とあるメイドの学園都市 (春月 望)
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サイドストーリー 十六夜咲夜を知る者たち
十六夜咲夜 〜御坂美琴と白井黒子〜


※こちらは番外編です。読者の皆さまは、次の0章への移動をよろしくお願いいたします。



迷った末のコレです。
うーむ、最後に詰め込みます。
とか言ったけど、無理なことに気がつきました。

今回は、美琴と黒子から見た咲夜です。
科学の世界では何かと秘密が多い咲夜さん。
謎も含めていいやと思っている美琴と、そこに疑問を抱きながらも心地よいと思っている黒子。
本当は一人ずつの予定だったのですが、あまりに短すぎるためにくっつけてしまいました。
今後の予定は未定ですが、今回のように本を持って行ってストーリーを描くことが困難な場合に書かせていただきます。


最後に言っておきます。


【こちらのお話は、特に本編とは何ら関わりがありません】


十六夜咲夜はしっかりものだ。

先輩や初対面の人間には敬語だし、誤字脱字を見つけるときちんと教師に訂正を求める。

それに__

 

「美琴、どうしたの?」

 

とても、美人なのである。

銀色の髪に、濃い青色の瞳はきりりとつり上がっていて、クールな印象を与えてはいるものの、時々出る笑みはこの世のものかと思えるほど綺麗なのだ。

 

「ううん、なんでもないわ」

「そう」

 

ただ、彼女には謎が多すぎる。

 

「咲夜ってどこ住んでたの?」

「お嬢様のお屋敷よ」

 

その一。

咲夜はメイドらしいが、そのメイドしていた家についてがまず謎だ。

お嬢様と出てくるから、女の人だということはわかるのだけど、それだけだ。

 

「なんでそんなに運動神経いいの?」

「……知り合いにはもっとすごい方がいるわよ」

 

その二。

咲夜だけで充分すごいのに、その周りにはもっとすごい人がいるらしい。

そんなところがここ以外にあるのだろうか。

 

「……」

「どうしたの?」

「ここに霊がいるわね。ま、無害っぽいしいいか」

 

その三。

この科学の世界で珍しく、非現実(オカルト)を信じていて時々こんなことを言い始める。

 

他にも色々と謎が多すぎる。

とはいえ、彼女は美人で優しくて、そしてさっぱりしていて。私の大切な友人であることに、常に変わりはなかった。……まあ、咲夜がどう考えてるかはわからないけど、ご飯もよく一緒に食べるし、移動教室や休憩時間にも話すことがあるから嫌われてはないんだろう。

 

「美琴、なにぼーっとしてるの?」

「なんでもないわ。さっ、行きましょっ」

「え、ええ」

 

私が手を引くと、失笑しながらもついてきてくれる彼女はクラスで一番話しやすい、友人である____。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とお姉様が学び舎の園の外で会ったのは、メイドだった。

彼女は常盤台に転入するといい、レベルのこともこの世界の常識すらも知らないのに転入できるわけないと思った。

けど、彼女はハイスペックだった。

教科書の暗唱を頼まれればやってのけるし、時間操作(タイムオペレーター)とかいうわけがわからないながらもなんとなく使い勝手が良さそうな能力の使い手だったり、時々見せる大人びた表情は、誰よりも大人に見えた。

けど、彼女も中々やり手で、結構門限破りをしていたりするのだが……まあ、それくらいは私やお姉様もざらにあるのでとりあえずよしとする。

 

私はあるとき、気になって彼女の素性を調べた。

 

【十六夜 咲夜

時間操作(タイムオペレーター) レベル3

・常盤台中学二年

・○×県○×村の山奥出身

・父、母共に不明

・責任者 八雲紫】

 

それくらいのことが、書いてあった。

能力のことは知っていたし、所属もわかる。そして、出身も少しだけ聞いたことがあった。けどその他のことが全くよくわからない。

気になった私は、本人に直接聞いてみた。

 

一つ目。

 

「咲夜って、家族はどうしてるんですの?」

「さあ、捨てられたからわからないわ」

「……」

 

……聞かなきゃよかった。

 

二つ目。

 

「で、では責任者は……」

「わからないけど、お嬢様辺りになってるのかしらね?それか、認めたくないけど……」

 

ブツブツと咲夜が沼にはまり始める。ああ、これも聞いちゃダメなのか。

 

「そ、それでは最後に」

「なに?」

「咲夜の大切な人って、誰ですの?」

 

咲夜はきょとんと目を丸くしてから当たり前のように口を開く。

 

「そんなの、お嬢様に決まってますわ」

 

自然に笑う咲夜に、私は少し呆然としてしまう。

さて、咲夜のお嬢様とは一体どんな人なのだろう。あそこに書いていた、八雲紫だろうか。

私は心のどこかで小さく妄想を膨らませながら、お姉様にじゃれついた。

 

 

 

 

『ちょっと黒子!いきなりなんなのよ!』

『いいじゃありませんのたまには』

『全く、見てて飽きないわねあなたたちは』




いやぁ、今びっくりしたわぁ。
なぜかペーストしたら出てきたのは『サイレン○マジョリ○ィー』ですよ。ビビりました。
1500……ちょいと少なめですね。
ちなみに番外編は時間は決めておりません。

誤字脱字報告、いつもありがとうございます。


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パチュリー・ノーレッジは大魔法使い

ミスりまくっと本当に申し訳ないです!
番外編2本目です!


この魔術の世界でパチュリー・ノーレッジ、と聞いて知らぬ者はいない。

それは、ただただ単純に彼女の功績が凄まじく、誰もが彼女の蔵書を読みたいと願うからだった。

イギリスのある場所に、小さな人形屋があって、そこの娘に入れ込んでいた話もあったと聞くが、それが真実なのかは誰も知らない。

パチュリー・ノーレッジを知らぬ者はいないが、パチュリー・ノーレッジの顔や姿形を知るものもいなかったのだ。

ある人は金髪の背の高い美女だといい、ある人は赤毛の地味な少女だと言った。その全ては一致しておらず、ピンクの髪だ、とか、青の髪だ、とか、紫の髪だ、とか、そんな風に誰もが自分の信じるパチュリー・ノーレッジの姿を疑わなかった。

私の脳にはそんなどれが真実かもわからないパチュリー・ノーレッジの知識が詰め込まれたものまであった。

 

 

「……」

 

彼女は魔女だ。

魔術師ではない、魔女である。

 

「咲夜、咲夜、」

「あら、どうしたの?」

「なに……やってるの?」

「ああ、宿題よ宿題」

「珍しいね、咲夜が宿題なんて」

「まあ普段は能力使ってるからね」

 

と、咲夜がふふっと微笑んだ。

そっか、と私は呟いてそのプリントへと目を移す。

 

「だめ」

「わっ、びっくりしたぁ」

 

序文、の文字がちらりと見えた時、咲夜が私の視界からプリントを隠した。

何事かと、私は目を丸くする。

 

「こんな科学論文なんて読んじゃダメよ。これは現実なの。あなたが読むべきじゃないわ。幻想が崩れるのよ?」

「なんで咲夜がそんなことを知ってるの?」

「これによってあなたの幻想が壊れた時、もしかしたらあなたの脳の本が拒絶反応するかもしれないじゃない」

「……へ、」

「うちのお客様が言っていたわ。己に守護魔法をかけていない魔術師が科学について詳しく知ったあとに原典を読むと危険だって」

 

しゅ、守護魔法?と私は一〇万三〇〇〇冊の魔道書に検索をかける。

守護魔法は魔法だ。魔術じゃ、ない。私の記憶に守護呪文はあっても魔法はなかった。

それに、原典の魔力に耐えられる守護呪文なんて、それこそ聖人ですら不可能だ。一瞬なら平気でも、いずれ消えてしまう。

 

「咲夜……この世に守護魔法なんて存在しないんだよ?この世界は魔術で溢れかえってる。魔法なんて、それこそパチュリー・ノーレッジ(大魔法使い)でもなければ作るのは不可能なんだから」

 

パチュリー・ノーレッジがもし、殴りがき過ぎて読めなかったあのノートたちの中にその守護魔法を残していたとすればこの世に存在していることになる。

けど、私には到底あの文字は読めなかったのだ。この能力を駆使しても不可能だったんだからこれからも私は読めるようにならないに決まっている。

 

「大魔法使い、なんかじゃなくても魔法は作れるでしょ?」

 

パチンっ!と咲夜が指を鳴らす。その手から出てきたものは、青と紅の二本の薔薇だった。

 

「ほら、これもMagic(マジック)

「これは日本語では手品、でしょ?」

「まあ、種も仕掛けもない見せかけだけどね」

 

じゃあ、そろそろ門限だから、と咲夜が部屋から出て行こうとする。

そのとき、カギの開く音がして__________

 

「あら、当麻」

「当麻おかえり!」




すっごく短いですが、まあ本編じゃないので。
インデックス目線とか書きにくいしそもそも間違ってる。


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十六夜咲夜への贈り物

今回は3巻中に起きた出来事。
4巻にでてくる贈り物のお話を、レミリアの視点で。

東方しらないと全然わからないと思います……
私独自のキャラ設定です。ご注意を。

登場キャラ
レミリア・スカーレット
パチュリー・ノーレッジ
東風谷早苗
アリス・マーガトロイド
です。有名どころで固めたので、一応ご安心ください、と。


夜が深まるころ、私は大図書館へと向かいながら少しだけ咲夜のことを考えた。

 

「パチェ」

「なに?レミィ」

「紅茶を飲もうと思って」

「ふぅん」

 

淡々と告げる友人にちょっとムッとした。

パタン、と読んでいた本を閉じて美鈴のいれた紅茶を飲み始める友人を見て、私は何気なく言葉を紡ぐ。

 

「咲夜、どうしてるかなぁって」

「……元気にやってるんじゃないの?だって、運命が綺麗に見えたんでしょう?」

 

こくり、と頷いて紅茶を覗き込む。

そこには、もちろん私が写っていて。

あの日もそしてあの日も。ここには彼女が写っていたと思い出す。

あるときは殺しにきた咲夜がメイドとして働き始めることが見えたし、またあるときには、学校で楽しそうに笑う咲夜がみえた。

 

「……それでも、不安なものは不安なのよ。だってあの子、出会ったときから人殺しの目をしていたじゃない。だから引き込んだんだけど」

「別に咲夜が人殺しだと騒がれたところで、私たちにはなんの被害もないわ。咲夜が住みづらくなったのなら、こちらに戻って来ればいい話よ?」

 

確かにパチェの言う通りである。

そもそも、従者である咲夜を学校に通わせる必要はない。私のメイドとして、基本的な教養は大図書館の本を読んで補って置くようにとは言ったが、それだけで彼女は十分天才ぶりを発揮してくれたと思う。

しかし……咲夜は能力の特性上、年齢が多少上に見えてしまうのだが、私の勘でいえばまだ学校に通っていてもおかしくない年齢のはずだ。

人間は若いうちが最も飲み込みが早い。短い人生、存分に生きるために教養は必要なのである。

 

「それを言ったらおしまいでしょうに。パチェ、何かないの?」

「……小悪魔」

「はい!」

 

小悪魔が出してきた、いちご味のラスク。紅茶にうるさい私は、お菓子にもうるさい。確かこれは、美鈴の開発したレシピだったはずだ。

見上げると、美鈴が小悪魔にちょうどウィンクしていた。

 

「普通のラスクとかも、いかがですか?」

「いいわね。持ってきて頂戴」

 

そうして、夜は更けていく。

明日は博麗神社で、咲夜のいない初めての宴会である。

 

 

 

 

 

 

「あれ?咲夜さんはいないんですか?」

「ええ。ちょっとね」

 

緑の巫女(実際は風祝らしい)、東風谷早苗がお猪口片手に聞いてくる。

私は適当な場所に腰掛けながら、適当に返した。

 

「そんなぁ……咲夜さんにお返ししたいものがあったのに……」

「なに?返しておくわよ」

「ほ、ほんとですか!?これです!この、ナイフ研ぎ!包丁研ぐためにお借りしてたんです!」

「ナイフ研ぎ……?それくらい持ってないの?」

「はい……実はおいてきてしまって……それで」

 

袖から咲夜が愛用していたナイフ研ぎがでてきて、私はそれを美鈴に受け取らせた。

すると早苗は一つお辞儀をしたあと、ひらひらと手を振って自分の神社の神様の元へと帰っていった。

 

「美鈴」

「はい?」

 

美鈴を耳元まで呼び寄せ、ある私の考えを話し、アリス・マーガトロイドを指差した。

 

「ああ、咲夜さんも喜ぶんじゃないですか?」

 

美鈴は半分以上どうでも良さそうに答え、私はそんな美鈴を軽く殴ってから立ち上がった。

 

「アリス、ちょっとお願いがあるんだけど」

「あら、今日は咲夜は?」

「咲夜はちょっとあるのよ。それより、その咲夜についてのお願い」

「咲夜についてってことは、ナイフかしら?何か特別なナイフ?」

 

さすが魔法使い、話しが早くて助かる。

 

「ええ、ナイフよ。素材は決まってないのだけど……」

「それなら……そうね。この前錬金術で黒曜石生み出したばかりだし、それを応用したものなんてどう?」

「いいわね。硬さもバッチリだわ」

「報酬は?」

「なにが欲しい?」

「普通にお金でいいわ。人里での買い物が全く困らないレベルの」

 

それは明日届けることにすると伝え、またナイフの話に戻った。

黒曜石に何か魔法要素を加えようと、金星の光の力を使おうとの意見がでてきたが、つまりそれは金星の光がなければ使えない。

咲夜は霊力が豊富なのだから、と話しをすると、そっち方面で固まってごく普通の黒曜石のナイフになった。仕掛けとしては、霊力を加えると閃光弾としての役割を担うことも出来るし、普通のナイフの二倍の速度も出るし、そのままでもあまりに鋭すぎて人間の肌などすぐに切れてしまうナイフが、更に攻撃力が上がったりもする。

何も言わずに八雲紫に渡して咲夜の手元に持っていってもらうが……ナイフ研ぎくらいは向こうで調達できると考え、少し前に直したばかりの懐中時計とこの黒曜石のナイフのみを八雲紫に手渡した。




久しぶりに番外編書いた気がする……ははっ

咲夜さんへの贈り物はパチュリー様携わってませんよ?強いて言えば懐中時計に保護魔法かけたくらいです。


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0 十六夜咲夜の来訪
十六夜咲夜と学園都市


ハーメルンはあまりよくわからず……
手探りでやらせていただきます。
二次創作モノでは小悪魔さんが好きです。名の通りの小悪魔さんも、しっかりものの小悪魔さんも、ヘタレの小悪魔さんも好きです。……咲夜さん?咲夜さんは……まあ。普通です。

文法に自信はありませんが、暖かい目で見てくださると幸いです。


咲夜(さくや)

 

 

私が妖精メイドが見逃してしまった汚れを掃除していたら、お嬢様の声が聞こえた。

私はすぐに時を止め、掃除を終わらせるとすぐにお嬢様の部屋へと向かった。能力によって広くしてある紅魔館(こうまかん)を歩いて重厚なドアを開く。

 

 

「……八雲(やくも)(ゆかり)?」

 

 

この金髪はどう考えても八雲紫だ、私はそう思ったが、今ここで何故彼女がいるのか悩んでも結果は出ない。

仕方ないのでお嬢様の隣に立つと、時間を進めた。

 

 

「あなたには明日から、とある学校に行ってもらうわ。拒否権はない、いいわね」

 

 

学校……?

そういえば、聞いたことがあるような気がする。

人里には寺子屋とやらがあるそうだが、学校とはそれと同じようなもの。

でも、なんで__

 

 

「咲夜、あなたを強くするためよ」

「強く、ですか?」

 

 

私は人間のわりには強いと自負している。

人は簡単に殺せるし、そこらの妖精や妖怪にはまける気がしない。例外はあるが。

 

 

「そうよ。巫女や魔法使いを倒せるぐらいにね」

「はあ、かしこまりました」

 

 

今の私では不満なのだろう。

しかし、お嬢様の命令は絶対だ。背くことなど出来ないし、そもそもする気がない。

 

 

「じゃ、送るわよ」

 

 

ずっと静かにしていた八雲紫の一声で、私はお嬢様に挨拶も出来ずに隙間に落とされた__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……きゃあっ!」

 

自分のことながら、なんて声を出してしまったんだと赤面する。

私はすぐに飛行すると、ゆっくりと路地裏へと舞い降りた。

別に大通りでもよかったのだが、学校とは外の世界のもの、つまり送られたのは不思議なことを信じない外の世界だと判断したのだ。

結論からいえば、それは当たっていた。色のない建物の並ぶ、外の街だった。

ただいくつか、イメージと違うところもあったがまあ誤差の範囲内である。

 

「まずはここがどこか判断しないといけないわね」

 

私は時を止め、セピア色の空へ飛んだ。

下を見ると、そこはまるで要塞だった。

 

「壁に囲まれている……つまりここは、隔離された場所?」

 

その時、メイド服のポケットに違和感を覚えた。

 

「……紙?」

 

一枚の羊皮紙が入っていた。

 

「『あなたのことだから、ついたとたん、場所を把握しようと時を止めたと踏んだわ。ま、この紙を開いてるってことはあたりでしょうけど。そこは学園都市、超能力を学ぶ場所よ。本当は家政婦学校に入れようと思ったのだけど、あなたの主人の依頼でお嬢様校にしといたわ。【常盤台中学(ときわだいちゅうがく)】。街ゆく人に聞きなさい、きっと誰でも知ってるから』……常盤台?」

 

前半に突っ込むのはやめた。

この人が未来予知できることに今更驚かないし、お嬢様のことだ。家政婦学校なんてとこに私を入れたくなかったのだろう。

それにしても、常盤台、か。

私はそれを聞くため、下に舞い降りた。




文法がめちゃくちゃな気がします。
これからちょっとずつ改善出来たらいいなっと。
さてさて、前書きにも書きましたが私は特に咲夜さんが好きというわけではありません。
したがって、扱いはまあ普通になると思います。
他の東方キャラが出るかは不明ですが、出すとしたら霊夢やヤマメなどの化学的解明が不可能そうなものや、妖夢や永琳などの努力次第でどうにかなりそうなものは避けるつもりです。したがって、まあさとりとかそういうのの方が出す可能性が高いでしょう。さとりなら読心系で出せますからね。

また、咲夜さんが常盤台に入れました。それはもう簡単に。
理由は八雲紫のパイプです。偽造しました。それはもう、全部。
実際にそれに見合った実力を咲夜さんは持っていることでしょう。


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学び舎の園へ。

……すごいですね、ハーメルン。
なんか色々とみれるので感動してます。
すでにお気に入りがついてるとか、もう、
嬉しい反面、不安が……
終わりが見えない作品ですが、応援してくださる方がいる限りは頑張っていきます。
いえ、いなくても頑張ります!


学び舎の園へ。

 

 

 

 

 

私は地上に戻ると、適当な人物の前で歩みを止めた。

 

「ぷっ、おかしな顔……」

 

くしゃみをし終えた変な顔の状態で時が止まったようだ。

とても滑稽である。

 

「あー……誰か噂してんのかな……って誰お前!?」

十六夜(いざよい)咲夜です」

「い、いやそうじゃなくて」

 

黒髪のツンツン頭。いかにもツイてなさそうな表紙の彼は、いきなり現れた私にびっくりしているようだった。

 

「てか、メイドさん?」

「はい、まあ」

 

そう答えると、ジロジロと私の服を物珍しそうに見つめ始めた。

 

「ふごっ!」

「女性の身体をジロジロと見るなんて変態ですよ」

 

と、いうか。

蹴ったら綺麗に飛んだ。

いつも白黒の魔法使いにしていることだが、あの子は吹き飛ぶどころか避けてマスパ撃ってくる。

 

「えーっと、咲夜さん?」

「何でしょうか。」

「僕は上条(かみじょう)当麻(とうま)です」

 

なんで蹴られた直後に自己紹介をするのだろうか。

……まあいい。恐らく、これが彼なのだろう。

 

「そう。じゃあ、当麻?常盤台中学まで案内してくれるかしら」

「へっ、常盤台?」

「ええ」

 

この少年はすこし驚いたように目を丸くしたものの、すぐに元に戻ってバス停とやらに案内してくれた。

 

「へぇ、咲夜さんは最近学園都市に来たんですか」

「そうよ。今もだけど、私はお嬢様にお仕えするメイドなの」

 

彼はそうなんですかー、と敬語で相槌を打つ。

 

「ねえ、一つ聞いていいかしら」

「なんですか?」

「どうして敬語なの?」

 

一瞬、会話が止まった。

彼は年上のはずだ。身長は私よりもいくらか低いようだが、先ほど平凡な高校生だと言っていた。こちらの常識は知らないが、中より高の方が上ということぐらいは予想がつく。

なのに、彼は敬語だ。私は敬語で話していないと言うのに。まあ最も、私が彼に敬語を話すなんて死んでもしないと思うが。

 

「……いや、なんか……咲夜さんにタメ語とか恐れ多い気がして。僕の知ってる家政婦見習いはこんなきちっとしてないし」

 

クスリ、と私は笑った。

 

「当麻の言っている家政婦見習いがどんな子なのかはわからないけど、あなたは私より年上。その事実は曲げられないんだから、タメで構わないわ」

 

当麻に敬語で話されるのはあまり嬉しいものではないのだ。

 

「そ、そうか……」

「ええそうよ」

 

不意に私が外を見ると、目の前にはいかにもという門があった。

 

『学び舎の園〜学び舎の園〜』

 

そんな、感情の欠片もこもってないような声が流れる。

 

「ここだよ、学び舎の園。この中に常盤台はあるんだ」

「そう……案内感謝するわ。また逢えるといいわね」

 

私は別れを告げて、学び舎の園へ向かうためにバスを降りた。

なんの前触れもなく、強い風が吹いていく。

その時、ふと誰かの視線を感じたような気がして振り返った。

 

「あら?メイドさんですわ」

「本当だー」

 

ツインテールの巻き髪の少女に、ピンをつけたミディアムヘアの少女がいた。

 

「初めまして。あの、常盤台中学はどちらでしょうか」

 

そう問いかけると二人は顔を見合わせて、私たち、そこの生徒ですのよ、と言って近づいてくる。

この二人は常盤台の生徒だったのか。と、いうことはこれが制服?

 

「そう、ですか。私は十六夜咲夜です。常盤台に入るのですが、なんせ場所がわからなくて」

「あらそうでしたの。私は白井(しらい)黒子(くろこ)。こちらが、御坂(みさか)美琴(みこと)お姉様ですわ」

「初めまして、十六夜さん」

 

白井黒子に、御坂美琴。

私はすぐにそのふたつの名前を覚えた。

 

「こちらですわ」

 

黒子に案内された場所は、改札。

ふたりはなにやらカードを取り出しているが、私はそんなもの持っていない。

やろうと思えば時を止めて移動すればいいだろうが、なんとなくしたくなかった。

仕方ないので、係の人らしい人に話しかけることにした。

 

「すみません、十六夜咲夜と言いますが。ご存知ないでしょうか」

「十六夜……咲夜?ええ、存じております。上のものから、パスを渡すように言われていますわ」

 

ってことで、私は二人と同じパスを手に入れた。




なんか文がもう。
いつかなおすと誓います。

今回は黒子と美琴が出てきましたが、まあ……
常盤台ですので。少しぐらい、関わってもらわないとね。


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学び舎の園の中の常盤台中学

あとがきで設定書きます多分


「ねぇ、十六夜さん」

「はい……って、呼び捨てで構わないですわ、黒子」

「そう、じゃあ咲夜」

「なんでしょう?」

 

学び舎の園の大通りを三人並んで歩いているとき、黒子がそう話しかけてきた。

 

「あなたはいつ、この学園都市に来たんですの?」

「ついさっきよ」

 

本当についさっきかと聞かれればここへの移動時間もあるから違うのかもしれないが、ついたのは今日である。

 

「え、今ついさっきって言った?」

「言いました」

 

何をそんなに驚いているのだろう。

そもそも、なんでこの問いを?メイド服なのがおかしいのか?

 

「の、能力は?」

「えーっと……なぜ今それを?」

 

そう問いかけると、ふたりは私に詰め寄ってくる。

思わず、うっ。とあとずさりしてしまうような距離だ。

 

「常盤台はレベル3以上でないと入れないんですのよっ!」

「はあ、レベルとは?」

「そこからっ!?」

 

仕方ないだろう。

こちらの一般常識はおろか、この学園都市のことなんて名前ぐらいしか知らないんだから。

 

「私は今日、いきなりお嬢様に依頼されて、こちらに参りました。と、いうことで何も言われてないの」

 

まあ、ところどころ要約したが。

全て話すほどのことでもないのだ。

 

「……レベルって言うのは、能力の強さ。今んとこ六段階評価で表されてるの」

 

美琴の説明によると、学園都市の学生はレベル0の無能力者、レベル1の低能力者、レベル2の異能力者、レベル3の強能力者、レベル4の大能力者、そしてレベル5の超能力者で構成されているらしかった。

 

「その、レベル3とはどれくらいの能力なの?」

「そうですわねぇ……私はレベル4の空間移動(テレポーター)ですけど、レベル3の時は自分以外のものを動かせるレベルでしたわ。もっとも、今では自分も動かせますけど」

 

空間移動?

それは瞬間移動と表現してもいいものだろう。

べつにそれくらいは時を止めて出来るが、私はその空間移動(テレポーター)とやらの能力者ではない。

 

「……まあ、知り合いが全て手続きを済ましているようだし、心配はいらないでしょう」

 

……考えるのやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常盤台中学】

 

 

 

目の前には、大きな宮殿のような建物があった。

この見た目だけなら、紅魔館の面積とさほど変わりはないだろう。

この奥にまだありそうな気もしなくもないけど。

 

「ここが、常盤台。待ってて、今事務室に__」

「その必要はありません」

「へっ?」

 

そんな必要はない。

 

「私も一緒に行きますわ」

 

美琴はちょっと目を見開いたあと、くすりと笑った。

 

「咲夜って、なんか不思議だね」

「そう?」

 

不思議の基準はわからないが、幻想郷と外では常識が違うらしい。それによるものなのだろうか。

 

 

 

 

 

そのあと、事務室で自分の名前をサインし、学び舎の園の外にあるという女子寮のカギをもらった。

それをみた美琴と黒子が、自分たちの部屋と近いということで喜んでくれた。

 




えーと、まずは
『上条当麻の幻想殺しと咲夜の時間操作』
についてですが、本文中に詳しく書くわけにもいかなくなる可能性大なので今のうちにここで。
上条当麻の幻想殺しは右手のみ。と、いうことで時間操作は右手だけききません。咲夜さんは気づいてません。咲夜さんがその右手に触れると、能力は消えます。右手以外は止まっているので、脳の指令も止まっている。なので右手は動きません。右手で脳を触っている場合は能力が上条当麻にだけ効かなくなります。また、上条当麻が右手でものに触れるとそこの時間は動き始めます。
追記:上条当麻には空間移動などが効きませんが私の解釈的には、咲夜が時を止めた場合上条当麻の時は止まるが移動出来ない。と、いうことにしておきます。時間操作は効きますが、上条当麻が己の時を進めない限り移動は出来ないということです。飛行の場合は考えておきます。
『時系列』
上条当麻が記憶を失う前で、インデックスと出会う前で、夏休み前最後の土日の日曜日。
恐らく土曜日学校だよね、お嬢様校だし。
『初春飾利と佐天涙子』
なるべく御坂美琴と白井黒子と接触させたいので、登場する確率があります。
原作は魔術ですよ?
『十六夜咲夜の能力』
時間操作・タイムオペレーションです。理由、友に相談したところ(タイムコンダクター・タイムオペレーションではどちらがいいか聞いてみた)タイムオペレーションとのことだったのでタイムオペレーションです。時間操作を指す場合はタイムオペレーション。十六夜咲夜を指す場合はタイムオペレーターです。
『十六夜咲夜のレベル』
きちんとレベル3〜5に収めます。レベル5だとまあちょっと有名になりすぎるので少し制限するかも。
『十六夜咲夜の能力制限』
瞬間移動はできません。霊力を行使すれば出来るかもですが、しません。どれくらい時間を止められるかは、本人も数えていないが恐らく24時間以上。「あのスペルはゲームですから。何時間も止めたら楽しくないでしょ?」というのが十六夜咲夜の言い分です。


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1 インデックスの救助
追われたシスター


七月二十日。

学園都市中が夏休みという名の長期休暇が始まったこの日。

私・十六夜咲夜はうだーっと一人しかいない二人部屋(二〇六号室)で伸びていた。

暑いわけではない。この、学園都市のれーぼーはすごく高性能なんだと美琴が言っていたのを覚えている。

幻想郷で嫌になるくらいに感じた暑さは、全くもって感じない。

 

「お嬢様に、会いたい……」

 

昨日の晩、突如現れた八雲紫に『この夏休みはこちらでいなさい』と言われてしまった。

ショックである。長期休暇と聞いて、お嬢様に会えると思っていたのに。

 

「……もういやだ、どっかいこう」

 

いつかはこの生活に慣れるだろう。紅魔館にお仕えし始めたときもそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらでの生活にも随分慣れた。

時間操作(タイムオペレーション)と名付けられたこの能力は、この学園都市には一人しかいないらしい。ってことで、ちょっとした優越感を味わったり。

毎週あるという小テストでカンニングをしたけどバレなかったり。

学年は二学年。そしてクラスも美琴と一緒ということでなぜか黒子に嫉妬されたり。

二人の友人だという、初春(ういはる)飾利(かざり)佐天(さてん)涙子(るいこ)のお話について聞いたり。

私のお嬢様について、そして紅魔館について、吸血鬼や魔法使いといった単語を用いらずに教えたり。

よくわからない科学について二人に教わったり。

書ききれないぐらい、この一週間で色々な経験をした。

私に時間という概念はないので、二人が嘆く厳しい時間設定も難なくこなしている。

そのことを、お嬢様にお教えしたかったのに。

 

沈んだ気分のまま、外へ出て歩き始める。

 

「はあ……」

 

 

その時、どこかで殺気を感じた。

 

 

「!?」

 

私は慌ててあたりを見渡す。

……いや、殺気ではないかもしれない。これは、恐らく……

 

「誰かと誰かが……追いかけっこ?」

 

この表現はちょっとおかしいかもしれないけど誰かが追い回されている。

どちらにしろ、自分には関係のないことだ。

 

「……」

 

でも、一つだけ気になることがある。

恐らくこれは、異能の力、それも科学ではない。どちらかといえば、パチュリー様と同じような、

 

「魔力?」

 

ちょっと気になるかもしれない。

暇つぶしぐらいになるだろう、そう思って魔力を追った。

追われている方はなんだかよくわからない結界を身につけているようで、更に面白そうだったからそっちを。

 

「あ、いた。ふうん、イギリス清教のシスターか」

 

お嬢様の敵、十字教。

まあそんなの気にしないが。

今私はお嬢様の元についていないし、その前に暇つぶしが目当てだ。殺してしまうのもつまらない。

 

「後ろに追ってるのも同じみたい」

 

その時、シスターがビルとビルの間を飛ぼうと空を舞った。

そして、落ちた。

私が追っ手の方をみると、誰かが銃を構えて立っていた。

 

「……あいつか」

 

それより、シスターを追った方が楽しそうだ。

私は時を止め、シスターの引っ掛かったどこかのベランダへと足を踏み入れた。

 

「ん……」

 

私はシスターを起こすことをせず、人の気配……というか、とても聞いたことのある声が叫んだ方へ目を向けていた。

 

やがてその相手は、布団を干すためかベランダへとやってきて__

 

「はあ!?」

 

ばさり。

 

私と隣のシスターをみて、困惑していた。

謎だ。意味不明だ。と、その目は言っていた。

 

「なんで咲夜!?それに隣のシスターさんは誰!?」

 

私が答える前に、シスターが起きた。

 

 

 

「おなかへった」

 

 

 

「「…………………………………………………………………………………………」」

 

ええっと、と私は思わずフリーズした頭を働かせる。

 

「……なんで?」

「おなかいっぱいご飯と食べさせてくれると嬉しいな」

 

いやいや、答えになってないから。と、突っ込みを入れる気力もでず、当麻に部屋へ入ることへの許可をもらって中に入った。

 

「当麻、台所借りていいかしら」

「え、お前料理できんの……っていうか何もないぞ」

 

私は冷蔵庫を開けてみる。

……本当だ、見事に何もない。

 

「……買ってきます」

 

盗んでもバレないが、ちゃんとお金を払って(移動時間や商品を選ぶときは時を止めたけど)部屋に戻った。

 

「早いね」

「まあ、能力だし」

「……何系?」

時間操作(タイムオペレーター)

 

何その羨ましい能力!という当麻は置いて、私はまた時を止めると料理を作って小さなちゃぶ台に載せた。

 

「うわぁっ!」

「すっげぇ。どっかのコース料理みたいだ」

 

そして最後に、二人にコトンと紅茶を淹れて置いた。

洒落たティーカップなんてここにはないが、常盤台から無断で持ち込んできたのだ。

 

「ではどうぞ」

 

シスターは、ガツガツとご飯をかきこみ始めた。

 

「もうないのー?」

「よく食べますねぇ……ホールケーキはどうでしょうか?」

 

すぐに時間をとめ、作るためのオーブンがなさそうだったので適当に買って持ってきた。

このシスターは、結構食べるようだ。

 

「ぷはーっ、ご馳走様っ!……えっと……」

「咲夜です。十六夜咲夜」

「ありがとう!咲夜っ!」

 

こんなにっこり笑顔で言われたら、誰でも嬉しくなるだろう。

妹様に、初めてこんな顔をされたときのように嬉しくなる。

 

「ほら、当麻」

「あっ、えっと上条当麻です」

「当麻もありがとう!」

 

ゔっ、と当麻も言葉に詰まっている。

男性というのはチョロいものだ。

 

「私はね、インデックスっていうんだよ」




……長い。
これからも安定しないかもしれません。

もうちょっと原作部分削ればいいのか?まあここはまだあまりかぶってないですけど。


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インデックスの素性と上条当麻の能力

どんどんながくなってゆく。


「……そう。じゃあインデックス、あなたはなぜ追われていたの?」

 

私がそう聞くと、インデックスの顔が一気に硬ばった。

なぜそれをしっているのかと言わんばかりのその表情は入ってくるなと訴えてくる。

 

「えっとね、私がここにいた理由、わかる?」

「……わかんない」

「あなたを追いかけたから。いきなり殺気を感じたら、気になるじゃない?そしたらあなたを見つけたのよ」

 

誰でも気になるでしょう?と私は言ったが、何言ってるんだ的な視線を当麻に向けられた。

ちなみにインデックスは、不審なものを見るかのような目だ。

 

「……殺気が楽しそう?」

「ええ、なんか楽しいことが待っていそうでしょ?」

 

殺気を感じたらワクワクするのは私だけではないと思うのだが。

そうじゃなくても、恐怖心が楽しくてたまらないという人もいるだろう。

 

「いやいや、普通は怖気づいて逃げるでしょ……なに?咲夜はそういうの好きなの?」

「好きってわけじゃないけど……刺激のない一週間を過ごしていたら、それぐらいの刺激は貴重なのよ」

 

常盤台での生活は楽しいが、こういった刺激も実にいいものだ。

まるで、図書館に盗みにくる魔理沙(まりさ)と弾幕ごっこをする時みたいな。

 

「……そういうものなのか?」

「ま、人によって違うかもしれないわね……で?インデックス、そろそろ質問に答えてくれる?」

 

ああ、うん。と、インデックスは頷いた。

 

 

「魔術結社」

 

 

すると当麻がぽかーんと口を開けたまま止まった。

 

「……じゃあなんで狙われてるの?」

「私が、一〇万三〇〇〇冊の魔道書を保有する禁書目録(インデックス)だから。だと思うよ?」

 

一〇万三〇〇〇冊?

私は眉をひそめ、当麻は更に更にひそめた。

 

「そんなの、どこにあるの?どこかに結界でもはってあるのかしら。まさか頭の中とか言うんじゃないんでしょうし__」

「そのまさかだよ。私の頭の中にある」

 

……完全記憶能力、といったところだろうか。

人里の稗田(ひえいだ)阿求(あきゅう)が代々所有している能力だと聞いたことがある。

 

「咲夜も当麻も、あまり知らないかもしれないけど、この世界には数え切れないくらいの魔道書があるの。一〇万三〇〇〇冊なんて可愛いものなんだよ」

 

まあそうだろう。

紅魔館には、パチュリー様が誰に見せることもなく保管してある魔道書が100冊はあると聞く。

それが世界中にばらまかれているとしたら、どれだけの数になるかわからない。

 

「……ねぇ、超能力ってそんなに素晴らしいの?」

 

いきなりの問いに、私も当麻も戸惑う。

私は最近来たばかりのこともあるし、この時を止める力も天然ものだからわからないのだ。

 

「うん、でも。それが、心の支えになってる人がたくさんいるから多めに見てやってほしいかな。インデックスも、魔術を批判されたくないだろ?俺もまだ信じてないけど」

 

しかし、インデックスはまだ納得してないような顔で、今度は別の質問を投げかけた。

 

「じゃあ、ふたりはどんな超能力持ってるの?」

「……私は時を操るわ。天然ものだから、どういう理論なのかも、これが科学的なものなのかもわからないけどね」

 

私は一度時をとめ、インデックスに急接近するとまた進めた。

 

「わっ!……瞬間移動(テレポート)じゃないの?」

「違うわ。時を止めて移動しただけよ」

 

インデックスは素直に驚いたようだ。

まあ、魔術でこれをするには下準備が必要だったりするのだと思う。

 

「咲夜のって、天然なのか?」

「ええ、生まれつき持ってるわ」

 

当麻はそうは思わなかったと苦笑いした。

 

「じゃあ、当麻は?」

「……俺?」

 

そういえば、当麻はなんの能力なのだろう。会ったのは一週間前の出来事で、聞く意味もなかったので聞いていなかった。

 

「俺のも咲夜と同じで天然……って言っても、無能力扱いなんだけど。この、右手は異能の力を打ち消せるんだ」

「「はい?」」

 

当麻は超能力による電撃だろうと、炎だろうと、神のご加護だろうと、己の右手が触れれば打ち消せるという。

 

「俺は幻想殺し(イマジンブレイカー)って言ってるけど、詳しいことはなんもわかんねぇんだよなぁ」

 

……と、いうことは、私の時も……

いや、そんなことはない。私が止めている時、当麻はセピア色__つまり、時が止まっていたのだ。

一応、私は再び時を止めてみた。

セピア色に染まった世界__の中で、私は当麻の右手へと視線を向ける。

 

「!?」

 

そこだけ、肌色だった。

 

私は恐る恐る、そこに手をかざす。

 

ぱきっ。

 

そんな音とともに、セピアの世界が崩れた。

 

「えっ、あっ、ちょっ……サクヤサン!?!?」

「……本当のようね」

「え?」

 

先ほどの割れるような音は、おそらく私の能力を強制的に解除したのだろう。

 

「こんな理解不能な能力、初めてみたわ。ほら、インデックスも何か持ってないの?」

「えーー?」

 

インデックスは少し悩むと、ぽんっと手を叩いた。

 

「そうだ、これ。これはね、歩く教会って呼ばれてる、防御結界なんだよ。剣で突かれても、銃で撃たれても、決して傷つかないの」

 

ふうん、と私は銀のナイフを取り出す。

 

「ちょっ!?」

「なら、刺しても大丈夫なのかしら?」

「うん、刺してみる?」

 

私はインデックスに向かってナイフを投げた。

当麻の止める声が聞こえるが、私は気に止めることをしなかった。

ナイフはすぐに跳ね返り、床に落ちた。

これだけ簡単に落ちたということである。

 

「あら、本当ね。すごい防御だわ。じゃ、これを当麻が触ってみなさい」

 

しぶしぶ当麻が肩に触れるが、何も起きない。

……ことはなかった。糸がみるみる消えていくが、ふたりとも気づいていない。

私は魔術を知らないので再びかけることは出来ないが__

 

「ほおら、なんも起きないでしょ?」

「だ、だな」

「__起きたわよ。インデックス、もうこの服に結界の力はないわ。糸がみるみる消えていってたもの。あのままだと、あなた素っ裸になってたわよ?」

 

え?とインデックスが素っ頓狂な声をあげる。

 

「私が縫い合わせたの。でも、気をつけることね」

 

私はそういって、ベランダの窓を開けると時を止めて空を舞った。

楽しかったが、少々飽きた。常盤台に戻って美琴や黒子と話すことにしよう。

そして、ベランダの真下まで降りると時を動かす。

二人が慌ててベランダを見下ろすので、私は軽く手を振ると女子寮へと足を向けたのだった。




今日は二回も出来ました!
明日はおそらく更新出来ませんが、朝かけたら書くつもりです。
投下するかは未定ですが。
一応テスト期間なもので、一日何時間かはテストに時間を割きながら、休憩時間にちょこちょこ進めて行くようにします。


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能力と魔術

タイトルに迷った。


寮に帰って、二人の部屋をノックしたが黒子しかいなかった。

どうやら美琴はまだ帰ってきていないらしい。

 

「あら?いないと思ったら、どこへ行っていたんですの?」

「ちょっと面白いことがあったのよ」

 

実は二人、まだ出会って三ヶ月やそこらだと言っていた。

なのにこんなに仲が良いのか。不思議なものである。

 

「美琴は?」

「お姉様はどこか行ってしまわれましたわ。まあ、私もお姉様を信じておりますから探しませんけど」

「……そう」

 

それから美琴が帰ってきたのは門限ギリギリだった。

なんかムカついているようだったが、何があったのだろう。

寮監に呼ばれて三人で食堂へと行くと、今日のメニューのビーフストロガノフをいただいた。

素直に美味しかった。

 

「そういえばお姉様、今日はどちらに?」

「あーうん、ちょっとねー……あのわけわかんない能力者に会ったのよ……」

 

と、美琴がぐちぐち頭を抱える。

 

「は、はあ……そ、それは災難でございましたわ、ね?」

「ホンットよホンット」

 

あのツンツン頭がどーだの私の超電撃砲が効かないだの言っていたので多分それ、当麻だ。って思ったけど言わないでおいた。

まあ、言っても楽しそうだったがメリットがない。

 

「じゃあ、また明日」

 

私は二人に別れを告げて、自室に戻る。

暗い部屋にパチっと電気を灯すと何となくここは都会なんだと感じた。

 

「ふぅ……当麻といえば、あれからどうなったのかしら」

 

私が呟いた途端、カツカツと硬い足音が耳に入ってくる。一週間も経てば分かる、これは寮監の足音だ。

 

バンッ!

 

そんな音とともに、寮監が扉を開ける。

もう慣れたもので、最初は何も言わずに入ってくる寮監にイラッとしたりもしたが、もうそんなことはない。

怒りを覚えなくもないが、それが当たり前になってきているのだ。

 

「__」

 

今来たということは、しばらくはもう来ない。

廊下から出ればバレるかもしれないが、窓を開けて時を止めて飛べばバレない。

気づけば私は、空へと飛び立っていた。

 

「……なにかあったの?」

 

当麻の部屋のある、寮の下にはたくさんの人がいる。

また、色んな車もあることから、なんらかの事件なのだろうか。

まあいい。

私は当麻の部屋のベランダに向かうが、そこは電気が点いておらず、一瞬にして誰もいないと感じさせられた。

 

「……?」

 

私はそこから離れ、探るようにして裏道の上を飛んだ。

度々、スキルアウトと呼ばれる集団を見たが、放っておいた。

所詮、能力の使えない人間の集団__いや、能力の使い方を知らない馬鹿な人間たちの集まりである。

 

「__いた」

 

黒いツンツン頭。これは恐らく当麻である。

急降下すると、その腕にはインデックスがいることがわかった。

__血まみれの。

 

「……」

 

これが彼女の運命なのだろう。

ここで死ぬのが、定めであったのだ、恐らく。

そう思ったあと、視線を当麻に合わせた。

そこにあったのは、悔しそうに歪めた顔。彼は、彼女を救いたくてたまらないのだ。

ふう、とため息を吐いて私は時間停止を解除した。

 

「咲夜!?」

「……インデックス、あなたの知識に怪我を治すすべはないの?」

 

驚く当麻を無視してインデックスに問いかけると、彼女は薄っすら目を開けた。

 

「ある、けど……む、りだよ……だって……」

「知ってるわ。学園都市の人々はカリキュラムを受けてるからダメなんでしょう?」

「う、ん……な、んでそ……れを……?」

「知り合いに聞いたのよ」

 

もちろんパチュリー様のことだが。

いつか聞いたことがある。特殊な例を除いて元から能力を持っている人間は、魔術を使えないと。

 

「なら、この世界で能力を持っていない、大人たちなら出来るんじゃないの?」

「「!」」

 

盲点だった、と当麻の目はいい、そうだったのかとインデックスは言っている。

 

「でも、誰なら__」

「咲夜っ!公衆電話入ってくる!インデックスを頼む」

「えっ、ええ」

 

渡される寸前、時を止めて常盤台に帰り、メイド服に着替えて受け取った。

電話の存在は幻想郷にいたときから知っていて、こちらに来てからは何度か使う機会があったからなんのためにあるかわかる。

 

「誰に電話するつもりなのかしら」




咲夜さんは原石という設定ですが、能力者に変わりはないので魔術は使えないことにしてもらいました。
例外とは、まあ……色んな面を考慮した結果です。ほら、土御門とか。


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魔神と呼ばれた少女

ちょっととあるを知らない方はわかりにくいかも。
あとがきに、すこし咲夜が帰ったあとのストーリー載せときます。

追記。小萌先生への勘違いがそのまま自然消滅してたので修正させていただきました。


当麻が電話していたのは、クラスメイトだったという。

なぜかと聞けば、担任の住所を聞いたんだとインデックスを受け取りながら答えていた。

 

「……メイド服?」

「ええ。制服は汚したらマズイし、メイド服はそもそも汚してもいいためにあるのだしね」

 

そして私は再び制服に戻った。

このメイド服は血で汚れてしまったので、この夏休み中に新しく仕立て直しておこう。

 

「で、その先生がここに?待ってて、今おすわ」

 

チャイムを鳴らすと、はーいと言う子供っぽい声がする。

……子持ちなのだろうか。

 

「ふえ、常盤台の生徒さんがなんでこんな時間にこんなとこいるんですかー?……って、上条ちゃん!?」

「えっと……まあいいや。お邪魔します」

「えっ、あっ、えー?」

 

……まさか、これが先生?

状況が飲み込めていないようだったが、強引に入る当麻の背中にいるインデックスを見た途端、顔がこわばった。

 

「きゅ、救急車呼びますか?電話ならそこにあるですよ?」

 

部屋に入ってからわかったが、これが本人らしい。

まあ、お嬢様も妹様もあの容姿で私よりはるかに長生きだから深く突っ込まないでおこう。

その時、ぐったりしていたインデックスが声をあげた。

 

「__警告」

 

自動書記(ヨハネのペン)』とよばれるらしいそれは、インデックスの口を借りてよくもまあペラペラしゃべる。

 

「小萌先生、彼女と会話を続けていてください。救急車呼んできます」

「え?電話ならそこに__」

 

私は、当麻の後についてでた。

ドアの向こうで、ふたりで待機していると、魔力が部屋から溢れ出してくる。

 

「始まったわね」

「わかんの?」

「もちろん。何度も目の前で見てるわ」

 

え、そうなの?と当麻が驚く。

 

「どちらかというと、私のオカルトのイメージは魔術なのよ。まあ、科学でも証明はできるけどね」

 

私の主の、客が魔術をしているのだというと、じゃあ咲夜も魔術が使えるのかといわれた。

 

「使えたらあの場で使ってたわ。私は生まれたときから能力があるし、魔術を覚える必要性が無かったの」

 

自身が理解した魔術なら、能力者でも発達は遅いものの、魔術を覚え、使うことはできる。

しかし、やはり危険ではあるのだ。

 

「ねぇ、当麻」

「ん?」

「なぜあなたはインデックスを助けるの?」

「なぜって……」

 

当麻は私の問いに、言葉を詰まらせた。

いや、考え込んでしまったの方が相応しいのかもしれない。

でも、すぐに顔をあげて、

 

「理由なんていらないだろ?」

 

と、笑った。

私は、少し驚いたがすぐに言葉を紡いで再び問いをだす。

 

「……じゃあ、あなたは私がインデックスの立場だったとしても助けるのかしら?」

 

少し、皮肉めいていたかもしれない。

けれど彼は

 

「もちろん」

 

と即答した。

私には理解ができない。

なぜ、今朝あったばかりの少女を助けるのかも、なぜ、血が止まらないことに対して唇を噛み締めていたのかも、なぜ、クラスメイトに電話してまで魔術を使える大人を探したのかも、わからなかった。

 

「……そう」

 

そのあと、彼はなぜ自分がボロボロなのか話し始めた。

言われて気づいたが、服はインデックスの血以外にも擦り切れている場所がところどころあったのだ。

魔術師と戦ったんだ、と彼は言った。

これもまた、あの少女を守るためだろう。

 

 

 

私は更に、上条当麻という人間がよくわからなくなった。

そう思いながら、セピア色の空を飛ぶ。

寮に帰るとすぐにベッドへと入った。

彼女(インデックス)は、まるで魔神だ。この世界を、神の作ったルールさえも捻じ曲げるような知識を持ってしまった魔神。

そんな彼女を助けるといった彼は、今後どう転ぶかわからない、と。そう思いながら、寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちったぁ俺を信用しやがれ』

 

次の日、魔神と呼ばれた少女は上条当麻の言葉に泣いた。




(軽くネタバレ注意)




さてさて、咲夜が言った『魔神』ですが、原作でインデックス自身が口に出していました。
「私たちはそれを魔神と呼んでいるの」
と。(少し簡単にしちゃってますが)
それで、当麻が怒った、ということです。
そのとき言った言葉が『』の中のあの言葉で、インデックスは泣いた。となります。
これぐらいならいいでしょうか?
また、その前にも
・なぜ十字教はこんなにも分かれてしまったのか
・錬金術は……
などなどそういったエピソードがありましたが、そちらはおいおい別で埋めていきます。


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聖人と上条当麻

ちょっと長くしてみた。
本当は1500くらいでおさまってたけど。


風呂や銭湯というのは、日本独自の文化である。

しかし、当然ながら水が苦手な吸血鬼であるお嬢様の住む、紅魔館に浴槽などない。

シャワーすらもなかったらしく、パチュリー様がお嬢様の許可を取って作ったものがあるだけだった。

 

「私の住んでいるところには、風呂がなかったのよ」

 

そうやってポロっと漏らしたら、黒子に銭湯に連れてかれることになった。

美琴はそのときいなったから、二人で。

 

「……普段は私も行きませんけど、時々は行ってみましょうよ」

 

地底から湧き出る温泉には入ったことあるんだけどなぁ、と思ったものの口には出さないようにした。

地底なんて言ったら怪しまれるに決まってる。

楽しそうなことには割り込みたいが、面倒ごとはなるべく避けたいのだ。

けど、寮を出たあたりで黒子はジャッジメントの仕事が入って行ってしまった。

私は他に行くアテもないし、銭湯に行く気が少なからずあったので一人で銭湯に向かった。

着いたらボロッボロだったけどまあいいやって思って入って、すぐ出た。

長居する理由もない。

 

銭湯を出たら、長居したつもりはないのにもう空は夕焼けだ。

長居してないと思っても、している。うーむ、風呂とは怖いものである。

銭湯の外にあった時計をみると門限まであと少しだ。

私は特に急ぐことなくのんびりと寮へと向かった。

 

「インデックス?」

「あれ、咲夜?……もー、とうまったらひどいんだよ?」

 

会うなり私はインデックスに愚痴られた。

もうすぐ門限だが、出会えたことはちょっと嬉しい。

そのとき、後ろから何者かのわずかな神力、魔力、霊力を感じ目を細めた。

インデックスがどうしたの?と問いかけてくるが、なんでもないと返した。

と、いうことは場慣れしているはずのインデックスも、気づかないほどの結界か何かが張ってあるのだろう。

彼女は銭湯に行くと言っていた__私は門限があるからと言って、彼女と別れた。

 

さて、と。

まずは許可書を取らないとマズイだろう。

時をとめ、寮に帰り、書類を揃え、必要なハンコを無断で集め、寮監に提出した。

 

「……了解した」

 

そう言われ、私は部屋を出るとまた時をとめて銭湯の方面へと飛んでいく。

上条当麻の人影を確認したところで私は時を動かした。

 

「彼女は、大切な親友、なんですよ__」

 

動かすなり聞こえたのはそんな絞り出すような声だった。

 

私は物陰に隠れ、気配を消して声を聞いた。

インデックスは一歩でも間違えると天災に転ぶ天才だと。

一年ごとに記憶を消さなければならない体で、消せないと死んでしまうと。

記憶を消す時、罪悪感に駆られないよう__また、インデックスが裏切られたと苦しまないよう敵を名乗っていると。

そう、神裂火織と名乗る女性は言った。

 

「なんで、誤解させてるんだよ!なんで、敵として追いかけ回してるんだよ!何勝手に見限ってんだよ!

 

 

「うるっせぇんだよ!ど素人が!」

 

 

上条当麻の声に、神裂火織がキレた。

 

「私たちが、今までどんな気持ちであの子の記憶を奪っていったと思ってるんですか!?分かるんですか、あなたなんかに!!」

 

そのとき、唇をぎゅっと嚙みしめる神裂火織が一瞬見えた。

私はまだだ、と自分に言い聞かせて物陰に隠れる。この前に一戦したのか、上条当麻のあの(・・)右手は血だらけだが、私は必要ない。それぐらい、彼は生命力に溢れているし、何より二人のこれからの会話や戦闘がみたい。

神裂火織に斬られ、血がポタポタと地面に落ちているが、彼はまだ倒れない。

おそらく、アレ(神裂火織)は聖人だ。あの実力、溢れ出る力、そして何より、存在感。

そんなのに斬られても、屈しない上条当麻はやっぱり不思議だった。

 

「うるっ……せぇっつってんだろ!テメェはなんのために力をつけた?その手で何を守りたかったんだ!?」

 

弱々しい拳が、神裂火織の顔面へと叩き込まれる。

その瞬間、当麻の拳からどばっと血が溢れだしてきた。

けど、神裂火織は後ろへ倒れこんだ。その、弱々しい拳によって。

なに、やってんだよ、そう言ったあと、彼もどさりと倒れこんだ。

 

 

 

「……行きましょうか」

 

私はそこへと足を運んだ。

二人の他に、人の気配を感じて振り返ると、神父らしき人間が立っていた。

 

「なんの用だ?」

「……そんなの、上条当麻を回収しにきたに決まってるじゃないですか」

「__そうか」

 

それだけ言葉を交わして、私は当麻を背負うと小萌先生のアパートへと向かい始めた。

赤髪で目の下にバーコードをつけた神父は、立ち去るのをじっと待ったあとに自身も神裂火織を起こして去っていった。

 

私が小萌先生の家に当麻を届けたら、小萌先生が驚いて迎えてくれた。

少し上がらせてもらって、当麻の傷の手当てをして紅茶を淹れて少し休んだ。

傷は小萌先生の家にあった消毒液を使用して、包帯を巻かせてもらった。

 

「……慣れてますねぇ」

「まあ、生傷が絶えない生活をしていましたから」

 

え?と小萌先生が若干引いたっぽいが、気にしないことにする。

 

「私の能力が使えれば、時を進めて綺麗にしてあげれたのですが……なんせ、一番の大怪我が右手ですから」

「ああ、上条ちゃんの能力ですかぁ」

 

私はソファに寝かせていた当麻をお姫様だっこで抱き抱えて、小萌先生が敷いてくれた布団に寝かせた。

 

「……力もちですねぇ……」

「慣れてますから」

 

男性がほとんどいないあそこ(紅魔館)で暮らしてくれば、多少は力は強くなる。

 

「インデックスは?」

「そ、それが……」

 

二人の間に重い空気が流れた時、バンッ!とドアが開いた。

 

「!鍵かけるのわすれてました」

 

あっちゃー、と小萌先生は頭を抱えるが、私がインデックスですよ、と言うと良かったです、と心底安心したかのように笑った。

 

「とうま〜っ!」

 

私は立ち上がって当麻のいる部屋を出た。

 

「さっきぶりね。インデックス」

「あ、咲夜……とうまは?」

 

すごく嬉しそうなところ、申し訳ないが真実は知ってもらうことが大事である。

 

「……こっちよ」

 

私が当麻のいる方へとインデックスを案内すると、インデックスは言葉を失ってしまった。

さっきまでの嬉しそうな顔は一瞬で消え去って、顔が急速に青くなる。

 

「とう、ま」

 

私は表情を消し、部屋を出て小萌先生に別れを告げた。

 

「もう帰るんですかー?」

「ええ、もうすぐ外出許可の時間を迎えますから」

 

それからまたセピア色の空を飛んだ。

寮に帰ってから無断で厨房に入り、インデックスの分の料理を作って、置き手紙と共にちゃぶ台に置かせてもらった。




咲夜さんが料理を作ったのは、なんとなくの気まぐれです。

えーと、4日から小説を5日程書きません。
間に合えば、そうですねぇ、午後7時に予約で投稿します。
ってことでよろしくお願いします。
間に合うはどうかは五分五分です。


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エピソード記憶

もうなんか色々と悩む。


次の日の夜。

 

「十六夜、電話だ」

 

寮監に呼び出され、私は寮の電話を受け取る。

 

「もしもし」

『……名前は上条当麻に教えていただきました。夜分に失礼致します』

「はあ、あなたは昨日の神裂火織でよろしいのですね?」

『はい、まあ』

 

神裂火織からだった。

 

『本日、月詠小萌のアパートへと来てください。今日、インデックスの記憶を消す予定です』

 

神裂火織は感情のこもっていない声でそう言った。

 

『12時。その時間に来てください』

「……それを、なぜ私に?」

 

疑問である。

なぜ、私?上条当麻でなく。

 

『それは……なんとなく、ですよ。あっ、ステイ……じゃなくて、あの神父には内緒に』

「わかりました」

 

私は受話器を置いて、寮監に挨拶をすると部屋に戻った。

そして12時を待ち、時を止めてその場所へと飛ぶ。

 

「……ちょっと遅かったですかね?」

「なっ……!?」

 

私が開け放たれたドアから入ると、既に二人は来ていた。

神裂火織は無表情で私を見つめ、赤髪の神父は声をあげ、当麻は目を丸くしている。

 

「……彼女の記憶を消すのでしょう?私はそれを見守りにきたのです」

「咲夜……」

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)を使えば突破できる気もするが彼が思いつかないのだ。

それを教える理由はない。

 

悔しそうにする当麻は、最後の足掻きを決めたようだ。

 

学園都市(ここ)には!そういうのを専門とした組織がいくつもあるんだっ!なあ、咲夜っ!」

 

私は答えずに当麻を見るだけ。

彼は頭が悪いようだ。

 

「そこを頼れば……」

 

はぁ、と私はため息を吐いた。

 

「と、いうか。あなたは、脳に関して本当に学んでいるの?きたばかりの私でも、これくらいわかるわ。魔術師二人も、今だけは科学の知識を聞きなさい」

 

すると、神裂火織は私をチラリとみてすぐに視線を戻した。

一応聞いてくれるのだろう。

当麻は早く言ってくれと言わんばかりの表情をしている。

 

「……意味記憶、手続記憶、エピソード記憶。これらは記憶の種類のこと。引き出し、とでも言っておきますが。

意味記憶とは知識のこと。そして思い出はエピソード記憶。どちらも入る引き出しが違うのだから、意味記憶がいくら一〇万三〇〇〇冊の魔道書で埋まっていたとしても思い出の入ったエピソード記憶がいっぱいになることはないと思わない?」

「……なんだと?」

 

赤髪の神父は怪訝そうに眉をひそめ、私の話に耳を傾ける。

 

「だから、科学上、一〇万三〇〇〇冊の魔道書で頭がパンクすることはありえない」

 

私は感情も込めずにそう言って当麻の右側につく。

 

「と、いうことは何者かが彼女のエピソード記憶に細工をしているということ。そう、一年でいっぱいになってしまうように。

この流れからいって、魔術師でしょうね。なら、ここに適任がいるじゃない」

 

と、私は当麻の右手を取ってみせる。

この力を使えば、恐らくそんな幻想もこわせるだろう。

 

「……まあ、簡単にいくとは思わないけど」

 

たとえば、解除した途端魔術が発動したり。魔力がないと彼女は言っていたが、こういう時に備えていたという可能性もある。

 

「……なん、だ、と?」

 

神裂火織も、瞳孔が一瞬にして開き、私たちのことなんて見えていないようだ。

 

「じゃあ、それを俺がぶち壊せばいいんだな?」

「まあ、恐らくそうよ。そのかわり、代償がくると思いなさい。あなたが打ち消すものは、こいつらより更に上の魔術師による魔術。どんな仕掛けが待っているかわからないわ」

 

私は魔術に詳しくないからわからないが、それなりの魔術は見てきたつもりだ。

パチュリー様の多種多様なものだけでなく、アリス・マーガトロイドの人形を使ったものや、魔理沙のような型にはまらない威力しか考えないものに聖白蓮みたいな身体を強化するもの。

そういえば、あの人たちは皆、『魔法使い』と名乗っているがその違いはなんなのだろう?

魔術と何が違うのだろうか?

 

「んな覚悟、とっくに出来てる」

「そう……と、なるとその魔術はどこにかかってるのかしらね」

 

脳に一番近いのはつむじだが、そこを触ってもなにも起こらなかった。

 

「……もしや」

 

当麻ががばっとインデックスの口を開くと、そこには黒い不気味なマーク__

一瞬躊躇したあと、当麻はぬるりと口の中に手を滑らすとそのマークに触れた。

 

「__っ」

 

魔力の流れを感じ、私は咄嗟に時を止めて後ろに下がる。

 

バチンっ!

 

そんな鈍い音とともに、上条当麻は吹き飛ばされた。

先ほど感じた魔力の流れは嘘じゃなかったのである。

ぱたぱた、と布団や畳の上に上条当麻の血がした垂れ落ちていき、それは上条当麻の傷が再び開いたことも意味していた。

 

「……」

 

インデックスの目は静かに開き、その向こうには紅い魔法陣が見えた。

これは、思ったよりもヤバイ魔術が発動してしまったらしい。

 

「__警告」

 

おそらくこれは、インデックスの能力について知ったものが魔術を解除してしまった場合に組まれた防御網(セキュリティ)だったのだ。

それに魔力をつぎ込まされたからインデックスは魔力を失ったのである。

『警告』をつらつらと語るインデックスはやがて、【(セント)ジョージの聖域】という魔術を宣言してしまった。

凄まじい音とともに亀裂のようなものが部屋中に駆け巡る。

不意に当麻をみると、彼はふるふると震えていた。

 

「当麻?」

「あははははははははははははは!!」

 

私は一瞬、彼は怖いのかと思ったが、それはすぐに思い違いとわかる。

 

「咲夜っ!これで、インデックスが助けられるんだ!」




うーん……この更新を最後に本当の不定期更新にします。
理由としては、一日一回更新をするには私の実力が足りないのと、そんなことする時間がもう無くなりつつあるのと、夏が来るにあたり部活が長引くなどがあります。
あと、願望として一話をもうちょい長くしたいし、東方とももっと絡めていきたい。常盤台ネタもどんどんだしたいのもあるし、ジャッジメントですの!とか黒子に言わせてみたい。
更新が早いだけの小説ではなく、読みやすくて面白いものにしていきます。
よろしくお願いします。


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時をとめるということ。

なんかちょっと前に更新しばらくしませんとか言ったけど。キリのいいとこまでは書きたいですよね。
ってことで、最終章からがちょっと更新おくれます。


追記・ドラゴンブレスが……ってことで修正致しました。


私はお嬢様に拾われた身だ。

 

 

『……貴女、私に仕えない?』

 

 

吸血鬼を殺すために訪れた私に、彼女はこう言ったのだ。

 

 

『貴女なら、私の満足がいくメイドになってくれそうだわ』

 

 

冷酷な表情で、そう言った。

今思えば、少しばかり嬉しそうな顔だったかもしれないがその頃の私にはそれを見抜くほどレミリア・スカーレットを知らなかった。

 

 

『そうね、これからは十六夜咲夜と名乗りなさい』

 

 

私が答える前に名を与えられて拒否権はないのだと痛感した。

けれど、なぜか嬉しくて。

でも、それを伝えられるほど私は器用ではなくて。

結局、それを伝えることが恥ずかしくてあの異変のときには少し冷たい態度をとったりもした。

 

 

『咲夜さんは、この仕事が好きですか?』

 

 

美鈴の問いに、私はすぐに答えた記憶がある。

 

 

『ええ、こんな私を拾ってくださったお嬢様に仕えることができるんだからね』

 

 

美鈴は笑って、それは喜んでくれそうな答えだと言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッ!!

 

いきなり現れた光の柱。

あれだ、マスパに近いと思う。

けど、そこから感じる魔力は魔理沙のようにひとつの力ではない。多種多様な種類の魔力が混じりあった、複雑なものを大雑把にひとまとめにしたような__

 

「ぐっ……」

 

当麻はそれに手を出し、消滅させているもののその膨大な魔力に処理が追いついていない。

どうしよう、ここで霊力を使って霊弾を生み出したとしても、これならすぐに突破方法を編み出され、コテンパンにやられてしまう。

 

「__【竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)】?」

 

あの聖人でさえも、驚きのあまりようやく言葉を絞り出したところだ。

……私?私は何度か妹様の狂気によって身の危険を感じたことがあるのでそこまで恐怖心とか絶望感とはない

 

「__Fortis931」

 

赤い神父__ステイルが魔法名を名乗る。

これは別名殺し名で、本気で戦うときに名乗るものである。

つまり、それだけ本気で挑むということ。

ステイルの着た、漆黒の服から何万枚のルーンが飛び出す。

最初は霊夢ののように札かと思ったが、違うようだ。

 

「俺は、とりあえず彼女を助けたい。曖昧な可能性なんて、いらない」

「__とりあえず、だぁ?お前はインデックスを助けたくないのかよ!」

 

長々と魔術師に説教をしているうちに、何度も彼の腕がぐきり、ぐきり、と奇妙な音を立てる。

それでも上条当麻は喋ることを、やめない。諦めるということを、しない。

 

ステイル・マヌグスはそんな彼の瞼の裏に、一体何を見たのだろうか。

 

上条当麻の右手が限界を迎えたらしい。

最初に小指にきて、ぐきりと不自然な方向へとまがった。

突如、彼の体がふき飛ばされた。

 

ゴォッ!

 

光の柱が、彼に襲いかかる__

 

「__Salvare000!!」

 

「幻符「殺人ドール」!!」

 

私と神裂火織の声が重なった。

刀で裂かれた光の柱を、私が完全にナイフで当麻に当たらないようにバックアップを取る。

 

「十六夜咲夜!何をしているんですか!これは、人に止められるものでは__」

「インデックスは、『人』よ?そんな『人』に倒されるほど私はやわじゃないわ」

 

そうしてる間にも、光の柱は当麻に襲いかかっていくため、私は何度もナイフを回収して投げた。

魔力を使用していないため、インデックスにはあまり重要視されていないようだ。

 

「いけっ!能力者!」

 

上条当麻は走る。

インデックスの元まで、走る。

でも、遅かった。

ふわり、ふわり、と光の羽が舞い始める。

 

「命名『神よ、何故私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)』」

 

その羽に一枚でも触れてはならない。

そんなの、私よりはるかに魔術を知らない上条当麻でもわかるはずだ。

だけど、上条当麻は己を守らなかった。

彼がインデックスに触れた途端、黒い亀裂もそれを生み出す魔法陣も、消えた。

 

「__警、こく。最終、賞。第、零__……。『 首輪、』致命的な、破壊……再生、不可……消」

 

ぷつんと途切れた機械的なインデックスの声。

光の柱も、魔法陣も、そこら中にあった魔術が消えていく。

 

ふわり、

 

見上げると、近くに迫る羽。

それを避けたとき、他の一枚が上条当麻に降りかかるのを見た。

私の時が止まった気がして、誰かが叫んだ気がする。

それは私だったかもしれないけど、もう覚えていない。

今さっきのことのはずなのに、何も覚えていない。

 

この夜、光の羽が舞い散る夜に、上条当麻は『死んだ』のだ。

 

 

 

 

 

 

時が止められるからって、私は上条当麻を救えなかった。

 

これが、初めて人間を助けられなかったと悔やんだ夜だった。

 

私は変わってしまったのだ。

表上は変わっていないが、『何か』が。




では、テスト頑張ってきます。
この5日間は更新が1度できるか出来ないかです。


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透明な少年

短いです。


私が記憶を失ったらどうなるのだろう。

 

 

お嬢様に見捨てられ、路頭に迷って自殺するのだろうか。

 

それとも、それはそれで運命なのだと吹っ切れてそのままふらふらと暮らすのだろうか。

 

 

私ではなくお嬢様が記憶を失ったら?

 

 

それでも私は、お嬢様から拒絶されない限りメイドとして奉仕し続けるだろう。

 

それだけお嬢様は私にとって大切な存在であり、命の恩人であり、私から突き放すなどすることのない人物なのだ。

 

 

それでは、上条当麻が記憶を失ったら?

 

 

特に仲のいい友人というわけではない。

 

ただ、道案内をしてくれて。

 

私の好奇心に導かれ再会しただけの、相手。

 

そんな彼が、記憶を失ったら、私はどうするのだろう__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの竹林の薬師とは性別も身長も違うまるでカエルのような医師に教えられた病室に入ると、そこにいたのは私の知らない透明な上条当麻だった。

 

「……えっと?」

 

誰だろう、とその目は言っている。

 

「制服から言って、常盤台……と、いうことはお嬢様……うーん」

 

私は心の中で苦笑した。

私はお嬢様ではない、お嬢様に仕えるメイドが本職である。

 

「お、お名前は?」

「十六夜咲夜よ」

「十六夜、さん?」

「咲夜でいいわ。私も当麻って呼んでたし」

「!?」

 

なんか驚いているようだが、そんな変なことだろうか。

下の名前で呼び捨てって向こう(幻想郷)じゃあたり前だった気がするのだが、こちらでは違うのかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ咲夜は。俺の、何だったの?」

「そうねぇ、恋人?」

「こ、こいっ!?」

「冗談よ」

 

ちょっとからかってしまったが、許してほしい。

なんか……この少年は今ならなんでも信じてくれるからかいつもと違う意味で楽しい。

からかいがいがある。

 

「よ、よかった……」

「本当のところ、私もよくわからないわ。あなたが記憶を失った瞬間に立ち会ったのは確かだけどね」

 

そういえばインデックスには会ったのかと聞いたら、会った、と帰ってきた。

 

「どうだった?」

「そもそも、なにも覚えてないからなぁ」

「……そうね。でも、ほら。懐かしさとか、そういうのはなかったの?」

「ない、かな。なぜだか泣かせちゃいけないって思ったけど」

 

インデックスは、おそらく傷ついていただろう。

あの事件のあと私は寮監に門限破りだか無断外出だかの罰として寮のだだっ広い廊下を永遠に雑巾掛けしていた。

中途半端にやってもバレなかったのだとは思うが、寮監になぜか見張られていたし、それにより能力も使えないしでずっとやってた。

まあ、私の能力は使ってもバレにくいのでトイレに行くと言って、コンビニにアイス買いに行って食べたりもしたが。

美琴と黒子に何をしていたのか聞かれたが、曖昧に答えた。

 

「そう」

「なあ、咲夜」

「なに?」

 

彼は少し迷ってから、ようやく口を開いた。

 

「思い出って、どこにあると思う?」

 

当麻の声に少し言葉に詰まる。

私は少し悩んで、こう答えた。

 

「……心に、じゃない?」

 

そうだよな、と透明な少年は笑う。

私はそのまま病室を後にした。

 

本当に科学的なことを言えば、『脳』と答えたかもしれない。

けれど、私はそうは思わないのだ。

なぜなら、そんなのは似合わないから。

ただ、それだけである。




次はいつになるのやら。
番外編を挟むか挟まないか、挟むとしたらちょっと遅れるかもしれません。
すぐ2巻の内容に行くなら早いかもしれませんが……


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2 姫神秋沙の吸血殺し
ある日の夜


咲夜さんは普通にお金持ちです。
レベルは今の所表示していませんが、まあそれなりですので。
そもそも常盤台ですし、レミリアお嬢様のメイドですからね。
レミリアも、自分のメイドが貧乏生活をして己の名が汚れるのは嫌なのですとかいう独自設定いれてます。

また、エピソードローグ的な何かだと思っていただければ……
魔術成分は含まれておりません。まるで超電撃砲です。これをみて禁書目録だと思う人はいないような内容。


「十六夜、夕食だ」

 

夏休みの宿題である、レポートを焦ることなく暇つぶしにぼちぼち進めていたところ、寮監にいつものように呼び出された。

 

「わかりました」

 

私はキィ……と扉を開け、食堂へと向かう。

 

「あ、咲夜」

「一緒に行きましょう?」

「ええ」

 

美琴と黒子に会うのも、いつものことだ。特に待ち合わせをしているわけではないけど部屋が近いためかよく会う。

そして一緒に食事をとるのがいつもの流れだ。

 

「いただきます」

 

三人で、適当に食事を取って、一緒に食べる。

紅魔館では立場上、時を止めたり他の妖精メイドとともに食べることが多かったが、最近は違う。

紅魔館のメイド長として食事云々を用意するのもいいが、こうして誰かとともに食事をとるのも楽しいものだ。

 

「……どうしたの?」

「なんでもないわ。ちょっとお屋敷のことを思い出しててね」

「ああ、例の咲夜がメイドをやってたっていう?」

「そうよ」

 

二人とも一般よりは裕福な家庭出身のため、食事のマナーは良い方である。

まあ、お嬢様や妹様の洋食に関するマナーには敵わないのだが、かなうとも思っていない。

 

「……ってことは、咲夜って一般家庭?メイドしてる家がいい家柄ってだけで」

「まあそうかしら。一般家庭よりは少し悪い家柄だったかもね」

「え?」

「殺し屋よ」

 

吸血鬼専門の、とは言わないでおいた。

そう、私は本来、吸血鬼を殺す一家だったのだ。

殺しにいった先で、メイドとして拾われた……ただ、それだけの話である。

 

「……嘘ですわよね?」

「嘘じゃないわよ。もう家出しちゃってるし、この名前もお嬢様に頂いたものだから縁切り同然だし」

 

昔の名前は忘れた。

覚える必要もない。

 

「……まあ、いいですわ。今はしてないのなら」

 

黒子はこう言ったが、私は普通に人殺しをしている。今でも。

こっちに来てからはしていないものの、お嬢様と妹様、小悪魔に美鈴は時々人を食らうこともある……って、お嬢様と妹様はしょっちゅうだが。

それにより、私は人殺しは日常的なことへとなっていったのだ。

そもそも、一族がそういう仕事で生活していたのだから抵抗はない。

幻想郷では禁止されているが、幻想郷に来る前だったり人里より出た人なら時々殺して連れて帰るのだ。

 

「……いつものことながら、咲夜食べるの早くない?」

「あら、メイドは早食いが命よ?」

「早食いって……」

 

時を止めれば関係ないが、遅く摂れば摂るだけ自分の睡眠時間が減ったり、仕事が終わらなかったりする。

すると体調を崩したりしてしまうので、私は早食いをして少しでもたくさんお嬢様に奉仕できるよう、努めてきた。

 

「……そうなのかー?」

「ん、土御門」

 

某闇妖怪のような口調の彼女は繚乱家政女学校というメイドを育成する学校の生徒でここ、常盤台中学で研修中らしい。

余談だが繚乱家政女学校はお嬢様が私を入れようか迷った学校であったりする。

 

「そうよ。少しでもご主人様に奉仕しないとね」

「ふうん……でも、私は咲夜ほど有能じゃないからなー。そんなことしたら死んじゃうのだー」

「あら、現在進行形でメイド仕事をする貴女には言われたくないわよ?」

「……私は咲夜が時々こっそり掃除してるのしってるぞー」

 

え?と美琴と黒子が驚いたように私を見た。

 

「なんかね、落ちつかないのよ。ちょっとでも埃が落ちてると。私個人ならなんら問題はないんだけど、一応お嬢様の命で来てるわけだし」

 

私は埃だらけの部屋にお嬢様に押し込まれても、余裕で生活してみせる。

でも、見抜かれてるとは思わなかったわと笑っておいた。

……本心である。さすがに時を止めてやっていたことを見抜かれるとは思わなかった。

 

「じゃあ、私は仕事に戻るからなー」

「ええ、頑張って」

 

私は舞夏に軽く手を振って見送る。

そこで、二人が食べ終わったそうなので消灯まで二人の部屋に遊びに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の部屋は、見る限り特に何もない。

まあ、常盤台(ここ)は校則が厳しいので当たり前と言えば当たり前なのだが。

けど、二人は実は結構校則を破っている。

 

「お姉様、手鏡すぐ出ます?」

「ああ、はい」

「……ほんっと、校則厳しすぎますわよねぇ」

 

今二人がしていること、それはお肌のケアだ。

校則でメイクはもちろん保湿クリームやパック、リップクリームまで禁止されているため、こっそりと持ち込んでこっそりと使っているらしい。

 

「咲夜はいいの?」

「……そういうので悩んだことは特に……」

 

ないけど、と言おうとしたけど言えなかった。

すっごい勢いで黒子に睨まれた。

あ、美琴もちょっと動きが止まった。

そういえば、守谷の巫女がそんなこと言っていた気がする。あの巫女は気にしすぎなのだ。ほら、同じ巫女でも霊夢なんてそんなことしないじゃないか。

 

「ううっ、羨ましいですわ……」

「……ケアをしないと肌が荒れるなんて常識を信じるからよ。信じなければいいの」

「そんなんでどうにかなるならとっくにやってますわ!」

 

私は苦笑して、消灯10分前を迎えたのを機に部屋に戻った。

それから途中のレポートの前に座って__

 

 

「あ。明日本買いに行かないとね」

 

 

足りない本を思い出し、図書館に行くと一週間しか借りれないからと明日の予定は本屋に決めた。




美琴、黒子、当麻、舞夏。
みなさん下の名前で呼んでいるのは、幻想郷で上の名前で呼ぶ人なんてあまりいないのではないかと思ったからです。
なので、あれです。
舞夏のお兄さんのこともおそらく「元春」と呼ぶでしょう。


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普通の巫女は、脇出さない

溢れ出るコレジャナイ感。
けどこの続きを書いてみたいんだっ!
っていう思いのあらわれです。


私が本屋に行ったら、当麻とインデックスがいた。

それで、一緒にアイス食べに行ったらお店閉まってて、仕方なくふぁすとふーどてんとやらのしぇいくとやらを食べることになった。

 

「あら、冷たくて美味しいわね」

 

私は立ったまま、しぇいくをずずっとすする。

その隣では、機嫌の悪いインデックスとどうしようと冷や汗を垂らす当麻がいた。

どうやら、席に座りたいのに満席らしい。

ちなみにインデックスはとてもアイスが食べたかったらしく、三つも買っていたが、そんなに食べたかったのだろうか。

 

「とうま、私は是が非でも座ってひと休みしたい」

「御意にーっ!」

 

私は苦笑して、当麻の行く先を見守る。

当麻の向かった先は、店員さん。

 

「はあ、相席してもらうしか……」

 

……見事な営業スマイルで言われた当麻はずーん……と沈む。

店員が指差した先には、一人しか座っていない席。

インデックスはすぐに、その席へとちゃっかり座ってしまう。

 

「……巫女?」

 

ハテナマークがついても許してほしい。

そこに居たのは、巫女装束に身を包んだ黒髪の少女だったのだから。

テーブルに突っ伏して寝る様はどう考えてもあの、紅白巫女と同じである。

 

「咲夜、こっち」

「ええ。それにしても、巫女ねぇ……」

 

脇出てないのが気になるけど。

私はあの巫女しか知らないのでなんとも言えない。

 

「そんなに珍しい?こっちじゃ、神社にいけば会えるって聞いたけど」

「そうじゃなくて……ほら、この巫女脇出してないじゃない?」

「……え?」

 

何言ってるの、という表情のインデックスだが、それに関しては私も同じくである。

 

「普通の巫女は、脇なんて出さないよ?」

「……そうなの?」

 

実際は風祝らしい東風谷早苗は置いておいて、博麗霊夢のイメージがついている私には理解ができないっぽい。

……なんだろう、これが普通の巫女なのだろうか。

 

「え、ええっと?」

 

当麻が来るなり、すぐに馴染んでしまった私たちをみて言葉に詰まる。

その時だ。その時、いきなりその巫女は言ったのだ。

 

「__食い倒れた」

「……」

 

巫女というのはどこもこうなのだろうか。

霊夢はいつも、誰かにいきなり要望を押し付けたり、誰の意見も聞かないところがあるけど。

 

「……食い倒れたって?」

 

私が聞くと、巫女はゆっくりと身体を起こす。

 

「ハンバーガー。クーポンたくさんだったから。とりあえず三〇個ほど頼んでみたり」

「お得過ぎだ馬鹿」

 

当麻の言葉にピクリ、と巫女の動きがとまった。

 

「……はんばーがーって?」

「そこ!?そこなの、咲夜!?お前、お嬢様なあまりまさかハンバーガーも知らないのか!?」

「私はお嬢様じゃないわよ、お嬢様に仕えるメイド。はんばーがーなんて聞いたことないわ、メイドになる前からね」

 

私が殺し屋として吸血鬼を追っていた時にも山に住んでいたからしょうがないのかもしれない。

つまり、田舎もの過ぎて知らなかったということだ。

 

「め、メイド?」

「……その話はいいでしょう。はんばーがーって何?」

 

そうやって聞いたら、当麻がネットで調べて見せてくれた。

ああ、これか。さっき、下でしぇいくを買った時に見た。

……えっと、シェイク。

 

「ふぅん。これを、三〇も?」

「やけぐい」

「なるほど」

 

それなら時々お嬢様がする。

霊夢に相手にしてもらえなかった時とか、日光が強すぎて外に出れない時とか、なんだかむしゃくしゃした時とか。

 

「帰りの電車賃。四〇〇円がない」

「……なら、歩いて帰るとか、空飛……じゃなくて、ほら、えーっと当麻に貸りるとか」

「貸して」

「いやだよ!?」

 

と、いうか先ほどから感じる視線はなんなのだろう。

悪意はないようだし、あまり気にしてないが……

 

「あなた、一〇〇円も持ってないの?」

 

インデックスの睨み……そういえば、先ほど当麻がシェイク三つも買ってなかったらうんぬんとか言ってた気がする。

 

「……巫女って平安時代では娼婦の隠語だったみたいだけど」

 

ぶっ!?と当麻が吹き出す。

私は当麻を冷たい目で睨んでから(巫女が娼婦とかどうでもいい)インデックスに向かっていった。

 

「……この子、本物の巫女じゃないわよ。なんらかの力はあるみたいだけど、巫女独特の霊力(ちから)を感じないもの」

 

巫女には微力であろうとも霊力がつきものである。

博麗の巫女も、守谷の巫女も、どちらも一応神に仕える者としての霊力がそなわっているのだ。

霊夢なんかは本当に微力だが、それでも境内の掃除くらいは軽くしているのもあって一応は持っている。

 

「でも、能力はあるようね。それも、先天的な」

 

何かのニオイがする。()()にはうまく感じ取れないくらいな、ニオイ。

そう、私が吸血鬼に仕えていなければ、絶対に気付けない__甘い、血液のニオイ……

 

「__あなた。何者」

「……メイド兼お嬢様、とでも名乗って置こうかしら。あなたは、あなたの能力は、ナニ?」

 

 

 

 

「……吸血殺し(ディーププラッド)

 

 

 

 

瞬間、私はぴたりと止まった。

彼女は今、吸血殺しと言った?

 

吸血鬼は、強くて弱い生き物だ。

力だけでは負けることはないだろうが、なんせ弱点が多すぎる。

だから、強くて弱い生き物なのだ。

 

「なんで。そんなに驚いているの」

 

私はあたりを見渡す。

じっとこちらを見る人たち。視線はこれか、と直感する。

けれど、目には生気が宿っていない。

 

「……それはね。私がお仕えするお嬢様が____吸血鬼だからよ」

 

私は能力で巫女へと近づくと、誰にも聞こえないような小さな声で、ぼそりと呟いた。

彼女は眉ひとつ動かさず、私を見るだけだった。




よっしゃ2000こえた!
今度は3000目指そう。

あと、10話がなんかすごい伸びてます。
9話より伸びてます。
なんででしょうね。

あと、お気に入りが50こえたり、アクセスも伸びてくれて、それだけでガソリンがたまっていきます。
いつもありがとうございます!


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パチュリー・ノーレッジとは

題名から察したでしょうが、今後学園都市にくるかは未定です。

すごく悩んで、まずは当麻sideでどうにかすることにしました。


side当麻

 

 

 

吸血鬼とは。

 

十字架に弱く、日の光にも弱く、

胸に杭を打たれると死に、

死ぬと灰になり、噛みつかれた人間も吸血鬼になる。

 

 

そんな存在という知識があった。

 

 

 

上条当麻は、記憶喪失だ。

 

 

 

記憶といっても思い出が抜け落ちたということなので、知識(ノーレッジ)はある。

 

吸血殺し(ディーププラッド)とは、弱点だらけの吸血鬼を殺すような力を持っているということなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「三沢塾に、女の子が監禁されてるんだよね」

 

「……え?」

 

いきなり現れたステイルにそう言われ、唖然とする。

 

「い、いや……え?」

「そういえば、今日はあの……十六夜咲夜は一緒じゃないのかい?出来れば彼女にも聞いて欲しかったんだけど」

「……咲夜は寮に帰ったぞ。門限だからって。けど、あいつのことだ、夏休みだし、電話したらすぐ来るんじゃねーの?」

 

そして、電話を取り出して、かけようとする。

 

 

「まった」

 

 

そこにかかる、静止の声。

彼は反射的に動きを止めた。

 

「その前に、君に言っておきたいことがある」

「なんだ?」

 

ステイルは少し悩んでから、言った。

 

「科学の知識しかない君は知らないと思うし、インデックス(あの子)も言ってないと思うんだけど、あの禁書目録の中にはパチュリー・ノーレッジと呼ばれる大魔法使いの蔵書がいくつかあってね」

「ぱちゅりー、のーれっじ?」

 

ステイルの言った通り、本当に聞いたことがない。

 

「ああ。魔術師ではなく、魔法使い。そう、彼女は魔術よりも夢がある、魔法を扱えるんだ。つまり、魔女だね」

「魔術との違いがよくわからないんだが」

「そんなに違いはないよ。ほら、僕らも魔法名なんてあるし」

「ほう、それで?」

 

パチュリー・ノーレッジについては知らないが、魔女だということは今わかった。

その人が魔道書(グリモワール)を書いていて、それがインデックスの記憶の中にある、ということが言いたいのだと思うから。

 

「その、パチュリー・ノーレッジ。一〇〇年くらい前から行方不明なんだ」

「ひゃ、ひゃく?」

「そう。彼女は捨虫・捨食の魔法を新しく作り直してから姿を消した。けど、彼女は最初から魔女だからね。それを作ったところで使わないとは思うんだけど……」

 

いや、その前に。

一〇〇年前ってもう死んでるんじゃ……

 

「あ、いうの忘れてたけど、魔女っていうのは不老だからね。まあ、不死ではないけど」

 

!?

 

「何をそんなに驚いてるんだい?僕らも覚悟が決まれば使用することがある、よくある魔法だよ?」

 

と、いうことはここにいるステイルも、いつか不老になるかもしれないのか。

 

「それで、話を戻すけど。その、パチュリー・ノーレッジの魔法は何よりも幻想的だ。魔力も桁外れ、知識に対しても貪欲で、誰よりも魔法使いに向いている」

「強さは?」

「強いなんてもんじゃないね。彼女は弱点をついてくる。器用な人でね、僕らには真似できないよ」

 

誰も敵わないよ、とその目は言っている。

 

「まあ……あれさ。実は彼女、知識はすごいのに、魔道書という形にして後世に残さないんだ。ノートに書いて、終わり。それも、英語だったりラテン語だったり古代ギリシア語だったり、そう、彼女しか読めない、独自の筆記体で書き綴る」

「それって意味あるのか?」

「彼女にとってはあるのさ。彼女が欲しいのは、富や名声じゃない。名前通りの知識(ノーレッジ)だからね」

 

その、捨虫・捨食の魔法を読むのも苦労したよ、とステイルは苦笑した。

きっとそれは、彼ではなくインデックスが読んだのだろうけど。

 

「それでも、魔道書になってるのもある。彼女はどこにも属さず、自由に研究していたから誰も真実は知らないけど、おそらく一番弟子がいたんだろうね。その弟子に向けた魔道書なんだと思うよ。お陰で残る魔道書は初心者向けがたくさんさ」

 

一番弟子と、いうことはそんなにすごい彼女が認めていた人がいたのかもしれない。

彼女になら、魔法を教えたい、私以外知らない魔法を__ってあれ、なんで彼女って言ったんだろう。

 

「捨虫・捨食もその子に向けたと思ってもいいかもね。なんせ、彼女はなんの前触れもなくいなくなったんだし」

 

ほう、と頷く反面、なぜ咲夜に電話するのを止めてまでその話をしたのか気になった。

それを察したのか、ステイルがちょっと真剣な顔になって口を開いた。

 

「ひとつ聞いていいか?」

「……おう」

「十六夜咲夜は、魔術について何か言っていたかい?」

 

俺は考えを巡らせた。

しかし、記憶のない俺がわかるわけがない。

けれど、知識ならあった。

 

「十六夜咲夜は、魔法を知っている、という知識ならもってる」

「そうか、これは予想通りかもしれないが……本人に聞いた方がいいかもしれないな」

 

よくわからないが、これで電話をかければいいのだろうか。

俺は再び電話を取り出し、咲夜のいる寮__常盤台中学女子寮に電話をかけた。




パチュリー様は大魔法使いです。
魔術と魔法の違いがよくわからないのであまり違いがないということにしました。
ちなみに一番弟子は……予想してください、よくあるあの設定です。一応。


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吸血鬼

どんどん書いてしまう。
これがテストの恐ろしさか……!!
実はこれの2倍くらい書いてました。
半分は切りました。なぜなら、なんか自己満足がほとんどになってたから。
咲夜さんが吸血鬼についてつらつら語るお話ですが、これの倍咲夜さんは語っていたのです。恐ろしや。


追記。ステイルがマヌグスになってた。


__また、電話がかかってきた。

……本格的に、携帯を買おうか悩んだ瞬間である。

 

「はい、十六夜です」

『……当麻だけど』

「何かしら」

『また門限を破ることになるんだけどさー……今から来れない?』

「構わないわ」

『そっか、どれくらいで来れるんだ?』

「一〇分、ってとこかしら」

『ん、じゃあのんびり待ってるわ』

 

私は寮監に一礼をして、時を止めた。

そしてまた、判子を押して、時を進める。

 

「すみません、今から外出許可頂けますか?」

 

ちなみに、先ほど一礼した瞬間に時を止めたので寮監にはきっと、電話を切ったのと同時に外出許可を求める奇妙な生徒に見えたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一〇分丁度、私は瞬間移動にも見える形で二人の前に姿を現した。

場所は聞いていなかったから、第七学区を飛び回って見つけたのだ。

 

「おっ、咲夜」

 

何を話していたのかは知らないが、そこまでいい話ではなかったようである。

 

「何か用?当麻。一応外出許可は貰ってきたけど」

「あー……今回は俺じゃなくて、コイツ」

 

なるほど、と私は納得する。

 

「ステイル、マグヌス。あってるわよね?」

「……ああ、まあ」

「そ」

 

メイド服に着替え、普段は少ししか装備していないナイフを常盤台に帰って増やしてきた。

異変の時並みである。

 

「メイド服?」

「……私の戦闘着よ、ウソだけど。あなただって色々忍ばせてる見たいじゃない。それに、それがなくてもこんな時間に呼び出すだけで異常よ」

 

昔のお嬢様方はこの時間が主な活動時間だったが、今では人間に合わせているために昼に活動することが多かったりする。

ってことで、吸血鬼使用だった生活リズムが人間のものに戻っているため、軽く眠い。

時を止めて寝ればいいのだが、なんとなく寝たくなかった。

 

「で、どこにいくの?」

「……三沢塾。結構有名なとこさ」

「ふうん、こっちには疎いからわからないわ。なんのために?」

 

ステイルは、なんでもない顔でこういった。

 

吸血殺し(ディープブラッド)を助けるため」

 

!?ポーカーフェイスが崩れ、目を見開いてしまった。

昼の巫女の能力だ。こんなの持っている()()がこの世に何人も居ては困る。

 

「……って言っても、君は知らないと思__知ってるのかい?」

「知ってるもなにも、先ほど会ったわ。なんでそれに、私も?」

「色々聞きたいことがあったからね。メリットが何もないとは言わないよ?助けることが、インデックス(あの子)を救うことになるのだから」

 

思わずため息を吐いてしまった。

彼はどこか、勘違いしている。

 

「勘違いしてるようだから言っておくけど、私は人間の命なんてなんとも思ってないの。別に今でも、二人を殺せるんだから。殺さないのは、需要がないから。インデックスを助けたのも、気が向いたから。ただ、それだけなのよ?」

 

私が冷たい目で睨むと、二人は怯んだ。最も簡単に、怯んだ。

吸血鬼の睨みに慣れている私は、それと同時にどうすればいかに人を怯えさせられるかを覚えている。

それは感覚的なもので、大抵の人間に通じるほどのものだ。

人外であっても、半人半霊程度なら平気である。

 

「さ、くや……?」

「大丈夫よ。殺さないわ。ここ二ヶ月程は殺してないしね」

「!?」

 

そういえば、こちらでは人殺しは犯罪であった。

幻想郷では、人里の外なら許されているから殺して連れ帰ることがあるのだけど。

 

「殺すことが許されているところだけよ?何をそんなに驚いているの、自分の主人が求めているから殺してるだけ」

「……」

 

冷たい空気が漂よう。

私は再びため息を吐いた。

 

「まあいいわ。吸血殺し(ディープブラッド)について色々知りたかったし、何より外出許可も貰ってるし」

 

それでも重い空気の中、ようやく口を開いたのはステイルだった。

 

「……三沢塾は、科学崇拝を軸にした新興宗教と化してるらしい。理由は簡単、錬金術師__正真正銘の魔術師に乗っ取られたから」

 

チューリッヒうんぬんとか言っていたが、適当に聞き流した。

あんまり需要のあるものではない、これ以上聞くのも無駄だ、と思ったからである。

幻想郷で暮らすには、相当なスルースキルも重要だったりする。

 

「大量の時間が必要な魔術があるとする。それを行うには、大量の時間が必要。でも、人はそんなに生きれない。だから不死である、吸血鬼を手に入れたい。それだけの理由さ、彼が吸血殺し(ディープブラッド)を手に入れた理由は」

 

吸血鬼を、手に入れたいという、ステイルの言葉に私はイライラを抑えながら言葉を返す。

 

「吸血鬼……ですって?」

「ああ。でも誰も見たことがない。なぜなら、見たものは死ぬから」

 

……みたものは、死ぬ?

 

「ウソね」

「嘘じゃない。それぐらい、驚異的な存在なんだ。スピードは人が追いつけるものじゃないし、力の差も歴然としている。そもそもの素質が違うんだ」

「じゃあ、なんで私は生きてるのかしら?」

 

単純に、投げかけてみた。

十字教に吸血鬼が実在するとか伝えたら、殺しにかかるのだろうが、その場合私が真っ先に殺すから問題はない。

 

「……君は吸血鬼に会ったことがあるとでも言うのかい?」

「まあ、それでいいわ。そういうこと。会ったことある人物がいるんだから、吸血鬼に会うと死ぬというのは迷信で間違いないんじゃないの?」

 

滞りなく流れた自らの言葉に、我ながら少し驚く。

吸血鬼に会ったものは全て死ぬというならば、なぜ私は生きている?私の家族だった人たちも、吸血鬼を殺してはいたが殺されてはいなかった。

 

「……君が嘘をついている可能性がある」

「そんなことで嘘をつかないわよ。それともなに?私が貧弱そうに見えるから?」

「そんなことはないが……」

 

わかっている、少しおちょくっただけだ。

これぐらいの年齢の青年たちは引っかかりやすくて楽しいと当麻を介して知った。

 

「ふふ、ねぇ、前から気になってたんだけど」

「なんだ?」

「インデックスのこと、好きなの?」

「ぶっ!?」

 

俺もさっき言ったら同じ反応された、と当麻が告げ口すると、ステイルが真っ赤になって止めた。

それがまた愉快で、クスクス笑ってしまった。




この土日は一日に一、二回更新しそうです。
ダメだ!と思ったらカットしちゃうので、出来ない可能性もありますが……
(元に6話分ぐらいカットしてる)


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時を止めた

えーと、日曜日です。
あはっ☆


もう遅いから、ということでインデックスを時間を止めて返すことになった。

 

「ねー、咲夜ー、とうまは?」

「今日はこれから用事があってね。科学的なことだから、わからないと思うわよ?」

「え、私もいく!」

 

私は苦笑して、インデックスと私以外の時を止める。

 

「なんで時間止めたの?」

「もう遅いからよ。さっさと帰りましょう。ちなみに、当麻も一緒に帰らないのはこれもあるの」

 

そして、インデックスをおぶる。

何度か倒れてしまったパチュリー様や寝てしまった妹様を背負わせていただいたことがあるが、それ並みの軽さである。

 

「?」

 

そして、飛んだ。

 

「!?魔力を感じないけど、咲夜どうやってるの!?」

「これは魔力じゃなくて霊力。魔力と同じく生まれ持った力よ。知ってるでしょう?さあ、さっさと帰りましょう」

 

インデックスは存在自体は知っていたらしい。

素直に感激した様子で、キョロキョロしている。

ちなみに高速で飛んでいるが時を止めているために風など起きない。

空気抵抗もなく、ものの数秒で男子寮へとついてしまった。

時を止めたまま、インデックスの夕飯とステイルと当麻の分のおにぎりを作る。

 

「咲夜って能力者だよね?」

「そうよ」

「なのに霊力もってるの?」

「ええ。霊くらい見えるわよ。あと、それを使った戦闘もそれなりに」

 

そう言うと、インデックスは何か考えるように俯いた。

 

「咲夜ってさ、本気に能力者なの?」

「なに言ってるの。私は時間操作(タイムオペレーター)よ?学園都市(ここ)のコンピュータがいってるんだから間違いないわ」

 

こんぴゅーた?と疑問にもったらしいが、私は気にせず進める。

インデックスがこの言葉の意味を知ったところで意味はない。

 

「本当に時間操作(タイムオペレーション)なの?」

「……ここに来る前は【時を止める程度の能力】って名乗ってたけど、っていうことかしら?」

「程度?」

「そうよ。程度。私は【運命を操る】ことも、【心を読む】ことも、【ありとあらゆるものを壊す】ことも出来ないからね」

 

そう、だから程度なのだ。

その程度しか出来ない。

あとはそれぞれ魔法が使えたり、霊力を扱えたり、妖力神力が使えるだけの違い。

 

「……それは能力なの?」

「さあ?中には努力でどうにかする人もいるらしいけど。あとは、自らが覚醒させる場合もあるようね」

 

永遠亭の薬師や、人里の貸本屋の娘などだろうか。

だけどそれだけではない。

竹林の蓬莱人は薬によってのものだし、前に宴会でみた地霊殿の妹は【心を読む】という能力を封じたことでまた別の能力の持ち主になっている。

 

「へぇ……まあいいか」

「それはそうとインデックス。ステーキは好きかしら?」

「好き!」

 

私はよかった、と笑って牛肉のステーキをちゃぶ台に並べた。

 

「美味しそう!これ、全部食べていいの?」

「ええ、これはインデックスの分だからね」

 

そう言うなりインデックスはガツガツとステーキを口に運ぶ。

ライスをさりげなく差し出すと、それも一瞬でなくなってしまう。一体どこに消えたのだろうか。

 

「咲夜はいらないの?」

「もう寮で食べてきたわ。常盤台のご飯は結構美味しいのよ?」

 

舞夏たちが作っているようだが、普通のレストラン並みだ。

ちなみに学園都市ではまだファミレスしか行ったことはない。

 

「へぇ!食べてみたい!」

「今度、盛夏祭っていうのがあるらしいから、きたら?」

「えっ!ホント!?」

 

ちなみに詳細は知らないが、まああることは確かなので一応言ってみる。

すると、インデックスは目を輝かせて嬉しそうに笑った。

 

「そういえば、咲夜。いつまで時間とめてるの?」

「えーと、特に理由はないけど……」

「疲れない?」

「疲れないわよ。二四時間ぐらいはいつも止めてるわ」

 

紅魔館での仕事は多い上に、なるべくお嬢様にお付きしたいから時間が倍くらい必要なのだ。

最初はヘトヘトになっていたものの、今は問題ない。

きっと二十四時間以上止められるのだろうと思うけど、そこまで話す必要はないだろう。

 

「じゃ、お風呂入っちゃいなさい」

 

私はインデックスを風呂に通すと、時間を進めた。

 

「時間が……」

「止めたままだとシャワーがでないからね」

 

私が使う分には問題ない。なぜなら、私が触れたものの時は動きだすから。

けど、私以外が触っても、それは時が止まったままだ。

 

 

「でたよー」

 

また時をとめ、着替えさせて寝かしつける。

そして、寝たのを確認してから__

 

「おやすみ、インデックス。いってくるわね」

 

とある高校の男子寮を、出た。




……ずっと気になってたリズム天国とやらを買いました。
やりました。面白かったです。
今日は必ずもう一話だしてみせます。
あと、牧場物語予約しました。
楽しみです。


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三沢塾への道のりでの話

インデックスがスフィンクスを拾ってなかった。


少し、吸血殺し(ディープブラッド)という能力をもった少女の昔話をしよう。

 

 

ある日少女は生まれ持ったその力のおかげで吸血鬼をよんでしまった。

 

 

少女の生まれ育った小さな村にやってきた吸血鬼は、周りの人々を吸血鬼に変えた。

 

 

甘い、甘い少女の血匂いの誘惑に勝てなかった吸血鬼たちは、

 

 

少女の血を吸って、灰と化した。

 

 

村の人間はみんな仲良しだったのに。

 

 

親も、友も、八百屋のおじさんも、肉屋のおじさんも、優しかったおばちゃんも、みんな殺した。

 

 

誰もいなくなった村で。灰だらけになった村で。

 

 

駆けつけた人間を前にして彼女はこう呟いたという。

 

 

 

「わたし、またころしたのね」

 

 

 

これが、当たり前だという顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……忘れ物をした。

空を飛んで、男子寮に再び向かった。

 

「っと……ナイフナイフ……」

 

ナイフを五〇本置いてきてしまったのだ。

それを拾った時、インデックスの気配がないことに気がついた。

 

「……インデックス?……猫?」

 

これは当麻に怒られそうである。

けど、あの優しい少年のことだ、許すだろう。

私は再び寮を出た。

 

 

 

 

 

 

「おっ、咲夜おかえりー」

「ただいま」

 

実質、三〇分ぐらいだろうか。

ほとんど時を止めていたからそこまで時は進んでいないと思うが。

 

「じゃ、敵について話すよ」

「どうぞ」

「敵の名前はアウレオルス=イザードだ。知ってるか?」

 

ふうむ、と考えを巡らせてみる。

けど、思い当たる人物はいない。

先ほどから言って、おそらく錬金術師なのだとは思うが、そこまで私も魔術に精通してるわけでもないので当たり前と言えば当たり前なのだけど。

 

「知らないわ」

「じゃあ、パラケルススなら知ってるかい?」

「名前だけならね」

 

いつだったか、人形使いがパチュリー様と共に錬金術について話しているときに聞いたレベルだけど。

 

「そうか……でな、その錬金術師がもしかしたら吸血殺し(ディープブラッド)を使って吸血鬼を飼いならしている可能性があるんだ」

「……誇り高き吸血鬼が?」

 

ボソッとつぶやいた言葉は聞こえていないらしい。

 

「そもそも錬金術師という職業は存在しない。錬金術自体も完成された学問じゃないんだ」

「それなら知ってるわ。錬金術で作り出した、金銀や宝石は結果なのであってもとの目的ではないって。知り合いは錬金術を齧ってるからね」

 

彼女の作る人形には、彼女の生み出した宝石やら金やらが使われていることがある。

私のナイフが壊れた場合、材料を渡すと銀を作り、ナイフにしてくれるので(私よりずっと器用なのだと思う)よく頼んでいたりもするから結構そっちは知ってたりするのだ。

 

「ああ、そうなのか。けど、世界最高とも言われたアウレオルスといえど三沢塾を要塞のように固めることしか出来ないんだよ」

「錬金術には結構な時間がいると聞いたけど?」

「アウレオルスにとってそれぐらいは容易いことさ」

 

アリスに依頼するときには決まって時間を止めている。

対価どころかそれ以上のものを払っているため、嫌な顔ひとつせず作ってくれるが。

 

「へぇ、そうなの」

 

と、三沢塾についたらしい。

 

「何も感じない……」

 

ステイルが呟く。

私は三沢塾の建物に触れた。

 

「ほんとね、これはかなりの使い手みたい」

 

全く感じないと言えば嘘になるが、感じるにはこれでもかと感覚を研ぎ澄まし、そして触れないと気づくことが出来ない。

 

私たちは扉をくぐって中へと入っていった。




ちょっと少ない。


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戦闘と言う名のゲーム

紅魔館や常盤台には劣るものの、それなりに豪華な玄関。

当麻曰く、ここは「ここの塾に入ろうかな」と考えた人へいいイメージを与えるためのものなんだと言う。

まあ、確かにボロボロで時代遅れな所より、豪華で現代風の方がいい気がする。

 

「__そんなことより」

 

と、私は言葉を切った。

当麻とステイルが、不思議な顔をして見てくる。

 

「彼らは私たちに気づいていないみたいね」

「え?」

 

視線などはおろか、先ほど急接近していた生徒がいた。

気づくことなくどこかへ行ったが。

 

「あと」

「まだあるのか?」

「むしろこっちの方が本題よ」

 

ひくり、と漂う匂いに感覚を寄せる。

うん、間違いない。

 

「……この、血の匂い。致死レベルよ」

 

一番近くて__あそこから。そこへ向かうと、そこには力尽きた騎士の姿。

 

「ほら、ね。もう死んだも同然だわ」

「き、救急車!」

「ばかね。そんなことしたってもう助からないわ」

「その通り。ほら、さっさといくぞ」

 

当麻は悔しそうに眉をひそめ、アレ?っと止まる。

 

「……なんで、こいつら気づかねーんだ?」

「さっき言ったでしょう。彼らがいるのはコインの表のようなもの。なら、裏にいる私たちに気づくわけがないじゃない。きっと、この血まみれの人も裏の人なのよ」

 

私はそのまま、エレベーターを無視して階段へと向かう。

えっと……向かうべき階は……

 

「エレベーターは?」

「……潰される可能性を無視するのなら、利用すれば?」

 

うげぇっと当麻は顔をしかめておとなしく付いてきた。

……それでいいのだ、それで。

 

「なあ、ひとつ聞いていいだろうか」

「なに?ステイル」

「なんで、君はそんなに血の匂いに敏感なんだ?」

「……なんで、って言われても……」

 

吸血鬼に支えているために毎日嗅いでいる匂いだから、とか言えばいいのだろうか。

いや、それだとちょっと刺激が強すぎるかもしれない。まず、これから吸血殺し(ディープブラッド)()()に行くんだから。

じゃあ__

 

「私の一家は殺し屋だったのよ」

「!?」

 

……そんなに刺激的なことだろうか?

少なくとも、物心ついた頃からそんな家にいた私にはわからない。

 

「こ、こ、こ、殺し屋!?」

「え、ええ。今は離縁してるから(吸血鬼の)殺しはしてないけど……」

 

三人で揃って廊下を歩む。

ステイル曰く、この建物全体がコインの裏らしく、歩くときの衝撃はそのまま私たちに帰ってくるのだという。

確かに、疲れる気がする。

……この二人はそれどころではないようだけど。

 

「よ、よかった……って言えばいいのか?」

「ま、それが生き業なんだから大目に見て欲しいわね。もう私には関係ないけど」

 

うん、疲れた。

私はバレない程度に浮いた__けど、ステイルには気づかれたようだ。

……あれ、魔術師って霊力にも詳しいのだろうか。

 

「……魔術?」

「なわけないじゃない。私は能力者、それに魔術なんてみたことしかないわ」

「じゃあ……」

「霊力、気づいてるんでしょ?魔力じゃないって。魔術なんて大それたものでもない。能力なんて言えるものでもない。浮いた理由はただ一つ、疲れるからよ」

 

とりあえず言葉を並べ、当麻でもわかるレベルに高度を上げた。

 

「!?なっ、えっええっ!?」

「私の周りでは当たり前だったけどね。こっちじゃ珍しいらしいし」

 

そして、またバレないレベルに(バレてるけど)高度を下げる。

ふう、とため息をついたところで当麻の顔に少し違和感を覚えた。

 

「どうしたの?」

「いや……インデックスどーしてんのかなーって」

「電話してみたら?」

「え、寝かしたんじゃねーの?」

「そうだけど……あの子のことよ、きっと起きてるわ」

 

そうだな、と当麻が携帯を取り出して自宅へかけ始める。

すると、インデックスの声が聞こえてきた。

 

「……嫉妬してるの?」

「しないわけがないだろう」

「そうね」

「あの子は色々な人と親しくしてきた。父親になろうとした人、親友になろうとした人……けど、あの子は忘れてしまった」

 

思い出してくれれば、すぐにでも飛びついてくるはずなんだよ、とステイルは言った。

 

「……でも、今は逆ね。忘れたのはインデックスじゃなくて、当麻なんだから」

 

ぼそっとそう呟いたが、誰にも聞かれてはいないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは五階だろうか。気が遠くなるような長い非常階段を抜け、ドアの向こうへと足を踏み入れた。

 

「__……」

 

あるのは、目、目、目、目。

一六〇もの目が、こちらを見ている。じぃっと、生気のこもっていない目で。

 

「__熾天の翼は輝く光、」

 

一人の声は二人になり、二人の声は三人になる。

八〇の魔術の大合唱が、部屋を覆い尽くしていく。

そして、魔術と思われる弾幕が見え__

 

最強の盾(イマジンブレーカー)。君の出番だ」

 

私は当麻の命運を祈りながら時を止めてその場から少し離れた場所へと移動する。

 

「まるで、弾幕ごっこ(ゲーム)ね」

 

クスリ、と気づけば笑っていた。

 

けど、時を止めることをやめたところで彼は逃げて行く。

私は今度は苦笑した。

 

「こんなのいちいち相手にしてられっか!」

「それじゃあ意味がないじゃないか!」

 

なので私はまたまた時を止める。

 

「いい?これはゲーム。制限時間があるゲームなのよ。ルールは簡単、避けるだけ」

 

そうはいったものの、私たちは階段まで走ってきていた。

それを話しているだけで、ここまで来てしまったという方が正しいかもしれない。

 

「……これは戦闘なんかじゃない。ってことで、頑張りなさい」

 

どんっ。と当麻を階段へと突き落としといた。




咲夜さんはつおい。
あと、これからも読み返しします。
頑張ります。


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吸血殺しとの再会

最近の投稿はこのへんの時間が多い。わざとではない。


私はステイルに一応目線を送ると、階段を飛んで降りた。

もう飛ぶことに躊躇しない、私たちを見ることが出来るのは当麻とステイル、それを除いても魔術に多少は精通した子どもである。それっぽっちを危険視する必要なはないと判断したからだ。

 

「……さて」

 

どうしたものか、と考える。

目の前には当麻と魔術らしきものを唱える少女。

 

「おいっ!そのまんまじゃ、お前……」

 

どうやら彼の知識の中には『能力者は魔術を使えない』というものが備わっているらしい。

 

どさり、と少女は倒れた。

 

見るからにボロボロである。私はどうせ当麻はこの少女を助けるのだと思って、時を止めた。

そして、患部に手をあて、霊力を流し込む。

霊力とは、生命力と言っても構わないものだ。彼女に生きる希望を少しでも見出してもらえれば、生き長らえる確率は格段にあがったりする。

 

そして、当麻の死角へと移動し__時を動かした。

 

「っ!」

 

予想通り、彼は彼女を背負って進み始める。

 

「……随分と重そうなこと」

 

でもこれは彼が望んだことだ。

これ以上、手を貸すことはできない。

ふう、と目をつぶり、また開く。たったそれだけをしたはずなのに、景色はまるで変わっていた。

 

「弾幕!?」

 

仕方ない、と避けた。

けど、それらは当麻たちに向かっていった。

危ない、と叫ぼうとした。柄ではないとはわかっているけど、助けたいと少なからず思った。

 

ぴたり

 

そんな音が聞こえた気がする。

気づけば、弾幕は宙に浮かんだまま止まっていた。

 

ドサドサ……

 

そして今度は軽快な音とともに弾幕が崩れ落ちていく。

まるで、張り詰めていた糸が切れたように。

 

「誰……?」

 

階段から感じた、今まで気づかなかった視線。

私はすぐに飛んでいった。

 

「それは。こっちのセリフ」

 

そこには、姫神秋沙(ディープブラッド)が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは。見た目が派手なだけ。それに力にも溢れてる」

 

チラリ、と姫神秋沙に見られたが、適当に目線を外した。

バレるはずがなかったはずなのだが、バレている。

 

「あなたも。わかってるんでしょ」

「……これは皮膚が剥がされ毛細血管が破れただけで、大動脈までは行っていない。つまり、致命傷ではない、ということでしょう?」

 

こくり、と彼女はうなずいた。

と、いうかこれぐらいわかる。これでも、毎日人間を解体してきてたんだから。

けど、人間というのは弱い。だからショック死とかいう惨めな死に方がある。

『ああ、だめだ、もう私は死ぬんだ……』

とか本気で思うと本気で死んでしまう。

 

「そう。手伝って」

 

と、彼女は服をめくりあげた。ゔ、と当麻がわかりやすく反応するのを尻目に、私は学び舎の園で買った純白のハンカチを取り出す。

 

「……高そう」

「別に気にしなくていいわ、また買えばいいもの」

「あなたがいいなら。いいけど」

 

ぎゅっ。

彼女は当麻のベルトで腕を締め上げ、動脈の流れを止めると避けた腹の肉を髪の毛と裁縫用の針で縫い上げた。

その間、私は黙って彼女が治療しやすいように、補助を一応しておいた。

 

「これで。ひとまずは安心」

 

彼女の巫女装束は血でベタベタだが、そんなの気にしないといった風に話し始める。

かく言う私のメイド服も、血で汚れてしまっているが。

 

「……けど、まだ気休めね。消毒が完全じゃないし」

「そのとおり。病院に行った方が。確実」

 

要するに、あとは私たちじゃできないということだ。

 

「あなたって医師免許でも持ってるの?私は人間を()()()()出来ても()()は出来ないからね」

 

無論、自分は例外だけど。

幻想郷に医師なんて竹林の薬師しかいないし、そもそも幻想入り前はどうしてたんだという話になる。

 

「……持ってない。私。魔法使い」

「……そ」

 

パチュリー様やアリスのような種族的なものなのか、魔理沙のような人間の真似事なのかで分かれるかとは思うが、聞くのはやめておいた。

 

「じゃ、当麻。さっさと救急車よんでちょうだい」

「……本当に魔法使いなのか。気にならないの」

「別に気にならないわ。だって、本人が言ってるんだし。それに、先ほど魔法だって見せてくれたじゃない。あそこまでしてくれて、どこを疑うというの?」

「科学の住人でしょ」

「そうだけど、非現実(オカルト)の住人でもあるのよ。私は」

 

信じられないのか、彼女は黙ってしまう。

特に信じて欲しいとも思っていないが。

 

「はぁ……んじゃ、さっさといくぞ」

「ええ」

 

私は立ち上がって当麻が少女を背負う手助けをする。

しかし一番の目的でもある、吸血殺し(ディープブラッド)は動かなかった。

 

「お前も行くんだよ」

 

焦ったくなったのか、当麻が口を開ける。

私は無表情のまま、彼女を見遣った。

 

「けど私は」

 

何か彼女が言おうとしたところで、何か物音がした。

いや、正確には何かを引きずるような音。

私は耳をすます。

憎悪の感情が込められていると感じるくらい荒い息と、念。無意識にそちらを睨んでしまうくらいのものだった。

現れたのは、白いスーツを着た緑の髪の外人。義腕に義足をつけた、男性だった。

 

「……すごい血の匂いね。あなたがアウレオルス=イザード?」

「誰だ、お前」

「名乗るのは遠慮させてもらうわ。ここまで明らかな血の匂い、吸血鬼でもさせないわよ?」

 

私は冷酷な笑みを浮かべてそう言ってみた。

彼の引きずるものを見てみると、それは人間。上質とはいえない。おそらく、これは錬金術の材料だ。

 

「あら、不味そうな(美味しそうな)人間」

「……お前は吸血鬼なのか?」

「まさか。人間よ。だって、吸血鬼を見たものは死ぬんでしょう?」

 

私は不適な笑みを浮かべて見せると、彼は簡単に挑発に乗った。

久しぶりにみた錬金術は、なんだか新鮮である。

吸血殺し(ディープブラッド)に目線を送ると、彼女は身を引いてくれた。

うん、久しぶりにちょっと本気を出そうかしら。




咲夜さん無双の予定は……どうでしょうね



追記。色々とおかすぃ。


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十六夜咲夜の小さな本気

軽く無双です。


彼の周りを高速で回る金たち。

まるで竜巻のようなそれはとても幻想的で。けれど、見れば見るだけ闘志が燃やされていく感覚がする。

私は誰にも気づかれないように、はあっ、と大きく息を吸った。

 

「……あなたの歪んだ感情が出過ぎているわ」

 

金属たちはどろどろに溶け、広がっていく。

 

「__っ」

 

瞬間、黄金の鏃が目の前を突き抜けた。

霊夢ほどではないが、それなりに勘のはたらく私はなんとか避けると態勢を整える。

 

「やるな」

 

歪んだ笑みを浮かべる彼に、軽く鋭い目線を送ると霊力でナイフを生み出した。

無論、銀のナイフより殺傷能力は低いというか、無に等しい。

けれど、彼はおそらく霊力を知らない。存在は知っているかもしれないが、私たちのように軽く扱う人間がいることを知らない。

銀は金属だ。つまり、錬金術の材料にされてしまう場合がある。それなら話は簡単だ、霊力で作ればいい。霊力は錬金の材料に使えないはずだ。

使えたとしても、すぐさま材料とみなすことはできないはず__

 

「幻象「ルナクロック」」

 

空間を、ナイフが飛び交う。

アウレオルスは危なげなく、それを避けていった。

 

「__ダメか」

 

これは、もっと本気でやった方がいいのだろうか。

本気は本気でも、これは【簡単(イージー)な本気】なのだから。

また再び、アウレオルスの錬金術が飛ぶ。

 

「本気とはそんなものなのか?」

「……いえ、ちょっとあなたを甘く見ていたみたい。でも、そうよね。白黒の魔法使い(図書館泥棒)を倒すような火力でやらないと足りないわよね」

 

弾幕を放ちまくる。予定変更だ。

隙間という隙間を埋め、アウレオルスを追い詰めてみる。

 

「__フッ。それで追い詰められるとでも思っているのか?」

 

突如、再び放たれた黄金の鏃。

視界を埋めるほどの弾幕で、私の場所を今ひとつつかめなかったのか__

それは、姫神秋沙に向かって進んでいった。

 

「__っ!」

 

高速の鏃を、止めることは出来ないのか。咄嗟に考えるが、答えは出てこない。

 

 

 

彼女は、きっと優しい。

お嬢様を殺すような能力を持っていても、きっと。

 

 

 

__時が、遅くなった気がした。

自分以外の時が、半分ぐらい遅くなった気がして__

黄金の鏃は、突如現れた先ほど助けた少女の手に、吸い込まれるように突き刺さった。

 

「なん……で」

 

私の放つ弾幕から二人を守っていた当麻が、何かを叫んでいる。

注いだ霊力は一体なんだったの?彼女は何を思って手を出したの?さっきの時点で致命傷には変わりなかった。これ以上傷がついたら、死ぬことなんてわかっていたはずなのに?

__疑問だ。

 

一瞬にして彼女は、黄金へと変わった。

 

 

「__ねぇ、私、何故かイラついているの。__ねぇ、殺して、いい?」

 

 

何にイラついているのかわからない。

それは、錬金術師アウレオルス=イザードへの怒りなのかもしれないし、助けたはずの少女が自分の命を守ろうとしなかったことに対してかもしれない。

 

私の取り出した、銀のナイフ。

たった、100本ほどのナイフ。

錬金術を使えば、すぐに溶かされてしまうような、それを。

四方八方に、投げた。

美しさなんて求めずに、ただ、がむしゃらに己の出せる精一杯のスピードで。

 

姫神秋沙には、当たらなかった。

アウレオルス=イザードは、太ももをかすっただけだった。

そして、上条当麻は__

 

「ガッ!?」

 

__右手で掴んだ。

 

「こっ、これ……は」

 

たらりとたれる血を見てアウレオルスが言う。

己を右手を左手で押さえながら、当麻が苦しそうに声をだした。

 

「銀?」

「知ってるでしょ?吸血鬼が苦手な銀よ。けど、これが私の武器」

 

殺すことは出来なかったか、と少々落ち込む。最近は戦いの中で人を殺していなかったからだろうか。

私が再びナイフを構えたとき、アウレオルスは鎖を出現させた。




ちょっと物語が進むの早いかもしれない。
規制しなければ。


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アウレオルス=イザード

題名がネタ切れ。
内容が長くなるほど難しい。



一部変更致しました。


side 当麻

 

 

十六夜咲夜は強い。

常盤台中学の生徒だと言うことで、それも転校生だと言うことで、それなりに能力に長けているのだろうとは思っていた。

それから時々放つ威圧感やお嬢様を守るべきメイドだとかいうことで、それなりに強いことを予想した。

魔術師相手にも遠慮しないことから、覚悟のある人間だとも思った。

 

 

それから彼女の放つ、弾幕をみた。

白や青を基調とした華やかなそれは、端から見ればとても綺麗なのだろう。

でもそれは、この場にいないもののセリフだ。

彼女は敵だろうと味方だろうと容赦なく弾幕を放ってきた。

綺麗に空を舞う姿を見て、彼女は勝ち負けより美しさを求めているのだろうと思ったから、なんとなく納得はしたけれど、自分だけではなく姫神たちに襲いかかっているのをみて少なからずイライラした。

 

「幻象「ルナクロック」」

 

ナイフ型の弾幕が、先ほどより密度を増して襲いかかってくる。

しかしそれは、敵も同じことだ。

こちらからは見えないが、これをピョンピョンと躱すことは出来ないだろう。

タイムリミットを迎えたらしく、それは終わりを迎えた。

けど、こちらが息切れをしているのに対してアウレオルスは先ほどとあまり変わっていない。

 

「__」

 

十六夜咲夜は、強くないのだろうか。

 

 

 

 

否、そんなことはなかった。

 

突如飛んできたナイフを()()()()()()()()()()()()()()()時。

勢いよく、右手から血が流れ始めた。

 

それは、銀のナイフ。彼女の取り出した、本物の武器。

高速で振るわれたそれは、アウレオルスも避けることは出来なかったようだ。わずかに血がたれている。

 

「__なんでお前はそんなに強いんだよ?」

 

上条当麻は己の弱さばかり知っている。

上条当麻は学園都市の十六夜咲夜について、詳しくなり始めている。

強さだけが全てではない。けれど、強ければ強いほど、ヒーローになりやすいのだ。

上条当麻は密かに憧れを抱いた。

 

 

黄金の鎖が、襲ってきた。

バシリ、と()()()つかんで、それを振り回そうとしたアウレオルス=イザードを制御する。

そして、ぐいっとそれを引き寄せた。

アウレオルス=イザードは自らが生み出した黄金の水たまりに足を滑らせて入っていく。

上条は十六夜咲夜に負けんとばかりに、彼に襲いかかった__

 

 

 

 

 

 

 

 

side 咲夜

 

結果として、上条当麻は錬金術師に勝った。

ボロボロの両足で、逃げていった。

なんかいいとこ持ってかれた気もするけど、まあいい。あんな生意気な人間が、逃げ帰っていく様子が見れたのだから。

なんか吸血殺し(ディープブラッド)があのアウレオルスは偽物(ダミー)云々とか言ってたけど、もうそれはどうでもいいことである。

 

「吸血鬼は。普通の人間と変わらない」

 

姫神秋沙はそう言った。

 

「泣いたり笑ったり出来る。私たちとなんら変わりのない人たち。けど。私の能力はそんな人たちを殺してしまう」

 

懐かしそうな目をした少女は、その後すぐ私に向き直る。

 

「あなたなら。わかるでしょ」

「あら、知らないわ?」

 

彼女は私を少し睨みつけてきたが、スルーした。

まだ、私のお嬢様については他の誰かに知られては困る。たとえ、ここに当麻と姫神しかいなくてもだ。

大方の事情は察したのか、姫神は己の知る吸血鬼について話し始めた。

吸血鬼は皆の予想する恐怖の生物ではない、人間と同じように笑って泣ける、そんな人たちなのだと。

もちろんそれはお嬢様たちにも言えることで、けれど、恐怖の生物であることも確かである。

姫神は恐怖を思い出しているのか、声が震えている。まあそうだろう。今、私がこの能力に目覚めてしまいお嬢様方を殺してしまったら……想像するだけで口に血が滲んでくる。

 

「私はもう誰も殺したくない。殺してしまうぐらいなら自分を殺す。チカラを抑えるために。私はここにいる」

 

アウレオルスは姫神にもっと簡単な結界を張れると言ったらしい。それは衣服の形で、それを着れば吸血鬼をおびき寄せることもない、と。

 

「__じゃあ、なんで外にいたの?」

「そうだよな。だって、もうお前は殺したくないだろ?だったらなんで外に出て食い倒れてたんだ?」

「彼は吸血鬼が欲しいけど。私がここから出なければ吸血鬼はやってこない。おびき寄せるには。私が外に出なければいけない」

「でも、それじゃあまた__」

「大丈夫。彼は吸血鬼は欲しいけど。絶対に傷つけないって」

「そう」

 

一応私は納得したのだが、当麻はそうではないようだ。

二人が再び会話する中、私は足跡を聞いた。カツ、カツと一歩一歩ゆっくりと進んでくる足跡を。

まるで、我こそが最強で他の者は伏せていろとでも言わんばかりの偉そうな足跡。

なんだかいやで、私はそちらをみた。

 

「貴様は随分と場慣れしているようだな」

 

それは、先ほど当麻が倒したアウレオルスとそっくりな、けれど傷一つ追っていないアウレオルス=イザードだった。




めっちゃ頑張って書いたはずなのに2000は行かなかった。


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本物

こんなのでよかったのかな。


彼から感じるのは、一言で言えば威圧感。

お嬢様が放つものほど強力ではないが、それなりの力であることは確かだ。

 

「名は」

「__まずは自分から名乗るものではないのかしら?」

「……アウレオルス=イザードだ」

「そう、私は十六夜咲夜よ」

 

私たちがこんな短い会話をする間、当麻が姫神の前につくのを視界の端でみた。

 

アウレオルス=イザードの威圧を感じるが、私はいつものように立ち、軽く銀のナイフを構える。

 

「……ねぇ、聞いてもいい?」

「なんだ」

「能力と魔術、どちらが戦闘向きだと思う?」

「魔術だな」

 

彼は即答し、私に更に威圧感を放った。

 

「……そう。あなたの魔術って、どんなものなの?キラキラ光る星の魔術?人形が舞う魔術?それとも、七つのタイプの鮮やかな魔術?」

「どれにもあてはまらないな。こういうものだ()()()()()

 

彼が私に向かってそういうが、私に変化は訪れない。

 

「……?」

 

よく分からないが、私の能力か、はたまた窒息死という常識を持っていないからか、変化は一切訪れない。

 

「……えっと?」

 

私も彼も、少々困惑をしてしまう。

まあいいや、と私は思って霊弾のナイフを放った。

 

「、魔力、ではないな」

「ええ、正解」

 

魔力ではないと見破ったようだが、霊力とまでは理解してないようだ。

私はふぅ……と、息を吸った。

 

 

 

そして、己の時を止める__

 

 

 

気づけばそんなことをしていた。

肉体の老化も、心臓の動きも、脳さえも。すべて止めたけれど、動くことは出来る。

肉体に最強の鎧をまとっているようなものだ。

無意識に私の闘志が高まっていたらしい。

アウレオルス=イザードが、イラついたように当麻に「()()()()()」と言った。

そして、「()()()()()()()()」と、一言。

当麻はこの場からスタスタと出て行った。

 

「姫神秋沙。私とコイツの戦闘に巻き込まれる前に、ここから出て行ってほしい」

「!?」

 

彼女の動きが止まる。

 

「大丈夫よ、腕を貸しなさい。あなたも邪魔はいない方がいいでしょ?」

「……必然」

 

ピキリ、と彼女の肉体の時が止まった。

彼女にこれ以上吸血鬼を殺して欲しくない、と願いながら集中してみたら、成功した。

これで血の流れも溢れ出る匂いも消える。

 

「忠告。外に出ても大丈夫だけど、絶対に当麻の右手に触れないこと。あと、そうね。私が遠隔操作してるから、この第七学区からは出ないこと。これはずっと続くものではないからいつか私を訪れなさい」

 

私がそう言うと、彼女はコクリと静かに頷いた。

そして、部屋を出て行く。

 

()()

 

アウレオルスの声が響くが、私には何も起こらない。

 

『なんでだ?』

 

その目はそう言ってるように見えた。

 

「私の能力知ってる?」

「先ほど見た。時間操作、だろう」

「ええ、その通り。けどね、ちょっと違うの。私は飛行能力者よ。無意識に飛行してなかったみたいなんだけど__」

 

ふわり、と私の身体が浮く。

アウレオルスが少し驚いたように私を見た。

 

飛行能力(これ)時間操作(あれ)も生まれつき。これでも私は私の信じる最強の()()使()()をお客様に持つから、魔術にも結構長けてるのよ?」

 

もうコイツは殺してやる。私はそう決め込んで、手札を全て晒した。

 

「……魔法使い?馬鹿な。魔法使いと名乗って許される者はパチュリー・ノーレッジただ一人……っと()()()()()()()()()()()()()

 

そちらをみるとステイルが出て行った。

……とりあえず、そこはいいや。

 

 

「パチュリー・ノーレッジ、そうね。彼女はとても偉大な魔法使いよ。そして、私の大事なお客様」

 

 

思ったよりパチュリー様の名は知られていたらしい。

あの見た目でも、私の五倍や六倍は生きてる身、それなりの伝説が残っていてもおかしくはない。

 

「お前はパチュリー・ノーレッジを知ってるのか?」

「もちろん。性格や身体の調子、好きな紅茶の温度までね」

 

チィっと、彼が軽く顔を歪める。

 

「……ついてこい」

 

くるり、と彼は方向転換をして部屋を出ていく。

いつの間にか彼から放たれる威圧感も消えていた。

 

__なんでパチュリー様を知っているのだろう?それに、今の表情って一体?




……くっ、少ないな……
じ、次回こそは二千!目指せ二千!
そして投稿遅れてすみません!


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竜王の頭

とりあえず、あれです。当麻覚醒。
また、更新遅れてすみません。


校長室と名付けられたそれの、()()()()()なら知っていた。

公立の学校の最高責任者的な人がいる場所だ、多分。私立である、常盤台中学にももちろんいるが、最高権力かと言われればやはり理事長の方が上だろう。

 

黒檀の大きな机。そこにはインデックスが寝かされていた。

 

イギリス英語で書けば、Index-Librorun-Prohibitorum だ。これでも吸血鬼のメイドとしてキリスト系やイギリスについては詳しい方だと自負しているし、それぐらいは客に魔法使いを迎えているものとしての知識の一部に過ぎない。

 

「私はインデックスを助けたいだけだ」

 

彼はそう言って、彼女に近づく。

 

「__なにから?」

 

吸血鬼は無限の命を持つとも言われている。実際はそこまで万能じゃないし、そもそも弱点が多いがなにも損傷を負わない限りは生き続けるのだ。

 

「首輪」

 

首輪の正体は知っていたらしい。

私はクスリと笑って見せた。

彼が怪訝そうにこちらをみる。

 

「あなたは大きな誤算をしているわ」

「なんだ」

「ねぇ、知ってる?彼女はもう、()()()()()()()()()()のよ?」

 

私は彼より更にインデックスへと近づいた。

 

「私も一応聞いているわ。あなたも彼女のパートナーだったのでしょう?けど、もう彼女はあなたに振り向かない。なぜなら、彼女には新たなパートナーがいるから」

「!?」

 

バンっ!

 

と、大きな音と共にドアが開く。

私はにこりと微笑んだ。

 

「お帰りなさい、上条当麻」

 

人間として最低限の名前すら与えられなかった少女を再び救えるのは、彼だけかもしれないと冷静になった頭で考えた。

 

「紹介するわね。彼が、彼女を救った今のパートナーよ」

 

アウレオルスは唖然としたあと、狂笑し始める。

私は静かに目を閉じた。

コイツはもう戻れない。インデックスの消えた記憶の彼が、どんなにいい人間で、どれだけインデックスがよく思っていたとしてもその彼にはもう戻れないだろう、そう考えていたとき。

 

「__とうま?」

 

私はハッとしてインデックスの方を見やる。

うっすらと目を開けた彼女は、当麻の名前を呼んでいた。

 

「__インデックス__」

 

ぼそり、と私はつぶやく。

アウレオルスは失念しているようだった。全てを忘れたヒロインが、別の主人公を思うところなんて見たくなかったのだろうか。

狂気に侵されたかのような笑みを浮かべ、腕を振り上げた。

 

「っ!」

 

瞬時に私はナイフを投げる。

銀の、十分に殺傷能力を持ったものを、腕に向かって投げた。

音もなく彼の腕にナイフが突き刺さったが、彼がその腕を抑えることはなかった。

たらたらと血がした垂れ落ちる。

 

「っ!十六夜咲夜!()()()!!」

 

アウレオルスの声が響くが、私はそのまま立っていた。

 

「__あなたのそんな簡単な魔術なんて、きかないわよ?」

 

それより、と私は言葉を区切る。

 

「そんな馬鹿馬鹿しい魔術なんかするんだったらさっさともっと憎らしい少年を殺せばいいんじゃないの?当麻が、そんな簡単に潰れるわけはないでしょうけど」

 

軽く挑発すると、彼は簡単にそれにのる。

なんて簡単なヤツだ。

 

「ステイル。退きなさい、あなたの出番はない。もちろん、私にもね」

 

窒息死、感電死、と立て続けに生み出される魔術を彼は幻想殺し(イマジンブレイカー)で消していく。

私はそれを目で追いながら、ステイルに話しかけた。

 

「__ねぇ、一つ聞いていい?」

「今か」

「ええ、彼のあれはなんて仕組みなのかしら。スペルカードじゃなさそうだし」

「スペルカード?」

「……必要な時間や呪文を書き込んだカードだと思ってくれればいいわよ。威力はないけど。そういう特殊なものではないのなら、一体__」

 

 

「『グレゴリオの聖歌隊』だよ。他の場所で誰かに唱えさせてるんだと思う」

 

 

インデックスが忌々しそうに言った。

私は少し考え込む。

 

「自分が操ってってこと?」

「そうだと思うけど」

 

そう、と私は再び当麻に目を向けた。

随分と苦戦してるようだが、私は彼を助けずに言葉を紡ぐ。

 

「でも、開発を受けた生徒は魔術が使えないんじゃ……」

「壊れたなら直せばいい。それだけだ」

 

答えはアウレオルスの方から聞こえてきた。

まあ、その通りである。

壊れたなら直せばいい、そりゃ当たり前のことだ。

私は別にそれは当たり前だと思った。一応生徒は親からの借り物なのだろうし、借りている以上は壊れたら弁償したりなおすべきだ。これは、幻想郷でも通じたりする。

けど、当麻は違った。

 

「て、メェ!」

 

ポケットに入っていたらしい、携帯を投げて注意をそちらに寄せる。

そして、アウレオルスの顔に殴りかかった。

けれど、そこに届く気配はない。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

 

突如、隣にいたステイルが叫んだ。

私も当麻もアウレオルスも、少し驚いてステイルの方をみる。

コイツは何を考えている?魔女狩りの王(イノケンティウス)はルーンとやらを貼り付けないと出来ない術だったはずだ。

叫ぶだけで、アウレオルスのように術が発動するわけはない。

そしてそれは、ステイルにとって凶となる。

彼は、最後に当麻にヒントを与えて

 

()()()()()()()()()()()()()

 

ぼんっ。

と軽快な音を立てて、彼は弾けた。

血管と心臓はある、ドクドクと音を立てている。

どさり、とあまりに突然なことにインデックスが倒れた。

私はステイルだったものに飛んで近づいて観察してみる。

 

「よくできてるわね。これなら、あまりかさばらなそうだし」

 

うごき続ける心臓は、お嬢様や妹様が見たら喜びそうだ。

 

「そして、当麻はステイルに言われたヒントをきちんと導かないとね」

 

ステイルは言っていた。あいつの弱点は針だと。それも、医療に関することだ、と。

私も少しくらいは針治療を自らに行ったことがある。縫うことが必要な場合、とりあえず痛みをそれで堪えてどうにかするのだ。

当麻も答えにたどり着いたらしい。けど、アウレオルスの方が早かった。

 

「ふむ。お前のその自信は右手によるものだったな__」

 

彼は当麻の右手を魔術で切断した。

私が時を止める暇もなかった。

 

「っ」

 

それでも時を止め、腕をつけなければと思った。

 

「____」

「な……」

 

当麻の切り落とされた右手。否、右腕が付いていた場所から吹き出す血。

凄まじい勢いで流れる血にも、上条当麻は動じていない。さすがにあれほど出れば、人間なら誰でも動じるだろうに。

アウレオルスは焦っているようだ。無論、私もだけど。

焦って出したギロチンが、当麻に襲いかかるが粉々になって散った。

次々と生み出す、当麻を破壊するための魔術を当麻は指先ひとつ動かさずに逆に破壊していく。

 

「なに、あれ……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

吸血鬼かと錯覚させるほどの犬歯をむき出しにし、異変時のお嬢様のような赤い光を目に宿して。

心底楽しそうに笑っている。

 

そして、肩から現れたモノ。

 

「ドラ、ごん……?」

 

それはドラゴンだった。血の滴る紅のドラゴン。

そして、弾けたはずのステイルが復活する。まるで、当麻の右手に触れることでしか発動しないはずの幻想殺し(イマジンブレイカー)に触れたかのように。

そして、竜王は錬金術師を頭から飲み込んだ。




そして書いて気づく。
きちんと3千弱ですね。


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ひとつの結末ともう一つの始まり

本日2本目。
先ほどと比べたらずっとすくないけど、これで2巻が終わります。


私は当麻を背負って病院へと運びこんだ。

インデックスは時を止めて当麻の男子寮に寝かせた。

ステイルはその場で別れを告げた。

 

「__あの子は一体どうなっているのかね?」

「さあ、私にもわかりません」

 

カエル顔の医者の問いに、私はわからないと返す。

医者は、そうか、と言ってくれたけど恐らく疲れて寝てしまっているらしい当麻が起きたら再び聞くつもりなのだろう。

 

「では、さようなら」

 

私はくるりと振り返って病院を出ようと歩み始める。

この塩素の匂いは、どうも気に入らない。

 

「ちょっとまて」

「__何の用?ステイル」

 

ステイルの視線を感じ、振り返ることなく問いをだす。

 

「__なんでもない」

「そ。もうすぐ朝ごはんだから、失礼するわね」

 

瞬間移動のような形で、寮の食堂へと入ると美琴や黒子と朝食を食べた。

 

「ねぇ、美琴、黒子」

「なに?」

「なんでしょう?」

「携帯、買おうと思うんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

で、私が買ったのはガラパゴス携帯。通称、ガラケーというやつだった。

黒子に用途を聞かれ、電話がメインだと答えると、今度は美琴がネットは使うかと聞いてきた。あまり使わないと言ったら、ガラパゴス携帯を勧められた。

理由は、まだ携帯に慣れていないことと、用途がスマートフォンを必要になるほどではないからだそうだ。

まあ、私は電話や少しのメールくらいしか使う予定がなかったのでどうでもよかったのだが。

 

「それにしても、契約って長いのね。まさか3時間も食うとは思わなかったわ」

「ま、携帯を買うということはそんなもんですわ。でも、なんでいきなり携帯を?」

「必要な気がしたのよ。何度も寮の電話を借りるわけにもいかないじゃない?」

 

そうね、と美琴が言う。

それから美琴が急用を思い出したと言って焦りながら走り去って行き、黒子は黒子で風紀委員(ジャッジメント)の仕事が入って瞬間移動で消えた。

私はその足で、病院に向かう。

病室に入るとインデックスと当麻がいた。

 

「あ!咲夜!」

「おはよう、インデックス、当麻」

 

私は昨日の夜とは全く違うこの世界に思わず笑ってしまう。

 

「なんで笑ってるんだ?」

「__特に意味はないわよ。そうだ、当麻。携帯買ったの。今度からはこちらに電話してちょうだい、昨日のようなことはみんな大歓迎よ」

 

そして、覚えたての赤外線通信__先ほど美琴たちとやった__で、連絡先を交換した。

 

その水面下で、また楽しそうなことが起こっているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、咲夜は今どんな感じなの?」

「楽しそうよ?あなたの望んだ、人間らしいけど強いメイドになりそうね」

 

ふふ、と妖怪の賢者は笑う。

レミリア・スカーレットは満足そうに美鈴の淹れた紅茶を口に運ぶ。

 

「聞いてもいい?」

「なにかしら」

「私が咲夜を、外の世界に出してみたいと言った時にすぐに受け入れたのはなぜ?おかげで美鈴の代わりの門番を用意する時間がなかったじゃない」

 

隣についていた美鈴が、にゃははと笑う。

彼女はいつものチャイナ服ではなく、メイド服を着込んでいた。

十六夜咲夜の代理メイド長だ。

彼女も、咲夜ほどメイドに向いてはいないが立派なメイドなのである。

 

「スカーレット嬢は知らないかも知れませんわね」

 

と、紫は胡散臭く笑う。

 

「実は今、外の世界で戦争が起きようとしている。魔術と科学の戦争。私もそれに、興味があるのよ。そのためにもスパイは必要でしょう?」

「あら、私のメイドを利用するの?」

「信用してくれないの?利用なんてしないわ。でも、きっと彼女なら好奇心に導かれて自ら参加するでしょうね」

 

レミリアは考えるように紅茶を飲み干した。

 

「美鈴、おかわり」

「あっ、はい」

 

ふたりの間に沈黙が流れる。

 

「で、本来の目的は?」

「__じきにわかりますわ」

「じゃあ、魔術側について詳しく教えてちょうだい」

「いいでしょう」

 

紫は扇子を広げ、口元まで持ってくると魔術側の情報を話し出した。

パチュリーも知らない、最新の情報だ。

 

「ふぅん、そう。ローマ……ね。それも十字教じゃない」

「あら、やはりダメ?」

「いいわよ、別に。もうここに来たらそんなのなんかに興味はないわ」

 

場を見計らったかのように現れた美鈴が、紅茶を注ぐ。

そして、それをふたりして口に含んだ。

 

「結構楽しそうじゃない?あなたも参加するの?」

「いいえ、私は手綱を引くだけですわ」

 

それもまた楽しそうね、とレミリアは笑う。

 

「霊夢は乗り込ませるつもり?」

「いいえ、今回はお宅のメイドだけ。まあ、ちょっとくらいこちらの味方を作るつもりですけど」

 

こちら、紅魔館。

紅い館での静かな茶会は今、幕を閉じた__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では、第一次実験を__』

 

 

『ミサカは、銃を__』

 

 

『お姉様?随分と遅いんですのね』

 

 

『なんで!?実験は終わったはずじゃ』

 

 

『先ほど、第一〇〇__』




咲夜さんが携帯買いましたね。
美琴が苦労した連絡先の入手を簡単にこなしてしまいました。さすが。


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3 御坂と2万人のミサカ
マネーカードの一件


マネーカードです。
そして、手違いで全文一度消しました。失望しました。
二話分のつもりが一話分に……たんなる説明的な感じになっちゃいました。
私、スマホなんですけどね、投稿しようと思って全選択してコピーじゃなくペースト押しちゃったんですよ。グー○ル先生に一瞬で変換されました。


その日、私と美琴と黒子はショッピングへと向かっていた。

 

美琴曰く、九月に行われる広域社会見学とやらのためにものを色々と買いたいんだとか。なんでか美琴の機嫌が悪かったが私の知ったことではない、どうせ黒子のことだ、変態じみた行動をとったのだろう。

 

で、こちらの方が近道だと黒子の案内で裏道へ入り、なんの偶然かマネーカードを見つけた。一緒にいたのはジャッジメントの黒子、もちろん彼女と共にジャッジメント第一七七支部へ行き(……これが初めてのジャッジメント第一七七支部への立ち入りだったりする)、マネーカードを彼女の同僚だという初春飾利に手渡した。

 

お花を頭の上に乗っけた、のんびりとした少女だった。

で、黒子を置いて私と美琴は支部を出た。そしたら今度は、佐天涙子に出会った。

マネーカードを探していたらしく、私たちは顔を見合わせた。

 

「マネーカード……?」

「ほら、私ももう四枚見つけちゃいました!」

 

ひらひらと四枚の封筒をたなびかせ、自慢気に涙子は語る。

なので私も時を止めて探してみた。見つけた数は一二枚。涙子が目を輝かせた。

 

「能力使ったからよ」

「へぇ!なんの能力なんですか?」

「レベル3の時間操作(タイムオペレーター)よ」

 

そう、レベル3だ。時を止めることしか出来ないから、らしい。

けどレアな能力ではあるためにそれなりのお金はもっている。

 

「ふええ、ってことは十六夜さんを味方につければ最強ですね!」

 

と、日暮れまでマネーカード探しに美琴と共に付き合わされたのだ。まあ、少し楽しかったからいいけど。

 

で、事件はここからだった。

帰り道、路地でスキルアウトらしき集団がマネーカードを置いている女をみた、と話していたのだ。

そのアジトも追跡していたらしく、私たちも追うことにした。

 

「……こんな都合よく見つかるなんてね」

「シッ。気づかれるわよ」

 

影から覗くと、そこには女一人しかいなかった。

ギョロリとした目や、天然がかったボサボサの髪。お世話にも美少女とはいえず、逆に怖いくらいの女であった。

 

「あの、制服。長点上機よ」

「どこそれ」

「聞いたことない?去年の大覇星祭でウチの学校を破った学校よ」

「ああ、あそこね」

 

それなら聞いたことがある。

常盤台は名門だ。そのため、プライドも高い。ってことで、結構禁句になってたりもするのだが、一応聞いたことならあった。

 

部屋が暗転する。

パンっ!と紙でっぽうの音が部屋に響いた。

不良は全滅している。

私と美琴は、影から出て行くことにした。

 

「いやー、オモシロイもの見せてもらったわ」

「まさか、話術と演出だけでやっつけるとはね」

 

ギロリ、と女は美琴へと視線を向ける。

 

「ん?」

「あなた、オリジナルね」

「へ?」

「は?」

 

不意をつかれた。

よくわからないことを言い出すな、なんて考えていたら女からとんでもない言葉が飛び出してくる。

 

「噂ぐらいは聞いたことあるでしょう」

 

はっ、と何かに気づいたらしき美琴。

……どうやら話題がつかめていないのは私だけのようだ。

 

「アンタ、あの噂について知ってんの!?」

「__長幼の序は守りなさい」

 

いつもならプッと吹いていたのだろうが、内容がつかめていない私にはイマイチよくわからない。

 

「……あの噂の出処に関してなにかご存知なのでしょうか?」

「あなた()()よりはね」

「..私はそもそもその噂すら知らないけど」

 

ぼそり、と呟いたが誰にも聞かれてはいなかったらしい。

 

「知っても苦しむだけよ、あなたには何も出来ないのだから」

 

美琴ですら、何も出来ない__?

レベル5の彼女ですら、何も__?

レベルが全てじゃないのは知っている。その証にお嬢様も霊夢や魔理沙に敗れているのだ。けど、何も出来ないとは、一体?

彼女でも出来る限りのことはしてるという。マネーカードを裏道にばら撒き、人の目で埋めることで実験を阻止できるかもしれないとかなんとか。

けど、私も今度は美琴もよくわからずただひたすらその場にいるだけだった。

 

「だけど、私が尾行されるとはね」

 

女は資料を取り出す。そして、それを燃やそうとした。

 

「っ!」

 

私は瞬時にこれを燃やすべきではないと思った。

そして、時を止めてそれを彼女から奪い取る。

瞬間、彼女がライターと共に紙を落として部屋に炎が燃え広がった。咄嗟に学校でもらったプリントと差し替えていてよかったかもしれない、彼女はあのプリントをきちんと燃やしたと思っているようだ。

 

「しーらない」

 

そして、彼女は部屋から出て行った。

 

美琴が不良を助けようと四苦八苦していたので、適当に助けてその辺の裏路地に捨てておく。

そして、それに気づいた美琴と共に部屋を出た。

 

「ごめん、咲夜。先に寮に帰っておいて。私は予定出来ちゃったから」

「……いいわ、私は邪魔者らしいし。これ、貸しとくわね」

 

と、私は先ほどのプリントを取り出す。

 

「これ__」

「あいにく私もまだ読んでないわ。でも、いつか読ませてちょうだい。それは貸しだからね」

 

手をひらひらさせて道を曲がった。その瞬間に時をとめ、寮に帰る。

まだ、寮監にはバレていなかった。

真っ黒な部屋で平然と寝た。




最初は佐天オンリーで初春は「う」の字も出す気なかったんですけどね、全文消えちゃったので。

そして、あれ、超電撃砲?とか思った皆さん、出さないつもりです、つもり。つもり!
いちおう禁書目録でも取り上げられてますし、勘弁してくださいっ!


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自動販売機とレディオノイズ

結構長かった。
ちょいスランプかもしれないけど、週一は厳守!


なんとなく外にでて、ふらふらと歩きまわっていたときだった。

視界の端に、ツンツン頭が映る。

 

「……当麻?」

 

彼は二千円札を自動販売機に入れた。……あれ、当麻はあそこの自動販売機が金を飲み込むという有名な話を知らないのだろうか。

 

「久しぶりね」

 

予想通り、金を飲み込まれたらしい。

やっぱりコイツは、運がない。

 

「あれ?咲夜じゃん」

 

コツリ、とローファーの音が響く。

良く聞く、美琴の足音だ。私は振り返って、美琴に軽く挨拶をする。

 

「なんでこんなとこいんの?それに、ソイツと知り合いなわけ?」

「まあ、ね」

 

美琴がふっと複雑そうな顔をした。私はクスリと思わず笑ってから、再び当麻の方をみる。

『おい咲夜、誰だコイツ?』といっているようだった。

 

上条当麻は記憶喪失なのだ。

 

私は美琴と当麻が知り合いであることは夏休み前から知っていたのだが、夏休みに入って一度も会っていないと言うのならば当麻のこの反応も頷ける。

しかし、誰にも記憶喪失であることを知られたくなく、とりあえず場に任せるか的顔をしている当麻に説明の必要は感じなかった。

 

「そうそう、美琴。お金のみ込まれたらしいわよ」

「ウソっ!」

 

ぷっと美琴が盛大に吹き出す。

 

「え、いくらのみ込まれたのよ?」

「二千円よ、さっきみたわ」

「ちょ、さく……」

「二千円!?なにその半端な額!」

「千円二枚じゃなくて、二千円札よ」

「二千円札!?なにそれ見てみたい!」

 

私はテンションの高い美琴に思わず苦笑してしまう。

……二千円札ってそんなにレアだっけか。そういえば、学園都市(ココ)ではあまり見なかった気がする。ってことは、あれは幻想入りしたお金なのかもしれない。

 

「そうよね、幻想になっているお札をいれたら、いくら学園都市の自動販売機でもパニック起こすわよね」

「ぐっ……」

 

妙に納得したところで、美琴が自動販売機に触れる。そして、ビリビリィッ!と電撃を撃ち込んだ。

 

「あれー?出てこないなぁ、二千円札。あ、なんかすごいいっぱいジュース出てきたんだけど。もうこれでいいよね?どう考えても二千円以上出てるし__」

 

と、当麻はダッシュで逃げた。私はため息を吐いて、時を止めるとジュースを回収、また時を動かす。

 

「美琴、警備ロボが来るわよ」

 

あ、そっか。と頷いた美琴と私は警備ロボが近づいてくる自動販売機から逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう、なんで逃げんのよ」

「いやいや、なんで持ってきたのサクヤサン!?君の良心を信じた俺がいけなかったの!?」

「あら、落ちているものは貰う、これ鉄則よ」

「落ちてない!それ、落ちてなかったから!」

 

私はポーンと適当なジュースを投げる。投げながら銘柄を見たら、『いちごおでん』と書いてあった。ホカホカのいちご入りのおでんである。

ちょっと考えて、もう一個投げた。今度は『ガラナ青汁』だった。

 

「明らかな悪意を感じる……」

「わざとじゃないわよ?美琴は『ヤシの実サイダー』よね。私はこの、『西瓜紅茶』もらうわ」

 

サイダーを投げると、美琴はすぐにパカリと開ける。

私も紅茶を口に含んだ。

……ううん、不味くはない。けどなんだこの形容し難い味。いやこれが学園都市なのだ、きっと。うん。

 

「なんでこんな飲み物ばかり……いくら実験都市だからと言っても、生徒たちはお金を払っているという事実をなぜわかってくれないのでしょーか」

「いいじゃないの。それが学園都市なんだから」

 

私はジュースを飲み干してそこらへんに捨てる。するとすぐにロボットがやってきて回収してくれるのだ。

 

「だいったいさー。アンタは逃げ腰過ぎんのよ。この超電撃砲、御坂美琴様を破ったからにはもっと胸張って貰わないと困るのよねん。咲夜もそう思うでしょ?」

「そうね、己に勝ったからには威張って貰わないとプライドがズタズタになるわ」

 

こいつに負けたのか、ってね。

一応、私も最初はレミリア・スカーレットを殺すために紅魔館に侵入したのだから、私を倒したからには堂々と威張ってほしい。ま、お嬢様にその言葉は必要ないだろうけど。

 

「うぅうううぅぅうぅうううぅぅう!?」

「なに知恵熱出してるのよ……」

「ほら、折角渡したんだからジュース飲みなさいよ。美琴が直々に出したジュースよ?こんなの渡したら、あの子なら卒倒するんだから」

「あの子?」

 

無論、黒子のことだ。

 

「あはは……」

「当麻、美琴が常盤台でなんて呼ばれてるか知ってる?」

「?」

「ちょ、」

 

 

「お姉様っ!」

 

 

「黒子っ」

 

いい意味でも悪い意味でもなんてタイミングなんだろう、と私は思ってしまう。

 

「あら?咲夜もですの?」

「ええ、偶然ね」

「それよりもお姉様!この方は一体……」

 

シュンっ。と黒子は当麻の目の前に瞬間移動し、

 

「そこの殿方と密会するためですの?」

 

なーんて言い始めた。きっと彼女は当麻がどんな人なのか探っているのだろう。

 

「……私がいる時点で密会ではないでしょうが」

「初めまして。私は白井黒子と申しますの」

「無視しないでよ」

「あー、んー、たーはー!こんなんが私の彼氏に見えるわけ!?」

 

なんだ、私は空気なのか。少々虚しくなってくるが、そんなことを考えているうちに黒子はテレポートで逃げたらしい。

 

「__そういえば、美琴。昨日渡した資料、見せてくれる?」

 

美琴は露骨に顔を顰めた。私は無言で手を差し出す。当麻は何事かと私と美琴を交互に見た。

 

「お姉様」

 

私は手を差し出すのをやめ、声のした方を振り返った。

 

「!?」

 

そこにいたのは、御坂美琴。暗視ゴーグルのようなものをつけた、少女だった。

 

「誰?美琴、知り合い?」

「__なんでこんなとこにいんのよ!」

 

突如、美琴が大声をあらげる。

なんで怒っているのだろう、彼女は。まあ、確かにクローンのように似過ぎな気もしなくも__クローン?

 

「ねえ、名前聞いてもいい?」

「ミサカはミサカですとミサカは答えます」

「美琴、この子ってまさか」

「っ!勝手に読みなさい!」

 

彼女が差し出したのは、私が昨日貸した資料だった。

そこには、超電撃砲のクローンについてのレポートが書かれていた。

 

「なんだなんだ?」

「アンタは見るなっ!」

 

私は時を止め、読みふける。

そして私は、ミサカに触れた。

 

「……これ、本当なの?」

「なぜあなたがそんなものをお持ちなのかはわかりませんが、概ね正解ですとミサカは答えます。ただ、使用用途がその資料とは異なっていますとミサカは親切に相違点をのべます」

 

彼女は時を止めた世界をキョロキョロと見渡しながら彼女は言った。

表情はなに一つ変わっていなかった。

 

「それより、これはどういうことなのでしょうか?ミサカネットワークにも接続出来ていないようですがとミサカはあなたに疑問を投げかけます」

 

ああ、と私は頷いた。

ミサカネットワークについてはよくわからないが、この能力についてなら説明できる。

 

「これは私の能力でね。時間操作(タイムオペレーター)っていうのよ」

 

フッ、と世界は色と音を取り戻した。

 

「そうなのですねとミサカは疑問点を飲み込んで納得してみせます」




補習?なんですかそれ((
時々ミサカがミカサになってて死ぬ。笑い死ぬ。
なんだよもう。ミカサとかアッカーマンですか?もう。
進撃はにわかと言われても反撃できないです。いやぁ、コミックは借りてすべて読んだんですけどね(どうでもいい)


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夕暮れの日のこと

総合評価が200超えました!ありがとうございます。


次の日、私は気まぐれで飛んだセピア色の空で美琴を見つけた。

 

「__美琴」

「っ、咲夜!?いつここに!?」

「その質問、私に言うの?」

「そ、そうよね……咲夜は黒子以上に神出鬼没なのよね……」

 

なんだか疲れている様子の美琴の顔を覗き込む。

 

「どうしたの?」

 

彼女は隠しているつもりらしいが、隠しきれていない。

 

「……何があったの?」

「っ」

 

けど、彼女はポーカーフェイスを装った。

彼女に何があったのかはわからないけど、あのマネーカードの日の一件が関わっているであろうことは安易に予想できる。

 

「ねぇ、みこ__」

「……どうせ、咲夜にはなにも出来ないわよ。私だって出来ないんだから__」

 

消え入りそうな声だった。

 

「……私はあなたに心配されるほど弱くないわ」

「それは、咲夜が思ってるに過ぎないでしょ」

 

美琴の目の光は、弱々しく今にも無くなってしまいそうで。

 

「そうね、それはよく知ってる。今までも何度も負けて来たから」

「え?」

「全てから浮く巫女に、パワーだけで打ち勝つ魔法使い。巫女なんて酷いものよ、私が止めたはずの時の中で動き始めるの」

 

赤い霧の異変で霊夢と対峙したときには本気で怖いと思った。

お嬢様とはまた違う、格の違う()()の目。

あれだけで私は負けた気がした。

最初は勝てると思っていたのだ、こんな小娘に負けるわけがないと。けれど、その相手は敵うはずもない巫女で、よくわからないチート能力を所持していて。撃ち落とされた瞬間、私はそれを認められなかった。否、認めたくなかった。

そして、お嬢様が負けたときそれはまた更に悔しくてなぜこの巫女はこんなに強いのかという疑問しかなかったし、正直いつ反撃するかと睨んでいた。

しかし宴会で見せた彼女の素顔はとても気持ちがよくて、すぐにそんな気持ちなど消え去ってしまったのた。

 

『ほら、あんたも飲みなさいよ』

『……私はお嬢様の付き人ですから』

『いいじゃない、私が直々に仕込んだ日本酒よ?』

 

「それはまた、すごい人」

「でしょ?あなたにもいつか戦ってほしいわ、あの子が乗るかは別としてね」

「?」

「面倒くさがりなのよ、あんな強い力を持っておいてね」

 

と、私は苦笑する。

美琴はそっか、と言うだけで特に大きな興味を示すことはなかった。

 

「巫女はわかるけど、魔法使い?」

「ええ。魔法使いを名乗ってるってだけだけど、強いのは認めるわ」

 

……現に霊夢によりも負けてるし。

まあ、断然魔理沙の方が紅魔館にやってくるのだから当たり前なのだが。それをいったら、パチュリー様や小悪魔の方が圧倒的に魔理沙に負けてしまっている。

パチュリー様は一応、魔理沙の才能を見出していると小悪魔が言っていたので手加減しているのかもしれない。

 

「美琴、本当に何が__」

「あり、なんで二人してこんなとこに?」

 

振り返ると、そこには当麻の姿。

美琴はちょっと嬉しそうな顔をした。きっとこれで話題が反らせるとでも思ったのだろうけど、当麻と別れたら再び問い詰める予定だ。

 

「偶然よ、偶然。そっちは?どうせ補習なんだろうけどね」

「ぐっ!?なんで分かるんだよっ」

「……なんとなく?」

「勘!?」

 

そんなに私は勘は優れていないはずなのだけど、不幸な当麻にとってはすごいものらしい。

 

「で、なんの用?」

「いや、用ってわけではなく……帰り道一緒ならなんとなく一緒に帰りたいなと」

「……なんとなく、ね」

「常盤台のお嬢様に向かって何となく帰りたいなーんてその位置に着くまでに一体どれほどの男どもが努力を重ねているのか」

 

当麻は自覚あるお嬢様って最低だな。と言ってコイツを見習えと言うように私を見た。

 

「美琴は冗談だと思うけど」

「そのとおり。どこに通っているかではなく、そこで何を学んでいるかが重要よね」

「そうね、どこに通わなくても能力を持ってる人間がここに二人もいるし」

「……アンタって原石だったの?」

「いや、原石……なのか?」

「原石って珍しいの?」

「珍しいってモンじゃないわよ」

「ふぅん……」

 

私は原石に当てはまるらしい、そして希少。原石は珍しいらしいが、そんなこと言ったら幻想郷はどうなるのだろう。ほとんどの人が、原石である。

 

「で、お前妹は一緒じゃないのか?」

「あー……」

 

ミサカは彼女のクローンなのだけど彼がそれを知るわけがない。

美琴は私になにも言わないように目配せしてくる。

 

「まあいいや、ちょっと気になっただけだし」

 

昨日、私とミサカは共に男子寮までジュースを運んだ。そして、スフィンクスと名付けられたあの猫のノミを取ろうとなんか突飛なことを始めようとする(ゴキブリをすぐに殺す殺虫剤を猫にかけようとしたり、ハーブであぶろうとしていた)インデックスと秋沙を止めてミサカが電撃でノミを落として行った。ちなみに私は役立たずもなんなのでホームセンターで殺虫剤を頂いてきた。入る際、時を動かすのが面倒だったので強行突破したのは余談である。

 

「ねぇ、あれってなんて言うの?」

 

私は空に浮かぶ楕円形を指差した。

 

「飛行船よ。これぐらい、外にもあるだろうし見えると思うけど?」

「……私、田舎の出だから」

 

そうか、飛行船というのか。

よくわからない言葉を流しながらぷかぷかと浮かんでいる。

私はよくわからなかったが、いつの間にか美琴の表情は何か変わっていた。

 

「私、あの飛行船って嫌いなのよね」

「なんで?なんか面白いじゃない」

「機械の決めた政策に人間が従っているからよ」

 

美琴の目は、さっきの目とちょっと似ていた。何かを思う目だ。

 

「えーと、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』だっけか」

 

一応聞いたことならある。

黒子が天気予報とやらを見たいと言っていたので明日の天気は雨だと言ったことがある。それから天気予報を見たら本当に雨だと出ていたらしく、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)のように正確ですのねと言われたのだ。

実際はそんな大層なものではなく、大気の流れを汲み取っただけである。お嬢様の種族柄、晴れと雨には敏感なのだ。

その時に、詳しく聞いた。

これは天気を予言するだけでなく、数々の実験の演算を行っているのらしい。ただしこれは噂でしかなく、誰も本当のことはしらない。

 

「『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』……気象データ解析という建前で学園都市が打ち上げた人工衛星『おりひめI号』と搭載された今後二五年は誰にも追い抜かれないことが判明している世界のスーパーコンピュータ__なんて、本当にそんな馬鹿げたコンピュータなんて実在するのかしらね?」

 

美琴はそうつぶやいて、寮とは反対方向に向かい始めた。

 

「どこいくの?」

「ちょっと野暮用。先行ってて!」

 

私と当麻はぽつねんとそこへ立ち尽くす。

私はため息を吐いて、当麻に別れを告げると寮に帰った。

 

当麻から電話がかかってくるのはこの夜のことだ。




夏休みですね。思いっきり更新します。


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変わってしまったメイド

携帯の着信音が、静かだった部屋に鳴り響いた。

私が手を伸ばして携帯電話を見ると、そこには『上条当麻』と書いてあった。

 

『あっ、もしもし咲夜?』

「なに?」

『わりぃ、御坂の部屋番号ってわかるか?』

「二〇八だけど。いきなりどうしたの?というか今は黒子しかいないんじゃないかしら」

『くろこ?』

「ええ、美琴と同室なの。じゃあ、案内するからとりあえず二〇六押してくれる?」

 

そういうと、しばらくしてチャイムが鳴ったのでキーを解除すると玄関まで時を止めて向かった。寮監がいないのを確認し、時を動かすと当麻を迎えた。黒猫を抱いていたが、とりあえずスルーである。

本当は客人をこんな適当に迎えちゃいけないらしいが、まあいい。バレなきゃいいのだ。

 

「いらっしゃい」

「なんつーか、すげぇ豪華だな……」

 

と、レッドカーペットを見て当麻が言う。

 

「そう?こっちよ」

 

階段を登り、二〇八号室をノックすると中から黒子の声がした。

 

「どちらさまですの?」

「私よ。入っていい?」

「ああ、咲夜でしたの。どうぞ」

 

木のドアの開けると、黒子が私の後ろを見てびっくりしたように固まった。

美琴のベットの上で寝ていることには、もう驚かない。

 

「!?」

「知ってるでしょう、当麻よ。美琴に用があるんですって」

「は、はあ、そうでしたの」

 

黒子は飛び上がり、美琴のベットに座り直した。

 

「では、そこのベットに腰掛けてくださいですの。咲夜はどうしますの?」

「そっちに座るわ。すぐ帰るし」

 

と、私は黒子のベットに腰掛けた。

 

「座らないの?」

「いや、さすがに本人の許可がないのに……」

「大丈夫よ、そっちが黒子のベットでこっちが美琴のだから」

「なにやってんだアンタ!」

「黒子はそういう星の元に生まれたんだから大目にみてあげて。それに、世の中には誰の許可もなく自室に入ってくるヤツもいるしね」

「最悪じゃねぇか!」

 

黒子はこんなことは言われ慣れているため何事もなかったかのように振舞っている。

 

「えっと……後輩じゃなくて同級生だったのか?」

「いえいえ、私は一学年ですのでれっきとした後輩ですわよ」

 

平然と黒子は答え、当麻と美琴についての会話を始めた。

私は喉が渇いたので適当に麦茶を飲んでいたが、途中でそれをぴたりととめてしまった。理由は簡単、カツカツという寮監の足音が聞こえたからである。

 

「……黒子」

「ま、まずいですわね……」

 

黒子も同じことを察したらしい。そして次の瞬間、当麻をベットの底に押し込み始めた。

 

「な、なにやってるの?」

「もう、しょうがないですわね!私のテレポートで……って、アレ!?」

「当麻はそういうの効かないのよ、私が外に連れてくから……ってもう!」

 

え?なんですの?と強引に当麻をベットの下にねじ込んだ黒子が言う。ベットの下からは、当麻の唸り声が聞こえてきた。

 

バンっ!

 

といつものように勢いよくドアが開く音がして、寮監が現れる。

 

「白井。十六夜も一緒か。夕食だ、食堂へ集合せよ。……御坂はどこだ?門限破りなら減点と見なすが構わんか?」

「いえいえ。本当に急用なら外出届けを出す暇などないと思いますの。私はお姉様を信じて減点は受け取りません」

 

黒子がぐいぐいと寮監の背中を押してでていき、私は部屋に残った。

 

「当麻」

 

私がひょこりとベットの下を覗くと、当麻はぬいぐるみをいじっていた。

美琴が校則で禁止されているが、持ってきているものたちが入っているぬいぐるみだ。

ぬいぐるみはところどころにファスナーがついていて、それを開けると香水やらハンドクリームやらが出てくるのである。

当麻は何かを読んでいるようだった。

 

「なに読んでるの?」

「咲夜、まだいたのか!」

「いちゃまずかった?」

 

当麻がベットの下から読んでいた資料と共に出てきたので、それをひったくると読み始めた。

 

(レベル6への、シフト……?)

 

「おっ、おいっ!」

一方通行(アクセラレータ)ね。当麻、知ってる?」

「何をだよ」

一方通行(アクセラレータ)についてよ。彼は学園都市の七人のレベル5の一人でありその頂点。ありとあらゆる向き(ベクトル)を操ると聞くわ」

 

噂でしかないが、おそらく本当である。

二位と三位の間には、越えられない壁があるそうで。あの美琴に勝てたらしい当麻でも、彼を倒すのは不可能に近いかもしれない。

 

「クローンを二万回殺す、ね。そりゃ大変な作業だこと。これか、美琴が抱えていたのは」

「?」

「私と美琴はね、ついこの間、これの元となる資料を見つけたのよ。それがこの前読んでた資料。そこには、クローンの量産を行った結果などが書かれていて、超電撃砲のクローンはほとんど力がなかったから実験を永久凍結するってあったの。けど、これを見ればわかるように再びクローンは生み出されているようね」

「じゃ、じゃあ……」

「あの子はきっと、妹達(クローン)を助けるつもりよ。けど、残念ながら私はこれから夕飯だから」

 

私はドアを開け、駆け足で食堂へと向かった。

とりあえず食事を摂ろう、話しはそれからだと自分に言い聞かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を摂って、部屋に戻るとすぐに美琴の姿を探した。

セピア色の空で、目を凝らした。

 

「いたっ!」

 

時間なんて関係ないのに、高速で急降下して息を整える。

 

「み、こと……」

「さくや……?」

 

彼女は泣いていた。

太ももには、当麻が寝ていた。気を失っているようだった。

 

「っ……」

 

その時、小さなうめき声をあげて当麻が目を開けた。

 

「さくや?」

「遅れてごめんなさいね。美琴、泣くのはやめなさい。実験に行くのでしょう?私も当麻も止められないわよ、友人の涙なんて見たくないもの」

 

ああ、私は変わってしまった。

涙なんて見たくない、そんな人間に変わってしまった。

けれどこれもいいかもしれない、友人を救うことが出来るんだから。

 

 

しかし、問題点があった。

超電撃砲が一方通行を倒したところで、レベルが同じなのだからと流されて終わるかもしれない。時間操作が一方通行を倒したところで、能力の容量が上回ったと思われるだけかもしれない。

けど、上条当麻はこう言った。

 

「そんなの、俺がやればいいじゃねぇか」

 

何言ってるんだ、と、さも初めからそうするつもりだったかのように。




変わってしまいましたね。
まあ……まだまだ変わる余地はありますけどね。


そして始めて定時投稿です。
今はまだ前日になってます。

これからは8時にします。タグつけます。


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ハートのクッキー

短いです。そして活動報告に記載した通り、これで三巻終了と思われます。


______まさか勝ってしまうとは思わなかった。

 

 

私は病院の廊下を歩きながらそんなことを考えた。

一方通行(アクセラレータ)は噂通りの人物だった。あれはまるでバケモノだ。人を簡単に殺せる私も大概だが、あれはもっとおかしい。

全てを反射し、私のナイフなど一切通用しなかった。一応投げた後避けれたが、すれっすれであった。

なんだかまるでそれは一生敵わない相手を戦っているようで、八雲紫を連想させられた。彼女も、絶対に敵うわけのない存在だ。あの妖怪は隙間の他に読心も心得ているのではないだろうか。

とにかく、一方通行(アクセラレータ)は強かった。

 

 

しかしそれを、上条当麻は破った。

実は、一方通行(アクセラレータ)は弱かったのだ。反射や向きの操作などチートすぎる能力を持っていたために喧嘩を知らなかったらしい。簡単な話だ。戦車を乗り回していた殴りあいの知らないおぼっちゃまに近づいてぶん殴っただけである。

 

 

他にもミサカたちが色々と頑張っていたらしい。ちなみに私はその時、ナイフの練習をしていた。あんなの時間の無駄である、壊れるはずのまだ綺麗なビルにナイフをぶっ刺した。しかし予想は外れ、今もビルの壁にはナイフの後がきり刻んであったりする。

 

 

コンコン

 

「当麻、入っていい?」

「ん?咲夜か。おう」

 

入るとそこには包帯を巻いた当麻。

そして、それを見れば自然と目に入る枕元にある数々のお見舞い……

 

「……はいこれ」

「え、今買ってきたのか!?」

 

慌てて紅茶のティーパックのギフトセットを差し出した。アールグレイである。まあ、そんなのを彼が知るわけないので、インデックス辺りが飲むのだろうか。

 

「ま、元気そうで安心したわ。インデックスは?」

「ん、一応寮に」

「そ。なら時々様子見とくわね」

「頼む」

 

そんなたわいもない話しをして、私は帰路につくことにした。

 

「そのクッキーは?」

「あーこれか。これは御坂からだよ」

「美琴?」

「そうそう」

 

まああの様子を見ていれば、大方予想はつくがこの鈍感男は察していないらしい。

罪な男だな、なんて軽く考えながら私は寮へと帰った。

 

 

 

 

 

そしてその夜のこと。

不意に聞こえた静かな足音に、思わず息を止めて__胸に溜まった息をそっとはきだした。

 

コン、コン……

 

「美琴でしょう。入っていいわよ」

 

そう声をかけると、キィ……と静かに扉が開いた。私はベッドに腰掛けたまま、本から目線を外さずにこたえる。

 

「あははー……やっぱバレてた?」

「部屋に入るまでの二分もかかったのも全部が全部バレてるわ」

「いやぁ、実はですねぇ、十六夜さんに折り入って頼みが……」

「何?」

「私に美味しいクッキーの焼き方を教えてください!」

 

思わず本から目を離してしまった。

 

「なんのために?」

「い、いや、その……」

「まあいいわ。どうせ、当麻が手作りの方がよかったとでも言ったんでしょ」

「ぐ!?」

「じゃ、明日買いに行くかしらね」

 

私はそう言って、美琴を部屋へと帰す。

そして次の日、朝食を食べてすぐに買い物へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ、さくや?こ、これは?」

 

私の取り出した、アルミで出来た大きなハートの形を指差して美琴が大声を上げる。

ハートの形はずっと使ったことがなかったのだが、異変のあとに妹様が地下から出てくるようになった時、

『咲夜、クッキー焼いてほしいの』

と言われたのでお嬢様に許可をいただいてその日は時を止めずに調理していたら、

『私もお手伝いする!』

なんていって妹様がハートのクッキーの型を持って表れたのだ。

あの時は不覚にも驚いてしまった。

 

「みればわかるでしょう、ハートのクッキーの型よ」

「な、なんで!?」

 

まあ、これは妹様が持ってきたあの形よりも少しばかり大きいのだけど。

 

「じゃあなんでダメなのかしら?異性にプレゼントでもするの?友だちなら別にいいと思うのだけど」

 

すると美琴はゔっと黙ってしまい、黙々と作業を進め始めた。

私はそんな美琴に一つため息をついてから作業を再開したのであった。

 

 

美琴は出来たクッキーを箱につめてリボンを付けた。

そして、私は手を振って彼女を送り出す。

それから私は少しばかりスーパーで買い出しをして、男子寮に向かうとインデックスに料理をごちそうした。

 

 

 

 

出来たハートのクッキーはどうなったか。それは、御坂美琴のみが知るらしい。




私はレミリア派ですが、フランが一番可愛いと思っています。可愛いと好きは別なんです!
また、可愛いと言えば最近霊夢が可愛くて仕方がなくなって来ました。霊夢の魅力に惹かれたのはこれで三回目です。いやぁ、やっぱりかわいい子はかわいい。そして私は巫女派です。
今度は活動報告で東方キャラについて語ると思われます。



追記間違えて8時半になってました!
次回からはきちんと8時に投稿致します。


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4 『御天落し』の悲劇
学園都市の外へ


八雲紫さんのチート具合はどこまでなら許されるのだろうか。


「ふぅ、」

 

と私はひとつため息を吐いた。

 

「おぅい、咲夜ぁ……ため息なんかついてないでなんか言ってくれよ〜」

「こうなったインデックスを私がどうにか出来るとでも?」

 

ことの発端は数日前に遡る。

学園都市第一位一方通行(アクセラレータ)()()()()()()()レベル0の上条当麻は、様々な人物たちに狙われる存在になってしまった。

『俺たちと同じレベル0が学園都市最強を倒したんだと!』

『ならその、レベル0を倒せば最強になれるってことじゃね!?』

みたいな噂が広まったらしく、混乱の対処のために彼は異例中の異例で学園都市の外へと出ることになったのだ。

つまり、本来学園都市から出るときは生徒が学園都市の上部に『だしてください』とお願いするのだが、当麻は逆だ。『外でてろこのバカ』と命令されたのである。

夏休みで生徒間の交流が少ないはずなのに、ネットワークの普及によるものなのか面白そうな噂は広まりやすすぎるのか、レベル0がレベル5を倒したという話はみるみるうちに広まったらしい。

で、それを知ったインデックスが

『私もいく!』

と駄々をこねはじめたのだ。

ただ外に出すだけならいいのだが、インデックスは学園都市への来訪を合法的に行っていない。つまり、不法に侵入しているために学園都市から出すのも一苦労なのである。

ちなみに私も不法侵入者なのだが、まあそれに関しては八雲紫が手を回しているだろうしそもそも出るなと言われているので今考えるべきことではなかったりする。

 

「じゃ、じゃあ、お前が時間止めて抱えて連れてきてもらうとか??」

「出来なくはないけど、女の子にお願いすることなの?」

「ふぐっ!?」

 

これでも一応霊力持ちなので身体強化ぐらい出来るが、彼にはそれを教えたことがない。

彼の良心に来たらしい。

 

「じゃあどうすれば……」

「諦めて連れてけば?」

「いやいや捕まるだろっ!」

「大丈夫じゃないの?ステイルたちも全く対策してないわけがないと思うんだけど」

 

それでも当麻はうぅ〜と唸る。

私は再びため息を吐いて時を止めると当麻とインデックスに縄を括り付けて空を飛んだ。

時が止まっている間の物質は絶対に溶けないし砕けないものだと思えばいい。

私がその本体に触れない限りそれが動き出すことはないので、縄で括り付けても身体に縄の痕が残ることはないし、逆さまになって頭に血がのぼることもない。更にいえば、縄が外れて地面に激突しても全く何も起こらなかったりもする。

ちなみに止めた瞬間浮いていたものはそこから落ちることはないが、止めたあとに私が移動させたり(この場合は当麻とインデックス)浮いていたのに私が弾き飛ばした場合は墜落し、墜落中に時を動かすとそのまま地面に激突して死んでしまう、そんな変なルールが敷かれている。

 

そして私はゲートの真正面に来ると縄を解いて時を動かした。

 

「わっ!?」

 

当麻はバランスが取れずに倒れ、私はインデックスを瞬時に支えた。

 

「ありがとう、咲夜」

「どういたしまして」

 

こういった対応にはもう慣れつつある上条当麻は驚いたようにゲートを見つめる。

 

で、私は二人を連れて通ってみた。

当麻はやばいって!などと言っていたが、案の定呼び止められた。

 

「あの、そこの三人。そっちの女の子なんだけど」

 

 

 

 

 

____なぜだろう。私は呼び止められなかった。

 

いつの間にか私の外出許可が降りていたらしい。私は身に覚えがなく唖然としていたが、きちんと常盤台の署名もある。ちゃんとしたやつっぽい。

そしてよくよく見てみると、本人の申請ではなく保護者の申請によるものになっていた。名義は……八雲紫。代筆らしく、傍に八雲藍の名もある。なんだか釈然としないながらも、私はインデックスや当麻とともに発信機(ナノデバイス)を注射され、(私が困惑している間にインデックスと当麻は色々とこなしたらしい)外に出た。

 

「咲夜、その八雲紫って誰だよ?」

「……知り合い、かしらね」

 

この人は私に学園都市から出て欲しいのか出て欲しくないのかよくわからない。出て欲しいのなら、なぜ夏休み中に幻想郷へ帰してくれなかったのだろうか。

 

「知り合い?」

「ええ、私をこちらへ送った張本人」

「ふうん。それでその人に申請をお願__」

「してないわ」

「は?」

「してないのよ。ほんっと何もかも見透かしてるようで気に入らないわ。今もこれをどこかで見てるんでしょうね」

「何それ怖」

 

そんなごもっともな意見を聞き入れ、彼の家族が待っているという海の家とやらに行った。

幻想郷に海はないし、私も海なんて見たことがなかったので内心楽しみにしていたから海をみたときは素直に感動した。

当麻に海に来たことないのか?と聞かれたのでとりあえず頷いたら驚かれた。

 

「初めまして。十六夜咲夜と言います」

 

深々とお辞儀をし、にこりと微笑むと当麻には誰こいつみたいな顔をされたがいい印象を彼の両親に与えることができたようだ。

 

「これはこれは。当麻の父の上条刀夜(とうや)です」

「母の上条詩菜(しいな)です」

 

軽く自己紹介をして、ご飯を食べ、急に来たにもかかわらず寝床を用意してくれた二人に感謝して、寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

____夜中。

 

ナニカの気配を察知してうっすらと目を開けた。

 

「!?」

「あら、お目覚め?」

 

そこにいたのは八雲紫だった。

金色の髪をたなびかせ、日は出ていないのにいつもの日傘をさして窓に座っていた。

 

「なんの、ようかしら」

「貴女、それでも吸血鬼のメイド?魔術が発動する気配がするわ。貴女と私の周りには一応結界を張ったけど、朝起きて驚いてみなさい。それからは貴女の判断に委ねるわ」

「__?」

「確か身体強化出来たわよね。己の時だけを止めるっていう。それ、やっときなさい」

「なんで__」

 

用件だけ言って行ってしまった。

私は眠気で唖然としていた頭を叩き起こし、言われた通りにしてみた。

まあ、彼女は胡散臭いとはいえこんなとこまできて嘘は言わないと思うので信じることにしたってこともある。

朝驚くことってなんだろう?そんな疑問を抱きながら、とりあえず寝た。八雲紫について模索していても無駄なのだ。




4巻抹殺するのは心苦しくこんなことになりました。


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始まりの朝

サブタイトルってネタ切れがくる。


朝起きると私はメイド服に着替えて常盤台のレポートを適当に書いていた。

先ほど朝日が昇り始めたところである。

窓は開けはなたれているため、気持ちの良い潮風が吹いてきた。

 

カリカリ……

 

とボールペンが紙の上を走る音がする。

ちなみにこれらは今、常盤台の女子寮からとってきた。相部屋なのに相手がいないとこれだけ楽なのである。

 

『おにーちゃーん!』

 

不意に聞こえてくる、女の子の声。

私はここに他の家族もいたっけかと頭を悩ませながら部屋を出た。

そして、声のした部屋を開ける。

 

「……は?」

 

そこには、可愛らしい御坂美琴が上条当麻をおにーちゃんと呼ぶ光景。

あれ、美琴?と一瞬思考回路が停止する。

 

「な、え?」

「ぐぇっ!?なんですかこのドッキリ!咲夜も唖然しないで止めてくれーっ」

 

いや、止めてくれと言われても、私にどうにか出来ることじゃ……本当にドッキリなら、台無しにするだけだろうし。

私は当麻を見捨て、階段をトントンと降りた。

すると、扉をガチャリと開いて当麻の父親が顔を出す。

 

「おお、十六夜さん」

「おはようございます、刀夜さん」

「メイド服……?」

「ええ、私は学生であると同時に今はお休みをいただいておりますがメイドのお仕事をさせていただいているので」

「あら咲夜さん、うちの当麻さんは?」

 

……ん?

私が刀夜から目線を下げると、そこにはインデックスがいた。

 

「……え?」

「どうしたの?私の顔に何かついてるかしら?」

__そうじゃなくて……

あまりよく状況が飲み込めないうちに、バタバタと美琴が階段を駆け下りていく。

その後ろを当麻が納得行かなそうな顔で下りてきた。

 

「んあ?インデックス?」

「……よね、どう考えても」

「おいおい、二人して何変なことを言ってるんだ」

 

呆れるような刀夜の声が響き、私はそろそろ本当に困惑する。

 

「ナニ、コレ……」

 

 

 

インデックスは当麻のクラスメイトらしい青髪ピアス?になっていたし(本名不明)、海の家『わだつみ』のおじさんはステイルで、その娘は量産型シスターズ・ミサカだった。

……そう、色んな人達がごっちゃになっていたのだ。

なんだろうこのファンタジーランド。幻想郷にも勝るかもしれない不思議空間である。

 

 

海水浴中でも、それは変わらない。

 

「咲夜は泳がないのか?」

「……水着が寮にはあるけど今はないからね。あと、海水浴ってしたことないし」

「今時珍しいなそれ。どこ出身なんだよ」

「山よ、山。その前はヨーロッパだけど。私って日本人じゃないし……」

 

一応日本国籍は八雲紫の手配によって取れてはいるが、元はヨーロッパ出身である。

そこでスカーレット家、すなわち吸血鬼の一族を知って殺しにかかったが惨敗。能力を見出され、お嬢様のメイドとなって幻想入りしたのだ。

 

「あ、なんとなく聞かなかったけどやっぱりそうなのか」

「この見た目で日本人って方がおかしいでしょう。この東洋風の名前はお嬢様がつけてくれたものなのよ」

「ほーう」

 

そんなたわいもない話をして、ビーチバレーで遊ぶ三人に目をやる。

インデックスの水着が少々奇抜過ぎて目のやり場に困っているのだが、突っ込んでも意味がないので諦めた。

そして美琴はスクール水着だ。常盤台の校則で決められたものでないのは確かなのだが、当麻の妹を名乗る今の彼女にその質問をしても意味を成さない。なぜなら、御坂美琴としての記憶を持たないからである。

 

「カーミーやーん!」

 

不意に声がして振り向くと、そこには高校生ぐらいの男子。

当麻曰く、隣人で記憶喪失の彼も詳しくは知らないのだがクラスメイトらしい。

 

「おおっ?そのお隣のメイドさんは?」

「メイドさん……そういや今ってメイド服だったっけか」

「そうよ。外に出てまで常盤台の制服着る必要ないでしょう?」

「にゃんと!常盤台のお嬢様なのかにゃー。なら尚更なぜメイド服なんだぜぃ?」

 

私は怪訝に目の前の彼を見つめる。まあ、当麻の隣人でそれなりに付き合いがある人ならいっか、ととりあえず信用することにして、軽く友好的に接した。

 

「私は十六夜咲夜よ。常盤台の学生だけど、この服からわかるようにメイドのお仕事もさせていただいているわ」

土御門元春(つちみがど もとはる)だにゃー」

「そう、元春ね。覚えたわ」

 

元春は一瞬驚いたように眉をあげる。

 

「も、もとはる?」

「じゃあ土御門とよべばいいかしら」

「い、いやいいにゃー!そ、それより二人にはオレが土御門元春に見えてるぜよ?」

 

?と二人で顔を見合わせた。

私は元春と今まで面識がなかったのでこれが彼以外である可能性もある。が、当麻の方はちゃんと何度か見たことがあるらしい。彼も、『何言ってるんだコイツ』とでも言いたげだ。

 

「はぁ?なに言ってんだお前。つかなんでお前は外に__」

「となると……いや、まさかにゃー。とにかくここから逃げるぜよっ!なにが危ないってこれから怒りに我を忘れたねーちんが来襲してくる辺りが激ヤバぜよ!」

 

ね、ねーちんが来襲?

わけがわからない元春の言動に首を傾げていたが、やがてあることに気づく。

 

(……魔力……?)

 

彼から随分と前に使った魔力の気配がしているのだ。私は魔法使いでも魔術師でもないのだけど霊力、魔力、妖力などの力には生まれつき敏感なのである。

流石にお嬢様やパチュリー様といった方々には負けるけど、霊夢よりは鋭いだろうと思う。もっとも、霊夢にいたっては勘で見抜いてしまうので私より正確かもしれないが。

 

「ねぇ、質問してもいい?」

「な、なんだにゃー?」

「……みんなが入れ替わったようなこの魔法……いえ、魔術かしら。これは一体、誰の仕業なの?」

「!」

「こんなこと、科学じゃ出来ないわよ」

 

なぜ知っているんだ、とその目は訴えてくる。

彼がゴクリと息を飲んだとき、ゆらりととんでもない聖人の気配が身を掠めた。

 

「……神裂、火織……?」

「見つけました、上条当麻!そして十六夜咲夜!一緒にいるということは、共犯……ッ!」

 

軽い殺気を放ち、彼女が現れる。

 

「最初は上条当麻が元凶だと思っていましたが……、十六夜咲夜がこの場におり、また彼女も変化していないということは、まさか本当にあなたがパチュリー・ノーレッジの一番弟子……ッ!」

「はぃ?」

 

とりあえず、色々と独自解釈を入れたところでこの魔術を行ったのが私だと思っているらしい。まあそれだけならわかる。疑うのはその人の勝手なのだから。

しかし、これはどういうことだ?

 

「……パチュリー・ノーレッジ?」

 

当麻がステイルかインデックスあたりに聞いたのだろうか、ボソリと名を繰り返す。

 

「ええ、そうなのでしょう!正直に吐きなさいッ」

「いや、正直もなにも私はこんな魔術を展開していないし、パチュリー様の弟子でもないわよ。パチュリー様はあくまでお客様だもの」

 

とはいえ、私もパチュリー様の弟子に心辺りがない。

パチュリー様以外の魔法使いといえば、魔理沙とアリスと妹様、そして白蓮だが……

魔理沙とパチュリー様の初対面は異変のはずだし、アリスに関してはいつも平等に魔法について話していた。妹様はわからないが、年齢的に妹様の方が上だし、最後の白蓮も、封印されていたのでない気がする。

 

「お客様……?」

「あ、これって言っちゃダメだったのかしら。……まあいいや。

 

 

 

 

 

 

 

パチュリー様、つまりパチュリー・ノーレッジは私の仕えるお嬢様のお友達で、お客様なのよ。__私は彼女よりも優れた魔法使いを見たことがないわ」




長くなった。
昨日出さなかった分、長くなった。
明日は出せないと思います、ここ何日かは偶数の日にだしていましたがこれからは奇数の日になると思います。
幻想郷出身・十六夜咲夜はやってしまったことを悔やみません。いや、ものにもよるかもしれませんが。


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幻想郷との認識の違い

元春と神裂火織が一瞬にして言葉を失う。

私はパチュリー様ってそんなすごい人だったんだと内心思いながら霊弾を生み出した。

 

「で?やるの?さすがに聖人相手に勝てるわけないし、ゲームにしてもらいたいんだけど」

「ッ!」

「まーまー。よくわかんねー殺気を二人してださないでほしいぜよ」

「……そうね」

 

ふぅ、と私は霊弾を引っ込め、殺気も収める。

それを見て目の前の神裂火織も刀を収めるとこちらを軽く睨みつけて終了した。

 

「……なあ、話割るけど。つ、土御門って……」

「ああ、オレも『必要悪の教会(ネサリウス)』の一員だからにゃー」

 

ぎょっ!?と当麻が目を剥く。

 

「でしょうね。魔力を随分と前に使用した形跡があるもの」

「そうなのか!?」

「……なにをそんなに焦ってるんだか。インデックスの時も魔力感知してたでしょう」

 

私にとって、魔力とはすぐそばにあるものだ。

週に一度は魔理沙がやってくるし、しょっちゅう図書館ではパチュリー様が魔力を注いで実験を繰り返している。

妹様の能力も、多少魔力が使用されているらしく使うたびに微力ながら力を感じる。

 

「ふーん……えっと、咲夜は魔術師なのかにゃー?」

「私は能力者よ、レベル3の時間操作(タイムオペレーター)だもの。さっきも言ったでしょう?魔術は知り合いがやっている程度」

「それでも普通は感知なんて出来ないにゃー……それも、最近魔術を使ってないオレの魔力を感じるとか只者じゃないにゃー」

 

____なぜか私に話しかけるときだけにゃーにゃー言いまくっている元春に突っ込むのはやめておこう。

とりあえず、どうしてこんなにも私は魔術師だと疑われているのだろうか。

 

「ああ、でも、能力(コレ)は天然だけどね。発生源は演算じゃないっぽいし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「__________え?」

「友人もみんな脳内で演算してるらしいじゃない?空間移動(テレポート)をもつ友人にしか聞いたことはないけど私は演算なんてしないわ」

 

無意識に計算してるのかもしれないけど演算なんて大層なものではない。

で、今の沈黙はなんだったのだろう。

別段おかしなことは言っていなかったと思うのだけど。

 

「演算、しないのかにゃー?」

「ええ、なんかフッと。まあ、当麻のように無意識に行えるものではなくてなんとなく意識しないと出来ないけどね」

 

私は時を止めて、また戻す。

それだけの動作だが、疲れることはない。

霊力を注いでいるのかもしれないけどそんなの意識したことがない。意識しているのに、無意識なのだと思う。

 

「そ、それは魔術なのでは……」

「魔術や魔法って色々準備必要でしょ?そんなの必要ないもの。なんでそんなに疑り深いのかしら?」

 

ゔ、と魔術師二人が目線を逸らす。

そして、沈黙を破るように神裂火織が口を開く。

 

「あの、弾幕ですよッ!あれが魔術でないといえば、なんだと言えるのですかッ!」

「そういえば弾幕展開してたかしらね。あれは霊力よ」

 

まあいいや、なーんて考える私はすっかり幻想郷の色に染まってしまっているのだろう。

 

「霊力……?あれは確か、微力すぎて使えないんじゃ……」

「それはただその人間が弱いだけ。私の周りの人間はほとんど霊力持ちよ」

 

時々基準がよくわからなくなるのだけど、幻想郷では霊力を多めに持っているのが当たり前なのである。

普段の生活で妖怪に脅かされるのが当たり前だからか生存本能で身につけているのかもしれない。そうしたらなぜ私が霊力を持っているかわからないのだが。

 

「あと、あれはゲーム用だからね」

「ゲーム……?」

「ゲームよ。当たったって死にはしないわ」

 

一つ霊力を手のひらに浮かべて見せると、興味深そうにそれを三人して見つめる。

 

「だからこれだったら何発でも出せるの。それだけ。魔術のなんの要素もないけど」

 

パンっ!と上に向かって撃てば、花火のように弾けた。

 

「うわ、すごい!」

 

何も知らない美琴たちが見上げ、それぞれに歓声をあげる。

花火は花火でも、これは霊力でできているため色を持っているのだ。

 

「綺麗……」

 

そうこぼす当麻に思わず微笑む。

 

「ふふっ。これがいい酒のつまみなのよね。美味しい日本酒を手元に置いて、見るのよ。ワインでもいいけど」

「え、咲夜って……」

「ああ、ここじゃ二〇歳未満は飲んじゃだめらしいわね、美味しいのに。ねぇ、元春?」

「そうだにゃー。仕事終わりに飲むのもまた格別なんだにゃー」

 

なんとなく直感で元春もイケる口だろうと思ったら、本当にイケるらしい。

神裂火織はなんとなく嫌そうな顔をしていたが、見るに飲んだことはあるっぽいし、今度呑もうと密かに決めた。

当麻はといえば、信じられないとでも言いたげな目でこちらを見ていた。

 

「美味しいわよ?お酒」

「いや未成年だから」

「いいじゃない。常識に囚われちゃいけないって言ってる知り合いもいることだし」

「………………」

 

と、お酒の話に気づいたらなっていたのだが、本題があるらしい。

なんとなくどうでもよくなったので適当に流していたら、神裂火織に真面目に聞きなさいと怒られた。

 

どうやら、世界規模で『御天落し(エンゼルフォール)』と呼ばれる魔術が展開されているらしい。

二人曰く、住む世界だか格だかが違うために神や天使がすぐ近くにいても人間は気づかないらしい。人間は神と天使の思考には到底辿りつけないしみることは出来ないらしいのだが、そこに辿りつきたくてしょうがない人間がその魔術を展開して____というのが大筋の流れなのだと思う。

 

「ねぇ、神って本当に見えないの?」

「ええ、見えませんが」

「私、知り合いに神がいるんだけど」

「………………」

「あと天人もいるわ。天使とは違うのかもしれないけど」

「………………」

「十字教じゃないけどね」

「………………」

 

重なる沈黙。

この世界では神は見えないものなのか、初めて知った。

あまりに重いので、一応話題を変えておいた。




土御門サンカルクキンチョー。
神様が見えるのが、咲夜さんには当たり前なのです。


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入れ替わりに気づいた者たち

2時です。もうすぐ3時です。寝ます。


「では、お聞きします。ずっと違和感を感じることがなかったので忘れていましたが、貴女はなぜ変化がないのですか?」

「……そういえばそうだにゃー……かみやんと一緒にいたからとかじゃそんなこと起こるわけないしにゃー」

 

なんだか小難しいことをペラペラと語っているなぁなんてのんきに考えていたら、こんなことを聞かれた。

そういえばそうだ、なぜ彼らは気づかなかったのだろうか。

 

「やはり、本当に貴女がッ!?」

「……全く、あんたって面倒ね。知り合いよ、知り合い」

「知り合い?」

「そう。そういう結界とかまあそういったことに長けてるのが知り合いにいて、ソイツが急に来て言ったのよ。結界でもなんでもいいから己を外部からから守れってね。だから、今の私は__」

 

私はすっとナイフを取り出した。

当麻はギョッと目を剥いたが、神裂火織と元春は平然とし、私がこれからどうするのか見ている。

その中、腕にナイフを突き刺した。

 

ドバッ

 

と、血が溢れることはない。

『歩く教会』に刺したときのように、ナイフが跳ね返った。

 

「なんていうのかしら?私もよくわかってないのだけど、自分の時を止めるっていうか。だから、その『御天落し』は私の寸前まで迫ったのに時の壁にぶつかってそこで止まってる状態。攻めたら動きを止められて進行不可になった、ってことよ。簡単でしょう?」

 

私はそう言って、跳ね返ったナイフをしまう。

そう、簡単だ。原理はよくわからないし、ただ時を止めるよりは疲れる。まあ、時を止めるのは習慣になりすぎて疲れるなんてないのだけど。

 

「……でも、咲夜はレベル3だよにゃー?」

「ええ、そうよ。レベル3。これ、私もよく原理がわかってないから披露してないの」

「……本当に能力なのですか?」

「さっきも言ったじゃない……私の故郷では『時を止める程度の能力』って名乗ってたけどね」

 

インデックスの時と同じように応えると、程度?とまたまた同じように首を三人して傾げた。

 

「程度よ、そりゃあね。当麻のように幻想を壊せるわけでも、パチュリー様や元春たちのように魔術を使えるわけでもないから」

 

かみやんが特殊なだけだにゃー、と元春は呟き、神裂火織は更にわけがわからないという風に刀を撫でる。

 

「そうね、たしかに当麻は特殊だけど当麻の場合は右手だけじゃない?私の知ってる巫女なんてすごいものよ、すべてから浮くんだから。私の時を止めた世界からも、運命からも浮くのよ」

 

ふわふわと漂う楽園の巫女は、すべてから浮く。死からさえも浮かんでしまうのではないかと思ってしまったこともあるぐらいだ。

 

「浮く……」

「きっとこの魔術からも浮いているわ」

 

その前に紫によって魔術の浸入を防がれているのだろうけど。

もしかしたら、霊夢も手伝っているのかもしれない。

けど、彼女の面白いところはあれだ。彼女は浮こうとしない限り、浮くことはない。だから私が時を止めるたびに彼女が止まった世界で動くことはないのだ。無意識に浮いてはいるものの、浮いている高度の上げ下げは可能っていう感じなのだろう。

その前に勘が働いて魔術から浮くのは間違いないと思うけれど。

 

「そんなのと比べたら、私は程度。その程度なのよ」

「では、貴女は能力に誇りはないと?」

「そりゃあるわよ。この能力のおかげでお嬢様にお付きできるわけだし」

 

でも、貶されても特に嫌になることはない。そんなの他人の勝手なのである。それに、幻想郷は全てを受け入れてくれるのだから。

まあ、レミリアお嬢様や妹様の能力に愚痴をつけられたら、多少はキレるだろうけど。

 

「じゃあ、二人は一体誰に見えてるんだ?」

 

当麻の問いに、元春が『一一一(ひとつい はじめ)』とかいう、スキャンダル持ちの超イケメンアイドルに見えると答え、神裂火織は小さく『ステイル・マグヌス』だと漏らした。

けれどまあ、それはかなり小さくボソボソとしており、何度か当麻が聞き返していたが。

 

彼女曰く、「世界中が喧嘩売ってるのかと錯覚する」らしい。

 

私は苦笑いをし、当麻もなんとも言えない表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

で、今は海の家で昼食を摂るところだ。

 

カレーがなんとなく食べたかったのでカレーにした。

中々のカオス空間であるのはわかっているのだが、なんだかこれもこれでアリなんじゃないだろうかなんて思い始めた自分がいる。

外見ステイルの神裂火織、ワケありアイドルの元春、海の家の店主のステイル、その娘にミサカ、当麻の妹に美琴、母親にインデックス、インデックスは青髪ピアス、父親は__……

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっとすると、みんな食事を終えて再び活動を始めていた。

あれ、当麻の父親って……

 

(誰?)

 

当麻は父親を見たときは驚いていなかった。

と、いうことは彼は入れ替わってないのだろうか。

でも、彼の妻へのあの感じは彼女をインデックスだとは思っていないようなのである。

もし上条刀夜が妻のことが上条詩菜ではなくインデックスに見えていたとき、彼はあんな眼差しを彼女に向けるだろうか?

 

ふと横を見たが、当麻がいない。

彼がいないことになぜか安堵し、ファンに見つかるとヤバイみたいなことを言ってどこかに行ってしまった元春を探した。




ギリ二千か……
霊夢の部分を省いたのがデカイです、結構。

おやすみなさい。


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青年はみんなこう。

今日はだめかななんて思ったのにかけました。
咲夜さんはなんだかんだいって学園都市楽しんでる。


シャワールームでコソコソしている二人を発見した。

 

「……何してるの?」

「さっ、さっ、さくやサン!?」

「さては、覗こうとしてるわね」

「な、ナンノコトカナ!?」

 

何度か美琴がコンビニで『まんが』の立ち読みをするというのでついていったことがある。

最初こそは戸惑っていたものの、数回ついていくうちに彼女も私も慣れ、度々行くようになった。

というのも美琴は漫画を読んでいきなり笑うタイプの人間なのである。私はポーカーフェースは得意な方だと自負しているのでそんなことはないが、美琴は黒子以外にはそれなりに気にしているらしい。

 

で、何冊か少年誌へと手を伸ばしたことがある。

というか、少年誌の方が好きだったりする。

 

「漫画でよくみたわ。あまり私は男性と面識がなかったのだけど……だいたい察せるようになってきたわね」

「さ、咲夜が漫画の立ち読みだと!?」

「……美琴がよく行くからね。あと、私も本は好きな方よ。お屋敷でも借りて読んだこともあるし」

 

紅魔館の図書館には噛み付いてきたり、パチュリー様によって封印されているのもある。

まあ、そういうのは逆に噛み付くだけだったりするため封印するか手懐けるかして読むのだけど、時々甘噛みされる。ちょっと可愛い。

 

「ああ、えっと……咲夜にも一応言っておくにゃー」

「なに?」

「ごめんなのにゃー」

 

ん?と私は首を傾げる。

 

「オレは全ての事件を知っていたのに、すべて見殺し__」

「ああ、そんなこと」

「そんなことって」

「元春が謝るのが不思議なくらいだわ。何?あなたは目の前の人がハンカチ落としたのに気づいたけど放置し、別の人が拾って届けたのをみてその人に謝るの?気づかなくてごめんなさいって」

「それとこれとじゃ話が」

「一緒よ」

 

私にとっては、とこっそり付け加える。

私はお嬢様にお仕えする身、こちらへもお嬢様に言われてやってきた。

それなのに多少身勝手にさせていただいているのだ。紫の感じからそれでいいのだと思うけど、多少の罪悪感はある。

命がかかってる?そんなの落としたハンカチだってそう。

もし人が怪我してハンカチが必要なのに落としていたからとなかったら?

飴ひとつ差し出せば殺されない場面で持っていなければ?

そう考えるとキリがない。

私は私のしたいことをする。お嬢様がそう望まれているのだ。言われてはいないが、そう感じる。

 

「でも、覗こうとしてるのよね?」

 

私が話題をさっと戻すと、一気に二人の表情がおかしくなった。

 

「__いいわ」

「……へ?」

「……は?」

 

私はドアを開け、神裂火織に見えないギリギリの場所で時を止めて部屋から退散する。

 

 

 

__突如、最早誰の物かもわからない断末魔が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ」

「笑い事ではありません、十六夜咲夜」

「……なんか違和感。咲夜でいいわ」

「なら、私のことも」

「火織、ね」

 

まあ、とりあえずその話は置いといて。

 

「クスクス」

「__〜〜〜っ!」

「ごめんなさいね。けど、刀を操る者としてそれはどうなの?」

「わ、わかっています!」

 

あの半人半霊もあんな感じだったなんて考えながら私はこっそり持ってきた赤ワインのグラスを傾ける。

流石は海の家。学生が主体のため、美味しいワインがあまりない学園都市とは違ってセキュリティが駄々甘である。

 

「のむ?」

「いりませんっ!」

 

しばらく海風にあたりながらベランダに立っていると、後ろに人の気配がした。

 

「あら元春」

「咲夜もいたのかにゃー」

「いちゃまずかった?」

「いや、ききたいこともあったしむしろ丁度いいにゃー」

 

そういって元春は私と火織の丁度後ろに立つ。

 

「単刀直入に聞く。咲夜は人を殺せるかにゃー?」

「________まあ、わかるでしょ?メイド服に仕込んだ数々の人を仕留めるためのグッズ」

 

スッと私は手にナイフを持った。

 

「……じゃあ、咲夜は……」

「表か裏かって?裏の人間ね。私は昔、ヨーロッパで暮らしていたし、家業は吸血鬼専門の殺し屋だったから」

 

ギョッと聖人(火織)でさえも驚く。私はナイフでジャグリングを始めた。

これぐらいならいいだろう、幻想郷なんて存在すら知らなかったころの話だ。

 

「殺し屋____吸血鬼」

「ええ、吸血鬼。それを殺す、それが仕事の家で私は育ったわ。物心ついたころには吸血鬼を殺せた。才能があったのかもしれないけど、ある日私は人間も殺すようになった。怖くなった両親は、私を最近見つけた実力をもつ吸血鬼の家に行かされ、帰ってきたときには誰もいなかったの。つまり、捨てられたってこと。そうよね、人殺しの娘なんて気持ち悪いし」

 

半分嘘で、半分本当だ。

実力をもつ吸血鬼はレミリア・スカーレットの父で、それは殺した。

レミリア・スカーレット自身は殺せず、殺される一歩手前でメイドになったのである。

帰ってきた、というのは血や人肉確保のために一度だけそこへ出向いたことがあったから。時は止めていたのだが、ドアを開けたらだれもいなかったのだ。

 

「あなたは吸血鬼を殺したことが……」

「あるわよ、それぐらい。吸血鬼を見たものは死ぬ?何を言ってるんだか。吸血鬼なんて時を止めて近づいて、油断してるところを銀のナイフでぶっさせば殺せるし。ま、純血にはそう対応しきれないけど」

 

純血はそれでもよける。

それで殺せるのは、血を吸われ吸血鬼を化した人間だけなのだが、それさえも普通の人間は殺せない。

 

「ステイルが言っていたことは、」

「あら、教えてたの?その通りよ、あれは本当のこと」

 

ナイフをしまい、私は空を飛んで見せた。

 

二人は軽く驚いていたが、私はそのまま降下して魔術師二人の会話を詳しく聞くこともなく、新しく持ってきたワインを傾けた。

 

 

さっきの?そんなのは投げ割った。




青年はみんなこうです。
そして少女もなかなかのもんです。
咲夜は開いた瞬間にナイフで脳天ぶち抜きます。

そして若干でたレミリアに拾われたお話。
いまんとこは拾われたところについて書いていますが、のちのちこちらに送られた理由について書きます。
あー、霊夢かわいいよぉ


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火野神作、そしてミーシャ=クロイツェフ

前書きが登場人物を書く場と化してる気がする。


「なー、咲夜」

 

魔術師たちの会話のきりのいいところで中へと戻った私に当麻はいきなり話しかけてきた。

 

「……火野神作って知ってるか?」

「……誰それ?」

 

当麻に軽く話を聞くと、彼は刑務所を脱獄した脱獄犯であるらしい。そしてまた二重人格の疑いがあるとかなんとか。

 

「さっきまでニュースで言ってたんだよ」

 

テレビに目をやると、そこにはダイエットパワーを紹介するバラエティ番組がやっている。一応懐中時計を取り出して時間を見ると、三九分……

当麻は苦笑いをした。

 

「あんま見てて気持ちがいい内容じゃなくてさ」

「……そ。二重人格、ねぇ……」

 

私は学園都市に転入した扱いだ。

そのため、一応一年から今までの授業範囲は丸暗記しているのだが、その中に、何個か多重人格の項があった気がする。

……経緯としては、初めて訪れた際に『では、この教科書の内容の暗唱をお願いします』などと言われ、慌てて時を止めて暗記し、暗唱を行った。一年の教科書丸暗記、と言われたのでとても時間を使った(止めてるけど)記憶がある。

 

「でも、あれって完全に分かれないこともあるんじゃないの?」

「いやまあ、そうなんだよな」

 

当麻もぽりぽりと頬をかく。

 

「ェンゼルさま、エンゼルさま」

 

ぼそり、と小さな声と、何かの視線を感じて私は時を止めた。

見つけたのは、床の板の隙間。そこから感じる、目線……

私は当麻の服の裾を掴み、外へと連れ出した。

 

「だけど……ってうわぁっ!?」

「シッ」

 

私が勢いよくナイフを取り出し、スレスレで構えると当麻はうっとおし黙る。

 

「……よくやりました、咲夜」

 

と、視界の端っこで逃げていく人影をちらりと見やってから、火織を目線を戻した。

 

「褒められてもあまり嬉しくないのだけど。そして、あそこの彼女は?」

「ああ、あれは敵ではなく、ロシア成教の『殲滅白書(Annihilatus)』のメンバーだそうです」

 

ふぅん、と私は頷く。

ロシア成教は『幽霊狩り』に特化しており、彷徨う火霊(ジャックオーランタン)見えざる幽鬼(ウストツク)など専門のゴーストバスターズである。

ちなみにイギリス清教は『魔女狩り』。パチュリー様も、それに関しての文書はいくらか持っているのだが、あの頃のイギリスの魔女は自分も守れない愚か者ばかりだったのだとか。ちなみにだからと言って、パチュリー様はイギリス清教を嫌っているということはない。

 

私がそちらを見ていると、高速で____

 

「問一。『御天落し(エンゼルフォール)を引き起こしたのはどちらか」

 

ノコギリを当麻に、よくわからない刃物を私に向けて彼女はそう言い放つ。

 

「どちらでもないわ。そもそも私たちは能力者だもの」

 

当麻は動揺しているようだったが、私はそれ以上動くことなく言葉を返した。

 

「では、問二。起こしていないという証拠はあるか」

「ないわよそんなもの。そうねぇ、せめていえば、魔術の痕跡がないんじゃないかしら?」

 

火織は軽く溜息を吐いて、必要悪の教会の公式見解を述べ始めた。

 

「幻想殺し……」

 

ぼそり、その見解を聞いたミーシャ=クロイツェフが口を開き、次の瞬間水の魔術を展開した。そのうちの一つが当麻に襲いかかる。

当麻は瞬時に右手でカバーし、その魔術は消えていくいった。

 

そして今度は、私に向かってナイフを投げてきた。私はだいたいの流れを察し、避けることなくそのナイフを身体にあてた。

当然、ナイフは私の能力により、跳ね返って落ちた。

 

「正当。イギリス清教の見解と今の実験結果には符号するものがある。この解を容疑撤回の証明手段として認める。誤った解のために刃を向けた事をここに謝罪する。__我が名はミーシャ=クロイツェフだ」

「私は十六夜咲夜よ」

 

どうやら認めてくれたらしい。

先ほどの説明において、パチュリー様のことは言っていなかったため、これで済んだのだろうか。

 

「問三。では、誰が『御天落し』を実行したのか。誰か心当たりはあるか?」

 

……と、いうと……

私は先ほど、床から聞こえた声を真っ先に思い出した。

『エンゼルさま』と言っていたことから、なんとなく天使と関係のある気も……

 

「な、なあこれって特撮ヒーローの撮影かなにかか?」

 

私たちが一斉に声のした方をみると、声の主はびくりと体を震わせた。

ミサカか、と私は若干安堵の息を漏らす。

 

「『人払い』は二階に仕掛けていたのですが……」

 

申し訳なさそうに小さく火織はそういったが、ミサカには聞こえていないようである。

 

「それに、さっき逃げるように逆に方向へと走っていたのだって、刑務所脱走した火野だろ?」

 

火野……火野神作か、と私は後ろ姿した見ていない姿を思い浮かべた。

顔はわからないが、どんな顔をしているのだろうか。人殺しをし過ぎておかしくなった人種はみていて面白いのだ。

 

「お前、あいつが火野神作に見えたのか?」

「それ以外誰に見えるよ?」

 

ふむ、どうやらミサカは逃げていった人物の顔まで見ているらしい。

ここで、私はん?と疑問を持った。

 

「ってことは、入れ替わってない?」

 

当麻から見ても、ミサカから見ても、火野神作だと言うのなら……

それは、火野神作が上条刀夜と同じで入れ替わっていないということ。

ただ、上条刀夜は入れ替わってはいないものの、入れ替わりを把握していない。そのため、全く同じとはまだ言えなかったりする。そもそも火野神作が入れ替わりを把握してるのかも、まだ少し危うい。

 

当麻もハッとして魔術師たちに説明すると彼らの顔がみるみる強張っていく。

 

「問四。……先ほどの、逃走した方か」

 

ミーシャ=クロイツェフは火野神作の走り去った方を睨みつけた。走り出そうとする彼女を火織は手を引いて止めた。

 

「待ちなさい。同じ獲物を狙うのならば、一緒に行動を共にしませんか?」

「問五。それに対する私のメリットはあるか」

「……逆に聞くけど、あなた素人でしょ?そんなんじゃ人はうまく殺せない。所詮、幽霊狩りってこと。それなら、ナイフの扱いに慣れた私や、魔女狩りのイギリス清教をガイドにつけてもいいと思うのだけど」

 

私はそう述べてミーシャ=クロイツェフの耳スレスレにナイフを投げ、髪を一本だけ切断した。

 

「……、賢答。その問いかけに感謝する」

 

ミーシャは最初に提案した火織に手を差し出して握手をすると、今度は私に手を差し出してきて、一応握り返した。

 

「で、なんだ。これから追いかけっこでもするのか?」

「いえ、向こうは天使を手中に収めているかもしれませんのでそれは得策ではないと言えるでしょう」

「あと、当麻がまた狙われる可能性も捨てきれないわ。あなたは幻想殺し以外は普通の人間なんだから、警護した方がいいかも」

「はっ!?警護」

 

当麻は嫌そうな顔をするが、事実幻想殺しがなければ、彼が一番弱いのだ。

もしかしたら、相手は幻想殺しを知って魔術を利用しないということも十分に考えられるのだから。

 

それを踏まえて火織がテキパキと簡単なスケジュールを立てる。

ミーシャ=クロイツェフと協議後、当麻の警護という単純なものではあるが。

 

「では、協議の結果はあとでまた説明致します。あなたたちは部屋へ____」

 

時を止め、当麻を廊下へと落とす。

 

「____戻るわけないじゃない。こんなに楽しそうなことから逃げるような人間じゃないわよ。上条当麻は返したわ」

 

元春と火織は、どこか諦めたような、納得したかのような顔を少なからずしていたが、ミーシャ=クロイツェフは私に問を向けた。

 

「問六。ずっと気になってはいたが、十六夜咲夜は____」

「____魔術師ではないけど、裏の人間かしらね。なんせ、能力者ですから」

 

私は自分でも胡散臭いんだろうなぁ、なんて思いながらゆっくり微笑んだ。




は、初3000越えかもしれません!

ここの刀夜さんは……多分やってません。
やってたとしても、今から当麻さんが止めにいきます。

なので当麻さんは……寝れるのでしょうか、寝れないのでしょうか。
咲夜さんはきっと、時を止めて寝ちゃうんでしょうけどね!


咲夜さんの学校での立ち位置

「御坂さんとよく一緒にいる」
「一人でいるときもある」
「分け隔てなく人と接する銀髪美女」
「メイドって噂を聞いた。どこ!?」
「時間操作っていう珍しい能力持ってるらしい」
「紅茶淹れるの上手」
「姿勢がキレイ。私もバレエやってるのに!」
「成績もいいし、頭もいいし、性格もいい」


咲夜さんは外面いいイメージです。
人里とかで、「すみません、お豆腐お願いできますか?(ニッコリ」とかしてそう。
(ただし異変では人が変わるっと)
丸い咲夜さん書きたいなぁ。うちの咲夜さんはツンツンしてる。


追記・ミーシャが名乗ってなかった。


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天使と魔術

戦闘シーンとともにこれも大変です。
【【魔術的な、宗教的な会話】】
ネットであれこれ調べてはいますが、これがまた大変。
とあるも聖書にあることだけを書いているわけではないようで、それがまた大変ですが、まあ楽しいのでよしとします。
そして、今回鈴奈庵要素が少し。
鈴奈庵は全巻揃っております。


ドタドタと聞こえる足音を聞きながら、私は刀夜&インデックス(詩菜)の部屋の前で呑気に一つ欠伸をした。

 

「流石に不眠はまずいか……」

 

とりあえず時間を止め、睡眠をとると風呂に入って身だしなみを整える。

 

「海って、潮っぽいからちょっとベタベタするのね」

 

なんて独り言を言いながら、時を止めた中で全てを終わらせてまた二人の部屋に戻った。

そこで丁度当麻の従姉妹だという美琴(乙姫)が降りて来て、そのまま部屋へと入っていく。

またドタドタが始まって、しばらくすると今度は青髪ピアス(インデックス)が降りてきてた。

 

「あれ?咲夜はなんでこんなところにいるの?」

「本当は当麻を起こそうと思ったのだけど、ここにいるみたいだしお取り込み中みたいでね。インデックス、いってきてくれる?」

「うん、わかったよ」

 

そしてインデックスが入っていき、また更にドタドタし始める。

今日も騒がしいな、なんて考えながら私は思わずクスリと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

午後一二時のお昼。

夏バテになったとか適当な嘘を吐いた当麻に乗っかり、『私がみておくのでみなさんは遊びに行ってください』と言い、他の人たちが浜辺へと出て行ったのを見計らったのか魔術師組が『わだつみ』へとやってきた。

と、いうかまあ本当に当麻は夏バテで倒れていたので、本気で氷を持ってきたり色々としていたのだ。それでこんな時間まで延びた。要するに当麻の所為である。

 

「まったく、一睡もしてないなんてね」

「いや、それは本当……色々あったんだって」

「知ってるわよずっと私は部屋の前にいたんだもの。起きてる気配がずっと途絶えなかったわけだし……」

 

しょうがないので夏バテしてる間に睡眠をとらせた他、わざわざ時を止めて2時間くらいは寝かせた。

それでもやはり、疲れは取りきれていないらしくどこか萎んだような表情をしている。

 

「で、犯人は火野神作ってことでいいのか?」

「私は見ていないのでなんとも言えませんが、事実なら彼は黒に近いでしょう」

「と、なればそいつをとっ捕まえりゃいいわけだが……」

「でも、彼が本当の魔術師ならば多少は魔力を感じるはずよね」

「あと、『天使』の気配もないしにゃー」

「何かで隠蔽してるのかしら。結界、あるいは限りなくこちらに馴染ませているか……」

 

結界はここではあまり使われていないように感じる。存在は知られているようだが、『人避け』を使う比率が高すぎるのだ。

こちらに馴染ませる、というのも簡単ではないと思う。霊力を魔力に混ぜれば、霊力とは人が生まれながらに持っている力のため、違和感を薄めることができる。けれどもちろん、魔力が多ければ混ぜるべき霊力は増えるし、霊力も増やし過ぎれば多少魔力や霊力に精通しているものになら見破られてしまう。

 

「なあ、隠蔽ってそんな簡単に出来るのか?」

「あくまで旧約の話ですが、天使が自分の正体を隠して人の街へ赴き、食事をしたという記述があります。同様に河で溺れる子供を助けた大天使もいるとか。元元そういった隠蔽技術を持っていると考えた方がいいかもしれません」

 

民家へ上がって食事、はよくわからないけど河で溺れる子供を助けたのは河童じゃないのかなぁなんて考えたが、十字教に日本の妖怪は当たり前だが出ないのでまあ突っ込むのはやめた。

 

まずは情報収集だと、元春がテレビをつけると九つぐらいにしか見えない大野教授とやらと、小萌先生(アナウンサー)が火野神作について話していた。

火野神作は数々の人々を殺しているが、それは全て『エンゼルさま』に導かれたのだと本人は主張するという。

 

「……昨日、当麻が襲われた少し前に彼がそういってるのを聞いたわ」

「じゃあ、これが入れ替わりの前と後の共通点になるな」

「問一。改めて確認を取るが、やはり彼が『御天落し』の実行犯ということか?」

 

当麻がこくりと頷く。

刀夜も入れ替わってはいないので、まだ確定とは言えないため、私は頷かなかったのだが。

 

「けど、『エンゼルさま』ってのはなんなんだ?」

「それについては昨日床を直している時にこんなものを見つけたぜい」

 

元春が取り出したのは、ノートほどの薄い木の板を取り出した。傷がないところがないほど、釘でボロボロになっている。

 

「アルファベットが刻んであるみたいだし、ニュアンス的にはこっくりさんやプランシェットと同じ認識でいいと思うぜい」

「ふうん、こっくりさんって、どうぞおいでくださいの?」

「咲夜はやったことがあるのかにゃー?」

「見たことがあるだけよ。一時期里……えっと、お屋敷の近くのじゅ、住宅街で流行っていてね。でも、あれって弱い霊しか降臨しないんでしょ?その辺で死んだ、ネズミの霊とか」

 

確か霊夢がそういっていた気がする。

 

「まあ、巫女とかそういったプロがやれば神霊も呼び出せるとか言ってたけど……」

 

うんにゃ、と元春が首を振って、人差し指を立てた。

 

「確かにそれもそうだが、重要なのはそこじゃあないからにゃー」

 

よくわからないが、無理やり疑問点を飲み込む。

やはり魔術はよくわからない。

 

「『エンゼルさま』に導かれて殺した二八人は一体なんの儀式を指していたんでしょうね」

「けどそれが『御天落し』だというのなら……矛盾が起きるわね。もし『エンゼルさま』が本物の天使なら、なんで『御天落し』なんて実行したのかしら」

 

天使が天使を捨てる?それでは何かおかしい。

 

「地上に降りたかったから、とか?」

 

当麻のあまりにストレートな答えに、元春が天使というのは心を持たないのだと教えてくれた。

天使というのは、神のラジコンのような存在なのだと。

 

「……じゃあ、命令したのも天使じゃないと?」

「その可能性も捨てきれないにゃー」

 

私は腕を組んで悩む。

天使……天子……?

いやいやあの子は天使じゃないし……

 

「天使ってそんなもんなの?」

「そんなもん。新約には『最後の審判』ってのがあってな、善人と悪人を裁いて天国地獄へ送るのは神様ってことになってる」

 

へぇ、と私は随分と前に読んだだけでほとんど内容も忘れてしまった旧約聖書と新約聖書をなんとなく思い出す。

……ダメだ、ほとんど覚えてない。

ちなみに私は洗礼を受けていないため、無宗教の部類である。

と、いうのも幼児洗礼が認められていなかったのだ。そして物心がついてしばらくしてからすぐに人殺しまで出来るようになったために洗礼なんて以ての外だったのだろう。

まあ、そのおかげでお嬢様のもとにつけていられるわけなのだけど。

 

「さっきも言った通り、天使ってのは神様が操るラジコンみたいなモンなんだがこれが何かの拍子に命令を受け付けなくなったり混線したりする。これが、『悪魔』ってトコなんだぜぃ」

 

ってことは、小悪魔もそうだったのか。

幻想郷にいると色々鈍るが、これがこちらの常識らしい。

 

けど、天使がラジコンならそのリモコンを無くした天使は何もできないはず。

 

「ま、その辺は火野をとっ捕まえて吐かせますか」

「そうね。具体的に考えないと」

 

私たちの言葉に、ミーシャ=クロイツェフがちらりを視線を向けてまた戻してしまう。

どうやら彼女は自発的な会話が苦手らしく、代わりに火織が口を開いて本格的に話し合いが始まった。




天子さまぁっ!

こっくりさんですが、私はやったことないです。
怖くてできませんよ……あはは。


ちなみに今回は一昨日くらいに1500ほど書いて、今日全て書ききりました。
一回で書かなかったのは久しぶりです、
大抵すぐに書くか次の日くらいだったので。
今回も色々調べましたが、図書室で十字教関連の本を借りてみようかと悩み中です。今の脳みそじゃ限りがありますねこれ。


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疑問点と、そして始まり

たいっへん長らくお待たせいたしました!
二週間以上ぶりの更新になります、色々変えてたので地味に時間がかかったのは内緒。
気づいた方は気づいたと思いますが、サイドストーリーがトップに移動しました。
これからもよろしくお願いいたします。
また、いつも誤字脱字報告ありがとうございます。


疑問点はいくつかあった。

まずは、火野神作は堕ちてきた『天使』を手に入れているか。

これに関しては、微妙である。本当に火野神作が信じているものは『天使』なのか危うい。

 

「なあ咲夜」

「なに?」

「……知り合いに天人がいるとか言ってたよにゃー?」

「ええ、言ったわ。でも、あれは天人なのであって天使ではないの。意思もきちんとあるし、住んでるのは天界っていう行けなくもない場所よ」

 

行くのは難しいけどね、とは付け足しておく。

 

「……じゃあその、『天人』ってやらが『天使』を名乗っていたりするかもしれないにゃー」

「そうねぇ、ま、可能性としては低いでしょうけど」

 

そして、二つ目。

火野神作は、何かの組織だったり集団に属している可能性について。

これについては、元春が「薄いだろう」と理由とともに述べていた。

 

「いきなり申し訳ないんだけど」

「?」

「私、結構鼻が効くわけ。それこそ、山の中でどことなく獣臭を嗅ぎ分けられる程度には」

 

当麻が襲われた日。

私には、気づいたことがあった。

 

「彼が持っていたナイフに、毒がついてたの。物資までは流石にわからないけど、科学的な学園都市製ではないと思うわ」

 

学園都市製の場合、実は毒かどうかなんて遠くからじゃわからない。

理由は簡単、自然に出来たものじゃないからである。

 

「……ナイフに、毒____」

「本当だったら、入手経路が気になりますね」

 

流石にちょっと謎が多すぎるかもしれない。

もしここが幻想郷(ふるさと)ならば、きっと何も考えずに霊夢に習って飛んで行ったんだろうな、なんて考えながら訪れた沈黙に身を任せた。

こうして考えると、私も割と常識に染まってきた気がする。

 

「ナイフも、でしょ?一般人は簡単に殺人用ナイフなんて手に入れられないんだし……」

 

火野神作の持っていたナイフはキッチンナイフなどではなかった。

私が使っているものよりは質が落ちるものの(まああの魔法使いの錬金術だし当たり前っちゃあ当たり前なのだけど)、あの形は間違いなく生き物を殺すためのもの。

 

「じゃあなんで咲夜はもってるんだよ……」

「それは……お嬢様をお守りするのに必要なわけだし、知り合いに作ってもらってるからに決まってるじゃない。店で買うような真似はしないわよ、こんな質が悪いナイフを買って、生き物を殺せるとでも思ってるの?出血多量で不味さの極みね」

 

本当に出血多量で不味くなるかは知らないけど。

と、不意にテレビのトークがどこかに消え去り、小萌先生が現れた。

……なんと、火野神作が立て篭りを始めたらしい。ふむ、それで臨時ニュース。

その、赤い屋根の家の600m以内に住んでいる人には避難勧告が出ているようで、小萌先生の周辺には幾人か人が見えた。

火野神作は民家に逃げ込んでカーテンや雨戸を閉め、中の様子がわからないようにしてるんだとか。

 

チッ。と元春が舌打ちする。

 

と、画面が切り替わって上空からの映像が映された。

 

「あら、赤ね。可愛らしい色だこと」

 

映し出されたのは、赤い屋根の家。

紅魔館の紅とは全然違う、可愛らしい屋根の色。

私がクスリと笑ってふと当麻を見ると、彼は何かを考えるかのようにしばし呆然としていた。

 

「どうしたの?」

「あ、いや……」

 

言葉を濁す当麻にちょっと疑問に思っていると、

 

「__さてはて困ったことになったぜぃ」

 

なんて、土御門が警察に火野神作が渡ると面倒なことになるといいはじめた。

 

「そうね」

 

外の世界(ここ)では、強い者に捕らわれた弱い者の命が重要らしいのだ。

……そんなの、自力で出ろという話である。

 

「土御門!仮に人質がいた場合、どういった結果を招くかわかっているのですか!?」

 

火織は聖人だけど、こういうのはなんか、優しい。これが優しいというのかいい人というのかはわからないけど。

とはいえ、人里の人間を守る半妖もいるからまあ種族がものをいうのではないのだろう。

……聖人って、種族なのかな?

 

「で、当麻。なに?なんかあったの?」

「あ、いや__見間違いかもしれないんだけど」

「何ですか?」

「……ウチの母さんの趣味のパラグライダーで撮影したっていう近所の上空の写真を入院してる時に見せられた時があってな」

 

 

 

 

『なーんか、見たことある気がするんだよなー……実家の上空で』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、タクシーで行くの?」

「ああ、それが無難だからな」

 

車で20分ほどの場所だというそれほど遠くもない当麻の実家。

……20分もかけていくのか、時を止めて空を飛べばいいものを……あ、でもこの三人は私が飛べるのを知っていたっけ。

 

「__ねぇ、空を飛んで行った方が早いと思わない?」

 

時を止めて、三人のそれぞれの頭を一つずつ叩く。

 

 

 

 

 

「は?」




題名が……

そして、前書きにも書きましたが、本当に身勝手ながら二週間もお休みして本当に申し訳ございませんでした!


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時を止め続ける話

当麻さんサイドもあります。


とりあえず私は止まっているミーシャ=クロイツェフを動かすことにした。

 

直に触らないように分厚い皮手袋をして、ちょっと奇抜な彼女のマントを掴むとそのまま浮く。

 

「……咲夜ってすごい力もちなんだにゃー……」

「私がメイドをさせていただいてるお屋敷じゃ、男性は一人もいないからね」

「この前咲夜って、インデックスを抱えて飛べないみたいなこと言ってなかったっけ?」

「それはそれ、これはこれ。それにそんなこと一言も言ってないわよ」」

 

あれはどちらかといえば、ただ面倒くさかっただけである。

 

「どうする?こうやって一人一人送るか、それとも全員で歩いていくか」

「歩いて行った方が楽だろうし、歩きでいい……っていうか、タクシーで全然構わないんだが」

「そ。なら、歩いていきましょうか」

「……咲夜」

「なに?」

「ミーシャ=クロイツェフは動かさないのですか?」

 

ちらり、と火織がミーシャをみて、私へと視線を戻す。

 

「動かした方がいい?……面倒だし、空を飛べるって教えてないから動かしてないんだけど」

「咲夜がいいのなら構いませんが、その場合ミーシャ=クロイツェフとの連携がうまくとれなくなるのでは」

「……それもそうね。ほぼ単独で乗り込んでいた私には考えられない選択だわ」

 

勢いよく降下しミーシャをさっきと同じように立たせると、手袋をとって、彼女に触れた。

ぱっと彼女は色を取り戻してセピア色の世界に驚いている。

 

「…………!?問一。ここはどこか」

「私が時を止めた世界よ。このまま歩いて当麻の家へ向かおうと思うんだけど、異論はない?」

「回答一。ない……が」

「なに?」

「問二。この仕組みがわからない」

「仕組みもなにもないわ。一応これは能力、だし……私もいまいち仕組みとかわからないもの」

 

それから今後のために簡単に私が空を飛べることを教えながら当麻の家前まで歩いた。

地図がないと不安とのことで、その辺のコンビニからお借りしたりしながら包囲網の寸前まで辿りつくと、そのまま一時間分くらい休憩。

当麻には何度か体力を心配されたが、これぐらいお茶の子さいさいである。

 

「……咲夜、本当にこれ大丈夫なのか?」

「だって疲れてるでしょう?私は疲れてるなんて常識、信じてないけどね」

 

こちらの常識は私たちの非常識。これは学園都市とその外でも通じることだったりする。

 

例えば、学園都市では出たゴミを道路に捨てるなんて普通のことで、わざわざゴミ箱を探す人なんていない。理由は簡単で、学園都市には掃除ロボットがいるから。ゴミを捨てればロボットがやってきて回収してくれるのである。

しかし外では違うらしい。ゴミはゴミ箱、学園都市と違って至る所にゴミ箱が設置してある。ちなみに学園都市には、外にゴミ箱の概念はない。道路に捨てるなんてマナーのなっていないことで、非難されることなんだとか。

それが幻想郷になると、またまた違う。ゴミが出たらそれは霊弾などによって一瞬で塵にしてしまうのが私たちの常識である。霊夢ならまとめて札で消滅、魔理沙なら八卦炉で焼き尽くし、竹林の妹紅ならそのまま炎で炙るのだろう。

 

「いや……けど疲れるんじゃあ……」

「これっぽっちで疲れるわけないでしょう。当麻の中の私はどれだけ貧弱なのよ……」

 

そんな会話を確か五回くらいしただろうか。

元春たちは能力を行使する私に対し、なにも言わなかったがどちらかといえばそちらの方が嬉しい。

そもそも自らの時を止めたままここまで生活しているのだ、その質問は野暮である。

 

「……どうします?このまま行きますか?」

 

頃合いを見計らったのか、火織が不意に口を開く。

私たちはこくりと頷いて、上条宅へと足を進めた。

 

「ケイサツ?が多いわね」

「警察、な」

「あまりに多すぎる。咲夜は時を止めずにどれくらい戦えるかにゃー?」

「そうね、だいたいは大丈夫よ。というか火野を捕まえてくればいいんでしょう?それくらい出来るわよ、別に」

 

私は空へと飛び上がりベランダの窓を蹴破ると、一人一人そこまで運んだ。

バリーンという音がし、私の触れた窓が砕け散った。

 

「入りましょう。手分けして探した方が早いわ。ちなみに当麻は見つけても右手で絶対に触らないこと」

 

当麻は頷き、一番に家へと入っていった。

全員が入ったのを確認すると、私も突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

__火野は随分あっさりと見つかった。

 

手錠をし、足も結びつけた状態で私が触れれば、火野はもちろん動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 当麻

 

 

 

咲夜の時を止めた世界での休憩中、少しだけ土御門と話したことがある。

 

『魔術師は戦闘に関してはド素人なんだぜよ』

 

彼はそう言った。

魔術師は訓練を積み重ねた特殊部隊じゃない、自分の私情で動いてるんだと。

 

「ウソだろ?」

 

じゃあ、あのアウレオルスやステイルはなんなのか。

土御門はそれは核ミサイルの発射ボタンを子供に握らせているようなものだと平然と答えた。

 

「だからこそ、十六夜咲夜は異常なんだぜい。あんなの普通おかしい。戦闘慣れしてるなんて、魔術師じゃ普通はありえない」

「咲夜は魔術師じゃないだろ」

「超能力者なら理屈ってモンがある。空間移動だったら十一次元があるようにな。けど、咲夜は超能力じゃなくて能力って言ってるだろ?」

 

確かにそうだ、咲夜は自分の能力を超能力とはほとんど言わない。それに自分の能力の仕組みもよくわからないと__

 

「だから、異常なんだぜい。能力は存在するのに、理屈がない。カミやん、十六夜咲夜は……なんなんだ?」

 

土御門は咲夜をフルネームで呼びながら聞いてくる。

 

「まあ、咲夜はちょっとおかしいと思う。常識が抜けてるし、こんな俺なんかと友人やってくれてる。けど、あいつは……咲夜は、土御門(おまえ)が思ってるようなやつじゃない」

「……けど、十六夜咲夜には気をつけるに限るぜ、カミやん。きっと彼女には巨大なバックがついてる」

 

土御門はそういって、神裂火織の方へと歩いていった。

 

 




週末とか言ったやつは誰だ。私だ。
ってことで、最新話です。

咲夜さんハイスペック。

土御門は洞察力が優れているイメージ。
ただ、バックがお嬢様なのかそれ以外の誰かなのかはわかっていない様子。


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罪悪感。

ちょっと短めです


「では、火野神作の尋問を始めます」

 

セピア色の時を止めたままの世界の中、私は火織の声に応えるかのように火野に触れた。

火野はこの世界に驚くことなく、私たちを見上げている。

 

しかし……全くこの部屋も特徴的である。

棚には大量のお守りやら土偶やらが並べられており、魔除けとして有名な銀のナイフまで置いてあった。

当麻曰く、これは彼の父親のコレクションらしいが……いったいどんな意図があってこんなコレクションを展開しているのだろうか。

 

 

 

火野神作は、わからないと言った。

「御天堕し」を「えんぜるふぉーる」とよんでいたし、何より表情でわかる。

彼は、嘘をついていない。

 

元春はニヤニヤと笑いながら、膝の関節を外すとか、そんなことを話している。当麻は顔面蒼白だが、ああ、うん。わかるよ。膝の関節って思いの外伸びるのよね。

元春の手には、ドライバーが握られており、ミーシャの手にはノコギリが握られていた。

逆にこういっただれもが知るようなもので拷問するほうが、そのものがどれだけ危険なのかわかるために恐怖心を煽りやすかったりする。

 

「しらない、しらない、しらない、しらない、しらない」

 

火野がひたすらそのつぶやく。

彼にとって「エンゼルさま」は全てなのだろう。

 

「手を止めなさい、火野神作」

「ひっ、ひいっ、とめられないんだ。エンゼルさまはとめられないんだ」

 

まるで病気である。

私は一つため息をつく。

 

 

「常盤台中学一学年。基礎知識。『ひとつの身体で本当に能力はひとつしか使えないのか』。要約。方法一。二重人格を使用し、ひとつの人格でひとつの能力を使用出来るか。っていう単元があるんだけどね。二重人格、っていう選択肢を考えてみたら?」

 

 

「!」

 

元春がはっとし、当麻が私の顔を意味深な目で見つめる。

 

「二重人格……ですか」

「それなら辻褄合うわよ」

 

二重人格は完璧に人格がわかれない場合も少なくない。

つまり、一度にひとつの身体にふたつの人格がいる場合があるのだ。

今の火野神作がその状態だというのなら、辻褄がしっかりと合わさる。

 

「そのふたつの人格が入れ替わってるっていうこと……か?」

「そうね……けど、彼はエンゼルさまを信じる。でしょう?」

「そ、そのとおり!エンゼルさまはいるんだ!お前もまた、あの医者と同じことをいうのか!」

 

決まりだ。私の仮説は正しかった。

火野神作は二重人格で、自身の中で入れ替わっているから外観が変化しなかっただけ。

つまり、彼は犯人ではない。

 

 

 

 

 

そして、火野が犯人じゃないとわかってしばし呆然としていた私たちだが、当麻がやがてあることに気づく。

 

 

「……待て」

 

 

壁に寄りかかり、目をつむったままだった私はその声を目を開く。

目線の先では、当麻が写真を見つめていた。

 

私は割と序盤から気づいていた、そんなひとつの事実に、当麻はたった今、気がついたようだった。

 

 

そんな、まさか、疑っているようだった。

 

 

信じたくない、そう思っているような目だった。

 

 

 

そうだ。彼は、上条刀夜は、()()()()()()()()

 

 

「ま、さか……父さん……」

 

 

私には彼の気持ちはわからない。けど、きっとショックなのだろう。いや、それでは言い表せないような気持ちなのかもしれない。

それは私には到底分かり得ないことだけど。

 

「上条刀夜は、入れ替わってない。そうでしょ?当麻」

「っ」

「……ごめんなさい。私は割と序盤から気づいていたわ」

 

正直に白状すると、当麻以外からも視線が一斉に集まった。

 

「言えるような空気でもなかったし、当麻が気づかないことに私だけが気づくとは思わないでしょう」

「それはそうですが」

 

ミーシャが標的を見つけたといって、駆け出していった。

標的とはどういうことかと、火織が怒鳴った。

元春が、再度当麻に説明をした。

私は、ただそこに立っていた。

 

 

彼のちくしょうという小さな声が聞こえた。

 

 

私は、何をすることもなく、壁に寄りかかったまま腕を組んでいた。

 

 

 

何をすればよかったのか。元から彼が犯人ではないかと確認しておけばよかったのだろうか。

私はただ、言わなかっただけなのに、己の中に罪悪感だけが渦巻いていた。




コメ返がしばらく遅れると思われます。


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愛と幸運

愛とはなんだろう。

 

 

 

十六夜咲夜は愛がわからない。

 

 

恋なんてしたことないし、親に愛された記憶なんて残っていない。

 

 

レミリア・スカーレットへの忠誠は一種の愛なのかもしれないが、ここで記述するべき愛ではないだろう。

 

 

愛とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__……」

 

沈黙。当麻は何かを考えるように、窓の外を見ていた。

私はふぅ、とため息をつく。

私に今の彼の気持ちなんてわかるわけがない。親に捨てられた、私が。

捨てられたことを恨んだ過去もあったが、今はこれでいいと思っている。

これが私の【運命】で、変えようがないものなのだから。

 

私の母だった人は一流の吸血鬼の殺し屋の娘だったそうだ。銀色の髪と群青色の瞳をもっていた。幼い私にものの投げ方を教えたのも、彼女である。美人で、スタイルもよくて、小さな村の人気者だったと聞いたことがある。

そんな彼女を妻にした父親だった人は弱い人だった。黒髪に、蘇芳色の瞳。私からみた曾祖父は強かったらしく、その容姿を受け継いでいたそうなのだが、弱かった。

ただ私は無害な人物の人殺しをするほど間抜けではなかったので、殺すまではしたことがなかった。

 

そんな、父方の曾祖父の血と、吸血鬼を殺し続けた一族の末裔の血を受け継いだ私が一般人でいられるわけがない。

吸血鬼はおろか、人を殺すことすら躊躇がなくなっていった。

そんな私を、父だった人と母だった人は捨てた。

 

スカーレット家に仕えるようになっても、私を一員として迎えてはくれたが愛なんて感じたことがない。

あの館は別に、私がいなくても平気なのである。

 

「当麻?」

 

返事はない。

 

「私は愛なんてよくわからないけど、あなたは捨てられたんじゃないのよ」

「……わかってる」

 

その様子に私は小さくため息を吐いて、窓の外を見た。

 

「すみません」

「なんですか?」

 

入れ替わりによって、運転手になっている妹様くらいの男の子に声をかける。

 

「ここで降ろしてもらえます?」

「あ、ああはい。えー、と七……」

「これでお願いします。お釣りは取っておいてください」

 

私は二万円を置くと、当麻を引きずってタクシーから出た。

別のタクシーにのった火織たちには連絡していないが、まあいいだろう。

 

「いきなりどうしたんだ?」

「どうもしないわよ。ふざけたことを考えているみたいだから、頭冷やしてもらおうと思って」

 

当麻の左手を取り、浮いてみる。

……どうやら、左手なら浮けるらしい。

 

「!」

「ふふ、驚いた?きっとすぐに目がさめるわ」

 

私はそのまま、猛スピードで海の家まで飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着いたら美琴(乙姫)しかいなかった。

もちろん、ミーシャも、私とは別のタクシーにのった火織も、残った元春もいなかった。

彼女曰く、みんな当麻と私を探してくれているらしい。

 

「父さんは?」

「浜辺じゃないかな?」

 

謝っておきなよ、といってくる彼女に私はかるく微笑みを返す。

 

「__当麻。もしいやなら私がいく。けど、あなたならきっと、」

「ああ。俺は自分でいく」

「だと思ったわ。いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

幻想郷には親無しが多い。

だいたい親がいるのかすら不明である。

魔理沙は『霧雨道具店』に父がいるようだけど、破門にされたと聞いた。

私もどこかで親だった人は生きているかもしれないけど全くの消息不明で今どこに住んでいるのかなんて全くもってわからない。

 

だから、私にはこういったことに免疫がない。

親がどうしたとか、小さい頃はどうだったとか。そんなことの話にはなることがほとんどなかった。

 

まあ、霊夢なんかは先代に大切に育てられたようだけどもういないし、早苗に関しては向こうの世界で病死したと聞いた。

小さい頃の話はまずしない。常盤台の女子寮で時々話題に上る程度であり、それでも誕生日の日なんかに「何時生まれ?」「8時59分よ」「えーっ!あとちょっとじゃん!」みたいな話ししかしない。つまり、たいしたことがないのである。

 

 

「咲夜!」

 

火織が駆け寄ってきて、二人で当麻と刀夜の会話が終わるのを待つ。

 

しばし無言だったのだが、やがて火織が口を開いた。

 

「私はあまりこういったことは話さないのですが……。なんだか、咲夜には話したいのです」

「なに?恋愛相談かなにか?」

「ち、違います!」

 

軽くからかってやると、素直に火織は顔を赤らめる。

ちょっと可愛いなぁ、なんて思っていたのだが、すぐに真剣そうな顔になってしまった。

 

「……私は幸運な人間です」

「へえ」

「だから、周りの人間を不幸にしてきました。だから、私は……、自分が許せない」

 

火織が話したのは、火織の過去の話。

火織がここ日本の天草式宗教に居て、女教皇(プリエステス)だった頃のものだった。

彼女は自分が選ばれたものであることを悔やんでいたそうだ。くじを引けば当たりを引いてしまう。それはつまり、別の人間の幸運を奪っていることになる、と。

 

「すみません、こんな話きいてもらってしまって」

「いいわよ別に。あなたもあなたなりに悩んだんでしょ?けど、別にそんなもんなんじゃない。幸運に恵まれたなら、それを振りまかないと。それでこそ、プリエステスなんじゃないの?」

 

幸運を持っているのなら、その幸運で他の人々を救ってやればいいじゃないか。

火織なら、簡単に答えにたどり着きそうなものなのだが。

 

「そう、ですね」

 

火織はちょっとだけ笑った。




2000こえました。

いやぁ……この神裂火織が悩んでそれを咲夜に話すシーンはどこかでいれる予定だったんですよ、当初は4章ラストの予定だったんですが、ここに移動しました。

なるべく週一更新できたらいいな。


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神の力

しばらく、火織と当麻が決着をつけるのを待っていた時だった。

 

______ドンッ。

 

どこからか、誰かが湧き上がらせる殺意。

私は咄嗟にあたりを見渡した。

殺意、といっても様々なものがある。お嬢様などの妖怪なら妖力が関係してくるし、私たち人間なら霊力。神なら神力のように。まあ、これは力を持ったものが何かを威圧するときに簡単に起せるものであり、ただの人間でも本当に殺意を抱けば相手に通用する場合もあるのだが……

……これは。

 

 

 

「神力?」

 

 

 

紛れもない、神の力。

妖力なら、いくらでも感じてきたからわかる。霊力も普段自分が付き合っているから自然とわかる。間違えようがない。

ただ、少し弱いのが気になるけど。

ああ、先ほどまで一緒にいたのに気づかなかった。これは。

それからの二人は早かった。

当麻の元まで駆け出していき、私も後に続く。

 

 

「当麻っ!そこから離れてっ!!!」

 

 

当麻を待っていた時、私たちはやがて一つの事実にたどりついた。私はロシアについてよく知らないから忘れていたのだが、【ミーシャ】と言うものは、男性につけられる名前だったのだ。

これで全て合点がいった。

入れ替わる前のミーシャは天使と呼ばれる存在で、サーシャ=クロイツェフと入れ替わってしまったのだと。

元春がロシア成教に問い合わせたところ、ミーシャ=クロイツェフなんていない。いたのは、サーシャ=クロイツェフだったのだ。

 

私は天使と対峙したことがなかったが、天使は神に造られた存在、天使は神のラジコンなら、天使の力は神に与えられし神力なのである。

 

ミーシャの力で先ほどまで夕暮れだったというのに、あっというまに暗闇へと変わった。

私は夜目が利くからいいけど……これは普通の人間は大変なんじゃないだろうか。

 

 

 

天体制御(アストロインハイド)

 

 

 

月は満月。青い青い月が、すぐそこに見える。これはお嬢様が喜びそうだ、今日は本来半月だったのだから。ただ、同時に不機嫌になられるだろう。月が青いから。

 

「ふうん、天体を制御できるとはやはり天使ってやるのね」

「咲夜!何をそんなに呑気に!」

「____私の故郷では、しょっちゅう異変が起きる。月の異変なんて、天体の異変なんて珍しいことでもなんでもないのよ。まあ、ここまで近いと……穢れを恐れた月兎がやってくるかもね。それか、だれがこんなことをしたのかと竹林のうさぎが攻めてくるかもしれないわ」

 

夜が終わらないなんて、初めてじゃない。偽物の満月だって、初めてじゃない。

 

「魔術ってのはこんなことも出来んのか!」

「出来ませんよ、人には」

「人には、ね。逆に人外には出来るのよ、まあ出来る人間ももしかしたらいるかもしれないけど」

 

ぱっと霊夢の顔が浮かんだ。

彼女ならこれぐらい出来そうだ、なんでわざわざそんな面倒なことするのよ、って言って興味すら示さなそうだけど。

 

「でも……ねぇ、天使ってこういうのも出来るなんて知らなかったわ、月の異変の首謀者は妖怪だったし……」

 

さて、と私は自分にかかっている能力を再度かけなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーシャが時刻を夜にしたのは、属性強化のためだと火織がいった。

彼女いわく、水の象徴にして青を司り、月の守護者にして後方を保護したりと言う「神の力」。常に神の左手に侍る双翼の大天使だとか。

人間の地へとおとされた大天使は、元の位へと戻りたくて堪らないのだ。

 

不意に真上の月が蒼く輝いたと思ったら、その回りに光の輪が生まれた。いつか図書館で見た土星ともまた違う神秘的な光景である。その輪は満月を中心に天狗並みのスピードで広がると空をあっという間に駆け抜けて消えてしまった。

と、思ったら今度は魔方陣である。大量の魔方陣が夜空を埋め尽くしていき、一種の美しさのようなものまで感じてしまった。当麻が呆然としていたところをみるに、私のこの感想は常識はずれみたいだけど。

確かにこの感覚は外の普通の人間は普段感じることがないだろうから、すさまじいものを感じているのかもしれない。

 

火織がこの術式はかつて堕落した文明を焼き付くした火矢の豪雨だと当麻に説明していた。

 

「それを避ければいいの?」

「な、なにを考えているのですか咲夜!」

「……冗談よ」

「こんな時にやめてください」




咲夜さんと神裂さんの無双とか書いたら楽しそうだよね(願望


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共闘

来週で最終回です。


「当麻、あなたは今すぐ刀夜さんをつれてここから去りなさい。彼を死なせてもいいというのなら別だけど。私、容赦はしないつもりなのよ」

 

当麻は最初は躊躇ったものの、決心したのかその場を去った。

 

私は火織と目を見合わせる。

 

「私がミーシャの気を引く」

「そこを私が、()()

 

ミーシャは水翼を広げた。(八雲藍)の尾っぽがもっと細くなって、長くなったような翼は、毒々しい扇のようにも見えた。

火織が長い長い刀に手をかけ、私はナイフを構える。

本来は十字教徒である火織はその上位である天使に勝つことなど不可能だ。

 

「メイド秘技「殺人ドール」」

 

しかし、火織はただの十字教徒ではない。

多角宗教融合型十字教術式・天草式十字凄教。

弾圧が厳しかった時代に、吉利支丹たちが日本の文化と融合させながら作った、一種の宗教と化しているそれは、ただの十字教ではない。

神道も仏教も混合させた、そんな宗教。

 

チャキリ。

 

と、ミーシャがこちらを向いた瞬間に火織が軽く刀を抜く。

 

特に神道は、世の宗教で唯一と言っていいほど神が多い。

守谷には二人の神がいるし、秋の神や厄紙、死神もいる。人里の貸本屋には、神霊が漂っているとも霊夢に聞いたし、この目で見た。

 

バサリ、と火織がミーシャの水翼を切り落とす。

 

信じられていなくとも、誰もこの目で確認しなくとも、きちんと札やお守りといったものたちは後世まで受け継がれているのだ。

特に札なんて、妖怪や神を封じるアイテムである。

 

「……ブレイク、ね。空虚「インフレーションスクウェア」」

 

再び襲いかかるナイフに、ミーシャが再びこちらを見た。

今度こそ、といわんばかりに火織がもう一度____

 

 

「七閃!」

 

 

今度は、水翼が全て切り落とされた。

 

汗がダラダラと吹き出している。

火織は弾幕ごっこ向きではない一発勝負タイプ。本来、持久戦は向いていなかったりする。

 

ちなみに先ほどから何度か向こうの反撃があったりしたが、火織は切り落とし、私も私で避けたりしていた。

 

「は、アアっ!」

 

けど、火織は一向に『唯閃』を使おうとしない。

そう、私は本気の二枚目のスペルが今切れ、続いてラストスペルに移ろうとしているのに。

 

 

「火織?」

 

 

彼女はダラダラと汗を垂らし、服や髪をビショビショに濡らしながらも決めようとしない。

 

 

「あなた、まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この天使を救おうっていうの?」

 

私はこの天使に興味はない。

十字教でもなければ、同じ人間でもない、友達でもない。

この、神裂火織も上条当麻(あの人)と同じ人種なのか。

向こうが殺す気でも、絶対にこちらは殺さないと言っているようだった。

 

「さ、くや。私____は。ずっ、と、疑問……ハァっ!……でした。な、ぜ、あなた……は、フッ!そこ、まで冷めているの、かと!なぜ、そこまで……人に、関心がないの、かとっ!」

 

火織は続ける。

私は思わず、弾幕を放つのをやめて火織の前へと回った。

ナイフで応戦すると、火織が動きを止めた。

 

「こうして、私と仲良くなってくれたというのに、あなたはいつもどこか遠い。上条当麻やインデックス(あの子)とも、親しいとはいえまだどこか壁があった!どうして、あなたは」

「……あなたには関係ないでしょう。私にとって、火織も当麻もインデックスも、そして学園都市の知り合いたちももちろんいい仲間よ。けど、命を削ってまで守る対象ではない」

 

火織はもう何も言わなかった。

ただ、彼女は飛びあがって……新たに生えた水翼を再び切り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ?元春は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

「もうこんな無理はしないように。それから、彼のことだけど__」

「大丈夫です、だって彼ですから」

 

大丈夫だと言ったのに巻かれた包帯の腕をチラリと見て、私はため息を吐いた。

 

今回は当麻とどこかにいっていた元春と刀夜で何かあったようだけど、残念ながらそこには立ち会えなかった。

結構火織と共闘したvsミーシャは大変で一応三針の怪我までしてしまったし(三針というのは目安で学園都市では縫うことはあまりない)、体力というより霊力もほとんど尽きてしまうほどだった。

こういう時、規格外の大技を繰り出す霊夢やあんなぶっといレーザー何発も打てる魔理沙が羨ましい。

 

私はとある病室へと入った。

 

「ゼッタイ、許さない!とうまの頭骨をカミクダク!」

 

そこでは、インデックスがとうまの頭に噛み付いていた。

私はそれでなぜか安心し、あの日からかけっぱなしだったもう効力がほとんどなくなった意味のないあの能力をそっと解いた。

 

 

 

 

 

「インデックス、クッキー食べる?」




終わりっぽいですが、あとまだ1話作る予定でございます!
地味に長引いたな、これ。最初か書かないかも〜とか言ってたのにな。

咲夜さんの怪我ですが、これは能力が効かなくなっていることを表しています。
能力が使えなくなったのではなく、かけ直した能力がボロボロになるまで戦って、もうほとんど効き目なんてないのにずっとかけたままだったんですね。
なので、怪我も三針と天使と戦った割には少ないんじゃないでしょうか。

では4巻ももうじきラストです!ごゆるりとお楽しみくださいませ。


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巨大な

4巻最終話です。


「咲夜!しばらく見なかったけどどうしてたの?」

「それに、その怪我は?」

 

朝、私を見るとすぐに駆け寄ってきた美琴と黒子。

 

「これはちょっと切っちゃって。学園都市の外にいたのよ」

「え?外?ま、まさか」

「いやいや、ちゃんと許可証はもらってるわ」

「じゃあ、ほんとに行ってきたのね」

「ええ」

 

こちらの常識では旅行先からお土産を持って帰るらしいが、残念ながらそれは買えなかった。

が、二人には巨大な海に行ったという話だけで十分なんじゃなかろうか。行ったことはあるだろうけど、それだけで楽しんでくれそうだ。

私は、海の話を軽くしながら部屋へと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そだ、カミやん」

「?」

 

土御門が、話題を変えた。

 

「咲夜のバックに何かがついてるって話だが……」

「ああ、そんなことも言ってたな」

 

咲夜はただものじゃない、と元春は言い切っていた。

空を飛べて、原石で、なんでもできる。確かに、不気味なほど万能だが、自分にとってはそれこそが十六夜咲夜で、別に今まで違和感を感じなかった。

 

「ありゃ、本気だ。どっかの組織のドンかもしれない」

「どんだけデカイんだよ?」

「それはわからないがにゃー。巨大なナニカであるには違いないが」

「咲夜はメイドだから、お嬢様っていつも呼んでいる人とか?」

「んー、まだ詳しくはわからないから言えないにゃー。けど、お嬢様って線は薄いと思うぜい。本当にそうなら、ボスの存在をそんな簡単に明かすわけがない。それに、おかしいと思わないかにゃー?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

確かに、エリートの常盤台中学へ学園都市に来てすぐに入れるなんて、そうそうない。

どんなエリートでも、常盤台への編入はかなり大変なもので、努力の結果、よくやく編入出来るとか。

 

「あのナイフの投げも、自分の時を止めるなんて技も、簡単に出来るモンじゃない。それに、能力もあれは____演算で生み出してるわけじゃなさそうなんだよ」

「は?俺の幻想殺しと同じってことか?」

「いや、カミやんほどじゃない。見るに、能力の使用はなんらかの力を使って、そこからどう動かしていくかを演算してるんだと思うんだぜい」

 

咲夜の能力を思い出してみる。

レベルは3だと言っていたが、そうは思えないことも多い。例えば、ラグがまるでなかったり、自分の体の時を止めることができたり、何時間も(時間と数えていいのかわからないが)時間を止めることができたりと、彼女はレベル4や5と名乗ってもいいのではないかという程有能である。

あれで演算していたかと聞かれると、そうは見えない。

あそこまで長時間能力を使い続けるなんて、電撃使い(エレクトロマスター)の御坂美琴でも不可能なんじゃないだろうか。

 

……あれ?

 

 

「なんで、咲夜は御天堕しに気づいたんだ?」

 

「!」

 

 

咲夜は魔術が発動されたことを知っていても、それが御天堕しだとは知らないようだった。

その魔術が具体的にどんな効果を表すのかも、土御門たちに聞くまで知らなかったらしい。それを教えたのが、土御門のいうバックだというのなら、それは、魔術的なバックだということになる。

 

「でも、咲夜は魔術師じゃないんだろ?」

「……わからん。魔力の流れを察知する能力はあるようだがにゃー」

 

それから一時間程討論したが、結果らしい結果は何一つ出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで課題も終わりね。外に行ってたおかげで課題終わるか心配だったのだけど、無事に終わってよかったわ」

 

「咲夜、終わった?」

 

「ええ、また行くの?」

 

「あったり前じゃない。咲夜も来るでしょ?」

 

「そりゃ行くわよ。美琴、面白いし。立ち読み中に笑うとか……ねぇ」

 

「ゔっ」




ちょっと少ない……けどこれ以上伸ばせない……
ここのところ毎回少ないでござる。


咲夜さん、ちょっと遅れて課題終了。


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5 最終日にそれは起きる
夏休みの最終日。


五巻突入ですね!予測以上に長くなりそうなので切ったら2000超えませんでしたね!
切った、というか持ち越しですが、中途半端にホットドッグの部分が入るよりかはいいかと。


八月三十一日。

 

いつもとあまり変わらないこの日は、いつもと同じように朝日が昇り始めて、目が覚めて、___

 

 

 

 

 

 

 

「……長い一日になりそうね」

 

時刻は午前4時。きっとまだ寮監でさえも寝ていることだろう。幻想郷で培われた夜明けと共に起きる人間の生活習慣はそう簡単に目覚ましと共に起きる学園都市の生活習慣に馴染んだりしない。

ぼそりとそう呟いて私は一つ伸びをした。

 

「今日で夏休みも終わりか……別に悲しくもなんともないわけだけど。っていうか、夏休みの終わりを悲しむ人なんているのかしらね?」

 

少なくとも、この常磐台中学にはいない気がする。

 

それから私は、起床時間までの二時間をのんびり読書をしながら過ごして、またいつものように朝食をとったところで部屋に戻った。

 

 

「……なんでいるのよ」

 

部屋に戻ったら、八雲紫がいた。

 

「ちょっとあなたにレミリアから」

「お嬢様が?」

 

彼女がスキマから取り出したのは___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美琴side

 

 

 

 

 

朝食をとって、今日は立ち読みでもしようかと学生寮を出た。

最近は黒子の他に咲夜とも立ち読みにいくことがあったが、今日は一人で十分である。

 

「__美琴?」

 

と、思って居たのだが。

外に出たら、目の前に懐中時計を手にした咲夜の姿。

 

「咲夜。それ、どうしたの?」

「昔から持ってたんだけど、お嬢様が綺麗にしてくれたの。これがあると、またちょっと能力が使いやすくなるのよ」

 

嬉しそうに笑う咲夜は、なんだかいつもと違うようである。

笑う、と言っても彼女の変化は微々たるもので、わかるものなど限られているのだけど。

 

「美琴はどこへ?」

「あー、立ち読みよ立ち読み。咲夜も一緒にくる?」

「遠慮しとくわ。ちょっとこれから当麻のところへ行こうと思ってるし」

「……」

 

私もつい最近知ったのだが___いや、彼女と知り合ったのがそもそも最近なのだけど___どうやら彼女はツンツン頭、つまり上条当麻と仲がいいらしい。

それについて私はどうこう言う立場ではないのだが、こうも真っ向から言われるとちょっと気になる。

 

「私も、ついて行っていい?」

 

つい、こんな言葉が口から出てしまった私は悪くない。だって、なんとなく気になるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜side

 

 

 

 

角を通りかかったら、いた。

元春と、そしてなんか青い髪とピアスの人と……戯れていた。

戯れているのはその二人の方で、当麻の方は眠そうな目でちょっと迷惑に思ってるっぽいのだが、概ね間違いはない。

 

と、三人がこちらの存在に気づく。

 

「ねぇ、ちょっと聞いていい?」

 

私は聞きたかったことをそのまま口にだした。

 

「夏休みの終わりって、寂しいもの?」

 

さぁっと現実を思い出したかのように、当麻の顔が真っ青になる。

 

「……さく、や?」

「お久しぶりね、二人とも。で?そちらはどちら様?」

 

そう聞いた瞬間、青い髪にピアスの人が駆け寄ってきて片足立ちをし、私の手を握ってきた。

……すっごいスピードだけど、この人はスピードが上がる的な能力でも持っているのだろうか。

 

「いやぁ、まさか常盤台中学の生徒さんに会えるとはなぁ。僕は(ry」

 

長くなりそうな挨拶の途中、元春の蹴りが飛んで、名前が聞けなかった。

 

「えっと、お名前を」

「僕は「こいつは青髪ピアス!青髪ピアスだにゃー!」」

 

よくわからないので美琴の方に振り返るが、よくわからないとばかりに手をあげている。

 

「あ、青髪ピアス?長くて呼びにくいわよ」

「なら青ピでいいにゃー!」

「そ、そう……私は十六夜咲夜で、こちらが御坂美琴」

 

美琴がぺこりと会釈をしたところで、なぜか話題はレベル5であるはずの美琴ではなくメイドをしているだけの私になった。

 

「な、なんだってー!こ、この十六夜咲夜さんはメイドなのかー!」

「そうなんだにゃー!それも、腕のたつメイドだって舞夏も言ってたんだにゃー!」

「え、なに、あのグラサンの人って土御門のお兄さんなわけ?」

「私も知らなかったけど」

「舞夏は義妹だにゃー!」

「へぇ」

 

需要のない事実が発覚しつつある中、私はあれ?と首をかしげる。

 

「どうしたの?」

「……当麻は?」

 

どこにもいない。

 

「美琴、なんか面白そうじゃない?」

「面白いって咲夜のそういうとこ、よくわからないわ」

 

目の前で二人で討論を始める元春と青ピを置いて、私は時を止めて美琴とともにその場を後にした。

後日、当麻から聞いた話だが、二人には私たちが瞬間移動したように見えたそうな。




書きながら改めて思うけど、これってSSみたいだよね。


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公園での一コマ

とりあえず、三人がただ雑談してるだけ。
更新できない〜とか言っていたけど、この話は大筋決まっていたし……1500くらいすでに書いていたので。
ほんっとにサブタイが決まらなくて雑草が生えまくってるZE☆


時間にして、約一時間である。

公園で見つけた当麻は、一人、古文の問題を解いていた。

ラ行変格活用とか、なんかよくわからない分類をしながら解くだけのものなのだが、結構四苦八苦してるようである。私からすれば幻想郷の書籍は大体こんな感じだし、分類を除けば結構簡単に思えるのだけど。

 

「戻すわよ」

「ん」

 

セピア色の世界が色を取り戻し、当麻が私たちの存在に気づいて顔をあげる。

 

「探したわよ、当麻」

「いやそれなら電話してくればいいだろ」

「ああ、そういやそうね」

 

すっかり電話という電子機器の存在を忘れていた。

 

「二人ってそんな仲良かったっけか」

「まー、部屋も近くだしねぇ」

「そうね」

 

言ってみれば、それだけの関係でもあったりする。友人かと問われたら勿論そうだと答えるけど、自分からわざわざ友人だなんて紹介するのも……なんかおかしい。

 

「ところで古文なんてやってるの?」

「……ああ、夏休みの宿題だからな」

「宿題……あ、長期休暇で学力低下しないようにってヤツだっけ?でも別にそんなのやらなくても学力低下なんてしないでしょ」

「知らないわよ……」

 

夏休みの宿題と言うのは、毎年夏休みになる度に出されてそれを終えないと補修になるんだとか。

ちなみに常盤台中学では前々からの申請があれば、補修を受けることができる。勉強熱心ならば、申請をして補修を受けるのだが……あいにく私は勉強熱心でもなければ、そもそも申請の締め切りはまだこちらにいなかった。ちょうど、博麗神社で宴会をやった日だったりする。

……考えてたら酒を呑みたくなった。

 

「あ、ねぇ美琴、この前言っていた一個二〇〇〇円のホットドッグってこの辺りに売ってるの?」

「二〇〇〇円のホットドッグだぁ?」

「そうよそうそう。向こうの方にね。買いに行く?」

「ちょっと気になるしね。当麻にも買ってくるから」

「いや、は?二〇〇〇円……!?」

「大丈夫よ、そのくらい。別に私もお金に困ってるわけじゃないし」

 

私と美琴は手を軽く振って、ホットドッグスタンドへと向かう。

美琴曰くホットドッグといってもピンキリで、更にもっと高いホットドッグも存在するとかなんとか。

 

「……随分と普通ね」

「まあ、ホットドッグだし」

 

三つ分買って、美琴に手渡しながらようやくでた感想はこれである。

特に美味しそうなパンズでもなければ、上等なお肉のソーセージにも見えない。ごく普通の、ホットドッグであった。

 

「ね、咲夜、なんか飲み物買わない?」

「いいわね。今日は私もヤシの実サイダーで」

「りょーかい」

 

珍しく蹴らずにジュースを購入した美琴は、私にヤシの木サイダーを手渡しながら片手でプルタブを開けた。

ヤシの実サイダーは甘めの味で、結構美味しい美琴のお気に入りである。

 

「はい」

「ほ、ほんとにいいのか?」

「別に構わないって言ってるでしょう」

 

このお金は一応私のものだし、自由に使ってはいけないなんて決まりはどこにもない。まあ、お嬢様に差し出せと言われたら迷いなく差し出すけど。

当麻にホットドッグとヤシの実サイダーを渡すと、私たちは当麻の横に腰かけた。

 

「で、アンタは進んでるわけ?」

「いや全然」

「ちょっと見せてみなさいよ」

「……なんで解けるんだ?」

「なんでアンタは解けないのよ?咲夜も解けるわよ。ね?」

 

私はホットドッグを飲み込むと当麻のプリントを覗き込む。

そこには、このころの字の読み方についてと、現代での意味についての問題があった。

 

「……作文(さくぶん)……作文(さくもん)……(さい)……(ざえ)……で、こっちは「かしこし」だから三番の「恐れ多い」、ね」

「なんでわかるんですかねぇ」

「ま、この辺は読めないと困るのよ。本が読めないから」

 

幻想郷の貸本屋、鈴奈庵にあるのは現代語の本よりもそれより昔の学園都市では古文に分類される本の方が多い。それでもやっぱり人気があるのは現代語らしいが、数が多いのはもちろん忘れ去られた古文に分類される本たちである。

 

「確かに、あの教科書は過剰よね」

 

美琴が指すのは古文の教科書のことで、二冊あったりする。一冊は解説や問題、もう一冊は本当にまるっきり古文しか載っていないしそれは構わないが、二冊あるのは困る。机から教科書が落ちそうだから。

これでも私は学校では真面目なのだ、寮で門限破りをしたとしてバツをもらったのもあの一回きりだし。

 

「そういえば咲夜って、原石なんでしょ?」

「原石?ああ、そうよ」

「そのお屋敷で能力を使ってたの?」

「じゃあどこで使うのよ……言ったでしょ、メイドの仕事は時間が命。この能力はもってこいなの」

「あ、俺も気になる。あのナイフ投げはどこで身につけたんだ?」

 

これのこと?と銀のナイフを取り出すと、当麻がコクリと頷いた。

 

「これは母に教えてもらったわ。一応ね」

「へえ……」

「あ、そうそう。お嬢様に、コレもいただいたのよ」

 

私は懐から懐中時計とナイフを取り出す。

 

「それ、さっきの」

「ええ。まだ詳しくは教えないけど、これは能力をより正確に操れるようにする道具なのよ」

「具体的には?」

「それは内緒」

「じゃ、じゃあこれはなんなんだ?真っ黒な黒曜石みたいなこのナイフ……」

 

そう、もう一つ取り出したナイフは、これまたお嬢様が八雲紫を通して送ってくださった品なのである。

こんなナイフ、私は所持していなかったから……お嬢様自らか、パチュリー様あたりが作成してくださったのだろうか。

威力はまだ確認していないものの、遠くにあってもわかる、この独特の魔力からするに相当なものなのだろう。

 

「私もよくわからないわ。まだ、使ったことがないからね」

「ふぅん……」

「それより」

「?」

「当麻、宿題はいいの?」




ナイフはエツァリ君のナイフです。5巻ではとくに登場させることはないかと。まだ書いてないからわからないけど。

エツァリ君は色々と要素もってますからね!咲夜さんに反映させることも多くなると思います。

こういう妄想の産物みたいな単なる雑談させるの、ほんと好き。
私の誰に見せることもなく溜まって居るメモのほとんどこんな内容のものです。


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魔術師の襲来

またまた月曜日です。
来週はいつになるのでしょう。



『さぁくーやー』

 

不意に鳴った携帯を耳にかざすと、そこから聞こえてきたのは当麻の声だった。

 

「……どうしたの?」

『今から来てくれねぇ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン……

 

寮についた私は、インターホンを押してドアが開くのを待った。

幻想郷に比べて暑いこちらの世界の夜はちっとも涼しくなりしない。紅魔館では冷房、つまりクーラーなんて考えもしなかったがここまで温度差があるとさすがに堪えてしまう。こちらに来てから、まだ暑い世界があると初めてしったものである。

 

『とうま、とうま、ぴんぽーんっていったんだよ!』

 

ガチャリ、と扉が開いて、インデックスが顔を出した。

 

「こんばんは、インデックス」

「あ、咲夜!久しぶりだね」

 

久しぶり、と言うほど期間は空いていなかった気がするが、彼女の感覚ではおそらくそうなんだろう、きっと。

 

「とーまー!咲夜きたよ」

「お邪魔します」

 

当麻の部屋には漫画が散らばっており、テレビではインデックスが見ていたらしいアニメが付いていた。

っていうか、全体的に汚い。

 

「うわ、綺麗になった」

「汚すぎるわよ、さすがに。それからこれね」

「あっ!俺の古文の宿題!」

「で、どうしたの?」

「あ、うん。……あ、何も考えずに電話しちゃったけど門限とか……」

「大丈夫よ、きちんと許可はもらってきたわ」

 

私は当麻の前で外出許可証をはためかせると、当麻は財布を取り出して私に二〇〇〇円を渡してきた。

 

「え?ホットドッグ代はいらないって……」

「い、いや……ホットドッグじゃなくてだな……インデックスに飯……食わせて来てくれないか?」

 

とても申しわけなさそうに、当麻は私の手に二〇〇〇円を握らせてきた。

 

「インデックスに?当麻は?」

「俺はほら、宿題あるし」

「ああ、コンビニかなにかで買ってくる?それともなにか作る?」

「いや、カップ麺で済ますからいいや。金ないし」

「そ、じゃあ行ってくるわね」

 

私は渡された二〇〇〇円を当麻に返してから、インデックスと三毛猫、つまりスフィンクスを連れて寮を出た。

当麻が慌てて私に渡そうとしたが、

 

『お金をもらうなら、当麻に恩を売っておく方が得でしょ?』

 

と返したところ、微妙な笑みを浮かべて見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜、咲夜。何でも選んでいいの?ほんとに?好きなの選んでいいの?」

 

当麻の教えてくれたこの店は、ペットオッケーのファミレスらしい。

寮を出てからしばらくしたら電話がかかってきて、教えてくれたのだ。『スフィンクスもいるんだから、ここのファミレスに行くべき』らしい。まあ、私もペットオッケーのファミレスには少々心当たりがあったものの、それは学び舎の園周辺のお店。物価も高いが、それ以上にインデックスのお腹を満たすほどの量が出てこないのでちょっと悩んでいたところだったのだ。

 

「なんでも頼んでいいわよ。端から端まで頼んでみる?全部たべれるならやってもいいけど」

「ほんと!?……んー、どーしようかなぁー」

 

とは言ったものの、インデックスも全て頼むことはしないようでハンバーグのページを開いて『チーズの入ってるこれも美味しそう!あ、でもこの目玉焼きのもいいなぁ』などとブツブツ言っている。

と、横をパタパタと走って行く小学校一年生くらいの女の子が目に入った。その手には、幻想郷でもよくみた『桃太郎』の絵本が握られている。

 

「決まった!このハンバーグ定食!目玉焼きトッピングで、ドリンクバーもつけていい?」

「いいわよ」

 

店員を呼んで私は既に常盤台で夕飯をとっていたのでドリンクバーのみ、インデックスはハンバーグ定食、スフィンクスには猫ハンバーグとかいうものを注文した。

猫用メニューとは、こちらの猫は随分と偉くなったものである。猫の食事といえば猫まんまじゃないのか。

 

「ねぇインデックス、あなたの魔道書図書館って、やっぱり桃太郎も入ってるの?」

「うん、そりゃそうだよ。桃太郎は立派なオカルト本だからね」

「インデックス的には桃太郎をどう解釈してるの?」

 

私がそう話題を振ると、インデックスは目をキラキラさせて『よくぞきいてくれました!』と言わんばかりにニコニコ話し始めた。

 

「へぇ……なるほどねぇ」

「む?じゃあ咲夜は別の解釈をしてるの?」

「解釈ってほどじゃないわよ。幻想郷の人間(私たち)にとって、鬼とは恐るべきものだからね。鬼が現れた時、それをどう退けるか。そういったものを学ぶことが出来るってとこかしら」

「鬼?」

「鬼を信じてるの。おかしい?」

「ううん。そんなことないよ」

 

こちらに来て、初めて本屋を訪れた時にすごく久しぶりに桃太郎を読んだ。

と、いうか、このような形の桃太郎を読んだのはそれが初めてだったかもしれない。

私がパチュリー様の図書館で初めて読んだ日本語の本は桃太郎だったのだが、その内容といえばこちらで読んだものとは似ても似つかないようなものだった。随分とうろ覚えになってしまったが、確か桃から生まれた桃太郎じゃなかった気がする。

 

と、私たちの前にハンバーグが運ばれてきた。

インデックスが期待の眼差しで私を見てくるので、どうぞと言うと、ガツガツとハンバーグを口に入れ始めた。

私も席を立って、ドリンクバーを取りに行こうとして____不意に窓の方から感じた魔力に素早く振り返った。

 

 

「_______________!!」

 

 

スレスレのところで私はサッと横に避けた。

 

「せめて、開始を合図くらい言ってくれないの?」

 

私のすぐ横を、無数の空気の矢が飛んで行く。ランダムに飛んでくる矢だが、避けてしまえば問題ない。壁が壊れれば厄介なことになるので、誰にも気づかれないレベルの霊力でその矢をかき消した。

しかし、テーブルは微塵切りだし、近くの席に座っていた他の客はみな慌てて立ち上がって悲鳴を上げている。

 

……今、私を狙った?

 

「あなた、魔術師?」

「いかにも」

 

気づけば彼は、インデックスのすぐ後ろへと回っている。

私は時を止め、インデックスを連れ戻した。

 

「……彼女になんの用なのかしら。まさか、あなたも一〇万三〇〇〇冊の本たちを狙っているの?」

「……今、何をした」

「能力を使っただけよ。ここは学園都市なんだから特に珍しくもないでしょうに」

 

そして私は再び時を止め、セピア色のインデックスと三毛猫だけを元に戻す。三毛猫はきょろきょろと辺りを見渡して私へと目線を飛ばしてくる。

 

「……咲夜?」

「このまま逃げたとしても、私はあなたを彼から確実に救い出すことは出来ないわ。だから、悪いんだけど」

「なんとなくわかったよ。でも、咲夜、何を企んでるの?」

「なんにも企んでないけど、ほら、異変解決は巫女のように、ヒロインを助けるのはヒーローでしょ?」

「ま、まさかとうまを!?」

「きっと彼から完璧にあなたを救ってくれるからね」

 

唖然としているインデックスに、私は一つウィンクをした。

本当に何も深い意味はない。インデックスがこの魔術師から完璧に狙われなくする方法はいくつか思い浮かぶが、この世界で実行できることといえば、これしかないのだ。いざとなったら殺すしかない。これでも私は結構彼女を気に入っているのだ。

 

そしてインデックスの時を止める。

 

私は寮に帰り、筆を取った。

 

『禁書目録は頂いた』

 

これだけでなんだかんだ言って幸運な彼はヒロインを助けに来るだろう。さて、と私は当麻の家に向かってテーブルにこれを置くと、ドアの外にでた。そして、能力を解く。途端、ドアがバンっ!と開いた。

 

「ごめんなさい!トイレに行っていたら、インデックスが……」

 

それっぽいな、と私は内心思った。




やっぱりインデックスは上条君が助けるべきだと思う。
この世界のルールを知り始めた十六夜咲夜、中学二年、年齢不詳。

咲夜さんを疑わないのが上条君なのです。
一応ここの咲夜さんはいまんとこ学園都市サイドです。
幻想郷とは敵対されることはないと。
ほら、紫さん的には科学が進歩することはいいことですからね!


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闇坂逢魔は静かに笑う

久しぶりの日曜更新です。明日?未定です。


「咲夜でも無理だったのか!?」

「ええ……ごめんなさい」

 

チッと舌打ちが聞こえる。

私が無意識に当麻をみると、慌てたように『咲夜に向けたものじゃない』と言ってきたが、私は別にそんなのを気にするような人間ではない。

その時、ぴょんっ!と何かが屋根から降りてきた。

 

「!スフィンクス!」

 

スフィンクスはミャー、と鳴いて自分についてこいとでも言うように走り始める。

私と当麻は顔を見合わせ、後を追った。

当然だが、猫の足は普通の人間よりすばしっこい。特にスフィンクスのようなまだ若い猫なら当然である。

つまり__________、こうなる。

 

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

 

これは当麻の息切れだが、はっきり言えば私も辛い。時を止めて休めばいいのだが、なんとなくそうしたくなかった。

 

「……ここ?」

 

ついたのは、ホテルだった。

それなりの値段がするホテルだったはず。時々美琴が利用しているらしく、前にゴミ袋にここの領収書がポイ捨てされていた。

ふとスフィンクスへと目を向けると、彼はゴミ箱を漁っている。

 

「お腹空いたの?」

 

当麻はなんともいえない顔をしているが、まあ何も食べてないのだから仕方がない。猫はゴミ箱を漁るものだ。

 

「おいいいいい!!!テメエは飼い主に対する恩義っつーモンはねぇのかぁーーー!!!」

 

叫ぶ当麻を横目に、ホテルを見上げた。

 

「__________」

「どうした?咲夜」

「……いいえ、なんでもないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

 

 

 

 

 

「ほう、縄縛術は私の専門ではないとはいえもう縄を一つ解いたのか」

 

とある女性の写真を見ていた闇坂逢魔は、顔をあげてインデックスを見た。

 

「こんなのじゃ、私は喋らないんだよ。それに、咲夜は……とうまは、来てくれるから」

 

インデックスはそう言って、また一つ縄を解く。

縄縛術は日本独自の拷問技術だ。三日も四日もたって、血が止まり腐っていく己の手足をみることで『早く解放されたい』と思う心を利用する拷問技術である。

とはいえ、インデックスも伊達に魔道書図書館をやっていない。彼女は意図的に貧血状態を作り、痛覚を鈍らせることだって出来るのであった。

 

「己を見捨てた人間をまだ信じるのか。まあ私の知ったことじゃないが」

「咲夜は私を見捨てたんじゃないよ。だってこれは、咲夜の良心の表れだもん」

 

そう、インデックスは知っていた。

十六夜咲夜がどんな人間かを、きちんと知っていた。

本人から聞いたわけではない。確信が持てるわけでもない。

けど、言葉の端々。それから、彼女の人間に対する情の掛け方。彼女は十六夜咲夜がどんな人間かを、薄々ながら感じて知っていたのだ。

そんなインデックスだから言える。十六夜咲夜は、こんな人間簡単に殺すことができるはずだと。それをしないということは、彼女が優しさを見せている証なのだと。

そして__________十六夜咲夜は自分に精一杯の優しさを見せてくれていることを。

 

「随分と余裕だな」

「余裕じゃないよ。こんな結び目の強い拷問されてたら」

 

十六夜咲夜は変わった。何をきっかけに、と言われればわからないが、それでも変わったと思う。

少なくとも、こうして人を殺さない程度には。

 

「こんな肺を圧迫したり腕や足の動脈を止めるのはよくないもん。生かすつもりなら、親指を軽く縛れば動きを封じられるのに」

「なるほど、専門家は詳しいな」

 

闇坂は軽くいって、インデックスの縄をいくつか解いていく。

これには思わずインデックスが面を食らってしまった。

 

「君も気づいていたようだが、私は君を拷問するつもりはない。魔道書が欲しいのも事実ではあるがな」

 

インデックスは咲夜の良心を信じた。

 

「さて、まずは準備のための結界を張らねばな」

 

そうして彼は細いしめ縄を使って結界を貼り始めた。どうやら縄縛術が苦手だというのは謙遜らしい。

インデックスのことは常に意識の端に留めておくレベルのものらしく、その辺に転がされていた。

魔女狩りにおける拷問はオレンジジュースを搾り取るようなものだ。ジュースをつくるためのオレンジがどうなってもいい、つまりこの場合はインデックスの持つ魔道書が重要なのであってインデックスのことはどうなってもいいはずだった。

なのに放り出されているだけなど、捕虜としては贅沢の域なのだった。

とはいえ捕虜はどうでもいいなんて心から思える人間はそう多いわけがない。拷問をする人間の多くは暗示や魔草を使うことによって罪悪感を打ち消しているぐらいだ。

ふと、彼女の意識は咲夜に向いた。

 

彼女なら、きっと躊躇なく出来るはずだ、と。

 

逆に彼はそれができない人間だ、と、インデックスは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、咲夜、アンタ何やってんのよ!もう門限が……」

「許可はもらってるわよ、それぐらい。美琴こそ大丈夫なの?」

「うぐっ!?」

 

さて、ここで美琴の出番は本格的におしまいであったりする。

つまり無駄な茶番だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美琴と別れてしばらく。

当麻がインデックスから電話が来たと言った。

曰く、インデックスに〇円携帯とかいうのをもたせているらしいが……彼女は使い方をいまいちよくわかっていないらしい。

彼女の科学力は当初私と同レベルだったはずだが、たかが一ヶ月でここまで変わるものなのか。

しかし、彼女は電話をしてきた。いや、それとはまたちょっと違うかもしれない。謝ってボタンを押してしまったことかららしかった。その証に、当麻からの「もしもし?」の言葉に応答していない。

 

『なに。結界を張ったのはコイツの威力を少しばかりかさ増しするためだ。この弓は元々祝い事で使うべきものだから』

『……、梓弓?』

『素晴らしい。日本(こちら)の文化圏もカバーしているのか』

 

当麻の携帯に耳をそばだててみれば、そんな声が聞こえた。

これは、確か博麗神社で見たことがある。あの怠け者の霊夢とはいえ、これぐらいの神道の知識は持っているらしく、聞いたら教えてくれた。

これは射るのではなく弓を引いて弦を鳴らす衝撃で、魔を撃ち抜くものらしい。本来は神楽の舞に使われる楽器で、神降ろしに使うともいっていたが、霊夢は針と札が得意分野だし、こっくりさんで神霊呼び出せるのでどちらの用途でも使わないらしいけど。ただ飾ってあるだけなんだとか。

 

『元々の威力はそう大したことはないが、このように一定の条件が揃えば、心の詳細まで読むことができる。例えば、そうして必死で隠している一〇万三〇〇〇冊の魔道書でさえ、な』

 

インデックスが子供のように叫んだ。

普通の人間なら一冊でも読めば発狂すると。特別な魔術師でも、三十冊も耐えられないと。

しかし、闇坂逢魔は静かに笑った。

 

「無論、百も承知」




美琴ちゃんの扱いを雑にして見たかった。
なんでこの子いるの?っていうのやってみたかった。
しかし私はインデックスより美琴ちゃん派です。


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夏休みの結末

遅れました……学生だけど学生なりに暇だけど忙しくて楽しい毎日を送っていると、気づくとこんなに時間が経過している。


ギィン…………

 

異音を立てながら、ホテルの屋上が淡く輝き始めた。

巨大な光の柱が天に昇るようなそれは、魔力だけによるものではなかった。

霊力か、と一応思考を巡らせるが、それともまたちょっと違う。神力を混ぜ合わせた霊力のようだった。

先ほどインデックスが言っていた梓弓が関係してくるのだろう。神は降ろしていなくても梓弓を使用すればそれなりに神力が使われるはずだ。

 

当麻は慌ててホテルに入っていった。私はホテルの屋上へと飛んだ。

 

「__________!!……これは、結界……」

 

どのような用途に使われていようと、結界は結界だ。侵入にはリスクが伴われる。

インデックスも闇咲も私には気づかない。原本を読むことによって起こる異常に体を震わせている闇咲に必死で呼びかけるインデックスが結界の向こうに見えた。

 

「これが、原本の威力ってこと……?」

 

パチュリー様も、小悪魔も、原本を読んだところで特に変化は見られない。

私だってパチュリー様のお手伝い程度はしたことあるし、読んでいる本をチラリと見たこともある。

けど、こんな症状に見舞われたことはない。

 

「どういうことなの」

 

 

 

 

「ダメだよ!死に至る呪いをかけられた女の人を守るために、こんな薄汚れた魔道書をつかうなんてやり方は!」

 

インデックスの叫ぶその間にも、闇坂はインデックスの中にある()()()()()()を読んで行く。割れそうな脳を、必死に繋ぎ止めながら。

 

とある魔道書、とは抱朴子。仙人になるための知識の乗っている魔道書で、その中にはあらゆる病や呪いを解くための『錬丹術』が記載されている。

ちなみにこれにはもう一冊更に純度の濃い上級のものもあり、そこには薬についてが大量に記載されているのだが、それは幻想郷にて八意永琳が所有しているのであった。

 

純度がもう一段階高い、と言ってもこの魔道書が魔力を全然溜め込んでいないということにはならないのだけど。

つまり、この闇咲の反応こそが普通である。これと同じ、もしくはそれ以上の原本を一〇万三〇〇〇冊も溜め込んでいる禁書目録(インデックス)や、そんな魔道書を書いていたりいる大魔法使い(パチュリー・ノーレッジ)が異常なのだった。また、それを一瞬でもみて特に異常を感じない、十六夜咲夜も然り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンっ!

 

大きな音がして、ハッと私は我に返る。

それは、当麻がドアを蹴破った男だった。

右手に結界に使われていた綱が触れ、すごい速度で破られていった。無論、屋上を包んでいた淡い光も消える。

改めて私は闇咲の顔をみた。

血管は浮き出ているし、全身から汗が吹き出している。

 

「…………考えていても、しょうがない、か」

 

そして、私もゆっくりと着地した。

 

「……、悪いのか。たとえ、この命を犠牲にしても、誰かを守りたいと思うことは、悪いことなのか」

「悪いに、決まってる。アンタは大切な誰かに死なれる痛みを知ってるんだろ。それはとてつもなく大きかったはずだ。だったらそれは、誰かに押し付けちゃいけないものなんだ」

 

私は思わず頰が緩んだ。

ああ、彼らしい回答だと。特になにも思わなかったというのに。

 

「断魔の弦」

 

そうしてまた構えを取る闇咲。私は彼の前へと移動した。

 

「やめなさい、闇咲逢魔。そんなことする必要はもう無いの。だってここには、上条当麻がいるのよ?」

 

彼の動きが止まる。

なにが言いたいのか。そう、言いたげだった。

 

「えっとその、なんだ。俺の右手は幻想殺しって言ってだな。どんな異能の力でも打ち消せるんだ。その……呪いってのも」

 

それから私はインデックスの縄を解いて立ち上がらせた。

 

 

 

母たちが私を怖がった理由って、

もしかして。




ちょっと短めです。これで5巻おしまい。


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本当の最後のお話

5巻最終話です。一方通行編もかけないこともなかったんですが、やっぱり彼には一人で打ち止めを救ってほしいので。


「えっやだ!私も一緒に行く!」

「無理」

「行くったら行くもん!」

「だから無理だって」

 

闇咲がどうしても救いたかったという女性の呪いを解くなら、当麻は外に出る必要がある。

ってことで、この学園都市を抜け出すことになったのだが、それにインデックスもついて行くと言って聞かないかった。

一応言っておくが学園都市はそう簡単に抜け出せないような場所である。この前海へ行けたのが本当に異例だったのだ。

当麻に助けを求めるような目で見られ、私は一つため息を吐いた。

 

時を止めて、当麻と闇咲を掴む。そのまま空を飛んで、学園都市の外で降ろすとまたインデックスの前まで戻って時を動かした。するとあら不思議。インデックスからすれば目の前から当麻と闇咲だけが消え去り、私には当麻からの感謝のメールが届くのであった。

もちろんインデックスは叫ぶ。

 

「あーーっ!」

「私は何もしてないわよ?」

「こんなの咲夜にしか出来ないもん」

 

ぶー、と口を尖らすインデックスに、私は遅い夕飯を作る。

 

「お腹、空いたでしょ?」

「でもとうま……」

「大丈夫、当麻にはおむすびを持たせておいたわ」

「おむすびって、最近はあまり言わないんじゃ?」

「いいのよ。おむすびで」

 

当麻におむすびをもたせたということは嘘だが、なんとなく納得してくれたのでよしとする。

でもまあ、キッチンにあるこのカップラーメンを見る限り、軽く食事は採ったようだった。

 

「じゃあ、インデックスは何食べたいかしら。鮭のおむすび?それとも、梅干しかしら?」

「なんでもいいよ、咲夜の好きなもの」

 

ふむ、と私は考えて、タラコにすることにした。24時間営業のスーパーで、最後の一個ではあったけど。

他にもたくさん食べるインデックスのためにミートボールやサラダ、スパゲティなどの材料も買ってきた。

 

「タラコ?」

「ええ。前住んでいたところは山奥だったから、海産物は貴重だったのよ」

「ふぅん……」

「けど、これっぽっちじゃつまらないでしょう?鮭フレークっていうのも買ってきたわ」

 

時を止めて時間短縮はしているとはいえ、私が買い物をしている間方向音痴なインデックスが家から出ないか心配ではあった。けど、彼女も彼女で当麻を追いかけるのは無謀だと感じているらしく、そんなことはなかったのでとりあえず安心である。

 

「明日は始業式だし、当麻もそれまでには帰ってくるわよ。これから、どうする?」

「……ねぇ、咲夜」

「なに?」

「やっぱり、私も行きたいんだよ」

「……好きにしなさい。……って言いたいところだけど、今は我慢しておくことね。私だって当麻がどこに行ったのか知っているわけじゃないし、インデックスにはなおさら行かせられないわ」

「……」

 

すると彼女は突然箸を置いた。

 

「じゃあ、いらない。咲夜が作ってくれたのは嬉しいけど、とうまが帰ってくるまで待つ」

 

思わず私は驚いたが、おむすびをとろうと皿に手を伸ばして触れた。

たったそれだけの動作で、料理がセピア色に変わる。

 

「!」

「!」

 

インデックスがツンツンとつつくが、おむすびに指が沈むことはなかった。

そう。それはつまり、食べ物の時が止まったことを意味をしていて。

私は他の食器にも触れる。さっきと同じように、セピア色に染まった。

 

「……これって」

 

完全に食品の時間が止まった。

これでなにか入れ物に入れておけば、ホコリを被る心配はないだろうし、暖かいまま保存できるのだろう。

 

「す、すごいよ咲夜っ」

「魔術にこういうのはないの?」

「似たようなのはあるけど、条件が割りに合わないんだよ。ましては食品になんて、考える魔術師はいないもん」

 

私は試しに世界の時も止めて、また戻してみた。

セピア色はセピア色のままだった。

そう。周辺の【時】を止めたり動かしたりしても、食品の【時】はそれに影響されなかったのだ。

 

「……これで、当麻に残しておいてあげられるわね」

「うんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が帰ってきたのは、早朝のこと。

これ以上だと許可を取った分を軽く超えると思った私は再び寮監に延長してもらいに行ったので、私はそのままインデックスとともに眠ることになった。

当麻が心配で眠れないというようなことを言っていたインデックスだが、まあそれなりには寝たようだった。

人が気持ちよく寝ているところをフラフラと帰ってきて、

 

「なんだこのメシ!?」

「わっ、とうま、帰ってきてまずそれ!?」

 

セピア色の食事を見て驚いていた当麻が印象的だった。

そのあと、普通に寝ていた私にも驚かれた。

ちなみにこの能力はもちろん当麻の幻想殺しか私が触れることで解除されるというなんというか、結構の普通能力であることが発覚したのだった。




ちょっと短い……けどこれ以上長くなんて出来ない……


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6 インデックスのともだち
始業式は特別なのだろう


あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。


さて、大変遅れました!
年内に一度は更新できるかと思っていたのですが、再び小さなスランプがありまして……

当麻さんの「と」の字も出てこない六巻第1話の始まり始まり〜


紅魔館には小さな牛小屋がある。

食用の牛が飼われているだけの小屋。

そこで産み落とされた牛は、食されるのが当たり前だ。

お嬢様や美鈴の好物はもちろん人間だが、私やパチュリー様は人間を好き好んで食べることはない。

過去にお嬢様が、『パチェが人肉は食べれないわけじゃないけど、どちらかといえば牛がいい。って言ってたのよ』と言っていたので、きっと親友であるパチュリー様のために作ったのだろう。

まあもちろん、パチュリー様にとって食事は必要のないものであり、単なる娯楽の一つに過ぎないのだが。

人里に行けば買えないこともない牛肉なわけだけど、やっぱり自分の手で育てた牛が一番で、人肉を食べきってしまった時はお嬢様も食べることがあった。

そんな紅魔館の牛は、狭くて暗い小屋の中に住んで__________いるわけではなく、私が許可をいただいて敷地を広げた放牧場にマメに放牧されていた。今はおそらく美鈴の仕事になっているはず。

 

所変わって学園都市。

学園都市には窓のないビルがあって、そこで牛はもちろん、豚や鶏、それから野菜も育てられていると聞く。

植物一つ一つに合わせた気温、最新の肥料、農薬を使っていたり、栄養満点の水や飼い葉で育てられた動物。日光を浴びた野菜や、それらを食べた動物の方が美味しいだろうと考える人の方が世界的には多いだろう。しかし、実際は普通に美味しいのだ。昔から学園都市に住んでいる人間からすれば、『外で育った方が不衛生』に思うと言っていた。結局どちらでもいいのである。

 

「美琴ー?」

「んー?」

「支度は終わったのかしら。そろそろ行かないと、遅刻するわよ?始業式まで……あと三六分二八秒ってとこかしら?今から走って、どれくらいにつくのでしょうね」

「……んなぁ!?」

「じゃあ私はお先に失礼するわ」

 

夏休みも終わり、忘れ物がないか確認をして寮を出た。

まだ夏なんじゃないかと錯覚させるほど暑い外。耐えられず、私は時を止めた。

……幻想郷より暑いんだ、本当に。

 

「あら、十六夜さん。おはようございます」

「ええ、おはよう湾内さん。今日は一人ですの?」

「今日は泡浮さんは早く来る用事がございまして」

「なるほど。それはそうとお久しぶりですわね。夏季休業はどのようにお過ごしで?」

「特にいうほどのことはしていませんわ」

 

水泳部の湾内さん。普段一緒の泡浮さんは別件があるらしいが、時々話しかけてくる黒子の同級生である。

あまり人とは親しくしないことが多いのだけど湾内さんは向こうから話しかけてくるし、会話していて楽しいので世間話程度はする仲なのであった。

 

「そういえば、十六夜さん、携帯をお持ちになったとか」

「ええ、まあ」

「番号を交換していただけませんか?今度、お茶でもどうでしょう」

「構いませんわ」

 

私は時を止めてメモを取り出し、番号を記入するとサインを添える。特に急いでいるわけでもないが、時間を取らせるほどの問題でもないのである。

また時を動かし、湾内さんにメモを差し出した。

 

「まあ。やはり十六夜さんの能力は便利ですのね」

(わたくし)は一応原石の部類ですし……物心ついた頃には、もう使えておりましたので。それでは、お電話お待ちしております」

 

昇降口に入って、持ってきた上履きに履き替えると教室に向かった。

まだ数えるほどしか訪れていない教室。私は席に着くと優等生らしく優雅に本を読むことにした。

 

 

 

 

しばらくして、まだ教室がざわめいている中、私の机に勢いよく手をつけるという……常盤台中学の女子らしからぬ行動をする汝が一人。

 

「……その行動はどうかと思うわよ?美琴」

常盤台中学(ここ)だって、そんな格好からのお嬢様ばかりが揃ってるわけじゃないし、黒子に比べたら大したことないでしょ。っていうか、咲夜に言いたいことがあって待ってたのに!」

「そうだったの?ごめんなさいね」

「絶対ワザとでしょ」

「あら、違うわよ」

 

左手で器用にしおりを挟みながら、右手をひらひらとさせると、美琴に軽く睨まれた。

本心なのだが、それを読ませないでこそ一流のメイドである。

そんなこといっても、さとり妖怪や読心能力(サイコメトリー)を前にしては、これだけじゃ意味をなさないだろうけど。

 

「で、なんの用だったの?あと五分で始業式だけど」

「はあっ!?もう、全部咲夜のせいなんだからねっ!?」

「はいはい。わかったわよ。そろそろ行きましょ。能力使ってあげるから」

 

寮じゃ禁止されている能力も、私にとっては意味をなさない。ただ、きちんとバレないか確認をしてから時を戻せばいいだけの話なのだから。

ここは寮ではないんだけど。

 

と、なんがい始業式を経て、課題回収と通知表回収を終えたところで学校は終わった。

式というのは面倒だが、こうして午前中に帰るのだ。

時を止められるし、勉強は別に嫌いでもない私でも、なんとなく特別だということはわかっていた。

とはいえ、そもそも登校した回数が少ないためにその利点をいいものと感じられることが出来ないのが残念だが。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、咲夜っ」

「……どうしたの?」

「これから地下街に行くんだけどさ、一緒に行かない?」

「地下街?地底かしら」

 

地下街と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは地底である。

異変を起こしておいて知らないでいろという方が無理があるだろう。

 

「地底って……まあ、そういってもいいけど地下街よ、地下街。地下に街があるの。行ったことない?」

「ないわね……へぇ、行くわ」

「おっ、咲夜が乗った!」

「別に普段は興味がないから行かないだけで、興味があればいくわよ……」

 

この前買った、ポケットに入るサイズのコンパクトな財布を手に取って、ベッドに置いていた懐中時計を首から下げた。そして、セーターの裏へと隠す。

 

「それじゃ、行きましょう」

「ええ」




カラオケに行ったら母のおかげで頭から某逃げ○の……あの一文字のやつ。が頭から離れません。


本当はこんごーさんだしたかった。
けど、まあ彼女の出番はまだなのです。
8巻まで待っていただきましょう。

今回はオリジナル要素の多い回でしたね!スランプは書いて消して書いて消してが多いのですが、ここまで持って来ればいいという目標しか定められていなかったのでさほど多くはありませんでした。

次回もよろしくお願いいたします!
感想などお待ちしております。


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地下街

一週間投稿が守れない今日この頃……頑張ります。


「……ねぇ美琴」

「どした?」

「この学食レストランってなに?」

「あー?なんか色んな学校の学食やら給食を食べれるとこよ」

 

へぇ、と私はそのファミレスのようなレストランに目を向ける。

 

「入ってみる?」

「いいわよ別に。今の常盤台のご飯で満足してるしね」

「……コンセプトはそういうことじゃないんだと思うけど……ま、咲夜がいいならいいわ」

 

苦笑して美琴がまた歩き始めた。私もそれについていく。

学食といえば常盤台中学の給食費はかなりのものだったりして、それに見合うような腕前の料理が出てくる。

お嬢様のお口に合うような味ではないのが難点だが……まあそこは特にお嬢様には関係のない話。 私の口に合わないというわけでもない。というか、逆に好みだ。お嬢様のお口に合うように料理をし始めてから味覚が変わりつつあるのも事実だが。

 

「で、どこいくのよ?」

「ゲーセン」

「ゲーセンねぇ……美琴もそういった類は好きよね」

 

 

 

 

 

____________ドカッ!

 

小さなポン、という音がしたと思えば、眩い閃光が視界に映った。

それから、あたりの人間が揃って逃げていく。車やバスに乗っていた人物も、押し合いへし合いビルへと駆け込んでいった。

 

「……美琴?」

「いやな予感がする」

 

閃光の発生元を睨みつけるように立つ美琴に私もそちらへ目を向けたが、特になにも見えなかった。

気づけば周りには誰もいなくなり、この広い地下街に私と美琴だけ。

 

「ちょっ、美琴!?」

 

彼女は駆け出した。

私は____________ちょっとズルをして時を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

セピア色の中、閃光の元で見えたのは黒子によってドレスを縫い付けられているゴスロリを着た女性だった。横に目を向けると、黒子もいた。美琴の言っていた「いやな予感」とはこのことかと私は思いつつ、ゴスロリの女性をまじまじと見た。

黒と白のドレスは魔理沙を連想させるが全く違う。フリルは付いているものの、これは黒いドレスに白いフリルをつけただけのようだ。これを私の知っている白黒と重ねるには無理がある。

それに、肌もガサガサだった。見っともない金髪を伸ばし、先ほど語ったドレスにしても、ところどころ擦り切れていたりとボロボロだった。

あの白黒でも、これほどボロボロで紅魔館に姿を現したことなんて異変の時しかない。けど、この女性は。さっき汚したドレスを着ているのではなく、随分前から汚れ続けているドレスを着ているように感じた。

対する黒子は……そんなボロボロの女性に攻められて今にもな感じだった。おまけに足はよくわからないものに噛み付かれているようだ。

私はため息を付いて、黒子に触れた。

 

「…………………………え?」

「ようやく喋ったわね。仕事かしら?」

 

私は持ち歩いていたナイフを取り出し、黒子の足が出るようにカットした。

黒子はそこから出ながら、

 

「え、ええ……しかし、一般人の干渉は例え咲夜であろうとも了承出来ませんわ」

「あら、それが命の恩人にいう言葉なのね。ま、私なんかがあなたを助けなくとも美琴が来たのでしょうけど」

 

と、私は黒子を連れて影まで隠れて再び時を動かした。

今気づいたが、あのゴスロリ女性のすぐ後ろには瓦礫をくっつけたような大きな『腕』があった。

それに気づかないあたり、私がどれだけこの戦いに興味がなかったかを物語っている。

 

世界が色を取り戻したとき、黒いレイピアのようなものが、その巨大な『腕』の手首の部分を切断した。

 

「……あれ?黒子?」

 

颯爽と現れた美琴は、そのレイピアをバラバラに砕かせながら辺りを見渡す。

 

「こっちよ」

「あ、そっか。咲夜がいたのよね」

 

さて、と美琴は呟いて手首のなくなった『腕』を睨みつけた。

そして彼女はコインを弾く。

おおよそ彼女が超電撃砲を名乗る理由を知らしめるような、強烈な一撃を放つためだろう。

 

「________私の知り合いに手ぇ出してんじゃないわよ、クソが!!」

 

ゲームセンターのコインを弾くだけ、といえば簡単だが、彼女はこれでも学園都市三位の電撃使いである。

そのコインは空気摩擦によって溶けてしまうために射程距離は五〇メートルと少ないものの、速さは音速の三倍だ。

そして残った『腕』は爆発した。

 

「……逃げたわね」

 

ドレスを縫い付けられていた女性がいないのをみて、私がポツリと呟くと美琴から「みたいね」との言葉が返ってくる。

しかし黒子からの言葉はなにもない。

 

「お姉様ぁ……」

 

とか思っていたら、美琴に抱きついた。

最初はびっくりしたのか引き剥がそうとしていた美琴も、黒子が少し震えているのをみて抵抗をやめる。

 

「ったく、アンタも多少は私を頼りなさいよ。咲夜だっているわけだし。いっつも一人で解決しようとするからこーなんのよ」

 

真剣な眼差しで黒子の頭をぽんぽんと撫でる美琴に、思わず私はクスリと笑ってしまった。

 

「んな!?な、なんで笑うのよ、咲夜!」

「黒子をみてみなさい」

 

 

 

 

「……うっふっふ。これぞまさしく千載一遇のチャンスですわ。こうして近づけばお姉様の胸の谷間へと思う存分……」

「ちょ、黒子ぉ!?人がせっかく真面目に慰めようと……」

 

見るからに微笑ましい、そんなやりとりを私は少し離れたところで見ていた。

微かに黒子の目は涙で濡れている。泣き顔を見られたくない黒子らしいと、私はふと思った。




一週間以内にできたらいいなぁ(願望


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御坂美琴とインデックスと。

サブタイは美琴とインデックスだけど、ちゃんと黒子も風斬さんもいます。


黒子曰く、この学園都市に何者かが進入したらしい。

それが学園都市に被害を及ぼす可能性があるとかなんとか。

っということで、私たちは警備室へと足を踏み入れていた。

 

「……こんなところ初めて入ったわ」

「まあ、一般人をいれるところではございませんから」

 

質素な灰色によく似た壁には、防犯カメラの映像が鮮明に映し出されている。

どうやらこの防犯カメラたちは全て地下街に設置されているものらしく、先ほど発令された避難警報の一種、特別警戒宣言(コードレッド)を受けて避難している映像が流れていた。

 

「……ん?」

「どうしたの?美琴」

「……咲夜、これってあのバカじゃないかしら」

 

その映像の向こうには、上条当麻とインデックス、そして見知らぬ誰かがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閉まりましたわね」

「灯も消えてるわ」

 

あれからしばらく。

地下街を歩いていると、全ての照明が同時に消え、地下街を封鎖するシャッターが全て降りた。

そのテロリストが動いたとみて妥当だろう。

最初は黒子も私と美琴にはこの地下街から出ていってもらおうと考えていたようだが、私はこんな面白そうなことを無視するわけにはいかないし、美琴は美琴で当麻が気になっているようだった。つまり、黒子は私たちを逃がすのを諦めたのである。

だけれどこちらには黒子がいる。いざとなったら黒子のテレポートでここから出ればいい話で、彼女もその予定でここに残ったようだった。

美琴も私も完全な邪魔ものであるが、私は自分の能力で透明な鎧のようなものを着れるようになったところだし、美琴だってレベル5である。簡単にやられるほどやわではない。

 

「……ねぇ、猫の鳴き声が聞こえない?」

「は?猫?」

 

私は人差し指を密かに口元に当てると、今度は先ほどより大きく猫の鳴き声が聞こえた。

 

「本当ですわね。そういえば……お姉様は猫に興味がおありのようですが、咲夜も?」

「そういう黒子はなさそうね。そうねぇ……別に好きってわけじゃないわよ?けど、嫌いってわけでもないし……」

「つまり中途半端ってこと?っていうか黒子!私は興味なんか……」

 

と、曲がり角を曲がったとき、まさかここでみるとは思わなかった人影を発見した。

 

「あら」

 

なぜかインデックスに押し倒される当麻の姿がそこにはあった。

 

「アンタ、こんなとこで女の子に押し倒されてなにやってるわけ?」

「こんな時間から大胆ですこと」

 

美琴は青白い火花を微妙に散らせ、黒子は妙に冷たい態度である。

そういえば、二人はインデックスとは初対面だったかもしれない。

対してインデックスは当麻からはどきもせずに

 

「咲夜、久しぶり。ねえ、この品のない女達は一体だれなの。当麻の知り合い?まさか咲夜の知り合いなの?」

「どっちも正解よ、インデックス。挑発はやめなさい」

 

インデックスも美琴も当麻のことが大好きだものね、なんて呑気に考えていると、いつの間にか二人からピリピリした空気が消え去っていく。

 

「まさか当麻が命の恩人だったりする?」

「頼んでもないのに助けに来てくれたり?」

 

私は「ああ、そんなこともあったっけ」と思考を巡らせる。

 

「咲夜!咲夜って全部知ってたりしないの!?」

「え?私?」

「そうよ!コイツになんかしてた!?」

 

どうやらどちらの知り合いでもある私に聞くことにしたらしい。

ふむ、と私は考えて口を開く。

 

「本人に聞いてみたら?」

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当麻と美琴とインデックスのじゃれあいがひと段落ついたところで、ここからいかにして出るかの話になった。

 

と、その前に先ほどの映像にいた誰か、は「風斬氷華」という少女らしい。内気な以外は特に目立つこともないし、話しかけるとビクビク震えるので気にするのをやめる。

人間らしくない雰囲気を醸し出しているが、あの分だと自分が何かもわかっていないようである。もしあれで、ただ能力のおかげで人らしくないと言われてしまえばそれまでだし、わかっていないようならただ困惑させるだけだ。

挨拶をするだけすると、礼儀は正しいらしく日本人らしい会釈が帰ってきた。

 

地下街から出る方法は今の所一つ。黒子の能力を使用することのみで、最高でも自分と一緒となると二人しか移動させられないと黒子は言う。

 

「じゃあ、俺が時間を稼ぐ間に白井が避難させてくれ……ぐはっ」

「アンタが真っ先に逃げるの。一番狙われてる人間をこの場に残してどーすんのよ」

 

インデックスと美琴はもちろん黒子まで当麻にタックルをかました。

風斬は驚いておどおどしているが、誰も気にも止めない。

 

「咲夜もなんか言ってやって!」

「……そうね、まあそれに関しては善人として全くの同意見だけど……」

 

ちらり、と当麻の右手を見る。

 

「その右手、どうするの?」

「あ」

 

それに、なんだかんだ言って彼は簡単に死にはしないだろう。

もしあのシャッターが魔術や魔法、能力で特殊コーティングが施されていて、それによって強度を増しているとかそんなものだったらいいが、あいにくそんな簡単なものではない。

 

「それに。当麻がこの地下街から逃げたとして、なんとしてでも探すとしたら……そこらへんの建物をなぎ倒してしまうかもね。避難が完了しそうな地下街よりも、甚大な被害を及ぼすかもしれないわ」

 

もちろんこれは勝手な憶測だし、当麻が本当に狙われているのか確信もないが。

 

「そ、それもそうですわね。と、なりますと……この四人……」

「あー……そだな、この中だとやっぱり風斬とインデックス……」

「とうま、それはつまりこの短髪と残るってこと?」

「……じゃ風斬と美琴!」

「ほう。アンタはこのちっこいのと残ると」

「ああちくしょう!じゃあ風斬と咲夜!……あれ!?咲夜!?」

 

彼が振り返った先には、既に彼女はいなかった。




咲夜さん逃げる。




もうすぐテストです。
一応週一更新は保っていけたらと考えているので、それなりに執筆には励みます。
……流石に受験生になったら無理かもですけど。

そういえば、もう受験シーズンですね。来年の私もこうなっているのでしょうか。
受験生の皆さん、お疲れ様です!


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何者

どこかの映画のパクりじゃないです。

あれ、髪留めってピンクだって水色だっけとか思って確認するためにわざわざ部屋まで行ったのは内緒。


凄まじい爆発音が地下街に響く。

時を止めて空を飛ぶと、爆発した先を見やった。

そこには巨大な石像があった。弾幕ごっこには相応しくない、無理矢理な石像である。地下街のタイルや、その辺の支柱のコンクリートなどを石像になるように組み立てているだけのようであった。

 

「……アイツね」

 

そこには先ほどのゴスロリ女がいた。

優雅に立っているが、ボロボロ過ぎて美しさに欠けている。

そんな女の前に連なった警備員(アンチスキル)は一生懸命に銃でその石像を壊そうとしているようだった。

 

「とはいえ、時を止めてるとわからないわね。魔力の流れもここまで大規模だと、軽くは読めると思うんだけど……」

 

私が魔法に少しでも詳しければ、これくらい原理を理解できていたのだろうか。

私は女の前まで降りると、その頭をポンと叩いた。

 

「誰だ?お前は。何だ?これは」

「私は十六夜咲夜と申しますわ。貴女のお名前は?」

「________チッ。シェリー=クロムウェルと名乗っているが、魔法名を聞きたいのか?」

 

舌打ちの理由はわからないが、特に抵抗をすることもなく、彼女はそう名乗った。

 

「いえ。魔法名に興味はありませんもの。それでは今後はシェリーとお呼びさせていただきます。では、御機嫌よう」

 

一瞬時を動かし、また時を止めればシェリーも再びセピア色に染まる。

なんとなく名前と性格を知りたかっただけだ。相手との交流っていうはとても愉快なものであると、彼女たちが教えてくれたのである。

さて、これからどうしようか。

いつものように当麻がやればいい話だが、私がチャチャッと片付けるのも楽しそうだ。

最近思うのが、ここの当麻は幻想郷でいう霊夢なのではないかということ。霊夢は博麗の巫女だから当たり前だけどたくさんの異変を解決していることが一つと、ありとあらゆる人を集める人望の持ち主であることも一つ。魔理沙も私もお嬢様も妹様もみ〜んな霊夢に惹かれてしまうのだ。そうでなければ、博麗神社の宴会があんなに大規模になる理由がない。

当麻もそうだ。いろんなことを拳一つで解決してきたし、周りからも好かれている。

あの分け隔てない性格が二人のもつ武器で、多くの人を引き寄せる秘密なのだろう。

________けど、霊夢だって全て自分一人で異変を解決したわけじゃない。

魔理沙だって、私だって、異変に干渉はする。

当麻と一緒に乗り込んだこともあったけど、私が解決してみるっていうのもいいんじゃない……?

 

そう考えれたけれど、私はふと。なぜか風斬氷華を思い出す。

誰かもさえ知らない少女だけのはずなのに私はなぜか気になった。なぜインデックスと当麻と共にいたのか。

その時私は思い出したのだ。彼女のオーラを。彼女はまるで何かの集合体のようだった気がした。気にも留めなかった自分に疑問を抱くぐらいには彼女はおかしかった。

ふと私は考えて________彼女の元へと飛んだ。

 

彼女は先ほど皆でいた場所にいた。

あれからなにがどうなったのかは知らないが、当麻は瞬間移動ができないから恐らくあの爆音を聞いて行ったのだろう。

あとで探しておくかと、私は風斬氷華に触れた。

 

「はぇ……?さくや……さんです、か?」

 

おどおどした彼女は、そう言ってからびっくりしたように、慌てて辺りを見渡している。

 

「あ、あの、こ、これは?まるで、写真の世界に入り込んだかのような……」

「ああ、これは能力よ。時間を操るのが私の能力なの。時間操作(タイムオペレーター)なんて呼ばれてるけどね、そんな大したものじゃないのよ」

 

いつもと変わらないセピア色の世界だが、他の人から見れば珍しいのだという。

……が、たかが色のないセピア色の世界。まあ私ならこの世界でも細かい色まで理解できるが。

 

「な、なんですかそんなにジロジロみて……」

「あら、気に食わなかった?ちょっと疑問に思っただけよ、インデックスや当麻と一緒にいたから。それも、インデックスとは随分と親しそうだし」

「そ、それは……。あ、あの、その制服常盤台中学ですよね?」

 

……話題をすり替えられた。

そんなに触れられたくない話題なのかは知らないが、大方当麻がやらかしたのだ。勘でしかないが。

 

「そうだけど……って、この姿で防犯カメラはちょっと不味いか」

 

もうかなり遅いかもしれないが、メイド服に着替えるに越したことはない。

もう一度彼女の時を止めて、地下街を飛び回り、やっと見つけた手芸店で布やら糸を()()()()と、常に持ち歩いていた裁縫針でメイド服を仕立てた。

寸法はもう頭に入っているし、もう何度も作っているので簡単に作成出来るのである。

そして、彼女の元へと帰った。

 

「ねぇ、氷華って呼んでいい?」

「ふえっ!?も、もちろんです!」

 

いつまでもフルネーム呼びをするのも、彼女とつけるのも、面倒になったという話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

……ってやっていたら、本題をすっかり忘れていた。

というのも、こうして氷華を頭のてっぺんからつま先まで見ても、これといった違和感を今ひとつ感じ取れないのである。

集合体であることはわかる。そんなことを言って仕舞えばなんでもも集合体じゃないかという話になってしまうのだが、彼女の集合体はそういう意味ではない。

何か……何かが違うのだ。

 

「ねぇ、氷華」

「は、はい」

「あなたはどこから来たの?」

「えっ……と……」

 

氷華は少しきょとんとしてから、下を向いてしまった。

 

「わかり……ません」

 

彼女の長い茶色い髪と、水色の髪飾りがよく見えた。

 

「……じゃあ、あなたの家族は?」

「わ……わかり、ません」

 

学園都市にはどうしてきたのか。

今まで当麻たち以外でどんな人と知り合ったのか。

今日以外のあなたの思い出はなにか。

大切な人はだれか。

得意な教科はなにか。

好きなスポーツはなにか。

なんの本が好きか。

氷華にまつわる思い出の何を聞いても、彼女は『わからない』としか言わない。

逆に言えば、常盤台中学のことも、学校には給食があることも、地球は回っていることも、氷華の思い出じゃないことは、全て知っていた。

私は風斬氷華が、一瞬。

 

 

 

 

 

思い出を失った上条当麻と、重なって見えた。

 

しかし重なって見えただけで、細部は異なっていた。

氷華が思い出がないと気づかなかったに対し、当麻は思い出がなにかで消えたことを知っている。

全ては記憶にあり、感覚ではない氷華に対し、感覚を掴んで美琴の超電撃砲すら受け止められる当麻。

そう。違うのだ。

過去があるのと、過去がないのは大きな違いだった。

きっと当麻なら、さっきの魔術師が放った魔術に過去の自分に引っ張られるように。インデックスを助けたように、立ち向かっていくだろう。彼はいつだってそうだ。

氷華がそんな場面に出くわしたら?逃げることすらしないかもしれない。何も知らない彼女は、危険が知識でしかない彼女は、感覚がないままふらふらと……そのまま、殺されることだってあるかもしれない。

 

私が思考を巡らせている間、氷華も同じように自分について考えていたのかもしれない。

 

「わ、わ、わ、わた……し……は……」

 

顔が青ざめている。

 

「わた、しは……いったい……いったい、」

 

私だってわからないと、彼女を見ることしかできなかった。




3000弱です。私にしては多い。




かなり期間があいてしまいました。
今回はテスト期間だということと、戦闘シーンと風斬氷華の伏線作りをあれこれ考えてたっていうのも理由ですかね……
できることなら毎日更新したい!!この文字数だからきっとやればできる!!
しかし、口で言うのは簡単なのです……毎日書いたらすごい勢いでやる気が削がれる気がします……
のんびり更新ですが、今後ともよろしくお願いします!


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不幸で幸運な彼

難産でした……
すごく久しぶりな本編です!3月中に終わるといいな!六巻!


「心を正気に保ちなさい!」

 

しばらくの沈黙のあと、私は思わずそう叫んだ。

氷華はびっくりしたように、私をみた。

 

「あなたがもし、人間ではないとしたら、なぜあなたはここにいるの」

「そ、それは……」

「人間じゃなかったとしても、あなたがここまで作った思い出は、偽物だっというの」

 

人間ではない。

例えば、御坂美琴のクローンである妹達も、本物の人間ではない。

もともとが殺されるために造られている妹達は成長速度が早く、寿命が極端に短いという話だ。

例えば、お嬢様は妖怪で人間ではない。

お嬢様は日光に弱くて、私がまだメイドになりたての頃。転んでお嬢様の上半身を灰にしてしまったことがある。それでもお嬢様は、すぐに復活した。人間ではない何よりの証拠である。

この両方のパターンでも、二人ともこの世界に生き、この世界で思い出を作っている。

 

「そんなことは、ありません!」

「……っていうか、そんなこと言ったら私たちだって人間じゃないじゃない。こんなわけのわからない能力を持っておいて、普通の人間なんて言えるはずがないもの……」

 

幻想郷でも、能力は普通ではない。

人里では能力の存在が知られていても、もっている人間は一握りだ。

 

「そう……ですよね」

「時間、戻すわね」

「あ、すみません」

 

セピア色の世界が色を取り戻せば、あたりは雑音に包まれ始めた。

 

「行きましょう。当麻を追うわよ」

「え、あ……はい」

 

そのまま、私たちは地下街をかけた。

天井がある地下街は、音が反響して塗れていた。

 

「あの……咲夜さん」

「なに?」

「……やっぱり、なんでもありません」

「あらそう」

 

それだけ言ったとき、私は目の前に見覚えのあるツンツン頭を見つけた。

 

「当麻っ」

「咲夜!?って、風斬まで……なんで白井を待ってなかったんだ!?」

「別にいいでしょう」

 

そして私は手にナイフを構えることにした。

ギラリと銀色のナイフは輝いて、私の霊力を少しだけ混ぜると、それは赤や青に変化する。

現代科学では決して明かされることのないであろう、私だけの色だ。

 

「咲夜……?」

「私もちょっとはやってみたくてね」

 

当麻にとって、私は一応保護対象であるらしい。が、自分の身くらい自分で護れるし、逆に当麻がいる方が邪魔だとはとてもじゃないけど言えないのであった。

 

「________来た」

 

巨大な石像の巨大な何かが振り下ろされ、私と当麻は避けた。

 

「……あら?これ、当麻が?」

「別になんもしてないぞ。俺はただ、友達を護ってほしいっつっただけだ」

「したんじゃない」

 

氷華の周りには、警備員が守るように取り囲んでいた。

当麻は氷華が真っ白であることを知らないのだから、きっと彼女は正真正銘の人間であると思っているのだろう。

実際はそんなものとは無縁であるとは思っていないはずだ。

私はとりあえずクスリと笑ってから、ふたたびナイフを構えた。

 

「エリス________」

 

石像の向こうにいるシェリー=クロムウェルが何か呟いていた。

私はナイフを構え、エリスに向かって投げの姿勢をとった。

こういうとき、学園都市は面倒だ。ダミーで殺し用じゃないナイフ型の霊弾が一切使えないのだから。

石像の一部が壊れ、攻撃にひと段落つけば今度はシェリーに向かってナイフを投げた。

 

と、次の瞬間。

私から逃げるように、石像の全てが崩れた。

 

「え!?」

 

シェリーの姿もどこにもない。

先ほどまで彼女がいた場所には、大穴が広がっていて。

 

「どこ行った!?」

「地下街の外、でしょうね……」

 

ナイフをしまい、私は黒子を探すことにした。

 

「氷華っ」

「は、はい」

「あなたはどうする?」

「へ……?」

 

当麻は幻想殺しのおかげで黒子の空間移動が通用しないが、人間じゃないだけの氷華には問題ないはずだ。

 

「私、黒子を探すけど。あなたもくる?」

「は、はいっ!」

 

茶色の髪を揺らし、彼女の目の色が変わる。

 

「おい、そんなことしたら一体どうなるか……」

「地下街のシャッターはしばらく開かない。こちらがいくら安全だといっても、管理側がきちんとチェックしないと開けてくれないのよ……その間、彼女の狙いがなんなのかはわからないけど、学園都市がぐちゃぐちゃになる可能性も十分あるでしょうね」

 

当麻は自分の右手を見た。

幻想殺し、どんな異能にも通用する代わりに一般人にはなんの役にも立たないそんな能力。

 

「……じゃあ、頼んだぞ」

「あら、珍しく素直なのね」

「咲夜の実力は俺も知ってる。不安だけど……外にはインデックスたちがいるんだ。もしなにかあったらって考えたら……」

「私はどうなってもいいの?」

「いや、そういうわけじゃ……っ」

 

私は一瞬思わずクスリと笑ってしまった。

そんな私を氷華も当麻も不思議そうに見上げる。

 

「わかってるわ。私だって己の傷つけるなんてバカみたいな真似はしないもの。……それに、この地下には地下鉄が通っていることぐらい知ってるでしょ?」

 

そして、地下街の最も人が集まったシャッター前まで時を止めて駆け出した。

するとすぐそこに、黒子がいたのはとても幸運なことで。

私たちは彼女に、外へ出してもらうことができた。

 

シェリー=クロムウェルの狙いは知らない。

それでも、誰かのために動いているのは明白だった。

もし建物ならば、最初に暴れたのは地下街じゃなくともよかったはずだ。地下街で暴れたのち、どこかに逃げたのなら。きっとターゲットは、誰かしらの人間なのだろうから。そしてそれは、風斬氷華でもないはずだ。

シェリー=クロムウェルを追い詰めるには、まだ情報が足りなかった。

 

それに、万が一私が追い詰めきれなくて、真相にたどり着けなくてもきっと大丈夫。

()()()()()()彼が、全てをいっぺんに守ってくれるのだろうから。

本来は私なんて邪魔者で、いようがいまいが変わらないのだから。

 

……ま、お嬢様からの命があるからこの件には関わるけど。




不幸で幸運な彼はこれからも不幸です。

咲夜さんは割と強いのですが、ちょっとネガティヴ感が最近出てるような気も。
物事はきっぱり決め、可、不可を分けるタイプな気がします。
すごく主人公向いてない……けど楽しいから良い。
六巻を3月中に終わらせるためには難産だろうとなんだろうと春休み中にどうにかする次第です!


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人間と怪物

もう……6巻難しい!
6巻ラストまで駆け抜けます!オララララ!!!!


出てみると、そこには美琴しかいなかった。

 

「インデックスは?」

「再会早々それなの?さっき、スフィンクスとかいう猫が振動に驚いて逃げて、それを追っていったわ」

 

重要度で言えば、インデックスはもちろん、学園都市第三位、超電撃砲の御坂美琴も重要だ。

だから、美琴が襲われる可能性も十分にあるのだが……

私だったら、電撃使いよりも魔術を使えない禁書目録を追う。それに、美琴は何もできないインデックスより桁違いに強い。

私は氷華と顔を見合わせ、美琴の行った方へと駆け出して行った。

 

「ちょっ……咲夜!?」

 

美琴の驚きの声なんて、無視である。

 

 

 

 

 

 

ふと、私とともに走っていた足音が止まった。

 

「……氷華?」

 

まさかバテたとでも言うんじゃないだろうかと近寄ってみるが、彼女は俯いている。

 

「……咲夜さんは」

 

ボソリ、と彼女は口を開いた。

 

「咲夜さんは、人間ですよね?」

 

いきなりの質問に、私は少しびっくりした。

 

「ええ、そうよ」

「……じゃあ、私だけが行きます。石像の怪物には、同じ怪物が立ち向かえばいいんです」

「なにを、言ってるの?」

 

彼女は私の顔を見上げて笑った。

 

「咲夜さんは、『私も人間じゃない』と言いました。それでも、本質は人間のはずです。人間の中の能力者と言えるはずです。……けど、私は違う。だから……同じ怪物が怪物の相手をすればいいんです」

「なにを言ってるの」

「……私は怪物で幸せなんです。こうしてためらいもなく、怪物に立ち向かえる。あの子も咲夜さんもいる世界を、何かから守れるかもしれないんです」

 

それがあの石像だけではないとしても、と氷華は付け足した。

そして、彼女は笑うのだ。

 

「けど、あなたがいろんなものに立ち向かったとして、今の姿で戻ってこれるかどうかなんて______」

「わかるんです」

「え?」

「私は怪我をしても、痛みを感じないし死なないって。咲夜さんに言われて思い出しました」

結局は彼女の身体は彼女のもので、私のものではないのだから、彼女の自由にはなからさせるべきだったのかもしれない。

そんなにも私の中に彼女を巻き込みたくないという感情があるのなら、そもそもこの外に連れてこなければよかったのだから。

 

しばらくの沈黙の後、私は音に気がついた。

いや、今までも気づいてはいたのだが、目の前のことに集中していて後回しになっていたのだ。

 

不意に私は気づいた。

まるで、あの石像のような何かが動く音に。

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

音のする角を曲がったところで、私はすごいものを見た。

 

上方へ変更せよ(CFA)左脚を後ろへ(PIOBTLL)

 

インデックスが、抵抗している姿。

きっと彼女の脳に凝縮された知識が、彼女に魔術への対処を教えているのだろう。

私たちが吸血鬼狩りのときに、彼らに気配を察知されぬようにうまく相手の妖力に自分の霊力を入り込むやり方とどこか似てもいた。

 

私は時を止めてインデックスへと駆け寄る。

インデックスと猫に同時に触れると、セピア色の世界に気づいたインデックスが振り返った。

 

「咲夜!」

「すごかったわ」

「みてたの?」

 

彼女曰く、あれは強制詠唱(スペルインターセプト)。一から順に数えている術者の脇でデタラメな数字を言ってぐちゃぐちゃにしてしまうようなものだと言っていたが、説明はその辺までにして今度の機会にとインデックスを逃した。

氷華とは別方向に逃したので、気づいてはいないと思う。

 

そして私は……石像の時を止めた。

氷華がきょとんと私をみる。

 

「どうせ壊したところですぐ復活するもの。シェリーが一体しかこの石像を作らなかったあたり、その辺には制限がついてそうだしね」

「シェリー?」

 

笑って私は下を見た。

地下に残った不幸で幸運なあの少年は、まだ私たちの前に現れていない。

 

「ただ、私が動きを止めたことで新たに別の石像を作る可能性もあるけど……」

 

大丈夫よね?と問えば、彼女はゆっくりと頷いた。

止まった石像から音がなくなり、地下から何かが聞こえるようになった。これもお嬢様の元に飛んでいけるように鍛えられた耳のおかげだと思う。

すぐ近くに入り口を見つけ、私はその中に飛び込もうとして________こちらを見る氷華の存在に気づいた。

 

「氷華、あなたは私が人間だと言ったわね」

「はい」

「じゃあ、質問。能力は、一人何個まで?」

 

へ?と氷華が首を傾げ、当たり前のように『ひとつ』だと答えが返って来た。

 

「そうね。それで、私の能力は?」

「時間操作、ですよね。違いましたか?」

「あってるわ。でもね、私は空も飛べる。化物と怪物の秘密よ?」

 

彼女はさっき、自分は怪物だと言ったが、なら私は化物だ。

 

「……咲夜さんはもっと冷たい人だと思ってました」

 

氷華は笑って、そう言った。

 

「何言ってるの、私は冷たいわよ」

「そんなことないです。あなたは、優しいですよ」

 

『ね?』と首を傾げられてしまい、何も言う気が起きなくなってしまった。

私はそれがくだらなくて思わず失笑した。

 

「だから、あなたは今から行くというんでしょう?目的もわからない、どんな被害がでるかもわからない相手を、私や彼に任してられないから」

「あら、一人じゃないわよ。地下には当麻がいる、地上にはあなたがいる。それからあんなわけのわからないものに私が執着するのは、楽しそうだからなの」

 

二人を守りたいと心から思うのなら。きっと、もっと最善のことがらがあったはずだ。

 

「……今はそれでいいです」

 

そう彼女が言い、私は地下へと、正確には当麻の元へと飛んだ。




色々と咲夜さんがいることでわけのわからんことに。
明日も投稿ありますのでよろしくお願いいたします。ついでに明後日もあります。


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戦争

いやはや……シェリーさんの考えが原作読んでても荒ぶるわけで。さらに荒ぶってます。どうぞ。


地下へと降りる中、私は何か気配に気づいて振り返った。

 

「……紫?」

「フフッ。ご機嫌よう」

 

減速するほどでもなかったかと、私はそのまま下に降り続ける。

紫はそのことにはなにも言わずについて来た。

 

「________能力者と魔術師の戦争が始まるわよ」

「はぁっ?」

 

それだけを言って、彼女は隙間へと入って行く。

意味がわからなかった。

 

 

 

 

 

 

が、考えていても意味はない。

 

「チッ。これはあの銀髪の仕業か」

 

シェリーの声が聞こえる。

私が石像を止めたことに対するようだった。

私はすぐに着地をし、歩き始めた。飛ぶのは久しぶりだったが、やはり楽しくて楽だ。

 

「________咲夜っ!?」

「さて、今はシェリーとの会話の時間のようね」

「随分と馴れ馴れしいな」

「親しみやすいとでも言ってくださる?」

 

魔術師はよく何かのエピソードを持っている。

神裂火織ならば天草式。ステイル・マグヌスならばインデックスのように。

そこがパチュリー様やアリスと言った魔法使いと違うところなのかもしれない。

 

「魔法名と由来を聞いても?」

「覚悟は出来てるんだろうな」

「出来てなければ聞くわけがないでしょう」

 

面白い、と彼女は呟いた。

 

「魔法名は________Intimus115。意味は、『我が身の全ては亡き友のために』」

「あら、その魔法名からだとあなたは友のためだけに命を削る魔術師に聞こえるけど……()()に固執してるのはどうして?」

「戦争を起こすんだよ。そのための火種がほしいの。そのためのイケニエが、()()って話」

 

随分とご丁寧な魔術師だった。

時間が存分に稼げる。別に稼いだところでなにもないけど。

 

「超能力者は魔術を使うと肉体が破壊される。聞いたことはないかしら」

「あるわ。その辺は当麻だって知ってる」

 

パチュリー様から教わり、インデックスからも聞いた話だ。

 

「じゃあ、疑問に思わなかった?なぜそんなことがわかるのかって」

「さぁ?彼女がいうのならそうなんだと思ったわ」

「________試したんだよ。今から二十年くらい前に。親友で超能力者のエリスが、私に魔術を教わって行使したときに、彼女の肉体が破壊されたからね」

 

あるとき、学園都市の一部とイギリス清教の一部で『仲良くしましょう』という動きがあったそうだ。

その計画に参加した、エリスとシェリーは親しくなり、魔術師のシェリーは超能力者のエリスに魔術を教えたのだという。

エリスは魔術を使った瞬間肉体が破壊され、還らぬ人となってしまい、彼女の生み出す石像には彼女を想い同じ名前がつけられているとも。

 

「さて、まずはエリスを作り直して禁書目録を追わせる」

「なッ!?さ、咲夜っ!」

「あなたの狙いはインデックスだったのね。彼女は氷華に一応任せて来たけど……さっさとシェリーを倒してしまいましょう」

「魔法名を名乗らせたからには、どうなるかは明白」

 

クスリ、と彼女は笑う。

 

「テメエがわざわざ出向いてくれて大助かり。飛んで火に入る夏の虫……ってね!!」

 

ヒュン、とシェリーは空を引き裂くようにオイルパステルを横に振るった。

すると地下鉄の構内が淡く輝き始める。

少なくとも前後一〇〇メートル以上には埋め尽くされた魔法陣が出現した。

 

「トンネルを潰す気!?」

 

迂闊だった。気づかなかった。

これじゃ彼女の言う通り、本当に飛んで火に入る夏の虫だ。

 

「エリスのような悲劇をもう二度と起こさないために。________戦争を、起こすんだよ」

 

まるで呪文のように彼女は繰り返した。

 

そこからは私がなにをするでもなく、気づくと当麻がシェリーの顔面にパンチを食らわせていた。

いや、何かはしたか。けど私は当麻を追うように行われる倒壊を、時間を止めて当たらないように防いでいただけだ。あそこまで当麻に俊敏に動かれると、私はなにもできなくなる。

 

「シェリー」

 

私が呼ぶと、当麻もシェリーも動きを止めた。

 

「あなたは本当はどう思っているの?本当に魔術師と能力者が戦争を起こすべきだと考えているの?本当に起こったら……あなたはどちらに着くのよ。魔術師として、エリスの敵として生きるの?本当に?」

「しらねぇよ!それがわかってたらこんなことしない。けど、魔術師と能力者の住み分けはすべきなんだ!」

 

すると幻想郷はどうなるというのか。

魔法使いと、人間と、能力者と、妖怪と、神様と。いろいろなものがあの狭い世界で絡み合うあの楽園は。

 

「忘れ去られたものたちを見捨てといて、よく言うわ」

「は?」

 

そういえば、吸血殺しは吸血鬼あってこその能力だが、お嬢様は忘れ去られたものでいいのか。まあ、そんなことを言っては人間なんかはどうするんだという話になるが。

 

「戦争は起きる。そうね、多分九割くらいの確率だと思っていいわ。あいつが嘘をついていなければ」

 

呆然とわけのわかってなさそうな当麻の後ろで、クッ、とシェリーが奥歯を噛み締めた。

 

我が身の全ては亡き友のためだけに(Intimus115)‼︎」

 

なんのために戦争は起きると(それを)言った、とシェリーの目は言っていた。

私だってわからない。戦争の本当の意味を知らない現代っ子に聞かれても困る。

 

「死ねぇ!超能力者ぁ!!!」

 

と、そこまで叫んで彼女の後ろから霊弾をぶつけた。

当麻がそこで拳を打ち込んで、シェリーを倒す。

案外さっぱりとしていた。

 

「……咲夜」

「なに?」

「今、戦争は起きるって……」

 

ああ、と私は懐中時計を取り出した。

 

「これを送ってきたヤツがさっきまた現れたの。戦争が起きるとだけ言って消えた。真相はわからないけど、アイツがわざわざやってくるほどのことなんでしょうね」

「________それ、本当なのか?」

「本当。ただ、随分胡散臭いヤツだから一割くらいは嘘の可能性もあるわ。それでも私をここに送れたようなヤツよ。私なんかより、この世界の裏を知ってるでしょうし」

「________嘘であってほしいって思わないのか?」

「私はお嬢様にさえ被害が及ばなければいいわ。あとは自分が無事に帰るだけだけど……私のミッションは自分を強くすることだから、それだけは達成して帰りたいわね」

「そっか」

 

割と喋ってしまったが、まあ当麻なら平気だろう。

重要なことは話してないはずだ。

話好きなところは私も魔術師に向いているのかもしれない。

 

「それより、さっきはなんでシェリーがいきなり怒ったの?」

「え?咲夜がきっかけなのに?……きっと、彼女にも思うところがあったんだろうよ」

 

彼女も頭がごちゃごちゃみたいだったし、と当麻は言った。




最近基本は2000字超え。
明日も投稿ありますが、少なめです。


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カザキリヒョウカ

今回でわりと咲夜さんの性格変わりましたね。
もうすぐ6巻が終わります。長かった……


あれ、と私は思わず声を漏らした。

目の前には止めたままの石像、周りからは建物が壊れているような音はしない。

 

「咲夜っ!」

「インデックス!」

 

インデックスと氷華がこちらへ駆けてきて、私も当麻も顔を見合わせた。

シェリーは石像を作り直すと言っていたはず。しかし、この場には止めたままの石像しかない。

 

「なんだか気落ちしたわ。まだ続くと思ってたのに」

「こんなもん……なのかなぁ」

「じゃあ私は一応、黒子と美琴のところに戻るわね。その能力、当麻なら解けるでしょうし」

 

私はひらひらと手を振って、すぐそこにいた美琴と合流した。

 

「あっ、咲夜、さっきはよくも……」

「そんなに怒らないの。それより黒子は?」

「も〜」

 

知らないわよ、と美琴が続けたとき、とてつもない轟音が響き渡った。

 

「何!?」

「石像の方よね……行ってくる」

「ちょっと!今度は勝手に行かないでよね!」

 

手首を掴まれてしまっては、能力を使ったところで美琴の時も動いてしまう。

まあレベル5だし、レベルだけなら私や当麻より上なのだからと一緒に石像へと向かった。

 

「________!?」

 

そこには、私が止めた石像よりもずっと大きくなった石像と、その前に立ちはだかる氷華がいて。

私たちが角を曲がったとき、ちょうど石像の拳が氷華に突き刺さった。

当麻は何をやっているんだと当麻を見ると、彼は彼で続けて打ち出されたもう一発の拳を受け止めたところだったらしい。

 

「氷華っ!?」

 

当麻が受け止めたことにより力を失った石像は、塵と化した。

塵が辺りを埋め尽くす。その、一瞬に。信じられないものをみたが、慌てて再び目を開けたときには、彼女はもうそこにはいなかった。

 

すぐに黒子がやってきてこのままじゃ面倒なことになると、嫌がるインデックスを美琴と共に連れて去って行った。

 

「当麻、これは一体……」

「俺だってわかんねーよ。止まった石像に触れたら、突如動き出して……それで……氷華は……」

 

けど、私は塵に覆われる少し前に、幻想かと思うくらい一瞬だけ、あるものを見てしまった。

『私は死なない』と言った通りに、彼女がまるで、粘土やプラスチックのように元に戻る様子を。

 

「いやでもそんなはずは……」

 

ありえるか、とも思う。

 

風紀委員や警備員が来る気配がするが、その前に確かめなければならないことがある。

 

「あの廃ビルへ向かった誰かがもし風斬氷華なら、あいつは何者だと思う?」

「怪物は人間じゃないといいたいの?」

「……」

「……そういうわけでもなさそうね」

 

私と当麻が登った廃ビルの上で、彼女は私を待っていた。

 

「あ……咲夜……さん……やっぱり、わた、しは怪物でしたね」

 

彼女は私たちの目の前で笑っていた。確信がなく、疑問でしなかなかったはずなのにいつの間に彼女は確信を覚えていたのか。

 

「ええ、そうかもしれないわね。当麻も少なからず驚いているもの」

「私……謝らないと。あなたの出番を、私みたいのが……横取りしてしまって、すみません」

 

氷華は当麻に頭を下げ、当麻は理解が出来ないと私と氷華を交互に見た。

 

「それでもあなたを友達だと言ってくれる人がいるんだから、いいじゃない」

「なにを……あの子も、目の前で私のあんなところ見たら……」

 

インデックスは魔神と呼ばれているらしい。人間の領域を超えてしまった存在。

そんな彼女が、ただの怪物を嫌いになるわけがないじゃないか、と思った。

 

「それに、謝らなきゃならないのは私……割と考察には自信があったのに、あなたたちを置いていったこと、すごく後悔してる」

「そんな……私たちを守ってくれてたのは咲夜さんですよ?それと、後悔してくれてるなんて、やっぱり咲夜さんは優しいじゃないですか」

 

そういって氷華は笑った。

 

「俺……よくわかんないけど、風斬は人間だよ。インデックスを守っといて、怪物はないだろ」

「……ありがう、ございます」

 

それから。

少しして、インデックスがその場に現れた。

インデックスは私と氷華が会話していることに、少し嫉妬して……そして、氷華の胸へと飛び込んだ。

 

 

 

氷華は普通ではないかもしれない。

どちらかといえば、妖怪に近いのかもしれない。

 

けど、人間と怪物が友だちになれないなんてことはないし、これだけインデックスに好かれているのだ。

羨ましいとさえ思ってしまう。

 

きっと彼女の物語は、まだ終わっていない。




『かざきり』と打ったはずなのに『カマキリ』と出てきて笑いました。
サブタイつけるときの話です。
カタカナはなんだか意味深ですね。


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虚数学区の鍵、とは?

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます!


「ほら見てくださいよ。今回俺って入院とかしてないじゃないですか。うわすげーな俺、これって一つの成長……いや、もう進化ですよね?そうですよね?」

 

待合室でそうはしゃいだ当麻に、月詠小萌先生と姫神秋沙から愛の鞭(平手)が繰り出された。おまけに後ろからインデックスが噛み付いている。

ヒリヒリとしているであろう赤い頰を抑えながら(インデックスの方は諦めているらしい)、

 

「咲夜さぁん……」

 

かるーく涙目の当麻が私を見上げるが、何をしろというのだ。

私もこの学園都市における生徒の一人だ。好き好んで怒られたくなどない。

 

「まあ、女の子に心配をかけた当麻が悪いんじゃない?」

「咲夜が冷たい!」

 

うがーっ!と頭を抱えて喚く当麻には苦笑するしかない。

なぜ彼は私よりも年上なのに反応がいささか幼いのか。これは性別的な差なのかもしれない。

 

病院には連れていかれたものの、誰もそこまでの怪我をしていなかったので待合室での会話である。

ただ、あのカエル顔の医者には『拳は複雑な動きを可能にする分関節も多く脆いから、次からは気をつけるんだよ?』とのご忠告を当麻は受けていたし、先ほどから待合室を占拠している私たちにすれ違う看護師や患者はあまりいい顔をしない。

 

「そういえば十六夜さんはメイド服なんですねー。常盤台中学は制服でいることが校則だと聞きましたが、大丈夫なんですか?」

「……そういえば、着替えるのを忘れてましたわ」

 

私が時を止めて着替えて見せると、小萌先生はにっこり笑って『さすが常盤台中学の生徒さんですね』と多分能力を褒めてくれた。褒められ慣れていないのでなんだか不思議な気分である。

 

紫が言っていた戦争についても気になるが、気にしたところで彼女はあまり私の前に現れない。嘘か真かなんて今のうちは判断がつかないし、こればかりは世界とともに生きない限りわからないことだった。

ふと、インデックスを慌ててとめる氷華が目に入った。

彼女はなぜ生み出されたのか、目的はなんなのか、もうわからないことだらけである。氷華は【虚数学区の鍵を握る】と言われていると小萌先生は言っていた。だが、虚数学区がそもそも何をしているのかすら私たちにはわからないのだった。

 

ただ、これだけは言えた。

風斬氷華は怪物で化物だけど心をきちんと持っていて、笑ったり泣いたりできるそんな存在だと________……私は心から思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるヨーロッパの国で、とある少女は生まれたらしい。

 

らしいというのは、その少女も知らないからだ。

 

ただ、物心ついたころにはその場所にいて、吸血鬼を殺して回っていたのだから十中八九間違っていないだろうと彼女は思っていた。

 

また彼女は自分の家族のことをあまり覚えていない。

 

わかっているのは自分の暮らしたはずの家にはもう誰もいないことと、この髪と瞳は父と母それぞれから受け継いだものであるということだけだ。

 

今の自分がいるのはお嬢様のおかげ。

 

それは洗脳でも魅了でもなんでもなく、少女のただの確信であった。

 

 

 

 

________そんな彼女はまた変わり始めている。

家族にすら無関心だった自分から、何かを大切にする自分へ。そして、人間らしい暖かな心を持った自分へと。




1200代です。短い。
題名は私の心の内です。いろんなサイトを見てもいまいちわからんので誤った情報を載せないようにしてます。文字数は最後の語り的なあれがないと大変なことになる。これでも頑張って伸ばしました……
最後の語りが誰かわかりやすすぎるって?誤魔化すと後々大変だと思ったのでお嬢様登場しました。洗脳とか魅了とかそれっぽくないですか?
これにて六巻終了です!長かった。
次回からはオルソラさんのお話ですね!舞夏さんが出る巻はネタたっぷりでウキウキワクワクです。

※小萌先生呼びについて※
咲夜さんはきちんと小萌先生に敬意を払いそうですが、月詠先生より小萌先生の方が親しみやすいのでこちらにしました。だって常盤台の先生じゃないんだもの。少しぐらい崩したって……ねぇ?


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7 オルソラと法の書と
あれ?学園都市って案外簡単にでれる?


大変長らくおまたせいたしました!
7巻スタートです!


大覇星祭は、いわゆるスポーツの祭典である。

学園都市中の学校がそれぞれ競い合う、簡単に言えば遊びの祭典。弾幕ごっこかと思ったが、そうではないらしい。能力をぶつけ合うところは似てるけど。

遊びとはいえ、常盤台中学は本気の塊である。多くの常盤台生は自分の能力に誇りを持ったお嬢様、つまり私なんかは身分ちがいなのだが、そんな高いプライドを持っているが故に、昨年敗北をきした長点上機学園への闘志を燃やしている。それはまあ怖いくらいに。

常盤台中学はレベル3以上でないと入学ができないため、総戦力でいえば、レベル0からでも入学資格をもつ長点上機学園よりは有利なはずなのだが……弾幕ごっこでもお嬢様は霊夢に負けてしまった。本来なら妖怪であり吸血鬼であるお嬢様が人間の霊夢なんかに負けるはずがないのに。その辺を踏まえると、おかしなことでもないのだろう。

 

さて、そんな大覇星祭を間近に控えた最近の常盤台中学といえば、連日の大覇星祭練習である。

クラスメイトは皆闘志を燃やしてはいるものの、どこか疲れて見える。当たり前だ。この残暑厳しい中、連日なのだから。幻想郷の残暑とは比べものにならない。

……私?私は時を止めて休憩を挟んでいるからそんなに疲れてはいないのだけど。

 

「あら」

 

そんなある日にとある公園でブツブツ文句をいう美琴と、プリントを広げた当麻を見つけた。

 

「なにやってるの?」

「あ、咲夜」

 

当麻はほとんど無反応だったが、美琴がイライラ満載の顔でこちらを見てきた。

 

「なんでそんなにイライラしてるのよ……それ、当麻の課題?」

 

私が当麻の宿題を覗き込むと、そこには数学の問題の数々と、所々赤いペンで記されたいつもより丁寧な美琴の字が見受けられる。

 

「……なによ」

 

じーっと当麻の課題を見ていると、美琴にそう睨まれながら言われてしまった。

 

「いいえ。よく美琴は根気よくこの当麻に勉強を教えているなと思っただけよ」

「オイそれどういう意味だ」

 

私がそう言うと、当麻から半ば諦めたかのような声がかかる。

 

「そのままの意味よ」

 

ふふっと思わず笑ってしまったが、こんなことを言っても怒らない当麻はやっぱり当麻である。さすがだ。

きっとこういうところがインデックスや美琴、そしていろんな人に懐かれる理由なのだろう。

 

「じゃあ、私は行くわね」

「えっ、ええ」

「門限には気をつけなさいよ」

 

私は時を止めると、寮に帰る。

その日、美琴が何時に帰ってきたかなど、言うまでもない。ただ、黒子が怒っていたとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『咲夜っ!』

 

寝ようとベッドに入った途端、マナーモードにしていた携帯がブルブルと震えた。

先ほど寮監は通り過ぎたと安心して電話に出ると、それは当麻からだった。

 

『いきなり悪いな。ダメ元で頼みたいことがあるんだが』

「なに?」

 

 

 

 

 

『インデックスと一緒に寝てくれたりしないか!?』

 

 

思わず、「はぁっ!?」と言ってしまった私は悪くない。

いきなりこいつはなにを言い出すのか。インデックスは当麻の部屋で居候しているはずで、当麻はそんなインデックスのためにわざとバスタブで寝ているはずだ。

ベッドで一緒に寝るのは、彼にはいささかハードルが高いらしい。まあわからなくもないけど。

 

「十六夜ぃ!!!」

 

その時部屋に耳を裂くような寮監の大声が響き渡り、また私は驚くことになる。

 

「今は就寝時刻のはずだが?」

 

冷たい寮監の声になるべく普通を装って、静かに携帯を下ろした。変に隠した方が、逆に疑われる。

就寝時刻なら、なぜこんなに大声で私を呼んだのか……

 

「申し訳ありません。寮監様はなんのご用件でしょうか?」

「十六夜が一番よく知っているはずだろう。急遽、外に出ろとの御達しだ。十六夜の方に連絡はついているとの話だが、違うのか?」

「……ああっ!あの件ですね。ただいまちょうどその件について詳しく話していたところでして……」

 

当麻には少し待つように言い、一旦通話を切った。

時間を止めて、キャリーバッグに荷物を詰める。寮での能力の使用は禁止されているが、バレなきゃいいのだ。バレる気もしないし。

 

「もう準備は出来ています。その外出許可書をいただいても?」

「ああ、構わん。ただし、三日の内には帰ってくるようにとのことだ」

「かしこまりましたわ」

 

それでは、とお辞儀をして、寮監の見えなくなる廊下を二つほど曲がったところで能力を使って時を止めて飛び上がった。ふと外出許可書を見ると、そこにはやはり『八雲紫』の文字があった。もちろん、脇には『八雲藍』の文字も。

 

「……やっぱり」

 

そう呟いてしまった私は、やっぱり悪くないと思った。

どこからどこまでみているのか、本当に謎だ。

まあ、あの能力であればどんなことでも可能なのだろうけど……私だって、時間を止めればわりといろんなことが出来てしまうのだ。それでもやっぱり、紫のあの能力は少し納得がいかないなぁ、と考えた。

 

本来はゲートを通してもらえない時間なのに、特例とやらで通してもらった。

これは紫の力なのか、はたまた常盤台の力なのか謎だけど。




やっぱり小説書くのは楽しいですね!
これからも頑張ります!

字数がすごく少なくて500字くらい足した……2000字です。少ない。


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呼び出された理由

お久しぶりです。
復活しました!
そしてサブタイが謎!難しい!


学園都市から出て、しばらく滑空する。

霊夢ではないが勘に頼って飛んでいるだけで当麻と巡り会えてしまうのだから驚きだ。……まあ、百発百中というわけでもないのだが。

周りを囲む大勢のシスターたちは黒い。つまり、おそらくロシア正教のシスターたちに疑問を抱きながらも当麻の元へ降りると、彼は耳をほじっていた。下品である。

 

「当麻」

「あっ、わっ、咲夜!?よくここがわかったな……」

「私の能力を忘れたの?」

「だからって……しらみつぶしに探したのか?」

「いいえ、勘よ」

「勘!?」

 

ふと視線をずらすと、そこにはテントに永遠とルーンを貼り付けるステイルの姿があった。

 

「……ステイルはなにをしているの?」

「ルーンを貼り付けてる」

「見ればわかるわよ」

 

当麻曰く、あのテントが今夜インデックスの泊まるテントらしい。つまり野宿。

ステイルはそれが心配で心配で私をここまで寄越すことを提案したのだという。まあ、確かにステイルや当麻がインデックスと一緒に寝るのは問題があるだろう。

 

「そういえば、どうやって出てきたんだ?」

「きちんとルールに沿って出てきたわ。なぜか許可証が出ていてね」

「……例の気にくわないってやつから?」

「ええ」

 

実際私なんかよりずっと強いのだから、なにもいう資格はない。

そもそも宴の席でくらいしか真面目に会話したことがないし、それもお嬢様のお付きとしてだし。

 

「ステイル。私がインデックスといるだけじゃ、頼りないのかしら?」

「ん?そういうわけじゃないよ。ただ、万が一ということがあるのは、メイドである君も知っているだろう?」

「それはもちろん知っているけど……そんなルーンなんかより、私の能力の方が有能じゃない?」

 

私がテントに手をかざすと、一瞬にしてセピア色のまま止まった。もちろん、貼ってあったルーンまでもがセピア色である。

 

「もしかして、貼るタイミング間違えた?」

 

ステイルが、少し目を丸くして言った。

 

「……そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜!?なんでいるの!?」

「こんばんは、インデックス」

 

ほかほかと湯気を立てるインデックスは、どうやら風呂上がりのようだった。

常盤台中学には、帰様の浴院をはじめとするシャワー等が豊富にある。もちろん、来る前に済ませてしまった。

 

「もしかして、またとうまに呼ばれたの?」

「んー、半分正解ってところかしらね。私を呼ぶようにしたのは、ステイルだそうだから」

 

そういうと、インデックスは少し複雑そうな顔をした。

今のインデックスにとって、ステイルは宿敵のはずだ。心を許すべき相手ではなく、逃げなくてはならない相手。あれから少し認識が変わったとしても、きっと基本的には変わらないのだろう。

 

「さて、そろそろ寝ましょうか」

「……うん」

 

黒いシスターたちはせわしなく動いている。なぜこのようになっているのかは私にはわからないが、きっと手伝ったところでどうせ邪魔になるだけだろう。というか、目的も知らないのに手伝うなんて無茶すぎる。

 

セピア色テントに入って(インデックスはすこし驚いていたが)、インデックスに今回の件について聞くと、完全記憶能力を持つ彼女らしく、とても詳細に教えてくれた。

 

簡単に言えば、オルソラ=アクィナスと法の書を天草式宗教から救いだせ、ということらしい。

オルソラは今、周辺にいるロシア正教のシスターで、インデックスでも解読ができなかった『法の書』の解読方法を知っているとのこと。

 

「法の書?」

「うん。咲夜は知ってる?」

「少し覚えがあるくらいだけど……」

 

いつだったか、図書館で見かけたことがある気がする。

パチュリー様に、「普通はすごく読むのが難しい本」だと教えてもらったこともある。とはいえ私は魔術や魔法にはさほど興味がなく、中身が気になるわけもないので頭の片隅に置いてあるだけだった。

 

「それって本当にインデックスでも読めないの?」

「あれは、既存の言語学で解明できるようなものではないんだよ」

 

なるほど。だからパチュリー様でさえも、「普通は読むのが難しい」とこぼしていたのか。と納得する。

既存の言語学で解明できないというのは魔女の言葉かなにかなのだろうか?……まあ、魔女ではない私にわかるわけもないんだけど。

 

「……で、助け出すのが仕事、と」

「うん、一応ね」

 

インデックスも身を守る術くらい持っている。私には特に仕事もないと思うが、八雲紫がせっかく外出許可書を取ったのだ。

私もすこしくらいゲームに参加しようと、そう考えた。

 

「あ、咲夜、睡眠は数時間しかとれないって」

「安心して。それくらい、能力でどうとでもなるわ」

「咲夜だもんね」

 

 

 

 

 

 

 

____________しばらくして。

となりがガサゴソとうるさいので目を開けると、インデックスが寝床から出た音だった。

 

「インデックス?どこにいくの?」

「ん〜……」

 

インデックスは寝ぼけているようだが、テントを器用に抜けると、当麻たちのテントへと向かっていった。

……インデックスは夢遊病かなにかなのだろうか。

 

そのすぐあと。

よく聞こえないが、そちらのテントから、なにか言い訳する言葉が聞こえ、そして、絶叫が聞こえてきた。

私は思わずクスリと笑ってから、両耳をふさいだのだった。




本当にお久しぶりです!
風邪をひいてしまいまして、こんなに遅くなってしまいました。
次は5月か6月か。5月中にできたらいいけど、多分無理だろうな……あ、ちなみにテスト近いです。



そして、本日でとあるメイドの学園都市連載一年突破です!ありがとうございます!これからもとあるメイドの学園都市をよろしくお願いいたします!


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決戦前

伊能忠敬はウキペディアさんで得た情報がほとんどです。
間違っていたらすみません。
基本的に、私が過去に学習したことを元に書いているつもりです。


伊能忠敬。

現在の千葉である上総国で生まれた江戸時代の商人であり、測量家として詳細な日本地図を作成したことで有名な人物。

ちなみに伊能には婿養子に入ったらしい。佐原の中でも酒とか醤油、あとは貸金なんかを営んでいた、村の中でもかなり大きな家だ。婿養子の立場で当主まで上り詰めたところから伊能忠敬の人望がうかがえる。

 

常盤台中学で学んだことでもあるが、これぐらいは村の寺子屋でも教えられている。

江戸時代までは幻想郷も守備範囲だ。幻想郷が出来たのは明治ごろだと、私はこちらに来て推測した。

 

さて、その伊能忠敬が作成した地図には面白いからくりが仕掛けられているらしい。

そのからくりとは、ワープポイント。

天草式宗教は日本における十字教のひとつである。聞いたわけではないが、生み出したのは長崎の天草四郎だろう。

そんな、日本にある宗教だからこそ、日本の地理には強い。大日本沿海輿地全図からワープポイントを見つけ、その起動法を熟知し、ローマ正教からオルソラ・アクィナスと法の書とともに逃げ続けているのだとか。

 

そんなワープポイントのひとつは、この『パラレルスウィーツパーク』らしい。と、私はそれを目の前にしてぼそりとこぼした。

百貨店の駐車場には、ローマ正教のシスターが何十人もあつまっていて、夜だというのに異常な雰囲気を感じた。

 

ステイルはいつものように煙草を吸い、インデックスはボソボソとなにかを念じ、当麻はあたりをキョロキョロと見渡している。

 

昼間にきたら、どれだけ楽しい場所だったのだろうか、なんて私は考えた。

きっと、美琴と黒子の友人の初春飾利がすごい勢いで食べ始める。彼女のリミッターが解除されれば、の話だけど。

 

周りはみな戦闘にそなえて各々最終確認をしているが、先ほど来て、ただ少しインデックスから説明をきいただけの私に実感をもてと言っても無理な話しである。

ぶっちゃけ、なんにも考えていない。

 

そこへ、先ほど挨拶したローマ正教のシスター、アニェーゼ・サンクティスが特徴の厚底サンダルをパコパコ鳴らしながら歩いてきた。

 

「『パラレルスウィーツパーク』にて、天草式本隊を発見しやした」

 

と、アニェーゼは言った。

本当は彼女も日本語は得意じゃないから本番の日本人の前では使いたくないらしい。彼女の母国語はイタリア語らしいが、私の訛りのあるイタリア語には笑ってしまうからやめてほしいと言われた。

そこで、スワヒリ語を使ってみたが、当麻の頭がついてこれないようだったのでやめた。結局は日本語が一番なのだ。

 

「ただ、オルソラと法の書は確認できやしやせんでしたんで、このままの人員で交戦に入りやす。警備網は解きやせん」

 

そうアニェーゼは確認するように言った。

 

「ええ、わかったわ。私はよくわからないけど、法の書っていうのとオルソラ・アクィナスっていう女性を取り返せばいいってわけね」

 

オルソラは人間だから、助け出すの方が正しいのかもと思ったけど。

もし、本当に天草式は法の書の解読のためにオルソラを必要としているのなら、彼女はキーでしかないはずだ。

アニェーゼは少し頷いた。

 

「もし『パラレルスウィーツパーク』から逃げられちまった場合は包囲網が役立つでしょう」

 

法の書やオルソラが命の危険にさらされることはまずないだろう。

曰く、法の書を使うことが天草式の願いであり、そのためにオルソラがいる。その二つを壊してしまったら、元も子もないのだから。

ステイルは、口からすこし煙草を外すと、指で肺を落としながら、

 

「天草式は神裂がいなくなったことによる戦力不足の穴埋めのために法の書を欲しているのだろうからね。そりゃ、それを読めるオルソラを丁重に扱うだろうさ」

 

当麻はオルソラが人質として殺されるかもしれないという心配をしていたようだが、ステイルの言葉に納得したかのように頷いた。

 

「あなたのために再度確認しやすが、」

 

とアニェーゼはあからさまに私をみて言った。

 

「天草式は隠密性に特化していやす。誰がどうみても違和感のない動きだとしても、もしかしたら魔術発動の予兆かもしれないと考えちまってください」

「わかったわ」

 

ふふっと微笑むと、あからさまに不機嫌な顔をされた。紫の気持ちがわかった気がする。

 

「なぁ、天草式を追い詰めすぎたらオルソラと一緒に身投げとかしたりしないのか?」

「その辺のさじ加減も考慮して、人員を分けちまいたいと思います。ローマ正教の八割は正面から天草式に突撃しやす。その間にあなた達はこの中を探索、『法の書』とオルソラを見つけ次第確保しちまってください」

 

リミットは午前〇時五分。

大日本沿海輿地全図内に記されたワープポイントを起動させるための条件の一つ、時間を満たすまでがリミットだった。

 

「ちなみに、十六夜咲夜。アンタは禁書目録の警護という扱いでいいんですね?」

「……まあ、間違ってはいないと思うわ。その辺は当麻とステイルが担ってくれるでしょうけど」

 

私は邪魔かしら、とそう聞くと、アニェーゼはそういうわけではなく、と一瞬まぶたを閉じた。

 

「学園都市は超能力者の集まりと聞きやす。能力名を聞いても?」

「学園都市では、時間操作(タイムオペレーター)と言ってるけど、時間を操る程度の能力ね。それがどうかしたの?」

「いいえ。魔術が使えないならなにが使えるのか気になっただけです」

 

お嬢様やあのパチュリー様でさえ、あなたの能力は少し珍しいと言ってくださっている。それなりに能力に自信もあった。

 

「ところで、」

 

そこでインデックスが会話を切った。

 

「特殊移動法、つまりワープポイントの渦も破壊しておかないとオルソラに逃げられるかも」

「ん?それってこの右手で壊せるんだろ?」

「壊せるけど、発動のためのアイテムはきっとカモフラージュされてるから探すのに苦労すると思うよ」

「まあ、なんとかなるわよ」

 

アニェーゼは覚悟が決まったと判断したのか、片手を上げた。

すると背後にいたシスターたちが一斉に武器を掲げ、金属音が辺りに鳴り響いた。

槍や剣といったベタなものから、松明や歯車、十字架なんてものも見える。

アニェーゼも銀の杖を受け取りながらこう呟いた。

 

「……許せねぇですよね。まあこういう言い方はなんですけど、私は魔術師とかああいう人間が好きじゃねぇんです」

 

きっと、天草式を指しているのだろう。

魔術師というのは多分、ステイルや神崎、シェリーなんかも含まれているんだと思う。

 

「パチュリー・ノーレッジだってそうです。魔女狩りに因縁を持っただかしりやせんが」

「?魔女狩り当時は自分の身も守れない愚か者ばかりだったんじゃないの?」

「さあ、しりやせん。そんときはまだ私は生まれてねぇですから。パチュリー・ノーレッジの母親は魔女狩りによって殺されたとかききやすよ」

「……そう。話を止めて悪かったわね」

 

と、アニェーゼは自己理論を並べ始める。

インデックスは複雑そうに顔を歪め、ステイルはニヤニヤ笑っていた。

けど、私は。

 

『あの頃の魔女は自分の身も守れない愚か者ばかりだったのよ』

 

そう、なにも感情がこもっていないような目で言ったパチュリー様の顔が頭に浮かんでいた。




気づいたら2800ですか。

最近パチュリー様のタグ付けいるんじゃね?って思い始めました。
この話で掘り下げるのは、咲夜さんとレミリアの予定だったんですけどなかなかレミリアが掘り下げられないし、パチュリー様だけ設定が生まれていくし。
咲夜さんはもう色々考えてあるんで多分大丈夫です。多分。
レミリアはストーリーが進んで掘り下げ確定になったらタグ付けます。パチュリー様は匂わせレベルの予定だったんですけど、フラグだらけになりました。このまま完結したらこれ完全に打ち切り漫画です。難しかったらSSかなんかで掘り下げるってのもアリかな……


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決戦開始

お久しぶりです。大変長らくお待たせいたしました……!!
また近いうちに更新できたらと思います


午後一一時二七分。

『パラレルスウィーツパーク』の職員用出入り口付近の金網まで、私、当麻、インデックス、ステイルの四人は来ていた。

ローマ正教は数が多いのが特徴だ。

別行動をすれば、数が多いあちらに敵は集中する。こちらには、あまり敵はやってこないという算段らしい。

 

「おいステイル」

 

夜だからなのか少し不気味な雰囲気漂うパラレルスウィーツパークを見ていた当麻が振り向いた。

 

「何だ?」

「本当にこれ、時間内に終わると思うか?いくら咲夜がいるといっても、『法の書』もオルソラも、なんて……」

「僕らだけじゃ、正直難しいだろうね。咲夜、君はどれくらい頑張ってくれるんだい?」

 

ステイルと当麻、それからインデックスに見られ、私はそうねぇと悩んだふりをする。

 

「私が『法の書』とオルソラを知っていればよかったのだけど、はじめてみるものを探し出せるほど私の勘は優れてないわ」

「それもそうだね」

 

ステイルはそう言って苦笑した。

 

「じゃあ、向こうに見つかったときはきみは能力を使うのかい?」

「見つかったら使わないわよ。気配だけなら話は別だけど、見つかったのなら逃げたら失礼じゃない」

「失礼って……」

 

紅魔館のメイド長として、私にはお嬢様を持ち上げる義務がある。吸血鬼、レミリア・スカーレットの従者がどれだけ優秀なのか、示さなくてはならない。

 

「そのわりには随分と色んなものに首をつっこんでないか?」

「楽しいことには目がない性分なの」

 

異変はときはお嬢様の許可があるときだけしか行くことが出来なかったが、今はお嬢様のメイドから離れている。

楽しいことである以前に、私が強くなるチャンスなのである。

 

「ふーん……」

「けど、私の仕事はインデックスの警護。いざとなったら能力を使用して、インデックスでも誰でもパラレルスウィーツパークから遠ざけることくらいはできるわよ」

「その必要はないんだよ。魔術を知らないとうまが行くっていうのに、私だけ逃げるなんてできない」

「……そういうと思ってたわ」

 

インデックスだって、魔術のプロだ。

私もメイドとして仕事は投げやりにしたくはないし、誇りを持っているのだからその気持ちもわからなくはないけど……インデックスは魔力を精製する力を持たないらしいので、やめてほしいものである。

 

そのときだった。

 

爆発音が空を駆け巡った。

 

「!?」

 

それは、遠く離れた一般用出入り口の方からのようだった。

轟々と燃え上がる火柱。あれが陽動というものなのだろうか。

 

「騒ぎが起こらない。人払いと刷り込みの魔術を併用してるのか」

 

ふと魔力の流れに気を配ってみると、パチュリー様や魔理沙のものと比べて随分とあっさりしている。かなり気を配って慎重に調べないと、全く気づくことができないレベルである。

これが、天草式の術式。これなら私も身につけてみたいと思える代物だった。

 

インデックスがフェンスに近づいてトラップがないか確認してフェンスを越える。ステイルと当麻は自力で、インデックスは私が抱えた。彼女は自力で越えるつもりだったようだが、私の能力を舐めないでほしい。

むすっとした顔で私を睨みつけられても、困る。

 

幻想郷では愚か、学園都市ですら私がみたことのないような『じぇらーと』や『あんにんどうふ』の店が目に入る。……今度、美琴と黒子にじぇらーととあんにんどうふについて聞いてみよう。

観覧コースへと入ると、それは巨大な円形のコースだったことがわかる。真ん中には水路があり、その下に水面が見える。水はまあそれなりの深さがあるようだった。そして、その周りには私の知らないカタチの店が並んでいる。水路の内側には机や椅子がたくさん設置してあるため、そこで食べるような屋台なのかもしれない。

 

「ずいぶんと悲しい光景だな」

「昼間にきたら、楽しい場所なんでしょうね」

「とうま、咲夜、時間がないんだよ。捜すなら早くオルソラを捜さないと」

 

遠くから人の怒号や絶叫、爆発音などが聞こえる。

確かに、ゆっくりここを歩き回る時間はないようだった。

 

と、頭上から気配を感じる。

時を止めて飛び上がって確認すると、それはどうやら天草式の人間のようだった。手には西洋剣。右からハンドアンドハーフソード、バスターソード、ボアスピアソード、ドレスソードのようだ。この剣の組み合わせも魔術に関係あるのかと考えながら、私はインデックスを連れてその場を少し離れた。

 

「っ!?」

 

店の上から当麻とステイルへと一直線の四人。

上条は慌ててインデックスのいた方を見たが、いないことに気づいて自分も剣を避けた。

天草式は狙っていた四人の内、二人がいないことに気づいて辺りを見渡し、一瞬にして私たちに気づいた。

 

「さ、咲夜っ!とうまが!」

 

なんで、私だけ。と、目で訴えられるが私の仕事はインデックスを護ることである。

私はインデックスを抱えて天草式の二人から逃げた。死角に入ったところで時を止め、背後に回った。

 

「死ぬか、見逃すか。どちらかを選びなさい」

 

ナイフを突きつけ、そう呟く。インデックスがごくんと息を飲んだ。

 

天草式はどちらも選ばずに剣で切りかかってくる。私はそれをかわして、二人をパラレルスウィーツパーク、いや、東京から追い出し日本列島の長野というところに置いてきた。殺しはこの世界ではご法度だ。

 

「咲夜……?」

「大丈夫よ。長野に置いてきたわ」

「え、な、長野……?」

 

長野まで行けば、きっとしばらくは戻ってこない。

市街地に放置してきただけ良心的だと思っていただきたいものだ。



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