食戟のソーマ 十席番外 第零席に座る者 (北方守護)
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第0話 オリ主設定&プロローグ

タイトル通り


照杜 武昭 (てらもり たけあき)

 

藍色の短髪で所々白が入っている。 身長 176cm 体重 56kg

 

顔は普通。(10人いれば6~7人がカッコいいと言うが本人は気付いていない)

 

“ある事故”で背中や左腕、右上腕部に火傷の跡がある為

暑い夏の日でも長袖の服を着ている。

 

小さい時から山や海で過ごしていたので、山や海の幸を簡単に採れたり見つけられる。

 

 

実は神様に転生させられたのだが、その事は覚えていない。

 

睡眠中に転生する以前の記憶を見るが夢として認知している。

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

9歳の時からある事”がキッカケで一人暮らしをしている時に

遠月学園卒業生の関守平と出会い彼の店で働く。

 

その後、14歳で彼の店の副長になる。

 

彼の繋がりで幾人かの卒業生達と顔馴染みになっている。

 

16歳になった頃、関守から遠月学園に通うように言われ通う事になる。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

3月のある日…………

 

銀座にある鮨屋“ひのわ”で一人の男性が寿司を握っていたが………

 

「はーい、炙りトロにスミイカ、お待ち!」

握っているのは10代の少年だった。

 

「うん、やっぱり武昭の寿司は旨いな」

 

「ありがとうございます冬美さん。そんな風に言われたら嬉しいですね」

 

「武昭君、私にはかんぴょう巻をお願いしまーす」

 

「はい、分かりました!」

寿司を握っているのは武昭と言われた少年だった。

 

「関守先輩の店にいるから、それだけの腕前なのは当然だろ」

 

「はい、日向子さんの注文した巻き物です。じゃあ四ノ宮さんにはこれを」

 

「ふん、ウニの握りか。海苔を使わないのは、それなりに……グッ!?」

 

「あぁ、すみません、ワサビが多すぎたみたいですね?四ノ宮さん」

 

「武昭!お前ー!!」

 

「武昭、ナイスだ」 

 

「水原、お前なぁ………」 

 

「四ノ宮先輩が武昭君をバカにするからじゃないですかー」

 

「こらこら、ケンカをするんじゃない。今日は武昭がウチの店にいる最後の日なんだからな」

 

「そっか……武昭君は明日から遠月学園に通うんですもんね」

 

「二人のケンカも暫く見られなくなるのか………」

 

「ケッ、こいつが、遠月学園で3年間居られる訳無いだろ」

 

「へっ、四ノ宮さんの期待通りにはいきませんよー」

 

「武昭、後片付けは俺がしておくから先に休んでていいぞ」

 

「良いよ関兄、俺が最後までやるよ」

 

「気にするな、こんな時位は俺の言う事を聞いておけ」

 

「うーん、分かったよ関兄。それじゃあ冬美さん、日向子さん、四ノ宮さんお先に上がらせてもらいます」

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

武昭が板場を離れると関守が話し出した。

 

「全く……武昭と四ノ宮は本当に仲が悪いな」

 

「本当に仲が悪いなら口も聞かないですよ」

 

「四ノ宮は天邪鬼だな」

 

「正直に武昭君の料理は美味しいって言えば良いじゃないですか」

 

「うるせぇぞ、日向子」

日向子は四ノ宮に両頬を引っ張られた。

 

「ふっ、ケンカするほど仲が良い……と言う事か」

 

「まぁ、今の武昭には同年代との関わりが必要ですよ……」

 

「そうだな……だからこそ、俺は遠月学園に行かせるんだ」

 

「武昭なら大丈夫だよ」

 

「けど……武昭君が遠月に行くと“別の意味”で心配なんですけど……」

 

「うん……それは私も思った」

 

「おい、四ノ宮……武昭はどれだけ行けると思う?」

 

「うーん………最低でも3~4人は行く様な気がしますね」

4人は武昭に着いて話していたが……冬美と日向子、四ノ宮と関守と互いに違う事を話していた。

 

 

 

 



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第1話 決意と出会い。

武昭が遠月に入学する前です。


目覚めた武昭は関守に挨拶をすると遠月学園に向かっている途中、一台の車が止まった。

 

「えっと、関兄から貰った地図だと………うわっ⁉︎」

 

「ふん、やっぱりまだ学園に着いてなかったか」

 

「四ノ宮さん……フランスに戻ったんじゃなかったんですか?」

 

「空港に行く途中にお前を見掛けたから、ついでに送ってやろうと思ったんだよ」

 

「そんなの良いですよ、四ノ宮さんの料理を食べたいお客さんが待ってるんですから」

 

「(全く……コイツはどんな時でも自分の事を後回しにするんだから………)

たまには、年上の言う事を聞いとけ」

 

「ちょ、ちょっと!四ノ宮さん‼︎」

武昭は持っていた荷物を四ノ宮に無理やり載せられたので、そのまま車に乗り込んだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武昭が助手席に座っていると四ノ宮が話しかけて来た。

 

「武昭、遠月は入学して卒業が出来るのは10%居れば良い方なんだって言うのは知ってるのか?」

 

「10%……1000人居て100人居れば良い方か………だったら、俺はその10%に入ってみせるよ……

俺には、料理だけしか……それだけしか無いから……」

 

「武昭……まぁ、お前じゃ卒業は出来ても遠月十傑になる事は無理だろうな」

 

「十傑か………まっ、四ノ宮さんがなれたなら俺にだってなれますよ」

 

「まったく、お前は相変わらず口が悪いな。よし、俺はここまでだ」

 

「ありがとうございます、四ノ宮さん」

 

「けっ、武昭なんかにお礼を言われちゃ何かむず痒くなるぜ」

 

「俺だって最低限の礼儀だからしただけですよ」

 

「へっ………武昭、十傑になるにはそれだけの実力や努力が必要だ、それだけは心に留めておけ」

 

「四ノ宮さん………いや、“四ノ宮先輩”俺頑張って十傑の第一席になってみせます」

武昭が決意をしたと同時に四ノ宮は車を発進させたが、その顔は笑っていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武昭は試験会場に向かっていたが軽く迷っていた。

 

「えっと……俺は今、どこにいるんだ?誰か通ってくれれば道を聞けるんだけど、おっと」

 

「何をよそ見をしているんだ?」

武昭がキョロキョロしてると誰かにぶつかったので見ると眼鏡を掛けたお下げ髪の女生徒がいた。

 

「あっ、すみません。実は入学試験会場を探してて迷ったんです」

 

「試験会場なら、この道を真っ直ぐ行くとある。くっ……」

 

「ありがとうございます……どうかしたんですか?」

 

「別に何でもない……」

 

「おっと、どうやら足を挫いたみたいですね、ちょっとすみません」

 

「なっ⁉︎な、何をするんだ‼︎//////」

女生徒は武昭に抱っこをされて赤い顔で慌てていた。

 

「足を挫いて無理をしたら長引きますよ。それに貴女がケガをしたのは俺のせいですから」

 

「そ、そうかもしれないが……君は試験を受けに来た筈じゃないのか?」

 

「そうですね……けど、父さんから他人が困ってるなら何を押してでも自分が出来る事をしろって

教えられたんですよ………それが最後の言葉になりましたけど……」

 

「最後の言葉………もしかして、君の父親は………」

 

「えぇ、俺が7歳の時に………それで母親もその2年後に………」

 

「そうだったんだ………もう、ここまで来れば医務室までは歩いて行けるよ」

 

「えっ、だったら俺が最後まで連れて行きますよ」

 

「君は試験があるんだろ?もしも、受けれなかったら私の名前を出してくれ」

 

「そう言えば自己紹介がまだでしたね、俺は照杜武昭って言います」

 

「!………そうか、私は遠月学園2年生紀ノ国寧々だ」

 

「すみません、先輩でしたか」

 

「それよりも、早く試験会場に向かった方が良い」

 

「わかりました!試験会場を教えてくれてありがとうございます‼︎」

 

「照杜……武昭……もしかして………」

寧々は武昭の背中を見て何かを考えていた。

 

 




はい、今回はここまでにします。

今回は武昭と原作キャラの出会いを書きました。

短いですが、次回を楽しみにしてください。


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第2話 始まり。

武昭が指示された試験会場に行くと多数の人達が逃げ出す様に走っていたので、一人を捕まえて事情を訪ねた。

 

「なぁ、編入試験は、もう終わったのか?」

 

「違うよ!僕たちは自分から諦めたんだ!!」

 

「自分から諦めたって、どう言う事だ?」

 

「試験の監視官があの“薙切 えりな“だからだよっ!!」

 

男子生徒は武昭の手を振り切ると、その場から走り去った。

 

「薙切えりな……確か“神の舌”を持つって言われてる子だったか

まぁ、どちらにせよ作らないで結果が決まるのは嫌なんだよな」

 

武昭は試験会場に入った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武昭が試験会場に入ると教壇に二人の女生徒が居た。

 

「すみません、編入試験を受けに来たんですけど………」

 

「はぁ?お前!試験開始時間は、とうに過ぎて終わってるぞ!! 」

 

武昭の言葉を聞いて教壇にいた二人の内のピンク色の髪の女生徒が怒った。

 

「あぁ、それは俺が悪いから謝罪する。それで、なんで料理を作った形跡があるんだ?」

 

「それは簡単よ……試験の課題が卵料理だからよ」

 

教壇にいたもう一人の金髪の女生徒が武昭に説明した。

 

 

「あれ?確か俺が貰ったプリントだと面接とかあった筈だけど……」

 

「例え、この遠月学園に入学出来たとしても実力が無いと何れ辞める事になるのよ

だったら、早めに諦めさせた方が良くないかしら?」

 

「確かに、あんたの言う通りだな………それなら、今から俺が料理を作っても構わないな」

武昭は空いている調理台につくと道具を出して料理の準備を始めた。

 

「まさか、今から料理を作るのかしら?」

「あぁ、どんな状況だろうとチャンスが残されてるなら最後まで諦める事はしたくないからな」

武昭は鍋に水を張ると幾つかの卵を入れて火にかけた。

 

「あなた、何を作ろうとしてるの?」

 

「ん?見ての通り茹で卵だけど」

 

「なっ!?貴様!えりな様にただの茹で卵を出そうとしてるのか!!」

 

「まさか、ただの茹で卵な訳ないだろ?ちょっとした工夫をするんだよ」

 

武昭が茹で卵を作ってると金髪の女生徒“薙切えりな”が近くに来た。

 

 

「あなたが、どれだけ自信があるかはわからないけど、そんな物で合格出来ると思ってるのかしら?」

 

「薙切えりなって言ったっけ、料理って奴は食べてからわかる奴だ。

見た目だけで判断されちゃ困るんだよ………(うん、ちょうどいい温度と硬さだな)」

 

「なっ!あなた!何をしてるの!?」

 

えりなともう一人の女生徒は武昭が素手で沸騰してる鍋から茹で卵を取り出した事に驚いていた。

 

「俺の希望する硬さになったから出しただけだよ。

そして………これを添えて完成だ」

 

武昭は茹で卵と塩を皿に乗せるとえりなに出した。

 

「食べる前に、上の尖ってる部分から綺麗に殻を剥いてくれないか?面白い物が見れるから」

 

「面白い物?まぁ、それ位なら……嘘、何よこれ………」

 

「いつの間に、卵にこんな絵を書いたんだ……」

 

えりな達は殻を剥いた茹で卵の表面に鳳凰の絵が書いてあったのを見て言葉を失った。

 

「その絵は茹で卵を茹でてる間に出来たんだよ」

 

「茹で卵を茹でてる間?……緋沙子!鍋にある茹で水を!!」

 

「は、はいっ!分かりました!!」

 

えりなの傍に居た緋沙子と呼ばれた女生徒は慌てて武昭が茹で卵を茹でた鍋の茹で水を小皿に入れると、えりなに渡し、それを受け取ったえりなは軽く味見をした。

 

「これは……水に見えるけど、色が着いてない出し汁だわ!」

 

「まさか!?確かに……だが、こんな物をいつの間に作ったんだ!!」

 

「作ったんじゃなくて、俺が持ってきてただけだよ。それよりも茹で卵の味見を頼むよ」

 

「え、えぇ、わかったわ………(何!?この優しい味は!!

普通、茹で卵は半熟卵でも柔らか過ぎたり固茹ならパサパサになる筈!

でも、この茹で卵は半熟卵が固茹でになるギリギリの温度で茹でられてるから

半熟と固茹での両方の特性を持っている!!)」

 

「また、この塩を付けると感じが変わるよ」

 

(確かに!出し汁で茹でたら味が染み込んで塩を付けると味が濃くなる筈!!

けど、この塩は逆に濃くなる所か味を引き立てている!!

こんな物を食べたら、空にも飛ぶ様な気分になるわ!)

 

えりなの頭の中では、背中に羽根が生えて空を自由に飛び回ってるイメージが浮かんでいた。

 

「ふぅ、これで終わりだな、じゃあな」

 

「ま、待ちなさい!何処に行こうとしてるの!?」

えりなは武昭が片付けを終えて帰ろうとした所を声をかけた。

 

「さっきはあんな事を言ったけど、俺が開始時間に遅れたのは本当の事だからな」

 

「けど!あなたの料理は私を満足させたのよ!?それだけで合格よ!!」

 

「けど、俺だけ、そんな特例を認めてもらうわけにもいかないだろ?」

 

「良いのよ!私に試験が一任されたのだから!!そうよね!?緋沙子!」

 

「確かに、今日の試験はえりな様に一任されていますので

えりな様が認めたのなら私は何も意見はありません」

 

「うーん、そこまで言うなら、その結果を受け入れる事にするよ

そういや、自己紹介してなかったか。俺は照杜武昭、よろしく」

 

「私の名前は薙切えりなよ。それでこの子が私の秘書をしてくれている」

 

「新戸 緋沙子だ。それではこちらが入学式の日時などを記したプリントだ」

 

「そうか、じゃあ今度は入学してからだな」

 

武昭は荷物を持つと試験会場から出て行った。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「それにしても、えりな様……本当にあの様な者を合格にしても良かったのですか?」

 

「えぇ、茹で卵は言わば基本の料理よ。それで私を満足させたのだから構わないでしょう」

 

えりなと緋沙子は試験会場で話していた。

 

「だけど……なぜ、彼はあれだけの腕前があったのかしら……」

 

「照杜…照杜………あった、これが彼の……は?えりな様!これをご覧ください!!」

 

「これって、彼の……嘘?」

 

えりなは緋沙子に渡された武昭の書類を見てて、ある場所で視線が止まった。

 

そこには“鮨店 「銀座ひのわ 副料理長」”と書いてあった。

 

「緋沙子!この、ひのわという店は確か」

 

「はい!遠月学園の卒業生である“関守 平”さんの店です!」

 

「そんな店の副料理長が何故?………」

 

えりなと緋沙子は武昭の事を考えていた。

 

 

 

 

 




はい!今回はここまでにしたいと思います。

今回は編入試験の回でしたが、軽くオリジナル設定にしました。

それでは、次回をお楽しみに


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第3話 宣言

武昭が入学試験を終えてから数日後………

 

「えっと、ここが入学式の会場か……ん?」

武昭が指定されたテントに入ると赤い髪の男子生徒が座っていたので声をかけた。

 

「んーと、ここにいるって事は……君も高校から編入してきたのか?」

 

「あぁ、そう言うって事はあんたもなんだな。俺の名前は幸平創真だ、ソーマって呼んでくれ」

 

「わかったよソーマ。俺は照杜武昭、俺の事も名前で呼んでくれ」

 

「おぉ、宜しくな武昭(ん、武昭の手……この手は……)」

武昭と握手をしたソーマは、その手に何かを感じた。

 

「おいソーマ、なんか呼ばれてるぞ」

 

「あ、あぁ……所信表明って奴っすか?あんまり、そんなのは得意じゃないんですけど……」

ソーマは係員に言われて壇上で所信表明をしたが上から目線の宣言で

他の生徒達からブーイングを受けていた。

 

「ふぅ、緊張したぜ 痛っ!?何するんだよ!武昭!!」

 

「お前な!俺が次に居るって事を忘れてるんじゃねぇよ!!

全く、俺の番かよ……」

係員に言われたの武昭は壇上に上がった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

武昭が壇上に上がると生徒達の視線が刺さってくる様だった。

 

(ちっきしょー ソーマのせいで俺まで睨まれてるじゃねぇか)

 

「えーっと照杜武昭って言います。 俺の前の奴はここを踏み台みたいな事を言ってましたけど

俺はここにいる皆と切磋琢磨して、そして……男として生まれたからには………

一番になって卒業したいと思います! これで俺の所信表明を終わります」

壇上から降りた武昭はテントに戻るとソーマに軽く説教をしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

入学式が終わって最初の授業が始まっていた。

 

「入学式の次からすぐに授業……さすが、それだけの場所なだけはあるな………」

 

「ねぇ、君が私と同じクジの人だよね?」

武昭が声のした方を見ると赤紫色の長髪の女生徒がいた。

 

「あぁ、そうだけど……君が俺のペア?」

 

「そうだよ、私の名前は榊涼子。あなたは照杜武昭君だよね」

 

「なんで俺の名前………あぁ、朝の編入式の奴か」

 

「照杜君は、あの幸平君て人と違うね」

 

「まぁ、ソーマとは朝に会ったのが初対面だからな」

 

「ふーん、そうなんだ。あっ、先生が来たよ」

2人が話してると割烹着を着た講師が入ってきた。

 

「今日の課題は“鱧の椀とお造り“だ。では調理開始」

 

「鱧の椀とお造りか……照杜君は椀の出汁を取っておいて」

 

「あぁ、構わないけど………鱧を捌くのは俺がやろうか?」

 

「大丈夫よ、鱧は捌いてある奴を使うみたいだから……キャッ!」

 

「危ない!涼子!! くっ……」

涼子が発泡スチロールを開けると活魚の鱧が飛び出して涼子に噛み付こうとしていたのを

武昭が庇った。

 

「照杜君!?大丈夫なの!!」

 

「あぁ、これ位なら問題ないよ………けど、かなり歯が食い込んでるな……」

 

「そんな事より、早く保健室に行かないと!!」

 

「いや、こんな事は店をしてたら起こる可能性があるんだ。それを教えたかったんだよ」

武昭は講師の方を見たが特に慌ててる様子がなかった。

 

「涼子、コイツを捌けば後を任せても良いか?」

 

「う、うん……問題ないけど……(照杜君に名前で呼ばれてるけど、何処か嬉しいな)」

 

「じゃあ、やりますか! よしっ!涼子、捌いたから続きを頼む」

武昭は鱧に腕を噛まれたまま捌くと身を涼子に渡した。

 

「(嘘……あんな体勢で……)うん!仕上げは私がするから照杜君は傷の手当をして!!」

 

「手当は私がしよう、こっちに来るんだ」

武昭は講師に連れられて隣の部屋に行った。

 

その後、講師が味を確認して武昭と涼子のペアは評価Aを貰った。

 

 



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第4話 頂点との出会い

遠月での初授業を終えた武昭は改造したローラースケートを履いて

これから自分が住む事になる寮を探していた。

 

「関兄から、遠月は敷地が広いって聞いてたから用意しておいて良かったな………

けど、地図の通りなら、ここら辺なんだけど……あっ」

 

武昭が周りを見ると銀髪の男子生徒が居たので声を掛けた。

 

「すみません、ちょっと聞きたい事があるんですけど良いですか?」

 

「あぁ、構わないけど、何を聞きたいんだい?」

 

「えぇ、実はこの地図の場所を探してるんです」

 

「んーと、どれどれ………ここなら、俺が行く場所の近くだから案内するよ」

 

「ありがとうございます、あぁ、俺の名前は照杜武昭って言います」

 

「俺の名前は司 英士(つかさ えいし)遠月学園の3年生だよ」

 

「あっ、すみません。先輩にタメ口を聞いたりして」

 

「いやいや、俺は別に構わないよ。ちゃんと限度を弁えてくれるなら」

 

「わかりました、じゃあ司先輩って呼ばせてもらいます。俺の事は出来たら名前で呼んでください」

 

「なら武昭君て呼ぶ事にするよ。それよりも武昭君て今朝の式の時に一番になるとか

言ってたよね?」

 

「はい、男として生まれたからには一番を目指したいと思うのは当然じゃないですか?」

 

「はっはっはっ、それは俺も分かるな………けど、その為には俺に勝つ必要があるよ」

武昭の話を聞いて笑っていた司の雰囲気が変わっていた。

 

「ふーん、司先輩が、そう言うって事は………今代の十傑の第一席なんですね」

 

「あぁ、遠月十傑評議会第一席“司 英士”だ」

 

「先輩が名乗ったなら俺も名乗らせてもらいますか………

遠月学園編入生1年“照杜 武昭”っす。いずれ司先輩に食戟を挑ませてもらいます」

 

「ふっ……良い目をしてるね……」

二人は軽く睨み合っていたが軽く風が吹いたので普通に戻った。

 

「先輩、とりあえずは早く寮に行きませんか?」

 

「うん、春の季節とはいえ、まだまだ寒いからね」

武昭は司の案内に着いていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武昭が司に案内された場所には三階建ての一軒家があったが、その外装等は綺麗だった。

 

「司先輩、本当にこの場所で合ってるんですか?」

 

「あぁ、武昭君に見せてもらった地図の通りなら、ここだよ」

 

「確かに、目的地みたいですね……地図に同封されてた鍵で開きましたから」

 

「そうか、なら俺は帰らせてもらうよ。あと、何かあったら連絡してくれ」

 

「ありがとうございます、じゃあ、コイツは俺の連絡先です」

武昭と司は互いに連絡先を交換して別れた。

 



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第5話 顔合わせ

自分が住む場所に着いた武昭は家の中に入ると家内を確認した。

 

「ふーん、ここが、これから俺が住む場所か。けど、なんで関兄はここにしたんだろ?」

武昭が家内を見て一つの部屋に入って、その理由に気付いた。

 

「そっか………だから関兄は俺をここに住ませたのか………」

そこの部屋には多数の調理器具があり、その中の棚の一つに一個の写真立てが置いてあった。

 

その写真には二人の男性と一人の女性の3人の人物が写っていた。

一人は今の武昭位の年齢の関守、そして他の二人の内、女性の方は腰までの長さの藍色の髪の生徒だった。

 

暫く、武昭はその写真を見ていたが荷物の整理を思い出して、そっちに取り掛かった。

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

その後……

 

「ふぅ、とりあえずは、こんな所だな……さてと、時間も時間だから何かを作るか……ん?」

簡単な荷物整理を終えた武昭が台所に行こうとした時に誰かがチャイムを鳴らした。

 

「誰だろ?そんなに知り合いはいないんだけどな………はーい」

 

「やっ、急に来てごめんね武昭君」

 

「司先輩、それに紀ノ国先輩に……すみませんけど誰ですか?」

武昭がドアを開けると司と紀ノ国、それに長い赤紫色の女生徒、紫色の髪をツインテールにしたヌイグルミを持った女生徒が立っていた。

 

 

「あぁ、彼女達は俺が武昭君の所に行こうとしたら一緒に来たんだ」

 

「なぁ!お前が入学式の時に一番になりたいって言った奴だろ!?」

 

「竜胆……初対面の人に馴れ馴れしい………

それよりも、ももは寧々の名前を知ってる事が気になる……あなたは寧々とどんな関係なの?」

 

「えっと………とりあえずは自己紹介をしてもらって良いですか?」

 

「おぉ!悪かったな!私は遠月学園3年小林竜胆って言うんだ!!」

 

「私も遠月学園の3年茜ヶ久保もも、この子はブッチーって言うの………」

 

「すみませんでした、この中で一番年下は俺なのに生意気な事を言ったりして」

 

「別に良いよ、私は逆に敬語で話される方が嫌だから」

 

「ももも、ちゃんと謝罪してくれたから、そんなにかしこまらなくていい……」

 

「ありがとうございます、それで先輩達はなんで俺の家に来たんですか?」

 

「あぁ、武昭君はここに来たばかりで、まだ地理とかも把握してないだろうから

軽く差し入れをしてあげようとしたら、彼女達が俺と一緒に行くって言ったんだ」

 

「そうだったんですか、じゃあ、とりあえず中に入ってください」

武昭は司達を家に招き入れた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

招き入れられた皆は家の中を見て感心していた。

 

「へぇー、本当にこの家を武昭が一人で使うのか!」

 

「えぇ、遠月に入学する時に、ここの地図と鍵を渡されまして。

まだ、そんなに荷物が片付いてないんでコップが揃ってませんけど、お茶をどうぞ」

 

「あぁ、ありがとう武昭君……ん!?このお茶は!!」

 

「見た目も香りの普通の緑茶なのに、いつも飲むお茶よりも美味しい!!」

 

「武昭君が淹れるのを見てたけど、何も変わった事はしてなかったのに……

なんで、こんなに美味しいの?」

 

「オォーッ!美味えじゃねぇかー!武昭ー!!」

 

「ありがとうございます、口にあって良かったです」

司達が武昭の淹れたお茶を飲んで驚いているが武昭は普通にしていた。

 

「なぁー武昭、どうやって、こんなに美味しいお茶を淹れたんだ?」

 

「あぁ、簡単ですよ。お茶を淹れる時にヤカンに“コレ“を入れて沸かしただけです」

武昭が持って来たヤカンの中から黒い物が入っている袋を取り出した。

 

「コレって……何が入っているの?」

 

「何か小さくて黒くて丸い物が沢山入っているのがわかるけどな」

 

「もしかして………何らかの炭……かい?」

 

「はい、司先輩の言う通りにこれは炭ですよ」

 

「けど、こんなに小さくて丸い炭なんて見た事が無い」

 

「こいつは俺が作ったクルミの炭で花炭って呼ばれてる奴です」

武昭が袋から花炭を出すと司達が興味深そうに見ていた。

 

「なるほど………よく米を炊く時に備長炭を入れたりするけど、それと同じ様な効果があるのか」

 

「それにクルミの表面には多数の孔があるから水道水のカルキも時間がかかんないで取れるんだ」

 

「ふーん、武昭、なかなかやるじゃん」

 

「その年で、そんな事が出来るなんてある意味すごい」

皆は武昭に感心していた。

 

 



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第6話 義姉との再会

武昭の家に司達が来て………

 

「そう言えば、武昭君に差し入れを持ってきたんだったっけ」

 

「あっ、ありがとうございます………おにぎりですか?」

 

「あぁ、時間も時間だからあまり重くない物にしたんだ」

 

「私はスイーツを作ってきた………」

 

「二人が作るのを見てたから私はスープだけにした」

 

「で、私はそれを食べるだけ〜」

 

「おいおい竜胆、武昭君より先に食べるなよ」

 

「別に俺は構いませんよ、食事は大勢で食べた方が美味しいですから」

竜胆と武昭が料理に手をつけたのを見て他の皆も手をつけた。

 

「さすが十傑の第一席ですね、美味しいです」

 

「そうだけどな、司の本職はフランス料理なんだぜー」

 

「へぇ、だったら今度食べさせてくださいよ」

 

「あぁ俺は構わないよ。それより………今度俺と食戟をしてくれないかな?」

 

「えっ?……えぇ良いですよ、俺も知りたいですから」

 

「ハッハッハッ、司は心配性な所があるけど料理の事となると性格が変わるから初対面の奴は戸惑うんだよ」

 

「それでも美味しい料理を作れるから不思議………」

 

「こんな人が今の十傑の第一席なんだから信じられない……」

 

「はぁ……そうですか……(確かに心配性な所もあるけど……腕前は確かだな)」

武昭は司の料理を味わって腕前を確認していた。

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

その後、司達が帰ったので武昭は後片付けをしていた。

 

「明るくて面白い人達だったな……よしっ洗い物も終わったし

ゴミは明日出せばいいか……ん?誰かな はーい」

 

「急にゴメン、遅い時間に来たりして」

チャイムが鳴ったので武昭が確認しに行くと紀ノ国寧々がいた。

 

「別に俺は良いですけど、何か忘れ物でもしたんですか?」

 

「ううん……武昭君に言いたい事があったから来たの」

 

「俺に言いたい事ですか?」

 

「うん……それは、久し振りだね………“あっ君”」

 

「あっ君て……俺をそう呼ぶのは………まさか“シズ姉”………なの?」

武昭が自分の呼ばれ方に何かを思い出していると寧々が三つ編みを解いてメガネを外した。

 

「昔の私は髪も縛ってなくてメガネを掛けてなかったけど、これなら分かるよね?」

 

「本当だ……俺が知ってる時からは大きくなってるけど………シズ姉だ……」

寧々の顔を見て昔の面影を思い出した武昭は抱き着いて泣いていたが寧々は優しく頭を撫でていた。

 

「ごめんねシズ姉………男が泣いたらダメなのはわかってるけど……けど……」

 

「ううん構わないよ………男の子だって泣きたい時は泣いていいんだから………

(あっ君も辛かったね……ごめんね、そばに居なきゃいけない時に居る事が出来なくて……)」

武昭が声を殺して泣く中、寧々はずっと頭を撫でていた。

 

 




はい、今回はここまでにします。

今回の話はオリジナル設定として主人公と寧々を幼馴染にしてみました。

簡単な設定としては、武昭の両親と寧々の両親が学生時代の同級生。

近所に住んでいて寧々は武昭を弟の様に思っていた。

とりあえずは、こんな所です。

詳しい内容はいずれ番外編として書きたいと思います。

それでは


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第7話 過去を聞いて……

オリキャラと紀ノ国先輩との関係が明かされます。


武昭は寧々を家に入れるとコーヒーを入れて来た。

 

「はい、シズ姉 砂糖とミルクは好みで入れてね」

 

「うん、ありがとう あっ君……うん、美味しい」

 

「それよりも………シズ姉が、ここにいたなんて思わなかったよ」

 

「それは私の方だよ。最初あっ君を見た時に、凄い驚いたんだから……

それで、あっ君は遠月に来るまでは、どうしてたのか教えて欲しいんだけど」

 

「俺の事か………シズ姉なら知ってると思うけど………

シズ姉が転校してから1年後、火事が起きて父さんが亡くなったんだ………

それで その時に母さんだけでも助けようとしたんだけど……」

 

「ダメ……だったんだね………」

 

「いや、助ける事は出来たけど煙を吸ってて植物人間になったんだ………

それから俺は学校に行くと、これでいじめられたんだ…」

武昭が服を脱ぐと身体の所々に火傷の跡が合った。

 

「酷い……あっ君は辛い思いをしたのに………」

寧々は怒りから自分の制服の裾を握り締めていた。

 

「けど、それでも暫くは耐えれたよ………“あの事”があるまでわね………」

 

「あっ君………あの事って何……なの?」

 

「簡単だよ………それから2年後9歳の時に容体が急変して母さんが亡くなったんだ」

 

「嘘………あの優しかったおばさんが………」

 

「それから俺は学校に行く事を辞めて日本中を歩き回ったよ……」

 

「あっ君……それは……何でかな?………

(多分、これを聞いたら私は後悔するかもしれない………

けど、聞かなかったら、これから先あっ君を見る事が出来なくなる………)」

 

「簡単だよ……俺は死ぬ場所を探してたんだ……父さんも母さんもいない………

誰も俺を受け入れない……こんな世界にいても意味が無いと気付いたんだ………

だから、俺は旅先で見つけた場所に合った崖から飛び降りたんだ………

そして、俺は身体が冷たくなっていくのを感じたよ………

このままなら楽になれるってね………」

 

「待って、なら、なんであっ君は今、ここに居るの?」

 

「俺が目を覚ましたら助けてくれた人が居て、その人に事情を話したら保護者になってくれたんだ

それから俺が遠月に通う事になったんだ」

 

「そうだったんだ………けど、あっ君と再会出来て、物凄く嬉しかったよ」

 

「うん……ありがとうシズ姉………少しだけ、こうしてて良いかな?」

 

「良いよ、私はあっ君のお姉ちゃんなんだから………」

武昭は寧々に抱き着いたが寧々はそれを受け入れて優しく抱き返した。

 

(あっ君………大丈夫だよ、これからは私がそばにいてあげるから………)

寧々は武昭を抱き締めながらある決意をしていた。

 

その後、時間も遅かったので寧々は空き部屋を借りて泊まる事になった。

 




はい、今回はここまでにしました。

前話を書いた時に感想でシズ姉の由来に聞かれましたので

活動報告に書いておきました。

これからもよろしくお願いします。


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第8話 義兄の考え

久し振りの更新です。

最近のジャンプで寧々と一色さんが幼馴染との設定がありましたので

こちらでも、その様にしたいと思います。


寧々が武昭の所に泊まった次の日の朝………

 

「うーん……朝飯は何にしようかなぁ………ってシズ姉?」

武昭が起きると寧々が料理をしていた。

 

「あっ、おはよう、あっ君。朝ご飯は私が作るから先にシャワーでも浴びてきたら?」

 

「うん、分かったよ………」

武昭は寧々の指示に従って浴室に向かった。

 

 

武昭がシャワーを終えて戻ると朝食が出来上がっていて寧々が座っていた。

 

「冷蔵庫にあった奴を使わせてもらったから、早く食べよう」

 

「うん、ありがとうシズ姉、じゃあ………」

 

『いただきます』

そう言うと二人は食事を始めた。

 

 

「やっぱり、シズ姉の料理は美味しいや」

 

「それは、そうだよ、私だって頑張ったんだし十傑の一人なんだから」

 

「そうか、シズ姉は十傑の一人なんだ………いずれ倒す事になるんだ」

食事をしていた武昭は真剣な視線を寧々に向けた。

 

「そう、それに昨夜来た三人も十傑のメンバーだよ……」

 

「ふーん、司さんとはここを教えてもらった時に聞いたけど………

小林先輩と茜ヶ久保先輩もそうだったんだ………

まぁ、誰が相手でも打ち倒せばいいだけだからな」

武昭は握った右手で左の手のひらを強く叩いた。

 

「本来なら敵の私がこんな事を言うのは違うかもしれないけど………

あっ君なら出来るよ……」

 

「うん、ありがとうシズ姉 ご馳走様。洗い物は俺がするからシズ姉は先に出てて」

 

「分かったよ」

武昭が洗い物を流しに持っていく時に寧々は外に出ていた。

 

 

「さてと、洗い物も終わったから学校に行きますか………アレ?シズ姉」

武昭が家から出ると玄関で寧々が立っていた。

 

「シズ姉、先に学校に行ったんじゃなかったの?」

 

「そうしようかなって思ったんだけど、あっ君と行きたかったんだ」

 

「そっか、俺は良いけど………シズ姉は大丈夫なの?」

武昭の質問に寧々は頭を傾げた。

 

「いや、シズ姉って綺麗だから噂になったら困るんじゃないかなぁって……」

 

「き、綺麗って!私なんか綺麗じゃないよ!!」

 

「そう?シズ姉って昔も可愛かったけど今は綺麗になったから彼氏の一人位いるかなって」

 

「そ、そんな……彼氏なんかいないよ………」

 

「ふーん、そうなんだ………じゃあ俺はこっちだから」

 

「あっ、う、うん………また放課後に………」

寧々は武昭と別れたがその顔は軽く赤くなっていた。

 

 

その後、放課後………

十傑用の部屋で竜胆が寧々と話していた。

 

「なぁ、紀ノ国って昨夜はどこに居たんだ?」

 

「はぁ?何処に居たって………自分の部屋に決まってるじゃない」

 

「それは嘘……私と竜胆が行ったらいなかった………

もしかして………昨日知り合った照杜君の所?」

 

「そ、そんな訳ないじゃない!!」

 

「うーん?……だったら、顔が赤くなってるんだぁ〜?」

 

「まさか……一番男性に興味がないと思ってた寧々が最初に大人の階段を登るなんて………」

 

「そ、そんな事してないわよっ!私とあっ君は違う部屋に泊まった……あっ」

 

「まさか、もうアダ名で呼ぶほどの仲だったなんてなぁ〜」

 

「これは……後学の為にも詳しく聞かないと………」

自爆した寧々は竜胆とももに詰め寄られていた。

 

 

一方………

 

「はぁ………紀ノ国はもう書類を終えたから良いけど、竜胆とももはまだなんだよなぁ………」

離れた場所で司が書類を書きながらため息をついていると一緒にしていた一色が話しかけた。

 

「まぁまぁ、今日は僕も手伝うから……けど……彼女達が話してる内容は………」

 

「多分、昨日俺達が出会った編入生の事だよ。照杜武昭君て言う子だけどね」

 

「えっ?………照杜……武昭……君……ですか?」

司から出た名前を聞いた一色は驚いていた。

 

「あぁ……ほら、森の外れに一軒の家があるだろ?あそこに住んでるんだ」

 

「そうですか………(そっか………彼もここに居るのか………)」

一色は何かを考えていた。




久し振りの更新です。

この作品のオリジナル設定。

・武昭は寧々と一色の幼馴染。
・三人の両親は学生時代の同級生。
・寧々は武昭の前では性格が柔らかくなる。

とりあえずはここまでにしたいと思います。

それでは


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第9話 義兄との再会

授業を終えた武昭は校内を歩いていた。

 

「参ったなぁ……シズ姉に放課後って言われたけど

場所とか聞いてなかったっけ……」

 

「んー?誰かと思えば武昭じゃねぇーか」

 

「あっ、竜胆先輩でしたか、どうも」

武昭が相手を確認すると竜胆だった。

 

「どうしたんだ?何かを探してるみたいだけど」

 

「えぇ、シズ姉……紀ノ国先輩を探してまして」

 

「んー?なぁ!今、紀ノ国の事をシズ姉って呼ばなかったかぁー!?」

 

「う、うわっ!?り、竜胆先輩!離れて下さい!!」

武昭は竜胆に抱きつかれて顔を赤くした。

 

「嫌だ 武昭が紀ノ国との関係を話すまで離れないぞ

なぁ?どうやってあの紀ノ国と付き合い始めたんだ?」

 

「うなっ!?つ、付き合い始めたって、俺とシズ姉は、そんな関係じゃないですよ

昔からの幼馴染ってだけですよ」

 

「ふえっ?幼馴染って……そうなのかぁー」

 

「それよりも、離れて下さい竜胆先輩っ!」

 

「んー?どうしてなんだー? あっもしかして恥ずかしいのかぁ?」

竜胆は武昭が赤い顔をしてるのを見て体を押し付けてきた。

 

「そりゃ、竜胆先輩みたいな綺麗な女性にこんな事されて恥ずかしくない訳ないじゃないですか」

 

「ふえっ!?、き、綺麗って……私がか、そ、そっか……」

武昭の言葉を聞いた竜胆も顔を赤くして離れた。

 

「わ、悪いなふざけちゃって」

 

「いえ、気にしないで下さい…それよりも竜胆先輩は何をしてたんですか?」

 

「いやー 何か面白い事が無いかなって校内をブラついてたんだ」

 

「そうだったんですか」

 

「そうなんですか………先輩は自分の仕事が残ってるのにブラブラしてたんですか………」

何か冷たい声が聞こえたので振り向くと寧々がいた。

 

「よ、よぉー紀ノ国ー どうしたんだ?何か怒ってるみたいだけど…」

 

「別に怒ってませんよ………ただ先輩の仕事が残ってるから探しに来ただけです……」

 

「き、紀ノ国先輩……り、竜胆先輩は「黙ってて…」はい……」

竜胆を庇おうとした武昭は寧々に睨まれて黙り込んだ。

 

その後……

 

「ごめんね武昭君、竜胆が面倒をかけたみたいで………」

 

「い、いえ、俺も悪い所がありましたから」

武昭と竜胆は寧々に連れられて十傑が書類仕事をする部屋に来ていた。

 

「それにしても武昭君と紀ノ国君が幼馴染なんて思わなかったよ」

 

「俺もシズ姉に再会出来るなんて思ってもみなかったです」

 

「僕も君と会えるなんて思わなかったよ………()()()

 

「えっ?………俺をそう呼ぶのは……それに、その声は………」

武昭が相手を確認すると制服を着た一色が立っていた。

 

「ケイ兄……本当に………ケイ兄……なの?」

 

「あぁ、だって僕が、そう呼ぶって決めたじゃないか、アキ君」

一色は武昭の頭を撫でた。

 

「昔もこうして、頭を撫でたよね………本当に大きくなって……」

撫でられた武昭は泣いていたが皆は見て見ない振りをしていた。

 

 

 

 



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第10話 微かな想い

久し振りの投稿です。



一色と再会した武昭は一色用の十傑の部屋に来ていた。(部屋は作者のオリジナル設定です)

 

「はい、コーヒーだよ。砂糖とミルクは自由に入れてね」

 

「ありがとうございます……ふぅ、美味しい………」

 

「口に合ってよかったよ、それよりもアキ君と再会出来るなんて思わなかったよ」

 

「それは、俺も同じだよケイ兄………あっ、昔と同じに呼んだらダメだね」

 

「ううん、僕は気にしないよ、アキ君が呼びたい様にして構わないよ」

 

「そっか、じゃあケイ兄って呼ばせてもらうよ」

武昭はコーヒーを飲んだ。

 

「少し気になったんだけどアキ君は何処に住んでるんだい?」

 

「あぁ、俺はここに住んでるんだ」

 

「この場所は……確か空き家が一軒あった筈の住所だね……」

 

「その家は俺にとって…………」

 

「なるほど、そういう事ならアキ君が住むに相応しい場所だね」

一色は武昭から聞いた住所の事を考えていたが理由を聞いて納得した。

 

「それよりケイ兄は何処に住んでるの?」

 

「うん?僕は極星寮と呼ばれてる所だよ」

 

「極星寮?」

 

「あぁ、かなりの昔からある場所でね、そこの敷地を借りて畑を作ったり

他の寮生達が自分達がしたい事を自由にやってるんだ」

 

「へぇ、そんな所があるんだ………おっと、そろそろ俺は帰るよ

時間も時間だしね」

 

「そうかい、僕はまだ仕事があるから また暇な時にでも来ても良いよ」

 

「分かったよ、じゃあねケイ兄」

武昭は一色の部屋から出て行った。

 

武昭と一色が再会してから数日経った日曜日………

 

「今日は久し振りにカレーが食べたいな………

買い物は行かないで冷蔵庫の中の物を使った普通にシンプルな物だな」

武昭はキッチンに向かうと作業を開始した。

 

 

その頃………

 

「うーん………今日は何をしようかなぁ………

司も用事があるって言うし………ん?………

何処かからカレーの匂いがするな…………向こうからだ」

校内を歩いていた竜胆は匂いがした方に向かった。

 

 

竜胆が来た場所は武昭の家だった。

 

「武昭の家からしてたのか………

うん、ちょうどいいからご馳走になるとするかな(笑)」

竜胆は猫の様に笑うと家の中に入った。

 

「おーい、武昭ー居るかー?」

 

「あっ、すいません竜胆先輩、来てたのに気付かなくて」

 

「いや、私が勝手に入って来たから気にするなよ

それよりも、美味そうな匂いがしてるんだけどよ………」

 

「そうでしたか、じゃあ一緒に食べませんか?」

 

「あぁ、ありがたくいただくぜ!」

武昭は竜胆が座ったのを確認すると自分が作ったカレーを配膳した。

 

「ふーん 普通に人参、玉葱、ジャガイモに肉が入った奴なんだな」

 

「えぇ、冷蔵庫にあった物を使ったんです それじゃ」

 

『いただきます(まーす)』

二人は、そう言うとカレーを食べ始めた。

 

(おぉっ!なんだこのカレーは!?)

一口食べた竜胆はその味に驚いていた。

 

(特に豪華な食材を使ってる訳でも無いのに、こんなカレーを食べるのは初めてだ!

スパイス、野菜、肉、それぞれの味がケンカする事なく纏まった味を出してるなんて!)

 

「竜胆先輩?まだ食べるならお代わりいりますか?」

 

「え?なっ!いつの間に……悪いけど、もう一杯くれ」

竜胆は自分がカレーを気付かないうちに食べ切っていた事を確認するとお代わりをした。

 

「はい、構いませんよ」

 

「(うん……もう一杯食べても、どうしたらこんな味が出るのか分からない……)

なぁ武昭、このカレーってどうやって作ったんだ?」

 

「え?どうやってって……普通に作っただけですよ」

 

「いや!そんな筈は無いんだ!絶対何か秘密があるんだろ!!」

 

「秘密って言っても本当に何も無いんですよ ()()()()()()()()()()()

 

「普通に作っただけ……悪いけど、キッチンを見せてもらっても良いか?」

 

「はい、構いませんよ。こっちです」

武昭は竜胆を連れてキッチンに向かった。

 

キッチンに案内された竜胆は室内を見回していた。

 

「うーん……確かに特に変わった材料とかは無いし使った形跡も見当たらないなぁ…」

 

「ほら、俺が言った通りじゃないですか」

 

「そうだな、だったら何で、あんなに旨いカレーが作れたんだ?」

 

「だから、何回も言ってますけど普通に作っただけですよ

普通に野菜の皮を剥いて肉と同じ大きさに切り揃えたら

油で炒めてルーを入れて煮込んで出来上がりです」

 

「確かに普通だな……ん?武昭、野菜の皮はどうしたんだ?」

 

「皮ですか?綺麗に洗って水から煮込んで出汁を取りましたよ

それでカレーを作りました」

 

「そうか!ベジブロスか!!いや、それだけじゃあの味には……」

 

「その後は残った皮を細かく刻んだり乾煎りしたりしてルーに混ぜました」

 

「皮まで……本当だ!よく見るとルーに細かい物が入っている……

(そうか、武昭は無駄を出さない様に全ての材料を使ったんだ………)」

 

「俺は何をしても食べれない物以外は全ての食材を使い切るんです………

それが俺の信念で料理人だと俺は思ってます」

 

(なんだ、武昭のこの考えは……今まで私が出会って来た、どんな奴とも違う…)

 

「そして、美味しい料理は皆で食べる、どんな人間でも必ず腹が減りますから」

 

(なっ!?なんだよ武昭の今の笑顔は!すっげー純粋無垢な表情じゃん!!)

武昭の笑顔を見た竜胆は顔を逸らしたが真っ赤になっていた。

 

「先輩?どうかしましたか?」

 

「あぁーっ!悪いけど急用を思い出したから私は帰らせてもらうな!

それと……又、今度食べに来て良いか?」

 

「はい、何時でも来て下さい さっきも言いましたけど料理は皆で食べると美味しいですから」

 

「そうか!今度は私が何か作ってやるからな!」

竜胆は武昭の家から出たが赤い顔をしながら笑顔になっていた。

 

 



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第11話 甘い味と…

武昭が遠月に来て少し経った頃……

 

「さてと、今日は何をしようかな………ん?」

敷地内を歩いていた武昭は誰かに気付いた。

 

「茜ヶ久保先輩、何してるんですか?」

 

「誰かと思えば武昭じゃない……ももは今買い物帰りなの……」

 

「それは見れば分かりますけど……どう見ても無理してる様にしか……」

武昭が見たももは両手に多量の買い物袋を持っていた。

 

「本当なら配達してくれるはずだったけど、ちょっとした事情で私が運ぶ事になったの……」

 

「はぁ……先輩、少し渡して下さい……よいしょっと」

武昭はももの手から幾つかの買い物袋をとって自分が持った。

 

「武昭………何してるの?」

 

「何してるのって、荷物を持ってるんですけどダメでしたか?」

 

「それは分かるけど、なんでそんな事をするの?」

 

「うーん……俺がしたかったからですね……

両親からも女性には優しくしろって()()()()()()()()()

 

「そうなんだ……ん?今、()()()()()()()って言ってたけど……」

 

「あぁーっ、茜ヶ久保先輩、これは何処に持ってくんですか?」

 

「あっ、私についてきて………(何か隠し事をしてるみたい……)」

ももは後ろを歩く武昭の事を考えながら目的地に向かった。

 

 

目的の調理棟に着いた2人は調理服に着替えると下拵えをしていた。

 

「じゃあ、俺はこの果物を皮を剥いて一口大に切れば良いんですね」

 

「うん、私はその間に漬け込むシロップの用意をするから」

2人はフルーツタルトを作ろうとしていた。

 

「そうだ先輩、この切った皮は貰っても良いですか?」

 

「ん?別に捨てるだけだから構わないけど、どうするの?」

 

「俺もちょっとしたスイーツを作ろうと思ったんです」

 

「そうなんだ……言っておくけど私はスイーツにはキビシイからね」

 

「分かりました、それよりも果物の処理終わりました」

 

「(いつの間に……)じゃあ次は生地の方をお願い………

レシピはコレに書いてるから」

 

「分かりました……えっと卵に小麦粉と……」

 

「武昭の調理してる姿を初めて見たけど、あんなに早いなんて……」

 

「先輩、生地の仕込みは終わったから俺の方のスイーツをやっても良いですか?」

 

「うん、あとは私だけで大丈夫だから」

 

「分かりました、すみませんけど向こうの厨房を借りますから」

武昭はもう一つの厨房に向かった。

 

 

暫くして………

 

「フルーツタルトが完成したよ……武昭の方は?」

 

「俺の方はもうちょっと冷やさないとダメです」

 

「そっか、なら先にコッチを食べよう…はい召し上がれ」

 

「数種類のフルーツをのせたフルーツタルトですね

じゃあいただきます……おぉ……」

フルーツタルトを食べた武昭は体が果物になる幻を感じていた。

 

「凄い一体感ですね……多分ですけどフルーツを漬け込むシロップに秘密がありますね」

 

「へぇ、よく分かったね、どんな秘密か分かる?」

ももに問い掛けられた武昭はもう一口食べた。

 

「うん……シロップに香り付けする為に入れた物がありますね……

それは、それぞれの果物に関係したお酒じゃないですか?

サクランボならキルシュワッサー リンゴはカルヴァドス、ブドウならワイン……

食材と原料が同じ……そんな工夫をしてますね」

 

「凄いね……お酒の種類まで分かるなんて……」

 

「まぁ、それなりに腕はあると思いますから……

そろそろ俺の方も出来たと思うんで持ってきます」

武昭は自分が作業した厨房に向かった。

 

 

少しして……

 

「はい先輩、これが俺の作ったスイーツです」

 

「ねぇ武昭……私にはどう見ても只の果物にしか見えないんだけど……」

武昭がももの前に置いたのは飾り付けた皿に乗った幾つかの果物だった。

 

「ただ冷やしただけの果物をスイーツって言うなら私は怒るよ……」

 

「ただ冷やしただけ……そう思う前に()()()()()()を開けて下さい」

 

「リンゴのフタって……これって!」

ももが指示通りにリンゴのヘタを持ち上げると皮一枚だけ残して中身がアイスクリームになっていた。

 

「まさか皮一枚だけ残して中身をアイスクリームにするなんて……もしかして!」

ももが他のフルーツのヘタを持ち上げると中身が全てアイスクリームだった。

 

「まぁ関心してる間に食べてみてください、アイスが溶けますから」

 

「うん分かったよ、まずはこのイチゴの奴から……んっ!?」

アイスを口に入れたももは驚きの表情を見せた。

 

(イチゴのアイスなのは分かるけど、食べた感じがとてもサッパリしてる!

そのサッパリも、ちゃんとイチゴの味も風味をいかしてる……コレは!?)

 

「気付きましたか先輩、そうですよアイスの中心部に練乳を入れておいたんですよ」

 

「確かに大体の人達はイチゴに練乳を掛けて食べてる………

けど、言うのは容易いけど行うのは難しい筈………」

 

「何故なら練乳が凍れるからですよね?」

武昭の言葉にももはうなづいた。

 

「俺は練乳を入れる時に軽く熱を通しておいたんですよ ちょうどよく口の中で溶ける様に」

 

「けど、そんな事をしたらアイスが先に溶ける筈だよ………」

 

「だからこそ、微妙な温度測定をしたんですよ………

それこそ0.1度に至るまで……

それよりも他のアイスも食べてくださいよ」

 

「う、うん……ん!コッチのリンゴにはリンゴのジャム!ブドウにはジュースを凍らせた奴が

そして、このメロンの奴には……ん?何だろ、ちょっとアルコールの匂いがするけど……」

 

「メロンアイスの中には()()を仕込んどいたんですよ」

武昭は台の上に一本の瓶を置いた。

 

「コレって…凄い緑色の綺麗な色をしてるけど……まさか?!」

 

「はい、こいつはメロンを使ったリキュールなんです」

 

「そんな物、私も初めて聞いたよ………」

 

「それは、そうですよコイツはよっぽどの酒好きじゃないと知らない奴ですから

先輩、そろそろ後片付けをして帰りませんか?」

 

「うん、分かったよ……(まさか武昭の腕前がこれ程だったなんて……)」

ももは後片付けをしてる武昭の背中を見ていた。

 

その後、武昭はももを送っていた。

 

「別に送ってもらわなくしても良いのに……」

 

「良いじゃないですか途中までは同じなんですから、それに……

可愛らしい先輩を放って帰るなんて出来ませんよ」

 

「んっ!?か、か、可愛らしいって……私の事……かな?」

 

「え?そうですけど……先輩、どうかしたんですか?顔が赤いですけど」

 

「ふえっ!?な、何でも無いよ!もうここまでで大丈夫だから、それじゃ!!」

 

「えぇ、また時間があったら一緒に料理しましょう」

武昭が言うがももは後ろを向きながら手を振って、その場から駆け出していった。

 

「先輩は大丈夫だとは言ってたけど……〔あぁ、急にすみません実は……〕」

武昭はももを見ながら誰かに電話をしていた。

 

 

次の日……

 

「ふぅ……この書類は……」

 

「仕事中にすいません先輩……」

ももが十傑の仕事をしてると寧々が声をかけてきた。

 

「今は大丈夫……それで何か私に用?」

 

「えぇ……昨日の事なんですが……武昭君に何を言われたんですか?」

 

「武昭にって……えっと、その……な、何の事かな?

 

「先輩、ごまかそうとしても無駄ですよ………

昨日の夕方ごろに武昭から連絡があって

〔さっきまで茜ヶ久保先輩と一緒にいて今別れたんだけど………

顔が赤かったから、どうかしたのかなって………〕って言われたんです……

それで詳しい話を聞こうと思ったんですけど……」

寧々にそう言われたももは迫られて照れていた。

 



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第12話 兄、姉、弟

武昭が遠月に来てから色々な事があった。

 

そんな学園生活を過ごしていたある日の朝……

 

「ん……まだ、こんな時間か……」

武昭が目を覚ましたが、いつもの時間よりも早かった。

 

「なんか今から寝るのも中途半端だから昼の弁当でも作るか……おっと」

そう言いながらベッドから降りた武昭は軽くふらついた。

 

「うーん……なんか体が重い様な……確か薬が下に……あ、あれ?……」

武昭が寝室を出ようとした時に、そのまま倒れて気を失った。

 

 

 

いつも武昭が通学する時間……

 

「あれ?いつもならこの時間はあっ君がいる筈なんだけど……」

通学していた寧々は武昭がいない事が気になった。

 

「もしかして寝坊でもしてるのかしら……まだ時間はあるから家に行こう……」

寧々は武昭の家に向かった。

 

 

武昭の家に着いた寧々はチャイムを鳴らすが出てこなかった。

 

「反応が無いって事は……もしかして入れ違いで学園に行ったのかしら……あれ?鍵が無い」

寧々が武昭から聞いた鍵の隠し場所を見るが鍵が無かった。

 

「鍵が無いって事はまだ家にいるって事よね……一応預かっておいて良かった」

寧々は合鍵で開けると中に入った。

 

「確かあっ君の部屋は二階だったっけ……あっ君、起きてる……あっ君!?」

寧々が武昭の部屋に入ると床に倒れている武昭がいたので慌てて駆け寄った。

 

「ねぇ!あっ君!どうしたの!?凄い熱……そうだ、もしもし私だけど……」

寧々は携帯を出すと誰かに連絡をした。

 

寧々が連絡をしてしばらくして……

 

「お医者さんが言うには風邪みたいだ、だから少し学校は休ませた方が良いね」

 

「ごめんなさいね、急にあなたを呼んだりして慧」

武昭の部屋にはベッドに寝かされた武昭と寧々、それに呼ばれた一色がいた。

 

「いや、気にする事は無いよ……アキ君は僕達にとっては弟も同然なんだから……」

 

「そうね……けど、私はあっ君が大変な時にそばにいる事が出来なかった……」

寧々は眠る武昭の右手を優しく握った。

 

「ご両親が亡くなって、その後にイジメを受けていた事だね……

僕も聞いた時には凄く後悔したよ、自分は何をしてたんだろうって……」

一色は立ち上がった。

 

「だから、今度アキ君に何かあったら僕は僕が出来る限りの事をするよ……」

 

「それは私も同じ気持ちよ……二度と後悔したくないから……」

寧々が優しく武昭の頭を撫でると武昭は軽く微笑んでいた。

 

「じゃあ僕は洗面器の水を変えてくるから、寧々君はアキ君の具合を見ててほしい」

 

「えぇわかったわ……」

一色が部屋を出ると寧々と寝てる武昭だけになった。

 

「あっ君……何か困った事があったならいつでも私や慧に言ってね……

今のあっ君は1人じゃないから……」

寧々の言葉を聞いた武昭は寝ていたが何処か喜んでいた。



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第13話 看病と家族

眠っていた武昭が目を覚ますと夕方になっていた。

 

「ん……あれ?なんでベッドに……確か……」

 

ガチャ「アッ、起きたんだ、たっ君……」

状況確認をしてると寧々が土鍋を持って入ってきた。

 

「シズ姉?……なんで、俺の家に……」

 

「寧々君がアキ君と一緒に学園に行こうとしたら倒れてるのを発見したんだよ」

 

「ケイ兄……もしかして2人が看病してくれたの?」

 

「あぁ、僕は寧々から連絡を受けて来たんだけどね」

 

「それよりもお腹空いてない?冷蔵庫にある物で作ったんだけど」

 

「ありがとうシズ姉……うん、美味しい……」

 

「アキ君……もし良かったらなんだけど、ここに僕の部屋を貸してくれないかな?一応違う所にも部屋はあるんだけどね」

 

「慧がそう言うなら私も部屋を借りるわ、それなら、今回みたいな事があっても直ぐに対処出来るし」

 

「うーん……俺は別に構わないよ、空き部屋ならそれなりにあるしね」

 

「ありがとうアキ君、じゃあ明日にでも荷物を持ってくるから」

 

「私も、そうするわ……ほら食べたなら薬を飲んで、早めに寝た方が良いわ」

 

「ありがとうシズ姉……じゃあおやすみ……」

武昭は薬を飲んで眠りについた。


その後、寧々と慧は武昭の家のリビングで話していた。

 

「ふぅ……こうしてると小さい頃を思い出すね……」

 

「えぇ、あの時はたっ君のご両親も、まだ生きてて……」

 

「それから、少ししてアキ君の父親が亡くなったのよ……」

 

「確か火事だったね……警察が捜査したら、ただの愉快犯だったらしいよ……」

 

「そんな事でアキ君の家族は辛い思いをしたって言うの……」

慧の言葉を聞いた寧々は行き場のない怒りから強く拳を握っていた。

 

「けど、今は違うよ……ここには僕達がいるんだからさ……」

 

「そうね……血は繋がってなくても私達はアキ君の家族なのだから…」

寧々は優しい表情で空を見た。

 

その後、武昭の具合が良くなったので3人で夕食を食べていてメニューは寄せ鍋だった。

 

「ごめんねシズ姉、ケイ兄、夕食まで作ってもらって」

 

「気にしなくて良いんだよ、たっ君 これは僕達がやりたくてやってるんだから」

 

「慧の言う通りよ、これは私達が自分からしてる事なの……

それに、こういう時は謝るんじゃなくて、お礼を言う物よ」

 

「シズ姉、ケイ兄……うん、ありがとう2人とも」

 

「ほら、早く食べないと具が硬くなるよ」

 

「そうだね……うん、美味しい」

 

「食べ終わったら私が打った蕎麦を締めにするから」

3人は楽しく夕食を食べていた。

 

血は繋がってなくても仲の良い家族の風景が、そこにはあった。

 

 

 



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