく扱い、無能と判断なされば解任し、害はなはだしければ自害を命じてください」

 その必要性は、ラインハルトは頭ではわかっていた。

 衣食住は、ゼントラーディの技術もあり、広くいきわたっている。だが、それは旧来の農民には、父祖伝来の仕事を失わせることでもあった。

 賢い農民は、文化を求めるゼントラーディのための高級な野菜や肉で儲けることができた。だが、教育も受けていない農奴には、悲しみしかなかったのだ。

 ラインハルトには、女子供に対する慈悲はある。だがその激しい気性ゆえ、心弱い者には軽蔑と憎悪しか感じない。

 人間は強いものばかりではない……そのことは、リュッケなどにはたびたび言われてはいたが、それを感情に受け入れさせることは、どうしてもできなかった。

 いや、それを考えてしまうと、まさにうってつけである、

(キルヒアイスさえ)

 に思いが流れ、溶けた鉄をのどに流し込まれたようなことになる。

 皇姉の覚悟に、皇帝は圧倒された。

(わかっていた。姉上が……このひとが、強い人であることは)

 もとより、ラインハルトの治療中、オーベルシュタインと双璧の対立があったとき、回数は少ないがアンネローゼが最終判断をしたことがある。常にそら恐ろしいほどの鋭さ正しさ、

(かの陛下の姉君……)

 と誰もが納得した。

 その報告も、読んでいる。

 だが、彼女に仕事を与えることは、もう一度姉を失うことでもある。家族ではなく、一人の臣下としてへりくだる姉に、ラインハルトの答える声は、震えていた。

 もう一つ、ラインハルトはアンネローゼについて、知っていて言えぬことがあった。公平、例外があってはならない。全員に行われる国勢調査、さまざまなはかり……その一つは、皇姉が『H.A.L.O.システムとの適合度が高い、紋章機操縦者の資質あり』と判定を出したのだ。

 

 

 仕事が倍増したミッターマイヤーだが、個人的には幸せだった。

 人工子宮による子宝。マイルズ・ヴォルコシガンの故郷の技術である。

 ミッターマイヤーの父親と親しい、造園デザイナーであるエカテリン・ヴォルコシガンから知らされた。

 狂喜したミッターマイヤーは即座に依頼した。バラヤーの息がかかった医師団が莫大な報酬を受けて厳重な護衛のもと、地球からガルマン・ガミラスを通ってフェザーンまで旅した。

 時間は当然かかったが、ミッターマイヤー夫婦はついに待望の子を抱いた。

 もちろん、同じ悩みを持つ夫婦はたくさんいる。金持ちだけでもたくさん。

 フェザーンに当然そのクリニックができ、さらに医師団は〔UPW〕にも支部を作ることを求められた。

 

 

 艦隊編成競争は、ほぼ引き分け。エックハルト星系のクロノゲートを通り、〈ABSOLUTE〉に二つの艦隊が入った。

 戦争中でもある〔UPW〕長官タクト・マイヤーズは、大歓迎してくれた。

 一気に人口が増えた。〔UPW〕の元は、トランスバール皇国軍から精強一個師団……エルシオール・ルクシオールと紋章機を含む分、トランスバール皇国軍残りの半分には負けない戦力だったが……が出向しただけだった。人数そのものは多くはなかった。

 今は、バガーやペケニーノも多くいる。レンズマンも何人か常駐している。マイルズ・ヴォルコシガンをはじめ、あちこちの時空から大使がいる。

 ジェダイ・アカデミー専用の大型船があり、そこに六つの時空や、ローエングラム銀河帝国からも留学生が学んでいる。

「さっそくだが、戦いの準備はできている。命令を」

 ロイエンタールは淡々と言った。

「この艦隊は、ローエングラム銀河帝国に敵対しないという誓約のもと、ダスティ・アッテンボロー中将に預けられることとなる」

 オーベルシュタインの声も、負けず劣らず淡々としていた。

〔UPW〕にとって、それが大助かりだったのか大変だったのかはわからない。

 あちこちでの戦乱に、戦力が必要だったのは事実だ。だが、戦力を扱う官僚組織は、質は高いが人数が少なかった。

 強烈な精気をもてあますマイルズ・ヴォルコシガン。経験豊富なアッテンボローたちヤン不正規隊(イレギュラーズ)幹部。天才的なウィッギン一族とシー・ワンム。そしてタクト・マイヤーズ、レスター・クールダラス。

 だが彼らにとっても、十万隻近い船は次元が違う。

 バガーやジェインの助けも借り、膨大な情報を処理するシステムを作り上げる、艦隊戦より恐ろしい戦いが始まった。

 

 

 ロイエンタールには、私的にも問題があった。

 エルフリーデ・フォン・コールラウシュ。

 ラインハルトにより、女子供は流刑・十歳以上の男子は死罪という苛烈な刑を受けた、リヒテンラーデ一族に連なる女性である。

 どう流刑から逃れたのか、彼女は処刑を担当したロイエンタールの命を狙い、そのまま男女の関係を結んだ。

 そのスキャンダルが起きたのは、ゼントラーディとの大戦のさなかであった。

(それどころではない……)

 と、無視された。

 大戦が終わった時にはヤン・ウェンリーが短期間全権を預かっていた。その間に上がってきた訴えは、

(どうでもいい……)

 と、無視した。

 ラインハルトが倒れた状態での、大戦の残務処理でいっぱいいっぱい。五分たりとそんな些事に割く暇などない、ましてロイエンタールを失うなど考えられない。

 ヤンは、もともと忠誠心を重視する人間ではない。自分が属した同盟でも、心からの忠誠を求める憂国騎士団の輩に嫌悪感を隠さなかった。まして、他人にほかならぬ帝国での忠誠問題など、どうでもよかった。

 仕事さえしてくれればよかった。ロイエンタールは、仕事をしてくれた。

(ロイエンタール元帥が簒奪するなら、別にいい。ラインハルト陛下に、それほど劣るわけではない)

 とまで思っていた。

 そしてヤンがすべての地位を捨て、治療に出かけるラインハルトとともに時空から去ったときには、ロイエンタールは新帝国全体の、事実上の支配者のひとりだった。

 ラインハルトが快癒し戻り、間もなくリヒテンラーデ一族は恩赦され、問題はないとされた。だがそのとき、エルフリーデは赤子を抱いたまま姿をくらましていたのだ。

 そのエルフリーデが、思いがけない形で見つかった。

 

 ユリアン・ミンツは、ずっとフェザーンの元自治領主、アドリアン・ルビンスキーを探していた。取材のためだ。

 課題で、死んだトリューニヒトを演じるため、そのひととなりを知らねばならない。

 そのためには、生前の彼を知る人に話を聞くほかない。

 誰よりも彼を知るのは、彼と陰謀でつながっているルビンスキーである。

 だが、ケスラーが血眼で探しても見つからないルビンスキーをどう捕まえるというのか。

 多くの重要人物とのかかわりがあり、裏の人材も寛容に受け容れて、エル・ファシル独立政府の民主主義運動に参加しているユリアンの情報網からも、何度もルビンスキーはするすると逃げた。

 あるとき、ユリアンと仲間のひとりであるカーテローゼ・フォン・クロイツェルがルビンスキーへの伝手を求め、裏町のある宿を襲った。

 目当てのドミニク・サン・ピエールは消えていたが、取り残された美しい母子を確保した。

 

 エル・ファシルからおよそ一光年近く離れた、自由浮遊惑星とされる土星大の惑星。その自由浮遊惑星自体、新技術でごく最近見つかったものだ。

 冥王星規模の氷衛星のひとつに暮らす、後ろ暗いところのある人たち。

 憲兵隊がケスラーによる改革で、以前のように私利私欲とサディズムのまま臣民を蹂躙する悪魔ではなくなった。とはいえ、全員が一夜にして完璧な天使になれるはずなどない。帝国を恐れ、罪におびえて法から逃げ、保護を失った者は、新帝国でもいるのだ。

 脱走兵や、リンチの部下たちのようにひどすぎる恥を負った者も、逃げている。

 エル・ファシルは、もとよりイゼルローン回廊をのぞむ要地の一つ。平和になり、要塞はもうなく回廊も広がった今、自由浮遊惑星さえゼントラーディ船が立ち寄り金を落とす港となっている。人々は集まり暮らし始めている。

 200キロメートルに及ぶ厚い氷の層を、港を作るためデスラー砲が穿った。竪穴が地殻まで届き、底には煮えたぎった水やメタンの液が溜まっている。

 その穴に、洞窟に出入りする魚のようにキロメートル級の巨船が出入りしている。

 ある巨人用機動ポッドは煮えたぎる湯をタンクに詰めて港に運び、冷たい地表ではアリのようなマイクローンが重機を用いて窒素や一酸化炭素の氷を切り出す。

 幅がキロメートルになることもある割れ目に、虫のように人々が身を寄せ合い、港にはつきもののあらゆる商売をしている。表面では暮らせない、外宇宙の放射線が強い。分厚い氷に守られていなければならない。外に出て移動するには重装甲の宇宙船が必要になる。

 フェザーン商人が運営する、雑然とした宿町に、赤子を抱えた彼女はいた。文化を求める巨人たちのために、料理や音楽、詩や刺繍を売って。伝統ある宮廷料理。幼いころはコンサートで上位に入ったバイオリン。美しい声での朗読、韻律や絵の教育。繊細な刺繍。

 氷をくりぬいた巨大食堂に、巨人たちとマイクローンが肩を寄せ合って座り、バイオリンの演奏に聞きほれつつ食事を楽しむ。オーディンからみれば噴飯ものだが、これも文化なのだ。

 母子だけではなかった。たくさんの哀れな女たちが、身を寄せ合って、したたかに、強く生きていた。

 逃げてきた売春婦も多い。彼女たちが身を売らなくても生き、赤子に乳をやれるように助け合っていた。

 その集団は、ルビンスキーの愛人である、ドミニクがかかわっていた。

 ……ルビンスキーの陰謀組織も、日のあたるところでは生きられぬ人を助ける、互助組織の面もあったのだ。ルビンスキー自身は冷酷非情だが、闇の人脈に寄生して生きている彼は、逆に闇にしか生きられない人が生きられるよう、その頭脳となることも多かった。

 ピクミンとオリマーらの共生のようでもあった。ピクミンは生き繁殖するため頭脳を求め、オリマーは戦い運ぶ手を求める。需要と供給が結ばれたのだ。

 また、エルフリーデには別の価値もあった。アドリアン・ルビンスキーもドミニク・サン・ピエールも、富の星フェザーンで高い地位を持っていた。あらゆる贅沢をよく知っていた。だが、代々の上位貴族であるエルフリーデの趣味の高さは格別であり、地下の逃亡生活では利用価値を認められていた。

 もちろん、ルビンスキーが彼女と子を確保していたのは、陰謀のためだが。

 

 ユリアンたちが遠い自由浮遊惑星を訪れたのは、ドミニクを探してだけではなかった。重大な取材も兼ねていた。

 ユリアンは、実にいろいろなことをしている。

 まず、レンズマン訓練校の、通信での勉強と運動。最近は、多くの学科に合格したので時間は短くなり、かわりに麻薬売人捜査の仕事が増えてきた。

 エル・ファシル自治政府の与党『ヤン党』の重要な下部組織『「自分の頭で考えろ」勉強会』のリーダーである。

 またヤンの名を冠したコンテンツ会社もやっている。音楽・映像・体感コンテンツ、ニュースなども含む、昔のテレビ局のような仕事。〔UPW〕からも、夫と旅を続けているフレデリカからも、多くのコンテンツが手に入る。

 ゼントラーディという、文化を貪欲に求める大口顧客がある。需要はいくらでもある。

 むろん、レンズマンの学科・格闘技も通信でこなしている彼が、一人で全部できるはずもない。師父に倣って、巧みに人を選び、任せているのだ。

 彼がわざわざ遠くまで取材に出かけたのは、別時空で外交・交易の仕事もしているフレデリカ・ヤンから、エル・ファシル独立政府と新帝国両方に届けられた品の稼働試験があったからでもある。

 プロトカルチャー由来の自動工廠に、ダイアスパー技術で自己増殖能力をつけくわえたものだ。

 バラヤーのそれのように、リミッターを外せば……はなく、短期間での自己増殖と艦船生産を優先したものだが。

 巨大な価値があり、当然宇宙海賊などの襲撃も考えられていた。

 

『居住できる惑星にこだわるのは、もうやめたほうがいい』

 ユリアンは師父が去る直前、語った言葉を思い出す。

『人類の領域は、この銀河の5分の1、恒星は百億を超える。

 でも人が住める、酸素大気がある惑星はわずかだった。最盛期三千億の人口しかなかったのも、そのせいだ。地球ひとつに住んでいた時代の最大人口の、数十倍でしかない。

 イゼルローン要塞に住んでみて、言葉にはならなかったが……

(自給自足できるじゃないか。これがたくさんあれば、人口に上限はない)

 そう、言葉にできたのはゼントラーディを見てからだった。彼らは大軍で、完全に自給自足している。

 そしてヤマトも、あんなちっぽけな艦で、一年間自給自足の旅をした。

 エネルギー炉、それに自動工場があれば、できるんだよ。

 ラインハルト陛下もぼくより先に、思いついていたんだ』

 ガトランティス帝国という先例をつぶさに見たデスラーも、二度も故郷を破壊されたショックもあり居住可能惑星のはかなさに気づくことができた。

 

 エル・ファシル星系に、冥王星規模の準惑星は22個ある。今ユリアンがいる自由浮遊惑星の衛星にも5つある。

 その一つを、ゼントラーディ規格の600キロメートル級要塞に加工する……

 単純に10分の1が資源として使えるとして。

 冥王星の質量は、1.3×10の22乗キログラムとされている。使える資源は、まあ10の21乗としておこう。

 600キロメートル級要塞。

 300メートル近いクイーン・エリザベスが約10万トン。10万トン=10の5乗×1000キログラム=10の8乗キログラム。

 要塞と客船では、メートルとキロメートルで10の3乗、さらに(体積だから)3乗して10の9乗。600と300で出る余分な2は、工場と農場に使うとしよう。

 21-(9+8)=4。10の4乗=1万隻、超巨大要塞ができる。

 人数も体積に比例する、クイーン・エリザベスの乗客は2000人以上。要塞一隻に、10の9乗×2000=2兆人。それが1万隻。

 この時空の総人口400億など、どこかに消し飛ぶ。

 

 検算してみよう。要塞ではなく直接クイーン・エリザベスを大量生産する。

 クイーン・エリザベスが約10万トン。10の8乗キログラム。

 冥王星から、10の21乗キログラムが材料になるとする。

 21-8=13。10の13乗=10兆。10兆隻。

 一隻の収容人数は2000人……まあ、京になることは変わりない。

 

*この計算は間違っているかもしれません。適当な豪華客船で検算してみてください*

 

 その船には、核融合炉のエネルギーを用いて、衣食を満たすシステムもある。

 ゼントラーディも、大きさこそ違うがマイクローン技術を用いれば交配可能、人類とほぼ同じだ。

 酸素を含んだ空気を吸い、二酸化炭素を吐く。

 水を飲み、窒素化合物を含んだ尿を出す。

 炭水化物・脂肪・窒素を含むタンパク質などを食べ、ふんを出す。

 衣服を着て、汚す。食器を汚す。髪の毛や皮膚片を落とす。

 惑星に暮らす人類は、出したものを入れるものに戻す仕事を、大量の微生物や植物にさせている。太陽光のエネルギーを用いて。……息を吐き、汚水を川に捨て、耕し漁をしている、というのはそういうことだ。

 艦船に付属する生きた兵器であるゼントラーディは、地を耕すなど思いもしない。艦船の中で完結させるしかない。

 空気から二酸化炭素など汚染を取り除き、酸素濃度を戻す。

 生活から出る糞尿、下水、汚れた衣類や食器を、飲める水・食料・新しい衣類や食器に戻す。

 それらを、核融合炉の無尽蔵のエネルギーを用いて、主に大型艦船が行っている。小型艦は大型艦の補給を受ける。

 どんな人数であっても、十分な艦船さえあれば生活できる、ということだ。

 

 ゼントラーディ技術・波動エンジン・ドローン・バター虫……それらの融合は、それほどの人口容量と生産力を意味している。

 それこそ、

(多元宇宙を戦乱から救う……)

 と、コーデリア・ヴォルコシガン、智の紅玉、一条未沙が考え至った想でもある。

 

 

 それほどの生産をもたらす工事を取材し、空き時間にドミニク・サン・ピエールの足取りを追う。

 数多くの船が集まる、大イベントだった。

〔UPW〕から、クレータ・ビスキュイを中心とした技術者が訪問していたし、新帝国からはグルックも視察に来ていた。

 港にとっては、大金を得るチャンスだった。

 資源化されると決まっていた準惑星に身を寄せ合って暮らす、追われようとしている人たちの存在も知った。

 その中に、ロイエンタールの子とその母もいたのだ。

 また、どさくさまぎれでとらえられた人には、ワイルド・ビル・ウィリアムと名乗る隕石鉱夫もいた。新帝国のファーレンハイトなら、見覚えがあったかもしれない。

 

 そうしている間にも、自己増殖性全自動工廠は稼働を始めていた。イゼルローン要塞の二倍近い、全く違う表面の質感の巨球が、100キロメートルサイズの衛星を食う。

 そして巨大なガス惑星に、それ自体が10キロメートルはある球形船を降下させ、また上昇するのを受け止める。一日に三回も。

 とてつもない生産が始まった。

 

 同時に。ルイ・マシュンゴが、とらえたルビンスキー関係と思われる人から話を聞く……カリンがエルフリーデと話す。

「あなた……見たような、母が持っていた写真。そう……学校で世話になったコールラウシュ家のお嬢様、と懐かしそうに語ってくれたわ」

「お名前がフォン・クロイツェル? 亡命した……叔母から聞いたことがあります、お気の毒な話だったと、明らかに冤罪なのに」

 カリンの両親も帝国からの亡命者であり、若い女どうし。話は弾まずにはいられなかった。

 

 シェーンコップの私生児であるカリンにとって、母子の身の上は他人事ではなかった。プレイボーイの被害者。そして自分も亡母も、髪の毛一筋の違いでそちら側……いや、組織の助けゼントラーディの富もなく、身を売っていたはずだ。

 戦争孤児のひとりであるユリアンも胸を痛めた。

「ロイエンタール元帥に連絡して頂戴。絶対に責任を取らせてやる」

 カリンの厳しい言葉に、ユリアンは圧倒されていた。

 その背後の、悲しげな眼をした美女と、その腕の中の赤子。

「でも、彼女自身は何を望んでるの?」

「どうだっていいわ。もし彼女が不幸になりたいっていうなら、その子はもらう。子供も不幸にしようなんて許せないから」

「……どうか、気をつけてください」

 エルフリーデの悲しげな、消え入るような声にユリアンは注意をひかれた。

「ドミニクさまは、あなたたちがいらっしゃるのを知って出ていかれたのではなく、何か危険を聞いた、という話です。

 ド・ヴィリエ、地球教の話も出ていましたわ」

「何?」

 そのときだった。

 番組収録のモニターに、ユリアンの目が吸い寄せられる。光点ではない、闇点。光があるべきところにない。

 貴重な工廠の稼働試験を護衛している、国境警備隊の艦が次々に火を噴く。

 パニックが広がろうとする中、ユリアンの声が響いた。

 撮影クルーを素早くまとめる。緊急時の訓練も、実戦訓練がある彼は行き届いている。

「アンシブルとFTLの両方で、エル・ファシル本星・ハイネセン・ウルヴァシーへ連絡!放送用回線を使っても構わない」

「ユリアン」

 駆けつけてきたムライは、ユリアンに頼っている数十人の男女を見た。

 多くは退役中尉のユリアンより上。ましてムライは中将、雲の上などというものではない。

「ムライ中将。この区域の指揮官は?」

「連絡は取れない」

「なら」

 ムライが首を振る。

「私は階級は高かったが、ラインではなくスタッフだった。こちらには一私人としている。今指揮をとっている、君が指揮を続けるべきだ」

 歩く常識論、顔の替わりに〈秩序〉のムライ。だが、現実を見ない無能者ではない。ヤンの幕僚なのだ。

「では、できるだけ広い範囲、できれば艦船、軍との連絡をお願いします」

 ユリアンの決断は早かった。

「わかった」

 ムライも、迷わず従い仕事に集中した。

「隕石鉱夫たちを集めてくる!」

「頼む、同時に」

「ああ、最優先は誰も残らないよう人命検索。生命維持プラントも集めてくる」

 隕石鉱夫のワイルド・ビル・ウィリアムが率先して補佐する。その異常な能力の高さを、ユリアンはいぶかしむより今はありがたかった。

 

 ユリアンの存在は、奇妙なことに様々な人々をまとめた。

 彼はヤン・ウェンリーの背後にいたことが多く、そんな映像もある。

(ヤン・ウェンリーの後継者……)

 それは、ごく当然のようだった。

 

 撮影隊も、遠い自由浮遊惑星、秩序がないであろう港への旅、退役した駆逐艦で来ている。

「まず工廠に!動かせる船で、港の人々も工廠に避難させるんだ。軍用設備だ、最低限の自衛兵器はあるし、イゼルローン以上の防御もある!」

「ヤン・ウェンリーの後継者だ!」

「ユリアン・ミンツ!」

 恐怖が、ざわめきとともに去った人のすさまじい武勲を思い出させる。

「ムライ中将!」

「ヤン艦隊の参謀」

「さあ、ユリアン・ミンツがここの指揮官だ。命令に従い、港の人々を避難させなさい。エル・ファシルの英雄の養子だ、決して民間人を見捨てることはない。逃亡者、罪人であろうともだ」

「は、はいっ」

 具体的な行動計画、巨大工廠にある大型宇宙港への船の出入り。厄介な仕事を、ムライは的確にこなした。

 仕事を与えられ、命令されることによって人々は恐怖から一時的に逃れられた。

「自動工廠に、できるだけ早く作れる無人艦を多数作らせる。自衛火器も使うんだ」

 命令し、指揮する間にも、攻撃は激化しつつある。巨大な自動工廠に、不吉な振動が続く。

 

 カリンはエルフリーデ親子、そのほかにも多くの、港の貧しい人々をまとめ、物資をあさっていた。

 水・食物・臨時トイレ・緊急用空気維持装置・暖房装置……長期の籠城になるかもしれない。乳飲み子も、ロイエンタールの私生児だけではない。

 それどころではないのに、ふと、工廠の計器が叫ぶ警報に注意が行った。

「何?」

『ガス惑星から回収した資源に、存在しえない、破壊不能の何かがあります』

「それどころじゃないわよ」

 と言って宇宙袋入れのところに飛んでいこうとしたカリン。

『何か、別のプログラムが侵入しています……』

『適合者発見』

「これ!」

 そこらの機材から、二酸化炭素分離装置をでっちあげようとしていた〔UPW〕技師のクレータが叫んだ。

「これ、紋章機のデータよ」

 奇妙な目でカリンを見つめる。

「適合者……この、奇妙な塊は……自動工廠制御コンピュータ!その破壊不能な回収残渣を、ここのできる限り近くに運んで!」

「クレータさん、いまはそれどころじゃ」

「その仕事は別の者に割り振る。クロイツェル伍長、クレータ整備班長の指示に従え」

 隕石鉱夫とは思えぬ、強烈な権威を漂わせるワイルド・ビル・ウィリアム。いつしか、手首には巨大なレンズが輝いている。

「は、はい」

「いくぞ!」

 叫んで飛び出す三人。そこに、奇妙な生物が襲いかかる。

 虎ぐらいの大きさで六本足、長い首についたスズメバチのような大あごをひらく、黒檀のような質感の怪物。

 ワイルド・ビル・ウィリアムが手にしていた、身長を越える機関室用斧が、その首を叩きそらす。次の瞬間、一瞬でデラメーター……同盟軍のハンドブラスターよりはるかに強力な携帯火器が抜かれ、怪物の半身を消し炭にする。

「行け!」

 彼の叫びに、クレータとカリンは走った。ほかにも何匹の怪物がいるかわからない……

 

 巨大工廠についている、大型宇宙港……その小さな枝に、その塊は移動されていた。

「やはり」

 クレータが衝撃に目を見開き、周辺の大型自動アームを操作する。使い慣れたものとは違うが、ダイアスパー技術が通訳となっている。

「やはり紋章機……国勢調査データ、カーテローゼ・フォン・クロイツェル……H.A.L.O.システム適合度……」

 素早い入力の中、巨大な球がぱかりと開き、上半分がクレーンに持ち上げられる。

 球そのものは高温だったが、内部は信じられないことに室温だ。

「さ、乗って」

「え」

「みんなを守って、あの赤ん坊も!」

「は、はい」

 半ば茫然と宇宙服をつけ、エアロックをくぐって、おろされた70メートルの大型機……慣れたスパルタニアンとはかなり異なる、双胴の機体の中央に乗る。

(そう、これ。生まれる前から、知っていた)

 父母のように。生体認証のついたスパルタニアンより、ずっと深い結びつき。

 わかる、操作性はスパルタニアンと同じ。ただ、攻防ともに、桁外れに強いだけ……

 天使の輪、人間の脳と一体化するロストテクノロジーH.A.L.O.システムが起動する。

 紋章機が億年の眠りから覚める。

 

 謎の艦隊から、必死で貴重な自動工廠を守るエル・ファシル独立政府警備隊は、茫然とした。

 スパルタニアン程度の小型艇が、大型旗艦に匹敵するすさまじい戦力と防御、桁外れの速度で敵艦を蹂躙しているのだ。

 直線速度・防御・比較的近距離の火力に優れた、散弾銃を持ったバイク乗りのような機体。どこにでも向けられる中口径の機関砲も備え、対空戦にも秀でている。

「あれは」

「あ、あれは、カーテローゼ・フォン・クロイツェルが、単騎出撃」

 ユリアンの目が、衝撃と悲痛に一瞬くらむ。だが、指揮している、守っている人たち……みどり児の瞳を思い出し、自分を取り戻す。

「わかった」

「アンシブル指揮システムと連動させます!あれは紋章機です。こちらの戦艦より強力ですよ、大丈夫です」

 戻ったクレータの声。

(強力だったら全力で落とすに決まってるだろう!)

 ユリアンはかろうじて叫びを抑えた。

 外では、ルイ・マシュンゴとワイルド・ビル・ウィリアムがすさまじい戦闘力で、管理室を襲おうとする怪物を次々に撃退していた。さらに、ついでにやってきていたヴァンバスカークはじめヴァリリア人部隊が加わる。

 戦線では、巨大にして無敵のドーントレス号が、すさまじい速度と戦力で紋章機を援護し、敵と戦い続けていた。

 

 戦闘が始まって、二日。カーテローゼ・フォン・クロイツェルも休息のため一時帰還し、ユリアンの腕に倒れこむ。その映像は、戦っている人たちに強烈な印象を与えた。

 貿易用になっていたゼントラーディ船も、対海賊用のわずかな武器で必死で戦っている。

 エルフリーデをはじめとする港の貧しい人たちも、料理や洗濯、修理などできる手伝いをしていた。

 敵はますます増えているが、ついに巨大工廠は命令に従い、数万隻の小型艦を生み出した。人が乗ることもできない、アンシブルでの遠隔操作ができるだけ。

 エル・ファシル自治政府が受け取ったほうの自己増殖工廠には、戦闘艦の作成には制限がついていた。が、クレータら技師たちが頭を絞り、

『恒星に近い、強い電磁波にさらされる環境用で、高密度ガスや大重力下の影響があっても動ける探査船=高機動・重装甲

周辺の環境・地形を観測できる=高い索敵・センサー機能

電磁場・ガスなどがあっても母艦と通信できる=通信能力が高い

地形を探査し、岩や氷を蒸発させて組成を調べる、高出力アクティブレーザーレンジファインダー=レーザー機銃(+カメラ)

採鉱用遠隔操作発破+採鉱した鉱石を打ち出す電磁カタパルト=反応弾ミサイル』

と設定することで現実には駆逐艦並みの戦力がある。

 人工知能を積む暇はなく、ゆえに指揮官の能力に、すべてがゆだねられる。

 なし崩しで全部を指揮することになったユリアン・ミンツが陣形を組み、じっくりと戦い始める。

 負けないことを重視し、敵の弱いところに戦力を集中する。遊兵を作らない。

 師父ヤン・ウェンリーや、亡きビュコックの指揮を思わせるものだった。

 ムライと、ワイルド・ビル・ウィリアムも的確に補佐した。

 また、巨大工廠に時々出現する怪物たちから、人々を守るためにルイ・マシュンゴとヴァリリア隊が戦い続けている。

 

 紋章機をあえて呼び戻し、敵艦隊が突入するすきまを作らせる。崩れたと見せて追う敵を崩し、別方面から一隊を呼んで集中砲火を加える。それと同時に、敵のわずかにくびれた部分にドーントレス号を突入させて分断する。

 無人にした、実は使い物にならない大型戦艦に大量の爆発物を積んで餌とする。敵を引きよせ、餌をドーントレス号の牽引ビームで引っ張って加速し、敵の真ん中で自爆させる。それでできた敵陣の乱れに紋章機を先頭に全艦を突撃させる。

 粘り強く、的確な防御指揮は、ついに報われた。

 三条の、らせん状の青い光弾。ヤマト、シャルバート艦、古代守艦。

 そして遠くからデスラー砲を撃ち続ける、三百のバーゲンホルム・デスラー砲艦。斉射ではなく、艦隊の一隻が放って後退、即座に次が発砲。超巨大な機関銃だ。ミュラーが艦隊中の試作高速艦隊を集めた分遣艦隊。

 そしてエル・ファシル独立政府艦隊。

「カーテローゼ・フォン・クロイツェルと、紋章機は失ってはならない!」

「自己増殖自動工廠を、何かは知らないが敵に渡すなどとんでもない」

 すさまじい戦力に、謎の敵は壊滅する。

 

 

 そして、救出されたユリアンたちは、恐ろしい事実を聞くことになる。

〈混沌〉に侵され、半ば怪物化した戦没艦を中心とした艦隊が、地球教の旗を掲げてハイネセンで蜂起。

 さらに、同盟側の、人類にとっては未知の空域から、奇妙な艦隊……とてつもない数の、20メートル級の戦闘機からなる敵が攻撃を仕掛けてきているという。

 

「ラインハルト陛下も、すぐに御親征にいらっしゃいます。よくこの重要施設を、僚友を守ってくださった」

 ミュラーは興奮気味に、若き英雄ユリアン・ミンツの手を握った。

「いえ、私は指揮をしただけです。戦ったのは、このカーテローゼ・フォン・クロイツェルやゼントラーディ船員を含む多くの人々です」

「ヤン・ウェンリーの後継者!」

「ユリアン・ミンツ!」

 熱狂的な叫びが響く。

 そこに進み出てきた、グレーの制服に着替えたワイルド・ビル・ウィリアム……キムボール・キニスンが、ユリアンの腕をつかみ、用意していた台の上の、奇妙な装置にユリアンの腕を入れた。

 そのままに、と目でいい、手にしていた小さい箱を開き、絶縁ピンセットを取り出すと、輝くレンズを取り出してユリアンの腕に触れさせた。

 輝きがレンズに走るのを見て、装置に落とす。

 目もくらむような輝き、複雑な装置の働きの後、装置から抜き出したユリアンの腕には頑丈な金属の腕輪、そしてレンズがまばゆく輝いていた。

「ユリアン・ミンツ。きみは多元宇宙に広がったパトロール隊訓練課程でも、卓越した能力を見せた。そして見事な指揮能力も、富と権力におぼれず、謙虚に人間を学ぶ強さも見せてくれた。

 君にはいかなる道徳的な弱さもない。このレンズとグレー・レンズマンとしてのすべての名誉にかけて、その名を汚したことのないレンズの着用者と宣言できる。

 レンズマンについて、細かくは後に話すことになる……私がホーヘンドルフ校長に言われたことを。

 今は、新しいレンズマンの登場を、ともに祝おう!」

 叫びがさらに広がる。

 ユリアンはアリシア人の面接を受けてはいないが、第二段階レンズマンであるキムも、最終判定ができる。

「まず、カーテローゼ・フォン・クロイツェル、そしてエルフリーデ親子を、全速で〔UPW〕へ。途中の航路でも敵襲があるだろう。

 そしてユリアン。君も、星海に羽ばたくといい」

 

 新しい戦い、新たな英雄。

 そしてフェザーンでは、「その為人(ひととなり)、戦いを嗜(たしな)む」美しき皇帝が、新技術で改良された美姫(ブリュンヒルト)に乗り、帝国を守る戦いに踏み出しつつある。

 また別時空に派遣された軍も、激しい戦いに身を投げようとしていた。




銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス
ギャラクシーエンジェル2
ヴォルコシガン・サガ
レンズマン


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スーパーロボット大戦OG/時空の結合より2年半

基本的に『スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION THE ANIMATION』の続きです。原作とはかなり違う闇鍋展開になっています。原作や前作「MW」との整合性はこだわらないでください。
「MW」を踏まえているので、『火星航路SOS/惑星連合の戦士』などの技術が登場します。


 新西暦188年、インスペクター事件が終わった直後のことだった。

 鋼龍戦隊のメンバーが、多元宇宙の戦いの「虚憶」を「思い出した」。すぐ昨日のことのように。「虚憶」ではガンダムなどの仲間がいたが、今はそれがいない。

 その混乱より、重要なこと……技術。艦のコンピュータに隠されていた設計図が、再発見された。

 イスカンダル式の波動エンジン。より手軽なワープドライブ。推進剤がいらないローザー線推進。

 超光速で移動しつつ、針路上の敵を一方的に粉砕し、こちらにはダメージがない攻撃航法。

 あらゆる攻撃を吸収し蓄電池に流す緑のシールド。強力な牽引・切断ビーム。

 サイズが大きく射程が短いが、バリア類の貫通に優れた重力内破槍。

 普及すればカネが古語辞典送りになる、レプリケーター・ホロデッキ・トリコーダー。

 拳銃サイズでビルを破壊でき、艦載ならば地殻を撃ち抜けるフェイザー。ワープ可能な光子魚雷。

 その技術そのものが、大問題となる。

 技術を奪おうとするDC残党。

 技術を接収しようと、奇妙な動きをする大統領直属特殊部隊、ガイアセイバーズ。

 技術を危険視し、地球ごと封印しようとするゲスト。

 地球圏は、多元宇宙の戦乱をよそに、相も変らぬ混迷に浸りきっていた。

 

 ちなみに、はるかバルマー帝国に〔UPW〕へのクロノゲートが開いたのは2年半前。〔UPW〕の人たちから見れば、鋼龍戦隊と共闘したエオニア戦役はその何年も前。

 経過時間は一致しない。だが、ヤマトの時空でも、時間経過はずれている。

 そう、並行時空の時間は、同じ時計に従って経つのではない。

 船で再会したコルムが覚えていた戦いの記憶が、エルリックにはなかった。エルリックにとって、それは未来であったのだ。

 

 クロノゲートでつながってから、バルマー帝国はずっと〔UPW〕の服属を求めて攻撃を続けていた。帝国にとって、自らがすべての上に立ち、すべての他者を踏みにじり征服するのは当然のことだった。

〔UPW〕はゲートの利を活かして最低限の戦力で撃退しつつ、交渉しようと努力を続けていた。

 おぼろな記憶から、その時空のどこかに戦友がいることを希望として。

 

 

 新西暦188年夏。

 暴走した、ユルゲン博士が開発したODEシステムと次期人型機動兵器バルトールは、鋼龍戦隊の攻撃で殲滅された……かに見えた。

 だが、一機だけ生き残っていたバルトールは、すべての情報を受け継いで宇宙を漂い、予備基地にたどりついた。そして自らの量産を再開し、基地ごと空間転移した。どこへともなく。

 その空間転移の兆候を、何人かの念動力者が探知した。

 

 間もなく地球に、恐ろしい知らせが入った。

 ゼ・バルマリィ帝国からの宣戦布告。その理由は、どう見ても地球産である、バルトールによる領土侵犯。

 大艦隊の接近を知った地球圏は、相変わらず内戦で機能不全があった。だが、続いた戦いによって、有能な人間も育っていた。

 ブライアン・ミッドグリッド元大統領の派閥から、鋼龍戦隊にどうとでも解釈できる命令がきた。

 ヤン・ウェンリーが、

「持つべきものは話の分かる上司だな。」

 と、言ったときのように。

 鋼龍戦隊が地球から離れるのは、

(超技術の情報を、悪に渡さない……)

 という真の目的の、大義名分にもなる。

 そのハガネとヒリュウ改は、波動エンジン搭載など大幅な強化が短期間で施されていた。

 比較的小型のパーソナルトルーパーも大きく戦力が向上している。

 

 まずバルマーの先遣隊相手に、その力が発揮された。

 桁外れに巨大なヘルモーズ級母艦とも、波動エンジンを二つずつ装備したハガネ・ヒリュウ改は正面から撃ち合えた。

 ショックカノンの口径こそ小さいが、ヤマトの倍以上の大きさから砲門数が多い。光子魚雷と艦載フェイザーもすさまじい火力となる。

 そして絶対の防御、圧倒的な速力。

 波動エンジンも、トロニウム・エンジンに比べても70倍以上の出力となり、通常空間航行でも光速の95%が出せる。手漕ぎと大型ディーゼル・スクリューの差がある。

 

 また、機動兵器の火力・速度も向上しており、多くの敵機動兵器を先制で破壊できた。

 フェイザー・重力内破槍・緑のシールドの三つをまとめた、PTより少し小さいぐらいの兼用兵器を量産し、全機に持たせた。コスモタイガーと同様の、波動エネルギーを用いるジェネレーターが内蔵されており、機動兵器にエネルギーを供給することもできる。

 そして大型拳銃のようなパルスレーザーサブマシンガンも全機配備。

 推進剤不要のローザー線推進で大幅に速度・機動性も向上している。

 緑のシールドで攻撃を吸収しつつ、敵を牽引ビームで引っ張って加速し接近、重力内破槍でぶち抜く。

 さらに通信で正確な位置を示せば、母艦から光子魚雷がワープしてくるし、40サンチショックカノンが正確に着弾する。

 全機が、ヴァルシオンと同等かそれ以上の攻・防、アルテリオン以上の走となった。

 

 先遣隊を撃退した鋼龍戦隊だが、敵の物量は無限に近い。地球圏は人口・生産力ともに限られ、短期間で波動エンジン搭載艦を多数作るなど夢のまた夢。

 バルマー帝国の本拠を確かめ、強襲するよりほかにない、と判断されていた。

 その、帝国の本拠の鍵となるかもしれない存在が二人いた。

 イルイ・ガンエデンと、アルマナ・ティクヴァーが奇妙な形で鋼龍戦隊にかかわった。

 イルイは記憶喪失の少女としてアイビス・ダグラスに助けられた。

 アルマナは、クスハ・ミズハと仲良くなった。

 だが、その二人を追う組織も多い。バルマーの部隊、ゾヴォークの思惑、地球に古くから暗躍する者、そしてガイアセイバーズ……

 

 

 そのころクロガネは単独で、バルトールが消えたという、小惑星帯にある基地跡に向かっていた。

 そこで奇妙な遺跡が発見された。

「これは?」

「シュウ・シラカワ博士が管理していたものだな」

 元DC幹部のレーツェルは知っていた。

 高度なステルス技術で探知から逃れていた、20キロメートルほどもある工場兼要塞。それは後方の、かなりの規模の空間に奇妙なフィールドを発し、人の探知から隠し封印していた。

 フィールドを止めると、奇妙な輪が惑星軌道をとっているのが発見された。

「これは、ゲートではないか」

 同行していたギリアム・イェーガーが畏れる。

 彼の背には、ひとふりの剣があった。身長より長い、両手持ちの剣。最近になって、なぜか身につけるようになった。

 ゼンガーやリシュウは鞘に入ったままの剣を見ただけで、凍りついていた。

 戯れにも、人に刃を見せることはなかった。柄に手をかけることすらなかった。

 ミオ・サスガやトウマ・カノウが見たがった時には厳しく拒絶した。こっそり触ろうとしたのをつかまえたゼンガーとリシュウが二人を、半死半生になるまで特訓した。

「人には触れてはならぬ、求めることすらならぬ、畏れるべきものがある」

「間違った力を求めるな。おぞましい宿命を負っていない、生きて死ぬ人であることの幸せを知れ」

 と。

「夜にあの剣から、変な声がする」

 といううわさもあった。

 ギリアムはその剣を呪いながら、手離せないようだった。

「む」

 遺跡の、『天秤の支柱に巻きつく竜』が描かれたレリーフにリルカーラ・ボーグナインが触れた時。

「うあああっ!」

 常人がほとんどであるクロガネのクルーすら、苦痛にうめいた。

 誰でも感じられるほど強い力。

「悪か?」

「いや、神なのか?」

「どちらでもないぞ、これは。ただただ、圧倒的な……力だ」

「〈混沌〉か?それとも〈法〉か?」

「いや、それより」

「いたい、いたいよっ!」

「うぬうっ!」

 そのとき、輪が輝いた。

「ゲートが反応しています」

「何かが出てくるぞ!」

「総員艦に戻れ、戦闘配置!」

 戦闘準備を整えたクロガネが待ち受ける。

 光の中に、白いドクロマークが見えた。

 そしてそのドクロはゲートからせり出し、緑の艦首があらわになる。

 美しい砲塔と翼。そして、艦尾の美しい楼。

 はためく、ドクロにぶっちかいの海賊旗。

「アルカディア」

 虚憶があるゼンガーがつぶやく。

『クロガネ、クロガネ、応答せよ。こちらアルカディア号、キャプテン・ハーロック』

 片目の男。肩には奇妙な黒い鳥が乗っている。腰には奇妙なサーベルと大型拳銃。

「こちらクロガネ、レーツェル・ファインシュメッカー」

『クロガネ。貴艦に果たしてもらわねばならない任務がある。この波長を発信しつつ、このゲートに侵入せよ』

「……承知した」

 レーツェルはハーロックの風貌に触れ、即座に信頼を決断した。

 宇宙の男どうし、目と目だけで十分であった。

 そしてハーロックとギリアムが、奇妙な視線を漂わせた視線を交わす。

『そちらに移乗しなければならない者がいる』

「どなたでしょう?」

『別時空の出身の、サイボーグ戦士たちだ』

 赤い服に黄色い長マフラーをたなびかせ、腰に奇妙な拳銃をつけた九人。

 赤ん坊を抱いた美女。

 三人の白人男性。

 ネイティブアメリカン・中国人・黒人・日本人の男。

 すでに、80メートルほどの中型宇宙艇に乗っている。

 レーツェルがギリアムとうなずき合う。

「許可する。第二ハッチを開け」

『ありがとうございます』

 と、日本人の青年がうなずきかけ、宇宙艇を発進させた。

「見事な操縦だな」

 ユウキ・ジェグナンがうなずくとおり、鮮やかな軌道修正でふわりとハッチにすべりこむ。

「着艦完了」

「よし。ハッチを閉めよ。クロガネ発進、以後しばらく操縦を任せる」

 命じたレーツェルはゼンガーとアクセルを伴い、新たな仲間を迎えに行った。

〈介添人〉を受け入れたクロガネは、静かにゲートを潜って消える。

 入れ替わるようにアルカディアは、誰何し攻撃するガイアセイバーズとゾヴォーク艦隊をやすやすと粉砕して、地球の南極へと向かった。

 

 

 鋼龍戦隊は様々な組織との戦いを通じ、アルマナを殺そうとしたハザル・ゴッツォからバルトールのことを聞いた。

 また連れ去られたイルイを追う、と何人もが強く主張した。

 問題は、バルマー本星の位置……だが、本国から刺客を送られたアルマナは、何が起きているのか知りたいと本星の位置を教えた。

 そして二隻は、ワープのテストを兼ねてバルマー本星に急行することにした。

 

 

 複数の超光速航行技術を使い分けて遠い遠い距離を飛び越え、バルマー本星に到着したとき。

 膨大な数のバルトールが、強大なガンエデンと激しい戦いを繰り広げていた。

 

 本来は、バルトールはある程度の数の生体コア……生きた人間を部品として必要とする。

 だが、奇妙な技術によって改良されたバルトールは、すでに助け出されたエースたちの思考パターンも特殊な電子頭脳におさめ、疑似的な生体コアを自力で作っている。

 億どころか兆に達しそうな、とてつもない数。

 

 ヒリュウ改にも向かってくる、柔軟な手足の不気味な人型機の群れを、艦首超重力衝撃砲と拡散波動砲の連打がぶち抜いた。

 飛び出した機動兵器たちが、次々とめぼしい敵をフェイザーで破壊し、高速高機動で動き回りつつ重力内破槍で貫く。

 何人かにとってバルトールは恨み重なる敵でもある……自らをさらって生体コアとし、あるいは恋人を拉致して自分に敵対させたのだ。

 同時にレフィーナ艦長はバルマー帝国とも話そうとした。が、彼らは頑として話し合いを拒絶し、地球を滅ぼすと主張するのみ。

 イルイについての交渉にも応じようとしない。

 

 その時、クスハ・ミズハとリュウセイ・ダテの心を、奇妙な言葉が打った。

「誰?」

「この声は、誰だ!」

 

『聞くのだ、声を増幅しよう』

 真・龍虎王が戦いをやめ、奇妙な舞を踊り続ける。

『ATX隊、援護しなさい!』

「子供のお守は大変ねぇ」

「舌をかむぞ」

 レフィーナの命令を受け、とぼけたエクセレンをキョウスケが牽引ビームで引っ張って、普通には不可能な機動をさせた。

 動いたところに多数の弾幕、

「あーらあら、ダンスのお誘い?」

「ゆっくり踊ってこい」

 軽口をたたき合いながら、ハウリング・ランチャーの連打と、アルトアイゼン・リーゼの高速突進からの凶悪なリボルビング・バンカーが次々とバルトールを屠る。

 名コンビの芸術的なコンビプレイに驚きつつ、ガイアセイバーズから鋼龍戦隊に移ったアリエイル・オーグが戦い続ける。迫る寿命に苦しみ、クスハのドリンクでかろうじて命をつなぎながら……

 

「リュウセイが、奇妙な声を受けています!」

『何っ?念動力制御に専念させろ。教導隊、SRXを援護!』

 命令を受けた新教導隊が、動きを止めたSRXに迫る敵の足止めをする。

「新兵器の威力……試させてもらう!」

 カイ・キタムラ隊長がフェイザーライフルを連射モードに切り替え、弾幕を張る。

「スピードは三倍どころじゃないわよ、ローザ―線の制御はできる?」

「あったりめえよっ、ってとと……これじゃアルトのほうがましじゃねえか」

「もうばかっ!」

 桁外れの出力でバランスを崩したアラドのビルトビルガーを、ゼオラのビルトファルケンが牽引ビームで支える。

 アラドはその力を利用して自らを大きく振り回し、同時にとんでもない方向に急加速。

 ペアでのフィギュアスケートで、転びかけたのをパートナーが手を握ってくれた、そのまま体を完全に投げ出して振り回しあい、離れざまに無茶なダブルアクセルをかけるようなものだ。

「ちょっと!」

 ゼオラは抗議しつつ体がアラドの意図を悟ったのか、めちゃくちゃな動きの背中を守ってアラドが誘導した敵の動きを先回りし、精密な射撃を続ける。

 フィギュアスケートで、何とか着地したパートナーの腕に飛びこんでリフトされ、そのまま鮮やかな曲線を描くように。

 息ぴったりの高速の舞に敵はついていけず、いいように翻弄される。

「リュウセイに、手は出させない」

 ラトゥーニが機械のような正確さでパルスレーザーを放ち続け、二人を援護する。

 それを、ラミア・ラブレスが正確無比に助けている。

 

 クスハとリュウセイは、仲間と機体の助けもあり、必死で耳を傾けていた。

『私は……』

「イルイ?イルイなの?」

『クロノゲートへ、〔UPW〕の援軍を……そうしなければ、〈混沌〉と結びついたバルトールと、腐敗した〈法〉であるバルマーは争って、多元宇宙全体の滅びにも結びついてしまう。地球も、バルマーも、すべてを守りたいのに』

「なら、守ってやる!」

 リュウセイの絶叫とともに、すさまじい念動力が多元宇宙にいきわたる。

 ほんの一瞬、彼は見た。

 上位存在たちが見る、人間の世界とははるかかけはなれたものを。

 無限の力を。

 永劫に回帰する歴史を。

〈天秤〉と剣、竜を。

「ぐわあああっ」

 激しい苦しみを、ライディースが計器で感知して調整を行い、アヤ・マイの姉妹が念動力で支えて苦しみを分かち合う。

「ほ、報告、します」

 息も絶え絶えなクスハが、かろうじて伝言を伝える。

「なら、ここは支える。レフィーナ艦長、行ってくれ!本艦は巌となって、背を守る!」

 テツヤ・オノデラ艦長の叫びに応え、ヒリュウ改が動き出す。

「波動エンジン出力上昇!テスラ・ドライブ最大!全速で、クロノゲートへ」

『やらせるかあっ!』

 バルトールと戦いながらも叫び妨害するバルマー帝国軍に、ハガネがショックカノンと艦載級フェイザーを連打する。

 そしてヒリュウ改はすさまじい速度でクロノゲートを抜け、懐かしい友の待つ〈ABSOLUTE〉に到達した。




スーパーロボット大戦OG
ギャラクシーエンジェル2
宇宙海賊キャプテンハーロック
サイボーグ009


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宇宙の戦士/時空の結合より2年9カ月

独自設定がたくさんあります


 機動歩兵リコ愚連隊は、壊滅の瀬戸際にあった。

 クモの本拠、惑星クレンダツウに攻めこむ前は、

(ほどほどに勝っていく……)

 状態にあると思っていた。

 捕虜救出も、できると思っていた。

 すべては罠だった。

 

 突然、通信に混じる強烈な雑音。上空とも、遠くの味方とも話せなくなる。

 だが、それは救いだったろう。上空では、帰るべき母艦が次々に破壊されているのだから。

 人間より一回り大きい、強化服(パワードスーツ)をまとった兵が、人間より大きな、脚の長い節足動物じみた異星生命体と戦っている。

 二十世紀後半の、核爆撃機をしのぐ火力。戦車以上の防御。宇宙船の耐環境性能、それでいて針に糸を通せる器用さを持つ強化服。着ているのは、十人に一人しか訓練を完遂できぬ、死亡者当たり前で鍛えぬかれ選抜された、機動歩兵。

 二時間しか戦えない装甲宇宙服で疲弊するローエングラム帝国装甲擲弾兵はこの装備をうらやむだろうし、逆に巨大なPTを駆る鋼龍戦隊はその弱さに呆れるだろう。

 彼らはそのどちらも知らない。ひたすら、与えられた戦力で戦うだけだ。

 巨大で多数で火力にも優れたクモ相手では、互角ですらない。一体の生命の価値が違いすぎるのだ。

「だいじょうぶだ!それより目の前の敵だ」

 エミリオ軍曹がなだめようとする、

「ベーコンのフライ!と、とんでもない数です」

 という叫び。

 訓練でやってきた、士官学校の訓練で臨時に来ているベアボーだ。

 彼も機動歩兵としての実戦経験はあり、戦える。問題は、士官としての任務を果たせるかどうかだけだ。

 新兵のひとりを、軍曹がかばって倒れる。

「父さあん!」

 激しい声とともに、指揮官が激しく撃ち続ける。

 その足元には、片腕を失った軍曹。

「任務に私情を混ぜてはなりません、指揮を!部下を助けなさい!」

 息子である指揮官に叫びかけるエミリオ、だが息子は叫ぶ。

「あんたも部下だ!」

 リコを非難する味方はいなかった。

 通信できる味方自体が少なかった。

 全員が結束して、父子を守った。

「くそ、モントゴメリー隊!」

「生き延びるんだ、待っている味方はいる!」

 落ち着きを取り戻したジョアン・リコ少尉の言葉に、隊員全員が微笑を取り戻す。

「残念ながらね」

「モントゴメリー隊のアルを、一発殴ってやるまで死ねないんです」

 隊長が立ち直ると、余裕も出る。

 機動歩兵の結束は強い。指揮官が冷静であれば、全員が冷静に戦っていられる。

 そして、実戦を経験した指揮官は、死に直面しても崩れることはない。指揮官一人を育てるために、軍は膨大な金と力を注いでいるのだ。

 この上なく貴重で高価、だがそれを使い捨てるのが戦争というもの。

 戦士たちは、黙って使い捨てられるわけにもいかない。

 一人、また一人と倒れながら、戦い続ける。

 もはや、自分が生きる死ぬなどどこかに行っている。

「あっちに突っ込むぞ、偶数、援護!続け!」

 リコの命令に、生きている者皆が応える。

 その命令が正しいかどうかなど、誰も考えない。

(こいつに命は預けた!)

(息子とともに戦えるなんて、なんて幸せ者なんだ。絶対に死なせない)

 機動歩兵は、集団でひとつの生き物となる。人間個人を越えた、一つの偉大なものが、戦い続けるのだ。

 トノサマバッタの類が、密度が高まった状態で代を重ねると色も体格も変わって、集まって飛び立つことがある。とてつもない数が集まり、ありとあらゆる植物食物を食らい尽くして、普通のバッタには考えられぬ距離を飛び続ける。

 飢餓地獄をもたらす、大陸規模のわざわい。蝗害と呼ばれ、イナゴと誤られている。

 人間も、似たようなものだ。

 軍隊という状況になると、自分でものを考え臆病な人間とは全く違う、別の心のあり方が表に出る。

 時にはそれは、残虐な虐殺と破壊の悪鬼でもある。が、このような戦場では自らを省みず自軍戦友のために戦い抜く、誰もが気高いと認めるものであろう。

 そう、ひたすら戦い抜くのだ。機動歩兵は、決して屈することはない。あきらめることはない。

 レンズマンもそうだ。レンズマンは生きているかぎりあきらめない。

 そのレンズマンが、半分に減って戦い続ける機動歩兵に、もう大丈夫だと告げた。

 

『敵ではない、グレー・レンズマンのウォーゼルだ』

 その、心の声も聞き終わらない。意識が遠のいていく。

 力尽き、倒れ伏すリコが見たのは、柄のある眼が多数あり鋭い翼の、長くのたくる怪獣だったのだ。

 叫ぶ余力すらなかった。

 

 

 リコたち、半分近くに減ったリコ愚連隊の生存者が目覚めたのは、見慣れぬ巨艦の大きい部屋だった。

 無事な仲間に安堵し、死んだ仲間を悼む激しいひと時が過ぎる。

 リコ隊長とエミリオの父子が互いの生を喜ぶのは無論だが、父子の絆と愚連隊の絆、どちらがより太いとも言い難かった。それだけに、いない仲間の悲しみも大きかった。

 そして、何よりも自らが機動歩兵だと思い出す。

 ならば、

(最優先は、味方との連絡……)

 である。

 だが、強化服を着ていない。予備通信機で通信したが、やはり激しい雑音に支配している。

 立とうとしたが、立つ体力など残っていなかった。

「おれたちは、捕虜なのか」

 そうすごむのが精いっぱいだった。

 大部屋の端にいた、うろこを持つ長い体の、恐ろしい生物……龍に。

「その子を離せ!」

 と叫ぶ者もいる。

 ごく幼い女の子が、龍のような生物に乗っているのだ。

 その脇には、ベレーとジャンパーの、人類と思える軍人もいる。身長10メートルはある巨人までいた。

『心配はいらない。君たち、残存兵力を救助した。君たちの政府と交渉したい。仲介してくれないか。

 わたしは銀河パトロール隊、グレー・レンズマン、ヴェランシアのウォーゼル。こちらにつながった、並行時空の出身者だ。

 この子はコンスタンス・キニスン。私がさらったのではなく、両親の許可と本人の同意があって、わたしに預けられている』

(信じられない……)

 という感情はなかった。

 その感情がなかったこと自体、ウォーゼルの巧妙きわまる制御があってのことだった。

『わたしは人類の言葉は話せず、心に語りかけている。そちらは普通に話してくれればいい、その時の心が伝わる』

 それ以後は、違和感なく音声での会話のように進んだ。

「ほかに、生き残っている仲間に会わせてくれ」

 その要求はかなえられた。

 作戦に参加した艦船の、半分近くがやられていた。地上に降下した機動歩兵も、四割が死んでいた。

 そのままでは全滅だったのが、ウォーゼルたちの救援で助かったのだ。

 それから、味方の生存者がいないかしばらく働いたのちに、基地で全員が説明を受けた。

 その間に、援軍が軍・政府の上層部と交渉をしていた。

 

 

「……クモも、人類も、〈痩せっぽちども〉も、同じだ。種として生き残りたい。より広い土地が欲しい。自分たちとは違う存在は、全部皆殺しにしたい。

 だから、どちらが生き残るか、戦い抜くまでだ。そう教えてきた」

 新しい同盟者、〔UPW〕の医療技術で車椅子から立てるようになった士官学校校長、ニールセン大佐(終身元帥)が話しているのを、士官たちは驚きと感動を持って聞いていた。

「だから、クモがブエノスアイレス、ついでサンフランシスコを攻撃した。

〈痩せっぽちども〉が地球の位置をクモに教えたからだ。

 そして、こちらの情報部の動きで、〈痩せっぽちども〉を寝返らせ、こちらの研究者が作ったノヴァ爆弾の力もあって少しずつ勢力を逆転させ、捕虜を取り返すための、今度の作戦を……」

 しばらく、大佐は目をつむる。

「すべて、敵に見せられた欺瞞だった。われわれは、見たいものを見、信じたいものを信じたのだ」

 衝撃に、鍛え抜かれた士官たちも頭が動く。

「ハンマーを持っている人間にはなんでも釘に思える、と同じ。われわれには、すべての相手が自分たち人間と同じ、領土や征服が大好きな存在に見えていたんだ。昔奴隷商人に、すごい宴会だな、と食人種が言ったように。

 敵を知ろうと、努力はしてきた。『オペレーション・ロイヤリティ』で多くの犠牲を払い、敵の頭脳クモを捕虜にし、女王グモの死体を得た」聞いているリコの表情が、自分も体験した激戦の痛みと誇りに固まる。「だが、それも顕微鏡をのぞいて黄熱病の病原体を探すような、崇高ではあったが……成果は望めないものだった」

 老雄の吐息には、深い悲しみがにじんでいた。

「考えるべきだったのかもしれない。たかだか千年の技術差で、アメリカ先住民帝国もインドもヨーロッパに膝を屈した。なのになぜ、人類と、これほど多くの種族が共に生きることができるのか……

 われわれが〈痩せっぽちども〉〈クモ〉と呼ぶ種族、両方を操る本体が地球人にも技術を提供していたから、だった」

 衝撃。

「そして、〈クモ〉を操って地球を攻撃させ、逆に〈痩せっぽちども〉を通じて情報を伝えて、反撃をさせている。地球人にできる程度の」

 声にならないざわめき。士官たちですら、姿勢を保ちきれない。

「〈痩せっぽち〉と、〈クモ〉の、ものを考える本体は、別の時空に存在している巨大なカビ状の生物だ。それが、ものすごく細い菌糸を、極微の時空のひずみを通してこちらの時空に伸ばし、〈痩せっぽち〉と〈クモ〉の神経系に寄生し、操っている。宿主が死んだり捕まったりしたら菌糸の部分は溶け失せ、少し脂肪分の多い水と化す。

 そいつの好物は、自分たち以外の知的生命体の、闘志……戦士の断末魔だ」

 苦々し気な言葉に、リコは言葉を失った。

「〈痩せっぽち〉〈クモ〉のどちらも、菌糸から見れば操り人形で、闘志も何もない。

 だから、別の免疫系があって菌糸が侵入できず、個々に魂がある地球人に技術を与えた。闘争と犠牲、戦死する時の魂の叫びを食って、楽しむために。

〈痩せっぽち〉は地球人に似ているから、地球人と話し合う仕事をしている。そして〈クモ〉は、地球人にとって戦いやすい、憎みやすい敵だった。右手に怪物、左手に天使の人形をつけてカーテンのかげに隠れ、幼児を脅しては慰めてだましていたようなものだ。

〔UPW〕とのつながりがなければ、われわれは奴の望むまま、終わりなき戦争をずっと続けていただろう。過去に消費しつくされて滅んだ生物もいるし、はるか遠くで戦い続けている生物もいるそうだ。

 地球人でない生物が相手なら、ほかにも14種ぐらいあるストックから、適当な『敵』と『交渉相手』を取り出して、両方を使って戦い続けさせる、それだけのことだ。

〈クモ〉も〈痩せっぽち〉も、全戦力はわれわれが把握している、その何十億倍もある。地球人は、断末魔を長く食べるために、飼育されていただけだ。トナカイの群れを追って移動生活をし、必要なだけ殺して食べつつ、全滅させないよう一定数は残しておくように」

 リコは、仲間たちも、言葉が出なかった。

「今回の戦争……敵が捕虜を取ったのも、わかるだろう」

 リコは、士官学校で大変な思いでこなした宿題を思い出す。

 一人の捕虜のために大戦争を起こしても惜しくない、という結論……機動歩兵の常識を、論理的に証明しなければならなかった。

「われわれ人類は、一人の捕虜のためにも全軍で助けようとする。それがわかっていれば、一人の捕虜を生かしてエサにしておけば、いくらでも断末魔を食えるというわけだ。

 それでも、捕虜救出に力を尽くすべきだ、ということは正しい。相手がどんな存在だか、こちらには見えなかったのだ。

 では、クモと〈痩せっぽち〉の正体がわかっても同じだろうか。それは諸君が自らの頭で考えるべきことだ」

 深い吐息が、講堂を包んだ。

 際限のない悲しみと悼みに、打ちひしがれつつ。

「今、何をするかを考えよう。〔UPW〕は、その敵……その敵と組んだ、似たような他者を拷問して楽しむデルゴン上帝族、その仲間ボスコーンと戦っている。

 われわれも助けられた恩義、そしてこの地球人の生存のために、すべき仕事は多くある。

 昨日までの、諸君の奮戦に心より感謝し、一層の奮闘を期待する!」

 打ちひしがれた老雄は再び、自らの足で立ち上がった。

 そして元機動歩兵である士官たちも、立ち上がる。

 機動歩兵は、命ある限りあきらめない。訓練と実戦を潜り抜けたのだ。

 その強さを見たからこそ、ウォーゼルもアッテンボローも手を差し伸べた。もちろん、それがパトロール隊・〔UPW〕の利益になると判断したからでもあるが。

 

 

〈SKIA〉に、以前から〈クモ〉は多数の艦隊を送っており、〔UPW〕軍が対処していた。

 チェレンコフ推進……大重力場のそばにワープアウトできる、つまり惑星のすぐそばに出現して攻撃してくる敵の前に、〈SKIA〉の主星とクロノゲートを守る戦いは神経を使い続けた。

〈クモ〉の艦船の攻撃と防御は、それほどは強くない。だが圧倒的な数と、超光速移動の速さがある。特にチェレンコフ推進からの出現にぶつかってしまうと、強大な防御を誇る〔UPW〕艦でも致命傷は免れない。

〈SKIA〉は、多数の有人時空が加わる以前に〔UPW〕に加入した時空の一つ。

 はるか以前は栄えていたが、ヴァル・ファスクによるクロノ・クエイク・ボムで星間飛行が不可能になり、一つの星を除いて人類は死滅、生き残った人類も衰退していた。

 それが〔UPW〕の支援で文明水準を高めつつあったが、まだまだ生産力も低い、人口も少ない、教育水準も低いと、あまり戦力にはなっていなかった。

(いっそのこと……)

〈SKIA〉住民を避難させて、その時空を閉鎖すれば、という意見すらあった。

 だがそれは、ほかにも生き残りがいるかもしれないなどの理由で却下された。

 そして、おかしいと思う者もいた。

「あの推進方法だ。多くの星が欲しければ、人類など無視してひたすら遠いところで植民をすればいい」

「すでにやっていて、この攻撃は陽動じゃないか?」

「いや、それはない。ジェイン航法でアンシブル入りの無人機を多数散布している」

「なんとか、意図を読まなければ」

 そこにうってつけの存在が来た。第二段階レンズマンのウォーゼルが、

「こちらに、デルゴン上帝族の気配がある」

 とやってきたのだ。

 ウォーゼルが属するヴェランシア人は、キムボール・キニスンと助け合うまでデルゴン上帝族に支配され、呼び出されては拷問惨殺される家畜にほかならなかった。恨みは遺伝子に刻まれ、一人のデルゴン上帝族を殺すためなら、どんなことでもする。どんな苦痛でも疲労でも苦労でも喜んで。

 まして、ボスコーンと組んだデルゴン上帝族にまた誰かが支配されるなど、考えるだけでも発狂しそうなほどの怒りになる。それを、鉄よりも強い意志力で抑えて前線に出、クモたちの心を読み取ろうと努めた。

 そして、〈混沌〉との戦いに関する情報を受け取り、クモの本体……億単位の艦船と思われる……との戦いを決意した。

 ウォーゼルの故郷からも、膨大な生産力に任せ多くの艦船が送られてきた。

 だがそれ以上に力になったのは、ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝の断で、パウル・フォン・オーベルシュタインがまとめダスティ・アッテンボローに預けられた、元同盟の将兵が乗るゼントラーディの艦隊である。

 

 五万隻のゼントラーディ戦艦、そのことごとくにバーゲンホルム、波動エンジンと波動砲、クロノ・ストリング・エンジンが搭載されている。

 それを可能にしたのは、オーベルシュタインに集められた数十万の同盟人、その家族たちだ。合わせれば百万単位、働く年齢の人も多くいた。

 その人たちは、EDENやトランスバール皇国、セルダール、〈ABSOLUTE〉にもできた巨大自動工場で職を得、巨大な都市船で生活を始めた。

 全自動工場は人の手を借りることによって生産性が倍加する。人間ほど汎用性の高い工具、柔軟な点検装置は少ないのだ。

 そして人間は、適切な分野で訓練を積むと、たとえばちらりと一瞬見るだけでヒヨコのオスメスを鑑別できるようになる。指先で桁外れの精度の凹凸を感知することができる。相場予測のように複雑すぎることはできないが、結果が出る物事なら訓練次第で、脳と身体の速いはたらきとつなげることができるのだ。さらにそれとコンピュータ・ロボットを連動させると、桁外れの成果を出すことができる。

 コンピュータでも人間でもなく、コンピュータと人間の的確な組み合わせこそ、最高の生産性を持つのだ。

 また、〔UPW〕には、集団知性であるバガーや、人間以上の智を持つペケニーノの父樹母樹も移住し、協力した。

 原料として必要とされる資源の大量運搬も、惑星ごとバーゲンホルムで動かし、解除してから固有運動を波動エンジンで止めるという力技で解決した。

 食料も、ゼントラーディの大型艦船は、栄養は満たす食料は作れる。それを波動エンジンの過剰なエネルギーで多めに作り、家畜を育てる。もちろん、〈ABSOLUTE〉に直結した星々……エックハルト星区の帝国領やセルダールも、積極的に美食を増産し、届けた。膨大な衣類の需要が、いくつかの技術水準が低い星で、多くの雇用を作った。

 移住者たちの生活は故郷よりも豊かであり、また何万というゼントラーディ艦の近代化改修も恐ろしい短時間で進んだ。

 また、多数の無人艦・無人戦闘機も艦隊に加わっており、戦力は何倍にもなる。

 同盟軍人を主とする艦隊を引き継いだアッテンボローも、よく百万組織をまとめていた。アレックス・キャゼルヌはエル・ファシル自治政府にいるが、彼と同じ教育訓練を受けた同盟軍の後方軍人・官僚・企業人も多く来ているのだ。

 

 巨大要塞を中心とした艦隊が、ゲートから押し出す。

 ゲートは、圧倒的に守る方に有利だ。それが、この多元宇宙の性質を決めてもいる。

 ガルマン・ガミラス帝国やローエングラム朝銀河帝国が別時空を侵略しない理由は、ゲートを守られたら攻めるのがほぼ不可能になるからでもある。

 ゲートの行先が守りを固める前に橋頭保を作る、それ以外に侵略に希望はない。だからこそ、パルパティーン帝国は圧倒的な人口優位があるのに、惑星連邦を落とせていない。

 ゲートを通っての攻撃は、まさに上陸作戦……しかもノルマンディーや仁川とは違い、欺瞞奇襲の余地がない、どんな参謀も止めるものだ。

 アッテンボローはそれを、ほぼ無人艦の先遣隊、そして600キロメートル級の超巨大要塞で断行した。

 ウォーゼルも先頭に出たがった。確かに彼の艦も波動砲の2発や3発耐え抜けるだけの防御力はあるが、それでもキムボール・キニスンの娘の存在もあり、アッテンボロー旗艦の隣にまわってもらった。

 ゲートから出現する敵を粉砕し、ネガティブ・クロノ・フィールドを全開にしての突撃。出た先は、〈クモ〉の本拠地の一つクレンダツウ。

 もちろん、盛大なお出迎えがあった。

 上陸作戦でもっとも貢献したのは、超巨大要塞の徹底的に防護された中央に位置する、一人のレンズマンである。

 レンズだけが、別時空にもリアルタイムで情報を送れる。

 そのレンズマンは、超空間チューブをめぐる戦いの生存者。戦友を目前でデルゴン上帝族に拷問虐殺されている。ゆえにデルゴン上帝族に、ヴェランシア人に劣らぬ憎悪を抱いている。自らの脳をネリー方式で無人艦と直結し、生きた通信端末となることすら志願した。

 彼がレンズ経由でゲートの向こうから送ってくる、無人艦隊すべての莫大な情報をウォーゼルが受け止め、地球人よりはるかに優れた頭脳で処理し、アッテンボローの指揮端末に送る。

 アッテンボローやラオら参謀たちが素早くそれらを検討し、ジェインと複製ネリーの助けも借りて無人艦隊に命令を返す。

 ウォーゼルもアッテンボローも、ついてきているゼントラーディ士官も百戦錬磨だ。だが、その経験こそが足を引っ張らないか、彼らはそれを心配した。

 兵器体系が、技術水準がまったく違うのだ。

 レンズマンの故郷には、波動砲のような強大な砲は少ない。太陽ビームや虚の球体など、きわめて大規模なものはあるが、それとはかなり戦法が違う。

 そしてアッテンボローの戦略は、比較的盾が優位で、万単位の艦隊同士の撃ち合いだった。ゼントラーディもそれはほぼ同じだ。

 攻・防・走、さらに索敵通信も、圧倒的に進歩している。

 

 その圧倒的な戦力で押し出した艦隊の前にあったのは、同じ地球人が奮戦し、粉砕される姿だった。

 アッテンボローが地球人を助けたのは、ほぼ本能というものである。後に、〔UPW〕上層部では注意された。姿形で判断するな、善悪を行動で確認してから敵味方を決めろ、と。

 だが、結果的には幸運であり……困ることもあった。

 情報を集め、地球人を助けたこと自体は正しいとわかった。だが、クレンダツウを分子破壊砲で破壊することはできなくなった。

 そして惑星の奥から、何万という艦隊が噴き出してきたのである。

 

 

 激しい艦隊戦の中、ウォーゼルがついに敵の本性を突き止めた。巨大な惑星の奥深く、アッテンボローがヤン譲りの一点集中砲火……それもデスラー砲とクロノ・ブレイク・キャノンで掘りぬいた大穴の奥に、何兆何京とも知れぬ〈クモ〉がいた。

 マントルの資源をすべて活用する、想像を絶する生物だった。

 それは大きな集合知性をなし、ウォーゼルと、また艦隊に同行していた同じく集合知性であるバガーとも対話できた。

 さらに、そこにはウォーゼルにとって、また何人ものレンズマンにとっても恨み骨髄のデルゴン上帝族までいたのだ。

 その巨大要塞を粉砕し、デルゴン上帝族の血を浴びたウォーゼルとアッテンボローは、その時空の地球人と協力して橋頭保を作り、長期戦を始めた。

 敵の本体は、その時空にもいない。通常時空とは違う、高次元の存在なのだ。

 とりあえず、第三段階レンズマンであるコンスタンス・キニスンとバガーの統合知性が、〈カビ〉と呼ばれる高次元集合知性と対決し、ボスコーンとの同盟だけでも取り消すよう脅した。その対話も時間がかかりそうではあり、その間激しい艦隊戦は続く。

 

 思いがけない対ボスコーン戦の最前線。その時空には、まだまだ謎の生物と、膨大な敵艦があふれかえっている。

 そんな中見出した新たな仲間は、屈辱に震えつつ再び立ち上がり、家族を守り生き延びるためまた戦うと誓った。

 鍛え抜かれ、高度な教育を受けた将兵は、〔UPW〕、パトロール隊にとっても金では買えない貴重な資源だった。

 艦船はそれこそ、指数関数で増える。十年以内に億に達するだろう。だが、それを使いこなす人間こそ、多元宇宙で最大の貴重品なのだ。

 

 それだけではない。この、〈クモ〉〈痩せっぽち〉……〈カビ〉が支配する時空のどこかに扉がある、と予言者でもあるベンジャミン・シスコが告げたのだ。謎の都市タネローンを守り、限りない敵と戦うデスラーやラインハルトを助けるために、何人かの勇士が扉を通らなければならない、と。




宇宙の戦士
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冷たい方程式/時空の結合より4年

これは、今本編で戦われている「第一次タネローン攻防戦」とは別です。
以前も、時系列が離れた話は何度か投稿していますし。

むしろ一発ネタ、外伝短編に近い、思いつきと衝動で書いてしまったものです。


〈ABSOLUTE〉にはつながっていない、つながりのつながりを数えてもはるか遠い時空。

 

 その人類星間文明は、決して弱いわけではなかった。

 十分に戦える相手と戦い、敗れ、滅ぼされた。

 

 人類星間文明が開拓を続けていた時空と、別の時空がつながった。

 つながった先の時空には、はるか昔に作られた生物兵器があった。

 その時空のどこかに、その兵器と必死で戦い、あるいは兵器化しようと研究している人類もいるらしいが、連絡は取れぬままだった。

 

 その生物兵器が、なんであれ生物に接触したら。

 まず甲殻類のような見た目の怪物が犠牲者の顔にしがみつき、間もなく死ぬ。

 しがみつかれた犠牲者は体内に卵を産みつけられており、その卵は犠牲者に寄生して成長、犠牲者の体を食い破って死なせ、体外に脱出する。

 脱出後は生物を捕食し、独立でも繁殖する。それは犠牲者の遺伝情報を得ている。

 さらに強酸の体液・卓越した体力や生命力など、どんな生物にも大きな優位性を持っている。加えて女王を中心とする、社会性動物の行動もとる。

 たまたま、そのエイリアンと呼ばれる生物兵器によって滅ぼされた地域に、ゲートがつながった。

 ゲートの向こうを探検しようと訪れた船は食い荒らされた。そして人類の知能を得たエイリアン・クイーンに操縦された探検船は、逆にゲートを通って、探検船を送った人類の時空に侵入した。

 探検船の情報機器すべてを理解していた高知能エイリアンは、しばらく時間を稼いだ。

 そしてその間に、エイリアンの故郷の側にあった技術を用いて、超小型の宇宙船を多数放った。

 そのいくつかは、ゲート現象を調べるための艦隊の、大型母艦にも侵入したのだ。

 

 白兵戦では無敵で、大型艦に侵入されたら短期間で艦の制御をのっとる知能。

 短時間で有人惑星を皆殺しにできる繁殖力・白兵戦能力。

 確かに強かった。

 だが、その数は少なかった。

 理解し、適切な戦術を選べば、勝てない相手ではなかったのだ。

(何が足りなかったのか……)

 考えること。学ぶこと。自らを変えること。

 それだけだ。

 

 以下、その戦いについて調べた歴史家の言である。

 

 彼らの敗北は、四十年前のある事件によって定まっていた。

 名も知らぬ辺境星に、ワクチンを運ぶ救命艇に密航した少女がいた。

 その救命艇は、無事に惑星に着陸できるためには、ごくわずかな許容誤差以内の質量でなければならなかった。

 ゆえに、いかなる理由があろうとパイロットは、密航者を船外投棄するのが任務だった。

 兄に会いたいだけの少女であっても、それは変わらない。

 船外に投棄された少女がなぜか復活したといううわさもあり、大きな話題にはなった。

 

 だが、その悲劇にもかかわらず、

「許容誤差を大きくしよう」

「救命艇の出入口に監視カメラをつけよう」

「救命艇の出発前に、エンジン出力と加速を比べ、質量をチェックしよう」

 など、再発防止策は一切取られなかった。

 その後もずっと、救命艇は誤差を許容しないままであり、一定の確率で密航者船外投棄の悲劇は起き続けた。

 関係者は誰もが、「それを考えるのは私の仕事ではない」と判断したからだ。

 曰く、

「辺境は厳しいところだ。人命よりコストの方が大事だ」

 曰く、

「すでにコスト計算はなされている。監視カメラをつけたら、赤字になってしまう。再計算?冗談じゃない。お前は誰のおかげでこの仕事をしている?マグヌ派に何か言われたのか?」

 曰く、

「悲しいことだが、仕事だ。一杯飲んで忘れよう」

 曰く、

「それをこなしてこそ一人前だ。悪夢はこの仕事につきものだ」

 曰く……

 

 そのありかたは、時空間ゲートから出現した敵との戦いでも、変わらなかった。

 

 人命を軽視した。

 脱出装置・救命ボートの類を、かたくなに作ろうとしなかった。

 ゆえに、情報を得られず、高いコストをかけて育成した士官・熟練兵を無駄にした。

 汚染された艦船・惑星などをいたずらに無差別殺戮し、自らの戦力を減らした。

 同胞の大量虐殺を任務とする部隊、その命令系統の通信・コンピュータ網にエイリアンが侵入した時、勝負は決まってしまったのだ。

 

 技術も古いままだった。

 百年前の実験で否定されたという理由で、機動装甲服を否定した。

 十年前にできた新素材を使えば実現可能だ、という技術者はすべてつぶされた。

 

 コストにこだわり、侵入感知装置や、自動侵入防止付きドアをつけようとしなかった。

 

 勇敢ではあった。だが、徹底的に自軍を、無駄に死なせた。

 何百万人死んでもかまわず鉄条網と機関銃に兵を行進させた、第一次世界大戦の、両軍の将のようでもあった。

 万の将兵を餓死させた、インパール作戦を指導した日本人将校のようでもあった。

 マルチ隊形で波動砲を斉射する地球防衛艦隊のようでもあった。

 家ごとに整然とまとまり、整然と美しい隊形を崩さず順番に各個撃破されてキルヒアイスをあきれさせた、リップシュタット戦役の門閥貴族艦隊のようでもあった。

 ファルコ大佐に指揮され鼓舞され、突撃したアライアンス艦隊のようでもあった。

 どれほど多くの部下を死なせても、伝統と命令に盲従し続けた。

「再発防止」、「反省」、「マニュアルの見直し」……「考えること」は、反逆より重い罪だった。だれひとりそれはしなかった。

 

 

 その時空の人類の、最後のひとりが死ぬまで三年かからなかった。

 

 船外投棄され、奇跡的に生還した少女は、植民星の過酷な生活で早死にしていた。

 彼女やその家族が再発防止を訴えたために、その植民星の扱いが悪くなった……そのための早死にともいわれる。

 彼女の叫び、

「再発防止」

 もしも、その時空の人類が聞いていたら。

 だが、

(歴史にもしもはない……)

 と、ヤン・ウェンリーなら言うであろう。

 

 起きたことは起きたこと。

 その時空から人類は根絶され、よりふさわしい種族のものとなったのだ。




冷たい方程式
エイリアン

僕が「冷たい方程式」に心底腹が立つのは、「再発防止」という発想が皆無であることです。
そんな人類は、生きるに値しない。


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銀河英雄伝説/時空の結合より2年10カ月

 ユリアンたちはエル・ファシル自治政府領で、自治政府軍・ローエングラム帝国艦隊・ヤマトなどの救援を受け、自己増殖全自動工廠を守り抜いた。

 すぐに彼らは〈ABSOLUTE〉へのクロノゲートを擁するエックハルト星系に向かうよう、キムボール・キニスンに命じられた。

 キムのドーントレス改は別の、人類領域の外側に向けてその高速で旅立った。

「この自由浮遊惑星系の人々を、全員自己増殖全自動工廠に乗せて、エル・ファシル本星に運ぶ。自治政府軍と、必要に応じて帝国軍も救援する」

 ミュラーの表情に、ユリアンは不吉なものを感じた。

「新帝国全体で、何が起きているのでしょう」

「はっきりと把握しきれない。反乱、と言えてしまえばまだ楽なほどだ。荒唐無稽な話が多い」

「荒唐無稽な、生物と機械が混じったような怪物を見た」

 ディンギル戦に参加した士官の言葉だ。

「小官も変なものと戦いました」

 ルイ・マシュンゴが冷静を保っていう。その剛毅な安定感をミュラーたちも見直した。

「何が起きているか。簡潔に言えば、あらゆる場所が飽和攻撃されている」

 ミュラーの一言に、ユリアンは背筋を震わせた。それでも即座に立ち直り、

「ならば、誰も見殺しにせず今できることを」

 と、改めてそこにいた人々を指揮する。

 自由浮遊惑星系の人々を人命検索、疎開させる。

 巨大自動工廠の人が暮らせる場所を割り振り、上下水設備や食糧配給システムを作る。

 工廠に、生活資材・より快適な生活スペースの生産を指示する。

 それら複雑な仕事の中心となるムライらの有能さ、若く階級も低いのに彼らを使いこなすユリアンに、ミュラーたちはあらためて瞠目した。

(ヤン元帥の養子とのことだが……どのような教育を?)

 

 さらに、ミュラーたちはレンズマンの能力に、あらためて瞠目した。

 ユリアンはレンズを手に入れた直後、駆逐艦でルイ・マシュンゴらを奇妙な方向に送りだした。大型氷衛星の、穴を開けられていない大氷原を割る、誰も住んでいない岩塊に。

 指示を終えてすぐ避難民たちの中に行き、一人の恐ろしく汚い老婆のところに迷わず歩む。そして、気がふれているとも思えるボロの塊を、まっすぐに見つめた。

「レオポルド・シューマッハ少将。幼帝たちの場所はここですね」

 携帯情報器具の情報を見せられたボロは絶句し、ユリアンの目を数秒見つめる。

 ユリアンは静かな声で続けた。

「権力を求めなければ」絶妙の呼吸。「僕がヤン・ウェンリーとレンズマンの名にかけて、生涯を保証します」

 ボロは顔をぬぐう。そこにはミュラーも顔は知っている士官がいた。

「ユリアン・ミンツ。裏世界でも、卿の名は知れている。ヤン・ウェンリー提督はメルカッツ提督との約束を守った。そして今卿を見た。信じられる」

 マシュンゴたちが駆逐艦で向かった鉱山には深い穴が掘られ、駆逐艦程度の船の生命維持装置を頼りに十数人が隠れていた。少年廃帝エルウィン・ヨーゼフ二世、ランズベルク伯爵を含めて。

(本当に、レンズマンは他人の思考を読むことができる)

(あの酸化金属の岩山には、レーダーも通らない。全知だというのか?)

 その事実に誰もが、畏れさえ感じた。

 実際には、レンズを通じてキムから聞いていたのだ……キムがリゲル人に匹敵する知覚力で知ったことを。そしてユリアンは、

(レンズの用法に、これもある……)

 ことも洞察し、将来それを身に着けるため、

(自らを訓練する必要がある……)

 と理解した。

 入浴して変装を落としたシューマッハは、ユリアンを一目見て信じきったように、重大な情報を伝えた。

 地球教のド・ヴィリエらがボスコーンと組んで奇妙な麻薬を蔓延させ、それを利用して大規模な反乱を起こそうという気配がある、

「……我々も、ルビンスキーに頼って危うく逃げた。これ以上、幼帝を利用されたくはない」

「ご心配なく。場合によっては別時空に逃がしてでも」

 シューマッハは深くうなずいた。

「地球教の今回のテロは、きわめて危険だ。人間が人間ではなくなってしまう」

 ミュラーにとって、本来ならば幼廃帝は重要な話だ。だが、報告を受けたラインハルトはさして関心も持たず、むしろユリアンらの印象を聞きたがった。

 

 

 一行はエル・ファシル本星に寄り、巨大工廠をその衛星として軌道に乗せてから、一気にフェザーンを目指す。

 時空の結合以前であれば、フェザーンからエル・ファシルまでは何カ月もかかっていた。

 だが、幾多の時空の技術が集まった今は違う。エル・ファシルからフェザーンまでの所要時間は、数日。

 さらに、バーゲンホルムに適した星間物質が少ない宙域、長距離クロノ・ドライブに適した重力場が安定した宙域の探査が進めば、

(日帰りすら可能になろう……)

 とも言われている。

 その探査も、ジェイン航法で送りだされアンシブルで情報を送り返す多数の無人機により、急速に進められている。人類領域の外も、アンドロメダやそれ以上に遠い多くの銀河もだ。

 新領土(ノイエ・ラント)にも旧領土(アルターラント)にも総督府が置かれていないのも、その大幅な速度増があってのことだ。さらに安価で通信容量の大きな即時通信、アンシブルも普及しているのだ。

 

 全自動自己増殖性巨大工廠を、エル・ファシル星系外惑星軌道に置くのは反対もある。

 もともと、離れた自由浮遊惑星で試験を始めたのも、危惧があるからだ。

 人間も含めた有人星も資源として取り込み無限に自己増殖する、最大の災厄にもなりかねないのだ。

 だが、

(今は、これを敵に渡さぬことこそ肝要……)

 ゆえに、エル・ファシル自治政府がすぐに防御できる場に置く必要がある。

 複数のデスラー砲保有艦が狙いをつけることで、暴走のリスクを最低に抑える、ともしている。

 

 エル・ファシル本星に一度降りたユリアンは、船上で多くの人と面会予約をしていた。

 本来工場に行った目的である稼働開始映像だけでなく、奇妙な敵との戦いの映像も大量に手に入っている。それは公衆から見ても価値が大きい。エル・ファシルの人々でも、新領土の人々でも高い金を出す。

 また、さまざまな陰謀に関する情報も手に入れていた。あわただしい旅の準備の中でも、麻薬組織に関する情報をミュラーとも協力して総合し、帝国と共有した。

 そこではシューマッハも、有能な士官として整理された情報を出した。またエルフリーデ・フォン・コールラウシュも多くの情報を提供した。

 

 凱旋将軍のようにユリアンを、何人もの人が出迎えた。ミュラーでさえ顔と名前を知る人もいる。

 シドニー・シトレ自由惑星同盟退役元帥。

 アレックス・キャゼルヌ現エル・ファシル自治政府財務次官。

 ウォルター・アイランズ元国防委員長。

 シンクレア・セレブレッゼ元同盟中将。

 ほかの人々について知れば、もっと呆れるだろう。

 旧帝国では半ばお尋ね者の密輸商人もいる。

 フェザーンのはねっかえり商人もいる。

 旧同盟軍で、軍需物資横流しで知られた札付きもいる。

 トリューニヒト派の財界人もいる。

 ゼントラーディの名だたる艦長がいる。

 元薔薇の騎士(ローゼンリッター)もいる。

 有名な殺し屋もいる。

「清濁併せ呑むにもほどがあるな……」

 若いミュラーはそう部下に漏らし、オルラウの、

「ラインハルト陛下も、清濁を併せ呑もうと、オーベルシュタイン閣下を帷幕に迎えました」

 という答えに深く感じ入った。

 

 ヤン・ウェンリー、むしろフレデリカ・グリーンヒル・ヤンが別時空からもたらす情報・技術・コンテンツの価値は、とてつもない。まして今は次々と航行不能宙域を巨大艦で切り開くゼントラーディが、貪欲に文化を買う。

 ハイネセン、フェザーン、〈ABSOLUTE〉の支社も含め、とてつもない金と人を集めている。

 今のユリアンの、民主共和政治の主導者としての声望も大きくなっている。

 まして、自動工廠攻防戦での活躍、紋章機発見とレンズマン任命は、英雄に飢える世論をわしづかみにした。

 

 エル・ファシルには一日もいられないだろう。ユリアンも、紋章機パイロットとなったカーテローゼ・フォン・クロイツェルも早く〈ABSOLUTE〉に来るように言われている。

 そのわずかな時間にユリアンは、多くの仕事を人々に任せ割り振った。

 その仕事ぶりは、人を選び任せるうまさはヤン・ウェンリー、処理の正確さはアレックス・キャゼルヌを思わせた。

 わずかな時間で仕事を片づけ、財産を整理したユリアンは、そのままランズベルク伯爵たち三人、エルフリーデらも連れて、紋章機ごとシャルバート艦に便乗して旅立った。

 

 

 この反乱は、最初から異常ずくめだった。

 旧同盟領・帝国領……それも皇帝直轄領・元門閥貴族領を問わず、特に腐った人々の間にそれは起きた。

 突然、昨日まで普通に暮らしていた人が凶暴化して家族や路傍の人々を襲う。

 武器ではなく、人間とは思えない怪力で。そして武器による攻撃を受けると、それがきっかけで周辺の機械と融合し、巨大化していく。

 体がドロドロに溶け、そのまま近くの沼の泥と融合して流動的な表面の巨人となる者がいる。

 通り魔が憲兵隊の銃撃に蜂の巣になり、大量の血が近くのビルの壁や装甲車に飛び散る。と、ビルの壁をなすガラスが溶け、装甲車を包む……そしてゾウより大きな、七脚のヒキガエルが立ち上がり、大口径ブラスターを口から吐いて暴れる。

 それらが宇宙港を襲い、艦船と融合して、宇宙艦隊と戦い始めてもいる。

 一部は戦争の残骸にとりつき、おぞましい姿で再生してもいる。

 中には、有人惑星そのものが潰れるように崩壊し、艦船の大きさの微生物のような不気味なものが多数出現することもある。

 巨大ガス惑星に怪物が飛びこみ、短期間で多数の、ゾンビ化したような艦隊が出現することもある。

 

 ケスラーの、のちの調査で判明したこと……地球教を通じて、奇妙な麻薬がばらまかれていた。

 従来この時空で普及していた合成麻薬サイオキシンとは違う。そして銀河パトロール隊が戦っているシオナイトやベントラムとも、似ているが異なる。

 分子を分析するとサイオキシンとベントラムがつながったようにも見えるが、従来の化学では考えられない原子の結合がある。

 窒素が鎖を作っている。そして原子サイズの、原子ではない……生きているような奇妙なものによって、結合するはずのない分子が結合している。

 化学の常識も無視するのが〈混沌〉のおぞましさだ。

 それは麻薬としては、ベントラム以上の満足感、サイオキシン以上の快感をもたらし、瞬時に圧倒的な中毒になる。

 もちろん供給者に絶対服従せずにはいられない……

 それだけでなく、服用者の心の泥底の、意識さえできないおぞましい妄想が現実となり、服用者の心を破壊しながら世界そのものを侵食していくのだ。

 周辺の、服用していない人間の心もねじ曲げる力ゆえに、捜査も不可能といっていい。絶対自白薬の即効性ペンタがあってさえも。

 新帝国……病死を免れたラインハルト・フォン・ローエングラムによる改革、多元宇宙がもたらす新技術による、公正な法の支配・生活の向上……誰もが食える無条件福祉。

 それでは生きられぬ、それまでに権力と腐敗の美酒を飲みすぎた人にとって、その薬物は抵抗しがたい誘惑だった。

 

 思いもかけぬ、艦隊による内乱。

 指揮統制がないかと思ったが、またたくうちに奇妙な統制が生じた。

 それは、

(化物になった、軍経験がある者の心のどこかが指揮しているのであろう……)

 とされた。

 

 

 その敵艦隊の一部がフェザーンへ急ぐ、ユリアンたちやヤマト、シャルバート艦も狙っている、と警告が走った。

 数カ月の旅路を数日にするバーゲンホルムと連続ワープの速度、だが連続ワープが途切れ、バーゲンホルムも使えない巨大ガス星雲の中、その襲撃はあった。

「左舷、主砲斉射!」

 カンで放った古代進の一撃が、暗黒ガス雲に隠れた敵をぶち抜き、膿のような液を噴出させる。

 それをシャルバート艦から放たれる対空機銃が吹き飛ばす、

「あれに触れてはなりません。〈混沌〉に侵食されます」

「ああ、ありがとう」

 直後、古代守の高機動小型艦が、すさまじい動きで暗黒ガスが突然変形した、何千ものトゲがある塊をかすめ、ミサイルを叩きこむ。

 イスカンダルからの波動エンジンつきミサイルおよび蓄電池の転送は、イスカンダルのあるヤマト時空の外には届かない。だが、スターシヤから仕様書を受け取ったシャルバート艦にも、いろいろ作っては転送する役割は果たせる。

 シャルバート艦と同じ時空にいれば、問題なくその戦法は使えるのだ。

 守の操縦技術、サーシャの予知能力も冴えわたる。

 巨大なシャルバート艦に張りついていた、何百もの小型無人艦が母艦を離れ、確実な防御陣を築く。全自動工廠に作らせた小型艦を、シャルバート技術で強化したもの。すべてユリアンが制御している。

 カリンの駆る紋章機を先頭に、丁寧に戦い始める。

 だが、所詮多勢に無勢……

 そこで、ユリアンは何かを感じたのか、奇妙な指示を出した。

 ヤマトには奇妙なところにバーゲンホルムで移動し、敵がいないところに波動砲を放つように。

 そして敵が要塞のようにこもっている多数の小惑星の集まりに、激突するような軌道で全戦力を突撃させた。

「無茶だ」

「ううん……そういうことね」

 サーシャがにんまり笑い、波動ミサイルを送りつつ一気に加速する。

 波動エンジンの暴走爆発が小惑星をいくつも吹き飛ばす。

 多数の無人艦が、強化された大口径機関砲を乱射する。

 膨大なエネルギーが小惑星集団を蹂躙し……突然、小惑星が一斉に偽装を脱ぎ捨てた。

 密集し、強力なシールドをつけた艦隊。まさにそれは金床(アンビル)である。

 そして当然背後から、高速艦隊の金槌(ハンマー)が襲う……

 

 その時。

 まず、ヤマトが波動砲を発射。標的はない、だが濃密な星雲に、虚無の風穴があく。

 虚空に突然出現して、金槌である高速艦隊を襲う、劣らぬ高速の艦隊……その先頭には白い旗艦……それが、航行困難なガス雲に波動砲が開けた穴を道路代わりに、バーゲンホルムで一気に加速。

 金槌高速艦隊の横腹を襲いたい、と動けば必ず通り、減速しなければならない濃密なガス……そこに、ガスに隠れてかなりの数の敵艦隊が罠を敷いていた。だが波動砲が掘った道路で加速したブリュンヒルトは抜き去って、あっさりと金槌に追いつき、優美な巨体からデスラー砲を三連射する。

「ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝陛下」

 ユリアンは微笑した。

「そちがユリアン・ミンツか」

 画面に映る、豪奢な金髪・白磁のかんばせ・アイスブルーの瞳。戦争の天才・常勝の帝王。

 押し流さんばかりの覇気を、ユリアンは受け止めた。

 ひざまずかない。民主共和制のものは、ましてレンズマンにはひざまずく膝はない。

「ご快癒をお喜び申し上げます」

「予に道を与えるとは僭越な。まさにヤン・ウェンリーや、あのビュコック老を思い出す。強行突破はできるだろうがいくつか犠牲は出る、その犠牲を減らしてやろう、そう思ったのだろう?」

「はい」

「撃ち漏らした伏兵と、あちらの敵の挟撃を受けることを考えたか?」

「陛下も、伏兵を全滅させるおつもりはないはず。二時間後に、あちらの青色超巨星を超新星爆発させるつもりです」

「よし、よく予の意図と戦いを読んだ。戦場での借りは、戦場で返すとしよう。これからどれだけできるか、見せてもらうぞ」

「この戦いでは従います。ご指揮を」

 皇帝の笑みが、直視できぬほどの輝きを放つ。

 

 ユリアンにとって実に楽しいものだった。ヤンとともに、昔の戦争の記録をシミュレーターに呼び出して、ユリアンとヤンが論評したり、敵味方それぞれの指揮官の立場を演じたりして遊ぶ、その繰り返しのように。

 平和な日々での、ユリアンの最良の思い出。一年以上直接は会っていない、ヤンとフレデリカ……

 むろん、同時に自分が人殺しをしていること、味方のよき将兵の命をテーブルに乗せていることを、一瞬たりとも忘れはしない。

(……こんな思いで、あんな平然と指揮をしていたんだ)

 ヤンの実戦を近くで見た時とも、さらに違う強い感慨。感慨にふける間もなく、次々と出される命令に従って自分の戦力を指揮する。

 ラインハルトと自分の読みを比べ、その豪壮華麗な構想と深さ、鋭く柔軟な修正に驚嘆する。

 

「なぜ皇帝自身が、こんな少数艦隊で?」

 相原がそんな疑問を持った。

 シュトライトが答える。

「今、新帝国全体のあちらこちらで、比較的小規模の乱が起きています。犠牲を最小化し、敵が集まるのを防ぐために、こちらは多数の小艦隊を作り、多くの星に送っています」

「それができるのも、メルカッツ校長のおかげだ。ヤマト、この座標に向かって、主砲を右舷射撃しつつ移動せよ。古代守、ヤマトを追跡しつつここに火力を集中せよ」

 ラインハルトが軽く言い、命じる。

 新帝国士官学校校長に任じられたメルカッツは、子供たちだけでなく大・中・少・准将もたくさん抱え込むことになった。

 もともとロイエンタール・ミッターマイヤーからミュラーまでの、ラインハルトが元帥府を開くと同時に集めた上級大将以上の者と、大将以下の、連勝で昇進した若者には能力格差が指摘されていた。

 そのことはゼントラーディ戦役でもあらわになった。

 次の双璧と期待されていたクナップシュタインとグリルパルツァーは戦死。ほかの者も、上級大将以上を支えては優れた者は何人かいたが、単独の艦隊を任せるには不安があった。

 ただでさえ、新技術の大量流入と、帰服したゼントラーディ・元同盟士官と共同で軍を構築するという難事が控えているのだ。

 それで将官たちのかなりの割合は、激務の間を縫い士官学校で再教育を受けることとなった。同盟から新帝国軍に編入を希望した者、帰服したゼントラーディの士官も多くいた。

 帝国の最優秀将官であり、ヤン艦隊で同盟の手法も学んだメルカッツは、何よりも基礎を重視した。

 白兵戦における基本、正剣というべき基礎。

 集団歩兵戦の基礎。

 そして艦隊機動の基礎。

「基礎を徹底してこそ、あらゆる新技術を使いこなせる」

 厳しく、建築のようにしっかりと基礎を固め、一つ一つレンガを積み重ねるような一年半。

「変化を恐れるな」

 誰よりも大きな変化に身一つで飛びこみ、違いすぎる社会に順応して結果を出した男の説得力。

 それは本来の士官学校生徒にも強い印象を与えた。

 ゼントラーディの巨人や、帝国軍の大将閣下が眠そうなひとにらみに縮みあがる。そしてシミュレーターの中では、フィッシャーの指摘通りに些細なミスが一気に拡大し、艦隊を崩壊させているのだ。

 そしてその校長たちは、自らも熱心に新技術を学び、激しい訓練を通じて新技術に適応した新戦術を作ろうとしている。それがまた新しい新技術で泡と消えても、腐らずに最初からやり直す。

 率先して新技術に適応しようとする態度、背中を見せているのだ。

 その上で、何人か士官学校生や若手士官の優れた者が、ジェダイの留学に出たりレンズマンの通信訓練をするようにもなった。まだレンズマン認定を受けた者はいないが、脱落する大半も含め、能力の底上げにはなっている。

 

 厳しい指導で学び直した若い将官たちは、若いだけあってよく新技術にも適応し、数日もかからず惑星にかけつけ、怪物を倒し秩序と生活を回復する仕事を着実にこなしている。

 上級大将たちもそれをよく指揮し、兵站を支えている。

 だからこそ、ラインハルトは少数でユリアンを救いに駆けつけることができたのだ。

 

 もうひとつ、各惑星……あるいは、超巨大船……で暴れる怪物たちを抑えているのは、新帝国に対する多数の民の支持もある。

 旧帝国では、民を奴隷とし抑圧するゴールデンバウム帝国からの解放者、衣食住・上下水道・情報・公正な警察をくれる名君として。

 フェザーンでは、新しい技術と市場をもたらし、経済的な自由を許し公平な、有望株として。

 旧同盟にとっては、心配されていた奴隷化や自由の迫害もなく、日常の統治を円滑に機能させる……末期の旧同盟以上の、機能する統治者として。

 そして、旧同盟でヤンの最後の言葉を聞き、

(自分の頭で考え、立ち上がる……)

 決意をし、自分たちの手で地方自治から

(民主主義をよみがえらせる……)

 ために励む人々も、ある程度はいる。

 そして人類全員が、ゼントラーディによる滅亡の可能性を目の当たりにし、人類を救ってくれた新帝国軍+旧同盟軍に深い感謝を持っていた。

 さらにゼントラーディにとって新帝国は、兵器の身から解放し、文化と開拓、可能性を与えてくれた存在である……

 たとえ今大統領など直接選挙をしても、ラインハルトは圧倒的な支持で選ばれるだろう。

 日常の生活、未来の希望……そのために、勇気を振り絞って怪物と戦い、避難疎開して秩序を維持し物資を分け合い、そして駆けつけた小艦隊に情報を伝え、物資を提供して支援する人々がいたからこそ、戦えた。

 ヤマトに便乗しているコルムは、

「これがマブデン、人間か。われら退廃し、世から去って自らを守ることすら忘れ閉じこもるヴァドハーとは違う……」

 と感慨にふけっていた。

 

 ユリアンだからこそ読むことのできた、ラインハルトの天才……

 優れた参謀としても知られる古代守や、長い寿命で文化を磨きぬき、戦術理論も洗練を極めたコルム公子も感動さえした。

 一見何とも思えない、悪手とも思える一手。ヤマトを無意味に捨てたとも思えた。

 だが、それが戦局の流動に伴い、思いもかけぬ形で敵に小さなほころびを作った。

 ユリアンの、紋章機に率いられた無人艦隊とラインハルト本隊が、同時に別のところから攻撃してほころびが広がる。

 そこに波動砲で、敵の流れが大きく崩れる。

 それに対応する敵に、追い詰められていると見せて膨大な数の敵を引きよせ、全艦隊を一つの巨大要塞に乗せてから高速移動。しかもそこにはデスラー砲が多数降り注ぎ、敵のいる宙域の時空そのものを脱出不能の濁水に変えた。極超光速の時間差、かなり以前に発砲していた弾幕が今頃届き、時空を傷つけ超光速航行を不可能にしたのだ。

 ぴったりのタイミングで、シャルバート艦からハイドロコスモジェン砲……青色超巨星が超新星爆発。

 それで敵の大軍を壊滅させ、鮮やかに包囲を脱してフェザーンに帰還したのだ。

 

 

 ブリュンヒルトは惑星フェザーンには降りず、11キロメートルほどの内部をくりぬかれた小惑星に翼を休めた。それが現在の正式の首都、「獅子の翼(ルーベンフリューゲル)」にほかならない。多数のエンジンも搭載されてすさまじい速度で動けるし、内部には最高水準のコンピュータが搭載され、閉鎖大都市も作られている。

 好きにやれ、と言われたシルヴァーベルヒが好きに遊んだ力作だ。

 

 フェザーンと俗に呼ばれる可住惑星の静止軌道には、600キロメートルに及ぶゼントラーディ要塞が二つ軌道エレベーターで地上につながり、どちらも惑星表面の倍近い人口が暮らす大都市となっていた。

 また、本星からは0.15光年離れた不毛の巨大準惑星で、バラヤー・智・メガロード同盟がフレデリカ・ヤンを通じて送った全自動自己増殖工廠が多数の衛星を食い、稼働を始めている。

 さらに、フェザーン星系にいくつもある非可住惑星は、デスラー砲で穴だらけにされて多くの人が住み、工場を作りつつある。

 

 ちなみに通称フェザーンなど砂漠星も、バーゲンホルムという桁外れの運搬技術によって大量の水を手に入れている。何百光年も離れた星系の氷小惑星を、惑星ごとの巨大バーゲンホルムで引っ張ってくる。

 それを複数集め、強力な牽引ビームでつないでから全部バーゲンホルムを解除し、膨大な固有運動を相殺する。残りの固有運動は多数の、ガミラス式波動エンジン搭載艦の出力で相殺する。そしてふたたびバーゲンホルムをかけて砂漠におろし、解除。

 その技術で肥沃になろうとしている砂漠星も多い。

 

 

 ユリアンたちにとっては、フェザーンはいわば寄り道。エックハルト星系にあるクロノゲートから、〈ABSOLUTE〉に行くのが目的だ。

 だが、フェザーンでも求められる仕事は多い。特にシャルバート艦から、多くの帝国軍艦に兵器・防幻覚剤などを供給することは喫緊だ。

 

 そんな中、ユリアン・ミンツはミッターマイヤー元帥に相談があるとミュラーを通じて呼ばれた。

 ロイエンタールとオーベルシュタインが〈ABSOLUTE〉に出向し、帝国の統治面を一手に担っているミッターマイヤーが、多忙だけでない心労をむきだしてユリアンに聞いた。

「多すぎる金を、どうすればいいのだ?」

 ユリアンは固まった。

 不妊に悩むミッターマイヤー夫婦は、エカテリン・ヴォルコシガンに人工子宮の話を聞いて狂喜した。そして大金を投じガルマン・ガミラスとヤマト地球との外交も使い、バラヤーから人工子宮技師を迎え入れた。

 自らは待望の子を抱いて幸せなのだが、同じ悩みを持つ夫婦は多数いる。

 旧同盟には昔からいた、旧領土でもローエングラム朝となり長い弾圧から解放された同性愛者たちも。

 人工子宮技術なら両性者と、脚のかわりに手があるクァディーでも子を作る。

 同性だろうと、生殖器に異常があろうと、妊娠が死を意味する身体の女性だろうと、遺伝子異常をすべて清掃された子を作ることができる。

 ゴールデンバウム帝国は建国帝ルドルフ以来、劣悪遺伝子排除法を帝国の根幹とした。晴眼帝によって有名無実化され、ラインハルトが治療後に全廃はしたが、影響は残っている。

 ゆえに帝国では、遺伝子異常の清掃はタブーであると同時に切実な望みだ。また、悪法による周産期医療の停滞は、多くの母子の死をもたらした……安全な技術を切実に求める夫は多くいるのだ。愛情のためにも、家の存続のためでも。

 ミッターマイヤーに、金の雪崩が押し寄せた。

 元帥として高い給料をもらってはいたが、桁が違う。いや、桁が毎日のように増えていくのだ。

 そして、軍の事実上のトップでありつつ膨大なカネも持っているというのは、保身上、あやういことはよくわかっていた。

 江戸時代では、大名の地位と石高を切り離した。外様で功績を上げた大領の大名には、幕府での地位を与えない。老中になるような譜代の領土は小さめ。

 ついでに、ラインハルト皇帝とアンネローゼに、おもいがけぬ苦悩がやってきた。ラインハルトの胸のロケットにある、赤い遺髪……ジークフリード・キルヒアイスとアンネローゼの子を作ることが可能なのだ。

 

 普通の人間にとっては、

(金が多すぎて困る……)

 など、笑うか怒るかだろう。

 だが、ユリアンは共感した。

 彼も、多すぎるほどの金を得た。

「小か……僕も、経験しています。フレデリカさんが送ってきた別時空のコンテンツがもたらす、膨大すぎる金にかかわりました。

 周囲の人が変わっていったり、とんでもない過ちを犯しそうになったり。スパルタニアンでの初陣より危なかった、と今になると思うこともあります。

 制御できない、という感覚と過剰な全能感。はい、恐れるべきことです」

「ああ、そう、そうなんだ。戦場での、最悪の情報とそっくりなんだ。

 駆逐艦で死にかけた異常振動を思い出してしまう。大艦隊でささいな操船ミスが増えていき、それが死の瀬戸際になったこともある。それと同じ、制御できなくなる感じがあるんだ」

「ご両親には?」

「……父にも、似たような大金が……ヴォルコシガン夫人の庭園デザインを、あちこちに紹介したら……」

 ミッターマイヤーが深くため息をつく。

「捨てようとして、無謀といわれた軌道エレベータとアンシブルに投資をしたこともある」

 ミッターマイヤーは、ユリアンの目を見て深くため息をついた。

「目が雄弁に言っているな。バカがいる……自分も少し前にやらかした、と」

 ユリアンは深くうなずいた。

「……何倍に、というのは愚問ですね。僕も計算なんてできません」

「……それも全部わかってくれるとは。もし卿が使ってくれるのなら、全部さしあげてもかまわん」

 ユリアンは誠実に笑いかけた。

「師父ヤンは、人に仕事を任せることを得意としていました。今誰よりも大金を必要としている方に、任せるべきです。

 オルタンス・キャゼルヌ夫人から聞いています。アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃殿下の、慈悲のお仕事……お金がどれほどあっても足りないだろう、と」

 ミッターマイヤーは目を見開き、若きレンズマンの手を強く握った。

 

「皇姉が、その仕事を始めるのが三年早ければ、邪悪な麻薬による動乱などなかったろう……」

 のちの歴史家が口をそろえる。

 仕事に就くと言い出した姉に、ラインハルト皇帝はとんでもない権限をまず与えた。

 皇帝直属聴聞卿。

 バラヤー帝国に伝統的にある、マイルズ・ヴォルコシガンもその一員である役職だ。

 皇帝の耳目。帝国のどこであれ、皇帝自身と同じ法を越えた全権を持つ。あらゆる鍵やコンピュータのロックを開けさせ、すべてを徴発し、軍を含め誰にどんな命令をすることもできる。皇帝のみに命令され、皇帝のみに報告し責任を負う。

(簒奪しろと言わんばかりだ……)

 と、オーベルシュタインなどは心配した。

 だがラインハルトは、

「姉上に簒奪されるならかまわぬ、猜疑心に凝り固まった旧帝国の愚帝どもをまね、骨肉を殺すよりずっと良い」

 と、笑い飛ばした。

 ヤンのこともあり、人を信じきり任せきる喜びを知ってしまったのだ。

 その無限の権限を得たアンネローゼは、

(さすがは、陛下の姉君……)

(君寵第一となったのも、むべなるかな……)

 と言われる賢明さを見せた。

 むやみに権限をひけらかすことなどしない。フリードリヒ四世の後宮でも、ひたすら身を慎んだように、控えめに徹した。それでいて的確に人を選び、任せることで結果を出した。

 短期的に今飢えている人を救うこと、そして長期的に帝国をよくすること、両方にきちんとバランスを取って。

 そのために、彼女はマグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人を用い、オルタンス・キャゼルヌとエカテリン・ヴォルコシガンに連絡した。静かに地下に根を張る、女たちのネットワークの中枢に。

 オルタンスを通じ、キャゼルヌを育てた地位の低い凄腕の事務屋……引退した老人が主……を何人も集めた。また息子と夫を悼むビュコック夫人も紹介され、彼女を入口にバーラトの、いろいろと役に立つ女性を数多く集めた。

 マグダレーナもエカテリンも、新帝国のあちこちに延びる深い人脈網を通じて、目立たないが使える女ネットワークの中枢を何人も皇姉に紹介した。

 アンネローゼは彼女たちの深い人脈と経験に心からの敬意を伝え、信じ、大きな権限を与えて任せた。

(新帝国全体で、今網からこぼれ泣いている人の涙をぬぐう……)

 明白な目標を掲げて。

 その信頼には熱意と忠誠が返ってきた。返せる人を見抜いた。アンネローゼの人を見る目、任せるうまさは、

(ヤン・ウェンリーをしのぐ……)

 とも後世評される。

 だが、それは後のこと。今は圧倒的に資金が足りない。

 いくら無制限に徴発できる権限を持っていても、むやみにそれを使えば害毒となることはよくわかっていた。

 アンネローゼ以上に金の恐ろしさを知っている人間もいない。赤貧の主婦・贅を極めた寵姫の両方を経験したのだ。誰よりも憎悪の恐ろしさも知っている。

 金が欲しいアンネローゼと、金が重荷になるミッターマイヤー。ユリアンの提案は両者にとって福音だった。

 そして戦略的にも、動乱で苦しむ新たな弱者たちを迅速に能率よく助ける組織は、新帝国にとって絶対に必要なものだ。さらにそれが人心安定すらやってくれるとなれば、

(五個艦隊にもまさる……)

 戦力ともなろう。

 新帝国の、旧同盟を含む組織との軋轢も、マグダレーナ・ビュコック夫人・エカテリンの三人を最初に使うことで回避できている。

 貴族であるマグダレーナは帝国貴族、さらに婚約者のメックリンガーを通じ軍部にも深いパイプを持つ。

 ビュコック夫人は旧同盟軍部に息子と夫を国に捧げた良妻賢母の鑑と尊敬され、女網と広く深く結びついている。

 造園デザイナーとして人気を集めるエカテリン・ヴォルコシガンは、ミッターマイヤーの両親から帝国軍中枢部、そして何人もの成金や貴族、大企業の経営者まで人脈を広げている。さらにバラヤー帝国とも深くつながり、外交官としても評価が高い。

 新帝国……新領土、エル・ファシル自治政府も含めて、手が届かぬところはない。

 

「それに、元帥閣下がおっしゃっていないことも、レンズがなくてもわかります。情報も、皇姉殿下に流すべきです」

 ユリアンの炯眼に、ミッターマイヤーは改めてうなった。

「まさに……」

「いえ、これもオルタンス・キャゼルヌ夫人からカンニングしたことですよ」

 そう、情報。劣悪遺伝子排除法の影響が残る中での人工子宮事業。それは膨大な極秘情報……あらゆる貴顕の最大の弱み、裏の裏の人間関係の底泥、人間の心の闇そのものが流れてくる。

 逆に、だからこそ今この時のミッターマイヤーにしか、人工子宮事業はできなかったのだ。ほかの誰がやっても、頑固に苦を押しつけようとする権力老人・迷信に縛られ技術を拒む愚者・巨大な利権を抱える闇医者の組織・社会秩序維持局などにつぶされていただろう。古い権力が崩壊した中、特にラインハルトの留守中は帝国の支配者であり、誣告も暗殺も通じないミッターマイヤーだからこそできたことだ。

 エカテリンとマイルズ両方と深い絆を持っていたことも大きい。エカテリンも前夫や息子の遺伝病に苦しみ、マイルズも第一世代の人工子宮生まれ。封建社会に生殖関連の新技術が入るときの軋轢は知り尽くしている。さらに、マイルズは故国の両親、ほか多くの、新技術の苦労を知り尽くした賢人たち紹介した……最低二つの時空の門、いくら即時通信が発達しても数日かかるが、文のやりとりで多くを学び、同じ過ちを犯さぬようにできた。同時にそれは、ローエングラム帝国の外交としても値千金であった。

 人工子宮事業を通じて入ってくる情報の半分でも、できぬことはない。ミッターマイヤーが本当に捨てたいのは、まさにそれだ。そして、皇姉の『慈悲』にとってそれがどれほど力になるかも、考えてみれば自明であった。

 誰にも言えず哀しみ苦しみ抜いている、莫大な悲哀の情報がある。それを、人の心・弱さを知り尽くす、世に隠れた老能吏たちが使いこなしたら……

 ちなみに、アンネローゼの活動はユリアン・ミンツとも、キャゼルヌ夫人・ビュコック夫人を通じてかかわりはある……直接の面識こそないが。だからこそわかることだ。

 

 大金と情報を受け取り、ついでにミッターマイヤーの両親も得たアンネローゼは、懸案とされた事業をまず進めた。

 まず活用されたのは、旧領土で膨大な人口を持つ農奴たちだった。

 解放されたものの教育水準が低く、危惧される存在だった。それゆえに今回の動乱では、麻薬を買う金すらなく変貌した者は少なかった。

 ゼントラーディ技術が桁外れの量の食料供給を生み出し、職を失うかに見えた低教育の農奴たち。だが、彼らにでき、そして機械化はしきれない仕事はあった。

 育児。

 四百億の、子を産める夫婦はことごとく十人の子を作ろうという勢いだ。さらに昨日まで子を産めなかった不妊・同性愛のカップルも、これまでの痛みを忘れるように子を作っている。

 その子を育てる補助に、良き親になることはできる解放農奴たちは、うってつけであった。

 まず、それがきっかけになる。新帝国の、膨大な涙、真の弱者を助けるという遠大な目標に。

 

 

 フェザーンでも多くの仕事をこなしたユリアン、ヤマトや古代守、シャルバートたちはエックハルトに、そして〈ABSOLUTE〉にやっと向かう。

 統治と戦いに忙しいラインハルトは、特別な賓客を見送りに出た。

「エルウィン・ヨーゼフ二世、ランズベルク伯爵の身は、姉上にお預けする。メルカッツ校長も後見に加わる。エルウィン・ヨーゼフ二世には公爵位と年金を与え、以後予の名誉にかけて陰謀の道具とはせぬ」

 シューマッハは、フェザーンで人質とされた部下たちの行方知れずを知り、できる限りのことをした。幼廃帝の養育・教育という責任もある。そのかたわら士官学校のメルカッツを手伝い、のちにローエングラム帝国からの第二段階レンズマン第一号となり、ユリアンを助けることになる。

「また、帝国においてレンズマンには皇帝直属聴聞卿の地位を与える。ただし、レンズマンの側も皇帝に報告する義務を負う。またあたう限り帝国の法を尊重し、尚書・元帥・皇族の身体不可侵を尊重する。

 パトロール隊と帝国の国益が相反したら、皇帝に報告することで信頼を保たねばらない」

「はい」

 そのことはキムボール・キニスンとラインハルトの間で協定ができている。エル・ファシル自治政府も同様だ。

「卿が敵でも部下でもなかったことが残念だ」

 ラインハルトの賛辞に、ユリアンは静かに微笑する。

 そして、レンズが読み取ってしまったこと……皇帝の深すぎる哀しみ、鋼鉄ワイヤの剛毅とガラス糸の繊細さを兼ね備える心の震えを、目で受け止めた。

「実は、もう少し前に陛下にお目にかかっていました。第一次ラグナロクで、陛下がフェザーンを制した折に」

「予は卿を覚えていない。限界がある、普通の人間なのだ」

(愚かな人間だ。愚かな)

 

 ラインハルトが今朝見た夢が、ユリアンの脳裏に伝わる。

……………………

「プレップ!」

 叫びとともに軍医がラインハルトを押しのけ、赤毛の頭をそらして奇妙な器具を首にあてがい、血管に冷たい液を流す。

「任せてください」

 ヴァニラ・Hの静謐な声とともに、ナノマシンが活動する光がキルヒアイスの体を覆う。

……………………

 激しくはね起きたラインハルトは、顔を押さえて歯を砕けるほど食いしばった。

「夢か……ああ、技術さえあれば。技術さえあれば、キルヒアイス……」

 

 ミッターマイヤー夫婦に子を与えた、マイルズ・ヴォルコシガンの故郷の技術。マイルズ自身もそれに救われた、低温治療……手榴弾で腹をえぐられても治療できた。

 ヴァニラやナノナノが使いこなす、癒しのナノマシン。

 どちらかがあれば、ジークフリード・キルヒアイスは死ななかった。

 それはラインハルトに、妄執のように技術を求めさせ、新帝国に普及させる力となった。

 

 ユリアンは、言葉にはできなかった。だが、せめて目で、伝わるようにと祈りつつ皇帝を見つめる。

 何か伝わったのか、ラインハルトは静かに微笑した。

「これから、予はどのように戦えばよいのだろう」

 ヤマトに乗っていた、ベンジャミン・シスコが進み出る。

「〈ABSOLUTE〉から、何人かが艦隊の行けぬところで魔と戦います。勝利しさえすれば、混沌は力を失い、決戦の場への門が開かれましょう。

 そこで、各時空の艦隊が集って敵と決戦することができます」

「まるで、予が望むことを言葉にしてくれているようだな。期待しているぞ」

 ラインハルトは静かに笑い、護衛にミッターマイヤー艦隊をつけて奇妙な賓客たちを送りだした。




銀河英雄伝説
宇宙戦艦ヤマト


乃木希典の妻、ともに殉死したとだけしか知りません。
でも、考えてみればどれほどの影響力を持っていたでしょう。
軍神の妻。息子を二人とも御国に捧げた、母の鑑。
どんな高官の母でも、どんな金持ちの奥方でも、その一言、表情一つを恐れずにはいられないでしょう。

ビュコック夫人も同じはずです。そしてフサエ・ミフネ(タイラー)も…


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ギャラクシーエンジェル2/時空の結合より2年10カ月

「こんな戦力があって、なんで勝てないんだ?」

 言ってはいけないことをさらっと言うのが、アニス・アジートである。

「それは言ってはならぬことじゃ!」

「それを言ってはいかんだろう!」

 とダブルでツッコミを入れるのが、ナツメ・イザヨイとリリィ・C・シャーベット。

 

〈ABSOLUTE〉には何万と、何十何百キロメートルもの船がひしめいている。

 何百ものクロノゲートに巨大船が出入りし、無慣性化された月サイズの大型小惑星を牽引している。有慣性に戻された天体がいくつも、大型艦の牽引ビームを通じてつなぎ合わされ、運動量を相殺し合っている。一時は波動エンジンの出力で、力技で止めていたが、

(相殺する方がいい)

 と思いついた者がいた。

 巨大工場が時に自らを複製し、時に膨大な船や物資を吐き出している。

 時空の間の貿易も始まっている。工業水準の高いトランスバール皇国とローエングラム帝国、〈百世界〉の間には大きな市場が見込まれ、商人たちが飛びまわっている。

 

 ある巨大船では、バガーがどんどん増えている。

 無尽蔵のエサも与えられた。マイルズ・ヴォルコシガン提供のバター虫の、遺伝情報を編集して、バガーの必要栄養全部を出させるようにしたのだ。そして今や、バター虫はエサを必要としていない。〈緑の月〉とダイアスパーの技術により、バイオテクノロジーの水準も大幅に高まったからだ。

 エネルギー炉からほぼ直接……またさまざまな人の住めない惑星や小惑星から無尽蔵に……アンモニア・水素・メタンが供給される。それらを溶かし必要なミネラルを混ぜた水と、二酸化炭素の多い空気を栄養カーストのバター虫改に与える。その腸内の共生微生物たちが、あるものはアンモニアからアミノ酸を合成し、あるものは水素の反応をエネルギーにして、二酸化炭素と水から栄養を作りだす。地球の深海で、日光ではなく海底火山の水素や硫化物をエネルギーとして生命がはぐくまれるように。

 光で畑を照らすよりずっと効率がいい。電灯も光合成も、効率は低いのだ。

 その栄養カーストからバター分泌カーストが無尽蔵の栄養をもらい、バガー用虫バターを分泌する。その一部は女王バター虫にもいき、バター虫そのものも増える。

 バガーは味気ない虫バターだけでも不満を持たないし、バター虫の外見に嫌悪を示すこともない。

 それができる前にも、バガーたちは〈百世界〉でも、以前から〔UPW〕に属していた時空でも、いくつも植物だけの惑星を農地にして、莫大な食料を得ていた。それらの農業惑星では引き続きバガーが地を耕し、贅沢な食物・スパイス・生薬・繊維などを人間用に作って、新しい巨船を買っている。

 社会性昆虫に近いバガーは、膨大な数の卵を産む。人類のように二十年も育て教育する、莫大な費用と時間は必要ない……短期間で成虫になり、体内アンシブルで集合精神につながるから一人前の人間と同様に働ける。

 十分なエサがあればあっという間に増える。とてつもない桁に。

 

 むろん、人間用・ペケニーノ用・その他異種族用の虫バターも同じ方法で収量は爆発的に増えている。

 家畜用の虫バターを作らせることもできるが、ダイアスパー技術と融合した〈緑の月〉が細胞培養肉技術を完成させたため、家畜を殺して肉にする必要はもうじきなくなると予想されている。

 乳製品も乳腺を培養して量産する技術ができつつある。

 在来型の作物も農場船で、ふんだんに供給される。

〔UPW〕所属時空にとって、

(飢えは、過去のものとなろう……)

 ともいわれている。

 

 ある、穴を開けられ大気を詰められた小惑星には土が用意され、ペケニーノの雌雄樹が豊かに葉を茂らせている。その木は種や枝を植えたのではない。器用な手を持ち小型の豚に似たペケニーノの、優れた雌雄が良い土を選び、仲間たちに木のナイフで生きながら身を切り刻まれる。それは死ではない……デスコラーダ・ウィルスの遺伝子融合能力により記憶を残しながら木に変態し、長く叡智に満ちた第三の生を始めるためだ。

 生殖しない雄樹は生命と引き換えに、任意形状の木材となる。超技術でも困難な超精密部品を作りだし、工業にも貢献している。

 木に変態し、人間以上の知性を得た先輩たちに指導されるペケニーノも、労働力として重宝され、繁栄に加わっている。体力や感覚器、精神構造、免疫などが人類と違うため、人類にできないこともできるのだ。

 雌樹はそのフラクタルな知性でジェインと響き合い、膨大な情報処理を意識せず行っている。

 生まれた時には小虫のサイズであるペケニーノは、食糧さえ豊富なら繁殖は早い。

 ちなみに、デスコラーダ・ウィルスはエンダーの継子たちの研究で無害化されている。知性すらあるそのウィルスと対話できないか、レンズマンは模索している。

 

 ゼントラーディも、マイクローン措置を受けた者も受けない者も、扱いなれた多数の巨大船で莫大な金を稼ぎ、あちこちの時空の文化に高い金を払って経済を動かす。

 ルークの故郷からも、帝国に弾圧される非人類知性種族が何種類か亡命している。

 

 ある船はそれ自体がジェダイ・アカデミーとなり、ルーク・スカイウォーカーとアイラ・カラメルを中心に、何人もの子供や大人を指導している。

 元薔薇の騎士(ローゼンリッター)やロイエンタール率いる帝国軍からも学ぶものが多くいる。五丈からも何人か留学している。

 ジェダイ技術だけでなく、多数の天才が超技術を学ぶ学園都市艦すらできつつある。マジークの魔法も学校が作られている最中だ。

 

 

 特に数が多く目立つ艦船は、ゼントラーディの超大型艦と、それには劣るがまた巨大なローエングラム帝国艦が集まる、ロイエンタール艦隊である。

 数多い艦船の中、今や目立たない存在となった〔UPW〕軍総旗艦ルクシオールで、エンジェル隊の会話が変な方向に行った。

 

 そう、今の〔UPW〕、いや〈コーデリア盟約の輪〉……

 コーデリア・ジェセック救出作戦で絆を結んだ、〔UPW〕特にトランスバール皇国やセルダール、ローエングラム帝国、ガルマン・ガミラス帝国、ヤマト地球、そして智・バラヤー・メガロード連合。

 命令してくることが多いが、銀河パトロール隊も含まれる。

〈知性連合〉、一部は陰謀をもてあそんでいるが〈百世界〉も加入している。反乱同盟軍と五丈も非公式だが仲間とみなされている。

 五丈がバラヤーから〈ABSOLUTE〉への道を開けたために、弧が輪となった。

 戦友の危機には助け合い、戦利品の超技術は分け合う。虐殺禁止。〈艦隊の誓い〉ほどではないが、自由、法の支配、最低生活保証、義務教育。そして自由貿易。ラマン差別の禁止。かなり幅はあるが人道に属する。

 ちなみに〈星京(ほしのみやこ)〉も検討しているようだが、ゲートを擁する〈星涯(ほしのはて)〉の妨害が激しく動きが悪い。

 コロニー連合やデビルーク王国とはまだ交渉中だ。

 

〈黒き月〉はじめ、ロストテクノロジーの結晶である六つの月の、全自動工場としての無人艦製造能力も膨大だ。

 さらに、ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝の英断によって加わった十数万隻の大艦隊。それは恐ろしいペースで近代化改修を受け、バーゲンホ