覚醒紅魔郷 (ジャックハルトル)
しおりを挟む

第1章・紅魔の覚醒
第1話・落ちて、落とされて、幻想郷


ストーリーはなぞるつもりですが、いかんせん主人公のキャラが濃いですw
楽しい作品に出来るよう頑張ります!

恭介という名前が俊になっている箇所があるかもしれません、原稿とは名前が違うので直したつもりですが、まだ残っているようなら報告お願いします。


 

 

「……んぁ?何処だ、此処」

 

えー、はい…皆の主人公、全世界イケメン代表、身内からは人間やめてんじゃね?疑惑が発生中の神城 恭介です。

今俺は、森の中にいます。

何を言っているかわからねぇと思うが俺にもわからねぇ……家で幼馴染のAカップのブラジャーを漁っていたら突然タンスの中に引きずり込まれたんだ…

超能力とか超常現象だとかそんなチャチなもんじゃねぇ…もっと恐ろしい、何かの片鱗を思い知ったぜ…

 

「つか…マジで何処よここは」

 

左を見ても森、右を見ても森、後ろを見ても森、上を見たら夜空。

流石の恭介もこの状態でハイテンションになれるわけもなく、動揺し焦っていた。

 

「ウヒョーーー!これってまさかトリップ?トリップですか?異世界トリップですかぁ?

やったぁぁぁ!ここから俺のハーレムサクセスストーリーが始まるぜぇ!!」

 

焦ってはいなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

数分後ようやく落ち着いた恭介は、脱ぎ捨てた衣服をもう一度着直していた。

 

「つか、マジで何処よ此処…」

 

「ここは妖怪の森なのだー」

 

「ん?」

 

声がした方に振り向いてみると、そこには

ショートボブの金髪と左側のもみあげあたりに付いているリボンが特徴的で、活発そうな印象を受ける『美』少女がいた。

恭介的推定年齢11歳。

 

「君、可愛いね…これから俺と一緒に無限の彼方に旅立たないかい?」

 

「むげんのかなた?」

 

少女は「わはー?」と言いながら頭をコテンと傾けていた。

 

「ぬぉぉ…たまらん、つか滅茶苦茶可愛い…」

 

だが、恭介はそれ以上の言葉を紡げなかった。

 

「ねぇねぇ、そんな事よりもお兄さん」

 

「どうしたんだい、ハニーガール?」

 

幼い容姿とは裏腹に妖艶な輝きを放つ真っ赤な瞳が恭介を見つめている。

 

「お兄さんは……」

 

そして、恭介は気が付いてしまった。

いや、恭介だからこそ気付くことが出来た…

少女の口から漂う強烈な『血の臭い』に。

 

「食べてもいい人間?」

 

「性的な意味なら喜んで…」

 

「わはー、1週間ぶりのご飯なのだー

いただきま〜す」

 

少女が地面を蹴って飛びついて来たのを、恭介はしゃがみ込む事で避けるのに成功した。

少女はそのまま、恭介の後ろに立っていた木に抱きつく様にかじり付いていた。

 

「こんな子供があんな速度で飛んでくるっ て…冗談キツ過ぎだろ…」

 

ブチィ

 

「うぇぇ…やっぱり木は不味いのだー

新鮮なお肉が食べたいのだー」

 

さっき齧り付いていた部分をそのまま噛みちぎったのか、口に入ってしまった木片をぺっぺっ、と吐き出していた。

 

「………マジで?」

 

「むー、お兄さんは意地悪なのだー

食えるもんなら喰ってみろよって言ったのに食べさせてくれないのだー、ルーミアは

ベジタリアンじゃ無いのだー」

 

「へっ、さながら俺はメインディッシュか肉料理ってとこか…

好き嫌いしてたら大きくなれないぜ?」

 

「えっ!そうなのか!?

困ったのだ…ルーミアも慧音先生みたいにバインバインになりたいのだ…」

 

その言葉を聞いた恭介は、正直かなり厳しい賭けに出る。

 

「じゃ、じゃあ…俺がご飯作ってあげるからさ、俺のこと襲うのやめてくれないかな?」

 

「ん?ん〜、んん〜…。

それは人間の肉で作るのか?」

 

「いや、流石の俺も人間料理は作りたくないかな…」

 

「え〜…食べたかったのだー…。

じゃあお兄さんの料理を食べたらバインバインになれるのか?」

 

「少なくとも、今の食生活よりは充実するかと」

 

「ん〜、じゃあわかったのだ。

ついてくるのだ、子分一号よ!」

 

「へいっ!………子分!?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

移動しながら少女から話を聞くことで何となくだが、この世界の事がわかってきた。

この世界の名前が『幻想郷』、少女の名前は『ルーミア』、『妖怪』や『魔法使い』

果ては『神』までもが存在している世界だということを聞いたが、それでもルーミアの説明は抽象的で分かりづらい所もあった為、流石の恭介でも、この『幻想郷』の全容を理解できずにいた。

 

「なぁルーミア」

 

「わは?」

 

「何処に向かってるんだ?」

 

「(^ω^)」

 

「いや、そんないい笑顔向けられても…」

 

「 ( ゚д゚)b (グッ!) 」

 

「意味わかんねぇ!?」

 

ルーミアは顔芸だけで恭介に行き先を伝えようとしたのだが、可愛いだけで何も伝わらなかった。

 

「む〜、お兄さんは鈍感なのだ、女の子がこんなに頑張って伝えているのに、だからみんなにアホって言われるのだ」

 

「確かに言われてたけどさぁ!」

 

「やーい、あほー、アホー、阿呆ー」

 

「…どうやらお仕置きが必要なようだな」

 

「こんな幼女に手を出すなんてお兄さんは鬼畜なのだー、ロリコンなのだー。

慧音先生に言いつけて頭突きしてもらうのだー」

 

「はっ、只の頭突きなんて俺にとっては

何の脅しにもならねぇな」

 

「…慧音先生の頭突きは山を砕き、海を引き裂き、空を落とすと言われているのだ。

……それでも平気なのかー?」

 

「…マジで?」

 

「マジなのだ」

 

「…誇張してるだけじゃ無くて?」

 

「ルーミアは妖怪歴結構長いけど、あんなに重い一撃は今も昔も受けたことがないのだ……」

 

妙に真剣な顔で語る青い顔をしたルーミアを見た恭介の中で、慧音先生=モンスターの図式が成り立った。

…無理もないだろう、まだ少ししかルーミアと接していないが、楽天的で能天気、会ってからずっと笑っていたルーミアが真顔になっているのだ。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!足でもなんでも舐めますんで勘弁してください!」

 

恭介も怖くなったのか、ガクガクと震えながら無様に土下座をかましていた。

 

「わはー、じゃあ許してあげるのだー」

 

「ふぅ……で、どうする?」

 

「ん?なにが?」

 

「足は舐めさせてくれるのか?」

 

「………」

 

「うん、ごめん…じゃあ、マジな話これからどこに行くんだ?」

 

「…知らない方が良いこともあるのだ」

 

「えぇ…」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

行き先も言われないで付いてきた恭介だったが、何やら賑やかそうな音が聞こえてきた。

音の聞こえる方に向かい歩いていると、幾つかの小屋や明らかに整備されている道を見つけた。

巨大な門とそこを見張っているであろう兵士、厳密には門番だろうか?らしき姿も確認出来た。

鎧を着込んでいる為、性別などははっきりとしないが…

 

「おっ、あれ人間じゃねぇか?しかもかなりの美少女と見た!

匂いで分かる、絶対に美少女だ!

推定年齢16歳、バストはBだな!」

 

「ん〜、お兄さんはたまに本当に人間なのか疑わしいのだ…」

 

「………」

 

「なんで答えてくれないのだ!?」

 

「………ふふふ」

 

「怖くなってきたのだ…」

 

「ちなみにルーミアのバストは……うん、今後に期待」

 

「期待されるのは嬉しいけど、なんか嫌なのだ!あと、失礼なのだ!」

 

今後に期待の超新星なのだ!

とか叫んでるルーミアをいやらしい目で見ていた。

 

「まぁ、いいや…行くぞルーミア!」

 

「わっ、わわわっ!な、何をするのだー!?」

 

恭介がルーミアを持ち上げて肩に乗せた。

急な事でルーミアも最初は驚いていたのだが、身長が180近い恭介に肩車をされたため、基本的には無邪気なルーミアは目を輝かせて喜んでくれた。

 

「どうだ〜、高いだろう」

 

「わはー、高いのだー、楽しいのだー!」

 

「なんかそこまで喜んで貰えるとは思わなかったから、こっちも楽しくなってきちまったよ」

 

「普段は飛ばないと、こんな景色は味わえないのだー」

 

「はっはっは、そうだろうそうだろう…

ん?…………って、飛べんの!?」

 

「妖怪で出来ないやつの方が少ないのだー」

 

「へぇー…なんか本当にTHE・異世界って感じだな…」

 

空を飛ぶという行為自体は飛行機などの乗り物で聞き慣れている言葉だが、ルーミアが言う『飛ぶ』と言うのは単身で『飛ぶ』という事なのだろう。

 

(なぁルーミア、それってどれ位の速度がでるんだ?

んで、結構な速度が出るなら空気抵抗とかって感じるのか?)

 

「なぁルーミア、飛ぶ時ってパンツ見えるのか?見えるんだよな?

んで、もし見えるならパンツ俺に渡してノーパンで飛んでくれないか?」

 

「お兄さん…キモいのだ……」

 

「まぁ、正直今の状況だけでもかなり興奮してるんだけどな」

 

「身の危険!?

わたしのパンツはあげないのだーー!」

 

「ルーミアの左足➕俺の顔➕ルーミアの右足=肩車=マシュマロ最高www」

 

「ド、ド変態なのだーーーーー!!!

と言うか、この状態の話なのかー!?

さっきの感動を返すのだー!

わあぁぁぁっ!お兄さんの顔に両足を押し付けるなーー!!両手でスリスリするななのだーーー!!!」

 

「デュフ、デュフフ、デュフフフフ……

ハァ…ハァ…ルーミアたん萌え〜、ルーミアたんの足最高に気持ちいいのだー」

 

「き、気持ち悪いのだーー!

ていうかルーミアの真似をするななのだーー!!」

 

恭介が見た目10歳くらいの女の子に劣情を抱きセクハラをしていると、ふと後ろから声をかけられた。

 

「おい貴様!ルーミアに何をしている!?」

 

青髪に白のメッシュを入れている美人が二人に近づいてきた。

だが特筆すべき点は派手な髪色にも負けない美しい顔立ち、特にキリッと吊り上がった目で見つめられたらいくら恭介でも(興奮して)危なかったが、今はルーミアの太ももに夢中なのであまり意識せずに対応していた。

 

「愛の語らい」

 

「なんと…ルーミアには、もう…」

 

「違うのだ!」

 

「だがこの御人は、ルーミアと…その……

な?」

 

「な?ってなんなのだ!?」

 

「ぐへへ、そういう事だルーミア…大人しく俺にスリスリされてろ」

 

「じゃ、じゃあ私はこれで失礼する!」

 

顔を赤くして回れ右する女性に、ルーミアは手を伸ばして叫んだ。

 

「じゃあ、じゃなくて助けてくれなのだー

『慧音先生』ーーー!!」

 

「はっはっはーー!叫んでも助けなんかこねぇぜ嬢ちゃん。

特にそのけーね先生とやらは此処にはいねぇんだ…そんな『頭がダイヤモンドで出来てる全長15メートルもある人造人間』なんてよぉ!」

 

恭介の頭の中で慧音がどういった存在なのかよく分かる瞬間であった。

 

「…私だ」

 

「え?何が?」

 

「…私がその『頭がダイヤモンドで出来てる全長15メートルもある人造人間』だ」

 

「は、はは…まさか、そんなはずは…

だ、だって…ルーミアが、慧音先生が…

こんな美しいお方が、ダイヤモンドヘッドバットの使い手だなんて…」

 

「それがどんな技かは知らないが、余程命が惜しくないと見える」

 

「い、いえそんな…」

 

「お兄さんは自殺志願者なのかー?」

 

「黙っててルーミアちゃん」

 

「さぁ、目を閉じるんだ…そう、それでいい」

 

恭介は言われるがままに目を閉じた。

 

あれっ、これって頭突きじゃなくてただ単に俺にキスしてぇだけじゃないの?

 

とかアホな事を考えている所為で、非常にだらしのない顔になっている。

慧音の方に意識を集中してみると「スゥ〜ハァ〜…スゥ〜ハァ〜」と深呼吸を繰り返しているのがわかる。

 

「へっ、イケメンってのも罪なもんだな…」

 

「お、お兄さんが恐怖のあまり壊れたのだ……」

 

「スゥ〜ハァ〜、スゥ〜ハァ〜」

 

なかなか慧音からのキスが来ないので緊張しているんじゃないかと思い、それを拭ってあげることにした。

 

「ははっ、慧音先生…緊張しなくても良いんだよ…俺がアフターケアーまでしっかりやってあげるからさっ」

 

言い終えた後、恭介は顔を上げて微笑んであげた。

だが、それがいけなかった。

 

「そうだな…では、参る!」

 

ブォンッ

 

恭介の顔面に迫る青と白のコントラスト、それは中々に美しい光景だったのだが…

頭によぎった言葉は『空が、落ちてくる』

…だった。

「ぷぎゅるっ!」

 

ゴギャ、メキメキ、パリンッ

 

「…っ、ふぅ…なかなかに硬い頭だったが

私の頭突きには勝てなかったな。

 

「何かが割れる音がしたのだ…((((;゚Д゚)))))))」

 

 




幻想郷に変態降臨
彼の今後の活躍に期待してください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話・新しい出会い、新しい相棒

彼は末期です。

文章を少し編集しました。


 

『恭介君…足の内側…付け根なんだけど怪我しちゃったんだ…舐めてくれる?』

 

『ねぇ、恭介…水着の紐が取れちゃったの……結んで…くれる?』

 

『お前が好きだって言うなら…白いスクール水着くらい…着て…やるよ…』

 

『なぁ、恭介?私…恭介やったら……ええよ…』

 

『兄さん、私達…本当の兄弟じゃないから…手を出しても…いいんですよ…』

 

個性的な美少女、美女5人に囲まれた恭介は実に幸せそうなアホ面を晒していた。

すると突然辺りが白く染まり始めたではないか。

美少女美女5人も『バイバ〜イ』と言って

手を振り、足早に去って行く。

 

『ま、待ってくれ俺のエンジェル達!』

 

恭介の願いも虚しく、エンジェル達は白い闇の中に消えてしまった。

 

『う、うわぁぁぁぁ!あんまりだ、この仕打ちはあんまりだ!』

 

あまりの仕打ちに恭介は目を覚ました。

そう、夢落ちというオマケ付きで。

 

「はぁはぁはぁ…夢か…」

 

飛び起きた恭介は顔を真っ青にしながらも

自分の状況を確認してみた。

 

「えっと…確かルーミアにセクハラしてたらボインちゃんに出会って………ダメだ

ここから先の記憶が一切ない…だが後悔もない…」

 

ふと気がつくと、恭介は布団に寝かされていることに気が付いた。

その布団からするいい匂いは慧音の香りと同じであったため、恭介はもう一度布団に潜り『ハァ…ハァ』と荒い呼吸を繰り返していた。

 

「ん?」

 

そしてしばらくの間ハァハァしていると、不意に歌が聞こえてきた。

その歌声は少し幼い声質だったのだが、とても美しい歌声だった。

恭介はその歌の主が気になり探してみることにした。

 

慧音の家?から出て歌声の主を探していると、推定年齢16歳、バストはBカップと断定した門番のいた場所にたどり着いた。

 

妖怪が出てきたらマズイにはマズイのだが、

ぶっちゃけ倒すのは難しいかもしれないけど逃げ切ることは可能だと判断し、意を決して出て行く事にした。

 

歌声はまだ聞こえている、曲が変わったのか先程よりも明るいイメージの歌に変わっていた。

恭介にとっては歌ってくれている間は、その方面に向かっていけば場所の特定が簡単なので有り難い話でもある。

そうしてしばらく探してみると…

 

「おっ、ここか…」

 

たどり着いた場所には、歌い手であろうピンクの服を着た翼が生えている少女と、何故かルーミアが少女の側に体操座りをしていた。

恭介は木の陰に隠れて少女の歌を聴くことにして、ついでにしばらく様子を見てみることにした。

 

「じゃあ次の歌いくよーー!」

 

「おー!」

 

「〜♪〜〜♪」

 

「いい声だねぇ…」

 

恭介は感想を漏らすと、ルーミアの隣にシレッと腰を下ろした。

 

「あれ?お兄さん起きてたのかー?」

 

「へっ!?何!?」

 

「お嬢さんの歌最高!」

 

「は?いきなり出てきて何言ってるのよ」

 

「お兄さんは壊れたのかー?」

 

ルーミアに貶され、翼の生えた美少女には怪訝な顔をされてしまった。

美少女に並々ならぬ関心と興味と劣情を持つ恭介には耐えられない視線だった。

 

「あっ…すまん、いきなり出てきて悪かったよ。

それよりも…ルーミア」

 

「なんなのだ?」

 

「起きてからずっとなんだけど、尋常じゃないくらい頭が痛いんだけどなんか知ってるか?」

 

「あぁ、それなら…」

 

「はっ!能力的なものに目覚めたのかも!?」

 

「能力!?っまさか貴方、私とルーミアを狙って来たの!?」

 

「…あぁ、その通りだ。

よく気がつくことができたな、少女よ…」

 

恭介のよろしくないノリが出ちゃった。

 

「ルーミア…下がってて、私が足止めしておくから…」

 

「あぁ、また面倒なことになって来たのだ…」

 

ルーミアは一人だけ空を見上げて『はふぅ…』とため息をついていた。

 

「少女よ…名を訪ねておこう…」

 

「…ミスティア・ローレライよ」

 

「そろそろ止めといたほうがいいのだー」

 

「それで、どうするの?

遊びたいなら、とことん弾幕してあげるわよ?」

 

「 (弾幕?石でも投げ合うのか?)よかろう…余が相手をしてやろう…」

 

「それじゃあ、行くわよ!」

 

「デュエル!!」

 

「止めといたほうがいいのだ……」

 

カードは使わないがな。

 

 

・・・・・・・5分後・・・・・・・

 

 

「ごめんなさい……もう二度と歯向かうような真似しないんで勘弁して下さい…」

 

「わかれば良いのよ、わかれば」

 

ボロ雑巾の様になって土下座をしている情けない男がそこにいた。

 

敗因は多くあるが、大まかに分けて3つの違いが大きい。

まず一つは飛べない事、これが一番大きな敗因だろう…戦闘開始と同時に相手は空の上、いくら身体能力が人間離れしている恭介でも、投石くらいしか攻撃手段がなくなる。

 

二つ目は攻撃手段の差、ミスティアは弾幕と呼ばれる妖力の弾丸のようなものを無数に飛ばすことができるが、先述の通り恭介には空中への攻撃手段がない。

 

三つ目は相手の回避スキルの高さ、日頃からこの様な……もとい、もっとレベルの高い戦いをしているのだろう、恭介もかなりの速度で投石をしていたのだが全て紙一重で交わされてしまっていた。

 

「だから言ったのだー……止めといたほうがいいって」

 

「ま、地上での動きは早いし石も速度は凄かったけど、私を倒したいならその3倍は持って来いってね!」

 

ミスティアが舌をペロッと出し、指をビシッと恭介に突きつけ決めポーズを取っていたが、当の本人は土下座中で見ておらず、ルーミアは見ていたがあえて無視していた。

 

「………さて、結局あんたはどういうつもりでここにいるの?」

 

「あ、無かったことにしたのだ」

 

「うっさい、ルーミア」

 

「……喋ってもよろしいでしょうか?」

 

「許可してあげるわ、犬」

 

「わん……ルーミアとはご友人で?」

 

「犬は喋らないわ」

 

「そうなのだー」

 

「わんわん!わんわん!」

 

美少女に罵られていると、何故だか幸せな気持ちになってくる。

新たに目覚めたのではなく、元から備わっていた性癖のおかげで、恭介は犬になる事を受け入れた。

 

「ごめん、言っといてなんだけど、キモいからやめてくれない?」

 

「くぅ〜ん……じゃあ幻想郷に詳しい人の所に案内して欲しいんだけど」

 

寂しそうな声は演技だったのか、それとも本気だったのか……答えは恭介か同等の変態にしか分からない。

 

「急に馴れ馴れしくなったわね……ま、まぁいいわ。

幻想郷詳しい人ねぇ…紅魔館のパチュリーとか?」

 

「へ〜、どんな人なんだ?」

 

「ん〜…会ったことはないけど、『動かない大図書館』って言われてるくらいだし、すっごい頭いいんじゃない?」

 

「パチュリーは見たことないけど、門番とは仲良しなのだー」

 

「じゃあ、そのコネで紅魔館ってところ行けないか?」

 

「私は止めといたほうがいいと思うわよ」

 

やっとこの世界の事が理解できると期待していたのだが、ミスティアからストップが入った。

 

「え、なんで?」

 

「名前から分かる通り、紅魔館にはとんでもない化け物が住んでるのよ…

私程度にここまでやられる程度のアンタじゃあ、運が良くて瞬殺、運が悪けりゃ生きたままガブリ…ってされるかもね」

 

「名前って……仔馬の館で『仔馬館』だろ?可愛らしい名前じゃねぇか?」

 

「気持ちは分かるけどお兄さんはやっぱり……なんでもないのだ。

『紅』の悪『魔』が住む『館』で『紅魔館』なのだー」

 

「説明ありがと、ルーミア。

ま、そういうわけよ、どーするの?

ここまで聞いてもやっぱり行きたい?」

 

「まぁ、それ聞いたらなぁ…

でも、お前達みたいな姿の妖怪もいるなら

そいつらもやっぱり見た目は人間みたいなのか?」

 

「そうだけど…」

 

「やっぱり、例に漏れず美少女なのか?」

 

「そうね…全員が全員、かなり可愛い部類だと思うけど」

 

「あ、じゃあ行くわ」

 

美少女と聞くなり即答した俊に対して、ルーミアはなんとなくそんな気がしていたのか、溜息を吐くだけで終わったが、ミスティアは何を言っているのか分からねぇ…みたいな顔をしていた。

 

「ア、アンタねぇ…話聞いてた!?

殺されるかもしれないのよ!?」

 

「ルーミアはなんとなくそんな気がしていたのだ、だけど自殺紛いの事はやめといたほうがいいと思うのだ」

 

「あぁ、それなら多分大丈夫だよ」

 

「…へ?」

 

「何でなのだ?」

 

「逃げ足だけは自信あるからな。

攻撃を全て捨てて、逃げに徹すればさっきのミスティアとやった戦いでも被弾しない自信はあったしな。

と言うわけでルーミア、案内してくれるか?」

 

「了解ーなのだー」

 

「もう!ルーミアも止めてよ!

死んじゃっても知らないからねっ」

 

そうして恭介とルーミアは悪魔の館『紅魔館』を目指して歩いて行くことにした。

振り返ってみると、ミスティアは腕組みし、ソッポを向いている。

バイバイと手を振ると、チラッとこちらを見てくれたが手を振り返してはくれなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

2時間程経っただろうか、森の中を歩き続けていると、ルーミアが急に恭介の手を取りクイクイっと引いてきた。

 

「ねぇ、お兄さん…」

 

「ルーミア、安心しろ…言いたいことはなんとなくわかる」

 

テクテク、トコトコ、コツコツ

テクテク、トコトコ、コツコツ

 

足音が三人分、森の中に響く。

恭介とルーミア、それに加えて誰か一人分の足音、二人が足を止めれば慌てた様に少しバタついて止まる。

……オヤシ◻︎様かな?かな? 嘘だ!!

 

反応して欲しいのか分からないが、こちらに姿をチラ見せする頻度が増えている気がする。

別に誰か分からないから無視したのではなく、その方が面白そうと言う理由だったというのが恭介らしい。

鳴き声が聞こえてきては流石に哀れに思えて来たので、恭介は仕方なくその『誰かさん』に声をかけることにした。

 

「なぁ、もう隠れるのやめて一緒に歩かねぇ?」

 

「ルーミアにもバレるような尾行じゃ、隠れてるとは言い辛いのだー」

 

木の陰から見えていた特徴的な『翼』がビクリとして驚いているのがよく分かる。

暫くその翼の方を見ていると……

 

「…ふ、ふふ、ふふふ、あーはっはっは!

よ、よく私がここに居ることがわかったわね!」

 

何故か威張り散らしての登場だった、おそらく照れ隠しだろう、頬が真っ赤である。

 

「ミスティアはツンデレだな」

 

「ミスティアはツンデレなのだ」

 

顔が真っ赤で小動物のような少女に暖かい眼差しを向けながらハモった2人。

 

「な、何よ!心配したらダメなの!?

勘違いしないでよね!私が心配してるのはルーミアだけなんだからね!」

 

あまりにテンプレなツンデレに恭介どころか、同性のルーミアでさえも思わず愛でたい衝動に駆られていた。

 

「ミ、ミスティアが異常に可愛いのだ……お兄さんの気持ちがわかった気がしたのだ…」

 

「ミ、ミスティアたん……ハァ、ハァ」

 

「も、もういいでしょ!

紅魔館に行きたいのなら、私についてこればいいじゃない!」

 

「まぁもう夜遅いからな、流石に俺も眠いし疲れた…」

 

「………ん〜 ( ~_~)」

 

「どうした、ルーミア?」

 

「そろそろ眠いからルーミアの家に来るか?」

 

「だっ、ダメよルーミア!

こんな訳のわかんないやつ家に上げたら

何されるか分かったもんじゃないわよ!?」

 

「んー、多分大丈夫なのだ、ねぇお兄さん」

 

ルーミアが声をかけると恭介は物凄く気だるそうに振り返りこう言った。

 

「…そうだな、今は眠いし疲れ過ぎてもうこれ以上セクハラ出来る元気なんて残ってない」

 

眠い、という発言を聞いて、やっと自分が気を張っていたのを自覚した恭介は、緊張の糸が切れたのか物凄く眠そうな顔をしている。

恭介がセクハラをしない…それは一種の奇跡。

 

「ホント?そう言っといてルーミアの家に入ったらケダモノになるんじゃないの?」

 

「「それはない。あ、ハモった」」

 

「なんでそんなこと分かるのよ?」

 

「「んー…多分、ノリが近いから?

あ、またハモった」」

 

妙に気が合うルーミアと恭介は、お互いの顔を見て頷きあった後、何故か以心伝心と言っていいほどの動きでルーミアを肩車した。

 

「アンタ、疲れたんじゃなかったの?」

 

「まぁ、疲れてはいるけどルーミアくらいの軽さだったら別に気になる程じゃないからな」

 

「ルーミアは体重を気にするレディなのだ。

お兄さんは今『軽さ』って言ってくれたから好感度が急上昇しているのだ」

 

「…あそ、じゃあ私も疲れたしさっさとルーミアの家に向かいましょ」

 

「おー!なのだ」

 

「おし、じゃあ道案内頼むわ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

道中では特に変わった事はなく、精々ミスティアが羨ましいそうな目でルーミアを見ていたくらいだった。

 

「やっと着いたのだー!」

 

「……zzZ」

 

「寝てるし…」

 

「……ん、んあ?誰か呼んだか?」

 

「あんた…いつから寝てたのよ?」

 

「…憶えてねぇ」

 

「お兄さんは肩車をして粗方の道筋を教えたら寝ていたのだ」

 

「寝ながら歩いてたの!?」

 

ルーミアの匂いを憶えていた恭介はその匂いを辿って、ルーミア本体の次に匂いの強い場所に寝ながら向かっていたのである。

極度の匂いフェチにしか出来ない技だ。

 

「あんた…ホントに人間?」

 

「ん〜、まぁ、多分」

 

「多分!?」

 

恭介自身、自分が人間離れしている事は分かっているので、ぶっちゃけ人間辞めてるんじゃないかという事を自分でも疑っていた。

 

「ルーミアはもう気にしてないのだ、だから大丈夫なのだ」

 

「何が大丈夫なのよっ!!」

 

恭介とルーミアはミスティアをチラリと一瞥しニヤリと笑って家に入って行った。

 

「ちょ、待ちなさいよー!あんた達を二人にしたら何するか分かんないから私も泊まってくわよ!」

 

こうして、割と幸先の良いスタートを切った恭介の幻想郷初日は過ぎていった。

だが恭介は知らなかった、この先自分の身に降りかかる災厄に………。

 

 

 

 

 

 

 

「最高の抱き枕だ」

 

「ちょっ、何抱きついてんのよ!?

(ドグシャァァァア)」

 

「ぶるあぁぁぁぁぁ!!」

 

その前に一厄あったが。

 




末期だったでしょ?
作者本人が認めているのだから末期です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話・激突、撃沈、紅魔館

今回はあのキャラが出てきます。
タイトルが盛大なネタバレになってますがねw


 

 

 

 

「……おはよう、ルーミア、ミスティア」

 

「ぬ〜…おはようなのだ、ふぁぁぁ……

ヽ( ´ 0 ` )ノ」

 

「…ん、ん〜……おはよう…ござい、ま

しゅ……」

 

恭介の目覚めは最高だった。

両隣に美少女を挟んで、三人仲良く川の字になり昨晩は寝たのである。

 

顔面を強打されたのはその代金だと思っているので気にはしていない。

 

欠伸が我慢できずに大きく口を開けているルーミア。

キャラが崩壊しているミスティア…寝起きで服も若干着崩れている姿は、とても魅力的であった。

 

(でも、何故かこの二人には直接的なセクハラが出来ないんだよな……)

 

本人はそう思っているが、わかったものではない…と言いたいところだが、実際どんな年齢でも可愛くて性格のいい子ならセクハラをしてきた恭介が、本当に手を出せないでいたのである。

 

「ほら、ルーミアもミスティアもヨダレの跡がついてるぞ。

さっさと顔洗って目ぇ覚ましてこい」

 

「…わかったのだー」

 

「…うん、そうしゅる……」

 

そう言い残し、フラフラとした危なっかしい足取りのまま外に出て行った。

恭介も、その間に出掛ける準備やら何やらをし始めた。

まぁ、準備と言っても適当に服を着直しているだけなのだが。

 

一人全裸パーティに興じていると、ルーミアとミスティアの二人もまだ若干眠そうだが、さっきよりはマシになって戻ってきた。

 

パーティが見つかると後が怖いので、神速で服を着る姿は、何処かカッコよく見えた。

 

「さて…もうこっちは行けるけど、二人ともまだ出たくないとかあるか?」

 

「ルーミアはもう大丈夫なのだ。

……どうせ歩かないし (ぼそ)」

 

「私も大丈夫よ。

……今日こそは肩車してもらうし (ぼそ)」

 

「よっし、じゃあボチボチ行きますか」

 

「「おー!ヽ(^o^)/」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「そういえば、お前らって普段何食べてるんだ?」

 

「ルーミアは魚とか人間なのだー。

お兄さんのことも最初は自律型自走式食糧だと思っていたのだ」

 

「何そのアグレッシブな食糧…

ま、まぁいいわ…私は基本的に、川や山で採れる食材を適当に調理して食べてるわ」

 

「ほうほう…てか、ルーミアは人間食うのやめなさい」

 

「えー…」

 

「えー…じゃない、そんな現場に遭遇したくないし、人間食ったら飯作ってやんないぞ?」

 

「それは困るのだ」

 

まだ食べた事のない恭介の料理に多大な期待を持っているのか、ルーミアはあっさりと承諾してしまった。

 

「で、それを聞いて何かあるの?」

 

「ミスティアは鈍いのだ、お兄さんは餌付けしてルーミア達を落とそうとしているのだ」

 

「………あれ、まだ落ちてなかったの?」

 

「どこまで自分に自信があったらそんなセリフを吐けるの!?」

 

「まぁ冗談は置いといて…

別に、落とそうとかそういうわけじゃないんだけどな」

 

「じゃあ何なのよ?」

 

「ルーミアに飯作るって約束しちまったし…」

 

「し?」

 

「ん〜、なんて言うのかな…まぁ、お前らといると娘や妹がいるとこんな感じなのかな〜…とか考えてたらつい、な」

 

「そ、そう…まぁお兄さんっぽいってのは認めてあげるわよ」

 

「じゃあルーミアは娘なのかー?」

 

「娘はちょっと言い過ぎだけどな」

 

ハハハと笑いながらそう言った恭介は一瞬だが、少し寂しそうな目をしていた。

 

ルーミアは恭介が外の世界の人間だと分かっているので、その理由は何となく察する事が出来た。

反面、ミスティアはその事を知らないので、不思議そうな顔をしていた。

 

「お兄さんは外来人なのだ」

 

「あ、道理で珍しい格好してたわけね」

 

恭介の姿は、黒地のプリントTシャツにジーパンという何ともラフな格好をしていた。

ちなみにプリントされているのは『降臨』

と書かれた非常に痛い物だった。

 

「…まぁなんだ、どうやら俺にもホームシックって物があったらしい……って事かな」

 

「まぁいいわ、早く行きましょ…お兄ちゃん、でいいのかしら?」

 

「早く行くのだー、パパー」

 

「……せめて統一しようぜ?」

 

二人から受ける辱めに、少し頬が赤くなり

ポリポリと鼻の頭を書いている恭介。

ミスティアとルーミアは『まぁいいじゃない』『細かい男はモテないのだー』と言いながら俊の背中によじよじと登っていた。

 

「お二人とも…一体何を?」

 

「運んでけーなのだー」

 

「実は昨日から乗りたかった (キリッ」

 

ルーミアはいつも通りに見えるが、ミスティアが少し素直になったのは恭介に気を使ったからなのだろうか?

悪戯っぽく笑う二人に、恭介は少しだけど

救われた気がした。

 

「よし!前進〜なのだー!」

 

「全速力よ〜!」

 

「……よぉし、そんならお前ら覚悟しろよ?俺の全力はちょっと堪えるぞ?」

 

そういいながら恭介は陸上競技などで使われるクラウチングスタートの構えをとった。

 

「そんじゃ行くぞーー!」

 

「「おー!」」

 

発進した恭介の姿はその場から砂埃を巻き上げ、爆走していった。

 

 

 

・・・・・・青年全力疾走中・・・・・・

 

 

 

「後どれくらいなんだ?ルーミア」

 

「も、もうすぐ、大きな、湖が、うっ…見えるのだ」

 

「一旦、そこで、休憩、うぷっ…しましょ」

 

「あいあいさー」

 

恭介は出発してから30分程の間、ずっと全力疾走を続けている。

その速度は尋常ではなく、昨日言っていた

『逃げ足に自信がある』というのを如実に語っていた。

少なくともミスティアの飛行速度よりは遥かに早いのは確かである。

 

「よっしゃー!湖の位置も確認したいし、大ジャンプ行くぞーー!!」

 

「や、やめるのだ!」

 

「そうよ!これ以上されると私!」

 

「だが断る!!ーーーとう!」

 

「「ぎゃぁぁ………(チーン)」」

 

恭介は速度を殺さず、大がつく程の跳躍をした。

そのままドンドン高度を上げていき……

 

「あやややや、やはり最近はネタが少なくて困りま…って何ですかアレ!?弾幕!?人間!?とにかくなんですか!?いやぁぁぁぁ!」

 

ゴンッ!

 

「クリティカル!!」

 

「いぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

上空にいた誰かと激突した恭介はそのまま落下していった。

 

ルーミアとミスティアは飛んだ瞬間から意識がなかったようで事故?の瞬間は見ていなかったらしい。

 

 

ドッボーーンッッ

 

 

慣性で斜めに落ちていなかったら確実に地面に落ちていただろう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

所変わり、俊達が落ちた場所から少し離れたところでは2人の少女がいた。

方や釣竿を手に、暇そうな顔をしているピンク色のワンピースを着た、悪魔の様な翼をバサバサしている少女。

そして、その少女の少し後ろに佇み、少女を見守っているメイド服の女性。

強い日差しがダメなのか、翼の少女を覆い隠すように大きなパラソルが設置されていた。

 

「釣れないわね、咲夜」

 

「お嬢様、釣りとは我慢です、我慢とは忍耐です、忍耐とは…カリスマです」

 

「そう、なら私に我慢できないものはないわね」

 

謎理論を納得出来た少女はきっと……

 

「その通りでございます、お嬢様」

 

「そうよ、私はカリスマの塊よ?

耐えれないものなんてこの世に存在しないわ」

 

「その通りでございます、お嬢様」

 

「ん?この引きは…」

 

「おめでとうございますお嬢様……当たりでございます」

 

「ふふっ、そうか…ついに来たか魚類よ!」

 

「見えた!

今ですお嬢様!全力でお引き下さい!」

 

「魚類よ!貴様は私の晩御飯になる運命だ!

うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ザッパーーン!

 

今まで坊主だった彼女達は初めての魚を目の前に輝くような笑顔を見せる……はずだった。

 

「とったどー………ぉ?」

 

「お嬢様これは一体…」

 

「…人型、ね」

 

「4人の人型ですね」

 

「わ、私の魚は?……私の…魚ぁ…ぐすっ」

 

「ーーーっ!いけませんお嬢様! (パシーン)

カリスマたるもの夕食が無くなった程度で泣いてはいけません!忍耐です!カリスマです!」

 

「さ、咲夜がぶったーー!父様にも打たれたことないのにーー!うーー!うーー!」

 

「そのうーーうーー言うのを止めて下さい、お嬢様!!」

 

「うーー!うーー!」

 

「さて、何時ものコントはもういいです。

どういたしましょうか、お嬢様?」

 

「ふむ、そうね…取り敢えず紅魔館に運んで治療してやんなさい」

 

「よろしいので?自称清く正しいパパラッチもおりますが?」

 

「構わないわ。

もしも暴れ出したりしたら…真っ赤なオブジェが出来上がるだけですもの」

 

ニヤリ、と獰猛な笑みを浮かべる少女は先程までの情けなさを微塵も感じさせなかった。

 

「ふふっ、カリスマ全開ですよ、お嬢様」

 

「はっ!分かりきったことを今更言うな…行くぞ咲夜、我が紅魔館に凱旋だ!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「……何処だここ…って、いってぇぇ!」

 

目を覚ました恭介は、起き上がった瞬間に襲ってきた痛みで大声をあげてしまった。

 

「くっそ、なんだよ…」

 

再びベッドに突っ伏し、何があったのかをボーーっと思い出していた。

・ルーミアの家を出発し全力疾走。

・調子に乗って大ジャンプ。

・誰かに激突。

・……………

 

「誰かにぶつかった後の記憶がねぇ…」

 

コンコン コンコン

 

一人で回想していると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

この家の住人か?

 

「えーーと、どうぞ?」

 

ガチャ

 

「失礼いたします」

 

俊は産まれて初めて見た。

生のメイドを、ミニスカメイドを。

 

「結婚して下さい」

 

「お断りします」

 

「……………」

 

「……………」

 

「何故ですか?」

 

「もっとお互いを知ってからの方がよろしいかと…」

 

「俺ですよ?」

 

「何処からその自信がくるのですか?」

 

「魂」

 

「好感度アップです、頑張ってコンプリートして下さい」

 

「絶対にフルコンプしてやる。

で?貴方は誰で、ルーミアとミスティアは何処ですか?」

 

「私は『十六夜 咲夜』と申します。

ルーミアとミスティアも、既に目を覚ましております。

今は別室にて待機してもらっております」

 

「そうですか…

あ、それとすいません、名乗りが遅れました。

俺の名前は神城 恭介といいます」

 

慌てて名乗った恭介の態度に好感を覚えたのか、咲夜は嫌な顔一つせず、むしろ笑顔でそれに返答した。

 

「お気になさらないで下さい、神城様。

では、お嬢様がお呼びになられておりますので、動ける様でしたら付いて来てもらいたいのですが…」

 

「あ〜…今はまだ全身が痛くて…もう暫くすれば動けると思うので、その後でなら大丈夫です」

 

「畏まりました。

よろしければ、お飲物や軽いお食事をご用意いたしますが、如何致しましょう?」

 

「あ〜…お願いしてもいいですか?」

 

「はい、畏まりました」

 

咲夜は頭を下げると部屋から出て行った。

 

「いやぁ、それにしても美人だったなぁ…

銀色の髪を二房の三つ編みにしてるのも

あのキリッとした鋭い目つき、キツイ印象かと思いきや、ネタに全力で付き合ってくれるあの姿勢。

何と言ってもあの佇まい、まさに俺の求めていた最高のメイド像に近い…」

 

「ふふっ、そこまで言われると嬉しいものですね、好感度更にアップです」

 

いつの間にか恭介の横にいた咲夜が嬉しそうな表情をしながらベッドサイドに食事を置いていた。

 

「ぬぁぁぁぁぁ!い、十六夜さん!?

いつの間にってあれ!?飯もあるし、何で!?ファストフード!?」

 

「乙女の秘密ですわ」

 

ウィンクをしながら食事の用意をしている咲夜は人差し指をピッと立てていた。

その仕草は実に可愛らしく、見ていた恭介は不覚にも胸を撃ち抜かれた。

 

「あぁ、そういえば神城様、私の事は咲夜…と呼び捨てにして頂いて構いません」

 

「わ、分かりました、咲夜…………さん」

 

「呼び捨ては恥ずかしいですか?

更に更に好感度アップです、がんばって下さい。

そう言えば神城様…」

 

「恭介でいいですよ」

 

「いえ、それは…」

 

「俺はそっちで呼ばれる方が好きなんですよ」

 

「…畏まりました。

ふふっ、お優しいのですね、恭介様は」

 

恭介は思った、咲夜は俺を落としにかかっていると…

 

「…もう動けるんで、行きましょう」

 

「畏まりました、では…行きましょう」

 

咲夜が恭介の手を握りニコッと微笑みかける。

何故か「あっ……」と、乙女の反応を示したのは恭介だった。

 

「着きました」

 

「早っ!?えっ!?何で!?俺の特殊能力!?」

 

「ふふっ、乙女の秘密ですよ」

 

左手を俊の唇に指を当て、右手を腰に当て、中腰になる。

恭介が求めていた、やって欲しいランキング上位のポーズだった。

 

「ではお嬢様を呼んで参ります」

 

ギィィと重い音を立て扉の向こうに消えていく咲夜。

暫く待っていると、ルーミアとミスティア、それに名前は知らないが烏の羽を生やし山伏のような帽子をかぶった少女がやってきた。

 

「あ、お兄さんだ、もう動いて大丈夫なのかー?」

 

「そうよ、多分人間のカテゴリーに入るんだから無茶したらダメよ?」

 

「おー、悪かったな心配させて。

もう大丈夫だから安心してくれ」

 

「こんにちは!私の名前は射命丸 文

清く正しい文々丸新聞の記者です!」

 

「俺の名前は神城 恭介と言います。

射命丸さん…でよろしいですか?」

 

「よろしくお願いします!俊さん。

あ、あと、私の事は文でいいですよ!

敬語も捨てて下さい!」

 

「ん、わかっ…た?」

 

お互いが挨拶を交わしていると扉の向こうから、咲夜の声と初めて聞く女の子の声が聞こえてきた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「さ、咲夜!どうしよう!?この服でいいかなぁ!?カリスマ溢れてるかなぁ!?」

 

「お嬢様、カリスマとは己の内から溢れ出るものです…服など着なくてもお嬢様のカリスマは最高値です」

 

遠回しに全裸を推奨しているのだが、パニクってる少女に真意が伝わらなかったため、ツッコミ無しで少しイラッとした。

 

「で、でも…でも!」

 

「お嬢様いけません!(バシィン!)」

 

「いったぁぁぁ!咲夜!?今の割と本気でビンタしてなかった!?」

 

「はい、割と本気でございます、お嬢様」

 

八つ当たりというのは咲夜の中だけの秘密である。

 

「認めやがった!?」

 

「嘘はメイドの道に反します」

 

「むきぃぃぃぃ!」

 

「ではお嬢様、お客様を呼んで参りますのでカリスマの維持を心がけて下さいませ」

 

「ま、待って咲夜!まだ心とカリスマの準備が!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

中から聞こえてくる会話に、恭介達4人は唖然としていた。

声が止んでから暫くすると、ギィィ…と扉が開き、咲夜が出てきた。

 

「では準備が終わったのでお嬢様への謁見をお願い致します」

 

「えっ、でも…」

 

「大丈夫です、入室して下さい」

 

心とカリスマの準備が!?と言う声が聞こえていたのだが、きっと気にしてはいけないのだ。

咲夜さんの顔がSっぽく歪んでいるのがいい証拠だろう。

カリスマの準備とは一体……

 

「では、失礼の無いようお願いします」

 

ガチャッ

 

 

ギィィィ…

 

 

「……よく来たな、御客人…我が名はレミリア…レミリア・スカーレットだ」

 

 

 

 

 

さて、なんて反応すればいいんだろう?

 

 

 




そういえば俊の設定載せてないや…まだ少しだけオリキャラ出すので、その時に載せます(>人<;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話・幼い月、控えるは狗と狼

オリキャラ一人追加しま〜す。
詳細な設定などは今後、設定を載せたときに見ていただけたら幸いですが、一つ言えるのは……作者の趣味全開です。


 

 

 

 

「……よく来たな、御客人…我が名はレミリア…レミリア・スカーレットだ」

 

暗い部屋の奥に豪奢な椅子、そこには優雅に、そして堂々と座っている少女がいた。

恭介は先ほどの事もあって喋れずにいると

少女…レミリアが突然笑い出した。

 

「ふはははっ…いや、すまないな、我が発する気に当てられて喋る事も出来なかったか」

 

レミリアと名乗った少女は、絶対にこんな喋り方じゃないはずだ。

その証拠に、咲夜がレミリアに近づいて耳打ちしている。

割と聞こえる程度の声量で。

 

「お嬢様、『我』とか言うとキャラが軽く見られます(小声)」

 

「えっ、そうなの?早く言ってよね、咲夜(小声)」

 

何やらコソコソと話しているが恭介の耳にもハッキリと聞こえていた。

 

「えっと…助けていただいてありがとうございます、それで何か俺からお礼をしたいのですが…何分、外来人というものらしくて…」

 

「あ、あぁ、それは大丈夫だ」

 

「お嬢様その話し方なら大丈夫です」

 

「本当!?やったーー!ありが……」

 

「…………………」

 

レミリアに向けられる、ぬるぅ…っとし生温い視線。

レミリアから流れ出る冷や汗。

恭介と咲夜から溢れ出す下心。

 

「人間…神城、と言ったか?

今この紅魔館には従者が不足していてな…そこで一つ提案だ。

貴様には暫くこの紅魔館で働くという条件でならここに住まわせてやってもいい」

 

レミリアは先の失態を無かったことにした。

 

「 そうですね…」

 

恭介はこの幻想郷に来たばかりで衣食住どころかこの世界の常識なども備わっていないので正直かなり助かる提案だ。

だが……

 

「ルーミアとミスティアにお別れだけしてもいいですか?

あいつらにとっては、たった1日かもしれないけど世話になったんです。

その短い中で、俺はあいつらの家族になれたらって…人間と妖怪は相容れない存在かもしれないけど、それでも俺はあいつらを家族の様に思っていたんです!

だから、最後の挨拶だけでも…させて下さい」

 

「( ゚д゚)………ハッ。

ごめん、今意識飛んでたんだけど…なんて言った?」

 

「テメェェェェ!!俺がどんだけ熱弁したと思ってんだ!もういい、もう遠慮しねぇ!館の主だからって下手に出てりゃ調子に乗りやがって!!」

 

「で、恭介様の一番言いたいことは?」

 

「めちゃくちゃ恥ずかしかったよ!」

 

いやんいやんと顔を隠して腰をフリフリしながらもチラリとレミリアを見てみると…

 

「( ゚д゚)……え?なんて言った?」

 

「もうやだ、このロリ…」

 

「お嬢様…チャージしたカリスマが切れたのですね、お労しい…」

 

「で、咲夜さん…俺はどうしたら?」

 

「しばしお待ち下さい、チャージしてくるので…」

 

「あぁ、はい。

カリスマってチャージするものだったんだ…」

 

咲夜は恭介に、ニコッと微笑むとレミリアの方を向いて、しばらく見つめていた。

何をするのかと思って、咲夜を見ていると( ゚д゚)状態になっているレミリアの肩を揺らし始めた。

 

「お嬢様、お嬢様…(ユサユサ、ユサユサ)」

 

「( ゚д゚)…………カリ…スマ………」

 

「やはりチャージ分が無くなっていますね、仕方ありません」

 

すると咲夜は右手を思いっきり振り上げ…

 

ボゴォォ

 

「まさかのグーで行ったぁぁぁぁあ!!」

 

「はい、顔面にグーで行かせてもらいました(フキフキ)」

 

「血付いたの!?ねぇその人って主だよね!?」

 

「敬愛すべき主です」

 

「もうちょっと敬おう!もうちょっとだけでいいから!

その場のノリで殴らない程度には!」

レミリアさんも結局はピクピクしてるだけだよ!!」

 

「あらあら、カリスマをチャージし過ぎたみたいですね…過充電というやつですわ」

 

「違うよ!?カリスマってのは溢れ出すもので、外付け装置でチャージするものじゃないから!」

 

「………ニヤリ」

 

「確信犯だったーーーーー!!」

 

「ですが恭介様も、気を失っている女の子を見ると興奮するのでは?」

 

「それはある」

 

「では、問題ないということで」

 

「そうでしたね」

 

キリッとした顔で咲夜に同調した恭介は、きっと何処か壊れてるんだと思う。

一方咲夜はというと、レミリアの首根っこを掴んでそのまま部屋の奥にズルズルと消えていった。

 

「…で、結局どうすりゃいいんだよ…」

 

「今のうちにルーミア様達とお話をされてきてはいかがですか?」

 

「ぬおぉぉぉ!!…びっくりした」

 

「おやおや俊様、心臓が口から落ちましたよ」

 

ひょいっと地面から何かを拾う仕草をする咲夜。

 

 

「エア心臓拾い!?

いやもう、マジであんまりびっくりさせないで下さいよ」

 

「あら、それは失礼致しました。

それはそうと、先程の話しをして来ては?

 

「あ、咲夜さんはしっかり聞いてたんですね」

 

「もちろんです。

では他の者に案内させますので、扉の前でお待ち下さい、こちらもお嬢様のチャージが終わり次第、すぐにお迎えにあがりますので」

 

「ありがとうございます」

 

そう言い残して扉を出るとそこにはルーミアとミスティア、それと射命丸ではなく犬耳が生えた女の子がいた。

例に漏れず美少女である。

 

「おまたせ。

えっと…君は、誰かな?」

 

「は、はひ!せ、拙者は文先輩の部下で『犬走 椛』といいます!で、ですが、拙者は、い、犬ではなく狼なので!

よ、よ、よ、よろしくお、お、お願いします!

神城殿の名はミスティア殿とルーミア殿から聞いています!

文先輩は仕事があるので代わりに行けって言われて来ました!」

 

「…そんなに緊張しなくてもいいよ?」

 

「事前にルーミア達がお兄さんの事を教えておいたから、それで緊張しているのだー」

 

「おいロリーズ、いったい何を吹き込んだ」

 

「ロリコン、ド鬼畜、変態……どう?完璧でしょ」

 

凄まじい罵詈雑言だった。

恭介を褒める言葉が一つもないあたり、ミスティアの茶目っ気が出ている。

 

「完璧だよ、完璧に誤解される他己紹介だよ。

ミスティアてめぇ…後で乳揉……めなかったわ、ごめん」

 

「謝んないでよ!!」

 

「まぁ、ミスティアの乳が非常にミニマムって事は置いといて…みんなに話があるんだ」

 

「全部聞こえてたのだー」

 

「おいこら、誰が貧乳だ」

 

「お兄さんの恥ずかしい話も全部聞いてたのだー」

 

「えっ、俺の恥ずかしい叫びも?」

 

「おい、聞いてんのか、誰が貧乳だって?ん?」

 

「もちろん、全部って言ってるから全部聞こえてたのだー」

 

「…ねぇ、誰か反応してよ…貧乳じゃないもん…将来性に期待してるんだもん」

 

「マジか…じゃあ話はわかってるようだし、詳しい説明は省くけどそういう事になったんだ…短い間だったけど、今までありがとうな」

 

「ねぇ…もうあんな乱暴な口きかないからさぁ、せめて貧乳は否定してよ…」

 

「いいのだ、お兄さんの決めたことだからルーミア達が口出しするのは間違ってるのだ、まぁ…たまには遊びに来るかもしれないけど」

 

「もう貧乳でもいいから、無視するのだけはやめて…」

 

「…ありがとうな、ルーミア」

 

「…うぅ、うぇえ…ひっく、ぐすっ」

 

完全に心が折れたミスティア。

 

「あ、あの…拙者からも一つよろしいでしょうか?」

 

「あ、何か無視する形になっちゃってごめんな、犬走ちゃん」

 

「あ、いえ、拙者は初対面なのでそこら辺は構わないのですが…ミスティア殿があまりにも不憫で…」

 

泣き出したミスティアは体操座りになり、廊下の床に、指でのの字を書いていじけていた。

 

「もういいもん、所詮私なんて見えてないくらい薄い存在だもん…河童の作ったステルススーツみたいな存在だもん」

 

ステルススーツの存在を確認した恭介は、いつか河童の住処に突撃する事を心に誓う。

 

「あ〜あ、女の子を泣かせたのだ…お兄さんが」

 

「ちょっと待てルーミア、なんで俺だけのせいにされなきゃならん」

 

「そんなに言うならミスティアに直接聞いてみればいいのだ。

ミスティア?一体誰がミスティアを泣かせちゃったのだー?」

 

「…….そこの変態」

 

「おい、初対面の犬走ちゃんにいきなり変態とか言うなよ」

 

「ーーーー!?拙者は変態だったのですか!?」

 

「まぁ、何だ…悪かったな、ミスティア」

 

「…許さないわよ」

 

「ごめんちゃい」

 

「あんな事語っておいて今更一人だけ離れるなんて許さないわよ!」

 

ふざけて謝ったのを本当に後悔した。

ミスティアが泣き出したのも、許さないと言われたのも。

結局、ミスティアの言いたかった事は、恭介の話に感動を覚えたのに自分達を置いていくのか!というものだった。

もちろん泣き出した理由は貧乳と馬鹿にされたのもあるが。

 

「許さないって言われても、どうすれば…」

 

ミスティアは体操座りのままキッと恭介を睨み上げ…

 

「私も一緒に働く!」

 

「ルーミアはミスティアとお兄さんについていくのだー」

 

泣きながら叫ぶミスティアと、いつも通りの調子でルーミアが言ってくれた。

 

「……いいのか?俺としては滅茶苦茶嬉しいけど」

 

「いいったらいいの!」

 

「わかった…俺からレミリアさんと咲夜さんに聞いてみるよ」

 

まだ許可が取れるかは分からないが三人の絆を再確認出来たので一安心していると、完全に忘れられていた椛が『あの〜』と言いながら手を挙げていた。

 

「ん、どうした?犬走ちゃん」

 

「実は拙者、文先輩から神城殿について行けと仰せつかっておりましてからに…」

 

「なるほど…完璧に巻き込まれた、と…」

 

「はい…」

 

「御愁傷様…」

 

「…痛み入ります」

 

いい感じに話が纏まったところで、後ろからコツンという足音がしたので振り向いてみると、そこには一人のメイドが立っていた。

 

黒い長髪、見た感じ18歳くらいだろうか?

シックなメイド服にロングスカート、身長は170程に見える女性にしては中々の高身長。

ついでに言うとスタイル抜群である。

 

「神城様、ルーミア様、ミスティア様、犬走様…客間にておもてなしの準備をさせていただきました。

では、私の後ろについてきてください」

 

スカートの裾を摘み一礼をした後、恭介達を案内するために歩き出そうとした。

しかし、メイドさんはそこで「あぁそうだ」と言いながら俊達のいる方に振り向き

それはそれは素晴らしい笑顔でこう言った。

 

「逸れてしまわれると遭難してしまう危険性があるので、十分に注意していただきますよう、お願いいたします」

 

俊達は後ずさり、顔を引きつらせながらこう言うしかなかった。

 

「「「「は、はい……」」」」

 

俊達は雑談をしながらもメイドさんを見失わないように十分注意をしながら歩いていた。

 

(なるほどな、そういう事か…)

 

お子様3人は恐らく気が付いていないのだろうが、ここの廊下はおかしい事が多すぎる。

赤…というよりも紅を基調にされた壁や天井、更には床……絵画や調度品などが無ければ遠近感がなくなりそうなほど真紅に染まっている、これが一つ目。

 

窓の様なものが歩き始めてから今までの間に一切見ていない…それなのに館内は明るくなっている、これが二つ目。

 

もう一つ違和感があるのだが、判断材料が少なすぎて何かはわからない。

遭難は言い過ぎかもしれないが、迷う可能性は大いにあるだろう。

そんな事を一人で考え込んでいたら、前を歩いているメイドさんが話しかけてきた。

 

「神城様の種族は人間でよろしかったでしょうか?」

 

「身内からは人間かどうか怪しいと言われますが、恐らく人間です」

 

「そうですか…」

 

一人で納得したような表情になり、うんうんと頷いているメイドさん、何が聞きたかったのか気になった俊は…

 

「え〜と…人間だとやっぱりマズイことでもあるんですかね?」

 

「あ、いえ、そういうわけではなく…」

 

メイドさんの反応に心なしか不安になってきた恭介。

そんな恭介に気を使ったのか、メイドさんが歩く速度を落とし俊の横に並んできた。

すると、メイドさんはルーミア達には聞こえないであろう音量でボソッと話しかけてきた。

 

「神城様…この館にある異常性に気がつかれましたね?」

 

「!?」

 

表情には出さなかったが、内心かなり驚いた。

 

俺…口に出してないよな?

 

「いえいえ、神城様が驚きになられるのも無理からぬ話ですし…あぁ、もちろん口にもしていませんでしたよ?」

 

……心を読まれた?

 

「いえいえ、悟妖怪ほどの読心は出来ませんよ。

咲夜さんに習って乙女の秘密、と言いたいところですが、神城様には特別に教えてさしあげますよ。

種明かしをしたら簡単…というか当然なんですけどね。

では、自己紹介も兼ねてご説明しましょうか」

 

そう言うとメイドさんはロングスカートの半ば辺りを摘み、足をクロスさせながら見惚れるようなお辞儀と共に自己紹介を始めた。

 

「『紅魔館のNO.2メイド』『紅魔の狼』と呼ばれております、『アトラス・トワイライト』でございます。

能力は『読み取る程度の能力』です。

先ほどの読心はこの能力を使い、筋肉の動きや発汗の仕方、挙げれば色々あるのですが

僭越ながら読み取らせていただきました。

これからは私の方が先輩ですので、気軽にアトラス先輩って呼んで下さいね」

 

ちびっ子達はその立ち振る舞いを見て『おぉ〜』と言いながらパチパチと手を叩いていた。

 

「……パ、パーフェクト」

 

「ありがとうございます」

 

恭介は先程、咲夜を見てこう言っていた…最高のメイド像に『近い』と、別に咲夜に欠点があったわけではない…あったわけではないのだが、恭介にはメイドに求める理想があった。

 

「アトラス先輩、一つだけ、お願いがあります…」

 

「ふふっ、わかってますよ」

 

アトラスは、能力で恭介の思考を読み取ったのか、『ロングスカート」を摘んだまま左右にフリフリと揺らしてから手を離し、猫のように胸辺りの位置まで両手を挙げ、スカートが元に戻るか戻らないかのギリギリでフワッとスカートを広げるように『片足』でターンした。

片足でやる、これ重要。

ロングスカート、これ最重要。

 

「お、おぉーー!!す、すごいのだ!ルーミアそんな綺麗なターン見たことないのだ!!」

 

「こりゃ綺麗だわ…………」

 

「わ、わふーーー!拙者も何だか、イケナイ趣味に目覚めてしまいそうです!!

はっ!これが変態への目覚めというやつですか!?」

 

「ふふっ、ありがとうございます♪

出来る限り神城様の思考を読み取って再現したので………あら、神城様?」

 

確かにアトラスは恭介の求める最高のポージングをした。

だが、恭介は無表情のままアトラスを見つめていた。

 

「神城様?もしかして神城様の求めるものと何か、お気に障りましたか?」

 

「………」

 

「お兄さん?」

 

「恭介?」

 

「神城殿?」

 

三人娘も心配になり恭介に声をかけたが一向に反応がなかった。

だがしばらく見ていると恭介はガクガクと震えだし、ついには膝をついてしまった。

 

「神城様!神城様!大丈夫ですか神城様!?」

 

「うぅ、うぅぅぅぅ…」

 

三人娘は何が起こったか分からずにその場でオタオタしていた。

アトラスは恭介の手を取り『大丈夫です、私が付いているので大丈夫です』と元気付けていた。

暫くすると恭介の震えが収まったのはいいものの、ついにはポロポロと涙を流し始めた。

 

「神城様…どう、したんですか?」

 

「…アトラス先輩、貴女が…貴女こそが、俺の求めていた、最高のメイドだったんですね」

 

「そんな…私なんかより咲夜さんの方が

メイドとしての能力も上ですし…」

 

「アトラス先輩!!」

 

「は、はい!」

 

「わたし『なんか』なんて言っちゃダメですよ…少なくとも、俺にとっての最高のメイド像は貴女なんですから…」

 

「神城様…」

 

三人娘はその様子を見て心配したのが馬鹿らしくなり『はぁ〜』と溜息を吐いていた。

約2名はなんだか胸中穏やかでは無かったが。

 

「とりあえず、そんなコントはもういいからさっさと客間に行くのだ」

 

「あっ、申し訳ございません…ではもうすぐ着くので付いてきて下さい」

 

「ほら、何時まで泣いてんのよ、さっさっと行くわよ」

 

ミスティアが恭介の腕を掴み催促していた。

恭介も落ち着いたのか、若干危なげな足取りで歩き始めた。

 

「うん、僕自分で歩ける」

 

幼児交代したのか、たどたどしく喋る恭介は酷く気持ち悪かったが、仕方のない事だと思う。

 

「文先輩…拙者、馴染めるかどうか分かりませぬ…」

 

 




新キャラ登場!
アトラス・トワイライトさんです。
能力は割とありふれてるのかな?『読み取る程度の能力』
というものですね。
メイド業務はもちろん、戦闘も出来る、瀟洒にして完全なメイド…というのをイメージして作りました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話・緋色と黄昏・前編

緋色と黄昏は1、2、3の三つに分けて投稿します。

それは置いといて…この小説人気ねぇw



 

 

 

「さて、お嬢様のカリスマチャージも終わったことですし、恭介様達を迎えに行ってきますね」

 

「さっきは情けないところを見せたしね、リベンジを果たすためにも早く連れてきてちょうだい、咲夜」

 

レミリアはKOされた後ズルズルと引き摺られながら私室へと連れていかれていた。

咲夜は『かしこまりました』と言うとまるで消えたかのようにその場からいなくなっていた。

 

「相変わらず便利な能力よね…あ〜ぁ、交換して欲しいくらいだわ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

咲夜は能力を使い客間までの道を歩いていた。

紅魔館には咲夜とアトラス以外にも多数のメイドがいる、相当数のメイドがいるのだがその殆どは妖精で構成されている。

普通なら、メイド長である咲夜とすれ違えば挨拶をしなければならないが全てのメイドが、まるで時間が止まったかのように動いていなかった。

 

すると箒をバットに見立て、紙屑を丸めてボールを作り野球をしている5人のメイドを見つけた。

 

「あ、この子達…仕事サボってるわね」

 

妖精は元来、能天気で悪戯が好きな人間の子供並みの知能と身長しかない存在だ。

真面目に仕事をしないのは分かっているのであまりキツく言うつもりはないが、掃除道具とゴミで野球をするのはメイド的にいただけない。

咲夜はその妖精メイド達のパンツを足首までズラし放置する事にした。

 

さらにしばらく進むと客間の前に到着した。

アトラスは慣れているので驚いてはくれないのだろうが、恭介や三人娘はきっと驚いてくれるだろう…というちょっとアレな考えが見え隠れしている。

少しばかりワクワクしながら能力を発動して客間に入ってみると…

アトラスは微笑んでいるだけなのだが、それ以外の全員が恭介を指差して大笑いしている、対して恭介は上半身裸で腕立て伏せをしていた。

なんだろう、この状況は…と、頭を悩ませる。

とりあえず能力を解除して、事情を聞いてみることにした。

 

「アトラス…これは一体どうゆう状況なの?」

 

「「「「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 

「あら、咲夜さん」

 

「あら、じゃないわよ…」

 

心底ビックリした恭介達だが、アトラスは咲夜の現れ方に慣れているのか平然と会話をしていた。

 

「さ、咲夜さん…心臓に悪いんで急に出てくるの止めてもらえます?」

 

「ふふふ、また心臓を落としてますよ」

 

「落としてませんって!」

 

「まぁまぁ、冗談ですよ神城様…それで咲夜さん、レミリア様の準備はもう大丈夫なので?」

 

「もうチャージも終わったから恭介様達をご案内してちょうだい。

それでは私はお嬢様に報告をして来るので、これにて失礼させていただきます」

 

咲夜は恭介達に向けてそう言ったあと、またもや姿を消していた。

咲夜がいなくなったのを確認したアトラスは『さて』と言いながら立ち上がった。

 

「では神城様、これから紅魔館に従事して頂くことになると思うのでレミリア様からもう一度お話があります。

ルーミア様、ミスティア様、犬走様も同様…紅魔館に従事して頂くおつもりなら、お願いいたします」

 

全員がその言葉にうなづいたのに満足したのかアトラスは嬉しそうに微笑むと笑顔を浮かべて、ついて来てください、と踵を返した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「さて、神城…答えは出たかしら?」

 

またあの玉座がある部屋に来た俊恭介達を迎えたのは、先ほどまでとはまるで様子の違うレミリアだった。

 

「はい、先程の提案、喜んで引き受けさせてもらいます」

 

「そう、良かったわ」

 

レミリアもその答えに満足そうな笑みを浮かべたのだが、ルーミア達を一瞥した後、恭介にもう一度尋ねた。

 

「で、神城?そこの妖怪達は何故ここにいるのかしら?」

 

「レミリア様、それは私から…」

 

アトラスがその事について説明しようと一歩前に出たが…

 

「アトラス、私はこの子達の口から聞きたいの」

 

「差し出がましい真似をしました」

 

「貴女は優しすぎるのよ」

 

そう言われたアトラスは『ありがとうございます、失礼致しました』と言うと恭介達の後ろに下がっていった。

 

「ルーミア達もお兄さんと一緒に働きたいのだー」

 

「って事を伝えに来たのよ」

 

「拙者は道連れみたいなものであります」

 

「ナルホドね…」

 

レミリアはそれだけを言うと目を閉じて動かなくなってしまった。

 

「あの、咲夜さん?またレミリアさんのカリスマ切れですか?」

 

恭介が心配そうに咲夜に尋ねてみるも、咲夜は口元に指を持っていきシ〜っとジェスチャーするだけで、レミリアに対しては何もせずに

そのままレミリアの斜め後ろに待機しているだけであった。

何をしているのか分からない恭介達4人は頭に?を浮かべる事しか出来ないでいた。

 

「……面白いわね、貴方達…」

 

やがて、目を開いたレミリアがそうポツリと漏らした。

当然なんのことかわからないので聞いてみることにする。

 

「芸人的な意味で?」

 

「この空気でどうすればそう思えるのよ…貴方達4人の『運命』の事よ」

 

「……運命?」

 

「運命って…赤い糸とかの事?」

 

ミスティアの可愛らしい答えに『ふふ…』と笑らいレミリアは恭介達4人を見渡した。

 

「いいわ、貴方達4人をこの紅魔館の従者として迎え入れましょう」

 

やった!と喜び、ハイタッチをしている俊達に対してレミリアは『ただし!』と叫び、非常に非情な発言をした。

 

「力の無いものはこの紅魔館には不要よ。だから、そうねぇ…神城」

 

「は、はい」

 

「貴方はこのアトラスと戦いなさい」

 

「ーーっレミリア様!?無茶です、お考え直し下さい!」

 

「そうですよ!俺にアトラス先輩と戦うなんて無理です!」

 

「黙りなさい」

 

レミリアの出した条件に反発しようとしたアトラスと恭介だったが、レミリアの発した一言があまりにも『重く』のしかかり、本当に上から押さえつけられているかのような錯覚を覚えた。

 

「貴方達三人は…そうね…」

 

「お嬢様、アトラスが出るのならこの子達の相手は私が…」

 

咲夜が一歩前に出ようとするのを、片手を挙げて止めたレミリアは『チッチッチッ』と言いながら、人差し指を左右に揺らした。

 

「咲夜…私は最近運動不足でね、こんな体質だから日光の当たる昼間は日傘をささないと出かける事すら出来ないじゃない?

侵入者で遊ぼうにも、門番ズと咲夜とアトラスの三人で終わっちゃうし…」

 

「まさか…よね?」

 

「これはさすがのルーミアも冗談じゃ済まなそうなのだ…」

 

「拙者の命日には墓前に骨を供えてくだされ…」

 

冷や汗が滝の様に流れ出るが、そんなものに構っている余裕はないし、拒否権も無さそうだ…三人娘はお互いの顔を見て覚悟を決めた。

 

「上等じゃない、3対1で勝てると思ってるの?前言撤回するなら今のうちよ!」

 

「ルーミアはお兄さんについて行くって決めたから、やれるだけやってみるのだ」

 

「白狼天狗、犬走 椛を、否…拙者達3人を甘く見てもらっては困りますな。

 

三人の挑発にすらなっていない唯の強がりをレミリアは大層気に入り、パンパンと拍手を送った。

 

「いいわね、本当にいいわ…貴方達のような小さき者たちの力など、いくら束になっても私には敵わない…だからこそ、その勇気に賞賛を送りましょう」

 

「良いわね、ルーミア、椛」

 

「もちろん…ルーミア殿、ミスティア殿……腹は?」

 

「減ったのだ…」

 

「決まった、でしょ…おバカ。

でもま、腹が減ってるなら早く終わらせないとね」

 

軽口を叩いたつもりのルーミア達だが、恭介はその様子を見ても安心出来る訳がなかった。

 

人間としてはかなりの実力をもつ恭介だが、アトラス、咲夜の両名は明らかに自分よりも強い。

その二人が主と仰ぐレミリアは更に強いのだろう…プレッシャーだけで冷や汗が出たのは久し振りだった。

 

「お前達は俺の所為でこんな事に巻き込まれたのに…いいのか?」

 

「何が『いいのか?』よ。

私も連れて行かなきゃ許さないって言ったでしょ。

ペットの世話は最後まで見ないと気が済まないのよ」

 

「ペット扱いはどうかと思うけどな」

 

「まぁとりあえず……私は恭介を信じた、だから恭介も私を信じなさい。

私も連れて行かなきゃ許さない、だから私は恭介について行かなきゃ私自身を許せない

……恥ずかしいんだから言わせないでよ」

 

顔を赤くしながらも自分の気持ちを語ってくれたミスティア…ルーミアと椛も同意するようにその言葉に頷いた。

 

力強い言葉に恭介の不安も薄れていく。

実力差もあるので、完全には安心出来ないが

それでも少しだけ救われた気がした。

 

「わかった…信じるよ」

 

それだけ言うと恭介は拳を握り前に差し出した。

 

「行ってこい」

 

ミスティアもそれに答えて拳を突き出す。

 

「行ってくるわ」

 

そういいながら二人は拳をぶつけ合う。

 

「ルーミアには何も無いのか?」

 

「お前には美味い飯作ってやんないといけないし、拾ってもらった恩返しも出来てないからな。

気合い入れてけ」

 

「可愛さの面では既に圧勝してるつもりなのだ」

 

「拙者はまだあまり馴染んではいませんが…仲間に入れてもらってもよろしいでありますか?」

 

「あらら、俺はもう仲間だと思ってたんだけどな?」

 

「ーーーっ!ありがとうございます!」

 

それぞれに激励した恭介は全員を手招きして円陣を組んだ。

 

「うっしゃー!皆の者!出陣じゃーー!」

 

「「「おーー!!」」」

 

4人は拳を振り上げて叫ぶ。

身長はデコボコだが、その心はきっと一つに揃っていた。

 

「盛り上がってるのを邪魔して悪いけどさ。

先にルール説明だけは済ませておかない?」

 

「あ、はい」

 

レミリアの言葉に一気に冷静になった恭介達…レミリアもなんだか申し訳なさそうな表情になっている。

 

「じゃあ咲夜、ルールの説明をお願い」

 

「かしこまりました」

 

咲夜は事前に戦う事を聞いていたのか、ずいっと一歩前に出て説明をし始めた…

レミリアが出るのは予想外だったようだが。

何処から出したのかメガネと指揮棒を装備して。

 

「では、説明させていただきます。

先ずは対戦カードとしては一回戦目に、お嬢様とルーミア様、ミスティア様、椛様で戦っていただきます。

そして二回戦目にアトラスと恭介様に戦っていただきます。

戦う場所は別なので、お互いの戦いは見れないと思って下さい。

 

そちら側の勝利条件としてはこちら側に

『どれだけ弱くても一撃当てることが出来たらそちらの勝利とみなします』

そして、敗北条件については『そちら側が戦闘不能になる、または敗北を認めたとき』この2つがそれに当たります。

そして特別ルール…まぁ、ハンデですね…ハンデをつけて欲しくない、等の拒否は一切認めませんので悪しからず。

『こちらの使用するスペルカードは1枚』

『そちらの使用制限はありません』

以上が此度のルールとハンデになります」

 

ルール説明を受けていた恭介だが、一つだけ気になる言葉があった。

 

「すいません…スペルカードってなんですか?」

 

「あら、恭介様はスペルカードルールをご存知ないので?」

 

「えぇ、なにぶん『ここ』に来たのもつい先日の事なんで」

 

『ここ』というのは恐らく幻想郷のことなのだろう、その事を察した咲夜は得心がいった様子で『あぁ』と言った。

 

「なるほど、恭介様は外来人だったのですね」

 

「らしいですね」

 

「あ、そういえば恭介って外来人だったわね」

 

『スペルカード』という言葉に関しても反応を示さなかった事から、この二つのワードは幻想郷では常識の範疇なのだろうか。

 

「そうですか…

それにしても困りましたね…スペルカードルールを知らないということはスペルカード自体を持っていないと言うことですか…」

 

「持ってないですね…メイド喫茶のポイントカードならありますけど、これじゃダメですか?」

 

「メイド喫茶が如何なるものは存じ上げませんが、使えません」

 

「で、スペルカードってどういうものなんです?」

 

「スペルカードというのは一言でいうと、必殺技のようなものです。

カードに己の力を写し、技名を唱えることでその力を解放できるというものです。」

 

「エネミーコントローラー!!的な?」

 

「そんな感じで叫ぶと発動しますね」

 

ふむ…と一つ考える咲夜。

アトラスの実力を考えると、確実にただの人間では勝てない。

恭介の様子を見てみると『ついに俺にもかめはめ波が…』とか呟いていた。

 

「仕方がありませんね…アトラス、貴女は『第1段階』のみ、そしてスペルカード無しで戦いなさい」

 

「わかりました」

 

「お嬢様もそれでよろしいですか?」

 

「仕方ないわね。

向こうが使えなくて、こっちが使っていいなんてハンデにならないじゃない、神城…貴方もそれで良いわね?」

 

「いえ、嫌です」

 

「ちょっ、恭介!?」

 

せっかくのハンデを不意にしようとする恭介の発言にミスティアは驚きを隠せなかった。

 

「神城様、貴方は私には絶対に勝てません

…それでもよろしいのですか?」

 

アトラスは恭介に最後通告とも言える宣言をした。

 

「ミスティア達がスペルカードありで戦うのなら俺もそうして下さい。

じゃないとフェアじゃない…それに、まだ絶対に負けるとは決まってませんよ?」

 

「神城、貴方…いい男じゃない…」

 

レミリアにいい男判定をされた俊は何気に嬉しかったのか、頬をポリポリと掻いている。

ルーミアとミスティアはそれが面白くないのか、ひたすら俊をジト………っと睨んでいた。

 

「神城様がそれでいいのならこちらは構いません」

 

「じゃあ、早速始めましょうか」

 

レミリアの紅い瞳が真紅に染まる。

 

「えぇ、こっちの準備はとっくに出来てるわよ?」

 

ミスティアが翼を大きく羽ばたかせる。

 

「ルーミア達のコンビネーションは強い…と思うのだ」

 

ルーミアの体が段々と闇に覆われていく。

 

「犬走 椛……推して参る!」

 

椛は剣を取り出し、正眼に構える

 

「さぁ、こんなにも興奮するシチュエーションは久しぶりだから、存分に…」

 

 

楽しみましょう?

 

 




絶望的ですね〜。

ルーミア、ミスティア、椛VSレミリア

恭介VSアトラス

どちらも絶望的ですねw
特に恭介の場合は、人間としては強すぎるだけで、所詮は人間の枠組みです。
しかも、霊夢達の様に空も飛べない、弾幕もだせない、使えるのは体術のみです。
対するアトラスは………です。

次回もお楽しみにして……貰えるほど見てる人いねぇやw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話・緋色と黄昏・中編

バトル入ります。

まずは、ルーミア&ミスティア&椛VSレミリア、です。
どの作品見てもこの3人の共闘ってないんじゃなかろうか?
そしてどう考えても勝ち目がないw
しかし!ウチのミスティアには精神コマンドにイケメン化という機能が備わっていますので!
……勝てるかどうかは別だけど。

初めて書くので微妙かもしれませんのでご容赦を…




 

 

「にしてもこの館って広いわね」

 

「豪邸なのだ」

 

「咲夜が広げてくれてるのよ、面白い能力でしょ?」

 

「ふ〜ん……」

 

レミリアの言うように、この紅魔館の中は外観と比べるとかなり広くなっている。

奥行きもそうだが、高さも相当広くなっている。

 

「これだけ広ければ拙者達が全力で戦っても大丈夫でしょうね」

 

「いや、私が全力出したら流石にヤバイから」

 

レミリアの発言に椛はマジ?とでも言いたげな表情をしている。

 

恭介は巻き込まれて怪我をするかもしれないという理由から、アトラスと共に移動していった。

『心配だから残りたい』と訴えていたのだが、ミスティア達に『心配しなくても勝てばいいんでしょう?』と諭されてしまった。

本人達がそう言うのなら…と思い、渋々ながらもアトラスの後についていくことにし、その場から立ち去って行った。

 

「ていうか貴女達、あんな事言っちゃって大丈夫なの?

勝てる運命なんて見えてこないわよ?」

 

「恭介は私達の事を心配し過ぎなのよ、勝つって言ったからには私達は勝つのよ」

 

「勝負は下駄を履くまで分からないって言葉くらい知らないのかー?」

 

「………拙者…初耳であります(小声)」

 

「下駄なんぞ履かなくても結果ははっきりしているぞ?

さて…始めようか、おチビさん達?」

 

「あんただって似たような身長じゃない!」

 

紅魔館のエントランスに響き渡るミスティアの声が反響する。

そしてそれが開戦の合図にもなった。

 

ミスティア、ルーミア、椛の3人は、様子見として、取り敢えず真正面から弾幕を放つ。

しかし、レミリアは弾幕を避けようともせず右手を軽く振るうだけで、弾幕が全て掻き消されてしまった。

 

「マジで!?」

 

「もうちょっと威力のある弾幕なら避けるくらいしてあげるわよ」

 

そこでレミリアは、ふむ…と頷くと一つ提案をしてきた。

 

「よし、更に難易度を下げてやろう。

弾幕なし、飛行なしの格闘のみで相手をしてやる。

別に弾幕ごっこじゃないんだから、文句は無いだろ?」

 

レミリアの発言をそんじょそこらの妖怪の妖怪が言ったのなら、完全な油断と慢心だが

圧倒的な力を持つレミリアが言ったのなら話は違う。

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

レミリアの発言を、挑発と取ったミスティアは力の限り弾幕を展開した。

時には地上から、時には空中からと、バリエーションを変えつつレミリアを攻め立てる。

 

「余所見は厳禁なのだ!」

 

ミスティアとL時になるよう側面に回り込んだルーミアが、闇色の弾幕を放つも、やはり軽く掻き消されてしまった。

 

「いいコンビネーションじゃないか。

たがいかんせん、攻撃が軽すぎて話にならなーーーっ!?」

 

レミリアは背中から迫る悪寒にバッと振り向くと、そこには既に剣を大上段から振り下ろしている椛がいた。

 

「今更気付いたところで!」

 

勝利を確信した椛が剣を振り下ろす。

ミスティアとルーミアも、確実に殺ったと思い安心したのだが…

 

「気付かれた時点で奇襲は失敗だ。

相手が私じゃなければ上手くいったかもしれんがな」

 

「あっ……ぅぐっ」

 

振り下ろされた剣を、技術も何もない力任せの手刀で叩き折り、残った方の手で椛の首を掴んだ。

 

しかし、圧倒的有利な筈のレミリアだが、少しでも焦りを覚えた。

少々焦らされたことに若干イラッとしたのか、首を絞める力を徐々に強くしていく。

 

「中々どうして、素早いじゃないか……久しぶりにヒヤッとさせられたぞ?」

 

「は、はな……せ……」

 

「ふふっ…面白い事を言うものだ。

タイミングを見て有効活用させてもらうとするよ」

 

「椛を離すのだ!」

 

苦しんでいる椛を助けようと、レミリアに向かっていくルーミア。

ミスティアもルーミアを援護する為に弾幕を展開するが、その全てが迎撃されてしまう。

それでも、少しでも足止めになればと思い弾幕を打ち続けていた。

 

「ルーミア!」

 

ミスティアの呼びかけに答えて、ルーミアは飛んだ。

抜群のコンビネーションで縦横無尽に放たれる弾幕を軽々と搔き消していくレミリアから離れるように、高度を上げながら飛んでいく。

 

「ちょっとあんた達!少しは手加減しないとこの子に当たるだろ!?」

 

「平気な顔で弾幕消してる奴の側にいるのが

ある意味一番安全かもね!」

 

「それに、当たってもちょっと痛いだけで大事にはならないのだ!」

 

冗談ぽく返すに二人に対してレミリアは、先ほどまでの尊大な口調を崩してこう告げた。

 

「あら、友達なら大事にしなきゃ……ダメでしょ!!」

 

その場から姿が消えたレミリア。

いきなり標的がいなくなった事に驚いたルーミアの側にレミリアが現れと思えば、そのままルーミアを蹴り落とした。

レミリアもそれを追うように地上に降りる。

 

「飛ぶってのは制限をかけたけど、跳ぶのには制限かけてないからルール違反とか卑怯だとか言わないでね?」

 

「ルーミア!」

 

ミスティアが心配そうに叫ぶも、それを無視するようにルーミアは壁に向かって蹴り飛ばされた。

 

「ぅぅ……」

 

ガラガラと壁崩れると瓦礫に半分埋まったルーミアに向かい、握りっぱなしにしていた死にかけの椛を投げつけた。

 

「あんた!ただの試験なのにやり過ぎよ!」

 

「はぁ?殺しちゃいけないなんてルールは無かったはずだが?

助けたきゃ勝手に助ければいいだろう」

 

ギリッと歯嚙みしたミスティアはレミリアから目を離して、二人を助けに向かう。

 

「あぁ、そう言えば……」

 

ミスティアに話しかけているのだろうが、怒りで答える気にはならない。

レミリアを無視しているのだが、それを気にせずに続きの言葉を繋いだ。

 

「ミスティア…貴女はさっき赤い糸って言っていたけど、赤が好きなの?

私はね、ただの赤よりも…紅色が好きなのよ」

 

レミリアは何処からともなくスペルカードを取り出し、宣言した。

「ほら、早く助けないと死んでしまうぞ?『神槍・スピア・ザ・グングニル』」

 

スペルカード発動に伴い夥しい量の魔力が周囲に充満する。

 

「ほら、早く止めないと間に合わなくなるぞ?

……あぁそうか、私が誰を狙っているのかが分からないのか?

そうだな、お前に選択肢を与えてやろう。

ルーミアと犬走、どちらを殺せばいい?」

 

「……え?」

 

「2度は言わない、聞こえていただろう?」

 

「そ、そんなの選べる訳ないじゃない!」

 

もちろんそれは両方とも殺したくはない、ミスティアは地上に降りながらそう答えた。

だが、自分が身を呈したとしてもあの槍は止められない…少しでも狙いが逸れるように突撃でもしようか?と思っていると…

 

「選べない?……あぁなるはど、両方とも殺せばいいのね?」

 

「ちがっ……」

 

違う!……そう言い切る前にグングニルは放たれた。

 

凄まじい速度で飛んでいく槍はミスティアのすぐ横を飛んでいく。

その速度はミスティアでは視認出来ないほどだったが、レミリアの手から槍がなくなっていたのに気が付いて、振り向いてしまった。

 

その目に映った光景は、見ない方が良かったのかもしれない程に絶望的な状態だった。

視線の先に壁や瓦礫、二人の姿は無くなっており、綺麗な円形の穴が空いていた。

 

「嘘……でしょ?」

 

理不尽なまでの威力と貫通力のせいで、二人は肉片どころか血の一滴すら残さずこの世から消え去った。

 

「あらら、思ってた以上に脆かったわね、あの二人。

ルーミアはなんか封印されてたっぽいし、犬走もスピードは中々だったけど…死んでちゃ意味ないな」

 

「…………ぃ」

 

「なんか言った?小鳥ちゃん?」

 

「ゅ………ぃ」

 

「あれ、カリスマが切れたか?よく聞こえないんだけど?」

 

ミスティアはどこをどう思い返しても今ほど、怒りを覚えた瞬間は生まれてこのかた感じた事がなかった。

それに加え、レミリアの人を小馬鹿にした態度が更にそれを加速させていた。

 

「許さない!!!」

 

「あぁ、はっきり言って欲しいな、また咲夜に殴られるのかと思ってビビったじゃないか」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ミスティアはレミリアに向かって走りつつスペルカードを解き放った。

 

「スペルカード『木菟咆哮』!!」

 

無数の弾幕がミスティアに集まったあと、レミリアに向かって一気に解放される。

集弾性よりも、広範囲に広がる事を目的としたもので、良く言えば弾幕ごっこに向いた攻撃だが、悪く言うとそれだけでしかなく、攻撃力は低い。

 

仲の良い妖怪と弾幕ごっこをする時は、このスペルカードで終わるときもあるほど、自信がある一枚だが、今目の前にいる相手はそんな低級の妖怪と比べる事自体が失礼なレベルの相手だ。

 

「これがスペルカード?」

 

またもレミリアは避けようとしなかったが、通常の弾幕のときよりかは強く腕を振るう。

 

「ほら、そっちは無制限に使えるんだ。

まだまだチャンスはあるかもしれないぞ?」

 

「行け!!

スペルカード!『ミステリアスソング』!!」

 

両の手から4匹の光る鳥をレミリアに向かって放つ。

不規則に飛び回る鳥の軌跡から、レミリアに向かって弾幕が放たれる。

木兎方向と違い、一方向から飛ばすのではなく、縦横無尽に飛び回る弾幕はいくらレミリアでも避け辛いだろう…そう確信したミスティアは鳥に命令をだした。

 

「そのまま囲い込んでブチのめしてやりなさい!」

 

その言葉に対応して、レミリアの周りを飛び回りながら、徐々に徐々に距離を詰めていく。

 

「お前だけは許さないっ、これで終わりよ!」

 

「へぇ、鳥っていうのは馬鹿ばかりだと思っていたが…中々どうして、素晴らしい弾幕だな」

 

「お前なんかに褒められても嬉しくない!」

 

「そうか、ならば欠点を教えてやろう」

 

そう言ったレミリアは、ルーミアを落としたときのような速度でミスティアの目の前に現れた。

 

「ひっ……」

 

「本気で相手を殺すなら……もっと威力を、もっと殺意を込めないと」

 

そして、レミリアはミスティアの顎を拳で打ち上げた。

ミスティアはギリギリのところでガードしていたのだが、そのまま上に吹っ飛ばされてしまった。

両腕はヘシ折られ、首が千切れたんじゃないかと思う程の衝撃で脳が揺らされ、意識が途切れてしまう。

 

「これが、生物としてのスペックの差だよ」

 

そのまま10m以上も先の天井にぶつかり、地面に落ちてくると、一度は途切れた意識が痛みのせいで戻された。

 

「ゲホッゲホッ」

 

うつ伏せのまま倒れているミスティアは虚ろな瞳でレミリアを睨みつけるが…

 

「ぅぁぁ…」

 

たった一撃、しかもガードの上から受けた一撃で体が破壊し尽くされ、天井と床にぶつかったダメージも重なり、呻き声をだすだけでも激痛が走る。

 

「立て」

 

立てる気力がない。

 

「戦え」

 

戦う力は残っていない。

 

「ならば命乞いをしろ」

 

「………い、やだ…」

 

「殺すぞ?」

 

「やって…みなさいよ…」

 

「……素晴らしい」

 

その言葉にレミリアは嬉しそうな、しかし…複雑そうな顔で微笑んだ。

 

『……………………』

 

レミリアは何かを呟いた後、ミスティアの胸ぐらを掴み目線の高さを合わせた。

 

「おやすみなさい、お前達は本当に素晴らしい存在だったぞ、ミスティア」

 

(あぁ、私はここで終わるのか…あっちでルーミアと椛に会ったらなんて謝ろう…)

 

「神城も後でアトラスがそっちに送るだろうから安心しろ、寂しい思いはさせないさ」

 

(…神城?…あぁ恭介のことか…………)

 

 

『行ってこい』

 

 

(はぁ……気楽に言ってくれちゃって…相手はこの化け物よ?…全く、人の苦労も知らずに軽く言ってくれちゃって。

でも、行ってきますって言っちゃったんだよね……約束は守るわよ。

このままじゃルーミアと椛にも顔向け出来ないしね。

 

ゴホゴホと咳き込むだけで、血が口から溢れ出てくる。

段々と自分が死に向かって行っているのがよく分かる、だけど…俊の言葉を思い出したら力が湧いてきた。

 

「ゲホッ……れた………ゴホッ」

 

「もういい、喋ると余計に苦しむだけだ」

 

「言われた…んだ」

 

「もう意識すらハッキリしていないだろうに……本当に惜しい奴等だ」

 

「勝って来いって…言われ、たんだ…」

 

ポロポロと涙を流しながらミスティアは小さな声で呟いた…

 

「勝って来いって…言われたんだ!」

 

ポスっ

 

それは、ミスティアの意識あっての事なのかは分からないが、小さく動いた足がレミリアの体に触れた。

レミリアの体に伝わる触れたか触れていないか程度のものだったが、今だけはその一撃こそ最強にして最大の効果を持つ一撃だった。

 

「そう、それが貴女の答えね…」

 

優しく微笑むレミリアが、優しく丁寧に、体に余計な衝撃を与えないよう最大限の注意を払ってミスティアを地面に降ろした。

 

「……………え?」

 

息も絶え絶え、目の焦点も定まっていない

し、意識もまた消えそうになりハッキリとしていない…だけど、この言葉だけはしっかりと聞こえた。

 

「いい蹴りじゃないか、死ぬほど痛かったぞ?」

 

「……や……ったぁ……」

 

その言葉を聞いたミスティアは緊張の糸が切れたのか、今度こそ完全に、それこそ死んだように気絶した。

 

「咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

「『3人』を医務室に連れて行け、慎重にな?」

 

「かしこまりました。

相変わらず、お優しいのか厳しいのか……」

 

「そう呆れてくれるな。

この3人……いや、4人はこれからも厳しい戦いに身を投じる事になる。

それは決して避けられない運命だ、その上でこう思ってくれればいいんだよ『私達の主はお前達よりも強い』とな。

どうだ?私が言うと説得力あるだろ?」

 

「ルーミアと椛……もう従者になるのですからこの呼び方でいいですよね?

この二人も、お嬢様が私の方を見なかったら本当に死んでいましたよ?」

 

「お前なら分かってくれるだろ?

信頼してるのよ……一々言わせないでよ、恥ずかしい」

 

少しだけ顔を赤くするレミリアは何時もの調子に戻り、咲夜に再度命令した。

 

「あぁもう!早く医務室に連れて行きなさいよ!」

 

「ふふっ、かしこまりました、お嬢様」

 

咲夜がその場から消えると、気絶している3人も一緒にいなくなった。

レミリアは椅子も何もない床に座り込むと、深い深い溜息を吐いた。

 

「はぁ〜〜…………損な役回りは嫌だねぇ…

ま、これであの子達が少しでも救われる事になるのならいいんかね?

……次はアトラスと神城かぁ…アトラスも意外と熱くなり易いからな、私と違って」

 

レミリアは一人、誰にともなく喋りかける。

 

「アトラスを怒らせると手がつけられんからな……こんな所で死んでくれるなよ、神城 恭介?」




1話で終わりましたね。
まぁ実力差を考えれば、本来なら5行くらいで終わりそうな
くらいだから彼女達は頑張りました!褒めてやって下さい!

レミリアが強すぎる?理不尽?そりゃそうでしょうよ、作者が好きなんだからしょうがない。
まぁマジレスすれば、低級妖怪が何百集まろうとレミリアなら瞬殺出来るんじゃない?という考えから、このくらいの強さはあっても可笑しくないだろうと思ってやりました。後悔も反省もない、普段が普段だから許してやって下さいな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話・緋色と黄昏・後編

今回のバトルは恭介VSアトラスですね

何故か、VSレミリア戦に比べて短くなったでござる、人数差?

両者共原作には存在しないキャラクター同士なので、ほぼオリジナル小説みたいになっちゃった不思議。

ここから恭介の人外疑惑の理由がちょこちょこ出てきますね。
レミリアに手がつけられないと言わしめる程のアトラスの実力はいかに!


 

 

 

両手を握りしめて3人の無事を祈るの恭介は普段のバカ具合からは考えられないほどに沈痛な面持ちで佇んでいた。

何とか声よかけようとするアトラスだが、恭介がこうなっている原因が自分達、紅魔館サイドが原因なので声をかけられなかった。

 

「……………」

 

「……………」

 

お互いがお互いに声を掛けれないでいると、客間のドアがガチャっと開かれた。

 

「失礼します。

お嬢様とルーミア様、ミスティア様、椛様の対戦が終了しました。

恭介様とアトラスはまた別の場所で戦っていただきますので、ついてきて下さい」

 

「えっ、もう終わったんですか?」

 

「はい、御三方の勝利で幕を閉じましたよ。

ミスティア様の負傷が少々厄介な事になっていますが、大丈夫です。

確実に全快させられます、もしダメだったら

無抵抗なお嬢様をボロボロになるまでサンドバッグにする権利を差し上げます」

 

冗談のように言う咲夜だが、その言葉からは絶対の自信が湧いている。

どうやらレミリアをサンドバッグにする事はなさそうだ。

 

「そうですか…よかった…」

 

アトラスもその報告に安心して、大きく息を吐き出した。

彼女も心配してくれていたのだろうか、恭介にもそれが伝わってきたため、やはりアトラスは優しい人なんだと思うと少し笑えてきた。

 

「ははっ、アトラスさんも心配してくれてありがとうございます」

 

「当然です。戦うなんて聞いていませんでしたし、あの3人は私からみるとまだまだ幼い女の子なんです。

……お嬢様はいつもいつも…我儘がすぎます」

 

プンスカと可愛らしく怒るアトラスはやはり優しい。

まだ決まったわけではないが、正式採用されてからが楽しみになってきた恭介。

 

「さて、受かりにいきますか」

 

「頑張ってくださいね、恭介様」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

咲夜に案内されてついた場所は屋外だった

庭園とも呼べるほど広大な敷地に石畳が敷いてある。

そこの中心に恭介とアトラスは立っていた。

咲夜は離れた所に立ってこちらを見ていた。…そう言えばさっきもいなかったが、審判でもしていたのだろうか?

 

「では、両者とも準備が出来次第、構えて下さい」

 

俊は一度深く深く深呼吸してから構えを取った。

見たこともない型だったが、それは誰が見ても隙のないものだった。

 

「やはり神城様は武術の嗜みがあったのですね」

 

「それも『読み取った』んですか?」

 

「いえ、能力を使わずともその動きを見れば神城様がお強いのは分かりますよ」

 

「…じゃあ始めましょうか」

 

「あまり気乗りはしませんが…よろしくお願いします」

 

そう言って構えたアトラスの型は恭介にとっては予想外過ぎるものだった。

 

「では、神城様の技術…この戦闘で使った分は全て読み盗らせていただきます」

 

「……もしかして、バカにされてます?」

 

「いえいえ、バカになどしていませんよ」

 

「ならなんで俺と全く同じ型をしているんですか?」

 

「優れた技術を吸収し、己の物とする…故にこの構えと言うわけです」

 

アトラスは自分の能力で恭介の構えをトレースしていた。

恭介の取った構えは攻撃を殆どしない代わりにカウンターを主とした防御専用の型だったが、それはアトラスにもバレていたようで、向こうから仕掛けてくる気配はない。

 

「怪我しても後悔しないで下さいよ!!」

 

構えを崩し、恭介はアトラスに向かいその場から大きく飛び跳ねた。

この構えは恭介が編み出した技術、故にその有用性や弱点も知り尽くしている。

 

恭介は空中で体を横向きにグルグル回しながらアトラスの頭に向かって、全力で蹴りつける。

 

「スペルカードは持ってないけど…こんは感じで叫べばそれっぽいでしょう!

『恭介流・風車!!』」

 

自力と遠心力、そして重量を加えた一撃は、並みの相手ならそのまま殺せる程の威力を誇っていたが……

 

「中々に重い一撃でしたね…腕が折れちゃうかと思いましたよ」

 

「!?」

 

口調こそ優しげだが、ガードの下から覗き込むアトラスの視線は先程までの優しそうな雰囲気と違い、どこか獣じみた、それこそ獰猛な狼を思わせる野性を感じられた。

 

アトラスは風車をガッチリガード、どころか恭介の足を捕まえて逃げられないようにしながら語る。

 

「恭介流……でよろしいのでしょうか、この構えの弱点は上から来る強力な攻撃ですよね?

本来ならば正面からくる攻撃を絡め取り、腕をへし折る技……で間違いありませんよね?

読み盗らせてもらうとは言いましたが、それ以外を使わないとは一言も言って……

ーーーっいません!!」

 

「がはっ!」

 

フルスイングで地面に叩きつけられた恭介は、肺から全ての空気が吐き出される。

直ぐに意識をハッキリさせたのは流石だが、起き上がろうとするよりも、アトラスの行動は更に早かった。

 

「追加です!」

 

アトラスは真上に飛び、グルグルと横に回りながら落下して来た。

 

「げっ!」

 

「風車!」

 

俊自身がその威力を知っているため慌てて横に転がると、アトラスの『風車』が地面に激突する。

 

避けてすぐに起き上がった恭介が目にしたのは、風車の開発者である本人をもってしても信じられない光景だった。

アトラスの立っている場所を中心にして、綺麗に抉れている。

それこそ地面にはひび割れもなく、それはまるで最初から深い溝があったかのようになっている。

いくら恭介が人間離れしているとはいえ、流石にここまで深く抉る事など出来る気がしない。

 

「……冗談キツいですって………」

 

「やはり…貴方の編み出した恭介流は良いものですね」

 

その威力を目の当たりにした恭介は瞬間的に感じた、多分まともな方法じゃ勝てない。

 

恭介が息を整えるのをまってから、アトラスが『風車』の使用感を述べ始めた。

 

「派手な見栄えとは裏腹に極めて繊細な技、只々相手を粉砕するのではなくこの技の極意は相手の肉体を抉り取る…といった所ですか?

むしろただ破壊力がある程度の技なら、お嬢様クラスの攻撃力じゃない限りは私の腕が痺れる事なんてあり得ませんからね。

それよりもこんな技を一般人に使ってはいけませんよ?

人間相手に使ったら確殺ですよ?」

 

「そこまで読み取られた上にこの威力って…

バケモンですか、アトラス先輩は…」

 

「むっ、女の子にバケモンとは失礼ですね」

 

「それはすいませんでした……っね!」

 

こんな時にも関わらず可愛らしく怒るアトラスに対し、俊も冗談を混じりに駆け出す。

瞬時に肉薄した恭介は、一撃で終わらせる事を諦め、手数で圧倒する作戦に切り替えた。

 

無数に繰り出される拳をアトラスは全て紙一重で躱す、躱す、躱す、躱す……

その度に、ボッ、ボッ、と風を切る音がアトラスの耳を叩くも、不意にアトラスが『ふふっ』と笑みを漏らす。

 

「神城様…ご自分の型をお忘れでは?」

 

「しまっ…」

 

気付いた時には既にアトラスは先程見た構えをとっていた。

攻撃後の伸びきった右腕を脇、肘、手首でガッチリと押さえ込みギリギリと力を込める。

 

「くそっ!離せ!」

 

腕を折られそうになる痛みに耐えながら左手でアトラス顔面を狙い殴りかかるが、それすらも捕まってしまう。

 

ギリギリと両腕を締め上げられ折られそうになるも、諦めるわけにはいかない。

アトラスの脇腹を狙って右のミドルキックを……

 

「恭介様に一言言っておきます。

私の目に映るような速度の攻撃では、私に一撃を入れる事は出来ません」

 

アトラスは恭介の左足を蹴り抜いた。

技術も何もないただのローキックだが、恭介の骨を折るくらいは造作のない事だった。

踏ん張りが利かなくなった事でガクンっと体が沈んでしまい、恭介のミドルキックは失敗に終わる。

 

「うがぁぁぁぁ!足が……足がぁぁあ!!」

 

遅れてやって来た痛みと腕にかかり続ける痛みで頭がどうにかなりそうだったが意識を失う事はせず、暫くすると肩で息をして満身創痍になりながらもアトラスを睨みつける。

様子を見ていたアトラスは、悲しそうな声色で語りかけた。

 

「出来れば、一緒に働きたかったです…」

 

腕を解放して恭介を自由にするも、片足が使い物にならない以上は逃げる事も出来ない。

アトラスは無事な右脚を掴むと、恭介を上空に放り投げた。

紅魔館の屋根よりも高く打ち上げられた恭介は、その人間離れした視力により、見ないほうが良かったな…と一人ごちる。

 

アトラスが懐からスペルカードを取り出し、宣言する。

 

「『爆声・ウルフ・クライ』」

 

「わん!」

 

アトラスが犬の鳴き真似をすると、俊の腹で『何か』が弾けた。

 

「ぐふっ…一体何が…」

 

「わん!わん!わん!わん!わん!」

 

その後もアトラスが吠える度に体の何処かで見えない何かが炸裂するせいで、恭介は地面に降りて体制を立て直すことも出来ない……どころか、更に高く高く打ち上げられて行き、体を丸めてガードするもダメージが蓄積されていく。

 

「わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!」

 

「ぐっ!あぎっ、があぁぁぁぁあ!!」

 

「これで…終わりです!」

 

既に何メートル打ち上げられたか分からなくなるほどの高さにまで達したとき、地面に何かをした後、アトラスが真横にまで跳んできた。

迎撃体制を取ろうとしたのだが体を上手く動かせないせいで、簡単に首を捕まれてしまう。

 

「……神城様、死なないで下さいね…」

 

「まだ……まだぁ!」

 

「ーーー!?」

 

恭介はショートアッパーを放つも、スウェーで避けられてしまう。

 

「危なかったです…もう少しで当たるところでした」

 

「……直撃、して、くれると、嬉しかったん、ですけど…ね」

 

空中で話しているのだが、落下しながらなのでそう時間は取れない。

 

「神城様、今ならまだ降参を認めます」

 

「絶・対、嫌だ!」

 

絶対絶命の状況で相手の誘いを断る姿、お互いに見えていないし、知りもしないのだが…

何処かの誰かと同じシチュエーションで同じ意味のセリフを吐いた。

 

「分かりました。では私も、その言葉に敬意を表します。

『今の姿』では全力には程遠いですが……本気で行きます」

 

「カモン、ワンちゃん……俺の合格は揺るがねぇぞ?」

 

「すぅ〜…………」

 

息を大きく吸い……

 

「…………ワン!!!」

 

解き放った。

 

落下の速度があった上に『イグニッション・ボイス』の最大音量が直撃した事により、とんでもない速度で地面に激突した。

 

隕石でも落ちたんじゃないかと思うよな爆音に近い音を立てて、地上に叩きつけられた。

石畳など最初から無かったかのように地面が剥き出し状態になり、辺り一面が砂煙りで覆われている。

アトラスは恭介の無事を確認する事もせず、咲夜に向けて視線を投げかけた。

 

「終わり…ました。

神城様を医務室に運んで下さい……」

 

「……貴女ねぇ…そんな悲しそうな顔をするくらいなら少しくらい手加減しても良かったんじゃない?」

 

「いえ、それは出来ません。

神城様は武人です、そんな人が本気で来ているのに私が本気を出さないのは決してやってはいけない行為です。

だからこそ、確かに全力ではありませんけど『この姿』での本気は出して戦いました」

 

「だからって……」

 

「いいんです、こうしないと神城様に怒られてしまいます」

 

「彼……あれで生きてるの?」

 

「はい、後…神城様は生きています。

落とす場所をクッションになるよう、事前に耕しておいたので…読み取った神城様の耐久力ならギリギリ耐えれたでしょう。

意識を失ってるとは思いますが、早く医務室…に……あら?」

 

「おっと…どうしたの、アトラス?」

 

喋っているアトラスが急にフラついたのを見て、慌てて駆け寄り抱きとめてる。

最初は訳が分からないといった表情をしていたのだが、アトラスは合点がいったのらしい。

 

「ふふっ……咲夜さん、頼もしい後輩が出来ましたよ?」

 

未だ答えの出ない咲夜がアトラスの頭をポンポンと撫でていると辺りの土煙が段々と晴れてきた。

 

恭介が何かしたのか?と思い、土煙の晴れてきた先を見ている咲夜は一瞬驚いてからアトラスを見ると、可愛らしい笑顔のままこちらを見上げていた。

 

「恭介様…違うわね、恭介……でいいのかしら?彼、強いわね」

 

「ええ、本当に人間なのか疑うほどですよ」

 

「いつダメージなんかもらったの?

終始一発も貰ってないでしょ?」

 

「空中にいたときに、ですね。

ショートアッパーをされたときに避けきれなかったんですね、顎を掠めたのが今頃来たようです……ごめんなさい、負けちゃいました」

 

「そんな嬉しそうな表情で言われてもねぇ…」

 

「咲夜さんこそ、嬉しそうな顔してますよ?」

 

すると、パタパタと翼を羽ばたかせながらレミリアが飛んできた。

 

「咲夜〜、結果はどうなってる……って、大丈夫?アトラス?」

 

ミスティアの治療を魔法使いの親友に任せたあと、アトラス達の様子を見に来たレミリア。

咲夜に寄りかかるようにしているアトラスを心配していると、咲夜が恭介のいる方向にレミリアとアトラスを連れて行くと、そこには…

 

「お嬢様、合格です」

 

「あらら、結果は全員合格?

私達も油断してたら、いつかクーデター起こされて主要メンバー交代しちゃうかもよ?」

 

レミリアも本気でそんな事を考えてはいなかったらしく、ニシシっと悪戯っぽい顔で笑う。

 

「大丈夫ですよ、レミリア様。

まだまだ後輩に負ける気はありませんし」

 

レミリアの冗談に微笑みながら、アトラスは気絶している恭介の頬を人差し指でツンツンプニプニ。

 

 

 

「こんなにいい笑顔で笑う人が、そんな事考えるなんてありませんよ」

 

 

 

 

 

 

 




はい、こんな感じです。

アトラスの強さはさり気なくヤバいです。
『読み取る程度の能力』に関しては自分の理解できるものならば全て正確に読み取る事が出来ます。

よくよく考えたら、さとりんよりも強力な能力かもしれないですね。

欠点……って言っていいのかどうかは分からないですが、目に映らないものに関しては能力を使えません。
精神攻撃だったり、超スピードのものだったり……
まぁ、スピードに関してはアトラスさんの動体視力を超えないといけないので……幻想郷には果たして何人それが出来るのか…

か、感想くれてもいいのよ?(チラッ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話・新人と変態

シリアスはもう嫌だ。

さて、今回は三人娘のその後と恭介がアトラスに勝てた理由を説明する回です。

分かり易く説明してる気はしますけど、ボクシング用語が軽く出てくるので分かんない人がいるかも……


 

 

 

 

拙者はどうなったのでしょうか…確か、レミリア殿に首を絞められて……ダメでありますね、ここから先が思い出せませぬ。

 

も……じ!

 

なんの音でしょうか、そう言えばさっきから誰かに呼ばれてるような気が…

 

もみ……!

 

あぁ、眠い…この微睡んでいる時が一番気持ちいいであります…

 

早く………さい!

 

「拙者は臭いのでありますか!?」

 

「意味分かんないわよ!?」

 

「………Zzz……」

 

メイド服を着たミスティアが椛の肩を揺らすが、何をしても起きない。

いつまでも寝ている椛に呆れたミスティアは、側にいた咲夜の方を向いて深い溜息を吐いた。

 

「ダメだこれ…全然起きないわね……

ねぇ咲夜、椛はもう大丈夫なんでしょ?」

 

「そうね…そのはずなんだけど……

それよりも口調、私は貴女の上司よ?」

 

「まぁいいじゃない、今更変えろって言われてもなんか気持ち悪いし」

 

「それもそうね…それよりもこの子、もう傷も完治してるし問題ないはずだからさっさと起こしてちょうだい、お嬢様が心配していたから様子だけでもお見せしたいわ」

 

「ん、わかったわ」

 

咲夜はミスティアに指示を出すと医務室から出て行った。

レミリアとの戦いで命を落とした思っていたのだが、実はグングニルを喰らう直前に咲夜が能力を使い二人を助け出していた、というのを目覚めてから教えてもらった。

 

「椛っ!さっさと起きなさい!あんた、ヨダレ垂らして幸せそうな顔してるってことはただ単に寝てるだけでしょ!」

 

「……むにゃむにゃ……zzZ」

 

「さっさと起きなさいって……言ってるでしょうがぁぁぁぁぁ!! (グシャッ)」

 

それはそれは見事なエルボードロップが決まったそうな…

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!……ぐふっ」

 

「あ………」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「レミリア〜、椛が目を覚ましたわよ〜」

 

椛をKOしたミスティアはズルズルと引き摺りながらレミリアと咲夜の待つ部屋にやって来た。

椛は生死の境を彷徨っていた。

 

「ありがと〜、ミスティア」

 

「カリスマ保ててないわよ」

 

「げふんげふん…ご苦労だった、ミスティア」

 

「もう見慣れたからいいけどね」

 

ミスティアに冷たい目で見られ気まずい雰囲気が流れる中、咲夜はどエライものを見つけてしまった。

死にかけていることには誰も気にしないのが紅魔館スタイル。

 

「ミスティア…椛の服…」

 

「服?……あ」

 

「セクシーね」

 

椛は服を引っ張られながら歩いてきたせいで、完全に服が捲れあがってしまい小さい下乳が丸出しになっていた。

それだけなら良かったのだが、何処で落として来たのか袴を履いておらず、下着も膝辺りまで脱げてしまっている。

 

「こんな格好してるのを恭介に見られたらこの子…ヤられるわよ」

 

「……急いで履かせなきゃ」

 

せめてパンツだけは履かせてやらねばと思い、咲夜がパンツに手を伸ばした瞬間……

 

「は〜い、神城 恭介で〜す。

ご命令に従い参上しま…し…た……」

 

恭介の来たタイミングが悪かったのか、恭介の頭が腐っているのか…ミスティアが椛のパンツを降ろし、これから三人でイイコトしようとしてるのではないかと思い……参加する事にした。

 

「ウヒョーーーー!!朝からこんな嬉しいイベントに出会えるとは僥倖!据え膳食わぬは男の恥!も〜みじちゃ〜ん!」

 

世紀の大泥棒よろしく椛に向けてダイブした恭介だが、そう簡単にはいかないし、いかせない。

 

「ーーっ!確保!」

 

レミリアが叫ぶのと同時に咲夜とミスティアが左右から恭介に飛び付いた。

 

「甘い!」

 

「ひゃあっ」

 

「きゃっ!」

 

すれ違いざまに気持ち悪い動きをしながら

ミスティアと咲夜のパンツを剥ぎ取った

恭介は、それを顔と頭に装着しこう言った。

 

「我が覇道、止めれるものならば止めてみるがよい」

 

「くっ…咲夜、ミスティア、いける?」

 

二人ともスカートのため顔を赤くし、スカートの前と後ろを押さえながら俊に再び対峙した。

 

「恭介……許さないわよ…」

 

「後輩の、部下の分際で私に楯突こうとは……もう一度生死の境を彷徨いたいのね?」

 

モジモジしながら言う姿は恭介のご褒美にしかならない事を理解した方がいい。

 

「その表情、その仕草が我が糧となる……

だがいいのか?あまり動くと、見えてしまうぞ?」

 

「……流石は恭介ね、アトラスを条件付きとはいえ破っただけはある…」

 

「レミリア嬢、次は椛と貴女のパンツを奪わせてもらう。

この技は最近アトラス先輩に教えてもらった歩法でね…まさかこんな形で実戦投入するとはな」

 

恭介はアトラス直伝の歩法を無駄に活用し、分身を発生させながらレミリアに接近する。

 

「ふっ」 俊A

 

「俺に」 俊B

 

「大人しく」 俊C

 

「パンツを」 俊D

 

「渡せぇ!」 俊E

 

分身を含めた6人の俊がレミリアに襲いかかった。

その場にいた全員(変態除く)はあまりの気持ち悪さにその場で腰を抜かしてしまい、逃げることすら出来なくなってしまった。

 

「助けてーーー!アトラスぅーーー!」

 

「かしこまりました」

 

いつの間にか恭介の真後ろに現れていたアトラスに後ろから抱き着かれて身動きが取れなくなってしまう。

 

「ア、アトラス先輩!?何故止めるんですか!てかなんで本物見分けられたんすか!?」

 

「私、普通よりも鼻が良いんですよ。

それに……えっちなのはダメですよ?」

 

更にキツく締めてきたアトラスだが、なぜか俊はだらしない顔を更にだらしなく緩ませていた。

 

「うへ、うへへ…」

 

「?……どうしたんですか?」

 

「ア、アトラス先輩の立派なお胸が俺の背中にクリティカルヒットぉ…あぁ、最高だ…おふっ」

 

恭介の高レベルな気持ち悪いセリフを聞いたレミリアがバッと顔を上げ、恐る恐るアトラスの顔を見た。

そこには、金色の瞳を爛々と輝かせ、とてもブラックな笑顔を浮かべるアトラスがいた。

 

「そ、それ以上言うのはやめといた方がいいわよ、恭介」

 

「……レミリア様」

 

「ひっ」

 

「…もう遅いです」

 

ギュウギュウと抱き締める力を強くしていく。

胸が当たるのが恥ずかしいのか、少し顔が赤くなっているが、恭介はそれを堪能出来ていない。

 

「ぐ、ぐるじい…中身出ちゃう…」

 

「えっちなのは……ダメですよっ!」

 

アトラスは恭介を持ち上げ、実に見事なブリッジを描いく、つまりはバックブリーカー。

恭介は幸せに包まれながら紅魔館の床に頭から埋め込まれ、斬新なオブジェと化した。

 

「もう…恭君は真面目にしてればカッコいいのに…」

 

立ち上がり、手をパンパンと鳴らした後、恭介の頭を撫でてあげようとしたのだが、頭は地面に埋まっているので代わりに尻を撫でておいた。

その際に恭介がビクンビクンしてた理由は誰にも分からない。

 

「さて、皆さんも遊んでないで業務に戻って下さいね」

 

ニッコリと笑いながらアトラスは何処かに行ってしまった。

レミリア、咲夜、ミスティアは苦笑いで『はい…』と言うしかなかったのは仕方のない事である。

 

ここまでの間、椛はずっと半裸だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ところ変わり、紅魔館正門前。

 

「美鈴〜、ルーミアお腹減ったのだー」

 

「こらルーミア、さっき私のご飯食べたばかりでしょ。

おかげで私は………(ぐぅぅぅ)」

 

「屁?」

 

「お腹空いたんです!」

 

「まぁまぁ、昼までの我慢なのだ」

 

ヘラヘラと笑いながら言ったルーミアを

美鈴が恨めしそうに見ていた。

ちなみに、4人の中で一番最初に目覚めたのはルーミアだった。

受けた攻撃がたった二発だけだったのが幸いだったらしい……あの、レミリアからの二発だから相当なダメージではあったらしいが。

 

「ていうか、ルーミアはなんでこんな面白くない所に配属されたのだ?

ルーミアもメイド服着たかったのだ」

 

「私が長年やってる仕事を面白くないの一言で片付けないで…」

 

「まぁ、この服を見たときのお兄さんが

中々いい反応を見せてくれたからそこだけは褒めてやるのだ」

 

ルーミアが紅魔館で働くにあたって割り当てられたのが『門番』である。

 

先程からルーミアと話しているのは、この紅魔館で門番をしている『紅 美鈴 (ホン・メイリン) 』という女性だ。

流石に年がら年中起きて門番をしている訳では無いので夜は別の者が門番をしている。

その子も今は寝ているので、夜になったら起きて来るだろう。

そして、ルーミアが着ていた服はレミリアとの戦闘でボロボロになってしまったので、咲夜が縫い直してくれている。

 

今着ている赤いチャイナドレスは、夜の門番である『リプト・ディーノッテ』と言うルーミアとほとんど背丈の変わらない女の子から借りている。

ノースリーブで腰から裾まで長いスリットが入っているが、下にスパッツを履いているのでチラリズムは存在しない。

 

「でも、あの喜びようは異常だったわね…」

 

「にしても椛はまだ起きてないのかー?」

 

「さぁ、どうなんで……」

 

『ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!』

 

「今のは…」

 

「椛…だと思うのだ…」

 

こうして2人はいつものように門を守っている。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「恭介…貴方も懲りないわね…」

 

「いてて、アトラス先輩は相変わらず下ネタ耐性低いな…」

 

「ま、これに懲りたらあんまりエロいことばっかしないでよね」

 

「安心しろ、俺はこの紅魔館の住人全員をエロい目で見ている、もちろんレミリア嬢の事もだ」

 

「何処に安心する要素があるのやら…」

 

レミリアは恭介に用事があったらしくミスティアと咲夜に半裸の椛を回収させ、恭介を引き抜くと割と平気そうにしていた。

以前から気になっている事を恭介に聞いてみるために、テーブルを挟んで椅子に座った。

 

「あの試験のときさ、私は側にいなかったから見てないけど、どうやってアトラスに勝ったの?」

 

「教えて欲しい?」

 

「教えないともっとヒドイ服にするわよ…」

 

「それは勘弁」

 

「じゃあ話してよ」

 

「はいはい、了解しましたよ、お嬢様」

 

はぁ…と一つため息を吐くと聞きたかった事を告げた。

 

「妙に気になっちゃったから聞くんだけどさ、あんた……あのアトラスにどうやって勝ったの?」

 

「ん〜…まぁ単純な話なんだけどさ、アトラス先輩って能力使っても使わなくても攻撃を紙一重で躱す癖があったんだよ。

んで、俺はピーンと来たわけよ」

 

「どうピーンと来たの?アトラスからも軽く話を聞いたけど、顎を打ったんだって?

私でも本気のアトラスを捉えるのは難しいのよ?」

 

「マジで?あの人そこまで規格外だったの?」

 

「『完全体』のアトラスと戦ったら私でもヤバいんじゃない?

アトラスが『完全体』になる訳ないけど」

 

「うわぁ…マジ、なんであの人を俺にぶつけたんだよ……ま、まぁいいや…

アトラス先輩の武術ってさ、多分だけど美鈴から読み取ったのとかだろ?

動きの殆どが太極拳だとか少林拳とかが多かったんだよ」

 

「つまり?」

 

「アトラス先輩の知らない攻撃を出せば当たるだろう、的な?」

 

「でも、アトラスの動体視力を超える攻撃なんかあるの?」

 

「ないよ?」

 

あっけらかんと答える恭介にちょっとイラッとしたのは内緒。

しかし実際問題、アトラスの動体視力は人間を超えるどころか、能力も相まってレミリアですら本気をださないと難しい。

それだけアトラス・トワイライトという存在はそのレベルで規格外だという証拠だ。

 

「そこで思い付いたのが現代格闘技のボクシング、そしてショートアッパーだ」

 

「ボクシング?ショートアッパー?」

 

「あぁ、やっぱり知らないのな

 

腕を組んで???となっているレミリア、だが知らなくてもしょうがないだろう。

今よりも幻想郷は遥か昔に作られた、というより隔離された場所。

恭介はその事を知らなかったのだが、一世一代の大博打に勝った。

 

「ボクシングってのは簡単に言うと拳だけを使った格闘技だな。

ショートアッパーはボクシングにある技の一つで…説明が面倒くさいな。

レミリア嬢、今からやるからガードしてくれ」

 

「いいわよ」

 

椅子から立ち上がり、一人分程の距離まで近づいてから、恭介はレミリアの顔の側面に向かって左のフックを放つ、もちろん本気ではないが、相手がレミリアと言うことで速度はそれなりになっている。

 

「?これがショートアッパー?」

 

それを左手で受け止めるレミリア、説明のためにやった事なので別に怒ったりはしない。

拳を受け止めた体制のままでいると…

 

「いや、こっちが本命だ」

 

「あぁ〜、なるほどね、こりゃ初見では避け辛いわね」

 

レミリアの顎に寸止めされている拳を退けると2人は椅子に座った。

 

「これくらいの距離で顔面狙いの左フックを左手でガードすると、腕が邪魔になって下が見えなくなるだろ?

そこを狙って顎を叩けば視野も狭くなるし、避けようにも腕が邪魔で避け難くなるんだ。

アトラス先輩にやったのはこれとほぼ同じような使い方をしたショートアッパーだったって訳だ、直撃させるつもりだったんだけどな」

 

「ふむ……でもアトラスはその一撃だけだって言ってたわよ?

最初に言ってた…フックだっけ?そんなの打ってないんじゃないの?」

 

ん〜……と説明し辛そうに言い淀む恭介を怪訝に思ったのか、テーブルに手を付いて恭介に顔を近づけた。

 

「何よ、言いにくそうね…」

 

「………怒らない?」

 

「怒らない」

 

観念した恭介は、レミリアの肩を押して椅子に座らせた。

 

「その…なんだ……アトラス先輩って……大きいだろ?」

 

「ん、何が言いたいかは分かった。

つまりはこうか、空中で不安定な体制+首を掴まれてるから距離も近い、それに加えて

アトラスは『大きい胸』が邪魔で普通よりも下が見え難いからこそ、不意打ち気味のショートアッパーに完璧な対応を出来なかったって事でしょ?

あと、胸のサイズは気にしてない…とは言わないけど、そんなに目くじら立てないわよ」

 

「あ、そうなの?」

 

「そうなの。で、答え合わせは?」

 

「大正解」

 

「商品は?」

 

「午後のティータイムにお菓子でも?」

 

「豪華景品でよかったわ」

 

恭介は現在、レミリアに敬語を使わずに話している。

別にレミリアの事が嫌いだとか尊敬していないとかそう言う話ではなく、ただ単にレミリアが許可しただけの話である。

 

「にしても…この服はなんとかならないもんかね、服自体は好きだけど、自分で着るのはかなり勇気が要ったぞ」

 

「に、似合ってるわよ?」

 

「あのなぁ…別に俺、女顔でもないから

絶対に気持ち悪いだけだろ。

レミリア嬢の顔、引きつってるし」

 

「ボクシング講座のときに噴き出さなかった私を褒めて欲しいくらいよ」

 

「んな事言われてもパン一で過ごされるよりもマシだろう!

そんな事になったらさっきの講座もパン一で女の子に迫る変態にっ……あっ、いつもの俺と大して変わんねぇ」

 

「もうっ、意識しないようにしてるのに!

それに仕方ないでしょ、ウチの館って女しかいないじゃない!ズボンもあるにはあるけど、恭介がデカすぎるのよ!」

 

「それはそうなんだけどさ…あ〜ぁ、早く代わりの服見つかんないかな…」

 

「そのうち咲夜に買いに行かせるから安心

しなさい」

 

「ま、焦ってもしょうがないか…」

 

「そゆこと」

 

 

神城 俊・18歳、職業………メイド

 

 




分かり難いかな?個人的には大丈夫だと思うけど…

ミスティアはメイド、ルーミアは門番、椛は見張り役……主人公の恭介もメイドです。

アトラスさん…自分で作っておいて何だけど、理不尽だなぁ…まぁ、気に入ってるから後悔してない。

恭介はもう一回アトラスと戦ったらまず間違いなく勝負になりませんね、瞬殺&ノーダメでアトラスの圧勝です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話・夜、恐怖の館

更に新キャラです。
いつかオリキャラの絵とか載せた方がいいのかな?

取り敢えずオリキャラはこれで最後かな?
書いてる最中に作者の気分が変わらなければこれで最後ですね。


 

 

「あ〜寒っ、夜は妙に冷えるなぁ…昼間は結構暖かかったのに」

 

とある暑い夜、時間で言えば2時過ぎ、恭介はトイレへと向かっていたのだが、妙に寒く感じるのは何故だろうか?

そんな事を思い、両腕をさすりながら廊下を歩いていると…

 

「あら、恭介じゃない…どうしたのこんな時間に?」

 

レミリアとエンカウントした。

 

「ドゥルルルルルン!」

 

「はいはい…で、どうしたの?」

 

「いや、なんか今日寒いじゃん…それで、な?」

 

「それで?」

 

「トイレよ!ト・イ・レ!恥ずかしいんだから言わせないでよ!」

 

メイド服で女装した男が、クネクネと腰を左右に振る。

中々見られない怪奇現象に、レミリアは口の中が酸っぱくなるのを感じた。

 

「うぷっ…気持ち悪すぎて吐きそう…」

 

「頼む、頼むから本気のキモい発言はやめて…物凄い傷付くから……」

 

ネタ発言にツッコミが入らず、かなり本気で気持ち悪いと言われてしまい、胸を押さえながら泣き始めた。

それを見たレミリアは、さすがに言い過ぎたかと思って慰める事にした。

 

「や…その…ごめんね?そこまで落ち込むと思ってなかったから…」

 

「悪いと思うなら、レミリア嬢の薄い胸で慰めて…」

 

「おう、誰が薄いだコラ」

 

何処かで似たようなやりとりをした気がするが、そんな事は気にせずトイレに向かう事にした。

 

「じゃあ、レミリア嬢もあんまり遅くならないうちに寝ろよ、まだ小さいんだから」

 

「いや、恭介よりもバリバリ歳上だからね」

 

「合法ロリだから小さいのには変わらんな。んじゃあまた、明日?一応今日か」

 

レミリアの用事は知らないが、このまま部屋に戻るんだろう…後で部屋に突撃してやると心に誓う。

謎の決心を固めた恭介は、トイレへ向けて歩みを進める。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「しょうがないな、一緒に寝てやるよ」

 

「なんでそう考えれた!?そうじゃなくて……」

 

どうやら違ったらしい。

何やらスカートを押さえて足をモジモジとさせていたるレミリアだが、もしかして?

 

「わ、私も…その…」

 

「トイレ?」

 

恥ずかしそうにコクリと頷いたレミリアを見て、妙にドギマギしながらもスッと手を出しながら…なんだ、この可愛い生物は…

 

「一緒に行くか?」

 

「………(コクリ)」

 

世にも珍しい男女での連れション。

 

トイレに向かい歩いていると、急にレミリアから話しかけてきた。

 

「なんか、さっきから変な声聞こえない?」

 

「?…いや、俺は聞こえないけど…」

 

「う〜ん……空耳かしらね?」

 

「さぁ?気の所為じゃないか?」

 

レミリアは、そう言って無理矢理納得した時、それは起こった。

 

みずを……ください………

 

「な、なぁ…レミリア嬢、俺にも何か聞こえたんだが?」

 

「き、奇遇ね…私も何かきこえたわ」

 

確かめたわけではないが、明らかにお互いの声ではない事は分かった。

幼く、遠くから聞こえるような、か細い声……

片や元々幽霊などが信じられていない世界から来た男。

片やカリスマが切れている、只の女の子状態になっている吸血鬼。

 

たす…けて……ください……

 

「逃げるぞレミリア嬢!」

 

「にゃぁぁぁあ!!怖いよーー!」

 

頭を抱えて座り込んでしまったレミリアをヒョイっと小脇に抱え、走り出す。

 

「可愛い……じゃない!えぇい、しゃあない!」

 

おいてか……ないで……

 

「うぎゃーーー、また聞こえた!また聞こえたよ!」

 

「…………(チーン)」

 

「やめてぇ!今気絶するのやめてぇ!

俺を一人にするのやめてぇ!」

 

「気絶なう」

 

「お前絶対起きてんだろぉぉお!!」

 

もう、トイレに行くという当初の目的を完全に忘れて何処という当てもなく全力で走り続けていた。

 

「南無三、南無三!悪霊退さぶっ!」

 

「ぶっ!」

 

ゴン!という重くて痛そうな音が廊下に廊下に響き渡り、恭介と気絶していた(ふりをしていた)レミリアの顔が見えない何かに激突した。

 

「ぬぉぉ……私の美しい顔面が平面になってしまうぅ…」

 

「もうだめだ…お終いだ…」

 

「恭介が見た事もない顔色してる!?」

 

「俺たちは見えない壁と、姿のないアサシンに挟み撃ちされたんだ…」

 

「ん?見えない壁?」

 

恭介が膝をついて絶望している横で、レミリアは何か心当たりがあるのか、見えない壁をコンコンと叩いていた。

するとレミリアは得心いったと言わんばかりにニッと悪い笑顔を浮かべた。

 

「謎は全て解けたわ…」

 

「謎?これから先に待っている俺とレミリア嬢との結婚生活についてか?」

 

「あんた、立ち直るの早いわね……ま、まぁいいわ」

 

「えっいいの!?

ぃやったぁぁぁぁぁあ!!」

 

「そっちじゃない!…ったく、話の腰を折らないでよ」

 

「NOォォォオ!!」

 

「えぇい、うるさい!

貴方はまだ会った事がないでしょうけどこの館にはもう一人能力者がいるのよ…」

 

「レミリア嬢、咲夜、アトラス先輩、ミスティア、ルーミア、椛、美鈴…あとはレミリア嬢の妹だけだろ?会ったことないけど」

 

「それがもう一人だけ『能力』の持ち主がいるのよ、もういいでしょう、さっさと出て来なさい!!」

 

レミリアは、誰もいないはずの方向に叫び叫び続けた。

恭介は、レミリアが恐怖のあまり壊れたと思い心配していると…

 

「キシシシッ、バレちゃいましたかぁ?」

 

何も無いところからヌラリ、とルーミアやミスティアと似たような低身長、キッと吊り上がった赤い目が印象的な紫髪の少女が姿を現した。

 

「キシシシッ、お嬢を怖がらせるつもりは

なかったんですよ?本当ですよぉ?」

 

「だ、誰だよこの美少女は…」

 

「キシシシッ、嬉しいですねぇ、美少女なんて言われると照れちゃいますねぇ」

 

本当に照れているのだろう、少女は頭を掻きながらキシシシッ、キシシシッと笑っていた。

喋り方は胡散臭そうだが、きっといい子なのだろう。タチの悪いイタズラはして来たが…

 

「リプト、ちょっと来なさい」

 

「はいはい、なんでしょうか、お嬢?」

 

ルンルンっとスキップをしながらレミリアに、キシシシッと笑いながら近づいた。

 

「……成敗!(バチンッ)」

 

「イッたぁぁぁぁ!!何するんですかお嬢!!」

 

本気でイラッとしたのだろう、レミリアは少女にデコピンをした。

デコピンとはいえ、吸血鬼のデコピンはさすがに効いたのか、額を押さえながら涙目になっている。

 

「リプト、やり過ぎるとこうなるのよ?」

 

二人のやり取りを、不思議そうな顔で見つめていた恭介に気が付いくと、レミリアがリプトの頭を『ま、これで懲りなさいな』と言い、撫でてあげている。

前々から思っていた事だが、レミリアはかなり身内に甘いタイプなんだろう。

 

「恭介、この子に聞きたい事ある?」

 

「そうだな…出来れば自己紹介とパンツの色を教えて欲しい」

 

「それでは自己紹介といきましょうか?キシシシッ」

 

「パンツの色は答えなくていいからね」

 

「それは違いますよ、お嬢。

パンツの色を互いに教え合えば、それはパンツの色すらも教え合える仲になれるほど信頼している、という事に繋がるんですよ?」

 

「そうだぞレミリア嬢、パンツを互いに見せ合えば恐れるものなど何も無い」

 

「そ、そうなの…?」

 

『今日のパンツって子供っぽくないわよね…』と小さい声で呟くいて後ろを向いてスカートの中を確認中のレミリアが、後でパンツを見せてくれるのが確定した。

色を教えるだけだったのに、いつの間にかパンツを見せる、とハードルが上がっているのに気が付いていない。

 

「さて、自己紹介でしたね…

あっしの名前は『リプト・ディーノッテ』

世間では『紅魔の大盾』とか呼ばれていますねぇ。

能力はさっきお嬢と旦那がぶつかった壁なんですけどねぇ…『壁を作り出す程度の能力』っていう防御特化の能力ですよ?

旦那の気になっている情報ですが、今日は白地に小さいリボンが付いているタイプですねぇ」

 

「こ、これで見えるかしら?……は、早くスカート戻したいんだけど…」

 

本当にレミリアがパンツを見せてくれた為、至近距離でパンツの匂いも確認し、ゲス顏をしていた恭介は能力の事を思い出して、悪戯の犯人に取り敢えずデコピンしておくことにした。

 

「とりゃっ (パキっ) ぬぁぁぁ!指がぁぁぁあ!!」

 

「キシシシッ、あっしの壁はサイズも硬さも性能も自由自在ってねぇ」

 

「こらっ! (バシッ)」

 

「あたっ!…さっきからなんですかお嬢、いつもなら許してくれるのに……あ、ふんふん、ほぉ〜う…」

 

頭を叩かれたリプトだがいつもと様子の違うレミリアを見て、ニヤニヤと口元を押さえながらニヤつき出した。

 

「キシシシッ、そういう事ですか…なるほど、なるほど…青春ですねぇお嬢?」

 

「………バッ、バカッ!何想像してるのよ!

わ、私は恭介の事なんてなんとも思ってないわよ!」

 

「キシシシシシシッ」

 

「え?なに?俺の事好きなの?

俺も好きだぞ?だから俺と爛れた日々を過ごして下さい」

 

「死ね」

 

絶対零度の視線を向けられてしまった。

 

「キシシシッ、お嬢がそういうならそうでいいんですけどねぇ」

 

恭介は、真面目な顔でレミリアの肩にと手を置いた。

 

「な、何よ…」

 

「エッチは週14で頼む」

 

「ブチ殺すぞ」

 

「だ、旦那ぁ…そりゃねぇですよ…」

 

「俺は何を間違ったんだろうか」

 

レミリアは恭介を睨みつけていると、急にブルッと体を震わせた。

何故か尿意というのは意識すればするほど

強烈になっていくものである、当然レミリアもその例にもれず…

 

「うぅっ……」

 

「どうしたんだレミリア嬢、そんなにモジモジして……はっ、やっぱり俺と淫らな生活をしたいんだな!?」

 

「だから違うって!うぅ…叫んだら更に…」

 

「キシシシッ、お嬢も隅に置けませんねぇ…こんな素敵な殿方を侍らせるなんてねぇ、キシシシッ」

 

「も、もうそれでいいわ…だから早く私をトイレに…」

 

トイレに向かい再び歩き出そうとしたレミリアだったが、一歩歩いただけでその歩みを止めてしまった。

 

「本当どうしたんですか、お嬢?」

 

「ダメ…もう歩けない…歩いたら漏れる…」

 

「あっ、そうか……大丈夫かレミリア嬢?」

 

「お願い……おんぶして…」

 

当初の目的を思い出した恭介は、本格的にヤバい状況だと理解したので、そのお願いを素直に受け入れた。

 

「低速?高速?」

 

「振動の少ない高速で…」

 

「中々難しい注文を…でもま、やれるだけやってみるさ」

 

「お嬢の恥ずかしい場面が見えるかもしれないのでついて行きましょうかねぇ」

 

リプトの発言に呆れるも、心配そうな表情をしていたのも間違いないので、一つ頷いて許可を出した。

 

「どうだレミリア嬢、これなら大丈夫か?」

 

「え、えぇ…悪いけど、これ以上は喋るのもキツいわ…」

 

「わかった、ゆっくりしててくれ」

 

走り出した恭介の背中へレミリアはコクリと一度頷くと、その背中に身を任せ、そのまま動かなくなってしまった、というか動けなくなってしまった。

 

「そういえば旦那、聞きたい事があるんですが?」

 

「お、どうした?」

 

「いえね、旦那の動きとかを見ていると

相当な武術の使い手と見受けらるんですが?

あっし自身も多少は齧ってるんで間違いないと思うんですよねぇ?」

 

「まぁ、そうだとは思うぞ?」

 

「謙遜は無しですか、そこもまた男らしくていいですねぇ……あぁ、話を戻しますが、先程あっしを見て腰を抜かしていたじゃないですか」

 

「……ソンナコトナイヨー」

 

「そんな明からさまな…まぁそれで思ったんですけど旦那ほどの達人が何をそんなに怖がっていたのかなぁと気になりましてねぇ」

 

はて、何を言っているんだろうこの幼女は?

 

「いやいや、リプトちゃん…でいいかな?

リプトちゃんが変な声出しながら俺たちの事を追っかけてきたんだろ?

もう止めてくれよ、俺もレミリア嬢も幽霊とか苦手なんだからよ」

 

「声?追いかける?なんの事を言ってるんで?あっしは最初からあの場所でお嬢と旦那を待ち伏せていただけですが?」

 

「……はい?」

 

「だからあっしは、そんな事までしていませんよ」

 

「てぇ事はつまり、リプトちゃんじゃない?」

 

「なんの事か分かんないですけど、多分そうですねぇ」

 

おみず……ちょうだい………

 

「「「………………」」(ジョバー)」

 

レミリアが携帯電話のように震え出す、恭介とリプトもそれと同じ様にガタガタと震えだした。

恭介は背筋が冷たくなるのと同時に腰の辺りが暖かくなるのを感じた。

普段の恭介ならそのご褒美の正体に、速攻気が付いてジュルジュルと吸い上げてもおかしくないのだが、今は恐怖でそれどころじゃないらしい。

 

なんで……みずを……くれないのぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

「「「いやぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

突然現れた白い影のような何かが、俊達に向かって匍匐前進のような体勢で迫ってくる。あまりの恐怖に俊達は脇目もふらず走り出した。

 

「恭介!トイレとかもうどうでも良くなったから全力で逃げなさい!」

 

「リプトちゃんの能力であいつを止めれねぇの!?」

 

「あっしの見ている視界の範囲にしか設置出来ないんです!」

 

「じゃあ振り向きなさいよ!」

 

「あっし人を怖がらせるのは好きですけど、あっしが怖い思いをするのは嫌ですから!」

 

「「なんじゃそりゃぁぁぁぁ!!」」

 

こうして結局、朝まで叫び声をあげながらのマラソンが続いた。

恭介はトイレを朝まで我慢したのだが、それでも怖かったので、トイレにはアトラスに同行してもらった。

アトラスに見てもらえると興奮していたら、殺されそうになったので、大人しくトイレの外で待っててもらった。

 

リプトは門番交代の為に紅魔館の中にいたのだが、マラソン大会に参加していた為、交代ができなかった事を美鈴やルーミアに怒られてしまったらしい。

 

レミリアは威厳と尊厳とカリスマを完全に失ったため、自室に引きこもった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふぅ、能力を無駄使いしてお嬢様を怖がらせるのは本当に面白いですわ…途中から追いかけるのを止めたのに走り続けてまぁ……ふふっ、本当に楽しい…」

 

それを見届けた一人のメイドは満足そうに

笑い、自分の仕事に戻って行った。

 

余談だが、その様子をアトラスに読み取られた咲夜は3日間部屋から出て来れなくなる何かをされたらしい。

 

 

 




はい、新キャラはリプト・ディーノッテという女の子でした。
一応オリキャラ全員、名前に意味が込めてあります。
……あ、恭介だけ気分で付けたわ…
リプト、アトラスの名前はちゃんと意味があるんですけどねw

感想待ってます…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話・椛レポートpart1

今回は後半がギャグ無しですね。
前半にはギャグを入れてるんですが、話の展開的に入れられなくなった感じです。

タイトルから分かるように椛回……とみせかけたパチュリー回になってる気がする。


 

 

記念すべき一人目のレポートは、最近この幻想郷に現れ妖怪並みの身体能力を誇り、紅魔館内部で起こる性犯罪は全てこの男の仕業と言われている、神城 恭介の仕事を密着取材してみた。

 

彼の紅魔館での役割は『メイド』本来は女性のみの役職であるが、彼は紅魔館の主『レミリア・スカーレット』によってメイドに仕立て上げられた。

聞く話によるとこの館のメイド長『十六夜 咲夜』のメイド服を改造して着ているらしい…女装が似合う顔でもないのに加えて、ミニスカートというのがとても気持ち悪い。

 

「さぁ〜て、働くかぁ」

 

午前8時、対象が行動を開始し始めた。

拙者も彼に置いて行かれないように、後の後をついて行く事にする。

 

「あ〜……犬走ちゃん…何してんの?」

 

「いえ、拙者の事はどうかお気になさらず、空気とでも思ってくだされ」

 

「じゃあ尻尾もふるのは?それくらいなら大丈夫だろ?」

 

「むっ…それはアトラス殿から断れと言われているので…」

 

「アトラス先輩が言ってるのは胸やお尻だろ?今回は尻尾だけだから問題ない」

 

「そうなのでありますか?…そうでありますね、神城殿の方が頭がいいのでそちらの言っている事の方が正しいのでありましょう。

では、どうぞ…ご存分に」

 

拙者がそう言うと神城殿は非常に嬉しそうな顔で喜んでいた。

やはり拙者の判断は正しいのでしょう。

神城殿の手が伸びて拙者の尻尾に触れる瞬間、唐突に恥ずかしくなり神城殿の指を本来曲がらない方向に曲げた。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!指がっ、指の稼働領域がぁぁあ……何故だ犬走ちゃん!何故俺の指を!」

 

何か叫んでいるので、とりあえず『気持ち悪かったから』と言っておいた。

ショックを受けている神城殿には悪い事をしてしまった…アトラス殿にも、事の顛末を伝えてから指をペキッとした事を伝えておこう。

 

「では神城殿、お仕事頑張って下さい…もし、もう一度拙者に話しかけたりしたら次は左手の指が……」

 

「さて、お仕事がんばろ〜」

 

そう言って神城殿は今日の仕事場に…この方向は恐らく『パチュリー』殿のところへ行くのでありましょうか、とりあえずついて行くことにします。

 

前方から誰か歩いて来ました。…あれは『小悪魔』殿ですね、普段は紅魔館内部にある図書館の司書長をしていらっしゃる『パチュリー・ノーレッジ』殿の秘書兼司書をされている方でありますね。

彼女もお仕事中でありましょうか?

え〜と……赤白黒の服を着て歩く姿がとても可愛らしいであります。

服の名前を忘れたわけではありません。

 

あちらも、こちらに気が付いたようでありますね、大きく手を振っています。

神城殿も小悪魔殿に気が付いたらしく、何故か両手を鍵状に広げて待っている。

 

ミスティア殿は嬉しそうな顔でこちら…神城殿に向かい走ってきた。

 

「恭介さ〜ん」

 

「小悪魔ちゃ〜ん!」

 

「恭介さ〜ん!」

 

小悪魔殿は神城殿に向かいジャンプした…

何故、両手の拳を握りしめているのでありましょうか?

きっと互いを強く抱きしめ合うからなのでしょう。

うんうん、仲良きことは美しきかな…

 

「喰らえぇぇ!魂のラリアットォォ!!」

 

「そんな物が私に当たると、思わないで下さい!!」

 

グチャ

 

そう思っていた私は、やはりバカなのでありましょうか、神城殿の腕が小悪魔殿の首を刈り取ろうと振るわれるも、見事に躱し股間に鋭い蹴りを叩き込みました。

 

「ぐあぁぁぁぁ!股間がぁ!魂がぁぁぁ!!」

 

「恭介流を使わない恭介さんなんて、カリスマの無くなったお嬢様です!」

 

レミリア殿の悪口です!

アトラス殿に報告しなければ!

 

「くそっ、憎たらしい小娘がぁ…でも可愛いから殴れない…」

 

「ふんっ!パチュリー様以外にそんな事を言われても嬉しくないです、べ〜だ!」

 

小悪魔殿はあっかんべーして去っていきました。

あの握り拳はなんだったのでしょう…そんな事よりも、神城殿に早く仕事をしてもらいましょう、レポートが作れません。

 

「い、痛い痛い、なんで?なんで犬走ちゃんにも蹴られなきゃいけないの?」

 

「早く仕事をして下さい」

 

「わ、わかったから蹴らないで、これ以上されると目覚めちゃう」

 

「では、どうぞ」

 

拙者が蹴るのを止めると小さい声で「あっ…」と寂しそうな声を出したのでもう一発だけ蹴っておいた。

なんだか、ゾクゾクしました…何故か良い気分になったのはどうしてなんでしょう?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

神城殿と共にやって来たのは、やはり図書館でした。

ここの図書館には物凄い数の本が置いてあり、妖怪の一生をもってしても読みきれるかどうか分からない程の量があります。

 

「あら、恭介に椛…二人してどうしたの?」

 

声が聞こえてきたのでそちらを見てみると、そこにはパチュリー殿がいました。

パチュリー殿の座っているイスの周りには

これまた凄い数の本が積まれており、机の上はパチュリー殿の頭がギリギリ見えるか見えないかの高さまで積んでありました。

勤勉家なのでしょう、拙者には真似出来ません。

 

「拙者の事はお気になさらず」

 

「いやな、レミリア嬢があんな状態だろ?流石に心配になって来たからさ…パチュリーからの助言が欲しくてな…」

 

「なるほどね…ちょっと待っててくれる?」

 

パチュリー殿はパラパラと本をめくり始めた、何かを調べているのでありましょう。

神城殿も待てと言われたので、別の所に置いてあるイスを引っ張ってきて腰掛けています。

あ、拙者の分も持ってきてくれました。

ありがとうございます、と書いた紙を見せたら笑ってくれました。

 

拙者はパチュリー殿の調べ物が終わるまで、パチュリー殿の紹介をしておきましょうか。

 

『パチュリー・ノーレッジ』実に200年以上の時を生きる、幻想郷でも最高位の魔法使い。

操る魔法も多種多様で、ほぼ全ての属性魔法が使えると言われているほどです。

この『ヴワル魔法図書館』の司書長をしており、小悪魔殿はパチュリー殿が使い魔として召喚し現在は秘書兼司書として働いている。

彼女は『火水木金土日月を操る程度の能力』を持ち、その知識の量から『知識と日陰の少女』と言われている。

 

紅魔館の主であるレミリア殿と、副メイド長のアトラス殿とは古くからの大親友らしいです。

彼女達からの信頼も厚く、お互いに頼り頼られと、仲の良さが伺える。

本の扱いに関しては少々厳しいところもありますが、心優しくて大人びているので、誰からも頼られる人でありますね。

 

たまに、アトラス殿、小悪魔殿、パチュリー殿の3人で図書館にてお茶会を楽しんでいるらしい、レミリア殿は『静かにしなきゃいけないの?じゃあ私パス』と言って参加しないことの方が多いらしい。

そんな彼女にも弱点がある、パチュリー殿は昔から喘息を患っているのであまり激しく動いたり、魔法を使い過ぎると体調が悪くなるので図書館から動く事が少ないのが可哀想であります。

容姿はとても美人であります、紫色の長髪、眠そうだけど優しげな紫の目、洋服の上からも分かるほどのいいスタイル…拙者もあんな美人になりたいであります。

 

「そうね…この薬とかいいんじゃないかしら?」

 

パチュリー殿の調べ物も終わったようですね、少しフラフラしながら神城殿に近づいてきました……大丈夫でしょうか?

 

「おいおい、大丈夫か?パチュリー」

 

「え、えぇ…今日はちょっとだけ調子が悪いのよ……あっ」

 

「おっと…ツラいなら今日は引き上げるぞ?」

 

「いえ、大丈夫よ。私もレミィの事は心配だから協力させて欲しいのよ」

 

倒れそうになったところを神城殿が支えてあげると、パチュリー殿を労わりながら椅子の方まで連れて行った。

やはり神城殿は優しい方なのですね。

 

「で、どんな薬を作るんだ?」

 

「出来てからのお楽しみよ、それよりも今から作るのに私一人じゃちょっと面倒だから、恭介と椛に手伝ってもらってもいいかしら?

小悪魔にはちょっとお使いに行ってもらったから手伝いがいないのよ…忙しいなら仕方がないけれど」

 

「どの道、今日の仕事はパチュリーのサポートだしな、喜んで手伝わせてもらうよ」

 

あれはすれ違いと呼べるのでありましょうか?

兎にも角にもパチュリー殿の頼みであれば

是が非でも手伝いましょう。

 

「拙者もお手伝いするであります」

 

「ありがとう、じゃあ………」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「後は待つだけよ」

 

コポコポと沸騰する青い液体はとても綺麗であります。

拙者や神城殿にとってはあまり面倒ではなかったのでありますが、ちょこちょこ動いていたので、それがパチュリー殿にはツラかったのでありましょう。

 

「ふぅ…これでひと段落ついたわ、手伝ってくれてありがとうね」

 

「俺から頼んだことだしな、それくらい当然だよ」

 

「それでも礼は言っておくべきよ」

 

「拙者は何をしているのかチンプンカンプンでありました…」

 

「椛もありがとうね、貴女が手伝ってくれたお陰でもっともっと早く終わらせることが出来たわ」

 

パチュリー殿は優しく微笑みながら拙者の頭を撫でてくれました。気持ちよかったであります。

 

「なぁ、パチュリーの体調次第でいいんだけどさ…時間潰しも兼ねてちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

「何かしら?体調なら大丈夫よ」

 

「また体調崩しそうなら言ってくれよ?」

 

「わかったわ。で、何かしら?」

 

「まずは、この幻想郷について聞かせて欲しい。なぜ俺が幻想郷にやってきたのか、そもそもこの世界はなんなのか、だな。

軽くはルーミアからも聞いてるんだけど、どうにも大雑把にしか理解してない部分もあるらしくてな」

 

「…外来人なら知らなくて当然でしょうね。

まず、この世界には妖怪、魔法使い、人間、果てには神までも共存する世界よ…ここまでは聞いているでしょう?」

 

「そうだな、そこから先はトラブルがあって曖昧なんだよ」

 

「あら、今度聞かせて欲しいわね。

話を戻すわよ、この世界が出来た理由を簡単に説明すると、そういった幻想…人間にとっては今や想像上の生物になってしまった者達を纏めて管理、隔離しておくために作られた世界なのよ。

まだ外で活動している者達もいるでしょうけど、大多数はこの幻想郷にいるはずよ」

 

「何の為に作られたのか分かるか?」」

 

「何の為にっていうのは、そうねぇ…妖怪が何で出来ているか知ってる?」

 

「すまん、分かんねぇ」

 

「でしょうね、外来人なら知らない方が普通なのだし。

妖怪は起源はね、人間達が想い描くこんなのがいたら怖いなぁ、あんなのがいたら嫌だなぁ…って言う想いの集合体なのよ。

でもね、想いの集合体とは言っても、肉体はあるし存在もしている生き物なのよ、ここまではいいかしら?」

 

パチュリー殿は一呼吸置いて話してくれる。きっと拙者や神城殿に理解する時間を与えてくれているのでありましょう。

 

「ん〜、今までの常識とかけ離れてるから何とも言えんけど、多分大丈夫だ」

 

「まぁ分からなかったら後で聞いてくれればいいわ。

でね、外の世界の文明が発達すればするほどそう言った想いがドンドン薄れていったのよ。

そうなれば妖怪にとっては一大事、急いで人間の恐怖心を煽ろうとするのだけど、時既に遅し…やれ行方不明だ、やれ殺人事件だと妖怪のせいとは思われなくなっていったのよ」

 

「なるほどな…なんとなく話が読めてきたぞ…つまり、妖怪達が生きてけなくなる前にその避難場所、つまり幻想郷を作って、そこに妖怪達を恐れていた時代の人間達を妖怪ごと隔離すれば、恐怖心が保たれ妖怪も生きていけるって世界を人工的に作ったって事か?」

 

「大正解よ、レミィよりも教え易いから助かるわ。

一つ付け加えるなら、作ったとは言っても元々は外の世界だった一箇所を巨大な結界で覆っただけなの。

そうすれば、幻想郷の噂を聞きつけた妖怪が中に入ってこれるって寸法らしいわ」

 

「ふぅむ…深いな」

 

「急に理解しろ、なんて言わないから、ゆっくり慣れていきなさいな」

 

パチュリー殿はクスクスと笑いながら恭介殿を諭しているでありますね。

それにしても凄いでありますね、パチュリー殿も神城殿も…拙者、全く理解できていません。

 

「あ、拙者もついでに一つ聞きたいのでありますが、よろしいでありましょうか?」

 

「えぇ、構わないわよ」

 

「あの…博麗の巫女って、どういう存在なのですか?」

 

「博麗の巫女?」

 

「あら、恭介は巫女のことをルーミアから聞いてないの?」

 

「初耳だな」

 

「そう…」

 

実は拙者もよく知らないのでこれを機会に勉強するであります。

 

「簡単に言うとね、博麗の巫女っていうのはこの世界のバランサーとしての役割を持っているのよ。

それに加えて、博麗大結界…さっき説明に出てきた、幻想郷を世界から隔離している結界の事なんだけれど、その結界の要でもあるの」

 

「へぇ〜…凄いんだな、その博麗の巫女ってのは」

 

「拙者も良くは知らなかったであります」

 

「いや、貴女は多少なりとも知ってないとダメでしょう…」

 

パチュリー殿に呆れられてしまいましたが

知らなかったものは知らなかったのであります。

拙者は清く正しく正直に生きていくと決めているのであります。

 

「次はこちらから恭介に質問してもいいかしら?」

 

「俺?」

 

「貴方の身体能力に関してなんだけどね」

 

確かにパチュリー殿の疑問も当然でありますね…神城殿の身体能力は少々…否、かなりおかしいであります。

人外疑惑の一言で片付けられても納得出来ない部分が多すぎでありますからね。

 

「実はね、貴方の戦い方を見せてもらっていたのだけれど、いくら強いからってただの人間がアトラスに一発入れるのは物理的に不可能だと思うのよ」

 

「ん〜、どうなんだろう…自分の事だから疑問に思われても、技術と不意打ち、としか答えられん…」

 

「恭介って今まで周りの人達から、恭介といると元気が出る、とか恭介がいると力が湧いてくる、とかってよく言われたりしない?」

 

「あぁ〜、確かに言われてたかも…どうして?」

 

「恐らくなんだけど…恭介にも、何かしらの能力があると思うのよ。

実際に、私自身も恭介が紅魔館に来てからは何故か体調がいいから日が増えてるのよ」

 

「たまたまとかじゃなくて?」

 

「その可能性もあるんだけど、これを見てくれる?」

 

パチュリー殿は机の中から一冊のノートを取り出しました。

タイトルは健康管理ノート、と書いてありました。

 

「ほらここよ、ここが恭介が来てからの記録、ここまでが恭介が来る前の記録になってるわ」

 

ノートには体温、脈拍、血圧、色々な項目が一日毎に書かれているであります。

魔法使いは不老だと聞きますが…もしかして200年近くこのノートを書いているでありましょうか…なんだか気の毒でもあります。

 

「あれ、本当に俺が来てから体調がよくなってる…どういう事なんだ?」

 

「能力持ちっていうのはね、大体が何か普通と違う、その種族以上の能力を副次効果で備えている場合が多いのよ」

 

「それが俺の場合は、身体能力だと?」

 

「恐らくだけどね。

例えば、私の場合なら『火水木金土日月を操る程度の能力』でしょ?

それの副次効果で、魔法を覚える為に必要な記憶力と、それを十全に扱える魔力量が、他の魔法使いよりも数段秀れているわ。

椛にも、何か他の白狼天狗よりも優れた何かがあるんじゃない?」

 

「どうでありましょうか…拙者の能力は『千里を先まてま見通す程度の能力』ですが、パチュリー殿みたいな誇れる点は……あっ!

拙者、仲間内でのかけっこで負けた事がありません!々

 

拙者が自慢できる唯一の点であります!

……なんだか悲しくなってきます…

 

「なんで暗くなったのかは分からないけど、恐らくそれが椛の副次効果ね。

白狼天狗は哨戒を主にしているのよね?」

 

「はい…そのせいで下っ端扱いが酷くて……」

 

「大丈夫よ、この紅魔館ではそんな扱いをする馬鹿はいないわよ。

話を戻すけど、哨戒をする上で必ずしなければならない事は、発見した対象の排除、それが無理なら自分よりも強い者、貴女の場合なら射命丸とかいう天狗や大天狗、天魔辺りになるのかしら?

まぁ、そういった上位の者への迅速な連絡、

しかも貴女の場合は千里先まで確認出来るのだからわそういった行動が他の白狼天狗よりも数段早く行えるのは十分な能力じゃないかしら?」

 

「そう言われれば…報告が早いと天魔様に褒められた事が何度かありました」

 

「こんな感じで、能力持ちはその能力に関連する何かが自然と身についているのよ。

つまり恭介にも何かしらの能力が備わっていて、その副次効果でアトラスにすら喰らいつける身体能力が備わっているのだと推測してみたのよ」

 

「そう言われたら、俺にも何かしらの能力が備わってるのかもな」

 

「さっきの質問に答えてなかった部分があったわ、恐らくこれが恭介を能力者だと決める一番のポイントになると思うわ」

 

確かに先程、神城殿が質問した『どうして連れてこられたのか』という質問に答えてなかったでありますね。

 

「うん、実はそれが一番気になってたんだ」

 

「ショックを受けるかもしれないから、聞きたくないなら……」

 

「いや、いつか分かる事なら聞かせて欲しい」

 

神城殿もパチュリー殿も真面目な顔で話しているであります。

拙者も気になるので、メモを取るのに専念するであります。

 

 

「わかったわ……

恐らくだけど、貴方は元の世界に帰れない」

 

 

それは、恭介にとって一番聞きたくない言葉だった。

 

 

 




完全なパチュリー回でした。

恭介がパチュリーにセクハラしなかった理由は単純です。
彼女が病弱で、あまり無理をさせられないからです。

今回はこの小説におせる幻想郷の成り立ちと博麗の巫女さんについて語らせてもらいました。
どうかな?

恭介君帰れないってさ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話・椛レポートpart2

相変わらずのパチュリー回。

恭介の帰れない理由、?程度の能力、身体能力の謎が解けますね。


 

 

「貴方は元の世界に帰れない」

 

「……うん、だよな…何となく予想はついてた……」

 

「こんな事を言って悪いと思ってるわ……

でも、貴方はいつか、誰かからこの事を知らされる…元の世界に帰る方法は存在するけど、貴方は帰る事が出来ない…とね」

 

「…………そっかぁ…だよなぁ……

俺さぁ、この紅魔館の皆が大好きなんだ」

 

「ありがとう、私も大好きよ」

 

「もちろん拙者もであります!」

 

「だけど、外の世界にも大事な連中がいるんだ…幼馴染と妹なんだけどさ、スゲェ可愛いんだよ。

幼馴染の家には、いつも勝手に上がり込んでは怒られて、でも直ぐに治ってそのまま一緒に遊んだりしてた。

妹はそうだな…ミスティアとルーミアに似てるのかな、外見は全然違うんだけど、中身が似てるんだ。

普段はニコニコしてじゃれ付いて来るのに、こっちが褒めたりするとツンデレしたり…」

 

拙者もパチュリー殿も、恭介殿の話を黙って、しかし真面目に聞いている。

笑いながら話す恭介殿ですが、その顔は見ていられないほどつらそうにしています。

 

「パチュリーがさ、能力持ちかもって言われた時に気付いたんだよ……あぁ、やっぱり俺は普通じゃないんだなってさ」

 

「普通に、なりたかったの?」

 

「それこそ勘弁だね、俺が普通だったらこうやってこの紅魔館の皆と会えなかっただろ?

だけど、我儘かもしれないけど、俺は向こうの世界に帰りたい」

 

「そう……」

 

ちょっとだけショックなのであります……

そりゃ会って1月も経ってない拙者達よりもあっちの世界を選ぶのは分かっていますが、なんだか……

 

「でもな、帰りたいのも本音だけど、帰りたくない、ここに残っていたいって気持ちもあるんだ…な?我儘だろ?」

 

「それは、どうしてかしら?」

 

「さっきも言っただろ?紅魔館の皆が大好きだって、その気持ちにも嘘はないんだ」

 

「なるほどね…ふふっ、確かに我儘だわ」

 

「だろ?」

 

「なら、私から言える事は一つね…無理にとは言わないけど、ここをもう一つの家だと思いなさい。

帰って来たら、おかえりなさい。

何処かに行くなら、いってらっしゃい。

朝起きたら、おはよう。

寝る時には、おやすみなさい。

……普通じゃない世界の、普通じゃない連中に囲まれていれば、貴方は普通じゃないまま普通普通の生活を送れる。

どう?いい案だと思わないかしら?」

 

「普通だけど普通じゃない……いいね、最高の生活環境だ」

 

「拙者も!拙者も普通じゃない方がいいであります!」

 

パチュリー殿は、拙者を見て笑っていました、そんなにおかしな事を言ったであります?

 

「あら恭介、早速一人賛同してくれたわよ?」

 

「おっ、ノリがいい犬走ちゃんも可愛いね」

 

可愛いって褒められたであります!

 

「さて、取り敢えず帰れない理由を説明してもいいかしら?

さっきよりは明るくなったけど、納得してない顔してるわよ?」

 

「ありゃ、バレちゃった?

まぁ大方の予想は出来るよ、能力、だろ?」

 

「そう、当たりよ。

この幻想郷にはね、賢者と言われてる妖怪がいるのよ」

 

「話の流れ的に、その賢者様が俺を落としてくれた犯人だな?」

 

「はなまるの回答よ、大当たり。

その賢者様ってのはね、直接会った事はないんだけど、別名が『神隠しの主犯』と言われているわ。

博麗の巫女ってさっき説明したわよね、その巫女が表のバランサーなら、その賢者は裏のバランサー。

人間と妖怪、双方が無益な争いをしないように裏で動き回ってるらしいわね」

 

「神隠し……ね、今頃前の世界じゃ俺は行方不明ってなってんのか」

 

「恐らくはそうね。

で、その賢者『八雲 紫』は妖怪以外にも、能力者を回収、保護を目的とした……うん、誘拐としか言いようがないわ」

 

「その八雲ってのが原因か……感謝すべきか恨むべきか…面倒くせー」

 

「私としては感謝かしらね?新しい友人が4人も増えたんですもの」

 

「拙者も感謝ですありますね、ここでの生活は本当に楽しいであります。

神城殿が来なければここに来ることもありませんでしたから」

 

「愛されてるね〜、俺ってば」

 

「そうね、愛されてるわよ」

 

パチュリー殿は直球でありますな…拙者は恥ずかしくて言えないであります。

 

「まぁ、これ以上この話をしてると空気が微妙な事になるからよ、明るい話題に切り替えようか」

 

「あら、まだ薬が出来るまで時間があるから、貴方の話題に合わせるわよ?」

 

「そんじゃ、俺の能力について話そうぜ」

 

「そうねぇ…身体能力の大幅な強化、私の体調改善…自分や周りの者達に作用する能力かしら?」

 

「あ、それっぽい」

 

「そっち方面の能力だとは思うけど……いくつか検査する方法はあるんだけど、どうする?」

 

「危なくないならやってみたいかも…」

 

拙者も興味あります。

真面目な話も終わったっぽいので、拙者はまた書くのに専念します。

 

「別に危ない事はないわよ。

私の場合は精神を少し弄る魔法で、貴方に能力を自覚させるって感じの方法ね」

 

「精神を弄るって……危なくね?」

 

「あら、私の魔法技術を侮っているのかしら?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだけどな?」

 

パチュリー殿が少しムスッとしているでありますね、本気で怒っている訳でもないようですし。

 

「そんなに時間はかからないけど、どうする?」

 

「まぁ危険って訳でもないようですし、頼んでみようかな」

 

「なら、ちょっとここに立ってくれる?」

 

パチュリー殿は、神城殿に自分の側に立つよう指示を出しました。

拙者も興味があるので、見ている事にするであります。

 

「じゃあいくわよ、貴方は静かに心を落ち着かせなさい。

『…其の者は精神は深く沈む、深く…深く…魂の根源に触れ、己が能力を知れ』」

 

「…………」

 

神城殿の体がボゥ…っと光ってます。

これが魔法でありますか、凄いですね……

 

「さぁ恭介、貴方は今魂の奥にある能力に触れようとしているわ。

本来、能力というものは全ての生物が持っているの、問題はそれを自覚出来るかどうかなの。

私の体調、貴方の身体能力、それを強く想い、使いこなせると自覚しなさい」

 

「俺の……能力…自分の力を、分け与える…?」

 

「発動の条件は?メリットは?デメリットは?範囲は?それらを全て理解し、帰ってきなさい」

 

それから暫くすると、神城殿が崩れ落ちました。

物凄い汗です、大丈夫なのでありましょうか?取り敢えず服の袖で顔の汗だけでも拭いて、椅子に座らせてあげました。

 

「……大丈夫かしら?」

 

「……確かに危険はなかったけどさ、こんなにキツいなら最初に教えてほしかったよ…」

 

「ごめんなさい…貴方が幻想郷に来たばかりと言う事を失念していたわ……」

 

「なんか関係あるのか?

あっ、犬走ちゃんもありがとうな、後で洗濯出しといてくれれば洗うからさ」

 

どうやら心配はなさそうでありますね。

神城殿の言う通りあとで洗濯に出しておきましょう。

 

「魔力って言うのは、普通の人間にとってはただの毒なのよ。

魔法使いっていうのはそれを、毒としてではなくエネルギーとして扱うことの出来る者達の事よ、とは言ってもレミィやアトラスみたいに魔法使いじゃないくせに魔法を使える存在もいるんだけどね。

幻想郷の住民は大気中の魔素に慣れているから、今くらいの魔法なら問題ないはずなのよ…つい慣れでやったしまったわ、ごめんなさい」

 

レミリア殿はどれだけ理不尽な存在なのでありますか……勝てる未来が見えて来ませんね、敵になったら自殺した方が良いであります。

 

「うわぁ…アトラス先輩って魔法も使えるの?

どんだけ手加減されてたんだよ…」

 

「そうね、簡単な魔法なら使えるわよ。

アトラスは魔力がそんなに多く無いから、元から使うつもりはなかったはずよ。

レミィに至っては、元の魔力が多いから下手をすれば私よりもヤバい攻撃してくるわね」

 

「ここまで人外魔境って言葉が似合う場所は他に無いな」

 

「幻想郷最強の一角って言われてる生き物が2人もいる時点で…ね?」

 

「レミリア嬢とパチュリー?」

 

「レミィとアトラスよ」

 

「はぁ!?あの人ってそんなに強かったのかよ!レミリア嬢はそんな気がしてたけど、アトラス先輩も理不尽の一人だったのかよ…」

 

あの試験…本当は拙者達を亡き者にするために行われたのでは?

神城殿の勝ち方は知りませんが、拙者達の場合は偶然に近かったらしいですし…

 

「あの二人に本気出されたら、私でもヤバいわよ。

ちなみに恭介が私に勝つことは出来ないわね」

 

「一応聞いとくけど、なんで?」

 

「だって貴方、飛べないし遠距離攻撃も無いし…私にはレミィくらいのパワーがないと攻撃なんて当たらないし」

 

「………その理屈でいくと、俺って小悪魔にも負ける?」

 

「ん?勘違いしてるだろうから言っておくけど、あの子、割と強い部類に入るわよ?」

 

「そうなの!?」

 

そうなのでありますか!?

 

「いや、いくら未熟とは言っても、言葉を介する悪魔よ?私からと契約結んでるから余計に強くなってるし」

 

「人は見かけによらない……パチュリーから見る、紅魔館最強ランキングは?」

 

「ん〜、相性もあるから一概には言えないけど……レミィ、アトラス、フラン、私、咲夜、小悪魔、リプト、美鈴、椛、ミスティア、ルーミア、妖精メイド、恭介……ってところかしら?」

 

「最弱宣言キタコレぇ……」

 

メイドさん達よりも弱いって…神城殿、強く生きて下さい……

 

「まぁ、負ける理由は私とほぼ同じよ、飛ばれて弾幕撃たれたらどうしようもないでしょ?」

 

「あのサボリ魔妖精軍団にも負けるとか…」

 

「あのね、ここは紅魔館でメイド長と副長があの二人よ?そんじょそこらの妖精よりは遥かに強いわよ」

 

「あ、拙者から一つ質問です」

 

「何かしら?」

 

「フランって誰ですか?」

 

神城殿はショックでダメになってるから、代わりに聞こうと思います!

 

「レミィの妹よ、普段は地下にいるから今度紹介してあげるわ」

 

「……その子も強いのか?」

 

「強いわよ?力と能力だけならレミィより強いわ」

 

「また理不尽が増えたぁ……俺の必要性…」

 

「貴方はいるだけで、私の体調を良くしてくれる、それじゃダメかしら?」

 

「美少女の役に立てるのならいいか」

 

「あ、私の体調で思い出したわ。

恭介の能力を聞いておかないと、話が脱線して忘れてたわ」

 

拙者は完全に忘れていました!

 

「まだ使ってみないと分からん部分もあるけど、取り敢えず言ってくな。

どうやら自分の『気』もっと言うとスタミナをエネルギーに変換して分け与えるらしい。

パチュリーの体調が良くなったのは、それが漏れ出してたって感じだな。

今なら意識すればもっと出来ると思う、多分だけどパチュリーの体調ももっと良くなる」

 

「一回試してもらってもいいかしら?」

 

「おう……ん〜、こうか?…違うな、こうか?」

 

神城殿は目を瞑り頭を悩ませています。

きっとまだ、力の与え方が掴めていないのでありましょうか?

 

「……こうだ!」

 

神城殿とパチュリー殿の体が光の線で繋がりました、あれが『気』というものでしょうか?

 

「……すごい、これ以上ないってくらい力が溢れてくるわ…ここまで体調がいいのも産まれて初めてよ。

名付けるなら『力を分け与える程度の能力』かしら?

使いようによってはトンデモない能力よ、これ」

 

「そんなに変わるものなのか…」

 

光の糸がプツンと切れると二人の光も次第に収まっていきました。

 

「なるほど、一度繋がれば暫くは続くようね…自分の体力や魔力のタンクがもう一つある状態なんでしょうね…使い続ければ元に戻る感じかしら」

 

「ふぅ……でも、結構疲れるぞこれ。

自分のスタミナを分け与えるのってなんか変な感覚だったな」

 

「今くらいの供給を何人くらいまでなら出

そう?」

 

「ん〜、3人…かな。

4人やれば多分動けなくなる、5人にやれば……多分、死ぬ」

 

拙者も頼もうとしたのですが、止めた方がよさそうでありますね…

 

「じゃあ恭介に一つ枷を掛けておくわ、普段の使用は2回までに留めなさい、3回以上の使用は私かレミィに許可を取ってからじゃなければ使わないこと、そして使用後は私に何回使ったか報告しなさい」

 

「今のよりも軽い供給に関しては?」

 

「そうね…恭介は自分の体力の限界が分かる?」

 

「そこらへんは完全に把握してるぞ」

 

「なら、暫くは体力の限界値を100として、

40までの使用は許可するわ。

さっきの量を一回20使うと合計100になるはずだから、暫くはこの計算方法で勘定しなさい」

 

拙者は細かい計算が苦手なので話についていけませんが、20×5が100っていうのは理解できたであります!

 

「断る理由もないし、そうするよ」

 

「今はそうしてもらうけど、今度貴方に、自分の体力を数値化する魔法をかけてあげるわ」

 

「今は出来ないのか?」

 

「出来ない……というよりも、そんな魔法自体が存在しないのよ。

だから、私がその魔法を開発するわ」

 

「そんな事まで出来るのか?」

 

「まぁね、攻撃魔法や精神魔法と違って対象者の体力を分かりやすくするだけだからね。

そう時間はかからないから安心してなさい、貴方のお陰で、暫くは体調も最高の状態だしね」

 

「ありがたいけど、無理するなよ?」

 

「何かがあってからだと遅いのよ、だから多少無理をしてでも創り上げるわ」

 

「あんまり小悪魔に心配かけてやるなよ?

俺が原因だって知った瞬間、殺しにくる未来しか見えて来ねぇしさ」

 

拙者も少々心配でありますね…パチュリー殿は、普段は館の為に働いていない分、何かしらがあったら自分を省みず無理をする、というのをアトラス殿から聞いた事があります。

体調を崩されなければいいのですが…

 

「っと…もうこんな時間だったのね」

 

時計を見てみると、もう午後6時になっていた。

薬を作ったり話し込んだりしていたので、思っていたよりも時間が早く過ぎていたようでありますね。

 

「恭介も椛も今日はありがとう。

小悪魔がいないと結構寂しいのよ、本は好きだけど人と話すのも好きだから、二人がいるのに救われたわ」

 

「そんな大袈裟な…」

 

「そんな事ないわよ、何をするにもモチベーションが下がっていたら、やる気をなくしてしまうでしょう?

私にとってのモチベーション維持は、本を読み知識を蓄え、他人と会話をする事でその知識が活かされる、そんな瞬間が好きなのよ」

 

「……やっぱりパチュリーは良い女だな、惚れちまいそうだよ」

 

「あら、惚れてもいいのよ?」

 

「とっくに惚れてるよ。

だけど、パチュリーを落とすなら、出入り口の扉から俺を睨んでるこわ〜い悪魔さんを攻略してからじゃないとな」

 

神城殿の差した方を見てみると、殺意の波動に包まれた小悪魔殿がいました……怖かったであります。

 

「さて、ヘタレの恭介が告白をしてくれなかった事ですし…薬も出来たわ、早くレミィに持って行ってあげて」

 

パチュリー殿は拙者に薬を渡すと、神城殿の肩に手を置いて頷きました。

何かあったのでありましょうか?

 

「パチュリーの攻略は難しそうだから、腕を磨いて出直すとして、また何かあったら相談しに来るよ」

 

「今日は拙者も勉強になりました。

それでは、失礼するであります」

 

出入り口に向かった恭介殿が小悪魔殿に腹パンされていました。

なるほど、パチュリー殿はこの展開を読んでいたのでありますね…先に声をかけてあげればよかったのではないかと思ったのは内緒です。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「アトラス殿、これが今日の神城殿の行動を纏めたノートであります」

 

「ありがとう椛ちゃん………ふむ、恭君は真面目に仕事をしているようですね。

仕事とは言っても、パチュリー様の話し相手でしたが…それよりも椛ちゃん?」

 

「はい、なんでありますか?」

 

「小悪魔ちゃんを連れてきてくれる?」

 

椛レポートに書かれていた『レミリアの悪口』のくだりを見たのだろう。

アトラスはいつでも笑顔だが、今の笑顔は背筋が凍るタイプのものだった。

 

「りょ、了解であります…」

 

 

アトラスの元にやってきた小悪魔は、捨てられた子犬のように震えていたらしい。

パチュリー曰く、帰ってきた小悪魔は、アトラスの前でセクハラをした恭介のように真っ青だったらしい。




まぁ当然なのかな?
特殊能力と、それに付随する身体能力を持ってる時点で普通の人間ではいられません、ゆかりんが放っておく理由が見つかりませんよね。

という訳で恭介は『力を分け与える程度の能力』を手に入れました、名付け親はパッチェさんです。
パッチェさんはトンデモない能力だって言ってますけど、それは味方にとっては、という意味で、恭介本人は能力を使うたびにパワーダウンするという……
ちなみにこれは、恭介の消費したスタミナを『対象者に都合のいいエネルギーに変換し増幅したものを供給する』というものですね。

では、次はレミリアが犠牲……活躍しますので、お楽しみに〜

設定などに不満がある方は感想にお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話・時間と空間

今回はちょっち難しすぎる話がありますね。
自分でも書いてて何回も修正入れてましたw

で、久しぶりにルーミアの出番です!待たせてごめんねルーミア!門番なんて館と一番離れた所にいる時点で出番少ないのは分かってたんだけどね!

だがアトラス回である


椛から薬を受け取った恭介は、ズキズキと痛む腹を抑えながらレミリアの部屋まで来ていたが、いくら外から話しかけても反応が帰ってこない。

相当ショックだったのだろうか、仕方がないので咲夜かアトラスに手伝ってもらおうと

部屋を後にした。

 

「ふむ…とりあえずは咲夜さんだな」

 

ほぼ同年代だと思うのだが、咲夜は上司であり先輩でもあるので、敬語で呼ぶのは間違ってないだろう。

 

「この時間だと……厨房か」

 

テコテコ歩いて厨房まで向かう恭介に、道行く妖精メイド達が声をかけてくる。

服の所々が焦げている子がいるのは何故だろう…

 

「恭介さん!こんばんわ!」

 

「いい挨拶だな〜、えらいぞ〜」

 

元気の良い子だなぁ。

こういう子は頭を撫でてやりたくなるな、いい髪触りだ。

 

「恭介さん、また遊んでよー」

 

「すまん、また今度でもいいか?

そして何故服が焦げている」

 

眠そうな目を輝かせながら聞いてくるが、今は本当に忙しいんだ。

 

「神城さんはお仕事終わりですか?」

 

「おう、俺もさっき終わったとこだ。

お前らももう上がりか?」

 

この子はしっかり者だな、きっとこの二人の纏め役なんだろう。

 

「はい、私達もさっき終わったところです」

 

「そうか、お疲れ様だな」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様です!」

 

「お疲れ様ー」

 

三者三様の答え方。

彼女達には名前が存在しない、小悪魔のように種族が名前になっているタイプなんだろう。

 

「あ、そうだ…誰かさ、咲夜さんかアトラス先輩がどこにいるか知らないか?」

 

「アトラス様なら恐らく、門番の方々に夕飯を届けているのでは?

咲夜さんは…すいません、ちょっとわからないですね」

 

しっかり者の妖精がしっかりした口調で答えてくれる。

名前がなくてもやっていけるのはきっと、各々に個性があるからだろう。

 

「いや、居場所を聞けただけで充分だよ、んじゃまた明日な」

 

「はい、では失礼しますね」

 

「明日も頑張りましょう!」

 

「おやすみ〜」

 

3人に別れを告げると、所在の分かったアトラスを目指す事にした恭介は、正門に向かって歩き始めた。

今は美鈴とルーミアが門番の時間帯になっているはずなので、リプトに悪戯される心配は無い。

 

「入れ違いになる前に行ってみるか」

 

そう言うと恭介は、近くの窓を開け、外に飛び出して正門に走っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ありがとうございます、アトラスさん」

 

「いえいえ、これもメイドの役割ですから。

気にしないでいいんですよ、美鈴ちゃん」

 

夕飯を届けに来ていたアトラスは美鈴に弁当を渡すと、ルーミアに近づいて行く。

 

「どうしたのだ?」

 

「いえ」

 

と言うと、アトラスはスカートが汚れるのを気にして、シートを広げた。

結構な大きさがあるので、3人が乗っても大丈夫な大きさになっている。

 

アトラスはシートの上に腰を下ろすと、自分の太腿をパンパンっと叩いた。

 

「ルーミアちゃんの席はここです」

 

「……相変わらず小さい子が好きなんですね」

 

「あら、誤解を招く言い方はやめてください。

ほら、小さい子供って面倒見てあげたくなるじゃないですか」

 

「流石は紅魔館のお母さんですね」

 

美鈴の言う通り、アトラスは面倒見がいいのに加えて、悪い事をしなければ大抵のことは許してくれるくらい優しい。

もちろん怒ることもあれば説教する事もあるが、レミリアに危害を加えない限りはお仕置きされる事もない。

 

「アトラスに抱っこされると落ち着くから、美鈴には譲れないのだ」

 

「別に狙ってないわよ!……恥ずかしいし…」

 

「こんな事を言ってるけど、美鈴ちゃんも小さい頃は膝の上に乗せてくれって言ってたのよ?」

 

「ちょっ!いつの話してるんですか!?」

 

「ざっと200年くらい前?」

 

このアトラスという妖怪、実はかなり長い間生きている大妖怪の一人でもある。

年齢を聞くと怒るので、何歳かを知っている者は少ない。

 

「アトラスは何歳なのだ?」

 

この少女は勇気で構成されているのだろうか、美鈴が200年近く聞くに聞けなかったことをあっさり聞いた。

 

「ルーミアちゃん?」

 

「なんでもないです。

ルーミアは、アトラスお姉さんが18歳くらいの超絶美人にしか見えません」

 

「口調が崩れるほどに怯えてる!?」

 

「ルーミアちゃん?そんなに震えてどうしたんですか?」

 

やはりというかなんというか……

アトラスの体が小さく震えているのは、ルーミアがガタガタ震えているせいなんだろう。

 

「さて、お弁当が覚めてしまう前に食べましょうか」

 

「そ、そうですね…」

 

先程までの雰囲気は完全に消え去り、落ち着いた様子で声をかけてくる。

せっかくの美味しい弁当を冷ましてしまっても勿体無い、ルーミアのバイブ機能も停止したので、美鈴もシートの上に腰をおろした。

 

「今日は妖精ちゃん達が作ってくれたんですよ、ありがたく頂きましょうか」

 

3つあった弁当を開けると、いい匂いと焦げた匂いがした。

おにぎりの箱、おかずの詰まった箱、パンドラの箱……

 

「……この黒一色の箱は?」

 

「あら、ネムちゃんが作ったものかしら…」

 

「ネムちゃん?そんな名前聞いたことがないのだ」

 

「それはそうですよ、私が勝手に呼んでるだけですから。

しっかりした子が、シッカちゃん。

元気な子が、キーちゃん。

眠そうな子が、ネムちゃん。

3人とも私直属の部下なんですよ」

 

アトラスは面倒見がいいので、きっと皆良い子なのだろう。

ちなみに咲夜の教育方針は真逆で、仕事をこなせば何も言わないが、失敗すれば怒られるらしい。

 

「良い名前だと思いますよ、それぞれの特徴が出てますし」

 

「そうでしょう?私も気に入っているんです」

 

「うまうま…」

 

二人が話している間にルーミアがドンドン食べていく…美鈴の分は完全に考えていない。

 

「コラっ、ルーミアちゃん?

ちゃんと美鈴ちゃんの分も取っておかないと可哀想でしょう?」

 

「うぅ……食べるのに夢中で忘れてたのだ。

ごめん、美鈴」

 

「 ま、気がついてくれたならいいわよ」

 

自分の持っていたおにぎりを差し出すと、美鈴はそれをルーミアの手から食べた。

 

「うん、美味しいわね」

 

「3人にもお礼を言っといて欲しいのだ」

 

「もちろんです、皆喜びますよ」

 

和気藹々と話をする3人はとても楽しそうに話していると3人の耳に、ふと何かが聞こえてきた。

 

「あら、恭君ですね」

 

「ここから分かるのかー?」

 

「種族的に耳がいいんですよ、能力もありますし」

 

そうこうしていると、恭介が到着した。

が余程急いでいたのか、肩で息をしているので、アトラスは自分の隣をポンポンと叩いた。

 

「ふぅ……急いだから疲れたわ…」

 

「お疲れ様です、そんなに急いでどうしたんですか?」

 

「いや、妖精メイドちゃん達から、アトラス先輩の居場所教えてもらったんですよ。

入れ違いにならないように急いで来たんです…」

 

「なるほど……で、どうしたんですか?」

 

「まぁ、ある人物の名誉のためにここでは……ちょっとした相談なんですけど…」

 

ルーミアと美鈴をチラッと見る素振りを見せると、ルーミアが少しムスッとしている。

アトラスはレミリアの状況を知っているので、それを察知して頷いてくれた。

 

「ごめんなルーミア、また今度一緒に遊ぼうぜ」

 

「まぁ忙しそうだし…今度は絶対にルーミアの相手をするのだ!」

 

「おう!約束だ!」

 

指切りをしながら約束すると、ニカッと笑ってくれたので助かった、やっぱりルーミアには笑顔が似合う。

 

「では、行きましょうか?」

 

「楽しそうにしてるのに、なんかすいません」

 

「いえいえ、いいんですよ。

またご飯持ってきますね、ルーミアちゃん」

 

「……アトラスも今度は一緒に遊んでくれるかー?」

 

「あぁ、可愛いですねぇ…もちろんです、一緒に遊びましょうね」

 

アトラスはルーミアを降ろすと、恭介に着いて行った。

二人になってしまったルーミアと美鈴は、まだ温かい弁当を食黙って食べている。

 

「ねぇルーミア?」

 

「なんなのだ?」

 

「嫉妬?」

 

「……別に、そういう訳じゃないのだ…」

 

「説得力ないわよ?」

 

恭介の前では明るく振舞っていたが、二人が去った途端、明らかにシュンとしているのを

美鈴は気にしていた。

 

「はぁ…仕方ないわね、今度神城君が休みの日でも聞いといてあげるわよ」

 

「……もしかして?」

 

「その休みに合わせて、ルーミアも休みにしなさい」

 

「いいのか?」

 

「いいも何も、そんな顔してる同僚は見たくないしね」

 

その言葉に感動したルーミアはボロボロと涙を流して美鈴に抱き付いた。

おにぎりを握ったままなので、ご飯粒が服についてしまったが、ここで言うのは憚られる。

 

「はいはい、良い子だから泣き止みなさい」

 

「美鈴が実は良い奴だったのだーーー!」

 

「私の感動返してくれない!?」

 

最後までこの調子なのが昼の門番スタイル。

身長も性格もバラバラだが、お互いを大事に思う気持ちは一緒なのだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アトラスの自室に来た恭介は、キチガイのように歓喜していた。

超絶美人なメイドさんの部屋に入れてもらえたのだ、健全な男子なら血反吐を吐いても喜ばなければ失礼にあたる。

 

「い、いい部屋ですね」

 

「ありがとうございます、すごい汗ですけど…どうかしましたか?」

 

「いえ、なんでも…アトラス先輩の部屋だから緊張感してるのかな?あは、あははは!」

 

だが、もしもエロい衝動に身を任せてセクハラなんぞをしたら…次は足首まで頭から埋められてしまう。

 

「そうですか?私は平気ですけど……あ、そこの椅子に座って下さいね、今紅茶でも入れてきますから。

あ、コーヒーの方が良かったりします?」

 

「いえ、アトラス先輩と同じものでいいですよ。どうせどっちも美味しいんだろうし」

 

「あら、嬉しいですね。

なら……うん、今日はコーヒーにしますね」

 

そう言って、アトラスはコーヒーの準備を始めた。

アトラスとしては、恭介が何を飲みたいかなど能力を使えば簡単に分かるのだが、元々会話が好きなアトラスはわざと能力を解除している事が多い。

アトラス曰く、会話とは人と人とを繋ぐ大事なコミュニケーションだという事で、必要なとき以外は使わないようにしているらしい。

 

「そう言えばアトラス先輩って妖怪なんですよね?」

 

「そうですよ、狼の妖怪の一種ですね」

 

「狼ですか……あれ?でも試験のときに『わん!』って叫んでませんでした?あれは狼というよりは犬な気が……」

 

「えぇー、狼の鳴き声ってあんまり可愛くないんですよ?『ウゥー』とか唸ってる感じのが多いので『わん!』を採用したんです」

 

いや、充分可愛いんだが…という言葉は飲み込んでおいた。

ちなみに、アトラスが『わん!』と言ったとき、恭介の体がビクゥッ!としたのは仕方のないことである。

 

部屋に響くコーヒーをドリップする音、いい香りもしてきたので、そろそろ出来るのだろう。

 

「前々から思ってたんですけど、アトラス先輩っていつからここで働いていたんですか?」

 

「ん〜……年齢を聞いてる訳じゃないから、答えてもいいんですけどね…どうしても聞きたいです?」

 

「まぁ、気になってるのは間違いないです」

 

アトラスはう〜んと悩んでいるが、答えが出たのだろうか、コーヒーを持って向かいの席に座ってから答える事にした。

 

「恭君には特別に教えちゃいましょう、試験のときにやり過ぎちゃったお詫びも兼ねてですけど。

この事はレミリア様とフラン様しか知らないんですよ?」

 

「フラン様って、レミリア嬢の妹さんですよね?」

 

「はい、そうですよ」

 

既に2週間以上は紅魔館で働いているのだが、未だに会った事がないレミリア嬢の妹…パチュリーは、いつか会わせると言っていたが……何か訳ありなのだろうか?

とは言っても本当に訳ありだったら聞きづらいのもあるので、今は置いておく。

 

「じゃあ私のことを特別に教えちゃいましょう」

 

「お願いします」

 

「そうですねぇ…先ず、私はこの館で一番長く過ごしているのと同時に、一番長く生きています。

正確な年齢は忘れたので答えられませんし、恥ずかしいので控えさせて下さいね」

 

「ん?レミリア嬢よりも長いんですか?」

 

「えぇ、レミリア様が幼少の頃からお世話をさせてもらってきましたねー。

100歳くらいまでは、アトラスお姉ちゃーんって抱きついて来たりしてたんですよ?」

 

「へぇ…あのレミリア嬢がねぇ……

てか、あれ?咲夜さんがメイド長ですよね?

それだけ長いならアトラス先輩がメイド長じゃないんですか?」

 

アトラスはコーヒーを一口飲み、一息ついてから話を再開した。

 

「確かに、昔は私がメイド長でした。

けれど咲夜さんが来てから直ぐに、私はメイド長の席を譲ったんです。

一つは教育の一環ですね、妖精ちゃん以外の部下がいなかったので、彼女達を統括出来るかどうかを試していたんです」

 

「結果は?」

 

「パーフェクトでした、教えたのも初歩の初歩で、後は勝手に成長していっちゃいました」

 

「咲夜さんらしいですね」

 

「そうですね、咲夜さんらしいです」

 

アトラスは昔を思い出し、恭介はその現場が想像出来たのか…お互いに今よりも小さい咲夜が指示を出している光景が頭に浮かんだので、二人して笑ってしまう。

 

「もう一つは、彼女に能力があったからです。

恭君も見た事がありませんか?咲夜さんが瞬間移動するの」

 

「あぁ、何度やられても慣れないですね…」

 

「あれって、厳密には瞬間移動じゃなくて、時を止めてるんですよ。

時間を止めている間に移動して時間停止を解除すると?」

 

「俺たちには瞬間移動したように見える……

なるほど、あの人も大概な能力ですね…」

 

「この紅魔館って広いでしょう?昔はここまで広くはなかったんだけど、咲夜ちゃんが能力を使って大きく広げだんです。

ほら、時間と空間って同時に存在してる双子みたいなものじゃないですか」

 

「この館に来た時の違和感はそれか……

でも、あれってよくは分かってないんですけど概念的なものだからこそ、理論的に実証するのって不可能なんじゃないですか?」

 

「まぁ人間には無理でしょうね、時間を操ることなんて出来ないんですから。

でも、時間を操れる咲夜さんなら出来ちゃうんですよ」

 

「そうか…時間と空間は人が存在しているからこそ存在している『概念』…咲夜さんが、何もない0の部分に時間という概念を与えれば、自然と空間が産まれる。

つまり、館の外観は存在しているから既に変えられないけど、館内の概念的なデッドスペース…つまり0の部分に時間っていう1の概念を与えれば、元々死んでいる……というか何もない、空間とすら呼べない0が1っていう概念に変わるから空間が生まれて、館の中が広がるって事ですか?」

 

きっと、椛がここにいたら気絶しているであろう難しすぎる話。

パチュリーがいたならば盛り上がりまくること間違いなしの、両極端は話題が展開されている。

 

「恭君って、前から思ってたんですけど、かなり頭がいいですよね…

まぁ、恭君が言っている通り、概念的な事なので私達にはどうにも理解が及びませんが、実際に中と外観の違いはそういう事らしいです」

 

「ん〜……俺の頭じゃここまで考えるのが限界…」

 

「いえいえ、レミリア様に至っては理解すらしていないのですから、立派な頭ですよ」

 

恭介の頭を撫でてくれるアトラス、彼女ですら時間と空間の本質は理解出来ていないのだろう、それどころか咲夜でも説明できないかもしれない。

時間と空間という概念はそれほど不明確で不明瞭な存在であり、非存在でもある。

 

「とまぁこんな感じで彼女の方がメイドとして優れていると判断したからメイド長の座を譲ったというわけです」

 

「……ちなみにレミリア嬢の年齢は?」

 

「えっと…500歳ですけど、それが……あーーーーっ!!」

 

恭介の誘導尋問に引っかかったアトラス、能力を切っていた事が裏目にでたのか、遠回しに自分が500歳を越えている事を明かしてしまった。

 

「た、他意はなかったんです!」

 

「嘘です!その発汗量と表情筋と眼球の動き、心拍数の変化、その全てが恭君が嘘を吐いている事を物語っています!」

 

「あっ!能力使いましたね!?卑怯だ!」

 

「あんな突然レミリア様の年齢を聞いてくる方が卑怯です!

………どうせ私はオバサンですよーだ…くすんっ」

 

本気で怒っているのか、アトラスは机に突っ伏してちょっと泣いている。

別に、おばさんなんて欠片も思っていないのだが、本人的には聞かれたくなかったのだろう。

 

「いや、アトラス先輩の事をオバサン…なんて思ってる奴はいないんじゃないですか?

むしろ、優しいお姉ちゃんだと思ってるはずですよ。

まず、俺がそう思ってますし」

 

「……本当ですか?」

 

「こんな事で嘘なんか言いませんよ」

 

「本当の事を言ってるっぽいので信用してあげます……

それで、恭君の相談したい事ってなんですか?」

 

 

 




4話でアトラスについて行くときに恭介が感じた、一つだけ分からなかった違和感の正体がやっとわかりましたね!
こんな下らねぇ伏線ほっとけ?知らんな( ゚д゚)
他の東方小説見ても載ってないし、原作設定にも『咲夜の能力で空間を弄ってるんだー』的な事しか書いてなかったので、独自解釈+分かりにくいかもな文章ですが、紅魔館の外観と内部の大きさの違いを説明してみました!
恐らくニアピンくらいにはなってるはずです!

ダメですね、アトラスさん可愛いわ、流石作者の趣味全開キャラクターwww
作中でも言ってる通り、500歳越えてます、そして狼の妖怪です。
ほら、吸血鬼に狼ってセットっぽいでしょ?

あ、区切り悪くて申し訳ないです

ではまた次回、そろそろ更新速度が落ちていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話・黄昏の狼、過去の記憶

まぁ、青い薬の話題も出てくるのですが、今回は回想メインです。

アトラス、レミリア、フランしかメインキャラは出てきません。
てか、後半はアトラスしか出てきませんwww


 

 

 

「それで、恭君の相談したい事ってなんですか?……と言っても大体は予想できるんですけどね」

 

「まぁ、御察しの通り、レミリア嬢の事についてなんですけどね」

 

「でしょうねー、察するに元気付けたいって所ですか?」

 

「まぁ……そんな感じですね。

パチュリーからこんな薬も貰った事ですし」

 

ポケットから青い薬を取り出すと、アトラスの前にコトン…と置いた。

 

「見せてもらってもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

一通りマジマジと見るアトラス、能力を使っているのだろうか?

概念的な能力の人達は、使用時に明らさまな変化が現れてくれないので分かりずらい。

 

「あぁ、なるほど…ふふっ、あははははは!」

 

「ア、アトラス先輩?」

 

ひとしきり納得してから大笑いを始めたアトラス、この人が大口を開けながら笑う姿なんて滅多に見られるものじゃないらしいは、後で聞いた話。

 

「ごめんなさい恭君、パチュリー様の作った薬が余りにも予想外だったもので…ふふふ」

 

「アトラス先輩…笑いすぎて涙出てますよ」

 

「え?あ、あら本当ですね。

でもさすがはパチュリー様ですね、ここまでレミリア様のツボを突いてて尚且つ、とっても洒落の効いた物を持ってくるなんて…」.

 

まだ笑いが収まらないのか、普段浮かべている微笑みよりも20%増しで笑っている。

 

「そんなに笑えるものなんですか?これ」

 

「恭君には予想外かもしれませんけど、これって薬でも何でもない、ただのジュースなんですよ」

 

「ジュース?」

 

「昔のレミリア様は赤色が嫌いだったんですよ、正確には嫌いにさせてしまったのですが」

 

「あのレミリア嬢が!?」

 

館の中も外も真っ赤に塗って、名前にもスカーレット、服は赤色とは言えないけどピンク色の紅色大好きっ子が、以前は赤色が嫌いだったらしい……

 

「もう500年近く前になりますか…レミリア様がまだまだ小さかった頃の話なんですけどね?」

 

 

ーーーーーーー回想ーーーーーーーー

 

 

ベージュ色の壁に赤い屋根、絨毯こそ赤いが、木で出来た床、屋敷の大きさ以外は、その辺の家屋と変わらないような配色をしていた頃。

まだ紅魔館が幻想郷には無く、外の世界に吸血鬼一族の長として君臨していた頃の話。

 

レミリアの父と母、スカーレットの名を夜の王として大成させたのは間違いなくこの二人による活躍が大きい。

周辺の吸血鬼を従え、人間との調和をとても大事にしていた。

 

 

「アトラスーー!!」

 

アトラスに向かって飛びついてくる、とても小さな吸血鬼、満面の笑みを浮かべているレミリアを優しく受け止める。

 

「レミリア様、フラン様が寝ていらっしゃるのでもう少しお静かに……」

 

口元に人差し指を当ててシーっとジェスチャーをすると、レミリアもそれに気が付いたのかアトラスの真似をしていた。

二人の視線の先には、アトラスが大事そうに抱っこしているレミリアの妹である『フランドール・スカーレット』が眠っていた。

 

「フランはいい子で寝ているかしら?」

 

「それはもう、レミリア様に似ていますからね」

 

「つまりフランはいい子ね!」

 

「えぇ、その通りですよ」

 

将来はスカーレット家の当主になるレミリアに、アトラスは専属メイドとして仕えていた。

そもそも、トワイライト家の者は代々スカーレット家に仕えてきた由緒正しい一族でもあり、スカーレット家から絶大な信頼を得ている。

 

「ねぇアトラス?」

 

「どうしました?」

 

この次期当主様は、喜怒哀楽の感情がすぐ顔に出る。

今は哀の表情をしているが、その理由はレミリアには話せない。

 

「お父様とお母様はいつ帰ってくるの?」

 

「そうですね……お二人の事ですから、もう暫く待っていればすぐに帰ってきますよ」

 

内容は言わない。

まだ幼いレミリアにはあまり聞かせたくない事だ、いつかはレミリアもやらなければならないのだろうが、今はまだ早い。

 

レミリアの両親は現在、人間に無用な危害を加えた同族を討伐しに遠征をしている。

そのため、今紅魔館にいる人員はかなり削減されているので、アトラスと妖精メイドいがいは全員出払っている。

 

「……ピクニックかな?」

 

「ピクニック…とはちょっと違いますが、大事な事をしに行っているんですよ?

旦那様と奥様は人間達を守っている正義の味方なんです」

 

「吸血鬼は悪い生き物じゃないの?

お父様がいつも、がおー!って追いかけてくるの」

 

「レミリア様にはまだ難しいかもしれませんが、吸血鬼にも悪者と良い者がいるんです。

悪〜い旦那様にはレミリア様の必殺技を当てれば正義の味方に戻ってくれるはずですよ」

 

「わかった!レミリアパンチを当てれば治るのね!」

 

「えぇそうですよ、レミリアパンチは悪い心を退治する正義のパンチです!」

 

「レミリアパンチは正義のパンチー♪

すっごいぞつっよいぞレミリアパンチー♪」

 

楽しそうに両手を振りながら歌うレミリア。

願わくば、この幼い主にはあまり汚い事をさせたくはない…それは妹であるフランドールにも言える事だった。

 

コンコン…コンコン……来客でも来たのだろうか、アトラスはフランドールを抱いたまま玄関に向かう。

レミリアも後ろからトコトコとついて来るので、出迎えは賑やかになりそうだ。

玄関を開けると、そこにはスカーレット家と友好のある他の吸血鬼一族が立っていた。

 

「いらっしゃいませ、ご用件をお伺いいたします」

 

「うかがいます!」

 

レミリアもそれに続いて、アトラスの真似をしている。

来客の男も微笑ましそうに笑っているので、どうやら失礼にはならなかったようだ。

 

「いやなに、近くを通ったのでね、挨拶をしようかと思ったのだが…二人は留守なのかい?」

 

「………っ!レミリア様!お下がり下さい!」

 

フランドールを抱えたまま目の前の男を殴り飛ばすアトラス。

レミリアは訳が分からず目を白黒させているのだが、アトラスの言葉が異常事態を知らせているものだと、幼いながらにも理解することが出来た。

 

男を殴り飛ばしたお陰で、少しは話す時間が出来たのは僥倖。

今の内にと、アトラスはフランドールをレミリアに預けた。

 

「フランドール様を連れて屋敷の奥に隠れていて下さい。

向かっている最中に妖精ちゃん達を見つけたら、『アトラスからの命令、私達を守りなさい』と伝えておいて下さいますか?」

 

「う、うん……アトラスは正義の味方だから負けないよね?」

 

「もちろんです、トワイライト家の……レミリア様のアトラスは何があっても負けませんよ?」

 

その言葉に力強く頷くと、その小さな腕にフランドールを抱えて走っていった。

これでアトラスも周りを気にせず戦える。

そう…先程飛ばした男が、この程度で死ぬはずはないのだから。

 

「いきなり何をするんだ、メイドの分際で私に手を出したらどうなるのか分かっているのか?」

 

「何を?レミリア様とフラン様に手を出そうとした分際でよくそんな言葉が吐けますね。

それに、貴方こそスカーレット家に手を出せばどうなるか分かっているのですか?」

 

「……そうか、貴様はトワイライト家の『出来損ない』か」

 

「そう言われているらしいですね、全く気にしていませんが」

 

トワイライト家の狼達は、全員が全員、攻撃的な能力を持っている。

その中でアトラスだけが戦闘用の能力を持たずに生まれてきた異端の存在だった。

しかし、アトラスは別にトワイライト家から『出来損ない』と言われていた訳ではない、

むしろ、それを言っているのはスカーレット家以外の、吸血鬼から言われているだけだった。

 

「戦闘用に教育されたのがトワイライト家のメイド、貴様のような雑魚など、このスカーレット家のような馬鹿な一族しか欲しがらないのだよ」

 

「試してみますか?

このアトラス・トワイライトが本当に雑魚なのかどうか……」

 

「吸血鬼に喧嘩を売るとはな……どうやら能力だけではなく、相手のレベルも分からない程の馬鹿でもあったか」

 

「さて、どうせなら後ろに控えている方々にも手伝ってもらっては如何ですか?

貴方一人では私も楽しめませんので」

 

そう、アトラスの言う通り、男の後ろには無数の吸血鬼達が控えていた。

ここまで来れば嫌でも分かってしまう自分が何となく嫌になった…これは恐らく、スカーレット家のやり方、人間との共存と調和に納得していない者達のクーデターなのだろう。

 

「私を舐めるのも大概にしろよ?」

 

一瞬でその場から消えた男はアトラスの後ろに回り込んみ、その首を落とそうと手刀を振るう。

そのスピードはかなりのもので、そこら辺の妖怪なら気がつく間もなく死に至っているだろう…

 

「いやはや、吸血鬼とはこんなにも弱かったのですか?

見え見えの上に不意打ち…しかも失敗という残念な結果…なんだか哀れに思えて来ますね…」

 

しかし、アトラス・トワイライトという妖怪は普通の妖怪ではない。

不意打ちの攻撃に見事対応し、その手刀をガッチリと掴み取っていた。

男はその手を振り払うと、今度は胴体を狙った蹴りを放つ。

 

「あら、この程度の蹴りなら、トワイライト家の戦闘用メイドは全員できますよ?」

 

またもや反応し、防御してみせるアトラスに

男は少し焦り始めていた。

 

「これが出来損ないだと?……中々やるじゃないか、犬の分際で私の攻撃をこうも簡単に言う止めるとはな」

 

「貴方に褒められても嬉しくありませんね。

おや、次は右足で首……変えるのですか?左手で腹部、左足で胴、右足で脚、後ろに回り込み左手で心臓を、両手で首、能力を使い拘束、左右のフェイントを織り交ぜつつ……

って、おや…諦めてしまうのですか?」

 

アトラスの予測は未来視と言っても過言ではない…男が出そうとする攻撃を読み、相手が修正、読み、修正、読み、修正。

ここまで何もできないとは思っていなかったのか、男の顔色が悪くなっているのがハッキリと分かる。

 

「化け物め……」

 

「あら、種族的には吸血鬼の方が化け物と言われてもおかしくないんですよ?

まぁ……強さがそれに比例するとは限りませんけどね」

 

「おいっ!全員でこの化け物を囲め!

肉片一片に至るまで殺し尽くせ!」

 

「なるほど、30人ですか…これは少々骨が折れそうですね」

 

まだ出てきてもいないのに人数を言い当てたのは、風の動き、嗅覚、音で判断したのだろう。

ドタドタと足音を鳴らしながら入ってくるのは吸血鬼の群れ、対立する形となって1対30

の戦い。

 

「私の下につくのなら許してやる、貴様の力は有用性がありそうだからな…」

 

「許す?許しを乞うのはそちらでしょう、まさか…ここまで大事にして、31人全員……

生きて帰れるとお思いで?」

 

辺りに広がるアトラスの殺気と敵意に、数名の吸血鬼が飛び出してきた。

連携もなにもない、ただただ突っ込んでくるだけの稚拙な攻撃がアトラスに当たる訳もなく、最小限の動きで避け続ける。

 

「ほらほら、全員でこなければ私は倒せませんよ?……もっとも、全員で来られたところで、私が死ぬ道理はありませんが」

 

上下から来る攻撃に対して、上は拳で迎撃し、下の攻撃は床板ごと頭を踏み抜くことで、簡単にケリがついた。

 

「あら、もう30人しかいませんね。

流石に頭を踏み抜かれると再生のしようがありませんもんね」

 

頭が潰れ、その場で動かなくなった仲間を見たからか、怯え始めた者たちが出てくる。

 

「さて、私はまだまだ余裕がありますけど……そちらはどうでしょう?

ビクビクしている臆病者に、力の差も分からない雑魚、何よりも…挑む相手が悪すぎますね。

今ならここにいる方々を殺すだけで、この自殺行為に参加しなかったご家族は生かしておいてあげますが、どうしますか?」

 

「調子に乗るのも今のうちだけだ…所詮はトワイライト家の者、どれだけ強かろうが吸血鬼に勝てるわけが無いだろう」

 

男は、周りの吸血鬼にアイコンタクトを送る、アトラスにはそれがどういう意味か理解出来た。

 

「なるほど、妖力弾による遠距離攻撃ですか…確かに、その人数に撃たれれば私も反撃出来るかどうか分かりませんね…」

 

「撃て!!」

 

30人による一斉射撃。

妖力弾の壁が迫る中、アトラスは冷静に回避コースを検討していた。

あそこ?ダメですね、ではあそこで…ダメですね、どこに行っても被弾する…ならば!

覚悟を決めたアトラスは、あろうことか弾幕に向かって突撃した。

 

「粉々にしてやれ!」

 

激突するアトラスと魔弾の壁、アトラスはすぐに飲み込まれてしまい姿が見えなくなった。

 

「ぐっ……」

 

凄まじい魔弾の嵐を妖力の籠った手で掻き分けて行くが、やはり被弾はしてしまう。

やがて弾幕は止んだが、アトラスの着ているメイド服はボロボロになってしまっていた。

 

「ほぅ……まだ生きているのか、スカーレット家の番犬は中々に優秀とみえる」

 

「流石に……雑魚とは言え、これだけ上位種からの攻撃に晒されては少しだけ痛いですね…ちょっと血が出ちゃいましたよ」

 

左腕から大量の血が滴り落ちている。

相当痛むのだろうか、苦痛に顔が歪んでいる。

腕を抑えて痛みに耐えながらも、レミリア達の元には行かせまいと、『本気を出す』事にした。

 

「そろそろ本気を出しましょうか…まぁ尤も、それもフルパワーではありませんが…」

 

「そんなボロボロの体で何が出来ると?」

 

「皆殺し…ですかね。

ーーーーーアアァァァァァア!!」

 

八重歯が鋭くなり、爪が尖る。

狼の耳と尾が生えてくる……その変化には激痛がともなり、アトラスのものとは思えないような絶叫をあげている。

変化が始まると同時に、アトラスの妖力が跳ね上がっていく。

それこそ、並の吸血鬼では太刀打ち出来ないほどに……

 

「………これが、私の…全力です……」

 

息を荒げながらも、その眼光は自分の倒すべき敵を見据えていた。

獲物を狩る狼のように……

 

「さぁ……狩りの始まりです…」

 

「なるほど…我々を雑魚と罵るのも当然だな……吸血鬼にも勝る凄まじい妖力じ………」

 

リーダー格の男が会話をやめた。

男の首からは、大量の血が噴水のように噴き出している。

バタリとその場に倒れこむことで、ようやく周りの吸血鬼は現状を理解した。

 

「脆いですねぇ…これが最強種?これが夜の王?これが吸血鬼?

狼に劣るなんて……もしかして手加減でもしていました?

蚊でも潰したのかと勘違いしちゃいましたよ」

 

アトラスの右手から大量の血が滴り落ちている、しかしそれは先ほど怪我をしたのとは逆の手……

アトラスは超速で接近して男の頭を砕いたらしく、それはトマトのように簡単に潰れ、絶命した。

 

「ダメですね…この姿になるといつも自分が抑えられなくなってしまいます。

昂ぶるんですよ、どうしようもなく…獲物を狩りたくなってしまう、目の前の害虫を殺したくなってしまうんです」

 

「ば…化け物……」

 

吸血鬼の誰かが言った。

それは誰もが思っている事だろう…

 

アトラスはトワイライト家の中でも異質中の異質。

能力が攻撃的なものでは無いと、スカーレット家以外の吸血鬼は見放し、見下していたが

アトラスの本質は、その凄まじい戦闘能力にある。

第一段階では上位の妖怪に匹敵し、第二段階では大妖怪を超え、完全体になれば神に等しい戦闘能力を得る事が出来る。

 

「本能が抑えられないんですよ…こうやって怯えている獲物を見ているだけで、ほら……

こんな風に…」

 

ブチっ…と首を千切る嫌な音が聞こえる、また誰かが殺された……そう理解するのは簡単だった。

我先にと逃げ出そうとする一団は玄関に向けて走り出すも、アトラスが駆け抜ける。

 

「ダメじゃないですか、吸血鬼が背を向けて逃げ出したりしちゃ。

残りは28匹……全員生かしては帰さない、違いますね。

全員この場で駆逐するので、死んだ後も帰れないですね……くすくす」

 

口調は普段のアトラスと同じだが、浮かべている笑みは獰猛な狼を思わせるような、見る者に恐怖を抱かせるような笑顔だった。

 

「おや?誰の落し物ですか?心臓を落とすなんて、おっちょこちょいにも程がありますよ、次からは注意して下さいね?」

 

「え……あ?」

 

一人の女吸血鬼が、空洞になってしまった自分の胸を見ている。

口から大量の血を吐き、床を染め上げ、崩れるようにその場に倒れてしまう。

 

「あら、いらないのなら処分しましょう」

 

持っていた心臓を握り潰す。手に付いた血を汚そうに振り払うと、次の獲物に向けて走り出す。

 

「ほら、ほら、ほら、ほらほらほらほらほら、あははっ!抵抗しないんですか!?

少しは楽しませてくれないと、この姿になった意味が無いじゃないですか!

あはははははははっ!!」

 

ある者は首を飛ばされ、ある者は胴体を引き千切られ、ある者は股から引き裂かれる。

地獄絵図を形にしたような光景は、吸血鬼達の理性を奪うのには充分だった。

 

「う、うわぁぁぁぁあ!!」

 

一人の吸血鬼がアトラスに向かって魔弾を放つ。

吸血鬼の解体に夢中になっていたアトラスはそれに気がつかなかった、頭にそれが直撃してしまった。

 

「あ、当たっ……た?」

 

ゴトリ…とその場に倒れるアトラス…….その生死を確認する為に、魔弾を放った男が慎重に近づいていく。

他の吸血鬼も、警戒心を大にしてその様子を見守っている。

 

男がアトラスの顔を覗き込むと、死んだように目を瞑っていた。

倒した、この化け物を殺せた!そう周りの吸血鬼に報告するべく後ろを向くと、肩に手が乗せられた。

 

「痛いですねぇ…貴方ですよね?私に魔弾を放ったのは」

 

背後から聞こえるアトラスの声、肩からはメキメキと骨が軋む音がする。

やがて、ゴキンっと鳴るのと同時にその音は聞こえなくなった。

 

「ギャアァァァァ!!肩が…肩がぁぁ……」

 

膝をつき、その場で蹲っている男の両足を掴み、まるで日を紐を結ぶように足を固く、強く『結んだ』

 

「痛いぃぃい!足がぁ!肩がぁぁあ!!」

 

「五月蝿いですね、そろそろ黙って死んでもらえませんか?」

 

胸倉を掴み無理やり立ち上がらせる。

まともに動くはずの無事だった腕すらもダランとぶら下がり、両足はリボンのように結ばれている。

抵抗する気もなくなったのか、精神が壊れたのか…もはや声も出さず開きっぱなしになった口からは涎を垂らして、虚ろな目をしている。

 

アトラスは男の口に手を添えると、身体の内部目掛けて妖力弾を放つ。

それだけで男の身体は内側から爆散し、アトラスの体が血で染まる。

 

「本当に汚い方達ですね、もうちょっと綺麗に死んでくれたらいいのに……」

 

転がっている死体からハンカチを抜き取って、顔に付いてる分の血だけは拭き取る。

 

「後でお風呂に入って、掃除をして……あぁ、今日は私だけしかいないというのに、自分で仕事を増やしてしまうとは……私もまだまだ至らない点が多いですね…」

 

この場にあってこの場には似つかわしくないセリフが、余計に吸血鬼達の心を抉る。

もはや生きて帰ろう、アトラスを倒そうなどとも考えず、ただただ自分が殺される番を待つだけだった。

 

「もう……早く殺してくれ…」

 

「何を言っているんですか?まだまだこれからじゃないですか、あと14人もいるんですから楽しませて下さいよ、これからが折りかえしなんですよ」

 

「お前は……狂ってる…」

 

「?……不思議な事を言うのですね、妖怪なんですよ?恐怖を煽るのは生命活動の一環でしょう。

ただ、いつもは力を抑えているだけで、この姿の方が妖怪としては正しいんですよ?」

 

語るだけ語ったアトラスは、最後にこれだけを伝えておいた。

 

 

「さぁ…残り14人、一人10秒は保たせて下さいね?」




アトラスさん最強説浮上
前々から出てきていた『第二段階』です、ケモミミけもしっぽ……あれ?萌えね?
アトラスさんは第二段階になると、結構残忍になりますね
仕方ないよ、狼だもの……まぁ狼としての狩りの本能が、普段理性で抑えつけている分、前面に出てしまい今回のよう凄惨な事態になっているわけです。
てか、相手の吸血鬼が弱いのもあるんですけどね。
とは言っても吸血鬼、最強の幻想種との呼び声も高い吸血鬼相手にこの状態……いやはや、自分で設定作っておいてなんだけど、勝てる人いるのかなぁ?

………いるけど(小声

そして、いつになったらフランちゃんはセリフを貰えるのか…こんなに待たせちゃ悪いので、とりあえずレミリアパンチ喰らっときますww

ではまた次回……前半は相変わらず回想でーす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話・最強の番犬、赤い記憶と幸福な……

先に言っておきますが…過去最長になっちゃったww
8000文字越えましたね、やっちゃったぜ!

回想の続きと、青い薬の正体が判明する回ですね。


 

 

 

 

「とは言ったものの……些か飽きてきましたね…こうもあっさり殺せてしまうと、楽しめないじゃないですか」

 

バラバラの死体や、最早原型すら止めていない死体……床一面を覆っているのはアトラスが作り出した血の海。

本来なら死に難い吸血鬼がこうもあっさりと死んでいくのは、アトラスの能力によるものが大きい。

『読み取る程度の能力』それは、相手の仕草や表情を見て次の行動や、して欲しい事が予測出来るだけの能力ではなく、相手の体を見ただけで相手の弱点なども読み取る事が出来る、スカーレット家以外が気づいていないだけで、実に攻撃的で汎用性のある能力だ。

 

「ではこうしましょう、抵抗しなければ惨たらしく苦しめながら殺します。

抵抗すれば楽に殺してあげます、どうですか?良い案でしょう?」

 

それを聞いた吸血鬼達は一斉に襲いかかってきた。

もちろん、アトラスを倒せればそれで良いのだが、彼らにとっては『楽に殺してもらえる』というのが魅力的だったようだ…

 

右から襲ってくる拳にカウンターを合わせて頭を粉砕。

遠くから飛んでくる魔弾を掴み取り、そこら辺にいる適当な吸血鬼に投げつけ、心臓を貫く。

様々な方法で、しかし一撃で殺し尽くしていく。

 

やがて31人もいた吸血鬼は、最後の一人を残すのみとなった。

 

「貴方で最後ですね、言い残す事はありますか?」

 

「つ、妻と子供には……家族だけは助けてくれ…」

 

「あ、お断りします」

 

「な、なんで……」

 

「貴方はレミリア様とフラン様を手にかけようとしたんですよね?

それなのに何故、貴方の子供は助けなければならないんですか?

勝手ですねぇ、それに最初に言ったじゃないですか『今ならここにいる方々を殺すだけで、この自殺行為に参加しなかったご家族は生かしておいてあげます』と」

 

「そ、そんな…た、頼む!家族は!せめて家族だけは!!」

 

「もう遅いですね、さようなら」

 

アトラスが腕を振り上げて力を溜める。

一族郎党皆殺しにするのは確定しているが、せめてこの愚かな吸血鬼は約束通り、苦しまずに殺してやろう。

絶望し、涙を流しながら『すまない…すまない……』と呟いている。

 

そんなとき、イレギュラーな事態が発生した。

 

「アトラス……?」

 

通路の影から顔を出して、こちらの様子を覗いているレミリアがそこにいた。

先程まで昂ぶっていたアトラスの精神は一気に沈静化し、辺りの惨状を目の当たりにした。

 

「レミリア様!部屋にお戻り下さい!見てはいけません!!」

 

だが、それを言うには遅すぎた。

幼いレミリアの目に映るのは死体の山、死体とすら呼べないような解体をされた、この世の地獄絵図。

床どころか壁までも血が飛び散って、木で出来た床や、ベージュ色の壁が真っ赤に染まっていた。

 

「わ、わたし……アトラスを助けようかと思って…レミリアパンチで悪者を退治しようと思って……」

 

今の光景だけを見せられた人なら、その目にはどう映るだろう?

血と人体の一部であろう何かが飛び散る部屋の中、涙を流して家族の無事を祈り続ける男を殺そうとしているアトラス……

レミリアの目には、悪者になってしまったアトラスがこの状況を作り出したように見えていた。

 

「ア、アトラスが…悪者になっちゃった……」

 

「レミリア様……見ないで下さい、お願いですから…部屋に戻って下さい……」

 

目の前の吸血鬼を放って、レミリアの元にフラフラと近づいていく。

レミリアはそんなアトラスを見て、無意識にだが、怯えてしまった。

 

「ひっ……」

 

レミリア様に嫌われた…嘘だ……どうしよう、嫌だ、なんで、どうして…私のせいだ……私が殺したのが悪いんだ、なんで殺したんだ?

 

…………そうか、彼奴らが悪いんだ……

 

吸血鬼の男は自分からアトラスの興味が無くなったことに安心して、今の内に逃げてしまおうとするが、腰が抜けてしまって動けない。

足を叩いて無理やり立ち上がろうとしていた。

 

「殺す……殺す……お前のせいだ…お前達のせいでレミリア様に嫌われた……殺す…殺してやる。

惨たらしく、苦痛を与えて、お前の一族全て私が殺す…苦しめて苦しめて、お前の首を持って、それを見せながら殺してやる……」

 

レミリアに背を向け、再び男に近づきながらブツブツと呟いている。

いつもの笑顔は消え、無表情になっているのが、男の恐怖心を更に煽った。

 

「死ね、死ね、死ね……」

 

一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。

あまりの恐怖に年甲斐もなく小便を漏らしてしまうが、そんな事に気を使っていられる余裕はない。

今度こそ死んだ…そう思った直後……

 

「ア、アトラス!」

 

「………なんですか?」

 

相変わらずの無表情、それはレミリアが見た事のない顔だった。

いつも笑顔でみんなに優しい、それがレミリアの中でのアトラスであり、こんな顔で見られた事がない。

だが、レミリアはどうしても言わなければならない事がある。

 

「わ、私は…アトラスが大好き!だから!だから……もう、赤いのは見たくない…」

 

「……ダメですよレミリア様…この者達は私の主を手にかけようとした、殺さなきゃならないんですよ…」

 

「アトラス!こっちに来なさい!」

 

レミリアは、もうオドオドしていない。

内心は怖くて逃げ出したい。だけど、ここで逃げ出したら2度とアトラスは戻ってこない…

そんな気がした。

 

「……わかりました」

 

目の前まで来たアトラスは相変わらず笑ってくれなかったが、やる事は一つ。

 

「アトラス、少ししゃがみなさい」

 

「…はい」

 

レミリアの目線に合わせるように腰を下ろした。

 

「レミリアパンチ!」

 

アトラスの胸に当たるか弱いパンチ、だがそれはアトラスの胸に、心に強く突き刺さる。

 

「どう?悪者はどこかに行った?」

 

レミリアパンチは正義の拳…悪い心を退治する正義のパンチ。

そう教えたのは他でもない、アトラス本人だった。

 

「………はい、はい…ありがとうございます。

私の悪い心はレミリア様のお陰で退治されました……こんな私ですが、レミリア様の側にいても…よろしいですか?」

 

「当たり前じゃない…私とフランのお世話はアトラスにしか任せられないわ」

 

「……ありがとうございます。

もう大丈夫です、貴女のアトラスは帰ってきましたよ…」

 

泣きそうな笑顔だったが、その顔には確かに優しい、いつものアトラスの笑みが戻った。

 

「レミリア様、ここにいてはいけません。

なのでフラン様をお願いしますね」

 

「……あの人はどうなるの?」

 

「あの人は悪い事をしに来たんです、どうすればいいと思いますか?」

 

「ごめんなさいって言って、もう悪い事はしないって言うなら許してもいいと思う」

 

やはりレミリアは優しすぎる、いつかはその優しさが仇になる事があるのかもしれない。

強くなってほしいと思う反面、その優しさが

スカーレット家に繁栄をもたらすなら、それでもいいか…なんてアトラスは思ってしまう。

 

「わかりました。あの人には私が聞いておきますので、レミリア様はお早く…」

 

「うん……」

 

返事をすると、レミリアは先程まで隠れていた部屋に帰って行った。

それを見届けると、未だに腰を抜かしている男の方に向かって歩いて行く。

 

「レミリア様からのお言葉を伝えます

『ごめんなさいって言って、もう悪い事はしないって言うなら許してもいいと思う』

との事です、如何しますか?もし断ると言うのなら、命の保証は致しません」

 

「……ごめんなさい、2度としないので許して下さい…と、レミリア様に伝えておいてくれ」

 

「わかりました、伝えておきます。

ですが、これだけは理解して下さい…私は今回の虐殺について謝る気など毛頭ありません。

貴方がたはそれだけの事をなされたのだと、重々ご承知置き下さい」

 

周りの惨状を見渡した男の顔は悲しみで歪み、涙を流している。

男は自分だけが助かった事に涙を流したのではなく、自分達の愚かな行為を嘆いての涙だった。

 

「私たちは…あのような、あのような子を…あんなに優しい子を殺そうとしていたのか……自分達の利益のみを考えて……」

 

「そうです、貴方がたは愚かな行為を犯しました。

レミリア様やフラン様を手にかけようとした事、スカーレット家に手を出した事、旦那様や奥様が狙われるのは仕方のない事だと思います、お二人共多くの敵を作っていますからね。

しかし、レミリア様やフラン様はまだ子供なんですよ?

まだ幼いお二人を殺すのはお門違いも甚だしい事です」

 

「……そうだな、私達は愚かだった。

何か私に出来る事は無いだろうか?私の命はレミリア様に救われた、ならば我が身はスカーレットのに心血を捧げると誓う。

トワイライト…お前の命令にも従おう」

 

「そうですねぇ……とりあえず、ここの片付けですかね?」

 

男はそれを承諾し、二人で掃除を始めた。

レミリアからの命令だろうか、妖精メイド達も続々と集まって来てくれたので、掃除もそこまで時間がかかる事はなかった。

惨状を見た数人の妖精メイドが吐いたので、若干仕事が増えたのだが……

 

翌日、レミリアを起こそうと部屋に入ると、レミリアは眠れなかったのか、目の下の隈を作り、ベットの上でボーッとしていた。

ちなみに、フランドールはレミリアの横でスヤスヤと可愛らしい寝息を立てている。

 

「レミリア様、眠れなかったのですか?」

 

「うん……眠ろうとすると、目の前が真っ赤になって…怖くって……」

 

無理もないだろう、こんなに小さい子供が

肉片や内臓が飛び散る部屋を見てマトモな神経でいられる訳がない。

昨日は無理をして気丈に振舞っていたのだろう、堪えていた分一気に恐怖心が吹き出てしまったのだ。

 

「…レミリア様の好きな色は何色ですか?」

 

「ん〜っとね…青か…金色かな?」

 

「ん?青色は何となく分かりますが……金色ですか?」

 

「青色はね、私の髪の毛の色だから!」

 

レミリアは隣で寝ているフランドールの髪と、アトラスの目を見てからこう言った。

 

「金色はね!フランの髪の毛が綺麗なのと、アトラスの目が好きだから!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一通り語り終わったのか、アトラスはうっとりとした表情で机に頬杖をついている。

 

「あぁ〜……あの時のレミリア様は可愛かったですよ〜、恭君も495年前から働いていれば良かったのに…」

 

「いや、俺って一応人間ですから…多分」

 

「そこで多分をつけるのが恭君らしいですね」

 

「ていうか、アトラス先輩ってそこまで理不尽に強かったんですか?」

 

吸血鬼の大群を相手にして、マトモな怪我は二箇所のみ。

恭介にとっては充分な理不尽、パチュリーに聞いていた以上の理不尽具合に『ハンデなんていらないぜ!』的なセリフを吐いた過去の自分を呪った。

 

「理不尽だなんて……まぁ否定はしませんが」

 

「しないんかい!……ん?パチュリーから聞いたんですけど、レミリア嬢の方がアトラス先輩よりも強いって……」

 

「まぁそうですね、レミリア様のグングニルが見えないんですよ。

投げるタイミングと方向は分かるのに、速すぎて避けられないんですよ、卑怯ですよね」

 

恭介は誓った……カリスマ中のレミリアを絶対におちょくらないと。

 

「レミリア嬢が昔、赤色に苦手意識を持ってた理由は分かったんですけど、結局この青いのは何なんですか?」

 

「あぁ、それはですね……」

 

アトラスが語ろうとしたそのとき、部屋の出入り口がキィ…と開いた。

そこには意気消沈中のレミリアが立っていた。

 

「おや、こんなところにいらっしゃらなくても、お呼びになればそちらに向かいましたよ?」

 

「いやね……トイレに行く途中、なんだか昔の恥ずかしい話をしているのが聞こえてきてね」

 

「あ、あら?聞こえてましたか?」

 

「外まで聞こえてたわよ……妖精メイド達も聞き耳立ててたし、咲夜もいたし…」

 

「レミリア嬢…取り敢えずトイレ行ってこい」

 

以前の失敗を思い出したのか、返事もせずにダッシュでトイレに向かい走っていく。

 

「慌ただしいご主人様だこと……」

 

「いけませんよ恭君、レミリア様は立派なご主人様です。

時々お茶目な事もしますが、本当に立派なお方ですよ」

 

「そんな事、分かってますよ」

 

恭介は指先でコロコロと青い薬の瓶を転がしている。

蓋がしてあるので溢れる心配はない、その様子をクスクスと笑いながら、アトラスはもう一度コーヒーを淹れてくれた。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。

そういえば、レミリア嬢の両親ってどうなったんですか?」

 

「あぁ…お二人とも冒頭に話した討伐の件で戦死しましたよ」

 

なんでもない事、と言った様子の返答に、恭介は逆に違和感を覚えてしまう。

 

「……案外、あっけらかんと答えるんですね」

 

「500年……正確に言えば495年も前の話ですからね。

当時は悲しかったですが、今はレミリア様ですら気にしていませんよ」

 

コーヒーを飲みながら答えるアトラスが、どこか薄情に思えてしまった。

 

「でも、気にしてないとはいえ、お二人には今でも感謝していますよ。

出来損ないと言われ、どこの吸血鬼達も私を見下し、罵倒してきた……でも、旦那様と奥様が私を引き取ってくれたんです。

そのお陰でレミリア様やフラン様に出会えたんです、いくら感謝してもしたりませんよ。

もちろん、恭君や紅魔館の仲間達…その全てに出会い、仲良くさせていただいている事にも感謝しているんですよ?」

 

「そうですか…俺も感謝しないといけないな」

 

アトラスの部屋で、かなりの時間を過ごしていたらしい、既に時計は22時を回っている。

そろそろ帰ろうかと、席を立って『ごちそうさま』と告げると同時に、再び部屋のドアが開いた。

 

「恭介?私の小っ恥ずかしい話を聞いて、ただで帰れると思ってるの?」

 

「なんだ、幼女か」

 

「幼女じゃないし、恭介より大人だし」

 

「はいはい、それよりも…もう大丈夫なのか?」

 

「あぁん?紅魔館の主がいつまでもショックで寝込んでる、なんてカッコつかないでしょ?

そんなもん気合いで何とかしたわよ。

てか、どっか座らせなさいよ、主を立たせておくなんていい根性じゃない」

 

「ではこちらにお座り下さい」

 

アトラスが案内したのはベットの上だった。

レミリアはその指示に大人しく従い、ベットに腰掛けた。

 

「で、なんの話でどこまで話したのよ?」

 

これは帰れないと判断し、恭介はもう一度椅子に腰掛けた。

アトラスが説明をしてくれているので、今は黙っておこうと、再びポケットから瓶を取り出してコロコロして暇を潰していると…

 

「うわぁ…よりにもよってその話?黒歴史に近いレベルじゃない…

……あれ?恭介が転がしてるのってもしかして」

 

「ん?これか?結局何かよく分からんけど、欲しい?」

 

「欲しい!」

 

ベットから勢いよく跳ねて、恭介の前に着地した。

鼻が触れ合いそうな距離だったので、取り敢えず唇を前に突き出してみる。

 

「恭君?」

 

「え?ボク、何もしてないよ?はい、レミリア嬢」

 

レミリアに薬を渡すと、それを一気に煽った。

ゴクゴクと飲み干すと、プハーー!と言いながらいい笑顔を浮かべている。

 

「いやぁー、久々に飲んだけど、やっぱり美味しいわね」

 

「で、結局それって何だんだ?」

 

「あーー……まぁ、さっきの話を聞いたのなら話してもいいかな?

簡単に言うと、あの事件のせいで私は赤が嫌いになってたのよ、種族的にはありえないから、今は赤も大好きだけど。

で、これは当時のアトラスが用意してくれたジュースなのよ、赤は嫌いだけど、青は好きだからって事でね。

当時の私も現金よねー、美味しいジュース一杯で機嫌が戻っちゃうんだからさ」

 

笑いながら話すレミリアは、嬉しそうに語っている。

当時の事はよく分からないが、それは多分、大好きなアトラスからもらった…というのも大きな理由の一つなんだろう。

 

「で、パチェから聞いたんだけど、恭介の能力が分かったんだって?

本人から聞けって言われちゃったから、気になってたのよ」

 

「あ、恭君の能力は私も興味あります」

 

「別に隠す事でもないし…『力を分け与える程度の能力』って名前らしい。

まぁ尤も、パチュリーが名付けてくれたんだけど」

 

「ちょっと私に使ってみなさいよ、制御くらい出来るんでしょ?」

 

「出来るけどさ……この能力って案外危険な部分もあるんだよ」

 

「危険……とは物騒ですね、どんなデメリットがあるんですか?」

 

「簡単に言うと、俺のスタミナを100として、それを分ける対象に都合の良いエネルギーに変換し、増幅してから譲渡するんですけど…100全部を使い切ったら多分、衰弱死しますね」

 

「使い所が難しい能力ですね…」

 

「ちなみに今のスタミナ量は分かるの?」

 

「ハッキリ正確には分かんないけど……」

 

「92ですね」

 

恭介本人ですら正確には分からなかったものを、アトラスが代わりに答えてくれた。

能力を使ったのか、その声には絶対の自信が宿っている。

 

「あ、そうか……アトラス先輩の能力なら正確に判断できるのか…」

 

「便利な能力で、私自身よく助けられてますよ」

 

二人が話す中、レミリアだけはふんふん…と頷き、ニヤッとしながらとある提案をしてきた。

 

「その内の5を私に分け与えてくれない?

身内の能力を正確に把握しておくのも主の務めだと思うのよ」

 

「レミリア様……またそんな無茶を…」

 

「いや、良いですよアトラス先輩。

よければ二人とも、5ずつで良ければ分けますよ?」

 

「わ、私も良いんですか?」

 

「よっしゃ、決まりね」

 

「では……」

 

パチュリーに使った時のように、恭介と二人の体が光の線で繋がる。

あまり長く繋げておくとグングン吸われるようなので、二人合わせて10だけ分けると、光の線をすぐに切った。

 

「うわっ、凄いわねこれ…たったの5でここまで力が湧いてくるなんて…」

 

「私もです…第二形態には及びませんが、そらでもかなりのパワーアップが出来てます」

 

「ふぅ……相変わらずこれを使うと疲れる…」

 

レミリアは自分の体を確認するように、両手を閉じたり開いたりしている。

アトラスは分け与える感覚が気持ちよかったのか、目を閉じて何かを堪能していた。

 

「いやはや、これは強烈な能力だわ。

パチェにはどんなもん突っ込んだの?」

 

「突っ込んだ………ゲフンゲフン!

あの時は実験も兼ねてだったから20くらい突っ込んだな」

 

「5でこれだけパワーアップなのに20も突っ込んだら…….私でもパチェに勝てる気がしないわ」

 

「とまぁ、俺の能力はこんな感じらしい。

強力な能力ってのは分かるけど、俺にとっては使った分だけパワーダウンする厄介な能力だよ……そろそろ寝るわ、明日もあるし疲れたし」

 

今度こそ帰ろうと席を立ち、帰ろうとしたところで、今度はアトラスが恭介を呼び止めた。

 

「あっ、恭君に渡すものが…ちょっと待ってて下さい」

 

アトラスはタンスの扉を開けて何かを探していた。

恭介もタンスの中を必死になって見渡している……大きいブラジャーを発見したが、言ったら消されそうなので心にしまっておく事にする。

 

「はい、これです」

 

アトラスが探していたものは、『男物』のズボンとフード付きのパーカーだった。

 

「お、俺に?」

 

「そうですよ、手作りなのでデザインはシンプルですが、サイズはバッチリな筈です」

 

黒一色のジーンズと紺色のパーカーはデザイン的にも恭介の好みで、非常に嬉しい一品だった。

 

「今日はもう遅いので、明日の仕事に着てきてくれると嬉しいです」

 

「あ、ありがとうございます!これで『メイド服とはオサラバ』だーーーー!!」

 

思わずアトラスに抱きつく恭介、レミリアはその様子を見ていたのだが、明らかに恭介には下心があった。

 

「こら恭君、嬉しいのはわかりますが、男の子がそんな簡単に女性に抱きつくのは感心しませんよ?」

 

アトラスは気がついていない。

能力をきっているため、抱きつく瞬間恭介が胸に向かって頭の位置を調整していた事に。

しかし、嬉しそうにしているのは本当なので、ここで水を差すのも憚られたので、放っておく事にした。

 

 

こうして、紅魔館における最強の番犬は幸せに暮らしている。

何処の誰が吹聴したのか、紅魔館にはとんでもない番犬がいる、吸血鬼を31人も相手にして皆殺しにした……と噂が広まっていたらしい。

以後495年間、紅魔館に挑んで来るものはいたが、その殆どが番犬との手合わせ感覚のものだったらしい。

レミリアも戦えるようになってからは番犬の代わりに手合わせをしていた、勢い余って殺してしまった事も少なくはないらしいが…本人は特に気にしていないらしい。

 




笑わないアトラスの初登場でしたね、怖っ……

自分で書いてて思いましたね、美人がキレると怖いんだろうなぁ…ってw

さて、今回の話でハッキリさせましたが……恭介は次回までずっとメイド服でしたwww
さて、何人が気づいたでしょうね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話・紅魔の朝、紅魔の朝食

久々の変態登場です。
とは言っても、前の話までずっとメイド服だったんですけどねwww

今回は飯テロメインですねー、久々のみすちー回でもあるので気合い入り過ぎて更新が遅れ気味さ!



 

朝、それは必ずやってくる1日の始まり。

この男、神城 恭介は気合を入れてベッドから跳ね起きた。

 

「超・絶・最・高・潮!今日の俺は……メイド服ではない!ふはははははは!!」

 

恭介は昨晩アトラスからもらった服を片手に、廊下を裸で疾走する。

きっとみんなに見てもらいたいんだろう……服を。

 

「ヒャッハーーー!この時間ならまだリプトちゃんが門番をやっているはず!」

 

哀れリプト…変態にロックオンされたらしい。

 

手近な窓を開け放つと、産まれたままの姿で空を飛んだ。

恭介の部屋は3階にあるため、本来ならとても危険な行為なのだが……

 

「この程度の高さ!俺にとっては苦ではない!」

 

変態に技術と体力を与えた結果、3階程の高さではビクともしない変態が出来上がった。

 

「目標補足!」

 

恭介は、発見したリプトに向けて全速力で走っていく。

だが、イレギュラーが発生した……アトラスだ。

彼女は夜勤で疲れているであろうリプトに食事を作ってあげたらしく、それを渡している最中だった。

 

「ちっ!……仕方ないか!」

 

手近な草陰に隠れる恭介は、今後の行動を考える事にした。

 

どうする?あのアトラス先輩がいては、服を見てもらうどころか、裸を見せびらかして悦に浸る事すら出来ない…

いや、まてよ……案外普通に挨拶したらそのまま受け入れてくれるのではないか?

……よし、この作戦でいこう。

 

彼は馬鹿ではないが、非常に残念な頭の持ち主でもあった。

 

「ならば取るべき行動は一つ…」

 

恭介は気配を消して二人に近づいていく。

アトラスも能力を切っているらしく、恭介の存在に気がついていない。

 

ーーーーっ!いける!

 

「ではリプトちゃん、あまり無理をせず、休みたい時は言ってくださいね」

 

「そうですねぇ、あっしは疲れよりもみんなと一緒にいられない方が精神的にクルものがありますねぇ…」

 

「寂しがり屋なんですね、リプトちゃんは」

 

「否定出来ないのが悲しいところですかねぇ、お嬢に相談してみたら意外と受け入れてもらえませんかねぇ……」

 

「ん〜…残念ですが、難しいと思いますよ?

未だに知能のない妖怪はこの紅魔館を襲って来ますし、その全てをリプトちゃんの壁で撃退してもらっている以上、中々…」

 

割とマジな話をしているようなので、恭介はその場の空気を和ませようと思い、声をかけた。

 

「リプトちゃん、アトラス先輩、おはようございます」

 

「あ、おはようござ……」

 

「旦那、おはよ………」

 

いい笑顔で話しかけた恭介は……全裸だった。

もちろんアレも見えているので、健全な…むしろ男がいなかった紅魔館での男性に対する免疫力が皆無ですな二人は…

 

「「変態ぃぃぃぃい!!」」

 

メコッ! ゴリュっ!

 

「ぶるぁぁぁぁあ!!」

 

アトラスは拳で顔面の中心を、リプトは身長的に顔の位置がアレに近かったため、小さい壁でアレを殴打した。

 

遥か彼方に吹っ飛んでいく恭介が地面に激突すると、顔を押さえながら気持ち悪い動きで腰をくねらせている。

不快感を煽る事に関しては最高の動きだ。

 

「おふっ、おふぅ!」

 

「先輩…あれ、なんですかねぇ?」

 

「見ちゃいけません……」

 

リプトの目をそっと手で覆う。

無理もないだろう、恭介の動きはトラウマになりかねない、子供好きなアトラスとしては絶対に見せたくないほどだった。

 

「リプトちゃん、5枚の少し大きめな壁を出してくれますか?持続時間は1時間でお願いしますね」

 

「あ、あいさー」

 

適当に、2メートル四方の壁を作り出した。

アトラスはそれを恭介の周囲に配置し、最後には天井代わりに蓋をした。

 

「さぁリプトちゃん、もう見ていいですよ」

 

「あれは、さすがのあっしでも怖かった…」

 

「もう一仕事頼みます。

持続時間3時間で、内部から壁に攻撃すると

電撃が流れるようにして下さい。

もちろん死なない程度でお願いします」

 

アトラスの容赦ないお仕置きプランに恐怖するリプト…言われた通りにしないとあとが怖そうなので、言われた通りの性能の壁を周囲に配置する。

と、足元に何かが落ちていた。

 

「これは…服ですかねぇ?」

 

「あ、それは昨日の…リプトちゃん、壁の中と会話できるようにしてもらえますか?」

 

「構いませんよ?」

 

リプトが壁に触ると、形状が分かりやすく変化した。

壁の外には受話器のような物が現れたので、アトラスはそれを手に取り恭介に話しかける。

 

「もしもし恭君?間違っていたら嫌なので先に聞いておきますけど、何故あんな事をしたんですか?」

 

『じ、自慢したかったんです!アトラス先輩が作ってくれたんだって!

裸だったのはテンションが上がったのでつい……」

 

「つい、で裸になるのはどうかと思いますが……私は、私の作った服を着た恭君を見たかったです…」

 

『わ、わかりました!今すぐ着るのでどうかこの壁を解いギャババババババ!!』

 

「「あっ……」」

 

「解除した方がいいですかねぇ?」

 

「反省しているようですし…まぁいいでしょう。

恭君、服は外に置いておきますね。

壁を解除するので、私達が背を向けている間に着てください」

 

返事はないが、聞こえているだろうと判断したので、服を置いてから背を向けた。

 

「ほいっと」

 

壁を消したらしいが、後ろを向いているため

中の恭介がどうなっているかは分からない。

モゾモゾと蠢いているのは伝わってくるので

生きてはいるんだろう。

 

「恭君、着替えてますか?」

 

「はい、もうちょっと待って下さい……っともういいですよ」

 

二人が振り向くと、いつもの気持ち悪いメイド服姿ではなく、一般男子が身に付けているようなファッションになっていた。

恭介はかなりのイケメンという事もあり、その姿なら、黙っていればモテるだろう。

しかし、アトラスとパチュリーの前以外では所構わずセクハラをしだすので、モテる未来が見えてこない。

 

「どうです?」

 

「ほぇ〜…旦那って普通の格好してると、カッコよかったんですねぇ…かなり似合ってますよ?」

 

「えぇ本当に、凄くお似合いです」

 

「いやぁ〜、アトラス先輩には感謝してもし足りませんよ」

 

「どうせなら他の皆さんにも見せてきては?」

 

「そうするつもりですよ、まだ早いから一旦部屋に戻りますけど」

 

リプトが美鈴達と交代するのは午前6時ジャスト、交代するまで1時間近くあるので、とりあえずリプトに見せてきただけだったらしい。

 

「んじゃ、あっしは仕事の続きでもしますかねぇ…」

 

「お弁当食べて、バリバリお願いしますね」

 

「あいあい、了解しましたよー」

 

リプトは門の前に戻ると紅魔館に背を向けて

再び仕事を開始した。

 

「んじゃ俺も一旦帰りますわ」

 

「はい。恭君も2度寝のし過ぎには注意して、8時には起きてきてくださいよ?」

 

「は〜い」

 

その後、アトラスも恭介も自室に帰って行き、もう一度就寝する事にしたらしい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

午前7時50分、紅魔館の住人が働き出す時間だ。

もちろんこの男、神城恭介も仕事の準備をしだした。

 

「今日も仕事だ全裸で寒い」

 

彼は記憶障害の疑いがあるらしい。

先程の拷問を忘れてしまったのか、全裸で行動を開始した。

ドアを開け放ち、全裸のまま紅魔館を爆走する。

 

「今日は咲夜さんとミスティアのサブだ!

アトラス先輩は別の場所にいるはずだから問題ない!」

 

外の世界でやったら間違いなく、お巡りさんにパクられること間違いなし。

 

「ヒャッハーーーーー!!」

 

二人は咲夜の部屋に集合しているはず、恭介はそこに辿り着くまでに出会った全ての者達にも、自分の裸体を見せられると思うと、ちょっと興奮してきたらしい。

 

爆走を続けると、ついに犯罪者は咲夜の部屋に辿り着いた。

なんの躊躇いもなく、恭介は部屋の扉を開け放った。

 

「おはようございます!いい朝ですね!全裸にならないと失礼………ここが、エデンだったのか…」

 

着替え中で下着しか身に付けていない咲夜とミスティア、彼女達は恭介の格好を見て固まった。

露出中で下着すら身に付けていない恭介、彼女達の格好を見た犯罪者は身体の一部分が固まった。

 

「二人とも着替え中だった?俺もまだ着替えてないんだわ、ほらこれ見ーーー」

 

「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」

 

グシャ、ボキッ

 

「あぁぁぁぁぁあ!!」

 

「いつまで見てんのよ!さっさと出て行きなさい!このクソ外道!」

 

「……死ぬかチョン切られるか選びなさい」

 

どちらを選んでも男としては死を迎えるだろう。

顔面をダブルで撃ち抜かれた恭介は、どこか満足した表情をしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場所は変わりキッチン。

ちゃんと服を着ているため、犯罪者も今はなりを潜めている。

 

「次やったら殺すからね」

 

「でも………」

 

「でもじゃない!……本当にはずかしかったんだから…」

 

「胸のサイズが?」

 

ミスティアの逆鱗をヤスリでゴリゴリしたため、股間を蹴り上げられたのは仕方のない事だろう。

倒れこもうとした恭介だが、折角の服が汚れてしまうので、なんとか持ちこたえる。

 

「ぐぅ……痛い…が、これもご褒美には違いない…」

 

「キモっ!」

 

「ほら、朝食まで時間ないんだから二人とも遊んでないで準備手伝って」

 

そう、今は朝食の準備中。

レミリア、パチュリー、小悪魔、咲夜、ミスティア、椛、美鈴、ルーミア、恭介、そしてまだ見ぬフランドールの分を作っていた。

妖精は食事の必要が無いらしく作る必要はないらしいが、たまには食べたくなるらしいので、その時は食べたい! と報告に来るらしい。

 

「そう言えば…フランドール嬢ってまだ見た事ないんだけど」

 

「そう言えば私も見た事ないわね」

 

「妹様?……そうね、だったら朝食が出来たら持っていってみる?

パチュリー様も今日は妹様とお食べになるらしいから、一緒に行ってみれば?」

 

二人は思ってもいなかった提案に二つ返事で答える。

 

「「もちろん!」」

 

「わかったわ、パチュリー様にお伝えしてくるから、二人でやっててちょうだい」

 

咲夜は二人の返答を待たずにキッチンから出て行った。

特に急いでいるわけでもないので、能力を使わなかったらしいので、戻ってくるのも暫く時間がかかるだろう。

 

「よし、じゃあ二人で作るか」

 

「て言っても、私が作れる者なんてそんなに無いわよ?」

 

「じゃあ俺が教えるよ」

 

「そう言えば料理出来るんだっけ」

 

「おうよ、中々美味しい自信もあるぞ?」

 

「んじゃ、お願いしますかね、先生?」

 

二人の紅魔館モーニングクッキングが始まった。

恭介が取り出したものは、薄力粉、卵、炭酸水、バニラエッセンス、砂糖、牛乳、油。

 

「ん?何作る気なの?」

 

「朝食の定番、ホットケーキだ!」

 

「薄力粉は分かるけど、炭酸は何に使うの?」

 

「そう、そこが一番のポイントなんだよ」

 

「へぇ〜、まぁ始めますか先生」

 

「先ずは卵と砂糖を混ぜてくれ。

人数が多いから、卵は11個、砂糖の分量は110グラムで頼む」

 

「はーい」

 

「混ぜてると体積が2倍くらいに膨れるから、結構気合い入れて混ぜろよー」

 

ボウルでは小さいので、大きい鍋の中でカチャカチャとの中で混ざり合う卵と砂糖。

暫く混ぜていると恭介が指示したくらいの量になった。

 

「こんなもんでいいの?」

 

「おけ。ミスティアが混ぜてた間に、俺は薄力粉をふるっといたから、この二つを合わせて……ここで炭酸水の登場だ」

 

「それが不思議なのよねぇ」

 

「取り敢えず今の二つを混ぜて…と、そこに炭酸水900、牛乳300よろしく」

 

「はーい」

 

「混ぜる時にはなるべく泡立てないように、ヘラで切るように混ぜるのがコツだ」

 

「本当に手際いいわね」

 

「趣味ですから」

 

話ている間に終わらせたのか、生地はいい感じにトロトロしている。

 

「こんな感じ?」

 

「さすがミスティア、完璧だな」

 

「あ、そうだ。

炭酸は謎のままなんだけどさ、この分量なら

砂糖の量少なくない?」

 

「あぁ、それは後でトッピングするからわざと少なくしてるんだよ。

甘いのが苦手な人もいるかもしれないしな」

 

「なるほど……」

 

恭介の気遣いをこまめにメモをしているミスティアは結婚すると良い嫁になるだろう。

 

「よし、んじゃ今から焼きに入るぞ。

大体1分くらい弱火でフライパンを温めるんだ」

 

「はいはいっと」

 

コンロに火を入れてフライパンを温めていく、強火でやらないのは必要以上にフライパンが温まるのと、フライパン自体が焼けてしまいホットケーキが焦げ臭くなってしまうからだ。

二人は少し待っている間、恭介の服について話す事にしたらしい。

 

「さっきは恭介の蛮行で言えなかったけど、その服どうしたの?」

 

「アトラス先輩に作ってもらったんだよ」

 

「へぇ…スゴい似合ってるわよ、さすがはアトラスさんね」

 

「サイズもセンスも俺にピッタリで完璧だよ」

 

「今度私もお願いしてみようかしら」

 

「いいんじゃないか?

アトラス先輩なら完璧に作ってくれるだろうし……てか、そろそろ1分か……よし、一回火を止めてこの油を入れてくれ、風味付けだから小さじ一杯くらいでいいぞ?」

 

「これってバター?」

 

「いや、バターでも良いんだけど、今回はココナッツオイルを使う。

その方が香りが朝食向きになるんだよ」

 

「なるほどね、わかったわ」

 

二人はそれぞれ二つずつのフライパンにココナッツオイルを入れ、ならしていく。

 

「うはぁ、この量を焼くのは気合いいるわねぇ…」

 

「俺も焼くからさ、一人二つずつ焼けばそんなに時間もかかんないだろうし」

 

フライパンも良い感じに温まったので、先程作った生地を入れていく。

 

「大きさは……適当でいいや、11人分出来ればいいんだし」

 

「大雑把ねぇ…男の料理って感じ?」

 

「ん〜…ホットケーキってそこまで大きさ気にした事ないんだよなぁ…」

 

「まぁ分かんない事もないわね」

 

「んじゃ、焼きますかね」

 

ジュゥゥゥ……とホットケーキを焼いていくと、キッチンには良い匂いが充満する。

 

「あぁ〜、ダメだわ…お腹空いてきちゃった」

 

「これが作ってる奴の特権だよなぁ……けど、匂いを堪能するのはここまでだ。

今から蓋をして、裏面に焼き目が付くまで焼いていく」

 

「了解で〜す」

 

二人はそれぞれの蓋を閉めると、焼き目が付くまで暇になってしまった。

さて、また世間話でもしようかと思っていると、咲夜が帰ってきた。

 

「あぁ〜、良い匂いだわ…ホットケーキかしら?」

 

「おかえり咲夜さん、正解ですよ」

 

「私も焼くの手伝うわ」

 

「あ、じゃあ…」

 

恭介は先程ミスティアにした説明を咲夜にもレクチャーした。

 

「分かったわ…油をひいて生地を入れてっと…もう出来たわよ、ひっくり返していいわよ」

 

「まだ入れてから10秒経ってないわよ?」

 

「私の能力を忘れたの?」

 

「「あぁ、なるほど」」

 

しかしそこは流石咲夜、どうやら時間を操って丁度いい頃合いにまで時間を短縮してくれたらしい。

 

「裏返してっと…」

 

ミスティアはフライ返しを使って慎重に裏返しているが、恭介と咲夜の二人はフライパンを巧みに使って宙に投げるようにひっくり返す。

 

「へぇ〜、見事なもんねぇ…私にはまだ無理だわ」

 

「まぁこんな技術を会得しても、ちょっと手間が減るだけだからな」

 

「さて、もう出来たわよ」

 

「咲夜さんの能力…便利だなぁ〜」

 

「私のなんて『歌で人を狂わせる程度の能力』よ?」

 

「お互いアレな能力だよな…」

 

恭介とミスティアが暗い空気に包まれながらも、ホットケーキは完成した。

 

「うわっ、凄い良い匂いね〜。

早く味見しちゃいましょ!」

 

「そうだな、一枚位食べちまうか」

 

「私も賛成、恭介の料理の腕前も知っておきたいしね」

 

3人はホットケーキを一枚だけ三等分に切り分けると、とりあえずは何もトッピングせず食べる事にした。

 

「すごっ、トッピングしてないから味は薄めだけど、ものすごいフワフワになってる…」

 

「下拵えの段階にその場にいなかったのが悔やまれるわ…これって何か使ったの?」

 

「そう!よく聞いてくれた!これが炭酸水の力だ!………原理はよく分からんけど…」

 

「分からんのかい!」

 

「ダメじゃない…」

 

「そ、それでも美味しいんだからいいだろ!?」

 

「でも確かにこれならお嬢様達も大満足の出来よ、これからも手伝ってもらおうかしら…」

 

試食も終わり、3人は更に人数分の倍の数を作り、皿に盛り付けた。

 

「それじゃあ二人はパチュリー様と妹様の分、それに小悪魔の分もいるわね。

その3人分を運んでいってちょうだい」

 

「「はーい」」

 

 

 

 

 

これから二人が会いに行くのは力と能力だけなら、レミリアすらも超える程の力を持っていると言われている……

 

狂気の……吸血鬼…




炭酸水はマジです、めっちゃふっくらします。

次回は遂にフランちゃんが登場します、レミリアよろしく(笑)になっているのか、ガチなフランちゃんなのかはまだ内緒。

では次回もお楽しみ下さい。

小悪魔の分が足りてなかったので加筆しておきました。



感想くれぇぇぇぇえ!!
ならばもっと面白くしろ? はっはっはっ!これが割と限界だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話・狂気の出会い、始まる異変

フランちゃん登場!

ミスティアが可愛いです、個人的には。
むしろみんな可愛いですなwww

ではお楽しみを


 

 

 

恭介とミスティアの二人は、とりあえずパチュリーを迎えに行く事にしたので図書館に向かっている最中だった。

 

「それにしても、ミスティアとは久しぶりに会った気がするな」

 

「お互いが別の仕事やってるからね、恭介の仕事が他のサポートって時点で、私と咲夜の下に来るのが少ないから、仕方ないわよ」

 

「寂しかった?」

 

「私よりもルーミアの方が寂しがってるわよ、中々会いに来てくれないってね」

 

その言葉を聞いた恭介はニヤーっとした表情に変わると、ミスティアを弄る事にした。

 

「あれあれ?『私よりも』って事は、ミスティアも寂しかったんだろ?

いやー、素直に『寂しいの…私を抱いて』って言えば良いのにー、みすちーったらツ・ン・デ・レ・さ・ん ♪ 」

 

「う、うっさい! あんたこそ寂しかったんじゃないの!?」

 

「そりゃ寂しかったけど?」

 

「ーーーーーーっ!!」

 

どうやらミスティアには効果抜群の台詞だったらしい。

顔を真っ赤にして恭介から顔を背けているが、耳まで真っ赤なのでどの道恥ずかしがっているのがバレバレなのがミスティアらしい。

 

「いや、その、なんだ……本心には違いないんだけど、そこまでクリティカルな反応されるとガチで嬉しいな」

 

「何よ! 悪い!? はいはい、嬉しかったですよーだ。

でもあんたが悪いんだからね! そんな歯の浮くような台詞をなんの恥ずかし気もなく…」

 

「とは言っても、寂しくない訳がないからなぁ…」

 

「他の人と一緒にいるときでも?」

 

「ん〜…まぁそうだな。その時がつまんないって意味じゃないけど、やっぱり心のどっかでミスティアやルーミアに会いたいってのはあるかな」

 

「へ、へぇ〜…そうなんだ……」

 

恭介は別に鈍感という訳ではない、現にこういう時は、悪ふざけを一切せずに答えている

時点でミスティアの事を真面目に考えているんだろう。

二人はしばらくの間、無言のまま紅魔館の廊下を歩いていく…カチャカチャと、食器の鳴らす音だけが響いていく。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「あの…ね?」

 

最初に沈黙を破ったのはミスティアだった。

 

「ん?」

 

「多分、私は恭介の事が好きなんだと思う」

 

「唐突だな、嬉しいけど」

 

「でもね、これは恋愛感情と言うよりも家族に向ける情ってのに近いと思うの。

多分、私だけじゃなくてルーミアも似たような感じになってるんだと思うわ」

 

恋愛感情ではない、そんな事は最初から分かっていた。

二人から……どころか、この紅魔館の住人から向けられる感情のほぼ全てがそれに近いものになっているのを、変に賢い恭介が勘違いする事はなかった。

 

「だろうな、唯一恋愛感情に近いものを向けてくれているのがパチュリーになるかな、勘違いだったらめっちゃ恥ずかしいけど」

 

以前、パチュリーから好きだと言われた。

もちろんそれだけが理由ではない、彼女だけが『愛』という言葉を使ったのが大きな理由の一つだが、それも恭介の発言に合わせてかもしれないので、直接聞いてみなければ本人以外は知る由もない。

 

「へぇ…パチュリーさんがねぇ、どうなの?

恭介は」

 

「いや、普通に考えてみろ、あんなに良い嫁は中々いないぞ。

頭はいいし気立てもいい、優しさもあって厳しさもある。

身体が弱いのは可哀想だけど、俺の能力があれば多少は楽にしてやれるしな」

 

「えらい高評価じゃない。

でも確かにそうね、そういう面で言えばアトラスさんも良妻候補ね。

あんなパーフェクトな人材、私は見た事ないわよ?」

 

「でもアトラス先輩は俺の事を弟って感覚で見てるっぽいから、嫁となったら望み薄だろうなぁ…スカーレット家命だし」

 

「そんなもんなの?」

 

「そんなもんなの」

 

「と、もう図書館に着いたか」

 

どうやら話が弾み過ぎたため、図書館に到着したのを気づいていなかったらしい。

とりあえず図書館の扉を開けると、いつものように専用の机に座って読書をしているパチュリーと、その横で静かに佇んでいる小悪魔がいた。

 

「あっ、なんの用よゲロカス野郎」

 

「いきなりな挨拶だなおい」

 

「コラ、口が悪いわよ小悪魔」

 

出会い頭の罵倒を聞いたパチュリーは、あまりの口の悪さを注意する。

小悪魔も、さすがに言いすぎたと思ったのか、パチュリーに向かって謝る。

 

「ごめんなさい、パチュリー様……」

 

「はぁ…私じゃなくて恭介に謝るべきでしょ? まぁいいわ。

それで、恭介とミスティアは朝食を持ってきてくれたの?」

 

「おう、すげぇ美味かったから期待して食べてくれよな」

 

パチュリーわ微笑みながら頷くと、椅子から立ち上がり恭介達に向かって歩いてきた。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

「フランって子のところに向かうの?」

 

「あら、ミスティアも知ってたのね」

 

「咲夜から話には聞いてたからね」

 

「なるほどね…小悪魔も行くわよ」

 

その言葉に反応し、パチュリーの横に付き従う。

やはり契約者には絶対の服従を誓っているらしいが、本人も満足しているのを見ると、お互いに文句のない関係らしい。

 

「フランは地下にいるわ、貴方達も一緒に行くのだろうから先に注意しておくけど……くれぐれも、自分が強い存在だというようにアピールしないでちょうだい」

 

「なんかあるのか?」

 

パチュリーのただならぬ雰囲気に、聞き返したのだが、その答えは更に恭介とミスティアを驚愕させた。

 

「下手をすれば殺されるからよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

地下室は図書館からあまり離れてはいない。

これは、暴れ出す事のあるフランをパチュリーの魔法で抑えつける為にそうされたらしい。

 

「ここが地下室?」

 

「結構暗いな…妹様ってのは暗くて狭い所が安心するタイプなのか?」

 

「それよりも、そろそろ扉を開けるので注意して下さいね」

 

パチュリーと小悪魔の対応は、まるで猛獣を管理しているように見えた恭介は、どこか寂しい気持ちになった。

 

コンコンッ

 

「妹様ぁー、朝食の用意が出来ましたー、今日は一緒に食べるって約束してたので、入りますよー」

 

「はーい!」

 

扉の向こうから元気な声が聞こえてきたと思ったら、壊れんばかりの勢いで扉を開け放った女の子が中から現れた。

 

「おはよう!パチュリー、小悪魔!」

 

「おはよう、フラン」

 

「おはようございます、妹様」

 

笑顔で挨拶をしているフランドールはパチュリー達の後ろに控えている二人に目をつけた。

 

「あっ、貴方達がお姉様の言ってた新人ね!

名前はなんて言うの?」

 

「神城 恭介って言います、フランドール様」

 

「私はミスティア・ローレライと言います」

 

「もーー! 敬語なんて使わないで楽に話してよぉ! そんな話し方されても肩が凝るだけだよ? あ、私の名前はフランドール・スカーレットだよ!」

 

プクーっと頬を膨らませるフランドールは、本当にレミリアの妹なんだなぁ…と思わせられる。

 

「ま、いいわ! 今から気をつけてくれれば良いだけなんだから!

ほらっ、入って入って!」

 

催促された四人は、大人しく部屋に入っていった。

 

「すげぇ、何この部屋…」

 

「地下室なのに滅茶苦茶充実してるわね…」

 

二人の目に映るのは、絵本などが飾られた本土なや、豪奢なベットには大量のぬいぐるみが所狭しと置かれている。

 

「えへへ〜、凄いでしょ私の部屋ー」

 

「こりゃ引き篭もりたくなる気持ちも分かるわね…」

 

「むー!私だってトイレのときは外に出るよー!」

 

「充分引き篭もりだよ!」

 

フランドールの部屋にはある程度生活に必要な物の殆どが揃っていた。

家財道具一式はもちろんのこと、ぬいぐるみなどの愛玩道具、地下室なのでトイレや風呂などの水を使う物は置いてないが、まさにフランドールだけの為にあつらえられた部屋だった。

 

「まぁいいや! それよりその美味しそうなのはなぁに?」

 

「ホットケーキ作ったんだ、皆なで食べようと思ってな」

 

「恭介さんが作ったにしては美味しそうな匂いですからね」

 

「小悪魔?」

 

「ひぅっ、パチュリー様ぁ…」

 

非常に楽しい雰囲気になってきたところで、とりあえず食卓につく事にした。

円形の机に5人で座ると、恭介とミスティアは全員分のホットケーキを配り始める。

 

「これ、フランドール嬢の分な」

 

「美味しそう……ジュルリ」

 

「これがパチュリーの分な、糖分控えめだから安心して食っていいぞ」

 

「あら、嬉しい気遣いね、甘いものはちょっと苦手だったの」

 

最後に恭介は自分のを机に置いていつでも食べられるようにする。

 

「はい、小悪魔さん」

 

「いい匂いですね〜…ありがとうございます、ミスティアさん」

 

「で、これが私の分…あと、トッピングの素材も持って来たから自由に使ってちょうだいね」

 

テーブルに並べられていく様々な食材、チョコやホイップクリームなどが出てくる度に、フランドールは目を輝かせていた。

 

「んじゃま、いただきま〜す」

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

各々が一口食べてから好き好きのトッピングを始める。

フランドールは甘々に、小悪魔はホイップを中心としたクリームミーな仕上がりに、 ミスティアはバターと蜂蜜のみのオーソドックスなタイプ、パチュリーと恭介は甘いのが苦手なのでバターのみで食べる。

みんなそれぞれ個性の出るトッピングをしているが、一口食べた感想は同じもの。

 

「フワッフワだね、咲夜のよりも好きかも!」

 

「言ってた通り甘さも控えめだし、これは素直に美味しいって言えるわね」

 

「流石ミスティアさんです!」

 

「恭介が作ったんだけどね」

 

「……美味しいってのは認めてやります…」

 

どうやら気に入ってもらえたらしく、全員がモグモグと食べきってしまうのに、そう時間はかからなかった。

無事に小悪魔とフランドールの心を掴んだ恭介特性ホットケーキを食べ終えたところで、恭介が話を切り出した。

 

「フランドール嬢ってさ、どんな能力を持ってるんだ?」

 

「私はねー『ありとあらゆる物を破壊出来る程度の能力』だよー」

 

あまりの強大な能力に驚愕を隠せない恭介とミスティア、とんでもなく強い能力とは予想していたのだが、まさかここまでだとは思っていなかったらしい。

 

「……とんでもない能力だな…」

 

「あっでもね、破壊出来ない物もちゃんとあるんだよ」

 

「例えば?」

 

「大き過ぎるものとかー、目に見えないものかなー?」

 

「あれか? 幻想郷とか、心は破壊出来ないって感じか」

 

「そんな感じかなー、でも人間くらいなら簡単に破壊出来るよ」

 

「うへぇ…フランドール嬢が味方でよかったよ…」

 

「でもね? 破壊するのにも体力いるし、大きさとかによっては時間もかかるからさー、あんまりやりたくないんだー」

 

やはり能力というのは相応のデメリットがあるのかもしれない。

恭介の場合は過剰な使用による死。

フランドールの場合はデメリットというよりも制限や条件と言うべきなのだろうが、それでもメリットにはなりえない部分があるようだ。

 

「なるほどね…俺の能力みたいに条件があるのか…」

 

「神城の能力ってなぁに?」

 

「あぁ、俺のはな…」

 

恭介が自分の能力を語りだすと、フランドールはそれをワクワクしながら聞いていた。

パチュリーはフランドールが変な気を起こさないかとハラハラしていたのだが……

 

「すごい! ねぇねぇ、私に使うとどうなるんだろう!」

 

「はぁ…やっぱりそう来るのね……

フラン、恭介の能力は使い過ぎると体への負担が大きいのよ、下手をすれば死んでしまう程にね」

 

「そっかぁ…じゃあしょうがないねー」

 

パチュリーから聞いていた印象とは違うフランドールの反応は、恭介にとっては素直な良い子であり、とても好ましいものだった。

 

「ごめんな、パチュリーが俺のために魔法を開発してくれてるからさ、それが終わったら…な」

 

「む〜、でもしょうがないよね、わかったよ!」

 

やはり素直に納得してくれるフランドール、レミリアに似て優しいのだろう。

引きこもっている理由は聞きにくいかったので、勝手に『外で嫌な事があった』のだろうと思っていたのだが、この様子なら心配いらなさそうだ。

と、そこでミスティアが話を切り出した。

 

「レミリアとの姉妹中はどうなの?」

 

「お姉様? 大好きだよー! この地下室もお姉様が色々揃えてくれたんだよ!」

 

「あー、妹には更に甘々なのか…レミリアらしいわね…」

 

「この前もね、私が外に出たい! って言ったら『準備するからもうちょっと待ってなさい』って約束してくれたの!」

 

「準備って……外に出れない理由でもあるの?」

 

相変わらずミスティアはズバズバと切り込んでいく、こういうところが頼もしい反面、いつか損をするのではないかと恭介はハラハラしている。

 

「うん、私達吸血鬼は陽の光に弱いから日傘がいるの。

それでも安心は出来ないから、お姉様が何とかしてくれるんだって!

でも、お姉様は凄いんだよ! 少しなら陽の光を浴びても大丈夫らしいの!」

 

「あぁ、その事なんだけど、後でレミリアからみんなに話があるらしいのよ。

私は既に聞いて了承しているのだけど……多少、人間にとっては良くない環境になるのよ、幻想郷全体がね。

紅魔館にいる限りは私が障壁を張るから大丈夫なんだけど……」

 

パチュリーはそこまで言うと、遠慮がちに恭介を見た。

人間に迷惑がかかる…という時点で恭介が了承する訳がない。

 

「まぁ確実な回答はキチンと聞かなきゃ答えられないけど、この館の住民がそれで幸せになるなら協力するぞ?」

 

「………人間にも迷惑がかかるのよ?」

 

「別に問題ないな、冷たいかもしれないけど

俺にとっては関係ない人達を一々気遣ってたら何にも出来ないしな。

俺は何処ぞの物語の主人公とか、正義の味方じゃないんだ。

身内が助かるなら俺はそれを全力でサポートする、今回はフランドール嬢のためにやるんだろ? 死人が出るとかなら反対するかもだけど、そうじゃないなら俺は気にしない」

 

恭介の反応はパチュリーだけじゃなく、ミスティアや、仲の悪いはずの小悪魔ですら予想外だった。

紅魔館の住人全てが恭介は優しい男だと何処かで認識していたからこそ、余りにも冷たい恭介の人間的な反応に驚愕していた。

ミスティアは今まで想像していた恭介との違いに、思わず聞いてしまった。

 

「もし、だけどさ……紅魔館と他の幻想郷の住民どちらかが滅ぶってなったら、恭介はどっちを選ぶの?」

 

死人が出るなら反対する、恭介はそう言っていた。

紅魔館の住人は妖精メイドを含めても50人に届かない、幻想郷の住民は無数に存在している。

その条件でなら恭介はどう答えるのか、どうしても気になっていしまった。

 

「え、紅魔館以外に選択肢なくね?」

 

「他の住民は全員死ぬのよ?」

 

「いや、紅魔館の住民が滅ぶくらいなら、俺は他の幻想郷住民を絶滅させたとしても、反省も悔いもないね。

むしろ、幻想郷が紅魔館に喧嘩を売ってくるなら、俺がレミリアに能力使って先に幻想郷を滅ぼしてもらうさ」

 

不謹慎かもしれないが、ここに居る全員が嬉しくなってしまった。

恭介から向けられるものは、歪んでいるのかもしれないが、確かに愛を感じられた。

 

「素敵! 素敵素敵素敵素敵素敵!!

いい! いいわね神城! いいえ、私は貴方を本当の家族にしたいわ! 今からあなたの事を

恭介と呼び捨てにする!」

 

「お、おぉう…そんなに食いつかれるとは思ってなかったな」

 

「でも、私とお姉様の声が似てるから間違えるといけないね! じゃあ私はあなたの事を

『恭』と呼ぶわね! 恭には『狂気』を感じられた、だから『恭』! 『狂』でもあるあなたにぴったりな呼び名ね!」

 

「おっ! 俺が狂気かどうかは分からんけど、その呼び名は気に入ったぞ、俺もフランドール嬢じゃ長いからフラン嬢って呼ぼうかな」

 

興奮が冷めないフランドールに、いたって普通の反応をする恭介。

彼等はきっと何処かが壊れているのかもしれない……ならば、完全に壊れないためにも、私達が守らなければいけないと、ミスティア、パチュリー、小悪魔の心は一つになった。

 

「恭介が了承なら、この計画はすぐに実行できる。

博麗の巫女はきっとここに攻めてくる、それでもあなたは構わないのね?」

 

「あぁ、説明会なんていらないくらいにな。

レミリア嬢に伝えといてくれよパチュリー

……『神城 恭介は紅魔館の仲間』だってな」

 

 

 

次の日、幻想郷は赤い霧に包まれた。

陽の光が届かない程の濃い霧に……

 

 

 




フランちゃんがそんなに狂ってる感じじゃないのはわざとですけど、彼女はちゃんと狂ってますよ。

みすちーの告白……いいですね〜、恭介爆死しろ! と言いたいですけど、愛の告白ではありませんね〜。

次回から異変に入ります。
恭介が加わった事で、異変や異変の終わりがどう変化するのかを温かく見守ってあげて下さいな。

ではまた次回! (・ω・)ノ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話・接敵

接敵です、そのままですね。

さぁ頑張れ1ボスよ


 

 

 

 

紅魔館の食堂は広い、それ故に色々な会議などに使われる事も多い。

現在、食堂にはレミリアを筆頭に数人の妖精メイド以外の全てが集まっていた。

 

「さて、既に全員聞いているだろうが…我が紅魔館はフランドールや私が外でも自由に行動出来るよう、幻想郷中に赤い霧を蔓延させた。

これは私の魔力で出来ている、それ故に今の私はかなり力が衰えている」

 

今日のレミリアはカリスマ状態だったので、威圧感も半端ない事になっている。

レミリアの言葉に続く形で、後ろに控えていたアトラスが口を開いた。

 

「斥候に放っていた妖精達からの連絡によると、どうやら近日中に博麗の巫女が動き出すとの情報が入りました。 シッカ、皆さんに説明を」

 

「はい、現在分かっている情報では、博麗の巫女の他に魔法使いが同行するようです。

二人の容姿は、博麗の巫女が赤と白の巫女服で、魔法使いの方が黒のベストにスカート、その上に白のエプロンドレスを着用しています」

 

「魔法使い……ね…」

 

「燃えてるわね、パチェ?」

 

「異変の解決者が私と同じ魔法使いとはね……どちらが魔法使いとして格上なのか知らしめるのも悪くはないわね」

 

普段静かなパチュリーが珍しく燃えている。

小悪魔でも中々見ない姿なのか、驚いた表情をしている。

 

「ではそれぞれに役割を設けるわ。

リプト、ルーミアの両名は妖怪の森上空において、可能なら迎撃してちょうだい。

弾幕ごっこをしかけてくる筈だから、殺してはダメよ」

 

「了解ですよ?」

 

「わかったのだー」

 

防御担当のリプトと攻撃担当のルーミア。

両者共に門番を生業としているため、防衛戦いにおいては実力以上の力を発揮してくれるだろう。

 

「次は正門前で美鈴、椛の二人で相手をしなさい。

貴女達の技量とスピードなら倒す事も可能な筈よ、もしも負けたときは比較的軽傷な方が魔法使いをパチュリーの元に案内しなさい」

 

「わかりました」

 

「了解であります」

 

中国拳法の使い手と地上最速の天狗。

双方共に地上戦での実力の一部はレミリアですら舌を捲く程の能力を有している対地上戦での技巧派タッグ。

 

「パチュリーは魔法使いに接敵したらそこで潰しなさい、殺しさえしなければ五体満足でなくなっても構わないわ。

もしもの場合に備えて、小悪魔と恭介はパチュリーのサポートに回りなさい」

 

「あらレミィ、もしもの場合があると思うの?」

 

「私が言っているのは体調の事よ…貴女が最強の魔法使いだって事は親友の私が一番分かっているわ」

 

「なら、その信頼に応えてあげましょう?」

 

「私もパチュリー様のために頑張ります!」

 

「俺は二人のサポートだな、能力の使用は30ずつ分ける事にするけど、レミリア嬢も必要か?」

 

「大丈夫よ、私のにはアトラスがいるからね」

 

「なるほど、なら安心だな」

 

パチュリー、小悪魔の魔法タッグに加えて、紅魔館における最上級の魔力タンクである恭介の組み合わせは、どんな相手だろうと抜く事は出来ないだろう。

 

「そして咲夜、貴女はエントランスで迎撃よ。

巫女一人だけなら貴女一人で充分事足りるでしょう?」

 

「お任せください、アトラスの元まで辿り着く事すら巫女達には許しません」

 

「よし、任せるぞ」

 

一対一の戦いで咲夜に勝てる人間は恐らく存在しない。

博麗の巫女が咲夜を突破するためには時間を操る必要があるのだから。

 

「アトラス、ミスティア」

 

「はい」

 

「ここで私?」

 

「そうよ、だけどミスティアの場合は戦わなくていいわ。

その代わりにフランを抑え込むのを手伝って欲しいの、頼めるかしら?」

 

「いいけど…私じゃ殆ど役に立たないわよ?」

 

「いいの、私に見せたファイティングスピリットがあれば大丈夫よ。フランも落ち着いてるしね」

 

ミスティアに託されたのはフランの護衛、ある意味これが一番キツい仕事かもしれないがあの試験から、レミリアはミスティアに対してある種の尊敬の念を抱いている。

 

「アトラスは私の部屋で私と共に待機してもらう。

二段階目までの使用を許可するが、もしも巫女を殺すような事になりそうだったら、そのときは私が直接止めるから安心しなさい」

 

「わかりました。

ですが、なるべくならば使いたくはないのでそこは承知していただいたもよろしいですか?」

 

「はぁ……私はもう気にしてないのに…わかったわ、でも負けそうになるようだったら容赦なく使用しなさい」

 

「かしこまりました」

 

言うまでもなく高い実力と、未知の形態を隠し持っているアトラス。

普段は優しい彼女だが、もしも誰かが再起不能に陥るような事があれば、博麗の巫女はが明日の朝日は拝めないだろう。

例え、レミリアが制止を呼び掛けたとしても……

 

「お姉様! 私は私は!?」

 

「フランには悪いけど、貴女が戦うのは最後の最後、私達全員が負けた場合だけよ」

 

「えーーーー!! それじゃ私の出番がないじゃない!」

 

「フランの能力が強力すぎるからよ。

それに…フランにはなるべく戦って欲しくないのよ、あんまりお姉ちゃんを心配させないでね?」

 

「うぅ……お姉様にそんな事言われたら…わかったよぅ…」

 

渋々といった感じだが、一応は分かってくれたらしい。

そして、レミリアに指定された場所に向かうべく全員が席を立つ。

 

「ルーミアやリプトちゃんと次に会うのは巫女をぶちのめしてからになるのか」

 

「そうなりますねぇ…では旦那、ご武運を」

 

「おう、お互い頑張ろうな」

 

「お兄さん、次はもっとルーミア好みの肉々しい料理を頼むのだ。

確かに美味しかったけど、あれじゃあルーミアのおっぱいはバインバインにはなれないきがするのだ」

 

「じゃあ祝勝会に期待しててくれ、ギガウマ料理を振る舞ってやるさ」

 

「約束なのだ!」

 

「どうせならあっしも食べましょうかねぇ?」

 

「おう!」

 

こうして、ルーミアとリプトは妖怪の森に向かっていった。

他のメンバーは館にいるため、特に話すこともなくそれぞれ散っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

博麗神社…ここはそう呼ばれている幻想郷の要であり、対妖怪専門の武闘派巫女が住んでいる根城である。

 

「なによこの赤い霧、嫌な予感がプンプンするわ……面倒臭いわねぇ…」

 

縁側で茶を啜りながら独り言を続ける少女は脇の開いた紅白の巫女服に、大きな赤いリボンが特徴の『博麗の巫女』と呼ばれる『博麗 霊夢』その人だ。

妖怪討伐や異変解決を生業としているため、その実力は高く、弾幕ごっこで戦えば右に出るもの無しとさえ言われている強者。

 

「おーーい!霊夢ーーー!!」

 

「あぁ…うるさいのが来た……」

 

遠くの空から箒に跨がり飛んでくる少女は、黒いスカートにエプロンドレスを着た、いかにも魔女な格好をしている『霧雨 魔理沙』という、霊夢とは腐れ縁のような関係だった。

魔理沙は縁側の側に降り立つと、唐突に霊夢に質問した。

 

「この赤い霧なんだけどさ、霊夢はいつ解決しに行くんだ?」

 

「今から行ってもいいんだけど、いかんせん面倒臭くてね……どうも動く気が起きないのよ」

 

「霊夢が面倒臭がりなのは知ってるけどさ、人里にも被害が出てるらしいから早めに解決しないと、お前も困るんじゃないのか?」

 

「被害って?」

 

「作物への影響ってのもそうだけど、一番の問題は人間の体調が悪くなって、妖怪が活性化してるってとこだな」

 

「あぁ〜……面倒だけど、それなら動くしかないわねー…」

 

「この霧は高濃度の魔力と妖力が大量にばら撒かれてるって感じだぜ、それをここまで広範囲に広げられるって事は…こりゃ、相当ヤバい相手かもな」

 

相手は吸血鬼を筆頭とした正真正銘の化け物集団なのだが、それはまだこの二人は知らないこと。

 

「いつ動く?」

 

「あんたに合わせるわ…」

 

「はぁ…やる気ねぇなぁ…」

 

縁側で茶を啜っている様子にウンザリしていると、ついに霊夢が腰を上げた。

 

「でもま、人里に被害が出てるなら流石に動かないとね。

相手が強けりゃいい暇つぶしにもなるし…サクッと行きましょうかね?」

 

「そこは安心していいぜ。

この霧は魔力で出来てる、これだけの濃度を放ちつつ維持出来るなんてのは、相当な化け物に違いないな」

 

「あらそう、なら……満足出来そうね」

 

ゴキゴキと首を回しながら、霊夢は言い放つ。

 

「じゃあ行こうかしら、私の安眠を邪魔した不届き者を懲らしめる為にね」

 

「そこは嘘でも人里の為って言っとけよ…」

 

最短ルートである妖怪の森を突っ切る形で、己の勘と魔理沙の魔力探知に従い目的地を目指す。

ちなみに魔理沙は箒に跨ってとんでいるが、本人曰く『別に無くても飛べるけど、あった方が魔女っぽいだろ?』との事らしい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

妖怪の森上空。

博麗の巫女達を待ち受けるのは、小さな妖怪達。

彼女達の役目は時間稼ぎや防御ではなく、敵を撃滅する事にある。

 

リプトが長年の門番生活で培った敵意センサーに反応があった。

と言うよりも、何となく気配がするだけだが。

 

「来ましたよ? ルーミア」

 

「強いのかー?」

 

「戦ってみなければわかりませんけど…これは間違いなく強いですねぇ、しかも二人とも」

 

「うへぇ…面倒なのだ……」

 

やる気満々のリプトと、やる気はあるが面倒臭そうなルーミア。

両者両極端ではあるが、その顔に不安そうな表情は見られない。

 

しばらくすると、二人の目の前には妖精メイドからの情報と酷似した二人組が現れた。

 

「あんた達が異変の元凶? メンドイから早くこの鬱陶しい霧、消しなさいよ」

 

「出た出た、出ましたねぇ…偉そうな態度のダメ巫女が…縁側でお茶でも飲んでたらどうなんです?」

 

「ルーミア達はお前みたいな露出狂の為に、態々出張って来てやったのだ、負けるのが嫌だったらさっさと帰って欲しいのだ」

 

突然幕を開けたのは舌戦の荒らし、魔理沙はこの事態に目を白黒させていたが、お互いに引く気は無いし、譲る気もない。

 

「そこの白黒はどうするのだ? 帰ってトイレ行ってベッド入って寝るのがベストの選択肢だと思うのだ」

 

「あぁん? お前ら低級妖怪ってのは弱すぎて相手の力量すらわかんねぇのか?

あんまり生意気言うと黒焦げにするぜ?」

 

「どうやって? あっしがいる限りはダメージなんて通らないと思うんですがねぇ」

 

「いやいやいや…弾幕はパワーでやるもんだぜ?」

 

「弾幕はガードを固めて堅実に…が、私のモットーでしてねぇ」

 

「なら、そのガードとやらで耐え抜いてみせろよぉ!!」

 

その言葉と共に放たれる魔理沙の弾幕がリプトに向かって飛んでいくが、見えない何かに阻まれるように空中で四散した。

 

「この程度の実力ならあっし達で十分ですねぇ?」

 

「ルーミアはちょっとビビったのだ」

 

「そういう事は内に伏せておくものですよ?」

 

「………おい、何をした」

 

驚いた様子で語りかけてくる魔理沙は、目の前で起きた事がよくわからなかった。

霊夢も日を見開いている辺り、今のだけで終わると思っていたのだろう。

その証拠に霊夢は、余裕綽々といった様子で腕組みをしていたのだから。

 

「別に? 防いだだけですが?」

 

事もなさ気、といった様子のリプトを見て確信した……低級妖怪といって侮っていると痛い目を見ると。

 

「行くわよ魔理沙! こんな雑魚共相手に時間なんてかけてられないわ!」

 

「応!」

 

二人から放たれる大量の弾幕は、リプトとルーミアの正面に、見えないバリアが張ってあるようだった。

 

「余裕ですねぇ、簡単すぎて泣けてーーー」

 

「残念…ネタバレよ」

 

「は?ーーーーーがっ!」

 

霊夢が何かしたのか、リプトは後頭部に強烈な一撃を喰らい、思わず呻き声を上げてしまった。

 

「いっつー…何をしたのかはわかりませんが…どうやら正面から以外の攻撃方法があるらしいですねぇ…」

 

「リプト! 大丈夫なのか!?」

 

「まぁこれくらいなら、さすがにちょっとフラフラしますけどねぇ。

どうやら、防御を正面に集中させてるだけじゃダメみたいですねぇ…ならこれで…」

 

リプトはその場で、上下左右360度回転した。

もちろん魔理沙達にはその意味が分からず、そのまま弾幕を放ち始める。

 

パァン!パァン! と、弾幕が弾ける音が周囲に木霊すると、再び霊夢達は驚かされた。

 

「今度は全方位にバリアでも張ってんのかよ…卑怯だぜ、流石に…」

 

「でも、防御一辺倒の雑魚なんか、どうって事ないでしょう?」

 

「そりゃそうだ」

 

魔理沙は懐から六角形の何かを取り出すと、それをリプト達に構えた。

そこに魔力が収束されていくのを感じ取ったリプトは、それがスペルカードのキーだと判断したため、阻止する事にした。

 

「いくぜ!『恋符・マスター………」

 

「させませんよ! ーーールーミア!」

 

「合点なのだ!」

 

魔理沙のスペルカードを止めるべく、リプトの前に躍り出るルーミアはその両手から大量の弾幕を放つ。

しかし、防御が得意なのはリプトだけではない。

 

「まったく……いきなり大火力出そうとするから隙が大きくなるのよ」

 

「いや、悪りぃ悪りぃ。

ま、霊夢の結界のおかげで撃てるようになったんだけどな」

 

「結界!? リプトっ、防いぐのだ!!」

 

霊夢が展開した大きな結界の後ろで、魔理沙は不敵に笑う。

魔理沙はリプト達に先程の六角形の物体を向けると、スペルカードを抜いて宣言した。

 

「行くぜ!」

 

「ーーーーっあれはヤバいです! ルーミアはあっしの後ろに!」

 

「わ、わかったのだ!」

 

ルーミアの警告もあり咄嗟に壁を展開させるも、それすら無駄だと思えるような密度の魔力が六角形の物、八卦炉に集約されていく。

 

「『恋符』マスタァァ…スパァァク!!」

 

直径5メートルはあるだろうかという大きさの魔力砲は、リプト達を壁ごと飲み込んでいく。

そのまま暫く照射し続けると、ようやくスペルブレイクによりマスター・スパークの照射が終わった。

 

「……ふぅ、これくらいやれば大丈夫だろ。

行こうぜ、霊夢」

 

壁を破壊したためなのか、その爆発により土煙が発生し見えなくなっている。

死んではいないが無事ではないだろう…しかし、相手は妖怪なので気にしてはいない。

 

「魔理沙…油断しすぎよ? あいつら、ピンピンしてるじゃない」

 

「は?」

 

「ご明察…直撃ならヤバかったかもですけどねぇ? ガード越しならあの程度は防げますよ?」

 

マスター・スパークは魔理沙のスペルカードの中では最高クラスの攻撃力を持つ魔法でもあり、最も信用していた魔法でもある。

それが、ただの雑魚と見下していた低級妖怪に防がれた事がショックだった反面、はらわたが煮えくり返る思いでもあった。

 

「おい霊夢、あの壁担当は私がぶっ飛ばす…援護してくれ」

 

「はいはい、あんまり熱くなんないでよ?」

 

弾幕ごっこのルール上、一度ブレイクしたカードはその戦闘では二度と使えないため、事実上魔理沙がリプトを抜くのはマスター・スパーク以上の火力を誇る魔法を放つか、霊夢のような誘導弾を駆使するしか道は無い。

 

「リプトは人気者なのだ」

 

「いつの時代でも壁役は人気ものですからねぇ……ルーミアは弾幕を形成しつつ隙あらばあの魔法使いを落として下さい。

防御はあっしに任せてくれれば大丈夫なんで」

 

「わかったのだ、攻撃はルーミアに任せてくれれば大丈夫なのだ」

 

「いざとなれば『あの』スペルカードを使います」

 

「なら、こっちの勝ちは確定なのだ」

 

強気な態度を崩さないルーミアとリプト。

その様子を見ていた霊夢と魔理沙は、若干ずつだがイライラが募ってきていた。

 

「魔理沙、援護は全力でしてあげるから、あの雑魚共を完膚無きまでに叩き潰しなさい。

最悪、こっちも切り札を使うわよ」

 

「わかった、あの程度の壁なんか一撃で打ち抜いてやるぜ」

 

そんな二人の隙を突くように攻撃を始めたリプトとルーミアはいきなりトドメを刺しにいった。

 

「それでは行きますよ? 『壁潰・密室のつり天井』」

 

「ついでに行っとくのだ『月符・ムーンライト・レイ』」

 

霊夢と魔理沙の上下に、巨大な壁…というか、天井と床が出現した。

スペルカードの名前の通り、天井が徐々に二人を押し潰そうと迫ってくるので、左右に回避しようとするが、まるでそれを読んでいたかのように左右からはレーザー、正面から弾幕を放つルーミア。

 

「これはキツイな…後ろに逃げるぞ霊夢!」

 

「当たり前じゃない! いきなりこんはコンボ使って来るなんて聞いてないわよ!!」

 

二人は猛スピードで天井の範囲から抜けようと後退をすると…

 

ガンッ!!

 

「いってぇぇぇえ!!」

 

「いっつぅ…何が起こったのよ…」

 

まるで、見えない壁にぶつかったのか、鈍い音と共に後退が出来なくなった2人。

ギリギリで天井の範囲から抜け出せないため、2人に残された手段は一つしかない。

 

「魔理沙、天井は暫くは保たせるから…目の前の弾幕をなぎ払いなさい。

『魔砲』はまだ使うんじゃないわよ」

 

「あいよ! 『魔符・スターダストレヴァリエ』!!」

 

正面から迫る弾幕を止めるべく魔理沙が使ったスペルカードは、一撃必殺のマスター・スパークとは打って変わった大量の弾幕を正面に放つ魔法であり、その数はルーミアの弾幕よりも遥かに多い。

相殺するものもあれば、抜けてくる物も、そしてその逆で抜けていく物もある……だが、その程度の量ならばこの二人にとっては当たるはずもない。

 

「霊夢! これで抜けられるだろ!」

 

「上出来!!」

 

向かってくる弾幕を全てかい潜り、なんとか天井を抜ける事が出来た。

後ろを振り返ってみると、天井は閉じていた…かなりギリギリだったのを実感すると、二人の背中に、大量の冷や汗がブワッと出てきた。

 

「うへぇ…あれに挟まれてたら死んでたんじゃね?」

 

「こりゃ、多少は本気出さないと危ないかもね…」

 

「あぁ、安心していいのだ。

二人は殺すなってボスから言われてるから殺しはしないのだ」

 

ルーミアので、ついにイライラが頂点に達したのか、霊夢が突っ込んできた。

 

「あんたらねぇ…博麗の巫女舐めるのも大概にしなさいよ! 『夢境・二重大結界』!!」

 

霊夢を中心に上下左右から襲いかかってくる誘導型の弾幕、数もかなり多く避けるのは至難の技……しかし、リプトにとっては単発威力の低い攻撃は全く意味がない。

 

「ルーミア、周囲をガードします。

正面を開けておくので、あの白黒に強力なスペルカードを使わせないように撃ち続けてください」

 

「よし来たの……」

 

ズドドドド!

 

「あぐっ!」

 

「ルーミア!?」

 

ルーミアに何かが直撃したらしく、リプトに背中を預ける形で倒れこんでくる。

しかし、リプトは周囲のガードを固めているため満足に動く事が出来ない。

なんとかしようと考えても、正面からは何も飛んできていない…

 

 

「言ったでしょ? 博麗の巫女を舐めるなって」




ルーミアとリプトのロリペアですね、頑張ってもらいたいですが…勝てる気がしないよねw
まぁでも、中々いいペアだと思いますがねぇ?

弾幕ごっこは一対一の戦いだったはずですが…そんなの関係ねぇ!
タッグマッチがあってもいいじゃない!

感想待ってま〜す


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話・大火力VS大火力

タイトル付けに困ってきた作者です。

リプト、ルーミア同盟 VS 異変解決チーム
勝負の行方はCMの後で。


 

 

 

 

「ルーミア! ルーミアっ!」

 

「いつつ…何がどうなってるのだ…」

 

不可視の弾幕が直撃したが、なんとかこのまま戦闘を続けられそうではあった。

しかし、ダメージは大きいようなので先程までのような全力はだせないだろう。

 

「あら? 大切な攻撃担当がダメになっちゃたみたいね。

降参するなら許してあげるけど…どうする?」

 

「馬鹿も休み休み言ってくださいよ? 貴女方の攻撃が通じない以上、籠城戦をしていれば先に力尽きるのはそちらの方だと思うんですがねぇ。

それに、ルーミアはダメになんかなっちゃいませんよ? 次に仲間を侮辱したら後悔させてやりますから……そのつもりで」

 

「チッ、低級妖怪が調子に乗っちゃって……

わかったわ、私達が負けたらその子に謝ってあげるわよ」

 

「約束ですよ?」

 

リプトはニヤリと笑うと、小さな壁の弾丸を霊夢達に向けて射出する。

 

「うわっ、こりゃ当たったら痛そうだぜ…」

 

「当たらなきゃ痛くも痒くもないわよ」

 

解決チームの二人はそう言うだけあって、リプトの攻撃を全て躱しながらも、お返しとばかりに弾幕をリプトに放った。

 

「かかりましね? 『鏡壁・門番告げるは門前払い』」

 

スペルカードを発動したリプトの前には透明な壁が出現した。

霊夢達の放った弾幕が壁に直撃すると、その全てが反射し、逆に霊夢達に襲いかかってきた。

 

「なんだそりゃ!? 卑怯だぞ!!」

 

「ルーミア! ツラいでしょうが貴女もぶっ放してください!!」

 

「合点なのだ! 『闇符・ダークサイド・オブザ・ムーン』」

 

ルーミアはリプトの貼った防壁から飛び出すと同時にスペルカードを発動した。

前方に赤い弾幕を放つと、ルーミア自身の姿を一瞬だけ消し、現れては大きめの黄色い弾幕を全方位に放ち、また消えては赤い弾幕を放つという工程を繰り返して行う撹乱兼リプトのスペルカードを生かした、現状でもっとも霊夢達が嫌がるスペルカードだった。

 

「だぁぁぁあ!! 面倒くせぇぇえ!!」

 

「あの壁女が弾幕撃ってこないのはいいけど……っ! 3人分の弾幕は流石に避け辛いわね」

 

それでも躱す、そして反撃する。

撃った弾幕が跳ね返ってくるので手を止めても良いのだが、そうしたらそうしたで、また厄介なトラップでも仕掛けられたら堪ったものではない。

ジリ貧状態の霊夢と魔理沙は、ついにとある作戦に打って出ることにした。

 

(魔理沙、あんたは兎に角強烈な弾幕を撃ちなさい。 溜める時間は私が作るわ)

 

(わかった…けど、マスタースパーク以上の攻撃力なんて殆どないぜ? )

 

(その殆どってのを使いなさい……一つだけ、絶対にブチ抜けるスペルカードがあるでしょ?)

 

(こんなところで使うのかよ!?)

 

小声で話しながらも熱くなり始めている霊夢に辟易するが、確かにその方法しかない…と判断した魔理沙は、霊夢の後ろに隠れる形でスペルカードを取り出した。

 

「ちょっとチャージに時間がかかるから守っててくれよ!」

 

「はいはい、任されましたよっと」

 

霊夢は掌をルーミアに向けると、大きな結界を貼った。

スペルカードでも何でもないのだが、それはリプトの壁にも匹敵する程の防御力を誇っている。

その証拠に……

 

「リプト! 弾幕が全部防がれるのだ!」

 

「なるほど…デカいのが来ますねぇ。

ルーミアはあっしの後ろに下がってください……『吸壁・溜め込み過ぎに要注意』」

 

また別のスペルカードを発動するが、今度は弾幕が跳ね返って来ない。

むしろ、壁に当たるたびに小さな波紋を広げるよう溶けて消えていっている。

 

「ーーーまさか…魔理沙! 今直ぐそのスペカ止めなさい!」

 

「ここまで溜めちまったら止めれねぇよ!!

『邪恋・実りやすいマスタースパーク』!!」

 

八卦炉から極細の光線が放たれ、壁に当たったかと思えば、次の瞬間には先程のマスタースパークをも超える大きさの極光がリプトに向かって放たれた。

 

「うわっ、危ないのだ!」

 

射線上にいたルーミアはスペルを中断し、急いでマスタースパークの範囲外にまで逃げていった。

マスタースパークが吸壁に直撃すると、先程の弾幕と同じように波紋を広げながら消えてしまっている。

 

「くそっ! これでもブチ抜けないのかよ!?」

 

「魔理沙! 今直ぐ止めなさい! そのまま撃ち続けてたらこっちが不味くなるわ!」

 

霊夢の制止が効いたのか、マスタースパークの照射を止めるも時既に遅かったらしい。

 

「これだけ頂ければ十分ですねぇ…」

 

「はぁ? 何言ってーーーーーって、なんでお前がその魔力を!?」

 

「言ったでしょう? 『溜め込み過ぎに要注意』って。 お返ししますよ? 『邪恋・実りやすいマスタースパーク返し』!!」

 

吸壁からは、魔理沙のマスタースパークそっくり……どころか、それ以上の威力があるだろう、更に巨大になったマスタースパークが発射された。

 

「………くそっ…霊夢、5秒でいいから防いでくれ」

 

「それ以上は防げる自信無いわよ!」

 

魔理沙を守る為にマスタースパークを防ぐ結界を展開する。

電気が弾けるようなバチバチッ!! という音が周囲に響く、霊夢はかなりキツそうな顔をしているが、なんとか防げている。

 

しかし、霊夢と魔理沙はとんでもない失態を犯していた。

 

「ーーーーもしかして、ルーミアの事を忘れてるのか? 『闇符・ディマーケーション』」

 

結界の反対側から現れたルーミアはスペルカードを発動する。

自身を中心に全方位でばら撒かれる色とりどりの弾幕に紛れて、ある程度誘導性のある弾幕が魔理沙に向かって猛スピードで突っ込んでくる。

 

「こっちもっ!? ぐっ…くぅぅ……魔理、沙、まだ…なの?」

 

前方は大火力のマスタースパーク、後方からは連射性のディマーケーション。

相当キツイのだろうか、霊夢の顔が段々と歪んできた。

 

「よっしゃ、もういいぜ霊夢!! 後ろの奴の防御を頼むぜ!

『魔砲・ファイナルマスタースパーク』!!」

 

今までのどの攻撃よりも…それどころか、今まで見たことのないような攻撃は、一瞬にしてリプトのマスタースパークと一瞬だけ拮抗するが、まるで遮蔽物など無いかのような勢いで押し返し始める。

 

「……なんですか、そのデタラメな技…」

 

「リプト! 逃げるのだ!!」

 

「うん、こりゃ逃げられませんねぇ」

 

そのままリプトを飲み込むと体ごとマスタースパークをゆっくり回転させ、今度はルーミアに狙いを定めた。

 

「お前もブチ抜くぜぇぇぇえ!!」

 

「そ、それはシャレにならないのだ!」

 

回転してくる方向とは逆に飛んでいくと、ビタン! と霊夢が張っていた結界に衝突した。

 

「挟まれる気持ち、分かったかしら?」

 

「や、やめるのだ! そんなの当たったら死ぬのだ! ギャァァァァァア!!」

 

ジュッ

 

ルーミアを飲み込んだのを確認すると、魔理沙はやっとスペルカードの発動を止めた。

気を失ったのか、地面に向かって落ちていくルーミアを追いかけてキャッチすると、そのまま地面に降りていった。

 

「おっ、こっちも助かってたか」

 

「この壁女…デカい口叩くだけあって、マジで厄介だったわね。

魔理沙ならともかく、私とは相性最悪だわ…」

 

「だから言ってるだろ? 弾幕はパワーだってさ」

 

二人を回収してから地面に寝かせると、二人はこの戦いでの感想を述べ始めた。

雑魚と侮っていた相手にここまで追い詰められたのだ、珍しいタッグマッチ形式とはいえ、悔しいのには変わりない。

 

「でも、こんだけの奴等が最初って事はさ…

残りはどんな化け物がいるんだろうな……なんか、嫌になってきたぜ…」

 

「壁女の戦術にルーミアとかいう幼女のサポート、低級妖怪をここまでのものに仕立て上げる黒幕って……帰る?」

 

「…………あ〜、帰るなら帰ってくれて構いませんよ?」

 

「お? 起きたのか。 ついでに言うと、冗談だからな」

 

ぼんやりと目を開けたリプトが正直な気持ちを伝えるが、魔理沙にやんわりと断られた。

 

「いやはや、馬鹿みたいな威力でしたねぇ…何考えてあんな大量破壊奥義を作り出したんですか? 馬鹿ですか?」

 

「やっぱりそう思うわよね、私も初めて見たときは馬鹿だと思ったもの」

 

「あぁ? なんだよ二人して…もういいよ、行こうぜ霊夢」

 

「……あんた、先に上で待っててくれない?」

 

「は?」

 

「いいから、早く行ってなさい」

 

ちょっと強めの口調で言われたので大人しく従い、魔理沙は空高く飛んでいった。

霊夢が恥ずかしそうにモジモジしているので、怪訝に思ったリプトはとりあえず聞いてみることにした。

 

「なんですか? 敗者に情けはむようなんで、さっさっと行ってお嬢にボコられてください。

まぁ、お嬢まで辿り着けたらの話ですけど」

 

「いや…その……ルーミアって子はまだ寝てるから、代わりにあんたに伝えるんだけど……

ご、ごめんなさいって言っといて」

 

急に謝られるからなんだと思ったが、そう言えば戦闘中にそんな事を言っていた気もする。

 

「じゃ、じゃあ私も行くから」

 

「あ、待ってください」

 

飛び立とうとする霊夢を呼び止めると、案外素直に従ってくれた。

 

「どうでした?」

 

「何が?」

 

「私達は、強かったですか?」

 

「ええ、こんなに苦戦したのは久し振りだったわよ」

 

「キシシッ…そうですか……嬉しいことを言ってくれた貴女に助言しておきましょう。

あっし達の主は紅魔館にいます、場所は自分で探してください、では…あっしは眠くなってきたのでこのまま寝ます、それでは…」

 

リプトは小さく笑うと、そのままもう一度眠ってしまった。

その様子を見届けてから霊夢は飛び立つ。

まだ見ぬ敵は、恐らくこのペアよりも強いのだろう…

 

妖怪の森を抜け、先に空を飛んでいた魔理沙に近づくと聞かれて当然の事を聞かれた…聞かれたくなかったが。

 

「何してたんだ?」

 

「……言いたくない」

 

「いや、別にいいんだけどな」

 

「それより、壁子から聞いたんだけど…」

 

「壁子て……壁女よりはマシだけどよ、名前とか聞かなかったのか?」

 

黙り込んだ霊夢は、きっと名前を聞くことすら忘れていたのだろう。

 

「で、紅魔館って何処なのよ、知ってる?」

 

「……あぁ〜、もしかしてだけど、あの紅魔館か?」

 

「どの紅魔館かは知らないけど、多分その紅魔館よ」

 

明らかに嫌そうな顔をする魔理沙と、紅魔館の存在自体を知らない霊夢の反応は両極端な反応をしていた。

 

「で、嫌そうな顔してるけど、その紅魔館ってなんなの?」

 

「……吸血鬼」

 

「…………マジ?」

 

「マジ」

 

今度は二人して嫌そうな顔になる。

それもそのはず、吸血鬼と言えばその種族だと言うだけで妖怪の王を名乗ってもいいくらい力のある存在だった。

 

「あと、ヤバい狼がいるらしい」

 

「あぁ〜、ヤバい狼っていうと阿求に見せてもらった本に載ってたやつしか知らないけど…まさかの?」

 

「そのまさか」

 

阿求というのは人里に住んでいる、まぁ…知識人といった存在だ。非業の運命を持つ少女だが、とある方法により彼女の持つ知識は他を圧倒するほどのものになっている。

 

元来面倒臭がり屋の霊夢にとって、この異変ほどヤル気を削がれるものは中々無いだろう。

しかも相手があの伝説の妖怪である、霊夢でなくとも嫌な顔をするのは当然だった。

 

「でも、解決しないとまた参拝客が減るぜ?」

 

「そうなのよねぇ……別に生活には困ってないけど、賽銭箱がスッカラカンなのは勘弁してほしいのよね…」

 

博麗神社は割と僻地にあるので、なんの力も持たない一般人は滅多に訪れる事が無いため、賽銭箱に金を入れる殊勝な人間は殆どいないらしい。

異変を解決して人に感謝されれば賽銭が入るのではないか? というのが今回霊夢が動いた理由の一つでもある。

 

「あぁ! 博麗の巫女辞めて普通に生活とかしてみたい…」

 

「諦めろ霊夢、お前にはその脇が見える謎仕様の巫女服がお似合いだぜ」

 

「これって結構恥ずかしいのよ?」

 

「あ、そうなんだ…」

 

意外な事実が発覚したところで、二人は無駄話を止めて出発する事にした。

妖怪の森上空を飛んでいると、赤い霧の発生源であろうと確信できるくらい霧の濃い場所が見えてきた。

 

「あの湖の向こうの建物が紅魔館?」

 

「だな、明らかに元凶です! ってアピールしてるしな」

 

「はぁ…話し合いで解決したいわ…」

 

「無理なんだろうなぁ…」

 

相変わらず嫌そうな顔をしながら飛んでいると、不意に湖の方向から氷の弾丸が飛んできた。

スピードも大したことはなかったので避けるのは余裕だったが、テンションがガタ落ちしてるところに飛んできたので、ちょっと驚いたらしい。

 

「なんだ?」

 

「さぁ? 面倒くさいことになるのは確定ね」

 

とりあえずこのまま撃たれ続けるのも癪なので、湖に向けて飛んで行く事にする。

尚も飛んでくる氷の弾丸をスイスイ避けていると遠目にだが、妖精らしき姿を捉える事ができた。

 

「あれが犯人か?」

 

「まぁ明らかにあの妖精から飛んできてるわね」

 

そのままスイスイと飛んで行くと、ついに弾幕犯の前にやってきた。

遠目には気付けなかったが、どうやら二人いたらしく一人は氷の羽を持った水色の妖精、もう一人は虫のような羽を持った緑色の妖精がいた。

 

「キィィィィイ! なんであたいの弾幕が当たらないのよ!」

 

「や、やめようよチルノちゃん…怒らせちゃったら怖いよぅ…」

 

若干馬鹿っぽいのが弾幕を放ち続けるも、その悉くが躱され続けているのを見てなのか、気弱そうな妖精が馬鹿を止めようとしているようだ。

 

「いや、これくらいなら別に怒んねぇけど、鬱陶しいからそろそろやめてくれ」

 

「5秒以内に止めなかったら反撃するわよ。

はい、ご〜お」

 

バンバン!

 

「よ〜ん」

 

ズドドドド!

 

「さ〜ん」

 

キラキラ☆ミ

 

「に〜い」

 

ドンドンドン!

 

「い〜ち」

 

ズダダダダダッ!

 

「ぜ〜ろ!」

 

ピタっ……

 

まさかのジャストタイミングで攻撃の手を止めてきたので、約束した手前、何となく反撃するのを躊躇われた。

 

「や〜いバーカ、バーカ! 5秒で止めたぞ文句あるか〜」

 

「チルノちゃ〜ん、やめようよぉ…」

 

まさか煽られるとは思っていなかったので、霊夢と魔理沙のイライラが一気に頂点まで達した。

 

「殺りなさい、魔理沙」

 

「『恋符・マスタースパーク』」

 

「「あぁぁぁぁぁあ!!」」

 

何故か止めに入っていた緑の妖精までも焼き払い、魔理沙は満足そうな表情をしていた。

 

「これで平和になるな」

 

「よくやったわ」

 

とりあえず妖精の事は忘れるとして……湖に来てから気付いた事だが、紅魔館というのはどうやら目と鼻の先にあるらしい。

館の周りは特に濃い霧に包まれているのか、肉眼では館の姿を捉えるのすら無理そうだ。

 

「魔理沙から見て、この霧の魔力はどうなの?」

 

「規格外、化け物、帰りたい」

 

「真面目に言うと?」

 

「こんな濃い魔力を拡散し続けられる時点で化け物なのは確定だな。

ファイナルマスパ何発分だよって魔力の量だな」

 

ファイナルマスパとは、先ほどリプトに使った『魔砲・ファイナルマスタースパーク』の事である。

これは厳密に言うと、スペルカードでは無く、その上位に位置付けられるラストスペルという、俗に言う必殺技のようなものだ。

 

「タイマンで勝てる自信ってある?」

 

「無い、ありえない。二人がかりでも無理そう」

 

「……私は魔力じゃなくて霊力を使うから、そっち方面には疎いけど…無理じゃない?」

 

「こりゃ、普通の吸血鬼なんかじゃ手も足も出ないくらい上位の吸血鬼だろうな。

はっきり言って、実力なら魔神とかにも匹敵するんじゃないか? 予想だけど」

 

「話し合い……出来るかなぁ…」

 

「出来るといいなぁ…」

 

黄昏る二人を嘲笑うかのような霧がその力を物語っている。

余程嫌になったのか、湖のほとりで体操座りを始め出した。

 

「まぁ…一応行ってみるか…」

 

「話し合いで済めば良いだけの話だもんね…」

 

ゴリゴリ削られていくテンション……二人の顔には死相が漂っている。

魔力のエキスパートである魔法使いの太鼓判も押されているのだ、もし戦うことになれば無事では済まないだろう。

魔神級の吸血鬼に、吸血鬼を圧倒する事ができる狼の妖怪……理不尽にもほどがある。

 

「むしろここからファイナルマスパ撃って終わらないかしら?」

 

「なんか、それやったらマジで殺される気しかしないからやめようぜ」

 

「ですよね〜……と、冗談だったらよかった冗談は置いといて、そろそろ行くわよ」

 

「ヤル気だねぇ…流石は巫女様ってところか?」

 

「一応は私も最強格って言われてる一人だからね、プライドの問題よ」

 

 

立ち上がり飛び立つ二人に待ち構えるのは、地上最速の白狼天狗と中国拳法の使い手…肉弾戦ならばまず勝てる要素の見つからない相手だが、それは戦ってみなければ分からない。

霊夢達はこれから待ち受ける敵の正体以外は何も知らない……目的も、意図も、何も知らない。

 

 

 




負けちゃいましたね、流石に。
でも、1ボスにしてはかなり頑張ったんだと思いますよ。

リプトとルーミアの実力については、リプトの方が圧倒的に上ですね。
長年門番をやっているのですから戦闘経験の差がありありと出ていますからね。
美鈴と比べると、相性の関係で美鈴に勝ち目が無いです
パンチ→壁→ガンッ!→超痛い
ですから。

チルノ達は……あんなもんでしょう。
好きなキャラだからもうちょっと活躍させてあげたかったけど…

ではまた次回 ( ´ ▽ ` )ノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話・魔法使い

霊夢達の嫌々感がすごいですが…まぁ、相手の嫌な情報ばかり入ってきたらそうなりますわな。

では、どうぞ


 

 

 

チルノ撃破後に黄昏ていた霊夢達だが、やっとこさ重すぎる腰を上げて紅魔館を目指すために飛び始める。

やる気が削がれているためか、妖怪の森上空でリプト、ルーミアペアと戦ったときと比べて格段にテンションが低い。

 

「……なんか霧以外見えなくなってきた」

 

「……まぁこの先真っ直ぐ進めば良いんじゃね?」

 

「そうね……Uターンって手もありね」

 

「霊夢さん? 人の話聞いてました?」

 

別に負けるから行きたくないという訳ではなく、勝っても負けても辛い戦いになるのが目に見えているから行きたくないというのが、二人の本音。

しばらくフワフワ飛んでいると、ボンヤリだが大きな建築物が見えてきた。

 

「あれが紅魔館?」

 

「だろうな、赤すぎて目に悪そうだし」

 

「なんか下に門番的なのがいるけど…無視しても良いわよね」

 

「アリだな」

 

下の二人にバレないように上からこっそり抜けようと飛んでいると…

 

「待て、霊夢……ダメだこりゃ、侵入出来ないように結界が張ってある」

 

「あんたも魔法使いでしょ? 破れないの?」

 

「無理だな、どうやらこの紅魔館には私よりもよっぽど腕のたつ魔法使いもいるらしい」

 

魔力を察知した魔理沙が急に制止をかけたが

本当に入れないのか試してみるべく、霊夢は取り敢えずお札を投げてみる。

 

「ほいっと」

 

シュボッ!

 

「うわぁ……触ったら黒焦げになってるとこだったわね…」

 

「はぁ…理不尽が3人に増えたのかよ…」

 

もちろんそれは、レミリア、アトラス、パチュリーの事だが、本来ならその理不尽の中にフランドールまで混じっているので、この紅魔館の戦力は明らかに異常を通り越してバグのようなレベルになっていた。

 

「門番をなんとかしないと、中に入れさせてもらえないって事だな」

 

「面倒ね…でも、仕方ないのよね……」

 

溜息を吐きつつも地面に降りる霊夢と魔理沙の前には二人の門番がいた。

一人は山伏のような衣装を着ている事から、恐らくは天狗だとよそうされる…何故こんなところにいるのかは分からない。

もう一人はチャイナドレスを着ている謎の妖怪、明らかに接近戦に強そうなのは見た目から判断できる。

 

「貴女が博麗の巫女ですか?」

 

「そうよ」

 

「ならばここを通すわけにはいきません」

 

「そりゃ私だって通りたくないけど、あんた達が余計な事するからこうして出向いてやってるんでしょ?」

 

「聞く耳持ちません、覚悟して下さい」

 

拳を構える美鈴と剣を抜いた椛。

どの様な戦い方をするのか分からない以上、魔理沙は警戒しなければならないが、霊夢はなんとなく地上で戦うべきではないと判断した。

 

「魔理沙、地上で戦うのは得策じゃない気がするわ」

 

「勘?」

 

「勘」

 

「じゃあ地上で戦うのは止めとくか」

 

霊夢の勘はよく当たる。 それも的中率が異様に高いらしく、何度か戦ったことのある魔理沙から言わせてもらえば、それは未来予知とも言えるレベルらしい。

一気に高度を上げて二人から距離をとると、やはり正解だったのか美鈴や椛の顔が若干歪んでいる。

 

「椛、私が巫女達を叩き落とすので、地上で叩っ斬って」

 

「了解であります」

 

椛からの了解がとれた事を確認した美鈴は一気に飛び上がる。

しかし、一気にとはいっても元々飛ぶのが苦手な美鈴では飛行速度もそこまで早くはないので……

 

「おい霊夢、アレって撃ち落としてもいいんだよな」

 

「そうねぇ…多分、私達を撃ち落として地上戦に持ち込みたいんでしょうけど、それをするとさっきの相手よりも厄介になりそうだから……」

 

「ガンメタ張って近づけさせないのが一番だな」

 

「そゆこと」

 

飛んでくる美鈴に対して二人は、相手の作戦通りにはさせまいと弾幕を形成する。

色取り取りの弾幕の中には札や針も混じっている上に、霊夢の誘導型霊力弾も混じっているので非常に避けにくい。

 

「あっ、ちょっ、避けきれない! 助けて椛! ぐへっ!」

 

「………」

 

気合を入れて飛び出して行った割にはズタボロにされている哀れな先輩を、ボーっと見つめる椛の目は心なしか死んでいた。

霊夢と魔理沙も面白くなって来たのか、弾幕の密度を濃くすると、更に美鈴の被弾が増えていった。

 

「ぐほっ、へぐっ、ひぎゃぁぁぁあ!!」

 

「うひゃひゃひゃひゃ!! やべっ、超楽しいんだけど!」

 

「……私はそろそろ良心の呵責に耐えられなくなってきたわ…」

 

被弾してない場所は無いんじゃないかというくらいボロボロにされた美鈴は、ついに耐えられなくなったのか地上に落下していった。

 

「ーーーーはっ! 美鈴殿!」

 

放心状態だった椛が美鈴の落下予定地点に移動する。

しかし、魔理沙という悪魔がその行動を予測していたようにスペルカードを構えた。

 

「……私、魔理沙と友達やめようかな…」

 

「『恋符・マスタースパーク』!!」

 

魔理沙の放った極光が、落下中の美鈴を飲み込むと、ついでと言わんばかりに待機中だった椛も巻き込み、地表に激突し大きな爆音と共にクレーターを作り上げた。

 

「ふぅ…超スッキリ」

 

「あんた、魔女じゃなくて悪魔の類でしょ」

 

美鈴は明らかにオーバーキル、椛の無事は分からないがマスタースパークの直撃を食らっているため、まず無事には済んでいないだろう。

門番の撃破を確認した二人はゆるゆると地上に降りていく。

 

「なんか今回は楽勝だったな」

 

「違うわよ、さっきの二人…というか壁女の能力と弾幕ごっこのルールが相性良すぎるのよ、こりゃ多少は改変した方が良いかもね……とまぁ普通はこんな感じで終わるのが常なのよ」

 

「それもそうか」

 

地面に降りた二人は普通に歩いて門を潜り抜けると、魔理沙の背中に軽い衝撃が走った。

 

「あん?」

 

「……油断しましたね、拙者にあのような見え見えの攻撃が当たるとでも?」

 

後ろを向くとそこには、先ほどマスタースパークで焼き払ったはずの椛が立っていた。

片手をこちらに向けている事から、おそらくは軽い妖力弾をぶつけてきたのだろうが、それ以上の攻撃はしてこなかった。

 

「へぇ…あの位置からの攻撃を避けたのか、下っ端天狗のくせにやるじゃないか」

 

「下っ端と言えど天狗は天狗、速さという観点において拙者達天狗の右に出る生物など存在しないのであります…………レミリア殿はカウントしませんが(ボソボソ)」

 

最後の方は小声だったので聞き取り辛かったが、魔理沙にとってはその前の台詞に納得出来なかった。

 

「いやいや、幻想郷最速は私だから」

 

「いえいえ、幻想郷最速は文様であります」

 

「いやいや、少なくともお前よりは速いから」

 

「何を馬鹿な、貴女ごときに負ける拙者ではありませんよ」

 

「あんだと?」

 

「なんでありますか」

 

霊夢を放置して謎の速さ自慢が始まる。

二人の争いは次第にヒートアップしていき、ついには駆けっこで勝敗を決める事になったらしい。

 

「ここから約100m、先に着いた方が勝ちだ」

 

「いいでありますよ? でも拙者が勝っても特別に館の中には入れてあげるでありますよ、さすがに駆けっこで帰らされるのも恥ずかしいでありましょう? プププ」

 

「吠え面かかせてやるぜぇ……霊夢、 大体100mくらいの位置に立っててくれ! お前がどっちが速かったか決めろ!」

 

「えぇ…正直めんど……」

 

「「早く」」

 

「………はぁ、分かったわよ」

 

霊夢が移動を開始すると、魔理沙は地面に一本の線を引いた。

恐らくはそれがスタートラインなのだろう、椛はそこに合わせるようにクラウチングスタートの姿勢をとる。

魔理沙は地面から少しだけ浮いて箒に跨る。

 

「いくわよ〜!」

 

遠くから霊夢の声が聞こえてきた。

 

「位置について〜…」

 

魔理沙は箒をより強く固定するために手に力を、椛は地面をより力強く蹴るために足に力を入れる。

 

「よ〜い……」

 

相手の目を一瞬だけ睨むと、お互いにその目がバッチリ合う。

魔理沙からの『テメェにだけは負けねぇ』という意思と、椛の『ブッ潰す』という想いが交差する。

 

「ドンッ!」

 

「ーーーふっ!」

 

凄まじいスタートダッシュと共に先頭に躍り出たのは椛だった。

魔理沙もそれに続く形で発進したのだが、この100mという距離が、魔理沙の負けを濃厚にさせていた。

 

クソッ! なんだこの天狗、速いなんてもんじゃねぇ! スタートの一瞬だけでもう追いつけなくなりやがった! (ここまで0.1秒)

 

ふっ、空中ならいざ知らず…地上で拙者以上に速い生き物なんて存在しな……レミリア殿とアトラス殿は除くでありますが、存在しないであります (ここまで0.1秒)

 

勝負は一瞬だった。

霊夢の掛け声が終わった直後には椛が目の前に立っていたのである。

魔理沙も負けじと頑張っていたのだが、それは明らかに椛よりも後に到着していたのだけは確認できた。

 

「勝者は……まぁ、ワンコロの勝ちね」

 

「どうでありますか? 幻想郷最速は誰だったでありますっけ? HAHAHAHA! 少なくとも貴女ではなかったのが証明されたでありますねぇ! HAHAHAHA!!」

 

最早ワンコロと犬扱いをされているのにも気が付かないほど浮かれている椛は、とりあえず魔理沙を煽っていく。

一言言うたびに魔理沙の肩が震えるのを見ると、なんだか少しだけ………楽しくなってきたらしい。

 

「くそぅ……」

 

「いやぁ〜、試合が始まる前はその自信に押されてちょっと緊張してしまったでありますが、終わってみると……ププっ」

 

「ワンコロ、そろそろやめてあげなさい」

 

「まぁそうでありますね、これ以上格下を弄っても気持ち良……楽しくありませんからね。 ていうかワンコロじゃありません、狼で椛であります」

 

霊夢の中で二つ確かなことがわかった。

一つはこのワンコロがSだという事、もう一つは……もし地上で戦っていたら、もし弾幕ごっこではなくただの殺し合いだったのなら……下手をすれば二人共瞬殺されていた可能性もあったという事だった。

 

「ねぇ、もみ……ワンコロ、あのボロ雑巾ってあんたより弱かったの?」

 

「美鈴殿は拙者よりも強いであります、地上戦ならさっきのような事にはならなかったでしょう」

 

やはりというか、なんというか…この屋敷は確実に幻想郷で最強の勢力なのだろうという事がよく分かった。

 

「で、そろそろ屋敷の中に入れて欲しいんだけど? 魔理沙もさっさと正気に戻りなさい」

 

「そうでありましたね、ではついてきてください」

 

椛に従って正門をくぐると、巨大な館が見えた。 その前に広がる庭園の大きさも合わさり、自分の神社が小さく見えてくるのが非常に悲しく思えてきた。

 

「この門をくぐるとエントランスであります。 一度中に入ればきっと生きては出られません、引き返すなら今のうちであります」

 

「かもしれないど、そうじゃないかもしれない。 つまり心配無用よ」

 

「魔法使い殿もよろしいでありますか?」

 

「霊夢と同意見だな」

 

それに答える事もなく、椛は玄関の扉を開けた。 ギィィ……と不気味な音が鳴る事もなく、普通に開いたのが逆に霊夢達の不安を煽る結果になった。

 

「ご苦労様、椛。 巫女の案内は私が引き継ぐわ」

 

「よろしくお願いするであります。

さて、魔法使い殿は拙者についてきてください」

 

エントランス中央にいた咲夜と椛は、何故か霊夢と魔理沙の二人を別々の所に案内すると言いだした。

 

「私達を別々にする理由は? 納得できる理由じゃない限り断らせてもらうわよ、遊びじゃないんだし」

 

「理由は簡単です。 魔法使いの貴女に勝負を挑みたいという方がいらっしゃるからよ」

 

「そういう事でありますので、拒否権は無いと思ってください」

 

有無を言わさぬ二人の言葉に逆らおうとした霊夢だったが、魔理沙が一歩前に出る事でタイミングを失ってしまった。

 

「これから先は全部タイマンなのか?」

 

「そうよ」

 

「霊夢の方もタイマンなんだよな?」

 

「もちろん、その通りよ」

 

「その魔法使いをブッ倒したら霊夢の援護に向かっても構わないよな?」

 

「倒せるとは思えないけど、好きにしたらいいわ」

 

「なら乗る」

 

「ちょっ、魔理沙!?」

 

勝手に話が進んでいったと思ったら、勝手に話が終わってしまった。

霊夢自身もタイマンである事は文句無いのだが、例の吸血鬼と戦う時だけは魔理沙がいて欲しかったので、不用意に魔理沙と離れないで欲しかったのである。

 

「いいじゃねぇか、速攻終わらせて速攻助けに行ってやるよ」

 

「はぁ…吸血鬼なんて一人で相手したくないんだから、頼むわよ」

 

「頼まれた」

 

二人は別れると決めて、ハイタッチをしてからその場を離れた。

 

 

ーーーーーー図書館ルートーーーーーー

 

 

以前までは割と散らかっていた図書館もさすがに整然としていた。

戦闘に巻き込まれて本がダメになってしまうのを避けるため、パチュリーが全ての本棚に対物、対魔、耐熱、耐水の結界を掛け易いように恭介と小悪魔が整理したからだ。

 

「てか、これから来る予定の魔法使いって強いのか?」

 

「さぁ? でも、リプトとルーミアチーム美鈴と椛チームが無傷で倒されてるらしいから、相当な実力者みたいね」

 

「勝てる自信は?」

 

「あら、言わなくてもわかるでしょ?」

 

「そりゃ失敬」

 

現在、恭介とパチュリーの二人は何時もの椅子に腰掛けて語り合っている最中だった。

小悪魔がいないのは、二人に飲み物を用意するために席を外しているからだ。

外の様子などお構いなしといった、日常風景にしか見えない光景を他人が見たらどう思うのだろうか。

 

「紅茶淹れてきましたよー」

 

「ありがとう、小悪魔」

 

「おい、なんで俺だけコーヒーなんだ…しかもブラック……」

 

パチュリーと小悪魔の前に置かれた紅茶からは良い匂いが漂って来ている、きっとリラックス効果の高いラベンダーを使用しているんだろう。

そして何故か恭介の前に置かれたのは、ガムシロップや角砂糖、ミルクなどが一切用意されていないブラックコーヒーだった。

 

「ま、ブラックでも平気なんだけどな!」

 

「ちっ…」

 

「パチュリーさんパチュリーさん、おたくの使い魔が態度悪いんですけど、舌打ちしてきたんですけど」

 

「コーヒー好きならいいじゃないの」

 

「まぁ、そうか……そうか?」

 

なんとなく疑問は残るが、なんとなく納得も出来たので良しとする。

和気藹々とトークを楽しんでいる3人の姿は、およそ緊急事態の最中だとは到底思えない様だったが、コンコンコンっと図書館のドアがノックされた途端、その顔が怒りに染まった。

 

「入りなさい」

 

「失礼するであります」

 

扉を開けて最初に入ってきたのは椛だった。

それに続く形で入った魔理沙は中にいた3人を見た瞬間、誰が自分を指名したのかが分かった。

 

「お前が私の相手で間違いないよな、紫色」

 

「私が貴女の相手で間違いないわよ、白黒」

 

二人が睨み合う中、恭介と小悪魔は直ぐに席を立ち椛達の側に移動した。

 

「ん? おい、そこの男」

 

「なんだよ?」

 

「お前は人間だよな」

 

「それがどうした」

 

「いや、なんでもないぜ」

 

その問答を終えると、魔理沙はパチュリーと少し離れた位置に移動し、対峙した。

二人の間にはバチバチと火花が走るかのように睨み合っているのが、観戦しているだけの恭介と小悪魔にも見てとれた。

 

「さて、始めましょうか…魔法使いさん?」

 

「おう」

 

「なら先手は譲ってあげるわ」

 

「はぁ? 舐めてんじゃ……ねぇぞ!! 『魔空・アステロイドベルト』!!」

 

大型の弾幕がこれでもかと言うほどの密度で放たれ、その弾幕が当たった壁や本棚に反射したものが左右からも襲うようにパチュリーに向かって飛んでいく。

 

「そんな無駄ばかりの魔法で…はぁ……

『木金符・エレメンタルハーベスター』」

 

高速回転する大きな歯車が、魔理沙の弾幕を悉く刻んでいく。

迂回しようとどうしようと、行く先々に現れる歯車によって切り刻まれる。

 

「この程度の魔力で私に勝てると思ってたの? 魔法使いさん?」

 

「んならこれも防げるか!? 喰らえ!!

『恋符・マスタースパーク』!!」

 

最早魔理沙の代名詞にもなりそうなマスタースパークがパチュリーに迫るが、彼女は微塵も慌ててはいなかった。

 

「『土金符・エメラルドメガロポリス』」

 

翡翠の壁がパチュリーとマスタースパークの間に現れると、少し拮抗した程度で直ぐにヒビが入ってしまった。

 

「おらおら! デカい口叩いた割には大したことねぇぜ!」

 

「ーーーー本当にそう思う?」

 

「は?」

 

パチュリーの使った『エメラルドメガロポリス』は壁を一枚作り出すだけでは終わらない。 むしろ、パチュリーほどの魔法使いがその程度の魔法を開発し、使う訳がない。

 

まるで、マスタースパークを輪切りにするように翡翠の壁が次々と出現する。

一枚一枚の強度ではリプトの壁には劣るが、その本分は防御力の高さではなく……攻撃にある。

 

「ーーーーっ真下っ、ぐぁ!!」

 

真下から出現した翡翠の壁にカチ上げられた魔理沙がマスタースパークを強制的に中断させられた。

そして当然、それを見逃すパチュリーではない。

 

「ほらほら、デカい口叩いた割には大したことないわね?

『月符・サイレントセレナ』」

 

パチュリーを中心に魔法陣が広がると、そこから大量の魔力弾が魔理沙に向かって殺到する。

 

ズガガガガガガガッ!!

 

「ぐあぁぁぁぁあ!!」

 

 

「わかった? これが魔法使いとしての…いえ、生物としてのスペック差よ」

 




魔理沙VSパチュリーです。
次の話もこれの続きですが、魔理沙が勝てるかどうかは次に期待しててくださいな。
恭介と小悪魔が空気?
タイマンなんだから気にしてやらないで下さいね?

椛、美鈴VS霊夢、魔理沙は、まぁ…こうなるでしょうな、飛ばれた時点で空中戦と弾幕戦が苦手な美鈴では手が出ませんし、椛の場合は地上でのスピードが速いだけで他の能力は所詮下っ端レベルですから……無駄に逃げ回らせて長引かせるよりも、パッと終わらせちゃいました。

では次回に期待してて下さいな!( ´ ▽ ` )ノ
感想下さい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話・悪魔

さぁさ異変も折り返し地点。
ズタボロにされている魔理沙に勝機はあるのか?





 

 

 

サイレントセレナに撃たれ続けているため、いつまでたっても地面に降りられない魔理沙は、ついに叫び声すらあげられなくなっていた。

 

「つまらないわね…」

 

パチュリー自らスペルを中断すると、魔理沙を地面に落としゆっくり近づいて行った。

うつ伏せに寝ているので、どのくらいの怪我をしているのかはわからないが、もしかしたら死んでしまっていてもおかしくはない……

 

「これが本当の魔法使いよ。 貴女の戦い方は遠見の魔法で見させてもらっていたけど、あの戦い方はナンセンスね。

強力な魔法をただがむしゃらに撃ってるだけなら誰にでもできるわ…そんな実力で紅魔館に楯突こうとしたの?

ーーーーー呆れて物も言えないわ」

 

パチュリーの珍しく相手を馬鹿にしたような口調は恭介達にとっても驚くほどであったのだが、パチュリーの魔法使いとしての矜持が許さなかったのだろう。

物言わぬ魔理沙を見下し、トドメを刺そうと掌を向ける。

 

「貴女に魔法を使われるのは我慢ならないわ……魔法を習得し、あまつさえこの私に偉そうに講釈を垂れた事を後悔しなさい」

 

スペルカードを使う気はないのだろうか、パチュリーはただ魔力を込めただけの弾丸を放とうとしたその瞬間…

 

「……後悔するのはまだ早いぜ?」

 

「ーーーーーなっ!?」

 

気絶した振りをしていた魔理沙はその場で飛び上がり、八卦炉を構えた。

 

「『星符・ドラゴンメテオ』!!」

 

マスタースパークを彷彿とさせる極大の光線は、虹色の輝きを放ちながらパチュリーに飛んでいく。

まだ意識があった事が予想外だったのか、パチュリーはスペルカードを使う暇もなかったため、咄嗟に魔力でバリアを張るしか出来なかった。

 

しかし、魔理沙のスペルカードはその程度の防御では防ぎきれない。

 

「ぐっ……このままだと……っ!」

 

「ナンセンス? はっ! スペックの差? はっ! そんなもん関係無ぇ! 一撃で相手が沈むような攻撃こそが私の矜持なんだよぉぉぉお!!」

 

さすがのパチュリーでもただの魔力バリアでは防ぎきれるものではなく、魔理沙の気合いによってさらに威力の増したドラゴンメテオが、ついにバリアを粉砕させた。

 

「きゃぁぁぁあ!!」

 

「これが…私の……力だぁぁぁぁぁあ!!」

 

ズゴォォォォン!!

 

パチュリーごと防護の魔法が張ってあるはずの床を破壊したドラゴンメテオは、魔理沙の魔力が切れたのか、ついにその暴威を収めた。

 

「パチュリー!!」

 

「パチュリー様!!」

 

観戦していた恭介達はパチュリーを助けに行くべく、急いでその場から離れた。

 

「パチュリー! 大丈夫か! パチュリー!!」

 

「パチュリー様! パチュリー様!」

 

二人に抱き起こされたパチュリーは一瞬だけ苦しそうに唸ると、ゆっくりと目を開けた。

 

「……大丈夫よ…まだ、戦える……」

 

「無理だ! そんな状態で戦ったら余計に体を壊すだけだぞ!」

 

「恭介さん! パチュリー様に貴方の能力を使って下さい!」

 

「……ダメよ、これは一対一の戦いなの…貴方の支援を受けたら、それは私の勝ちじゃなくなっちゃうじゃない…」

 

フラフラした足取りで立ち上がるも、ドラゴンメテオが直撃したダメージでまともに戦える状態ではなくなっている。

そんなパチュリーを見た魔理沙は、これ以上ツラい思いをさせても無駄だと思い……トドメを刺す事にした。

 

「確かに、魔法使いの格としてはお前の方が遥かに上なんだろうぜ。

それこそ、私程度じゃ100年かけても追い付けないくらいの差があるって事くらいは、馬鹿な私でも分かる……だけど、私は負けるわけにはいかないんだ、霊夢以外にはこれ以上一回だって負けてやるもんか、だから……悪ぃな。

「『魔砲・ファイナルマスタースパーク』」

 

リプト、ルーミアを一撃で破った魔理沙の最強スペルを今のパチュリーで耐えられる訳がない。

耐えられたとしても、元々体の悪いパチュリーに、ただダメージを受けただけでは済まないほどの悪影響を及ぼすだろう。

 

「………なら、こうするしかねぇよな」

 

ファイナルマスタースパークが放たれる瞬間、恭介は動いた。

パチュリーと小悪魔の二人を掴んで遠くに放り投げると、魔理沙に向かって走り出した。

 

「恭介さん!!」

 

「やめなさい、恭介……」

 

二人の制止も虚しく、ファイナルマスタースパークは恭介に向かって放たれた。

 

「馬鹿野郎! ただの人間が耐えられる訳無ぇだろうが!! 今すぐ避けろ!!」

 

魔理沙が叫ぶが、飲み込まれた恭介は叫び声すら上げられずにただ、その魔力に蹂躙されるだけであった。

やがて、ファイナルマスタースパークの照射が終わると、ボロボロになった恭介がその場に倒れ伏した。

 

「…行きなさい、小悪魔……私のことはいいから…今は恭介を助けに行きなさい……」

 

「でも…………うぅ……はい!!」

 

小悪魔が恭介に駆け寄ると、それまで支えられていたパチュリーの体は地面に横たわる。

一度立ち上がったのが最後の力だったのか、目を開いているだけでピクリとも動かない。

 

「恭介さん! 大丈夫ですか、恭介さん!」

 

「……………」

 

ただの人間にとって魔力はただの毒……とパチュリーが言ったように、横たわる恭介の体はマスタースパークの魔力に侵食され、撃たれた直後よりもダメージが深刻になっている。

普段は恭介の事を毛嫌いしている小悪魔だが、同時に悪友とだとも思っている…そんな恭介が今、死に瀕している。

 

「お前だけは……お前だけは絶対に殺してやる!! パチュリー様の代わりでもなんでも、お前だけは絶対に殺す!!」

 

「!!」

 

小悪魔からの明確な殺意と殺気に気圧された魔理沙は体をビクッと震わせる。

殺すつもりはなかったが、まさか魔力に全く耐性の無い人間がこんなところにいる訳も無いだろうと思っていたため、こんな事態になってしまった。

 

「恭介さん……うぅ…ひぐっ…恭介さぁん……」

 

泣き出した小悪魔が恭介の手を強く握る……痛ましい姿にパチュリーも魔理沙も何も喋れずにいると、死にかけだったはずの恭介が小悪魔の手を軽くだが、握り返してきた。

 

「ーーーーーっ! 恭介さん!!」

 

「………この感触、小悪魔……か?」

 

「そうです! 私です!」

 

「初めて、触ったけど……ぐっ……いい、感触だな…」

 

「今生き残ってくれるなら後で何回でも触らせてあげます! だから今は喋らないで下さい!!」

 

自分は大丈夫だと主張するように普段の自分を演出しているが、その行為が更に小悪魔に心配をかけている事にすら気付けないほど、恭介はダメージを受けているらしい。

 

「小悪魔…パチュリーと……俺の代わりに、あいつを…倒せ……」

 

「何を言ってーーーーっ!?」

 

恭介と小悪魔の間に光の線が繋がれた。

 

小悪魔は恭介の能力を聞いたことがあるだけで見たことは無かったが、魔法や妖術が使えない以上、これが恭介の能力だという事は直ぐに理解できた。

 

「やめてください! 今の状態でこんな事をしたら死んじゃいますよ!!」

 

「大丈夫、大丈夫……死ぬ寸前で止めるからさ……」

 

「死ぬ寸前って……恭介さんの体は魔力の侵食のせいで貴方が思っている以上にボロボロなんですよ!? 今すぐ止めて下さい!!」

 

小悪魔の忠告も聞かず、能力を使い続ける恭介の体からドンドン力が抜けていくのを感じる。

暫くすると光の線が切れてエネルギーの供給が終わった途端、小悪魔の魔力が爆発的に大きくなった……それは魔理沙どころか、パチュリーですら驚くほどに……

それはつまり、小悪魔のパワーアップと同時に恭介の命が危ないという事だった。

 

「小悪魔……あいつを…倒せ……レミリア嬢と、フラン嬢の……為にも…………」

 

それだけを言うと恭介は今度こそ動かなくなった。

死んだわけでは無かったがスタミナの殆どを小悪魔に分け与えたため、いつ死んでもおかしくはない状態だった。

 

「小悪魔! 今すぐ恭介をこっちに連れてきなさい! 少しなら動けるくらいには回復したから……早く!!」

 

「はい!」

 

一刻を争う状況。 スタミナはどうしようもないが、怪我と魔力による侵食だけはどうにかしなければ恭介は死ぬ。

だからこそ、魔法のエキスパートであるパチュリーが無理をしてでも恭介を治そうと、直ぐに治療を始めた。

 

「貴女は恭介に託されたんでしょ? だったらこっちは私に任せて、あの魔法使いを蹴散らして来なさい」

 

「分かりました、パチュリー様と恭介さんに手を出した事……後悔させてきます」

 

「殺しちゃダメよ?」

 

「それは命令ですか?」

 

「命令じゃないわ、お願いよ」

 

「分かりました、殺しはしません」

 

二人の元から離れ魔理沙の元に飛んでいく。

人間に致命傷を負わせた背徳感でどうしようもなかった魔理沙は、とりあえず今の件を誤る事にしたが……

 

「こんな事になるとは思ってなかった、ごめん……」

 

「誤って済む問題じゃありません。

覚悟して下さい、私は弾幕ごっこ用のスペルカードを持っていないので、ただ単純な魔法しか使えないです……だから、殺されても文句を言わないで下さいね?」

 

先程よりも濃厚な殺意に、魔理沙の身体中から嫌な汗が一気に吹き出る。

小悪魔と呼ばれていたのは知っているが、この魔力の量は既に爵位持ちと言われる上位の悪魔を超える程のものになっている。

 

「お先にどうぞ? 弾幕ごっこではないので、どうぞお好きなだけ同じ魔法を使っても良いんですから、ほら……遠慮なく…」

 

「くそっ! 『マスタースパーク』!!」

 

「『デルディアブロ・スプリンドーレ』」

 

小悪魔の翳した手からは、魔理沙のマスタースパークを超える破壊力をもった黒い閃光が放たれる。

パワーアップした小悪魔の魔法になす術もなく押し返され、そのまま魔理沙に直撃した。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

「まだまだ、パチュリー様と恭介さんの受けた痛みはこの程度じゃないはずですよ?

『デルディアブロ・マーノ』」

 

小悪魔が手を振り上げると、魔力で出来た巨大な黒い腕が出現し、それを振り下ろした。

 

「ーーーーっ 『ブレイジングスター』」

 

魔理沙はそれから逃れようと箒に捕まると、とんでもないスピードで後方に下がりながら魔力弾を大量に撃ち込んだ。

 

「『デルディアブロ・パレート』」

 

魔理沙の弾幕に対応するべく、黒い腕の魔力を前方に展開させ巨大な壁を形成すると、向かってくる弾幕を全て掻き消した。

 

「そんな遠くに逃げても無駄ですよ?

『デルディアブロ・レストリジオーネ』

 

床一面に小悪魔の魔力が急速に広がり魔理沙の足に触れると、一気に押し寄せた。

それは魔理沙の動きを阻害するよう身体中に取り付くと、頭だけを出すようにしてその動きを止めた。

 

「くそっ! 身動きが取れねぇ……っ!」

 

「どうですか? 低級な悪魔に拘束される気持ちは、両手が使えなければあの六角形の魔道具も使えないはずですよね?

あぁ…一つ言っておくとその魔法は絶対に解除出来ませんよ、私自ら解除するか、パチュリー様レベルの魔法使いでないとって話ですけど」

 

「……私を殺すつもりか?」

 

「殺しはしませんよ、パチュリー様の判断と恭介さんの容態によってはこのまま解放しようと考えています。

不思議ですよね、さっきまでは殺してやろうかと思っていたのに、この力で貴女を蹂躙していると何だか哀れに思えてきちゃいましてね…」

 

「なんなんだその力は、さっきまでは私にすら及ばない程度の魔力だったのに、あの男がなんかしてから急に化け物みたいになりやがって……それで小悪魔? 馬鹿言うんじゃねぇよ、その力はまるで……」

 

「ソロモンの悪魔……ですか?」

 

ソロモンの悪魔とは、レメゲトンというグリモワールに記載されている72柱からなる悪魔の王族、貴族の総称だ。

上位の存在になると神にも等しい力を持つとされる最高位の悪魔であり、ものによっては人に幸福を与える者もいるとされている。

架空の存在とされているが、小悪魔は元々魔界に住んでいた事もあり、その内の何体かを実際に見たことがあるらしい。

 

「彼等を見たことはありますが、今の私は下手をするとソロモンの悪魔にすら匹敵する力を持っているかもしれませんね」

 

「もういい、わかった、諦めるよ。

今の私じゃそんな魔神クラスの悪魔には逆立ちしても勝てる気がしねぇ。

紫色の……パチュリーって言ったか? あいつには私の魔力を与える。

人間の男には何にもしてやれねぇが、念のために持ってきたポーションがあるから飲ませてやってくれ」

 

「分かりました、とりあえず右手だけ解放してあげるので六角形の魔道具をこちらに渡して下さい」

 

「そんなんしなくても反抗なんかしねぇっての……したら殺されそうだし」

 

文句を言いながらも小悪魔に八卦炉を渡すあたり、本当に反抗の意思はないのだろう。

小悪魔はそれを受け取るとポケットにしまい込んだ。

 

「ではポーションを下さい」

 

「ポケットの中に入ってるから持ってってくれ、身動き取れないから自分じゃ出せねぇ」

 

「そういえばそうでしたね……えっと…これですね。

まだ拘束は解かないので大人しくしておいてください」

 

ポケットの中をゴソゴソと探してみると、緑色の液体が入った試験管を発見したので、それを魔理沙に見せたら頷いたので間違いないだろう。

小悪魔はそのポーションを恭介の下に運んでいくと、そのすぐ側に腰を下ろした。

 

「パチュリー様、恭介さんは大丈夫ですか?」

 

「えぇ、侵食は抑え込んだから、後は怪我とスタミナだけね」

 

「ありがとうございます、パチュリー様。

恭介さん……これを飲んで下さい、多少は楽になりますよ…」

 

とは言っても気を失っている人間に飲み物を飲ませる事は出来ない以上、小悪魔にはこの方法しか残されていなかった…

自分の口にポーションを流し込むと、飲み込まないように気を付けながら恭介の口を開いて唇を合わせた。

 

「んっ………」

 

下手に飲ませると肺の方に行ってしまうので、少しずつ注意しながら恭介の喉に流し込んでいく。

やがて全てを飲ませ終えてから頭を放すと、魔理沙とパチュリーが顔を赤くして小悪魔を見ていた。

 

「……なんですか?」

 

「いや…なんでもない……」

 

「あるにはあるけど、後にしておくわ」

 

「で、で! あの白黒はどうしますか! パチュリー様!!」

 

パチュリーの一言によって魔理沙の命運は変わる……レミリアからは殺すなと明言されているが、恭介を殺しかけた事でそれに逆らうかもしれない。

ごくりと喉を鳴らしてパチュリーの答えを待っていたが、その答えは呆気なかった。

 

「もういいわ、解放しなさい」

 

「……よろしいんですか?」

 

「いいわよ、恭介の前で同じ人間を殺すのは忍びないもの」

 

「分かりました……」

 

よほど魔理沙の事が許せなかったのか、随分と嫌そうな顔をしているのがパチュリーにとっては少し嬉しかった。

 

「ほら、拘束は解きましたよ。 後はもう巫女を助けに行くなりなんなり好きにして下さい」

 

いつの間にか拘束が解かれていた事にも驚いたが、小悪魔の口から出た言葉に驚いた。

 

「は? 行ってもいいのか?」

 

「別に残ってもいいですけど、貴女の顔を見てるといつ殺したくなるか分からないもので……そんなチンケな魔力も要らないので勝手にどっか行ってください」

 

「チンケって……あぁいいよ! 分かったよ、消えればいいんだろ!」

 

「あぁ、ちょっと待ちなさい白黒」

 

ズンズンと足を鳴らしながら出口に向かっていく魔理沙がドアノブに手をかけると、最後に一つだけ、と言いながら振り返る。

 

「なぁ紫、お前は間違いなく私よりも強いよ……騙し討ちみたいな事をしなければ間違いなく私が負けてた。

その男の力をもし使われてたら私は絶対に勝てなかった。 それこそ、そこの小悪魔よりも強くなってた筈だからな……また今度、私はチャレンジャーとして挑ませてもらう。それだけだ」

 

「……次は生存確認なんてせず、容赦なく追撃させてもらうわ」

 

「ありがとうよ」

 

図書館から出て行く魔理沙を見送ると、いつの間にか恭介を膝枕していた小悪魔に目を向ける。

優しく頭を撫でている姿は、普段の殺伐とした二人の関係からは想像出来ない。

 

「……普段からそうしてあげたら?」

 

「嫌ですよ、恥ずかしい」

 

「小悪魔って本当は恭介の事嫌いじゃないんでしょ?」

 

「………この紅魔館にこの人の事が嫌いな人はいませんよ、もちろん私もその一人です」

 

「ならなんで普段はキツいのよ…ツンデレ?」

 

「ツンデレというより……あれですよ、私達がこんなに好きでいるのにこの男は偶に凄く寂しそうな顔をしてるんです。

どうやら外の世界においてきた女性を思い出してるらしいんですけど……なんかイラッとしません?」

 

「あぁ〜、それ分かるわ〜」

 

恭介が起きている状態では絶対に明かさない胸の中を語る二人、これが所謂ガールズトークというやつなんだろう。

負けた後なのに妙に落ち着いているのはきっと、寝ている恭介の顔が起きている時とは違って穏やかな寝顔をしている所為なのだろうか?

 

「小悪魔は恭介の事が好きなの?」

 

「どういう意味でです?」

 

「じゃあ家族として、そして異性として」

 

「そりゃまぁ、両方とも好き……ですね」

 

「ふふっ、顔が真っ赤よ?」

 

「パ、パチュリー様はどうなんですか!」

 

「私? 私は……というより、私もよ」

 

意外と初心だった小悪魔と違い、パチュリーは平気そうな顔で自分の気持ちを伝える。

まぁ、小悪魔にとっては既に知っている事だったので特に驚きはしないが、少しくらいは自分の主が羞恥に顔を赤くするシーンを見てみたかったのは内緒。

 

「ま、私はこの関係がヌルヌル続いていく方が楽なのでそのままにしておきますけどね」

 

「なら私が取っちゃってもいいの?」

 

「あ〜……それはちょっと困りますね。

さっきみたいに3人でまったり出来なくなるじゃないですか」

 

「それもそうね…いざとなったら恭介を図書館の司書にしてやろうかしら……」

 

「あ、いいですねそれ」

 

本人の知らぬところで展開されている好感度アップイベントは、何故か本人が起きている時には発生しないのが恭介である。

既にこの異変の顛末については興味がないのか、その話には一切触れないあたり、この二人も中々の大物と思う。

 

 

ーーーーーーーSIDE霊夢ーーーーーーー

 

 

「さて、あんた達がどういうつもりでこの霧を出したのか教えてもらえるかしら?

正直迷惑してるから今すぐ止めて欲しいんだけど?」

 

「お嬢様が首を縦に振らない限り、私がどうこう言える問題じゃないわ」

 

時は遡り魔理沙が連れて行かれた直後。

 

そこでは既に今回の異変で初の人間同士による戦闘が開始されようとしていた。




小悪魔強しゅぎ?

デルディアブロなんたらってのはオリジナルで付けた名前ですが、一応全部意味があります。

本編で言っている通り、パッチェさんと小悪魔は恭介の事が大好きです。 いつフラグを建てたって? 一目惚れからの、中身に惚れたパターンです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話・時間

長らくお待たせ(?) しました!

さて、今回はこの異変初の人間VS人間の戦いです。
時を操る咲夜に霊夢はどう立ち向かうのか?


 

 

 

睨み合う咲夜と霊夢、二人の間には目に見えない火花が散っていた。

ナイフを構える咲夜と、札を構える霊夢……お互いがお互いを危険な相手と認識している為か、動き出す気配がない。

 

「……………」

 

「……………」

 

緊迫する空気の中、先に動き出したのは咲夜だった。

その動きはまるで瞬間移動のように目の前から消え、嫌な予感がした霊夢がその場で腰を屈めると、さっきまで首のあった場所を咲夜のナイフが通っていた。

しかしそこは異変解決を専門としている博麗の巫女、咄嗟の判断で距離を取ると、手に持っていたお札を一斉掃射した。

 

「ーーーー何処を狙ってるの?」

 

「!?」

 

咲夜を狙っていた筈の札は、誰もいない空間を通過しただけで終わってしまい、そんなの気にするなよと言いたげな咲夜が霊夢の左肩に手を置いていた。

 

「くっ!」

 

懐から追加の札と針を取り出し咲夜に直接叩き込む。

博麗の札と封魔針と呼ばれる針には、その見た目からは想像出来ないような攻撃力が付与されている……だから今度こそ咲夜を仕留めた。

 

「あら危ない、紅魔館の中で危険物を振り回すのは止めて貰えるかしら? 捨てておいたけど文句言わないでよ?」

 

「えっ!?」

 

気付けばその手には針も札も無く、それどころか今の今まで自分の肩に手を乗せていた咲夜が右側に移動していた。

全てが一瞬で行われ、どのような手段も無効化される事態に流石の霊夢ですら軽くパニックになりそうだった。

 

「……マジックにしちゃ楽しくないわね…もうちょい種の分かる物にしなさいよ」

 

「マジック? 違うわよ」

 

そう言うと咲夜は霊夢から普通に離れてナイフを取り出す。

 

「私は言うなれば奇術師。 マジシャンは人をマジックで楽しませる、でも奇術師は奇術で人を驚かせるの。

ーーーーこんな風にね」

 

気が付けば霊夢の周りにはナイフが無数に浮かんでいる。 またもや驚く事になった霊夢が行動を起こそうと思った刹那。

 

「『幻幽・ジャック・ザ・ルビドレ』」

 

「け、結界!」

 

咲夜がスペルカードを宣言した瞬間、一斉に襲ってくるナイフ群に結界で対応するも一瞬でも判断が遅かったら全身が串刺しにされていただろう。

自分が殺される光景を思い浮かべてしまい、顔を青くして全身にビッショリと冷や汗をかく霊夢に対して、咲夜の笑い声が叩きつけられる。

 

「ふふふっ…驚いてくれた? 最近は恭介ですらド派手に驚いてくれないものだからつまらなかったのよ、どうだった? 私の奇術は」

 

「………驚き過ぎて心臓が口から飛び出そうよ…あんた絶対ドSでしょ」

 

「あら、こんな優しいお姉さん捕まえて何を言ってるのかしら?」

 

「優しいんだったら………コレでも喰らってなさい!!」

 

再び咲夜目掛けて札を投げるも、咲夜の姿はそこに無く、今度は霊夢の目の間に現れた。

 

「ーーーーーあぁ…予想通りで助かるわ」

 

「何?」

 

霊夢の発言の意味が分からず、思わず聞き返すも…その聞き返した一瞬が致命的だった。

 

「霊撃!!」

 

霊夢の体から何かが爆発したかのように発せられた衝撃波は、咲夜も予想外だったのか一瞬だけ反応が遅れてしまう。

直撃する前に時間を停止させ、急いでその場を離れる事でとりあえずは避けるのに成功した咲夜は、十分な距離をとってから再び時間を再生し始めた。

 

「………霊力の爆発にも驚いたけど、どうしてあそこに現れると分かったの?」

 

「はぁ? そんなの簡単じゃない。

あんたは消えるたびにナイフかあんた自身を私の側に出現させている。

つまり、出てきたのがあんたでもナイフでも構わず纏めてブッ飛ばせば私は無傷で済むってわけ」

 

「少し見せ過ぎたかしら?」

 

「もうちょっと見せてくれてもいいのよ?」

 

「なら、お言葉に甘えて」

 

霊撃とは己の中に存在する霊力を一気に放出させる防御手段の一つで、速効性には優れるが霊力の消費もそれなりに多い。

 

咲夜のスペルカードや弾幕にはナイフを使用した威力よりも手数な物が多く、レミリアやパチュリーのような大技が少ないため簡単には霊撃を抜く事が出来ない。

しかしそれでもワザと霊撃を使用させ、霊夢の霊力を奪い取る作戦に出る。

 

「ほらほら! 霊撃とやらを使わないと愉快なオブジェが出来るわよ!」

 

「えぇい! 出たり消えたり鬱陶しい!」

 

霊夢もそれを理解しているため、簡単には霊撃を使わないようにしている。

もちろん、ただ突っ立ているだけなら咲夜の言う通りの愉快なオブジェと化すので、避けられる物はその超人的な反射神経と勘で捌き切っているが、それにも限界はある。

 

「『時符・プライベートスクウェア』」

 

「……?」

 

咲夜はスペルカードを発動させた割には攻撃が飛んでこない、それこそ弾幕の一つどころかナイフすら飛んでこない。

警戒は解かないが不思議に思った霊夢はとりあえず咲夜から距離を取ろうとしたとき、その身体に異変が起こった。

 

「……な に こ れ」

 

「動きにくいでしょう? 貴女のスピードを奪わせて貰ったわ。

その状態でいつまで持たせられるかしら?」

 

プライベートスクウェアの効果は相手の時間を操って全ての行動をスローにさせる、という咲夜のスペルカード中で最も躱すことが困難な物の一つでもある。

そして、それは霊夢の行動を阻害するには十分過ぎるほど十分に機能した。

 

「ほら、霊撃を使わないと避けられないわよ?」

 

霊夢に向かって投擲されるナイフを防ぎきるためには、遅くなっている身体で避けるのは不可能に近いだろう。

とはいえ霊撃を使えば使うほど、後に控えている戦闘にも支障をきたすのは目に見えている。

 

「れ い げ き」

 

しかし、ダメージを負いかねない以上、使うしか道はない。

このプライベートスクウェアも所詮はスペルカード、いつかは効果時間が切れるだろう…流石に一生このままは断固として嫌だ。

その証拠に、少しずつだが体の感覚も元の速度に戻って来ている。

 

「スペルカード一回で一発しか霊撃を使わせられないのが痛いわね…」

 

「………ふぅ、なんて厄介なスペル使ってんのよ…これ以上されるのは面倒だし、一気に決めさせてもらうわよ」

 

とは言え、霊撃を二発も撃った後なので、ここで決めなければ不利になるのこちら側。

咲夜の様子を見てみると疲れが顔にハッキリと出ているのが分かる。

ボンヤリとしか分かっていないがこれだけ強力な能力だ、連続での使用は何らかの反動があるのかもしれない。

 

「『神霊・夢想封印・瞬』」

 

霊夢を中心に7つの大きな霊力弾が形成されると、それが咲夜に向かって襲いかかる。

 

「なにをするのかと思ったけど、そんなに遅い弾なんて当たるわけないでしょ?」

 

「へぇ…なら最後まで避け切って見せなさいよ」

 

「何ですって?」

 

夢想封印の速度は遅い。 それこそ7つ全てを余裕でかわしきれる程度の速度しかない。

だが、霊夢の余裕は何なのか? 霊撃を連発しスペルカードも使っている、全てにおいて咲夜が優勢である筈なのに霊夢の余裕は崩れない。

 

「ほら、ボンヤリしてると当たっちゃうわよ?」

 

「こんなもの……」

 

時を止めなくても余裕でかわせる。

 

咲夜はこの意味のない攻撃に絶対の自信を持つ霊夢の顔が非常に腹立たしい。

 

圧倒的優位なのは私であり、あの巫女ではない!

 

油断したのか避け方を間違えたのか、気が付いたら七つ内の一発が正面に迫っていた。

 

「ーーーっ!?」

 

ギリギリだが避けるのに成功する。

 

当たりそうになった!? あんなにトロい弾幕に何故!?

 

咲夜は焦りと苛立ちで気が付いていない。

普段の彼女ならば絶対に気付けるはずだが、この弾幕にはとある秘密がある。

 

「どうしたの? 段々と避けられなくなってるんじゃない?」

 

「何を馬鹿な!」

 

言い返しはするが、確かに先程から夢想封印をかわしきれなくなっている。

最初は余裕を持っていた、だが次第に服に当たって来るようになってきた。

 

「ちっ!どうしてこんなスペルカードに!」

 

「ほらほら、また奇術とやらでもしてみなさいよ!」

 

言われなくても、夢想封印から距離を取らなければ危ない事なんて理解している。

霊夢は接近戦を警戒しているのか、自分の周りに2発分だけ待機させている。

その上で霊夢に近づくのは明らかに愚策でしかない……ならば使うしかない、この弾幕の攻撃力は当たらなくても分かるほどの霊力が込められている。

咲夜は仕方なく時間を止め、霊夢の後方に大きく離れる。

 

「ビンゴ…やっぱりそこに出たのね?」

 

「? ーーーーっ!?」

 

一瞬霊夢の言っている意味が分からなかった。 しかし、眼前に弾幕が迫っていれば嫌でもその意味が分かってしまう。

頭部に迫っていた弾を慌ててスウェーで避けるも、次々と迫ってくる後続の6発はかわしきれる物ではなかった。

 

「ぐぶっ」

 

2発目が腹に直撃し、胃液がせり上がってくるもそれに続く5発が頭部と四肢に直撃すれば吐き気を感じる間も無く地面に倒れ伏した。

 

「ゲホッ ゲホッ……なんで、出てくる場所が、分かったの……?」

 

「そんなの分かる訳ないでしょ」

 

「ーーーーは?」

 

痛みに耐えながら聞き返してみると、あっけらかんとした表情で訳のわからない事を言ってくる。

ダメージのせいでこれ以上の戦闘は無理だろうが、何故自分に当てることが出来たのかだけはハッキリさせておきたかった。

 

「じゃあなんで…」

 

「勘よ、か・ん」

 

「か……ん? そんなものだけで私を倒したっていうの?」

 

「だけって訳じゃないけどね」

 

ジクジクと痛む腹部を抑えて立ち上がる。

その痛みは間違いなく狙いが分かった上で直撃させなければこれだけのダメージにはならないだろう。

 

勘だけではない、なら何をされた? あの巫女は私の能力を理解していないはず。

 

頭の中でグルグルと回る疑問に答えが出ない。

固まってしまっている咲夜に、どうせもうあのメイドに戦闘は無理だと判断した霊夢は答えを教える事にした。

 

「簡単な話よ。 あんたが避け切れなくなったのは、気付かれない程度にちょっとずつ速度を上げていったからよ」

 

「………それで?」

 

「あんたさ、段々と掠り出したもんで焦ったんでしょ? 夢想封印の威力は霊力を感知できる奴にとっては簡単に理解出来る。

そんな攻撃を直撃したくないと思ったあんたは、5発に追い回されるよりも一旦距離を取って、安全な位置から攻撃する事を選んだ。

安全に攻撃出来る位置となる私の後方…それも、それなりに距離を取ると思えば自ずと場所は限られるのよ。

後はその安全圏に、超加速させた弾幕を飛ばせば当たるって寸法よ」

 

「だ、だからって正確に当てるなんて芸当出来るはずが……」

 

「だから最初に言ったでしょうが……勘だって」

 

咲夜は理解した、この敵は危険だ。

戦闘に関するスキルは当然のこと、完全に咲夜の位置を捉えた勘もそうだが、最も注意すべきはその推理力にある。

喋りすぎて疲れた……とか言っている姿からは想像出来ないが、この巫女は戦闘中にも関わらず咲夜の思考までも読み取った完璧な戦いを完遂した。

 

「そう……私の負けよ、貴女みたいな化け物に勝てる未来が見えて来ないわ」

 

「あらそう? そりゃ嬉しいこって」

 

「でもね……貴女をお嬢様の元に行かせる訳には行かなくなったわ」

 

咲夜はナイフを握り、霊夢に突進する。

通常の弾幕ごっこのルールでは完全に反則だが、そんな事は言っていられない。

 

この巫女をこのまま進ませるのはマズい…そんな考えを打ち砕くかのように霊夢が口を開いた。

 

「あ〜、やめときなさい。 あんた、もう【時間を止められないんでしょ?】」

 

「!?」

 

「あんたの能力は時間操作系ね? そんな能力の奴は見た事なかったけど、慣れれば以外とどうにかなるものなのね」

 

あまりの驚きに動きを止めてしまう咲夜。

やはり正解だったと確信したのか、霊夢はニヤッと笑う。

 

「……いつ、分かったの?」

 

「いつって言われると、今としか言えないけど……幾つか理由はあるわ」

 

「分かったわ、もう本当に諦める。

でも、後学の為に教えてくれるかしら?」

 

「まぁそうね……一つ目はナイフの動きよ。

ただ手から離しただけならその移動先で落ちるだけなのに対して、あんたの投げたナイフは私に向かって飛んできた…これは、時間を止めている間にナイフを投げる動作をしていたんでしょうね、そうすれば手から離れたナイフは投げた時に起こる慣性ごとその時間を止めるから、時間を進めればその慣性を生かして飛んでくるってことね」

 

そんな少しの事で理解していたのか……

霊夢の理論は確かに合っている、この巫女の推理力には驚かさせるばかりだ。

 

「あとは単純に、瞬間移動では出来る確殺方法を使わなかったってのかしらね」

 

「確殺方法?」

 

「分かってるとは思うけど、時間を止められた物は分子の振動すら停止してしまうせいで絶対に壊れない無敵の盾になる。

だからあんたは時間を止めている間に私を攻撃をする事が出来なかった。

もし仮にあんたが瞬間移動能力を使っていたのなら、そのナイフを私の頭の中に移動させるだけで確殺出来るんだからね、これが二つ目の理由よ」

 

「私がワザと殺さなかっただけだとしたら?」

 

「それは別にいいのよ、三つ目の理由でほぼ確実に分かったんだから」

 

「三つ目?」

 

「私の肩に触ったでしょ? あれは瞬間移動では絶対に無理なのよ」

 

「理由を聞いても?」

 

「まぁここまで話したんだし、構わないわよ。

単純な話、瞬間移動はそのままの体勢で移動するのに対して、時間停止は止まった空間の中を自由に行動出来るから、あんたは私の肩に触った状態で現れる事が出来た」

 

咲夜の能力は触れている物の時間を操作するだけで自分から離れた物を操作する事は出来ない。

霊夢はきっと、それすらも看破していたんだろう……全くもって恐ろしい才能だ。

 

「んじゃ、そろそろ私は行くわよ。

あんたの言うお嬢様ってのは何処にいるのよ?」

 

「あの階段を登って右に真っ直ぐ進みなさい。 無駄に大きい扉があるからすぐに分かるはずよ」

 

もはや抵抗するのも煩わしい。

さっさと行けと言わんばかりに手を払うと、巫女は大人しく階段に向かい歩いて行った。

 

「あ、そうだ」

 

早く行ってほしいのに…なんだっていうんだ。

そんな気持ちが顔に出たのか、霊夢も若干申し訳なさそうな表情をしていたのが印象的だった………案外いい奴なのかも?

 

「魔理沙知らない? まだ帰ってこないし、どっかで勝手に負けてたりしてる?」

 

「いや、そこまでは知らないけど……」

 

パチュリー様が相手だから〜……と続けようとしたところで、咲夜の発言は大きな声によってインターセプトされた。

 

「あ、もういいわ。 噂の馬鹿が帰ってきたみたい」

 

「おいこらド貧乳」

 

「ていうか何そのボロボロ具合、ボロ雑巾装着してる姿に需要なんて存在しないわよ?」

 

「うるせぇな、特殊な趣味の奴もいるんだよ」

 

「ま・さ・か? 負け犬さんですか?」

 

「悪い事は言わねぇ、あの図書館でだけは迂闊な事はすんな」

 

急に真面目に話し出す魔理沙には不信感しか覚えない。

失礼すぎる考えを巡らせている霊夢に対し、咲夜は全く違う事を考えていた。

 

「えっ、貴女まさか…パチュリー様に勝てたの!?」

 

「あぁ、あの紫には勝てたぜ……自分の卑怯さが嫌になる方法だったけどな」

 

まさかあのパチュリー様が負けるとは……あの魔法使いの格好を見れば、相当激戦だったのは分かる。

しかし腑に落ちないのは魔理沙の言葉、なぜ勝利を収めたのにそこまで警戒する必要がある?

 

その疑問は、魔理沙の仲間である霊夢が質問してくれた。

 

「その割にはボロボロじゃないの」

 

「あぁ、あの魔女はマジで強かったよ。

それこそ、私程度じゃ100年経っても追いつけないほどにな」

 

「でも貴女は勝った、それで何をそこまで警戒する必要があるの?

パチュリー様以外であそこにいたのは小悪魔と恭介の二人だけよ。

その上でそこまで警戒する意味が分からないわ」

 

「簡単な話しだよ、私はパチュリーって紫色には勝った。

けど、あの小悪魔とか呼ばれてた奴が急に化け物みたいに強くなったんだ。

多分、あの男がなんかしたんだろうけど……あの能力はなんだ? 自分の魔力を分けた程度じゃあの悪魔程度が私より強くなれる訳がねぇ」

 

咲夜はその場にいなかったので知らないが、恭介は自分の中に残されているスタミナを1だけ残して、他の全てを小悪魔に分け与えたのだった。

 

「なるほど……恭介の能力ならあり得ない話じゃないわね」

 

「どういう事だ?」

 

「貴女に教える義理は無いわ」

 

「じゃあ勝者の特権よ、その男の能力を教えなさい」

 

ドヤ顔の霊夢に何故かドヤられる……

頭の血管が弾け飛びそうになるが、確かに自分は負けた身の上…これ以上何か出来るわけでもないし、レミリアは恐らく恭介の能力を使わない。

ならば教えても問題ないだろう。

 

「……恭介の能力は『力を分け与える程度の能力』といって、自分のスタミナを代償にして、分け与える相手に最も適したエネルギーに変換するの。

その効果を受けた事はないけれど、そこの魔法使いさんなら、どれだけの強化が可能かは理解出来たんじゃない?」

 

「そうだな、あれは人間が持つには過ぎた能力かもしれない。

私よりも格下だったはずの奴が、いきなり紫色すら超える魔力になったんだ……もしも初めから紫色に使われてたらと思うとゾッとするぜ」

 

「そんなに強かったの?」

 

「分かりやすく言うと……私のファイナルマスタースパーク並に危ねぇ魔法を、なんの補助も無しで撃って来やがった。

その後はボロボロにされて抵抗虚しく捕縛されて、あいつの温情で開放してもらったって訳だ」

 

霊夢は血の気が引いていくのをハッキリと認識できた。

ファイナルマスタースパークの威力は身をもって知っているし、霊夢でも防ぎきれるかどうか分からないほど強力で凶悪な魔法だと思っていた。

もちろんその認識は間違いではないが、この紅魔館にいる連中はその認識さえも越えてくる存在だという事がよくわかった。

 

「その男はどうしたの?」

 

「危うく殺しかけたけど、紫色と小悪魔のおかげでなんとか生きてるよ……だからそんなにおっかない顔で睨んでくるなよ、メイド」

 

「………よかったわね。 紅魔館の住人を一人でも殺してたら、お嬢様とこの先にいるもう一人のメイドにミンチにされてたわよ」

 

「さっきの紫色よりも強いのか?」

 

「両方共がそこの巫女より強いと思うわ。

いえ……正確に言えば、お嬢様は完全ではないとはいえ、貴女達を捻るのに苦労は無いはずよ。

だけど、もう一人のメイドは確実に手加減をする……彼女は過去に吸血鬼30人を一人で相手をし、本気じゃないにも関わらず皆殺しにしたらしいわよ」

 

それを聞いた霊夢と魔理沙は同じ反応を示した。

むしろ、誰でも似たような感想を述べるであろう……

 

 

「「ーーーーー勝てる気がし無いんだけど」」




切れが悪い&文章が変な気がする……

そんな事は置いといて……うちもコラボしてみてぇな


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話・最強の番犬

超難産でした! ちょっち文章おかしいかも?

あと、意外な展開かも?


 

 

 

 

咲夜を打破した霊夢一行は、紅魔館の長い廊下を駆け抜けていた。

窓のすら存在しない真っ赤な廊下は、走っているだけで気が狂いそうになる。

 

「目がチカチカしてくるわね…」

 

「距離感もおかしくなりそうだし、赤統一って時点で趣味が悪いぜ」

 

長い長い廊下は、霊夢達が走る速度に合わせて伸びているんじゃないかと思うほど先が長い。

しかし、そんな考えは杞憂に過ぎなかったようだ。

 

廊下の先、恐らくは踊り場であろう場所に誰かが立っている。

とりあえず走るのが面倒になってきたので、飛んでさっさと移動する事にした。

 

「いらっしゃいませ。 博麗の巫女様と魔法使い様でございますね?」

 

大きな扉の前に陣取っているのは咲夜よりも背の高い黒髪のメイド。

妖力があまり感じられないが、それは何らかの方法で隠しているだけだろう。

落ち着き払った物腰とは裏腹に、強者独特の余裕と、ピリピリした威圧感を感じる。

 

「申し遅れました、私の名前はアトラス・トワイライトと申します。

この紅魔館では副メイド長をさせていただいております」

 

「博麗 霊夢よ」

 

「霧雨 魔理沙だ」

 

二人はなんとなくだが理解できた。

 

あ、これ勝てないわ。

 

「あんたが次の相手なの?」

 

「そういう事になりますね」

 

「…………冗談キツいぜ」

 

霊夢はこれまで無傷で戦って来たが、魔理沙としたら堪ったものではないだろう。

パチュリーという最上位の魔法使いと、小悪魔とかいう名前詐欺の魔神を相手にしていたのだ。

魔力もスッカラカンに近い、ダメージも限界寸前、その上こんな強者と戦うなんて冗談でもたちが悪かった。

 

「さてさて、私には全力で戦うなという制限がかけられていますが……この館唯一の男の子を殺しかけたというのは本当ですか、魔法使いさん?」

 

「その件に関しては本当に申し訳なく思ってる。 弾幕ごっこで故意に相手を殺すのは御法度だし、なにより私がしたくない」

 

「恭君は無事なんですか?」

 

心配そうな顔で聞いてくるアトラスは、この館の住人を余程大事に思っているのが伝わってくる。

だからこそ、魔理沙は至極真面目に答えた。

 

「生きている。 少なくとも私が図書館を離れるときには落ち着いていた。

あの紫色と小悪魔には感謝してるよ」

 

「そうですか、よかった……」

 

「もし、もしよ? もし魔理沙がその男を殺してたらどうするつもりだったの?」

 

霊夢の質問を聞いた途端、今までの優しげな表情が消え失せ、代わりにアトラスが見せたものは…

 

「殺します。 出来るだけ苦しむように、一撃では殺さないように、殺してくれと懇願されても痛みだけを刷り込み、私が許すまで貴女を生かして殺します」

 

一瞬、本当に殺されたかと思った。

霊夢はアトラスの放った殺気に耐えられたのだが、その殺気を集中的に受けてしまった魔理沙は顔を青くして、ペタンと座り込んでしまっている。

 

「そう……なら殺されないって事でいいわね」

 

「元々、弾幕ごっこで故意による殺しは禁止なのでは?」

 

「まぁ、基本的にはそうね」

 

「ならそういう事です」

 

「まるで私達じゃ勝てないような言い草じゃないの」

 

アトラスの言葉を要約するとこうなる。

貴女達では絶対に勝てないので大人しく帰ることをオススメする……と言っている。

 

イラついた表情を見せはじめた霊夢。

だが、非常に悔しいことだがそれは真実なのかもしれない。

 

「あ、でも私も鬼じゃありませんよ」

 

一つ提案が…と続けるアトラスの顔は相変わらず余裕綽々といった態度で気に入らない。

 

「提案って?」

 

アトラスは手を開いて、それを霊夢に見せる。

 

「5分です。 5分間、私から逃げられたらここを通してあげます。 もちろん私も攻撃しますけどね」

 

「ーーーーーーはぁ?」

 

完全に舐められている。

 

「足りませんか? なら、少しでもダメージをもらったら…という条件も追加してあげましょう。

どこかで聞いたような条件ですが、貴女達にはちょうどいいかもしれませんね」

 

「…………………あぁ?」

 

あぁ、さっきのは完全に舐めてるわけじゃなかったのか…つまり、今

 

「完全に舐めてるわよね」

 

「舐めている…というと聞こえが悪いですが、概ねその通りですね。

私と貴女達の間にある実力の差はそれほど大きい物と思っていてください」

 

「ふ……ざけんなっ!!」

 

アトラスに向けて唐突に放たれる弾幕を、まるで最初から飛んでくるのが分かっていたかのように避ける。

 

「魔理沙ぁ!あんたは邪魔だからどっか行ってなさい!」

 

その一言で我に返ったのか、はっ! と飛び起きるように霊夢の隣に立つ。

先程の恐怖は振り払えたのか、そんな事は分からないがとにかく今は勝つ事だけを考えなければ、本当に勝てなくなってしまう。

 

「あ、接近戦ありでもいいですよ? 正直言ってしまうとそっちの方が楽しめそうですし」

 

「魔理沙! どっか行ってなさい! この妖怪は私だけで相手する!」

 

「おう!……えぇ!?」

 

驚きを隠せない魔理沙だが、結構ガチで怒っている霊夢は怖いので、大人しく隅に移動する。

 

縮地、などと呼ばれている歩法で一気にアトラスに急接近する。

なぜそんな事が霊夢に出来るかと言えば、先代博麗の巫女、霊夢の師匠とも言える人物の特技は…

 

「せいっ!」

 

「あら、本当に接近戦も出来るんですね。

霊力で強化しているのか、人間にしては中々の重さもありますね」

 

簡単に受け止められてしまったが、その動きは完全に接近戦を修めた者の動きであった。

先代博麗の巫女は、弾幕ごっこ、という人間に有利なルールが存在する前から、接近戦での妖怪狩りを生業としていた生粋のファイターであり、歴代最強と言わしめるほどの戦闘力を誇っていたらしい。

 

流れるような動作で繰り出される拳は、アトラスの顎を狙い真下から振り上げられる。

アトラスはそれをスウェーで躱すと、そのままの勢いを利用し、バク転をするかの様にサマーソルトを霊夢の顎に当てる。

 

「ぐっ!」

 

まさかあの体勢から反撃が来るとは思っていなかったのか、咄嗟のことで反応できずにいた霊夢は、見事に打ち上げられる。

だが、ジクジクと痛む顎を気にしている余裕などない。

 

「はぁ!!」

 

アトラスは打ち上げた霊夢の腹を狙い、右手で掌底を打つ。

直感的に、この攻撃を喰らえば、良くて内臓のいくつかは持っていかれると判断できた。

 

迫り来る掌底を蹴り払うために足の筋肉に力を入れた瞬間、それが間違いだったと判断出来た。

 

アトラスは攻撃の手を途中で止めた、所謂フェイントという技術だ。

完全に虚をつかれた霊夢の足は何もない空間を蹴り抜く。

そしてそれは、決定的に致命的な隙であり、アトラスが望んだ通りの展開だった。

 

「中々にいい蹴り技でしたが、私や美鈴ちゃん、恭君には程遠いですね」

 

足を掴まれ、顔面を床に打ち付けられる。

床が砕ける程の威力で打ちつけられた痛みは、声が出ないレベルの物だったが、もしも霊力で強化していなかったら、見るも無残な潰れた死体になっていたかもしれない。

 

なんとかして脱出しなければ、いつかは本当に潰れた死体になってしまう。

無様な体勢だが、残っているもう片方の足でアトラスの手を蹴って抜け出そうとするが…

 

「おやおや、先程の洗礼された物とは違って、今の蹴りはいただけませんね。 0点です」

 

見事に両足を掴まれてしまい、今度こそ身動きが取れなくなってしまう。

しかし、両手が動く以上は弾幕による攻撃なら可能なため、手に霊力を溜めるが、それすらも看破されていた。

 

「無駄な抵抗ですね〜」

 

まるで、薪割りをする斧のように体ごと持ち上げられーーー叩きつけられる。

何度も何度も……叫び声をあげるも手を止める気配はない。

霊力による物理防御の強化をしていなければ確実に死んでいるだろうが、アトラスはそれを見越して叩きつけている。

 

痛い!痛い!痛い!痛い!!

 

顔面は既に感覚が消えている。

 

どうなったんだろう? ぐちゃぐちゃになってるのかな? 私はここで死ぬのかな?

はぁ〜あ……こんな目に会うなら家でのんびり茶でも啜っていればよかったのに…

 

「霊夢!!」

 

見ていられない、といった様子で霊夢を助け出そうと弾幕を放つ。

ーーーしかしそれは、この状況では絶対にやってはいけないだろう。

 

「あらら…仲間が人質に取られていると言うのに…」

 

霊夢を盾にするように自分の前に持ち上げる。

そうするだけで自然とアトラスへの被弾は無くなる………そしてそれは、本来ならアトラスに命中するはずの弾幕が霊夢に直撃するという事だ。

その時点で撃つのを止めたのだが、それでも既に放ってしまった弾幕に関しては、完全に魔理沙のコントロールを離れてしまい、もはやどうする事も出来ない。

 

「霊夢を離せぇぇぇえ!!」

 

力の限り叫ぶも、アトラスにそのつもりは欠片もない。

 

「自業自得です」

 

結界を張る力すら残されていないのか、ゴッ! ゴッ! と地面を砕く鈍い音が響く。

 

やがて、霊夢の反応が無くなったのを確認したので5mほど離れている魔理沙に向かって放り投げる。

能力を発動させ霊夢を見てみると、浅くだが、確実に背中が上下している。

 

「まぁ、殺すつもりは無かったから当然なんですけどね」

 

「テメェ……」

 

怒りの形相でアトラスを睨みつけるが、当の本人は全くと言っていいほど気にしていなかった。

魔理沙もその理由はよく分かってはいるが、友人を目の前で殺されかけた事は許せるものではない。

問答無用でマスタースパークを放とうとしたその刹那、肩を叩かれた。

 

「止めておいた方がいいですよ? 私を正面から相手にして倒せる方法なんて、ほぼ存在しませんから」

 

「は……え?」

 

目を離したつもりは無い。 目を瞑った覚えも無い。 なのにこのメイドは一瞬で距離を詰めて私の肩を叩いてきた。

 

「おや、この程度の速度でも目で追えないんですか? 情けないですねぇ……恭君ならギリギリで反応出来る速度ですよ?」

 

あぁ、こりゃ勝てんわ。

霊夢が何も出来ずに惨敗、それ以下の私じゃ何をやっても無理だな。

ここまで実力の差があると全く悔しくならないのは新しい発見だったぜ。

 

「その表情、目の動きから察するに、諦めていただけるんですよね?」

 

「それは……」

 

霊夢の意思を尊重したい。 所詮私は異変解決についてきたオマケだ。

そんな私が決めていい事ではない。

 

魔理沙がどうするか悩んでいると、アトラスの後ろにあった扉が静かに開いた。

 

「アトラス、殺してないだろうな?」

 

「はい。 レミリア様の言い付け通り生かしてあります」

 

現れたのは青い髪にコウモリのような翼を持つ少女だった。

 

多分、この幼女がコイツらのボスだな……

 

レミリアから感じる妖力は、外に広がっている霧と同じなのを感じ取った魔理沙。

今は弱体化しているのか、思ったよりは妖力を感じないが、それは霧を放ち続けているのが原因なのだろう。

 

「と、言うわけだ。 お前ら二人程度ならこのアトラス一人で十分なのは理解したな?

殺されなかっただけありがたいと思って、さっさと帰る事をオススメしておく」

 

その言葉を聞いて霊夢を見てみる。

恐らく意識は無いだろう。 息も絶え絶え、殺してないとは言っているが、一歩間違えば確実に死に至るダメージだ。

霊夢が戦えない状態でこの化け物二匹を相手にする?…………冗談じゃない。

 

「レミリア……って言ったか?

とりあえず今回は諦めて帰る事にする。

その上で一つ聞いておきたい」

 

「言ってみろ」

 

「この霧を止める気はあるのか?」

 

「ある」

 

意外な答えだった。

この霧は間違いなく吸血鬼が昼間でも外で活動できるようにする為のもの。

だからこそ、この霧を簡単に消すと言ったレミリアの言葉の意味がよく分からなかった。

 

「元々、この霧はそんなに長時間出し続けられるものでは無いし、私の館にも人間の従者がいる。

既に会っているだろうが、その二人にまで影響を与えかねないものをいつまでも垂れ流している訳にもいかんのでな」

 

「人里にも被害が出てるんだ。

なるべく早く消してくれると助かる」

 

「そうだな……」

 

レミリアが顎に手を当てて考え込む。

一人じゃ判断が出来ない事なのか、アトラスを呼んでしゃがんでもらい耳打ちをする。

時折『妹……』やら『満足……』などという単語が聞こえてくるが何の事だか分からない。

 

「よし、一週間待て。

一週間後にはこの霧を綺麗さっぱり消してやろう」

 

「もう少し短く出来ないないか?」

 

「駄目だ。 少なくとも恭介が回復するまでは絶対に解除しない」

 

遠回しに責められた気がする……

まぁ間違いなく私のせいなんだろうけど。

 

「わかった」

 

霊夢を抱き上げ背中に乗せる。

帰り道はどっちだっけか? と左右を見ていると、レミリアが『あぁ、それと』と言ってきた。

 

「今後、私達に手を出そうものなら実力行使で対応するのを忘れるな。

ブン屋にでも頼んでアポを取ってから会いに来るなら歓迎しよう。

唐突に来たとしても、それ相応の理由と戦闘の意識無しと分かるのなら歓迎する。

だが、もしも悪意や敵意を持ってここに来るというなら……」

 

背中がゾクリと震える。

 

「あぁ、わかった」

 

「ならいい。 アトラス、巫女の応急処置が終わったら玄関まで案内してやれ」

 

「かしこまりました、レミリア様」

 

レミリアはそれだけを言い残すと扉の向こうに帰って行った。

次は弾幕ごっこなんて甘いもんじゃないんだろうな……などと考えていると、アトラスが何処からか医療道具らしき物を取り出していた。

 

「巫女様をこちらに」

 

敵意は完全に消え去っている。

信用して良いのだろうかと悩むが、下手に逆らって相手の機嫌を損ねる真似はしたくない。

そう思った魔理沙は、大人しく霊夢を渡した。

 

「ふむ……鼻骨、胸骨、大腿骨、脛骨が折れていますね。

それ以外もそこそこ酷い状態ですが、まぁ…何とかなるでしょう」

 

予想以上に酷い状態だった。

添え木やら包帯やらを取り出し、テキパキと固定をしているアトラスを見ていると、先程まで見せていた悪鬼の如き様相は消えていた。

 

「なぁ……霊夢は大丈夫なのか?」

 

「あぁ、心配は要りませんよ。

パチュリー様から預かっているエリクサーを使用すればこの程度の怪我なら2、3日で完治しますよ」

 

「そうか……よかったな、霊夢」

 

もちろん反応は無い。

無事なら無事で、その事は素直に喜んでおこう。

しかし今は、それよりも気になる事が一つだけあった。

 

「最初にさ、第二段階とか言ってたけど、今のは本気じゃなかったのか?」

 

「今の『状態』で、という括りなら本気でしたよ。

とは言っても、本気で殺しにかかってないですし、そもそも私の全力ではありませんので」

 

「なるほどな……」

 

つまりは完全に遊ばれただけ、それでこの有様かよ……

つくづくここの連中が化け物だって理解できたよ。

 

「まぁ……案外話の分かる奴等だってのはいい収穫だったかな」

 

「レミリア様は決して話の通じないお方ではありませんよ。

ただちょっと我儘なだけです」

 

「ま、個人的にはあのパチュリーって魔法使いにリベンジさえ果たせれば文句は無いからよ」

 

「良き友になってくれると嬉しいんですけどね」

 

「いやぁ〜、それはどうなんだろ。

私としてはあのレベルまで昇華した魔法使いなんて見た事ないから嬉しいんだけどよ、向こうからしたら私と友達になっても得なんて無いからよからなぁ」

 

あら、と言って意外そうな顔をするアトラス。

どうした? と聞き返してみると、帰ってきた言葉はおよそ妖怪らしからぬ言葉だった。

 

「損得勘定では真の友人にはなれませんよ?

貴女……」

 

「魔理沙だ」

 

「魔理沙様と巫女様はお互いを信頼し合っている、損得勘定のない良き友人に見えますが、私の勘違いでした?

私に友人という存在はいませんが、それでも最近新しく入った同僚達とは友人を超えた『家族』のような絆が出来て嬉しかったですよ?」

 

うふふ、と笑いながら言うアトラスに対して思ってしまった。

ーーーーあぁ、ダメだこりゃ。 強い弱い、勝つか負けるか以前に、器の大きさが違ぇや。

 

これで良し。 そう言って治療を終わらせ、気絶している霊夢に気付けをする。

 

「あがっ!?」

 

「よう、おはよう霊夢」

 

「痛たた……って! 私気絶してた!? あのメイドは何処ーーーって、ぎゃぁぁぁあ!!」

 

アトラスを探して後ろを振り向いた霊夢が、およそ女の子らしくないおっさんのような悲鳴を挙げている。

状況が分かっていないのはしょうがないだろう、ボコボコにされて気を失っていたのだから。

 

「あ〜、もういいぞ霊夢。 話の通じるここのボスのおかげで私達も幻想郷も助かる。

あとついでに、瀕死の重傷だったお前を助けてくれたのもそこのメイドさんだ」

 

「は!? 全く状況が掴めないんだけど!?」

 

「まぁつまりアレです。 魔理沙様と巫女様は今後こちらに攻撃の意思を持たない限りは、丁重におもてなし致しますよ……じゃあ説明になりませんか?」

 

「なりません!!」

 

まぁ、霊夢の言う通り説明にはなっていない。

けど、ここでもう一悶着起こすつもりはないプラス一悶着起こして殺されるのも嫌なので、事の顛末を霊夢に話す。

 

「えぇと……つまり、あんた達は吸血鬼の妹を外で遊ばせたいからこんな異変を起こしたと?」

 

そこに関しては魔理沙も聞いていなかったので、ちょっとした驚きであった。

 

「はい、それ以外に理由はありませんね」

 

霊夢がワナワナしてる………気持ちは分かるぞ。

と、頷いている魔理沙。

 

「そんな事で……そんな事で……こんなデカい異変を起こすなぁぁぁぁああ!!」

 

アトラスに胸倉に掴みかかってガクガクと揺らし出す。

 

「あんたねぇ! ちょっと言ってくれれば考えてあげるって程度の事をなんの相談もせずいきなり危ない霧なんか出してんじゃないわよ!」

 

「あはは〜、そこは私に言われても〜」

 

「あはは〜……じゃない!!」

 

暫く揉めあった後、やっと霊夢が落ち着いてきたのか、これ以上アトラスに文句を言ってもしょうがないと思ったのだろう。

 

「もういいわ……帰してくれるなら、そろそろ帰るけど、もう変な事しないでよね」

 

「レミリア様次第ですね〜」

 

相も変わらず笑顔のアトラスが妙に腹が立つ。

しかし、殴りかかっても軽くあしらわれる事が目に見えてるのでどうしようもないのが更に腹立たしい。

 

「では玄関までお送り致します」

 

「いや、別にいいわ。 帰り道なら分かるし、あんたは例の男でも見に行ってみなさいよ」

 

「いいんです?」

 

「んな、心配ですっ! ってツラされてりゃ断る気も失せるわよ」

 

それを聞いたアトラスは、ありがとうございます! と叫んで走って行った。

余程心配だったんだろう、泣きそうな顔だった。

 

「さて、帰るわよ」

 

「おう」

 

1週間もすれば異変は勝手に解決する。

そう思えば何となくだが、足取りが軽くなった気がする。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ヴワル魔法図書館。

そこには今、パチュリー、小悪魔、アトラス、まだ寝ている恭介がいた。

 

深刻そうな顔でパチュリーが、恭介の頭を撫でていた。

 

「恭君の容態は如何ですか?」

 

「大丈夫…寝ているだけよ」

 

「じゃあーーーーその顔の理由は何ですか? パチュリー様がそこまで深刻になるなんて、ただ事ではありませんよね?」

 

言うべきか、言わないでおくべきか……いいえ、迷う様な事ではないわね。

 

「恐らくだけど、恭介が幻想郷全体から狙われるかもしれないわ」

 

 

本当の異変は、まだ……終わらない。




霊夢・魔理沙組が負けました!
アトラス強すぎ? しょうがないよね、作者が気に入ってるんだから……恭介? あぁ、彼はいいんだよ。

まぁ霊夢にはあのバグみたいな技があるので、次はどうなるか分かんないですけど、今後の展開の為にも負けてもらいました。
正直ここで解決チームを負かすのは読者様的にどうかな? と思いましたけど、やっちゃったww


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。