黒円卓第一位の武者修行 (刹那)
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第一幕

どうも始めまして、作者の刹那です。獣殿とニートが大好きでこの小説を始めました。気に入ってくれたら幸いです。


ここは第五天の世界。第五天の神、黄昏の女神のこと、マルグリット・ブルイユ(通称:マリィ)が座を支配し、収めてはや数千年がたった。守護者として、先代の神カール・クラフト・メルクリウス(通称:水銀)と、その息子と同時にマリィの恋人の藤井蓮(通称:刹那)、そしてメルクリウスの友人、ラインハルト・ハイドリヒ(通称:黄金と獣殿)がいた。彼女は本来共存出来ぬはず覇道神を共存可能という歴代で類を見ない奇跡を出した。そのおかげで、仮に悪意を持った覇道神が彼女に襲いかかろうとも、彼らのおかげで、彼女の座は守られることになった。

 

そんなある日のこと。

 

「.....ヒマだな、カールよ。」

「そうかね、獣殿?」

 

特異点の世界でラインハルトは、ため息を尽きながら親友のメルクリウスにそう呟いた。

 

「まあマルグリットの収める世界は、争いなど決しては亡くならぬが、我々がやったような規模の戦いをやろうと思うものはごく稀だからね......私達が仕事をするなど滅多にないだろうな。」

 

メルクリウスはやや自慢げな感じの表情で、ラインハルトにそう語った。

 

「実際刹那は、そんな世界を満足そうにしているな。」

 

二人が語り合う傍、マリィと蓮は楽しそうにお喋りをしながら、黄昏の浜辺を散歩していた。ラインハルトとメルクリウスは、二人の邪魔にならない場所でそれを眺めている。すると、メルクリウスはニヤッと笑ってラインハルトに言った。

 

「でもたしかに、刺激がないのも私には我慢出来んな。せっかくだから獣殿よ、歴代の神格で最高の武威を持つあなたに決闘をしてもらいたい。」

「何がせっかくなのか分からんが、まあいいだろう。それで、どこで誰と戦えばいいのだ?もしかして刹那とか?」

 

ラインハルトがそう聞くと、メルクリウスはいつものように淡々と語る。

 

「まさか、それはもう私の嫌う既知のうちに入っている。故に私達ですから関わったことのない人物達を私が引っ張り出してくる。そのものらと戦ってもらう。もちろん1対1でだ。所謂連続試合というやつだな。」

「なるほど、それは面白そうだな。ところで私に対してのルールや制限はあるのか?」

 

ラインハルトがそう聞くと、メルクリウスはピンっと指を立てて語る。

 

「そうだな......単純に戦うだけではなく、面白い勝負をして欲しいな。簡単にいえば盛り上げて欲しい。でないとただの獣殿の無双になってしまいそうだ、何事も面白みがないとな。」

「そうか、点数とかあるのか?」

「それはない、私が面白ければそれでいい。強いていうなら、マルグリットに迷惑をかけなければそれでいい。この意味がわかるかね?」

「『ようはなるべく流出をするな、ここは彼女たちや私にとっても大事な場所だから』か.....相分かった。他に何かあるか?」

「一応あと注意が二つあるな。一つは、初戦は聖遺物の守りを一旦なかったことにする。あれは私が作った法則だが、ない状態での戦いも興味を持った。」

「ふむ、分かった。もう一つは?」

「戦う場所は私が作った特殊な空間でやってもらう。先程獣殿が言った流出も可能で、私がなんとか回帰をすればここまで覇道が押し寄せることもないが、それはなるべく避けて欲しいな。私は荒事が苦手だからね。」

 

今話していること自体荒事なことを棚にあげてメルクリウスはそう言った。そして.....

 

「私からの説明は以上だ。他に何か質問はあるかね?」

「いや、もういい。それより早速始めようではないか。その異空間とやらに連れて欲しい。」

「了解。」

 

ラインハルトにそう言われると、メルクリウスは正面に手をかざした。すると、2Mほどの小型のブラックホールが現れた。

 

「この中に入ったらスタートだ。ないと思うが、どうしても疲れたなら言ってくれ。刹那あたりにでも交換させるよ。」

「そうか、分かった。では言ってくる、感謝するぞカール。」

 

ラインハルトはそう言い残して、目の前のブラックホールへと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、ラインハルトはいつの間にかコロッセオのような闘技場の中で立っていた。

 

「いつの間に.....」

 

ラインハルトはらしくもなくあたりをキョロキョロと見渡す。しかしギャラリーの方には人っ子一人もいない。

 

「ふむ....静かだな.....」

 

ラインハルトが黄昏ながらそう呟いていると.....

 

「あんた誰だ?」

「む....」

 

ラインハルトは声のする方に向いた。そこには緑色の頭をした少年がいた。

 

(この少年がカールの連れてきた刺客か?ベイおろか、マレウス程の殺意も感じんぞ?)

 

そう疑問に感じながらも、ラインハルトはとりあえず自己紹介をした。

 

「私は聖槍十三騎士団、黒円卓第一位、ラインハルト・ハイドリヒ!」

「ラインハルト.....騎士団やら黒円卓は知らないが、名前だけなら聞いたことがあるな。」

 

ラインハルトがそう自己紹介したら、少年はそう呟いてラインハルトを見た。そして今度はラインハルトが聞き返す。

 

「それで、卿の名は?」

「俺か?俺の名は植木耕助、中学生だ。」

 

そう聞くと、ラインハルトは眉をひそめ、植木を見ていた。

 

「(私と戦った当時の刹那よりも歳下のようだな。カールよ、一体何を考えてこの少年と戦わせるつもりだ........いや、一応カールが連れてきた刺客だ......油断は禁物だな、ただの少年なわけがない。」)

 

ラインハルトはそう考え直し、植木と再び向き合い、口を開いた。

 

「では植木とやらよ、ここにきたからには私と闘ってもらうぞ。」

「は?なんでだ.....」

「では、開始。」

 

ラインハルトは開始の合図と同時に、ロンギヌスを形成して、それを突き刺そうとする。

 

「うぉ!?ちょ、ちょっと待てよ!説明もなしにいきなり攻撃するな!そもそもここは一体どこなんだよ!?」

 

植木はとっさにロンギヌスを避け、ラインハルトに疑問をぶつける。しかしラインハルトは.....

 

「ここは私の友に頼んで作ってもらった闘技場の異次元だ。卿はカールの刺客に選ばれしもの、勝敗は死んだら負け。以上だ。」

 

涼しい表情で淡々と、さてサラッと言い返した。そして再び攻撃をしかける。植木は再び避ける作業をする。

 

「ちょ、ま.....くそやるしか無いか......一つ星神器!『鉄』!」

「ホゥ....」

 

ラインハルトは少々見とれてしまった。植木が召喚した『鉄』と言う神器とやらは、とてつもなくデカイ大砲だった。ドーラ砲ほどの大きさじゃないとは言え、それは普通の中学生が到底支えきれるものじゃなかった。そして、ズドン!という轟音と共に発射した砲弾も、当然それ相応の大きさだった。だが......

 

「やはり、普通ではなかったな。『第九_SS装甲師団(ホーエンシュタウフェン』」

「な!?」

 

ズガァァァァ!!!

 

ラインハルトの指令とともに、彼の背後から現れた数百の髑髏達から、巨大な戦車が数十ほど現れた。それと同時に戦車から砲弾が放たれ、鉄と相殺された。その威力は凄まじく、爆風は闘技場の外まで流れ出た。

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!!」

「ふむ、やはり数千年ぶり闘技だな、全力とは程遠い。」

「(は?今のでも全力じゃねえのかよ!?)」

 

砲弾の余波を受けながら、植木は驚きを隠せなかった。何せ必死だったとは言え、フルパワーで出した鉄を戦車で相殺され、強力な余波すら生まれる。尚且つそれですらまだ全力とは遠いという、正直比喩か冗談かと誰か言って欲しいはず。

 

「(だが、逆に言えばまだラインハルトは弱体してると言ってもいいはず。なら、倒すなら今のうちってことだな!)」

 

そう開き直った植木は戦闘体制を取り直し、再びラインハルトと向き合う。

 

「ようやく卿も戦う気を出してくれたらしいな。では、先程の花火を開始の合図として、戦闘を再開としよう。」

「いいぜラインハルト!俺は絶対負けねえ!何で此処に連れてこられたかわ知らねえけど、お前をほおっておかせるわけにはいけねえ気がする!行くぞぉ!」

 

こうして、植木耕助対ラインハルトの決闘が始まった。

 




獣殿の相手は基本自分の好きなキャラを出しています。戦いをこなして行くごとに、レベルをあげて行くつもりです。


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第二幕

今回は少々めちゃくちゃな戦いになると思いますが、ご了承ください。何度も書きますが、主人公は獣殿です。


「「行くぞぉぉぉ!!」」

 

闘技場に二人の叫び声が響き渡った。そして一番最初に行動に出たのは、ラインハルトだった。

 

『その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も

 

あらゆる総てを持ってしても繋ぎ止めることが出来ない

 

彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主 』

「(な、なんだ!?あいつの声が魂にまで響き渡るこの感じは!?身動きが取れねぇ!?)」

 

植木はラインハルトの詠唱が身に響き渡り、金縛りのような感覚にあった。

 

『この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない

 

ゆえ 神は問われた 貴様は何者か

 

愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう

 

我が名はレギオン

 

創造

(Briah― )

至高天・黄金冠す第五宇宙

(Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall)』

 

 

ゴオォォォォォォ.......

 

 

「な......」

 

ラインハルトの背後の天空高くから魔法陣が浮かび上がり、その上には髑髏で出来た巨大な城、ヴェヴェルスヴルグ城が発生した。城が発生すると同時に、辺りの景色はまるで血で染まったかのように薄暗くなっていた。

 

「な....これは....」

「これは私が全力を出せるための異能。というより異界だな。無論これを出した以上、現世との干渉はますます不可能となった。卿がここから脱出するためには、私を倒すしかあるまい。」

「だよな.....だったら早速やってやるよ!4つ星神器、唯我独尊!(マッシュ)」

 

ホゴォ!!

 

植木はそう叫ぶと同時に、ラインハルトの下から巨大な口を開けた箱の様な物をだし、ラインハルトにぶつけようとした。しかしラインハルトは避けようとしなかった。

 

「(さっきの大砲といいこの箱のような物......どうやら彼はマレウスのように多種型の聖遺物の形成.....いや、武器を持ってるようだな。しかもよく見るとあの手の塵を媒介に。いいだろ、ならば.....」

「(ん?あいつ何を?)」

 

植木はキョトンと頭にハテナを浮かべながらラインハルトを見た。するとラインハルトは槍を植木側に向けながら呪文を口ずさむ。すると、槍からは黒いオーラのような物が帯びる。

 

『この身は悠久を生きし者。ゆえに誰もが我を置き去り先に行く

追い縋りたいが追いつけない。才は届かず、生の瞬間が異なる差を埋めたいと願う

ゆえに足を引くのだ――水底の魔性 」

「!」

 

詠唱の間、まるで時が止まったような感覚になる。そして植木は一瞬、ラインハルトの姿が小さな少女の姿をした魔女と重なって見えた。

 

『波立て遊べよ――

拷問城の食人影 (Csejte Ungarn Nachtzehrer)』

 

 

ザアァァァ.....!!

 

 

「な、影が動いた!?」

 

植木は驚きを隠せなかった。呪文を終えると、ラインハルトの足元から影が生き物のように周りへと広がって行く。そして植木が先程出したマッシュは、ラインハルトを噛み砕くことを叶わず、一瞬にして影に飲まれて、動きを止めてしまった。

 

「(あの影、まさか動きを止める能力か!?)」

「取り敢えず足場を限定させてもらうぞ。何を驚いている、まだ序の口だ。狙いは卿だぞ?」

 

ラインハルトはニヤッと笑いながら植木を見る。

 

「く、6つ星神器、電光石火!(ライカ)」

 

ドギャッ!

 

植木は影に飲まれる前にローラーブーツのような神器を召喚して、そのまま身を翻してラインハルトとその影から距離をとった。

 

「ほう、刹那ほどではないが速いな。だが、限界があるぞ?」

「(んなことは分かってる。闘技場である以上、端っこに追い込まれたら終わりだ。それよりもこいつの能力......もしかしてだと思うが、部下の.....)」

「そうだ、『私は軍勢(レギオン)』だ。」

 

植木の心を読んだのか、ラインハルトは植木が逃げている間、自身の能力について語った。

 

「銃兵には銃を、砲兵には砲を。部下の長所をよく知ってなければ将にはなれない。ゆえにこう考えられぬか?」

「お前は仲間の能力を知っている。つまりお前は仲間全員の能力を使えるを」

「然り。将たるもの、部下に愛を示さないとな。我が愛しのレギオンは卿と戦いたくて仕方がないらしいからな。ならば私は親としてそれを想いを果たしてやらなければならない。」

 

ラインハルトがそう語ると、植木は表情を歪めた。何が愛だ、そんなのただの強制労働だ、愛や絆の糞もない。

 

「そんな奴におれが負けるわけにはいかねえ......5つ星神器、百鬼夜行(ピック)!」

 

ズドォォォォ!!

 

影から十分に距離を離すと、黄色と黒の積み木で出来たような横長の棒状の神器ピックを発動した。ピックは影の上をそのまま並行に走り、ラインハルトへと迫る。

 

「無駄だ。」

 

ズドン!

 

だが、ラインハルトはピックの先端にロンギヌスを勢いよく突き刺した。

 

ピシピシ.....ゴジャァァ!!

 

「な!?」

 

みるみる内にピック全体にヒビが刻まれてゆく。そしてそのまま粉々に砕けてしまった。

 

「これは単純な威力の差だな、私の友の話によるとコレは一撃で都市一つ破壊して余りがある程らしい。まあ、卿の今の武器の威力がどれほどかは知らんが少なくとも、コレ以下らしいな。」

「くそ、バケモンが........」

 

植木は苦虫を潰したような表情をした。しかし、足元に影が迫っているのを察知し、直様疾走を始めた。

 

「(くそ!ピックすら効かねえかよ!このままではヤバイ!取り敢えず走り回って作戦を練るしか.....)」

 

しかしそう思ったのもつかの間、目の前に闘技場の壁が近づき始めた。

 

「(まずい、このままじゃあの影の能力で強制的に止まる!そしてそのままあの槍の攻撃を直で.....くそ!どうすれば!)」

 

振り返ると見渡す限り影、影、影。このままゲームーオーバー.....その瞬間、植木は閃いた。

 

「まてよ、『能力』.....そうか!こうなったら一か八か!八つ星神器波花(はみはな)!」

「む?」

 

そして何を思ったのか、植木は地面の影に向かって鞭状神器をぶつけようとする。ラインハルトはそれを見て呆れた。

 

「血迷ったか?影に触れたら.....」

「レベル2!(リバース)」

「っ!?」

 

バシュゥゥゥ......

 

しかし植木の行動によって一瞬にして一変した。何と、ムチとぶつかった影は一瞬にしてタダの影へと戻っていった。ラインハルトはあまりの驚愕で呆然とする。

 

「リバース?.....まさか....ふ、ははははは.....はははははははは!はははははははははは!!」

「なんだあいつ、急に笑いやがった。」

 

こんどは植木が呆れたが、ラインハルトはそんなことすら眼中に入らなかった。何せこれは未知なのだ。AからBに変えた物を強制的に戻す。つまり先程は『ラインハルトの影』を『ルサルカの能力(ナハツェーラー)』に変えたため、植木のリバース(法則)は発動された。そしてラインハルトはこんな能力は知らない。それがあまりに嬉しかったのだ。

 

「あははははははは!!いいぞ植木耕輔!もっとだ、もっと!私を楽しませろ!」

「今れなくても.....鉄、唯我独尊、百鬼夜行!レベル2!」

 

植木は一気に3つの神器、レベル2付きでラインハルトを攻めた。これなら影に止められることはないと。

 

「行けぇぇぇぇ!!」

 

 

ドクン....!

 

 

「!」

 

だが.....植木は再び時間軸が止まったような感覚に落ちる。そして、ラインハルトの槍から兄弟な殺意と漆黒のオーラが溢れ出る。

 

「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界

夜に無敵となる魔人になりたい

この畜生に染まる血を絞り出し、我を新生させる耽美と暴虐と殺戮の化身――闇の不死鳥 」

 

こんどは髪と肌が純白に染まり、目は赤く染まり、犬歯がむき出しの凶悪な顔をした男と姿が重なった。

 

「枯れ落ちろ恋人

死森の薔薇騎士 (Der Rosenkavalier Schwarzwald)」

 

 

オオォォォォ......

 

 

ただでさえラインハルトの創造によって暗くなってるはずのここの世界が、さらに暗黒に染まった。唯一の明かりの月さえ血のように赤く染まっている。そう、この創造(のうりよく)は強制的に吸血鬼の夜にさせる。あの男は最強の吸血鬼を望む、故に吸血鬼にとって都合のいい世界を発動させる。そして......

 

「があぁぁぁぁ!!」

 

植木は絶叫を上げた。唐突に起きた脱力感。みるみる内に血色のいいはずの自分の肌がどんどん薄い白色にと変化する、まるで吸血鬼に吸われて行くかのように。そう、この夜を発動したら、その異界の中の生命力は全てこの能力の発動手に奪われる。まさに自分の強化と敵の弱体化をうまく併合した能力である。そして、植木が発動した三つの神器はみるみる内に天界力を奪われ、ラインハルトのロンギヌスの一振りで払われるように消し飛ばされた。

 

「敵の弱体化.....あまり私の好みではないがつい気分が良くて発動してしまった。とわ言え、卿は私に未知を見せてくれた男だ。舐めてはおらんよ。」

「クソ.....野郎が.....」

 

植木は余りの脱力で地に膝をつけてしまったが、なんとか震えながら立ち上がる。

 

「言っておくが、この夜を力ずくで終わらすためには、月でも壊さん限り不可能だ。卿にはそれ程の力はあるとは思えんが?リバースとやらも届かんとはずだか......」

「言われなくても......わかってるよ.....」

 

そう言って植木は、次の手を打ち出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




植木のレベル2に関してはツッコミはなしにしていただくと幸いです。獣殿といい勝負させるためには自分の力ではこうするしかなくて、Diesファンとうえきファンの皆様、本当にすみませんでした!


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第三幕

投稿が遅くなってすみませんでした。仕事の合間にちょくちょくやってたのですが、あまり長く書くことのできなかったことを深くお詫び申し上げます。


「七つ星神器、旅人!(ガリバー)」

 

植木がそう叫ぶと、すべての地面にマス目が発生した。そして0.5秒後に.....

 

「.....なるほど、私を閉じ込めるつもりか。」

 

ラインハルトの足元のマス目からちょうど彼を閉じ込めるほどの箱が出てきた。

 

(まずラインハルトの動きを止める!そっから『アレ』をブチ込めばさすがのあいつにも決定打に.....)

 

植木はそう考えた。だが.....

 

シュッ!

 

「だが、遅い。」

「な!?」

 

ラインハルトは一瞬にして植木の前に現れた。

 

「0.5秒などと無駄に決めるな。私の足を引こうなら、時間ごと止めるんだな。」

 

ラインハルトはそういうと、パチン!と指を鳴らした。

 

「第十 SS装甲師団(フルンツベルク)」

「!」

 

すると、ラインハルトの背後から、約100発のパンツァーファウストが出てきた。

 

(マズイ!ライカ.....)

 

ズドォォズドォォォォ!!

 

「グォォォォォ!!」

 

植木はパンツァーファウストよけきれなかった。吸血鬼の夜が植木の生命力を秒刻みに吸い、植木の体力が減っているからだ。

 

「第三十六 SS擲弾兵師団(ディルレワンガー)」

 

だがラインハルトは休ませなかった。彼の声と同時に植木の地面から髑髏達が現れ、銃剣を植木に突き刺そうとした。

 

「くっおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

植木はかつてないほど咆哮し、脱力感を吹き飛ばした。そしてその場から跳躍した。

 

「九つ星神器、花鳥風月!(セイクー)」

 

そしてそのまま青色の翼の神器を発動させた。その速さは、ライカとは比べ物にならないほどのスピードである。植木はその速さを生かし、ラインハルトに接近した。

 

「ランマァ!!」

 

植木はラインハルトの首を狙って振り下ろした。明らかに油断して、反応できてない。『とった』植木はそう確信した。

 

「こちらがな。」

「!」

 

だが刹那、耳と魂同時にラインハルトのそのセリフが植木に響き渡った。そして、まるで時間軸を逆にさせられた感覚に見舞われる。

 

「接触を恐れる。接触を忌む。我が愛とは背後に広がる轢殺の轍

ただ忘れさせてほしいと切に願う。総てを置き去り、呪わしき記憶は狂乱の檻へ

我はただ最速の殺意でありたい――貪りし凶獣 」

 

ドクン_

 

右目を失い、血を流し狂い苦しんでいる小さな美少年の姿がラインハルトと重なって見えた。

 

「皆、滅びるがいい――

死世界・凶獣変生

Niflheimr Fenriswolf」

 

ドスッ!

 

「ガッ....ハッ」

 

相手よりも必ず早くなり、必ず避けれる最速能力、後手を先手に変えるあり得ない異能。今のラインハルトは絶対何者よりも早くなった。故に、決定打を取れたはずの植木の腹にラインハルトの聖槍が突き刺さった。

 

「私をここまで出させるとは流石はカールの使者だな。さあ、これからどうする?」

「あ.....ぁ」

 

ラインハルトの無茶振りに言い返せるほどの余裕は今の植木にはなかった。

 

(熱い!熱い熱い熱い熱い熱い!!!槍が熱い!!!)

 

これは聖槍の神罰。聖槍が認めたもの以外に触れることは許されない。勝手に触れたるものには魂ごと焼かれる罰が与えられる。

 

「もはや打つ手なしか?残念だ、卿はもっとあがくと思ったのだがな。」

「っ......」

 

植木は無気力に槍に垂らされていた。薔薇の夜にどんどん力を奪われ、聖槍の神罰を体内から受けたのだから当然である。

 

「お.....ぉ」

 

プル.....プル.....

 

「......無様な、だが美しいな。たとえ無力と解ってでも最後まであがくか。」

 

植木は震え、血を口から垂らしながらもラインハルトの目の前向かって手を挙げている。

 

「安心するがいい、卿の世界の者達は我がレギオンにして愛してやる。卿は楽に眠るがいい。」

「......」

「卿の魂、実に甘美だ。このまま我が地獄(ヴェルトール)に落ち、仲間がくるのを待つがいい。案ずるな、すぐに会える。」

 

ラインハルトは優しい口調で植木の耳の近くで言った。これは彼なりの賛美であろう。植木は彼を楽しませたのだから。

 

「.......誰が」

「む.....」

 

だが.....

 

「誰が.....諦めて.....仲間を見捨てるって言った?.....地獄に落ちるのはお前だラインハルト!十つ星神器、魔王!(まおう)」

「.....!」

 

誰よりも最高の正義感を求め、貫き通してきた植木が、戦神の愛を認めるわけがなかった。手がラインハルトの顔と重なると、そこから最後の神器を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オォォォォォォ......

 

 

 

 

 

_見事

 

 

 

 

 

 

 

「「......」」

 

 

ラインハルトと植木は向き合っていた。植木から放たれた魔王は中年くらいの男性の姿をし、そのままラインハルトの直撃した。その力の元は『自身の信念に対する思いの力』言わば信仰力である。その威力はコロシアムの4分の1を吹き飛ばし、地平線の彼方までラインハルトを吹き飛ばすほどだった。しかし、ラインハルトを倒すほどの威力はなく、ラインハルトは再び不条理な速度で植木の元まで帰ってきた。

 

「......ああ、素晴らしい。まさか私が油断した瞬間に切り札を出したのは予想外だった。」

「......」

「卿はとことん私を魅了してくれたな。褒美だ、受け取るがいい。」

 

ズドォッ!

 

聖槍の先から、破壊の黄金光が放たれた。それは何物に対しても的を外さず、何者よりも絶対速く、如何なる物すべてを破壊する光だった。

 

(すまないみんな......俺、正義を貫いてみんなを守れなかった.....)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだったかな、獣殿?」

「素晴らしい、実に優雅な時間を過ごした。」

 

メルクリウスとラインハルトは、粉々になったコロシアムの真ん中で背中合わせで語り合っていた。

 

「あの少年だったら心配はいらない。私がしっかり元の世界に戻し、ここでの記憶も破壊した。」

「そうか。そういえば卿は何故あの少年を私と対峙させたのだ?卿のことだ、理由がない訳がない。」

 

ラインハルトが聞くと、メルクリウスはクスッと笑って答えた。

 

「何、大した理由ではない。あの少年のレベル2という能力が何と無く私の永劫回帰と似てると思ったからだ。そして獣殿と対峙したらどうなるかと思った、たったそれだけの理由だ。」

「ふっ、大したどころか、陳腐な理由だ。」

「フッ」

「フフ......」

 

 

 

 

 

 

 

「「ハハ、ハハハハハハッ!ハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

双首領の笑い声がコロシアムの異界すべてに響き渡り、笑い声が終わると同時に、この戦いの幕は引かれた。

 

 

 

 

 

 




次回は休み期間を利用して、みなさんが楽しくご覧できるよう頑張りたいと思います。


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第四幕

今回はなかなかの強敵を相手にさせました。


 

 

 

ラインハルトと植木が戦ってから約5時間後、例の闘技場の世界にて。

 

「さて獣殿、次の刺客を用意したが、連続して戦ってみるかね?」

「......もうか、早いな。」

 

不意に背後に現れてそういったメルクリウスに、流石のラインハルトも彼の仕事の速さに驚いた。幾ら何でも速すぎである。

 

「ああ、ちなみに今回からは聖遺物の守りも元に戻っているよ、安心して欲しい。」

「ふむ、そうか。わかった早速呼ぶがいい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

 

 

 

 

 

 

コオォォッ!

 

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

「来たか.....」

 

上空から、ラインハルトの目の前へと何かが流星の如く落ちて来た。

 

『おいおい、生徒会室で少し休憩ってことで仮眠とってたら、いつの間にかコロシアムみたいなところにワープって.....これはどんなバトル漫画な展開だよ。』

 

落ち来てそう言ったのは、黒い服.....いや、学ランをつけた童顔で少し小柄の少年だった。

 

(また少年か.....しかしあの植木というものとは全く別の雰囲気を持ってる。何というか、カールと似てるな。)

『ねえ、そこの金髪軍服の人。僕が何でこんな状況か教えてくれないかい?』

 

学ランの少年はラインハルトに対して何の違和感も持たずにそう聞いた。

 

「私はラインハルト・ハイドリヒ。卿の名はなんだ?」

『ラインハルト?わあ、確か歴史上の人物じゃないか!てことは、ここはもしかして霊界?地獄とかそこらへんかな?」

(そしてこの少年、何やら話し方に違和感を感じるな....本音を隠してるのか?)

 

ラインハルトは少年に対してそう違和感を感じた。すると少年は、コホンと一呼吸をいれて言った。

 

『失礼ラインハルトさん、ちょっとあまりの展開に興奮してしまった。では僕の自己紹介といこうか。僕は週刊少年ジャンプから転校して来た球磨川禊。よろしくね。」

「そうか、相分かった。では早速始めようか。」

 

バッ!

 

ラインハルトは球磨川のツッコミどころだらけの自己紹介をサラッと流して、聖槍を構えて突撃した。

 

『シカトするなよ。』

 

ドギュッ!

 

対して球磨川はそう言ってラインハルトに向かって腕を振ると同時に、何にもない空間から無数の巨大な螺子が四方八方に飛び出て来た。

 

『人のボケに対してツッコミを入れないのは失礼じゃないか。』

「すまんな、そのような様式美は知らんのでな。」

 

ガギィィィ!!

 

結果は二人ともクリーンヒットは無し。球磨川はとっさに聖槍を躱し、ラインハルトは目の前の螺子全てを薙ぎ払った。

 

『人に向かって槍だなんて危ないなぁ、銃刀法違反じゃないのそれ?』

「知らんな、ここでは私が法だ。」

 

ラインハルトは球磨川の冷やかしに対してそう答えると、創造を発動した。

 

「創造ー至高天・黄金冠す第五宇宙!」

 

 

オォォォォォォ......

 

 

再びこの世界は修羅地獄の城が展開されてしまった。

 

『洋式のお城を見るのは、絵本以来だよ。それにいかにも魔王様が居ますよみたいな城なんて。それに.....」

「「「......」」」

『軍服つけた騎士をみるなんて始めてだよ。」

 

球磨川の目の前には、無表情で義手をつけた黒髪の男性マキナ、顔半分がやけどを負った赤髪の女性ザミエル、片目を失い血を流した白髪で長髪の少年シュライバーがいた。

 

「マキナ、ザミエル、シュライバー。加減無用だ、楽しませろ。」

「「ヤヴォール!」」

「.....」

 

ラインハルトは三人に向かってそういうと、ザミエル、シュライバーは声を揃えてそう答えが、マキナだけは無反応だった。

 

『三対一だなんて卑怯だな〜、これはあれかな?週刊少年ジャンプ風に例えるなら、敵に囲まれて絶体絶命の大ピンチ!どうする禊ちゃん!?って感じかな?まあ安心院さんに勝つための手掛かりが見つかるかもしれないし、頑張るか。』

 

球磨川はそう言って両手から螺子を出して、三騎士を迎え撃つ体制をとった。

 

 

 

 

 

ビュッ!

 

 

 

「Zarfall' in Staub deine stolze Burg!!」

 

先に動いたのは最速の白騎士、シュライバーだった。彼....いや彼女は呪いの呪詛を叫びながら球磨川へと接近した。

 

『お前女か男がわかり辛いんだよ。』

 

球磨川はそう言って、ラインハルトを迎え撃ったと同じように大量の螺子でシュライバーへと攻撃した。

 

 

ビュッ!

 

 

『!?』

「Gib deine Hand, du schon und zart Gebild!」

 

 

ザシュッ!

 

 

『ガッ!』

 

だがシュライバーは唐突に加速して全ての螺子を被弾せず躱した。そして球磨川へと接近し、彼の肩を噛み砕いた。

 

『加速能力.....か?』

「ご名答。」

『!』

 

声のする方を見上げると、いつの間にか城への階段の頂きにたっていたザミエルがいた。その背後には、大量のパンツァーファウストがあった。

 

「ファイアー!」

『くっ!』

 

ズドォォォォ!!

 

上空遥か数kmからのパンツァーファウスト。素早く動けない球磨川にとっては直撃しかできなかった。

 

「フン、脆いな。しかし腑に落ちない。カール・クラフトは何故あんな雑魚をハイドリヒ卿の相手に....」

『甘えよ。』

「!?」

 

ガスガスッ!

 

爆煙が晴れ、現れた球磨川がそう言った後、ザミエルの足元から数本の細長い螺子が伸びてきた。

 

『煙がモクモクして相手の生死がわからない状況になったら、だいたいは生きてるなんてよくある展開だろ?それともジャンプは読まない派だった?』

「......戯けが。」

『!』

 

バキイィィィ!

 

だがザミエルの体を貫くことはなかった。螺子はザミエルの体に当たった瞬間、先端から全て亀裂が入り、砕けていった。

 

「聖遺物が身体と同化すれば物理面と魂面両方で破壊しないと通じん!覚えておけ小僧!」

『へぇ.....』

 

球磨川はポカンとした表情でザミエルを見上げていると.....

 

「よそ見してていいのか?」

『っ!』

 

背後から重力のこもった声が聞こえた。振り返ると、マキナが鉄拳を振り上げていた。

 

ブンッ!

 

『づぁっ!』

 

ゴシャァァァッ!!

 

球磨川は咄嗟にマキナの鉄拳を躱したが、そこにあった階段は粉々に砕け散った。

 

『めだかちゃんばり.....いや、それ以上だ。』

「Bin Freund und komme nicht zu strafen!」

 

ドゴォッ!

 

『な!ぐあぁっ!』

 

球磨川がマキナの破壊力に呆然している隙に、背後からシュライバーの突進をモロに受けた。だがその時、ザミエルはある異変に気づいた。

 

(そういえばさっき、シュライバーに肩を奪われたはずなのに、なぜ元に戻っている?シュライバー同様大量の燃料でも持っているのか?いや、そんな様子はない。だったら回復系の能力でも.....まあいい、だったらそんな隙を与えずに燃やし尽くすまでだ!)

 

ザミエルはそう決めると、自分の頭上に巨大な魔方陣を展開した。

 

『っ!まず.....』

「燃え尽きよぉ!」

 

 

ドガァァァァァァッ!!

 

 

ザミエルの砲弾は絶対必中。たとえ逃げようとしても、目標を捉えるまで永遠に広がり続ける爆心地。むろん、球磨川に逃れる術は持っていない。

 

バキパキ.....

 

そのままザミエルの砲弾は闘技場すべてに広がり、球磨川を丸呑みしていった。

 

「終わったか.....あっけない戦いだ。」

「Auf Wiederséh´n」

 

マキナもシュライバーも、彼はもう終わったとそう悟り、その言葉を彼へ捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わり?』

「「「!」」」

 

 

 

 

 

 

だが、燃え広がる爆心地の中で、彼のその声が三騎士全員に聞こえた。

 

『生憎だが、まだそのセリフは早いと僕は思うけど?』

「馬鹿な.....」

 

次第に爆発はおさまり、その中から無傷の球磨川がニヤッと笑いながら颯爽と歩いて出てきた。

 

「貴様!どうやって私の砲を防いだ!答えろ!」

『大嘘憑き(オールフィクション)世界から爆発をなかったことにした。』

「何だと.....」

 

ザミエルは驚きを隠せなかった。大嘘憑き(オールフィクション)万象あらゆるものをなかったことにする神憑りの大技。彼はそれを所持してた。

 

「ならば、シュライバーから負った傷や私のパンツァーも.....」

『そう、簡単なことだ。僕の負った傷、死をなかったことにした。』

 

ザミエルの問いに球磨川は両手を広げて余裕のある微笑みを崩さずにそう答えた。

 

「万障なかったことにする異能....カールよ、今度は前回とは比べ物にならないものを呼んだな。」

 

城の玉座から彼らを見下ろすラインハルトは、クスッと笑いながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 




最弱VS最強。個人的にもこの戦いは興味がつきません。


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第五幕

今回は若干長めにしました。超展開をなかなか多めにしたので......


 

 

「なかったことにするだと.....貴様っ!神にでもなったつもりか!?」

『そうだね、すごく取り返しのつかない能力だよ。だって油断すると、世界そのものをなかったことにできちゃうからね。』

「なんだと......」

 

ザミエルは憤怒していた。自分の放つ炎は黄金の光、我はそれに永劫燃やされ続けたい。それを何処の馬の骨とも知らん小僧に無理やりなかったことにされたのだ。

 

『おっと勘違いしないでおくれ、僕は悪くない。だって君らの上司が勝手に僕をここへ引っ張ってきて戦わせたんだから、抵抗するのは当たり前でしょ?』

「戯言をいうな小僧!」

 

球磨川の放った言い訳を消し飛ばすように、ザミエルは叫んだ。

 

『おや?なんかお姉さん余裕がなくなってきたね。まるで.....愛しの恋人がいなくなった今時の女の子みたいに。』

「っ!貴様!私の忠を侮辱するなぁ!」

 

パパパパパン!!

 

ザミエルはシュナイザーを召喚して一斉に発砲した。全弾球磨川の体に当たった。

 

『......人間は無意味に生まれて、無関係に生きて、無価値に死ぬ。世界には目標なんてなくて、人生に目的なんてない。』

 

だが球磨川は被弾しながらも不自然な動きをしながら、一歩一歩ザミエルへと近づく。

 

(何だこの小僧、急に変なプレッシャーを放つようになった。まるで.....ありとあらゆる負の力を放出しているような......)

 

ザミエルの額から、玉のような汗がにじみ出てきた。そう、彼は最凶最悪の過負荷。彼は常敗者ゆえにありとあらゆるありと弱点を知っており、過負荷を持つ者の声を聞く、姿を見た者は心が折れるのだ。

 

『君たちのいう忠義や騎士道ってやらも、結局は無意味だ。だって君のその後ろ盾そのものがなくなったらほら、何もできないだろ?』

「黙れぇぇぇぇ!!!」

 

ゴオッ!

 

球磨川の挑発に激怒して飛びたしたのはザミエルではなく、何とシュライバーだった。

 

「私は負けない!私は不死身だっ!無意味なんかじゃないっ!」

 

許せない、誰よりも早く黄金に忠誠をした自分を無意味と勝手に決めつけたこいつを許していいはずがない。

 

「僕は誰よりも早くハイドリヒ卿に忠誠をはらった英雄(エインフェリア)なんだぁぁぁぁっ!劣等ごときが、知った風な口をきくなぁぁぁあああ!!」

『大嘘憑き(オールフィクション)君たち.....』

「オオオォォォォォォォォォッ!!!」

「舐めるなよ王の前で踊るためだけにいる道化風情が!」

「お前を見ていると、カール・クラフトを思い出す。」

 

 

ドゴォォォォッ!!

 

 

球磨川が大嘘憑きを発動しようとした瞬間、シュライバーの咆哮が球磨川を砕き、ザミエルから再び大量のパンツァーファウストが放たれ。マキナの拳がほおを掠った。

 

『くっ、あいつら少しは手加減しろ.....」

 

ドクン_

 

『!?』

 

やられた傷を大嘘憑きでなかったことにしようとしたら、三騎士から先ほどとは比べ物にならない重圧を感じた。

 

「ああ 私は願う どうか遠くへ 死神よどうか遠くへ行ってほしい

 

私はまだ老いていない まだ生に溢れているのだからどうかお願い 触らないで

 

美しく繊細な者よ 恐れることはない 手を伸ばせ 我は汝の友であり 奪うために来たのではないのだから 」

「彼ほど真実に誓いを守った者はなく

 

彼ほど誠実に契約を守った者もなく

 

彼ほど純粋に人を愛した者はいない

 

だが彼ほど総べての誓いと総べての契約総べての愛を裏切った者もまたいない

 

汝ら それが理解できるか

 

我を焦がすこの炎が 総べての穢れと総べての不浄を祓い清める

 

祓いを及ぼし穢れを流し熔かし解放して尊きものへ

 

至高の黄金として輝かせよう 」

「死よ 死の幕引きこそ唯一の救い

 

この 毒に穢れ 蝕まれた心臓が動きを止め 忌まわしき 毒も 傷も 跡形もなく消え去るように

 

この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい

滴り落ちる血の雫を 全身に巡る呪詛の毒を 武器を執れ 剣を突き刺せ 深く 深く 柄まで通れと 」

 

 

 

 

「ああ 恐れるな怖がるな 誰も汝を傷つけない 我が腕の中で愛しい者よ 永劫安らかに眠るがいい !」

「すでに神々の黄昏は始まったゆえに

我はこの荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる !」

「さあ 騎士達よ

罪人に その苦悩もろとも止めを刺せば 至高の光はおのずから その上に照り輝いて降りるだろう 」

 

 

 

「「「創造 (Briah)!!!」」」

 

 

 

三騎士の地獄の世界が、今開かれようとしている。

 

「死世界・凶獣変生 (Niflheimr Fenriswolf)」

「焦熱世界・激痛の剣

(Muspellzheimr Lævateinn)」

「人世界・終焉変生 (Midgardr Volsunga Saga)」

 

ここに、修羅道三大地獄が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは.....』

「喜べ、お前の挑発のおかげで発破がきれたよ。これが私たちの全力だ。」

 

いつの間にかザミエルのポニーテールは外れており、ロングヘアーになっていた。

 

「Voruber, ach, voruber!」

 

グシャッ!

 

『ぐぉっ!』

 

そしてシュライバーも先程とは次元の違う速度で疾走しており、球磨川の脇腹を握り千切った。

 

『なんてね。』

 

ドゴォォッ!

 

だが球磨川の余裕な表情は崩れなかった。シュライバーの足元から現れた大量の螺子がシュライバーを貫こうとする。

 

『そして大嘘憑き(オールフィクション)聖遺物の守りをなかったことにした。』

 

そして球磨川が一つの法則をなかったことにした。これによって三騎士、そしておそらくラインハルトも強靭な鎧がなくなった。だが

 

「End' in Wonne, du ewig Geschlecht !!」

 

ビュオッ!

 

シュライバーの最速の疾走に影響はなかった。私に触れるな、触るな、近寄るな劣等。その渇望故にいかなる攻撃も必ずよけれる。

 

『うるさいワンコは螺子ふせるまでだよ。』

 

ドギュッ!

 

しかし球磨川はそんなことは承知だ。いかに早く動こうが、退路ぐらいは限定出来る。ゆえに球磨川はシュライバーの疾走する先の360度全てに牢獄のごとく螺子を飛ばした。

 

『お散歩の時間は終わりだよワンコ。さっさとチワワのように大人しくしとけ。』

 

だが.....

 

「 Und ruhre mich nicht an! Und ruhre mich nicht an!」

 

グシャッ!

 

『な.....こいつ正気か?』

 

だがその時、信じられない現象が起こった。確かに球磨川の放った螺子はシュライバーの身体を貫いた。血だって流れた。聖遺物の守りはなかったことになっているのだから。だが、貫かれた傷は自然と回復したのだ。まるで大嘘憑きでなかったことにされたように。

 

「Gib deine Hand, du schon und zart Gebild!」

『っ!ちぃっ!』

 

球磨川は確かに知っていた。シュライバーは触れられただけで砕ける乙女の存在だと。ザミエルは黄金に焦がれる純粋な乙女だと。マキナは唯一無二の終焉をめざすものだと。だが、シュライバーが信じられないほどの魂を食らっていることは知らなかった。彼が喰らった魂の総数は185731人。彼はそれを燃料とし、さらには理性が飛んで触られている事実しら自覚していないため、彼の世界が崩れることはなかった。

 

『こんなやつどうやって倒せっていうんだよ.....』

 

球磨川はそう言って空中へジャンプしてシュライバーから一時避難した。

 

「戯けが!誰が逃すと言った!?貴様なんぞ影を残さず蒸発させてくれるわ!」

 

ゴオオオオオオオオオ!!

 

『グッ....ガアアアアアァァァァァ!!!』

 

逃げ場のない焦熱世界、元から逃げ場がないゆえ絶対必中の世界。無論、球磨川だけでなくシュライバー・マキナを巻き込んで。聖遺物の守りがなくなっても、シュライバーは回復し、マキナはこの程度じゃ終わらない。だが、爆発がなかったことにされたゆえに多少の威力は下がったが、球磨川の魂を燃やすほどの威力は十分あった。

 

ドサッ!

 

『.....』

 

ザッ

 

「.....小僧、一つ聞きたい。なぜお前のあの能力で俺たちや世界、ハイドリヒをなかったことにしない?」

 

黒焦げになった球磨川を見下ろしながら、マキナは彼に聞いた。

 

『....大嘘憑きなんたてただの手品だ。その程度じゃ安心院さんには勝てないんだ。』

「だとしてもだ。せめて手足の一二本をなかったことにはしないのか?攻めに使おうとは思はないのか?」

『あんた無口に見えて意外と喋る時はとことん喋るな(笑)』

 

球磨川はマキナをそう冷やかしたが、マキナには全く応えなかった。恐らく球磨川にとって三騎士の中でマキナが一番相性が最悪といえよう。精神攻撃は通じないし、マキナの鉄拳を食らったら球磨川の歴史は幕を引かれ、死をなかったことにはできないゆえに。

 

「......まあいいや。さっきも言ったろ?結局のところ大嘘憑きは手品にすぎない。逆に言えば、その手品に頼ってまで君たちを倒さないといけない程度の僕じゃ、安心院さんには勝てないんだよ.....」

「成る程、下らんな。」

 

ドゴォォォォッ!!

 

「目の前の苦難を本気で乗り越える気もないくせに、ほざくな。勝利への信念が足りん。感じられん。」

 

マキナは球磨川の答えに対して、そう一言返し、幕引きの一撃を放った。

 

「終わりだ。」

「Auf Wiederséh´n」

 

赤騎士も白騎士も、今度こそ終わりだと、安らかに眠れと唄い、球磨川を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また、勝てなかった。』

 

堕ちてゆくなか、球磨川はいつもの口癖を自嘲気味に呟いた。『球磨川禊は絶対に勝てない』彼は生まれながら、その呪いがかかっている。

 

『信念が足りないって言われた時正直ぐさっときたな。ていうか戦ってる途中、正直安心院さんより強くね?って思ってしまったよ。』

 

球磨川は苦笑いしながらそう言った。だが笑い終わった瞬間、唇をかみ、ほおに涙が伝った。

 

「けど、勝ちたかった.....勝ちたかった勝ちたかった勝ちたかった勝ちたかった!どんなにきたないてを使っても!セコくても!あのチートトリオを壁や地面に螺子伏せて!あの顔を歪ましてやりたかった!......けど、勝てなかった。」

 

 

球磨川は今にも消えそうな声でそう言い残して、そのまま目を静かに閉じ様とした。

 

 

 

 

 

 

ー諦めないで。

 

 

「!」

 

ーまだ終わってない.....目の前の困難から逃げないで.....

 

「安心院さん.....いや、違う。」

 

突如暗闇から現れた金髪の少女、彼女の笑顔はとても暖かくて、どこか安心感があった。

 

「けど、僕にはもう戦う力が.....」

 

だが球磨川にはもう打つ手がなかった。幕引きの鉄拳を直に受け、大嘘憑きも、螺子伏せる力も砕かれてしまった。

 

ー大丈夫だよ、私、ちゃんとあなたを包むから.....あなたは一人じゃない。ねえ、そうでしょ?一人ぼっちじゃても握れないよ。

 

「........ふふ、そうだね。美少女に応援されて、頑張らない男は終わってる。それに、ヒロインに応援されてから逆転劇、これはもう王道されてる。だから.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕の戦いは、これからだ!』

 

 

 

 

ーそうだよ

 

 

 

 

 

 

ー私がみんなを抱きしめるから.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに、奇跡の喜劇が起こる。

 

 

 

 

 

 

ドギャァァァン!!

 

 

 

 

「馬鹿な.....!」

 

「ギィィィグゥゥゥ!!」

 

「っ!」

 

信じられないことが起こった。一撃必殺のマキナの拳を受けたと思った刹那、気がつけば三騎士はどこからか現れた螺子によって地面に貼り付けにされて居た。

 

ザッ!

 

『大嘘憑き(オールフィクション)僕の死を、そしてこの世界から時間をなかったことにした。これで僕たちみぃぃんなの速度差がなくなった。よかったね。』

「何故だ!?その力は、マキナによって粉砕されたはずじゃ!?」

 

地面から顔を上げ、ザミエルは聞いた。なぜ跡形もなく消えた能力が再び使えるのかと。

 

『え?ああ、ごめん。言い間違えた。本当はこれ。』

 

すると、球磨川の両手から大きな先の尖ってないプラス螺子が出てきた。

 

『安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)効果は大嘘憑きと同じだけど、なかったことにした現実が三分後にもとに戻る。ある意味で取り返しのつくようになったよ。ま、これもあの娘のおかげだけど.......』

「安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)だと......」

『つまり、あと三分で時間が再び動き出すと同時に、僕は某ウルトラの戦士みたいに消滅するってことさ。』

 

奇跡と共に弱体化、だが形勢逆転。このチャンスを逃すわけにはいかない.....が制限時間残り三分以下。果たして球磨川は三騎士をたおせるのか?そして.....

 

「マキナの一撃から蘇生か.....まさか女神.....何のつもりだ?」

 

ラインハルトを倒すことまで到達出来るのか?

 

 

 

 




本当は勉強しないといけない時期なんですけどね......勉強や筋トレと両立してなんとか更新します!


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第六幕

大変長らくお待たせしました、第六幕です!本当に楽しみにしていた皆さんをまたしてしまって申し訳ございませんでした!GWからなかなか時間が取れなくて、本当にすみませんでした!その分今回は面白い展開にしたつもりです。


 

 

 

 

『さて、三分前に君たちを螺子伏せる.....と言いたいところだが。』

 

バッ!

 

球磨川はなんと彼への攻撃をせずに、Uターンしてかけていった。

 

『安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)この城の現実との不干渉をなかったことにした。』

 

 

オォォォォォォ......

 

 

彼は安心大嘘憑きを使ってこの世界から逃げ出そうとした。実に彼らしいやり方である。

 

「ありがとう女神さん、なぜかわからないけど、この僕に手助けをしてくれて。取り敢えずめだかちゃんたちを呼んで何とかするよ。」

 

球磨川は心から女神へと感謝した。球磨川は螺子でラインハルトが出している髑髏の総軍を掻き分けながらかけていく。

 

 

 

 

 

 

_成る程、そう来たか。

 

 

 

 

_君は実に面白い。だが役者が許可なく退場するのは許されんよ。

 

 

 

 

 

実に不快感が漂ういやらしい声が、誰にも聞こえないようにつぶやく。

 

 

 

 

 

 

ドゴオォォォォ!!

 

 

 

「 Und ruhre mich nicht an. Und ruhre mich nicht an!」

『!?』

 

時間がなかったことになって、停滞しきった空間の中、シュライバーは停止どころかどんどん加速して髑髏の群れを轢き飛ばしながら一瞬にして球磨川の前に躍り出た。

 

『こいつ、止まるということを知らないのか?』

「Voruber, ach, voruber! geh, wilder knochenmann! !!!」

『ぃっ.....がぁっ!』

 

球磨川に追いついたシュライバーは、追い越しざまに左腕を食いちぎっていった。球磨川はバランスを崩して転げる。

 

「End' in Wonne, du ewig Geschlecht!」

『があぁぁぁぁ!!』

 

シュライバーを縛れるのは黄金のみ、それ以外のものに束縛することは許されない。シュライバーは四方八方に飛び周りながら球磨川を襲う、球磨川に防御できる術はなくただの虐殺ショーにしかならない。球磨川の鮮血が飛び舞う。

 

『くっ....おぉぉぉぉぉ!!』

 

しかし球磨川は叫び声をあげて疾走する。シュライバーの猛攻に身を削られながらも前へと進む。そして

 

『.....ついた。』

 

遂に球磨川は自分の世界の入り口へと辿り着いた。懐かしい雰囲気、この光の先に進めば彼らは追ってこない。

 

『あとは....めだかちゃん達を呼べば、何とか....』

 

球磨川はフラフラしながらも、光の中へと入って行く。あの懐かしき日常たる世界へと再び.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーActa est fabula (未知の結末を見る )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.....そんな.....』

 

球磨川の目の前には、日常の景色なんてなかった。そこには先ほどと変わらない修羅地獄の階段があった。しかも最悪なことに、【こういう結果になると知っていた】のだ。

 

『何故だ.....』

 

 

 

 

ーあの懐かしい雰囲気が至福の既知になると思ったか?あの光に進めば自分の何時もの時間が帰ってくるとでも思ったかね?

 

 

再び球磨川の耳に不快感だらけのあの声が聞こえて来た。

 

 

ー真逆だよ、私が作り上げたこの世界は劇が終わるまで君は那由多のはてまで戦い続けないといけない。逃げ出そうものなら、君は絶望の既知感に負われ続けなければならない。.....さあ、最後の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう。

 

 

ドゴオォォォォ!!

 

 

「......」

 

球磨川の頭上から、幕引きの黒騎士が降りて来た。その目には同情も何も写っていない。ただこの戦いの幕を引こうとしてるだけである。

 

『.....君ほどトドメの役が似合う漢はいないね。さあ、遠慮はいらないよ.....って君に遠慮とかあるとは思えないけどね。』

「......」

 

マキナは何も語らない。ただ球磨川を一撃のもと殺そうとするだけだ。

 

「創造 人世界 終焉変生!」

『......』

 

球磨川によける気はない。一撃必殺の鉄拳が迫ってくる、その時だった。

 

「下がれ。マキナ、シュライバー。」

「「!」」

 

黄金が球磨川にトドメの一撃を下そうとした黒騎士と、その背後から迫る白騎士を止めた。

 

「カールがまた何かした様だな.....まあいい、それよりもこのまま終わるのもつまらんな。卿の能力の効果は約3分、残りあと1分も残っているではないか。戦え、そして私を楽しませろ。卿のその身は私を楽しませるための楽器であるだろうが。」

『......』

 

何という傲慢さ、部下に攻撃をやめさせと思ったら、次は自分と全力で戦わせることを強制させる。させられた身としてはたまったものじゃない。

 

『安心大嘘憑き(エイプリルフィクション) ラインハルト・ハイドリヒの誕生をなかったことにした。』

 

球磨川は躊躇なくラインハルトを世界から消滅させようとする。短時間でもいい、そう思いながらも。

 

「.....まさかと思うが、卿の全力はこの程度か?」

『.....な!?』

「これが卿の全力か。いくら弱体化したとはいえ、つまらん漢よ.....」

 

ラインハルトは髪の毛一本も揺れてなかった。球磨川の安心大嘘憑きがまるで効いていない。

 

ドゴオォォォォ!

 

『がぁっ!』

 

黄金は不滅、弱体化した球磨川の因果律操作ではラインハルトは消滅しない。聖槍の一撃を喰らって、球磨川は流星のごとく吹き飛ぶ。

 

チャッ......

 

「最後に聞いておこう。卿の渇望はなんだ?人の強さには二種ある。『己を絶対とするか。』『他者を絶対とするか。』卿は自分自身どっちだと思う?」

 

球磨川の首を掴んで頭上に掲げ、聖槍を心臓に突き刺そうとしながら、ラインハルトはそう聞いた。

 

『.......言っただろ?世界に目標も何もない。僕も同じだよ、何にもない。』

「卿が女神に蘇らされた時もか?」

『......知ってたんだ。』

「愚問だ。」

 

黄金の目に曇りはない。何もかもお見通しだった。

 

「.......そうだね。もしかしたら、僕の渇望は、『勝ちたい』だったかもね。めだかちゃんに勝ちたい、安心院さんにも勝ちたい。いつもそんなことばかり考えていたかもしれない。これが僕の渇望かもね......」

「......相分かった。Auf Wiedersehen(アウフ・ヴィーダーゼーエン)卿との戦い、忘れぬ。」

 

 

ドスッ!

 

 

ラインハルトはそう言って、球磨川の体に聖槍を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事。」

「.....カールよ、いつこの世界をあのような構造にした?」

 

突如背後から現れた影法師に黄金は振り向かずに聞いた。

 

「いつも何もあらかじめそういう構造にしただけだが?」

「私の覇道が破られるとでも思ったのか?」

「おや、いつになく弱気な。獣殿とあろう方が。」

「卿が言えた義理か?」

 

ラインハルトの口調が少々強めに出て来た。しかしメルクリウスは変わらずニヤニヤと笑いながらいう。

 

「お鎮めなさい獣殿、別にあなたを疑ってたわけではない。ただ、この広い女神の世界、いつの時代にも予想外というものは付き物だ。誰がどのような異能を出してくるかわからない、それは私だって予測不可能だ。無論あなたも.....」

「.....それもそうだな。事実穴を開けられたからな.....」

「然り、故私が保険をかけていたのだ。感謝しろとは言わないが、せめてそれなりの対応はして欲しい。」

 

するとラインハルトは一息ついて。

 

「いいだろうカールよ、卿は卿らしいことをしていればいい。卿は私との約束を守ってくれた友だからな。」

「これは光栄だ。では私は次の相手を探してきましょう。」

「そうだな、次の刺客も期待しているぞ。」

 

そう語りながら黒円卓の双首領は笑いあって、この世界から消えて行った。

 

 

 




次回はかなりレベルアップして強いキャラと戦わせます。出来る限り早く投稿出来るよう頑張ります!


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第七幕

大変遅くなってすみませんでした!楽しみにしていただけた方々になんと申し訳ない!お詫びを兼ねて、最新わ更新します!本当にすみませんでした。


 

「さてカールよ、次の対戦相手はみつけたのか?」

 

数百万の髑髏でできた城の中で、玉座で座りながら隣にいる男に、ラインハルトは聞いた。

 

「ええ、かなり時間がかかりましたが、ようやく見つけることができましたよ。今回の相手は間違いなく獣殿を楽しませてくれると言っておきましょうか。何せ前回とは中々の好戦家ときたものだ。」

「そうか、感謝するぞ。それでその相手は?」

「いずれこの玉座の元に現れますよ。では、私はこれで.....」

 

そう言い残して、メルクリウスは影へと姿をくらました。

 

「.....さて、そろそろ出てきていいのではないか?私にはわかるぞ。」

 

ラインハルトはメルクリウスとは逆の、玉座から右側の影に向かってそう言った。そう、既に敵は自分の近くにいることに気づいていたのだ。

 

『.....クス、流石は黄金の獣と呼ばれたお方。この程度ではすぐに感知してしまいますか。』

 

目を向けた影の方から血が滴り落ちた。するとそこから、黒い服と先の割れた帽子を着けた男が現れた。

 

「始めまして黄金閣下、私は運び屋の赤屍蔵人ともうします。あなたの事は、水銀の蛇から聞いております。」

「ほう、ならば自己紹介は不要だな。」

「ええ、そしてなぜ私がここへ招かれたかもう理解してますよ。」

「ふむ.....」

 

赤屍はそう淡々と話しているうちに、だんだんと空間に赤屍の殺意で埋め尽くされようとした。

 

「ならば始めようか、卿が私に全力を出させてくれると期待しようか。加減はせん。」

「ええ、私も私自身の底を知れると信じてますよ。」

 

 

ラインハルトは玉座から立ち、聖槍を構え、赤屍はポケットから手を出し、メスを数本握った。

今、魔人と悪魔の交戦が今始まる。

 

 

 

 

 

「っ!」

「はぁ!」

 

聖槍の横薙ぎを、赤屍はメス三本で受け止めた。だが致命傷は負わなかったものの、赤屍は数m弾け飛ばされ、メス三本は粉々に砕け、赤屍の口から血が滴り落ちた。

 

「我が愛は破壊の慕情、愛でるためにまずは壊そう。それこそ我が覇道なり。」

「これもまた、愛というわけですか.....興味がつきませんね。」

 

すると赤屍はそのまま距離を広げ、右手を地面へと向けた。すると、右手から大量のメスが流れ出る。

 

「む....」

「赤い暴風(ブラッディ・ハリケーン)」

 

ラインハルトと赤屍の周りの空間全てがメスに埋め尽くされた。そしてそのメス全てがラインハルトへと迫る。

 

「手数で私に勝ったつもりか?甘いな、愛が足りんよ。」

 

しかしラインハルトの余裕は崩れなかった。眼前に迫った全てのメスを、聖槍で破壊する。無論、その他のメスは全て被弾したが、血の一滴すら落ちてない。

 

「やはりこの程度ではあなたの首は取れないみたいですね。では直接切り落とすまで。赤い剣(ブラッディ・ソード)」

「接近戦へ切り替えるか。来い、私を壊すことなど誰にもできんぞ?」

「クス...」

 

赤屍は手を強く握り、少量の血から赤い長剣を作り出した。そして赤屍が軽く微笑むと同時に、信じられない速度でラインハルトとの距離を詰めた。そして横一閃、ラインハルトの首を切ろうとする。

 

「卿はその力を持って何を望む?」

 

ラインハルトは聖槍で赤屍の赤い斬撃を防ぐ。その衝撃で空間に火花が跳び散る。

 

「先ほど言ったではないですか。ただ私の底知りたいだけ。」

「その結果死を迎えたとしてもか?」

「クス、そんなことどうでもいいですよ。私にとって大切なのは結果よりその過程ですから。そもそも.....」

 

 

トスッ.....

 

 

「!?」

 

突然胸から走る痛み。ラインハルトは自分の胸に目をやると、そこから赤い剣の剣先が出ていた。

 

「そもそも想像できないのですよ、私自身の死がね....」

 

そして、死を想像できない。それが赤屍の抱く真実の全てだった。

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

「クス....」

 

突如胸から伸びた剣先。その正体を確認するために背後を見ると、そこには信じられないことにもう一人の赤屍がいた。

 

「赤い分身(ブラッディ・アバター)すべて血からできてますからね、100%の力を持ってますよ。」

 

血からできた実態のある分身、最初の一撃で出てきた血から分身を作ったのだろう。だが、その事実よりもラインハルトは別の理由で驚いていた。

 

「死を想像できない....だと?」

「ええ、そうですよ。摂理とは、そういうものなのですよ。」

「ふ.....ふふふ、ははは....」

 

赤屍がそう語ると、ラインハルトは口をひん曲げ、笑い声が溢れ出た。

 

「はははははは.ははははははははぁー!!そうか、死を想像できんか!ゆえに死ねないだと?はは、なんだそれは?卿も既知感持っているのか?それとも死を想っているのか?」

「さぁ、どうでしょうね?」

 

ラインハルトが高笑いをあげそう聞くと、赤屍は笑顔を作りながらとぼけるようにそう言った。

 

「ふふ、面白い実に素晴らしい。ゆえに我が愛を示そう。カールよ?いいか?」

『ご随意に』

「では、いざ参らん。新たなる天地へ.....私は全てを愛している、ゆえに全てを破壊する.....」

 

ラインハルトが聞くと、どこか別の次元からラインハルトにしか聞こえない声が流れてきた。そしてついに、ラインハルトの法が流れ出る。

 

「怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し

Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla.

ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る

Teste David cum Sybilla.

たとえどれほどの戦慄が待ちうけようとも 審判者が来たり

Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus,

厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える

Cuncta stricte discussurus.

我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ

Tube, mirum spargens sonum Per sepulcra regionum,

皆すべからく 玉座の下に集うべし

Coget omnes ante thronum.

彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん

Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla

されば天主よ その時彼らを許したまえ

Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus.

慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン

Pie Jesu Domine, dona eis requiem. Amen. 」

 

彼の楽土は鉄風雷火の三千世界。ここに新世界ヴァルハラ、修羅道至高天の宇宙が流れ出す。

 

「死者の楽園ヴァルハラ....それが黄金の獣の宇宙ですか.....」

 

「流出

Atziluth――

混沌より溢れよ怒りの日

Du-sollst――Dies irae 」

 

 

彼の日こそ、怒りの日なり。黄金の獣の破壊の愛が再する。

 

 

 

 




また更新がいつになるか自分でもわかりませんが、必ず更新させることを約束します。


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第八幕

なんか、同じレベルの人たちを戦わせると、個人的に不思議と楽しいです。


 

「ははははは!はーーはははははははぁぁ!!」

 

黄金の獣が咆哮の如き高笑いを上げる。その背後には彼の爪牙たる魔軍の幹部達だ。

 

「魅せろ、我が愛子らよ!卿らの愛をあの魔人に叩きつけよ!」

 

すると、ラインハルトの掛け声に先に応じたのは自称、獣の牙たる白貌の薔薇騎士、ヴィルヘルム・エーレンブルグだった。

 

「死森の薔薇騎士(Der Rosenkavalier Schwarzwald)」

 

天空高くにある満月が紅色に染まる、吸血鬼の夜が展開される。吸血鬼が生き血を吸うごとく、星々を喰らい、飲み込み、吸い殺す次元違いのエナジードレイン、これを前に信じられない量の魂がグラズヘイムに送り込まれ、当然赤屍も例外なく巻き込まれたが......

 

「クス......成る程、これがエイヴィヒカイトの最高位の流出ですか.....確かに規模が違いますね。それにしても、紅の月....綺麗な月光ですね....」

 

彼の余裕は同じまま、まるでそよ風を受けてるがごとく、クスっと穏やかに笑ってるだけだった。実際、赤屍よ分身が一瞬にして吸血鬼の夜に吸い殺されたのだから確かに彼にも効いているはずなのだが、彼はその月光をうっとりと見惚れてるだけだった....

 

「クククク......アーハハハハハハ!いいねぇ、やるじゃねえか運び屋。ハイドリヒ卿の恩恵を受けた俺の創造が簡単に応えねえとはな....そんな奴はメルクリウスの代替ぐらいだぜ。」

「おや、そうだったんですか。それは別の意味で心外ですね。まぁ、

しかし.....」

 

それはそれでヴィルヘルムにとっても歓喜だったらしい。自分の能力に抗えたのは永遠の刹那ぐらいだったから、赤屍の魂の頑丈さに感心していた。もっとも当の本人は自覚なしだったらしく、そのセリフと同時に.....

 

「な!?」

「あなたが厄介なのは変わりありませんからね。先に消えてもらいますよ。赤い影(ブラッディ・ダークネス)」

「ぎっ!糞がァァァ!!」

 

ヴィルヘルムの視界から一瞬にして赤屍は消えた。その赤屍は一瞬にしてヴィルヘルムの背後へと移動した。赤い影(ブラッディ・ダークネス)ありとあらゆる影へと瞬間移動する能力である。そして、闇のエレメントを司る異能であり、影を操って対象の敵を無に帰する力でもある。赤屍が手を上げると同時に巨大な影の手がヴィルヘルムを飲み込む。無論ヴィルヘルムも無抵抗ではなく、とっさに無数の杭を赤屍の周りに展開し、串刺しにする。

 

「おっと危な.....っ!?がっ!」

 

赤屍はそれに反応して、もう一度影の中に逃げ込み、吸血鬼の杭から回避しようとするが、その瞬間唐突に動けなくり、串刺しになった。

 

「拷問城の食人影 (Csejte Ungarn Nachatzehrer)悪いけど、逃がさないわよお兄さん?あなたが遠くに行こうとするたびに、あなたの足を引いてあげるわ。」

「影には影ですか.....黄金閣下とあろう方が、随分と洒落たことをしますね.....クス。」

「ふふ私の子度などどうでもいい、しかしよくできた子達であろう?これが私の爪牙だ.....彼らの物語と渇望は、かくも戦慄に美しい.....笑わせなど、せんよ。」

 

赤屍の背後には、いつの間にかルサルカ・シュベーゲリンが影を操っていた。目には目を、毒には毒を、そして影には影を、赤屍の瞬間移動に対して彼女の影は不動縛の効果が付属されていたのだ。赤屍はそんな洒落た真似をするラインハルトに皮肉の言葉をかけるが、ラインハルトむしろ自慢の部下で誇りに思うと言い返した。

 

「それにしてもベイ、あんた登場早々やられるって....油断しすぎよ。ま、見た感じ彼は蓮君と同じレベルの魂の質量だから仕方ないけどね。」

「チッ、単一の魂でハイドリヒ卿とそこそこヤレるあたりこいつもやっぱデタラメだと感じてはいたがな......」

「しかし、最終的には戦いは基本的に魂の内包量が勝負の鍵となる。ゆえに案ずるな、私は負ける気はしないし、まだ引き出しはある。卿らは卿ららしく戦え。」

 

ルサルカは赤い影によって片腕が奪われたヴィルヘルムに呆れていたが、相手があの蓮と同じレベルの赤屍とわかった以上仕方ないと思った。実際、先程からあの本気のラインハルトと白兵戦をしているあたりそれほどのレベルとわかる。しかしそれでも勝負を決定づけるのは魂の量。ゆえに数百万の魂を内包するラインハルトがまだ有利、加えて薔薇の夜で秒刻みでラインハルトの魂の量が増え続け、逆に赤屍は体力等が減り続けてるのだ。

 

「第九_SS装甲師団(ホーエンシュタウフェン)」

「オラァ行くぜェ!」

「さぁ、足を引いてあげるわ。」

 

ゆえにあとは攻めるだけ、ラインハルトの背後からグラズヘイムの装甲師団の火砲が炸裂し、ヴィルヘルムの周り、地面、何もない空間から無数の杭が飛びててきた。加えて、ルサルカの影が赤屍の周りに広がって行く。

 

「赤い盾(ブラッディ・シールド)・赤い奔流(ブラッディ・ストリーム)」

 

百、千、万と大量の弾幕が赤屍を襲いかかるが、臆することなく彼はメスの盾で弾幕を防ぎ、お返しとばかりに血飛沫から出来たメスの弾丸を発射する。その隙に、赤屍は接近して、赤い剣で接近しながら振り下ろす。

 

「っ!」

「まさかと思いますが黄金閣下、手数で私を倒そうと思ってませんよね....」

「ああ!?てめえ、ハイドリヒ卿に生意気言ってんじゃ......」

「あなたは黙ってていなさい。とにかく、連続攻撃なんて所詮は相手の油断や好きを作るためのつなぎでしかない.....ハイレベルな戦いにおいて効果があるのは『意味のある一撃』です。もしそれを否定するなら、あなたの言葉を借りて言わせてもらいましょう。あまり舐めていると、愛が足りないと思わずにはいられない。」

「てめぇ!」

 

赤屍の攻撃を防ぐと、その激突の最中、赤屍は連続攻撃で自分を倒すのなら失望したと言った。彼にとって

戦闘の勝負を決めるのは『効果のある一撃』だと。それを否定するなら、それこそ愛が足りないと、そう言った。それに対してヴィルヘルムの堪忍袋が切れようとしたが.......

 

「奇遇だな、私もちょうどそう思っていたところだ。もとより物事、究極に近ければ近くなるほど陳腐になるからな、無論、戦いもな。」

「「!?」」

「ほう......」

「故に見るがいい、これが卿の言う、私の『効果のある一撃』だ。」

 

ラインハルトはそれを肯定した。そう彼は破壊公。そんな彼に戦いについてや、一撃がどうだのと釈迦に説法に等しい。ゆえに示してやろうと、聖槍に今までにない黄金の波動が爆発しようと振動している。『あれをやるのか!?』と、ヴィルヘルムとルサルカは感じ、あまりの恐怖に、ラインハルトの背後へと消えた。その波動に、期待の眼差しを向けている赤屍を残して。

 

「Oh! Welchen Wunders höchstes Glück!

おお 至福もたらす奇跡の御業よ

 

Der deine Wunde durfte Schließen,

汝の傷を塞いだ槍から 聖なる血が流れ出す」

 

それは鎮魂歌、死に行くものへと送る花束の代わりとして送る瞑想曲、黄金の破壊の一撃が放たれる。

 

「至高天_聖槍13騎士団(グラズヘイム・ロンギヌスドライツェーン・オルデーン)」

 

黄金の獣の全総軍突撃。そう、ただの突撃なのだが、規模が最早次元違いなのだ。これを放たれたら最後、宇宙はおろか、森羅万象、多元宇宙、座が消滅するだろう。これはそれほどの威力を持っていたのだ。もとより黄金聖槍は通称神殺しの槍、それほどの威力を持っていてある意味当然なのだ。

 

「はははははははー!!」

 

万象に亀裂が入る。ありとあらゆる星が崩壊し、宇宙が破裂する。ありとあらゆるものが黄金に染まりに染まり、崩壊する。黄金の獣の咆哮のような高笑いを残して。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、私は全てを愛している!ゆえに、全てを破壊する!卿も例外なくな。それでどうかね赤屍よ、私の愛は?」

「........」

 

 

何もなくなった世界で、ラインハルトは独り言のように聞いた。返事はなかった......と思われたが。

 

 

「んなもん、胸糞わりいに決まってるだろ!」

「.....こんなの、愛ってやつじゃないよ!」

「む....」

 

唐突に、赤屍とは別の色をした波動が感じ取られた。それも二つ、しかし赤屍とは同レベルの魂の波動を持ったものが。

 

「卿らは何者だ?この戦いを邪魔しに来たのか?」

「はっ、ほざけよ金髪軍人が。俺らは無敵最強のGet Backers_奪還屋。俺が美堂蛮。そしてこっちが.....」

「同じ奪還屋の天野銀次。赤屍さんが唐突にいなくなったって、卑弥呼ちゃんから聞いてね、それで蛮ちゃんと一緒に赤屍さんの気を辿ってきたらこんなところに来ちゃってね。」

「ま、野郎の奪還何て死んでもやりたくなかったがな、卑弥呼の奴がギャーギャーうるさくてよ。それに.....なんかヤベーもんが裏新宿に迫ってたからよ、もしかしてっと思ってな

。」

 

奪還屋と名乗る二人。天野銀次、美堂蛮がラインハルトの眼前に現れた。彼らはこの異空間に現れた赤屍の奪還目的でここに来たと、それに先程放った全軍突撃を瞬時に感じ取って、そこに赤屍がいるであろうと、そう思ったのである。

 

「そうか、まあ私は歓迎するぞ。ようこそこの黄昏の宇宙へ、私の名はラインハルト・ハイドリヒ、そして......」

 

黄金はそれに唐突に乱入した彼らを排除するどころかむしろ歓迎した。そして自己紹介をしたと同時に背後に目をやった。

 

「少々戯れが過ぎましたな、獣殿。」

「たく、お前は暴れすぎなんだよ。マリィ守るので精一杯だったぞ。」

「あなた、この状況どうするつもり?」

「彼らと同じ、黄昏の宇宙を守るものだよ。」

 

そこには、半ば諦め気味で、軍服を着けた友人、水銀の蛇、メルクリウス。そしてそんな彼にやや怒り気味の少女、当代の座の支配者、黄昏の女神、マルグリット・ブルイユ。そして彼女の恋人、永遠の刹那、藤井蓮がラインハルトを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 




気が付いたら、なんか面白い形式が出来上がってました。


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第九幕

そろそろ最終回へと迫ろうとしています。


「まあしかし、随分と混沌とした雰囲気になってしまったな。どうしてこうなったのだ?」

「いや、ほぼお前とあの変質者のせいだろ。」

 

金色の長髪を掻き上げながら、ラインハルトがそう呟くと、蓮が彼とその背後に立つメルクリウスを指差しながらツッコミを入れた。

 

「まあその件に関しては置くとして.....」

「いや、置くなよ。」

「とりあえず私の話を聞くのだ愚息よ。先程から、獣殿の総軍突撃後から赤屍の姿が見えないのだが?」

「あ。」

 

その間に割って入ったメルクリウスが、愚息の事蓮のツッコミをサラッと流しながら、赤屍の不在を芝居がかった口調で指摘した。その事で蓮はついポカンと呆けてしまった。

 

「おや、私がどうかしましたか?」

「赤屍(さん)!」

 

すると、唐突に赤屍がひょっこりとどこからか現れた。彼の足取り自体は問題ないが、服が所々破れ、かなり出血している。

 

「ほう、あれを受けてまだ満身創痍ではないとはな、卿はまだ壊れぬか。破壊のしがいがあるな卿は。」

「クス、御冗談を。流石にあれはしのぐしかなかったですよ。あんな突撃生涯始めて受けました、おかげでこの有様だ。」

「こいつらマジで壊れてやがる......」

 

ラインハルトは赤屍がまだ死んでいなかったことを、赤屍はラインハルトの破壊力を、互いに賞賛しながら不適に笑っていた。狂ってる、と蓮は2人をドン引きで見ながらそう呟いた。

 

「と言うかあなた!私の言葉を無視しないで!」

「む?女神よ、どうしたのか?何か問題でも?」

「大有りよ!特に前に来てしまった球磨川君はせっかく私が回復させてあげたのにあなたが容赦殺してしまったから彼、すごく可哀想だったじゃない!しかも世界をこんな悲惨な状態にして!私と蓮は....さっきも言ったけど、シローやカスミ達を守ることしかできなかったんだから、この責任とれるの!?」

「ふむ.......」

 

すると、さっきからスルーされ続けていたのが不満だったのか、マリィは今までにない位激怒していた。自分の作り上げた世界を壊された挙句

、仲間しか救えなかったことに遺憾を感じているのだ。すると、ラインハルトは目を細め女神に頭を下げた。

 

「確かに、少々暴れすぎたな。仮にも私は黄昏の守護せし者だというのに....すまなかった。この責任は必ずとろう。なぁカールよ?」

「え?」

「『え?』ではない、もとは卿がことの原因であろうが。何とかしてでも座を立て直せ。」

 

今までに傍観を貫き通していた彼は、唐突に話を振られ、つい間抜けた空返事をしてしまった。

 

「いやしかし、座に関しては獣殿がグラズヘイムの総軍突撃させたのが原因では.....」

「だから卿が直せと言っている、二度言わせるな。そも私が確認した時、卿はご随意にと言ったではないか。つまり責任は卿にあるのだ。元々私は修復など出来ぬし得意ではないのだ。」

「何で頼んでいるのにこんな偉そうなのだ?確かに私のせいと言ったらそうではあるが......」

 

実際このバトルロワイヤルをラインハルトに施したのはメルクリウスだったら確かに彼が悪いのではある。しかし、あまりにラインハルトが罪悪感のかけらもない態度をしているのが納得いかないのか、メルクリウスはまだ何かを言おうとするが......

 

「カリオストロ、出来ないの?」

「女神.....」

「私がみんなを抱きしめるのは、もう出来ないの?」

「.....ふ、ふはははははは!何を嘆くか女神よ、この黄昏がこんなところで終わりと?否、断じて否!私がそんな結末など認めんよ、故に任されよ女神よ、責任なんぞいくらでも背負ってみせようではないか。元より私は責任感に関しては定評があるのでな。」

「カリオストロ....ありがとう!」

 

マリィがやや涙目で問い詰めてくると、彼はまるで水を得た魚のごとく高らかに高笑いを上げた。おそらく彼女に頼りにされたからとても嬉しかったのだろう。この状況をなんとかして見せると宣言した。頼それを聞くと、マリィは太陽のような笑顔をして彼に感謝した。

 

「ああ、やはりあなたは笑った方が輝いておられる。ダイヤモンドの輝きなどもはや海の藻屑のように曇って見えるよ。ゆえにあなたの治世を修復した際、今一度褒美としてあなたの抱擁を『不倫になるからダメ』

.....ふふ、可愛いなマルグリットだが私にとってもそれはご褒美だよ。」

 

それを見て彼は頬をピンクに染めながら芝居がかった口調で彼女を褒め称えた、そしてさりげなく抱きしめて欲しいと頼もうとするも、即座に不倫になるから無理、とバッサリ切り落とされるが、彼にとってもそれはご褒美らしい。

 

「そこまでにしとけ変質者、取り敢えず座に関しては後回しだ。今はこいつらをどうするかだ。ここまで来た以上、無下に帰れとは言えないし、まだ帰る気もなさそうだしな。」

「だったらどうするんだよ?」

 

そこで、必要以上マリィに迫っているが苛立ったのか、蓮が二人の間を割ってそう言った。それを聞いた蛮はタバコに火をつけながら、これからどうするのか聞いた。すると、ラインハルトは口を曲げながら奪還屋と赤屍に黄金の魔眼を向けた。

 

「決まってる。卿らは3人いて、私達は女神を除けば3人、丁度いいではないか。」

「わざわざ乱戦に持ち込むのではなく.....」

「一体一の3掛けするってことだ!」

 

そう叫び、蓮は蛮、メルクリウスは銀次、そしてラインハルトは赤屍へと迫った。

 

「おもしれぇ!行くぜ、銀次!」

「うん、蛮ちゃん!赤屍さんも、あの人との決着つけちゃって!」

「クス、君もなんだかんだで乗り気ですね.....後で銀次君ともやりたくなってしまいました。」

「それについては、ノーサンキューで......」

 

対して、彼らもその意気込みに応えるかのごとく、蛮は右手から蛇のオーラを帯びただせ、銀次は体をプラズマで帯電させ、赤屍は赤い剣を召喚した。何気にノリノリの銀次を気に入ったのか、後で殺し合おうと赤屍は誘うが銀次は丁寧に断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらぁぁぁ!!」

「チッ!」

 

先に攻撃が届いたのは蛮の攻撃だった。右手から帯出る蛇のオーラは途轍もないもない威力を発揮して、蓮を弾き飛ばした。蓮はなんとか耐え抜き、蛮を睨む。

 

「レン!」

「大丈夫だよマリィ、俺がこんな奴に、こんなところで、負けるかよっ!」

 

心配したのか、マリィは駆け寄ろうとするも、蓮は彼女を制する。そして蓮は負けないと叫び、彼の渇望(祈り)を具現する。

 

「日は古より変わらず星と競い

Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettegesang.

定められた道を雷鳴の如く疾走する

Und ihre vorgeschriebne Reise Vollendet sie mit Donnergang.

そして速く 何より速く

Und schnell und begreiflich schnell

永劫の円環を駆け抜けよう

In ewig schnellm Sphaerenlauf.

光となって破壊しろ

Da flammt ein blitzendes Verheeren

その一撃で燃やしつくせ

Dem Pfade vor des Donnerschlags;

そは誰も知らず  届かぬ  至高の創造

Da keiner dich ergruenden mag, Und alle deinen hohen Werke

我が渇望こそが原初の荘厳

Sind herrlich wie am ersten Tag. 」

「へっ、だったらこっちも!」

 

それに感心した蛮は、それに応じて、彼の自身の呪い唄を唄いあげる。

 

「今こそ汝が右手に その呪わしき命運尽き果てるまで 高き銀河より降りたもう蛇遣い座(アスクレピオス)を宿すものなり されば我は求め訴えたり 」

 

蛮の右腕に悪魔の呪いが帯びる。それは人によっては芸術的な形をして見え、はたまた悪魔の如く醜い形に見える。

 

「創造

Briah――

美麗刹那・序曲

Eine Faust ouvertüre」

「喰らえ その毒蛇の牙を以て!」

 

そして、蛮と蓮の祈りと呪いが疾走する。蓮はどこまでも疾走し、蛮は爆発するかのように速度を上げ続ける。

 

「チッ!」

 

互いに無限の速度を保持してるが、やはり速さの競り合いでは蓮の方が上手だ、先ほどから殴り合い、蹴り合いを繰り返すが、悉く蛮の攻撃は交わされ、蓮の攻撃は喰らい続ける。

 

「なめんなクソガキァァァ!!」

「っ!」

「隙有りだな....おらぁ!」

 

すると蛮は、悪魔の右腕を地面に叩きつけた。蓮は予想外だったのか疾走を止めてしまい、それを狙った蛮の右腕が眼前に迫る。が.....

 

「隙有り?それはこっちのセリフだ!」

「!?」

 

だがそれこそ蓮の狙いだった。カウンターのカウンター、居合切りの要領でギロチンを振り切る。蛮は止まった自分を必ず狙うだろうとそう思い、蓮はそこを突つ事にしたのだ。無論、自分も喰らう可能性があるものの、ここを狙う他ない。結果は....

 

「がっ!」

「ぐっ!」

 

相打ち。蛮は左胸を切り裂かれ、蓮は右脇腹を少し抉られた。しかし互いに致命傷にはならず、互いに睨み返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方銀次は

 

「わあぁぁぁぁ!!」

「やれやれ.....」

 

銀次は叫びながら放電するものの、メルクリウスはまるで藪蚊が飛んでるかのごとくまるで気にしていない。

 

(こいつ、効いてるのか?さっきからまるで俺を見ていない.....まるで相手にしていない。)

 

こう思ったのも、はや5回目。こればかりを繰り返した。直接プラズマを叩き込む気がないし、そもそも近寄りたくないと彼は思っていたのだ。何か危険な匂いが彼をそう思わせたのだ。

 

「いけないな。」

「え?」

「いい加減『彼』を私的には出して欲しいのだよ。言いたくはないが、 『君』では役者不足なのだよ、君では意味がない。私は彼に興味があるから、だから私はわざわざ君に近づいたのだからな。用済みの役者には退場願おうか。」

「!?」

 

メルクリウスがそう言うと、銀次の体が硬直した。こいつのこのセリフの意図を直感で理解したのだ。

 

「....嫌だ。俺は二度と逃げたりしない!」

「そうかね、ならば.....正直、荒事は苦手なのだが、私なりに君を全力で叩き潰すことにしよう。」

「俺は、二度とアレを出さないと、決めているんだ!うおぉぉぉ!!」

「無駄だ、君の雷じゃ私に届かんよ。ああ、なんだか面倒になってしまったな、獣殿ではないが、壊すとしよう。

 

Sequere naturam(自然に従え ) 」

「え、嘘.....」

 

メルクリウスが詠唱すると、いつの間に現れたのか、巨大な白蛇の鱗が億単位で流星のように降り落ちてきた。銀次がわずか呼吸する刹那に着弾した。

 

「ふは、はははははは.....」

「........」

 

メルクリウスは呟くように笑った。まるで子供のように、何故積極的に動くはずのないメルクリウスが銀次を相手に選んだのか、その答えが今、現れた。

 

「.....誰だ?俺の安らぎを壊したのは?」

「そうだ、彼を待っていたのだよ.....『雷帝』を.....」

 

姿こそ変わらないものの、常時高熱のプラズマを発し、自分以外をゴミのようにしか思っていない、最低冷血の男雷帝を、メルクリウスは待っていたのだ。

 

「ふふ、少々荒治療ではあったが、では、今宵の恐怖劇(グランギニョール)を始めよう。

 

 

怒りは短い狂気である

Ira furor brevis est.

 

自然に従え

Sequere naturam.」

「消えろ.....消えろォォォ!!」

 

 

メルクリウスは掌に無数の星々を掌大にまで凝縮して弾け飛ばし、宇宙規模の大熱波を発生させた。超新星爆発。対して雷帝は、手を前にだし、無数のプラズマ弾を弾け飛ばし超新星爆発を迎え撃つ。

 

「美しい......」

 

メルクリウスは巧妙な表情で雷帝の荒業に見惚れてきた。愚息のことも、無二の親友のラインハルトを、これが案外彼の素の姿なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ新作を作ろうと思っているので、もう直ぐこの物語の幕を閉じようと思ってます。


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第十幕

お待たせしました。続きです。


一方、赤屍とラインハルトは....

 

「クス.....」

「ふふ....」

 

ラインハルトの周りに無数の赤屍が囲み、襲いかかっていた。恐らく総軍を突撃させ、その時に出血した血液から具現化したのだろう。そう思ったラインハルトは、聖槍でなぎ払いながら言う。

 

「....人数で勝負ときたか、面白い。が、甘いな。総軍を凌駕する将がいる時点で兵法など意味はない。」

「ほう、これはこれは......仮にもナチスの中将だったお方のセリフとは思えないですね。」

「ふっ、ならば見るがいい、盤を覆す様を。」

 

すると黄金聖槍に大量の熱気が帯び始めた。熱の温度は間違いなく溶岩を上回るほどの温度だ。その紅蓮の爆炎が爆発しようとしている。そして、顔の半分がやけどを負っている女丈夫とラインハルトの姿が一瞬重なる。

 

「我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い求める者

届かぬ故に其は尊く、尊いが故に離れたくない

追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい―逃げ場無き焔の世界

この荘厳なる者を燃やし尽くす――

焦熱世界・激痛の剣

(Muspellzheimr Laevateinn)」

 

瞬間、焔が剣となり、ラインハルトと赤屍を結ぶ空間以外完全に切り離された。これはさながらトンネルを思わせる空間.....いや、これは砲身内部だろう。逃げ場などどこにもない、誰であろうと抜け出すことなどできない。天井はあるようでどこまでも天空へと伸びている。そしてこの砲身内部全ての空間を焼き尽くす....まさに必中世界。そう、絶対命中とはそもそも逃げ場のない世界のことを言う。

 

「ぐぅ.....!」

 

爆炎が永劫広がり続けるかのように、砲身空間内全てを焼いてる内に、赤屍の分身全てが消滅していた。そして本体と思われる赤屍一人がこの世界の中に残っていた。流石の赤屍も、傷を負った状態でこんな爆炎を喰らったからか、膝をついて倒れかけていた。しかし

 

「っ!」

「ほう、まだ反撃をする力を残していたか。」

 

赤屍の赤い剣とラインハルトの黄金聖槍がぶつかり合う。互いに致死レベルの威力だ。

 

「クス、こんなに楽しい死合をそう簡単に終わらせるわけには行きませんからね.....」

「そうこなくては。」

 

ラインハルトは再び聖槍を構えた。すると今度は、感情を持たない、鋼鉄を思わす黒いオーラが帯びてくる。

 

「我は終焉を望む者。死の極点を目指すもの

唯一無二の終わりこそを求めるゆえに、鋼の求道に曇りなし――幕引きの鉄拳

砕け散るがいい――

人世界・終焉変生

(Midgardr Volsunga Saga)」

「......!」

 

聖槍から黒騎士は飛びてて、即死の鉄拳を振りかざして赤屍へと迫った。誕生の歴史を砕く鉄拳、これを喰らった間違いなく赤屍も致命傷どころじゃ済まないであろう。

 

 

「どうした、ここで落ちるか?卿もそろそろ限界ときたか、残念だ。卿とはもっとたか見えと目指せれると思ったのだがな。まあそれは贅沢の言い過ぎか....」

 

 

ラインハルトが少し目を沈めながらそう言った。だがラインハルトは気づかない、自身にもピンチが訪れていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、蛮と蓮は。

 

「血、血、血、血が欲しい。ギロチンに注ごう、飲み物を。ギロチンの渇きを癒すため......欲しいものは、血、血、血.....」

「我こそは蛇遣い座(アスクレピオス)の使者なり… その呪わしき命運受け入れし者にのみ賜うべきは 毒蛇の牙に秘められし高き天と深き地獄の力なり… されば愚かなる者共に鉄槌を打ち下ろせ 荒ぶる神魔の怒りを以て。 」

「罪姫・正義の柱(マルグリッド・ボワ・ジュスティス) 」

「蛇殺(スネークジェノサイド) 」

 

今まで込めたことのないほどの威力と速度を内包したギロチンの斬撃と、左手から龍のような蛇神のオーラを纏った攻撃がぶつかり合う。まるで蛇と蛇が絡み合うように。

 

「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

「がああぁぁぁぁぁ!!」

 

どちらも実力は互角。蛮は全ての攻撃に無数のオプションを組み込みながら攻撃を繰り出し、対して蓮は無限加速をしながら、その全てをよけた。そして時々ギロチンの一閃を繰り出す。連続攻撃はできなくとも、首に斬撃が当たれば蛮であろうとも斬首されて死ぬ。故に蛮も死力振り絞ってでも直撃は避けなければならない。

 

「ぐっ、はは....てめーのギロチンのプレッシャー半端じゃねえなおい。あのおっぱいのでけェ姉ちゃんのものとは思えねえな。」

「がっ、ふざけんな....俺の女をそんな目で見てんじゃねえよ殺すぞ。」

 

ギロチンが頬をかすり、悪魔の爪が右膝の一部を奪い取る。致命傷は互いになし。だが、実は蛮の方がやや不利に近かった。

 

(ちっ、一瞬でも油断したら終わるな。なんせあの兄ちゃんから流れ出てる時空間停止の波が半端じゃねえ。兄ちゃんがその気になれば強引に止められるんじゃねえか?そう思えるくらいな。)

 

流出から流れ出る法則は、術者自体が死なない限りは無限に流れ出てる。だから蛮は自身の殺意を極限まで出して蓮の時空間停止の波を弾き飛ばしている。

 

「ちっ、このままじゃ拉致があかねえ....止まれェェ!!」

「っ!」

 

蓮が叫ぶと同時に、蓮以外の全てが止まった。蓮は無理矢理渇望力を高め、停止の波動をつよめたのだ。そして蓮を見上げる蛮は彫刻のように冷結し......

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

その隙を逃さず、蓮は蛮の首目掛けて疾走した。これで終わりだと、この一撃に魂かけてギロチンを振り上げる。

 

ザシュッ!

 

蛮の首が跳ねた。斬首されてしまった。

 

「はぁ.....はぁ.....やったぞ、マリィ。」

 

そして蓮は息を切らしながら、膝をついた。愛しい女神の名を呟きながら、顔を上げた。その時だった。

 

『やあ、私がわかるかい?藤井蓮くん?』

「え?」

 

蓮が見上げる先には、顔が見えない、だがどこか見覚えのある男がいた。そして、自分の身体が幼い幼児の体になっていた。

 

「私は■■■■だよ。」

 

名前は聞こえなかった。だがとてつもなく、聞きたくない名前だったような気がする。

 

「ふふ、早速だが■■■■■■■■■」

 

ここから先は聞こえない。だが、そのセリフが終わると同時に、自分の体が血に濡れた。

 

「ふふふ、はははははははははは!!!」

(そうだ、こいつのせいで僕は刃物がキライになったんだ.....こいつのせいで僕はボクハボクハボクハオレハオレハオレハオレハ.....)

 

男が狂うように笑う。そう、この男は蓮が刃物嫌いになった原因だった。蓮の体は震え上がっていた。顔は青白くなって唇が乾いていた。その時だった。

 

『目ぇ覚ませ蓮、そいつは幻だ!』

「っ!?」

 

蓮の背後から声が響きわたった。何か人を食ったかのような飄々とした口調の男、遊佐司狼の声が。

 

「司狼.....」

『この幻覚は野郎の魔眼の力だ。お前はあの野郎に一杯食わされたんだよ。時を止める前に、あいつの目を合わせてしまったろ?あの時からお前は眠らされたんだ。』

「そうだったのか.....」

 

まんまとやられた。蓮は悔しそうに口を噛み締めた。それを見た司狼はニッと笑いながら言った。

 

「ま、喜べよ蓮。綺麗なお姉さんと頑固女の二人がお前を手伝ってくれるらしいぜ?後はそいつらに任せとけよ。」

「え?司狼、お前は?」

「俺か?お前をこっから引っ張り上げてやるよ、俺はそこまでだな。悪いな蓮、助太刀してやりたいのは山々だけどよ、俺の渇望はお前とマリィちゃんにも影響するかもしれないからよ。後はお前らに任せるわ。だから勝てよ、蓮!」

 

そう言われて、蓮は司狼に背中を叩かれた。それと同時に視界が晴れ、元の世界へと戻った。

 

「ふーん、結構面倒見のいいダチがいたんだな。」

 

その様子を、タバコを吸いながら、少し面白そうな感じて見ていた蛮がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、メルクリウスは.....

 

「このようにして星に行く

Sic itur ad astra.

 

(これは)厳しい法であるが、それでも法である(だから従え)

Dura lex sed lex.」

「消えろォォォォォ!!」

 

グレート・アトラクターと、無数のプラズマ弾がぶつかり合って、空間を潰し合う。おそらく一番規模の広い戦いが、行われている。

 

「そうだ、君は全てを消すためだけに存在している。世界の創造主?王?何を戯けたことを.....君のようなものが世界を創るなんて概念を持ち合わせてると?笑止な。」

「黙れ。」

 

メルクリウスの口を黙らせるために雷帝はプラズマ弾を直接メルクリウスに当てた。だが少しすれ傷ができた程度の結果した残せなかった。

 

「君はハイドリヒと同じように神とは対極の存在なのだよ。決して世界を掌握なんてできぬ。故に消えよ、女神の障害となるものは私が潰すのが義務だからな。」

「ならばお前も消えろ」

 

メルクリウスが占星術を行おうとした刹那、雷帝はメルクリウスの首を捕まえ、電熱を強化して、蒸発させようとする。だが.....

 

「神を知る者は、神を敬う

Deum colit qui novit.

黄金の中庸

Aurea mediocritas.」

 

グランドクロス。だがメルクリウスの行なったそれは、多次元平行宇宙にまで干渉し、平行宇宙とその内部の天体の配列を操作することで極大規模ほどのものであった。その結果発生する膨大なエネルギーは、神格の肉体でさえ内部沸騰させ、粉砕するほどの威力を持つ。故に雷帝の体からは血が流れ、亀裂が走る。

 

「ぎっ......!」

「ふふ、はははははははは!」

 

雷帝の顔が鬼神の如くゆがむ。それを見てメルクリウスは高笑いを上げる。

 

「君がそんな顔をするなんてらしくないな世界を守護するものよ。そんなに君の世界に女神が干渉するのが嫌かね?しかしだめだ。異論は認めぬ、女神が法だ、黙して従え。」

 

 

しかし、そう言うメルクリウスの体からも傷が現れてきた。雷帝のプラズマが体の内部にも流れ始め、たのだ。

 

「しかし.....私は今、生きている!」

 

だが、メルクリウスは楽しんでいた。既知感はない。この男と交えれば交じるほど、未知しか出てこない。魂が踊り、歓喜する。自分が生きているのだと実感できる。

 

「ゆえに滅びよ、勝つのは私だ!女神の生む地平の礎となれ!

恐れは望みの後ろからついてくる

Spem metus sepuitur.

 

喜んで学べ

Disce libens.」

「消えろ、水銀の蛇ぃぃぃ!!!」

 

暗黒天体、ビッグクランチ規模の極大プラズマがぶつかり合う。ラインハルトが総軍を突撃した時と同じように座が軋み始めた。




やっぱ自分、黄昏連合大好きなんだなと、改めて思いました。


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番外編 武神夫婦vs黄金の獣 その1

曙光クリア記念でふと思いついたバトルを書きたくなりましたので、番外編ということで書き上げました。


 

 

 

 

 

 

 

「共にこの宇宙で謳いあげよう、大いなる祝福を!私は全てを愛している!」

「「黄金の獣、修羅道至高天!」」

 

布都主と摩利支天の視線の先には、聖槍、ロンギヌスの槍を握る墓場の王、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイトリヒがいた。

 

「斬らせて、もらいます.....!」

 

抜刀する宗次郎の体は震え上がっていた....否、これは武者震いだ。天狗道の神、波旬とは別ベクトルの威圧感が黄金から放たれていた。修羅の化身....一瞬でも気を許したら、彼の神威に呑まれてしまう。そして、彼が今まで取り込んできた魂の桁と、自分の切ってきた魂の桁が違う。故に次元が違う....とひしひしに感じていた。だからこそ、切ってみたい!自分の刃が黄金をどこまで両断できるか知りたい!肉か?それを越して骨か?はたまた魂まで届くか?今の彼の頭はそれだけで満たされていた。

 

「まさか、龍明さんの男と戦える日が来るとはね.....」

 

対して紫織は震えるどころか呆れ果てていた。これが、自分たちの知ってる御門龍明が、憧れ焦がれ続けていた黄金の輝きの正体。一目見た感想は、差し詰め山を見上げるような感覚に落とされた....と彼女は言うだろう。追いつきたいと願うが、追いついてはいけない....そりゃそうだろ、人が山になってしまったら文字通り化け物だ。山とは登り超えるものであって、成り果てるものではない。紫織の知ってる龍明には、そんな化け物になって欲しくはないだろう。恐らく龍水に聞いてもおそらく同じ答えが返ってくるだろう。だが、その化け物の正体がついに目の前に現れた。だったらどれほどの最高の男か、試さずにはいられない。紫織はそう思いながら構えをとった。

 

「ふふ.....卿らの殺意、流れるように感じるよ。私を殺さずにはいられないか.....いいだろう、私が全てを許そう!来るがいい、私を失望させないでくれ!」

 

そしてラインハルトは期待で満ち溢れていた。ああ、これが求道の神か。発狂するほど接触を拒んだあのシュライバーですら至ることのできなかったその極致が、今この場にいる。一振りの剣になりたい、常に最高の己になりたい。ああ、なんと愛らしい渇望か、愛さず(壊さず)にはいられない!ゆえに簡単には壊れてくれるな、私を失望させないでくれ!私は全てを愛している!ゆえに全てを破壊する!さあ、怒りの日をたたえようではないか!と、ラインハルト破壊の愛が流れ出た。

そして三者は自分の祈りを歌い上げる。

 

 

「「壱 弐 参 肆 伍 陸 漆 捌 玖 拾

(ひ ふ み よ い む な や ここの たり)

布留部 由良由良止 布留部

(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)」

 

「曰く この一児をもって我が麗しき妹に替えつるかな

(いわく このひとつぎをもってわがうるわしきなにものみことにかえつるかな)

すなわち 頭辺に腹這い 脚辺に腹這いて泣きいさち悲しびたまう

(すなわち、まくらへにはらばい、あとへにはらばいてなきいさちかなしびたまう)

その涙落ちて神となる これすなわち 畝丘の樹下にます神なり

(そのなみだおちてかみとなる これすなわち うねのこのもとにますかみなり)

ついに佩かせる十握劍を抜き放ち 軻遇突智を斬りて三段に成すや これ各々神と成る

(ついにはかせるとつかのつるぎをぬきはなち かぐつちをきりてみきだになすや これおのおのかみとなる)

劍の刃より滴る血 これ天安河辺にある五百個磐石 我が祖なり

(つるぎのやいばよりしたたるち これあまのやすのかはらにあるいほついはむら わがそなり)

謡え 詠え 斬神の神楽 他に願うものなど何もない

(うたえ うたえ ざんじんのかぐら ほかにねがうものなどなにもない)

未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者

(おとめらが そでふるやまの みずがきの ひさしきときゆ おもいきわれは)

八重垣・佐士神・蛇之麁正――神代三剣、もって統べる石上の颶風 諸余怨敵皆悉摧滅

(やえがき・さじのかみ・おろちのあらまさ――かみよさんけん、もってすべるいそがみのかぜ しょよおんてきかいしつざいめつ) 」

「ここに天の数歌 登々呂加志宇多比あげて 浮かれゆかまくする魂結の 聞こしめして幸給う

(ここにあめのかずうた とどろかしうたいあげて うかれゆかまくするたまゆいの きこえしめしてさきわいたまう)

我が身に阿都加倍奈夜米流 夜佐加美安倍久病をば

(わがみにあつかいなやめる やさかみあえぐやまいをば)

いと速やかに伊夜志たまいて 堅磐に常磐に守りたまえ聞こえしたまえと

(いとすみやかにいやしたまいて かきわにときわにまもりたまえきこえしたまえと)

天の八平手打ち上げて 畏み畏み申す

(あめのやひらてうちあげて かしこみかしこみもうす)

唵・摩利支曳薩婆訶

(オン・マリシエイソワカ)

唵・阿毘哆耶摩利支薩婆訶

(オン・アビダヤマリシソワカ)

鬼縛――隠身・三昧耶形・大金剛輪

(きばく――おんしん・さんまやぎょう・だいこんごうりん)

ここに帰依したてまつる 成就あれ

(ここにきえしたてまつる じょうじゅあれ) 」

「怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し

(Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla. )

ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る

(Teste David cum Sybilla. )

たとえどれほどの戦慄が待ちうけようとも 審判者が来たり

(Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus, )

厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える

(Cuncta stricte discussurus. )

我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ

(Tube, mirum spargens sonum Per sepulcra regionum, )

皆すべからく 玉座の下に集うべし

(Coget omnes ante thronum. )

彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん

(Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla )

されば天主よ その時彼らを許したまえ

(Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus. )

慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン

(Pie Jesu Domine, dona eis requiem. Amen.) 」

 

 

「「太・極」」

「流出

(Atziluth)」

 

「神咒神威 経津主神 布都御魂剣」

「神咒神威 紅楼唇夢 摩利支天」

「混沌より溢れよ 怒りの日 (Du-sollst――Dies irae)」

 

剣、蜃気楼、修羅の理が具現し、三者の宇宙がここれ形をなした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梵天王魔王自在大自在、除其衰患令得安穏、諸余怨敵皆悉摧滅

(ぼんてんのうまおうじざいだいじざい じょごすいがんりょうとくあんのん しょよおんてきかいしつざいめつ) 」

 

先に動きを見せたのは宗次郎だった。彼の剣に殺意の塊が形を成す。

 

「首飛ばしの颶風――蝿声 !

(くびとばしのかぜ――さばえ)」

 

宗次郎の剣の一振りから、殺意の斬撃がラインハルトへと迫る。もともとこの技は凶気を相手に当て、気勢を削ぐ技なのだが、宗次郎の相手に対しての殺意は驚異的なもので、剣気と合わせて放つ形となり、結果として遠当ての斬撃を放つ技となった。加えて、宗次郎の太極の理も付属されている。その効果は無謬の切断現象。太極に至った壬生宗次郎の存在自体が剣となり、彼に触れるということは肉体のみならず視線・念波・生気・空間・精神・寿命・運気・法則・魂など有形無形を問わず何かしらを切断されることに他ならず、同時に彼に断ち切れないものは無いので対象硬度は関係ない。渇望の具現を極めた末に「外れる」という事象は吹き飛んでおり、空振りという概念は存在しないため総て命中するし、相手の太刀に弾かれようと必ず何かを斬っている。さらに距離という概念自体が切られており、彼の剣は無限の間合いを得ることができた。この切断を極めた斬撃に当たれば、恐らくラインハルトと言えど即死はまぬがれないと、宗次郎はその期待を胸に、ラインハルトへと斬撃を飛ばした。

 

「第十 SS装甲師団(フルンツベルク)」

 

しかしラインハルトが指を鳴らすと同時に、彼の背後の軍勢から無数のパンツァーファウストの弾幕が放たれた。それが斬撃とぶつかり合い、相殺され結果、斬撃はラインハルトの首に届くことは叶わなかった。

 

「先手を取ったのは悪くなかったが、その程度では私の軍勢(レギオン)は崩せんよ。」

「ちぃっ!」

 

恐らく宗次郎の攻撃によってラインハルトの軍勢の何人かは斬り殺されたであろう.....だが、ラインハルト自身が軍勢であり、彼の総軍は数百万を超える。さらにラインハルトの渇望は端的に言えば「死者蘇生」の具現化。ゆえに大将たるラインハルト本人を殺さない限りは軍勢が滅びず、無限に蘇生されるのだ。加えて、太極の理の強さはラインハルトのほうが宗次郎より圧倒的に上であり、宗次郎がどれだけあらゆる概念を切ろうとも、ラインハルトの蘇生力が上回る。それを見た紫織は.....

 

「だったら、あんたに届くまで殴り続けてやる!」

「ほう、やってみるかね?」

 

闘気を込めながら宗次郎の前へと躍り出た。ラインハルトが期待の眼差しを向けると、紫織は自身の奥義の唄を歌い上げた。そして....

 

「玖錠降神流、奥伝――

大―宝―楼―閣―善住陀羅尼!」

 

紫織の存在自体が蜃気楼のように薄れ始め、加えて彼女の存在が一十百とどんどん増えて行く。最高の自分でありたいと願った彼女の能力は即ち可能性操作。無限に拡大した可能性の内、彼女は数百億を超える彼女を呼び寄せた。そしてそこから、全ての紫織がラインハルトに向かって殴りかかってくる。

 

「なるほど、可能性操作か。」

 

さらに彼女の拳には、裏打ち、通背拳といったものの極限であり、どのような防御も素通りして狙った個所に重層の大打撃を叩き込む。 さらに今の彼女のように陽炎と化した状態でこれを使えば、その威力は 倍々算 で膨れ上がることも容易に想像できるだろう。どのような防御も素通りという触れ込み通り、攻撃は最大の防御も素通りする。だが.....

 

「成る程面白い、ならば少し遊んでやるか。」

「え!?」

 

ラインハルトを殴ろうと接近した紫織の拳は、ラインハルトの眼前で止まる。まるで見えない何かに絡まったように。驚いた紫織はラインハルトをよく見ると、彼の指先から紅い糸が流れ出ていた。

 

「糸の結界?」

「辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)

膨大な戦闘においてはあまり意味のなさない聖遺物だが.....私は彼も愛してるのでな、彼の戯れに付き合ってはくれぬか?」

 

かつての夜刀.....つまり藤井蓮の最初の相手、ロート・シュピーネが使った聖遺物「辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)」捕獲に絞殺を得意とした武器だ。シュピーネ曰く聖餐杯ですら脱出不可能らしいが、恐らくシュピーネ自身の過信から生まれた妄言と思われる......が、ラインハルトが使えばこの通り一瞬で糸の結界を作り上げ、求道神すらも束縛可能し、さらに数億人まで増殖した紫織の分身の半分以上を捕獲した。

 

「ふむ、流石に絞殺は難しいな.....」

(けど、動けば動くほど.....この糸が体にめり込んでくる!しかも、糸の結界が邪魔でこいつに突っ込める可能性が探れない!)

 

だが流石に紫織を殺すことが叶わないと分かると、ラインハルトは少し残念そうな顔をした。しかし紫織は下手に動けば糸がどんどん体を縛り上げ、致命傷を負うため、下手に動けなかった。

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

すると、宗次郎は刀を振り回しながら糸の結界へと突っ込んで行った。すると、刀に触れたものはもちろん、宗次郎の体に触れた糸も全て両断された。それは宗次郎自身も刀の化身であり、そもそも彼に武器の有無は関係ないと言えよう。そして宗次郎は刀をラインハルトの首へと振り抜く。

 

「聖約・運命の神槍」

 

その瞬間、一瞬にしてラインハルトは聖槍を形成した。そして、宗次郎の横薙ぎを聖槍で受け止める。すると....

 

「がっ!」

「ぐあっ!」

 

ラインハルトは右腕に切断傷が生まれ、宗次郎は切った勢いで聖槍に触れてしまい、その瞬間槍の劫罰を受け、魂ごと火傷を負ってしまった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




宗次郎も紫織もだいすきです。あとおっぱい。


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番外編 武神夫婦vs黄金の獣 その2

殺し愛夫婦編はここで終わります。


 

「第三十六 SS擲弾兵師団(ディルレワンガー)」

「ぐっ!」

「おのれっ!」

 

宗次郎と紫織の足元から、ラインハルトの軍勢の一部が現れ、剣山の如く銃剣を二人に向かって突き刺そうとする。二人は跳んでそれをよけた。

 

「甘いぞ、第九 SS装甲師団(ホーエンシュタンフェン)」

「くっ、まだだ!」

 

続いてラインハルトは軍勢を操って大砲の弾幕を二人に向かってはなった。その砲弾の弾幕の前に、宗次郎は迎え撃つ。そして、ラインハルトとの距離をほぼゼロにした。

 

「五障深重の消除なれ。執着絶ち、怨念無く、怨念無きがゆえに妄念無し。妄念無きがゆえに我を知る。心中所願、決定成就の加ァァ持!」

「ほう。」

 

級長戸辺颶風。至近距離での無拍子で放たれる精妙な一閃は事前予測が不可能であり、ゆえに回避もまた不可能。宗次郎はラインハルトに袈裟斬りを下した。無論宗次郎にも全ての砲弾が直撃した為、無傷では済まなかった。だがラインハルト相手に相打ちを討つことができた。だがその時、ラインハルトから膨大な殺意を感じ取った。その殺意に宗次郎は既知感を得たが、それどころではなかった。

 

「これは....刑士郎さん!?いや、違う....」

「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界

夜に無敵となる魔人になりたい

この畜生に染まる血を絞り出し、我を新生させる耽美と暴虐と殺戮の化身――闇の不死鳥

枯れ落ちろ恋人――

死森の薔薇騎士

(Der Rosenkavalier Schwarzwald)」

 

ラインハルトの詠唱が終えると同時に、はるか天上の月が赤く光った。そして......

 

「うっぐああぁぁぁぁ!!!」

「紫織さん!ぐっ!がぁぁぁ!!」

「ふふふ、ははははははは!!」

 

吸収、略奪の神威、ヴィルヘルム・エーレンブルグの渇望を具現化した世界であり、ラインハルトの流出とよく似た異能である。この月光に奪われるのは、精気・魂・運気・ありとあらゆる養分などである。唐突な脱力感に、二人は耐えられず膝をつけてしまい、逆にラインハルトのキズが癒されていた。二人の力を糧に回復しているのだ。つまり、宗次郎と紫織が力を奪われれば奪われるほど、ラインハルトは強化され、総軍が増えて行くのだ。その数、惑星単位で吸収されてることを考えれば言うまでもない。

 

「これは....きつい!」

「敵の弱体化は好みではないがね、卿ら実力を認め、発動したのだ。言ってみたかったのだよ、相手にとって不足なしとな。」

「ふ、ふふ.....あんた、面白いこと言うね。」

「紫織さん?」

 

しかし、敵の本気を望むラインハルトにとってはあまり好みではない能力だが、逆に言えば使った事実ラインハルトは二人を認めたのだ。ラインハルトがそう言うと、紫織は月光の圧力から立ち上がり、ラインハルトを睨み返す。

 

「つまりあんたは、同等の相手を望んでたってこと?」

「ああ、然りだ。」

「そう、だったら!上には上がいるってこと教えてやるよっ!」

 

ラインハルトがその事を肯定すると、紫織はそう叫びながら構えを取り、謳いを上げた。すると、紫織の両拳に気が練り上がっていく。

 

「玖錠降神流-陀羅尼孔雀王!!」

 

最大規模の気を練りあげて打撃力と化す、そのため直接的な肉弾戦という意味合いではこの場においても間違いなく随一であろう。その流星群の如く無数の拳がラインハルトへと迫る....かに見えたが。

 

「!?」

「誰があんたに向かってだと言った?崩れ....落ちろおぉぉぉぉ!!」

 

その気で練り上げた拳撃は、ラインハルトのはるか天上の紅い月へと向けてのものだった。そう、紫織の太極の最大の持ち味は可能性操作。故にどれだけ無理な射程距離だろうと、どれだけ無理な破壊範囲だろうと、可能性があれば探り得ることができるのだ。そして.....

 

ドゴォォォ!!

 

「やった!」

「凄い....まさか、気の練り上げだけで本当に届いて壊せるとは....」

「何言ってるの、宗次郎だってやろうと思えばできるんじゃない?」

「....やってみないと分かりません。」

 

吸血鬼の夜が摩利支天の拳撃によって破壊された。その事実に宗次郎は目を仰天させて驚いていた。まさかここまでやるとは.....と。そして、それに一番驚いてるのは彼だった。

 

「あははははは!素晴らしい!ツァラトゥストラがやったことを、卿らもするとは.....驚いたよ。卿ら、見事なり。」

「そりゃどうも」

「恐縮です....しかし、流石に辛いですねこれ。」

「うん、刑士郎そっくりさんの太極ヤバすぎ。しかも相性が最悪のあたしとは....特にね。」

「成る程.....」

 

月光からの吸収という性質である以上必中能力と言えよう。更にその上運気吸収ゆえに、可能性操作の紫織とは相性が最悪と言えるだろう。無論宗次郎も無事で済まなかった。

 

「こうなったら、次が最後の一手だね。」

「ええ、これで決めます。」

「ほう。賭けときたか。」

 

これ以上の長期戦は危険と察した二人をの目に決意が固まる。それを感知したラインハルトも、迎え撃つ体制を取る。聖槍から溶岩の如く強烈な熱気が発生した。

 

「我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い求める者

届かぬ故に其は尊く、尊いが故に離れたくない

追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい―逃げ場無き焔の世界

この荘厳なる者を燃やし尽くす―― 」

「神の御息は我が息、我が息は神の御息なり。御息をもって吹けば穢れは在らじ、残らじ、阿那清々し―」

「此処に帰命したてまつる――大愛染尊よ 金剛仏頂尊よ 金剛薩たよ衆生を四種に接取したまえ! 」

 

剣神、摩利支天、修羅の神威が極限まで磨きかかる。三者の理が、宇宙規模にまで振動した。そして、修羅の聖槍から溢れ出る灼熱の炎に2人は見覚えがあった。

 

「あれは....龍明さん?」

「この炎からして間違いないですね。」

「ほう、卿らは彼女と面識あるのか。ならば良し、存分に彼女へとその殺意(あい)をぶつけるが良い。彼女も喜ぶであろう。」

「勿論です。」

「言われるまでもなく!」

 

三者は自然にと笑みがこぼれていた。三者の全力がここにぶつかろうとしていた。

 

「陀羅尼愛染明王ォォッ!」

「石上神道流、奥伝の一 早馳風――御言の伊吹」

「焦熱世界・激痛の剣(Muspellzheimr Laevateinn)」

 

紫織の愛欲の気が黄金へと爆発し、宗次郎の無限の剣気が全てを切断し、修羅の炎が創り上げた逃げ場のない世界の全てを燃やし尽くした。

 

「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の、勝ちだな。」

 

最後に立っていたのはラインハルトだった。決めてはやはり魂の数。ベイの擬似流出によって膨大な数になった総軍を、宗次郎と紫織は削り落とすことはできなかった。

 

「もうだめ、立てない。」

「龍明さん、幾ら何でもやりすぎです。惚れた男の前とはいえ、張り切りすぎですよ。」

「卿ら、まだ余裕はありそうだな。どうかね、もう一度彼女の炎を浴びてみるか?」

「「勘弁してよね(下さい)」

 

ラインハルトが不敵な笑みを上げながらそういうと、二人は顔を青白くしながら首を横に振った。

 

「しかしそうだな、ここまでにしとくか。卿らの斬撃と拳撃のおかげて、私の左腕と内臓の幾つかがほぼ粉微塵に砕けたからな....ああ、生きているという実感、ここに得たよ。」

 

実際ラインハルトの左腕の骨は両断され、肝臓と腎臓は割れた風船のごとく潰れていた。対し宗次郎と紫織は真っ黒に焦げ、倒れていた。

 

「けど、確かに楽しかったな。龍明さんが惚れたのも、何と無くわかった気がする。」

「そうですね、しゅらどうの武威がこれ程と体感できて、まんぞくでした。」

「卿ら神威、見事であった。求道の極致、この目で見させてもらったよ。また会える日を願おう、さらばだ。」

 

 

こうして三者はそれぞれのあるべき世界へと帰って行った。

 

 

 

 

 

番外編 完

 

 




赤屍戦、どうやって終わらそうかな.....


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最終幕

ようやく完結します


メルクリウスが詠唱を唱えると同時に、全宇宙が歪み始めた。

「踊れ、あまねく万象全ては女神を彩る舞台装置.....我が脚本に踊る演者なり。さあ、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう

 

 

始まりから終わりまで

Ab ovo usque ad mala.

時はすべてを運び去る

Omnia fert aetas.」

「う....おぉぉぉぉぉぉっ!」

素粒子間時間跳躍・因果律崩壊(エレメンタリーパーティクル・タイムパラドックス)

メルクリウスが自身と世界を素粒子化し、多元宇宙ごと過去の時間軸へ跳躍、それによる現在と過去の抑止力を利用して雷帝を消滅させた。

雷帝は咆哮を上げ電撃を撒き散らすが、メルクリウスには届かず、消滅する自分を阻止することは叶わなかった。

 

そして、赤屍とラインハルトは....

「人世界・終焉変生 (Midgardr Volsunga Saga)」

 

ロンギヌスから飛び出てきたマキナの幕引きの鉄拳が、赤屍の眼前へと迫る。だがその刹那、ラインハルトの目に映ったのは、わずかに微笑む赤屍の表情だった。

 

「クス....赤い槍(ブラッディ・ランス)」

「!」

 

赤い槍(ブラッディ・ランス)赤屍が戦いを終わらせようと思った時につかうとどめの武器。その槍はマキナと交差すると、ラインハルトへと飛んで行った。その穂先は.....

 

(まさか卿は、これを狙って....)

(まあ、河童の最後っ屁みたいなものですがね....)

 

そうそこは、赤い剣(ブラッディ・ソード)によって開けられた胸の傷へとまっすぐ飛んでいた。そして....

 

ドゴォォォッ!

 

「があっ!」

「ぐうぅ....!」

 

結果は相打ち。マキナの鉄拳で赤屍は血飛沫をあげながら弾け飛び、赤い槍はラインハルトの心臓を貫通し、奪い取った。

 

「ふ....ふふ、見事。良くぞ私の全力の愛で壊れずにいたことを誇りに思え。」

「クス....それはこちらのセリフですよ。感謝しますよ。あなたは私ですら知らぬ、私の底を見せてくれましたから....」

 

だが2人は血だるまになりながらも微笑み、両者に賛美の言葉を贈っていた。全力を出し、自身の底をしれたことに喜びで満たされ、痛みなどとうの昔に忘れていた。

 

 

そして、蓮と蛮はというと.....

 

「海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの 水底の輝きこそが永久不変

Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen Am tiefen Grund der Felsen auf,

永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem sphaerenlauf.

どうか聞き届けて欲しい 世界は穏やかに安らげる日々を願っている

Doch deine Bnten,Herr, verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.

自由な民と自由な世界で どうかこの瞬間に言わせてほしい

Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.Zum Augenblicke duerft ich sagen

時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

Verweile doch du bist so schon―

永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan. 」

「へぇ....面白い光景だな。」

 

蛮の邪眼が解かれると同時に、蓮から膨大な力が流れ出ていた。それはまさに時間の冷結地獄だった。しかもそれは、時間の概念がない座すらをも停滞させるほどのものである。

 

「流出

(Atziluth)

新世界へ語れ超越の物語

(Res novae――Also sprach Zarathustra)」

「.....」

 

そして蓮のまわりには、血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)の鎖、緋々色金(シャルラッハロート)そして戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)と、三つの聖遺物に囲まれて、流出を行っている蓮の姿がそこにあった。

 

「聖遺物を操る聖遺物、ねぇ....俺の邪眼でいけないスイッチでも押してしまったか?」

「さあな。」

 

蛮の質問を蓮が流したと同時に、雷を纏った聖剣が、本来の持ち主、ベアトリスが姿を現したと同時に、詠唱を謳え上げながら、蛮の喉元を狙いながら突進する。だが蛮はそれに迎え撃つように、ベアトリス同様、詠唱を唱え始めた。

 

「私が犯した罪は

War es so schmählich,――

心からの信頼において あなたの命に反したこと

ihm innig vertraut-trotzt’ ich deinem Gebot.

私は愚かで あなたのお役に立てなかった

Wohl taugte dir nicht die tör' ge Maid,

だからあなたの炎で包んでほしい

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;

我が槍を恐れるならば この炎を越すこと許さぬ

Wer meines Speeres Spitze furchtet, durchschreite das feuer nie! 」

「我こそは蛇遣い座(アスクレピオス)の使者なり… その呪わしき命運受け入れし者にのみ賜うべきは 毒蛇の牙に秘められし高き天と深き地獄の力なり… されば愚かなる者共に鉄槌を打ち下ろせ 荒ぶる神魔の怒りを以て」

 

戦乙女の肉体が雷神のごとく、雷そのものへと変成し、蛮の左腕に、蛇のオーラが帯び始める。

 

「雷速剣舞・戦姫変生 (Donner Totentanz――Walküre)」

「蛇殺(スネーク・ジェノサイド)」

 

雷神と蛇神がぶつかる。するとそこに閃光が走った。雷バチバチと音を立てながら蛮の肉体を焦がすが、同時に蛇使いの座がベアトリスの魂を喰らおうとする。

 

「へ......へへ、どうした金髪の姉ちゃんよ?顔色わりいぜ?」

「ぐっ....それはこちらのセリフですっ!あなたはツァラトゥストラと戦ってる時からどれほど肉体の限界をいくら超えてると思ってるんですか!?鏡を見なさい!口と目から血が流れてますよ!」

 

事実、ベアトリスの雷がすでに肉体を再起不能になってもおかしくない位体を焦がし、破壊していた。雷帝のそれよりも威力がやや下とはとはいえ、ラインハルトの総軍の突撃の阻止、そして蓮との連戦でもはや今、蛮は精神力と魂だけで立ってるも同然だった。

 

「へっ、わざわざ解説してくれてありがとよっ....てなぁっ!」

「があっ!?」

「ベアトリス!」

 

すると蛮は聖剣ごとベアトリスを蹴り飛ばした。咄嗟に緋々色金(シャルラッハロート)から飛び出した櫻井螢が彼女を受け止めた。

 

「そのまま姉妹そろって、イッちまいなぁァァッ!」

「「!」」

 

だが蛮は、そのまま飛ばした勢いで、蛇のオーラを纏った右腕で二人を潰そうとした。ベアトリスと螢はとっさにガードするが、蛮はそれごと潰すつもりでいた。

 

「「我が身 地上の生活の痕跡は

Es kann die Spur

幾世を経ても滅びるということがないだろう 」」

「なぁ!?」

「「え?」」

 

だがこの歌が届いた瞬間、蛮の肉体に変化が起きた。その現象に、ベアトリスと螢も呆気をとられる。

 

「「そういう無上の幸福を想像して

Im Vorgefuhl von solchem hohen Gluck

今 私はこの最高の刹那を味わい尽くすのだ

ich jetzt den hochsten Augenblick. Genies' 」」

「体の....自由が....きかねぇ.......」

 

この詠唱を歌えあげてるのは、永遠の刹那と黄昏の女神の美しい歌声だった。蛮が無理矢理動こうとすると、肉体は悲鳴を上げ、血飛沫が弾け飛び、それと同時に血の時間が止まる。

 

「時よ止まれ おまえは美しい

Verweile doch, du bist so schon!」

「っ!」

 

そして、蛮の肉体の時間は止まった。

 

「肉体的な.....時間停止?」

「彼の時間感覚こそ止まらないものの、肉体概念や血流が凍りつき、身体に膨大な負担を掛けたのね....」

 

これこそ無間大紅蓮地獄。空中で止まる血飛沫は、まさに紅蓮の花を連想させる。

 

「どうだ?体の自由が効かねえ気分は?」

「.....」

「返事する余裕もねえか」

 

蓮の問いに、蛮は答えなかった。このままヤられるのだろう、そう確信した蛮は、反撃のチャンスを探ると同時に、とどめの一撃を受け入れようとした。だが....

 

「ごめんなさい。」

「え?」

 

彼の肉体は女神の抱擁を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目覚めはどうかね?」

「....すごく悪い。」

「ふふ、仮にも自身の一部でもある雷帝が根元から消えたから当然か。」

 

素粒子間時間跳躍・因果律崩壊を受けた後、ニタニタと笑うメルクリウスに若干苛立ちを覚えながらも、銀次は渋々と答えていた。

 

「ま、私からの歓迎の置き土産だよ。君は二度だ雷帝は必要ないと思ったからね。あと、赤屍と獣殿の心配もいらない。結果は相打ち、赤屍は何とか自力でこの特異点から飛び出て行き、獣殿は少し休んでいる。」

「そ、それは良かったのか良くないのか.....あっ!そう言えば蛮ちゃんは!?」

「ふむ....君の友人かね?」

 

銀次は相棒の安否を確認するため、銀次はメルクリウスを押し退け、すぐさま駆け出そうとするが、後ろからメルクリウスに止められる。

 

「心配いらん、見たまえ。今女神の抱擁を受けてるところだ。」

「へ?」

 

メルクリウスが若干嫉妬を込めたような口調で指差す先を見た銀次は、タレ銀になりながら、呆れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で....俺、抱かれてるんだ?」

「だって、あなたたちは巻き込まれただけだったもん。」

 

動揺を隠しきれない蛮に対して、マリィは涙を流しながら、ただ謝るばかりだった。

 

「あの人、ラインハルトがただ戦いたいからってあなたたちの世界まで巻き込んでしまったの。だから、それを許した私も悪いの。だから、本当にごめんなさい.....」

「お、おう....」

「だからお願い、抱きしめさせて。私から流れる思いは、抱きしめたいという気持ち。あなたも、いつか絶対幸せになって。」

「何で嬢ちゃんが一々俺達のことまで想ってくれてるんだよ。」

 

マリィからの祝福の言葉に、蛮は苦笑いをしながら、なぜそこまで自分たちのことを、想ってくれるのか聞いた。

 

「だって、何と無くわかるよ。あなたたちも私達みたいに、世界をかけて戦ってきたって.....レンと戦う前から、凄く傷だらけだったもん」

「へぇ、よく見てるのな。」

「だからね、私も神様としてあなたたちのことを抱きしめさせて。愛しい万象、私は永遠に見守りたいの。あなたたちの世界も......」

「.....ふっ」

 

すると蛮は、マリィを押しのけて、この場を去ろうとする。

 

「取り敢えず感謝はするぜ。ありがとよ、女神の嬢ちゃん。そして心配は要らねえ、てめぇの世界はてめぇで守って見せらァ。おら銀次、いつまでぼけっとしてるんだ。帰るぞ、俺らの世界に。」

「あ、蛮ちゃん!」

「は、俺に負けたくせによく言うな。」

「然り、塵芥の世界などどうでも良いが、愚息との戦いを見るに、その調子で大丈夫なのかね?」

 

タレ銀の首を鷲掴みして、そのまま持ち帰りしようとすると、蓮とメルクリウスが皮肉の言葉を投げた。

 

「バーカ、俺らを誰だと思ってる?」

「依頼達成率ほぼ100%のは無敵のゲット・バッカーズとは俺達の事だよ。」

「プッ....」

「ふふ♪」

「やれやれ、ほぼかね....」

 

彼らの名乗りに蓮は思わず吹いてしまい、マリィは微笑み、メルクリウスは呆れ果ててしまった。

 

「ばっ、おまえこんな時まで言うんじゃねえよ!」

「いたたたたたたっ!あ、それじゃみなさんさようなら〜。」

「うん、またね♪」

 

蛮が銀次のあたまをグリグリしながら、そのまま消えて行った。最後まで締まらないものの、何処か頼りになる二人だった。

 

「.....終わったか。」

「ラインハルト.....」

 

すると不意に背後からラインハルトが現れた。彼から、何処か儚さを感じた。

 

「どうしたのですかな、あなたらしくないな。顔色が、少し青ざめてるような気がするが?」

「それに関しては、卿にはいわれたくはなかったのだがな。何、全力を出し切った故に、少し反動が来たかもしれんな。これほどの充実感、あの時以来だ。」

 

ラインハルトのそのセリフは、何故か蓮とマリィに視線を向けながら言っていた。

 

「あの時....か。」

「私にとって、全力が出せるということは、渇望が満たされるということだ。.......逆に言えば、満たされれば飢えることがなくなる。その時こそ、また全てにおいて哀てしまうのではないかもしれないとな.....赤屍と戦った時、ふとそう思ってしまってな。」

「お前はまたそんなことを考えていたのかよ。年を取りすぎると、そんなネガティブ思想になりがちだな。」

 

そう呟くラインハルトに対して、蓮はまるで司狼のような飄々とした雰囲気を出しながら言った。

 

「それこそお前が人間らしい証拠だと俺は思うがな。飯食って満腹になって、着たい服を着けて、満足して、寝る時間になったら寝る。それが人が生きる上での最低限の満足だ。そしたらそれで人間として完結し、全てが終わるわけじゃないだろ?日が経てば、また新しい世界が生まれる。新しく食う飯、新品の服、今まで見たことのない夢。生きてれば未知の世界ってのは向こうからやってくるもんじゃねえのか?そしてそれこそ、今マリィが抱きしめてる世界で、生まれ変わりながら世界が成長しているんじゃないのか?」

「然り然り、輪廻転生が繰り返してるうちに、文明が進化しているのは目に見えてる。安心したまえハイドリヒ、女神の地平が我らに至高の未知を示してくれてる。我らも共に見守っていこうではないか。」

 

蓮とメルクリウスがラインハルトにそう言うと、ラインハルト微笑んだ。

 

「そうだな。私が認めた敗北だ。その先を我らが身届く義務がある。我らの黄昏を穢す宇宙が訪れるように。」

「然り。もっとも、私は彼女を塗り替えようとするものなど、認めんよ。」

「そうだ、俺らは守護者として、命の円環をつなぐためにな。俺の女は、俺が守る。」

「.....ありがとうみんな。私も、あなたたちを包むから。レン、ラインハルト、カリオストロ、本当に感謝します。....す べ て の 想 い に  巡 り 来 る 祝 福 を

Amantes amentes―Omnia vincit Amor(アマンテース・アーメンテース=オムニア・ウィンキト・アモール)」

 

こうして、一度破壊されかけたものの、輪廻転生の宇宙は再び流れ出した。辛いことも、悲しいことも、絶対永遠に続いたりはしない。生きていれば幸せは絶対に訪れる。そう信じれば、女神の宇宙は揺るがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう....

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に....

 

 

 

 

 

 

「滅尽滅相!」

 

 

 

 

 

 

黄昏は、朝日へとつながるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長かった..正直、何度打ち切ろうさと思いましたが、感想で来て本当によかったです。
感想や応援してくれたみなさんに、本当に感謝します。
ではまた、次回作の時に会いましょう。
皆様にも巡りゆく祝福を!


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