無限に広がる闇の中にポツンと浮かぶ島、時の庭園。
そこで一人の少年がただひたすらに剣を振っていた。
その少年の名はリュウ・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサの兄である。
傍目にはただ剣を振るっているように見えるが少年の胸中はぐちゃぐちゃになっていた。
(なぜこんなことに、俺はどうすれば……いや、それでもやることは変わらない。必ずフェイトを守るッ!)
事の発端は半月前にさかのぼる。
夜に目が覚めたリュウはトイレから部屋に戻る途中で普段は締め切られているはずの部屋の戸が開いているのを見つけてしまった。母から中に入るなと普段から言いつけられていたが好奇心に負けてしまい中に入ってしまった。
幸い母はその場にいなかったためバレることなく中に入れたがそこで見たものは彼の人生を大きく変えるものであった。
(こ、これはなんだ!?)
そこにあったのは二つのポッド、中にはそれぞれ少年と少女が浮かんでいる、そしてその周りにある資料にはプロジェクトFATEの文字が。
(何故俺とフェイトがこの中に、それにプロジェクトFATEってなんだよ?こいつはどうなってるんだ?)
情報が足りないため手近な資料に手を伸ばし中を確認する。
(専門的な部分はさっぱりだけどどうやら人のコピーを作る計画っぽいな。)
ある情報を目にし愕然とする。それ母であるプレシア・テスタロッサが自らの子であるアリシア・テスタロッサとドラグ・テスタロッサの蘇生を目的として完成させたものであるという事実。その事実はまだ10歳の少年の心を砕くには十分すぎた。
(俺たちがコピー…か、確かに記憶の中の母さんに比べて今の母さんは俺たちに冷たいけどまさかこんな理由があったなんて。この事実にきっとフェイトは耐えられない。俺が守ってやらなきゃ。)
決意を胸に資料を元の場所に戻し自分の部屋へと戻る。
翌日、守ると決意したはいいもののやれることがないためとりあえず強くなるためリニスに魔法の訓練をしてもらうことにした。
まず魔導師としての資質の検査からである。これはフェイトも受けたがったため二人共の検査となった。
フェイトは資質が高く5歳にして驚くべきことに魔導師ランクAAとの結果が出た為、リュウも自分の資質に期待して結果を待った。しかしその結果はあまりにも無情な物であった。
魔導師ランクE+、魔力変換資質・発電
「なんじゃそりゃああああああああああああああああああッ!」
ここに今、守るどころか守られねばならぬほどの弱小魔導師が誕生した。
その後は早々に魔法に見切りをつけリニスから魔法の基礎を教わってからは我流で剣を振るいながらベルカの資料の中にあった武術についてに記載を読み込み習得をしようとしていた。それは魔法によってではなく自身の戦闘技術でどうにかしようと考えた結果であった。
初めまして、合コン提督です。
初めて書いた作品ですので至らない点があると思いますが何か気が付いた点があればぜひ指摘していただけるとありがたいです。
ベルカの資料について
プレシアさんが色々手段をあさっている中にきっとベルカ時代の技術もあったと思うので一部ベルカの資料が時の庭園にはあることにしています。
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剣と拳
「どうしたもんかかなぁ……」
リュウは一応の習得に至った技術、断空について考えていた。
足先から練り上げた力を拳から打ち出す技術であり理論上はそれ以外の部分からでも打ち出す事は可能であり魔力=火力が足りていないリュウのは願ってもない技であった。が、しかし習得したとは言っても今はまだ直打、又は撃ち下ろしとして叩き付けるくらいしか使えない。更に力を練り上げるために若干の隙が出来てしまう為、実戦レベルとは言いがたいものであった。
それだけではなくこの断空拳を中心としたベルカ式戦闘術である《覇王流》は当然の事ながら魔法の使用にベルカ式を求めてきている。その点に加えてまだ魔法は基礎しかまともに教わっていないためミッド式に染まっておらず、更に魔法にあまり頼らず自身の近接技術で戦うのであれば魔導師よりはベルカの騎士の方が合っているだろうとの判断によりリニスにベルカ式アームドデバイスの作成を頼んだ。
そこまではいいのだが先にフェイトのデバイスであるバルディッシュを組み上げていたとはいえリニスにベルカ式のデバイスを作るノウハウは無く、仕方なく資料を睨みながら二人で組みあげる事になった。そうして遂に完成した最初のデバイスである曲刀型アームドデバイス《ハバキリ》はインテリジェントデバイスに見られるようなAIは積んでおらず変形機構及びカートリッジシステムも搭載していない試作機である。
だかしかし我流とはいえ剣のたんれんもしており構造も単純であったため刀型にしたが、無手で戦うことが前提の覇王流とは噛み合わないと言う結果になってしまった。
それ故に果たしてこのままの方針でいいのか、あるいは今あるハバキリを生かす戦闘スタイルに方向転換するべきなのか。頭の中はその事で一杯になってしまっていた。
だからだろうか、妹の接近に気付けなかったのは。
「兄さん、深刻そうな顔をしてどうかしたの?」
「ッ!?っと、なんだフェイトか。別になんでもないぞ。」
(フェイトを守ると決めたのに何も出来ずあげく心配をさせてしまうだなんて。)
表面上は平気な顔を取り繕うも胸中で心配をかけてしまったことを悔やむ。
「でも、何か悩んでいたように見えたから。」
「わかった、正直に言おう。どうしたらフェイトみたいに強くなれるかなーって考えていたんだ。」
あえて軽く、深刻な事でないように白状した。隠す程の事でもなく、言ったところでどうにもならない事であるためこれくらいなら大丈夫かと判断をしたためである。
「ほら、俺って魔力も全然無いし色々やってそれでも一人前を名乗れるかすら怪しいし。」
「私は無理に強くならなくてもいいと思う、兄さんは私に勉強で解らない所があったら教えてくれたりして十分凄いよ。それにもし何かあったとしても私とアルフで兄さんを守るから。」
「なーに言ってんだ、ちょっとは兄さんにかっこつけさせろよ。そもそも本当は俺がお前を守らなくちゃいけないんだからな。」
そういって頭をを撫でる。これでまたちょっとは頑張れる気力が湧いてきた気がする。
「フェイト、ありがとな。」
一瞬キョトンとした顔をするも何を言われたかを理解し笑顔を咲かせる。
そうしてフェイトに別れを告げリニスの下へ向かう。
(あの笑顔を絶対に守り抜く。やはり妥協は無しだッ!)
思い出すのは先程のフェイトの笑顔。その笑顔と決意を胸にリニスと共に新たなデバイス製作に励みその甲斐あって籠手型ベルカ式アームドデバイス《アガートラーム》は一応形にはなった。
しかしデバイス完成させるまでの間にフェイトは新たに使い魔と契約をはたしアルフと名付けていた。
「これむしろ実力差開いてるような気がする……」
その日よりリュウの鍛練は一段と厳しいものとなった。
という訳でベルカの古武術は覇王流でした。
簡単なデバイスの解説
《ハバキリ》
ベルカ式アームドデバイス
見た目はごく普通の日本刀とたいして変わらない。
AIの搭載もなく、ベルカ式デバイスによく見られる変形機構やカートリッジシステムは採用しておらず、あくまで高い演算能力と本体強度に特化させた物となっている。
また演算能力が高くレスポンスも非常に早いため術式を記録させておけばとっさの場合に自分で魔法を使うより早く使用できるため非常に重宝する。
《アガートラーム》
ベルカ式アームドデバイス
見た目は両腕を肘まで包む白銀の腕だが装着していてもたいして重さを感じさせない作りとなっている。しかしながら強度は十分でバルディッシュと打ち合える程度の強度はある。
こちらはAIを搭載しており、変形機構も搭載されている。
変形は片手が筒状に変わりそこから魔力刃を出すことができる。しかしそんなものを使っていてはすぐに魔力切れを起こしてしまうのでカートリッジの使用を前提とした機能である。
その状態の見た目はロックマンエグゼのカーネルの腕をイメージしてもらえれば大体あってます。
カートリッジシステムは前述の通り搭載はしているがまだ不安定なため使用できない。
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衝突と賭け
アガートラームが完成してから数日後の夜、リニスはプレシアの許へと向かっていた。
要件はフェイトの魔法の修練が完了したことの報告、そしてリュウとフェイトへの接し方について問いただすためであった。
本来であれば使い魔が主人に意見することは珍しい事ではあったが自身の役目が終わろうとしている事、そして二人への思いがリニスを突き動かしていた。
「プレシア、リニスです。」
ついに主人の部屋の前につき中に声をかけるが、普段なら返事が返ってくるはずなのだが何の反応も帰ってこない。
「……プレシア、入りますよ。」
返事が来ないことで妙な胸騒ぎをさせつつ部屋へと入っていく。
そこで見たものは部屋の中心で口から血を流して倒れているプレシアの姿だった。リニスは慌てて駆け寄りプレシアを抱き起し容体を診るが意識を失っている以外は特に異常が見受けられなかったためひとまず安心した。
安心したことによって周囲を見渡す余裕ができ、リニスはそこで初めて部屋の奥に見慣れない物体が二つあることに気付いた。
それは二つの生体ポッドであった。中にはそれぞれ裸の少年と少女が入っておりリュウとフェイトにそっくりだった。そしてポッドにはそれぞれの名前と思われる『ドラグ』『アリシア』と書いてあった。
「これは……プレシアが目を覚ましたら聞かなければいけないことが増えたみたいですね。」
プレシアを彼女の寝室に連れていき先ほどの部屋の施錠を済ませたリニスは濡れタオルを手に看病をするのだった。
数十分後。目を覚ましたプレシアはまず違和感を感じた。いつの間に私は寝室に来ていたのか。なぜ私はベッドで寝ているのか。そして横にいるリニスに目をやりリニスが自分をここまで運んだことを理解する。
「やっと目を覚ましましたね、プレシア。」
彼女の瞳は普段では珍しく厳しいものになっていたがその中に僅かながら安堵の色も見て取れる。
「あなたが運んできたのね、少し気に食わないけど助かったわ。」
「はい、余計な事かとも思いましたけど緊急事態だったので。」
悪態交じりのプレシアの発言に苦笑しながらも返答をするリニス。
しかしプレシアはさらに態度を硬化させる。
「それで、こんな時間にわざわざ一体何の用なの?」
「フェイトの魔法の修練が完了しました。聞こえていましたか?昼の轟音。」
「雷撃系の高位魔法ね、あれをフェイトが…」
「杖も使わず身体一つでね。」
「素晴らしいわ。」
フェイトの成長に満足げなプレシアにリニスが意を決して言葉を続ける。
「これでもう、私がフェイトに教えられることは無くなってしまいました。本来ならこれでもうお役御免ですね。」
「どういう意味かしら。」
本来ならという一言に眉を顰めるプレシア。
「プレシア、私はあなたに聞かなくてはならないことができてしまったんです。フェイトとリュウへの態度、そしてアリシアとドラグの事を。」
「そう。予想はしていたけどやっぱり見てしまったのね。」
プレシアは起き上がりリニスと向かい合って話しだした。
「アリシアとドラグは私の大切な子供達よ。研究も二人のためのもの。」
「ですがプレシア、あの子たちはどう見てもすでに死んでいますッ!なのにどうして?」
「取り戻すためよッ!こんな筈じゃ無かった全てをッ!あの子たちを蘇らせるためにここまで来たのよ。」
「じゃあフェイトとリュウは?あの子たちはどうなるんですか!」
「あの二人はアリシアとドラグの記憶を転写したクローンよ。でもアリシアとドラグにはならなかった。姿形は同じなのに、性格も魔力資質も利き手も、私への呼び方さえ違うッ!」
「それなのにあの顔で!あの声で!私を母と呼んでくる!そんなの耐えられるわけないじゃないッ!」
「……ッ!」
プレシアのあまりに悲痛な叫びに息をのむリニスしかし彼女も譲れない。
「フェイトとリュウはアリシアやドラグの代わりじゃありません!フェイトはあなたに褒めてもらいたくて魔法も勉強も一生懸命やっていますし、リュウだってフェイトがあなたに構ってもらえない分あの子を守ろうと必死に才能が無いことに腐りもせず強くなろうとしてるんです!二人ともちゃんとした一人の、あなたの子供なんですよッ!」
その言葉にプレシアはこらえきれないとばかりにリニスの肩をつかむ。
「あなたに一体何がわかるの、私とアリシアとドラグの何が解るっていうの!?」
「何も解りませんよ!忘れさせたのはあなたじゃないですか。だけど!山猫生まれの使い魔にだって解ることがありますッ!」
リニスはプレシアの目をまっすぐに見据える。
「今ならまだ引き返せます。」
「もう無理よ。あの子たちを蘇らせるためだけにここまで来てしまったのだから。それに失敗したと解ってからあの二人を私の子供として扱ったことなんて今まで一度も…「あります!」――ッ!?」
「自分の子だと思っていないんならなんで失敗だと解った後でも名前を与え、テスタロッサを名乗らせ、一人前に育てるために私を作ったんですかッ!」
「あなたは自分でも気づけていないだけであの子たちを愛しているはずです、そうでなければあの子たちはとっくに壊れてしまっています!」
「じゃあどうすればいいの!?今更全部投げ捨ててあの子たちの母親にでもなればいいのッ!?そんな事アリシアとドラグへの裏切りよ。それにずっと放っておいて今更どの面さげて母親すればいいのよ……」
「あの子たちは…フェイトとリュウは、あなたを求めています。」
「やっぱり無理よ……アリシアとドラグは裏切れない。それにこんな私が自分から幸せになんてなっていいはずがないもの。」
「ならプレシア、一つ賭けをしましょう。もしかしたらがあるかもしれませんし、あなたは無茶をしない範囲で研究を続けてください。それでもいつかはあの子たちも真実を知ってしまうでしょう。その時に、それでも折れずにあなたを求めたら優しく受け入れてあげてください。きっとその時には……私はもういませんから。」
プレシアは黙ってその言葉を自分の中で噛み砕いていく、そして約十分が経ち落ち着いてきてから。
「そうね。いいわ、その賭けに乗ってあげる。最後以外はね。」
「最後?どういう意味ですか。」
怪訝そうに尋ねるリニス、しかしそれには答えず。
「――汝、使い魔リニスは主、プレシアとの契約の下制約を以下のものに変更し順守せよ。その四肢と心をもってフェイトとリュウを見守り続けなさい。如何な状況であっても命尽きるまでその制約を胸に。」
その意図を理解したリニスもそれに応える。
「――我、使い魔リニスは山猫の血と誇りにかけてフェイトとリュウの成長を見守り、テスタロッサ家に訪れる災厄をこの手で振り払うことを誓います。」
「使い魔リニス」
「主プレシア」
「今、ここに契約の更新を。」
契約の儀を終えた二人の顔には薄くだが笑顔があった。
「ありがとうございますプレシア。でもどうして?」
「あの子たちが真実を知り、それに立ち向かうまでにはまだ時間がかかる。ならあの子たちを支えてあげる役目が要る。こんな賭けを始めたのはあなたなんだから責任もってその役目を果たしなさい。」
「はい、任せてくださいマスター。」
今夜はこれで失礼しますと部屋を後にしたリニスについてプレシアは考え、ひとりごちる。
「山猫として飼っていた時はまさかこんな使い魔になるとは思っていなかったわね。」
「私はいつだって気づくのが遅すぎる。だから今回こそは。」
そう決意したプレシアの心にはアリシアとドラグだけでなくフェイトとリュウも入っていた。
主人公出番なし
何処へ行ったッ!?
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旅立ちの夜
とある昼下がり、リュウとフェイトとアルフの三人はリニスによって指定された部屋へと向かっていた。
「今日の訓練は無しでいきなり呼び出しだなんてどうしたのかな。」
「さぁな、俺にもさっぱりだ。アルフは何か聞いたりとかしてないのか?」
「あたしかい!?そりゃリニスから直接使い魔としての訓練を受けたりはしてるけどその時には何も聞いてないよ。あたしとしてはてっきりリュウが何か知ってるとばかり思ってたんだけど。」
「そいつは当てが外れて残念だったな。っと、ついたぞ。」
三人で呼び出された理由などを話し合っていると目的の部屋に到着した。そこには既に到着していたリニスが三人を待っていたのでこれ以上待たせてはまずいと慌てて駆け寄る。
「まったく三人とも遅いですよ。」
「ごめんよぉ、リニス。でもお昼を食べてる時に言ってくれればあたしたちももっと早く来れたんだけど。」
「そうだぞ、おかげで食べてからわざわざ外に出てスタンバってたんだからな。」
それに関しては実際その通りで昼食の後、三人はいつもどおりに外に出てバリアジャケットとデバイスを展開しさせウォーミングアップをしていたところにリニスからの連絡があったのである。
「兄さんもアルフもその辺にしておこうよ。実際遅かったのは私達なんだし。」
「いえ、こちらもできるなら早めに知らせておきたかったのですが急に決まったことなので仕方なく。」
「昼にはまだ何も無かったってことか。」
「そんなに急な用事なのかい?」
「ええ、急で申し訳ないんですがあなたたちにやってもらいたいことがあるんですよ。」
「やってもらいたいこと……?」
リュウ達三人はリニスの言うやってもらいたいことの見当がつかず続く言葉を待ち、リニスはそんな三人の様子に言葉を続ける。
「実はとある世界にばらまかれてしまったジュエルシードというロストロギア相当の物品の回収をお願いしたいんです。」
「ロストロギア相当ッ!?そんな無茶苦茶な!」
「無茶なのはわかっています。でもプレシアの研究にどうしても必要な物なんです。さらに言えばばらまかれたエリアが都市部なので早く手を打たなければ危険なことになりかねません。」
悲痛そうな表情を浮かべながらも言葉を紡ぐリニスにリュウは事の厄介さを理解し絶句する。
(知らない世界でロストロギア相手だなんていくら何でも不確定要素が多すぎる。そんな中でフェイトを守り切れる確証はない。母さんの研究にしたってロストロギアが必要になるレベルまで行っちまってんのかよ)
「私、行くよ。」
「「フェイトッ!?」」
フェイトの突然の宣言に驚くリュウとアルフ。しかしそれを気にせずフェイトは続ける。
「だって母さんにはそれがどうしても必要なんだ、私は母さんにまた笑ってほしい。だから行くよ。」
「そうだな、都市部にロストロギア並みの物があるなんてほっとけないし、なにより母さんからの初めてのお願いだ。俺も行くしかないな。」
「フェイトが行くってんならあたしも行かないわけにはいかないねぇ。」
フェイトの決意にリュウとアルフも腹をくくりジュエルシード回収に向かう覚悟を固める。
リュウの語った言葉に偽りはなく自身がどういう存在であり母の研究の目的を知っていてもなお母を思う気持ちは確かにあるのだった。
「ありがとうございます、フェイト、リュウ、それからアルフ。では早速これから向かう世界について今分かっている事を説明します。」
そうして空中にウィンドウを開き説明を開始する。
「まず向かう先は97管理外世界、現地での呼称は地球です。その世界の極東にある日本という地域の海鳴という都市にジュエルシードはばらまかれたようですね。現地には魔法文明は存在しないようですがそれなりの科学技術を擁しています。三人にはそこで21個のジュエルシードを回収してきてもらいます。」
「質問なんだけど寝泊りする場所とかはどうすればいいんだ?」
「拠点と現地の金銭はこちらで用意しておきますので自由に使ってかまいません。」
「出発は?」
「急ぎですので今夜からお願いします。」
「早いな……リニスはついてきてくれるのか?」
「ごめんなさい、私はこっちでプレシアのサポートをしないといけないので、何かあれば私に連絡してくれれば相談には乗りますから。」
「そうか、ついてきてはくれないのか。じゃあ質問はもう大丈夫、ありがとう。」
リニスにいくつか質問をし納得したリュウは準備のためフェイトとアルフに声をかける。
「フェイト、アルフ、行くぞ。今夜出発なんだからぐずぐずしている暇はないぞ。」
「そうだね兄さん。行こう、アルフ。」
「あーちょっと待っておくれよフェイト。」
部屋を出ようとする三人だがリュウが立ち止まりふり向く。
「じゃあリニス。行っていきます。」
「はい、いってらっしゃい。気を付けてくださいね。」
そうして一人部屋に残されたリニスはつぶやく。
「プレシア、あの子たちは間違いなく強くなって帰ってきます。あなたや残酷な真実に立ち向かえるほどに強く。」
ほぼ同時にフェイト達と共に歩くリュウも決意を新たにしていた。
(今回回収するロストロギアがあれば母さんの研究は完成してしまうのかもしれない。そうしたら俺たちは本当に必要のない存在になってしまうかもしれない、それでもその先の幸せな光景にフェイトだけでも入れてやりたい。そのためにも絶対に失敗はできないッ!)
ようやく原作へ突入
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それは不思議な出会い……なのか?
「さて、では寝る前に明日からの探索の方針を決めようか。」
無事地球についたリュウ達であったが転移の疲労から到着してすぐは動かず一晩休んで翌朝から探索を始めることとしたが、寝る前に方針だけ決めておこうといった話になった。
「方針もなにも普通に探して回ればいいんじゃないかい?」
「アルフ、それでもいいがちょっと効率が悪い。俺達は土地勘の一切無い場所に来てるんだ。探索はするにしても並行してこの街の事も調べた方がいいと俺は思うんだが。」
リュウは現地の情報収集の重要性を説き、フェイトもそれに同意する。
「確かに大まかな位置だけ解ってもそこがどんな場所か解らないと危ない場合もあるかもしれないしそれがいいかもしれない。」
「フェイトもこう言ってることだしアルフもいいだろ?」
「わかったよ。でもそうなるとあたしとフェイトが探索、リュウが調査ってことになるけどいいのかい?」
「確かに兄さんの魔力で、探査魔法を何度も使うのは難しそう。」
「事実だからこそ何も言い返せないのが悔しい。まぁ仕方ないがその分担でしばらくは探索は二人に任せることになるが、もし発見したら絶対に俺にも連絡すること。いいか?」
「うん、わかった。それじゃあおやすみなさい、兄さん。」
そうしてフェイトは寝室へと向かう、アルフもそれに続こうとするがリュウに呼び止められる。
「アルフ、すまないがフェイトを頼む。」
「あたしはフェイトの使い魔だよ、当然じゃないか。そっちも危ないことはそんなにないと思うけど気を付けるんだよ。」
「当然だろ。」
そうして今度こそ寝床につく二人。
明けて翌日、冷蔵庫に用意されていた物でリュウが簡単な朝食を作りその後それぞれ出かけていく。
「とりあえず図書館に来たはいいけれど、さてどうしよう。」
近所のコンビニで買った地図を便りに図書館まで来たがどう調べていいか解らなくて困っていた。その時リュウの耳に一人の少女の声が聞こえる。
「んしょ、よいしょっと。あかんなぁ、とられへん。」
なんとなく声のする方に近づいていくとそこでは車イスの少女が手を伸ばして高いところの本を取ろうとしている様子だがどうにも届かないようだった。
見かねたリュウはその本を取り渡してやる。
「そら、これか?」
「あっ、わざわざ取っていただいてありがとうございます。」
「いや、あんな姿を見ていたら流石に放ってはおけなかったからな。しかし見れば無理そうだとわかりそうなものだが職員に取ってもらえばよかったんじゃないのか?」
「それは、そうなんですけど皆忙しそうにしとりますしそんな中私がわざわざ声をかけても迷惑にならへんやろかと思ってしまいまして。」
その少女の健気さに興味を惹かれつつ、彼女に少し手伝ってもらうことにした。
「ここの人たちからすればそれが仕事なんだし遠慮しなくてもいいと思うが。まぁ、正直こちらとしてもちょうどよかったよ。俺もちょっと困ったことがあってね、助けてほしくて。」
「困ったことですか?お礼もかねて何でも言うてください。といっても私にできることなんてあんまりないんですけど。」
「そんなに難しいことじゃないから大丈夫だと思う、実はこの街に来たばかりで何も知らないからこの街について色々調べようとしてるんだけどどう調べればいいのかなーってな感じに困ってるんだよ。」
「それなら任しといてください。この図書館の事なら大体わかっとります。」
「そいつは心強い。じゃあ車椅子は俺が押すから案内を頼むよ。」
「はい。そういえばなんてお呼びしたらええですかね?」
「あぁそういえば自己紹介がまだだったか、俺はリュウ、リュウ・テスタロッサだ、よろしく。あと敬語は使わないでいいぞ、っていうか敬語じゃない方が正直楽だ。変えたくないなら別にいいんだけど。」
「私は八神はやていいます。ほんならリュウさん、よろしゅうお願いします。敬語はなるべく使わへんようにするってことでええでしょうか?」
自己紹介を済ませ多少砕けた口調になったことに満足しはやてを伴って図書館内へ繰り出す。
その後はやての助言の甲斐あって海鳴の正確な地図やこの国の仕組み、最近起きた不思議な事件等の情報が集まったため、机に向かい整理を始める。ちなみにその横でははやてがさっき取ってあげた本を読みながら時おり此方を伺っている。
「なぁ、リュウさん。」
「ん、どうした?」
資料から目をあげずに返答する。一見まともに聞いていないように見えるが本人としてはマルチタスクを使ってちゃんと聞いているため対応しているつもりである。
「こっちに来たばっかやってのはわかったんやけどなんでこんなこと調べとるの?」
「ちょっとこの街で探し物があってね、探すにしても何も知らない町をうろうろするよりかは調べてからの方がいいかなって思ったんだよ。」
「探し物ってどんな物やろか?ひょっとしたら私が解るかもしれへんしどんなもんなんです?」
「いや、大丈夫だよ。それにこの街に元からあった物じゃなくて最近この街に散らばったらしいから多分解らないと思う。」
あまり色々聞かれても魔法の事について言えないため下手に突っ込まれないうちに話題を変えようと試みる。
「俺の事なんか聞いても面白くないだろう、むしろはやてこそこんな時間に学校じゃなくてここにいるってのはどうなんだ?」
「うーん、所謂自宅学習って扱いやね、事故のせいで両親が居らんようになってもうて、その上でこの足やろ。せやから学校は行ってへんねん。まぁ今では誰にもなんも言われんと好き勝手できる時間を楽しんどるで。」
「はやて……」
その言葉の中に上手く隠された寂しさを感じとり、ここで初めて資料から目を上げはやてに向き直る。
「無理はしなくていいんだぞ。誰だって寂しくなるもんだ、まだまだ子供のはやてなら尚更だ。そういう時は掛かり付けの先生だとか周りの信頼できる人、なんだったら俺でも構わないからちゃんとワガママを言った方がいい。」
「せやけど、そんな事したら迷惑かけてしまうやんか。」
「迷惑…迷惑ね。確かに一切知らない子供が急にワガママ言ってきたら何だコイツ!?ってなるだろうけど今回俺が言ったのはちゃんと関係を築けてる相手だぞ、だったらワガママくらい言ってもいいんだよ。それともはやての周りにはそんな冷たい人しかいないのか?」
「そんなことあらへんよ!皆とってもええ人達で…」
「だったら大丈夫だろ、そんないい人達ならきっと安心だ。」
「それやったらリュウさんにもワガママ言ってもええの?」
「俺か?もちろんいいに決まってるだろ。あー、でも都合が悪かったりしたら聞けない場合はあるかもしれん。その時はすまないんだが。」
「それは当たり前や。でもそやったら今ワガママ1つええか?」
「今か?別に構わないが。」
「じゃあ連絡先を教えて欲しいんよ、せっかく会えたのにもう会えるか分からないなんてもったいないやないですか。」
「連絡先か…明日また同じくらいにここに来れるか?」
「明日ですか?でもなんでわざわざ明日に、ケータイで構わへんのに。」
「実はケータイ持ってないんだよね。だから一回家に帰って電話番号確認してこないと連絡先がわからないんだ。」
「それは……しゃあないな。家電でも教えてくれるんなら嬉しいわ。」
「じゃあ、俺は一旦家に帰るわ。」
そう言ってリュウは資料を片付け始める。
「もう帰ってまうんですか?」
「あぁ、集めた情報を整理して足りなかった部分をまた明日調べようと思う。」
「もう帰るんやったらこの後家に来ませんか?お礼もしたいしたいですから。」
「あー、気持ちは有り難いがそれは今度妹も一緒に行かせてもらってもいいかな。年も同じくらいだしきっと仲良くなれると思う。」
「妹さんがおったんか、それやったら一緒の時に是非。」
「おう、それじゃあまた明日な。」
「待っとりますからね。」
そうしてはやてと別れ図書館を出たリュウは少し早いが家路についていた。どうやら学校の下校時間と被ったらしく前を二人の小学生が歩いていた。
それを眺めながらフェイトが学校に行っていたらどんな感じだったろうか、等と考えていると突然目の前の少女達のすぐ横に車が止まり中から現れた男達によって二人は車のなかに押し込められてしまった 。
そして運の悪いことにリュウは目の前で起きたことに呆然としていると男の一人と目が合いそのまま一緒に捕まり車に押し込まれてしまった。
「ちょっ、どういうことだこれッ!?」
「あんな場面に居合わせるなんて運が悪かったな坊主。恨むなら自分を恨めや。」
そう言われ状況を確認するために周囲を見渡す、車種はのせられる前に見た限りだと大まかにワンボックスとしかわからないが内装も外から見た通りで3列シートで運転席と助手席に一人ずつ、二列目に男が三人、三列目には自分の他に先ほど押し込まれていた少女2人、金髪で気の強そうな少女と紫がかった髪色のおとなしそうな少女だ。二人とも身なりから育ちのよさが窺える。
そうしてようやく自分の置かれた立場を正確に理解する。
「なるほど、巻き込まれたか。」
「何だ坊主、やけに落ち着いてるじゃないか。」
「ほんとはふざけんなって気持ちしか沸かねぇが隣二人がやけに落ち着いてるから騒ぐに騒げなくてな。お前ら本当になんでそんな落ち着いてるの?」
「うっさいわね、巻き込んじゃったことは悪いと思ってるけどちょっとは静かにしてなさいよ。」
「普通は喚きたててもおかしくないところを落ち着いてるだけマシだと思うんだけど肝が座ってんなぁ…」
そうしてたまに前の席の男に怒鳴られつつ隣の少女と会話をしていると目的地についたらしく車が止まった。
「ついたぞガキ共、降りろ!」
「まったく手荒い扱いだ、手違いで連れてこられただけなのに。」
「だからこそ最初に殺されるとしたらあんたよ。」
「やめてくれないか、それだけは考えないようにしてたのに。」
「2人ともやめようよ。」
「おい、なにグダグダやってやがる。早く来い」
「後ろ手で縛ったりしなきゃもう少し歩きやすいんだがなぁ…」
「いくら聞こえないように小声で言ってるとしても本当にあんたいい根性してるわね。」
男達に連れられて廃ビルの三階ほどの部屋の壁際に入れられる。
そこにはスーツ姿の男達が3人居り、全員が拳銃で武装をしていた。
(全員ご丁寧に質量兵器で武装か、金持ちの娘を2人も誘拐してるんだしきっと他の部屋にもっと戦力控えてるんだろうなぁ……2人を守りながら倒すのはちょっと無理臭いな。)
そんな事を考えていると金髪の少女がリーダー格らしき男と言い争いを始めていた。
「喧しいガキだ、用があるのはそっちの小娘だけなんだよ!」
「どういうことよ!なんですずかがッ !?」
「何だ知らなかったのか、そいつは人間のふりをした「やめてッ!!」いいや、やめないねぇ。コイツは夜の一族っつー吸血鬼のバケモノなんだよ。お前はずっとソイツにだまされてたわけだ。俺達はコイツを連れてこいって依頼を受けてきた、つまりはあとの2人はどうしようが俺たちの勝手ってわけだ。」
「勝手なこと言ってんじゃないわよ。結局すずかはすずかじゃない!」
その話を聞きながらバレないように両手を縛っていた縄をほどきこっそり魔力を練っていた。
(まったく腐ってやがるぜ、あいつら。それに比べてあの子達はいい子だ、どうにか助けなきゃならん。閃光玉がわりに魔力でフラッシュをたいて薄く電気変換させた魔力も乗せれば痺れて反射的に引き金を引くこともないだろう。後は二人を連れてどうにか逃げおおせれば…)
男達は都合よく3人から少し離れた所でこちらを見ている。
そこで2人に声を殺して合図で目を閉じるように伝える。そして隙を見て小声で合図を出し魔法を発動させる。
「今だ。覇王断空拳ッ!」
「えっ!?」「きゃあっ!」
振り返り壁に向かって断空拳を放ち壁を砕き2人を抱えて穴から飛び降りる。
(とっさに飛べなくてもいい、落下のスピードを落とせれば十分ッ!ハバキリッ!セットアップ!!飛行魔法発動ォ!)
「っと、どうにか着地成功。」
「ちょっと、どうなってるのよ?」
「いいからずらかるぞ。」
「ずらかるって何処に?」
「逃げるときに他の階も騒がしかった、多分お前らの家のどっちかが突入隊でも寄越したんだろ。ほとぼりが覚めるまでその辺に隠れてりゃ問題ない。」
そう言ってビルから少し離れた地点までやってきた。
「で、まさかこのままここに隠れてろって訳じゃないわよね。」
金髪の少女が不機嫌そうに公園の茂みから言う。
「そのまさかだ、逃げてきた残党に人質にでもされたらたまらん。それとも警察にいくか?そうしたらその子の事も洗いざらい言わなきゃならなくなるが。」
「そんな事まで気にしてくれてたんですか!?」
「ぐぬっ、わかったわよ。あんたも一緒にいるのよね?」
当然そうだろうと言わんばかりにそう聞いてくる少女に あっけらかんと答える。
「いや、俺は帰るぞ。もともと無関係なのに巻き込まれただけだし。」
「なっ!」
「それじゃあな、無事を祈ってるぞ。」
そうして2人をおいて今度こそ家路につくもやはり放っておけずこっそり軽めのフィールド系魔法をかけておいた。
一日でこなすイベントじゃねーなこれ
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初陣、クモと剣と覇王の拳
昼過ぎ頃、リュウは郊外の森へ向かって街中を爆走していた。
というのも図書館ではやてに拠点の電話番号を教え、会話をしながら調査を継続していた時にフェイトからの念話が入りこうして慌てて現場に向かっているのだった。
「しっかし早速ジュエルシード発見とは幸先がいい、やはりこのやり方で間違いないな。」
昨日帰ってからフェイト達は待ち全体に大まかなエリアサーチをかけおおよその位置を確認し、それをリュウが調べた地図と照らし合わせることで位置情報を補足した。予定では今日は何ヵ所か判明している大まかな位置について調べ、具体的にありそうな場所を見つけるつもりだった。が、すでにその場所に何があるのか判明している場所である郊外の森へ探索に向かっているフェイトからジュエルシード発見の報が来たため切り上げて向かっている。
「さてと、ついたか。」
「あっ、やっときたかい。」
「すまん、結構またせちゃったな。」
「そんなことないよ、こっちが急に呼び出しちゃったんだし。」
「こっちが見つけたら知らせろって言ったんだしフェイトは気にしなくていいよ。ところでジュエルシードはアレか?」
会話を交わしながらリュウは目標を見据える 。その姿はアルフの狼形態を二回りほど大きくそして明らかにこの世界の生物ではないと一目で分かるほどに異形化した獣であった。
「野性動物に取り憑いたか、ちょっと厄介だな。まぁいい、俺がやるから結界だけ頼む。」
「ちょっとリュウ!言いにくいんだけどリュウはその…魔力も少ないし、大丈夫なのかい!?」
「兄さん、私も戦うから無理はしないで。」
「二人とも心配してくれるのは嬉しいんだけど流石にそこまで言われるほどじゃないぞ。時の庭園でも技の完成を優先してあんまり実戦訓練をしてなかったからな…肩慣らしにはちょうどいいさ。」
「本当に大丈夫なんだね?危なくなったらすぐ割って入るからさ。」
「兄さん、頑張って。」
二人からの過保護気味な激励を背中に受けジュエルシードの暴走体に近づいていく。向こうもようやくこちらに気付き喉を唸らせる。
「やれやれ、信用ないなー俺。まぁ仕方ないか。」
呟きつつ頭の中で戦闘プランを組み立てていく。一方暴走体もいつでも飛びかかれるように構えこちらを睨み付けていた。
「隙を見せたらガブリってか、かといって殺してしまうわけにもいかないから今回はハバキリはあまり使わない方が良さそうだな。ならば仕方ない、カートリッジシステムにまだ不安があるうちはあまり使いたくなかったんだけどな。アガートラーム!セットアップッ!」
『了解した、マイスター。』
奇妙な事にアガートラームは他のデバイスと違いリュウ達が普段使っている言語を話したがリュウはそれが当たり前であるかのように気にせず暴走体を睨みつけている。
そして展開されたアガートラームが装着されバリアジャケットが展開される瞬間、暴走体が唸りをあげ飛び掛かってきた。
「グルゥラァァァッ!」
「くっ、ネッツバインド!」
『Netz Bind』
リュウが叫ぶと共に展開された直後のバリアジャケットの袖口から魔力でできた蒼いクモの糸の様な物がが発射され近くの木の幹に張り付く。その糸を引きながら跳ぶ事により通常の跳躍より早く強く跳べ結果的に暴走体の奇襲を回避することに成功した。
「間一髪ってとこだな。だがあの程度のスピードなら充分見切れる。」
木の枝に立ちリュウは暴走体を見下ろす、その攻撃によって抉れた地面を見てもし自分に当たっていたらと考え内心冷や汗を垂らすもそれを誰にも気取らせないよう振る舞う。
『マイスター、見切れるのならここまで大きく避けなくともカウンターを決めてしまえばよかったのでは。』
「うるさいぞ、とりあえず最初は確実にかわした方がいいだろ。」
「グルァァァ゛ァ゛ァ゛ッ!」
『マイスターっ、来るぞッ!』
「分かっているッ!」
足場である枝から足を離し幹を蹴り勢いをつけて相手に突っ込む。
「オラァッ!」
「グギャァァァッ!」
暴走体の鼻っ柱に渾身の飛び蹴りをかまし、その反動で距離をとり相手に手を向ける。
『Netz Bind』
蹴り飛ばされ勢いで地面を転がりふらついていた暴走体が此方へ向き直ると同時にその目を魔力の糸が覆い視界を奪う。
「ヴァァァァァァアッ!?」
「近くには神社?だったか、があるしコイツを人の居る方へは万が一にも行かせちゃ不味い。一気に終わらせる!」
顔に張り付いた糸を剥がすため暴れている暴走体へ肉薄し渾身の一撃を叩き込もうとする。がしかし視界が奪われているにも関わらず暴走体は接近した位置を正確に把握し尻尾を叩きつけ吹き飛ばす。
(油断した、視力を奪おうとも残りの感覚で索敵を行えるとは……)
焦ったが故に攻撃には失敗してしまったがそれによって得られた情報もあった。
それは相手は視覚のみに頼らず嗅覚、聴覚によって大体の位置までは分かるであろう事。そして爪や牙ばかりに目が行っていたが尻尾も警戒すべき武器であった事である。
だがそれでも視覚が潰されている以上万全の状態であるはずもなく、その間に倒してしまう方が確実であるためリュウはある決断を下した。
「仕方ないな、ハバキリも抜くしかないか。」
『マイスター、斬り殺してしまう可能性があるからハバキリは抜かず私だけで戦うのではなかったか?』
「そうも言ってられん、それに直接ぶった斬らなきゃ多分大丈夫なはずだ。ハバキリ、セットアップ!」
現れた剣を大きく構え力を溜める。そしてそれを全力で振り切るとその剣圧によって衝撃波が発生しそれを魔力が包み半月状の刃が生まれる。
「蒼ノ一閃ッ!」
放たれた一閃は暴走体の脇腹へ直撃し暴走体は苦悶の声を上げる。
しかし今の一撃で怒りに意識を支配された暴走体は顔の糸を剥がすことを諦め鼻と耳で割り出したおおよその位置に向かって飛びかかる。が、リュウは落ち着き払いハバキリを地面に突き刺し拳を構え迎撃体制に入った。
「覇王……断空拳ッ!!」
「グギャァァァ゛ッ!」
無防備に吶喊してきた暴走体に最初に蹴り飛ばした時と同じ鼻っ柱へ断空拳をぶつける。暴走体は派手に吹き飛び木の幹にぶつかり漸く止まるがもはや意識を手放していた。
「さて、それじゃあ。ジュエルシード、シリアルⅩⅥ封印。」
『封印完了。』
ジュエルシードが抜かれた暴走体は体が縮みただの野良犬が倒れているだけとなった。どうやら息はある様なのでリュウは人知れず安堵のため息を漏らす。
封印したジュエルシードをハバキリに格納したところでフェイトとアルフが此方へやって来る。
「やるじゃないかリュウ。あたしは正直結構心配だったんだけどアレなら大丈夫そうだね。」
「当たり前だろ、仮にもお前のご主人様の兄だぞ。そんなに弱っちいわけがないだろ。」
「そんなことより兄さん、さっき尻尾でやられた所は大丈夫なの?結構痛そうだったけど。」
「確かに多少痛むがあんなもんはへいきへっちゃらだ。そもそも最初から一発は喰らうだろうと思ってたしな。」
「本当に大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だってば。信用ないなー。」
このままではフェイトがいつまででも心配を続けそうだと判断したアルフは別の疑問をぶつけてみる事にした。
「そういえばリュウのデバイスは喋ってる言葉がバルディッシュと違ったけどあれは何でなのさ?」
アガートラームが一般的なデバイスの言語と違った点を指摘する。
「あー、あれな。戦闘中は可能な限り魔力をセーブしながら戦わなきゃならないからそっちの方に頭を全力で使ってるんだよ。だから普通デバイスが使う言語をいちいち頭の中で翻訳してる余裕がないってんで最初からこっちの言語にしてるんだよ。」
「リュウも苦労してるんだねぇ。だったら無理に戦わなくてもいいんじゃないのかい。」
「そういうわけにもいかんだろう。既にフェイトには苦労かけてるのにこれ以上俺だけ楽するわけにはいかないさ。」
「そんなこと気にしなくていいのに。兄さんが調べてきてくれた情報はちゃんと役に立ったんだから。」
「ま、そう言ってもらえると助かるけどさ。」
そうして時間は流れ意識を失っていた犬もアルフが結界を解いたことでいつの間にか何処かへ行ってしまっていた。
日も傾いてきたためそろそろ帰ろうという流れになり三人はその場を後にする。
こうして地球に来て二日目の日が暮れていく。三人が確保したジュエルシードは未だ一つ。
魔法解説
Netz Bind (ネッツバインド)
クモの糸のような糸を出すタイプで近いものだとチェーンバインドに近いが、こちらは射出した糸の操作等ができないかわりに燃費がよく、弾性と粘性を付加でき、相手を縛るだけではなく張り付けるといった使用法もできる。
また、先端を張り付けロープのように扱うことで森やビル街では立体機動による擬似的な空戦も可能とする等使い勝手のいい魔法である。
余談だが当初はWeb Bind(ウェブバインド)とするつもりだったがベルカ式=ドイツ語という事でクモの巣のドイツ語であるnetzからとった。
蒼ノ一閃
ハバキリを全力で振るうことによる剣圧にて衝撃を飛ばし、それに魔力を纏わせることにより中~遠距離攻撃として使えるようにした。
剣圧による衝撃がこの技の核となっているため魔力効率は純粋な魔力砲よりはいいが斬撃を飛ばすということはそれだけの強さで剣を振るうということなので当然隙が大きく牽制には使えないため中距離から相手に一撃を入れたい時用のピーキーな魔法となっている。
元ネタは戦姫絶唱シンフォギアから。
アルフに言っていた戦闘中に頭を全力で使っている内容
収束魔法の理論を元に大気中の魔力を自身が使用する魔法へ付加することにより魔力効率を少しだけ高めたり威力を上げたりする事ができる。とはいえリュウに収束魔法の適正は無いので効率はあまりいいとは言えず自身の頭でできるキャパ限界までやってやっと使用魔力を5%軽減できる程度であり有用な技術と言うよりはあくまで悪あがきの一つである。
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ライバル!?白き少女とフェレットもどき
リュウ達が海鳴に来てから早くも二週間程の時間が流れていた。
その間に手に入れたジュエルシードは野良犬戦とプールで発見した物の二つである。
始めこそ開始二日で幸先よく手に入れたこともあり以外と早く帰れると思っていた三人だったが中々思うように見つからず、反応があっても現場に到着するとジュエルシードの暴走によるものとみられる惨状が広がっているものの肝心のジュエルシードが見当たらない。といった事態もあったため自分達以外にもジュエルシードの蒐集者が居るのではないかと考え焦っていた。
故に今回のジュエルシードは逃すわけにはいかない。そう決意してリュウとフェイトの二人は反応のあった屋敷の庭を付近の建物の屋根から見渡していた。
「それにしてもでかい屋敷だな、一体どんな悪いことをすればこんな家に住めるのかね。」
「そんなこと言ったら私たちの家はもっと大きいのに。それより本当にアルフは今回連れてこなくてよかったの?絶対に回収するんなら人数は多い方がいいと思うんだけど。」
(家のサイズとの関係はともかくうちは悪いことは本当にしてるんだけどなぁ…)
「アルフのことなら問題ない。俺達以外にジュエルシードを蒐集してる連中が居る可能性が出てきた今、重要なのは先手を打つことだ。既に反応を検知しながら取りのがしてしまったジュエルシードが二つもある。つまり最低でも相手は二つのジュエルシードを確保しているわけだ、だからこそ相手より迅速に行動し回収するために俺達が回収に向かっている間にアルフには他のジュエルシードの探索を任せているんだ。」
「だったらなおさらアルフのためにも今回は手にいれなくちゃね。」
会話をしながら庭を見渡しているとその一角からジュエルシードが発動した気配がした。
二人は他の蒐集者に先んじるため急いで現場へ向かった。
「うまいこと結界に紛れ込めたな、だがこれではっきりした。やっぱり俺達以外にもジュエルシードを集めている奴等が居る。」
「じゃあ戦うことになるの?」
「展開次第じゃそうなるだろうな。」
そうして木々の中を進んでいるとジュエルシードを発動させたであろう猫が見えてきた。
しかしその見え方がおかしかった。木々の上から顔を覗かせる姿は子猫と呼ぶにはあまりに巨大すぎるナニかであった。
「に、兄さん。あれはいったい……」
「た、多分大きくなりたいという猫の願いをド直球に叶えた結果……なんじゃないか。」
猫のあまりの異様さにそのすぐそばに居る少女と小動物まで気に止める余裕はなかった。
「なんか封印のためとはいえ攻撃するの少し可哀想だね。」
「あの見た目じゃあな、デカいだけでただの猫だし罪悪感は湧くよな。」
「でも仕方ないよね。…………ごめんね。」
そう小さく呟いてフェイトはバルディッシュを猫へ向け一発の魔力弾を放つ。
更にバルディッシュに指示を出し魔力弾を掃射する。
「バルディッシュ、フォトンランサー。電撃。」
『Photon Lancer. Full auto fire.』
ばらまかれた魔力弾は猫へ直撃し猫は苦しげな声を上げる。
それをすぐそばで聞いた少女は何かを決意した目になり紅い玉を取り出す。
「レイジングハート、お願い。」
『Stand by. Ready. Set up.』
杖型のデバイスを持ち純白のバリアジャケットを身に纏った少女は靴より魔力の翼を生やし飛び上がる。
『Flier Fin.』
その翼で猫の背中に飛び上がるがそこにフェイトの第二射が迫る。
『Wide Area Protection.』
防御魔法にて辛くもフェイトの攻撃を防ぎきるがフェイトが即座に放った追撃が猫の足下に直撃し倒れてしまう。が、しかし少女は猫の背中から飛び降り事なきを得る。
互いにデバイスを構え向き合う二人。
対峙する二人の魔導師を尻目に隙をみて猫からジュエルシードを抜き取ろうとする影が一つ。
しかしその影を阻止せんと一匹の小動物が立ちはだかる。
「そっちには行かせない!」
「使い魔か?悪いが構っている暇はない。」
「させるか!チェーンバインド。」
横を通り抜け猫のもとへと行こうとしたリュウに複数の緑色の鎖が迫る。
初撃は辛くも躱すが何本もの鎖によって次第に逃げ場がなくなっていき遂に捕らえられてしまう。
「ぬかったか!主人であろうあの魔導師の腕から使い魔の脅威度は低いと踏んでたんだがな。」
「生憎だったね、そもそも僕は使い魔じゃない。」
「ならわざわざ動物の姿でいるなよな…」
「こっちの方が都合がいいんだよ。僕の事より君達は何でジュエルシードを集めているのさ?」
捕縛に成功したことによりひとまず安心と考えたのかフェレットの少年はリュウに質問を投げ掛けてきた。
(このバインド中々固いな、壊すのは骨だ。予想以上にやるようだしあっちの加勢に行かれる方が面倒だしあっちの決着がつくまでこっちに釘付けにしとくか。)
目的を早々にジュエルシード奪取から時間稼ぎへと切り替えたリュウは都合がいいとばかりに会話に飛び付いた。
「何でってそりゃ必要だからに決まってるだろ。でなきゃこんな危険な真似はしないさ。」
「そもそもロストロギアが必要になる事態ってなんなのさ!?」
「人が生きてりゃそりゃたまには道理を覆してでも無理を押し通したくなる事が起きるだろう。ジュエルシードならそれができるかもしれない、ただそれだけだ。それに都合がいいことにジュエルシードはまだ管理局に指定されてないから次元震とかを起こさなきゃ違法使用で捕まることもまずないはずだしな。」
具体的な言及を避けながら一応間違っていない筈の事だけを話すリュウ。
またリュウの言った通りジュエルシードは一度ミッドチルダに送られ、そこで管理局に提出し本局に送られてそこで審査の上ようやく指定ロストロギアに認定される予定であったが輸送中の事故で地球にばらまかれてしまったため、今はまだ管理局による指定ロストロギアではなくグレーではあるが立件しづらい案件となりよっぽどの事態を引き起こさない限りは白という扱いとなる。
「詳しく話してもらうわけにはいかないかな?」
「生憎だがそれはできないし、する気もない。」
「そうかい、残念だよ。」
フェレットの少年は残念そうにそう言うが気を取り直したようにまた質問をしてきた。
「ならせめて名前だけでも教えてくれないかな。」
「人に名を聞くときはまず自分からと親に教えられなかったのか?」
リュウは少しでも時間を稼ぐためにお決まりの言葉を返す。
「そうだね、じゃあ僕の名前はユーノ・スクライアだ。で、君は?まさかあんなことを言っておいて自分は名乗らないなんてことはないよね。」
「そのまさかだ、残念ながら俺は親にそんなことを言われたことはなくてね。」
「なっ!?卑怯だぞ!」
「そうは言われても最初から答えるなんて言ってないしな……っとあっちの決着、そろそろつくみたいだぞ。」
リュウは縛られたままフェイト達の方を顎で指す。
ユーノはその声につられてそちらに目をやりちょうどフェイトにやられそうになっている少女を目にする。その隙にリュウはなんとかバインドを破ろうと試みていた。
(普通の筋力じゃ到底破れないが脱力状態から瞬間的に全力を出せばどうにか破れるかもしれん。チャンスは今だけ、やってみるしかないか。)
「だらぁッ!」
「嘘ぉっ!?」
「悪いな、ホントだ。」
縛られた状態で全身から力を抜き、足先から下半身、上半身、腕へと力を伝えて行き拳を振り放った事により瞬間的にバインドが耐えられる力を超え引きちぎることができた。
「すまないが行かせてもらうぞ。ツレがジュエルシードを確保したんでな。」
そう言ってフェイトの方へ向かおうとするが何か思い直したかのようにユーノへと向き直った。
「リュウだ。」
「へっ?」
「名前だよ名前。さんざん時間稼ぎに付き合わせちまったからな、これくらいは教えてやるよ。そのかわり、もう邪魔すんなよ。」
「それは約束できないよ、僕たちだって譲れないんだ。」
互いに譲る気の無いことを確認しあったところでリュウが慌ててユーノに呼び掛ける。
「それより助けにいかなくていいのかよ。あの高さから気絶したまま落ちたら無事じゃすまないぞッ!」
「なっ!しまった、なのはーッ!」
「なるほど、あの少女はなのはって名前なのか。」
なのはを助けたユーノを尻目にリュウはジュエルシードの封印を終えたフェイトに空中に足場を作って近より話しかける。
「流石だな、よくやったよ。」
「ありがとう、兄さん。でもまだあの子に経験が無かったから勝てたけどこの先成長したら危ないかもしれない。」
「確かにかなりの潜在能力はあるみたいだがフェイトだってかなりのもんだ。そう簡単に負けたりはしないさ。」
「そうだよね、ありがとう兄さん。」
「じゃあ回収もすんだしさっさと帰るか。」
「そうだね。」
『Divine Buster.』
そうして帰ろうとした瞬間、リュウはフェイトの背中に迫る一筋の光と微かに聞こえた電子音声に気付き咄嗟に庇うように前に出る。
(不意討ちッ!?いや、消えかけの意識で負けたことに気づかず撃ってしまっただけか。いや、今はそんなことはどうでもいい!砲撃を逸らせるかはわからんが後ろにはフェイトがいるんだ、やるしかないッ!)
「旋衝波ッ!」
どうにか投げ返すことにより桜色の砲撃がU字に曲がりなのはから少し離れた地面に着弾する。
「ったはぁー、どうにか成功できたか。しかし投げ返すので精一杯で狙いなんかつけられないか、これは鍛え直さなくちゃいかんな。」
「兄さん!大丈夫!?」
「大丈夫だから心配すんなって。それよりさっさと帰ろうぜ。」
「でもまさか不意討ちしてくるなんて…」
「ありゃ多分朦朧とした意識で負けたことに気づかず撃っちまっただけだろ。気にすんな。」
「そう…だよね。」
そうしてその場を後にするフェイトとリュウ。ふとユーノに目を向けてみると時折こちらに申し訳なさそうな目を向けながらなのはを心配していた。
これよりジュエルシード蒐集は争奪戦となる。
魔法解説
空中に作った足場
リュウは障壁魔法を空中に座標固定させ足場として使っているが空中戦などに使おうとするとある程度以上の物を相当数出すことになり魔力消費がかなり厳しいものとなるため空中で立ち止まる時に足場として使うのみに留めている。
Count the JewelSeeds!
現在魔導師達が持っているジュエルシードは?
フェイト3個
なのは4個
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出立ッ!!湯のまち海鳴温泉
白い魔法少女、なのはとの闘いから数日がたち世間ではいよいよ明日から連休という頃。
その日は早めに探索を切り上げ帰りに寄った店で買ったシュークリームを食べながらアルフからの情報により下調べで集めた情報を基作った3Dマップ上で次のジュエルシードの場所に大体の検討をつけていた。
「えっと、この辺りは海鳴温泉…温泉街か。」
「その温泉ってのはなんなのさ?」
温泉を知らないアルフがリュウに問いかける。
「病気や怪我にいいとされる効能のある地下から湧くお湯を使った風呂だな。」
「じゃあその温泉街ってのは何?」
今度はフェイトだ。家族で出掛けた記憶はかなり古いものばかりな上この世界の事をあまり調べていないフェイトにはわからないのも当然の事であった。
「温泉を引いてそれを売りにしている宿が集まっている地帯だな。どうやら色々あるらしい。」
パンフレットを読みながら答えるリュウ。
「まぁでも場所がわかったならこれまで通りパパッと行って回収してきちゃえばいいじゃんか。」
「アルフ、今回はそうも簡単にいかないぞ。こうも建物や人が多くて入り組んでちゃ正確な場所の特定は困難だし何より人目が多いから日中は入れない場所が多すぎる。だからプランとしてはどれか宿に泊まって日中はサーチャーばらまいて探索、夜になったら回収という流れにするのが妥当だと思うんだが。」
そこで一度言葉を切る。
妙な所で黙ったリュウにいぶかしげな顔を見せるフェイトとアルフ。
「なにか問題でもあったのかい?」
「あぁ、どうも世間では明日から連休が始まるということで宿はどこも予約で埋まってるらしいんだ。」
「えっと、つまり?」
「つまり今からとれる宿は無い。」
「ちょっとちょっと、どうするのさ。泊まれなかったらどうしようもないじゃんか。」
「正直言って俺もお手上げだ、どうすりゃいいんだか。」
丁度連休が重なること、そして三人とも宿をとることに不慣れなことが彼らの不幸であった。
おおよその場所かわかっていながら行動できない歯がゆさに三人が頭を抱えていると突然、これまで殆ど鳴ることのなかった拠点の備え付け電話が鳴り出した。
「電話か、ちょっと出てくる。」
「電話なんて珍しいけど誰からだろう?アルフ、わかる?」
「さあねぇ、でもここの番号を知ってる人ってのはかなり限られてくると思うけど。」
「そっか。ねぇ、アルフ。電話が長そうだったらこのあまった最後の一個、二人で分けない?」
「あたしもいいのかい?じゃあ電話が終わる前にさっさと食べようか。」
残されたフェイトとアルフは顔を見合わせいったい誰からなのかと不思議に思うが、電話が長引きそうなのでラスト一個のシュークリーム二人で食べてしまうことにしていた。
一方、電話の応対をしているリュウはと言うと。
「はい、もしもし。」
『えっと、はやてです。ちょっと聞きたいことがあるんやけど、時間大丈夫やった?』
「あぁ、大丈夫だが。どうかしたのか。」
『明日から三日間ほど暇やったりせえへん?』
「明日から?そりゃまたどうして?」
『実は商店街の福引きで温泉旅館の二泊三日の宿泊券を貰えたんやけど、一緒にいく相手が居らんくて。それでもしよかったら一緒に行かれへんかなーと思ったんよ。』
「なるほど。」
少し考え込むリュウ、しかしすぐさまあることに考えが及ぶ。
「その旅館ってのは何処の温泉だ?」
『へっ?海鳴温泉いうところやけど。どうかしたん?』
「あぁいや、こっちの事だ何でもない。それともう一つ質問なんだがその券で何人まで行ける?」
『見る限り四人まで行けるみたいやから妹さん誘うてどうやろうかと思っとったんやけど。』
四人までという言葉を聞いてリュウは声を殺して密かにガッツポーズをした。
「なるほど。なぁはやて、すまないんだがもう一人追加して貰ってもいいか?実は親戚の姉さんが丁度来ててさ、アルフっていうんだけどいいかな?」
『アルフさん……大丈夫やけどもしかしてその人猫たべたりせえへんよね。』
「猫!?いやそんなことしないが。まぁとりあえず明日から温泉に連れていってくれるってことでいいんだな?」
『そやねー、じゃあ明日の朝駅前で合流って感じで頼みます。』
「明日の朝、駅前だな。了解した。」
『そんなら明日楽しみにしてるわ。』
「あぁ、また明日な。」
そうして電話を切りフェイト達に明日から二泊三日で温泉に行くことを伝える。
「じゃあ温泉に行けるの?兄さん。」
「あぁ、これで探索が楽になる。」
「はやてって言うとたしかリュウが図書館で知り合った子だったっけ。」
「あぁそうだ。感謝しろよー、あいつのお陰で行けるんだからな。」
「それはそうだけど大丈夫なのかい?その子を巻き込んじゃって。」
「日中はエリアサーチ飛ばすだけに限って夜に回収に行けば大丈夫だろ。多分だが。」
「そういうもんかね、それじゃああたしは早めに寝させてもらうよ。」
「シュークリームはいいのか?三人で分けようと思ってたんだが。」
「あたしは遠慮させてもらうよ。それじゃあ、おやすみ。」
「おう、おやすみ。なんだ、シュークリームいらないのか。それじゃあ二人で食おうぜ、フェイト。」
「わ、私もいいや、おやすみ!」
「あぁおやすみ、っておい。本当にいいのか?……行っちまったな、仕方ないから一人で食べるか。」
そこまで来てリュウは一つの違和感を感じ、慌てて包みを覗く。
「しまった、やられたか。せっかく一個おまけしてもらえたのに……」
二人がそそくさと寝床へ退避した理由を理解しがっくりと肩を落とす。
しかし明日は朝から出かけるため何時までもそうしているわけにもいかず自分の持っていく荷物をまとめてから寝床へむかうのであった。
翌朝、昨夜に荷物をまとめるのをすっかり失念していた三人は慌てて荷物をまとめ待ち合わせ場所へと向かっていた。
「ほら、急げってば。早くしないとバスに乗り遅れるかもしれないぞ。」
「荷物まとめてたんだからしょうがないでしょ。」
「だいたいリュウが皆の分の荷物を纏めといてくれればこうはならなかったのに。」
「自分の荷物くらい自分でまとめろよ、何を持ってくか俺にはわからないんだし。だいたい真っ先に逃げたのは誰だったかな?」
「うっ、ソレを言われるとあたしは何も言えないね。」
「見えてきた、あのバス停だよね?兄さん。」
「あぁあれだ、走るぞ二人とも。」
ちょっとした言い合いをしながら小走りで向かっていた三人だったが目的地が見えてくるとダッシュに切り替え一気にスパートをかけた。
「おはようさん、朝からえらい元気やね。」
車椅子の少女はリュウ達を見つけ顔を輝かせ声をかけてくる。
リュウもやや息を切らせながら返す。
「おぉはやてか、おはよう。ちょっとゴタゴタしててな。」
「その子がはやてかい?リュウ。」
「そういえば紹介しなくちゃな。」
そう言ってリュウはアルフとフェイトに向き直り紹介を始める。
「この子が八神はやてだ、今回のスポンサーでもあるんだから感謝しろよー。」
「八神はやてです。よろしゅう頼みます。」
紹介に続きはやてはぺこりと頭を下げて挨拶をする。
リュウは今度はそんなはやてに向き直って残る二人を紹介する。
「で、こっちが妹のフェイトと親戚のアルフだ。フェイトは多分同い年辺りだし出来れば仲良くしてやってくれ。」
「フェ、フェイトです。よろしくお願いします。」
「フェイト~、そんなに固くならなくてもいいじゃんか。あ、あたしがアルフ、よろしくね。」
「さて、全員挨拶もすんだところでそろそろバスが来るだろうから行くぞー。」
とりあえず仲を取り持ち場をしきるリュウであったが疲労からかバスに乗り込んでからはうつらうつらとしておりその耳には時折はやてとフェイトの話す声が辛うじて聞こえるだけであった。
「そんな生活、寂しくないの?」
「そら最初は辛かったし寂しかったよ。せやけど遠い異国の地からやけどグレアムおじさんも見守ってくれてるし石田先生もよくしてくれる、リュウさんやっておる。それに今回はフェイトちゃんとアルフさんもおるんやから何も寂しくなんかあらへんよ。」
「はやては強いんだね。」
「そんなことあらへんよ、それにフェイトちゃんかて寂しいやろ。おるのに構ってもらえへんなんておらんのとはまた違う寂しさのはずや。」
「私は兄さんもアルフも居てくれたしリニスもよくしてくれたから……」
二人が心を通わせていることに安堵しリュウは微睡みに意識を預けるのだった。
大変お待たせして申し訳ありません。
やることが一杯の中先との統合性や、シーン間の繋ぎ方に悩み気づけばここまでかかってしまいました。次はもう少し早くあげれるよう努力いたします。
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命の洗濯、少女の選択
バスが停まり目的地へとついたことを告げるアナウンスにリュウは目を覚ます。
降りるために荷物を取ろうと辺りを見回すと隣の席で爆睡しているアルフが目に入る。
「まったく呑気なもんだ、なんて今回は俺も人の事は言えないな。」
そうぼやきつつアルフを起こし、はやてがバスを降りるのを手伝ってようやく四人が旅館に到着した。
「さて、目的地に着いたわけだけどどうする?まだ朝だし色々やれるが。」
その問いかけにフェイトとはやては特に考えてなかったのか顔を見合わせている。そこにアルフがあくび混じりに一つの案を出す。
「それだったら二組に別れて散策するのはどうだい?二日間それぞれ見て回って特によかった所に三日目全員で行くとかさ。」
アルフのその提案に疑問を持ったフェイトがアルフに念話で問いかける。
〈せっかく四人で来たのになんで二手に別れるの?〉
〈はやてを巻き込まないためさね、二手に別れればはやてと組まなかった方はジュエルシードの探索が出来るし、探索のためにはやてをほったらかしにしちゃう事もないと思ったんだけど駄目だったかい?〉
二人の念話を聞きながらリュウは話をまとめにかかる
「別れてか、いいんじゃないか。一塊で行動してると外湯ってのを全部回りきれないかも知れないが二手に別れれば回りきれるだろうしその中から特によかったところをピックアップして最後に皆でってのも効率いいしな。」
はやてもそれに同調し具体的なところまで話す。
「それやったら早いとこ荷物置いてタダで外湯巡りできるようになるっていうネームタグ借りてはよまわった方がええんやない?」
「そうだな、じゃあ方針も決まったことだしさっさとコンビ決めて回るか。」
「さて、こういう時に己の迂闊さを実感させられる……」
「私が迷惑かけてるんやからそんなこと言ったらあかんよ。」
「そうは言ってもこれはなぁ……」
二手に別れてから約数十分後、はやてとリュウの二人はとある温泉の更衣室の前で途方にくれていた。
何故このような光景ができたかといえば単純にはやての足の事を失念していたからである。
くじによって決まったリュウとはやての二人は一ヶ所目の温泉に到着したはいいがここであることに気付く、それははやてをどうやって温泉に入れるかである。
はやては女湯でリュウは男湯 、などと別々に別れてしまったら補助なしでは入るのが難しいはやてはどうしようもない。だがいくらはやての入浴補助という名目があれど異性の湯への入浴は11歳以下の児童に限るとの看板もあり、齢13のリュウがそのまま女湯に入れば袋叩き必至である。
そこで何かしら方法はないかと悩み今に至るという訳である。
やがてその状況を見かねたのかはやてはあることを呟いた。
「それったら私が男湯に入れば解決せえへんやろか。」
その一言はポツリと呟かれたものであれどリュウを慌てさせるには十分な威力があった。
「なっ、何言ってんだお前!いくら8歳児のちんちくりんだからってもう少し周りの目を気にしろよ。」
しかしその一言によってはやても意地になり反発する。
「こんな美少女捕まえて誰がちんちくりんやねん!私かて恥ずかし無いわけあらへんやろ。そやけどそれが一番やから言うてるんよ。」
細かいことさえ無視すれば実際その案が一番手っ取り早いことをリュウも理解しているためあまり強く出られない。
「自分で美少女言うな、まったく……本当にそれでいいのか?」
「かまへんよ、このまま温泉に入りもせず立ち尽くしてる方が嫌やし。」
はやてのその言葉により不承不承といった感じながら方針は決まり二人は更衣室へ向かっていった。
一方その頃、フェイトとアルフのコンビはサーチャーをあちこちにばらまきながら既に一風呂浴びており次の旅館で買い食いをしながら二ヶ所目の温泉に入ろうとしていた。
「それにしてもフェイト、凄い買ったね。」
アルフの言うとおりフェイトは浴衣を着て温泉まんじゅうや温泉卵のつまった袋を抱えて、食べながら歩いていた。
「あたしが言えたことじゃないけど歩きながらなんてあんまり行儀がいいとは言えないねぇ。それにそんなに食べて大丈夫なのかい?」
同じく浴衣を着たアルフのやや心配そう声にフェイトも食べる手を一旦止める。
「美味しいから大丈夫だよ、アルフも食べてみる?」
そう言ってアルフに温泉まんじゅうを一つ差し出すフェイト。
可笑しそうにしながらアルフはそれを受けとりほうばる。
「いいのかい?じゃあいただくよ。はむっ……結構いけるねぇ、あたしも買っとけばよかった。」
「ならいっぱい買っちゃったし一緒に食べようか。」
そうして温泉に入る前に買った分を二人で片付けようとしているとアルフの視界の端にバルディッシュに記録されていた映像で見た顔(確かなのはと言ったかか、)が映った。
「フェイト、先に温泉に行っててほしいんだけど。あたしもすぐに行くから。」
「別にいいけどアルフ、どうしたの?」
アルフは先ほどの場所を真っ直ぐ見据えながら何を見たのかを伝えた。
「ちょっと挨拶しにいってくるだけだから心配はしなくていいよ。」
「わかった、じゃあ温泉の中で待ってる。」
そうしてフェイトと一旦別れたアルフは少女たちの下へと向かう。そして声をかけた。
「ハァーイ、オチビちゃん達。」
最初はあくまで軽く明るく、しかしそこから徐々に因縁をつけるように中央のなのはにターゲットを絞る。
「ふんふん、君かね。うちの子をアレしてくれちゃってるのは。あんま賢そうでも強そうでもないし、ただのガキんちょに見えるんだけどなぁ」
唐突に年上の女性に絡まれた三人の少女はやや気圧されるも気の強そうな少女、アリサが二人を庇うように前に出る。
「ちょっといきなりなんですか?」
そしてなのはに小さく確認しアルフに言い放つ。
「なのは、知ってる人?……この子あなたの事を知らないそうですけど。」
その言葉に一瞬キョトンとしたあと大笑いを始めた。
「あっはははははっあはははっ。いやーごめんごめん、人違いだったかなぁ。知ってる顔によく似てたからさ。」
その様子になのはも安心し警戒を解く。
「なんだ、……そうだったんですか。」
「あっはっはっ、可愛いフェレットだねぇ。よしよーし、なでなでー。」
アルフはユーノの頭を撫でながら二人に念話を送る。
〈今のところは挨拶だけね。〉
〈〈ッ!?〉〉
なのはは突然の事に目を見開く。
〈忠告しとくよ。子供はいい子にしてお家で遊んでなさいね。おいたが過ぎるとガブッといくわよ。〉
言いたいことだけ言うとアルフはわざとふらふらとした足取りで去っていく。
それに憤慨したのはアリサだ。
「何あれ、朝っぱらから酔っぱらってるんじゃないわよ!」
「まぁまぁアリサちゃん、落ち着いて。」
すずかがアリサをなんとかなだめている間なのはとユーノはアルフが去っていった方を見つめていた。
「フェイト、おまたせ~。」
「アルフ?早かったね。」
温泉のふらふらとしたに合流したアルフは周りに聞かれないように念話を使いながら報告を行う。
〈見てきたよ、例の子。どうってことないね、フェイトの敵じゃあないよ。〉
〈そう、こっちもちょっと進展。ジュエルシードの位置が解ったから今夜にでも回収に行ける。だから後は夜までゆっくり出来るよ。〉
フェイトの報告にアルフは満面の笑みを浮かべ抱きつく。
〈ナイスだよぉフェイト。流石あたしのご主人様。〉
「さてそれじゃあのんびりするかねぇ。」
リラックスモードに入るアルフ、しかし気を抜きすぎて頭から犬耳が生えてしまう。
「アルフ耳っ、耳ッ!」
「おっとと。」
フェイトが小声で知らせるとアルフも慌てたように手で押さえ引っ込める。
視点は戻ってリュウ、はやてペア。
お互い羞恥心を殺して服を脱ぎ体にタオルを巻いたはやてをお姫様抱っこの体制で連れているリュウは髪と背中を洗ってやり(流石に他は自分で洗ってもらった)露天風呂へと向かった。
幸いにしてまだ朝だからか人は殆どおらず露天風呂に関しては貸切状態だったため知らない人間にジロジロ見られるような展開にはならずにすんだ。
「人が少なくて助かったな、これでやっとゆっくり出来る。」
「そうやね、これやったらそこまで恥ずかしないわ。そやけどリュウさん、ずっと私のこと抱っこしてくれてたけど大変やなかった。」
全身を伸ばし一息つけたところでふと気になったことを問いかけてみる。
「そんなことないぞ、これでも結構鍛えてるからな。それにはやてが軽かったってのもあるし。」
茶化しながら返すリュウ、しかし思い出したかのように一つ付け加える。
「後ちょっと頼み……ってわけじゃないんだけど出来ればさん付けやめてくれないか、どうにもむず痒くてな。」
「そうやったんか、それやったら…………リュウ君でどうや?」
「それだったらまぁ。」
新たな呼び名に納得いったのか全身を伸ばして疲れをほぐす。
「しっかし大きな風呂なんて初めてだがこれは気持ちいいな。」
「そやねぇ、風呂は命の洗濯ってのもあながち間違ってないんかもなぁ。」
二人でぐでーんと呆けたように休息を貪っているとふとリュウが聞き返す。
「命の洗濯?なんだそりゃ。」
「昔来とったヘルパーさんが言うとったんよ。事情知っとったっぽいから多分おじさんが寄越してくれたんかなぁ。」
懐かしそうに遠くを見ながら語るはやて。
それを見てリュウにもどこかわかる気がした。
「いい言葉だな。他にはなんかそういうのはあったりするのか?」
その言葉に少し考え込む素振りを見せてから口を開く。
「そうやなぁ……おじさんが落ち込んどる私を慰めるために言ってくれたやつなんやけど。」
そう前置きしてから問いかける。
「なぁ、リュウ君。何で人は落ちると思う?」
「問答か?そうだな……踏み外したから、では慰める言葉にはならんよな。」
「おじさんが言うてた答えは這い上がるため、やって。その言葉のお陰で今まで頑張ってこれたところもあるからおじさんにはほんまに感謝してるんよ。」
その言葉を聞いたときリュウの脳裏には深い穴の底から青空を見上げ這い上がろうとする映像がちらりと見えた気がした。
「はやてはそのおじさんが大好きなんだな。」
「お父さんの友達やったってだけでここまでよくしてもらえてるんやから当然やんか。」
その後も互いの話を続けるがいい加減のぼせるし他も行かなくちゃ勿体ないという事で動き出したのだった。
深夜、はやてが完全に寝たことを確認したリュウ達三人は起こさないように細心の注意をはらって部屋を抜け出し、日中にフェイトが発見したジュエルシードの位置へと向かうと到着したタイミングで丁度発動し、エネルギーの柱が天へと昇る。
フェイト達はまだ危険はないと判断しそれを観察していた。
「うっはー、凄いねこりゃ。これがロストロギアのパワーってやつ?」
「随分不完全で不安定な状態だけどね。」
「あんたのお母さんは何であんなもの欲しがるんだろうね。」
「確かに不安定だが制御さえ出来れば高純度なエネルギーの結晶体だ、使い道はいくらでもあるだろ。」
「だけど理由は関係ないよ。母さんが欲しがってるんだから手に入れないと。」
そう言って立ち上がり自らのデバイスに呼び掛ける。
「バルディッシュ、起きて」
『Yes,sir.』
バルディッシュが展開されると共にフェイトもバリアジャケットを纏う。
そしてそのままバルディッシュの斧の刃を象るパーツが反転し槍のような見た目になる。
『Sealing form. Set up.』
「封印するよ。兄さん、アルフ、サポートして。」
「任せろ。」
「へいへい。」
二人のサポートを得たフェイトは危なげなく封印を完了し、無力化したジュエルシードを手に取る。
「四つ目……」
丁度その時なのはとユーノも現場に到着し、ジュエルシードを持つフェイトを目撃する。
「あーららあらあらあら……子供はいい子でって言わなかったっけか。」
朝自分達に警告をしていった相手もいることに気付きより警戒を強める二人。
そんな状況でユーノは自身を鼓舞するかのように吠える。
「それを、ジュエルシードをどうする気だ!それは危険なものなんだ。」
しかしこれに応えたのはおちゃらけた口調のアルフだった。
「さあねぇ、答える理由が見当たらないよ。」
瞬間、アルフの纏う空気が変わる。軽い口調はそのままに明確な敵意を放ち、周囲の空気が重くなったかのように感じられる。
「それにさぁ、あたし言ったよねぇ。いい子でないとガブッといくよって。」
そのセリフと共に彼女の身体は変化を始める。
髪は伸び鬣と変わり尾は太く強くなり手足は力強く爪も鋭くなり牙もが伸びてくる。そして気づいたときにはそこには一頭の狼が立っていた。
「やっぱり、アイツあの子の使い魔だ!」
「使い魔?」
どうにか驚愕から抜けきるも聞きなれない言葉に思わず聞き返すなのは。
「そうさ、あたしはこの子に造ってもらった魔法生命、制作者の魔力で生きるかわり命と力の全てをかけて守ってあげるんだ。」
フェイトを庇うように前に一歩前に出る。
「先に帰ってて、すぐに追い付くから。」
「うん、わかった。無茶しないでね。」
アルフの言葉でフェイトは一緒に帰ろうとリュウの方を向く、しかしそれまで静観していたリュウが重い腰をあげフェイトとなのはの間に立ち塞がる。
「熱くなってるところ悪いが俺も残らせてもらおう。」
しかしユーノからしてみれば前回あっさり縛り上げられた相手でありそこまでの脅威と考えていいないのか、特に反応もせずにこちらを見据えている。
「なのは、ここで逃がしちゃダメだ。あの子をお願い。」
「そう簡単にいけるとは思ってくれるなよッ!」
しかしなのはが動き出すよりも早くアルフとリュウが阻止するために飛び掛かる。しかしユーノもそれは読めていたのか防御魔法にてこれを防ぐ。しかしいかにユーノの防御魔法が強固であろうと二人がかりではいささか分が悪く突き立てられた爪と刃が徐々に障壁を貫いていく。
だがしかしユーノの目に勝利を確信する色が見えたことでリュウはそれすらも予想通りであったことに気付く。
「させて……見せるさ!」
「転移魔法!?マズイ!」
その言葉を最後に一人と二匹は光と共に消えてしまった。
これにより残されたフェイトとなのはが対峙する形となるが、やはり二人の間には温度差があった。
「あの短時間で結界に強制転移魔法、長年連れ添った使い魔でもないのによくサポートができている。」
「当然だよ、ユーノ君は私の大切な友達だもん。」
リュウからの話によりユーノが使い魔でないと既に知っているため短期間で信頼を育んだ二人にやや感心し、また友達と言う言葉に少し頬を緩めるも気を引き締め直し本題へと進める。
「それで、どうするの?」
「話し合いでなんとか出来るってことない? 」
「私達はロストロギアの欠片、ジュエルシードを集めないといけない。そしてあなたも同じ目的なら、私達はジュエルシードをかけて戦う敵同士ってことになる。」
「だから!そういうことを決めつけないために話し合いって必要なんだと思う。」
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっとなにも変わらない。……伝わらない!」
「話し合おうよ!私たちは無理に戦わなくたってきっと……」
「戦場で何を馬鹿なことをッ!」
『Flier Fin.』
もう話すとはないとばかりになのはへと襲いかかるフェイト、一瞬の内になのはの背後に回り込みバルディッシュでの一太刀を浴びせるも頭を下げることにより辛くも回避されてしまう。そのまま追の太刀を振るうもなのはは咄嗟に上空へ回避する。しかしなのはの胸中は未だ戦うことへのまよいがあった。
「でもだからって。」
「賭けて、それぞれのジュエルシードを一つづつ」
『Photon Lancer, get set.』
そう言いつつフォトンランサーの準備をしながらなのはの上へ回り込み急降下を仕掛ける、今ここにジュエルシードを賭けた勝負が幕を開けた。
一方その頃少し離れた林に転送されたアルフ、リュウ、ユーノの三名は息つく間など当然なくアルフがユーノを追い回しながら怒鳴りあっていた。
「ちょろちょろちょろちょろと逃げんじゃないよ!」
「使い魔を作れるほどの魔導師が何でこんな世界に来ている?ロストロギアについて何を知っている!」
「ごちゃごちゃうっさい!」
その間リュウは冷静にユーノの動きを見極めスピードが堕ちる瞬間を待っていた。
『Netz Bind』
「しまった!?」
漸くきた機会を逃さずバインドにてユーノを捕らえる。
そのまま抵抗できないようにみのむしの様に縛り上げる。
「さて、前回とは真逆の構図になったな。とは言え二対一だった時点でリベンジとは言いがたいけどな。」
「僕をどうする気だ?」
その言葉に笑みを浮かべ上空で繰り広げられている戦闘を眺めながら答える。
「どうもしないさ、ただ大人しくしてもらうだけだ」
「いったい何のつもりだ、捕まえておいて何もしないだなんて。」
「ただ本気でぶつかり合える相手がいればアイツも何か成長できるかもしれないも思っただけさ、その為に邪魔が入らないようにこうして大人しくさせる必要があった。」
「リュウ、あんたそんなこと考えて……」
フェイトの精神面での成長まで考えて行動するリュウに驚くアルフ。しかしリュウはだけどなと続ける。
「正直なのはという少女には悪いが期待外れだ。戦場で迷いを抱えてるようじゃいつも全力のフェイトに敵うはずもない。どうあっても意思を貫く覚悟がないのならこれ以上俺たちの邪魔をしないでくれ。」
「そんな……なのはは僕のために必死に。」
「理由を自分の外に求めているうちは足りないんだよ。」
そして上空の戦闘を指し告げる。
「そら、そろそろ決着だぞ。」
上空では互いに遠距離魔法を打ち合おうとしていたところだった。
『Thunder Smasher.』
『Divine Buster.』
二人の中間でぶつかり合う黄色と桜色の閃光、しかし拮抗はそう続かなかった。
「レイジングハート、お願い!」
『All right.』
少女の願いに応えるかのようにディバインバスターの威力が上がりサンダースマッシャーを貫きフェイトを桜色の奔流が襲う。
「なのは、強い。」
喜ぶユーノに二人はあくまで冷静に戦況を見る。
「でも、甘いね。」
「あぁ、圧倒的に経験が足りない。」
二人の言葉を裏付けるかのようにバルディッシュの声が静かに響く。
『Scythe Slash.』
「なのはッ!」
上空に逃れていたことに気づいたユーノが咄嗟に叫ぶも時既に遅く魔力刃によって展開された鎌の切っ先がなのはの首に突きつけられていた。
『Put Out.』
そうしているとレイジングハートがジュエルシードを一つ吐き出した、これに驚いたのはなのはである。
「レイジングハート、何を!?」
「きっと、主人思いのいい子なんだ。」
なのはは目を見開いたままジュエルシードがフェイトに回収されてしまうのを見ていることしかできなかった。
フェイトはそんななのはに背を向け歩き出す。
「帰ろうアルフ、兄さん。」
「んっふふ。」
その言葉にアルフは体を輝かせ人間の姿へと戻る。
「流石あたしのご主人様。じゃあね、オチビちゃん。」
「こいつは返しておこう。」
アルフと共に帰路へ向かう前にユーノをなのはに向かって放りながらバインドを解く。
「待って。」
ユーノをキャッチしたなのはは未だ折れずにフェイトに呼び掛ける。
「できるなら、私たちの前にもう現れないで。もし次があったら、今度は止められないかもしれない。」
しかしフェイトから告げられたのは拒絶の言葉、最後の警告であった。
「名前、あなたの名前は?」
「フェイト、フェイト・テスタロッサ。」
「あの、私は……」
しかしそれでも懸命に名前を問うなのは、それに折れたのかフェイトも名前を名乗る。だが今度は自分で名乗ろうとしたなのはに聞く耳を持たずフェイトは飛び去ってしまうのであった。
「私、ただお話がしたいだけだったのに何が駄目だったのかな。」
フェイトが飛び去った森を見つめポツリと溢す。
「リュウは迷っているなのはじゃ全力のフェイトには勝てないって言ってた。どうあっても意思を貫く覚悟が足りないって。」
その言葉になのはは一つの決意を固める。
「言葉だけじゃ聞いてくれないのなら私はもう迷わない。今度こそ全力全開でフェイトちゃんと向き合う。」
そうして顔をあげたなのはの瞳に迷いは欠片も残っていなかった。
「でもそれはかなり大変だけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。だって……」
そしてユーノに笑いかける。
「不屈の心はこの胸に、でしょ。ユーノ君。」
大まかな流れ自体は頭の中で早くからできていたくせに割と難産でした。
着替えシーンは勘弁してください。妙なエロスは書けないので。
人はなぜ落ちるのか
これはおじさんがはやてに前を向かせるために励まそうと自分の中に強く残っていたセリフを引用しただけなので別におじさんがゴッサムの資産家とか言うわけではないです。
戦場
フェイトちゃんは戦場をせんじょうと読める常識人デス。リュウ?アイツはちょっと様子がおかしな人だから戦場をいくさばと読みます。
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消えぬ疑念と通じる気持ち
その割には短いですがどうぞ。
『ちゃんと聞いているんですか?』
「わかってるって、今回の事はちゃんと説明しただろう。」
リュウ達は現在、拠点にてリニスからモニター越しにお説教を受けていた。
それというのも前回温泉に行った時にフェイトがお土産を買いすぎてしまい三人では食べきれないと判断してジュエルシード蒐集の経過の報告と一緒に余ったお土産を送ったところこうしてリニスから通信が入ったのである。
『ええ、そちらは分かっています。現地で親交を持った相手と行動を共にした結果であり休養としても機能しているという事なのでなにも言いません。ジュエルシードも他の探索者と取り合っていることを考えると順調ですし遊び呆けているとは思っていませんよ。』
「じゃあ。」
『ですが問題はお金の使い方です。私もプレシアもあなた達に無駄遣いさせるために軍資金を渡したわけではありません。初めての旅行で受かれる気持ちは分かりますがはしゃぎすぎです。』
続く言葉にぐうの音も出ず押し黙っていると不意にリニスが表情を和らげた。
『まぁ自分達で買い物をしたのもそちらの世界に行ってから初めて体験したことでしょうし金銭感覚が養われていないのも仕方ないことかもしれませんね。今回はこれぐらいにしておきましょう、次から気を付けてくださいね。それではまた。』
そう言ってリニスは通信を切ろうとする、するとそれまで口を閉じておとなしくお説教を聞いていたフェイトが声をあげる。
「リニス!あのっ!」
『どうしました?フェイト。』
平静を装ってはいるが続く言葉を予想を予想できるリニスは内心焦っていた。
何せ今のプレシアの心はまだ死んだ二人に傾いているのだから。
「母さんはどうしてるの?やっぱり連絡で済ませずにちゃんと報告に行くべきだったのかな。」
予想通りの質問である、だがリニスの中にフェイトが満足できる答えは持ち合わせていない。そのため返答に窮していると別の通信が割り込んできた。
『その必要はないわ。』
突然のプレシアの登場に驚く四人。それをさして気にもとめず言葉を続ける。
『フェイト、リュウ。別の探索者が居る事を考えればよくやっているわね、でもこれじゃあ足りないの。優しいあなたたちなら解ってくれるわよね。』
誉められて素直に喜んでいるフェイトと対象的に間違いなく叱られると踏んでいたリュウは予想が外れ混乱していた。
(母さんは俺達を嫌ってはいなかった!?でもあの夜見たモノを思えばこのジュエルシード探索も含めて二人の蘇生が目的のはずだ。それに俺達をよく思っていないのは普段の俺達の扱いから明白、なのにここでわざわざ通信に割って入って優しい態度を見せるのは何故だ。まさか本当に母さんを信用していいのか、例え蘇生に成功してもフェイトを娘として迎えてくれるのか……?)
疑心暗鬼になりつつ頭のなかを整理していくリュウ。その間プレシアはフェイトやリニスと幾らかの言葉を交わしていたがそれももう終わりそうだった。
『それじゃあ私はもう切るわ、ジュエルシードの回収、期待しているわね。』
「待ってくれ母さん!ジュエルシードが集め終わったらまた、フェイトと一緒に皆であの幸せだった日々に戻れるんだよな!?」
『ッ!…………えぇ、そうなることを願っているわ。』
その一言と共にプレシアとの通信は切れ、モニターには再びリニスのみが映った。しかしその事も気にせずリュウは先ほどの言葉を反芻し思考を巡らす。
(明確にフェイトの名前を出しても否定しなかった……もしかしてアリシアの願いを覚えているのか、だとしたら希望はまだある。だがなんにせよ今はジュエルシードを集めなければ話にならない……か。)
思考が纏まったところで顔を上げてみれば不満顔のリニスとモニター越しに目が合う、更に横を見やれば心配そうな顔のフェイトと呆れたような顔のアルフが目に入る。
「三人とも変な顔してこっち見て、いったいどうしたんだ?」
『どうしたんだ?じゃありません。プレシアの言ったことが嬉しいのは分かりますがあなたがしっかりしないでどうするんですか。』
「……そうだな、うん、ありがとう。」
『まったく、それじゃあフェイト、リュウを頼みますよ。』
「うん、兄さんのことは任せて。」
「おいおい、そこは逆だろ。っておい!切れちまいやがった。」
言うことは言ったとばかりにリニスに通信を切り上げてしまい残されたのはフェイトとアルフの苦笑いだけであった。
アルフはそんな微妙な空気に耐えられずとりあえず誉められてよかったじゃないかと二人を励ましリュウとフェイトもその言葉にジュエルシード蒐集への決意を改めて固めた。
同時刻、時の庭園にてリニスはプレシアの自室を訪れていた。
「プレシア、さっきの言葉はもしかして。」
「勘違いしないで、確かにそう願ってはいるけれどまず不可能よ。アルハザードにたどり着き二人を生き返らせまた帰ってきてリュウとフェイトを迎えに行くなんて現実的に考えて無理よ。」
理想はあくまで理想であると改めて示すプレシアにリニスはそうですかと渋い表情を浮かべるがすぐに顔を引き締めところでと話を移す。
「リュウの異常には気づきましたか?」
「えぇ、私が返答した後の考え込む姿、普通なら別に考え込むような返事ではなかったのにあの反応。考えてみればそもそも質問の仕方自体もどこか引っ掛かる言い方だった。確かにおかしかったわね。」
「リュウは考え込みすぎるきらいはありますがあれでなかなか鋭いですからね、記憶の中のプレシアと実際の態度の差から何かに気付いてもおかしくないと思いますよ。」
「そうね、何処まで気づいているのかわからない以上こちらも下手なことはしない方がいいでしょうしこれからもあの子達のサポートはリニスに任せるわ。」
「それは構いませんが体調も良くなってきたことですしいい加減プレシアももっとあの子達に構ってあげるべきです、そんなだからリュウに疑念を持たれるんですよ。」
「どちらにしろあの子達は地球に居てそんな暇は無いからいいわね。」
これでこの話は終わりだと言わんばかりに強引に打ち切られ不満そうにリニスは部屋を出ていく。
このとき二人はまだリュウが真実に辿り着いていることに気付いてはいなかった。
「…………のは!なのはってば!」
「ふぇっ!?どうしたの、アリサちゃん。」
所変わってここは海鳴市、聖祥大付属小学校。その教室である。
授業が終わりもう昼休みになったにも関わらずボーッとしていたなのはにアリサが声をかけるもこれと言った反応を見せないため肩を揺すりながら呼び掛けることでようやくなのはが気付いた。
「いい加減にしなさいよ!どれだけ人が呼んだと思ってるのよ。」
「にゃははは、ごめんごめん。うっかりしてたよ。」
「なのはちゃん、私たちに言えないことがあるのはわかるけどせめて私たちにも心配くらいはさせてくれないかな。」
その言葉は幼い頃から一人で抱え込み、誰かに心配をかけないように行動してきたなのはの胸に刺さった。そして、例え本当の事を言えなくともこの二人には真摯に向き合おうと改めて思わせるのに充分であった。
「ごめんね、やっぱり今は話せないけど全部終わらせたらいつか絶対話すから。それに、迷いはもうなくなってるから今は大丈夫。」
まっすぐ二人を見据えてそう告げるなのはにアリサとすずかは根負けしたかのようにやれやれとため息をはいた。
「なのはがそう言うんならもうあたしからは何も言わないけど。」
「でももし何かあったらわたしたちに話してほしいな。」
「うん、できるだけそうするよ。」
「じゃあ早くお昼食べに行きましょ。もうあんまり時間無いわよ。」
そうして談笑しながら屋上へ向かう三人、その脳裏には三人が友達になったきっかけの事件が思い返されていた。
(やっぱりお話しするためにも正面からぶつかっていかなくちゃ駄目だよね……)
運命の少女と不屈の少女は決意を新たにし、少年は覚悟を固める。
絡まり合う思惑と別に新たなる勢力が動き始める。
非常に時間がかかってしまったわりに本編が余りました長くない訳ですが申し訳ないことに特に理由と呼べるほどの事があるわけでもなく気づけばこんなタイミングとなってしまいました。
このようなことになってしまい申し訳ありません。
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意地の衝突、決意の咆哮
言い訳は後書きにて。
高町なのはは一人歩いていた。
時刻は既に夜と呼べる時間帯でありそんな時間に肩にフェレットをのせた少女がビル街を歩いているのに違和感を覚える者も居たが数瞬後には気にもとめなくなる、そんな人波の中を歩きながらなのはは何かを探すように歩いている。
そして探し物は唐突に見つかった。
「こんな街中で強制発動!?広域結界、間に合えッ!」
街を駆け抜ける魔力、それにいち早く気付いたのはユーノだった。急ぎ結界を張ることにより周囲への被害を抑えるべく行動した。
そして魔力に共鳴し発動したジュエルシードの光の柱が立ち上る。それを目にしてからのなのはの行動は早かった。
「レイジングハート、お願い!」
瞬時に自身のデバイスであるレイジングハートを展開しジュエルシードを封印するために魔力砲を放った。
着弾の後、ジュエルシードの光が収まったのを確認した二人はすぐさまジュエルシードのもとへと飛んでいった。
その数分前、フェイトとアルフ、そしてリュウの三人はとあるビルの屋上から街を見下ろしていた。
事前の探査魔法でこの辺りにジュエルシードがあることは確信していたが正確な場所までは分からなかったのである。
「大体この辺りのはずなんだけど。」
「こんだけ人がいるんじゃ仕方ないがやっぱり面倒だな。」
帰宅中のサラリーマンや買い物がえりの主婦などで混雑している地上をみれば二人の心情も当然のものでありまともに探す気などうせてしまう。
「ちょっと乱暴だけど周囲に魔力を流して強制発動させてみるよ。」
「まった、それはあたしがやるよ。」
「大丈夫か、結構疲れるぞ。」
「このあたしを誰の使い魔だと?それともリュウがやるかい?」
「勘弁してくれ。まぁ魔力切れの俺の面倒見ててくれるんならやってもいいが。」
「あいつらと会う前から一人脱落なんてごめんだね。」
「ふふっ、それじゃあアルフ。お願い。」
「あいよっと、そんじゃあやるとするかね。」
アルフが気合いを入れると全身から魔力が溢れビルを伝い街へと流れていき、その魔力に反応し発動したジュエルシードから光の柱が立ち上る。
それを視認したフェイトは素早くバルディッシュより封印の為の魔力砲を放つ。すると全く同じタイミングで別の場所からも桜色の砲撃が撃ち放たれ同時にジュエルシードへ着弾した。
それを確認したフェイトは相手より先にジュエルシードへ辿り着くためにジュエルシードへ向かって飛行を始め、狼形態となったアルフ、その背中にまたがったリュウが後に続く。
ジュエルシードは活動こそ停止させられたが未だ封印状態ではなくその場に浮遊し続けていた。
三度ジュエルシードの前で相対するフェイトとなのは。ジュエルシード間に挟みこちらを見下ろすフェイトになのはは敢然と叫ぶ。
「フェイトちゃん!この前は自己紹介出来なかったけどわたしはなのは……高町なのは。私立聖祥大付属小学校3年生!今日はフェイトちゃんとお話するために、本気で向き合うためにここにいるの!例えぶつかり合ったって向き合うことから逃げないって、そう決めたから!」
畳み掛けるように言い切ったその言葉にフェイトは目の前にいる少女がもはや今までと違い全力をもって対処しなければならない相手であることを理解した。
「なら、もう遠慮も手加減もできない。ジュエルシードは絶対に譲れないから。」
「うん、フェイトちゃんと本気で向き合うために本気でぶつかって勝つ。勝ってお話をしてもらう!」
こうして少女たちは三度激突する。そしてそれに呼応するかのように地上でも戦いが始まろうとしていた。
「さて、こっちもそろそろ始めようか。」
「あぁ、僕だってやられっぱなしではいられないからね。」
空中での二人のやり取り見ていたリュウとユーノは互いに向き直り構える。
しかし余裕が透けて見えるリュウとは対照的に焦りを隠しきれないユーノ、更に続くリュウの言葉にその焦りは決定的なものとなる。
「アルフ!お前は手を出すな。一対一だ。」
「なっ、大丈夫なのかい!?」
「心配するな、防御やサポートは優秀だがろくに攻撃手段もない相手にそうそう遅れはとらないさ。むしろこの場において最悪なのはバインドで二人まとめてやられること。だからもし俺が負けても無傷のアルフが後に控えている方がやりやすい。」
(これはマズイ、数的有利な状況をこんな使い方してくるなんて。長引けば長引くだけ僕が不利だ。だったら勝機は一瞬、こっちに攻撃手段がないと思っている隙をつくしかない!)
二人の会話をもとに状況を把握し計画をたてるユーノはまだアルフの方へ気を向けているリュウへ魔力を纏い突っ込んでいった。
(来たか、魔力を纏っての突進くらいはあるだろうと踏んでいたがやはりあんな話をされれば速攻で決めるためなんの捻りもなく突っ込んでくると思っていた。そしてそれだけならば対処は可能だ!)
魔力弾の如き状態で突っ込むユーノだったがあと少しで着弾というところで突進の勢いはいなされ別方向へと向けられていた。
「覇王旋衝破ッ!」
投げられたユーノは付近のビルの外壁に魔力を纏ったままめり込んでいた。
その好機をリュウが逃すはずもなく追撃が飛ぶ。
「覇王断空拳ッ!」
放たれた拳はユーノが纏う魔力の壁をこそ破ることは出来なかったが殺しきれなかった威力がめり込んでいたビルの壁を砕きその衝撃でビルはユーノを巻き込みながら轟音をたて崩れ落ちた。
「ちょっとやりすぎじゃないのかい?」
「心配ない、動きを封じただけだ。アレくらいで破れるほど柔な防御じゃないさ。」
やや心配そうに尋ねるアルフにリュウこともなげに答え崩れたビルにめをやる。
その時、二人は言い知れぬ悪寒を感じ振り向くと目に飛び込んできたのはまばゆい光だけだった。
なのはとフェイトの戦いはフェイトがやや押しているもののほぼ互角の様相を呈していた。
「フェイトちゃん!」
「ッ……」
例え言葉だけで分かり合えなくとも、ぶつかり合い、全力全開で自分の気持ちをぶつけあえばきっと通じ合える。
アリサやすずかとそうだったように。
故になのはは吠える。魔法と共に自身の思いをぶつけるために。
「わたしがジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通りに集めないといけないから。わたしはそのお手伝いで。だけどお手伝いをするようになったのは偶然だったけど今は自分の意思で集めてる!自分が暮らしてる街や自分の回りの人たちに危険が降りかかったら嫌だから!これがわたしの理由!」
「わたしは……ッ!?」
なのはの強い思いにフェイトも口を開きかけるが地上から轟音が響きそちらの方へ気をとられる。
そこには崩れたビルの残骸とその前に立つリュウの姿があった。
「ユーノくんっ!」
ユーノが瓦礫の下に居るだろう琴を察したなのはの叫びで我に帰ったフェイトはなのはがジュエルシードから完全に気をそらしていることに気づく。
その時フェイトの脳裏にはジュエルシードを欲するプレシアの姿が浮かびジュエルシードを手にいれなければならないという使命感が生まれなのはとの決着よりジュエルシードへと向かうことをフェイトに選ばせた。
「ッ!」
「あ、待って!」
それに気づいたなのはは慌てて後を追い二人のデバイスが同時にジュエルシードへと伸びる。
レイジングハートとバルディッシュがジュエルシードを挟んだ瞬間まばゆい光を放ち強い衝撃に二人は吹き飛ばされた。
弾き飛ばされたフェイトが見たものは自分と同様に弾き飛ばされたなのはとその手にある損傷の激しいデバイス、そして彼女と自分の間に浮かぶジュエルシードだった。
デバイスの状態から相手はもはやろくに戦えないであろう事を理解し迅速にジュエルシードの封印を行うべく向かおうとしたところでひとつの考えに思い至る。それはつまりレイジングハートがアレだけのダメージを受けているのであれば自分のバルディッシュも無傷ですんではいないのではないかというものであり、気付いてしまったからにはそのリスクは無視できるものではなく右手に握るバルディッシュへと意識を向けた。そこには予想通りフレームに亀裂が走り今にも壊れてしまいそうな状態のバルディッシュがあった。
このまま封印を敢行をしては間違いなく修復不可能なまでの破損状態となってしまう。そるはこれから戦い抜く上で、そして何よりもリニスからもらった大切な相棒を失うことになり絶対避けるべきである。
「大丈夫、戻ってバルディッシュ。」
『Yes sir』
力なくコアを点滅させているバルディッシュを待機形態へと戻しデバイス無しでの封印を決意したその時、フェイトの横を黒い影が駆け抜ける。
ジュエルシードによる膨大な魔力の奔流とそれにより弾き飛ばされたフェイトとなのは。その光景を目にしたリュウは一瞬最悪の可能性に考えが至る。
しかし危なげなく着地した二人を見てその可能性を否定するが同時に二人のデバイスを見て今この場で無事なデバイスを持つ魔導師が自分だけであることを理解する。
「だったら俺がやるしかないよな。」
「ちょっとリュウ、アンタまさか?」
「この場で無傷のデバイスを持っているのは俺だけだろ、ならやるしかねぇ。アルフはフェイトを頼む。大してダメージは無さそうだがかなり消耗してるだろうからな。」
「わかった、そっちも無理するんじゃないよ。」
その言葉に頷くとリュウはジュエルシードへと走り出す。駆け出そうとしていたフェイトの横を駆け抜け両の手に展開したアガートラームにて封印するために。
そしてその左手がジュエルシードに届く。
「取ったッ!」
左手で握りこみ足下にはベルカ式の魔方陣を展開し押さえつけようとするがジュエルシードの中でうねる魔力を御しきるには足りず指の間から光が漏れ出している。
それでも構わず制御を試みるとジュエルシードの反発は輪をかけて強くなり指の何本かが嫌な音と共にあらぬ方へと曲がり始める。それに対抗するため上から右手で握り全力で制御にかかる。
「止まれ……止まれ止まれ止まれ、止まれッ!」
強く念じる度に魔方陣は色濃く輝き、その輝きが一際強くなった時。ジュエルシードの輝きが収まり封印が成された。
「ジュエルシード……封印。」
『封印完了。』
己の全てを出しきり精魂尽き果てながら封印を成し遂げたリュウだったが限界をとうに越えており糸が切れたように崩れ落ち、自身を心配する声を遠くに聞きながら意識を手放した。
ここまで更新に間があいてしまいもうしわけありませんでした。
前書きでは言い訳と書きましたが言い訳のしようもなく仕方のない事情といったものがこれといってなくただ筆が進まなかっただけでありまして私自身こんなに期間があくとは思っていませんでした。
その間も書けないなりに何かをしていたわけでもなく強いて言えば人理を修復したり古戦場を駆け回ったり選挙活動をしていたぐらいなので本当にお待ちしていただいた方々には面目次第もございません。
次回以降は最低でも月一更新でやっていくつもりです。
最後に技の解説を一つ。
プロテクションスマッシュ
ユーノが使った突進技。
自身のまわりにバリアを張って体当たりする技であり、ほぼ全ての攻撃を防ぎながら突進することが可能であり通常であれば迎撃はほぼ不可能であり基本的に対処法はほぼ回避のみという技だったのだがフェレットの姿で使ったためハンドボールサイズの魔力弾とほぼ変わらなかったため旋衝破にてなげられた。
相性が悪かっただけで本来はもっと強い技である。
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