たとえ逃げることを選んでも (瓢鹿)
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一度彼の青春は終わりを告げる

初です!よろしくお願いします!


 「失礼します。」

 そう告げて、職員室の扉を閉める。扉を閉めるときに平塚先生の悲しげな微笑が目に入った。

 しかし俺は、それを直視することができない。もうきっと、関わることはないのだから。今あの微笑を見てしまえば、決意が揺らいでしまう。そんな気がした。

 だから目を背けた。

 

 リノリウムの床を鳴らしながら一人玄関へと向かう。前までであれば、もう少し遅い時間に、もう少しにぎやかに玄関を目指していた。

 だが、それももうないだろう。なんせ、今日この日をもって、俺は奉仕部を退部したからだ。

 

 一人帰路につく。空を見上げれば、どこまでもきれいな夕焼けの空が広がっている。まるで俺の門出を祝しているようだ。そんな祝されるべき門出ではないのに。もしかしたら、再び元の孤独に戻ることへの餞別かもしれない。そんな優しいような、それでいて残酷な空を見上げて、

「これでよかったんだ。」

 そうひとりごちる自分の顔が、ひどく悲しげに歪んでいたことに俺が気付くことはなかった。

 

 頭の中には幾度となく繰り返してきた、これでよかったのかという問い。

 今でもよくないと思う自分がいる。

 だが、今更俺はあの二人にどんな顔をしてあの空間にいればいいのだろう。

 わからない。

 何故否定されたのか。

 あれが最も効率が良かったのに。俺だけが傷ついて完結する、そうすることで、誰も傷つくことのない世界が完成する。皆が救われる、それを達成するための方法があの方法であっただけで、今までと同じようにやっただけなのに。

 どうして否定されるのか。独りだった俺には自己完結でしか解決方法を見出せない。だから、失うものも、関係もない俺が傷つけられればいいだけであって。

 だから、俺には由比ヶ浜の問いにも、雪ノ下の否定にも答えることができなかった。否、何を答えればいいかすら分からなかったのだ。常に独りであったから。犠牲を自分以外で収める方法を知らないから。

 それに、あの海老名さんの真意に気付けたのも俺しかいなかった。あの往々にして正しい雪ノ下ですら、あの優しい由比ヶ浜ですら。ついぞ俺しか気づくことがなかったから。気付けた俺が問題を解消しただけであったのに。

 気持ちを考えろ?無理だ。考える相手すらいなかったのに。どうしろというんだ。嫌い?俺はこの方法以外知らないんだ。

 そう結論付ける自分がいた。

 しかし、それを許さない自分がいる。あの関係を気に入ってしまった自分がいる。探し求めていたものが存在しているのかもと思う自分がいる。

 いつまでもあのぬるま湯のような関係の温かさに浸かっていたいと、知ってしまった温かさから逃れることのできない自分がいる。

 それでも俺は、あの二人を傷つけてしまった。癒し方を知らない俺は、どうすることもできない。

 だから、俺は決めたのだ。大きさや期間は関係なしに、少しであっても大切に思ったのであれば。俺がとるべき行動は。

 

 家につく。頭の中では、いまだに繰り返される問いがふわふわと漂っている。この問いが頭に浮かんでいるときの俺は目がいつも以上に腐っている(小町談)ので、頭から消し去るついでに、二度と浮かんでこないよう強く頭を振る。ぶんぶん。ぶんぶん。そうして顔をあげると、天使(小町)がまるで異物(俺)を見るかのような目で見ていた。どうも肉親からも変な目で見られている今日の俺です。

 ただいまと言うと、小町はお帰りとは言わずに、ただ、

「なにしてんの」

 とだけ言い、中に戻っていった。

 って、お帰りもないのかよ。ここでも俺のヒエラルキーの低さが窺えますね。やったね!ていうか、低くないとこなんてあるのか、、、あ、なかったね☆俺ぼっちだし。あれ、目から汗が、、、

 そんな益体のないことを考えつつ帰宅。やっぱ家が一番だよね!ずっと家にいたい。なんなら俺が家になるまである。いや?家になると、雨風からの攻撃で休めないのか、なら却下ですね。ええそうしましょう。やはり一番の夢の専業主婦だよね!なりたいなあ。ほんと、誰か養ってくれねえかな、、、。

 そうやってなるべく違うことを考える。それも空っぽなことを。そうして俺は逃げるのだ。そうして、また自己の中で完結させるのだ。それが俺だから。

 甘えることを知らないから。たとえ甘んじることはあっても、甘えることだけは決してしないのが俺だから。

 

 夕食を終え、風呂から上がり、自室へ。

 ベッドに倒れこむ。ふと時計を見ると、時刻はまだ10時前。それなのに、体は睡眠を欲している。きっとやっとのことで解放されたから、安堵したのだろう。思えば、奉仕部をやめるまで、ずいぶんと時間がかかった。

 修学旅行を終え、半月が経とうとしていた。その時間で、俺はひたすら考えた。何がダメだったのか。どうすれば違う方法でより良い形に導けたのか。いつもそのことを考えていた。だがしかし、その問いが解けることは結局なかった。この半月ただひたすら同じところを回り続けた。

 だが今日は。今日くらいは。同じところで、ぐるぐる回っていた以前よりも、前か後ろかはわからないが、この思考の沼から動くことのできた自分を労ってやろう。

 たとえそれが、世間一般でいう「逃げ」であっても。多くの人間は逃げてはいけないという。だが俺に多数派の意見は通用しない。何せ生まれこの方、少数派なのだから、反対派の意見など聞くまでもない。そんな数任せの暴論は通じないのだ。だから、俺のこれは悪いことでないのだ。だから恥じることはない。堂々と逃げようじゃないか。逃げることのなかった人生ではないし、今回もその多くの逃げの一つなのだ。

 

そう俺はまた自己完結させた。薄っぺらい理由を重ねて。

 

 

 

 少しの回顧があってから、俺は意識を手放し、いつもより少し早く夢の世界へと飛び立っていった。

 

 




 ありがとうございました!
よろしければ感想などもお願いします!
 


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彼はいつかの夢を見る

久しぶりですね。話はゆっくりめで進めて行こうと今のところは思っています。速い展開はあまり好きではないので。

では、今話もどうぞよろしくお願いします!


気がつけば、いつかの居場所に自分がいた。

隣を見れば、楽しそうに今日あった出来事を話す由比ヶ浜と、それに微笑をたたえながら相槌を打つ雪ノ下がいる。

「でねー」「そうね。それは違うと思うのだけれど」

そして由比ヶ浜が俺に返事を求める。

「ねえヒッキー?」

俺が心の拠り所にしていた、日常。

ぬるま湯のように生暖かくて、抜けるのを躊躇ってしまうような場所。

「ああ、そうだな」

手元にある文庫本に目を落としながら俺も相槌を打つ。

文字の羅列を目で追っても、内容は一向に頭に入らず、スルスルと俺の隙間から抜け落ちていく。

そんな無意味な行為に嫌気が差して、窓に映る空を見れば、空は朱に染まりつつも、夜の闇に少しずつ侵されている。昏く、暗く。

段々と空が闇へ。

何故か異様に空が暗くなるのが早く見えて俺は何の気もなしに二人に尋ねる。

「なあ、最近てこんなに暗くなるの早かったか?」

誰も答えない。

 

いくら呼びかけても誰も答えず、それどころか2人はさらに話に花を咲かせていた。

大きな音を立てて、椅子から立ち上がってみせると、ようやく2人はこちらを向いた。

そして答える。

「誰?」

誰と聞かれても、俺は俺で。

比企谷八幡であるとしか答えられない。証拠なんて言われても外見で判断できるはずだ。

それなのに。2人は俺に問う。

「本当にヒッキー?」

「本当に比企谷君?」

何かがおかしい。

そう考えるのが遅かったことに俺は気づく。

空が昏く、深い、夜の闇なんてものでなく、延々と終わりの見えない闇が空を覆い尽くしていた。

時計を見ても時刻は5時で。

再び二人の顔を見ると、顔がいつのまにかまるでクレヨンで塗りつぶされたかのように、輪郭しか分からなくなっていた。

「由比ヶ浜?雪ノ下?」

名前を呼んでも返事がない。

ただ同じ問を繰り返す。

「本当にヒッキー?」

「本当に比企谷君?」

俺は恐怖した。

いくら答えても俺の答えは二人を満足させる答えには至らずに、何度も同じ答えを繰り返した。

 

叫びながら、俺は答える。俺である証明を。

それでも2人は満足せず、俺の胸にどす黒い負の感情が段々と膨らみながら、渦巻いていく。

 

答えても。答えても。答えても。

間違い続けて。

感情が爆発した。

「じゃあ!誰が比企谷八幡なんだよ!」

その叫びは、果たして二人に対してだったのか。それは今の俺にはわからなかった。

 

少しの間があって、二人が声を出した。

「人の気持ちを考えるのがヒッキーだよ」

「あらゆる問題を解決してしまうことかしら」

2人は、俺では無い誰かを俺と言っていたらしい。

俺には、そんな普通の人のように、気持ちなんて考えられないし、物語の主人公のように問題の解決もしていない。

心理を読み取り、解消に励むだけの俺にそんな大層な事は出来ない。

俺ができるのはただの逃げ。現状からの逃避だ。

どうにか最悪だけは免れて誰も損をしない。

それが俺であるのに。

いつから比企谷八幡はそんなご大層な、まるで何でも救ってしまうヒーローへ移り変わったのだろうか。

 

結局彼女達は理解出来なかったのだ。この比企谷八幡の存在を。

理解足り得ないのなら、俺は切り捨てる。そもそも理解してもらえるかもなんて曖昧な幻想ははじめから切り捨てるべきだったのだ。

俺は自分を指さす。

そして答える。

「俺が比企谷八幡だ。そんなヒーロー俺は知らない。俺の中から消えろ」

努めて冷たい声で突き放すように言い放つ。

二人の塗りつぶされた顔から次第に涙らしきものが溢れ始める。

けれど俺の知ったことではない。

誰も俺の世界に入れさせない。

俺は俺にだけ意識を向ける。

その結果がこの惨状でも関係ない。これは他人の出来事。俺には関係ないのだから。

聞こえる嗚咽から逃げるようにかぶりを振る。

そして涙を流すふたりに背を向けて俺は最後の言葉を口にする。

「じゃあな。俺の求めたものはここには無かったらしい」

俺の言葉に耳を傾けずに泣き続ける勝手さにうんざりして、部室を出る際にありったけの力を込めて、扉を後手で閉めた。

廊下にはまたも顔の塗りつぶされた見知った人型がいた。

オレはその人型に、「来るな」とだけ告げると、果ての見えない 廊下を歩き出した。

人型は消え失せ、何も無い道だけが残る。

様々な逡巡が頭をめぐるが、それを押さえつけて俺は歩いた。

受けた依頼も、受けた思いも、霧のように消え失せていく。

 

どれくらい歩いたか忘れた後俺は何故歩いているのか分からなくなっていた。

 

 

 

目を覚ます。

俺を起こしに来る小町の声は聞こえなくて、時計を見れば9時半頃。

「遅刻した…」

俺の心は波すら立てずに、目の前の出来事を受け止める。

のそのそと起き上がり、掛けてある制服に身を包み、リビングへと下りた。

当然の様に小町は出ていて、机の上には俺の分の朝食が置いてあった。

温め直して、噛み締めるように咀嚼して食べ終える。

出るための用意を終え、玄関へ。

「いってきます」

そんな俺の言葉が誰もいない家の中に虚しく響き渡るのを確かめて、玄関の扉を開けた。

空は昨日と変わらず雲一つなく、やはり俺の心情をまるで気にせず暴力的なまでの青さを俺の目にまざまざと見せつける。

そんな空を睨みつけて、小さく舌打ちをして、俺は学校への道をゆっくりと気だるげに歩き出した。

 




この話を書くのはストップしていたのですが、恐れずに感想を見て再びこの話を書こうと思いました。感想がすごい励みになるので今後の活力にぜひお願いします!


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彼はやはり変わらない

 ついにオリキャラが登場となります。名前は水島(みずしま)奏(かなで)です。
 今回から対話を増やしていけたらと思っています。
 それでは3話もどうぞよろしくお願いします!


 遅刻して重役出勤というわけだが、この時期ともなると外に出るのがほかの時期と比べて億劫になる。

暦もそろそろ12月を迎え、それに従い環境も着々と冬へと突入している。

外界には肌を指すような痛みを伴う寒さと、乾燥した空気が容赦無く外出して間もない俺の体を蝕んでいく。

もともと冬は嫌いだ。

寒さも空気も苦痛で、クリスマスともなればリア充共が自分たちの親密さを見せつけようと互いの体を寄せあって甘い空気が周囲を漂う。

誰が人がイチャコラするところを見たいというのだろう。するなら家でしろよ。温かいし。

そんなこんなで俺は冬が嫌いなわけで。誰しもが嫌いなものからは背を向けたくて仕方がないはずだ。背を向けるなという言葉は強者の言葉。

弱者にとってそれはただの強制でしかないので、その言葉が嫌で嫌で仕方が無い。

弱者は強制されることも嫌う。それも弱者以上に。

烏滸がましい、あさましい、クズだなんだと言われようが、弱者も弱者なりのプライドを持っているので、そんな強制には従ったりなんてしない。

ただ相手が胸のいらだちを全てさらけ出して帰るのを待つのみ。

抗戦しろだなんて言われようがそんな能力を持っていたら弱者には成り下がらないだろうし、そんな胆力を持っていれば初めから戦っていただろう。

つまり何が言いたいかと言うと。

俺にとって苦痛な冬の間は学校は休校にすべきだと思いました。

 

我ながらどうしようもない考えだと思う。

けれど、居場所を捨てた俺の胸にあるはずの清々しさはどこにも無くて、行き場のない理解出来ない靄だけが黒々と渦巻き続けている。それも捨てる以前よりも。

 

目の前に転がる小石を腹いせに思い切り蹴りつける。

蹴られた小石は何の抵抗もなしにただコロコロと転がって、側の川へと落ちていった。

虚しさが俺の心へやってくる。

何の罪も犯していないものにたいして自分の感情をぶつけたその行為がひどく勝手なものだと理解して、どっと口から溜息が漏れた。

寒さに耐えかねて両手をズボンのポケットに深く突っ込み、いつもの猫背をより深め、寒さに身を縮ませるように誰もいない道を独り歩く。

 

そして気づく。

自分が歩いて登校している事に。

いつもであれば自転車で登校するのに対して何故か俺は理由もないのに、20分かけて歩いている。理由はない。なのに歩いている。

不可解なのに、俺の心は自然と答えを出していた。

余裕がなかったのだ。そこまで考えが及ばず、失念していたのだと。

俺はたしかに未練を振り払って、あの暖かな居場所を切り捨てた。曖昧なものに割くほど俺に余裕はないのに、それでも俺には余裕が出来なかったのだ。

それどころか以前よりも余裕がなくなっている気がする。

やれ休校だの、やれ帰宅だのとくだらないことをいくら頭で捏ねくりまわしてもそれは決して形を得ずにもうもうと消え失せ、どうしてもあの部活のことを思い出す。

 どうすれば......

 これは落ちてはいけない坩堝。落ちてしまえば抜け出すことのできなくなってしまう悪循環だ。

 あのときの最善はあれだけだった。それ以上もそれ以下も存在しない。俺の中ではあれが唯一無二の解決法だったのだ。いや、正しくは解消法か。

 どちらにしても俺があの場にかかわることは二度とないのだからもう考える必要性もない、

 何のためにあの夢の中であの二人と、その他と決別したのかがわからなくなってしまう。

 

アスファルトの道路を革靴の裏でつったかつったかと鳴らしながら歩く。

 もう学校は目の前まで迫っていて、時間を見ればちょうどいい、授業の終わる頃だ。

 誰にも気づかれないように入って、何もなかったかのように堂々としていればいい。俺を意識のうちに入れる人間なんてこの学校ではきっと数少ないだろうし、俺を誰も気にとめることはない。

 それが今までの俺だ。こえからもそれはきっと変わらないのだろう。

 人は簡単に変わらない、変わるのであればそれはきっと確固たる自分ではないのだ。

 俺の中での自分のあり方。

 それを救われないからと否定するやつも真っ向から否定するやつもいたけれど、俺は今のこの孤独に満足している。

 これ以上を望まないし、何も願わない。

 むしろ周囲を変化させ、救うという発想自体が間違っている。

 そんなものは正しさでも何でもなくてただの傲慢だ。勝手な価値観を押し付けて、それ通りのものを強要して。

 人が他人を救うだなんておこがましい。そしてその理想は押し付けがましいにもほどがある。

 

 俺は校舎を見上げる。

 見上げても何も見えないというのに、何かを探すように校舎の隅から隅までを見た。何かを探しているわけでもないのに。

 

 突如背後から声がした。

 それは透き通った純粋さを感じさせる極上の音色、だなんてことはなくて普通に女子生徒の声だった。

 なにかしたかしらん、と声がした後方へ振り向くと、一人の女子生徒が俺をじっと見ていた。

 肩口で切りそろえられたゆるい曲線を描くやや短めの髪は柔らかそうで、そこから覗く小作りな顔は柔和といった言葉が一番近いように感じて、身に着けている制服のリボンからひとつ年下の一年生だということが判断できる。あとついでにかわいい。

 じっと俺の目を見据える相貌。

 ......これあれだわ。不審者と勘違いされてるわ。本能がそういっている。

 やはり俺レベルになると、学校の制服を着ていてもにじみ出る不気味さから皆不審者だ、と感じ取ってしまうのだろうな。なにそれ悲しい。制服着てて不審者と間違われるって理由がわからん。

 弁明するために口を開こうとして、

「どうしたんですか?」

 先手を取られる。

 それよりも。この時間に登校ってこいつも俺と同類だろ。やーいやーい遅刻だー!

 いまだ見据える目に鋭さが宿った気がした。心を読まれた.....!? 心の中で馬鹿にするのやめよう。

「い、いや、なんでも」

 ようやく出した俺の声は多少震えていて、顔が熱くなるのを感じた。いや、今日はずいぶん暑いですね.....って俺だけ?

 彼女はくすっとだけ笑うと、少し俯いて、

「遅刻したんですよね......私遅刻するの初めてで、その......」

 なるほど理解した。ここから運命の出会い的な?なんだそれ。ここはラブコメなんて発生するところじゃありません。よそでやれよそで。

 じゃなくて。

「つまり、遅刻の際にどうすればいいかわからないってことか」

 まあ、これくらい、遅刻常習犯の俺からすれば余裕だ。今の俺なら無表情で寝坊したと理由を述べて反省しろと愛の込められた拳を受けるまでがワンセットだな。殴られるのかよ。

 まあ、どの道俺も通らなければいけない道なので、彼女へ遅刻の際のことをいろいろとレクチャーすることにした。

 彼女は無言でうなずく。俺はそれを肯定ととって、

「ついてこいよ。まずは学校に入らなきゃだ」

 そう再び前を向こうとして。

 彼女は90度、直角に腰を曲げて俺に「ありがとうございます!」と威勢のいいお辞儀をして、

「私は水島奏です!」

 彼女は続ける。

「あなたはもしかしてあの比企谷八幡先輩ですか?でしたらその......あの......お願いがあるんです!」

 なにやら口ごもったかと思うと、身を前へ乗り出して俺にそう告げた。

 

 いや、初対面でお願いって。どんだけ厚かましいんだよ。きっとその厚かましさなら世界狙えるぞ、マジで。

 

「悪いが断る」

 

初対面のやつ相手の頼みを聞くほど俺は出来たやつじゃない。

葉山みたいな人間ならきっと聞くのだろう、そして想像を上回る結果を出して、より人としての価値を高めていく。

だが俺は違う。解決なんてできないから、思いつかないような斜め下の方法で解消する。そしてそれは全てを0にするだけでゴールへと導ことは出来ない。

それではきっとダメなのだ。俺にいきなり頼み込んできたこの女子の願いはきっと、解消を望んでいない。全てを救い、満足する解決を望んでいるのだろう。

なら俺が出る幕じゃない。そんなの奉仕の理念なんてものを掲げた奴らのところにでも行ってくればいい。

無性に苛立つ。

この場から早く立ち去りたかった。

俺はそう短く答えると、踵を返して足早に、次こそ昇降口へと向かった。

 

俺が昇降口へ向かう。

取り残された女子生徒の「やっぱり…」という呟きが俺に聞こえる事はなくて、その呟きは彼女の耳にだけ残り、よく晴れた青空に吸い込まれていった。

 




 読んでいただきありがとうございます!
 感想、ご指摘など待ってます!
 どうしても納得がいかず、最後の方を修正しました。


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彼は彼女の願いを知る

こんにちは!第4話です!ほかの人物も段々登場していきます!
楽しんで頂けたら嬉しいです。
それでは4話どうぞ!


けして静かとは言えない人一人いない廊下を床を叩く音が、通り過ぎようとする度に聞こえる教室の喧騒に吸い込まれるように消えていく。

先ほど謎の初対面の女子からの謎の依頼を断った俺は、授業が終わる頃を見計らって自分の教室へと向かっている。

 

「一体なんだったんだ……」

思い出すのはあの時の彼女。

名前も知らない、素性も知らない、ましてや存在すら知りえないような人物にいきなり何かを頼まれるなんてこの17年の人生で1度はあっただろうか。

常識的に考えてまず無いだろう。俺の人生がラブコメであるならありえない話でもないだろう。

だが俺の人生はラブコメなんてものではなく、喜劇でもなければ悲劇でもない、俺しか存在しない、昏さそのものだ。

求めたもの何一つ手に入れることの出来ない主人公が一人いるだけの世界だった。

 

 

そんな世界で、求めたものは依然未だ知りえない何処かに燻り続けている。

 

それだけが今の俺に分かる事だった。

 

終業のチャイムが程なく鳴り響いて、教室へ辿り着く。

俺が教室のドアを開ける前に、そのドアが開いて、その向こうからは見知った明るい髪が出てくる。

向こうから聞こえていた談笑の声の主は俺の顔を見ると、その声を潜ませる。

「ヒッキー………遅かったんだね、おはよ」

「…………うす」

いくらかの迷いの末、俺は短な挨拶だけを残して見知った少女の前を足早に立ち去った。

 

由比ヶ浜は優しい。

修学旅行の一件の後ですら、俺に挨拶をし続ける。

これほどいびつな状況下でありながら、変わらない。

変わろうとしないのだろうか。

どちらでも俺には関係の無い話だが、その優しさは今の俺にとっては同情以外の何物でもないように思えた。

立ち去る刹那、

「待っ…」

呼びかけようとする声がしてもそれに俺が耳を傾け振り向く事は無かった。

 

教室は休み時間特有のガヤガヤとした喧騒に包まれて、誰も俺が登校したことに気づかない。やっぱ嘘。戸塚がこっち向いた。さすが戸塚、俺に向けている今の戸塚の微笑みが俺だけのものだったら良いのにな…

やっぱ時代は戸塚だわ。というか世界が戸塚だわ。どっちも似たようなもんか。

俺の思考を読んだのか戸塚がやや苦笑混じりに俺を見ていた。読まれたのか…

しかし。

時々使われた地の文読みも戸塚にされるとどこか癒しのように感じました。

 

席に着けば、日頃続ける寝た振りを開始する。

慣れ親しんだぼっちワーク。そして人間観察。視線だけを教室の後方へと向ければ、そこには数人で固まり笑い合うグループ、葉山のグループが見える。

葉山たちトップカーストのグループ連中は修学旅行を終えてもどこも変わりなく日々を送り続けていた。けれど、強いて言うならば、どこか上辺だけの言葉が、実態を持たない空虚さがより俺には際立って見える。

 

何も変わらない日常。

ようやく取り戻した孤独の日々。

そういうものはえてして手に入れて即手からこぼれ落ちるもので、

「あの………」

忌々しげに振り向くと、由比ヶ浜が俺の横にたって俺を覗き込もうとしていた。

「何してんだ……」

なんだあれか。さっき挨拶したのにまた挨拶したくてここまで来たのか?なにそれ俺のこと好きすぎだろ。

由比ヶ浜の目を見れば、どこか虚空を右往左往しており、タイミングを探っているようだ。

一体何の?

あの時に対しての謝罪なんてもう要らない。

俺の中ではこいつに対してももう完全にリセットされた。

過去にあったことは既になかったことへ。

あるべきものすら亡きものとして存在している。

 

居心地の悪い沈黙が空気を支配する。教室は未だ冷めやらぬ喧騒に包まれているのにここだけまるで切り離された空間のように空気が重い。

 

由比ヶ浜は何かを言いたげに、言いたくなさげに言葉を濁す。

どっちなんだよ。

「はぁ……で、用がないなら俺眠いんだけど」

どこか苛立ちと拒絶を孕んだ声を出す。

幸い、皆のおかんこと三浦は今いなくて俺は命の危機を心配することなく答えを待った。だって由比ヶ浜に話しかけられてる時とかすごいおかん見てくるからな。そのせいで胃が痛くなる。炎の女王だけあって視線さえもダメージ発生とかチートだろ。ポケモンだったら睨みつけるだけで防御と体力さえも奪う感じ。なにそれ無理。

「その……ね?実は……」

頬を日差しか何かはわからずとも朱に染める姿を見れば、まるで俺に好意を抱いているかのように見える。無いけど。

思わず唾を飲み込んだ…

「これ、1年生のかなちゃんからだって!」

かなちゃんって誰ですか。知らない子ですね…

「かなちゃんて誰だよ」

最近知らない女子から色々ありすぎてホント困る。

廊下で睨まれたりとか舌打ちされたりとかいきなり頼みごとされたりとか……そんなに俺に構って欲しいのか。あれか?やっぱり俺のこと好きなの?いやー…人気者は辛いな……あれ、目から汗が……

由比ヶ浜が差し出した紙を受け取り、果たし状かしらんと内心ヒヤヒヤしながら女子特有の複雑な折り方で小さく畳まれた紙を開くと、そこには、

「屋上で待ってます。水島奏」

またお前か……

思わずため息が漏れた。その身勝手さ故に。

俺が一体何をしたというのだろうか。

これ以上望まれることなんて無いはずなのに。

そして俺に一体何をしろというのだろうか。

そんな気掛かりが、俺の胸を走り抜けた。

そんな俺が横の彼女が思案している様子に気づく事は無かった。

 

―――――――――――――――――――

 

 

上を目指す足音が、高さを前に吸い込まれていく。

謎の呼び出しを受けた俺は指定された場所へと向かっていた。

俺が屋上へ行く事はあまり無くて、せいぜい黒のレースを初めて拝んだ時ぐらいだろうか。

目の前の階段の長さに辟易する。

本来であれば即帰宅して、即だらける。そんな怠惰な放課後を送りたいのに、こうして長い階段を上らせている。

「帰りたい…」

切実にそう願う。けれど世界は俺の願いを決して受け入れることなく、外から時折聞こえるカラスの声が俺にさっさと行けと催促しているように聞こえる。優しくないなこの世界。

心臓の動悸がやや速まる頃、屋上への扉の前に立つ。飛び降り防止用に付けたであろう南京錠は最早意味を成しておらず、今ではただ錠にすらなり得てなかった。

ドアノブに手を当て、そっと回すと、キィィ……と何か不気味な音を奏でながら扉が開く。

時刻も夕方に差し掛かれば、空は恐ろしい程に朱へ染まって、そして闇の広がる夜を迎える。

今空は控えめに浮かぶ雲と、うっすら上るまるで歪んだ口元のような鋭い三日月、そして、それらすべてをかき消すような朱に染まった空が俺の目に広がっていた。

おどろおどろしい程に美しい身勝手な朱、それが夜へ移り変わる様を思い描くと、それがまるで非日常へと至る陥穽のように思えた。

 

呼び出した張本人の少女を探す。

「来てくれてありがとうございます、比企谷先輩」

後方から聞き覚えのある声がして、そちらへと振り向けば、まるで今朝のように水島は俺の後ろに立って、俺をじっと見据えていた。

 

空を飛ぶカラスの声はいつしか催促から警告のように聞こえる。

――彼女が言葉を発しようと、その口を開こうとする。

彼女は何を願って、何を求めるのだろうか。

 

その答えを俺は知ることとなる。

 

空は依然美しい夕焼けに身を委ねていて、雲と月がまるで俺達を天上から監視しているかのような錯覚を受けた。

 

やがて彼女の告白が始まり、世界は黄昏へとその身体を浸からせる。

何も分からなくなるこの時間。

それでも彼女の、心に息づく崇高な信念だけは確かに、言霊となって俺の心へと届いていた。

俺も答えるために口を開く。

 




読んで頂きありがとうございました!3話なのですが、都合により書き直せて頂いてます。
今話も感想等どしどしお願いします!


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彼の望んだもの

いつもよりやや長めとなっています。その文誤字なども多く、見苦しい表現も多々あると思いますが、最後まで読んでくださるととても嬉しいです!



夕焼けの下。

俺はかつてあれ程までに純粋な、それこそ裏表が全くない傲慢な想いを感じたことがあったのだろうか。

周囲はいつも欺瞞に満ち溢れていて、誰もが自分を隠し通そうとするこの世界。

そんな世界が俺は嫌いだった。

目にする心はいつも裏には汚いモノを孕んでいて、それを確認する度に人すら嫌いになる。

 

けれど今目の前で凛とした声で打ち明けた彼女の想いは、この17年の人生の中で最も美しく感じる。

 

瞳に宿る熱はどこまでも澄みきっていて、言葉に宿る熱は俺でなければきっとその心を溶かしてしまう程に容赦無い温度。

現に俺も心を溶かされかけてしまっているのかも知れない。

心の隅では手を貸してやってもいいんじゃないか?とまるで悪魔の囁きのような声が聞こえる。

確かにこの状況で手伝うことを厭うのはあまり良くないだろう。それこそ人間性が疑われる程だ。

しかし俺の人間性は既に疑われているレベルにあるだろう。自覚済みだが。

文化祭での相模との一件。

修学旅行での戸部と海老名さんの一件。

当人達の祭りを、思いを蔑ろにしてのうのうと過ごしているのだから。

絡まる複雑な感情の糸を紐解かず、願いだけを叶え続けた。

そして紐解かなかった責任を全てをこの身体一つで背負うまでが俺のやり方。

以前の俺ならばきっと気にせず問題を片付けて、それで終わりにしていた。

だがそれはもう出来そうにない。

それはあの場所で否定されてしまったから。

信じてきた自分を、積み重ねたものを壊された気がした。

何よりも求めていた物に近かったであろう存在に。

たとえ切り捨ててもそれは禍根となって俺の中で息づいて、俺の心根を蝕む。

「俺は…………」

受けるべきか、受けないべきか。

今の俺には分かりそうもない。だがそれでも自分をあそこまで奥深くまで、不格好なところも曝け出して俺に求めたのだ。

ならば俺も曝け出して答えるべきではないだろうか。

 

受け入れてもらえるだろうか。

それは分からない。

理解してもらえるだろうか。

それだって分からない。

いつだって人は自分しか見えていないから人の想いを一緒になって感じる事なんて出来はしない。

それでもこの汚さに塗れた世界でも、きっと傲慢な押し付けがましい思いを、何かもを一緒になって感じてくれる誰かを求めたことがあった。

俺のこの孤独を理解して欲しくて、捻くれた俺自身を肯定して欲しくて。

俺は言葉を発した。

「俺は最低だ」

目の前の水島は動じない。静かに俺の次の言葉を待っている。瞳が期待の色を示している。

ならば。

その期待に応えて、続けようじゃないか。

たとえどれだけ幻滅されようとも。

「人の思いを踏み躙るような行為ばかりしてきた。

自分が抱けないような思いから目を逸らして、目先のものばかり見ていた。本来であれば楽しい思い出となるはずであった文化祭、修学旅行でもそうだ。俺の名前を初めから知ってるならある程度聞いてるだろうが、俺は相模を文化祭で口論の末涙を流させ、修学旅行では戸部の告白の邪魔をした。思い出を苦々しいものへと変化させ、それを心のどこかでどうせ青春の二文字で片付けてしまうんだろ?と思っていた。けれどそれは違って、彼らでも片付けきれないものであって、もし状況が違ったなら、俺は今イジメを受けていてもおかしくない程のものだ。

もう一度言う。俺は最低だ。

そんな噂通りのやつが俺、比企谷八幡だ。そしてこれからもそれはきっと変わらない。

それでも水島、お前はこんなやつを望むのか?

ここにはヒーローがいる。みんなの望む理想を表したかのような優しいヤツが。

もしも本当にそいつを助けたいなら俺じゃなくて、真剣に考えてくれる葉山の方がいいんじゃないのか?こんな俺じゃきっと役不足でしかない」

さざ波を立てる心をどうにか落ち着かせようと、そこで言葉を切った。波は収まらず俺の心でより大きく立ち始める。

そこで水島が閉じていた口を開き、予想していないことを言った。

「私は奉仕部の比企谷先輩に依頼しに来たわけではありません。私が助けたい人は既に奉仕部へと行きました。けれど彼女の願いは叶いそうにないみたいです。今の状況ではですが。それに葉山先輩にもあまりいい返事がもらえなくて…」

言葉を詰まらせる水島の顔に落胆の色は少ししか見えない。

「それになにより今の先輩の言葉には正すべきところがあると思うのです」

「そんなもんねえよ」

苛立ちが目に見えるほどに言葉に含まれる。

「私は分かりはしませんけど、それでも知っています」

ふつふつと熱が、沸騰するかのように高まって、

「おれの!何を知ってるっていうんだ!」

その熱はそのまま声となって彼女への容赦ない責めへと成る。

「知ったような口を聞くな!俺が今までどれだけ…」

続く言葉がでない。

喉より先に出ることを拒む決定的なナニカを、口から出してしまえば俺が俺でなくなってしまうような予感がした。

「あなたが……」

やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。

俺の言葉にならない、それどころか音にすらならない制止が届くはずのない彼女は、

「確かな優しさを持って、誰かを救った人だと」

静かに俺の目を感情の炎が逆巻く熱い瞳でまるで射るかのように見据えている。

――――――それでは誰も救えないと言われたことがあった。

変わらないことを肯定する俺に人は救えない、と。

俺は「変わらないことを望むやつだっている」、そんな言葉で返した記憶がある。

それは否定された言葉。

けれど、今目の前にいる彼女は間違いなく、なにか勘違いをしているわけでもなく、真実を語っているように俺には見える。

嫌われても、指摘されても、俺は俺を貫き通しても良かったんだ。

なんとなくそう思える気がする。

否、彼女の言葉が確かに告げていたのだろうか。

どちらであるかは分からない。

けれど「変らなくていいんだ」と、言っていることは理解出来た。

 

人は互いに理解し合えない。一方が理解したつもりでいてもその実、本当に理解してはいなくて、また一方も理解しえない。

それはこの世界の不変の事実。

けれど、そこには続きがあるように俺は思える。

そこからまた二つに道が分かれるのだ。

理解のための努力をする一方と、その努力を諦めてしまう一方とに。

諦めてしまえば否定へと繋がり理解への道は閉ざされてしまうだろう。

努力する事は理解へと繋がり、険しい道であっても必ず終着へと行き着くはずだ。

それが例え自己満足の努力だとしても、俺はそれを咎めようだなんて思わない。

結果論になってしまうけど、確かにそれは人を思った証拠なのだから。

「俺はお前をよく知らない」

水島は優しく微笑む。

「私は知ってます」

水島がこちらへと一歩踏み出す。

「俺じゃ出来ないかもしれない」

「私も頑張ります」

「独りで背負えるのか」

「私も背負います」

「もう絶対に先輩だけが傷付く誰も傷つかない世界なんて絶対に作らせませんから!」

声高々に宣言する。

ちょっと待て。

「なんでそれ知ってんの?誰もいなかったよね?」

水島が目を逸らし、

「いやー、夕焼けがこれまた綺麗……」

「まさかお前……」

俺を知ってるって言ったのは憶測だとは思っていたが、まさかそこから考えるなんて誰が思うだろうか。

「相模を泣かせたときに実はいたんだな?」

ビシィと、擬音がなりそうな程に美しく指を伸ばし、水島を指さす。

「ギクゥ」

クロだ。

ひっかかる節がいくらかあったが、ようやく納得が言った。

たしかにあれを聞かれたのは失態だった。誰もいなかったあの場所だからこそ出せた弱音である。それを聞かれて、心の内まで暴かれるなんて………お嫁に行けない!って貰い手がいねえよ。

「あれを聞くとは……生きて帰さねえぞ」

水島は面白い程にその柔和な顔を冷や汗と脂汗とで塗れていた。

幾許かの後、夕焼けの空の下、甲高い悲鳴が上がったのは言うまでもないことだろう。

そして、比企谷八幡の黒歴史に新たな1ページが刻まれることとなった。

 

―――――――――――――――

 

朱く染まる空には夜の帳がまるで舞台の暗幕のようにゆっくりと降りてきている。

屋上から見える景色、無理解の黄昏は暗幕によって終焉を迎えようとしている。

 

俺は次こそ明確な答えを目の前の彼女へと出す。

1音毎を胸に刻みながら。

「その依頼引き受けた」

 

俺は諦めない。何度でも現状からの逃げを選び続けてやる。

たとえそれを否定されてもそんなものからは逃げてしまえばいい。

逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。

それを肯定してしてくれた人がいた。

優しさだと言ってくれる人がいた。

今はそれだけで十分だ。

 

観客もなしの、俺ひとりの独壇場。

そこに観客がまばらであれ、居ることはそんなに悪く無いな。そう思えた。

 

 

「………そう、貴方も……」

空の下誓い合う2人を他所に、扉の前には2人の少女が息を潜ませ、その場を覗いている。

 

あれほど頑なに孤独であることを望んだ彼の心を再び揺り動かしたものが何であったのか、会話を聞くことの出来ない2人からは想像もつかない。

けれど少女は一つだけ理解していた。

間違いなく彼と自分達の道は完全に分かたれたのだと。

彼はきっと目の前に立ちはだかる。それを完膚無きまでに叩きのめし、今度こそわかってもらうのだ。それではきっと救えない、と。だから、もう一度一緒に、3人で問題へ向き合うことが最善だと。

 

また、横の少女も理解した事があった。

ここからでも分かる彼の顔に以前の曇った表情は姿を消し、どこかこの空のように晴れ晴れとまでは言わずとも、晴れ渡っていること、それはきっと自分たちではきっと引き出すことの出来なかったものなんだということを、早々に理解した。

彼はきっと戻ってこない。私達がずっとこのままでいる限り、彼は、彼の前に立つ少女とこれからは過ごすのだろう。それだけは死んでも嫌だ。だから、もう一度あの部屋へ戻り、3人で笑い合う為に、頼りっぱなしでなく、闘わなければいけないのだ、と。

 

互いの交錯する思いに互いは気付かず、目を見やってその場を足早に立ち去る。まるで噛み合わない二人の願い。

けれど一つだけ共通点が存在した。

3人でまた過ごすこと。

それは間違いなく彼女らの中での果たすべきものであった。

 

依頼についての詳しい話を明日の昼休みとして、今日はお開きとなった。そうして現在、漆黒に染まりつつある夕暮れの空を一人で歩いている。

つかつか靴で地面を鳴らす音がどこか小気味良く辺りに木霊する。誰もいないこの路地は人がいないことによってさらに音が響いたように耳に届く。

耳に届く音はどこか寂しさを孕んでいるようで、あるいは安堵を漂わせている気がした。

 

傾く日が刺してできた影は自分のものであるのにどこか怪物のような不気味さを醸し出す。

 

あの屋上の雰囲気にあてられて気にも留めなかったが、俺は自分の気持ちに違和感を感じなかったのだろうか。

あるいは感じてもそれを抑えて、この現状に満足したのだろうか。

どうなんだろう。自分に問いかける。

―――そんなもので充分なのか?―――

 

いつの間にか止まっていた足を進めて俺はそれを答えとした。

そして影も何もかもが消え失せ、ほのかな街灯の明かりだけを便りに帰路へと着いた。

 

 

「ただいま」

「遅かったね」

即返事が帰ってくる。扉を開くと小町が仁王立ちしていて、俺の帰りを待っていた。

「色々あったんだよ」

そう言ってそれ以上の追及を逃れようとしても、何故か今日の小町は退かなかった。

「お兄ちゃん、いい加減話してもいいでしょ?」

「……何の話だ」

出た声は家族に隠し事をするには、些か平静さが足りないことを自覚した。これではまるで俺が何か抱えているようではないか。

「今まで何も言わなかったけど、今日は言うまでココ退かないから」

小町の言葉からはなにか鬼気迫るものを感じた。

その鬼気迫る態度が優しさであると分かってしまうと、俺は頬を緩めずにはいられなかった。

小町が目を丸くしてこちらを向く。

_「どしたの」

「いいや、なんでも?それより腹減った。ちゃんと話すから夜飯食べようぜ」

固まる小町の頭をぽんぽんと優しさを込めてそっと撫で、リビングへと向かう。

小町も幾らか空けて、

「はあ、しょうがないなあ」

そう、溜息をつきながら、顔を見ずとも表情を察することの出来る程に弾んだ声で俺に続いた。

やはり俺の妹はどこまでも優しい。

改めてそう思えた瞬間だった。

「―――――――と、いうわけだ」

修学旅行の事を洗いざらい話終える頃には小町の頭に怒りの具現たる角が見えるほどに小町は憤りを感じていた。由比ヶ浜と雪ノ下に対して。

どこまでも優しい妹だ。

「そんなの……お兄ちゃんは悪くないよ!私あの2人に…!」

今まさに殴り込みにでも行ってしまうかのような勢いの小町を宥めつつ、

「もういいんだ」

そう言った。

小町は一瞬ギョッとした表情を見せるが、すぐに「あぁ……」と納得したかのような声をだす。

「お兄ちゃんはそういう人だもんね」

どこか悲しげに、嘆くように小町は言う。

俺はそれに何も返さない。否、返せないのだ。

小町はきっと俺があの2人と決別したのだろうと考えているに違いない。

俺だってしたつもりでも、心のどこかでやはり考えてしまって、どうしても迷いを捨てきることができなかった。

「お兄ちゃん……。私は……何もしてあげられないけど、それでもお兄ちゃんがやった事が間違いじゃないことは分かってるよ。お兄ちゃんは自分を身代わりにしちゃうようなどうしようもない人だけど、それでもそれで助けられた人もいるんだから、もっと胸を張ればいいんだよ!さっきの話だってお兄ちゃんがいなかったらその人たちのグループは壊れてたかも知んないし、もっと多くの人が辛い目を見ると思うの。

それをお兄ちゃんは一人で片付けちゃうんだから、お兄ちゃんはすごい!」

俺に向けられた瞳はどこまでも澄んでいて、否が応でも暖かな愛を感じずにはいられない。

「ありがとな」

優しく微笑んで、ゆっくりと、壊れないよう優しくその小さな頭を撫でて、確かな感謝を伝えた。

 

「うん!」

弾けんばかりの元気を伴う笑顔は、これからを頑張るための活力へと変わった。

 

その日、比企谷家には、約半月ぶりとなる暖かな団欒の声が夜半まで続いたという。

 

比企谷八幡はやはり変わらない。どこまでも優しい妹に助けられながら、求めているものへと手を伸ばし続ける。

 

たとえ願ったものが手元へと舞い込んできたとしても。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?いきなり自分の話になりますが、デレステのラブレターのMVが凄かったです!斬新なもので、デレステの進化を垣間見た気がします。みなさんも是非この機会に初めてはいかがでしょうか!(謎の宣伝)
それではまた!


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彼は再び立ち上がる

とあるキャラの話が多めです。

それではどうぞ!


平塚静は教師である。

担当科目である現国の教え方と、それに加え生徒の悩みに対しての態度が真摯であるということもあって生徒からの評判は決して悪いとは言わない。教師からの評判は賛否両論ではあるが。

しかし、平塚静にとっての良い教師像とは常に達観して公平に救済をするものではないのかと考える。救済という程でもないかもしれないが。

聖職者として特定の誰かに入れ込むのは間違いであるはず。彼女はそう思う。

平等に扱えるからこその聖職者ではないのだろうかと。

だから彼女はそんな評判を耳にしても決して有頂天になどなりはしない。

自分にとっての間違いが他人にとっての正解であってもそれは何ら意味を持たない。自分にとってのでなければ。

そんな自分にとっての間違い、誰かに入れ込むことを続けるのはきっとあの少年のせいだろう。

自分が世界にとって間違っているのだと理解しつつも、それが自身にとっての正解だからと、愚行とも呼ばれてもおかしくない自己犠牲による解決を繰り返す人。

あの腐った目を見た時から決めていた。その濁りを溶かして美しいものを見せると。

彼にとって汚く塗り固められたこの世界を。

正しくある者が救われない悲劇ばかり。

そんな間違っている世界で、救いを続ける彼はきっと正しいのだろう。

だからこそ家族以外で最も近いとも言えた彼女らから拒絶された。状況を正しく理解出来ているかはわからないが、それでも少年がニヒルな笑みを浮かべながらサナトリウムと言ったあの部屋が、少年の、少女達の拠り所であるべきはずの場所がいま瓦解しようもしているのだけは理解している。

以前彼が言ったのを私は忘れない。

変わらないことを望むやつだっている、と。それは彼が自身の孤独に対して指摘を受けた際に言ったことでもある。

確かに彼は変わることを望んでいないのかもしれない。それでも今の状況だけはどうしても見過ごすことが出来なかった。

このままではきっと彼自身が嫌った嘘に自分を塗り固められてしまうから。

だからこうして間違いを貫き続けることを心に誓ったのだ。

平塚静の朝は平均的な女性の朝の早さに比べやや遅い。

それは身支度に時間が掛からないためか、食事が適当であるかはいまは話すべきところではない。

起き抜けの頭を醒ます為に冷たい外の空気を窓から取り入れる。

冬の朝の空気は冷め冷めとしていて美しく澄んでいる。

女性らしい起伏に富んだ体を一杯に反らせて深呼吸。脳から爪先の全身に至るまでが取り入れた空気によって段々とではなく一気に醒めていく。

醒めれば、キッチンへと赴き朝食を作り始める。あまり料理が得意でない彼女の朝は本当に適当ではっきりいって女性らしさが皆無である。

食材があまり無いため、カップ麺に。お湯を注ぎしばらく待って食べ始める。無類のラーメン好きである彼女の琴線に触れたこのカップ麺はカップ麺の中で唯一のお気に入りであるようだ。

食べ終え、身支度を済ませ机上に置かれた煙草を手に取る。

部屋の中ではヤニが付き汚れるため吸わない彼女は外に設置されたベランダで吸うよう心がけている。

慣れた手つきで煙草に火をつけ肺いっぱい空気を吸う。そして口から紫煙を味わう様に吐き出す。

虚空を揺蕩う紫煙はゆらゆらと陽炎に似た不安定さがあった。

確かな像が見えず揺らぎ続ける。けれどそこには隠しきれない熱が伴っているのは誰もが知るところ。

ひとえに彼、比企谷八幡もきっとあの部屋の中に何かを求めたのだろう。明確な形を知らずとも求め続けるその姿勢。

彼が何を求めているのかはわからないがきっとその何かは得ることで世界を変えるはずだ。

汚泥に塗り固められた世界を打ち壊し、澄み切った世界へと変貌させる。

彼を更生させると彼女は言った。

けれど彼に果して更生など必要なのだろうか。

由比ヶ浜結衣の一件で知った、捻くれた思考の中に生き続ける確かな優しさ。

この世界では持ち得るものが珍しくなった今、彼の様な人間はどれほどいるのだろうか。稀有な存在であることは間違いない。

そして彼の優しさに救われた者が何人もいる。悪しき方法、外法であってもそれが彼なりの優しさの表し方。

雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣。

自分すら知り得ない彼なりの優しさで、二人を庇って今に至るのではないだろうか。そう思う。

正しい者が救われない今。

優しい者が損をする今。

我が道を貫く者が辛い今。

今を生きることに苦難するから三者にが一堂に会したあの暖かな部屋。

あの部屋を守りたい。自分の中での理想に背いても。

そして彼らを見守ることが教師としての仕事であると。

再び煙草を口にくわえ、胸の深くまで達するよう息を吸う。それに伴いやってくる熱と少しの煙たさを、確かな誓いと共に噛み締める様に呑み込んだ。そして吐く。喉を鋭さが駆け抜けても、それを歯牙にすらかけずまた紫煙を虚空へ、空の彼方へと深く深く吐き出した。

吐き出た紫煙はどこまでも空高く駆け上る。

そして、数度風に揺られ儚く消え去るのを彼女は凛とした瞳で見据えていた。

――――――――――――――――――――――――――――

「お兄ちゃん朝だよー!」

愛しの妹の声により意識を眠りの底から浮かび上がらせる。

急浮上に耐えられない意識は再び底へ底へと堕ちようと、未だ身体を覆う布団を求める。

時計を見ればいつもの朝。どうやら今日は遅刻せずに済んだらしい。それも当然、妹に起こしてもらっているのだから。

「おはよう小町」

部屋のドアから顔を覗かせる妹に朝の挨拶をして布団を抜け出す。

「おはようお兄ちゃん!」

朝から元気な妹である。

朝の寒さに身を震わせつつも妹と共にリビングへと赴き、妹の作る美味しい朝食を食べる。

これが比企谷家にとって、確かな日常と言える一日の始まりだ。

 

「しっかり掴まっとけよ」

「お兄ちゃんこそ事故るのはやめてね?」

自転車のペダルを力強く踏みしめると力量に比例してそれだけの距離を進める。

道中小町と色々な話をしながら学校へ向かう。

やはり朝は冷えるな、と思って身を縮ませていると背中から何か暖かさが伝わってくる。

「どうした」

俺の背中にその華奢な、確かな熱を持つ体を預けながら、

「寒そうにしてたからさ、あっためてあげようかなーって。今の小町的にちょっとポイント高い?」

「はいはい超高い。まじ俺の妹超妹だわ」

おざなりな返しをしつつも、どこか感謝していた。

「へっへーん」

後ろの小町の頬が緩んでいるのがその声で理解出来る。

「ありがとな」

「なにがー?」

ここぞとばかりにとぼける妹の態度に辟易しつつも、俺はそれ以上なにも言わない。

きっと分かっているから。15年という長い月日を共に過ごした肉親。それは最も近い他人とも言える存在であっても、言葉を交わさずとも互いの意を理解できる境地へ至る。

無償の愛を無限に提供し合うこの関係。

そんな関係こそがきっと兄妹の、家族のあり方だろう。まさに俺たちは兄妹の鏡とも言えるわけだ。俺の中だけだけど。

「頑張ってね」

優しさという名の温もりが込められた言葉を送られる。

寒さ染み入るこの季節、この胸には確かな熱を伴う炎がゆらゆらと煌めいて俺に温もりを与えているような気がした。

 

「いってきまーす!」

こちらへ手を振る小町に手を振り返し、その姿が見えなくなると再度自転車を漕ぎ始める。人一人分の重量を失った自転車のペダルは段違いに軽く思える。

俺は始める。

自分に対する答えを出すために。

一人の願いを叶えるために。

妹にかけられた言葉を胸に、寒々しい冬の空の下。

風になるように学校までの道を自転車と共に疾駆した。

辺りにはタイヤの回る音が何処までも木霊する。

 

 

学校の廊下は暖房がついてなくとも人が集まっているせいか外よりも幾分暖かい。

他人の目に触れぬよう足早に教室を目指す。

「おはようございます。比企谷先輩」

聞き覚えのある声に振り向くと、そこには今登校したのか、鞄を肩に担いだ水島の姿があった。

「おう。今日は遅刻しなかったのか」

昨日を思い出し、茶化す様にそう言った。

「するわけないですー!」

水島もおどけるようにそう返す。

「今日昼休み時間ありますか?」

声が真剣味を帯びる。依頼についての事だろうか。

受けると言った以上俺には果たすべき義務が発生する。問題を解決へと導く義務が。

キャパシティにあった仕事を受けるのが基本だが、こればかりは断ることが出来なかった。

どうしても見てみたい。その優しさの、強さの理由を。

きっと事態が進むにつれて明らかになるその理由。それが彼女を優しさ、強さたらしめるものならばそれは如何なるものなのだろうか。

「大丈夫だ。いつも1人で飯食ってるしな」

心無し水島の視線に慈しみが含まれたような気がする。

「おい待て、何だその目は。やめろ、そんな目で見るな」

「私が友達になりましょうか?」

「必要ない」

「本当ですか?」

顔に笑みを張り付かせた 水島がしつこく聞き返す。

返すことすら億劫になった俺はスタスタと、

「購買の裏」

場所だけ言って、足早にその場をあとにした。

 

 

午前の授業を終え、ベストプレイスへ。

購買でパンを買って向かう。

続く扉を開くと、水島が既に自分のであろう弁当を広げ、食べ始めていた。

「うす」

「どうも」

それ以上の言葉はなく、俺も自分のパンを食べ始める。

 

食べ終わり手持ち無沙汰になって来た頃、

「では始めましょうか」

いつの間にか食べ終えた水島が話し始める。

「以来の内容は、お前の友達が生徒会長になるのを阻止すればいいんだよな?」

「ええ、そうです」

「そのお前の友達を嫌う奴らが勝手に推薦人名簿を集めて、推薦した、と」

「まったくですね」

「こんなこと言っちゃ悪いんだがそんなに嫌われてんの?お前のお友達」

「ええ、そりゃあもう。なんせジャグラーばりにそれなりの男をとっかえひっかえ手玉にとっては、ポイですからね」

なんだそれ。恨まれて当然じゃないんですかねそのお友達。

だが、こいつがそこまで本気になるということはきっとなにか助けて貰ったとか、そこらへんの事情があるのだろう。きっと優しいはずだ!八幡信じてる!これで三浦みたいなギャルだったら助けるのやめるわ。絶対バカにされるし。

「マジか……それ助ける必要あるの?」

無粋だとわかっても聞き返した。

「ありますよ!違う人から見れば確かに悪女ですけど、私の友達です!助けるに決まってます!」

押し付けがましい熱い友情。

どこか虚ろな空っぽな関係。けれどそれを大事に思うやつだっているはずだ。現に身近にも一人いた。そんなものを大切にするやつが。

「そうか。まあそれは置いといてだな。具体的な方法がいまいちわからん」

「そこなんですよね……なんせ私も生徒会とかに立候補した経験が無いんで、ほんとお願いした側なのにすいません」

目に見えて落ち込む水島を他所に、思考を回転させ答えを導き始める。

まずは依頼内容。生徒会長になるのを阻止。現状では立候補者が他にいなくこのままでは信任投票になるのがほぼ確定らしい。

まず方法としてだが、一つはほかの立候補者の擁立。これは正直いってほとんど無理に近い方法だ。もしも興味のあるものが他にいればもう立候補は済ませているはずだ。なんせ期日は数えるほどしか残っていないのでこれより後に立候補者が出てくる可能性は極めて低いだろう。なので却下。

二つ目は応援演説での候補者の心証の悪化。

応援演説で出鱈目を垂れ流し、心証を悪化させ、信任させずして候補者への投票を阻止する。

これが今のところの最善だろうか。演説の際の話す内容はともかく、

「やるやつなんだよな……」

はっきりいってこんな悪役を水島にやらせるわけには行かない。仮にも依頼人。以前の奉仕部であれば水島自体を動かすことを考えるだろうが、今は俺個人。余計な事情を、奉仕の精神とやらを挟まずに進められる。

「どうしたんですか?」

俺の呟きに反応して小首をかしげる水島へ、

「お前は本当にその友達を助けたいか」

方法を導き出すために問う。

きっと俺の顔は今までにないほど真剣な面持ちをしているだろう。それもそのはず。

相手が真剣であるなら、俺も真剣を持って返すのが道理だ。

「助けたいです」

――方法は決まった。

「悪いがお前の友達には少しだけ恥をかいてもらうが、気にするなって言っといてくれ」

言葉の意図を掴めない水島を横目に俺は立ち上がると、

「用事があるからもう行くわ」

それだけ言ってベストプレイスを後にした。

 

昼休みの喧騒が鳴り響く廊下を歩く。向かうは生徒会室。

方法が確定して残すは実行のみだ。

今回は期間がある。

練るに練った内容で、今回こそ俺は望む結果へと導いてみせる。

「失礼します」

「あれ?比企谷君 だ。どうしたの?」

心が音を立てて癒されていくような錯覚を受ける。いつ見ても癒される。

目の前の人と話していると自分の汚いところが綺麗に洗い流されてしまうようだ。この人もしかしてマイナスイオンでも吐いてるのだろうか。

馬鹿な考えを抱きつつ、 向き合う人の瞳を見据える。穏やかさが伺える。こんな立場の俺にそんな目をしてくれる人はあまりいないだろう。以前最低と言われても未だ接してくれる。そんな優しさともこれでお別れだ。

 

深呼吸して、心を落ち着かせる。感情の漣は未だ立たず、じっとその時を待っている。

俺は話を切り出した。

「城廻先輩。……応援演説の件で話があるんですけど」

「ん?応援演説?」

―――今回こそは絶対に掴み取ってみせる。

頑張ると決めたから。

頑張れと言われたから。

目指すものへと手を伸ばし続ける。

たとえその姿が大衆に滑稽だと笑われようとも。

 

「はい」

 

 

 

カツカツと硬さのある音が廊下に広がる。

昼食を終え、残る仕事を片付けようと生徒会室へ向かう途中、平塚静は偶然比企谷八幡の姿を見かける。

遠目から見ても真剣だとわかる表情からはなにかの覚悟の表れが見える。

「まさか……」

そういえば、一度友人を名乗る少女が訪ねてきたことがあった。そしてその際に言ったのだ、本当に助けたいのなら彼のところへ行くといい、と。

少女は何かを抱えている。それを目を見て理解した私はそう言ってしまったのだった。

今回の問題はあの二人には荷が重い。

奉仕部の勝負の今の状況はもはや比企谷の一人勝ちになりつつある。

雪ノ下も、由比ヶ浜も確かに解決へと導いているのだが、どうしても対応しきれない。文化祭の時では雪ノ下は体調を崩してしまうこととなった。そして相模の件を比企谷へと。

奉仕部へ行くように促した私の責任だ。

今回も同じだ。良かれと思い問題を押し付けてしまったからこそこうなってしまったのだと遅く気づくのだ。

自分の間の悪さを呪う。

比企谷へ再び目を向けると、道からして生徒会室へと向かうのがわかった。

そして同時に考えが及んだ。

彼はきっと繰り返す。

その身で絶対悪となり、すべてをひとりで背負うつもりだ。

―――君が傷つくのを悲しむ人だっている。

 

私は彼にそう言った。傷ついて欲しくないから。育ってほしいけれど、傷付くのは悲しい。

彼はきっと私の想いを理解している。聡明な彼だから、理解はしているが、事態が事態なだけに見過ごすことが出来なかったのだろう。彼はどこまでも優しいから。

 

もう彼は傷つくべきではない。

傷付いた分だけ救われるべきだ。

柄にもなくそう思う自分がいた。

比企谷に気づかれぬよう歩を進め、彼が生徒会室に入るのを合図に、部屋へと近寄り耳を側立てて、声を聞いた。

望まぬ未来へ導かぬために。

 

彼女は動くのだ。




お読み頂きありがとうございました!
平塚先生多めとなった今回の話は如何だったでしょうか!
ではまた次回!


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それぞれの秘めた思い

お久し振りです!今回はかなり視点が変わる気がします。
それでも最後まで読んでいただけると嬉しいです!


人にとって完璧さを備えた人間とはどんな人物を指すのだろう。

歴史上の偉人であっても、やはり何処かに隠すことの出来ない歪みが、狂気が、人間らしい心が見られる。

どれほどの偉業を成し遂げてもそこには必ず打算が付き物だ。

むしろその打算が、即ち利益を求めようとする心無くして、戦争を、政治を、この世界で大事を果たすことは不可能に近いのではないだろうか。

しかし大事は果たさずとも、世界を、学校という矮小と言っても差し支えない小さな世界の中で頂点に君臨する者がいる。

その者は理想をそのまま具現したような存在。まさに完璧だ。

誰にでも分け隔てなく優しく接し、あらゆる分野で素晴らしい実績を残し、容姿端麗な姿。

間違いなく完璧といっても過言ではないだろう。

人を嫌うことを知らず、疑わず信じる。聖人君子とも呼べるその者。

それは誰もが知る普遍の事実である。

いつだって彼はその求められた理想をその完璧さで実現させてきた。

しかし、彼はそうは思わない。思えない。

救いたいもの救えない、出したい答えも出すことの出来ない、人に頼ることしか脳のないこんな無能が理想だなんてなにかの間違いではないだろうか。

そう思っても、現実はそうは行かない。

あるべき形を取らされ、不必要だと思われたものはすべて捨てられてしまう、そんな他人主義なものだった。

そんななか一人の少年に出会う。

斜に構え、何時だってひねくれて、常に孤高の存在の彼が、とても羨ましかった。

昔救えなかったものも彼は携え、自分では出すことの出来ない答えをいつも出す。

解決の糸口すら見えない問題を彼は文字通り消し去ってしまっていくのだ。

その後ろ姿に憧れた。その光景を羨んだ。

―だから俺は彼が嫌いだ。

彼は日陰者な筈なのに俺には常に眩しく見える。

 

―――――――――――――――――――

淀みなく続けられる城廻先輩の説明がまるで極上の天上の音楽のように俺の耳には聞こえる。そんな俺の耳は究極に気持ち悪いことこの上ないな。キモ。

「ん?」

「どしたの比企谷君?」

「いや、今ドアの窓から誰か人影が……」

何か見覚えのあるようなシルエットな気が……特にあのビッグサイズな一部分とかな。何処とは言わないけど。あれほどの物を持ち合わせる者がこの学校に存在するのだろうか。まあきっといないだろう。将来有望な奴もいるんだがな……意識を向ければあまり思い出したくない顔が脳裏に浮かんだ。俺に万乳引力の教えを説いたあのニュートン先生、もとい由比ヶ浜。

今のは由比ヶ浜では無かった。彼女であればあの垢抜けた、明るく脱色された髪色で判断できる。よって違う。

ならば雪ノし……すいません。広がる山脈はもはや平地級と言っても過言でないものでしたね。………寒気を感じる。

まあ、必ずしも俺の知人である可能性もないだろう。むしろ俺の知人の数なんて両手で数えれる程だし、よっぽど知人よりも全く知らない奴である確率の方が圧倒的に高いだろう。

「もう、続けるよ?」

頬を膨らませ怒りを主張するそれは、城廻先輩がやるとあざとさよりも優しさが……癒される………尊い。

「どうぞ」

「はーい」

そして再び続く説明。

大切な、今回の依頼に当たる上での要所を頭の中に書き留める。

 

「先輩、例えばの話ですけど」

「うん?」

いくらかの逡巡の後、

「そうだね……やっぱり応援だけあるからなぁ……けど、状況が状況だからね」

一色の名を出すことによって見せた戸惑い、そして納得した表情。それらを合わせることで得られる答えはひとつ。

やはり生徒会も今回の件に関わっている。奉仕部が関わっているのは既に聞いた話だが、やはり選挙の話となると生徒会が絡んでくるのはまあ、当たり前だろう。

「そうですか」

「どうしてもだからね?」

クスリと微笑む姿を見ながら、その微笑みを裏切るのかと思うと、俺は―――

どうしようもないほどに胸の内がズキリと痛んだ。

 

それからいくらかして。

座っていたパイプ椅子からギっと音を立てて立ち上がる。

城廻先輩の背の窓から入る光は逆光となって、先輩の顔が黒く染まりどんな表情かが分からなかった。

「失礼しました」

「うん。頑張って!」

見ているだけで癒される笑顔が俺の眼前に広がる。

俺は笑顔ともに贈られた励ましに罪悪感からか直視出来ず黙って頷いて返すことしか出来なかった。

 

視界の隅に映る寂しげな深い憂慮を見せる優しい笑顔から必死に目を背けながら扉を閉めた。

 

俺はまたひとつ他人の思いを踏みにじる。

 

―――――――――――――――――

来客の去った自分だけの生徒会室を見渡す。

自分たちの生徒会室であることをアピールするかの様に私物と備品が入り混じって置かれた室内。

あと数週間でここと別れを告げるとなると胸を一抹の寂しさが過ぎる。

学校を良くするために、学校生活を楽しめるようにと尽くしてきたこの期間。

時間は駆け抜けるかのように過ぎて行ってしまった。

頭に浮かんだ案を惜しまず口にし、様々な口論を重ね、いつしか大切な何かとなったこの場所。

―――私の居場所

失いたくないこの場所も、時間には限りがある。

次の誰かへと継がなければいけない。

その誰かが自分よりも真摯に学校へと向き合ってくれる人であることを願っていた。

煮えきらない態度を取ったがために、文化祭では1人の生徒を学校一の悪役と仕立て上げてしまった。

例え自分は悪くないと他人に言われてもめぐりはそう思わずにはいられなかった。

――最低だね

背負う必要のなかった業を独りで背負い込み、むしろ彼は賞賛を、不当な悪意を受ける立場でなかったのに、私は彼にその一言でさらなる追い打ちをかけることとなった。

どうして気づけなかったのだろう。

自責の念がめぐりを襲う。

しかし、この世界にはもしもなんて机上の空論でしかない。

起こった出来事に伴った可能性。それは可能性であって、起きた事ではない。

だが、大事なのは―――――

「失礼するぞ」

不意に扉が開かれる。

そこに立つのは豊かな肢体をスーツと白衣に包んだ平塚静だった。

こんな時間になにかあったっけ?

とめぐりは記憶を探る。

そんなめぐりを見てか、

「ああ、特に予定はないぞ」

そう言って微笑んだ。

「ですよね……忘れてたのかと思いました」

「そうか……」

何やら言葉をつまらせた静にめぐりは不安を覚える。

いつもであれば相手を思いつつ、言葉をスッと出す彼女がその言葉をつまらせているからだ。

やがて重々しく口を開いた。

「比企谷はどんな用件でここへ来たか聞いてもいいかね?」

 

「はい?」

――――これからここで始まるであろう一つの幕間を彼は知らない。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

生徒会室を出て、教室へ戻ろうと廊下を歩いていると見慣れたシルエットが視界をよぎった。

爽やかさを、完璧さを放つその容姿は葉山隼人その人だ。

修学旅行の件もあってかどこか気まずく、目をそらそうとすると最早遅く、視線に気付いたのか葉山がこちらを向いた。

だが視線が合おうとも何も起こらないのが俺。

安全かつスピーディにこの現状から脱却しようと――――

「比企谷じゃないか」

こちらへと爽やかな笑みを向けながら葉山が近づいてきた。

脱却という試みはリア充の前に一瞬で消え去った。

 

「一体何の用だ」

面倒くさそうな声色で聞く。そうな、というよりも実際面倒くさいんだが。

「おいおい、そんな露骨に面倒くさそうにするなよ」

それを謎の爽やかさを醸し出す苦笑いで返した。

―おいおい苦笑いにまで爽やかさ同梱かよ。

目の前のイケメンにげんなりしつつ、

「んで、用件がないなら俺もう行くけど」

帰ろうとしても葉山はそれを許さない。

「少し話をしないか?」

やはり爽やかさを放つ陰鬱な表情で本題へと入り始めた。

――だから何でそんな顔でも爽やかさが出てるんだよ……

目の前のイケメンがぼくはやっぱりきらいです。

「何の話だよ」

葉山は答える。まるで俺が惚けているかのように、

「何の話かは分かってるんじゃないのか?」

「知らねえよ」

かぶりを振って答える。

そもそもこいつと話すことなんて何一つ存在しない。あってたまるか。

「今更何の用だよ。俺と話してる暇なんてあるのかよ」

皮肉をたっぷりを込めて突き放すように言っても、

「君のおかげで仲は何とか保てているからね」

サラッと受け流す葉山。

「俺のおかげね……」

戸部の思いを踏み躙ってなんとか保てた均衡。

叶わなかった想いと、叶った思い。

踏み躙った張本人が救世主と崇められるなんてなんて皮肉なものなんだろう。

思わず鼻で笑ってしまうレベル。

「どうかしたか?」

「何でもねえよ」

早く本題に入って終わらせてくんないかねえ……

そんな俺の表情を鑑みてか、慌てて葉山は話題の軌道を戻した。

「それじゃ本題にはいろうか」

ようやくですか。早くしてください。

「君は今の生徒会選挙の状況を知ってるか?」

「まあ、大体な。勝手に立候補されたって話だろ」

「やっぱりか……」

「なんだよ。その先でもあるのか?」

「君が知らないのも無理はないか……」

「だから何だよ……早くしろよ」

少し考え込んで重々しくその口を開いた。

 

「奉仕部の2人が立候補したらしい」

まるで時間が止まったかのような錯覚を受けた。

どうしてか心臓の鼓動が速く感じて、ポケットに突っ込んだ手は汗でじとっと湿り気を帯びている。

「は?」

ようやく出た声はかすかに震えていた。

俺は動揺を隠しきれなかった。

心臓が締め付けられて、冷や汗が体を伝って、震えを伴う。

 

――――――――どうしてだ。

 

「大丈夫か?」

俺の状態を心配してか葉山が顔を覗き込んでいた。

「あ、ああ……問題ねえよ」

あの2人が立候補……か。

2人が選んだ答えはそういう形なのだろうか。

違う候補の擁立、演説による心証の悪化、そして自身の立候補。

最後のものだけは俺には出来ないものであっても彼女らで可能だ。

しかし、しかしだ。

「立候補した役職はまさか同じなんてことないよな?」

「…………」

「おい。答えろよ」

「………………」

「黙秘権でも使うつもりか?」

「わかったよ…」

すっと息を吸い込んで、

「そのまさかだよ。二人共が生徒会長に立候補らしい」

この問題に直面してから、奉仕部も解決に臨んでいると聞いて想像しなかったことは無い。

なにしろ文化祭の時に雪ノ下は1度依頼の為自らが不調になるまで働き続けた前科がある。

由比ヶ浜にしても、あれはアホなようで聡く、責任感も強い。

そんな2人のみになれば――

想像するのに難くない。

依頼を最優先に自らを省みず、解決だけを求めてしまったのだ。

――――どうして俺は。

 

いやいや。待て。何を考えているんだ?

俺は確かにあの2人と、あの場所と決別したはずだ。

それでも。

どうして葉山の言葉がここまで 胸に深く深く、突き刺さるのだろう。

「それは君があの2人を大事に思っていたからだろ?」

「な……」

今すぐにでも言葉の限りを尽くして「違う」と言ってやりたい。

それなのに俺の口からは、それどころか喉からすら声が出ない。

掠れた音だけが口から漏れる。

「その動揺こそが答えだよ比企谷」

 

―――いつかの夜出た答え。

俺は再び歩き出したはずだ。

そうだ。

「俺はもう1度……」

紅茶の香りのする部屋。

交わす言葉は少なくても決して気まずいなんてことは無く、むしろ居心地が良いまであったあの場所。

強く在ろうとする少女と、優しさを持つ少女と乗り越えた様々な思い。

変わりたいという願いと変わりたくないという想いが交差し合った矛盾だらけの日々を駆け抜けたあの日常。

 

それはきっと。

 

俺の求め続けたものにどこか酷く似ているところがあったのだ。

だから求めた。

あの日々を。

けれど俺には既にその資格がない。

修学旅行のとき確かな否定を受けた俺にはもう―

「君は諦めるのか?」

腹立たしい声が俺を煽り立てるように聞こえる。

「うるせえよ」

 

「君は―――諦めちゃいけない」

やはり腹立たしい声は俺自身が分かりきった答えを口にする。

 

 

「俺は君が嫌いだ」

俺も嫌いだ。

「だけど、同時に憧れも抱いていたんだ」

 

ハッ。そうかよ。そりゃあ皮肉だな。お前に憧れられるなんてな。

「君はいつだって救ってしまう」

 

そんな事はない。この手から零れ落ちた、救えなかったものだっていくらでもある。

 

「修学旅行の時だってそうだ。俺達がバラバラになるのを阻止してくれた」

 

あれは依頼だったからだよ。戸部だって救われてないだろ。

「戸部はどの道今のままじゃダメだったんだ。それを君のおかげで知れたんだ」

そうかよ。

「結衣だって、君が変えてくれたようなものだよ」

 

あいつは元から変わろうと思えば変われたんだよ。バカだからタイミングが分からなかっただけだ。

 

「それはそうかもしれないな」

肩を竦めてそういう葉山は、皆の葉山隼人ではなく、本物の葉山隼人であるように見えた。

 

葉山隼人はいつだって完璧で、常に皆の理想であり続けようとする。

だが、彼だって霊長類ヒト科、すなわち人間の一人に過ぎない。

並外れた人としてのスペックを持ち得ても、あくまで人だ。

その完璧さには必ずどこか綻びがあって、理想を体現し続けるのは不可能に近い。

ならばきっとその綻びは今彼が放つ言葉こそであり、葉山隼人の人間の部分ではないのだろうか。

「その話はもしかして平塚先生からか?」

葉山がその言葉を聞いてフッと微笑む。

「笑うんじゃねえよ。こっちは恥ずかしい思いしてまで聞いてるんだからよ」

「それもそうだな」

 

「ああ。そうだよ」

その爽やかな微笑みに負けないくらいに微笑んだ。

向かい合う葉山の顔を見ればわかる程に俺の微笑みは爽やかでないらしい。微笑みが引き攣って爽やかさが欠けてしまっている。

貼り付けた笑みを剥がす。

「……助かった」

「これは礼だよ。助けてもらった時のね」

なんの気もなしに、あたかも当然だと言った風を装う葉山は。

「俺もやっぱりお前が嫌いだ」

 

―男の俺から見てもやはりカッコよく見えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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