十一番隊第四席の世界の楽しみ方 (二重世界)
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プロローグ1

内容はキャラ紹介みたいな感じになっています。長くなりそうだったので前後半で分けることにしました。


俺こと天宮響也は違和感を感じながら生きている。

これは数多くの人が一度は感じたことあるだろう。『自分は周りと違って特別な存在だ』とか『生まれる世界を間違えた』みたいなヤツだ。

だが俺が普通の人と違うのはその違和感を生まれてから今までずっと感じていることだ。普通の人の場合は一時の問題であって、時間が経てば勘違いだと気付き違和感も消える。

中には本当に特別で生まれる世界を間違えたんじゃないかと思えるような奴もいるが、それは除くとする。それはまた別の問題であり、今回のこととは関係ない。

まぁ、俺がその特別な存在だというなら違和感の謎はすぐに解決するのだが、そうなのかはまだ分からないからな。

 

だから今、重要なのはこの違和感を消すことだ。この違和感――自分が何者か分からない感覚というのはハッキリ言って気持ち良いものではない。

こういうのは前に現状に不満のある奴がなりやすいみたいなことを書物で読んだことがあるが、俺はそうではない。むしろ違和感のことを除けば充実している。

 

俺の家――天宮家は貴族で、貴族の中での格は中の上。四大貴族などとは比べることも出来ないが、中流貴族の中ではそこそこの影響力がある。

家の特徴として真っ先に上げられるのは変わり者ということだ。これに関しては俺達も認めている。

天宮家は他の貴族とは違い一切、伝統や格式といったものを気にしない。分かりやすく言うと非常にノリが軽い。

これだけ聞くと、他の貴族達から煙たがれている印象があるがそんなことはない。いや、全く嫌われていないということではないが。中には俺達のことが気に食わない家もある。

 

俺の家族は変わり者であると同時に切れ者であることが多い。自分のやりたいことを優先しながらも上手に立ち回って、上手く他の貴族と付き合っている。

具体的な方法を言うと相手が若くて綺麗な場合は口説いたり、弱味を握って脅したり(この場合も相手を必要以上に追い込むことはしない。下手なことをして攻撃されても面倒臭いだけだからな)、後は逆に弱味を見せることで相手を優位に立っていると勘違いさせるとかだ。他人を思い通りに操る術などいくらでもある。

 

そして天宮家にはもう一つ特徴がある。それは商人であるということだ。

父親が当主を引退して長男――俺の兄に家を譲った後に暇潰してとして会社を作った。暇潰しとはいえ父親は遊びほど本気になる性格をしており、自分のコネを最大限に使って数年で尸魂界の中でも有数の会社にした。

食べ物からファッション関係まで幅広く取り扱っているが、特に力を入れているのが娯楽関係だ。尸魂界は現世に比べて娯楽が少なく狙い目だったというのもあるが、それ以上に父親が娯楽好きだったのだ。

 

俺もよく父親の手伝いをしているが、商売というものは楽しい。貴族だろうと護廷十三隊だろうと人が動く以上、金は必要だ。

その金の流れを操るというのは尸魂界全体の流れを操るに等しい。それが楽しくないわけがない!

まぁ、実際はそこまで甘くないのだが、それもまた面白い。

 

他にも女性をナンパするのは楽しい。特に綺麗な女性に罵られたり虐められたりするのは最高だ!

ちなみに俺はモテるので女性に苦労したことがない。

 

というような感じで俺の人生は人並み以上に満足のいくものだ。失敗に関しては小さいものしかなく、気にするような大きなものは一回もない。

逆に上手くいきすぎていて人生に張り合いがないということもない。大きな失敗はないと言ってもギリギリの展開は何回も経験しているのだから(主に身内関係だが)。

 

それなのに違和感は消えない。……そこで俺は考えた。もしかして本当に俺は生きる世界を間違えているのではないだろうか、と。

これは別に現世や虚圏などの尸魂界以外のところが俺の居場所だという意味ではない。単純に商人以上に俺が楽しめる――俺がするべき仕事があるのではないかと思っただけだ。

それから俺は今までしてこなかった色々なものに手を出し始めた。さすがに虚圏には行けないけど、現世に出向いて現世の娯楽に触れてみたりもした。

尸魂界にはない文化が多く非常に楽しめた。特に映画というのは面白かったな。尸魂界でも普及してほしいぐらいだ。

……これ、ただ現世観光をしていただけだな。本来の目的から外れている。まぁ、満足できたからいいけど。

後、自分の中の世界が広がったからか、この頃から女性と遊ぶ時のプレイの幅も広がった。うん、これも関係ないな。

 

遊び倒してそろそろ自分の違和感の正体を探そうと思っていたある時、俺は運命の分岐点と出会った。

派手な着物で肌を必要以上に露出させており。奇妙な雰囲気の女性だ。俺が静かな森で、木に寄り添いながらのんびり休憩していると急に現れた。

俺が話かけたら何故だかは分からないが妙に驚いた顔をして、その後に嬉しそうな笑みを浮かべた。

女性は何も用事がなくて暇だったらしく、俺も休日ですることがなかったので適当に雑談をして時間を潰すことにした。非常に意気投合して話すのが楽しくなってきたからか、他に理由があったのかは分からないが、俺はらしくもなく初対面の女性に自分の深い部分――違和感を感じながら生きていることを話してしまった。らしくもなく、と言うか誰かに話したのはこれが初めてだな。

 

「だったら死神にでもなれば? 虚と戦って死にかけて、生死の境でも彷徨えば何か変わるかもよ?」

 

俺の話を聞いた女性がテンション高げにそう答えた。言い方は軽いのに、内容は物騒だな……。負ける前提かよ。

 

でも死神か……。わざわざ学舎に通って誰かに教えてもらうというのが面倒臭くて後回しにしていたがアリかもな。

死神――それこそ隊長格なら俺が今までに会ったことのないような面白い人物もいるかもしれない。この時、俺は真央霊術院に入学し、死神になることを決意した。




今後の予定はプロローグの後半を明日か明後日に投稿、それからは前に投稿していた内容を一日ずつ投稿していくつもりです。

では感想待ってます。


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プロローグ2

父親に真央霊術院に入学したいと言ったら二つ返事で了承してくれた。最初から否定はされないだろうと思っていたが、本当に適当すぎる。

何せ俺の言葉に対する返答が「ふぅーん、好きにすれば?必要な金は自分で出せよ」だったのだから。放任主義にもほどがある。

 

そんな感じで俺は死神になるべく真央霊術院に入学したのだが……退屈だ。授業は簡単だし、俺の商人の経験からして同期にダイヤの原石と呼べるような奴はいなかった。

先生も大したことないし。アレなら数年もあれば余裕で抜けるだろう。

天宮家からは死神になった奴がいないから基準がイマイチ分からなかったが、俺は元々霊力が高かったらしいから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが。

 

ただ霊術院時代に一人だけ面白い人物に出会った。一度だけ講義にやってきた五番隊隊長――藍染惣右介だ。周りの連中は「優しそう」とか「格好良い」とか言っていたがとんでもない。

確かに穏和な見た目をしていたが、アレは当時の俺の知識では理解すら出来ない化物だ。一目見た瞬間から恐怖が体を支配し震えが止まらず、講義がマトモに頭に入ってこなかった。

あの時の講義は生きた心地がしなかった。下手な動きをすれば殺されるとさえ錯覚していた。冷静に考えればそんな行動をするとは思えないのだが、そう勘違いさせるだけの圧倒的な圧力が藍染惣右介にはあった。

 

それからはサボり気味だった授業にも参加するようになった(回数が減ったというだけでサボリが完全になくなったわけではないが)。少しでも早くあの領域に辿り着くためだ。化物を理解するには自分も化物になる必要がある。

その結果、本来なら六年かかるところを四年で卒業した。前に一年で卒業した規格外れの天才児がいたというから、それに比べたらまだまだだな。確か名前は市丸ギンだったか。

最初の三年を適当に過ごしていたのが悔やまれる。最初から本気を出していたら市丸ギンの記録を抜けたかもしれないのに。……いや、さすがにそれは無理か。

よくて二年ってところだろう。まぁ、そんなことはどうでもいい。重要なのは護廷十三隊に入隊してからだ。

 

俺は入隊試験に一発合格して護廷十三隊への配属が決まった……のは良いのだが、ここで問題が起きた。配属先がまさかの十一番隊だったのだ。

十一番隊は荒くれ者が多く、女性はほとんどいない。つまり護廷十三隊一、むさ苦しい隊だ。まさか俺が一番行きたくなかった隊に配属が決まるとは。誰の嫌がらせだよ……。

 

隊長の名前は鬼厳城剣八。実力は高いが、それだけの乱暴でつまらない男だ。隊首会や四十六室の意向を無視することも多いと聞く。俺にとっては尊敬どころ嫌悪の対象だ。見た目も醜いしな。

 

俺が本当に入りたかったのは八番隊か十二番隊だ。他にも面白い隊長はいたが、八番隊隊長――京楽春水と十二番隊隊長――涅マユリが一番俺の興味を引いた。京楽春水は俺と気が合いそうだし、涅マユリの元なら市場に流通していない怪しい発明品を見れそうだ。

 

五番隊にも興味はあるが、入りたいとは思えない。というか怖い。藍染惣右介に関わるにしてもはまだ時期が早すぎる。俺がもっと経験を積んで色々な意味で強くなってからでも遅くない。

 

 

 

 

 

 

十一番隊に入隊してから一ヶ月が経った。

もう限界だ!隊員は何も考えていない口だけの戦闘馬鹿ばかりだし、隊長は俺のことが気に入らないのか面倒事を押し付けてくるし、何より四番隊の女性隊員をナンパしたら十一番隊だという理由だけで断られた!

こんな生活には耐えられない!全体的に潤いが足りない! 入隊してから一回も女性を抱いてないし!こんな苦しいだけの意味のない時間を過ごしたのは生まれて初めてだ!卯ノ花隊長に罵られたりたい!

 

こうなったら移隊届けを出すしかない!そう思って移届隊を持って隊舎にやってきた日、俺は二度目の運命の分岐点に遭遇した。

鬼厳城隊長が流魂街がやって来た一人の男に負けたのだ。それも一方的に。

 

ところで少し話が変わるが隊長になるには三つの方法があり、そのうちの一つに「二百名以上の隊員の立ち会いのもと現隊長を一騎討ちで倒す」というものがある。

更に言うと正確な数までは分からないが、俺を含めてこの場には二百名以上の隊員がいる。つまり流魂街から来た謎の男は隊長になる条件を満たしたことになり、今から俺の隊長になるということだ。

後、それと同時に最強の死神の称号である「剣八」も継いだことになるのだが、今の俺にとってその程度は大した問題ではない。

 

体中の血液が沸騰し、精神が異常なまでに昂っていくのを感じる。この感情をなんて表現したらいいか分からない。こんな気持ちは生まれて初めてだ。

 

俺は気付いたら手に持っていた移隊届を破り捨て、腰の斬魄刀に手を当てていた。そして自分の意思とは無関係に斬魄刀を抜き、鬼厳城隊長を……いや、もう隊長じゃないな。ブタ野郎を倒した男に突撃する。

周りの隊員が止めようとしてきたが、俺の体は動きを止めない。俺は強引に隊員達を振り払うと、男に向かった斬魄刀を振り下ろす。

 

「あぁ? 何だ、てめぇは?」

 

男は興味なそうな顔で俺の攻撃を軽々と受け止める。

ブタ野郎を倒した時から気付いていたが、刀を交えて改めて気付く。この男は藍染惣右介とはまた違う意味で化物だ。正に力の塊。近付いただけで霊圧に押されて体がすくんでしまう。だが、それでもやはり俺の体は止まらない。

俺はそのまま刀を振り続け、全力で斬撃を繰り出し続ける。

 

「…………」

 

「……?」

 

俺は途中で不思議に思った。

別に俺に押されて防戦一方というわけではない。むしろ斬り込んでいる俺の刀の方が折れそうなぐらいだ。

それなのに男は反撃してこない。……どういうことだ?

 

「……どうした?その程度か?」

 

「……どういう意味だ?」

 

「別に深い意味はねぇさ。ただ俺の力を見た後にこの程度の実力で挑んできたのか、って聞いているだけだ」

 

隠している力があるなら早く出せ、さもないと殺す、男の目はそう語っている。

……ああ、なるほど。だから反撃してこなかったのか。

でも残念だな。確かにまだ始解が残っているが、始解したところで俺の実力はブタ野郎の足元に及ばない。

とはいえ、このまま男に失望させて終わる訳にはいかない。俺は一旦、男から距離を取り斬魄刀を開放する。

 

「叶えろ『』!」

 

解号をすると、斬魄刀が俺の身長を越える巨大な斧へと姿を変えた。

ちなみに俺の斬魄刀には解号はあるが名前はない。いや、斬魄刀が教えてくれていないだけで、もしかしたらあるかもしれないが。俺の斬魄刀は捻くれていてよく分からない性格をしている。何なら解号すら嘘の可能性もある。まぁ、だったら俺はどうやって始解しているんだ、って話になるが。

聞くところによると俺みたいなタイプの斬魄刀は歴史上初らしい。て、こんな話は今は関係ないな。

 

俺は斧を両手で構え、今できる最高火力の攻撃を男にぶつける。

 

「ふん」

 

男の一振りで俺の斬魄刀は真っ二つに折れ、俺の体を切り裂く。俺は大量に血を吹き出しながらうつ伏せに地面に倒れる。

あ、ヤベ……。俺、死ぬかも。

走馬灯みたいなものが頭に浮かんでくる。思い出されるのは俺が死神になるきっかけになった女のことだ。

確かに女の言う通りになった。違和感が完全に消えたわけではないが、生死の境を彷徨って初めて何かが分かった気がする。

そういや、あの女って何て名前なんだ? 今さらだが聞いていなかった。あれ以来、会っていないがもう一度、会いたいな。

 

「……てめぇ、名は?」

 

「……天宮。十一番隊の天宮響也だ」

 

聞かれて俺は名を名乗る。この時、俺の頭から十一番隊をやめるという発想はすでに消えていた。

 

「あんたの名前は何て言うんだ?」

 

「更木。更木剣八だ」

 

男――更木隊長はそれだけ言うと振り返ってどこかに歩いていく。更木隊長が今どんな表情をしているのかは、ここからでは見えない。

 

「じゃあ、またね!」

 

更木隊長の背中に気付いたら小さな女の子が乗っていて、俺に手を振っていた。いつの間に乗ったんだ?全く気付かなかった。

 

更木剣八と藍染惣右介、二人とも俺の手が届かないほど強いからどっちが上なのかは分からない。勘で言うなら藍染惣右介の方が上に感じる。だが更木隊長には藍染惣右介とはまた違った魅力を感じる。

それが藍染惣右介には怯えて動くことすら出来なかったのに、更木隊長には突っ込んでいった理由だろう。

 

更木隊長の背中を倒れながら見送っていると、ある考えが俺の頭に浮かぶ。更木隊長みたいな強い奴が他にもいるのかな?

だったら戦ってみたい。今までも戦うのは好きだったけど、泥臭い戦闘が嫌いだった俺には考えられない発想だ。

そして最高の相手と最高の戦いをしながら笑いながら死にたい。それが出来たらどれだけ幸せだろうか……。

そのためにも、もっと強くならないと。明日……いや、今日から自主練をするか。

他にも死ぬためのステージの準備をしないといけない。他にもやることは沢山ある。これから忙しくなりそうだ。

まぁ、このまま死ななかったらの話だが。早く四番隊が治療に来ないかな。……あ、もう無理。更木隊長の背中が見えなくなったところで、俺は気を失った。




次回から本編、時間軸が現代になります。消す前の話を読んでいなかった人のために説明すると、尸魂界篇が終わった後です。
他にも語るべき過去はまだあるんですが、それはまた後で書くことになります。

では感想待ってます。


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第一話 暇潰し

「あー、退屈だ……」

 

旅禍や藍染元隊長達の裏切りなどの騒ぎから瀞霊廷が落ち着いてきたある日、十一番隊の隊舎の屋根に寝転びながら俺は呟いた。

最近、何も面白いことがない。雑魚虚なんて斬っても暇潰しにしかならないし。

また旅禍でも攻めて来ないかな。もしくは無間の連中が脱走するとかも面白そうだ。かなりヤバいことになりそうだけど。

まぁ、そんなこと考えても退屈は紛れないし、もう一眠りしようか。そう考えた瞬間、下の方から声が聞こえた。

 

「よぉ、響也。退屈なら俺と勝負でもしねぇか?」

 

立ち上がって下を見てみると、そこには厳つい顔をしたハゲ頭がいた。

 

「……なんだ、つるりんか」

 

「誰がつるりんだ、てめぇ!」

 

つるりんこと護廷十三隊十一番隊第三席、斑目一角が顔面に血管を浮かせながら怒鳴る。

そこまで怒らなくていいだろ。せっかく草鹿副隊長がつけてくれたあだ名なんだから。俺は可愛いと思うぞ。

 

「で、何の用だ?」

 

下に降りてから質問する。

一角の話に付き合う理由はないんだが暇潰し程度にはなるだろ。

 

「別に用ってほどのことじゃねぇよ。ただ暇だってんなら俺の運動に付き合ってくれ、ってだけの話だ」

 

なるほど。一角も俺と同じで暇してたのか。

それでたまたま俺を見付けたから暇潰しに付き合わせようってわけね。

暇してたのは事実だし付き合うのはいいけど、素直に一角の言うことを聞くのは嫌だな。少し弄るか。

 

「断る。お前とは何回もやっているから飽きた」

 

「あぁ?お前も暇なんだろ?だったら少しぐらい良いじゃねぇか」

 

「お前と戦うぐらいなら女と遊んでいる方がマシだ」

 

「また女か……。そんなのよりも戦う方が面白いだろうがよ」

 

一角がつまらなそうに舌打ちする。戦闘狂の一角らしい意見だ。

俺も戦闘部隊である十一番隊の所属。戦いが面白いというのは同意できる。だが俺は隊長や一角と違って他にも趣味があるんだよ。ずっと同じことをしていたら飽きるからな。

 

「まぁ、童貞の一角には女の良さは分からないだろうな」

 

「はぁ!?い、いきなり何いってやがんだ!?俺は別に童貞じゃねぇよ!」

 

俺が挑発するような口調で言うと、一角は視線を逸らして目を泳がせる。相変わらず一角は単純な性格をしている。

 

「じゃあ、誰とヤったんだよ?」

 

「……べ、べ、別に誰といいだろ!昔のこと過ぎて覚えてねぇよ!」

 

……この反応、まさか本当に童貞なのか?一角の正確な年齢は知らないが、それでも人間よりも長生きしている。それで童貞はないだろ。

でも、うちの部隊は女っけがないからな……。隊長からしてそういうのに全く興味がないし、弓親あたりは何となくホモっぽい匂いがするし。いや、これに関しては何の根拠もない本当に何となくだけど。

とはいえ、こんな答えでは面白くない。もう少し考えてみるか。

 

「ふむ。その反応からして人には言えないような相手。……となると誰だ?貴族は有り得ないし。……まさか弓親か?」

 

「んなわけないだろ!訳の分からないことを言ってんじゃねぇ!」

 

「別に隠すことないだろ。人の趣味はそれぞれだ」

 

俺は一角の肩に手を置いて諭すように言う。

……え~と、確かこういうのを現世ではBLって言うんだったな。俺にはよく分からないけど、女性に大人気だとか。

 

「だから違うって言ってんだろ!勝手に結論を出してんじゃねぇ!」

 

「いやぁ、前から怪しいと思っていたんだよ。性格とか全然違うのに仲が良すぎるから。そういうことだったんだな」

 

「しつけぇな!」

 

ゼェゼェと息を切らしながら大声でツッコむ一角。

耳元で叫ぶなよ。鼓膜が破れるかと思っただろ。

 

「証明してもらわないと納得できないな」

 

「……証明、だと?」

 

「ああ。今からどこの隊でもいい。女性をナンパしてこい。それで一角が弓親とあんなことやこんなことをしているホモ野郎じゃないと納得してやる」

 

……よく考えたらこれって弓親にも飛び火していないか?まぁ、いっか。

 

「何で俺がそんなナンパみたいな軟弱なことをしないといけないんだ」

 

「何だ、自信がないのか?女ってのは強い男に惹かれるものだ。最強の十一番隊で二番目に強い男なら女の一人や二人落とせると思ったんだが俺の勘違いか」

 

「……いいぜ。そこまで言うなら……ん?何で勝負からナンパする流れになっているんだ?」

 

真実に気付いたようで一角が不思議そうに首を傾げる。

ナンパに失敗してあたふたする一角を見て爆笑するつもりだったんだが失敗か。後少しだったのに残念だ。

だが、ここで諦める俺ではない。

 

「じゃあ、こうしよう。勝負して俺が勝ったら一角はナンパを実行する」

 

「……いや、だからナンパなんてしねぇよ。京楽隊長じゃあるまいし」

 

「もしかして勝つ自信がないのか?まぁ、三席が四席に負けたら格好悪いしな。そういうことなら大人しく諦めて俺がナンパしてくる」

 

このまま一角が挑発に乗らなかった場合は本当にナンパをする予定だ。この前、ちょうど八番隊に可愛い女の子を見付けたところだし。

何か京楽隊長に喧嘩を売るような形になるけど、それはそれで面白い。

だが、そんな展開にはならなかったみたいだ。

 

「……ナメられたままってのも癪だし、その勝負、受けてやるよ。で、俺が勝ったらお前は何をしてくれるんだ?」

 

「女を紹介してやる」

 

「興味ねぇ」

 

一角が俺の提案を即座に切り捨てる。

京楽隊長なら一瞬で話に乗ってくれるんだけどな。

 

「じゃあ、何がいいんだ?」

 

「……そうだな。お前の斬魄刀の本当の能力……で、どうだ?」

 

さっきまでと違って真剣な……でも、どこか俺を煽るような表情をする一角。

う~ん、そうきたか。別に知られて困るような能力でもないんだが、隠している方が色々と出来るから面白いんだよな。

それにミステリアス感の演出にもなって女の子にモテるし。

まぁ、一角のことだから他人にバラしたりはしないだろう。前に鬼道系ではないと説明しているから十一番隊の矜持とかが関係しているとも思えない。

少し迷った後、俺が「良いだろう」と了承すると十一番隊の隊員が訓練するための道場に移動を開始した。



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第二話 VS一角

「誰もいないのか」

 

道場に着いたのだがものの見事にもぬけの殻だ。

いつも荒くれ者達が騒いでいるイメージがあるから静かだと変な気分になる。任務に出ているか――もしくは昼から酒を飲んでいるかのどちらかだろう。

 

道場内を見渡してみると壁に木刀がかけていたり、ごみが落ちていたりと散らかっている。……あいつら、道場の掃除ぐらいちゃんとしろよ。今度、説教しないといけないな。

 

「誰もいないなら都合がいい。他の奴等に邪魔されずにお前と本気で戦えるからな」

 

「本気って……。まさか斬魄刀を使っての真剣勝負をするとか言うんじゃないだろうな?」

 

そんなことしたら始末書を書かないといけなくなる。更木隊長は気にしないどころか推奨しそうだが、絶対に山本総隊長が許してくれない。

やるならバレないように流魂街に行くぞ。

 

「そんなわけねぇだろ。木刀だ」

 

一角はそう言いながら下に斬魄刀を置くと近くの木刀を取る。

ほっ……、良かった。

俺も斬魄刀を腰から外して壁に立て掛けると木刀を二本取って構える。

 

「おい、二本はズルいだろ!」

 

「反則じゃないんだから別にいいだろ?小さいこと気にするなよ」

 

「……確かにそうだな。それにこのぐらいなら丁度いいハンデだ」

 

一角は納得したところで中段に構えて俺の方を向く。基本的だが無駄の少ない良い構えだ。

まぁ、構えとかすぐに関係なくなるが。剣道の試合をするわけじゃないからな。防具もないし。

 

一角に対して俺は構えない。体は完全に脱力しており、木刀は一角ではなく下を向いている。

どう見ても今から戦うようには見えない。これぞ、構えない構え。

前に現世で買ったラノベで書いていた。その登場キャラの女性は手刀だったが大した問題ではない。

構えから次の動きが分かるとか、いちいち構えていたらその分だけ動きが遅くなるとか書いていたな。そしてそれは正しい。

俺も相手の構えから動きを予想して戦うし、更木隊長は構えないからこそ戦いづらい。本当、無茶苦茶で怖い。……いや、更木隊長の本当の怖さはそこじゃないけど。

 

「……なめてんのか?」

 

俺を見て不愉快そうに眉をひそめる一角。

まぁ、俺が一角の立場だったとしても同じことを思うだろうし仕方ないな。

 

「別に。俺はちゃんと真面目だ。だから安心してかかってこい!」

 

「そうかよ。だったら、そうさせてもらう……ぜ!」

 

一角が右足を踏み出して勢いよく俺に突進してくる。

真正面からか。相変わらず動きは良いけど分かりやすい奴だ。

俺は右手の木刀で一角の一撃を受けて左手で腹目掛けてカウンター攻撃をする。

 

「甘い」

 

一角は下がって攻撃を避けるとおもいきや、下がったのはほんの僅かで、即座にガードのために手を上げた右側から攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちっ」

 

このままじゃ避けられない。俺は右手首を強引に捻って防御する。

今のは予想外だった。攻めることしか考えてないのかよ。

一角は攻撃を防がれたのに嬉しそうな顔をしている。

 

「やるじゃねぇか」

 

「お褒めに預かり光栄だ」

 

皮肉を言いながら後ろに下がって距離を取る。

俺、二刀流ってするの初めてなんだよな。思ってたよりやりづらい。両利きだし普段から刀を両手で持ち替えながら戦っていたから完全に舐めていた。

ちゃんと練習しないと一刀の方がやりやすい。でも、ここで諦めるのは面白くない。

今度は俺から一角に仕掛ける。

 

「そういや一角。一つ、聞いていいか?」

 

刀を交えながら前から一角に聞きたかったことを思い出した。他の人がいるところで聞けるような内容じゃないし、この機会に聞いておくか。

 

「あぁ?いきなり何だ?」

 

「お前、隊長にはならないのか?」

 

「……何で俺が隊長にならないといけないんだ?」

 

一角が少し不機嫌になる。恋次あたりに同じことを言われたのか?

 

「一気に隊長が三人も抜けたからな。誰かがその穴を埋めないといけないだろ」

 

「うちの隊長みたいな例外は置いておくとしても、隊長になるには卍解を修得する必要があるだろ」

 

「だから一角に言っているんだが」

 

「俺が卍解を使えるみたいに聞こえるぞ」

 

「そう言っているつもりなんだが。違うのか?」

 

この質問には答えない代わりに一角の攻撃が更に激しくなる。否定はしないのか。

 

「そんなこと言うんだったら響也が隊長になればいじゃねぇか。確か三番隊の市丸とは仲が良かっただろ?」

 

「それとこれとは別だし、俺に隊長は無理だ。卍解を使えないからな」

 

「そうだったか?」

 

「そうだ」

 

さっきの仕返しのつもりかよ。意外と一角も性格の悪いことをするな。

それに俺が仮に卍解を使えたとしても隊長になるつもりはない。雑務とか面倒臭い。今のポジションの方が色々と自由に動けて楽だ。

 

よし、そろそろ二刀流にも慣れてきた。反撃を開始するか。

俺は一角の突きを左手の木刀で弾くと、右手で今度こそ一角の腹に一撃を入れる。

 

「ぐおっ!」

 

吹っ飛ばされた一角が壁に激突する。これで俺の勝ちだ。

もし一角がしつこく諦めなかったとしても今のでダメージを食らっているから、それほど問題はない。

 

「………ん?」

 

一角の奴、何してんだ?吹っ飛ばされた先に偶然あった自分の斬魄刀を掴んで。

 

「延びろ!『鬼灯丸』!」

 

斬魄刀を解放しやがった!

一角が解号をすると刀が槍――否、三節紺に変わる。

 

「おいおい!何で始解してんだよ!?」

 

「やっぱり真剣勝負なら木刀なんかじゃなくて、てめぇの刀で勝負しねぇとな」

 

最初と言っていることが違うじゃねぇか。……どんだけナンパをしたくないんだよ。大人しく負けを認めろ。

でも真剣勝負は斬魄刀でするものというのは俺も納得できる。木刀で勝っても本当の意味の勝利じゃない。バレたら一角に罪を押し付けて正当防衛を訴えよう。

 

「響也も斬魄刀を構えな」

 

「仕方ないな」

 

溜め息を吐きながら木刀を適当に放り投げて斬魄刀を取る。

 

「――叶えろ」

 

俺は一角に聞こえないように小さな声で解号をすると次の瞬間、己のとは違う斬魄刀の名前を呼ぶ。

 

「延びろ『鬼灯丸』」

 

俺の斬魄刀が一角の斬魄刀と全く同じ姿になる。

やっぱりお互いの実力をハッキリさせるには同じ武器を使うのが一番だ。

 

「てめぇ、何勝手に人の斬魄刀を真似してんだよ!?」

 

「真似とは失礼な。これが俺の斬魄刀だ」

 

「嘘をつけ!前に虚退治に行った時、弓親の『藤孔雀』も使っていただろうが!」

 

ああ、そんなこともあったな。それにしても弓親の斬魄刀は意味が分からない。刃が増えて何の意味があるんだ?

 

「……お前の斬魄刀の能力って一体何なんだよ?」

 

「そりゃ勝ってからのお楽しみだ」

 

「じゃあ、勝たせてもらうぞ!」

 

俺と一角の刀が再度、交わろうとした時、第三者の声が聞こえてきた。

 

「あん?何か音がすると思ったら面白いことしてるじゃねぇか。俺も交ぜろよ」

 

二人の動きが同時に止まる。

……この声はまさか。恐る恐る振り返ってみると、そこには予想通り更木隊長が立っていた。何でこのタイミングで現れるんだよ。

近くに草鹿副隊長の姿はない。どこかでお菓子をもらっているのだろう。

 

「勝負はお預けだな。さらば!」

 

俺は一角との戦いを放棄して道場の窓をぶち破って外に出る。

また更木隊長と戦うのは嫌だぞ。少なくとも今の立場では。

まだ死にたくないし、生き残っても始末書どころじゃない。

 

「待ちやがれ!」

 

一角が何か叫んだような気がするが無視して全力で走る。



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第三話 甘味処

「……あれ、追ってこないな」

 

人通りが多くなってきたところで止まって後ろを振り向くが更木隊長が俺を追ってくる気配がない。

もしかして代わりに一角が襲われているのだろうか?だったらラッキーだ。

一応、心の中で同情ぐらいはしてやる。

 

「息なんか切らしてどうしたんだい、響也」

 

不意に名前を呼ばれたので見てみると甘味処で団子を食べている弓親がいた。

団子か……。小腹が空いてきたところだし丁度いいな。

 

「隊長に勝負を仕掛けられそうになったから逃げてきたんだよ」

 

簡単に説明をした後、店員に注文をしてから弓親の隣に座る。

 

「そりゃ、気の毒だったね」

 

弓親が他の十一番隊隊員と違い丁寧に団子を食べながら心にもないことを言う。

人と話す時は食べるなよ。本当、十一番隊の連中は礼儀が無さすぎる。俺も含めて。

 

「そういやさっき京楽隊長に会ってね。君のことを探していたよ」

 

俺の注文した団子がきたところで弓親が思い出したように言う。

お、この店の団子、美味い。初めて食べるけどアタリだ。

 

「京楽隊長が?」

 

「ああ。別に急ぎの用じゃなかったみたいだから暇な時に行ってみたら?」

 

まさしく今が暇な時だ。

団子を食べ終わってから行くか。

 

「でも用って何なんだ?心当りはないが」

 

女を紹介してほしいって話だったら直接、俺に会いに来るだろうし。

 

「さぁ?君が伊勢副隊長に手を出して怒っているんじゃない?」

 

「それだったら怒ってすぐに怒鳴り込みにきそうだけどな」

 

京楽隊長の怒っている姿って想像できないけど、それだけに怒ったら怖そうだな。

……京楽隊長ってどんな理由で怒るんだろうな?もし俺が尸魂界と敵対するようになった時のために知っておきたい。怒る部分にはその人の弱点が出ることが多いからな。

十番隊の日番谷隊長が分かりやすい例だ。

 

「……否定はしないんだね」

 

「いやいや、出してないから」

 

正確に言うと何度か声をかけたことはあるけど断れている。あの人、ガードが硬いんだよな。あんなじゃ美人なのに男が寄ってこないぞ。

その分、落ちたら激しそうではあるが。

 

「他の隊員に手を出したとか?」

 

「前に八番隊に可愛い新人が入ったから口説いているところだな」

 

「……それが原因じゃない?」

 

さすがにそれはないだろ。いくら京楽隊長が女好きとはいえ、そんな理由で他の隊の席官を呼び出したりはしないはずだ。

……でも、かなり可愛いからな。有り得るのか?

 

「じゃあ、僕はそろそろ行くよ」

 

そう言って弓親は立ち上がると会計を済ませてどこかに歩いていった。

さて、俺は急ぐ理由もないし、もう少しのんびりしていくか。

 

「店員さん、団子を二つ追加で。後、お茶も」

 

 

 

 

 

団子を食べている途中で可愛い女の子が通りがかったので声をかけて軽く雑談をした後、俺は八番隊の隊舎にやって来て、今は隊首室の前にいる。

他の隊員に確認したところ京楽隊長は隊首室にいるとのことだ。

俺はコンコンと扉をノックする。

 

「入っていいよ」

 

室内から軽い調子の声で返事が聞こえたので扉を開けて中に入る。

 

「失礼します」

 

中にいたのは疲れた表情で大量の書類と戦っている派手な羽織を着た京楽隊長と、その隣で隊長を見張っている伊勢副隊長だ。

今日も眼鏡が似合っていて美人だな。うちの副隊長の幼児体型とは大違いだ。さすがの俺も更木隊長のことを除いても論理的にアレに手を出す気にはなれない。

京楽隊長は仕事中だというのに俺を見て「良いところに来た」みたいな顔をする。

 

「響也くんか……。お客さんも来たことだし少し休憩にしない、七緒ちゃん」

 

……この隊長、俺を理由に休憩するつもりなのかよ。いや、お客が来たのだから仕事を一旦中断して相手するのは当たり前だけど。

 

「駄目です。昨日、隊長が昼間からお酒を飲んで酔い潰れたせいで仕事が溜まっているんですから」

 

「でもさぁ、お客さんがいるのに仕事をしているのは失礼でしょ?」

 

ハッキリと言う伊勢副隊長に対して京楽隊長は更に食い下がる。すると急に伊勢副隊長が俺の方に視線を向けてきた。

そんな情熱的な目で見られると勘違いしてしまいそうだ。

 

「天宮四席もそれでいいですよね?」

 

口調は優しいものだが、目は有無を言わせない威圧的なものがある。……伊勢副隊長みたいな美人に睨まれると体の奥がゾクゾクしてしまう……。

 

「いいですよ。綺麗な女性の頼みは断れませんから」

 

「お、さすが響也くん!分かってるね!」

 

「……何を二人で馬鹿なことを言っているんですか」

 

京楽隊長は俺の言葉に同意して、伊勢副隊長は呆れたように溜め息を吐く。男というのは基本的に美人には弱い馬鹿な生き物なんですよ、伊勢副隊長。

 

「それより天宮四席に話があるんじゃなかったんですか?」

 

話を本題に戻す伊勢副隊長。……いや、戻すとか以前に始まってすらないけど。

 

「ああ、そうだったね。僕は仕事をしたままだけど君は座りなよ。立ったままは疲れるでしょ」

 

「そうさせてもらいます」

 

言われて俺はソファーに座る。普通、隊長が仕事をしているのに座ったりはしないものだが、この俺に常識は通じない。

 

「お茶をお出ししますね」

 

「いえ、お構いなく」

 

伊勢副隊長がお茶の準備をしようとしたので俺は丁寧に断る。さっきの甘味処で飲みすぎたせいで喉は渇いていない。

 

「僕としてはもうちょっと話していてもいいんだけど、仕事も残っているからそろそろ本題に入らせてもらうよ」

 

書類を処理しながら急に京楽隊長が真剣な雰囲気になる。

本当に何の話をするんだ?そう怪訝に思っていると、俺は京楽隊長が次に発した言葉に驚くことになる。

 

「君は藍染隊長達に対して僕らも知らないような情報を知っていたりしないかい?」



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第四話 腹の探り合い

「……どうなんだい?」

 

俺が答えないのを見て京楽隊長が再度、質問をしてくる。声と表情は普段通り柔らかいものだが、その目は全てを見透かすかのような鋭さがある。

伊勢副隊長は話を聞いてなかったのか驚いた顔をしている。

 

……う~ん、何か疑われるようなことをしたか?そんな下手を打つとは思えないが。十一番隊なのに隠密機動よりも暗躍が得意なこの俺が。

まぁ、まだ具体的な根拠とかあるように見えないし、かまをかけているって言ったところだろ。

……本当にどうしようか?この展開は全く予想していなかった。とりあえず下手な誤魔化しは止めた方が良い。そんなことをしたら逆にバレる。

ここは嘘をつかずに話を別の話題にすり替えるのが一番だ。

 

「何でそう思うんですか?まさか俺が裏切っているとでも?」

 

「さすがにそこまでは思っていないさ。ただ市丸隊長と仲が良かったでしょ?君は勘が鋭いところがあるから何か気付いていないかと思ってね」

 

あれを仲が良かったと言えるのかね?疑問に思うところだ。

気が合ったのは事実だが、あんな疲れる友人関係もないぞ。何たって常に腹の探り合いをしているようなものだからな。

市丸は胡散臭い上に性格が悪すぎる。

 

「何か具体的なことを知っていたとは思わないんですね?」

 

「そりゃ、そうだよ。もし具体的なことを知っていたら上に報告しているはずだからね。知っていたとしても報告する必要のない小さなことか、確信のないことだけでしょ」

 

そうきたか。京楽隊長も市丸に負けず劣らず性格が悪い。

これで余計に下手なことを言えなくなった。もし気付いたと言っても報告していないから不審に思われるし、それで焦って適当なことを言って矛盾点を見付けられても困る。これは俺から情報を得ようと言うより追い詰めようとしている方法だ。

疑惑を確信に変えるための作戦で、俺が裏切ってなかったらそれはそれで良しってことか。さすがベテランの隊長は年季が違う。やりづらい。

 

……ああ、何か楽しくなってきた!こういう展開は大好きだ!

贅沢を言えば美女の拷問官なら最高なんだが、さすがにそこまで要求したりはしない。良い暇潰しになりそうだ。

 

バレない自信はあるが、仮にバレても問題ない。ミスってバレた時のために虚圏に亡命するための準備は常にしているからな。

まぁ、その前に大暴れするけど。六番隊の朽木隊長とは戦っておきたい。今まで隠しておいた卍解を使って。

……あれ、バレた方が面白そうじゃないか?いや、まだ早いな。

 

「そうは言っても市丸元隊長は友達だからって秘密を悟らせてくれるような甘い性格をしていませんからね。むしろ積極的に自分の情報を隠していたぐらいです。何たって俺は市丸元隊長の好きな食べ物さえ知らないんですから」

 

「……どんな友達関係なんですか」

 

伊勢副隊長が理解できないといった表情をする。

それに関しては俺も同じ気持ちだが、実際にそうだったんだから仕方ない。俺も市丸に色々と情報を隠していたし。主に俺の戦闘能力に関する情報とか。

ていうか市丸以外の全員にも隠しているし、斬魄刀の能力に関しては誰にも教えていない。

ちなみに隠している理由はミステリアスな男は女にモテるからだ。そこからギャップのあるところを見せれば大抵の女は落ちる。

隠していた理由は他にもあるにはあるが大したことではない。

 

「そんなわけで残念ながら藍染元隊長達のことはほとんど知らないです。強いて言うなら藍染元隊長が俺を警戒していた、ってことぐらいですかね」

 

「「――っ!?」」

 

予想外だったのか二人が驚いた顔をする。驚く過ぎたらしく京楽隊長の手が止まっている。

 

「……それはどういうことだい?まさか君が本気を出せば彼に匹敵する力があるというのかな?」

 

「さすがにそれは無理ですよ。勝てる気がしません」

 

あの人は本当に化物だからな。斬魄刀以外の鬼道や白打でも俺よりも上だ。

俺が勝てるのなんて女性の扱いぐらいだ。俺なら藍染元隊長が雛森副隊長にしたような酷いことはしない。

 

「藍染元隊長が俺を警戒しているのは、俺に鏡花水月が効かないからです」

 

「……藍染惣右介は我々副隊長を集めて実際に見せる以外にも、色々なところで隊員に自分の斬魄刀の解放するところを見せていました。ですから天宮四席も鏡花水月の効果の発動条件を満たしているはずです。それなのに効かないというのはどういうことでしょう?まさか鏡花水月を破る方法があるということですか?」

 

伊勢副隊長が眼鏡をクイッと上げる。眼鏡美人のこういう仕草はグッとくるものがあるな。

その綺麗な足で踏まれたい。……いやいや、これは今は関係ない!ただの願望だ。

 

「まず前提が間違っています。何故なら俺は鏡花水月が発動する瞬間を見たことがないのですから」

 

……よく考えたらかなり重要なことを話してないか?まぁ、この程度ならもう知られても困ることはないから良いか。藍染元隊長が裏切る前に知られたらマズかったけど。

 

「それこそどういう意味だい?まさか藍染隊長が君だけ見逃していたってことかな?」

 

「それも違います、京楽隊長。ただ俺がサボっただけです」

 

より正確に言うなら女と遊んでいるうちに気付いたら任務のことを忘れていたのだが。おかげで後で始末書を書くはめになった。

始末書を書かずにサボる方法はないものか。俺の斬魄刀が鏡花水月みたいな幻術系だったら良かったんだが。

 

「で、その後も藍染元隊長がことあるごとに斬魄刀の発動を見せようとしていたので意識的に見ないようにしていました」

 

最初に警戒していたのは俺じゃなくて市丸だろう。市丸が俺に鏡花水月のことを喋っているんじゃないか、と。実際には何も喋ってないけど。

 

「……色々とツッコミたいところはあるけど、それなら藍染隊長の企みに気付けたんじゃない?」

 

「藍染元隊長はそんなに甘い男じゃありません」

 

本当、藍染の野郎、直前まで手伝ってやったのに黒崎一護達がやって来る前日に単独で流魂街への虚退治とか訳の分からない任務をさせやがって。しかも一番端っこの更木だし。おかげで祭りに乗り遅れたじゃねぇか。帰ってきたら一角と弓親どころか更木隊長まで負けているし、旅禍の大半がやられていて戦う相手がいなかった。ああ、参加したかった。

今度、会ったら絶対に藍染のクソ野郎に文句を言ってやる!……おっと口調が崩れているな。冷静にならないと。

 

「というより、俺が市丸元隊長の友達だから聞くって言うなら十番隊の松本副隊長にも聞いた方が良いんじゃないんですか?市丸元隊長の昔馴染みですし。後、狛村隊長も東仙元隊長と仲が良かったですよね?」

 

「もちろん聞くよ。でも、君と違って聞いても何も出ないだろうね」

 

別の人の話題に誘導しようと思ったんだが失敗か。あれだけインパクトのあることを言えば俺が主導権を握れると思ったんだが甘かった。

 

「じゃあ、何で俺からは出ると思っていたんですか?」

 

「最初に言ったじゃないか。君は勘が鋭いからだよ」

 

京楽隊長も同じじゃないですか、と返事をしようと思ったが止めた。面倒臭い人に目を付けられたな。

その後、簡単な質問を二、三回受けて尋問は終了した。



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第五話 交渉

「そろそろ帰りますね」

 

京楽隊長からの質問が終わったところで俺は立ち上がる。楽しかったけど、これで終わりだな。今回は俺の勝ちだ。

そう確信して足を一歩踏み出した瞬間、京楽隊長が俺を引き止めた。

 

「ちょっと待ってくれないかな?」

 

「まだ何か話があるんですか?」

 

京楽隊長がまだ俺のことを疑っているのは分かるが、これ以上何を言う気だ?

話していて分かったが京楽隊長が俺を疑っているのに特に根拠というものはない。藍染元隊長達との普段していた会話や俺が旅禍騒ぎの時に全く動いていなかったことから、何となく違和感を感じたという程度だ。

そんな状況で話しても情報を得られるとは思えないが。

 

後、どうでもいいけどこの隊長は何で俺の前に座って普通にのんびりしているのだろうか?あまりに自然な流れだったせいで未だに伊勢副隊長は気付いていない。俺も気付いたのは今だし。

サボりのプロだな。油断できない。

 

「……もし情報を教えてくれるなら七緒ちゃんに響也くんのことを踏ませてあげてもいいよ?」

 

「何が聞きたいんですか?」

 

反射的に座って、食い気味に京楽隊長の提案に賛成する。

さすが京楽隊長!相手の心理を読んだ非の打ち所がない素晴らしい作戦だ!

……それにしてもここまで捨て身の方法を取るとは。やはり京楽春水は侮れない。俺が山本総隊長と卯ノ花隊長に続いて警戒しているだけのことはある。

俺と京楽隊長は状況に理解が追い付いていないのか軽くフリーズしている伊勢副隊長を無視して交渉を続ける。

 

「君ならこの話に乗ってくれると確信していたよ」

 

「当然です。こんな美味しい話を逃す俺ではありませんから。でも、その前に条件の確認が先です」

 

「何を確認したいのかな?」

 

「……踏んでくれる足は生足ですか?」

 

これはかなり重要なことだ。生足かそうでないかで教える情報に差が出る。

さすがにこの質問は京楽隊長でも難しかったようで腕を組んで考え始める。

 

「……う~ん、そうだね……。難しいところだけど、まぁ、情報次第と言ったところかな」

 

それが妥当なところか。ただ明確な基準がないとどこまで教えていいのか分からない。

最後までヤらせてくれるんなら俺が知っている情報の全てを教えてもいいと考えている。京楽隊長が知りたいであろう情報を完全に知っているわけではないが。

藍染元隊長といい市丸といい秘密主義なところがあるからな。まぁ、その秘密を暴くのが楽しいんだけど。

 

「じゃあ、次は衣装です」

 

「衣装?裸エプロンとかかな?エプロンの裾を押さえながら恥ずかしそうに顔を赤らめる女の子とか可愛いよねぇ……」

 

それは京楽隊長の趣味でしょう。……俺も好きだけど。

 

「違います。今回、俺が伊勢副隊長に着てほしいのはボンテージ服です」

 

「何だい、それは?聞いたことがないけど」

 

「俺も詳しいことは知らないですけど、現世のその手の店で働く女性が着ている服らしいです。何でも鞭を持って男を虐げるのが仕事で女王様と呼ばれているとか」

 

「へぇ、現世には色々な文化があるんだねぇ……。 全く知らなかったよ」

 

京楽隊長が興味深そうにしながら頷く。

確かに現世の娯楽文化は凄い。しかもどんどん進化していっている。

尸魂界も現世の文化をもっと取り入れるべきだ。漫画とかテレビとかスポーツとかエロいことをする時に使う道具とか……上げていくと切りがないな。

 

「で、どうですか?」

 

「どう、って聞かれても僕は見たことがないから分からないよ」

 

それもそうか。

京楽隊長でも分かる服装だとほとんど紐みたいな水着とか裸Yシャツとかだな。他には何があるかな?

俺が悩んでいると、やっと目の前の状況に理解が追い付いたようで伊勢副隊長が顔を真っ赤にしながら大声でツッコんできた。

伊勢副隊長のこういう表情はレアだな。可愛い……。

 

「何で私がそんなことをしないといけないんですか!?」

 

「僕も七緒ちゃんにそんなことをさせるのは心苦しいよ。でも、これで情報が手に入るなら安いものでしょ?別にどさくさに紛れて僕も踏んでもらおうとか考えてないよ」

 

考えていたのか。気持ちは分かるけど、さすがにそれはないな。

 

「踏みません!それに天宮四席が本当に情報を持っているか分からないじゃないですか!?」

 

「大丈夫です。俺は何でも知っていますから」

 

「そんな適当な態度で言われても信じられません」

 

「じゃあ、証明しましょうか?」

 

「……どうやってですか?」

 

俺がノリで言ったことに、伊勢副隊長が怪訝そうな顔で反応する。

そう言われると証明するしかないな。……でも、どうやるか。正直、何も考えてないぞ。 別に何でも知っているわけじゃないし。

……う~ん。……思い付いた!

 

「伊勢副隊長のスリーサイズを当てます」

 

「何言っているんですか!?」

 

「上から――」

 

「言わなくてもいいです!」

 

数字を一桁も言えずに止められた。せめてバストだけでも言いたかった。

ちなみに俺は見ただけで女性のスリーサイズが分かる特技を持っている。パッドとかで盛っていても百パーセントとまでは言えないが大体分かる。

 

「……ねぇ、後で僕にだけコッソリ教えてくれないかな?」

 

「余計なことを聞かないでください!」

 

京楽隊長が口に手を当てて小声で俺に質問すると、伊勢副隊長がどこから取り出したのかハリセンで激しく京楽隊長を叩く。そしてパシーンと良い音が鳴るな、と思っていると何故か俺も叩かれた。……痛い。

出来ればこんなオマケみたい感じじゃなくて罵倒も追加してくれると嬉しかったんだが。

 

「大体、美人が良いなら私じゃなくて乱菊さんに頼んでください!乱菊さんなら喜んで踏んでくれますよ」

 

「……松本副隊長ねぇ」 

 

俺は頭を押さえながら微妙な顔をする。伊勢副隊長が駄目なら砕蜂隊長に踏んでもらいたいところだ。

同じく頭を押さえている京楽隊長が不思議そうに聞いてきた。

 

「松本副隊長は苦手かい?七緒ちゃんほどじゃないけど、彼女も相当な美人だよ」

 

「確かに美人ですし、あの豊満な胸は魅力的なんですけどね…… 。でも俺、酒が大好きな女性は苦手なんですよ」

 

「君もお酒は大好きだよね?」

 

「男連中と酒を飲んで馬鹿騒ぎするのは好きなんですけど、どうも酒癖の酷い女性は好きになれません」

 

それに俺は胸よりもどちらかと言うと足の方が好きだ。そういう観点で見ると松本副隊長の足は俺好みじゃない。

 

「僕は一緒に飲めて楽しいと思うけどね」

 

まぁ、人の趣味はそれぞれか。

 

その後、もう一度頼み込んだが伊勢副隊長に断固として拒否された。残念だが仕方ない。今後に期待するか。

次に俺が最近、口説いている八番隊の新人の話になった。

……あれ?仕事してないけど大丈夫か、京楽隊長。

 

 



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第六話 昼食

前に投稿していた時に比べてお気に入り数が中々増えないです。感想もこないし。
プロローグが不評だったのだろうか


「ということがあったんだよ。根拠もなく他隊の席官を疑うとか酷いと思わないか?」

 

京楽隊長に呼び出されてから数日後の休日、俺は重霊地である空座町から離れたある町のファミレスで昼食を食べながら市丸に愚痴っていた。

やっぱり現世の食事は尸魂界よりも美味しい。娯楽も現世の方が面白いし、護廷十三隊なんかやめてこっちに永住したいくらいだ。もしくは現世への駐在任務。いや、それだと血肉沸き踊る戦いが出来ないしな。……う~ん、難しいところだ。

現世でも面白い戦いが出来ればベストなんだが……。

 

ちなみに市丸はカジュアルな服装で、俺はかなりラフな格好だ。女性とのデートなら時間をかけてお洒落するが、男に会うのにお洒落をする理由はない。

それにしても市丸って意外とこういう格好が似合うな。服に興味とかあったりするのだろうか?

 

「酷いも何も実際に藍染さんと繋がってるやん」

 

「そうじゃなくてだな……俺が言いたいのは根拠もなく疑うな、ってことだよ」

 

京楽隊長とのやり取り自体は楽しかったけど、疑われているという事実には少なからずショックを受けている。俺ってそんなに怪しいのだろうか?

 

「……それに結局、伊勢副隊長は俺のことを踏んでくれなかったし」

 

「そっちが本音やないか」

 

憎々しげに呟くと市丸がステーキを食べながら普段と変わらず何を考えているのか分からない笑みを浮かべながらツッコんできた。

まぁ、市丸の言う通りなんだけど。

 

「それよりこんなところで僕と食事なんかしてていいの?尸魂界にバレたら大変なことになるで?」

 

「大丈夫だろ。この町にも担当の死神はいるが虚の出現数が極めて少ないからほとんど活動せずパチンコ三昧だし、技術開発局も警戒していないような地域だ。目立つような動きをしない限りバレるようなことはない」

 

分かりきった質問をするなよ。俺がそんな無警戒で行動するわけないだろ。

 

「でも穿界門を通って現世に来たら技術開発局に記録が残るし疑われる材料が増えるやんないの?ていうか、それ以前にどうやって穿界門を使ったん?私用に使用許可が降りると思えんし」

 

私用に使用ってダジャレか?全く面白くないんだが。

 

「護廷十三隊のじゃなくて俺の家が所有している穿界門を使ったんだよ。一応、俺の家は貴族だからな」

 

個人所有の穿界門は使っても技術開発局に記録は残らない。それに俺の家族は貴族なのに緩いところがあるので休日の度に現世に遊びに来ても何も言ってこない。

 

「ついでに言うと俺が今使っている義骸は霊子を含んでいないから捕捉される心配もない」

 

「……ん?それって確か浦原喜助が作ったヤツやなかったけ?何で君が持ってるの?」

 

さすがに今のは気になったのかナイフとフォークを止める市丸。まぁ、崩玉を作った浦原喜助と俺が繋がっているとなると藍染元隊長にとって不都合な展開だからな。……いや、市丸にとってはそっちの方が都合がいいのか?

こいつの目的もイマイチ分からないからな。

 

「前に空座町の担当だったことがあってな。その時に仕事を手伝う代わりに貰ったんだよ。担当を外れてからは一回も会ってないがな」

 

この義骸は入った死神の霊力を分解し続けて最終的にただの人間に成り下がらせるという恐ろしいものだが、休日だけに使う分には問題ない。

分解された霊力も尸魂界に戻ればすぐに復活する。

 

「ふぅーん……」

 

市丸が意味ありげに目を開くが、すぐに閉じると俺の隣に置かれている紙袋を指差す。

 

「ところで、それって何やの?」

 

「ん?これか?これはさっき買った漫画とラノベだ」

 

というか現世に来たメインの理由は市丸に会うためではなくこれを買うことだ。

 

「面白いん?」

 

「俺が戦闘と女の次にハマっている趣味だ」

 

「それ、後で僕にも貸してくれる?」

 

「俺が読んだ後でならな」

 

虚圏には娯楽の類いが全くないらしいから退屈しているのだろう。今日、来てくれたのもそれが理由らしいし。

だが、そんな理由でまだ読んでいない漫画やラノベを貸す俺ではない。

 

それにしてもよく虚圏なんかで生活できるな。

俺なら娯楽もなく女っけのないところなんて一日も耐えられないぞ。……いや、最上大虚(ヴァストローデ)は人型だし、下級大虚(ギリアン)でも破面(アランカル)化すると人型になる奴もいると聞く。……だとしたら虚圏にも美人がいる可能性がある。

 

「……なぁ、市丸。一つ聞いていいか?」

 

「……なんや?」

 

俺の雰囲気が変わったのを見て市丸も真面目な態度で応じる。

 

「……虚圏に美人な破面っているか?」

 

「何人かはおるよ。でも口説くつもりなら止めた方が良いで?」

 

「まさか美人は全員、藍染元隊長が手籠めにしてハーレム状態になっているのか?」

 

もしそうだったら藍染元隊長は俺の敵だ。ハーレムを全力で寝取ってやる!

 

「ちゃうちゃう。恋愛に興味ある奴がおらんねん。……もし口説いたりしたり容赦なく虚閃を打ち込まれるだけや」

 

言いながら市丸が気まずそうに目線を逸らす。実体験か。

物騒な話だな。落ち着いてナンパも出来ないのかよ。

 

「虚って性欲がないのか?」

 

「全くないってことはないと思うで。一般的な虚は知らんけど、破面は性行為が出来るみたいやし。子供が生まれるかまでは分からへんけどな」

 

そういや虚の子供って聞いたことがないな。そこら辺、どうなんだろうな?気になるところだ。

 

「よし。俺を虚圏に連れていってくれ」

 

「……別にええけど」

 

市丸がキョトンとした顔をしながら返事する。何か変なこと言ったか?

 

「でも意外やな」

 

「何が?」

 

「だって君、スパイとかやなくて娯楽のない虚圏に住みたくないって言うて瀞霊廷に残ったやろ?それやのに用事もないのに自分から虚圏に行きたいって言うたら意外に思うわ」

 

そういや尸魂界に残るっていた時、誰も止めてくれなかったんだよな……。東仙元隊長は性格というか信念が合わなくて仲が良くないからまだ分かるけど、藍染元隊長も「好きにすればいいよ」って言って適当な感じだったし。

止められても残る予定だったけど、それでも全く止められないというのも少し悲しい……。

 

「確かに住みたくはないけど、前から行ってはみたかったんだよ。十刃(エスパーダ)とかいう連中にも興味があるしな」

 

「戦う気かいな。それこそやめといた方が良いと思うけどな。君の実力やったら返り討ちにあって殺されて終わりや」

 

「それならそれで問題ない。戦って死ねるなら本望だ」

 

「十一番隊らしい考え方やな。僕には理解できひんわ」

 

それはそうだろう。普通は死なないために戦うもの。戦って死ぬが本望って何て言うのは異端の考え方だ。

でも俺は自分が認めた相手と最高の戦いをしながら最後まで立った状態で死にたい。それ以外では絶対に死にたくないが。

今のところ俺と戦う条件を満たしているのは更木隊長だけだ。

 

「まぁ、ええで。食事が終わって、本屋に寄ったでならな」

 

俺が読み終わるのを待つつもりはないのか。どんだけ退屈してんだよ……。



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第七話 自称妹

「おー、これが虚夜宮(ラス・ノーチェス)か……」

 

俺は昼食を終えて本屋に寄った後、漫画とラノベを片手に市丸に案内されて虚達の本拠地である虚夜宮にやって来た。

ちなみに市丸は俺が薦めた初心者にも分かりやすい漫画を自腹で買った。その金をどこで稼いだのか気になる。虚圏では金という概念がないだろうし。

隊長時代に稼いだ金が残っていたのだろうか?

とりあえず市丸のことは置いておくとして周りを観察してみる。

 

「何とも殺風景な場所だな」

 

俺はそう感想を漏らした。

予想していたよりも立派な建物だが、ひたすら真っ白な道が続くだけで何の面白味もない。色ぐらいはもっと工夫しろよ。

 

「だから言うたやろ?退屈やって」

 

前を歩いていた市丸が顔だけ振り向かせて言う。

本当、よくこんなところで普通に住めるな。俺なら即逃亡するか、それが無理な場合は建物全体の模様替えをするぞ。暇で何もすることがない世界なら良い暇潰しになるだろうし。

 

「……そんなことより気になることがあるやんけど」

 

「何だ?」

 

「誰、その娘?さっきまではおらんかったはずやけど」

 

市丸が気付いたらまるで恋人かのように俺の腕に抱き付いていた女を指差す。

女はスラッと伸びた美脚に綺麗なくびれ、巨乳というほどではないがそこそこ大きく美しい形の胸をしている。顔も非常に整っており、現世の三大美人とかいうのよりも美人だろう。少なくとも俺が今まで見てきたなかでは一番の美人だ。

服装は死神と同じ黒い着物だが下半身の部分が異様に短く、そこから見える足が艶かしい。

何でこんな姿をしているんだよ……。俺の理性が持たないだろ。

 

「俺の愛人だ」

 

「響也お兄ちゃんの妹の天宮真夜です!」

 

「っ!?」

 

女が元気よく手を上げながらした自己紹介に驚く。変な声を出すのだけはギリギリ我慢できたが、心の中を何とも形容し難い感情が支配する。

俺はそんな設定をした覚えはないぞ。勝手なことを言うなよ……。俺が変態だと思われるだろ。

まぁ、変態だと言うのはよく言われるから認めるが、それでもそこまでじゃない。

市丸がキョトンとしているのを無視して自称妹を問い詰める。

 

「……おい、いつから俺の妹になったんだ?」

 

「う~ん……今から?」

 

自称妹が可愛らしく首を傾げる。

言動や態度とは裏腹にむしろ姉と言った方が納得できる凛とした容姿をしているが、その見た目と仕草のギャップが何とも言えないほど素晴らしい。

 

「何だ、その曖昧な答えは?」

 

「でも、そうとしか言いようがないし」

 

それはそうなんだけど。昨日は容姿も性格も違ったし。

いや、どっちにしろ妹ではないな。変わったのは容姿と性格だけだ。

 

「後、その名前は何だ?」

 

「昨日、読んだ漫画のキャラから取ったの。お兄ちゃんの妹という設定だから苗字は天宮ね」

 

こいつが昨日読んでいた漫画というとアレか。妹キャラもこれが原因だな。だったら容姿も真似ろよ、と思う。

実際にお兄ちゃんと呼ばれるなら年下の可愛い女の子が良い。

そんな俺の心を読んだのか自称妹が何も言っていないのに説明を開始した。

 

「ついでだから見た目はお兄ちゃんのエロ本の趣味から推察した理想の姿にしてみました!」

 

だからキツ目のお姉さんみたいな見た目をしているのか。俺のコレクションはSM関連の美脚のお姉さんが特に多いからな。

その足で踏まれたいとかよく想像して……今は関係ないな!

重要なのはこいつが歩いているだけで俺の性癖がモロバレだということだ。さすがに恥ずかしい……。

 

「何を言うてるか全く分からんけど、結局どういうことやの?愛人で妹ってことなん?」

 

不意に市丸が口を挟んできた。ビックリし過ぎて市丸のことを忘れていた。

 

「愛人という言葉と妹という言葉は共存しない」

 

もし共存したら論理的にマズイ。……憧れはするが。

 

「じゃあ、どっちやの?」

 

「……そうだな。やっぱり愛――」

 

「妹!」

 

俺が答える前に自称妹がハッキリと答えた。

……う~ん、まぁ……こいつがそれを望むなら別にいいか。どっちにしろ嘘だから妹でも困らないし。

市丸が俺に「本当は?」みたいな視線を向けてきたので答える。

 

「妹で」

 

「分かった。妹ということにしておくわ」

 

俺の腰元に斬魄刀がないのを確認した後、明らかに信じていないのが丸分かりの態度で頷く市丸。

さっきの俺達の会話を聞いていて信じる方が難しいから仕方ない。もし信じられる奴がいたら、そいつはよっぽどの馬鹿だ。

 

「あ、ちなみにこの名前、気に入ったから戦闘時以外は固定ね」

 

歩きながらそう言う自称妹――もとい真夜。

名前が増えてきて覚えるのが面倒臭くなってきたところだし気に入ったと言うなら俺もそう呼ぶとしよう。でも、その前に容姿と性格を一致させなといけない。今夜にでも話し合うか。

容姿を性格に合わせるか、性格を容姿に合わせるか。どっちにしようか迷っていると真夜が更に補足してきた。

 

「鬼灯丸とか可愛くない名前ではあんまり呼ばれたくないんだよね」

 

……そう言われても困るな。俺が考えた名前じゃない。ていうか、可愛いのが好みだったんだな。知らなかった。俺の影響だろうか?俺も戦闘時はともかく普段は可愛い方が好きだからな。

 

道を真っ直ぐ進んでいると目の前から顔の右下半分に割れた虚の仮面がある不良みたいな見た目をした男が歩いてきた。

……これが破面か。初めて見たけどかなりの霊圧だ。戦ってみないと正確なことは分からないけど副隊長レベルでは相手にならないのは間違いない。

戦ってみたい。

 

「あぁ?何でこんなところに死神がいやがるんだ?」

 

男は俺を見ると不機嫌そうな顔をしながら絡んできた。見た目だけじゃなくて性格も不良みたいな奴だな。

 

「僕も死神やけど?」

 

「てめぇはどうでもいい」

 

「どうでもいいとか酷いわ」

 

市丸が男に一蹴されてわざとらしく悲しそうなフリをする。うん、どうでもいい。

 

「で、てめぇは誰だ?見たことのないツラだけど藍染の野郎の仲間か?」

 

「仲間じゃない」

 

「じゃあ、何だ?」

 

「ただの協力者だ。……今のところは、だが」

 

俺の言葉に男が表情を苛立たせる。遠回しな言い方が苦手なタイプか。こういう奴は策を弄するような戦い方はしない。初めての破面の戦闘相手としてはちょうど良さそうだ。

 

「訳の分からんことを言ってんじゃねぇ!」

 

「市丸、こいつは誰だ?」

 

眼光を鋭くする男を無視して市丸に質問する。

 

「君が会いたがっていた十刃(エスパーダ)の一人。第6十刃(セスタ・エスパーダ)グリムジョー・ジャガージャックや」

 

ほぉ……、こいつが十刃。虚夜宮に来てすぐに会えるとは運が良い。

俺は挑発とグリムジョーの実力を確かめるために霊圧をぶつける。すると見た目通り好戦的なようでグリムジョーも霊圧をぶつけ返してきた。

 

「……っ!」

 

ぶつかり合う二人の霊圧で大気が揺れる。

凄いな。隊長達と同等……いや、それ以上か。少なくとも俺より上だ。

6番でこれかよ。1番だとどうなるんだ?

俺は挑発的な笑みを浮かべながらグリムジョーに宣戦布告する。

 

「よぉ、十刃。俺は十一番隊第四席の天宮響也。ちょっと戦おうぜ」



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第八話 VSグリムジョー1

「四席だと?隊長格ですらない雑魚が俺と戦おうってのか?」

 

グリムジョーは嘲笑を浮かべるが、すぐに表情を変えて顔を近付けると俺を激しく睨む。

 

「ふざけなんよ!てめぇ如きが俺様を殺せるわけないだろ!」

 

『倒す』ではなく『殺す』という単語が出る時点で虚圏の物騒さが伺えるな。

俺は十刃の実力を試すのが目的なだけで殺すつもりはないのに。まぁ、雑魚かったら見る価値なしと判断して殺すが、その心配はないだろう。

俺達の様子を市丸は何を考えているのか分からない表情で、真夜は楽しそうに見ている。

 

「何だ、十刃なのに相手の実力も図れないのかよ。所詮、戦うことしか出来ない獣だってことか」

 

この言葉はウチの隊長にも返ってくることけど気にしないことにしよう。あの人は本能の赴くままに敵を斬る獣――いや、魔物だ。

 

「あぁ?俺より強いって言いてぇのか?」

 

「そこまでは言わないさ。ただ雑魚呼ばわりされるほどには弱くないってだけのことだ」

 

「面倒臭い言い回ししてねぇで言いたいことがあるならハッキリ言いやがれ」

 

「さっき言っただろ?俺と戦いやがれ、十刃!」

 

俺がそう言うとグリムジョーは好戦的な笑みを浮かべながら拳を突き出し、俺はそれを最小限の動きで避けるとお返しに腹めがけて蹴りを繰り出す。それをグリムジョーは後ろに下がって避ける。

ちっ……。タイミングは完璧だったのに、今のを避けるか。

 

「少しはやるみてぇだな!でも、その程度じゃあ俺には勝てないぞ!」

 

グリムジョーは手を前に出し霊圧を集中させる。虚閃を打つ気か。

俺も真正面から対抗するために破道の構えを取ると、市丸が手を叩いて俺達の戦いを制止させる。

 

「はいはい、中断や」

 

「……邪魔するなよ」

 

俺は不機嫌そうにしながら市丸を睨む。せっかく気分が乗ってきたところだったのに……。

お前から倒すぞ。

市丸は俺の視線を気にせず飄々とした態度で言葉を続ける。

 

「別に邪魔するつもりはないで。止めても無駄やろうし。でも、こんな狭い通路で暴れたら崩れて生き埋めになるやろ?」

 

「だったら、どうしろって言うんだ?」

 

「簡単な話や。暴れても問題ない広い場所に移動すればいいんよ」

 

 

 

 

 

 

「……何で青空?ここ、建物の中だよな?」

 

市丸に案内された場所はだだっ広い白い砂漠だった。周りには何もなく勝負するには絶交の場所だ。

市丸が協力的なのはこの勝負を通して俺の力を把握するつもりなのだろうが大した問題ではない。一勝負で全てを理解されるほど俺の力は簡単なものではないからな。

 

ちなみにグリムジョーは移動するのを面倒臭がっていたが、市丸が藍染元隊長の名前を出すと渋々とだが提案に従った。

グリムジョーも藍染元隊長の力が恐ろしいのだろう。さすが藍染元隊長と言ったところだな。

 

「藍染さんが破面の監視のために天蓋の内側に創ったんや」

 

市丸がそう説明した。

ふぅーん、つまり光の届く範囲が藍染の支配下ってことか。だったら何か怪しい行為――例えば裏切りをする場合は光の届かない建物の中に移動すればいいのか。俺も何かする場合は建物の中でやろう。

まぁ、そんな甘い話じゃないだろうが。

 

「そんな話はどうでもいいだろ。さっきあれだけ愉快な挑発をしてくれたんだ。早く戦おうぜ、死神?」

 

グリムジョーが早くも構えながら言う。一旦、中断されたせいで苛立っているみたいだ。

 

「……ん?斬魄刀は使わないのか?」

 

「死神を殺す程度のことに斬魄刀を使うまでもねぇ。それがムカつくって言うなら抜かしてみろよ!」

 

そうきたか。これは予想外だな。とはいえ、ここでの俺の選択肢は一つしかない。

最近、白打での戦闘回数が少なかったら丁度いい。……勝てる可能性は低くなるが。

 

「真夜、そこで市丸と観戦してろ」

 

「……え?私の出番なし?」

 

「少なくとも最初はな」

 

「でも、私なしで勝てるほど弱い相手じゃないと思うけど」

 

「そんなものは関係ない」

 

もし相手が強いからって信念を曲げたと知られたら更木隊長や一角に笑われる。

それに勝てる相手としか戦わない臆病者なんて十一番隊にはいない。

 

「真夜が綺麗だからって変なことをするなよ、市丸」

 

俺はそれだけ釘を刺すと瞬歩でグリムジョーの真上に移動し踵落しをするが、グリムジョーは軽々と右腕で防ぐ。

硬いな……。攻撃した俺の方がダメージ受けているんだが。どんな体してんだよ、こいつ。

俺は下に着地すると、そのまま足を踏み出して連続で攻撃をする。

 

「舐めてんのか?何で刀を使わねぇ?」

 

グリムジョーが攻撃を避けたり反撃したりしながら不快そうに質問してきた。

……ちょっとマジでヤバいんだが。相手はまだ本気を出してないのに攻撃を食らわないようにするので精一杯だ。防御した腕が痛い。

 

「俺の信念は真っ向勝負。相手を同じ土俵で叩き潰すのが俺の戦い方だ。だからお前が斬魄刀を使わない限り、俺も使わない」

 

斬り合いには斬り合い、暗殺には暗殺、頭脳戦には頭脳戦で戦う。相手を真正面から倒してこそ真の勝利と呼べるからな。

そのために俺は色々な戦い方を覚えてきた。そのせいで一つを極めることが出来なくて器用貧乏みたいなことになっているけど。

 

「そうかよ。ご立派なことだな。でも、早く刀を抜いた方が良いぜ。速さはそこそこあるみたいだが、このままじゃ勝負にすらならなねぇぞ」

 

「……どういう意味だ?」

 

よし、隙が出来た。会話をしているせいで油断したか?

俺は胸に向かって掌底を繰り出す。

 

「こういうことだよ」

 

「……っ!?」

 

俺の全力がクリーンヒットしたのにグリムジョーはノーダメージだ。

嘘だろ……。上位席官以下の使い手なら一撃で倒せるだけの威力があるのに。

ていうか、メチャクチャ痛い!今回は大丈夫だったが下手したら骨が折れているぞ。

グリムジョーはこれを教えるためにわざと攻撃を食らったのか。

 

「良いこと教えてやるよ、死神。破面の体皮は鋼皮(イエロ)って言ってな、それ自体が鎧みたいなもんなんだよ」

 

……何それ。ズルい。

 

「つまり、てめぇの軽い攻撃なんて食らわないんだよ!」

 

グリムジョーが俺を蹴り飛ばす。俺は地面を何回もバウンドしてやっと止まる。結構、飛ばされたな。

……これはマズイ。十刃がここまで強いとは。最高じゃねぇか!久し振りにテンションの上がる楽しい戦いが出来そうだ!

俺は蹴られた場所を手で押さえながら立ち上がる。

 

「……だったら俺も良いことを教えてやるよ、十刃。俺が隊長にならないのは業務が面倒臭いのと席官の方が自由に動けるからだ」

 

「あぁ?いきなり何言ってんだ?頭でも打ったか?」

 

「つまり俺は隊長レベルの実力を持っているってことだ!このまま終わるわけないだろ!さぁ、戦いを楽しもうぜ、十刃!」

 

ウォーミングアップは終了。ここから本番だ。 

 



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第九話 VSグリムジョー2

「いくぞ!」

 

俺はそう叫ぶと再度、瞬歩でグリムジョーに突撃する。

 

「はっ!そんな単純な攻撃を食らうかよ!」

 

グリムジョーは俺を迎撃するために虚閃を発射し俺に直撃したと確信すると勝利の笑みを浮かべる。……だが、その表情は次の瞬間に崩れる。

虚閃が俺の体をすり抜けたのだ。……否、俺の目の前を素通りした。グリムジョーが攻撃したのは俺の残像だ。

 

「なっ!?」

 

「隙だらけだ!」

 

グリムジョーが驚いている間に俺は懐に入り込み顎に全力でアッパーを放つと、グリムジョーは空中に浮かび上がる。

SMプレイ以外でのやられっぱなしは嫌だから少しスッキリした。本番はここからだが。

グリムジョーはそのまま落下するかと思いきや、空中で体勢を立て直して地面に着地する。マトモに入ったのにダメージは少なそうだ。……化物だな。

次はもっと威力を上げるか。

 

「……何だ、今のは?」

 

「『陽炎』。俺が独自に編み出した歩法で瞬歩に特殊なステップを加えることで残像を作り出すことが出来る」

 

まぁ、まだ完成度はそんなに高くないけどな。現段階では今みたいな簡単な不意打ちにしか使えない。

技術的には習得済みが、俺の瞬歩のスピードが問題だ。もっとスピードを上げることが出来れば複数の分身を作れるようになる。

 

「……ゾマリの奴と似たような技か」

 

グリムジョーがつまらなそうに呟く。

ゾマリ?誰だ?知らない名前だが。

十刃の一人か?

 

「俺が気になってんのはそっちじゃね。今の一撃に関してだ。さっきのも全力だったはずなのに威力が桁違いに上がっている。……どういうことだ?」

 

「それは……」

 

俺は説明をしようとしたところで言葉を中断する。……やめた。

教えても問題のない技だし、自分の技の説明をするのは好きだけど、毎回教えるのもワンパターンで面白くない。というか、むしろ教えて困るのは陽炎の方だ。

 

「自分で考えろ。何でもかんでも聞けば教えてもらえると思ってんじゃねぇぞ、ゆとり世代か!」

 

「いちいちムカつく言い回しをする奴だな。そうさせてもらうぜ!」

 

再度、グリムジョーが虚閃を放ってくる。

ていうか、相手は遠距離技も使ってくるのか。だったら俺も鬼道を使うか。

向かってくる破壊の閃光を今度は上に飛んで避ける。

 

「おせぇ!」

 

「っ!?」

 

グリムジョーが一瞬で俺の目の前に現れて蹴りを繰り出してきたので腕を交差させて防御するが耐えきれず地面に叩き付けられる。

……今のは破面が使う瞬歩みたいなものか?

 

「ぐはっ!」

 

いてぇ……。落下の衝撃で口から血を吹く。

ヤバいな。こんなに追い詰められたのは久し振りだ。旅禍の時は参加してなかったし、瀞霊廷だと本気で戦闘する機会なんてそうはないからな。

 

初めて更木隊長と戦った時のことを思い出す。あの時は本気で死ぬかと思った。

まぁ、運悪く生き残ってしまったわけだが。でも今はそれで良かったと思っている。

こんなに強い奴と出会えたんだからな。ああ、もっと他にも強い奴がいるんだろうな……。それだけの事実で世界が一新されたみたいだ。

虚圏に来て良かった。

 

「……何やられて嬉しそうにしてるん?気持ち悪いわ」

 

気付いたら近くにいた市丸が引きながら俺を見ていた。

気持ち悪いは酷すぎるだろ。お前から斬ってやろうか。

 

「強敵と戦ってテンションが上がっているだけだ。……市丸には分からないだろうがな」

 

「そうやね。強い奴と戦って死んだりするんは嫌やわ」

 

市丸とは普段は気が合うのに戦闘のことに関しては全く理解しあえない。死神が死ぬことを怖がるなんて変だとは思うが、俺が気にすることではない。人の考えはそれぞれだ。

というか、死にたいなんて考えている俺も相当に変だが。

 

「のんびりお喋りなんてしてんじゃねぇぞ、死神!」

 

「破道の六十三『雷吼炮』」

 

俺は突っ込んでくるグリムジョーに対して雷撃を放って反撃する。だがグリムジョーは避けることなく、そのまま俺に向かってくる。

六十番台の破道で体が少し焦げる程度か。全くダメージがないようではないみたいだが。

俺が飛んでグリムジョーの拳を避けると、地面の砂が舞い上がってクレーターが出来る。

 

「あれだけ大口叩いといてこの程度か!隊長レベルの力とやらを見せてみろ!」

 

「言われなくても見せてやるよ!」

 

砂埃が勢いよく突撃してきたグリムジョーに全力で強がながら怒鳴る俺。

ハッキリ言って俺はすでに本気で戦っている。まだ使っていない技や強力な鬼道はあるが、それは別問題だ。

このレベルを相手にマトモに戦って斬魄刀なしで勝てる……もしくは可能性があるのは山本総隊長か大鬼道長、藍染元隊長ぐらいだ。後、会ったことはないけど話を聞く限り八代目の剣八も勝てるだろう。

もしかしたら他にもいるかもしれないが少なくとも俺の知り合いにはいない。

 

俺はグリムジョーと激しく殴り合い、時には避けたり蹴りを繰り出したりしながら考える。

さて、どうしたものか。このまま戦っていても楽しいけどジリ貧だ。だからと言って今さら斬魄刀を使うのも嫌だし。

大技を使うにも発動する隙がない。

 

「もう限界みたいだな。そろそろ斬魄刀を使う気になったか?」

 

「ならねぇよ!」

 

確かに卍解を使えばこの状況を打破できるが、それは俺の信念に反する。

他にも何か方法はあるはずだ。殴り合いを楽しみながら脳をフル回転させろ!

そして一つの作戦を思い付く。……賭けになるが仕方ないか。

 

「ぐっ」

 

わざとグリムジョーの一撃を食らって大きく距離を取る。更にそこから『這縄』でグリムジョーの腕を縛って詠唱を始める。

これが今の俺に撃てる最強の一撃だ。

 

「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな 我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲 塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ」

 

「この程度で俺を縛れると思うなよ!」

 

『這縄』を腕力だけで強引に引きちぎるとグリムジョーは手を前に突き出し霊圧を凝縮させていく。さっきまでの虚閃とは比べ物にならないほど超高密度の霊圧。

グリムジョーも今から俺が放つ鬼道はヤバいと見て本気でくるようだ。

……いいね!やっぱり最後は勝つにしても死ぬにしても派手に終わらせたいからな。

 

「ちょ、それはさすがにマズイって!」

 

珍しく市丸が大声で焦っているが俺達はそんなものは聞こえていないかのように最後の攻撃を発動する。

 

「破道の九十一『千手皎天汰炮』!」

 

「これが十刃だけに許された最強の虚閃だ!『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』!」

 

ここに九十番台の破道と最強の虚閃、死神と破面が出来るトップクラスの一撃が激突した。

 



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第十話 敗北

俺が放った『千手皎天汰炮』とグリムジョーが放った『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』――無数の光の矢と閃光がぶつかり合った衝撃で虚圏の大気が激しく揺れ、地面の砂は舞い上がり、空にはひびが入る。

そして俺は即座に確信した。……この勝負、俺の負けだ。

最初の二、三秒だけは拮抗していたがすぐに押されて出した。

充分な実力を手に入れてから修業をサボり気味になっていたツケが回ってきたか。最高の勝負をして笑いながら死ぬには、自分も最高の状態じゃないと駄目なのに。

最近、強い相手と戦っていなかったせいで、そんな簡単なことすら失念していた。……これは帰ったら一から修業のやり直しだな。

 

そう結論を出した瞬間、俺の破道が完全に押し負けて閃光の直撃をモロに受けた。そのまま俺は砂の上に倒れてしまう。

……ヤバいな。体が動かない。立ち上がることすら出来ない。

意識はまだ失っていないし、出来ることはあるけどする気にはなれない。

 

「……ああ」

 

思わず歓喜の声が漏れる。

このどうしようもない状況で笑うとか、どんな変態だ、って話だがそれでも嬉しいんだから仕方ない。

 

そういやグリムジョーはどうなったんだ?と思って痛みに耐えながら顔を上げてみると好戦的な笑みを浮かべながら俺に襲いかかってくるグリムジョーの姿が見えた。

……あー、明らかに俺に止めを刺す気だ。本音を言うと今死ぬのは勿体ないんだが、負けた俺が悪い。

瞬時に覚悟を決めたが俺が死ぬことはなかった。グリムジョーが俺に辿り着く前に力尽きた訳でも、気が変わって殺すのもやめたのでもない。

グリムジョーは地面から生えた(ように見える)刃に貫かれていたのだ。

真夜の方を睨むと笑顔で手を振ってきた。

 

「……ちっ、余計なことしやがって」

 

限界が来たようで悪態をつきながら俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

俺はとあるアニメの主人公の台詞を呟きながら目を覚ました。

これは別に台詞を言いたかったわけではなく(そういう気持ちが少しはあったのは否定しないが)、実際に見たことのない天井だったのだ。

 

……ここはどこだ?

周りを見渡してみると治療器具が少しあるだけの殺風景な部屋だった。治療室みたいだな。で、俺はベッドの上か。固くて寝心地の悪いベッドだ。

部屋の中には俺の他に一人。顔の右半分が仮面で隠れている空虚な瞳をした破面の女がいた。俺の好みとは違い大人しそうな雰囲気をしているが、結構な美人だ。

 

「うっ……」

 

「大丈夫ですか?」

 

体に痛みが走って軽く呻き声を上げると、女が心配そうに話かけてきた。

自分の体を見てみるとミイラというほどではないが全身に包帯が巻かれている。……え~と、何でこうなったんだっけ?

俺は女を安心させるために「大丈夫だ」と言ってから頭を押さえて思い出そうとする。

……ああ、グリムジョーに負けたのか。そのせいでこんな大怪我とは情けない話だ。後で藍染元隊長に笑われる。

 

「……え~と、名前は?」

 

「……ロカです」

 

ロカ――岩か。あんまりセンスの良い名前とは言えないな。

名前なんて区別しやすくするためのものだから、どうでもいいけど。

 

「ロカが治療してくれたのか?」

 

「はい。市丸様に頼まれまして」

 

「そうか。ありがとう」

 

「……え?」

 

ロカが目を見開いて意外そうな顔をする。そのリアクションは俺がお礼を言うようなタイプに見えないって意味か?

だったら、これ以上に失礼な話はない。俺はお世話になったら相手が誰だろうと礼を言う男だぞ。

 

まぁ、そういうことではなさそうだが。虚とかの性格を考えると治療されてもお礼を言うように思えないから、初めて言われて驚いているだろう。

……そう考えるとロカって破面っぽくないな。

 

「ところで俺の斬魄刀はどこにあるんだ?」

 

「……あ、え~と……あちらに」

 

声をかけられて冷静になったロカが机の上を指差す。そこにはちゃんと俺の斬魄刀があった。

市丸が回収してくれたのか。ということは俺の斬魄刀の能力に市丸は完璧とは言えないまでも気付いているだろう。何とも面倒臭い話だ。

本当、俺の斬魄刀は余計なことしかしない。後でお仕置き確定だな。

 

……ん?そういや今ってロカと密室で二人っきりか。破面の女の体には興味があったし、ちょうどいいな。

 

「ちょっと汗が気持ち悪いから拭いてくれないか?」

 

「分かりました」

 

ロカは了承するとタオルの準備をしてから俺の後ろに回る。そして俺が死覇装が脱いで上半身を露出させると背中を拭き始めた。

拭き終わったところでタオルを戻そうとしたので、俺はそれを止める。

 

「ついでだから前も拭いてくれ」

 

言いながら俺は自分の股間部分を指差す。

露骨なセクハラでロカも意味を理解しているようだが、全く気にした様子はなく俺の前に移動してベッドの上に上る。

……ここまでリアクションがないと面白くないな。体を拭くのをやめるように言おうとしたところで、急に部屋の扉が開けられた。

入ってきたのは異様に短いスカートから足を露出させたツインテールの女とボーイッシュな感じのショートヘアーの女だ。

破面は女が少ないって話だが、これで三人目だぞ。男はまだグリムジョーだけなのに。

 

「……何やってんの?」

 

俺達の様子を見たミニスカートの女が怪訝な表情をする。

いきなりこんな状況を見せられたら怪訝に思っても仕方ない。俺ならそのまま扉を閉めるが。

女がよっぽどタイプだった場合のみ男を排除して代わりに俺がヤる。

 

「見たら分かるだろ?密室に男女が二人っきりでベッドの上。しかも男は上半身裸。つまり、そういうことだ」

 

「……市丸が言っていた通りの性格みたいね」

 

ミニスカートの女がゴミを見るような蔑みの視線を俺に向ける。

……良いね、この感じ。グリムジョーと戦っていた時とはまた別の意味でゾクゾクする。

 

ていうか市丸は俺のことを何て言ったのだろうか?この展開を見透かされていたような感じがするが。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。あんたが何しようと私には関係ないけど、後にしてくれる?」

 

「何だ、先にヤりたいのか?」

 

「違うわよ!」

 

大声で否定するミニスカートの女。

違うのか。残念だ。良い足してるのに。

 

「藍染様にあんたを呼んでくるように頼まれたのよ」

 

ミニスカートの女が近付きながら言うと、ロカが俺の上から離れる。別に退かなくても良かったんだが。

 

「そうだったのか。ところで名前は何て言うんだ?」

 

「あんたに名乗る名前はないわよ」

 

ツンが激しい女だな。こういう女に限って惚れたりしたら物凄くデレデレになるのだろうが。

と、頭の中でエロいことを考えながらミニスカートの女の胸に手を伸ばす。

 

「なっ……!」

 

最初は俺の予想外の行動に何が起こったか理解できなかったようだが、すぐに顔が真っ赤にする。

破面って体皮は固いけど、胸はちゃんと柔らかいんだな。小さいけど、その分感度は良さそうだ。ミニスカートの女が中々抵抗しないので更に揉みしだく。



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第十一話 セクハラ

「って、いつまで私の胸を揉んでんのよ!?」

 

胸を揉み始めてから一分ぐらいが経った頃、やっと正気に戻ったようでミニスカートの女が俺から距離を取る。そして自分の胸を手で隠しながら僅かに頬を赤くしてキッと俺を睨む。

思ったよりも可愛い反応だな。普段は女性に攻められる方が好きだが、こういう相手だけは苛めたくなる。

 

「別に良いだろ。減る訳じゃないんだから。むしろ揉まれると大きくなるらしいぞ?現世で聞いた話だが」

 

「知らないわよ!後、そのイヤらしい手付きをやめなさい!」

 

「……あ、本当だ」

 

気付いたら手が動いたままだった。これが慣性の法則というヤツか。……違うな。

 

「でも本当にやめて良かったのか?気持ち良さそうに喘ぎ声を上げていたようだが」

 

「……っ!?そんなわけないわよ!何、馬鹿なことを言っているのよ!」

 

図星だったのか一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに照れ隠しするかのように大声を出すミニスカートの女。

そんなに必死に否定しても説得力はないぞ。さっきまで十八禁とはまでは言わないが、お子さまには見せられないような顔をしていたからな。

テクニックは自信があったんだが、どうやら破面にも通じるみたいだ。

 

「えい」

 

「きゃっ!」

 

瞬歩で後ろに回って胸を掴むと、俺から距離を取った時と同じように可愛らしい反応が返ってきた。見た目とのギャップが何とも言えず萌える。

俺は緩急をつけてどのように揉めば一番感じるのかを探りながら、挑発するように「きゃっ?」とミニスカートの女の悲鳴を復唱する。

 

「……さ、さっきのは気のせいあっ!ひゃ、んっ……そこは駄目……」

 

ミニスカートの女は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、色っぽい表情で甘い声を漏らす。

これは……ちょっとヤバいな。最近、あんまりヤっていなくて溜まっていたし、このまま押し倒そう。

そう考えた時、横から邪魔が入ってきた。

 

「手を離せ!」

 

どう対応していいか分からず黙っていたもう一人の女が俺に向かって殴りかかってきた。

そう上手くはいかないか。

俺はミニスカートの女の胸から手を離すと、またもや瞬歩でショートヘアーの女の後ろに回って胸に手を伸ばす。

 

「なっ!」

 

ショートヘアーの女が驚いた声を漏らすが、そんなことは気にせず胸を揉む。

んー、ミニスカートの女よりは大きいけど少し硬い。揉み心地はミニスカートの女の方が良いな。

 

「ふざけるな!」

 

ミニスカートの女より反応が悪かったようでショートヘアーの女は感じた様子もなく、すぐに手を後ろに向けて俺に虚閃を撃ってきた。

 

「おいおい、危ないな」

 

虚閃を瞬歩で避けると、ついでなのでロカの後ろにも回って胸を揉む(何かこれ、得意技みたいになってきたな。後で技名でも考えるか)。

市丸の言った通りだったな。ちょっとセクハラしただけで虚閃を撃ってくるとか物騒すぎる。こんな様子じゃ落ち着いてナンパも出来ない。

まぁ、尸魂界とは違った過激なのもたまには面白いか。

 

……ん、これは。想像していた以上の存在感に服の上からでも分かる素晴らしいハリ、そしてこの吸い付きような揉み心地。

手が止まらない。まさしく美乳と呼ぶのに相応しい代物だ。

だが一つ気になることがあるとすれば――

 

「んっ……」

 

全く感じてない訳ではないみたいだが反応が薄いことだな。これでは体が良くても最大限に楽しむことが出来ない。

これは色々と仕込むしかないな。

 

「あ、あの、そんなに激しく動くと危ないですよ……」

 

「?」

 

ロカに忠告されて俺は首を傾げる。

何が危ないんだ?女二人がキレている状態だから危ないは危ないけど、この程度は大した問題ではない。

だが俺はすぐにロカの言葉の意味を理解することになる。

 

「うぐっ……!」

 

いきなり全身に激痛が走った。

しまった……。完全に忘れていた。俺はグリムジョーにやられたせいで重傷だったんだ。

これだけ瞬歩を連続で使用したら傷が痛むのは当たり前か。むしろ今まで傷まなかったのが不思議なぐらいだ。変なアドレナリンでも出ていたのだろうか?

 

「思ったよりも怪我の状態が酷いみたいね!殺るわよ!」

 

「ああ!」

 

俺に隙が出来たのを見て二人が同時に虚閃を発射してきた。容赦ないな。

ていうか「やる」の文字がおかしくないか?

 

「縛道の八十一『断空』」

 

縛道の壁を作って二つの閃光を防ぐ。

ここは諦めて二人を大人しくさせるか。一人ならともかく、この怪我だと二人を同時に押し倒すのは難しい。

 

「お前ら、俺を殺していいのか?藍染様とやらに俺を呼んでくるように言われているんだろ?」

 

「…………ちっ」

 

俺に指摘されて少し迷ったようだが藍染元隊長の名前を聞いて渋々と攻撃の構えを解く二人。

まだ虚圏に来てそんなに経っていないのにこの影響力。さすがのカリスマ性だな。

俺には真似できない。

 

「……あ、あの、その……」

 

ロカが体をモジモジさせながら何かを言いたそうにしている。会ってから初めて見るロカの抵抗の意思だ。

いきなりどうしたんだ?と思いながら不意に視線を下に向けると床が濡れていることに気付いた。……さすがにやり過ぎたみたいだ。

ミニスカートの女が不機嫌そうにしながら「……早く行くわよ」と急かしてくるので、とりあえずロカの胸を揉むのをやめて立ち上がる。

 

「じゃあ、また後でな」

 

と言うとロカは俺がお礼をした時と同じように意外そうな表情をする。まるで初めて言われたみたいなリアクションだ。

俺は二人についていって部屋を出ようとするが、途中で言い忘れていたことを思い出して立ち止まる。

 

「あ、そうだ。俺も協力してやるから笑う練習はした方がいいぞ。せっかく美人なのに無愛想じゃ台無しだからな。まぁ、そういうのも良いけど、ロカみたいな奴が笑うとギャップ萌えで更に魅力が引き立つ」

 

それだけ言うと俺は部屋から出る。さて、藍染元隊長にロカのことを聞くか。

笑顔にするためにはまず相手のことを知る必要あるからな。

 

「ところで何でさっきロカもいたのに攻撃したんだ?俺が防がなかったら巻き添えを食らっていたぞ」

 

歩いている途中で不意にミニスカートの女に向かって質問をする。すると返ってきたのは興味のなさそうな適当な返事だった。

 

「あんな女が死んだところで私には関係ないわ」

 

冷たいな。破面には仲間意識とかないのか?

 

「後、名前は何て言うんだ?」

 

続いて本日二度目の質問をするがミニスカートの女は俺を睨んだ後に視線を逸らすだけで答える様子はない。さっきやり過ぎたせいで意味もなく警戒されているみたいだ。ただ僅かに頬が赤くなっているのが気になる。

 

まぁ、今は聞いても無駄みたいだしやめておくか。これ以上、好感度が下がっても困る。下がる余地があるのかは微妙なところだが。



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第十二話 再会

「久し振りだな、藍染元隊長」

 

二人に案内された部屋で席に座りながら藍染元隊長に挨拶する。

部屋を見渡してみるとあるのは細長い机だけで他に目を引くものはない。殺風景だな。席の数から判断するに十刃を集めて会議するための部屋なのだろう。

その机で向かい合う(正確に真正面から向かい合っているわけではないが細かいことは気にしない)俺と藍染元隊長。まるで敵対しているかのような絵だ。

 

藍染元隊長の後ろに立っていつでも斬魄刀を抜けるように構えている東仙元隊長が敵対感を更に助長させている。藍染元隊長に親しげに挨拶したのが気に食わないのか、単純に俺が嫌いなだけなのか。間違いなく両方だろうが。

でも、ちょっと遊びに来ただけでそこまで警戒しなくてもいいと思うけどな。今の俺は歩くのもキツイぐらい重傷な訳だし。

 

市丸は藍染元隊長の隣に座って胡散臭い表情で俺に向かって手を振っているが無視する。

 

俺をここまで案内してくれたミニスカートとショートヘアーの二人の女は藍染元隊長に一言だけ挨拶して既にどこかに行ってしまっている。

藍染元隊長と二人が会話したのはほんの数秒だけだったが、それでも分かった。二人は藍染元隊長に心酔している。神聖視と言ってもいいかもしれない。

心酔と言うと雛森副隊長のことがイメージされるがアレとはまた違うだろう。具体的に何が違うかまでは説明できないが。

まぁ、それは置いておくとしてこの状況はそこそこ面白い。中古は嫌だから、そこは確認しないと駄目だが。

 

「久し振りだね、響也」

 

藍染元隊長が東仙元隊長が入れたと思われる紅茶(何故か俺の分はない)を飲みながら優雅な雰囲気で挨拶を返してきた。

紅茶を飲んでいるだけなのに妙に絵になるな。隊長時代――眼鏡をかけていた時とは雰囲気とは違うが、俺的には今の方が好印象だ。

藍染元隊長の正体に気付くまでは市丸程ではないが胡散臭くて警戒していたし、妙に善人っぶたところが気に食わなかったからな。

 

「東仙元隊長も久し振りだな」

 

「……ああ」

 

挨拶をしたが東仙元隊長は雑な返事をするだけだ。

相変わらず俺にはマトモに口も聞いてくれないのか。嫌われたものだ。

そんなのはいつものことなので藍染元隊長は気にせず雑談を開始する。

 

「瀞霊廷の様子はどうかな?」

 

「報告するようなことは何もない。やっと混乱が落ち着いてきたところで、藍染元隊長に対する対策も録に進んでいないからな」

 

四席である俺には詳しい情報は降りてこないが、現在は大霊書回廊で藍染元隊長の目的について調べている段階だろう。

本当、退屈で仕方がない。崩玉が完全覚醒してないから藍染元隊長もまだ動かないし。

こうなったら無間の囚人を脱走でもさせようかな。そうしたら瀞霊廷中がパニックになって面白くなるだろう。それに無間に投獄されるような奴は化け物揃いだと聞く。一回、戦ってみたいところだ。

場合によっては尸魂界が崩壊する可能性もあるが、そんなことは俺には関係ない。

俺が退屈な世界をどうやったら変えられるか考えていると、藍染元隊長が見透かしたようなことを言ってきた。

 

「退屈だからって無間の囚人を脱走させるようなことはしないでくれよ」

 

「さすがに無間の囚人を脱走させたりはしないさ。そんなことしたら俺も死んでしまうだろ」

 

「……五年ほど前、実際に計画していた男の台詞とは思えないね」

 

心無しか藍染元隊長の目が呆れているようにも見える。

ああ、そんなこともあったな。でも本当に全員を脱走させるつもりはなかったぞ。一人だけ脱走させて戦うつもりだったんだから。

で、その後は俺の手で投獄して元通り。

まぁ、予想以上に警備が厳しくてバレずに行うのは無理だと判断して断念したんだが。もしあのまま計画を実行したら藍染元隊長の手によって止められていただろう。

 

「そんなことより藍染元隊長に一つ聞きたいことがあるんだが良いか?」

 

俺の言葉に東仙元隊長がピクッと反応する。

未遂とは言え無間の囚人を脱走させるという下手したら世界の調和を乱すような行為を反省していないどころか気にすらしていない様子が許せないのだろう。

だからと言って警戒するだけで何かをしてくる様子はないが。その理由は前に何回も俺を処分するように藍染元隊長に進言したが止められたかららしい。具体的にどんな会話があったかまでは知らないが、そんな理由で何も出来ないとは退屈な男だ。

本当に主を思うなら、主の意思に逆らってでも危険因子は排除するべきだ。

 

「いいよ。何だい?」

 

「俺を案内してくれた二人のことなんだが」

 

「ロリとメノリのことかな?」

 

ほぉ、そういう名前だったのか。どっちがどっちかは分からないが後で本人に確認すれば問題ない。

 

「そうそう。で、その二人と藍染元隊長って肉体関係はあるのか?」

 

「ぶふっ!」

 

「…………」

 

市丸がいきなり吹き出して、笑うのを必死に堪えている。そして東仙元隊長は特にリアクションはないが動揺しているように見える。

俺、何か変なことを言ったか?

だが藍染元隊長は普段と変わらず平然とした態度で返答をする。

 

「ないよ。それがどうかしたのかな?」

 

「露出の激しいミニスカートで足の綺麗なツンデレな女が俺のタイプでな。ちょっと口説こうと思ったんだよ」

 

「そうかい。でも何でそれを私に確認するのかな?」

 

「もし藍染元隊長の女だったら遠慮しようと思っただけだ。俺に他人の女を寝取る趣味はないからな」

 

「だったら好きにするといい。私には興味のない話だ」

 

予想通りとは言えアッサリと許可が降りたな。

前から思っていたけど藍染元隊長って女に興味がないのか?雛森副隊長にも手を出してなかったみたいだし。

俺が藍染元隊長の立場なら絶対に手を出しているのに。

 

「……き、君。僕の話、聞いてなかったん?ナンパなんかしたら虚閃を撃たれて終わりやで?」

 

笑いがやっと止まった市丸が俺に向かって聞く。

 

「それならもう撃たれた。本当、容赦ないな。胸を揉んだだけなのに」

 

「そりゃ撃たれても仕方ないわ。ていうか、破面やなくて死神でも攻撃されるやろ」

 

そうなんだよな。相手によっては調子に乗ったらすぐに赤火砲を撃ってくるから困ったものだ。

でも一番の問題は俺はそういうタイプに構ってしまうことだ。本当、我ながら困った性癖をしている。

それで何回、四番隊の世話になったことか。ついでに四番隊の女性隊員をナンパしていたら、いつの間にか卯ノ花隊長の指示で男が俺を治療するようになっていた。

それ以降は一回も四番隊の世話になっていない。男に治療されるぐらいなら自分でする。

 

「まぁ、確かに激しいけど、そういうのが良いんだろ」

 

「……相変わらずドMやね」

 

「……理解できない」

 

市丸が呆れたように呟いて、東仙元隊長は表情を引き攣らせている。

理解できないのは経験したことないからだ。一度、経験すれば病み付きになるぞ。戦闘とはまた違う快感を得られる。

 

「分からないこともない」

 

「「「……は?」」」

 

藍染元隊長の言葉に三人の思考がフリーズする。

……え?今、何て言った?

 




今回で前回に投稿していた分は終了です。
次回の更新は未定です。まだ書けていません。

感想、評価待ってます。
もし貰えたらモチベーションが上がります。


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第十三話 性癖

久し振りの投稿です。


「あ、藍染様……。それは、どういう……」

 

正気に戻った東仙元隊長がさっきの藍染元隊長の発言の意味を確認する。

俺の方が先に正気に戻っていたんだが質問する気にはなれなかった。予想外の出来事に未だどう対応していいか分かっていないのだ。

 

「女性は反抗的な方が面白いという話だろう……?」

 

何で俺達が驚いているのかよく分からないと言った感じで答える藍染元隊長。

……ん?今していたのは、そんな話だったか?

ちょっと思い出してみよう。……確か俺が破面の女二人に虚閃を撃たれて喜んでいるという話だったよな……。

だったらそういう解釈も出来る……のか?何か違う気がするが。

 

「いやいや、藍染隊長。そういう意味やないと思いますよ?」

 

「では、どういう意味なんだギン」

 

「どういう意味って聞かれましても、何て答えたらいいか……」

 

どう返事をしていいか分からず市丸は困った表情を浮かべながら俺の方に視線を向けてきた。

 

「……え? 俺?」

 

「君から始まった流れなんやから、君が答えるのが自然な流れやろ」

 

「そう言われてもな…」

 

どう説明したらいいんだ?

確かに俺はそういうプレイに詳しい。だが詳しいのと上手く説明できるのとでは別問題だ。

頭の良い奴が立派な教師になれるとは限らないのと同じだな。

そして、何より教える相手は藍染元隊長だ。色々な意味でやりづらい。

……まぁ、誰が悪いと聞かれたら話を振った俺なんだが。それでも改めて聞かれると答えにくい。

……こうなったら俺が取るべき手は一つしかない。

 

「ところで藍染元隊長。さっき十刃のグリムジョーと戦ったんだが……」

 

何故かは分からないが藍染元隊長を相手に女の話を広げると録な展開にならない気がする。これが今できる最善の一手だ。

 

「……露骨に話を逸らしよったな」

 

「逃げたな」

 

市丸と東仙元隊長の二人がジト目で見てくるが無視だ。

説明できるって言うなんなら、お前らがやってみろ!

 

「その話ならギンから報告を受けているよ。グリムジョーと引き分けたんだってね。しかも斬魂刀を使わずに」

 

よし。ちょっと藍染元隊長の言葉に気になる部分はあるけど、これで話を誤魔化せ――

 

「ただ、その話も気になるけど、今はさっきの話を続けようか。私はどういう風に勘違いしているのかな?」

 

てなかった!

まだその話を引っ張っるのかよ!? グリムジョーの話の方がどう考えても重要だろ!

 

藍染元隊長の紅茶を飲みながら微笑んでいる姿は非常に絵になっているが、どこかイタズラをして楽しんでいる子供のようにも見える。

藍染元隊長にこんな一面があったのか。結構、付き合いは長いけど知らなかった。

 

「ついでに言うと女性の趣味という話なら、私は抵抗する女性を無理矢理に屈服させるのが好きだ」

 

 

まさかあの藍染元隊長が自ら性癖を暴露してくるとは……。

完全に予想外だ。これでもう逃げられなくなってしまった。

 

ていうか、やっぱり藍染元隊長ってドSだな。これなら雛森副隊長に手を出さなかったのも納得できる。

最初から従順な相手はそういう対象にならないということだろう。

 

 

 

 

 

「なるほど、そういう意味だったのか」

 

俺がよく分からないプレッシャーを感じながら説明を終えると、藍染元隊長は納得したように頷く。

直前まで下世話な話をしていたとは思えないほど爽やかだ。

 

ちなみに説明の途中で巻き添えとして市丸と東仙元隊長にも性癖を暴露してもらった。二人とも普通で何の面白味もなかったが。

 

「ところで、それって気持ち良いのかい?」

 

「ああ、最高だな。戦闘はまた違った快感を得られる」

 

まさに病み付きだ。

ただ今の体の状態だと激しいプレイには耐えられそうにないけど。この後、破面の女をナンパしようと思っていたけど断念しないといけないのが、非常に残念だ。

ナンパは次に来た時だな。……いつになるかは分からないけど。

 

「へぇ……。私は一度も経験したことないけど、響也がそこまで言うなら一度は体験してみたいね」

 

「無理でしょ。藍染隊長を満足させられる女なんていないやろうし、それ以前に藍染隊長にそんなことをする度胸のある女がいるとは思えませんわ」

 

「そうかな。世界には色々な人物がいるし、探したら一人ぐらいはいるんじゃないかな?」

 

そうか? 市丸の言う通り、俺もそんな奴はいないと思うんだが。

とはいえ、このままじゃ話も進まないしちょっと考えるか。

……あれ、話を進ませる必ってあるのか?まぁ、いいか。細かいことは考えないようにしよう。

 

「……強いて言うなら卯ノ花隊長ぐらいか」

 

いないと思っていたが、案外すぐに候補が思い付いた。

あの人はいつも優しげな表情をしているが、間違いなくドSだからな。そういう意味でも候補としてはピッタリだな。

次点を上げるとしたら夜一さんか。少し厳しいな。

 

……ん? 待てよ。よく考えたら女である必要はないな。逆転の発想だ。これは我ながら面白い思い付きだ。

 

「……どういう意味だ? 何故、私が……」

 

「…………」

 

東仙元隊長が怪訝な顔をして、市丸は露骨に引いている。

おい、勘違いするな! 俺にそんな趣味はない。

 

「それは同性愛という意味かな?」

 

まさか藍染元隊長の口から同性愛なんて言葉が出るとは。意外すぎて違和感があるな。

確かに藍染元隊長はそういうのが似合いそうではあるが。

 

「違う。俺が技術開発局に頼んで男が女になる薬を作ってもらおうって話だ」

 

俺の知り合いも基本的に女よりも男の方が強いし、強い女を探すよりはこの方法の方が上手くいく可能性は高い。

それに何より面白そうだ。薬が上手くいけば商売的にも儲かりそうだし。

 

「確かに面白い発想ではあるけど、あの涅マユリがそんな薬を作るとは思えないね」

 

「涅隊長じゃなくて、別の技術開発局にいる俺の友達に頼むんだよ」

 

「君の友達?」

 

誰のことか分からないらしく首を傾げる藍染元隊長。

あいつのことは誰にも言っていないから知らなくても当然だ。ただ向こうも俺のことを友達だと思っているかは微妙なところだが。

 

「技術開発局で涅マユリじゃないとすると 阿近かな?」

 

「阿近はたまに世間話をする仲だが友達ではないな」

 

元商人という特徴がら色々な人と仲良くしてはいるけど、それだけだ。

 

「……じゃあ、誰なのかな?」

 

「秘密だ。藍染元隊長とはいえ、プライベートのことまで話す義理はない」

 

俺の友達という単語を不審に思ったのか藍染元隊長は目を細めるが、俺は適当にはぐらかす。

本当、藍染元隊長は勘が鋭すぎてやりづらい。

でも、 そこまで疑わなくてもいいと思うんだが。俺にだって普通に友達はいるぞ。

 

「私に言えない理由でも……?」

 

「だからプライベートのことまで赤裸々に語りたくないだけだ」

 

「何もやましいことがないなら言え」

 

東仙元隊長がさっきまでと雰囲気を一変させて、殺気丸出しで腰の斬魂刀を抜く。

元々、東仙元隊長を焚き付けるつもりで言っていたのか。本当、藍染元隊長は性格が悪い。

 

「何度も言うようだが、プライベートのことは話したくないんだが。……何でそこまで俺の友達が知りたいんだよ?」

 

「貴様を全く信用していないからだ。もしその友達というのが貴様の協力者で、藍染様にあだなすようなことを企んでいるなら消す」

 

……この展開はマズイな。今、東仙元隊長と戦うと俺は間違いなく死ぬ。

俺の最終目標が強敵と戦って死ぬこととはいえ、この展開で死ぬのは嫌だ。どうにかして適当に誤魔化して東仙元隊長を落ち着かせないと。




次回の更新は未定。
シリアスになるかは微妙ですが、物語的に重要な内容になる予定です。

では感想待ってます。


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