きんいろモザイク~こいいろモザイク~ (鉄夜)
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始まり編
第1話 俺の彼女がこんなにも可愛くて生きるのがつらい。


朝。

 

暖かな日差しが大地を照らす中、

 

「zzzzz」

 

工藤エレンは静かに寝息を立てていた。

 

「エレン、おいエレン。」

 

そんなエレンに声をかける影があった。

その人物は呆れたようにつぶやく

「ったく、しょうがないな・・・よし。」

 

エレンが自身にかかった重みに気づき静かに目を開けると。

 

「・・・何やってんだ、陽子。」

 

「おはよう、エレン。」

 

茶発のショートヘアーに可愛らしい八重歯が特徴の学校の制服を着た少女、猪熊陽子がエレンに馬乗りになっていた。

 

陽子が上から降りるとエレンは周りを見渡す。

 

部屋の窓が開いていた。

 

「お前また窓から入ってきたのか?」

 

「だって隣同士だしこのほうが早いだろ?」

 

「窓から入ってくんのはアニメの中の幼なじみだけで十分だっての。

ていうか人の上に乗って何するつもりだったんだよ。」

 

「え?いやその・・・////」

 

陽子が少し恥ずかしそうに言う。

 

「エレンなかなか起きないから。

チューしたら起きるかなぁって////」

 

陽子がそういうとエレンは再び横になった。

 

「あ^〜急に睡魔に襲われたんじゃ^~」

 

「現金な奴だなオイ!

だ・・・大体そういうのは男の方からやるもんだろ?////」

 

「そうか?じゃあお言葉に甘えて。」

 

「うわ!」

 

エレンは陽子の腕をつかむと布団に引きずり込んで横倒しにする。

 

そして、優しく口づけをする。

 

「ん////」

 

陽子の口から声が漏れる。

 

そしてエレンは陽子を見つめていう。

 

「おはよ、陽子」

 

「うん、おはよう、エレン。」

 

そんな会話をしていると。

 

「2人とも、朝っぱらから何イチャついてんの。」

 

部屋の入口の方から声がした

 

「え・・・。」

 

陽子が声の方向を見ると竹刀を持った金髪ポニーテイルの少女が呆れたようにこちらを見ながらそう言った。

 

「うわぁぁぁぁぁ!ま・・・マリーいつからそこにいた!」

 

陽子が布団から慌てて飛び出して言う。

 

「陽子姉(ねぇ)が布団に引きずり込まれたところから。」

 

「空気読めよマリー俺は今から陽子と朝の運動(意味深)をだなぁ。」

 

「しねぇよ!そう言うのは高校卒業してからって約束だろ!」

 

「わたしは一向にかまわんッッ!」

 

「かまえよ!」

 

そんなやりとりにマリーが溜息を吐いて言う。

 

「はいはい、朝からご馳走様です。

それより陽子姉、また窓から入ったでしょ。」

 

「てへ☆。」

 

「いや、てへ☆じゃなくて。

なんで玄関から入ってこないの?」

 

「ええ、だって窓から入った方が近いしさぁ。」

 

そういいながら陽子は手に持った外ばきをひらひらと揺らす。

 

「そんな理由で不法侵入してこないでよ。

アニキもなんで窓の鍵開けっぱにしてんの。」

 

「ほら、ペット飼ってる家でたまについてる犬猫用の入口あるだろ?

アレだよ。」

 

「私ペット!?」

 

「なるほど。」

 

「マリー!?お願いだから否定して!?納得しないで!?」

 

「とにかく陽子姉。」

 

マリーは手に持っていた竹刀を陽子に突きつける。

 

「次やったら天誅だから。」

 

「はい・・・肝に銘じます。」

 

陽子がそういうとマリーは「うむ。」と言って竹刀を下ろす。

 

「アニキ、朝ごはん出来たからさっさと支度して。」

 

「おう」

 

「私も食べるぅ!」

 

「陽子姉朝ごはん食べてないの?」

 

「え?食べたけど?」

 

そう言って陽子は首をかしげる。

 

マリーはため息をつく。

 

「まぁいつもの事だからいいけど。」

 

「やったぁ♪」

 

エレンは顔を洗おうと洗面台に向かい、鏡に映っている自分の顔を見る。

 

金色の髪に大きな青い瞳。

 

それを見てエレンはつぶやく。

 

「やっぱどう見ても日本人じゃねぇよなぁ。」

 

「おーい、早く来ないとエレンの分も食べちゃうよー?」

 

「おう、今行くよ。」

 

エレンは顔を洗い歯を磨くと台所へ向かった。

 

そして陽子の隣の席に座る。

 

机の上には既に料理が並べられている

 

暫らくするとマリーが席につき手を合わせて言う。

 

「それじゃあ、いただきます。」

 

エレンと陽子も続く。

 

「いただきます。」

 

「いっただっきまーす♪」

 

こうしてエレン達はいつもの様に賑やかに食事をとった。

 

#####

 

小路綾と佐藤賢治はいつもの待ち合わせ場所で友人達を待っていた。

 

「いやぁ、暖かくなってきて絶好の居眠り日和っスねぇ。」

 

「なによ居眠り日和って、聞いたことないわよそんなの。

それよりケン、貴方宿題やってきたの?」

 

「舐めてもらっちゃあ困るっスよ綾。」

 

「そ、そうよね。

ケンだってたまにはちゃんt」

 

「そんなもんに、俺は縛られないっス(イケボ)」

 

「なに無駄にいい声で言ってんのよ!?

そうやって何時も私がノート見せる羽目になるんだからね!?」

 

「今回もよろしくッス!綾。」

 

「悪びれもせず!?」

 

そんな会話をしていると、

 

「綾!ケン!おはよう!」

 

陽子の元気な声とともにエレンたちがやって来る。

 

マリーは背中に竹刀袋を背負っている。

 

「うーっす、朝から何騒いでんだ?」

 

「聞いてよエレン、ケンが当然のように私の宿題写そうとするのよ!」

 

「仲がよろしくで結構なことだな。」

 

「思いっきり他人事ね。」

 

その会話を聞いていた陽子は思い出したように言う。

 

「宿・・・題・・・?

出てたっけ。」

 

「・・・出てたわよ」

 

「・・・エレン、大好きだぞ。」

 

「シノとかはまだ来てねぇのか。」

 

「スルー!?まさかのスルーですか!?

そりゃ効かないとは思ってたけど少しは食いつけよぉぉぉ!」

 

陽子は涙目でエレンの腕にしがみつき揺するがエレンは意に介さない。

 

「朝から賑やかやなぁ。」

 

「来たか、蓮・・・てお前何があった。」

 

赤髪で耳にピアスをつけた青年。

 

葉山蓮(はやまれん)は顔にいくつも絆創膏を貼っている。

 

「いやぁ、日曜に女友達2人と遊びに行ったんやけど、

帰りその子らの彼氏が待ち伏せとってなぁ。

二人がかりでボコボコよ、酷ない?これ。」

 

「女遊びばっかりしてるからそんな目に遭うのよ。」

 

「女遊びとは人聞きが悪いなぁ。

俺はただかわいい女の子とキャッキャウフフしとっただけやで?」

 

「それを女遊びって言うんっスよ。」

 

「いやかわいい女の子見つけたら取り敢えず仲良くなろうとか思わんかエレン。」

 

「思わん。

ってか彼女持ちに聞くな。」

 

と、ここでマリーが。

 

「・・・・!」

 

なにかに気づいたように目を動かす。

 

それを見てエレンが声をかける。

 

「どうした、マr」

 

「マリーーーー!」

 

エレンの声を遮っておかっぱの少女がマリー向かって走ってきていた。

 

「おはようございまぁぁぁす!」

 

その少女、大宮忍はマリーに飛びつこうとするが、マリーはそれを流れるような動きで避ける。

 

「おっと。」

 

避けられた忍の体を陽子がキャッチする。

 

「うぅ・・・また避けられてしまいました。

おはようございます陽子ちゃん」

 

「おはよう、シノ。

お前は本当に懲りないなぁ。」

 

「はい!成功するまで諦めません。」

 

「いや、お願いだからそろそろ諦めてよシノ姉。」

 

マリーがため息を吐く。

 

「シ〜ノ〜!」

 

シノの後を追ってきたのか、小さな影が走ってきた。

 

「もう!シノったら!マリーを見つけた途端ダッシュしないでよー。」

 

「ふふふ、すいませんアリス」

 

ご機嫌ななめな少女、アリス・カータレットの頭を撫でながら忍は謝る。

 

マリーがアリスに挨拶をする。

 

「おはよー、アリスちゃん。」

 

「おはようマリー、カレンはまだ来てないの?」

 

「うん、カレン姉とハヤ兄(にい)はまだだよ。」

 

「・・・ねえマリー、前から気になってたんだけど。」

 

「なに?」

 

「他のみんなの事はネエとかニイって呼んでるのになんで私だけちゃん付けなの?」

 

「・・・あー。」

 

マリーは頭をポリポリと掻く。

 

「怒らないでねアリスちゃん。」

 

「うん、大丈夫。」

 

マリーはアリスの目をまっすぐ見て言う。

 

「どう頑張ってもアリスちゃんを年上として見れない。」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

アリスが泣きながらシノに抱きついた。

 

「我が妹ながらなかなかの切れ味。」

 

「いい教育してるっスねぇ、妹さん。」

 

何故か満足そうなエレンの隣で賢治は苦笑いをする。

 

「へーイ!おはようごジャイマース!」

 

続いて元気な声が聞こえてきた。

 

声の方を向くと、金髪ロングヘアーの元気な少女、九条カレンがこちらに向かって手を振っていた。

 

「お、一番やかましいのが来た。」

 

カレンはアリスに近づいていく。

 

「あれ?アリスはなんで泣いてるデス?」

 

「カレン~!マリーが!マリーが私のこと年上として見れないって〜!」

 

「あーそれはドンマイデス。」

 

「軽く流さないで!!」

 

続いてカレンはマリーに挨拶をする。

 

「マリーもおはようごジャイマース!」

 

「はいはいおはようカレン姉、

今日も元気だね。」

 

「そう言うマリーは今日もクールビューティーデース!」

 

「そう?」

 

「はい、なんと言うか・・・殺し屋みたいです!」

 

「それ・・・褒めてる?」

 

「確かにマリーちゃんの技は殺し屋のそれやからなぁ。

ゴフッ!」

 

マリーは蓮に一瞬で近づき竹刀袋に入っている竹刀の底の部分で鳩尾を殴る。

 

「殴るよ?蓮兄。」

 

「・・・殴ってから言う?・・・普通。」

 

「ふん、でもこれであとはハヤ兄だけだね。」

 

「あー、多分そろそろ・・・」

 

エレンがそう言うと携帯の着信音が鳴った。

 

「ほら来た。」

 

エレンが携帯を取り出しメールを確認する。

 

そのエレンに陽子が声をかける。

 

「エレン、隼人か?」

 

「あぁ、いつも通りだ。

先に行っててくれだとさ。」

 

それを聞いて賢治が笑う。

 

「まぁたいつもの人助けっスか。

本当に損な性格してるっスねぇ。」

 

「ま、しょうがねぇし先行くか。」

 

「せやな。」

 

エレン達は学校に向かって歩いていった。

 

#####

 

「ふわぁー」

 

校門でロングオールバックに少し顎髭の生えた男、桐谷雅人(きりがやまさと)は大きくため息を吐く。

 

「本当にこういうのって面倒だよねぇカラスちゃん」

 

雅人に話しかけられた眼鏡をかけた女性、

烏丸さくらは咎めるように言う。

 

「もう、桐谷先生。

そんな事言ってはいけませんよ。

校門で生徒達を出迎えるのも大事なお仕事です。」

 

「それはそうだけどさぁ。」

 

そんな会話をしていると、エレンたちがやって来た。

 

「おはようっス雅人先生。

今日もまたダルそうっスね。」

 

「おはよう、エレン。

全然だるくないよぉ?

正直家帰って積みゲー消化したいってのが本音だけど。」

 

「少しは包み隠せよ。」

 

雅人にマリーが挨拶する。

 

「おはようございます、桐谷先生、烏丸先生。」

 

マリー深々と頭を下げる。

 

「はい、おはようございますマリーさん。」

 

「ん、おはようマリーちゃん。」

 

マリーはエレンたちの方へ向き直る。

 

「それじゃあアニキ、私はもう行くから。」

 

「おう。」

 

そう言ってマリーは中等部の方へかけていく。

 

「今度の試合がんばれよ!主将!」

 

後ろから聞こえた声援にマリーは背中を向けながらサムズアップをする。

 

それを見て雅人が言う。

 

「いやー、相変わらずクールで真面目だねぇマリーちゃんは。」

 

「でしょ、マサさんとは大違いですよ。」

 

「最後のそれいる?エレン。

あと学校ではマサさん禁止。」

 

「でも間違ってないじゃないスか。」

 

「あのねぇ、俺の取り柄はバカがつくほど真面目なところだよぉ?」

 

「どの口が言いやがる雅人。」

 

「・・・げ。」

 

雅人が自分を呼ぶ声の方を向くと、白髪に到底カタギには見えない目つきをした白衣を着ている男か近寄ってきた。

 

「れ・・・零士(れいじ)」

 

「おい雅人、てめぇこの間貸した二万返せよ。」

 

「いやぁ、今持ち合わせが無くてね。」

 

「嘘つけ、この間給料日だったろうが。

さっさと出せこの野郎。」

 

「・・・分かったよ、融通効かないなぁ零士は。」

 

そう言って雅人は財布から二万円を取り出す。

 

冴島零士はそれを受け取る。

 

「ったく、真面目だってんなら借りた金はすぐ返せ。」

 

「いやー、俺ってマイペースなのが取り柄だからさぁ。」

 

「先生、さっきと言ってることが違いますよ?」

 

綾が呆れたように言う。

 

カレンは零士のそばに近寄ると、笑顔を向ける。

 

「先生、おはようございマース!」

 

「お、おう、おはよう九条。」

 

零士は気まずそうに顔を背ける。

 

「それじゃあマサさん、零士さん。

俺達いもう行きますね。」

 

「ん、じゃあね。」

 

エレンたち一行は教室へと向かった。

 

#####

 

エレン達は、別のクラスのカレンと別れて自分たちの教室に入った。

 

「それにしても隼人のヤツ遅いなぁ。」

 

陽子が腰に手を当てていう。

 

「おおかた、ここに来る途中でいろいろな人を手助けしてるんじゃない?」

 

「綾ちゃんの言う通りかもしれませんね。」

 

「ハヤトは人一倍優しいもんね。」

 

それを聞いていた男性陣は呆れたように。

 

「たしかに優しいんは確かやけどなぁ・・・。」

 

「あいつのアレは最早・・・。」

 

「病気っスよねぇ。」

 

そのタイミングでドアが開く。

 

そこには180cmを超えるであろう長身の男がいた。

 

「スマン、待たせた。」

 

島野隼人(しまのはやと)は教室に入ってくるなりそう言った。

 

「別に待ってねぇよ。」

 

「で?今日はどないしたんや?」

 

「ああ、来る途中で重そうな荷物を持っていたご老人がいてな、

あまりにも辛そうだったので代わりに荷物を自宅まで運んで差し上げたのだが・・・場所が少し遠くてな、こんな時間になってしまった。」

 

それを聞いていた綾と陽子が微笑んで言う。

 

「ふふ、まぁそんなことだろうと思ったわ。」

 

「ホント隼人はお人好しだよなぁ。」

 

「自分でも分かっているのだが、どうにもやめられなくてな。

困ったものだ。」

 

隼人がそういうとアリスが身を乗り出して言う。

 

「でもすごいよ!そこまでして人助けする人なかなか居ないもん!隼人は正義の味方だね!

そのうちロケットパンチとか撃てちゃうかも!」

 

「アリス、期待に応えられなくてすまんが、

人間をやめる予定はない。」

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「お、本鈴だ。」

 

エレン達は席に着き、暫らくすると担任のさくらが入ってきてホームルームを始めた。

 

#####

 

昼休み。

 

隣のクラスからカレンがやってきてエレン達9人は一緒に弁当を食べる。

 

「エレーン!ご飯!」

 

陽子が元気な声でエレンに言う

 

「飼い主に餌をせびる犬かお前は。

だいたい自前の弁当はどうしたよ。」

 

「え?もう食べたけど。」

 

「うん、その何言ってんのコイツみたいな顔やめような。

・・・まぁこんな時のためにマリーに弁当もう一個作ってもらってんだけどな。」

 

「やったー!」

 

陽子はエレンから弁当を受け取り小躍りする。

 

「もう、陽子ったらはしたないわよ。」

 

「あ、綾にも弁当分けたげようか?

うまいぞ~マリーの弁当。

ほら、あーん。」

 

陽子は唐揚げを箸でつまむと綾に差し出す。

 

「・・・私はいいわよ、せっかく作ってくれたんだから陽子が食べなさい。」

 

「そっか・・・じゃあ遠慮なく。

あむっ・・・ん〜美味しい~」

 

陽子は幸せそうに弁当を食べている。

 

その様子を少し悲しげな表情で微笑みながら見ている綾を、賢治は見つめていた。

 

「ごちそうさまデース!」

 

カレンは食事を終えると弁当箱をいそいそと片付けて立ち上がる。

 

「私ちょっと保健室行ってきマース!」

「おう。」

 

「いってらっしゃーい。」

 

エレンと陽子が見送りながらそういうとカレンは駆け足で教室を出ていった。

 

それを見て忍が心配そうに言う。

 

「カレン、お腹でも痛いんでしょうか。」

 

「あー、違う違う。」

 

陽子が手を振って否定する。

 

「カレンもよくやるっスねぇ。」

 

「ハハ、ホンマになぁ。」

 

賢治と蓮の言葉に忍と同じく話を聞いていた隼人は首をかしげるのであった。

 

#####

 

放課後、エレン達9人は集まって一緒に下校する。

 

「んー!お腹減ったぁ!」

 

「お前いっつも腹減ってんな。」

 

陽子が背伸びをしながら言うと、エレンがすかさずツッコむ。

 

「なぁエレン、今日の晩飯なに?」

 

「え、手ゴネハンバーグにするつもりだけど?」

 

「じゃあ空太と美月と一緒に食べに行っていい?

今日母さん友達と出掛けて遅くなるんだよ。」

 

「ああ、そういうことか。

別にいいぞ。」

 

「やったぁ!

あ、ハンバーグ作るの手伝うぞ?」

 

「ミンチ肉床にぶちまけるハメになるんでやめろください。」

 

「なにを!?これでも少しは上達したんだからなぁ!?」

 

そんなふたりのやり取りを綾は、再び悲しげな瞳で見ていた。

 

暫らくするとエレン達は分かれ道につく。

 

「それじゃあ私とケンはもう行くわね。」

 

「うん、また明日な、綾、ケン。」

 

綾と賢治はほかのみんなと別れて歩いていく。

 

自分の前を歩く綾に、賢治は口を開く。

 

「・・・綾、本当にいいんスか?」

 

「・・・なにが?」

 

「陽子のことっスよ。」

 

「・・・いいのよ、これで。」

 

綾は歩きながら続ける。

 

「今、陽子はとっても幸せそうだし。

それに元々許されない恋だったのよ。」

 

「許されないなんて誰が決めたんスか。」

 

賢治の言葉に綾は振り返る。

 

「誰が誰を好きになってもいいじゃないスか。

綾が陽子を好きになった、それを咎める奴なんていないっスよ。」

 

「・・・ありがとう、ケン」

 

綾は賢治に向かって微笑む。

 

「でも本当に大丈夫だから、無理して励まそうとしないで。

じゃあまた明日ね。」

 

賢治と綾は分かれ道で分かれた。

 

遠くなって行く綾の背中を見て賢治は。

 

「無理してんのはどっちっスか・・・」

 

そうつぶやいた。

 

#####

 

エレンは陽子の妹と弟、美月と空太を家に招き、陽子と2人で夕食の手ゴネハンバーグを作っていた。

 

ミンチ肉を手でコネてハンバーグの生地をつくる。

 

「よし、出来た。」

 

エレンが作った生地は形も綺麗で丁度いい大きさをしている。

 

「私もでーきた♪」

 

対して陽子が作った生地は形がどこかゴツゴツとしていてエレンが作った物より二回り大きい。

 

「なぁ、なんか形悪くね?

ていうかでかくね?」

 

「形とか大きさなんてどうでもいいだろ。

美味くてお腹いっぱい食べられればそれでよし!」

 

「男の料理だな・・・」

 

「なんか言った?(ニッコリ)」

 

「ナンデモアリマセン。」

 

そのタイミングで家の玄関の扉が開く音がする。

 

「ただいまー。」

 

「お、マリー帰ってきた。」

 

帰ってきたマリーは手を洗うとキッチンにやってくる。

 

「ただいま、アニキ、陽子姉。

ハンバーグ作るの手伝うよ。」

 

「おう、頼むわ。」

 

「さてと・・・。」

 

マリーはエプロンをつけて腕まくりをする。

 

そして、

 

シュババババババ!!

 

「エ・・・エレン!なんかえげつない速さでハンバーグの生地が量産されていくんだけど!」

 

「マリー!?お前の手さばきどうなってんの!?

ていうか動きがもはや人間じゃねえ。」

 

「え?そう?これぐらい普通でしょ。」

 

マリーは一通りつくり終えると満足そうにする。

 

「これだけ作れば陽子姉も大丈夫でしょ。」

 

それを見ていた陽子がエレンに言う。

 

「なぁエレン、私ちょっとずつ料理の腕上がってるつもりだけどさ・・・マリーには一生追いつけない気がする。」

 

「安心しろ、俺はもう諦めた。」

 

と、ここで小さな影がエレンたちのところにやって来た。

 

陽子の妹と弟、空太と美月である。

 

「どうした、空太、美月。」

 

「お姉ちゃん、私達もお手伝いしたい。」

 

「3人とも楽しそう。」

 

「うーん、どうする?エレン。」

 

「いいんじゃないか?いい経験になるだろ。」

 

「だな。よし、空太、美月、みんなで作ろう。」

 

「「うん。」」

 

エレン達は皆でハンバーグの生地を作った。

 

#####

 

エレンと陽子は空太と美月を家まで送り届けた後、2人で使った食器を洗っていた。

 

そしてエレンは玄関で陽子を見送る。

 

「本当にここまででいいのか?」

 

「うん、すぐ隣だし。」

 

「そっか。」

 

「あ、エレン。

ちょっと耳貸して。」

 

「ん?何だ?」

 

エレンは言われた通り陽子の方へ耳を持っていくすると、

 

ちゅ。

 

頬に柔らかいものが触れた。

 

「・・・」

 

「へへー////隙ありー////それではさらばだー!////」

 

陽子は顔を赤くしながら逃げるように帰っていった。

 

エレンは家に入って玄関のドアを閉じるとその前でしゃがみこんだ。

 

そこに風呂上りのマリーが通りかかる。

 

「アニキ・・・どうしたの?」

 

「・・・彼女が可愛すぎて・・・理性が飛びそうです。」

 

「うん、頑張って抑えて。」

 

エレンはその夜幸せな夢を見たという。

 

こうしていつもの日常は過ぎていった。




工藤エレン

高校一年生。

アメリカ人の母と日本人の父親を持つハーフ。

母親の血を濃く受け継ぎ、外見は完全にアメリカ人。

その為、道を聞こうと話しかけると逃げられたりするのが悩み。

陽子とは幼なじみで中学二年生の頃から付き合っている。


工藤マリー

中学三年生。

エレンの妹。

髪の毛の色が濃い以外は父親寄り。

表情が固く笑ったところをエレンもあまり見たことがない。

性格もしっかりしており、時に厳しい指摘をすることがある。

学校では剣道部の部長兼主将。



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第2話 やはり教師と生徒のラブコメはまちがっている・・・はずだ。

昼休み、保険医の冴島零士(さえじまれいじ)ははしゃぎすぎて怪我をした生徒の治療をしていた。

 

「ハイ終了。

元気なのはいいがあんまり騒ぐんじゃねぇぞ。」

 

「ありがとうございます、先生。」

 

零士は生徒が保健室から生徒が出ていくのを見送ると窓の外を眺めた。

 

(・・・平和だ。)

 

零士は続いて時計を見る。

 

(あと少しで昼休みも終わる。

・・・今日はもう来ないな。)

 

「ふぅー」

 

と零士が一息つくと。

 

バンっ!と保健室のドアを誰かが勢いよく開ける。

 

「Heyダーリン!遊びに来たデース!」

 

少女、九条カレンは入ってくるなり元気にそう言った。

 

「・・・おい九条、その呼び名はやめろって言っただろ。

ほかの生徒や教師に聞かれたらどうするんだ。」

 

「ワタシは一向にかまわんッッ!デス!」

 

「構えよ頼むから。

それにお前と俺は生徒と教師だろ」

 

「大丈夫です!恋は障害があるほど燃え上がるものデース!」

 

零士は、ため息を吐く。

 

「あのなぁ九条。」

 

「カレンと呼んでくだサイ!」

 

「・・・いや九条。」

 

「カレンデース!」

 

「・・・くj 」

 

「カ!レ!ン!デス!!」

 

「・・・カレン」

 

「ハーイ!何ですか?ダーリン。」

 

零士は再び溜息を吐いた。

 

「お前人のことダーリンダーリンって言うけど。

一体俺のどこに惚れたんだ。」

 

「フッフッフ、それはですね」

 

カレンは零士にウインクをして言う。

 

「一目惚れってやつですよ!」

 

「一目惚れってお前・・・」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「あ、チャイム鳴っちゃいました。」

 

カレンは急いで入口まで走っていく。

 

「それじゃあダーリン!また遊びに来マース!」

 

そう言ってカレンは扉を閉めて教室に戻っていった。

 

零士は頭を抱えるとカーテンの閉まっているベッドに歩いていく。

 

そしてカーテンを勢いよく開けると。

 

「クククククククッッ!」

 

そこには笑いを必死に堪えている雅人がいた。

 

零士は無言で引出しからアルコールの瓶を取り出すと蓋を開け笑いをこらえている雅人の顔面を鷲掴みにして口を無理矢理開かせる。

 

「ほぉーらおじぃちゃん、お食事の時間ですよー」

 

「んー!んー!」

 

雅人が必死の抵抗を見せると零士は瓶を机の上に置く。

 

「ふぅ、いやぁそれにしても面白いことになってるねぇダーリン。」

 

「ダーリン言うなぶっ飛ばすぞ。

なんとかしてくれ、その為に現状を見せたんだ。」

 

「いいじゃん女子高生。

零士って女子高生物のAV好きじゃん。」

 

「本気で死なすぞゴラァ・・・。」

 

「ちょ・・・怖いって、冗談、冗談だよ。

まぁ真面目な話、ああいうタイプははっきり言わないとダメだね。」

 

「それができたら苦労しねぇよ。」

 

零士は本日3度目の溜息を吐いた。

 

「アレくらいの年齢の奴らはデリケートなんだ。

それで傷ついたりしたら。」

 

「じゃあ付き合う?」

 

「そういうわけにも行かねぇだろ。

仮にも生徒と教師だろ・・・それに。」

 

「それに?」

 

零士は少し黙ってから言う。

 

「アイツは俺のこと好きかもしれんが、

俺は違うからな・・・。」

 

雅人は面倒くさそうにため息を吐く。

 

「ならハッキリそう言うしかないよ。」

 

「さっきも言っただろ、それで傷ついたりしたら・・・」

 

「いや、どう頑張っても傷付けるのは確定だから。

傷つけずに事なきを得ようなんて虫がよすぎるよ

どうせ傷つけるなら傷が浅くすむうちにやっといた方がいいと思うよ?」

 

「・・・」

 

「ま、じっくり考えなよ。

じゃあ俺は次の授業の準備があるから。」

 

そう言って雅人は保健室から出ていった。

 

「どうすりゃいいんだよ・・・」

 

ひとり保健室に残った零士はそう呟いた。

 

#####

 

エレンは食事を終えて遊びに来た陽子と、自宅のソファーで格闘ゲームをやりながらくつろいでいた。

 

「それにしてもカレンもよくやるよなぁ。」

 

「あー、零士さんのこと?」

 

「あれ、さすがの鈍感朴念仁の陽子様でも気づいたか。」

 

「いや、流石にアレはなぁ。」

 

「まぁ、見たところカレンの一方通行で零士さんにその気は無いみたいだけどな。」

 

「え?そうなの?私はてっきり両思いかと。」

 

「・・・やっぱり陽子は陽子だったな。」

 

「おい、バカにしてるだろ。」

 

「別にーそんなことねぇよぉ、ほい隙ありぃー」

 

「あ!ちょっと!壁ハメとかせこいぞ!!」

 

「HAHAHA!勝てばよかろうなのだぁぁぁ!」

 

「あー負けたー、もうやめだやめ!。」

 

陽子がコントローラーを放り投げると、エレンは陽子の膝を枕にして横になった。

 

「なぁエレン、でも零士さんやばくないか?」

 

「ん?なにが?」

 

「だって生徒と教師だろ?

もしバレたりしたら。」

 

「だから一方通行なんだろ?

カレンはガンガン押してるだろうけどな。」

 

「やっぱりカレンにははっきり言わないと聞かないと思うぞ?私は。」

 

「そんな度胸ねえんだろ。

ま、言ったとしてもそれで終わるかわからねぇけどな。」

 

その会話を後ろで聞いていたマリーが口を開く。

 

「あのさぁ、一つ聞きたいんだけど・・・。」

 

「ん?どうしたマリー。」

 

マリーは少し恥ずかしそうに聞く。

 

「恋ってどんな感じ?」

 

「は?」

 

「どうした?急に。」

 

「いや、学校の友達がよく好きな人の話とかしてて、でもわたしそういうの分かんなくてさ。

それで・・・どんな感じなのかなって。」

 

「・・・そうだなぁ。」

 

「うーん・・・。」

 

二人は少し考えた後。

 

「「めんどくさい。」」

 

声を揃えてそう言った。

 

「・・・は?どういうこと?」

 

「私達もよくわかんねぇけどそんな感じかなって。」

 

「そうだなぁ、詳しく知りたかったら綾にでも聞け。」

 

「・・・わかった」

 

#####

 

『そうね、たしかにめんどくさいわね。』

 

自室に戻ったマリーは早速綾に電話をかけていた。

 

「めんどくさいのに始めるの?」

 

『始める、じゃなくて始まっちゃうって感じかしらね。

その人を好きになった時、

その自分の気持ちに気づいても気づかなくても放置してたらしんどいし、

それで告白してもフラれちゃったら暫く引きずるし、

フラれなくても別れちゃったりしたらやっぱり引きずるし。』

 

「本当にめんどくさいね。」

 

『・・・でも、どんなにめんどくさくっても好きになったらどうしようもないのよ。

それがたとえ・・・恋しちゃいけない相手でもね。』

 

「・・・綾姉?」

 

『マリーにもいつかわかる日が来るわよ。』

 

「うん・・・ありがとう綾姉。

そろそろ切るね。」

 

『うん、また明日ね。』

 

マリーは電話を切るとベッドの上に仰向けに寝転がり天井を眺め、

 

「恋・・・か。

やっぱり私には関係ないかもなぁ。」

 

そう呟いた。

 

#####

 

雅人は、同じマンションに住むさくらを車に乗せて帰っていた。

 

「すいません桐谷先生、送ってもらっちゃって。」

 

「いいのいいの、同じマンションなんだし、

それに夜に女の子を一人で帰らせるわけにはいかないでしょ?。

ていうか生徒もいないのに先生呼び?」

 

「あ、すいません雅人さん。

なんだか癖になっちゃって。」

 

「ま、わからなくとないけどさ。」

 

そう言ってしばらく車を走らせる。

 

「雅人さん、どうです?

零士さんと九条さん」

 

「あ、やっぱりわかっちゃう?」

 

「もう、私はポーっとしてるかもですけど、鈍感じゃないんですよ?」

 

桜が頬をふくらませてそう言うと雅人は大声で笑ってから言う。

 

「昔と変わんないよ、アイツ普段は気が強いのにここぞって時にヘタレてやんの。

はっきり言わないと分かんない子だって分かってるのにさぁ。

傷つけるのが怖いんだってさ。」

 

「ふふふ、なんだか零士さんらしいですね。

本当に昔と同じです。」

 

「ホントだよ、あの頃とちっとも変わってないもの。」

 

「それは雅人さんもですよ?」

 

「まあ、俺は永遠の少年だからねぇ。」

 

「あ、じゃああの頃の恋も続いてたりします?」

 

「へ?恋?何のこと?」

 

「もう、高校生のころ好きな人がいるって言ってたじゃないですか。

昼休みの時散々聞かされましたよ?」

 

「あぁ、あったねぇそんな事。」

 

「もう、フフ。」

 

雅人はマンションにつくと、さくらを彼女の部屋まで送り届け、自身も自室に戻る。

 

そして、ベッドに仰向けに寝転がる。

 

頭の中にはさくらの笑顔が浮かんでいた

 

「・・・俺も零士のこと言えないなぁ。 」

 

そう言って雅人は深いため息を吐いた。

 

#####

 

「ヘイダーリン!今日も遊びに来たデース。」

 

次の日、今日もカレンが元気に保健室に入ってくる。

 

「おい九条、ダーリンはやめろって何度言ったらわかるんだ?」

 

「私にとってダーリンはダーリンデス!!」

 

「・・・さいですか」

 

零士は溜息を吐いてからカレンに聞く。

 

「九条、お前は俺に一目惚れをしたと言ったな。」

 

「はい、一目でズキュンっとキタデス!」

 

「本当にそうなら、それは一時的なものだ、

それだけで本当に人を好きになれるとは思えねぇぞ。」

 

「それだけじゃアリマセン!」

 

カレンは少し照れながら言う。

 

「たしかに最初は一目惚れでした、

でもこうやってダーリンと・・・冴島先生と話すようになって、もっと好きになりまシタ。」

 

そう言って微笑むカレンを見て零士は思う。

 

(ああ、そうか、コイツは本当に俺のことを・・・)

 

「ダーリン?どうしましたか?」

 

そう言ってカレンは首をかしげる。

 

(でも、それならなおのこと・・・)

 

零士はカレンの目をまっすぐ見て言う。

 

「いいか九条、よく聞け。」

 

「はい?」

 

「お前が俺の事を好きだという気持ちは分かったし、それは男としては嬉しいことだ。」

 

零士は小さく息を吸う。

 

「でも、俺はそうじゃない。

お前の事を異性として愛することが出来ない。

だから・・・すまない。」

 

少し間が開くとカレンが口を開く。

 

「つまり、先生は私が女の子として好きじゃないと。」

 

「そうだ。」

 

「だから付き合えないと。」

 

「・・・そうだ。」

 

「つまり、先生が私のことを好きになれば付き合ってくれるってことデスね!」

 

「そうだ・・・え?」

 

「それなら!」

 

カレンは満面の笑みで言う。

 

「これからダーリンが私のことを好きになってくれるように!いっぱいいーーーーっぱい!

アプローチするデース!!」

 

「え?おい、九条?」

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「あ、教室に戻らないと。」

 

そう言ってカレンは保健室の扉を開き廊下に出ると、

 

「それじゃあダーリン!これからは覚悟しておくデース!」

 

そう言って扉を閉めた。

 

そして、少し間を置いて今度は雅人が入ってくる。

 

「ねぇ、さっきカレンちゃんが宣戦布告してたけど何かあったの?」

 

零士は勢いよく雅人の胸ぐらを掴む。

 

「雅人ゴラァァァァ!」

 

「うお、どったの零士。

ただでさえおっかない顔が5割増で凄いことになってるよ?」

 

「てめぇの言ったとおりはっきり言ったら事態が悪化したぞ!

どういうことだコラァ!」

 

「あぁやっぱりかぁ。

ああ言うタイプの子はそうなるよねぇ。」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!」

 

「まぁ落ち着きなって、何言ってるかわかんないよ?」

 

雅人ばベッドに腰掛けて笑いながら言う。

 

「いやぁ、これはもう諦めるしかないんじゃないのぉ。

がんばれ、色男。」

 

零士は椅子に深く腰掛けて頭を抱えて。

 

「勘弁してくれぇ・・・。」

 

そう嘆くのであった。




桐谷雅人

高校教師

担当は世界史

軽い調子とテンションで話し、少し不真面目だが生徒になつかれている。

冴島零士、烏丸さくらとは高校生時代からの中。

エレン達にとっては零士共々小さい頃から世話をしてくれている兄貴分

冴島零士

保険医

人相が悪く、パッと見893。

その実生徒思い。

だが、高校生のころからの親友である雅人には容赦がない。


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第3話 このどうしようもない愚か者に説教を!

エレン達のクラスで一人の女子生徒がめんどくさそうに言う。

 

「はぁ、この教材全部職員室まで運ばなくちゃいけないのかぁ。

めんどくさいなぁ。

桐谷先生も少しは自分で持っていけばいいのに・・・。」

 

その生徒に隼人が近づいて声をかける。

 

「俺でよければ手伝うぞ?」

 

「え?いいの?島野くん。」

 

「ああ。」

 

それを遠くで見ていたエレンが口を開く。

 

「なぁ、お前隼人のことどう思う?」

 

「なんや急に。」

 

「いや、なんとなく。」

 

蓮は少し考えてから言う。

 

「お人好し、の一言に尽きるやろなぁ。」

 

「うん、私もそう思う。」

 

連の言葉に陽子も賛同する。

 

それを聞いていたほかのみんなも頷く。

 

「そうね、確かにお人好しね。

それも度が過ぎた。」

 

「スねぇ。」

 

「ジェントルマンなのはイイ事デスけどね」

 

皆の言葉を聞いたアリスは立ち上がって言う。

 

「もう皆!隼人はいいことをしてるんだからそんなふうに言っちゃダメだよ。」

 

「いやアリス、優しいってのはいいことだけじゃねぇんだよ。」

 

「せやな、とくにアイツの場合はな」

 

そう言って蓮は隼人の方を見る。

 

隼人は教材を持ち上げて生徒に聞く。

 

「職員室まで運べばいいんだな?」

 

「うん。」

 

「わかった。」

 

隼人は荷物を生徒にもたせると、お姫様抱っこで軽々と持ち上げる。

 

「え?え?」

 

持ち上げられた生徒は困惑する。

 

「しっかり捕まっていろよ。」

 

「え!?ちょっと島野くん!?このまま行く気!?

ちょっと待っtいやあああああああああ!!」

 

隼人はそのまま猛ダッシュで走って行った。

 

「・・・」

 

その様子をアリスはポカーンと眺めていた。

 

「とまあ、あんなふうにまちがった方向におせっかいを焼いたりする。」

 

エレンがそう言って呆れ返っていると隼人が帰ってきた。

 

「おかえり隼人、どうだった?」

 

綾が聞くと隼人は満足そうに答える。

 

「ん?ああ、礼を言われた。

・・・少し涙が目に浮かんでたのが気になったがな。」

 

「そりゃそうっスよ。

むしろよく叩かれないっスねぇ」

 

「悪気がないのがわかってるからきつく言えねぇんだよ。」

 

エレンが呆れながら言うと再び別の女子生徒の声が聞こえる。

 

「んー!届かないー!」

 

黒板の文字を消そうとしているようだ。

 

「すまない、少し行ってくる。」

 

「おう」

 

そう言って隼人は女子生徒のところに歩いていく。

 

「それでだアリス、俺はもうひとつあいつのことで危惧していることがある。」

 

「何?」

 

神妙に話すエレンにアリスが聞く。

 

「アイツが他人の事を考えるあまり、自分を危険な目に合わせないかどうかだ。」

 

「いやいや、流石にそれはないよ。

隼人だって流石にわかってるって。」

 

「・・・だといいんだけどね」

 

綾が心配そうに隼人の方を見る。

 

「よければ俺が消そう。」

 

「あ、島野くん、別に大丈夫だよ、椅子使うし。」

 

「そ・・・そうか。」

 

少し落ち込む隼人を見て女子生徒が慌てて言う。

 

「あ、じゃあ椅子支えといてくれる?

もし倒れたら危ないし。」

 

「分かった。」

 

女子生徒は椅子を持ってくるとその上に立つ。

 

隼人はその椅子が倒れないようにしゃがんで支える。

 

すると女子生徒の友達がからかうように言う。

 

「ねぇ大丈夫?島野くんにパンツ覗かれちゃうよ?」

 

「大丈夫。スパッツ履いてるもんね〜。」

 

そう言って女子生徒がスカートをペラペラとはためかすと、

 

「ブフォ!」

 

隼人が鼻血を吹き出して倒れた。

 

「わあああああ!ハヤトぉぉ!」

 

アリスが急いで駆け寄る。

 

「隼人が死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

「二人ともふざけてないで早く隼人を保健室に運んでぇ!」

 

ふざける賢治と蓮にアリスが叫ぶ。

 

その様子を見てエレンが呆れながら言う。

 

「アイツ女子に対する耐性低いんだよなぁ。」

 

「いや、冷静に解説してないでお前も隼人運ぶの手伝ってこい!」

 

陽子がそう言ってツッコみエレン達の男衆3人係で隼人を保健室に運んだのであった。

 

#####

 

土曜日

 

アリスは楽しそうにひとりで散歩をしていた。

 

(シノと出かけるのも楽しいけど、たまには一人で出かけるのもいいなぁー。

ん?あれって・・・ハヤト?)

 

アリスの目線の先では隼人が柄の悪い男三人に絡まれていた。

 

そしてそのまま裏路地へと連れていかれる。

 

(ど・・・どうしよう・・・)

 

アリスは建物の影から様子を見ることにした。

 

#####

 

路地裏に連れていかれた隼人は面倒くさそうに言う。

 

「だから睨んでなどいないと何度言ったらわかるんだ?」

 

「うるせぇ!てめぇは確かに俺にガンつけてきたろうが!あぁ!?」

 

そう男が叫ぶと隼人はため息を吐く。

 

男の仲間が少し怯えながらいう。

 

「な・・・なぁ。

コイツやべぇんじゃねぇの?

結構タッパあるし絶対強ぇって。」

 

「バカ!見掛け倒しに決まってんだろ。」

 

不良たちがそんな会話をしている間、隼人は冷静に分析する。

 

(相手の人数は3人、どれも格闘技の経験が無い素人だな。

倒すのは簡単だ・・・だが。)

 

隼人はため息を吐いていう。

 

「わかった、俺を殴れ。」

 

「・・・はぁ?」

 

わけがわからないといったふうな男に隼人が続ける。

 

「そうすれば気が晴れるんだろ?

幸い俺は体が丈夫だ、これ以上の厄介ごとはゴメンだからな。

思う存分殴れ。」

 

その言葉に男は眉間にしわを寄せる。

 

「このやろう、舐めやがって・・・いいぜぇ・・・お望みどおりぶん殴ってやるよ!」

 

そう言って男は持っていたバットを隼人に向かって振り下ろす。

 

と、その時。

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

男と隼人の間に小さな影が割り込んだ。

 

#####

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

アリスはバットで殴られそうになっている隼人のところに走っていく。

 

そして両手を拡げて隼人をかばうように立つ。

 

振り下ろされるバットを前に恐怖で目を瞑る。

 

ガンッ!

 

と何かがぶつかり合う音が聞こえると、アリスはゆっくりと目を開ける。

 

すると。

 

「ぐっ!」

 

隼人がバットを右腕で防いでいた。

 

「ハヤト!」

 

隼人は右腕を抑えながらアリスに聞く。

 

「アリス、無事か?」

 

アリスがこくこくと頷くと隼人は優しく微笑む。

 

「そうか、よかった。」

 

そう言うと隼人は目の前の男達をギロりとにらみつける。

 

「ヒッ!」

 

隼人はゆっくりと男達に近づいていく。

 

隼人の眼光に、男達は怯み腰をぬかして尻餅をつく。

 

「・・・バットは流石に危ないだろ、気をつけろ。」

 

隼人がそういうと。

 

「す・・・すいませんでしたー!」

 

男達は走って逃げていった。

 

隼人は右腕を抑えてしゃがみこむ。

 

「大丈夫!?ハヤト!」

 

「あぁ、問題ない。」

 

「よかったぁ・・・。」

 

そう言ってアリスは女の子座りでしゃがみこむ。

 

そんなアリスに隼人は手を差し出して立ち上がらせる。。

 

「とりあえずここを出よう、ほかの人間が警察を呼んでいるかもしれない。」

 

「う・・・うん。」

 

アリスと隼人は2人で裏路地を出た。

 

#####

 

隼人とアリスは公園まで歩いていった。

 

「ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろ。」

 

「うん、そうだね。」

 

二人は近くのベンチに腰を落ち着かせる。

 

「それにしてもアリス、なんであんな危ないことをしたんだ。

一歩間違えば大怪我だったんだぞ?」

 

「それはこっちのセリフだよ!なんであんな事言って避けようとしなかったの!?」

 

「俺は体が丈夫だから・・・」

 

「だからなに!?ハヤトはもっと自分を大切にしなきゃダメだよ!!」

 

「す・・・すまない。」

 

いつになく怒るアリスの言葉に隼人が謝罪の言葉が出る。

 

「ねぇ、ハヤトはなんでそこまでして人助けするの?」

 

「・・・そうだなぁ」

 

隼人は少し悩むが語り出す。

 

「俺はな、アリス。

正義の味方になりたかったんだ。」

 

「正義の・・・味方?」

 

「あぁ、世界中どこへでも飛んでいって苦しんでる人を助けるような・・・正義の味方にな。」

 

隼人はフッと笑って言う。

 

「だが現実は厳しくてな。

すべてを救うなんてこと、できるわけがないと知った。

だから・・・せめて、自分の手が届く範囲は・・・と思ってな。」

 

「・・・」

 

アリスはその話を無言で聞いていた。

 

「・・・ごい」

 

「え?」

 

アリスは目を輝かせて言う。

 

「すごいよハヤト!普通の人はそんな事考えもしないのに!」

 

「・・・笑わないのか?」

 

「笑う?なんで?人の夢を笑うわけがないでしょ?」

 

「・・・」

 

呆然とする隼人の前でアリスは立ち上がり、握りこぶしを作って言う。

 

「決めた!私ハヤトを応援する!

だからハヤト!頑張って正義の味方になってね!」

 

隼人は少しの沈黙の後。

 

「ふ・・・・あはははは!」

 

大声で笑い出した

 

「え?ハヤト?なんで笑ってるの?」

 

「いやぁ、アリスは本当に面白いやつだな。」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。」

 

隼人はアリスの頭の上にポンと手を置くと優しく微笑む。

 

「ありがとう、アリス。」

 

「う・・・うん//////」

 

アリスは照れて少し赤くなる。

 

「それじゃあ私、そろそろ帰るね。」

 

「家まで送ろうか?」

 

「ううん、大丈夫。

じゃあまたね!ハヤト!」

 

「ああ。」

 

隼人はアリスの姿が見えなくなるまで見送る。

 

「ぐっ!」

 

隼人の右腕に激痛が走る。

 

(帰ってから病院に行くか・・・)

 

そして隼人は帰路についた。

 

#####

 

月曜日。

 

隼人以外のメンバーがいつもの場所に集まっていた。

 

「よし、そろそろ行くか」

 

「え?隼人は待たないのか?」

 

陽子がそういうと蓮がヘラヘラと笑いながらいう。

 

「無理無理、どうせ人助けしてこうへんって」

 

「うーんそれもそうだな。」

 

陽子も納得して出発しようとした時。

 

「やぁ、皆。」

 

隼人の声が聞こえ、エレンが振り向く。

 

「なんだ隼人、めずらしいな・・・ってどうしたその腕。」

 

隼人はギブスをつけた右腕を布で方から吊り下げていた。

 

それを見たアリスの顔が青ざめる。

 

「あぁ、事情は歩きながら話す。」

 

隼人はエレン達と学校に向かいながら先日あった事を話した。

 

「なるほど、それで病院に行ったらヒビが入ってたと。」

 

「あぁ、そのとおりだ」

 

エレンの言葉に隼人がうなづいて答える。

 

「ごめんハヤト!私のせいだよね!」

 

「いや、アリスは何も悪くない。

これは俺の自己責任だ。」

 

「ハヤトは良くても私の気が済まないよ!」

 

「そうは言ってもなぁ・・・」

 

隼人が悩んでいると蓮が言う。

 

「それならアリス、お前が今日1日隼人の右腕になればええやろ。」

 

「私が?」

 

「せや。

右腕が使えんで不便な隼人の右腕になって手伝えばええねん。」

 

ヘラヘラとしながらそう言った蓮にエレンが呆れながら言う。

 

「蓮、お前面白がってるだけだろ。」

 

「おう。」

 

「いや、そこまでしてもらう必要は・・・」

 

隼人が苦笑いしながら言うと。

 

「そうか・・・そうだね!」

 

アリスが声高らかに叫ぶ。

 

「ア・・・アリス?」

 

陽子が恐る恐る声をかける。

 

「決めた!私、今日1日隼人の右腕になる!」

 

「あーあ。」

 

綾が呆れて溜息を吐いた。

 

「ア・・・アリス、俺は大丈夫だから別に・・・」

 

「ううん!私が決めたの!」

 

「あー、諦めたほうがいいっスねー、隼人」

 

「ああなったアリスはすごく頑固デスからネ。」

 

賢治とカレンがそういうと隼人は忍に助けを求める・・・が。

 

「あんなに張り切っちゃって、アリスったら可愛いですねぇ。」

 

通常運転であった。

 

#####

 

その後、アリスは宣言通り隼人の右腕になろうとしていた。

 

「この問題を島野・・・は怪我をしてるんだったか。」

 

「先生!私がハヤトの代わりに答えを書きます!」

 

数学の時間、隼人の代わりにアリスは黒板に数式と答えを書いていく。

 

「できました!」

 

「よし、不正解だ。」

 

「あれ!?」

 

その様子を見ていた隼人が立ち上がりアリスの横に立つ。

 

「ハヤト?」

 

「アリス、俺の言うとおりに書いてみろ。」

 

「う・・・うん。」

 

アリスは隼人の隼人と話しながら数式を解いていく。

 

「ここが、こうなるから、これを代入して」

 

「あ、そっか、ていうことは・・・」

 

そうして二人で問題を解き終える。

 

「できました!」

 

「正解、よく出来ました。」

 

「やったね!ハヤト!」

 

「ああ。」

 

隼人ははしゃぐアリスと左腕でタッチをする。

 

それを見ていた陽子は。

 

「右腕の意味が違う」

 

と、一人静かにツッコんでいた。

 

#####

 

「はい隼人、あーん。」

 

昼休みアリスはおかずを箸で挟み、隼人に差し出す。

 

「ア・・・アリス、別にここまでしてもらう必要はない。

頑張れば左腕でも食べられる。」

 

「いいからほら、あーん。」

 

「・・・」

 

隼人は恥ずかしそうにしながら差し出されたおかずを食べる。

 

「いやぁ、羨ましぃっスねぇ蓮。」

 

「せやなぁ、美少女にあーんしてもらうなんて光景生で見るとは思わんかったで。」

 

そういう2人を隼人は恨めしそうに睨む。

 

「面白がってるだろお前ら、それにそういう光景ならエレンと陽子も。」

 

「いや、あの2人はどっちかって言うと。」

 

蓮はエレンと洋子の方を見る。

 

「あ、エレン。

その唐揚げうまそう。」

 

「ん、ほれ。」

 

エレンは唐揚げを箸で挟み軽く放り投げる。

 

陽子はそれをパクッと口でキャッチする。

 

「んー、おいしぃ~」

 

陽子は幸せそうに笑顔になる。

 

「飼い主と犬やな。」

 

「そうっスねぇ。」

 

「そうね。」

 

「ん?なに?」

 

蓮と賢治と綾との言葉に、陽子は首をかしげた。

 

「それにしても良かったですねぇ、ヒビだけですんで。」

 

「金属バットで腕殴られたら普通なら折れるのに・・・ハヤトはすごくタフデスねぇ。」

 

忍とカレンがそう言うと隼人はため息を吐く。

 

「だが利き腕が使えないというのは不便だ。」

 

「なんでッスか?」

 

「人助けが出来ない」

 

隼人の言葉にエレンと蓮が呆れて言う。

 

「お前ってやつはこんな時まで・・・」

 

「このままやったらホンマに人助けで死ぬで?」

 

「・・・人を助けて死ぬ・・・か。」

 

隼人は少し微笑むと。

 

「それが出来れば、どれだけ幸福だろうな。」

 

「・・・お前」

 

エレンがなにか言う前に、

 

「バカァ!」

 

アリスが立ち上がって大声で叫んだ。

 

目には涙を浮かべている。

 

「・・・アリス?」

 

アリスは教室を飛び出していってしまった。

 

「今のは隼人が悪い。」

 

咎めるように言う陽子にエレンが続く。

 

「そうだな、正直アリスが動いてなきゃ俺がぶん殴ってた。」

 

「・・・すまん、軽率だった。」

 

「謝る相手がちゃうやろ、はよ捕まえてこい。」

 

「ああ、そうだな。」

 

隼人はアリスを追って教室を出で行った。

 

それを見送ると綾と忍が口を開く。

 

「まさかあそこまでとわね。」

 

「あんなに怒ったアリス、初めて見ました。」

 

その言葉にエレンが言う。

 

「そうだな、今回の事がいい薬になればいいが。」

 

#####

 

隼人は屋上に続く扉を開く。

 

屋上に出ると周りを探し始める。

 

「・・・見つけた」

 

アリスは、屋上のフェンス背中を向けて体育座りをしていた。

 

泣いているのか顔を隠している。

 

隼人はアリスの前でしゃがむ。

 

「ここにいたのかアリス、探したぞ。」

 

その言葉にアリスは答えない。

 

しばらく沈黙が続くとアリスは口を開いた。

 

「・・・なんであんな事言うの?」

 

「・・・」

 

「隼人が死んじゃったらお父さんもお母さんも悲しむんだよ?

なのになんであんなことが言えるの。」

 

「・・・両親はいない。」

 

「・・・え?」

 

隼人は静かに語り出す。

 

「俺が6歳の頃だ、住んでいた家が火事で焼けてな、その時両親は煙から俺を守るように二人で庇ってくれたんだ。

そのおかげで俺は、火傷はしたものの一命を取り留めた。

その後はずっと孤児院の神父様が俺の親代わりだ。」

 

「もしかして、隼人が人助けをするのって・・・。」

 

「あぁ、両親のように誰かを助けたい。

そう思って始めたんだ。」

 

「・・・ハヤトの・・・バカァ!」

 

ぺチン。

 

アリスは隼人の頬を叩いた。

 

「それならなおさら自分を大事にしなきゃダメだよ! 」

 

「今俺が生きているのは両親のおかげなんだ・・・だから俺は。」

 

「ちがう!ちがうの!お父さんとお母さんが隼人を助けたのは生きてて欲しいからなの!

自分を犠牲にしてでも人助けして欲しかったわけじゃない!

なんでそれがわからないの!?バカ!」

 

言い返せないでいる隼人にアリスは続けて叫ぶ。

 

「人助けなら好きなだけすればいい!

でもそれで隼人が死んじゃうのは嫌!」

 

そこまで言うとアリスの目から涙が溢れ出す。

 

「嫌だよぉ・・・ひっく・・・えぐっ。」

 

アリスらしい真っ直ぐで純粋な言葉を聞いた隼人は俯く。

 

「泣かないでくれ、アリス。

泣かれると俺も辛い。」

 

「泣かせてるのはハヤトでしょ!もう。」

 

アリスはハヤトの胸をポカポカと叩く。

 

「そうだな、すまない。

・・・アリス。」

 

「なに!?」

 

隼人はアリスの頭を撫でる。

 

「ちょ・・・ちょっと!私は今怒ってるんだよ!?」

 

「ありがとう、アリス。

お前に叱られなければ、俺は自分の間違いに気付けなかった。」

 

「わ・・・私は別に・・・/////」

 

アリスは少し恥ずかしそうにする

 

「俺はこんな性格だ、お前の忠告を無視してこれからも無茶をしてしまうかもしれない。

その時は、今回のように叱ってくれないか。」

 

アリスは涙を拭って言う。

 

「うん、分かった、何回でも怒ってあげる。

だからハヤトも約束して、もっと自分を大事にするって。」

 

そう言うとアリスは小指を差し出す。

 

「ああ、約束だ。」

 

隼人はアリスと指切りをした。

 

#####

 

大宮家の浴室、アリスは湯船に浸かりながらボーッとしていた。

 

「・・・」

 

アリスの頭の中には隼人の顔が浮かんでいた。

 

『ありがとう、アリス。』

 

あの時の隼人の笑顔が鮮明に浮かぶ。

 

(なんだろう、これ。)

 

アリスは自分の頭に手を置く。

 

(なんだか・・・顔が暑い・・・。)

 

アリスの顔はお風呂に入っているせいなのか、赤くなっていた。

 

#####

 

数日後、怪我が完治し包帯の取れた隼人は裏路地にいた。

 

周りにはこの間絡んできた不良たちが倒れていた。

3人で倒すのは無理だと判断して連れてきたのか、前回より多い数が倒れている。

 

「ちくしょう!なんだよ!この間は殴られてやるとか言ってたくせによ!」

 

悪態をつくチンピラを隼人が見て言う。

 

「すまないが、殴られるわけにはいかなくなった。

約束をしたんでな。」

 

「はぁ!?約束だぁ!?」

 

「・・・お前には関係の無いことだ。」

 

隼人は倒れている男にゆっくりと近づいていく。

 

「さて、どうしてくれようか。」

 

「ひ・・・ひぃ!」

 

後ずさりながら悲鳴を上げる男を見て隼人は。フッと笑う。

 

「やはり悪役は性に合わないな。」

 

隼人は男の前に立つと、

 

「つかまれ、殴ってしまった詫びだ。

何か奢ろう。」

 

そう言って、手を差し出した。




島野隼人

高校一年生。

趣味は人助け。

身長185cmの長身。

格闘技経験者でもあり、もしもの時にグループ内の女子達を守る最後の要でもある。


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第4話 ご注文はこけしですか?

休日、蓮はある人物と待ち合わせていた。

 

(シノが俺に用事って何やろ。)

 

そう考えながらしばらく待っていると。

 

「蓮くーん。」

 

遠くから忍が手を振ってやってきた。

 

「おっすシノ。

俺に用って一体なんや?」

 

「はい、実は新しい衣装を作ろうと思ったのですが、アイデアがわかなくて。

それでお姉ちゃんに相談したら別の人の意見を参考にしてみたらと言われたので、1番そういう事に詳しい蓮君にご協力をお願いしようかと。」

 

「服っていつも来てくるようなけったいなヤツ?

え!?アレって手作りやったん!?」

 

「はい、全部私のお手製です。」

 

「そりゃすごいなぁ。

よし、分かったわ、俺に任せとき!

こういうのは得意やからな。」

 

「はい、お願いします。」

 

「そんじゃあ参考になりそうな店にでも行こか。」

 

そう言って2人は一緒に歩き出した。

 

#####

 

「あの、蓮君、ここって・・・」

 

蓮と忍は二人である店の入口にいた。

 

「ん?コスプレ専門店。

あの手の服の参考にするんやったらこういうところがええやろ。」

 

「そうですね、いろんな服があって楽しそうです。」

 

「ほな入ろか?」

 

二人は店内に入って物色する。

 

「それにしてもいろいろあるなぁ。」

 

「そうですねぇ、あ!この執事服なんて蓮君に似合いそうですよ?」

 

「いや、目的違ってきてるやん。

自作の服の参考探すんやろ?」

 

「えー、でもせっかくだし着てみましょうよー。」

 

「あんなぁ、男であんまこんな格好してるやつ・・・おったわ。」 

 

蓮の視線の先には執事服を着て試着室の前に立っているエレンがいた。

 

「おーい、陽子。

まだかかるかぁ?」

 

「うん、もうちょっと。

ガーターベルトなんて初めてだからさぁ。」

 

試着室の中にいる陽子と会話するエレンに蓮が話しかける。

 

「おい、エレン。

こんなところで何してんねん。」

 

「おぉ、蓮、シノ。

珍しい組み合わせだな。」

 

「シノの用事に付き合ってたんや。」

 

「エレン君は陽子ちゃんとデートですか?」

 

「おう、二人で歩いてたらこの店を見つけてな。

面白そうだから入ったんだ。」

 

「エレーン。

蓮とシノそこにいんのー?」

 

「おう、だから早く出てこい。」

 

「うん、ちょうど今終わったところー。」

 

陽子は試着室のカーテンを開ける。

 

「おー。」

 

「・・・」

 

「陽子ちゃんかわいいです!」

 

「えへへー、そっかなぁ 。」

 

陽子はやけに肌の露出が多いメイド服を着ていた。

 

蓮はじゃれ合う忍と陽子を見ているエレンに訝しげな目を向ける。

 

「エレンお前・・・・」

 

「・・・無垢な奴って抵抗なくああいう服着てくれるから目の保養に困らねぇよなぁ。(ゲス顔)」

 

「腐れ外道かお前。」

 

蓮が視線を忍に戻すと、忍は執事服を手に持って目を輝かせなにかに期待するように蓮を見つめていた。

 

「・・・よーしわかった、それ着たるからお前も俺が選んだ服着ろよ?」

 

「はい、分かりました」

 

蓮は忍に着せる服を選んで持ってくる。

 

「和服かぁ。

一人で着れるのか?」

 

「コスプレ用やし大丈夫やろ。

ほい、シノ。」

 

蓮がシノに和服を渡すと忍も蓮に執事服を渡した。

 

そして2人は試着室の中に入る。

 

しばらくして執事服を着た蓮が試着室のから出てくる。

 

それを見た陽子が笑いながら言う。

 

「なんか胡散臭い執事だな。」

 

「ほっとけ。」

 

そして少しすると、忍も試着室から出てくる。

 

「みなさん、私も着替え終わりましたよ~。」

 

「おー。」

 

忍の和服姿はとても良く似合っていた。

 

「どうですか。」

 

「よう似合うてるで、シノ。」

 

「うんうん、シノにぴったり。」

 

蓮と陽子が笑顔で言うとエレンもうんうん、とうなづく。

 

「確かに似合ってる・・・ていうか座敷童子みたいだな。」

 

「おいエレン!」

 

「俺も思ったけど口に出さへんかったのに!」

 

だが言われた忍は。

 

「えへへ////」

 

「照れてる!?」

 

「なんでや!?」

 

何故か照れている忍に、陽子と蓮二人のツッコミが炸裂した。

 

#####

 

忍と蓮はエレン達と別れて二人で歩いていた。

 

「まさかあんなところでエレン君たちに会うとは思いませんでしたね。」

 

「あの様子やとアイツ、もうしばらくは陽子着せ替えて遊ぶやろな。」

 

二人はそう言って楽しそうに笑った。

 

「それとシノの和服姿似合っとったで。」

 

「執事服姿の蓮くんもなかなかでしたよ。

あれで金髪ならなおよしです!」

 

「ブレへんなー、お前。」

 

そう言って笑った蓮に、忍は楽しそうに微笑む。

 

「・・・なぁシノ、ひとつ聞きたいことあるんやけどええか?」

 

「はい、なんですか?」

 

「なんでシノは俺みたいな奴とも仲良くしてくれるん。」

 

「え?どういう意味ですか?」

 

首を傾げる忍に蓮は言う。

 

「ほら、俺の性格ってシノとは真逆やん。

女癖悪いし、チャラいし、いい加減やし。

普通やったら嫌ってもええはずやのになんで仲良くしてくれるん?」

 

「・・・簡単ですよ。」

 

忍は蓮に向かって微笑んでい

 

「確かに、蓮くんは女の子にだらしが無くて、いい加減で、一部界隈ではチャラ男と言われる部類の人かも知れません。」

 

「おー、結構なこと言うてくれるやん。」

 

「ですが。」

 

忍は蓮の方を見て微笑んでいう。

 

「とても・・・優しい人です。」

 

「優しい・・・ねぇ。」

 

蓮は小さく笑うと壁のすぐそばに立っている忍に近づいていく。

 

「分からんでぇ?

安心させといていきなり噛み付くかもしれん。」

 

蓮は忍の横の壁にドンと手を当てる。

 

「こんなふうにな。」

 

蓮はそう言うと忍の顔に自分の顔を近づける。

 

「・・・逃げへんの?」

 

そういった蓮に忍は微笑むと。

 

「蓮君は、好きでもない女の子にそういう事をする人じゃありませんから。」

 

そう言った。

 

その言葉に、蓮は驚いて顔を引き攣らせた。

 

「さて、ではそろそろ帰りましょうか。」

 

「お・・・おう。」

 

蓮は呆然しとしながら、目の前を歩く少女を見つめていた。

 

全て見透かしたような先ほどの笑顔。

それは何故か蓮の心に響いていた。

 

「なぁ、シノ。」

 

「はい、なんですか?」

 

「もしも、俺がシノのこと好きになったらどうする?」

 

「・・・そうですね。」

 

忍は再び先ほどの笑顔を浮かべて蓮の方に振り返る。

 

「それで私も蓮君を好きになれれば、とても素敵ですね。」

 

#####

 

蓮は1人自宅に向かって歩いていた。

 

「・・・・」

 

『それで私も蓮君を好きになれれば、とても素敵ですね。』

 

頭の中に、忍の先程の言葉がよぎる。

 

「怖いなぁ、女って。」

 

蓮は夕焼け空を見あげながら。

 

「よし、やったるか!」

 

そう叫んだ。

 

#####

 

月曜日。

 

いつもの待ち合わせ場所に蓮以外のメンバーが揃っていた。

 

「蓮の奴、おせぇな。」

 

そしてしばらく待っていると。

 

「みんなごめーん、お待たせー。」

 

「おせぇぞ蓮・・・ってどうしたお前!」

 

蓮は髪の色を金髪に染めていた。

 

陽子が驚きながら聞く。

 

「どうしたんだよ、その頭。」

 

「別にどうもせんよ、イメチェンやイメチェン。」

 

蓮はそう言うと忍に近づいていく。

 

「シノ、どうこの頭。」

 

忍は、すこし驚いた顔をした後ニッコリと笑って言う。

 

「とても良くおにあいですよ。」

 

蓮の宣戦布告は、どうやら成功したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、職員室

 

「・・・・なにがあったか知んないけどさぁ、

普通に校則違反だから。」

 

「すんません。」

 

「からすちゃん泣いてたよ?」

 

「ほんますんません。」




葉山蓮

高校一年生。

関西出身で胡散臭い笑顔が特徴。

女友達が多い。


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第5話 新たな始まり

昼休み。

 

陽子は教室でエレンになにかが入った風呂敷をエレン向かってドヤ顔で突き出していた。

 

「陽子・・・なんだそれ。」

 

「私の手作り弁当、エレンのために作ってきた。」

 

「そっかぁ・・・でもほら、俺弁当あるし。」

 

陽子はエレンの弁当を奪い取ると素早く自分の口にかきこんだ。

 

「ごちそうさまでした。」

 

「」

 

「一瞬で完食したわね。」

 

綾が若干引きながら言う。

 

「遠慮するなよエレン、彼女の手作り弁当だぞ。

嬉しいだろ?」

 

「いや、嬉しいのは嬉しいんだけど。

・・・今日胃薬持ってきてないし。」

 

「なんだとぉ!」

 

陽子が掴みかかろうとするとエレンも対抗し、力比べの状態になる。

 

「なんでだよ!私の料理スキルがそんなに不安か!?」

 

「余ってたゆで卵躊躇なくレンジでチンしたやつが何言ってんだ!」

 

「知らなかったんだから仕方ないだろ!」

 

「料理するうえでの一般教養レベルのこと知らなかった奴をどう信用しろってんだ!

なにも知らずに食べようとした瞬間爆発して俺の口の中が口内炎だらけになったんだからな!」

 

「今回は大丈夫だから!ちゃんと母さん監修のもと作ったから!」

 

「監修?監視じゃなくて?」

 

「本当に一回殴るぞ!」

 

エレンはしぶしぶ弁当を受け取り蓋を開ける。

 

そこには食材が綺麗に並べられていた。

 

「うお!これマジでお前が作ったのか。」

 

「いや、ほとんど昨日の残りを私が盛り付けただけ。」

 

「おう、手作りはどうした手作りは。」

 

「で・・・でもその卵焼きは私が作ったんだぞ。」

 

「監視のもとで?」

 

「監!修!な!」

 

エレンは卵焼きを口に運ぶ。

 

「・・・ど・・・どう?」

 

陽子が緊張した面持ちで聞く。

 

「・・・普通にうまい。」

 

「よし!」

 

エレンの言葉に、陽子はガッツポーズをした。

 

「あ、そうだ!綾も食べてみてくれよ!

料理上手なやつの意見も聞きたいし。」

 

「え・・・ええ。」

 

綾も陽子の卵焼きを食べる。

 

「・・・美味しい」

 

「やったぁ!」

 

陽子は両手でガッツポーズをして喜んだ。

 

「しっかし、お前が料理勉強しだすとはな。」

 

蓮がからかうようにいうと陽子は顔を少し赤くする。

 

「いや、その・・・いつかエレンに私の手作りの料理食べてほしいから////」

 

「男っ気なんて全くなかった奴がそんなこと言うようになるとわな。

驚きや。」

 

「うるさいなぁ!

私だって女の子なんだぞ!」

 

陽子が頬を膨らます。

 

その陽子を愛おしそうに見つめていたエレンがいう。

 

「まぁ、それなら期待しとくか。

俺もお前の手作り料理食ってみたいしな。」

 

「おう、任しとけ!」

 

陽子は満面の笑みを浮かべた。

 

「・・・・」

 

綾は、そんな陽子を悲しそうに見ていた。

 

#####

放課後

 

「・・・」

 

「・・・」

 

綾と賢治は、分かれ道でほかのみんなと別れ二人で帰っていた。

 

賢治は前を歩く綾に聞く。

 

「・・・綾、大丈夫っスか?」

 

「・・・なにが?」

 

「今日はいつもより元気がなかったから。」

 

「私は大丈夫よ。」

 

「でも、あきらかn」

 

「大丈夫って言ってるでしょ!」

 

綾は大声で怒鳴って振り返った。

 

綾は両目から涙を流していた。

 

「・・・綾。」

 

「なんなのよアンタ!いつもいつも余計なお世話なのよ!

私が大丈夫っていってるんだからそれでいいでしょ!」

 

「それのどこが大丈夫なんスか!」

 

「うるさいうるさいうるさい!

あんたには関係ないでしょ!?」

 

「やっぱり気持ちだけでも伝えるべきッスよ!

じゃないと綾・・・壊れちまうっスよ!」

 

「・・・あんたに何がわかるって言うのよ。」

 

綾は賢治を睨みつける。

 

「人を好きになったこともない奴に!私の何がわかるって言うのよ!」

 

綾はそう言うと走っていってしまった。

 

「綾!」

 

追いかけて捕まえるべきなのに、わかっているはずなのに、賢治の足は全く動かなかった。

 

#####

 

1週間後、教室で陽子が綾の席を心配そうに見つめる。

 

「綾、今日も休みか・・・」

 

「風邪が長引いてるんだろ。」

 

「・・・それだけじゃ無いと思う。」

 

陽子は不安そうに俯いて言う。

 

「昨日、御見舞をしようと思って綾の家に行ったんだけど、綾が今は会いたくないって・・。」

 

「・・・」

 

エレンは横目で賢治の方を見る。

 

エレンと目が合うと賢治はあからさまに目を背けた。

 

「綾、大丈夫かな。」

 

俯く陽子の頭をエレンは優しく撫でた。

 

一方職員室では、さくらがひどく落ち込んでいた。

 

「桐谷先生・・・私は教師失格です」

 

「そんな事ないってカラスちゃん。

君はちゃんと先生出来てるよ?」

 

「でも、こんな時にこそ生徒を助けてあげたいのに。」

 

「教師だって万能じゃないんだからさぁ。

出来ないこともあるって。

大丈夫、カラスちゃんは立派な先生だよ、

俺なんかよりずっと。」

 

「・・・」

 

雅人はなんとか励まそうとするが、さくらはうつむいたままだ。

 

「・・・やれやれ。」

 

雅人は後頭部を掻きながらため息をついた。

 

そして保健室では、カレンがひどく落ち込んだ様子で零士と話していた。

 

「ダーリン、多分アヤが悩んでるのは、陽子のことだと思いマス。」

 

「だろうな、いつかこうなるかもとは思っていたが・・・」

 

「・・・私悔しいデス、大切な友達が大変な時に何も出来ないなんて、自分が嫌いになりそうデス。」

 

目に涙を浮かべるカレンの頭に零士はポンと手を置く。

 

「大切なダチなら信じて待ってやれ。

お前がそんな顔してたんじゃあ帰ってきた時綾が不安になるだろ?」

 

「・・・はい。」

 

零士に慰められてもなお、カレンは落ち込んでいた。

 

#####

 

放課後。

 

エレンは賢治の襟首を掴み、保健室へと引っ張って行っていた。

 

「な・・・何するんスかエレン!何怒ってんスか!?」

 

エレンは保健室の前に着くと、扉を開けて中にほおり投げた。

 

「痛て!」

 

尻餅をついた賢治が後ろを振り向くと、そこには雅人と零士が居た。

 

「雅人さん、零士さん。」

 

「やっほー。」

 

「・・・」

 

雅人は気楽に手を振るが、零士は無言で賢治を睨みつけていた。

 

「賢治、なにがあった包み隠さず全部話せ。

わかってるとは思うが、黙秘権なんてねぇからな。」

 

「・・・はい。」

 

賢治は起こったことをすべて話した。

 

「なるほどな。」

 

「あーららー。」

 

「予想はしてたが、結構やばいな。」

 

エレンと雅人と零士は3人で腕を組んで言う。

 

「で?お前はどうすんだ?」

 

「・・・え?」

 

ずっと黙ってばかりの賢治に零士が言う。

 

「まさかこのまま放っておくわけにも行かんだろ?」

 

「そうは言っても、俺に出来ることなんてないっスよ。」

 

エレンは賢治の胸ぐらをつかむ。

 

「てめぇ、いい加減にしろよ。

一度首突っ込んだなら最後まで責任もちやがれ。」

 

「じゃあどうすればいいんスか!

俺はエレンたちみたいに肝すわってないんっスよ!

それに・・・おれにそんなことする資格なんてないっスから。」

 

「このやろう・・・」

 

雅人はエレンの肩にポンッと手を置く。

 

「まぁまぁエレン、一旦落ち着きな。」

 

雅人がそういうと、エレンは賢治を放した。

 

「賢治はさぁ、綾のことが好きなんでしょ?」

 

「・・・はい。」

 

「ならそれでいいじゃん。」

 

「・・・え?」

 

雅人は笑みを浮かべながら続ける。

 

「資格なんて大層なもん無くても、それだけで好きな子助ける理由にはなると思うよ?」

 

雅人の言葉に零士が続く。

 

「そうだな、だから、

惚れた女のためにくらい、腹くくれ。」

 

零士がそう言うと、賢治はゆっくり立ち上がる。

 

「まったく、お節介な人たちッスね。」

 

賢治は顔を上げる。

 

「俺、行ってくるッス。

どこまでできるかわからないけど。

綾を好きな気持ちは誰にも負けないつもりっスから。」

 

「おう、行ってこい。」

 

賢治は保健室を飛び出して行った。

 

「いやぁ、若いねぇ」

 

「おっさん臭いですよ、マサさん。」

 

「うるさいよ。

・・・それにしても。」

 

雅人はニヤニヤとしながら零士の方を見る。

 

「俺やエレンはともかく、零士がカレンちゃんのために動くなんてね。

なに?とうとう好きになっちゃった?」

 

「そんなんじゃねぇよ・・・ただ。」

 

零士は今にも昼休みの時のカレンの顔を思い出す。

 

「・・・目の前であんな顔されちまったらな。」

 

#####

 

綾の家の前。

 

賢治がインターホンを鳴らすと玄関の扉を開けて綾の母親が出てきた。

 

「あら、賢治くん。

ごめんなさいね、綾、今は誰にも会いたくないって言ってるのよ。」

 

「そうですか・・・。」

 

賢治は拳を固く握る。

 

「あの、上がらせてもらってもいいですか?」

 

#####

 

綾の部屋の前、賢治は深呼吸をするとノックする。

 

「綾?起きてるっすか」

 

少しの沈黙のあと声が返ってくる。

 

「・・・何しに来たのよ。

私のことはほっといてって言ったでしょ?」

 

突き放すようにそういう扉の向こうの綾に賢治は続ける。

 

「綾、そのままでいいから聞いて欲しいっス。」

 

賢治はもう一度深呼吸をすると、

 

「俺は、綾のことが好きだったんス。」

 

そう言った。

 

「今思えば、きっと一目惚れだったんス。

初めてあった時の綾は子犬みたいに震えて、

儚げで、守ってあげたいって思ったんス。

その後綾が陽子とあって、よく笑うようになって、気が付いたらその笑顔をずっと見ていたくなって、あぁ、これが恋なんだって思ったんス。」

 

帰ってこない扉の向こうの声に賢治は続ける。

 

「それからずっと綾のことを見てきたんっス。

綾が陽子に恋をして苦しんできたところも。

陽子のことを諦めようとして諦めきれずに苦しんでるところも。

全部見てきたんっス。」

 

同じ性別の相手を好きになった。

 

それが許されないと知っていた。

 

それでも諦めきれずにずっと苦しんだ。

 

そんな少女を守れるように少しでも強くなろうと口調を変えたりした。

 

でも結局は何も出来なくて、苦しんでる姿を見ることしか出来なかった。

 

だが今は違う。

 

「俺、綾には笑ってて欲しいから。

だから全部吹っ切って欲しいんッス。

そしたら俺もまた始められるから。」

 

ガチャ。

 

目の前の扉が開き中から綾が出てくる。

 

綾は、泣き腫らした目で賢治を見上げる。

 

「もし、陽子に拒絶されて傷ついたら、アナタが助けてくれるの?」

 

賢治は綾の目をまっすぐ見て言う。

 

「綾の寂しさも、悲しみも、痛みも不安も涙も、全部まとめて俺が引き受けるっス。」

 

そう言うと賢治は、優しく微笑む。

 

「綾の笑顔より大事なものなんて、俺には何も無いッスから。」

 

#####

 

翌朝。

 

「みんな、おはよう。」

 

いつもの待ち合わせ場所に賢治と共にやって来た綾は、みんなに挨拶をする。

 

陽子たちが綾に駆け寄る。

 

「綾!もう大丈夫なのか?」

 

心配そうに声をかける陽子に綾は笑顔で返す。

 

「うん、ゴメンね心配させて。」

 

「よかったです。」

 

「心配したよ、アヤ。」

 

「・・・」

 

ガバッ!

 

「ちょっ、カレン?」

 

カレンは綾に抱きつくと耳元で囁く。

 

「頑張ってくださいネ、アヤ。」

 

「・・・うん。」

 

その様子を見ていたエレンは、賢治に聞く。

 

「これで、一件落着か?」

 

「・・・いや、まだ終わってないっス。」

 

綾は陽子に近づいて話しかける。

 

「あの、陽子。」

 

「ん?なに?綾。」

 

「今日の放課後、二人っきりで話したいことがあるの。

教室に残ってくれない?」

 

「うん・・・わかった。」

 

真剣な目で言う綾に、陽子はうなづいた。

 

#####

 

放課後

 

誰もいなくなった教室に陽子と綾はいた。

 

「綾、話って何?」

 

「・・・陽子、私・・・。」

 

言わなければいけない、でも言おうとすると恐怖で足が震える。

 

「私・・・私ね・・・」

 

息が詰まり声が出ない。

 

冷や汗が止まらない。

 

「私・・・。」

 

逃げだしたい。

 

今すぐ扉から外に飛び出したい。

 

『綾の寂しさも、悲しみも、痛みも不安も涙も、全部まとめて俺が引き受けるっス。』

 

だが少女は、もう逃げないと決めた。

 

「私、あなたの事が好きだったの。」

 

綾は、陽子の目をまっすぐ見て言った。

 

「・・・」

 

陽子は黙って聞いている。

 

「はじめは気になるだけだったの。

初めてあったあの日、私の手を引いてくれて、本当に嬉しかった。

そして、気づいたら好きになってた。」

 

綾の目から一筋の涙がこぼれる。

 

「ダメだってことは分かってたのに、そう思えば思うほど思いは強くなって、諦めようとしても無理だった。

陽子がエレンと付き合いだして、今度こそ諦めようと思ったの。」

 

綾の目から涙が溢れ出す。

 

「でも、やっぱり無理だった・・・。

陽子がエレンと仲良くしてるのを見るたびに、

なんで私じゃないんだろうとか思っちゃって、

そんなことを繰り返してる内に心が真っ黒になっていって・・・。」

 

綾は、あふれる涙を拭いながら言う。

 

「ごめん・・・ごめんね。

私嫌な女だよね・・・。」

 

陽子は立ち上がると、綾を優しく抱きしめる。

 

「陽子・・・」

 

「綾・・・ごめんな。

綾がこんなに苦しんでるのに、私全然気づけなくて。」

 

陽子は涙を流して綾に言う。

 

「ごめん・・・ごめんな・・・。」

 

「・・・気持ち悪いとか思わないの?」

 

「思うわけないだろそんなこと。

綾は私の大切な親友なんだから。」

 

陽子に抱きしめられながら、綾は思い出していた。

 

(あぁ、そうだ。

私は、陽子のこういうところを好きになったんだ。)

 

陽子が離れると、綾は涙を拭って言う。

 

「陽子、私ね、全部吹っ切ってもう一度0から始めたいの。

だからお願い、あなたの返事を聞かせて。

それで全部、終わりにするから。」

 

「・・・分かった。」

 

陽子は涙を拭うと、綾の目を見て言う。

 

「綾、私は綾が大好きだ。

綾だけじゃない、シノもアリスもカレンも、

私にとって友達はみんな大切な存在だ。」

 

「・・・うん。」

 

「でも、それとは違う、もっと特別な意味で、

エレンのことが大好きだ。

だから・・・ごめん。

そして、こんな私の事を好きになってくれて、ありがとう。」

 

陽子は頭を下げてそう言うと。

 

「うん、私も、あなたを好きになってよかった。」

 

綾は涙を流しながら笑顔でそう言った。

 

「それじゃあ私、今日は1人で帰るわね。

・・・また明日。」

 

「うん・・・また明日。」

 

綾は、陽子を教室に残して教室を出た。

 

廊下に出ると入口のそばに、エレンが立っていた。

 

「陽子をよろしくね、私の初恋の人を泣かせたら、承知しないから。」

 

「あぁ、分かってる。」

 

綾は急ぎ足でその場を去っていった。

 

エレンが教室に入ると、陽子が今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。

 

エレンが近づくと陽子はポツリとつぶやく。

 

「エレン・・・私、すごく・・・苦しい。」

 

陽子がそう言うと、エレンは黙って抱きしめる。

 

「今日はうちで飯食うか?」

 

エレンの胸の中で陽子はうなづいて言う。

 

「うん・・・でももう少しこうしてたい。」

 

「はいよ。」

 

エレンは陽子の頭を優しくなで続けた。

 

#####

 

(これで、全部終わり。)

 

綾は学校の玄関まで歩いて向かっていた。

 

気を抜いたら溢れてしまう涙を堪えながら、少しづつ歩みを進める。

 

そして玄関につくと。

 

「綾。」

 

そこでは、賢治が待っていた。

 

「帰るっスよ、綾。」

 

「賢治・・・ずっと待ってたの?」

 

「何言ってんスか?」

 

賢治は綾に笑顔を向ける。

 

「全部受け止めるって、俺言ったスよね。」

 

そう言って賢治は綾に向かって手を差し出した。

 

「う・・・ひぐっ・・・うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

綾の目から抑えていた涙が溢れ出す。

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!

ひぐっ・・・えぐっ・・・。

うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

子供のように泣きじゃくる綾の手を引いて、

賢治は学校をあとにした。

 

#####

 

工藤家のリビング。

 

ソファーの上で陽子は、エレンの膝の上に座りながら腰に手を回して抱きついて胸板に顔を埋めていた。

 

「陽子ー?オーイ、陽子さーん?」

 

「うー。」

 

「さすがにずっとこの体勢だとおもいんですけどぉ?」

 

「うー!(抗議)」

 

(なんだこの可愛い生き物。)

 

後ろで見ていたマリーが心配層に声をかける。

 

「ねぇ、陽子姉どうしちゃったの?」

 

「あー、まぁいろいろあるんだよ。」

 

「ふーん。」

 

陽子と長い付き合いであるマリーは、こういう時自分はどうするべきか分かっていた。

 

「じゃあ私、部屋で宿題してくるね。」

 

「あぁ、悪いな。」

 

マリーは自室へと向かった。

 

「ほら陽子、もうマリーはいないぞ?」

 

エレンがそういうと陽子がポツリと漏らす。

 

「本当に自分が嫌になる・・・なんで気づいてやれなかったんだろ・・・」

 

「まぁ俺の時も大概だったからな、ましてや同性からなんて思ってもみねぇだろうよ。」

 

「・・・明日学校休もうかな。」

 

「おい、せっかく綾が戻ってきたのに次はお前が不登校になる気か?

つーかそんなことしたら綾を傷つけちまうぞ?」

 

「うぅ・・・」

 

「そんなに悩まなくても、いつもどうりにやればいいだろ。」

 

「それができれば苦労しないってー。」

 

「たしかに普通はできないけど、

お前は猪熊陽子だろ?」

 

「・・・」

 

恨めしそうには睨んでくる陽子にエレンは笑って言う。

 

「いっちょ前に純情気取ってないで、鈍感に、無神経に、バカみたいに、お前らしくやればいいんだよ。」

 

「おい、バカにしてるだろ。」

 

「してねえよ。

そう言うところも含めて好きになったんだからな。

俺も、綾も。」

 

そう言ってエレンは微笑む。

 

「・・・うん、わかった。

やってみる。」

 

「おう、頑張れ。

じゃあそろそろ膝の上から降りるか?」

 

「ヤダ。」

 

「はいはい。」

 

エレンは陽子の頭を優しくなでた。

 

#####

 

翌日

 

綾はいつもの待ち合わせ場所で賢治と共に立っていた。

 

「はぁ、やっぱり気まずいわ。」

 

「大丈夫っスよ綾、きっとエレンがうまい事やってるはずっスから。」

 

「・・・うん。」

 

「ほら、来たっスよ」

 

綾が前を向くと、エレンと陽子とマリーがこちらに向かって歩いてきていた。

 

陽子は、いつものように笑顔でエレンと話をしている。

 

そして綾と目が合うと、笑顔を向ける。

 

「綾!おはよー!」

 

そう言って元気に手を振って近寄って来る陽子を見て、綾も自然と笑顔になる。

 

「おはよう、陽子。」

 

「綾、昨日の宿題やってる?」

 

「やってるけど・・・見せないわよ?」

 

「・・・えー、そんな事言うなよー。」

 

目の前でじゃれつく綾と陽子を、エレンと賢治は安心して見守っていた。

 

「とりあえずこれで一件落着・・・だな。」

 

「まだちょっとだけ引きずりそうっすけどね。」

 

「で?お前はどうすんだ?」

 

「・・・」

 

賢治のスマホには、メール作成画面が開かれており、そこには、

 

『改めて話したいことがあるんで、放課後、

残ってもらってもいいですか?』

 

と書かれていた。

 

賢治は深呼吸をするとメール送信ボタンを押した。

 

#####

 

放課後

 

賢治は緊張した面持ちで教室の前に立っていた。

 

(綾は・・・また新たに歩き出した。

・・・だから俺も。)

 

深呼吸をすると、賢治は教室の扉を開ける。

 

綾は、教室の中心で賢治を見つめていた。

 

「賢治・・・話って何?」

 

賢治は綾の目の前に立つと意を決して口を開く。

 

「綾、俺は━━」




佐藤賢治

高校一年生

男子メンバーきってのお調子者。













どうも作者です。

とりあえず今回の話で一区切りです。

次の話から時間は一気に飛んで夏休み編に入ります。

一話から今回の話まで、一応始まりをテーマにしています。

物語の始まり。

それぞれの恋の始まり。

そして、綾の新たな始まり。

と言った感じです。

ちなみに今回の話の中で、一部某アーティストの曲の歌詞を引用している部分があります。

みんなわかるかな?☆

最後に、今までを通してみてくださっている方々、本当にありがとうございます。

これからも宜しくお願いします。

評価、感想、お待ちしております!


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それぞれの夏休み編
第6話 夏休みの計画。


土曜日

 

工藤家

 

ピンポーン

 

「はーい。」

 

チャイムの音が聞こえると、エレンと遊びに来ていた陽子が玄関まで歩いていき、扉を開く。

 

「おいーっす。

いらっしゃーい。」

 

「みんな、おはよう。」

 

エレンと陽子がそう言うと、忍、アリス、

カレン、綾、賢治、蓮、隼人は挨拶を返す。

 

「おはようございます。

エレンくん、陽子ちゃん。」

 

「おはよう、エレン、ヨーコ。」

 

「おはようございマース!」

 

「おはよう、エレン、陽子。」

 

「どもっス。」

 

「オッスオッス。」

 

「おはよう。」

 

皆はエレンの家に入ると、リビングに通される。

 

蓮はソファーに寝転がり、賢治はテーブルの前に座る。

 

「ふーっ、いつ来てもここは涼しいな〜。」

 

「エレン、この家は客人に茶も出さないんスか?」

 

「帰ってどうぞ。」

 

「ヨーコ、マリーはいないんデスか?」

 

「部活だよ。」

 

三人がそんな会話をしていると、アリスが聞く。

 

「ねぇ、エレン。

今日はなんで私たちを集めたの?」

 

「あー、実はある人たちに頼まれてな。」

 

「ある人たち? 」

 

首をかしげるアリスの横で、忍と綾は微笑みながら言う。

 

「この時期ですと、アレですかね。」

 

「確実にアレね。」

 

アリスはさらに首をかしげる。

 

「ハヤト、アレって何?」

 

「まぁ、すぐわかるさ。」

 

ピンポーン。

 

「お、来たかな。」

 

チャイムが鳴りエレンが玄関に向かう。

 

そして、客人を連れてリビングに戻ってくる。

 

「やっほー、みんなー。」

 

「・・・よう。」

 

エレンとともに入って来たのは、雅人と零士だった。

 

「桐谷先生!それに・・・」

 

「ダーリン!」

 

突然のことに、アリスは驚き、カレンは零士にひっついた。

 

「こらバカ!ひっつくな!みんながいるんだぞ!」

 

「あー、大丈夫ですよ零士さん、もうみんな知ってるんで。」

 

「・・・まじで?」

 

エレンの言葉に、零士は唖然とする。

 

アリスは陽子に聞く。

 

「ヨーコ、なんで桐谷先生と冴島先生が来たの?」

 

「マサ兄とエレンが親戚同士なのは知ってるだろ?」

 

「うん、前に聞いた。」

 

「それつながりでちっちゃい頃から、私達は遊んでもらってるんだよ。」

 

陽子の説明に綾が続く。

 

「それで長期休暇に入ると泊りがけで遊びにつれていってくれるんだけど、

多分今日はその行き先を決めるんじゃないかしら。」

 

「Exactly、そのとうり、さすが綾。」

 

綾の説明に、雅人が楽しそうに言う。

 

「え、じゃあなんで関係の無い私やカレンも呼ばれたの?」

 

「いやぁ、今回はアリスちゃんとカレンちゃんも連れていきたいと思ってね。」

 

「え?私達も行っていいの?」

 

「もちろん、二人だけ仲間はずれなのは嫌でしょ?」

 

「まぁ、カータレットはともかく、九条は親の了解がいるだろうがな。 」

 

零士がそういった瞬間、カレンが携帯を掲げて叫ぶ。

 

「OK貰いまシタ!」

 

「早いな!」

 

「ダーリンも一緒って言ったら即答でシタ!」

 

「おい!何言ってんだ!」

 

「ちなみにダーリンが学校の先生ってママは知ってマス!」

 

「なんでお前の母親そんなに恋愛に対してアクティブなの!?」

 

「むしろ『不束な娘ですがお願いします。 』

と伝えて欲しいと言われまシタ!」

 

「やめろ!外堀を埋めるな!」

 

「早く結婚した方がいいんじゃないか。」

 

「殴るぞエレン!」

 

そんなやりとりを見て雅人は笑って言う。

 

「まぁ、この間はいろいろあったし、その労いも兼ねてみんなで遊びに行こうってことさ。」

 

「いろいろ?

なにかあったの?」

 

アリスが首をかしげる。

 

「あはは・・・」

 

陽子は引きつった笑みを浮かべ、

 

「//////」

 

「//////」

 

綾と賢治は見つめ合い、顔を赤くする。

 

「あー、そっか!

賢治と綾がカップルになったこと?」

 

「そ・・・そうそう!」

 

「その通りよアリス!」

 

「でもなんで労う必要があるの?」

 

「そ・・・それは・・・」

 

アリスへの返答に、綾が困っていると、

 

カレンがアリスの肩にポンと手を置く。

 

「いろいろあるんデスよ、アリス。」

 

カレンの言葉にアリスは再び首をかしげる。

 

「まぁ、できればマリーも交えて話したいんだけどね。 」

 

「勝手に決めといていいっていってましたよ。」

 

「そう、それじゃ、始めようか。」

 

#####

 

「さて、行く場所を決めるって言っても、大体の場所は決まってるんだよね。

皆、海と山どっちがいい?」

 

「それは勿論・・・」

 

雅人の問いに陽子が口を開く。

 

「海だろ。」

 

「山デス!。」

 

陽子と同時にカレンがそう言った。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

二人は無言で睨み合う。

 

「いやカレン、夏と言ったら海だろ。

確かに山もいいけど、暑い日は海で遊ぶのが醍醐味だろ。」

 

「暑いからこそ山に行くんデスよ陽子!

人が山に登るのはそこに山があるからなんデスよ!」

 

「ぐぬぬ、反論できない!」

 

「納得すんのかよ。」

 

零士が陽子にツッコンだ。

 

「とにかく海だ!」

 

「山です!」

 

「海!」

 

「山!」

 

「もう、二人とも落ち着いて。」

 

ここで綾が仲裁に入る。

 

「ここは間をとって家って言うのはどうかしら!」

 

「どことどこの間だよ!」

 

インドア発言をした綾に陽子がツッコンだ。

 

「ていうかあの2人だけで決める勢いだけどいいの。」

 

「俺は別にいいですよ。」

 

エレンの言葉に言い争っている2人以外が同意する。

 

「それならいいけどさ。」

 

雅人はそういうと陽子とカレンの方へ視線を戻す。

 

「よしカレン!こうなったらジャンケンで決着をつけるぞ!」

 

「望ところデス!」

 

ふたりはそう言ってにらみ合うと。

 

「「ジャン、ケン、ポンッ!」」

 

陽子がグーを出し、カレンがチョキを出した。

 

「山です・・・山がいいんです・・・。」

 

机に突っ伏して泣きながらそう言ったカレンの頭に陽子はポンッと手を置いた。

 

「しょうがないなー、じゃあ山でいいよ。」

 

「フジヤマー!」

 

「それは無理!」

 

そのやりとりを見ていた雅人が笑っていう。

 

「決まったみたいだね。」

 

「で、いつ行くんですか?」

 

「うーん、そうだねぇ。

みんなが夏休みの宿題やったりする時間もいるし、終業式の二週間後ぐらいかなぁ。」

 

「ま、細かい予定とかはこっちで決めるから、今日は解散だな。」

 

「じゃあね。」

 

雅人たちは帰っていった。

 

「そんじゃあ俺達も解散するか。」

 

「そうっスね。」

 

エレン達も解散し帰っていった。

 

 




雑な終で申し訳ないです。

さて、次回から本格的に夏休み編に入りますが他作品からのちょっとしたクロスオーバーを予定しています。
タグにもクロスオーバーを追加するつもりです。


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第7話 それぞれの夏休み(綾・賢治編)

綾の自室。

 

「木組みの家と石畳の街?」

 

電話をかけてきた賢治の口から出た言葉に、

綾は首をかしげる。

 

「聞いたことないわね。」

 

『実は隠れた名所らしいんっスよ。

そんで気になって調べたら最寄りの駅から直通の電車が出てるらしくて、

だからその・・・明日、一緒に行かないっスか?』

 

賢治の言葉に綾はドキッとして、聞き返す。

 

「そ・・・それって・・・デートってこと?」

 

『いや!その!別に嫌ならいいっていうか!

無理強いはしないっすよ?

でも出来れば綾と2人きりで行きたいなーなんて。』

 

綾は少しの沈黙の後、口を開いた。

 

「分かった・・・行く。」

 

『ま・・・マジすか!?』

 

「うん。」

 

『そ・・・それじゃあ明後日の朝9時に駅前でどうっスか?』

 

「ええ・・・いいわよ。」

 

『よ・・・よかったぁ、それじゃあまた。』

 

「・・・うん。」

 

綾は電話を切るとしばらくボーッとする。

 

「どうしよ・・・。」

 

綾はつぶやくとベッドの上でゴロゴロと転がり始めた。

 

「デートってなに着ていけばいいの!?

髪形とか変えたほうがいいのかしら!

化粧とかした方がいいの!?

どうしよ!どうしよう!」

 

涙目になりながらしばらく悶えると綾は携帯を手に取る。

 

「そ・・・そうだ!

陽子に相談すれば!」

 

と、電話をかけようとした手をピタッと止める。

 

(ちょ・・・ちょっと待って、

陽子とはあんな事があったばかりなのに、本当にいいの?

で・・・でも他に心当たりなんてないし・・・。)

 

綾は少し考え込むが。

 

「ええい!ままよ!」

 

そう言って電話をかける。

 

少しすると、陽子が電話に出た。

 

『もしもし綾?どうかした?』

 

「えっとあの・・・陽子に相談に乗ってもらいたい事があって。」

 

『相談?何?』

 

「あの・・・今度ケンと初デートする事になったんだけど・・・どうしたらいいか分からなくって。 」

 

『・・・』

 

「ご・・・ごめん、こんなこと相談されても困るわよね。」

 

『ううん、相談してくれた事は嬉しいよ。

でもその・・・期待には答えられないと思う。』

 

「え?」

 

『私も初デートの日に、張り切って自分なりに着飾って待ち合わせ場所に行ったんだよ。

そしたらエレンのヤツ哀れむ目をしながら、

『陽子に女子力とか期待して無いからあんまり無理すんな。』って・・・』

 

「なんというか・・・さすがエレンね。」

 

『女子力って何!?どうやったら手に入んの!?私が綾に聞きたいよ!』

 

「お・・・落ち着いて陽子!」

 

『・・・ごめん、取り乱した。

まぁとりあえず私が言えることがあるとすれば2つ。

下手に着飾らない!自然体が一番!

それと時には大胆に!』

 

「そ・・・そう。」

 

『だいたい綾はいつも通りで充分可愛いんだから問題ないって。』

 

「・・・うん、ありがとう。」

 

『また何かあったら相談してくれよ、あんまり力になれないかもだけどさ。』

 

「うん、じゃあまたね。」

 

『うん、またね、綾。』

 

その言葉を最後に電話は切れた。

 

綾はベッドに仰向けになり、天井を見上げる。

陽子の先ほどの言葉が脳内で再生される。

 

『綾はいつも通りで充分可愛いんだから問題ないって』

 

「フフッ、陽子らしいわね。」

 

昔は、顔を赤らめていた陽子の言葉に、

今は笑顔がこぼれる。

 

どうやら、陽子のことは完全に吹っ切れたようだ。

 

そう思うと、綾は安心すると同時に一つの悩みが浮かんでくる。

 

「このままでいいのかなぁ。」

 

あの日。

 

賢治に告白されたらあの日。

 

綾はそれを受け入れた。

 

だがそれは自分のすべてを受けとめてくれると言った賢治のことを信頼しているからである。

 

賢治と共にいて、ドキドキすることはある。

 

だがそれが恋心によるものなのか、綾には分からなかった。

 

そんな状態で付き合うのは、賢治に対して不誠実ではないか。

 

綾はそれで悩んでいた

 

(私、賢治の事、好きなのかしら。)

 

綾は、大きくため息を吐いた。

 

#####

2日後

 

駅前で待っていた賢治に綾が近寄る。

 

「お・・・お待たせ。」

 

「いや、今来たとこッスよ。」

 

「そ・・・そう。」

 

「・・・・」

 

「ど・・・どうかした?」

 

「いや、その・・・服。」

 

「服?」

 

綾は、白いワンピースを着ていた。

 

「な・・・何か変?」

 

「いや!そんなことないッス!

むしろその・・・スゲェ可愛いっス。」

 

「え////」

 

綾は、顔を耳まで真っ赤にする。

 

「あ・・・ありがとう////」

 

「じゃ・・・じゃあそろそろ行くっスか?

電車の時間もあるし。」

 

「そ・・・そうね////」

 

2人は駅まで歩いて行く。

 

賢治の隣を歩く綾は、賢治の手元に目をやる。

 

(手とか繋いだ方がいいかしら・・・。)

 

綾は、ゆっくりと賢治の手に自分の手を近づける。

 

すると賢治の手が動き、綾の手に当たる。

 

「うお!」「きゃっ!」

 

二人は同時に声を上げる。

 

「ご・・・ごめん!」

 

「こ・・・こっちこそごめんッス。」

 

そう言うと2人は沈黙してそのまま駅に着いた。

 

「切符はもう買ってあるんで、あとは電車を待つだけっすよ。」

 

「へぇ、準備がいいのね。」

 

「綾との初デートッスから。」

 

「っ/////」

 

綾は再び顔を赤くする。

 

賢治も言って恥ずかしかったのか目を背ける。

 

「あ、ちょうど今日行く場所のパンフがあるッスよ!?」

 

「あ・・・あら本当ね、せっかくだから貰っていきましょう」

 

パンフを取り、しばらく待つと電車がやってきた。

 

その電車を見て、綾が呆然とする。

 

「・・・ねぇ、ケン。

私達が今から行くのって日本国内よね?」

 

「そ・・・そのはずッスけど。」

 

「どう見ても外国仕様なんだけど・・・」

 

「いや、ここから外国に電車でつながってるなんて聞いたことないっすよ?」

 

「・・・とりあえず、乗りましょうか。」

 

「そうっスね。」

 

二人は電車の中に入り席に着く。

 

綾の隣に賢治が座る。

 

「ここからどれくらいかかるの?」

 

「えっと、2時間くらいっすね。」

 

電車が動き始めると綾は、先ほど手に入れたパンフレットを読む。

 

「へぇ、街の雰囲気も外国みたいで素敵ね。

水先案内人もいるのね、楽しそう。

・・・ん?」

 

綾は、パンフレットの一文に目をやる。

 

「・・・街にはたくさんの野良うさぎが生息。」

 

綾がそういった瞬間賢治は体をビクッとさせる。

 

「ケン、もしかしてこれが目的だったりする?」

 

「いや!もちろんメインは綾とのデートっスよ!?

でもどうせなら自分も楽しみたいなーていうかそのー・・・はい、すいませんでした。」

 

謝る賢治をみて、綾はクスッと笑みをこぼす。

 

「別に怒ってないわよ、賢治が動物好きなのは知ってるし。

獣医目指してるくらいだものね。」

 

「いやぁ、ははは。」

 

「まぁそれを叶えるなら、もっと勉強しないとね。」

 

「そ・・・それは言いっこ無しっすよ綾!」

 

「フフッ。 」

 

「でも良かったっす。」

 

「なにが?」

 

「だって綾、やっと笑ってくれたっす。」

 

「え?」

 

賢治は頬をぽりぽりと掻きながら言う。

 

「全然笑ってくれないから俺とのデート楽しくないのかなぁって思ってたっす。」

 

「そ・・・それはその・・・初めてのデートで緊張してたから////」

 

「え?綾もっスか?実は俺もなんスよ。

お互いに緊張してたらそりゃ会話弾まないっスよねー。」

 

「フフッ、そうね。

でも今日はせっかくだし楽しみましょう。」

 

「え?いいんスか?ウサギモフリまくるっすよ?

リミッター外しちゃうっスよ?」

 

「人前では恥ずかしいから自重してよ?」

 

2人はその後、駅につくまで談笑した。

 

#####

 

駅に着き、電車を降りた2人は呆然としていた。

 

「・・・ねぇ、綾。」

 

「なに?ケン。」

 

「俺、パスポート持って無いんスけど、

捕まっちゃうんっスかね。」

 

「落ち着いて、ここは日本よ。」

 

賢治は目の前に広がる日本とは思えない光景に愕然としていた。

 

「駅でこれって外に出たらどうなるんスか。」

 

「もっと凄いんじゃない?」

 

二人は駅を出て外に出る。

 

そこには日本とはかけ離れた光景が広がっていた。

 

あちらこちらに木組みの家が並び、通路は石畳で出来ている。

 

水路にはゴンドラが浮かび、水先案内人が観光客を案内している。

 

「…( ゚д゚)」

 

「ケン!?大丈夫!?」

 

「オレノシッテルニホンジャナイ。」

 

「ショックのあまり片言になってる!?」

 

「なんスか・・・ここ、本当に日本っスか。」

 

「パンフでも見たけど、実物を見るとさらに凄いわね。」

 

2人はしばし呆然とする。

 

「でも、楽しそうっすね。」

 

「・・・そうね。」

 

綾が微笑むと賢治は照れくさそうにいう。

 

「それでその・・・綾。」

 

「何?」

 

「お・・・俺と、手をつないでくれないっスか?」

 

「え////」

 

賢治の急な申し出に綾は顔を赤くする。

 

「そ・・・そうね、初めての場所ではぐれちゃ駄目だもんね。」

 

「いや、そうじゃなくて・・・えっと。」

 

賢治は決心したように真剣な目で言う。

 

「俺が、綾と手を繋ぎたいからとかじゃ、ダメッスか?」

 

「/////」

 

綾は顔を真っ赤にして首を横に振る。

 

「ううん、駄目じゃない////」

 

そう言って綾右手を差し出す。

 

「よ・・・よろしく・・・お願いします。」

 

綾がそう言うと賢治は綾の手を恋人つなぎの形で握る。

 

「//////」

 

「//////」

 

二人共、顔を真っ赤にしている。

 

賢治は深呼吸をすると。

 

綾に微笑んで言う。

 

「綾、行くっすよ。」

 

「・・・うん。」

 

綾も賢治に優しく微笑んだ。

 

#####

 

「いやぁ、ゴンドラ楽しかったっスねぇ。」

 

「そうね、甘味処も美味しかったし。」

 

「メニューの名前凄かったっスけどね。」

 

「でもホントにウサギだらけね、この街。」

 

「滅茶苦茶モフモフだったっスね。」

 

「たしかに可愛かったわね。」

 

「綾、次どこ行きたいっスか?」

 

「うーん、そうね。」

 

綾はパンフレットを見てしばらく悩む。

 

「せっかくだし、パンフレットに載ってないような地元の人しか知らないところに行ってみたいわね。」

 

「ああ!いいっスねそれ!

早速人に聞いてみるッス。」

 

賢治が聞き込みをしようとしていると。

 

「いやあああああ!」

 

どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 

「な・・・なんスか?」

 

綾と賢治が辺りを見渡すと。

 

「こっち来ないでええええええ!」

 

一人の少女がなにかから逃げていた。

 

「何かに追いかけられてるみたいだけど・・・アレって・・・」

 

「・・・ウサギッスね」

 

ウサギに追いかけられている少女は悲鳴を上げながら裏路地に逃げ込む。

 

「ねぇ賢治、助けた方がいいんじゃない?」

 

「そうっスね。」

 

2人は少女を追って裏路地に行く。

 

と、そこではちょこんと座るウサギと、

 

「そ、それ以上近づいたら、舌噛み切って死んでやるから!」

 

そのウサギの前で物騒なことを叫んでいる金髪の少女がいた。

 

賢治はウサギを持ち上げる。

 

「コラ、女の子怖がらせたらダメっスよ。」

 

そう言って賢治は、路地裏の外にウサギを逃がした。

 

綾が少女に駆け寄る

 

「大丈夫?」

 

「は・・・はい。」

 

少女は立ち上がると、ペコッと頭を下げる。

 

「た、助けていただいてありがとうございました。」

 

「別にいいっスよ。

あ、そうだ、俺達観光客なんスけど、ここら辺で地元の人しか知らない所ってあるっスか?」

 

賢治が聞くと、少女は言う。

 

「それなら━━。」

 

#####

 

「ここっすね、ラビットハウス。」

 

「外観はいい雰囲気ね。」

 

「とりあえず入ってみるッス。」

 

賢治と綾は、扉を開き店の中に入った。

 

「貴様ぁ!私の背後に立つな!」

 

「ヒィィィ!ごめんなさいリゼちゃん!」

 

目の前でツインテールの少女が、オレンジの髪の少女に銃を突きつけていた。

 

「あ。」

 

リゼと呼ばれた少女がこちらに気づいた。

 

「し・・・失礼しました。」

 

「待ってください!誤解です!誤解ですから!」

 

リゼは必死に賢治たちを引き止めた。

 

#####

 

「いやぁ、ビックリしたっスよ。

平和な街の闇の部分を見たかと思ったっス。」

 

綾とともに席についた賢治は目の前で顔を赤くしているリゼに言う。

 

「これは護身用だ。

私は父が軍人で、小さいころから護身術とかいろいろ仕込まれているだけで・・・、

普通の女子高生だから信じろ。」

 

「普通の女子高生は護身用とはいえ銃は携帯してないわよ。」

 

リゼはごほんと咳払いをする。

 

「ご注文はお決まりでしょうか、お客様。」

 

無理やり誤魔化したリゼに苦笑いをしながら

2人は注文する。

 

「じゃあ、私、アイスココア。」

 

「俺もそれで、あとお手洗い借りていいっスか?」

 

「はい、あちらでございます。」

 

「すいません綾、ちょっと行って来るっス。」

 

「ええ、いってらつしゃい。」

 

賢治がトイレに行ったのを見送ると、ため息を吐く。

 

「どうしたの?」

 

声をかけられそちらを向くと先ほど銃を突きつけられていた少女が心配そうに見つめていた。

 

「おいココア、お前急に・・・。」

 

「だってリゼちゃん、この子何か悩んでるみたいだし。」

 

「・・・たしかにな、歳も近いようだし私達でよければ相談に乗るぞ?」

 

「・・・ありがとう。」

 

親切な2人に綾は話し出す。

 

「今日一緒に来ている彼、

最近までただの友達だったんだけど、

ついこの間告白されて・・・。

それで信頼できるから付き合いだしたんですけど、

彼のことを好きなのかどうかよく分からなくて。

このままで付き合ってて本当にいいのかなぁ・・・って」

 

言い終えてリゼの方を見ると、顔を赤くしていた。

 

「ど・・・どうしたの?」

 

「すまない、余りにも乙女な悩みだったからつい・・・ココアはどう思う?」

 

ココアは少し考えて言う。

 

「うーん、私はこのままでいいと思うけどなぁ。」

 

「好きでもないのに付き合うって、お試しで付き合ってるみたいじゃない?」

 

「なんで?信頼してるから付き合ったんでしょ?」

 

「・・・うん」

 

「信頼して付き合ったって事は。

これからこの人の事を好きになれるって思ったからでしょ?

そうじゃなければ告白された時断ってるはずだよね。」

 

「そ・・・それでもあっちは私のことが好きだから告白してくれたのに・・・」

 

「恋人同士なる前でも後でも、」

 

ココアはニッコリと笑って言う。

 

「人を好きになるって、それだけで素敵だと、私は思うな。」

 

言い切ったココアに綾は何も返せなかった。

 

「ココア、お前すごいな。」

 

「え?なにが?」

 

ココアはキョトンとして首をかしげる。

 

「そっか・・・そうよね。」

 

綾がそうつぶやくと同時に、賢治が戻ってきた。

 

「お待たせッス、ん?なんか話してたっスか?」

 

「ううん、なんでもない。」

 

「あ!そうだ!アイスココア!」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

仕事に戻ろうとするココアを綾は慌てて呼び止める。

 

「えっと・・・ありがとね。」

 

ココアは綾に笑顔で返事を返す。

 

「どういたしまして!」

 

#####

 

ラビットハウスを出た賢治と綾は、

土産屋でお土産を買い、公園で休んでいた。

 

賢治が膝の上でウサギをマッサージしている。

 

「ここをマッサージしてやると喜ぶんっスよ。」

 

「フフフ、ほんとに気持ちよさそう。」

 

綾は夕焼け空を見上げる。

 

「楽しかったけどそろそろ帰らないとね。」

 

「あ、帰る前に綾に渡したい物があるんスよ。」

 

「え?何?」

 

「えっと、とりあえず腕を出して目を閉じてもらってもいいっスか?」

 

綾は言われたとおりにする。

 

「もういいっすよ。」

 

綾が目を開けると、

 

「賢治・・・これ。」

 

綾の腕にはうさぎの刺繍が入ったブレスレットがつけられていた。

 

「さっきの土産屋で買ったんっすよ。

綾に似合うと思って。」

 

賢治がそう言うと綾は自分の胸を押さえる。

 

(あぁ、まただ、またドキドキしてる。)

 

告白されてからいままで、賢治と一緒にいて感じてきた感情。

 

それは自分がよく知るものだと、今の綾は確信を持っていた。

 

「ケン・・・ううん、賢治。

私ね。」

 

綾は賢治に笑顔を向けると、

 

「貴方のこと、好きよ。」

 

そう言った。

 

「ど・・・どうしたんすか綾、そんな急に////」

 

「フフッ、ちょっと言いたくなっただけ。」

 

「そ・・・そうすか。

・・・綾。」

 

賢治は、意を決したように綾の目を見つめる。

 

綾も覚悟を決めて目を閉じる。

 

そして少しすると、獣臭く、柔らかい感触━━

 

(獣臭い?)

 

綾が目を開くと、目の前で賢治が顔を赤くしてウサギを持ち上げていた。

 

「賢治・・・」

 

「・・・ごめんなさいっス。」

 

「私が覚悟決めたのにどうしてそこでヘタレるのよ!」

 

「いざやるとなったら無理だったんスよ!」

 

綾は思い出していた。

 

賢治も自分と同じく、いや、それ以上のヘタレである事を。

 

それと同時に、陽子のアドバイスも思い出していた。

 

(時には・・・大胆に!)

 

綾は顔を赤くすると、賢治の胸ぐらをつかんで引き寄せると、

 

「ちょっ!?綾!?むぐっ!」

 

賢治に口づけをした。




というわけで今回は
『ご注文はうさぎですか?』とのクロスでした!
こういうクロス回をこれからもちょいちょい出来ればいいと思ってます。
出来れば余り誰も知らないマニアックな作品とのクロスとか出来ればいいなぁと思っています。

あと、クロスする作品名はタグに追加しません。
サプライズ方式で楽しんで欲しいので。


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第8話それぞれの夏休み(陽子・エレン編)

「エレン!海に行こう!」

 

自宅のリビングにあるソファーの上でくつろいでいるエレンの前で、陽子は高らかに叫んだ。

 

「・・・諦めてなかったのかよ。」

 

「あの時はカレンに譲ったけどさぁ!やっぱり海行きたい!」

 

「別にいいだろ、今度のキャンプなんだかんだ言ってお前楽しみにしてんだろ。

それで我慢しろよ。」

 

「お前が普段体を鍛えてるのはなんのためだ!海で泳ぐためだろ!」

 

「そんな極端なことのために鍛えてんじゃねぇよ。」

 

「じゃあなんのためだよ!」

 

「お前を押し倒すためだよ!」

 

「そっちの方が極端だろ!

あとそういう返事に困ることを言うな!」

 

エレンの言葉に陽子は顔を赤くするが、すぐいつもの調子に戻る。

 

「なぁエレン、行こうよぉ海ぃ〜。

マリーも連れてさぁ。」

 

「マリーならいねぇぞ。」

 

「え?」

 

「今朝、『北アルプスを縦走してくる。』って言って出て行った。」

 

「相変わらずアグレッシブな妹さんですね!」

 

「試合前だから精神統一するためにだって。」

 

「山で精神統一って・・・アグレッシブ通り越してフリーダムだなぁ。

でもそれならなおのこと二人で行こうよ!」

 

「やだよ、こんなクソ暑い日に。」

 

「むぅ(エレンめぇ・・・よし、こうなったら。)」

 

陽子は自信満々でエレンにいう。

 

「いいのかぁ?エレン、私の水着姿を拝めるチャンスだぞ?」

 

「あ?水着なんて家の中で無理やり着せりゃあいいだろ。

むしろそっちの方がそそる。」

 

「変態だぁ!」

 

「あと自分で言って恥ずかしくなってんじゃねぇよ。

顔真っ赤だぞ。」

 

「うぅ・・・」

 

とうとう陽子はカーペットの上に寝転がり、子供のように駄々をこねだした。

 

「行きたい行きたい海行きたいー!」

 

「あーもう、うっせぇな。

そんなに行きたきゃ、俺を萌えさせてみろ。」

 

エレンがふざけてそういうと、陽子はソファーに座っているエレンの膝の上に正面を向いてまたがり、両腕をエレンの首に回して額を合わせて一言。

 

「エレン、海行きたい。」

 

#####

 

翌日

 

「うーみーうーみー海海うーみー♪」

 

(俺もチョロいなー。)

 

海に向かう電車の正面を向いているタイプの座席に陽子とエレンは座っていた。

 

「見ろよエレン!海が見えてきたぞ!」

 

「陽子、ガキじゃねぇんだから大人しくしてろ。」

 

エレンの忠告も聞かず、テンションの上がりきった陽子は窓から外を眺めて小さな子供のようにはしゃいでいる。

 

(まぁ、陽子の楽しそうな顔が見れたからよしとするか。)

 

と、なんだかんだ言って陽子に甘い自分に、エレンはため息をつくのであった。

 

#####

 

「海だぁぁぁぁぁぁ!」

 

海水浴場に着くなり、陽子は大声で叫んだ。

 

「お前なぁ、ガキみたいに騒ぐんじゃねぇよ。

恥ずかしいだろが。」

 

「いやっほおおおお!」

 

海に向かっていこうとする陽子の肩をエレンが掴んで止める。

 

「ちょい待ち、服のまま泳ぐ気か?

まずは更衣室で着替えてからだろ。」

 

「あぁ、そっか、ごめんごめん。」

 

その後、2人は更衣室に着替えに向かった。

 

先に水着に着替え終わったエレンは、浜辺にシートを敷いて待機していた。

 

「それにしても・・・やっぱり人が多いなぁ。」

 

夏休みシーズンということもあって、

周りは人々がごった返していた

 

「思い出してみると、陽子と2人で海なん初めてかもなー。」

 

たまにはこういうのもいいかも知れない、そう思っていると。

 

「エーレン♪」

 

背後から陽子が抱きついてきた。

 

「ったく、いきなり抱きつくんじゃねぇ・・・よ。」

 

背中に感じる柔らかい感触に、動揺ぜずに振り返るが、思わず言葉を失った。

 

「ん?どうした?エレン。」

 

陽子のスタイルのいい体をビキニタイプの水着が際立たせる。

 

一瞬五体投地で感謝しそうになる衝動をなんとか抑え、エレンは咳払いをする。

 

「なかなか似合ってんじゃねぇか。

新しく買ったのか?それ。」

 

「あー、うん。

あんましこういうの分かんないからカレンに付き合ってもらったんだ。」

 

「別にわざわざ新調しなくても今まで着てたので良かったんじゃねぇのか?」

 

「た・・・確かにそうだけど・・・その。」

 

陽子は顔を赤くすると恥しそうに目をそらしながら言う。

 

「エレンの前でくらい、かわいい女の子になれたらなぁって思って・・・。」

 

「・・・陽子。」

 

「な・・・なんだよ。」

 

「抱きしめてもよかですか?」

 

「だ・・・駄目!人が見てるだろ!」

 

「可愛い事言っといてそれは生殺しですよ!」

 

「とにかく駄目!そんなことより早く泳ぎに行くぞ。

ほら早く。」

 

「しょうがねぇな。

今日はとことん付き合うぜ。」

 

「・・・言ったな?」

 

エレンの言葉に陽子は怪しく微笑んだ。

 

#####

 

本気(マジ)ですか陽子さん。」

 

陽子がやると言い出したのは、

エレンたちがいる場所から50メートルは離れている岩場までの競泳だった。

 

「とことん付き合うって言っただろ?」

 

「言ったけどさぁ、いきなりハードすぎね?」

 

「大丈夫だって、ほら行くぞ。」

 

「・・・はぁ。」

 

エレンはため息を吐きながら構える。

 

「行くぞ、よーい・・・ドン!」

 

二人は一斉にスタートした。

 

(やるからには、負けらんねぇよな。)

 

エレンはクロールで泳いでいき、しばらくすると目標の岩場にたどり着く。

 

少し遅れて陽子も到着し、2人とも岩場にしがみつく。

 

「ハァ、ハァ、あー、負けたー!」

 

「ふぅ、なんとか勝てたな。」

 

「それにしても・・・。」

 

陽子がエレンを見つめて微笑みながら言う。

 

「本当にエレンは強くなったよな。」

 

「あ?なんだよ急に。」

 

「小学生の頃は同級生にいじめられて泣いてたのを、私が守ってやる立場だったのに。

今じゃ逆だもんなぁ。」

 

「い・・・いつの話をしてんだよ。」

 

「泣き虫エレンはもう見れないかな?」

 

「うるせぇ。」

 

「あははは。」

 

「・・・でもまぁ、あれだ。」

 

エレンは、小さく微笑んで陽子に言う。

 

「お前がそう思ってくれてるなら、鍛えたかいがあったかな。」

 

「え。」

 

エレンの言葉に、陽子は不意をつかれる。

 

「そ・・・それって・・・」

 

「よし、次は浜までだな、よドン!」

 

「あ!ずっこい!よドンってなんだ!よドンって!」

 

先に泳いで行ったエレンを、陽子は急いで追いかけた。

 

#####

 

海の家の前。

 

「さぁて、飯も食ったし、もうひと泳ぎするか、エレン。」

 

「自分、食休み良いっすか?」

 

「なんだよ情けないなぁ。」

 

「ていうかお前はあんだけ食って大丈夫なのかよ。」

 

「全然大丈夫、むしろまだ足りないくらい。」

 

「カービィーかな?

・・・ん?」

 

「どうしたエレン。」

 

エレンの視線の先を陽子が見ると、

男の子が1人、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

「あの子どうしたんだろ。」

 

「ひょっとしたら迷子かもな。」

 

2人は、心配になって声をかける。

 

「おい坊主、こんなところで何してんだ?」

 

エレンに急に話しかけられた男の子は、体をビクゥと震わせる。

 

「こらエレン、怖がらせちゃダメだろ?」

 

「何もしてねぇよ。」

 

陽子がしゃがんで、男の子と視線を合わせる。

 

「大丈夫だぞ、このお兄ちゃん言葉遣いは乱暴だけど、怖くないからな。」

 

男の子は小さく頷く。

 

「で、お前名前はなんて言うんだ。」

 

「・・・タケル・・・小学一年生。」

 

「タケルか、私は陽子って言うんだ。

そっちの兄ちゃんはエレンな。

それでタケルは一人で何してたんだ?」

 

「お母さんと・・・はぐれちゃって・・・」

 

「やっぱり迷子か。」

 

エレンがつぶやくと、タケルの目にじわぁと涙が浮かびその場にしゃがみこんだ。

 

「ったく、しゃあねぇな。

陽子、金渡すから自販機でジュース買ってきてくれ、こういう時は男同士のほうが話しやすいだろ。」

 

「わかった!」

 

陽子はエレンから金を受け取ると、自販機に向かった。

 

エレンはタケルの横に座り込む。

 

「おい、いつまで泣いてんだ、男がめそめそ泣くんじゃねぇ。」

 

「・・・無理だよ、僕弱虫だもん。

そのせいで学校でいじめられてるし・・・。」

 

「お前、いじめられてんのか?」

 

「うん。」

 

「・・・そっか。」

 

エレンは、海を眺めてつぶやく。

 

「俺もな?お前ぐらいの年の頃、いじめられてたんだよ。」

 

「・・・え?」

 

タケルが驚いた様子でエレンを見る。

 

「俺、所謂ハーフって奴でさ、髪の色と顔のせいで昔はよくいじめられたもんだ。」

 

「・・・そうだったんだ。」

 

「でもな、守りたい奴ができたんだよ。」

 

「守りたい・・・奴?」

 

首を傾げるタケルに、エレンは続ける。

 

「そいつは、俺がいじめられてたらいっつも飛んできてな?

俺を庇って喧嘩して、俺の代わりに怪我してさ、痛いくせに大丈夫だからって馬鹿みたいに笑ってたんだ。

そいつを見てるうちに、思ったんだ。

いつかこいつを守れるくらい強くなろうって。

そっから鍛え始めて、今に至るってわけだ。」

 

「お兄ちゃん、その人のこと大好きなんだね。」

 

「おう、ベタ惚れだな。」

 

エレンは笑うと、タケルの頭に手を置く。

 

「人間、強くなるきっかけなんて人それぞれだ、だからタケル、この先はお前が決めろ。

このまま弱虫のままでいるか、腹括るか、

全部お前次第だ。」

 

「・・・うん。」

 

タケルは、涙を腕で拭った。

 

「おっ、いい面構えになったじゃねぇか。」

 

エレンはタケルの頭をわしわしと撫でると、立ち上がった。

 

「それにしても陽子の奴遅ぇな。

タケル、迎えに行っていいか?」

 

「うん。」

 

エレンはタケルとともに、陽子を迎えに行った。

 

#####

 

陽子は自販機で缶ジュースを買って、エレン逹の所へ戻ろうとしていた。

 

(エレン、上手いことやってるかな。)

 

その陽子に、3人組の男が話しかける。

 

「ねぇ君、今1人?」

 

「今あっちでビーチバレーやってんだけど、

一緒にやんない?」

 

いくら能天気な陽子でも、これが何かはわかる。

 

所謂ナンパという奴だ。

 

「・・・悪いけど、今彼氏と来てるから。」

 

「えぇ、こんな可愛い彼女一人にする彼氏とかないわー。」

 

「そんな奴ほっといてさ、俺らと遊ぼうよ。」

 

普通は彼氏がいるといえば退くものだが、

この不良たちはしつこいらしい。

 

「いいって、もう彼氏のとこ戻るし。」

 

「いいから行こうよー。」

 

そう言って男は陽子の腕を掴もうとする。

 

「触んな!」

 

パシッ!

 

陽子が男の腕を払い除ける。

 

「チッ、この(あま)ぁ!」

 

男が陽子を突き飛ばすと、陽子は後ろに尻餅をついた。

 

「痛ったっ・・・。」

 

男は拳を振り上げる。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

と、その腕を横から割り込んだ手が掴む。

 

「・・・なぁ、兄さん方、

そいつ俺のツレなんだけど・・・何してんの?」

 

男の腕を掴んだエレンは、鋭く睨みつける。

 

その眼光に、男はたじろいだ。

 

「べ・・・別に何も・・・。」

 

男の腕を掴んでいるエレンの手に力が籠り、

ミシッと鈍い音がなる。

 

「目の前で他人様の女突き飛ばしといて、何もしてねぇで済むわけねぇよなぁ。」

 

「ヒィ!」

 

エレンの怒気を孕んだ声に、男が悲鳴をあげる。

 

「エレン!」

 

陽子が呼ぶと、エレンはそちらを向く。

 

「私は大丈夫だから、それ以上は・・・。」

 

陽子がそう言うと、エレンは男の腕を放した。

 

「失せろ、二度と面見せんな。」

 

男達はそそくさと撤退していった。

 

エレンは陽子の手を掴んで立ち上がらせる。

 

「大丈夫か陽子。」

 

「うん、ちょっと擦りむいちゃったけど。」

 

「ごめんな、一人で行かすんじゃなかった。」

 

「いいって、それよりタケルは?」

 

「陽子姉ちゃん!」

 

タケルが陽子に駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だった!?」

 

「うん、ごめんな、心配かけて。

はいジュース。」

 

陽子がジュースをタケルに渡す。

 

「タケル!」

 

声の方に目を向けると、一人の女性が駆け寄ってきた。

 

「お母さん!」

 

女性はタケルに泣きながら抱きついた。

 

「全くあなたって子は!心配したんだからね!」

 

「ごめんなさい・・・。」

 

女性は立ち上がると、エレンと陽子に頭を下げる。

 

「うちの子がお世話になりました!」

 

「いいえ、気にしないでください。

良かったな、タケルお母さんが見つかって。」

 

「あんまりお袋さんに迷惑かけんじゃねぇぞ?」

 

「うん・・・ねぇ兄ちゃん。

僕も・・・兄ちゃんみたいに強くなれるかな?」

 

タケルがそう聞くと、エレンは優しく微笑んでいう。

 

「さっき言ったろ、それはお前次第だ。」

 

「・・・うん。」

 

タケルは、母親と歩いていった。

 

「さてと、私達も行くか。」

 

「ちょっと待て。」

 

エレンが陽子の腕をつかむ。

 

「な・・・なんだよ。」

 

「大丈夫なんて法螺吹きやがって、思いっきり足捻ってんだろ。」

 

「タケルに心配かけちゃいけないと思ってたんだけど・・・やっぱバレた?」

 

「当たり前だ、何年一緒にいると思ってる。

とりあえずこっち来い。」

 

エレンは陽子を座らせると、バッグから湿布を出して陽子の足に貼る。

 

「用意周到だな。」

 

「まぁ、備えあれば憂いなしってな。

よし、終わった。」

 

エレンは立ち上がって言う。

 

「とりあえず、今日はもう帰るぞ。」

 

「うん・・・ごめんなエレン、私から誘っといて。」

 

「いいって気にすんな。」

 

「でも・・・。」

 

「・・・陽子。」

 

エレンは、陽子の目をまっすぐ見て言う。

 

「お前この間俺に聞いたよな?

『お前が体を鍛えてるのはなんの為だ』って。」

 

「うん。」

 

「俺、あの時はふざけたこと言ったけど、ホントの事言うと・・・お前を守りたいからなんだ。」

 

「・・・え////」

 

「ガキの頃、俺は泣いてばかりでお前に助けられてばかりだったよな。

だから・・・今度は俺の番だ。

俺に陽子を守らせてくれ。」

 

エレンがそう言うと、陽子は顔を背ける。

 

「・・・陽子?」

 

エレンが覗き込むと、陽子の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「ごめん、私今、エレンのこと直視できない////。」

 

「・・・陽子。」

 

「・・・なんだよ。」

 

「抱きしめてもよかですか?」

 

「・・・うん、許す。」

 

エレンは陽子の体を優しく抱きしめた。

 

#####

 

数日後。

 

エレンは陽子と街を歩きながら、スマホを見ていた。

 

「マリーの奴、明日には帰ってくるってよ。」

 

「マジで縦走したのかアイツ。」

 

マリーからのメールを陽子と見ていると、

 

「あ!エレン兄ちゃん!陽子姉ちゃん」

 

聞き覚えのある声に振り返ると、顔に傷だらけのタケルが走ってきた。

 

「タケル!ここら辺に住んでるのか?」

「うん!」

 

元気に返事をするタケルにエレンが微笑んで言う。

 

「派手にやられたな。」

 

「うん、でも・・・次は負けない!」

 

「そっか。」

 

「兄ちゃん。

僕・・・俺、強くなって、いつか好きな子ができたら兄ちゃんみたいに守ってやるんだ!」

 

「そっか・・・がんばれよ。」

 

「うん!」

 

タケルは元気よく返事をすると走り去っていった。

 

「お前、タケルに何吹き込んだ?」

 

「別に何も。」

 

今はまだ小さな背中が見えなくなるまで、エレンは見つめていた。



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第9話それぞれの夏休み(カレン・零士編)

とあるマンション、零士の部屋。

 

零士は、ベッドの上で寝転がり、漫画を読んでいた。

 

ピンポーン。

 

「はーい。」

 

インターホンがなり、零士が扉を開くと、

一人の少女がいた。

 

つばのついた帽子を眼深にかぶり、サングラスをかけ、口にはマスクを着用している。

 

そして何よりも特徴的だったのは、見覚えよある長く、美しい金色の髪であった。

 

「ヘイダーリン!遊びに来まシター!」

 

目の前の少女は、間違いなく、九条カレンであった。

 

零士は、反射的にカレンの腕を掴んで部屋の中に引きずりこんだ。

 

そして扉の鍵を締めると叫ぶ。

 

「何やってんだお前!!」

 

「遊びにきまシタ!」

 

「それは分かったよ!

いやまだ認めたくない現実だけど!

どうしてお前が俺の家知ってんだよ!」

 

「マサトさんに聞いたら教えてくれました。」

 

カレンがそう言うと、零士はスマホで雅人に電話をかける。

 

『はいもしもし、桐谷です。』

 

「雅人、お前殺すぞ。」

 

『いきなりご挨拶だね零士。

何かあったの?』

 

「何かあったの?じゃねぇよ!

てめぇ何勝手に俺の家の住所教えてんだよ!

しかも一番教えちゃまずい相手に。」

 

『あー、カレン無事に着いたんだね。

よかったよかった。』

 

「よかねぇよ!何勝手なことしてくれてんだゴラァ!」

 

『いやぁ、「みんなが知ってるのに私だけ知らないのは不公平デス!」って言われちゃってさ、教えないわけには行かないでしょ。』

 

「建前はいい、本音を言え。」

 

『面白いからに決まってるじゃん。』

 

「ぶっ殺す!」

 

『あ、ごめん、俺今からすちゃんとデート中だから。

じゃあね。』

 

「あ、おい待て!」

 

電話はそこで切られた。

 

「あの野郎・・・。」

 

「ねぇねぇダーリン!」

 

「なんだ、九条。」

 

カレンは頬を膨らませる。

 

「また名前で呼んでくれませんでシタ。」

 

「当たり前だろ、お前は生徒で俺は教師なんだから。」

 

「それならヨーコ達だって生徒デスよ?」

 

「だから学校では苗字で呼んでるだろ。」

 

「でもここは学校じゃないデスよね?」

 

「うっ・・・。」

 

カレンはニコニコと笑いながら零士を見ている。

 

「なんだ・・・カレン。」

 

「そうデス!それでいいんデス!

それでダーリン、実はこんなものがあるんデス!」

 

カレンはポケットからチケットを二枚取り出した。

 

「なんだそれ。」

 

「遊園地の無料入場券デス!

ダーリンのところに行くって言ったらマムがくれまシタ!」

 

「なんでお前の母親俺とお前のことそんなに応援してんの!?

普通は止めるところだろ!。」

 

「親の了解がある以上!

もし学校の関係者に見つかってもいくらでも言い訳は聞きます!

だがら問題ありません!」

 

「なんでそんな所だけ流暢な日本語になるんだよ!」

 

「エレンとヨーコ、それとアヤとケンはデートに行ったらしいデス!

私たちも行きまショウよ!ダーリン!」

 

「そいつらは付き合ってんだから当たり前だろうが!

ていうかダーリンっていうな!」

 

「・・・ダーリン。」

 

カレンは涙目上目遣いで零士を見て言った。

 

「ダメですか?」

 

#####

 

(どうして・・・どうして俺は。)

 

レールを登っていくジェットコースターの上で零士は自分に問うていた。

 

隣では楽しそうな笑顔を浮かべるカレンがいる。

 

(どうして俺は、生徒と遊園地にいるんだろう・・・)

 

そう思った瞬間、ジェットコースターが坂道を急降下する。

 

「いやっほおおおおお!」

 

「・・・」

 

楽しそうに声を上げるカレンの横で、零士は終始無表情だった。

 

#####

 

「ジェットコースター最高でしたね!ダーリン!」

 

「・・・ああ。」

 

「次は何に乗りまショウか!」

 

「・・・ああ。」

 

「さっきからどうしたんでデスか?

何だかとっても暗いデスよ?」

 

「いや、ごめん、今自己嫌悪中だから。」

 

「来ちゃったものは仕方ないんデスから、

一緒に楽しみましょうよ。」

 

零士はため息を吐く。

 

(確かにカレンの言う通りだ、なんで俺がこんなに落ち込まなけりゃあいけないんだ。

もとはと言えばこれは全部・・・。)

 

零士が顔を上げると、カレンの後ろに見覚えのある顔を見つけた。

 

こちらと目が合って固まっているその男は、正しく今回の元凶、雅人であった。

隣には、一緒に来ていたのか、さくらもいる。

 

「まぁぁぁぁさぁぁぁぁとぉぉぉぉ!」

 

零士は雅人に向かって全力で駆け出した。

 

雅人も零士から逃げようと駆け出すが、

タックルで押し倒され無理やり立たされたと思えば、足を掴まれドラゴンスクリューで地面に叩きつけられる。

 

その後、倒れている雅人に零士は4の字固めをキメた。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!!

雅人、折れる!折れるって!!」

 

「むしろ折れろこの野郎!」

 

その様子をさくらは微笑みながら見ていた。

 

「フフフ、男の子はいくつになっても元気ですねぇ。」

 

「烏丸先生もデートデスか?」

 

「私達も・・・ってことはカレンさん達もですか?」

 

「はい!ダーリンとデート中デス。」

 

「あらあら、それは良かったですね、カレンさん。」

 

「はい!」

 

「カラスちゃん!和んでないでたすけてええええ!」

 

雅人の悲鳴が遊園地に響いていた。

 

#####

 

零士は雅人と2人で観覧車に乗っていた。

 

「なんで野郎と観覧車乗らなきゃいけないのよ。

そんなにカレンと一緒に乗るのいや?」

 

「うるせぇ。」

 

雅人は零士の態度にため息を吐く。

 

「何を怖がる必要があるの?

アチラさんの両親はOK出してるんでしょ?」

 

「親がなんて言っても世間が許さねぇだろうが。

それに・・・まだハッキリしねぇんだよ。」

 

「そんなふうに言うってことは、気になってはいるんだね。」

 

「・・・」

 

「あっはっは。

いいねぇ、女っ気なかった奴が悩んでる姿っていうのは。

まぁ、あそこまで真っ直ぐ来られたら揺らいでも仕方ないか。」

 

「お前、まだ殴られたりねぇか?」

 

「ごめんごめん・・・でも、いつかは決めなきゃいけないよ?

教師としてじゃない、零士として、決断しないと。」

 

「・・・決断・・・か。」

 

「実は、もう決まってたりする?」

 

その問に、零士は答えることは無かった。

 

#####

 

「迷惑じゃないか・・・ですか?」

 

「・・・ハイ。」

 

さくらは、観覧車のゴンドラの中で、カレンから相談を受けていた。

 

「私は、ダーリン・・・レイジさんが大好きデス。

だからいつもストレートにアプローチをかけてマス。

私は、こんな方法しか知らないし・・・出来ないから。

でも・・・それがレイジさんの迷惑になってるんじゃないかって。」

 

「・・・カレンさん、少し昔話をしましょうか。」

 

さくらはカレンに優しく語りかける。

 

「私には、好きな人がいます。

その人のことは高校の頃から好きです。

でも、なかなか勇気が出なくて、素直に想いを口に出来ませんでした。

そのまま・・・気がついたらたくさん時間が経ってしまいました。」

 

さくらはカレンの手を握る。

 

「カレンさん、気持ちを正直に伝えるのは悪い事じゃありません。

むしろ、伝えられるだけ伝えればいいんです。

少しくらい迷惑でも、

想いを形に出来るのは素晴らしいことですよ。」

 

「烏丸先生・・・ありがとうございマス。」

 

さくらはカレンに優しく微笑んだ。

 

「ところで、先生が好きな人ってマサトさんデスか?」

 

「フフ、そうですね。

そして自惚れていなければ、雅人さんが私の事をどう思っているかも知っていますよ。

あちらは・・・私の気持ちには気づいていないようですけど。

お互いに言い出せずにここまで来ちゃいました。」

 

「先生、私たちより青春してマスね。」

 

そう言ったカレンに、さくらは微笑む。

 

「カレンさん、楽しめればいつだって青春ですよ。」

 

#####

 

零士はカレンを家まで送っていた。

 

「遊園地、楽しかったデスね、ダーリン!」

 

「・・・そうだな。」

 

目の前を楽しそうに歩くカレンを見ながら、零士考えていた。

 

(決断・・・か。)

 

零士は足を止めると、カレンを呼び止める。

 

「カレン。」

 

「なんデスか?」

 

零士は、深呼吸をすると、カレンに近寄る。

 

「カレン、お前が俺に特別な感情を抱いてるのは充分分かった。

それは男として嬉しいと思う。

でも、俺は教師でお前は生徒だ、付き合うことは出来ない。」

 

何時だったか、保健室で言われた事と同じようなセリフに、カレンは俯く。

 

今ここでそれを自分に言ったということは・・・きっとそういう事なのだろう。

それなら今回こそ、キッパリ諦めよう、そう思った。

 

「だから・・・。」

 

零士はもう一度深呼吸をする。

 

「もしお前の気持ちが、学校を卒業した時も変わってなけりゃあ、

その時はお前の気持ちに答えたいと思ってる。」

 

「・・・え?」

 

まさかの言葉に、カレンは顔を上げる。

 

「それってどういう」

 

カレンが言葉を言い終える前に、零士はカレンの額に口付けをする。

 

「・・・」

 

「今はそれで勘弁な?」

 

零士は固まってしまったカレンの横を通り過ぎる。

 

「はっ!ちょ・・・ちょっと待ってくだサイ!

流石にそれはズルイデスよ!

ちょっと!ダーリン!」

 

「ズルイもなんもねぇ、

今言ったことがすべてだ。」

 

「あれだけじゃ分かりませんよ!

もっと具体的に気持ちを言ってくだサイ!」

 

「言えるかそんなもん、卒業するまで我慢しろ。」

 

「じゃあせめて!せめてもう1回だけ!

次はほっぺに!」

 

「駄目だ、卒業までおあずけ。」

 

「そ・・・そんなセッショウなー!」

 

零士は顔を赤くしながらも、とても満足気だった。



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第10話それぞれの夏休み(アリス・隼人編)

大宮家に、電話の音が鳴り響いた。

 

忍が受話器をとる。

 

「はい、もしもし、大宮です。

あ、はい、分かりました。

アリスー?」

 

「なに?シノ?」

 

アリスが居間から顔だけだす。

 

「隼人君からお電話ですよ?」

 

「え!?ハヤトから!?」

 

アリスは忍から電話を受け取ると何故か一度深呼吸をする。

 

「も、もしもしハヤト?」

 

『アリスか?

すまないなせっかくの休日に。』

 

「ううん、いいよ、別に用事もなかったし。

それでどうかしたの?」

 

『夏休みの前に、アリスには色々と面倒をかけたからな。

そのわびといってはなんだが、水族館のペアチケットが福引で当たってな。

明日にでも一緒にどうだ?』

 

「水族館?」

 

『あぁ・・・嫌なら別にいいんだg』

 

「行く!絶対行く!」

 

『そうか、なら明日の10時くらいに迎えに行っていいか?』

 

「うん!待ってる!」

 

『喜んでくれて何よりだ、それじゃあな。』

 

電話が切れると、アリスは受話器を電話に置いて、今にも小躍りしそうな笑顔を浮かべた。

 

しかし、こちらをニコニコと見つめる忍を見て、顔を真っ赤にして固まった。

 

「ふふふ、隼人くんとデートですか?

よかったですねぇ。」

 

「ち・・・ちが・・・そんなんじゃなくて!」

 

「隠さなくてもいいんですよ?

隼人くんのこと、好きなんですよね?」

 

忍の質問に、アリスは顔を赤くしながらコクリと頷いた。

 

「じゃあ明日はいっぱいお洒落しなきゃですね。」

 

「お洒落・・・そ・・・そうだ!

明日どんな服着ていこう!

子供っぽいと思われたらいやだし・・・どうしよう!」

 

「大丈夫ですよアリス!私に任せてください!」

 

「シノに?」

 

アリスは忍が今まで自分に着せた服を思い出していた。

 

「シノ、ソウイウノ、イイカラ。」

 

「カタコト!?」

 

アリスの対応に、忍が涙目になっていると、

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

忍の姉である大宮勇が『バーンッ!』という効果音がなりそうなポーズで現れた。

 

「お姉ちゃん!」

「イサミ!」

 

勇は、壁にもたれて腕を組みながら言う。

 

「そういうことなら私に任せなさいアリス。

私がデート用の服を見繕ってあげるわ。」

 

「いいの!?」

 

「ええ、可愛いアリスのためだもの。」

 

「イサミいいいい!」

 

アリスは勇に抱きついて喜んだ。

 

それを見ていた忍は、涙目になりながら陽子に電話をかける。

 

「陽子ちゃぁぁぁん!」

 

『ど、どうした?シノ。』

 

「アリスがお姉ちゃんに取られちゃいますぅぅぅ!」

 

『お、おう。』

 

マジ泣きするシノに、電話の向こうの陽子は戸惑っていた。

 

#####

 

シノと電話で会話している陽子を横目で見ながら、エレンは隼人と通話していた。

 

『アリスに告白しようと思うんだが、どうすればいいと思う?』

 

「クソして寝な。」

 

隼人の質問に、エレンはめんどくさそうに答える。

 

『・・・真剣に話してるんだが。』

 

「てめぇは急に何を言い出してんだ。

なんだ?目覚めたのか?

ロリコンは島流しだぞ?」

 

『いや、別に特殊な性癖に目覚めたとかじゃなくてだなぁ。

というかお前の中の法律厳しすぎないか?』

 

「まぁ、冗談はともかく。

お前俺にそれ聞いてどうすんだよ。」

 

『いや、先駆者としてアドバイスをだな。』

 

「アドバイスっつってもなぁ。

・・・変に気取らないで思ってることぶちまけるしかねぇんじゃねぇか?」

 

『それだけでいいのか?』

 

「当たり前だろ。

本当の気持ちは面と向かって口にしてこそ伝わるんだよ。

手紙や電話なんかじゃ伝わらないこともある。」

 

『・・・』

 

「本気で惚れてんだろ?アリスに。」

 

『ああ。』

 

「その気持ちに嘘偽りなんてないんだろ。」

 

『もちろんだ。』

 

「誰にも負けないくらい自信があるんだろ。」

 

『当然だ。』

 

隼人はしばしの沈黙のあと、力のこもった言葉で言う。

 

『アリスを・・・愛している。』

 

その言葉に、エレンはフッと笑う。

 

「なら気張れ、粉々に砕け散っても後悔のないように全力でぶつかってこい。」

 

『・・・ありがとう。

やはりお前に聞いて正解だった。』

 

「そうかい、じゃあな。」

 

エレンが電話を切って、一度大きく息を吐く。

 

視線に気づき、横を向くと。

 

「(<●>ω<●>)」

 

陽子が肘掛から顔を覗かせてエレンをじーっと見つめていた。

 

「なんだよ。」

 

「(<●>ω<●>)口にしなきゃ伝わらないことがあるとかなんとか、どの口が言ってるんですかねぇ。」

 

「俺はちゃんと口で伝えてんだろ。」

 

「(<●>ω<●>)セクハラ発言は気持ちを伝えったってことにはなりません。

ちゃんと好きって言ってください。」

 

「たまに言ってんだろ、後その顔やめろ腹立つ。」

 

「私は毎日言ってんだろ!」

 

「そういうのはたまに言うからいいんだよ。

いわばレアガチャなんだよ。

100連回して出るか出ないかがいいんだろうが。」

 

「なんだよそれ!私はノーマルガチャってか!?

それともなんだ!課金すればいいのか!

いくら貢げばいいんだこの野郎!」

 

「その言い方やめろ!

俺がクズみてぇだろ!」

 

「彼女とのアレコレをソシャゲのガチャに例える時点でクズじゃね?」

 

「それな。」

 

「分かってるならやるなよ!」

 

ウガー!と吠える陽子の頭を、エレンは爆笑しながら撫でた。

 

#####

 

翌日。

 

忍の家に着いた隼人がインターホンを鳴らす。

 

「ハーイ!」

 

元気な声を上げて、アリスが扉を開ける。

 

「アリス、またせた・・・な。」

 

隼人は、お洒落をして出てきアリスに見蕩れてしまった。

 

「な・・・なに?//////」

 

「あー、すまん。

てっきりシノが選んだ服で来ると思っていたからな・・・よく似合ってるぞ、アリス。」

 

アリスは顔を真っ赤にしながらも答える。

 

「た・・・.確かにシノの選んだ服も可愛いとは思うけど・・・でも男の子とお出かけだし・・・ちゃんとしたかったから。」

 

「・・・そうか。」

 

隼人はニッコリと微笑むと、片手を差し出した。

 

「なら俺も、しっかりエスコートをしないとな。」

 

差出された手を、アリスは照れながらも微笑んで握った。

 

#####

 

「わー!すっごーい!」

 

トンネル水槽の中を泳ぐ魚達を見て、アリスは大いにはしゃいでいた。

 

「いろんな魚がいて綺麗だね!ハヤト!」

 

そんなアリスを隼人はニコニコと笑顔で見ていた。

 

「どうしたの?隼人。」

 

「いや、そこまではしゃいでくれるなら、連れてきたかいがあったなぁと思ってな。」

 

「え!?いや!あの・・・これは・・・//////」

 

「恥ずかしがることはないと思うぞ、

誰でもはしゃぎたい時ははしゃぐものだ。

ほら、見てみろ。」

 

隼人が指を指した方向に目をやると、

 

「うっはぁ!すげぇっすよ綾!

いろんな魚がよりどりみどりっす!」

 

「ちょ・・・ちょっと賢治!

はしゃぎすぎよ。」

 

どこかで見た2人組が騒いでいた。

 

「はしゃいでるのはお前だけじゃないみたいだぞ。」

 

「いや、アヤめちゃくちゃ恥ずかしそうにしてるよ!?

あ・・・引きずってかれた。」

 

「あれは説教コースだな。

まぁとにかくあまり気にするな。

アリスに楽しんでもらうために連れてきたんだから。」

 

「・・・うん。

ありがと、ハヤト。」

 

二人は再び歩き出し、館内を見て回る。

 

しばらくすると、周りからささやき声が聞こえてくる。

 

「ねぇねぇ、あの背が高い人かっこよくない?」

 

「本当だ、ちょっと顔怖いけどカッコいいかも。」

 

どうやら隼人のことを話しているようだった。

 

(すごいなぁ、やっぱり隼人ってモテるんだ・・・。)

 

アリスは何気なく耳を傾けていた。

 

「一緒にいる子って妹かな。」

 

「え?でも外国人っぽいよ?」

 

「ハーフとかじゃない?」

 

その言葉が、不意にアリスの心に突き刺さる。

 

(そっか・・・そうだよね。

大きくて大人っぽくてカッコいい隼人に比べると、私って妹に見えちゃうよね。)

 

アリスは、服の裾を強く握る。

 

(私なんかが隼人と付き合いたいなんて・・・夢見すぎだよね。)

 

アリスが思い悩んでいると。

 

「アリス、見てみろ。」

 

「・・・うわぁ。」

 

隼人に促されて顔を動かすと、そこにな巨大な水槽があった。

 

中では、小さな魚が群れをなして動いており、1匹の巨大な生き物のように蠢いていた。

 

しかし、それよりも目を引くのは、その魚達の周りを悠々と泳ぐ巨大なジンベエザメだった。

 

アリスは、幻想的な光景にしばし見とれてから呟く。

 

「ねぇ、隼人。」

 

「なんだ?」

 

「地球にはたくさんの生き物がいるんだよね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「・・・なら、私達が人間として生まれてきたのは、奇跡なのかもしれないね。」

 

こちらに笑顔を向けるアリスに、隼人は水槽を見つめながら微笑んで言う。

 

「なら、こうやって俺達が出会えたのも奇跡・・・だな。」

 

「・・・え?」

 

隼人は真剣な顔をアリスに向けて言う。

 

「アリス、愛している、俺と付き合ってくれないか。」

 

その言葉にアリスは信じられないという顔をする。

 

「嘘・・・嘘だよ。

だって私、隼人と比べてチンチクリンだし!

子供っぽいし!」

 

「アリス。」

 

「それに・・・!」

 

「アリス!」

 

少し強めな隼人の声に、アリスは一瞬体をびく吐かせるが、すぐに隼人と目を合わせる。

 

隼人は跪くとアリスの手を取り目を見つめる。

 

「俺の好きになった女性(ひと)を悪く言うのはやめてくれ。」

 

「・・・」

 

「アリスはたしかに小さいかもしれない。

少し子供っぽいところもある。

だが・・・そんなものと比べ物にならないほどの強さと優しさを持っている。」

 

「そんなことない。」

 

「あるさ。

この間俺がバットで殴られそうになった時、

体を張って助けようとしてくれたじゃないか。」

 

「でも・・・そのせいで隼人に怪我をさせちゃったし。」

 

「それだけじゃない。

馬鹿な考えを持っていた俺を叱りつけてくれただろう?」

 

「それは・・・」

 

言いよどむアリスに、隼人は続ける。

 

「あの言葉で俺は自分を見つめ直すことが出来た。

お前のおかげて救われたんだ。

その時に思ったんだ、そんなお前にそばにいて欲しいと。

そして・・・可能ならこの手で守りたいと思った。」

 

隼人はアリスの目をまっすぐ見据える。

 

「アリス、俺にとってお前は、

強い意志と優しい心を持った、

世界でただ1人、この身を賭して守りたいと思える、そんな女性だ。

そんなお前を俺は・・・。」

 

隼人は少し間を開けると。

 

「心の底から、愛している。」

 

はっきりとそう言った。

 

「・・・いいの?」

 

「何がだ?」

 

アリスは微かに震える声で言う。

 

「私、ハヤトが思ってるほどいい子じゃないよ?」

 

「かまわない。」

「わがままだって言うよ?

いっぱい迷惑だってかけるよ?」

 

「望むところだ。」

 

「・・・」

 

アリスの顔が赤く染まり、目尻に涙が浮かぶ。

 

「私も好き・・・ハヤトが大好き!」

 

首に手を回して抱きついてきたアリスの体を、

隼人は優しぐ抱きしめる。

 

「よかったぁ〜」

 

それと同時に隼人は脱力する。

 

「な・・・なにが?」

 

「実のところ・・・振られるんじゃないかと不安だった。」

 

「あはは、なんかハヤトかっこ悪い。」

 

「その通りだ、俺だってお前が思ってるほどかっこいい人間じゃない。

だから・・・これからもっと俺を知ってくれると嬉しい。」

 

「うん、きっと私、どんなハヤトでも好きになれる気がする。」

 

満面の笑みでアリスがそう言うと、

隼人は照れながら口を抑えて顔を収める。

 

「・・・なるほどな、エレンが陽子に執心なのも頷ける。」

 

「どうしたの?、ハヤト。」

 

「何でもない。

アリス、せっかく来たんだ、もっと見て回るか。」

 

「うん!」

 

隼人とアリスは手を繋ぐと、仲良く歩き出した。



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第11話 私と彼の青春

私の好きな人は、お世辞にも真面目とは言えない。

 

いつもヘラヘラ笑っていて、話すことは適当。

世間の目から見たらチャラいと言われる、

子供のまま大人になったような人だ。

 

そんな彼を好きになったのは何故だろう。

 

同じ夢を持った仲間同士だから?

なんだかんだで優しくて誠実だから?

 

時々、忘れてしまう自分がいる。

 

「雅人さんは、どうして教師になろうと思ったんですか?」

 

夏、半ば強引に連れてこられた天体観測。

 

星が綺麗に見える山の上で、楽しそうに笑う彼に聞いた。

 

「似合わない?」

 

「はい、あまり。」

 

「Oh、辛辣~」

 

いつものようにヘラヘラと笑いながらも彼は頭上の星を眺めながら答える。

 

「うーん、かっこいいからかな。」

 

「かっこいい・・・ですか?」

 

「傍から見たら教師って地味でお硬いように見えるかもだけどさ、

次の世代に何かを伝えるって・・・凄いやりがいがあるって思わない?」

 

そう言って笑った彼の横顔に、私はつい見とれてしまった。

 

(ああ・・・そうだ、私は彼のこういう顔が好きなんだ。)

 

どこか達観した、それでいて少年のような笑顔を私はしばし見つめていた。

 

#####

 

「ふぅ、着いたぁ。」

 

夕方、雅人はさくらを連れて山を少し登った開けた場所に来ていた。

 

頭上には紅く染まった空が広がっている。

 

「絶好の天体観測日和ですね。」

 

「そうだね。

それじゃあ準備しようか。」

 

雅人は、さくらと共に天体観測の準備を始めた。

 

「それにしても、毎年付いてくるなんて酔狂だねぇからすちゃん。

たまには断ってもいいんだよ?」

 

「私も好きで来てますから。

それに、昔無理やり連れてきてた人の言うことじゃありませんよ?」

 

「はは、そりゃそうか。」

 

天体観測と言っても、天体望遠鏡を使った本格的なものではない。

 

地面にシートを敷き、そこに仰向けに寝転がって星を眺めながら駄べる。

 

本職の天文学者が助走をつけて殴りかかりそうなそれを、雅人は天体観測だと言って譲らない。

 

地面にシートを敷き終わり、四隅に錘の石を置いて、二人はそこに座り込む。

 

「アリス、出してあげたら?」

 

「あ、そうですね!」

 

さくらが持ってきていたペット用のキャリーバッグを開くと、中からピョンピョンと一匹の兎が出てきた。

 

さくらが、足元に寄ってきたその兎を優しく撫でる。

 

「ねぇからすちゃん、ペットに生徒の名前つけるってどうなの?」

 

「えー、だって可愛いじゃないですか。」

 

「まぁからすちゃんがそれでいいなら何も言わないけどさ。」

 

そう言って笑っていると桜が鞄から弁当箱を二つ取り出し、一つを雅人に差し出す。

 

「どうぞ、雅人さん。」

 

「ありがとうからすちゃん。

ありがとうね、毎年弁当作ってくれて。」

 

「腹が減ってはなんとやら、ですから。

アリスにもちゃんとご飯用意してますからね。」

 

そう言って、さくらは兎のアリスに餌を与えると、持ってきた弁当箱を開く。

中には色とりどりのおかずが詰められていた。

 

雅人も弁当箱を開き手を合わせる。

 

「「頂きます。」」

 

そう言って2人は食事を始めた。

 

#####

 

食事を終え、雑談をしている間にすっかり夜になっていた。

 

夜空には星が瞬いていた。

 

雅人とさくらはシートに仰向けに横になると星空を眺める。

 

「綺麗ですね。」

 

「そうだね・・・。

からすちゃん、夏の大三角、どれがどれだか言える?」

 

さくらはクスッと笑うと夜空の星を指さす。

 

「あれがデネブ、アルタイル、ベガ、ですよね。」

 

「お、ちゃんと覚えてるね。」

 

「これでも先生ですから。」

 

それは建前だった。

 

高校生の頃、初めて連れてこられた天体観測で雅人に教わったことを未だに覚えているのだ。

 

「雅人さん。

雅人さんはどうして、星が好きなんですか。」

 

「うーん、そうだなぁ。」

 

雅人は少し考えて答える。

 

「星ってさ、俺達が生まれる何百年、何千年、それ以上も前から地球を照らしてるんだよ?

それって、純粋にすごいって思わない?」

 

「・・・そうですね。」

 

少年のように楽しそうに語る雅人をさくらは微笑んで見つめる。

 

その後も2人は夜空の星星をながめていた。

 

#####

 

「そろそろ帰りましょうか。」

 

「あ、ちょっと待ってからすちゃん。」

 

さくらと共に立ち上がった雅人は、気恥ずかしそうに後頭部をかく。

 

「どうしたんですか?雅人さん。」

 

「えっと・・・俺もそろそろ覚悟決めなきゃって思ってさ。」

 

その言葉を聞いた時さくらは、『ついに来た』と思った。

 

しかしそれを表情に出さず雅人の次の言葉を待つ。

 

「烏丸さくらさん。」

 

「・・・はい。」

 

雅人はさくらの目を真っ直ぐに見て言う。

 

「俺と

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚してください。」

 

予想外の言葉に、さくらはパチクリと瞬きを繰り返し。

 

「え・・・・えええええ!?」

 

顔を真っ赤にして絶叫した。

 

「驚いた?」

 

「驚きますよ!

なんですか結婚って!

色々過程を吹っ飛ばしすぎじゃないですか!」

 

「いやぁ、散々色々引っ張り回してるから付き合ってなんて言うのは今更な感じがしてさぁ。

だからこの際勢いで囲っちゃおっかなぁ、なんて。」

 

「勢いで!?」

 

「それにさ・・・俺がヘタレてたせいで長い間待たせちゃったみたいだしね。」

 

その言葉にさくらは驚いた顔をする。

 

「・・・気づいてたんですか?」

 

「俺、そこまで鈍感じゃないよ。

好きでもない男にデートに誘われて毎回ついていくほど、カラスちゃん安くないでしょ。」

 

「それならもっと早く告白してくれてもいいじゃないですか!」

 

「しょうがないでしょ、ヘタレてたんだから。

それに、告白する前にカラスちゃんに俺のこともっと好きになってもらいたかったからさ。」

 

雅人が笑いながらそう言うと、さくらは顔を耳まで赤くする。

 

「もう!もうもうもうもうもう!」

 

「痛っ、ちょ、からすちゃん痛い!

ごめん、ごめんってば。」

 

頬を膨らませて自分をポカポカと叩くさくらを雅人は肩を掴んで引き剥がす。

 

「・・・からすちゃん、返事聞かせてよ。」

 

雅人の言葉に、さくらは顔を俯かせる。

 

「・・・ずるいですよ・・・こんなの。」

 

そして顔を上げると、

 

「私でよければお願いします。

絶対幸せにしてくださいね。」

 

涙を流しながら笑顔でそう言った。

 

「うん、任せて。」

 

雅人はそう言うと、さくらの頬に触れ、親指でさくらの涙を拭う。

 

さくらはその手に愛おしそうに自分の手を添える。

 

「でも、少し寂しいですね。」

 

「なにが?」

 

「私の青春、終わっちゃいました。」

 

「何言ってんの?

からすちゃんいつも言ってるでしょ?」

 

雅人はニッコリと微笑んで言う。

 

「楽しめればいつだって青春、でしょ?」

 

「・・・はい、そうですね。」

 

2人の口付けを夜空の星と一匹の兎が見つめていた。




自分で書いててなんだが・・・壁が欲しい。


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第12話 男子会&女子会

工藤家 リビング。

 

男達が集まり語り合っていた。

 

「まぁなんだ、よくやったじゃねぇか隼人。」

 

エレンの言葉に、隼人は少し恥ずかしそうにする。

 

「お前のアドバイスが無ければ失敗していた、エレン。」

 

「バカ、俺は腹括れって言っただけで、

最終的に告ったのはお前だろうが。」

 

「そうっすよ隼人、もっと自信を持つっす。」

 

「あぁ、そうだな、ありがとう二人とも。」

 

隼人が礼を言うと、蓮は楽しそうに笑って言う。

 

「でもまさか、お前にロリコンの気があったとわなあ。」

 

「あぁ、アリスに告るって言った時は一瞬警察に通報しようかと思ったけどな。」

 

「礼を言ったらすぐこれだ。」

 

口ではそう言っているものの隼人は楽しそうにしている。

 

「まぁ、エレン達とは違い俺とアリスは出会って日が浅いからな。

これからアリスのことを知れればいいし、俺のことも知ってもらいたいと思ってる。」

 

「真面目っすねぇ、隼人は。」

 

男達が話している頃、隣の猪熊家では。

 

#####

 

エレンたちと同じく、女子達も集まって話していた。

 

「よかったデスねぇ!アリス!」

 

カレンが喜びながらアリスに抱きつく。

 

「きゃ!もうカレン、はしゃぎすぎだよォ。」

 

その様子を見て、笑いながら陽子が言う。

 

「でも本当によかったなぁ、アリス。」

 

「うん、まさかハヤトの方から告白されるとは思ってなかったけどね。

でも、一つだけ良くわからないことがあるの。」

 

「分からないこと?」

 

「付き合いだしてから二人で近場にデートで出かけたりするんだけどね?

ハヤト、よく警察の人に声をかけられるんだよ。

何でかなぁ?」

 

「あぁ・・・」

 

悩んでいるアリスに、陽子が言いにくそうにしていると。

 

「しょうがないデスよ、アリスちっちゃいですし。」

 

「身長の高い隼人と並んでると子供にしか見えないし、職質されるわよね。」

 

「子供!?(ガーン)」

 

「お前ら!空気読めよ!」

 

空気を読まずに発言したカレンと綾に陽子がツッコンだ。

 

「子供・・・子供・・・。」

 

「ほら!アリスへこんじゃったじゃん!」

 

落ち込んで涙目になっているアリスの肩に、忍が手を置いた。

 

「シノ?」

 

「大丈夫ですよ、アリス。」

 

忍はニッコリと笑っていう。

 

「確かにアリスは子供みたいにちっちゃくて可愛居らしいです。

でも、たとえ幼児体型だとしても、隼人君はそんなアリスを好きになったんですから自信を持ってください!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

「シノ!とどめを刺すな!」

 

忍の言葉で、とうとうアリスは大声で泣き出した。

 

「大丈夫だってアリス!まだ高校一年生なんだしこれから伸びるって!」

 

陽子がフォローすると、目尻に涙が浮かべながら言う。

 

「本当?隼人くらい大きくなれる?」

 

「それは流石に理想が高すぎだ!」

 

「いえ!まってくだい、ヨーコ!

世の中には骨延長手術というものがあると漫画で読んだことがありマス。」

 

「なんの漫画読んだか予想できるけどそれめちゃくちゃ痛い奴だからな!?」

 

「なにそれ!教えてカレン!」

 

「まず腕のいい医者を探してデスねぇ。」

 

「教えんな教えんな。」

 

その会話を聞いて綾はクスクスと笑った。

 

そんな綾を見て、アリスが思い出したように言う。

 

「そういえば、水族館でアヤとケンを見かけたよ。」

 

「あー、確かに行ったわよ?」

 

「何だかケンが凄くはしゃいでた。」

 

「あはは、見られてたんだ。」

 

綾はため息を吐く。

 

「そうなのよね、賢治ったら普段から子どもっぽいところがあるんだけど、動物とかを前にするとさらに暴走するのよね。

目を離したらどっかいっちゃいそうでほんと手がかかるっていうか・・・って何よカレン、その目は。」

 

綾はニヤニヤとこちらを見るカレンに気付き問いかけた。

 

「いやー、随分と楽しそうに話してたものデスからー。」

 

「楽しそうって・・・た・・・たしかに子供みたいにはしゃいだり、動物とかの豆知識とかを話してるところは無邪気で可愛いって思うことはあるけど・・・その・・・。」

 

「誤魔化すことないじゃないデスか。

あ、そうだ。」

 

カレンはポケットから一枚の紙を取り出した。

 

広げるとそこには大きな円が書かれていた。

 

「カレンちゃん、なんですか?これは。」

 

シノが聞くと、かれんは楽しそうに答える。

 

「いつかの円グラフですよ。

改めてアヤに聞きたいなぁと思って。」

 

それは男子達がいないところでカレンが勝手に始めたことだった。

 

それぞれの中身が何で出来ているかを円グラフにして黒板に書いたのである。

たとえば陽子なら優しさが50%ツッコミが50%というふうに表記するのである。

 

「なんで今更?」

 

「いやぁ、だって。」

 

カレンはニッコリ笑顔で、

 

「アヤってヨーコにフラレたじゃないデスか。」

 

爆弾を投下した。

 

「おい!こら!」

 

「ちょっとカレン!」

 

ほぼ同時に怒鳴る陽子と綾にカレンは笑いながら言う。

 

「隠す必要なんてないじゃないデスか。

アヤがヨーコを好きだったことなんてみんな知ってますよ。

ねぇ、シノ。」

 

「フフ、そうですね。」

 

「え?そうなの?

ひょっとしてアリスも?」

 

そう言って綾はアリスの方を見るとアリスは苦笑いで答える。

 

「アヤはわかりやすいからね。

正直気づいてなかったのはヨーコだけだと思うよ。」

 

「まぁ、ヨーコは鈍感朴念仁なラノベ主人公ですシネ。」

 

「散々な言われ様!」

 

「皆知ってて黙ってたの?」

 

綾の問いかけに忍が笑顔で答える

 

「誰が誰を好きなろうがその人の自由ですからね、私達はとやかく言うつもりはありませんでしたし。

それに・・・。」

 

忍は頬に手を当てて笑顔で答える。

 

「陽子ちゃんの行動や言動に顔を真っ赤にしてる綾ちゃんは可愛らしかったですし。」

 

「こいつ本音を隠そうともしねぇ!」

 

「しかもいい笑顔!」

 

忍の言葉に、陽子と綾は大声でツッコンだ。

 

「という訳で、アヤの今の心境をを改めて知りたいと思いまシテ。

あ、ちょっと待ってください。」

 

カレンはペンを取り出すと中心から三本線線を引き、かしこい10%、テレ屋10%と書き込んだ。

 

「さぁどうぞ!」

 

「そこは譲る気ないのね・・・そうねぇ。」

 

ちなみに前回、カレンが勝手に書いた綾の円グラフは上記の二つに加え、残り80%は陽子というものだった。

 

そしていま、綾が自ら書き上げたそれは。

 

かしこい10%、テレ屋10%、謎の空白30%、

残り半分は賢治というものだった。

 

「へぇ、やっぱりケンが半分を占めてるんだね。」

 

「綾ちゃんは賢治君が大好きなんですね。」

 

アリスと忍の言葉に照れていた綾に陽子が問いかける。

 

「あのさぁ、綾。

この謎の空白って・・・。」

 

綾は気まずそうにしながら答える。

 

「・・・・・・・・・・・・・陽子」

 

「そこそこ引きずってんじゃねぇか!」

 

「初恋なんだからそりゃ引きずるでしょうよ!」

 

「なんか賢治に悪いだろう!?

どんな顔して会えばいいんだよアイツに!」

 

「笑えばいいと思うわよ?」

 

「笑顔引き攣りすぎて筋肉痛になるわ!」

 

そのやり取りを見てカレンは腹を抱えて笑っている。

 

「カレン!何笑ってんだ!」

 

「アハハハ!ハァハァ・・・。

す・・・すいませんヨーコ。

でもどうですか?」

 

「・・・何がよ。」

 

「少し気が楽になってませんか?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

無言の二人にカレンは楽しそうにいう。

 

「こういうことは早めに笑い話にした方がいいんデスよ。

そうしないと、余計引きずっちゃうかもデスしね。

それで友達同士距離ができたりしたら、とても悲しいじゃないデスか。」

 

カレンの言葉に陽子と綾は無言になるが、

 

「あのさ」「あのね」

 

やがて二人揃って口を開いた。

 

「綾から言っていいよ。」

 

陽子がそういうと、綾は頷いて言う。

 

「・・・陽子。

いろいろあったけど、これからもよろしくね。」

 

綾がそういうと陽子は、

 

「こっちこそ。」

 

綾の頭に手を置いて、

 

「よろしくな、綾。」

 

微笑んでそう言った。

 

「・・・そ」

 

「・・・そ?」

 

「そういう所が危ないのよあんたは!」

 

「なんで!?」

 

そんな二人を見てカレンは満足そうに頷く。

 

「これにて一件落着ですね。

そういえばアヤ、ずっと気になっていたんデス けどそのブレスレットはどうしたんデスか?」

 

「え!?えっと・・・これは・・・その・・・////」

 

#####

 

工藤家 リビング。

 

「木組みの家と石畳の街ねぇ。」

 

エレン達は賢治が綾とのデートで行ったという街の話を聞いていた。

 

「いい雰囲気のとこだったっすよ、日本とは思えないくらい外国っぽくて。」

 

「ほぉ、それはぜひ行ってみたいな。」

 

「いいんじゃないっすか?アリスも楽しむと思うっすよ。」

 

楽しそうに語る賢治に、蓮はニヤニヤとしながら聞く。

 

「そこで綾のファーストキスを奪ったわけやな。」

 

「えっと・・・それがその・・・。」

 

賢治は後頭部を掻きながら言う。

 

「いざやるってなると緊張して、近づいてきた綾の顔を近くにいたウサギでガードしちゃったんすよ。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

賢治の言葉にほかの三人は沈黙する。

 

「あれ?みんなどうしたんすか?」

 

「この骨なしチキン野郎!」

 

バチン!

 

「ぎゃあ!?」

 

賢治はエレンのビンタで張り倒された。

 

「おいチキン、立てこの野郎。

三秒以内に立たねぇと次はグーで行く」

 

「ちょっ、まっ!は・・・隼人!助けて欲しいっす!」

 

「エレン、顔はやめてやれ。

跡が残ると悲惨だ。」

 

「隼人!?」

 

「隼人に見捨てられるとかお前大概やで?」

 

「ちょ・・・ちょっと待って欲しいっす!

そのあとちゃんとキスしたんっすよ!本当っす!」

 

「それでも綾の初めての相手はウサギだぞ!

てめぇ畜生に彼女のファーストキス奪われて悔しくねぇのか!?

俺ならその場でそのウサギ鍋にして食うわ。」

 

「怖すぎっすよ!

それと畜生じゃなくてウサギっす!

動物相手ならギリノーカンっすよ!」

 

「お前が思うならそうなんやろな。」

 

「お前の中ではな!」

 

「勘弁して欲しいっす!」

 

賢治を散々弄って満足したのか、蓮はエレンに話を振った。

 

「で?エレン。

だいたい予想はつくけどお前はどうやったんや?」

 

「別にいつも通りだよ。

デートしたり部屋でゲームしたりダラダラしたり。」

 

「もはやノリが夫婦やな。」

 

「あぁ、あと・・・」

 

エレンが思い出したように口にする。

 

「一緒の部屋で寝た。」

 

「「「・・・」」」

 

エレンの言葉にほかの3人が固まった。

 

それを見たエレンは言葉を続ける。

 

「読んでたマンガに目覚ましセットして起きた瞬間に格ゲーで対戦するってのがあってさぁ。

面白そうだからやってみようぜって話しになって。」

 

「焦ったァァァァァ!」

 

「驚かさないでほしいっすよエレン。」

 

「今のは流石にキモが冷えだぞ。」

 

安心した様にいう3人に、エレンは溜息を吐く。

 

「あのなぁ、心配しなくても手ぇ出したりしねぇよ。

そういうのは高校卒業までなしって約束だしな。」

 

「いや、俺としてはお前が我慢出来ずにいつか陽子のこと襲わんか心配やねんけど。」

 

「お前は俺のことをなんだと思ってんだ。」

 

エレンはため息を吐いていう。

 

「そんなことしてみろ、使い物にならなくなるまでバッキバキにへし折られるぞ。」

 

「まぁせやろなぁ。」

 

「そうなるっすよねぇ。」

 

「陽子だしなぁ。」

 

全員が納得しかけていると、エレンが続けて言った。

 

「それに約束の効力は卒業式の日校門を出た時までだからな。

ちゃんと最後まで守り抜けばいざと言う時抵抗されないだろ。」

 

「クソ野郎かお前!」

 

「ろくでなしっすね!」

 

「ブレないなぁお前。」

 

ゲス発言をしたエレンに男子3人のツッコミがとんだ。

 

#####

 

「へぇ、海でそんな事があったんですか。」

 

女子会の方は、陽子とエレンの海デートの話で盛り上がっていた。

 

「もう足は大丈夫なの?ヨーコ。」

 

心配そうに聞くアリスに、ヨーコは怪我をした方の足をプラプラと揺らして答える。

 

「うん、それはもうすっかり。

でもあんなに怒ったエレン久しぶりに見たよ。

今にもその男達半殺しにしそうな感じでさ。

止めなきゃヤバいって思った。」

 

「そのわりには楽しそうに話すわね、陽子。」

 

「え?そうかなー。」

 

忍はクスクスと笑って言う。

 

「きっと陽子ちゃんは、エレン君が自分のためにそこまで怒ってくれたのが嬉しいんですよね。」

 

「な!?////」

 

忍の指摘に陽子は顔を赤くする。

 

「あー、そういう事デスか。」

 

「つまりはノロケね。」

 

「な・・・なんだよ!

いいだろ!なんか大事にされてるって気がして嬉しかったんだから!」

 

「陽子ちゃん・・・すっかり女の子になっちゃったんですね。」

 

「なんで残念そうにいうんだよシノ!」

 

と、ここで陽子が思い出したように言う。

 

「そういえばシノ、蓮からの遊びの誘い断り続けてるってマジ?」

 

「え!?そうなの!?」

 

綾が驚いてシノの方を見ると、シノはニッコリと微笑んで答える。

 

「はい、そうですよ。」

 

答えたシノに陽子は綾の耳元で小声で話す。

 

「どう思う?」

 

「シノの事だから蓮の好意に気づいてないだけじゃない?

だってシノよ?」

 

「そうだな、シノだもんな。」

 

こそこそと小声で話す二人に忍が言う。

 

「あの、お二人とも。

流石に私でもあれだけ露骨にアピールされれば気づきますよ?」

 

「「え!?」」

 

忍の言葉に、綾と陽子が驚きながらも尋ねる。

 

「じゃあなんで誘いを断り続けてるの?」

 

「やっぱり女癖が悪いから?」

 

「そういう訳ではありません。

私の事を好きになってくれてからそういったお付き合いはやめたようですし、むしろ好感触ですよ?」

 

「じゃあなんで?」

 

陽子が聞くと忍は笑顔で答える。

 

「こうやっておあずけしていれば、久しぶりに会った時可愛らしい反応をしてくれそうじゃないですか。」

 

「なんか今日のシノキレっキレだな!?」

 

「いざ付き合ってから女癖が再発すると厄介ですし、今のうちに躾ておかないとですしね。」

 

「躾!?今躾って言ったわよねシノ!?」

 

「完全に犬扱いじゃねぇか!」

 

「どうしちゃったんデスか!シノ!」

 

「シノが怖いよー!」

 

親友の思わぬ一面に、驚きの声が飛び交う。

 

「私さぁ、小悪魔なのはキャラ的にカレンだろうなぁって思ってたんだけど・・・思わぬ伏兵がいたな。

ん?ちょっと待て、いざ付き合ってからってことはシノも蓮のことすきなの?」

 

「いえ、まだその段階ではありません。

でも、蓮くんが私の事をどれだけ想ってくれているかはとても良くわかります。

なので・・・その気持ちに答えることもやぶさかではない、と言うだけのことです。」

 

シノはそう言うとにっこりと笑い、

 

「好きになるのは、いつだって遅くないと思うんです。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

シノの言葉に、全員が沈黙した。

 

「あれ?どうしたんですか皆さん。」

 

「シノ・・・いろいろすげぇなお前。」

 

シノはよくわからない様子で首をかしげていた。

 

#####

 

工藤家 リビング

 

「俺の何があかんのかな。」

蓮はため息を吐いて天を仰ぎそう呟いた。

 

「女癖じゃね?」

 

「女癖っすよね。」

 

「女癖だろう。」

 

「なんかこのパーティー優しさが足りてなくない!?」

 

一片の慈悲もない三人の言葉に蓮は叫んだ。

 

その場で立ち上がって抗議を続ける。

 

「言っとくけどな!手を繋いだり一緒に遊びに行くことはあっても手ぇ出したことは一度もないで!?」

 

「誰か一人に絞らずに遊び倒してる時点てアウトだろ。」

 

「シノを好きになってからは陽子とか以外の女子のアドレス消したし。」

 

「その中にはお前が本命の奴だって居ただろうに、ひでぇことするなぁ。」

 

「どう転んでも俺ロクでなし!?」

 

エレンの冷たい対応に、蓮は悲痛な声を上げる。

 

そんな蓮に、隼人は助け舟を出した。

 

「まぁ、お前がシノに対して本気なのはよくわかっているさ、蓮。

問題はそれをどうやって当人に伝えるかだな。」

 

「俺は一応アプローチしてるつもりなんやけどなぁ。」

 

「シノは鈍感そうっすからねぇ。」

 

蓮は溜息を吐く。

 

「遊びに誘っても毎回用事があるとか言って誤魔化してくるし・・・はぁ。」

 

「蓮・・・。」

 

エレンは蓮の肩にぽんと手をおくと、

 

「ざまぁ!」

 

笑顔でそう言った。

 

「余裕かましよってこんボケェ!」

 

蓮の叫びが家中に響き渡った。

 

#####

 

「ってコトがあったんデスよォ!」

 

「へぇ、ゼロ(にい)も随分と思い切ったな。」

 

陽子達はカレンの話を聞いていた。

 

「いやぁ、なんというか、やっとデレてくれてよかったデスヨ!

アプローチしたかいがありまシタぁ!」

 

「フフ、良かったですねカレン。」

 

「でもカレン、それならなおさら学校では気をつけなきゃダメよ?」

 

「Why?なんでデスか?

親公認デスヨ?」

 

「そうだとしても、そのことがバレたらゼロ兄学校やめなきゃいけなくなるだろ?」

 

「そうだよカレン、零士さんと一緒にいれなくなってもいいの?」

 

「大丈夫ですよ、何かあったらその時は、」

 

カレンはニッコリと笑顔でいう。

 

「パパに何とかしてもらいマス。」

 

「こいつ親の権力使う気だ!」

 

「イギリス人は恋愛と戦争では手段は選ばないのデス!(*`ω´*)ドヤッ」

 

「ドヤ顔でいうことじゃないわよ!?」

 

みんなの慌て様にカレンは一度大きく笑う。

 

「まぁそれは冗談デスけどね。

そんなことをしたらダーリンに嫌われちゃいますから。」

 

「カレンはマジでやりそうだから怖いんだよなぁ。」

 

「大丈夫です!ちゃんとダーリンのために、バレない様にイチャイチャします!」

 

「やっぱり分かってねぇ!」

 

と、そのタイミングで陽子のスマホからメッセージアプリの通知音が鳴った。

 

それに続くように、スマホを持っていないアリスとシノ以外の側から同様の音が鳴った。

 

「ん?雅兄からだ」

 

「あ、私のところにも来まシタ。」

 

「グループで全員に送信してるわね。

何のようかしら。」

 

三人はメッセージを確認し。

 

「「「ええええええええええええ!?」」」

 

同時に叫んだ。

#####

 

「「「「「えええええええ!?」」」」」

 

女子達と同様のことがエレン達にも起こっていた。

 

エレンたちのスマホにはある写真が表示されている。

 

それは雅人とエレン達の学校の教師、烏丸さくらが笑顔で手を繋いでいる写真(ちなみに恋人繋ぎ)で、その写真のあとにメッセージで、

 

『婚約しました。』

 

と、送られてきた。

 

「な・・・なんすかコレ・・・何が起きてんすか蓮!」

 

「そんなん俺が知るわけないやろ!

エレンはなんか聞いとるか?」

 

「し・・・知らん。

隼人、お前はなにか聞いて・・・って白目剥いてる!?」

 

「ハッ!・・・す・・・すまん。

動揺した。」

 

4人は少しの間、どういうことだと話し合ったが、最終的にエレンが立ち上がった。

 

「埒があかねえ、雅人さんのところに行って確かめるぞ!」

 

そう言ってほかの3人と家を飛び出すと、示し合わしたように隣の家から陽子達が飛び出してきた。

 

「エレン!」

 

「陽子!」

 

エレンは陽子に駆け寄ると肩に手を置く。

 

「からすちゃんが!からすちゃんが!」

 

「落ち着け!俺達も何が何だかわかんねぇんだ!」

 

その側で、賢治は混乱している綾に駆け寄る。

 

「綾!大丈夫っすか!?」

 

「あばばばばば」

 

「綾!?戻ってくるっすよ!」

 

そしてシノはアリスを背負って隼人のところへ行く。

 

「アリス!?どうしたんだ!?」

 

「余りにも衝撃的すぎて、気絶しちゃったみたいです。」

 

「アリス!?」

 

「きゅー(白目)」

 

隼人はシノからアリスを受け取るとお姫様抱っこで抱える。

 

と、そのタイミングで陽子達の前にいちだいのバイクが止まった。

 

「ダーリン!」

 

「カレン!乗れ!」

 

零士がカレンにヘルメットを投げ渡すと、カレンはそれを装着してバイクの後部座席に座った。

 

「それじゃあ皆!お先デス!」

 

かれんがそういうと同時にバイクは発信した。

 

「あ!ズッリィ!」

 

「俺達も続くぞ!」

 

こうしてエレン達は、雅人の家に押しかけたのであった。

 

#####

 

松原穂乃花は駅前でとある人物と待合せをしていた。

 

暑い中、日陰に入り待っていると、

 

「穂乃花さん。」

 

声をかけられ顔を向けると、

一人の少女──工藤マリーが居た。

 

「ごめん、待った?」

 

「ううん、今来たところだから。」

 

「それずっと待ってた人の常套句じゃない?」

 

「ほ・・・本当に今来たとこだから大丈夫だよ。」

 

「それならいいけど・・・それじゃあさ。」

 

マリーは穂乃花に手を差し出した。

 

「行こっか。」

 

「・・・うん!」

 

穂乃花はマリーの手を取ると、共に歩き出した。



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第13話それぞれの夏休み(マリー編)

夏休み前、中等部校舎裏。

 

「好きです!付き合ってください!」

 

「ごめん、無理。」

 

この間、0.2であった。

 

マリーにピシャリと言い放たれた男は目に見えて落ち込みながらトボトボと教室に戻っていった。

 

物陰から見ていた友人達はマリー近づいて言う。

 

「これまたこっぴどく振ったねー。」

 

「あの子サッカー部で結構人気あるのに。

マリーのお眼鏡には叶わなかったか。」

 

そう言った友人に、マリーは仏教面で言う。

 

「たしかに有名なのは知ってるし、

顔もなかなかだと思う。」

 

「じゃあなんで?」

 

「私は彼のこと知らないし、大して仲良くない。

そんな相手と付き合おうと思う?」

 

「そりゃそうだけどさぁ。」

 

「よくわからないけど、

ああいうことをするならまず相手のことを知って仲良くなってからするものじゃないの?

その順序を飛び越えて一方的な感情でどうにかしようって人間を私は信用出来ない。」

 

「やだ超かっこいい付き合お?」

 

「こらこら。」

 

友人達は、楽しそうに笑ったあと。

 

「さすが、氷の女王だよね。」

 

いつものように、冗談めかしてそう言うのであった。

 

#####

 

夏休み。

 

数日に渡る北アルプス縦走から無事帰ってきたマリーは翌日、

 

剣道部の練習が終わり、帰路に就いていた。

 

(今日晩御飯どうしようかな。

なんか今日はいっぱい作りたい気分だし、

陽子姉と空太と美月呼んでご馳走に・・・ん?)

 

マリーは少女が男二人に言い寄られているのを見つけた。

 

「今1人なんでしょ?いいんじゃん別に。」

 

「何もしないからさぁ、ね?」

 

「え・・・えっと・・・その・・・。」

 

その様子を、マリーは冷静に分析する。

 

(うっわぁ、分かりやすいナンパ。

今時あんなの本当にいるんだ。

ていうかあの子、ウチの高等部の制服きてんじゃん・・・ってことは先輩か。

あのバックにラケットケース・・・テニス部?

部活帰りに捕まったか。)

 

一通り分析した後、

 

「まぁ、大丈夫っしょ。」

 

そう呟いて数歩進んだところで立ち止まる。

 

「・・・あぁもう!」

 

マリーは踵を返して少女に近づき、手を引いて自分の背後に隠すように男達の前に出る。

 

「・・・え?」

 

戸惑う少女の前で、マリーは男達を睨みつける。

 

「なに?この子の友達?

なら君も一緒に遊ばない?」

 

マリーは返事を返さずに、無言で睨み続ける。

 

「えっと・・・すいませんでした。」

 

あまりの気迫に、男達は立ち去っていった。

 

「あ・・・あの・・・。」

 

背後の少女に呼ばれ振り返ると、少女は頭を下げてきた。

 

「ありがとうございます、助かりました。」

 

「このあたりは基本的には治安いいですけど、ああいうのがたまに湧くんで気をつけてください。」

 

「はい、すいません・・・あの、お名前をお伺いしてもいいですか?」

 

「マリーです、工藤マリー。

中等部3年です。」

 

「松原穂乃花です。

高等部の1年生です。」

 

「敬語はやめませんか?

そっちの方が先輩なんですから。」

 

「そ・・・そうですね。

じゃなかった、そうだね。」

 

大人しそうな少女、穂乃花を見てマリーは、

 

(小動物みたいな人だな。)

 

と、思った。

 

「それじゃあ私はこれで。」

 

「あ、あの!」

 

立ち去ろうとするマリーの服の裾を穂乃果は掴んで引き止める。

 

「よかったら、お茶していかない!?」

 

「・・・まさかナンパから助けた相手からナンパされるとは思わなかったです。」

 

「ち・・・ちがうの!」

 

穂乃花は慌てて手を離すと、顔を真っ赤にしてあたふたとしながら言う。

 

「そういうのじゃなくて!

さっきのお礼って言うかその・・・本当にやましい気持ちはないから!」

 

「落ち着いてください、逆に怪しくなってますよ。」

 

「あう////」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがっている穂乃花に、マリーは淡々と言う。

 

「ご好意はありがたいですが、

別に見返りを求めてやったわけじゃありませんから。」

 

「で・・・でもなにかお礼をしないとこっちの気が済まないよ。」

 

「ですが・・・。」

 

断ろうとするマリーに、穂乃花は少し顔を俯かせて上目遣いで言う。

 

「だめ・・・かな・・・。」

 

マリーは少し考えて、

 

「分かりました、お願いします。」

 

マリーがそう言うと、穂乃花は花のような笑顔を咲かせた。

 

「それじゃあこっち!こっちにおすすめのカフェgきゃあ!」

 

マリーは転けそうになった穂乃花の手を掴む。

 

「少し落ち着きましょう」

 

「ご・・・ごめん。」

 

#####

 

マリーは穂乃花おすすめのカフェでテラス席に座る。

 

「ここのケーキ、すごく美味しいの。」

 

「へぇ、そうなんですか。」

 

マリーはメニューを開いて中を見る。

 

(本当に美味しそう。

なんて言うか女子って感じだなぁ。)

 

マリーは対面に座る穂乃花を目だけを動かして見る。

 

穂乃花はウキウキとしながらメニューを見ていた。

 

その様子を見てマリーは本当に歳上なんだろうかと少し思った。

 

それから少し経って。

 

「決まった?」

 

「はい。」

 

「じゃあ注文しよっか。

すいませーん。」

 

穂乃花が呼ぶと、店員が来て注文を取り始める。

 

「私はチーズケーキとオレンジジュース。

マリーちゃんは?」

 

「私はチョコレートケーキとホットコーヒー

ブラックで。」

 

「ブラッ!?」

 

「かしこまりました、少々お待ちください。」

 

店員が立ち去ると、穂乃果は驚いた様子で聞く。

「コーヒー・・・ブラックで飲むの?」

 

「はい。」

 

「大人だね!」

 

まるでヒーローを見るかのようにキラキラとした瞳でそう言われ、マリーは少々戸惑った。

 

「そうですか?

兄貴にはよくマセてるって言われるんですけど。」

 

「兄貴・・・。」

 

「どうかしましたか?」

 

マリーが首をかしげて聞くと、穂乃果は言う。

 

「マリーちゃんのお兄さんって、工藤エレン君だよね?」

 

「兄貴のこと知ってるんですか?」

 

「うん、すごく有名だもん。

イケメンで彼女とすごくラブラブだって。」

 

「・・・やっぱりあの二人は学校でも通常運転か。」

 

少し恥ずかしそうにしながら、マリーは思い出していた。

 

「ひょっとして穂乃花さんって、

カレン姉に餌付けしてる穂乃花さん?」

 

「餌付け!?」

 

「偶にカレン姉が大量にお菓子もってきては、『ホノカにもらいまシター』ってはしゃいでるんで。」

 

「で・・・でも別に餌付けしてるわけじゃないもん!」

 

「傍から見たらそう見えますよ?」

 

「うぅ・・・マリーちゃん意地悪だよぉ。」

 

「でも、こうやって名前しか聞いたことが無い人とこうやってお茶してるなんて。」

 

抗議の目を向ける穂乃花に、

 

「世の中って、本当に狭いですよね。」

 

楽しそうに微笑んで言った。

 

「・・・かわいい。」

 

「は?」

 

穂乃花はガタッと立ち上がって前のめりになる。

 

「マリーちゃん!笑うとすごく可愛い!」

 

「な・・・なんですか急に。」

 

「もう1回!もう1回笑って!

スマホで撮るから!」

 

「撮ってどうするんですか?」

 

「カレンちゃんに贈る。」

 

「断固拒否します。」

 

「えー。」

 

何故かしょぼんとする穂乃花を見て、マリーの頬は自然に緩んでいた。

 

#####

 

ケーキを食べ終えた二人は、穂乃花の家の近くまで一緒に歩いてきた。

 

「それじゃあ私はここで、

ケーキありがとうございました、

美味しかったです。」

 

「私もすごく楽しかった!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

2人に謎の沈黙が生まれる。

 

「そ・・・それじゃあ。」

 

「う・・・うん。」

 

二人は背中を向けて歩き出した。

 

マリーは、思った。

 

このまま終わりにしていいのかと。

 

穂乃花といた時間はとても短い。

 

だがその時間はマリーにとって心地よいものだった。

 

(これで終わりにしたくない。)

 

そう思ったマリーは、振り返って声をかける。

 

「あの!」

「あの!」

 

まるで示し合わせたかのように、こっちを振り向いた穂乃花と声が重なった。

 

それがおかしくて、二人は声を出して笑った。

 

そして2人は再び距離を詰める。

 

「あの、よければ連絡先交換しませんか。

これからも2人で遊びたいですし。」

 

そういったマリーに、穂乃花は微笑む。

 

「私も、同じ事考えてた。

これから宜しくね、マリーちゃん。」

 

「はい、こちらこそ。」

 

この出会いを大切にしよう、マリーは心の底からそう思った。



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夏休み旅行編
第14話 旅行一日目


キャンプ当日。

 

エレンとマリーは陽子の家の玄関にいた。

 

「それじゃあエレン君、マリーちゃん、

陽子を宜しくね。」

 

「はい、陽子姉の世話は任せてください。」

 

「陽子のことは暴走しねぇようにしっかり見張っとくんで。」

 

「お前らは私の精神年齢いくつだと思ってんだ!?」

 

いつも通りのやり取りをしたあと、3人は玄関を出て待ち合わせ場所に向かう。

 

「フフフーン♪楽しみだなぁ、キャンプ。」

 

「陽子姉もうはしゃいでる。」

 

「キャンプなら今まで何回も行ったろ?」

 

「楽しいことは何回やっても飽きないんだよ!」

 

「ガキかよ。」

 

「なにこの!」

 

そんなことを言っていたエレンだが、

その顔がニヤっと笑みを浮かべる。

 

「まぁ、今回は俺も楽しみだけどな。」

 

「あぁ、雅兄とからすちゃんのこと?」

 

そう言うと陽子はエレンと一緒にニヤニヤとする。

 

「あのさぁ、わざわざ家までカチコミかけて色々聞いたんじゃないの?

まだ足りない?」

 

そう、あのあと陽子を初めとするいつものメンバーは雅人の家に殴り込むと、その場にいた雅人とさくらを小一時間問い詰めた。

 

「いやぁ、まだまだ。

はぐらかされたこともあったしなぁ。」

 

「零兄が酒のまして一切合切吐かすっていきり立ってたよ。」

 

「さすが零士さん、そこに痺れる憧れる。

さぁて、俺達もどうしてやろうかなぁ。」

 

悪い笑顔を浮かべる陽子とエレンを見て、

マリーはため息を吐いた。

 

「そっとしといてあげるっていう選択肢はないの?」

 

「何言ってんだマリー!私達だって付き合い始めた時散々からかわれたんだぞ。」

 

「陽子の言う通りだ。

やられたらやり返す、倍返しだ!」

 

「・・・さいですか。」

 

そんな会話をしながら待ち合わせ場所に着くと、

すでに綾と賢治が先に着いていた。

 

「綾、ケン、おはよう。」

 

「おはよう、陽子、エレン、マリーも。」

 

「おはようっす。」

 

「おう。」

 

「ん。」

 

5人は軽い挨拶を済ませる。

 

「他のみんなはまだ来てないのか?」

 

「うん、雅人さんは烏間先生のペットの兎をペットホテルに預けてから2人で来るって。」

 

「流石にこの暑さっすからねぇ。

連れてくわけには行かないっすよね。」

 

「なんでがっかりしてるのよ賢治。」

 

「いやぁ、兎触りたかったなぁって。」

 

「木組みの家と石畳の町で散々もふったでしょ。」

 

「まだまだ足りねぇっすよ。」

 

「もう、今はこれで我慢しなさい。」

 

綾が自然な流れで賢治の頭を撫で始める。

 

「綾・・・大胆っすね。」

 

「え?・・・あ////。」

 

エレンと陽子が見てるのに気づいて、綾は顔を赤くする。

 

「なるほど、普段はそんな感じでイチャついてるのかぁ。」

 

「気にしないで続けてくれ、俺たちここで見てるから。」

 

「いや・・・その・・・これは違うの!」

 

「わかるわかる、私らも最初は恥ずかしかったから皆の前では控えようって思ってたんだけど、ついついいつもの調子でイチャついちゃってさ。」

 

「そのうち抵抗無くなぅて、結果周りからバカップルって言われだすんだよなぁ。」

 

「本当に違うの!普段からやってるわけじゃないの!」

 

「そうっすよね、どっちかって言うと甘えてくるのは綾の方っすよね。」

 

「余計なこと言わないで賢治!」

 

綾が賢治をポカポカと叩く。

 

そんな様子を他の三人が笑ってみていると、

 

「楽しそうやなぁ・・・お前ら・・・。」

 

明らかに落ち込んだ様子で蓮が合流した。

 

「ど・・・どうした蓮。

顔から覇気が・・・いや、それどころか生気が感じられないけど。」

 

蓮は大きくため息を吐いた。

 

「結局、今日まで1度もしのとデート出来なかったンゴ。」

 

「Oh・・・」

 

蓮は落ち込みながらも言葉を続ける。

 

「誘っても誘っても用事がありますいうて断られ続けたんや。

はぁ、やっぱり俺なんとも思われてへんのやろか。」

 

「あはは・・・。」

 

忍の思惑を知っている綾と陽子は苦笑いを浮かべて小声で話す。

 

(蓮ったら完全にしのの掌の上ね。)

 

(だな、こりゃ会った時の反応が楽しみだ。)

 

そんな話をしていると、ちょうど忍、アリス、そして隼人の3人がやってきた。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう!みんな!」

 

「おはよう。」

 

3人に、他のみんなが返事を返す。

 

「あ!蓮くん!」

 

忍は蓮に駆け足でよっていくと、申し訳なさそうに言う。

 

「何度もお誘いをしていただいたのに、

お応えすることが出来ずに申し訳ありません。」

 

「ええってええって、予定があってんから仕方ないやろ?」

 

「はい、ですから・・・。」

 

忍は蓮の手を両手でやさしくにぎり、微笑んで言う。

 

「このキャンプの間は、いっぱい遊びましょうね。」

 

蓮の頬が微かに赤く染まる。

 

「お、おう!思いっきり遊び倒そうやないか。」

 

「ふふ、はい。」

 

その様子を、陽子と綾は遠くから見ていた。

 

「悪女よ、悪女がいるわ。」

 

「いや、しのもしのだけど蓮も蓮でチョロ過ぎだろ。」

 

「いや、でもしの的には好感触じゃない?

あの子潜在的にSなところがあるから。」

 

「それで気に入られて果たして嬉しいんだろうか。」

 

「・・・知らぬが仏ね。」

 

「だな。」

 

一方、エレンはアリスと隼人の2人と会話していた。

 

「おはよう!エレン。」

 

「おはよ、アリス、隼人。

手なんか繋いじまって、すっかりバカップルだな。」

 

「も・・・もう////別にいいでしょ!

大好きなんだから。

ね、隼人。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「イチャつくのはいいけど警察には気をつけろよ。

お前らの身長差だと職質されるぞ。」

 

「大丈夫!そんな時のために最近はデートの時学生手帳持ち歩くようにしてるから!」

 

「既にされたことはあるんだな。」

 

「そういえばエレン、カレンはまだ来てないの?」

 

「そういやぁ、来てねぇなぁ。

普段ならこういう時真っ先に来てそうなものなのに。」

 

「まぁ、もう少しすれば来るだろう。」

 

少しすると、エレン達に1台の車が近づいてきた。

 

「お、零士さんきたぞ。」

 

零士が運転する車がエレンたちの前に泊まると、助手席の扉が開き、人影が飛び出してきた。

 

「みんな!おはようごじゃいマース!」

 

「なんでさも当然かのように零士さんの車から出てくんだよカレン!」

 

いつも通り元気いっぱいなカレンに陽子がツッコむと、運転席から降りてきた零士がため息を吐いて頭を抱えながら言う。

 

「準備終わって出ようと思ったら扉の前でスタンバってやがった。」

 

「サプライズってやつデスよ!」

 

「サプライズすぎて心臓止まるわ!

家には来るなって言ったろ!」

 

「えー、だってダーリンやっと受け入れてくれたじゃないデスかー。」

 

「卒業するまで我慢しろって言ったよな俺!」

 

「ワタシニホンゴワカラナイ。」

 

「さっきまでペラペラ喋ってたろうが!!

ったく!雅人の野郎はどこだ!

こうなったらアイツ弄り倒さにゃあ気がすまん!」

 

そう言って零士が周りを見渡していると、

1台の車が零士の車の後ろに止まる。

 

運転席から雅人が降りてきて、少し遅れて助手席からさくらが降りてくる。

 

「おいっす。」

 

「みなさん、お待たせして申し訳ありません。」

 

「いやぁ、からすちゃんがなかなかアリスと離れたがらなくってさぁ。」

 

「も・・・もう!雅人さん!

それは言わないって言ったじゃないですか。」

 

「あはは、ごめんごめん・・・ってなんでみんなニヤニヤしてんの?」

 

雅人の質問に、エレンはニヤニヤとしながら言う。

 

「べっつにー。

いやぁそれにしても今日はいつにも増して暑いなぁ陽子。」

 

「だなぁ、こりゃあ50度ぐらいあるんじゃないかー。」

 

「うん、もうそれ日本の気温じゃないよね。

ポストとか溶けて折れ曲がるレベルだよね。」

 

「いやぁ、朝っぱらからラブラブやなぁお二人さん。

ほんまお似合いやわぁ。」

 

「あのね、蓮。

怨嗟に満ちた表情で中指を立てながら言われても嫉妬と殺意しか感じないからね。」

 

「雅人、おめでとう、祝福するぜ。」

 

「ありがとう、零士。

でも祝福するなら連続でローキックを入れるのやめてくれるかな。

痛いから、ジワジワきてるから。」

 

「気をつけろよ、烏丸狙ってたやつ結構多いんだからな。」

 

「あはは、夏休み明け他の先生に嫉妬されちゃうかな。」

 

「ああ、最悪刺されるかもな。」

 

「爽やかな笑顔でおっかないことを・・・。」

 

雅人が零士に弄り倒されている中、さくらは他のみんなに声をかける。

 

「おはようございます、烏間先生。」

 

「おはようございます、小路さん。

皆さんも、おはようございます。」

 

さくらはニコニコと挨拶をした後、申し訳なさそうに言う。

 

「今日はすいません、急に参加させて頂いて。」

 

「いやいや、付き合いたてのカップルから彼氏取り上げるなんてできねぇっすよ。」

 

「エレンの言う通りデス。

遠慮することありませんよ!センセー!」

 

「ありがとうございます工藤さん、九条さん。」

 

いい雰囲気になっている横から、陽子が口を挟む。

 

「それなら雅兄置いていけばよかったんじゃないの?」

 

「何言ってんだ!そんなことしたら夜に二人を質問攻めに出来ねぇだろ!」

 

「今回のキャンプのメインイベントじゃないデスか!!」

 

「それが本音か悪童共!

・・・って今回は私も言えた義理じゃないけども!」

 

「こっちにツッコンだ上でセルフツッコミとか・・・最近さらにツッコミスキル上がってきてねぇか陽子」

 

零士は全員が揃っているのを確認すると、

雅人に言う。

 

「雅人、そろそろ。」

 

「そうだね。

よしみんな、車に乗って、そろそろ出発するよ。」

 

『おー!』

 

全員が車に乗りこみ、キャンプ場へと出発した。

 

#####

 

2台の車は縦に並んで走っている。

 

前を雅人の車が走り、その後ろから零士の車が着いてくる。

 

雅人の車には、助手席にさくら。

前部座席にエレンとマリーが陽子を挟むように座り、後部座席に綾と賢治が座っていた。

 

「キャンプ♪キャンプ♪」

 

「テンションたっけぇなぁ陽子。」

 

「あたりまえだろ、楽しみなんだから。

エレンは楽しみじゃないのか。」

 

「まぁ、それなりにな。

マリーはどうだ?」

 

「クソ暑くてだるい。」

 

「そうか、楽しみか。」

 

「勝手に訳すな。」

 

そんな会話をしている3人に、後部座席から綾が話しかける。

 

「そういえば陽子、妹と弟は上手く宥めたの?」

 

「ギリギリまで粘られたけどな。」

 

「とりあえず夏休み中に遊園地連れてくってことで和解した。」

 

「あはは、お姉ちゃんも大変っすねぇ。」

 

「俺は写真いっぱい撮ってこいって言われた。」

 

「で、雅兄。

その汐凪のキャンプ場ってどんな場所なの?。」

 

陽子の質問に、雅人は正面を向いたまま答える。

 

「良いところだよ、下見したけどこの時期は夜に星がよく見えるんだよ。

あと、三日目は町に移動してホテルに泊まるつもりだから観光もできるよ。」

 

「本当に!?」

 

雅人の言葉に綾が食いついた。

 

「嬉しそうっすね、綾。」

 

「それはそうよ!

汐凪って言ったら住みたい街ランキングに毎年ランクインしてるくらいなんだから!」

 

綾がはしゃいでいる中、エレンが雅人にニッコリと笑顔で聞く。

 

「ところで雅人さん、そのホテルってもちろんカップル同士で同室ですよね。」

 

「もち四人部屋で男女別だよ

人数的にツインルーム2つと個室もとってるけど。」

 

「何故だ!」

 

「逆に聞くけどそんなことすると思う?

一応先生よ?俺。」

 

「ぐぬぅ。」

 

「それにそれやったとしてしのと蓮はどうすんの?

一組成立してないじゃん。」

 

「よし、分かった。

今日明日の2日間で無理矢理にでもあの二人くっつけるから!

それでどうかなりませんかねぇ!」

 

「なりません。」

 

「畜生めぇ!」

 

エレンは本気で嘆いたあと、

 

「ん?ツインルーム2つ?」

 

ある違和感に気づく。

 

今回のメンバーは、男6人と女7人。

 

まず四人部屋の1つはエレン達高校生男子四人で使うことになるだろう。

 

そして女子組は四人部屋を使うと3人余ることになる。

 

このとき、教師であるさくらは遠慮して四人部屋に入らないだろう。

 

となるとツインルームということになるが、

ここでもさくらは歳の近いもの同士がいいだろうと残りの2人に譲る。

 

個室を使うのは性格的に零士だろう。

 

ということは、残るはツインルーム一室。

 

「なぁ・・・雅人さん。」

 

「ん?なんだい、エレン。」

 

「ひょっとして、ツインルーム烏間先生と使おうとしてる?」

 

「・・・エレン。」

 

雅人は、バックミラー越しに微笑むと、

 

「君のような感のいいガキは嫌いだよ。」

 

そう言った。

 

「なんだよそれ!ズルいぞ卑怯者!」

 

「おうおう、なんとでも言え。

大人はそういうもんなんだよ。

よかったな、またひとつ賢くなったぞ。」

 

「良かねぇよ!なに1人だけ彼女と夏のアバンチュールを過ごそうとしてんの!?」

 

「別にいいでしょ、こちとら君らと違って大人なの。」

 

「そう言えばなんでも許されると思ってんなよ!」

 

雅人とエレンの会話を聞いて、助手席のさくらがクスクスと笑う。

 

「お二人はとても仲がいいんですね。

まるで兄弟みたいです。」

 

「ええ、こんな弟嫌だよ。」

 

「そんな事言わないでよお兄ちゃん。」

 

「はっはっはっ。

次俺の事をお兄ちゃんなんて呼んでみろ、

車停めて窓から放り投げるぞ。」

 

再びくすくす、と笑ってさくらは言う。

 

「雅人ファミリーって言うのがあるって聞いてましたけど、仲が良くて羨ましいです。」

 

「何言ってんだよからすちゃん。」

 

横から、陽子が割って入る。

 

「からすちゃんだって今日から雅人ファミリーだぞ。」

 

「そうそう、これから長い付き合いになるっすよ。

あ、これからプライベートではさくらさんって呼んでいいっすか。」

 

「ちょ・・・ちょっと賢治、さすがに失礼じゃ。」

 

「いいですよ?」

 

「いいの!?」

 

「その代わり、私も学校以外では皆さんのことを名前で呼んでもいいですか?」

 

「全然いいっすよ。

ねぇ皆。」

 

賢治の言葉に、それぞれが頷く。

 

「あはは、これからこの集まりも賑やかになるね。」

 

雅人はどこか嬉しそうに笑った。

 

「あ、LANEでみんなに知らせとこ。」

 

陽子は、通信アプリのLANEを使って他のみんなに報告する。

 

#####

 

零時の車には、助手席にカレン、

前部座席にしのと蓮、後部座席にアリスと隼人が座っていた。

 

「あはは、雅人ファミリーに烏間先生加入か。」

 

LANEを読んだ蓮が楽しそうに笑う。

 

その隣でしのも嬉しそうに微笑む。

 

「これでまた賑やかになりますね。」

 

「せやな、楽しいキャンプになりそうや。

・・・それにしても。」

 

蓮が後部座席をみる。

 

そこには隼人に体を寄せて眠っているアリスがいた。

 

「寝んの早すぎやろ。」

 

「しょうがないですよ、昨日はとても楽しみにしててなかなか眠れなかったようですから。」

 

「隼人はええんか、せっかく彼女と初めての旅行やのに。」

 

「ああ、俺は一緒にいられるだけでもいい。」

 

「さいで。」

 

そんな会話をしていると、

 

「うーん、ハヤト・・・。」

 

アリスが寝言で隼人の名前を呼んだ。

 

それを聞いた隼人は、真っ赤になった顔を片手で覆う。

 

「これ以上は幸せすぎて死んでしまう。」

 

「ホンマにベタ惚れやな。

ま、仲がええようで何よりやけどな。

なぁ、しの。

・・・しの?」

 

隣を見るとしのが今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 

「ど・・・どないしたんや!?しの!」

 

「ごめんなさい、蓮君。

アリスが幸せなのはとても嬉しいんです。

でも・・・でも・・・」

 

しのは顔をガバッと上げて言う。

 

「アリスがもう寝言で私の名前を呼んでくれないのかと思うと!寂しくて!」

 

「まじな顔で何言うてんねん。」

 

「今なら、巷で噂のヤンデレといわれる人の気持ちが分かる気がします・・・。」

 

「やめぇ。」

 

後ろの席で嘆いているしのに、カレンは笑いながら言う。

 

「それならシノも彼氏作っちゃえばいいんデスよ。」

 

「彼氏・・・ですか?」

 

「Yes!

そうですネ・・・蓮なんてどうデスか?

ハンサムですし良いと思いマス!」

 

「な・・・何を言い出すんやカレン!」

 

カレンに便乗するように、零士も言う。

 

「そうだな、最近はなんちゃって女遊びも辞めたみたいだしいいんじゃないか?」

 

「なんちゃってって言うな!」

 

「デート中、手は繋ぐけどキスはしない。

挙句の果てには尻尾巻いて逃げ出す事をなんちゃってと言わずなんという。」

 

「なんで知ってんねん。」

 

「学校で女子生徒が話してたぞ、チャラいのは見た目だけのヘタレだって。」

 

「ああああああああ!」

 

零士の言葉に、蓮は頭を抱えて悲鳴をあげる。

 

「だいたいお前はチャラ男になりきれてねぇんだよ。

このピアスもノンホールだろ。

ピアス穴開ける覚悟もねぇヘタレが調子こいてんなよ。」

 

「いじめか!」

 

零士の口撃に蓮が嘆く。

 

「やめてあげてください!

蓮くんを酷く言うのは!」

 

「しの・・・お前・・・。」

 

「蓮くんは頑張ったんです!

頑張って高校デビューしようとしたんです!

その結果可哀想なことになっただけなんですよ!」

 

「しのおおおおおおおおお!」

 

しのからのトドメの一撃に、蓮は悶えた。

 

#####

 

「とうちゃーく!」

 

キャンプ場に着くと、誰よりも先に陽子は車から飛び出した。

 

陽子の後に続くように他のみんなも外に出る。

 

「自然が多くていい場所じゃねぇか。」

 

「なんか私、思いっきり走りたくなってきた!」

 

「犬じゃねぇんだから落ち着け陽子。」

 

賢治も綾と共に外に出ると、深呼吸をする。

 

「空気が美味しいっすねぇ。」

 

「そうねぇ。

でもやっぱりシーズン中だから人が多いわね。」

 

「ほんとっすねぇ、親子ずれが多いっす。 」

 

その横にいた零士がふと思いついて言う。

 

「周りから見たら俺ら、どういう集まりに見えるんだろうな。」

 

「分かりませんけど私とダーリンはカップルに見えると思いマス!」

 

「ははは、こやつめ。」

 

「ダーリン!?だんだん私の扱い方が雑になってマセんか!?」

 

そんな会話を聞いていたアリスは恥ずかしそうにしながら隼人に聞く。

 

「ねぇハヤト、わ・・・私達もカップルに見えるかな?」

 

「あ・・・あぁ、そうだな。

見えると思うぞ。」

 

「・・・ハヤトって、嘘、下手だよね。」

 

「すまんアリス、正直兄妹にしか見えないと思う。 」

 

「ふ・・・ふん、いいもん!

周りからどう思われたって、私とハヤトは恋人同士だもん。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

そう言ってアリスと隼人はニコニコと微笑み合う。

 

雅人はエレンたちの後方で、さくらとキャンプ場を眺めていた。

 

「綺麗な場所ですね、雅人さん。」

 

「そうでしょ、前から来てみたかったんだよね。

夜は星が綺麗だって言うからさ。」

 

「それは楽しみですね。」

 

「うん、だから夜は二人っきりになれるといいね、からすちゃん。」

 

「は・・・はい、そうですね////」

 

そんなカップルたちの様子を、蓮は恨めしそうに見ていた。

 

「クソが・・・あっちこっちでいちゃつきよってからに。」

 

「羨ましいんですか?蓮君。」

 

「ああ、ピンポイントに隕石落ちて欲しいくらいにわな。」

 

「それはそれは・・・あ!じゃあこういうのはどうですか?」

 

シノは何かを思いつき、楽しそうに話す。

 

「このキャンプの間は、私達も恋人になるんです。」

 

「は・・・はぁ!?何言うとんねん。」

 

「実のところ、私も肩身が狭いんですよ。

だから蓮君さえ良ければでいいんですが・・・ダメでしょうか。」

 

蓮は少し悩んでから。

 

「うーん、まぁええか。」

 

「わーい!」

 

シノは、蓮の腕に抱きついた。

 

「ちょ・・・おい、しの!?///」

 

「今日から4日間、お願いしますね、蓮くん。」

 

「お・・・おう////」

 

蓮は顔を赤くして照れる。

 

そんなみんなの様子を、マリーは1人で遠くから眺めていた。

 

(やっぱりみんな仲いいなー。)

 

マリーは、ふと空を見上げる。

 

(穂乃花さん、何してるかなぁ・・・。)

 

そんなことを思った時、マリーの携帯が鳴った。

 

画面には、松原穂乃花と表示されていた。

 

狙ったかのようなタイミングに、少し吹き出してから、マリーは応答ボタンを押す。

 

「もしもし。」

 

「もしもしマリーちゃん?」

 

「どうしたの、穂乃花さん。」

 

「えっと、その・・・どうしてるかと思って。」

 

「うん、こっちは無事ついたよ。」

 

「そっか。

ごめんね、せっかく誘ってくれたのに・・・。」

 

「謝らなくていいよ、合宿なら仕方ないよ 。」

 

「うん・・・そう言ってくれると嬉しいよ。」

 

「・・・あのさ、穂乃果さん。」

 

「ん?なに?」

 

「写真、LANEで送るから。」

 

「うん、楽しみにしてるね。」

 

電話越しに会話をしていると、雅人とさくらの声が聞こえる。

 

「ほら野郎共。

さっさとこっちでテント建てるよー。」

 

「女の子達も、こっち来てくださーい。」

 

それを聞いて、少し名残惜しそうに穂乃果に言う。

 

「ごめん、呼ばれたから行かなきゃ。

夜にまたかけるよ。」

 

「分かった。

じゃあね、マリーちゃん。」

 

マリーは電話を切ると、さくら達の方へ向かった。

 

#####

 

男性陣と女性陣で分けて使うために、テントは大型のものを2つ建てた。

 

その後は夕方までのんびりと過したあと、

夕食の時間になり、陽子と綾とさくらは炊事場に集まっていた。

 

「で、カレーを作っていこうと思うんだけど・・・本当に任せて大丈夫?陽子。」

 

「大丈夫だって綾、私を信じろ!」

 

「でも・・・。」

 

「綾さん。」

 

心配そうにする綾の側で、さくらは微笑む。

 

「こんなに自信満々なんですから、信じてあげましょうよ。」

 

「でもせんせ・・・さくらさん・・・。」

 

「本当に大丈夫だよ、綾。

今回は本当に自信あるんだ。」

 

「・・・分かったわ、でも私も手伝うからね。」

 

「おう!」

 

「それじゃあ私はご飯炊いてますね。」

 

そうやってそれぞれが自分の役割のために動きだした。

 

綾は勿論だが、陽子も慣れた手つきで料理していく。

 

「本当に料理上手になったわよね、陽子。」

 

「はは、まあな。

といってもまだまだ修行中だけどなー。」

 

「昔は出来てなかったんですか?」

 

「そりゃあもう!

小麦粉床にぶちまけるわ、調味料は配分めちゃくちゃだわ、味付け間違えるわ、挙句の果てにはボヤ騒ぎ!

何が起こったのか教えてちょうだいって感じでしたよ。」

 

「人をどこぞのコ○ンドーみたいにdisるな!」

 

「そうですか・・・でも。」

 

さくらはニッコリと微笑む。

 

「恋が陽子さんを変えたんですね。」

 

「・・・////」

 

「ふふ、陽子ったら顔真っ赤にしちゃって、かわいい♪」

 

「う・・・うるさいなぁ!

ほら口より手を動かせ手を!////」

 

そんな会話をしながら料理していると、カレーが出来上がってくる。

 

「いいかんじね。」

 

「そうだな。」

 

「わー、とても美味しそうですね。」

 

米を炊いている合間に、様子を見に来たさくらが頬を緩ませる。

 

「もういいんじゃない?陽子。」

 

「いや、仕上げがまだだ。」

 

「仕上げ?」

 

陽子はにししと笑うと、

 

「これを使う。」

 

そういって、デスソースを取り出した。

 

「ちょ・・・ちょっと陽子、何考えてるのよ!皆も食べるのよ?」

 

「大丈夫だよ、使うのはこれだけじゃない。

ちゃんと食えるようにするって。」

 

「そ・・・それならよかったわ。」

 

綾がほっと肩を撫で下ろすと、

 

「というわけで、これも使う。 」

 

陽子は満面の笑みでチョコソースを取り出した。

 

「何が大丈夫なの!?

悪化するようにしか見えないんだけど!?」

 

「これで美味しくなるんだって。」

 

「そんなわk」

 

「とりゃあ!」

 

陽子は、綾の静止を無視してデスソースとチョコソースをカレーに入れる。

 

「あああああああ!

なにやってんのよ陽子!」

 

「本当に大丈夫だって、私を信じろ綾。」

 

あやはため息を吐いて。

 

「どうなっても知らないからね。」

 

そう言って鍋の中のカレーを混ぜる。

 

「うー、すごいチョコの匂いするぅ・・・。」

 

そう言ってよく混ぜた後、ひとくち味見してみると、綾は驚いて目を見開く。

 

「普通に食べれる!ていうかすごく美味しい!」

 

「コクが凄いですね。」

 

2人の反応に、陽子は満足そうに笑う。

 

「へへっ、だから言ったろ?」

 

「でも・・・え?なんで?」

 

首を傾げるあやに陽子は自慢げに答える。

 

「カレーってのはいろんなペクトルが求められるもんなんだよ。

その中でも大事なのが、甘みと辛さ。

そこに複雑性を持たすのに最適なのが・・・。」

 

「デスソースとチョコソースってことなんですね。」

 

さくらが納得したように言う。

 

「そのとおり。

っていってもネットで見た動画の受け売りだから私も意味わかってないけどな!」

 

「かっこいいと思ったのに台無しよ、陽子。」

 

#####

 

皆は運ばれてきたカレーライスを美味しそうに食べていた。

 

「おいしい!」

 

「今まで食べてきたカレーと、コクが段違いです!」

 

「そうだろそうだろ!

まぁ、殆ど私が作ったんだぞ!」

 

「え!そんなんデスか!?」

 

カレンは驚いた表情で目の前のカレーを凝視する。

 

「なんて言うか・・・インデペンデンスデイ並の歴史的瞬間に立ち会ってる気分デス。」

 

「人が料理できるのがそこまで不思議か!」

 

アリスもニコニコとしながら食べる。

 

「美味しいね!隼人!」

 

「ああ。

だがアリス、もう少し落ち着いて食べた方がいい。

口にカレーがついているぞ。」

 

「あ////」

 

アリスは頬を染めて布巾で口を拭う。

 

そして蓮はニヤニヤとしながら雅人に言う。

 

「それにしても、

よかったなぁ雅人さん、やっと烏間先生・・・さくらさんに告白できて。」

 

「だな、俺は高校の頃から、こいつらいつ付き合うんだとモヤモヤしてたが。」

 

「いやぁ、悪いねぇ俺がヘタレなせいで。」

 

あっけらかんと笑う雅人にエレンは訪ねる。

 

「で、これから2人はどうするんだ?」

 

「あぁ、うん。

さすがにお互いの親に『いきなり結婚は飛ばし過ぎ』って怒られてさ。

とりあえず同棲から始めようってことになった。」

 

「当たり前ですよ、もう///。」

 

となりで恥ずかしそうに頬を膨らますさくらを見て笑ってから、雅人は寂しげに微笑んでスプーンをテーブルの上へ置く。

 

「雅兄?」

 

いつもと違う雰囲気の雅人に陽子が首を傾げると、雅人は全員の顔を眺めて言う。

 

「でさ、これはまださくらにも伝えてないことなんだけど。」

 

「え?」

 

不意を付かれたさくらが、雅人の顔を不安そうに見つめると、雅人は言う。

 

「俺、今年度いっぱいで学校辞めるわ。」

 

その場を、少し長い沈黙が支配した。

 

やがて声を上げたのは、陽子だった。

 

「なんだよ・・・それ、教師辞めるってことかよ・・・。」

 

「違うよ、教師は別の学校で続ける。」

 

「なら!別に学校辞める必要なんてっ!」

 

「落ち着け陽子。」

 

「でもエレン!」

 

今にも泣きだしそうな顔で叫ぶ陽子の手を、エレンは優しく握る。

 

「・・・っ!」

 

「いいから、落ち着いて雅人さんの話を聞け。」

 

そう言ってエレンはが雅人の方を向くと、

雅人はつづける。

 

「ごめんね、皆。

でも、これは俺なりのケジメなんだ。」

 

「ケジメ?」

 

雅人の言葉に綾は首を傾げる。

 

「恋人同士が同じ職場に働いてると、

多かれ少なかれ白い目で見られる。

それで辛い思いをするのは俺じゃない、さくらだ。」

 

「だが雅人、周りの教師は祝福してくれると思うぞ。」

 

「確かにね、零士。

でも、来年から入ってくる新人からの風当たりは保証できない。」

 

「それは・・・確かにそうだが。」

 

「本当なら旅行の初日に話すようなことじゃないけど。

みんなには、楽しい気持ちのまま帰って欲しいからさ。

だから今話した。」

 

再び、みんな黙り込んだ。

 

「・・・雅兄、もう決めたんだよね。」

 

黙って聞いていたマリーの問いかけに雅人は、

 

「ああ、決めた。」

 

しっかりとそう答えた。

 

「そっか・・・だそうだよ皆」

 

マリーがそういうと、少し間を開けて陽子が明るい声で言う。

 

「なんだよ雅兄!

それなら私たちに相談してくれればいいじゃん水臭い。」

 

「そうだぜ、雅人さん何年の付き合いだと思ってんだよ。」

 

陽子とエレンは笑っていう。

 

「ごめんね、皆。」

 

「謝らないでください、雅人さん。」

 

「綾の言う通りっすよ、なんも間違えたことしてないんすから。

もっと胸はるっすよ。」

 

綾と賢治に続いて、他の皆も声を上げる。

 

「雅人さんが決めたことに、俺達は口出しをするつもりは無い。」

 

「うん!私も応援する!」

 

「それに!新学期までは私たちの先生なんですから!まだまだいっぱい遊べるデス!

ね、ダーリン!」

 

「・・・ま、そうだな。」

 

「・・・みんな。」

 

皆の反応に、雅人は嬉しそうに微笑む。

 

「せや、なんやったら今から送別会の計画立てよか!」

 

「それは楽しそうですね!」

 

「ちょ、いいよそんなの。」

 

「それなら胴上げで決まりっすよ!」

 

「えぇ、やだよ、恥ずかしい。」

 

「いいな、そしてそのまま橋の上から川に投げ飛ばす。」

 

「うん、やめようね。

俺普通に死ぬからね?」

 

そんな風にはしゃぎながら、雅人がさくらの方をむくと。

 

さくらは少し寂しそうに微笑んだ。

 

#####

 

夜になり、空にはたくさんの星々が輝いていた。

 

まさに、満点の星空と言えるだろう。

 

皆は、それぞれ各々の時間を過ごしていた。

 

「・・・」

 

エレンは静かに夜空を眺めていた。

 

「エレンみっけ。」

 

エレンが振り返ると、そこには陽子がいた。

 

「おう。」

 

陽子はエレンに駆け寄ると、手を握って隣に立ち、エレンと同じように空を眺める。

 

「・・・綺麗だな。」

 

「・・・ああ、そうだな。」

 

「エレンは星座とかわかる?」

 

「さあな、オリオン座くらいかな。」

 

「私もそれくらい。」

 

そんな会話をした後、自然とお互いしばらく黙ってしまう。

 

そして、陽子が口を開く。

 

「雅兄、寂しそうだったな。」

 

「そりゃそうだろ。

あの人にとってあの場所は母校だ。

俺達とは思い入れが違う。」

 

エレンはそう言うと、溜息を吐く。

 

「やっぱすげぇな、あの人は。

惚れた女の為にそこまで思い切れるなんてな。」

 

「あはは、昔っからエレンは口に出さないけど雅兄のこと尊敬してるよな。」

 

「そりゃ陽子もだろ。

俺達はあの人の背中みて育ってきてんだからか。」

 

「確かになぁ。

でもな、エレン。」

 

陽子はエレンに笑顔を向ける。

 

「エレンは、エレンでいいんだぞ。」

 

「え?」

 

「誰かみたいになりたいとか、

そんなこと考えてても結局はそれ、真似事だろ?

そんなの・・・なんか寂しいじゃん。

だからさ。」

 

陽子はエレンの正面に立つと、満面の笑みを浮かべる。

 

「エレンはエレンのやり方で、私を幸せにしてくれよな。」

 

陽子の言葉にエレンは笑いを吹き出した。

 

「ああ、そうだな。

お安い御用だ。」

 

「で、差し当っては。」

 

陽子はエレンに両手を広げる。

 

「今なら抱きしめるだけで簡単に私を幸せに出来るぞ。」

 

「はは、やっすい幸せだなぁ。」

 

そう言いつつもエレンは、陽子を優しく抱きしめた。

 

#####

 

マリーは、星空を眺めながら電話で穂乃花と話していた。

 

「そっか・・・桐谷先生、いなくなっちゃうんだ。」

 

「うん、そうみたい。」

 

「内緒にしておいた方がいいよね、皆絶対落ち込むよ・・・」

 

「うん、雅兄も他の生徒には自分の口から言うつもりだから秘密にしておいてって

でも穂乃花さんには話しておきたいって私からお願いした。」

 

「うん、教えてくれてありがとう。

・・・ねぇマリーちゃん、寂しい?」

 

「・・・」

 

心境を言い当てられたマリーは、照れ隠しからつい穂乃花をからかってしまう。

 

「寂しいって言ったらなにかしてくれんの?」

 

「え!?えっと・・・。」

 

電話の向こうの穂乃花は少し戸惑ったあと。

 

「あ、頭撫でてあげたり・・・とか?」

 

そう言った。

 

「・・・フフッ。」

 

「な・・・なんで笑うの!?」

 

「ごめんごめん、穂乃花さんが可愛いこと言うから、つい。」

 

「かわっ・・・もう!」

 

恥ずかしそうな穂乃花の声に、マリーの頬が緩む。

 

「ねぇ、穂乃花さん。」

 

「なに?マリーちゃん。」

 

「こっちは星が綺麗だよ。

写真撮って送ろうと思ったけど、スマホじゃ映らなくて。」

 

「大丈夫、星ならこっちでも見えるから。」

 

「そっか。」

 

マリーは星を見上げる。

 

「・・・綺麗だね。」

 

「うん、すごく。」

 

2人は同じ夜空を眺めていた。

 

#####

 

「わー!すごく綺麗ですー!」

 

星空の下で、忍ははしゃいでいた。

 

「確かに、こんなに星が綺麗に見えるところあんまりないで。」

 

忍のあとを追うように歩いてきた蓮は楽しそうに星空に向かってカメラを構える。

 

「カメラで星って撮れるんですか?」

 

「普通のカメラやったら映らんけど、

親父に頼んでええもん借りてきたからな。

ホレ、見てみ。」

 

蓮に促されるまま、忍はカメラの後ろの小さなモニターをのぞき込む。

 

「わー!すごく綺麗に写ってます!」

 

「せやろ。」

 

2人で写真を眺めながら、蓮はふと思ったことを口に出す。

 

「なぁ、しの。」

 

「なんですか?蓮くん。」

 

「しのは・・・寂しないんか?

周りのみんながその・・・付き合い出して。」

 

蓮の問いに忍は少し間を開けて答える。

 

「たしかに・・・なんだかみんなに置いていかれて寂しい気もします。

でも・・・それ以上に嬉しいんです。」

 

「嬉しい?」

 

「はい、だって。」

 

忍は満面の笑みで、

 

「みんな、幸せそうに笑ってますから!」

 

そう言った。

 

「・・・そうか。」

 

「はい!

あ!そうだ、蓮くん。

良かったら星空をバックに1枚撮ってくれませんか?」

 

「ええで、何枚でも取ったる。」

 

「やったー!」

 

嬉しそうに走り出した忍に、蓮はカメラを向ける。

 

そして、忍が両手を広げて、笑顔でこちらを振り向いた時。

 

パシャ。

 

蓮は、反射的にシャッターを切った。

 

「どうですか?蓮くん。

ちゃんと取れました。」

 

蓮は、写真をしばらく眺めると微笑んで言う。

 

「ああ、めっちゃ綺麗やで、しの。」

 

「・・・あっ////」

 

蓮のことばに、忍の顔が赤く染まる。

 

「ん?どうした?しの。」

 

「す、すいません!

えっと・・・その////。」

 

忍は、恥ずかしそうに言う。

 

「今の・・・キュンとしました////」

 

「・・・////」

 

忍の言葉に、蓮は恥ずかしそうに頭をかいた。

 

#####

 

雅人とさくらは、2人で星空を眺めていた。

 

「綺麗だね、さくら。」

 

「そうですね。

いつもの山から見る星もいいですけど、

ここは格別ですね。」

 

そう言ってさくらは微笑む。

 

「・・・学校辞めること、ずっと黙っててごめんね。」

 

「本当ですよ、少しは相談してくれてもいいじゃないですか。」

 

「うん、ごめん。

でも、これは俺が自分で決めなきゃいけないことだからさ。」

 

「・・・分かってます。

雅人さんは昔からそういう人ですから。

雅人さんの決めた事なら、私は何も言いません。」

 

「・・・ありがとう。」

 

雅人は桜の頭を撫でると、そのまま手を頬に移動させる。

 

そこまで話すと2人は無言でお互いの腰に腕を回して抱き合い、口付けを交わした。

 

長いキスが終わると、2人は見つめあって微笑み合う。

 

「でもさびしいですね、一緒にいれる時間が減るのは。」

 

「何言ってんの。

あと半年以上は同じ職場だし、

もうすぐ一緒に住むんだから、休日は一日中一緒にいられるよ。」

 

「ふふ、そうですね。

でも本当にいいんですか?

わざわざ別のマンションに部屋借りなくても今のどっちかの部屋に引っ越せばいい話なのに。」

 

「たしかに、それも手だけどさ。

新しい始まりは新しい場所から始めないと気分が出ないでしょ。」

 

「・・・そうかもしれませんね。」

 

さくらは雅人の手の平に愛おしそおにほっぺたを擦り付け、うっとりとした表情で雅人を見つめる。

 

「これから、たくさんの初めてを2人で見つけていきましょうね。」

 

「あぁ、好きなだけ見せてあげるよ。」

 

2人は見つめ合うと、再びキスをした。




今回の舞台、汐凪ですが、
某ギャルゲーに出てくる架空の場所です。
今回の話を書くのに、ピッタリだと思って使ってみました。


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