【PSO2】機械少女の物語 ((∵))
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序章
ある緑豊かな惑星に、2人の少女がいました。
1人の少女は体のほとんどが機械で構成され、もう1人の少女は、人の身でありながらフォトンを扱う才能に誰よりも長けていました。
機械仕掛けの少女は、元々は身体に内包したフォトンを扱う才能に長けてはいたものの、時節身体が追いつかない事もあり、やむなく『キャスト』になる事を選びました。
もう1人の少女は、ヒューマンでありながらニューマン以上に高度なテクニックを操り、『みんなを守って、ダーカーを滅ぼす』という思いを胸に抱え、戦い続けました。
キャストの少女とヒューマンの少女はとても仲が良く、いつも2人で一緒にいる事が多くありました。
そんな仲が良かった2人ですが、その緑豊かな惑星で、2人はその『仲の良さ』に終わりを告げてしまいます。
2人には、他の『みんな』とは違い、『ダーカー因子を削り取ってその身に溜め込む』という性質がありました。
『深遠なる闇の眷属』を打ち倒した時、『溜め込みすぎた水はいつか零れる』と悟っていたキャストの少女は、『眷属』から漏れてきた『闇』からヒューマンの少女を守ろうとしましたが、逆にヒューマンの少女に『闇』から守られてしまい、『強大な闇』と化そうとしていたヒューマンの少女は、何処かへと消えて行ってしまいました。
そして2人は、初めて出会った緑豊かな惑星で、再会しました。
ヒューマンの少女『だったモノ』と、キャストの少女は分かっていました。
『あの子を殺すしか、救う方法はない』、と。
激闘の末、キャストの少女は、薄いフォトンコートに刃を包み込んだ大剣で、ヒューマンの少女の体を貫きました。
貫かれたヒューマンの少女は、崩れ消え、視界が真っ暗な闇に包まれた中で、最後にキャストの少女に、1つの約束を願いました。
『泣かないで、笑ってて』、と。
キャストの少女は、その約束を聞き入れて、消えていく少女を見送りました。
しかし、聞き入れたばかりの約束を守り切れず、少女は泣いてしまいました。
殺めてしまった。誰よりも大切で、誰よりも守りたかった少女。
後悔と罪悪を始めとした黒い思念がキャストの少女の身を包み、少女もまた、1つの決意を胸に秘めて、何処かへと消えて行ってしまいました。
……これは、1人の少女の物語。
機械仕掛けの身体でも心に柔軟さを兼ね備えた少女は、繰り返される悠久の輪廻に抗う事は出来るのだろうか?
オラクル―――
それは、惑星間を自由に旅する巨大な船団。
その誕生とともに、外宇宙への進出が可能となり、新たな歴史は始まった。
そして今や、その活動範囲は数多の銀河に渡る。
行く先々で見つかった、未知の惑星に『オラクル』内で編成された部隊『アークス』が、惑星に降下し、調査を行う。
『アークス』は、『オラクル』に存在する四種族からなる。
バランスに秀でたヒューマン―――
フォトンの扱いに長けたニューマン―――
屈強な身体を持つキャスト―――
高い攻撃力を誇るデューマン―――
―――それぞれが補い合い、協力する事で『アークス』は初めて成り立つ。
「……どうやら到着したらしい。これより向かうは『惑星ナベリウス』。文明は存在せず、原生生物は凶暴。油断はせず、警戒を怠らないように。」
…。
……。
………。
『新たに誕生する『アークス』よ。今から諸君は、広大な宇宙へと第一歩を踏み出す。』
キャンプシップの通信機越しに、白銀の身体のキャスト、しかしどこか壮厳で、威圧感のある声が聞こえる。
説明は、アークスになるための教習本でも載っていたような事を繰り返されただけだ。
オラクルの歴史だの、アークスの歴史だの、ぶっちゃけそんなものはどうだっていい。
実際自分だって『なんでアークスになりたいのか』すらわかっていない。
ただ、適性として向いていただけだ。そこに目的などもない。
辺りを見回せば、このキャンプシップに乗っているのは、積載人数の限度としては4人、そして、見渡す限り4人全員そろっている。
教習中に交流があった人物がいたわけでもないため、ボーッとしていると、ゲート近くに突っ立っている少年と目が合った。
『覚悟を決め、各々をパーソナルデータを入力せよ。我々は、諸君を歓迎する』
言われた通り、パーソナルデータ(個人情報)の入力を終えると、すでに済ませていたのか、せっせとテレプールへジャンプしていく研修生が2人ほど見えた。
しかし、先ほどからテレプール近くで突っ立っていた少年は何か呆れたように肩を竦めて残っていた。
彼もせっせと行ってしまうような感じだったため、少々意外であった、人は見かけによらないとはよく言ったものだ。
「はぁ~、肩の凝るありがたいお言葉だこと。みんな承知の上で来てるってのによ。」
先ほどの通信による話に愚痴を零していた。
……まぁ正直私もあのキャストの話は、歳をとった老人が話しに夢中でついつい長引くモノと似たようなものだと感じていたが。
と、これ以上ボーッとしているのもあれなので、とりあえず目の前にいる少年に声をかけようと近付く。
「ん?あ、俺はアフィンって言うんだ。よろしくな、相棒!」
「なんだその服!?」
「ぶっ!!」
私の第一声に驚いたのか、アフィンと名乗った少年は噴き出してしまう。
彼の服装は上だけ見ればそう大して驚く事ではない。実に普通の、それもレンジャークラスのアークスが好みそうな服装だ。
問題は下だ。
彼のルックスは悪くないし、整っている。いやむしろ童顔と言った方がわかりやすい。身長は……私より少し、ほんの少~~~し大きめと言ったところだろう。
だからと言って男が下に『内腿を晒す』ような服を着るのはセンスを疑わざるをえない。
「ちょっ、第一印象がそこかよ!つか、お前こそなんつう恰好してんだよ!」
「は?」
彼は、私の格好にツッコミを入れてきた。
別に『ウケ』を狙ってきた服装、というわけではないのだが……。
因みに、私の服装はと言えば、胸や太ももなど、局所的に露出されている服装だ。あとはちょっと気に入ったから、アホ毛を通すために専用の穴を空けて被っているアイハットか。他にもゲンガマフラー、ワイルドマフラーと言った2枚のマフラーを首に巻いている。
服装の製品名は確か―――『ロストパープル』と書いてあったか?
まぁこれは服装と言うより―――
「どう考えたって俺の服より露出多いじゃねぇか!お前こそ何なんだよその服装は!!」
「人をコスプレイヤーみたいに言うんじゃあないッ!その内腿にキンカン塗ったくるぞ!」
「うるせぇよ!別に虫刺されで痒くなるわけじゃねぇよ!!」
くだらない論争でぜぇ、ぜぇ、と息を漏らす。
なんという事だ。まさか最終試験を始める前にこんなに体力を使うとは。そもそもアフィンがこんなマニアックな服装を着ているのが―――
「ああもう!やめだやめ!これ以上こんな事で言い争ったって意味ないだろ!?俺たち、一応試験生なんだからさ!」
「んー……これそんなに露出多い?」
「多いわ!…はぁ、そういや相棒…って、そういや名前聞いてなかったな。お前、名前なんていうの?」
「イグニス、だよ。まぁ相棒でも名前でもアンタの呼びやすい方でいいよ。」
「わかった、んじゃ、これからお前の事相棒って呼ぶことにする。たまたまとはいえ、同じ組になった……なっちまったって言った方がいいのかもな、ま、仲良くしていこうぜ」
アフィンの気軽な挨拶に、自分は少し安心する。
いや、だってさっき初対面であんなくだらない論争から始まったんだよ?そりゃちょっとは先行き不安にはなるのだが……案外アフィンはこういうことを気にしない性格なのかもしれない。
「―――それにしても、さっきのお偉いさん、ずいぶんと聞き心地のいいことしか言わないんだな。いや、嘘とまでは言わねぇけどよ…」
「…あー…何だっけソレ」
「何って、おいおい忘れたのか?十年前にあったアレを。」
「十年前…あ…あー…?最近学んだことのような気がするのに…何かキャストになる前の記憶はほとんど残ってないんだよなー…」
「キャストになる前?って相棒、相棒もしかしてキャストなのか?」
「ん?言わなかったっけ?あと私のこの服、一応は義体なんだ。」
「……そうだったのか、あんまりヒューマンに近いもんで気付かなかったよ。あとゴメンな、さっきは知らなかったにせよ、お前の体の事言いすぎて」
「んゃー、ぶっちゃけコレ『特注品』でさ、初見でキャストだってわかる方が中々なモンですよ」
アフィンの謝罪の言葉にそう返す。
―――そう、私の身体は大半が生体で出来た『義体』だ。
キャストになった人間ならわかるだろうが、私たちは後天的に生み出される種族だ。
フォトンを扱う才能に長けているのに、その才能に肉体が追いつかない。それは非常に「もったいない」ということで、アークスの『上層部』が『当人の意思関係なく』体をキャスト化させてしまう。
私の場合は、アークスという存在を知った頃に身体が才能に追いついていない事が判明したため、『治療』という一環でキャストになった。ただ、その『治療』を施したのは上層部ではないらしい。その辺の事を追求しても、結局空回りだった。まぁ、今となってはどうでもいいが。不便はないし、私は今の身体が気に入っているし。
「まぁ覚えてないならいいや、アークスも人材確保で必死って事なんだろうしな。俺は俺でやりたい事あるし、特に気にしてないけどさ」
「ふーん…ま、お互い色々あるって事か。」
アークスは今のご時世花形みたいな職業だが、それには当然相応の危険が伴う職業だ。
アフィンのやりたい事というのはわからないが、目的を持っているだけ私よりは幾分かマシだろう。
……私は、何を目的にアークスになろうか―――?
そう考えていると、唐突にキャンプシップ内に通信が入る。
『転送座標の再設定終了。まだ残っているアークスは順次、出撃してください』
若い女性オペレーターの声が響く。
すると、先ほどまでは反射しているだけのただの液体であったゲートが、降りる座標を定めて、その地形を映していた。
「おっ、準備が出来たみたいだな。初陣らしく、ぬるーい地域みたいだぜ?ま、気楽に行くとしようぜ」
言い終えると、アフィンはテレプールへと歩いていき、私もそれを追うように歩いて行った。
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